バカとテストと嘘と本気 (羽吹)
しおりを挟む

バカとテストと嘘と本気

 

問1

 ツルグレン装置とは土壌動物を採取する装置である。

 その装置は、土壌動物のどんな特性を利用しているのか示せ。

 

A.(姫路 瑞希)

 光と体が乾くことを嫌う特性。

 

[解答]

 はい、正解です。

 簡単な暗記問題ですね。図などがあるともっと簡単になると思いますが、今回は文章のみです。

 

A.(吉井 明久)

 ハゲることを嫌うこと。

 

[解答]

 つるっ、くりん。ではありません。

 後で職員室に来るように。

 

 ーーーーーーーーー

 

 話をしよう。

 あれは今から36万……いや、1万4000年前だったか、

 まあいい、私にとってはつい半年ほど前のことだ。

 

 俺は走っていた。

 食パンをくわえて走っていた。

 後10分もすればホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り響くからだ。

 

 文月学園の通学路。青色のハリネズミのごとき速度で華麗に走っていると、曲がり道で人にぶつかった。

 ずいぶん昔のラブコメのような展開だった。

 

「きゃっ」

「うぉいっ!」

 

 凄い声が出た。

 

「……っ、とと、

 大丈夫ですか、スミマセン! 急いでいて前を見ていなくて…………ってあれ、秀吉……?」

「は? いや、私は秀吉じゃ……」

「なんだ、秀吉だったのか。あれ、何でお前女子の制服着てるんだ?

 ハッ、まさかついに俺の愛を受け入れてくれる気に……!」

「何の話!? え、ちょっと待って来ないで。へ、変態! きゃぁあああ!」

 

 逃げられた。というか何て反応をするんだ。

 これくらいはいつものじゃれ合いのはずなんだが!

 

「まって、逃げないで! そんなセリフを言いながら走ったら俺が大変なことになるんですが! ちょっとぉ! お願いだから止まってぇ!」

「きゃぁあああああ! 変態! 痴漢! 泥棒! 来ないでぇええええ!」

「違うから! これはぶつかったときに秀吉が落とした荷物だから! いま返そうとしてるだけだからぁああああ!」

 

 通行人たちがひそひそと話している。

 変態ですってぇ。しかも痴漢! 怖いわねぇ……

 女の子の私物まで奪ったらしいわよ、極悪非道だわ……!

 

 ぁ、あああああ! 大変なことになってるぅうううう!

 こ、こうなったら仕方がない。

 無理矢理にでも止まって貰うしかない! まずはATEMIを食らわせて、意識を刈り取るんだ。

 落ち着いたら分かってくれるはずだ。

 

 よし、追い付いた。

 ここで必殺のぉ……!

 

「我が校の生徒が痴漢を働くとは何事だぁ!」

 

 筋肉。鍛え上げられた、逞しい筋組織が皮膚を盛り上げて、100キロのバーベルなら簡単に持ち上げそうな腕が俺の首を捉えて、

 

 ラリアット!

 寸前、目を瞑って、

 

 持ち上げられた。痛みはやってこなかった。

 

「お前か、都籠(とごもり)。また何かやらかしたのか……」

「“また”ってなんですか“また”って……

 俺だって起こしたくて問題を起こしてるわけじゃないんですよ、鉄人」

 

 まったく、頭まで固いから、こういうことが分からないんだ。

 

「あれ、秀吉は……?」

「他の先生が向かわれた。

 安心しろ。お前らはバカだが、本当に痴漢を働いたりはしないと信じている。そのうち誤解も解ける。」

 

 ……。ちょっと言い過ぎたかもしれない、反省。

 

 ーーーーーーーーー

 

問2

 掛け算の順序問題について、交換法則について触れながら自身の意見を述べよ。

 

A.(都籠 シン)

 現在の教育において重要視する問題ではない。

 掛け算の順序問題とは、四則演算の+、-、×、÷の順序の問題ではなく、掛け算の項の順序の問題である。

 項を入れ換えても結果が変わらないことを交換法則を満たしているという。

 

[解答]

 はい、その通りです。

 最先端の数学では、a×b=b×aは必ずしも成立しない事が前提なので、教育上間違ったことは教えられないという考えがあります。

 また、小学生や中学生までの教育において、そこまでの内容を取り上げる必要は無いという判断も存在します。

 

A.(木下 優子)

 絶対に順守されるべき問題である。断固として順守すべき問題である。

 掛け算の項の順序を入れ換えるということは、戦争である。沢山の涙が流れることなのだ。

 どちらが上になるのかは非常に重大な問題であり、それによって…………(以下略)

 

[解答]

 は、はあ。よく分かりませんが情熱は伝わってきました。しかし、熱くなりすぎたのでしょうか。上下ではなく、掛け算の前の項と後ろの項ですよ。

 

 ーーーーーーーーー

 

「あー、えっと、悪かった。

 まさかあんなに驚くとは思ってなかったんだ。

 いつものことだからさ、その、悪かった!」

 

 あれから俺達は先生に連れられて学校まで連行された。

 文月学園についた頃には秀吉も落ち着きを取り戻していて、俺はこうして秀吉に頭を下げているのだ。

 信頼関係を裏切らないためには謝ることは大切だからな。

 

「はあ、何にも分かってないのね……

 私は、秀吉じゃなくて、姉の優子よ。木下、優子。

 秀吉から聞いてない?」

「いや、聞いてない。……ああ、なるほど」

 

 これは演技だ。秀吉は自分が女装しているのがばれて恥ずかしかったのだろう。間違いない。

 

「ちょっと、ちゃんと分かってるの?

 ……まあ、いいわ。分かってると信じましょう。

 それよりも、あなた俺の愛がどうとか言ってたけど、どういうこと?」

 

 ……あれ? 忘れたのかな? いや、知らない振りをしているのかな。

 秀吉は演技派だからなぁ。

 

「どういうことって、告白したじゃないか。知り合って直ぐにさ。

 ひっどい振られ方したけどね」

「……ふぇ? こ、告白!? ……いや、秀吉は男で、

 ……え? ちょ、え?」

 

 仕方ないな。あくまでも忘れた振りを続けるのならば、再現してやろうじゃないか。

 真剣な顔になって、顔を近づける。

 いや、本来はこんなことしなかったけど。アドリブは入れなきゃ(使命感)

 

「好きになったんだ。

 まだ、ちゃんと話したことも無いけど、君が悪い人じゃないっていうのは良く分かるんだ」

 

 髪の毛に触れるか触れないかの絶妙な距離感を保って、真っ直ぐに目をみる。

 

「ちょ、ちょっと待って。何言ってるの。

 ……えっと、ひ、秀吉の事が……」

「君が良いんだ。

 今すぐに、返事がほしい訳じゃないよ。会って間もないんだから。

 だけど! 本気なんだ!」

 

 秀吉の後ろの壁に手をついて、逃げ道を塞ぐ。

 ちょっと前に流行った壁ドンだね。

 もう、前の告白とは別物だけど、良いよね。

 インパクトで責める!

 まあ、冗談なことぐらい秀吉だって分かってるだろうけど。

 

「え、えっと、その、……あの、ちょ、……え?」

 

 真っ赤になっている顔から目線は逸らさない。逃がしはしない。

 優しく、囁くように最後を決める。

 

「……好きなんだ。君の事が頭から離れない。

 だから、俺と、付き合って欲しい。

 

 

 …………なーんて、じょ……」

「何をしとるんだ。お前らは……」

「あ、鉄じ、西村先生。どうしたんですか?」

 

 告白のネタばらしのタイミングで扉が開いて、鉄人が入ってきた。

 最後のセリフは聞こえなかったかもしれないけど、まあ冗談だって解るよね。

 

 まるで本物の女の子みたいにへたり込んだ秀吉に手を貸して、立ち上がらせる。

 何故かおっかなびっくり手を取ってきた。どうしたのだろうか。

 

「あー、木下。大丈夫か? 体調が悪ければ保健室に行くか?

 大丈夫なら、授業に参加してくると良い」

「あ……、えっと、大丈夫です」

 

 秀吉は一度俺の方を見た後、何故か早足で出ていった。

 そんなに恥ずかしかったのかな……?

 

「じゃあ、俺も授業に戻りますね」

「お前はこっち(特別補習室で反省文)だ。

 安心しろ。受けれなかった授業は後日補習が出来るぞ」

 

 それは任意じゃなくて、強制じゃないか!

 やだー!

 ヤダーじゃない。大人しくするんだな。

 いぃぃ、やぁああぁぁあああ!

 

 ーーー

 

 ざわざわと話し声が聞こえてくる。

 反省文との壮絶な戦いの後、ボロボロになった俺は教室へと戻ってきていた。

 一年生の教室だ。あと五ヶ月程はこの教室で学ぶことになるだろう。

 

「災難だったね、シン。

 だけどよかったんじゃない? こっちでは抜き打ちで持ち物検査だよ」

 

 僕のDSが~、と唸っている茶髪が明久(バカ)

 

「本当にな。せっかく入れた新譜まで持っていかれた。冗談じゃない」

 

 便乗して悔しがっているのも雄二(バカ)

 

「……俺はカメラを持っていかれた」

 

 床に頭を擦り付けて、どこかを見ようとしているのが、土屋(ムッツリーニ)

 

「ワシも演劇の小道具などを持っていかれた」

 

 そしてどこからどう見ても女子にしか見えないのが秀吉(女神)

 だが男だ。

 

「あれ? 秀吉も持ち物検査受けたのか?」

「何を言っとるんじゃ。このクラスで持ち物検査を受けとらんのはお主だけじゃよ」

 

 そんな馬鹿な。秀吉だってホームルームには出ていないはずなんだが。

 

「それよりも秀吉。女子の服はどうしたん……」

「取り返すんだよ! 僕らの宝を! モンスターの手から!」

「その通りだ明久。こんな横暴、許してたまるか」

 

 奪還するぞ。そういってバカルテットは立ち上がった。革命の瞬間である。

 

「シン、お前はどうする? 何も取られてないんだから参加はしなくて良いが」

「いや、お前らがやるのに俺が居ないのも寂しいからな。参加するぜ」

 

 まずは鉄人に水をぶっかけるんだ。

 モンスターから宝の鍵を奪わなくてはならない。

 

 明久に水の入ったバケツを武器として装備させ、盾として雑巾を用意する。

 階段で待ち伏せだ。俺達は近くで待機。明久は自ら人身御用となったのである。なーむー。

 

「逃がすかぁああああ!」

 

 明久が鉄人に水をぶっかけた。流石に水道水そのままだけど、この時期は寒いはずだ。

 鉄人のアイアンクローがチャームポイントの明久を無視して、雄二と鉄人を説得する。

 何も取られていない俺が居るのなら、説得性が増すからな。妥当な判断だろう。

 

 シャワーの音がしているうちに宝の鍵を手に入れた俺達は、宝のもとへ向かう。

 明久が先行して職員室へと入って、騒ぎが起こっている。何をしたんだあのバカは……

 

「仕方ない、ワシが助けにいく。

 シン、付いてきてくれんか?」

「……? いいけど、どうしたんだ?」

「先程雄二が言っとったじゃろう。ノーリターンのお主は説得力の向上になる、と」

 

 秀吉はそういって意気揚々と職員室に入り、気分が悪くて倒れた演技を始めた。

 

「……気分が、悪くて……」

「木下、大丈夫か。都籠、何があったんだ」

 

 教師が俺に説明を要求する。

 

「秀吉は鉄の胃袋を証明する、といって、重箱十箱分も一気に食べ始めたんです! しかも、脂っこい天ぷらなどがたくさん入っているものを……!

 みんな止めたんですけど、聞かなくて!」

「シン、貴様……!」

 

 小さく覚えておけ、と聞こえて。

 秀吉は演技を続けた。そうか、意地を張ったことになってるんだな。

 

 教師たちと職員室に向かい、胃薬を飲むことになった秀吉のために、胃薬とビタミン剤を取り替えて渡す。

 秀吉には分かるようにしておいたので、問題は無いだろう。

 しばらく様子を見て、俺が付き添う事で教師たちは戻っていった。

 

「明久は成功したかな?」

「流石にしたじゃろう。ここまでして失敗したら何をしてくれようか」

 

 女装とかどうだろうか。以外に似合いそうだと思う。

 

「それよりもシン。お主、姉上に何かしたのか?

 昼休みにお主について聞かれたのじゃが」

「……姉上? 秀吉、本当に姉が居たの……?」

「? それがどうかしたのかの?」

 

 ……あっちゃあ……

 朝の人って、もしかしなくても、秀吉じゃ、なかったんじゃ……

 まあ良いか。冗談で告白したけど、本気にとられてるわけは無いと思うしね。

 

「ふむ、何かあった見たいじゃの。

 そうじゃ、久しぶりにワシの家に来んか? そのうち期末テストじゃからの。勉強会じゃ。」

「いいけど、明久たちは?」

「この状態では呼べんじゃろうに。

 それに、姉上にお主を紹介することも含んでおる」

 

 なるほど、合理的だ。

 

 ーーー

 

「ただいまじゃ」

 

 ドタドタ、と音がして、

 

「秀吉! 遅かったじゃない。今日はアマ○ンから荷物が届くから、早く帰る様にって…………え? 都籠、君?」

 

 ジャージの格好で出てきた優子さんは俺を見て固まった。

 

「お邪魔します」

「え、その、どうぞ? って待って! お願いだから!」

 

 叫んで、逃げていった。俺にどうしろと。

 しばらくすると、普通の服を着て戻ってきた。

 部屋に案内されて、雑談の後、教科書を広げる。

 

「木下さんも一緒に勉強するんだね」

「良いじゃない。やることは一緒なんだし」

「その通りじゃ。姉上の国語の成績はトップクラスでの、教えてもらうと良い」

 

 それは凄い。あやかって教えてもらおう。

 

「代わりに数学は酷いがの」

「余計なことは言わなくて良いの」

 

 秀吉の頭にチョップが入った。

 

「それじゃあ、木下さん、お願いしても良いかな」

「優子で良いわよ。分かりにくいから」

「分かった。じゃあ、シンと呼ぶことを許してしんぜよう」

「何で偉そうなのよ……」

 

 恥ずかしかったからだ。

 

 閑話休題(そんなこんなで)

 勉強会は終わった。優子には国語のお礼に数学を教えてあげて、秀吉とは問題を出し合ったりしていた。

 

 数日が経って、期末試験が始まり、何人かが絶望の声をあげて、試験は終わった。

 そして今日、返却されたテストを前にして、俺は怒られていた。

 

「な、ん、で、殆ど赤点なのよ。おかしいじゃない。

 貴方、私より数学は出来たし、他も決して悪くなかったはずでしょう?」

「落ち着くのじゃ、姉上。ワシもそんなに変わらん」

 

 秀吉ぃ、と言い合いを始めた二人を見て、溜め息を吐く。

 ここは木下家だ。勉強会をしたよしみで秀吉と点数を確認しあっていたら、優子が加わって、こんな現象が起きたのだ。

 

「けど、流石に優子の成績は良いな。

 国語以外も相当高い。あ、数学も高いな」

「教えてもらえたからね。貴方が張ったヤマも殆ど当たってたわ。

 ねえ、何で赤点なの。おかしいわよね」

「ドウシテダロウナーワカラナイナー」

 

 わざとだ。

 まともに試験を受けていないのだ。

 高い点数が欲しくないわけではない。

 だが、友達とバカをやりながら受ける補習が楽しくて、

 友達と一緒に遊んだり勉強をしたりしたいから、悪い点数を取っている。

 本気を出してもそんなに高いわけでもないけれど。

 

 笑って誤魔化したら更に怒られた。

 本気を出していないのが気に食わないらしい。

 本気を出しても優子には勝てないから安心して欲しいものだ。

 

 ーーー

 

 95点。俺の点数である。

 補習でのテスト。100点の上限があるテストだ。

 補習受講者では最高得点である。

 他はだいたい40~50点だ。

 

 とはいえ、楽しかった。

 明久や雄二(バカたち)と一緒になって補習から逃げようとしたりしたのだ。

 結局は鉄人に見つかって連れ戻されたけれど。

 

 

 時が経って、三学期。

 当然、三学期にもテストはある。

 二年生に上がるときには、振り分け試験と言うものがあり、その前哨として注目されている。

 

「モン○ンの新作が出たんだよ!

 買わないわけにはいかないよね」

「ああ、必須だな」

 

 明久が熱弁して、雄二が同意した。

 当然、俺も同意である。弓とか大好き。

 

「大剣に決まっているだろう」

「雄二。バカなことを言っちゃいけない。

 冗談はその頭のなかだけにしておくと良い」

「それは俺がバカだと言っているようにしか聞こえないんだが」

「雄二の頭は……その、ねぇ……」

「何なんだよ! 言えよ、気になるだろ!」

 

 筋肉じゃないかな。

 

「良いじゃねえか、上等だ。俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやる。モン○ンで勝負だ」

「明久ん家だね。良いじゃないか、受けてたつよ。

 何で決める? 討伐タイムかな」

「あれ、僕も巻き込まれた?」

 

 気にするな。みんなでやった方が楽しい。

 

「ああ、無理じゃよ。今日シンはワシの家じゃ」

「え? 秀吉、モン○ン持ってなかったよね?」

「そもそもテストまで一週間を切っとるのに何をしとるんじゃ、お主らは。

 そしてゲームではない。勉強じゃ」

 

 明久はハッとした顔をしていた。

 こいつ、テスト期間知らなかったんじゃないだろうな。

 

 雄二、どうしよう! といって雄二に抱きつく明久を見ていると、こいつら本当は出来てるんじゃないかと思う。

 そういう噂があるのも納得である。

 

「……勉強? もしかして:優子」

「明久たちの前で名前は出さん方が良い。疑われたら異端審問されかねん」

「大丈夫。聞こえてない。ムッツリーニはローアングラーやってるから聞こえないだろうしね。」

「ふむ、そうじゃな。

 まあ、察しの通り、姉上じゃ。お主と勉強して、更に釘も刺すと言っておったよ。

 行かなかったら、どうなっても知らんぞ」

 

 釘って……。逃げたいが、流石に後が怖い。

 あの一件から優子は俺に遠慮が無くなったのだ。折檻されかねない。

 まあ、優子と会えるのは良いことだ。

 

 ーーー

 

 割愛。

 大したことはしていない。

 

「勝負よ。貴方に勝負を申し込むわ。

 当たり前のことだけど、私は本気で今回の試験を受ける。

 そして、貴方も本気で受けなさい。良いわね!」

 

 そんなことを言われただけだ。

 ……仕方がないから、今回は本気で受けよう。

 振り分け試験ではないのだ。友達と離ればなれになるわけではない。

 

 閑話休題(そんなこんなで)

 またもや時間が経つ。モン○ンは試験が終わるまで我慢だ。

 あいつらの補習の期間に追い付けば良い。

 

 期末試験が始まって、何人かのゲームへの逃避の声を聞こえて、試験が終わった。

 少し経って、結果が帰ってくる。うん、いつもとは雲泥の差だ。

 一年の間は成績を公表されないので、明久たちには黙っていれば分からないだろう。秀吉にはどうしようもないね。

 

「ま、けた? 総合点で、一点差……?」

 

 少し前に、優子には勝てないといったな。あれは嘘になった。

 勝っちゃった。自分でも驚いた。

 

「嘘でしょ、こんなことってあるの……?

 総合点よ。4桁の点数なのよ。何で、一点差で負けるの……」

「まあ、そんなに落ち込むこともないじゃろう。一点差ならそんなに差はない、誤差じゃ。

 それよりシン、お主本当に頭が良かったんじゃな。

 姉上の妄想の中だけかと思っておったが……」

「あははは、その、明久とかには黙ってろよ」

 

 秀吉が頭を傾げた。

 

「何故じゃ。別に良いじゃろう」

「いやいや、ダメだって。恥ずかしいんだって」

 

 別に見下しているわけではない。対等のつもりだ。

 あいつらのバカさ加減は、勉強とかそういうことを越えたものがあると思っている。

 俺はそこにいたいのだ。

 

「次も!

 次も勝負よ! 次は負けない。絶対に負けないから!」

 

 優子はそういって自分の部屋に引きこもった。

 追いかけようかとも思ったのだが、泣いていたように見えたので、諦める。

 

 しかし、次か。

 困ったな。次に本気は出せない。

 振り分け試験だからだ。これで本気を出すと最低のクラスには行けない。

 

 ーーーーーーーーー

 

問3

 水とメタン比が2対1の混合気体3.0Lを完全燃焼させるためには、標準状態の空気は何L必要か。ただし空気の酸素割合は20%とする。

 

A.(木下 優子)

 15L

 

[解答]

 はい、正解です。

 水の化学式はH2O、メタンの化学式はCH4なので、混合気体3Lの燃焼を考え、それをもとに必要酸素Lを求めます。

 ただし答えは空気量であることに注意してください。

 

A.(都籠 シン)

 たくさん。ごめんなさい。

 

[解答]

 また貴方ですか。ちゃんとすれば解けるでしょう。

 謝るのならちゃんと解きなさい。

 




続く。
短編なのにね。許せ、サスケ。
始めは場面展開と会話の練習に書き始めたんですが、筆がのってプロットが出来てしまったのです。
予定では後2話。需要があれば長編に移行するかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

 

 Fクラス。

 それはバカの巣窟だ。

 

 トライアスロンの筋肉マンから受け取った紙には、俺の配当クラスが記されている。

 扉を開ける。

 システム(性のない)デスク(ちゃぶ台)があった。

 風通しの良さそうな窓。

 歴史を感じさせる黒板。

 敷かれた畳からは藺草の香りの代わりに埃が漂ってきた。

 

「うわぁ……」

 

 思ったより酷い。

 これ勉強できる環境じゃないよね。

 

「うむ? シンはここなのかの?」

 

 秀吉だ。やっぱりここ(Fクラス)だったか。

 

「秀吉! 今日も可愛いね」

「会話が成立しとらんのじゃが」

 

 誤魔化してるからね。

 

「おう、シンか。お前もここか」

「…………いつもの、メンバー」

 

 雄二とムッツリーニだ。

 周りを見ると島田も居て、本当に去年の焼き回しのようなクラスだ。

 

 

 雄二達と雑談をしているとチャイムが鳴った。

 明久が来ていないことに違和感を持っていると、

 

「遅れました!」

「早く座れこのウジ虫野郎」

「台無しだよ!」

 

 明久が来た。

 お前がここにいないとか有り得ないよな。

 いったい何が台無しなんだか。

 頭かな?

 

 

 時間が進んだ。

 あれから先生が来て、HRが始まったのだ。

 

 明久がおかしな自己紹介をして、野太い合唱が聞こえたりしていたが、それはいつものことだ。

 一つ違うことは姫路瑞希がいることだろう。

 体調不良はどうしようもないからね。

 

 さらに進んで、試召戦争の話が始まった。

 何でもAクラスに戦争を仕掛けるらしい。

 

 Aクラスか。優子、怒ってるだろうなぁ……

 

 ーーーーーーーーー

 

問4

 キューバ危機の時代のアメリカ大統領を以下から答えよ。

 

 1.サッチャー 2.レーガン 3.ヒンデンブルグ 4.ケネディ

 

A.(姫路 瑞希)

 4.ケネディ

 

[解答]

 はい、正解です。

 キューバ危機とは、米露の冷戦を核戦争一歩手前まで近づけた事件です。

 ちなみに、このときのイギリスの大統領はマクラミン、ドイツではアデナウアーです。

 

A.(島田 美波)

 3.ヒンデンブルグ

 

[解答]

 残念ながら間違いです。

 ヒンデンブルグはドイツの大統領ですが、キューバ危機の時代の大統領ではないのです。

 問題文にあるアメリカの、を読み飛ばしてしまったのでしょうか。

 

 ーーーーーーーーー

 

 正直なところ、Dクラスを相手にすると自力で負ける。

 Fクラスとはそういうところだ。

 

 だが、姫路やムッツリーニのように特化した連中を代表に直接ぶつければ良い。

 ムッツリーニは隠し玉とするのなら、姫路だろう。

 彼女は長時間隠しきれない。

 

 だから速攻だ。

 今日には始めて、終わらせる。

 そんなことを雄二と相談する。

 俺はFクラスの副参謀なのである。

 

 まあ、この理論は基本だ。

 Bクラスまではこれで勝てる。

 問題はどうやってその状況に持ち込むか、だ。

 

 雄二は放課後の人込みに紛れる、と考えて。

 俺もそれに賛成した。

 

 Dクラスに明久を投げ込んで、戦争の宣言を済ました。

 必死で逃げ帰ってきた明久は正直凄いと思う。

 

「騙したね、シン! なにが歓迎される、だ!

 お菓子じゃなくて、パンチを貰ったよ!」

「まさか、信じてたのか……?」

 

 何て奴だ。

 まあいいや。開戦は午後だ。

 明久の怒りを鎮める供物として昼食を少し分けてやりながら、午後になる。

 

 試召戦争が始まった。

 

 ーーー

 

 基本的に時間稼ぎだ。

 速攻と言ったが、姫路がFクラスであることがバレなければそれで良いのだ。

 そして、放課後の奇襲とその為の姫路の点数を補充することも含めた時間稼ぎだ。

 

 だから防衛戦。FWは秀吉、MFは明久と島田、後衛に俺と雄二。

 順調に進んでいるが、このままでは押されるだろう。自力で負けてるからね。

 とはいえ、防衛線を割られると困る。

 明久には頑張って貰わないと。

 

 -ー大島先生に吉井明久君から、教師と生徒の垣根を越えた男女の話があると……

 

 ふう、一仕事終えたぜ!

 これで明久も頑張れるよな。ご褒美があるんだから!

 

 そんなこんなで放課後になった。

 戻ってきた明久に包丁で刺されそうになったがどうしたというんだ。

 

「シン……! 今日という今日は覚悟してもらうよ……!」

「落ち着け、明久。指示したのは俺だが、提案したのは雄二だ」

「嘘をつくな。お前が言い出したんだ」

「シャオラァアア!」

 

 ちぃ、バレたか!

 

「あっ、大島先生。明久ならそこに……」

「撤退!」

 

 助かったか。後でフォローするから、試召戦争が終わるまで待ってくれ、明久。

 帰りの人がちらほらといるなかに、姫路を送り込む。

 気負わなくて良いと言っておいたがどうなるだろうか。

 

 雄二と囮をしているとDクラスの代表と明久を見つけた。

 殺気立ってるなぁ……

 

「Fクラス、姫路瑞希。Dクラス代表に試召戦争を申し込みます。試獣召喚(サモン)。」

 

 戦争が終わった。

 

 ーーーーーーーーー

 

問5

 カルヴァンが唱えた説を答えよ。

 

 

A.(木下 優子)

 予定説

 

[解答]

 はい、正解です。

 予定説は予めすべてのことが決まっている、という説です。

 興味がある人は、マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの精神と資本主義の精神』の最終章も合わせて読んでみると良いでしょう。

 

A.(都籠 シン)

 テリー=エスターク説。

 カルヴァン→キャラバン→キャラバンハート→ドラクエ

 ちょっと無理があるかな。こんな予定じゃなかったんだ。

 

[解答]

 分かってるならちゃんと答えを書きなさい。

 

 ーーーーーーーーー

 

 放課後の教室は静かで、嫌いではない。

 

 明久には近所の独身のお兄さんを紹介するようにフォローして、俺は教室に戻ってきた。

 バケツに水を入れて、雑巾等を用意する。

 

 掃除だ。個人的なことなので一人でやる。

 この教室はカビ臭いし、埃っぽい。

 俺の体はそこまで弱くはないが、問題のある人は居るだろう。

 それは良くない。良くないことなんだよ。

 

 教室に入ろうとすると、明久と姫路がいた。

 手紙とかもってる。何してるんだ。

 入ろうかと迷っていると、姫路が出ていって、明久も出ていった。

 何だったんだ……?

 

 畳を剥がして、水拭き。窓も拭く。

 掃除機があればよかったが、仕方ない。

 カビ取りの洗剤を貰えただけましだろう。

 そんなことをしていると。

 

「へぇ、やっぱりFクラスだったんだ」

 

 凄く不機嫌な声が聞こえた。

 

「優子……!? いつからそこに? 自力で脱出を……?」

「掃除しなきゃまともに勉強もできない教室なんて、お似合いね。

 Aクラスならシステムデスクなのに」

 

 うおぅ、ヤバイ。冗談抜きで怒ってらっしゃる。

 

「あー、いや、えっとな。悪かったと……」

「言い訳なんて聞きたくない。

 聞いたわよ。Aクラスに試召戦争するつもりだって。

 覚悟しておくことね。Fクラスに行ったこと、後悔させてあげる」

 

 別れの挨拶もなしに、優子は去っていった。

 

 ーーー

 

 Bクラスを狙う、と雄二が相談してきた。

 賛成する。Bクラスを使って、Aクラスを磨耗させる予定なのだ。

 だが、Bクラスを落とすと、Cクラスがどう動くか分からない。

 格上のクラスを落とした相手がいる。

 それは警戒の対象になってもおかしくない。

 

「Cクラスはどうするんだ?

 最悪、Bクラス戦の直後に攻め込まれるぞ」

「秀吉を使う。機を見てAクラスに試召戦争をさせる」

「木下優子だね。良いのかなぁ……。後で怖いぞ」

 

 昨日のこともあるのに、とは口に出さない。

 

「目的のためだ。手段は選ばない」

「まあ、いいけど」

 

 

 そういうことで、午後からBクラスと試召戦争だ。

 Aクラスまでの最後のステップ。

 Fクラスの仲間をそうやって扇動した。

 

 昼休み。学食で何か買おうとしていると、姫路が弁当を取り出した。

 雄二と島田が飲み物を買いに行って、他の面子は屋上へ向かう。

 

 重箱だ。全員分だからか、随分豪華だな。

 ムッツリーニが手を出したので、俺も貰うか。

 アスパラ巻きを手にとって、口に運ぶ。

 

 アスパラの灰汁が絡み付いていて、巻かれたベーコンとアスパラの間が、甘い。

 ベーコンはなぜか酸っぱくて、すべてが混ぜ合わさって何とも言えない-ー

 

 ……あれ? どうして、月があんなに高いんだろう? おかしいなぁ。今は昼間なのに……

 

「シン! ムッツリーニィー! いったいどうしたのじゃ!」

「そ、そんな。いきなり二人ともノックアウト……!?」

 

 あははは、みんなで月見をしなきゃ……

 

 ーーー

 

 何があったんだ。臨死体験をした気がするけど。気のせいだろう。

 まさか姫路の料理が殺人兵器だなんて、そんな筈がない。

 

 生き返って、必死に熱いお茶を飲む。

 煮沸、カテキンによる殺菌だ。

 

「正直に言って、どんな作戦を練ろうとも、Aクラスは倒せない」

 

 雄二が言った。

 

「一応、例外はあるよ。でも、戦闘じゃ勝てないだろうね」

「…………例外?」

 

 ムッツリーニの質問。珍しいな。

 

「ああ、ムッツリーニを使えば、限定的になら、勝てる」

「だが、どうあっても、そんな状況には持ち込めない」

「まともな戦線の維持も出来ないからね。ゲリラでも戦果はあげられない」

「単純に兵を失うだけだからな。補充もできない上に、補給手段を絶たれたら終わりだ」

 

 俺と雄二の連続の説明。

 明久はボーっとしている。分かっているのだろうか。

 

「なるほどね。じゃあ、どうするの?

 ウチらの最終目的はBクラスに変更ってこと?」

「いや、Aクラスをやる。」

「何いってるのさ雄二。ついにボケた? 自分がさっき言ったことも忘れたの?」

 

 明久の煽りだ。中々の切れ味だな。

 

「大丈夫だ。クラス単位で勝てなくとも、一騎討ちなら勝てる」

「俺も詳細は聞いてないんだが、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。絶対とは言えないが、勝てる。

 そして、その為にBクラスを使う」

 

 一騎討ちに持ち込むために、BクラスでAクラスを圧迫するのだ。

 

 ーーー

 

 明久がBクラスに宣戦布告をした。

 ボロボロになって帰ってきた明久。

 どこかで見た光景だなぁ……

 だが今回は雄二のせいだ。俺は関係ない。

 

 さて、今回のBクラス戦だが。守るのではなく、攻める。

 今のFクラスの士気は高い。この状態で守りは士気を下げる。

 そして、Dクラスのように簡単な相手でもない。

 油断はしないだろうし、姫路も警戒されている。

 

 だったら、その警戒を最大限に利用する。

 今回のFWは姫路だ。たった一人で敵陣に攻め込んで貰う。

 姫路に敵の目を釘付けにする。

 Bクラスにとって、怖いのは姫路だけだからな。

 

 だが実際は違う。姫路が囮になっている間にムッツリーニが後ろから強襲する。

 その為にDクラスにはBクラスのエアコンを動かなくさせた。

 窓は空いている。

 

 この流れの前提はBクラスが教室に居なければならない。

 だから、初陣から教室近くに相手を押し込む。

 そして、Fクラスの主力が姫路であることを強調するために、姫路を前線に投入。

 万が一が無いように明久を付ける。

 

 

「と、まあこんなところだね」

「相変わらずの処理能力だな。

 お前がいると作戦がスムーズに進む」

 

 ありがたい評価だ。

 

「後は相手の出方だね。

 あの根本だ。何をしてくるか分からない」

 

 前線の状況を聞いていると、相手の使者が来て、協定の話が出た。

 

「どうする、雄二?」

「受ける。こっちにとってメリットが大きい」

「姫路さんの体力だね」

 

 その通りだ。今回の作戦では姫路はキーパーソンだ。今、消耗させられない。

 

「あやしいけど、受けるしかないか」

「そういうことだ。まあ、なんとかなるさ」

 

 

 その後、嫌がらせだったり人質だったりがあったが、順調に進んだ。

 そして、案の定Cクラスが動いた。

 

「Dクラスを使う。取りあえずはDクラスを使って協定を結ぶ」

「雄二、それは……」

「シン、取りあえず、だ。」

 

 勘が告げてる。

 まだどちらが勝つか全く分からないこの状況で、Cクラスが気取られるほど動くのはおかしいと。

 これは罠だろう、と雄二には伝えておく。

 

 やっぱり罠だった。逃げ帰って、提案する。

 

「雄二。やろっか、あの作戦」

「ああ、目にもの見せてやる」

 

 ーーー

 

『静かになさい、この薄汚い豚ども!』

 

 うわぁ。秀吉、やり過ぎてないか。

 俺が指示したとバレたら殺されるな、優子に。

 でも、優子に好意を持つ人が減るのは何故か嬉しい。

 ……え? 嬉しい? 何で?

 

 まあいいや、これでCクラスはAクラスに攻め込むだろう。

 目的は達した。

 

 

 Bクラス戦の途中、教室で戦況を確認していると、明久が駆け込んできた。

 

「雄二、シン。お願いがあるんだ」

「どうした、明久」

「根本君が着ている制服が欲しいんだ」

「本当にどうしたんだ、明久」

 

 お前に何があったんだ。

 

「それと、姫路さんを戦闘から外して欲しい」

「それは……」

 

 俺が良い淀んでいると、雄二が答える。

 

「理由は?」

「言えない。

 けど、必要なことなんだ。頼む、雄二、シン!」

 

 さて、どうする。

 雄二にアイコンタクトを送ると、任せろ、と帰ってくる。

 

「条件がある。姫路の役割をお前がやれ」

「分かった。……何をすれば良いの?」

「根本との戦闘だ。科目は何でも良い。勝つ必要もない。

 だが、近衛兵を突破しろ」

 

 負担の多い役割だ。

 

「失敗は許されない。……出来るか? 明久?」

「シン。確認は必要ない。こいつは馬鹿だが、やるときはやる。

 ……信頼しているぞ。作戦を変更はしない。

 俺とシンで練った作戦だ。必ず成功する」

 

 

 結果。あのバカはやり遂げた。

 隣の教室をぶち抜いたのだ。

 そして、近衛兵を引き付けた。

 その隙にムッツリーニが根本を強襲する。

 

 作戦成功だ。

 俺たちはBクラスに勝った。

 

 ーーーーーーーーー

 

問6

 経済の需要-供給曲線における需供バランスが取れている点を何と呼ぶか。

 

A.(姫路 瑞希)

 均衡価格。

 

[解答]

 はい、正解です。

 簡単でしたかね。

 

A.(吉井 明久)

 交差点。

 

[解答]

 はっきりと間違っている、と言えない点がもやもやしますね。

 

 ーーーーーーーーー

 

 次はAクラスだ。

 

 雄二にどうするのか説明を求めると、みんなの前で話す、と言われた。

 みんなと一緒に説明を聞いて、一緒に雄二を襲って、一緒に交渉に行く。

 

「一騎討ち?」

 

 優子が訝しむ。ここはAクラスの教室で、交渉には何故か優子がついた。

 雄二が悪役さながらの交渉をしていると、優子が俺を見て、言った。

 

「いいわよ。ただし、五人対五人の代表選抜戦。三勝した方の勝ち、なら受けてあげる」

「良いだろう。その条件、飲もうじゃないか。

 ただし、科目の選択権はこちらが貰う」

「三つ。こっちも科目の選択権は欲しいの。

 だけど、ハンデとして、三つはあげるわ。それでいい?」

 

 ふむ、ハンデとしては妥当なところだな。

 その後、Aクラス代表の霧島さんが勝った方が言うことを聞く、という条件を追加して、試召戦争が始まる。

 

 ーーー

 

「まずは一人目、どうぞ」

 

 審判の高橋先生の声が響く。

 

「私が行くわ」

「木下優子さんですね。では、Fクラスは……」

「ワシが出よう」

 

 秀吉! 先陣を切ってくれるのか!

 と思ったら、優子に連行されて帰ってこなかった。

 安らかに眠れ、秀吉。

 

「代わりに俺が出るよ」

「はい。都籠シン君ですね。科目はどうしますか」

「私が決める。総合科目、100点の上限ありでお願いします。

 ……ねぇ、()()()、本気を出しなさい。

 今度ふざけたことをしたら、私は一生、あなたを許さない」

「…………」

 

 本気だ。本気で俺を睨んでる。

 ……仕方ないか。優子は間違いなく、振り分け試験で俺に勝つつもりだったんだ。

 それを分かってて、俺はこういう結果(Fクラス)にしたんだ。

 

「えっと、木下さん。落ち着いてください。

 都籠君。何か言うことはありませんか」

 

 高橋先生がこっちを見て、視線で謝れ、と言っている。

 だが、俺は謝らない。

 謝ってはいけない。俺はこの結果を後悔していないからだ。

 なら、どうして、こんなに苦しいんだ……?

 

 分かった、とだけ告げて下がる。

 問題作成の間に次の試合を行うのだろう。

 

 明らかに凍った周りの空気に影響されて、誰も何も聞いてこない。

 理由を知っている秀吉もいないしね。

 

 ーーー

 

 試験に勝ちたいという気持ちを、俺は持っていない。

 今まで勝ち続けた訳でもない。良くて真ん中辺りで、トップには立ったこともない。

 だけど、勝ちたいという気持ちは湧かなかった。

 トップの人が幸せそうな顔をしていなかったからだ。

 

 成績が良いだけの、独りぼっちだったからだ。

 だから、勉強以外のことに、大事なことがあるんだと思った。

 明久たちを見ていると、それが何か分かるような気がしていた。

 

 成績になんて執着していなかったのだ。

 だけど、胸が痛い。優子に睨まれたから、痛い。

 傷つけたことは、謝るべきだと思う。

 だけど、今いる場所を否定しないのなら、胸を張れば良いのだ。

 一方的な約束なんて、俺には守る必要なんてないのだ、と。

 

 そう、言えれば良いのに。

 言えない。嫌われるのが、怖い。

 俺にとって優子とはそんなに大きな存在だったのだろうか。

 

 ああそうだ。大きかったんだ。

 昨年度の期末試験で本気で出して勝負するほどに、大きかったんだ。

 

「私は、Fクラスの皆が好きだから、頑張れるんです」

「そうか。Fクラスが……僕の負けだよ」

 

 そんな声が聞こえて、思う。

 テストは競争だ。だから勝ちたいんだ。

 総合得点で優子に勝って、俺は何を思った?

 嬉しかっただろう。

 そして、振り分け試験で俺は何を思った?

 申し訳なかったはずだ。優子に対して。

 

 テストっていう舞台で、俺は、きっと。

 始めて勝負をしたんだ。

 そして勝った。

 次に逃げた。優子よりも明久たちを選んだ。

 

 だけど、勝ちたかった。優子に。

 ああ、だから胸が痛いんだ。

 これは勝負への期待でもあり、勝負から逃げた後悔でもあるんだ。

 

 なんだ。改めて考えて見ると、後悔してたんだ。

 じゃあ、ちゃんと謝らないと。

 

 そして、優子と戦いたい。

 優子が良いんだ。秀吉じゃない。

 

 簡単なことに、今まで気付かなかったんだ。

 

「はっ、はは、はははは!」

 

 ああ、どうして気づかなかったんだ。

 

「どうしたのよシン。いきなり笑い出して」

「ああ、ごめん。バカだなぁ、って思って」

 

 本当にバカだ。どうして気付かなかったんだ。

 

 俺は、優子のことが、好きなんだ。

 

「バカって、明久のことか。

 左手がどうとか言って、結局負けたからな」

「そうなのか……? 悪い、ちょっと考え事をしててな。

 そして、バカっていうのは明久じゃなくて、俺のことだ」

 

 ーーー

 

「さて、歴史のテストを作成する間に、一戦目の総合科目のテストを行います。

 両者、多目的室に向かってください」

 

 そんな声が聞こえて、移動する。

 移動中に、話す。

 

「ごめんな、優子。

 俺は、お前との勝負より、友達を優先した」

「……知ってたわよ。

 あなたが今までずっと赤点だったって秀吉に聞いてから。こうなるんじゃないかって、思ってた」

「…………」

 

 そっか。

 

「だけど、今度は本気で受ける。

 今回も勝ってみせる。そして、次も勝負しよう」

「いいわよ。勝ち負けは関係なく、次も勝負してあげる。

 ……そのほうが、その、一緒に……」

 

「うん? 何か言った?」

「なん、でも、ない!」

 

 教室について、入ろうとすると。

 

「今回のテスト。皆への成績の表示は勝ち負けのみにしておいてあげたから。

 ……感謝しなさいよね」

 

 声が聞こえて、振り返る。

 優子は既に教室に入っていて、そこにはいなかった。

 

 ーーー

 

 95点。俺の成績だ。

 採点をした高橋先生が驚いていた。知らなかったのだろう。

 そして怒られた。常日頃から本気を出しなさい、と。

 

 そして、負けた。

 優子は96点だった。1点差だった。

 昨年度の期末試験の結果が逆転していて。

 悔しさと共に、再確認できた。

 

 俺はやっぱり優子が好きなんだ。

 

 

 皆の元に戻って、負けちったよ……というと

 このウジ虫野郎が、と返ってきた。

 その後、結局雄二は霧島さんに負けたので、このウジ虫野郎が、と言い返した。

 

 結局、Fクラスのちゃぶ台はミカン箱になった。

 




結構難産でした。
プロットがあっても書くのが難しい、難しい。
キャラをちゃんと動かすと、おかしなことになったりしまして。
後一話!
おまけとかが更に続くかもしれない!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

 

 学園祭があった。

 大変だった(小波感)

 

 いや、本当に大変だった。

 野球をしていたら、鉄人にボコられたのだ。

 また、雄二をクラスの纏めに引っ張り出すために追跡していると、優子に出会った。

 優子はCクラスでの秀吉の物真似が俺の指示であることを本人から聞いたらしく、俺の関節を外すキラーマシンと化した。

 

 それだけではない。

 中華喫茶の準備の途中で殺人兵器を食べてしまったのだ。

 生死の境を彷徨って、食中毒の怖さを実感した俺は、衛生管理に力を入れた。

 俺はムッツリーニと一緒に厨房担当なのだ。

 

 加えて、試験召喚大会もあった。

 参加する気はなかったのだが、明久と雄二が参加するらしい。

 雄二から頼まれて、偽物の試合表を作成して、姫路と島田に渡したりしていた。

 

 明久たちと霧島さん、優子のペアの時は大変だった。

 どうして俺が優子のアフターフォローをしなくちゃならないんだ。

 機嫌を取るために学園祭をまわったりして、財布に甚大なダメージを被った。

 

 ……楽しかったけど。

 

 

 雄二の話を聞いて、万が一のためにムッツリーニに頼んで設置した監視カメラが功を奏して、ウエイトレスの拉致事件は未遂で終わった。

 しかし、そいつらが暴れたおかげで喫茶店は一時閉めざるを得なくなり、手伝いに来てくれた葉月ちゃんにも怖い思いをさせてしまった。

 その件で学園長から話を聞いたりと、色々あったのだ。

 詳しいことはいつか語ることになるかもしれない。

 

 それから少し時間がたって。

 学力強化合宿が始まる。

 

 ーーーーーーーーー

 

問7

 学園祭の思い出について、述べてください。

 

A.(姫路 瑞希)

 お店が楽しかったです。皆で一つの事をするのは貴重な経験でした。

 

[解答]

 こういう経験は、学生の頃にしかできないものですので、精一杯楽しんでください。

 

A.(霧島 翔子)

 結婚への大きな助けになった。プロポーズされたことが嬉しかった。

 

[解答]

 そうですか。阪本くんはまだ17歳なので、結婚は出来ないと思います。

 

 ーーーーーーーーー

 

「…………一枚、500円」

「二枚貰おう。ほら、野口さんだ」

「…………確かに」

 

 ふふ、手に入ったか。

 学園祭での秀吉(女神)の写真!

 チャイナドレスの際どい写真が……!

 

「何をやってるんだ、シン。

 まあいい、それよりムッツリーニ、頼みたいことがあるんだ」

「…………なんだ?」

「これを聞いてくれ」

 

『優勝したらプロポーズするんだ。

 ……愛している、翔子』

 

 Oh……。俺たちが悪ノリして、捏造したプロポーズじゃないか。

 雄二曰く、捏造されたプロポーズが誰かに盗聴されて、さらにそれを霧島さんに流している奴がいるという。

 

 ふむ、だからどうなる、というわけでもないけどなぁ……

 雄二の結婚は決定事項のようなものだし。

 ああでも、ムッツリーニにとっては商売敵か。

 

「助けてムッツリーニィ!」

 

 そんなことを考えていると、明久がやってきた。

 

「僕の女装姿がウェブで配信されそうなんだ」

「…………何があった?」

 

 こちらも愉快な状況である。

 学園祭でメイド服の女装をした明久だが、そのパンチラ写真、ブラを手に持っている写真などが盗撮されたらしい。

 それをネタに脅されている、と言うことだ。

 

 状況的には明久の方がヤバイな。

 アキちゃんには需要がありそうだしな。

 何とかして、供給を増やしてみるか。

 

「ねぇシン、何か凄い嫌なこと考えてない?」

「はははは、まさか……」

 

 ちょっと女装させようかと。

 

 まあ何にせよ、脅迫はやりすぎだ。

 これに関してはどうにかすべきだな。

 最終手段として先生に掛け合う、何て奥の手段もあるが、それはまだ早い。

 

 こっちにはムッツリーニがいるんだ。

 やり方はいくらでもある。

 

 ーーー

 

 文月学園、強化合宿。

 リゾート地の旅館を買い取って、そこを合宿所としたらしい。

 

 結構遠い場所なのだが、なんとFクラスには案内すらなかった。

 社会勉強にはなるかも知れないけどさ……

 

 

 そんなこんなで電車の中だ。

 これから二時間は揺られることになる。

 暇になったので、今回の合宿における俺の予定について話そうと思う。

 

 

 

 告白する。優子に。

 

 

 

 焦っている、といってもいい。

 だが、優子と出会ってもう半年以上は過ぎているし、仲も良い。

 脈があるかは分からないが、行動をしないという後悔はしたくない。

 

 つい先日にも、優子が告白された、という噂を聞いた。

 断ったらしいが、正直に言って怖い。

 

 加えて強化合宿とはいえ、夏の泊まり掛けの旅行なのだ。

 シチュエーションは悪くない。

 

 

「オレンジが秀吉で、緑が美波、青が姫路さんかな」

 

 声が聞こえた。心理テストか。

 明久たちが何やらやっているので、混ぜて貰おう。

 

「明久。紫色は誰かな?」

「え? 紫? うーん、霧島さんかな」

「成る程」

 

 思い浮かんだ異性を色に当てはめる心理テスト。有名だね。

 

「えっ? シン、本とか持ってないけど、知ってるの? この心理テスト。

 紫とか載ってないんだけど!」

「それに翔子って。

 ……シン。紫色は何なんだ?」

「やっぱり霧島さんのことが気になるんだな、雄二。

 ……だからこそ、結果は秘密にしておこうかな」

「あっ、てめっ、ズルいぞ!」

 

 紫色は、性的な対象だ。

 ……知らない方がいいことって、あるよね。

 

「じゃあ、思い浮かんだ数字の心理テストを……」

 

 そうこうして、時間は過ぎていく。

 因みに俺の数字は3、6である。

 

 姫路が弁当を取り出した。

 なので、俺も弁当を取り出す。

 安全管理は万全なのだ。もう死にたくない。

 だが、明久の惣菜パンはその場で処理された。

 

 さらば、明久。姫路も明久に食べて貰えて喜んでいるさ。

 

 ーーー

 

 俺と雄二で明久を運び込む。

 AEDを使って蘇生に成功した。(正常な人へのAED、心臓マッサージは冗談抜きで死にかねないので、絶対に止めましょう)

 

 ここは旅館の一室だ。俺たちは五人で一つの部屋を使用している。

 結構大きな部屋なので、五人でも問題なく使用できる。

 

 明久が生き返ったタイミングで、ムッツリーニが戻ってきた。

 何やら情報を掴んだらしい。

 

 ムッツリーニによる盗聴返しは、明久の盗撮と雄二の盗聴の犯人を同一犯であると断定した。

 それだけではない。

 その犯人は女子であり、お尻に星型のアザがある人物だと特定した。

 

 ……どうやって確かめるんだよ。無理じゃないか。

 

 

「大人しくしなさい!」

 

 どうしようかと考えていると、突然扉が開いて女子に包囲された。

 

「女子風呂に隠しカメラがあったのよ。

 犯人はあなたたち以外には考えにくい。粛正。」

 

 プロセスが! 確認のプロセスが無いよ!

 

「明久君、本当なんですか……?」

「アキ、ホントなの……?」

 

 その言葉は拷問道具を置いてから言うんだ。

 

「雄二、浮気は許さない」

 

 さらば、雄二よ。お前のことは忘れない。

 ふふ、憐れな奴等だ。普段の行いがこういう結果になるんだ。俺のように普段から誠実な行動が右腕の関節が捻じ切れるように痛いぃぃいいい!

 

「ふふふ、お仕置きが、必要よねぇ……」

 

 優子、ギブ、ギブ!

 あ、待って。その関節はそっちには曲がらな……あぁあああ!

 

 ーーー

 

 酷い目に遭った。

 未だに両手がちゃんと動かない。

 

「こうなったらもう容赦はしねぇ。

 思う存分女子風呂を覗いてやる」

「尻に星型のアザがある女子を特定するんだな。

 止めとかないか。流石にヤバイって」

「怖じ気づいたのか、シン。

 お前だって相当折檻されてたじゃねえか」

 

 むう、それはそうなんだけど。

 仕方ない。今日だけ付き合うか……

 明日からは告白のために動くからね。

 

 

 一本道だ。

 女子風呂への通路は一つで、それも一本道だ。

 だから、正面突破以外の選択肢はない。普通なら覗けるような造りにはなっていないのだ。

 もうこの時点で諦めるべきなんだよね。どうあっても先生に見つかるし、強行突破なんてしようものなら停学は堅い。

 

「科学の布施先生だ!」

「構わねえ、ぶちのめせ!」

「いや、そこは構いなさい」

 

 まったくだ。

 

「ここは、俺と雄二で食い止める!

 明久、秀吉、ムッツリーニは先に行け!」

「いや、教師相手じゃ。ワシも手伝おう!

 明久、ムッツリーニよ、先に行くのじゃ!」

 

「そんな、皆を見捨てて先に行くなんて!」

「目的を忘れるな! 何のために俺たちが盾になると思っているんだ!」

「……分かったよ。僕たちは、必ず、辿り着いてみせる! 理想郷(アガルタ)に!」

 

 明久、俺たちの夢を。託したからな……。

 

 召喚獣のもつ武器は、棒だ。

 尖ってもいない。木刀のような形態でもなく、ただの長い棒だ。

 だが、棒とは変化に富んだ武器だ。

 

 そう簡単には見切らせない。

 突く。布施先生の武器であるフラスコの底に当たって、止まる。

 その状態から棒の持ち手を滑らせる。

 フラスコの近くでもう一度棒を握って、下から払う。

 支えを失ったフラスコの下を潜って避ける。

 

 雄二の攻撃がフラスコを横から叩く。

 秀吉の薙刀が布施先生を捉えた。

 続くぞ。棒を布施先生に突き出した。

 仰け反って避けた布施先生の召喚獣の後ろに周って、突き出した棒の尖端を持つ。

 後ろから羽交い締めした形だ。

 雄二が動く。メリケンサックで威力が増したラッシュが召喚獣を捉え……

 

 バキッ、と音がして。棒が折れた。

 瞬間、フリーになった布施先生の召喚獣の腕が俺の召喚獣を掴んで、位置を入れ換える。

 雄二の拳が俺に入った。

 吹き飛ばされていくなかで見た景色では、

 秀吉の召喚獣が雄二の入ったフラスコの下敷きになっていた。

 

 ーーー

 

 鉄人の説教が終わったのは、深夜だ。

 俺たちは死んだように眠り、時間ギリギリに起きた。

 朝食を食べて、休憩時間を挟んで、勉強の時間が始まる。

 

 AクラスとFクラスの混合編成での自習だ。

 正直に言うと上のクラスから編成した方が意味があると思う。

 それも、授業はない。プリントも控えめで、サボろうと思えばいくらでもサボれる状態である。

 

 優子の近くに座って、勉強する。

 課題のプリントが指示している範囲を確認する。三角関数とその発展かな。

 ここのポイントはサインカーブとコサインカーブの差を理解できることで、それを発展させることで…………

 

「工藤さん、僕にお尻を見せてくれると嬉しい!」

 

 吹いた。

 楽しそうだったので、秀吉に何があったのか聞く。

 工藤さんが犯人候補に挙がって、明久が自爆したらしい。

 うーん、違うと思うなぁ……動機が無さすぎる。

 

 むしろ、後からやってきた清水さんの方が怪しいけど。

 どちらにせよ、証拠はない。

 

 優子の所に戻ると、不機嫌だった。

 うん、一緒に勉強しようとしたら居なかったんだな。

 探せば、霧島さんや工藤さんの近く。

 秀吉と話してる。

 

 怒るよね、普通なら。

 ごめんなさい。だからそっちに関節は曲がらないってぇえええ!

 

 ーーー

 

 夜になった。自由時間に旅館を歩く。

 避暑地の旅館だからか、中庭がある。あまり人もいない。

 池があり、橋もある。もう少し先に高台もある。

 雰囲気のある場所だ。

 

 リサーチを終えて、部屋に戻ると。

 Fクラスの皆がいた。

 皆で覗きを敢行するらしい。

 何故か俺もカウントされていたが、辞退。

 明日のために集中したいんだ。

 

 明久たちは深夜に帰ってきた。

 

 

 次の日の朝。

 朝から明久が雄二を襲っていた。

 浴衣が微妙にはだけて、雄二に馬乗りになる明久。

 朝から酷いものを見た。

 

「工藤さんが言ってたんだ。

 『脱衣所にまだ見つかっていないカメラがあるよ』って」

 

 ほう、それはそれは。

 

「怪しいよね」

「そうでもないさ。犯人ならそんなことは言わないだろうしな」

「そもそも、工藤さんには動機が無いだろうに」

 

 明久、雄二、俺の順番で話す。

 

「まあ、それを手に入れればいい話だけど、それじゃ本物の盗撮犯になるぞ……」

「だから、人を増やす」

 

 皆を巻き込んで、保身に走る気だな。

 

「先ずはAクラスだな」

「と言うことは、久保を説得するのが妥当じゃな」

「明久、行ってこい」

「何で僕!? ……まあ別にいいけど」

 

 久保には明久だな。いや、ちょっと危ないか……?

 

「……いざという時はコレを使え」

 

 スタンガン(二十万ボルト)

 

「……気を付けろよ、明久」

 

 ーーー

 

 今日も自習だ。

 Aクラスの説得は失敗したらしい。

 これからD、Eクラスの説得に行くらしい。

 俺も行くのだが、その前に、だ。

 

「優子、ちょっといいか?」

「どうしたのよ、自習中に」

 

 よし、できる限り意味深に。

 いつもより心持ち近くに寄って、

 

「……優子、話があるんだ。

 19時に、中庭に来て貰えないかな」

 

 目は反らさない。

 相手の目を見ること、大事だと思います!

 

「……大事な、話なんだ」

「う、うん。いいけど。その時間は自由時間だし」

 

 余韻を残したまま、部屋を出る。

 サボったことには気付かれなかった。

 雰囲気って大事。

 

 

「阪本雄二から始まるっ」

「「イェーッ!」」

「古今東西っ」

「「イェーッ!」」

「Aから始まる英単語っ」

 

 明久狙い撃ちだな。

 

 パンパン(手拍子)

「Apple」(雄二の番)

 パンパン(手拍子)

「Association」(俺の番)

 パンパン(手拍子)

「……僕の、負けだ……」

 

 明久ェ……一つも思い付かないのか……?

 その後、明久がその反論を始めてヒートアップして、先生に気付かれた。

 

 ーーー

 

 夜。十六夜の月が綺麗に夜空を穿っている。

 少しだけ吹いている風が浴衣を煽って、来訪者を知らせた。

 

「やあ、優子。来てくれたんだね」

「あなたが呼んだんでしょ」

 

 浴衣姿だった。

 

「ちょっと歩こう。この先に景色のいい高台があるんだ」

「……うん」

 

 池と橋を通って。

 

「ここは、涼しいよね」

「池があるからでしょ。それだけでも、結構違うものよ」

「うん、流石は避暑地だよね」

 

 薄暗い道を進む。

 

「…………」

 

 二人とも静かになって、ただ歩いていった。

 

「わぁ……綺麗な景色……」

「うん。この辺りを見渡せるみたい」

「いいの? こんなところまで来ちゃって?」

「正直に言うと、ちょっと不味いかな」

 

 だけど、誰もいない方がいいから。

 

「優子、好きだ」

 

 唐突に。返事は待たない。

 

「もう、半年も経つんだ。

 期末試験とか、試召戦争とか、学園祭とか。

 色々あったけど。そのどれに対しても、優子と居たと思う。

 そして、これからも。俺は、優子と居たいんだ」

 

 驚いた顔を、真っ直ぐに見る。

 これだけは、嘘じゃないんだって。そう証明するように。

 

「秀吉じゃない。他の誰でもない。

 優子がいいんだ。優子じゃなきゃ駄目なんだ。

 ……好きです、付き合ってください」

 

 言い切る。

 少しだけ、時間が流れて。

 

「……ホント、唐突よね。あなたは。

 いっつもそう、私には何の用意もさせてくれないんだから。

 始めて会った時も、いきなり告白されて、それが本気なのか分からなくて、一晩中悩んだのよ? 分かる?」

 

 分かりません。

 

「テストもそう。私はいつだって本気で受けてる。優等生でありたかったから、それは当たり前の事だって思ってた。

 なのに、あなたは周りの評価なんて気にもしてなくて。

 初めは何でそんなことしてるのか、全く分からなかった」

 

「私にとって、あなたは劇薬よ。

 今までの価値観なんて全部壊された。

 一歩引いて、猫を被って。いつか忘れられるような、そんな優等生。そんな私の立場。

 

 ……返してよ」

 

 無理だ。

 

「それは、……出来ないけど……」

 

 優子が近づいてきて。

 

「じゃあ、こんな私にした責任くらい、取ってよ。

 絶対に、浮気なんて許さない」

 

 浴衣を引っ張られた。

 

「……好き」

 

 その言葉は、唇のなかで聞こえた。

 

 ーーーーーーーーー

 

問8

 強化合宿の感想を述べてください。

 

A.(木下 優子)

 一生に残るものになったと思います。学力の面だけでなく、その他についても。

 

[解答]

 何かあったようですね。後悔だけはしないように学生生活を楽しんでください。

 

A.(吉井 明久)

 覗きに力をいれた合宿になった。皆が協力してくれることで、力を合わせる尊さを知ることができた。

 

[解答]

 その結論はもっと別の過程から知るべき事です。

 

 ーーーーーーーーー

 

 呆然としていた。

 何というか、何も考えられない。

 

 あれから、俺たちは旅館に戻ってきた。

 本当は高台までは行ってはいけないので、教師に見つかれば大目玉だが、そんな心配は要らなかった。

 明久たちが覗き騒動を起こしているからだ。

 俺は男たちの亡骸を無視して、部屋に戻ってきた。

 

 優子と付き合うことになった。

 これがバレれば殺される。FFF団に。

 というか秀吉とも気まずい。どんな顔すればいいんだ。

 ということで、周りには秘密だ。

 優子は不満そうだったが、俺の命が掛かっているのである。許してほしい。

 

 明久たちが戻ってくる前に、風呂にいく。

 女子の入浴時間と言うことは、男子も入浴時間である。

 携帯も持っていくか……ってあれ? 電源が切れてる。コード持ってくるの忘れちゃったな。仕方ない、無かったら無かったでいいか。

 

 

 風呂から戻ってきてしばらくして。

 明久たちが帰ってきた。

 失敗したらしい。だろうな。

 正直、今回は成功への道筋が見えない。

 

 俺がそう提案してもこいつらにやめる気は無いらしい。

 次のためにA、B、Cクラスを仲間に加えるらしい。

 そのために姫路や島田、秀吉の写真を撮るらしい。

 

 その最中、明久に携帯を貸して欲しいと言われたが、電源が切れているのを見て、愕然としていた。

 コードを貸して貰えば良かったことには、あとで気づいた。

 頭が回ってなかったんだ。許してほしい。

 

「秀吉、もう少し俯いてみて!」

「何でお主まで撮っておるのじゃ?」

 

 記念だよ、記念。

 

 ーーー

 

 その夜。

 布団で微睡んでいると、誰かが入ってきた。

 島田だ。周りをみると、霧島さんが雄二の布団のなかにいる。

 ムッツリーニは当然のように撮影していた。

 俺は現実逃避として、秀吉の寝顔を撮影しておいた。

 

 

 最終日の朝だ。

 何時にも増して眠たそうな二人は、鉄人の説教の成果だろう。

 

「大丈夫か、二人とも」

「うん、何とかね。それにしても、今回はシンのノリが悪いよね」

「まあ、色々あったんだ。

 初日は手伝ったんだから、許せって」

「ふーん、まあいいけ……ふおぉぉおっ!」

 

 どうした!?

 

「どうしたんだ明久!? だいじ……ふおぉぉおっ!」

 

 こ、これは! 秀吉の! 浴衣の写真!

 やっぱりプロは違うな……

 

 ……今夜は、優子の敵になるかもしれない。

 

 

 いつものプログラム。

 つまり、AクラスとFクラスの合同自習だ。

 

「ねぇ、噂で聞いたんだけど。

 何か良からぬ写真が出回ってるらしいの」

「へぇー、そうなんだ」

「それで、覗きに加わる男子が急増してるらしいんだけど。

 ……ねぇ、分かってるわよね」

「…………」

 

 明久、ゴメン。

 俺、参加する前に、リタイアするかもしれない。

 

「あ、あははは……顔が怖いよ? 優子?」

「ふふふふ、大丈夫よ。未遂だもの。

 まさか告白した次の日に覗きなんて。

 そんなことを考える人は、きっと全身の関節が硬いと思うの」

「ウン、ソウダネ」

 

 殺される。

 俺はいつだって優子の味方なので、最終日も俺は不参加だった。

 

 だというのに、初日に参加したことは教師たちにはバレていた。

 つまり、俺も停学になったのだ。

 




本編、最終話です。ギャグ成分薄めかな。
ちょっと最後の方はプロットから外れました。
お陰で紹介文の言葉が未回収に。
取り返すためにもいくつか番外編を書くと思います。
文章の練習もかねているので、これからもちょくちょく番外編は更新されるよ!
そして、これまでのような完全な原作沿いからは外れた話も書くかもしれない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。