天翔ける龍の伝記 (瀧龍騎)
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第一部 一章 勘解由小路天竜
第一話 魔王白夜叉(改)


いきなり安土城ジャック事件というオリ展開から始まります。処女作ですが、楽しんで拝読して頂ければ幸いです。


近江国、安土城前。

 

 

「信奈様!信奈様~!」

 

信奈の小姓が早馬にて織田本陣にかけ戻る。

 

「戻ったわね梅千代。戦況は?」

 

「どうやら謀反ではなさそうです。ただ、留守役の大工人、料理人、小姓、足軽らがまるごと人質になってるようです」

 

「そう.....敵の数は?」

 

「それはまだ.....ただ城の出入りなどが全くない所から、敵方は少数と見られてます」

 

「デアルカ.....万千代はどう思う?」

 

 

長秀もまた信奈と共に安土城を離れ、行動を共にしていた。

 

 

「留守役を手薄にしたのが原因ですね。十点です」

 

「むぅ.....五日で占領される天下の巨城なんてまだまだね。これをさっさと片付けて問題を改正しなくちゃ、十兵衛に馬鹿にされるわ」

 

「今回のような事にならぬよう、建築時に対策を練ったはずだったのですが.....」

 

「その結果がこれよ!全く.....首謀者とっ捕まえて八つ裂きにしてやるんだから!」

 

「姫さまなら本当のしそうで怖いですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻、前線を務めていたのは越前から駆けつけた柴田勝家と前田犬千代だった。

 

 

「くそ~!流石は姫さまの安土城!どう攻めればいいんだ?」

 

「勝家は脳筋だから攻め込む事しか考えてない」

 

「サッ.....サル語を使うなぁ!」

 

「ここは無理に攻めたら駄目。敵の思うつぼ.....だと思う」

 

「おい!何でそこで自信をなくす?」

 

 

2人が前線で漫才をやっていた矢先、安土城の門が開かれ、中から兵が出てくる。

 

 

「おっ?向こうから出てきてくれたぞ?」

 

「運が良かった」

 

「さぁて!何人でかかってこようがこの勝家が全部吹っ飛ばして..........あれ?」

 

「?」

 

 

確かに門から敵兵は出てきた。それも屈強そうな馬に跨り、高価そうな具足を身につけ、巨大な薙刀を持った騎馬武者であった。ところが、その一人が出た途端門は再び閉じられたのである。

 

 

「えっ?一人だけ?」

 

「もしかしたら使いの者かも」

 

「使いの者なら薙刀なんて持ってこないだろ?とにかく、あれと戦えばいいんだな!」

 

「まだ敵かどうかは.....」

 

「ようし!行ってくる!」

 

「やっぱり脳筋.....」

 

「うっ.....うるさいっ!」

 

 

 

 

勝家は馬をかけ、その騎馬武者の前まで移動する。その者は待っていたかのように勝家を迎えた。

 

 

「やい!お前は何者だ!ここは織田家当主織田信奈様が居城と知っての狼藉か!」

 

「このまままっすぐ進めば織田の本陣があるのか?」

 

「はぁ?.....そうだけどそれが?」

 

 

声を聞く限りではこの武者は男のようだ。この男、顔の半分が隠れる形の兜を深々と被っているので、始め男か女か分からなかった。

それだけではない。この男が装備している具足は通常と比べて変わっていた。普通は赤や黒、珍しくても緑や青の具足が一般的だというのに、

彼の具足は白かったのだ。

銀色という訳ではなく、完全な白色。傷や汚れも全くなく、この砂埃の多い戦場では一際美しく見えた。風流などに疎い勝家も一瞬見惚れてしまっていたが、次の一言が勝家を現実に引き戻した。

 

 

「そっか。このまま突っ切って本陣まで駆け込めばいいのだな。ふむふむ」

 

「!?」

 

「いい情報をありがとな」

 

「どういたしまして.....じゃない!何だって?」

 

「お前、名を何と申す?」

 

「しっ.....柴田勝家だ!」

 

「ほう、権六(ごんろく)か?」

 

「なっ.....何でそれを!」

 

 

権六という名は勝家が可愛いくないという理由で六(りく)という名に改名した元の名である。

六という名を敵が知っていてもおかしくはないが、権六を知っているのは織田家臣団や柴田家の者ぐらいなのだ。

 

 

「道を開けてもらうよ権六。私にはやる事があるのだ」

 

「その名で呼ぶな~!私の名は六だ!」

 

「なら六。通行の邪魔にならぬようさっさとどけろ!」

 

「つっ!?」

 

 

その男は突然馬を走らせ、勝家の方の向かってきた。

 

 

「このあたしに正面から突っ込んでくるなんて〜!

馬鹿な奴だ!」

 

 

勝家は槍を構え、その男をいつでも打ち倒せるよう準備した。

 

 

「忠告したはずだ!怪我してもしらぬぞ!」

 

「えっ!?」

 

 

勝家には未だかつてない事が起きた。普段なら、例え敵から突っ込んできても簡単押し返せていた。しかし今回は、勝家はこの男との力比べに負け、そのまま馬から振り落とされたのである。

 

 

「ぐわぁっ!」

 

「お大事にな!」

 

 

男はその言葉と共に颯爽とかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「勝家が負けた」

 

 

遠くから眺めていた犬千代がぼそりと呟く。一騎討ちなら負けなしと言われた勝家を打ち倒した敵兵。その男が今まさに己の方へとかけてきている。

 

 

「ここは通さない.....。うっ!?」

 

 

そう意気込んだ直後その騎馬武者は犬千代の真横を通り過ぎて行ったのである。その男が早過ぎたのではない。犬千代が動けなかったのだ。

今では完全にファッションと化している頭に被っている虎と戦った時も、虎は身震いする程の気迫を示してきた。

それでも相対できない程ではなかった。あの男の気迫は虎以上であった。勝家を打ち倒した調子で向かってきた化け物に喰われるのかと思った程だったのだ。

しかしあの男は自分に構おうとはしなかった。最初から敵とは見ていないように。道端の石ころのように犬千代を無視したのである。

 

 

「馬鹿にされた。くやしい」

 

 

そう言い、手に持っていた朱槍を強く握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ~!来たみゃ~!」

 

「槍が効かないみゃ!どうしたらいいみゃ!」

 

「矢で射殺せみゃ!」

 

「全部弾かれたみゃ!あいつは化け物みゃ!」

 

「鬼みゃ!白い鬼みゃ!」

 

「「「白夜叉みゃ!」」」

 

 

勝家、犬千代の後に構えていた足軽達が応戦するも全く歯が立たず、全五段ある部隊のうち三段まで突破されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で私の軍が押されてるのよ!」

 

「こちらの軍は一万です。よほどの猛将か軍師がついているのでしょう七十点です」

 

 

荒ぶる信奈を長秀が抑える。

 

 

「敵に対してに随分な高得点ね万千代」

 

「敵の正体も分からずに攻めたてたのが問題でした。私としたことが.....」

 

「今更くよくよしたってしょうがないでしょ!梅千代、敵の情報はまだ?」

 

「使い番がもうすぐ戻ってくるはずですが.....」

 

 

その時、一度本陣を離れていた使番が帰還する。

 

 

「報告致します!敵は間もなく第4精鋭部隊に到着するようです!現在鉄砲隊が敵を迎え撃つ準備をしております」

 

「デアルカ。して、敵の数は?」

 

「そっ、その..........一騎です」

 

「は?」

 

「敵は騎馬武者一人だけで他にはいません!」

 

 

その報告は本陣にいる話しを聞いた者全員に恐怖を与えた。

 

 

「じょっ.....冗談でしょ?たった一人のためにわたしの軍がズタボロにされてるなんて.....」

 

「姫さま、一度兵を整えなければ姉川の二の舞です!」

 

「だっ.....だって、あの時だって別に長政が単体で攻めてきたわけじゃないじゃない!」

 

「前線の兵は『白夜叉だ』などと騒いでおります」

 

「白夜叉?」

 

 

そこで梅千代が口を挟む。

 

 

「夜叉.....白き鬼のことですね」

 

「まさか、本能寺の時の鬼が?」

 

「いえ、人間の鎧武者です」

 

 

使いの者が答える。

 

 

「本物の『戦場の鬼』ですか。やはり勝家殿が倒されたという情報が兵達に恐怖を与えているようですね」

 

「むぅ.....でも鉄砲なら倒せるわ!人間ならそれで死ぬはずだもの!」

 

「本陣近くに鉄砲隊が配置されている事は敵も気づいているでしょう。どうやって抜けるつもりなのか.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4精鋭部隊にて。約百人が横一列に並び、敵を待ち構えていた。

 

 

「敵は間もなく到着する!視界に捉えた敵を蜂の巣にしてやれい!」

 

 

指揮官が叫び、百人はそれぞれまっすぐの方に銃口を向けていた。今にも発砲されるのではないかといったその時、

 

 

「むっ.....これは.....」

 

 

あたりに急に霧が現れたのである。それも短時間で

「一寸先は闇」ならぬ「一寸先は白」の状態に気候が変化したのだ。

 

 

「あれは何だみゃ?」

 

 

見えなくなった前方から謎の球体が飛んできたのである。最初は鞠か何かだと思った鉄砲隊の者達はそれの正体に気づいた途端恐怖がまたもや襲う。

 

 

「首だみゃ!人間の生首だみゃ!」

 

 

前線で戦っていた兵の生首だった。普段、戦慣れしている兵達にとって、死体や生首などは見慣れた物であるが、今のような摩訶不思議な事が起こっている時には効果抜群なのだ。それも一個だけではなく、二個三個と次々に投げ込まれたのだ。

 

 

「ひゃ~!これは人のする事でねぇ!」

 

「鬼だ!鬼だのする事だみゃ!」

 

「神様仏様姫巫女様!オラ達を助けてくれみゃ~!」

 

「ええい、騒ぐな!これでは敵の思う壷だぞ!」

 

 

だがすでに兵達には指揮官の声も届かず、終いには指示を無視して勝手に発砲する者まで現れる始末である。

 

 

「隊を整えろ!こんなところを狙われば.....がふっ!?」

 

 

次の瞬間、霧の奥から飛んできた薙刀によって指揮官は喉を切り裂かれたのだ。

 

 

「「「にっ.....逃げろ~!」」」

 

 

それがとどめとなって兵達は鉄砲すら放って一目散に逃げ出し、鉄砲隊は壊滅してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄砲隊の居なくなった陣を白き夜叉が悠々と通る。

 

 

「戦争は戦力じゃない。大事なのは戦略と兵の気持ちさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は織田軍に戻る。

 

 

「ぜっ.....全滅?第四部隊が?」

 

「はい.....多くの鉄砲隊は逃亡を謀ったようです」

 

 

使番からの知らせを聞いた信奈はぐったりと椅子に座り込んでしまう。

 

 

「誰よ.....私はいったい誰と戦をしてるのよ!」

 

「迂闊でした。ただの狼藉者の退治程度と思って兵を制限したのが最大の敗因。三点です」

 

 

このままではこの本陣も危うい。ここは一度大将だけでも退いて、戦力を整えなければならない。

 

 

「姫さま、私が殿(しんがり)を務めます。姫さまは梅千代と共にとりあえず岐阜城のほうへ」

 

「だめよ!そんな事して万千代、あなたが討死したりしたら.....それにたった一人の敵のために織田軍が壊滅、大将が逃亡なんてしたら世間での織田の評判だってガタ落ちよ!」

 

「ですがこのままでは.....」

 

 

その時またもや使番が報告をしに来た。

 

 

「お伝えします。敵兵は降伏を言い果たし、即座に停戦を求めております!」

 

「えっ?」

 

 

それは、脳の片隅にも想像していなかった事であった。敵軍の本陣まで追い詰めて降伏など、前例が全くなかったのである。

 

 

「どっ.....どうして?」

 

「それは私からお話しましょう」

 

 

 

 

 

 

返事をしたのは使番ではなかった。通称『白夜叉』。

謎の騎馬武者が謎の行動と共に信奈の前に現れたのだ。だがこの男の具足、すでに白具足ではなくなっていた。

多くの者の返り血を浴び、完全に赤具足になっていたのだ。この変化も兵達に恐怖を与えたのだろう。

 

 

 

 

 

 

「何が目的よ。地位?土地?金?」

 

「そんなものはいりません。ただ、私は織田に仕官したいと考えております」

 

「はぁ?」

 

「無礼な!安土城を占拠しただけではなく、我が軍がをズタボロにしたにもかかわらず仕官などと.....馬鹿にしているにも程があります!」

 

「万千代抑えて。貴方.....名は?」

 

 

そう言われると男は、深く被っていた兜を外し、ここで初めて男の素顔が明らかになる。兜のおかげで顔はあまり血で汚れておらず、整った綺麗な面を見て、信奈は思わず男装をしていた頃の長政を思い出した。

 

 

 

 

「天竜.....勘解由小路天竜(かでのこうじてんりゅう)と申します」

 

 

 

 

勘解由小路という名を聞いて、

長秀がピクリと反応する。

 

 

「勘解由小路.....まさかあなたは陰陽家の?ですが、その一族は.....」

 

「はい。勘解由小路家は土御門家との争いに負け、断絶しました。私はその生き残りです」

 

「陰陽師.....なるほど安土城を占拠できたカラクリが何となく分かった気がするわ。ところで仕官したいのは分かるけどなんでこんな狼藉じみたことを?」

 

 

そこで天竜という男はそこで厳しい顔つきになる。

 

 

「私はすでに滅びた一族の者。恐らく私を率先して雇う大名などそうはいないでしょう。そこで織田に目をつけました。

実力さえあればどの様な生い立ちでも雇ってもらえるその姿 勢に心を打たれ、仕官を決心いたしました。ところがです」

 

 

そこにいた者は唾を飲んで天竜という男の話に耳を傾ける。

 

 

「今の織田は腑抜けているように思えます。京一角を支配し、四方を武田上杉毛利といった強敵に囲まれているにもかかわらず、織田の拠点ともいえる安土を空にしたり.....武田上杉毛利以外の勢力は雑魚のように見ている節がある。今回がいい教訓になったでしょう。先ばかり見ていては序盤で足を掬われるということを」

 

「なんと身の程知らずな.....何様のつもりですか!」

 

「今は戦国乱世、下剋上など当たり前の世。そのような時に何様も殿様もありますか?」

 

 

この男は"うつけ"だ。周りにいた者は皆そう思った。ただ一人を覗いて。

 

 

「あんたは織田で何がしたいの?」

 

「何があろうと、日の本の天下は織田が掴むでしょう。そしてその先も.....私はそれを支えてゆき、作りたいのです。私の理想完璧な織田信奈を!」

 

 

そこで信奈はクスリと微笑む。

 

 

「完璧なんてつまらないわ。一番になっちゃったらそれ以上の目標がなくなちゃうじゃない」

 

「..........その通りです」

 

「私はまだまだ登るわよ!日の本だけでなく、世界すらもね!世界も制覇したなら月でもお日様で も手に入れてみせるわ!」

 

 

他の者はポカンと口を開けて話を聞いている中、天竜という男もまたクスリと微笑む。

 

 

「安土城を占拠した戒がありました。おかげで貴方の真意を聞き出せる事が出来ました。私にも見せて下さい.....いや、共に見ようではありませんか。この世の頂きというものを!」

 

「デアルカ!」

 

 

ここで初めて天竜という男は信奈に頭を下げた。周りの者はその光景を見ているだけで精一杯だったという。

 

 

「あんた他に仲間は?まさか単独じゃあないでしょ?」

 

「安土城に6人程残しております。直ちに開城するよう命じましょう」

 

「よろしくね.....かっ.....かでのこうじ?.....言い難いわね。愛称を付けようにも、"てん"も"りゅう"もちょっと違うし.....」

 

「なら「シロ」とお呼び下さいませ。先ほど足軽達に何度か「白夜叉」と呼ばれていましたので」

 

「デアルカ。ならシロ!私に着いてきなさい!」

 

「はい。何処までも」

 

 

シロと呼ばれるようになった男が仲間になったという事実を理解出来なかった者はいなかった。信奈が認めた以上、それに従わざるを得なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その男が影で不気味な笑みを浮かべているという事実に気づけた者は信奈を含め誰もいなかった。

 

 




次回より天竜と良晴との絡みも出てきます。何と二人には意外な接点が!
拝読ありがとうございました!
次回予告
勘解由小路天竜の仕官!
~良晴!何故ここにいる?~


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第二話 勘解由小路天竜の仕官 (改)

今回は前回以上にゴタゴタシーンが連発します。
皆さん!覚悟してお読みになって下され!


数日後。近江国、安土城。

 

 

「皆に集まってもらったのは他でもないわ」

 

 

名古屋コーチンにしゃぶりつきながら信奈が号令をかける。

『安土城の変』として歴史に新たに名を残す事になった事件から三日後。開城された安土城本丸御殿にて織田家家臣団が集結した。中国方面からは相良良晴、明智十兵衛光秀が出席し、良晴の付き添いとして竹中半兵衛、黒田官兵衛も参列する。珍しく津田信澄も呼ばれ何やらソワソワしている。滝川一益も呼ばれたのだが、足が疲れるとの理由で案の定拒否された。

 

 

「何をソワソワしてるのよ勘十郎?厠なら今の内に行ってきなさい」

 

「違いますよ姉上!美濃に残してきたお市の子が今こうしてる内にも産まれるのではないかと気が気でなく.....」

 

「身籠って一月ちょっとで産まれるわけないでしょ!」

 

「信澄殿、赤子は長くて十月。早くても八月から九月はかかるのですよ?」

 

 

と、長秀が隣の信澄に伝える。

 

 

「ですが、僕の体は小さいので小さな赤子が一月で産まれるかも.....」

 

「勘十郎.....それは『一寸法師』というのよ?」

 

 

アホの弟に頭を抱える信奈。

 

 

「十兵衛、サルは何処よ?一緒に来たんじゃないの?」

 

「相良先輩は遅れて来ますです。近江に着いた際、足を引っ掛けて落馬をしてしまい、近くの宿屋で休息をとってから来るそうです」

 

「何をやってるのよあの馬鹿は!」

 

 

そう言いながら"怪我してないかしら"、"私の事ちゃんと覚えてるわよね"とブツブツと良晴を心配しているような素振りを見せる。

 

 

「待ってても仕方ないので、もう始めましょう信奈様!来やがらない先輩は後回しでいいです!」

 

「それもそうね。皆聞いて!先日この安土城がある者に占領された話は皆にも伝わってるわよね?」

 

「いったい何者だったんですか?その馬鹿な輩は」

 

 

十兵衛がやれやれという態度を見せる。

 

 

「本人から聞きなさい十兵衛。入ってきなさい!」

 

「はい信奈様」

 

「ふぇっ?」

 

 

扉の影にいた天竜が皆の前に颯爽と現れる。歩を進める動作、座るまでの動作が美しく、そして整った顔たちの天竜に皆の視線が釘付けになる。

 

 

「あの白兜.....あんな顔だったのか.....」

 

 

彼の素顔を見たのは、本陣にいた信奈、長秀のみであり、勝家や犬千代にも新鮮なものであった。

 

 

「この度織田に仕官致しました。勘解由小路天竜と申します。以後お見知り置きを」

 

「「織田に仕官!?」」

 

 

勝家と犬千代は仕官の話を前もって知らされていたので、歯痒くも対して反応を示さなかった。だが、占領事件の事しか知らない十兵衛と信澄には信じられない話である。

 

 

「姉上!この者は姉上の軍を壊滅に追い込んだ鬼ですよ!?仲間にするなんて.....」

 

「同感です!信奈様、信用出来ませんです!」

 

「天竜、あなたの特技を教えてやりなさい!」

 

 

二人の言い分を無視して信奈が話を続ける。

 

 

「剣術は新当流を少々、槍術は我流ですが上々を自負しております。弓術、体術も同じく上々。他に馬術、建築術、学術、算術、天候術などを習得してまする」

 

「天候術?」

 

「何て事はありません。雲や風の動きを見てその後の天候の移り変わりを予測するのです。そして陰陽術を.....」

 

 

あまりに完璧すぎて、誰も口を挟めなかった中、十兵衛が。

 

 

「新当流と言いましたですね?」

 

「はい、鹿島新当流です。非常に短期間ではありましたが、"塚原卜伝殿"に直接教えを被りました」

 

「卜伝殿に直接.....」

 

「明智様は雲林院松軒殿ですね?」

 

「どうしてそれを!」

 

「卜伝殿から雲林院殿が幼く可愛い女子を弟子にしたと.....『幼女好きの弥四郎の

悪い癖が出なければ良いが.....』などと話しておりました」

 

「まさか師匠が例の『露理魂』だったとは.....」

 

「光秀の名も彼から貰ったのですね?」

 

「はいです。.....まさか己の諱を与える事で、私と一心同体になろうと!?急に寒気が!」

 

 

新当流の話で二人が盛り上がっている時、周りの者は声をかける事も出来なかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっかり遅刻しちまったぜぇ」

 

「くすんくすん。何事もなくよかったです」

 

「ふんっ、どうせ町娘にでも鼻を伸ばして前を見てなかったんだろう。全く、これだから相良良晴はね」

 

「そりゃないよ官兵衛」

 

 

相良御一行が会議の間に入室する。

 

 

「おーす、信奈。来たぜやったぜ?」

 

「サル!怪我はしてない.....そっ、そんな事より客前なんだからもっと礼儀正しくしなさい!」

 

「うっ.....すまんすまん」

 

「サル.....ということは貴方が、秀吉どの.....!?」

 

 

入室した良晴を見ようと天竜が振り返って彼を見た瞬間、今まで見せなかった驚き顔に変化する。

 

 

「あれ?.....あんた.....何処かで.....!?」

 

 

二人同時にお互いの正体を知り、同じ驚き顔になって見つめ合う。

 

 

 

 

 

 

 

「よっ....,良晴?」

 

 

 

「てっ.....天竜.....先生?」

 

 

 

 

 

 

 

 

衝撃の事実!二人は知り合いなのだ。

 

 

「なっ.....何?知り合いなの!?」

 

「いえっ!!断じて違います!」

 

 

天竜が即答する。同時に振り返り直って頑なに良晴に顔を合わせないようにしている。

 

 

「いやいやいやいや!天竜先生だろ?」

 

「さぁ?私の名前は山田太郎左衛門」

 

「さっき『サル』って聞いて秀吉のおっさんと間違えてたじゃないか!」

 

「誰それ?おいしいの?」

 

「日本の総理は?」

 

「安倍晋三」

 

「やっぱり!」

 

「しまった!」

 

 

当然このやり取りについていける者など一人もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勘解由小路天竜、27歳。職業高校教師。教科日本史。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ~.....織田に良晴がいるとはなんたる誤算!」

 

「なんだって天竜先生がこの時代にいるんだ?」

 

「こっちの台詞だ!」

 

「あの~.....サル?説明してくれると助かるんだけど.....」

 

 

痺れを切らした信奈が口を挟む。

 

 

「私からお話しましょう.....私はその昔、この相良良晴めに学問を教えていた者です」

 

「昔っていうと?」

 

「そのぉ.....つまりぃ.....」

 

「何で未来から来たって言わないんだ天竜先生?」

 

 

その時、天竜の表情が一変する。

 

 

「こんの、糞たわけがぁ!」

 

「ひぃっ!?」

 

「貴様は昔から何処まで口が軽いのだ!私が長い間隠し通してきものを見事に壊しおって!」

 

「せっ.....先生!?そんなキャラだっけ?

しゃべり方も変わってるし」

 

「3年間もこんな時代にいれば性格や口調も変わるわ!」

 

「3年間!?俺がタイムスリップした日にも授業してくれてただろ?」

 

「むぅ.....貴様と私とでは飛ばされた時代にズレがあったようだな.....」

 

「あの.....いい?.....シロ」

 

「はっ.....はい!信奈様!」

 

「あんたも未来人.....なの?」

 

「...............はい」

 

「じゃあさっきの特技の話は?」

 

「それは事実です!400年後の勘解由小路家最後の跡取りとして父に伝授されました!」

 

「勘解由小路.....」

 

 

半兵衛が反応する。天竜が彼女に視線を向けるとビクッと怯え、良晴の影に隠れてしまう。

 

 

「サルと違って頭を打ったわけではなさそうね。仮に未来人だとしても陰陽師というのは信用できそうにないわ.....半兵衛!」

 

「ビクンッ..........はい信奈様」

 

「こいつは本物なの?」

 

「えぇと.....あの.....天竜殿?」

 

「あなたは?」

 

「竹中半兵衛と申します。陰陽師です」

 

「竹中半兵衛が陰陽師?.....初耳です」

 

「くすんくすん。あなたが真の陰陽師なら.....何か術を見せて頂けますか?」

 

「式神でも出せんの天竜先生?」

 

 

天竜は歯ぎしりをして喉の根元まで出掛かっていた言葉をあえて飲み込む。

 

 

「くすんくすん.....何だか怖いです」

 

「いいでしょう!未来では20年修行しても、身につけられなかった技を!」

 

 

すると天竜は右手を天にかざす。右手の中指には古そうな指輪が。

 

 

「勘解由小路流陰陽術に式神術はありません。脳内に浮かんだ虚像を、現実に出現させるのが私の術!」

 

 

天竜の右手が指輪を中心に紅く光だし、次第に光が別の形になる。そして.....

 

 

「それはまさか.....」

 

 

長秀が指摘する。それは安土城の変の際にも天竜が愛用していた大薙刀。

 

 

「三国志の英雄、関羽雲長が愛刀。青龍偃月刀にございます」

 

 

三国志好きなら誰もが知っているであろう武器である。

 

 

続いて偃月刀を床に置き、手の上にもう一つ武器を出現させ、信奈の前に差し出した。

 

 

「これは.....鉄砲?にしては小さいわね」

 

「拳銃と呼ばれる400年後の鉄砲です。まぁ、200年後にはそれの原型となるものが南蛮にて作られるのですが.....」

 

「いいわねコレ!この大きさなら懐にも入るし、第一に大量運搬が簡単になるわ!コレって火縄とかはついてないの?」

 

「はい。火薬等は全て薬莢と呼ばれる弾丸の中にあります」

 

「コレ持っと出せないの?ざっと千梃ぐらい!」

 

「召喚術は使い過ぎれば寿命が縮みますゆえご勘弁を.....因みに拳銃の数え方は「丁」です。その拳銃は信奈様に差し上げましょう」

 

「デアルカ.....むぅ」

 

 

少しだけ不満気な信奈だった。

 

 

「なんていうかさ.....先生の術って地味だな」

 

「何だと!」

 

「だって半兵衛なんかは十二神将を呼び出したり、雨降らせたりとかさ。スケールがでけぇんだぜ?」

 

「ちょ.....良晴さん」

 

 

半兵衛が顔を赤らめながら良晴を制止させようとする。

 

 

「官兵衛なんてロボット動かすし」

 

「相良良晴。シメオンのは陰陽術ではなく南蛮科学だぞ?」

 

「まぁ.....二人と比べれば確かに地味ね」

 

「そんな.....信奈様」

 

 

プルプルと震えながら歯ぎしりをする天竜。そして突然吹っ切れたようになり頭を左手で掻き毟る。

 

 

「そっか~。さすがは秀吉。派手好きだもんな~!」

 

「てっ.....天竜先生?」

 

「そっかロボットがいいか!餓鬼は好きだもんなロボット!.....そらっ!!」

 

 

天竜は右手からの光を安土城の外に向かって放つ。本丸御殿のすぐ隣りに出現したのは、良晴もよく知ってる巨大ロボットだった。

 

 

「ガン◯ムかよ!」

 

「お台場の奴だからなぁ.....動かねえけどなぁ.....こっちはどうだぁ!」

 

 

すると、お台場ガン◯ムの隣りに、中国の偽ガン◯ムが出現!

 

 

「夢の共演!?」

 

「これじゃあ足りねえか?ならこっちだぁ!」

 

 

すると今度は青い光を犬千代に向けて発射する。

 

 

「ん?」

 

「まっままま.....前田殿!?そっそそそ.....それは!?」

 

「うわっ.....犬千代!?それっ!?」

 

「何?犬千代の頭に何か?...........うっ!?」

 

 

犬千代が上の方を見た時、頭に乗っていたのは野生の虎だった。

 

 

「ひぇっ!?」

 

 

これには犬千代も驚愕。

 

 

「どうだ良晴!!反魂の術だぞ!!これでも地味かぁ!!」

 

「ちょっとシロ!いい加減に.....」

 

「まだ地味っていうのですかぁ?ならもっとみせてあげますよぉ!」

 

 

さっきまで寿命がどうのこうの言っていたのもお構いなしに術を乱射!柱は元の木に!蛇皮をつけていた信澄の前に蝮出現!信奈の名古屋コーチンが元の鶏に!それ以外に天体望遠鏡だとか、車椅子だとかカラープリンターだとか、

よくわからないものまで次々に出現!

 

 

「ちょっとサル!シロを止めなさい!あんたの先生でしょ?」

 

「今思い出したけど先生ってキレると情緒不安定になるんだっけなぁ.....」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!これでも地味か良晴ぅぅぅぅ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後、良晴の土下座ならぬ土下寝によって天竜は正気を取り戻す。召喚されたものは信奈の拳銃以外全て消滅させられたのだった。反魂の術で生き返ったものも全て元の形に戻された。

 

 

「..........シロ。あんた誰に仕官したい?私の直臣になる事は案の定、万千代に却下されたわ」

 

「当たり前です!前から良くは思ってませんでしたが、今日でハッキリしました!ズバリ零点です!」

 

「だっ.....誰でもいいわよ?私と万千代以外なら.....」

 

 

 

天竜は辺りを見回す。皆『私の所には絶対にくるな!』という視線を送ってくる。

 

 

「ここはお知り合いである良晴殿か、信澄様がよろしいかと」

 

「そりゃないぜ長秀さん!」

 

「サルくんは兎も角何でぼく!?完全に当てつけじゃないか!そんな事になったら市が堕胎しちゃうよ!」

 

「私は初めから誰に仕官するかは決めております」

 

 

一同に緊張が走る。

 

 

「私は明智十兵衛光秀殿に仕えたく存じます」

 

「ギャー!」

 

 

十兵衛以外の家臣団がそっと胸を撫で下ろす。これでは罰ゲームだ。

 

 

「十兵衛ちゃん.....冥福を祈ってるぜ」

 

「なっ!?相良先輩!?」

 

「十兵衛.....草葉の陰から私の天下取りを見守っててね」

 

「信奈様まで!?私は死ぬのですか!?」

 

「宜しくお願い致します明智殿」

 

「キッ!!」

 

 

天竜を睨みつける十兵衛。

 

 

「ふ~ん。何で十兵衛なの?」

 

「失礼を承知で言わせていただきます。まず良晴には、天才軍師の両兵衛がおり、蜂須賀衆を従え、さらには猛将山中鹿之助が就いております。そして柴田殿には与力の猛将前田利家殿が、影の補佐役として丹羽殿がおります。

しかし明智殿にはそのような大役を任せられる家臣が多くおりません。そして私も明智殿も同じ流派の出。私なら明智殿の力になれるかと思い、決心しました」

 

 

さらっと信澄を無視しているのが気になったが道理はかなっている。

 

 

「十兵衛、私は拳銃を貰った借りがあるからあなたに拒否権はないけどいいわね?」

 

「むむむ.....でもそこまで私に仕えたいのならば、特別に!仕官を認めてやるですよ!かだぁのきょい、きょう?

じぃ.....天竜!」

 

 

全く言えてないが、始めは不満気だった十兵衛も次第に心を開いてくる。

 

 

「理由はこれだけではありません」

 

「ん?」

 

「入ってきなさい」

 

 

すると扉の奥から小柄な少女が現れ、ちょこんと天竜の隣りに座り、信奈に頭を下げる。

 

 

「その子は?」

 

「明智左馬助光春にございます」

 

 

少女は自ら名を名乗り、十兵衛にそっと視線を向ける。

 

 

「さっ.....左馬助。貴方.....生きていたのですか!?」

 

「そうです姉上。地獄の底から舞い戻って参りまし.....」

 

「こら!」

 

「ひぅっ.....」

 

 

天竜に頭をポンと叩かれる少女。

 

 

「十兵衛、誰なのあの子?妹?」

 

「いえ、従姉妹です。長良川の合戦にてはぐれてしまい、てっきり死んだものと.....」

 

「そうです姉上。あなたに見捨ててられ、天竜様に拾われなければ野垂れ死んでいたでしょう」

 

「そんな!私は見捨ててなんかは.....」

 

 

明らかに十兵衛に対し恨んでいるような口調である。左馬助は十兵衛を5歳分縮めたような姿形で、デコも同じく広い。ただし、ショートカットで金柑の代わりに銀杏の髪飾りをしている。

 

 

「ハルとの区別のために光秀殿と呼ばせていただきますが.....大丈夫ですよ。ハルは不貞腐れてるだけなんです。さっきまで『姉上と会えるのですか!姉上と会えるのですか!』と五月蝿かったのですから」

 

「ちょっ.....天竜様!」

 

 

それを聞いてそっと胸を撫で下ろす十兵衛。彼女の中の大きな重石が少しだけ降ろされたようだった。

 

 

「ところでシロ。その子もあんたの家来なんでしょ?あとの五人も紹介しなさい。どうせ来てるんでしょ?」

 

「分かりました.....皆入ってきなさい」

 

 

するとまたもや扉の奥からぞろぞろと天竜の家来が入ってくる。そして、独自に自己紹介をしてゆく。

 

 

「勘解由小路天竜が2番弟子。宮本弁之助武蔵だ!」

 

「勘解由小路天竜が2番弟子。佐々木小次郎巌流にございまする」

 

「3番弟子の今川彦五郎氏真」

 

「阿斗だよ!」

 

「吽斗だよ!」

 

 

突っ込みたい事がたくさんあるが、信奈が最初に指摘したのは。

 

 

「今川?義元の親戚か何かなの?」

 

「妹です.....隠し子のようなので恐らく将軍様もお知りにならないと思います。今川家滅亡後に卜伝師匠に拾われた子にございます」

 

「ふぅ~ん」

 

「織田信奈..........死ねばいいのに」

 

 

ボソッと言ったのを天竜が慌てて口を塞ぐ。

 

 

「んんん!?今とんでもない事言わなかった?その子」

 

「やっ.....やだな~信奈様!『とても美しい姫さまだ』と言っただけですよ?」

 

 

さすがに無理があるだろう。まぁ、今川を滅ぼした原因は信奈だから能天気な義元以外は恨んでも仕方がないだろうと良晴は思う。

 

 

「まぁ.....頑張ってね十兵衛」

 

「そんな!信奈様~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一同が涙目で抗議する十兵衛を見ている中、天竜だけが別の気持ちで十兵衛に視線を向けていた事に気づけたのは、新米の左馬助をおいて他にはいなかった。

 

 




雲林院松軒は実在する卜伝の高弟です。諱が「光秀」という事で登場させましたが、
実際に十兵衛の師匠だったかは謎です。そもそも十兵衛は本当に新当流だったのかなぁ?
さて、天竜の招待を含め、最後らへんに新キャラがバババンと登場したまま終了してしまいましたが、3話にて詳しく執筆させていただくので、ご心配なく。
長くなりましたが、第2話の拝読ありがとうございました。
次回予告
シロとサル!
~俺が最強の男!白夜叉こと天竜なり!~


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第三話 シロとサル

第四話から最終話までの内容も頭に詰まっているのですが、書くとなると時間掛かりますね。さて、第三話でごゆるりとご拝謁下さい。戦闘シーンあるのでゆるりは出来ないかもしれませんが.....(^_^;)


私が教師として教えている歴史の授業はほとんどが真実だ。真実かどうかわかり難い歴史には様々な説を子供達に教えていた。受験に関係ないと、聞いてない子もいたが、反対に興味津々な子も多数いた。

でも近現代、特に世界大戦あたりの話やその後の外交の話には、他の教師の視線が邪魔でならなかった。

私は日本の悪い所と平等に外国の悪い所も知っている限り教えた。この後者が特に他教師からの批判が強かった。

C国の悪口を言うな!

R国の悪口を言うな!

A国の悪口を言うな!

いったい何を教えればいい?共産主義者の多いこの学校で私は真実を教える事にこだわった。

その結果、私は適当な理由をつけられ、転勤処分をくらってしまった。

私は知っている。

彼らが他国からの回し者だという事を.....

 

 

 

 

 

 

 

 

安土城をあとにした良晴は中国に戻る前に一度、北近江の長浜城に寄っていった。

ねねや留守役の家臣らに挨拶を済ませた後、

良晴は茶室に篭った。

そしてもう一人。

 

 

「いい茶室だな。

狭すぎず、広すぎず、程よい広さだ」

 

「利休に教えられてな。

あの2畳の真っ黒の茶室には驚いたけど.....」

 

 

天竜が茶客として来ていた。

良晴は利休の見よう見まねでお茶を出す。

 

 

「苦いな.....どれ、俺にやらせろ」

 

「だぁ!もぉ!

折角習ったんだから最後までやらせろよ!」

 

「お前がそう言うなら仕方ないが.....」

 

 

そこで良晴がくすくすと笑い出す。

 

 

「どうした。何が可笑しい?」

 

「いや、やっぱり先生なんだなぁって.....

一人称を「私」にしてペコペコ頭下げてるよか、ずっと先生らしいや」

 

「言うな阿呆.....」

 

 

しばらく2人の間に沈黙が走る。

 

 

「お前は凄いよ.....良晴」

 

「なっ.....なんだよ突然」

 

「俺はこの3年間で手に入れたのは、

塚原卜伝の弟子と天竜道場の長だけだ。

たった1年で一国の大名になったお前とは

月とスッポンだよ」

 

「先生だって.....

安土城の変と白夜叉の伝説はたった1日で全国に広まってるよ。俺なんか秀吉のおっさんの真似事でのし上がったようなもんだし」

 

「それでも高2の餓鬼がそうやすやすと出来るもんじゃない。それはお前の才能だよ」

 

「そっ.....そうかな~」

 

 

この時代で手柄をあげるのは結構一般的なため、改めて褒められると照れるものだ。

 

 

「知り合いなど一人もおらず、

ホームシックにかかった事もあったかもしれない。数々の戦で怪我を負ったかもしれない。

死にかけた事もあったかもしれない」

 

 

そう言われて良晴はふと、

金ケ崎の退き口を思い出す。

今でもその時の傷が疼いたり、

悪夢を見る事がある。

いつも別の事を考えたりして紛らわしていたが、こう掘り返されると.....

 

 

「お前は頑張ってるよ」

 

 

そう、この言葉だ。彼は生徒の頭を撫でながらこう言って励ますのだ。

彼は「頑張れ」とは決して言わない。

それではプレッシャーになってしまう。

『結果良ければ全て良し』

それが先生流の教育方法なのだ。

この時もまた、天竜は良晴の頭を撫でた。

 

 

「あっ.....あれ?」

 

 

良晴の瞳からふと大粒の涙目が零れ落ちる。

仲間のためには泣いても自分のためにはもう泣かないと決めていたのに.....

悪夢から覚めて頬が濡れていた事もあったが、絶対に人前には見せなかった。

一年振りに出会った未来人だからだろうか、

天竜に励まされた事が半兵衛達に秘密を打ち明けた時くらい嬉しく感じた。

学校では生徒からの信頼が最も高かった日本史教師にして我らが担任勘解由小路天竜先生。

全く.....この優しさは相変わらずだ。

 

 

「ところで良晴。

お前、織田信奈と付き合ってるのか?」

 

 

飲もうとしたお茶を思わず吹き出してしまった。デリカシーが無いのも相変わらずだ。

 

 

「ちょっ.....何言ってんだ!」

 

「織田信奈がお前を見る視線と、

お前が織田信奈を見る視線に、

少しピンときたんでな。

お前ぐらいの年頃の男女の恋路なんて飽きる程見てるからな」

 

「うぅ~.....」

 

「しかもさっき彼女から念を推されたぞ?」

 

「何て?」

 

「『十兵衛は何かとサルと祝言挙げたがるから明智家に仕えるなら上手く制止してよね!

えぇと.....今2人に結婚されると織田家にとって非常に都合悪いのよ!!

いいシロ?

私とサルの事は関係ないんだからぁ!!』

.....と分かりやすいツンデレだったぞ。

モテモテだな良晴」

 

 

それが原因で「女難の相」になっている良晴には肩が重い。

 

 

「はっ.....はん!先生だって!

可愛い子6人も侍らせてるじゃんか!」

 

「あれらは俺の教え子だ。

お前と違って性的な目では見とらん」

 

「だっ.....誰が性的な目なんか!」

 

 

先生はしんみりとした話が嫌いだ。

そうなればいつもこんな冗談で場を沸かす。

これもまた先生流の教育方法なのだが。

 

 

「そういえば先生の弟子の.....」

 

「武蔵と小次郎か?」

 

「あぁ」

 

 

2人が急に真剣な顔つきになる。

 

 

「ちょっと五右衛門。席外してくれるか?」

 

「わかったでござる」

 

 

実は天井裏に隠れていた蜂須賀五右衛門。

 

 

「お前らもだ阿、吽。

外で良晴の忍の手伝いをしてこい」

 

「「わかったよ!」」

 

 

実は床下に隠れていた阿斗と吽斗。

 

 

「お互い考える事は同じか.....

あの2人も忍なのか?」

 

「あぁ.....双子の姉弟なのを利用して色々やってくれてるよ」

 

「姉弟?姉妹じゃなくてか?」

 

「どっちも女顔だからな.....

前に温泉に行って初めて知った」

 

「混浴かよ!」

 

 

武田信玄、勝頼、四天王、北条氏康とハーレム混浴した良晴が言えた口ではないのだが。

 

 

「娘を風呂に入れるような気持ちだ。

俺にとっちゃ6人共ガキンチョだ」

 

「他の子は兎も角、

佐々木小次郎はいい年頃なんじゃないか?

下手したら俺と同い年だろ?」

 

 

少年少女が多い天竜の弟子の中では一際目立つ佐々木小次郎。

良晴はつい湯船に浸かる小次郎を妄想してしまい、鼻の下が伸びる。

 

 

「向こうが羞恥心の欠片も出さなければこちらとて何も思わんよ」

 

 

天竜は良晴の想像以上に大人だった。

 

 

「小次郎もだが、問題は武蔵だ」

 

「そうそう。宮本武蔵が生まれたのって.....」

 

「史実では天正十二年。

織田信長が死んだ2年後だ」

 

「だとしたら生まれるの早過ぎないか?」

 

「だからだ。この世界は俺達が知ってる歴史とかけ離れすぎている。

性別も否、年齢も、歴史の進行速度もだ」

 

「そういえば梵天丸.....

伊達政宗ももう元服しちゃってるし」

 

「石山戦争、長篠の戦い共に起きず、

武田信玄存命か」

 

 

本願寺、信玄、梵天丸の件に良晴が関わっていると話すと、天竜はより一層難しい顔をする

 

 

「やっぱ、俺がいけないのかなぁ」

 

「う~む。『パラレルワールド』と言ってしまえば簡単だが、そうなってくると今後の行き先が俺にも良晴にも読めなくなってくる」

 

「だよなぁ~」

 

「まっ.....俺も最大限協力するからな。

未来人パワー見せてやろう!」

 

「今思ったんだけど、最強の未来人の先生がきた時点で俺の存在価値が無くなってる気が.....」

 

「よせよせ!照れるだろ?」

 

「いや、褒めてねぇよ!」

 

 

しんみり嫌いの先生はまた冗談で場を沸かした。

 

 

「協力したいのは本音だよ。

そのためにも明智光秀に仕えたんだからな」

 

「やっぱりそれが目的?」

 

「あぁ.....本能寺の変の犯人が明智光秀であるにしろないにしろ、彼女が重要人物であるのは決定的だからな」

 

「やっぱ.....先生は凄えや」

 

「ふっ.....」

 

 

理由はそれだけではないのだが.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、五右衛門さん」「五右衛門さん」

 

「なっ.....何でごじゃるか?」

 

 

茶室に誰かが近づかないよう見張る五右衛門と阿斗、吽斗。

 

 

「五右衛門さんって格好いいね!」「ね!」

 

「にゃっ.....にゃんでごじゃるかとちゅじぇん!」

 

「これから先輩って呼んでいい?」「いい?」

 

 

耳まで真っ赤になる五右衛門。

今まで川並衆(ロリコン)の者に尊敬される事はあったが、同業の忍から敬れる事などなかったのだ。

 

 

「よっ.....呼びたいなりゃ、

かっちぇにすりゅがよい!」

 

「わーい先輩!」「先輩!」

 

「むぅぅぅぅ」

 

「可愛いぜ親分」「可愛いぜ」

 

 

死角から真っ赤な五右衛門を視姦する川並衆。

 

 

「おっ?随分仲良くなってるな」

 

 

話を終え、茶室から良晴らが出てくる。

 

 

「相楽氏.....拙者、

忍をやっててよかったでごじゃる」

 

「そりゃ〜良かったな」

 

 

そこで天竜が良晴に耳打ちする。

 

 

「気をつけれよ良晴。

阿、吽は人を惹きつける天才だ。

あの愛嬌で皆虜にしちまう。

かつてあの2人に騙されて全財産、

はたまた命を無くしちまった奴も大勢いるからな。御宅の忍が喰われねぇよう精進しておいた方がいいぜ?」

 

 

見ている光景は2人の後輩が先輩とじゃれあっているようにしか見えないが、裏でそんな事があるかと思うとゾッとする。

五右衛門は兎も角、川並衆が騙されねぇように気をつけねぇと。

っと誓ったそばからあまりの可愛いさに悶えながら死角から出てくる川並衆を見て、

これはダメだ。思う良晴だった。

 

 

「あの潜入力が欲しくてな、手配されて処刑されそうになってた所を助けてやったんだ。

一応恩は感じてるみたいだが、いつ裏切られるかわかったもんじゃない」

 

「そりゃお気の毒様」

 

 

そんな時だった。

 

 

「やい!かでのなんとか天竜!

私ともう一度勝負しろ!」

 

「犬千代とも」

 

 

そこには全身武装で仁王立ちする勝家と犬千代がいた。

 

 

「勝家も犬千代も、越前に帰ったんじゃなかったのか?」

 

「そいつと決着つけないと気が済まないだ!

サルは邪魔すんな!」

 

「犬千代も激しく同意」

 

「我らは既に織田の同志。

戦う理由など無かろう」

 

 

天竜がもっともな事を言う。

 

 

「うるさい!お前の噂と共に私の落馬の噂も広まってるんだ!

払拭するにはお前を倒すしかない!」

 

「右に同じ」

 

 

左側に立っている犬千代まで意気込んでいる。

 

 

「では公認試合ならいいか。

良晴、立会人を頼むぞ」

 

 

天竜までやる気になってしまった。

 

 

「ちょっ.....怪我するからやめとけって.....」

 

「ふん!

そいつが今更引いた所で意味はないぞ!

私はもうぶっ飛ばす事しか考えてない!」

 

「お前に言ってんだ勝家!」

 

「はぁ?」

 

「かまわん良晴。売られた喧嘩は買う主義だ」

 

「それ、教育者の台詞か?」

 

 

手荷物を地に置き、構えを取る天竜。

だが、そこでも勝家の怒りを買う。

 

 

「何故武器を持たない!」

 

「戦なら兎も角、

力比べなら武器を持たずとも結構。

それで誇りを傷つけたなら謝るよ」

 

「馬鹿にするなぁ~!!」

 

 

愛用の槍を振り回しながら突っ込んでくる。

それを天竜は、極めて冷静に待ち構える。

それはコンマ1秒の出来事であった。

流れるように右側に捌いた天竜は、

槍の側面に手を添える。

すると、真っ直ぐに突かれたはずの槍は左側の逸れるに逸れ、そのまま1回転しながら勢いのまま転倒する勝家。

 

 

「うぇっ!?今何した!」

 

「もう終わりかな?」

 

「なめるなぁ!」

 

 

起き上がると同時に槍を突く勝家。

予測できていた天竜はいとも簡単にそれを掴む。

 

 

「何っ!?」

 

 

その瞬間勝家の攻撃は完全に止まる。

勝家は槍を引こうとしたが引けず、

逆に押そうとしても押せず終い。

その時、天竜は掴んでいた手をパッと放し、勢いで勝家が前のめりになった所を天竜が再び捌く。

すると勝家の身体は空中で一回転をし、

そのまま地に尻餅を着く。

天竜は勝家が思わず放し、空に上がった槍を天竜は掴み、そのまま倒れた勝家に切先を向けた。

 

 

「どうして.....身体が勝手に.....」

 

「この時代にはまだ合気道はない。

食らった相手はさぞ不思議だろう」

 

「合気道?」

 

「次は犬千代」

 

 

犬千代は一度落ち着き、

頭の虎の被り物を外す。

 

 

「もう生き返らせない」

 

 

さっきの事が相当怖かったのだろう。

 

 

「別に陰陽術を使うつもりはなかったのですが」

 

「いく!」

 

 

天竜は勝家の槍を捨て、再び構える。

朱槍を構え、

勝家同様に突っ込んでくる犬千代。

ただしその姿勢は異様に低かった。

元々背の低かった犬千代がさらに屈んだのだ。身長180センチの天竜には少々きつい相手かもしれない。だが、

 

 

「その攻撃は武蔵で慣れてるよ」

 

 

武蔵もまた背の低い剣士だ。

天竜は何でもないように空に飛び上がる。

 

 

「予想通り」

 

 

天竜の裏をかいた犬千代は空に逃げた天竜に槍を突いただが、そのさらに裏をかいた天竜は槍を器用に避けながら犬千代の顔に掌を伸ばす。

 

 

「勁(けい)!」

 

 

天竜は犬千代の遥か後方に飛んでいた。

天竜の着地の3秒後、

彼女は仰向けにゆっくりと倒れる。

 

 

「功夫も初めてだろ」

 

「う~ん..........ん!」

 

 

フラフラになりながら起き上がった犬千代の小さな鼻から一筋の鼻血が.....

良晴が痛そうな苦い顔をしている中、天竜が慌てて犬千代に駆け寄る。

 

 

「すまない!

怪我をさせるつもりはなかったのだが」

 

「..........死ね」

 

 

天竜が着物の袖口を破って犬千代の鼻を押さえようとした時。

その一言と共に朱槍を振る。

だが紙一重でかわした為、髪の毛の先を切っただけで済んだが、避けてなければ.....

それより良晴は普段は聞かない犬千代の暴言にガクガク震えていた。

そして、天竜の顔つきが一変する。

 

 

「感心しないな.....謝る相手に対して」

 

「黙れ」

 

 

突如立ち上がり、槍を連続して突く犬千代。

 

 

 

「教育が必要のようだね」

 

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」

 

 

 

 

『玉よけのヨシ』のごとくヒョイヒョイ

避ける天竜。

突くたびに暴言を吐く犬千代。

それを見てブルブル震える良晴。

殺れ!殺れ!と野次を飛ばす勝家。

じっと試合を見つめる五右衛門。

ブチ切れする犬千代にハラハラする川並衆。

試合をケラケラ笑いながら見る阿斗、吽斗。

実はいるのに入るタイミングを失い木の影に隠れる明智十兵衛光秀。

異様な光景が長浜城下に広がる。

だが、それも一瞬で決着が着く。

 

 

 

「梵(ぼん)!」

 

 

 

天竜が犬千代の腹部に掌を当てる。

その瞬間犬千代は真後ろに吹っ飛んだ。

吹っ飛んだ先には勝家がおり、

うまい具合に受け止められた。

そのお陰で地に叩きつけられる事はなかった。

それも天竜の計算の内だろう。

だが、衝撃は凄まじかったらしく、

犬千代は既に気絶している。

 

 

「これで実力の差がわかったでしょう。

さっさと己の持ち場に戻り、

使命を果たすがいい!」

 

「くそっ!!」

 

 

犬千代を抱えながら涙目で走り去った。

残された天竜は息切れをしながらそこに座り込む。さすがに体力の限界だったらしい。

良晴が恐る恐る近寄る。

 

 

「メチャ強いのは知ってたけど、

あれ異常だろ.....」

 

「あれでも抑えてたんだ.....

本気を出せば出す程.....

彼女らに負担を掛けて.....しまうし.....

ふぅ。ムキになる.....からね」

 

 

天竜はゆっくりと立ち上がり、明後日の方向を見つめる。

 

 

「確実に嫌われたな」

 

「うん」

 

「丹羽長秀からの印象も悪いままだな」

 

「うん」

 

「まぁ、いいや。その件については策あるし.....」

 

「うん?」

 

「まぁ、それはまた今度でいいか。阿!吽!帰るぞ」

 

「「わかったよ」」

 

 

可愛いステレオが返事をしながら天竜の元へかけて行き、振り返りざまに。

 

 

「「またね先輩!それからおじちゃん達もね!」」

 

「うっ.....また会おうでごじゃる」

 

「「「可愛いぜぇ.....」」」

 

 

あいつら、そろそろやばいな。と良晴。

 

 

「おぉ!光秀殿!

居らっしゃるとは知らず失礼を!」

 

「うっ.....うん。まぁ.....」

 

 

天竜に見つけられる十兵衛。完全に引いている。

 

 

「またな良晴!私達は一度、

山城に寄るそうだ!次は中国でな!」

 

「おっ.....おう!」

 

 

気軽に返したが、良晴は天竜について考える。

さっきの格闘術といい、

陰陽術といい、未来人離れもとい、

明らかに人間離れしている。

そして、『安土城の変』にて天竜先生は多くの足軽を斬り殺したという。信奈はさほど気にしていなかったが、それは同じ未来人としては異常な出来事だ。

彼がこの時代に来てからの3年間.....

一体何が彼を変えてしまったのだろうか.....

良晴は自分から離れて行く天竜や十兵衛を見つめながら思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃安土城にて.....

 

「やっと静かになったわね」

 

「今日はうるさ過ぎです!

特にあの天竜という男は零点です!」

 

「あんた本当にシロの事嫌ってるわねぇ」

 

「姫さまがお人好しなだけです」

 

 

苦笑いしながら半分冷めた名古屋コーチンを口にする信奈。

 

 

「ところでお決めになられたのですか?若狭の大名は?」

 

「えぇ。最近ゴタゴタしてたけどなんとかね」

 

「まさか!あの天竜という男では!?」

 

「そんなわけないでしょ!

ほら、あの子よ。

ずっと独立したがってたでしょ」

 

「彼女ですか.....

むぅ判断しがたいですね五十点です」

 

「大丈夫大丈夫!

私の判断なんだから.....梅千代!」

 

「はい信奈様」

 

「すぐに摂津に使者を出して。

『あんたを特別に若狭の大名にしてあげるわ喜びなさい』ってね」

 

「ははっ!.....してどなたに?」

 

 

 

 

 

 

信奈は窓の外の美しく見える夕日を眺めながら言い放つ。

 

 

「若狭の大名は弥助.....荒木村重に任せるわ!」

 

 

 

 

 

この信奈の判断が織田家を揺るがす事態に繋がろうとは、この場にいた誰にも想像出来なかった。

 




始めの方の文は天竜の未来での出来事を彼の視点で書いたものです。今後も続けますが、興味のない方は読み飛ばしても結構です。ですが時々、この文の中にこの時代での天竜の思いを密かに紛れ込ませている事もあります。読まなくても本文は理解できますが、興味を持ったなら読んでみて下さい。中には、天竜だけでなく、私個人の想いも含まれているかもしれません。長い文章拝読ありがとうございました。
次回予告
「丹波平定!
~明智家臣団ども、私に平伏すがよい!~


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第四話 丹波平定(前編)

ここ最近、この小説を書くことが一番の娯楽になってますね。
いつか番外編として、天竜と塚原卜伝の出会いと旅も書いて見たいですね。


ある教え子が虐められている現場に遭遇した。

虐めていた者達は私の姿を見ると一目散に退散してしまった。そこにはボロボロの生徒と私だけが残った。

私は彼を保健室に連れて行き、彼を介抱する。

私には彼の気持ちが痛い程分かった。

私も昔はこの苗字と性格のためにいじめられ、ろくな思春期を送っていない。

私は彼を家に送った後、彼のクラスの担任に詰め寄った。するとその教師は見るからに面倒臭そうな顔で「検討する」と言った。

だがその後も虐めは続き、

その度に私が相談に乗っていたのだ。

(これは担任の仕事では?)

だがそれも束の間、

その生徒は首を吊って帰らぬ人となった。

私が遺族に呼ばれて行くと、そこには彼から私へのお礼の手紙が。それに涙しているともう一つ別の手紙を手渡された。

『遺書』だ。そこには驚愕の事実があった。

『いじめはクラス単位で行われていたのだ。

首謀者を中心に39人が1人をいじめていた。

それだけではなく、担任もいじめ側であったという事実もそこにはあった』

そこから先は覚えていない。気づいた時にはその担任と首謀者の生徒を殴り倒した後だった。

逮捕はされなかった。自分の一族の者がなけなしの財産から保釈金を出してくれたからだ。その結果、私はこの3年間で二度目の転勤をする事になった。

何故この世界は弱者にはとことん厳しいのだ?

 

 

 

 

 

 

 

第四話

「いや~ほんまおおきに信奈はん!」

 

「荒木殿.....姫さまの前ですのでもう少し礼儀を.....」

 

「おぉ~丹羽はん!えろぉ~すまんな~!」

 

 

長秀は頭を抱え、信奈は苦笑い。

この荒木村重という少女。

関西人らしいハキハキとした性格で、

同じ関西弁の今井宗及らのずっしりとしたものとは違い、相手に話させるタイミングを失わせる程なのだ。

 

 

「その.....弥助?使者から聞いてると思うけど、

貴方に若狭を.....」

 

「おぉ!ありがたいありがたい!

これから精進してきますさかい、

よろしゅう!」

 

「うっ.....うん」

 

 

信奈はいつも彼女との会話に疲れるらしい。

織田家で信奈に対しこれ程堂々と話すのは良晴と一益を除けば他にいないだろう。年齢は信奈と同い年でもある。

 

 

「改めて聞くけど何で摂津は嫌なの?」

 

「嫌も何もあそこはうるっさいねん。

商売やろうと思ても、

全部堺の商人に横取りされるやろし、

本願寺は毎日のように黄色い声が響くわ!

蹴鞠は騒がしいわ!

溜まったもんじゃあらへん!

一緒にいる一益はんもブーブー文句

言うとりますし.....」

 

 

現在、滝川一益は毛利攻めのために伊勢を離れ、摂津の堺にいる。

村重は今時の関西人と違って静かな所を好むらしい。それはむしろ京の者達に近いのかもしれない。

 

 

「ところで今日は茶会はありまへんの?

今日も沢山名茶器持ってきましたさかい!」

 

「嫌よ。あんた茶器の自慢ばっかりで全然落ち着けないもの.....

この間、左近から苦情が来たわよ?

『むらっしーはくれもしない茶器を見せびらかしてくるので面倒臭い』ってね」

 

「あんな潮臭い連中にはやるだけ無駄やん!

名器は名君が持ってこそ意味があるやろ」

 

 

そう言って、村重は懐から何やら布で包まれたものを取り出し、信奈に差し出した。

 

 

「これ信奈はんにやるわ!」

 

「何これ?」

 

「開けて見や。

きっと、ぎょ~さんたまげるで!」

 

「あんたが私に?

雪でも降るんじゃないかしら」

 

 

恐る恐る包みを開けると、

中から出てきたのは茶入れだった。

だが、その茶入れにはどこか年代ものような風流を魅せるものがあった。

信奈が凝視しても分からない中、

長秀がそれに気づき、目を見開く。

 

 

「まっ.....まさか、これは『新田』では?」

 

「さすが丹羽はんや!」

 

「本当なの万千代!?」

 

 

長秀はゴクリと息を飲み、

『新田』の説明を始めた。

正式には『新田肩衝』天下三大肩衝の一つ。

他にも『初花肩衝』『楢柴肩衝』などがあり、

その価値はあの『九十九髪茄子』

よりずっと上。

元は鎌倉討幕の英雄『新田義貞』が所有していた唐物であり、そこから村田珠光、三好と流れていったものである。

実は既に名物狩りによって『初花肩衝』を持っている信奈は残り2つを何とか手に入れようと三好の元領地にて探させていたものなのだ。

この3つを揃えし者は天下を取ったも同然とまで言われる程の名器中の名器である。

 

 

「こっ.....これをどこで?」

 

「三好長慶はんが死んだ後、

これは三好三人衆が持ってたんやけど上手いこと騙くらかしてうちが頂いとったんや!

でも、松永はんに盗られそうで怖かったさかい、持っとる事をずっと隠してたんや。

えろぉ~すいません」

 

「これの価値は貴方とて充分知ってるでしょう?何でわたしに?」

 

「うちみたいな小物が持ってったって

『宝の持ち腐れ』や。

そら、喉から手が出るくらい惜しいんやけど、こんなんうちが持ってたらそのうち欲深な阿呆に殺されますわ!

それに、うちのわがまま聞いてくれた信奈はんのためと思たら自然に出す気になれましたわ」

 

 

それを聞いて、信奈は飛び上がって村重に抱きつく。

 

 

「ありがとう弥助!あなたは最高の家臣よ!」

 

「信奈.....はん?」

 

「前に貴方の事『役立たず』って言った事を恥じるわ、本当にごめんなさい!」

 

 

涙を流しながら信奈が言う。この村重の忠誠心がここまで信奈を感動させたのだ。

 

 

「そんな、泣かんといてや.....

うちまでもらい泣きしてまうやん」

 

 

村重まで涙を流してしまった。この2人には史実からは想像も出来ない絆があったのだ。

 

 

「若狭に就けば勝家達と一緒に上杉と相対する事になるわ。お願いできるわね?」

 

「モチのロンや!

ここまでしてもろた以上この荒木村重!

一肌も二肌も、どうせなら全裸にでもなって織田家に仕えまっせ!」

 

「私はエロザルを飼ってるから全裸だけは勘弁ね」

 

 

こうして荒木弥助村重は若狭の新大名となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景を天井裏から見ていた二つの影..........

 

 

「面白い事聞いたね」「ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は打って変わって坂本城。

今日は新たに明智家に入った勘解由小路天竜を歓迎する為に他の家臣達の前に紹介しているところだった。

しかし、この天竜。

最初から明智家臣団の者と馬が合わなかった。

それもそのはず、天竜は信奈やその他家臣の前で『明智家臣団には良い者がいない』と、堂々と言い放ったのだ。それが彼らにも伝わり、この結果になったのだ。

 

 

「織田様の人買いにも困りましたな。

相楽殿なら兎も角、こんな輩まで雇うとは.....」

 

「それは信奈様への不満ですか?」

 

「そっ.....それは滅相も!」

 

「皆の者、信奈様への侮辱はこの明智十兵衛光秀が許さないです。

だから天竜も、これ以上家臣らと歪み合うのはやめやがれです」

 

「私は何も.....

ただ、この者らは智将光秀殿に『金魚の糞』の如く付いて行くのみで、自らは何もしていないと申したまで」

 

 

天竜が又もや家臣達に挑発的な言動をする。これには流石の家臣達の堪忍袋の緒が切れた。

 

 

「聞いていればいい気になりおって!

ここで手打ちにしてくれる!」

 

 

前側に座っていた4人程が、

一斉に刀を抜いたのだ。

だがそれは十兵衛が驚く間も無く

制止される。

天竜の隣に座っていた4人の弟子達が目にも留まらぬ速さで家臣達の喉元に切先を置いたからだ。

 

 

「天竜様に刃を向ける者は、

この左馬助が許さない!」

 

「や~い、小次郎三番~」

 

「嘘をつくな!ニ番は私だぞ!」

 

「どっちでもいい.....うざっ」

 

 

それでいてこの余裕である。

 

 

「もういい。鞘を収めなさい」

 

 

そう言われると4人は速やかに引いた。

当然、明智家臣団達は言葉も出ない。

 

 

「私の弟子達にも劣っていて名将を語るのですか?」

 

「何を!?何も知らぬ分際で!」

 

「知っていますとも.....斎藤利三殿?」

 

「むっ!?」

 

「他に右から池田輝家殿、

妻木広忠殿、奥田景綱殿、

おぉ!後ろにいて気づかなかったが、

細川藤孝殿までいらっしゃる!

今日はまた何故この坂本城に?」

 

「むっ?......むぅ.....」

 

 

まだ自己紹介すらしていなかったというのに天竜は家臣達の名をスラスラと当て、あろうことか客として紛れていた藤孝にも気づいたのだ。

 

余談だが彼は元総理、

細川護煕の先祖でもある。

 

 

「いい加減にしやがれです天竜!

これ以上暴れるなら、

こちらにも考えがあるです!」

 

「ほう?何の?」

 

 

天竜は懐から突然拳銃を取り出し、

十兵衛に向けたのだ。

一同が立ち上がるが、天竜の弟子達が刀に手をかけたので迂闊に動けない。それに下手をすれば十兵衛が撃たれてしまう。

見たことの無い形ではあったが、それが鉄砲である事は誰もが分かった。鉄砲の恐ろしさを知っているのは織田の中で明智家が一番だろう。

 

 

「うっ!?」

 

「気が狂ったか勘解由小路!!」

 

 

斎藤利三が叫ぶ。

 

 

「.....何がです?

光秀殿、これは信奈様に差し上げた物と同種の拳銃です。どうぞ差し上げましょう」

 

 

そう言って拳銃の向きをくるりと変え、柄の方を十兵衛に向ける。

十兵衛が恐る恐る手に取ると、

何事もないかのように銃を手渡した。

その光景の後、

数十秒間誰も口を出せずにいると、

 

 

「『丹波』.....良晴に援軍を出すために交渉を一度閉じられたとか.....」

 

「はっ.....はいです」

 

「私が取ってみせましょうか?

『丹波』を」

 

 

一同が驚いた顔をみせる。

 

 

「不可能だ!光秀様とてあれだけの労をきした丹波を貴様なんかが.....」

 

「占領不可能と言われた安土城を、

現に私は取ってみせた。

八上城如き朝飯前だろう!」

 

「ですが、敵は八上城だけではないです。

今までの交渉も所詮は口約束。契機とみれば他の城も立ち上がるかもしれないです!」

 

「心配御無用。策は用意してまする。

殿は兵と馬を用意して下されば結構です」

 

「山城攻めに.....馬?」

 

「兵は鉄砲隊がいいですね。

何人出せますか?」

 

「.....相楽先輩のためにも残す必要があるので千人程しか.....」

 

「充分!馬も同じ数だけ用意して下さい。

あっ.....鉄砲はいりません」

 

「はぁ?」

 

 

聞いていた者全員が呆れる。鉄砲隊は借りるのに肝心の鉄砲はいらないと言うのだから.....

 

 

「鉄砲は良晴の為にとって置いて下さい。私の策が上手くいけばかなりの短時間で丹波は落ちます」

 

「どれくらいかかるのだ?

半年か?一年とでも言うか?」

 

 

利三が意地悪く聞くのに対し、

天竜はこう答えた。

 

 

 

 

 

 

「まさか、七日で充分!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜様.....」

 

「おう、ハルか!遠慮せずに入ってこい!」

 

 

数時間前に『祈祷をする』と言ったまま小屋に入ってしまった天竜を左馬助が呼びにくる。

 

 

「これは!」

 

 

小屋中に鉄砲が詰まさっていたのだ。

しかもただの鉄砲じゃない。

 

 

「火縄銃だとこの戦では勝てない。

だからここは未来の銃でいく」

 

「これは?」

 

「名付けて、

『雨陰千重洲陀(ウィンチェスター)』だ!」

 

「これが.....未来の鉄砲?」

 

「あぁ、まぁ.....ウィンチェスターも古い銃ではあるが、それでも火縄銃の何倍もの効力がある。

しかも弾は元込め式、ここは実用性が特に高い『M1897』を用意したぞ!

装弾数5発で連発が可能!

ノーマルとソードオフを半分ずつ用意したから近距離と遠距離で分けて使えるぞ!

慣れれば片手でのレバーアクションも可能だ!」

 

 

と、天竜はいわゆる

『シュワちゃん撃ち(スピン・ローディング)』

を左馬助に披露する。

 

 

「あの.....天竜様?」

 

「おぉ~すまんすまん。

つい熱くなってしまった。男はこう銃や刀には熱くなってしまう性質があるようだな。またいつぞやのように良晴と語り合いたいなぁ!」

 

「..........兎に角!これだけの新鉄砲があればきっと八上城を落とせますね!」

 

「うんや、無理だろうよ」

 

「は?」

 

「問題なのは八上城の城主、

波多野秀治を屈服させなければまず、開城しないだろう。それに彼は黒井城にて一度光秀を裏切って騙し討ちしようとまでした奴だ。

明智が鉄砲を使う事を知っている相手に最新式鉄砲を見せつけたところでなんの効果も無い」

 

「.....はい」

 

「そこでだ!普段なら敵を待ち構えて撃つという動作が基本の鉄砲がだ、自ら攻めて来たらどうする?」

 

「というと?」

 

「俺の策は『騎馬鉄砲隊』!

これで秀治をビビらせてやる!」

 

「おぉ~!!」

 

 

ウィンチェスターは二千丁用意した。

兵に二丁ずつと弾をありったけ持たせて馬に乗せ、山を駆け上がり、城を包囲する。

敵は古風の刀槍だからまず負けん。

火縄銃は懐に入り込まれたならかなり危険だが、ウィンチェスターは至近距離でも充分に使用可能なのだ。

 

 

「ですが天竜様、織田の痩せ馬で山を駆け上がれるでしょうか?

それに、姉上から借りた兵に『雨陰千重洲陀』なるものをを使い熟せる者はおりませぬ。

たった七日でどうやって?」

 

「馬は何とかさせる。兵はこれから三日間、騎馬鉄砲術を教え込む」

 

「たった三日間ですか!?」

 

「うん。明日はウィンチェスターの試し撃ち。

二日目は馬術も合わせての練習。

三日目で全てを完璧に仕上げる。

翌日には開戦だ!」

 

「そんな無茶な!」

 

「これくらいの不可能を可能にしなければ古臭い明智家臣達を納得させる事など出来まい。

まぁ、任せておけ!

時にハル、俺はこれから出かけなきゃならん。

明日の昼には戻るからそれまでに兵の点呼を済ませといてくれ!

武蔵達も呼べよ?

もしまたあの二人が喧嘩始めたらゲンコツしていいから!」

 

「はぁ.....」

 

 

翌日の正午、帰還した天竜の前には一千の兵と4人の剣豪が集まった。

モチロンそのうち2人の剣豪はゲンコツ済みである。

さて、ここから天竜の怒涛の丹波攻略ラッシュが始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所変わって、相良御一行が中国への移動中の馬車にて。

 

 

「なぁ、半兵衛」

 

「何でしょうか官兵衛さん」

 

「半兵衛はあの陰陽師の事どう思う?」

 

「どうとは?」

 

「シム。彼の技はまさしく賀茂流の陰陽術。

土御門と違えど、安倍流の君から見てさ.....」

 

「くすんくすん。

とっても怒りっぽい人でした」

 

「そうじゃない!術の方を言ってるんだ!」

 

「くすんくすん。ごめんなさい」

 

「ここら一体の龍穴は、

君と前鬼が閉じたんだろ?

なのに.....何で彼はあんな強力な

陰陽術が使えたんだ?」

 

「くすんくすん。

安倍流も賀茂流も龍穴から得る

『気』を術に変えます。

蘭奢待でかろうじて『気』を得ている私と違い、天竜さんは.....」

 

「やっぱりあの指輪だろうね」

 

「官兵衛さんもそう思います?」

 

「シム。恐らくあの指輪が龍穴の役目を果たしている。もしくは.....」

 

「指輪そのものから、

大量の『気』を出している?」

 

「シム。あれが何なのかじっくり研究したいね」

 

「はい..........きゃあ!.....何?」

 

「寂しいにゅ。遊んでくれにゅ」

 

「すねこすりさん、

突然だったのでびっくりしました」

 

「すねこすり。

シメオンと半兵衛は大事な話の途中だ。

もう少し静かにしていてくれ」

 

「にゅ~.....」

 

「どうした?何かあったか?」

 

「相良良晴には関係ないよ」

 

「なんじゃそりゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜軍の一日目が終わった。

皆鉄砲隊なため、

『雨陰千重洲陀』に興味を示していた。

だが生憎、それを使いこなして的にまで弾を届かせるのまで成長したのは十兵衛の才能を受け継いだ左馬助だけだった。

 

 

「本当に大丈夫なのでしょうか?」

 

「丈夫丈夫!明日は今日より早くに始めるぞ!

今の内にぐっすり寝ておけ!」

 

「むぅ.....」

 

「それと、兵達には俺が指定した場所で固まって寝るように伝えておけ。一千人全員だ!」

 

「.....?」

 

 

左馬助は不安で一杯であった。

いくら尊敬する天竜とはいえ、とてもあと2日で騎馬鉄砲隊が完成するとは思えなかったのである。

翌日、まず午前中は昨日のおさらいから始まった。昨日の今日で何が変わるのだろうと思いながらも修行を始める。

するとどうだろうか。昨日まで撃ち方も侭ならなかった鉄砲隊が正確に的に弾を当てるまでに成長しているのだ。

本人達も己の成長ぶりに驚いている。

おまけに2日前に天竜がやって見せた

『シュワちゃん撃ち』まで器用に熟す者までいるのだ。一体何が起きたのだ?

 

 

「よし!今日は騎乗も合わせてやっていく!

もう少しの辛抱だぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、

左馬助は昨晩と同じ気持ちに晒された。

確かに未だに雨陰千重洲陀を使いこなせない兵はいなかったが、騎乗となると話は別。

流鏑馬に似たようなものであり、

1日そこらで上達するものではない。

あと1日修行日があるが、それでも何とかならなければ恐らくこの戦は負ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!今日は修行の最終日だ!

軽く確認したら早めに休んでいい。

明日は実戦だからな!」

 

 

左馬助は目を見開いた。

それは昨日と同じ現象が起きていたのだ。

鉄砲隊一千人全員が騎馬鉄砲を完璧に熟しているからなのだ。

馬がどれだけ早く駆けようとも正確に的に命中させる事ができている。

 

 

「天竜様、さては何かしましたね?」

 

「流石にばれたか.....

実は少しだけ術を使った」

 

「騎馬鉄砲が上手になる術ですか?」

 

「そんな術なんてねぇよ。暗示だ。暗示」

 

「暗示?」

 

「人間の行動の大半は『反射』を除けば、

全て脳が支配している。

もしこの脳に、

『自分は雨陰千重洲陀が使える』

という記憶を与えられたらどうなる?」

 

「雨陰千重洲陀が扱えると?」

 

「その通り!

それを『雨陰千重洲陀』

『騎馬鉄砲隊』

と二回に分けて与えたんだ」

 

「でもいつそれを..........あっ!」

 

「兵達を一箇所で固まって寝かせたのはそのためだ。脳を弄くり易いのは寝ている時が一番だからな。

『西部劇』と『欧州の騎馬鉄砲隊』

の映像を夢として流したんだ。

まぁ、欧州では『雷怖瑠(ライフル)』を使うんだがな」

 

「何故、雨陰千重洲陀に?」

 

「それは.....俺が好きだからだ!」

 

「(~_~;)」

 

 

 

 

 

元々、日本の騎馬鉄砲隊の原点は伊達家である。

長篠の戦いを見て鉄砲の需要を知った政宗が家臣らと協力して作り上げたのが騎馬鉄砲隊。

織田の鉄砲隊と武田の騎馬隊を組み合わせたようなものだ。

ところが完成したのは、関ヶ原の戦いの後であり、実際に活用される事はなく、資料も多くは残っていないため伝説と化してしまった部隊だ。

それをこの天竜がいち早く作り上げた。

さらに、伊達の騎馬鉄砲隊は移動して、停止してからの発砲というのに対し、彼の部隊は移動しながらの発砲を可能としている。

おまけに連発式のウィンチェスターだ。

確実に伊達の上を行っている。

 

 

「今は暗示で仮初めの部隊だが、

いずれ本物の部隊にしてやる。

それも一千とは限らず、

五千、一万と広げてやるさ。

この日の本で最強なのはこの天竜軍だ!」

 

「やはり貴方は素晴らしいです」

 

「昨日まで疑心暗鬼だったのはどこの誰かな?」

 

 

左馬助は顔を真っ赤にする。

彼女は昨日までの己を恥じた。

何を疑っていたのであろうか?

この世で最も信頼する彼を.....

さぁ、準備は整った!

合戦は今!

敵は八上城の波多野秀治!

いざ、参る!

 




ウィンチェスターは「ターミネーター2」のあのシーンを見て、「これいい!」と思って採用しました。
グルンッ!ガチャッ!バンッ!あの動作格好良過ぎ!
別にミリオタでもガンオタでもないのにあのシーンは痺れます!分からない方はすみませんf^_^;)
次回予告
丹波平定(後編)!
~跪け!これが天下の軍、騎馬鉄砲隊なり!~


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第五話 丹波平定(後編)

原作の10巻っていつ出るのでしょうかね?
では後編です。どうぞお楽しみください!


私は父親が嫌いだ。

今までろくな思い出がない。

高校に入るまで、学校というものに行く事さえ許されなかった。ずっと家庭学習である。

食事はいつも内食。時々修行の一貫として蜘蛛やムカデなども食べさせられた。

早朝に起こされ、夜中に至るまで修行修行。勉強は中学ですでに大学レベルの内容を教え込まれた。

運動は空手、柔道、剣道、居合、合気道、功夫、カポエラ、太極拳、少林拳。習えるものは全て習わされた。何度も骨折した。何度も病気になった。

そして、よく分からない陰陽術。何が勘解由小路だ何が陰陽師だ。歴代の頭首は皆が皆、こんな辛い思いをしてきたというのか?

ある時、父が病で倒れた。

だから俺はそんな父を.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話

「全軍!!八上城まで全速前進!!」

 

 

ブォォォ~!という法螺貝の音色と共に天竜軍一千の兵が出立する。

天竜は安土城の変の時同様に、白具足を身につけていた。出立前にすでに作戦会議は済ませてある。

作戦はこうだ。

 

 

「武蔵、小次郎、氏真に一軍の大将を任せる。

それぞれ二百騎ずつ従え、それぞれ城の南、西、北から攻めてほしい。隣の部隊が押され気味な際には手助けをするように!」

 

「そんな無茶です!

私、兵なんて従えた事ないし.....

しかも隣は武蔵だし!」

 

「なんだ小次郎、自信ないの~?

天竜!あたしは出来るぜ!」

 

「うっ.....私だって出来るぞ!

武蔵なんかに負けない!」

 

「そんな無理しなくていいよ。

あたしが四百騎持つから!」

 

「うるさい!

武蔵なんて攻め込まれて

全滅すればいいんだ!!

あんまり馬鹿にすると斬るぞ!!」

 

「あ~あ。ムキになっちゃって。

小次郎ちゃんは子供で困りまちゅね」

 

「ばっ.....馬鹿にしないでぇ~!!

うわぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

五つも年下の武蔵に泣かされる小次郎。

 

 

「うわぁぁぁぁぁん!!このチビ!」

 

「てめぇ!殺すぞ!」

 

「いい加減にしろ手前ぇら!」

 

 

天竜に怒鳴られて即座に喧嘩を止める二人。天竜は涙と鼻水でぐしゃぐしゃの小次郎にチリ紙を手渡す。

 

 

「この二人を隣にするのは危険だな。

ヒコ、小次郎と配置代わってもらえるか?」

 

「別に問題ない..........

私挟まれんのかよ.....

死ねばいいのに」

 

 

氏真がボソッと毒を吐いたが武蔵と小次郎には聞こえていないようだった。

 

 

「東方からは俺とハルの四百騎が本陣として攻める。これで敵さんは四方八方から追い込まれて逃げ場を失う。お前らいいな?」

 

「承知!」

 

「それとこの戦は敵さんが出て来ないと話にならない。炙り出すためにはコイツを使ってくれ」

 

「「「「これは!?」」」」

 

 

そうして朝方、八上城の東側に天竜軍一千の騎馬鉄砲隊が集結する。天竜は作戦通り弟子の3人に三方向からの布陣を任せる。そんな時。

 

 

「まさか、こんな短時間で兵を整えやがるとは.....

騎馬鉄砲隊とは恐れ入ったです」

 

「おぉ!光秀殿!来られたのですか!」

 

「当たり前です。

考えてみれば、丹波攻めを信奈様から任されているのはあくまでこの明智十兵衛光秀です!

新米に全権をやれるわけにはいけないのです!」

 

「ほう.....光秀殿は兵をいくら程?」

 

「二万です!」

 

「それでは麓で待機させていて下さい。

実戦に参加させなくても城からはそれだけの大軍が参戦していると錯覚させられます」

 

「むむっ.....あくまで己の手柄にする気ですか!」

 

「違いますよ。兵は良晴の為にも一人でも多く残さねばなりませぬ。八上城攻めの最中に毛利が進軍すればすぐには援軍には行けませぬ。

第一この戦はお借りした一千でも充分落とせます」

 

「相良先輩の為.....」

 

 

良晴の為と言われてしまえば十兵衛は何も言い返せない。

 

 

「さぁ!布陣は整った!大吾!」

 

「はっ!天竜様!」

 

「お前に残り二百騎の仮将軍の位をやる!

ハル.....光春の後手に回り、待機せよ!」

 

「承知!」

 

 

この大吾という男、

一千の鉄砲隊の中でもリーダー格であり、天竜の暗示による成長率が最も高かった男でもある。

 

 

「いざ、出陣!」

 

「「「おおおぉぉぉ~!!!」」

 

 

東西南北の全方向から八百騎の轟音が鳴り響いた。

 

 

「秀治、最初から籠城を選び高城山周辺の守りをつけなかった貴様の負けだ!

お陰で布陣が至極楽だったぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「秀治様!」

 

「直正か!戦況はどうなっている!?」

 

「敵は鉄砲を持った騎馬隊です!

見たことのない戦い方に守備兵は困惑し、押されています!」

 

 

城主、波多野秀治と家臣、赤井直正。

八上城を守る二人である。

 

 

「あいつはどこへ行った!」

 

「氏綱殿は援軍を連れて遅れて参陣されるそうです!」

 

「ふんっ、どうせ逃げたのであろう!」

 

「そんな訳は.....」

 

 

 

 

「おかしいです!

何なのですか、あの馬の速さは!」

 

 

足は短く、とても速くは走れないであろう織田の痩せ馬が武田の騎馬に匹敵する程の速さで山を駆け上がっているのだ。

 

 

「兵と同じく馬にも暗示をかけました。

理性のある人間よりだいぶかけ易かったんでね。気持ちはサラブレッドですよ」

 

「さらぶ?」

 

「説明をすると二刻半(5時間)かかりますよ?」

 

「結構です」

 

 

 

 

ドゴーーーーーンッ!!!!

高城山の4箇所から爆音が鳴る。

 

 

 

 

「なっ.....なんですか!?

敵の攻撃ですか!?」

 

「いえ、これもこちら側です。

『轟天号』大砲ですよ」

 

「大砲なんて何処から持ってきやがったですか!」

 

 

鳴り止まぬ爆音に耳を塞ぎながら十兵衛が尋ねる。

 

 

「堺にいる滝川一益殿から借りてきました。

本来は軍船用です」

 

「軍船用!?」

 

 

 

 

4日前。

 

「おぉ、そちが噂のてんてんか!」

 

「てんてん?」

 

「信奈ちゃんも家来雇うの好きだのぅ」

 

「それで、お借り出来ますでしょうか?」

 

「軍船用の『轟天号』を城攻めにか.....」

 

「完全に籠られてしまえば、

焼け石に水ですからね。

大砲で脅して敵を誘き出すのです」

 

「面白いのぅ。しかし丹波如きなら兵糧攻めでも充分勝てるじゃろう?」

 

「いえ、期限は七日ですので.....

それにこれは私の能力を『織田』に見せつける意味もあります」

 

「くすくすくす。本当に面白い奴じゃのう。

よっしーともどこか似ている。

いいじゃろう、四門貸してやろう。

その代わり.....」

 

 

天竜はニヤリと微笑む。

 

 

「先日、いいものが手に入りました。

平蜘蛛です」

 

「嘘をつくな。平蜘蛛はひさっしーと一緒に爆発したのじゃぞ?」

 

「焼け崩れた多聞城の跡地にて発見しました。本物ですよ」

 

「ふ~ん。それが本当に平蜘蛛なら大砲を貸してやってもよいぞ?」

 

 

そう言われ、天竜が懐から取り出したのは小さな何かの破片。

 

 

「なんじゃそれ?ごみ?」

 

「平蜘蛛の欠片ですよ」

 

「むむっ、騙したなてんてん!」

 

「いいえ、一益殿は『本物なら』

と仰られたまで。

姿形までは指摘しておりますまい」

 

「むぅ~!まるで一休さんじゃな。

.....しかたあるまい、その欠片で我慢してやるのじゃ」

 

「ありがとうございます。日を改めて別の土産をお持ちいたしましょう」

 

「くすくす。そうじゃ、ついでにくっきーを嫁に貰っていくか?」

 

「そんなっ!姫さまぁ~」

 

「くすくす。

よっしーと違ってそち好みの美形じゃぞ?

てんてん、そちの年は?」

 

「27です」

 

「同い年か~。あたしとしては年下の方が.....

じゃない!天竜殿とは今日で出会ったばかりなので!」

 

「親分、勿体無いですよ!

こんな美形逃すなんて!

理想高すぎると婚期逃しますよ!」

 

 

家来に忠告される嘉隆。

 

 

「うっ、うるさい!」

 

「信奈様が天下をとった際、

未だ私が独り身だったならば是非お願いします」

 

 

天竜は笑顔でそう返答する。

 

 

「そっ、そんな、照れるな~」

 

「くっきー.....

これは遠回しに断ってるんじゃないのか?

くすくす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃てーーーーぃ!!」

 

 

ボーリングの玉サイズの弾丸が次々に八上城に撃ち込まれる。木製の城は塀やら壁やらが発泡スチロールのごとく破壊され、次第に火の手も上がってくる。

痺れを切らした城主秀治は、

 

 

「ええい!全軍、織田兵を蹴散らせぃ!」

 

「やった!かかったぞ!」

 

 

刀や槍を持った足軽が城内から大量に出てくる。中には屈強な武士も出てきたが、天竜により鍛えられた騎馬鉄砲隊に敵うはずなどなかった。どれだけの気迫を持って突撃をしても、

皆、雨隠千重洲陀の餌食にされた。

ところが、

 

 

「あ~!!鉄砲って使いずらい!!

ちょっとお前これ持ってて!」

 

「はい?武蔵様?」

 

「あたしは剣一筋だぜ!」

 

 

そう言いながら南方将軍を務めていた武蔵が鉄砲を部下に放り投げ、己の愛刀2本を取り出す。

 

 

「剣技、二天一流!とくと味わいやがれぃ!!」

 

「武蔵様が一人で突撃してしまわれた!

皆のもの、間違っても武蔵様に当てるんじゃないぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正反対の北方にて。

 

 

「武蔵が刀で戦っているだって!?

こうしちゃいられない!」

 

 

小次郎もまた、部下に鉄砲を放り投げ、愛刀の大太刀を取り出す。

 

 

「奥義!燕返し!!」

 

「ぐわぁぁ!!」

 

「武蔵だけには絶対に負けてたまるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本陣。

 

 

「武蔵と小次郎が刀で戦っている!?

何やってんだあの阿呆共!」

 

 

彼女らが単独で突撃してしまった為に後方の者達が撃つのをためらっているという。

しかし、一見すると勢いはさほど変わっていないようである。

 

 

「あいつら強いのな」

 

 

競い合っている彼女らはある意味、

雨隠千重洲陀より怖いのかもしれない。

 

 

「天竜聞いていいですか?」

 

「何でしょう?」

 

「信奈様の願いは断って、己の戦では千丁の新鉄砲を抜け抜けと出すのはどうしてですか?

返答次第では信奈様への不満と見なしますよ?」

 

 

要するに殺すという事か。

 

 

「雨隠千重洲陀は拳銃ほど召喚が難しくありませんですし、これは認めて貰う為ですよ」

 

「どなたにですか?」

 

「貴方にですよ十兵衛殿」

 

「へっ?私ですか?」

 

 

十兵衛が急にポッと頬を赤くする。

 

 

「早く明智家の家臣として認めて貰うという事ですよ」

 

「そっ.....そうですよね。

というか、天竜!

なに勝手に『十兵衛』と呼んでいるんですか!」

 

「バレましたか。すみません」

 

 

十兵衛は焦った。良晴以外の男性に顔を赤らめる事などなかったというのに。

そんな時、一人の兵が天竜の元に駆けてくる。

 

 

「西方、氏真様!敵に挟まれております!」

 

「なんだと!?」

 

「敵の援軍は何処から湧いてきた!」

 

「荒木氏綱の軍七千です!」

 

「氏綱といえば丹波の豪将じゃないか!」

 

「天竜も知っていましたか.....あの男には何度も兵を撃退されていますです」

 

「いくら雨隠千重洲陀の騎馬鉄砲隊とはいえ、

数はたったの二百。

挟まれれば一大事だぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「必殺!電撃蹴鞠龍神波!!」

 

 

手持ちの蹴鞠を蹴って敵の顔面にぶつけ、

バウンドした蹴鞠は、

また別の敵の顔面にぶつかり、

それが五人程連結され、

怯んでいる所を氏真がバッサバッサと

斬りまくる。流石は義元の妹である。

 

 

「久しぶりの敵..........楽しっ!」

 

 

不気味な笑みを浮かべている氏真に部下達はビクビクと恐れている。

 

 

「氏真様!後方を敵に挟まれました!」

 

「うざ..........いい。私が行く」

 

 

氏真は急に方向転換し、下山する。

七千の兵を一人で相手をする気である。

 

 

「そんな、無茶ですよ!氏真様~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうするんですか天竜?

こうなったら私の二万で...............ん?

天竜?どこ行きやがったですか?」

 

「天竜様なら大慌てで前線に向かいましたよ?

なんでも

『十兵衛殿は何もしなくても大丈夫』

だとか」

 

 

近くにいた兵に伝えられる。

 

 

「大将が前線に出てどうするんですか!

あの馬鹿天竜!!.....というか!

また十兵衛って呼びやがったですぅ!」

 

 

天竜の部下に告げられ、顔を真っ赤にして怒る十兵衛。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、ハルゥ!」

 

「天竜様!?」

 

 

前線で戦っていた左馬助を発見する。彼女はちゃんと鉄砲で戦っていたようだ。

 

 

「お前は急いで二百騎で北方方面を回って西方のヒコを助けてこい!

南方方面からは大吾が向かうように指示は既に出した!

敵の援軍を左右から奇襲して足止めをしていてくれ!」

 

「しかし、東方からの攻めはどうするのです!」

 

「それは俺一人が引き受ける!」

 

「はぁ?」

 

「大丈夫だ!俺を信じろ!」

 

「..........分かりました。

ただし、危険と感じたらすぐに姉上に救援を頼むんですよ?」

 

「おぅ!」

 

 

本陣近辺の四百騎が全て西方の守りについた。そのせいで東方はほとんどガラガラである。

これを好機とばかりに秀治は東方の軍勢を増やした。

 

 

「どの方面よりも、この東側こそが最大の地獄だという事を見せてやろう!」

 

 

天竜は改めて兜を被り直す。

安土城の変と同様の兜だが、『白夜叉』と呼ばれるようになって、二本の角が追加された。

左手に雨隠千重洲陀、

右手に青龍偃月刀を持った、

白い鎧武者が現れる。

 

 

「我が名は、白夜叉!いざ参る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波多野秀治は焦っていた。荒木氏綱が援軍として駆けつけてきた時は狂喜したが、麓近辺で足止めされ、手薄になったはずの東方もなぜか押されている。

このまま時が進めば、破滅するのは.....

 

 

「気づけ、秀治!

貴様が今、決めなければならぬことを!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「嫌だ!丹波の伝統を私の代で終わらすなんて!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「このまま倒されるのがどちらか、

頭のいい貴様なら分かるはずだ!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「誰か、誰かいないのか!

織田を抹殺出来るような猛者が!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

その次の瞬間、

巨馬に跨った白い騎士が秀治の前に現れた。

 

 

「まっ.....まさか!

東方をたった一騎で押し返した、

白い鬼とは真の事だったか!」

 

「波多野秀治だな?」

 

「....................あぁ、お前は?」

 

「勘解由小路天竜。この戦の総大将だ」

 

 

秀治はつい吹き出してしまった。

 

 

「くはははははは!

敵の本陣に大将が乗り込んで来るとは.....

まるで上杉謙信のようだ」

 

 

隣りにいた赤井直正はこの絶対的状況で笑い出す主君を見て、敗北を実感する。

 

 

「時に天竜とやら。

安土城にて織田に刃を向けたお前が何故、織田に仕官した?

そして、何故この八上城攻めに協力した?

織田の為か?

それとも明智の為か?」

 

 

天竜はクックックと笑い出し、

こう答える。

 

 

「無論、俺の為だ!」

 

 

秀治は彼の目を見て、そのたった一言から何かを感じとったらしい。

 

 

「.....そうか。あとは任せたぞ?」

 

「あぁ」

 

「降伏したところで私は処刑されるだろう。

それよりは、お前に召された方がいい」

 

 

つまり、捕まるぐらいなら天竜に討ってほしいとの事。

 

 

「..........やだ。めんどい」

 

「とことん鬼だな」

 

「白夜叉だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「波多野秀治、赤井直正自刃!!

八上城敗れたり!!」

 

 

天竜が山頂で叫ぶ。

それに乗じて彼の軍勢も同じ言葉を叫ぶ。

それを聞いて、麓で奮闘していた荒木氏綱は持っていた武器を地に落とし、座り込む。戦っていた左馬助と氏真はキョトンとする。

 

 

「主亡き今、この戦に意味はない。斬れ!」

 

「それを判断するのは私達じゃないです」

 

 

こうして波多野軍は全員武装放棄する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりやがったです.....天竜。

たった千騎で八上城を一日で.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

「この戦はまだ序章に過ぎない!

これから三日間、

丹波中を駆け巡り、

この八上城攻めの英雄達の姿形を他の城主共に見せつけてやるのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの三日間、天竜軍騎馬鉄砲隊は丹波各地を駆け回り、その最新式の部隊を見せて回った。

八上城を一日で落とした伝説と白夜叉の伝説もまた噂として流れた為、城主達は恐れを抱き、次々に降伏。明智家傘下に入る事となった。

荒木氏綱もまた降伏したのだが、病を理由に娘の荒木行重を仕官させるに至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

「どうして姉上がついてくるのですか?」

 

「むぅ。私も天竜に用があるです。

左馬助についていかないと何処にいるか分からないです」

 

「鬱陶しいから離れて下さい」

 

「あぅ.....」

 

「あっ.....いた!」

 

 

 

天竜は八上城麓の木の下で眠っていた。ここ七日間、ろくに眠っていなかったのだろう。

 

 

「天竜。八上城にてもう一度明智家臣団が集まるから起きやがれです。

今度も喧嘩したら許さないですよ?

..........天竜?」

 

「天竜様?....................!?」

 

 

左馬助が天竜の口元に手を当て、異変に気付く。

 

 

「姉上.....天竜様.....息してない!」

 

「ふえっ!?」

 

「天竜様!起きて下さい!天竜様!」

 

「起きるです天竜!!

丹波の英雄がこんな所で死にやがるなです!!」

 

 

十兵衛の脳内にとある記憶が蘇った。

これと同じ事が昔あったではないか。

金ヶ淵の退き口の際の洞窟にて、矢を打たれて呼吸が止まってしまった良晴に対し、十兵衛が人工呼吸を行ったのだ。

 

 

「左馬助!天竜の身体を横にして下さい。

人工呼吸しますです!」

 

「えっ?」

 

 

十兵衛の頭にはそれしか無かった。

良晴ではないとか、言ってる場合ではない。

幸い心の臓は止まってない。私が、何とかしなければと.....

 

 

「だめ.....」

 

「えっ?」

 

「だめです!姉上に人工呼吸はさせません!!」

 

「左馬助!意地を張っている場合では.....」

 

「だめなんです.....私じゃ.....私じゃなきゃ.....」

 

 

左馬助は涙目で訴える。

十兵衛は咄嗟に理解した。

何故この子がずっと天竜に従い、

慕いつづけているのかを。

 

 

「分かったです、左馬助。

その代わり、絶対に助けなさいです!」

 

「.....ありがとう!」

 

 

左馬助は天竜の唇に自分の唇を重ね合わせ、息を送り込んだ。2回、3回と送り込むのを十兵衛はハラハラと見守っていると、

 

 

「げほっ!!がはっ!!」

 

「やったです!」

 

「天竜様!」

 

 

左馬助は脱力したように天竜に抱きついた。

 

 

「さっ.....左馬助?」

 

「待ってろです天竜!

すぐに医者を連れてくるです!」

 

 

 

 

その後、曲直瀬ベンジョールが丹波まで呼ばれ、天竜の診察をしたが、外傷等は全く無く、気管の異常も無かった。

彼の呼吸が何故止まってしまったのか、結局分からず終いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある朝、十兵衛は再び眠ってしまった天竜の寝室を訪れた。見張りの者は下げている。

 

 

「相当あの子に好かれているようですね。

夜中も寝ずに看病していたようですよ?」

 

 

左馬助は今、隣室で休んでいる。

その時、

 

 

「きゃっ!?」

 

 

突然、十兵衛の裾がグイッと引っ張られ、

抱き寄せられるように天竜の胸に倒れ込んだ。

そして、がっしりと腕で押さえ込まれる。

 

 

「おっ.....おのれ天竜!!

狸寝入りですか!!

人が心配してやったらいい気になって!!」

 

「好きだ.....」

 

「へ?」

 

「好きだ。愛してる」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」

 

「今までどこにいたんだ。寂しかったんだぞ」

 

「あうあうあうあうあう。

わたたたしは、しゅしゅ主君だだだから!!

いい色々いそ忙しいのでですぅ!!」

 

「もう.....離さない」

 

「だだだだめですぅぅぅ!!

私には相良先輩という将来を誓った殿方がぁ!!」

 

「愛してるよ.....ヒカリ」

 

「へ?」

 

「離してたまるものか、ヒカリ」

 

「いいや!離しやがれです!!

一体誰と間違って...............!?」

 

 

十兵衛が目の前に立って見下ろしている存在に気付く。左馬助だ。

 

 

「姉上.....そうだったんですね。

何故天竜様が明智家に仕官したか、

やっと分かりました」

 

「ちょっ.....左馬助!誤解です!」

 

「もういいです。どうぞ天竜様とお幸せに」

 

「待つです左馬助!勘違いしてるです!」

 

 

そうして扉の前で去り際に一言。

 

 

「姉上なんて大っ嫌いだ!」

 

「左馬助~!!」

 

 

 

 

折角少しずつ直そうと思っていた関係がまた振り出しに戻ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

「うわっ!十兵衛様、

何で添い寝されてるんですか!?」

 

「お前なんて丹波攻めで討死すればよかったですぅぅ!!!」

 

 

唐突に起きる天竜。当然この後、十兵衛に思いっ切りビンタされたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間後、天竜は良晴のいる姫路城を訪れ、再び二人きりの茶会が開かれる事となった。

 

 

「天竜先生、丹波落としたんだって?

仕官早々すげぇな!」

 

「ちょっと無理し過ぎてな。

今でも疲れが残ってる」

 

「ふーん」

 

 

この丹波攻め成功を機に明智家は信奈の判断次第で次に丹後や但馬も狙って行く事になるのだが、そうなれば織田家最大勢力となっていくだろう。

 

 

「そういえば、ここ一週間何してたんだ?」

 

「仲直りラッシュだよ。

明智家臣団やら柴田やら丹羽やら」

 

「へぇ~。勝家達と仲直りしたんだ。

なんか意外」

 

「ところで良晴」

 

「何?」

 

 

天竜が突然後ろから酒と杯を取り出した。

 

 

「飲め、良晴」

 

「酒じゃんか!

教師が未成年に酒飲ますのかよ!」

 

「俺が許す。それにこれは契りだ」

 

「契り?」

 

「義理兄弟の契りだ」

 

「へ?」

 

「良晴.....今日からお前は俺の義弟となれ!」

 

「は?」

 

「だから俺はお前の義兄となる」

 

「うん?」

 

「それから俺は今日から、

『羽柴秀長』を名乗る事になった」

 

「え?」

 

 

「だからお前は今日から、

『羽柴秀吉』と名乗れ」

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」

 

 

戸惑いを隠せない良晴。あまりにいきなりで状況が理解出来ずにいたのだった。

 




なんか急なシリアス展開とラブコメ展開が入ってきました。
調子が出てきて、今ウキウキしてます。
ちなみに今回出てきた荒木氏綱は荒木村重とは
別人なので勘違いしないよう気をつけて下さいね。
それから赤井直正は、史実ならこの頃すでに死んでいますが、思い切って登場させてみました。
次回予告
若狭の陰謀
~君が秀吉で秀長が俺で~


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登場人物&武器紹介

史実や原作に矛盾しないようにキャラをふやしましたが、ちょっと違和感も結構ありますね。
ロジックエラーを起こさないように気をつけていきたいですね。


羽柴天竜秀長(勘解由小路天竜)

27歳。元良晴の担任。

良晴が飛ばされた3日後にタイムスリップしており、この時代には3年前に来ている。

幼少時より父から英才教育を受けており、この時代にてそれら全てが役に立つ事になる。

鹿島新当流を塚原卜伝から教授された。

勘解由小路流陰陽術を習得しており、召喚術を利用して未来の物を出現させることができる。

さらに反魂の術も習得している。

敵には極めて冷酷であり、恐ろしく強い。

ただ、光秀に対してだけ、

淡い感情を抱いている(?)

騎馬鉄砲隊を率いる。

 

 

 

 

 

明智左馬助光春

14歳。天竜の1番弟子。

光秀の従兄弟の女の子。

長良川の戦いを機に光秀と離れ離れになり、放浪していた所を天竜に助けられた。天竜が光秀に仕官する際の橋渡しになった。

新当流を天竜から伝授され、未熟ながらも剣士としてはそこそこである。

天竜に恋をしている。

 

 

 

宮本弁之助武蔵

12歳。天竜の2番弟子?女の子

二刀を用いた二天一流の使い手。

チビなのを気にしており、それを指摘した人を半殺しにする性質がある。

小次郎と2番弟子の座をいつも競い合い、

犬猿の仲。

趣味は小次郎をいじめて泣かせる事。

 

 

 

佐々木小次郎巌流

17歳。天竜の2番弟子?女の子

三尺三寸の長刀「備前長船長光」を用いる「燕返し」の達人。

武蔵と2番弟子の座を競い合い、

犬猿の仲。

短気でちょっとした事で怒る。

でもいじめ過ぎると泣いてしまう。

 

 

 

 

 

今川彦五郎氏真

13歳。天竜の3番弟子。

今川義元の腹違いの妹。

今川家滅亡後、

放浪していた所を塚原卜伝に拾われる。

天竜の同期として新当流を共に習い、天竜が卜伝の下を去る際に一緒について来た。

冷静沈着だが毒舌家。

口癖は「死ねばいいのに」

 

 

 

阿斗&吽斗

双子の姉弟忍者。10歳。

姿形がそっくりで見分けるのはほぼ不可能。

二人共に冷酷で暗殺が趣味という

恐ろしいダブルス。

手配され、処刑されそうになっていた所を天竜に助けられた。

 

 

 

 

 

大吾

35歳。天竜軍騎馬鉄砲隊の副指揮官。

弟子以外で天竜が信頼をおいている人物の一人でもある。

 

 

 

 

 

梅千代

15歳。信奈の新しい小姓。

万見仙千代の時の失敗を繰り返さないように、織田一族の中から選ばれた。

 

 

 

荒木弥助村重

17歳。新たに若狭の大名に選ばれた信奈の家臣にして関西娘。茶器集めにこだわっており、そのコレクション数は信奈を越える。

よく茶器の自慢を信奈や一益にしているという。

 

 

 

 

 

羽柴良晴秀吉(相良良晴)

天竜の元教え子で義弟。

天竜と義兄弟の杯を交わす。天竜が苗字を変えた際に彼も羽柴姓に変更する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

素巳洲・庵戸・上巣遜(スミス&ウェッソン)

「M36」天竜が信奈や十兵衛に与えた拳銃。

回転式連発銃。通称はリボルバーやピストル。原型は幕末の英雄、坂本龍馬が愛用していた事で有名。現在でも警察官の公用銃として利用されている。

 

 

 

 

 

雨陰千重洲陀(ウィンチェスター)

「M1887」

西部の香りが漂うレトロなショットガン。

丹波戦ではノーマルとソードオフ(銃身の切り詰め)に使い分けて使用された。

 

 

 

 

 

轟天号

元は滝川一益率いる九鬼水軍の軍船に取り付けられていた大砲。八上城攻めの際に天竜が敵を炙り出すために一益から四門借りて、使用した。

 




*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*


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二章 羽柴天竜秀長
第六話 若狭の陰謀


今回はキャラの崩壊が多々あります。
原作重視の人は、先に誤っときます。
ごめんなさい(;´Д`A
それと「、、、」を「.....」に全体的に修正しました。読みやすくなってくれると幸いです


♫阿ボー!吽ボー!天気予報!

 

僕の名前は阿ボー!

 

 

僕の名前は吽ボー!

 

 

2人合わせて阿吽だ~

 

 

君と僕とっで阿吽だ~

 

 

小さな物から大きな物まで

 

 

働く忍者、阿吽ディーゼル~♬

 

 

 

 

という夢を見た。その日一日は阿斗、吽斗を見るたびに吹き出しそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六話

英賀にて

 

 

 

「お師匠様」

 

「おぉ~賀茂の坊主か。

ヒヒヒ。久しいのぉ~」

 

「勘解由小路とお教えましたよ。

それに今は羽柴です」

 

「どうでもよいわい。

武士はころころと名前を変えるから、

覚えるのが面倒じゃ」

 

「そりゃ〜何百年も生きてりゃ、

覚えるのも大変でしょうけど」

 

「うむ。昨晩の飯のネタも忘れてしもうたわい」

 

「..........」

 

「どうした?いつもなら何か突っ込むじゃろ?」

 

「芦屋家始祖、芦屋道満。その子孫にして俺、羽柴天竜秀長の師、芦屋道海様」

 

「なんじゃ、改まって」

 

「貴方のお陰で俺はこの時代で陰陽師として覚醒出来ました。本当にありがとうございます」

 

「未熟者の小童が、何を言いよる。まだまだ修行は終わらんぞ?」

 

「全くその通りです.....

先日、術の使い過ぎで一度死にかけました」

 

「ヒヒヒ。反魂の術を身につけていても己が死んでは元も子もあるまい」

 

「..........はい」

 

「その指輪は多大な気をお主に与える代償にその身体を蝕む。使い過ぎにだけは気をつけろ」

 

「はい」

 

「その指輪を官兵衛にだけは渡さないようにな。また馬鹿げた事に使うじゃろうから.....」

 

「そんな事よりお師匠様こそ気をつけて下さいね。延命術を使っているとはいえ、

不死ではないのですから.....」

 

「ふん!若僧に気遣れる程老いとらんわ!」

 

「250歳の婆さんが何言ってんだか.....」

 

「こう見えても昔は絶世の美女だったのじゃぞ?」

 

「年寄りは皆そう言うんです」

 

 

すると道海は目の前のグツグツ煮えたぎる鍋に何やらまじないをかける。

すると水面に写ったのは、シワくちゃの道海ではなく、驚くほど美しい女性陰陽師であった。

 

 

「偽りではないようですね。勿体ない。

若いうちに不老術を覚えていればこの美貌を保てたでしょうに.....」

 

「ヒヒヒ。気にしとらんよ」

 

「私の若返りの術でも使いますか?」

 

「ヒヒヒ。賀茂家の特技じゃな。

しかし、遠慮するよ。

弟子の寿命を減らしてでも若返ろうとは思わん」

 

「少し勿体ない気もしますが.....」

 

「わしが若返ったら、調子に乗ってお主に求婚するかもしれぬぞ?」

 

「それは遠慮します」

 

「ヒヒヒ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻って越前。

 

 

「おっ.....お前があたしに頭を下げるのか!?」

 

「はい。私が間違っていました。

これからは柴田殿の武勇を手本に精進しようと考えております」

 

「いや~。参ったなぁ~」

 

 

完全に天狗になっている勝家だ。

先日までのあの嫌悪感は何処へいった?

 

 

「勝家は単純」

 

「前田殿、先日の件で怪我や痣は残っていませんでしょうか?」

 

「残ってないし、犬千代は気にしてない」

 

「意外ですね。前田殿にはもっと恨まれていると思っていたのですが.....」

 

「犬千代は安土城で無視されたのが気に障っただけ。本気で戦えてスッキリした」

 

 

ブチ切れて死ね死ねコールしていた件については大丈夫なのだろうかと天竜はそっと思う。

 

 

「それから犬千代でいい。皆そう呼んでる」

 

「ではそう呼ばせて頂きますね犬千代殿」

 

「あたしも勝家でいいよ!」

 

「分かったよ、六」

 

「なんでだよ!」

 

 

このような冗談で盛りあがった後、

天竜は本題に移った。

 

 

「この度、改名をしようと考えております。

その際に、柴田の『柴』の字を

頂けないでしょうか?

後々は羽柴と名乗ろうと考えております」

 

「ん?.....まぁ、かでのなんとかより

ずっと呼びやすいけど.....

『羽』は?」

 

「後に丹羽殿から」

 

「何でまた?」

 

「私も常々思っておりました。

この織田家臣団の信頼の厚さを.....

突然現れた私がその仲に入り込もうとした所で、煙たがれるという事は最近のお付き合いなどで、よく分かりました。

勝家殿とは戦いの中で信頼を結ぼうと考えていたのですが.....」

 

 

それを聞いて勝家は難しい顔をする。

 

 

「あたしとしては、

別のやり方で仲良くしたかったなぁ~

.....なんて」

 

「では、これから少しずつでも友情を深めてまいりましょう。その為の改名です」

 

「光秀からは貰わないのか?」

 

「十兵衛殿からは『秀』の字を下の名前に貰おうと考えてております」

 

「むっ.....」

 

 

すると、天竜が光秀を十兵衛と呼んでいる事に勝家は反応を示す。

 

 

「嫉妬かい、六?」

 

「ばっ.....嫉妬じゃ.....!

それに六って呼ぶな!」

 

「じゃあ、権六?」

 

「それはもっとヤダ!!」

 

「ういろう食べたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近江。丹羽邸にて。

 

 

「.....以上の理由につき、

丹羽殿からは『羽』の字を頂きたいと思いましてございます」

 

「..........」

 

 

長秀はジロリと天竜を睨み、低く返答する。

 

 

「目的はなんですか?」

 

「は?」

 

「惚けても無駄です。

何か企みがあるのでしょう?」

 

「惚けるも何も.....」

 

「灰尓っ!!」

 

 

長秀がそう声を上げると後方の扉の奥から大柄の男がズンズンと近づいて来る。

 

 

「こんな事もあろうかと護衛を呼んでおります。貴方が何をしようとも指一本触れる事は出来ませんよ?」

 

「ヤレヤレ.....相当警戒されているようですね」

 

「当たり前です。貴方の腹黒さは元康殿よりずっと高いという事は始めから気付いています」

 

「ほう.....」

 

「本音を言いなさい。

でなければそこの灰尓が容赦しませんよ?」

 

 

灰尓という大男は後ろでバキバキと指を鳴らす。

 

 

「ふぅ。指一本ですか.....」

 

 

ため息を一つつき、天竜の表情が一変する。

 

 

「青い小娘が!

そう言われると余計に触りたくなる!」

 

「うっ.....!?」

 

 

天竜はその場にスクッと立ちあがる。

 

 

「灰尓っ!この痴れ者を捕らえなさい!!」

 

「承知!」

 

 

灰尓が後ろからかかって来る。

だが、そんな事は始めから読めていた天竜は捌きつつ、灰尓の着物の襟首をそっと捻る。

すると、灰尓は空中で一回転して、床に背中から叩きつけられた。以前に勝家に対して使った技と同等である。

 

 

「くそっ!!」

 

 

すぐさま起き上がった灰尓は今度も同じようにかかって来る。

だが、天竜が突然座った為に勢いに任せて灰尓は向こう側に突っ込んでしまう。

だが、懲りずに座ったままの天竜に後ろから攻撃を仕掛ける.....

だが、天竜は正座の状態のまま真後ろにスライドしながら捌いたため、また勢いに任せて長秀の前に吹っ飛ばされる。

 

 

「何をやっているのですか灰尓!!

身長も体格も貴方が上でしょう!」

 

「そっ.....それが!

奴に近付こうとすると身体が勝手に.....」

 

 

そこで長秀はハッと気づく。

以前勝家から聞いた、

触れずに相手を倒すような技。

『合気道』という名の格闘技を.....

天竜は再び立ち上がって言い放つ。

 

 

「ふんっ。木偶の坊を護衛にした程度で優位に立ったつもりでしたか丹羽殿?」

 

「.....んだと、コラァ!!」

 

 

灰尓が突如、小太刀を取り出す。

 

 

「いけません灰尓!!

殺しては.....!!」

 

「死ねぃ、クソ陰陽師ィ!!!」

 

 

姿勢を低くしながら殺気を振りまいて突っ込む灰尓。だが.....

 

 

「木偶の坊は悪かったな、お前は猪だ!」

 

 

捌きと同時に灰尓の後頭部を押さえ付け、一気に床に顔面を叩きつける。

だが灰尓は鼻血を出しながらもまだ起き上がる。

しかし、その直後にやってきたのは喉元への突き。

真後ろに飛ぶように倒れた灰尓だが、

今回ばかりは上手く受け身をとった。

だが、天竜はすかさず灰尓の喉輪に手を添え、最後の一言。

 

 

「4世紀早ぇよ.....」

 

 

灰尓はそのまま頭から床に叩きつけられ、その後再び起き上がる事はなかった。

 

 

「..........それは陰陽術の一種ですか?」

 

「いいえ。れっきとした日本武術ですよ?

ただし生まれるのは300年後。

ずっとインチキ扱いされていた武術ですが、

最近.....私や良晴の時代には本物と理解されるようになりました。

塩田先生に感謝です」

 

「..........」

 

「指一本の反対.....

つまり身体中触りまくっていいんですね?」

 

「はっ!?」

 

 

天竜が颯爽と近づく。長秀は慌てて腰の刀を抜こうとするが、両手を制されてしまい、どうにも出来ない。

長秀は流されるままに押し倒されてしまう。

 

 

「やめてください!!誰か!誰か!」

 

「貴方が下げたのでしょう。

私に勘ぐられないように.....

貴方の言う通り私はとてつもなく腹黒い悪人ですよ?くくく」

 

「嫌.....いやぁ!」

 

「安心して下さい。乱暴にはしません。

ただし、明日の朝までの貴方の貞操は保障できませんがね.....くくくくく」

 

「そんな!」

 

 

足をバタつかせ、必死に足掻く長秀。

だが、大の男の力の前には無力であり、しだいにその抵抗力も弱まってくる。

丹羽長秀は産まれて初めて男性が怖いと感じた。しだいに瞳からは涙も流れ始め、嗚咽も聞こえるようになる。

 

 

「い.....やぁ.....ぁ.....」

 

「珍しい表情を見ることができまそた。

その表情は私が初めてかな?」

 

 

天竜がそっと顔を長秀に近づけ、耳元でそっと囁く。

 

 

「可愛いよ.....万千代」

 

「ひぅっ.....」

 

 

可愛いと呼ばれたのも万千代の名で呼ばれたのも同年代の男性から言われるのは天竜が初めてだ。

 

 

「お遊びが過ぎましたね。すみません」

 

 

っと、天竜はスッと離れ、手の拘束を解いた。だが、腰を抜かしてしまい、ゆっくりとしか起き上がれない長秀。

天竜は彼女の髪をそっと撫でる。

 

 

「他の彼女達より年上というだけで君ばかりが気を張る必要はないよ。必要ならばこれからは俺も手伝うからな。

..........俺にとっては君も彼女達同様、可愛い女の子なんだから」

 

 

そう言って、天竜は長秀の頭を撫でてやった。これぞ天竜が無意識に起こす、イケメンのみに許された口説きテクである。

長秀は撫でられれば撫でられる程、涙を流す。

 

 

「くくくく。これも触りまくってる事には変わりあるまい。『涙』という貞操も奪ってるしな」

 

「ぐすっ.....いい..........加減に.....しろぉ!!」

 

 

長秀は開放された手で平手打ちを繰り出してくる。いつもなら平気で避ける所の天竜だが、今回ばかりはそのままソレを受け取る。

 

 

「ういっ.....!!

..........お~痛ぇ。今度痴れ者に襲われた際にはその平手打ちを食らわせてやったらいいでしょう。槍、刀を使うよりよっぽど女の子らしい」

 

「なっ.....何を!?」

 

 

天竜はスクッと立ち上がって、扉の方へ歩きながらに言う。

 

 

「では痛み分けとして『羽』は頂いていきます。ついでに『長秀』も貰っていこうかな?」

 

「なっ.....ななな!」

 

「そうですね..........

上下を入れ替えて『秀長』。

羽柴天竜秀長.....いい名前だとは思いません?

..........ひょっとして勘違いしました?」

 

「そっ.....そそそ、そんな事!」

 

「また会いましょう.....丹羽殿。

いや、万千代ちゃん?」

 

「さっさと出て行きなさい!!」

 

 

そうして天竜はやっと出て行く。

同時に灰尓がフラフラと目を覚ます。

 

 

「あっ.....あれ?あの陰陽師は?」

 

「万千代ちゃんか.....」

 

 

長秀は彼を叩いた事で未だにヒリヒリする己の手の平を見ながら呟く。

 

 

「は?」

 

「なっ.....何でもありません!

やっぱりあの男は嫌いです!

エロ天竜め、零点です!!」

 

 

だが、その顔は何処か嬉しそうでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丹波にて

ここでも天竜は自ら頭を下げた。

十日前には挑発的対応をしておいた。

明智家臣団にである。

 

 

「誠に恐悦ながら、あれは皆様方の内心を探る為の芝居にございました」

 

「芝居だと!?」

 

「はい。人は初めて会う相手に対して、何らかの疑心を抱きます。

そして、己の内心を隠してしまいます。

しかし、怒れば話は別です。怒れば怒る程、人は本心を徐々に引き出してきます。

.....もちろん、皆様方がとても立派な侍である事は百も承知です」

 

「..........何故、そのような芝居をするのだ?」

 

「さぁ?私にもわかりません」

 

「は?」

 

「ただ.....お互いに探りあっている内は信頼などいつまでも作れません。

.....要するに少しでも早く皆様方に認めて欲しかったのかもしれませんね。

.....ただし、無礼であったには違いありません。

どのような罰も受けましょう。

何なりと.....」

 

 

そう言って天竜は自分の太刀を利三達の前に差し出した。

 

 

「「「..........」」」

 

 

だが、家臣団の中にそれを申し出る者はいなかった。天竜は宣言通りに七日で丹波を落とすという実績も残している。

このように言われてしまえば、むしろ自分達の方が悪いように錯覚してしまったのだ。

結局、その場は流され続いて、丹波平定に当たっての天竜への恩功論相に移った。

 

 

「天竜はいったい何が欲しいですか!

土地ですか!金ですか!それとも女ですか!!」

 

 

何故か十兵衛は怒っている。理由が分からない天竜はキョトンとしながらも提案を出した。

 

 

「恐れながら希望は2つございます。

1つ目は、殿にお借りした一千の鉄砲隊。

彼らをそのまま私に頂けないでしょうか?」

 

「鉄砲隊をですか?」

 

「はい。私が伝授した騎馬鉄砲術はまだまだ未熟です。これからも少しずつ鍛えていきたいと考えています」

 

「うむ。いいでしょう。して2つ目は?」

 

「..........山城に学校。

.....寺子屋を作る権利を下さい」

 

「寺子屋?」

 

 

それは皆驚くべき事だった。土地には変わりないのだが、恩功に学校を要求するなど異例だからだ。

 

 

「現在、文字を読める者、算術を出来る者は商人や武家の上層のみです。足軽や農民や子供らは無知な者が多い.....」

 

「.....確かにそうです」

 

 

それどころか、庶民の娘のねねが算術が得意だったり、大名クラスの勝家が完全な無知だったり、変な差まで生まれているぐらいである。

 

 

「地位の低い者も学問を身につければ、必ずや織田家のさらなる発展に繋がるでしょう」

 

「む~.....確かにいい考えですが、

私だけでは判断出来ないです。

信奈様の許可が降りれば作ってもいいです」

 

「ありがとうございます」

 

 

そう言って天竜は十兵衛に頭を下げた。

そこで利三が、

 

 

「その.....以前はわしも悪かった。

何だかお前の事が少し分かった気がするよ」

 

「それは光栄です。共に十兵衛殿と明智家を支えましょう!」

 

 

その時、家臣達の眉がピクンッと反応する。

 

 

「十兵衛殿.....だと!?」

 

「やべ.....しまった」

 

「光秀様!!いつからこの男とそんな間柄になったのですか!!」

 

「はぁ!?私だって!

『十兵衛』と呼ぶのを許可してるのは信奈様と親族と相良先輩だけです!

この男に許した覚えはないです!」

 

「「「どういうことだ、勘解由小路ぃ!!!」」」

 

「.....勘弁してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、天竜の為に用意された屋敷にて、左馬助と共にそこを訪れ、左馬助がそっと部屋の扉を閉めた直後。

 

 

「他に誰も来ないだろうな?」

 

「はい。今夜は私と天竜様だけです」

 

 

ほのかに頬を赤らめながらに答える左馬助。

 

 

「そうか、そうか...........くくくくく.....」

 

「天竜様?」

 

「くひひひ.....くひゅっ!くひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ.....!」

 

「..........!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然天竜が笑い転げたのだ。左馬助は複雑そうな表情でその光景を見る。

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃはは.....

『お前の事が分かった気がする』

だとよ!馬っ鹿じゃね~の?

くひひひひひひひひひひ.....」

 

「はい.....」

 

「何もわかってねぇくせに、

堂々と言ってやがったよ。

思い出すだけで笑いが止まらねぇよ!!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「はい.....」

 

「脳筋の勝家も長秀も馬鹿ばっかりだ!

すっかり騙されてやがる!

本当に馬鹿共だ!

くひひひひひひひひ.....」

 

「はい.....」

 

「『拳で語る』ってな言葉があってな。

始めにいざこざがあった方が仲良くなるらしい。案の定引っかかりやがったよ!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「はい.....」

 

「どうしたハルゥ?

こんなに事が上手くいっているのだ。

お前も喜べ!」

 

「はい。ただ.....天竜様の家臣になれなかったのが心残りで.....」

 

「そうか。だが、それは仕方あるまい」

 

 

左馬助を含めた4人の弟子は天竜の家臣ではなく、十兵衛の家臣となった。それも明智家臣団を信用させる為の策略である。

 

 

「それだけでなく.....」

 

「我慢は今だけだ。全てが上手くいけば側近でも自由になるがいい」

 

「..........では正室は?」

 

 

左馬助がボソリと小声で呟く。

 

 

「ん?何か言ったか?」

 

「なんでもありません!!」

 

 

顔を真っ赤にする左馬助。

天竜は微妙な所で鈍感なのだ。

 

 

「これはまだ計画の序章だ。

これからゆっくりと計画を進めていくぞ!

ついて来るな?」

 

「はい!」

 

「お前は本当にいい子だな。

こんな時は『愛い奴だ』とでも言うのか?」

 

 

天竜が左馬助の頭を撫でながらに言い、左馬助はこれ以上ない程に赤くなる。

 

 

「織田はこれからもドンドン強くなる。

我らが無理矢理にでも強くするのだ。

...........そして、その強くなった織田を支配し日本を、いずれは世界を手に入れるはこの天竜だ!!」

 

「..........」

 

「そんな顔をするな。計画が順調に進めば血生臭い事にはならん。織田家臣団も残さず傘下に加えるさ」

 

「はい.....」

 

「よし、次の段階に移ろう。明日は良晴と会ってくる。護衛を頼むぞ?」

 

「分かりました天竜様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の事である。

 

 

「義兄弟ってどういうことだよ!」

 

 

良晴が叫ぶ。まぁ、これくらいの反応が返ってくる事は充分予想していた。

 

 

「落ち着け良晴。

何も面白半分で言ってるわけじゃない」

 

「じゃあなんだよ!」

 

「..........良晴。現在の織田家に3つの派閥があるのを知っているか?」

 

「派閥?」

 

「そうだ。万が一織田信奈が倒れた場合の3人の後継者だ」

 

「そんなの十兵衛ちゃんだろ?」

 

「それは信奈本人が言ったまで。十兵衛に力が無ければ他の後継者が下の者達によって擁立されるだろうよ」

 

「そんな馬鹿な.....」

 

「他人事じゃないぞ良晴。その派閥にお前も入ってるんだからな」

 

「は?」

 

「一つは明智派。四天王にも属し、信奈からの信頼も厚い。正統な後継者でもある。

二つ目は柴田派。織田家最強武将とうたわれた、柴田勝家だ。彼女の下に就こうとする者も多くいる。

そして、最後がお前、相良派だ。兵達からの信頼が最も厚く、信奈との関係もある。そして一番なのは流浪の身からここまで大出世したのが、身分の低い者達にとって憧れの的なんだろう」

 

「..........」

 

「十兵衛も勝家もそんな事は知らない。

ただ、家臣達にとってそれは重要な事だ。

ある時主君を騙して戦を無理矢理起こさせ、

後の『山崎の戦い』や『賤ヶ岳の戦い』に繋がるかもしれない」

 

 

そう、それはもしこの世界が史実通り進めば、良晴の手によって、十兵衛と勝家を殺さなければならない闇の未来である。

 

 

「それは.....」

 

「そうならない為の契りだ。

明智家臣である俺と相良家代表のお前が義兄弟になればそれだけで両家に繋がりが生まれるじゃないか」

 

「..........!」

 

 

良晴の顔色が変わる。

 

 

「あとは柴田家との繋がりだが.....

それはあとで考えよう。

いざとなれば俺と勝家が祝言を挙げるという選択もある」

 

「おい.....」

 

「冗談だ。それと、長秀と勝家の信頼を得る為にも『羽』と『柴』を得る事は必要だった。

史実でも秀吉は同じ事をやってる。

良晴、お前が羽柴秀吉になるんだ!」

 

「でも.....」

 

「この時代の者と違って苗字、名前が大事なのは分かる。

だから、羽柴良晴秀吉にする。

だが、『相良姓』は諦めてくれ!

俺も『勘解由小路姓』は捨てる。

頼む!」

 

 

そう言って天竜は良晴に頭を下げた。良晴はたまらず、天竜の頭を起こした。

 

 

「分かったよ先生。

先生がそこまでの覚悟なら、俺も男だ!

苗字なんて捨てたっていい!

それ以上に守らなければならない人達がいるからな!」

 

「くひっ.....」

 

 

天竜は思わず吹き出しそうになった所をなんとか堪えた。

 

 

「ありがとう。

でも、捨てるまではしなくてもいい。

もし、いつか未来に戻った時の為に放棄するだけでいい」

 

「うん。ありがとう先生!」

 

「先生はやめてくれ。義兄弟になるのにその呼び方はおかしいだろ?」

 

「えっ!?.....じゃあ、天竜兄さん?

.....なんかぎこち無いな~」

 

「呼び捨てでもいいぞ?

なんならお兄ちゃんでも(笑)」

 

「それはちょっと.....

普通に天竜さんでもいいかな?」

 

「まぁ、いいか。

では明日あたりに信奈に伝えなければならん。

一緒に近江に来てもらうぞ?」

 

「あぁ、いいぜ!

どうせなら長浜のねねにも会ってやってくれ。

俺の義兄になるんだったら、俺の義妹のねねの義兄にもなるんだからな」

 

「何っ!?ねねを義妹にしたのか!?

勿体無い。史実通りに正妻にすればいいのに」

 

「まだ8歳だぞ!?

流石に露理魂になるつもりはない!」

 

「ん?お前の幼女好きはクラスでも噂になってなかったか?」

 

「誰だ、噂流した奴!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

若狭。

 

 

「ふう。恍惚の呪文って疲れるなぁ」

 

 

とある少年が兵達に呪文をかけている。

兵達は皆虚ろな目をしていた。

 

 

「噂ではまた勘解由小路が現れたなんて話もあるしね。本当にしつこいよなあの連中」

 

「..........」

 

「後継者は全員殺したはずなんだけど、まだ、生き残りがいたんだね。そいつも殺さないとね」

 

「..........」

 

「織田信奈の方は君に任せるよ。

何とかして彼女を殺してやってよ。

まさか、若狭全体が突然攻めてくるなんて思いもしないだろうしね」

 

「..........せやな」

 

 

そこで関西弁の少女は口を開く。その目もまた虚ろであった。

 

 

「織田信奈はんは殺さなあかん。

うちの為にも久脩はんの為にも.....」

 

 

その少女の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。

 




エロ天竜という言葉から、思わず天津木村を思い出した。あると思います!
そして、あらかじめ謝っときます。上月城の戦いから
宇喜多直家、毛利を離反までの内容を次話入れる予定ですが、天竜は関わらないのでサラッと流します。
べっ.....別に書くのが面倒臭いからじゃないんだからね!
次回予告
天竜塾
~人斬り抜刀斎現る!!剣心じゃないよ(笑)~


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第七話 天竜塾

今回はなんだか、シリアスとシリアスの間の
遊びの回です。どうぞ楽しんで下さい。


私が内閣総理大臣になった。

もちろん策略と脅しで違法にである。

まず、内政を整えた。

廃止寸前に追い込まれた全国の発電所を全面駆動させた。もちろん世論の批判は無視だ。廃止ではなく、災害対策を強化することによって、再事故防止率を99%まで引き上げたのである。これで石油依存は防がれた。地球温暖化対策にもなり一石二鳥!

次に保障金不正受給者を徹底的に処罰した。与える必要性のないと判断した者らへも一銭も払わなくした。

ある時、戦争が起きた。第2次挑戦戦争だ。両者はほぼ互角。片方の国から救援を求められた。だが、私は無視した。代わりにどさくさで梅島を完全に取り返した。

結局、両軍が廃れきった所をシナ共和国による横槍によって両国は壊滅。漁夫の利で挑戦両国はシナに吸収される。

しばらく後、シナ共和国とロミア連邦の間に戦争が起こった。シナは劣勢で、我が国に救援を求めた。案の定私は無視する。その代わりにどさくさで泉画諸島を完全に取り返した。シナは敗北し、連邦に吸収された。

その後、ロミア連邦とメリケン合衆国との間で第3次世界大戦勃発。ロミアは私に救援を頼んだがもちろん無視する。代わりにどさくさで南方領土を完全に取り返した。ロミアは激戦の末、大敗。領土をガッポリ取られ、首都のモスウワのみとなった。我が国はメリケンに協力していたお陰で亜細亜全域の支配権を手に入れた。本当はメリケンのものだが、そこは私の策略である。

ここに大日本亜細亜帝国が誕生する。メリケンは現在、南下に夢中になっている。さぁ、次は君らの番だ。我が国の国力は当時の数十倍。私がいる限り敗北は

ありえないのだ!

ふはははははははははははははは!!!

 

 

 

という夢を見た。最近疲れてるのかな。

 

 

 

 

第七話

「サルとシロが義兄弟に!?どういうこと?」

 

 

安土城にて信奈の前に現れる天竜と良晴。天竜は派閥の話を上手く隠しながら、「信頼」「絆」などの言葉でどうにか誤魔化し、信奈に説明する。といっても派閥の話も天竜が良晴を唆すために考えたデタラメなのだが.....

 

「ふ~ん.....シロは六と万千代と十兵衛からそれぞれ一字貰って、羽柴秀長ね.....サルもそれに合わせて、羽柴秀吉かぁ~.....あれ?『吉』は?」

 

良晴はハッと気付く。史実で秀吉は幼名の「日吉丸」からとったと言われている。だが、良晴にはそんな幼名などない。

 

 

「あっ....あのな、信奈!実は俺の幼名がひよし....」

 

「『よし』じゃありません。『きち』です」

 

 

良晴の下手な言い分を天竜が遮った。

 

 

「へ?..........い!?」

 

 

信奈がそれに気づき、顔を赤くする。良晴は未だに理解しておらず、その光景を見ていた長秀は頭を抱える。

 

 

「私も応援していますよ信奈様。可愛い教え子.....いえ、弟のお嫁さんがこんなに美しい方とは、兄として誇りです」

 

「おおおおおおお嫁さんなんて!私はそんな!!」

 

「何言ってんだよ天竜せん.....さん!」

 

「私は教師です。貴方がたの年頃の恋路は粗方理解しているつもりですが?」

 

「むぅ~.....」

 

「良晴と結婚するという事は私の義妹にもなるんですね。信奈様の義兄になれるなんて感激だなぁ」

 

「だぁ~も~.....うるさい!!」

 

 

結局、信奈の爆発によってその場は流されてしまった。だが、内心信奈は嬉しくもあった。自分の恋を応援してくれるのは万千代と弟の信澄夫婦ぐらいだったからだ。1番応援してくれていた義父母の道三と久秀はもういない.....

 

 

「でっ!.....山城に寺子屋を建てたいんだって?」

 

「はい。それはかくかくしかじか.....」

 

 

天竜は十兵衛に説明した理由と同じ説明をする。

 

 

「いいわ!許可する!ただし条件が2つあるわ」

 

「条件とは?」

 

「どうせ作るなら堺にしなさい。あっちの方が市民で賑わってるし、その寺子屋は身分、性別問わず入学自由なんでしょ?だったら断然堺の方がいいわ!」

 

「確かにそうですね。検討しましょう。して、2つ目は?」

 

「サルの強制入学が条件よ!」

 

「何でだよ!」

 

「算術もできないサル人間をしつけてやるのよ?もっと喜びなさい」

 

「いや!未来の義務教育を終えた俺様に今更勉強なんて必要ないのさ!」

 

「何を言ってる。『日本史の評定4、国語3以外はオール2!数学に至っては1』のお前から勉強をとったら何が残る?将来は確実なNEETだぞ?」

 

「それがサルの成績?数学って算術のことよね?最悪じゃない」

 

「ぐわっ.....!ここにリアル担任いた!.....天竜さん、俺はこの時代でバリバリ大名やってるから勉強は.....」

 

「アホか!もし急に未来へ強制送還された場合どうする?お前がこの時代に来てから一度でも勉強したか?してないだろ?1年も勉強サボってたんだ。だったらお前は遅れた1年分以上の努力が必要なんだ!別に受験に勝てとまでは言わない。だが、日本人学生としてやるべき事はやって貰う。

『いつやるか?今でしょ?』」

 

「うわ~ん!天竜さんが教師モードに入っちゃった!」

 

 

「いつやるか?今でしょ?」

 

 

「2回言うなぁ~!そのセリフは俺のトラウマなんだ!」

 

「..........この2人本当に未来人だったのね」

 

 

2人の会話が全く理解出来ない信奈は改めて良晴の言っていた事を信じる。1人が言えばホラだと言われるが、2人になればその話にも信憑性が出てくる。

こうして良晴の『天竜塾』の強制入学が決定した。そして、何故か勝家と犬千代の強制入学も決定する。

 

「平手のじいが死んでからあの2人に勉強教える人いなくなっちゃったからね。特に勝家はそろそろ何か対処しないと危険よ」

 

 

軍神とうたわれる上杉謙信に対し、未だに特攻しかできてない柴田軍。放っておけば全滅の可能性もあるのだ。

 

 

「良晴を含めて3人にはそれぞれ大きな仕事がある。何も毎日登校しろというわけじゃない。ある程度余裕ができて、気が向いたらでいい。だが、登校拒否は許さん。来い!教師.....いや、兄としての命令だ!」

 

「どっちだよ!」

 

 

 

 

それから暫くして、堺に寺子屋「天竜塾」が開講する事になる。市民達は最初、怪しげな宗教屋と思って近づかなかった。だが、この塾のモットーは「入学条件」「入学料・授業料」が存在しないという事だ。興味本意で見学をする内に本気で入学を考える市民も現れた。その情報を聞きつけて、我が子を入学させたいとわざわざ遠くの地方からやって来る親子まで現れたのだ。始めは商人の若者や子供を積極的に取り入れた。武家の子では、市民達が遠慮をするからである。そのうち農村からも入学者希望者が現れるなど、開講1ヶ月で大にぎわいだった。成績に合わせて「壱・弍・参」で教室を分けるなどし、信奈の許可を貰って敷地を増やしたりし、経営費も出してくれたお陰で寺子屋はより一層豪華になっていった。

 

ただし、ここで問題が生じる。教師が足りないのだ。生徒が10人足らずだった頃は天竜1人でもなんとか出来た。しかし20、30と増えてくると、流石の天竜も手が回らなくなる。天竜は寺子屋だけでなく、己の軍の整備も同時に熟していたのだ。

天竜軍は志願兵もまとめて吸収したために、当初の倍以上、3500にまで膨れていた。中には丹波出身の兵もおり、丹波平定を成し遂げた天竜に憧れてわざわざ仕官をしたのだ。一家臣が個人で領有するには充分過ぎる兵力だ。彼らへの指導の問題、給料、次の政策。これに加えて寺子屋だ。この年で過労死するかもしれない。

 

 

「どっちか専念した方が良くね?」

 

 

前に良晴が俺を案じてそのような言葉をかけていた。確かにそうかもしれない。そこで天竜は策を練る。

 

 

「お前らにも手伝って貰う。ハルは国語、小次郎は数学、ヒコは体育を担当してくれ!」

 

 

弟子に手伝いをさせる事にした。卜伝の下にいた際、彼女らに勉強を教えていたのは天竜である。特に小次郎は教師としての才能があったのか、一際人気の講師になった。おっさんの入学希望者が増えた気もするが.....

ちなみに体育も導入した。普通は剣道などを教える所だが、商人や農民の子供に教えてもしょうがない。その為、未来の体育の授業を採用する。至ってシンプルな駆けっこやサッカーだ。偶然にも、良晴が南蛮蹴鞠としてこの世界に導入していてくれたお陰で生徒は皆楽しく授業を受けた。むしろ教師である氏真の方がウキウキしていた。

 

 

「あたしはっ!!?」

 

「お前は成績悪いだろ!とても教師にはできん。生徒としてちゃんと授業受けろ」

 

「うぅぅぅ~.....」

 

 

昔からサボりがちの武蔵は生徒として強制入学に.....

 

 

「テン兄様は頑張りすぎなのです。ちょっとはお家で休んで下さいなのです!」

 

 

とある少女が天竜に言う。天竜を兄と呼ぶ少女。読者ならもうお気づきであろう、彼の新たな義妹のねね.....

 

 

 

 

 

 

 

 

ではなかった。

彼女の名は木下秀俊。通称は辰之介。

え?だれ?オリキャラ?と思うのが普通だろう。それもそのはず、彼女の名は別の名前で有名だからだ。

 

 

 

 

時は遡り、長浜城。

良晴と天竜が義兄弟になった事を伝えるべく、唯一の親族であるねねに伝えに行った時のこと。

 

 

「兄様は羽柴秀吉になられたのですか?

兄様に兄様ができたのですか?」

 

 

いくら頭のいいねねといえど、突然の事で少し混乱している。すると天竜がねねをスッと持ち上げて抱っこをする。

 

「はじめまして。今日からねね殿の義兄となった羽柴天竜です。始めは慣れないかもしれないが、ゆっくりでいいから心を開いてくれると嬉しいな」

 

 

そう言って天竜はねねに笑顔を見せる。ねねはポッと頬を紅潮させ、うっとりした顔で返す。

 

 

「ねねにござる.....天竜殿.....どうぞよろしゅう.....」

 

「なんか俺の時とだいぶ違くねぇか?」

 

 

良晴の時は元気の良い返事の後、サル殿と呼ばれながらお玉で頭をポコポコ叩かれてたっけ?

 

 

「兄様が2人になりましたな!では、これからはそれぞれヨシ兄様、テン兄様と呼ばせて貰いまするぞ!」

 

天竜が穏やかな表情でねねを撫でていると.....

 

 

「天竜.....殿?」

 

 

部屋の奥からか細い声が聞こえる。良晴と天竜がその方向を見ると、小さな女の子が襖の影から覗いている。

 

 

「ねね、あの子だれ?」

 

「ねねの従姉妹にござる!辰之介、こっちに来なされ!」

 

 

すると、辰之介と呼ばれた少女がオドオドしながら出てくる。雰囲気が半兵衛に似ているなと思う良晴。

 

 

「木下秀俊なのです.....」

 

 

彼女がボソッと答える。名前からすれば姫武将なのだが、イマイチ名前にピンとこない良晴は後世にも名を残せなかった武将なのだと思った。だが、天竜は.....

 

 

「すまない。もう一度名前を言ってくれるか?」

 

「?.....木下辰之介秀俊です.....」

 

「やっぱり.....」

 

「あの.....?」

 

「辰之介!今日から俺の義妹になれ!」

 

「..........ふぇっ!?」

 

 

天竜が突然、謎の提案を持ち出す。ついに死素魂(シスコン)に目覚めてしまったのか?

 

 

「おいおいおいおいおい!ちょっと、天竜さん!それってどうゆう.....」

 

「天竜殿の義妹になれるなんて光栄なのです!あぁ、私はまだ神に見放されてなかったなのです!」

 

 

辰之介が急に元気になる。さっきとは打って変わり、今度はねねみたいだ。

 

 

「今日から4人兄弟だ!一気に賑やかになるな!」

 

 

「ちょっと、待て!勝手に妹増やすなよ!」

 

 

良晴が天竜に指摘すると、辰之介はまるで死刑宣告をくらったかのようなどん底の顔をして良晴を見る。

 

 

「そんな.....秀吉様.....私に死ねと.....?」

 

「いやいやいや!言ってないよ?そんな事」

 

 

すると辰之介は涙を流し、酷く落ち込む。

 

 

「あ~あ~良晴。小さい子泣かした~」

 

「ヨシ兄様.....最低ですぞ!」

 

「が~!!いいよ!妹になってもいいよ!」

 

「ぐすっ.....ありがとうございましたなのです」

 

 

 

 

それ以降も辰之介は良晴を怖がり、天竜やねねにしか心を開かなかった。彼女を一度、その場から外した良晴は当然天竜を問い詰める。

 

 

「どういうつもりだよ天竜さん!いきなり得体のしれない子を義妹に引き取るなんて!」

 

 

彼女、木下秀俊の両親はつい最近に病で亡くなったらしく、孤児になっていた所でねねを頼ったのだ。そのような境遇を同情する所もあるのだが、良晴には独断で契りを済ませてしまった天竜には納得できる所がない。

 

 

「歴史好きのお前でもあの子の正体は流石にわからんか」

 

「正体?あの子が後に名を残す武将に成長するのか?」

 

「あぁ、かなり有名だぞ?」

 

 

良晴は思考を探る。木下秀俊、木下秀俊.....全く出てこない。

 

 

 

....................あれ?木下って.....

 

 

 

 

 

 

 

「あの子は小早川秀秋だ」

 

 

 

 

 

 

 

「...............えぇぇぇぇぇ!!!?」

 

 

読者の中には濃いマニアとして気づけた者もいるかもしれない。

「小早川秀秋」元の名は木下秀俊。史実ではねねの甥として誕生し、豊臣家長男「鶴松」が死んだ際、秀吉に養子入りし、将来は関白職も約束されていたのだが、秀頼が生まれてしまったために、現在は敵方にいる小早川隆景の養子に出されてしまった悲運の武将である。この世界なら、いずれは隆景の義妹と出されるであろう。

 

 

「あの子は外には出さん。俺の後継者として立派に成長させてみせるさ!」

 

 

天竜は高らかに宣言するが、良晴には小早川秀秋に対していい印象を持ってない。もちろん史実の方だが、朝鮮出兵では大将にもかかわらず前線に出て多くの首をとったと言われる。だが、そのうちの殆どが非戦闘員の女子供であった為、秀吉にわざわざ呼び戻され、領地没収というきついお仕置きを受けている。

関ヶ原では当初、西軍についたが家康からの裏切り状も貰っており、優柔不断でどっちにしようか迷って、最後は家康に鉄砲を撃たれてビビり、東軍の味方をする事となる。最期はその時に裏切った大谷吉継の亡霊に呪い殺されたという逸話もあるのだ。良晴には天竜が何故、秀俊をしきりに側に起きたいのか理解できないのだ。

 

 

「辰は天竜殿にずっと憧れてたなのです!大将が前線で戦う姿はカッコイイのです!」

 

「だよな!やっぱ『王から動かないと軍も動いてこねぇんだよ!』やっぱ気が合うなぁ~」

 

「私もねねちゃんと同じくテン兄様と呼んでもよろしいですか?」

 

「おぉ、呼べ!代わりに俺もお前をシンと呼ぶ」

 

「ありがたき幸せなのです!」

 

 

とびきりの笑顔を天竜に見せる秀俊。もしかしたら朝鮮出兵の時の原因は天竜かもしれないと思う良晴。どうやら初期の反応は家族を失って落ち込んでいたのだろう。だが、新しい家族が出来て、本来の彼女に戻ったのだ。彼女の年齢はまだ10歳。戦場に出るにはあと2年待てと天竜に言われ、現在は天竜塾に通っている。

 

 

 

 

そんなある日、

今日は南蛮語の授業だった。主な生徒はキリシタンの子供。南蛮寺からフロイスも駆けつけ、授業の助手をしている。

 

「なぁ~天竜さん。俺も南蛮語覚えなきゃだめか?英語しか分からないんだけど.....」

 

「ほぅ、お前が英語を分かるのか?」

 

「アタ坊よ!英検5級持ってるぜ!」

 

 

自慢になるか?

 

 

「では.....

Your face resembles the monkey truly.

Carrying out an orthopedic surgery  it is ?」

(君の顔面は本当にサルそっくりだねぇ。

整形手術をオススメするよ?)

 

「うぇっ?.....Yes, I do!」

(はい。します)

 

「全然だめじゃねえか」

 

「難し過ぎるわ!っていうかモンキーって聞こえたぞ?今なんて言ったんだ?」

 

「勉強して理解するんだな」

 

 

その光景をフロイスが笑いを我慢して、真っ赤になりながら見ている。

 

 

「すみませんフロイスさん。布教の仕事もあるのに、わざわざ来て下さって.....」

 

「いえ、これも布教の一貫です。天竜さんが我が国の言語を子供達に教えて下さるお陰で、これからは聖書の原文を教える事もできますし、いずれはこちらから信者を本国までお連れする事もできます」

 

 

史実、1582年には宣教師ヴァリニャーニの勧めで天正遣欧使節として4人の少年が旅立っている。個人的に好きなのは中浦ジュリアン。

 

 

「それにしても良晴さんにこんな素敵なお兄様がいたなんて知りませんでした」

 

「できたのつい先日だがな」

 

 

天竜、良晴兄弟化の話は良晴の改名と合わせて各地を回る事となる。その中でも一際驚いていたのが十兵衛だ。

 

 

 

「天竜が相良先輩.....いえ、羽柴先輩の義兄に!?.....という事はいずれは天竜は私の義兄にもなるですか!?..........なんか複雑な気分です」

 

 

彼女の脳内ではすっかり良晴との縁談は当たり前となっているようだ。

話は織田家に留まらず、敵方の大名にも、伝わる。

 

 

「相良良晴が羽柴良晴にか.....やはりあの男は面白い」

 

「兄ですって!?風魔!すぐに奴の素姓を洗い直しなさい!」

 

「相良良晴の兄に白い鬼が?こうしちゃいられない!」

 

 

それぞれ武田信玄、北条氏康、伊達政宗は思う所があったらしい。梵天丸に至っては何かやらかす気だ。

 

 

 

「にゃみゅにゃみゅにゃぶつ。にゃみゅにゃみゅにゃぶつ.....」

 

突然、あやふやな念仏を唱えながら、ボロボロの格好の少女が寺子屋の中に入ってくる。キリシタンばかりの教室に突然仏教徒が入ってきたので、生徒は皆驚く。

 

 

「伝えないと.....相良良晴に.....伝えないと.....」

 

「呼ばれてるぞ良晴!」

 

 

少女のか細い声を聞き取った天竜がこっそり居眠りしようとしていた良晴を叩き起こす。

 

 

「ふぁっ!?..........ふぁれ?」

 

「おぉ.....相良良晴.....」

 

 

良晴の顔を見た少女は救われた表情で近寄ってくる。

 

 

「やっと見つけた.....ここまで長い道のりだった。歩いて、歩いて、途中何回も転んで.....でも、やっと見つけた!」

 

 

弱々しいが満面の笑みで良晴に近寄ってくる。.....が、そんな彼女に対し良晴は.....

 

 

 

 

「あんた誰?」

 

 

 

 

ガーンΣ(゚д゚lll)

少女はその場で力尽きた。

 

 

 

 

「.........良晴さん。この子顕如ちゃんじゃないですか?」

 

「えっ?.........言われてみれば.....でも、何で猫耳も尻尾もないんだ?」

 

「そんなことより早く手当てしてやんないと!

皆すまん、緊急事態のようだ。今日の授業はここまでとする!」

 

 

天竜の号令で寺子屋は一度閉じられる事となった。

 

 

 

 

「人斬りだぁ~!!」

 

 

その晩、また叫び声が聞こえた。実はここ最近、堺では夜になると突如人斬りが現れ、無差別に市民を斬り殺すという事件が多々発生していたのである。その近辺を蠢く4つの影。

 

 

「ちょいと待ちなよお前さん方」

 

 

その移動は一人の男によって制止される。4人は即座に刀を向ける。顔は頭巾を被っていて、正体不明。返事はない。

 

 

「いきなりかい。話す時間ぐらい欲しいね」

 

 

4人はまるであらかじめ決められていたかのようにフォーメーションを組み、前後左右を挟むように男を囲む。そして一斉に斬りかかって来た。逃れるすべない。

....................この男以外には。

 

 

「皐月」

 

 

彼の放ったのは至極単純。敵の刀を刀で弾いて敵にカウンターを返す。だがそれは一瞬だった。一瞬で4人全員にかけたのだ。目にも留まらぬ俊足で.....

 

4人が一斉に退いた。だが、天竜の攻撃は確実に彼らに効いていた。まだ殺さない。正体を知るためだ。頭巾のみを斬ったのである。

月明かりによって彼らの顔が晒される。彼らは男女2人ずつの人斬りであった。そして、彼らの目は光のない虚であった。

 

 

「貴様らが昨日斬った兄妹は俺の生徒だ。どっちも歴史の成績が悪いから、これからみっちり教えてやろうと思ってたのに.....」

 

 

天竜が話している最中に、男2人が斬りかかってくる。だが.....

 

 

「神無月」

 

 

その直後一方的に斬りつけられたのは男達の方だった。斬りかかって来たのに合わし、刀を置き、流し込む。男達は自ら刀に斬られ、倒れていった。だが、峰打ちのため死んではいない。

 

 

「人の話は最後まで聞け.....次は殺すぞ」

 

「うっ.....あれ.....ここは.....?」

 

 

男達はまるで別人のように様子が変わる。

 

 

「つっ.....!?まさか.....術か?」

 

 

そう思うのもつかの間、もう2人の女人斬りも襲ってくる。

 

 

「.....やっぱ女の子に峰打ちはちょっとな.....」

 

 

天竜は刀を鞘にしまう。そして、俊足にて女人斬り達に近づき、鳩尾への突きを繰り出す。それは身体に傷や痣が残る程の強力なものではなかったが、確実に彼女らを戦闘不能にした。

 

 

「うっ.....あれ?.....わたしは.....何を?」

 

 

彼女らの怪しげな術も解けたようだ。いったい誰が術をかけ、人斬りなんかをしていたんだ.....

.....と天竜が思案していた矢先の事である。

 

 

「あれ?..........鼻血が.....」

 

 

女の一人が鼻血を出していた。始め、天竜が誤って傷つけてしまったのかと思ったが、どうやら違うようである。

 

 

「あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?どうして?」

 

 

鼻血どころの騒ぎではなかった。血は口から耳から目から次々に溢れ出すではないか。

 

 

「いや.....いやっ!怖い!」

 

 

彼女が両手で顔を覆う。だが、その手の爪はすでに割れて赤く染まっている。

 

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

彼女の全身から鮮血がまるで噴水のように噴き出す。天竜や他の3人はただその光景を見ている事しか出来なかった。そうして、体内の血液を全て出し切ったその骸はばたりとその場に倒れた。

 

 

「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 

その直後、男2人も同様の症状が出る。残された女が天竜を見つめた。そして、こう訴える。

“私もアレと同じようになるのか?そうならないように助けてくれ”と.....

天竜はそれを感じとったにもかかわらず、何も返答出来なかった。彼自身、何が起きてるのか分からなかったのだ。

 

 

「いやっ!いやあぁぁぁぁぁ!死にたくない!死にたくない!!」

 

 

男達が絶命した後、彼女にも同様の症状が現れ始めた。

 

 

「くそっ!.....一か八かだ!」

 

 

天竜は彼女に向けて印を組む。

 

 

「南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音!

保護結界発動!!」

 

 

女の周りを不思議な膜が覆う。これで、外部からの干渉は防げる。しかし.....

 

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

彼女の出血は止まらない。

 

 

「くそっ!外部からの術じゃないのか!?ならば!

貧狼巨門隷大文曲廉貞武曲破軍!

時軸結界発動!!」

 

 

すると女の周りが別の膜で覆われた。同時に彼女の出血は止まる。それだけでなく彼女そのものが止まってしまった。

 

 

「この子の周りだけの時間を止めた。この子の対処はその間に済ませよう」

 

 

天竜はすでに血の塊と成り果てた3つの骸を見つめる。

 

 

「これはまさか.....呪い?..........『背水の呪い』か!」

 

 

「背水の呪い」

古くは古代中国の呪術で、任務に失敗した部下への粛清として使われたものだ。主の情報を吐かせないためである。鉄砲玉が銃口に戻る事はないということだ。

 

 

「しかもさっきのは、恍惚の術。いったい誰だ.....俺の計画の裏で何がどうなってるんだ!!」

 

 

結局、その3人は翌日、同じ人斬りの被害者として町人に葬られたのであった。

 




天竜は良晴の担任なのでどうしても良晴の勉強回はやりたかった!
新キャラの木下秀俊。これからいい味を出していけるように楽しく執筆したいです。
いつ書くか。今でしょ!
次回予告
天竜包囲網
~絶体絶命の天竜!まさかの死!?~


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第八話 天竜包囲網

ここで緊急速報!
前回、前々回で出てきた「傀儡の術」は「恍惚の術」に変更しました。
私の無知識が原因です。すみません。
お詫びとして(?)今回は長めの話です。


親戚がお見合い相手を紹介してきた。もうこりごりだった。家に己を支配されるのは.....

相手は名家のお嬢様だった。可愛らしいが、この娘と結婚する気などさらさらなかった。とりあえず表向きだけいい顔して、彼女の方からフルように、少し意地悪をしてみる。

ある日、デートで映画を見る事になった。自由に決めていいようなので、血しぶきドクドクのスプラッター映画を選択する。これで嫌われると思ったが、彼女は大ファンのようで食い入るように見ていた。

どんな女だ.....

次は食事だ。市でも有名な不味いラーメン屋に連れて行く。しかし、彼女は美味しい美味しいと完食してしまう。

どんな味覚してんだよ.....

次はボロいゲームセンター。その次は怪しげな骨董屋。しかし、彼女は全て楽しみ、俺ばかりが疲れてた。そんな事をしていると、

「やっと笑いましたね」

そう言われた。今までが作り笑いだった事を見抜かれていたのだ。それより、俺は今笑っていたのか?

「親同士が決めたお見合いなんて私だって嫌ですよ。でも、今日は貴方と遊べてとても楽しかったです」

途端に涙が出てしまった。この娘も同じだったのだ。20年間ずっと空白に生きてきたが、今日初めて感情を得た気がする。彼女への印象も大きく変わる。

「また遊びに行きませんか?」

「いいですよ!」

心臓の鼓動が早くなっていた気がする。

俺はこの日こそが初恋の始まりだった。

 

 

 

 

第八話

次の日の朝、顕如は目を覚ます。

猫耳も尻尾も無くなり、キャラの立たなくなった顕如に対し、良晴は憐れみの目を向ける。

 

 

「要するに、耳と尻尾が取れちゃったせいで妹の教如に本猫寺を追い出されたんだな?」

 

 

「そうなんだよ!南蛮蹴鞠も漫才も中止すると言われて.....教如が本猫寺でも特に過激派だったことを忘れていたよ」

 

 

話し方まで普通になってしまい、ますますキャラがない。まるで、内藤昌豊のようだ.....まぁ、彼女には「キャラが薄いというキャラ」があるのだが.....

 

 

「そもそもの発端は耳と尻尾が取れたことなんだよな.....何で取れたんだ?」

 

 

「それが分からないんだよ。教如は顕如の血が、猫様より人間の方が濃いからだって.....歴代の頭首にも何人か同じ症状が出た.....って言われたけど、父様も母様もそんな事は言ってなかったよ」

 

 

「でも、その教如ちゃんってのはかなりの読書家だったんだろ?その子が言うからには本当なんじゃないのか?」

 

 

良晴と顕如が少ない知識を絞り出している最中、ずっと思案していた天竜が口を開く。

 

 

「顕如.....お前.....ちょっと臭わないか?」

 

「..........は?」

 

 

良晴も顕如も唖然とする。

 

 

「あの.....天竜さん?.....女の子にそんな事言うのは、ちょっと.....」

 

 

同席していたフロイスが言う。

 

 

「いや.....3日前に川に入ったっきり、ずっと歩きづくしだったから.....臭うかもしれないけど.....そんなに率直に言われると.....悲しい.....」

 

「ん?本猫寺からこの堺までそんな遠くないだろ?」

 

「馬鹿だな相良良晴。だいぶ前に堺に行った時にいなかったんだよ。だから摂津中を歩き回ったんだよ!」

 

「あぁ~.....多分、俺その時播磨にいたわ」

 

 

話が逸れてきたので、天竜が本筋に戻す。

 

 

「いや.....そうじゃなくて、お前からアレの臭いが..........コレか?」

 

 

天竜は顕如の首に掛かっている、お護りのような物を示す。

 

 

「コレは確か前に教如に貰った.....ずっと掛けっぱなしだったよ」

 

「ちょっと借りていいか?」

 

 

天竜は顕如の許可を貰い、その謎のお護りを調べることにする。袋を開け、中から折り畳まれた紙を取り出す。どうやら薬包紙のようだ。包みを開け、中から粉が零れ落ちるのを確認する。すると、それを見て顕如がギョッとした。

 

 

 

 

「これは..........マタタビだな」

 

 

 

 

粉状にすり潰したマタタビであったのだ。顕如はそれを気づかずに、ずっと首に下げていたのだ。そこで良晴はある事を思い出す。

 

 

「マタタビは猫の霊力を奪うんじゃなかったっけ?耳と尻尾が取れた理由ってコレじゃないのか?」

 

 

 

「..........」

 

 

 

 

顕如はワナワナと震えだした。全部教如によって仕組まれていたにだ。よもや、信じていた妹からの裏切りは顕如の理性を掻き消した。

 

 

「うぉぉぉのれぇぇぇぃぃぃ!!!教如めぃ!!よくもこの顕如を騙したなぁぁぁ!!!実妹とはいえ、こればかりは許さん!!!今すぐ本猫寺に戻り、奴こそマタタビの風呂に漬け込んでくれるぅぅ!!!」

 

 

完全にブチ切れていた。

 

 

「落ち着け顕如。今行った所で、猫神の象徴を失ったお前を擁護する者など一人もおらん。勢いだけ任せても解決はしない」

 

 

天竜が冷静に顕如を抑える。

 

 

「じゃあ!!どうすれば!!?」

 

「俺に任せろ」

 

 

天竜は顕如の尻と頭に呪文をかけ始めた。

 

 

 

 

1時間後。

 

 

「何も変わってないよ?」

 

「よく確認してみろ。お前の血液内の遺伝子を無理矢理活性させて生やしたんだからな」

 

 

顕如は己の尾骨の部分を手で触って確かめる。

 

 

「あっ!.....生えてる!!小っちゃいけどちゃんと生えてる!!」

 

「.....しかし、陰陽術ってなんでもありだな」

 

「顕如は猫の遺伝子が強かったからな。普通の人間だって猿の子孫だからできない事はないぞ?やってみるか良晴?」

 

「遠慮する!」

 

 

 

実はこっそり生やしてしまっているのだが(笑).....

 

 

 

「見ろ、相良良晴!顕如からまた神聖な尻尾が生えたよ!」

 

 

っと、良晴の目の前で袴をペロンッと脱ぐ。

 

 

「のわっ!分かったから、脱がんでいい!脱がんでいい!」

 

 

だが、指の隙間から見た顕如のお尻には親指くらいの大きさの尻尾がキチンと生えていた。

 

 

「顕如ちゃん.....良晴さんが鼻を伸ばしてるから、早くしまいましょうね」

 

「いやっ!?伸びてねぇよ、フロイスちゃん!?」

 

フロイスが察して、顕如に袴を履かせる。顕如の頭には、髪を掻き分けないとわかりずらいが、耳たぶサイズの猫耳がピョコンッとついている。これじゃあ、スコティッシュフォールドだ。

 

「では、作戦はこうだ。恐らく、教如は顕如を戻らせないように門前払いにするだろう。だから、顕如は猫の力を失ったのではなく、成長したために、子供のの猫耳と尻尾から大人の猫耳と尻尾に生え変わった事にして、戻ればいい。教如一派が黙殺しても、信者がただではすまい。本来の頭首は長女なのだからな」

 

「乳歯かよ.....」

 

「Q●郎だよ」

 

「それはいい考えだよ.....いや、いい考えだにょ!折角阻止した争いはもう起こしてはいけないにょ!」

 

 

耳と尻尾を取り戻して自信が戻ったのか、語尾も戻り、本来の顕如が復活する。

 

 

「そして、もう一度漫才と南蛮蹴鞠を再開させるにょ!」

 

「それ1番かよ!!」

 

 

 

「念のために俺の軍2500をつけてやる。向こうが武力で無理矢理もみ消そうとするかもしれないからな」

 

「何か悪いな、天竜さん」

 

「弟の友達なら力ぐらい貸すさ。俺は今、丹波攻めの分で留守番役だからな。それにこれは織田家の存亡もかかってる」

 

「.....本当に助かるよ」

 

 

良晴が改めて天竜を感心していたその時だった。

 

 

「相良.....じゃない、羽柴氏!」

 

「「天竜様!」」

 

「五右衛門!?」

 

「阿、吽か!どうした!?」

 

 

2つの家の忍が同時に寺子屋の門を叩く。3人共息切れをし、相当焦っている。

 

 

「毛利が進軍してきたでござる!副ちょうのしかのちゅけとあけちぇどのが戦っているでごじゃる!」

 

 

カミカミだったが、状況は理解できた。

 

 

「坂本城が包囲されてるよ!」「よ!」

 

「何っ!?まさか若狭か?」

 

 

実はこっそりと阿斗と吽斗に若狭の調査を頼んでいたのである。荒木村重の情報は、天竜や良晴にも伝わっている。当然、彼女が起こすであろう未来も.....

 

 

「違うよ。あっちも怪しいけど、敵の正体は.....」

 

 

 

 

 

「「斎藤龍興」」

 

 

 

「何っ!?なんだって今さら出てきた!?」

 

 

斎藤龍興。

あの斎藤道三の孫にして、義龍の息子の男武将。稲葉山城戦では不参戦であったため、存在すら忘れ去られそうであったが、ちゃんと存在しており、義龍と共に放逐する。義龍自身は道三と和解したが、彼個人としては故郷奪った信奈を恨んでるとの事。

 

 

「龍興さんでしたら、私も会ったことがあります。キリスト教にも興味を示され、博識なのでいい方だと思ったのですが.....」

 

 

フロイスが言う。

 

 

「どうやらお互いやることがあるらしい。顕如、俺は行けなくなった。代わりに武蔵とヒコをつけるよ」

 

「分かったにょ!」

 

「阿、吽、お前らは安土城へ行け。信奈に今回の事を伝え、援軍を頼んでくれ!」

 

「「わかったよ」」

 

「良晴。その毛利との戦は恐らく『木津川口の戦い』か『上月城の戦い』だろう。木津川口では九鬼水軍は敗退する。お前の未来知識でなんとかその未来を変えてやってほしい」

 

「まかせろ!.....まぁ、天竜さんについてきてもらうのが心強かったんだけどな.....」

 

「俺も龍興を撃退すれば、すぐに合流するさ」

 

 

龍興軍は三好衆の残党を加えた6000の軍。たった1000の天竜軍なのに、勝つ気でいるから驚きだ。

 

 

「あぁ。この勇士達へ神のご加護があらんことを」

 

 

フロイスの祈りは果たして届くのだろうか。

 

 

 

 

天竜軍の主な主力は、前線指揮官の天竜、親衛隊長の左馬助、戦闘隊長の小次郎である。当然、小次郎以外はウィンチェスター装備の騎馬鉄砲隊である。

 

 

「天竜様.....雨隠千重洲陀を新しくしたのですか?あまり無理をなされると、前のように.....」

 

「大丈夫だ。日にちを開けてゆっくり召喚したからな。前の時は、一度に出したから身体に負担がかかっちまったんだ」

 

「身体に異常がないのであればいいのですが.....」

 

 

今回使用するのはウィンチェスター「M1894」前回の「M1887」以上の性能であり、拳銃弾以外に散弾の撃ち方も教えているので、丹波攻め以上の効果となるだろう。

案の定、勝敗は明らかであった。龍興軍は雑賀衆も何人か雇っており、向こうも鉄砲隊を構えていたのだが、「種子島」と「雨隠千重洲陀」の射程距離には大きな差があった。種子島では届かない位置からの遠距離射撃により、鉄砲隊を撃破。それ以外の敵兵はほとんどが従来の刀、槍の歩兵や騎馬兵であったため、楽に撃破。信奈の援軍の来る前に龍興軍を完全に壊滅させてしまったのである。捕らえられた龍興は宣教師が着ていそうな南蛮式の格好であった。

 

 

「僕は悪くない!悪いのは織田信奈だ!じいちゃんだ!父さんだ!」

 

「餓鬼が。己の力量も測れずに暴れやがって」

 

 

天竜はソードオフしたウィンチェスターに散弾を込めて龍興に向ける。

 

 

「ひぃっ!!?」

 

 

「散弾銃は銃身を切り詰めた状態で発砲すれば、豆粒状の弾丸が近距離でばら撒かれるように出るんだ」

 

 

天竜は顔をグイッと龍興に近づけ、彼を脅す。

 

 

「顔に撃てば、まるで耕したかのように貴様の顔面をグチャグチャに崩してくれるぞ?あぁ.....その時のお前の崩れた顔が見てみたい」

 

 

龍興は天竜の後ろの「顔を耕された死体」が引き摺られてゆくのを見る。そうして急にぶるぶると震え、恐怖を感じる。

 

 

「うっ.....嘘だろ?.....まさか本当に撃たないよね.....?」

 

「もう貴様に存在価値なんてないからな~。撃っちゃおうかな~。よし、撃とう!」

 

「やめて!止めて!やめて!止めて!やめて!止めて!やめて!止めて!やめて!止めて!やめて!止めて!やめてぇ~!!」

 

「ばいば~い♫」

 

 

ドォォォォンッッ!!!!!

 

 

「止めったぁ!!!」

 

 

凄まじい発砲音だったが、龍興はまだ耕されていなかった。というか生きていた。天竜が発砲したのは空砲である。

 

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

見ろハルゥ!こいつションベンちびって気絶したぞ!しかも髪が全部白髪になってやがる!」

 

「天竜様.....悪趣味は程々にして下さいね」

 

 

その後、ひょろひょろになった龍興は兵も財も丸々取り上げられ、「尻の毛も抜かれた状態」にされ、再び放逐される事になる。まるでヤクザの手口だ。

 

 

「あ~あ。なんか呆気なかったな」

 

「こちらの損害は零です。すぐに姉上の軍と合流しましょう」

 

「まぁ、待て。もうすぐ信奈様の援軍が来る。動くのはその後だ..........言ってるうちに来たぞ」

 

 

天竜軍に別の軍が近づく。天竜はすっかり信奈が来たものだと思った。だが、様子がおかしい。いつまで経っても近づいて来ないし、これは.....囲まれてる?

天竜は急いで望遠鏡を取り出し、向こうの旗を確かめる。

 

 

「織田軍ですか?」

 

「..........荒木軍だ」

 

「よかった。味方ですね!」

 

 

左馬助はそう言ったが、天竜は悪い予感しかなかった。相手は大量の種子島を用意しており、なにしろこの位置関係は種子島の射程距離内なのだ。

 

 

「皆、伏せろぉ!!」

 

「「「えっ!?」」」

 

 

天竜が言ったことを理解できたのは半分もいなかった。味方の軍の前で何故伏せる必要があるのだと.....咄嗟に判断出来たのは左馬助、小次郎と近辺の兵のみであった。

 

 

ドドドドドォォォォォォン!!!!!

 

 

まるで豪雨のごとき銃声が鳴り響く。円のように天竜軍を囲んだ荒木軍は天竜軍の外側の兵を次々に射殺する。

 

 

「マズイマズイマズイマズイマズイィ!!.....全軍!坂本城前の敵兵を打ち倒し、城に逃げ込め!このままでは総崩れだ!!」

 

 

天竜の判断は正しかった。ここで天竜軍が倒されれば、次に狙われるのは坂本城だ。ここはむしろ、城で籠城戦をして、援軍を待つべきなのだ。味方に奇襲をかけられ、戦闘どころではない。そもそもだ。龍興の動きもおかしかったのだ。彼自身が囮だったのだろう。

 

 

「天竜様!城側に敵の猛将がいるらしく、撤退を妨げているようです!」

 

 

小次郎からの報告が来る。

 

 

「くそっ!なら俺がそいつの相手をする!小次郎とハルは軍を従えて坂本城へ行け!」

 

「はっ!」

 

「ダメです!天竜様を孤立させるのは危険です!」

 

 

左馬助が否定する。

 

 

「誘導は小次郎だけが行なって下さい。私は天竜様の護衛に入ります!」

 

「ハル!俺だけで充分だ!お前は.....」

 

「天竜様には前例があります。もし、敵陣のど真ん中で倒れたりしたらどうするんですか!そのための親衛隊長です!」

 

「............わかった。ハルに護衛を頼む。小次郎、お前も頼む」

 

「はっ!.....ハル、天竜様をちゃんと守れよ?」

 

「うん!」

 

 

こうして天竜軍は二手に分かれる事となる。

 

 

 

 

「あいつか!」

 

 

そこに大柄な男がいた。銃を撃とうとしてもその前に近づき、兵をなぎ倒している。天竜は薙刀を持って、そいつに掛かっていく。

 

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

バキンッ!!という轟音が響く。天竜は脳内でその男を真っ二つにする光景を予想した。だが、現実は違った。偃月刀がへし折れたのである。

 

 

「ありっ?」

 

 

別に偃月刀が折れかけていたわけではない。偃月刀の刃を上段で受け、その勢いで粉砕したのだ。天竜は咄嗟にウィンチェスターを取り出す。ソードオフの散弾を男の目の前で発砲する。無数の小弾が男の上半身を抉るようにめり込む。これで助かる人間などいないだろう。人間なら.....

 

 

「..........」

 

 

天竜は言葉を発する事も忘れる程、呆気にとられる。抉ったのは男の上皮のみで、身体への大きな損傷は皆無だったからだ。それ程の攻撃を与えて初めて男が正体を晒す。

上皮はまるで血管のように紅く変色し、筋肉が膨れ上がる。そうして衣服が破ける。歯は牙に変化し、顔面がごつくなる。そして、象徴とも言える角が2本。

 

 

「鬼.....鬼人の術!?」

 

 

そう思ったもつかの間、鬼が攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「天竜様、危ない!!」

 

「馬鹿っ!!出てくるな!!」

 

 

ジャリッ!っという嫌な音がした。目の前にいる左馬助に怪我がないことを確認してホッと息をつく。左馬助は信じられないというような顔をしていた。天竜自身、見たくなかった。己の左腕がなくなっているところなど.....

 

 

「天竜様ぁ !!!!!」

 

「大丈夫だ。動くな」

 

 

それ以降も鬼からの攻撃は続いた。とても表現できない嫌な音が辺りに響く。だが、彼は避けない。避ければこの子が傷ついてしまうから.....

 

 

「あぐっ!!!!?」

 

 

今のは響いた。骨まで抉れたのではないだろうか?後で回復呪文唱えないと.....あぁ、左手ないから印組めないや。召喚術で救急箱でもだそうか?.....ハハッ、ばかばかしい。

 

いつしか鬼の攻撃が止んでいた。辺りを見回せば自分の兵は1人もいない。

そうか、逃げ切れたんだな。

代わりに敵の総大将と思わしき人物2人が近づいてくる。1人は良晴と同年代と見られる少女。もう1人は左馬助と同年代ぐらいだ。

 

「女の方が荒木村重。で.....その餓鬼は術師ってとこか?」

 

「ご名答!よく分かったね?」

 

「なんとなくな.....村重にも術を?」

 

「うん!そうだけど?」

 

「たち悪いな.....」

 

「ところで君が勘解由小路君かい?」

 

「..........土御門か」

 

「当たり~!僕が土御門家31代目頭首、土御門久脩だよ!」

 

「..........28代目頭首、勘解由小路天竜だ」

 

 

そこで久脩は首を傾げる。

 

「数多くない?5代目が最後の頭首。6代目は出奔したと思うけど?」

 

「それだけ勘解由小路家は奥が深いのさ」

 

 

天竜はニヤリと微笑み、久脩をからかう。

 

 

「どうでもいいや。誰か、その餓鬼を引き離して」

 

 

そうして左馬助は天竜から無理矢理引き剥がされる。左馬助は抵抗したが、左馬助の身を案じた天竜が彼女に離れるよう伝えたので、泣く泣くいう事を聞く。

そうして久脩は次に天竜の右手に付けている指輪を見つける。

 

 

「それが勘解由小路家がずっと隠し持ってたっていう秘宝だね?6代目の『在昌』をいくら拷問しても、死ぬ最期までありかを言わなかった.....」

 

 

久脩の言った事実に天竜は歯ぎしりをして怒る。勘解由小路家はここまで土御門家にいいようにされてきたにだ。そしてこの天竜も.....

 

 

「コレ.....貰うね」

 

 

そう言って久脩は短刀を取り出し、天竜の右中指を抑え込む。何をされるかは分かっていた。

 

 

「やめてぇ~!!!」

 

 

左馬助が叫ぶ。だが、それはかえって久脩を興奮させるだけだった。

 

 

「ぐっ.....」

 

 

すでに身体中がズタズタとはいえ、指を斬られる痛みは尋常じゃない。だが、彼は決して悲鳴をあげなかった。声を殺す事が唯一の反抗なのだ。

 

 

「やせ我慢しちゃって、つまんないの.....やることやったし、もう死んでいいよ!」

 

 

左馬助は絶望しかなかった。この世で最も信頼する人が自分を守るためにズタボロになり、このままでは殺されてしまうのだ。

 

 

「死ぬ前に2つだけ聞きたい。その鬼は何者だ?並の恨み辛みではそこまで強くはなるまい」

 

「くくく。越前の光源氏さ」

 

「越前...........朝倉義景か!?」

 

 

これで納得いった。黄金の髑髏事件の真相が。鬼人術で有名なのは立川流。その方法で作られ、残された骸は金製になる。そして、その『金』こそが鬼の最大の弱点となるのだ。

なんということだろう。鬼の1匹ぐらいなら、術を駆使すれば容易に倒せただろう。左馬助を助けたばかりに敗北してしまった。

格好つけすぎたかな。後悔はしていない。

 

 

「もう一つ聞きたい。それは恍惚の術だな?お前がかけたのか?背水の呪いも.....」

 

「かけたのは僕だけど、教えてくれたのは知り合いの術師だよ」

 

 

術師だと?

 

 

「もう面倒臭いや。さっさと斬っちゃってよ!」

 

 

久脩は近くの兵に斬首を命じる。

 

 

『ハル!』

 

「えっ!?」

 

 

左馬助は呼ばれた気がしたが、天竜が口を開いた様子はないし、他の人にも聞こえないらしい。

 

 

『緊急だ。お前の心に話してる。声には出さず、そっちも思念で返してくれ』

 

『天竜様.....』

 

『このままじゃどちらも犬死だ。俺の次はお前が処刑されるだろう』

 

『..........』

 

『今の内に言っておく。.....俺を諦めろ!もう助からん!」

 

『えっ.....!!?』

 

『俺の首が落ちた瞬間にそれを持って、一目散に坂本城へ走れ!後ろは見るな。何があろうとも全力で、死ぬ気で走り抜け!!』

 

『.....................嫌です』

 

『ハル!』

 

『そうまでして生きるつもりはありません!潔く、天竜様と共に立派に死にます!』

 

『左馬助ェ!!!!!』

 

『ひっ.....!!?』

 

 

彼からその名で呼ばれたのは本当に久しぶりかもしれない。

 

 

『死に立派もクソもあるか!生きてこそ挽回の機会が回ってくるのだろう!俺の死を無駄にするな!!」

 

『..........はい.....わかりました』

 

 

左馬助は泣きそうだった。泣けば天竜も悲しんでしまうから。彼女は我慢する。

 

 

『それから十兵衛に伝言を頼む。内容は.....』

 

『..........え」

 

 

その内容を聞き、不意に涙を落としてしまった。

 

その後、坂本城下にて一振りの斬撃が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

「小次郎様!左馬助様が戻られました!」

 

「よし!すぐに入れてやれ!」

 

 

小次郎はすんなり返答してしまったが、少し疑問が残った「普通は天竜様が戻った」じゃないのか?

小次郎はすぐに左馬助に会いに行く。彼女は走ってきたらしく、息切れしていた。

 

 

「おぉ、戻ったかハル!天竜様はどうした?」

 

 

小次郎は辺りを見回す。だが、彼の姿はない。

 

 

「いったいどこに..........!?」

 

 

ある事に気づく。赤く目を腫らした左馬助は片手で風呂敷を持っていた。それは落ちていた天竜軍の旗布を袋代わりにしたものだが、それはちょうどアレが入るぐらいに膨らんでいて.....

 

 

「お前.....まさか.....」

 

 

小次郎はゾクリと嫌な予感がした。そんなはずはないと打ち消そうとしたのだが、袋から染み出している鮮血を見て予想は確信に変わる。

 

 

「光春ぅぅぅぅ!!!!!!!!!」

 

 

小次郎は左馬助の胸ぐらを掴み上げた。

 

 

「ちゃんと頼んだではないか『守れ』と.....何故お前だけのこのこ戻って来たんだ!!!!」

 

 

のこのこというわけでもない。左馬助は肩に矢を受け、身体中にも刀傷がある。敵陣を戦いながら駆けてきた証拠だ。だが、そんな努力など小次郎には通じない。

 

 

「なんで.....なんで.....なんでだよ.....ぐすっ」

 

 

そのうち掴む力もなくなり、小次郎はその場で泣き出してしまった。彼女にとっても天竜は掛け替えのない存在だったのだ。

 

 

「泣いてる場合じゃない。早く信奈様を呼んで」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

信奈の援軍が到着したのはそれから2時間後だった。越後の上杉が不穏な動きを見せたため、中々移動出来なかったのである。

 

 

「ごめんなさいシロ。今来たわ!」

 

 

何も知らない信奈は坂本城にズカズカと入ってくる。長秀も一緒だ。

 

 

「斎藤龍興だって?双子から聞いたわよ!.....シロ?」

 

 

いつまでたっても彼は現れない。不思議に思い、辺りを見回す。皆落ち込んでたり、泣きじゃくっていたりする。

 

 

「何があったの?」

 

 

この様子は尋常じゃない。その時、小次郎が信奈に近づいていく。

 

 

「佐々木小次郎だっけ?状況を説明して!」

 

 

彼女の目もまた赤く腫れている。

 

 

「はい。坂本城を包囲した斎藤龍興の軍は極めて短時間で壊滅させる事ができました。..........ただ」

 

「ただ?」

 

「..........若狭が蜂起しました」

 

「....................は?」

 

 

え?何を言って?若狭?弥助が?ありえないわ!シロはどこにいるの!?

と、信奈は大混乱である。

 

 

「龍興軍に夢中になっている間に包囲されました。そのままでの戦闘は危険と判断した天竜様が軍を坂本城に引き上げる事にしたのです。.....が、途中で問題が発生し、天竜様は私達を逃がすために1人犠牲に.....」

 

 

は?犠牲?あのシロが?白夜叉が?冗談でしょ?

小次郎の後ろに左馬助を見つける信奈。

 

「左馬助!シロはどこ?ふざけてるならすぐに出てきなさい!今なら許すわ!」

 

 

だが、誰も返事はしない。左馬助は己の足元を見ている。そこには.....

 

 

「何この袋?悪趣味にも程があるわよ?」

 

 

信奈はもう気づいていたかもしれない。だが、ほんのわずかな希望を持って、彼女は袋を開けようとする。止める者は誰もいなかった。

 

 

「どうせ生きてるオチでしょ。そんなことで私が騙されるわけが....................」

 

 

それ以降、信奈は言葉を出すことはなかった。いや、出せなかった。袋から出てきたのは生首。最初は人形かと思ったが、そうではなかった。

 

正真正銘、天竜の生首だった。

 

 

「そんな..........天竜殿.....」

 

 

後ろで見ていた長秀が腰を抜かしてその場にヘタレこむ。

『じゃあな万千代ちゃん!』

そんな事を言っていた彼は今目の前で変わり果てた姿でいるのだ。

 

『私に天下を見せて下さい。いえ、一緒に見ましょう!』

初めて会った時、信奈にそう言った彼が真っ先に死んでしまった。

 

 

「そんな..........なんでよ弥助」

 

 

彼を殺したのは荒木軍。弥助にほのかな怒りを向ける。

 

 

「村重ではありません。彼女は操られています」

 

「えっ?」

 

 

左馬助が口を開く。

 

 

「彼女だけではありません。恐らく若狭の兵全体が..........犯人は土御門久脩です」

 

 

その名を聞き、信奈は比叡山の事を思い出す。それだけでなく、金ヶ崎で良晴を追い込んだのもあの陰陽師じゃないか.....

 

 

「信奈様、兵をお貸し下さい。私が率いて若狭を攻めます」

 

「.....いいわ!貸してあげる!」

 

「姫さま!」

 

 

信奈もまた、怒っていた。良晴を殺しかけた奴が

新星の天竜を殺したのだ。普通でいられるはずがない。

 

 

「土御門久脩は私自らが倒します。

 

見つけだして..........殺す!」

 

 

少女はすでに復讐の鬼と変わり果てていた。

 




前回の予告通り、主人公が本当に死んでしまいました。
南無阿弥陀仏。
ですが、当然最終回じゃありませんし、話もまだまだ続きます。
ただ、先の展開を知っていても、お気に入りのキャラの死って書いてて鬱になってきますね。
次回予告
安土城の危機
~せめて悲しみとともに~


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番外編

天竜が死んで一区切りついたので、ここで番外編を3話いれます!
作中では語られなかった、サブストーリーです!


1話     一つの太刀

 

その日は丹波にて、十兵衛はこの地に新たな城「亀山城」建てる事にした。まだ、建て始めたばかりなので、城にはとても見えないが、住めない事はなかった。

 

 

「あぁ、完成の暁には羽柴先輩との祝言を毛利勢に見せつけてやるですぅ!」

 

 

相変わらずの十兵衛である。

十兵衛はふと城下に赴く。まだ、市民が住めるような町は出来てないが、そこそこの賑わいはあった。特にここ、明智道場は。十兵衛が新当流免許皆伝ということもあり、十兵衛は鉄砲以外に剣術も積極的に鍛えるようにしている。

 

だが.....今日は違った。

 

道場の前で多くの兵が立ち止まっている。どうやら道場に入らず、中を見ているようだ。

 

 

「何やってるんですか!今日は練習試合のはずですよ?」

 

「光秀様.....それが.....」

 

 

そこにいた一人が答えようとした時。

 

 

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

中から叫び声のようなものが聞こえた。十兵衛はビクッとして中を見ると。

 

 

「うりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「はっ!!」「だっ!!」

 

「ちっ.....死ね......ふっ!!」

 

「やぁ!」「えいっ!!」

 

「そうだ。そこそこ!足が甘いぞ?後ろも気にしろよ武蔵もハルも」

 

 

それは異常な光景であった。そこにいたのは天竜とその弟子ら4人。5人は修行中だった。だが、ただの修行ではない。4人が同時に天竜にかかっているのだ。左馬助は普通の刀、武蔵は二刀、小次郎は大太刀、氏真は小太刀と鞠を使うことで遠近両用だ。全員木刀であるが、一般人が相手をすれば死者がでるかもしれない。

だが、そこまでは対したことはない。問題なのは天竜の方だ。

彼の武器は.....

 

                                      

                                       扇子1個

 

 

長さ30cm程度の扇子で全ての攻撃に対応しているのだ。それは「鉄扇」と言われる、鉄製の丈夫な扇子であるが、ギリギリ武器に入るか入らないかという微妙な大きさだ。もちろん、一般人がが使った所でほとんど役に立たない。天竜が扱うからこそ意味があるのだ。

 

 

「それ、スキだらけだ!」

 

「いっ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

「ちっ....!?」

 

「きゃっ!?」

 

 

急に速度を上げた天竜が鉄扇を4人のそれぞれ、頭、背中、尻、脹脛に鉄扇をパシパシと当て、決着がついた。

 

 

「「「「痛った~.....」」」」

 

 

それぞれの攻撃されたところを押さえながらうずくまる4人。4人も相当な達人である事には間違いない。だが、天竜はそのさらに上をいっているのだ。

 

 

「ふぅ..........ふぅ.....」

 

 

流石に天竜も息が上がってる。これは彼女達だけでなく、天竜にとっても修行になるのだ。

 

これで天竜はまた強くなる。

 

ここで十兵衛にとある疑問が生じる。

 

私はまだ、天竜の剣術を見ていない。

 

 

「天竜!私と勝負しやがれです!」

 

「じゅっ....十兵衛殿!?」

 

「拒否権はないです!すぐ木刀を構えやがれです!」

 

 

見てやる。同じ新当流の剣士として。

 

 

 

 

「はじめっ!!」

 

 

ここに、天竜と十兵衛の決闘が始まる。

まず始めに動いたのは十兵衛だ。

主君として家臣に負けてはいられない!

 

「やぁぁぁぁぁぁ!!....................!!?」

 

 

動き始めていきなり十兵衛の動きが止まった。いや、止められた。天竜は何もしていない。ただ剣を置いただけ.....だが、確実に十兵衛の喉元に置いたのだ。

無駄がない。なさすぎる。

 

即座に後退し、次の攻撃に移る。今度は姿勢を低くしてからの攻撃!....................!?

十兵衛の動きがまたもや止まる。前方にいたはずの天竜がいつの間にか後方にいて、十兵衛の後ろ首にそっと刀を置いている。彼はただ捌いただけなのだ。ただ、その動きに無駄がなさすぎるために、誰もついていけない。

 

それが羽柴天竜。

 

十兵衛は呼吸を整え、構えをとる。

 

 

「鹿島新当流奥義!『一つの太刀』」

 

 

「一つの太刀」

塚原卜伝が得意とした秘剣。十兵衛がかつて松永久秀に対し放った技。十兵衛が馬鹿正直に技名を言わなければ、久秀の両腕を斬り飛ばしていたかもしれない必殺剣。

「篭手を狙う技?」

そうではない。「一つの太刀」の形は扱う剣士によって異なるのだ。

例えば、

十兵衛や彼女の師匠松軒は中段から篭手を狙い、

氏真や元将軍足利義輝は下段から胴を狙い、

卜伝や北畠具教は上段から面を狙った。

それらに共通する事は、どれも相手を一撃で粉砕するという事。その一撃に全てを賭けるのだ。

 

天竜は十兵衛の構えを見て、ニヤリと微笑み、同じように構える。

 

 

「鹿島新当流奥義。一つの太刀」

 

 

中段..........私と同じく篭手か?

 

十兵衛は思う。出す技が等しい場合、どれだけ精巧で、どれだけ速いかが勝負の切れ目なのだ。

数秒間の沈黙の後、十兵衛が動く。その道中ですでに篭手を狙う準備をしていく。

私は土岐の流れを組む名家、明智家の長女です!未来から来た断絶した家の男なんかに負けてたまるかです!

 

 

「この勝負もらったです!!」

 

 

だが、そこに最大の誤算があった。天竜が中段を構えた所から、十兵衛は篭手狙いと判断した。だが、天竜は左手を刀から離したのだ。そのため、本来当たるはずの十兵衛の剣がさらりと外れてしまう。

 

 

「えっ....!?」

 

 

天竜は残った右手で木刀を突き出してきた。

「突き」

面・胴・篭手が一般的な剣道において、時に劣り、時に3つのどれよりも勝る技、それが「突き」

攻撃範囲が最も高く、その分の速さも一際高い、相手の喉元を狙う高度な技。

これは中段=篭手狙いと断定した十兵衛の負けである。

 

 

「天竜ぅぅぅ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

決闘の勝敗は.....

 

 

「光秀様、胴打ち1本!勝負あり!!」

 

「おおおぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

家臣達の雄叫びが走る中、十兵衛だけが浮かない顔をしていた。

 

これは作られた勝利なのだ。

天竜の一閃は確実に十兵衛の喉元を狙っていた。しかし、その一閃はすれすれで真横に逸れたのだ。そしてそのままの勢いで木刀は十兵衛の真後ろに吹っ飛ぶ。篭手を外され、下段に下がった十兵衛の木刀に、天竜が前に出てぶつかって来たので、そのまま1本となる。

他の家臣はてっきり十兵衛の勝利と歓喜したが、十兵衛だけは気づいていた。

 

 

 

天竜はわざと負けたのだ。

 

 

 

家臣達が多く見守る中、自ら挑戦を叩きつけた十兵衛が負ければ、十兵衛への期待は薄れてしまう。だからこそ彼は敗者になることで主君を盛り立てたのだ。

それは忠義なのかもしれない。しかし、十兵衛にとっては屈辱でしかなかった。勝ちを譲れられるなど、剣士としては侮辱に等しいからだ。 

勝負に勝って、剣士として負けたのだ。

 

天竜の弟子達はこの八百長に気づいてるらしく、本気で勝負しなかった事に文句を言っている。そんな中、天竜は十兵衛に視線を送る。十兵衛は理解した。彼は口には出さなかったが、確かにこう顔で言っていた。

 

 

『再戦はいつでもお待ちしてますよ?』

 

 

十兵衛はその時誓った。

 

『次こそはこの怪物に勝ってやるですぅ!!ムキー!!』

 

 

 

 

 

 

 

2話     モンキーテール

 

こんにちは相良良晴改め、羽柴良晴秀吉です。

俺の家族構成は義兄が1人と義妹が2人です。

織田信奈の命令で、中国で頑張ってます。優れた家臣もたくさんいて(幼女多いけど)とても充実してます。この時代に来て初めてのモテ期か?(でも女難の相)

そんな俺がここに来て究極の問題が発生しました。

 

それは.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          

 

 

            お尻に尻尾が生えました。

 

 

「何でだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

姫路城に悲鳴が走った。むしろ堺からここまで気づかなかったのが不思議なのだ。姫路城に待機してた官兵衛に指摘されて初めて気づく。

犯人は分かってる。天竜さんだ。

 

 

「全く.....あの陰陽師にしてやられたね羽柴秀吉..........ぷぷっ!」

 

「せめて羽柴良晴って呼んでくれない?それと笑うな!」

 

 

鹿之介がきた。

 

 

「ぶはっ!.....なんですかその尻尾!?

.....くくく。あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!

..........ごほん、すみません。殿も前途多難なんですね。七難八苦です」

 

「そう思うなら、笑ってくれるな!!」

 

 

半兵衛が来た。

 

 

「くすん。くすん。くすくすくす。私は可愛いと思いますよ?」

 

「半兵衛!?途中から笑ってなかったか!?」

 

 

十兵衛も来た。

 

 

「あぁ、私はとうとう本当のサル先輩と結婚しなければならないんですね」

 

「十兵衛ちゃん.....もう突っ込むの疲れた」

 

 

良晴は部屋にドカッと座り込み、息をつく。

 

 

「半兵衛。なんとかならない?」

 

「う~ん。確かに術で生やされたようですけど、術の内容は『良晴さんの血に尻尾を生やすように命令しただけ』ですね」

 

「というと?」

 

「つまりその尻尾は紛れもない良晴さんの一部というわけです。私の陰陽術ではどうにも出来ません。くすん。くすん。くすくす」

 

「えっ.....マジかよ!?」

 

「今すぐ取りたいのなら、刀で無理矢理斬りますか?

たぶん腕を斬られるのと同じぐらいの痛みだと思うんですけど.....」

 

「ひぃ!いいよ、そんな痛い思いするぐらいなら!」

 

「でしたら天竜さんに取ってもらうしかありませんね。術をかけた本人にしか取れませんよ。.....たぶん」

 

「お~い。なんで自信なくす!?」

 

「兎に角、これから戦が始まるから戻しに行くのはその後だな」

 

 

いったい何日後ですか官兵衛さん!

これじゃあ、某戦闘民族野菜人だよ!!これからは満月を見ないように気をつけないとな~..........ってバカ!

 

 

「「「がはははははははは!!!!羽柴の坊主が本物の猿になってら~」」」

 

 

川並衆の連中にも笑われる。女の子達は兎も角、こいつ等に笑われるのは腹立つ!

 

 

「もういいや..........俺の脇差どこ置いたっけ?」

 

「殿、真後ろにありますよ?」

 

「お!本当だ。よいしょ.....っと」

 

「「「....................」」」

 

 

良晴は尻尾で器用に脇差を取る。

 

 

「なんか背中かい~な~。よっこら.....せっ」

 

「「「....................」」」

 

 

良晴は尻尾で器用にポリポリと背中をかく。

 

 

「腰も痛ぇな~。よいしょ.....っと」

 

「「「....................」」」

 

 

良晴は尻尾で器用に腰をトントン叩く。

 

 

「なぁ.....羽柴良晴」

 

「ん?」

 

「もう、尻尾そのままでもいいんじゃないか?」

 

「え!?なんで!?」

 

「なんというか.....良晴さんは順応性が高すぎます」

 

「そうかな~」

 

 

戦国時代に突然飛ばされて、たった1年で大名になるなど、もはや化物級の精神力である。

 

 

「自然すぎて、尻尾生えてても普段と変わりませんよ?羽柴先輩」

 

「そんな十兵衛ちゃん!」

 

 

バシンッ!

 

 

否定しようと立ち上がった時に尻尾が鹿之介の頬に当たってしまった。

 

 

「わっ!.....ごめん鹿之介!」

 

「いえ、大丈夫です。それよりもっとやって下さい。はぁはぁはぁ」

 

「大丈夫か!?鹿之介!!」

 

 

ドMモードに入りました(笑)

 

 

 

 

その後。

 

「押されてるぞ!退け~!退け~!」

 

「羽柴先輩危ない!!」

 

「うおっ!?うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

敵の槍兵に突かれそうになってバランスを崩す良晴。

その時奇跡が起きた!!

 

 

バシンッ!

 

 

落馬する瞬間に尻尾が跳ね上がり、敵の槍を弾き飛ばしたのである。そして地面には、尻尾がクッションになって、対した怪我はしなかった。

 

 

ドクンッ!

 

 

その時、良晴の中で尻尾に対する感情が変わる。命を守ってくれた奴に愛着が湧いたのか!?

 

 

「.....お前、最初は嫌な奴だと思ってたけど.....案外いい奴だったんだな。これからも一緒に頑張ろうぜ!相棒!」

 

 

戦中に座り込んで己の尻尾を見て、うっとりしてる。どうみても奇妙だ。

 

 

「何やってるんですか羽柴先輩!早く逃げますよ!!」

 

「はっ.....俺はいったい何を考えていたんだ!?」

 

 

その時彼は誓った。

 

 

『くそ~!すぐさま天竜さんにこんな尻尾取ってもらうぞ~!!チキショー!!!』

 

 

 

 

 

 

 

after story

 

大きな誓いを立てた少年少女は愕然とした。

 

『必ず再戦して、今度は実力で勝つ』

そう誓った少女は実感した。

 

あの決闘の続きは二度と訪れないのだと.....

 

 

『必ずこの尻尾を取ってもらう』

そう誓った少年は実感した。

 

これから一生、尻尾つきなのだと.....

 

 

もう二度と誓いを果たせない。

 

もう二度と会話する事ができない。

 

もう二度とあの腹黒男に会えない。

 

 

 

ねぇ。返事してよ。

 

なぁ。いい加減起きろよ。

 

 

 

すでに冷たい首だけになった彼は何も答えず、誓いは破られることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

3話     メイド イン コリアン

 

ここは堺。港に待機していた滝川一益のもとにある男が再び訪れていた。

 

 

「でっ?今度こそ持ってきたのじゃな?」

 

「それはバッチリ!いい品を用意しましたぜダンナ~」

 

「むぅ?姫は女の子じゃぞ?」

 

「そこはノリで.....」

 

 

天竜は先日、平蜘蛛の欠片というトンチで誤魔化した、大砲の借りを改めて返しに来ていた。

 

 

「こちらはどうでしょう?」

 

 

その時、一益はそのつぶらな瞳を丸くし、その茶器を見る。そして、手に取る。

 

 

「こっ.....これは高麗茶碗かのぅ?にしても、このツルツル感はなんじゃ?日本茶器のようなザラザラ感が全くない!」

 

 

一益はさらにその茶器を撫でるように触る。

 

 

「それに全く凸凹してない!高麗茶碗はいくつか持っているが、これは特級じゃ!」

 

 

一益はその茶器に寛大な評価を与える。

 

 

「それに塗装も良い。普通は黒、白、赤などが一般的じゃが.....これは花畑か?こんなに綺麗に絵が焼きあがるものなのか?」

 

 

天竜はクックックと笑っている。

 

 

「てんてん!これは何という茶碗なのじゃ!?」

 

 

 

 

「その名も.....

 

 

                『金正日』!!!」

 

 

 

 

「きむ?」

 

「そうです!はるか昔の朝鮮、「新羅」の王。

「手浦呑(テポドン)」がお持ちになられていた世界的にも貴重な名茶碗なのです!!」

 

「むぅ.....朝鮮の歴史はよく分からんが、それだけの名茶碗を姫にくれるのじゃな!!?」

 

「はい!一益殿のお陰で丹波戦では勝利が出来ました!それは、勘解由小路家の家宝だったのですが、尊敬する一益殿のためです!差し上げましょう!!」

 

「ほっほっほ!くるしゅうない。代わりにくっきーを嫁にやるぞ?」

 

「そんな、姫さま~」

 

「嘉隆殿、もし信奈様が世界を統一された暁には絶対結婚しましょうね」

 

「そんな、絶対だなんて、照れるなぁ~」

 

「くっきー.....だからそれは断られてるんじゃ?くすくすくす」

 

 

 

 

帰り際に天竜は、滝川派が近くにいない事を確認すると、高らかに笑いあげる。

 

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!

完全に騙されてやんの!!あれは未来の100円ショップから取り寄せた、安物茶碗だよ~ん!」

 

 

天竜によって召喚されたものでした。やっぱり我らが天竜さんは腹黒いです(笑)

 

 

 

 

その後。

 

「うひぁぁぁ!なんでこっちが攻められてるのじゃ!」

 

「姫さま!!?いつ忍び込んだのですか!!?」

 

「いや~.....てっきり圧勝かと思って、船頭で敵船が沈むのを見てやろうかと.....」

 

「むしろ完敗です!ほら、焙烙玉が飛んで来るから隠れて!!」

 

 

ドカーーーンッ!!!

 

 

「ぎゃっ.....!?」

 

 

一益は焙烙玉の爆風ですっ転ぶ。

 

 

パリンッ!

 

 

「あぁーーー!!!!金正日が~!!!!

手浦呑が~!!!!」

 

「なんでそんな大事なものを戦場に持ってくるんですか!!?」

 

 

当然、船頭で勝利の美酒を飲む為である。

 

 

「おのれ~!!姫の大事な金正日をよくも割ったな、村上水軍!!」

 

「あの~.....自業自得では?」

 

 

一益にしては珍しく怒る。

 

 

「金正日の仇は必ず取るぞ~!いつかメタメタにやっつけてやるのじゃ!!」

 

 

定価105円の茶碗の敵討ちを誓う一益であった。

 




「姫の大事な金正日(笑)」
お楽しみ頂けたでしょうか?
さて次回はキチンと本編に戻ります!
べっ.....別にネタが切れてたんじゃないんだからね!


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第九話 安土城の危機

緊急事態により即席で書きました。
そのため、後半はグダグダしてます.....
理由は
原作10巻が発売されたから!
買ったけどまだ見てません!目次見たら、蒲生ちゃん出てたり、木津川口の戦い起きてたり、良晴が関白になってたりで大混乱(泣)
このままじゃ豊臣良晴が誕生してしまう!?

先越された!!(笑)

10巻しだいで天竜の話の流れを変えるかもしれない.....


申し訳ないが、私は皇帝などなりたくない。 それは私には関わりのないことだ。 誰も支配も征服もしたくない。できれることなら皆を助けたい、ユダヤ人も、ユダヤ人以外も、黒人も、白人も。 

 

 

私たちは皆、助け合いたいのだ。 人間とはそういうものなんだ。 私たちは皆、他人の不幸ではなく、お互いの幸福と寄り添って生きたいのだ。 私たちは憎み合ったり、見下し合ったりなどしたくないのだ。

 

 

この世界には、全人類が暮らせるだけの場所があり、大地は豊かで、皆に恵みを与えてくれる。 人生の生き方は自由で美しい。 しかし、私たちは生き方を見失ってしまったのだ。 欲が人の魂を毒し、憎しみと共に世界を閉鎖し、不幸、惨劇へと私たちを行進させた。

 

 

私たちはスピードを開発したが、それによって自分自身を孤立させた。 ゆとりを与えてくれる機械により、貧困を作り上げた。

 

 

知識は私たちを皮肉にし、知恵は私たちを冷たく、薄情にした。 私たちは考え過ぎで、感じなく過ぎる。 機械よりも、私たちには人類愛が必要なのだ。 賢さよりも、優しさや思いやりが必要なのだ。 そういう感情なしには、世の中は暴力で満ち、全てが失われてしまう。

 

 

飛行機やラジオが私たちの距離を縮めてくれた。 そんな発明の本質は人間の良心に呼びかけ、世界がひとつになることを呼びかける。

 

 

今も、私の声は世界中の何百万人もの人々のもとに、絶望した男性達、女性達、子供達、罪のない人達を拷問し、投獄する組織の犠牲者のもとに届いている。

 

 

私の声が聞こえる人達に言う、「絶望してはいけない」。 私たちに覆いかぶさっている不幸は、単に過ぎ去る欲であり、人間の進歩を恐れる者の嫌悪なのだ。 憎しみは消え去り、独裁者たちは死に絶え、人々から奪いとられた権力は、人々のもとに返されるだろう。 決して人間が永遠には生きることがないように、自由も滅びることもない。

 

 

兵士たちよ。 獣たちに身を託してはいけない。 君たちを見下し、奴隷にし、人生を操る者たちは、君たちが何をし、何を考え、何を感じるかを指図し、そして、君たちを仕込み、食べ物を制限する者たちは、君たちを家畜として、単なるコマとして扱うのだ。

 

 

そんな自然に反する者たち、機械のマインド、機械の心を持った機械人間たちに、身を託してはいけない。 君たちは機械じゃない。 君たちは家畜じゃない。 君たちは人間だ。 君たちは心に人類愛を持った人間だ。 憎んではいけない。 愛されない者だけが憎むのだ。 愛されず、自然に反する者だけだ。 

 

 

私の声が聞こえる人達に言う、「絶望してはいけない」。 私たちに覆いかぶさっている不幸は、単に過ぎ去る欲であり、人間の進歩を恐れる者の嫌悪なのだ。 憎しみは消え去り、独裁者たちは死に絶え、人々から奪いとられた権力は、人々のもとに返されるだろう。 決して人間が永遠には生きることがないように、自由も滅びることもない。

 

 

兵士よ。 奴隷を作るために闘うな。 自由のために闘え。 『ルカによる福音書』の17章に、「神の国は人間の中にある」と書かれている。 一人の人間ではなく、一部の人間でもなく、全ての人間の中なのだ。 君たちの中になんだ。

 

 

君たち、人々は、機械を作り上げる力、幸福を作り上げる力があるんだ。 君たち、人々は人生を自由に、美しいものに、この人生を素晴らしい冒険にする力を持っているんだ。

 

 

だから、民主国家の名のもとに、その力を使おうではないか。 皆でひとつになろう。 新しい世界のために、皆が雇用の機会を与えられる、君たちが未来を与えられる、老後に安定を与えてくれる、常識のある世界のために闘おう。

 

 

そんな約束をしながら獣たちも権力を伸ばしてきたが、奴らを嘘をつく。 約束を果たさない。 これからも果たしはしないだろう。 独裁者たちは自分たちを自由し、人々を奴隷にする。 

 

 

今こそ、約束を実現させるために闘おう。 世界を自由にするために、国境のバリアを失くすために、憎しみと耐え切れない苦しみと一緒に貪欲を失くすために闘おう。 

 

 

理性のある世界のために、化学と進歩が全人類の幸福へと導いてくれる世界のために闘おう。 兵士たちよ。 民主国家の名のもとに、皆でひとつになろう。 

 

 

 

※チャールズ・スペンサー・チャップリンより  抜粋

 

 

 

 

 

 

 

第九話

結局、毛利戦は良晴、十兵衛、一益の連合軍は大敗を期す事となった。九鬼水軍は村上水軍の大艦隊の前に歯が立たず、壊滅させられたのだ。これが俗にいう「第一次木津川口の戦い」である。

 

 

「くっきー!すぐに新しい、強い軍船をを作るのじゃ!焙烙玉も効かないような鉄の船を作るのじゃ!」

 

「はい!姫さま!」

 

 

滝川軍は退却をし、同時に羽柴、明智の連合軍も退却する事になる。

 

 

「「どうして.....」」

 

 

それが2人の最初の言葉。

十兵衛には20日ぶり。良晴には5日ぶりの再開であった。

斎藤龍興の蜂起と荒木村重の謀反を同時に対処し、最期は主君の居城、坂本城を命と引き換えに守り通した英雄。

胸に隠した何らかの野望を半分も達成せぬまま散ったエセ悪人。

 

 

「「..........」」

 

 

もはや2人は何も話せることはなかった。

 

その後、摂津の本猫寺に向かっていた顕如たちも戻ってくる。結局、彼女は本猫寺に戻る事は出来なかった。門前払いどころか、いきなり僧兵が攻め込んで来たのである。顕如たちは2500人の兵と共にしばらく応戦していたが、坂本城での天竜の訃報を聞き、徹底戦を叫ぶ顕如を無視して、武蔵と氏真の判断で退却する事となった。天竜が死んだ事で、兵が動揺し始めたからだ。

 

 

「まだ戦うにょ!教如の魔の手からにゃんこう宗を救うにょ!」

 

「このアホ猫!天竜が死んだ以上、これ以上戦えば全滅するのはコッチだ!!」

 

「天竜の..........バカ....」

 

 

顕如を抱え、馬を駆ける武蔵と氏真。

 

 

 

 

 

若狭にて。

天竜を処刑した時点で、信奈の援軍が到着する前に退却していた荒木軍。村重を含めた若狭兵が虚ろな目でボーッとしている中、土御門久脩だけが玉座に座り、イライラしながら貧乏ゆすりしている。

 

 

「何をイライラしておるのじゃ?折角、麻呂が戦勝祝いに来たにおじゃるというのに.....」

 

 

そこにいたのは関白近衛前久。久脩が近畿内をうろちょろ出来たのも彼の後ろ盾があったからだ。本猫寺の蜂起の裏も、新将軍足利義昭以外に彼の斡旋もあったりする。

 

 

「いや.....ちょっとね.....」

 

 

 

 

 

それは3日前の事。

 

「あ~あ、首持ってかれちゃった~.....

ま、精神遠隔感応術(テレパシー)を使ってたから、何かをやらかすかは予想してたけどね」

 

 

ドスッと、久脩は天竜の亡骸をボロ人形の如く蹴りとばす。

 

 

「ふんっ!さらし首にでもしようかと思ってたけどしょうがない.....身体の方を木ににでも逆さ吊りにすればいっか」

 

 

久脩は振り返って死体から遠ざかる。

 

 

「何処の木がいいかな~.....ここは思い切って御所内の神木に!..........は、関白さんが怒るか.....」

 

『くひひ.....』

 

「.....!?」

 

 

誰かが笑った。最初はそこらの兵が笑ったのかと思った。だが、ありえない。恍惚の術は感情というものが抜け落ちるのが特徴だ。

.....では、この光源氏か?

義景は鬼態から人間態に戻っていた。戦闘時以外の義景も恍惚の術と同様に死んだ魚のような目をしてボーッとしている。

となれば.....

 

 

『うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!

ひっさなが~♫俺だよ俺!』

 

「ひっ.....!?」

 

 

振り返った久脩は恐怖のあまり腰を抜かす。そこには、首を失った天竜の骸が立ち上がっていたのだ。

 

 

『俺を殺したとでも思ったかぁ~?

ざ~んね~ん♫これくらいじゃ死なねぇよ!』

 

「そっ.....そんな.....」

 

 

首無し死体が1歩歩く。同時に大量の血液や臓器やらが地面にボトボトと落ちる。

 

 

「こっ.....殺せぇ!!その死体を殺せぇ!!」

 

『うひゃひゃひゃ!!その言葉矛盾してない?』

 

 

ドスッドスッドスッと周りの兵が首無し死体に槍を突き刺す。しかし.....

 

 

『うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!

これは鍼灸療法かぁ~?』

 

 

効いてない!?いや、あれはただの死体。魂はもっと別の.....

 

 

「哈っ!!」

 

 

久脩が首無し死体に術を放つ。すると、死体はまるで上から押し潰されたかのように、ベチャッと平たくなる。すでに人の形はしていない。

 

 

『あちゃ~.....この体はもう使えないや。今のは陰陽術の『重力制御』かい?』

 

 

なんなのだこいつは.....本当に人間か!?

死体は残っていた右手で久脩に指を指す。中指はさっき斬り取られたので無いが.....

 

 

『聞け土御門の小僧。我を倒した事に精々酔い痴れるがよい」

 

「君は....................誰だい?」

 

 

もはや肉塊から腕だけが伸びているだけだが、そこには天竜とは違う別の何かの気配が感じられる。

 

 

『耳の穴を開いてよく聞くがよい。

次の月が満ちたりし夜、

我は破獄の底より復活するであろう。

精々宴の準備でも用意しておくがよい』

 

 

そう言い切ると、肉塊は灰とも砂ともわからないモノとなり、消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

「あの時の言葉が未だ気になってる」

 

「それは『残怨の術』だろうね☆」

 

 

暗闇から突如現れる人物。

 

 

「残怨?」

 

「下級の術師がよく使う手だよ。生きてるうちに己に術をかけて死んだ際に、死体で対象者に言葉や行動を示し、恐怖を与える術なんだ。久脩くんは『イタチの最後っ屁』にまんまと引っかがったんだよ☆」

 

「.....................そうかな?」

 

 

久脩はその男に返答する。

 

 

「仮にも勘解由小路家だよ?例え本家から血が離れていても、少なくとも下級じゃない。もちろん、僕には劣るけど.....」

 

「そんな事より大和に行って来たよ?ちゃんと強力な術をかけてきたから、ここからでも動かせる☆」

 

「それならすぐに動かすのじゃ。早い事に越した事はないでおじゃる!」

 

「はいはい。承知しましたよ関白さん☆」

 

「..........」

 

 

久脩はこの男の話だけでは納得出来ずに、ずっと思案している。

 

 

「それにしても『白夜叉』ですか。どうせなら僕も一試合してからがよかったなぁ。惜しい事をした☆」

 

「..........お主は剣士か術師か絞ったほうがよいでおじゃ?」

 

「い~え。僕はどちらも蔑ろにはしません☆」

 

 

その男は20代くらいの優男であった。

 

 

 

 

 

 

 

坂本城にて

「出兵するとはどうゆう事ですか左馬助!?」

 

 

坂本城下に天竜の首を埋葬し、簡易的な仮の墓を作った直後の事である。十兵衛が左馬助を攻め立てる。

 

 

「荒木軍は退却したばかりで気を抜いているでしょう。そこを奇襲をかけ、土御門久脩の首をあげるのです」

 

「そんな.....天竜が死んだばかりだというのに....」

 

「だからこそです!すぐにでも土御門の首を天竜様の墓前に出さなければ.....天竜様が..........報われません.....」

 

 

ムキのようになっていた左馬助の瞳から涙が再び落ちる。十兵衛には彼女の気持ちが痛い程分かった。左馬助にとっての天竜は、十兵衛にとっての良晴なのだ。

 

 

「私があの方の近くにいることであの方を守れるのだと思っていました。しかし、それは真逆でした。私こそが足でまといだったのです.....」

 

「左馬助.....」

 

「天竜様を殺したのは私です。だからこそ私が決着を着けなければ!」

 

 

十兵衛はこの左馬助の様子を何処かで見た事があった。そう.....今の左馬助は、第六天魔王の信奈にそっくりなのだ。あの時は、良晴が彼女を止めたが、今回は止める事が出来る男がもういないのだ。

 

 

「それから天竜様から姉上への遺言です」

 

「?...........いったいなんですか?」

 

「それは.....」

 

 

左馬助はこの時躊躇した。

言ってしまっていいんだろうか?

天竜様が死んだ以上、言う必要はないはず.....

いや、そんな事すれば天竜様との約束を破る事

になる.....

 

 

 

 

 

 

 

「『十兵衛殿、貴方の事が男として好きでした。

一目惚れしたのが仕官した最大の理由です。

遺言を告白に使ってしまい、申し訳ありません』

との事です」

 

 

 

 

 

 

十兵衛の頭が真っ白になった。

天竜が私に好意を!?

いや待って、だとしたら左馬助は.....

 

左馬助は相当気の毒なはずだ。天竜は左馬助の好意に気づけなかったばかりに.....

 

 

 

「ったく.....信奈もなんで兵を出すなんて言ったんだか.....」

 

「ひゃっ.....羽柴先輩.....って、なんで先輩ボロボロなんですか!?」

 

 

丁度いい時の来たです羽柴先輩!ここは話を変えないと!!と十兵衛。

 

 

「あぁ.....さっき城下に秀俊が来てたんだ.....それで、いきなり斬られた」

 

「秀俊.....あぁ、天竜の.....なんでまた?」

 

「あの子.....天竜さんとの兄妹生活はかなり短かったみたいだけど、相当尊敬してたんだな.....『テン兄様が死んだのは秀吉様のせいなのです!!死んであの世で仕えるべきなのです!!お覚悟なのです!!』だって.....俺とも一応義兄妹なんだけどな.....」

 

「..........今はどこに?」

 

「結局、ねねに抑えられてな。今は天竜さんの墓前で泣いてるよ」

 

「そうですか.....」

 

 

その時、全力疾走でかけてくる3人の影。

 

 

「明智さ~ん!大変だぁ~!」

 

 

武蔵である。

それに気づき、小次郎が出てくる。

 

 

「武蔵!!明智さんではなく、明智殿だ!!」

 

「うっせ泣き虫!それより大変なんだ明智さん!」

 

「知っているです.....天竜はもう.....」

 

「そんな事知ってる!!.....大和の.....東大寺の大仏が蘇った!」

 

「?.....東大寺の大仏なら松永殿が寺ごと焼き払ったのでは?」

 

「そうだよ武蔵ちゃん。だからそれは勘違いじゃないかな?ガ●ツじゃあるまいし.....」

 

「くたばれクソザル!!本当なんだ!!」

 

 

チーン。塞ぎ込む良晴。

 

 

「どうせ尻尾付きの猿ですよ~だ.....

っていうか、口悪過ぎじゃねぇ?」

 

 

女子に初めてくたばれ発言をされ、心を打ち砕かれる。

 

 

「武蔵!冗談もそれくらいに!.....」

 

 

 

「嘘じゃねぇよ!立ち上がって歩いてるのを見たんだ!!」

 

 

 

「「「「!!!?」」」」

 

 

後からかけてきた氏真と顕如も証言する。

 

「ヒコも....................見た」

 

「凄かったにょ!辺り一体揺れてたにょ!」

 

「なんの話?」

 

 

信奈も来る。

 

 

「武蔵!その大仏はどこへ歩いていったんですか?」

 

「摂津からの退却中に見たんだよ!大和の方でズシンズシンしてたのを.....あれは北側に歩いてた!」

 

「じゃあ、この坂本城に!?」

 

「違うにょ。北は北でもあれは北東だったにょ」

 

「なんですって!?」

 

 

信奈が声をあげる。大和から見て北東は近江。

直感で理解した。

 

 

目的地は安土城だ。

 

 

「お知らせします!!本猫寺勢が進軍をしてきました!!同時に伊勢、越前にて一揆の気配が.....」

 

 

使番が走ってきて、要件を伝える。

 

 

「お知らせします!!若狭の荒木村重が謀反し進軍して来ています!同時に高山右近殿、中川清秀殿もそれに従ったご様子!」

 

今回の事件の史実と違う最大の難所は、村重が若狭の大名になったことで、坂本城や山城国を本猫寺と南北で挟んでいることにある。

 

「お知らせします!!大和の盧舎那仏が歩き回っているとの話が.....」

 

 

次々に異変が起きている。まるで天竜という楔が外れたかのように.....

 

 

「「一体何が起きてるのよ(んだ).....」

 

 

信奈は疎か、良晴でさえ想像つかない事が起こっている。

 

 

 

 

 

 

「おぉ!大仏様よ!静まりたまえ~!!」

 

「「「帰命無量寿如来 南無不可思議光

法蔵菩薩因位時 在世自在王仏所

覩見諸仏浄土因 国土人天之善悪

建立無上殊勝願 超発希有大弘誓

五劫思惟之摂受 重誓名声聞十方

普放無量無辺光 無碍無対光炎王

清浄歓喜智慧光 不断難思無称光

超日月光照塵刹 一切群.....ぎゃぁ!!!」」」

 

 

大仏の前に座りこんで念仏を唱える坊主達には見向きもせず、蟻のようにブチブチと踏み潰していく大仏。だれもその歩みを止める事は出来ない。 

 

 

 

 

 

 

「十兵衛は今すぐ摂津の本猫寺勢を抑えなさい!ついでに顕如も連れてってもう一度交渉する事!上手い具合に停戦できれば伊勢や越前の一向一揆も起きなくなるわ!」

 

「はっ!」

 

「左馬助!あんたに1万5000の軍勢を与える!天竜の代わりに若狭を抑えなさい!」

 

「はっ!」

 

「ですが信奈様.....」

 

「十兵衛は黙ってなさい。これはあの子の問題よ」

 

「はぁ.....」

 

「サルと私は安土城に!大仏の話が本当だった以上、そこの防衛戦を張るべきよ!」

 

「あぁ、分かった!」

 

 

信奈がそれぞれに命令を下した。特に左馬助はもはや一軍の将のような扱いだ。

しかし.....

 

 

「参戦しないってどうゆう事なの武蔵!?」

 

「あたしは天竜に従って来たんだ!棚ぼたでのし上がったお前なんかに仕えるつもりはない!!」

 

「右に同じ」

 

 

氏真もだった。

 

 

「私は戦う。天竜様に助けられた命だ。義理をもって返したい」

 

 

結局、弟子達の中で参戦するのは左馬助と小次郎だけであったのだ。ここからも兵達に不安を与えるものがあった。何しろ総大将経験なしの小娘がまとめ上げているのだから..... 

 

 

 

 

 

 

良晴は安土城にて、望遠鏡で遠くを歩くソレを見る。今日は天竜が死んでから3日目の朝だ。

 

 

「ありゃ~本物の盧舎那仏だ。修学旅行で見たまんま.....」

 

 

といっても、良晴が見た大仏は座っていたし、近代に再建されたものなので、原型より少し小さい。今歩いて来る大仏はその一回りも二回りも大きいのだ。

 

 

「焙烙玉を構えぃ!!」

 

 

信奈が指示する。火薬の詰まった爆弾で大仏を焼く気である。

 

 

「所詮、木製の人形よ!!ここで焼き殺せ!!」

 

 

次々に爆弾が爆発する。大仏の周囲一体が火の海に包まれた。

 

.....だが、大仏は止まらない。

爆弾の効果があるのか、表面はドロドロと溶けてるが、それでもケロリとした顔(?)で進行をし続ける。

 

 

「あれじゃあ巨●兵じゃねえか.....」

 

 

今にも大口を開けて破壊光線でも吐きそうである。

 

 

「むぅ!轟天を構えぃ!」

 

 

7門の大砲が用意される。天竜が八上城戦で使ったやり方だ。

次々に爆音が鳴り響き、ボーリング玉サイズの砲丸が大仏に放たれる。

 

 

 

それでも大仏は止まらない。足回りに当て、進行を止めようとしたが、足がドロドロと溶けて、歩兵からアメーバのような形になったため、攻撃が通じなくなってしまったのだ。見てみれば、大仏が袴.....いや、スカートを履いているように見えてしまう。

 

 

「なんとしてでも止めなさい!!!あんな巨体に特攻なんかされたら、安土城は終わるわ!!」

 

 

 

 

 

摂津。

 

「教如!もう馬鹿な事はやめるにょ!!どうしてこんな事をするにょ!!」

 

「ふん。織田信奈がいるかぎりにゃんこう宗は破滅の道を辿るぬこ」

 

 

姉妹は争う運命に。

 

 

 

 

 

 

若狭。

 

「左馬助様!!右軍、左軍、共に奇襲をかけられています!!このままでは総崩れです!!」

 

「くそっ.....!!」

 

「左馬助様!!鬼です!!例の鬼が大量に出現しました!!」

 

「鬼が..........大量!!!!?」

 

前方、左右からの計算し尽くされた戦法に、左馬助の軍は壊滅寸前である。

 

 

「そんな.....私では天竜様の足元にも及ばなかったというの!!?」

 

 

 

 

敵軍の土御門久脩。

 

「あっはっはっっはっははっは!!!!

指輪の力で僕の霊力は無限に膨れ上がる!!!

式神は出し放題!鬼も作り放題さ!!」

 

 

久脩は『鬼兵隊』作り上げる為にわざと若狭の兵を殺して、鬼を作ったのだ。

 

 

 

 

「天竜様っ.....!!!」

 

 

左馬助の叫びが若狭に鳴り響く。

 

 

 

 

再び安土城。

大仏はすでに安土城の目と鼻の先にまで来ていた。城下町の人々は悲鳴をあげて逃げ惑い、良晴と信奈の連合軍が大仏の真下でなんとか食い止めようと槍や鉄砲で足掻いている時、彼らは別の敵にまで注意を向けなければならなかった。

 

敵の術師が大量に現れ、術で兵達を翻弄し、呪殺しているのだ。

そして、大仏の肩には彼らを束ねる幻術師が乗っている。

 

 

「あはは☆やれ~!やれ~!皆殺しにしちゃえ~☆」

 

 

完全に追い込まれた良晴と信奈。

ここで織田の運命は終わってしまうのか!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宇宙天地 與我力量 降伏群魔 迎来曙光

 

吾人左手 所封百鬼 尊我号令 只在此刻

 

我が式神よ、出でよ!!」

 

 

 

 

淡い光と共に安土城前に巨大な魔法陣が出現する。

 

 

「力なき者よ、

我を求めよ!

力ある者よ、

我を恐れよ!

 

悪は悪が裁く!!」

 

 

そうして、その救世主が名を名乗る。

 

 

「我は勘解由小路、最後の頭首なり!」

 




パロディを詰めすぎて大丈夫かな?って感じです。
次回から真面目に頑張ります(泣)
次回予告
歴道の陰陽師
~久脩対天竜 2回戦~


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第十話 暦道の陰陽師

引っ越しの作業などで更新が遅れましたすみません!!
さて、久しぶりの天竜物語をお楽しみ下さい!!


 ドイツの民族同胞諸君!

 本年1月30日、国民結集の新しい政権が樹立された。私と、私の国家社会主義運動がこの政権に参加している。今や前提条件は達成されたと私は思う。この前提条件を勝ち取る事が今までの歳月の目的であったのだ。

 

 

 我々は決して虚言を弄したり、誤魔化したりはしない!従って私は、いかなる時も我が国民に対して、妥協したり口先だけの甘言を呈したりすることを拒否するものである。

 

 

 私は、我が民族の復活がおのずから達成されるとは諸君らに約束するつもりはない。我々が行動するのである、そう民族自身が手を取り合って行動しなければならないのだ。

 

 

自由や幸福や生活が突然空から降ってくると思ってはならない。全ては我々自身の意志と行動にかかっているのである。

 

 

 他所の助けを待ってはならない。我が国家、我が民族以外からの助けを頼んではならない!我々自身のうちに、ドイツ民族の将来は存するのである。

 

 

 我々自身がドイツ民族を、その固有の労働、勤勉、決然さ、不屈さ、頑強さによって繁栄させるのだ。そうして始めて、我々はかの祖先と同じ高みへと再び登りつめることができよう。かつて祖先もドイツを無為に手に入れたのではなく、己の力で築き上げたに違いないのだから。

 

 

 ドイツ国民よ、我々に4年の歳月を与えよ。しかるのちに我々を判断せよ!ドイツ国民よ、我々に4年の歳月を与えよ。私は誓おう。この職に就いた時と同じようにこれからも私は進むという事を。私は給与や賃金の為に行動するのではない、ただただ諸君らの為にのみ行動するのだ!

 

 

※アドルフ・ヒトラーより

 

 

 

 

 

 

 

 

第十話

「出でよ我が式神!」

 

 

巨大な魔法陣から出現したソレは一直線に地上の下級術師達を襲い始めた。

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!化け物ぉぉぉ!!!」

 

「よせぃ!!痛いぃ!!」

 

 

「暴れろ鉤爪竜!雑魚術師共を

斬り殺せ!食い殺せ!」

 

 

天竜が召喚したそれは、足に巨大な鉤爪を持った大きなトカゲであった。良晴はそれを見て思わず、昔図鑑で見たヴェロキラプトルという恐竜を思い出した。数は7匹。20人近くいた下級術師達は次々に人数を減らしてゆく。

 

 

「むぅ~!僕の邪魔をするのは許さないぞ☆」

 

 

大仏の肩に乗っていた術師は片手を天高く挙げ、頭上にて気を溜め、それが火の玉になる。

 

 

「消炭になっちゃえ☆」

 

「天竜さんっ!!!」

 

 

良晴が叫んだのも虚しく、術師が作った火の玉は天竜に向けて一直線に放たれた。天竜は.....

 

 

「出でよ装甲竜!

その硬さを見せてみろ!」

 

 

天竜の目前に背中が岩でできたようなトカゲが出現する。

 

ボシュゥゥゥッ!!!

という爆音がしたにもかかわらず、現状に変化はなかった。

 

 

「何ぃっ!!?☆」

 

 

良晴はそれを見て思わず、アンキロサウルスを思い出す。

 

 

「とどめだ!出でよ暴君竜!」

 

 

グォォォォォォ~!!!

という轟音のような鳴き声と共に現れたソレは、

 

 

「暴君竜よ!そのデカブツを捻り潰せ!!」

 

「ティラノサウルスかよ!!」

 

 

良晴も叫んだのも仕方がない。天竜が最後に召喚したのは、恐竜界でも代表的な白亜紀の大トカゲである。

 

 

「「「ひゃ~!!!竜だぁ~!」」」

 

 

恐竜を知らないこの時代の人からみれば、妖怪や怪物でも現れたように見えただろう。

 

 

「天竜!!やり過ぎよ!」

 

 

信奈が耐えきれずに叫ぶ。

 

 

「大丈夫!こいつらは私の絶対的な指揮下にあります!」

 

 

そこで、敵の術師が恐れ慄いた。

 

 

「竜を操るだとぅ!?勘解由小路が『黒天乃衣ノ龍神』の子孫であるという噂は本当だったか!!☆」

 

 

敵の術師が勝手に解釈をする。

 

 

「よし、暴君竜よ!破壊光線だ!」

 

 

天竜が高らかに叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が.....

『あの~.....ご主人、拙者はそんな大層なモノは吐けませんぜ?』

 

 

暴君竜が器用に喋る。

っていうか、喋れたのかよ!と、良晴。

 

 

「んじゃあ、一番の大技でやっちゃってくれ」

 

『承知!」

 

 

暴君竜はごぁぁっ!と大顎を開け.....

 

 

『音波砲!!!』

 

 

別に何かが出たというわけではない。だが、暴君竜が発した大咆哮は、波動となって伝わり、大仏にぶつかる。

 

一瞬の静寂が続く。だが、ダメージは確実に大仏に与えられ、大仏は背中から破裂した。

 

 

「うわぁぁ!!僕の盧舎那が~!!☆」

 

「すげ~.....」

 

「天竜.....あんたもう人間じゃないわ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な~んちゃって☆」

 

「何っ!?」

 

 

盧舎那仏の頭がバカリと割れた。中から出てきたのは、巨大な鬼だった。

 

 

「これが僕の切り札だよん☆」

 

 

二つの頭、8本の手足、6本の手には剣やら斧やら弓などを持った全長30mの巨人。

 

 

「両面の宿儺鬼か!」

 

「当ったり~☆」

 

 

その時、ヒュンッと暴君竜が消えてしまった。

 

 

「!?.....天竜さんっ!!式神消したら勝てないぞ!?」

 

「すまん良晴..........霊力切れた」

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

「いや、指輪無いから残留霊力だけで戦ってたんだけど、今切れちゃった。ごめん万事休す」

 

「ごめんじゃねぇ~!!!」

 

 

折角の救世主も肝心な所で使えないと頭を悩ましている時.....

 

 

「ねぇ、指輪が戻ればまた戦えるの?☆」

 

 

以外な所で術師から質問が来る。

 

 

「..........あんたの期待に沿えるかはどうかだが、今よりはだいぶ良くなる」

 

「ふ~ん。じゃあ今日は退散してあげる☆帰ろう宿儺」

 

 

すると、天竜のたった一言に振り返って帰ろうとする術師。

 

 

「ちょっと待て!あんたは安土城を潰しに来たんじゃないのか?」

 

「ん~..........そんな命令もされてるけど、僕は個人的に僕より強い人を探してるんだ。君が術師としても強いと分かった以上は、ここで潰しちゃ勿体無いもん☆今度は剣の勝負もしたいし」

 

 

そう言い、宿儺に乗りながらズシンズシンと振動させながら帰ってゆく術師。

 

 

「待て!お前の名前を教えろ!」

 

 

 

 

 

 

 

「主水.....鬼族の正統な子孫、

松山主水だよ☆」

 

 

「松山主水だと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして主水という術師が去った後、

 

 

「もう.....今度あんたが死のうが、そんなに気にしない事にするわ」

 

 

それが信奈の最初の一言。

 

 

「そういや、反魂の術使えるとか言ってたよな.....すっかり忘れてたよ..........それより天竜さんの格好.....」

 

「なんだ?」

 

「なんつ~羽織着てんだよ!!」

 

「そんなに変か~?」

 

 

天竜の服装は普通の黒い着物の上から、『浅葱色の羽織』を着ていた。袖口には『だんだら模様』。そして、背中には『誠』の文字が.....

 

 

「時代間違ってんじゃねぇか!」

 

「いや~。生き返った時、何故か全裸でな。白具足はどっかいっちまったし、どうせならと思って.....」

 

「......にしても新撰組はねぇだろ」

 

「どうせなら髪も結いたかったんだが、ちょっとギリギリだったからな。伸びたらサムライヘアーにでもするよ」

 

「いやいや!問題そこじゃねぇよ!!」

 

 

因みに新撰組の羽織は江戸時代の赤穂浪士が吉良邸討ち入りの際に着ていた羽織をモデルにしているという。

 

.....その赤穂浪士の羽織のモデルが天竜の羽織だという事はまた別の話。

 

 

『まぁ、ご主人を攻めないで下さい』

 

「「...........」」

 

 

信奈も良晴も言葉を失う。

 

 

「あんた誰?」

 

『あぁ、拙者は暴君竜です』

 

「えっ!!?」

 

 

さっきのような恐竜態ではなく、まるで平安貴族のような格好での登場で、思わず前鬼を思い出す。だが、口の上に髭をはやしているので、ハンサムだった前鬼と違い、ダンディだ。

 

 

「あれ?天竜さん、前に式神は出せないって言ってなかったっけ?」

 

「ん?.....まぁ、式神術覚えたのも最近だからな。それまでは召喚術しかないと思ってたからな」

 

「...........」

 

 

半兵衛と前鬼の活躍によって、この時代の術師や妖怪が減りつつある中で、この男の術師としてのステータスがどんどん上がっている事に疑問を抱く良晴。

しかも、松山主水という新手な術師も現れているし.....

 

 

「ぎゃぁ~!!テン兄様のおばけが現れた

なのです!!ナンマンダブ!ナンマンダブ!」

 

 

秀俊が異変に気づき、城から出てきた。

 

 

「おぉ、シン!元気にしてたか?」

 

「へ?ホンモノ?」

 

「あぁ!ちゃんと足もあるぞ!」

 

「あ!テン兄様がいますぞ!」

 

 

ねねも出てくる。

 

 

「「テン兄様ぁぁぁ!!!」」

 

 

2人が瞳に雫を溜めながら、天竜に駆け寄り、抱きつく。

 

 

「なんか妬けるな」

 

「兄弟愛っていいわね」

 

 

良晴と信奈がそれぞれの思いを呟く。

 

 

「ずっとこうしていたいが、そろそろ出陣しないと.....阿保な弟子が先走っちまってるからな」

 

「若狭に行くの?」

 

「はい、信奈様。ついでに土御門の手も捻ってきます!.....ミドロは何処です?」

 

「みどろ?」

 

「私の馬です。南蛮の商人から買ったアラブ馬にサラブレッドの暗示をかけた私の専用馬だったのですが.....」

 

「あぁ、あのでかい馬なら武蔵ちゃんが『形見分け』って言って乗ってったぜ?」

 

「何っ!?後でお尻ペンペンだ!」

 

『あのご主人。馬の代わりに鉤爪竜に乗りなされ。あれ程度なら私も召喚できます。術の補正があるので時速60kmはでます』

 

「『きろ』って何よ?」

 

「それより式神が式神を召喚する事について疑問を抱いてるんだが.....」

 

 

 

 

その後鉤爪竜が召喚され、天竜がそれに跨り、出発の準備をする。

 

 

「本当に兵を付けなくてもいいの?」

 

「私は信奈様の1万の兵を一人で追い詰めた男ですよ?向こうにいるハル達と協力すれば若狭兵ごときなんとでもなります」

 

「.....でも、貴方は一度負けてるのよ?」

 

 

それに対し、天竜は意味ありげな笑みを浮かべる。その意味に気づけたのは暴君竜のみであった。

 

「じゃあ行ってくる」

 

 

ギャァァァ~!!

という鉤爪竜の鳴き声と共に天竜が駆け出す。

 

 

 

全ては計画通り.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「尻尾取ってもらうの忘れてた!!」

 

 

それを見て信奈が爆笑する。今までは天竜の事もあって空気を読んでいたが、やはりツボにはまっていたようだった。

こうしている間に、暴君竜は何処かに消えてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、若狭にて

 

「左馬助様!もう無理です!退却しましょう!」

 

「ハル!ここでの退却は別に恥じゃない!次で挽回すればいいんだ!」

 

 

大吾や小次郎が言うが、左馬助は聞く耳を持たなかった。

 

 

「駄目!!ここで引けば、天竜様は犬死になる!」

 

 

 

「誰が犬死にだって?」

 

 

 

左馬助は驚いて振り返る。そこには一人の男がいた。巨大なトカゲに乗った浅葱色の羽織を着た武将が。以前見た時とはだいぶ服装は違うが、その男はまさしく彼.....

 

 

「てっ.....ててててて天竜様の亡霊が出たぁ~!!!私達があまりにも不甲斐ないからだぁ~!!

うわぁぁぁぁぁん!!!」

 

「う~む.....皆同じ言い分のようだな」

 

「天竜.....様.....?」

 

 

左馬助が震えるような声で話す。

 

 

「あぁ、左馬助」

 

「天竜様~!!!」

 

 

先程の秀俊、ねね同様に駆けながら天竜に抱きついてきた。天竜が1度死んでから、ずっと泣く事を我慢してきた左馬助だったが、ここで全てが崩壊した。

 

 

「あり?その兜俺のじゃん」

 

 

左馬助がかぶっていたのは、天竜の『白夜叉』をモチーフにした特別製の兜である。

 

 

「はい!天竜様のお力を少しでも分けて貰おうと.....でも駄目でした。私には、貴方のような大将としての器のない能無しでした.....」

 

 

天竜はクスリと微笑み、左馬助から兜を外し、その小さい頭を撫でてやる。

 

 

「それでも、必死に俺の軍を仕切ってくれた。

とても感謝してる。お前はよく頑張ってる」

 

 

そう言われた途端、左馬助は再びボロボロと泣き始めた。

 

 

「小次郎。今の戦況はどうなってる?」

 

「へ!?えぇと.....敵は軍を3つに分けて、それぞれ正面、左右で挟まれています」

 

「なるほど.....左右が邪魔だな。こちらも2つに分けるぞ」

 

「5千、5千にですか?」

 

「いや、2千、8千だ」

 

「は?」

 

 

無謀だと2人は反論した。敵の左右はそれぞれ4千の軍なのだ。8千の方は兎も角、2千の方は簡単に壊滅させられてしまう。

 

 

「半分ずつに分けた所で、戦況が泥沼化するだけだ。それよりも、片方に戦力を集中させて、短時間で倒した方がいい。そして、もう片方と合流して全軍で残りの敵軍を倒すのだ」

 

「.....しかし、それでは.....」

 

「あぁ、2千の軍はかなり厳しくなる。ただ、倒さなくてもいい。足止めだけなんだ」

 

 

天竜は小次郎の肩をガシッと掴む。

 

 

「頼む小次郎。お前しかいない。大吾と残った騎馬鉄砲隊も合わせて全力で足止めしてくれ!」

 

 

小次郎は一瞬困惑したが、決意する。

 

 

「元々は天竜様に拾われた命!天竜様のために尽くします!」

 

「すまん小次郎。頼んだぞ!」

 

 

そうして天竜軍は二手に別れることとなった。

 

 

「よし!ここで気合でもいれっか!」

 

 

天竜は左馬助から渡された兜を自分の頭にかぶる。

 

 

「皆のもの聞けぃ!!お前達の主人、羽柴天竜秀長が戻って来たぞ!!」

 

 

その声を聞き、元天竜軍の兵達が士気を取り戻す。

 

 

「天竜様だ.....白夜叉様が戻られた!!」

 

「白夜叉様が黄泉から帰られたぞ~!!」

 

「「「おおおぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

 

それに釣られ、信奈によって追加された兵達にも気合が入った。

 

 

「あの.....天竜様、いいですか?」

 

「ん?なんだ左馬助」

 

「天竜様はどうやって生き返ったのですか?」

 

「そりゃ〜反魂の術で.....」

 

「嘘ですね」

 

「..........」

 

 

この話は2人の間だけで小声でされた為、聞いている兵はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ!一気に畳かけろ!!」

 

 

天竜軍8千の兵が若狭右軍に突撃する。右軍の将を務めるのは中川清秀。天竜には直感で分かっていた。彼もまた操られているのだ。

恐らく高山右近も.....

 

 

「ひゃ~!!白夜叉様だ~!!」

 

「許して下され~!!!」

 

 

この様子だと足軽達にまでは術をかけていないようだ。あくまで近臣兵のみか....

 

 

「道を開けやがれ足軽共!!ボケッとしてると全員斬り飛ばすぞぉ!!!」

 

「「「ひぃっ!!!」」」

 

 

鬼が華麗に戦場を舞う。

 

 

 

 

 

 

 

一方、小次郎の軍。

彼女は倍ぐらいの兵力を持つ、高山右近の軍と戦っていた。

 

 

「怯むなぁ!!ここが正念場だ!!」

 

「「「おおおぉぉぉ!!!」」」

 

 

士気だけなら圧倒していたかもしれない。なにしろ、彼らの主人の天竜が戻ってきたのだから.....

一方の高山軍は、戦力はあるものの、兵達に勢いが足りなかった。主人の高山右近は操られているため、こんな時期に何故自分達が、仲間内で戦っているのか、よく理解できていないのだ。それでも、押されているのは小次郎軍であった。やはり、数での勝負では勝てないのだろうか?

 

 

「くそっ!あともう少し耐えられればっ!!」

 

「小次郎様!これ以上退却すれば、作戦に支障が.....」

 

「分かっているよ大吾。でも、これでは.....全滅だ」

 

 

その時、前方から一人の兵が駆けてくる。

 

「お知らせします!敵軍にて異変が起きています!」

 

 

小次郎は内心焦った。もしここで敵の援軍が現れたとなれば、自分の軍は確実に壊滅する。

 

 

「敵軍の後方から味方の援軍が到着し、敵軍に打撃を与えているようです!」

 

「何っ!?その援軍とは誰だ!?」

 

「武蔵様と氏真様のようです!」

 

「あいつら.....」

 

 

 

 

 

 

 

その頃の2人。

 

 

「全くぅ!!やっぱ、小次郎はあたしが手助けしてやんないとダメダメだな!」

 

「それ.....天竜が言ってた.....ツンデレ?」

 

「ちっ.....違ぇよ!!.....にしても天竜が生きてたとはな.....」

 

「死んだ振りとかあり得ない

..........死ねばいいのに」

 

「敵は小娘2人だ!一気に叩き潰せ!!」

 

 

敵軍が2人のもとに押し寄せる。

 

 

「じゃあ、ヒコ!例の新ワザやっちゃってよ!」

 

「人使い荒いな.....」

 

 

氏真は懐から鞠を取り出す。そして、それを敵軍の方に向かって蹴った。それだけでかなりの勢いだったが、それはただの鞠ではなかった。

 

 

「虐殺用風神蹴鞠!」

 

 

鞠の中央から4つの刃が飛び出す。それが、回転と同時に土星のような形となり、電動カッターのように、敵軍に飛んでゆく。

 

 

「ぐえっ!!」「ぎゃっ!!」「ぎゃひっ!!」

「どしゅっ!!」「にゅわっ!!」

 

 

そうして、敵軍が怯んだ所を今度は武蔵が斬りかかる。

 

 

「奥義!二刀乱れ斬りぃぃぃ!!!」

 

「奥義。一つの太刀」

 

 

「ひぇぇぇぇ!!化物だぁぁ!!」

 

 

彼女達は暴れるだけで数千の兵に匹敵する程の力を持っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

戻って小次郎。

 

 

「おっす、小次郎!合流に来たぜ」

 

「天竜様!?もう左軍を倒されたのですか!?」

 

「あぁ。攻める所まで攻めたら、城の方まで退却しちまった」

 

「凄過ぎます.....」

 

「そっちも頑張ってくれてたようだな」

 

「はい!ヒコ達の援軍もあってなんとか!」

 

「そうか。あとでお礼言っとけよ?当然武蔵にもな?」

 

「うっ.....それは.....善処します」

 

 

天竜は合流した1万の兵の先頭に立つ。

 

 

「機は整った!!ここが快進撃だ!!全軍進めぃ!!!」

 

「「「おおおぉぉぉ!!!」」」

 

 

天竜軍1万が高山軍4千に対し、猛進撃をかける。

 

 

 

 

 

 

その頃の土御門久脩。

 

 

「う~ん。軍師としての仕事は初めてだけど、これ程上手くいくとはね」

 

 

玉座にだらしない格好で座る久脩。

 

 

「どうやらアレは本当にまやかしだったようだね。このまま、奴の軍は全滅の後をたどるよ」

 

 

ちょうどその時、日は沈み、辺りが暗くなってきた頃である。

 

 

「お伝えします!!奇襲をかけていた中川軍、高山軍、共に壊滅!自身の居城へ撤退しました!」

 

「何ぃぃぃっ!!?」

 

 

久脩が従えていた兵は1万3千。対して天竜軍は1万。数だけなら互角な所だが、天竜軍は大将である羽柴天竜がいなかった。そのために、4千ずつの両側からの奇襲で、確実に壊滅できるはずだった。

だが、どうだ?その奇襲部隊が返り討ちにあったのだ。もし、天竜軍の損害がほとんどなければ、本陣の5千に、天竜軍1万がなだれ込む事になる。

 

 

「やばいやばいやばい!!.....そうだ!僕には鬼兵隊があったんだ!人間共に鬼は殺せない!」

 

 

浮かれる久脩だったが、その兵は話を続けた。

 

 

「それが.....その鬼兵隊も壊滅の危機に陥っています.....」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

久脩軍本陣の前線にて。

 

 

「赤鬼参上!」

 

「青鬼参上!」

 

「黒鬼参上!」

 

 

3人の角の生えた武者が鬼兵隊に斬りかかっているのだ。しかも、いとも簡単に久脩の鬼達を撃退している。

 

 

「しっかし、私が前線で戦うなんて思いもしなかったなぁ」

 

「殿はいつも城にいましたからね」

 

「それは嫌味か、直正?」

 

「滅相もない。私も正直、久々の戦場で浮かれているようです」

 

「破目を外すなよ直正」

 

 

2人の会話にもう一人が参加する。

 

 

「氏綱殿こそ、仏頂面のくせしてうきうきしてるじゃありませんか?」

 

「..........言うな」

 

「はっはっはっは!!」

 

 

その3人は、丹波で散ったはずの

波多野秀治、赤井直正、荒木氏綱によく似ていたという。

 

 

 

 

 

 

「強い恨みを持って生まれた『鬼人』はその強さによって力を無限大に広げるが、即席で作られた『鬼人』など、腕力と再生力が高いだけで、そこまで強くはない。『羅刹』で充分倒せる」

 

 

「羅刹の術」

基本は「鬼人の術」と同じ。大きな違いは、生まれた鬼が「理性」を残しているかいないか。鬼を使役するには当然、理性を持っていない方が容易である。だが、理性を持った鬼をきちんと使役できたとなれば、これ程心強いものはない。ただ闇雲に暴れる鬼人と違い、羅刹なら頭脳を使った戦法が可能なのだ。

天竜はこの時の為に、例の3人を殺さずに、羅刹にしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「おのれ~いったい誰が.....」

 

 

その時、一筋の月光が天竜軍の先頭を照らした。それを見て久脩は恐れのあまり、腰を抜かした。

 

 

「かっ.....かかか勘解由小路.....天竜!!?」

 

 

3日前に首を斬り落としたはずの男が目の前にいる。今日は満月。予言通り

「月が満ちたりし夜に蘇る」という形で復活したのだ。

 

 

「土御門ぉぉぉ~!!!」

 

 

天竜が一騎で久脩の所まで駆けてくる。そして、槍を一気に振り下ろした。

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

 

槍の刃が久脩の右手を斬り飛ばす。空に舞った久脩の右手を素早く掴み、中指についていた指輪を外し、自分の中指につける。その後、久脩の右手はボロ雑巾のように投げ捨てられる。

 

 

「うっし!間に合った!」

 

 

天竜が急いでいたのは訳があった。鬼兵隊の大将格である、鬼人義景が追いかけてきたからである。いくら天竜といえど、術なしで奴を倒すには骨が折れる。当然、秀治達よりも強い鬼なのだ。手っ取り早く指輪を取り返す必要があったのだ。

 

 

 

「南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音!

地獄に戻るがよい、人の子よ!!」

 

 

天竜が呪文を唱えた。すると、鬼人義景の足元に魔法陣のようなものが浮かび上がる。そして、そこから無数の悪魔の手のようなものが伸び、鬼人義景を引きずり込む。

 

 

「ぐおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

鬼人義景は抵抗をするものの、ズルズルと地面の魔法陣の吸い込まれてしまった。

 

 

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ~!!!」

 

 

久脩がいきりたつ。

 

 

「ありがとう。土御門久脩。君のおかげで俺は人間を越えられる」

 

「なんだと!?....................はっ!!」

 

 

久脩は気づく。天竜がやろうとした恐ろしい計画を.....

 

 

「まっ.....まさか、読んでいたのか!

僕が君を殺す事を!

斎藤龍興を囮に君の軍を包囲する事も!

若狭の放棄さえも!」

 

「まぁ、最後の1つは『知っていた』が正しいかな」

 

「いや待て......あり得ない!他人を蘇生させる術はあっても自ら蘇る術なんて存在しない!!」

 

 

天竜は久脩のその言葉に対し、不気味な笑みを返すだけだった。

 

 

「さぁ、どうする?お前の切り札の鬼兵隊も鬼人義景も倒した。命乞いでもしてみるか?」

 

「まさか!!」

 

 

久脩は立ち上がり、構える。

 

 

「僕にはまだ、指輪の残留霊力がたんまりある!ここで君を殺して指輪を取り返し、右手はゆっくりと再生させるよ!」

 

「やってみろよガキンチョ」

 

「重力制御!哈っ!!」

 

「保護結界!」

 

 

久脩が放った技は、光の結界によって防がれてしまう。

 

 

「なっ!?」

 

「貧狼巨門隷大文曲廉貞武曲破軍!

時よ戻れ!」

 

 

天竜が放った技が久脩にかかる。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ.....................おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ!!!」

 

 

久脩の身体がどんどん縮み、ついには赤ん坊の姿になってしまった。

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

随分と愛らしい姿になったなぁ!久脩」

 

 

天竜は赤ん坊の首根っこを猫のように掴む。

 

 

「おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ!!!」

 

「貴様といえど赤ん坊を殺すには心が痛い...........そうだ!大人にしてやろう!」

 

 

天竜は赤ん坊をそこらに放り投げる。

 

 

「時よ進め!」

 

「おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ..........うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ.....がががががががががががががががががががががががががががががが.....」

 

 

久脩は赤ん坊から元に戻させる。そこからさらに、青年→大人→老人と急激に成長させられる。

 

 

「おっと!ここで止めておくか。くくくくく.....年は90といった所か?」

 

「お.....おの.....れ.....か勘解由.....小路.....天.....竜」

 

 

上手く話せない程まで老化してしまった久脩。

 

 

「お前ら安部流は『天文道』の陰陽師。天候を操ったり、重力を制御できる。

対して、賀茂流は『暦道』の陰陽師。時間を止めたり、戻したり、進めたり自由なのさ!」

 

「そっ..........そん.....な.....」

 

「その姿のまま余命を過ごすがいい久脩。そして精々俺を恨むこった!くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」

 

 

天竜が足で久脩がトンッと押してやる。すると、ステーンッと転んでしまう。

 

 

「ぎっ!?」

 

 

その衝撃で骨がポキポキと折れてしまう。

骨粗鬆症のようだ。

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

 

これで勘解由小路こそが最強の陰陽師だ!!

 




天竜の復活回でした。
作中で天竜が行った戦略は、あのナポレオンが行った戦法のようです。
次回予告
謎の告白
~貴方を愛しています十兵衛殿~


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第十一話 謎の告白

10巻を読んだ所、猫耳と尻尾を失った顕如が原作と私の作品でキャラがだいぶ違う事に気づきました。まぁ、9巻からの想像で書いたのでしょうがありませんが.....


その日は大学の剣道の試合だった。

すでに決勝の大将戦。当然、私が大将である。

対戦相手を見ると、中々な好青年である。

試合が開始と同時に私は踏み込む。そして、私は気づいた。

こいつ.....弱いな。

たった一回竹刀を当てただけだが、それだけで実力が分かってしまったのである。この試合軽いな。.....そう思った時、

「ヒロ~頑張れ~!!」

対戦相手の恋人と思わしき女性が応援しているのが、目に入る。

そして、その天才的頭脳で全てを理解する。

今俺って.....悪役?

ポジション的にどう考えてもそうだ。だが、私は悪人じゃない。

ここは勝ちを譲るべきなんだろうか?そうして、悪役でない事を証明すべきでは?

何を考えてるんだ私は.....

そうだ!私にも応援してくれる女性はいる!

現在交際中のお見合い相手が!

「..........」

その席は空席だった。

風邪で今日は来れなかった事を今更思い出す。

「「勝って下さい先輩!」」

後輩の事など正直どうでもいい。これは私のメンツの問題だ。

適当に竹刀を振っていた所、対戦相手の面に当たってしまった。

「面アリ!!」

弱過ぎるだろ!?

私が強過ぎるのも問題であるが.....

 

「ヒロ~」「先輩~」「ヒロ~」

 

「先輩~」「ヒロ~」「先輩~」

 

「ヒロ~」「先輩~」「ヒロ~」

 

プツンッと切れてしまった。

コンマ1秒後には私の突き技が決まっていた。

 

「「「やりましたね先輩!」」」

 

「うるせぇよ。雑魚ども」

 

「「「え.....」」」

 

そして、対戦相手には、

 

「剣道は棒遊びとは違うんだぜ?

うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「くそっ!」

 

 

そうして私は心の中で泣いた。

 

「もう.....悪役でいいや」

 

この日から私の悪人デビューが始まったかもしれない.....

 

 

 

 

 

 

第十一話

 

大和の国にて。

 

 

「じゃあ、あんたは本当に関係ないんだな?」

 

「えぇ。私が信奈様の不利になるような事なんてしませんわ」

 

「松山主水とも会った事はないのか?」

 

「えぇ.....私より未来人の貴方の方が詳しいのではなくて?」

 

「いや、知らない事はない。

松山主水。美濃の生まれの剣閣だ。一時は織田家に仕えていたようだが、詳しい話は知らん。確か江戸時代の.....あっ、確か祖父も同じ名前だったからそっちか.....」

 

 

天竜が思案する。彼が鬼族の正統な子孫だとかいう話も、この話し相手に伝える。

 

 

「鬼族.....それに宿儺鬼ですか.....」

 

「なにか分かるか?」

 

「天竜殿は名のある術師の一族は皆、妖怪の子孫だという事はご存じで?」

 

「あぁ、安部は妖狐。賀茂は龍神。芦屋は天狗」

 

「そして私は蛇神です。そして、松山は鬼」

 

「それは『鬼人の術』とは違うのか?」

 

「全く別物です。鬼人は他の術師が鬼の力を欲して作り上げた紛い物にすぎませんから.....本物の鬼にはかなわない。そして宿儺鬼」

 

「『日本書紀』に登場する化物。大和朝廷の兵士によって飛騨に封印されたというが.....」

 

「どうやら封印を解いちゃったみたいですね」

 

「まいったな。そんな奴が相手なのか.....」

 

「あら?龍神は鬼すらも統治する程の強さだったと聞きますよ?」

 

「俺はそこから血がかけ離れ過ぎている。主水の方が血は濃いだろう」

 

「ふふふ」

 

 

天竜は大和のとある茶屋にいた。その店先である人物と待ち合わせをし、こうして会話しているのだ。その相手は誰もが納得するような美少女で、童顔ではあるが、煙管を吸っているので、大人の雰囲気が漂う。はたから見れば、美男美女がこうしてお茶を飲んでいる光景であり。通りかかった人物は皆、それに見惚れてしまう。

 

 

「それにしても、貴方の方が噂は凄いですよ?

『黄泉帰りの白夜叉』さん?」

 

「まぁな」

 

「仏教徒からも切支丹からも大評判ではないですか。神の生まれ変わりだと.....まさか本物の龍神にでもなるつもりですか?」

 

「そのまさかだよ」

 

「ほう.....」

 

「人々の指示を得るには、人間離れしたような行動が必要だ。『軍神謙信』『魔王信奈』のようにな。だが、それでは畏怖の念しか得られない。俺が欲しいのは、信仰心だ」

 

「あら?新しい宗教でも始めるつもりで?」

 

「いいや。民衆および兵からの指示が欲しいのさ。切支丹の指示する、イエス・キリスト。にゃんこう宗の猫神がしかり。処刑の3日後に蘇ったキリストが如く、鉄砲で撃たれても平気な猫神が如く、首を斬り落とされても3日後に蘇った神として俺が誕生する」

 

「へぇ~。でも、そのために一度命を落としたのは、高くついたのでは?」

 

 

その質問をされ、天竜は数秒間黙り、再び口を開く。そして驚くべき真実を告げる。

 

 

「実は生き返ってねぇんだ」

 

「!?」

 

 

これには彼女も驚く。

 

 

「すると貴方は幽霊で?」

 

「いやいや、そうじゃない。

そもそも死んじゃいないんだ」

 

「?.....首を斬られても生きていたと?」

 

「それも違う。あんたと同じ方法を使ったんだ」

 

「!.....なるほど」

 

 

「憑依の術」

自らの肉体を捨て、別の肉体に魂を移し替える事。別の肉体は死体でも、損壊がそれ程酷くなければ問題はない。別の肉体が生者の場合は相手の魂を封印するか、抹殺をする。封印の場合は、再び肉体を離れれば復活も可能である(その際、憑依時の記憶はない)。

 

 

「殺される直前に近くの兵に憑依してな。魂は殺さなかった。変死なんかで久脩に気づかれる可能性もあったからな。

まぁ、お遊びでかけた『残怨の術』にも面白いぐらい引っかがりやがったからな」

 

「.....元の肉体は『暦道陰陽術』による、巻き戻しで再生させたと.....」

 

「首だけだったから、完成に3日かかったけどな。まぁ、そのお陰でイエス・キリストに被った復活が出来たがな」

 

 

彼女は一度大きく息をついた。

 

 

「貴方には本当に驚かされますわ。『憑依の術』なんて、一度しか仕組みを教えてないのに、こうもあっさりと.....」

 

「くくくく.....」

 

「貴方には限界というものがあるのですか?陰陽術に限らず、幻術も多く修得なされて.....」

 

「これが龍神の血という事か.....」

 

 

天竜はスクッと立ち上がる。

 

 

「あら?お帰りに?」

 

「あぁ、聞きたい事は全部聞いたからな」

 

 

すると彼女は上目遣いで天竜を見つめる。

 

 

「もう日も暮れる頃です。今は包囲網も一段落している所で、急いではいないでしょう?」

 

「何が言いたい?」

 

 

すると彼女がうっとりした瞳で見つめてくるので天竜は思わず顔を赤らめる。

 

 

「幻術師といえど、私も雌です。強い異性には惹かれるものですよ?」

 

「まつな.....じゃない。果心居士!あんたと閨を共にするのは非常に魅力であるが、朝起きると色々とされて怖いのだ!」

 

「あら?私が何を?くすくすくす」

 

「初めての日は寝首を掛かれそうになり、次の時は、五寸釘付きの藁人形を大量に残していったじゃないか!!」

 

「くすくすくす。そんな事もありましたか?」

 

 

すると果心居士は襟元を緩くし、胸元をはだけさせる。

 

 

「前と違って、今回は齢17の乙女ですわ。味わってみたくはありません?」

 

「..........その台詞を普通の乙女が言うならば、俺も心を動かされるが、中身があんただと罠にしか聞こえないのだが?」

 

「あら?もう一つのとっておきの情報があるのですが?」

 

「むぅ~!!.....仕方ない負けたよ。今夜だけ付き合うよ」

 

「どうも」

 

 

そうして2人の美男美女は夜の街に消えていった。

 

 

 

 

 

翌日の朝。

ガバッと起き上がった天竜は辺りを見回すが特に異変は無かったので、ホッとする。果心居士はもういなかった。いつもながら、先に出て行ったようである。

さぁ、帰るかと身支度をしていた所、ある異変に気づく。

 

 

「財布盗られた.....」

 

 

根こそぎ持ってかれた。ああゆうのを魔性の女というのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

時は遡り、本猫寺前にて。

 

 

「おのれ雑賀孫市です!同じ鉄砲使いとして畏怖の念を抱きますです!」

 

 

本猫寺勢と同盟を組んだ雑賀孫市率いる雑賀衆が明智軍と衝突していた。だが、圧倒的に十兵衛が押されていた。

 

 

「八咫烏改・壱式!!」

 

 

雑賀軍も明智軍も鉄砲を専門とする部隊だ。だが、年季のある雑賀軍の方が戦法を理解していたのだ。

 

 

「うわっ!?また指揮官がやられたみゃ!!」

 

「では拙者が!」

 

 

ドーーーンッ!!!

 

 

「またやられたみゃ!!」

 

 

鉄砲隊の指揮官が優先的に狙撃されていたのだ。

 

当時の鉄砲隊は、指揮官の指示がなければ発砲はおろか、弾込めすらまともに出来ない素人ばかりだったのだ。だから、「敵の鉄砲隊を潰したいならば、まず指揮官を潰せ」というものがあるのだ。

 

対して雑賀衆は個人でも発砲が出来るように修行を施している。

織田家で同じように、個人でも撃てるのは天竜軍ぐらいだ。

 

 

「おまけに騎馬鉄砲隊ですか!天竜軍のように勢いはありませんが、非常に厄介です!」

 

 

十兵衛は北条、武田との交渉の際に伊達軍に協力していた雑賀の騎馬鉄砲隊を見ているのだが.....

 

 

「へ~。相手も騎馬鉄砲隊ですか。私が最初かと思ってたけど、雑賀の方が先に取り入れてましたか.....」

 

「そうですね天竜.....」

 

「..........」

 

「..........」

 

「ん?.....」

 

「なんです?」

 

「天竜?.....」

 

「はい.....」

 

「「..........」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャーーーーーーーーー!!!!!」

 

「うわっ!?何です!?」

 

「どうしているですか天竜!?死んだはずじゃ!?」

 

「あぁ、生き返りました」

 

「えぇっ!!?」

 

「んじゃ。ちょっと捻ってきますわ!」

 

「ちょっと!.....待つです天竜!!」

 

 

天竜は十兵衛が止めるのも聞かずに、己の騎馬鉄砲隊を連れてさっさと行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

孫市軍にて。

 

 

「大変です!孫市様!!」

 

「どないした?敵の援軍か?」

 

「敵軍と言うべきか......その.....猫が!子猫が大量に現れました!」

 

「は?」

 

「しかも本猫寺勢が戦いそっちのけで猫と戯れてます.....」

 

「なんやて!?」

 

 

 

 

 

 

 

「反魂の術っ!!」

 

 

天竜が術と共に空に放ったのは、猫の骨。300は軽く越す骨の欠片はそれぞれで再生され、大量の子猫になる。

 

 

「にゃーにゃー!にゃんこが沢山来たにゃー」

 

「極楽にゃ~!こんな所にあったのかにゃ~!」

 

 

直前まで戦っていた明智軍も仲間の雑賀衆もキョトンとする。

 

 

「孫市様.....私もあの子猫をモフモフしたいのですが.....」

 

「我慢せや子雀。きっと敵さんの罠や」

 

 

雑賀衆一部の女子達も子猫と戯れ始めたその時である。雑賀衆の男の一人が雄叫びをあげた。

 

 

「うぉぉぉぉ!!!あんな畜生なんかに惑わされやがって!!あんな毛むくじゃらなんてこうすればいいんだ!!」

 

「待て甚五郎!!」

 

 

この甚五郎という男。実は猫アレルギーであり、大の猫嫌いであった。本猫寺勢との協力にも渋っていた男だが、ついに本物の猫が現れてしまい、堪忍袋の緒が切れた。

子猫のうちの1匹を射殺したのだ。

その瞬間、穏やかな表情だったにゃんこう宗門徒達が凍りつく。

 

だがそれだけでなく、それをきっかけに他の猫達も次々にバタリと倒れ、絶命するではないか。

 

 

「やばいな、こりゃ」

 

 

孫市が呟く。

 

 

「おのれ~!よくもお猫様を~!」

 

「雑賀衆だにゃ!お猫様を殺したのは雑賀衆だにゃ!」

 

「許すまじ雑賀衆!!」

 

「真の敵は織田信奈じゃなくて雑賀孫市だにゃ!!」

 

「「「覚悟しろ雑賀衆!!!」」」

 

 

なんとにゃんこう衆門徒達が一斉に雑賀衆に襲いかかったのだ。その勢いはまさに死兵。例え己がどうなろうと絶命する最期の瞬間まで敵を攻め続ける修羅の如く。

 

史実で、伊勢長島の一向一揆にて、投降した一向宗を織田信長が皆殺しにするように指示し、実際に行った所、弾丸を免れた一向宗門徒達が死兵となって織田軍に襲いかかり、大打撃を与えたという。危うく本陣まで押し寄せたの事とか.....

それと同じ状況が、今回は雑賀衆に矛先を向けられている。

 

 

「あかん!相手は女の子ばかりや!間違っても撃ったらあかんで!!」

 

 

孫市からそう命令が下る。ではどうすればいい?説得でもすれと言うのか?それは無理な話だ。何を言っても聞かず、刀や農具を振り回すにゃんこう宗門徒達。なす術もなく、次々に斬られる雑賀衆。

しかもそれに乗じて天竜軍も動き出した。

 

 

「我らは今より本猫寺勢に加算し、雑賀衆を叩く!!全軍続け!!」

 

 

天竜の騎馬鉄砲隊がにゃんこう宗門徒達に協力するように参戦する。

 

 

「織田軍が私達の味方を!?」

 

「やっぱり織田信奈は悪い奴じゃなかった!!」

 

「「「一緒に雑賀衆をやっつけるにゃ!!」」」

 

 

もう敵も味方もメチャクチャであった。

 

 

異変に気づいた教如や下間衆が説得に回るも全く聞かない。今や、敵は雑賀衆に成り代わっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「孫市様!!織田方も騎馬鉄砲隊を出してきました!!」

 

「なんやて!?」

 

「しかも我らより最新鋭の鉄砲と『移動しながらの発砲』という匠な戦法を使ってきます!!」

 

「そんな阿呆な.....」

 

 

 

 

 

 

 

天竜は内心であの大笑いをしていた。にゃんこう宗は猫を崇拝する。大量に呼び出せば当然門徒達の動きは止まる。だが、雑賀衆は違う。アドレナリンが出まくっている中でそんなものが現れても、癒しどころか、邪魔物にしか写らない。蹴るなり叩くなりでよかったのだが、面白い具合に撃ってくれたので、門徒達を逆撫でるのは簡単だ。あとは残りの猫を全部死体に戻す事で、門徒達の精神を破壊し、死兵にする事に成功した。そしてどさくさに、門徒達を仲間につけた。

本猫寺と敵対した雑賀衆など、潰すのは容易。反対に雑賀衆の抜けた本猫寺を攻略するのも容易。

この2大勢力を分離させる俺の作戦。

すべて計画通り。

だが.....

 

 

ドーーーンッ!!

 

 

孫市の八咫烏の轟音が鳴り響く。

次々に天竜の騎馬鉄砲隊を撃ち落としてゆく。

 

 

「次!八咫烏改・弐式!」

「百間」

ドーーーンッ!!

次!八咫烏改・参式!」

「百間」

ドーーーンッ!!

 

「鉄砲の女神、雑賀孫市か.....

奴だけは並の兵では倒せぬか」

 

 

 

 

 

 

圧倒的に見えた孫市だが、実は焦っていた。

 

 

「孫市様!敵の鉄砲は連発式な上に小回りがききます!孫市様は兎も角、他の鉄砲隊の者では歯が立ちません!!」

 

「くそ.....ここまでか」

 

 

そうして孫市が思いがけない言葉を口にする。

 

 

 

 

 

「降参だ!!うちら雑賀衆はここで降参する!!」

 

 

 

 

 

背後を本猫寺勢に取られている今、退却という選択肢は最早無いのだ。

 

 

「だがその前に、織田方の騎馬鉄砲隊の代表の者に申しつけたい!!うちと一騎討ちの決闘せや!!応じれば他の鉄砲隊にも武装解除を命じる!!」

 

 

といった内容だった。

 

 

「その提案乗った!」

 

 

天竜は当然名乗り出る。

 

 

「あんた何者や?」

 

「羽柴天竜秀長だ」

 

「羽柴やて!?するとあんたが相良.....羽柴良晴の.....」

 

 

この情報は当然、孫市にも届いている。

 

 

「納得いったわ!この悪魔みたいな策略も、あの男の兄やったら説明つくわ!」

 

「ほう?その言い方だと知り合いみたいだな?」

 

「せや!羽柴良晴はうちが天下一の男と決めた男やで!!」

 

「良晴が天下一か.....くくくくく」

 

 

天竜は槍を近くの兵に預け、ウィンチェスターを装備する。そして、弾を一発だけ装填した。

 

 

「それは連発式なんやろ?なんで1発だけやねん」

 

「八咫烏とて1発だ。勝負を公平にするために1発ずつの勝負にしようぜ?」

 

「その提案乗った!」

 

 

孫市も八咫烏改・壱式だけ受け取ると、他の鉄砲は部下に預けてしまう。

2人ともうっすらと笑みを浮かべる。楽しんでいるのだ。この緊迫感を.....

 

 

「女性優先だ。そっちからどうぞ?」

 

「優しいな。でも、余計な気遣いは無用や!!」

 

 

2人はそのまま黙り込んでしまう。その光景を本猫寺勢、天竜軍、雑賀衆、それと遅れて来た十兵衛が見守る。

どちらも迂闊に動けない。

先に動くべきか、待ち構えるべきか.....下手をすれば相撃ちもあり得る。勝負は一瞬である。

 

 

「だぁっ!!!喰らえぃ!!!」

 

 

先に動いたのは孫市だった。その直後に天竜も発進する。

 

ドーーーンッ!!!

 

孫市の八咫烏が唸る。

 

 

天竜はそれに対しどう対処したかというと.....

 

 

ドシュッ!!!

八咫烏からの弾丸が一直線に天竜の心臓部に直撃する。

 

 

「やった!」

 

「天竜ぅ!!!」

 

 

歓喜の声をあげる孫市と悲鳴をあげる十兵衛。ところが.....

 

 

「喜ぶのは早いぞ?」

 

「ひっ!?なんでやねん!!」

 

 

一瞬だけぐったりした天竜だったが、すぐにむくりと起き上がったのだ。鎧ではなく、着物と羽織だけだったので、確実に貫いたと確信していた孫市だったが.....

 

 

「まさかっ!?顕如と同じ.....!?」

 

 

その次の瞬間、天竜は孫市の方向に飛び上がっていた。そして、孫市に抱きかかえ、巻き込むように落馬する。

土煙りが舞い、中で2人が取っ組み合う音がゴトゴトと聞こえた。

そして土煙りが晴れて、上位をとって銃口を向けていたのは.....

 

 

「うちの負けや」

 

 

天竜だった。

 

 

「あんたも顕如と同じ猫神の?」

 

「いや、俺は龍神の子孫だ」

 

「龍.....通りで勝てないわけや」

 

 

孫市はぐた~と地面の上に寝そべった。

 

 

「止めを刺せ。鉄砲の勝負で負けて死ぬんや。悔いはない」

 

「残念だったな」

 

 

天竜は袖口から何かを取り出し、孫市に渡した。

 

 

「これは.....まさか!」

 

 

天竜はウィンチェスターの銃槍を開いて、中に何もないことを見せる。

 

 

「弾は入ってなかった。始めから入れてなかった」

 

 

それを聞いて孫市はグッタリと気が抜けてしまった。洟から決闘にすらなっていなかったのだ。

 

 

「完全に私の負けや。天下一の男は

2人おったんやな!」

 

「その言葉、矛盾してるぞ?」

 

「それもそうやな!あっはっはっはっは!!!」

 

 

孫市の豪快な笑いと共に本猫寺包囲戦は終わりを告げた。

天竜は記念と言って、ウィンチェスターを孫市に与える。

 

 

「ええんか?」

 

「男は女に貢ぐものだからな。弾なら応じる分だけやる」

 

「ほんま、おもろい男やな」

 

 

その後、雑賀衆は全員紀伊まで引き上げ、本猫寺勢は門徒達が戦意喪失してしまったために、教如の判断で全面降伏。反織田同盟として毛利や将軍からの後押しもあった本猫寺だったが、それらの同盟からの抜ける事になったという。

 

その後、教如、顕如、信奈による会談が行われ、それに天竜、良晴、十兵衛も加わった。

 

 

当初、信奈側からの『本猫寺明け渡し案』は良晴と天竜の交渉により無くなる事となった。代わりに、にゃんこう宗は今後一切織田家の邪魔をしない事が約束されや。さらに、以前のように金品の貸し出しも再開する事となる。

以前までは強気だった教如も、天竜という新たな神の前に意気消沈してしまったらしい。

 

今後の事は顕如だけに任せても大丈夫だろう。今の2人なら姉妹でなんとか乗り越えられるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに裏話。

 

 

「そういえば顕如。お前の猫耳と尻尾だが、生やしたはいいが、神聖な力で生やしたわけじゃないから、鉄砲で撃たれたりしたら本当に死ぬぞ?」

 

「にょ~!!?じゃあどうすればいいにょ!?」

 

「さぁ?真面目に念仏唱えて信仰してれば戻るんじゃねぇか?」

 

「にょ~.....」

 

 

そこに良晴が乱入する。

 

 

「それより俺の尻尾も取ってくれよ!!にゃんこう宗の子達から猿神様!猿神様!って何故か拝まれるんだよ!!」

 

「それは無理だな。術はかけたが、生やしたのはお前の遺伝子だ。取るには刀で斬る以外にない」

 

「そんなぁ~!!」

 

 

本当は取る術もあるのだが、面白いのでこのまま放置してみよう。.....と腹黒い天竜であった。

 

 

 

 

 

 

 

大和の宿屋にて、同室の果心居士が質問する。

 

 

「防弾ちょっき?」

 

「そう。弾丸をも弾く未来の鎧だよ。これを着物の下に着ていたお陰だよ」

 

「へ~。でも、当たったのが胸で良かったですわね」

 

「ん?」

 

「頭に当たれば即死でしたよ?」

 

「あっ!!.....でも、兜あるし.....」

 

「鼻から下は素肌が出てるでしょう。そこに命中すれば、今頃は.....」

 

 

天竜は急に悪寒を感じる。

 

 

「顔全てが隠れる兜を作らなければ.....」

 

「くすくすくす」

 

 

 

 

 

 

 

 

この5日後である。

 

「好きです!私と祝言を挙げましょう

十兵衛殿!!」

 

「イ・ヤ・デ・ス!!なんで私と天竜なんかが!」

 

「愛してます!私と祝言を挙げましょう

十兵衛殿!!」

 

「言い方変えただけじゃないですか!!」

 

 

それでも『愛する』という言葉を使われ、真っ赤になる十兵衛。

 

ことの発端はこの前日に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

「天竜に大和を与えるわ!」

 

 

 

 

 

 

信奈のとんでも発言が炸裂する。

この事には、以前良晴が北近江を与えられたぐらいの衝撃が走った。

 

「勘違いしないで。あくまで管理を任せるだけよ。大仏の件もあるしね」

 

 

それだけではない。問題は若狭なのだ。

操られていたとはいえ、1度裏切ったという理由で、荒木村重は未だに謀反を続けているのだ。信奈が許すと言っても、中々帰らないのである。

 

 

「意地になってるのよあの子.....ああ見えて誇りは高い方だしね」

 

 

これでも怒らない信奈なのだ。相当信頼しているのだろう。

 

 

「貴方には摂津に残って弥助と交渉しなさい。そのための与力もつけてあげるわ」

 

「承知!」

 

「それが済んだら、大和を拠点に南近畿を吸収しなさい。紀伊を放っておいたのも、今回の失敗の一つよ」

 

「承知!」

 

 

こうして天竜は松永久秀に継ぐ大和の新大名となったのだ。

といっても、位は十兵衛の家臣のままである。

 

 

「あの.....信奈様?」

 

「なによ?」

 

 

ここは安土城。良晴達は摂津で待機してる為、ここには2人しかいない。長秀も席を外している。

 

 

「これで十兵衛殿の結婚できますよね?」

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

信奈は驚きを隠せずに.....

 

 

「はぁ!!!?あんた.....十兵衛の事.....好きなの!?」

 

「将来は子をなしたい程に」

 

「知らなかった.....」

 

 

良晴と十兵衛の関係しか考えていなかった信奈は、これが「三角関係」ではなく、「四角関係」である事を理解する。

 

 

「私が十兵衛殿と結婚すれば、貴方と良晴の恋路の障害が一つなくなりますよ?」

 

 

こんな事を言われれば、単純な信奈は.....

 

 

「それもそうね!あの子もそろそろ身を固める頃だろうし!」

 

「では今から求婚して来ます!」

 

「デアルカ!」

 

 

そうして天竜は安土城を出て行く。

その後、信奈はある事を思い出す。

 

 

「シロは十兵衛の家臣じゃない!」

 

 

最近、単独での進軍が多かったので、すっかり忘れていたのだ。

これでは信奈と良晴の関係と全く同じである。

 

 

「待ってシロ!!今のとりけしよ!!」

 

 

 

 

 

そして話は戻る。

 

 

「当然、主君と家臣の恋路はご法度です!だから私は貴方から謀反します!」

 

「は?」

 

「そして改めて信奈様に士官すれば、貴方と同等な立場になれます!」

 

「何訳わからない事を言ってるですか!」

 

 

最早屁理屈である。

 

 

「遺言にまで残したのです!それを叶えてあげるのが義理でしょう?」

 

「生き返った時点で無効です!」

 

「じゃあ、もう結婚はいいです!」

 

「ほっ.....やっと諦めやがったですか」

 

「結婚はいいので、子供を作りましょう!」

 

「もっとダメです!!」

 

 

最早駄々っ子である。

 

 

「大丈夫です!子供は小次郎との間に作った事にでもしておけば.....」

 

「最低です!」

 

 

どうすれば結婚してくれるのかしつこく迫る天竜。「こいつはこんな男だったのか」と十兵衛は理解する。左馬助の手前もあるし.....と十兵衛。

 

 

「いいでしょう!そこまで拒否されるというのであれば!私は死にます!!」

 

「えっ!?」

 

「死なせたくなかったら、結婚しなさい!」

 

「何でそうなるですか!!!」

 

 

そうして十兵衛はある発言をしてしまう。

 

 

「兎も角!私より偉い位にならないとダメです!!例えば、左大臣とか、関白とか.....」

 

「いいでしょう!なりましょう!関白に!」

 

「へ?」

 

「見ていてください!いずれは太閤にまで登り詰めてやりましょう!!」

 

 

十兵衛は言ってから後悔した。この男ならやりかねない.....

 

 

 

 

 

 

その後である。

摂津から播磨への帰り、十兵衛は良晴にとある質問をする。どうしても確認しておきたい事が一つあったのだ。

 

 

「羽柴先輩、天竜に関係する事で、『ヒカリ』という方をご存知ですか?」

 

「『ヒカリ』?」

 

 

それは以前、天竜が寝言で言っていた名前だ。十兵衛は今になってその名前が気になり始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

「あぁ、その人は天竜さんの奥さんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「..........」

 

 

十兵衛の頭が真っ白になる。

 

 

「天竜はもう結婚してるですか?」

 

「うん。勘解由小路 光。結構綺麗な人だったぜ?」

 

「そうですか。では先輩は先に行っていて下さい。私は忘れ物を取りに引き返しますです」

 

「おっ.....おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんのっ!!!くそ天竜ぅぅぅぅ!!!」

 

 

怒りゲージMAXの十兵衛が全力疾走で引き返して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そこ頃の安土城。

 

 

「梅千代!」

 

「はい信奈様!」

 

 

とある小姓が呼ばれる。

 

 

「あんた.....天竜の与力になりなさい」

 

「わっ.....私がですか!?」

 

「そうよ。貴方は中川清秀とも高山右近とも親戚でしょ?いい説得役になるわ!」

 

「はぁ.....」

 

「天竜は人はいい方だから安心しなさい梅千代」

 

「はい..........あの、信奈様?」

 

「何よ梅千代?」

 

「その『梅千代』というあだ名、どうにかなりません?」

 

「あれ?本名じゃなかったっけ?」

 

「信奈様がつけた名前です!忘れたのですか?」

 

「あぁ!初めて会った時に貴方、梅の木に座ってたのよ。それがあまりに絵になってたから『梅千代』」

 

「そんな理由で名前変えられちゃ、溜まったものじゃありません!」

 

「貴方も無駄に誇り高いのね.....本名何だっけ?」

 

「左介です!!」

 

「あぁ、左介ね。あまり可愛くないじゃない」

 

「私もそう思ってます。近々改名を考えていますが.....」

 

「『梅千代』でいいじゃない」

 

「嫌です!『松竹梅』で一番下で華がありません!!」

 

「理由それだけ!?」

 

 

風潮を気にする娘だった。

 

 

「まぁ、いいわ。じゃあ左介!これより天竜の与力として精進しなさいよ?」

 

「承知しました!この古田左介重然、これより精進いたします!!」

 

 

こうして古田左介が天竜軍入りする事となる。

 




今回は、本猫寺戦でした!
孫市と一騎討ちする役を信奈から天竜に変更すればどうなる?というifストーリーです。
実際、子猫召喚して戦争が終わったら、どんなに平和だろうか.....
後半は次のストーリーへの間章です。
天竜の十兵衛への執着はいったい何故なのか!?
次回予告
ヒカリ
~知らされる天竜の過去~


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登場人物紹介2

登場人物紹介2

 

羽柴秀俊(木下秀俊)

10歳の女の子。

後の小早川秀秋である。

天竜が後継者として、己の義妹とした。その際に、羽柴姓になる。

こうして羽柴家は4人兄弟となった。

嫌いなもの。お化けと秀吉(良晴)

 

 

中川清秀

若狭大名、荒木村重の家臣。高山右近同様土御門に操られ、共に謀反を起こした。おっさんである。

 

 

赤鬼・青鬼・黒鬼

それぞれ、赤井直正、荒木氏綱、波多野秀治。

八上城戦後「羅刹」にされ、天竜に影から仕えている。並の鬼なら簡単に倒せる。だが、昼間は力が出ない。

 

 

松山主水

20歳の青年。美濃生まれの幻術師。

下の名は「もんど」と読む。元は織田に仕えていたが、途中で見切りをつけて出奔した模様。

鬼族の末裔で、最強の鬼『両面宿儺』を操る。

 

 

古田左介重然(梅千代)

16歳の女の子。

後の古田織部である。

元は織田の使番で、信奈に気に入られて小姓となり、今回天竜の与力となった。茶人としても知られる。今後の活躍に期待である。

 

 

甚五郎

30歳。おっさん。

今回、雑賀衆の敗北の原因でもある、猫アレルギーの男。

紀伊への撤退後、孫市は許したが、他の同僚によって暗殺されたらしい。

 

 

 

 



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登場呪術紹介

ごちゃごちゃしてきたので
まとめてみました。


なお、術のレベルは①~⑤で評価します。

 

 

式神術

 

竹中半兵衛

 

前鬼⑤~正体は安倍晴明。生前から半人半妖狐だった事もあり、死後は半兵衛の式神として転生する。宇喜多直家に射殺され、昇天する。

 

後鬼②~生前は安倍一族の妖狐の娘。特に戦闘に加わる事はなく、半兵衛の家政婦をしている。

 

十二神将④~半兵衛の戦闘部隊。元は薬師如来に仕えた、十二人の神。現在でも、十二支の干支で有名。

 

 

土御門久脩

 

日本人形②~空中浮遊型の下級式神である。一体一体は弱いが、集団戦法をしかけてくるので、厄介。

 

 

勘解由小路天竜

 

暴君竜⑤~Tレックスをモデルとした戦闘用の式神。体長は、術の補償が加わっているため、通常の3倍はある。式神の中では最大級である。音波砲という必殺技を持つ。前鬼同様に人間態にもなれる。その正体は.....

 

鉤爪竜③~ヴェロキラプトルをモデルとした戦闘用、兼移動用式神。術の補償が加わるため、通常の倍の、時速60kmで走行できる。主に雑魚を一蹴する際に使う。

 

装甲竜④~アンキロサウルスをモデルとした防御用式神。術の補償が加わるため、ダイアモンド並の防御力を持つ。時には、尻尾のハンマーで近くの敵をなぎ払う事も。

 

 

芦屋道海

 

烏天狗④~道海の式神。天竜の協力にて召喚。本編登場は未定。

 

 

陰陽呪術

 

前鬼・竹中半兵衛・土御門久脩

 

天文道

「天候制御」④

天気を自由に操れる。雨風だけでなく、雹や雷を操る事も可能。

 

「重力制御」⑤

通常の重力を1Gとすれば、最大5000Gまで一定の範囲を下向きに引き上げる事ができる。当然、人間にかければペチャンコになる。

逆に下向きに引き上げる事で、自らを浮かせる事ができる。

 

勘解由小路天竜

 

暦道

「時軸制御」⑤

一定の範囲の時間を止めたり、進めたり、戻す事ができる。

ただし、範囲は10m以内である。いじれるのは体感時間のみで、これを使ってタイムスリップはできない。

 

 

土御門久脩

 

「鬼人の術」④

陰陽師が鬼族の圧倒的力を手に入れる為に作り上げた人工の鬼。「金」を苦手とし、錬金妖術で退治できる。太陽を苦手とし、昼間は大まかに活動出来ない。

 

勘解由小路天竜

 

「羅刹の術」④

基本は「鬼人の術」と同じ。大きな違いは、「理性」を残しているかいないか。ただ闇雲に暴れる鬼人と違い、羅刹なら頭脳を使った戦法が可能である。鬼人同様に日光が苦手だが、金は苦手としない。

 

 

 

幻術

 

松永久秀

 

「傀儡の術」④

まるで少女達のような姿。有幻覚と言うべきか、攻撃は全く通じないのに、刀などの武器を振り回してくるという厄介な相手。おまけに怪力である。

その原理は、久秀の死と共に謎になってしまった。

 

「傀儡の術(催眠ver)」②

トリカブトの毒と己の唾液を混ぜたものを相手に飲ませ、催眠術をかける。現在で言う自白剤のようなもの。揮発性も高く、匂いを吸っても同様の効果が出る。

 

 

果心居士・勘解由小路天竜

 

「憑依の術」⑤

自らの肉体を捨て、別の肉体に魂を移し替える事。別の肉体は死体でも、損壊がそれ程酷くなければ問題はない。別の肉体が生者の場合は相手の魂を封印するか、抹殺をする。封印の場合は、再び肉体を離れれば復活も可能である(その際、憑依時の記憶はない)。

 

 

松山主水・土御門久脩

 

「恍惚の術」③

俗に言う催眠術。相手の内心まで完全にコントロールできる。

.....が、一度強い衝撃などが加わると、簡単に解けてしまったりする。

 

 

松山主水

 

「背水の呪い」④

古くは古代中国の呪術で、任務に失敗した部下への粛清として使われたものだ。主の情報を吐かせないためである。全身から血を噴き出すという残酷な呪いで、何千年も前に廃止されたものである。

 

「封印解除」⑤

『日本書紀』の時代の化物、「両面宿儺」の封印を解いた術。かなり強力な封印のはずだが、どうやって解いたかは不明。

 

「両面宿儺」飛び越えの⑥!

二つの頭、8本の手足、6本の手には剣やら斧やら弓などを持った全長30mの巨人。初代の鬼と言われる。大和朝廷の英雄達によって飛騨地方に封印されたが、宿儺の子孫である主水によって復活させられ、何故か召使いのようになっている。

 

 

勘解由小路天竜

 

「絶対保護領域結界」⑤

俗に言う「バリアー」かなり強靱であり、ソレで防げないものは存在しないと言う。久脩の5000Gの重力すら防いだ。見た目は単純だが、かなり高度であり、その分の霊力のコストも高い。

 

「強制送還」⑤

冥界の門を無理矢理開き、対象者を強制的に地獄送りにする。亜空間法則により、地獄の最下層まで落とされるので、どんなに邪悪な魔物でも、上がってくるのに400年はかかる。

 

「遺伝子操作」①

名前のまま、遺伝子を操作できる。

猫の遺伝子が強かった顕如からは猫耳と尻尾を生えさせ、猿の遺伝子が強かった良晴からは猿の尻尾を生えさせた。

 

 

千利休

 

「錬金術」③

無から金を作り出す南蛮渡来の高度な術である。

 

「錬金妖術」④

錬金術の作業に用いるアルカヘストを武器にする。四大元素を元にした精霊を呼び出す。詳しい事は不明。

 

「人工精霊」①

利休と官兵衛が娯楽で作ったマスコット。通称『すねこすり』

日本妖怪の『すねこすり』とは別物なのか同一なのかは謎。

 

 

勘解由小路天竜・安倍晴明

 

「反魂の術」飛び越えの⑥!

天竜はさりげなく使っているが、実はかなり高度な術。他人の魂を冥界から連れ戻し、肉体共々元の姿に蘇生させる呪文。人間に限らず、動物や植物にも使える。

ただ、これは神も許さぬ禁断の呪文であり、成功例は上記の2人以外はほとんどいない。

古い例として、臨済宗の栄西は、山籠りの苦痛に耐えかね、遭難者を反魂の術で蘇生させようとしたが、神の怒りを買い、その蘇生者は理性の持たないゾンビにされてしまったという。陰陽術に限らず、幻術や魔術にも反魂は存在する。

因みに、これはあくまで他人を蘇生する術であって、自らは蘇生できない。

 

 

 

相良良晴

 

「球よけのヨシ」⓪

言ってしまえば、術でもなんでもない。一般人と比べて回避能力が優れているだけ。ただ、刀や槍、弓すらよけるその反射神経は人間離れしているかもしれない。

 




ε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘


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三章 大和国大名天竜
第十二話 ヒカリ


大学の入学準備等で更新遅れました。
第十二話どうぞ!


十兵衛によって、現在進行形で首を締められている、天竜であった。

 

 

「おのれ天竜!既婚者でありながら私に求婚してくるなど万死に値するです!!」

 

「待ってくれ十兵衛.....ギブギブ!」

 

「呼び捨てにしやがるなです!!」

 

 

十兵衛はさらに天竜の首を締める。

 

 

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれ!!

これは侮辱ですか!そうやって私が慌て蓋めくのを楽しそうに眺めていたいのですか!

その...........ちょっとは期待してしまっていた私はいったいなんなんですか!」

 

 

天竜は首にかけられている十兵衛の両手をガシッと掴む。

 

 

「いい加減に.....しろぉ!!」

 

「きゃあ!!」

 

 

天竜は無理矢理十兵衛を引き離した。

 

 

「その様子じゃ、良晴から中途半端に聞いて飛んできたみてぇだな?.....ったく、あのボケ猿め。口軽すぎるぞ!」

 

「主君にタメ口すんなです!!」

 

「うるせぇ!!人の過去ほじくり返しやがって!!」

 

「くっ.....」

 

 

十兵衛はほんの少し恐れ慄いた。天竜がいつも猫を被っている事は知っていた。だからこそ、今の彼が本性を出している事。本気で怒っている事を感じ取れたのだ。

 

 

「だぁ~!!もぉ~!!くせぇ芝居なんて終わりだ!!十兵衛!!俺と婚姻し、子を作れ!!」

 

「だから何でそうなるですか!!自分の妻に申し訳ないと思わないですか!!」

 

 

 

「ヒカリはとうに死んだ!!」

 

 

 

「え.....」

 

 

十兵衛はそこで言葉が詰まってしまう。

 

 

「やはり良晴からは詳しく気かなかったみてぇだな。俺には確かにヒカリという妻がいた!3年も前にな!」

 

「...........何で亡くなったのですか?」

 

「癌だ」

 

「がん?」

 

「この時代じゃまだ知らねぇか。未来では不治の病って呼ばれてる」

 

「そんな恐しい病が、まだ知られてないですか.....」

 

「色々種類があるが、ヒカリは『子宮頸癌』だった」

 

「詳しく聞かせてほしいです」

 

 

十兵衛の目は真剣そのものだった。

 

 

「ちっ.....貴様に教えるような事ではない!」

 

 

天竜はすでに芝居をとうに止めていた。完全に素である。

 

 

「関係ない事はないです!どのような因果関係から私が求婚される事になるですか!」

 

「.....................」

 

 

天竜はそのまま黙り込んでしまった。

 

 

「いいだろう。だが、話すのは明日だ。今日はお引取り願いたい」

 

「..........明日話すんですね?ではとりあえずは退散しますです」

 

 

十兵衛は何故今日でないのかと抗議をしようかとも思ったが止めた。それが原因で臍を曲げられても仕方ないからだ。

 

 

 

 

 

 

十兵衛が去った後、天竜は荒れていた。そこらの襖や障子をバキバキと蹴り破ったのだ。

 

 

「くそっ!.....くそっ!.....」

 

 

そうして一通り暴れた後、懐からあるものを取り出す。未来から持参したとあるペンダントだ。

 

 

「ちっ!..........だから女は嫌いだ」

 

 

天竜は中に貼ってある写真を見ながら言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

摂津、有岡城。

現在の天竜が待機している城である。史実であれば、本来は荒木村重が籠城するはずだった城だが、天竜はこの城を中心に対若狭戦線を組んでいる。どのような皮肉だろうか。

 

 

「私が本日より、羽柴秀長様の与力となった、古田佐介重然であります!」

 

「ふ~ん.....」

 

 

あれ?機嫌悪い?というのが佐介の第一印象だった。

 

 

「天竜様とは対若狭戦において、多大にお世話になります!これからどうぞよろしくお願いします!」

 

「あっそ.....」

 

「あぅ.....」

 

 

完全に上の空なので、言葉に詰まってしまう。

 

 

「佐介だっけ?梅千代じゃなかった?」

 

「佐介が本名です!」

 

「ふ~ん.....」

 

 

実はこの2人、初対面ではない。「安土城の変」の際に1度顔を合わせているのだ。

その後、何度か佐介は天竜へご機嫌取りの言葉をかわすが、天竜は対した反応を示さなかった。

帰りたい.....と佐介が思っていた所。

 

 

「佐介、茶を立ててみろ」

 

「は?お茶ですか?」

 

「そうだ。其方なら得意だろう」

 

 

何故知っているのだ?

 

そうして2人は有岡城の茶室に赴く事になる。

 

 

「そう身構えるな。気楽にやっていい」

 

 

緊張しながら、至極綺麗な姿勢で

茶を立てていた佐介に天竜が指摘する。

 

 

「.....天竜様はもっと姿勢を正して下さい」

 

 

寝っころがっている、だらしない格好の天竜だった。

茶道を知らないのか?

 

 

「粗茶ですが.....」

 

 

佐介は天竜に立てたお茶を出す。

 

 

「茶葉はうちのだぞ?」

 

「あっ!すみません!」

 

 

顔を真っ赤にする佐介。それをよそに起き上がって茶碗を手に取る天竜。

 

 

「香りはいいな..........ん?」

 

 

その茶碗はなんと茶柱が立っていたのだ。

 

 

「これはすごい!!茶柱が立つなんて、幸運の前兆に違いありません!この度の若狭攻めは絶対に成功しますね!」

 

 

佐介が大げさに盛り立てた。

 

 

「茶柱の下半分を潰し、熱湯で温めると、立つ茶柱が出来るそうだ」

 

 

ギクッと反応し、明後日の方向を見る佐介。

 

 

「くくくくく.....面白い女子だ。信奈様が小姓に選んだ理由も分かる気がする」

 

 

カァ~ッと顔を赤らめる佐介。

 

 

「わざわざ俺のご機嫌取りをする必要はない。

サルじゃあるまいしな。

心配せんでも其方は重要な役割として活用するさ」

 

「活用?」

 

「与力でなく、正式に俺の家臣にならんか?」

 

「ふぇっ!?」

 

「今すぐでは無理だが、其方はいずれ家老にしても惜しくない逸材だぞ?」

 

「そっ.....そんな」

 

 

古田佐介の本来の職は使番。足軽と比べてしまえば高い地位ではあるが、他の武将らと比べればだいぶ低い。

元小姓であった長秀や犬千代は、知識や戦闘力が高かった為に武将や家老にまで引き上げられ、各地で活躍している。

だが、古田佐介にはそのような力はなかった。

戦では特に武勇はなく、知力も高くはない。

同僚には、よくズル賢いなどと言われていたが、それだけではこの乱世では出世出来ない。

かろうじて信奈から気に入られ、この羽柴秀長の与力にまで出世できたが、正直な所佐介には不満しかなかった。

たかが使番。たかが小姓。たかが与力。

同じ与力職の犬千代とは天と地の差。

その私が大名の家臣になれる?

羽柴秀長とて、明智光秀の家臣。

だが、その階級はすでに大名の位だ。

私が家老になれる?

小姓人生だけでは決してなれなかったであろうその位に?

現在の織田家で、最も勢いある羽柴家に?

同じ羽柴姓の秀吉は明智光秀共々、毛利攻めで対した活躍はできていない。

対してこの秀長は、丹波平定。斎藤龍興軍の鎮圧。歩く大仏の撃退。土御門軍の撃退。本猫寺勢・雑賀衆の鎮圧。

ここ最近で次々に功績をあげている。

その羽柴秀長が私を認めている?

 

 

「そんな.....私は戦でも弱いし、頭もそんなに.....」

 

「その謙虚さも気に入った。其方には器がある!」

 

「器?」

 

「其方の情報はとうに調べている。美濃の頃から織田家に仕え、使番として数々の敵方との交渉に務めたとか!」

 

「数々とまでは.....」

 

「其方は知らぬだろうから言うが、若狭攻めが終われば、其方を信奈様に返還せねばならぬのだ」

 

「えっ!?そうなんですか!?」

 

「だが、それが惜しいのだ。其方程の逸材を小姓に戻してしまうなど.....」

 

「..........私がまた小姓に」

 

 

折角与力という地位を得たのに、また縛られてしまう.....

 

 

「そして、其方の友好力も良い。口先だけで次々に人々を惹きつけるその力も、私に似ている」

 

「.....という事は今の秀長様も口先で私を口説いているのですか?」

 

 

そこで天竜は吹き出す。

 

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!

これは1枚取られた!さすがは古田佐介!」

 

「器は.....私にはありません」

 

「あるぞ?」

 

「いえ、貴方にあります!」

 

「俺にか?」

 

「ハッキリと見えました!貴方には天下人の器があります!」

 

「よせよせ。信奈様を差し置いて天下人など.....」

 

「貴方も信奈様への忠誠心はないのでしょう?」

 

「..........」

 

「私もです.....織田信奈は天下に近付く力はあっても、天下人になる事は出来ないでしょう。思想はあっても器はありません!」

 

「その根拠は?」

 

「分かりません.....ですが、人を見る目だけはあるつもりです!」

 

「ほほう」

 

「『魔王』の名が消えない限り、敵は倒せても、この日の本を統一させるのは無理です」

 

「そうか.....お前は反信奈派だったか.....では、もし俺が完全に信奈側だったなら、お前は裏切り者として斬らねばならぬぞ?」

 

「それはありません」

 

「ほう?」

 

 

佐介の目は自信に満ちていた。

 

 

「貴方以上に天下人に相応しい人はいないからです。それだけ、私は見る目があります!」

 

「ふくくくくく.....」

 

 

俺の心情まで読み取るとは、やはり面白いな。

 

 

「ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

いいだろう!なってやる!天下人に!

その為の布石はもう打ってある!」

 

「布石とは?」

 

 

天竜は手をパンパンと鳴らすと、茶室の奥から現れたのは.....

 

 

「せっ.....せせせ千利休殿!!?」

 

「..........」

 

「えっ!?利休殿も秀長様派なんですか!?」

 

「利休は俺の意見にえらく賛成してくれてな。信奈を殺さない事を条件に協力してくれた」

 

「..........(ふんふん)」

 

「織田信奈は好きな子だけど、あのままだといつか暗殺される。だから天下人にはさせたくない?.....そういう考えもあるんですね」

 

「俺と利休の意見は一致してるが、佐介。其方はどうだ?」

 

「どうだとは?」

 

 

天竜は真剣な顔つきである。

 

 

「天下を.....日の本だけで済ませる気か?上杉のような保守派か?」

 

「..........私もできれば日本の伝統は壊したくありません」

 

「ほう」

 

「ですが、保守のみに頼れば日の本はいつか滅びます。ですから、世界の文化も少しは取り入れてもいいのではないでしょうか?」

 

「うむ。過度の取り入れは乗っ取られを意味するからな。やはり其方は俺が見込んだ通りの女子だ」

 

「いえ、それ程でも.....」

 

 

佐介の頬がほのかに赤く染まる。そこで丁度、利休が立てたお茶.....ではなく葡萄酒が天竜に出された。

 

 

「...........(ふんふん)」

 

「え?秀長様は大人だけど私はまだ未成年だから飲めないって?失礼ですね。焼酎程度のお酒なら窘めます!」

 

 

ふ~っと利休は溜息をついて、天竜に佐介にも葡萄酒を回すよう指示する。

 

 

「言っておくが、佐介。初めての赤ワインは少々きついぞ?」

 

「垢和印?大丈夫ですよ!これくらいなら...........うぇっ!!酸っぱい!!」

 

「言わん凝っちゃない」

 

 

利休の下に戻ってきた葡萄酒に、利休は西洋風のまじないをかける。すると、葡萄酒が金粉に変わってしまった。

 

 

「ほう。錬金術だな。では、俺も.....」

 

 

天竜は懐から鉄扇を取り出し、金粉入りの茶碗に被せる。そして、今度は東洋風のまじないをかける。すると金粉は、金製の簪に変化してしまった。

 

 

「...........(ふ~んふん)」

 

「お褒めの言葉、有難く頂戴するよ」

 

 

天竜は簪をそれぞれ利休と佐介に付けてやる。

 

 

「わぁ~!素敵です!」

 

「...........(ポッ)」

 

 

利休も顔を赤らめた。その後は3人でお茶会ならぬ葡萄酒会を楽しんだという。

 

 

「それから佐介。俺の事は天竜と呼ぶがいい。秀長と呼ぶ奴は俺の身内にはいないぞ?」

 

「あっ.....はい!宜しくお願いします天竜様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り際、佐介のいない所で天竜は巻物を取り出し、そこに記されていた、とある2人の名前に縦線を引いて消した。

 

 

「千利休、古田織部、調略完了」

 

 

そこには、他にも多くの名前が記されてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、有岡城。

天守に移動し、天竜と十兵衛以外は誰であろうと寄せ付けないよう命令した。

 

 

「さぁ。話してもらうです!ちゃんと1日待ちましたです!」

 

 

天竜は渋々な顔つきではあったが、話す気であった。良晴にすら打ち明けてないその事実を.....

 

 

「十兵衛は子供の作り方を知っているか?」

 

「とっ.....突然なんですか!?」

 

 

もう、猫を被る気もないようである。

 

 

「そっ.....そんなの!結婚して、同じ布団に入り、共に口付けをしながら、天井染みを数えていれば、コウノトリが運んで来てくれるのでしょう?」

 

 

色々混じっているが、間違いである。

 

 

「では、子宮は知らないか.....」

 

「知ってますとも!赤ん坊を連れてきたコウノトリは母親の子宮に赤ん坊をねじ込むんですよね?」

 

 

どのような学び方をすればそうなる?

 

 

「兎も角、ヒカリが子宮頸癌だった事は昨日伝えたよな?」

 

「覚えていますです」

 

「実は死んだのは、ヒカリだけじゃない。もう1人いたんだ」

 

「それは.....つまり.....」

 

 

 

「ヒカリは身籠っていた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3年半前。良晴には1年半前の事。

 

 

「結婚式は教会で挙げたい?お前、キリシタンだっけ?」

 

「..........クリスチャンの事?」

 

「そうとも言うな」

 

「竜ちゃんの日本史酔いは相変わらずね。キリシタンなんて、今時誰も言わないわよ?」

 

「それで、お前はクリスチャンなのか?」

 

「違うけど.....私の家も竜ちゃんの家も古い家の生まれじゃない?普通はお寺や神社であげるでしょ?」

 

 

「まぁ、お義父さんもお義母さんもそれを勧めてたしな」

 

「だから反骨心が湧いたのかな?『逆に西洋風に結婚してやる~』ってね」

 

「くくくくく.....お前らしいよ」

 

「着物は今後も何度か着るだろうけど、ウェディングドレスはこの時だけだもんね」

 

「そりゃそうだ」

 

「それとあれもやりたい!

えぇと..........フラワーアタック?」

 

「ブーケトスか?」

 

「そうそれ!」

 

「お前も対して変わらないだろ」

 

「あはははははは.....」

 

 

この時の天竜は一際穏やかな顔をしていたかもしれない。

 

 

「音.....聞こえるかな?」

 

「まだ3ヶ月じゃ無理よ」

 

 

ヒカリは身籠っていた。本来ならお見合い婚のはずだったが、先にできてしまったばかりに、できちゃった婚になってしまった。(ショットガンマリッジ)

 

 

 

 

 

 

 

神父は言う。

 

 

「光さん。貴方は神に対し、この天竜さんを夫とし、常に夫を愛し、敬い、慰め、助けて変わることなく、その健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しき時も、死が2人を分かつ時まで、命の日の続く限り、貴方の夫に対して、堅く節操を守る事を誓いますか?」

 

「誓います」

 

「天竜さん。貴方は神に対し.....」

 

「誓うような神など、信じちゃいない」

 

「えっ!?」

 

 

神父は思わず声を出してしまった。結婚式でそんな台詞を言ったのは天竜が初めてだったからだ。

 

 

「俺の今までの人生は、泥を啜るような地獄だった。それが神の仕業なら、俺は今更そんな奴に誓いを立てる事は出来ない」

 

 

神父だけでなく、来賓席や、新婦のヒカリまでもが困惑の表情をする。

 

 

「だからこそ、今この瞬間が俺の人生で最頂点に達している。どうせ誓うのなら、古代の英雄であった、

我が勘解由小路家の始祖。賀茂忠行に。

ヒカリの○○家の始祖。○○○○に誓おう!

勘解由小路天竜は生涯妻を愛すると!!」

 

 

この天竜の大々的誓いに感動できたのは新婦のヒカリだけだったろう。神父はどうしていいか分からず、ヒカリの○○家の一族は勘解由小路家の一族を睨み、勘解由小路家の一族は肩身の狭い思いをしたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある病院にて。

明らかに陣痛とは違う痛み方をするヒカリを連れてきた天竜はそこで衝撃の事実を知る。

 

 

「子宮.....頸癌?」

 

「えぇ。奥さんは癌です」

 

「ふっ.....ふざけるな!!!」

 

 

天竜は憤って医者の襟首を締め上げる。ヒカリは真っ青な顔色で、心ここにあらずといった様子だった。

 

 

「今すぐ手術すれば、奥さんは助かります!」

 

「赤ちゃんは.....?」

 

 

ヒカリが恐る恐る聞く。

 

 

「子宮を全て摘出する事になります。ですから、諦めて頂くしか.....」

 

「それで.....ヒカリは本当に助かるのか?」

 

「確立は低いですが.....」

 

「いや!」

 

 

ヒカリは涙を流しながら訴える。

 

 

「私は死んだっていい!!だから赤ちゃんだけは!この子だけは助けて下さい!!」

 

「ヒカリ.....」

 

「今、胎児を摘出してもまだまだ未熟児です!生まれてもすぐにまた死が待ってるんです!」

 

「だって.....子宮取っちゃったら.....もう二度と.....」

 

 

ヒカリがバランスを崩して倒れそうになった所を天竜が支える。

 

 

「俺はヒカリに生きていてほしい。だから約束しろ!絶対にヒカリを助けろ!」

 

「出来るだけの事はします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、手術は失敗。

胎児はおろか、ヒカリの寿命まで大幅に削られる事となった。

最期の日のヒカリの言葉。

 

 

「ねぇ.....竜ちゃん」

 

「ヒカリ!?」

 

 

ヒカリは限界まで窶れており、その声もか細かった。

 

 

「私が死んだら.....悲しい?」

 

「何言ってんだよ..........悲しいに決まってるだろ!」

 

「ふふ.....嬉しい」

 

「畜生!使えない陰陽術なんて覚えていたって意味ない!!その陰陽術でヒカリを助けやがれ!!」

 

 

だが、何も反応する事はなかった。

 

 

「ねぇ。竜ちゃん。私の事はもういいの」

 

「ヒカリ.....」

 

「私のせいで竜ちゃんを傷つけちゃった.....私のせいで赤ちゃんを死なせちゃった.....」

 

「そんな.....」

 

「だから私が死んだ後は別の人に愛を注いでほしい。私や赤ちゃんに与えられなかった分の愛情を.....」

 

「そんな.....そんな事言わないでくれ.....」

 

「竜ちゃん.....愛してる...........」

 

 

それ以降ヒカリが口を開く事はなかった。

 

 

「ヒカリ?...........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このヤブ医者めがぁ!!!」

 

「ぎゃあ!!」

 

 

ヒカリの手術を担当した医者をぶちのめす天竜。

 

 

「いっ.....言ったでしょう!成功率は低いと.....」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!!!!!!!!!

ヒカリをよくも殺しやがって.....

貴様も同じ目に合わせてやる!!!

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ~!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、天竜は殺人犯として指名手配される事となる。これは良晴がタイムスリップした翌日の事だった。

 

 

「気に食わない輩を何人殺そうとも、この気持ちは変わらない。ずっと灰色のままだ.....」

 

「神よ!貴様は最後の最後まで俺に苦痛を与えるのか!!俺がもがき苦しむのをケラケラ笑っているのか?さぞ愉快であろうな!!」

 

『神が憎いか?』

 

 

誰かの声が聞こえる。

 

 

「あぁ、憎い!!殺したい程に.....」

 

『違うな.....間違ってるぞ』

 

 

その声の主はこう言った。

 

 

『お前が神になれ。全てを壊し、全てを作り上げる全知全能の神に!そして、今の神をその座から引き摺り下ろしてやれ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっ.....そんな過去が.....」

 

 

天竜の過去を知り、驚愕しかない十兵衛。

 

 

「待って下さい!それと私にどんな関係があるですか?」

 

 

天竜は懐からペンダントを取り出し、十兵衛に渡す。

 

 

「これは?」

 

「『写真』といって未来の絵画のようなものだ」

 

「こっ.....これは!!」

 

 

最初、十兵衛は鏡を見ているのかと思った。だが、それはまさしく天竜の元妻。勘解由小路 光である。

 

 

「ヒカリの旧姓は『明智』

明智家の正統な子孫だ」

 

「えっ.....」

 

「そして、あんたに会って確信した。ヒカリはあんた.....明智光秀の生まれ変わりだ」

 

 

天竜は立ち上がって十兵衛に宣言する。

 

 

「改めて言おう!!

十兵衛!!俺の子を産め!!

そして、もう一度ヒカリをこの世に呼び戻せ!」

 




利休が信奈側ではなく、天竜側につくという異例な展開で、大丈夫かな?
少しずつ天竜の野望が現わになってきましたね。
次回予告
荒木村重
~うちはもう戻れへんのや信奈はん~


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第十三話 荒木村重

天海祐希の女信長よかったですね。
信奈にも頑張って欲しいですね。
光秀役の内野聖陽。JINで龍馬役もやってましたが、
はたして関係性は!?作為か!?


「天竜.....貴方は狂ってるです!」

 

「なんだと!?」

 

 

十兵衛は天竜の決意を批判する。

 

 

「死んだ奥さんを蘇らせる為に、私と子を作る?女を舐め過ぎです!」

 

「貴様に何が分かる!!」

 

「分からないです!!でも、一つ言える事がありますです!」

 

「なんだ?」

 

 

 

「貴方のような屑に女性を愛する資格はありませんです!」

 

 

 

これには流石の天竜もキレた。

 

 

「貴様!!餓鬼の分際でこの俺様をよくも!!」

 

 

十兵衛の襟首を掴みながら天竜が叫ぶ。

 

 

「これが貴方の本性ですか!」

 

「そうだ!文句あるか!」

 

「非常に幼稚ですね。とても私より年上とは思えない」

 

「貴様!.....」

 

「それに自分勝手です!他人の都合を考えず、己の意思を無理矢理通そうとする.....これが屑じゃなくて何というのですか?」

 

「やめろ!!」

 

 

天竜が耐え切れずに叫ぶ。

 

 

「言うな.....同じ声で.....同じ顔で.....同じ目で俺を侮辱するな.....」

 

 

姿形がヒカリにそっくりな十兵衛からの侮辱は想像以上に応えたらしい。天竜は十兵衛の襟首に込めていた力を緩めた。

 

 

「何故ヒカリさんその者を作ろうとするのですか?それでは本当の光源氏じゃないですか!」

 

「ふん。確かにそうかもな」

 

「ヒカリさんの遺言ではなかったのですか?別の人に愛を注げと.....」

 

「今更、ヒカリ以外の誰を愛せばいいのだ」

 

 

完全に意気消沈してしまい、膝をつく天竜。ここまで弱い天竜を見るのは新鮮であった。

 

 

「頭のいい貴方がここまでになるとは.....相当好きだったんですね」

 

「あぁ.....」

 

「..........私が少し、相談に乗りましょうか?」

 

「十兵衛?」

 

 

十兵衛から思いも知らぬ一言が来る。

 

 

「天竜はその野望の為に私に仕官したんですよね?.....その、やり直しませんか?」

 

「やり直す?」

 

「その.....主君と家臣の関係を今更改変できはしません。その.....今度は友として.....」

 

 

十兵衛は顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに言う。良晴以外でこのような気持ちになるのは初めてかもしれない。

そう思っていたも束の間、天竜は十兵衛に抱きついた。

 

 

「てっ.....天竜!?」

 

「ごめん.....今だけ.....今だけでいいから.....」

 

 

天竜に抱きつかれ、彼の体温を一身に感じる十兵衛。同時に、彼が震えている事、泣いている事にも気づいた。

 

 

「ふふ.....30も近いというのに10も年下の女子に説教されるとは.....」

 

「はい.....」

 

 

思えば、十兵衛は人一倍母性本能が高いのかもしれない。死を直前にし、母を求めた良晴。亡くなった妻の温もりを求めた天竜。その2人の行動は十兵衛の心を動かしたのだ。

 

 

「明日からはまた家臣に戻る。だから今宵だけはこのまま.....」

 

「はい.....」

 

 

十兵衛もまた、天竜の腰に手を回していた。十兵衛の2度目の恋がほのかに生まれていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『明智光秀、調略完了』

 

十兵衛の見えない所で天竜が不気味に笑みを作っていた事を、十兵衛は気づく事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後、

 

 

「「天竜!!」」

 

「阿、吽、入るな言ったはずだぞ!!」

 

 

即座に十兵衛から離れる天竜。

 

 

「それが.....城に侵入しようとした女を捕まえたんだけど.....それが暴れ出して.....」

 

「侵入者!?.....若狭の者か?」

 

「ううん。でも、南蛮風の着物だったよ?」

 

「南蛮服?よくわからん!直接見に行く!」

 

「天竜.....」

 

 

十兵衛が呼び止める。

 

 

「すまん十兵衛。もう少し一緒にいたかったが..........同行を頼めますか?」

 

「..........はいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

有岡城、牢屋にて。

 

 

「出せぇ!!!あたしをこんな所に閉じ込めやがってぇ!!!」

 

「うひゃあ!!この女怖いみゃあ!!」

 

 

この女、そこまで大柄ではないのだが、咆哮だけで牢人をビビらせていた。

 

 

「いったい何事だ!?」

 

「ひえ~。殿!どうにかそてくれみゃ!」

 

「いったい誰が....................嘘だろ!?」

 

 

すると、女の方も天竜に気づく。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

勘解由小路天竜!!!」

 

 

 

「何故貴様がここにいるのだ森水青蘭!!!」

 

 

 

 

 

 

 

この森水青蘭という女、なんと天竜の知り合いであった。

 

 

「天竜ぅぅぅ!!!ここから出せぇぇぇ!!!」

 

「天竜!この女は何者です!?」

 

「えぇと.....」

 

 

言えない。この女の正体を知っているのが天竜のみであるなら、尚更だ。

 

 

「う~ん.....3回回ってワンッと吠え、俺の草鞋をなめれば出してやるよ?」

 

「死んでもやるかぁ!!」

 

「よしっ!!誰かこいつを斬れ!!」

 

「ちょっと天竜!!」

 

 

十兵衛の制止も聞かずに、処刑人を牢内に入れる天竜。だが、それが返って裏目に出た。

 

 

「こなくそ~!!!」

 

「ひぎゃっ!!?」

 

 

牢内では拘束されていなかった青蘭は処刑人をいとも簡単にねじ伏せ、処刑道具だった刀を奪ってしまった。

 

 

「ちっ!!」

 

 

天竜もまた刀を抜く。珍しく彼は焦っている。

 

 

「天竜!相手は女ですよ!?」

 

「ただの女ならな.....」

 

 

そこで彼女が再び咆哮をあげる。

 

 

「天竜ぅぅぅ!!!」

 

 

天竜にはその圧力がビリビリと伝わる。

 

 

「青蘭っ!!!」

 

 

天竜もまた咆哮を返す。そして、彼が動く。

 

 

「だぁっ!!!」

 

 

天竜の中段突きは、この狭い地下では最も効果的だったかもしれない。だが彼女は.....

 

 

「しゃらくせぃ!!!」

 

 

上段からの鋭い振り下ろしによってそれを相殺したのだ。しかも、それにより天竜の刀が大きく下がってしまった。

 

 

「隙ありぃぃぃ!!!」

 

 

青蘭が2発目の上段打ちを繰り出す。1歩遅れた天竜だったが、それでも受けの体制を作る。だが、

 

 

「貴様の負けだぁぁぁ!!!!」

 

「くそっ!」

 

 

天竜が押し負けたのだ。

完全にバランスを崩した天竜は即座に青蘭によって持っていた刀を跳ね飛ばされる。

その光景を見ていた十兵衛は驚愕する。己の実力を軽く凌駕していた天竜を敗北に追い込んだ女が現れたのだから.....

 

 

「くらえっ!!」

 

 

再度青蘭からの上段が来る!

丸腰の天竜は!

 

 

「何っ!?」

 

「こいつは習わなかっただろ?」

 

 

『真剣白刃取り』並の剣士では到底なし得ない大技を見せる。

だが、それは一瞬の時間稼ぎにしかならなかった。

 

 

「笑止っ!!!」

 

「ぐっ!?」

 

 

ガラ空きになっていた天竜の正面を蹴り飛ばす青蘭。吹っ飛ばされた天竜は、直様立ち上がろうと試みるが、身体に力が入らない。肋骨をやられたのだ。青蘭はその隙を見逃さず、腕を捻って地に押さえつける。そして、懐から.....

 

 

「天竜!!殺人罪で貴様を逮捕する!!」

 

 

なんと未来の手錠を取り出し、天竜の両手にかけたのだ。

 

 

「くそっ!!よくも青蘭!!」

 

「あとは取り調べでその屁理屈を発揮する事だな。牢屋入りはお前の方が合ってる!」

 

 

そうして天竜を牢屋の中に閉じ込めてしまった。

 

 

「何するですか!仮にも大和の大名ですよ!」

 

 

我慢出来ずに十兵衛が出る。

 

 

「貴様は誰だ?」

 

「私は天竜の主君の.....」

 

「じゃあ共犯だな。はい、逮捕」

 

 

ガチャンッと手錠をかけられる十兵衛。

 

 

「え?.....えええぇぇぇぇぇ!!!?」

 

 

すると、青蘭はおもむろに携帯電話を取り出す。

 

 

「あれ?圏外じゃないか。これでは警視に連絡できない....................うっ!」

 

 

突然バタリと倒れる青蘭。彼女の肩には針のような物が刺さっている。

 

 

「くそったれ!!.....麻酔銃か.....」

 

 

猛獣でも昏倒する麻酔銃をくらっても、気力だけで意識を保つ青蘭。

 

 

「油断したな。お前の悪い癖だ」

 

 

牢屋に入れられた天竜は、青蘭が十兵衛へ注意を移してる間に、即座に手錠を外し、麻酔銃を召喚術にて出し、牢屋の中から発砲したのだ。

 

 

「天竜!!この女はいったい何者ですか!!」

 

「..........こいつは俺や良晴と同じ未来人だ。職業は警察。未来人で俺を追ってた奴なんだが、何故かこの時代に来ちまったようだな」

 

「けいさつ?」

 

「まぁ、未来で言う所の武士。いや、侍所が近いか?まぁ、そんな所だ」

 

 

その天竜の話を耳にいれた青蘭が天竜に言う。

 

 

「未来だと?..........貴様が何を言っている?」

 

 

理解できていないようだったので、天竜は、牢屋から悠々と抜け出し、青蘭の前に立ち、見下す。

 

 

「ここは俺らいた平成の時代じゃない。400年前の戦国時代だ」

 

「戦国時代だと?..........そんな.....馬鹿な...................」

 

 

青蘭はそこで力尽きて眠ってしまった。

そこに、

 

 

「秀長様!!若狭がまた出てきましたみゃ!!」

 

 

兵が報告に来た。

 

 

「なんつー悪いタイミングだ!

肋骨折れてんだぞ!?」

 

「鯛眠愚?」

 

 

天竜は青蘭の服のポケットから手錠の鍵を探し出し、十兵衛の手錠を外してやる。

 

 

「誰かこの女を閉じ込めておけ!今度はちゃんと拘束するように!」

 

「承知!」

 

 

天竜は召喚術にて大槍を出す。これは以前まで使用していた「偃月刀」ではなく、新たに用意した「方天戟」である。槍のような刃の両側に左右対称に「月牙」と呼ばれる三日月状の刃が付いている。ちなみに三国志の呂布が使用するのは片方だけに月牙がついた「方天画戟」である。

 

 

「万千代ちゃんに薙刀が被ってるって言われてな。急遽変更する事になった」

 

「万千代ちゃん.....」

 

「この糞忙しい時に出てきやがって.....覚悟は出来ているのだろうな村重!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の若狭、後瀬山城。

土御門の脅威が去り「恍惚の術」が解けた中川清秀と高山右近が村重を制止する。

 

 

「村重様!どうか考えをお直し下され!」

 

「そうです!今は信奈様と争うべきではありません!.....お陰で南蛮寺にも寄れません.....」

 

 

右近は十字架を握りしめながらに言う。

 

 

「主君に恥を晒せって言うんか!

うちだって信奈はんの所に戻りたい.....でもここでノコノコ帰ってうちが許されたらどうなる?

『織田信奈はそれだけ甘い人物』

っていうのが触れ回る事になるんや。そんな風潮が流れれば確実に織田家は弱くなる.....それは絶対にあかん.....」

 

「まっ.....まさか!村重様.....貴方は.....」

 

 

村重は吹っ切れたような顔をしていた。

 

 

 

「うちはこの戦で死ぬよ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜軍1万。荒木軍8千。

この戦は始める前に勝敗が決まっていたかもしれない。それは数だけではない。武装、戦略、布陣、を完璧している天竜軍に荒木軍が勝てるはずがなかった。そもそも、大将が死を覚悟してる戦が戦になるわけがないのである。

 

 

「敵の前線をできるだけこちらに引きつけ、敵本隊と離れた所を一気に潰してしまえ!!」

 

 

なにより大将の天竜がすでに、天才軍師、半兵衛官兵衛に匹敵する程の軍師としての才能を持っていたのも勝因の一つだ。

いつしか、彼こそが「上杉謙信に代わる軍神である」という噂も流れ始めたのだ。毘沙門天の再来を自負する謙信と、自らが龍神そのものであると証明した天竜。果たして実力はどちらが上か.....

 

そんな時である。

 

 

「高山右近殿、中川清秀殿が降伏を言い渡しに来ました」

 

「ほう」

 

 

天竜は直々に彼らに会いに行く。彼らがこれから要求してくる内容は既に読んでいた。

 

 

「「村重様のお命をどうかお助け下さい!」」

 

 

2人は自ら降伏したのでなく、村重に命令されて追い出されたのだ。

 

 

「お前達はまだ死んだらあかん。お前達だけなら信奈はんも許してくれるやろ」

 

 

その言葉に感動した2人は村重の助命懇願に来たのだ。

 

 

「ですがね。荒木殿は信奈様から許されたにもかかわらず、2回も謀反をしました。信奈様もカンカンです。松永久秀同様討てと言われてます」

 

 

もちろん嘘である。

 

 

「そんな!!.....村重様の謀反は信奈様の為に.....」

 

 

右近は村重の意思を話す。そんな事も読んでいた天竜はつまらなそうにそれを聞き流す。

 

 

「それはそれは.....なんとしても村重殿をお助けせねばなりませんね!」

 

 

わざとらしく言う。

 

 

「おぉ~!お助け下さいますか!」

 

「ただし!条件があります」

 

 

天竜はそこで恐るべき提案をしてくる。

 

 

「俺の天下取りの手助けをしろ」

 

 

流石の2人もこれには唖然とする。

 

 

「そっ.....それは.....つまり.....信奈様を裏切れと.....?」

 

「おぉ!神よ。私の道を正してくだされ!」

 

 

当然2人は混乱している。そこで、

 

 

「佐介!」

 

 

天竜が呼び出す。実はこの古田佐介。親族同士の婚姻によって、清秀とも、右近とも、義兄妹に当たるのだ。

 

 

「佐介!お前も天竜殿派なのか!」

 

 

憤りを憶えている清秀に佐介は.....

 

 

「私と一緒に頑張ろうよお兄ちゃん♡」

 

 

ブハーーーッ!!と突然清秀が鼻血を吹き出す。

 

 

「清秀!?」

 

 

右近が清秀に近寄ろうとしたその時。

 

 

「右近お兄ちゃん♡」

 

「うっ!?」

 

 

右近が必死に鼻を押さえる。

そんな右近に佐介はそっと抱き付いた。

 

 

「私の為に頑張ってくれる?お兄ちゃん♡」

 

 

ブハーーーッ!!と右近までもが鼻血を吹き出した。実はこの2人。脅威なまでのシスコンだった。

 

 

「とんだ悪女だな」

 

「この2人にしか効きませんがね」

 

 

キリストバカの右近までもがここまで悶えるとは.....

ちなみに右近の中の優先順位は、

3位.....フロイス

2位.....村重

1位.....佐介

であった。

 

 

「「我らは!(佐介ちゃんに甘えてもらうために)天竜様に従いましょう!!」」

 

「くくくくく.....いいだろう!お前達に真の天下を見せてやろう!」

 

 

『中川清秀、高山右近、調略完了』

そうして天竜はまた、巻物の名を消した。

 

 

 

 

 

 

 

最戦力であった清秀と右近の離脱によって荒木軍は窮地に立たされていた。

 

 

「村重様大変です!」

 

「どないした?」

 

「たった今、捕らえられた村重様の御家族が全員処刑されたそうです!」

 

「なんやと!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜様。何故あのような虚報を?」

 

「佐介.....人間が本当に死ぬ覚悟ができると思うか?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怒っとる.....これは信奈はんの怒りや.....」

 

 

村重は先程とは打って変わり、ガタガタと震え始めた。

 

 

「いやや!.....死にとうない!死にとうない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間の心など.....ちょっと捻るだけで簡単に壊れる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「村重様!後瀬山城はもう駄目です!抜け道を用意しました!どうぞそちらから..........うげっ!?」

 

 

その兵は天竜軍の流れ弾が当たり、村重の目の前で絶命する。

 

 

「ひっ...........ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

村重はその場から逃げ出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐介。後瀬山城の構造は熟知しているな?」

 

「はい。いくつもの城を行き来していたので.....」

 

「村重が逃げるとしたら何処らへんだ?」

 

「.....おそらく後瀬山城北方の洞窟か南方の岟の洞窟でしょう」

 

「そうか。では俺は北方を、佐介は南方を頼む」

 

「承知!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村重は手荷物として大量の茶器を持って逃げていた。見た目はほとんど大泥棒である。

 

 

「阿呆らし!!調子に乗って虐殺なんてしよって!!こんな戦で死んでたまるかいな!!」

 

 

虚報から、信奈が大量虐殺を命令したと信じ込む村重。

 

 

「この茶器売り捌いてでも意地で生きたるで!!」

 

「それはどうかな?」

 

「!!?」

 

 

村重の進行方向に白い武者がいた。だが、防具は白兜のみで、服装は白い着物。羽織も白かった。こいつ.....こんな格好で戦ってたんか.....

 

 

「お前.....誰や!」

 

「羽柴天竜秀長」

 

 

ひっ!?と突然村重が腰を抜かす。

 

 

「しっ.....白夜叉!!」

 

 

天竜はニヤリと微笑み、刀を抜く。

 

 

「あら~きむらしげ~。見~つけた~」

 

「ひっ!?」

 

 

ケタケタとしながら近付く天竜に怯える村重。

 

 

「天竜軍は荒木村重を追い詰めるも逃亡され、荒木村重はそのまま行方不明になるってどうだ?」

 

「え?」

 

「ここで殺して死体を隠しちまえばその状況が作れるんだよ」

 

「ひっ!?」

 

「実際、お前もういらないんだよね。予想外に若狭の大名になったり、勝手に操られて利用され、お陰で各地を奔走される羽目になった。とんだ大迷惑だ」

 

「いや.....いや!」

 

「そして、この謀反続き。考えもまとまってねぇ餓鬼が何度も起こしやがって.....今日だって肋骨痛いの我慢して出兵してんだぞ?」

 

「いや.....助けて.....」

 

「もううんざりなんだよ...........『荒木村重』はここで死ね」

 

 

そうして天竜は刀を振り上げた。

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

「鳴かぬなら。殺してしまえ。ホトトギス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安土城。

 

 

「そう。弥助はまた.....」

 

「はい。止むを得ず、荒木軍は全滅に追い込みました」

 

「そう.....それで.....弥助は?」

 

「残念ながら.....あれ以降行方不明です。恐らく、毛利方へ逃亡したのではないかと.....」

 

「デアルカ.....シロ。褒美を取らすわ。何がいい?」

 

「では失礼をして.....与力として預からせて頂いている、古田佐介を我が家臣に」

 

「佐介を?..........まぁ、いいわ。

存分に使ってやりなさい」

 

「承知!」

 

 

その後、信奈は浮かない顔で西の方角を見る。

 

 

その光景を天竜は邪悪な笑みでそれを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有岡城茶室。

これからまた、播磨の方に戻る利休と最後の茶会をしていた。

 

 

「頼んだぞ利休。上手い具合に良晴達を誘導してくれ」

 

「..........?」

 

「その作戦はまだいい。紀伊を承諾次第、俺もそちらへ動く」

 

「..........(ふんふん)」

 

「だろうな。信奈は俺を近畿に閉じ込めて、大きな手柄を立てるのを阻止してきてる」

 

「..........(ガーン)」

 

「心配するな。なにも計画そのものがばれたわけじゃない。俺が動けば否が応でも手柄が立つさ」

 

 

そうして天竜は懐から例の巻物を取り出した。

 

 

「..........?」

 

「あと何人いるかって?そんなのまだまだいるさ。将来的に良晴の家臣になるか、討たれるかもしれない名人を全員記しているんだからな」

 

「..........(ふんふん)」

 

「確かに半兵衛官兵衛は欲しかったな。だが、先にとってしまえば、恐らく織田は美濃にすら勝てなかったろう」

 

「あの.....天竜はん?」

 

 

その茶室にはもう1人いた。

 

 

「どうした?」

 

「その計画は最終的に信奈はんを殺す事になるんか?」

 

「いや、信奈には我が家臣。悪くても出家してもらう事になるだろう」

 

「そっか.....なら安心や.....」

 

 

こいつ.....まだ信奈の事を.....

 

 

「安心しろ。俺が天下を取れば、再び信奈と談笑できる日が来る。保証しよう」

 

「せやな。ほんならこの荒木道糞。天竜はんの為に裏から支えるで」

 

「..........(ガーン)」

 

「これから茶人になる名前にしては汚ねぇな。

荒木道薫あたりにしておけ」

 

「せやな」

 

 

 

 

『荒木村重、調略完了』

 

信奈の名物狩りの裏で、天竜による名人狩りが行われている事など、信奈も良晴も気づけずにいた。

 




突然の新キャラ森水青蘭。
あなたはこの人の正体が見抜けるだろうか?
次回予告
三茶
~天竜さん.....あんた何をするつもりだ?~


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第十四話 三茶

蒲生氏郷を登場させるタイミングを完全に失い、どうしようか迷ってます。題名から分かる通り、今回は例のキャラが新登場します。



「だ~か~ら~!天竜はんには雑賀衆に入って欲しいんや!」

 

「阿保か!俺は大和の大名だぞ!」

 

「え~!!さっきに見せてもろうた鉄砲の精度.....よほど達人でもああはならんで?」

 

「『二重撃ち』の事か?」

 

「そうそれや!先に撃った遅い弾の後ろから速い弾をぶつけて、破片を大量にばら撒くなんて.....」

 

「あのなぁ!!お前の立場分かってんのか?」

 

 

ここは大和。第2天竜塾。

摂津の第1天竜塾は小次郎に任せ、天竜はここで塾長を勤めている。弟子達が、過労死寸前の天竜を案じて移籍を提案したのだ。

といっても、天竜の授業を求めて摂津からの転校生も大量やって来たのも事実である。

天竜がこんな事を出来るのも、若狭勢鎮圧から天竜軍が一気に暇になったからだ。いや、暇にされたというのが正しいか.....

天竜軍の戦力拡大に危機管理を感じた長秀が信奈に通告しているのである。

 

 

「俺らは今、敵同士。こんな所で談笑してるんなんておかしいだろ?」

 

 

ここは天竜塾の職員室。孫市が急に訪れたので、急遽授業を切り上げ、今に至る。

 

 

「昨日の敵は今日の強敵(とも)っていうやんか」

 

「なんでやねん!」

 

「おっ!天竜はんも漫才するんか?」

 

「違う!身内にも関西娘がいるから移るんだよ!」

 

 

策士な天竜にとって、このように常識の通じない相手は苦手なのだ。

 

 

「うちも暇やねん。あんたのせいで未だににゃんこう宗とは仲悪いし、折角平和になったのに、漫才も南蛮蹴鞠もさせてもらえへんのや」

 

「それは悪かったな」

 

「まぁ、顕如とはお忍びでたまに会っとるんやけど.....」

 

「お忍びで敵国に愚痴を零しにくるのもどうかと思うがな」

 

「まぁまぁ、堅いこと言うなや」

 

「ちっ.....」

 

 

そこで天竜は思いつめたように語り出す。

 

 

「織田信奈は侵略を命令したが、俺は同盟によって紀伊を手に入れたいと思ってる」

 

「ふ~ん」

 

「紀伊には有力な大名がいない。代わりに力を持った2大勢力が存在する」

 

「雑賀衆と根来寺かいな?」

 

「他にも国人がちょこちょこといるがな」

 

「紀伊は厄介やで。根来寺だけやなく、高野山も強い力を持っとる。まぁ.....本猫寺にはかなわんけど」

 

「あぁ.....って!何でお前がこっち側なんだよ!」

 

「そういやそうやな」

 

 

ペースを狂わされ、イラつく天竜。

 

 

「この流れだと、雑賀衆は織田に協力してくれるのか?」

 

「う~ん。それは嫌やな」

 

「何でだよ」

 

「『織田さんに協力』なんて言ったら、まるきり雑賀衆が織田の家来みたく扱われるかもしれへんやん」

 

「まぁ、否定はしないな」

 

「天竜はん個人との同盟なら大歓迎なんやけどな!」

 

「なんじゃそりゃ」

 

「うちは本気やで」

 

「..........」

 

 

2人は真剣な顔つきになる。そして天竜は懐からとある用紙を取り出す。

 

 

「こいつ等を量産してほしい」

 

「なんやなんや?.....『雨陰千重洲陀』と『さらぶれっど』?さらぶってなんやねん?アラブ馬とはちゃうんか?」

 

「アラブ馬とイギリスのハンター馬を配合させた新馬だ。まだ世界に雌雄二頭しかいない」

 

「えげれす?そんな南蛮の国からよう持ってこれたな」

 

「まぁ、フロイスのつてでな」

 

「どうせなら大和で育てりゃええんやないの?」

 

「俺は今、信奈に目をつけられてる。雨陰千重洲陀同様、以前と違い、下手に動けばすぐに差し押さえられる」

 

「ふ~ん」

 

「頼めるか?」

 

「ええけど、うちらもお零れは貰えるんやろな?」

 

「あぁ、構わない」

 

「金はいくらまで出すん?」

 

「先程言ったように、下手に金を動かす事は出来ない。代わりに雨陰千重洲陀千丁をやる。それだけあれば量産もしやすいだろ?」

 

「まいどおおきに。交渉成立や」

 

「まずは雨陰千重洲陀で肩慣らしだ。成功すれば、次はもっと新型の鉄砲にも挑戦してみよう」

 

 

オリジナルを少数召喚し、後はこの時代の技術で大量生産させる。そうすれば少ないコストで未来兵器が盛大に用意できる。

 

 

「同盟の条件やけどな。南蛮蹴鞠でどうや?」

 

「は?」

 

「いや、今まではうちしか参戦してなかたんやけど、雑賀衆にも興味を持ち始めた輩が多くなってきたんや。.....でも、本猫寺とはもうできひんから、困ってたとこなんや。天竜はんも南蛮蹴鞠は知ってるやろ?」

 

「ん。まぁ、授業にも取り入れてるからな」

 

「やっぱ相手は経験者の方がええんや。本猫寺みたく、定期的に試合してくれるんなら同盟もいいで?」

 

「そんなんでいいのか!?」

 

「ええよ?戦で血みどろより、試合で汗まみれのほうが気持ちええもん!それで解決するなら平和万歳や!」

 

 

石山戦争時の地獄を経て、思い至ったのだろう。

 

 

「いいだろう。開催日はいつにする?」

 

「10日後でどうや?」

 

「分かった。それまでに選りすぐりの11人を集めておけよ?」

 

「そっちもな!」

 

 

とりあえずハル、小次郎、武蔵、ヒコ、阿斗、吽斗、佐介、大吾、良晴あたりでいいか。

 

 

「根来寺はどないするん?」

 

「今、大和の仏教衆と調停中だ。上手い具合に仲を作って根来寺との繋がりも用意してもらうよ」

 

「ふ~ん。まぁ頑張れや!」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織田信奈や良晴では、仏教衆との仲を持つ事は到底無理だろう。信奈は仏敵。良晴はその愛人というのが世間一般の印象だ。だが、天竜は違った。

 

 

 

 

 

翌日、大和国。興福寺。

そこの坊主達は天竜についての噂話をしていた。

 

 

「新しい大和国の当主、羽柴秀長。本当に大丈夫か?」

 

「あの悪名高き松永の後釜だぞ?善人のはずがない!」

 

「しかもあの貪欲の塊、羽柴秀吉の義兄だ」

 

「でも安土城を襲ったと聞くぞ?」

 

「何月前の話だ!.....あぁ、思えば安土城の建築材料という名目で数々の仏像が没収され、砕かれた。なんといたわしや」

 

「そういえば、『黄泉帰りの白夜叉伝説』もあるが.....」

 

「話では、その羽柴秀長が今日、この興福寺を訪問するらしい」

 

「ふん。どうせ、金をよこせとでも言ってくるのであろう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、天竜は興福寺に入った。

 

 

「今日はお招き頂き有難く思う」

 

「「「えっ!?」」」

 

 

何をされるかと身構えていた坊主達に対し、天竜が来て早々お辞儀をしたのだ。

 

 

「「「こっ.....こちらこそ!」」」

 

 

坊主達もハッと気付いてお辞儀を返した。

 

 

「失礼する」

 

「あ.....」

 

 

天竜はスタスタと前進し、仏像の前に立つ。何をするかと心配していた坊主達だったが、天竜はその場で仏像にもお辞儀をしたのである。そしてその場に正座をし、手を合わせる。

その光景を見つめていた坊主の誰もが直感した。この方は敵じゃないと.....

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ!秀長様は陰陽師であられましたか!」

 

 

興福寺の門主と談笑をする天竜。

 

 

「仏敵の松永弾正と大違いの秀長様が大和国を治めるれば安泰ですな!」

 

「それ程でもない」

 

「ところで、現在根来寺との交渉中だとか?」

 

「あぁ、今日はその事で相談に来た」

 

 

すると、門主は難しい顔をする。

 

 

「秀長様。私達興福寺は『法相宗』本尊は

『釈迦如来』です。対し、根来寺は

『新義真言宗』本尊は『大日如来』です」

 

「では無理なのか?」

 

「いえ、同じく仏教徒です。心から我らが訴えたのなら、聞いて頂く事はできるかもしれません」

 

「すまないな」

 

「いえ、秀長様のお心は我らにきちんと響いております」

 

「こう言うのもあれだが、信奈様の仏教嫌いは異常なのだ。『神仏習合』により、如来様は天照大御神と同一。つまり、姫巫女様への冒涜と同じなのに」

 

「秀長様もそう思われてましたか.....確かに、比叡山のように間違った信仰で金を巻き上げていた悪僧共もいましたが、だからといって全ての仏教がそうとは限りません!本猫寺のように、笑いにより人々に平和をもたらしたり、我らのように、貧困にまいった人々を保障したりなど、良き仏教徒は沢山いるのです」

 

「それは理解している」

 

「それらを全て同一に蔑み、理解しようとしない織田信奈こそ妖怪!日の本を巣食う悪鬼羅刹なのだ!」

 

 

プッ!と天竜は吹き出しそうになる。

『日本を救おうと尽力している者が、傍らでは日本を巣食う者だと思われているのだ』

 

 

「そんなに言っちゃ信奈様に失礼だよぉ?」

 

「順慶様!?」

 

 

寺の奥から誰かがやって来る。

 

 

「順慶.....筒井順慶か!?」

 

「ん?何で私の名前知ってるのぉ?」

 

 

見た目は、ちょっと長い袖の袈裟を身につけ、ノホホンとした表情の少女、筒井藤勝順慶。年は15~6歳ぐらいだろうか。本来なら天竜ではなく、この順慶が大和国を統治するはずだったのだが、未だ見ないと思ったらこんな所にいたのか.....

 

 

「松永久秀が大和の大名だったせいで、ずっと出れなかったんですよぉ。おまけに三好三人衆と同盟してたせいで信奈様にも睨まれちゃうしぃ.....」

 

 

そういうことか。久秀によって居城の筒井城を奪われ、大和から追い出されたという。大和奪還のために三好三人衆と組んだため、信奈と組んだ松永久秀に撃退されてしまったのだ。

 

 

「お陰で久秀が死んだ後も筒井城には戻れませんでしたぁ.....」

 

 

史実では、信長は完全に久秀と対立したために、久秀と対立していた順慶を仲間として迎え入れたが、信奈は未だに久秀を想っているらしく、久秀の敵だった順慶は信奈にとってもまだ敵なのだ。なんとも哀れな事だろうか。

 

 

「筒井城か。元は其方の城だ。早急にお返ししよう」

 

「.....!?ありがとうございますぅ」

 

 

順慶の表情がパァー!!と明るくなる。

 

 

「やっぱり秀長様は素晴らしいお方ですぅ」

 

「やっぱり?」

 

「見る目はあるんですよぉ?」

 

 

似たようなセリフを最近聞いたな。

 

 

「秀長様は興福寺の後ろ盾が欲しいんですかぁ?」

 

「あぁ」

 

「じゃあ。私のお願いをもう一つ聞いてくれたら、興福寺を動かしてあげますよぉ?」

 

「お願い?」

 

「順慶様!」

 

「じゃあ門主様は私のお願いを叶えられるんですかぁ?」

 

「うっ.....」

 

 

筒井順慶はこの興福寺の門徒だというが、彼女の地位は門主よりも上だというのか?

 

 

「構わない。そのお願いとは?」

 

「今宵。私の部屋にお越し下さぁい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

 

 

「なるほどな.....」

 

 

そこには1人分の布団2つの枕。と程よい明るさの灯火。これは.....

 

 

「秀長様.....私の初めてを奪って下さぁい」

 

「ほう」

 

 

順慶は既に枕元で三つ指を揃えている。服装は寝間着。天竜も既に用意されていた寝間着を着ている。直前に坊主から手渡された時に大体の想像はできていた。

 

 

「いいんだな?」

 

「はい.....」

 

 

天竜は順慶を布団に寝かせ、彼も隣りに寝転がる。彼女は頬をほのかに紅潮させている。

 

 

「残念ながら、この房事で其方が俺に愛を求められても応える事は出来ない。それでも?」

 

「構いません」

 

「では.....」

 

 

天竜は順慶の上位をとる。そして、順慶のサラリとした髪を撫でる。

 

 

「可愛らしい顔をしてるな」

 

「..........」

 

 

信奈や十兵衛のような明るい美少女ではなく、月下美人のような印象であった。

 

 

「ん!.....」

 

 

天竜は順慶の首筋に口付けをする。続いて鎖骨に口付けをする。胸はそこまで大きくないようだった。

 

 

「あれ?」

 

 

天竜は異変に気がつく。

 

 

「うわぁっ!!?」

 

 

そして、真後ろに飛び退いた。

 

 

「きっ.....貴様!」

 

 

彼女の隠された秘密とは.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後の近江。とある道中。

 

 

「全く.....安土城の帰りに天竜さんに会うなんてなぁ」

 

「お忍びで安土城に何をしに行ってたんだ?逢引きか?」

 

「なっ!!そんなわけないだろ!!.....信奈に播磨の戦況について呼ばれたから行ってただけだよ」

 

「ほう」

 

「天竜さんは?」

 

「最近、妹達と顔を合わせてなかったからな。長浜まで挨拶に.....」

 

「暇だねぇ.....」

 

「お前も少しは顔を見せておけよ?シンの奴.....お前の事益々嫌いになってるぞ?」

 

「うぅ.....俺はあの子に関しては諦めてるよ.....」

 

「手遅れになる前に仲直りしといた方がいいぞ?あって損する兄弟の絆なんてないからな」

 

「う~ん。そもそも何で俺たち仲悪いんだろうか?」

 

 

当然、天竜が裏で秀俊に教え込んでいるからである。

 

 

「さぁな」

 

「ねねはどうしてた?」

 

「いつも通りだ。城で1番年下なのに、母親みたいな態度で他の皆を仕切ってたぞ?」

 

「へぇ~」

 

 

その時、1匹の蜂が。

 

 

「うわぁっ!?蜂だ!」

 

 

良晴が狼狽えた所、蜂は一直線に天竜が乗っていた馬の鼻筋に針を刺す。

 

ヒヒーーーーンッ!!!

と突然馬が暴走。急に走り始めた。

 

 

「うわっ!!うわぁぁぁ!!!」

 

「いかん!今すぐ飛び降りろ!!」

 

「うぇっ!?.....やぁっ!!」

 

 

だが、その時手綱が尻尾に引っかかり、良晴は宙ぶらりんになってしまった。

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ありゃりゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

3時間後。ようやく落ち着いた馬の元に天竜が近寄る。恐る恐る見てみると、なんと良晴はまだ引っかがっていた。

 

 

「ひぅ..........たす.....けて」

 

 

天竜は無言で良晴を降ろしてやる。

 

 

「なんか..........すまん」

 

「尻尾..........もう.....いらない」

 

 

良晴は汗で全身ビショビショだった。

 

 

「仕方ない。近くに寺があるようだからそこで休ませて貰おう」

 

「.....うん」

 

 

 

 

 

 

 

近江、観音寺。

 

 

「すみませんね住職。1部屋借りちゃって」

 

「構いませんよ。あの偉大な秀吉様と秀長様がお越しになられてこの程度のお持て成ししかできず、返って申し訳ありません」

 

「いやいや」

 

 

その時、良晴が起きてきた。

 

 

「うぅ.....頭痛ぇ.....」

 

「良晴。起きて大丈夫なのか?」

 

「ちょっと寝て楽になったよ」

 

「お構いなく。ゆっくりしていって下さい」

 

「「はい」」

 

 

その時、一人の少女がお盆に湯呑を2つ乗せ、やって来る。

 

 

「よろしければ.....」

 

「お!喉乾いてたから丁度いいや!」

 

「貰おう.....」

 

 

良晴は何も気にせずお茶を飲み、天竜は何かを思っている。お茶は、大きな茶碗にぬるめが入っていた。

 

 

「すまないが、もう一杯貰えるか?良晴は?」

 

「あぁ。俺も飲みたい」

 

「分かりました.....」

 

 

そうして少女は再び2杯の湯呑を運んでくる。

 

 

「おっ?なんか飲みやすくなったぞ?」

 

「あぁ.....」

 

 

2杯目のお茶は先程のお茶より少し熱めのお茶に、茶碗の半分くらいの量で出してきた。

 

 

「すまない、もう一杯くれ」

 

「天竜さん喉乾いてんの?じゃあ俺も.....」

 

「はい.....」

 

 

そうして3杯目を運んでくる少女。小さな茶碗に、湯気の立ち昇る熱々のお茶を入れている。天竜と良晴はそれも旨そうに飲み干した。

 

 

「ぷふぁ~!旨かった!3杯も飲んじまった

.....................あれ?これって.....」

 

 

良晴もようやく気付いたようだった。

 

 

「ところでお嬢さん。君の名前は?」

 

 

聞いたのは天竜だった。

 

 

「.....?私の名前は『佐吉』です」

 

 

その返答にピクリと反応する2人。この子は

『三茶の佐吉』こと、石田三成なのだ。

史実では、秀吉が信長から与えられた休暇を利用し、鷹狩りをしていた帰りにて寄ったこの観音寺にて、三成と出会ったのだ。秀吉にその才能を見出された三成は、秀吉の子飼いの将として尽力し、五奉行の1人まで出世。関ヶ原の戦いにて徳川家康と天下分け目の争いをするまでに至る、忠義の将として知られている。

秀吉の肩代わりをしている良晴には、どうしても手に入れておきたい逸材だ。

 

 

「なぁ、佐吉。俺の所に来ないか?」

 

「え?」

 

「お前には才能がある。こんな所で眠らせてちゃ勿体ねぇよ」

 

「そんな.....私なんかが.....」

 

 

その話を聞き、住職が急に興奮する。

 

 

「なんたることか佐吉!!羽柴様からの

お誘い.....光栄なかぎりであるぞ!お前の才能はわしですら凄いと思う。是非仕方させて貰いなさい!」

 

「住職様.....分かりました。私を連れて行って下さい!」

 

「そうかそうか!」

 

 

こうして、佐吉の羽柴家入りが決定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし.....

 

 

「てっ.....天竜さん!?何やってんだよ!?」

 

 

今までの台詞は史実で秀吉が三成を口説く時に言った台詞。良晴もそれを言おうとした所だったのだ。だが、先に言ってしまったのは、史実では全く関係なかった羽柴秀長。天竜だったのだ。

 

 

「佐吉よ。これからは俺を天竜と呼ぶがいい。

身内は皆そう呼ぶ」

 

「はい天竜様!!」

 

 

信じられないという表情で天竜を睨む良晴。

 

 

「天竜さん.....あんたは一体何を.....何をするつもりなんだ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。摂津、第一天竜塾。

 

 

「全く信じらんねぇ!!」

 

「だから謝ってるだろう」

 

「普通に考えて俺に譲るだろ!?」

 

「おいおい。佐吉はモノじゃないぞ」

 

「こっちは真剣に話してるんだ!!」

 

「..........」

 

 

良晴は想像以上に怒っていた。

 

 

「天竜さん.....俺に協力してくれるんじゃなかったのか?なんだって自ら歴史を狂わせてんだよ!?」

 

「..........昔、日本史の授業で.....」

 

「.....!?」

 

 

天竜は急に昔話を始める。

 

 

「『石田三成は秀吉に仕官しなければ、同僚に忌み嫌われる事なんてなかった。仕官しなければ、関ヶ原で処刑される事はなかった』と言っていたのはお前じゃなかったか?」

 

「うぅっ.....!!.....確かにそんな事言ったけど、それとこれとは.....」

 

「同じだ。石田三成が秀吉に仕え、

敗軍の将になるのか.....

秀長に仕え、未知の道を辿るのか.....」

 

「俺は!!.....三成を敗軍の将になんか.....そもそも関ヶ原の戦いなんて起こさせ.....」

 

「よくもまぁ、確証の無いことを宣言できるな」

 

「くっ!!」

 

「安心しろ。俺に仕えさせたからには敗軍の将になんてさせないさ」

 

「天竜さんのその自信はどっから湧いてくるんだよ.....」

 

 

結局、良晴は天竜に丸め込まれて、石田三成を取られてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで良晴。ホモのお前に頼みたい事があるのだが.....」

 

「....................は?」

 

 

今、信じられない2文字が混ざってたような。

 

 

「抱かれたがってる奴が1人いるんだ。

相手してやってくれ!」

 

「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て!!!!!!

何で俺がホモって前提で話が進んでるんだよ

!!!?」

 

「ん?3度の飯より男根が好きなお前が何を.....」

 

「年上だから自重してたけど.....

あんた一回死ね!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は3日前の興福寺に遡る。

 

 

「きっ.....貴様.....」

 

「..........」

 

 

順慶にお願いされ、順慶を抱こうとしていた天竜は、あるとんでもない事に気がつく。

 

 

「貴様.....女じゃないな!」

 

「..........やっぱり」

 

 

上半身だけなら誰がどう見ても、女性だと答えるだろう。だが、下半身には女性にはあってはならないモノが.....

 

 

「秀長様もお断りになるんですね.....」

 

「ばっ.....!!女だと思って近づいた奴が男だったら誰でもこんな反応するわ!!」

 

「男じゃないですぅ」

 

「いや、男だろ!!」

 

「体は男の子でも、心は女の子ですぅ」

 

 

ようするに御釜..........

ゲフンゲフン!!男の娘なのか.....

 

 

「抱いてくれなきゃ興福寺は後ろ盾にはなってあげませんよぉ」

 

「なっ!?」

 

 

興福寺で、門主以上に発言力を持っている順慶.....本当だろう。

 

 

「待ってくれ!!.....五日だ!!五日だけ心の整理させてくれ!!」

 

「五日ですかぁ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今日が四日目。

 

 

「という事なんだ」

 

「あんたが抱かれろ!!!!!

何サラッと人に押し付けようとしてんだよ!!」

 

「嫌です。無理です。男は流石に.....」

 

「俺だって嫌だよ!!他に方法ないの!?」

 

 

史実では水攻めしてまで奪い取った紀伊。それが交渉だけで解決するのなら、これ程ベストなものはない。

 

 

「あぁ!!生きる為に何人もの女は抱いてきたが、男だけは専門外なんだ~!!」

 

「.....おい!?今とんでもない事をカミングアウトしなかったか!?」

 

「頼む良晴!!数学の成績を5になるようにしてやるから.....」

 

「ヤダ!」

 

「じゃあ、全教科オール5にしてやる!」

 

「ヤダ!」

 

「貴様!抱かなきゃ全教科オール1にして、お前から単位を剥奪して留年させるぞ!!」

 

「なんつ~脅しだよ!!

社会的に抹殺されるぐらいなら留年上等だよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、解決しないまま五日目がきてしまった。長浜城に寄ったのも、同性愛者を探す為だったのだが、見つからなかった.....

 

 

「秀長様.....」

 

 

順慶は今日もうっとりとした顔をして天竜に擦り寄る。真実を知らなければ、誰がどう見ても美少女なのだが.....

 

 

「何故私の身体は男なのかなぁ」

 

「..........」

 

「私は自分の事をずっと女の子だと思ってましたぁ.....でも、どれだけ男性を求めても誰も応えてくれない.....」

 

 

おそらくこの子は「同一性障害」なのだろう。

以前、この子を御釜などと思ってしまった自分を恥じる。

 

 

「せつない.....せつないのです秀長さまぁ.....」

 

 

涙目で訴える順慶。

それに対し、天竜は抵抗する理性をついに押し殺した。

 

 

「.....藤勝」

 

「.....ん!?」

 

 

順慶の幼名を呼び、彼女(彼)を抱きしめる。

ついに天竜の方が折れてしまった。

 

 

「.....脱がすぞ?」

 

「.....はい」

 

 

天竜は順慶の寝巻具を脱がし、下着に手をかける。目を瞑り、そっと脱がせた。

 

 

「あっ.....」

 

 

天竜はそっと目を開ける。そこには予想していたモノがついていたのだが.....

 

 

「こっ.....これは!?」

 

 

男のモノだけがあるのだと予想していた。

だが、そこには女性のモノまで存在していた。

 

 

「睾丸性女性化症候群!?」

 

 

昔読んだ、何かの小説に登場していた気がする。本来ならば、男子として生まれるはずだったのが、遺伝子の異常で女子の身体も同時に持ってしまったのだ。乳房もよく確認すれば、男性のものというよりは女性に近い。

男子と女子、両方の生殖器を持つ。男でも女でもない。人間としても未完成な、哀れな存在。当然、生殖能力は持たない。

 

 

「藤勝っ!!」

 

「ひっ.....秀長様!?」

 

 

天竜は順慶を思い切り抱きしめた。その目には大粒の涙が.....この涙は本物と信じたい。今まで嘘ばかりをついてきた俺の本当の気持ちをさらけ出したい。

 

 

「藤勝!藤勝!藤勝!藤勝!藤勝!藤勝.....」

 

 

仕切りに彼女(彼)の名前を呼んでやる事しか出来なかった。そして、自分の愚かさを知った。自分程度の不幸を地獄と呼んでいた自分が恨めしい。俺はただ運が悪かっただけ.....

この子は産まれた時点で地獄が決定していたのだ。それに対し、俺はまるで俗物のように他人に押し付けようとしていたのか.....

あぁ!愚かさの分だけ自分を殺したい!!

 

 

「秀長様.....秀長様.....」

 

 

順慶もまた、涙を流しながら天竜を求めた。彼女(彼)は誰かに認めて貰いたかったのかもしれない。

「私は人間だと.....男でも女でもないのなら、せめて天竜にだけは女として見てもらいたいと.....」

 

 

「藤勝.....」

 

「ん.....」

 

 

天竜は順慶に口付けをした。これには、愛などなかったかもしれない。ただの同情だったかもしれない。だが、天竜には順慶の想いを素直に受け止めてやるのが最大の優しさ認識する。

 

 

「秀長様.....」

 

「天竜でいい.....」

 

「天竜様.....」

 

 

この夜だけは、この2人は男女の間柄でいられたかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

天竜と順慶は同じ布団で朝を迎える。

 

 

「藤勝.....」

 

「はい。天竜様」

 

「本当に俺で良かったのか?もっと理解のある奴ならお前の事を愛し.....」

 

 

天竜が言おうとしたのを順慶は人差し指で止めた。

 

 

「天竜様がいいんです。私を認めてくれた.....

一夜だけでも女にしてくれた天竜様が.....」

 

 

そんな彼女(彼)を天竜は再び抱きしめる。

 

 

「お前は女だ!誰が何と言おうと俺が証明してやる!」

 

 

順慶はまた泣きそうになり、天竜の胸に顔を埋めた。

 

 

「藤勝.....俺は作りたい。お前と同じような悩みを持つ人も堂々と生きていけるような国を!世界を!」

 

「天竜様ならできます.....」

 

「手伝ってほしい!俺の天下取りを!」

 

「勿論」

 

 

天竜はまた一つ決意した。

もう、順慶のような社会的弱者が阻害されるような世など見たくない。俺が変えてやる。俺が作ってやる。真の天下を.....

 

この子らを真に考えてやれる天下人は俺しか.....天竜しかなれないであろう。それが望みなら、全ての弱者の希望なら俺が叶えてやる!!

 

 

 

「その為には倒れてもらうぞ、織田信奈!!」

 

 




題名と違って、メインは筒井順慶でした。
作中で語った小説とは「リング」のことです。
実在の症状なので不謹慎と思われるかもしれませんが、私は至って真面目です。これは、天竜の野望が、決して私欲なものではなく、必死に生きる全ての人達を守るためなのだと、読者さんに改めて理解して貰う為なのです。
その為に天竜は自ら悪人を演じているという事を忘れないでいて下さい。
次回予告
紀伊第2次南蛮蹴鞠大会(前編)
~裏切りの○○~


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第十五話 紀伊南蛮蹴鞠大会(前編)

なんか長くなりそうだったので急遽、前後編に分けました。
どうぞご覧ください!


安土城、天守。

 

「シロが謀反!?」

 

「そのような噂があります」

 

 

信奈は人払いをし、とある人物と密談をする。

 

 

「万千代に忠告されて、意地の悪い事は結構しちゃったけど、謀反なんて.....」

 

「秀長様が所有する新型鉄砲を、敵である雑賀衆に売り捌いているとの噂もあります」

 

「何ですって!?」

 

「また、めぼしい人員を次々に調略し、一部では『天竜派』なるものを作っているとか.....」

 

「.....確かに、右近と清秀の管理はシロに任せてるけど、そんなはずは.....」

 

「信奈様。信じられないのであれば私を大和にお送り下さいませ。.....間者として」

 

「貴方を?」

 

「噂が真実であれ、虚実であれ、価値はあると思います」

 

「..........分かったわ。凪!貴方を大和へ派遣するわ!」

 

「御意」

 

 

こうして、凪という名の忍びが大和へ送り込まれた。

 

 

 

 

 

 

興福寺の後ろ盾を手に入れた天竜は、順慶に根来寺調略の全権を与えていた。

 

 

「本当にいいのか?」

 

「はぁい。約束ですのでぇ」

 

 

天竜は順慶の頭を撫でてやる。

 

 

「えへへへ」

 

 

 

 

 

『筒井順慶、調略完了』

調略というには語弊があるかもしれないが、筒井順慶は天竜が欲しいと思っていた武将の1人であり、天竜の心からの言葉によって、天竜に仕える事を決意したのだ。これも一種の調略であろう。

天竜は泣く泣く巻物から順慶の名を消した。

 

 

 

 

 

 

 

摂津、第一天竜塾。

 

 

「天竜さん.....今日はなんでも奢るぜ?」

 

 

今日の良晴はイヤに優しかった。

 

 

「断る。生徒もとい弟に奢られるわけにはいかん」

 

「だって.....天竜さん昨日結局、御釜と.....」

 

 

その瞬間、天竜は懐から取り出した拳銃の銃口を良晴の額に当てた。

 

 

「ひぃっ!!?」

 

「.....いいか?この事は貴様にしか話していない。一切他言無用だ。もし、他から流れた場合、お前が発信源と断定し、この44口径マグナムの弾丸が貴様の頭蓋を崩壊させる事になるぞ!!」

 

「ひぃっ!!?撃たないで~!!」

 

「今すぐ忘れろ!自分で無理なら、

俺がやろうか?『薬漬けにして脳を破壊』して、

『公言せぬよう口を針と糸で縫合』し、

『筆跡せぬようにその両手を圧縮機でグシャグシャに潰してやる』がどうだ?」

 

「忘れるから~!!

言わないから~!!

書かないから~!!

誰かぁ!助けて下さい!!!」

 

 

これだけ脅せば絶対に公言しないだろう。これは天竜の面子を守るだけでなく、順慶の為でもあった。社会的弱者は今でさえ軽蔑の対象だが、この頃ともなれば差別の対象だ。順慶のように、服の下の秘密だけならまだ、隠す事ができるが、隠しきれない人もこの世にはたくさんいる。精神疾患、身体疾患、その数だけ比例するように差別も存在する。中には化け物扱いされ、退治の対象となったものもいる。

鬼の一族がその対象だ。祖先である鬼の血が混ざっているせいで、その一族は皆、角付き。何をしたわけでもないのに、人間社会から追い出される。生きる為に仕方なく、盗みを働いたりするが、それが原因で退治され、武勇伝の一つにされる。今では桃太郎や金太郎などの童話にされているが、裏ではそのような哀しい現実も存在するのだ。

そして我ら龍族も.....

まぁ、龍族は早くに皇族によって匿われたお陰で、無惨な結末を迎える事はなかった。そう考えると鬼の一族がとことん惨めに感じる。

あの松山主水にすら同情の念を感じてしまうだろう。

 

 

「という事で、罰としてお前には数日後の南蛮蹴鞠大会に出場して貰う!これは強制だ!」

 

「罰って.....俺悪い事したっけ?」

 

 

その時である。

 

 

「おぉ~フロイス!!久しいなくっくっく!」

 

「あら梵天丸ちゃん!今日はどうして摂津に?」

 

 

校舎の外でフロイスと梵天丸の声がする。

 

 

「「梵天丸!?」」

 

 

2人が同時に反応する。

 

 

 

 

 

 

「おっ!?相良良晴じゃないか!!

くっくっく!」

 

「おっ.....おう。相変わらずみたいだな」

 

 

なんだか中二病にさらに磨きがかかったような梵天丸である。

 

 

「うっ.....うぅ!!我が邪気眼が反応する!!」

 

 

突然眼帯を押さえて苦しむ梵天丸。

 

 

「むぅ!貴様は何者だ!!」

 

 

梵天丸は天竜を指差す。

 

 

「羽柴天竜秀長だ」

 

「てっ.....天竜!?

すると貴様が白夜叉だな!?くっくっく!」

 

 

梵天丸は白夜叉に会う事をずっと楽しみにしていたらしい。

 

 

「そちらは奥州の覇者、伊達政宗殿ですね。

お会いできて光栄です」

 

「くっくっく!」

 

 

天竜は至極丁寧に言う。

 

 

「やい!白夜叉!!この伊達政宗と勝負しろ!!」

 

 

突然である。

 

 

「怪しげな術を使うらしいな!!

この梵天丸の邪気眼で退治してくれる!」

 

「おっ.....おい!梵天丸!!」

 

「いい。良晴。子供の遊びに付き合ってやるのも大人の余裕だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして2人は少し広い所に移動する。

 

 

「喰らえ!!

ボンテンマルモカクアリタイスゴイソード!!」

 

「いきなり真剣かよ!?」

 

 

だが天竜は動じる事なくヒラリと避けて梵天丸に足を引っ掛ける。

 

 

「ぎゃっ!?」

 

 

梵天丸はそのまま顔からダイブ!

 

 

「おのれ~!卑怯な!!ちゃんと戦え!!」

 

 

最初に武器を使った卑怯者はどちらなのだ。

 

 

「では、いいだろう!!

我が右手に封印されし、

黒炎龍を呼び出してやろう!!」

 

「へっ!?」

 

 

急に天竜が中二病モードに入る。そして、己の右腕を押さえ出す。

 

 

「出でよ黒炎龍ぅ!!!」

 

 

そうして天竜の腕から召喚されたのはアナコンダであった。だが、ただのアナコンダではない。

『オオアナコンダ』という蛇の中でも最大級の大蛇だ。天竜の召喚術補正により、体長だけでも通常の2倍、約18mはあるだろう。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

りゔぁいあさぁ~ん!!!」

 

 

体長1mぐらいであろう梵天丸には旧約聖書に登場する。怪物『リヴァイアサン』にでも見えた事だろう。

そうして.....

 

 

 

 

 

 

「パクッ♡.....ゴクンッ」

 

 

 

 

「「「あっ.....」」」

 

 

 

 

 

 

 

見学者の良晴とフロイス。対戦者の天竜までもが唖然としてしまった。

 

 

「ばっ.....馬鹿!!そいつは餌じゃない!!

すぐ吐き出せ!!」

 

 

梵天丸を丸呑みにしてしまった黒炎龍は主人の命令で直様彼女を吐き出した。唾液やら胃液やらが混ざったドロドロの嘔吐物に塗れた梵天丸が出てくる。

 

現代人の若者はヌルヌルに塗れた美少女を見ると興奮するというが、それとは違う類いだろう。

むしろス●●ロ?

 

 

「うぇっ!!..........いや.....すまない政宗殿.....

大丈夫か?」

 

「ぐすっ.....」

 

 

やばっ、泣くな.....

 

 

「びえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

そのサイレンのような泣き声は1時間は続いたという。

 

 

 

3時間後。

天竜塾に戻った一行。大蛇に喰われたのがあまりにショックだったのか、『黙示録のびぃすと』の貫禄をすっかり失っている梵天丸がいた。ちなみに天竜は梵天丸に怖がられてるので、気持ちが落ち着くまで外で別室で待機してる。

 

 

「えっ!?梵天丸も蹴鞠大会出るの!!?」

 

 

良晴が驚きの声を挙げる。

 

 

「ぐすっ.....前に知り合った雑賀孫市に

誘われて.....やってみないかって.....」

 

「孫市姉さん.....交友関係広いな.....」

 

 

流石関西人。と感心する良晴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして当日。

 

 

「おっ!?良晴も来たんか!!」

 

「ん。まぁ、半分強引にな」

 

 

良晴はとりあえず、身内に参加者がいないかつどってみた。だが、官兵衛と鹿之助は経験が無いので拒否し、五右衛門は修行中のため断念。ということで良晴が連れて来れたのは半兵衛だけであった。

 

 

「これじゃあまだ、10人だな」

 

 

参加予定だった大吾は母親が病気で倒れ、断念。仕官したての三成は未経験という事で審判役になった。

 

 

「すまんな佐吉。審判なんて押し付けちゃって.....」

 

「心配ありません!規則なら半刻で覚えました!」

 

「そりゃ凄いな」

 

 

佐吉は、天竜に仕えるに当たって元服し、石田姓を継いで、天竜から与えられた「三成」という名を貰い、石田三成と名乗っていた。

 

 

「佐吉は、頭がいいな~!要領もいい!」

 

「えへへ」

 

 

これは信貴山城にて、三成が天竜に仕えた初日の夜、三成の能力を見るために、天竜塾で行っているテストを三成に受けさせたのだ。すると、三成は殆どの教科(南蛮語を除く)が高成績だったのだ。流石、寺で鍛えられただけある。

 

 

「どうすんだよ天竜さん!あと1人足りないぞ?」

 

「今考えてる所だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

その時!救世主が現れた!!

 

 

「オーホッホッホ!!又もや妾を差し置いて蹴鞠大会とは一興ですわね!」

 

「よっ.....義元ちゃん!?」

 

 

前回に引き続き、今回も今川義元が乱入したのだ。

 

 

「御機嫌よう相良さん!」

 

「今は羽柴な.....」

 

 

この少女はとことん情報に疎いようだ。

 

 

「将軍様ともあろうお方が呑気ですね。

一応ここは敵陣ですよ?」

 

 

能天気な義元に天竜が近づく。

 

 

「あら?見ない顔ですね新入りさんですか?」

 

 

この将軍様は「安土城の変」すら知らないのか!?

 

 

「羽柴天竜秀長と申します。良晴とは義理の兄にあたります。以後お見知り置きを.....」

 

 

天竜は至極丁寧に自己紹介をする。

 

 

「あら?相良さんと比べてとても美形ですわね」

 

「俺と比べんでくれ.....」

 

「特別に妾の召使いにしてあげますわ!」

 

 

大和の大名から将軍の召使いでは返って格が下がってるのでは?

 

 

「現状で満足していますので、ご遠慮致します」

 

「あら残念ですわ」

 

 

義元がしょんぼりしていた所に、とある少女が近寄る。

 

 

「..........」

 

「あら?お嬢さんは誰ですの?」

 

「あんたが..........今川義元?」

 

「『将軍!』今川義元ですわ!」

 

「馬鹿!ヒコ!まだ早い!」

 

 

だが、氏真は止めなかった。

 

 

「貴方の名はなんですの?」

 

「.....今川氏真」

 

「ふぇっ!?」

 

 

頭を抱える天竜。予定より早くに、姉妹の初対面がなってしまった。

 

 

「あっ.....あら?今川家の分家の子かしら?」

 

「本家」

 

「うっ.....」

 

 

能天気な義元も何となく気付いたのかもしれない。

 

 

「失礼ですけど.....お父上の名は?」

 

「.....今川氏親」

 

 

その瞬間、義元はぶっ倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

今川家。特に義元は、今川氏親の5番目に生まれた少女だった。男であろうと女であろうと、1番目に産まれたのが子が家督を継ぐ時代。そうなると、第一位相続権を持つ長男。今川氏輝が家督継ぐ最有力候補だった。そのため末っ子であった義元は早くから出家させられる事になったのだ。

 

ところが、ここで義元に天運が巡ってくる。

長男の氏輝が急死したのだ。それだけではない。次男の今川彦五郎までもが急死する事になる。ここで義元が出る事になる。その際、三男の玄広恵探と家督争いをし、それに勝利。四男は既に出家していたのでそのまま家督を受け継ぎ、11代当主今川義元が誕生した。今でこそ能天気なお飾り将軍であるが、実は凄い人物なのだ。もし織田信奈がいなければ、彼女が天下をとっていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「呪われた今川兄弟?」

 

「その昔誰かが言ってましたわ.....今川義元は兄弟の死体を踏み台にして出世したと.....もちろんその人は処刑しましたけどね」

 

 

やっと意識を取り戻した義元が語る。

 

 

「義元ちゃんにそんな過去があったとは.....」

 

 

改めて今川義元を理解する良晴である。

 

 

「その妾にまだ兄弟がいたとは.....」

 

 

義元は兄弟というものにトラウマを持っていた。桶狭間で敗北し、捕虜生活を送っていたとはいえ、そのようなドロドロとした環境から離れられ、幸せだったのかもしれない。だが、ここで氏真と会ってしまった。それに対し義元は.....

 

 

「.....でも、家族がまだいたのだと考えると.....

少し嬉しいですわ」

 

「へぇ.....」

 

 

良晴は義元の大人な面を見て感心する。

 

 

「姉上.....」

 

 

それに対し、氏真は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「挨拶終わり..........姉上も..........終わり!」

 

「ひっ!?」

 

 

氏真が突如刀を抜いたのだ。

 

 

「馬鹿!!よせヒコ!!」

 

 

慌てて天竜が氏真を羽交い締めにする。

 

 

「はなせ天竜..........ヒコ、こいつ嫌い!殺す!」

 

「義元ちゃん下がって!!」

 

「..........どうしてですの」

 

「どないなっとんねん」

 

 

既に蹴鞠大会どころの騒ぎではなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません。義元殿.....ヒコは.....氏真は自分が駿河を追い出されたのは義元殿のせいだと思っているのです」

 

「えっ.....」

 

 

数十分後。

氏真を落ち着かせ、とりあえず左馬助達に任せ、天竜は義元と話をする。

 

 

「確かに、今川家を滅ぼしたのは武田信玄です。ですが、その発端は義元殿が桶狭間で敗北した事.....まだ幼かった氏真には、未だ会えぬ実姉を恨む事しか出来なかったのだと思われます」

 

「そんな.....」

 

 

氏真との付き合いが1番長い天竜が語る。

 

 

「すまない孫市。この分じゃ、試合できそうにない」

 

「そうみたいやな」

 

 

皆が落ち込んでいた時、義元は.....

 

 

「何で中止にするのですの?」

 

「「「は?」」」

 

「蹴鞠大会は雑賀の方達も楽しみにしてらしたのでしょう?それを妾達の都合で中止にするわけにはいけませんわ!」

 

「でっ.....でも義元ちゃん.....」

 

「妾と氏真はこれからはいくらでも会う事が出来ますし、関係を取り戻す事も出来ます。ですが、この蹴鞠大会は外交の意味もあるのでしょう?是非そちらを優先すべきですわ!」

 

 

その義元の発言に皆が呆気にとられていた時.....

 

 

「ふん。じゃあ、やるか!」

 

「せや!皆で楽しもうや!」

 

「君.....本当に義元ちゃん?」

 

 

予想外にも義元の言葉によって周りが活気を取り戻したのだ。

 

 

「義元殿.....」

 

「あら?なんですの天竜さん?」

 

「世間はあんたの事を、『傀儡将軍』

『お飾り将軍』『偽将軍』なんざ否定してるが、俺はあんたこそが征夷大将軍に最も相応しいと思うぞ」

 

 

猫も被らず、真っ直ぐな気持ちを彼女に伝える。

 

 

「当たり前でしてよ!

オーホッホッホ!」

 

 

高らかに笑いあげる義元であった。

 

 

 

 

 

 

その後。

 

 

「妾の布陣は何処ですの?

も・ち・ろ・ん!先陣ですわよね!

オーホッホッホ!」

 

 

 

 

「もしかして義元ちゃん.....純粋に早く蹴鞠大会をやりたかったんじゃ.....」

 

「くっくっく。かもな」

 

 

良晴も天竜もキャッキャとはしゃぐ義元を眺めながら語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒコは大和に帰ったか.....」

 

「はい.....あの.....どうしましょう?」

 

「どうもしないさ。2人を引き合わせたのが、早過ぎただけだ」

 

「はぁ.....」

 

 

どうも腑に落ちない左馬助であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大和、信貴山城。地下牢。

そこにて、全身を鎖で拘束された女がいた。

 

 

「出せぇ!!出せぇ!!出しやがれぇ!!!」

 

 

捕虜となっている森水青蘭は、今にも鎖を引きちぎりそうな勢いで吠える。

 

 

「天竜ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 

天竜からは、死なないように食事も与えよと命令があったが、先日の件があるせいか、中に入れる牢人はいなかったという。

 




実は義元ちゃんは作者お気に入りのキャラでもあります。
桶狭間時は怖いイメージがあったけど、敗北後は可愛いすぎ!!
今回のメインは義元ちゃんでした!
これが書きたくて氏真を登場させたのもある.....
それと、梵天丸乙
次回予告
紀伊南蛮蹴鞠大会(後編)
~裏切りの○○~


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第十六話 紀伊南蛮蹴鞠大会(後編)

あぁ!ネタがなぁぁぁい!!
そうだ!パロっちゃおう!!
という事でパロディネタ多いです!


「羅刹召喚!!」

 

「のわっ!?」

 

 

どこからともなく黒鬼が転送されてくる。

 

 

「うわっ!天竜か!?.....びっくりしたぁ.....」

 

 

食事中だったのか、茶碗と箸を持って現れる黒鬼。

 

 

「すまん秀治。ヒコがヘソ曲げちまったから、

代わりに蹴鞠大会出てくんないか?」

 

「え~。私、昼間は動けないのだが.....」

 

 

羅刹は日光が苦手だ。

 

 

「安心しろ。紫外線除けのまじないをかけた運動着を用意した」

 

「う~ん.....ならいいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜さん。その人誰?」

 

「ん?波多野秀治。今は俺に仕えてる」

 

「はぁ!?それって丹波の.....」

 

「信奈には内緒な」

 

 

世間一般には、秀治は死んだ事になっている。天竜が密かに匿わなければ、信奈によって処刑されていたかもしれない。

 

 

「ったく.....嘘ばっかついてると後で取り返しつかなくなるぞ?」

 

「ふん。お前が言うな」

 

 

こうしてお互いに11人の選手が揃う事になる。

 

 

 

チーム天竜。

FW

今川義元・宮本武蔵・黒鬼

 

MF

羽柴天竜・明智左馬助・佐々木小次郎

・古田佐介

 

DF

竹中半兵衛・阿斗・吽斗

 

GK

羽柴良晴

 

相手が孫市以外ほぼ初心者なのお手本として一般的な3-4-3で布陣は決定。DFに幼女2+男の娘が固まって危ない気がするが、取り敢えずはいいだろう。

 

 

「義元殿。蹴鞠大会でその服装は.....」

 

「あら?文句ありますの?」

 

「着替えてくれよ義元ちゃん。前回それで

素っ転んだんじゃないか」

 

「うっ.....嫌です!貴族として十二単は外せません!」

 

 

天竜は慌てて何やら運動着を取り出す。

 

 

「ほら!これは京で有名な呉服屋で作らせた西陣織風の最高級な蹴鞠用運動着です!(嘘)

実は、かの足利義満公もこれを着用して蹴鞠を楽しんでいたとか!(嘘)」

 

「うっ.....3代将軍が.....」

 

 

少し信じているようである。

天竜は溜息をついて最後の手段に出る。

天竜は義元にギリギリまで近づいた。

 

 

「あうぅ.....」

 

 

「義元殿.....私は貴方がこの服装で華やかに舞ってくれるのをずっと楽しみにしていたのです.....どうか、私の為に着ては下さりませんか?」

 

 

今にもキスをしそうな超近距離でそれを言う天竜。美形な彼に言われて、堕ちない女性などいないだろう。

 

 

「あうぅ.....はい.....着ますわ天竜様ぁ.....」

 

 

立場が逆転してしまった。

 

 

「相変わらず女癖悪いな.....」

 

 

彼の内面を知る良晴が言う。

 

 

「本当に.....あれさえなければ私が.....」

 

 

隣りにいた左馬助が何か言った気がした。

 

 

 

対してチーム孫市

FW

顕如・雑賀孫市・陣八郎

 

MF

鶴・鈴木重兼・坂井与四郎・子雀

・伊達政宗

 

DF

的場源四郎・雑賀孫六・鈴木重朝

 

GK

 

 

 

「あれ?顕如!?」

 

「久しぶりだにょ!良晴に天竜!!」

 

 

相手陣営には顕如まで参加していたのだ。

 

 

「おっ?猫の霊力が戻ってるぞ?」

 

「そうなんだにょ!!しばらく禁欲して教えに集中していたら戻ったんだにょ!」

 

 

先日まではスコティッシュフォールドだった顕如の耳は今まで通りの猫耳に戻っていた。もちろん尻尾も伸びている。

 

 

「もう例え『鉄砲で撃たれても』平気だにょ!」

 

「ほんまか!?うんじゃ久しぶりに.....」

 

 

と、孫市が何処にしまっていたのか、巨大鉄砲『八咫烏』を取り出した矢先である。

 

ドーーーンッ!!!

 

 

「のわっ!?.....孫市姉さん!!こんな所で発砲すんなよ!!」

 

「.....うち、まだ撃ってへんよ?」

 

「は?」

 

 

その発砲音は顕如から割と近距離の位置から聞こえた気がする。

 

 

「天竜!!撃つなら撃つと言うにょ!!(怒)

いきなりだからビックリしたにょ!!」

 

「ん?フリじゃなかったのか?」

 

「違うにょ!!」

 

 

天竜は懐に隠していたマグナム銃を顕如に向けて発砲したのだ。もし、猫の霊力が戻っていなかったのらどうするつもりだったのだろう?

 

 

「俺とて術師だ。相手の霊力が満タンかどうかぐらい、直感でわかる」

 

 

それを聞いた良晴は隣りの半兵衛に。

 

 

「本当か半兵衛?」

 

「私は天竜さん程力は強くありませんが、なんとなくなら.....」

 

「へぇ~.....」

 

「「「ニャー!ニャー!」」」

 

 

よく見ると観客席には雑賀衆だけでなく、本猫寺勢の少女達も何人か混ざっている。

 

 

「雑賀衆を別に嫌ってない宗徒も何人か応援に来たんだにょ!」

 

 

「「「顕如様~!!」」」

 

「「「南蛮蹴鞠神様~!!」」」

 

 

この声援は前回もあったものだ。今回は新たに2つが加わる。

 

 

「「「龍神様~!!」」」

 

「「「猿神様~!!」」」

 

 

今回は4人の神様が試合に揃う事になったのだ。

....................あれ?

 

 

 

 

 

 

その時、審判の三成が動いた。

ピーッ!!ピーッ!!

と審判用の笛が鳴り響く。

 

 

「試合中、武器の携帯は禁止です!!

天竜様も孫市殿も鉄砲は預けて下さい!!」

 

 

2人は試合中にソレを何に使うつもりだったのだろうか?

 

 

「そのちっこい鉄砲もええなぁ!」

 

「雨陰千重洲陀の量産が済んだらな。

そっちはどうなってる?」

 

「鍛冶屋は皆、頭を悩ませとるよ。

せやけど、無理ではないみたいや」

 

「それはよかった」

 

 

ピーッ!!ピーッ!!

 

 

「武蔵殿!小太刀を持ってる事は分かってますよ!!」

 

「ちっ!」

 

「それから阿斗殿吽斗殿!暗器を持ち歩かないで下さい!!」

 

 

なんか生き生きしてるな三成.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終的には、佐介が付けていた金の簪も武器になり兼ねないという事で没収された。しかもそれが、天竜からの贈り物とバレ、そんな物はめったに貰えない弟子達から白い目で見られる事となった。

 

 

「では試合を開始します!

なお、今回の試合の特別規則として、尻尾は足と同等と判断する事にします!」

 

「は!?」

 

「やったにょ!!」

 

 

前回の試合では反則だったが、黙認されてしまった尻尾が、今回は公式のルールになってしまったのだ。

 

 

「どうゆう事だよ 三成ちゃん!!」

 

「気安く呼ばないで下さい。決めたのは天竜様です」

 

「天竜さん!!(怒)」

 

 

だが、天竜はなんで怒られてるのか分からないといった表情だ。

 

 

「なんで怒るのだ?これで公平だろう」

 

「何処が公平だ!!前回どれだけ苦虫を噛み潰したか.....」

 

「お前のケツについてるのは何だ?」

 

「え?..........あっ!!」

 

 

そうである。良晴は今、尻尾付きなのだ。

 

 

「そうか!!そうだったんだ!!」

 

「というか何故気が付かないのだ?」

 

「くすんくすん。良晴さんは順応性が高過ぎます」

 

 

まあ、どちらにしろ良晴はGKだから、尻尾を使うのは自由なのだが.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では始め!!」

 

「いくぜっ!!」

 

 

キックオフ役は武蔵だ。

 

 

「おらっ!!死ねぇ!!」

 

 

ドシュッ!!

 

 

「へぶぅっ!?」

 

 

鞠は真っ直ぐ敵のFWにいた、

陣八郎(今は亡き陣五郎の弟)の顔面を粉砕した。

 

 

「何やってんだ武蔵!!」

 

「何やってって.....鞠を敵にぶつけて殺す遊びだろ?」

 

「そんな野蛮な遊びあるか!!」

 

 

結局、陣八郎は死にはしなかったが、戦闘不能により担架で運ばれていった。

 

 

「武蔵殿、黄札提示です!」

 

 

三成はいわゆるイエローカードを出す。

 

 

「三成!!手前ぇ、どっちの味方だよ!!」

 

「審判は常に公平です!

次やったら赤札で退場ですからね!」

 

「ちっ!」

 

 

試合中断で孫市が天竜に近づく。

 

 

「どないするんや?控えの選手なんておらんで?」

 

「仕方ないな.....三成!参加できるか?」

 

「はい。ですが、審判は?」

 

「フロイスさん!聞けば前回の審判は貴方だったとか!三成の代わりに出来ますかね?」

 

「出来ない事はないですけど.....」

 

「よし!」

 

 

天竜は観客席で応援していたフロイスを呼び出した。

 

 

「天竜様。私は雑賀衆側で戦うのですか?」

 

 

底なしに嫌そうな顔をしている。

 

 

「うんや。お前はこっち側だ」

 

「へ?」

 

 

そう言うと、天竜はスタスタと雑賀衆側の陣地まで歩いて行き、ゴールまで行く。そして、そこにいた雑賀衆の少女、蛍に。

 

 

「そこを譲って貰えませんかお嬢さん」

 

「ひぅっ.....」

 

 

そう言って手の甲に口付けをしてやった。

 

 

「また口説いてるよ.....」

 

 

良晴がそっと呟いた。

蛍は半分放心した状態でFWの位置に来る。

 

 

「おう.....蛍、どうしたんや?」

 

「天竜殿が.....こっちの門番をすると.....」

 

 

 

 

「「「..........は?」」」

 

 

「門番」とは、本猫寺蹴鞠公式委員会(?)が決定したGKの名称であるが.....

その蛍の話を聞いていたチーム天竜は愕然としている。無理もない。信頼していた主君が敵に回ったのだから.....

状況を理解出来ないのは良晴、半兵衛、義元ぐらいだろう。

 

 

「よし!ここで追加規則だ!」

 

 

チーム天竜は唾を呑んでそれに耳を傾ける。

 

 

「もし、天竜軍側が負けるような事になったら

.....お前ら、家臣から外すから!」

 

 

「「「...................」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「はぁ~~~!!!?」」」

 

 

左馬助、武蔵、小次郎、阿斗、吽斗、佐介、三成の信じられないという叫び声が鳴り響く。

 

 

「ん~まぁ~私は羅刹だし、家臣から外すされてもそんなに問題じゃあないけど.....」

 

 

黒鬼だけはそんなに気にしてないようだ。

 

 

「ちなみに、 秀治の場合は契約を解除するから!」

 

「はぁ!?.....それ、どうなるんだよ!?」

 

「羅刹にも人間にもなれず、魂のみの存在に

なる。つまり死ぬよ?」

 

「ふざけんな!!!」

 

 

黒鬼も急に焦り始めた。左馬助達はクビが、黒鬼は命が掛かっているのだ。

 

 

「天竜軍はこれから、雑賀衆以上の強敵とも戦わなければならない。たかが蹴鞠の試合如きにでも負けるようでは、俺に従っていく必要はない!」

 

 

その天竜の言葉がチーム天竜に火をつけた。

 

 

「意地でも勝つぞぉ!!」

 

「「「おぉ~~!!!」」」

 

 

良晴、半兵衛、義元はキョトンとしている。

 

 

「死ぬ気で守れよクソ猿!!」

 

「うっ.....うん.....」

 

 

武蔵からの怒号が走る。

 

 

「それから良晴には、そっちのキャプテンやってもらうから!」

 

 

急遽チーム良晴に変更。

 

 

「なんで俺がこんな目に.....」

 

「くすんくすん。殺気がビリビリ伝わってきます 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始まって10分。攻勢だったのはチーム良晴であった。まぁ、お遊びの雑賀衆と違って掛けているものが桁違いなのが一因だろう。

 

 

「おらっ!アホ将軍!!決めろ!!」

 

 

前線で鞠を蹴っていた武蔵はゴール前の義元にパスする。

 

 

「口悪過ぎですわ!!」

 

 

それでも華麗に鞠を受け取り、シュートを決める。

 

 

「白鳥風流円舞!!」

 

 

いつぞやの強烈な一撃がゴール前で発せられる。ゴールの左側にすっ立っていた天竜だが、鞠は右側へ飛ぶ。追い付くのは到底無理だろう。

 

 

だが.....

 

 

「.....あれ?」

 

 

確実に決まったと思われたシュート。それはゴール手前で停止した。いや、そこにはいなかったはずの者が現れたのだ.....

 

 

「ボケっとすんなよ姉ちゃん!」

 

 

跳ね返された義元のシュートを黒鬼が拾う。

 

 

「黒塵剛流派!!」

 

 

黒鬼の必殺シュートが放たれる。

少し中二病入ってないか?

鞠はまた、天竜とは正反対の到底取れないであろう位置に飛ぶ。

 

ところが.....

 

 

「あり~?」

 

 

又もやそこにいなかったはずの者が現れ、それを止めたのだ。

 

 

遠くからそれを見ていた良晴は。

 

 

「..........瞬間.....移動!?」

 

 

どう見てもそうとしか見えなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の事である。

それから何度か武蔵、義元、黒鬼の3人がシュートを決めるも、全てその瞬間移動で跳ね返され、全くゴールに入らない。

 

 

「なんや知らんけど、こっちの守りは鉄壁みたいやな!!」

 

「今度はこっちにょ!」

 

「くくく。黙示録のびぃすとの実力を見せてくれる!」

 

 

敵のエースが進軍してくる。顕如の華麗なフットワークにより、MFは軽く抜かれ、DFでも守りきれない。

 

 

「さぁ!孫市決めるにょ!」

 

「よしきた!」

 

 

孫市の強烈な一撃は飛んでくる。

 

 

「すぅ~あすぇるかぁ~!!!」

 

 

良晴は玉よけならぬ「玉拾いのヨシ」でそれを防ぐ。

 

 

「ボンテンマルモカクアリタイスゴイ

シュート!!!」

 

 

普通のシュートとの違いは分からないが、兎に角凄いシュートが飛んでくる。

 

 

「こなくそ!!」

 

 

それすらも良晴は防ぐ。

 

 

「スキありにょ!」

 

 

そのこぼれた鞠を自らの尻尾ではじき、早速新ルールを活用してくる顕如。

 

 

「のわっ!?危ねえぇ!!」

 

 

良晴もまた己の尻尾ではじき返した。

 

 

「う~ん。こっちはこっちで守りは硬いにょ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから数分間の均衡が続く。いや、それには語弊があるだろう。チーム天竜の守りは実質良晴だけなのだ。その良晴の体力も限界に近づいている。守りを固めようと指示を出しても.....

 

 

「武蔵ちゃん!前に出過ぎだよ!!」

 

「あぁ??(怒)文句あっかクソ猿!!」

 

「..........」

 

 

 

「三成ちゃん!左守って!」

 

「類人猿の分際でウザったいですね」

 

「..........」

 

 

 

「大丈夫ですか?秀吉殿?」

 

「あぁ、有難う!優しいね左馬助ちゃん!」

 

「ハルゥ!クソ猿弟の方に媚び売っても

天竜は振り向かねぇぞ!!」

 

「ちっ.....!」

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

なんだかな

          なんでなのかな

                  泣きそうです

                                           (字余り)

                              良晴、心の俳句

 

 

 

 

そりゃあ、そうですよ!

前回は、信奈や十兵衛ちゃんとか仲間が中心のメンバーだったから上手くやれたけど、今回のメンバーは、半兵衛と義元ちゃん以外全員天竜軍。滅多に話さないどころか、今日初めて会った子もいる始末だぞ!?

古田佐介って誰だっけ?

 

 

「おりゃあ!!」

 

 

やっとの事さで鞠をゴール前に運び、シュートを決める武蔵。

だが.....

 

 

「あらよっ!」

 

 

又もや瞬間移動した天竜に防がれる。

 

 

「フロイス!!あれ反則じゃないのか!!」

 

 

ついに武蔵は我慢出来なくなって審判に訴える。

 

 

「え~と.....」

 

「反則じゃありません!有効です!」

 

 

答えたのはフロイスではない。なんと三成だった。

 

 

「南蛮蹴鞠の公式規則に

『術を使ってはいけない』

という規則はありません!」

 

 

ドーンッ!!

 

 

「馬鹿三成!!フロイス殿が反則だと判断すれば反則になったんだ!!」

 

 

小次郎に突っ込まれる。

馬鹿正直な三成のせいで瞬間移動は有効になってしまった。

 

 

「しまった!?」

 

 

今更気づいても遅いのである。

 

 

「なら、瞬間移動とやらでも追いつけない蹴りを食らわせばいいだけですわ!!」

 

 

義元が再びシュートを放つ。

 

 

「黄鶴鳳凰円舞!!」

 

 

義元の新技が炸裂!

鞠は不規則に向きを変え、変化球となって天竜を襲う!

ところが.....

 

 

バシィッ!!

 

 

「そん.....な.....」

 

 

天竜は又しても鞠を取ってしまった。

 

 

「そうか!分かりました!あの絡繰が!!」

 

 

半兵衛が何かに気づき、叫ぶ。

 

 

「あれは瞬間移動ではありません!

時間を止めてるんです!!」

 

 

「「「何だって~!!?」」」

 

 

 

「.....流石は竹中半兵衛」

 

 

天竜は仄かに褒め称えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フロイスちゃん、タイム!」

 

「Time?時間がどうかしました?」

 

「そうじゃなくて、作戦会議の為に休憩時間を取りたいってこと!」

 

「.....わかりました!両方とも休憩して下さ~い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間を止めてるってどういう事だよ!?」

 

 

半兵衛を中心に集まるチーム良晴。

 

 

「天竜さんは.....勘解由小路家は暦道の陰陽師。

時を自由に操れます」

 

「それはありません!」

 

 

天竜の術を知る左馬助が否定する。

 

 

「天竜様が止められるのは生物の体感時間のみです。その場合では飛んでいる鞠までは止める事は不可能です!」

 

「天竜さんが次元的時間をも止めるまでに成長していたら?」

 

「まさか!?」

 

「あり得ます。初めて彼に出会った時はまだ私と同等か、少し弱いぐらいでした.....」

 

 

半兵衛は正直な意見を述べる。

 

 

「ですが、今の天竜さんの成長度は異常です。

既に私の力をも超越しているかもしれません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~!天竜はん様様やな!」

 

「天竜の守りは鉄壁だにょ!」

 

「くくく。この『黙示録のびぃすと』を少しばかりでも驚かすとは賞賛に値するな!」

 

 

先日大泣きしたのを忘れたのだろうか?

 

 

「しっかし、時間止めてるってどうゆう事やの?」

 

「ふふふ」

 

 

天竜は不敵に笑う事しかしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試合再開!」

 

 

チーム良晴には、作戦があった。たとえ天竜が時間を止めたとしても確実にゴールを決めれる方法を.....

 

 

「ここで褒美を2つだけやるとしよう!」

 

 

天竜が突然叫ぶ。

 

 

「確かに俺は時間を止めた!

竹中半兵衛の言う通りだ!」

 

「天竜様.....?」

 

 

 

「3秒だ!」

 

「「「.....?」」」

 

 

この時代に『秒』は無い。理解出来たのは良晴だけである。

 

 

「心拍であれば、3回!

それが俺の止めていられる時間だ!」

 

 

天竜は3秒間だけ、次元的時間を完全に止められるのだ。

 

 

「グルドかよ.....」

 

「せめてDIOって言ってくれ.....」

 

 

良晴の突っ込みを天竜が突っ込み返す。

 

 

「それからもう一つ!

このままではお前達が圧倒的に不利だろう。

だから、勝利報酬を先に伝えてやる!」

 

 

 

チーム良晴が勝利した際のご褒美とは!!

 

 

 

 

 

 

 

「蹴りを決めて、1点を取った者のみに、

1年間有効の『膝枕耳掃除券』を特別に

くれてやる!!

これさえあれば、何処であろうとこの俺が直々にその者の耳掃除をしてやる。

膝枕で.....優しく、優しくな」

 

 

うわっ!いらねぇ!と良晴が思った矢先である。

 

 

「「「その話、乗った!!!」」」

 

 

良晴、黒鬼、半兵衛以外の8人全員の意思が一つにまとまってしまったのだ。あの義元もである。

 

 

「ちなみに男には、俺が選りすぐった美女達を褒美としてやろう!」

 

「その話、乗った!」

 

 

黒鬼も堕ちた。

 

 

「いや.....俺の場合そうなると、信奈に殺されるから.....そもそもGKだから関係ないし.....」

 

 

昔、GKがシュートを決めるという異例な試合があったが、良晴にはそんな度胸はない。

 

そうして事件は起きた。

 

 

 

 

「あたしが先だぁ!!」

 

「私が先です!」

 

「耳掃除券は私が!」

 

「この阿斗(吽斗)がもらうよ!」

 

「羅刹の力!見せてくれる!!」

 

 

良晴と半兵衛を残して全員が前線に出てしまったのだ。

 

 

「.....天竜さんの軍って、仲いいんですね」

 

「言ってる場合かぁ~!!

こっちガラ空きじゃねえか!!」

 

 

その時、敵陣で天竜が大笑いしてるのが見えた。.....これもあんたの策略か天竜さん.....

 

人の心情を自由に操る天竜.....

策士というよりは詐欺師だ。

 

 

 

多大な前線投入の間をぬって、チーム孫市のうちのとある3人が鞠を転がして来る!

 

 

「うわっ!?来たぁ!!」

 

「任せて下さい!

術を使うのが許可されてるなら私も頑張ります!」

 

 

『式神召喚!!』

 

 

ゴール前に12人の精鋭が集う。

 

 

「おぉ!!十二神将!!

これでこっちの守りも鉄壁だぜ!!」

 

 

ピーッ!ピーッ!

審判のフロイスが笛を鳴らす。

 

 

「選手増やしちゃ駄目ですよ~!!」

 

 

式神では選手の1人として数えられてしまう。そりゃあそうだ。

結局、十二神将は登場して10秒で退場してしまった。

 

 

「そんなぁ~!!」

 

「くすんくすん。ごめんなさい良晴さん。

万事休すです」

 

 

そうして、敵の3人が到着してしまう。前線メンバーはまだ戻って来ていない。

 

 

「我が名は、蛍!」

 

「我が名は、子雀!」

 

「我が名は、鶴!」

 

「「「我ら雑賀三姉妹なり!!」」」

 

「..........」

 

 

突然目の前でポーズを取られた。どうすればいいのだ?

 

 

「とおぉ!!」

 

 

長女の蛍が鞠を空高く蹴り上げる。

 

 

「「「凱流三鄒暴波!!!」」」

 

 

3人が同時に頭部を下方に、脚部を上方に跳ね上げる!

 

『オーバーヘッドキック』

まるでバク転中にシュートをするような、アクロバティックな技だ。

だがかなり高度な技であり、公式戦では滅多に使われない。

ところがだ。先が読めない技である為、突然使用されるとGKには対処しきれない。

オーバーヘッドキックはGKには天敵なのだ。

 

しかもこの技は、3人が同時に1つの鞠を蹴る。威力、速度共に3倍。「玉拾いのヨシ」とて防ぐのは不可能だ。

 

 

ピーーーッ!!

 

 

「Team孫市!1点入りました!!」

 

 

その瞬間、前線に散っていた選手が一斉に膝から落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこが初心者だ?」

 

「あっはっはっは~」

 

 

天竜が呆れて孫市に突っ込む。

 

 

 

 

「こうなったら.....いくよ吽斗!」

 

「分かったよ阿斗!」

 

 

双子忍者が一気に飛び出す。迅速の如く選手と選手の間を練る2人。

 

 

「のわっ!?」

 

 

鞠を所持していた孫市の弟、孫六からそれを奪い、一気にゴール前にやって来る!

 

 

「流石は俺専属の双子忍。早いな」

 

 

「くらえ天竜!!」

 

 

阿斗(もしくは吽斗)がシュートを決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

『時よ止まれ』

 

 

 

 

天竜は鞠が来ている位置に素早く移動し、構える。

 

 

『そして時は動き出す』

 

 

天竜はバレーのトスのように鞠を跳ね返す。

ところが.....

 

 

「くらえ天竜!」

 

 

吽斗(もしくは阿斗)がシュートでそれを返す。

 

 

『とっ.....時よ止まれ!』

 

 

再び移動する天竜。

そして、鞠を跳ね返す。

だが.....

 

 

「くらえ天竜!」

 

 

阿斗(もしくは吽斗)が又もやシュートで返してきたのだ。

 

 

「おもしろい!」

 

 

 

 

 

そこからマシンガンのような鞠の往復が続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「くらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえくらえ!!!!!」」

 

 

「無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だぁ!!!」

 

 

ノリノリの天竜である。

 

 

「あれじゃあウェ●カーだな.....」

 

 

チート移動するため、玉どころか弾丸も当たらない化物である。

 

 

 

 

 

「無駄無駄ぁ!!」

 

「きゃっ!?」

 

「あっ.....すまん」

 

 

つい強く返し過ぎて阿斗(もしくは吽斗)が取り損ねてしまう。

その時、

 

 

「行きますよ天竜様!」

 

 

後ろに待機していた左馬助が出てきて、その零れ玉をシュートする。

 

 

「無駄だ無駄だハルゥ!!」

 

 

スカッ。ボシュッ.....

 

 

「....................ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーーーッ!

 

 

「Team良晴!1点入りました!!!」

 

「「「わあぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 

歓声が一気に上がる。

 

 

「.....ん?.....ん?」

 

 

天竜だけが状況が掴めない。

 

 

「ハル.....お前まさか.....」

 

「内緒にしてて、すみません天竜様.....」

 

 

目に見えた鞠がてっきり本物だと思っていた。だが、それは虚像。するりと手から抜けてしまった。本物は天竜の真横を通り過ぎていたのだ。

 

 

左馬助は幻術を使ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつか?果心居士か?」

 

「はい.....あの人です.....」

 

「ちっ.....!」

 

「しょうがなかったんです!1番弟子という立場なのに、私は1番弱い.....変わるしか.....幻剣士になるしか.....」

 

「幻術を習う事に怒ってるんじゃない。

俺に内緒にしてた事を言ってるんだ」

 

「ごめんなさい.....」

 

 

天竜は呆れ顔になる。

 

 

「もういい.....

すまん皆!試合を再開しよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで、1-1の同点である。

残り時間はあと5分。この分では次に点を入れたチームが勝ちだろう。

 

 

「このままでは勝てません。

左馬助さんの幻術も2度は通じないでしょう」

 

 

半兵衛を中心に再び作戦会議。

 

 

「さっきは、皆さんが欲に眩んだせいで、折角立てた作戦も使えず終いでした」

 

「「「面目ない.....」」」

 

「今度は成功させましょう!」

 

「作戦はこうだ。

これは、だいぶ前にTVの再放送でやってた『ゴレ●ジャー』の必殺技なんだが.....」

 

「良晴さん.....この時代の人でも分かる言い方をして下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試合再開!」

 

 

フロイスの合図で最終戦が始まる。

キックオフは義元!

 

 

「行きますわ!!『白鳥風流円舞』!!」

 

 

いきなり義元がシュートを放つ。

 

 

『天候制御!!』

 

 

半兵衛が陰陽術により、鞠の周囲に気流が生まれ、シュートに風の力が加わる。

 

 

『黒塵剛流波!!』

 

 

そこに黒鬼のシュートが追加される。合成シュートが黒炎に包まれ、威力が増す!!

 

 

『千家流錬金粉末!!』

 

 

佐介は師匠の利休から借りた金粉を合成シュートに振りかける。すると、対立する火と金が超絶的化合!!

シュートに雷が走る!

 

 

『二天一流喧嘩奥義!!』

 

『つばめ返し手刀!!』

 

 

武蔵と小次郎は合成シュートを止めようとするチーム孫市の選手を暴力でねじ伏せる。

明らかにファールだが、審判のフロイスは合成シュートの方に視線が行き、そちらに注意が回らない。

 

 

『あっ!それは「おふさいど」ですよ?

「こーなー」に回って下さい!

「すらいでぃんぐ」は危険行為ですよ?』

 

 

三成は専門用語を連発し、敵選手を混乱させる。

 

 

「させるかいな!」

 

 

孫市がその合成シュートを止めようと足を出してくる!

 

 

「熱っ!?」

 

 

合成シュートは既に小型なエネルギー波のようなものになっていたのだ。

 

 

『明智流幻妖術!!』

 

 

左馬助の手から怪しげの霧が発せられる。すると、幻覚の偽シュートが現れ、シュートが5つになる。

 

 

『『貰っちゃうよ』』

 

 

阿斗、吽斗が影のように天竜に近付き、

彼の右手から指輪を盗む。

 

 

「あっ!?こら!!この泥棒忍者!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最強のGK天竜は、その最強を成り立たせる指輪を奪われ、目の前にはとても普通の(いや.....ちょっと強い人でも)返せそうにない。エネルギー波シュートが!!

 

 

「..........駄目だな。降参だ、降参」

 

 

GK天竜は役職放棄してゴールから消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....やり過ぎやろ」

 

「.....正直あそこまでの威力とは思わなかった.....」

 

 

そのエネルギー波はゴールどころか後ろの壁まで破壊する程のものだったのだ.....

 

 

ピーーーーーーッ!!

 

 

「2-1!

よってTeam良晴の優勝!!」

 

「「「わあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 

これにて天竜家臣団のクビと黒鬼の命は助かる事になった。

 

 

「これにて!褒美を与える!!」

 

 

まずは始めの1点の左馬助。

 

 

「私はいりません」

 

「.....ハル」

 

 

さっきの天竜の様子から、褒美の断りを告げる左馬助。

 

 

「いいのか?俺に関係なく、お前には貰う権利があるのだぞ?」

 

「いいえ。こんな形で褒美を貰えても嬉しくありません」

 

「いいのか?」

 

「はい」

 

 

天竜はふぅーっと息をつく左馬助。

 

 

「んじゃ。代表の良晴にやろう」

 

「えっ!?天竜さん選りすぐりの美女!?」

 

「あぁ。これだ」

 

 

天竜は懐から出した写真を良晴に手渡す。

カメラは召喚したものだ。

 

 

「うわっ!本当に美人だ!

なんか年上のお姉さんっぽい!

名前は?」

 

「森水青蘭だ」

 

「青蘭さんかぁ~」

 

「今は大和の信貴山にいる。今度会いにくるといい」

 

「うん.....信奈にバレたら殺されそうだけど.....」

 

 

あまりに危険分子のため、地下牢に監禁してるとは言えない。

 

 

「2点目の方だが.....」

 

「妾ですわ!」

 

「あたしだ!」

 

「私だろう」

 

「私です!」

 

 

義元、武蔵、黒鬼、佐介が叫ぶ。

 

 

「武蔵は外野で暴れてただけだから無しだ」

 

「ちっ.....!」

 

「公平にする為に1番最後に『触れた者』に与えよう!」

 

 

当然、左馬助は既に拒否してる。

 

 

「じゃあ、私ですね!」

 

「お前は金粉ぶっかけただけだ。

触れてないだろう」

 

「そんな.....」

 

 

ガクッと膝つく佐介。

 

 

「では私だな」

 

「確かに佐介の前に触れた者は秀治だ.....

しかし!!」

 

 

天竜が突然叫ぶ。

 

 

「秀治の後に触れた者がいる!!

 

 

それは.....お前だ!!」

 

「うっ.....うち!?」

 

 

天竜が指差したのは、なんと孫市!!

 

 

「「「どうしてっ!?」」」

 

 

メンバーからの不満が飛ぶ。そりゃそうだ。

 

 

「確かに最後に触れたのは孫市だ。

つまりこれは.....オンゴール!!!」

 

 

その瞬間メンバー達は崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

「あっはっはっは!!

自分で入れてもうたか!そら叶わんわ!」

 

「という事で、これが商品だ」

 

 

天竜は特性の「耳掃除券」をプレゼントする。

 

 

「おぉ!ほんまおおきに!

早速あとで使わせて貰うわ!」

 

「好きにするといい。

同盟の件はいいな?」

 

「あぁ!えぇ!えぇ!

また今度遊ぼうや!」

 

「あぁ」

 

 

孫市は輝くような笑顔で喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくく。この伊達政宗、ここまで楽しめるとは思わなかった!

礼を言おう!」

 

「あぁ」

 

「では、この伊達政宗!

奥州に戻り、貴様ら織田軍と戦う準備するとしよう!!今度は戦のな!!」

 

「程々にな」

 

 

良晴は呆れ顔になる。

 

 

「そこまで送るよ」

 

「いや.....俺が送ろう。良晴は孫市達と話しておくがいい」

 

「おっ.....おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくく。ここまででよい。

次は戦場で会うとしよう!」

 

「なぁ。梵天丸」

 

「どうした、白き夜叉?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、主水だろ」

 

 

 

 

 

 

「....................いつ気付いたんだい?☆」

 

「今日会ってすぐに違和感を感じてな

.....試合中にそれに気付いた」

 

「違和感?」

 

「梵天丸は先日、俺に相当ビビらされてな。

その後は会うたびにビビってた。

でも今日は、そんな様子は全く無かった

.....最初は痩せ我慢かと思ってたが、違う。偽者だとな」

 

「へぇ。そんな事があったんだ☆」

 

 

すると梵天丸に化けた主水は眼帯を外す。

そこにはオッドアイではなく、五芒星のような星模様があった。前は気づかなかったが、彼の瞳には五芒星が浮かび上がっている。

 

 

「憑依の術か?」

 

「うん。果心居士っていうお姉さんに教わったんだ☆」

 

「あの性悪女め.....」

 

 

基本的に彼女は敵でも味方でもない。

 

 

「力.....戻ったんだね。

久脩くんを倒したのは本当だったんだ☆」

 

「何しに来た?俺を倒しにか?」

 

「ううん。今日は君の確認を兼ねて遊びに来たんだ☆」

 

「..........」

 

 

この男.....何を考えてるか分からない.....

 

 

「さっきも言ったけど、次は戦場でね!

バイバイ!☆」

 

「あぁ」

 

 

すると、梵天丸から邪悪な気配が消え、彼女はその場に倒れ込む。

 

 

「松山主水か.....」

 

 

このような娯楽の場にも平気に侵入してくる存在.....

 

 

 

果たして天竜は奴に勝つ事が出来るのか!?

 




前にバ●オ4を見て、ウェ●カーがGKをやれば鉄壁だなと思いこのネタに、
ですが、天竜は彼のようにクールではないので、テンションはDIO様になっちゃいました。
次回予告
天竜と旧友
~えっ!?あの人がまさかの結婚!?~


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番外編2

場繋ぎのために番外編パート2です。


4話   仮面夫婦

 

播磨、姫路城。

 

 

「やっ.....やめなさい天竜!!

..........あふんっ!?」

 

「いいではありませんか十兵衛殿。

私もこうして中国攻めに加われたのですから」

 

 

中国攻めに加われないように信奈が天竜に与えた仕事。それが「紀伊攻め」。だが、天竜は同盟や和解などを駆使し、戦闘は0で紀伊を手に入れるという大挙を成し遂げたのだ。流石の信奈も中国攻め参加を認めなければならず、それを許可した。

 

 

が、現在はそれが調停中なのだ。天竜軍の詳しい配置を設定する為だとか.....

まぁ、どれだけ下方に配置されようが、「敵は毛利」というかたがきさえあれば、どうにでもなるのだが.....

ちなみに、天竜はその調停期間があまりに長く暇なので、お忍びで遊びに来てるのだ。

 

 

「だからといって、こんな所を誰かに見られたら.....」

 

「大丈夫ですよ。人払いはしましたし、良晴は今三井城の方に偵察に行ってますしね」

 

「だからってこんな.....」

 

 

天竜は今、十兵衛に後ろから抱きついていたのだ。これぞ「あすなろ抱き」!!

女性にとって、されるのは超恥ずかしいけど、1度はされてみたい伝説の行為NO.1である。

しかも、天竜は+で十兵衛の首筋に口付けをしているのだ!!

エロい!!

エロ過ぎるっ!!!

 

 

「止めるです天竜!!」

 

「そうですね~。健やかなる時も病める時もこうしていたいですね~」

 

「違~~~う!!!」

 

 

普段なら、どのような屈強な男に襲われても、簡単に投げ飛ばせるが、天竜だけはそうもいかない。

 

 

「分かってますです!!

貴方は私に術をかけて強制的に金縛りにしてるのですね!!」

 

「ふ~ん」

 

 

すると天竜は自分の右手中指から例の指輪を外す。

 

 

「なっ!?」

 

「これで私は術を使えません」

 

 

すると天竜は指輪を十兵衛の胸元に入れてしまった。

 

 

「ひゃんっ!?」

 

「いけないいけない。失礼しました」

 

 

なんと天竜は十兵衛の胸元に手を伸ばし始めた。

 

 

「やっ!やややややややや止めるです!!!

止めないとこっ.....殺しますよ!!!」

 

「それは怖い怖い。でも貴方にされるのならそれもまた一興ですね」

 

「猫を被るのは止めるです!!」

 

「好きだ十兵衛.....」

 

「えっ.....」

 

 

急に真面目になる天竜。

 

 

「好きだ.....」

 

「そっそそそ!そんな事言ったって!

私は騙されません!!」

 

 

十兵衛はようやく天竜の腕を振りほどく。

 

 

「知ってますよ!!

貴方がそこら中で女性を口説いてる事を!!」

 

「『好き』という言葉を口にしたのは君だけだ」

 

「えっ.....」

 

「愛してます.....これを言うのも君だけだ」

 

「そんな.....貴方は何も変わってないです天竜」

 

「変わりましたとも.....」

 

 

数日前、天竜は十兵衛によって説教をされたばかりなのだ。

 

 

「君が光の先祖とか.....顔が瓜二つとか.....

そんな事なんてどうでもよくなるぐらい君が好きになってしまった。愛してしまった.....」

 

「そんな.....」

 

 

こんな台詞.....良晴にも言われた事ないだろう。

 

 

「結婚して下さい」

 

「そんな!?私と貴方は主君と家臣.....」

 

「愛さえあれば、そんな物関係ない!!」

 

「ふぇっ!?」

 

 

天竜は高らかに宣言する。

 

 

「俺たちはお互いに愛しあっている.....

それでいいじゃないか!!」

 

「いつ!?(怒)

いつ私が貴方を愛したんですか!!!」

 

「結婚を前提に友達になろうと告白してくれたじゃあないか!」

 

「意味合いが全く持って違います!!」

 

 

十兵衛は顔を真っ赤にして叫ぶ。だが、天竜はヒートアップするばかりで、勢いは収まらない。

 

 

「結婚しよう十兵衛!」

 

「イヤです!!」

 

「じゃあ祝言を挙げよう!」

 

「イヤです!!」

 

「じゃあ輿入れをしよう!」

 

「イヤで.....全部同じじゃないですか!!」

 

 

普段は十兵衛が良晴に対して行う求婚だ。自分がされて初めて良晴の気持ちがわかった気がする。

 

 

「南蛮寺の教会でマリッジしよう!

そしてハネムーンは蝦夷に行こう!!

ついでにそこに移住して、静かな田舎で農園でも開こうじゃないか!!」

 

 

意外とハッキリした人生計画である。

 

 

「南蛮語で誤魔化すなです!!

それに農民になるつもりはないです!!」

 

 

当然断られた。

 

 

「うぅ.....では、あの夜の事は忘れたのか?」

 

 

 

 

「....................は?」

 

 

 

 

 

「あぁ。思えば、あの日程甘美な夜はなかったなぁ~」

 

「ちょちょちょ!!!

ちょっと待つです!!

あの夜ってなんの事ですか!!!?」

 

「あんなに声を挙げて.....それがなんとも.....恥ずかしながら俺まで声をだしてしまった」

 

「えっ.........................

 

 

 

えええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」

 

 

十兵衛は脳内でそれらしい日を探し出す。

 

 

「とっ.....十日前の.....

明智家臣団との飲み会の時ですか!!?」

 

「おぉ!!覚えてたか!!」

 

 

あの時は確か.....酔った利三達に勧められて、つい飲み過ぎてしまって.....

 

 

「その後.....覚えてないです」

 

「その後は素敵な時間だったなぁ」

 

「まっ.....まさか!?

酔ってたのをいい事に無理矢理!?」

 

「違うぞ?

十兵衛が俺の手を引っ張って、いきなり誘ったんじゃないか」

 

「えぇぇぇ!!!?私から!!!?」

 

「本格的に頭やら腰やら振って凄かった.....」

 

「やぁ~~~~~!!!

やめるですぅ~~~~~!!!」

 

「利三達の目の前で凄いはっちゃけてたよな」

 

「うえぇぇぇ!!?

目の前でやったんですか!!!?」

 

「全て出し切った後は拍手喝采だったよ」

 

「どうなってるですか、

明智家臣団は~~~~!!!!」

 

 

十兵衛の脳内がピンク色で一杯になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、十兵衛って意外と歌上手いんだな」

 

「....................は?」

 

「酔って煽てられて、俺を引っ張って歌に誘って.....利三達の目の前で共に熱唱したじゃないか」

 

「.....う..........た.....?」

 

 

十兵衛は今までとんでもない事を想像していたと知り、顔がこの上ない程真っ赤になる。

 

 

「おや?何と勘違いをしてたんだ?」

 

 

天竜がニヤリとしながら聞いてくる。

この男.....知っててわざとやったな!

 

 

「信じられないです!!

この助平天竜!!!

えぇと.....えぇと.....

バーカ!バーカ!!」

 

 

そのまま十兵衛は半泣きで出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....チョロいな」

 

 

天竜はドカッと座り込み、煙管を取り出して火をつける。

 

 

『煙草吸うのかや?』

 

「結婚して止めたが、最近また恋しくなった」

 

『ふ~ん』

 

 

天竜は突然現れた何者かと話す。

 

 

『そちも罪作りだのう。野望の為だけに雌を口説き、好いてもおらぬ雌に愛を語るか』

 

「黙ってろ死神!」

 

『死神とは失礼だのう?

もうちっとましな言い方は出来ないのかえ?』

 

「なら何と呼べばいい?

太陽神アメン・ラー?

魔神アモン?」

 

『この国の呼び方があるであろうに』

 

「.....アマテラス」

 

 

今までは声だけだった彼女は、ここで姿を見せる。彼女の見た目は10~13歳程の少女。滝川一益や姫巫女を連想させるが、彼女の頭には鹿のような角が生えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5話、仮の神

 

「変なものだ。国によって大きく扱われ方が違う神など.....

日本では全知全能の神。

エジプトでは支配を放棄した神。

そして、欧州では.....」

 

『天界に勝負を挑む堕天使か?』

 

「あぁ。言っておくが俺はあんたら神々の争いに参加するつもりはないからな」

 

『大丈夫大丈夫。天ちゃんが参加したとて1分と生き残れぬでありんす』

 

「天ちゃん言うな!」

 

 

この天照大御神を名乗る少女は天竜にしか見えていないようである。

 

 

「んで、あいつは何処にいる?」

 

『月かのう?あそこはこの星よりよっぽど力の回復が早いのよう』

 

「呑気だな」

 

『ほんの100年じっとしていればいいのに.....2~30年で我慢出来ずに降りてしまうからのう。そんな中途半端な体力で威張るから、愚弟のスサノオなんかにやられるのじゃ』

 

「そりゃあ、八本首の龍なんかに化ければ討たれるさ」

 

『自分でやらなければ気が済まぬのよう。300年前も意地を張って自ら神風を吹かしおった』

 

「そういえば文句を言っていたな。日本で自分は姉と同等の地位なのに知名度は天と地の差だと」

 

『昔ならまだしも、「月読命」に詳しい者は今時おぬからのう』

 

「『黒天乃衣ノ龍神』の名は最近有名だぞ?俺のお陰でな」

 

『黒き龍の子孫は白き鬼か。変なもんじゃ』

 

「そう言うな。俺も気づいたら白夜叉と呼ばれてた」

 

『ふ~ん。奴の名は欧州の方が有名であろうぞ』

 

「確かにな.....」

 

『奴の直系の子孫であるそちこそ「魔王」の名が相応しいのでは?』

 

「ふん。藤原氏さえいなければ俺の一族が帝を名乗っていたかもな」

 

『三輪明神なんぞ架空の神を作り出して、賀茂家を皇族から弾きおった。奴らこそ罰当たりじゃのう』

 

「歴史の講師をしてた時にも思ったが、日本は藤原氏に支配されてたみたいで気に食わなかったな。その点、平氏とかが出てきた時はワクワクしたもんだ」

 

『分かる!!それ分かるぞえ!!』

 

 

なんかウキウキしてる神様。

 

 

『わっちも藤原は嫌いでありんす。

おのが私欲の為にわっちの名を無断に使い、子孫達を支配し、日本を支配し、日本を壊しおった』

 

「とわいえ、俺の一族が帝を名乗れば歴史が大きく変わってたかもしれないぞ?亜細亜ぐらいなら占領できたかも.....」

 

『奴ならやりかねぬのう』

 

 

邪悪な笑みを浮かべる二人が怪しげな会話をする。

 

 

「姫巫女は俺らの計画を知っているのか?」

 

『知るべきものだけ知り、必要のないものは内緒のままよう』

 

「まぁ、馬鹿正直に全部言えないしな。近衛の目も厳しいし.....」

 

『本当!!あの藤原氏マジでウザい!!』

 

「おい。現代語になってるぞ?」

 

『構わんじゃろ。わっちもそちも平成の者じゃ』

 

「心配するな。あの男は近々死ぬさ」

 

『それは楽しみじゃのう』

 

 

そこで天竜は一息ついて、口からふぅーと、ヤニの煙を吐き出した。

 

 

「一つ聞いていいかアマテラス」

 

『なんじゃ?』

 

 

彼女は天竜の頭上を煙に同調しながら舞っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故良晴を連れて来た?」

 

 

『..........』

 

 

 

 

 

 

 

 

この物語の根底そのものを問いかける天竜。

 

 

「あと青蘭もだ。貴様の野望を叶えるだけなら俺だけで、2人は必要ないだろう?」

 

『..........』

 

 

だが、彼女は黙ったままで。

 

 

「今までずっとはぐらかされて来たが、今日は答えてもらうぞ?」

 

 

 

 

『..........そちは、ほんに2人が来た理由に気付かぬのかえ』

 

「何っ?」

 

 

アマテラスは天竜の手から煙管を奪い己の口で咥える。

 

 

『はっきり言うぞ?

今のお前じゃ日の本の天下統一は無理じゃ』

 

「..........」

 

 

彼女はプカプカと浮きながら空に煙を吐き出した。

 

 

『憎しみのままに動くだけのそちにはな?』

 

「なにが言いたい.....」

 

 

彼女はこの上ないといった侮辱の表情で天竜に言う。

 

 

『死んだ女の亡霊に取り憑かれた哀れな餓鬼にだれがついていくのじゃ?』

 

 

そうして煙を天竜に吹きかけた。

 

 

「この駄神めっ!!」

 

 

天竜は刀を抜いて彼女の首を斬り飛ばした。

 

 

「貴様如きが.....貴様如きが.....」

 

『如きって.....わっちは神じゃよ?』

 

 

首を失っているにもかかわらず、平気な様子のアマテラス。

 

 

「ちっ!.....神を殺すはずが神の手先になるとは.....」

 

『そちの妻子を死に追いやったのはわっちではありんせん。ほんに殺したいならゼウスを殺すがよい』

 

「出来ないから貴様に頼んでいるんだ」

 

 

彼女は首の斬り口で器用に煙を吸いながら言う。

 

 

『わっちが作り直した黄泉に地獄はない。坊主共の言う「悪人正機」は本物じゃ。善も悪も洗われ、全てが平等になる。死んだら皆、仏よう』

 

「それが本当なら理想郷だな。まだ行く気にはならんが.....」

 

『だが、ゼウス達のは違う。悪は死んでも悪。地獄において、一生涯苦しむ事になる。そちの妻はそこに閉じ込められておる』

 

「光は悪人じゃない」

 

『悪かどうかを判断するのは人間じゃあない。神の仕事じゃ』

 

「結婚式か?」

 

『うむ。そこで奴らと繋がりを持った』

 

「ちっ!」

 

『安心せい。ゼウスが死ねば、そちの妻も解放されるわ』

 

「それまでは貴様の傀儡でいろというわけか.....」

 

『そう言うでない。傀儡の代償は大きいぞ?』

 

「それが天下か.....」

 

『うむ。その時が来るまで、せいぜいあの2人から真の愛を学ぶがよい』

 

「真の愛か.....」

 

 

天竜にはイマイチ彼女の言う事が理解出来ない。

 

 

『う~んと。生首、生首』

 

「眼鏡、眼鏡じゃないんだから.....」

 

 

己の生首を拾い上げ、斬り口につけるアマテラス。すると、最初から何もなかったが如く、接着してしまった。

 

 

『うんじゃ煙管は返すよ。

よい統一事業を!アディオス!!』

 

「何処の神だよまったく.....」

 

 

それからアマテラスは天竜の視界から消え失せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「独り言?」

 

 

この2人のやり取りを凪という名の少女はひっそりと見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6話   酒盛り

 

5月12日、安土城。

今日は信奈の誕生日。というわけで、誕生日会を開く事になった。誰かが「戦争中に不謹慎だ」と言ったが、誰かが「余裕は誰にでも必要だぜ」と言ったので、各地から家臣達が舞い戻る事となった。

 

 

「みんな有難う!今宵だけは戦もわすれて楽しんでちょうだい!!」

 

「「「乾杯!!!」」」

 

 

信奈の号令で誕生日会が豪勢に始まった。家臣達が各地から持参した名産品を料理にしたので、その会はより豪華なものとなった。主な出席者は信奈、長秀、勝家、犬千代、一益、良晴、半兵衛、官兵衛、ねね、秀俊、十兵衛、信澄、お市、美濃三人衆、天竜、三成などが参加したのだった。

 

 

「やっぱり越前雑煮が1番美味いはずだよ!」

 

「あら?若狭の磯料理の方が美味しいですわよ?」

 

 

勝家と長秀が言う。何時の間にか何処の料理が1番美味いかという流れになっていた。

 

 

「播磨の料理の方があっさりしてて上手いぜ?」

 

 

良晴も参加。

 

 

「僕はういろうが1番だと思うよ!」

 

「勘十郎.....それは料理って言いませんよ?」

 

 

奥さんに突っ込まれる信澄。

 

 

「くすくすくす.....」

 

 

そんな光景を見ていた三成が笑う。

 

 

「どうしたの三成?貴方はどの料理が美味しいと思う?」

 

 

信奈に問われた三成はみんなの前でこう答えた。

 

 

「塩です」

 

「「「塩っ!?」」」

 

 

それを聞くと、周りの者が一斉に笑い出した。

 

 

「あははははは!!

塩が美味いわけないじゃない!!」

 

「塩なんてしょっぱいだけでつまらないじゃないか!!」

 

 

信奈と勝家が豪勢に否定する。

 

 

「この話どっかで.....」

 

 

良晴はどこか引っかかる様子。

 

 

「分かりました.....」

 

 

そう言うと、スタスタと三成は部屋を出て、何処かに行ってしまう。しばらくすると、料理人達と共に戻って来た。

 

 

「私程度の者が浅知恵を言い、申し訳ありませんでした。今料理を確認しに行った所、どれも素晴らしい料理ばかりのようです」

 

 

さっきの自身たっぷりの時とは打って変わって謙虚である。

 

 

「気にしてないわ。さぁ、みんな食べましょう!」

 

 

そうして皆が一斉に箸をつけ、口にする。

すると、

 

 

「うぅっ.....何これ!?」

 

「食べれたもんじゃないですぅ.....」

 

「味がないですぞ!?」

 

 

全員の料理が不味かったのだ。中には吐き出してしまう者まで.....天竜だけは予想できており、箸すら持っていない。

 

 

「皆様が塩はしょっぱいだけのつまらないものと言われたので、料理人さんに頼んで、塩抜きにして貰いました。どうぞ召し上がれ」

 

 

完全にドヤ顔の三成である。

 

 

「やられたね」

 

「くすんくすん。美味しくないです」

 

 

なんと両兵衛すらも出し抜いたのだ。

 

 

「味を生かすも殺すも塩加減一つです」

 

 

この三成の知恵に皆が驚愕したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その中で.....

 

 

「美味しいなのです」

 

「シン.....お前、味覚崩壊してんじゃないのか?」

 

 

周りを気にせず、味なし料理をムシャムシャ食べる秀俊がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ誕生日といえばケーキが欲しいよな」

 

「「「けえき?」」」

 

 

中盤になって良晴が突然言い出した。もちろん天竜以外の全員が聞き返す。

 

 

「未来じゃあ、めでたい時に食べるんだよ。誕生日とかクリスマスとか結婚式とか.....」

 

 

「結婚式」というワードに信奈と十兵衛がビクリと反応した。良晴との結婚が主な妄想だったが、十兵衛に至っては天竜との結婚式も同時に現れてしまった為に、頭を悩ませる。

 

 

「ねねも食べたいですぞ!!」

 

「秀俊も食べたいなのです」

 

「犬千代も.....」

 

 

当然、おチビ連中の釘付けになった。

 

 

「はっはっは~!ういろう大臣の僕としては是非食べておきたいな~」

 

 

もう父親になる信澄にも釘付けになった。

 

 

「うえぇぇ.....天竜さん、どうにかして」

 

「考えなしに言ったのか.....」

 

 

天竜は大きめの机と皿を用意させ、目の前で召喚術を披露する。

 

 

「「「わあぁぁぁ!!!」」」

 

「ウェディングケーキだ。この人数なら丁度いいだろ」

 

「すまねえ天竜さん」

 

 

まるで塔のようなケーキに皆が釘付けになる。やはり女子受けはいいようだ。そして、ついでにシャンパンも用意する。

 

 

「意外と便利ですね.....」

 

 

同じ術師として少し嫉妬する半兵衛。

 

 

「じゃあ改めてハッピーバースデー!!」

 

 

良晴が号令をかける。

 

 

「はっ.....半被のばあすで??」

 

「シム。『誕生日おめでとう』という意味だね」

 

 

官兵衛の和訳でようやく理解する信奈であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねね、苺いるか?」

 

「わぁぁ!!ありがとうでござる!」

 

「ねねちゃんだけズルいな.....」

 

「おぅ、シン。あ~~ん」

 

「あ~~~ん♫」

 

 

大口を開け、満面の笑みで天竜のケーキを受け取る秀俊である。

 

 

「妹取られちゃうんじゃない良晴?」

 

「う~ん。俺と比べて天竜さんは家族サービス積極的だからなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3時間後。原因はシャンパンだった。

 

 

「あひゃひゃひゃひゃ~!

良晴ぅ~この薄情もの~!」

 

 

泥酔信奈。

 

 

「先輩と天竜.....私はどちらを選べばぁ~!!」

 

 

泥酔十兵衛。

 

 

「うわぁぁぁぁん!!

信澄がおっぱい触った~!!」

 

「うえぇぇぇ!!?

なんの話だい!!?」

 

「この浮気野郎~!!」

 

 

泥酔勝家、泥酔お市。

 

 

「酷いなこりゃ.....」

 

 

少量しか飲んでいなかった良晴は平常心を保っている。美濃三人衆に至っては腹踊りをしてる始末だ。

 

 

「ヨシ兄様が3人いますぞ!」

 

「猿の物の怪は退治なのです!!」

 

 

2人の妹まで泥酔している。

 

 

「あら~ん?天竜どの~は酔いが足りてないみたい

ですね~♡」

 

「その.....勘弁して下さい!!」

 

 

天竜に至っては酔っ払った長秀に絡まれている。普段は悪い雰囲気なだけに新鮮である。

 

 

「というか長秀さん、着物もはだけてエロいな.....」

 

「よっ.....良晴!!

鼻伸ばしてねぇで助けろ!!

.................がふっ!?」

 

「飲んで飲んで飲んで~♫」

 

 

無理矢理シャンパンの瓶を天竜の口に突っ込む長秀である。そうして.....

 

 

「や...........」

 

「や?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらせろ~~~!!!」

 

「にゃ~ん♡」

 

 

長秀を押し倒す泥酔天竜である。

 

 

「止すんだ天竜さん!!この小説は18禁じゃないんだぞ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くすんくすん。どうすればいいんでしょう?」

 

「シム。少なくとも明日までこの酒盛りは続くだろうね」

 

「どさくさに紛れて天竜様の唇を奪えないかなぁ」

 

 

秀才の3人は危機を察知して別室に避難していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。きつ過ぎる二日酔いと記憶障害に苦しめられるメンバーだったとさ。

 

めでだし。めでたし。

 




新キャラのアマテラス。原作のイメージを壊しかねませんが、同人小説という事で登場させました。言ってしまえば、良晴達をタイムスリップさせた張本人です。しかも、欧州の神々との戦争も混ぜられてます。イマイチ想像つかないかもしれませんが、別作品を同時に読んでるつもりでお楽しみ下さい。
因みに作中のゼウスですが、キリスト教のデウスとギリシャ神話のゼウスはややこしいので統一させました。


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第十七話 天竜と旧友

すみません!本当ならばもっと早くに投稿できた
のですが、失敗して消滅してしまったため、
急遽書き直してました。少し質が落ちている
かもしれませんが、ご了承下さい。


「あふんっ♡」

 

「...........」

 

「やんっ♡」

 

「..........」

 

「気持ちいいです天竜様♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

「変な声出してんじゃねぇよ!!」

 

 

 

興福寺、順慶宅。

紀伊での南蛮蹴鞠大会での話を彼女にすると、ずるいずるいと喚いたため、特別サービスとして耳掃除してやる事に。今になって後悔している。

 

 

「ちっ.....女は耳掃除すると皆こんな反応するのか?」

 

「そういえば.....孫市さんにも耳掃除されたんですねぇ」

 

「まぁな」

 

「どんな感じでしたぁ?」

 

「うっ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はんっ♡天竜はんのが入ってるぅ!♡」

 

「..........」

 

「やぁ!♡もっと突いったってぇ♡

 

体がよじれてまうぅぅぅ♡

 

奥に♡奥に♡奥に当たるぅぅぅ♡」

 

逝くっ!♡逝ってまうぅぅぅ!!♡

 

はあああぁぁぁぁぁぁん♡♡♡♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせぇ!!!」

 

 

バシンッと孫市の頭にチョップを食わす天竜。もちろん耳掃除だ。途中で孫市がふざけ始めたため、我慢の限界に達した天竜である。

 

 

「もう止めだ止めだ!やってられねぇ!」

 

「ただの冗談やん。もっとやったってぇや」

 

「だめだ。お前は俺を男として見てないんじゃないか?」

 

「ん?天竜はんはうちを女と見てくれるのかいな」

 

「俺が見ないとでも?」

 

「助平やな」

 

 

己の膝に女性の頭を乗せ、この会話である。

 

 

「さっき連絡あったで」

 

「何っ!?」

 

「雨陰千重洲陀の完全な複製に成功したそうや。これからドンドン量産するそうや」

 

「よしっ!よしっ!思ってたより早いぞ!同時進行でこれも頼む!」

 

 

天竜は懐からS&Wを取り出して彼女に見せる。

 

 

「天竜はんの考えは読めんわ」

 

「報酬は何でも出そう!言ってくれ!」

 

「じゃあ天竜はんには、うちの旦那になってもらうしかないな!」

 

「いいぜ」

 

「な~んちゃっ.........................え?

 

..........ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」

 

「何を驚く?お前から言ったんだろう?」

 

「いや、良晴はんみたく断られるかと.....」

 

「それはあいつに見る目がないだけだろう。俺はお前みたいな可愛い子は見逃さないがな」

 

 

可愛いといわれ、顔が真っ赤になる孫市。おそらく初めてなのだろう。

 

 

「うちの何処かがええんや?

やっぱ尻か!うちの美尻か!」

 

「綺麗な形ではあるが、別に尻は.....俺は内面がかな」

 

「内面?」

 

「一緒にいて退屈しない。むしろ楽しい」

 

「う~!なんか信用できひん!

うちと結婚したいなら証拠見せてみい!」

 

 

いつ立場が変わった?

 

 

「それ次第で結婚してやらんでも..........んっ!?」

 

 

天竜は孫市の頭を膝に乗せたままで彼女の唇を奪う。

 

 

「勘違いすんな。俺がお前を貰ってやるんだ。感謝しろ」

 

「..........」

 

「ただし側室までな。正室は埋まってるから」

 

「...........」

 

「お前にやってもらいたい事がある。結婚の条件だ」

 

「条件?」

 

「孫市。お前達雑賀衆はいつまで傭兵でいるつもりだ?」

 

「いつまでって.....」

 

「紀伊で特に戦力を持っているにも関わらず、下につく事しかせずに、紀伊を放置している」

 

「それは.....」

 

「大名という王がいないせいで中途半端な力を持った国人らが各地を支配し、税率もバラバラ。無法地帯となっている」

 

「..........」

 

 

普段は歩くスピーカーの孫市も、キスに動揺してしまい、会話の主導権を取られてしまっている。

 

 

「それらを変えられるのは雑賀衆だけだ。俺はそう思ってる」

 

「うっ.....うちは!」

 

 

孫市は起き上がって天竜に抗議しようとするが.....

 

 

「俺が娶りたいのは聞き分けのいい妻だ。お前はただ首を縦に振るがいい」

 

「..........」

 

「いいな孫市。...........やれ」

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死にさらせ~!!」

 

「何っ!?」

 

 

ドーーーーンッ!!

 

 

孫市が突然八咫烏を取り出し、天竜に向かって発砲したのだ。

 

 

「ぐわぁっ!」

 

 

その勢いで真後ろに吹っ飛び、壁に激突する天竜。

 

 

「痛っ!」

 

「やっぱ死なんやな。納得」

 

「おっ.....俺を殺そうとしたのか!?」

 

「ちゃうよ?うちの旦那になるのは鉄砲で死なん屈強な男って判断しとるからな!」

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

防弾チョッキ着ててよかったぁ。

着ているとはいえ、至近距離で撃たれればかなりの衝撃とダメージだ。

 

 

「これが孫市節か。参ったよ」

 

「天竜はん?」

 

 

天竜は孫市に近づき頭を撫でてやる。

 

 

「改めて頼む。お前しかいないんだ」

 

 

それを聞いて孫市がパァーと明るくなる。

 

 

「任せとき!そっちも宴の準備は任せるで!」

 

「信貴山城で盛大なやつを開いてやるよ」

 

 

そうして2人は再び口付けをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして5日後。話は興福寺に戻る。

 

 

「で、さっき使者さんが来たんですかぁ?」

 

「うっ.....うん。4日で丹波を落とした俺が言うのもあれだが.....」

 

 

まさか5日で紀伊が統一されるとは思っていなかった。

 

 

だが半分は順慶が終わらせたようなものだった。紀伊のもう一つの巨大勢力は根来寺。順慶が交渉中だった組織だ。興福寺側がいくら交渉しても、見てももらえなかった。だが、天竜が雑賀衆と同盟を組んだ事で、根来寺の勢いが萎えたのだ。その隙をついて、順慶は一気に強気に出て、交渉を続けたのだ。それにて、大和と根来寺の不戦条約を確立。高野山とも同様の規約を結んだのだ。同時に、重要人物の引き抜きも行っていたという。自分達がサッカーで遊んでいた間にそこまでの事を熟していたかと思うと、頭が上がらない。

そんな穴あきチーズのような根来寺に雑賀衆が敵対したのだ。紀伊最大の戦闘組織が攻めてきたとなれば、手も足も出ずに、直様白旗を挙げたという。

国人らもだ。打倒天竜を叫び、一部の秀でた国人同志が同盟を組んだりもしていたが、国人のなかには雑賀衆も混じっている。そこから仲間割れが生じ、ただの烏合の衆となってしまった。抵抗はしたが、極短時間で鎮圧されたという。

ここに姫大名、雑賀孫市が誕生したのだった。

 

 

「これで孫市さんは紀伊の大名ですかぁ

.....................はっ!?」

 

「気づいたか藤勝」

 

「天竜様は悪魔のようですね」

 

 

まぁ、魔王の子孫だし.....

 

 

このための結婚なのだ。いわゆる政略結婚だ。面倒な紀伊の統一事業を全部孫市に任せ、孫市を妻にする事で紀伊国を結納品として頂く算段である。本当に悪魔のような手法だ。

 

 

「でも孫市さんが素直に紀伊国を渡してくれるでしょうかぁ?」

 

「俺が結婚してやるんだ。渡さない訳ないじゃないか」

 

「まぁ、自信たっぷり」

 

「お前も結婚してみるか藤勝?」

 

「お断りしまぁす。天竜様の妻になったら命がいくらあっても足りません。愛人で充分でぇす」

 

 

愛人はいいんだ.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紀伊国?ええよ!」

 

 

やっぱりくれた。彼女は大名としてより、天竜の妻となる事に満足しているようだ。

 

 

「この南蛮風の婚儀装束ええなぁ!

これは絹か?」

 

「シルクだ。特別に用意してやった」

 

 

孫市が未来風の結婚がしたいと言ったので、ウェディングドレスだけ用意してやった。

 

 

「シロ!!言いたい事は分かってる!!?」

 

「天竜!!これは私への侮辱ですか!!」

 

 

上司という事で信奈と十兵衛も来た。2人とも激怒している。

 

 

「おやおや。十兵衛の為に正室の席は用意してるよ?」

 

「いらないです!!(怒)」

 

 

散々モーションかけてきた男が急に結婚したら誰でも怒るだろう。

 

 

「そんな事より!!私は紀伊を侵略で手に入れろと命じたはず!それが何で孫市との結婚に繋がるのよ!!」

 

 

無理矢理の侵略であれば、雑賀衆や根来寺に阻まれ、天竜を足止め出来ると考えていたからだ。

 

 

「戦闘を最小限に留められたのだ。紀伊の戦力をまるごと手に入れられるという非常に崇高なやり方です。偉い方には分からないでしょうね」

 

「なっ!なんですって!?」

 

「そうだ!これで私は羽柴・明智軍に従軍できる命令を貰えるのですね?」

 

「わっ.....私は.....!!」

 

「貰えるのですね!!」

 

「..........!?」

 

 

この男.....

 

 

「...................わよ」

 

「おや?聞こえませんよ?」

 

「いいわよ!!

自由に毛利攻めしなさいよ!!」

 

「ふん。それでいい」

 

 

天竜はもう猫被りな態度は取ってない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、安土城に戻った信奈は畳にドンドンと怒りをぶつけていた。

 

 

「あぁ!!本当にムカつくわねあの男!!」

 

「だから言っていたでしょう。あの男は危険だと」

 

 

長秀が言う。

 

 

「ふん。私の誕生日にあのシロに抱かれたくせに、よく言うわ!」

 

 

相当きている。

 

 

「なっ!?私は抱かれてません!!

たとえ酔っていても私は断固として拒否するはずです!!....................たぶん」

 

 

「丹羽長秀は羽柴天竜に抱かれた」

という噂が近畿中を流れまくっていた。おかげで長秀の悪評は集まるばかりだった。今までが清楚なイメージだったために、このスキャンダル一つで一気に崩れ落ちてしまった。

「非処女・不純・淫乱」など散々である。

 

.....まぁ、噂を流した張本人は天竜であるが。

 

唯一酔ってなかった良晴に聞いてみたが.....

 

 

「すいません。止めようとしたけど、酔っ払った天竜さんに殴られて朝まで気絶してました」

 

 

結局真相は謎のままである。

 

 

「あいつのせいで外も出られないんですよ!!!零点以下です!!!」

 

 

彼女には珍しく激怒している。

 

 

「あんたも苦労してるのね。早くなんか対処しないとドンドン被害者が増えるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、やられる前にやりますか?」

 

「ひっ!?」

 

 

「やる」という言葉に何やら恐怖する長秀。だがそんな事はどうでもいい。

ある女の声が天井裏からし、その声の主が降りてくる。

 

 

「凪!!戻ってきたの!?」

 

「はい。早急に伝えたい事があったもので.....」

 

「伝えたい事って?」

 

「秀長殿は毛利方と繋がっています」

 

「!!!?」

 

「それだけではありません。仏教徒を操って各地で大規模な一揆を起こす可能性もあります」

 

「なんで仏教徒!?」

 

「信奈様は仏教徒の秀長殿への評価をご存知ですか?」

 

 

知っての通り、仏教徒は信奈を恨んでいる。色々あるが、原因は信奈の「廃仏毀釈」とも言える野蛮な行動だ。安土城の建築材料として、貴重な仏像ら没収し、砕いて木材や石材にしている。それに対し、興福寺や延暦寺は苦虫を噛み潰す思いをしただろう。そして、降伏した根来寺に対しても信奈は同様の支配体制を敷こうとしたのだ。そんな経験のない根来寺衆は今にも暴動起こす勢いだった。そこに仲裁に立ったのが天竜だ。彼は、元国人らが所有していた空城をいくつか所有していたので、その一部を解体し、材料に充てたのだ。お陰で、天竜はその浪費を代償に、仏教徒からの絶対的な支持を得たのだ。それは市民にも伝わり、すっかり彼は英雄になってしまった。

 

 

「うぅ.....私は批評ばかり溜まるのに、何で彼は英雄なんでしょうか?」

 

 

長秀が嘆いている。

 

 

「仏教徒は秀長殿こそ天下人に相応しいと叫んでるようですね」

 

「そんな.....」

 

「もし、仏教徒が秀長殿を擁立したら?

逆に秀長殿が仏教徒を利用したら?

秀長殿の軍と仏教徒の連合軍に勝てる自信はお有りですか?」

 

「..........何が言いたいの?」

 

「暗殺の準備は出来ております」

 

「暗殺!?まだ何もやってないのに!?」

 

「何かやられてからでは遅いのです!やらずに後悔するのなら今こそ!!」

 

「私も賛成です姫さま!

ついでに私の悪評も削いで貰いましょう!」

 

 

信奈はよくよく考えた末、

 

 

「......................条件があるわ」

 

「はい」

 

「彼の妹のねねと秀俊。

そして特に弟の良晴にはバレないようにして!お願い!」

 

「承知!」

 

 

そう答えて凪は出て行った。その瞬間、信奈に大きな後悔が襲ってきた。

 

 

「こんな事.....良晴達にバレたら殺されるわね」

 

「姫さま.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

播磨、姫路城。

 

 

「いや~!まさか天竜さんが結婚するなんてなぁ」

 

 

信奈達の陰謀など知りもしない良晴は、素直に天竜の再婚に感心していた。彼自身、詳しく知りもせずに天竜の妻の事を十兵衛に話してしまった事を気にしていたのだ。

 

 

「にしても孫市姉さんとか~。

いつから付き合ってたの?」

 

「付き合ってないけど.....」

 

「は?交際0年で結婚ってあり得るの!?」

 

「この時代じゃあ珍しくないだろう」

 

 

政略結婚だし。

 

 

「ちっ......!」

 

「十兵衛ちゃん.....」

 

 

十兵衛が舌打ちをする。心の片隅でも惚れてる男の馴れ初めなど聞けば、腹が立つだろう。

 

良晴自身、天竜が十兵衛にモーションをかけている事は知っていた。それに対し、十兵衛が満更でもない事も.....

良晴はもう信奈一筋と決めているので、十兵衛が別の恋を見つけた事にホッとしていた。

 

 

「先輩は私がこんな男に取られてもいいんですか!?だから私を貰って下さい!!」

 

 

そうでもなかった。

 

 

「見込みのない男と逆に求めてくる男。どちらと結婚するのが特か君なら分かるだろう?」

 

「うるさいです!孫市と結婚したなら奴と乳繰りあってればいいんです!!」

 

「そうか~。十兵衛は嫉妬してるんだなぁ」

 

「だっ.....だだだだ誰が嫉妬なんか!!」

 

「可愛いな十兵衛は!」

 

「うるさ~い!!

...........ふん!私と先輩は口付けは済ませました!だからお前が付け入る隙なんてないですぅ!」

 

「それは本当か良晴!」

 

「うん。とりあえず十兵衛ちゃん黙って」

 

「ふん。なら!」

 

 

 

 

ズキュュュュュュュュュン!!!

 

 

そうして天竜は十兵衛にキスをする。

 

 

「~!!!!!!!!?」

 

 

顔を紅のように真っ赤にした十兵衛はその場に倒れてしまった。

 

 

「ちょっ.....天竜さん!?」

 

「良晴はもう、信奈以外はいいんだろう?」

 

「う~ん。ちょっと後悔...........じゃない!!俺はもう信奈しか求めない!!............う~ん」

 

「なら俺は信奈以外の全員を貰ってハーレムを作るとしよう!」

 

「そんなぁ~!!」

 

「冗談だ」

 

 

全然冗談に聞こえない。実質、天竜さんが1番秀吉に近いかもしれない.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの~いいですか?」

 

 

そんな3人のゴタゴタの中に1人の少女が現れる。良晴は、その子に認識があった。

 

 

「弥九郎!!?」

 

「お久しぶりです良晴さん」

 

 

備前・美作の大名、宇喜多直家の娘である秀家に仕えている。堺商人、小西ジョウチンの娘だ。

 

 

「どうしたんだよ一体.....」

 

「直家様からの密書を預かって参りました」

 

「直家から!?」

 

 

 

 

密書にはこう書いてあった。

 

『羽柴良晴秀吉

黒田官兵衛孝高

羽柴天竜秀長

以上3名に備前、岡山城まで来て欲しい。

毛利方にバレぬよう、旅籠を用意させたので安心してほしい』

 

今まで多くの人を謀殺してきた男に安心してくれと言われても信用できないが.....

 

 

「なんで天竜さんの名前が入ってんだよ!?」

 

 

そんな良晴の叫びも届かぬ所で。

 

 

「久しいな弥九郎!もう問題は起こしてないだろうな!」

 

「もう!堺での事は忘れて下さい!」

 

 

天竜が弥九郎の頭を撫で、それを恥ずかしそうにしている。後から官兵衛に聞いたが、弥九郎が備前の方に逃げて来たのは堺で問題を起こしたからなのだとか。それに天竜が関わっていたとは.....

 

 

「どうゆうこと天竜さん??」

 

「あぁ。俺が宇喜多家の客将だった頃からの知り合いなんだ」

 

「..........................え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

備前、岡山城。

 

 

「おぉ!!久しぶりじゃねぇか天竜!!」

 

「そっちこそな直家」

 

 

会って早々、旧友のような挨拶を交わす2人。

 

 

「お前さえ残ってくれりゃあ、毛利共にへこへこ頭下げる事なんてなかったのによう!よりによって織田なんかに付きやがって!」

 

「俺にだってやることはあるんだ」

 

 

どうやらほんの少し前まで天竜は宇喜多家に厄介になってたらしい。織田と毛利の対立が起きる前に離れたとか.....

 

 

「シム。どうやら彼の悪どさは宇喜多直家の受け入りだったようだね」

 

「私も初耳でした」

 

 

官兵衛や、天竜の付き添いでついて来た三成が言う。

 

 

「おぉ、官兵衛!足はもう大丈夫か?」

 

 

彼自身、心残りにしていたらしい。

 

 

「誰かさんのせいで、木の棒のようになってたけど、今はこの通りだよ」

 

 

官兵衛は健康な足を見せる。

 

 

「うぅ.....すまねぇな」

 

「む?」

 

 

人に謝る直家に違和感を覚える官兵衛。

 

 

「今日はどうしたんだよ直家」

 

「あん?羽柴良晴かよ.....なんで来てんだ?」

 

「はぁぁぁ!?お前が呼んだんだろ!!」

 

「はっ、冗談だよ。

お前ら飯食ってけ。そろそろ昼だろ」

 

「シム。確実に何か入ってるね」

 

 

普段の行いが悪いと何においても信用されない。

 

 

「その前に先生に挨拶して来てもいいか?」

 

「ん?あぁ。行ってこい」

 

 

天竜が言う。

 

 

「天竜さんの先生って.....」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

「塚原卜伝先生だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです先生」

 

「..........」

 

「ここは涼しく過ごしやすそうですね」

 

 

返答は無かったが、天竜は続けた。

 

 

「先生に教わった剣術と.....人生について。先生はまだ未熟だって怒るでしょうが、これでも成長したんですよ」

 

「..........」

 

「貴方は私にとって最高の教育者でした」

 

 

涙を流す天竜。後ろの良晴、官兵衛、三成の3人は唖然とし、弥九郎と直家は思いつめた表情をしている。

 

 

 

 

天竜が話かけていたのは卜伝の墓石だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

墓石があった寺から城に戻る途中の事。

 

 

「落ち着いたら墓を鹿島に移そうと思ってる。今あそこの支配してるのは佐竹家だっけ?気楽に行けねぇだろ?」

 

「.....うん」

 

「俺の実父が糞みてぇだったからなぁ.....先生が俺の第2の親だったなぁ。学べる事はいっぱいあった。お前にも会わせたかったぜ」

 

「.....うん」

 

 

卜伝は、天竜との武者修行にて各地を回っていた。

(因みにこの時寄った堺で弥九郎と出会う)

ところが、中国地方に入る辺りで調子を悪くし、備前で落ち着いた時には、起き上がる事もできなかったという。卜伝の療養中は直家の下で働いていたのだとか。

 

 

「だけど、先生はそのまま.....」

 

「天竜様は卜伝殿が亡くなられて備前を離れたのですか?」

 

 

三成が聞く。

 

 

「あぁ」

 

「..........」

 

 

良晴は思った。天竜の恩師は既に死んでいた。天竜は今でも彼を尊敬している。もし、天竜が死んでしまったら、自分は何を思うのだろうと思いつめてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事の席にて。

そこには秀家も出席していた。

 

 

「俺は毛利方と手を切ろうと思ってる」

 

「「なっ!?」」

 

 

驚いたのは官兵衛と三成。天竜と良晴はそれを知っていた為、さほど驚きはしなかった。

 

 

「だが、問題はそこじゃねぇ。今、毛利方は上月城に集まってる」

 

「「そうか!宇喜多軍と羽柴・明智軍で挟み撃ちに出来る!」」

 

 

三成と官兵衛が同時に気づく。

 

 

「三木城はどうするんだ?お前が発端だろ?」

 

「あぁ、三木城はお前らで片付けろ。火は付けたが、消すのは俺にゃあ無理だ。別所は完全に織田に敵対してる。兵糧攻めを続ければ落とせるだろう」

 

「シム。それは無理だね。誰かさんが敵に塩を送るせいで、いつまでたっても堅城のままだ」

 

 

それを聞いて天竜が良晴をジロリと睨む。

 

 

「それとだ。天竜。個別で話す事があるから後で俺の部屋に来い」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、飲め!」

 

 

直家は天竜の湯呑になみなみと酒を注ぐ。

 

 

「秀家はお前を兄のように慕ってたからなぁ。会えると聞いて喜んでたぞ?」

 

「そうか.....」

 

「でも、死んでも秀家はやらねぇからな!」

 

「分かってるよ」

 

「しかし、あの羽柴良晴が来る事にまで喜んでたなぁ.....くくくく。あいつ暗殺してやろうか?」

 

「.....直家」

 

「ん?」

 

「今日はよく喋るな?」

 

「...........まぁな」

 

 

天竜はゆっくりと湯呑を床に置く。

 

 

「もう...........長くねぇんだろ?」

 

「..........」

 

 

直家は他の者の前では机上に振舞っていたが、直家の顔色は青白く変色し、肉質も良くなく、窶れていた。くまも目立ち、この異変に気付いていた者が他にもいたかもしれない。

 

 

「俺はどうなっちまうんだろうな」

 

「尻はす」

 

「ん?」

 

「大腸や直腸で悪性の腫瘍が増殖し、人体を死にいたらしめる、不治の病だ。通称は『癌』。お前の血便はそのためだよ」

 

「なっ.....何でお前が俺の病に詳しいんだよ!?」

 

「陰陽術と医術の混合。術をかけた癌細胞を人体に意図的に摂取させ、術師の思い通りに操る秘術」

 

「なっ.....」

 

 

そうして天竜の表情が一変する。

それは直家すらも身震いする程、凶悪な顔に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1年前にお前に癌を植え付けたのは俺だ」

 

「なっ.....!!!?」

 

 

直家は慌てて立ち上がる。

 

 

「お前にはこの時期に死んでもらわなきゃいけねぇんだよ。なのに予知しても、どうにもお前は健康のままだ。だから.....」

 

 

天竜もゆっくりと立ち上がる。

 

 

「俺が歴史の帳尻を合わせた」

 

「っ.....!!」

 

 

そうしてついに直家が爆発した。

 

 

「天竜ぅぅぅぅぅぅっっ!!!!!!!!」

 

 

直家は懐から短筒を取り出して天竜に向けようとする。だが、彼は足を振り上げ、それを跳ね飛ばす。

 

 

「手前ぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

続いて直家は小太刀を取り出す。

そうして天竜の左手を突き破った。...........だが、

 

 

「あぐっ!!?」

 

 

直家が突然吐血し、それ以上は進まなかった。

 

 

「癌細胞を肺に増殖させた。息がしづらくて辛かろう」

 

「てっ.....手前ぇぇ.....」

 

 

天竜は傷付いた己の手の平を見る。

 

 

「この傷はお前だ直家。傷として俺と共に生涯生きるがいい」

 

「ちっ.....くしょう......」

 

 

直家はその場に仰向けに倒れこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは.....遺言状か?」

 

 

机に置いてあった書状を見つける。

 

 

「それは.....それだけは.....」

 

 

必死に手を伸ばすが、直家の思いは伝わらない。

 

 

 

『宇喜多家の家督は秀家に譲る。

だが、秀家はまだ幼少だ。そのため、秀家が成長するまでは備前・美作を俺が信用する、別の者に任せる事にする。

その相手とは.....』

 

 

 

「ほう。面白いな」

 

 

 

 

 

 

『その相手とは、羽柴良晴である』

 

 

 

「くくくく。そこまであいつに浸透したか。お前にしては珍しい」

 

「くっ.....くそ.....」

 

 

天竜は遺言状に呪文をかけた。

すると、記載されていた「羽柴良晴」の名が、なんと「羽柴天竜」に変わってしまったのだ。

 

 

「なっ!?」

 

「これでこの国と秀家は俺のものだ」

 

「天竜ぅぅぅぅぅっ!!!!!」

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

 

その甲高い笑い声を聞いて直家はある事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?笑い方と『姫武将殺し』を教えろだぁ?」

 

「あぁ。1番相手を馬鹿に出来る笑い声はお前が1番だからな」

 

「あのなぁ。剣術や射撃なら兎も角、笑い方って.....それに『姫武将殺し』」

 

「男なら女を口説きてぇもんだろ?」

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

やっぱお前面白れぇや!

いったい誰を口説くんだよ?」

 

「姫巫女様」

 

「は!?」

 

「冗談だよ」

 

「脅かすんじゃねぇよ.....」

 

「秀家だ」

 

「手前ぇ殺すぞっ!!」

 

「くすっ。冗談だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手前ぇぇ.....秀家だけは.....秀家だけは.....」

 

「安心しろ。あの子だけは悪いようにしない。ちゃんと守ってやる」

 

「うぅ...........」

 

 

直家は立ち去ろうとする天竜に向かって、意地でがんを飛ばす。

 

 

「天竜ぅぅぅ.....俺らは悪だ.....どうしようもない程にな.....」

 

「...........」

 

「だが、悪は絶対に報われねぇ.....

碌な死に方しねぇ.....

天竜.....お前もな!」

 

 

天竜がパチンッと指を弾くと、直家の腹部からブチンッという嫌な破裂音がし、そうして大量の血便が流れ出した。

 

 

「ぐがっ...........!!?

..........あばよ悪友.....

先に.....地獄で待ってるぜ.....」

 

 

そうしてそのまま直家はこときれた。天竜は直家のもとに近寄り、開いたままの彼の目蓋を閉じた。

 

 

「天国逝きを願うぜ.....悪友」

 

 

天竜はスクッと立ち上がる。

 

 

「アマテラス.....いいな」

 

『心配せんでも、宇喜多直家の魂はわっちの作った黄泉.....天国へ送り届けるでありんす』

 

「ならいい」

 

 

天竜は廊下に出る。

 

 

「誰か!!誰か来てくれ!!」

 

 

その大声に反応し、良晴達が駆け寄ってくる。

 

 

直家よ.....俺はまだまだ止まれねぇんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「計画通りにな、村上武吉」

 

「あぁ」

 

 

 




孫市との結婚。皆さんは想像できましたか?
さらにそこから、信奈側との完全対立。
彼はいったいどうなるのか!?
次回予告
天竜危機一髪
~彼の命を狙う黒い影~


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第十八話 天竜危機一髪

今回、新キャラ登場。



翌日。急遽坊主らが呼ばれ、直家の葬式が開かれる事になった。

昨日は秀家があまりに哀れだった。もう動かない父親の亡骸を前にして、必死に泣くのを堪えていた。 

天竜は別室に彼女を連れて行き、人払いをさせると、急に彼にしがみ付き、ワンワンと大泣きするのであった。殺した張本人の天竜は、彼女の思いをただ、受け入れてやるしかなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さまっ!!」

 

 

葬式の最中、坊主のお経を止めて直家の骸の前に立ちはだかる秀家。天竜は後ろから見守っている。

 

 

「秀家は.....秀家は.....」

 

 

泣き出しそうになるのを堪えて、彼女は言い放つ。

 

 

「秀家は自立します!!」

 

 

葬式の出席者は皆唖然とする。

 

 

「もうお父さまには甘えません!

もうお父さまに迷惑はかけません!

もうお父さまでなしで生きていけます!

もうお父さまには.....」

 

 

耐えきれず、涙や鼻水で秀家の顔がクシャクシャになる。

 

 

「だからお父さまはゆっくりと眠って下さい!先に逝かれた忠家伯父様の為にも!」

 

「..........」

 

 

宇喜多忠家。直家の弟。本来なら彼が天竜の役を担うはずだったが、すでに死んでいる。実は何者かに毒殺されたとか.....

 

 

「秀家の勇士を.....黄泉から応援していて下さい.....」

 

 

そうしてフラフラになった彼女を天竜が支え、そのまま抱きかかえる。

 

 

「直家。秀家は俺が支えてやる。だからもう休め!.....俺が逝くまでに酒盛りの準備ぐらいはしとけよ!」

 

 

そうして天竜はまた、秀家を別室に連れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『宇喜多秀家、調略完了』

その時の天竜は複雑な表情だったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、備中。

 

 

「あの.....天竜様?」

 

「どうした三成」

 

「ここは完全に敵国ですよね?」

 

「ん?そうだけど?」

 

「何でそんな平気なんですか!!」

 

「ここらで落ち合う筈なんだ」

 

「.....?誰と?」

 

「さて問題です!誰でしょう?」

 

「からかわないで下さい!!」

 

「三成はからかい易くて面白いんだ」

 

 

珍しく笑顔の天竜。

 

 

「もう.....家臣に隠し事が多いと不信がられますよ?」

 

「ふ~ん」

 

「例えば、森水青蘭とか.....会った事はありませんが」

 

「ふ..........あれ?」

 

「どうしました?」

 

「今何て言った?」

 

「...........森水青蘭?」

 

「..........」

 

 

天竜は今まで陽気だったのが嘘のように大量の汗を垂れ流す。

 

 

「式神召喚!出でよ翼閣竜!!」

 

「!!!?」

 

 

2人の前に突然、プテラノドンが出現する。天竜は素早くそれの背中に乗り込んだ。

 

 

「ちょっと大和まで戻るから!待ってろ!」

 

「嫌ですよ!?敵国に一人にする気ですか!!」

 

「あ~.....翼閣竜。拾ってやれ」

 

「クウァァーーー!」

 

「きゃっ!?」

 

 

足で掴まれる三成。しかもそのまま翼閣竜は飛び立ってしまった。

 

 

「やだぁ~!!!

放してぇ~!!!」

 

「すまん.....大和まで我慢してくれ」

 

 

 

 

1時間で辿り着いた御一行。

その時には、三成は生気の無い顔をしていた。

 

 

「二度とやらないで下さい!!」

 

 

涙目で訴える三成。それを適当に対応して、急いで信貴山城地下の牢に訪れる。三成は順慶に用があるらしく、そこで別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信貴山城地下。

 

 

「ふん。生きてたか」

 

「天.....竜.....」

 

 

こちらもまた、先日前の怒号が嘘のように意気消沈している。

 

 

「禄にマンマを食わして貰えなかったようだな。捕虜への扱いは丁重にというのが定石なのに、俺が悪いみたくなるじゃねぇか」

 

「天.....竜.....」

 

「ちっ.....釈放だ!

誰か食物でも飲物でも用意してやれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからさらに1時間。

 

 

「ぷふぁ~!!

空腹で死ぬかと思ったぞ!」

 

「ふん。いっそ死んでてくれれば良かったのにな!」

 

「貴様.....本当に悪魔だな」

 

「何とでも言え。今の貧相なお前など、

恐るるに足らん」

 

「ほう?ならやってみるかい?」

 

「.....遠慮するよ」

 

 

ここで天竜は切り出す。

 

 

「ブタ箱を経験して頭が冷えただろう。今度こそ真面に話させて貰おうか」

 

「ちっ.....!天竜のくせに」

 

 

そんな時だった。

 

 

「なぁ、天竜さん!」

 

「うわっ!?良晴!?

何でここに!?」

 

「それは十兵衛ちゃんが.....」

 

「天竜!!誰ですかその女!!

また新しい女ですか!!」

 

「落ち着け。前に会っただろう」

 

「ふぇっ!?...........あぁ!?

有岡城の時の不審者!!」

 

 

鈍くね?

 

 

「不審者だって!?

この人、蹴鞠大会の時の写真の人じゃないか!!」

 

 

騒がしいな.....

 

 

「お前の顔よく見れば.....

何故生きているんだ明智光!!」

 

「ふぇっ!?」

 

「青蘭。そいつは瓜二つだが、光じゃない。そいつは明智光秀だ」

 

「何だと!?」

 

「主君をそいつ呼ばわりすんなです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、天竜は森水青蘭に粗方の事柄を話す。ここは戦国時代である事、微妙に史実とは違う事、今天竜は大和や紀伊の大名である事だ。

 

 

「まさか.....行方不明扱いされてた少年までここにいるとは.....」

 

「え!?俺って未来じゃそうなってるの!?」

 

 

自分がいなくなったその後の未来を知らない良晴はそれを聞いて驚く。

 

 

「同時期に、『逃走中の殺人犯』とされてた天竜までいなくなったから、誘拐されたのではと目されてたからな」

 

 

それを聞いて良晴が驚愕する。

 

 

「てっ.....天竜さんが殺人犯!?」

 

「そうだぞ?なにしろヤクザ組織『朧組』の若組長だからな」

 

「....................は!?」

 

 

驚くべき事柄が多すぎてついていけない良晴。「朧組」はニュースにもよく出るような危険組織と知らされていた有名な団体だったからだ。十兵衛に至ってはずっと(?~?;)な表情をしている。

 

 

「父親が小遣い稼ぎに始めたヤクザ稼業をこいつが一気に大きくした。お陰で小さい暴力団は皆、朧組に潰されて、警察も迂闊に手を出せない大組織になってしまった.....」

 

 

青蘭は話を続ける。

 

 

「組長を逮捕しようにも、正体は不明。1度も外に顔を出した事のない奴なものだから警察もお手上げ。それもそのはず.....表では教師をやってる奴なんて誰もヤクザの組長だなんて気づかないはずさ」

 

 

モノホンのご●せんである。

 

 

「おい!余計な事まで言うな!」

 

「そして、明智家と繋がった事.....

戦後のゴタゴタを利用して一気に成り上がった『明智コンチェルン』との同盟。令嬢であった明智光との政略結婚でな!」

 

 

孫市との政略結婚に抵抗が無かったのはこのためである。

 

 

「明智コンチェルンは政界とも繋がっていたために、朧組が政界にまで出てきた。そこから発生した政治家連続殺人事件!」

 

「「「...........」」」

 

 

3人は黙って彼女の話に耳を傾ける。

 

 

「反日思想を持っていたとする政党の代表や権力者が次々に殺害された。その結果、廃された政党も出る始末。その容疑をかけられていたのが朧組」

 

「そんな事が.....」

 

 

まるで映画の脚本のような話を聞かされ、気持ちの整理がつかない良晴。

 

 

「その事件を期に、組長が明らかになった。それこそが、勘解由小路天竜!」

 

「..........」

 

「そうして警察は世間には公表せずに貴様を逮捕しようと追っていたのだ」

 

「............ふん」

 

「だが、それも隠蔽された虚説だ」

 

 

青蘭がそう言った瞬間。天竜の表情が変わる。

 

 

「犯人は朧組じゃなかったんだ」

 

「やめろっ!!」

 

 

天竜が突然焦ったように大声を出す。

 

 

「私が怒っているのは、人を殺したからじゃない!人殺しを庇ったからだ!」

 

「言うな!それ以上言うな!!」

 

「朧組は元々、明智コンチェルンが警察に対するべく雇った番犬に過ぎない。人殺しの罪を朧組に被せるために.....」

 

「よせ!!やめろ!!!」

 

 

ついに天竜が抜刀する。それを良晴と十兵衛が慌てて抑えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺人鬼の正体は明智光。

天竜はあいつの罪を被せられただけなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、天竜が大暴れしたため、青蘭ではなく代わりに天竜を拘束する羽目に.....

 

 

「自主してくれ。そうしてくれればお前は捜査撹乱の罪しかないようにしてやる。共犯にはさせない!」

 

「うるせぇ!!殺したのは俺だ!!

光は関係ねぇ!!」

 

「困ったな.....」

 

「ちょっといいですか?」

 

 

十兵衛が話かける。

 

 

「私の祖先がした事って.....」

 

 

十兵衛は元気が無かった。それもそうだろう。自分の子孫が連続殺人犯だと聞かされれば誰でもブルーになる。

 

 

「貴方には悪いが事実だ。恐らく二重人格だったのだろう」

 

「二重人格?」

 

「はっ!お前は俺さえ逮捕すればいいんだろ?真相の究明など必要ない!お前にそんな権限などあるのか?」

 

 

 

 

 

 

「あるさ!

私はお前の姉だからな!」

 

 

 

 

 

 

 

「「は!?」」

 

「ちっ.....都合よく家族面しやがって」

 

 

衝撃の事実なのに受け流された。

 

 

「それだけじゃねぇだろ!!

手前ぇら政府の犬が隠してるのは!!」

 

「何が言いたい?」

 

「光だ。光を殺した事だ!!」

 

「...........」

 

「光さんって.....病死なのでは?

.....確か子宮頸癌」

 

 

十兵衛が前に天竜から聞かされた事を口ばむ。

 

 

「それは、医者が言ったまで。本当は暗殺されたんだ!政府にな!」

 

「それは貴様の空論だ」

 

「あの医者が吐いたんだ。

『自分は悪くない!命令されただけ』

ってな」

 

「..........つっ!?」

 

「この手で殺してやろうかと思ったが、勝手に死んだよ。恐らく口封じに消されたんだろう。お陰で俺が殺した事になったが.....」

 

「くっ.....」

 

「話は終わりだ。中国に戻るぞ!

手前ぇはこの戦国時代をさまよいやがれ!」

 

「............貴様、私に楯突いてタダで済むと思ってるのか?」

 

「はっ!お前お得意の刀はねぇ!

.....そっか拳銃持ってるのか!

でも無駄だ。俺はこの時代で陰陽師及び幻術師として覚醒した!目をつむってでも避けてやるさ!」

 

 

拘束されているのも忘れさせる程の態度だ。

 

 

「ほほう?では私はこの時代に来て1ヶ月。拘束されて2週間。突然覚えたこの技を使ってやる!これが陰陽術ならそうなんだろう!」

 

「何っ!?」

 

「私の術は相手が1番苦手とするモノを召喚する技だ!」

 

 

流石は姉。彼女も召喚術。

 

 

「はっ.....はんっ!この俺に苦手なモノなどあるものか!俺が怖いのは俺自身だ!」

 

「ならいい....................召喚!!」

 

 

そこに現れたのは!!

 

 

「きゃっ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

 

十兵衛と良晴がそれぞれ驚く。

そして肝心の天竜は.....

 

 

「ひあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

今まで聞いた事のない叫び声を出す天竜。

 

 

「よよよよよよ良晴!!この縄さっさとほどけぇ!!!」

 

「えっ?」

 

「この役立たず!ハゲネズミ!

.....自然発火!!」

 

 

天竜の表面が仄かに燃え上がり、縄が溶ける。

 

 

「式神召喚!出でよ翼閣竜!!」

 

 

それに乗って一目散に城を抜け出す。

 

 

「三成拾っていけ翼閣竜!

備中まで逃げるんだ!!」

 

「クワァーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に苦手なんだなぁ............ゴキブリ」

 

「なんか天竜が可愛く見えてきたですぅ」

 

「原因は糞親父だ。修行の一貫だかなんだかで虫を色々と食わせてたらしい。クモやらムカデやらイモムシやら.....中でも食用じゃないゴキブリを無理矢理食わされたらしく、それ以来トラウマになってるらしい」

 

「おえっ!」

 

「虎馬?」

 

「精神的外傷の事だ」

 

「あぁ、なるほど...........よし」

 

 

今度天竜が迫って来たらゴキブリを出してやろうと決めた十兵衛だった。

 

 

「その.....森水さんは本当に天竜さんのお姉さんなの?」

 

「青蘭でいい。結婚して苗字は変わったが、実の姉だ。まぁ、夫はすぐ死んでしまって今は未亡人だがな」

 

「はぁ.....」

 

 

勘解由小路家のあまりのドロドロさについていけない良晴。

 

 

「青蘭さんは天竜さんと仲悪いんですか?」

 

「うむ。私が警察になったのを裏切ったと感じているらしい。私は裏から動かして警察の目を朧組に向けないようにしていたのだが.....」

 

「はぁ.....」

 

「だが、殺人事件が起きてそうも言ってられなくなった。可愛い弟が小動物の皮を被った野獣に騙されてるなんて耐えられなかったんだ!」

 

「可愛い!?」

 

「可愛いさ!!本当に小さい頃はいつも『お姉ちゃん!お姉ちゃん!』って頼ってくれたのに!!」

 

「あの.....青蘭さん?」

 

「でも、姉の威厳を守る為にいつも厳しくしてしまう.....それでいつも口論になってしまう。私はそれを克服したい!そしてあいつと愛を語り合いたい!!」

 

「...........」

 

「死にかけの森水警視総監との政略結婚で実家の家計を助けるにあたったが、本当は天竜と結婚したかった!!」

 

 

ブラコンかよ!!しかも隠れブラコン。

というかこの姉弟似てるな.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

備中に戻ってきた天竜と三成。

 

 

「まさかまた足で掴まれるとは.....」

 

「すまん。強敵が現れてどうしようも無かった」

 

「はぁ.....」

 

 

あきれ返ったのも束の間、三成は唖然とする。

 

 

「よう武吉!」

 

「羽柴天竜.....来たか」

 

 

敵軍であるはずの村上水軍の長、村上武吉が堂々と現れたのだ。

三成は慌てて刀を構える。

 

 

「よせ。今日はただの話し合いだ」

 

「話し合い!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が宇喜多家の客将してたのは知ってるだろう?その時知り合ったんだ」

 

「はぁ.....」

 

「それで武吉。確かに毛利と織田の和睦を受け持ってくれるのだな?」

 

「むぅ.....」

 

「今回の宇喜多直家の死と宇喜多家の織田従軍は知っているだろう。これは毛利にとって最大の痛点だ。上田城に軍員が集中している今、吉川元春も小早川隆景も籠の鳥だ」

 

「むぅ.....」

 

「織田もとい俺はここで毛利と和平を結びたい。毛利はここで滅ぶには惜しい」

 

「天竜様.....そこまでのお考えで」

 

 

三成が憧れの表情で天竜を見つめる。

これは織田の為でもあった。毛利攻めの全権を持っているのは良晴である。だが、彼は史実でやったような「三木城の干殺し」や「高松城の水攻め」などの野蛮なやり方を避け、何とも甘っちょろい攻め方をしている。これでは10年経とうとも毛利を倒すなど不可能だろう。だからこそここで強行手段に出たのだ。

 

 

「ふむぅ。確かに一理あるな」

 

「そうだ。総大将の毛利輝元は幼少。指揮官はあくまで吉川元春、小早川隆景姉妹だ。隆景との繋がりが深いお前に彼女を説得してほしい」

 

「.....................」

 

 

切り出しが早すぎたか?

 

 

 

 

「いいだろう。今夜あたりで話し合ってみる」

 

 

よしきた!

 

 

「いい返答を待ってるよ」

 

 

これが成功すれば歴史が変わる!

 

 

「とりあえず備中に待機しててくれ。

宿屋は用意した」

 

「あぁ。ありがたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして宿屋。

 

 

「この部屋ですね」

 

 

そこは中々いい部屋であった。

 

 

「2部屋は取れませんかね?」

 

「へぇ。今日はどこも満杯で.....」

 

 

宿屋の主人が答える。

 

 

「しょうがない。三成、同室いいか?」

 

「いいです!全然いいです!めちゃくちゃいいです!!」

 

 

真っ赤な顔で大声で答える三成。

 

 

「ん?いいなら別にいいか」

 

「では夫婦でごゆるりとお過ごし下さい」

 

「いや、俺らは夫婦じゃ.....」

 

 

そんな天竜をよそに三成はおかしな事になっていた。

 

 

「わっわわわわ私がががが天竜様と

ふふふふふふ夫婦???????

...............ブッーーーーー!!!!」

 

 

鼻血を噴き出して倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。

 

 

「夕食をお持ちしました」

 

 

可愛いらしい少女が料理を運んできた。三成と同年代くらいだろうか。

 

 

「おっ、美味そうだな」

 

 

ありきたりの料理ではあったが、このあたりの郷土料理は初めてだったので新鮮に感じる。

 

 

「君はここの子かい?」

 

「いえ、雇われている者です」

 

「ふ~ん。名前は?」

 

「紀之介です」

 

「紀之介ちゃんね」

 

「天竜様!」

 

 

いつのまにか三成にジト目で見られている。

 

 

「別にいいだろう。ただの暇つぶしだ。

..........私は羽柴天竜という」

 

「天竜様!!」

 

「名を聞いたら、自らも名乗るのが通説だ。俺らは別に不法入国してるわけじゃないし、ただの市民だ。別に構わんだろう」

 

「うぅ..........石田三成です」

 

「よろしく.....すると大和国の?」

 

「おっ?もの知りだな」

 

「最近、大和と紀伊が合併したと、民衆でも噂になっておりますから」

 

 

それを聞いて三成がしょぼんとする。

 

 

「どうした?」

 

「いいえ!天竜様が孫市殿と結婚した事なんて気にしてないですよ~だ!」

 

「何度も言ってるだろうあれは政略結婚だと。お前が気にする事じゃないよ」

 

「気にしてるのは私だけじゃないんですよ!左馬助殿なんてそろそろ対処してあげないと大変な事に.....」

 

「ん?ハルがどうかしたのか?」

 

「あの.....」

 

「あぁ、すまん。とりあえず今日と明日よろしくな」

 

「はい.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは夜中の事。

 

 

「天竜様は可愛い子は皆食べてしまうという性豪との噂!もしかして今夜は私も食べられちゃうかもキャ〜!」

 

 

天竜の隣の布団で勝手に盛り上がる三成。

だが.....

 

 

「く~..........く~..........」

 

「は?」

 

「く~...........く~.........」

 

 

天竜熟睡。

 

 

「ふんだ!別に食べられたかったわけじゃないんだからね!」

 

 

1人ツンデレの後、三成もまた眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、そこから1時間後の事。

 

 

「う~.....やっぱり夢の中でも興奮して途中で起きちゃいましたね」

 

 

彼女はそう言った。そう言ったはずだった。彼女はそう言ったつもりだった。しかしそれは「う~」だとか「あ~」だとかの音が漏れただけで、正確な言語は出なかった。

 

 

「うっ!?.....あぁうぅ!?.....」

 

 

口を布で縛られていた。それだけではない。三成は全身をがんじがらめに縛られていたのだ。

 

 

「う~!!う~!!!」

 

 

彼女は焦って声を出そうとした。だが、それは自分が縛られていたからではない。

彼女の目の前。隣りに寝ていた天竜は今も寝息を立てている。そのすぐ横に奴はいた。感情のない瞳で、手には小太刀が。

 

 

「う~!!!う~!!!!」

 

「貴方には恨みはありませんが、命令です。

死んで下さい」

 

 

そうして一気に小太刀が振り下ろされた。

 

 

「う~~~~!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この俺様の寝首を取れると本気で思っているのかい?」

 

「!!!?」

 

 

確実に刺し殺したはずだった。だが、小太刀を振り下ろした次の瞬間。彼は消え、私の真後ろに立ち、私の肩に刀の刃を当てていた。

 

 

「一体誰の差金だい?紀之介ちゃん」

 

「ちっ.....!」

 

 

それは、さっき夕食を運んできた紀之介という名の宿屋の娘だったのだ。

 

 

「俺の食べ物に睡眠薬を仕込み熟睡させ、三成を拘束する。完璧な作戦だが、完璧じゃない」

 

「何っ!?」

 

「俺は体内に侵入した毒物、薬物等を完全に消化させる妙技を持っている」

 

「くっ.....!」

 

「答えて貰うぞ。お前の真の雇い主を!」

 

「言う気はない。殺せ」

 

「ふん..........待ってろ三成。

今ほどいてやる」

 

「う~!う~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その時。

 

ドカーーーーーーーンッ!!!!

 

 

「なっ!?」

 

「う~!!?」

 

「..........!?」

 

 

3人が同時に驚く。

 

 

宿屋の真下から爆発音がした。同時に火の手が宿屋を覆い、天竜達の部屋にも次第に火が廻り、明るくなる。

 

 

「おい!何をした!?」

 

 

天竜は紀之介を問い詰める。だが、彼女も困惑した表情で.....

こいつじゃないのか!?

 

 

「くそっ..........三成逃げるぞ!今ほどいてやる!」

 

「う~!!」

 

 

天竜が三成に忍び寄る。

 

紀之介は思った。彼は今、自分に背を向けている。今なら殺れるかもしれない!

 

そう思ってふと天井を見つめる。火が天井に廻り、梁をメラメラと燃やしている。彼はそれに気付いていない。

 

 

ガシャッ!!という音と共に、燃え上がった梁が落ちてくる。

そして.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ないっ!!」

 

「「つっ.....!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜と三成は唖然としていた。てっきり自分達を殺しに来た刺客と思われた彼女に命を救われたのだから.....

 

 

「おい!大丈夫か!?..........うっ!?」

 

 

彼女を抱き上げた。すると、梁が直撃したのか、彼女の顔の半分が、見るも無残に焼け爛れていたのだ。

 

 

「は..........放せ.....私に.....構うな.....」

 

 

天竜から無理矢理離れた彼女はヨロヨロと距離を離して行く。

 

 

「何故助けた?」

 

「....................分からない」

 

「何っ?」

 

「そのまま死んでくれればよかったのに..........気付いてたら動いてた.....」

 

「..........」

 

 

彼女はヨロヨロと歩きながら部屋を退室していった。

 

 

「ここはもう危ない!俺らも逃げるぞ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、お客さん!無事でしたか!」

 

 

外に出ると、先程の宿屋の主人がいた。

 

 

「.....主人!紀之介という少女は出てきませんでした?顔に火傷を負った.....」

 

 

天竜は辺りを見回しながら問い詰める。

 

 

「あれ?.....そういえば見てませんな」

 

「ちっくしょう!!」

 

 

すると彼はまた、燃え盛る宿屋の中に引き返してしまった。

 

 

「そんな.....ダメです天竜様!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、紀之介は宿屋内のとある一室に横たわっていた。そこも既に火の海となっている。

 

 

「これで..........いいよね。お父様」

 

 

『困った人を助けてあげられる優しい武士になりなさい』

 

それがお父様の最期の言葉だった。そんな事も忘れて、一時的に刺客なんかもやっていたけど.....

 

 

「ちゃんと守ったよ。お父様」

 

 

仰向けになっていた彼女はずっと、燃え盛る天井を見ていた。あと一息もしない間にそれは落ちてくるだろう。そしてそれは自分の身体をぺしゃんこに潰すだろう。

できれば即死がいいな。痛みも感じる間もなく一瞬で逝ける.....

そうして天井が崩れ去り、落ちてくる。

 

「お父様。今逝きます」

 

 

そうして彼女は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺様の許可なく勝手に死ぬんじゃねぇよ」

 

「!!?」

 

 

まただ。またこの男は突然現れ、私に話しかける。

彼は全身で紀之介の盾となり、落ちてくる天井から彼女を守ったのだ。

 

 

「どう.....して?」

 

「お前と同じだ。お前が死のうが知ったこちゃねぇが。身体が勝手に動いてた」

 

 

天竜は紀之介を抱きかかえる。

 

 

「痛って!!..........左腕骨折したかも.....」

 

「放せ!これは多分私の雇い主の仕業だ!貴方と私、両方を燃やして証拠を消す魂胆なんだ!暗殺に失敗した今、私には死ぬ運命しか残されてない!」

 

「それだけ大声出せれば充分だ。俺、腕折れてるみたいだから、自力で歩いてくんないかな?」

 

「だから私は.....!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「他人が一方的に押し付けた運命なんか従うんじゃねぇ!!」

 

 

 

 

「.....つっ!?」

 

「ここで.....こんなちんけな場所で相打ちするのがお前の最後の仕事か?こんな所で死ぬために今まで一生懸命生きてきたのか!!」

 

「.....私は」

 

「いいか?『死』というものは人間が与えられた平等の権利なんだ。お前が全てをやりきり、何処で死のうが俺は何も言わねぇ!!

しかし、何一つ遂げちゃいねぇのに死を選ぶというのなら、俺はそれを全力で止めてやる!!」

 

「..........うっ」

 

 

 

「だから今は.....生きろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜様!!」

 

 

三成の前に倒れこむ2人。即座に応急処置がなされた。

 

 

「生きろったって..........何処でどう生きるの..........主人を.....目的失い、私の居場所は何処にあるの.....」

 

「居場所ぐらい俺が作ってやるよ」

 

「え?」

 

「人間は皆、泣いて産まれてくるだろ?それは決められた義務。でも死ぬ時は誰でも自由だ。戦死でも心中でも爺婆になって家族に看取られるのでもさ。悲しく死ぬのも、幸せに死んでいくのも自由なんだ。

産まれる時、赤ん坊の時に充分泣いてんだからさ。死ぬ時まで泣くこたぁねぇだろ。死ぬ時くらい笑って死ねよ!」

 

「でも、私は.....」

 

「人生ってのは1度きりだ。何処でどう転ぶかわかんねぇ。いつ死ぬかわかんねぇ。だからそん時まで笑って生きてく事が1番大事なんじゃねぇか?」

 

「..........私はもう、笑う事なんてない。こんな化け物みたいな顔で.....どう生きていけばいい!」

 

 

紀之介は水溜りに写った己の醜く焼け爛れた顔を見ながら言う。

 

それに対し、天竜が何か言おうとしたが、その前に三成が動いた。

己の着物を脱いで千切り、布を紀之介の顔に被せてやったのだ。まるで頭巾のようになっている。

 

 

「見せたくないなら隠しちゃえばいいんです。貫禄があってその方が恰好いいですよ」

 

「石田.....三成?」

 

「嫌な感情はその頭巾で皆隠しちゃえばいいんです。ただ、私達にだけは本当の感情を見せて下さいね」

 

「そんな.....この火傷.....気持ち悪くないのか!?」

 

「ぜんぜん?」

 

「え?」

 

「天竜様を守ろうとしてできた傷なんて私が欲しいくらいですよ。貴方は私と天竜様を守ってくれた.....とても感謝してます」

 

 

『困った人を守ってあげられる優しい武士になりなさい』

 

お父様の声がまた心の中に響いた。その途端、本当は止まっていたかもしれない心臓が激しく動き出した気がする。

 

 

「三成はいいこと言った!褒めてやるぅ」

 

 

そうして天竜が三成の頭をガシガシと撫でてやった。

 

 

「やっ.....止めて下さい!

恥ずかしいです!」

 

 

紀之介がぽ~っと見ていると、次は紀之介の頭に天竜の手が添えられた。

 

 

「俺はお前が誰に雇われてたなんて気にしない。俺たちがお前を求めてるんだ。お前も俺たちを求めていい」

 

 

急に目頭が熱くなった。

そして気付いていた時には、天竜にしがみついて大泣きしていた。

 

 

「おいおい。笑えって言った途端に泣き出すのかよ」

 

 

天竜はそんな冗談を言ったが、紀之介の嗚咽は止まる所を知らなかった。

 

 

「うぅ.....天竜様に抱きつく事を許すのは今日だけですからね!明日からはこの三成の胸で泣きなさい!」

 

 

そう言われ、紀之介は三成にも抱きついて泣いていた。

メラメラと燃え盛る宿屋の前の少女の涙が蒸発する間もなく流れ落ちたという。

 

 

ここに、紀之介という名の哀れな少女は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、備前。

 

 

「天竜さん!?大丈夫か!?」

 

 

大和から戻ってきた良晴達が、左腕を吊っている天竜を見て驚く。

 

 

「一体何処いたですか天竜!」

 

「備中だ」

 

「備中!?」

 

 

敵国に滞在していた事に驚く十兵衛。

 

 

「ところでその頭巾の子誰?」

 

 

天竜の右には三成が、左には.....

 

 

「昨日から俺に仕える事になった.....」

 

 

そうして頭巾の少女は名乗る。

 

 

 

 

 

「大谷吉継です。以後お見知り置きを」

 

 

 

 

 

ここに、新たな志を持った

姫武将、大谷吉継が誕生した。

 




大谷吉継の出生は謎が多く。秀吉との出会いも三成と違って謎です。だからこそ、このようにオリジナル展開での登場になりました。
大谷吉継といえば、晩年のハンセン病による爛れた顔と頭巾が1番印象的です。ですが、若い娘さんなのにハンセン病はちょっと.....という事で火傷でアレンジ。義理堅い大谷吉継が天竜や三成とどのように関わってくるのか見所ですね。
次回予告
もう一つの始まり
~ここで全てが終わり、全てが始まる~


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第十九話 もう一つの始まり

今話は原作オール無視の展開となります。
途中ついて行けなくなるかもしれませんが、
ご了承下さい。


良晴は悩んでいた。大谷吉継は歴史上でも有名な秀吉の子飼いの将だ。三成に続き、彼女までもが天竜側に回ったのだ。

このままでは、将来的に自分に仕官するかもしれない武将。もしかすると、既に仕官している半兵衛や鹿之介達も、彼に吸収されるかもしれない。そうゆう予感が彼の脳内をよぎった。

 

 

 

 

 

「むっ.....村上武吉と!?」

 

 

天竜は十兵衛らに自分が単独で行っていた事を話す。昨日の一件があった以上、個人で解決するには無理があると悟ったのだ。

 

 

「この戦は時間次第で織田が勝つ事は充分あり得る。だが、終わる頃にはどちらもズタボロだ。その調子で四国や九州に攻め込むには無理がある。東から武田や上杉が攻めて来ても、四国部隊が本隊に加わる事は不可能だ」

 

「むぅ.....始めは何と無謀なと思いましたが.....和平.....案外いい案ですね」

 

「既に宇喜多家の動向は漏れている。毛利軍が上田城から移動を始める前に対処せねば.....」

 

「今日、天竜は村上武吉と会うのですよね?」

 

「.....あぁ」

 

「私達も会います!」

 

「何っ!?」

 

「こんな状況で貴方が襲われるのはどう考えてもおかしいです!その主犯の正体はきっと村上武吉です!」

 

「そうとは限らない」

 

「というか、その大谷吉継という娘に聞けばいいのではないですか?」

 

「いや.....刺客は元とはいえ、雇い主の正体を言ってならないのだ」

 

「そんなの!主君である貴方への裏切り行為でしょう!」

 

「そう言うな。この口の堅さは将来的に、吉継が敵に捉えられた場合にでも発揮されるだろう。それだけ信用できるものがある」

 

 

そう言って、吉継の頭を撫でてやる。彼女は頭巾の下でそっと頬を赤らめた。

 

 

「じゃあ、どうするですか!」

 

「...........どちらにせよ武吉と会ってみよう。これはそれ程単純なものではない気がする」

 

「はぁ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の安土城。

 

 

「備中の宿屋で火事が起こり、あの男が巻き込まれたとか.....」

 

「えぇ.....」

 

「凪殿の仕業でしょうか?」

 

「.....分からないわ」

 

「でも、よりによって備中で巻き込まれるとは.....やはりあの男は毛利と繋がっていたのですね」

 

「それもまだ分からないわ」

 

 

深く思慮する信奈と長秀。

 

 

「問題なのはシロ以外に怪我人が出た事よ。もしこれが凪の仕業で、命令したのが私だと明るみになったら.....」

 

「只事では済みそうにありませんね」

 

「ったく!もっと穏便に済ませなさいよ凪!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

備前と備中の境目にて。

 

 

「ごはぁっ!!」

 

「「天竜様!?」」

 

 

また刺客が来る可能性もあったため、両側に三成と吉継を配置し、「|||」このような形で移動していた3人。そんな時、刺客とは別に大きな問題が立ちはだかる。

 

 

 

 

天竜が吐血したのだ。

 

 

 

 

この異変に驚愕する2人。

天竜は必死に、落馬しないように踏ん張っている。

 

 

「どうゆう事だ三成!天竜様は病人なのか!?」

 

「いえ、術の反動らしいです。私も最近知りましたが、天竜様は他人の知らない所で苦しんでいるのです」

 

「うるせぇ.....あんまベラベラしゃべんな.....あいつらにばれたらどうするんだ.....」

 

 

天竜がぜぇぜぇと息切れしながら言う。

 

 

「天竜様!今すぐ療養すべきです!

今日の会談も中止なさりませ!」

 

「今更、療養しても無駄だ。数日だけ寿命が増えるだけだよ.....」

 

「そんな.....せっかく真の主に会えたと思ったのに.....」

 

 

落ち込む吉継の頭を天竜はそっと撫でてやった。

 

 

「心配すんな.....何もすぐに死ぬわけじゃない。お前らを放置して死んだりはしねぇよ.....」

 

 

まだ.....大丈夫なはずだ.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

備中、とある港。

 

 

「ここですか?」

 

「あぁ。ここで落ち合う事になっている」

 

 

結局来たメンバーは、

天竜、十兵衛、良晴、三成、吉継、半兵衛、官兵衛の7人だった。

これだけ揃えば、天竜も安心できる所があるが、固まれば返って危険という事もある。

 

 

「天竜様.....」

 

「大丈夫だ三成.....今はだいぶ落ち着いた」

 

 

今はもう大丈夫。それが偽りである事は天竜自身が1番よく知っていた。

 

 

「それにしても.....貴方達兄弟はよく似ていますですね」

 

 

十兵衛が突然言う。

 

 

「「ん?」」

 

「先輩は、半兵衛と官兵衛という智将を側につけ、

天竜は、三成と吉継という智将を側につけている」

 

 

確かにこの状況の2人はよく似ている。

と、天竜と良晴は思う。

 

 

「そして、何かと問題に巻き込まれる」

 

 

天竜と良晴はお互いに見合う。

 

 

「それと、女癖の悪さもです!(怒)」

 

「「うぅ.....」」

 

 

何かと姫武将にモテる良晴と、何かと姫武将を誘惑する天竜。方法は違えど、意外と似ている。

 

 

「というより、俺が天竜さんを目標にしてるからなのかなぁ」

 

「..........俺も実際、お前のせいで性格が改変してきているような気がするのだが.....」

 

 

己の生き様を見つめ直していた、

その時。

 

 

「羽柴秀長だな?」

 

 

気づけば天竜らは20人近い男達に囲まれていたのだ。

 

 

「そっちこそ、村上軍の者らか?」

 

「あぁ。武吉様は船でお待ちだ」

 

「船?」

 

 

連中の1人が指した先には、村上水軍の軍船が船舶していた。

 

 

「お前らはここに残れ。どう見ても怪しい」

 

「天竜!」

 

「いえ、お連れの方も同船しろとの事です」

 

「武吉がか?」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう来たか天竜」

 

 

船に乗った途端、船が出港してしまい、7人は焦ったが、船上には会談用のような場所が用意されていたので、7人は渋々それに従う事に.....

 

 

「昨日と違って今日は豪勢だな!

貴方は明智光秀。そっちは羽柴秀吉かな?」

 

「そんな事はどうでもいい!昨日の答えを聞かせてもらおう!」

 

「まぁ、待て。せっかくだ。酒でも飲んでけ」

 

「ふざけるな!!答えは2択だ!

受けるか!受けないか!

さっさと答えやがれ!!」

 

「.....天竜?」

 

 

十兵衛は気づいた。天竜がぜぇぜぇと息切れしているのを.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えは『受けない』だ」

 

「何っ!?」

 

「すまんなぁ。これはうちの姫さまの命令なんだ。悪く思うな」

 

「そうか.....」

 

 

普通ならここで終わりだった。だが.....

 

 

「話す事はそれだけじゃないはずだ!」

 

「ん?」

 

「とぼけるな!昨日の火事の話だ!」

 

「..........」

 

 

既に天竜は正気を失っていた。今までの状態が嘘だったかのようのに興奮している。さっきの吐血がきっかけだろう。

 

 

「お前の仕業だろう!正直に言え!!」

 

「ちょっと天竜!」

 

「そうだよ」

 

「..........何?」

 

「刺客を送り、それごと焼き殺そうとしたのは俺だ」

 

 

天竜は反射的に吉継の顔色を見る。頭巾で覆われていたが、その内では、怒りの表情が隠されていりのが分かった。

 

 

「て.....てめぇ.....!!」

 

「そこの頭巾ちゃんは誰かと思ったら紀之介かよ。よくもまぁ堂々と生きてるなぁ」

 

「くっ....」

 

「てめぇ!!!」

 

 

天竜は懐からマグナム銃を取り出し、武吉に向ける。

 

 

「どうゆうつもりだ武吉!!」

 

「ただの上等手段だ。ここでお前を始末できれば、毛利は確実に有利になる」

 

「だからって.....俺とお前の仲だったじゃないか!」

 

「それは直家が死ぬまでな.....」

 

「何っ!?」

 

「直家を殺したの、お前だろ」

 

 

その後、良晴らが一斉に天竜の方を向く。

 

 

「てっ.....天竜さん.....嘘だよな.....?」

 

 

良晴は信じられないという表情で天竜を見る。

 

 

 

 

「......................本当だ」

 

 

 

 

「天竜!!!!」

 

 

 

その次の瞬間、良晴が敵前にもかかわらず、天竜に掴みかかった。

 

 

「どうして!!どうしてだよ!!」

 

「...........」

 

「あんなに.....あんなに仲良さそうにしてたじゃんか!!」

 

「それは過去!もう過ぎた事だ!」

 

「過去だって!?」

 

「今更死んだ人間の事をぐちぐちと言うな!くだらねぇ!今は戦国!人1人の命の価値は極々小さい!」

 

「それを貴方が言えるのですか!」

 

 

発言したのは十兵衛である。

 

 

「死んだ妻の亡霊にいつまでも取り憑かれてたのは貴方じゃないですか!」

 

 

その発言に天竜が吹き出す。

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!

そんなものお前を口説くためのでまかせに決まってるだろう」

 

「なっ.....」

 

「あの流れを作れば、お前が俺に俺に惚れるのは計画通りだった!女など単純だからな!」

 

「...........そんな」

 

 

十兵衛の瞳から涙が流れる。

 

 

「てめぇ!!」

 

「はん!たかが歴ゲーオタクのクズが!よくもいけしゃあしゃあと、俺を目標にしていると言えたものだな!」

 

 

良晴にまで暴言を吐く天竜。

 

 

「くすんくすん。最低です」

 

「鬼畜とはこの事だね」

 

 

半兵衛官兵衛も呆れた声を出す。

 

 

「...........まさか」

 

「..........」

 

 

三成と吉継は何か別の事に気付いたらしい。

 

 

「わっはっはっはっはっは!!!

ついに化けの皮を剥がしたな!

野郎共!!こいつらをまとめて片付けちまえ!!」

 

 

すると、刀を持った連中が続々と出現する。

 

 

「じゃまだカス!」

 

 

天竜は良晴を突き飛ばし、再び武吉に銃口を向ける。

 

 

「死ね!村上武吉!」

 

 

武吉は弾丸が発砲される直前まで、ニヤニヤとした表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

弾丸は確かに武吉の額に当たっていた。

だが、弾丸は飴玉のように張り付いた。その後、ポロリとそれが落ちた。

 

 

「くそっ!!」

 

 

そこから次々と弾丸を発砲する天竜。だが、その全ての弾丸が飴玉のように張り付くだけで、彼を傷つける事に成功した弾丸は一つも無かったのだ。

 

 

「まさか!?」

 

「くくくくく.....」

 

 

武吉の額2本の角が現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

角が現れたのは武吉だけじゃない。船員全員が鬼人化したのだ。

 

 

「て~んりゅう♫」

 

 

船の奥から声が聞こえる。

微かに幼さが残るものの、内に邪悪さを持った、天竜の知る声が.....

 

 

「お前は!?」

 

「相良良晴も久しぶり。今は羽柴秀吉かな?」

 

「土御門.....久脩.....」

 

 

若狭戦にて、1度天竜を倒したものの、復活した彼によって惨めに倒された少年陰陽師。土御門久脩。

かつて「金ヶ崎の退き口」にて良晴を死の寸前までに追い込んだ過去もある。

 

 

「貴様.....また鬼を作ったのか.....武吉が豹変したのはお前のせいか!!」

 

「ううん?この新しい鬼達は、きちんと自意識を残してる。そして、従来の鬼人や羅刹よりもずっと強い「鬼武者」さ」

 

「鬼武者?」

 

「久脩.....お前は俺が老いぼれに変えたはずだ。何故元に戻っている?」

 

「それは彼のお陰さ」

 

「.....!?...........主水!!」

 

「おっひさ~☆紀伊以来だねぇ!」

 

 

久脩の後ろから現れたのは、天竜の宿敵。松山主水。

 

 

「半兵衛ちゃんも久しぶり~☆」

 

「主水さん.....」

 

 

半兵衛が哀しみの表情で彼を見つめる。

 

 

「茶番は終わりだよ!まずは天竜を殺して!」

 

「ごめんね天竜くん。僕より久脩くんの方が立場が上だから逆らえないんだよ☆残念だけどね」

 

「ちっ.....!」

 

 

天竜はサブマシンガンを召喚した。

 

 

「上等だお前ら!」

 

 

天竜が叫ぶ。

 

 

「やっちまえ!!!」

 

 

武吉の掛け声が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分後。天竜の両腕が宙を飛んだ。

 

 

「がはっ!!」

 

「あははははは!!

惨めだねぇ!」

 

「ちっ.....宿儺か?」

 

「当たり!☆血肉を媒介にしたんだ。勿体無いけど、本体を封印されちゃ、元も子もないからね☆」

 

「くひゃひゃひゃひゃ!!上等上等!」

 

 

敵は天竜にのみ集中していた。その間、良晴らは被害を避け、船頭の方まで避難していたのである。

 

 

「シム。どちらも化物だね」

 

「...........」

 

 

良晴は傷付いて行く天竜を見て、複雑な思いだった。憎しみがあれば、哀れみもある。殺してやりたいという気持ちもあれば、死んでほしくないという気持ちもあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「おめぇら.....『どろろ』って知ってっか?」

 

 

すると、天竜の切断された両腕の断面から刀の刃が飛び出てくる。

 

 

「お前らは邪魔だ。消えろ!」

 

「「「うわぁっ!!?」」」

 

 

天竜が睨みつけたかと思うと、次の時には良晴らは海の方まで吹き飛ばされていた。

 

 

「ん~?優しいねぇ☆逃がしてあげたんだ?別にいいけど☆」

 

「困るよ~!天竜の次は、弟の秀吉。その次は竹中半兵衛を惨殺しようと思ってたのにぃ!!」

 

 

主水と久脩が対象的な言動をする。

 

 

「ふふん。主水、俺の中のお前の評価が上がった気がするぞ?」

 

「そりゃどうも☆」

 

「ええい!五月蝿い!!武吉!さっさと天竜を殺してよ!!」

 

「そう簡単にいくか!!」

 

 

天竜は体を軸に、回転しながら斬りかかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ!!溺れるですぅ!!

.....................あれ?」

 

 

沖のど真ん中に放り出され、てっきり溺死するかと思っていた十兵衛。だが、自らが不思議な泡によって水面に浮かび上がっている事に気づく。それは良晴らも同じだった。

 

 

「これは.....」

 

『拙者が岸まで送ってさしあげよう』

 

 

宙に浮かんだ狩衣姿の謎の人物が言う。

 

 

「あんた確か.....Tレックスの人!」

 

 

良晴が叫ぶ。

 

 

『暴君竜です。秀吉様以外とは初対面かな?我が主の式神でござる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、元いた港にまで流されてきた一行。

 

 

「..........なんであんたが俺たちを?あんたは天竜さんの式神なんだろう?」

 

『何故と問われても、我が主の命であるゆえ』

 

「天竜さんの命令!?」

 

 

さっきの応対からは、とても考えられない。

 

 

「そうか、やっぱり!

吉継ちゃん!」

 

「相わかった!」

 

 

三成と吉継が何かを確信する。

 

 

「暴君竜殿!私達をさっきの所まで戻して下さい!天竜様をお助けしなければ!」

 

「ちょっと、三成ちゃん!あんな奴助けに行く事ないよ!君らだって利用されてたんだよ?」

 

 

良晴がそう言うと、三成は怒りを露わにする。

 

 

「何処まで無能なんですか貴方は!」

 

「えっ?」

 

「何故あの時、天竜様が暴言を吐いて、貴方達を引き離したかまだ分かりませんか!!」

 

「天竜が.....」

 

 

十兵衛もまた耳を傾ける。

 

 

「天竜様はもう永くないんです!術の影響のせいか、寿命がどんどん削られ、今では吐血が日課となる程に.....」

 

「えっ.....」

 

『事実だ。我が主は孤独であるゆえ、死す時には人を遠ざけ、生者に未練を残させたくないのであろう』

 

「そんな.....」

 

「天竜ぅぅぅ!!!!」

 

 

十兵衛の叫びが虚しく響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死出魔術発動!!」

 

「「「ぐえぇぇぇ!!!」」」

 

 

天竜周辺の4人の「鬼武者」が一瞬にして髑髏に変えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく、くたばったか.....」

 

 

天竜は身体に無数の刀を突き刺し、仰向けに倒れていた。両足もまた切断され、そこからはショットガンのようなものが生えている。切断された断面に召喚し、接合したのだ。

 

 

「.....にしても、とんだ化物だったなぁ」

 

 

武吉がそう呟く。30体近くいた「鬼武者」は、すでに8体近くまで減らされていた。22体は天竜の死ぬ気の抵抗によって撃退されたのだ。

 

 

「よもや.....天竜がここまで強かったとはね.....」

 

 

天竜の骸を見下し、呟く久脩。

 

 

「寿命切れがなければ、もう少し強かったと思うよ?☆だから勿体無いって言ったのにぃ☆」

 

「君みたいな戦い好きじゃないからねぇ僕は。僕の目的は、勘解由小路家の滅亡と天竜への復讐だからね」

 

 

 

 

 

 

『我の一族を滅ぼすとな?片腹痛いぞ小僧』

 

 

突然、足元の天竜から声がする。

久脩が反射的に彼を見るが、天竜は依然として骸であって.....

 

 

 

 

『たかだか狐の小僧が笑死。我と同等を語るか』

 

「誰だ!?どこにいる!?」

 

「これは☆.....」

 

『我の御姿を拝謁したいと?

ならよいさ.....こんな時には「冥土の土産」とでも言うか?ふくくくく.....』

 

 

すると、天竜の周りに黒い霧が出現し、彼を覆う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『来たな.....』

 

 

遠く離れた港にて、暴君竜が呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まいったねぇ☆こりゃあ.....」

 

 

 

『ふくくくくく.....

あははははははははははははは.....

あひゃひゃひゃひゃひゃhたひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!』

 

 

霧の中から高笑いが聞こえる。

だが、その高笑いは天竜のものとは違う、女性のものだった。

 

 

「あれは.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧が晴れた。

腰まで伸びる黒く、一直線な長い髪。

漆黒の西洋のドレス。

五尺八寸の長身。

死体のように白い肌。

まるで人形の如く整った顔たち。

 

 

 

 

 

 

『我こそが月読命なり』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暴君竜殿!早く私達を船に戻して下さい!」

 

「私も!火事場にて救われた恩を今こそ返還したい!」

 

『お断りする。ここで其方らを護衛する事が拙者が我が主より与えられた命である』

 

「「そんな!!」」

 

『それ以前に無理だ。今あそこに戻れば貴方達だけでなく、拙者も殺される』

 

「「え.....」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『讃えよ!我が名を!!

恐れよ!我が挙動を!!

その身に刻むがよい!

我、真の魔王、神たる、

月読命の名を!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「月読命~?だから何?」

 

『む?』

 

「どうせ君は、天竜の作ったマヤカシだろう?今更そんなので僕が驚くと思う?」

 

『ほう?』

 

「おいおい.....知らないよ?そんな事して☆」

 

 

だが、久脩は挑発を続ける。

 

 

「天照大御神とかならまだしも、月読命~?そんな不人気の神の名を語るなんて馬鹿じゃない?くすくすくす.....」

 

『我が不人気.....馬鹿.....か』

 

「あ~あ.....僕知~らない☆」

 

「前と同じで、僕を脅すだけで何も出来ないんでしょ~?」

 

『ふくくくくくくく.....

ここまで我をコケにした阿呆は数千年においても貴様ぐらいだぞ?』

 

「もう芝居はいいよ。誰かあの幻覚女を殺しちゃっていいよ!」

 

 

そうして鬼武者の中の1人が斬りかかる。月読命はただただ微笑しながら.....

 

 

 

 

『我が息子は鬼を髑髏に変えたらしいな?では我は髑髏のみを消し去ってやろう!』

 

「へぎゅわっ!!?」

 

 

月読命がその鬼武者に指差したかと思うと、その鬼武者は急にパタパタになってそこに崩れてしまった。

 

 

「えっ?」

 

『小僧。我を脆弱と罵ったか。その代償に貴殿は何を我にくれる?』

 

「えっ?えっ?えっ?」

 

 

月読命が1歩1歩近付いてくる。ゆっくり、ゆっくりと.....

女はただただ微笑しながら.....

 

 

「うっ.....嘘だろ!?.....まさか本物!?」

 

「僕は怖いから帰るね☆」

 

 

危機を察知して主水が霧のように消える。

 

 

『まだ成熟もしない餓鬼か。美味そうだ。生肝はどれほどの味だろうか?』

 

「ひっ.....ひぃっ!?」

 

 

ついに久脩の目前まで移動してきた。

 

 

『恐怖か?よいよい。

真の恐怖は生肝をよりよく味付ける』

 

「重力制御!!」

 

 

5000Gの重力が月読命にズシンとかかる。

 

 

『うむ、良いぞ。肩こりには丁度良い』

 

「そんな.....」

 

 

5000Gの重力を、月読命は防ぐ事も、避ける事もしない。攻撃そのものが効いてないようだった。

 

 

『では生肝を貰おうか』

 

 

 

 

そうして、久脩の胸をその手で貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今しがた.....土御門久脩が死んだ』

 

 

港にて、暴君竜が言う。

 

 

「えっ?では、天竜様が!?」

 

『いや.....我が主はもう.....』

 

「そう。天竜くんは死んだはずだ。彼の中に何故彼女が?☆」

 

 

 

「「「松山主水!!?」」」

 

 

 

船に乗っているはずの主水が良晴らの真後ろにいたのだ。三成、吉継が構える。

 

 

「おっと!☆僕は君らに危害を加えるつもりはないよ。今回の事だって反対していたしね☆」

 

「誰が信用するか!お前が天竜様を追い込んだ一味には変わりあるまい!」

 

 

三成が叫ぶ。

 

 

『そうか。お前も奴らと同類か』

 

「ひぃっ!?月読命!?☆」

 

 

これまた船にいたはずの月読命が、主水のさらに後ろに現れる。

 

 

「ぼっ.....ぼぼぼ僕なんかより!

あの船に残っている連中を食べた方がよくないっすか!?☆」

 

『もう食うた』

 

「.....あらそう☆」

 

『1人だけ海に飛び込んで逃げた男がおったが、こちらの方が楽しそうだ』

 

「きっと村上武吉だね」

 

 

官兵衛が言う。

 

 

「それよりあんた誰なんだよ!!」

 

「天竜はどこ行ったですか!!」

 

 

良晴と十兵衛がそれぞれ叫ぶ。

 

 

『ほう。ここにも我に無礼な者らがおったか』

 

 

その呟きを聴いて、慌てて暴君竜が間合いに入る。

 

 

『お納め下さいませツキヨミ様!

この者らは無関係にございまする!』

 

『おう、賀茂忠行。其方も我が子孫なら、我が臣下に入り、今上制覇の手助けをするがよい!」

 

「そんな.....」

 

 

半兵衛が唖然とする。賀茂忠行は勘解由小路家の始祖。かつては、安倍晴明の師匠を務めていた事もある大陰陽師である。

 

 

『残念ながらお断りする。我が主の命は絶対である!』

 

『我を愚弄する気か?』

 

『生肝だろうが何だろうが持っていけばよい!だが、我が主の「良晴達を守れ」という命だけは絶対でござる!!』

 

「天竜さんが.....」

 

『くははははははははは!!!!

とんだ忠誠心だ!そこまで我が息子に惚れ込んだというか!』

 

 

良晴の脳内が混乱する。天竜さんの.....母親?

 

 

「そんな事より!

貴方は一体誰ですか!

天竜はどこ行ったですか!!」

 

『天竜?.....あぁ、あいつの名か。

あいつならもう、死んだぞ?』

 

「....................え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝手に..........殺すな」

 

「「「!!?」」」

 

 

月読命の中から声がした。

 

 

『なんだ、生きていたのか。

死ぬまでが契約だからな。特別に出してやろう』

 

 

すると、月読命の両腕に抱きかかえられる形で天竜が出現する。その姿は見るも無残であった。手足は斬られ、身体には無数の刺し傷が.....まるで達磨のようであった。

月読命はそっと天竜を地面に置いた。

 

 

「天竜!!」

 

 

十兵衛は彼の身体を抱き起こす。

 

 

「十兵衛..........良晴..........ごめん.....」

 

「「えっ?」」

 

「酷い事言った..........言って後悔してる.....」

 

「いいです!そんな事どうでも!!」

 

 

十兵衛は涙を流しながら叫ぶ。

十兵衛は心で確信していた。自分はこの男が好きなのだ。誰よりも1番.....

 

 

「あぁ..........ツキヨミ.....俺はあとどれくらいだ?」

 

『指で数える程度だ』

 

「そうか..........良晴」

 

「なっ.....なんだよ?」

 

「どちらにせよ.....俺を見習わない方がいい.....むしろ反面教師に生きてゆけ.....」

 

「..........」

 

「十兵衛.....」

 

「天竜.....?」

 

 

天竜は首をグイッと伸ばし、十兵衛にキスをする。

 

 

「どうかしてるのかな..........本当に好きになっちまってた.....みたいだ」

 

「天竜!?」

 

「十兵衛...........ありがとな.....」

 

「天竜?」

 

「..........」

 

「天竜ぅぅぅ!!!!」

 

 

天竜、2度目の死である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『では、その肉体を貰おうか!』

 

「.....イヤです!!」

 

『殺されたいのか小娘』

 

「お前何なんだよ!!」

 

 

良晴も我慢出来ずに叫ぶ。

 

 

『我は月読命である。

朧.....天竜とは契約によって結びついておった』

 

「契約?」

 

『うむ。天竜が生きてる間、我は彼奴に力を与え、死す時には彼奴が肉体を献上するという契約をな。だから貴様如き小娘に邪魔される手立てなどないのだ』

 

「良晴さんも光秀さんもそのお方に逆らっては駄目です!」

 

 

半兵衛が言った。

 

 

「月読命様は天照大御神の妹君に当たるお方!月を象徴とした夜の神!本来ならお話をして頂くだけでも有り難いお方なのです!」

 

『ほほう。この世にもまだ、我が威厳を理解する人間がおったか!』

 

「えっ!?嘘っ!!神様!!?」

 

 

今まで残虐な言動しか聴いていないので、悪魔か何かと思っていた良晴。

 

 

『いい加減諦めよ小娘。天竜は既に昇天した。空の肉体が残っている今、我が有効活用するのが最も効果的ぞ』

 

「私は小娘じゃない!明智光秀です!!

死んでも天竜は渡さない!!」

 

『では.....望み通り殺してやる』

 

「十兵衛ちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『駄目でありんす。ツーちゃん』

 

『ちっ!.....貴様か』

 

 

今までは天竜の前にしか現れなかったはずのアマテラスが、良晴達の前に堂々と現れる。

 

 

「かっ.....一益ちゃん!?」

 

 

姿形は鹿角を除けば、一益や姫巫女に瓜二つ。だが、世の中には同じ顔の人間が3人いるという。別人である。それもそのはず、このアマテラスこそが、一益や姫巫女の祖先なのだ。

 

 

『わっちは天照大御神。気軽にアーちゃんと呼んでも良いぞ?くすくすくす』

 

 

それを聞いて、急に暴君竜が跪いた。

 

 

『頭が高いでござる!このお方こそ、太陽神!天照大御神であらせられる!!』

 

 

そう言われ、慌てて跪く良晴達。

十兵衛はただ、天竜にしがみついたままで.....

 

 

『ツーちゃん知ってるか?人間は心臓が止まっても、脳は7分間は活動を続けるでありんす。その間に天ちゃんを蘇生させれば、契約はまだ続くのではなかや?』

 

『そんなこと!例え姉上でも許さぬぞ!!』

 

『何を言うか。まだ7割も回復してないくせに天ちゃんが死にそうになって慌てて出てきたのではないかえ?』

 

 

この2人の神。見た目だけなら明らかに月読命の方が年上なのだが、どうやらこちらの方が妹らしい。

 

 

『くっ.....どうするつもりだ?』

 

『くすくす.....わっちに直談判してきた可笑しな老婆が出てきたのよう』

 

「可笑しな老婆とは滑稽じゃのうヒヒヒ」

 

「英賀のおばば!?」

 

「おばばさま!?」

 

 

良晴と官兵衛が叫ぶ。

現れたのは芦屋道海。官兵衛と良晴。

そして、天竜の師匠である。

 

 

「ヒヒヒ。寿命が無くなったのなら、継ぎ足せば良いのじゃ」

 

「「「寿命を継ぎ足す!!?」」」

 

『ふん!人間風情が!

空になった肉体に寿命を継ぎ足す事など、我にもできん!』

 

「わしなら出来ますとも.....

自らの命と引き換えに、残りの寿命をな.....」

 

「「なんだって!?」」

 

「前の時には、あと100年生きられると豪語したが.....実際はあと10年程しか生きられんのじゃ」

 

 

道海は語る。

 

 

「長寿の秘薬の効力はあくまで延命。

それで不老不死にはなれん。

薬の使い過ぎで、小僧同様に身体にガタが来てな。これ以上はどうにもならないのじゃよ」

 

「そんな.....」

 

「老いぼれの死にゆく婆と、

まだ未来への希望がある若者。

どちらの生命を優先すべきか。

それは明確じゃろう?」

 

「駄目だおばば様!」

 

 

官兵衛が耐えきれずに道海に走り寄り、

しがみつく。

 

 

「陰陽術をまた始めていい!

南蛮科学はもうしない!

キリシタンも辞めたっていい!

だから....だから!!

おばば様が死ぬなんて駄目だ!!」

 

「こりゃ、たわけ者!!」

 

「ひっ.....!?」

 

「官兵衛!ぬしの悪い所は、そのように自分勝手な所よう!陰陽術同様、南蛮科学もキリシタンも!一度やり始めたなら最後までやり通せ!!」

 

「はっ..........はい!」

 

 

官兵衛への説教の後、道海は天竜の骸の前に座り込む。

 

 

「此奴は悪党じゃ。此奴のせいで多くの罪なき者が不幸になった。それは認めてる。

...........だが、此奴のお陰で幸福を得る者も多いのも、これまた事実」

 

「おばばさま.....」

 

「英賀のおばば.....」

 

「前鬼は、陰陽師や妖怪の時代は終わりと言うたが............

こんな陰陽師がいてもわしはいい気がする!」

 

 

そうして道海は十兵衛が抱く天竜の胸に手を置いた。

 

 

「芦屋流陰陽術!神霊台!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我はつまらん!帰る!』

 

 

そうして月読命は煙のように消えてしまった。

 

 

『ツーちゃんへそ曲げちゃったでありんす』

 

 

そして何時の間にか、松山主水も消えていた。

そこには、横に倒れる道海。それにしがみついて大泣きする官兵衛。それをただただ見つめる良晴、半兵衛、三成、吉継。ぐったりとする天竜を抱える十兵衛。

そして.....

 

 

「天.....竜.....?」

 

「すぅ.....すぅ.....すぅ.....」

 

 

呼吸が再開している。

 

 

「てっ.....天竜さんが.....」

 

 

生きている。生き返ったのだ。

天竜は生きかえったのだ!

立派に生気を取り戻し、失ったはずの両手足、ズタズタだったはずの刀傷が再生している。

さらに.....

 

 

「若返っている!?」

 

『10年の寿命.....そうゆう事かや』

 

 

天竜は若返っていた。27歳だった天竜の身体は、良晴と同じくらいの17歳の身体に.....

 

 

「どうゆう事だよ!?何で天竜さんが.....」

 

「きっと、寿命を戻したんでしょう。天竜さんの寿命は27までで止まってしまった.....だからこそ、年齢を戻したのでしょう」

 

「年齢を.....戻した!?」

 

 

混乱した良晴に半兵衛が説明する。

前から美形であった天竜は、完全な美少年になっていた。

 

 

「天竜ぅ!!天竜ぅ!!」

 

 

十兵衛はただひたすら、生き返った天竜に抱きつき、泣いている。

 

 

この備中にて、一つの物語が終わる。

 

 

 

 

 

そして新たな物語が始まる。

 




天竜を若返らせる案は前からありました。
若者が多いこの原作世界において、主人公達と年の離れた、道三や弾正はバンバン死んでるのに対し、10代20代のキャラはほとんど不死身。
このままでは、天竜が死んでも、悲しみが半減するのではないか!?
そうゆう考えから、このアイデアが生まれました。
キャラの改変により、読者さんの混乱も避けられませんが、
これからのNEW天竜をどうぞよろしくお願いします。
4章でまたお会いしましょう。
次回予告
少年天竜の冒険(前編)
~失われた10年を取り戻せ!~


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登場人物紹介3

石田佐吉三成

14歳。元は近江国のとある寺、観音寺で修行していた坊主。本来なら良晴に調略されるはずが、どさくさで天竜によって調略された。そのため、天竜をとてもしたっている。とても頭が良く、天竜にとっての参謀として、最近は側近として重宝されるようになった。

一方、性格が少し捻くれてるせいか、天竜軍古参の弟子達とは馬が合わず、孤立している。

 

 

筒井藤勝順慶

15歳。元は興福寺の僧兵。先輩でもあった松永久秀に騙され、自らの居城を奪われ、取り返そうと何度も奮闘したが、信奈と組んだ久秀によってその度に撃退され、久秀の死後も、信奈によって蔑ろにされ、ずっと惨めな思いをしてきた。

口には出さないが、信奈を憎んでる者の1人でもある。

その点、己を理解して、居城を返還してくれた天竜に、絶大の信頼をおいている。

また、「睾丸性女性化症候群」という病気で、半陰陽でもある。それを受けとめてくれた天竜には、信頼以上の、愛が芽生えているかもしれない。

天竜もまた信頼し、彼が唯一本性を打ち明けれる愛人となるにあたった。

 

 

果心居士

30歳。多聞山城にて、松永久秀の魂が、万見仙千代の肉体に憑依する事で誕生した、美しい幻術士。今は地方にて、松永久秀と織田信奈とほうき星の話を唄にしながら各地を回ってる。

どうやら久秀の時代から、天竜とは知り合いであり、また男女の関係でもある。彼の幻術の師となり、多く技を伝授した。

だが、味方であるというわけでもなく、敵に情報を教えたり、術を伝授したりなど、天竜が信奈と敵対するたびに、彼に不利な行動をとったりするため、天竜も警戒している。

最近では、左馬助に幻術を伝授している。

 

 

森水青蘭

25歳。天竜の実姉。警察でもあり、位は警部補。剣術のみなら、天竜より強く、彼の天敵でもある。普段は彼に強気で、彼からも避けられているが、実はかなりのブラコン。彼女が刑事になった事で姉弟の縁を切られ、今でも後悔している。

 

 

大谷紀之介吉継

15歳。彼女の父は療養の為に九州地方に渡り、大友宗麟に仕え、そこで産まれた。父親の死後、中国地方に渡り、毛利家に刺客として育てられた。ずっと生き方に迷走していたが、それを正してくれた天竜と三成を誰よりも信頼している。他人は、火傷跡を頭巾で隠している姿を恐れ近づかなく、彼女もそれらに心を開こうとしない。

例外は天竜と三成ぐらいである。

三成からは気軽に「吉継ちゃん」と呼ばれ、それを許している。今は「三成ちゃん」と返してやれるように練習しているが、恥ずかしさのあまり、それが出来ずにいる。

 

 

信奈の忍。冷静沈着に、天竜の暗殺を彼女に提案した。影から天竜の命を狙っているというが.....

 

 

天照大御神

日本における、全知全能の太陽神。

だが、正体は欧州で恐れられた魔王サタンの盟友、「魔人アモン」

天界との争いで傷ついたサタンを連れ、南下。エジプトにて、「アメン・ラー」を名乗る。

だが、そこにもゼウスの手が回り、権力を失う。

そこから今度は東に移動し、インドにて仏を名乗ったりもしたが、最終的には極東の日本で落ち着いた。

当時、日本を収めていた伊邪那美命の養子にサタン共々なり、そこで初めて天照大御神を名乗る。

だが、戦国時代になってゼウスの手が日本にも回り、危機を感じた彼女は、平成の世から親族でも最も優秀であった天竜を呼び出し、今にあたる。

どうゆうわけか、良晴や青蘭も呼び出しており、その理由はまだ分かっていない。

天竜からは気軽に「アマテラス」と呼ばれる。

 

 

月読命

日本における夜の神。月光神。

正体は欧州を支配しようとした魔王サタン。

ルシファーとも呼ばれ、天界に対する絶対悪とされる。エジプトでは、セクメトを名乗り、人類を滅ぼす怪物として恐れられた。

日本では月読命を名乗り、アモンことアマテラスと姉妹の縁を結ぶ。同地位のはずのアマテラスより人気がない事から、最近は常にイライラしている。

八岐大蛇。黒天乃衣ノ龍神などの異名を持ち、それは全て彼女が悪事を働いた際の呼び名である。

ゼウスとキリスト教を死ぬ程憎んでおり、それらを破滅させられるのなら、人間の命などどうでもいいと思っている。

天竜からは気軽に「ツクヨミ」と呼ばれている。

 

 

NEW羽柴天竜秀長

17歳。師匠である芦屋道海に10年分の寿命を与えられ、若返る。

以前の天竜の外見は、黒髪の短髪。

顔は美形で、俗にイケメンやハンサム。

今回の天竜は、茶髪の長髪。

顔は女顔で、俗に美少年。

女装すれば、そこらにいる女子より美人というのだから驚きである。

 



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四章 少年天竜
第二十話 少年天竜の冒険(前編)


さぁ、天掛けるシリーズ新章です。
どうぞご覧下さい。


岡本城まで戻った良晴一行。

結局、毛利軍は上田城を完全撤退。備中、高松城にて本陣を組み、良晴軍と睨み合う事になる。

 

 

「天竜.....大丈夫でしょうか?」

 

「...........」

 

 

十兵衛はただ一人備中に残った天竜を気にかけていた。性格には、暴君竜がとった行動を心配しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我が主はまだここから動かせない.....

ゆえに、其方達は先に備前戻っていてほしい。明日、拙者が責任を持って、主をそちらにお連れする』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜は本当に大丈夫でしょうか?もしあのまま起きなかったら.....」

 

「...........」

 

「先輩?」

 

 

良晴は昨日より、ずっと黙って考え事をしていた。

 

 

「俺.....秀家に話すべきだと思う」

 

「!!?」

 

「なんだか、後々に付け加えられた言い訳のせいで、有耶無耶にされてたけど、直家を殺したのは事実じゃないか!しかも、それに対して悪びれる様子もなかった!

これは.....人として許されるものじゃない!」

 

「そんな.....天竜は.....」

 

「その後の弁解だって、ただの言い訳なんだ!『俺たちを気遣って、わざわざ引き離した?』そんなの嘘っぱちだ!

このままじゃ騙されてる秀家も可哀想だ!直家も報われない!」

 

「待つです先輩!もし真実を話せば、宇喜多家は確実に織田を見切る。今、宇喜多家を失うのは最大の痛手です!!」

 

「いや、ダメだ!これを見逃せばアイツはこれからも罪を繰り返す!ここで俺が止めなきゃ.....」

 

「綺麗事で何でも解釈すんなです!

確かに天竜の行動は『悪』ですが、それでも織田家のために動いてくれてるです!にも関わらず、先輩が織田のためにならない行動をするというのなら.....!」

 

 

十兵衛は刀に手をかける。

 

 

「先輩でも許せません!」

 

「十兵衛ちゃん.....」

 

 

たった一夜の間に2人の考えは大きく変化していた。十兵衛は己の天竜への気持ちに真正面から向き合い、彼の味方になってあげられるよう誓った。

一方良晴は、昨日の一連の事からあれが天竜の本性であると判断し、裏切られた怒りからも、彼を憎むという形になってしまったのだ。

 

 

「騙されちゃダメだ十兵衛ちゃん!

天竜さんは舌先三寸で人を騙す悪魔みたいな人だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰が悪魔だって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴がビクッと反応し、振り返る。

すると、そこには若い天竜と暴君竜が.....

 

 

『我が主をお連れしました。

ただし、少々問題が.....』

 

「天竜!無事だったのですね!」

 

 

暴君竜の話も気にせず、天竜に近づく十兵衛。

 

 

 

ところが.....

 

 

 

「はじめまして。僕は勘解由小路天竜といいます」

 

「.......................え?」

 

「暴君竜さんから聞きました。貴方は明智光秀さんですね?」

 

「天.....竜.....?」

 

「あぁ、そうか。僕は羽柴秀長と名乗るんでしたっけ?これからよろしくお願いしますね」

 

「ちょっと.....ふざけやがるなです.....何を.....」

 

 

その時、暴君竜が口をゆっくりと開く。

 

 

『主は記憶を失われた。

性格には記憶も10年分戻ってしまったのだ.....』

 

「「なっ!?」」

 

 

天竜はなんともないように良晴に近付いた。

 

 

「君が僕の義弟だね?少し変だけどはじめまして」

 

『粗方の状況説明はした。幸い理解力は高く、順応性も高いために、問題はなかった』

 

 

天竜は良晴に手を差し出す。

だが、良晴は彼のその手を弾いた。

 

 

「あんた.....逃げんのかよ.....」

 

「ん?」

 

「そんな事で罪を逃れようとしてんのかよこの人殺し!!」

 

「先輩!!」

 

「何の事だか知らないけど、初対面の相手に失礼じゃないのかい?」

 

「んだとっ!?てめぇ!!」

 

 

良晴は怒りに任せて天竜に飛びかかる。

 

 

「分を弁えなよ」

 

 

だが、天竜は良晴の手を難なく掴み取り、捻り、反対にねじ伏せてしまったのだ。

 

 

「あぐっ!?」

 

「僕が君に何をしたかは知らないけど、いきなり飛びかかってくるのは感心しないよ。

仲良くしようよ良晴くん?」

 

 

天竜はそれを笑顔で言う。だが、目だけは笑ってなかった。

ただただ、不気味に.....冷たく濁っていたのだ。

 

 

「やめなさい天竜!!先輩の腕が折れますです!!」

 

「明智さんの頼みじゃしょうがないな.....」

 

「明智さん.....」

 

 

天竜は素直に良晴を開放する。

その時、十兵衛は悟った。天竜は本当に記憶を失ってしまった。以前の天竜は死んでしまったのだと.....

すると途端に涙が出てくる。あの天竜はもう帰って来ないのだ。

 

 

「えっ.....?」

 

 

天竜はそんな十兵衛に近付き、彼女を抱き寄せた。彼自身、自分が何をしてるのか理解してないようだった。

 

 

「あれ?何で僕.....あれ?」

 

 

天竜もまた涙を流す。

そうして、十兵衛はまた新たに悟った。

天竜は生きている!この少年の中で.....

 

 

 

 

 

 

ところが、良晴は彼を別の見方で見ていた。

これこそ天竜の口説き術。涙を流している彼の顔は、せせら笑う悪魔のように見えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、とある別の問題が起きる。

そう.....とてつもなく大きな問題が.....

 

 

「その風呂敷は何ですか?」

 

 

天竜は何やら大きな荷物を持ってきていた。

 

 

「あぁ、これ?戦争を終わらせる秘密道具」

 

「道具?」

 

 

その時、風呂敷がもぞっと動く。

 

 

「!!?.....何ですか!?生き物ですか!?」

 

「まぁ生き物だね」

 

 

そうして彼は風呂敷を解く。

すると、

 

 

「あ.....」

 

「あ.....」

 

 

良晴も十兵衛も唖然としてしまう。

中身は拘束された人間だった。

 

 

「んー!!?んんー!!?」

 

「まっ.....ままままさか本物?」

 

「うん!」

 

「何故.....ここに?」

 

「拉致っちゃった♡」

 

 

その瞬間十兵衛はぶっ倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂敷の中身は、足利義昭であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の事。

 

 

「じゃかあしい!!このバケモン!!」

 

「死ね!!」

 

「あははははははははは!!!

弱い!弱い!!」

 

 

備中、高松城にて、吉川元春と小早川隆景の両川姉妹の攻撃を淡々と制する天竜がいた。

 

 

「ひゃあ!!

早く退治するのじゃあ!!」

 

 

足利義昭は怯えながら2人を応援する。

元春は愛刀の姫切を目にも留まらぬ早さでブンブン振り回し、

隆景は弓を武器のように扱い、時折り矢を放つ。だが、それでも天竜を追い詰められる様子は全くなかったのだ。

天竜の武器は例の鉄扇。

それを両手に2つ持ち、武器として扱っている。鉄扇は閉じていれば鈍器となるが、開けば途端に刃物となる。

某無双ゲームに登場する姉妹のようだが、本当に武術の達人が扱えば、これ程厄介な得物はない。

鉄扇は開けば、武器と同時に防具ともなる。片方の扇で敵の攻撃を防ぎ、もう片方で敵を切り裂く。

決して侮れず、かつ油断できない.....いつ喉元をかっさられるか分かったものじゃないのだから.....

 

 

「くそっ!くそっ!」

 

「くっ!!」

 

「あはははははははは!!!」

 

 

邪悪な笑みを浮かべながら、両川姉妹を追い詰めてゆく。

 

 

「僕の勝ちだ!」

 

 

両脇に回った姉妹に向け、扇を開く。

 

 

「ぎゃっ!?」

 

「うっ!?」

 

 

かろうじて武器で防いだが、2人はそれぞれ吹っ飛ばされてしまった。

 

 

「んじゃ。勝利報酬として貰うね」

 

「にゃーーー!!

放すのじゃ~!!このケダモノ~!!」

 

「将軍様放せバケモン!!」

 

「うるさいな~。ほいっ!」

 

「ぐあっ!!」

 

「姉者!?」

 

 

天竜が投げたそれは真っ直ぐと元春の喉元に突き刺さる。隆景が慌てて駆け寄るが、元春は自分でそれを抜き、確かめた程で、対した攻撃にはならなかった。

 

 

「は.....針?」

 

 

長さ約5寸。裁縫よりはむしろ布団などに使いそうな針である。

 

 

「きっ.....貴様!姉者に何を刺した!」

 

「毒針♡」

 

「「なっ!?」」

 

「安心して。即効性じゃないらしいから」

 

 

天竜は懐から5~6本の針を取り出し、語る。

 

 

「約1年かけて身体を病弱させ、不特定の位置に癌細胞を発生させる。基本は1本でこと足りるが、2本で症状を倍に.....できる!」

 

 

天竜が針をもう一本投げる。

 

 

「うっ!」

 

 

針が元春の胸に刺さる。

 

 

「姉者!!」

 

「はいこれで残り半年~。180日間だよん」

 

「くっ...........じゃかあしい!!

誰じゃお前は!!」

 

「僕は勘解由小路天竜」

 

 

邪悪な表情を浮かべながら自己紹介をする。

 

 

「それと~。癌の位置と進行速度は陰陽術で操れるらしいんだけど、イマイチ分からないなぁ.....大人の僕はそこらへんをどうしてたんだろうねぇ。用法容量をお確かめの上、正しくお使い下さいってね!」

 

 

天竜は義昭を野良猫のように掴み、姉妹に背を向ける。

 

 

「待て!そのまま逃がすと思っての事か!」

 

 

隆景が天竜に矢を向ける。

 

 

「ほれ!」

 

 

天竜は手に持っていた義昭を盾にする。猫は首根っこを掴まれると大人しくなるというが、その通り義昭は大人しくなっていた。

 

 

「くっ!卑怯な!」

 

「自力で取り戻せばぁ~?

でもその前に元春ちゃんが病死するかもね?ちなみに解毒薬は僕しか持ってないよ?」

 

「くそっ!」

 

 

元春は床を拳で打った。

 

 

「あはははははははは!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は戻る。

 

 

『主よ、やり過ぎだ!

将軍様を拉致するなど度が過ぎている!

そんな事をすれば毛利方が.....』

 

「将軍を取り戻すという名目を大義名分に攻め込んでくるだろうねぇ」

 

『だったら何故!?』

 

「君本当に僕のご先祖様?

だったら僕の策略も読めるんじゃあないの?」

 

『何っ!?』

 

「アホの義昭をそそのかして味方につければいい。そうすれば毛利はもう手も足も出ない。出しちまったら瞬間、将軍の名の下に朝敵にされてしまうからね」

 

「それは.....」

 

 

暴君竜は頭の中で思う。

従来の天竜は、悪心は内に隠す方だった。そして僅かながらも良心があった。 

だが、この天竜にはそれがない。

恐らく10年間でゆっくりと形成されていったのだろう。

今の彼は腹黒というよりは純粋な悪のようであったのだった。

 

 

「なっ.....なんでそんな事.....」

 

「ん?」

 

「いくらなんでもおかしいよ!

足利義昭の意志を、毛利姉妹の意志を捻じ曲げやがって!」

 

「ふ~ん。まだ君と会って30分ぐらいだけど、なんとなく君の内心が分かったよ」

 

「なんだと!?」

 

「君は優し過ぎるんだね。相手が味方だろうと敵だろうと、相手を不幸にする事をとてつもなく嫌う。皆が皆、幸運になる事を望む。そのためなら、自らの不幸には気を止めない」

 

 

それは以前、五右衛門にも指摘された事である。

 

 

「でも所詮、そんなのなんて絵空事なんだよ」

 

「てめえ!」

 

「全員が全員幸運になる?あり得ないよ。幸運とは不幸の延長上にあるもの。不幸な者がいるからこそ幸運な者が生まれる。悪役を正義の味方が倒し、不幸にする事で、他者が幸運になる」

 

「違う!俺は.....」

 

「自分だけを不幸にするというのかい?」

 

「!!?」

 

「じゃあ君は僕の幸運の為に死んでくれるのかい?」

 

「なっ!?」

 

「できるかい?できるかい?

できないだろう?

人間など所詮はその程度!

口先だけにすぎない!

守る相手を選んで決める正義の味方だなんて、とんだペテン師だぁ。

あははははははははは!!!」

 

「この野郎!!」

 

 

良晴が天竜の胸ぐらを掴みにかかる。

だが、いとも簡単に投げ飛ばされてしまった。

 

 

「ぐあっ!?」

 

「僕に文句あるならいくらでも言いなよ。

聞くだけなら聞いてあげる。

でも邪魔はしないでね?

 

 

 

 

 

 

邪魔したら殺すから.....」

 

 

 

「くっ.....」

 

 

良晴は思う。

こいつは敵だと.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

「あれ?姉ちゃんもこの時代に?」

 

 

近畿まで戻って来た一行。

その道程で青蘭と出会う。

 

 

「今............なんて言った?」

 

「?.....姉ちゃん?」

 

「I LOVE MY BROTHER!!!!」

 

 

突然青蘭が大声を出して天竜に抱きつく。

 

 

「なっ.....なにすんだよ!?」

 

「あぁ、あの時だ!私が痴漢されてナーバスになってた時に、痴漢を代わりにボコボコに半殺しにしてくれた、あの優しい竜くんだぁ!」

 

 

この姉弟は根本的にどこかおかしいのかもしれない。

青蘭は愛弟に頬ずりをし、完全にキャラが崩壊している。

 

 

「だぁー!!気色悪い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何っ!?若返っただと!?」

 

「それを知らずに興奮してたんですか」

 

 

十兵衛が呆れた声を出す。

今、天竜らは信貴山城にいる。良晴は岡山城に残ったが、十兵衛はかろうじてついて来た。

そして義昭も.....

 

 

「わらわは将軍であるぞ!

拘束するなど言語道断!死罪に値する!」

 

「分かった分かった。スルメ食うかい?」

 

「いらないのじゃ!!」

 

 

人質にも関わらず態度だけは大きかった。

 

 

「この事は信奈様には内緒で?」

 

「まだその人とは会ってないから確証はないけど、言っただけ無駄でしょ?ただただ混乱するだけだ。所詮人間は過程より結果を求める」

 

「..........」

 

 

まるで人間以外の生物のような口ぶりだ。

 

 

「終わった後に言えばいいんだよ。結果良ければ全てよしってね。後からぐちぐち言うのは駄目な君主だ」

 

「ちょっと天竜!」

 

「どうしました明智さん?」

 

「十兵衛と呼べと言ったでしょう!」

 

 

これでは、いつぞやの真逆だ。

 

 

「兎に角、もう他人の前で信奈様の批判はやめなさいです!下手をすれば反逆罪になりますです!」

 

「君の前ではいいの?」

 

「特別に許してやるです。

でも今回だけですよ!」

 

「いいな~。仲いいな~」

 

 

デレデレの青蘭がブツブツ言っている。

その時、

 

 

「あぁ!!天竜はん!!

新妻ほっぽいてどこ行ってたんや!!」

 

 

孫市だった。

 

 

「え!?.....誰!?」

 

「..........貴方の女房です」

 

「嘘!?僕、結婚してるの!?」

 

「えぇ。2回程」

 

「再婚したなんて私は聞いてないぞ!」

 

「まった、うちの旦那様は女子はべらせて!困ったもんやな!」

 

 

孫市はすっかり妻の顔である。

 

 

「ちょい待ち!それガチな話なの!?」

 

「.................そうです」

 

 

十兵衛が渋々答える。

 

 

「いくら正室の明智はんだって、旦那様独占するのは規則違反やで?」

 

「うえぇ!?明智さんとも結婚してるの!?」

 

「それは嘘です!!」

 

「待て待て!!あの女の時のような失敗がないよう天竜の再婚相手は私が決める!」

 

「誰やねん自分?」

 

「天竜の実姉だ!貴様こそ何者だ不審者め!」

 

「雑賀孫市、天竜はんのお嫁さんや。

小姑は黙っとき!」

 

「なんだと!?」

 

「勘弁してください!!」

 

 

若き天竜の脳がオーバーヒートを起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大人の時の自分の女性遍歴を知り、すっかり自信を失ってしまった。少年天竜であった。

そんな彼をほっぽいて、向こうでは3人によるガールズトークが繰り広げられていた。

.....といっても、とてもガールのする会話ではないが.....

 

 

「人斬り!?」

 

「そうや。最近その被害が酷くなってきたんで天竜はんに伝えに来たんや」

 

 

人斬り被害はその昔、摂津の堺でも起きており、それは天竜によって速やかに対処されたが、それとは別物の人斬りらしい。大和国と紀伊国の境目にて頻繁に事件が発生し、夜間外出を控えるよう民衆に呼びかけているらしい。

 

 

「しかも被害者は皆、女性や」

 

「通り魔か。女ばかりを襲うとは許せん!

私自らがしょっ引いてやる!」

 

「相手はかなりの手練れらしいで?

斬り口があまりに鮮やかだったんやと」

 

「それなら大丈夫ですね。森水青蘭は天竜より強いです」

 

「ホンマかいな!?」

 

「まっ、姉だからな!」

 

「あの.....」

 

 

完全に追いていかれてる天竜である。

 

 

「そういや、天竜はん縮んだか?

髪も伸びとるし」

 

 

青蘭と同じく鈍感な孫市である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっ.....そそそそんな事より!

僕の足元にいるのは何かな!?」

 

 

そこにはいた!

黒く、硬々しい、それが!

天竜はそれを見まいとかかんに上を向いている。

 

 

「なんや、ただのゴキ.....」

 

 

十兵衛が慌ててその口を塞ぐ。

 

 

「ただの..........コオロギです!」

 

「そうだよね.....そうだよね!

そうに決まってるよね!

そう願いたい!」

 

 

天竜が涙目で訴える。

 

 

「そうです!コオロギです!

ほら!.....リーンリーン.....

泣いてるでしょう!?」

 

「それはスズムシでは?」

 

「!!?」

 

 

青蘭に突っ込まれた。

 

 

「コオロギもアレと似たような種族。でも、移動手段はむしろバッタに近い。でもコレは、僕の足元を這って高速移動してるらしい」

 

「えっ.....えぇと.....」

 

「そしてコレは僕の足袋から袴へ移動をしているのだが!?」

 

「うぅ.....」

 

 

そして、そのGは羽を広げ、視線を合わせまいとしていた天竜の目の前へ飛んで現れる!

 

 

「天竜!!」

 

 

 

 

天竜は白目をむいてその場に倒れてしまった。

 

 

「森水青蘭!!」

 

「私じゃない!このゴキは偶然ここに出ただけだ!」

 

「なんにせよ。ゴキブリが怖いなんて天竜はんにも可愛いとこあったんやな」

 

 

そう言って孫市はゴキを踏み潰してしまった。度胸があり過ぎるのどうかと思うが.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5時間後、フラフラになりながらも意識を取り戻した天竜は重い足取りで信貴山城を発つ。

 

 

「何処にいくですか?」

 

「伊勢」

 

「なにしにですか?足利義昭も信貴山城においてきて.....」

 

 

現在彼女の面倒を見てるのは青蘭と孫市である。

 

 

「暴君竜に聞いた.....僕は滝川一益や九鬼嘉隆と知り合いだって.....」

 

「だから?」

 

「だから船借りる.....」

 

「船!?」

 

 

完全に意気消沈してる天竜から思わぬ言葉が出る。

 

 

「船で.....どこ行くですか!?」

 

「明」

 

「へぇ、明ですか.....................ふぇ!?」

 

 

まさか国外とは思わなかった。

 

 

「まっ.....まさか!!私と駆け落ちして明へ逃亡する気ですか!?いけません!私には信奈様と共に天下を取るという目標がぁぁぁ!!」

 

 

真っ赤になって暴走してしまっている。

 

 

「違うけど.....どうしたの明智さん?」

 

「うっ.....十兵衛と呼べと言ったでしょう!」

 

 

天竜は理由を話し始めた。

 

 

「足利義昭は僕らがいくら説得しても振り向いちゃくれない。なんせ将軍の位を奪われたんだからね」

 

「まぁ.....そうですね」

 

「だが、義昭はまだ子供だ」

 

「?」

 

「子供にとっての絶対の服従の存在って誰だと思う?」

 

「え?.....それは.............はっ!?」

 

 

十兵衛が気づき、天竜はニヤリとする。

 

 

「それは親!

彼女の場合は親代わりの.....」

 

「兄の前将軍、足利義輝!!」

 

「そう。明に逃げた彼を連れ戻して説得し、味方につければ.....」

 

「義昭も自然と味方になる.....

そうなれば毛利は大義名分を失う!?」

 

「そう。血も流さず平和に解決。

どうだい?僕の策略」

 

「.....完璧過ぎてぐうの音も出ません」

 

「いしししししし.....

初めてにしては上出来でしょ?

一回やってみたかったんだ」

 

 

彼は無邪気にそう言う。

十兵衛は不思議な感情で彼を見つめる。

姿形も内心も、もはや以前の彼とは別人のはずなのに.....

彼は若返っても天竜なのだ。

何も変わりはしない。

天才的で、主君でありながらいつも魅了されていた、良晴以上の恋心が芽生えた彼。

 

 

「これから船を借りて明に行く。

君も一緒に来てくれるかい

明智.....じゃなくて.....」

 

「?」

 

「十兵衛!」

 

 

そう言って彼は手を出す。

 

 

「大人の僕が君とどんな関係を持っていたかイマイチ分からないけど.....これから改めて作っていけばいいんじゃないかな?」

 

 

十兵衛は思わず吹き出していた。

天竜は元々、大人では無かったのかもしれない。少年がそのまま巨大化したような.....だからこそ、自分は好きになったのかもしれない。

 

 

「私が主君です。呼び捨てにすんなです」

 

 

穏やかに答える。

 

 

「あら?そうなの?」

 

 

以前の天竜とはもう会えないかもしれない。でも、「天竜」という存在は今目の前に。彼の中に。そして、私の中にある。

そう、それでいいじゃないか。

 

 

「これからよろしくです天竜」

 

「こちらこそ十兵衛」

 

 

そう言って握手を交わす。

 

 

「また呼び捨てにしやがったですね!」

 

「あははははは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある少女が刀を振るう。相手はもう動かない。地面に骸として転がる相手に、少女は何度も刀を突き刺す。側では殺された女の娘らしき幼子が泣きじゃくっている。

ある少女は母親への攻撃をやめ、娘の方へ視線を移す。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!

お母さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

「..........」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

「五月蝿い」

 

 

少女は幼子の喉元に刀を突き刺し、黙らせた。その場が混沌と静寂に包まれる。

 

 

「足りない.....血が足りない.....」

 

 

そうしてもう一度幼子に刀を突き立てる。

 

 

「もっと.....殺したい.....

血がほしい.....」

 

 

月明かりが少女の顔を照らす。

 

 

「たくさん殺して.....

天竜様に褒めて貰わなきゃ」

 

 

少女の目は死んでいた。白い肌は血に染まり、より邪悪さを引き立てていた。

 

 

 

 

 

 

「次は姉上の番.....」

 




天竜の記憶後退。
それによる、良晴との対立。
十兵衛との関係向上。
そして人斬り.....
新章からヒートアップの二十話でした。
次回予告
少年天竜の冒険(中編)
~剣豪将軍との出会い~


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第二十一話 少年天竜の冒険(中編)

長くなりそうだったので、急遽3部作にしました。
少年天竜と十兵衛の絡みをお楽しみ下さい!


出航から5日。日本海上にて、九鬼水軍の船があった。

 

 

「いや~。初めての国外渡航が前将軍を連れ戻しに行くとは.....」

 

 

嘉隆が呟く。ついこの間、村上水軍との激闘にて大敗北し、現在は軍備の整え中だったのだが、

「天竜の頼みとあれば断るわけにはいかない!」......という勢いだけで出てしまったのだ。

正確には.....

 

 

「船を出して下さい!

僕のために!!」

 

「はっ.....はひっ!!」

 

 

天竜は嘉隆の手を握りながら言う。

 

10歳年下の美形。

嘉隆にとって、どストライクの天竜に言われてしまえば、従う他なかったのだ。

 

 

「くすくすくす。信奈ちゃんよりも先に渡航か。何だか悪い気がするのう」

 

 

あろうことか一益までついて来てしまった。

 

 

「にしても、てんてんは会うたびに面白い提案をしてくるのう。今回は何をくれるのじゃ?残念ながら前の「金正日」は割れてしまってのう.....」

 

「えぇと.....急いでいたから持ち合わせが.....後日、日を改めてでいいかな?」

 

「まぁ、しょうがないのう」

 

 

納得してくれた。

 

 

「どうしたですか天竜?」

 

 

十兵衛に問われる。若天竜は一益の顔をまじまじと見つめていたのだ。

 

 

「滝川一益って.....アマテラスに似てるなぁって.....」

 

「!!?」

 

 

アマテラスは天竜が17歳の時既に会っていたのだ。

 

 

「確かに.....言われてみれば似てますですね」

 

「まさか子孫だったりしてね」

 

「まさか!それでは、姫巫女様と同族という事になるではないですか!」

 

 

よもや双子の姉妹とは、気づくはずもなかった。

 

 

 

 

「ところであとどれくらいで着くのかな?そろそろ?」

 

「え?天候の影響から考えても、あと1月ぐらいじゃないかと」

 

「....................え?」

 

 

嘉隆の答えに、天竜は息が詰まる。そのうち多量の汗がダラダラと流れ落ちる。

 

 

「どっ.....どうしたですか天竜?」

 

「ごめん」

 

「は?」

 

「計算ミスった.....」

 

「三栖?」

 

「船が帆船だって事を計算に入れるの忘れてた」

 

「ふぇっ!?」

 

「未来の船はずっと高性能だから3日ぐらいで行けるんだよ.....まさか1ヶ月かかるとは.....」

 

「え?え?え!?

どうするですか!?」

 

「3日で渡明して、2~3日で説得してすぐ帰ってくる予定だったのに.....往復で2ヶ月だと、その間に毛利に攻められる.....」

 

「肝心なところで何してるですか!?」

 

「これは完全に僕の責任。ごめん。

これが若さゆえの過ちというものなのか.....」

 

「訳わからない事言ってないで何とかしなさいですぅ!!」

 

 

大人天竜は、二手三手どころか四手五手先をも読む異才であったが、この若天竜は二手先が限界だったようだ。

 

 

「嘉隆さん!急いで日本に戻って!計画を練り直す!」

 

「えぇ!?やっと風に乗ったのに.....

今引き返すと返って時間かかるよ!?」

 

「そんなぁ~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか十兵衛に裏切られるなんて.....」

 

 

安土城にて信奈は落胆していた。

十兵衛が天竜と共に船で旅立ったという情報が入ってきたのだ。

凪という忍に天竜の暗殺を依頼して以来、ろくな情報が入って来なかったが、

「十兵衛と駆け落ちした」なんて情報が入ってくれば、落胆もしたくなるだろう。

 

 

「もしや.....凪殿はとうに返り討ちに合っているのでは?」

 

「そんなはずはないわ。だとすれば、少なからず私にも情報が入ってくるわ!」

 

「では、どうゆう事なのでしょう.....」

 

「シロが思っている以上に警戒しているか、慎重に事を進めているか.....」

 

「姫さま」

 

「何よ万千代?」

 

「いい加減その呼び方をお止め下さい。『シロ』という呼び方は貴方と羽柴天竜の友好の証として作られたもの.....それが無くなった今、その呼び方はもはや無意味です」

 

 

信奈の脳内に「安土城の変」のあの光景が映る。

 

 

 

「私と共に天下を目指そうではありませんか」

 

 

 

それが彼の言った言葉。あの時は確かに2人の間には信頼があった..........そう思い込んでいた。

 

 

「そうね。もう『シロ』とは呼ばない」

 

「一度凪殿とも連絡をとった方がよいかもしれませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰と連絡を取るって?」

 

「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは..........良晴だった。

 

 

「申し訳ありません信奈様」

 

 

隣には凪までいた。

 

 

「..........話したの?」

 

「はい」

 

 

彼女がそう答えた瞬間、信奈は刀に手をかける。

 

 

「信奈落ち着け!」

 

 

だが、間に良晴が立ちふさがる。

 

 

「分かってる.....分かってるから.....」

 

 

そう目で訴える。良晴は天竜より信奈を選んだ。そうゆうことである。

 

 

「よ.....しは.....る」

 

 

急に信奈から力が抜け落ちる。

 

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!

私.....私.....」

 

 

良晴は彼女を抱き寄せる。

 

 

「分かってるから.....

今度は俺にも相談してくれ.....

個人で背負い込まないでくれ.....」

 

「.....うん」

 

 

その光景を見て、長秀は己の行いを後悔する。半分は私情も入れ、容易に天竜の暗殺に賛成してしまった己の愚かさを.....

 

 

「信奈は悪くない.....

悪いのは天竜さんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうなったら.....」

 

 

天竜は左中指にはめていた例の指輪を手に取る。

 

 

「どうするですか?」

 

「暴君竜に教えられたんだ.....

困った時には、この指輪に助けをこえって.....」

 

「指輪に.....助けを?」

 

「まぁ、危機的状況には変わらないからね。

............助けて下さい!!」

 

 

すると、急に突然指輪から煙がもくもくと発生する。

 

 

「まっ.....ままままさか!?

またあの月読命が!?」

 

 

十兵衛が危機を感知するのも束の間、煙は次第に人の形に変化してゆく。

 

 

 

だが、そのシルエットは思ったより小さくて.....

 

 

『呼ばれて飛び出てジャジャジャーン!!』

 

「アマテラス姐さん!?」

 

「天照大御神様!?」

 

 

天竜も十兵衛も驚く。まさかこっちの神様が出てくるとは.....

 

 

『このネタには無反応でありんすか.....』

 

「アマテラス姐さん!船を明まで送り届けて下さい!お願いです」

 

『ん~!可~愛いっ!!

大人天竜と違って子供天竜は素直じゃ!

オバちゃん頑張るでありんす!』

 

 

アマテラスが指をパチンッと弾く。

その瞬間、嘉隆の船は海上から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?..........ここは?」

 

 

目の前に陸があった。

 

 

「明に.....着いた?」

 

 

港に突然現れた日本の軍船に驚き、中国っぽい服装の民衆が続々と集まってくる。

 

 

『特別に足利義輝のいる場所の近くの港まで動かしてやった。感謝するかや?』

 

「ありがとうアマテラス姐さん!

お陰で助かった!!」

 

 

天竜はアマテラスの手を取って満面の笑みで言う。

 

 

『ん~!森水青蘭が惚れるのもわかる気がするのう!』

 

「神様は何でもありですね.....」

 

 

十兵衛が呆れた声をだした。

どうやらアマテラスは若い頃の天竜に「姐さん」と呼ばせていたらしい。

 

 

「姫さまが.....2人!?」

 

 

一方、驚いていたのは嘉隆を含めた船員達だ。もちろん一益も.....

一益とアマテラスの大きな違いは頭の鹿角ぐらいであろう。

 

 

「だっ.....誰なのじゃ!?

何故、姫と同じ顔なのじゃ!?」

 

『そちとわっちが同じ面影の理由は、そちが一番分かっているのでは?』

 

 

一益には、これと似たような経験があった。茶人津田宗及に誘われ、茶屋へ訪れたところ、そこに旅籠を持った近衛前久が現れ、姫巫女も.....

自らが姫巫女の双子の妹だという事を教えられたばかりだったのだ。

 

 

「まさか.....姫巫女.....」

 

『ブッブー!ハズレ~!』

 

「なっ!?」

 

『わっちの名は天照大御神。

姫巫女以上にやんごとなき、

全知全能の太陽神でありんす』

 

 

一益は唖然とする。アマテラスは姫巫女の祖先の神。という事は自分の......

 

 

「姫の.....ご先祖様!?」

 

『ピンポ~ン♬

ひいひいひいひいひい.....(以下省略)

おばあちゃんであるぞ!

そちの姉は即歳かのう?

ついでに、天ちゃんの

大大大大大大大大大大大大.....(以下省略)

叔母ちゃんである!』

 

「姐さん.....それ今関係ない」

 

『そうかや?』

 

「まさか本当に子孫だっとは.....

ってゆうか、一益殿と姫巫女様が姉妹!?」

 

 

さっきまでの会話が事実であり、しかも一益の出世に混乱するばかりの十兵衛である。

 

 

「姉妹ねぇ..........なるほど」

 

 

一方、天竜は何やら邪悪な表情をする。

 

 

「取り敢えず僕と十兵衛は義輝の所に行ってくる。嘉隆さん達は船見ててね!行くよ十兵衛!」

 

「あっ!待ちなさいです天竜!」

 

 

嘉隆は返事をする余裕もなかった。2人はさっさと船を降り、明に上陸してしまう。

アマテラスは船に残り、一益らと睨み合っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか本当に子孫だったとは.....」

 

 

未だに驚きを隠せない十兵衛である。

 

 

「天竜は知ってた....わけないですよね。

一益殿とも初対面ですし.....

天照大御神様とはいつお会いに?」

 

「確か.....高校編入の時に知り合った女子生徒と行けるとまで進んで、さぁ、初体験だ!って時に、突然正体が神様ってバラされてビビったのが初めてかな?」

 

「は?」

 

「ごめん忘れて」

 

 

この話は後日するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、十兵衛。君って髪結える?」

 

 

天竜はその長いざんばら髪を弄りながら言う。

 

 

「普段はゴムで縛ってんだけど、この時代にはないからね。だから紐で縛りたいんだけど、自分では上手く出来なくてね。やってくれる?」

 

「よく分からないですがいいですよ。そこに座って下さい」

 

 

十兵衛は偶然見つけた切り株を指す。天竜は悠々とそこに座り込み、髪を十兵衛を任せる。

 

 

「不思議な色の髪ですね.....

前まで.....大人の貴方は黒髪だったのに.....」

 

「あぁ.....それは多分白髪染めを使ったんだろうね。僕は茶髪の方が地毛なんだよ。よく染めてるのと誤解されて先コウに怒鳴られてたよ。

.....まぁ、その度にボコってやったけどね。

あははは」

 

「私の分かる言い方をしやがれです」

 

「生まれつき茶髪ってこと」

 

「はぁ.....」

 

 

十兵衛は櫛で彼の髪を解きながら束ねてゆく。

 

 

「貴方は本当に不思議な方ですね.....

何度も何度も死ぬ死ぬ詐欺で私を驚かし、かと思えば急に若返り.....

誰をも寄せ付けぬ程強いかとおもったら、ゴキブリが苦手だったり.....

直様手の届かぬ所に行ってしまうかと思えば、近所の川で溺れてたり.....」

 

「ちょっ!?僕が泳げない事何で知ってるのさ!?」

 

「大人の貴方が突然足を滑らせ、川に転落したんです。水深は首までくる所でしたが、足が付かないような深さでもないですから、ほっといてたのですけど、暫くしたら沈んでいって.....」

 

「僕、大人になっても泳げないのかよ!?」

 

 

今になってカナヅチを本気で克服しようと決意する天竜であった。

 

 

「はい。できましたです!」

 

「おぉ!綺麗に結えてるじゃん!」

 

 

十兵衛が整えた侍ヘアーにはしゃぐ天竜。

その時、

 

 

「天竜!」

 

「十兵衛!?」

 

 

十兵衛がいきなり彼の背中に抱きつく。

 

 

「ちょっと!?当たって.....」

 

「貴方が好きです!!」

 

「!?」

 

 

十兵衛から突然の告白。思えば、天竜と十兵衛が2人きりになるのは久方ぶりなのだ。

 

 

「切ないんです!貴方をどれだけ好いても、貴方が私をほとんど覚えてないのが.....」

 

 

決意はした。したはず.....

だが、そう簡単に思い人を忘れられる訳がない。十兵衛は戦っているのだ。自分自身と.....

 

 

「お願いです.....少しだけこのままで.....」

 

「十兵衛.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「稍微好嗎?」

 

「「.....!?」」

 

 

突然明の人に話しかけられる。

十兵衛は慌てて天竜から離れる。

 

 

「你們是是不是日本人?」

 

「あうあうあうあう~!!

漢文は読めるですが、話せないですぅ!!」

 

 

混乱真っ最中の十兵衛だ。

 

 

「是。我們從日本來了」

 

 

なんと天竜が流暢な中国語で返す。

 

 

「還是想的那樣!」

 

「おっ、通じた」

 

「明の言葉が分かるですか!?」

 

「うん。学校の先コウが、世界に出てくなら英語と中国語は完璧にしとけって」

 

 

学校や習い事で英会話で子供に力と金を注ぎ込む大人が多いが、実戦で役に立たないのが関の山であろう。それではドブに金を捨てているようなものだ。天竜のように全てを利用し尽くすようなタイプは希少価値かもしれない。

 

 

「何て言ったですか?」

 

「別に.....『日本人か?』って聞かれたから『日本人だ』って答えただけ.....」

 

「よく分かりますですね.....」

 

 

むしろ日本語があまりに難しい為に、日本人は英語や中国語などの言語が覚え辛いと言える。

 

 

「是為了幹什麼來的嗎?

(何しに来たのですか?)」

 

「在尋找某人物

(ある人物を探している)」

 

「那個位的名字是什麼?

(そのお方の名前は?)」

 

「足利義輝」

 

「得!?義輝!?」

 

「是不是知道!?

(知ってるのか!?)」

 

「即使知道什麼都.....我是他的廚師

(知ってるも何も.....私は彼の料理人です)」

 

「料理人!?」

 

「你們呢?

(貴方達は?)」

 

「啊.....是義輝的朋友喲

(ええと.....義輝の友達だよ)」

 

「朋友!?ナラ話早イアルヨ!」

 

「日本語喋れたのかよ!?」

 

「ゴメンアル。デモ義輝ニ言ワレテ、信用デキナイ相手ニハ、日本語ヲ使ウナト.....」

 

「警戒してるですね.....」

 

 

十兵衛が口を開く。

 

 

「松永久秀に襲われて国外逃亡までする男なんでしょ?それなりに対処してるだろうね」

 

「手間ヲカケサセチャッテゴメンネ。スグニ案内スルアルヨ」

 

「ちょっと待って。君の名前は?」

 

「私ハ、黄黄(ファンファン)。ヨロシク!」

 

「羽柴天竜秀長だ.....」

 

「明智十兵衛光秀です.....」

 

 

何故かトントン拍子に事が進み、少し不安が残る2人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「義輝サーン!友達連レテ来タアルヨー!」

 

「むっ?」

 

 

噂通り、義輝は今日も剣の修行をしていた。

 

 

「誰かねその2人は?」

 

「!!?知ラナイ人アルカ!?」

 

「あぁ」

 

「ウゥ~!!騙サレタアル~!!」

 

「すまん黄黄。悪気はなかった」

 

 

天竜は泣き叫ぶ黄黄を余所に義輝に近づく。

 

 

「誰かな君は?日本からの刺客か?」

 

「違うよ。あんたの命なんて興味ない」

 

「では何者だ」

 

「純粋な話だよ..........あんたを連れ戻しに来た」

 

「.....................私はもう将軍をする気はない」

 

「安心して。将軍ならもう別の人が就いてるよ」

 

「なら何故!?」

 

「あんたの妹の義昭が新しい将軍を蹴落とそうと戦を始めたんだよ」

 

「!?」

 

「これはさぁ~.....応仁の乱と被ってるとは思わない?」

 

「..........」

 

「前将軍としてじゃなくて1人の兄としてさ、あんた何やってんの?」

 

「...........」

 

「妹が戦で多くの血を流させてるのに、あんたは明で知らんぷりかよ。

それじゃあ、応仁の乱を放置した愚将軍足利義政とも被ってると思わない?」

 

「先代を馬鹿にするでない!」

 

「日本馬鹿にしてんのはどっちだ!!」

 

 

天竜が突然声を張り上げ、義輝に掴みかかる。

 

 

「あんたが逃げたせいで歴史が狂いまくってんだよ!!松永久秀に襲われたのは同情するが.....

何故日本に残り、戦わなかった!!」

 

「..........」

 

「あんたは残るべきだった!!

例えそれが身を滅ぼす事になろうとも、それでも国を命がけでまとめ上げるのが、上に立つ者の宿命じゃないのか!?

己の仕事を全部放置して、明でぬくぬくやってるようなてめぇなんか、ただの腰抜けだ!!!」

 

「天竜!!」

 

 

十兵衛が慌てて天竜を引き離す。

前とわいえ、将軍にここまで文句を言えるのは、天竜ぐらいだろう。

 

 

「全ては過去の話.....今はどうする事も出来ない」

 

「過去だからいいんだ!!」

 

「!?」

 

「それは過去に流せる!大事なのは現在、未来だ!」

 

「未来?」

 

「まだ変えられる!あんただけが変えられる!今ならあんたの罪も許される!」

 

「..........」

 

「足利義輝!!」

 

「くくくくく.....

将軍家に生まれて以来、私にここまで訴える男子(おのこ)は初めてだ。面白い」

 

「なら!」

 

「男子なら言葉より行動で示すものだ。君の決意を見せて貰うよ。それ次第で私の決意を見せてやろう!」

 

「決意?」

 

「これよう」

 

 

義輝は腰に刺した刀を示す。

 

 

「あははっ!なるほどね!」

 

 

天竜も刀を構える。

 

 

「ちょっと.....天竜!?」

 

「大丈夫。剣豪将軍を説得するに当たって真剣勝負になるのは予想してたし、負ける自信もないし!」

 

 

勝てる自信ではなく、負ける自信なのだ。自身過剰な点は昔からのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐ~~~!!

 

 

 

 

 

 

 

将軍から思いもよらぬ音がする。

 

 

「おや?腹の虫が鳴ったようだ。

今日はやめておこう。黄黄、夕食を作ってくれ」

 

「アイサ!」

 

「僕ら急いでんだけど.....」

 

「安心せよ。急がば回れだ」

 

 

意味が違うような.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、天竜はまだ彼の底しれぬ実力に気付けずにいた.....

 




原作には、名前は出るけど登場しない人物足利義輝。
剣豪なら熱そうだけど将軍だからそうでもなさそうな、キャラ付けの難しいお人。
今のところ、特徴は全くありませんが、少しずつ作っていこうと思います。
次回予告
少年天竜の冒険(後編)
~朧月光流~


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第二十二話 少年天竜の冒険(後編)

濃姫見ました!
城田が信長役はちょっとミスチョイスだったかな?


安土城にて良晴、信奈、長秀による極秘会議が行われた。

 

 

「まさか、将軍を拉致するなんて.....」

 

「もう弁解の余地もありませんね。零点以下です」

 

「足利義昭は今何処にいるの?」

 

「大和の信貴山城にいるらしい」

 

 

良晴が答える。

 

 

「よし!直ちに兵を出して、監禁されてる将軍を救出するわ!」

 

「では私が」

 

 

こうして長秀率いる兵が大和出兵に赴く事になる。

 

 

「天竜は今、記憶を失っているのでしょう?どうして変わらずに暴れ回ってるの?」

 

「暴君竜が言ってたんだけど、天竜さんは順応力が高くて、説明しただけで理解しちゃったみたいで.....」

 

「あんたそっくりじゃない」

 

「おい!」

 

「ごめんなさい。

でも.....これは異常だわ」

 

「純粋な悪人か.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信貴山城。

 

 

「誰だ貴様は?」

 

 

門前にて仁王立ちする青蘭が長秀と鉢合わせする。

 

 

「先に貴方がお名乗りなさい」

 

「森水青蘭。天竜の姉と言えば分かるか?」

 

「羽柴天竜の姉!?」

 

「さぁ、名乗ったぞ。貴様は何者だ?」

 

「..........丹羽長秀です」

 

「丹羽.....すると若狭の?」

 

「随分と情報が古いですね。若狭の大名はとうに辞退致しましたよ?」

 

「ほほう。私の知る歴史とはだいぶ違うのか.....」

 

「私は羽柴天竜によって監禁されている、足利義昭殿を救出に参りました。直ちに門を開けなさい」

 

「確かにな~。将軍を拉致しただなんて知れたら、織田の信用はだだ落ちだからな~」

 

「なら!」

 

「だが断る」

 

「!?」

 

「せっかく天竜が従順になったのだ。今度は嫌われるわけにはいかないのでね」

 

「なんと愚かな。十点です」

 

 

長秀は薙刀を構える。

一方、青蘭は刀を構える。

 

 

「薙刀に刀で挑む気ですか?」

 

「リーチの長さは勝負に関係ねぇよ」

 

 

青蘭が迅速に動く。

 

 

「如月!」

 

 

「きゃっ!?」

 

 

長秀の薙刀が粉々に粉砕する。

 

 

「なっ!?」

 

「まだ来るか?」

 

「おもろそうやな~。うちも混ぜたってぇや」

 

「雑賀孫市!?」

 

 

孫市が巨大なウィンチェスターを担いで出てくる。

 

 

「この小姑は嫌いやけど、天竜はん守る為ならうちも身体張るで?」

 

 

ドーーーーーーンッ!!!

 

 

孫市が長秀の足元に向け、弾丸を放つ。そうして足元の地面が抉れた。

 

 

「妻として」「姉として」

 

 

2人が同時に声を上げる。

 

 

「天竜[はん]の前に立ちふさがる障害は私[うち]が排除する!!」

 

 

この仁王2人を止められる者など何処にもいない。

 

 

「このっ!!」

 

 

長秀はそれでもめげず、刀を抜こうとする。

 

 

「霜月!」

 

 

何時の間にか、長秀の刀は鞘ごと斬り飛ばされていた。

 

 

「私と真剣勝負なんて4世紀はえぇよ小娘」

 

 

長秀は思わずガチガチと震わせる。同じような台詞をあの天竜にも言われた。この姉弟はどこまで自分を陥れるのだろうか.....

 

 

「随分と妙な剣捌きやな。

どっかの流派かいな?」

 

 

「『朧月光流』。勘解由小路家伝統の剣技。だが、完璧に扱えた歴代一族は私を含めても3人だけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明。黄黄宅。

 

 

「これが明料理.....食するのは初めてです.....」

 

 

並べられたのは小籠包などの肉まん系。チャーハンなどの炒めし系。ラーメンなどの麺類だった。

その他にも、肉類や野菜類など数多くの食材が並べられた。

 

 

「久シブリノオ客サンダカラ張リ切ッチャッタアル」

 

 

料理を作った黄黄は照れながら傍らに立っている。

 

 

「このお肉美味しいです。何の肉ですか?」

 

「豚アルヨ」

 

「へぇ~豚ですか............豚っ!?」

 

 

十兵衛が食べたのは酢豚である。

 

 

「コッチハ牛肉アル。食ベルガヨロシ」

 

 

黄黄は牛肉の野菜炒めのようなものを十兵衛に出す。

 

 

「これは.....」

 

 

十兵衛は思わず涙する。

日本では食するのが禁止されている、牛豚の肉。それを初めて食べたのだ。言葉にならない程に猛烈に感動している。

 

 

「母上に食べさせてあげたい.....」

 

 

一方、天竜の方は.....

 

 

「この酢豚、味が薄いな。もう少し調味料を足したらどうだい?この麻婆豆腐も辛さは全然ないし、香辛料は何を使ってる?ラーメンは麺がパサパサしてて粉っぽいし、スープもはっきり言ってお湯のようだ。小籠包も蒸しが足りてない。中まで熱々だからこそ小籠包の美味さが染み出してくる。どれもこれも料理として人様に出すには未熟だね.....」

 

 

未来で完成された中華料理を食べていた天竜にとって、この時代の中華料理は未完成品。黄黄に対しダメ出しクレームを出しまくった。

 

 

「随分と辛口なことだ.....」

 

 

義輝も呆れる。

 

 

「ちょっと天竜!!なんて無礼な!!」

 

 

十兵衛が慌てて黄黄に向き直ると、彼女はプルプルと震えていた。

 

 

「謝りなさい!!せっかく作っていただいた料理を無下にするなど.....」

 

「アリガトウ!!」

 

 

思ってもいないような返答が来る。

 

 

「黄黄、ズット自分ノ料理ニ違和感持ッテタアル。黄黄ノ料理ハ本当ニ美味イカ、皆ソウ思ッテルカズットワカラナカッタアル。義輝は剣バッカデ味音痴ダシ.....」

 

「悪かったな味音痴で」

 

「ダカラコソ、キチントシタ味覚を持ツ人ニ感想ヲ聞キタカッタアル。アリガトウ!」

 

「そりゃどうも」

 

「...........」

 

 

どうも腑に落ちない十兵衛である。

 

 

「といっても、料理が下手というわけでもない。味付けさえ完璧に出来れば、これらの料理はようやく完成する。それに一部の料理には、この時代にはない新しいものまである。未だ未熟とはいえ、その若さでここまでの腕なら、将来有望の立派な料理人になれるだろうよ。今の年は?」

 

「17アル。コンナニ褒メラレルナンテ初メテアルヨ」

 

「上出来だ。ほんの10年努力すれば、君は世界一の料理人だ」

 

「ソンナ、世界一ダナンテ恥ズカシイアル」

 

 

これぞアメとムチである。

 

 

「むしろ誇っていい。

..........そうだ!!義輝、僕が勝負に勝てば黄黄も貰っていいかい?」

 

「別に彼女は私の所有物じゃない」

 

「天竜サンノ所ニ!?ソレハウレシイ誘イアル!天竜サンハ明料理以外ニ知識ハアル?」

 

「日本料理は勿論、朝鮮料理や印度料理、欧州料理、米国.....はまだないか。そんなとこ」

 

「ジャア沢山教エテアル!天竜サンガ沢山教エテ、黄黄ガ沢山作ッテアゲルアル!」

 

 

まるでこれから結婚するかのような会話だ。

 

 

「こら!堂々と浮気すんなです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜間。

 

 

「まさか同じ寝床だとは.....」

 

「ふっ.....夫婦と間違えられたみたいですね」

 

 

用意された寝床は日本にはないベットのようなものだった。ただし、1つだけ.....ここで初めて黄黄に感謝する十兵衛。

 

 

「しょうがない.....僕は床に寝るから十兵衛使っていいよ」

 

「は!?.....駄目です!!天竜は私と一緒に寝るんです!!」

 

「うっ.....うん?.....」

 

 

強引に押し切られ、一緒に寝る羽目に.....

 

 

「黄黄は本来、監視役として明政府に送り込まれたらしい」

 

「監視役?」

 

「義輝は前とはいえ元将軍。日本の上に立っていた男だ。明政府は彼を人質にして日本を取り込もうとしてたんじゃないかな。

......といっても、あの剣豪将軍を力で人質にするなんて不可能だからね。保護という名目で間接的監視してたんだろうねぇ」

 

「あの少女が.....」

 

「ところが、黄黄はそんな明政府に嫌気が刺し、命令を無視。事情を説明して義輝に逆に保護して貰ってたみたいだ。さっき僕にも事情を話してくれてた」

 

「へぇ.....」

 

「んで、明政府にも目を付けられちゃったもんだから、そろそろ旅行という名目で国外逃亡を計画してたんだと。僕が日本への亡命案出したら、喜んでたよ」

 

「相変わらず、勝手に物事を進めますね」

 

「でも条件は、僕が義輝との勝負に勝つこと。黄黄の為にも日本の為にも頑張らなくちゃ」

 

「貴方ならできますですよ」

 

「う~ん。剣豪将軍の実力っていうのがイマイチ分からないからなぁ.....姉ちゃん並の強さだったら僕勝てないよ」

 

「大丈夫です。私と今まで互角に渡り合ったのは松永久秀ぐらい。その久秀があの義輝殿を追い詰めたのです。ところが、貴方は私の実力を軽く上回っている。義輝殿よりも強いはずです!」

 

「どんな方程式だよ!?

それにそれって大人の僕でしょ?

今の僕でも倒せる保証ないでしょ!?」

 

「そりゃあ...........そうですけど.....」

 

「え~.....(~_~;)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぅ~.....すぅ~.....」

 

 

天竜も寝息立てるような真夜中。

 

 

「天.....竜.....」

 

 

十兵衛が寝ている天竜に口づけをする。

 

 

「えへへへ。いつものお返しですぅ!」

 

 

そうして十兵衛もまた満足して眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕が起きてたなんてバレたら殺されるかな.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦当日。

 

 

「昨夜はよく眠れたかな?」

 

「うん.....まぁ」

 

「寝不足を敗退の理由にはされたくないのでね」

 

 

義輝は完全に勝つ気だ。

 

 

「あのさ~。勝利報酬の確認だけどさ~。僕が勝てば、あんたは日本に帰国。妹を説得し、黄黄をくれるんだろ?あんたが勝てば、この話は無かった事に。僕らは大人しく日本に帰ればいいの?」

 

 

なんだか義輝側のメリットが少ない気がする。

 

 

「いや、日本にはどちらにしても帰るよ。この勝負はいわばけじめだ。剣豪将軍と謳われた私が、よくも知らぬ少年の言うことでノコノコ帰ったなんて.....笑われてしまうからな」

 

 

義輝は己の愛刀を鞘からゆっくりと抜く。

 

 

「男同志の真剣勝負の果て.....の方が格好良いだろう?」

 

「な~るほど」

 

 

一方、天竜の刀は。

 

 

「十兵衛、刀貸してくんない?」

 

「ふぇっ!?私の!?」

 

「慌てたから、自分の愛刀を日本に置いてきちゃったんだよ。持ってるのは、安物のナマクラだし、十兵衛のはそこそこの名刀でしょ?」

 

「そこそこなんて失礼ですね!

私の持つ刀「明智刀」は明智家に代々伝わる名刀であり、遡れば土岐源氏の時代の.....」

 

「じゃあそれでいいや。貸して」

 

「うぅぅぅ.....」

 

 

十兵衛は渋々天竜に刀を渡す。

 

 

「刃こぼれ一つでも付けたら許さないです!」

 

「剣豪将軍との真剣勝負で刃こぼれ無し!?そりゃ難し過ぎるよ!」

 

 

天竜は軽く刀を振ってみせる。

 

 

「まぁ、こんなとこか」

 

 

そして、両者が向き合う。

 

 

「準備はできた?」

 

「とうにできておる」

 

 

2人の剣士がその得物を構える。

 

 

「いくよ!」

 

「よし来い!」

 

 

次の瞬間、天竜が俊足にて義輝に急接近する。

 

 

「うりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

右斜め上からの剣撃が義輝を襲う。

だが、義輝は何ともないようにそれを受け流す。

だが.....

 

 

「もう一丁!!」

 

 

手首のスナップを利用して直様刃を返し、左下に流れた刀がそのまま引返して来る!

 

 

「くっ!!」

 

 

義輝はそれを刀で防いで守る。

 

 

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」

 

 

同じように左斜めからの剣撃、そしてそこからの返し、真横からの剣撃とその返し、下からの剣撃とその返し、それが連続で行われ、義輝に隙を与えない。

これぞ高速剣。

 

 

「おりゃあ!!!」

 

 

とどめの突きが義輝を襲う。

義輝はそれもなんとか防いだが、衝撃で吹き飛ばされてしまった。

 

 

「朧月光流剣奥義、長月!」

 

「ほう.....これは予想以上だ」

 

「すごい.....」

 

 

十兵衛は天竜の勢いに蹴落とされ、その場を動く事すらできなかった。彼女は一度天竜と木刀にて勝負をしたが、彼は実力の半分も出してなかった。そこから10年分若返り、その分の実力も下がっているはず。にも関わらずこの強さだ。

 

 

「こちとら急いでんだ!

早めに決めさせて貰うよ!」

 

 

再び動く天竜。

 

 

「睦月!」

 

 

身体を軸に、回転しながら剣撃を喰らわす。一撃を防いでも回転して来た二撃目が襲い、さらに三撃、四撃と攻撃が止まらない。

 

 

「オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!」

 

「いけーーー!天竜!!」

 

「いけね!!目ぇ回った!!」

 

「天竜!?」

 

 

これが弱点でもある。

 

 

「はははは!大丈夫か?」

 

 

あれだけの攻撃を喰らわしたにも関わらず、義輝は至って平気な様子だった。

 

 

「あ~畜生!!

こうなったら次だ!!」

 

 

天竜が刀を下段に構える。

 

 

「水無月!」

 

 

地面スレスレまで刀を身体を下げ、相手が極めて狙いにくい状態に持っていく。そして、敵の無防備な足を狙う。

 

 

「甘いな」

 

「なっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、何が起こったのか分からなかった。天竜は突然目の前に現れた義輝の刀を避けるのが精一杯で、その最中に何が起きていたいか、全く分からなかった。

 

 

「これが朧月光流か.....」

 

 

天竜は刀を持っていなかった。刀は義輝の足の下にあったのだ。

義輝は瞬速にて来る天竜の剣撃を足で踏みつけて止め、ガラ空きになった天竜の身体に義輝の剣撃が振り下ろされたのだ。

天竜が咄嗟の判断で刀を手を放さなければ、肩からバッサリいっていたに違いない。

 

 

「武士の魂たる刀を踏みつけたのは謝ろう。だが.....」

 

 

義輝は足元の刀を手に取り、天竜の方へ放り投げる。

 

 

「剣術が特殊過ぎる。並の剣士なら、今のような剣術で楽に倒せていただろう。だが、私には返ってそれが読みやすい」

 

「なんだと!?」

 

 

放り投げられた刀を受け取る天竜。

 

 

「こんなものか?朧月光流は」

 

「.....!?」

 

 

天竜がギリリと歯ぎしりをし、柄を強く握り締める。

 

 

「撤回しろ!!朧月光流がこんなものだと!?」

 

「どこの流派かは知らぬが、この程度では私は倒せんぞ?」

 

「てめぇ!!」

 

 

天竜は頭をバリバリと掻き毟り、表情が一変する。

 

 

「朧月光流は僕と青蘭が何年も修行してやっと身につけた勘解由小路家の伝統の剣術!!それを侮辱するというのなら!!平安から千年続く賀茂の伝統を汚されたも同じ!!

万死に値する!!!」

 

「ほう?」

 

「天竜っ!?」

 

 

目が釣り上がり、真っ赤になっている。十兵衛はこの様子の天竜を一度見たことがある。安土城にて天竜の初の顔合わせの際、天竜の術を侮辱した良晴に対して、この状態になり、大規模の術を連発するという事件が起こっている。

 

これが天竜の激怒。

 

普段そこまで感情を変化させない天竜だからこそ、一度プッツンすれば、歯止めが効かなくなるのだ。

 

 

「コ・ロ・ス!!」

 

 

目的すらも忘却する程だ。

 

 

「朧月光流、卯月!」

 

 

天竜が刀を中断に構え、それを一気に突き出す。これぞ彼が最も得意とする攻撃技、「突き」。

だがそれでも、義輝は何ともないという様子で.....

 

 

「この程度か!」

 

 

超高速と言ってもいい彼の突きを受けても、冷静に対応する義輝。

 

 

「なめんじゃねぇ!!!」

 

「.....突きが...........増えてる?」

 

 

それまで一回に一突きだった突きが、一回に二突き、三突きと増加しているのだ。

 

 

「三段突きか.....これなら読めても防ぐのは難解であろう。だが、私にとっては毛が生えた程度の物!」

 

 

剣豪将軍堕ちず!!

 

 

「誰が三段突きだってぇ?」

 

「なっ!?」

 

「くっ!?」

 

 

三段と思われた突きの段数がさらに増加したのだ。

 

 

「四段突きだと!?」

 

「まだまだまだまだまだまだ~!!!」

 

 

五段目に突入する。

 

 

「あはははははははははははは!!!」

 

「まだ増えてるです.....」

 

 

既に六段目に突入している。

 

 

「あはははははははははははははは!!!」

 

 

大笑いを挙げているが、表情は激怒モードのままである。

 

 

「撤回しよう!確かに君とその剣術は相当なものだ!だが.....」

 

「あはははははははははははははは!」

 

 

 

「それでも私にはかなわない!!」

 

 

 

天竜のマシンガンのような蓮撃を受けながらにして、義輝はとある構えをとる。

それに一早く気付いたのは十兵衛である。

 

 

「天竜!!避けて下さい!!」

 

「あはははははははははははははは!」

 

 

興奮している彼の頭にはそんな言葉は入ってこず.....

 

 

 

 

 

 

「鹿島新当流奥義.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜!!」

 

 

 

 

 

「一つの太刀!!」

 

 

 

 

 

一つの太刀の前に、六段突きなど小技であるのか、一瞬にしてそれらの蓮撃を打ち払い、彼の凄まじい攻撃を喰らわせる。

 

 

「うぐわぁっ!!?」

 

 

咄嗟の判断により、天竜は左腕で身体を庇う。だが、そのせいで.....

 

 

「天竜!!」

 

 

義輝の凄まじいまでの攻撃を前に、天竜は吹き飛ばされてしまった。

 

 

「峰打ちだよ。先程までの無礼は許してほしい。だが、私も実力の高いを持ち合わせた剣士との真剣勝負は久しぶりでな。気持ちが高ぶっていたらしい」

 

 

そう言って、義輝は刀を鞘に仕舞う。

勝ちを確信したのだ。

 

 

「天竜!」

 

 

十兵衛が慌てて彼の下に駆け寄る。

天竜は仰向けに倒れながらも未だ右手で刀を握り締め、戦闘の意欲を保っている。ところが、彼の左腕は決して曲がってはいけない方向へと折れてしまっているのだ。

これでは碌に刀も持てないだろう。

 

 

「天竜と言ったか.....君は決して弱くはない。だが、私と相対するには実戦不足のようだな」

 

「ぐぐぐ.....」

 

 

既に立ち上がる気力もなさそうである。

 

 

「では、日本に戻るとしよう。君の怪我も早めに治療せねばな」

 

 

 

 

 

「待って下さい!!」

 

 

 

 

十兵衛が天竜の持っていた刀を取り、義輝に向け構える。

 

 

「家臣の失敗は主君が補うもの!!

今度は私の番です!!」

 

 

義輝はそれを聞いて、やれやれというような表情で見返す。

 

 

「お嬢さん、止めておいた方がいい。今の勝負は見ていなかったのかい?」

 

「私の剣の師は雲林院松軒!!

私も新当流の剣士です!!」

 

「なんと!?それは驚きだ。

助平の松軒殿が数年前にいい幼女を手に入れたと自慢していたのが懐かしいなぁ!」

 

「今度会ったらとっちめてやるです!!」

 

 

師弟生活を終えてから碌な話を聞かないので、どんどん師匠への忠誠心が削がれている今日この頃である。

 

 

「将軍様、御覚悟!!」

 

「同門のよしみだ。仕方ないな」

 

 

義輝は再び刀を抜く。

 

 

 

「「一つの太刀!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!!ここまでですか!!」

 

 

試合時間実に5秒!!

凄まじい剣撃が互いを相殺しあったのだが、最終的には義輝が十兵衛の刀を弾き飛ばして終わりとなった。

 

 

「天竜はこんな相手と戦ってたですか.....」

 

「もうよいだろう?

私も其方達の誇りにいつまでも付き合うわけにはいかぬ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんじゃねぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十兵衛の真後ろから天竜の怒号が響く。

 

 

「勝負は終わりだぁ!?

俺との決着はまだだろうが!!」

 

 

一人称も変化するほどの激怒ぶりだ。

 

 

「俺らの誇りに付き合えないぃ?

真剣勝負は手前ぇから持ちかけたんだろうが!!」

 

 

天竜は十兵衛から刀を奪い取り、構える。だが.....左腕は至って折れたままで、ダランとしている。

 

 

「今度は君が私を侮辱する気かい?

片腕で何をするつもりだ?」

 

「グチグチうるせぇな~。

やってみろよ逃げ将軍」

 

 

今の言葉には、流石の義輝も堪忍袋の緒が切れる。天竜が骨折しているのもお構いなしに斬りかかってくる!

 

 

「天竜!」

 

 

十兵衛の叫びも虚しく響く。

 

 

 

「一つの太刀」

 

 

義輝が素っ立っている天竜に刃を振りかざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

完全に勝利を確信していた義輝。

怒りのあまり刃で斬りかかってしまった事に後悔もしていたりもしていたが、そんな心配は全く必要なかったようだ。

義輝は天竜に対し、一太刀すら浴びせられなかったのだ。しかも、義輝の頬には一筋の切り傷が.....

だが、義輝にとってはそんな事などどうでもよく.....

 

 

「きっ.....貴様!!その技を何処で!?」

 

「どうでもいいよ.....そんなの.....」

 

 

天竜は義輝に向け、刃を向ける。

 

 

「あんたを倒すのはあくまで朧月光流だ!」

 

「ふん!おもしろい!!」

 

 

義輝もまた刀を構える。

 

 

「見せてみよ!!朧月光流とやらを!!」

 

「言われずとも!!」

 

 

次の一手が、この真剣勝負の終焉に繋がるであろう.....

 

 

 

 

 

「鹿島新当流!!」

 

「朧月光流!!」

 

 

 

 

 

「「奥義!!!」」

 




だいぶ前に天竜が使った剣術、「皐月」「神無月」の伏線を回収しました。
今回までで12技中、8技が公開されたわけですが、残りの4技も是非とも楽しみにしていて下さい!
次回予告
剣士としての覚悟
~朧月光流こそ天下無双の剣技なり~


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第二十三話 剣士としての覚悟

最近、良晴ら正規主人公が蔑ろになってる気がする.....


その頃の日本。信貴山城にて返り討ちにあった長秀は渋々と安土城に帰参する。

 

 

「返り討ちにあった!?」

 

「申し訳ありません姫さま!!」

 

 

天竜のいない信貴山城など難攻不落であっても、決して強城ではないと踏んでいた信奈。だが、その予想は大きく外れてしまった。

 

 

「雑賀孫市、森水青蘭両名の妨害により、将軍様救出は失敗いたしました。十三点です」

 

「森水青蘭?」

 

「本人は羽柴天竜の姉と名乗ってました.....」

 

「天竜の姉!?」

 

「本当だよ。あの人も未来から来たらしい。姉弟仲は悪いけど、青蘭さんの方は天竜さんを溺愛してるようだ」

 

 

一度、捕虜状態になっていた青蘭に会っていたが、よもや将軍の護衛をする程天竜に重宝されていたとは知らなかった良晴である。

 

 

「それを早く言いなさい!!!」

 

 

信奈にぶっ叩かれた。

 

 

「にしても.....天竜と十兵衛は何処行ったのよ.....」

 

「本当に駆け落ちしたのでしょうか.....」

 

「おまけに、左近や嘉隆までいなくなって.....織田はいったいどうなるのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は明に戻る。

 

 

「鹿島新当流!!」

 

「朧月光流!!」

 

 

 

「「奥義!!!」」

 

 

2大剣豪の叫びが明に轟く。

 

 

「一つのたっ.....なっ!?」

 

 

義輝が技を発動しようと試みたその時、彼は天竜のとある構えを警戒し、その動作を停止した。

 

 

「片手.....上段!?」

 

 

左腕を失っている以上、天竜にはこの手しか残っていないだろう.....

しかし。

 

 

「読めん.....むぅ.....」

 

 

今まで攻撃一辺倒であった天竜は、ここにきて急に動かなくなってしまった。

義輝は様子見の為に天竜に一歩近づいてみる。すると天竜は、義輝に向け刀を振るった。

 

 

「おっと!危ない」

 

 

来るとは分かっていたが、義輝は思わず冷や汗をかく。

 

 

すると今度は天竜の反応する前に近づけばいいと、俊足にて前進する。

ところが。

 

 

「のわっ!?」

 

 

天竜は、刀を短く持ち替え、至近距離にやって来た義輝に刀を横に振るう。義輝は今度は慌ててそれを避けた。

 

 

「なるほど.....離れた相手には刀を長く持って面打ち。近くの相手には短く持って胴打ち。相手の行動によって動作を大きく変える「返し技」の剣技か.....」

 

「..........」

 

 

天竜はじっと黙って、冷静を保っている。

義輝は今度はやや距離を付けようとする。ところが、天竜は反対に距離を詰めてきた。

 

 

「そして、常に同じ距離を保っている。これは厄介な相手だ.....」

 

 

ひょっとして気付いたか.....?

私が返し技の剣士だという事を.....

 

義輝は思考を続ける。

 

私はその昔、ずっと弱い剣士だった。いくら相手に向かっていってもすぐにやられていた.....だからこそ自らは進まず、待つ事にした。

ただただひたすら待ち、進んで来た相手の隙を見つけ、返し技を喰らわす。それさえ極めればあとは敵なしだった。相手が攻撃一辺倒なら、私は負けなしであった。

もし、相手もまた返し技の剣士であれば、「一つの太刀」がある。

「返し技」「一つの太刀」この2つさえあれば、私は無敵であった。

 

しかし、この天竜という男.....

この土壇場に来て同じ返し技にて構えを取っている.....一つの太刀もまた、彼の秘策によって防がれた。

 

この私に打つ手がない?

 

馬鹿な!?そんなわけがない!!

何かがあるはずだ。この者を倒す方法が.....

 

 

 

やってみるか...........?

 

 

 

義輝が動く!!まっすぐ天竜に向かって!!当然、天竜もそれに対し、待ち構える。

 

 

「天竜よ!!私の勝ちだ!!」

 

 

義輝はいきなりその動向を停止したのだ。ペースを崩され、モタついてしまう。このフェイントこそが、天竜に大きな隙を与えてしまった。

この状態なら打てる!!

一つの太刀が!!!

 

 

「俺が負けだと!?」

 

「私の勝ちだ!!」

 

「違うな.....」

 

「!?」

 

 

天竜は己の折れていた左腕を義輝の刀に突き刺したのだ。

 

 

「なっ!?」

 

 

義輝は慌てて刀を引こうとした。だが、ビクともしない。反対に押しても動かない。左腕の血肉や骨に挟まれ、刀身が固定されてしまっているのだ。

 

 

「使えねぇなら.....盾にするっきゃねぇだろ?」

 

 

天竜は嫌な汗がダラダラと流れている。折れていたとはいえ、腕に刀なんか刺せば、相当な痛みなはずだ。

義輝はハッとする。2人の動きは完全に停止している。義輝は己の刀を取り返そうと奮闘するがどうにもならない。逆に天竜は黙ってその構えを取る。

悠然と構えられた片手上段。

既に峰に返され、今にも振り下ろされる直前だ。義輝は慌てて刀を取り戻そうとする。だが、全く動く気配が無い。天竜もあえて腕を捻る事で刀身はギッチリと挟んでいる。

 

 

「これが俺の覚悟だ!」

 

 

義輝がその時、気づく。

刀を離せばいいのではないのか?

先ほどの天竜だってそうしたじゃあないか!なら何故!?この手は柄を離そうとしない!?

 

 

「あんたは立派だよ.....」

 

「!?」

 

「あんたは立派な侍だ.....」

 

 

この停止した状況で天竜が淡々と語る。

 

 

「俺なんか偽物だ.....侍にならうとしてもなりきれない.....まやかしなんだよ.....」

 

「.........」

 

「だからこそ!!

俺はあんたを倒して侍に一歩近づく!!」

 

 

天竜は上段に上がった右手の刀に力を込める。

 

 

「朧月光流!奥義!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事だ.....」

 

 

義輝はそう呟き、振り下ろされる刀身を静かに目を瞑って受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「弥生!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして.....

力尽きて座り込む天竜と、敗北した義輝は仰向けに倒れていた。

 

 

「天竜が..........勝った!?」

 

 

十兵衛が感動のあまり涙を流す。

 

 

「だあぁ!!痛っててててぇ!!」

 

 

未だ突き刺さったまま義輝の刀を無理矢理引き抜く。

 

 

「私は負けたのか.....?」

 

 

一時的に気を失っていた義輝が意識を取り戻し、口ずさむ。

 

 

「頭打って記憶が飛んだか?」

 

「其方が刀を振り下ろしたのが最後の記憶だ」

 

「安心しろ。そこから3分も経ってねぇから」

 

「.....ぷん?」

 

「いや.....いい.....」

 

 

天竜はフラフラしながらも立ち上がり、義輝の近くに立つ。

 

 

「読んでいたのか?

私が絶対に刀を離さないという事を.....」

 

「あんたさっき、俺が離した刀について色々と語ってだろ?『刀は武士の魂』だって.....俺を刀を離すしか逃げ道がない状況に追い込んでしまった事にも、あんたは燻しげな顔をしてたしな。

だからこそ直感した。あんたは武士として、侍として、剣豪として、将軍として.....絶対に刀を離さないって事を.....」

 

「フッ.....」

 

「俺が刀を離した時、返した貰ったのがあるから、あんたが万が一刀を離したとしたら返そうと思ってたんだけどな」

 

「ふん。そんなもの、私の誇りが許さぬよ」

 

「やっぱりな」

 

「だが、誇りがあり過ぎるのも問題だな。そのせいで松永久秀に敗北したのもある」

 

「..........」

 

「己の周囲に数本の愛刀を突き刺し、向かってくる敵を全て斬りふせる程の鬼人となっていた私に対し.....松永は家来に畳で防御しながら抑え込めと命じた。私は碌に戦う事も出来ずに敗北した。今まで己に近い実力の剣士に出会えず、松永とも真面に戦えず、ずっと悩んでいた。

今日、やっと其方に合間見える事ができた。やっと念願の真剣勝負を!本気で斬り合うという夢を叶える事が出来た!其方にはとても感謝している!してもしきれない程に!」

 

「仰向けになったまま言われてもなぁ~」

 

「おぉ、すまん」

 

 

指摘され、ゆっくりと起き上がる義輝。

 

 

「そもそも私と其方とでは覚悟の差に大きな開きがあったのかもな.....

私は日本で戦を起こす妹を止められれさえすればいいと思っていた。

だが、其方は違う。戦を真から無くしたい!その為なら自らが滅びても良いという覚悟で戦っておる。刀を通じてそれが我が身にも流れて来たよ.....」

 

「義輝.....」

 

「私の負けだ羽柴天竜秀長.....

朧月光流こそ天下無双の剣術だよ」

 

 

その言葉に思わず天竜は涙を流したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか天竜!」

 

「あぁ、大丈夫だ.....」

 

 

骨は砕かれ、筋繊維が見える程抉れた左腕は見るも耐えなかった。十兵衛は悲しげな表情でその傷を見つめる。

 

 

「酷い怪我です.....」

 

「あぁ、まぁ仕方ない。剣豪将軍との勝負で左腕だけで済んだのが奇跡みたいなもんだよ」

 

 

天竜は至って気にしていなかった。

 

 

「天竜.....」

 

「なんだい十兵衛?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「記憶.....戻ってるですね?」

 

「..........」

 

 

天竜は答えなかった。ただただ沈黙が続き、そうして最後の最後で小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........いつからです?」

 

「..........さっき、義輝に腕をやられて、吹っ飛ばされたのが切っ掛け。そこから記憶が急に蘇ったんだ..........十兵衛は何でそれに気付いたんだい?」

 

「さっきの..........義輝様の一つの太刀を防いだ技は正しく『突き』による一つの太刀。同系統の技で相殺した.....違いますですか?」

 

「あぁ.....」

 

「塚原卜伝氏に弟子入りし、一つの太刀を習得したのは、大人の貴方です.....若返った貴方が使える筈がないです。無意識に発動させたという考えも浮かびましたが、1回戦目と2回戦目の戦い方の大きな変動から、前者であると判断しましたです」

 

「流石だ。秀才なだけある」

 

 

天竜はゆっくりと息を吐き、口を開く。

 

 

「実際のところ.....あのまま死んでた方が良かったのかもな」

 

「なっ!?」

 

「だってそうだろう。

惚れた女、大切な家臣、大事な弟とその家臣。それらを守って死んだなんて、末代まで英雄と称えられただろうな」

 

「そんな.....私は.....」

 

「だが、それは建前の一つに過ぎない」

 

「!?」

 

 

天竜は今度は真っ直ぐと十兵衛に向かい合って言う。

 

 

「俺は君ともう一度会えた事が何よりも嬉しい!」

 

 

それは遠回しな告白だった。

 

 

「正直、最初の告白以降も俺は君を利用しようとか黒い事しか考えてなかった。考えに考えて、どう使ってやろうなんて.....

でも、その直前に俺の目の前にあった顔も君だった。あれ程までに愛したヒカリじゃなくて、君だった.....その途端に死が恐怖に変わった。目を閉じればもう君と出会えない。もう君を想う事すら許されない。虚無になる.....」

 

「天竜.....」

 

「そこで俺は終わった.....

気付いた時、何故か若返ってて剣豪将軍と決闘中だった.....もう訳がわからん」

 

「いいのです天竜!!

貴方が帰って来てくれさえすれば.....私はそれで.....」

 

「と言っても.....俺は俺じゃなくて僕なんだけどな」

 

「は!?」

 

 

天竜から発せられた謎の言葉に困惑する十兵衛。

 

 

「今言ったのは僕の中に入って来た俺の記憶.....」

 

「えっ!?えっ!?」

 

「17歳の僕の中に27歳の俺.....僕の記憶の一部な流れ込んだだけ。つまり、本質は17歳のままって事」

 

「え?」

 

 

十兵衛が理解するには難解であったが、その広い額でしっかりと受け止める。

 

 

「君との想いでも27歳の僕が経験した、他人の記憶としてしか流れていない.....」

 

「そんな.....」

 

 

十兵衛は落胆する。天竜は自分を真から好きだと言ってくれた.....なのにとうの天竜は.....もういない。

 

 

「でも僕も君が好きだよ」

 

「......................え?」

 

 

少年天竜から思わぬ言葉が出る。

 

 

「確かに、大人の俺が君を好いていたのは、僕にとっては他人事.....でもね、人への好意ってのはちょっとした切っ掛けで生まれるもんなんだよ」

 

「.....どうゆうことですか?」

 

「頭の中に常に君への好意の記憶が流れてて、夜中にこっそり口づけしてくるような女の子を好きにならないわけないだろう」

 

「しっ.....ししし知ってたですか!?」

 

「バッチリとね」

 

 

それを知り、顔が林檎のように紅潮する。

 

 

「異性に好意を寄せるなんて初めてだ.....教えてくれないかい?」

 

「ふぇっ!?.....何を!?」

 

 

すると、天竜は十兵衛のすぐ間近に接近する。

 

 

「君との恋愛の仕方」

 

 

そう言って十兵衛に口づけをする。次の瞬間、十兵衛はいつものようにぶっ倒れてしまった。

 

 

「見た目やさ男のくせに随分と女子(おなご)殺しなのだな」

 

 

その光景を見ていた義輝が呆れた声を出す。

 

 

「これでも『第2の姫武将殺し』の称号を持ってるみたいでね」

 

「ほう」

 

 

天竜は気絶した十兵衛を背負って、義輝の側に寄る。

 

 

「左腕は済まなかったな。これからは隻腕で戦わなければなるまい」

 

「心配すんな。ほれ!」

 

「なんと!?」

 

 

天竜の左腕は大量の血液が付着しているものの、バックリ空いていた傷口は完全に塞がっていたのだ。

 

 

「さっきも言っただろう?僕.....俺は勘解由小路家の者。剣士であると同時に術士なのさ。傷口を開く前の状態まで戻すのなんて序の口.....みたいだね」

 

「ふむぅ.....まるでマヤカシのようだ」

 

「ほら、この通りだ」

 

 

天竜は未だ倒れたままの義輝に手を差し伸ばす。義輝はそれに応じて手を取った。

 

 

「本当だ。凄いものだな君は。私が勝てぬわけだ.....」

 

「あっ!

試合中は術なんて使ってないぞ?

あくまで自分の力でやった!」

 

「ふふっ。分かっているさ」

 

 

フラフラになりながらも義輝はやっとのことさで立ち上がる。

 

 

「アッ!試合終ワッタアルカ?

オ昼用意シタカラ食ベルガヨロシ!」

 

 

様子を見に来た黄黄が声をあげる。

 

 

「「ぷっくくく.....」」

 

 

2人同時に笑い出してしまった。

 

 

「腹が減った。食うたら日本に戻るとしよう!」

 

「そうだな」

 

 

こうして2人の剣豪の真剣勝負は終結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を終えた後、義輝と黄黄は旅支度をし、4人は一益達が待ってるであろう港へ出発する。

 

 

「日本か.....懐かしいな。1年振りだろうか」

 

「黄黄ハ初メテダカラ、楽シミアル!」

 

 

2人は2人なりに楽しみにしている。

絶賛戦争中の日本に行って、2人はどう思うだろうか?

 

 

「ほら港へ着いたぞ!

..................................あれ?」

 

 

船がない!?

 

 

「おかしい!!昨日は確かにここに停まってたのに!!」

 

 

勝手に帰ってしまったのか!?

 

 

「..........ひょっとしてあれじゃないですか?」

 

 

十兵衛が青い顔をして沖を指す。

 

 

「あ.....」

 

 

そこには明の軍船に追っかけられている日本の軍船があった。

 

 

「もしかして倭寇と間違えられてるんじゃ.....」

 

 

天竜が呟く。

 

 

「えっ!?」

 

「確か幕府は貿易船と倭寇との区別する為に勘合を用いた勘合貿易をやってたんだよ.....」

 

 

しかし、それを大々的に行っていた大内氏は度重なる乱によって弱体化し、その回数も減少。日本ではその風潮すら忘れさられていた。

だが、明には未だ残っていたのか、勘合を持っていない嘉隆の軍船を倭寇と決めつけ、撃沈させようとかかんに大砲を撃っているのだ。

 

 

『きゃはははははははははははははは!!

逃げろ~!逃げろ~!』

 

 

日本船の船頭ではしゃいでいるのは

一益...........ではなくアマテラス!

すぐ後ろで一益と嘉隆がアワワアワワと彼女の行動に恐れ、とうのアマテラスはもの凄い笑顔で明船を嗾けている。

もしかして、勘合とかは関係なくにアマテラスが明船に喧嘩売ったのでは?

 

 

「何やってんだあのバ神!」

 

 

先日の「姐さん」と呼んで慕っていた時とは大違いだ。

 

 

 

その時!明から放たれた大砲の弾丸が日本船の船頭に激突した。

 

 

「「「あ!!?」」」

 

 

アマテラスに直撃したのだ。

 

 

「ご先祖様~!!」

 

 

一益が慌てて駆け寄ると、そこには全身グチャグチャのアマテラスがいた。グチャグチャにも関わらず、平気で立っている。

 

 

『むぅ~!!

これだから支那人は嫌いでありんす!!』

 

 

全身真っ赤だが、頬を膨らましてるのが分かった。

 

 

 

アマテラスがパッと元の姿に戻ったかと思うと、彼女は急に真剣な表情をし、明船に指を差す。

 

 

『出でよ我が式神!』

 

 

アマテラスが海中へ術を唱える。

その途端!海中から数本の大木が出現する!

いやそれは大木ではない!

八本の足である!!

 

 

『クラーケンよ!!愚かな支那を喰いつくせ!!』

 

 

「クラーケン」

欧州の航海士なら誰もが知っているであろう海の怪物。見た目はタコとイカの中間といった所だろうか。世界に進出しようとした各国の船を次々に沈め、その船員を何百と捕食したという.....

そのクラーケンが明船に絡みつき、その怪力でバキバキとそれを潰しにかかっている。

 

 

「化.....化东西!!」

 

「打!!大炮」

 

 

明船から数十発の大砲が放たれ、八本の足を削ぐ。だが、クラーケンの勢いは全く衰えない。

クラーケンの本体は海中の中にあるのだ。手足をいくら攻撃したところで無意味。

 

 

『割れ!!クラーケン!!』

 

 

まるでポケ●ンのように命令するアマテラス。命令通りに、八本の中でも特に大きい2本を振り上げる。

 

そして振り下ろした。

 

 

 

次の瞬間!明船は真っ二つに割れる!

 

 

「「「啊那样啊~~~!!!」」」

 

 

両側に急な滑り台のようになった床を船員が真ん中に向け滑り落ちてゆく。

..........その真ん中にはクラーケンの口が!

 

 

「おえっ!!」

 

 

その光景を見ていた十兵衛がさっき食べた昼食を吐き出しそうになる。それ程、悲惨な光景であった。

 

 

『きゃはははははははははは!!!』

 

 

それをただ1人愉快に笑いながら楽しむ者が.....神とは思えない邪悪さである。

 

 

「ふくくくくくく.....」

 

 

かと思えばアマテラスだけではなかった。天竜もまた、邪悪に微笑していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おぉ~!おかえりでありんす天ちゃん!』

 

「このバ神!ちっとは神としての威厳も保てよ!」

 

「ありぃ?天ちゃん、捻くれ小僧に戻ったかや?」

 

「誰が捻くれ小僧だ!」

 

 

まだ覚束無いながら、元の天竜に戻りつつある彼である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変だ!こっちの船も沈む!」

 

 

そんな最中、嘉隆の声をあげた!

さっきまでの明からの攻撃。特に船頭への攻撃に、船がついに壊れてしまったのだ。

 

 

『仕方あるまい。わっちがまた移動させてやるでありんす』

 

 

アマテラスが術をかけようとした時。

 

 

「待った!それは僕の仕事だ」

 

「ん?」

 

「自分も術を使える事を思い出したんだ。ここは僕に任せて欲しい!」

 

「いや.....折角わっちが無償でやってやるというのに.....」

 

「まぁまぁ見てなって!

....................召喚!!」

 

 

天竜の指輪が蒼く光る。

久々の天竜の召喚術が炸裂する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!?何ですかこれは!?

こんな小さな船でどうするですか!?」

 

「これは飛行機だ!」

 

「ひこうき!?」

 

 

「飛行機」

1903年にアメリカのライト兄弟が開発した『ライトフライヤー号』が初の機体である。そこから飛行機は木製のものから鉄製に変わってゆき、世界大戦時には戦闘機となり、戦争の主戦力となるまでになった。

ちなみに、「飛行機」という名称を考えたのは、森鴎外が1901年に言ったのが最初と言われる。

 

 

「オスプレイだ。これならこの人数でも運べるぞ!」

 

「まるで.....鉄の鳥です.....」

 

 

こうして、十兵衛らが人類初の飛行機搭乗者なったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「墜落したじゃないですか!!!(怒)」

 

「あるぇ~???」

 

 

日本海上に浮かぶ御一行があったのだった.....

 




自分で書いてて、文章の意味やそれまでの繋がりがこんがらがってしまってしまう事がよくあります。私も大変こんがらがってるので、ご了承下さい。
次回予告
将軍家
~義元の思い~


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第二十四話 将軍家

最近、私の作品の読者数が増えない理由の1つとして、一話あたりの文字数が多すぎると分かりました。でも、突然減らすと調子が狂うので、継続させることにします。
でも、少しずつ減らしていきたい。



天竜の操縦ミスによって、日本海上に墜落したオスプレイ.....

かろうじて死傷者は出なかったが、このままでは溺れてしまう。

 

 

「はははっ!!

将軍家に生まれてこの方!

海で泳ぐなど初めての経験だ!」

 

 

何故か義輝ははしゃいでいる。

 

 

「てんてん!!(怒)

姫を殺す気か!!」

 

 

嘉隆にしがみ付いて、一益が叫ぶ。

 

 

「うぅ.....アメちゃんは落ちないって言ったもん!」

 

 

なんか言い訳をする天竜。

 

 

「帮助!!我不能游!!

是不是谁!!天龙!帮助!!!」

 

 

黄黄も溺れかけて、大変な事になっている。

 

 

『だから言ったでありんす。

操縦方法も完璧でないのに勘でやったりするから.....』

 

「ヘリの操縦なら分かってたんだけどね.....」

 

『慢心は今も昔も変わらぬのう』

 

 

2人だけプカプカ空中に浮く天竜とアマテラスが溺れている一行を見下ろしている。

 

 

「どうでもいいです!!

自分らだけ浮いてないで、助けなさい!!」

 

 

十兵衛の怒号が飛ぶ。

 

 

「お願いです姐さん。もっかいあれやって」

 

『どうしようかの~。

さっきバ神って言われたしの~』

 

「うぅ.....要件は?」

 

『私は天照大御神様の足下にも及ばぬ、蠅程度の価値しかないしがない人間です。どうかこの愚者に天照大御神様の遂行なる力をお貸し下さいませ。

.....と言って、わっちの爪先にキスするでありんす』

 

「ぐぐぐ.....私は天照大御神様の足下.....

足下..........くそっ!言えない!!」

 

 

 

「早くしやがれです!!!(怒)」

 

 

 

その後、アマテラスの力により、一行は日本海上から姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信貴山城にて。

 

 

「わらわは将軍なのじゃ!

この処遇は万死に値するぞ!!」

 

「うるっさいな~」

 

 

義昭の駄々は日に日に大きくなっていた。

 

 

「静かに!!天竜が帰宅するまでは捕虜らしくしていなさい!!」

 

 

まるで親のように義昭を叱りつける青蘭。

 

 

「捕虜!?このわらわが捕虜だと!?」

 

 

理解してなかったのか?

 

 

「うぐぅ.....わらわが自由なった時には覚えておれ!磔にしてやるぅ!!」

 

 

そこに青蘭のゲンコツが飛ぶ。

 

 

「ふぎゃっ!?」

 

「大人に向かってなんて口の聞き方だ!」

 

「この年増女め.....」

 

 

そこからさらにグリグリが追加された。

 

 

「ぎゃーーー!!!」

 

「だ~れが年増だってぇ?

まだ25だ!!」

 

「いや~~~!!!

ごめんなさい!!ごめんなさい!!」

 

「それでよろしい!」

 

 

これでは某アニメの親子のようだ。

 

 

「あの~。よろしいですかい?」

 

 

1人の男が現れる。

 

 

「誰だお前は!!敵か!!」

 

「いやいや!

あっしは鉄砲隊副長の大吾という者です!」

 

 

久々の登場である。

 

 

「すると天竜はんの?」

 

「はい。天竜様からの伝言で、『至急義昭を連れて二条城に来て欲しい。向こうで落ち合おう』だそうです」

 

「「二条城!?」」

 

 

現在、二条城には今川義元がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。二条城前で再会した天竜一行と青蘭一行。そこで、義昭の文句がさらに大きくなる。

 

 

「ああ!!羽柴秀長め!!

よくもわらわにこのような辱めを!

磔じゃ!切腹じゃ!」

 

「よしなさい!!

天竜は私の友人だ!!」

 

「うぇっ!!?義輝兄様!?」

 

 

しばらく会っていなかった兄と突然の再会である。

 

 

「どうして.....兄様が!?」

 

「兎に角、天竜に従いなさい。

彼は信用できる男だ」

 

「はっ..........はい.....」

 

 

今までの傲慢な態度が嘘のようにシュンとしてしまった。

 

 

「そうゆうこと!

さぁ、二条城に入るよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てっきり室内にいると思っていた義元は、あろうことか戦時中にもかかわらず、庭で蹴鞠をして遊んでいた。

 

 

「あっ!天竜さん!」

 

 

天竜に気づいた義元が蹴鞠を中断して、駆け寄ってくる。

 

 

「あら?天竜さん.....」

 

 

以前会った男が若返っていれば疑問にも思うだろう。

 

 

「髪の色が変わってますのよ?」

 

 

そっちかい!

どれだけ鈍感なのだこの能天気姫は.....

 

 

「あら?そちらは...................義輝様!?」

 

「久しいな、菊」

 

 

なんと2人は知り合いだった。

義元の幼名は「芳菊丸」義輝は縮むて「菊」と呼んでいるらしい。まぁ、今川家は足利家の分家。義元は実質、元々は義輝に仕えていたようなものだったのだ。

しかも、ただの主君と家臣の関係ではない事が2人から感じられた雰囲気から分かった。

 

 

「以外だな。知り合いなの?」

 

「菊とは我が父、足利義晴が12代将軍であった頃からの付き合いでのう。昔はよく遊び相手にしていたものだ」

 

 

つまり幼馴染みという事だ。

 

 

「だがな、私は『もののふごっこ』をやりたかったのに、菊はいつも『貴族ごっこ』をやりたいと喚いていたからのう。しょっちゅう喧嘩しておった」

 

 

義元らしい。

 

 

「ちょっと義輝様!!」

 

 

義元は赤面しながら、己の過去を恥ずかしがっている。

 

 

「私の幼名が菊童丸という事もあり、よく菊からは『わらべさん』なんて呼ばれていたのう。義藤に改名してからは何故か『富士さん』と呼ばれ、義輝になってからは『てるてる坊主さん』略して『てる坊さん』なんて呼ばれた事もあった」

 

 

己の黒歴史を暴露され、もはや反論すら出来ないほどに赤面してしまった義元。

 

 

「それはわらわがまだ幼少であった頃の事.....今は違いますわ!」

 

「はいはい.....しかし、菊が他兄弟との家督争いに参加してからはめっきり会えなくなったなぁ」

 

「..........」

 

「君が桶狭間にて織田に敗れたと聞いた時は心底心配したよ」

 

「妾も.....義輝様が久秀さんに襲われた時は、とても心配しましたわ.....」

 

「..........」

 

「..........」

 

「そんな事より屋内に入らないか?外で立ち話もなんだろう」

 

 

2人の昔話が長くなりそうだったため、天竜が話に区切りをつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此度の件は非常に厄介なものだ」

 

 

屋内に入り、天竜が高座に座る義元の前で頭を下げ、延べる。

 

 

「13代将軍足利義輝は松永久秀・三好党の謀反行為により京を追われ、明へ逃亡した。後継者たる足利義昭は義輝と共に明へ逃亡する事となる。松永らに擁立された傀儡将軍の足利義栄は1年と持たなかった。

そこで、織田信奈が足利分家筋である今川義元を15代将軍に盛り立てた。全ては己が京を支配するためのお飾り将軍としてな。

ところが、本来の後継者たる足利義昭が明から戻って来てしまった。その結果、将軍が2人いる羽目になり、今に当たる」

 

「はい.....」

 

 

この因果関係がある限り、どちらかが破滅しないと戦が終わる事はないだろう。

 

 

「そこでだ。今、一番の問題となっているのは君が分家筋だという事だ」

 

「はぁ.....」

 

「ここで逆転の発想を用いる。

逆に考えれば、義元が分家でなければ問題は消滅するという事だ」

 

「「「!?」」」

 

 

そこにいた誰もがその状況についていけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「義元.....お前、義輝と結婚しろ」

 

「...........」

 

「...........」

 

「「「..............................」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「えええぇぇぇぇぇぇ!!?」」」

 

 

特に1番驚きを挙げていたのは義元だ。

 

 

「義元が義輝と結婚しさえすれば、義元は正式な足利将軍家。足利義元となる。まぁ、今川ではなくなるが、今より良くなる事には間違いない。幼馴染みなら丁度いいと思ってな」

 

「そそそそそんな!!!

急に、天竜さん!!」

 

「無論、君が義輝とどうしても結婚したくないというのであれば、これを強制するわけにはいかなくなるが、どうだ?」

 

「あぅ.....」

 

 

そうして義元は天竜の奥に座る義輝をそっと見つめる。彼は多少天竜の言動に驚いていたが、彼なり何かを考え、じっとこちらを見つめている。何かを決意したらしい。

 

 

 

 

 

「.....その...........すわ.....」

 

「えっ?

もう一度言ってくれないか?」

 

 

 

 

「..........義輝様と結婚したいですわ!!」

 

 

これ以上ないというぐらいの紅潮な顔色で叫ぶ。天竜はそれを微かな笑みで受け取った。

 

 

「だとさ義輝。お前さんはどうだ?」

 

 

天竜は振り返り、後ろの彼に聞く。彼はしばらくの沈黙の後、やがて口を開く。

 

 

「私と天竜が真剣勝負をし、私が負ければある程度のいう事を聞くという約束であった。だから、私はこの縁談を断る理由がそもそもないのだ」

 

 

それを聞いて義元がパァーと明るくなる。

 

 

「ふっ.....見ず知らずの女性と結婚させられるならまだしも、菊との結婚なら私も大変うれしい」

 

 

その言葉に義元は再び紅潮する。

 

 

「兄上!!

それは本気ですか!?」

 

 

当然、義昭は納得いかないだろう。

 

 

「無論だ。第一、お前が将軍になりたいと我儘を申して、私が止めるのも聞かず、日本に戻って戦を起こさせたのだろう?

私はそのような、日本を戦火に落とすような行為を許すわけにはいかない!」

 

「だからといって、正規の将軍職を持たぬような奴に.....」

 

「おやぁ?正規の将軍職を持たぬのは貴方もでは義昭殿?」

 

 

天竜が言う。

 

 

「なんじゃと?何故わらわが将軍職を持たぬのじゃ!?」

 

「義昭殿。貴方、物心がついてすぐに寺に入れられなかったか?」

 

「うっ.....そうじゃが?」

 

「それは足利将軍家の家督相続者以外の者として慣例で仏門に入れたのだろう?つまり、貴方は生まれつき将軍にはなれんのだ!」

 

 

ガーーーンΣ(゚д゚lll)

 

 

「そっ..........そんな.....

わらわは将軍になれぬというのか.....」

 

 

心底ガッカリしている義昭。

まぁ、他に後継ぎがいなければ消去法で義昭にも将軍職が回ってくるのだが、義元同様に役職に疎い彼女にはすっかり騙されてしまっている。

 

 

「おいおい。私の妹をあまりいじめてくれるなよ」

 

「おぉ、すまん」

 

 

義輝と多少のアイコンタクトをとった後、再び義元に向き直る。

 

 

「結婚のお祝いに入りたいところだが、本題はこれからなのだ」

 

「なんですの?」

 

 

そこで驚くべき言葉を彼が発する。

 

 

 

 

 

 

 

「将軍職を辞してくれないか?」

 

「...............................は?」

 

 

今までの結婚話はなんだったのかというぐらいに驚くべき事だ。

 

 

「なっ.....なんでですの!?

なんでわらわが.....」

 

「未だ、今川義元を将軍と認めず、義昭こそ後継ぎだという者が多くいる。義昭をこのまま放置すれば、いずれまた擁立されて、戦を起こすだろう。それを防ぐためにも義昭を早いうちに押さえておかねばならん。その為に、今のうちに彼女を新将軍にしておく必要がある」

 

 

その言葉に、暗くなっていた義昭が急に元気になる。

 

 

「わらわが.....わらわが将軍になれるのか!?」

 

「えぇ、特例中の特例ですので感謝して下さいね」

 

「やった~~~!!!

感謝するぞ羽柴天竜!

わ~い!」

 

 

単純な義昭からの信用をがっちりと得る天竜である。

 

 

「よし!将軍様の命令だ!

今川義元は斬首なのじゃ~!」

 

「ふっ.....お戯れを義昭公」

 

 

そんな時、今まで黙っていたが耐えきれずに叫ぶ者が現れる。

十兵衛である。

 

 

「天竜!!それは確かに正論かもしれないですが、今川義元は信奈様によって擁立された身。貴方が一概に決められる事じゃないです!!」

 

「なんじゃ!?わらわが将軍になるのを邪魔だてする気か!?

羽柴天竜の敵はわらわの敵じゃぞ!磔にせよ!」

 

 

単細胞な彼女の中では、拉致の件はチャラになっているらしい。

 

 

「義昭殿は黙ってろです!!」

 

「ひぃっ!?」

 

 

かなりきてるらしい十兵衛。

義元と義輝の結婚話を取り上げたまでは天竜の行動に感心していたが、この件に関しては真逆。裏切られたような思いなのだ。

 

 

「何を熱くなっている?

話はまだ終わってないぞ?」

 

「何っ!?」

 

 

そこでもう一度義元に振り返り、天竜はやや頭を下げた。

 

 

「義元。君には将軍の次の位に就いて貰おう!」

 

「次の位!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「義元!君は『大御所』になれ!」

 

「「「大御所!!?」」」

 

 

この場で冷静であったのは天竜ただ1人であった。

 

 

「古くは、3代将軍足利義満、

6代将軍足利義教、8代将軍足利義政がなられた位だ。将軍職を辞した者のみが就ける偉大な位。将軍職を辞した後も、その権力を維持し、まつりごとに参加できる。これ以上ない位だ。大御所になるには分家では難しいからな。義輝との結婚はその布石さ」

 

「3代将軍が.....

わらわが.....大御所に?」

 

 

義元は俯き、プルプルと震えていた。

一瞬、泣いてるかとも取れたが、すぐに違うと分かった。

 

 

「『大御所今川義元』いえ、

『大御所足利義元』!!!

これ以上ない素晴らしい響きですわ!!」

 

 

義輝との結婚話以上の歓喜を見せる義元。義輝は複雑な気持ちである。やはり、3代将軍の名を出したのが効いたのであろう。足利義満は義元が憧れ、尊敬している偉人であるからだ。

 

 

「どっ.....どうゆう事なのじゃ??

このうるさい女を切腹にせよ!」

 

 

難しい話について行けなかった義昭がまた処刑命令を出す。

 

 

「おーほっほっほ!!!無駄ですわ!

わらわは大御所!足利義元!!

将軍、足利義昭さんよりも高い位で、偉大な者ですわ!

そんな命令など声なき声に等しいですわ!」

 

「そんな~!

..........というか、この女と兄上が結婚するという事は、この女がわらわの義姉になるという事ではないか!?」

 

 

ようやく理解する義昭。

 

 

「おーほっほっほ!

これからお義姉さまと呼ぶがいいですわ!」

 

「うぅ~!!」

 

「...........」

 

 

十兵衛は唖然としていた。ここで義元を大御所にするなど、心の片隅にも想像していなかったからだ。義昭も義元も天竜を支持している。

 

もはや、幕府すらも天竜によって支配されてしまったのだろうか.....

 

 

「そして、義輝。

お前には義昭の後見人になってもらう。あまり暴走し過ぎないように仲介に立ってくれ」

 

「あっ.....あぁ.....」

 

「続いてだ..........阿吽!」

 

「「あいよ!!」」

 

 

この2人の登場も久々だ。

 

 

「連絡通り、連れてきたか?」

 

「「連れてきたよ!」」

 

 

そこに現れたのは.....

 

 

「氏真!?」

 

 

義元の腹違いの妹、今川氏真である。

 

 

「遠征に行かせていたのを急遽、帰らせた」

 

「遠征?」

 

 

天竜の言葉に違和感を覚える十兵衛。

今はそんな事より.....

 

 

「おひさ....................姉様」

 

「どうして...........貴方が.....」

 

「俺が呼びました」

 

「天竜さんが!?」

 

「えぇ、ヒコには管領になってもらうので」

 

「「「管領!!?」」」

 

 

天竜の大御所発言と同様の驚きが一同に伝わる。

 

 

「通常、管領家は細川、斯波、畠山の三家だが、幕府が衰退している今、それにこだわる必要はないだろう。先代の管領であった細川藤孝殿とは話をつけた」

 

「藤孝と知り合いだったのか!?」

 

 

義輝の管領が藤孝なのだ。

 

 

「細川殿は私と同盟関係で、義父なんです。細川殿の娘である細川忠興を私が義妹にとる事で.....」

 

 

十兵衛がそっと説明を加える。

 

 

「義昭の暴走を義元が抑え、義元の暴走を氏真が抑える。義昭には、氏真が他人と溝を作らぬようにして貰う。この関係こそが、幕府再興に繋がると僕は予測している」

 

「けったいなもん考えるわなぁ」

 

「ふっ.....流石は私の愛弟」

 

「天竜.....」

 

 

誰も非の打ちようがなかったのだ。

 

 

「覚悟して下さいまし.....

大御所の権力で調子に乗れば

........................................殺す」

 

「ひぃっ!?..........わっ、分かりましたわ!」

 

 

天竜はこの時の為にずっと氏真を説得していたのだ。義元への恨みはとうとう解消出来なかったが、殺意だけは抑える事ができた。

天竜は、後は本人達の問題と判断し、このような形をとったのだ。後は時間だけが解決してくれると信じて.....

 

 

「義昭殿.........野良犬ぐらい.....騒いだら..........首チョンパだから.....」

 

「ひぃっ!?」

 

 

大丈夫..........だよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜..........若返った?」

 

「あ、説明すんの忘れてた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り際に、義輝に話しかけられた。周りには誰もいない。

 

 

「いいか、天竜?」

 

「どうした?」

 

「お前正気か!?」

 

「何が?」

 

「菊を大御所にしたことだ!!」

 

 

そりゃあ怒りたくもなるだろう。

 

 

「大御所とは、御所の上を行くという意味!つまり、姫巫女様を越えるという意味なんだ!

こんな馬鹿な事があるか!!」

 

「ほう、つまり義満や義政は馬鹿であったと?己の先祖を馬鹿呼ばわりとは、なんと嘆かわしい」

 

「違う!菊をそのような立場に立たせた事を言っているのだ!」

 

 

大切だから.....大切な存在であるからこそ、義元を唆した天竜に対し、一怒りをぶつける。

 

 

「これから菊は、多くの者から白い目で見られる事となる!御所すら支配しようとした愚か者として!

菊は強い女子だ。だが、同時に弱くもある!とてもその重圧に耐えられないだろう!その責を持つ資格がお前にあるか!!」

 

「それは夫である、貴様の仕事だ」

 

「何っ!?」

 

「第一、一度の敗北で全てを放棄した貴様が言える立場か?

真剣勝負で再度敗北した貴様が!

この俺様に文句を言える立場か?」

 

「貴様~!」

 

「先程、お前は俺に言ったな。

俺が戦を無くしたいと思っていると.....

否、それは違う。

戦争は無くならない。永遠に、永遠にな。

戦争の対義語は何だと思う?

平和?.....違う。

話し合いだよ。

そして、平和の対義語は争いだ。

戦争と争いは同じではないのか?

否、戦争こそが平和を作り出す布石となるからだ。戦争でどちらかが滅びる事で、二国間の歪み合いも無くなる。

.....俺は平和が好きだ。だから、同じくらい戦争も好きにならなければならない。応仁の乱以降、戦争が起こらなくなってから、戦国大名が現れ、日本中で歪み合いが続いている。

だが、織田信奈が義元を倒し、斎藤氏を倒し、京を制圧した。それで、近畿に平和が現れた。

だが、また次の敵が現れた。それらを倒す事でまた平和になった。

伊達の奥州制圧。

武田の中部制圧。

北条の関東制圧。

毛利の中国制圧。

長宗我部の四国制圧。

全て戦争のお陰さ。戦争こそが平和を作る。戦争こそが、今まで不幸であった多くの者を救える!」

 

 

天竜の演説が延々と続く。

これが天竜の思想なのだろうか。

 

 

「だが、制圧が進んだ事で実力が同等の強者ばかりが残って、近郊状態が続いている。これではいつまでも平和は訪れない!」

 

 

義輝も彼なりに反論するが.....

 

 

「だからこそ!

俺がそれら全て打ち倒し、日本を統一させる!!

上杉も!武田も!北条も!毛利も!

平和の邪魔になる障害は全て俺が排除する!

それが例え義元であっても、貴様であっても、十兵衛であってもだ!!」

 

「...........」

 

 

義輝はもう何も言い出せなくなってしまった。人の強い信念はどうやっても、他人が変えられるものではない。

 

 

「進むか.....修羅の道を.....」

 

 

怒りもすでに治まっていた。むしろ感心すらしていた。

 

 

「その思想を繋ぐ道は孤独の道だ。

それを突き進む覚悟があるのか?」

 

「是非に及ばず。魔神と契約したその日から、俺の決意はただ1つだ」

 

「そうか.....」

 

 

義輝は天竜に跪くよう促した。

彼は素直にそれに従う。

 

 

「13代将軍足利義輝として命じる。

其方、羽柴天竜秀長を副将軍に任ずる。

どうか、どうかこの日の本に平和を。天下を。其方の力で手に入れてほしい。

私と主従の関係を結べ。

さすれば、我が家宝『童子切』をくれてやる。受け取るがよい」

 

 

帯刀していた「童子切」を天竜に差し出す。

 

 

「その命、受けまする。閣下」

 

 

そうして、天竜は刀を受け取る。

こうして天竜は副将軍の位を手に入れる。

 

 

「日の本に平和が訪れた時、

もう一度私と真剣勝負をしてくれ」

 

「ふっ.....いいぜ!」

 

 

天竜は笑顔で返す。

 

 

 

少年天竜が成人した瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから半月後。

将軍足利義昭、大御所足利義元の命により、毛利方へ停戦命令が下された。これ以上織田と争えば、朝敵とみなし、討伐軍を送ると.....

 

 

「お久しぶりね天竜。

よくもまぁ、副将軍なんて位に勝手になったわね」

 

「義輝に直接任じられた。文句なら彼に言え」

 

「ふん!勝手にさせてもらうわ!」

 

 

2人の歪み合いは未だ続く。

 

 

「ところで、今日の要件は?」

 

「結局、毛利はまた攻めてきたわ。

そこで、貴方の所属を変更する。

左近らと共に海上から攻めなさい」

 

 

陸戦が主の天竜軍を船に.....

考えたな?

 

 

「いいでしょう。村上武吉は私自らが撃たねばならぬと思っていたので」

 

「ちっ!」

 

 

信奈は天竜の暗殺計画をとうに中止していた。代わりに、彼の勢力だけを著しく下げようと試みているのだ。そのために、凪という忍をもう一度天竜の下へ偵察として送っているのだ。

 

 

「あっ、そうそう。コレ土産です」

 

 

天竜は何やら風呂敷を彼女へ渡す。それは重く、丸い形の物だった。

 

 

「何よこれ?」

 

「開けてみて下さい」

 

「開けろたって..............................!?」

 

 

 

 

 

 

中から人の生首で出てきた。

 

 

 

 

 

 

「ひぃっ!!ひぃゃっ!!!

 

いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

信奈は脳内がグチャグチャに捻じれ、発狂する。

 

 

 

それは凪の首だった。

 

 

 

「私の周りをウロウロとしていた不審者です。恐らく毛利方の忍でしょう。

その様子だとご存知で?」

 

「しっ.....知らないわ!!!」

 

「本当に?」

 

「知らないって言ってるでしょ!!」

 

 

シラを切らなければ自分が殺される!

 

 

そうですかと天竜は言葉を返し、左近や嘉隆に共闘の挨拶に行くと、安土城を後にした。

 

 

「ごめんなさい.....

ごめんなさい!

ごめんなさい!!

ごめんなさい!!!

ごめんなさい!!!!

ごめんなさい!!!!!

ごめんなさい!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!!!!!」

 

 

信奈は凪の首を抱き、ただただ誤り続ける。まるで壊れたラジオのように.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふくくくくくくくくくくくくく.....」

 

「.........」

 

 

そうして、あの高笑いがまた響く。

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!」

 

「...........」

 

「あそこまで錯乱するとはぁ!

なんたる酔狂!なんたる甘美!

面白いものが見れたなぁ、おい」

 

「くすっ.....そうですね」

 

 

天竜の影に潜む何者かが、返答する。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか!

幻術を使ってるとはいえ、

 

人形の首を持って、ビービー喚き散らすとはぁ、笑いを堪えるのが至難であった!」

 

「.....はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくやったぞ凪。褒美を取らそう!」

 

 

 

 

 

 

 

天竜の影にいた存在、それは凪本人であった。

 

 

「よもや、二重間者がここまで上手くゆくとはな!これだから策謀は面白い!」

 

 

二重間者。つまり二重スパイである。

 

 

「作戦はまだ始まったばかりです」

 

「おうよ!

信奈は外から壊すのは難しい。

だが、内からなら.....

これ程容易な事はない!!」

 

 

完全に暗黒面に落ちた天竜。

彼はその目で何を見る?

 

 

 

「織田信奈.....

お前はこれより嫌という程精神を破壊されるのだ!覚悟しておくがよい!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 




とうとう、幕府まで支配させてしまった。
作者にもかかわらず、天竜が怖すぎる今日この頃。
次回予告
魔力封印解除
~この俺を殺したくば、世界ごと破滅させよ!~


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番外編3

本編が追いつかなかった為、また番外編挟みます。
量は多いですが、気軽に読んでくださいね。


7話   お料理対決

これは、前回に引き続きお誕生日会のお話。今回は秀俊である。

長浜城にて羽柴兄弟が集結する事なる。

 

 

「チキチキ!

お料理対決~!

パフーパフーパフー!」

 

「........................は?」

 

 

突然の天竜の提案である。

良晴の頭上に???が出る。

 

 

「知っての通り、シンは痩せの大食いだ!」

 

「知らないけど.....」

 

「うわ~.....知らないんだって。

兄としてどうなの?」

 

「秀吉殿は嫌いだから気にしないなのです」

 

「お~。シンはいい子だなぁ」

 

「こら!俺の評価下げるんじゃねぇ!」

 

 

良晴は、直家の一件から天竜に対し、不信感を覚えている。その天竜に招待されたのは癪だったが、義妹の誕生日会と言われては、断ればますます嫌われそうなので、出席する事に.....

秀俊は天竜の膝の上で幸せそうに座っている。さっきまでは、若返った天竜に対し、ねね共々戸惑っていたが、今は完全に慣れてしまっている。今までは親子ともとれる年の差があったが、それが縮まった事で、より関係が深まったようだ。

 

 

「天竜の言う通りだ!

こんな可愛い妹達をほっぽいて.....

貴様に兄を名乗る資格はない!!」

 

 

ねねを膝に乗せた青蘭が言う。

 

 

「弟に嫌われてる貴方が言いますか!?」

 

「何!?

姉ちゃんの事、嫌いなのか!?」

 

「いや.....青蘭の前の記憶が戻ってしまって.....嫌いにはなってないけど、正直ちょっとウザい」

 

 

ガーーーンΣ(゚д゚lll)

 

 

「ねねは蘭姉さま、大好きですぞ!」

 

「辰も蘭姉さまは好きなのです」

 

「あ~~~!!!

お前らホントに可愛い!!」

 

 

青蘭と2人が出会ったのはつい先程だ。天竜に妹がいると知った彼女は招待もされてないのに、突然やって来た。始め、目つきの悪い彼女に、ねねも秀俊も怯えていたが、彼女が思ったより優しく、また女同士という事もあって、ほんの1時間くらいで仲良くなっていた。

天竜の実姉という事もあり、羽柴兄弟の新たなメンバーとして迎え入れられたのだった。

 

 

「小っちゃくて、可愛くて、いい匂いして、素直で、妹で、兄姉思いで、妹で、ホンットに可愛い!!」

 

 

「妹で」が2回あったな。

 

 

「食べちゃいたい.....」

 

 

シスコン属性が開発されてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!これからお料理対決を行う!

立会人は我が専属料理人の黄黄!」

 

「ヨロシクアル!」

 

「...........」

 

 

また変な人増えてる.....

 

 

「規則は至って単純!

お互いに秀俊の為に料理を作り、

満足させた方が勝つ!

それだけ!」

 

「..........まぁ、そんなことなら」

 

 

良晴も彼なりに準備をする。

 

 

「優勝商品は、秀俊から頬への口付けだ!」

 

「維持でも勝って下さいまし天兄さま!!」

 

 

それは、天竜にキスしたいのと、良晴にキスしたくないの両方の意味が籠っている。

 

 

「頑なにショック.....

審査員がこれじゃあ勝ち目なくない?」

 

「誰がどっちの料理を作ったのかは秀俊には公表しない。それをしてしまうと、確実にお前が負けるからな」

 

「くっ!」

 

 

自信満々に言ってるのが腹が立つ。

 

 

「用意始メアル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム良晴。

アシスタントは五右衛門。

 

 

「何を作るでござるか?」

 

「う~ん。何がいいかな~?」

 

「秀俊殿の好物はありますか?」

 

「..........知らない」

 

「とても兄とは思えぬでごじゃる」

 

「すまん.....」

 

 

ねねと違って好かれない妹を好きになれるかというととても難しい。だが、今はそんな事は言ってられない。

以前の料理対決のように揚げたこ焼きで行くか?いや、これはもう古い。当然、秀俊も食べただろう.....

 

 

「そうだ!秀俊はまだ子供だ!」

 

 

子供の大好きな料理を考えればいい!

子供の三大好物。それは、

ハンバーグ!

カレーライス!

ラーメン!

 

この3つの中で、国産の材料で作れる料理は.....

 

 

「五右衛門、ハンバーグ作るぞ!」

 

「はんばあぐ?」

 

 

実際、良晴の好物でもあった。

 

 

「五右衛門!玉ネギ用意!」

 

「はいでござる!」

 

「玉子用意!」

 

「はいでござる!」

 

「パン粉..........はないか。

代わりにおから用意!」

 

「はいでござる!」

 

「牛乳用意!」

 

「はいでござる!」

 

「挽き肉用意!」

 

「はいで...........挽き肉!?」

 

 

ペースが急に止まった。

 

 

「羽柴氏、挽き肉とは?」

 

「ん?あらびき作んだよ。牛とか豚とかの.....」

 

「羽柴氏、牛や豚の食用は仏教においてきゅんしされちぇるでごじゃる」

 

 

キュン死?

......................あぁ、禁止ね。

 

 

「.....................え?」

 

 

禁止されてるだとぉう!!!!?

 

 

「どうすんだよ!!

じゃあ食べれる肉って何!?」

 

 

「主に鳥肉でござる。

鴨とか、丹頂とか.....」

 

「ダメだダメだ!

鳥のハンバーグなんて..............

いや、待てよ?」

 

 

鶏のハンバーグだってあるんだ。

でもある材料は鴨肉。

いけるか?

 

 

「ウジウジ悩んでなんていられねぇ!

鴨でハンバーグ作るぞ!」

 

「はいでござる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、チーム天竜。

アシスタント阿斗、吽斗

 

 

「「せ~んぱいっ!」」

 

 

アシであるはずの阿吽が五右衛門に抱きつく。

 

 

「阿吽!?

お前達は天竜殿の手伝いでは?」

 

「だってぇ、

手伝いはいらないって天竜が.....」

 

「先輩と遊んで来いだって」

 

 

阿吽がそれぞれ言う。

 

 

「でも!でも!

拙者も羽柴氏の手伝いをせねば.....」

 

「あとは焼くだけだし、行ってこいよ」

 

「うぅ.....では、仕方ないので行ってくるでごじゃる!」

 

「何して遊ぶ?」

 

「先輩とは久々だから楽しみ!」

 

 

白い頬を紅潮させながら後輩忍者2人に手を引かれる五右衛門。

だが、良晴はそれを見逃さなかった。

阿吽が五右衛門が見えない死角で邪悪な表情を浮かべているのを.....

 

 

「あの2人が1番天竜さんの邪悪さを受け継いでんだろんなぁ」

 

 

阿吽が言う「遊び」とは、何も鬼ごっこやかくれんぼではない。もちろん忍者の遊びである。

 

 

「「「土遁!!!」」」

 

 

3人が一斉に姿を消す。

 

 

「「「火遁!!!」」」

 

 

と思ったら3本の火柱が上がった。

このように、忍法を出し合って技を競い合っているのだ。

この火柱の大きさから実力は見て取れる。阿吽はほぼ同等。五右衛門はその倍ある。五右衛門が圧倒的ととれるが、阿斗と吽斗は2人で1人の双子忍者。力合わせれば五右衛門にも匹敵.....それ以上かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終盤ごろ。

 

 

「そういえば、この勝負においては、仏教とか関係なしにするからな。黄黄を立ち会いにさせてるし.....牛豚の肉の使用は自由だ」

 

「言うの遅せぇよ!!!

もう出来上がる所だぞ!!?」

 

 

このような点で汚いのが嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「出来た!」」

 

 

良晴、天竜が同時に料理を完成させる。

 

1品目は良晴のハンバーグ。

黄黄が秀俊の前にそれを出す。

 

 

「初めて見る料理なのです」

 

 

秀俊の興味は充分惹いているようだ。

秀俊は良晴と天竜を交互に見る。

どちらが作った料理か見定めてるのだ。

 

 

「シン。とりあえず食え。

品定めはそれからにしろ」

 

「はっ.....はいなのです!」

 

 

箸で器用に切り分け、口に運ぶ。

 

 

「ほふっ!中まで熱いなのです!」

 

 

一口一口ふーふーしながらパクパクと口に運ぶ秀俊。ねねがそれを羨ましそうに眺めていると、切り取った肉片をねねにも食べさせてあげた。2歳年上のお姉さんだけある。

「美味しい」などの感想は無かったが、とりあえず満足させたようだ。

 

 

「鴨肉でハンバーグを作るとは.....

発想の展開だな」

 

「誰かさんのせいでね.....

天竜さんは何を作ったの?」

 

 

その時、秀俊の前に天竜の料理が運ばれる。

 

 

「何だあれ!?」

 

 

特に変な料理という訳ではない。

至ってシンプルなチャーハンだ。

問題はその量だ。

 

例えるならば富士の山。

とても10歳の少女の食べきれる量じゃない。それをあえて天竜は出したのだ。

すると、秀俊はハンバーグの時とは打って変わって眼を輝かせながら、与えられた杓子(レンゲの事)を手に、猛スピードで口に放り込む。

 

 

「どうゆうこと!?」

 

 

この変わり様は異常だ。

そんなにチャーハンが好物なのか?

 

 

「シンはな、味が分かんねぇんだ」

 

「は?」

 

「料理の醍醐味である味が分からない。だから秀俊は兎に角、胃の中を一杯に満たす。それが味ありであろうと無かろうと、関係ない」

 

「どうゆう事だよ!?」

 

「シンは味覚障害者だ」

 

「は!?」

 

 

以前も、信奈の誕生日の食事の際、三成が作らせた塩抜きの味なし料理を平気でパクパク食べていた。

 

 

「あれ以来、気になって医者に調べさせた。そしたら予想通り。シンの舌は、甘味、苦味、酸味、辛味の全ての味覚が機能してなかった。あるのは触覚や痛覚ぐらい.....」

 

「なんだよそれ.....」

 

「だからそれからは、シンの食事にはいつも気をかけるようにしていた。味などはどうでも良くても、毒入りの料理を気づかずに飲み込んでしまうかもからな。信用できる料理人に任せてた。これからは黄黄に任せようと思う」

 

「ちょっと待てよ!?

それを知ってるアンタは適当に作ったチャーハンを大量に作ればいいだけじゃないか!!

そんなのを利用して作られた勝利を手に入れただけだろう卑怯者!!」

 

 

そのような障害を持つ弱い立場の秀俊を利用した事が良晴には許せない。

 

 

「何を勘違いしている?」

 

 

天竜はため息をついて、チャーハンを少しだけ小皿に取って良晴に渡す。

 

 

「食え」

 

 

良晴は渋々それを受け取る。

そして、杓子で掬って口に運ぶ。

こんなの、味なしに決まって.....

 

 

「!?.......................何だよコレ!?」

 

 

良晴の様子が一変する。

 

 

「美味しい.....メチャクチャ美味いぞ!?」

 

 

てっきり味なしの、消しゴムのような味のチャーハンを予想していたにも関わらず、その予想を大きく反して美味しかった。というか絶品だった。

 

 

「黄黄に習ったチャーハンを俺風に、日本風に味付けしてみた。正直の所自信作だ」

 

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってくれ!!あんたさっき.....」

 

「確かにシンは絶品料理だろうが、

味なし料理だろうが変わらない。

だけど.....味なし料理を食わせるなんて可哀想過ぎるだろう?

だから、俺はシンには絶品料理を食わせてやるようにしてる。味覚障害だって関係ない。俺の意志として、シンに美味いもんを食わせてやりたいんだ」

 

「.....天竜さん」

 

「この勝負の勝利は実際のところどうでもいい。全てはお前のためだ」

 

「俺のため!?」

 

「お前、シンの事何も分かってなかっただろ.....教えてくれなかったは理由にならんぞ?お前が知ろうとしなかったからだ。

人生には、知らず知らずに他人の不幸を見逃している事がしょっちゅうある。お前さんが心の底から正義の味方を目指すんなら、それらにも気をかける事だ」

 

「天竜さんも正義の味方を目指してんのかよ?」

 

「正義の味方?

はっ......まさか!」

 

 

そこでまたあの邪悪な表情になる。

 

 

「俺は悪の敵だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、案の定秀俊が選んだのは無駄に量が多く、無駄に美味いチャーハンに決定。満足気に天竜にキスする秀俊だった。

その夜、遊び疲れた秀俊とねねは青蘭と一緒に就寝。天竜の話が気になって眠れない良晴はふと縁側に出る。すると、そこには月明かりに照らされ、煙管を咥えて一服している天竜が。

 

 

「未成年が.....しかも元教師が喫煙かよ」

 

「精神年齢は27だからいいの」

 

「ふん。都合がいいこって.....」

 

 

良晴は天竜の隣りに座り、月を眺めながら言う。

 

 

「あいつら不幸にしたら俺が絶対許さねぇからな」

 

「ふっ.....不幸になどさせるものか。

 

....................何をしてでも」

 

「..........」

 

「それにしてもいい三日月だ」

 

 

その後、2人は何もしゃべらずに只々、月を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8話   温泉での出会い

今日は織田家臣団にて慰安旅行。

ちと休み過ぎな気もするが、温泉に入ってしまえば関係ない。特に女子連中は大きく、豪華な露天風呂に大満足していた。

 

 

「市、だいぶ大きくなったわね。

調子はどう?」

 

「順調ですお義姉様。

今年中には産まれる予定だそうです」

 

 

温泉には妊娠中の市もいた。

温泉で療養する為に、夫婦でやって来たのだ。ちなみに信澄は良晴と一緒に山猿用の動物風呂である。

本来なら混浴であったが、信奈の命令で弾かれてしまったのだ。

 

 

「うぅ.....信奈様も柴田殿も市殿も丹羽殿も皆、豊かそうで羨ましいですぅ」

 

 

十兵衛がぼやく。彼女も決して貧乳ではないのだが勝家達と比べてしまうと、ちと物足りない。

 

 

「貧乳の良さが分からないのはまだまだ未熟」

 

 

身体的に未熟な犬千代が独自の自論をとく。

 

 

「私も羨ましいですが、大きい方は肩が凝りやすいと聞いてます。くすんくすん」

 

「まぁ、男にとってはおっぱいなんて煩悩の塊でしかないからね」

 

 

両兵衛が語る。

 

 

「べっ.....別にいいじゃないの!

私だって六に比べたら、ちょっとって思うし.....というか六がデカすぎなのよ。所詮脂肪の塊よ」

 

「そんな姫さま~!」

 

「あははははははは!」

 

 

今日の信奈は機嫌が良かった。何故なら、今回の旅行に天竜が来ていない。というか呼んでないのだ。その分、十兵衛の元気は無かったが.....

 

 

 

 

 

 

 

そんな時。

 

 

「三成と吉継は?」

 

「夜に入るんだと。あの2人って根本的にあたしらと距離取ってるからな」

 

「気に入らない。あの2人は最近天竜様にベタベタしすぎ!」

 

「まぁまぁ、折角集まったんだから温泉楽しもう!」

 

 

何やら湯気の奥から聞き覚えのある声がしている。信奈達が気になり、そこへ近づいてみるとそこには、なんと天竜家臣団の少女達が揃っていたのだ。

 

 

「あんた達!?」

 

「「「信奈様!?」」」

 

 

お互いの存在に驚く。

いたのは、左馬助、武蔵、小次郎、順慶である。

 

 

「筒井順慶!?」

 

「お久しぶりですねぇ信奈さん」

 

 

以前は対立していた2人である。

 

 

「天竜の家臣になったていうのは本当だったみたいね」

 

「えぇ、貴方と久秀さんのせいで取られたままの筒井城を返して下さったのは天竜様ですのでぇ」

 

 

含みのある言い方だ。

彼女が半陰陽だという事は天竜しか知らない。この温泉でも、ずっと身体に布を巻いて隠してしまっているので、気づけた者は1人もいない。

 

 

「ふんっ!三好と組んでいつまでも暴動を起こしてたからでしょ!自業自得よ!」

 

 

順慶はそれを笑顔で返したが、湯船の中で拳をギリギリと握りしめ、耐えている事を天竜家臣団の者が気づく。

 

 

「それくらいにしたらどうです信奈様。今は双方とも慰安旅行の最中です。いがみ合いはやめましょう」

 

 

天竜家臣団の1人がそう言って止める。信奈は彼女初めて見る人物だと認識していたが、また新しい女だろうと納得する。

 

 

「ふん。あんた名前は?」

 

「朧と申します」

 

 

やはり聞いた事がない。

 

 

「あ~。あんたらいるって事は天竜もいるの?」

 

「えっ.....あぁ.....まぁ.....」

 

 

小次郎があやふやな答え方をする。

奇しくも信奈一行も天竜一行も別々に旅行を計画して同じ温泉に来てしまったのだ。

 

 

「ちっ!折角の旅行が台無しじゃない!」

 

「「「...........」」」

 

「姫さま!」

 

 

長秀が慌てて止める。天竜家臣団の前でこんな発言は命取りであるからだ。

 

 

「まぁまぁ、ここで会えたのは何かの縁です。仲良くしましょう」

 

 

また朧という人物が言う。

信奈は初見であるにも関わらず、何処かで会ったことがあるのではないかと思案する。

 

 

「きっ!」

 

 

ギリギリと左馬助が歯ぎしりをしながら信奈を睨みつける。

 

 

「それに、貴方は天竜を勘違いしている」

 

「勘違い?」

 

「彼こそ、民を思い、国を救おうと考えている人物は他にいない。旧体制の破壊ばかりを唱える貴方と違ってね」

 

「何ですって!?」

 

「日本を世界に向けさせるのは良きこと。ですが、まだ向く意識が持てない者を力で排除したり、蔑ろにするのは角違いだ。それらの意見も尊重した上で、双方に納得のいく解決策を見つける。実力行使のみの貴方とは大違い。それが天竜との大きな違いです」

 

「ぐぐぐ.....言わせておけば」

 

 

そうして朧は邪悪な表情でとどめを指す。

 

 

「お前のような愚者に天下などとれませんということです」

 

「このっ!!言わせておけば!!」

 

 

信奈が今にも飛びかかりそうだったのを勝家が慌てて止める。

 

 

「申し訳ありませんが出て行ってもらえませんか?これ以上の姫さまへの暴言は死罪に値します」

 

 

長秀が静かに語る。

 

 

「それもそうですね。皆さんそろそろ出ましょう」

 

 

布を首にかけた朧が湯船から出る。顔もかなりの美人であったが、スタイルもなかなかである。

 

 

「覚えておきなさいよ。朧」

 

「覚えられる範囲でなら」

 

 

そうして朧一行は出て行ってしまう。

 

 

「どうしたのよ十兵衛?」

 

 

思えば、朧一行と会ってから一言もしゃべらずに俯いている。

 

 

「いや、まぁ...........その.....」

 

 

言えない.....言えるはずがない.....

あの朧という少女の正体が.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

........................................天竜だなんて

 

 

 

 

 

 

「天竜様!」

 

「今は朧だよ」

 

「そっ.....そうでした朧様!」

 

 

風呂から戻ってきた皆に三成が駆け寄る。

 

 

「お前達は寝る前に入るのだろう?

俺も付き添ってやろう」

 

「あっ.....ありがとうございます!」

 

 

後ろで弟子達がまたブツブツ文句言っていたが、朧は気にしない。

 

部屋に戻った彼女は窓辺にドカッと座り込み、そこから煌びやかに光る月を見る。

 

 

「いい満月だ。こんな身体でなきゃ、

さらにいいんだが.....」

 

「朧様.....」

 

「ツクヨミと一体になり、若返ってから.....俺の身体は日に日に変化していっている。満月の夜のこの変化も.....」

 

 

朧と天竜は同一人物であった。

満月の日が訪れる度に、身体が男性のものから女性のものになるのだ。恐らく、ツクヨミが女であるためだろう。

なんとなく順慶の気持ちが分かる気がする。

 

 

「それにしても顔はあまり変化されてないんですね」

 

 

元々女顔だからだ。

 

 

「喧嘩売ってんのか?」

 

「いやっ!滅相も!!」

 

「ふっ.....」

 

 

家臣団のものは当然この真実を知っており、最近は一緒にいることが多い十兵衛も知っている。当然驚き、同情の念などが惑い、複雑な表情をしていた。

 

 

「ツクヨミか.....いつか決着つけなきゃな」

 

 

再び満月を見る。

 

 

「本当に良い満月だ。

今日は他にも良い満月を沢山見れたがな

くくくくくくくく.....」

 

「女性化しても、助平心は相変わらずですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9話   錬金術師

堺。とある茶屋にて、お馴染みの連中にて茶会が開かれていた。参加者は天竜、利休、佐介、道薫。

 

 

「あぁ~。平和だねぇ」

 

 

お茶を啜りながら天竜が語る。

天竜が副将軍になり、そのつてで毛利の進軍を食い止めた。つかの間ではあるが、次の戦まで休息が訪れる。

 

 

「平和ですねぇ」

 

「平和やなぁ」

 

「..........(コクリ)」

 

「暇だ。なんか面白い事ないか?」

 

「............(フルフル)」

 

「ん~.....」

 

 

また静寂が訪れる。

 

 

「そういやお前、錬金術師だよな?」

 

「...........(コクリ)」

 

「誰に習ったんだ?西洋の魔術だろ?」

 

「...........」

 

「日本に来てた欧州の錬金術師に習った?」

 

「..........(コクリ)」

 

「一体誰だ?」

 

「...........」

 

「なっ.....なんだと!?」

 

 

今までのゆったり感が嘘のように天竜が驚愕し、利休に問い詰める。

 

 

「その人は今どこにいる!?」

 

「...........」

 

「堺にいるだって!?

今すぐ探しにいくぞ!?」

 

「Σ(・□・;)」

 

「どこ行くんや天竜はん!?」

 

「何をそんなに慌てて.....」

 

 

佐介、道薫を置いて天竜は利休の手を引いて出ていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堺にて。

 

「いた!あれか!?」

 

「..........(コクリ)」

 

「すまん!そこの人!!」

 

「ん?」

 

 

その人物は天竜に気づき、振り返る。金髪に碧眼の40代くらいの白人男性。それにお付きとして、こちらも金髪碧眼の10代くらいの少女がいる。

 

 

「私が何か......................利休!?」

 

 

利休に気付いたその男は利休に気づき驚く。日本語はフロイス同様に上手いようだ。

 

 

「昨日ぶりですね~。

お便器でしたか?」

 

 

お元気と言いたいのか?

日本語は難しいようだ。

 

 

「おや?そちらは?」

 

 

彼が尋ねてきたため、天竜は自ら名乗る。

 

 

「俺は羽柴天竜秀長と申します。

サンジェルマン伯爵」

 

「ん?何故私の名を?」

 

「貴方の名は有名だからな。

利休から聞いて驚いた」

 

 

 

『サンジェルマン伯爵』

16世紀末から18世紀末の約200年間ヨーロッパ各地に出没した謎の錬金術師。記録によれば、最初は1710年ヨーロッパに突如現れ、その後数十年間の間にたびたび姿を表したが、一切年をとってないように見えたという。前世の記憶とそれに関連する知識がある、あるいは、常軌を逸した長寿をもたらす秘薬をもち、その結果2000年とも4000年ともいう驚異的な記憶を有していたといわれる。また貴石・宝石の類いにも非常な関心をもって多くを所有していたといわれ、ダイアモンドの傷を消す秘法を身につけていたとされる。

 

 

 

「『3000歳の怪人』『不老不死の化物』

色々呼び方がある」

 

「化物とは少々失礼なお人だ」

 

「すまない。

だが、貴方には聞きたい事が山ほどある」

 

「ほう?」

 

「あんた.....実際の所、何歳なんだ?」

 

「..........」

 

「キリストの誕生。

クレオパトラの様子。

それらを自ら見たように語り、

ルイ15世との謁見をし、

第二次世界大戦にも出没。

20世紀の日本にも現れた。

しかも未来の知識を過去で公表するなどという行為までしている。

どう考えてもただの長生きとは思えない」

 

「というと?」

 

「あんたは時空は行き来している。過去へも未来へも自由に行ける。それが3000年の絡繰だ。まぁ、多少は秘術で延命してるだろうが、精々200歳ぐらい。そうだろう!!」

 

「.......................流石は『朧組』組長、勘解由小路天竜。まるで名探偵だね」

 

「あんた!!俺を知ってるのか!?」

 

「君は気づかないだろうね。私がいつも近くで見ていた事を.....」

 

「近くで!?」

 

「君こそ年齢はいくつだい?

見た目通りではなさそうだけど?」

 

「..........身体年齢は17。

精神年齢は27だ」

 

「では神としての年齢は?

君の中の彼女は?」

 

「..........さぁな。5000歳か、

10000歳か、はたまた1億歳か.....

本人が語らねぇから分からん」

 

 

 

 

この男.....俺の中のツクヨミまで.....

 

 

「神の加護まで得ている君が私に何を聞きたいのだい?」

 

「..........あんたの持つ神薬の作り方」

 

「断る」

 

「早いな.....」

 

 

以前、芦屋道海に延命の術を教わったが、それでは老化や死までは止められない。

 

 

「君は不老不死を軽んじている。

不老の苦しみ。不死を苦しみを知らぬ君には神薬を与えても意味がない」

 

「ちっ!」

 

 

天竜には必要だった。

不老不死の力が.....

ある事を成し遂げる為に.....

 

 

「しかし、ある試練に合格すれば、教えてやらんでもない」

 

「何っ!?それは何だ!?」

 

「この子の世話を頼む」

 

 

伯爵が指したのは隣りの付き人である。

 

 

「この子は?」

 

「百年戦争を終わらせた女神様だよ」

 

「..............................は?」

 

 

『百年戦争』

フランス王位の継承とフランドル地方の領有その他をめぐって、フランス王国とイギリスが戦った戦争。中世の戦争の常として、戦闘は断続的に行われたものである。

当初フランスは劣勢であり、強敵のイギリスの前に、侵略されつつあった。だが、1429年に彗星の如く現れたとある少女の活躍により形勢が逆転することとなる。指揮官としてのカリスマ的才能を駆使し、数々の戦闘を次々に勝利。フランスの希望の星となった。

だが、フランス国王とは馬が合わなかった。このままでは、フランスがイギリスに勝っても、国王の勝利ではなく彼女の勝利にされてしまうと国王が勝手に解釈し、彼女を蔑ろにした。最終的にはイギリスへ売り渡し、彼女はその地で理不尽な形で裁かれ、業火の中で苦しみながら死んでいった英霊。

 

 

「ジャンヌ.........ダルク?」

 

「私を..........ご存知で?」

 

 

その美少女は首を傾げている。

 

 

「生き返らせたのか?」

 

「『反魂』は能力の高い術者の嗜みであろう」

 

「いったいどうして!?」

 

「その理由は君が見つける事だ」

 

 

すると伯爵は懐から金色の粉を取り出し、それを真上に振りまく。すると、黄金の霧が伯爵を包む。

 

 

「さて、私はそろそろお暇しよう!

次会うのは未来か過去かそれとも.....

また会おう天竜くん!!」

 

 

そうして霧のように伯爵は消えてしまった。というか後半、日本語ペラペラ喋ってたな.....最初のアレはキャラ作りか?

 

 

「..........?」

 

 

利休が話についていけず不思議な表情をしている。

 

 

「あの..........私はどうすれば?」

 

 

伯爵に詳しい話を聞かなかったのか、置いてけぼりにあった金髪碧眼の美少女は不思議な表情で天竜を見つめる。

 

 

「俺こそ今からどうすれば.....」

 

 

色々と任された天竜が1番複雑な表情をしていたのだった。

 




秀俊の味覚障害。
天竜の女体化。
サンジェルマン伯爵とジャンヌダルク。
次々にフラグ作り過ぎて、頭が沸騰中であります!


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第二十五話 魔力封印解除

あぁ、オリジナルストーリーに走りすぎて、『信奈の野望』オール無視の今日この頃。


第二十五話

信貴山城、天竜室にて。

外の景色を見ながら煙管を咥える彼は布団で横たわる女性に問いかける。

 

 

「こんな褒美でよかったのか?

望みさえすれば土地だろうが、金だろうがくれてやったのに.....」

 

 

彼女は胸元を布で隠しながらゆっくりと起き上がる。

 

 

「私は天竜様の忍、天竜様の影です。

土地も金銭も必要ありません。

こうして天竜様のご寵愛を受けれただけでも充分過ぎる程幸せにございます」

 

「むぅ.....」

 

「天竜様は刺客であった私の命を助けただけでなく、行く手の無くなった私に居場所を与えてくれました。これ以上の恩恵がありましょうか?」

 

「あれはお前が久脩達に術をかけられ、操られていたんだ。お前には罪はない」

 

「しかし無意識とはいえ、無実の市民や子供達を殺すという呪縛から救って貰いました。感謝してもしきれません」

 

「むっ.....むぅ.....」

 

 

普段、恨みを買う事の多い天竜は恨みには慣れっこだが、こうも感謝されると、なんだか歯がゆい気持ちになる。

 

 

「人斬りとして対峙した相手が天竜様で本当によかった.....」

 

 

そう、凪の正体は以前堺に現れた4人組の人斬りのうちのたった1人の生き残りなのだ。久脩らに「恍惚の術」をかけられた彼らは、堺にて人斬りを起こした。理由は天竜をおびき出す為。ところが、4人はあっさり天竜の前に敗北する。すると、「排水の呪い」もまた受けた彼らは全身から血を霧のように噴き出し、次々に絶命。最後に残った凪のみ、辛うじて救う事が出来た。

数ヶ月かけて凪を療養。全快した彼女を信奈の下に間者として潜り込ましたのだ。凪が反天竜派という事を知った信奈はすぐに凪に信頼を置いた。後は計画通り。

凪は天竜の情報を信奈に教える.....そう見せかけて虚報を伝え、反対に信奈側の情報を天竜に伝えていたのだ。

 

 

「だが、俺は結果的に君を死んだ人間にしてしまった。前々からの計画とはいえ、悪い事をしたと思っている」

 

「先程申したように私は忍、影です。元々表舞台には出てくる事のない人間です。気にしておりませぬ」

 

 

それを聞いた天竜は、ゆっくりと彼女に近づき、後ろから抱き寄せる。

 

 

「てっ.....天竜様!?」

 

「君程の人物を影に置いておくのは惜しい。君は表に出てくるべきだ」

 

「表に?」

 

「あぁ!

今天竜軍にはお前と阿吽の3人しか忍がいない。俺はこれを一世一代の隠密部隊に編纂したい!そしてその長としてお前を迎えたい!」

 

「私を!?」

 

「あぁ!

強さだけなら阿吽かもしれぬが、

頭脳戦ならお前の圧勝だろう!

長に相応しいのは強さより、頭に良さだ!お前の判断でどんどん引き入れるがよい!伊賀でも甲賀でも風魔でも!信用でき、使える者はどんどん採用せよ!

お前はもはや影ではない!表に立ち、天竜軍の武将として取り立ててやる!それが今回の褒美とする!」

 

 

その天竜の思いを受け、凪は涙を流す。

 

 

「あっ.....有難き幸せ。

これ程私を認めて下さるとは.....」

 

「武将であるなら、忍としての名の『凪』以外に新しい名が必要だな!

..............................よし決めた!」

 

「新しい..........名前.....」

 

「お前の名前は.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

摂津、港場にて。

信奈に命令された通り、滝川・九鬼軍と共に水路にて攻めるため、兵を集めた天竜。

だが、ここでとある問題が起こる。

 

 

「はぁ!?

嘉隆が引きこもった!?」

 

「そうなのじゃ。

明での出来事があってから、海に出ると蛸の化物に喰われると恐れてしまってのう」

 

「要するにトラウマになってるわけね。どうしたもんかなぁ?」

 

「美少年のてんてんが頼めば治るかもしれぬぞ?くすくすくす」

 

「しゃ~ないな~」

 

 

そうして天竜は嘉隆が引きこもっている宿屋に訪れる。

 

 

「嘉隆~」

 

「ひっ.....天竜殿!?」

 

 

完全に怖がられてる。

 

 

「あんたがいないと船が動かせない。

折角作った『鉄甲船』も水の泡だ。

お願いだ。協力してくれ」

 

「『鉄甲船』が村上水軍に通用するとは限らない!もしかしたら前回よりも強い攻撃方法を用意しているかもしれない!」

 

 

その嘉隆の言い分に対し、天竜は深い溜め息をつく。

 

 

「呆れものだな。

俺が知っている九鬼嘉隆はこのような軟弱者だったか?海が怖くてブルブル震えるような臆病者だったか?」

 

「だって.....」

 

「貴様は何者だ嘉隆!!

九鬼水軍の長!

志摩の当主!

海賊大名!!」

 

「..........」

 

 

押しが足りないか?

彼女を堕とすのにとっておきの切り札は残っているが、これは.....

 

 

「また十兵衛にどやされるかな.....」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘉隆。結婚しよう」

 

「......................!?」

 

 

嘉隆はその言葉の意味の理解にしばらくの時を使い、理解した時にはすでに、茹でダコのように真っ赤になっていた。

 

 

「ひぇっ!?わっ.....わたしゅと!?

てゃんりゅう殿ぎゃ!!?」

 

「カミカミだが、理解したようだな。船を指揮をとってくれるなら結婚も考える」

 

「でっ.....でも!!

天竜殿は.....雑賀孫市と.....」

 

「孫市は側室だ。正室と違って側室なら何人も取れるだろう。当然お前も側室だ」

 

「側室.....」

 

 

正室ではなく側室という選択に迷う嘉隆。だが、天竜は彼女にそんな余裕を与えない。

天竜は嘉隆の後ろから抱きつき、左手で彼女の乳房を掴む。

 

 

「ひゃんっ!!?

てんりゃう殿!!?」

 

「何を迷ってるの?

『僕が』結婚してあげるって言ってるんだよ?選択する権利が君にあると思う?」

 

 

天竜は右手人差し指を嘉隆の口に挿入する。そして、くちゅくちゅと掻き回す。

 

 

「断っていいの?僕以外に君と結婚したいと思ってる男が他にいると思う?」

 

「んっ!..........あぁん!.....いや.....」

 

 

そうして次に、耳を甘噛みし、

首筋を軽く吸う。

 

 

「やん.....やめっ.....」

 

「僕には君が必要なんだ。

結婚しようよ嘉隆。

一緒に村上水軍を滅ぼそう」

 

「私も...........天竜殿がぁ.....あぁ.....」

 

「違うよね?

僕は君の旦那様、ご主人様だよ?

言い方変えないと」

 

「あぁ...........天竜さまぁ.....」

 

「光栄に思うんだね。僕が君の夫だ」

 

「あぁ.....嬉しい.....でしゅ...........」

 

 

天竜が両手を放した途端、嘉隆はその場に倒れこみ、うずくまってしまった。

 

やり過ぎたか?

 

天竜は嘉隆の唾液で濡れた人差し指をそっと舐めとる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『九鬼嘉隆、調略完了』

巻物から嘉隆の名が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『第二次木津川口の戦い』

前回の第一次での戦闘では、

村上水軍700隻、九鬼水軍300隻という倍近い戦力差の前に九鬼水軍は総崩れ。数で有利のの村上水軍の特攻攻撃の前に、大敗した。

特に村上水軍の使用した焙烙玉の前に、九鬼水軍の船は次々に炎上。すぐに沈没してしまった。

 

そこで嘉隆が用意したのが『鉄甲船』。船全面に鉄板を張り詰め、兎に角防御力を上げた。鉄砲はおろか、焙烙玉も防げるだろう。

それをたった6隻用意した。

600対6

この策略が吉と出るか凶と出るか。

 

 

 

 

 

「来た!」

 

 

九鬼水軍6隻に対面するように、

村上水軍600隻が出現する。

 

 

「大将船は分かるか?三成」

 

 

船頭にて三成が望遠鏡で敵方を探る。

 

 

「見えました!

村上武吉が乗ってます!」

 

「そうか!

大将の乗ってる船を早々に落としてしまえば、他の船も退くのう!」

 

 

一益が解釈する。

 

 

「はっ.....まさか。

武吉には1回殺された分の借りがある。ほんの数隻程度の撃退など、生ぬるい!」

 

 

天竜は邪悪な表情で叫ぶ。

 

 

「600隻全て撃沈させよ!

 

情けなど最早無用!!

 

見敵必殺!見敵必殺!

 

破壊!破壊!破壊だぁ!!!」

 

 

怒りのままに命令を下す天竜。

 

 

「副将軍、羽柴天竜秀長が命ずる!

 

村上水軍を壊滅せよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三木城周囲にて。

 

 

「どうゆうことだよ!?」

 

 

三木城を包囲していた良晴が言う。それに答えるは天竜軍家臣、古田佐介。

 

 

「本件はこちらに内に移りました。改めて我が天竜軍が三木城を包囲します」

 

「何だと!?」

 

「むしろ今までが甘すぎたのです。敵に食糧を分けるなど、貴方は兵糧攻めの『ひ』の字も知らないのですか?」

 

「知ってるからこそだ!

足軽たちに戦もやらせず、ただ飢えさせて苦しめてじわじわ餓死させるなんて真似は.....」

 

「黙りなさい」

 

 

佐介の冷たい一言が良晴の言動を止める。

 

 

「兵糧攻めは篭る側か攻める側が諦めるまで続きます。数で勝る織田の軍なら、本気を出せばほんの数月で落とせたでしょう。

ですが、貴方の自己満足とも取れる行為で、いつまでも決着がつかない。いつまでも戦の緊迫感が双方に伝わる。

貴方の『戦を無駄に継続させる』

という行為がむしろ城内にいる者らを傷つける愚行だという事にまだ気づきませんか!」

 

「ぐっ.....!」

 

「だからこそ、この戦を極短時間に終わらせてやるのが定石と言えるでしょう。

だからこそ、これを.....」

 

「それは.....」

 

 

それは西洋の透明なビンに入った銀色の液体。

 

 

「水銀です」

 

「すっ.....!?」

 

 

いくら頭の悪い良晴といえど、水銀の事は知っていた。どれ程危険であるかを.....

 

 

「これを錬金術にて、三木城内にある食糧という食糧全てに仕込みました」

 

「何だって!?」

 

「そろそろ中毒を起こす頃でしょう」

 

 

その時、城から2人組の兵が出てくる。

 

 

「炊き出された糞虫が飛び出してきましたね」

 

 

天竜と似た邪悪な表情で佐介が言う。

 

 

 

 

男2人の言い分はこうだった。

『城内の者が集団食中毒を起こした。だから、体調が治るまで停戦を結びたい』という実に身勝手な言い分であった。

 

良晴はこれが佐介の策略であると気づく。水銀中毒は簡単に治るようなものではない。だからこそ、ここで停戦を結ぶ事で、戦を一時的に止めるものだと.....

やり方は野蛮だが、良策だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......................と思った矢先。

 

佐介が2人組の内の片割れを斬り伏せたのだ。

 

 

「ひっ!?」

 

「そちらから裏切った分際でよくそんな事がほざけますね。

この死んだ片割れの首を持って、貴方の大将の所に戻り、伝えなさい。

『城内に広がっているのは食中毒などではない。致死性の高い猛毒だ。早くに解毒しなければ全員死ぬ。そうなりたくなければ直ちに開城せよ。それ以外の答えは聞かぬ』と.....」

 

「ひっ.....ひぃ!!?」

 

 

男は一目散に城内に戻って行った。

 

 

「............」

 

 

良晴は唖然とし、声も出せなかった。天竜軍家臣の少女達は皆、こうも恐ろしい者達となってしまっているのか!?

 

 

「今頃、鳥取城も同じ状況でしょう。

大谷殿は強いですから」

 

 

同時刻、吉継による鳥取城の兵糧攻めが行われていた。

 

 

「今作戦において、天竜様の名はまた全国へと轟きます」

 

「どうゆうことだよ!!

おかしいだろこれ!!」

 

「?」

 

「天竜さんは一益ちゃん達と一緒に船攻めろと命じられたはず!なのにこんな勝手に.....」

 

「『天竜様は.....』です」

 

「!?」

 

「それはあくまで天竜様への命令です。私達家臣団には関係ない。何をするも自由です..........まぁ、これも天竜様に命じられての事ですがね」

 

「認めねぇ.....絶対に認めねぇ!!

天竜さんが副将軍といえど、

信奈は右近衛大将だ!

信奈の命令には逆らえない!」

 

「ざ~んねん♬  

天竜様は征夷大将軍様の署名

を預かってますぅ」

 

「それだって、信奈の方が.....」

 

「それと~

大御所、足利義元様。

前将軍、足利義輝様。

管領、今川氏真様。

関白、近衛前久様。

以上5名の署名のもとに、天竜様の全ての行動は保証されてます♬

ですので~、これを破棄できる人物はたった1人。

姫巫女様のみですね。

要するに破棄は不可能ですね~。

あははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

 

 

無邪気な笑い方にもかかわらず、

邪悪さばかりが伝わる。

 

 

「近衛.....まで!?」

 

 

天竜は関白すらも支配したというのか!?

 

 

「くそっ!!」

 

 

良晴は佐介を置いてその場を離れる。

 

 

「おやぁ~?

愛しの信奈お母さんに言いつけに行くんでちゅか?いいですよぉ?

泣き虫なお子ちゃまは母の胸の中でおっぱいでもしゃぶってなさ~い」

 

 

良晴に聞こえるように大声で言う。

これが古田佐介の本性。

天竜と同等の邪悪さを持ち、

彼に負けず劣らずの策謀を考えつく。

 

 

「おや?これは.....」

 

 

本陣にて佐介がとある計画書を見つける。それは、鹿之介が以前考えたものであり、『川の水を堰き止め、濁流を自軍に流し込む』という謎の自滅作戦。

 

 

「これは.....このままではおバカな作戦ですが応用すれば.....

ふくくくくくくくくくくく.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃てー!!撃てー!!

撃って撃って撃ちつくせー!!!

一発でも残してみろ!

残った玉の数だけ減給だ!!」

 

 

九鬼水軍の操縦員やその他乗組員の女達を除く狙撃手などは皆、天竜軍の精鋭だ。九鬼水軍6隻から流星の如き弾丸が村上水軍600隻を襲う。その威力は凄まじく、一撃で村上水軍の軍船を撃沈させるものもある。敵も反撃を試みて、焙烙玉を撃ち込むが、鉄甲船の強靭な装甲を前に、燃やすことすら出来ずにいる。

 

 

「すっ.....すごいのじゃ.....

てんてんが持ってきた最新型の大砲は.....これが雑賀衆の力なのか?」

 

「まぁな」

 

 

『アームストロング砲』

天竜によって12門用意され、それぞれの船に2門ずつ搭載されている。天竜が召喚したオリジナルを元に雑賀衆が量産したものだ。

史実では、1855年のイギリスのウィリアム・アームストロングが開発した大砲。ライフルのように後装式であるため、連射性が従来のものより数段に高い。射程距離も数倍とある。日本では、1868年の戊辰戦争において初めて実践投入された。

弾丸は砲弾と榴弾を使用。榴弾は敵の下に届いた弾丸がその場で爆発し、無数の粒状の弾丸を散弾ようにばら撒く。

だが、この時代の技術では治金技術が未熟な為、榴弾が敵に届く前に爆発する可能性があったため、そこは利休や佐介による錬金術で補強している。

 

 

「凄い.....凄すぎるわ!!」

 

「どうやって使ってるの!?」

 

 

他の乗組員の女子達ががその光景を見て驚く。この時代の大砲は火縄銃と同じく先装式。後装式のこの大砲は彼女らには新世界の兵器に見えるだろう。ウィンチェスターが基本装備の天竜軍は慣れた手付きでアームストロング砲を操る。

 

 

「横に付かれました!!」

 

 

アームストロングの大砲を逃れ、至近距離まで近づいてきた敵の軍船。そうして、今にも乗り込んで来ようとする。

 

 

「ガトリング砲用意」

 

 

天竜の静かな命の後、

聞こえて来たのは想像以上の爆音。

 

 

 

バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル!!!!!!!

 

 

まるで数百人の鉄砲隊の一斉掃射のような爆音。乗り込もうととして来た村上水軍の船員を次々に蜂の巣にする。

 

 

「きゃあ!」

 

「惨い!」

 

 

女子らにはきつい光景だっただろう。それもそのはず、1865年にアメリカで製作されたガトリング砲だが、その残虐性から始めから導入しようとした国は少なく、率先して導入したのは日本ぐらいだろう。

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

粉々に弾き飛ばせ!!

糞虫のように!

ボロ雑巾のように!

ゴミ屑のように!!」

 

 

その時、瀕死の状態の村上水軍兵士が天竜の足元にすがりつく。

 

 

「ガヒュッ..........助け.....」

 

 

「そして.....泣き叫べ!豚のように」

 

 

天竜はその兵士の脳天にマグナムの弾丸を撃ち込んだ。

 

 

「ぽけ~~~」

 

「どうしたのじゃくっきー?

ボケっとして.....」

 

「あぁ.....素敵.....私の......天竜様ぁ.....」

 

「趣味悪いのぉ.....」

 

 

天竜によるセクハラ以降、ずっと天竜に見惚れてしまい、なんだかんだで結局天竜が指揮を取ってる始末だ。

 

 

「やっと半分といったとこか」

 

 

既に300隻の軍船が撃沈している。対して九鬼水軍側の損害は0だ。

 

 

「大変です天竜様!村上武吉の乗った軍船が退却します!」

 

「あぁ!?ふっざけんな!!

俺様から逃げられると思うなよ武吉!

召喚術!!」

 

 

天竜の肩に担がれるように現れたのは、孫市の特性大鉄砲よりもさらに大きい.....

 

 

「『ハルコンネン』!!

高速徹甲弾の威力を特と味わえぃ!!」

 

 

背の低い少年天竜比較すれば、その大きさがよく分かる。なにしろ彼の背丈並みにあるのだから。

 

 

「うらぁぁぁ!!!!」

 

 

『徹甲弾!』貫通性能が限りなく高い、大型銃火器から放たれたそれは、武吉の乗った軍船の後部から貫くようように削ってゆく。

 

 

「うし!止まった!

羅刹召喚!」

 

 

天竜の目の前に布団にて就寝中の黒鬼出現。

 

 

「おい起きろ!」

 

「へぶっ!?」

 

 

容赦無く頭を蹴って叩き起こす。

 

 

「戦中にぐーすか寝てんな!」

 

「昼間は動けないって言っただろう!」

 

「どうでもいい。兎に角、起きて俺を向こうの船までぶん投げろ。その分の力は分けてやる」

 

「私寝起きだぞ......?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ~~~らっ!!!」

 

 

通常の人間の十倍はあるであろう筋力によって天竜を担ぎ、4~50mはある距離をぶん投げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!!船は動かんのか!!」

 

「駄目です!敵船から放たれた謎の弾丸により後部から中枢にかけてが損壊!ゆっくりとですが沈みかけてます!」

 

「くそっ!この船は捨て、別のに移る!こんなの戦じゃねぇ!こんな戦で死んでたまるか!」

 

 

次第に火の手が周り、慌てふためく船員達が右往左往してる中。

 

 

「た~けよ~し!!♬」

 

「なっ!?」

 

 

陽気な声を挙げながら天竜が飛んできた。そうして武吉らの目の前に着地する。

 

 

「ひっさしぶりだなぁ~!

村上武吉。元気してたかぁ?」

 

「やっぱお前か。この嫌らしいような戦の仕方.....昔から変わらねぇ。常に相手より優位な立場にいて、なおかつ圧倒的な戦術と力によって敵戦力を壊滅に追い込む。直家の下にいた頃から危機感を感じていた。死んだと思っていたが.....むしろ少し若返ったか?」

 

「色々あってね。一回死んだおかげで学んだ事も多くあった。それと新たに覚えた術もね.....」

 

「術?」

 

 

天竜はおもむろに懐へ手を伸ばす。それを警戒し、船員らは刀や弓や鉄砲の銃口を向ける。

 

 

「十字架.....?」

 

 

だが十字架にしては形に違和感を感じる。十字の下部がやや長いのが通常の十字架に対し、それは真逆。

 

 

「これは『逆さ十字』。ゼウスではなく、サタンを祀るもの。アンチの象徴だよ」

 

 

続いて彼はその手から例の指輪を外す。

 

 

「そんでもってこれが奴の触媒とも言える指輪。『天叢雲指輪』。又の名を『ヘルリング』。レア度S級ランクのプレミアもんよ~」

 

 

天竜が未来風の話し方し始めた為に、武吉らは話ついて行けない。

 

 

「まっ、久脩の馬鹿はコレを単なる霊力供給器かなんだかと勘違いしてたみたいだが.....

用方容量さえ守れば天下だって取れるような代物だとは夢にも思わなかっただろうなぁ。くくくくく.....」

 

 

彼は逆さ十字の上部の長い方に、指輪を引っ掛けた。そしてそれを.....

 

 

「!?」

 

 

飲み込んだ。

 

言葉通り、ゴクリと。

 

手の平並の大きさの十字架を、まるで飴玉のようにゴクリと喉を通してしまったのだ。

そして.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我、神に反する者なり。

 

今上に存在せし、聖という聖全てを真向から否定する混沌なり。

 

我、闇を、悪を、死を象徴とする魔物なり。

 

そして、神を滅して世に真の秩序を取り戻せし革命者なり

 

Η Nari που πηγαίνουν εναντίον μας, ο Θεός. 

Το χάος Nari να μην υπάρχουν τώρα και στο εξής, και να αρνηθεί ξεκάθαρα το ιερό του συνόλου των ιερών. 

Οι δαίμονες Nari που συμβολίζουν το θάνατο, το κακό, μας, το σκοτάδι. 

Στη συνέχεια, γίνεται επανάσταση είναι Shi Πάρτε πίσω τη σειρά του αληθινού κόσμου εν ριπή Θεού.....』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜が謎の呪文を唱え始めた。

日本語で聞き取れたものもあれば、時にはよく分からない言語混ざり、それを聞いている武吉らにはチンプンカンプンだ。

天竜は今、隙だらけだ。今なら殺せる。そう分かっていても、誰も動けない。

不用意に攻めようとする者がいても、武吉自身がそれを止めさせたのだ。

それは似ていたから.....

あの月読命と同じ、嫌な雰囲気に.....

あの場から生きて逃げ帰ったからこそ分かる、真の恐怖。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人間に身をやつした我なるが、

 

ここで魔の物に戻るとしようぞ。

 

我こそが、魔の仔なり。

 

サタンの身代りなり。

 

我の真名、

ドラクエル・バスティーユ・

ヘルライド・サタンが問う。

 

 

 

汝らは我を見たか?

 

Παρόλο που έχουμε κάνει Yatsushi ίδιος στα ανθρώπινα όντα,

 Προσπαθούμε να είναι πίσω στα πράγματα της μαγείας εδώ. 

Τι είμαστε, Nari απογόνους της μαγείας.

 Ο αποδιοπομπαίος τράγος Nari του Σατανά. 

Μάνα μας, 

Dorakueru Bastille, Hell Ride Σατανάς είναι να ρωτήσετε.

 

 Ye να μας δει;』

 

 

 

 

 

 

一瞬、焼き尽くされるような鋭い殺気が来たかと思うと、天竜の周りに邪悪な漆黒霧が立ち上る。

同時に、茶髪だった彼の髪は黒髪に、結っていた紐は千切れ、ざんばら髪に.....

白装束のような着物も変色。これもまた、漆黒に染まり、黒装束に.....

彼の瞳は血のように紅に染まり、

ギロリと武吉らを見下すように睨みつけている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つっ.....つっ.....」

 

 

恐怖のあまり武吉は喋ろうとする口が上手く回らない。

 

 

「月読.....命.....!!」

 

 

そう、ほんの数分まで美少年の姿であった天竜が、今ではあの月読命とほとんど同じ姿をしていた。

 

唯一違うといえば、それがまだ天竜の姿だという事だ。完全なあの女の顔ではなく、天竜の面影残しているという点。

 

 

「こっ.....こっ.....」

 

『こぉ~??』

 

「殺せぇ!!!!」

 

 

武吉の周りの鉄砲兵が一斉に天竜に向け、発砲する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからいく時が経っただろうか.....弾という弾を撃ち尽くし、鉄砲がただの鈍器と成り下がった今でさえ、天竜はそこに立っていた。

邪悪な笑みを浮かべながら.....

 

 

『どうしたその程度か海賊?

飛び道具に頼るだけが貴様らの戦い方か?

あの時の威勢はどうした武吉?

我の手足を捥ぎ、

胸部から腹部にかけ、無数の刀を突き刺したように。

我に死の恐怖をもう一度与えてみよ。

どうした?早くやれよ。

Hurry!Hurry!Hurry!Hurry!Hurry!』

 

「お前.....本当に天竜.....か?」

 

 

それは.....

それまでの天竜の黒さが可愛く思える程の漆黒、混沌に満ちていた。

 

 

 

 

 

『おぉ!!

生きているとは本当に

素晴らしいなぁ!武吉ぃ!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!』

 




今回も長文になってしまった(泣)
本来なら今話だけで、武吉との海戦は終わらす予定でしたが、武器の解説に尺を使い過ぎてこんな結果に.....
さて、凪の正体と佐介の本性と天竜の変身の回でしたが、皆さん着いて来れてます?
次回予告
魔王の品格
~さぁ!!我を殺してくれる者は何処にいるのだ!!~


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第二十六話 魔王の品格

緊急謝罪。
3話前だかに、天竜は義輝に『鬼切』を貰って
ますが、『童子切』に変更です。
単純な勘違いです。すいません。


『焼けた鉛の味.....

意外とまぁ、甘美なことよう』

 

 

穴だらけの肉体から銃弾がぬるりと出てきて、ポロポロと落ちる。

 

 

『さて、次は我の番か?』

 

 

その次の瞬間、天竜が武吉の目の前に出現する。

 

 

「つっ.....!?」

 

 

武吉は反射的にその場から後退した。

が.....

 

 

『わっすれもの~♬

Foget.Foget.』

 

「なっ!?」

 

 

武吉は天竜を見た後、己の左腕を確認する。だが、そこには左腕と呼べるものが無かった。武吉の左腕は天竜が持っていたからだ。

 

あの一瞬で引き千切ったというのか!?

 

 

『所詮この程度か。

鬼の力を持ってしても我の足程にも及ばぬとはな。

その程度か鬼武者?』

 

「...............なめるなよ?

 

 

ぬわぁぁぁっ!!!!」

 

 

武吉が咆哮を挙げた途端、左腕の切り口から別の新しい腕が生えてくる。

 

 

『素晴らしい。

それでなければ、この姿になった意味がないというものよ』

 

 

すると、天竜の頭が一瞬魔物のような形相になり、武吉の左腕を一口でバリバリと食べたかと思うと、また元の美しい顔たちに戻る。

 

 

『こればかしでは満足できぬ。

もっとだ.....

もっとよこせ.....』

 

「はっ!.....鬼武者が俺だけだと思うなよ?この船に乗ってる50人全員が鬼武者だ!!」

 

 

すると、武吉を含めた船員に角が次々と生え、鋭い牙や流々とした筋肉も見える。

 

 

『Μεγάλος!

素晴らしい.....素晴らしいぞ!

そうでなければ.....

我が腹を満たせない!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、いつだかアマテラスと話した時のこと.....

 

 

「なぁ、アマテラス。

ツクヨミが月にいたってゆうの.....

あれ嘘だろ?」

 

『今更でありんすか』

 

「やっぱりな。俺が死んだ途端に俺の中から出てきたんだ。お月さんからご都合よくやって来たなんてあり得ないからな。

『元々俺の中にいた』って方が辻褄が合う」

 

『くすくすくす.....』

 

 

彼女は天竜の頭上でプカプカ浮きながら、彼の煙管でプカプカ吹かしている。

 

 

「『月』というものがそもそもの

アナグラム。この場合の月は天体ではなく、『肉月』を示す。

そう、俺の諱である『朧』から取ったんだろう。

『月にツクヨミがいる.....

つまり朧の.....俺の中いる.....』

.....ったく、ややこしい頓知考えやがって。.....んで、ツクヨミはいつから俺の中に?」

 

『最初からでありんす』

 

「最初?

この時代に来てから?」

 

『そちが産まれた時からに決まっておろう』

 

「まじか!?」

 

『そうでなければ、わっちはそちの力なぞ借りぬぞよ。

奴はそちの先祖であると同時に、生涯を共にする母でありんす』

 

「なるほどね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふふっ。貴様の中での27年は暇で仕方が無かったぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」『!?』

 

 

天竜もアマテラスも驚く。

当然、アマテラスの声ではない。

 

 

『いい煙管だな。よこせ』

 

『あっ.....』

 

 

その人物はアマテラスから煙管を奪い、口に咥え、ニコチンの煙を肺に溜める。

 

 

『中毒とは恐ろしいな。今までは貴様の中で間接的に味わう事しか出来なかったが、やはり煙草は己で吸うに限る』

 

「ツクヨミ!?」

 

『何を驚く?

我の話をこそこそとしているので、本人が出てきたのではないか』

 

『うっ.....むぅ.....』

 

『どうした姉上?我が怖いのか?」

 

 

アマテラスはツクヨミに目を合わせないよう、怯えている。

 

 

「どっ.....どうしたんだよ?

お前の方が立場上なんだろ?」

 

『いや.....あくまで年齢で姉妹を決めたからの、欧州では同盟とはいえ、サタンの方が立場が上じゃったし.....

そちの肉体に此奴を封じ込めたのもわっちじゃから、かなり恨まれとるし.....』

 

「マジか!?」

 

 

すると、ツクヨミはクスクスと微笑む。

 

 

『流石にもう恨んではいないさ。

貴様のお陰で程のいい肉も手に入ったしな』

 

『それは良かった』

 

「おい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから後、ツクヨミは例の逆さ十字を渡す。

 

 

「なんだよこれ.....」

 

「我の力を制御させられるものだ。貴様が本気で『ツクヨミ化』をするというのであれば、これを使うといい。ほんの数分程度だが、我の偉大な力は貴様のものとなる。成功率は低く、失敗すれば戻れなくなるがな』

 

「.....信用できねぇな。

術式が成功して都合が悪いのはお前の方だろうに」

 

『仔の願いだ。母たる我がそれを無下にすると思うたか?そこまで外道ではない』

 

「外道でなくとも魔王だろう?」

 

『!?................ぷっ.....

 

 

ぷっくははははははは!!!!

あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!』

 

 

ツクヨミは急に高笑いを挙げたかと思うと、急に天竜に抱きつく。

 

 

「なっ!?」

 

『確かに、我は魔王。

されど、愛する仔の前では今一度、天使に戻るとしようぞ』

 

「お前から愛を語られるとはな。

不気味以外の何物でもないんだが?」

 

「そう言うな朧命(おぼろのみこと)よ。

悪魔にも愛ぐらいはあるさ。

 

...........が、死せば話は別。

貴様の魂が抜けたそれは貴様の形をした肉に過ぎぬ。問答無用に我が使わせて貰おう』

 

「それは別に構わん。

死後も晒し首などで辱めを受けるよか、お前に有効活用される方がよっぽどましだ。

.............まぁ、生きてる奴らが反対するかもしれんがな」

 

『ほう。てっきり拒否られるものかと.....可愛い仔を得て我は嬉しいぞ』

 

「そりゃどうも。

ひいひいひいひいひいひい(以下略)

婆ちゃん」

 

『.....可愛くないな』

 

「魔王様の可愛いの基準を教えてくれ」

 

『基本ツクヨミの思い通りになる奴が可愛い対象でありんすな』

 

 

その後も2人の神と1人の半人半神の談話は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふくくくくくくくく.....』

 

「がぁ~!!!!」

 

 

1人の鬼武者が天竜が襲いかかる。

 

 

『他愛無し!』

 

 

だが、天竜は戸惑う事もなく。手に持った刀をただそこに置く。

 

 

「ぎゃうっ!?」

 

 

敵の急進力を利用しあらかじめ刀を置く。敵はそのまま斬られる。

 

 

『朧月光流.....神無月』

 

 

だが、問題はその後だ。

 

 

「ぎえぇぇぇぇぇ!!!!?」

 

 

斬り口を中心に、その鬼武者は一気に燃え上がったのだ。

 

 

『刃長 二尺六寸五分。

 

反りはばき 一寸。

 

横手 六分半。

 

重ね 二分。

 

造り込みは鎬造、庵棟。

 

刀名、『童子切安綱』。

 

パーフェクトだ義輝!

 

鬼武者程度なら容易に灰と帰す!

 

これなら主水の宿儺とも同等に戦えるであろう!』

 

 

かの源頼光が酒呑童子を討伐した事で有名な名刀。鬼を斬る事に特化したその刀は最早、妖刀とも言えるだろう。

 

 

天竜は今人知を超越した、神に近い存在。

彼が持つは鬼殺しの妖刀。

対するは鬼の紛い物、鬼武者。

相性が悪過ぎる。

 

 

それでも鬼武者達は果敢に天竜に向かってゆく。だが、その度に鬼武者は童子切の餌食となり、灰と消えてゆく。

 

 

「もういい.....」

 

「ぐえぇぇぇぇ!!!!」

 

「もういい.....」

 

「たぼわぁっ!!!」

 

「もういい!」

 

「あべしっ!!!」

 

「もういい!!」

 

『くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!』

 

 

 

 

「もういいっ!!!」

 

 

 

 

武吉の怒号が響いた。

 

 

「これ以上は無駄だ.....

 

天竜!!俺様と一騎討ちをしろ!!」

 

『くひゅっ.....いいだろう!

燃やしてばかりではいつ迄も喰えぬ。貴様の身体を丸ごと喰えば、腹も少しは満たされよう』

 

 

天竜は刀を鞘に納め、居合の形を取る。武吉もまた、刀を構える。

 

 

『来い!一撃で貴様を殺してやる!』

 

「同じ台詞をそのまま返してやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは静寂。

この地球上に2人しかいないかのような静止時間が続いた後.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらあぁぁぁ!!!」

 

『だあぁぁぁぁ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決着は宣言通り一撃で済んだ.....

 

相手の身体に刀を突き刺したのは.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武吉だった。

 

天竜の童子切を持つ左手はダランとしていた。

 

 

「へっ..........へへっ.....

刺したぞ.....おめえの.........胸に.....」

 

『あぁ.....』

 

「取れたかな.....直家の仇......」

 

『取れたさ.....』

 

「へへっ.....なら満足だ.....」

 

『...........』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『向こうで直家が待ってるぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かに武吉の刀は天竜の胸に刺さっていた。だが、とうの武吉は四肢全てを斬り落とされ、天竜の右手もまた彼の胸を貫き、貫通した先の掌が持つは、ドクンドクンと鼓動する武吉の心臓が存在していた。殆ど虫の息であった。かろうじて、天竜に支えられる事でその体制を保っている。

 

 

「神と同化して不死になったか.....」

 

『不死ではない。

ただ死ににくいだけだ』

 

「............そうかい」

 

 

天竜は支えていた武吉の身体を放し、床に降ろした。同時に、己の胸に突き刺さった刀を引き抜く。彼の心臓は未だ手の中にあった。

 

 

「...........」

 

『..........』

 

「..........天竜」

 

『..........ん?』

 

「お嬢と.....元春も殺すのか.....」

 

『うんや?』

 

「...........」

 

『我は「姫武将殺し」だ。口説きはしても、可愛い子ちゃんを殺しはせぬよ』

 

 

その時、天竜の影に別の男が見えた気がした。

 

 

「あぁ.....お前もそうだったのか.....」

 

 

何かを感じ取った武吉はそっと最期の言葉を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さらばだ我が悪友」

 

 

『さらばだ我が悪友』

 

 

 

 

 

 

そうして、武吉の肉体は次第に灰とも砂とも分からぬものに変わり消えた.....

 

 

 

 

 

 

『武吉...................馬鹿な男だ。

海賊の分際で、友情などにこだわり、最優先事項を放棄した。

ただただ、俺に勝ちたいがために人間を辞め、鬼に.....それも紛い物なんぞに姿を変えてしまった。

人間であった時の貴様は強かった。戦闘面も戦略面も貴様は優れていた。だからこそ、俺はこいつに倒されてしまうのではないかとさえ、思ってしまった事もあった。

だが、お前は鬼武者になった。

その瞬間から貴様の勝利は消滅した。

『魔王は倒される者』

『鬼も倒される者』

倒すものじゃない。

お前には俺を倒す事なんてそもそもが無理だったんだ.....

 

..........本当に..........大馬鹿者だよ』

 

 

天竜は手に持っていた心臓を握りつぶした。そして、眉間にシワを寄せた。

その表情は怒りというより、哀しいに溢れていたという。

 

 

「船長.....」

 

 

残された船員の者らは武器を落とし、鬼武者化を解き、完全に戦意を喪失していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時。

 

 

『武吉を喰い損ねてしまったではないか。仕方ない。他の雑魚共を喰うか』

 

 

それまで落ち込んでいた天竜の様子が一変。また邪悪な面様となる。

 

 

『うむ。うむ。

良さそうな質の肉が揃っておるわ』

 

「なっ!?」

 

 

そうしてまばたきをする間もなく、天竜は船員の1人の首を捥ぎとる。

そうして首元の柔らかい部分にムシャムシャとかぶり付く。

 

 

『足りぬ.....足りぬ.....足りぬ.....

血が足りぬ!!!』

 

 

天竜は船員達に向け、指を指す。

すると、

 

 

「「「うわあぁぁぁ!!!?」」」

 

 

次々に船員らが空に浮かび上がってゆくのだ。

 

 

「その皮に詰まった鮮血を全て我に!」

 

 

天竜が雑巾を絞るかのような手振りをする。その瞬間、船員らもまた雑巾のように捻じれてゆき.....

 

 

 

『弾けて混ざれ』

 

 

 

ある程度を過ぎた時点で、ボシュッと一斉に飛び散った。空中で破裂したそれは、全て地上の天竜に降り注ぐ。

 

 

『鮮血のシャワーとはなんとも贅沢なものよ!始めからこうしていれば良かったのかもなぁ!』

 

 

降り注ぐ血飛沫を口だけでなく全身で味わう天竜。天竜が1つの大きなスポンジのようになり、身体に降りかかった血飛沫以外の床に落ちた血液もまた吸い上げた。

 

 

『武吉を喰えなかったのは残念だが、安い肉をたらふく喰うのもたまには良い!』

 

 

すると、天竜もまた空中に浮かび上がる。そこからの光景には、大将の死亡に伴い、退却をよちなくされた軍船の残りが引き返しているのが見えた。

 

 

『たらふく喰うたら、たらふく運動もせぬとな!』

 

 

天竜が空に向けて手を大きく振り上げる。すると、天竜の上空に数十本のミサイルが出現する。

 

 

『言ったであろう。

一隻も残さず壊滅に追い込むと!』

 

 

そして、

天竜の振り下ろされた手と共に、ミサイルが一斉掃射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九鬼水軍からの光景は凄まじかった。

いや、凄まじ過ぎた。

天竜が飛んでいった先の武吉が乗っていた軍船は一時紅に染まり、その後中心にいた人物にその色は全て吸収された。

そして今、木津川口の海上は火の海と化している。文字通り。

各地で爆発が起こり、粉々になった村上水軍のは破片はこちらにも流れ着いてる。

 

 

「どういうことなのじゃ.....」

 

 

一益は驚愕していた。

人は惨事を見ると思考が停止する。

 

だが、三成はその惨事を望遠鏡でじっと観察していた。

 

 

「村上武吉は天竜様によって討たれました。現在は天竜様による残党の掃討が行われてます」

 

「それはなんとなく分かるのじゃ!だから何でてんてんがあんな黒々くなっておる!?」

 

「『ツクヨミ化』です。まともに戦っては前回の二の前になる可能性もあったようなので、賭けに出たとか.....まぁ、6分間は無敵なので圧勝は間違いなかったようですね」

 

「ツクヨミ化!?ぷん!?」

 

「あぁ、天竜様に時間軸を教わったんです。心臓の1心拍を1秒とし、60秒で1分、60分で1時間、24時間で1日.....」

 

「そっちよりツクヨミ化の方!」

 

「あぁ.....」

 

 

三成は彼女に天竜から教わった話はをする。

 

 

「そんな事が.....」

 

「ですが、限界は6分間。

それを過ぎると身体が月読命に乗っとられます。ですから5分経った時点で、こちらに引き返さねばなりませぬ」

 

「どうやって戻すのじゃ?」

 

「これで心臓を撃ち抜くそうです」

 

 

三成が持っていたのは、遠距離射撃用のスコープの装着されたライフル銃。

 

 

「ちょっ.....てんてんを殺す気か!?」

 

「いえ、弾丸は霊力補佐した特殊水銀弾頭だそうで.....これなら月読命の邪気だけは払って天竜様は救えるそうです」

 

「本当か!?」

 

「しかし、外せば.....弾は3発だけですし」

 

 

三成はスコープを覗き込み、じっと天竜に標準を合わせる。今、村上水軍は殆ど壊滅してしまい、天竜の動き止まっている。こちらにも気づいてはいない。やるのは今であろう。

 

 

「申し訳ありません天竜様。

多分凄く痛いでしょうが、

貴方様を救うためです!」

 

 

標準を天竜の胸部に合わせ、引き鉄に指をかける。

 

 

「南無三!」

 

 

引き鉄に一気に力を込める。

 

 

 

だが、発砲した瞬間天竜がこちらをギロリと睨んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!?」

 

 

外した。天竜の反応の方が早かった為か、弾丸は天竜の右の肩に当たる。すると、天竜の右腕から黒々しい邪気が消滅した。

 

 

『ほう、ネズミがあんな所にも』

 

 

その後、目にも留まらぬ速さで三成らの前に移動してくる天竜。

 

 

「くっ!!」

 

 

直様2発目を準備し、天竜に向け発砲する三成。ところが、完全に認識している彼の前には最早無意味。容易に避けられてしまった。

 

 

「うぐっ!?」

 

 

三成の目の前に現れた彼は彼女の首を掴み、持ち上げる。

 

 

『処女の血肉か。少々幼いが、先程の男どもとは天と地の差の味であろう』

 

 

既に奴は天竜としての意識すら残していなかった。いや、それ以前の問題であった。

最早天竜の面影すら残していなかったのだ。

 

 

「げふっ..........月読......」

 

『どうやら我が仔は間に合わなかったようであるな。仕方あるまい。この肉体は我が貰うとするさ』

 

「させるか!!」

 

 

黒鬼が天竜に対し、攻撃を仕掛ける。

 

 

『まだ鬼がいるか』

 

 

ところが、簡単に弾かれてしまう。羅刹では鬼武者の半分に及ばない。

だが、お陰で標的が三成から黒鬼に移り、彼女は解放される。

 

 

「げほっ.....げほっ.....」

 

 

万事休す。今ここで撃ったところで恐らく避けられる。弾はあと1発。まだ5分38秒。あと22秒。

 

一瞬でいい。一瞬だけ奴を止めれば.....

 

 

 

 

 

その時、自分の足下にとあるものがいるのが、目に入った。

 

 

「これは.....」

 

 

これならいけるかもしれない。

もしまだ天竜の精神が残っているのなら.....

 

三成はそれを掴み、立ち上がる。

 

 

「いっしー!!こっきーが!!」

 

 

一益が三成に叫ぶ。

因みに、

黒鬼(くろおに)→こっき→こっきー

である。

 

 

「ぐっ......ぐあっ!!」

 

 

圧倒的な力を持つ奴の前に劣勢であり、ズタズタにされている。

 

 

「月読命!!」

 

 

三成は奴に向かって走り出す。

切り札のそれを掴んで.....

 

 

『なんだ小娘?死にに来たか?』

 

「私を喰いたいだとぅ?

代わりにコレでも喰らえっ!!」

 

 

三成が奴に向け、ソレを投げつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、ゴキブリを。

 

 

『ひっ!?』

 

「やった効いた!」

 

 

魔王たる奴がこの小さな虫を、何か化物を見たかのように表情を歪ませる。

 

 

「うおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 

三成はそのまま奴に対し、突進を仕掛ける。そしてそのままの勢いで奴を船から突き落とし、共に落下する。

あと3秒!

 

 

「月読命!!

その身体は天竜様のものだ!!

返してもらう!!」

 

『つっ!!』

 

 

三成は奴の胸部に銃口をそのまま突きつける。ゼロ距離からの発砲。

残り1秒!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、1発の銃声が木津川口に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっしー!!てんてん!!」

 

 

船上から一益が叫ぶ。2人とも海に落ちてから上がってこないのだ。

その時、

 

 

「ぷはぁっ!!」

 

 

三成が上がってくる。

だが.....

 

 

「成功はしました.....

ですが天竜様は泳げないんです!」

 

 

現在進行形で天竜は海底に向かい、沈んでいる。

 

 

「姫も泳げないのじゃ!

誰か......誰かてんてんを助け.....」

 

 

その言葉を言い切る前に、とある人物が船から飛び降りた。

 

 

「くっきー!?」

 

 

それまで惚けていた嘉隆が何時の間にか正気を取り戻していたのだ。

流石は元海賊。どんどん潜り込み、天竜に向かって泳ぎ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数秒後。

 

「ぷはぁっ!!」

 

「げほっ.....がはっ!!!」

 

 

天竜を連れて嘉隆が上がってきた。

 

 

「酷いですよ!

折角結婚の約束してくれたのに.....

勝手に死なないで下さい!!」

 

「げふっ............ふんっ.....

今回初めて役に立ったな.....」

 

 

天竜の邪気は完全に払われていた。

 

 

「ちょっと九鬼殿!!

結婚の約束とはどうゆう事ですか!!」

 

「あぁ.....言ってなかったな.....

兎に角、船に上がろう。

.....というか上げてくれ。筋肉痛が酷くて動けん」

 

「むぅ.....羨まし.....」

 

 

その時、天竜がガタガタの手で三成の頭を撫でてやった。

 

 

「ありがとう...........佐吉。

俺なんかの為に命張ってくれて.....

本当にありがとう.....」

 

「きゅう.....」

 

 

顔を真っ赤にする三成であった。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、

この『第二次木津川口の戦い』は九鬼水軍の大勝利に終わった。

村上水軍600隻を全て壊滅させ、

敵の総大将である村上武吉を討ち取った天竜の功績は、再び全国に回る事となった。

 

手柄を立てさせないようにこの配置にした信奈の策略はもろと崩れ去ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の信奈。

古田佐介のやり方に納得いかない良晴に連れられ、播磨まで来た信奈。

 

 

「それで、梅千代が出してきた署名ってのは本物なの?」

 

「よくは分からない。

一応、名前と拇印があったから本物だと思うけど.....

とりあえず本人に会えば

..........................!!?」

 

 

三木城までやって来た一行。

だが、その光景を見て驚愕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三木城が水没していたのだ。

 

 

「あっ、信奈様。お久しぶりです」

 

「どうゆうことよ梅千代.....これは.....」

 

「古田佐介です!

鹿之介殿の自滅作戦と以前天竜様に教わったやり方を参考に、

三木城は『水攻め』にしました」

 

「「水攻め!?」」

 

「とりあえず実験ですので、

キチンとしたものにはなりませんでしたがね。水銀中毒と合わせれば三木城側を脅すには充分でしょう」

 

 

その時、使者が佐介の下に来て、要件を伝える。

 

 

「お喜び下さい。

三木城は降伏。開城するそうです」

 

「なっ!?」

 

「此度の水攻め.....

中途半端になってしまいましたが、天竜様と相談してもっと大規模なものとして活用したいですね」

 

「認めないわっ!!

こんな人道に反したやり方なんて.....」

 

「いつから人道を気にするようになったのですか?」

 

「え.....」

 

「人道を気にせず、己の意思のままに突き進み、暴虐武人.....じゃなかった.....傍若無人な生き方は本当に素晴らしかった。美しかった。だからこそ私は貴方に着いて行こうと思えた。

ですが、貴方は日に日に腑抜けていった。そう、そこの畜生を飼い始めてからです!」

 

「何を.....言ってるの.....」

 

「いちいち何かを気にするような貴方にはもう幻滅です。とても目標にはできない。

とはいえ、貴方のお陰で素晴らしい主君に出会えた事には感謝せねばなりませんがね」

 

 

そうして佐介は邪悪な表情になる。

 

 

 

 

 

「天竜様こそ天下人に相応しい。

私はそう実感しております」

 

 

 

 

 

 

この言葉に、信奈も良晴も反論すら出来なかったという。

 




佐介の三木城の水攻めが、
備中高松城の水攻めのフラグとなりました。
さて、天竜の野望何処まで突き進むのか!?
次回予告
高松城水攻め
~勝てば官軍負ければ賊軍~


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第二十七話 高松城水攻め

原作崩壊で、別作品化している今日この頃。


「うひ~。身体ガチガチで動けん」

 

ツクヨミ化を解いた天竜は起き上がる事すらままならず、ずっと船上で仰向けに倒れている。

 

 

「てんてんはもう人間じゃないの~。

くすくすくす」

 

 

一益が側で彼を眺めている。

 

 

「あぁ、一益。

そういや明の時も今回も御礼は後回しにしてたわなぁ.....三成、持ってきて」

 

「はい、天竜様」

 

 

そう言って三成は船内に入っていった。

 

 

「こちらの損害は?」

 

「全くないぞよ。てんてんのお陰じゃな!」

 

「こちらが用意したのは攻撃手段のみ。鉄甲船の防御力が無ければなしえなかっただろう。感謝するよ一益」

 

「...........」

 

 

一益は仄か頬を赤らめる。天竜は基本は恐ろしく、意地悪しいが、時々このように優しくなるのが、これが乙女のツボにハマるのだとか。

 

 

「お持ち致しました」

 

 

三成が戻って来た。

ある包みを持って......

 

 

「この戦で勝利した暁には、君にあげようと思ってた」

 

「なんじゃ!茶器か!?」

 

「うん。そんなとこ」

 

「前の『金正日』はその.....紛失してしまてのぅ。またあれ並の価値の茶器を欲するのじゃ!」

 

「あぁ.....あれの事?

あの話はデマカセだよ」

 

「!!?」

 

「金正日は未来の朝鮮半島(北側)を支配した独裁者の名前。テポドンは国王の名前じゃなくて、兵器の名前。それでもって、あの茶器は二束三文の安物」

 

「なっ.....ななっ!?」

 

「反応が面白くてイタズラしてみたが、まさかあそこまで信じ込むとは滑稽だ」

 

「よっ.....よくも.....よくも!!」

 

 

プルプルと震えながら、怒りを引き出そうとする一益。

 

 

「姫を騙したなてんてん!!」

 

「だから。

その謝礼を込めて、

今回は『本物』を用意した」

 

 

三成は一益に包みを渡す。

 

 

「本物!?」

 

「開けてみよ。期待に添えるものである事を望むよ」

 

 

一益は恐る恐る包みを開けた。

そこにあったのは一つの茶入れ。

 

 

「!!!?」

 

 

名茶器に詳しい一益はすぐに分かった。その形、素晴らしさ、歴史感、神々しさから気付けた。

 

 

「楢.....柴?」

 

 

『楢柴肩衝』

天下三肩衝の最後の一つ。

信奈の持つ『初花』『新田』に並ぶ名茶器中の名茶器。

元は室町8代将軍足利義政の所有物であったが、死後は持ち主を転々とし、最終的には博多商人の島井宗室で落ち着いた。

史実では、織田信長が彼を脅して半分強奪のような形で手に入れようとしていたが、本能寺の変が起きたため、それは成し得なかったという。

 

 

「楢柴肩衝!!?」

 

 

一益は己の小さな掌の上に

約3000貫(数億円)もする高価なものが乗っているという事実を受け入れられずにいた。

 

 

「弥助.....村重に感謝しろよ?

早い段階で島井宗室から手に入れてくれたんだからな」

 

「村重!?アラッキーと親しいのか!?」

 

「だって逃亡した弥助を匿ってんの俺だもん」

 

 

灯台下暗しである。

 

 

「これを.....姫に.....楢柴を姫にくれるのか!?」

 

「前に騙しちまったしな。

それ以降も色々とただ働きさせて、船も一つ潰しちまって.....

しかも全部ツケにしてたからな。

よく考えたら、俺お前に酷いことしてたんだよ。それら全部の謝礼として、それやる事にしたんだ。

足りなかったら、なんか付け足すぞ?」

 

 

だが、そんな心配は無用なようで、一益は楢柴に完全に魅せられていた。感動のあまり、涙まで出ている。

 

 

「今までの事なんて気にしてないのじゃ。姫はそんな事よりてんてんの姿勢に猛烈に感動しておる!」

 

「かなり高価な物らしいから、他の使い方も考えてたんだけどな。

嘉隆も側室に貰うし、この際いいかなって.....」

 

「よいよい。くっきーの1人や2人くらいいくらでも...................へ?」

 

「あ.....言うの忘れてた」

 

「どうゆうことじゃ!?」

 

「あぁ、まぁ。嘉隆を説得する上でそんな話になって.....そうなりました」

 

「むむむ.....

嘉隆の姫として複雑じゃが、よい!くっきーの1つや2つくれやるぞ!

ほっほっほ!」

 

 

人から物になった。

 

 

「姫さま~。私の扱い雑過ぎません?」

 

 

その後、嘉隆は船員に女子達に胴上げされ、その場は賑やかになったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時進み、播磨三木城内。

 

開城された城内に、城落としの功労者古田佐介。本来城攻めの任を受けていた羽柴良晴。近くに来ていたのでついでに寄った総大将織田信奈が入城する事となった。

 

佐介が入城して始めに行ったのは解毒作用であった。本来なら、水銀中毒は簡単に治せるものではなかったが、これは錬金術を介してのものだった為、術の解除によって皆が皆助かったのだ。

不思議な事に、水銀中毒での死者は1人も出なかった。命を取らずに戦闘不能にさせ、その介護に労力を使わせる。まるで地雷のようなやり口だ。

 

 

「別所家は所領を放棄。

直ちに三木城を去る事」

 

 

佐介が言う。まぁ、それは当然の事であったので、良晴も信奈も納得した。

だが.....

 

 

「なお、この騒動の発端である別所夫人は死罪。夫人側に加担した者は流罪に処する。

それを条件として、他の兵の命は見逃しましょう」

 

「そんな!?」

 

 

その処遇を聞いて、別所夫人は愕然とする。

同時に、良晴、信奈が反論に出た。

 

 

「ふざけないで梅千代!そんな命令、貴方の独断では下させないわ!」

 

「古田佐介です(怒)!!

この署名がある限り天竜様、及びその命を受けた私の行動は承認されます!

そ・れ・と・も。

裏切り者の浅井長政を殺した時のように、信奈様がやりますかぁ?」

 

 

佐介が例の署名を取り出し、堂々と見せた。

 

ところが、信奈はパッとそれを奪い取り、即座に破り捨ててしまった。

 

 

「どう?これで文句ある?」

 

「おい.....それまずいんじゃ.....」

 

「いいのよ!私の許可なく取った署名なんて認めないわっ!!」

 

 

それでは例え姫巫女の署名であっても、却下されるというあまりに理不尽なものとなってしまう。

 

 

「..........」

 

 

佐介は信奈を黙って見つめる。

 

そうだ!これが織田信奈だ!

傍若無人に己の考えで動く!

私はこの人に惚れて着いてきた.....

 

 

 

 

「あ~あ。やっぱり破っちゃったか」

 

 

 

 

一堂が一斉に声がした方向に視線を向ける。

 

 

「久しぶり。信奈様に良晴」

 

「「天竜!?」」

 

「天竜様!!」

 

 

天竜は車椅子に乗った状態で現れた。それを押すのは三成。

 

 

「何してるのよ!

あんたは左近達と海路から攻めると命令したはずじゃ.....」

 

「もうやりましたよ」

 

「!?」

 

「村上水軍600隻は壊滅。

大将の村上武吉は討ち取った。

お陰で大坂湾の制海権は我らのものです」

 

「..........」

 

 

信奈は愕然とする。

手柄を取らせないために、陸戦が主の天竜軍を海戦に混ぜた。一益には悪いが戦はもっと長くなると予想していたのだ。

ところが、天竜は自軍の兵の一部しか海戦には用いず、残りは三木城と鳥取城包囲に回したのだ。

それと.....

 

 

「お陰で仕事無くなっちゃって。

暇なんですよ。鳥取城もわざわざ手伝わんでも時間次第で落ちるだろうし.....

ここあたりで高松城でも狙おうと考えてます」

 

「ダメよ!

その役は良晴に.....」

 

「署名ある限り、私の毛利攻めにおける自由は大いに保証される」

 

「署名は私が破棄したわ!」

 

「ざ~んね~ん♬

実は署名は2枚あるんです」

 

「何ですって!?」

 

「1枚だけでは心持たなかったのでね。ほらここに.....」

 

 

天竜が懐にある署名を取ろうとしたが、未だ腕がガタガタで、懐まで動かない。

 

 

「三成、代わりに取って」

 

「ふぇっ!?」

 

「腕が動かないんだ。お願い」

 

「うぅ.....」

 

 

三成は赤面しながら恐る恐る天竜の懐に手を入れた。

それを佐介が羨ましそうに見つめる。

 

 

「これこれ!

これさえあれば、何でもやれるんだよ」

 

「くっ.....!」

 

「それとさぁ、うちの家臣虐めないでくれない?

元はあんたの小姓かもしれないが、今はもう俺の大事な家臣だ。主君面しないでもらおうか」

 

 

天竜は既に被っていた猫の皮を剥いでいる。

 

 

「ふざけないで!

梅千代はあんたの家臣。

あんたは十兵衛の家臣。

十兵衛は私の家臣。

あんたも梅千代も私の家臣よ!」

 

「さらにざ~んね~ん♬

俺の今の主君は、正しくは足利義輝。

俺が副将軍なのはその為だ」

 

「なっ!?」

 

「つまり、十兵衛と俺は今や同等。むしろ俺の方が立場は上だ。

前までは出来なかった結婚が、今はできる」

 

 

天竜は邪悪な顔で語る。

 

 

 

 

 

 

「十兵衛は僕のものだ」

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、耐えきれずに天竜に飛び込んだ者がいた。

 

 

 

良晴である。

 

 

「ふざけやがって!!

お前なんかに.....お前なんかに.....

十兵衛ちゃんを!」

 

 

良晴は天竜の胸ぐらを掴む。

 

 

「怪我人相手に容赦無いな」

 

「うるせぇ!

十兵衛ちゃんはお前なんかに.....」

 

「その十兵衛を放置していたのはどこのどいつだ?」

 

「っ!?」

 

「お前は女心を分からな過ぎる。

恋心をあやふやにされた女子がどのような行動に出るかなど、お前には分かるまい」

 

「なんだと!?」

 

「問題が起こる前に俺が介入して、救ってやったのだ。むしろ感謝してほしいね」

 

「てめぇ!!」

 

「それと。

今の自分の状況も確認したらどうかな?」

 

「!?」

 

 

良晴は恐る恐る後ろを見る。すると、三成が今にも良晴を刀で突き殺さんとする体制を取っていたのだ。

 

その時、信奈と目が合う。

彼女はアイコンタクトを取っていた。『今はまだやめておけ』と.....

それを感じ取った良晴は天竜の首元から手を離した。

 

 

「そう、それでいい」

 

「くっ.....」

 

「ところでだ。

別所夫人の処分についてだが.....」

 

 

先程、佐介は処刑を指示し、

信奈と良晴は反対した。

果たして天竜は.....

 

 

「言わなくても分かるわよ。

どうせ.....」

 

「俺は直家から『姫武将殺し』を受け継いだ。だからこそその真意も守る気でいる」

 

「「「!?」」」

 

「女を殺す気はない」

 

 

その言葉を聞いて、別所夫人はそっと胸を撫で下ろす。良晴と信奈は意外という表情をする。

一方、佐介はワナワナとあり得ないという表情で絶望している。

 

 

「だ・か・ら」

 

 

天竜は佐介の前まで車椅子を動かさせ、彼女の前で語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから処遇はお前に任すよ佐介。俺は一概に命令は出さん。だからこそ、その権限をお前に丸投げしようとしよう」

 

 

その瞬間、佐介の表情がパァーッと明るくなった。真逆に、別所夫人の表情はドンッと暗くなった。

 

真の希望とは絶望が転じて生まれるもの。

真の絶望とは希望が転じて生まれるもの。

 

 

「あぁ.....」

 

 

佐介は希望の頂点にいた。

これぞ真の混沌!

織田信奈など比べ物にならない程の.....

だからこそ私は彼に惚れ込んだ。

これが天下人の風格。

不格好な車椅子でさえ、玉座に見える。

生まれながらの王。

生まれながらの革命者。

 

 

「さぁ、行こう。

目的地は姫路城かな。

佐介は収集付けたらおいで」

 

「はい!」

 

 

佐介は笑顔で答える。

そして、その笑顔のまま刀を抜き、別所夫人の前で刀を振り上げる。

 

 

「ひぃっ!!!?

お助け.....お助けおぉ.....」

 

「よしなさい!」

 

 

信奈の忠告を無視し、佐介は最後の瞬間、邪悪な顔で吐き捨てた。

 

 

「地獄で直家に口説かれてろアバズレ」

 

 

そうして刀は振り下ろされた。

良晴は思わず目を閉じた。

 

 

肉を掻っ切る嫌な音が聴こえたせいで、目ではなく耳を塞げば良かったなどと考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、

吉継が攻めていた鳥取城は陥落。

同時期に、天竜による高松攻めが始まった。

 

 

 

 

 

「此度の三木城の水攻めが中途半端になってしまった理由.....

何か分かるか佐介?」

 

「はい。

やはり堤防の低さでしょう。

三木城を脅す為だけの簡易なものでしたので、そこまでの水も貯めれませんでした」

 

「やはり人員でしょうね。

古田殿は持ち兵を使って堤防を作ったようですが、人数的に足りなさ過ぎる。自軍の警護の為の兵も必要ですからね。それでは数が限られてしまう」

 

 

三成も考察する。

 

 

「大谷殿の方の兵を加えても心持ちしませんね」

 

「何故兵を使う事にこだわる?

百姓を使えばいいだろう?」

 

 

天竜がサラッと言う。

百姓なら総動員すれば天竜軍の倍以上になる。

 

 

「しかし.....毛利方の百姓がすんなり言うことを聞くでしょうか?」

 

 

三成が率直な疑問を出す。

 

 

「そんなの、金でもばら撒けばいい。百姓は仕えてるわけじゃないからな。金払いのいい方に味方するさ」

 

「天竜様のお金を敵方の百姓ごときに流すんですか.....ドブに捨てた方がましです」

 

 

佐介が毒づく。

 

 

「そう言うな。

どちらにせよ、戦勝すれば金がガッポリ入るんだ。がめつく取って置いても仕方が無いだろう。金は使える時にじゃんじゃん使う方がいいんだ」

 

「はぁ.....」

 

 

未だ納得できずにいる佐介。

そんな彼女に天竜は.....

 

 

「そういや佐介。三木城攻略の褒美をまだ与えてなかったな?」

 

「そっ.....そんな!

まだ戦も終わってないのに、

私だけ貰うなんて出来ません!」

 

「まぁな。

信奈がケチンボなせいで、金も土地も己で取らなきゃ、食ってけないからな」

 

 

自業自得であるが.....

 

 

「金も土地も今は与えられる余裕がない。だから、ある褒美を用意した」

 

「なっ.....なんでしょう?」

 

「お前.....『古田佐介』という名には今一締まりが無いとぼやいていたよな?」

 

「はい.....そうですが.....」

 

「俺が代わりに新しい名前をくれてやる」

 

「!?」

 

 

 

 

「お前の名は.....

 

 

『古田織部』だ」

 

 

 

 

「古田.....織部?」

 

「従五位下織部正。

古田織部正重然。

この官位なら俺が直接上と掛け合ってやる。

古佐(ふるさ)より古織(ふるおり)の方が締まりがあっていいだろう?

気に入らなければ別のにしてもいいが......................!?」

 

 

佐介は涙を流していた。

 

 

「気に入らないなんてとんでもない。嬉し過ぎて不覚にも感動してしまいました.....

では古田佐介.....いえ、この古田織部!

天竜様の為に今後より一層忠義を尽くす事を誓いましょう!」

 

 

短期間に2人の娘に泣かれるとは.....

なんだか調子が狂ってしまう。

 

 

こうして茶人武将にして錬金武将、

古田織部が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、合流した吉継隊と共に高松攻めが始まった。

天竜はここで、久しぶりに全軍を集結させた。

大和、紀伊の主軍。

播磨、丹波からの援軍。

明智の援軍。

しめて兵力2万。

さらに宇喜多軍1万を加え、

天竜軍は総兵力3万の軍集団となった。

 

 

「堤防は門前村から蛙ヶ鼻までにしよう。

東南約1里(4km)、

高さ4間(8m)、

底部13間(24m)、

上幅6間(12m)ってとこだな」

 

 

天竜は家臣らに堤防の設計図を見せる。

 

 

「利用する川は足守川だ。

丁度今は梅雨時。増水してるからかなりの量を堰き止められるぞ」

 

 

続いて、人員として導入する百姓の話。

 

 

「農民には、土の俵一俵ごとに銭100文と米1升だ」

 

「それは与えすぎでは!?」

 

 

織部が反論する。

 

 

「前も言っただろう。

それだけ大らかにいかねば、百姓の信用は取れまい。

 

 

 

............取り敢えず計画は以上だ。

何か質問は?」

 

 

三成が問う。

 

 

「計画通りなら高松城は短期間で水没するでしょう。しかし、その後はどうするのです?」

 

「高松城は今や毛利方の最重要拠点だ。ここを取られれば、毛利はもう攻め続けられる運命に転じてしまうからな。

だから、毛利本陣は頑なに高松城に物資を送り続けている。しかし、水攻めで城が没すれば、それも出来なくなる。

物資も受け取れず、兵糧も限りができ、これ以上の反撃は無理だと毛利方に思い込ませる。

その上で、毛利方に講話を持ち出す」

 

「講話!?」

 

「こちらに有利な講話をな。

高松城の陥落は毛利の負けを意味する。だが、そこで講話で手を打てば、毛利と織田の争いは消滅する。上手くいけば、同盟を組む事もできるかもしれない」

 

「そこまでのお考えで.....」

 

 

否、これは史実の受け入りだ。

史実が味方である限り、天竜は無敵。

むしろ大事なのはその先だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月8日に取り掛かった工事であったが、農民以外にも士卒も協力してくた事もありわずか12日、計画以上に上手くいき、あとは決壊させるだけに至った。

 

 

「お身体は大丈夫ですか?」

 

 

三成が心配そうに言う。

 

 

「なに。これぐらいは恰好つけさせてくれ」

 

 

堤防の上に車椅子ごと移動した天竜は、ゆっくりとそこから立ち上がる。

産まれたばかりの鹿のようにフラフラである。

 

 

「危ない!」

 

「手を出しては駄目です石田殿!」

 

「つっ.....!」

 

 

織部に指摘され、三成は畏まる。

 

 

「三成を責めんでくれ織部。

これは俺のわがままだからな」

 

 

右手に軍配を持ち、純白の着物に白烏型の新撰組の羽織を着た、全身を白衣で包んだその魔王は、全軍に響き渡るように叫ぶ。

 

 

 

 

 

「決壊せよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の十兵衛。

天竜から届いた手紙を読み、朗らかな表情をしていた。

 

 

「天竜は本当に凄いです.....

村上水軍を滅ぼし、

三木城を落とし、

鳥取城を落とし、

今や高松城攻めに転じている.....

本当に凄いです」

 

 

だが同時に、毛利攻めの全権を持っていたはずの良晴が蔑ろにされている事に心を痛めていた。

 

 

「先輩.....

最近はどんどん天竜と仲が悪くなってしまって.....

私が天竜と関係を深める度に先輩は離れていってしまう.....

私はいったいどうすれば.....」

 

 

天竜と出会う以前までは、良晴に対し一方的に求婚し、彼を困らせていた事を、今では昔話のように懐かしく感じてしまう。

 

 

「あんなに好きだったのに.....

もちろん今も好きですが!

.....今ではどうもそれが薄いのです.....どうしてなのでしょう.....」

 

 

1人なのをいい事に、今日も元気な十兵衛だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところが、

 

 

 

 

 

 

「相変わらずですね姉上」

 

「ふぇっ!?」

 

 

慌てて振り向くと、そこには左馬助がいたのだ。

 

 

「さっ.....左馬助!いたのですか!」

 

「ずっとです」

 

 

1人なら平気の独り言も、他人に聞かれていたとなると相当恥ずい。

 

 

「羨ましいですね。天竜様と秀吉殿の板挟みになって悩めるなんて.....」

 

「羨ましい!?

はっ.....!まさか左馬助!

先輩の事を!?」

 

「その正反対の解釈を改めて下さい」

 

「うぅ......」

 

 

従姉妹同士にも関わらず、どうも2人には壁がある。

 

 

「ところで、左馬助。

今日はなんの用で?」

 

「現在毛利攻めと同時進行で行っている『四国遠征』において、斎藤利三殿の娘を四国大名、長宗我部元親殿の義妹にし、長宗我部家と正当な同盟関係を結ぼうと考えていたので、その許可を姉上に貰おうと.....」

 

「ちょっ.....ちょっと待つです左馬助!

.....四国遠征!?

初めて聞いたですよ!?」

 

「当然ですよ。織田信奈にも内緒の極秘事項なんですから」

 

「..........」

 

 

十兵衛は現在行っている、細川氏との協力による丹後侵略を行っていたが、それが終われば、四国にも目を向ける予定であった。

よもや、天竜が既に着手しているとは思わなかった。

 

 

「それと、もう一つ.....」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死んで下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

油断していた十兵衛は、その身体をバッサリと斬らす事を許してしまった。

 

 

「がふっ!!?

....................左馬助......

................どうして!!?」

 

 

すると、彼女は邪悪な表情でこう言った。

 

 

 

 

 

 

「まずは姉上から......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十兵衛はその一言で理解する。

このままでは、

雑賀孫市や九鬼嘉隆が危ない!

 

 

 

 

 

 

 

 

左馬助が余所見をしていたその隙をついて、一目散に逃げ出す。胸の大きな傷口を押さえながら、溢れ出る鮮血を辺りに散らしながら.....

 

 

 

 

 

その光景を邪悪な笑みを浮かべながら、慌てふためく十兵衛を眺めていた左馬助は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づくと闇の中に消えていた。

 




今話は次の章との繋がりの為に設けました。
十兵衛を斬った左馬助の真意とはいかに!?
次回予告
天竜の1番弟子
〜天竜様は私だけのもの
私は天竜様だけのもの〜


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過去編

前から書きたいと思ってた過去編です。
未来での天竜の話が中心です。


1話 小学生天竜

 

僕の名前は勘解由小路天竜。

僕は友達が少ない。というかいない。

原因は名前、性格、女子みたいな顔。

色々あるが、最大の原因は.....

 

 

学校に行ってないこと。

大抵の小学生なら幼稚園や小学校で友達を作るだろう。でも僕は、父親が糞な為、学校に行かせて貰えず、いつも謎な修行をされる。

もううんざりだ。

 

 

そして.....家出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんで半日で捕まった。

 

僕の1歳差の姉の名は

勘解由小路青蘭。

人一倍正義感の強い人だ。

女だからという理由で父の修行地獄を免れた幸運の持ち主でもある。

同時に頭も良く、僕の逃走経路を計算して一発で捕まえる程の操作能力に長けた人物だ。思えばこの頃から警察になる運命は決まっていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

勘解由小路家は小規模のヤクザ組織だ。

特に麻薬や銃器を取り扱うような極悪な組織でも、インチキ商法を行ったりする最低な組織でも、抗争が日常茶飯事の暴力的な組織でもない。

 

主に、地域の取り締まり程度だ。

地域の治安維持、

地域行事の取り仕切り、

自治体の構成など。

警察が番犬なら、勘解由小路は野犬のような感じだ。己の意思で動く組織集団。

ヤクザとは似つかわしくない程の友好的な組織であった為、市民からの評価は高かった。

しかし、「ヤクザはヤクザ」「悪は悪」と批評し、根も葉もない捏造話を警察にタレコミする偽善者もいた為、警察には目をつけられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある時、町でぶらっとしてると、

何やら女の子にママごとに誘われた。よくすれ違う近所の子だったので、お互いに気にはなっていた。前に一度交流し、それからよく遊ぶようになった。

僕の初めての『知人』だ。

 

だが、小学生中盤でまだママごとをしてるかと思うと、少し幼さも感じさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいあなた♡」

 

「うむ」

 

「お風呂にします?

ご飯にします?」

 

「お前にする」

 

「!?」

 

 

普通なら次に「それともワ・タ・シ」が来るはずなのだが?

 

 

「今日は会社のお仕事どうでした?」

 

「僕の部下がシレッと横領をやりやがってね。それが明るみになって、大問題だよ。そいつは責任追求され、その末に夜逃げしちゃうし.....

代わりに責任取れなんて部長に怒られて、とばっちり受けて、散々だよ。ははは」

 

「...........」

 

 

僕.....おかしい事言ったかな?

 

 

「お食事の後はどうします?♡」

 

「お互い、最近は忙しかったし、一緒にお風呂に入ってその後は.....久しぶりにどうだ?」

 

「どうって.....」

 

「性行為の事」

 

 

すると彼女は顔を真っ赤にさせ、涙目になる。

 

 

「もう!なんなのさっきから!!」

 

「いや.....僕なりにリアルにやってみたんだけど.....」

 

「リアル過ぎだよ!

天ちゃんは何処でそんな事覚えるのさ!」

 

「主にTVで.....

あと組の若いのから聞いた」

 

「何それ!?」

 

「でも、これに正常に反応できる君も

ちゃんと理解してるって事だよね?

性行為って具体的にはどうやるの?

そこだけがまだ分からないんだ」

 

 

素でセクハラである。

だが、本人は至って本気である。

 

 

「うぅ.....」

 

「どうやら、性行為には男女双方の生殖器が関係してるらしいんだ。ちょっくら君の生殖器を見せてよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殴られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう!!

嫌い!!嫌い!!

もう天ちゃんとなんか遊ばない!!」

 

 

あぁ、僕の貴重な知人が.....

 

 

「なら.....一つだけ教えて」

 

「なっ.....なによ?」

 

 

彼女は頬を赤らめながら聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「名前なんだっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もっかい殴られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「らいあ.....」

 

「ん?」

 

「私はらいあ。

亜門儡阿よ」

 

「亜門らいあちゃんね。

これからよろしくね」

 

「ふっ.....ふーんだ!

天ちゃんなんか川で溺れちゃえ!」

 

「えぇ!?

何故その事を!?

見てたの!?」

 

「本当に溺れたんだ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後家に帰ると、

 

 

「天竜!!

自由時間は3時間までと約束したはず!!10分も遅れるとは何事だぁ!!」

 

 

彼は父の勘解由小路青龍。

通称「糞親父」

賀茂家27代目頭首。

剣士、格闘家としての実力は凄腕。

陰陽師としての実力は0。

(因みに、天竜は潜在能力に期待大

青蘭は期待少々)

 

 

「儡阿ちゃんと遊んでた」

 

「笑止!!

女子と遊ぶなど日本男児のする事か!」

 

「父さんは古すぎだよ。

今の男子はそうなんだって。

.....といっても僕の知人

儡阿ちゃんしかいないけどね」

 

「たわけ!!

罰として自由時間は1時間半に減らす!」

 

「ふえ〜.....

ところで父さん」

 

「何だ?」

 

「あと3秒で怪我するよ?」

 

「!!?」

 

 

 

ガシャーーーンッ!!!

 

 

 

近所の少年が放った野球のボールが窓を突き破って青龍の額に直撃した。

 

 

「ぐおぉ.....」

 

「すいませーん。ボールとって下さ〜い」

 

「うらあぁぁぁ!!!

ぶっ殺してやるうぅぅぅ!!!」

 

「ギャーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

「だから言ったじゃん」

 

「遅いわ!もっと早くに忠告しろ!」

 

「だって5秒先しか未来読めないもん」

 

「ならもっと先まで見えるように鍛えてやる!!」

 

「あ〜れ〜」

 

 

後ろ襟を掴まれ、引き摺られてゆく天竜。

 

そうして、再び地獄の修行が続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2話 高校生天竜

 

中3の冬、父親が死んだ。

正しくは殺された。

容疑者は組の誰かと言われてるが、未だ未解決のままだ。

お陰で俺が28代目を継がされてしまった。

これからどうしよう?

 

まぁ、高校生としてちゃんと学校行けるようになるし別にいいか

...........なんて考えてしまう己が恐しい。

 

 

「今日から同じ学校だよね!

改めて宜しく!」

 

「あぁ」

 

「つれないな〜」

 

「お前元気だな」

 

「だって〜。天ちゃんと一緒の学校なんて嬉しいもん!」

 

「その呼び方やめてくれ。餓鬼の頃なら兎も角、今その呼び方は恥ずい」

 

「いいじゃん。

天ちゃんは天ちゃんだよ〜」

 

「じゃあ僕はお前を『ライアン』と呼ぶ」

 

「何故にドラ●エⅣ!?」

 

「やぁ、ライアン!

今日はホ●ミンは連れてないのかい?」

 

「やめて!恥ずかしい!」

 

「じゃあ、僕のも改めてよ」

 

「だよね〜。

天ちゃんも恥ずかしいよね〜。

だが断る!」

 

「何故だ.....」

 

 

どうしてもこの娘にペースを崩される。

 

 

「それと〜。『お前』ってやめてくれる?ちゃんと名前で呼んでよ」

 

「ちっ...........儡阿」

 

「えへへ」

 

 

我ながらこっちの方が恥ずかしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勘解由小路天竜には悩みがあった。

友人は何人かできた。

悩みは昔のとは別だ。

 

今の僕は現在進行形で不良共に囲まれている。

......といっても、カツアゲとかではない。

 

 

「よう、天竜〜。

また協力してくんない〜?」

 

「やだ」

 

「前みたく敵さんをちょちょいとっやってくれればいいんだよ」

 

「だからやだって」

 

「報酬も出るぜ?」

 

「5万」

 

「ちょっと高いけど、

あいつらぶっ潰せば大金入るからよ!」

 

「先払い」

 

「はぁ!?

よし、おめぇらカンパだ!」

 

 

不良のボス的な男が下っ端共に声をかける。

 

 

「優さん!

全員で1万2865円です!」

 

「何っ!?

.....天竜〜。もうちょい安くならないか?」

 

「6万」

 

「増えてんじゃねぇか!」

 

「しょうがない。

後払いでいいだろう」

 

「おぉ!いいか天竜!!」

 

「うん。

手に入る金額の7割くれるならね」

 

「この守銭奴!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は不良共に、用心棒として雇われていた。高額な値段を代償として、必ず標的を潰してくれる喧嘩専門の暴れ屋。

といっても、学校には優等生で通っているので、極秘事項なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しい?暴れ屋」

 

「ん?」

 

 

とある日の昼休みの屋上、儡阿からの質問。

 

 

「お金.....そこまでして必要?」

 

「残念なことに、家の財産が貧困でな。こんな事ででかい金が入るのなら、いくらでも暴れるさ」

 

「暴力団にでもなるつもり?」

 

「一応、朧組はその手前で止まってるよ」

 

「大変だね〜。

その年で組長だなんて.....

学校にばれたら、築き上げた地位も危うくなるね〜」

 

「大した地位でもないよ」

 

 

 

 

彼の通う高校には、

生徒会執行部と風紀委員会

の2大政党があり、数年前から因縁は続いていた。教師すら恐れて介入できないその因縁の対決は生徒側にも影響を及ぼし、日々悩まされていた。

 

そんな最中に登場したのが、

『暴れ屋天竜』。

 

すると双方から天竜に対し、用心棒として雇いたいと申し出てきたのだ。

生徒会が経費から5万を出せば、

風紀委員は8万。

さらに生徒会は12万。

さらに風紀委員は18万。

25万。

34万。

45万。

50万と.....

完全に特権の乱用で、このままでは学校の運営すら危うくなると感じた天竜はその結果.....

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会と風紀委員両方を壊滅させるという暴挙に出た。

そして、新たに『公安委員会』を設立。

一躍学校の有名人、救世主となるに当たった。

 

だが、当の本人は役職を他生徒に譲り、早期引退。やるだけやって.....飽きたらポイである。

 

辞めた後になってタダ働きして後悔したとボヤいてるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「お陰で、女子からも男子からも言い寄られてしまってな。今朝も下駄箱に手紙が10通も入っていた。

欲しけりゃいるか?」

 

「いるか!」

 

 

この頃はまだデリカシーを知らなかった。

 

 

「儡阿」「天ちゃん」

 

 

同時に呼びかけてしまった。

 

 

「あっ.....ごめん。先にどうぞ」

 

「天ちゃんの方が先に.....」

 

「そうか?なら.....」

 

 

一呼吸の後、天竜は口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結婚する事になった」

 

 

 

 

 

 

「.................え」

 

 

 

 

「正確にはまだだ。

許嫁ってゆうのかな?

将来.....多分、高校卒業するぐらいに正式に結婚すると思う。

相手は大企業

『明智コンチェルン』のご令嬢」

 

「....................すごいじゃん!

天ちゃん玉の輿じゃん!」

 

「うん.....

叔父さんが勝手に決めちゃったんだ。

これは勘解由小路家存亡に関わる事だから、断る事は出来ないんだって。

いくら頭首になっても僕は所詮、傀儡。父さんの影響が強過ぎたんだよ。お陰で僕は年寄り連中のオモチャさ」

 

「天ちゃん.....」

 

「だから、僕は強くなってやる!

明智コンチェルンだって利用してやる!

それが泥を啜る事となろうと!

修羅の道を進む事となろうと!

勘解由小路は僕のものだ!

あんな爺婆なんぞ共にくれてたまるか!」

 

 

天竜は周りに人がいないのをいい事に、高らかに宣言する。

 

 

「天ちゃん.....

そのお嬢様の事.....好きなの?」

 

「.................嫌いではない。

 

いや.....好きなのかもしれない」

 

「そう.....」

 

 

 

 

 

 

 

「儡阿は?」

 

「ん?」

 

「次は儡阿の番」

 

「あぁ.....

 

実は私ね.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神様なの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3話 教師天竜

 

俺の名は勘解由小路天竜。

この学校の教師.....担任をまかされて、はや半年。やはり高2ともなると、授業中にも騒ぐ輩がわんさかいる。

だが、騒ぐだけなら結構だ。

 

 

「1582年、明智光秀は主君である織田信長を本能寺で討った」

 

 

ザワザワ。ザワザワ。

 

 

「羽柴秀吉は毛利と和平を結び、山崎にて明智光秀を迎え討った」

 

 

ザワザワ。ザワザワ。

 

カチカチ。

 

 

「.....織田の後継ぎを決める為、

羽柴秀吉と柴田勝家は賤ヶ岳で.....」

 

 

ザワザワ。カチカチ。

ザワザワ。カチカチ。

 

 

「.............ちっ!」

 

 

天竜は持っていたチョークをへし折った。

 

 

「「「!!?」」」

 

 

クラスは一気に静寂とする。

 

 

「良晴!立て!!」

 

 

クラスの視線が彼に集まる。

 

 

「へ?」

 

「机の下で弄ってた物をここに出せ!」

 

 

バンッと出席簿で教卓を叩く天竜。

 

 

「いや.....その.....」

 

「出せ!!」

 

「.....................................はい」

 

 

泣き目で教卓に『qsq』を出す良晴。

 

 

「俺様の授業でゲームたぁ、

いい度胸だなぁ?」

 

「あの.....すみま.....」

 

 

バンッ!!!

 

 

出席簿で彼の頭をぶっ叩く先生。

 

 

「痛っ.....つぅ〜.....」

 

「廊下に立ってろ!!」

 

「ぐすっ..........はい.....」

 

 

寂しげな背中を見せながら廊下に出てゆく良晴だった。

 

 

 

 

 

 

 

「残念だったなヨシ。

天竜先生は優しいけど、

怒ったら学校一怖いからな」

 

 

授業が終わり、解放された良晴は友人に介抱されていた。

 

 

「なぁ、あれって体罰じゃね?」

 

「諦めろ。前にモンペがそれを訴えたみたいなんだけど、跳ね返されたみたいだぜ?」

 

「なんで?」

 

「『自分の教育方針に納得いかないなら

どうぞ退学してくれ』だとよ。

校長もなぜか天竜先生に頭が上がらないみたいだぜ?」

 

「なんだよそれ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、放課後。

 

 

「あの先生.....」

 

「おぉ!サル.....じゃない良晴!

言ったとおり来たみたいだな」

 

「今、酷い間違え方しなかった!?」

 

「気にするな。...........ほれ」

 

「え?」

 

 

天竜は良晴にqsqを返却する。

 

 

「いいの?」

 

「良くねぇ!

次やってたら永久没収だ」

 

 

あの怒り方からして返って来ないと思っていた良晴。

 

 

「ったく.....『織田信長公の野望』してるぐらい歴史好きなら、俺の授業も真面目に受けろってんだ」

 

「中身見たのかよ!?」

 

「それからだ。戦は一直線じゃ勝てねぇぞ?より効果的な戦略を考えて.....」

 

「プレイしたのかよ!?」

 

「ちょっとやり過ぎて全クリしてしまった.....」

 

「嘘だろ!?」

 

 

こうゆう点で天竜は他の教師と違う。

 

 

「いや.....すまん。

だからおわびに別のゲーム入れといた」

 

「別ゲーム!?」

 

「ほら、メモリーのとこに入ってるだろ?それ起動させればUMDと同じように出来るから」

 

「勝手に人のqsqを改造するな!!」

 

 

良晴は慌ててqsqを調べる。

入っていたゲームは、

『太閤立志伝説』

 

 

「あっ.....これ俺が欲しいと思ってたやつ」

 

「そうか。良かったな」

 

「でもこれって、違法なんじゃ.....」

 

 

すると、天竜は両肘をつき、深い言葉を残す。

 

 

「ばれなきゃ.....いいのさ」

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴がふと見ると、

『太閤立志伝説』以外にも、

『おサルにも分かる算数』

『おサルにも分かる国語』

など、

おサルにも分かるシリーズの勉強ゲームがずっしり入っていた。

 

 

「先生.....これって」

 

「勉強嫌いなお前でもやり易いと思ってな。qsqを返す代わりにそっちをやり込め!

全部クリアしたら今度は

『ゴリラでも分かるシリーズ』や

『ボノボでも分かるシリーズ』

を入れてやる」

 

「人間でも分かるシリーズを入れてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

とはいえ、おサルでも分かるシリーズでも充分苦戦する良晴でしたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『天ちゃん』

 

「アマテラスか?」

 

『天ちゃんが人間に興味持つなんて珍しいでありんす』

 

「そう言うな。

興味でもないと教師は務まらない。

...........ところで『ありんす』ってなんだ?花魁でもねぇのに」

 

『これがわっちのマイブームでありんす』

 

「なんじゃそりゃ」

 

 

 

 

 

 

誰もいなくなった職員室にて天竜は密かに人ならざぬ者と会話するのだった。

 




面白いので今後もちょくちょく入れてゆく予定です。
今後も「小学生」「高校生」「教師」
の3つで行く予定です


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五章 副将軍天竜
第二十八話 天竜の一番弟子


さぁ、毛利戦はついにクライマックス!
さらに新章にて、怒涛の展開が!!


高松城の水攻めを開始してからしばらくして、和睦を提示した天竜の下に、毛利側からの返事が来た。

使者は安国寺恵瓊という名の坊主だった。

 

「いや〜羽柴殿!

私、生まれてこのかたこのような戦は初めて見ますぞ!

濁流で城を呑み込むとは〜

いや、参った参った」

 

 

この坊主、敵陣にも関わらず陽気な事だ。

 

 

「こちら側の要件、

備中国・備後国・美作国・伯耆国・出雲国の割譲の件はどうなっている?」

 

「それなら心配御無用。

高松城の城主、清水宗治の切腹を条件にすれば備中・美作・伯耆を割譲するとの事です」

 

「まぁ、良策ではあるな。

清水宗治には悪いがそれで手を打たせて貰おう」

 

「かしこまりました!

では、毛利側にも伝えて参りました」

 

 

あまりに史実通りで計画が恐しいまでに進んでゆく。

恵瓊が立ち去ろうとした時、

 

 

「恵瓊よ。

お前、毛利が絶対に勝てないとふんで、こちら側に鞍替えしようとしてないか?俺への異常なまでの媚はその為であろう?」

 

「.....................何を仰っているのか分かりません」

 

 

恵瓊は笑顔で返答した。

 

 

「ふっ.....腹黒いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それと、羽柴殿。

余談ですが、清水宗治は

姫武将だそうです」

 

 

 

 

「......................何だと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月23日。

いよいよ当日。

「この時期はそろそろ本能寺の変が起こる頃」だと良晴に伝えた所、彼は慌てて彼女に会いに京へ戻ってしまった。

邪魔者がいなくなったのをいい事に、順調に進められた水攻めは、今日この日を境に終了する。

 

高松城から小舟に乗り、白装束を着た者が出てくる。

清水宗治だ。

後から、兄の月清入道も出てくる。

 

清水宗治は驚く程美しい顔たちをしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「勿体無いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜はそう呟いたかと思うと、

急いで部下に小舟を用意させ、車椅子ごと乗り込んで、湖と化した高松城を進むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『浮世をば 

今こそ渡れ 武士(もののふ)の 名を高松の 苔に残して』

 

 

辞世の句をこれまた美しい声色で読んだ宗治は、小太刀を取り出し、切腹の体制を取る。隣りには介錯人もいた。

 

 

「これで戦が終わるのであれば本望」

 

 

そう呟くと、小太刀の刃先を己の腹部に当てる。

 

 

「此の世よさらば!」

 

 

小太刀に力を込めようとしたその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その切腹待った!」

 

「!?」

 

 

向こうから小舟に乗った何者かがやって来る。何者だ?羽柴方の使者か?

 

 

「その切腹待たれよ」

 

「何者だ?名を名乗れ」

 

「俺は羽柴天竜秀長。

この戦、羽柴方の総大将だ」

 

「何だと!?」

 

 

よもや敵の総大将がやって来るとは予想だにしなかった宗治。

 

 

「羽柴殿が何の用だ」

 

「切腹を直ちに中止せよ」

 

「ふん。土壇場になって和睦を取り消すのか。愚かな事だ」

 

「いや、和睦は変わらない」

 

「なら何だ!!

私の切腹して果てる姿を近くで見たいのか!?趣味が悪いにも程があるぞ!!」

 

「女子の死に様を見て興奮する程、まだ壊れちゃいないよ」

 

「回り諄いのは嫌いだ!

さっさと要件を伝えるがいい!」

 

「和睦の条件の変更を伝えにきた」

 

「何っ!?」

 

 

天竜は右手を宗治に差し出す。

 

 

 

 

「条件の変更を伝える。

 

『清水宗治は羽柴秀長の側室となる事』

 

宗治よ。我がものとなれ!」

 

 

 

 

「..............」

 

 

宗治は唖然としてしまう。

 

 

「ふざけるな!

そんな世迷言が通ると思うか!?」

 

「通すさ。

いざとなれば、小早川や吉川と直接面する覚悟もある」

 

「なんたる、うつけ者だ.....

私の思いは全て無視か?」

 

「元より望まぬがままに主君から切腹を命じられたのであろう。

見捨てられた命だ。

我の側にいようが変わらぬ」

 

「ふざけるな!!

私は毛利への義理を果たす為!

この理不尽な戦を終わらす為に命を捧げるのだ!

私を側室にしてどうする?

そのまま清水家を支配し、

更なる闘争を望むか!!」

 

 

その問いに天竜は思わず吹き出してしまった。

 

 

「なんと愉快な思考持ち主だ。

ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ.....

違うよ。

男が女の命を救う時など、

古からたった一つだ」

 

「何っ!?」

 

 

 

「俺はお前に惚れた」

 

「!!?」

 

 

 

「其方は身が美しければ心も美しい。

そして、忠臣であり、義理に熱ければ人情にも熱い。

非の打ち所があるとすれば、

俺の求婚に中々応えてくれない所か。

だからこそ惚れた。

もう一度言う。

清水宗治よ。我がものとなれ」

 

「...........」

 

 

宗治は完全に思考が停止してしまった。天竜はまるで、ずっと前から知っていたかのように、褒め称えた。

呆れると同時に、つい笑ってしまう程彼は不思議な男だ。

そして気付いた。自分が今、涙を流しているという事を.....

 

 

「いいのか.....?

私はまだ.....生きていて.....」

 

「あぁ、勿論だ。

ただし、これは切腹の代わりの条件。断れば城内の者の命は保証出来ない」

 

 

天竜が黒い言葉を放ったが、

最早、宗治の高まり続ける感情は止められない。

 

 

「お受けしよう。

...........その条件。

ただし、約束してくれ!

私が貴方の側に行けば、城内の者の命は助けると.....」

 

「約束しよう」

 

 

すると、天竜は彼女の目の前に瞬間移動してきた。宗治は勿論、介錯人も驚いた。

だが、そんなものを余所に天竜は宗治を抱き寄せる。

 

 

「ありがとう。応えてくれて.....」

 

 

宗治は知らず知らずの内に大粒の涙を流していた。

 

 

「貴方は..........鬼です」

 

「白夜叉だからな」

 

 

天竜は涙が止まらぬ宗治の頭をそっと撫でてやる。

 

 

「武士の鑑として死にゆく其方もきっと美しいだろうが、生きて華やかに舞う其方はより美しかろう。

多くの命の為に己の命を投げ打つその姿勢気に入った。

今後はその忠誠心を俺に向けてくれる事を誓ってくれるか?」

 

 

「はい.....」

 

 

白き衣を身につけた1組の男女は高松の湖の上で何時迄も抱き合っていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、水攻めの水が引かれたものの、今なお痛々しい損壊が残る高松城にて、小早川隆景と羽柴天竜による会談が行われる事となる。

 

 

「面白いな。あえて清水宗治を生かす事で事なきを得るとは.....」

 

 

死ぬとばかり思われた宗治は助けられた。しかも、それが天竜の働きがけだと知った高松城内の兵達は皆、天竜を支持し、最早天竜側に寝返ったような形でいるのだ。

 

 

「まぁな。

ところで元春はどうした?

てっきり来るとばかり.....」

 

「貴様の胸に聞いてみよ!」

 

 

隆景の怒号には殺気が篭っていた。

吉川元春は、数ヶ月前に天竜に毒針を打たれ、今や不治の病に苦しみ、寝込んでいるのだ。

 

 

「あぁ、あれから3ヶ月ぐらいか。

そちらさんとしては、早くに蹴りをつけないとな。あとたった2ヶ月で大事な姉が死んでしまうものな?」

 

 

更なる殺気が天竜に向けられる。

 

 

「お前の返答次第で彼女を救ってやらんこともない」

 

「本当か!?」

 

「あぁ。『毛利の完全降伏』を了承してくれるのならな?」

 

「!?」

 

 

それは重大な選択であった。

ここで降伏すれば、毛利は織田の完全な従属家になるからだ。

まだ、本願寺や若狭の荒木村重が織田に反発していた全盛期であれば、織田に勝利し、代わりに天下をとる事も可能だったかもしれない。だが、それは過去の話。

頼みの綱はもう無い。

村上水軍も壊滅してしまった。

毛利には、

織田に対抗する力が残っていないのだ。

ましてや、吉川元春は毒という名の人質となっている。

 

 

「好きにするがいい。

和平がある限り、これ以上は進撃しないが、モタモタしてると元春が死ぬぞ〜?」

 

 

このような安い挑発が余計に腹が立つ。

 

 

「くっ.....下衆め!」

 

「何とでも言え。

被害を最小限に抑えられるのであれば畜生にだって成り下がってやる」

 

 

天竜と隆景の視線がバチバチとぶつかる。

 

だが、それは天竜のとある行動により途切れる。

 

懐から小瓶を取り出す。

 

 

「それは.....?」

 

「元春の苦痛を消す魔法の薬さ」

 

「!!?」

 

 

隆景の表情が変わる。

だが同時に、彼女は何か違和感を覚える。

 

 

「さぁ、問題です。

これの中身は何でしょう?」

 

 

別に薬の名称を聞いているのではない。答えは2択なのだ。

 

 

薬か毒か。

 

 

「薬であれば病を治し、苦痛を無くせる。

だが毒であれば、死が苦痛を消す」

 

「その通り」

 

「私に何をさせたい?」

 

「ちょっとした遊びさ。

君が勝てばこの薬をやろう。

では、

『これは薬である』

さぁ、始め!」

 

 

薬なら元春は助かる。

毒なら元春は死ぬ。

それを見分けるには.....

 

 

「私自らが飲んで確かめるしかないという事か」

 

「因みに飲めば、降伏を認めた事とする」

 

「なるほど.....」

 

 

それと天竜の言葉、

『これの中身は薬である』

それが真実なら薬であろう。

しかし.....

 

隆景にはこの男が信用出来ない。

 

武吉から聞いていたが、

この男は宇喜多直家を謀略で殺した。

また、この男は先の戦線にて武吉を殺した。

 

そんな男を信用なんて出来るはずがない。

この男の言動が嘘なら、

『これの中身は毒』

しかし、裏の裏をかけば、

『これの中身は薬』

 

結局分からない。

 

 

「背に腹は変えられない!」

 

 

隆景は小瓶を手に取り、それを飲む。

 

ここで決めなければ元春は死ぬ。

隆景は元春と死す時は共にと誓った。

もしこれが毒で、ここで死す事となろうと、その後姉と黄泉で会えるのなら本望。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「............」

 

 

何も起きない。

これは薬?

 

 

「ぷっ.....くくくくくくくくくく.....

..................くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

 

天竜は高笑いを挙げ、隆景を罵倒した。

 

 

「確かに俺は天邪鬼。

虚言癖はどうも治らぬ。

左様。それは薬ではない。

されど、毒でもない。

それはただの『水』だ」

 

「.....水」

 

 

薬とも毒とも違う。

違和感があったのはその為だ。

 

 

「吉川元春に毒は盛っていない」

 

「!?」

 

「暗示をかけただけだ。

脳が苦しみを与えているに過ぎない。俺が指をパチンッと弾けば暗示は解けよう。

先の直家の事が妄想を大きくし、

暗示に力を与えた。

ただそれだけだ」

 

 

隆景は肩の力が抜けたように、床に落ちた。

 

 

「では、

毛利の降伏を認めたとしようではないか!安心せよ。君ら双子と妹の輝元を含めた3人は織田の.....

いや、俺の重臣として迎え入れようではないか!」

 

「もう、好きにせよ.....」

 

 

隆景には既に天竜に対する抵抗力を失っていた。

この男には、勝てぬと.....

 

 

 

 

 

「天竜様!大変です!!」

 

「なんだ騒々しい!今は外交中だ!」

 

 

飛び込んできたのは小次郎であった。

 

 

「明智殿が!

明智光秀殿が!!」

 

「十兵衛がどうした!?」

 

 

まさか、俺の知らぬ間に

『本能寺の変』を!?

 

 

「何者かに斬られ、意識不明の重体にございます!!」

 

 

 

「なんだと!?」

 

 

 

天竜は毛利との会談を早々に切り上げ、十兵衛がいるという丹波に走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十兵衛ちゃんが重体!?」

 

 

この情報は京の良晴、信奈にも届く。

 

 

「一体どうゆう事なの!?」

 

「明智殿は丹後の攻略中、

寝ちょまりしていたてゅらで夜間にて.....ゴホン!

何者かに真正面からきゅられ、命からがらにゅげだしてきゅたみょよう..........ゴホンゴホン!!

明智殿を見つけ、助けてゅた細川殿ににょると、ぜんしゅんちゅまみれのひゅどいありしゃまでにゃったとぅ.....

ゴホンゴホンゴホン!!!」

 

 

100文字以上の報告をどうもありがとう五右衛門。

 

 

「こうしちゃいられないわ!

サル!十兵衛の所に行くわよ!」

 

「おっ.....おう!!」

 

 

 

 

本能寺の変は回避された(?)が、

代わりに大きな問題が起きてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十兵衛ちゃん!!」

 

 

それから左程時間をかけずに良晴は丹波までやって来た。

そこには横たわる十兵衛、医者の曲直瀬ベンジョール、それと天竜がいた。

 

 

「天竜さん.....」

 

「良晴、来たか.....

ちょっと来い。話がある」

 

 

天竜が2人きりで話したいと誘ってきた。良晴自身、十兵衛の様子の方が気になったが、天竜の表情から、只事ではないと感じ、それに従う事する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだよ?」

 

「お前に一言言っておく事がある」

 

 

天竜から出た言葉は驚くべきものであった。

 

 

 

 

「織田に裏切り者がいる」

 

 

 

 

「...........はぁ!!?」

 

 

衝撃過ぎた為に、理解するのに時間を消耗してしまう。

 

 

「何だって、そんな事!!」

 

「十兵衛の傷口は真正面から受けたもの。十兵衛側に抵抗した形跡が見られない点から、奇襲をされたと考えられる。

なら、敵の間者にやられたか?

否。十兵衛は剣術の達人。

見ず知らずの者に襲われたところで、返り討ちにするだろう。

だから.....

十兵衛もよく知り、

信頼していた人物の犯行と考えるが有効であろう。それも、十兵衛をいとも簡単に斬り伏せられるような達人だ」

 

 

天竜が探偵さながらの推理を発揮する。

 

 

「そんなはず.....」

 

 

良晴もまた、思考を重ねる。

共に修羅場を切り抜いて来た仲間を疑うなんて出来るはずがない。

 

 

 

 

 

 

いや、疑わしきがいるではないか。

 

十兵衛が最も信頼し、

また十兵衛を襲う動機がある人物が.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜だ。

天竜が1番怪しいじゃないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴が全ての実を拾う思想であるのに対し、

天竜は落ちた実は無視して、実のなる木を確保するような男だ。

 

己の野望の為に十兵衛を襲ってもおかしくはない。

天竜配下の古田織部や阿吽姉弟とかも異常な様子だったし.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、

 

 

「くそったれ!!

よくも.....よくも.....

犯人は必ず俺が見つけ出して八つ裂きにしてやる!!」

 

 

怒りに任せ、壁に拳をぶつける。

 

 

 

芝居だよな?

 

 

 

 

 

 

 

小次郎!いるか!!

 

 

「はっ!」

 

「どんな事でもいい。

尋問だろうが、何だろうが、

何でもしろ!!

十兵衛を襲った糞野郎を何が何でも探し出せ!!」

 

「はっ!」

 

 

 

芝居.....じゃない?

 

 

 

小次郎が去った後、天竜は力が抜けたように床に落ちてしまった。

 

 

「ふっ.....ふふっ.....

歴史を変える代償がここまでとは.....参ったなこりゃ.....」

 

 

天竜はいつになく元気が無かった。

 

 

「死ぬ運命にあった信奈が助かった代わりに十兵衛があんな目に遭うとは.....全部俺のせいだ.....俺が歴史を変えたせいだ.....俺がいるせいだ.....」

 

 

完全な鬱状態だ。

ここまで弱った天竜を見るのは初めてだ。

 

 

「歴史を変えたのは俺もだよ。

天竜さんだけの問題じゃない」

 

 

天竜に釣られてつい優しい言葉をかけてしまう。

 

 

「信奈を助ける事ばかり考えてた.....十兵衛ちゃんの事なんて考えもしなかった.....むしろ俺の責任だよ」

 

「いや、お前はよく頑張ってる。

信奈はお前が、

十兵衛は俺が守るはずだったのだ。

やはり俺のせいだよ」

 

 

いつになく元気が無い。

もしや十兵衛が死ぬ事こそが天竜が最も恐れている事なのだろうか?

 

その後、天竜は思い足取りで十兵衛が眠る部屋に戻り、良晴もまたそれに同行する。

 

天竜が部屋入室した時、

そこにいたのは.....

 

 

 

「天竜様!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

なんと左馬助だった。

 

 

 

「ハル。来てたのか」

 

「はい.....

姉上が斬られたとの知らせを聞き、早馬にて駆けつけました。

あの.....天竜様?

姉上は大丈夫なのでしょうか?」

 

 

うるうるした瞳で問う左馬助に天竜は気持ちが重くなる。

 

 

 

天竜は犯人が

この左馬助である事を知らない。

 

 

 

「心配しなくていい。

であろうベンジョール?」

 

「はい.....

身体への損傷は見た目程酷くはありませんでした。急所は無傷ですし、肺や他の臓器の損傷もそこまではありませんでした。

ただ、血をほとんど出し切ってしまったので、意識を取り戻すにはかなりの時間を要すると思われます」

 

「そうですか.....」

 

 

左馬助は心配そうに十兵衛の側に座り込んだ。

 

 

「姉上.....」

 

 

この光景を見ていた者らは皆、

実の姉ように慕う十兵衛を心配する健気な妹のように見えたであろう。

だが.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふくくくくくくく.....

ざまぁないですね姉上。

運良く生き残れたようですが、意識不明とはつくづく惨めです。

まぁ、いいでしょう。

目覚めた時に、貴方は驚愕するでしょうね。貴方の想い人の天竜様は貴方を斬った私のものになってるのですから.....ふくくくくく。

 

 

まっ、その前に殺すのもアリですがね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして!

どうして姉上が!

一体誰が姉上を!!」

 

 

涙をポロポロと流す。

天竜に負けず劣らずの完璧な演技。

 

 

「姉上が.....

もしこのまま目覚めなかったら!

.....そんなの私は嫌です!!」

 

「ハル」

 

 

天竜が左馬助に近づく。

すると彼女は待ってましたと言わんばかりに彼の胸に飛び込む。

 

 

「すみません.....

すこしの間だけこのまま.....」

 

「あぁ.....」

 

 

彼の胸の中でヒクヒクと震える左馬助。天竜は泣いていると錯覚したが、左馬助は笑いを堪えるに必死だったのだ。

 

 

「それにしても.....

十兵衛は誰に斬られたのかしら?」

 

 

そこにいた信奈が呟く。

 

 

「やはり、丹波や丹後、毛利の刺客と考えるのが妥当かしら?」

 

 

左馬助はまた吹き出しそうになる。

 

 

織田信奈め、やはりうつけな女だ。精々丹波や丹後を掻き分け、探すがいいさ。

 

 

 

「いや、これは敵の刺客ではなく、身内の犯行でしょう」

 

「!?」

 

 

天竜が反論する。

 

 

「どうゆうことよ?」

 

 

天竜は先程良晴にした話と同等の説明をする。

 

 

「馬鹿な事言わないで!

仲間を疑えって言うの!?」

 

 

 

馬鹿なのは貴様だ。

何故信じようとしない?

それにひきかえ流石は天竜様だ。

無能な織田信奈とは一味も二味も違う。

 

 

 

「私は敵の動向なんかを探るより、可能性の高い身内から順に潰していけばいいと言っているのです」

 

「ふん。

じゃあ、あんたも容疑者の1人って事でいいのね!?」

 

 

天竜は呆れ顔になる。

 

 

「私を疑いたきゃ、どうぞご自由に」

 

 

 

ここまで馬鹿だと反吐が出る。

天竜様を疑うなど恥を知れ醜女。

 

 

 

「まずは十兵衛と関係があった者らから探っていこう。仲が悪かった者や、最近、交流があったもの.....当然、我が軍の者も徹底的に調べ上げます。

 

 

「っ.....」

 

「どうしたハル?」

 

「いっ.....いえ、何も.....」

 

「心配すんな。

さっきの様子見てたらお前は殆ど白だ。待ってろよ!犯人は必ず俺が引き摺り出してやる!」

 

「....................はい」

 

 

 

このお方は恐しい。

推理力が桁違いだ。

炙り出されるのも時間の問題か?

 

 

 

「ふん。勝手にしなさい。

それより毛利はどうしたのよ!

仕事ほっぽって来たんじゃないでしょうね!」

 

「それなら心配御無用。

毛利はもう降伏しました」

 

「!!!?」

 

 

 

ほうれ見ろ!

やはり天竜様こそ日輪の申し子。

貴様ごときが天下人を名乗るなど

千年早い。

 

 

「何だよこれ.....」

 

 

想い人である信奈と、

恩師にして義兄の天竜は、

真っ向から対立しており、

大切な仲間の十兵衛は倒れ、

しかも、仲間の中に裏切り者が紛れ込んでいる!?

 

良晴の中は完全なパニックになっていた。

 




清水宗治は
『どうしても助けてあげたい武将ランキング』で上位の人でした。
武士の鑑として天竜に感動与えるという展開とどっちかと迷って、
結果、宗治を姫武将にして、側室にするという案になりました。
それなりに満足してます。
でも今後の活躍の見等しは薄いですね。
次回予告
明智左馬助光春
〜何故私の気持ちが分からないのですか!〜


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第二十九話 明智左馬助光春

最早、史実通りですらなくなっているこの話。
皆さんはついていけますか?


犯人探しの為、天竜は一度は本城である信貴山城に戻る。

 

 

「ふぅ.....」

 

 

正直、気が乗らなかった。

これから自分が信じた家臣を含め、多くの仲間を疑わなければならない。

 

 

「まず、十兵衛と仲が悪かった奴は.....やっぱ勝家や犬千代か。

山中鹿之介とは三木城攻めでよく言い争ったというが.....

ふぅ.....」

 

 

やはり、考えが向かない。

仮に目星をつけても、

直接『犯人か?』なんて聞けるわけないし、無実だとその後気まずくなる。

小次郎やハルには強気な姿勢を見せたが、とうの本人は気が重かったのだ。

 

 

 

 

「どうしたもんかな.....」

 

「どうしたのですか天竜?」

 

「げっ!」

 

 

そこにいたのは.....

 

 

「ジャッ.....ジャンヌダルク!?」

 

「気軽にジャンヌとお呼び下さい」

 

「あっ.....あぁ」

 

 

彼女はサンジェルマン伯爵から一方的に預けられた金髪碧眼の美女、ジャンヌダルク。

天竜は預かったものの、彼女の扱いに困り、毛利攻めが終わるまでは保留にしておこうと、ずっと放置していたのだ。

元死者であるというのが、扱いに困る1番の理由なのかもしれない。

彼女は和服が気に入ったようで、 最近はよく着物を着ているようだ。

 

「話は聞きました。

お仲間の方が襲われたとか?」

 

 

彼女はフロイス並に流暢な日本語で言う。

 

 

「お仲間の不運はさぞお辛いでしょう。それが想い人となれば尚更です」

 

「だっ.....誰に聞いた!?」

 

「順慶に」

 

「藤勝め.....」

 

 

普段は強気なはずの天竜も完全に他人のペースに持っていかれている。十兵衛の件のダメージがまだ残っているようだ。

 

 

「なぁ、ジャンヌ。

お前ならどうする?

仲間に裏切り者がいる時.....」

 

「そうですね.....」

 

 

彼女は暫くの思考の後、答えを出す。

 

 

「天竜は何故その裏切り者を見つける事にこだわるのですか?」

 

「何っ!?」

 

「何故、裏切り者側の心中を考えようとしないのですか?」

 

「それは、裏切り者の正体が分かるまで考えようがねぇだろ」

 

「そうですね」

 

 

やはり何を考えているか分からない。

 

 

「ジャンヌならどうする?

お前は身内に裏切り者がいるとしたらどうする?」

 

 

 

 

 

「私は.....相手の思いをよく感じ取った上で......誅します」

 

 

 

 

 

「結局殺すのか?」

 

「はい。

その者が軍の規律を乱すのなら、

容赦はしません」

 

 

こいつは何が言いたい?

 

 

「だからこそ.....

その者の真意をしっかりと受け取ります。そして、その思想をこの胸にいつまでも留めます。いつまでも.....」

 

「..........」

 

「それよりも私は貴方が心配です。今回は辛うじて命は取り留めましたが、もし想い人を失った貴方が奇行に走らないか心配でなりません。

『ジル』のようにならなければいいのですが.....」

 

 

ジル.....『ジル・ド・レ元帥』の事か?

ジャンヌが処刑され、気が狂った彼は黒魔術に走り、多くの子供を惨殺したという.....

 

十兵衛を失えば、俺も.....もしかしたら同じ命運を辿るかもしれない。

 

 

「お似合いですねぇ。おふたりさん」

 

 

順慶が来た。

 

 

「お前の自由気ままさが羨ましいよ」

 

「お互い様ですねぇ」

 

「十兵衛の話は聞いてるだろう?」

 

「それでぇ、天竜様が犯人探しをしてる事も知ってますぅ」

 

「お前は平気なのか?」

 

「私は自身持って犯人でないと言えるので平気ですぅ」

 

「その様子じゃお前は白だな。

安心したよ」

 

「それはそれは.....」

 

 

今日ものんびり屋な順慶だ。

 

 

「ところで、折角部屋に3人きりですのでぇ。ジャンヌ殿もご一緒にどうですぅ?」

 

「どうゆうことですか順慶?」

 

「おい!ジャンヌを巻き込むな!」

 

「知らないんですかぁ?

天竜様は可愛らしい女子は皆食べてしまう性豪なんですよぉ?しかも気に入った女子を次々に側室や愛人にする程の無類の女好き。

これからジャンヌ殿も食べられるご予定だったんでしょう?」

 

「そんなわけあるか!!」

 

 

半分事実なのが痛い。

藤勝が最近、変態というか淫乱というか、おかしな道に進み始めている気がする.....

 

するとジャンヌが急に顔を紅潮させ、胸元を隠しながら天竜を避けるかのように距離をとる。

 

 

「心配すんな!

外人は苦手だから手出しはしねぇ!」

 

 

我ながら焦って失礼極まりない発言をしてしまった。ジャンヌに白い目を向けられる。

 

 

「いや!和服の洋人はそれはそれで萌える.....じゃない!

ええと.....ええと.....

そこまで言うなら結婚してやってもいいぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グーで殴られた。

腰が入っていた。

流石はオルレアンの乙女.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜様にしてはらしくないですねぇ」

 

「俺.....あいつ苦手だ」

 

 

こうもパニクるとは.....

確かにらしくない。

 

 

「あいつ呼ばわりしないで下さい。位の差はあっても、年上に対しての礼儀ぐらい知ったらどうなんです?」

 

「年上?俺、27歳だぞ?」

 

「ふぇ!?」

 

「見た目は17だけど、中身は27歳。

まぁ、色々あってな」

 

「私的には前の方が男らしくて良かったですし、夜も激しかったですねぇ。.....ぽっ」

 

「てめぇは黙ってろ」

 

 

そんな順慶を余所にジャンヌは何だか気まずそうにしている。

 

 

 

 

 

 

「あっ!

私が生まれたのが1412年なので、

それで考えれば私は約170歳くらいなので、やっぱり私が年上です!」

 

 

死んでた期間を無視したメチャクチャな計算だ。

 

 

「お前はそれでいいのかよ.....

これからジャンヌ婆さんて呼ぶぞ?」

 

「それは嫌です!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはそれとしてぇ.....

天竜様、顔が酷いですよぉ?」

 

「顔は酷くねぇよ」

 

 

正しくは酷い顔色だ。

天竜に対してここまで冗談に言えるのは順慶ぐらいだ。

 

天竜は順慶から手鏡を受け取ると、己の面相を見つめる。奇しくも、未だ気に入らない美少女のような顔をしていたが、それも台無しにするぐらい、目の下のクマが目立っていた。

 

 

「確かに酷いな.....」

 

「天竜様、最近寝てますぅ?」

 

「5日前に半刻(1時間)ほど.....」

 

「死ぬ気ですか!!?」

 

「いや、忙しくて寝る間も惜しくて.....」

 

「駄目ですよ天竜!

よく食べ、よく動いて、よく眠る事こそが戦士には最も必要なんです!ほんのちょっとでもいいので寝て下さい!」

 

「うっ.....うん.....」

 

 

ジャンヌからも強く言われ、天竜がその場で横になろうとすると、

 

 

「ジャンヌ殿に膝枕して貰ってはぁ?」

 

「「!?」」

 

 

天竜とジャンヌ両方が驚く。

 

 

「そんな!私の足って、結構筋肉がついていて.....その、枕なんかにはなりませんよぉ」

 

「まぁ、大丈夫だ。個人的に枕は硬めの方が好きだ」

 

 

 

 

 

また殴られた。

駄目だな。俺疲れてる。

 

結局、ジャンヌの意地で無理矢理寝かせられる羽目に.....

 

 

 

 

 

「こんな事してる暇ないんだけどなぁ.....」

 

「天竜様は働き過ぎですねぇ。

このままでは明智殿どころか、天竜様まで倒れちゃいますよぉ」

 

「まぁな。

..........十兵衛の件でかなり参ってたみたいだ。お前達と話せて少し気が楽になったよ。

ありがとな藤勝。ジャンヌ」

 

 

ジャンヌはそっと頬を紅潮させた。改めて美少年を膝枕にしている事実に気づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1分としないうちに天竜は眠りについた。

 

 

「眠りましたね」

 

「本当に硬い枕で眠れるんですねぇ」

 

「うるさいですよ順慶(怒)」

 

 

ジャンヌはふと思いに浸る。

フランス王国の為に命を捧げ、敵国イングランドを相手に戦を起こし、必死に百年戦争を終わらせようと尽力した。だが、国内で起きた内乱により、本来なら協力すべきである、同じフランスの者に捕縛され、国王からも裏切られた。

そして、敵国イングランドに引き渡され、奇しくも異端として裁かれた。

男装を禁じられ、

女装をすれば、夜な夜な犯され、

処女を奪われ、

嫌になって男装に戻したら、

処刑を宣告された。

私は異端とされた。

魔女と言われ、罵られた。

ミカエル様のお言葉さえ、

悪魔の囁きだと否定された。

私は魔女とされ、業火の中に消えた。

 

それから150年経って、

私は現世に舞い戻った。

生まれ変わって初めて会ったのが、

サンジェルマン伯爵。

彼はジルに錬金術や黒魔術を教えた張本人だとか。ジルを魔道に引き込んだ張本人だとか.....

伯爵様こそ真の異端だった。

恨む事は無かった。

むしろ、彼をどう恨んでいいかが分からなかった。

 

彼は度々日本を訪れた。

こんな極東の地に連れていかれ、

言葉も分からず、苦痛だったが、

今では流石に慣れ、普通に話せるようになった。

ある時、千利休という少女が伯爵様に弟子入りしてきた。滅多に喋らない不思議な子だった。

だけれど、その目の奥は万年先も見通していそうな怖い子だった。

 

さらにある時、伯爵様が重要な人物に会うと言って来た。

彼は言った。

『魔王サタンの子孫に会う』と、

私は驚愕した。

そんな恐しい者が、

今ここに現れるだと、

そのように畏怖していたが、

その者は、女子のような美しい顔たちの若い少年のようであった。

どこにも、サタンの様子はなかった。

 

そして今、そのサタンの子孫は私の膝の上で寝息を立てている。

 

 

「これでは魔女と言われても仕方ないですね」

 

 

ジャンヌはそっと天竜の頬に手を添えた。

 

 

 

 

 

『中々似合いではないか』

 

「!?」

 

 

 

 

 

すぐ近く.....真横から声がする。

すると、そこには西洋風の黒いドレスを身に纏った女性が.....

 

 

『魔王を支えるは魔女の仕事。

明智の小娘よか、貴様の方がよっぽど似合うと思うぞ?』

 

「その声.....まさか!?」

 

『久しいなジャンヌダルク』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミカエル様!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声に天竜が目を覚ます。

 

 

「のわっ!?.....ツクヨミ!?

いきなりどうしたんだよ!?」

 

『指輪と十字架の修復が終わったから届けに出たのだ。貴様が飲み込んで吐き出したこれは、元の形から遠くかけ離れていたのでな?』

 

「そりゃ親切にどうも」

 

「あの〜」

 

 

ジャンヌが恐る恐る尋ねる。

 

 

「天竜はこの方とどのようなご関係で?」

 

「あぁ、俺はこいつの子孫なんだよ」

 

「............................は?

天竜は魔王サタンの御子孫なのでは?」

 

「知ってたか。そうだよ。

だからこいつがサタンなんだよ」

 

「何を言っておいでですか!?

この方は大天使ミカエル様です!!」

 

「はぁ!?お前こそ何言ってるんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どちらも間違ってない。

ミカエルもサタンも私の名だ』

 

 

 

 

 

 

 

「「は?」」

 

 

これには流石に、天竜もジャンヌも言葉が出なかった。

 

 

『正確には、

ミカエルとルシフェルが

統合されてサタンだ。

まぁ、転じてルシファーと呼ぶものもいるがね』

 

「どっ.....どうゆう事ですか?」

 

 

ジャンヌは狼狽えた。

無理もない。自分が聞いた声は、ミカエルの声。神の意思だと信じてきたのに、これでは.....

 

 

『ミカエルもルシフェルも同一人物。

我が気まぐれで行った善の行為がミカエルの名になったに過ぎない』

 

「では、あの時の.....神の声は.....」

 

『ふっ.....悪魔の声の間違いだ』

 

「..........」

 

 

なんという事だ.....

私は本物の魔女だった.....

 

 

『それよりも朧命よ。

貴様はこんな所で、悠長にしていてよいのか?』

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

『また斬られたようだぞ?

お前に近しい者が.....』

 

「..........なんだって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紀伊。

 

 

「なんや自分!?

うちを殺す気か!?」

 

 

孫市は、布で顔を隠した何者かに襲われる。左腕を斬られ、そこからポタポタと血が流れ落ちる。

 

 

「全ては天竜様の為、私の為、

死ね、雑賀孫市!!」

 

「なんでやねん!!

うちを殺したきゃ、うちに分かる理由をぶら下げて来るんやな!!」

 

 

孫市は背中からウィンチェスターを取り出し、奴に向け発砲する。

弾丸は犯人の真横を抜けてゆく。

威嚇射撃ではあったが、始めから分かってたかのように、反応の1つも示さなかった。

 

 

「刀と雨陰千重洲陀。

どちらが有利か分かるわなぁ?」

 

 

ウィンチェスターは片腕で撃てるというのが最大の利点だ。

 

 

「勝てない事はないですが、骨を折ってまで挑むつもりもないです。さようなら孫市さん」

 

「!?」

 

 

そのまま、奴は黒い霧の中に消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事が.....」

 

 

翌日、早馬にて紀伊まで急いだ天竜は、孫市の下へ辿り着いた。

 

 

「でも、昨日の今日でもう見舞いに来てくれるなんて、うちの旦那さんは心配さんやな」

 

 

笑顔でデレる孫市を見て、居た堪れなくなった天竜は、そのまま孫市を抱き寄せる。

 

 

「ごめん.....

俺がいるのに.....

こんな怪我を.....」

 

「ふふっ.....うちはこれだけで元気100倍や。痛みも忘れるくらいドキドキしてまう」

 

 

孫市もまた、もう片方の腕を天竜の背中に回す。

 

 

 

 

その時である。

 

 

「天竜様!!」

 

 

現れたのは凪。

 

 

「どうした!?」

 

「それが、伊勢にて.....」

 

「まさか.....」

 

「九鬼嘉隆殿が.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからさらに伊勢にも訪れる。

孫市も天竜の反対を押し切って着いて来た。

 

 

「嘉隆.....」

 

 

嘉隆は昨晩、暗闇から突然現れた不審者に、いきなり背中から斬られ、危うく殺されかけた。

だが、近くにいた家来達が異変を聞きつけ、すぐに助けに出たため、止めを刺そうとする不審者をすんでの所で追い払えたのだという。

 

 

「天竜様ぁ.....どうして私が.....」

 

 

その理由はハッキリしている。

目的は十兵衛じゃない。

 

 

「目的は俺か.....」

 

 

側室の孫市と嘉隆。

正室候補(?)の十兵衛。

彼女らに共通するといったら一つしかない。

 

 

「確かに大当たりだ。

俺を精神的に殺すならこれが効果的面だ」

 

 

天竜は嘉隆の手を握ってやる。

全部俺の責任だ。俺が責任を取る。

 

もう一度事件を整理する。

・被害者は十兵衛、孫市、嘉隆。

・犯人は十兵衛のよく知る人物。

・犯人は剣術の達人。

・ここ数日を自由に動けた者。

・3人の刀傷。

・「天竜様」という言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「謎は全て解けた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丹波。

 

 

とある寺の一画が貸し切られ、

十兵衛の療養場所にされていた。

その一室にて、1人スヤスヤと眠る十兵衛。

そこに.....

 

 

「何も知らずよく寝てますね」

 

 

人斬り左馬助。

 

 

「雑賀孫市と九鬼嘉隆はしくじったが、まずはこちらから。奴らいずれ殺すとしよう。

.....まだ清水宗治も残っている。

それから、筒井順慶も

果心居士も、凪という忍も、

みんな殺してやる」

 

 

皆、天竜と男女の仲となった人物。

 

 

「さぁ、大忙しです!

あまり時間はかけられないので、

一刺しで楽にしてあげますね。

うふふふふふ.....」

 

 

左馬助が刀を抜こうと柄に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ。ハル」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

慌てて振り返る。そこには天竜が.....

 

 

「何をしている?」

 

「..........姉上が心配になってお見舞いに来てたんです」

 

 

左馬助は柄から手を離し、芝居に出る。

 

 

「ほう。帯刀してお見舞いたぁ珍しいな」

 

「っ.....!」

 

 

だが、それを確信している天竜には通用しない。

 

 

「単刀直入に言う。

今回の事件.....十兵衛、孫市、嘉隆を襲った犯人は.....

お前だよ。明智左馬助光春」

 

「くっ.....!!」

 

 

 

 

「まず、第一の点。

被害者が明智光秀、雑賀孫市、九鬼嘉隆であったという所。

十兵衛だけじゃ分からなかったが、他の2人も襲われた事でその関連性に気づけた。

目的は俺だ。

俺に所縁のあるやつらを襲っていた」

 

「..........」

 

「そして、第二の点。

孫市が聞いた『天竜様』という台詞。

古今東西において、俺を様付けで呼ぶ奴といったらだいぶ限られる。

明智左馬助。

佐々木小次郎。

石田三成。

大谷吉継。

筒井順慶。

古田織部。

九鬼嘉隆。

凪。

ここから被害者の嘉隆を抜き、

孫市が襲われた時に俺と一緒にいた藤勝.....順慶も抜ける。

十兵衛との面識が殆どなく、

見知っていた仲でもなかった、

織部と凪も抜ける。

十兵衛が襲われたのは、高松水攻めの真最中。共に戦っていた三成も吉継も白だ。

残るは2人。

四国遠征の最中、十兵衛への用を足しに、戻ってきてたお前か小次郎.....

 

そして、第三の点。

3人に残った傷跡。

あれはどう見ても、

『鹿島新当流』による刀傷。3人共に、共通の傷口だったから分かった。

容疑者の中に鹿島新当流の使い手はたった1人。

お前だよ」

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふ.....ふふ.....

 

ふくくくくくくく.....

 

あはっ.....あはははははははははは

 

ははははははははははははははは

 

ははははははははははははははは

 

ははははははははははははははは

 

ははははははははははははははは

 

ははははははははははははは!!!!

 

 

天竜の高笑いにも負けない程の大笑い。

 

 

「大正解!!

その通りで〜す!」

 

「言い逃れしなかっただけ褒めてやる。大和や紀伊に現れたという人斬りはお前か?」

 

「それも当たりで〜す!

全部私が殺しました♡」

 

 

完全に吹っ切れている左馬助。

 

 

「どうゆう真似だ?

俺に何の恨みがある?」

 

「恨み?そんなものあるわけ無いじゃないですか」

 

「?」

 

「天竜様は素晴らしいお方です!

面相も素晴らしければ、

内心も素晴らしい!!

そしてその思想もです!!

だからこそ多くの者が憧れます!

でも.....その中には天竜様を誑かし、己のものにしようとする豚共がうじゃうじゃと混じっている!!

それでは、天竜様の害にしかならない!!だからこそ私が駆除するのです!!

 

 

意地汚い雌豚共は皆私が殺します♡

 

この世の雌豚は皆私が殺します♡

 

 

天竜様の側にいるのは私だけでいい。

全てを理解してあげられる私だけで。

 

 

 

さぁ、天竜様。

一緒に姉上を殺しましょう♡

臭い息を出し入れしてる口から漏れる、死に際の呻き声を一緒に聴きましょう♡

腹を引き裂き、腸(わた)を引き摺り出して、共に喰らい殺しましょう♡

あはははははははははははは!!!」

 

 

思わず天竜は後退りする。

 

こいつは狂ってる!

 

 

 

 

 

「さぁ!

さぁさぁ、!!

女なんて皆殺しましょうよ!!」

 

 

 

 

「やめろ!!」

 

 

 

「!?」

 

「それ以上口を開くな.....

お前にこれ以上失望したくない.....」

 

「え?」

 

「何がお前を狂わせた?

俺か?

俺が悪かったのか?

お前を避けた俺がこの惨事を引き起こしたのか!?」

 

 

天竜は彼女の両肩を掴んで叫ぶ。

まだ、自分のせいにしてほしかった。

そうでなければこいつは救いようが無くなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を言っているのですかぁ?

私は何も間違ってませんよぉ?

悪いのは全部あいつら。

死んで当たり前のあいつら。

殺されて当たり前のあいつらなんですよぉ〜!

あはははははははははははは!!!」

 

 

瞳から光も消え、理性が逝っている。

完全に病んでいる。

何処で選択肢を間違えたというのだ?

 

 

「そうか.....」

 

「はい♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜は彼女の頬をおもいっきり叩いた。

 

 

「うぐっ!!?」

 

 

それは想像以上の強さであり、

左馬助はその場から吹っ飛ばされる。

一瞬、顔面が歪めた程のそのビンタにより、左馬助の鼻部からは多くの血がボタボタと落ちる。

 

 

「!?..........!?.............!?」

 

 

彼女は未だ状況を理解出来ていない。

 

 

「今の俺にとって.....

最大の害は貴様だ。

お前の存在が他人を不幸にする.....

害虫だ」

 

 

変わってしまった.....俺が変えてしまった彼女への対処はたった1つ。

 

 

「貴様を破門する。貴様はもう、

俺の弟子でも家臣でもない!

何処へでも消え失せろ!」

 

「天竜.....様?」

 

「二度言わせるな。

俺の眼中から消えろと言ってるんだハ..........明智左馬助」

 

「天..........さ.....」

 

 

瞳から大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。それを見るのが辛くて、天竜は目を逸らした。

 

これが俺にとっての最大の良策。

本来ならば処刑が相応しいであろう左馬助の罪を許すのは難しい。

かといって、長良川からの仲である愛しき弟子を殺せるわけもなく.....

破門という選択肢を取った。

 

 

「うぅ.....!!」

 

 

嗚咽を漏らしながら、左馬助は出て行く。

 

出来れば止めたかった。

止めて、抱きしめてやりたかった。この子が生徒で、俺が教師ならそうしただろう。

だが、それは無理。

何故なら彼女は兵士で、俺は長。

追放という処断すら生温いと言われるであろう。

 

 

「これが俺ができる最大限の善処だ。

許せ」

 

 

歯を食い縛り、天竜は呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左馬助は覚束ない足取りで走っていた。

 

天竜様に怒られた!

天竜様に叱られた!

天竜様に見放された!

天竜様に蔑まれた!

天竜様に嫌われた!

嫌われた!嫌われた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

 

「天竜様に嫌われるなんて嫌だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハル!」

 

「..........小次郎?」

 

 

共に四国から出て来ていた小次郎が左馬助を見つけ、呼び止める。

彼女はまだ、事の真相を知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜様に嫌われた?

一体何したんだよ?」

 

「その.....」

 

「兎に角、直ぐに謝る事だな。

天竜様は私達には優しいお方だから.....」

 

「!?」

 

 

私達には優しい?

私だけが忌み嫌われ、

お前達だけが優しくしてもらえる。

それをわざわざ自慢しているのか?

 

 

「例え、それで上手くいかなくても、私達が仲裁してやるから.....」

 

 

それは同情しているのか?

 

お前ごときが同情を?

 

一度も私に勝てなかったお前が?

 

泣き虫のふりで天竜様の寵愛を勝ち取り、優越に浸っていたお前が?

 

 

「私達だけはハルの味方だからな?」

 

「..........」

 

 

 

 

五月蝿い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五月蝿い!

 

五月蝿い!!

 

五月蝿い!!!

 

五月蝿い!!!!

 

五月蝿い!!!!!

 

五月蝿い!!!!!!

 

五月蝿い!!!!!!!

 

五月蝿い!!!!!!!!

 

五月蝿い!!!!!!!!!

 

五月蝿い!!!!!!!!!!

 

五月蝿い!!!!!!!!!!!」

 

「!!?」

 

 

左馬助の被害妄想が爆散する。

 

 

「お前も天竜様を誑かす雌豚だ!!」

 

「ハル!?」

 

 

左馬助は刀を抜き、小次郎に向ける。

その瞳は血で染められたかのような紅蓮。

 

 

 

 

 

 

 

そして、刀は振り下ろされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミンナシンジャエ

 

 




ジャンヌダルクの見た目モデルはFateのセイバーです。
(実際に出てましたし)
ハルちゃんが完全にヤンデレモードに!
死傷者も出した彼女の行く末は如何に!?
次回予告
佐々木小次郎
〜生きてほしい。
お前の為に、俺の為に〜


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第三十話 佐々木小次郎

最近、過疎化してきましたかね?


ある少女が目を覚ます。

ここは何処だと辺りを探る。

最後に見た記憶は、

信頼していた従姉妹に斬られ、無心で逃げ出して来た所。

あれからどれくらいの時間が経ったのだろう?

 

 

「っ....!?」

 

 

ハッと思い返し、己の胸部を見る。

 

 

「傷が.....ない?」

 

 

あの出来事が嘘だったかのように、傷は何処にも無かった。

 

 

「まさか.....いったい.............!?」

 

 

ふと横に目を向けると、自分が負っていたはずの傷を付け、そこから血を流して倒れていた男性が.....

 

 

「天竜!!?」

 

 

十兵衛は慌てて彼に駆け寄る。

すると彼は、胸だけではなく、

背中や、左腕にも傷を負っており、虫の息だ。

 

 

「そんな.....

誰か!!

誰か天竜を助けて下さい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まで寝込んでいた十兵衛に代わり、今度は天竜が床につく事に.....

 

 

「傷を移した?」

 

「そうみたいや.....」

 

 

斬られたというのに、何故かピンピンして、自力で丹波まで来た孫市と嘉隆。

 

 

「これは自分の責任だとか言って、よう分からん術でうちと九鬼はんの傷を自分に移してもうたんよ。

しかも、その傷のまま丹波まで出発してもうて.....

うちの左腕は兎も角、九鬼はんの背中の傷は相当なものだったはずや.....」

 

「ぐすっ.....天竜様.....」

 

 

おまけに十兵衛の胸の傷まで引き受けてしまった。今の天竜は文字通りのズタボロ雑巾のような状態だ。

 

 

「そんな.....天竜!天竜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の笑顔が見たくて頑張ったのに.....

泣かれては拍子抜けするではないか」

 

「!?」

 

 

天竜がふと目を覚ます。

瀕死と言っても過言でないのに、

なんとゆう精神力の強さだ。

 

 

「天竜!!」

 

「大声出さんでくれ。傷に響く。

痛っ...........」

 

「でも!.....でも!」

 

「死なないから、結婚してくれ」

 

「します!

だから死なないで下さい!!」

 

 

ここまで前向きに言われると、こっちが恥ずかしくなる。

 

 

「ふん。俺は月読命が子孫。

朧命にして、賀茂家の正統後継者だぞ?

この程度で死ぬものか!」

 

 

天竜が懐から指輪をゆっくりと取り出すと、胸の中心に置いて、呪文を唱える。

 

 

 

 

「羯諦羯諦.....波羅羯諦.....波羅僧

.....羯諦.....菩提.........薩婆訶」

 

 

 

 

すると、白い光に天竜が包まれる。

思わず目を覆いたくなる程の輝きの中で、天竜の傷がゆっくりと消えているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い.....」

 

 

これまた何もなかったかのように、傷は消えてしまった。

 

 

「これでもう安心だ。

反動でまた動けなくなるがな。

ツクヨミ化の反動がようやく治まったってぇのに、また車椅子生活だ」

 

「天竜.....」

 

 

見るたびに弱々しくなる彼を見ると、愛しさと哀しさが入り交ざっておかしな感覚になる。

 

 

「本当に.....

己の命は二の次なのは、

兄弟でそっくりですね.....」

 

「ふん。

それでも俺は自分が助かる予定も組み込んだ上で行動してる。

考えなしの特攻バカと一緒にすんな」

 

「いばんなです」

 

 

やはり天竜だ。

若返ろうが、危機的状況に陥ろうが彼は彼。何も変わらない。

 

だからこそ、十兵衛はその話を切り出す。

 

 

「左馬助は.....」

 

 

十兵衛は目覚めてから大体の事情は聞いていた。

左馬助は十兵衛を襲った後、孫市・嘉隆を短期間にて襲った。

その後、眠っている十兵衛の寝首をかこうとした所を天竜に止められたのだとか。

話では、近畿で人斬りを行っていたのも彼女だったのだとか。

 

 

「あいつの罪は思っている以上に重い。

多分、どいつに聞いても処刑を命じるだろうな」

 

「..........」

 

「だからこそ『破門』という命を下した。俺も現代.....未来人なせいか、家臣への処罰に疎くてな。外に厳しいのに内に優しいから『外弁慶』なんて言われるんだよ」

 

「それでこそ貴方です.....

もし貴方が左馬助を殺せば、

私も貴方を殺していたかもしれないです.....」

 

「それは怖い怖い。

君のお人好しも大概だね。

俺より連続殺人鬼を優先するとは.....」

 

「私は血族の者を信じているだけです。左馬助にも同じ土岐源氏の血が流れているのなら、その信念もまた同じはず!

私は左馬助を説得してみせます!

その為.....貴方も協力して頂きますか?多分、私の言葉より貴方の言葉の方が左馬助には伝わり易いでしょう.....」

 

「それでこそ君だ。

今回ばかりは君の家臣に今一度に戻るとしよう」

 

「貴方が副将軍になろうと関白になろうと、例え帝の位を得ようと、私はずっと貴方の主君です!」

 

「またもや逃げるか。

まぁ、いいや。

男はいつだって追い求める者。誘ってくるなら、いつまでも追っていくさ」

 

「!?...........私はそんな事!!」

 

 

 

天竜は十兵衛を引き寄せ、キスをした。

 

 

 

「!!!?」

 

「いいな〜.....」

 

「正室には勝てへんわ」

 

 

2人の側室に反論しようと口を開こうとしたが、天竜が中々唇を離してくれない。

 

 

「んーーっ!んーーっ!

もう許し.....」

 

「あぁ、愛しい.....

ここ1月禁欲してたから......

もう我慢できない.....

欲しい.....君が欲しい.....

君を食べてしまいたい.....」

 

「内の貴方も大概ですよ!?」

 

 

内でも外でも女好き。

それが天竜節。

 

 

「よし!4人でやろか!」

 

「えっ!?

私はまだ経験が.....

孫市殿はまさか!?」

 

「いや.....まぁ.....初夜に.....」

 

「天竜様〜!!

考えてみれば私、結婚式もまだです!

日本式でも南蛮式でも.....

簡易なものでいいのでやりたいです!

それと、初夜も.....」

 

 

嘉隆が言う。この中で一番年上にも関わらず大胆な発言だ。

 

 

「お前らエロ過ぎ。

ちょっと前まで殺されかけてた事忘れてるだろ!」

 

「肢露って何ですか!?

意味は分からないけど、

何となく卑猥な感じがしますです!」

 

 

流石だ鋭い。

 

 

「私だって経験ないんですよ!?

結局先輩は意気地無し.....

だっ.....だから!

初めては天竜で我慢してやるです!」

 

「君は何を言っているのだ?」

 

 

十兵衛のパニックモードは異常だ。

 

 

「兎に角!

今はハルの問題だ」

 

「そうですね.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜!!!」

 

 

その部屋に、とある少女が飛び込む。

 

 

「武蔵!?」

 

 

彼女は青白い顔で、何か異様なものを見てきたような表情だった。

 

 

「どうしたんだ?」

 

「.....ろうが..........小次郎が!!」

 

「小次郎がどうした!?」

 

 

 

「ハルに斬られて.....死にかけてる!」

 

 

 

「........................は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慌てて天竜はその場所に訪れた。孫市に車椅子を押され、その部屋に入る。

 

 

「小次郎!!」

 

 

見ただけで分かった。小次郎の状態は以前の十兵衛よりも酷かった。

小次郎は斬られたのではなく、刺されたのだ。腹部から刺され、切っ先が背中まで貫かれていたのだ。

担当したベンジョールさえお手上げの状態であった。

 

 

「天竜.....様.....」

 

 

小次郎がふと寝言を言う。

彼女は意識の無い中で、全身から汗をダラダラを流し、苦痛に必死で耐えていた。

 

 

「俺が.....俺がまた、傷を自分に移せば.....」

 

「ダメです!!そんな事したら、今度こそ貴方が死んでしまいます!」

 

「だが、このままでは小次郎が.....」

 

 

そんな時、ベンジョールが口を開く。

 

 

「それと.....小次郎殿ですが.....」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小次郎殿は妊娠しております」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「........................なんだと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐々木小次郎。

弱冠17歳にして剣豪の位を得、

日本の最強剣士の5本の指に入った程の実力を持っていた。

彼女の好敵手は宮本武蔵。

相手の感情を手に取るような彼女の戦い方により、いつも小次郎はその実力を発揮しきれずに、負けていたのだ。

そんな彼女には憧れの人物がいた。

それが、勘解由小路天竜。

今の羽柴天竜秀長である。

本職が陰陽師であるにも関わらず、彼の剣士としての実力は逸脱していた。

前線指揮官として、大将あるにも関わらず、いつも先頭に立って兵を従えた、無敗の最強剣豪。

走る速さや腕相撲などの強さ比べでは、多くの剣士が彼に勝てただろう。だが、剣だけは無理だ。

どうゆう訳か剣だけでは絶対に勝てない。それが彼の強みだった。

 

そして小次郎はいつしか、

憧れが恋心に変わっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「心当たりは....................ある」

 

「「「..........」」」

 

 

この前代未聞の事態。

小次郎の妊娠.....

相手はどう考えても天竜しかいなかった。案の定、彼もそれを認めている。

眠る小次郎を囲むようにして、

頭を抱える天竜を、

側室の孫市、嘉隆。

正室候補の十兵衛。

彼女らに問い詰められていた。

 

その威圧にビビり、ベンジョールは部屋の角に追いやられている。

 

 

「副将軍になってすぐぐらいだから、多分3ヶ月前.....あれ1回きりだから、妊娠もたぶん3ヶ月だと思う。

やっぱ避妊って大事だな」

 

「そんな事聞いてるんじゃねぇです!!」

 

「!?............ごめん」

 

「何でそないな事になったんや?」

 

「私もして貰ってないのに、愛人に先を越されるなんて.....天竜様酷い」

 

 

完全に質問攻めだ。

 

 

「あれは.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜が副将軍の位を得て間も無く、天竜は弟子らを温泉に誘っていた。

あの日は信奈一行も来て、騒動になったのを覚えている。

信奈一行はプンスカして翌日には帰ってしまったが、天竜一行はもう一泊していたのだ。

その夜は、ほどんど酒会になってしまい、天竜以外の一行は完全に酔い潰れてしまった。

少量しか飲んでなかった順慶や三成や吉継も、陽気になった武蔵に無理矢理飲まされたらしい。

幸いそこまで飲んでいなかった天竜は夜中にこっそり出てきて、温泉に入り直していたのだ。

そこで.....

 

 

「ひゃっ!?.....天竜様!?」

 

「小次郎!?」

 

 

彼女も同じ考えだったらしい。

 

 

「悪い!入り直す!」

 

「いえ!.....その.....いいです.....」

 

 

結局、混浴する事に.....

 

 

「気持ちがいいな。

普段入るなんて事ないからな。

あと3回は入りたい」

 

「ですね.....」

 

 

小次郎はじっと天竜を見つめていた。

 

 

「なんだ?」

 

「いっ.....いえ。

女性であった時も美しかったですが、今もとても美しいです」

 

「せめて恰好いいって言ってくれないかい?」

 

 

天竜は己の女顔にコンプレックスを持っている。

 

 

「すみません!!」

 

「いいよ。悪気ないんだし」

 

 

それ以降も小次郎は彼を見つめる。

 

 

「天竜様は...........明智殿を好いておられるのですよね?」

 

「どうした突然?」

 

「いっ.....いえ.....」

 

「あぁ。好きだ」

 

「...........」

 

 

すると、小次郎は何かを決心して、天竜の正面に移動する。

そして、

 

 

「わ.....私は.....天竜様が好きです!」

 

「!?」

 

 

彼女の告白以降、沈黙が続いた。

天竜も鈍感では無い。多くの者の自分に対する好意は感じ取っているつもりだった。

当然左馬助の好意も.....

しかし、その中でも小次郎はこのように大胆に前に出てくるような娘では無いと思っていた為か、天竜も面を食らってしまった。

 

 

「お前の気持ちは嬉しい」

 

 

その言葉を聞いて小次郎はパァーッと明るくなったが.....

 

 

「だが、だめだ。

お前は俺の弟子。

主君と家臣と変わらん。

今ようやく十兵衛と一緒になれそうなんだ。ここで弟子とできてるなんて噂が出ればそれも水の泡だ。

すまない。分かってくれ」

 

「..........」

 

 

しばらく考えていた小次郎だったが、彼女は急に笑顔になったかと思うと.....

 

 

「やっぱりフラれちゃいましたね。

結果は分かってました」

 

「小次郎.....」

 

「これからも弟子と師匠として、

よろしく.....よろしく..........あれ?」

 

 

小次郎は瞳から大粒の涙を流していた。

 

 

「おかしいですね.....泣くつもりなんて.....ぐすっ.....」

 

 

小次郎は泣き虫だ。

だが、このような泣き方は見た事が無い。からかわれた事に対し、涙目で反論する事はよくあるが、心の底から泣いている様子は新鮮であった。

 

天竜はいつの間にか、小次郎を抱き寄せていた。

師匠と弟子.....

彼にとっては生徒のようなもの。

分別はつけるはずだったのに.....

 

 

「天竜.....様ぁ」

 

「ごめん.....ごめん小次郎.....」

 

「今宵だけ.....

今宵だけ.....そうすれば明日からは元に戻ります.....だから.....」

 

「分かった。もう何も言うな」

 

「ぐすっ...........はい」

 

 

そうして2人は唇を合わせた。

17歳の少女と、

17歳の身体を持つ少年。

2人の房事は明け方まで続いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでやったんやな。

朝までズッコンバッコン」

 

「その言い方のせいで、いい話もおじゃんじゃないか!どうしてくれる?」

 

「そこまでいい話でもないですけどね」

 

 

だが、問題は何も解決していない。

現に小次郎は死へ一歩一歩近づいており、医者のベンジョールはお手上げ状態なのだ。

 

 

「腹の傷だけなら俺に移せば事足りた。だが、妊娠してるとなるとそうもいかない」

 

「どうしてですか?」

 

「この術は

『他人の身体の異常を己に移転する』

慈悲の術。

そうなると、腹の傷は移せるが、

子宮の方にも術の効果が現れてしまう。

俺は男だから妊娠は移らん。

だが、小次郎の方は妊娠の機能を失う事となる。胎児そのものは身体の異常とは別なので小次郎の中に残ってしまう。つまり、

『妊娠していないのに胎児がいる』

という矛盾が、術の反動として小次郎を襲うだろう。そうなれば多分、小次郎は今より危険な状態になる」

 

 

この天竜は説明を理解できた者は1人もいなかったが、絶体絶命な状況である事は皆分かっていた。

 

 

「ほな、赤ん坊を先に堕ろしてまえば.....」

 

「小次郎にはその体力すら残っていない」

 

「ほうか.....

その移す術を腹限定にできひんの?

もしくは、移さずに前みたく治す術とか?」

 

 

孫市にしては機転のきいた質問だったが.....

 

 

「無理だ。あくまで慈悲の術だから、そうそうと操れるもんじゃない。それと生憎、自治回復の術しか知らない。

すまない.....役立たずで.....」

 

「いや!天竜はんは悪かへんて!」

 

 

 

 

だが、その後も案が中々出ずに、時間だけが過ぎていった。

その時、

 

 

「あ!

あったぞ!小次郎を救う方法が!

...................ただ、生贄が必要になる」

 

「「「生贄!?」」」

 

「赤ん坊だ。

赤ん坊の.....特に胎児の

生命霊力は通常の1000倍ある!

胎児の霊力を小次郎に流し込めば、小次郎を助けられるかもしれない!」

 

「「「おおぉ!!」」」

 

「だが、赤ん坊は殺す事となるだろう.....」

 

「でも、この際は仕方がないですね.....」

 

 

十兵衛が納得し、他の者も賛成していた。

その時、異議を唱える者が現れた。

 

 

 

 

「それは嫌です.....我が子を犠牲に生き残るなんて.....」

 

 

 

 

小次郎本人であった。

 

 

「小次郎!気がついたか!!」

 

「天竜様.....今の話は.....本当ですか?」

 

「..........それしか方法がない」

 

「我が子を犠牲に生き残るなど.....

できるわけがない!」

 

「まだ三ヶ月だ!

人の形すらしてないんだ!」

 

「例え未熟であれど、

我が子は我が子です」

 

 

 

しくじった。

小次郎はあれでいて、誇りの高い剣士だ。一度した決意は二度と曲げぬであろう。

この話は別室で行うべきだった。

そうすれば、小次郎の知らぬ間に彼女を助けられたかもしれないのに.....

だが、勘のいい娘だ。いずれにしても気づいたかもしれない。

 

 

「何故その胎児の固執する?

お前さえ生き残れば、また赤ん坊は作れるだろう?」

 

「だって.....この子は天竜様との子だから.....」

 

「!?」

 

「私は弱い女でした。

自称2番弟子でしたが、その実力は最下位。いつも泣き目を見ていました.....

でも.....あの日は.....あの夜だけは天竜様は私だけを見てくれた.....

あの時だけは私だけを愛してくれた。

同情だったかもしれない.....

使命感だったかもしれない.....

でも!私には最高の夜でした!」

 

 

小次郎が大声を出すと、包帯に血が滲み出した。

 

 

「やめろ!それ以上は.....」

 

「.....逆はできますか?」

 

「は?」

 

「三月では赤ん坊は未熟で、

まともに産まれる事は出来ないでしょう。

だから残りの七月分を私の霊力で成長させる事は出来ますか?」

 

「.....それは..........その.....」

 

「できるのですね?」

 

「あぁ.....」

 

 

もう嘘をついても意味が無いだろう。

 

 

「理論上は可能だ。

お前の霊力で足りなければ俺の霊力も足して補う事も出来る。

母体に負担をかけないよう、保護結界を利用して体外成長させるのも可能だ」

 

 

それを聞いた小次郎は安心したように微笑んだ。

 

 

「だが許さん!

例えお前に軽蔑されようと知らぬ!

何が何でも生きて貰うぞ佐々木小次郎!」

 

 

絶対に嫌だ。小次郎死ぬなど.....

 

 

「お断りします」

 

「小次郎!!」

 

「無理矢理生かそうなんてしたら.....

私は切腹しますよ」

 

「何っ!?」

 

 

すると小次郎は急に起き上がり、枕元にあった小太刀を手に取ると、天竜らの前で切腹の体制を取る。

 

 

「そうまでして私の命が欲しいならば、どうぞ赤子を殺すがよい!

ならば、赤子ごと腹を掻っ捌いてこの場で絶命してくれる!」

 

「よせ小次郎!」

 

 

ただでさえ、今尚小次郎の腹部からは血が滲み出ている。

 

 

「ふざけんな!!!」

 

 

部屋の外から怒号が響き、これまで盗み聞きしていた少女が飛び込む。

武蔵だ。

 

 

「死ぬなんて許さねぇぞ!

あたしとの決闘だってまだだろうが!」

 

「ごめん武蔵.....

その約束は守れない。

代わりに産まれゆく我が子にその任を与えようと思う」

 

「認めねぇ!認めねぇ!

絶対に認めねぇ!!」

 

「宮本武蔵!!!

そうまでして我が決意を邪魔だてしたいというのなら、今ここで我が首を取るがいい!!」

 

 

すると小次郎は持っていた小太刀を彼女の前に放り投げる。

 

 

「さぁやれ!!

私は今何もできぬ身!

ズルはお前の専売特許だろう!!」

 

 

その言葉に圧倒され、武蔵は腰を抜かす。

 

 

「なんだよぅ.....ふざけんなよぅ.....」

 

 

涙を堪えながら、武蔵は本心を呟く。

そして、

 

 

「もういい!!その代わり約束しろ!

あたしもあっと驚くような強い剣士を産め!あたしを倒せるくらい逞しい剣士を!!」

 

「相分かった。任せてくれ」

 

 

その返事を聞き届けると、武蔵は振り返り背を向ける。

そして去り際に、

 

 

 

「天下の剣豪はあたしとお前だけだ」

 

 

 

その言葉が突き刺さったのか、

小次郎もまた涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜様.....」

 

「分かったよ.....

今のを見てまだ反対する程往生際は悪くない。お前の決意.....受けてやる」

 

「天竜.....」

 

「すまない十兵衛。

それから皆も部屋を出てくれないか?

最期は2人でいさせたい」

 

 

 

 

 

 

 

そうして、この部屋には天竜と小次郎だけが残った。小次郎はもう一度横にされ、その脇に天竜が座る。

 

 

「それから天竜様.....

ハルの事なんですが.....」

 

「うん.....」

 

「許してやっては貰えませんか?」

 

「何っ!?」

 

「あいつも私と同じなんです。

愛が深すぎた為に過ちを犯してしまった悲劇の魔物。

状況次第で私もあいつと同じ事をしたかもしれない.....

あいつは今孤独なんです。

どうにか、あいつを許してはくれませんか?それだけが最期の心残りです.....」

 

 

お前は何を言っている!?

この後に及んで自分を殺した者に情を向けるというのか!?

なんて奴なんだ.....

俺はこれからこんな奴の命を奪おうとしてるのか?

 

そう思った途端に涙が零れ落ちた。

 

 

「泣いてくれてるのですか?

私なんかの為に.....」

 

「なんかなんて言うな!

お前は今まで会った中で最高の女だ!」

 

「ぐすっ.....ありがとうございます.....」

 

 

小次郎もまたもらい泣きをする。

 

 

「.....やっぱり死ぬのって怖いですね。二度と会えないんですよね.....天竜様にも.....武蔵にも、ヒコにも、ハルにも、我が子にも.....」

 

 

天竜は、小次郎がただ一言『生きたい』と言えば、それをくんでやるつもりだった。だが、彼女がそれを言うはずがない事は分かっていた。

 

 

「あっ.....大事な事を忘れてました」

 

「なんだ?」

 

「この子の名前です。

さっきいい名前を思いついたんですよ?」

 

「あぁ.....言ってみろ」

 

 

天竜が穏やかな表情で聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....拾」

 

 

 

ひろい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拾?」

 

「はい。

私は天竜様に拾われて、本来は体験するはずの無かったであろう事を色々してきました。

そしてこの子も本当は産まれるはずが無かったのに、天竜様によってその命を拾われます。

だから拾です」

 

「............分かった。

この子の名前は拾だ」

 

 

すると小次郎は穏やかなに微笑んだ。

天竜は彼女の腹部に手を置く。

 

 

「天竜.....様.....」

 

 

そうして、彼女と最期のキスをする。

 

 

「お願いします.....」

 

「分かった」

 

 

天竜は呪文を唱える。

 

 

「仙貘・強羅位・覇幻翔!」

 

 

天竜の左手が仄かに光ったかと思うと、光は小次郎の腹部に移る。

 

 

「今までありがとうございました天竜様」

 

「今までありがとう小次郎」

 

 

小次郎の腹部から、極々小さな胚がすり抜けてくる。

 

 

「さようなら」「さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

 

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

 

「おう、よちよち。

お前は母と同じで泣き虫だな」

 

 

天竜に抱えられるは赤子。

その傍らには生気を失った母親が.....

 

 

「あぅ.................おの.....こ?」

 

「おう小次郎!

立派な男の子だ!」

 

 

すると小次郎は仄かに頬を緩めた。

もう笑顔を作る力も無い。

 

 

「拾はどんな子に育つかなぁ。

お前や武蔵の言うように立派な剣士になるか、はたまた、俺の英才教育で立派な軍略家になるか.....

まぁ、それだと悪い方向に進んじゃいそうだな。ははは.....」

 

 

無理矢理作った笑顔で場を和ます。

天竜は拾を小次郎の横に抱かせてやる。

その時、拾は泣きながら小次郎の指を掴んだ。

 

 

「凄い...........指が.....折れそ.....

強い............生きる力.....」

 

「お前が元気になったら、

どこへ行こうか!

有馬温泉にでも行くか?

琵琶湖でも見に行くか?

富士山にでも行くか?

ただし見るだけな。登るのは辛い」

 

 

天竜は出来るはずのない、これからの予定を話す。

 

 

「多分、拾は取り合いになると思うぜぇ?

何しろお母さんがお前以外に3人もいるんだからな。皆に可愛がられて、愛されて.....すくすく大きくなって.....

いずれ、俺やお前よりも立派な存在になって、この日本を支えていく。

そんな大きな存在になって欲しい」

 

「.............」

 

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

 

「全く.....拾は元気だな。

でも、もうちょっと静かにしろよ?

母ちゃん寝てんだから.....」

 

「...........」

 

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

 

「お前からも何か言ってやれよ。

子育てはお前の方が上手そうだろ?

だから.....言ってくれよ.....」

 

 

天竜から大粒の涙がボロボロと落ちる。

小次郎の返事はない。

 

 

「こんな手間のかかるもん押し付けやがって.....子育てなんてした事ねぇよ.....俺だけ残して勝手に逝くんじゃねぇよ」

 

 

天竜はふと、小次郎に反魂の術をかけてみる。

 

だが、何も起こらない。

 

 

「ったく、木の板やら毛皮だとかは生き返らせられるのに、

『人間だけは生き返らせれない』

んだもんな.....なんて未熟なんだ俺は.....」

 

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

 

 

天竜は小次郎と拾を交互に見て、ある覚悟を決めた。

そして、

 

 

 

 

 

 

「天竜!?」

 

 

天竜が部屋から出てくる。

十兵衛らはずっと廊下にいたのだ。

 

 

「十兵衛.....この子を頼む」

 

「はっ............はい」

 

 

十兵衛に拾を手渡す。

 

 

「.....天竜?」

 

「武蔵!四国の部隊を全員引き上げろ!四国制圧は後回しだ!」

 

「えっ!?」

 

 

彼女は目が真っ赤になっていた。

 

 

「それから全軍を集結させろ!

直ちにだ!

孫市と嘉隆も来てもらう!」

 

「天竜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日して、

彼の前に全軍が集結し、先頭に家臣団らが並んだ。そこには、備前・美作の宇喜多秀家。備中の清水宗治らもいた。

 

 

「既に知っている者いるだろう!

我が忠実な家臣にして、

友であり、家族であった、

仲間の不運を!!」

 

 

天竜が大声で叫ぶ。

 

 

「佐々木小次郎は死んだ!!

なら何故そうなったか?

...........卑怯にも、裏切り者の手に掛かった為だ!!」

 

 

すまないが小次郎。

俺もまた君を裏切る。

 

 

「裏切り者は明智左馬助光春!!

奴もまた、

俺の家族.....そう思い込んでた奴だ!

奴は小次郎以外に、

従姉妹にして主君の明智光秀。

我が妻の雑賀孫市、九鬼嘉隆

をも襲った!

さらには、人斬りとして非戦闘員である女、子供を次々に殺して回った!

残虐非道にして下劣な行為である!!

俺達は奴を許してはならない!

奴を許せば、小次郎が.....

奴に無残に殺された者たちの魂が報われない!!奴を許す事こそが罪なのだ!!」

 

 

そうして、ここに魔王が降臨する。

 

 

「副将軍、羽柴天竜秀長が命じる!

裏切り者の明智左馬助を何としてでも見つけ出せ!!

その為には、どのような行為も許す!全て俺が責任を持とう!!

任務を遂行した者は特別昇格だってさせてやる!金だろうが土地だろうが、望むものをくれてやる!!」

 

 

小次郎から蔑まれるだろう。

十兵衛から愛さる事も二度と無いだろう。

だが、ここでやらなければ今度は

俺が壊れてしまう。

そこまで俺は人間ができていない。

 

だから俺は呪いの言葉を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけ出して..........殺せ!!」

 




原作では絶対にないであろう、姫武将の死。
最早オリジナルストーリーと化した
この物語。貴方は信じられますか?
次回予告
鬼武者
〜全ては小次郎の仇〜


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登場人物紹介4

足利義輝

23歳。第13代征夷大将軍。

松永久秀に京を追われ、妹の義昭と共に明へ逃亡。その後、彼は明政府の監視がついているとは知らずに、移住してしまう。妹が日本に戻った後もその地で剣の修行を続けた。

1年後、明を訪れた天竜らと出会い、説得され、真剣勝負に敗北しし、日本へ帰郷した。

初めて乗った飛行機にも多大な興味を示し、その後墜落して海上を漂う羽目になった際の陽気な様子から、子供っぽい所が伺える。

その後天竜の策略により、

今川義元と政略結婚。

幼馴染であった事もあり、夫婦仲は良好であるという。

今は、日本の行く末を友である天竜に託し、喧嘩で騒動ばかり起こす三姉妹の面倒で手に追われている。

 

 

 

黄黄

16歳。明出身の料理人。

元は義輝の監視役として明政府に送り込まれた。といっても、本人は自分の料理を食べて感想を言ってくれる事を求めていた(当時、宦官らに料理を作っていたが、真面な感想を貰えなかった)ので、日本人の義輝の料理人になれた事を誇りに思っていた。といっても、義輝が修行ばかりの味音痴だった為、ガッカリしたという。その点、グルメな天竜が来た際、いい批評を貰えたので、生涯彼に仕える事を決意した。

明政府からは、義輝を人質にできるように、垂らし込めだとか、薬漬けにしろだとかいう命令ばかりをされ、うんざりしていたという。

今は、長浜城でねねや秀俊の専属料理人。現在の毛利攻めが終われば正規に天竜の料理人になる事を約束され、楽しみにしながら、修行を続けている。

服装はチャイナドレス。

片言の日本語に口癖の「〜アル」

で長浜城のおっさん共にアイドル扱いされているらしい。

 

 

 

17歳。天竜の諱でもあり、

彼が女性化した際の呼び名でもある。天竜軍の者か、十兵衛しか正体を知らない。

天竜以外で信奈に楯突いた者として、マークされたが、月に一度会えるかどうかというぐらい表に出てこなく、信奈も温泉以来見ていなく、ミステリアス美女の扱いとなっている。

 

 

 

サンジェルマン伯爵

200〜300歳くらい?

見た目は30〜40代の白人男性。

利休の錬金術の師匠。

説明は本編の通り。

時空を行来し、過去も未来も広く見通すタイムトラベラー。

元々はどの時代の人間であったかは全くの謎である。

『人間も生き返らせられる』

反魂の術が使え、それでジャンヌを復活させた。

ジャンヌによると、彼は各時代の多くの弟子を持ち、その多くが黒魔術を扱い、異端者とされている。ジャンヌの忠臣であったジル・ド・レもその1人だとか。

黒魔術を使うという事は当然、アンチキリストに属す。

その弟子である利休は果たして.....

アンチキリスト、つまりサタン教の象徴であるツクヨミの、子孫である天竜に対し、謎の期待を持っていた。

 

 

 

ジャンヌ・ダルク

19歳(死亡時)、21歳(現在)、

170歳(自称)。

伯爵の力で復活したオルレアンの乙女。

説明は本編の通り。

モデルはFateのセイバー。

アホ毛をつけるかつけないか検討中。

死因が焼死の為、火を怖がる。

基本、他人は呼び捨て(伯爵は除く)

同じく金髪碧眼美女であるが、

フロイスと違って貧乳。

だが、洗濯板ではないとか.....

信仰していたミカエルがサタンと同一人物だと判明し、傷心中であるが、いずれ天竜の剣として活躍する予定。同じ西洋騎士であるジョバンナとの折り合いに期待。

 

 

 

清水宗治

17歳。月下美人。

説明は本編の通り。

史実通り、武士の鑑のような存在。その態度と美しさから天竜を魅了し、命を取り留め、側室になった。

夫婦らしい事はほとんどしていないが、天竜への義理として、現在は備中の国主を務める。未だ天竜に不信感をもつ毛利との間に立ち、上手い具合に調停している。

 

 

 

勘解由小路青龍。

45歳(享年)。賀茂家27代目頭首。

妻は早くに他界。男手一つで天竜、青蘭という豪傑を育て上げた。特に天竜への『教育』を徹底し、数年に渡り拷問とも言える修行を彼にした。

天竜を蜚蠊恐怖症にした張本人。

また天竜のカナヅチも、赤ん坊の彼を川に放って殺しかけたのが原因。

強くさせる反面、弱点も多く作らせてしまった。

子供らからは相当嫌われていたが、自業自得と言える。

一応、ヤクザの親分。

何者かに暗殺されたのだが、

犯人は今も不明。

 

 

 

亜門儡阿

天竜と同い年。

彼の幼少時からの仲。

学校に行けない天竜の唯一の『知人』

(友達と言わないのが当時の彼の性格を表しているだろう)

一般男子の常識からかなりズレている天竜と比べればだいぶ常識人。

天竜の恋沙汰は謎。

実は神であるというカミングアウト。

名前から、アマテラスと関係が.....?

 

 

 

0歳。天竜の息子。

後の秀頼?

佐々木小次郎の遺児。

本来なら秀吉と淀殿の間に付けられるはずの名前を名付けられた。

果たして魔王の孫として、4分の1魔王のこの子は、どのような道を辿るのだろうか?

天竜と同じ修羅の道でない事を

作者自身が願いたい。

 



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第三十一話 鬼武者

原作11巻は出ないんですかね?
10巻で最終回みたいな終わり方したから難しいのかな?


業火に包まれし戦場。

辺り一面血の海だった。

これから死にゆく者共の苦痛の叫びが耳を覆いたくなる程に響く。

 

 

「何だよこれ.....」

 

俺はそこにいた。

足下には見慣れた顔色の骸が.....

 

 

「武蔵!?」

 

 

戦友の仇を討とうと意気込んでた彼女は今はただの肉。

だが、武蔵だけではない。

 

 

「織部!!凪!!」

 

 

彼女らもまた、討伐軍として加わっていた。だが、今はただの肉。

それ以外にも、

三成、吉継、氏真、孫市、嘉隆らなど、天竜の大切な家臣らが皆死んでいた。

 

 

「嘘.....だろ?」

 

 

宝とも言える、妹ねねと秀俊。

そして、産まれて間もない拾までもが.....

 

 

ふと正面を見る。自分以外で唯一立っている人物.....

 

 

「十兵衛?」

 

 

彼女の足下には良晴の肉が.....

まさかお前が?

なんて思っていたその瞬間。

 

十兵衛の身体を巨大な刃が貫いた。

 

しばらくバタバタと抵抗していた十兵衛だが、刃の持ち主がそれを振るった為、十兵衛は薙ぎ払われ、その者の足下で四つ這いの体制になる。

 

その者は十兵衛の首元を狙い、刀を振り上げる。

 

 

「やめろ左馬助〜!!!」

 

 

そうして刀は振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ.....!?」

 

 

慌てて起き上がる。

そして、辺りを見回した。

そこはいつもの自室、寝室だった。

頭が慣れてきてやっとその状況を理解する。

 

 

「なんて夢だ.....」

 

 

左馬助によって天竜の大切なものが次々に奪われる夢。ほとんど悪夢だ。

 

 

ふと隣りを見る。

そこで裸で添い寝していたのは、

九鬼嘉隆。

 

 

「そういや、そうだったな.....」

 

 

俺はあの後、嘉隆を無理矢理夜の共に連れ、身体を重ねた。

 

いや、犯したというのが正しいか。

怒りに任せただただ、己の性欲を満たす。破瓜の痛みにも耐え、それでも激しく犯され、苦痛に耐えながら涙を流していた彼女.....

 

正気に戻って初めて己の愚かさに気づく。

嘉隆は、結婚式の後の初夜で27年間も守り通した処女を捧げるつもりだったのだろう。

それがこんな形になってしまった。

本当に酷い事をしたと思う。

 

嘉隆の頬にはまだ涙の跡が残っている。天竜はそれをそっと拭ってやる。

 

 

「ごめん.....俺は最低だ.....夫失格だ」

 

 

布団から出て身なりを正し、

その部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は明け方。空がうっすらと青みがかってきた頃。そんな時間でも月だけは燦然と輝いていた。

下弦の月。

 

 

 

 

 

 

 

 

「月は地球の周囲を周りつつ、自身も回転してるから、模様がいつも同じに見えるんだって。知ってた?☆」

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

慌ててその方向を見る。

そこにいたのは松山主水。

 

 

「お久しぶりだね天竜くん☆」

 

「主水!?」

 

 

神出鬼没にも程があるぞ?

これではいつ暗殺されてもおかしくない。

 

 

「そんな事はしないよ?☆

僕はあくまで真剣勝負でかたをつけようと思ってるし.....

でも、君が月読命を盾にしてる以上、それも難しいんだよね☆」

 

「別に盾にしちゃねぇよ。

それならお前の宿儺鬼だって.....」

 

「宿儺はバラバラに刻んじゃったから戦闘能力は皆無だよ☆」

 

「おまっ.....ご先祖様じゃないのか!?」

 

「別に.....

最初からそのつもりで封印解いたし.....

第一、両面宿儺は一度負けた存在。

求めるものなんてないよ☆」

 

「...........」

 

 

負ければ価値なし。

その言葉が彼の一族の家訓のようなものだと改めて思う。

 

 

「そんな事よりさ、

僕は君に文句を言いに来たんだよ?☆」

 

「何だいきなり.....

俺だって忙しいんだ。これから.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼の子を僕の所へ送って泥棒するなんて卑怯じゃないかな?☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の言葉は理解不能だった。

 

 

「は?.....どゆこと?」

 

「だから.....君の仲間に純粋な鬼族の子がいたのも気になるけどさ.....

その子に僕の宿儺の左角盗ませるってどうなの?☆

以前、久脩くんや村上武吉とかと組んで追い詰めたのは悪いと思ってるけどさ、僕の戦力を直接削るなんて流石に許さないよ?☆」

 

「...........」

 

 

こいつは何を言っているのだ?

虚報で俺を混乱させるのが目的か?

 

 

「その表情.....

もしかして君は知らないの?」

 

「..............................一体誰だ?」

 

「名前は知らないよ。君の軍の子ってぐらいしか分からなかったよ.....

敷いて言えば、冠ってた兜に特徴があったな☆」

 

「うさ耳か?」

 

「そう!兎の耳!☆

あれ?天竜くん知ってるの?」

 

「あぁ、よく知ってるよ.....くくく.....」

 

 

思わぬ事態につい笑いがこぼれてしまう。

 

 

 

 

 

 

「そいつの名は、明智左馬助光春。

俺がかつて最も信頼し、同時に恐れた、今、我が軍が手配している裏切り者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

播磨、とある街中。まだ日中の事。

 

 

「いやあああぁぁぁ!!!」

 

 

それは目撃者の多く、誰もがその光景を見ていた。道中を歩いていた町娘を、ある鎧武者が襲った。

 

うさ耳の兜を冠った.....

 

 

「痛いぃぃ!!!

痛いぃぃぃ!!!!」

 

 

町娘は肩から背中をバッサリ斬られ、のたうち回っている。

 

 

「痛い?なら楽にしたげる.....」

 

「いやあぁぁぁ..........ぐっ!?」

 

 

髪を掴まれ、そのまま後ろから喉元を斬り裂かれる。

鮮血が周囲にばら撒かれ、

野次馬の村人らの顔が引き攣り、

悲鳴があがる。

 

 

「あはははははははははははははははは♡!!!」

 

 

手に持っていた凶器は刀ではなく、

料理用包丁だった。

 

その後も標的の女性を見つけては次々に切り裂く左馬助。その表情は狂気に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう武士としての誇りも失ったのかよ」

 

 

丁度10人目の町娘を惨殺した所で声のする方向へ首を向ける。

 

 

「あら?武蔵じゃないですかぁ?

それとそっちは古田織部でしたっけ?」

 

「どうも左馬助さん」

 

 

天竜は家臣へ左馬助捜索を命じる際に、最低でも2人で行動するように伝えていた。単独では危険だからだ。

武蔵は織部とタッグを組んで左馬助捜索に出ていた。

 

 

「手だけは出すなよ織部!

こいつはあたしの獲物だ!!」

 

「はいはい。ご自由に」

 

 

これが理由。武蔵の目的は小次郎の敵討ち。左馬助への徹底的な復讐。

他人に邪魔されるのは嫌。

だからこその織部だ。

 

 

「ではちゃっちゃと済ませて下さい。

私は見物だけでよいしょする予定なのでね」

 

「言われなくても分かってる!!」

 

 

織部には左馬助への恨みは全くない。

天竜に討てと言われたから討つ程度。

武蔵は邪魔さえしなければ、共闘したという事にして、報酬は貰えるようにすると伝えた。

武蔵は懇願の一騎討ちができるし、

織部は見物だけで報酬が貰える。

いい契約だ。

 

 

「へぇ〜。武蔵だけか〜。

なんか物足りないな〜」

 

「ちっ!!」

 

 

武蔵は2刀を取り出す。

 

 

「手足ぶった斬って、

首ちょん斬って、

少なくとも肉片100になるまでバラバラにする!!」

 

「怖〜い。なら私は〜」

 

 

左馬助の両手に大量の包丁が出現する。

 

 

「ハリセンボン♡」

 

「つっ.....!?」

 

 

その包丁は取り出したというより、突然そこに現れたような感じだ。

 

 

「召喚術!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は戻る。

 

 

「んで、盗まれたってのは?」

 

「そうそう!

大事な宿儺の角なんだよ!☆」

 

 

月見をしながら仲良さげに肩を並べて煙管を吹かしながら語る2人。

 

 

「角?」

 

「うん。まだ左角なだけましだったけどね☆」

 

「どうゆう事だよ?」

 

「あのね、全ての部位に平等の鬼の力が宿ってるわけないでしょ☆

足は鬼力薄いし、角は濃い。

雑魚共には足を使ったし、

武吉には左腕を使ったんだ☆」

 

「モンハンみてぇだな.....」

 

「さらに、鬼力は左より右に溜まり易いんだよ。だから右足も右手も右角も、とっておきのはちゃんととっておいてるんだよ☆」

 

「敵にそんな報告していいのか?」

 

「べっつに〜☆

天竜くんの情報なんて僕の方にはだだ漏れだし.....僕を調べようと双子ちゃんを近づかせてる事もバレバレだしね☆」

 

「お前の隙の無さは尊敬ものだな。

だんだん殺すのが惜しくなってきた。

どうだ?

我が軍に入らんか?」

 

 

天竜から異例の提案が出る。

 

 

「甘い蜜には乗らないよ。

僕は束縛されるのは嫌いだしね☆」

 

「そりゃ残念。

...........................じゃあ友達は?」

 

「ぷっ.....何ソレ?☆」

 

「こう見えて同性の友人は少なくてな。是非友好な関係を気づきたいと思ってな」

 

「なんか政治的な話みたい.....

でもいいかな。友達ぐらいなら☆」

 

 

こうして2人は友人の関係となる。

だが、天竜の友人は直家や武吉のように皆死別している。

主水との友人関係はどのような形に終わるだろうか.....

 

 

「死が2人を分かつまでだね☆」

 

「よせよせ。気持ち悪い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、左馬助ちゃんは.....殺すの?☆」

 

「殺すよ」

 

 

答えに一切の迷いが無かった。

 

 

「なら気をつけた方がいいよ☆」

 

「何故だ?」

 

「友達としての提案☆

左馬助ちゃんへの干渉は避けた方がいい」

 

「だから何故だ!」

 

「君は鬼の力を過信評価し過ぎている☆」

 

「何っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

播磨。

 

 

「ちっ!!」

 

「あはっ♡」

 

 

この勝負、圧倒的に武蔵が押されていた。左馬助は大量の包丁を投げナイフのように無数に飛ばしてくる遠距離攻撃。対して武蔵は2刀で斬りつける近距離攻撃。部が合わない。

投げ包丁のせいで近づけないのだ。

 

 

「くそっ!くそっ!」

 

「弱い弱い、弱いねぇ♡

これが天下の剣豪宮本武蔵?

佐々木小次郎同様に、弱虫毛虫だねぇ♡」

 

「...........!!」

 

「あら?怒ったぁ?」

 

「今何つった!!

手前ぇ今何つった!!!」

 

「宮本武蔵は佐々木小次郎と同じで弱虫毛虫♡」

 

「があああぁぁぁ!!!」

 

 

怒りのままに左馬助に向かって突撃する武蔵。それを待ってましたというような表情で待ち構える左馬助.....

 

 

「宮本武蔵!!!」

 

 

とある強大な叫び声に呼び止められ、武蔵は慌てて足を止める。

その瞬間、数十本の包丁が地面から飛び出るように出現する。

そのまま走り切っていたら、串刺しにされていただろう。

 

 

「流石は流石。術を仕掛ける事に関しては貴方も一級品でしたね古田織部さん」

 

「ふんっ」

 

「織部!!邪魔すんなって言ったろ!!」

 

「馬鹿ですか貴方は!!

貴方が死ねば、私の報酬はおじゃん。もしくは天竜様から罰を受けるかもしれないのです!

勝てないなら勝てないで死ぬ前にさっさと退きなさい!!」

 

「うるせぇ!!」

 

「おやおや仲間割れ?」

 

 

左馬助はくすくすと微笑している。

 

 

「織部さんの言う事は正しいですよ?

武蔵だと役不足なので、

私としては織部さんと戦ってみたいなぁ」

 

「手前ぇ!!」

 

「千利休の1番弟子。

どれ程の術者であろうか」

 

 

 

 

 

 

 

「ああん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

急に織部の様子が変わる。

 

 

「私が千利休の1番弟子?

ふざけるなよ貴様!」

 

「おっ.....織部!?」

 

「千利休の1番弟子は山上宗二!!

錬金術も使えねぇクソ野郎ですよ!

利休様の弟分というだけで、

いつもあいつが優先される!!

利休様のお気に入りというだけで、

天竜軍でも私より立場は上!

ふざけるな!ふざけるな!

ふざけるな!!!

なんで私があの玉ナシ野郎より格下?

なんで私があいつに頭を下げる?

たかだか商人あがりのクズに、

武家の私が見下される!?

ふざけるな!ふざけるなぁ!!!!

殺す殺す殺す!山上宗二殺す!!

あの不細工な鼻と耳削いでやる!

利休様も私が殺す!!

天竜様付きの茶人を利休様なんかに任せられるか!!

私が利休様の代わりに!!

天竜様の側付きは私だけでいい!!」

 

「!」

 

 

織部も充分なヤンデレだった。

だが、左馬助は織部の最後の言葉に反応する。

 

 

「お前が天竜様の側付きぃ?

口を慎みなさい!!

茶人ごときが勤まるものか!!」

 

「裏切って、天竜様に嫌われてる貴方よりは立派に勤められますよぅ?」

 

「おい織部!」

 

 

さっきまで武蔵を牽制していた織部が今度は武蔵に抑えられている。

 

 

「織田信奈にも天竜様にもお情けでその地位を与えられている貴様が我ら人間と同等だと?

片腹痛いぞ虫ケラ!」

 

「主の不良債権として多大な迷惑をかけ続け、よもや奥方に当たる人まで殺して、天竜様の駆除の対象となっている貴方に言われたくはないですよ蛆虫。うふふふ.....」

 

「は?奥方って誰です?

もしかして明智光秀?」

 

「佐々木小次郎殿ですよ。

死ぬ直前に天竜様によって赤子を取り上げられてます」

 

「ちっ!!

子宮も掻っ捌いとくべきだった!」

 

 

最早悪口合戦だ。

 

 

「いい加減にしろ織部!

お前らしくねえぞ!」

 

「五月蝿いですね!

武蔵さんは黙ってて下さい!」

 

「やーい怒られてやんのチビ武蔵」

 

「んだとっ!!」

 

 

武蔵が再び突撃する。

「チビ」という言葉は禁句なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜。

 

 

「ところで何故左馬助が鬼族なんだ?」

 

「同族なら直感で分かるよ☆

君は分からなかったの?」

 

「全然」

 

「へぇ〜。

自分の身内に鬼がいるなんて案外気が付かないもんだね☆」

 

「...........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子は酒呑童子の落とし子だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主水が思わぬ事を呟く。

 

 

「なっ!?」

 

「正確には酒呑童子の娘、茨木童子の人間としての姿。源氏一族にかけられた呪いだよ」

 

 

平安時代。源平合戦が起こる前に、清和源氏の一族源家には、最強と言われた姉妹がいた。

それが源頼信と源頼光。

特に妹の頼光は朝廷から主に妖怪退治を依頼され、世のため人のために刀を振るったという。

人々の脅威であった大妖怪鬼蜘蛛を斬ったのも彼女である。

そんな彼女が命じられたのが、

「酒呑童子の退治」

主に丹波を拠点にしたという彼らは京から若者や女性を多く攫い、若者は食糧にしたり、酒に漬けたり、女性は犯してから喰ったという。

源頼光は渡辺綱、坂田金時ら四天王らと共に酒呑童子一党を酒に毒を盛って殺害した。

唯一の生き残りであった茨木童子は、復讐に燃える鬼となって、度々頼光らを襲ったのだ。

四天王の1人、渡辺綱は羅城門での彼女との一騎討ちで、彼女の腕を斬り落とし、撃退に成功したのだ。

だが、その後の茨木童子の行方は知れていない。

 

 

「源氏に多大な恨みを持った彼女は己の命を生贄に源氏に呪いをかけたんだよ☆」

 

「呪い?」

 

「数代ごとに茨木童子が取り憑く呪いだよ☆取り憑かれた者は鬼となる.....それは分家も本家も関係なくかかってしまってね。あの源義経もその呪いになったと言われてるよ☆」

 

「.....むぅ」

 

「呪いに苦しめられた源氏は陰陽師.....あっ、土御門の方ね☆

彼らに頼んで、呪いを元の頼光一族だけに留めるようにしたんだ☆」

 

「それが土岐源氏か」

 

「そ☆

お陰で土岐氏は代々鬼の呪いに苦しめられたようだよ。

そしてそれは土岐から明智家に移り.....」

 

「それで次の呪いの対象が左馬助なわけか.....」

 

「同情はしないよ☆

同じ鬼族として童子一族の非難は人間への恨みの対象として昔話にされてるぐらいだからね。

それで呪われてる明智なんてざまあないよ☆

僕はてっきり当主の明智光秀が呪われてるかと思ったけれど、よもや従姉妹の方とはね☆」

 

「...........」

 

「しかもそれが鬼武者化したとは.....」

 

「?.....どうゆう事だ?

既に鬼なら変わる必要ないだろう?」

 

「あのね天竜くん。

宿儺の肉は人間を鬼の眷属にする力とは別に、もう一つの力があるんだ☆」

 

「?」

 

「鬼を原初の力まで戻す力だよ☆

僕ら鬼の子孫はだいぶ鬼の血が薄くなってるんだ

人間や他の妖怪との混血によってね.....

それが原初の頃まで戻る。

つまり.....

 

 

 

 

 

 

明智左馬助は茨木童子になる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

播磨。

 

 

「うららららららららららら!!!!」

 

 

武蔵の2刀による蓮撃が左馬助に浴びせられる。

 

 

「甘い甘い甘い♡

古田織部の言う事は全く聞いて無かったみたいです.....ね!!」

 

 

左馬助が手にした包丁で武蔵の刀を弾き返した。

 

 

「あはははははははははははははは♡」

 

 

今度は左馬助の蓮撃が武蔵を襲う。

超至近距離から包丁を何本も何本も投げてくるのだ。

 

 

「くっ.....!!」

 

「あははははははは♡

死ね!死んじゃえ!

あはははははははははは♡」

 

「くうぅっ.....!!」

 

「あはははははははははははははは♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燕返し!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左馬助の両手が吹っ飛んだ。

 

 

「あれ?」

 

「うらあああぁぁぁ!!!」

 

 

武蔵は2刀を左馬助の胸に突き刺す。

 

 

「うがっ!?」

 

「仇は取ったぜ小次郎.....」

 

 

確かな手応えを感じ、

口から血を吐き倒れ、絶命する左馬助をしっかりと見届ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとだけ油断したわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!?」

 

 

真後ろから何故か左馬助の声がする。

確かに目の前には左馬助の死体が.....

 

 

その次の瞬間、武蔵は背中に包丁を数本刺される。

 

 

「がっ.....!?」

 

「残念ながらそれは幻覚なんだよね♡」

 

「!?」

 

 

恐る恐る後ろに振り返ると、そこには左馬助がいた。

また振り返ると、死体は消えていた.....

 

 

「嘘.....だろ!?」

 

「あそこで燕返しを使うとは予想外だった。でもあれで手の内はもう出し尽くしたよね?」

 

 

すると左馬助の手に、身の丈ほどはあるのではないかという巨大な包丁が出現する。

同時に、左馬助の額の鋭い立派な角が生える。

 

 

「もういいや。

死んでいいよお前」

 

 

左馬助は武蔵を真正面から斬りつけた。

左馬助に大量の返り血が吹きかかる。

 

 

「あはっ♡」

 

 

血まみれの女鬼は邪悪な表情を浮かべて微笑する。

 

 

「次は貴方の番ですよ古田織部」

 

「ちっ.....!」

 

 

織部は懐から竹筒のようなものを取り出す。

 

 

「利休様は臆病なので、

使うななんて言ってますが、

私は超一流!!

ゴミ屑宗二なんかとは

比べものにならないELITE!

負け犬の武蔵さんの代わりに、

私がその首を落としてあげましょう!

 

 

相手してあげますよ包丁女。

化物退治のじかんですよ」

 

「化物はお互い様です.....うふふふ」

 

 

 

こうして2人の魔女の対決が始まった。

 




2つの場面を交互に展開させました。
左馬助討伐回の一話目です。
左馬助一族の悲劇を知った天竜は.....
次回予告
魔女vs魔女
〜私こそが天竜様に相応しい〜


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第三十二話 魔女vs魔女

東京オリンピック決まりましたね!
愛国者としてこれ程嬉しい事はないです。


「これ邪魔」

 

 

左馬助は身につけていた兜や鎧を剥ぐように脱ぎ捨てる。

着物一枚に角を生やした女鬼。

 

これぞ般若。

 

 

「ふふっ.....面白い」

 

 

織部は持っていた竹筒の栓を抜く。

 

 

「錬金妖術は最高峰は精霊の召喚。

利休様は火・水・土・風の精霊を呼び出した。

でも私は.....」

 

 

すると、竹筒からはねずみ色のドロッとしたような液体が出てくる。初めは何か分からなかったが、それがやがて人のような形になっていっている。だが、それでもまだスライムのような形の定まっていないような状態である。

 

 

「四精霊は、

火の精霊サラマンダー。

水の精霊ウンディーネ。

風の精霊シルフ。

地の精霊ノーム。

利休様はこれらの精霊を同時に操ってみせた。でも、私にはどれだけ努力しても無理だった。

精霊術は努力でも才能でもない。

精霊との相性が一番大事なんですよ」

 

 

だが、織部の精霊は火水風土地のどれにも属していないようだった。

 

 

「だから私は、視野を広くしてみた。

四大元素以外に応用できるものはないか、私は独自に調べ上げましたよ.....

そして見つけた」

 

 

竹筒には陰陽術の星印があった。

 

 

「まさか東洋術にあったとは.....

灯台下暗しですね。

つまり五行思想。

西洋の四大元素と比較される、

同等の考えです。

火水土木金。

西洋との違いは木と金。

ですが西洋でも、

ドライアドという名の木の精霊が存在する事から大きな相違点はたった一つ!」

 

 

それがこの精霊。

 

 

「これぞ金!金の精霊!

金は金銀だけを示さず、

金属全般を表します!

錬金術の基本にも関わらず、

四大元素から弾かれた精霊!

私との相性が最も良好であった精霊!

天竜様の協力も得て、

やっと具現化に成功した精霊!」

 

「長い説明ですね」

 

 

左馬助は欠伸をしている。

 

 

「これぞアルカヘストの最強武器。

流体多結晶合金。

液体金属の身体を持った最強の精霊!

その名は

鋼の精霊『ナノマシン』!!

ナノマシンよ!

あの女鬼を縊り殺せ!!

斬り殺せ!!刺し殺せ!!

押し殺せ!!撃ち殺せ!!」

 

「わーお♡

そんな玩具で私を殺す気なんだ?

それ寝言?あんた寝てんの?」

 

「お昼寝してる間に終わっちゃうかもね」

 

「その五月蝿い口を裂いてあげるよ♡」

 

 

左馬助が巨大包丁を構える。

 

 

「いい加減、貴方と同じ空気を吸ってるのが苦痛になって来ました」

 

 

織部はナノマシンをランスのような巨槍に変えて持ち、構える。

 

 

 

 

「死んで地獄で震えてろ」

 

「死んで生き返ってもう一回死ね」

 

 

 

 

お互いに毒を吐いた後、一気に前に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮とはいえ、鬼族の生き残りが僕以外にいたなんて少し嬉しくもあったな☆」

 

「宿儺一族以外に鬼族はいないのか?」

 

「宿儺一族だって僕1人だよ☆

多くの親戚は人間共に虐殺されたし、

僕の両親も、僕を助ける為に

人間共に捕まったしね☆

父上は斬首の後に晒し首。

母上は角を折られて、犯されて、

その後に火炙りにされた」

 

「.....ごめん」

 

「気にする事ないよ☆

君は人間じゃなくて龍族。

僕ら鬼族と違って、

皇族の後ろ盾を得られた君の一族は、

姫巫女の後ろで確実な実権を握ったんだからね☆」

 

「.....本当にごめん」

 

 

影の圧力を感じる。

だが、この圧力こそが傷心していた天竜に新たな目標を与えた。

 

 

「鬼も悪魔も英語でDemon。

同じ種族だ。

ただ俺達は時代や風習で別れてしまったんだ。龍族も鬼族も同族だ!

俺は作るぞ!

天下統一の暁には、

鬼も俺らも人間も平等の世界を!」

 

 

敵であるはずの主水に救いの言葉を与える。

 

 

「あの.....その.....

君から言われるなんて.....

その.....その......

...................................ありがと☆」

 

 

顔を真っ赤にして、俯きながら言う。

 

 

「人間共は僕らの食糧だから、

完全な平等は無理だけど、

これからは一日一食(一人)から

三日に一食(一人)にするよ☆」

 

「お前らも大概だな.....」

 

 

自業自得と言われても仕方がないかもしれない。

 

 

「でも君とは真の意味で平等な友達になりたいな☆」

 

「......それでも、いつか一騎討ちで殺し合うのか?」

 

「ん〜.....

その気持ちもだいぶ薄れてるんだよね☆初めは皇族の背中に隠れる君ら龍族が憎くて仕方がなかったけど、思ってたより君はいい人.....いや、いい悪魔だったしね☆」

 

「むぅ.....」

 

「ひょっとしたらこれって恋かも.....

僕もお嫁さんに立候補してもいいかな?☆」

 

「よせ気持ち悪い。

同性愛に興味はない!」

 

 

なんだこいつ?

ホモなのか!?

 

 

「さっきから同性同性って.....

君は実は女の子なの!?☆」

 

「はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって僕、女子だよ?☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....................え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

は?は?.....松山主水が女!?

だって、『僕』って.....

 

 

「口癖だもん。しょうがないじゃん☆」

 

 

嘘だろ!?

これが『ボクっ娘』という奴か!?

現実にいたんだな!?

 

 

「酷いなぁ。ずっと男だと思ってたの?☆」

 

「だって!

ずっと厚手の着物着てるし、

声も低めだし、

顔も中性的だから.....」

 

「胸はサラシ巻いてるしね☆」

 

 

すると主水は前を広げてそのサラシを見せる。確かに豊かな胸がそこにあった。

 

 

「うっ.....」

 

 

今まで男だとばかり思ってた者が実は実は女の子だった!?

どんなラブコメだ!

なんか急に主水が可愛く見えて.....

いやいや!こんなフラグがあってたまるか!

第一俺はもう子持ちだ!

 

 

「ねぇ〜。私も溜まってるんだ〜。

辛抱たまらんからやろ?☆」

 

 

こいつ.....急に女になったぞ!?

 

 

「.......................すまない」

 

「どうして?☆

やっぱり佐々木小次郎?」

 

「...................うん」

 

「君は本当に不可思議だね☆

外面ではすでに落ち着いてる様子を装って、内面は今もなお殺気に満ちている」

 

「気づいてたか」

 

「まぁね☆

殺気の矛先がこっちに向いてなくても、ビリビリ伝わってきてゾクゾクしちゃうよ☆」

 

 

ビクビクじゃなくてゾクゾクなのか?

 

 

「君に殺される明智左馬助がが気の毒だよ☆

同時に羨ましいよ☆」

 

 

こいつはMなのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ!!」

 

 

左馬助は全力疾走で駆けていた。

 

 

「くそっ!!」

 

 

ジグザグに逃げようが、

一直線に逃げようが、

ソイツは追いかけて来る。

 

 

「行けナノマシン!!」

 

 

人間の上半身のような形態と、両手の刃。初めはランスの形だったナノマシンは、逃げる左馬助をいつまでも追いかけてくるのだ。

 

 

「これは中々厄介ですね」

 

「あはははっ♡」

 

 

ナノマシンの尾にあたる部分を持つ織部は実に愉快な表情である。

猫のように軽やかに避け、

豹のように猛スピードで疾走する左馬助をどこまでも追い詰めるナノマシンだ。

 

 

「ふっ!」

 

 

左馬助が急に方向転換をする。

そして、ジグザグに走り抜けながらも確実に織部の方へ歩を進める。

 

 

「降りかかる火の粉は元から.....」

 

「無駄です」

 

 

すると、ナノマシンが織部の正面で盾の形を取り、左馬助の斬撃を防いでしまう。

 

 

「何っ!?」

 

「やっちゃえナノマシン!!」

 

 

ナノマシンが左馬助に対し再度攻撃の態勢を取る。

 

 

「ならこちらから!!」

 

 

左馬助はナノマシンに無数の手持ち包丁をまるで投げナイフの如く放つ。

だが、包丁は鋼の身体に全て弾かれてしまう。

 

 

「くくくくく.....

それは召喚術ではなく、幻術ですね。天竜様は本物を召喚しますが、貴方が出したそれは幻術が作り出した偽物。

本来ならマヤカシであるはずの包丁も、術をかけた相手がソレを本物と感じてしまったら、偽物も本物となる。本物と感じてしまった分だけその強度を増す.....」

 

「分かった所でどうなるんです。

いくら偽物とはいえ、

本物より劣るとは限らない!」

 

 

左馬助の巨大包丁がさらに倍の大きさになる。

 

 

「今こそ偽物は本物となる!」

 

 

純粋な血族である本物の鬼を、呪いで鬼化した偽物の鬼武者が超える。

本家土岐源氏明智家頭首の十兵衛を、分家土岐源氏明智家代表の左馬助が超える。

 

 

「消えろクズ鉄!」

 

 

振り下ろされた巨大包丁は、ナノマシンの強靱な身体を真っ二つに斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思えば明智左馬助も古田織部も、

似たもの同士なのかもしれない。

だが、ヤンデレだからというわけではない。

思想や生き方がそっくりなのだ。

左馬助も織部もある人物に拾われて、

人生が変わった。

 

長良川の戦いで総大将の斎藤道三は織田へ敗走。従姉妹の十兵衛は朝倉、織田と、居場所を転々とし.....

左馬助は完全に落武者と化した。

 

元は使者として仕事をこなし、

『綺麗だから』という謎の理由で梅千代という名を付けられ、好きでもない信奈の小姓にされた。

いい交渉材料とされ、もしかしたら殺されるかもしれない朝倉の下へ使者に出される事もあった。

 

 

そんな2人はある男によって召し抱えられた。

左馬助はその剣技に目を付けられ弟子に。

織部は与力として送られたにも関わらず、その才能に目を付けられ正式に家臣に。

 

羽柴天竜への感謝の心と憧れ、そして恋心が彼女らを突き動かした。

左馬助は親衛隊として天竜の傍らでその剣技を振るい、

織部はそのズル賢さで天竜と共に、名将の引き抜きに務めた。

そんな天竜が彼女らに与えた任務が、

 

 

 

三木城の攻略と四国の攻略。

 

 

 

城落としと国落とし。

誰がどう見ても、どう考えても、

左馬助の四国攻略が重要だった。

当然、天竜自身も左馬助を信頼しているからこそ、彼女を四国に送ったのだ。

 

だが、彼女達には任務の大きさなどは関係無かった。

 

 

 

どちらがどれだけ愛しの彼の近くの.....

より近くにいられるかが重要だった。

 

 

 

織部は三木城攻略で天竜と同じ中国を舞台に戦えた。三木城を落とせば、すぐに彼に褒めて貰える。

さらに、すぐに高松城攻めに参加できる。

 

対して左馬助は、

海を越えた先の土地に送られ、

例え手柄を立てても直ぐには褒めて貰えず、一緒に戦えるのも中国攻めが完了してからなのだ。

同じ任務を与えられていた小次郎や武蔵、氏真の気がしれないと思っていたのだ。

その氏真は管領として京に戻った。

武蔵は左馬助のいう事は全く聞かず、長宗我部元親と交渉で攻略しようと計画してるにも関わらず、勝手に攻めに転じようとしたり、

小次郎は一見左馬助に協力的だったが、結局は武蔵派。彼女と競う為にいつも武蔵と同じ行動していた。

 

 

未開の地で味方は誰もいない。

愛しの天竜も同じ土地にはいない。

これが彼女を苦しめた。

彼女の夢を奪った。

希望を奪った。

 

 

 

彼女を壊した。

 

 

 

壊れた彼女はそのうさ晴らしに人斬りになった。彼女の居場所でもあった大和や紀伊の地で.....

 

 

彼女は斬った。目に入った気に食わない女共を。

 

彼女は斬った。姉のような存在の十兵衛を。

 

彼女は斬った。己にとって泥棒猫のような女達を。

 

彼女を斬った。味方であるはずの小次郎を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして左馬助は、

人間を辞めて鬼武者になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。渾身を込めた強い斬撃ならそのクズ鉄を斬れるようですね」

 

 

ナノマシンは、巨大包丁の斬撃の前に、つむじに当たる部分から胸の部分まで真っ二つに斬り裂かれた。

 

 

「ふくくくく.....

貴方は何も理解していない。

ナノマシンの本体は肉眼では視認不可の超極小の蟲の集合体。

その群れを斬った所でナノマシンへの損害は皆無!!」

 

 

すると、半分に別れたナノマシンの上半身が、それぞれうねうねと変動し、二つの上半身を作ってしまった。

 

 

「ぎりしあの神話に似たような魔物がいるようですね。

百の首を持つ妃駑螺(ヒドラ)。

例えその首を斬っても、そこから2本の首が生えてきて、それらを斬ったら首が4つになって.....

ねずみ算式に首を増やす化物に」

 

「その神話なら私も天竜様に聞きましたよ?確かその魔物は中央の首を斬った事で退治出来たんですよね?でしたらこの場合の中央の首は貴方となる♡」

 

「でも女鬼はそこに辿り着く前に、他の首に食い尽くされる♡」

 

 

お互いに病んだ後、織部のナノマシンが先に動いた。

 

 

「撃てナノマシン!!」

 

 

ナノマシンが己の身体の破片を弾丸のように撃ち出してくる。

 

 

「がっ!!?」

 

 

流石に予想出来なく、弾丸は左馬助の肉体に無数に撃ち込まれる。

 

 

「あははっ♡」

 

 

それでも、致命傷に至らない。

 

 

「もうこれくらいで結構。

そのクズ鉄の攻撃は見切った」

 

「何っ!?」

 

「少なくとも、ソレには2つの弱点がある。それを見つけられた時点で貴方の負けは決まった」

 

「何だと.....?」

 

 

ワナワナと震える織部。自分の方が押しているにも関わらず、何だこの左馬助の自信は.....

 

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!

ナノマシンは超級の精霊!!

弱点などあるはずがない!!!

ナノマシン!!

あのクズ鬼をぶっ殺せ!!!」

 

 

ナノマシンが左馬助に向かって突き進む。彼女はそれを微笑しながら待ち構えた。

 

 

「さっきの神話ですが.....

妃駑螺を倒した戦士は、

斬り口を焼く事で、首の無限増殖を防いだそうです」

 

「!?」

 

「ですが、ソノ精霊は鋼。

燃やしても柔らかくなるだけ

だから.....

 

 

 

 

 

 

 

 

『凍らせればいい』

 

 

 

 

 

 

左馬助は、包丁の切っ先を地面に付けた。

 

 

『鬼光氷舞!』

 

 

左馬助の周囲の気温が一気に下がる。

絶対零度。

今まさに左馬助を斬り殺そうとしたナノマシンをも凍りつくさせる程の威力。

 

 

「ナノマシン!!?」

 

 

織部が異例の事態に慌てる。

 

 

「これは極小の蟲の集合体。

打撃や斬撃での攻撃は無意味でも、それら全てに当てるような攻撃は鋼の精霊にも有効。

焼く側でも、溶岩並の熱なら破壊も出来そうですね」

 

「ナノマシン!!」

 

 

必死に声を上げるが、ギギギという機械音だけで、動けそうにない。

 

 

「そのお喋りが命取りでしたね。

弱点をベラベラとくっちゃべってくれたお陰で弱点が容易に掴めました」

 

 

 

 

 

 

 

 

「............」

 

 

 

 

 

 

織部は無言になり、そっと懐からある物を取り出す。そして、それを左馬助やナノマシンの方向へ投げた。

それは.....

 

 

「焙烙玉!?」

 

 

それは忍が使うような小型のものだった。左馬助は、慌ててその場から離れる。焙烙玉はナノマシンを巻き込んでその場で爆発する。

その衝撃で、氷結していたナノマシンが粉々に砕け散る。

 

 

「.....!?...........なるほど」

 

 

焙烙玉爆発の熱風で、砕け散ったナノマシンの欠片が溶けた。溶けた液体金属は次々に集まり、また一つの塊となった。

 

 

「氷結は対策済みでしたか。

ですがいくら鋼の精霊といえど、

短期間に氷結と溶解を繰り返したりなんてすれば、確実に身体にガタがくるはず」

 

 

その通りだった。

復活したナノマシンは先程までと違い、いびつな形態を取っていた。それにまだ、凍っているかのようにガタついている。

 

 

「それに.....そろそろ.....」

 

 

 

 

 

 

 

「げふっ.....!?」

 

 

 

 

織部が吐血したのだ。

 

 

「がはっ!..........はぁ.....はぁ.....」

 

「目に見えぬ蟲の集合体.....

という事はその数は、

億か!兆か!京か!垓か!

それだけの数の精霊を一度に操るということになる!

千利休は4つで抑えたという.....

逆に言えば精霊は多く出し過ぎれば、術者側にしっぺ返しを喰らうという事となる。

それが弱点の2つ目。

それも理解出来ず、千利休の忠告も無視し、慢心に満ちた心で愚かにも私に挑んでくるなど.....」

 

 

 

 

「黙れよ『裏切りオニギリ』」

 

 

 

 

「!?」

 

 

口元の血を拭い、織部は言う。

 

 

「負担がかかる事ぐれぇ、

百も承知なんだよ!!

でもな、それでもやらなきゃならん!

私が愛した男性、天竜様の為に!」

 

 

「.............」

 

 

「いけない恋だって事も理解してる!

でもな.....でもな!!

そんな事もどうでもいいくらい惚れ込んでんだ!!あの方の為ならいくらでも命投げ打ってやれるぐらいの覚悟だってある!!

だから.....だからこそ!

私は貴様が許せない!!

たかが失恋如きで逃げた貴様が!

逆恨みで暴れる貴様が!

天竜様を不幸にする貴様が!」

 

 

 

 

「ほざけよクズ錬金術師」

 

 

 

 

「私が天竜様を守るんだ.....

私だけ彼の側にいるのだ.....

貴様のような化物に任せられるか!!

ナノマシン!!!」

 

 

ナノマシンが織部に纏うように被さる。そして、両腕で猛獣のような巨大な爪を形成する。

 

 

「バーカ!

死にかけのゴミ蟲が!

天竜様の飼犬の分際で!

犬が鬼に勝てるかよぅ!!!」

 

「黙れ黙れ黙れ!!!

その飼犬にもなれず、

天竜様の手を噛んだ貴様が!

私を語るな!!!!」

 

 

織部が左馬助に向かって飛び込む。

 

 

倒せなくてもいい.....

ここで死んだっていい.....

ただ.....

この命が彼の為に使われるのなら!

 

 

 

 

 

 

 

「ここで共にくたばれ明智左馬助!!!」

 

 

 

「惨めに1人で死ぬのはお前だけだ犬!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に左馬助を殺せるの?☆」

 

 

話の終わり際に主水が問う。

 

 

「殺すさ。絶対に!」

 

「無理でしょ☆」

 

「何っ!?」

 

 

主水が思わぬ事を言い出す。

 

 

「僕が女だと言えば君がどのような反応をするか.....見てみたくてね☆

さっきの様子で確信がいったよ☆」

 

「おまっ.....まさか!」

 

「心配しないで☆

女なのは本当だから」

 

 

べっ.....別に!

心配なんてしてないんだからな!

 

 

「君は女性を殺す事を嫌っている☆

いや、女の命を奪う事を恐れている☆」

 

「そっ.....それは.....

俺が姫武将殺しだから.....」

 

「違うね。

君はそれを言い訳に、

本当の理由を隠している☆」

 

「.............」

 

「一体何があったんだい?☆

君の過去に.....」

 

「それは.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....ゅう...........天竜!」

 

 

突然何処からか声がする。

 

 

「やばい!十兵衛だ!

すまん主水!

今日はもう帰ってくれないか!?」

 

「ぷっ.....運に救われたね☆

別にいいけど。

.....でもね天竜くん。

それが解決しない限り、

君は一生左馬助を殺せないよ☆」

 

「...........」

 

 

そう言い残し、主水は煙のように消え去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝負あり♡」

 

 

左馬助は見下ろしていた。敗退し、惨めに地面に這いつくばる織部を.....

 

 

「くっ.....くそ!」

 

 

辺り一面にナノマシンの残骸が散らばっていた。倒された織部の身体から引き剥がされたのだ。

 

 

「おのれ.....おのれ.....」

 

「一つだけ言っておきましょう。

貴方には私を倒せない」

 

「!?」

 

 

 

「何故なら私を倒して、

殺してくれるのは天竜様だからだ」

 

 

 

その瞬間、織部は気づいた。

左馬助の暴走の理由が.....

 

 

「お前.....そのために!?」

 

「ここからは生者のみ知る事です」

 

 

左馬助は織部の真上で包丁を構える。

 

 

「...........斬れ」

 

「ふふっ.....言われた通りに」

 

 

そうして包丁は織部の首目掛けて振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッという音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

織部はそこから消えていた。

包丁はそのまま真下の地面を抉っていた。

 

 

「これは...........まさか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吸血鬼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

「仕える者もいなく、

闇から闇に移り、血を啜り続ける。

お前は最早鬼武者でも鬼でもない。

吸血鬼ヴァンパイアだ」

 

 

左馬助の真後ろ。

その者は立っていた。

 

 

「なぁ、ヴァンパイア。

お前が今まで殺した者の分だけお前を殺す場合、お前を何回殺せばいいんだ?

何回殺せばお前は死ぬんだ?」

 

「天竜.....様」

 

「今更お前に様付けされても嬉しくないね」

 

 

天竜は立っていた。

両腕に織部を抱えながら。

 

 

「天竜様.....ごめんなさい。ごめんなさい」

 

 

織部は頑なに謝っていた。

 

 

「凪!武蔵はどうだ?」

 

「大丈夫。傷は深いようですが、

致命傷にありません!」

 

 

武蔵は凪に介抱されていた。

 

 

「様付けなしですか.....

ではこれからは『天竜さん』とでも呼びましょうか?」

 

「.....それ以上口を開くな。

殺意が湧き過ぎておかしくなりそうだ」

 

「...........」

 

「お前は暴れ過ぎた。

もう充分楽しんだろう?

悪い事した後は、大人が叱ってやらんといけない。苦しい思いをしてきた分だけお前に思い知らせなければならない。

仕返し程度では生温い。

倍返し!

10倍返しだ!!!」

 

 

刀を抜き、左馬助に向ける。

 

 

魔王と呼ばれた男と、

吸血鬼と呼ばれた少女。

 

 

その2人の対決が今、始まる!

 




ナノマシンのモデルはターミネーター2のT1000です。
あれを操れたら無敵かなって.....
でも左馬助には効きませんでした。
さぁ、吸血鬼と称された左馬助と
魔王と称された天竜の戦いが始まります!
次回予告
サタンJr.vsヴァンパイア


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第三十三話 サタンJr.vsヴァンパイア

最近、自分が何を書いてるか分からなくなって来た。
あと1〜2話で戦国に戻る予定。


天竜の得物、鬼殺しの名刀

『童子切り』

源頼光がかの酒呑童子を斬った際の妖刀。

引き換え、

左馬助の得物、人間斬りの魔刀。

『鬼包丁』

茨木童子が愛用したという殺人道具。

身の丈はあるであろうこの包丁で、数百人の人間を料理してきたという巨大包丁。

 

因縁深い2つの武器。

それらを用いる2人。

 

天竜と左馬助。

魔王の仔、羽柴天竜秀長。

吸血鬼、明智左馬助光春。

師匠と弟子、主君と家臣という間柄であった2人は、その思い違いから憎み合う形となってしまった。

 

 

「覚悟は出来たか?」

 

 

織部を凪に任せた天竜が言う。

 

 

「殺される覚悟ですか?」

 

「分かってんじゃねぇか」

 

「天竜様.....さんこそ覚悟できてます?」

 

「何っ?」

 

「心中する覚悟ですよ♡」

 

 

ルビーのような真紅の瞳で、邪悪な表情を浮かべ言う。

これは天竜の受け入れだ。

 

 

「お断りだ。

お前1人で勝手に死ね!」

 

 

天竜もまた同様の表情をする。

彼も真紅の瞳をしていた。

 

 

「残念ですね。

こうなったら無理心中です♡」

 

「おいおい。心中は重罪だぞ?

生き残った俺が裁かれるだろうが」

 

「大丈夫です。

確実に殺してあげます♡」

 

「その前に息の根を止めてやる」

 

 

そう言って天竜は構えを取る。

 

 

「お手柔らかに♡」

 

 

左馬助もまた構えを取る。

 

 

「de yùdemata huìou.」

(地獄でまた会おう)

 

「xǐnde♡」

(喜んで)

 

 

2人は一斉に前に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織部が霞みかけた眼で

その状況を見ていた。

2人の剣士はお互い同時に突き進み、

中央で一瞬だけ混じあった後、

お互いの左腕を斬り飛ばして、

再び離れた。

 

天竜、左馬助それぞれの左腕が無残に散らばる。

 

 

「くっ.....!?」

 

「あはっ♡」

 

 

ダメージは同じはずなのに、左馬助は快感に満ちた表情である。

 

 

「だぁっ!!」

 

 

天竜の左腕が、まるで逆再生されたかのように元に戻る。

 

 

「あははははは!!♡」

 

 

一方左馬助は、トカゲの尾の如く左腕を生やした。

 

 

「全く.....この決着はいつつくのだろうな?」

 

「この世の終わりまで戦い続けるのも乙なものですね♡」

 

「お断りだ!」

 

 

天竜が再び突き進む。

 

 

「朧月光流奥義、卯月!」

 

 

天竜からマシンガンのような突きが繰り出される。

 

 

「うらららららららららららあぁ!!」

 

 

「あははははははははははは!!♡」

 

 

左馬助はそれを余裕で受ける。

だが、その中でとある技の準備をする。

 

 

「鹿島新当流奥義.....」

 

「!?」

 

「一つ太刀!」

 

「睦月!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左馬助の技が相殺された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくあれを返しましたね」

 

「同じ技は食わない主義なんでね」

 

 

危うく明での義輝との真剣勝負の時の失敗を繰り返す所だった。だが、左馬助の出した技の直後に天竜が技の変更をしたのだ。

左馬助が放った絶対技の『一つの太刀』を、蓮撃の『卯月』から回転技の『睦月』に変更し、身体を軸に一回転し、その遠心力で強力な一つの太刀を弾き返したのだ。

 

 

「ふぅ.....」

 

 

どうっすっかなぁ〜。

全く隙が無い上に、下手に攻めるとすぐに返されて命取り.....

 

 

「ただの試合でコレなら、

超ワクワクすんのになぁ」

 

 

ワクワクとは別の感情が芽生え始めている。それは怒りでも恨みでもない、何とも言えぬ感じ。

 

 

「あはっ!あっはははははは!!♡」

 

 

一方、病んだ彼女は実に愉快な表情を浮かべている。

 

 

「んじゃ、もう一変やってみっか!」

 

 

天竜自身、術の反動で動けなかった期間が暫くあった。辛うじて今は動けるが、今日も実際を言えば正直怠かった。

そんな状態で茨木童子と化した左馬助を倒せるか微妙なのだ。

いや、茨木童子とも言い難い。

天竜は確かにこの童子切りで左馬助の左腕を斬ったが、彼女は何ともないかのように、腕を生やせて見せた。

鬼族に属す者はその上下に関わらず、灰にしてきた童子切り。腕を斬った所で、再生不可にさせる程の能力を持っていたはずなのに、左馬助には全く効いていなかった。

先程、吸血鬼と命名したばかりだが、

やはり、鬼以上の何か変質しているのかもしれない。

 

 

「如月!!」

 

 

剛の剣で左馬助の鬼包丁を粉々に粉砕する。だが、直ぐに新しい包丁を精製し、斬りかかってくる。

 

 

「くっ.....!?」

 

「無駄無駄無駄ですわ!!」

 

「神無月!!」

 

 

向かってくる左馬助に対し、流れるように刀を置いていき、そのまま彼女の胴体を斬る。

確かな手応え。

 

 

だが.......

 

 

「痛いじゃないですか」

 

「!!?」

 

 

確実に胴を斬ったにも関わらず、その部分がグチュグチュとうねり、粘土のように接着されている。

 

 

「化物め!」

 

 

やはりだ。童子切りが効いていない。

 

 

「もっと.....もっとぉ♡

私を虐めてくださいぃ♡」

 

 

左馬助は顔を紅潮させ、興奮している。

 

 

「文月!!」

 

 

一閃。それは純粋な突き。

ただ恐しいまでに鋭く、

見分けられぬ程疾く、

防ぎ切れぬ程強い一閃。

 

童子切りは確実に左馬助の胸部。

心臓に突き刺した。

 

 

「やったか!?」

 

 

だが.....

 

 

「嬉しいです♡こんなににも強くぶつかってくれるなんて♡」

 

 

「!?」

 

 

馬鹿な!?

心臓を刺したんだぞ!?

 

 

「はっ!」

 

 

左馬助が手持ち包丁2つを、天竜の両肩に突き刺す。

 

 

「がっ!?」

 

 

両肩から鮮血が噴き出した。

 

 

「あぁ.....懐かしい♡

天竜さんに刺される感覚ぅ!♡」

 

 

明らかに心臓を刺されている左馬助の方がダメージがあるはずなのに、天竜の肩の傷の方が手痛い状態なのだ。

 

 

「知っていましたか織部さん!

私はだいぶ前に天竜さんに愛された事があるのですよ!あの時は鉄の棒ではなく、ちゃんと肉の棒を頂きましたがね!!」

 

「くっ.....!!」

 

 

わざと織部に聞こえるように大声で言う。

 

 

「左馬助ぇ!!!」

 

 

天竜は刀を左馬助に刺したまま、回転させ刃を上に向けさせ、一気に引き上げる。

 

 

「うらあぁぁぁ!!!!」

 

 

刀は真上に斬り裂き、左馬助の胸から頭にかけてを真っ二つにさせる。

天竜は思わず目を瞑った。

敵対しているとはいえ、ずっと仲間だと思っていた女子の無残な姿は見るに耐えなかったのだ。

 

 

ところが.....

 

 

「酷いじゃないですか天竜さん。

真っ二つですよぉ?♡」

 

「うっ!?」

 

 

頭部が半分に割れているにも関わらず、まだ平気な様子である。

 

 

「不死者(アンデッド)かよ......」

 

 

そうとしか考えられない。

心臓を貫いても、

頭を割っても死なない。

こいつはゾンビだ。

 

その時、左馬助が異様な再生の仕方をした。別れたそれぞれの斬り口から血液が意志を持っているかのように飛び出て、中央で結合。割れた頭部をそれぞれで引き寄せ、やがて接着した。

 

 

『マグラ!?』

 

 

突然、天竜の脳内で声が響く。

 

 

「つっ.....ツクヨミ!?」

 

 

するとツクヨミは姿を具現化し、天竜の背後に立つ。

 

 

『朧よ!奴は悪魔憑きだぞ!』

 

「なっ!?」

 

 

ツクヨミが思わぬ事を言う。

 

 

『魔人マグラ.....

又の名を血の神マグラ』

 

「血の神!?」

 

『我の部下の1人の悪魔だ。その特殊な体質から「不死身のマグラ」とも呼ばれておる。

奴は身体が全て血で精製された化物だ。斬ろうと潰そうと撃とうと無意味。液体の身体には何も効かぬ。我が唯一勝てぬと悟った悪魔だ』

 

「何だと!?」

 

『見た目に惑わされるな!

あれは血液の集合体だ!

貴様の時代の言葉を借りるなら、

ゼリー状と言えば分かるだろう』

 

「何だって左馬助に!?」

 

『マグラは魔界にいたはずだ!

奴が自力で現世に来る事も、

あの小娘が奴を呼ぶ事も不可能!

誰かだ!誰かが手引きしたのだ!

魔族の者の誰かが!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな最中、左馬助が動きを見せる。

 

 

 

 

「話は終わりましたぁ?

あまりに放置されると疼いてしまいます♡」

 

 

左馬助がよがっていた。

 

 

「左馬助が壊れた理由って.....

まさかあれは左馬助じゃなくて.....!」

 

『いや、あれにマグラの意識は感じられぬ。どうゆうわけか、あの小娘に完全に支配されている。

紛れもなく明智左馬助よう。

ただ、マグラの邪気があの小娘の悪心を引き出していると見える』

 

「退屈」

 

 

そう一言呟いた彼女が急に前に出てきた。

 

 

「くっ.....!?」

 

 

マグラの話を聞かされ、動揺してしまった天竜が一歩遅れた。

 

 

『鬼光閃舞!』

 

 

まるで眼前に太陽が現れたかのような閃光が天竜を襲う。光に目を潰され、慌てて両手で覆う。

だが、その直後天竜の背中に数本の手持ち包丁が突き刺さった。

 

 

「がっ!?」

 

「あはっ♡」

 

 

天竜はそのままうつ伏せに倒れた。

背中の包丁は煙のように消え、代わりに左馬助が背中に覆い被さるように乗ってくる。

 

 

「あぁ、天竜さんの背中.....

血だらけといえど......

いえ、血だらけだからこその魅力がある。

なるほど吸血鬼。

天竜さんの血も美味しく感じられる♡」

 

 

左馬助が背中から流れ出る血液を舐めながら言う。

 

 

「くっ.....くそ!!」

 

 

必死に這い出ようと試みた天竜だが、左馬助の怪力で押さえつけられ、身動きが取れない。

 

 

「天竜さんの血と肉.....

全部食べちゃえば、

私とまた一つになれるかも♡」

 

 

そうして天竜の首筋に歯を立てた。

 

 

「ガブリ♡」

 

「あぐあぁ!!!?」

 

 

首筋の皮と肉を貪られた。

 

 

「あぐぐぐぐぐぐ.....!!!」

 

「なんたる甘美!!

これ程のものを今まで食した事があるだろうか!!」

 

 

左馬助はまた天竜の肉を食った。

これでは吸血鬼というより、

喰鬼(グール)だ。

 

 

「があああぁぁぁ!!!」

 

「ガーリガリ♡」

 

 

 

 

 

 

 

「この外道がぁぁ!!」

 

 

とある人物が刀を持って斬りかかってきた。そしてそのまま左馬助の首をはねる。

 

 

「あらら?」

 

 

空中に跳んだ左馬助の首。

だがその直後、首と胴体両方から血液がそれぞれ飛び出て、繋ぎ合い、また首を接着させてしまう。

 

 

「おやおや。忍の凪さん」

 

 

日本刀で左馬助を斬ったのは凪であった。

 

 

「その名は親しき身内のみに許した名だ!今や敵対した貴様に呼ばれる筋合いはない!」

 

「なら、敵用の名前を教えて下さる?

貴方とは余り関わりがないので、

全然知らないの♡」

 

 

半分馬鹿にしたような言い方で問う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならよく耳に刻み込んで、

死んでゆけ!!

 

私は天竜軍隠密機動隊隊長!

 

元伊賀忍者にして元人斬り!

 

 

石川五右衛門!!

 

 

反逆者明智左馬助!!

その命貰い受ける!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、石川五右衛門ね?

はいはい。

ただ、人間は私には役不足なのでこっちね」

 

「何っ!?」

 

 

左馬助はその近隣の地に向けて手を伸ばす。

 

 

『鬼光冥舞』

 

 

するとそこに謎の魔方陣が出現する。

 

 

「ある意味、私と天竜さんにはとても印象深い奴ですね。貴方程度ならこれで充分!」

 

 

そこから現れた者を見て、天竜はギョッとする。

 

 

「朝倉義景!?」

 

 

天竜が以前、若狭の地で冥界に強制送還させた鬼人。元越前国当主である。

 

 

「天竜さんが送った鬼ですがぁ〜

この際、生き返らせちゃいました♡

肉体ごとあっちに行ってたみたいなので、ある意味帰還ですがね」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」

 

 

義景の雄叫びが鳴り響く。

 

 

「くっ.....!?」

 

 

凪は刀を構える。

彼女もまた天竜に拾われた身。

その恩と愛の為に命を懸ける。

 

 

「くっ.....凪!!」

 

「だーめ♡

天竜さんは私がお相手♡」

 

 

そう言って、天竜の傷口に包丁を突き立てる。

 

 

「あぐあぁぁぁ!!!」

 

「天竜様!!」

 

 

凪が叫びを挙げる天竜のもとに駆け寄ろうとした。ところがそこに義景が立ちはだかる。

 

 

『あの小娘に強力するのは癪だが、私を冥界なんぞに堕とした羽柴天竜を陥れられるのなら、今だけの辛抱。

いずれはあの憎っくき織田信奈もこの手で殺さねばならぬ』

 

「あら?貴様喋れたのか。

言葉が分かるのなら退け。

私は今から明智左馬助を斬らねばならぬ』

 

『断ると言えば?』

 

「死骸が2つになるだけだ!」

 

 

凪が義景に斬りかかる。

義景もまた、棍棒のような巨大な得物で立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は何をしているのだろう?

十兵衛の仇。

孫市の仇。嘉隆の仇。

小次郎の仇。

武蔵の仇。織部の仇。

多くの仲間を傷つけ、

小次郎の命まで奪った、

大悪党明智左馬助光春。

奴を討伐しようと意気込み、

かかって行ったにも関わらず、

俺は今、奴に肉を貪られている。

 

こんな事があってたまるかよ.....

 

 

「うぉぉぉ!!!」

 

 

天竜は全身に力を入れ、奴を背中に乗せたまま起き上がる。左馬助は離れる事なく、天竜にしがみ付いたままその血肉を啜っている。

天竜は刀を逆手に持つ。

 

 

「いい加減にくたばれ!!」

 

 

己の腹に刀の突き刺した。

刀はそのまま背中に突き抜け、

後ろの左馬助にまで刺さる。

勢いで左馬助は天竜から離れた。

 

 

「うがっ................

..........................あはっ♡

あはははははははははははは!!!♡」

 

 

それでもダメージは0。

むしろ天竜に大きな損害ができた。

 

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

 

天竜はゆっくりと腹から刀を抜き、霞む目で左馬助を睨みつける。

 

 

「ふぅ.....ふぅ.....ふぅ.....」

 

 

息もだいぶ荒い。

血以外に臓器のような肉片もボタボタと落ちている。

 

 

 

ああ.....

こんなんで勝てんのか?

なんかやる気まで抜けてきちまった。

 

 

「もう.....いいや」

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後、天竜は両手を斬り飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1年前。

長良川の下流。

その少女は倒れていた。

戦に負け、従姉妹ともはぐれ、

落武者同然となった彼女は行き倒れにあっていた。

 

 

「おい兜武将が倒れてるぞ!」

 

「首を義龍様に持っていけば、

褒美を貰えるべ!」

 

 

落武者狩りだ。奴らは弱った敗残兵や死者の首を狙うハゲタカだ。

こんな奴らに殺されるというのか?

 

 

「おい!こいつ姫武将だ!」

 

「殺すよか、いい使い道があるべ!」

 

 

あぁ、殺されようが生かされようが、私はもう人形同然なのか.....

 

 

 

 

「何をしている貴様ら」

 

 

 

 

別の声がした。

 

 

「お前こそ何だ!?」

 

「美濃兵じゃねぇべ!」

 

 

一体何だ?

 

 

「俺はただの浪人だ。

そこの娘を買いたい」

 

 

思わぬ事を言い出す。

 

 

「あん?」

 

「金ぐらいはくれてやる」

 

 

すると彼は何やら金の入った袋を美濃兵に渡す。

 

 

「この娘の着物に入っている家紋は桔梗。それも上質な着物だ。この兜の形からも考え、身分の高い人物だろう」

 

 

それを聞いて、美濃兵らの態度が変わった。

 

 

「なんと!

尚更この娘を渡すわけにはいかねぇな!

しかも、お前を殺せば残りの所持金が全額手に入る!」

 

「やっちまおうべ兄貴!」

 

 

2人が刀を抜く。

 

 

「くひゃっ.....」

 

 

浪人が何やら怪しげな笑い方をしたかと思えば、その先は一瞬だった。

斬りかかった2人の美濃兵を即座に斬り返したのだ。

 

 

「ぐえっ!?」

 

「ぎゃぼっ!?」

 

 

まるで流れるように、

すれ違いざまに一刀両断。

無駄もなく、完璧に。

美しく、冷酷に.....

 

 

「ふっくくくくくくく.....

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

私欲は身を滅ぼすのだ!!」

 

 

身震いがした。

この邪悪さだけに射て殺されそうな。

生まれついての殺人鬼のような。

この男に.....

 

 

「大丈夫か?」

 

 

その男が私に手を差し伸ばした。

先程とは打って変わって、

天人のような表情で。

 

 

「あっ.....貴方は?」

 

 

恐る恐る聞いてみた。

 

 

「俺は勘解由小路天竜。

浪人にして、しがない陰陽師だよ」

 

 

陰陽師!?

貴族紛いの職の者があんな剣の使い方をするのか!?

 

その瞬間、身震いがした。

先程までの畏怖の念ではなく、

武者震い。

この男を見てみたい。

この男がどのような歴史を刻むのか。

どのような生き様を見せるのか。

一番近くで.....

 

 

「私は明智左馬助光春。

勘解由小路殿、私を仕官してほしい。

この通り私は帰る家を失った身だ。

どんな事だってする。

側にいせさせてほしい」

 

 

これは彼女きっての、本心からの願い。

 

 

「俺は別に武士でもなんでもないからな〜。

なら弟子にでもなるか?

生徒見るのは好きだし。

勉学や剣術ぐらいなら教えられるぞ?」

 

「ありがとうございます。

勘解由小路殿」

 

「それと、名前で呼んじゃくれねえか?

なんか距離感じるし、言いにくいだろ」

 

「では、天竜殿.....いえ、天竜様」

 

「くくっ.....懐かしいな」

 

「え?」

 

「いや、こっちの話だ」

 

 

こうして私は天竜様の最初の弟子となった。これから彼が起こす事を夢に見ながら.....

 

 

 

1年後、彼は安土城を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、今では懐かしき思い出。

思えば、あの時から私と天竜さんの運命は決まっていたのかも」

 

 

両腕を失い、仰向けに倒れた天竜の胸に左馬助が横になっている。

 

 

「さぁ、天竜さん。

.....一緒になりましょう♡

..........................永遠に」

 

 

拍子抜けした天竜の唇に左馬助は口付けをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お断りだ」

 

 

 

次の瞬間、左馬助の胴体が爆発するかのように弾けた。

 

 

「!?」

 

 

首から下が粉々になり、辺り一面に散乱する。

 

 

「くっ.....ふくくくくくくくくくく.....」

 

 

これを引き起こした人物は1人しかいない。

 

 

 

 

『くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!』

 

 

 

 

いつも通りの高笑い。

だがそれは、何かが違った。

 

 

 

 

天竜は立ち上がる。左馬助の頭部をボールのように両手で持ちながら.....

 

いつの間にか両腕は復活し、その両手で左馬助の胴体をバラバラに引き裂いたのだ。

 

 

「貴方.....誰ですか?」

 

 

左馬助がそう言った。

彼女は何かを感じ取った。

天竜ともツクヨミとも違う何かを.....

 

 

『俺は俺だよ。

可愛い可愛い私のドラキュリーナ』

 

「?」

 

 

その直後、

天竜は左馬助の頭部を握り潰した。

 

 

ところが、その肉片は血液と共に空中を移動し、辺りに散った他の肉片も吸収し、一つの塊となった。それがまた左馬助の形をとる。

 

 

「天竜さんの身体なのに、

天竜さんじゃない。

話に聞いていた月読命とも違う。

貴方は何者です?」

 

『言っただろう?

私は紛れもない天竜。

勘解由小路天竜だ』

 

 

羽柴ではなく、何故か旧姓を名乗る。

 

 

「どうでもいいけど、

早く天竜さんを返して下さい。

貴方と話す事はないです」

 

 

左馬助はこの天竜を別人として捉える。

 

 

『相変わらず喧しい。

貴様は餓鬼の頃からそうなのだな』

 

 

天竜が妙な言い方をする。

 

 

 

 

『まぁ、よい。

お陰で貴様を、

もう一度殺せる』

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

謎の台詞と共に、

天竜は素手で左馬助の胸を貫いた。

 




誰も分からないだろうけど「ブレイド」ネタ。
マグラは基本ナノマシンに似てるけど、
錬金術じゃなくて魔法なので、
ずっと性能がいいです。
次回予告
輪廻転生
〜Hasta la vista , baby!〜


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第三十四話 輪廻転生

夏休み終わってくると、
更新が難しくなりますね。



『やった!

やったでありんす!

天ちゃんの記憶が戻ったでありんす!!』

 

 

はるか上空で様子を見ていたアマテラスが愉快に叫んだ。

 

 

『これであとは.....』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貰うぞ!その右腕!!』

 

「!?」

 

 

目の前に突風が吹いたかと思えば、次の瞬間には右腕を引き千切られていた。

 

 

『液体に物理的攻撃は不可。

だが、それ以外はどうだろう?』

 

「!?」

 

『例えば炎』

 

 

すると、天竜の持っていた左馬助の右腕がボウッと燃え上がり始めた。

 

 

『こうやって蒸発させれば、液体の身体でも殺せるではないか?』

 

「くっ.....」

 

 

右腕は完全に蒸発し、煙になってしまった。

 

 

「甘いですね」

 

 

すると、煙が生きているように動き回り、左馬助の右腕の切り口に集まり、腕の形をとる。そしてまた元の腕に戻ってしまった。

 

 

『魔人ブウか貴様は』

 

「あはっ♡ 何それ?」

 

 

蒸発も効かないらしい。

 

 

『それじゃあ色々試してみようか。

こちとら3年振りで、

身体が鈍っているのだ』

 

「?」

 

 

天竜は足元に落ちていた「童子切り」を拾い上げる。

 

 

『細切れに刻んでその血を葡萄酒にして飲んでやろう』

 

「貴方も吸血鬼じゃないですか」

 

『そうだが?』

 

「?」

 

 

天竜の様子は異常だった。

普段から異常ではあるが、これは殆ど別人.....

 

 

『あぁ、私ともあろう者が興奮している!

貴様は.....本当に素晴らしい女子だよ。

今までは貴様には何の感情も湧かなかったのにどうだ?

殺人鬼として覚醒した貴様を見ている興奮が止まらぬ!

性欲が高まる!

貴様を押し倒して無理矢理犯してみたい!

そうすれば最高のエクスタシーを感じられるかもしれぬ!

貴様は超絶に勃起モノだ!」

 

 

今度は天竜がよがる。

普段のクールな面影がどこにもない。

 

「ちっ!」

 

『それじゃあ次は蜂の巣♡』

 

 

両手にアサルトライフル2丁が召喚される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うわははははははははははは!!!』

 

「くっ.....!」

 

 

鬼義景の猛攻を紙一重で避け続ける凪。

 

 

『小娘が!!

私に刃向かうなど100早い!!』

 

「すみませんね。

人外を相手にするのは初めてなので」

 

 

凪は元忍の特性である身軽さを活かして華麗に義景の棍棒を避けていた。

 

 

『ちっ!

蠅のようにちょこまかと!』

 

「ふっ.....ふっ.....ふっ!」

 

 

ただただ、彼女は避け続ける。

そのチャンスが巡ってくるその一瞬まで。

 

 

『せいぜい逃げ惑え!体力が尽きた時こそ、貴様の最期!!』

 

「ふっ.....ふっ!」

 

 

ただ避けているわけではない。

鬼義景の動き一つ一つを観察して、そのリズムと癖を見分ける。

 

 

「そこか!」

 

『!?』

 

 

棍棒を握っていた右腕が飛んだ。

 

 

『何っ!?』

 

 

鋼の肉体を持つはずの鬼の肉体に刃を立てるなど容易にできるはずもない。また、そんな刀も存在するはずもない。

だがこの女は.....

 

 

「私を小娘と罵ったな餓鬼。その御大層にくっ付けてる角へし折るぞ糞虫」

 

『ぐぐぐ.....!』

 

 

義景は焦っていた。人間を辞め、鬼となり、土御門の使い魔となったものの、天竜に冥界に強制送還され、数ヶ月死ぬ思いをしたものの、左馬助に再召喚された。

 

波乱の半生を送ってきて、そんのちょっとでは驚く事などあるはずのなかった。

だが、その義景が恐怖していた。

攻撃も通じず、絶対の防御すら通じない。

 

こいつが本物の化物。

 

 

「いやあぁ!!」

 

 

脇腹を切り裂かれた。

 

 

「うらぁ!!」

 

 

角を折られた。

 

 

「でぇあ!!」

 

 

目を抉られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四肢を斬られ、芋虫のようになった義景。

彼は鬼にも関わらず、ただの人間に負けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何者だ貴様』

 

 

 

 

義景が最期の問いをする。

すると凪は和かな表情で答えた。

 

 

 

 

「私の名は石川五右衛門。

ただの泥棒です」

 

 

 

 

全ては天竜のため。

情報を盗み、

信頼を盗み、

命を盗み、

全てを奪う泥棒。

その相手が人間だろうと鬼だろうと。

 

 

 

それは大泥棒石川五右衛門。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふっ.....見事だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残鉄剣」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

義景はここで初めて命を落とした。

その時の彼の顔は思いの外、

朗らかだったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、私の主人様のは終わったかしら?」

 

 

鬼の首を手に持ち、血塗れの少女は言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそぉぉぉ!!!」

 

 

『くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!』

 

 

左馬助は不死身。だから、天竜は考えられる全ての殺し方をを彼女に試す。

 

刺殺。

 

斬殺。

 

銃殺。

 

絞殺。

 

焼殺。

 

圧殺。

 

毒殺。

 

電殺。

 

爆殺。

 

 

 

全部無駄だったが、

少なくとも左馬助に対し圧力は与えていた。

 

 

「しつこいなぁ!」

 

『あー。

いい加減お前の殺し方分かんなくなった』

 

 

すると天竜が妙な鎖を召喚する。

 

 

『手っ取り早く終わらせますか』

 

「!?」

 

 

紫色に光る鎖。

 

 

『喰らえ地獄の鎖』

 

 

まるで鎖鎌の如く天竜はそれを放った。それは真っ直ぐと、左馬助の左脚に巻き付く。

 

 

「!?」

 

 

すると、鎖が意志を持っているかの如く左馬助を引き摺り出した。

 

 

「あぐっ!?」

 

 

『続いて餓鬼の鎖』

 

 

橙色に光る鎖が左馬助の右脚に巻き付く。

 

 

「このっ!!」

 

 

彼女は無理矢理それを引き剥がそうとする。

 

 

「!?」

 

 

だが駄目だった。

鎖が剥がれない。千切る事も出来ない。

鬼の力を持ってしても鎖をどうにもできない。

ただの鎖じゃない。

 

 

『畜生の鎖』

 

 

緑色の鎖が右腕に巻き付く。

 

 

『修羅の鎖』

 

 

紅色の鎖が左腕に巻き付く。

 

 

『天界の鎖』

 

 

黄金の鎖が首に巻き付く。

 

 

 

 

 

 

 

真の強者は、

無意味に決めゼリフを言ったり、

大声で気合いの声を上げたりしない。

 

ただただ、その相手を倒す。

 

圧倒的な実力差によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よく分らない空間から生えた鎖5本が左馬助を拘束する。左馬助を空中に磔にしたのだ。

 

 

「くそ!!!

何なんだこの鎖は!!!」

 

 

ギチギチと全身に力を入れるが、鎖はびくともしない。

 

 

『ざまあないな。

あれほど豪語していた鬼子が、

今ではただの少女のよう』

 

 

天竜が邪悪な表情で言う。

漆黒の鎖をヒュンヒュンと振り回しながら。

 

 

「くそ!!くそ!!くそ!!

くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!

くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!

くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!

くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!

くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!

くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!

くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!

くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!

くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!

くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!

くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!

くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!」

 

『何を悔しがる?

約束通りに私が貴様を殺してやるのだぞ?』

 

「違う!!

お前は天竜さんじゃない!!」

 

『いんや。

私も天竜だ。勘解由小路天竜だ。

ただし貴様が先程まで会話していた私とはややズレた私だがな』

 

 

言っている意味が分からない。

 

 

『もうよい。

後は向こうの話だ』

 

 

天竜が漆黒の鎖を放つ。

 

 

『人間の鎖』

 

 

「ぐがっ!?」

 

 

漆黒の鎖は左馬助の胸を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

 

天竜の様子が急に変わった。

 

 

「俺.....何を?」

 

 

さっきまで左馬助と戦い、

押され、喰われ、諦めた。

そこから先の記憶がない。

 

だが、そんな事はどうでもいい。

 

今、目の前で起きている現状に比べれば.....

 

 

 

 

 

 

「ぎぃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 

「左馬助!!?」

 

 

左馬助が燃えていた。

それも普通の燃え方ではない。

 

虹色の炎で、何十分にも渡って燃やされ続けているのだ。

 

しかも、普通ならものの数分で意識を失うか死亡するかのに対し、左馬助は長時間意識を保ち続け、苦しみ、叫び続けている。

 

 

「これは.....一体誰が.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それは貴様だよ朧』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツクヨミが現れた。

 

 

「ツクヨミ!?」

 

『地獄、餓鬼、畜生、修羅、天界、人間。

6種類の鎖。6つで一つの鎖。

これは

六道輪廻の呪縛。

通称、輪廻の鎖』

 

「輪廻の.....鎖?」

 

『貴様はこの小娘を殺すつもりで、

真逆の事をしでかしてしまったようだな』

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『輪廻の鎖は対ゼウス用に作った、

魔界の兵器の一つ。

管理者は我だった。

対神用兵器。

神を殺せる道具。

 

だが人間に使えば、

また別の効果が出てくる。

 

それは

「死」の剥奪。

 

この世で最も辛い罰は、

「死」ではなく「生」。

 

生き物に与えられた平等の権利、

「死」を取り上げられるのだ』

 

「..........」

 

「ぎぃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

左馬助はまだ叫び続けている。

 

 

『死の苦しみを先に味わっているのだ。

この先味わう予定だった、

一生分の死を.....』

 

「そんな.....」

 

『この小娘は、

これから貴様が縛った、

地獄道、餓鬼道、

畜生道、修羅道、天界道を回る。

そして最後はこの人間道に戻ってくる。

その時、この小娘は真の不死者になる。

だが、

それはどれくらい先の話か分からん。

ひょっとしたら、

明日か、100年後か、1億年後か、

 

どちらにせよ、

小娘は永遠に孤独の道だ』

 

「そんな.....だって!」

 

『誰が貴様に輪廻の鎖に渡したかは

知らんが、

しくじったな。

恐らく、

武器かなんかと偽って渡したのだろう』

 

「ぎぃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

業火に燃やされる左馬助の叫びはまだ続く。

 

 

「違う!

俺はこんなつもりじゃ.....」

 

「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

天.....竜さ.....

あああああああああああああ!!!!」

 

「ごめん!

ごめんなさい!!

ごめんなさい!!!」

 

 

耳を塞ぎ、ただただ泣きながら謝る天竜。

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

「ごめんなさい!!!

ごめんなさい!!!!

ごめんなさい!!!!!

ごめんなさい!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

その時、鎖のうちの1本が千切れた。

千切る事は不可能の筈の鎖を.....

 

 

 

 

 

「天竜.....天竜.....天竜.....天竜.....」

 

 

左馬助は黒コゲの身体で、

必死に名前を呼びながら手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

「........................................ハル」

 

 

 

 

 

天竜もまた手を伸ばし返す。

再び彼女の愛称で呼びながら.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、左馬助の身体は消えた。

死んだのではない。

移動したのだ。

次なる世界へ.....

 

 

「ハル..............................ハル..........」

 

 

天竜の瞳から大粒の涙が流れ落ちる。

 

 

「こんな.....................つもりじゃ.....」

 

『全て貴様の選択だ。

意識があろうがなかろうが、

全て貴様が仕出かした事だよ』

 

「うぅ.....あああぁぁ!!」

 

 

呻き声をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつから俺は人間を辞めた?

 

いつから非情になれた?

 

いつから他人の不幸を無視出来た?

 

いつから大切な者の死を悲しまずにいれた?

 

 

 

 

否。いずれも出来ていない。

 

俺は化物じゃない。

 

俺は化物になりきれない。

 

俺は......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人目も憚らず、天竜は泣いた。

心配して凪が近寄ったが、

思わず躊躇ってしまう。

 

倒れている武蔵や織部もそれを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣いた白鬼。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小次郎の死でさえ、

天竜はここまで大声では泣かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはずっと膨らみかけていた風船が、一気に破裂したような.....

普段彼が見せる事など絶対にない、

 

素の天竜。

 

 

 

 

 

 

 

 

誰一人として、

彼が泣き止むまで、

彼に声をかけられた者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

『アマテラス!!

アマテラス何処だ!!』

 

 

天竜の居城信貴山城にて

ツクヨミの怒号が響く。

 

そして、話し声がする部屋を見つける。

 

 

『ここか!』

 

 

だが、ツクヨミはその光景を見て驚愕する。

 

 

『貴様..........................何を!?』

 

 

確かに奴はそこにいた。

だが、姿形が全く違ったのだ。

 

成長している。

 

いや、戻っている。

力を溜めるために幼児化した身体が元に.....

 

 

それは、姫巫女や一益が10歳程成長したような姿。背丈も高く、胸も豊か。面妖も美しさに磨きがかかっていた。

 

 

そして、その下に天竜がいた。

まるでいじめられて、

傷心な所を母親にあやしてもらっているように、彼は眠っている。

目蓋の荒れ具合から、ずっとアマテラスに縋って泣いていたのだろう。

 

 

「儡阿...........儡阿......」

 

 

天竜が寝言を言う。

 

 

『アマテラス!!』

 

 

ツクヨミが耐えきれずに叫ぶ。

 

 

『し〜。

この仔が起きちゃうじゃない』

 

 

喋り方が違う。

 

 

アマテラスは天竜を布団に寝かせると、ツクヨミの元にやって来る。

 

 

『どうしたつーちゃん?』

 

『つーちゃんじゃない!

どうゆうつもりだ貴様!!』

 

『というと?』

 

『輪廻の鎖を渡したのは貴様だろう!

それと、

何故奴の記憶が戻った!!』

 

 

全てはアマテラスの策略。

 

 

『そもそもつーちゃんが天ちゃんの記憶を消したから、面倒臭い事になったんじゃない』

 

『あのまま放置していれば

奴が壊れていたからだ!

だから最悪の終わり方をする前に.....』

 

『ふ〜ん。

いつからつーちゃんは天ちゃんの

お母さんになったの?』

 

『くっ.....』

 

 

完全にアマテラスが押している。

 

 

『....................マグラを小娘に憑かせたのも貴様だな?』

 

『御名答♡』

 

『何故そんなことを.....』

 

 

 

 

 

 

 

 

するとアマテラスは思わぬ事を言い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

『蠱毒って知ってる?』

 

『なっ!?』

 

『天ちゃんは強過ぎるからね〜。

似た実力の者が少ないのよ。

だから、明智左馬助を強くさせて、

天ちゃんにぶつけた』

 

『............』

 

『お陰で天ちゃんはさらに強くなったね。

後は織田、武田、上杉あたりかな』

 

『その為に.....

その為に天竜を呪ったのか!?』

 

 

 

 

 

六道輪廻の呪縛は呪いの鎖。

人を呪わば穴二つ。

左馬助を呪った天竜にも、

呪いは降りかかる。

 

 

 

 

『天ちゃんは我らの後継者。

いつまでも寿命があっては困るの。

まぁ、そうなるのは天ちゃんが人間としての一生を終えてからだけどね』

 

『............もし、小娘が朧を倒していたらどうするつもりだった?』

 

『当然、明智左馬助を後継者にしてたね』

 

 

ツクヨミは身震いをする。

彼女も魔王ではあるが、

このアマテラスという悪魔は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔神の域に達している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は目を覚ます。

 

 

「ここは?」

 

 

あれから何年経っただろう?

100年目ぐらいから数えるのを諦めた。

 

その時、

 

 

「お目覚めですかお嬢様?」

 

 

突然、西洋風の服装の日本人の老人が現れた。

 

 

「貴方は?」

 

「爺にございます。

お嬢様は記憶喪失と聞きました。

ですが.....

本当に生きていてよかった!」

 

 

老人は布を目に当て、涙を拭く。

 

 

「まさか自家用機が落ちるとは.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、なんか思い出した。

私はある空飛ぶ鉄の鳥の中にいて、

そこで少し暴れたら、墜落してしまった。

私は不死身なので無事だったが、

そこには西洋風の服装の日本人が何人も死んでて.....

その中の1人に.....

 

 

「私に....................そっくり」

 

 

私はその後、

有無を言わずにその少女を喰った。

肉片一つ残らないぐらいに.....

 

 

 

 

 

そして今に至る。

 

 

 

「旦那様も奥様も心配なさっていました。

明日お見舞いに来るようでございます」

 

 

私は事故の生き残りとして扱われている。

 

気付けば、西洋風の寝巻きを着せられて.....

 

 

「ここは.....日の本ですか?」

 

「ん?.....ここは日本ですよ?」

 

 

う〜む。

あれから何百年も経って風俗が和式から洋式になったのか?

 

 

「私の名前.....」

 

「あぁ、思い出せないのですね。

お嬢様の名前は.....」

 

 

 

 

 

 

 

すると老人から、

聞き覚えのある、

とても驚くべき名前が出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜」

 

 

少女の顔が急に邪悪なものに変わった。

 

 

 

「お......お嬢様?」

 

「爺さん。

私.....結婚したいです」

 

「え!?」

 

「お見合いをします。

相手は決まってますよ。

あっ.....でもその前に、

この時代の情報を全て教えて下さいます?」

 

「ちょっ.....ちょっ.....ちょっ.....

この時代って.....

第一、誰と見合いするというのです?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勘解由小路。

勘解由小路天竜。

私は天竜さんと結婚します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しき居場所を得た少女は.....

再び、地に足を降ろす。

 




グダグダな展開ですいません。
取り敢えず、左馬助回はこれで終わりです。
次回から新展開に持ち込む予定!
次回予告
裏切りのファンタズム
〜ごめんなさい〜


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第三十五話 裏切りのファンタズム

さて、今回から新展開です。


これは、主水との話の後の話。

 

 

「天竜!」

 

「どうした十兵衛?」

 

「どうしたじゃねぇです!」

 

 

やはり左馬助の件で攻めているのだろう。

 

 

「大丈夫ですか天竜?」

 

「?」

 

「大丈夫なのですか?」

 

 

左馬助討伐の命令を出した事を攻めているのではないのか?

 

 

「何が?」

 

「何がじゃねぇです!

怒りに任せてあんな命令出して.....

左馬助は貴方の弟子だったんじゃないのですか?」

 

「妹弟子の小次郎を殺したのは奴だ」

 

「約束したじゃないですか!」

 

「それは小次郎が死ぬ前の話だ!」

 

 

人斬りを行っていたのも許し難いが、

腹いせに仲間を殺すなど言語道断。

 

 

「私が言っているのは.....

貴方がおかしくなって、このような行動に出ているのかを心配しているんです」

 

「....................俺は正気だよ」

 

「本当ですか?」

 

 

グイッと顔を近づけてくる十兵衛。

 

 

「............」

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこの娘は、

おもしろい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜は十兵衛にキスをする。

 

 

「んんっ!!?」

 

 

十兵衛は慌てて離れた。

 

 

「これはケジメだよ十兵衛」

 

「けっ.....ケジメ!?」

 

 

天竜は至極穏やかな表情で言う。

 

 

「左馬助.....ハルをあそこまで強くしたのも、

左馬助が壊れる原因を作ったのも、

 

俺なんだ。

 

この一連の事件の発端も俺。

小次郎の死の原因も俺。

今回、1番責任を負わないといけないのはハルじゃない.....俺なんだ」

 

「天竜.....」

 

「だから俺が終わらせなきゃならない。

これ以上不幸な人を作らない為にも、

残された多くの人達の幸せの為にも、

俺は終わらせなければならない。

ハルの苦痛を終わらせなければならない。

不幸なのは..........俺だけでいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「........................................駄目です」

 

「?」

 

「何故貴方は常に他人優先なのですか!

兄弟でそっくりですね!」

 

「俺はそれでも他人を不幸にする存在なんだ。散々人に迷惑をかけるから.....」

 

 

 

 

 

「だから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

十兵衛は涙目で訴える。

 

 

「せめて.....私の前では幸せにいて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「....................多分」

 

「?」

 

「俺はもう............人を愛する事が出来ない。

愛する資格がない」

 

「えっ.....」

 

「だからって禁欲に走るつもりはねぇよ?

可愛い子は大好きだし.....

多分これから多くの女を抱いて、

多くの子を産ませる。

でも.....愛する事は出来ないかもしれない」

 

「私なら!

私ならそれでもいいです!

私が受け止めてあげます!」

 

「ぷっ.....君は本当に元気だな」

 

「天竜!私は本気.....」

 

 

天竜は十兵衛を抱き寄せる。

 

 

「私はその言葉だけで嬉しいです『光秀様』

それだけで勇気を貰えました

我儘を言うと.....

拾の面倒を頼めますか?」

 

「天.....竜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今まで本当に.....

本当にありがとうございました。

心からそう思います」

 

「!?」

 

 

天竜は直感した。

彼は..............................死ぬ気だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、廊下に1人残された十兵衛は、

その場にしゃがみ込み、

泣き崩れてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。

生き残っちゃいました」

 

 

だが、天竜とはもう一度会えた。

彼は、泣き疲れた跡の腫れた目蓋、

暫く真面な生活を送ってないような、

やつれた面相。

 

やはり、左馬助の死が原因だ。

 

 

彼女の死が本来死ぬはずだった

天竜の、

生きる希望を奪った。

多分口では「殺す」と言いつつ、恐らく彼は左馬助を「生かす」つもりだったのだ。

己の命を犠牲に、

左馬助を説得するつもりだったのかもしれない。でも、無理だった。

彼女はもう、

修復不可の状況に追い込まれていたからだ。

 

仕方なく、天竜は左馬助を殺した。

 

後から聞いた話では、

天竜は左馬助を異世界に飛ばしたのだとか。

異世界に飛ばして不死者にしたのだとか。

でもそれは殺す以上に無情な事なのだとか。

 

よくは分からないが、

そうゆう事なのだろう.....

 

 

「じゃあとりあえず.....」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は中国攻めの論功行賞で、

各国から家臣団が安土城に集結した。

 

 

勿論、天竜も.....

 

 

彼は中国攻め最大の功労者。

本来その任にあった良晴を出し抜き、

あっさり毛利と講和に持ち込み、

降伏に追い込んでしまった。

 

その功績はかなりのものだ。

 

 

 

 

 

 

 

だが、実態は微妙なものだ。

 

 

 

(あれが羽柴秀長殿かぁ。恐しいなぁ)

 

(なんだかんだで織田家最大勢力やもなぁ)

 

(あの男に逆らった明智光春殿は全軍を持って粛清されて、肉片一つ残らなかったらしいぞ?)

 

(あの可愛らしい子が!?

仮にも主君光秀殿の従姉妹だったのに.....)

 

(まぁ、位はもう副将軍やからな〜。

足利の義輝様、義昭様が帰ってこれらた以上、幕府は再興の兆しを見せている。実際、秀長殿の方が立場は光秀殿より上じゃからなぁ)

 

(にしても、信奈様に逆らう立場の秀長殿を光秀殿は何故ああも慕い続けるのかねぇ)

 

(光秀殿も女じゃ。弟君の秀吉殿と違い、あの美形を持つ男に言い寄られて惚れ込んだのじゃろう。

雑賀孫市や嘉隆殿もそうらしい)

 

(あぁ、敵方だった清水宗治が降伏したのもそうらしい。ひょっとしたら毛利も.....)

 

(いつか信奈様も喰われるのかねぇ。

肉体的にも勢力的にも.....)

 

 

 

天竜と十兵衛が横切る度にそんな話が聞こえてくる。

 

 

 

「あいつら.....言いたい放題!」

 

 

当然、十兵衛はイライラする。

 

 

「放っておきましょう。

所詮は噂ですよ。

まぁ、半分事実ですけどね」

 

「....................天竜」

 

「はい?」

 

「なんで今更猫を被るですか?」

 

「何故と言われても、

私と貴方は主君・家臣の関係」

 

「ふざけるなです!

一体どうしたですか!?」

 

「どうしたってもねぇ.....

なんかどうでもよくなっちゃって.....」

 

「!?」

 

 

天竜は腑抜けていた。

 

 

「.....腑抜けるのは私の前だけにしておきなさいです。間違っても他の者の前では見せないように」

 

 

こう言うしかなかった。

天竜に次の目標や希望が現れない限り、彼はもう.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サルには播磨、担馬の正式な領主にするわ」

 

「あぁ」

 

「十兵衛には約束通り丹波を、

それから自力で取った丹後をあげる」

 

「はい!」

 

 

それから中国攻めに関わった者らへの論功行賞が続く。

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

「備前と美作.....今は宇喜多秀家が統治してる2国だけど、幼少の彼女の補佐は..........

 

 

 

 

サルに任せるわ」

 

 

 

「....................え?」

 

 

 

「それから、中国攻めの次に予定していた四国攻めだけど..........

 

 

 

十兵衛に任せるわ」

 

 

 

「....................え?」

 

 

それはどちらも

天竜にあった権利。

 

 

 

 

「サルはこれから、

中国の先、九州を攻める準備をしなさい。いずれ援軍も準備する。

 

 

 

 

以上。論功行賞を終了するわ」

 

 

「!!?」

 

 

 

 

次第に辺りがざわつき始めた。

 

 

 

 

1番の功労者であるはずの天竜が何も論功がないという異例の事態なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「続いて....................天竜!」

 

「はっ」

 

 

やっと天竜の番が来た。

論功行賞が終わった後に.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「羽柴天竜秀長は、

大和国に持つ所領を没収。

美濃への左遷を命じるわ」

 

 

 

 

 

 

「..............................は?」

 

 

 

一同に困惑が芽生える。

 

 

「なお政略結婚によって得た、

紀伊、志摩、備中の地も、

婚約の強制破棄によって没収。

管理を任せていた若狭も同様よ」

 

 

まだ没収命令は続く。

 

 

「あんたが持ってる1万近い兵も没収。装備してる新型の鉄砲、大砲等の武器も没収よ」

 

「は?何ソレ?」

 

 

「あんたには何の力も残させないわ。

それだけの罪を貴方は重ねたのよ」

 

「はぁ?私が一体何を?」

 

「してるのよ!

数々の命令違反を!

まず第一に、今回の中国攻めの命を受けていたのはサルよ!

あんたじゃない!

命令違反で勝手に割り込んで来ただけ。

宇喜多直家を暗殺して秀家を騙して後見人に成り代わるやり方も重罪よ。

それと、目に余る反逆行為も異常ね。

兵1人1人さえその思想を持ってる.....

それと、

私の忍を殺したのも問題よ!」

 

「人の事暗殺しようとして、

何言ってんだか」

 

 

天竜の返答に周りが困惑する。

 

 

「はぁ?

情報を集めに出していた忍よ。

それも確かめずに殺したあんたが

悪いわ!」

 

「あくまでシラきるのね〜。

汚い政治家と同んなじ手口だ〜」

 

「ふん。好きなだけ言いなさい。

どちらにせよあんたは左遷よ!」

 

「それは仕方ありませんね.....」

 

 

 

 

思ったより素直?

誰もがそう思ったが.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んなわけねぇだろビチクソがぁ!!」

 

 

突然豹変し、中指を立てる。

 

 

「大人しく聞いてりゃ、

調子に乗りやがってクソアマァ!!

この俺様がいつまでもヘコヘコしてると思ったら大間違いだぞコラァ!!」

 

「それが本当のあんた?」

 

「もう猫を被る事など面倒クセェ!

こっからバンバン言わせてもらう!

 

手前ぇのやり方は甘いんだよ!

やるならやるでもっと豪勢にやりやがれ!

他大名の動向なんか伺って、ビビりながらやってんじゃねぇ!!」

 

「私のやり方よ!あんたなんかに口を出される筋合いはないわ!」

 

「戯け!!

手前ぇのやり方じゃ天下など100年も200年も先だって言ってんだよ!!

その間に外国に攻められて日本は植民地にされるだろうな!!」

 

 

天竜に覇気が戻っている。

天竜の信奈に対する怒りが、天竜を再び活性化させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一部では神とまで言われて崇められている者の本性がこれとは.....

その者らが知れば落胆するでしょうね」

 

 

ふと、南蛮服を着た少女が天竜の前に現れる。

 

 

「何者だお前は?」

 

「御紹介が遅れました。

私の名前は蒲生氏郷。

洗礼名はレオン。

信奈様の義妹です」

 

「蒲生氏郷だと!?」

 

 

史実では、信長の次女冬姫の婿。

信長の義子だった蒲生氏郷。

この世界では義妹なのか。

 

 

「貴方の力を削ぐという考えは私の案です」

 

「ほう」

 

「正直言って貴方は信奈様の邪魔です。貴方が未来から来たせいで多くの歴史が狂っている。

貴方さえいなければ、信奈様はもっと早くに天下を取れていたかもしれない」

 

「それは違うな。歴史が変わろうとも織田信奈は天下を取れない」

 

「やめろ天竜さん!」

 

 

良晴がそれに気付いて

慌てて止めようとしたが.....

 

 

 

 

 

 

「歴道の陰陽師として言おう。

織田信奈は天下を取れない。

何故なら、その手前で身内に裏切られて命を落とすからだ。

天下を取るのはその後継者である」

 

「あっ.....」

 

 

珍しくそこにいた一益が反応する。

彼女が以前、良晴から聞き出した未来。

「信奈は天下を手前に命を落とす」

それが天竜の口からも出た事で、改めてそれが事実だという事を確信する。

 

 

「へぇ〜。それが事実だとしたら誰が裏切るのです?」

 

 

ほとんど信じていないような言い方で氏郷は問う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前だよ蒲生氏郷」

 

「「「!!?」」」

 

 

皆が皆驚愕する。

真実を知っている良晴だけが困惑の表情をしていた。

 

 

「なっ.....何を馬鹿な事を!

信奈様!

奴は虚言で惑わそうとしているのです!」

 

「分かってるわレオン」

 

 

信奈は全く信じていないようだった。

 

 

「おうおう。

反逆計画が露見して焦ってらぁ」

 

「黙れ大悪党!!」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!

大悪党か!それは結構!」

 

 

場は完全に天竜に握られている。

 

 

「俺様から力を奪うだと?

馬鹿も休み休み言え。

やれるもんならやりやがれよ!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」

 

 

氏郷も思わず彼を恐れる。

この男.....早くなんとかしないと.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........(ならやる)」

 

 

 

 

 

頭に何か言葉が響いた。

 

 

「これって..........まさか!?」

 

 

天竜はこの現象をよく知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........(久しぶり天竜)」

 

 

 

 

 

 

「利休!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜の前に現れたのは千利休。

だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでお前が.....」

 

 

 

 

利休はその腕に拾を抱いていた。

 

 

 

 

「十兵衛!!」

 

 

 

確か拾は十兵衛に預けていたはずだ。

 

 

 

「そんな..........だって利休殿は.....」

 

 

そう、利休は天竜の味方。

.....そのはずだった。

だが、この状況はどう見ても.....

 

利休はあろうことか、拾を信奈に渡す。

 

 

「よちよち。

あんたの子供にしては可愛らしい子ね」

 

「やめろ!

拾に触るんじゃねぇ!!」

 

 

攻勢が逆転した。

 

 

「天竜.....

あんたがこれ以上逆らうというのなら、

見せしめにこの子を殺すわ」

 

「!?」

 

「姫さま!!」

 

 

長秀が困惑した様子を見せる。

これは彼女も知らなかった事なのか?

 

 

「いくらあんたの子供といえど、

まだ赤ん坊。このまま下に叩きつけるだけで殺せるでしょうね」

 

 

ハッタリだ。

良晴が目の前にいる状況で信奈がそんな行動を起こすとは思えない。だが、拾が人質に取られている事には変わりない。

 

 

「そんな.....利休殿!

貴方は天竜の味方ではなかったのですか!?」

 

 

だから、不用意に預けてしまった。

 

 

「.....ふんふん(味方じゃない。最初から味方であったつもりはなかった)」

 

 

最初から味方じゃない。

裏切ってもいない。

つまり、

 

 

「間者(スパイ)か.....」

 

「コクリ.....」

 

 

 

 

 

 

 

ギリリという歯ぎしりの音が響く。

 

 

 

「よくも.....よくも..........よくも!!」

 

 

天竜に多大なる殺気が満ちる。

 

 

 

 

「よくもやってくれたな利休!!

そんなに殺されたいか!!!」

 

「..........(黙りなさい悪魔の手先。

これは神のご指示。全ては神の意志。

異教徒の弾圧です)」

 

「『キリスト教に属さない者は蔑ろにしても構わない』かよ。

耶蘇(やそ)の腐った思想の盲信者が!!」

 

 

彼女の師はサンジェルマン伯爵。

バリバリのアンチだったはず、

だから利休も実はアンチなのではと思っていた。だから信用した。

でも、それは違った。

ではサンジェルマンとは何者だ!?

 

 

「..........(異教徒の分際でキリスト教を語らないで下さい。虫唾が走ります)」

 

「黙れ黙れ黙れ!!!

カトリックはいつもこうだ!

プロテスタントも変わらん!!

いつも宗教が歴史を狂わす!!

宗教が争いの火蓋を産む!!」

 

 

天竜の宗教に対する恨みのようなものが露見した。

 

 

「..........(サタンの申し子よ。貴方には世界から弾き出されるべき存在だ。貴方には権利などはない。神の名の下に駆逐される存在なのだ)」

 

 

その言葉にプツンッとキレた天竜は、

突如抜刀する。

 

 

「馬鹿は死なないと治らないようだな!貴様の腐ったハラワタ引き摺り出してやる!覚悟しろ千利休!!」

 

 

 

 

 

「火の精霊!!」

 

 

 

利休が茶筒から精霊を呼び出し、

天竜に放った。

 

 

「あぐあっ!!?」

 

 

 

火竜が天竜を真後ろに吹き飛ばしたのだ。

彼はそのまま後ろの壁へ激突する

 

 

 

 

 

 

「はっは!お灸かっての!」

 

 

だが天竜へのダメージは0だ。

 

 

「お前ら3人皆殺しだ。覚悟しろ!」

 

「できるでしょうか?」

 

 

信奈が抱く拾に、

氏郷が小太刀を突きつける。

 

 

「ぐっ.....!!?」

 

 

天竜の動きが鈍る。

子供を盾にされているのだ。

 

 

「信奈!!!」

 

 

良晴が叫ぶ。

当然、その矛先は信奈に向いている。

だが、信奈は一瞬だけ良晴の方を向いて哀しげな表情を見せた後、再び天竜へ向き直る。

 

 

「さぁ、どうするの天竜!

息子を見捨てて私達を殺す?

それとも、降参する?

どっちか決めなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけ!ナノマシン!!」

 

 

突如、後ろの壁を突き破って鋼の触手が真っ直ぐ信奈らの前に突き進む。

 

 

「ふっ.....!」

 

 

だが、利休がばら撒いた黄金の粉で構成された防壁によってそれは防がれてしまう。

 

 

「..........(織部)!?」

 

「利休様.....

私はこれより貴方の弟子を卒業します!

貴方が天竜様と敵対した以上、

私も貴方を敵と断定する!!」

 

 

織部がナノマシンをランス形態にし、利休に構える。

 

 

「..........(織部、貴方まで天竜に味方するのですか?今ならまだ私と共に.....)」

 

「共に天竜様を追い詰めようと?笑止!

そうなるぐらいなら

闘争の道を選ぶ!」

 

「..........(愚かな)」

 

 

その時、織部の隣りにもう1人現れる。

 

 

「愚かなかもな。

でもな、

拾は私が最強の剣士に育てあげるって決めてるんだ。拾に手を出すつもりなのならあたしはお前らをぶっ殺す!」

 

「武蔵!?」

 

 

2人とも左馬助戦の直後で病み上がりのはずなのに.....

 

 

「いくぜ織部!

この馬鹿共をぶっ殺そうぜ!」

 

「言われなくとも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てお前ら!!!」

 

 

天竜の叫びで2人の動向が止まる。それに応対しようとしていた織田家臣団も同様に.....

 

 

「考えなしのアホ共め.....」

 

 

こんな周囲敵だらけの状況で斬り合いなんて始まれば、確実に殺し合いになり、血みどろの結末になるに違いない。

それだけは避けねばならない。

 

 

さてどうするか?

 

 

俺に迫る選択肢は2つ。

1.拾を諦めて、あのクソアマ3人に天誅を喰らわす。

2.素直に降参する。

 

始めからその2つなのだ。

 

 

状況が大きく改変している。

 

 

現在拾の命運を握っているのは信奈から氏郷に変更されていたのだ。

 

信奈なら良晴の手前、絶対に殺さないという自信があった。

だが、拾に小太刀を向けているのは氏郷だ。どんなやつか分かったもんじゃない。ひょっとしたら、赤ん坊1人殺す事ぐらい造作もないような残忍な女かもしれない。

蒲生氏郷という少女がどんな奴か分からない限り、安心できないのだ。

 

だが、こんな状況を打破できる方法はちゃんとある。

 

 

拾を見捨てればいい。

 

 

今持っている力を失う事は天下取りを諦める事に等しい。ここまで来てそれはあんまりだ。

 

 

じゃあ拾を諦めるか?

 

 

それが最善だ。

所詮は生後1ヶ月足らずの新生児だ。

赤ん坊なんてまた作ればいい。

それで解決なのだ。

 

 

だよな。

 

 

赤ん坊1人の命で全てが終わる。

いざとなれば、

信奈らを殺し、それに順ずる者達も殺して、残った勢力を手中に治める事だって.....

骨が折れそうだが不可能ではない。

 

 

 

 

そう拾なんて忘れればいい。

 

 

 

 

 

拾なんて..........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは半年ぐらい前。

 

 

「天竜様。私と武蔵との決闘の結末はどうなったのですか?」

 

「は?」

 

「その..........史実のです」

 

 

小次郎にそんな事を聞かれた。

 

 

「その..........」

 

 

言えるはずがない。

武蔵による頭脳作戦で、

小次郎は本来の実力も発揮できないままに敗北し、大木刀で頭蓋を割られ、死亡したなんて..........

 

 

「私は多分、武蔵に負けて死んだのでは?」

 

 

あっさり当てられた。

 

 

「うぇ!?..........えっと」

 

「図星ですね?」

 

「..........」

 

 

小次郎の表情は思ってたよりも

穏やかだった。

 

 

「武蔵はあれでいてズル賢いですからね。

まともに勝負するなんてない。

決闘にわざと遅れたり、

いきなり奇襲をかけたり、

まぁ、ほとんど卑怯者ですね」

 

 

普段言い負かされてるので、不満というか愚痴をスラスラと零す小次郎。

 

 

「でも、な〜んか。

嫌いになれないんですよね〜」

 

「?」

 

「これも天竜様のお陰かもしれませんね」

 

「どうして?」

 

「どうしても何も......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー私、生きてるじゃないですかー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死んでたら、

今ここで天竜様とも話せませんよ?」

 

「そりゃあ、そうだが......」

 

「私、今の生活が気に入っているんです。

武蔵と悪ふざけして、

お互いの実力を見極めあって......

お互いに強くなり続ける......」

 

 

天竜が変えた歴史が、2人に友情を与えた。

 

 

「死んでたら無理ですよこんなの」

 

「..........」

 

「私は生きていきたい。これから先も.....

生きてこそ意味がある。

生きているからこそ先が見える。

生きているからこそ!

 

 

貴方と出会えた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!!!!」

 

「「「!!?」」」

 

 

突然の天竜の発狂に信奈ら周りの者が驚き、身構える。

 

 

 

「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ.....

 

 

 

 

あ〜〜〜..............................

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『降参です』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....................え?」

 

 

 

「聞こえませんでしたか?

ではもう一度、

 

 

左遷の件、お受けします。

大和、紀伊、志摩、備中。

受け渡しましょう。

 

備前、美作、若狭の管理。

譲りましょう。

 

兵、14068人もご返却しましょう。

 

雨陰千重素陀 8704丁、

嗚呼無素斗論惧砲 12門、

芭琉艦砲 6門、

波留魂燃1丁、

全て渡します。

 

政略結婚も解消致しましょう。

 

 

 

 

 

 

だから!!」

 

 

 

 

 

天竜は刀を鞘に仕舞う。

 

 

 

ゆっくりと腰を落とす。

 

膝をつく。

 

 

そこに正座をする。

 

 

刀を前に差し出し、

 

 

両手を床につく。

 

 

 

 

 

「やめて下さい!天竜様!!」

 

 

 

天竜が何をしようとしているかに気付いた織部がその行為を止めようとする。

 

 

 

だが、天竜は..........

 

 

 

 

「誇りなど捨ててやる。

 

俺の資産など欲しいなら持っていけ!

 

だがな、

拾はそんなものとは違う!

 

拾はただの宝物ではない。

 

 

この俺の!

 

この俺の魂だ!魂そのものだ!

 

 

拾まで持ってゆきたいのなら!

 

 

 

この俺の心臓をもぎ取ってまとめて持ってゆくがいい!

 

 

 

 

それが出来ぬのなら!

 

 

拾を持っていかせるわけにはいかない!

 

 

 

 

 

 

 

俺は.....

土下座してでも拾を守ろう!

 

例え地面の泥を舐め占めてでも、

 

 

 

 

 

俺は小次郎の希望を守り通す!!

 

 

 

 

 

 

 

俺の人生なんてくれてやる。

 

お前の天下取りの手助けだってしてやる!

 

 

 

 

 

 

だからお願いだ!

 

 

 

 

『拾を返して下さい!』」

 

 

 

 

 

天竜が信奈に対し土下座をした。

 

 

 

 

 

 

始めはただの演技かと思われたが、

やがてそれが、彼の真からによるものだという事が伝わってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拾は小次郎の落とし子。

 

小次郎が残りの寿命を贄に生み出した、

運命の子。

 

 

小次郎がこの世に存在したという、

最大の証明なのだ。

 

 

 

俺は少数の不幸を犠牲に、

多数の幸運を生み出す努力をしてきた!

 

拾自身は少数に入るかもしれない!

 

 

 

だが、

これだけは譲ってたまるか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いします!!

拾を返して下さい!!!」

 

 

本気の涙を流してまでの懇願。

 

天竜の本心からの訴えに、

周囲はどよめいた。

 

 

 

やがて天竜に同情を始める。

 

天竜を魔王ではなく、

人間として、

1人の父親として認め始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だめよ」

 

 

 

 

だが信奈は無情にも、

天竜の願いを切り捨てた。

 

 

「貴方はそれでも危険人物よ。

自由にした途端に何を仕出かすか分かったもんじゃないわ。

貴方への罰の他に、

この子の没収も追加するわ!」

 

 

 

 

 

 

 

ピキッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それとあんた最近、弟子に裏切られてるんでしょ?

お陰で犠牲が何人も出て.....

 

 

弟子にすら信用されてないような奴を、

 

私がどう信用するればいいのよ?」

 

 

 

 

 

 

ビキビキッ!!

 

 

 

 

 

 

それは言ってはならぬ言葉。

 

散々裏切られている信奈が、

全く言えるはずのない言葉なのだが、

 

それでも天竜の心を引き裂くには

充分すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様、どうせならもっと多くの人質をとっておきましょう。

羽柴秀俊、

羽柴ねね、

雑賀孫市、

九鬼嘉隆、

清水宗治、

それと残りの家臣達。

それに該当する者達は何人かいます」

 

 

 

 

 

 

 

ビキビキビキッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........(それより神の名において処刑する方がいい。魔人は生きているだけで世の脅威。勿論、それに感化された周りの愚かな者達も同様に)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プツンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嗚呼、言っても分からぬ莫迦ばかり.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口で分からぬのなら.....

 

 

 

 

 

 

天竜は目の前の刀に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴァァァッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凄まじい音が響いた。

 

 

 

 

 

 

忘却武人を続ける信奈を

ある者が殴り止めた。

 

 

 

 

 

 

それは、

織部でも、

武蔵でも、

良晴でも、

 

 

 

 

天竜でもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしやがれです」

 

「じゅっ..........十兵衛!?」

 

 

その少女は信奈の前に立ち塞がる。

 

まさかの状況に信奈は動揺する。

 

 

 

 

 

 

 

頭の中で構想を練っていた天竜も同様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どれだけ己の醜態を晒せば

気が済むんですか!

今の貴方はもののふどころか、

人間として終わっているです!!

 

私はこんな奴に憧れていたですか?

 

とんだ期待外れです!!」

 

 

 

 

 

 

 

これには信奈もキレた。

 

 

 

 

ドカッ!!

 

 

信奈は赤ん坊を利休に預け、

そのまま十兵衛を蹴り飛ばしたのだ。

 

 

 

「あぐっ!?」

 

 

真後ろに飛ばされた十兵衛は天竜に受け止められる。

 

 

「あんた如きが私に楯突こうなんて!

いい度胸よ!!

 

やはり類は友を呼ぶわね!

 

いいわ!

あんたの権利も没収してあげる!!」

 

「姫さま!!」

 

「信奈!!」

 

 

異例の事態に長秀と良晴が動こうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がああああああああああああああ!!!」

 

 

天竜が急に奇声をあげる。

 

 

「.....一体何を....................!?」

 

 

信奈は十兵衛の後ろのそれを見てしまった。

 

 

天竜の睨みつけを.....

 

 

 

凍てつくような殺気と、この上ない怨念。

 

それらが詰まった目つき。

 

 

 

前にいる3人に対し、

それだけで殺されそうな、

蛇のような、

狩りをする獣のように、

 

 

 

じっと天竜は

信奈、氏郷、利休を睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜はスクッと立ち上がると、

いきなり刀を抜く。

 

それだけで周りは慄いたが、

天竜はそのまま童子切りを畳に突き刺す。

 

 

 

 

 

「ゆりかごから墓場まで.....」

 

「!?」

 

「命の始めと終わりは

共に医者の手にかかるように.....」

 

 

天竜は意味不明の言動をする。

 

 

「俺は始まりはここだった.....」

 

 

すると天竜は信奈に一礼する。

 

 

「数々の無礼を謝罪致します。

これでも気が済まぬようでしたら、

どうぞ私から何でもお取り下さい

 

それからです。

その2人のキリシタンとは

早めに手を切った方がいい。

 

きっと後悔することになる」

 

 

「余計なお世話よ」

 

 

「なら結構」

 

 

 

 

 

 

 

もう、どうでもいい。

 

 

天竜はまたあの腑抜け顔になる。

 

 

 

 

同時に、

涙を流しながら..........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

 

天竜は刀と十兵衛を放置したたまま、

その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああ!!!!」

 

 

十兵衛がその場に泣き崩れてしまう。

 

 

周囲の者達も、

 

信奈らも、その光景を眺めている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安土城下。

帰宅中の天竜、織部、武蔵。

 

 

「十兵衛に救われたよ」

 

「?」

 

「十兵衛が出なかったら、

俺はきっと信奈達を殺してた」

 

 

 

まず第1撃で、

小太刀を持つ氏郷の右手を斬り飛ばし、

瞬時に、彼女を斬り伏せる。

 

その後、錬金術で己を襲ってくるであろう利休の背後に、時間を止めて移動する事により、そのまま串刺しにし、

 

残った信奈は、

首を一刀にてちょん切ってやろう。

 

 

 

 

そうイメージングしていた。

 

 

 

 

「多分、十兵衛もそれに気づいて

動いちまったんだな。

 

己の居場所を捨ててまで.....

 

俺なんかのために.....

 

 

ほんと馬鹿だよ」

 

 

 

 

天竜は急に弓矢を召喚する。

 

 

それを安土城に向け.....

 

 

「これが俺の最後の反逆だ。受け取れ!」

 

 

 

それを発射する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、やっと疫病神が消えたわね」

 

「信奈!」

 

 

良晴がが信奈に掴み寄ろうとする。

 

だが、それを氏郷が妨害した。

 

 

「貴方も同じですよ羽柴良晴。

貴方も歴史狂わす異端者には変わりない。

今は羽柴天竜の問題の方が重要であった為に後回しにしましたが、次は貴方の番です」

 

「なっ!?」

 

 

氏郷は冷ややかに良晴を睨む。

 

 

「レオン。天竜は兎も角、

こいつは私の飼いザルよ。

勝手なことはしないでちょうだい」

 

「..........そうですね。すみません」

 

 

 

 

その時!

 

 

 

外から飛んできた矢が真っ直ぐ、刺さったままだった童子切りの柄に直撃する。

その衝撃で刀が縦に回転しながら、

信奈に向かって飛んでゆく。

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜あ。外しちゃった」

 

「何がです?」

 

「それより天竜。

これからどうすんだよ!

左遷なんか素直に受けやがって!

織田信奈なんて

ぶっ殺せばよかったんだ!」

 

「そう言うな。

人生谷あり山ありだ。

お前らはまだまだ這い上がれるよ」

 

「お前らって..........

天竜はどうなんだよ?」

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ..........ああ.....」

 

 

刀は信奈の顔のやや真横にズレて、

後ろの壁に突き刺さっていた。

 

 

 

「天.....竜.....」

 

 

泣き腫らした十兵衛がそっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ADIOS」

 

 




信奈、氏郷、利休ファンの人
ごめんなさい!
完全なクズな3人にしてしまいました。
まぁ、アンチタグつけてますしね。
次回予告
引きこもりの悪魔
〜明日からやるよ。明日から〜


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過去編2

新章前の間の章ですm


4話 小学生天竜。

 

「見せなさい!」

 

「やだ!」

 

「お姉ちゃんの言うこと聞けないの?」

 

「やだ!」

 

 

とある曇りの日。勘解由小路家で珍しく姉弟喧嘩が勃発していた。

 

 

「お姉ちゃん怒るよ!」

 

「怒ったお姉ちゃん

そんなに怖くないからいいよ」

 

「うっ.....」

 

 

ブラコンの青蘭は弟が可愛い過ぎて本気では怒れないのだ。

 

 

「お姉ちゃんには関係ないもん!」

 

「なんでそんな事言うの!」

 

「誓約書を書いて他言無用を約束してくれたら、関係者になる事を特別に許可してもいいよ!」

 

「何処で覚えたのそんな言葉!?」

 

 

天竜は一般的な小学生とは何かが違う。やはり、ろくに学校に行けてないせいだろうか?

 

 

「それが出来なきゃ教えないもん!

犬を隠して飼ってるなんて教えないもん!」

 

 

謎は全て解けた。

こんなおっちょこちょいな所も可愛いかったりするのだ。

 

 

「やばっ!」

 

「ふーん。ワンちゃん飼ってたんだ」

 

「駄目だよ!?

ワンちゃん食べちゃ駄目だよ!?」

 

「私を何者だと思ってるの!?」

 

 

ショックを受ける青蘭。

 

 

「名前は?」

 

「え?」

 

「ワンちゃんの名前」

 

 

青蘭は朗らかな表情で問う。

 

 

「ポシンタン」

 

「犬肉料理でしょそれ!?」

 

 

こっちの方が酷いな。

 

 

「駄目なの?」

 

「それは子豚にベーコンって名付けるぐらい駄目よ」

 

「じゃあ『猫』にする」

 

「ややこしい!」

 

「ケジャンクック」

 

「また犬肉料理!?」

 

 

だから何処で覚えたのだ!?

 

 

「じゃあケルベロス」

 

「なんだって魔獣の名前に!?」

 

「しょうがないからオルトロスで妥協する」

 

 

3つ頭から2つ頭になっただけだが?

 

 

「おいでオルトロス!」

 

 

どうやらそれで決定したようだ。

まぁ、ポシンタンよりはましか.....

 

 

「ガウッ!」

 

「おいでおいで〜」

 

「へぇ。ハスキー犬?」

 

「多分」

 

「結構可愛いね。お手するかな。

はいお手!」

 

 

ガブッ!

 

 

「うっ.....」

 

 

おもいっきり噛まれた。

あれ?

これ本当に犬?

 

 

「ねぇ.....これ.....」

 

「ウオォーーン!」

 

 

遠吠え。

 

 

「狼じゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっかりシベリアンハスキーかと思ってたよ!なんだって野良狼なんて拾ってくるのよ!」

 

「お姉ちゃん。狼は本来ならペット用じゃないから普通に狼でいいんじゃないかな?」

 

「うるさい!」

 

 

妙に理屈っぽいな。

 

 

「でも、どうせペットだったのが捨てられたのが野生化したんでしょ!

野良狼でもいいじゃない!」

 

「だろうね」

 

「というかお姉ちゃん、

さっき噛まれたよ!?

やばい!狂犬病になる!?」

 

「大丈夫。まともな飼い主なら狂犬病の予防接種ぐらいさせてるでしょ」

 

「狼を捨てて野生化させてる時点で、

とてもまともな飼い主とは思えないよ!」

 

 

明日病院で見てもらおう。

 

 

「でも、お父さんには言わないで!

多分、修行の一貫とか言って

食べさせられちゃう!」

 

「ありえるね.....」

 

「やだよ!オルトロスを食べるなんて!

もし、お父さんにバラしたら、

責任取ってお姉ちゃんを肉にするから!」

 

「怖いな!?」

 

「大丈夫。ちゃんと残さずに食べるから」

 

「だから怖いって!」

 

 

これを無邪気に言うのだから恐しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........りゅう....................天竜!」

 

 

向こうから青龍の声が聞こえる。

 

 

「わぁ!お父さん帰ってきた!?」

 

「とりあえず狼隠しなさい!」

 

「ええと.....ええと......

オルトロスを布団に隠して、

お姉ちゃんを肉にして..........」

 

「私はいい!」

 

 

完全にパニクっている。

 

 

「ここか?」

 

 

青龍が天竜の部屋に入ってくる。

しかも運の悪い事に、オルトロスを見られてしまったのだ。

 

 

「そいつはまさか.....狼か?」

 

 

ばれた!万事休す!

そう青蘭が思った矢先、

天竜が異様な行動をとる。

 

 

「ふははははははははははははははは!!!」

 

 

笑いながらカッターナイフを首筋に当てる。

まさか狂ったのか!?

 

 

「この場を見逃さねば、

ここで命を絶ってやろう!

僕が死んで1番困るのはお父さんだからな!」

 

「!?」

 

「..........」

 

 

自分自身を人質に取りやがった!?

確かに、最強の後継者を育成する事に拘る青龍には効果的かもしれないが.....

 

 

「ついでに修行の一貫としているゴキブリ料理も改めてもらおうか!

ふははははははははははははは!!!」

 

「アホか!」

 

「ぎゃっ!?」

 

 

青龍にゲンコツを貰い、

カッターを取り上げられてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはお前が拾ったのか?」

 

 

青龍はオルトロスを猫のように掴んで天竜に尋問する。

 

 

「ううぅ..........」

 

 

天竜は涙目で正座させられている。

 

 

「お前の動物好きは知ってたが、

まさか狼を拾ってくるとわなぁ.....」

 

「ううぅ..........

ペットに施しができるのは、

富裕層の勝ち組だけで、

貧困層の僕ら負け組は、

施す権利すら与えられないって言うの!?」

 

 

10歳児が何の境地に至ってるの!?

 

 

「そうだ!!」

 

 

青龍は迷いもなく肯定した。

 

 

「だがお前、

その狼を猛獣になるまで

育てる事は可能か?」

 

「.....可能か不可能かは、

その時にならないと分からない。

狼は幼少であろうと成体であろうと

猛獣には変わらないよ?

只々幼少のオルトロスを、

成体にまで成長させる事が、

お父さんの指す事なのだとするのなら。

不可能という事はないよ?

僕がオルトロスを殺したり、

オルトロスの食事の妨害をしたり、

そのような虐待行為をしない限りは、

オルトロスは確実に成長するよ?

でもオルトロスも生き物だからね。

『僕がオルトロスを成長させる』

と言うよりは、

『オルトロスの成長を僕が助力する』

と言うのが正しいね。

それなら僕も努力するつもりだよ?」

 

 

妙に理屈っぽいが、

「頑張って育てるよ!」

って事なのだろう。

 

 

「猛獣使いの陰陽師か.....

それも良い!!

ではその狼を成体まで育て上げる事が

次の修行である!!」

 

「あいあいさ」

 

 

すんなり認められてしまった。

 

 

「お父さんありがとう!

オルトロス飼うことも、

ゴキブリ料理も改めてくれて!」

 

「何を言っている!!

今日も晩飯は蜚蠊の佃煮だ!!」

 

「ぎゃあ!!」

 

 

どさくさに紛らそうとしたが、

失敗したようだ。

 

 

「可哀想な天竜.....

お姉ちゃんのおかず分けてあげるからね」

 

「お姉ちゃんのオカズって、

ただの沢庵じゃん」

 

「沢庵なめんな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはイナゴ。これはイナゴ。

これはイナゴ。これはイナゴ。

これはイナゴ。これはイナゴ。

これはイナゴ..........」

 

 

必死に自己暗示をかける天竜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5話 18歳天竜

 

 

「あんたが明智のお嬢様か」

 

「ええ。明智コンチェルン当主令嬢。

明智光です」

 

 

天竜は、明智家の豪邸に招待されていた。

 

 

「かの明智光秀の正統な子孫が、

こんな僕に何のようだ?」

 

「先に伝えているはずです。

勘解由小路天竜さん。

私と結婚して下さいますか?」

 

「断る」

 

 

即答だった。

 

 

「..........それは何故で?」

 

「俺はあんたみたいな成金どもが嫌いでね。

僕ら貧困層にとっては妬みの象徴だ。

第一意味が分からない。

大富豪明智家が

ヤクザ組の勘解由小路家と

釣り合うわけがない」

 

「あら?

勘解由小路だって元は貴族でしょう?」

 

「何百年も前はな。

土御門に滅ぼされた以降は

ずっと没落したままだよ」

 

 

 

「..........この世界ではそうなんだ」

 

 

 

「ん?なんだって?」

 

「なんでもありません」

 

 

この娘は時々分からない。

 

聞けば、

彼女は数年前に自家用機が墜落し、

数名が乗客していたうちの唯一の生き残りなのだとか。

その際に記憶も失っていたという。

ある程度の知識は残っていて、

周囲の人物、時事問題、歴史等をしつこく質問していたのだとか。

 

そんな彼女から出た言葉が、

「勘解由小路天竜と結婚したい」

記憶を失う前ですら、彼女は天竜と出会ってない。全く接点がなかったのだ。だが、彼女はあらかじめ知っていたかのように、天竜の名前を出した。

 

 

「ヤクザといえど、

貴方も只者ではないでしょう?」

 

「ん?」

 

「父青龍から受け継ぎし朧組を、

小規模な組織から、

たった一代で大組織に仕立て上げた強者。

その主な活動内容は、

「他ヤクザ組織の殲滅」

薬物や高利貸、

俗に暴力団と称されるクズの軍団。

それをロハで潰す、新組織。

 

それが正義の組織、『朧組』」

 

「くすっ.....正義のヤクザか」

 

「警察ですら匙を投げた、『川口組』

それすら潰した朧組は名実ともに、

日本最大の大組織に上り詰めた。

クスリも扱わなければ、

市民への暴力も振るわない。

真っ白なヤクザ。

警察に出来ない事を朧組がする。

警察が政府の番犬なら、

朧組は市民の番犬。

 

これを正義の組織と言わずして、

何というのかしら?」

 

 

すると光の言葉に我慢のきかなくなった天竜が吹き出してしまった。

 

 

「くっははははははははははははは!!!

面白い事を言うな君は!」

 

「!?」

 

「朧組が正義だって!?

ぷっくくくくくくくくくく.....

こんな組織程、悪いものはないよ」

 

「!?..........どうゆう事です?」

 

「考えてごらん?

反政府組織は朧組の出現でほとんど残っていない。多くは壊滅したか、朧組に吸収されたかだ。

そんな膨れ上がった組織を政府が放っておくと思うか?

否、現に政府は警察を利用して朧組を潰しにかかっている。

恐れているのだ。

自分自身が喰われる事を.....」

 

 

天竜は邪悪な表情をする。

 

 

「革命だよ。

僕は本気で日本を変えようと思っている。

敗戦後の日本は悲惨だった。

自称世界のリーダー国に対し、

子分のようにペコペコし、

自称発展途上国に対し、

押されても押し返せずにいる。

自称戦勝国には、

未だ血を吸われ続けている。

 

僕は日本が好きだ。

多分、この地球上の誰よりも。

 

だからこそ、

弱い日本はもう見るに堪えない!

僕は日本を強くする。

何も世界一になりたいとは思わない。

でも、列強と並ぶ大国である事を

世界に示したいのだ!!」

 

「その足がけとして朧組を?」

 

「その通り!

悪でいい。悪で構わない。

悪に落ちてでも、

僕はさらに大きな悪を倒す!

保守という名の凶悪を!!

 

必要なのは正義の味方じゃない!

 

悪の敵だ!」

 

 

 

 

 

これだ!

これこそが天竜様。

私の..........

 

 

 

「では、その為に明智家を利用したらどうです?」

 

「?」

 

「明智家は政界にも繋がっている。

明智コンチェルンの力を利用すれば、

革命への道がさらに縮まるのでは?」

 

 

天竜はニヤリと微笑む。

 

 

「確かに。

今の力では道はまだまだ遠い。

面白い。

君達明智家に利用されるのは気に食わなかったが、逆に明智家を利用か。

 

君は僕の考えには完全に賛成かい?

僕に完全に服従するかい?」

 

 

光はにこやかに返答した。

 

 

「勿論です。

私は貴方の為にあります。

貴方の為に生き、貴方の為に死にましょう」

 

 

お互いに意志を尊重しあった。

邪悪な2人が手を取りあった。

 

 

 

 

「よろしくお願いしますね。旦那様♡」

 

「ふっ.....おしどり夫婦となるか、

仮面夫婦となるか.....

せいぜい努力してみるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この光景を、

邪悪な神がニヤニヤと観察していたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6話 教師天竜2

 

ある日、鉄道警察から電話がかかってきた。

生徒を預かっているとの事だ。

俺は仕事を終え、帰宅の途中だったが、

急遽その駅に向かう事になった。

 

 

「お待たせしました!」

 

「あぁ、担任の先生ですか」

 

「うちの生徒がどんなご迷惑をかけたのでしょうか?」

 

 

その生徒は、何やら納得いってないらしく、不貞腐れた表情だった。

 

 

「良晴!!

お前何やった!!」

 

「何もやってねぇよ!!」

 

 

彼は容疑を否定した。

 

 

「この子は電車内で痴漢をしたようなのです」

 

「痴漢!?」

 

 

鉄道警察からは驚くべき話が出る。

 

 

「もうすぐ母親が来られるようなんですが.....」

 

「それは本当ですか?

証拠はあるのですか?

良晴がやった所を見ていた

目撃者でもいたんですか?

どうなんですか?」

 

「ちょちょちょ.....」

 

 

まるで尋問だ。

 

 

「被害者の方は何処ですか?

会わせてください」

 

「別室におられますが、

それはプライバシーですし、彼女の心を傷付けてしまう可能性もありますので.....」

 

「真実を確かめる必要があるのに、

それじゃあ意味がないでしょう!!」

 

「ひぃっ!?」

 

 

いつもとケースが違う為、

その男は戸惑ってしまっている。

天竜は今度は良晴向き直る。

 

 

「良晴。本当にやってないんだな?」

 

「やってねぇよ」

 

「本当だな!?」

 

「本当だよ!!」

 

「後から、『実はやってました』なんてぬかしやがったら、前歯へし折るぞ?」

 

「うえぇっ!?」

 

 

とても教師の台詞とは思えない。

 

 

「どうなんだ?」

 

「.....俺はやってない!」

 

 

真っ直ぐ、天竜の目を見て言う。

 

 

「そうか.....」

 

 

天竜は納得し、もう一度鉄警の前に向き直る。

 

 

「良晴は無実だ。帰らせてもらう」

 

「ちょっ!?」

 

 

天竜は良晴を完全に庇っている。

 

 

「ですから、被害者の女性の証言では.....」

 

「だから会わせろと言ってんだ!

そんなあやふやな証拠だけで、

俺様の生徒を犯罪者呼ばわりするたぁ、

いい度胸だな!!」

 

「だっ.....だだだ.....だって」

 

 

 

「いいか、良晴は変態だ!」

 

 

 

 

 

「「へ?」」

 

 

 

 

 

「頭の8割が煩悩でできてるぐらいスケベだ!

やらしいものを見ればすぐ鼻の下を伸ばす

ムッツリだ!

スマホの写真の中は、

エロい写真やエロ漫画ばっかり入ってる

ド変態だ!

巨乳好きで、

ちょっぴりロリにも興味を持ってる

救い用のないアホだ!

最近は和服フェチに目覚めて、

『大奥系』『姫様系』『くノ一系』

のAVばっか集めてやがる!!」

 

「何で知ってんだよ!?」

 

 

逆に疑いが深まった気がする。

 

 

「でも、自分からは何もできねぇだ!

美女に迫られたら舞い上がいやがる!

興味はあっても、する度胸がねぇんだ!

そんなチキンな良晴が、

痴漢なんてするわけがない!!」

 

 

良晴はつい涙が出そうになった。

性癖を暴露され、貶された。

もう死にたい。

 

 

「いや待てよ!?

良晴は同時に押しにも弱い。

『私のを触れ!』なんて言われれば、

触っちまうかもしれない.....」

 

「えぇ!?

ここで弱気になっちゃうの!?」

 

 

 

現にここから約一年後、良晴は迫られた末に勝家のおっぱいを揉んでいる。

 

 

 

「いやいや、待てよ..........

そうか!痴漢詐欺だな!!」

 

 

急に閃く。

 

 

「よし!その女に会わせろ!」

 

「ですが.....それは.....」

 

「さっさと会わせやがれ!ぶっ殺すぞ!!」

 

 

鉄警の襟首を掴んで締め上げる。

 

 

「...............はい..........ぐすっ」

 

 

いい大人が泣かされてしまった。

やはり怒った先生は怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう」

 

 

被害者女性の顔を見て、

ニヤリと微笑む。

 

 

「なっ.....何ですか貴方!?」

 

「俺はお前が痴漢扱いした男の

担任の先生だ」

 

「担任!?」

 

「お前さんが痴漢詐欺で追い込んだ男のだよ。

だろ?

後藤佐知子さん?」

 

「!?」

 

 

天竜は彼女を知っていた。

 

 

「大鐘女学園高校。

2年4組の後藤佐知子で間違いねぇだろ?」

 

「なっ.....何でそれを!?」

 

「まさかお前とはなぁ、

痴漢詐欺の常習者さん?」

 

「!?」

 

 

彼は何でも知っている。

 

 

「被害総額は既に40万を越えてる。

うちの組は痴漢詐欺の対処もしてる。

お前のようなクズに人生を破滅させられた哀れな男達の為にな。

警察は役立たずだからな。

うちの裏ルートで取り扱ってる」

 

「くっ.....組!?」

 

「そんでもって、

彼らの情報を元に、お前を割り出した。

皆凄い形相してたぜ?

後藤佐知子を酷い目にあわせろってな」

 

「何を言って.....」

 

「それからお前美人局もやってるだろ。

海原篤志。

色黒のチャラチャラした奴」

 

「なっ.....何でそれを!?」

 

 

天竜はニヤリと微笑む。

 

 

 

 

 

「ごめ〜ん。

そのチャラ男、廃人にしちゃった」

 

「!!?」

 

「?」

 

 

良晴はこの会話が全く理解できない。

 

 

「早めに認めろよ。

『私がやりましたごめんちゃい』

ってな。

あんま遅くなるとキレちゃうよ?」

 

「ちっ.....違う!

私がやるわけないじゃん!」

 

「正直に言っておいた方がいいぞ〜?

僕ちん短気だし」

 

「だから私じゃないって.....」

 

 

 

 

 

天竜がダンッと机を叩いた。

 

 

 

 

 

「もうネタはあがってんだよマヌケ。

ここまで善処してるというのに、

まだしらばっくれるというのなら、

海原篤志同様に廃人にしてやろうか?

 

お前の人生、

メチャクチャにしてやろうか?」

 

「ひぃっ!?」

 

 

良晴には見えなかったが、

後藤佐知子は見てしまった。

まるで殺人鬼のような、

本物の悪の目を.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....................した」

 

「ああ?」

 

「ちょっと、あんた!」

 

 

鉄警が天竜を制止しようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私がやりました!!」

 

 

認めた。

 

 

この瞬間、良晴の無実が証明された。

 

 

 

 

「ふん」

 

 

天竜は携帯電話を取り出し、

何処かに電話をかける。

 

 

 

「あぁ、俺だ。

..........前に言っただろう.....

後藤だ。後藤佐知子だ。

..........すぐに来てくれ。

..........埋め合わせはいずれする.....

..........そう言うな。姉弟だろ.....」

 

「ちょっと.....何を?」

 

 

後藤佐知子が聞いてくる。

 

 

「ん?

知り合いの刑事呼んだんだけど?」

 

「そんな!正直に言ったじゃない!」

 

「はぁ?

誰が正直に言ったら許すって?

許すわけないだろう?

うちの組の若いのだって1人、

お前らに人生狂わされてんだ。

まぁ、そいつは馬鹿だから

自業自得だけなどな。

お前にはきちんと罰を受けてもらう。

だが与えるのは俺じゃない。

日本の法だよ。

 

安心しろ。

森水青蘭はいい警察官だ。

他の奴と違って投げやりにしない。

 

ちゃんとお前を懲らしめてくれるさ。

 

なんせ鬼女だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし。勘解由小路です。

.....はい。.....はい大丈夫です。

良晴君は何も悪くないです。

.....はい。..........では、私がそちらにお送り致しますので.....はい。はい」

 

 

天竜は良晴の母親に連絡を入れ、

自分の車の助手席に良晴を乗せる。

 

 

「何で俺の事色々と知ってたんだよ!」

 

「お前だけじゃない。

武は熟女好きだし、敬太は男好き。

それから陽子はショタコン。

瑠璃はBL趣味だ」

 

「なんでそんなに知ってるの!?」

 

「生徒1人1人を平等に見てんだよ」

 

 

良晴はそのうちの1人。

 

 

「組って何?」

 

「ん?」

 

「さっき組って.....」

 

「う〜ん。

カウンセリング専門の自営組織?」

 

「嘘だろ」

 

「まぁな。

そのうち分かる時がくるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半年後、2人は時代を飛んだ。

 




さて次回は
美濃へ左遷された天竜の後日談です。


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六章 堕天竜
第三十六話 引きこもりの悪魔


新章に伴い、
新キャラ登場の予感。


それは、天竜が左馬助討伐の為に兵を出していた頃。

 

 

「天竜の息子を人質にする!?」

 

 

安土城にて、天守閣で信奈と義妹氏郷との密談が行われていた。

 

 

「はい。先日産まれたという羽柴秀長の息子、拾を人質にすればいくら彼といえど、否が応でも降伏するでしょう」

 

「待って、駄目よ!」

 

「何を迷いますかお姉さま。

拾は羽柴秀長の第一子。羽柴秀長の後継者です。彼は絶対に拾の安全を望むはず。確実に降伏するでしょう」

 

「そうじゃない!

そんな卑怯なやり方を言ってるのよ!

私はついこの間、奴の暗殺を仕掛けたわ。でも失敗した。

お陰で凪を殺す羽目になった。

良晴に説教されたわ。

だから私はもう卑怯に生きるのは辞めたのよ!」

 

「.....果たしてあの男に卑怯が通じますかね」

 

「え?」

 

「この人質作戦は何も、

私個人の考えではないのです」

 

「.....どうゆうこと?」

 

「私が堺でお世話になった宣教師、

ガスパール・カブラル様のお考えです」

 

「ガスパール・カブラル?」

 

「はい。しばらく村上水軍によって捕らえられていたようなのですが、羽柴秀長によって村上水軍が滅ぼされ、解放された彼は堺まで来られていたのです」

 

「バテレンがなんだって天竜を?」

 

「宣教師様達の日の本での大きな目的は

2つあります。

1つが、日の本の支部化。

もう1つが、羽柴秀長の捕獲」

 

「えぇ!?」

 

 

驚くべき事実である。

 

 

「何でなのよ!?」

 

「この事実は今の所、カブラル様や限られたキリシタンのみぞ知る事です。ルイス・フロイス殿ですら知らされておりません」

 

「どうしてなのよ!?

天竜がどうしてバテレンに!?」

 

「お姉さまは羽柴秀長が何年前に未来から来たかご存知ですか?」

 

「え?.....確か、3年前でしょ?」

 

「それを論づける証拠は?」

 

「知らないわよ!

本人が言ってただけだもん!」

 

 

氏郷は何を言っている?

 

 

「そう。それは本人が言ったまで、

ですが羽柴秀長はペテン師。

真実とは限らない」

 

「それはそうだけど.....」

 

「真実を知る人物も少ないのです。

明智左馬助は長良川戦後に弟子入り。

今川氏真は桶狭間戦後。

宮本武蔵と亡くなった佐々木小次郎は

その間だそうです。

阿斗吽斗の双子は姉川の合戦当時だそうです」

 

「よく調べてるわね.....」

 

「彼の師匠である塚原卜伝氏は既に死去。

3年前の彼を正確に知る者は1人もいません」

 

「そうなるわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は.....3年以上前の彼の記録が残っているのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....................は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美濃、岐阜城。

 

 

「全く.....姉上にも困ったものだ。

左遷するのはしょうがないとして、

何で僕の所に.....」

 

 

信奈の弟、津田勘十郎信澄は苦悩していた。

なにしろ「信奈に代わる魔王」とまで言われた天竜が自分の元にやって来たのだから.....

織田家臣団の最下層まで堕ちた彼は既に信澄よりも格下。与力以下。一兵卒程度の権力しか残されていないのだ。

 

 

「やっ.....やぁ、天竜くん」

 

「お世話になります信澄殿」

 

 

天竜は深々と頭を下げる。

 

信澄も例の恩功論証の場にはいた。

あの光景を見ていたのだ。

彼自身、天竜に同情していたのだ。

同じ父親として.....

 

 

「くれぐれも問題を起こさないでくれよ!

市もまだ病み上がりだから負担をかけたくないんだよ」

 

「心得ています。

.....して、お子様はご無事に?」

 

「うん。とりあえずね。

可愛い女の子だったよ」

 

「お名前はもう?」

 

 

 

 

「うん。『茶々』とつけたよ」

 

「へぇ」

 

 

 

 

 

信澄ももう一児の父なのだ。

 

 

 

「同時期にそれぞれ男女の子得るとは何かの縁かもしれませんね。

どうです?

ここでお茶々様と拾の結婚の話でも」

 

「けっ.....けけけけ結婚!!?」

 

 

天竜は邪気の全くない朗らかな表情で言う。

 

 

「待ってよ!まだ産まれて間も無いのにそんな話は早いよ!」

 

「ですよね〜。もうちょっと大きくなってから考えましょうか」

 

「うっ.....うん」

 

 

茶々と拾が結婚なんかしたら、僕とこの男が家族の間柄になってしまうじゃないか!

そんなの絶対に嫌だ!

というか姉上が認める訳がないし.....

 

 

「勘十郎?」

 

「いっ.....市!?

駄目だよ入ってきちゃ!

こんな男と会うなんて、教育に悪い!」

 

「貴方も中々失礼ですね。流石は姉弟だ」

 

「ごっ.....ごめん!」

 

 

笑顔に殺されそうだ。

 

 

「おやおや、お市様。

ご無沙汰しております」

 

「どっ.....どうも」

 

 

市は茶々を抱いていた。

 

 

「ほう可愛いらしい。

抱いてもよろしいですか?」

 

「いや、でも.....」

 

「天竜くん!茶々に触れるのだけは辞めてくれないかな!」

 

「似た台詞を君の姉上に言いたいがね」

 

「うっ.....」

 

 

何も言い返せない。

 

 

「抱いてもよろしいですか?浅井長政殿」

 

「「!!?」」

 

 

天竜は市=浅井長政という事を知っていた。

 

 

「どうして!?」

 

「?」

 

「どうして市の事を.....

ひょっとして誰かが!?」

 

「違いますよ。

考えれば簡単です。

当時、浅井殿が男装をしていた事もあり、信奈様の弟の信澄殿が女装し、『お市』と名乗る事で無理矢理政略結婚を成立させたのは有名な話。

その後、織田と浅井の対立に伴い御二方は離縁し、敵同士となった。

そして、最期は元夫が元妻を斬るという悲惨な結末を迎えた。

その髑髏は信奈様によって黄金に加工され、盃にされた。

 

ここまでが一般人の見解でしょう。

 

ところが、信澄殿はその後再婚している。

その相手は、信奈様の義妹の『お市殿』

何故、信澄殿の偽名と同名の少女が急に現れたのか、答えは単純。

『実は密かに生かされていた浅井長政が浅井の名を捨て、ただの女お市となった』

どうです正解でしょう?

羽柴天竜にはこの程度の推理が可能です」

 

「..........」

 

「..........」

 

 

2人とも黙り込み、口を開けなかった。

いくら力を失ったといえど、

天竜は天竜なのだ。

陰陽家の産まれにもかかわらず、

武士として内から織田信奈をあと一歩まで追い詰めた天才。

 

 

「お茶々様を抱かせて貰いますか?」

 

 

市は渋々了解した。

もう反抗の余地がなかったのだ。

 

 

「おう本当に可愛いらしい。

これは将来が楽しみですなぁ」

 

「どうも.....」

 

「たかいたかい〜」

 

「あきゃきゃきゃ!」

 

 

茶々はご機嫌だった。

 

 

「いないいない..........ばっ!!」

 

 

ばっ!!の瞬間、天竜の頭がまるで龍のように変化した。

 

 

「うわぁっ!?」

 

「ひぃっ!?」

 

「あきゃきゃきゃきゃ!!」

 

 

茶々だけがウケていた。

 

 

「本当に..........人間?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一ヶ月程が経とうとしていた。

周りを驚かすような事が多々あったが、

天竜は至って大人しかった。

 

 

「そこは、伏兵を潜めればいいんじゃないかな。六が出来る所まで攻めた後、退くと見せかけて犬千代の伏兵部隊が上杉を横からつけばいい。

今まで特攻ばかりだったなら、

突然の事態に上杉も怯むだろうし」

 

「そうか!そんな手が!」

 

「いい考え」

 

 

天竜は越前にいた。

負け越しの柴田軍に策を与えているのだ。

 

 

「なぁ、越前に来てくれないか?

こっちで軍師やってくれよぉ」

 

「そうは言っても、

俺は美濃に左遷された身。

今日だってただの挨拶だ」

 

「それぐらい私が姫さまに許可貰ってやるさ!」

 

「勝家。空気読めなさすぎ」

 

 

勝家も犬千代も天竜に同情していた側だ。

天竜が左遷されて大人しくなった事もあり、最近は中々仲良くなっている。

勝家も始めは「六」と呼ばれる事に抵抗があったが、今では慣れてきている様子だ。

 

 

「はぁ.....」

 

「どうした天竜?」

 

「六..........おっぱい揉まして」

 

 

バシッと叩かれた。

 

 

「痛ったいなぁ〜。

冗談も通じないのかよ」

 

「うるさいうるさい!!

お前みたいに美形の奴に言われると

ドキッとするんだよ!」

 

「へぇ〜。じゃあ良晴に言われたら?」

 

「殴る!」

 

「ドキッとしない?」

 

「しっ.....しない!!」

 

 

時々、このように天竜が勝家をからかう事もある。あの天竜にしては珍しいと、周りの者は揶揄していた。

 

 

「天竜」

 

「ん?どうした犬千代」

 

「天竜はもう姫さまへの反逆はしないの?」

 

「なんだしてほしいのか?」

 

「違う。.....でも」

 

「したくともできんよ。

兵は持ってないしな」

 

「でも天竜は1人で1万の兵を突破した」

 

「懐かしいな。

でもあん時とは状況が違う。

拾が人質に取られてる。

それ意外にも三成、吉継、織部、

武蔵、順慶もだ。

迂闊に手は出せんよ」

 

「場合によってはやるの?」

 

「そう考えてるように見えるか?」

 

「..........見えない。

天竜は以前と違って覇気が無くなった。

とても謀反を起こしそうな顔じゃない」

 

「そうかい。カッカッカ!」

 

「..........」

 

 

 

 

覇気が消えた。

喜ばしい事なのか、哀しい事なのか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の夜、岐阜城にて。

 

 

「よろしいですか?」

 

 

なんと丹羽長秀が天竜のもとを訪れたのだ。

 

 

「あんたか」

 

 

天竜は1人酒を飲みながら読書していた。

 

 

「何をお読みで?」

 

「見るか?ホレッ」

 

 

本を手渡す。

 

 

「.....つっ!?」

 

 

それは春本(官能小説)だった。

 

 

「何を読んでるんですか!!」

 

「いやぁ、暇で暇で。退屈凌ぎに読んで見たが、結構面白くてな。

ほれ、春画(エロ本)もあるぞ?」

 

「いりません!!」

 

 

一体何を考えているのだこの男は!

 

 

「んで、本当に何しに来たの?

まさか夜這いってわけじゃねぇだろ?」

 

「あたりまえです!

..........実は姫さまの事でお話に」

 

 

信奈の側近の座はもう、長秀にはなかった。彼女の横にはいつも蒲生氏郷と千利休が付き、長秀には入る余地すらなかったのだ。

 

 

「安土城は今、面識のない宣教師が多く出入りしています。それもあの2人が手引きしているのです。.....このままでは姫さままでがキリシタンになってしまう。

どうにかならないでしょうか?」

 

「は?俺に相談してんの?」

 

「そうでなければ、ここまで来ません」

 

「んなもん。良晴にでも聞けよ。

なんで俺んとこに.....」

 

「俺からの願いでもあるんだ」

 

 

すると、扉の影から良晴が現れる。

 

 

「!?....................ちっ!」

 

「協力してくれ天竜さん!

なんだか、万見仙千代の時と同じような状況になりそうなんだ!」

 

「姫さまを助けたいのです!

お願いします!」

 

 

2人がそれぞれ頭を下げてくる。

 

 

「ふざけてんのか手前ら」

 

「「!?」」

 

「俺は手前らの言う信奈に全てを奪われたんだぞ。領地を取られ、結婚も破断させられた。1人息子まで取られた。大事な家臣は人質に取られてる。そんな奴を助けろだなんて本気で言っているのか!?」

 

「気持ちは分かるよ.....でも」

 

「ほざきやがれ!!

適当な事言ってんじゃねぇ!

息子を人質にされる経験なんてない貴様らに俺の苦痛が分かられてたまるか!!

.....いいよなぁ良晴。

貴様は信奈のお気に入りだ。

どんな事があろうとも、最後に美味しい思いをするのは貴様なんだ。

もういい。帰ってくれ!」

 

「でも天竜さん!」

 

「天竜殿!」

 

「帰れ帰れ帰れ!!!

もう俺から何も奪うなぁ!!!」

 

 

天竜は辺りにあるもの2人に投げつけた。天竜は想像以上に追い詰められていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「があああぁぁぁっっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

2人が逃げるように去った後、

天竜はしばらく部屋に閉じこもって、

一晩中もがき苦しんだという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

 

「羽柴殿。羽柴秀長殿」

 

「あん?」

 

 

何者かの声で天竜は目を覚ます。

 

 

「すみません羽柴殿」

 

「誰だお前は?」

 

「私は津田信澄様の家臣。

藤堂高虎にございます」

 

「藤堂.....高虎だと!?」

 

 

突然の来訪者に天竜は布団から飛び起きた。藤堂高虎は妙に美しい顔達をしていた。

 

 

「信澄の家臣が何の用だ?」

 

「羽柴殿。協力をしてはくれませぬか?」

 

 

またか。

 

 

「良晴達が帰ったと思ったらまたか!

何度来ても無駄だ!俺は信奈を助けるような事は絶対にしない!!」

 

 

そう言うと高虎は不思議そうな表情をする。

 

 

 

 

 

「何を勘違いされてます?

私は信奈を討つ協力をしてほしいと

貴方を募ったのでございます」

 

 

「何っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤堂高虎。

元は浅井長政の家臣であったという。

だが、小谷城の戦いにて浅井家が滅び、

やむ負えず、高虎は織田に降伏したという。

 

ところが、浅井長政は生きていた。

津田信澄の妻お市として。

 

高虎は信澄の家臣となる事で、

お市との接点を持った。

そして何度も彼女に対し、

再び蜂起するよう募っていたのだ。

だが、信奈に絶大の信頼を置いているお市にそんな気持ちは全く起こらず、無視され続け、信澄家臣団の中でも孤立を深めていたという。

 

 

「それで今度は俺か。

俺は反信奈派の最大勢力だったからな」

 

「受けてくれますか?」

 

「断る」

 

 

こちらも即答だった。

 

 

「何故です!?」

 

 

天竜は最近散々している言い訳を、

高虎にもする。

 

 

「くっ.....」

 

「第一、お前は何故信奈を恨む?

まぁ、浅井家を滅ぼされたのは悔しいかもしれないが、当の浅井長政は健在だし、お前もそれなりの地位は保てているだろう。

何がお前を突き動かす?」

 

「それは.....」

 

 

この答えに天竜は驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫武将制度を廃止したいのです」

 

 

「....................え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は男尊女卑の主義者なのか?」

 

「違います。

ですが、戦は男子が率いるべきなのです!」

 

 

高虎の考えはこうだ。

姫武将が嫌いなわけではない。

女子は男子とは違う強さを持つ。

時には男武将すらも追い抜く力を。

だが致命的な欠点を持つ。

それは雌である事。

生物としての弱点だ。

力が弱いとかではない。

最近は男も張り倒す女も現れた。

そうではない。

恋をするという弱点だ。

子を産むという弱点だ。

医学的にも女子は男子よりも性欲が6倍強いと言われるように、

女子は求めてしまう。

そこを突かれれば、

姫武将は何よりも弱くなる。

主君の浅井長政がそうだったように、

織田信奈もいずれは恋に溺れ、

恋に滅ぼされるだろう。

 

 

「私は、恋すらも喰い己の力に変えてしまいそうな、貴方のような男子に主君になってほしい。

世を収めてほしい」

 

 

 

「それは.....

女子であられる姫巫女さまも

超えろと言うのか」

 

「はい」

 

「..........」

 

 

こいつ.....俺に似てるな。

 

 

 

 

 

「ふっ.....

口ではそう言っても本音では

『戦で女子に死なれるが嫌だから』

なのではないか?」

 

「そうかも.....しれませんね」

 

「というかお前.....男か?」

 

「男ですよ!!」

 

 

高虎は恥ずかしそうに怒っている。

 

 

「あまりに美しい顔達でな」

 

「人の事言えないでしょう」

 

「まぁな。

格好いいなんて言われるのは嬉しいが、

美しいなんて言われるのは嫌な気分だ。

俺だって男なのにな」

 

「同感です」

 

「全く。腐女子どもは、

俺らみたいのに『攻め』とか『受け』

とか付けてBL話に華を咲かせてるんだぜ?

ヘドが出るよ」

 

「何の話です!?」

 

 

こいつとは気が合いそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで.....受けて下さいますか?」

 

「..........少しだけ時間をくれないか?」

 

「何を待つ事がありますか!」

 

「お願いだ待ってくれ!

.....まだ気持ちの整理がつかないんだ」

 

「..........分かりました。

ではお返事はまた後日に」

 

「すまんな」

 

「いえ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?安土城に?」

 

「そう、君も来るかい?」

 

 

ある日、信澄に信奈から連絡が来た。

特に重要というわけでなく、

中国攻めの戦勝祝いを改めてするとの事。

それに信澄は天竜を誘っているのだ。

 

 

「安土城か.....」

 

「うぅ.....」

 

 

信澄は恐怖はありつつも、天竜と友好な関係を築こうとしていた。

というか、天竜の機嫌を損ねて蜂起された場合、1番始めに被害を被るのは自分達だからだ。

そのために敬語をやめさせ、

岐阜城内でもそこそこの地位をあたえていたのだ。

 

 

「分かった。俺も行こう」

 

「え!?行くの!?」

 

「お前が誘ったんだろう?」

 

「そりゃあ.....そうだけど」

 

 

実際の所、黙って行くとなんだか怒られそうだったため、一応確認をとったためなのだ。断られるという予想の上で.....

 

 

「大丈夫。

変に威張ったりしねぇよ。

あくまで護衛役だ」

 

「それならいいかな.....」

 

 

とことん臆病な信澄である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜が安土城に来たことは誰もが驚いていた。その度に信澄は針の筵な気分にされていた。

 

 

「つっ.....!?」

 

「お久しぶりです信奈様」

 

「えっ.....えぇ」

 

 

信奈の両脇には氏郷と利休が凛と立っている。

 

 

「..........ふん」

 

「「..........」」

 

 

2人はただただ天竜を睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は集まってくれてありがとう!

好きなだけ飲んでちょうだい!」

 

 

信奈の号令で一斉に宴会が始まった。

 

 

「勘十郎!.....ちょっと」

 

「姉上?」

 

 

やや離れた席にいた信澄と天竜だったが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてあいつがいるのよ!」

 

「あ。やっぱり?」

 

 

周りに聞こえない小声で会話する。

 

 

「いやぁ、半分冗談で誘ったら

本当について来ちゃって.....」

 

「全く.....」

 

「たぶん大丈夫なんじゃないかなぁ

最近、天竜くん大人しいし」

 

「何打ち解けてんの。

あんたには奴の監視の命も与えてるのよ」

 

「面倒事を押し付けられてるだけのような」

 

「最近、犬千代達が冷たいのよ。

万千代も良晴も.....」

 

「自業自得じゃ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆聞いて!

今日はある報告があるの!」

 

 

宴会も終盤に差し迫った頃、

信奈の声に一同が視線を集中させる。

天竜も静かに耳だけ傾ける。

 

 

「今日はこの為に集まってもらったというのも過言じゃないわ!」

 

 

今日は織田家臣団の殆どが集結していた。

勝家・犬千代勢。

信澄・美濃三人衆勢

(お市・茶々・天竜も参加)

良晴勢

(半兵衛・官兵衛が参加)

長秀勢。

 

そして珍しく一益も来ていた。

だが、いつもと違い彼女は元気がなさげだった。

 

反対に十兵衛は欠席していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は天下の三肩衝が揃ったのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..............................は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初花肩衝、新田肩衝、楢柴肩衝!

ついに念願の3つを揃えたわ!

天下統一への足がかりと言ってもいい!

これも皆のお陰よ!

ありがとう!」

 

 

「おおおぉぉぉ!!!」

 

 

家臣団らが感心の声をあげる。

 

 

 

 

 

その中で静かに俯く人物と、

ワナワナと震える人物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男はあろうことか目の前のお膳をひっくり返す。

 

 

「「「!!?」」」

 

 

当然周りの人物は驚く。

 

 

「....................どうゆうつもり?

またあんたなの天竜」

 

「..........おかしいですね」

 

「いい加減にしなさいよ。

一体何の文句があるのよ!」

 

「おかしいですね!!

何故貴方がそれを持っている!?」

 

「!?」

 

 

そう、持っているなんてあり得ない。

 

 

「何を.....」

 

「楢柴肩衝をどこで手に入れた!!」

 

「どこって.....」

 

「てんてん!!」

 

「そいつは俺が一益にやったものだ!

何故お前が持ってる!?」

 

 

直前に一益が止めようとしたが、

天竜は貫いた。

 

 

「..............................左近の!?」

 

 

信奈は今初めて知ったような表情をする。

 

 

「利休!!」

 

「..........」

 

 

利休は黙っていた。

いつものようではなく、只々黙って.....

 

 

「その様子だと利休の糞が

一益から無理矢理強奪したようだな!

一益は優しいからな。

それが後にお前のものになるなら

しょうがないと諦めたんだろうな!」

 

「そんな!?」

 

「もういい.....もういいてんてん.....」

 

 

一益は今にも泣き出しそうな震え声で呟く。

 

 

「此度の茶番!御見物の皆様!

あれが!

あれがあの女の本性だ!

己の欲の為なら信頼する家臣すら騙し、

己の身の安全な為に有能家臣も蹴落とす。

己の欲望だけで、

家臣らを境地に追い込む!

そんな女だ!!

さぁ、皆様!!

 

こんな女に

仕える価値があるのでしょうか!!」

 

 

天竜の演説に、

誰もが口を噤っていたが、

 

 

「誰か!

その不埒者を追い出しなさい!」

 

 

氏郷が叫ぶ。

すると後ろの襖を開けて、真っ黒な肌の巨人2人がズカズカと入ってきた。

 

それだけで、何も知らない家臣達は大混乱である。

 

 

「はっ!

宣教師から買った黒人奴隷か!

人身売買にまで手を出すたぁ、

とことん終わってるな!」

 

「早く連れて行きなさい!」

 

 

氏郷の命令で、黒人2人は天竜の両脇を抱えて、無理矢理外へ連れ出してゆく。

 

 

「よく考えろ!

所詮そんな女なのだ!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オマエモウクルナ。

コレ、レオンノメイレイ」

 

「オマエノタメデモアル」

 

「よく躾られてんな。

お前達自由になる気はないか?

俺が奴隷から解放してやろうか?」

 

「!?....................イイ」

 

「ワレラレオンノメイレイニシタガウ」

 

 

少しガタつきながら2人は言う。

氏郷は恐怖でこいつらを従えているのか?

 

 

「まっ、そうゆう逃げ道もある事も覚えとけよ」

 

「イタミイル」「アリガトウ」

 

「あんたら名前は?」

 

「ワレワ紳助」「ワレワ喜助」

 

「じゃなくて本名の方」

 

「....................ドミニク」

 

「....................アンドレ」

 

「そうかい。俺は天竜だ。

じゃあ、またな」

 

「アァ」「マタイツカ」

 

 

天竜は1人安土城を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれえええぇぇぇ!!!!」

 

 

1人岐阜に戻った天竜は荒れていた。

 

 

「腹が立つ!腹が立つ!腹が立つ!

何が天下統一の足がかりだぁ?

ふざけんな泥棒女!!」

 

 

復讐したい!復讐したい!復讐したい!

 

ではどうする?

捨て身の特攻をかけるか?

 

いや、良策じゃない。

人質を盾にされて共倒れになるだけ。

 

どうすればいい!

どうすればいいのだ!!

 

 

ほしい!

あの女に一泡吹かせられるような

力が!策略が!

 

 

 

 

 

 

 

どうすれば手に入る?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私がやってやろうか?』

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

それは

ツクヨミでも、アマテラスでもない。

 

 

何を隠そう自分の声。

 

 

 

 

もう1人の自分。

 

 

もう1人の天竜。

 

 

 

 

 

 

 

『私が代わりにやってやろうか?』

 

 

 

 

 

 

 

迷いなどなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれるもんならやってみろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜に深い闇が襲った。

 




まず、題名詐欺を謝罪。
結構外に出てた天竜さんでした。
それと新キャラの藤堂高虎。
一応史実通りで、
浅井長政→津田(織田)信澄→羽柴秀長
ではあるんですよね。
黒人2人はしばらく出ません。
次回予告
私は朧である
〜見せようではないか。私の本気を〜


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第三十七話 私は朧である

さぁ、今回から
天竜の復讐劇が始まる!


「高虎〜!高虎〜!」

 

 

岐阜城で天竜の声が響く。

 

 

「?....................羽柴殿?」

 

「おぉ、見っけ!」

 

「どうされたのです?

今は安土城では?」

 

「いいじゃん。いいじゃん。別に」

 

「酔っているのですか?」

 

「なんで〜?」

 

「..........」

 

 

天竜は様子が急変していた。

陰気に満ちていた以前とは真逆に

陽気に満ちている。

 

 

「何の要件で?」

 

「先日の話。

受けてもいいよん」

 

「!?」

 

「織田信奈を討ってあげる」

 

「本当ですか!?」

 

「うん」

 

 

藤堂高虎は歓喜に満ちた。

己の念願がついに叶う。

この方さえ、この方さえ手に入れば!

 

 

 

 

 

「でもこれには時間がかかる。

天竜には考えつかなかった事も.....

私ならできる」

 

 

 

 

「....................え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安土城。

 

 

「全く!

どうなってんのよ奴の兵は!」

 

 

信奈は苦悩していた。天竜軍兵士14068人の後処理に追われていたのだ。

 

 

「あいつら一体なんなの!!

本当に狂ってるわ!」

 

 

信奈は14068人の次の仕官先を決めようとしていた。

ある数千人は勝家に。

ある数千人は良晴に。

と、他にも様々な家臣に分配しようとした。

 

だが、駄目だった。

 

14068人全員がそれを拒否したのだ。

全員が従わなかったのだ。

全員が天竜以外の主君を認めなかったのだ。

 

 

「まるで一種の宗教ですね」

 

 

氏郷が言う。

 

 

「天竜教?..........笑えないわね」

 

「ですが、それを言えば

宗徒は14068人に限らないでしょう」

 

「.....雑賀衆ね」

 

 

あろうことか天竜は武器の取り扱いは全て雑賀衆に任せていた。

その為、天竜が失脚した際に、

孫市は武器を全て回収し、

信奈による押収を防いでいたのだ。

 

その為、紀伊の大名である

孫市とは再び対立。

現在睨み合いになっているのだ。

 

 

「それと大和の仏教衆」

 

 

信奈の命令で天竜は大和を追い出され、

彼と仏教衆との仲介役だった

筒井順慶もまた追い出された。

それに怒りあらわにした大和仏教衆は、

紀伊仏教衆と手を組み、

今にも蜂起を起こそうとしているのだ。

 

 

「それと九鬼水軍」

 

 

なんとあの嘉隆が初めて強気に出たのだ。

 

 

「夫である天竜様を蔑ろにし、

主君の姫さまを傷つけた織田信奈には、

もう従うつもりはない。

我々九鬼水軍及び伊勢は織田から

独立する!」

 

 

そう宣言したのだ。

 

すっかり大人しくなってしまった一益に代わり、嘉隆が伊勢・志摩を従えている。

 

 

「それから将軍家」

 

 

天竜はあれで副将軍。

ヘタをすれば織田四天王よりも地位は上。

左遷と同時に彼の地位を奪おうとした。

だがそれも失敗。

前将軍足利義輝の猛反対があったのだ。

彼と天竜は友人関係にある。

それに便乗して、

妹の将軍足利義昭。

妻の大御所足利義元が反対。

義昭は将軍にしてもらった恩義があり、

義元は結婚を取り持ってくれた恩義と

大御所にしてもらった恩義があるのだ。

そして天竜の弟子の今川氏真。

 

4人の反対があっては信奈もどうにもできない。

 

あとは姫巫女様に直接取り持つ他ない。

 

 

 

「1番の問題が毛利ね」

 

 

毛利が降伏した相手はあくまで天竜。

その天竜の主君という事で、

信奈を仮に認めた。

でも、その天竜を己の身の安全の為に廃した。そんな事するような奴は認めるわけにはいかない。

そう考えた両川姉妹は天竜の側室でもあり備中大名清水宗治と組み、

再び織田と対立。

 

 

天竜という枷を外した途端、

前回より強大な

信奈包囲網が出来上がってしまったのだ。

 

おまけに自分の身内にも

信奈への不安感を持っている者までいる。

 

そして十兵衛との対立。

 

 

「なんでこんなことに.....」

 

「所詮奴らには見る目がなかったのです。羽柴秀長という間違った希望を持ってしまった。

共に滅びる運命だとは知らずに.....」

 

「..........ちょっとレオン。

私は天竜を倒す事には協力するけど

他の十兵衛や左近達を巻き込む事には反対するわよ!

あの子達を不幸にしたら許さないわよ?」

 

「..........分かりました。

まずは羽柴秀長の捕縛を優先しましょう。

包囲網があるとはいえ、奴は今丸腰。

捕まえるなら今が好機」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっ.....どうしたんだい天竜くん」

 

「いやぁ、信澄くんに是非とも

確認したい事があってねぇ」

 

 

天竜はいつになく朗らかな表情をしていた。

 

 

「一体なんだい?」

 

「お市とはやってるかい?」

 

「ぶっ!..........突然何を言い出すの!?」

 

「うんや。半年以上禁欲してたんだろ?解放されて、夜は毎日爆発してんのかなって。お市は美人で身体も豊満だぁ。羨ましいねぇ」

 

「きっ.....君に言う事じゃないよ!」

 

「つれないなぁ。

こっちが今禁欲状態なの知ってるくせに」

 

「謹慎中だからでしょ!

それを言うなら良晴くんだって.....」

 

「童貞と一緒にすんな。

お前も分かるだろ?

性交は中毒になる。

毎日やっても飽きやしない」

 

「むぅ.....」

 

 

否定はできない。

 

 

 

 

 

「どうだ?

私としては信澄でもいいんだけど?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....................は!?」

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ?奥さんには内緒で」

 

 

 

 

 

 

「馬鹿!!!

なんで僕が君と!!!」

 

 

まさか天竜くんがこっちの趣味まで

あるなんて!?

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ〜。桶狭間ではやってたくせに〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

「..............................え.....」

 

 

 

 

信澄が急に青ざめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして知っている!?

あれは僕の黒歴史。

誰にも教えてないのに!?

何故この男は知っている!?

 

 

 

「そう、君は桶狭間で女装をしていたよね。

今川をあそこに留めるために。

んで、君があまりに可愛いかったものだから、ある今川の兵士が.....」

 

 

 

「やめろ〜!!!!」

 

 

 

「知られたくないよねぇ。

特にお市には。

自分が男にホラれたなんて」

 

「やめてくれ!お市にだけは!

家庭が崩壊しちゃうよ!

なんでもするから!」

 

 

慌てふためく信澄を見て天竜はニヤリと微笑む。

 

 

 

 

「なら、1つだけ願いを聞いてくれますか?」

 

「なんでもするよ!

僕にできる事なら!」

 

 

「ならーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、お市殿」

 

「あら、天竜さん」

 

 

似たような時期、天竜はお市とも会う。

 

 

「どうですお子さんは可愛いですかい」

 

「はい。もちろん!」

 

 

最近はお市とも友好な関係を築けている。

 

 

「どんな生き物でも

赤ん坊だけは可愛いですもの」

 

「だな....................いや!

虫の赤ん坊は気持ち悪いし、

ゴキブリの赤ん坊は論外だぞ!?」

 

「まぁ、そうですね。

動物の間違いですね」

 

 

こんな冗談も言い合える中だ。

 

 

「まぁ、自分の子はどんな形であっても可愛いものだ」

 

「えぇ」

 

 

言い方が気になったが、

取り敢えず相槌をうつ。

 

 

「たとえ産まれる前であってもね」

 

「....................え.....」

 

 

何を言っているのだこの男。

 

 

「平井定武の娘」

 

「!!?」

 

「名前はなんだったか〜。確か.....紫苑」

 

「なっ.....なっ.....」

 

「お忘れですかい?

貴方の『前妻』の名前ですよ」

 

 

それは、まだ織田と同盟を組む前。

お市が男。浅井長政だった頃。

当時、浅井家は六角家と対立していた。

お互いに人質を送ったりし、

調停を取っていた。

 

そんな時、浅井家に送られてきたのが、

六角家家臣、平井定武の娘、紫苑。

浅井長政の正室として送られてきたのだ。

だが長政には愛など起きなかった。

 

何故なら彼は女だったから。

 

 

「正室に取ったにもかかわらず、

貴方は紫苑を抱かなかった。

いや、抱けなかった。

貴方が同性であったから」

 

「くっ.....どうゆうことです?

そんな事は他の者も知っている!」

 

「そう、貴方『は』抱かなかった」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

「替え玉を使ったのでしょう。

一族の使命を果たすべく、

どうしても貴方のお子を産まなければならなかった紫苑に強く求められて.....」

 

「そっ.....それを何処で!?」

 

「くくく.....

紫苑も哀れだな。

目隠しをしての房事に喜びを感じるが、

正体は全くの別人とは.....」

 

「どっ.....どうして」

 

 

子さえ作らず、

つまり中にさえ出さなければ、

子はできないから大丈夫。

紫苑を出し抜ける。

だけれど、

 

 

「替え玉も男。

欲望には耐え切れず.....

やっちゃったんだよね?

案の定。

紫苑は妊娠してしまう。

自称浅井長政の子を孕んでね」

 

「くっ.....!!」

 

 

敵方の子を産むなど一大事。

しかもその頃、

織田との同盟の話も出ていたのだ。

都合上。

紫苑は邪魔なのだ。

 

 

「だから捨てたんだろ?

六角家に返せば無理矢理

堕胎させられるのを承知で」

 

「わっ.....私は.....」

 

「あんたは全く痛まなかっただろうなぁ。

なんせ自分の子じゃないから。

浅井の血なんて通ってないから。

 

私だったらまとめて面倒みるけどねぇ」

 

「何故貴方がそれを知っている!?」

 

「替え玉は口封じに消したんだろ?

真実を知っているのは

貴方と亡きお父上と.....」

 

「まっ.....まさか!?」

 

「そう。紫苑本人だ」

 

 

この男は何でも知っている。

 

 

「私が陰陽師としての

初めてのお客さんがその紫苑だった。

相当恨んでいたよ?

そこそこは美しい顔達が

引きつった鬼の形相になるまでね。

あれぞ鬼の醜草と言ったところか。

名前も

『紫苑』から『死怨』

と変えるまでね」

 

「そんな.....」

 

「占いで真実を伝えたら

さらに怒ってたよ?

『浅井家に死を!

猿谷者丸に絶望を!』

って呪ってた」

 

「..........紫苑は今は?」

 

「死んだよ。

数ヶ月飲まず食わずに呪い続け、

小谷城の合戦で

浅井が滅んだのを知って

満足そうにこと切れたよ。

呪いは成就されたわけだ。

浅井家は滅び、

『猿谷者丸』も死んだ。

 

残ったのはただの女お市」

 

「..........何が望みだ」

 

「冊子がいいねぇ。

頭のいい子は嫌いじゃない。

私はこのネタを

信澄に教える事もできる」

 

「やめろ!勘十郎にだけは!!」

 

「それは貴方次第」

 

「お願いします!

私にできることなら

なんでもする」

 

 

慌てふためくお市を見て天竜はニヤリと微笑む。

 

「そうかい?だったらーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「拾と茶々を許婚にしてくれ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方は本当に恐しい方だ」

 

「ふふっ.....」

 

 

 

双方の隠し事は対した事じゃない。

 

信澄はお市の罪を許すだろうし、

お市は信澄の黒歴史を気にしないだろう。

 

だが、当の本人らは違う。

心の底から隠し通したいのだ。

 

だからこそ、別々に揺すり、

共通の約束事を取り付けた。

 

それが拾と茶々の結婚。

 

 

「これで拾様は織田信奈の姪の夫。

迂闊には手を出せませんね」

 

「そう。ただでさえ義妹を殺した事になっている信奈はこれ以上身内を殺せまい。

恐らく次やれば、

人道で動く上杉や毛利が出てくる。

信奈だってそれは避けるはず」

 

 

そう、これで拾はただの人質では

なくなった。

自分の身内なのだ。

そして、

 

 

「貴方も信奈の身内」

 

「ふっ.....」

 

 

天竜はこの話術のみで

圧倒的不利な状況を変えてみせた。

 

 

「さぁ、計画は次の段階だ」

 

「はい」

 

 

ここから天竜の快進撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのすみません」

 

「どうした高虎?」

 

「貴方は誰ですか?」

 

「..........」

 

 

それは愚問であった。

天竜に対し「誰か」と問うなど.....

 

 

「知りたい?」

 

「はい」

 

 

だが高虎は確信していた。

 

 

「私は天竜だよ。勘解由小路天竜」

 

「勘解由小路?」

 

 

羽柴ではなく勘解由小路。

 

 

「うん。

『私は』500年間名前変わってないからね」

 

「ごっ.....500年!!?」

 

「そう。

羽柴になったのは3年前からの天竜だからね」

 

「どっ.....どうゆう事ですか!?」

 

 

以前までの天竜とは別人とでも言うのか。

 

 

「あぁ、姿形が同じだから

こんがらがっているのかぁ。

じゃあ、これならいいかな」

 

 

すると、引き締まっていた天竜の身体がやや柔らかくなってゆく。

特に胸部がどんどん豊かになり、

顔達もより女性型になる。

 

 

「これが私」

 

「おっ.....おっ.....女!!?」

 

 

女体化した!?

 

 

「女体化じゃない。

男体化してたのを戻しただけ」

 

「そんな!?

私が憧れた天竜様が

姫武将だったなんて!!」

 

 

高虎にとっては敵。

 

 

「それも違うね。

君の憧れてた天竜は確かに男子。

私はそれとは別の天竜」

 

「??」

 

「私は男天竜とは別世界の未来から

来た女天竜。

人はそれを平行宇宙だとか、

パラレルワールドって呼ぶね。

ところがどっこい

バ神のせいで、男の方と身体をくっつくけられちゃったんだよ。

始めの500年は私が全身を支配できたのに、3年前にツクヨミのせいで男の方に身体取られちゃって.....

まぁ、その時やらかして大怪我しちゃってたからしょうがないけどね。

男の方はその麻痺で、満月のたびに肉体だけ私に変じてたみたいだけど」

 

「..........」

 

 

高虎は理解がほとんどできなかった。

だがなんとなく、

多重人格のようなものだと

解釈する。

 

 

「そうか!

しばらく性別と関係なく生きてたから、

口調もそれっぽくしなければな!

え〜と。

高虎ちゃん?高虎っち?

高虎さぁん♡?」

 

「えぇと.....天竜様?」

 

「待って。

..........普通に高虎でいっか。

じゃあ高虎!

これからよろしくね!」

 

「はっ.....はい!」

 

 

2人は握手を交わす。

 

 

「天竜様?」

 

「ん〜。その呼び方だと男の方とごっちゃになるよねぇ〜。

よし決めた!

今日から朧って名乗るね!」

 

「朧!?」

 

「私の諱!

あっちの天竜も女体化した時は

そっちを名乗ってたみたいだし」

 

「朧.....様?」

 

「なぁに高虎?」

 

 

高虎は思わず顔を赤らめる。

正直可愛いすぎる。

 

 

「ちなみに私は天竜同様

男には興味ないから

手を出したら殺すからね」

 

 

やっぱり天竜だった。

 

 

「やっぱり女の子が1番ね!」

 

 

しかも百合だった。

 

 

「..........はぁ〜」

 

「なーに溜め息してんの。

これから面白いんじゃない」

 

「よろしくお願いします」

 

 

高虎には不安しかなかった。

この女天竜、朧と一緒に己の夢を叶える事なんてできるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変です!!」

 

 

安土城で声が響く。

 

 

「どうしたの!?」

 

 

やって来たのは長秀だった。

 

 

「ほっ.....蜂起が起きました!!」

 

「なんですって!?」

 

 

それは突然の出来事。

 

 

「どっ.....何処で!?

まさか..........美濃!?」

 

「いえ..........尾張です」

 

「尾張!?」

 

 

信奈の故郷。予想外すぎた。

 

 

「天竜め..........まさか私の故郷で

謀反を起こすなんて.....」

 

 

いつかはやってくると確信していた。

その時に徹底的に潰すために.....

 

 

 

 

 

 

「あの.....謀反を起こしたのは天竜殿ではありませんよ?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「首謀者は土田御前様です」

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

それは信奈と信澄の実母。

実の娘を忌み嫌い、

「黄金の髑髏事件」で

事実上絶縁した母親。

 

 

「なんで.....母上が!?」

 

「さらにそれに連なり、

濃姫様、生駒吉乃様、お鍋の方様が

それぞれ兵を従えてます」

 

「帰蝶達が!?どうして!?

あの子達は姫武将じゃないでしょ!」

 

「私も.....分かりません!」

 

 

濃姫(帰蝶)は斎藤道三の娘。

尾張と美濃の同盟の際に、

義妹として送られた。

 

だが、信奈が京に移った際

正式に土田御前の養子にされたのだ。

それ以外にも、信奈の知らぬ所で

2人も養子にとり、

織田家はより華やかとなっていたのだ。

 

だが、その3人の義妹は反信奈派。土田御前の養子となったのが所以なのだとか。

 

 

 

 

 

「なんで.....どうして.....」

 

 

この状況でそんな事ができる者.....

 

 

1人しかいない。

 

 

 

「美濃へ行くわよ!!」

 

「え!?」

 

 

尾張で起こっている蜂起を無視し、

美濃へ向かう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつしかいない!!

母上を唆して私に楯突くような奴は!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尾張、清洲城。

 

「え〜と.....朧さん?」

 

「なんでしょう御前様?」

 

 

朧は煌びやかな着物に身を包み、

軽くではあるが化粧もしている。

何処からどう見ても美少女だ。

 

 

「私は貴方言う通りに兵を動かさせた。

これで本当に勘十郎を?」

 

「勿論です。ですが、まずは現当主の信奈を倒さねばなりません」

 

「えぇ」

 

「そこで問いておきたい事があるのですが.....」

 

「なんでしょう?」

 

 

 

 

「信奈を討つ事に抵抗はありますか?」

 

 

それは実の娘を殺す覚悟。

 

 

「..........私にはそもそも、

我儘を言う権利がないのです。

あんな化物を世に送り出してしまった。

お願いです朧さん。

 

信奈を殺して下さい」

 

 

朧はニヤリと微笑み、

スッと立ち上がる。

 

 

「ではいいでしょう!

この尾張から!

信奈を討ち果たしてご覧にいれましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美濃、岐阜城。

 

 

「天竜!天竜!!」

 

 

信奈の怒号が鳴り響く。

確信しているのだ。

天竜が真の首謀者だと.....

 

 

「!?」

 

 

ある部屋の前に、

ジッと座って待機している少女がいた。

 

 

「三成!?」

 

 

天竜軍参謀、石田三成。

何故奴がここに!?

 

 

「貴方!

何でここにいるのよ!

許可は与えてないわよ!!」

 

「でっ.....ですが.....」

 

「何その部屋。

そこに天竜がいるの!?」

 

「だっ.....駄目です入っちゃ!」

 

「どきなさい!

天竜!いるの!?」

 

 

三成を押し退け、

天竜がいると思われる部屋に突入した。

 

 

 

「天竜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

 

「....................え?」

 

 

 

 

 

そこには予想外の姿があった。

「天竜」はいた。

だが布団に寝たきりで、

額に濡れた布を当てていた。

 

 

「ゴホッ!..........のっ.....信奈様.....」

 

 

掠れた声。

天竜は病床についていた。

 

 

「どっ.....どうしたの!?」

 

「すみませぬ..........

風邪を拗らせてしまって.....」

 

 

天竜はフラフラの状態で、

それでも必死に起き上がった。

 

こんな状態の男が謀反を起こした?

そんな話があってたまるか!

 

 

「風邪が移るからと、

私も部屋の外で待機させられていたのです」

 

 

三成が言う。

それなら辻褄が合う。

 

だが、尾張の蜂起は誰が?

 

 

 

 

「姉さま!!

黒幕の正体が分かりました!!」

 

 

そこに、氏郷が走ってやってくる。

 

 

「一体誰!?」

 

「『朧』という名の姫武将です!」

 

「朧ですって!?」

 

 

信奈は朧を知っていた。以前温泉にて天竜家臣団と鉢合わせした際に、その中で唯一信奈に対して強気な姿勢を見せ、挑発してきた女。

 

 

「あいつが!?」

 

 

しばらく所在不明とされていた女だ。

.....いや、待て。

朧だって天竜の家臣じゃないか!

 

 

「あんたが朧をけしかけたの?」

 

「..........」

 

「答えなさい!」

 

「.....確かに朧は以前、私の家臣でした。

ですが、今は違う」

 

「はぁ?」

 

「突然いなくなったのです。

数ヶ月以上前に.....

それ以来彼女とは連絡すら取れていない」

 

「なんですって!?」

 

「それは本当です。

とても不思議な人でした。

しかし、今となっては天竜様と朧殿は何の関係もありません!」

 

 

三成が補足した。

 

 

「ちっ.....!」

 

 

この分では天竜は本当にシロだ。

今はこっちより.....

 

 

「レオン行くわよ!

当てが外れた以上、

蜂起を直接鎮圧するしかないわ!」

 

「待って下さい姉さま!

..........羽柴秀長を捕らえるなら今では?」

 

「馬鹿言わないの!

今は天竜より朧よ!!

..........それから天竜!!」

 

「ゴホッ!..........はっ!」

 

「今後もその顕著な態度を緩めないのなら、

少しだけ罰を緩めてあげる。

拾だけなら返却してもいい」

 

「!?」

 

「姉さま!!」

 

「黙りなさいレオン。

あんたが裏で何をしてるかは知らないけど、私は誰にも指図されるつもりはないわ!私を無理矢理キリシタンにでもしたいのなら、ちゃんと行動で示しなさい!」

 

「..........」

 

「..........有難うございまする」

 

「ふん。行くわよレオン」

 

「.....はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信奈らが去った後、

 

 

「上手くやり過ごせましたね」

 

 

三成が言う。

 

 

「そうですね。

仮病はいい案でした」

 

 

天竜?は言う。

 

すると天竜の肌が突然銀色に変色する。

マネキンのような状態に返じた後、

表面が溶けるように剥がれてゆく。

 

中から出てきたのは.....

 

 

「ぷはぁっ!」

 

 

織部だった。

 

 

「ナノマシンの擬態能力。使えますね」

 

 

織部はナノマシンを完全に引き剥がすと、汗でグッショリ濡れた己の肌を布で拭う。

 

 

「術師のやる事は分かりません.....」

 

「ただ声は変えられないのでね。

風邪で声が掠れてるという設定が上手くいきました」

 

「声以外は丸々本人でしたよ」

 

「あぁ♡まさか天竜様の肉棒まで複製してしまうなんて!

いつかあのたくましいナニで激しく突いて貰いたいものです♡」

 

「っ!..........お下劣やってないで

早く準備しますよ!!」

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尾張の蜂起軍を前に、信奈は采配を振るう。

 

 

 

「反逆者朧から、母上を救うのよ!

逆らう者は尾張兵だろうと斬り伏せなさい!」

 

 

 

 

 

信奈軍2万と尾張兵4000の

無理がありすぎる合戦が始まった。

 

 

 




ちょっと信奈を悪人にし過ぎたので、
少しだけ汚名返上。
信奈は本人が悪いというよりは、
周りの悪人に流されちゃうタイプなんですね。

朧は天竜とは別人に捉えて下さい。
女天竜と考えると
複雑な感じになると思うので.....
次回予告
ざまあみろ
〜朧の初戦線〜


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第三十八話 ざまあみろ

なんか最近
信奈も天竜も卑怯にしすぎて
賛否両論になってますね。


『返せ!..........返せ!』

 

「やだよ。元々私のだもん」

 

『黙れ!.....半分は俺のものだ』

 

「やれるもんなら、やれば〜?」

 

『アバズレが!殺してやる!』

 

「自分殺し〜?できんの〜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃあぁぁ!!

織田信奈様の本隊みゃあ!!」

 

「命だけはお助けを〜!!」

 

 

尾張兵に士気はほとんどなかった。総大将の土田御前に無理矢理駆り出されたのだ。

 

 

「降伏した兵は見逃しなさい!

朧のみを迅速に討ちなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!兵4000で挑むのがそもそも無理だったんだ!御前様があんな女に騙されるから!」

 

 

ある将が叫ぶ。

 

 

「報告します!

濃姫様!生駒吉乃様!お鍋の方様!

御三方共敗走されました!

それに順じ、

降伏者が次々に出ています!」

 

「なんだと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうゆう事ですか朧さん!

貴方は何故全く指揮を取らない!?」

 

「兵が4000は少なすぎでっすよ〜。

おまけに鉄砲は少ないし、

馬も五百騎に満たない。

装備も一世代前。

こんなのでどう勝てと?

策略を立てようにもね〜」

 

「なっ!?」

 

「始めから負け試合だねぇ。

そんな事も予想できなかったの?

おバカさん♡」

 

「朧!!騙したのか!!」

 

「そもそも信じた時点で思慮が足りてないねぇ。尾張の虎の妻とは思えないよ」

 

「貴様〜!!」

 

 

土田御前が朧に飛び掛かろうとした。

 

だが、朧は人差し指を立ててそれを止める。

 

 

「!?」

 

「さて問題です。

織田本軍に対して、

このような蜂起を起こしておいて、

総大将たる貴方は、

どのような責任を取るべきか?」

 

「なっ!?」

 

「何もないはないよねぇ?

まっ.....信奈はそれで許すかもだけど、

貴方にとってそれは、誇りが許さないはず」

 

「貴方.....まさか最初からそのつもり!?

全ては復讐のために私達を!?」

 

「ん〜。

それもあるけど違うね。これは私の夢のほんの序章に過ぎないもん」

 

「夢?」

 

「ふふっ.....『世界征服』」

 

「せっ.....!?」

 

 

朧.....奴は一体!?

 

 

「....................娘達は?.....帰蝶達は?」

 

 

朧はニヤリと微笑み答える。

 

 

「大丈夫。

別動隊によって既に回収済み。

天竜軍本隊に加える予定です」

 

「ふっ.....全ては計画通りですか」

 

「はい。後は一つ。

とゆうか、貴方に早く済ませてもらわないと私も帰れないんだけど?」

 

「....................分かりました」

 

 

土田御前はある紙にスラスラと文章を書いた後、小太刀を握る。

 

 

「信奈以上の魔物がここにいましたか」

 

「どうも致しまして」

 

「ふっ.....

私に免じてここに約束しなさい!

日の本.....いえ。世界に平和をもたらすと!」

 

「はいはい」

 

「さらば勘十郎!さらば.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吉!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「母上!」

 

 

蜂起軍を鎮圧した信奈は

直ちに清須城に入城。

母の土田御前を探す。

 

 

「母上!母上!

どこにおられるのです?

すぐに朧とは手を切って下さいませ!」

 

 

信奈は清須城の奥の部屋、

土田御前の部屋に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

「!!!!?」

 

 

 

 

 

 

そこには誰もいなかった。

そう生者は.....

 

 

 

「母..........上?」

 

 

 

土田御前がうつ伏せに倒れている。

気を失っているのかと、

慌てて信奈は彼女を起こす。

 

 

 

「ひいぃっ!!?」

 

 

 

土田御前の喉元に小太刀が刺さっている。

 

 

自決したのだ。

 

 

 

「そんな.....そんな.....」

 

 

 

血は乾いている。

自決から小一時間は経っていよう。

 

 

 

「嘘よ!!そんな!!」

 

 

 

信奈は取り乱した。

何を隠そう、土田御前を死に追いやったのは自分なのだ。

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

そんな時、信奈は足元に紙が落ちているのを見つける。

 

 

 

「これは?」

 

 

 

それは遺書だった。

 

 

 

 

(私は罪を犯した。

それは魔物を産んだ事。

それと魔物を愛せなかった事。

愛してやればよかったのかもしれない。

そうすれば、

魔物も人間に戻れたかもしれない。

魔物は悪くない。

全ては私が悪いのだ。

理解をしてやれなかった私の.....

許しておくれ勘十郎。

許しておくれ吉。

母の死を気に病まぬように。

私はいつまでも其方らそばに、

いつまでも其方らの心に、

生き続けるとしよう。

罪深き母をどうか許しておくれ。

冥府にて先に父と待つ。

 

 

土田御前)

 

 

 

 

 

信奈はそれを読んでいるうちに涙が

ボロボロと零れる。

 

 

 

「母上..........!!」

 

 

 

その時遺書がズレて、

くっついていたもう一枚の存在に気づく。

 

 

 

「2枚目?」

 

 

 

信奈は2枚目をめくってみる。

 

 

 

 

(やっほ〜!

元気信奈ちゃん?

私は朧ちゃんで〜す!)

 

 

 

「朧!?」

 

 

 

それは朧からの手紙。

 

 

 

 

(手紙での挨拶でごめんね〜?

こっちも都合があるの〜。

で、どうだった?

初めての母殺し!

スカッと来た?

それともズキズキ来た?

ムラムラ来ちゃった?

おバカな土田御前の肉が転がってると

思うけど〜。

ぶっちゃけどう思う?

マジヤバに惨めに思うでしょう?

本当に笑える〜!

まぁ、私から言う事は2つ。

 

 

改めて母親殺しおめでとう!!

 

それと〜『ざまあみろ』

 

 

 

朧)

 

 

 

 

 

信奈は手紙をビリビリに引き裂いた。

 

 

 

 

「おおおののののれれれれぇぇぇ!!!」

 

 

 

朧への殺意が一身に高まる。

 

 

 

「出てきなさい朧!!!

殺してあげるわ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ざまあみろ」

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

耳元で呟かれた気がした。

だが振り向いても誰もいない。

信奈しかいなかった。

 

 

 

 

 

こうして信奈は、

戦に勝ったにもかかわらず、

勝負に惨敗したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

大成功!

信奈の吠え面顔見たかったなぁ」

 

 

朧は籠に乗っていた。馬では目立つためだ。

 

 

 

「揺れてもいいので、

迅速に美濃まで運んでくれます?♡」

 

 

 

朧が色目を使って頼んだ所、籠持ちの2人は鼻の下を伸ばして了解する。

 

 

 

「ふふふ.....

尾張の蜂起など、ただの時間稼ぎ。

視線を尾張に見せるための偽装手段」

 

 

 

全ては計画の一つ。

 

 

 

 

「やっぱ現世楽し〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズキンッ!!

 

 

 

 

 

 

「がっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

『返せ』

 

「糞男!!また.....!」

 

『返せ!!』

 

「あぐっ!?

..........くそ!無理矢理出てくるなんて.....」

 

 

 

 

 

『それは.....俺の身体だ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美濃。

 

 

「お嬢さん。着きましたみゃ」

 

「そうか。御苦労」

 

「うえぇっ!?」

 

 

驚くのも無理はない。

乗った際には美少女だった客が.....

 

 

「俺の顔に何かついてるか?」

 

「いっ.....いえっ!!」

 

 

男になっていた。

顔達はそこまで変化していないが、

豊満であった胸はペタンコに縮み、

全体的に引き締まっている。

そして低い男の声。

 

 

「じゃあな」

 

「へっ.....へぇ」

 

 

少し下心を期待してた

彼らにはガッカリである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ.....朧様!!

早くいらして下さい!!」

 

「朧じゃないよ」

 

「!?....................秀長.....様」

 

「天竜でいい。

どうした?幽霊でも見たような顔をして」

 

「私は.....てっきり.....」

 

「残念ながら俺は生きてる。

朧はまた封じ込めたよ」

 

「そう.....ですか.....」

 

「ん?朧でいた方が良かったか?」

 

「いや!滅相も!!」

 

「ふっ.....まぁいいさ。

三成達に会わせろ。計画を変更する」

 

「なっ!?」

 

「朧の計画はこちらにも流れてきている。

だが、それでは駄目だ。

奴の計画には致命的な欠陥がある」

 

 

天竜はここで朧への対抗心を出した。

 

 

 

 

 

「奴が西にいくのなら、俺は東へ向かう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安土城にて、信奈のズカズカという足音が鳴り響く。

 

 

「レオン!!

命令よ!朧を指名手配しなさい!」

 

「.....はい。ですが信奈様。優先事項は羽柴秀長の方が.....」

 

「母親を殺された気持ちが貴方には分からないの!?」

 

「..........はぁ」

 

「朧の討伐には.....

天竜を向かわせるわ」

 

「姉さま!!」

 

「朧をよく知っているのは奴だけよ。

どうせ14068人も言う事を聞かない兵がいるのなら天竜に貸し与えるわ」

 

「折角奪った戦力を再び戻すのですか!?

それこそ無謀です!」

 

「戻すわけじゃないわ。ただの保留よ。

全て許す程、私は甘くない。

だけれど、朧は本当に分からない。

自ら謀反を起こしておいて、

当の本人は妹達を連れてトンズラ。

今も行方不明。

まともにぶつかるのは危険よ」

 

「そうですが.....」

 

 

 

 

 

 

「..........(天竜を動かしても、多分無理)」

 

 

扉の影から利休が現れた。

 

 

「利休!?どうしてここに!?」

 

 

利休は一益の一件で信奈から怒りを買い、

今までは謹慎していたのだ。

だが今回の件で再び出てきた。

 

 

「..........(天竜と朧を戦わせるのは不可能)」

 

「どうしてよ!

..........まさか!?

2人は裏で繋がっているの!?」

 

「..........(違う。

何故なら2人は同一人物だから)」

 

 

 

「....................え?」

 

 

それは異例の事実である。

 

 

「..........(天竜がいるから朧がいる。

朧がいるから天竜がいる。

私はあちらの間者をしていた際に知った。

天竜は満月の夜.....

つまり一月に一度女性化する)」

 

「女性化!?」

 

「ふんふん.....(仕組みは分からない。

体質なのか呪いなのか.....

そしてその際に名乗る彼.....

いえ彼女の偽名こそが朧。天竜の諱です)」

 

「待って!!

私は岐阜城で天竜に会ったわ!

そうよねレオン!」

 

「はい.....風邪をひいて寝込んでいましたが.....」

 

「ピクッ.....(風邪をひいていた?)」

 

 

利休は何かを閃く。

 

 

「..........(それは何かを

隠そうとしていたのでは?

この状況で都合よく風邪をひくのは怪しい。

何を隠していたのか?

そう、それはアリバイと声です)」

 

「ありばい?」

 

「..........(不在証明ですよ。

『私は風邪をひいて尾張で謀反を起こすなんてとてもできません』

という主張を通すため。

それと声。

多分それは天竜の影武者です。

そうも巧妙に他人に化けれるのは

ただ1人。織部です)」

 

「!?」

 

 

それは元師匠だからこそ分かる事。

 

 

「..........(織部の持つ鋼の精霊、

ナノマシンには擬態能力がある。

それを使えば天竜には簡単に化けられる。

そう、声以外は。そのための仮病。

声が違う事を違和感なくやり過ごすために。

替え玉を用意し、姫さまを騙す事に成功した天竜は朧として堂々と謀反を起こしたのです)」

 

「なっ..........なっ..........」

 

 

それは最悪の裏切り。

天竜をもう一度信用してみようと思っていた信奈を心を地の底に叩き落とすような最低最悪の.....

 

 

「母上を殺したのも.....奴.....」

 

 

『ざまあみろ』という言葉に何か違和感を感じていた。それには、純粋ないたぶりと言うよりは復讐心が通っていそうな何かが.....

 

 

「レオン..........

さっきの命令を変更するわ」

 

「姉さま?」

 

 

 

「指名手配を天竜に変更!

さっさと出頭しないと

あんたの大事な息子を処刑するってね!!」

 

「はっ!」

 

 

その時、何者かが部屋に駆け込んでくる。

 

 

「お伝えします!」

 

「何っ!!」

 

 

それは使者。

 

 

「秀長様が.....美濃から消えました!」

 

「..........はぁ!?

逃げたってゆうの!?」

 

「お伝えします!」

 

 

別の使者が現れる。

 

 

「14068人の元秀長様の兵達が.....

全員消えました!!」

 

「なんですって!?」

 

 

天竜が消えた。

自分の兵を連れて.....

 

 

「逃げたの!?息子を残して!?」

 

 

まさか、尾張の蜂起も

この大逃亡を目立たないようにするために!?

 

 

「拾を見捨てたってゆうの.....?」

 

 

天竜が拾を見捨てたという事は、

拾にはもう人質としての

価値はないという事に.....

 

 

「一体どこに消えたのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7日後。

結局天竜は行方不明のままだった。

 

 

「大丈夫か信奈?

お前ちゃんと寝てねぇだろ」

 

 

良晴に心配される信奈。

母親を殺されて以来、信奈は不眠不休で天竜を追い続けているのだ。

 

 

「ちゃんと休めよ?

そんなんじゃ、いざという時に

倒れちまうぞ?」

 

「良晴..........あんたはどっちの味方?」

 

 

信奈は疑心暗鬼に走っていた。

 

 

「俺は誰の敵になるつもりはない。

お前の味方だよ信奈」

 

「良晴.....」

 

「今回ばかりは天竜さんが悪い!

私欲で兵を駒のように操って.....

人間のやる事じゃない!!」

 

 

流石の良晴も堪忍袋の緒が切れていた。

 

 

「仕返しの為に信奈の母さんを

殺すなんて.....異常だ!」

 

「協力して良晴。

天竜は倒さないといけない!」

 

「あぁ、あの人を止めないと

不幸な人がドンドン増える!」

 

 

いままでは中立の立場にあった良晴が信奈の側に立った。

 

 

「でも変わらなきゃいけないのはお前も同じだ!」

 

「えっ?」

 

「恩功論証の時.....

あの人は心の底から土下座していた。

社会人の土下座は生半可なものじゃないって事を俺も親父から教わってる。

お前はそれすらも踏みにじったんだ。

その罪は重い。

天竜さんが怒ったのも

理解はできなくないんだ」

 

「..........私もやり過ぎたとは思ってる。

でもどうすれば.....」

 

「それは分からない。

でもこれからは一緒に考えていこう」

 

「.....うん」

 

 

信奈は良晴の胸に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしいですか?」

 

 

慌てて信奈が良晴から離れる。

 

 

「まっ.....万千代!?」

 

「長秀さん!?.....これは!」

 

「大丈夫ですよ。

それより、何者かがこれを.....」

 

 

長秀は何やら高価そうな箱を抱えている。

 

 

「何よソレ?」

 

「分かりません。

一応中は確かめましたが、

何なのか分からなくて.....」

 

「ちょっと!

爆弾とかだったらどうするのよ!?」

 

「!?..........考えが足りませんでした。

自分に零点です」

 

「うわ〜久しぶりの採点っすねぇ」

 

「あんた.....しばらくやるの忘れてたんじゃないの?」

 

「忘れてたのは作者(SSの)です!」

 

 

メタ導入に謝罪。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず中を見せて」

 

「はい」

 

 

長秀が箱を開ける。

 

 

「これは.....」

 

「!?」

 

 

信奈が不思議そうな表情をし、

良晴が何かに気づく。

 

 

「これ.....携帯電話だ」

 

 

箱の中には一つのスマホが入っていた。

 

 

「あぁ。あんた前にも持ってたわよねぇ」

 

 

良晴の前のスマホは今、

信奈の宝箱の中に入っている。

 

 

「これは.....バッテリー?」

 

 

さらに、充電機も入っていた。

手回し型バッテリーも入っており、手回しラジオの要領で携帯を充電できるようになっていた。

 

 

「まさか.....」

 

 

こんな未来機器を用意できるのは

ただ一人.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピリリリリリリッ!!

 

 

 

 

 

 

 

突然電話が鳴った。

戦国時代に何故電波が?

 

 

「ちょっ.....これどうするのよ!?」

 

「良晴さん!とりあえず出て下さい!」

 

「うえぇっ!?分かったよもう.....」

 

 

良晴が電話に出た。

 

 

『おっ?時間通りだな。

ええと.....良晴呼んでくれるか?』

 

「俺だよ天竜さん」

 

 

相手はやはり天竜さんだった。

 

 

「どうして繋がるんだ?

戦国時代に何で電波が?」

 

『サーバーも別に用意してんだよ。

この世界唯一繋がるのは

コレとソレだけだ』

 

「..........」

 

『とりあえずスピーカーにしろ。

周りに何人いる?』

 

「信奈と長秀さんだけだ」

 

『上出来だ』

 

 

良晴は言われた通り、

スマホにスピーカーを入れる。

 

 

『やっほ〜天竜様で〜す』

 

「くっ.....!!」

 

『さて問題です。

今俺はどこにいるのでしょう?』

 

 

すると信奈は良晴の手からスマホを奪い取り、それに向かって叫ぶ。

 

 

「何処にいるのよ天竜!!!

息子殺されたくなかったら

さっさと出てきなさい!!!」

 

『ういっ!?

耳元で騒ぐなよ。今代わるから』

 

「代わる!?」

 

 

すると向こうでガサガサと物音がし、話し声がする。

 

 

『.....れで..........のか?..........

.....はい..............みに.....てて.....』

 

 

するとある声が聞こえる。

 

 

『聞こえているか織田信奈』

 

「「....................え?」」

 

 

信奈と良晴はその声の主を知っていた。

 

2人にはとても因縁深い人物。

 

 

 

「武田信玄!!?」

 

「勝千代ちゃん!!?」

 

 

戦国最強の大名。武田信玄。

 

 

『その声は相良.....いや羽柴良晴もいるな。

例を言うぞいい武将をくれて』

 

「あげた!?」

 

『ん?知らなかったのか?

羽柴天竜秀長を我が軍の軍師に貰う事で、

武田と織田の同盟を結ぶと』

 

「「「..........」」」

 

 

そんな事は初めて聞いたぞ?

 

 

『おい羽柴天竜。

どうやら向こうに伝わってないぞ?

 

.....多分嬉しくて、冗談言ってるんすよ。

 

.....ははは!そうか!そうか!』

 

 

向こうから2人の楽しげな会話が

聞こえてくる。

 

 

「一体.....どうなってるのよ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからよろしくな羽柴天竜!」

 

「天竜と呼び捨てでどうぞ。

これから武田家軍師として、

かの山本勘助殿以上の働きを見せてご覧に入れましょう!」

 

「それは心強い!

どうか武田家をさらによくしてくれ!」

 

「はい!早速戦の準備です!」

 

「....................え?」

 

 

急すぎて信玄のペースが止まった。

 

 

「一体どこと戦するというのだ?

上杉か?伊達か?」

 

「いえいえ。

何処か分かりますか?」

 

「むぅ.....

織田は同盟国。

松平は織田の同盟国だから違う。

もしかして佐竹.....最上か?」

 

「いえいえ。ハズレです」

 

 

他に東方で戦を起こす相手なんて.....

 

 

「まっ.....まさか!?」

 

「お察しの通りです。相手はそこ」

 

「馬鹿か!!

あそこは武田家の同盟国だぞ!」

 

「駄目ですかね〜」

 

「第一勝てない!

お前もあの城の強固さは知っているだろう?」

 

「へぇ〜。

天下の信玄様は城一つ落とせないぐらいで

諦めちゃうんだぁ。

いつまでも漁夫の利をさせるんだぁ」

 

「何っ?」

 

「あ〜あ。残念だな〜。

天下の信玄様がこんな腰抜けだった

なんて〜」

 

 

信玄がプルプルと震える。

そして宣言する。

 

 

「いいだろう!!

お前に奴を討つ権利をやる!

要望があれば何万でも兵を出す!

我が頭脳としてしっかり働いて貰おう!」

 

「ふっ.....ありがたき、幸せ」

 

 

織田を離れた天竜は武田で

着実と力をつけていた。

 

 

「いいでしょう。

我が力と策略を持ってして、

必ずしや、

北条氏康と小田原城を

討ってごらんにいれましょう!」

 




朧は信奈の母土田御前を殺害し、
天竜は織田を離れ、
武田に逃れた。
この行動結果がどのような未来を
作るのか!
作者も分からん!
次回予告
武田の軍師
〜全部くれ〜


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登場人物紹介EX

不憫な方々が何人か出てきます


(出番が少なくなった方々)

 

 

大吾さん

 

結構序盤からいた人。

しかし、地味過ぎた為出番がドンドン無くなる。というか、丹波攻め以来仕事がないのでは?

 

 

本人から一言

「あの.....一応生きてますよ?」

 

 

 

 

 

 

黒鬼・赤鬼・青鬼

 

それぞれ波多野秀治、赤井直政、荒木氏綱。羅刹化して天竜軍の即戦力になったにも関わらず、赤鬼と青鬼はそれっきり。

黒鬼は蹴鞠大会や対村上水軍戦での活躍があり、天竜の男の相棒的立場になる予定だったが、

藤堂高虎の出現でそれもお蔵入りに。

 

 

「わしは年なのでもう引退ですよ」

 

「わしもだ」

 

「私は違う!私はまだ若いのだ!

天竜!私に出番をくれ〜!!」

 

 

 

 

 

暴君竜

 

本名は賀茂忠行。天竜の御先祖様。

前鬼のように天竜の守護霊的立場だったが、その役をアマテラスやツクヨミに取られ、他の式神共々ほとんど紹介されなくなった。

 

 

「天竜さえ健在なら拙者は別に.....」

 

 

 

 

 

中川清秀・高山右近

 

シスコンという事以外は特に使い道がない方々。まぁ、右近は天竜がドミヌス会との対決の際に重要になってきそう。

 

 

「はぁ。はぁ。織部〜」

 

「なるべく悪人になり過ぎないようにな。

お兄ちゃんは心配だ」

 

 

 

 

 

 

 

荒木村重

 

戦に負けて出家。千利休のもとにいたのだが、利休が裏切ってどうなったかは謎。多分、傷心中の一益の所にいるんじゃないかな?

 

 

「関西弁も孫市と被っとんねん!

それと出家したとはいえ、

頭は丸めてへんで!」

 

 

 

 

 

 

 

将軍家。

 

天竜を副将軍にして以来出番がない。

まぁ、わいわいやってるだろう。

 

 

「オーホッホッホ!具体的に大御所は何をすればいいのでしょう?」

 

「兄上!将軍になったのに仕事がないではないか!」

 

「まっ.....まぁ、天竜が頑張ってくれてるし」

 

「.....うるさいし..........退屈。

....................皆死ねばいい」

 

 

 

 

 

顕如

 

しばらく出てないが次回登場予定なので

説明は省く。

 

 

「にゃんこう宗をよろしくにょ!」

 

 

 

 

 

 

雑賀衆

 

蹴鞠大会時に孫市以外の雑賀衆が出てきたが、使い道がなく、台詞もなかった。まぁ、子雀・蛍・鶴の3姉妹はいずれ使いたい。

 

 

「なっはっはっは!

雑賀衆で出番あるんはうちだけ

みたいやな!

やっぱ側室だからかいな!」

 

「「「うううぅぅ〜」」」

 

 

 

 

 

 

黄黄

 

漫画やドラマの「信長のシェフ」に対抗させて登場させたが、ドラマが終わって急に出番がなくなった。でも、一応ちゃんと天竜のためにご飯作ってます。

 

 

「出番クレアル!天竜ノタメナラ、毒デノ暗殺も協力スルアル!」

 

「勘弁して下さい」

 

 

 

 

 

 

清水宗治

 

毛利勢共々出番がなくなる。

まぁ、天竜が東方にいる以上しょうがない。四国か九州戦線が起きれば出番復活もありえる。

 

 

「私は私の責務を果たします!

..........でも単身赴任は正直寂しい」

 

 

 

 

 

 

 

羽柴秀俊

 

天竜の可愛い妹という役柄以外に使い道がない。実は味覚障害という設定を入れたが番外編1話で終わってしまった。でも、拾が産まれたので後継者問題でまた出てきそう。

 

 

「テン兄様の後継ぎはシンだけなのです!

それとサル兄様は嫌いなのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相良軍団

 

天竜が中心のお話なのでしょうがない。

半兵衛や官兵衛はまだ使えそうだけど、

五右衛門はいずれ凪と

五右衛門vs五右衛門をさせる予定。

それ以外は.....鹿之助かぁ。

天竜はドSだし相性は良さそうだね。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ。

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。

 

 

 

 

ん?

 

 

いや、今走っていたもので.....

 

 

はぁ。はぁ。はぁ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャンヌダルク

 

そろそろ出番があるんじゃないかなぁ

 

 

「私は一体何を信仰すれば.....」

 

「とりあえず日本神道を信仰しとけば?」

 

「そうします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

番外。

 

 

 

松平元康

 

天竜にキャラをとことん奪われ、

場合によってはメガネキャラも奪う予定だったがそれは流石に可哀相すぎた。

原作でも影が薄く。

読者にもだいぶ忘れられている。

天竜が武田に入り、

次回か次々回に出番が!

..........あるよね?

 

 

「あれ?..........あれ?」

 

「どうした?」

 

「私.....どんな喋り方ですっけ?」

 

「普通の敬語じゃね?」

 

「そうでしたっけ?

どんな特徴でした??」

 

「まずたぬきだろ?

子狸から中狸に昇格してて.....

それからメガネで、

爪を噛み噛みしてて.....

キレると手が付けられなくなる」

 

「そうでした!そうでした!」

 

「自分で自分を忘れるなよ.....

それと、脱糞もしてたよな?」

 

「してません!!」

 

「まぁ、髪も緑だしなぁ。

緑は不人気だぞう?

戦隊モノのグリーンしかり

ポ⚫︎モンの草タイプしかり」

 

「えぇ〜」

 

「いっそ髪染めれば?」

 

「じゃあ金髪に!!」

 

「それだと梵天丸と被る。

こげ茶はどうだ?」

 

「茶髪ですか?」

 

「うん。ウンコの色の.....」

 

「だからしてませんって!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紹介した以外で出番が少ない方々は

作者が本気で忘れてる人達です。

 

 

とりあえず皆さん。

せ〜の!

 

 

「「「出番くれ〜!!!」」」

 




出番がない方々にご冥福を


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第三十九話 武田の軍師

前回のを習い、
出番なかった人たちに
役を与えてゆくことにしました。


摂津。

 

 

「あ〜あ。久々に来たな〜」

 

 

天竜は摂津の本猫寺を目指していた。

 

 

「にゃ〜」

 

 

そして何故かその傍に

1匹の黒い子猫が着いている。

 

 

「さぁ着いたぞ」

 

「にゃっ!」

 

 

黒猫は天竜の身体を登り、

頭の上に乗っかる。

 

 

「たのも〜」

 

「どなたですにゃ?」

 

 

門番に話しかけられる。

 

 

「顕如に会いにきた」

 

「そんな話は聞いておりませんにゃー」

 

「はぁ!?

ったく顕如め。

ちゃんと伝達しなかったな!」

 

「兎に角出直し下さいにゃー」

 

「にゃ!」

 

「うっ.....!」

 

 

美少年が頭に子猫を乗せている。

門番の少女は思わずよがってしまう。

 

 

「どっ.....どうしても入りたくば!

漫才で私を笑わせてみなさいにゃ!」

 

「なっ.....なんだと!?」

 

 

俺にはお笑いのセンスなどない!!

見るのは好きだが見せるのは苦手だ。

 

 

「でっ.....」

 

「で?」

 

「電話に.....出んわ?」

 

「でんわとは何ですにゃ?」

 

「あぁそっか。

えぇと.....

アルミ缶の上にある蜜柑!」

 

「あるみかんとは何ですにゃ?」

 

「のわっ!!

くっ.....

よし!召喚!!」

 

 

天竜はそこに何故か布団を用意する。

 

 

「布団が〜」

 

 

布団に何やらダイナマイトを仕込む。

 

 

 

ドッカーーーン!!!

 

 

「吹っ飛んだ!!」

 

 

 

何故こんな大掛かりにした?

 

 

「あ.....え?..........」

 

 

爆発に気をとられ、

洒落が通じなかったようだ。

 

 

「くそ〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間後。

 

 

「おやおや。一体どうしたの?

寿限無 寿限無 五劫の摺り切れ

海砂利水魚の 水行末 雲来末 風来末 食う寝る所に住む所 藪柑子 ブラコウジ パイポ パイポ パイポの シューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助くん。

あぁ、怪我したのだな。

でも大丈夫。

お前は

寿限無 寿限無 五劫の摺り切れ

海砂利水魚の 水行末 雲来末 風来末 食う寝る所に住む所 藪柑子 ブラコウジ パイポ パイポ パイポの シューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助

って名前なんだから、

丈夫にできてるに決まってるだろ?

ところで今日は何食べるの

寿限無 寿限無 五劫の摺り切れ

海砂利水魚の 水行末 雲来末 風来末 食う寝る所に住む所 藪柑子 ブラコウジ パイポ パイポ パイポの シューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助くん?」

 

「ぷっくくく.....」

 

「笑った!笑ったぞ!」

 

 

結局漫才ではなく、

落語で笑わせる至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい顕如!あの制度廃止しろ!

入るだけでどれだけ時間かかったと思ってるんだ!」

 

「ごめんごめんにょ。まさか天竜がお笑いに疎いとは思ってなくてにょ」

 

「ったく.....ホレ土産だ」

 

「にょにょっ!?

この和菓子は何なのだにょ!?」

 

「八ツ橋だ。黄黄に頼んで本来より半世紀早く作らせた。そのうち京でも売れるよ」

 

「はむ、はむ、はむ、

にょ〜!!美味いにょ!!

是非とも本願寺の名産にしたいにょ!」

 

「京で売るっつただろ!」

 

 

基本自分勝手な顕如である。

 

 

「んで。今日は何しに来たにょ?」

 

「人を紹介してほしい」

 

 

天竜は頭の上の子猫に

八ツ橋をやりながら言う。

 

 

「けんにょは知り合いが多いにょ!

誰の紹介でもできるにょ!」

 

「じゃあ武田信玄はできるか?」

 

「むぅ。難しい所をつくにょ」

 

「何でだ?

お前と信玄は親戚通しだろ?

義姉妹だっけ?」

 

「従姉妹だにょ。

いや再従姉妹(はとこ)?」

 

「そんな離れてるのか?」

 

「父上や母上なら仲良かったかもしれないけど、けんにょ自身は遠い親戚って感じにょ」

 

 

史実なら、

武田信玄の正室、三条夫人の

弟が顕如という事もあり、

2人は義兄弟の関係だった。

 

 

「お前姉ちゃんいたっけ?」

 

「あぁ、三条かにょ?

父上に勘当されて寺を追い出されて、

何処かに駆け落ちしたにょ」

 

「あらら」

 

 

交流はほとんどないか.....

 

 

「でも信仰心は熱いにょ!

毎年欠かさず来てくれるし、

勝も猫好きで話は合うにょ!」

 

「仲はいいんだな」

 

「う〜ん。でもけんにょが織田側に着いてからは交流はほとんどないにょ」

 

「そりゃあな」

 

「まぁ話は通しておいてくれ。

近々会いに行くって」

 

「何しに行くにょか?

講和ですもするにょかにょ?」

 

「いんや亡命するから」

 

「にょにょっ!?

織田を裏切るのかにょ!?」

 

「というかこのままだと

殺されそうだから、

逃げ道作っとくんだよ」

 

「天竜も色々と大変だにょ.....」

 

「ところで最近調子はどうだ?」

 

「絶好調にょ!

雑賀衆とも和平を結んで以来、

漫才も再結成して蹴鞠大会も合同で

楽しんでるにょ!」

 

 

天竜が孫市を側室にとった事で

両国間に再び交流が深まり、

顕如と孫市が親友同士ということもあり、

以前のわだかまりは消えていた。

 

 

「それで.....

さっきの勝の事なんだけどにょ.....」

 

「ん?どうした?」

 

「条件として.....

そのニャンコをモフモフ

してもよいかにょ〜?」

 

 

顕如はずっと天竜の頭の上の子猫を見て

うずうずしていたのだ。

 

 

「いいけど.....大丈夫かなぁ」

 

「大丈夫にょ!

けんにょは猫神様子孫にょ!

ニャンコの扱いだけは得意にょ!」

 

 

そう言って子猫を触ろうとする顕如。

だが.....

 

 

 

 

 

 

『気安く我に触れるな小娘』

 

 

 

 

 

「..........にょにょっ!?」

 

 

子猫が喋ったのだ。

 

 

『我に触れて良いのは我が仔のみよう』

 

「じゃあ何で来たんだよ?」

 

「てっ.....天竜!!その猫は.....」

 

「ん?俺の御先祖様。月読命」

 

 

すると黒子猫が人間態の

元のツクヨミの姿に戻る。

 

 

『ほう。お前が顕如か』

 

「にょにょっ!?」

 

『ふむ。何百年経とうとも

我が血を色濃く残すとは、

流石であるぞ』

 

「にょ?」

 

「は?」

 

 

それはまさしく。

天竜ではなく顕如に向けて

言われた言葉。

 

 

「どうゆう事だツクヨミ?」

 

『どうゆうも何も.....』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『顕如も我の子孫だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にょにょにょっ!!?」

 

「はあぁぁ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

衝撃の事実である。

 

 

『何故我が猫に変じられるか

疑問に思わなかったのか?』

 

「いや思ってたけど.....

まさか.....なぁ」

 

「ちょちょちょ.....

ちょっと待つにょ!

つまり貴方.....貴女様が、

..........猫神様?」

 

『まぁ間違いではない』

 

「こっちも待てい!!

お前は俺の御先祖様だろ!?」

 

『そうだ』

 

「じゃあなんで!」

 

『では我のエジプトでの話は

知っているか?』

 

「エジプト?

確かセクメトって名乗って.....

あぁ..........そうゆうこと」

 

 

 

エジプト神話において、

太陽神アメンラーは、

人類を滅ぼすべく、

セクメトという獅子の神を

送りこんだ。

一時はナイル川を紅に染めるほどの

死者を出したが、

オシリスらの反対によって

アメンラーは根負けし、

セクメトは獅子神から

凶暴的な性格を奪われ、

猫神のバステトに変わったそうな。

 

 

「それが日本に伝わって、

猫神様伝説の始まりか。

なるほどな」

 

『まぁ、我の行動邪魔だてしたのは

オシリスではなくゼウスだったがな』

 

「いつも思うけどゼウスなの?

デウスじゃなくて」

 

『ゼウスもデウスXマキナも同一だよ。

むしろゼウスがデウスという名で

世界中に広告しているのだ。

そのおかげでゼウスは

ただの天空神から全知全能神に

進化しおった!』

 

「そっちの話は分からん」

 

 

基本そっち系の話は神達に任せている。

参加しようとしても足手まといだろうし。

 

 

 

「まだこっちの話にょ!

つまり何か!?

猫神様と月読様は同一で、

けんにょと天竜は

元は同じ一族だったのかにょ!?」

 

「考えてみりゃそうだな」

 

『あぁ、その通り』

 

「おいおい。

お前一体何人子供いるんだよ!?」

 

『2人だけだ。

龍神を祀る一族と、猫神を祀る一族。

今では遠く離れたが、

本質は同じだよ』

 

「ふ〜ん」

 

 

天竜は興味なさげである。

 

 

「でも猫に変身できても、

それ以外の点でお前から

猫っぽさが見当たらないんだけど?」

 

『..........』

 

 

ツクヨミから猫耳と尻尾が生える。

 

 

「なんでもありだなおい!」

 

『顕如よ。

極楽猫土なるものに行きたくば、

天竜に従っておけ。

間違うことはあるまい』

 

「分かりましたにょ!猫神様!」

 

『ふむ。天竜もこれだけ素直なら

可愛いのだがのう?』

 

「うるせぇ」

 

 

一見すれば家族のようにも見える。

 

 

「いいか顕如。

命を大切にしないと極楽猫土には行けん。

寿命を真っ当するのがそれだ。

戦で死んだりなんかしたら、

極楽蜚蠊土に落とされるぞ!」

 

「にょにょっ!?」

 

 

勿論嘘である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局顕如の推薦は上手くいき、

天竜は晴れて武田入りを果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ〜んふふ〜ん」

 

「あの.....天竜様?」

 

「どった高虎?」

 

「何をされてるので?」

 

「明後日は武田本軍への顔見せだからな!」

 

 

天竜の14068人の兵はまだ

武田の領地の端に待機していた。

天竜の武田入り調整をしていたからだ。

 

 

「せっかく顔見せだ。驚かせてやらんとな」

 

「そのままでもいいのでは?」

 

「たわけ。織田兵はただでさえ田舎者だと思われている。そんな俺らがいくら格好つけた所で、猿が舞台で衣装着てると思われる程度だよ。

その根本から変えねばならん」

 

「はぁ.....」

 

「まっ、俺も衣装に頼るだけだけどな」

 

「?」

 

「呉服屋に頼んだ物が明日届く。

天竜軍はまた一歩進展するのだ」

 

 

すると天竜は小太刀を取り出し、

後ろで縛った己の髪を掴む。

 

 

「時代は先に進む」

 

 

そう言い、天竜は髷を斬り落とした。

 

 

「なっ!?」

 

「高虎!俺について来るというのなら髷を落とすがいい!落として俺に対する忠誠心を見せてみよ!」

 

 

天竜は小太刀を高虎に放る。

 

髷もまたサムライの魂。

武士にとっては刀の次に大事。

 

 

 

 

だが、高虎は後腐れなく

堂々と髷を落として見せた。

 

 

 

「私は古くからの風習に固執するつもりはありません。例え貴方が私に、着物ではなく南蛮服を着ろと言おうとも、私はそれに従いましょう。

真のサムライとは、

形ではなく、志なのですから」

 

 

高虎の返答に天竜はそっと微笑む。

 

 

「よろしい!

お前の覚悟確と受け取った!

以後も俺の側で仕えるがいい!」

 

「ははっ!」

 

「んで.....早速で悪いが

南蛮服を着てくれないか?」

 

「へっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後。甲斐にて。

 

 

「今日は織田からの新入りが来るそうじゃ」

 

「所詮田舎侍だろう?

汚らしい格好を眺めてやろうぜ」

 

「信玄様の命で、

我らは全員赤塗りの武装で迎えるらしい。

多分それで織田もんをビビらすんだろうさ」

 

「というか織田から来るのは誰じゃ?」

 

 

その時、兵の中でも一際上品な

鎧を身につけた男が現れる。

 

 

「羽柴天竜秀長。副将軍にして、

あの毛利を降伏させた男だ」

 

「かっ.....勘蔵様!?」

 

「ちっ.....!」

 

 

山本勘蔵。山本勘助唯一の跡取り。

ずっと隠されていた子のため、歴史の表舞台には出てこなかったが、父親の死を機会に出てこようとしてたが、良晴を軍師にする事に拘る信玄のせいで出世が遅れ、パッと出の天竜に軍師の座を横取りされてしまった者である。

 

 

「ちっ.....信玄様は何故あんな男を!」

 

 

地位を奪われた彼にとって天竜は泥棒猫のようなものだ。

 

 

 

 

「おっ?来たぜ。

さてさてどんな奴らが....................

........................................え?」

 

「何だ.....アレ」

 

「本当に織田兵.....か?」

 

「嘘だろ?」

 

 

 

 

 

天竜軍は、

なんと全員が洋式の服装だった。

皆が皆、黒い軍服を着用しているのだ。

馬に乗り、腰には帯刀

腕には新型の鉄砲。

全員が髷を落とし、

足は草鞋ではなく靴を着用。

従来の武士の姿は

面影すら残していなかった。

 

 

特にその先頭。

天竜軍の総帥。羽柴天竜。

彼は特別な白い軍服を着用。

背中にはビロードのマント。

馬も一際大きな新種に乗り、

1番の威圧を見せていた。

 

 

それは、驚かせようとしていた武田軍側が呆気に取られる程の光景である。

武士=和式という見解を覆す結果となる。

 

 

「あれが.....羽柴.....」

 

 

勘蔵もまた思わず後退りしてしまう。

 

 

 

「あっはっはっはっはっは!!!!

あれが天竜か!!

羽柴良晴の兄だけあって、

奴もまた面白い!!」

 

 

丘の上から、

信玄は天竜軍を愉快そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして.....

信玄の居館、躑躅ヶ崎館。

 

 

「天晴れだ。天竜!

お前の軍備は誠に見事であった!」

 

「はっ!」

 

 

玉座に座る信玄が問う。

 

 

「聞くが天竜よ。

奴らのほとんどが鉄砲を所持していたが、

皆が皆使えるのか?」

 

「はい。騎乗したままの発砲が可能なように鍛えております」

 

「それはそれは.....

我が武田騎馬隊とお前の騎馬鉄砲隊

が合わされば武田は次の段階に進化するやもしれぬ」

 

「少しよろしいですか?」

 

「おう。何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

「お遊びはそれぐらいにして

出てきて下さい」

 

 

 

 

 

 

天竜が言い放った。

 

周りの武田兵はよく分からず困惑する。

 

 

「影武者でしょう?貴方」

 

 

目の前の信玄に対して言い放つ。

 

 

「「よくぞ見破った」」

 

 

目の前の信玄と、

玉座の後ろに隠れていたもう1人の

信玄が言う。

 

 

「下がっていいぞ」

 

「はい姉上」

 

 

影武者信玄は煙のようにいなくなる。

 

 

「何故気づいた?」

 

「一度会った美人さんの顔は

忘れない気質でしてね」

 

 

天竜が穏やかな表情で冗談気に言う。

 

この男.....只者じゃない。

 

 

「あれは双子の妹だ。

見破ったのはお前が初めてだぞ?」

 

「それは光栄です」

 

 

天竜は信玄に頭を下げる。

 

 

「先程のは武田逍遙軒殿ですかな?」

 

「..........何故そこまで知っている」

 

 

信玄の表情が急に険しくなる。

逍遙軒は武田家の隠し子。

産まれた時から影武者になる事が決められていた影の人物。

部外者が知る由もないのだ。

 

 

「私は歴道の陰陽師。

千年間の躍動を生き抜いた

ラストマジシャン。

過去も未来も深く見通す。

時の流れを作るも自由自在」

 

 

その最後の表現に信玄が反応する。

 

 

「むぅ?

お前は天命を動かすとでも言うのか?」

 

「ふっ.....」

 

 

信玄は自らを救った良晴こそがそれに当たる者だと信じている。

 

 

「動かすだと?

そんなものは生温い」

 

 

天竜は邪悪な表情で言う。

 

 

「歴史は変えるものではない!

作るものなのだ!

歴史をなぞり、その一部を改善する程度の良晴と同一に見るでない!

俺は歴史を作る側、製作者だ!

天命すら我が手中に収めてくれよう!」

 

 

それは想像を絶する覇道の塊。

天下の信玄と唄われた彼女も

冷や汗をかくほどの.....

 

 

「ぶっ.....無礼者!!

信玄様になんて口の聞き方を!」

 

 

勘蔵が耐えきれずに前に出る。

そして天竜の胸ぐらを掴もうと.....

 

 

 

 

 

 

 

「..........!?」

 

 

勘蔵の動きが急に止まる。

 

 

「だ〜め。天竜に手出しちゃ」

 

「吽斗たちがおじさんを殺しちゃうよ?」

 

 

突如現れた双子の忍、阿斗吽斗が暗器にて勘蔵の動きを無理矢理止めていた。

 

 

「おう阿吽。久々の護衛任務はどうだ?」

 

「今までが退屈過ぎたよ。

他の家臣に混ざって偵察とかばっか」

 

「天竜は恨まれ易いし、

護衛が1番やりがいあるかな〜

あと暗殺」

 

「おいおい」

 

 

その光景を見て、信玄が目を輝かせた。

 

 

「ほう。それはお前の忍か?」

 

「はい。天竜軍隠密起動部

実行班の隊長2人。阿斗と吽斗にございます」

 

 

天竜軍は既に大きな軍隊なのだ。

 

 

「ふっ.....織田信奈がお前を

明け渡した理由がようやく分かった。

お前は.....『革命』や『下剋上』という言葉をそのまま具現化した存在なのだな」

 

「ふっ.....」

 

「だが私は奴とは違う!

例え蛇だろうが鬼だろうが

私は飼いならしてみせる!

全てを制覇してこその天下人だからな!」

 

「はい、だがまずは最初の障害を」

 

「うむ。亀のように篭るばかりの小娘をちったあ懲らしめてやろうぞ」

 

 

周りの家臣らは目を疑った。

 

 

『武田信玄』は冷徹に物事をやり、

只々突き進む。

勝利という結果だけを残して。

だが、今の彼女は『勝千代』だった。

1人の少女として、

新しい武器を手に入れ、はしゃぎ、

未来に希望を抱くような.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。今日は緊張したな」

 

 

天竜自身、武田信玄の前でよく態度を一定に保てたと、自分を褒めていた。

 

 

「あれが武田信玄ねぇ。

信奈とはまた違う、

特殊な迫力を持っている」

 

 

天竜は山中を歩いていた。

 

 

「この辺りだが.....」

 

 

地図を見ながら呟く。

 

 

「おぉ。あった!」

 

 

湯気を見つけ、

少し上機嫌になる。

 

 

「ここが下部温泉か。楽しみ」

 

 

これが目的だ。

天竜は何かと温泉によく入り、

有馬温泉にもよく訪れていた。

生粋の温泉好きである。

 

 

「あの.....本当に大丈夫ですか?」

 

 

高虎も付き添っていた。

 

 

「ん?」

 

「そこは武田方が使う温泉でしょう?

私達のような部外者が勝手に使っては.....」

 

「つれないな〜。

温泉はいいぞ〜?肌もキレイになるし」

 

「私は男なので、肌など気にしません!」

 

「俺らが気にしなくても女が気にすんだよ。

抱く相手が汗臭かったら嫌だろ?」

 

「そんなこと.....」

 

「ごっ.....ごめん。

まさか.....経験ないとは.....」

 

 

高虎は恥ずかしそうに顔を紅潮させる。

 

 

「結構ウブなのな」

 

「うるさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お?」

 

「あ」

 

「うわっ!」

 

「きゃ!」

 

「きゃあ!!」

 

「いや!」

 

「うわぁ!」

 

 

先客がいた。

そこには武田信玄と、

少女が4人に幼女が1人。

完全にリラックス状態だった。

 

 

「おやおや。

温泉で妖精に出会うとは」

 

 

だが天竜は特に慌てる事なく、

いつもの調子を保っている。

 

 

「おう天竜!

どうした?覗きか?」

 

 

信玄は酒を飲んでもう出来上がっている。

 

 

「いえ。入りに来ました。

混浴してもよろしいですか?」

 

「おう!入れ!入れ!」

 

「「「えええぇぇ!!?」」」

 

 

4人の少女と高虎が反対する。

 

 

「信玄様!なんでまた!」

 

「嫌です!逃げましょう!」

 

「もう.....やだ」

 

「また裸を見られるのは嫌です!」

 

「天竜様!女と混浴なんて恥ずかしくはないんですか!?」

 

「このムッツリめぇ。折角上司が風俗連れてってやるつってんだぁ。素直に従え!」

 

「何の話ですか!?

というか酔っ払ってますよね!?」

 

 

天竜もまたここに来る前に

日本酒を飲んでできあがっている。

その勢いで温泉まで来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、高虎も道ズレに混浴。

 

 

「すみません.....お嬢さん方」

 

「「「いっ.....いえ.....」」」

 

 

男が入ってきたとはいえ、

美少年2人で満更でもないようだ。

 

 

「まぁ、飲め!」

 

「いただきます」

 

 

お猪口で信玄から酒を貰う天竜。

 

 

「どうだ天竜?

こいつら可愛いだろう?」

 

「えぇ」

 

「軍師になるにあたって1人やろうと思う。

誰がいい?」

 

「全員です」

 

「いっ.....いや1人だけ.....」

 

「全員です!」

 

「まだどんな奴らかも紹介してない.....」

 

「全員です!!」

 

「しつこいな!」

 

 

天竜は相当酔っ払っている。

 

 

「では紹介して下さい」

 

「むぅ.....

まずはあの背の高いのが

馬場信房。

4人の中じゃ1番いい身体をしてる」

 

「ど.....どうも..........」

 

「逆にちっこいのが

山県昌景。

気は強いんだけど、

ちっこくて可愛いだろう?」

 

「小さい小さいしつこいです!」

 

「んであっちが

高坂昌信。

臆病な奴でな。

普段から逃げる事しか考えてない」

 

「逃げたい.....」

 

「それからこっちが

...........................................................

...........................................................

...........................................................

......................................誰だっけ?」

 

 

「ええぇ.....」

 

「内藤昌豊では?」

 

「そうそれ!

....................何で知ってるのだ?」

 

「彼女達は武田四天王だろ?

馬場信房、山県昌景、高坂昌信、

あと1人は内藤昌豊でしょう?」

 

 

それを聞いて昌豊がパァーッと明るくなる。

 

 

「んで。

その子は武田勝頼かい?」

 

「.....はい」

 

「俺は子持ちさんでも大丈夫っすよ?」

 

 

信玄に対して言う。

 

 

「いや!四郎は私の妹だぞ!?」

 

「そうなの?へぇ〜」

 

「で、誰にする?」

 

「全員」

 

「ぶれないな」

 

「いっそここにいる全員ほしい」

 

「わっ.....私もですか!?」

 

「ここにいる女全員だバカ虎」

 

「四郎も手にするとは.....

すごいな.....」

 

「よし!種づけしたる!皆股開けぃ!」

 

「酔っ払い過ぎです天竜様!」

 

「覚えられた.....私の事覚えられた.....」

 

 

昌豊だけがワクワクしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜あ。酔い覚めた」

 

 

まだ10分しか休んでいない。

 

 

「私もだ」

 

「こんなに楽しげに風呂に入ったのは久しぶりだ。やはり風呂は大勢入るが1番だ」

 

「同意だ。

....................んで、

約束の件はどうだ?」

 

「大丈夫ですよ〜」

 

「まだ酔ってないか?」

 

「うんや。大丈夫っだ。ヒック.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『良晴を連れてくる』んだろ?」

 

「うむ」

 

「私の目的は

『織田信奈を倒し、

羽柴良晴を手に入れる事』

お前の目的は

『織田信奈を殺す事』

さほど変わらん」

 

「それまでの

仮初めの武田家軍師。

頑張りまっすよ〜」

 

「ふふふ.....」

 

 

 

 




武田家の中に何気無く溶け込んだ天竜
だが.....これは?
次回予告
果心居士
〜貴方は鬼?魔王?それとも.....〜


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第四十話 果心居士

やっとのことさでご登場
子ダヌキちゃん!


安土城。

 

 

「なんて事よ.....」

 

「困りましたね」

 

 

信奈と氏郷は苦悩していた。

 

 

「まさか武田に逃げるなんて.....」

 

「あれでは手の出しようがありません」

 

 

しかもただの逃亡ではなく、

織田と武田の同盟化。

 

 

「拾が人質にならなくなったわ」

 

 

拾はもはや1つの爆弾となっていた。

下手に火をつければ爆発し、

大惨事を招く。

 

 

「拾を殺せば、

織田と武田の大戦争。

天竜はいい馬を手に入れたわね」

 

「馬?」

 

「信玄は天竜ほどの将を手に入れたと意気込んでるかもしれないけど、結局馬は騎乗手に支配される。

信玄が天竜に追い込まれるのも時間の問題よ。私のようにね」

 

「はい.....」

 

「バテレン達は何を言ってるの?」

 

「はい。今度は武田方に

秀長の明け渡しを交渉するようです。

望みは薄そうですが.....」

 

「天竜はもはや武田家軍師よ。変に近づけば何されるか分かったもんじゃないわ」

 

「1番の被害者は

ある意味武田信玄かもしれません」

 

 

天竜には将器がある。

信玄にも将器がある。

そんな信玄と天竜と釣り合うか?

釣り合うわけがない。

磁石のSとNのように.....

水と油のように.....

信奈も将器があったらこそそうなった。

結果、己の母親を殺された。

 

 

「信玄がますますやられるとは思えないけど.....天竜は多分、あのままじゃ終わらないと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜は駿河にて、

対北条氏康戦の為に

作戦を練っていた。

 

 

「ここは駿府。

今は大御所であられる足利義元公が

今川時代に居を構えていた地だ。

この地から、今川の宿敵でもあった

北条家を討てる事は

これほど名誉な事はなかろう!」

 

 

彼は副将軍として語る。

 

 

「だが信玄様が決意したとはいえ、

戦はまだ始まってはいない。

数日後の会議にて、

同盟の破棄と宣戦布告をされるそうだ。

だが.....」

 

 

天竜は手に持っていた

袋2つを目の前に放り投げる。

 

 

「こいつら北条方の忍、風魔の者らだ!

さっき見つけてその場で首を刎てやった!

このように我らは常に見られている!

宣戦布告も既に伝わったようなものだ!

戦はもう始まっている!」

 

 

天竜は家臣らの前で宣言する。

石田三成、大谷吉継、宮本武蔵、古田織部

筒井順慶、石川五右衛門、藤堂高虎。

皆が皆、天竜の命で軍服を着ていた。

 

 

「ったく〜。

このボタンってのは何だ〜?

着物と違って窮屈だ」

 

「普段からだらしない

お前には丁度いいじゃないか」

 

「うっさい!」

 

 

四国戦や中国戦などの後始末で

今まで離れ離れだった天竜軍が

一挙に集結した。

 

 

「ってゆうか吉継は頭巾のまんまかよ。

服は洋式、頭巾は和式でおかしくね?」

 

「.....貴方のおつむに比べれば私の格好など」

 

「んだとっ(怒)!!」

 

「2人ともよせ。

だが、武蔵の言う事も分かる。

吉継、これを使え」

 

 

天竜が出したのは西洋の仮面。

 

 

「本来は舞踏会などに使うものだ。

『オペラ座の仮面』

彼の境遇もお前に似ている。

お前には丁度よかろう」

 

「ありがとうございます」

 

 

吉継は天竜より仮面を受け取ると

その場で頭巾を外す。

火傷の傷が露わになり、

何人かが目を逸らした。

 

 

「..........傷はまだ痛むか?」

 

「いえ。ですが傷はもう治りません。

一生残るでしょう」

 

「俺の術で治してやろうか?」

 

「いえ。これは証ですので」

 

 

紀之介から大谷吉継になった時の、

新しく生まれ変わった時の.....

 

 

「ほう。似合うな」

 

 

仮面の少女、大谷吉継。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が軍だけでは北条は討てん。

武田の力を最大限集めてもまだ足りない。

他に協力を頼む必要がある。

水軍は九鬼水軍を使う。

伊勢と志摩の勢力を合わせよう。

それから紀伊の雑賀衆。

預けていた武器と共に兵力も回収。

自軍だけならそれぐらいか.....」

 

 

北条方はおよそ8万。城攻めはその倍以上の兵力でなければ意味はない。

用意するなら少なくとも20万の兵力か。

 

史実の北条攻めは秀吉が関白になり、四国・九州と落とし、上杉も勢力下に抑え、奥州も大人しくさせていた時の事。秀吉に反抗する勢力は北条方のみだった状況だ。

 

だが、今はそれとは天と地ほどの差の状況。

 

 

「他にも募るか.....」

 

「毛利とかでしょうか?」

 

 

三成が言う。

 

 

「あぁ。だが降伏したとはいえ、

傘下に入ったわけじゃない。

交渉には少々骨が折れそうだな」

 

「織田は〜?」

 

 

武蔵が言う。

 

 

「一応同盟国だからな。

援軍ぐらいはくれるだろう。

だがほんの少しだけだろうな」

 

「でも柴田殿は協力してくれるのでは?」

 

 

凪が言う。

 

 

「まぁな。上杉が後ろから挟み撃ちしてくるなんて事はないだろうから、ほんの少しなら協力を頼めるかもしれない」

 

「松平殿は?」

 

 

三成が言う。

 

 

「松平元康か.....」

 

 

元康は先の三方ヶ原の合戦で武田と衝突。

三河の一部の領地を奪われるなど、

武田家への恨みは強い。

 

 

「一応松平も同盟国だ。

俺が明日、直々にかけあってみよう。

なるべく怒らせないようにな」

 

「それらを掛け合わせて.....

せいぜい13万といった所でしょうか?」

 

 

高虎が言う。

 

 

「ギリギリだな。

決定打に欠ける.....

そこは戦略で補う他ないか」

 

 

兵だけあっても、戦略がペーペーでは小田原は落とせない。

そう、落とすなら小田原城を熟知した者が必要だ。

 

 

「今から調査するのは遅い。

誰か.....元北条方の奴がいないか.....」

 

 

その時、天竜は何かを閃く。

 

 

「いたぞ!元北条方の奴が!」

 

「本当ですか!」

 

 

織部が言う。

 

 

「あぁ、奴を何としてでもこちら側につけてみせる!何をしてでも.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三河、浜松城。

 

 

「武田の軍師さんが何の用です?」

 

 

元康は最初から機嫌が悪かった。

隣には服部半蔵を護衛に付けている。

 

 

「まぁまぁ」

 

 

一方、天竜は凪を護衛につける。

半蔵と凪はお互いに睨み合っている。

 

 

「仲良くしましょうよ松平元康さん」

 

「徳川家康です!」

 

「ほう」

 

「先日改名致しました」

 

 

話を聞けば、改名はもっと早くに改名する予定だったが、良晴に田舎臭いと言われて、今まで渋っていたらしい。

 

 

「へぇ。将軍にでもなるつもりですか?」

 

「なっ.....何故それを!?」

 

「くくくく.....」

 

 

天竜は何でも知っている。

 

 

「天下を取るなら、それを持続させる為には何かしらの役職に就かなければならない。無職では誰もそれについて来ないからな。そこで最も便利なのが征夷大将軍。

源頼朝公より続く制度として幕府を開く事が許される。鎌倉幕府や室町幕府のようにね。幕府制度なら精々100年〜200年は持つからな。

だが、それは源氏一族に限られる。

なのに松平は賀茂の一族。

征夷大将軍にはなれない。

だからこその改名。

恐らく平安時代の得川家にかけたんだな。

『我らは得川の家系の徳川家。清和源氏である』

ってな。いやぁ、くわばらくわばら。

足利幕府が滅びた際に名乗りを上げるつもりだったか?でも、前将軍足利義輝は帰国し、今川義元は彼と結婚して足利姓に。将軍職は義妹の足利義昭に受け継がれ、当の本人はそのまま大御所に。管領には義元の妹の氏真。副将軍は俺だ。もうほとんど幕府は復興したと言ってもいい。

それが改名を渋ってた本当の理由。

機会を失ってしまっては改名も意味がない。

でもそれでもしたという事はまだ野望を持っている.....

違いますか?」

 

「..........」

 

 

日本史教師舐めんな!

 

 

「何なんですかこの男.....」

 

「ふっ.....まぁいい」

 

 

天竜は家康を脅した後、

一度姿勢を正した。

 

 

「では徳川殿。

我が武田家と北条家の合戦。

ご参加願いたい」

 

「何故ですか?

武田と北条は同盟国でしょう?」

 

「はい。ですが北条家は同時に、

武田家の足枷ともなっております」

 

「へぇ」

 

「北条は真から味方にはなっていない。

いつだって裏切る姿勢です。

以前も川中島で上杉と争う

武田の背後を襲った事があります。

武田がなかなか上洛出来なかったのもそのため。

上杉以外で武田の脅威となっています」

 

「それはそれは」

 

 

家康は適当に反応する。

 

 

「お願いです。

小田原攻めにご協力願いたい」

 

「お断りします」

 

 

家康は至極笑顔で返答する。

 

 

「そもそも私に何の利益が?

私達は北条家と何の因縁もありません。

むしろ感謝してますよ?

私が三河で独立した時も

当時の武田を抑えてくれたからですし」

 

 

そう。これが大きな問題だ。

家康が武田に味方してまで得る利益とは.....

 

 

「此度の件北条を討った暁には、

恐らく遠江や駿河を貰うでしょう。

昔は今川の領地だった所をね」

 

「..........」

 

「その2国。差し上げてもよろしいですよ?」

 

「!?」

 

「武田に取られた三河の一部も返却しよう」

 

「なんでそこまで.....」

 

 

そう、この場合になると.....

 

 

「逆に貴方の利益がなくなるのでは?」

 

「ふっ.....別に私は領地など興味はない。

北条を討つ事に意味がある」

 

「.....?」

 

「もう一度言う。

私に.....いや、俺に従え!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故.....あれに了承したのですか?

奴は織田を裏切った男。信用できません」

 

「ですね。以前お姉様にも忠告されました」

 

 

家康は腹黒い顔をする。

 

 

「所詮はただの協力です。

彼が不利に追い込まれれば

切り捨ててればいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「家康は野心家だ。こんな誘い方をすれば乗っかかってくると分かっていたさ」

 

 

凪は黙って耳を傾ける。

 

 

「遠江や駿河程度で済むなら

安いものだ。

家康には精々駒として働いてもらう。

使えなくなれば捨てるさ。

くくくくく.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「羽柴天竜はそれでも強い男。

ひょっとしたら北条も討てるかもしれない。

上杉も武田も.....

お姉さまに着くよりもこちらの方が

徳川家には得かも」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「家康にも将器はある。

だが、奴は待って待って待ち続け、

ようやく訪れた機会を突く武将。

隙を見せれば討たれるかもな。

だが.....

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「羽柴天竜が天下を取れるのなら、

徳川家はすぐ下に着くのが得策。

好きなだけ甘い汁を啜り、力を溜め、

いざという時は下剋上」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「裏切られるのは承知の上。

その時は問答無用で叩き潰す」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「「精々利用させて貰うよ」」

 

「家康ちゃん」「天竜さん」

 

 

 

お互いの腹黒さを存分に発揮する2人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駿府。

 

 

「天竜様!.....天竜様!」

 

「どうした?」

 

 

高虎に呼び止められる。

 

 

「以前言ってらした、

『元北条方の者』とは?」

 

「あぁそれか。

心配ない。今日来る予定だ」

 

「そうですか.....

では、誰なのです?その者は?」

 

「ふっ.....本人に聞いてみろ」

 

「?」

 

「来たぞ」

 

 

すると2人の前に怪しげな霧が現れる。

その中から.....

 

 

「うふっ.....うふふふふふふ.....」

 

 

中から出てきた人物は、

麗しいまでの美貌を持つ少女。

片手に煙管を持ち、

妖艶な笑みを浮かべている。

 

 

「うふっ.....お久しぶりです天竜殿」

 

「あぁ」

 

「だっ.....誰です!?この人は.....」

 

「果心居士だ」

 

「果心居士?」

 

「幻術師だ。

だが、こいつにはもう一つ名がある。

そうだろ?松永久秀」

 

「なっ.....!?」

 

 

松永弾正久秀。

先代の大和国国主。

将軍を襲い、東大寺も焼いた極悪人。

信奈に仕えてからは

時より謀略を信奈に与え、

信奈を魔王にしかけたが、

基本的には斎藤道三と共に

信奈の親代わりをしていた。

 

だが、信奈が万見仙千代の罠にかかり孤立した際、織田軍を再び集結させる為にわざと謀反を起こし、最後は平蜘蛛に爆薬を詰め、多聞山城にて爆死。

そこまでが一般人の見解。

 

 

「だが、生きていた。

その時そこで死亡した万見仙千代の

身体に蘭奢待の霊力を介して憑依。

見事果心居士として復活した」

 

「そんな.....まさか」

 

「おやおや。それは秘密してくれる約束でしょう天竜殿?」

 

「ふっ.....そうも言ってられなくてな」

 

「?」

 

「待って下さい!

つまり、松永久秀は元北条方?」

 

「違う。中身ではなく、身体の方だ」

 

「!?」

 

「万見仙千代。

奴は近衛前久が送り込んだ間者。

元風魔衆だ」

 

 

天竜は何でも知っている。

 

 

「奴からの情報がほしい」

 

「残念ですね。

万見仙千代の記憶は私には分かりません」

 

「それも違うな。

そもそもお前に頼る気はない」

 

「?」

 

「万見仙千代を蘇生させる。

中から弾正を引き離してな」

 

「なっ.....!?」

 

「それは.....

つまり私に死ねと?」

 

「当たり前だ。

お前の存在など、最早邪魔でしかない」

 

 

果心居士は天竜の敵でも味方でもない。

仮の協力関係であるに過ぎない。

過去にも、

松山主水に憑依術を教えたり、

左馬助に幻術を習わしたり.....

それ以外にも、

天竜に不利な事をたくさんしている。

今まで我慢していたのが不思議なのだ。

 

 

「左馬助の件.....

忘れたとは言わせんぞ。

未熟な者に、大き過ぎる力を与えればどのような道に走るか.....お前も俺もよく知っていただろう?」

 

「.....あの子の事は私も気の毒だと思ってますわ。でもだからって、私に逆恨みするのは門違いじゃなくて?」

 

「黙れ売女!!」

 

「.....」

 

「ふん。俺が憑依させるのを手伝ったのを忘れたか?俺や主水と違って霊力の少なかったお前には原理は知っていても、その原動力がなかったからな」

 

「その事だけは感謝していますわ」

 

「その時に俺がある絡繰を施した事は知っているか?」

 

「!?」

 

「初めからお前の事などどうでもいい。

いつか万見仙千代を蘇生させる為に、

お前を利用したに過ぎない」

 

「くっ.....!!」

 

 

久秀が霧に姿を変え、姿を消す。

 

 

「逃がすか魔女が!!」

 

 

すると天竜は真後ろに振り返ってそこに手を伸ばす。次の瞬間、天竜の手には久秀の首が掴まれており、その場で押さえ込まれる。

 

 

「がふっ!!?」

 

「昇天してもらうぞ!!

松永弾正久秀!!」

 

「くっ.....!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピキンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁっ.....!?」

 

 

突然天竜が呻く。

この感じは.....

 

 

「くそっ!こんな時に!!」

 

 

すると天竜の身体が徐々に変化してゆく。

そして.....

 

 

「おっ久〜!」

 

「朧様!?」

 

「やぁ高虎久々だね!」

 

 

もう1人の天竜、朧。

 

 

「あらら〜ん?弾正ちゃんったら天竜にこっ酷くやられたみたいね〜」

 

「くっ.....貴方ですか!」

 

 

朧は押さえていた久秀を解放する。

 

 

「お久しぶりですね。

4年ぶりかしら?実際の所、私は貴方が男なのか女なのか分からなくなりましたわ」

 

「う〜ん。一応女の子なんだけどなぁ」

 

「あの.....」

 

 

高虎が問う。

 

 

「お二人は知り合いで?」

 

「まぁね。彼女に協力して力をつけさせたのは私だもん。この子に幻術を与えたのも私だし」

 

「え!?」

 

「あの頃は可愛かったわよね!純粋で無垢で、年上の斎藤道三に恋したりなんかして!」

 

「うふっ.....あの頃は若かったですから」

 

「まぁいいや。とりあえず死んでくんない?」

 

「..........貴方も天竜殿と変わりませんか」

 

「だってぇ〜!

今だって出せ出せ五月蝿いんだよ?

ちょっとだけ手伝ってあげようかなって」

 

「..........」

 

「私が命じてるんだよ?

まさか逆らうの?

何の為に三好長慶を殺してやったと思ってるの?何の為に将軍家襲撃の計画を練ってやったと思ってるの?

天竜も災難だねぇ。

自らが追い出した将軍を自ら向かいに行くなんてねぇ」

 

「.....え?.....え?」

 

 

高虎は耳を疑った。

将軍を襲う計画を作ったのは朧?

戦乱の世を作ったのは朧?

全ての首謀者は朧?

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........分かりました。

ただもう一度、天竜殿とお話しを?」

 

 

 

 

 

 

「覚悟決めた?」

 

「はい.....」

 

「よろしい!

出てきていいよ天竜〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷふぁっ!」

 

 

天竜が元に戻る。

 

 

「くそっ!

朧の奴.....まだ封じ切れてなかったのか?」

 

「天竜殿」

 

 

久秀は先程とは打って変わり、

大人しくなっていた。

 

 

「天竜殿。

最期に2つだけよろしいでしょうか?」

 

「?....................なんだ?」

 

「簡単です。

ある方をお預かりしたいのです」

 

「誰だ?」

 

「連れてきましたわ」

 

 

すると奥から何やら姫武将が現れる。

 

 

「この子です」

 

「?..........誰だこいつは?」

 

 

碧色と赤紫色のメッシュの

特殊な髪をしている。

 

 

「越前の大太刀ですわ」

 

「!?..........まさか真柄か!?」

 

 

真柄は朝倉義景の重臣だ。

 

 

「まっ..........待て!

こいつはどっちだ!?」

 

 

真柄は双子だ。

真柄直隆と真柄直澄の2人。

こいつはどっちだ?

 

 

「「真柄直隆(澄)だ」」

 

 

彼女が口を開く。

だが、二重に聞こえ結局分からない。

 

 

「まさか!?

融合させたのか!?」

 

「えぇ。この子達は本来姉川の合戦で

死亡するはずでした。

不憫に思った私が瀕死の彼女らを

2つに合わせ、蘇生させましたわ」

 

「..........こいつの世話をしろと?」

 

「はい」

 

「ちっ.....」

 

 

融合だと?

フュージョンのようなものか?

一生このままなのか?

 

 

「「羽柴天竜!!義景様の仇!!」」

 

 

なんか恨まれてるし。

 

 

「もう一つはこの万見仙千代。

どうかこの子には

不憫な思いをさせないで下さい。

もう.....若い子達が不幸になるのは

我慢なりません」

 

 

久秀は哀しき表情で言う。

 

 

「ったく、分かってるよ。

俺が可愛子ちゃんに対して

寛大なのはお前も知ってるだろ?」

 

「うふふ.....」

 

 

久秀は覚悟を決めた。

 

 

「さぁ、お別れです天竜殿。

最期に1つ.....」

 

「おいおい。3つ目かよ」

 

 

ヤレヤレという顔をする天竜に対し

久秀はスッと近寄る。

 

 

「最期にこれだけ」

 

 

久秀に口付けされる。

 

 

「つっ.....!?」

 

「うふふふふ」

 

 

その時天竜の後ろから何かが飛び出す。

 

 

「痛ったたたた.....」

 

「朧!!?」

 

 

天竜と朧が分裂した!?

 

 

「やりやがったな悪女め」

 

「うふふ.....さようなら」

 

 

ゆっくりと万見仙千代の身体から

久秀の気配が消えてゆく。

 

 

「さらばだ弾正」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

「目覚めたか」

 

「こっ.....ここは!?確か私は.....」

 

「死んだはずか?

残念ながらお前の昇天はまだだ」

 

「貴方.....は?」

 

「ここは天国でも地獄でもないし、

俺は閻魔大王でもないよ。

ただの人間さ。

常人よりちょっと強いけどな」

 

「..........」

 

 

彼女は動揺していた。

無理もない。多聞山城の変から

もう半年以上経っているのだ。

 

 

「俺は天竜。羽柴天竜秀長だ」

 

「天.....竜?」

 

「これからきっちり働いてもらうぞ

万見仙千代重元よ」

 

 

 

 

 

 

仙千代復活。

 




なんか初登場もあって
元康もとい家康を腹黒にし過ぎた。
そして
真柄直隆(澄)と万見仙千代。
天竜と朧の分裂。
波乱?の展開となりました!
次回予告
戦争宣言
〜倒すよ誰のためでもなく俺の為に〜


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第四十一話 戦争宣言

最近拝読者さんが増えてうれしいです


「ちっ.....冥土の土産がこれほど厄介とは.....」

 

 

松永久秀の土産、朧との分離。

 

 

「本当に嫌になるわ」

 

「黙れくそアマ!」

 

「.....半分は自分だよん?」

 

「黙れ。吐き気がする」

 

「自分の顔だよぉ?私が出る前は、身体だけ変化してた事もあったでしょ?」

 

「鏡で見るのと、生身とでは大違いだ。女装した自分を他人の視線で見る程気色の悪いものはない」

 

「生物学的に女子なんだけど.....

なんで毛嫌いするのかな〜」

 

「自分自身だからだ!自分の両手でジャンケンをしているような、そんな虚しさがある」

 

 

その言葉に朧はくすくすと微笑する。

 

 

「ジャンケン?

両手での殴り合いでしょう?

右手と左手の」

 

「右手と.....左手?」

 

「そう。私は右手で左手は貴方。

勘解由小路天竜という個人は右利き」

 

「俺よりお前が優れていると?」

 

「500年働き続け、

3年間休んでいた右手と、

500年休み続け、

3年間しか働いてない左手。

どちらが強いかは明確」

 

「..........」

 

 

これがジャンケンか.....

 

 

「くだらないな。

所詮はドングリの背比べ。無意味だ」

 

「ふふっ.....そうゆうこと。

切っても切れないんだよ。

私達は」

 

「ちっ.....」

 

 

 

 

これは事実上の和解なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく大人しくなったか」

 

「くっ.....」

 

 

万見仙千代は拘束されていた。

逃亡を図ったからだ。

 

 

「真柄といい、お前といい、

弾正の土産はどうも使い勝手が悪い。

手こずらせやがる」

 

「っ.....!解放しろ!もう私は捕虜になるなど御免だ!」

 

「甘えるな!!

いい加減部をわきまえよ!」

 

「ふんっ!」

 

 

仙千代が何やら力を込めた。

すると突然仙千代がグッタリとする。

 

 

「これが風魔の能力か.....だが」

 

 

天竜がパチンと指を鳴らす。

 

 

「くはぁっ!!」

 

 

仙千代が目を覚ます。

 

 

「なっ.....なんで!?」

 

「心臓を自力で止めて自らの口を塞ぐか。

だが無駄だ。

お前の魂は俺が握っている。

俺の許可なくして、

生きる事も死ぬ事もできぬ」

 

「くっ.....!」

 

「どうした?

また心臓を止めるか?

無限に繰り返す事になるぞ」

 

「くっ!.....私は何を言えばいい?」

 

 

仙千代は観念したようだ。

 

 

「まず一つ。お前は何故近衛なんかに

雇われていた」

 

「拾われたからだ。

風魔から追い出された私をな」

 

「何故?」

 

「風魔衆の政権が変わったからだ」

 

「政権?」

 

「風魔.....その頭領風魔小太郎は、

1人ではない。

常に強い者へと受け継がれている。

私を追い出したのは、

今の小太郎。

9代目風魔小太郎だ」

 

「何者だ?そいつは」

 

「分からない。顔も、正体も。

知っているのは北条氏康ただ1人。

先代を殺してその地位を得た新参者」

 

「どうゆうことだ?」

 

「小太郎を受け継ぐには、

先代を殺さなければならない。

そうして代を重ねる毎に小太郎は強くなる。

8代目も確かに強かった。

でも.....」

 

 

仙千代は暗い様子を見せる。

 

 

「瞬殺だった。

何人か勝負を見学してたのだけれど、

.....気づいたら終わっていた。

あれは.....異質だった。

全身を刃物で串刺しにされ、

胴体を真っ二つにされていた。

人間業じゃない!」

 

「串刺しに.....真っ二つ!?」

 

 

どんな奴なのだ?

風魔小太郎は.....

 

 

「だが、何でお前は追い出されたのだ?」

 

「狙ったのよ。10代目を」

 

「ほう」

 

「でも駄目だった。

勝負にすらならなかった。

辛うじて命を取り留めた私は、風魔衆を離れる事を命じられた。

父上を殺したあいつに!!」

 

「するとお前は8代目の.....」

 

「えぇ。だから私があいつが憎い!!パッと出の存在で、全てを手に入れたあいつが!!」

 

「ならばお前はそうしろ!」

 

「!?」

 

 

そう言い、天竜は仙千代の拘束を解く。

 

 

「俺は北条氏康を倒したい。

お前は風魔小太郎を倒したい。

協力して損はない」

 

「.....私は、お前の部下になるつもりはない!」

 

「構わない」

 

「!?」

 

「ただの共犯者さ。

成し遂げた後、どうしようと勝手だ」

 

「..........変わってるな」

 

「壊れているだけだ」

 

「ふん。

..........協力は小田原攻めまでだからな」

 

「あぁ、ありがとう。感謝する」

 

 

2人は握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「羽柴天竜!!!」」

 

「今度はこっちか.....」

 

 

仙千代以上に真柄は面倒だった。

会話で諌めようとしても暴れてしまって拘束するのがやっとなのだ。

 

 

「「がああぁぁぁぁ!!!」」

 

「どうしましょう天竜様?」

 

 

任されていた高虎もお手上げだった。

 

 

「「天竜!!!!」」

 

「ふんっ!」

 

 

天竜は真柄の腹部を蹴り上げた。

 

 

「「がはぁっ!!?」」

 

 

真柄はその場に疼くまってしまう。

 

 

「やっ.....やり過ぎでは?」

 

「悪ガキには拳骨が一番だ。

バカは痛い目を見んと学ばない。

昨今の体罰の問題など甘過ぎるのだ」

 

「はぁ.....」

 

 

拳骨じゃねぇだろ!腹蹴りは!

 

高虎は心の中でそっと呟く。

 

 

「粋がるなよ雌ガキが」

 

 

天竜は真柄の髪を掴んで引き上げる。

 

 

「「うぅ.....」」

 

「その2人分の脳味噌によく叩き込め。

俺は確かに朝倉義景の生命を奪った。

だが、それ以前に義景個人を滅ぼした奴がいるだろう?それは俺か?違うだろう?」

 

 

真柄はハッと思い出す。

義景と正面から衝突し、

彼の求婚も無視して

朝倉家を壊滅に追い込んだ張本人。

 

 

「「織田.....信奈!!」」

 

「精々奴を恨んでおけ。

そしてそれを戦場で発揮しろ」

 

 

天竜は真柄の拘束を解く。

 

 

「真柄直隆、直澄は死んだ。

お前は新たなる姫武将。

俺の名の一字をやる。

直竜。真柄直竜。

そこそこよかろう」

 

「「真柄.....直竜」」

 

「阿呆が二乗されて大阿呆になったか。

高虎、あれを持ってこい!」

 

「はっ!」

 

 

そう言われて高虎が持ってきたのは、

 

 

「これをやる」

 

「「.....刀?」」

 

「『備前長船長光』

天下の剣豪、佐々木小次郎が使っていた長太刀だ。お前ら用に少し改造して、少し刀身を太くしている。

お前らの大太刀は姉川で折れたと聞いてな。

亡き妻の形見でもある。

大事に扱え」

 

 

直竜は刀をそっと受け取る。

 

 

「「ありがとう.....ございます」」

 

「礼儀を弁えただけよしとしようか」

 

 

天竜軍主戦力。

真柄直竜の誕生である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田原城。

 

 

「ようこそ武田信玄」

 

「あぁ」

 

 

北条氏康はニヤニヤした表情で待ち構えている。信玄が今日しようとしている事を知っているのだ。

信玄は思わず冷汗をかく。

 

 

「大丈夫ですか信玄様?

念の為に何人か忍ばせてますが.....」

 

「ふっ.....恐れているわけではない。

ただ緊張してな。

同盟を組んでいた頃から侮れぬ相手だったが、いざ敵対するとな」

 

「ふ〜ん。

ただの小娘にしか見えませんがね」

 

「馬鹿っ!奴は北条早雲の孫娘だ!

あの見た目で破格の才能を持っている!

攻めで最強が武田なら、

守りで最強は北条だ!」

 

「ふっ.....その2つが戦とは、

まさに矛盾ですね」

 

「何をヘラヘラしている!」

 

「ちょっと?

何をコソコソしてるのかしら?」

 

 

信玄と天竜の様子を見ていた氏康が口を挟む。

 

 

「あ.....あぁ」

 

 

信玄は焦っていた。

何故なら、

 

この戦に大義名分がないからだ。

 

天竜に挑発されて勢いで決めてしまったが、

『上洛に邪魔だから裏切る』

など大義名分でも何でもない。

 

だが、

 

 

「ようは、裏切り者が武田にならなくすればいい。私に任せて頂きたい」

 

「?」

 

 

天竜はすでに何らかの策を

打っているらしい。

 

 

「そっちの男を見るのは初めてね」

 

 

氏康は天竜に興味を抱く。

 

 

「初めまして氏康殿。私は.....」

 

「羽柴秀長。元織田の武将かしら?」

 

「.....よくご存知で」

 

「あんたらの情報全部把握してるわ」

 

「お得意の風魔衆でですか?」

 

 

天竜は氏康のすぐ横に付く、

全身を黒衣に包んだ者を睨む。

 

こいつが風魔小太郎か。

 

 

「.....そうよ」

 

「そうですか。

では、私が今ふと思った事を

率直に述べたててもよろしいですか?」

 

「構わないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「めっちゃ貧乳っすね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..............................は?」

 

「おい、天竜!?」

 

 

それは外交の場にて言ってはならぬ言葉。

 

 

「一瞬、男かと思いましたよ。

 

あれ?本当に女の子?

 

我が主人は豊かであるゆえに

その差があり過ぎて気の毒に思う。

 

そんなに貧しければ、

サラシを巻く必要もありませんよね?

隠す程のものもないし。

 

豊かな方はいつも肩コリに悩むそうですが、

貴方はそんな心配もなさそうだ。

やったね!

 

そうゆうのを何て言うんでしたっけ?

 

そう!『洗濯板』!!

 

お願いですよ〜。

肋骨が浮き出てそうな

貴方のゴリゴリのちっぱいで

洗濯をさせてくださ〜い」

 

「おのれ.....いい気になって」

 

「ま、さ、か、

実は幼女並みの年齢とか?

年より老けてるだけとか。

それなら胸が小さいのも自然だし、

『蒙古斑』が消えない理由も

納得がいく」

 

 

「羽柴秀長ぁ!!!!!!」

 

 

氏康がブチ切れた。

 

 

「風魔!!こいつを殺しなさい!!」

 

「はっ!」

 

 

氏康の叫びと共に、小太郎とそれに連なる数人の風魔忍が動く。

 

 

「やれ」

 

 

それに対し、天竜もまた呟く。

 

すると何処からか糸が数本飛んで来る。

 

 

「むっ!?」

 

 

小太郎はいち早く察知し退いた。

だが、他の風魔忍はそれに巻き込まれる。

 

 

「弾けろ」

 

 

糸が網のように引かれる。

 

 

「あぎゃあ!」

 

「かぐぅあ!」

 

「へぎょっ!」

 

 

糸が鋭利な刃物のように風魔忍を斬り裂き、

バラバラに刻んだ。

 

 

「鋼の糸!?まさか!?」

 

 

彼女は現れる。

 

 

「風魔の女郎蜘蛛.....

万見.....仙千代!?」

 

 

氏康が言う。

 

 

「お久しぶりです氏康様。

8代目が嫡子。

元風魔衆後継者、万見仙千代です」

 

「あんた.....出奔したと思ったら

武田にいたの?」

 

「勘違いしないで下さい!

私は羽柴天竜に協力する立場ですが、

部下になったつもりはない!」

 

「くっ.....」

 

「へぇ〜」

 

 

この惨事にむしろ驚いていたのは

天竜だった。

 

 

「仙千代〜。

お前って意外と強いのな。

良晴の忍に手も足も出なかったって聞いたもんで、てっきり頭だけかと.....」

 

「あの時は不意を突かれた上に、

武器は刀しかなかった!

迂闊だったと今も後悔している!」

 

「つまりおっちょこちょいなのな。

可愛いねぇ〜」

 

「うるさい!!」

 

「黙りなさい!!」

 

 

無視されていた氏康が再び叫ぶ。

 

 

「潰してあげるわ!

あんたも!信玄も!」

 

「その宣戦受け取った!」

 

「「「!?」」」

 

 

天竜の言葉に周りの全員が困惑する。

 

 

「てっ.....天竜!?」

 

「まさか氏康殿が我ら武田をそのように思っていらしたとは.....誠に残念でなりません。

しかし!宣戦布告をされた以上!

無視はできません!

正々堂々と、そちらの先攻を打ち破ってご覧に入れましょう!」

 

「なっ.....!?」

 

「何よそれ!?」

 

「私は副将軍!

征夷大将軍様に代わり其方を

退治してくれよう!

征夷大将軍の本職は幕府の構築にあらず!

朝廷に仇なす、エミシ、俘囚の討伐なり!

私は今より、北条家をエミシと断定する!

副将軍の名において、この小田原攻め。

朝敵の討伐を大義名分にさせて

もらおうか!」

 

 

信玄、氏康と2人とも驚愕した。天竜は開戦の悪行を北条になすりつけようとしているのだ。あくまで戦を始めたのは北条方。それに勝って、これが正義であろうと示そうとしているのだ。

 

信玄は思わず天竜に恐怖する。

息をするように嘘を吐き、

人の心情を駒を回すように操り、

掌で踊らすように人で遊ぶ。

 

魔王、天竜。

 

 

「いや、魔将軍が正しいか.....」

 

 

魔王信奈が手放す程の厄介者。

 

 

「この外道め!」

 

「ふっくく.....くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

 

氏康の熱い威圧に、

天竜は凍てつく威圧で返す。

 

 

「では、今度は戦場でお会いしましょう」

 

 

天竜は信玄と共に、そこを離れた。

 

 

「キッ!」

 

「..........」

 

 

仙千代はずっと小太郎を睨んでいたが、

小太郎は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜だけを終始見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処で知った?」

 

「はい?」

 

「とぼけるな!『蒙古斑』だ!」

 

「あぁ。大御所様です」

 

「義元から!?」

 

「『三国同盟はもう終わっているのだから今更顕著に約束を守る事なんてありませんわよ!オーッホッホッホ!』

だそうです」

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの糸、本当凄かったなぁ」

 

「まだ言いますか」

 

 

駿府に戻り、部屋に2人きりになる

天竜と仙千代。

 

 

「だって斬り裂く糸なんて、

バジ⚫︎スクの夜叉丸とか

ヘル⚫︎ングのウォルターみたいじゃん!」

 

 

ちょいオタクが入っている天竜.....

 

 

「『風魔の女郎蜘蛛』だって。

かっくいい〜」

 

 

ベタ褒めである。

 

 

「ふんっ!」

 

「冷たいな〜。仙千代ちゃん」

 

 

天竜が後ろから抱きつく。

 

 

「!!?」

 

「あぁ。やっぱり美女と血は合うなぁ。

さっきから興奮が止まらん」

 

「ちょっ!!.....何を」

 

「久々にお前の匂いを嗅いだ。

やはり馨しい」

 

「ひっ.....久々って!?」

 

「お前に弾正が取り憑いてた時に何度かね。

君の具合は最高だったよ」

 

「ひっ.....!?」

 

 

天竜は仙千代の耳を甘噛みする。

 

 

「やんっ.....」

 

「戦の前はいつも滾る。

そんな時に目の前に美女がいれば、

すぐに押し倒して抱きたくなる。

相手が泣き叫ぼうが、

己が精が尽きるまでやり続けたくなる」

 

「やめっ.....」

 

 

天竜は耳にしゃぶりつきながら、

仙千代の胸や股をまさぐっていく。

 

 

「いただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜。いるですか?」

 

 

 

 

「ん?」

 

「ひっ!?」

 

「..........」

 

「じゅっ.....じゅじゅじゅ.....

十兵衛!!?」

 

「そうですか。そうですか。

織田を抜けて傷心中かと思って

来てみれば.....

そんな心配は全くないようですね!!」

 

「何でお前が!?」

 

「私が織田の援軍を志願したのです!

でもやっぱり帰ります!!」

 

 

襖を乱暴にバンッと閉め、

プンスカしながら帰ってゆく十兵衛。

 

 

 

 

 

「あれって確か.....明智光秀?」

 

「あぁ。俺の正室だ」

 

「違うです!!」

 

 

戻って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確認するぞ。

十兵衛のお陰で若干のゆとりが出来た!

だが、戦力的に不利なのは変わらない!

しかしだ。

俺は戦において重要なのは、

戦力でも戦術でもない!戦略だ!!」

 

「でっかい声出さなくても分かるです」

 

「.....そうか」

 

 

駿府にて作戦会議。

 

 

「北条氏康は戦略にも長けている。

だが、それ以上に風魔小太郎が厄介。

奴は北条に鉄砲を持ち込んだ張本人」

 

「鉄砲?」

 

「恐らく織田と同時期に.....

それで小田原城の守りをさらに強固にした。

そして地下通路」

 

「地下通路!?」

 

「小田原城の地下に

迷路の如く広まっている。

迷路は何里にも渡ってあり、

出入口も大量にある。

そこに避難したり、

それを利用して敵に奇襲をかける事もある」

 

「迷路の正確な道順は分かるか?」

 

「分からない。

小太郎の命令で迷路は定期的に

改築するように言われてる。

風魔を離れていた私には.....」

 

「むぅ.....」

 

「それから小田原城を本城に、

いくつもの支城がある。

それらを同時に攻略しなければ.....」

 

「なるほど.....」

 

 

仙千代の説明を受け、天竜は思案する。

 

 

「2万の軍勢を持って、

別働隊に支城の陥落を行わせよう。

.....三成!」

 

「はっ!」

 

「お前を総大将に命じる。

全ての支城を落とせ!」

 

「承知!」

 

「吉継!お前は三成に付き、支えてやれ」

 

「承知しました!」

 

「佐吉はドジだからな。

馬鹿な真似をしないよう、

見守ってくれ紀之介」

 

「ちょっ!.....天竜様!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「孫市が明日、

鉄砲と大砲を大量に届けてくれる。

それが到着され次第、

軍備を再編成しよう」

 

「「「承知!!」」」

 

「仙千代。お前は凪が纏めている

隠密機動隊に付き添え。

共に奇襲を仕掛けてくるであろう

奴ら風魔を足止めしろ!」

 

「はいはい」

 

「..........」

 

「どうした十兵衛?嫉妬か?」

 

「違うです!!」

 

 

十兵衛じっと仙千代を睨んでいたのだ。

 

 

「どうしてこいつがいるですか?

こいつは以前、信奈様を騙し、

織田を乗っ取ろうとしていた奴ですよ!

というか、何故生きているのですか!?」

 

「「「..........」」」

 

 

周りが急にしんとする。

 

 

「恐れながら光秀殿」

 

 

三成が口を開く。

 

 

「貴方はいつまで織田に忠誠を誓う気ですか?」

 

「は?」

 

「だってそうでしょう。

私達は皆、織田信奈に蔑ろにされた身です。そんな皆が手を取り合い、天竜軍という集団を作った。

織田信奈の不当な態度への反感を持ちながら.....貴方もそう思ったからこそ、奴を殴ったのでしょう?」

 

「わっ.....私は.....」

 

「貴方はどっちなのですか?

味方か敵か.....

それがハッキリしない限り、

私達は貴方を信用できません!」

 

「よせ。十兵衛を責めるのは

お前の役目じゃない」

 

「.....すみません。で過ぎた真似を」

 

 

三成は頭を下げる。

 

 

「でも実際、どっちなんですかね?」

 

 

織部もまた言う。

 

皆疑っているのだ十兵衛を.....

 

 

「私は.....」

 

「十兵衛。ちょっと.....」

 

 

天竜は十兵衛だけをそこから連れ出し、

2人きりになる。

 

 

「皆、信奈を嫌っているんだ。

そんな中で中途半端な志の者が

混ざっていると士気に乱れが生じる。

十兵衛。

君がまだ信奈に忠誠を誓うのなら、

今すぐ帰れ」

 

「天竜.....」

 

 

天竜はある服を用意する。

 

 

「それは.....」

 

「我が軍の軍服だ。

君のものも用意してある。

それを着るというのなら、

俺の下で一生涯働いてもらう。

だがそんな気がないなら、

今すぐこの軍服を破棄する。

そして君との縁も切らせてもらう。

そうなれば復縁する事は二度とない」

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、十兵衛はその日に

答えを出すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安土城。

 

 

「光秀殿が羽柴秀長の援軍に向かいました」

 

「そう」

 

「もう、裏切ったと考えて

よろしいのでは?」

 

「..........」

 

 

信奈は遠い目をしていた。

 

 

「失礼する」

 

 

その時襖が開けられ、

何者かが信奈の部屋に入る。

 

 

「え?」

 

「何で.....貴方が.....」

 

 

その人物は.....

 

 

「この度、信奈様の小姓に

任じられました.....」

 

 

魔将軍の姉。

 

 

「森水青蘭。改名致しまして、

森蘭丸と申します」

 

 

小姓と言うにはやや大柄な女であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲斐。

 

 

「天竜は本気で北条を潰すらしいな」

 

「どうしましょう?」

 

 

山県昌景が問う。

 

 

「倒せんよ。あの小田原城と風魔小太郎がいる限り.....奴は私だけでなく、謙信まで出し抜いた奴だ」

 

「では何故任せたのです?」

 

「天竜は恐らく負け知らず。

そんなのは真の強者とは言えん。

だから奴を、

わざと負けさせる」

 

「いいのですか?」

 

「あぁ、時期を見て謙信に仲裁を頼む。

多分、泥試合となるだろうからな」

 

「.....上手くいくでしょうか?

武田軍の中にも天竜を応援する側の者も多くいる。修理なんて名前を覚えてもらってから、ずっと夢中になってますし.....」

 

「修理??」

 

「..........いつか裏切られますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小田原城はワニガメだな。

いくら叩こうとも硬い甲羅に守られ、

油断すればこちらが噛まれる。

防御だけでなく、

反撃にも特化している。

だからこそ難攻不落。

北条氏康が籠城戦を選んだ時点で

この戦..........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の勝ちだ」

 

 




なんか仙千代とのフラグが立っちゃいました。
はたして風魔小太郎の正体は?
この小田原攻め、勝者はいかに?
次回予告
忍城のでくのぼう
〜降伏はしません。戦います〜


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第四十二話 忍城のでくのぼう

一流は孤独を好む。
二流は群れを好む。


あれから数日。

孫市率いる紀伊軍が大量の鉄砲や大砲を持ち込み、天竜軍と合流。

その後、九鬼と毛利の連合水軍が江戸湾沖に集結。

西方からは徳川軍が攻め、

北方には武田軍本体が構え、

駿府・甲斐・相模の境界に

天竜軍が陣を張る。

 

 

「後に柴田軍も合流するらしい。

この兵力とあの戦略を使えば.....」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「なめられたものだわ。

私を倒すですって?

ふざけるのもいい加減にしてほしいわ」

 

「既に地下に風魔を潜ませています」

 

「よろしい!本当の戦というもの見せてあげようじゃないの!

氏長達に連絡を取りなさい!」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田原城よりやや離れた地。

忍城下。

 

 

「長親〜!長親〜!」

 

 

透き通った綺麗な声が響く。

 

 

「長親〜!何処に行った〜!?」

 

 

その姫武将は馬に乗り走り回り、

長親と呼ばれた人物を探す。

 

 

「そこの者、すまん!」

 

「おぉ!丹波様!」

 

「長親を知らないか?」

 

「のぼ.....ごほん!

長親様なら向こうの田圃で見ましたが?」

 

「すまぬ。.....長親〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある田圃にて。

 

 

「いやいや!のぼう姫は

見てて下され!」

 

「そうそう!手伝わなくても.....」

 

「よいではないか。よいではないか」

 

 

一際大柄な女性が、農民達が田植え作業をしている中に混ざろうとしていた。

 

 

「先日は失敗したが、

今日は大丈夫だぞ!」

 

「何処にそんな自信があるのですか。

以前のぼう姫のせいでめちゃくちゃになった田圃を直すのにどれだけかかった事か.....」

 

「すまん。すまん。

今度はちゃんとやるから.....」

 

「だから結構ですって!」

 

 

 

 

 

 

 

「長親〜!!」

 

「のぼう姫、丹波様が来ましたが?」

 

「おぉ丹波!

.....のわっ!?..........ぎゃっ!!」

 

「「「あ〜あ.....」」」

 

 

振り返ろうとしたが、足をぬかるみに取られ転んでしまい、泥塗れになる。

 

 

「何をやってる長親!」

 

「どったの丹波?」

 

「どったのじゃない!戦だ!

武田が攻めて来た!!」

 

 

丹波のその言葉に農民達がざわつく。

 

 

「大声を出すな丹波。

皆怯えてるだろう?」

 

「お前が城内にいれば、こんな大声を出すこともなかったわ!

兎に角戻るぞ!乗れ!」

 

「..........どうやるんだっけ?」

 

「いい加減覚えろ!馬に乗れないなんて城内でもお前ぐらいだぞ!」

 

「いいじゃないか。戦が起きなければ馬に乗る事もあるまいて」

 

「話を聞け!!

その戦が起きとるんだ!!」

 

「ありゃま」

 

「いいから急ぐぞ!氏長様をいつまでも待たせるわけにはいかぬ!」

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍城。

そこに、長親に比べるとかなり背の低い少女が待ち構えていた。

 

 

「ただいま〜」

 

「遅い!!」

 

「何をそんなカリカリしてるの?」

 

「あんたがチンタラ

田植えなんてしてるからよ!

仮にも私の従姉妹なんだから

キッチリしなさい!!」

 

「は〜い」

 

「見下ろすなぁ!!」

 

「?」

 

 

この2人。年はそんなに変わらないのに、

身長差は親子と見間違う程ある。

女にしては驚く程高身長の長親と、

そろそろいい年頃なのにちっとも

大きくならない氏長。

 

成田氏長と成田長親。

城主と城代である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は氏康様に呼ばれ、

小田原城に行くことになっている。

留守は任せたわよ丹波」

 

「はっ!」

 

「私は〜?」

 

「あんたじゃアテにできないわよ!

ろくに城代もできないくせにでしゃばるな!」

 

「ひどいなぁ」

 

 

2人の仲は悪い。というか一方的に氏長が長親を毛嫌いしているのだ。

 

 

「長親をいじめるな!」

 

「うっ.....甲斐.....」

 

 

現れたのは甲斐という少年。

氏長の実弟だが、

むしろ長親に懐いている。

これが2人の仲の悪さの原因なのだ。

 

 

「ありがとなぁ甲斐〜」

 

「お前もヘラヘラしてんじゃねぇ!」

 

 

長親を蹴り飛ばす。

女性が多い忍城では逆紅一点だが、

なかなかパワフルである。

 

 

「あと.....一つだけ言っておく。

敵は2万の軍勢で支城の陥落をしている」

 

「へぇ」

 

「敵が来たら.....

ただちに降伏し、開城しなさい」

 

「....................へ?」

 

「氏長様!?今なんと!?」

 

 

成田家家老、正木丹波守利英が叫ぶ。

 

 

「敵軍の将、大谷吉継殿より書状が届いた。速やかに開城すれば、それ以上の追撃はしないそうよ」

 

「それは.....氏康様への裏切りでは

ありませんか!?」

 

「そうよ。文句ある?」

 

「なっ!?」

 

「忍城の.....成田家の勢力では

敵軍2万を防ぐ事は不可能。

しかも半数以上を小田原城に参列させるから、残せるのは精々500騎。

一日ともたない。勝てたら奇跡よ」

 

「でっ.....ですが.....」

 

「いい?裏切りは内緒よ?

私の勘では、今度の敵は一筋縄ではいかないと思う。恐らくこの戦で氏康様は.....

裏切りに加担すれば、戦後もある程度の地位を保てる事を約束されているわ」

 

「そんな.....己が保身の為に

主君を見捨てるというのか!!」

 

「丹波、よせ」

 

「長親!!」

 

「死人を出さず平和を保てるなら、

それでいいじゃないか」

 

「くっ.....!」

 

 

長親はひどく落ち着いている。

 

 

「姉上は腰抜けですね」

 

「うっ.....」

 

 

弟には弱い氏長だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、三成の軍。

 

 

「何ですかこれは.....」

 

「..........」

 

「私は天竜様に2万の軍勢を与えられ、

支城の陥落という大役を担った。

なのに.....なのに.....」

 

 

石田軍はまだ一戦もしていなかった。

城を囲んだら直様敵が開城するからだ。

渋々了解するも、

三成には不満しかなかったのだ。

 

 

「.....兵を減らす事なく任務を達成できるなら、いい事じゃないか」

 

 

大谷吉継は真実を語らない。

 

 

「それでも!2万の兵力を見せただけで降伏するのなら、私が総大将を務める意味がないじゃないですか!

何のために私が選ばれたのか.....

天竜様に認められた以上、

私はその責務を果たしたい!

例えそれで敗北しようとも、

不戦勝よりましです!」

 

「三成.....」

 

「その為に協力して下さい吉継ちゃん!」

 

「うっ.....

その呼び方どうにかならないか?

調子が狂う」

 

「ん?じゃあ紀之介ちゃん?」

 

「紀之介と呼び捨てでいい。

私も佐吉と呼ぶ」

 

「分かったよ紀之介!」

 

 

吉継は仮面の下で少し頬を赤らめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「降伏とはどうゆうことだ丹波!!」

 

 

丹波は筋肉質で大柄の姫武将に詰め寄られていた。

 

 

「決められたのは氏長様だ!

我らがどう言おうと意味がない!」

 

「くっ.....!!」

 

 

この姫武将は柴崎和泉守。

成田家きっての剛将だ。

 

 

「全く.....僕なら2万の軍勢なんて敵じゃないんだけどね」

 

 

この少女は酒巻靱負。僕っ娘である。

自信過剰で自称毘沙門天の再来だが、

初陣はまだである。

 

 

「おい小娘!

口先だけ達者だな!」

 

「.....脳筋のくせに」

 

「ああん!!?」

 

「というか城代はのぼう姫でしょ?

彼女を擁立して戦っちゃいましょうよ」

 

 

靱負は冷静に己の意見を立てる。

 

 

「そうなれば我々は武田と北条の板挟みになってしまう!

第一、長親に大将は無理だ。

武芸もなければ、知略もない。

人望だけで何もできぬ!」

 

 

何もできない、

でくのぼうなお姫様。

だから『のぼう姫』

 

 

「呼んだ〜?」

 

「全く.....」

 

 

長親本人が開城に賛成派なのだ。

 

 

「お伝えします!石田三成軍がこの忍城を囲んでおります!」

 

 

使者が状況を説明する。

 

 

「石田方の軍使、長束正家殿が

入城を求めております!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐吉!何であんな男を軍使にした!

奴は天竜様が織田を抜ける際に、どさくさで追てきた元丹羽長秀の家臣だ!

天竜様は仕官を許したが、

まだ日も浅い為に、忠義もまた浅い!

性格も悪い!

強い者には弱く、弱い者には強い。

軍使の器ではない!」

 

「大丈夫ですよ。

それも計算のうちです」

 

「.....!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゃっちゃと開城して下さいよ〜」

 

 

正家は最初から態度が悪かった。

 

 

「知っての通り、

石田三成率いる我が軍の勢力は2万。

そちらは精々500騎程度。話にならん。

だからさっさと降伏しろということ。

なお、開城の際に城内の者は兵も農民も己が所領を捨て、出てゆく事。その際、食糧は置いてゆく事」

 

「なっ.....!?

我らや農民に餓死せよと言うのか!?」

 

 

丹波が叫ぶ。

 

これは誰の命令でもない。

長束正家の単独行為だ。

 

 

「さぁ、どうなんだ?成田長親」

 

「..........」

 

「お前.....噂通りの美しさだな」

 

 

長親は確かに美しい顔達をしていた。

だが、性格や行動のせいでそれが影を潜め、美しさは目立たなくなってしまっている。

 

 

「よし決めた。

成田長親は天竜様に捧げるものとする!」

 

「なっ.....!?」

 

 

それは長親を戦利品扱いしているのと同じ扱いだった。

 

 

「..........」

 

 

周囲の家臣達がざわつく中、

長親はじっと黙っていた。

 

 

「さぁ、答えを出してくれよ長親さんよう。

どうせ決まってんだから、

ちゃっちゃとちゃっちゃと!」

 

 

正家の言い方はどんどん悪くなっていった。

そこで長親がようやく口を開く。

 

 

「.....貴方とお会いして、あやふやだった考えがさらにバラバラになってしまっていましたが.....

ようやくまとまりました」

 

「あぁん?

じゃあさっさと言ってくれ」

 

 

 

 

 

「戦います」

 

 

 

 

 

「..............................へ?」

 

 

「戦います。石田軍と」

 

 

「ちょちょちょ....................

冗談だろ!?

いくら戦力差があると.....」

 

 

 

 

 

 

「聞き分けのない男ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

すると長親はぬらりと立ち上がり、

正家の前に立つ。

 

 

「忍城の城代、成田長親は参戦を決意した!さっさと自軍に戻って大将の石田三成に伝えよ!戦力差が戦の全てではないという事をな!!」

 

「ひっ.....!?」

 

 

高身長の長親に上から叫ばれ、

正家の方が毛脅されしまう。

 

 

「なっ.....長親!?」

 

 

丹波もまた困惑していた。

幼馴染ではあるが、幼少時から長親が怒った所など、一度も見たことがなかったのだ。その彼女が、鬼の形相で正家を睨みつけている。

 

 

「小田原城に継ぐ難攻不落の浮城!

忍城の恐ろしさを思い知るがいい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?忍城が宣戦布告を!?」

 

 

開城の手筈をしていた吉継としては異例の事態である。

 

 

「もっ.....申し訳ありません!」

 

 

正家は深々と頭を下げる。

 

 

「やった〜!」

 

 

反対に三成は陽気である。

 

 

「まさか!?

この為にこの正家を!?」

 

「ふふっ.....」

 

 

三成はわざと長束正家を軍使として送り、挑発したのだ。全ては戦争を起こす為に.....

 

 

「この戦にて、

私は歴史に名を刻む!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「長親!!!」

 

「うっ.....」

 

 

長親は丹波に締め上げられていた。

 

 

「何故あんな事を!?

今ならまだ間に合う!宣戦を撤回しろ!」

 

「イヤだ!」

 

「長親!!」

 

「絶対イヤだ!!」

 

「長親〜!!」

 

 

長親は意地でも意志を曲げない。

 

 

「私が降伏すれば百姓らに迷惑をかける!

そんなのは許されない!」

 

「だが戦になれば多くの者が死ぬ!

しかも相手は石田三成!毛利を降伏に追い込んだ羽柴秀長の参謀だ!

勝てるわけがない!勝てた所で今度は羽柴軍。その後ろには武田軍だ!

待っているのは地獄のみ!」

 

「それでもイヤだ!!」

 

「この分からず屋め!!」

 

「皆が皆腰抜けだな」

 

「なっ!?甲斐様!?」

 

 

氏長の弟。

その甲斐が鎧と甲冑を装着し、

臨戦態勢をとっていた。

 

 

「今の主君は腰抜けの姉上ではない。長親だ!長親の言う事を聞けないなら忍城を出て行け!誰も動かないのなら、俺と長親だけでも戦って見せる!」

 

「甲斐様.....」

 

「あたしも姫に賛成だ!

久々に戦で暴れられる!」

 

「僕もだよ。

僕の素晴らしき戦略でね」

 

「和泉.....靱負.....」

 

「丹波。私に命を預けてはくれないか?

この戦.....お前無しでは勝てない」

 

「.....勝つ気なのか?」

 

「負ける気で戦を仕掛ける者がいるかい?」

 

「ふっ.....そうだな」

 

 

あの長親が、

大将の顔付になろうとは.....

 

 

「いいだろう!

やってしまうか!」

 

 

丹波もまたやる気になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「わしらも戦うで!」」」

 

「なっ!?」

 

 

丹波が戦が始まる事を農民達に伝えに行った所、最初は戦に反対をしていた彼らだったが.....

 

 

「のぼう姫のためならわしら命を張る!」

 

「のぼう姫だけは死なせちゃいけない!」

 

「のぼう姫!のぼう姫!」

 

 

宣戦布告をしたのが長親であると知った途端、彼らは態度をころっと変えたのだ。皆が笑い、戦に前向きになっている。

 

 

「のぼう姫は馬も乗れねぇし。

畑や田圃の手伝いもできねぇ。

どれだけ失敗しようが、

どれだけ責めたてられようが、

いつもニコニコしちょる。

そんな姫が決戦を決意するなんて一大事だ!

わしらが支えねぇで誰が支えるんじゃ!」

 

 

長親の人望は驚く程高かった。

彼女の意志が非戦闘員であるはずの

農民達にも闘志を与える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、忍城の農民全員が

長親達の前に集結する。

 

 

「すっ.....凄い。

3000人はいるぞ!?」

 

 

長親の一声で半数以上の農民が集まる。

 

 

「しかし全員ではないな.....他の農民は?」

 

「何人かは石田方に降伏したよ。

私が少量の食糧を与えて逃がしてあげた」

 

「.....いいのか長親?」

 

「うん。私のわがまま全部を聞いてもらえるわけにもいかないもん」

 

 

その大将こと、

長親がまず初めにしたのは.....

 

 

 

 

 

 

 

謝罪だった。

 

 

「ごめんなさい!!

私の.....私なんかのわがままで.....

皆を危険に追い込んでごめん!!」

 

 

農民達に向け、深々と頭を下げる長親。

その瞳からポタポタと雫が零れる。

 

 

「多分たくさん死ぬ!

私の命令で皆が死ぬ!

きっと地獄のような戦になる!」

 

「よせ長親。それ以上は士気が.....」

 

「のぼう姫が泣いてる.....」

 

 

ある農民が呟いた。

次の瞬間、農民達が咆哮をあげる。

 

 

「のぼう姫を泣けせるとは許すまじ!」

 

「長束正家討つべし!石田三成討つべし!」

 

「泣かんでくだされのぼう姫様!!」

 

 

逆に士気が上がったのだ。

 

これは長親が美人であったというのは全く関係ない。普段から農民の事を気にかけ、友好関係を築き続けた人望の厚さがこの結果を生んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石田軍。

 

 

「相手はたかが500騎程度。

されど、たったその戦力で

我が2万の軍に対抗してきた!

それだけ士気や自信があるという事!

絶対に油断してはならない!

躊躇わなく、全力で戦いなさい!」

 

「「「承知!!」」」

 

 

こちらの士気もまた高かった。

意気込んで出陣したにもかかわらず、ずっとその機会を伸ばされ、不満を言い出す兵もいたからである。

 

 

「紀之介。先陣をお願いできる?」

 

「分かった。引き受けよう」

 

 

仮面の少女吉継。

 

 

「天竜様.....貴方は全てご存知だったか.....」

 

 

彼女は呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは支城陥落に乗り出す数日前の事。

 

 

「支城勢に対して、降伏状を送れと!?」

 

「あぁ、その役をお前にやってほしい。

当然、佐吉には内緒でな。そうすれば、血を流す事なく計画を遂行できるだろう?」

 

「はぁ.....

ですが、あいつは?」

 

「そう。佐吉は今度の戦で武勲を立てようと必死だ。それが不戦勝続きともなれば、奴もいい加減我慢ならなくなる。

そのうちわざと嗾けて挑発し、

無理矢理戦の舞台を作るだろう」

 

「そんな事が!?」

 

「きっとそれが奴の初の大将戦にして、

初の敗退戦となろう」

 

「なっ!?」

 

 

ほとんど予言。

予め知っていたかのような.....

 

 

「精々、佐吉が死なんよう

守ってやってくれ.....」

 

「はぁ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦。佐吉が負ける?

城主が抜け、城代が治める忍城勢。

たかが500騎の小物に.....

2万の兵を持つ佐吉が負ける!?

 

 

「佐吉」

 

「どうしました紀之介?」

 

「君は賢いけど、ズル賢さはない。

それもいい所ではあるけど、

正直過ぎる者は足下を掬われる。

君の賢さは財政で通じても、

戦では通用しないよ?」

 

「..........私が忍城に負けると?」

 

「そっ.....そうは言ってない!」

 

「かもねぇ。本当に負けるかも」

 

「え!?」

 

「でもそれは、

己に慢心した時。

敵を侮った時。

作戦を練らなかった時。

それだけ油断してれば、相手がどれだけ弱くても負けると思う。今まで敗れていった英雄達は皆それが原因。

でも私はそんな愚は行わない!

より周到に作戦を練り、

全力で敵を殲滅する!」

 

「佐吉.....」

 

「紀之介。貴方が裏で何をやってたかはこの際責めないけど、戦では隠し事はなしでね」

 

「.....気付いていたのか?」

 

「うん。隠し事してる時の紀之介って、

口がへの字になるもん」

 

「うっ.....」

 

 

反射的に口を押さえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて。戦はするのも好きだが、

見るのもまた一興。」

 

 

この2つの軍の戦を見物する異端者が.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田原戦線。

 

 

「天竜様。この作戦ですが.....」

 

「どったの高虎?」

 

 

小田原攻めに際し、大将の天竜に作戦を訪ねる高虎。だけれどその返答の声色は思ったより高くて.....

 

 

「朧さん!?」

 

「はろろ〜ん♡」

 

「えっ!?嘘っ!?

天竜様はいずこへ!?」

 

 

大将がいるべき本陣に大将がいないのだ。

 

 

「忍城に遊びに行ったよ?

だから私はその間の影武者♡」

 

「そんな!?

大将が戦線を離れたのですか!?」

 

「戦もまだ序章の序章だしね。

本戦の前には帰るって。

まぁ、忍城も小田原征伐の一種だからいいんじゃないの?

やる時はちゃんとやるだろうし」

 

「でも.....」

 

「..........ねぇ高虎。

貴方はどうして天竜に付いたの?」

 

「え?」

 

「貴方の目的は姫武将制度の廃止。

でも天竜は無類の女好き。例え日本の頂点に立っても、これからも多くの姫武将を雇うでしょうね。

それって矛盾じゃない?」

 

「...........」

 

「貴方が頂点に立てば?」

 

「はぁ!?」

 

「その手伝いならしてあげていいよ?

私が日本を壊すから、

貴方が新日本を作ればいい」

 

「てっ.....天竜様を裏切れと!?」

 

「貴方も天竜には

疑問を持ってるんでしょ?」

 

「...........」

 

「私はいいよ〜。

貴方と一緒でも♡」

 

「朧さんは女色者では?」

 

「だって高虎可愛いもん。

普通の男は嫌いだけど、

高虎は仔犬みたいだし」

 

「むぅ.....」

 

「可愛いって言われるのは嫌い?

意地でも格好いいって言われたいの?

そこもますます可愛いもん♡」

 

「うぅ.....」

 

「いいよ。初めてになってあげても♡」

 

 

朧が高虎に抱きつく。

 

 

「ちょっ!?ここは本陣ですよ!?」

 

「大丈夫よ。人は遠ざけたから♡

.....結界も張ってるしね」

 

「でっ.....でも!!」

 

「私も滾ってるの♡

血と生肉の匂いなんて嗅いだら.....私!

だから戦場は大好き♡

戦場で犯ると最高の絶頂を迎えられるわ」

 

「おっ.....朧さん!」

 

「しよっ。高虎♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜。いるですか?」

 

「ん?」

 

「ひっ!?」

 

「...........」

 

 

なんとも場の悪すぎる十兵衛だ。

 

 

「君は人の交尾を邪魔する趣味

でもあるの?」

 

「天竜〜!!

貴方は浮気だけでは飽き足らず、

男にまで手を出すなんて〜!!!」

 

「ザ〜ンネン。

私は天竜じゃなくて朧ちゃん♡」

 

「だから天竜じゃないですか!!」

 

「いや、分離したんだって.....

おっぱいもちゃんとあるし、

ちん.....」

 

「五月蠅いDEATH!!」

 

 

というかどうやって

結界抜けたんだろ?

 

朧はふと疑問に思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いざ、開戦!!」」

 

 

2人の大将の号令で、

忍城戦が今、始まる。

 




十兵衛が前回と同じ扱いに.....
敵でありながら悪ではない成田長親。
天竜から視点を離したこの物語。
どうでしょう?
参考文献は当然、「のぼうの城」です
次回予告
石田堤
〜戦に必要なのは戦力と戦術と戦略とあとは.....〜


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第四十三話 石田堤

又もや新キャラ登場の予感。
あんまり増やしてもねぇ.....


「「いざ、出陣!!」」

 

 

両大将の号令により、

双方の軍が一斉に動いた。

 

 

「「「うおおぉぉぉ!!!」」」

 

 

正木丹波率いる先魁が、

石田軍に対し、強行をかける。

 

 

「敵は田舎武将だ!

我ら天竜軍鉄砲隊の力を見せてやれ!」

 

 

鉄砲隊長の大吾(久々)が号令をかける。

 

 

「止まるな、進め〜!!」

 

「撃て〜!!!」

 

 

成田軍に向けての一斉掃射。

土煙が巻き上がる。

 

 

「ふん。蜂の巣だな」

 

 

まだ姿は見えないが、

勝利を確信する大吾。

 

 

「だあああぁぁぁぁ!!!」

 

 

何処からか掛け声が聞こえる。

 

 

「どっ.....何処だ!?」

 

「うらあぁっ!!!」

 

 

突如空から落ちてきた武将が、

鉄砲隊に対し、急襲をかける。

 

 

「まっ.....まさか!?

上方へ跳んで弾を避けただと!?」

 

 

ドス黒い鎧に、紅の槍。

 

 

「漆黒の魔人、正木丹ぼあぁ!!」

 

 

丹波の朱槍が大吾の喉元を貫く。

 

 

「隊長ぉ!!」

 

 

急に怯え出す兵達。いくら単独射撃が可能の天竜軍鉄砲隊とはいえ、長年連れ添ってきた隊長が討ち取られたとなれば、大混乱である。

 

その時、成田軍側から馬が大量に出現する。騎手の後ろに射手を乗せて.....

 

 

「ひぃっ!?」

 

 

種子島の銃口が混乱した石田方の鉄砲隊に向けられる。能力は石田方が高いとはいえ、これでは.....

 

 

「撃て〜!!!」

 

 

雨あられの如く

石田方に鉄砲玉が降り注いだ。

 

 

「むっ!?」

 

 

石田方の兵は弾丸が頭部に直撃した者を除き、胴などに直撃した者は怯んでいるものの、大した損傷は与えられていなかった。

 

 

「南蛮服の中に鎧を!?」

 

 

天竜軍は軍服の中に防弾チョッキを着込んでいたのだ。

 

 

「頭だ!頭を狙え!

敵軍は弾丸を弾く鎧を着込んでいる!」

 

 

丹波は既に倒れた敵兵の胴に

槍を突き刺す。

 

 

「ふむ。奇妙な鎧だ。

鉄砲玉は弾くが刃物は通すとは.....」

 

 

戦うと同時に情報分析をする。

 

 

「懐に飛び込めば怖くはない!

刀槍で突き刺せ!!

だが斬っては意味がない!

確実に突き刺すんだ!!」

 

 

防弾チョッキの弱点は刃物。

斬る攻撃には耐えられても、

刺す攻撃には耐えられない。

それを一瞬で見抜いたのだ。

 

これが猛将にして智将、正木丹波。

 

 

「そこの者!

正木丹波守とお見受けする!」

 

 

その時、石田方から声があがる。

 

 

「拙者は、村崎五十郎!

一騎打ちを申したてる!」

 

「いいだろう!」

 

 

丹波は再び馬に乗り、

五十郎と真っ正面に立ちはだかる。

 

 

「ええいやあぁぁぁ!!!」

 

「だあああぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝負は一瞬であった。

素早く繰り出されし丹波の朱槍は、

そのまま五十郎の喉元を貫き、すれ違い様にて五十郎の首を跳ね飛ばした。

 

 

「あれが.....漆黒の魔人か」

 

 

離れた地にて指揮をとっていた

吉継が呟く。

 

 

「退け!態勢を整える!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吉継はまず装備を変更する。

天竜が用意した防弾チョッキはその名の通り対鉄砲対策。織田との決戦の為に越しられたものだ。鉄砲が普及している小田原城なら兎も角、中途半端な忍城では意味をなさない。

ここは従来の甲冑でいくべき。

 

 

「天竜様が別離に用意されていた西洋甲冑を着用させる」

 

 

日本製の部分甲冑ではなく、

西洋製の全身甲冑。

 

弾丸を防ぐ程の耐久性はないが、

刃物はもう通らない。

 

 

「それから雨陰千重洲陀に

銃剣を取り付けさせる。

これで敵の槍に対抗させよう」

 

 

遠距離武器と近距離武器の融合。

天竜の案である。

 

 

「反撃開始だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「石田軍が引き返して来たぞ!」

 

「和泉!交代だ!」

 

「よっしゃ!」

 

 

丹波に代わり、

今度は筋肉質の大柄な姫武将が出てくる。

 

 

「あたしは、成田家最強の武将!

柴崎和泉守なりぃ!

死にたい奴ぁ、前に出やがれ!!」

 

 

その威圧だけで石田軍を怯えさせる。

 

 

「怯むな!

我らは天下の軍、天竜軍であるぞ!

撃つのだ!刺すのだ!

その鎧に敵の槍は通らぬ!」

 

 

フルプレートともなると重さが尋常にないものとなり、移動速度限りなく遅くなる。だが、

 

 

「遅くて構わない!確実に前進せよ!」

 

「ノロマな亀がぁ!」

 

 

和泉の槍が甲冑兵士の鎧を貫く。

 

 

 

 

 

 

 

 

.....かと思われたが、

激しい金属音が鳴っただけで、

和泉の攻撃は防がれる。

 

 

「くっ.....!?」

 

「田舎侍が粋がるな!」

 

 

先頭の兵士が和泉に銃剣先を向ける。

 

 

「柴崎和泉守を舐めるなぁ!!」

 

 

和泉の二撃目が走る。

 

 

「無駄無駄ぁ!!」

 

 

 

ブスッ!

 

 

 

「無.....駄?」

 

 

なんと貫通する。

 

 

「なっ!?

力技だけであの装甲を!?」

 

 

それ以降も、和泉は石田軍の甲冑部隊を物ともせずに貫いてゆく。

 

 

「ありえない.....

我が軍が押されているのか!?

たった500人の集団に!?」

 

 

ピリリリリッ!

 

 

吉継の懐から電子音が聴こえる。

 

 

「えっ.....えぇと.....」

 

 

吉継は慣れない手つきでそれを操作する。

 

 

『もしもし。紀之介?』

 

「もっ.....もしもし?

というか佐吉。

私はこのような機器には疎いのだ。

君と違ってな」

 

『まぁ、慣れだよ。

取り敢えず報告するね。

島を送ったから』

 

「しっ.....島!?

あの男をもう使うのか!?

まだ.....」

 

『もう使わないとだめだよ。

大吾も五十郎も討たれ、

西洋甲冑部隊も効かない。

このままでは我が軍が負ける。

ここで出し惜しんだ所でどうするの?

だからこそここで、

切り札の一つ目を使う』

 

 

その時、向こう側からギリギリという音が聞こえる。三成が携帯電話を握り締めている音だ。

 

 

「...........」

 

『私は言ったはず!

この戦に命をかけてると!

敵軍を全力で倒すと!

手を抜く事こそが無礼な行為である!』

 

「.....分かった。君の好きにしろ。

私は黙って従うよ」

 

 

そう言って電話を切る。

次の瞬間、吉継の視界にある男の姿が写る。

 

 

「島か?」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラッ!どうしたぁ!

この和泉様に敵う者はいねぇのか!」

 

「では拙者がお相手しよう」

 

「あぁん?誰だ手前ぇ!」

 

「島左近勝猛」

 

「知らねぇなぁ!

手前ぇも一突きだ!」

 

 

和泉の槍が突かれる。

 

 

「ふんっ!」

 

 

それに対し、島も槍を突く。

そうして.....

 

 

和泉の攻撃を相殺したのだ。

 

 

「なっ.....!?」

 

「ちっ.....」

 

 

左近の槍は今の一瞬でボロボロになっている。

 

 

「所詮はナマクラか」

 

「へっ.....へへ.....

丹波以外で初めて防がれた.....

何者だ手前ぇ」

 

「お前はまだまだ未熟だな。

怪力だけで戦はできん」

 

「んだとっ!!」

 

 

こんな言葉がある。

「治部少に過ぎたるもの二つあり。

佐和山の城と島の左近」

佐和山城は近江国の城。

元は丹羽長秀の城で、

長秀が抜けた後に天竜が受け取るという予定であったが、その前に織田を抜けてしまった為に諦めざるをえなかった城。

 

そして島左近。

元は筒井順慶の家臣。

三成が三顧の礼をもって勧誘し、

最終的には自身の領土の半分を与えてまでして手に入れた武将。

その力にも知にも長けており、

三成の切り札である。

 

 

「女を斬る気はないが、

我が主の命とあらば!」

 

 

左近は刀を抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「墨炎(すみほむら)」

 

 

 

 

 

 

 

左近の強烈な居合は、

和泉の槍を粉々に砕き、装備していた鎧すらも割る。

 

 

「がぁっ!!?」

 

 

和泉は左近のたった一度の攻撃に

弾き飛ばされる。

 

 

「柴崎様が負傷された!

助けに入るぞ〜!」

 

「「「おおおぉぉぉ〜!!!」」」

 

 

城内から農民達が農具を武器に見たてて飛び出してくる。

 

 

「敵は500騎程度という話だったが、

よもや農兵も参加しているとは.....

情報不足だ。敗戦の元だぞ主よ」

 

 

左近は刀を仕舞う。

 

 

「拙者の仕事は敵の猛将を倒す事。

これ以上の殺傷はあるまい」

 

「まっ.....待て.....」

 

「槍と鎧を砕いただけだ。

傷は無いだろうが、

しばらくは衝撃で動けまい。

名を聞かせろ」

 

「柴崎.....和泉守.....」

 

「分かった。

この島左近に刀を抜かせた者として

その名を称えよう」

 

「くっ.....!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だらしないですねぇお姉さん?」

 

「くっ.....小娘が!」

 

 

城内に戻った和泉は靱負にからかわれていた。

 

 

「まっ、戦は戦術が全てではない事を証明してみせますよ。僕の戦略を持ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵の勢いが止まった!

そら突っ込め〜!」

 

 

先頭の兵の号令を合図に、

石田軍が忍城に攻め込む。

 

 

「酒巻様!なだれ込んで来ます!」

 

「よし!入れてやれ!」

 

 

靱負の命令で忍城の門が開けられる。

 

 

「よっしゃ!

松田籐右衛門一番乗り〜!」

 

 

籐右衛門が忍城に入り込んですぐの事である。足元が急に不安定になり、横転してしまう。

 

 

「あり?」

 

 

それ以降も兵が次々と足をとられ、

横転していく。

籐右衛門は足元に巻かれていた黒々しく、

特殊な臭いの液体を見る。

 

 

「あっ.....油!?」

 

 

そして向こう側、

ある少女がこちらに弓を向けている。

そう.....火矢を構えて。

 

 

「どうです?僕の戦略」

 

「やっ.....やめっ.....」

 

 

矢は射たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカーーーンッ!!!

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

近くで見ていた左近も吉継も、

本陣から眺めていた三成も驚愕する。

 

忍城に先陣部隊が流れ込んだ直後に、

凄まじい爆発音。

そしてキノコ状の火煙。

 

そして、燃え盛りながら忍城から飛び出してくる石田軍の兵達。

 

それが城外の兵達にも恐怖を与える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、別の隊は.....

 

 

「なんだここは?

敵兵が一人もいないぞ!?」

 

 

思えば林に囲まれた溝のような地に入ってしまい、引き返す事も出来なくなっている。

 

 

「構え!」

 

 

靱負の号令で林の影から弓矢や鉄砲を持った兵が大量に出現する。

 

 

「ふっ.....伏兵!?」

 

 

「撃て〜!!!」

 

 

石田軍は為す術もなく、蜂の巣にされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大谷殿。これは撤退した方がいい」

 

「あぁ。これはもう戦にもなっていない」

 

 

左近と吉継の判断で石田軍は退却。

この忍城の戦い、

初戦は石田軍の大敗北となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!くそっ!くそっ!

くそぉ〜!!」

 

 

負けた三成は本陣で怒り狂っていた。

 

 

「私は舐めていたのか!?

驕れていたというのか!?

口で言いながら、

本気になっていなかったのか!?

中途半端な思想だったのか!?」

 

「落ち着け佐吉」

 

「落ち着けられますか!

こんなもの.....後世の笑い者だ!

ふざけるな!ふざけるな!

ふざけるな!ふざけるな!

ふざけるな!ふざけるな!」

 

「佐吉.....」

 

「我が主.....」

 

「ふざけるな!!

私はまだ負けてない!」

 

「いや、一度退くべきだ。

天竜様の本隊と合流し、

再起を図るのが妥当だろう」

 

「否。退く必要はない」

 

「佐吉!」

 

 

三成は正気の目をしていなかった。

 

 

「地形を改めて調査しよう。

 

兵の装備を整えよう。

 

敵の情報を洗い上げよう。

 

新しい戦略を考えよう。

 

そうだ。水攻めをやろう」

 

 

「なっ!?」

 

 

「そうだ。そうだそうだ!!

 

何時ぞやの天竜様のように!

 

あの高松城の水攻めの時のように!

 

私はあんな豪快な戦に憧れていた!

 

あんなに素晴らしく、美しい.....

 

私が憧れ、敬い、想う、彼の方のように!」

 

 

その言葉に左近が反応する。

 

 

「私は負けない!

負けてたまるか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍城。

 

 

「ふぅ.....ふぅ.....ふぅ」

 

 

戦勝の知らせを聞いた長親は、

上座から崩れ落ち、

汗だくの状態で息を切らしていた。

 

 

「何で何もしていないお前がバテてるのだ?」

 

「いやぁ.....大将なんて初めてで、

思ってた以上に.....ふぅ.....緊張した」

 

「ふふっ.....お前らしい」

 

 

丹波も戦場に出ていた時と打って変わって朗らかな表情をしていた。

 

 

「ふぃ〜.....和泉は大丈夫?」

 

「あぁ。槍と鎧を破壊されたが、

身体に大事はない」

 

「よかった〜」

 

 

本当に大将とは思えない。

 

 

「.....死者は何人出た?」

 

 

急に長親が暗い顔をする。

 

 

「戦勝したとはいえ、

死者も多く出た。

成田兵も農兵も.....」

 

「そうか.....これで私は戦争犯罪者だな」

 

「長親.....」

 

「だが私はもう退かん。

百姓らのためにも!

この籠城戦、意地でも乗り切ってみせる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田原。

 

 

「朧さん!風魔です!

風魔衆が本陣近辺に大量に出現しました!」

 

「ふ〜ん」

 

 

高虎が慌てるが、朧は玉座で呑気にジュースをストローでチューチュー飲んでいる。

 

 

「殿っ!」

 

「私は影武者よ。

本物の方からもうすぐ連絡くるから大人しくしてなさい」

 

「しっ.....しかし!」

 

 

その時何者かが本陣に突入する。

 

 

「羽柴秀長覚悟!!」

 

「ふっ.....風魔!?」

 

 

刀を持ち、

朧を刺殺しようと果敢に襲ってくる!

 

 

「ふふっ.....」

 

 

朧が微笑を浮かべたかと思えば、風魔者の真下から急に2つ現れる。同時にその風魔者の両腕を斬り飛ばす。

 

 

「がぁっ!!?」

 

「これが風魔?弱っい〜」

 

「吽斗達の方が強いよね〜」

 

 

それは土遁の術で隠れていた

阿斗と吽斗だった。

 

 

「ご苦労さん」

 

「は?阿斗達は天竜の命令に

従ってるだけだし!」

 

「影武者の分際で調子に

のってほしくないし!」

 

「.....つれないな〜」

 

 

阿吽はあくまで天竜の忍。

 

 

「ただいま〜」

 

 

天竜が戻った。

 

 

「おかえり〜」

 

「あぁ。何か問題は.....

あるみたいだね」

 

 

そこには両腕を失い、大量の血液を噴出させながら悶え苦しむ風魔者がいた。

 

 

「勇気と忠誠心だけでここまで来たのは褒めてあげる。でも.....」

 

 

天竜は風魔者の頭部に拳銃を向ける。

 

 

「相手が悪かったね」

 

 

そのまま風魔者を射殺した。

 

 

「天竜様.....北条方の情報を吐かせた方が良かったのでは?」

 

「無駄だよ。どうせ何も喋らない。

拷問した所で自分で心臓止めちゃうし。

ほっといても失血死だ。

こっちの方が彼の為にもいい」

 

「.....天竜様」

 

「ん?」

 

「一体何処へ行ってらしたのです!?

今は戦時中ですよ!?

指揮官としての責務を放棄して外部で惚けている貴方に、この小田原征伐を仕切る資格があるだろうか!?」

 

 

高虎は純粋な文句を述べ立てる。

 

 

「戯け」

 

「なっ!?」

 

 

天竜はその一言で返した。

 

 

「俺がただ気晴らしに遊びに行ったと思うか?我が家臣であるならば、その先も読め愚か者」

 

 

そう言うと天竜は何やら地図を取り出す。

 

 

「こっ.....これは.....」

 

「この小田原城近辺の情報だ。

罠の位置、地図には載ってない地、

地下空洞の出入口が記してある。

出入口は数あるうちの4つを発見。

隠密起動と協力して手に入れた情報だ。

忍城の視察はもののついでだよ」

 

「..........」

 

「あはは〜!一本取られたね高虎」

 

「朧。あれはお前の命令か?」

 

「何が〜?」

 

「表の串刺しだ!!」

 

 

朧の命令は異質だった。

捕らえたり、殺したりした北条兵や風魔者を長槍の先端に突き刺し、天高く掲げているのだ。小田原城天守閣にいるであろう北条氏康にも見えるように..........

 

 

「これで相手側にも充分に恐怖を与えられるでしょう?串刺しって私好きなの♡

お団子や焼き鳥が美しく美味しいように、

人間串も美しく美味しい♡」

 

「..........」

 

 

天竜は思わず狂気を覚えた。異世界とはいえ、自分自身の姿がこれなのだ。

狂気に満ちた殺人鬼。

血に飢えた魔界人。

 

 

「お前は影武者。大将は俺だ。

勝手な行動は謹んでもらいたい。

まぁ、串刺しは完全な駄案ではない。

俺の視野の中で続けて構わない。

だがそれ以外は俺を通してからにしてもらおう」

 

「ふっ.....」

 

「さてさて。

佐吉ちゃんが頑張ってるんだぁ、

先生も頑張らなくちゃな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決壊せよ!!」

 

 

三成は以前の天竜と同じ言葉を叫ぶ。

堰き止められていた利根川の大量の水が濁流となって忍城に攻め寄せる。

これが水攻め。

兵士だろうが農民だろうが、

男だろうが女だろうが、

大人だろうが子供だろうが、

生物だろうが非生物だろうが、

そこにある全てのものを飲み込む。

それが天下人に許された戦い方。

 

 

「忍城.....浮城と言ったか?水攻めで囲まれて本当に浮くかどうか試してやろう!」

 

 

三成は軍配を振り下ろす。

 

 

「我こそは石田三成。

天竜軍参謀にして、羽柴天竜秀長が側近。

天竜様より忍城征伐を担った

今戦の総大将である!

成田長親よ。

私は貴殿に敬意を払おう。

少数の勢力でよく初戦を勝ち抜いた。

お陰で己の無能さを改めて確認できた。

だが、私は学んだ。

戦に卑怯も何もない。

敵が強者だろうと雑魚だろうと、

全力で争い合うのが戦争だ!

それこそが天竜様の意志。

例え初戦がキリキリで、

貴殿にもう打つ手がなかったとしても、

私は気に留めない。

これは私と貴殿との戦争だ。

どちらかが死ぬか白旗を挙げるまで、

泥試合になろうとも、

私は貴殿と全力で戦争しよう!

石田三成は成田長親と戦争をしよう!」

 

「戦争に酔い痴れると

痛い目を見るぞ佐吉」

 

 

吉継が言う。

 

 

「それは初戦で味わった。

同じ轍は踏まない」

 

「我が主が言うならば、

拙者はそれに従おう」

 

 

左近もまた言う。

 

 

「貴方の忠誠心も大概ですね。

私と貴方で分けた所領も、

織田を抜ける際に無くなってしまったというのに.....

何故今もなお、私に?」

 

「拙者は所領ではなく、

その誠意に惚れたまで。

それと貴方に.....」

 

 

左近は微笑を浮かべる。

 

 

「叶わない想いもまた良し.....

1人善がりもたまには良し」

 

「?」

 

「..........むぅ」

 

 

島左近の想いに気づいている吉継は複雑な表情をする。

 

 

「変な所で君も鈍感だな」

 

「??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍城。

 

 

「お前も可笑しな奴だな」

 

「ん〜?」

 

 

忍城の長親の部屋。

 

 

「女の子の部屋に勝手に入っちゃ駄目だよん甲斐くん?」

 

「うっせ!

俺の部屋は俺の部屋!

お前の部屋も俺の部屋!」

 

「うひ〜」

 

 

これがジャイアニズムである。

 

 

「百姓達全員本丸に入れたんだろ?

お陰で誰も水死しなかったけどよう.....」

 

「うん!良かったねぇ」

 

「廊下汚しちまうのを気にしてた百姓らの為にわざと泥に飛び込んで廊下を泥だらけにしたりよう」

 

「甲斐くんも付き合ってくれたじゃん」

 

「お前が無理矢理引き入れたんじゃねぇか!」

 

 

バシッ!と長親に手刀を食らわす。

 

 

「痛〜い.....」

 

「あのさ.....長親」

 

「ん?」

 

「戦始めた理由って.....俺のためか?」

 

「は?」

 

「羽柴秀長の側室になれって言われた直後に宣戦したんだろ?

それってつまり.....

俺とまだ一緒にいたいからか?」

 

「..........」

 

「お前が良かったらいいんだぜ?

戦に勝った暁には、

俺がお前を貰ってやってもいいぞ!

どうせお前を貰おうなんて物好きは今後一切絶対に現れねぇだろうからな!

そうだろ!?

俺と結婚したいんだよな!?」

 

 

それに対し、

長親は極々笑顔で返答する。

 

 

「んなわけないじゃん」

 

「は?

俺と結婚したいからなんだろ?」

 

「だから違うって」

 

「違う!

俺と結婚したいんだろ!」

 

「だからそんな事無いって!」

 

「絶対か!?」

 

「もちろん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶたれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女の子叩いちゃ駄目だよ甲斐くん」

 

「うるせー!!」

 

 

プンスカしながら部屋を出てゆく甲斐。

 

 

「ふふっ.....

勝ったら結婚。

負けても結婚かぁ。

だから私は甲斐くんとは結婚できないんだ」

 

 

長親は悟る。

 

 

「この戦。

多分勝てない。

 

そして勿論。

負ける事もない。

 

 

最低最悪にして、

最強にして最凶の.....

 

 

 

 

 

 

ドロドロ試合になるね」

 

 

 




題名詐欺でしたね。
水攻めより初戦にピックアップしすぎた。
小田原城と同時進行にしてるしね。
さてさて果たして戦は!?
島左近の内なる想いは!?
次回予告
未来戦争
〜チートを使って何が悪いのだ?〜


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登場人物紹介5

(((o(*゚▽゚*)o)))


羽柴 朧

17歳の外見をしているが、

実年齢は500歳以上。

『天竜』が自我に目覚める3年前より以前の天竜の肉体を支配していた。

平行世界の天竜であり『天竜』とは別人。

以前から『天竜』が女性化していたが、

その身体こそが彼女のものである。

松永久秀の力で『天竜』と分離したが、その後も協力関係を継続した。

天竜軍では『天竜』の影武者という立場をとっている。

性格は非常に意地悪く、

『天竜』以上の残虐思考を持つ。

『天竜』と同等の力を持つが、

長年を生きた慣れからくる

独特の強さを持つ。

ちなみに女色家。

男でもいけないことはないが、

信澄や高虎などの美少年に限るらしい。

 

 

 

蒲生氏郷

キリシタン。洗礼名はレオン。

信奈の義妹である。

「天竜の息子の拾を人質にし、彼の持つ力を奪え」というガスパール・カブラルの命令を実行した。

あくまで神に与えられた使命と認識しており、宣教師の言う事は絶対であると信じきっている。

信奈をキリシタンにしようと目論んでおり、そのために数人の宣教師を安土城に引き入れ、黒人奴隷を護衛として付けさせている。

だがその実態は、彼女は宣教師のただのパシリであり、捨て駒。宣教師らにいいように扱われている存在でもある。

 

 

 

藤堂高虎

16歳。美少年。

元は浅井長政の家臣で、

その後は津田信澄の家臣になる。

だが、彼自身は反信奈派である。

姉にいいように使われている信澄にははなから忠誠心などなく、上手い具合に利用できないかと探っていた。

天竜が左遷されて来たのをきっかけに、

彼に仕える事を決意する。

姫武将制度を廃止させるという野望を持っている。これは一見、男尊女卑の思想とも取れるが、実際の所彼自身、女性に死なれる事を嫌い、戦で命を落とすのは男だけで構わないという慈悲の心から来ているものである。

女性の大切さを理解している男を天下人にする為にも天竜を選ぶ必要性があった。

天竜軍においては三成と並ぶ参謀の地位。

三成が財政専門なら、高虎は戦争専門。

だが、天竜自身が戦略家の為にあまり役立てず、家臣になったものの、彼とも馬が合わない為、同族嫌悪なのか、気持ちに揺らぎが見え始めている。

そんな中、朧に声をかけられ、むしろ彼女に近づくようになり、密かに片想いしている。

 

 

 

万見仙千代重元

元風魔衆。17歳の美少女。

以前、近衛前久の間者として織田に入り、信奈を隔離し、中から織田軍を引き裂こうとしていたが、松永久秀と蜂須賀五右衛門に阻止され、その場で自害。身体は久秀に受け継がれた。その際に密かに関わっていた天竜の策略により、1年近く経過してから再び分離。その命は天竜に握られる事となる。

小田原征伐においてのみ天竜軍隠密起動隊に入隊し、風魔側の情報を天竜に流している。

元は8代目風魔小太郎の娘である。

父を殺し、己を追い出した9代目を倒し、10代目になろうと野望をちらつかせている。

通称「風魔の女郎蜘蛛」

鋭利な鋼鉄の糸を操り、それで敵を巻き取り、バラバラに切り裂く技を持っている。

久秀に憑かれていた間、何度か天竜に抱かれていた為、今もなお求めてくる天竜に戸惑いを見せている。

 

 

 

真柄直竜

17歳?赤紫色と碧色のメッシュな髪型。

姉川の合戦で瀕死の重傷を負った真柄直純、直隆姉妹が久秀によって回収され、繋ぎ合わせる事により生まれ変わった、新たなる姫武将。

言うなれば、フュージョン。

(だがもう分離はしないのでポタラ?)

融合の影響なのか知能が低下しており、

当初は義景を殺した天竜を恨んでいたが、その後すんなり目標を信奈に置き換えている。

まぁ、お馬鹿なのを上手い具合に天竜に利用されているのだ。

 

 

 

成田長親

18歳。大柄な美少女。

成田家城代。

大きな身体に似合わず、

武芸がなければ勉学も苦手。

農業の手伝いすらできない、

でくのぼうなお姫様。通称「のぼう姫」

だが人望は異常に厚く、彼女の宣戦を聞きつけた百姓が3000人も賛同した。

弱小であった忍城をまとめあげた彼女を、ある者は「大将の器がある」と称賛する。

 

 

 

正木丹波守利英

18歳。クールビューティー。

長親の幼馴染で姉代わり。成田家家老で、あちこちで何かやらかす長親の問題処理に日々を負われていたが、大将の目になった長親に着いていく事を決心する。

智将にして猛将。

黒き甲冑に紅の槍を持ち、

「漆黒の魔人」と称され、

それまでも数々の合戦で名を残してきた。

今の所、彼女を倒せる武将は

現れていない。

 

 

 

柴崎和泉守

20歳。筋肉質な姫武将。

家老で、忍城勢では丹波に継ぐ強さである。いつも丹波の持つ朱槍を狙っている。

勝家と同じく脳筋。

柴田と柴崎.....

何か因果があるかもしれん.....

忍城勢では珍しく既婚者であり、

年下の優男を夫にとっている。

 

 

 

酒巻靱負

15歳。忍城勢では若々しい部類。

武芸はあまり得意ではないが、

頭が城内ではだいぶ良く、丹波に並ぶ。

逆に脳筋の和泉をいつもからかっている。

一人称は「僕」。でもちゃんと女の子。

自称「毘沙門天の化身」だが、

今回が初陣である。

実は成田甲斐に片想いしており、

彼の想い人の長親に嫉妬している。

 

 

 

成田甲斐

12歳。可愛いが男だ。

成田氏長の弟。

だが彼は姉より従姉妹の長親に懐く。

実は片想いしている。

少々自信過剰な所があり、

思い通りにならないと暴力に出る性質。

実は以前、そこそこ地位の持っていた強姦魔を斬った過去あり、それが所以で彼の立場が危うくなったが、それを諌めたのが長親である。

そこから彼女に恋をするようになる。

まだ幼少なため、

忍城戦には参加していない。

 

 

 

成田氏長

17歳。年の割りにチビ。

忍城の城主。

石田方が出した降伏状に積極的に参加した人物。お陰で周りから腰抜け扱いされる。

ところが、城代が宣戦布告してしまったので、天竜軍側からは裏切り者として非難される。氏康に降伏の件がバレると打ち首になるので、小田原城内で肩身の狭い思いをしている。

 

 

 

風魔小太郎

性別不明。年齢不明。

全てが謎に包まれた怪人。

分かっているのは異常な強さと知能。

8代目を惨殺し、その地位を手に入れる。

天竜に何かしらの興味を示している。

 

 

 

森蘭丸

25歳。正体は森水青蘭。

天竜の姉である。

既に死亡した森可成に無理矢理養子入りすることで森姓になる。

信奈の小姓になったが、真意は不明。




☆〜(ゝ。∂)


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第四十四話 未来戦争

天竜と小太郎


それは合戦前夜。

 

 

「じゅっ.....十兵衛!?」

 

 

天竜の部屋を訪れた十兵衛は天竜を思わず驚愕させてしまう。

 

 

「これで文句はないはずです!」

 

「何もそこまで.....」

 

 

十兵衛は従来の着物ではなく、

天竜が与えた軍服を着用していた。

それだけでなく.....

 

 

 

 

髪を短めに揃えていたのだ。

 

 

 

 

 

「これが私の覚悟です!」

 

 

信奈と天竜の間で中立の立場を取っていた彼女はついに覚悟を決めて、天竜に味方する事を決意したのだ。

 

 

「そんな.....そんなに切っちゃったら、

ただでさえだだっ広いおでこがさらに目立ってしまうじゃないか!?」

 

「うっ.....うるさいです!

気にしてるのに.....

天竜の軍は皆が皆髪を短くしてしまっているので、髪が長いと逆に目立つんです!!」

 

「............ふくくくくくく.....

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「なっ.....何が可笑しいですか!?

私は貴方のために.....」

 

 

言いきる前に天竜は十兵衛に抱きつく。

 

 

「!!?」

 

「ありがとう。本当に嬉しい」

 

 

天竜は思わずショートヘアの十兵衛を見て、思わず前妻の光を思い出す。

 

 

「キス.....接吻してもいいかな」

 

「ん.....」

 

 

2人は口付けを交わす。

もう何度目のキスだろうか。

 

 

「俺は多分こんな言葉吐くべきではない。言う資格がない。多くの人を殺め、多くの家臣を駒として扱い、多くの女性を道具として扱ってきた俺には.....

でも俺は言いたい!

 

『君を愛している』と!」

 

 

その言葉に十兵衛は感銘を受ける。

そしてその瞳からは涙が.....

 

 

「貴方に会えて.....本当に良かった」

 

「俺もだ。

全てが終わった暁には.....

俺と結婚してくれ。

俺の1番になってくれ」

 

「はい」

 

 

初めて十兵衛が求婚に応じてくれた。

 

 

「では、2番目以下とは縁を切れますね?」

 

「............................................................................................................................................................................................................................................................................................................................................................愛人じゃダメ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はたかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛った〜.....」

 

「本当に貴方らしいですね!

その女癖の悪さは異常ですよ!

いつからそんな風になってしまったですか!純真無垢だった頃の貴方に会ってみたいですよ!!」

 

「君も相変わらずだ。会いたいなら14歳以前の俺に会ってくるといい」

 

「はぁ!?

14の時に何かあったですか?」

 

「ちょっとな.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

状況は整った。

表の合戦.....

ただの城攻めは、武田や徳川、織田に任せておけばいい。水路からは九鬼と毛利の連合水軍。

北条も里見家なんかと仮同盟を結んで、港の守りを固めていたようだが、所詮は即席の同盟。上手い具合に連携を取ることができずに、港は連合水軍に制圧されつつある。

この分なら放っておいても良いだろう。

多くの者は表の合戦に釘付けになる。

 

 

「その間に我々は裏の合戦を行う」

 

 

特別に兵力など必要ない。

極々少数にて行動し、迅速に終結させる。

 

 

「隠密起動部隊よ.....

隊長、石川五右衛門!」

 

「はっ!」

 

「副長、阿斗!吽斗!」

 

「あ〜い」「にゃ〜い」

 

「臨時隊員、万見仙千代!」

 

「..........」

 

「諸君らには長らく待たせた。

いつもいつも潜入や間者ばかり。

恐らく実力を発揮しきれない事に不満を持つ者も少なくはなかろう。

諸君らは影の存在。

俺、羽柴天竜の影だ!

だがその100人に満たない少数勢力が北条方数万の兵を根絶やしにする功績を見せる事となる影となるのだ!

その影としての力を存分に発揮せよ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隠密隊は各々に散ってゆく。本陣にて構える天竜は不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「時は来たり」

 

 

天竜の前の机にはある物が

一つ置かれていた。天竜はそれ手に取る。

 

 

「鶯隊、丑の方向へ前進」

 

『了解』

 

 

天竜はそれを別の物に持ち替える。

 

 

「斑目隊、その場で待機」

 

『了解』

 

「木更津隊、午の方向に45度で構え」

 

『目標は杉の木ですが?』

 

「恐らくそこに伏兵がいる。

他の隊からの報告からだ。」

 

『はっ』

 

「撃て」

 

 

遠くの方で鉄砲の爆音が聞こえる。

 

 

「ふっくくくくくく..........」

 

 

天竜が持っていたのは無線機だった。

 

従来までの合戦で最も未発達だったのが情報伝達。合戦の状況はその度に変動する。戦略の変更などをいちいち使い番や忍に伝えてでは、タイムラグが発生し、子みろ未泥となるだろう。狼煙などでそれを解消する事もあるが、それでも詳しい状況は伝えにくい。未来にはそんな面倒な事はない。何故なら通信機があるからだ。

有線機と無線機。

この場合は無線機が有効的。

極々短時間にて詳しい情報を多数に向けて発信する事が可能となる。

 

 

『天竜様、小田原城下南西部にて地下通路の入り口を発見しました』

 

「よし神亀隊は穴に入れ、ただし長縄を持って入れ。中で迷わないようにな」

 

『了解』

 

 

天竜は複数の無線情報を一つの頭で理解し、的確な情報で返している。

人間技ではない。

 

 

「鮫島隊、そこの状況を伝えよ」

 

『はっ.....人気はないようです。

大きめな岩があちこちにあるだけで.....」

 

「ん?そこにはそんなものは無いはずだ.....

その岩は偽物の可能性がある。

岩に向かって撃て」

 

『了解。

......................あっ、敵が隠れていました!』

 

「やはりな。

よし、そのまま岩を撃ってゆけ。

それ以外に樹木や地面に擬態している可能性もある。疑わしきは全てやれ」

 

『はっ!』

 

 

その時、高虎が話しかけてくる。

 

 

「天竜様、ここの近くに本陣に百姓が迷い込んできましたが.....」

 

「殺せ」

 

「なっ!?」

 

「この状況下で本陣に近付いてくる奴など怪し過ぎる。恐らく風魔だろう」

 

「ですが.....」

 

「我が家臣なら言われる前に察せよ!」

 

「そっ.....そんな!?」

 

 

高虎の反応に痺れを切らした天竜はその百姓とやらがいる場所に一直線に向かう。

 

 

「へっ?」

 

「ふんっ」

 

 

天竜は有無を言わずに拳銃で百姓を射殺する。

 

 

「「「!?」」」

 

 

状況の分からない周りの家臣らは困惑する。そんな中、天竜は百姓の上着をひっぺがえして見せる。

 

 

「見ろ。鎖かたびらだ。

こいつは百姓に化けた風魔。

混乱に乗じて俺を討ち取る算段だったか?」

 

「............」

 

 

高虎は驚愕する。天竜は一体!?

 

 

「高虎。お前は十兵衛らの隊へ行け」

 

「え!?」

 

「お前の実力は表の合戦でこそ役に立つ。

俺の隊ではそれが発揮しきれていない」

 

「そんな!?

私が役立たずであると!?」

 

「そう言っている。

私は私でこちらを取り扱ってゆく。

お前は兵を1万程連れて十兵衛を支援しろ」

 

「............」

 

「まぁまぁ。

私も着いて行ってあげるよん?」

 

 

朧が現れる。

 

 

「お前に本陣を離れられるわけにはいかない。何を仕出かすか分かったもんじゃないからなぁ」

 

「あらぁ!

貴方が私に指図するって言うんだぁ?」

 

「ちっ.....」

 

 

奴の実力は未知数。

恨みを買うのは上策じゃないか.....

 

 

「好きにしろ」

 

「そっか!行こ高虎♡」

 

「えっ.....えぇ」

 

「ちっ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田原城。

 

 

「どうゆうこと!?」

 

 

氏康には怒りが蓄積されていた。

風魔衆によって展開した敵本陣の急襲戦がことごとく失敗しているのだ。

 

 

「恐らく敵は特殊な情報伝達手段を用いている。それと万見仙千代から得た情報を元に地形をよく調べ上げ、確実にこちら側の攻撃を迎撃している。地下通路の入り口も複数箇所見つかっております」

 

「ぐぐぐ.....表の織田や徳川、武田の軍勢を相手にするのですら苦戦しているというのに.....」

 

「万見仙千代を生かしておいたのは失態でした。あの時に殺しておけばよかった」

 

「彼女は8代目の娘。こちらの情報を多く持った危険人物よ。敵になればこちらが追い込まれるのは分かっていたはず、慢心した私の責任よ」

 

 

天守閣にて構える氏康と小太郎。

 

 

「姫様、私に羽柴天竜と戦闘をする全権を頂けまするか?」

 

「えぇ。私も表の方に集中したいし、そっちは貴方に任せるわ」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風魔はとある配置に着く。

 

 

「壱番隊、前へ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

天竜もまた.....

 

 

「翡翠隊、子の方向へ歩を進めよ!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「肆番隊、そこに伏せなさい」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「翡翠隊止まれ!!

そこに伏兵がいる!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「かからない?

.....淕番隊、弍番隊と合流し、

敵の追撃に備えなさい」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

『ぐああぁぁぁ!!!』

 

「班目隊!!..........くそっ!

鶯隊は班目隊の補強へ廻れ!

墨川隊は寅の方向へ斉射!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「なるほど鉄砲を.....

弾道を読み、射撃手を居場所を突き止めなさい。懐に飛び込めば鉄砲などただの鉄棒」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「墨川隊が全滅しただと!?」

 

『はっ!さらに風魔は墨川隊の鉄砲を鹵獲して使用している模様!』

 

「くっ.....!!

極楽隊!!援軍として向かえ!」

 

『はっ!

..........!?.....何だここは!?

ぐああぁぁぁ!!!』

 

「!?.....一体どうしたのだ!?

他の隊!状況を説明せよ!」

 

『何てことだ!?

ここは爆弾で囲まれて.....

ガガガッ!!ピーッ!ピーッ!』

 

「翡翠隊もやられた!?

嘘だろ!?.....まさか!?」

 

「羽柴天竜!!」

 

 

その時、天竜の元に仙千代が戻ってくる。

 

 

「全軍総崩れだ!

一度起動隊を戻した方がいい!!」

 

「仙千代.....これはまさか.....」

 

「あぁ.....風魔小太郎が出てきた」

 

「これが.....風魔小太郎?」

 

「うむ。武田や上杉と敵対した際も奴はこのやり方で.....」

 

 

そう、実際に対峙して思った事.....

それは奴の戦い方が俺の戦い方によく似ているという事だ。その上で俺は押されている.....

 

 

『こちら米夜隊!

我らの隊を突破し、本陣に風魔が!』

 

「くっ.....!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、各地全ての無線機に声が聞こえる。

 

 

『全軍!停止せよ!

........................よく聞け。

 

敵もまた無線機の使用が見受けられる!

条件は我々と風魔で平等になった!

もう有利である点はない!

慢心は控えよ!

情報は正確に伝達せよ!

 

風魔小太郎は.....

 

 

 

未来人だ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ねぇぇぇ!!!」

 

 

本陣に風魔が入り込んでくる。

 

 

「切り裂け!!」

 

 

その時、仙千代の鋼の糸が唸り、その風魔者を真っ二つにする。

 

 

「「「死ねっ!!!」」」

 

 

又もや風魔がくる。

 

 

「皐月!!」

 

 

高速の剣撃にて風魔者の頭蓋を割る。

 

 

「くっ.....!切りが無い!!

羽柴天竜!援軍はいつ到着する!?」

 

「もうすぐ凪の隊が来る!

それまで持ちこたえろ!」

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた。勘解由小路天竜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「つっ.....!?」

 

 

風魔小太郎見参。

 

 

「羽柴天竜下がれ!ここは私が!」

 

「よせ仙千代!!」

 

 

小太郎は懐から複数本の刃物を取り出し、

仙千代に向かって放つ。

 

 

「くっ.....!?」

 

 

鋼の糸を器用に操り、刃物を弾く仙千代。

 

 

「遅いな」

 

 

だが、気づいた時には視線の下方で小太郎が刀を構えている。

 

 

「なっ.....!?」

 

「死ねっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金属同士がぶつかり合う音が響く。

 

 

「殺らせるかよ」

 

 

小太郎の剣技を天竜が抑えていた。

 

 

「羽柴.....天竜」

 

「こいつぁ、俺が弾正から預かった女だ!

仙千代を不幸にさせれば俺と弾正との間の約定が破棄された事になる!そんな事あってならない!

俺は意地でも仙千代を守ってやる!」

 

「.......!」

 

「んでもってこいつは、俺がこれからゆっくりと調教してやろうと思っているじゃじゃ馬だ!俺に惚れ込む前に死なせるかよ!!」

 

「なっ.....!?」

 

 

天竜節が炸裂する。

 

 

「ふっくくくくくく.....

やはり貴方は面白い」

 

「!?」

 

 

小太郎が覆面の下で笑っている?

 

 

「気色悪いんだよお前!

俺の前で素顔を隠していいのは、

姫巫女様と紀之介だけだ!!」

 

 

 

 

「如月!!!」

 

 

 

天竜の放った剣撃は小太郎の刀を粉々に粉砕した。

 

 

「ぐっ.....」

 

 

「文月!!!」

 

 

目にも留まらぬ一閃が小太郎が目掛けて発射される。刀は一直線に小太郎の心臓部を突き刺す。

 

 

「あぐぅあ!!?」

 

「やった!?」

 

 

仙千代が歓喜する。

因縁の宿敵が、父の仇が.....

 

 

「ふぅ.....ふぅ.....ふぅ.....」

 

「勝利を確信するにはまだ早すぎるのではないか万見仙千代!」

 

「!?」

 

 

心臓を刺されたはずの小太郎が胸に刀を刺した状態で再び覆面の下で笑みを浮かべている。

 

 

「お前は化物か?」

 

「そうですが何か?」

 

「ちっ.....

お前は未来人だな?」

 

「否定はしませんよ」

 

「誰だお前は!

俺の知ってる奴か!?

俺を恨んでいる奴か!?」

 

「いいえ?

確かに私と貴方は知り合いですが、

恨んではいません」

 

「なら何故!?」

 

「楽しいからですよ」

 

「なっ!?」

 

「戦争とは素晴らしい!

殺人が許可された状況!!

公然と血肉を啜れる環境!

殺した数だけ称えられる世界!

それを味わいたいが為に、

私はこの世界に来た!!」

 

「くっ.....外道が!」

 

 

こいつは朧とよく似ている。

 

 

「ですが興ざめしました。

私は一度城に戻ろう。

改めて私の血を存分に熱くして貰いたい」

 

「くっ.....!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小太郎が去って1分も経たないうちに凪の隊が到着する。

 

 

「申し訳ありません!遅くなりもうした!」

 

「凪、命令だ。

戦略を大きく変える」

 

「は!?」

 

「まず一つ。

本陣を進軍させる。

小田原城のすぐ真正面にな」

 

「なっ!?

死ぬ気ですか!?

そんな事したら.....」

 

 

 

 

 

「大将が命を賭けずに、

何故家臣に死ねと言えるか!!」

 

 

 

 

 

「!?」

 

「ふと思った事だ。

そんな幾つもの地下通路の入り口を作ってしまっては.....

例え中で迷ってしまってもいつかは城内への入り口を見つけてしまうかもしれない。もし正確な道順を突き止められれば、誰でもかれでも入り込み放題になる。

だが、未だかつて小田原城内に忍を送り込めた者は1人もいない。

 

そうなれば答えは単純。

 

地下通路は城に繋がっていない」

 

「なっ!?そんなはずは.....」

 

 

仙千代が否定する。

 

 

「お前が抜けた直後にそう直されたのだろう。それをきっかけに小田原城は本物の難攻不落となった」

 

「............」

 

「現状にて見つかっている地下通路入り口は8つ。残った勢力を集結させよ!」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田原城天守閣。

 

 

「うふふ。

連合軍は未だに表の合戦で右往左往。

羽柴軍は風魔と激突して中枢部が壊滅している。もうちょこまかとやって来る事はない。羽柴秀長を討ち取れるのも時間の問題!

 

さ〜て!羽柴秀長がどんな吠え面をかいているかを見てみま.....」

 

 

南蛮の望遠鏡で羽柴軍を眺めた

氏康は驚愕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そらそら!もっと掲げろ!!」

 

 

軍を率いていた武蔵は生き生きしていた。

彼女は掲げていたのは軍旗。

その軍旗の模様は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く.....武蔵には困ったものだ。

北条を焚きつけろとは言ったが、

よもやあんな方法を取るとは.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「洗濯板.....?」

 

 

氏康は望遠鏡を覗きながら

プルプルと震えていた。

 

 

「おのれ.....おのれ.....」

 

 

軍旗には洗濯板の絵が描かれていた。

それと.....

 

 

「!!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

桃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青い痣模様の入った桃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはまさに氏康の臀部を示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うううううおおおおおののののれれれえええぇぇぇいいいいい!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全軍に命じる!

現在、地下通路入り口に向かって行った調査隊との通信が途絶えてしまっている。持った行かせた縄もするりと抜けてしまった。

恐らく彼らはもう生きてはいない。

 

穴に火を放ち、穴を塞げ!

 

中にいるゴキブリ共を

炊き出してやるのだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、各地で煙が上がる。

 

 

「一酸化炭素中毒で穴の中の風魔衆は全滅。我が隊にも生き残りがいるかもしれないが、この際しょうがない.....許せ。

煙が上がっているのは、まだ見つかっていない穴だ。これでよし」

 

 

進軍中の本陣にて天竜が微笑む。

 

 

「天竜様!風魔衆が!!」

 

「来たか.....

本陣を四方に展開!

後退しつつ、敵を中央に追い込め!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「敢えて敵の戦略に乗り、中央へ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「どうせ敵にもバレている。

同時ではなく、

左陣から時計回りに時差を開けながら突き進め。敵軍を翻弄させるのだ!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「むしろ正面から来たか.....

ではこちらは、

右陣を逆時計回りに展開せよ。

同じ忍者衆ではあっても烏合の衆である奴らと違い、我ら風魔は統率の取れた軍集団である!

この状況下において優勢であるのは何れにしても我らに勝利は変わらない!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「罹った!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に素晴らしいな

未来の技術とやらは.....」

 

 

煙が充満した地下通路内において、

凪の部隊はガスマスクを着用して突き進んでいた。

 

 

「防毒面.....

これ無しでは皆窒息死だな」

 

「だよね〜お姉さん」

 

「でもこの防毒面格好悪いよね。

『火傷ちゃん』みたいな仮面だったら格好良かったのにねぇ」

 

「こらっ!

吉継殿をそのような呼び方で呼ぶな!

あの方も好きで火傷されたのではない!」

 

「は〜い」

 

 

隠密において上方にいる3人。年の差から、双子から凪はお姉さんと呼ばれている。

 

 

「それから私の事は『お姉様』と呼べ」

 

「「は〜い」」

 

 

凪もなかなか変な奴だった。

 

 

「ええと.....

これ.....ダイナ.....

ダイナなんとかでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ。『ダイナマイト』だ。

焙烙玉なんかよりずっと性能のいい、

破壊力に特化した爆弾。

やはりあの方は素晴らしい!」

 

「.....ねぇ、お姉様?」

 

「なんだ?」

 

「どうして天竜にそうも付き従うの?」

 

「だよね〜。

忠義なんて今時古いでしょ?」

 

「なっ!?お前達もあの人に命を助けられた恩があるのだろう!?」

 

「ん〜でもね〜。

命の恩人って印象は持てないんだよ。

天竜には.....」

 

「そうそう。

天竜は恩人でも、主君でもなく.....」

 

 

 

 

 

 

 

「「面白い奴!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『天竜様、ダイナマイトの設置が終了致し、地下通路から脱出しました』

 

「そうか。ご苦労だ。

他の者もそこから見ていろ。

これが『浄火』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆散。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田原城天守閣。

 

 

「なっ!?」

 

 

自分の身体が急に軽くなった気がした。突然自分の身体が浮いたような感じだった。

 

 

「姫様!!」

 

 

覆面の上からでも分かる、

慌てた表情で駆け寄ってくる。

 

 

「小田原がっ!!落ちます!!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」

 

 

天竜はまた何時ものように

高笑いを上げる。

 

その凶悪な面相を浮かべながら.....

 

 

「小田原城は文字通り落ちた!

 

俺が!私が!僕が!

 

初めて小田原城を落とした武将なり!

 

俺が最強の武将なり!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田原城はグチャグチャに粉砕していた。

城の下部から崩れ落ち、

倒壊したビルのように.....

 

 

表の合戦で戦っていた連合軍も、

必死に居城を守ろうとしていた北条軍も、

遠くの丘で様子を見ていた武田軍も、

 

皆が皆、驚愕する。

 

 

 

 

 

 

 

小田原城は壊滅した。

 




4人目の未来人、風魔小太郎。
その正体はいかに!?
次回予告
成田長親
〜大将の器〜


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第四十五話 成田長親

お客様は神様だと?
神は死んだ!!


小田原城。

天竜の策略により、小田原城は文字通り落城した。城の半数以上が壊滅し、まだ形を残しているのは天守閣程度であった。

 

 

「ふっくくくくく.....

小田原城程の巨城を支え、

その下には膨大に広がっている地下通路。

そんな状態では当然、城を支える地盤は緩くなっているはず。そんな薄くなった地盤をダイナマイト程の爆薬で破壊してやれば、あとは流れだ。

俺の計算通りの位置で爆破し、小田原城を支える地盤を破壊。そうなると、莫大な重量を持つ小田原城は地下へと吸い込まれてゆく。この衝撃で小田原城下の石垣は破壊される。

小田原城といえど材質は木だ。下部にそんな衝撃が加われば、上部にも連鎖的に負担がかかり、崩壊してゆく。城がそんな具合にグチャグチャになれば、当然城内の兵も全滅。

生き残れるのは精々天守閣にいるであろう氏康ぐらい.....

 

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

小田原城天守閣。

 

 

「痛っつつ.....一体何が?」

 

 

天守閣内部もまた、壁も床も天井もボロボロになり、以前まで姿は全く残っていなかった。本来の高さから数メートルも下に落とされたのだ。

蛙のようにべチャリと潰されなかったのが奇跡のようだ。

いや?.....これも天竜の計算か?

 

 

「姫様.....御家族は風魔が全力で保護した為、なんとか命を取り留めましたが.....

それ以外の兵は.....」

 

「死んだの?

城内にも数万といたのに!?」

 

「ほぼ全滅です。

生存者もいるかもしれませんが、

恐らく戦える状態ではないでしょう」

 

「うっ.....嘘よ!!

お爺様から受け継ぎしこの城が!!」

 

「そうか!

奴は本陣を.....自らを囮にして視線をあちらに向けさせ続けたのか!?

なんて奴だ!

戦争を掌で自由操っている!?」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ふっくくくくく.....

予想程綺麗には壊れなかったな。こちらにも少々の被害が出てしまっている。

やはり理数系は苦手だな。

これは物理の教科かな?

ふっくくくくく.....」

 

 

天竜は拡声器を召喚し、声を上げる。

 

 

『生きているか北条氏康!!

小田原城が崩壊した今!

貴様に勝利は無くなった!!

直ちに降伏せよ!!』

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ぐぐぐぐ.....

兄ザルがいい気になって!

構うことはない!

残存勢力を全て攻め込ませなさい!

刺し違えてでも羽柴秀長を討て!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍城。

石田三成の水攻めにより、本丸のみがボツんと湖にある浮城となっていた。

 

 

「これは.....」

 

「なんて事だ!」

 

「............」

 

 

石田方より一艘の小舟が流れ着く。

そこには百姓が3人程乗っていた。

 

 

「これが.....これが石田方のやり方か!」

 

「さっきはあんなに元気だったのに.....」

 

 

長親は乗員のうちの1人の、

小さな童子を抱き上げる。

 

 

「お〜よちよち」

 

「くっそ!!

こんな子供にまで手を出すなんて!」

 

 

和泉が叫び、床を殴る。

 

 

「長親。こいつらはお前が?」

 

 

丹波が問う。

 

 

「うん。降伏したいって言うから少しの銭を与えて逃がしてやったんだ」

 

「くっ.....その銭とやらは持ってないようだ。銭欲しさに石田方の兵の手に.....」

 

 

3人は夫婦と童の親子だった。先程までは共に忍城軍として共闘していたが、今は変わり果てた姿になってしまった。

童ですら殺された.....

 

 

「よちよち.....丹波。

この子.....さっきまであんなに泣いてて、

抱こうとすると凄く暴れてたのに.....

今はすっごく大人しい。

まるで眠ってるみたいだ」

 

「くっ.....!」

 

「玩具が好きそうだったから.....

そのうち、でんでん太鼓でもくれてやろうと思ってたのに.....何でかな」

 

 

長親は涙を流さなかった。

その代わりに内心にある覚悟を生む。

 

 

 

 

 

 

「丹波.....水攻めを破るぞ」

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の石田三成。

 

 

「佐吉。兵が堕落しているぞ」

 

「ですね」

 

 

石田軍は、水攻めが成功し後は忍城勢が降伏するのを待つだけとなっている。数日間やる事がなくなり、暇を持て余していた。

中には勝手に酒や肉を食い、

三成の見えない所で好き勝手やっているのだ。一部では盗みや強姦などもやらかしている者まで.....

 

 

「我らの軍の半数は武田や徳川などから借りた兵力だ。統一された天竜軍と違い、金でしか動かないゴロツキ共まで混じっている。

忠誠でついて来ている兵が殆どいない。

それでは一人前の大将とは言えない」

 

「分かっています!でもそれは忍城が中々降伏しないのが悪い!高松城の水攻めは既に全国的に広がっている!水攻めの恐ろしさは分かっているはずです!

なのに何故落ちない!?」

 

「百姓まで兵として従っている連中だ。

成田長親の意志が絶対なのだろう。

戦況の優劣に関わらず、

大将としてはあちらが上に見える」

 

「貴方はどっちの味方なんですか!」

 

「ただ第三者の立場からの見解だ。

だが、このままでは忍城勢は疲弊するばかり、優れた大将は退き際も知っているはず。

このまま不能の大将となるか、それとも.....」

 

 

その時、兵が駆け込む。

 

 

「報告します!

忍城から一艘の小舟が!」

 

「「?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍城から現れた小舟は、

乗員実に2名。

石田方の真正面まで移動してくる。

 

石田軍の兵も何だ何だとそれを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お集まりの皆様!

忍城勢も石田方も!

こうも水攻め続きで退屈でしょう!

何となれば、私の十八番!

『田楽踊り』にて、

この場を盛り上げてしんぜよう!」

 

 

船の上に乗った大柄な女性がそう言う。

船漕ぎの男はビクビクと怯えていた。

 

 

 

 

「何だあれは?」

 

 

三成もまたそれが気になる。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「♪ 酒は元薬なり 世はまた人の情けなり 浮世を忘るるも ひとへに酒の徳とかや 」

 

 

扇を用い、敵前で踊り出す女。

 

 

「♪ ゆんべは酒を飲みすぎて、

わしゃぁ、一寝に寝ションベン、

かかぁに隠れてほそうとしたら、

西のおサルが大放尿!

おっとっと〜。おっとっと〜。

おっととっ。とっとっととと〜」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ぷっ.....何なのですかあれは?」

 

 

三成も思わず吹き出してしまう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「♫水でお城が責められて、

月がお城の下にでた!

月のお皿に白粉といて、

みず白粉で、どう白い?

がってかぁ!がってんじゃあ!

がってんがってんがってんじゃあ!」

 

 

身体の大柄の女子が、

全身を使って田楽踊りをする。

始めはバカバカしく思えたそれも、

次第に面白く、

時に美しく感じてしまう。

 

 

「♪どう白いといったって、

あんたが好きにゃあ、

お前に惚れた。

あんたが好きじゃ、

お前に惚れた。

今宵ふたりで大放尿!

今宵ふたりで大放尿!

れろれろれろやぁ〜!

ひょろろんひょろろん!

れろれろれろやぁ〜!

ひょろろんひょろろん!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

観客となっていた忍城勢だけでなく、

石田軍の者らまで楽しそうに観る。

 

 

「あっはっはっはっはっはっは!!

『我らは水攻めなどヘッチャラだ』

とでも主張したいのか!

面白い!

誰か、彼女が何者なのか、そこらの百姓を捕まえて聞いてきて下さい」

 

「はっ!」

 

 

近くの兵に命じる。

 

 

「その必要はないぞ石田殿」

 

 

だがそれをある男が遮る。

軍使役だった長束正家だった。

 

 

「どうゆうことですか?

あの女性を貴方はご存知で?」

 

 

正家は冷や汗をかいていた。

 

 

「存じてるも何も.....

あの女こそ!

忍城勢総大将、成田長親だ!」

 

「なっ!?」

 

 

朗らかだった三成の心情が

一気に引き戻された。

 

 

「敵の総大将が自ら

あそこで踊っていると言うのですか!?」

 

「そう言っている」

 

 

三成は驚愕して彼女を見る。

 

 

その時、長親がギロリとこちらを睨みつけ、三成と目が合った。

 

 

「みっ.....見ている!?

奴は私を見ている!?

これは景気付けの踊りなどではない!

 

布告!?

これは成田長親の宣戦布告か!?」

 

「落ち着け佐吉!」

 

「我が主よ、落ち着いて下され!」

 

 

動揺する三成を吉継と左近が

宥めようとする。

 

 

「うるさい!うるさい!

うるさい!うるさい!

うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!

これは私の戦!

私の忍城戦!

私の水攻め!

誰にも邪魔させない!」

 

「佐吉、お前は戦に酔っている!

慣れない状況で気が動転しているのだ!

ここは一度退いた方がいい!

でないと.....」

 

「黙れ紀之介!!

貴方も私を責めるのですか!?」

 

「落ち着いて下さい主!」

 

 

石田三成。

戦に出る経験も少ない為か、

この突然の展開に頭が回らないのだ。彼女の実力が発揮されるのは天竜といる時であり、サポートに適している。

 

 

 

吉継はふと思っていた。

天竜はこの状況に陥るのを予見していた?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....人間」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、長親の田楽踊りが止まる。

そして、別の踊りが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間二十年、

 

化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり〜」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「!!!?」

 

 

これは.....

 

 

「敦盛!?」

 

 

それまで敵も味方も、長親の田楽踊りで盛り上がっていた中で、突然の状況。

急に皆々がしんとする。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「〜一度生を享け、

 

滅せぬもののあるべきか

 

これを菩提の種と思ひ定めざらんは、

 

口惜しかりき次第ぞ〜」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

この時代において、『敦盛』の代名詞と言ってもよい人物がいる。

 

それが織田信奈。

 

この天竜軍石田隊に対し、

この『敦盛』を踊るという事は、

 

織田と決裂した天竜への

挑発と取ってもいい。

 

しかし、問題なのは長親の視線だ。

田楽踊りをしていた時はジッと三成を見つめていた彼女は、今度は全く見当違いの方向を見ていた。

石田軍でも、

忍城勢でもない、

完全な空虚を只々見つめていた。

あの方向は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、小田原城か!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長親が見つめる方向は確かに小田原城の方向である。そこにいるある人物に向けて、敦盛を踊り続けているのだ。

 

 

「其方にとっての敵は、天竜様ただ1人!

この石田三成は

敵とすら認識されていないのか!!

ふざけるなふざけるなぁ!!」

 

 

成田長親というオチコボレが、

石田三成というエリートへする、

超絶的な反逆。

 

これだけで三成に

火を付けるのは充分だった。

 

 

「誰ぞ雷怖瑠を!」

 

「佐吉!」

 

 

三成は彼女専用のライフル銃を家臣から受け取ると、真っ直ぐ長親に向けた。

 

 

「馬鹿かよせ!!

こんな状況で奴を殺せば、

狂った農兵共が死兵となって

襲いかかるぞ!」

 

 

史実において、

長島一向一揆で、降伏した百姓の虐殺を命じた信長は、死兵と化した一向軍に壊滅一歩手前までに追い込まれた事がある。

 

 

「知った事かそんな事!!!

奴は天竜様を挑発し、

この私を侮辱した!!

いずれ天竜様もこの戦の視察に来られる!その際に、こんな状況を見せると言うのか!!

そんなこと.....

恥ずかしくて、

死んでも死に切れぬ!!」

 

 

その時、島左近が三成を羽交い締めにした。

 

 

「なっ.....!?

左近!離しなさい!!」

 

「もうよいのです我が主!

この戦.....

主が身体を張らずとも勝てるのです.....」

 

 

 

 

 

 

「..............え?」

 

 

 

 

 

 

左近は悲しげな表情で言う。

 

 

「実は主に内緒で、

忍城勢と降伏の約定をしていたのです。

ですが、

城主成田氏長が抜けた後、

城代の長親が新城主を名乗って宣戦布告してきた.....奴らには後ろ盾となっているものなどないのです!

天竜様が小田原城を落とし次第で

忍城は連鎖的に落ちるのです!」

 

「そんな.....」

 

「本当だ佐吉。

降伏の約定は天竜様自ら命じられた事だ。

天竜様はこうなる事も予感していたらしい」

 

 

吉継が言う。

 

天竜様は知っていた?

私が負けると?

最初から戦など勝てないと?

私は.....

彼にとって役立たずだと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「島、離しなさい」

 

「主よ!」

 

「離せっ!!!」

 

「うっ.....」

 

 

三成の威圧に圧され、

つい三成を解放してしまう。

 

三成は再び雷怖瑠を構える。

 

 

「佐吉!!」

 

「紀之介。

これは私の戦です。

私の忍城戦です。

全ての行動に我が誇りを賭けている。

その誇りすら貴方は否定しますか?」

 

「くっ.....」

 

 

三成はスコープを覗き、

そこで初めて長親の顔を見る。

 

 

「ふっ.....噂通りの美しさ。

ついつい妬けてくる。

天竜様が欲しがるのも分からないでもない。

でも、踊りの時間はもう終わり。

ご覚悟を成田長親!」

 

 

その時、スコープの先でまた長親と目が合った。彼女が何やら口を動かしている。それは敦盛の歌詞ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハヤクウテ?」

 

 

 

 

 

 

 

長親は確かにそう言っている。

 

その時、

長親の踊りがまた激しくなる。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「いえぇぇぇぇぇぇああぁぁぁ〜〜!

♫それっ!それっ!

それそれそれ、それっ!

それっ!それっ!

それそれそれ、それっ!

それっ!それっ!

それそれそれ、それっ!

それっ!それっ!

それそれそれ、それっ!

それっ!それっ!

それそれそれそれそれ、それっ!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

『それっ!早く撃て!』

 

とでも言っているのだろうか?

 

 

 

「ふっくくくくくく.....

初の大将戦がいきなり其方とは.....

私もつくづく運が悪い!」

 

 

三成は引き鉄に指をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「あっ.....あいつ.....何を?」

 

 

長親のずっと後方、影に隠れた地にて、別の小舟が待機していた。そこに、丹波と甲斐が心配そうに長親を見守っていた。

 

 

「あの馬鹿.....

一体.....何をする気だ?」

 

「あいつ.....死ぬ気だ」

 

「何っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダーーーーンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

1発の銃声が鳴り響く。

 

 

 

 

そしてその後、ある1人の女性が湖にドボンと落ちる。

 

 

「「長親!!」」

 

 

反射的に丹波が湖に飛び込み、

長親の元へ泳いでゆく。

 

 

「そんな!!そんなぁ!!」

 

 

甲斐もその場で崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長親は丹波の素早い救出により、

奇跡的に命を取り留めた。

弾丸も辛うじて急所を外し、

命に別条は無かった。

だが左肩を砕かれ、

もう二度と左腕を上げられなくなるだろうという結果に至る。

 

 

「痛っつつつ.....」

 

 

床に就く長親は、以前までの優しさを失っていた。

 

 

「まんまとお前の目論み通りになったな。

これで百姓達は皆死兵になる」

 

「それはないよ」

 

「?」

 

「長親!!」

 

 

そこに突然、甲斐が飛び込む。

 

 

「ぐぐぐ.....

勝手に死にかけやがってぇ!

俺が殺してやる〜!!」

 

「ぎゃあっ!!

痛い!痛い!!」

 

「甲斐殿落ち着いて!」

 

「なんだなんだ?」

 

「うるさいですね」

 

 

和泉と靱負までくる。

 

 

「俺が出陣する!

石田三成の首を取ってやる!」

 

「うわぁ!和泉、靱負!

甲斐殿を止めろ!!」

 

「「ひぃっ!?」」

 

 

次々に投げ飛ばされてゆく

成田家臣団であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膨大に広がる堤防。そのある地点にて。

 

 

「うんせ。うんせ」

 

「誰だ!そこで何やってる!?」

 

「くっ!?」

 

「へ?権蔵か!?」

 

「三上の旦那!?」

 

「そんな所で何をやっとる!」

 

「見てて分からねぇのか!

堤防を壊すんだよ!!」

 

「なっ!」

 

「くそっ!石田三成の奴め!

のぼう姫をよくも撃ちやがって!

痛い目見させてやる!」

 

「おいおい。

お前もわしらと同じで、石田に金貰って、自分で堤防作ったんじゃないか」

 

 

彼らは降伏した百姓達であり、

堤防作りに参加していた連中だった。

 

 

「確かにそうだ。でも間違っていた!

俺達は自分達の手で大事な家族を追い詰めていただけなんだ!

まさかのぼう姫に

気付かされるなんてなぁ.....」

 

「へっ、お前も同じ考えか」

 

「.....ってゆうと、旦那も!?」

 

「あと太郎の小僧と武もな」

 

「ぷっ.....ぷっくくくくく.....

じゃあ、ここを掘るの手伝ってくれ!」

 

「おうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、堤防の一部が破壊され、連動的に堤防が損壊するという事件が起きた。

水の力は凄まじい。

ほんの小さな穴でもダムは損壊する。

忍城周辺に湖として溜まっていた水が全て石田軍側に流れ込んだのだ。

忍城を壊滅寸前に追い込んだ利根川の濁流が石田軍を襲う。

 

 

「こっ.....これは!?」

 

 

丹波が驚愕する。

 

 

「私達の味方は何も、

城内だけじゃないって事だよ」

 

 

長親がそっと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「どう責任取るつもりだ?

被害はざっと数千だぞ」

 

「我が主よ」

 

「..........やっぱりね。

私、戦争下手くそだわ」

 

「佐吉!」

 

「やっぱり財政で使えても、

戦争では無理かな〜、

私の頭は.....

少しばかし出しゃばり過ぎたかなぁ。

同僚から嫌われてるのもその為かな」

 

「..............」

 

「さてさて。預かった兵の3分の1を失っちゃいましたが、

この先どうなるやら?

この戦争、戦況は既に五分五分ではなく、

相手に有利。

だが、時間的にはこちらが有利。

果たしてどうなるのやら?」

 

「佐吉.....」

 

 

三成は吹っ切れた表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田原。

 

氏康のイタチの最後っ屁。

それは

『死んでもいいから、羽柴秀長を討て』

もう北条方の勝機は消滅した。

それは北条勢の全員が、風魔衆が、

そして氏康自身が確信していた。

だからこそせめてものと、

北条家としての誇りを守る為、

死ねと言われているのだ。

『背水の陣』

この地を自らの墓地に定めた

北条勢の敗残兵が襲いかかる。

 

 

「『生』を諦めた者らに、

この戦場を駈ける資格はない!

早急に鎮圧せよ!

一切の情けをかけるな!!」

 

 

天竜が命じる。

 

その呼応に答えるように、

天竜軍陣営が出る。

 

 

「うららららららっ!!!」

 

 

武蔵が斬り裂く。

 

 

「突き刺せナノマシン」

 

 

地面に擬態したナノマシンに足を付けていた兵が真下から伸びてきた触手に串刺しにされてゆく。

 

 

 

 

 

そして、

 

 

「避けて避けて避けて下さ〜い!!

でないとぉ〜〜

首取れちゃいますよ〜!!

くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ!!!!」

 

 

それは筒井順慶。

普段の温和な様子が嘘のように、

別人に豹変していた。

 

あれでも、元は興福寺の僧兵。

松永久秀の妹弟子。

当然、その実力は高い。

弾正と同じ宝蔵院流。

十字槍を持たせれば右に出る者はいない。

では何故、

今までそれが見えなかったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは我慢である。

 

信じていた弾正に裏切られ、

信奈に追い詰められた。

天竜と出会うまでの間

ずっと我慢し続けてきた彼女。

我慢に我慢を重ね続けてきた彼女。

 

 

その溜まりに溜まったストレスが、

この戦争で一気に発散された。

 

 

「跳んだ跳んだ!生首跳んだ♡!!

跳べ跳べ跳べ跳べ跳べ〜!!

生首跳んじゃえ〜♡!!

くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけっけけ!!!!」

 

 

『首狩り順慶』

 

 

「怖えぇ.....」

 

 

もう彼女を怒らせないようにしようと誓う天竜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれ!おのれ!おのれ!

羽柴秀長め〜!!!

貴様程恨んだ相手がいたであろうか!

許さない許さない許さない!!

冥土へ行く前に、

貴様の首を討ち取ってやるわ!!」

 

 

憤る彼女の隣りで、風魔小太郎は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我々は負けた。

全軍に武装解除を命じよ。

もうこれ以上の戦闘は許可しない」

 

 

小太郎は無線機にてそう呟いた。

 




ほとんど映画のパクリになってたので、
少しだけ自分なりのアレンジを加えてみました。
どうでしたかね?
次回予告
未来からの使者
〜お久しぶりです勘解由小路天竜〜


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第四十六話 未来からの使者

さてさて、今日から新章への
布石が始まります。


未だ生きていた無線によって、

小太郎の指示が全体へ伝わる。

 

 

『我々は敗北した。

武装解除をし、投降せよ。

これ以上の戦闘は許可しない!』

 

 

当然、氏康が反発する。

 

 

「どうゆうことよ風魔!!

私はまだ負けてないわ!!」

 

「『まだ』でしょう?

時間次第で敗北は訪れる」

 

「くっ.....!」

 

「どうやら多大な情報漏洩があったようです。始めは万見仙千代だけかと思っていましたが、敵に情報を流していたのは他にもいたようですね」

 

「なんですって!?」

 

「成田氏長ですよ。

彼女が裏切り者の代表格です。

戦が始まる前にはもう、敵方に通じて降伏の手筈を取っていたようです」

 

「今.....あいつは?」

 

「見当たりませんね。小田原城崩壊のどさくさで逃げ出したようですね」

 

 

それを聞き、

氏康の怒りがさらに込み上げる。

 

 

「おのれ!おのれ!おのれ!

妹のように可愛がってやった恩を、

こんな仇で返しやがってぇ!!!」

 

 

そんな氏康を見て、小太郎は.....

 

 

「降伏しましょう姫様。

こんな抵抗戦は無意味です」

 

「うるさい!うるさい!うるさい!

あんたは所詮、忍よ!!

主の命令を黙って聞きなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉にプツンときたのか、

小太郎は思いっきり氏康の頬を殴った。

 

 

「がふっ!?」

 

 

突然の事態に氏康は理解できない。

 

 

「餓鬼ですかあんたは?

もう疲れましたよ。

あんたのおもりはね」

 

「なっ!?」

 

 

小太郎は態度を翻し、氏康を見下す。

 

 

「あなたにはもう、

総大将の資格はない。

兵を無駄に死なせ、

イタズラに抵抗戦を行い、

勝てる見込みのない騒乱を続ける。

私が仕えるのは小田原城の城主。

城も資格も失った貴方に、

私が仕える事はもうない。

自害でも自滅でも、

1人で好きにするといい」

 

「そんな.....風魔!私は.....

貴方にまで見捨てられたら.....」

 

 

氏康はまるで命乞いするかのように小太郎にすがりつく。涙を流しながら。

 

 

「触るな弱者が。

強くなくなった北条氏康に興味はない」

 

 

そう言って切り捨てられた。

 

 

「風.....魔.....」

 

 

信頼していた者に見限られた彼女は、

それ以上の生気を取り戻す事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、北条方に白旗が挙がる。

 

 

「やっと降伏したか」

 

「「うらぁ!うらぁ!」」

 

 

融合人間の真柄直竜はまだ暴れている。

 

 

「おい直竜!もう終わりだ!」

 

「「うらぁ!ちぇあっ!!」」

 

「お〜い!!」

 

「「くははははははははは!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

プツンと切れた天竜はその場にあった石を持って直竜に投げる。

石は後頭部に直撃した。

 

 

「「痛った!?」」

 

「いい加減しやがれ!!

壊れたオモチャか手前ぇは!!」

 

「「うぅ.....」」

 

 

直竜は涙目になりながら天竜の方へ近寄り、か細い声で謝りながら彼にしがみつく。

 

 

「知能が低下してるってレベルじゃないな。むしろ幼児退行してないか?」

 

 

でっかい赤ちゃんを拾った気分だ。

 

 

「ったく。躾もしないといけないか」

 

 

以前より成長してるのは、

武士としての強さぐらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一階だてくらいの地まで落とされた小田原城の天守閣より、北条氏康が出てくる。

後ろに風魔小太郎をつけて.....

 

 

「無様なものだなぁ北条氏康」

 

「くっ.....羽柴秀長!!」

 

 

天竜の顔を見て、また氏康に怒りがこもる。

 

 

「大大名北条早雲の孫にも関わらず、

お前はパッと出の武将に敗れた。

自身の強さの象徴でもある小田原城まで失った。甲羅を無くした亀は何をする。ただただ鈍いトカゲに成り果てるか?」

 

「ぐぐぐ.....殺せ」

 

「?」

 

「殺しなさい!!

私は出家するつもりも、

あんたの側室になる気もない!

武士として、

立派に果ててみせる!!」

 

「はぁ〜.....」

 

 

それに対し、天竜は溜め息をつく。

 

 

「立派な死?何ソレ?

死に良いも悪いもあるかよ。

死はいつだって平等。

どんな方法を取ろうが、

死は死だ。

それに、

俺は女子は殺さないんだよ。

目覚めは悪いし、勿体無いし」

 

「なんですって!?」

 

 

天竜の考えが分からない。

 

 

「なぁ氏康。

甲羅の無くしたお前はただのトカゲ。

だが、もう一度甲羅を与えれば、

また亀になれるか?」

 

「何っ!?」

 

「お前の防衛能力はこの時代においては桁違いだ。この俺も半分ズルをしなきゃ勝てなかった。

堅城さえあれば、お前は無敵だ」

 

「何が言いたい」

 

「今度は俺の為にそれを使ってはくれないか?お前を失う事は非常に惜しい。財政政策にも、貿易にも優れたお前を手に入れれば、我が天竜軍は更なる発達を遂げることができるであろう」

 

「私がそれを承認するとでも?」

 

「思わない。

だが、承認してもらわねば困る」

 

「ぷっくく..........

あっはっはっはっはっはっはっは!!!

承認してもらわないと困るぅ?

馬鹿じゃないの?

世界は貴方を中心に

回ってるとでも思ってるの?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

「呆れた。

こんなうつけ者に負けたってゆうの?」

 

「もう一度言う。俺のものとなれ」

 

「もう一度言う。断る」

 

「ぶれないな〜。

なら側室になってくれ」

 

「同じ事じゃないっ!!」

 

「ふ〜む。

君程魅力的な女性を手に入れれば、

俺は大変幸せなのだがな?」

 

 

天竜の言葉に氏康が一瞬止まる。

 

 

「なっ.....なっ.....なっ!?

ふざけないで頂戴!!

大体、以前に私の事を馬鹿にしていたじゃない!!今更そんな戯言を述べ立てた所で騙されないわ!」

 

「あぁ、あれか。あれは君を炊きつける為に挑発したのだが、勘違いしてしまったようだな」

 

「なっ.....何よ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は貧乳フェチだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

「俺は貧乳が大好きだ」

 

「はぁ!?」

 

「貧乳が好きだ。

ちっぱいが好きだ。

ペタンコ胸が好きだ」

 

「うううっ.....嘘よ!!

あんたの側室って大きい奴が多いじゃない!!雑賀孫市とか九鬼嘉隆とか!!」

 

「別に巨乳だから結婚したんじゃない。

政略結婚だし、俺はあいつらの別の場所に惹かれて嫁に選んだだけだ。

まぁ、巨乳も嫌いじゃないがね。

だが、どちらかといえば貧乳が好きだ」

 

「うううぅ.....」

 

「幼女の貧乳とはまた違う。

君ぐらいの年齢だからいいのだ。

言うなればスレンダーか?

貧乳はいいぞ?

感度はいいから房事は楽しいし、

何より大事なのは、

将来的に垂れない事だ!」

 

 

何やら天竜が熱演を始める。双方の軍の兵も見ているにも関わらず、彼はそれを全く気にしていない。

 

 

「それだけでなく君は美しい。

つむじから爪先まで完璧だ!」

 

「うっ.....嘘言わないで!!

もっ.....蒙古斑だって馬鹿にしてたでしょ.....」

 

「そんな君の臀部に口付けをしたい」

 

 

ただのセクハラだ。

 

 

「さらに積み重ねて言おう!

我がものとなれ氏康!

俺はお前と共に天下を取りたい!」

 

 

その言葉が氏康の胸に突き刺さる。

 

 

「羽柴.....秀長.....」

 

「天竜だ。

そう呼ぶ事を許そう!」

 

「天.....竜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天〜竜ぅぅぅ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

その直後早馬に乗って、

十兵衛が剛速球のように駆けてきた。

 

 

「ういっ!?十兵衛!?

もう聞きつけて来たのかよ!?

どんだけ地獄耳なんだよ!?

流石は魔将軍の妻!!」

 

「誰がですか!!!

貴方は言った先からもう浮気して!!

よもや敵軍の大将まで口説くだなんて!!

というか貧乳好き!?

それは私の胸が小さいと言いたいですか!!

今日という今日は許さないですぅ!!」

 

「いやいや。

お前はB〜Cカップくらいあるだろ。

俺がいいのはAカッ.....」

 

「五月蝿いDEATH!!」

 

 

すっ飛んで来ていきなり夫婦喧嘩だ。

今度は氏康が置いていかれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷっ.....くすくすくすくす.....

あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 

「「!?」」

 

 

また突然笑い出した氏康に揉み合いになっていた2人が振り向く。

 

 

「くすくすくす.....本当に.....

本当に面白い男ね。

羽柴秀長.....いや、天竜」

 

「ふんっ、外からじゃ分からんさ」

 

「そうね。内から寝首を狙ってみるのも面白いかもしれないわ」

 

「おいおい」

 

「冗談。では正室にでもなって尻に敷いてやろうかしら?」

 

「残念ながら先着がいる」

 

「そう。でも私が側室で満足するかしら?

その中で下剋上を起こして上位に立ち、夫である貴方の権利を全て掠め取るかもしれないわよ?」

 

「くくく.....くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

面白い!望むところだ!

そんな気も立たぬ程まで蕩けさせてやる!」

 

 

天竜も氏康もニヤリと微笑む。

十兵衛は複雑な表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり.....

貴方はそうゆう人なのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「氏康っ!!危ない!!」

 

 

いち早く気付いたのは天竜だった。

氏康もそれに気付き後ろに振り返る。

 

そこに写っていたのは予想もしていなかったことであった。

 

 

風魔小太郎が拳銃を持って、

こちらに銃口を向けているのだ。

その表情は至って平坦で、

凍てつく殺気をこちらに向けている。

 

 

「小太郎.....何で?」

 

「姫様。お世話になりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一発の銃声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「氏康っ!!」

 

 

拳銃の弾丸が通過し、

倒れた氏康に駆け寄る天竜。

彼女は頭部から血を流し、

グッタリしている。

直撃ではないが、このままでは.....

 

 

「ちっ.....

沙九把・秉無・覇寿于羅!」

 

 

氏康の頭の傷が消えてゆく。

その直後、天竜の頭部から鮮血が。

 

これは例の他人の傷を己に移す術だ。

 

 

「がぐぐぐ.....

風魔.....小太郎.....

何故氏康を.....

何故自身の主君を撃った!!」

 

 

頭部から流血しながら、

天竜が怒りを露わにする。

 

それに対して小太郎は、

覆面の下で邪悪な笑みを浮かべている。

 

 

「勘解由小路天〜竜。

貴方は何故、小田原城を崩壊させた?」

 

「何っ!?」

 

「史実において、豊臣秀吉は石垣山に一夜城を建てる事で北条を屈服させた。貴方もまた同じ方法を取ればよかった。

でも貴方は小田原城の崩壊を結構した。

それは何故?」

 

「それは.....」

 

「答えは簡単。弟への対抗心でしょう?

ここで石垣山一夜城を建てた所で、

墨又一夜城を建てた相良良晴の前例がある限り、どう精巧に作ろうが、素晴らしき勝ち方をしようが、結局は真似であると判断される。

だから自分なりの新しい戦法を作り出した。

違います?」

 

「くっ.....」

 

「そう。貴方はいつも他人より優位に立ちたがる。高位に着く事に興味はないくせに、他人より優れている点を強調したがる。

貴方は他人を追い抜く事こそに喜びと楽しみを覚えている。だからこそそれより上のない1位には興味を持てない。

だからこそ、姫巫女だけには絶対的な忠誠を誓う。そのすぐ下に最終目標を起き、それ以下を全て蹴落としてね」

 

「なっ.....何故!?」

 

 

何故こいつはここまで俺を知っている。

 

 

「貴方は常に嘘をつく。

他人にも、自分自身にも。

騙される辛さを知っているからこそ、

貴方は大勢を騙す。

死の恐怖を知っているからこそ、

貴方は大勢を殺す。

戦争を愚かさを知っているからこそ、

戦争を起こす。

貴方はそんな人間。

世界は自分を中心に回っていて、

それ以外は自身が行うゲームの駒。

妻だろうと子だろうと。

貴方は平等に考えている。

平等に生かし、平等に殺す」

 

「お前.....」

 

「貴方が何より嫌っているのは、

何でもない。

自分自身なんです。

だからこそ自分自身が悪であるといつも主張する。そう言い放つ事で自分を誤魔化している。

どれだけ非難されようと、

自分は魔王であると開き直る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか.....そうだったか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜は懐より愛用の拳銃を取り出す。

 

回転式マグナム拳銃。

 

それを真っ直ぐ風魔小太郎に向ける。

奴は全く動じない。

 

 

 

 

天竜は小太郎に対し発砲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

弾丸は小太郎の真横を過ぎる。

その覆面を巻き込みながら.....

 

 

 

 

覆面が引き裂かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか.....やはりお前か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっ..........そんな」

 

 

隣で見ていた十兵衛は唖然とした。

何故なら.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風魔小太郎の顔が己と瓜二つだったのだ。

 

 

 

古今東西いおいて、十兵衛と同じ姿形の人物はたった1人しかいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....光」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勘解由小路光。

明智光。

天竜の前妻。

 

 

「久しぶりだな。光」

 

「こちらこそ」

 

 

光は頭を下げる。

 

 

「お前は.....」

 

「『死んだはず』なんて安い台詞でも吐くおつもりで?ですが私はここにいる。

私がここにいて、貴方はそこにいる。

今も昔も私は変わらない」

 

 

俺は光が死んですぐにタイムスリップした。俺が彼女の死亡報告を聞いたのは、その直後の.....

 

 

「!?」

 

 

そうだ!

あいつは何故嘘をついた?

それでもって何故こいつはこの時代に?

 

 

「まさか.....」

 

 

そうかそうか。

そうゆう事だったのか。

これなら説明がつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな。左馬助」

 

 

 

 

 

「!!!?」

 

 

十兵衛が驚愕する。

 

 

確かに、明智左馬助もまた十兵衛に顔が似ていた。もう少し成長すれば、十兵衛と瓜二つになるであろうという面相をしていた。

 

 

「よく気づきましたねぇ。

私は貴方を何と呼べばいいのでしょう?

竜ちゃん?天竜さん?天竜様?」

 

「理由は何通りかある。

まずは一つ。

先程俺はお前の心臓を確かに突き刺した。だが死ななかった。未来人でそれが可能な人物は俺が知る限り、誰もいない。

可能性があるとすればたった1つ。

吸血鬼明智左馬助が数百年の転生地獄から目覚め、明智光として生まれ変わり、俺と関係を結ぶ。

そしてタイムスリップした俺を追うようにお前もこの時代にやって来た。全て俺の空想だが.....違うか?」

 

「パーフェクト!!

全て正解ですよ!」

 

「それとだ。

俺はとある神にこう言われた。

『勘解由小路光は死んで地獄に落ちた。理由は教会で結婚式を挙げたから。光は西洋の神が作った地獄で苦しんでいると.....

救うためには『十字教』を滅ぼせとな。

だが、お前は生きている。

 

 

そうだろう!アマテラス!!」

 

 

すると、奴の影からアマテラスが出現する。

 

 

『今更気付いたでありんすか』

 

「怪しいとは思ってた。

ツクヨミと違ってお前は裏がありすぎる。

完全な味方じゃないくらい、

最初に気づいていたさ」

 

『ふっくくくくくく..........

その通りでありんす。

明智左馬助に魔人マグラを植え付け、

其方に輪廻の鎖を使わせ、

此奴を不死者にし、

400年後の其方に引き合わせたのは、

全てわっちでありんすよぉ!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!』

 

「全部お前が首謀者か!」

 

『侵害でありんすなぁ。

わっちが私欲の為だけに、

ここまでやるとでも?』

 

「何っ?」

 

『全ては其方の為。

そして、この日の本の為でありんす』

 

 

どうゆうことだ?

何を言っている?

 

 

「天竜さん」

 

 

今度は光(左馬助)が口を開く。

 

 

「天竜さん。私を殺してくれます?」

 

「なっ!?」

 

「この通り私は不死者。

死ぬ事もなければ、老いる事もない。世界の終わりまで血を啜り続ける吸血鬼となってしまいました。

そう.....全ての元凶は貴方」

 

「.....俺が?」

 

「だってそうでしょう??

私をこ〜んな性格にしたのも!

私をこ〜〜んな身体にしたのも!

全て貴方なんですから」

 

「くっ.....!」

 

「それから姉上!」

 

「うっ.....」

 

「調子にのって天竜さんと一緒になろうとしてますねぇ本当に目障り。

でも私は気にしませんよぉ?

なんと言ったって、

天竜さんの初めては私なんですから♡」

 

「うぅ.....」

 

「やめろ!!

死にたいなら首を括れ!

他人を巻き込むな!!」

 

「死ねない身体にしたのは

貴方じゃないですか?」

 

「くっ.....!」

 

「私が400年間どんな気持ちだったか分かりますか?気もおかしくなりそうな世界を五つも回らせ、やっと戻って来た時には、もう私の知っている世話は無くなっていた。

貴方だけが心の拠り所だった。

ですが貴方は再び離れた。

もう生きる希望などない。

だからこそ死を渇望した。

でも死ねない。

死にたくても死ねない。

平等の権利である死の剥奪。

生と隣り合わせである死を奪われた私は.....

もう生物としての

構成要件を満たしてないんですよぅ」

 

「だからアマテラスに魂を売ったのか!

その性悪な魔人に!!」

 

『失礼でありんすなぁ。

これでも全知全能の太陽神でありんすよ?

それもこれも全て其方の為。

不死者の殺害こそが、

其方を次の段階へと登る。

其方をより一層、

悪魔の道へと導ける』

 

「..........どうゆうことだ?」

 

『またまた〜。

もう気づいているはずでありんすよ〜?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。

俺はとっくに気づいていた。

自身の正体という奴を.....

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、ヒントなら散々出てたからな」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ツクヨミ化.....

悪魔に極限まで近づいた俺は、

無意識に人間の血肉を求めた。

それが当たり前のように.....

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

左馬助と対峙した時の事。

朧に身体の支配権を奪われた時、

 

 

「貴方も血肉を求めるのですか。

貴方だって吸血鬼と

変わらないじゃないですか?」

 

『そうだが?』

 

「!?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

主水との会話。

 

 

「俺ら魔族とお前ら鬼族。

元は同じ一族だ。

転じて俺も鬼だし、お前も悪魔だ」

 

「嬉しい言葉だねぇ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

俺の真名、

ドラクエル・バスティーユ

ヘルライド・サタン。

 

これが全ての答えでもある。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

俺が何故、十字教徒共と対立しているのか。

 

そして、朧としての500年間。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

サンジェルマン伯爵の存在。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

先程の戦闘。

 

朧が行った串刺し行為を、

野蛮であるはずの行為を、

俺は許してしまった。

そこに何か、懐かしさを感じて.....

 

 

串刺し公.....

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

『母が仔を世話して何が悪い?

我は貴様の母であり、

貴様は我の仔であるぞ?』

 

 

俺は月読命の子孫。

龍神様の生まれ変わり。

魔王サタンの息子。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヴラディスラウス・ドラグリア』

俺はかつてこの名を名乗った。

通称はヴラド。ヴラド3世。

ヴラド2世の養子になった事で、

我が義父は『竜公』

と呼ばれるようになった。

そして俺は『小竜公』

 

東洋では、

龍は神として祀られるが、

西洋では、

龍は悪魔として恐れられる。

 

俺は悪魔、

サタンの息子。

俺は龍神、

月読命の息子。

 

ドラゴンの息子だから。

俺の呼び名は多々あった。

 

ドレイクとか、

ドラコとか。

 

でも世界的にも有名な呼び名が一つある。

 

それが俺の正体。

 

俺、勘解由小路天竜の本質。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドラキュラ』

吸血鬼の王。

ヴァンパイア・ロード。

ナイトウォーカー。

 

 

人々は俺を敬意を評してこう呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ドラキュラ伯爵』.....か」

 

 

それが俺だ。

 

 

『全て理解したでありんすか。

その通りでありんすよドラキュラ。

最も魔人に近づいた人間よ。

魔王の称号を持つに最も相応しき豪傑よ。

全ては其方の覚醒の為。

全ての因果はそこに繋がっている』

 

「ど.....らきゅら?」

 

 

十兵衛は理解出来ずに首を傾げる。

 

 

「大丈夫。君は分からなくていい」

 

「天竜さん。

私を殺せるのは、

呪いをかけた貴方だけなの」

 

『ドラキュラよ!

不死者の魂を喰らい、

更なる進化を遂げよ!!』

 

「俺は.....」

 

 

 

 

 

 

孤高の魔王は何を思うか.....

 




途中までギャグだったのに、
一気にシリアスに引き戻しました。
風魔の正体は勘解由小路光。
さらにその正体は明智左馬助。
でもって天竜の正体はドラキュラ!
詰め込みすぎて話がグッチャリ。
伏線の回収は本当に大変です。
次回予告
吸血者の選択
〜我はドラキュラ伯爵なり〜


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七章 魔将軍天竜
第四十七話 吸血者の選択


さぁ、新章です!
今日も張り切って行こー!


俺の正体はドラキュラ伯爵。

それが分かった今、俺は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

 

 

「「!?」」

 

 

突然の高笑いに、光(左馬助)アマテラスも驚愕する。

 

 

「私を殺してくれ?

不死者を喰って強くなれ?

バーカか!!

この俺が他人の指図を受けると思うか?

そんなわけがない!

俺は自由に生きている!

自由に生かし、自由に殺す!

他人の願いなどいちいち聞いてられるか!

 

そうだ.....

俺はドラキュラだ!

俺は魔王ドラキュラだ!

 

俺に命令する事は許さぬ!

それが例え不死者だろうと、

それが例え太陽神だろうと、

それが例え魔界公爵だろうと!

 

俺は俺だ!

他人が決める事ではない!」

 

「うふっ.....

うふふふふふふふふふふふ.....」

 

「ふくくくくくくくくくくくく.....」

 

 

光(左馬助)とアマテラスが

それぞれで笑っている。

 

 

「流石は我が旦那様!

それでこそ貴方ですわ!」

 

『天ちゃんはそれで充分。

好きに暴れて好きに殺すといい。

でも、それが結果的にわっちらの思惑通りになるでありんす』

 

 

2人の女共が邪悪な表情で見下す。

 

 

「黙れ売女共」

 

 

天竜は中指を立てる。

 

 

「そんなに死にたいなら殺してやる。

そのままヌクヌク生きていた方が幸せだったと思える程の最凶の死を与えてやる!」

 

「この子に対してもこれが言えるかしら?」

 

 

すると、光(左馬助)の影から何やら少女が現れる。その瞳は紅玉のようで.....

 

 

「まっ.....ままま.....まさか!?」

 

 

少女を見た瞬間、天竜は確信してしまう。

 

 

「この子の名前は勘解由小路闇(ヤミ)。

貴方の娘よ」

 

「俺の.....娘.....」

 

 

可能性としては考えた。

光は妊娠中に死亡した。

そう思い込んでいた。

だが光は生きていた。

だから胎児もまた

生きているかもしれない。

そんな希望のようなものがあった。

 

 

「お父.....さん」

 

 

3〜4歳ぐらいの見た目の幼女は天竜に向かってそう呟く。

天竜に途端に涙が出る。

 

 

「生きていて.....くれた」

 

「羽柴拾はただのダンピール。

だけれどこの子は純粋なヴァンパイア。

次世代のドラキュラよ」

 

『天ちゃ〜ん。

本物の魔王になりたくば、

自分の娘を殺すがいいでありんす』

 

「くそぉ〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武田本軍。

 

 

「馬鹿な!?

北条が降伏しただと!?」

 

 

泥仕合となって双方が衰退し、そこで和平の役に入ろうと目論んでいた武田信玄。だが、天竜があっさりと戦勝してしまったが為に、その計画は水の泡となってしまった。

 

 

「羽柴殿は箱根で駐留しており、

信玄様にそこまで来て欲しいとか」

 

「ほう」

 

 

使者の報告を受ける信玄。

 

 

「無礼な!

主君に自ら来いと言うのか!」

 

 

山県昌景が言う。

 

 

「いや!

あいつはよく分かっている!

箱根温泉で会談をしようというのだな!

やはりあいつは面白い!」

 

 

信玄はかなりの温泉好きだ。

 

 

「.....そうでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箱根にて。

 

 

「天竜様は温泉に入っておられます」

 

「まさか本当だったとは.....」

 

 

織部から報告を受けた昌景は呆れ顔になる。一方、信玄は入る気満々だ。

 

 

「そうかそうか!

いくぞ昌景!お前も脱いで入れ!」

 

「うぅ.....また男と混浴.....」

 

 

実に3回目だ。

 

 

「てっ.....ててて天竜様が又もや混浴!?

この古田織部!

共に入って彼の方の貞操を守らねば!」

 

 

織部まで脱ぎ出し、混浴の準備をする。

 

 

「あいつもモテモテだなぁ」

 

 

信玄が呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔するぞ天竜」

 

「あぁ、これはこれは信玄様。

お迎えもしないですいやせん.....」

 

「全くです!

信玄様!この助平にお仕置きを!」

 

「うるさいな昌景」

 

「なっ!?

先輩に対してなんて言い草を!!」

 

「落ち着け.....

天竜。小田原征伐誠に御苦労だった。

改めて礼を言いたい」

 

「それは勿体無きお言葉だねぇ」

 

「信玄様!前を隠して下され!

この助平に視姦されますよ!?」

 

 

それに対し、待機していた織部が反論する。

 

 

「大丈夫です!

天竜様は貧乳好き!おっぱいお化けにはちっとも興味など持っていないのです!」

 

 

天竜の貧乳好きが露見した事で、

織部の機嫌はだいぶ良かった。

 

 

「織部」

 

「ひぃっ!?.....申し訳ありません!」

 

 

天竜にギロリと睨まれ、

引き下がってしまう織部。

 

 

「ん?」

 

 

湯気で始めは見えなかったが、

天竜の他に別の人物も入浴している。

 

 

「そいつは..................氏康!!?」

 

 

信玄には予想外すぎた。

北条氏康は誇り高き姫武将。

敗戦したともなれば、二度と人前には顔を出さないような奴だと思っていたからだ。

 

 

「お前がここにいるとはな、氏康」

 

「............?」

 

「その様子じゃ天竜に服従したか?

どうゆうつもりだ?」

 

「..........あぅ」

 

「おい!何か答えたらどうなんだ?」

 

「うぅ.....」

 

 

なんだか氏康の様子がおかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方はどなたですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

こいつ、今なんて言った?

私が誰かだと?

この武田信玄が分からないのか!?

 

 

「おい氏康!

私だ!武田信玄だ!

私はお前の宿敵だろう!?」

 

「あぅあぅ.....

ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

「..........どうなっている?」

 

 

見た目は完全な北条氏康だ。

洗濯板な胸も、臀部の蒙古斑も.....

なのに、中身だけが別人だ。

 

 

「氏康が降伏を承諾した後のこと.....」

 

 

天竜が口を開く。

 

 

「彼女を裏切った風魔小太郎によって、彼女は1度射殺された。だが、肉体が死を迎える前に俺が引き戻した。

..........肉体だけな」

 

 

だが、魂は置き去りになってしまった。

 

 

「抜けた魂の代わりに生まれてきたのがこの子だ。氏康の娘と言ってもいい。いや、多重人格と考えれば妹か.....」

 

「つまり.....氏康は死んだのか?」

 

「うんや?微かではあるが、氏康の霊気が感じられる。多重人格は精神的な問題だ。時間次第で戻ってくる事もできる。だから今回は、無理矢理戻すような事はしなかった」

 

「.....そうか」

 

 

信玄は哀しみの表情を浮かべる。

 

 

「御主人様?」

 

 

氏康は俺をこう呼ぶ。己を俺の召使いかなんかと認識しているのだろうか?

 

 

「まっ、何れにせよ」

 

「ひゃっ!?」

 

 

天竜は氏康の頭を己の胸に引き寄せる。

 

 

「こいつは俺の女だ。

こいつは俺が守ってやる。

そう、決めたんだ」

 

 

氏康はカァーッと顔色を赤める。

 

 

「その覚悟は誠か?」

 

「あぁ」

 

 

すると信玄は大きく息をつく。

 

 

「まぁ、いいか。

戦が終わった暁には、あいつと共に酒でも飲み交わそうと思っていたが、それもだいぶ先になったようだな!」

 

「信玄様.....」

 

 

昌景が呟く。

 

 

「んで、そっちのは?」

 

 

信玄は温泉の奥の方で

静かに泳いでる幼女を指す。

 

 

「あぁ、娘っす」

 

「娘ね。はぁ..........娘!?」

 

「そうです。血の通ったね」

 

「お前の子供は、今織田信奈に人質になってる息子だけじゃなかったのか!?」

 

「最近見つかったんす。

名前は羽柴闇」

 

「闇」

 

 

自己紹介のつもりなのか、闇がそう言う。

 

 

「母親は?」

 

「風魔小太郎」

 

「はぁ!?」

 

「他に明智左馬助光春。

それと勘解由小路光。

そんな名前もあります」

 

「..........事情がありそうだな」

 

「はい」

 

 

信玄は察してくれたのか、

それ以上聞いてくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、お前に恩功を与えねばなるまいな。望みはあるか?」

 

「はい。では失礼をして.....」

 

 

 

 

 

天竜は言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

「北条家が領有していた地を頂きたい」

 

「何っ?」

 

「なんとっ!?」

 

 

信玄も昌景も驚く事だ。

 

 

「無礼にも程がある!

よくも抜け抜けと!!」

 

「天竜。お前は自らの手で小田原を落とし、北条を降伏に追い込んだ。確かに自ら取った地を領有する権利はあるかもしれない。

だが、お前は武田家の軍師だ。

手柄を独り占めにするつもりか!

ここは管理を任せていた駿河あたりで.....」

 

「それは徳川にでもやって下さい。

それに独り占めではない。

港は里見家が落ち次第、九鬼や毛利に任せる。その他の地も、戦に協力してくれた者たちへ分配する」

 

「何れにせよ、お前の手の内の者だろう。待機していた武田本軍へはビタ一文払わぬと申すか!」

 

「まぁ、話を聞いてくれ。

常陸国を知ってるか?」

 

「あぁ、佐竹の地の.....

今の領主は佐竹義重だったか.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その常陸国が、先程落ちた」

 

「なっ!?」

 

 

佐竹家の常陸国は伊達や北条と、周囲を敵に挟まれた国であったが、それでも絶対に落とされないという自信を持っていた国だった。

 

 

「まさか.....」

 

「落としたのは当然、俺じゃない。

羽柴朧という名の姫武将だ」

 

「羽柴.....朧!?」

 

「あんたが双子の妹を影武者に置いたように、俺も瓜二つの姉のような存在を影武者に置いていた。だが俺は、あの時迂闊にも側から離してしまった。奴は受け取った1万の軍をそのまま率いて連合軍から離散。

その勢いで常陸国を襲撃。

極々短期間にて佐竹家を屈服させた」

 

「なんという事を.....」

 

「奴は元天竜軍参謀の藤堂高虎まで連れて行きやがった。佐竹義重は朧に服従してしまっている。恐らく、そこから北条の領地や伊達、武田を狙うつもりだ」

 

「強いのか.....そいつは?」

 

「少なくとも俺より.....

今の戦力でも勝てる自信はない。

恐らく武田でも勝てない」

 

「それ程までの奴か!?」

 

「えぇ。俺が聞いた話が正しければ、

奴は欧州でも戦争を起こしている。

欧州の最大勢力、オスマン帝国相手にね。

史実では相手にもならなかったようだが、

フロイスの話では、

オスマン帝国は衰退の意図を辿っているらしい。多分あいつによるものだろう」

 

「.....北条の地があれば、

そいつに勝てるのか?」

 

「何もないよりはましだ」

 

「そういう事情があるのなら仕方あるまい。我ら武田がその朧とかゆうのに勝てないというのは腑に落ちないが.....

武田家軍師、羽柴天竜秀長。

お前に小田原を中心とする、

元北条氏の領土をお前に与える。

常陸国を奪った、羽柴朧を討て!」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信玄が去った後の脱衣所にて、

氏康の身体拭いてやる天竜。

 

 

「ごっ、御主人様。

これぐらい1人で.....」

 

「お前は俺の側室だ。

それに多くの迷惑をかけてしまった。

罪滅ぼしには軽すぎるが.....」

 

「お父さん。闇も」

 

「だよな。闇も拭いてやらんとな」

 

 

天竜は闇の頭をゴシゴシと拭いてやる。

 

 

「光と.....闇か.....」

 

 

あいつは

この闇を置いていなくなってしまった。

何のために俺にこの子を?

 

 

「まぁ、いっか」

 

 

この子だって俺の子供。

拾と同じで愛する我が子だ。

平等に接し、平等に愛そう。

 

 

「痛っ!

お父さん.....痛いよう」

 

「あっ、ごめん。

大丈夫だったか?」

 

「うん。お父さん」

 

 

紅玉の瞳が無垢に見つめてくる。

 

 

「そうだな。

俺はお前の父ちゃんだ」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍城。

忍城が開城した。支城より前に、本城の小田原が落ちてしまった。その為、後ろ盾を失った忍城勢は開城しざるをえなかったのだ。

この日、石田三成は開城した忍城に大将自ら赴くという選択をとる。

 

 

「自ら敵の陣地に踏み込むなど、

危険すぎるぞ佐吉」

 

 

吉継が止めたが聞く耳を持たなかった。

 

 

「私は会いたい。

この私が勝てなかった成田長親に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大広間にて、

腕を吊った長親を含めた、忍城勢の幹部が集合する中で、上座に用意された席に、三成・吉継、それと軍使の長束正家が座った。

それとは別に、広間の外にて、護衛の為に着いてきた島左近と、城主弟の成田甲斐が睨み合っていた。

 

三成はじっと、忍城勢の先頭で頭を下げる長親だだけを見つめていた。

 

 

「貴方が、忍城の城代。

成田長親殿ですか?」

 

「そんな大層な者ではありません。

ただの木偶の坊ですよ」

 

「..........」

 

 

これが、田楽踊りと敦盛を唄った舞姫か。

 

 

「では、先の約束を果たさせて貰おうか」

 

 

軍使の長束正家が切り出す。

 

 

「忍城勢の者は全員、財一切を置いて城から出て行く事!」

 

「なっ!?

そんな約束をしたのですか!?」

 

 

それは三成にも初耳だった。

正家には忍城勢を挑発する事を期待していたのだが、まさかそんな卑劣な手を使っていたなど、思いもしなかった。

 

 

「少しでも手柄がないと、

副将軍殿に顔が立たぬだろう」

 

「くっ.....!」

 

 

天竜様は弱者を虐めるようなやり方は絶対しないし、許さないだろう。

 

 

「あの〜?」

 

 

そんな中、長親が手を挙げる。

 

 

「なんだ木偶の坊」

 

「えぇと〜.....何て言えばいいかなぁ」

 

「シャキッとしろ長親!」

 

 

丹波に突っ込まれる。

 

 

「なんでぇ!まだ戦は終わってねぇとでも言うつもりかよ!」

 

 

和泉が言う。

 

 

「そう、それ!」

 

「「「!!!?」」」

 

「長束殿」

 

 

長親は目付きを変えて宣言する。

 

 

「石田方の水攻めは凄まじいものであった。だが、幸い忍城の本丸は無傷。

我が軍の優秀な武将正木丹波、柴崎和泉、酒巻靱負、皆健在!

再戦をする準備はいつでも出来ている!

初戦で見せた武功を再びそちらに見せつける事となろうが、どうだろうか!!」

 

 

それは忍城勢3千人の思いを背追い込んだ、強烈な宣告である。

 

 

「いっ.....痛たたたたた.....」

 

 

力強く宣言したのが

肩の傷に響いたらしい。

 

 

「長束殿、貴様が蒔いた種だ。

自身で収集をつけよ」

 

 

吉継が言う。

 

 

「うぐぐぐ.....くそっ!

財の持ち出しは自由とする!」

 

 

その返答を聞き、

一同の表情が朗らかになる。

 

 

「長親殿、あまり虐めないで下さい。

素晴らしい戦ができたお礼として、

そちら側の主張はできる限り聞いてあげるつもりです」

 

 

三成もまた穏やかな表情をしていた。

 

 

「では、失礼ながら2つ。

そちらが行った水攻めにて、私達の田圃に大量の土俵が流れ込んできました。あれを.....片付けてはくれませんかね?あのままじゃ百姓らが田植えを出来ませんので」

 

「ぷはっ!.....あははははははは!!

財の持ち出しにはあれだけ激昂していたというのに、それと同等に田植えも心配するとは.....

宜しい!兵達に片付けさせましょう!」

 

「ありがとうございます」

 

「して、もう1つは?」

 

「..........」

 

 

 

 

その時、また長親の顔つきが変わる。

 

 

 

 

 

 

「貴君の兵に降伏した百姓を斬った者がいる。その者の首を.....」

 

「なっ!?」

 

 

それも三成には初耳だった。

兵の規律が乱れていたのは知っていたが、まさか殺しをする迄とは予想していなかった。

 

 

「それは誠に許し難い!

約束しましょう長親殿!

必ずや見つけ出し、

その首を私自ら届けよう!」

 

「ありがとう.....ございます」

 

 

長親は心の底から満足な気持ちで礼を言う。

 

 

「いっ.....石田殿。例の件は?」

 

「あぁ.....」

 

 

三成の本心、忍城勢にこれ以上の追求はしたくなかったのだが、約束事である以上仕方がない。

 

 

「成田長親殿を副将軍様の側室にするという話がありましたが、どうですか?」

 

 

三成は長親がどちらを答えようが、それを受け入れてやるつもりだった。

 

 

「..........お受けします」

 

 

だが、彼女は拒否しなかった。

その時広間の外で誰かが崩れ落ち、

その場を走り去って行った。

 

 

「そう.....ですか」

 

 

三成はそれを厚く受け止める。

 

 

「一つお聞きしても宜しいですか石田殿?」

 

「なんです?」

 

「この忍城の他に、残った支城はいくつありましたか?」

 

 

その問いに、三成は再び吹き出す。

 

 

「ぷっぷぷ.....

本当に何も知らないんですね。

ここだけですよ。落ちなかったのは。

小田原城を含めた多くの城が落ちた中で、この忍城だけが落ちませんでした」

 

「そう.....ですか」

 

 

それを聞いた幹部連中が盛り上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その通り!

お前は氏康に継いで、

素晴らしき総大将であった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

謎の声と共に、そこに不気味な霧が出現する。そしてその中から.....

 

 

「天竜様!!?」

 

「よう佐吉!お疲れさん」

 

 

小田原征伐連合軍総司令である天竜が現れたのだ。只事ではない。

 

 

「それっ」

 

 

天竜は何かが入った袋を2つ程前に投げ捨てる。それは人間のアレが丁度入りそうな大きさで.....

 

 

「その中身は生首だよ。

例の百姓を斬った不届き者のな」

 

「「「!!!?」」」

 

「こっちの情報は式神を通して殆ど入ってきてる。こっちに来てすぐに首を刎ねた。当然、あの舞いもちゃんと拝見させてもらったよ」

 

 

天竜の肩に何やら小動物が出現する。最初は白い鳩だと思われたが、それはなんと白い蝙蝠だった。

 

「..........」

 

「長親殿」

 

「ひゃっ.....ひゃいっ!」

 

「ふふ.....君が真から嫌なら、

わざわざ俺の側室にならなくてもいい。

どうする?」

 

 

長親はしばらく惚けていたが、

次第に朗らかな表情になる。

 

 

「大丈夫ですよ。

これは約束ですし、けじめです。

それに、副将軍様が想像と違って、優しそうな方で良かったです」

 

「俺はどんな奴だと思われてたのだ?」

 

「まぁ、魔王だね」

 

 

靱負がボソッと言ったのを和泉が慌てて口を塞がせる。

 

 

「全く、面白い連中だ」

 

 

天竜は術を唱え、また霧を出す。

その中から出てきたのは.....

 

 

「くそっ!放せ〜!」

 

「氏長!?」

 

 

それは荒縄で拘束された

忍城城主、成田氏長だった。

 

 

「羽柴・北条の両方を敵に回し、

逃げ回っていた所を捕らえた」

 

「うぅ.....忍城城主としてなんたる屈辱か!」

 

「残念ながらその権利はもうない」

 

「!!?」

 

「忍城の管理権は俺にある。

よって命じよう!

成田氏長から忍城城主の座を剥奪。

その権利を城代の成田長親に与える。

今日より成田長親こそが忍城の新城主。

よって、城内の者の自由は長親に委任するものとする!」

 

「そんな!?」

 

 

当然、氏長は納得できない。

 

 

「私が.....城主.....」

 

 

反対に長親は自信なさげだった。

 

 

「いいんじゃねぇの?」

 

 

和泉が言う。

 

 

「氏長さんよかマシでしょ」

 

 

靱負が言う。

 

 

「できるか.....長親?」

 

 

丹波が言った。

 

 

「..........分かりました。お受けします」

 

「長親!!」

 

 

氏長が叫ぶ。

 

「氏長.....君は器じゃなかったんだよ。

私に器があるかは分からないけどね」

 

「くっ.....」

 

 

氏長はその場に崩れ落ちた。

 

 

「なぁ、長親」

 

「はい?」

 

 

天竜は長親に近寄り、キスをする。

 

 

「!!!?」

 

「のぼうの姫の味。

特殊な美味さであるな」

 

 

そう言うと天竜は再び霧に包まれる。

 

 

「いやぁ、幸せだ。

美人さんが2人も手に入るとはね」

 

 

そう言って消えてしまった。

 

 

「羽柴.....天竜か」

 

 

のぼうの姫は今日も朗らかな表情であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそぉ〜!いつか絶対に

長親を取り戻してやるからなぁ〜!」

 

 

元城主弟は決意を固めた。

 

 




小田原征伐と忍城戦。
2つに分けて書いてきた戦争がやっと終結しました。
さて、次回は少し平和編です。
次回予告
吉原
〜小田原の支配者天竜〜


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第四十八話 吉原

前半ギャグで、後半はシリアスです。


「ここか」

 

 

天竜は関東の支配者となった。

常陸国の朧に対抗するため、

元北条の地をそのまま受け取ったのだ。

小田原征伐に伴い、北条方の数万人が敗残兵となり、路頭に迷いかけていたが、天竜はその全員を迎え入れた。それは、一軍師が持つには多過ぎる程の戦力。そこらの大名より強力である。

天竜はその膨れ上がった人員を用いて、関東の改革を行ったのだった。

 

江戸。

 

天竜は、北条が勢力を誇っていた小田原ではなく、江戸に本拠地を置いたのだった。

 

 

「さてさて。都が出来上がるまでに何年かかるかねぇ」

 

 

天竜はとある地を訪れる。城やら堀やらを作る前にやっておきたい事が一つあった。

 

 

「三成。橋はいつできる?」

 

 

町づくりを担当するは石田三成。

 

 

「その.....来年までにはと.....」

 

「どうした?元気ねぇなぁ。

まだ忍城戦の事気にしてんのか?」

 

「そういうわけでは.....」

 

「言っただろ。

『失敗は成功の元』だって。

取り返しのつかなくなったわけじゃねぇんだから、次に挽回すればいいんだよ」

 

 

そう言って頭を撫でてやる。

三成は瞳に雫を溜めた。

 

 

「それじゃあ、

代わりにお願いしようかな。

今度長親に会いに行くからさ、

そのセッティング.....

いい雰囲気を作ってくんねぇかな?」

 

「は.....はぁ」

 

 

それはそれで複雑な心境だ。

 

 

「橋の名前はどうします?」

 

「日本橋」

 

「..........そのまますぎません?」

 

「いいんだよ。数十年後にはここが日本の中心になるんだから」

 

 

平成の世では、ここが東京の中央区になる。

 

 

「さて、彼女達は呼んだか?」

 

「言われた通りにはしましたが.....

本気ですか?最初に作る町ですよ?」

 

「北条時代の頃にはもう町並みはだいたいできてんだよ。都作りはこの先数年かけてやっていけばいいんだよ。

その前にここを仕上げたい」

 

「はぁ.....」

 

 

三成が命じられて某所から呼び寄せた者達.....それは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲斐。

 

 

「はぁ!?

天竜が遊女屋を作りまくってるだと!?」

 

「はい。遊女屋ばかりを集めた町を建築しているそうです」

 

「ぬぬぬぬ.....!!

常陸の朧とかゆうのを倒す為に関東を明け渡したというのに!そんな物を造らせる為に与えたんじゃない!

文句言いに行ってやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は戻る。

 

「天竜!!」

 

 

怒りが篭り、殺気立った信玄がドシドシとやって来る。

 

 

「あい?」

 

 

建築中の遊女屋を視察をしていた天竜。

 

 

「あぁ〜。駄目っすよ〜。

ここは女人禁制っすよぉ?」

 

「なんだと!?私は遊女屋を造らせる為に関東を与えたんじゃない!」

 

「ここは遊女屋じゃないっすよ?」

 

「はぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは『遊郭』だ」

 

「ゆう.....かく?」

 

「あぁ。遊女屋の町、遊郭。なぁ勝千代。俺が何故遊女屋の町を造ったか分かるか?」

 

「分かるか。

それと、その呼び方やめい」

 

 

 

 

 

ここから天竜の言い訳が始まる!

 

 

 

 

 

 

「古今東西、男が命を張る理由は大きく分けて3つある!

それは金と肉。それと女だ。

戦争で戦果を挙げれば金と肉は手に入る。だが女となれば、簡単には手に入らん。身分が高けりゃ、政略結婚でどこぞの姫をいくらでもズッコンバッコンヤレるが、低けりゃ自力で見つける他ない。だが、妻も恋人もできなければ、余り昂ぶる性欲は解消しきれない。

その為に遊女屋がある。

明日の戦で自分は死ぬかもしれない。

だからこそ今日、男は女の温もりを求めるのだ。どれだけ裕福だろうが、どれだけ武功を挙げようが、女がいなければ男は生きていけない!

金で色を買う。

何が悪いのか?

生活の糧を得ているのだ!

それは個人の問題。

他人にとやかく言われる筋合いは無い!

だが昨今の遊女屋ではとある問題のせいで枯渇問題に瀕している。

それこそ姫武将制度!

女性は遊女を極端に嫌う。

下品だ卑猥だとな。

好いた男も遊女に取られ、浮気騒動の原因にもなってしまうからな。

案の定近畿においても、

良晴が遊女屋に行かないように、信奈は京にも多くあった遊女屋をほとんど取り壊してしまった。お陰で蛇の生殺しになり、強姦事件が多発した事もあった。

勝千代。君だって遊女屋を嫌って、甲斐などには全く造らせていないだろう?

それでは兵の士気が低下するばかり。

そんなの駄目だ!!

俺は足利幕府、副将軍として宣言しよう!

幕府公認の遊女屋の町、遊郭を完成させ、全国区に拡大させてみせると!!

そうなれば、南蛮の奴らとて見逃す事もあるまい!自身が聖職者である事も忘れ、大和撫子の色気に翻弄され、すっかり生殖者となるだろうな!ハッハッハッハ!!!

更に!従来の遊女屋にて問題提起されてきた遊女の妊娠問題!通常ならば生理を避けるのが常識だが、店の都合で生理中も仕事させる場合もある!その為遊女が妊娠し、客が認知しなければ、遊女は無理矢理堕胎される事もある、それだけでなく、それよりも大きな問題は感染症だ。

その無理な堕胎や、

不潔な状態での性交により、遊女が梅毒に犯される件が多発してしまっている!

梅毒にはペニシリンが有効とされているが、『仁~JIN~』のように青カビから精製するには時間がかかりすぎる。

だからこそこの避妊具を開発した!」

 

 

天竜が取り出したのはコンドーム!

 

 

「ゴムが日本に来るのは1853年のペリー提督来航時。それまで200年律儀に待つわけにもいかぬので、今回は俺が大量に召喚した!

だが、今後も召喚し続けられるわけではないから、別の素材で検討しようと思う。

牛かなんか膀胱とかが柔らかくて丈夫だからなんとかなりそうだ。

まぁ、いざとなればゴム原産地のオランダから買い付けるとしよう。

この避妊具さえあれば、妊娠の心配も感染症の心配もなくなる!

遊女も客も安心して性交に集中できよう!

さらにその遊ぶ値段も極力下げさせた。それまでは大金を払える上級武士、地主、豪商などしか通えなかったが、これからは下級武士やはたまた百姓だって通えるような安価に設定させよう!

俺は織田時代から溜めた貯蓄が余り余るほどある!全部この遊郭を含めた関東改築の為に使って構わない!

俺は全人類の男の味方だ!

俺は最高の遊郭を造りあげてみせる!!」

 

「「「おぉ〜!!!」」」

 

 

演説を聞いていた男共から天竜への称賛の声が挙がり、拍手で迎えられる。

 

 

「ありがとう!ありがとう!」

 

 

天竜もまた丁寧に返した。

 

 

「もういい.....好きにしてくれ.....」

 

 

完全に論破された信玄は寂しげな背中を見せながら帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、この町の名前はどうされますか?」

 

「佐吉。お前なら何とつける?」

 

「そうですねぇ.....この地は多くの葦が生い茂っていましたので、『葦原』でどうでしょう?」

 

「いい名前だ。だがそれでは、『悪しの原』になり縁起が悪い。俺ならこうつける。

『良しの原』で『吉原』とな」

 

「『吉原』ですか。いい名前ですね」

 

 

こうして、徳川幕府が作るはずだった吉原を天竜が完成させてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

武田家臣団による会議が行われる。

 

 

「次は上杉を落とす」

 

 

天竜がそう切り出す。

上杉は小田原征伐の際も動きは見せていた。だが、甲斐に武田本隊が待機していた為に、上手い具合に進軍できず仕舞いであった。

 

 

「上杉はいざとなれば挟み撃ちも辞さない連中である事がハッキリしたであろう。そんな中途半端な思想の『義』を掲げる奴らを、俺達は許すわけにはいかない。ここで上杉を討つ!」

 

 

それは他の家臣団も同意であった。

だが、問題がある。

この宣言を、天竜がしてしまったのだ。

本来ならば信玄が言うべき言葉。

 

これでは、どっちが大将なのか分かったものではない。

 

 

「分をわきまえよ羽柴!

信玄様の前で!」

 

「特に何も意見を持たぬよりはマシであろう山本勘蔵殿」

 

「くっ.....」

 

 

今現在、

武田の中で最も対立してるのはこの2人。

現軍師である天竜と、

前軍師の嫡子の勘蔵。

だがその実力の差は明確だった。

 

 

「いっ.....今は、西に勢力を広げる織田を討つべきだ!同盟など関係ない!幕府を弄び、姫巫女様を蔑ろにする織田を、これ以上放っておくわけにはいかない!」

 

 

勘蔵の言い分も正しい。

勘蔵に賛同する者もいる。

だが.....

 

 

「背後に敵を置いてか?

織田を攻めた時に上杉に挟み撃ちされたらどうする?上杉だけではない。まだ伊達や最上、朧がいる。

それらを一掃し、東日本を制圧してからでも遅くはないだろう。むしろその方が織田が西日本で取った領土をまとめて手に入れられる。

我らが東日本を制圧するまで織田を抑える必要がある。

だからこそここで同盟を組んだ。

まっ、一種の休戦協定だがな」

 

 

天竜がそれを上回る考えを提示する。

しかも天竜のいい点は、

天竜の意見を全否定の勘蔵に対し、

勘蔵の意見も肯定しつつ、自身の意見を付け加える。案の定、天竜側に賛同する者が多く出る。

 

 

「では天竜の意見を採用しようと思う。

まだ異論があるか勘蔵?」

 

「ぐぐぐぐ..........承知しました」

 

 

これは、天竜こそが武田の軍師である事を決定づける出来事となる。

 

 

「おのれ羽柴天竜.....」

 

 

勘蔵が天竜を睨みつけながら、

ボソリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常陸国。

 

 

「ジッとしててね」

 

「ひぅ.....!?」

 

 

可愛らしい姫武将の首筋に噛み付く朧。

しばらくゴクゴクと吸血をしていたかと思うと、姫武将がビクビクと痙攣を始め、様子が変わる。

 

 

「ふぅ。ごちそうさま」

 

 

朧が彼女から離れる。

放心した姫武将の瞳は紅に染まっていた。

 

 

「これが、眷属作り.....?」

 

 

朧の側で、藤堂高虎は言う。

 

 

「そう。眷属になった吸血鬼は主人の吸血鬼の絶対忠誠を誓うようになるの。.....いえ、正確には『逆らわなくなる』が正しいわね。現に高虎は眷属となった今でも、以前と変わらないしね」

 

 

高虎の瞳もまた紅に染まり、

首筋には2つの噛み跡が残っていた。

 

 

「吸血鬼.....ですか」

 

「なぁに?貴方の人間の部分を殺した事を根に持ってるの?」

 

「いえ!滅相も!

..........ですが、裏切り者の私が、

人間であり続ける事に耐え切れなかった私が.....こんな異能の超常的力を持ってよいのでしょうか?」

 

 

高虎は本心からは裏切ってはいなかった。

 

 

「言ったでしょ。

独断で常陸国を取ったけど、

天竜に敵対したわけじゃない。

第一、天竜を殺せば私も死ぬしね」

 

「えっ!?」

 

 

それは衝撃の事実。

 

 

「私が別世界の天竜だっていうのは前に説明したでしょう?それぞれの世界では別々の生き方をしてるから、片方が死んだ所でもう片方には何の影響もないの。

でも、神のいたずらで私達は1人になった。

弾正のせいで肉体は分かれてるけど、

元より命は彼と私で一つ。

天竜が死ねば私も死ぬし、

私が死ねば天竜も死ぬ」

 

「..........」

 

「心配するな。

私も奴もドラキュラ。

そう簡単には死なない」

 

「はぁ.....

一つお聞きして宜しいですか?

その.....私達は、天竜様の.....

敵なのですか?味方なのですか?」

 

「ふふっ」

 

 

朧はそっと微笑する。

 

 

「天竜と私は同じ存在よ。

敵も味方もないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一月ほどが経って、

吉原にてとある事件が起きていた。

 

 

「人斬り?」

 

「はい。最近、夜になると遊女ばかりを狙う人斬りが出没し、大きな騒動となっています。このままでは、来客も減るばかりで.....」

 

 

三成が言う。

 

 

「ちっ.....」

 

 

俺は呪われているのだろうか。

俺が民衆の為に行動を起こすと、

決まって人斬りが現れる。

 

最初は堺にて、

俺の開いた寺子屋の生徒らが襲われる事件が起き、それは土御門久脩の仕業であり、伊賀忍者であった凪達を操り、俺を炙り出そうとしていた。

その次は大和や紀伊にて、

女子供が無差別に次々に襲われ、

終いには十兵衛や孫市等が襲われ、

大惨事となった。それは暴走した左馬助が起こした悲劇だった。

 

となると今回も俺絡みか?

その場合、

容疑者の第一候補は.....

 

 

「光か.....」

 

 

あいつならやりかねない。

左馬助としての前科があるし、

前に俺の風俗通いが露見した時も、

包丁を持ち出して危うく風俗嬢を殺しかけた事があった。

 

 

「私じゃないわよ。

私だったら、殺したら天竜さんが激怒するような人を殺しますもの」

 

「だよなぁ〜.....................

はっ!!!?.....光っ!!!?」

 

「御機嫌よう」

 

 

いつの間にか光が隣にいた。

 

 

「なんでお前がここにいる!?」

 

「なんでって.....

別にいなくなったわけじゃないですよ?

ずっと一緒にいましたし」

 

「一緒にいたなら、姿も現せよ!

背後霊か手前ぇは!!」

 

「あら?

実際そんなような存在ですよ私」

 

「ちっ.....じゃあ、お前じゃなきゃ、

誰が犯人なんだ?」

 

「そんなもの、目で見て確かめればいいじゃないですか」

 

「ふんっ!

言われなくてもそのつもりだったさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

 

 

「なんで私が.....」

 

 

結局、三成が遊女の格好をして待ち伏せする事になった。

 

 

「しょうがないだろ。

他の奴らは戦後処理で各地に出てるし、

光じゃあ信用できん。

演技とか上手そうなのお前ぐらいだしな。

本物の遊女にやらせるわけにいかないしな」

 

「私なら襲われて構わないと?」

 

「違う違う。

犯人を炙り出すだけだ。

お前に危害が加えられる前に、

俺が全力で犯人を止めてみせる」

 

「天竜様.....

すみません。私に武芸があれば、

その場で取り押さえられるんですけど.....」

 

「いいよいいよ。

吉原の町づくりでは世話になったし、

面倒な財務とか全部押し付けちゃったしな。

それに似合ってるぞ。その着物姿」

 

「うぅ.....」

 

「こんな可愛らしい女郎がいたら、

迷わず指名して抱きたくなる」

 

「えっ!?」

 

 

希望に満ちた返答。

 

 

「まぁ冗談だけど」

 

「なんでですか(怒)!!」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い夜道。

まだ町づくりの途中という事もあり、

遊女も客も日付が変わる頃には屋内に入っていた。ここ最近の人斬り騒動もその由縁であろう。

 

 

「..........」

 

 

その誰もいない町を遊女の格好をした三成が歩を進める。

 

 

「ふぅ.....ふぅ.....ふぅ.....」

 

 

その時!

 

 

「見っつけたぁ!!」

 

 

 

屋根の上から見張っていた天竜が飛び降りてくる。

 

 

「!?」

 

「天竜様!」

 

「よ〜う人斬りぃ。

誰かは知らねぇが、

俺様が退治しに来てやったぜぇ」

 

 

暗闇であるせいか、影に隠れて人斬りの顔が見えない。だが、奴は月明かりがある所まで歩いてくる。

 

 

「ふぅ.....ふぅ.....ふぅ.....」

 

 

何故か息切れをしている人斬り。

その正体が明らかになる。

 

 

「!!!?」

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

 

奴は.....彼女は.....

特別美人過ぎるわけでも、

特別不細工過ぎるわけでもなく、

特別な性格でもなく、

戦においても目立った動きもなく、

名前も特徴的でもない為、

存在そのものをよく忘れられる子。

 

天竜ぐらいがちゃんと覚えてあげていた為に、天竜にとても懐き、自身を愛称で呼ばせる事を旧友や主君以外で唯一許していた。

 

 

「修理.....」

 

 

内藤昌豊。武田四天王で最も目立たない子。

 

 

「何故だ修理。

何故、お前が人斬りなんか.....」

 

「はぁはぁ!.....がふっ!.....はぁはぁ!」

 

 

明らかに様子がおかしい。

動悸と息切れが激しく、

眼が充血している。

天竜はヤクザの組長をしていた経験から、これとよく似た症状を見た事があった。

 

 

「薬物による禁断症状か!?」

 

 

薬物中毒になった者を警察に引き渡すような仕事をやっていた事もあった為、天竜は目で見て中毒患者かどうかが分かった。

 

 

「がぁっ.....!」

 

 

昌豊が逃亡する。

 

 

「あっ.....待て!」

 

「いい。追うな」

 

「何故ですか!」

 

「多分奴の裏には黒幕がいる。

そっと着けて、それを暴くぞ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昌豊が逃げ込んだ先。

それはある人物の屋敷だった。

 

 

「バレたのか!?羽柴秀長に!?

それでオメオメと逃げ帰ってきたのか!!」

 

「うぅ.....」

 

「そういう時は奴を刺し違えてでも殺してくるのが当たり前というものだろう!本当に役立たずだなぁ貴様は!」

 

「げふっ.....それより.....ぐっ、

アレを..........アレを.....」

 

「ちっ.....!」

 

 

その男は懐から煙管と謎の薬物を取り出し、昌豊に投げ渡す。

 

 

「はぁはぁはぁ!!」

 

 

昌豊はそれに火を付け、煙草のように吸う。

だが、それはただの煙草ではなかった。

 

 

「ふん」

 

 

その男はソレに夢中になっている昌豊の袴を脱がし、褌も取ってしまう。昌豊は気づいていないのか、まだソレに吸い付いている。

そんな昌豊を他所に、男は昌豊をそのまま犯してしまう。

 

 

「ひうぅっ!?」

 

「挿入れられて初めて気づいたのかよ。

本当に壊れてやがるなぁ」

 

「はぁはぁ.....いやぁ.....

ひっ.....ひっ!.....はぐっ.....!」

 

「ちっ!まるで犬とヤってるようだ。

ほとんど人形だなぁ、コイツ」

 

「へっ.....へぁ!.....へぁ!.....

.....ぐぐっ..........たすけ.....」

 

 

涙やら鼻水やら唾液やら、

昌豊の顔がグチャグチャにされる。

微かに声にならない程の悲鳴をあげるが、

男はやめようとしない。

 

 

「はははははははははははは!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは阿片か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

男がそれに気づいた矢先、

駆けつけた天竜によって男は殴り飛ばされる。

 

 

「がぐぁっ!!!」

 

「三成。修理を」

 

「はい!」

 

 

男から解放された昌豊は

三成の手当てを受ける。

 

天竜は足下に落ちていた、昌豊が吸っていた煙管を拾い上げ、そっと臭いを嗅ぐ。

 

 

「やはり阿片だな」

 

 

阿片(あへん)。

麻薬の一種で、煙草のようにして吸う事が出来る。一時、快感のようなものを錯覚させるが、効果が切れると強い禁断症状が起き、再び阿片を求めるようになり、だんだん身体を壊してゆく魔の薬。

歴史的に有名なのはアヘン戦争。

イギリスが売りつけた阿片が原因で清国がボロボロにされ、戦争に発展したものの、国力の差に大敗し、清国が滅びる最初の原因にもなった。

アヘン戦争は幕末の事であるが、

阿片そのものは早くから日本にも多く出回っており、鎖国するまでは普通に売られていた。

 

 

「南蛮商人から買ったのか。

こいつを利用して修理を麻薬中毒にし、奴隷にする。その上で人斬りを行わせていたわけか。

遊女が多く死に吉原が没落すれば、

責任を取らされるのは俺だ。

そうやって俺の地位を追い、自身が武田家軍師に返り咲こうとしたのか?

 

え?どうなんだ?

山本勘蔵さんよう!」

 

「ぐぐっ.....」

 

 

全ての黒幕は山本勘蔵。

 

 

「全てお前が悪いんだ!

お前さえ現れなければ俺は父上の後を継いで、武田家軍師になれたんだ!

それなのに.....それなのに.....

お前なんかがいるから!」

 

 

 

「黙れ!!」

 

 

ドスのきいて、怒りのこもった声が響く。

 

 

「そんな事だけの為に修理を壊し、

偉大な父、山本勘助の名を汚したのか!

貴様はどちらにせよ、軍師にはなれなかったであろうな。もし、お前が武田家軍師に適任なら、勝千代は直ぐにでもお前に任命しただろう!

だがそれが無かったのは、

お前の中の腐った部分を彼女が見抜いていたからだ!だからこそ、良晴を軍師にと求めたのだ!」

 

「くっ.....!!」

 

「この下衆が!

人を騙す苦しみを知らぬ者が、

人を騙すな!

人を殺す哀しみを知らぬ者が、

人を殺すな!

戦争の愚かさを知らぬ者が、

戦争を起こすな!

貴様が今、この世で人として

生きている事が腹立たしい!

今日を生きる資格のない者が

俺の前にいる事が憎らしい!

貴様はただの肉だ!

外から内まで腐り切った駄肉だ!!

 

式神、鉤爪竜召喚!!」

 

 

ヴェロキラプトルを型どった式神が

5体程現れる。

 

 

「ひぃぃぃっ!!!?」

 

「俺は貴様に失望した。

肉は肉らしく、トカゲの餌となれ」

 

 

5体の鉤爪竜が勘蔵に襲いかかる。

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ.....」

 

「残すなよ。肉片一つすら、この世に残す事は許されない」

 

 

こうして、山本勘助の隠し子にして嫡子、山本勘蔵は生きたまま恐竜の餌となるという結末にて、生涯を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三成。修理は?」

 

「駄目です.....このままでは.....」

 

「がふっ.....ぎゃふっ.....」

 

「くっ.....」

 

 

昌豊はもう末期症状であった。

脳までもが蕩け、死を待つ状態。

むしろ今まで、誰にも悟られずにいれたのが不思議なくらいだ。

 

 

「なんて哀れで、惨めであろうか。

阿片で操られていたとはいえ、

君は自らの手で罪なき遊女を殺し、

自分の意志で阿片を吸い続けたのだ。

その罪は重い」

 

 

天竜はそっと昌豊を抱き寄せる。

 

 

「簡易ながら、裁判を行う。

内藤昌豊。君は多くの遊女を殺した。

また、違法的な薬物を摂取した。

その罪は許され難い。

よって有罪とし、

内藤昌豊を死刑と処する」

 

 

そうして、昌豊の首筋を.....

 

 

「俺が本当にドラキュラ.....

本当に吸血鬼であるのなら.....」

 

 

天竜は昌豊の首筋に噛み付いた。

そして血を吸った。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、内藤昌豊は死亡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

「うっ.....ううぅ.....」

 

 

とある少女が布団から目を覚ます。

 

 

「起きたか」

 

「天竜.....殿?」

 

「まだ日中だからな、

ちょっとだけ怠いだろう。

吸血鬼も主と眷属では違いがあるらしい」

 

「吸血.....鬼?」

 

「あぁ。人間としての君を殺し、

代わりに吸血鬼にした。

初めての眷属作りだったが、

成功したようだ。

完全に壊れかけていた君を救うにはこれしかなかった。許せ」

 

 

昌豊にはもう、

阿片の禁断症状は消えていた。

だが、肌は死人のように青白く変色し、口には鬼歯。そして、瞳は紅色に輝いていた。

 

 

「ようこそ。人外の世界へ」

 

 

人間としての昌豊は死亡し、

吸血鬼としての昌豊が誕生する。

 

 

「主(あるじ).....様」

 

 

あぁ。俺はなんて罪深い。

怪物としての孤独が寂しく、

彼女を引き込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺こそ真の外道か.....

 




原作で全く目立たない修理ちゃんを
全面に出した会でした。
一部性的描写がありましたが、
規定に引っかからないか心配です。
次回予告
川中島の合戦
〜もう、武田と上杉は.....互角ではない〜


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番外編4

原作はもう打ち切れたのかな?


10話 三国志占い

 

これは天竜がまだ織田家中で、比較的信奈との関係も良好であった頃のお話である。

 

 

「三国志占い?」

 

 

良晴が尋ねる。

 

 

「あぁ。学校でもやってやった事あるだろ。あれだよあれ」

 

「ふえ〜。てっきりイカサマだと思ってた」

 

「何してるのよ?」

 

 

兄弟の会話に興味を示した

信奈がやって来る。

 

 

「丁度いいです信奈様。

一緒にやりませんか?

三国志占い」

 

「何なのそれ?」

 

「占った相手の特徴や性格から、

三国志に登場する武将達の中で、

最も近い人物を占う.....まぁ、陰陽術を利用したお遊びです」

 

「インチキ臭いけど面白そうね。

どうせなら他の皆も呼びましょう!」

 

 

こうして、織田家臣団が集結する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは信奈様から占いますね」

 

 

天竜はポンッと水晶玉を召喚する。

 

 

「水晶玉で占うの?

ちょっとダサくねぇか?」

 

 

良晴に言われる。

 

 

「バーカ。

あん時は極小の自の力でやってたけど、

今の俺はだいぶパワーアップしてんだよ」

 

 

すると、水晶玉から謎の光が照らされ、

壁にスクリーンのようなものを映し出す。

 

 

「うひ〜。魔法なのか科学なのか分からん」

 

「分かりやすいように、映像で写しますね。情報ソースは『三国●双』から!」

 

 

ここまでの会話、誰も理解できない。

 

 

「信奈は曹操とかじゃね?」

 

「そうそう?」

 

「シム。三国のうち、魏の皇帝だね。

曹操、劉備、孫権のうち、

最も強い君主だったらしい」

 

 

官兵衛が説明する。

 

 

「へぇ〜」

 

 

それを聞き、

信奈がワクワクして待ち構える。

 

 

「そいやっ!」

 

 

天竜の掛け声と共に、映像が映される。

映っていたのは、

思った以上に肥えたオッサンで.....

 

 

「これが.....曹操?」

 

「いえ、董卓です」

 

「とうたく?」

 

「くすんくすん。まだ後漢の時代の将軍です。帝を誘拐して傀儡にし、逆賊と言われ、国中に嫌われていた方です」

 

 

半兵衛が言う。

 

 

「シム。悪逆非道を好み、

逆らう者は一族諸共皆殺し。

自己中心的の典型だね」

 

「何よそれ!!?」

 

「でも結構似てね?」

 

「何ですってサル〜!!」

 

「でも信奈様と同じように、

董卓にも有名な四字熟語がありますよ?

信奈様の『天下布武』に対して、

董卓は『酒池肉林』」

 

「私.....そんなのと同じなの?」

 

 

完全にブルーになってしまった信奈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、次は良晴だな。

 

 

「猿みたいな武将はいましたですか?」

 

「十兵衛ちゃん!」

 

「そいやっ!」

 

 

良晴の武将が映される。

それは、ひ弱そうな優男で.....

 

 

「誰これ?」

 

「劉禅だな」

 

「りゅうぜん?」

 

「シム。劉備の息子だね。

蜀の2代目皇帝だけど、戦を好まず、

仕事を全部丸投げして、遊び呆けていた奴だね。魏に襲われてビビって、さっさと降伏しちゃった臆病者さ。

ある意味、董卓より嫌われてるね」

 

「何で俺が劉禅だよ!!」

 

「俺の見解はちょっと違うかな。

父から皇帝を継いで、

孔明と共に10年、孔明の死後も30年、蜀を安定させたんだ。俺は愚帝とは思えないな。

丸投げと言ったって、部下の事を完全に信用して、確たる地位をあげられるのは、いい君主の証だよ。40年間、一度も裏切られる事もなかったしな。

降伏だって、

『民を危険に晒すくらいなら』

という考えからであって、臆病者と言うにはお門違いであると思う!」

 

「.....天竜さん。劉禅好きなの?」

 

「わりとな。いい事してるのに嫌われてる人とか、結構同情してしまう」

 

「へぇ.....」

 

 

天竜のフォローもあってか、

そこまで傷つかなかった良晴。

 

 

「信奈もフォローしてやれよ」

 

「いや、董卓は救い用のないクズだし.....」

 

「ああぁ.....」

 

 

益々落ち込む信奈である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ?半兵衛はやっぱり諸葛亮だ」

 

「ほっ.....」

 

 

流石、今孔明と呼ばれているだけある。

 

 

「官兵衛は.....司馬懿だな」

 

「シム。まぁ、妥当だね」

 

「司馬懿は諸葛亮と互角の才能を持った持ち主だ。しかし、司馬懿は魏が3代目皇帝の時に革命を起こして、

君主を押しのけて魏の大将になっちまってるな」

 

「まさか官兵衛!!」

 

「そっ.....そんな事するわけ、

なっ.....ないじゃないか!!」

 

 

危なく謀反予定犯にされる所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、

勝家が脳筋繋がりで張飛。

長秀は文武両道で関羽。

犬千代はアニマル繋がりで孟獲。

五右衛門は何故か魏延。

 

 

「何故でござりましゅるか?」

 

「さぁ?ちゃんと言葉話せないからじゃね?」

 

「むむむ.....」

 

 

鹿之助は典韋だった。

 

 

「典韋は騙し討ちされた曹操を逃がすために身を盾にし、全身に矢を受けて立ち往生した忠臣だな」

 

「全身に矢..........はぁはぁはぁ」

 

「この人怖い」

 

 

天竜の本音が飛び出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねねも知りたいですぞ!」

 

「ねねかぁ.....ねねは.....小喬だな」

 

「しょうきょう?」

 

「呉の将、周瑜の嫁さんだ。

姉の大喬と並んで、三国一の美人だって言われていたんだ」

 

「えへへ」

 

 

ねねは満足そうだった。

 

 

「辰は誰なのです?」

 

 

天竜のもう1人の妹、羽柴秀俊。

 

 

「シンは.....周瑜!」

 

「周瑜なのですか?」

 

「あぁ、ねねとペアになるとは驚いたな。

蜀の軍師が諸葛亮なら、

呉の軍師は周瑜だ。

2人が協力して

曹操の大船団を追い払った事もある。

今じゃあまだまだ未熟だが、

そのうち頭のいい大将になれるかもな」

 

「おぉ!なのです」

 

 

秀俊も嬉しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十兵衛は.....貂蟬だ」

 

「朝鮮ですか?」

 

「違う違う。王允ていう武将の娘だ。

その美しさと踊りから

董卓を誘惑したらしい」

 

「へぇ〜。

あまり目立つ人ではないんですね」

 

「まっ.....まぁな」

 

 

貂蟬が1番目立つ所など、

信奈の前で言えるはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大方の人物の占いが終わった時。

 

 

「あんたは誰なのよ?」

 

「へ?」

 

 

信奈に聞かれる。

 

 

「ん〜。自分を占った事はないので.....」

 

「確かに気になるな。

天竜さんが誰なのか」

 

「自分で自分を占えますですか?」

 

 

良晴や十兵衛まで興味を示す。

 

 

「できない事はないです。

やってみますね。ちぇあっ!」

 

 

すると、そこに映ったのは今まで出てきた武将の誰よりも強そうな武将である。

 

 

「誰よこれ?」

 

「りょ.....呂布です」

 

 

天竜が大量の汗をかく。

 

 

「あちゃ〜」

 

 

それに良晴も気づいたようだ。

 

 

「その呂布ってのはどんな奴なの?」

 

「その.....」

 

 

天竜は言い渋る。

言えるはずがないのだ。

 

 

「シム。呂布は董卓の家臣だね」

 

「あら。そうなの」

 

「こらっ!官兵衛!」

 

 

官兵衛があっさり喋ってしまう。

 

 

「シム。呂布は劉備、関羽、張飛が束になっても互角の戦闘を見せる程の豪傑で、彼こそが三国無双であるという話があるね」

 

「まんまシロじゃない」

 

「うぅ.....」

 

 

問題はその続きだ。

 

 

「でもそんな呂布も恋をした。

その相手こそが貂蟬」

 

「へっ?」

 

 

十兵衛も驚く。

 

 

「だが、その時すでに貂蟬は董卓のものだった。この三角関係が原因で董卓と呂布はドンドン不仲になった。

一時期、呂布に貂蟬を渡す事でその不仲になった関係を修復しようとしたんだけど、董卓がその約束を一方的に反故にしてしまった。それが決定打。

呂布はそんな董卓を.....」

 

「わぁーー!!わぁーー!!」

 

 

大声をあげて誤魔化そうとする天竜。

 

 

「殺しちゃったんだよ」

 

「へぇ.....」

 

 

信奈の様子がガラリと変わる。

天竜もビビる程の黒さ。

 

 

「そうなんだ.....あんた、私を裏切って殺すつもりだったんだ.....」

 

「違〜〜う!!

これはただの占い!

ただのお遊び!!」

 

「呂布の裏切りは凄いよ。董卓の前は、自分の養父も裏切って殺してる」

 

「へぇ〜」

 

「官兵衛黙れ(怒)!!」

 

「その後、劉備の客将になったりもしたんだけど、それすらも裏切って.....」

 

「違う!!それは呂布が気に入らなかった張飛が無理矢理裏切らせたんだ!」

 

「えっ!?あたし!?」

 

 

勝家まで巻き込む。

 

 

「まぁ、董卓と呂布を不仲にし、

引き裂いて、両方を没落させようと計画した黒幕は貂蟬だけどね」

 

「わっ.....私ですか!!?」

 

「そうなの.....あんたも裏切るの」

 

「違うですぅ〜!!」

 

 

官兵衛はさっきの仕返しなのか、

ベラベラと喋り尽くす。

 

 

「くすんくすん。今、1番織田の結束を引き裂こうとしてる悪人は官兵衛さんです」

 

 

もう半兵衛にも止められない。

 

 

「ちょっと、落ち着けよ信奈!」

 

 

良晴がフォローしようとする。

 

 

「五月蝿い!

臆病者劉禅のくせに!!」

 

「えぇ〜.....」

 

「そこに並びなさい!

シロ!十兵衛!

裏切られる前に打ち首してあげるわ!」

 

「「ひえ〜!!!」

 

 

刀を振り回しなが追ってくる信奈から、必死に逃げ惑う2人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在。

 

 

「まさか、

あれが現実になろうとは思わなかったな」

 

 

昔を懐かしむ天竜。

 

 

「だからって、信奈様を殺したら、絶対に許さないですよ!」

 

「全く、君はどこまで信奈が好きなんだ?

董卓だぞ?」

 

「むぅ.....」

 

「だが、信奈は倒すよ。

その生死に関わらずな。

それが俺の目標でもある」

 

「天竜.....」

 

「十兵衛。君はその軍服を着用し、

髪まで切った。俺に着いてくる事を明白にした上で、まだ信奈を思えるんだね。大した忠臣だ。

信奈は家臣を見る目だけはあったらしい。

俺を除いてな」

 

「私は貴方の味方です。

それが貴方の意思なら、

私も信奈様を倒しますです。

ですが、私は信奈様を同時に救いたい。

.....間違っているでしょうか?」

 

「いいや。君らしい」

 

 

天竜は十兵衛にキスをする。

 

 

「う.....ん.....」

 

「キスの先はいつさせてくれるかな?」

 

「まっ.....まだ!心の準備が!」

 

「ふふっ。いつでもいいよ。

でもあんまり待たせると、

いつか押し倒してしまうかもしれない」

 

「うぅ.....」

 

 

これはおしどり夫婦と

言って良いのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11話 四ヶ国会議。

伊勢にて。

 

 

「はっ.....ハローなのです!」

 

 

緊張する秀俊。その相手とは.....

 

 

「Buon giorno」

 

「ぼっ.....ぼぼぼ.....ぼんじょるの!?」

 

 

天竜から習った英語の挨拶が通じず、

混乱する秀俊。

 

 

「こんにちは。お嬢さん」

 

「にっ.....日本語話せるなのですか!」

 

「そうだが?」

 

 

相手は赤髪のイタリア人、ジョバンナ。

 

 

「うぅ.....」

 

「秀俊。日本人なら

堂々としていて下さい」

 

「貴方は?」

 

 

秀俊の付き添い、金髪碧眼の美女。

 

 

「ジャンヌダルクです」

 

「ジャッ.....!?」

 

 

フランス人のジャンヌダルク。

 

 

「それは.....オルレアンの?」

 

「はい。話せば長くなりますが.....」

 

 

 

 

 

ジャンヌはサンジェルマンや天竜との出会いを簡潔に語る。

 

 

 

 

 

「本当に長い...........眠くなってきた」

 

「それよりもお腹空いたなのです」

 

「同感ですね。昼食にしましょう」

 

「私もお腹が空いた」

 

「眠たいのでは?」

 

「それとこれとでは別だ」

 

「ふふっ......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デキタアル〜!」

 

 

明国人の黄黄の料理が運ばれる。

 

 

「これは.....日本や支那の料理

だけではないですね」

 

 

ジャンヌが言う。

 

 

「天竜ニ色々教ワッタアル。

他ニモ朝鮮料理ヤ、

フランス料理ヤイタリア料理モアルアル」

 

「ほう」

 

 

ジョバンナも興味を示す。

懐かしの郷土料理もあるのだ。

 

 

腹ペコ3人官女が一斉に食べ始める。

 

 

「むしゃむしゃむしゃ!」

 

「はむはむはむ!」

 

「ガツガツガツ!」

 

 

会話もせず、只々食べ続ける3人。

 

 

「何ニモ喋ラレナイノモ、

不思議ナ気分アル」

 

「あっ.....すみません。

黄黄。天竜に教わったとはいえ、

ここまで各国の料理を再現させるとは.....

感服入ります」

 

「谢谢!」

 

「むぅ.....」

 

 

なんとジョバンナが涙を流す。

 

 

「ドウシタアルカジョバンナサン!?」

 

「本当に.....本当に、

久しぶりに口した故郷の味。

母を思い出した」

 

「ソッ.....ソウアルカ。谢谢」

 

 

初めて会うが、こんな人だったんだ。

 

 

「むしゃむしゃむしゃ」

 

 

秀俊はまだ無言で食している。

 

 

「ドウデスカ、シンチャン?

シンチャンノ為ニモ、

歯応エヲ工夫シタリ、

逆ニ柔ラカクシテミタリシタケド.....」

 

「とてもおいしいなのです!」

 

「谢谢!」

 

 

黄黄は、味覚障害を持つ秀俊への料理はいつも人一倍気を使っているのだが、純真無垢な秀俊の感想により、いつも癒やされている。

 

 

「ところでジョバンナ。

貴方は何故この日本国に来たのですか?」

 

 

ジャンヌが切り出す。

 

 

「私は.....オルガンティノに護衛で着いてきただけ。特に目的はない」

 

「では、本国に帰りたいという願望は?」

 

「特にはない。貴族の家に生まれ、

ヨハネ騎士団にも所属していたが、

何も感じるものはなかった」

 

「.....つまらないですね貴方」

 

「何?」

 

「目標のない人生など、

死んでいるのと変わりありません。

誰かに決められて動くなど、

犬でもできる」

 

 

そう言われ、ジョバンナの目付きが変わる。

 

 

「そういう貴方はどうなのだ?

あの男に着いてゆく事が、

本当に正しい事と言えるのか!?

あの悪魔の化身のような男に!」

 

「確かに.....天竜は真っ当な人間ではありません。しかし、彼には夢がある。目標がある」

 

「夢?」

 

「天竜の理想の中に、

日本国や支那国やフランス王国やイタリア王国など、国一つ等の小さい思想に留まらない。織田信奈などいう者ですら亜細亜統一程度の思想しかない。

ですが天竜は、放っておけばこの星も出て行くかもしれない」

 

「.....貴方もまた、十字に身を委ねる存在であったはず、その天竜に実力があるとして、逆十字を掲げる悪魔に魂を売ったというのか!」

 

「ふふっ.....悪魔に魂を.....ですか」

 

 

すると、

ジャンヌは懐から十字架を取り出す。

 

 

「私は、夢の中でミカエル様と出会った。

目覚めた時、枕元にこの十字架が置いてあった事から、それが現実の事であると認識できた。

だが、ミカエル様はサタンだった。

今思えば、これは逆十字だったのかもしれませんね」

 

「...........」

 

「信じていたものがサタンであったなら、

私はそれに従います。

悪魔であるからと捨てられるものではないですから。私のあの方への憧れは.....」

 

「ふんっ.....」

 

 

ジョバンナは呆れかえる。

 

 

「私と黄黄はこの日本国にて骨をうずめる覚悟をしています。本国では私は数百年前に死んでいる事になっていますしね」

 

「黄黄ハ明国デハ重罪人アル。

帰ッタラ殺サレルカラ、

帰ルニ帰レナイアル。

マァ、親族ハトウニ殺サレテルダロウシ.....」

 

 

ジャンヌはフッと微笑する。

 

 

「ジョバンナ。

私は、日本人になってもいい」

 

「!?」

 

「この日本国は自由な国です。

例え生まれが他国であっても、

この国では志さえあれば日本人になれる。

貴方はどうですかジョバンナ」

 

「私に日本人になれと?」

 

「このまま目的もなく過ごし続けるよりはいいのでは?」

 

「くっ.....」

 

 

 

 

 

 

「むしゃむしゃむしゃ」

 

 

 

 

 

 

秀俊はそんなのもお構いなしにむしゃむしゃ食べている。

 

 

「ヒデトシ。君はアレの妹だとか。

君は.....兄は好きか?」

 

「好きなのです!」

 

「...........何故好きだ?」

 

「テン兄様はとても優しいなのです。

辰だけにじゃない。

立場の弱い皆の味方なのです。

だから、それを脅かす者の敵なのです。

兄様のやり方は確かに野蛮なのです。

でも、それが最後に皆の為になるのなら、

辰はいくらでも応援するなのです」

 

「...........」

 

 

ジョバンナは黙って何かを思う。

 

 

「私は騎士だ。だから騎士道に従い、

私も国の為ではく弱き者の為に、

その剣を振るいたい。

この子のような者達の為に」

 

 

そう言って秀俊の頭を撫でてやる。

 

 

「だが、私はあの男の為に剣を振るうのではない。たまたま道が同じだったから協力するまで!アンチに組する事もない!」

 

「それでも嬉しいです」

 

 

ジャンヌは手を差し出す。

 

 

「ようこそ、魔道へ。

道は険しいですが元西洋の騎士同士、

共に切り開きましょう」

 

「ふん.....死人が生意気だ」

 

 

そうして、2人は握手を交わした。

 

 

「シンチャン、イマイチ2人ノ会話ガ分カラナインダケド、分カルアル?」

 

「辰も分からないなのです」

 

 

そう答えて、

秀俊はまたむしゃむしゃと食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12話 宗教同盟

これは、ジョバンナやジャンヌ達による食事会が行われていた場所とは別の場所で行われた会談。

そこで2人は話し合っていた。

 

天竜とオルガンティノ。

 

 

「そんな.....!?」

 

「もう一度言うオルガンティノ。

伊勢イスパニア島を放棄せよ」

 

 

この島の名義はオルガンティノにある。

だがこれは、良晴が勝手に了承してしまった事で、この島は日本国が手放したという事になってしまった。

 

それを天竜は許さなかった。

 

 

「何も日本から出て行けというわけではない。その島が何処の国の領土であるか、ハッキリさせたいのだ」

 

「こっ.....ここは、僕が良晴さん及び織田信奈様の了解を得て.....」

 

「黙れ」

 

「.....!?」

 

「あの非国民の馬鹿共の了解でなんとかなると思うな!ここは元は志摩の九鬼嘉隆の領土。その夫である俺が改めて調査をした結果、お前らは不法滞在している事になった。さっさと明け渡せ!」

 

「そんな無茶苦茶な!」

 

「別に浮浪の旅をしろと言っているわけではないのだ。君らの居場所くらいは用意している。差し上げるのではなく、貸し与えるのだがな。

その上で伊勢イスパニア島は正式に日本固有の島に戻す事とする」

 

「くっ.....!」

 

 

だが、オルガンティノは揺るがない。

 

 

「駄目です!

僕は神に仕える身!

悪魔の下僕である貴方の要求など、

断じて受けない!」

 

「ちっ!.....これだから耶蘇は面倒だ」

 

 

天竜オルガンティノの襟元を掴み、

釣り上げる。

 

 

「この俺様が優しく対応してやれるのは美少女限定だ!糞餓鬼にも同じであると思うなよ!!」

 

「うぐぐぐっ!

やだ!悪魔なんかに屈するか!」

 

「ほう」

 

 

天竜は急に手を放す。

 

 

「げほっ!.....がはっ!.....」

 

「いけない、いけない。

これでは暴力団系ヤクザと対して変わらぬな。ここはもっと大人の対応をせねばなるまい」

 

「!?」

 

「なぁ、オルガンティノ。

君は何故この極東の地まで来た?」

 

「そっ.....それは.....、

イエス様の教えを、この国の方達にも知って頂きたいと!」

 

「それ以外の思いはないと?」

 

「はい!」

 

「おかしいなぁ。

では君らが宣教した国が次々と欧州の植民地にされている。それは何故だ?」

 

「それは.....」

 

 

オルガンティノには痛い質問だ。

 

 

「それは一部の宣教師がやっている事です。僕達は真から宣教を.....」

 

「自分がやってなければ、

同僚が何やっててもお構いなし。

本当に幼いな。お前は」

 

「なっ!?」

 

「お前は逃げているだけだろう。

同僚のやっている下衆に塗れた宣教活動が、悪であると認めてしまう事を恐れて、見て見ぬ振りをしている。悪事を黙認してしまっている。それは悪徳宣教師と対して変わらないんじゃないか?」

 

「くっ.....!」

 

「お前達のような偽善者が人々を狂わせる。お前達が広めようとする悪徳宗教が、目的もない闘争を生む。

そんな悪の権化、

俺が滅ぼしてくれる!」

 

 

天竜はウィンチェスター銃を召喚する。

 

 

「!!?」

 

「お前の死が平和の世の布石になるのなら、俺は遠慮なく引き金を引かせてもらおう!」

 

「僕は!僕はイエス様の.....キリスト十字教を信じている!十字教こそが世界に調和をもたらすと!」

 

「馬鹿が!歴代の戦火は宗教が由縁によって起こされた悲劇ばかりだ!そんな戦争の種など俺が摘んでやる!」

 

「なら貴方は!

そんなにも戦争を憎んでいるのに、何故自ら戦争を起こそうとするのですか!」

 

「戦争を終わらせるには戦争しかないのだ!話し合いという外交手段が途絶えてしまっては、もうどちらかが一方を打ち倒すしかないのだ!

そうして争いが終結すれば、

平和が訪れる」

 

「その為に世界に敵を回して、全てを打ち倒して平和を手に入れるのですか!」

 

「そうだ!俺は世界征服をする!

世界征服をして、世界平和をもたらす!」

 

「貴方は.....間違っている.....」

 

 

天竜は引き金に指をかける。

 

 

「もう一度聞く。

お前にとっての十字教は?」

 

 

涙目になっているオルガンティノは大声で返答する。

 

 

「世に調和と平和をもたらすものです!」

 

「そうか。それがお前だな。

グネッキ・ソルディ・オルガンティノ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぐっ!?」

 

 

オルガンティノはキョトンとする。

てっきり天竜のウィンチェスターから発砲されたものだと思っていた。だが、そのウィンチェスターは天竜手から離れ、天竜は右腕から流血している。

 

 

「がぐぐぐぐぐ.....!

面白い.....面白いではないか!

お前はどこまで俺を楽しませてくれる?

なぁ、良晴」

 

「ふぅ.....ふぅ.....ふぅ.....」

 

 

発砲したのは、駆けつけた良晴だった。その手には火縄銃が握られていた。

 

 

「よくぞ一発で当てたな。

孫市も驚くであろう。

それともまぐれ当たりかな?」

 

「天竜さん.....もうやめてくれ.....」

 

「銀の銃弾か。

誰の差し金か知らんが、我が弱点を正確に突くとは、恐れ入った。日本製の吸血鬼、鬼には金が有効だが、吸血鬼には銀が有効だ」

 

「吸血.....鬼?」

 

「紹介がまだだったな。

俺は副将軍にして武田軍師。

羽柴天竜秀長。そして.....

ドラキュラ伯爵である」

 

「何を言って.....」

 

 

天竜は落ちていたウィンチェスターを左手で拾い、良晴に対し構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドーーンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!?」

 

 

だが、何も起こらない。

 

 

「空砲だよ。元よりオルガンティノを撃つ気などないさ」

 

「なっ!?」

 

「えっ?」

 

「俺が知りたかったのはオルガンティノの誠意。命乞いでもしたら、本当に殺すつもりだったよ。でもその必要もなさそうだ」

 

 

天竜が右手に力を込める。すると右手の怪我が逆再生されるかのように完治する。

 

 

「俺が滅ぼすのは悪しき十字教だ。

正しい事をしてる者まで害する事はない。俺は宗教が嫌いだが、同時に必要である事も理解はしている。

納得はしないがな.....」

 

「天竜さん.....」

 

「オルガンティノ。

お前が真から正義の為に宣教しているのなら、もう逃げるな。戦え。

自身が思う本当に道を切り開け。

もし君が決意するなら、

俺は快く手を貸そう。

その為ならば、この逆十字。

一時ならばさらに返しても構わん」

 

 

天竜は持っていた逆十字を本来の十字架に戻してみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かりました。僕はもう迷いません!戦ってみせます!戦って、正しい教えを広めてみせる!」

 

「いい答えだ。

縁があればまた会おう。それまでは今まで通り伊勢イスパニア島を任せよう」

 

「はい!」

 

 

そうして天竜は霧のように消えてしまった。

 

 

「............」

 

 

この時良晴は、何が正しいのか分からなくなっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り際。

 

 

「ジョバンナの勧誘ご苦労ジャンヌ」

 

「はい。しかし、オルガンティノ達はどうなされるのです?」

 

「ふっくっくっくっく.....

しれたこと事よう.....」

 

 

天竜は邪悪な表情になる。

 

 

「正面から突進する牛に立ち向かうのは愚か者のする事。俺なら生贄を使って足止めさせ、牛が油断している所に横槍を突いてまとめて始末する」

 

「全く.....本当の悪魔ですね」

 

「ガスパール・カブラル。

裏で色々と嗅ぎ回っているようだが、全部バレバレだよ。俺は貴様をどう料理できるか楽しみにしている」

 

「オルガンティノには嘘を?」

 

「いいや?

確かに宗教は必要だ。

だが、複数あるから駄目なのだ。

一つあればいい。

世界を一つにまとめ上げ、

その上で国家神道を置く。

そうなれば争いは消え失せる。

それまでは精々利用させてもらうぞ人間共」

 

「まるで人間を超越した者の言葉ですね」

 

「そうとも」

 

 

天竜は言う。

 

 

 

 

 

 

「俺は人間である事に耐え切れなかった化物なのだからな」

 




キンタマ━━━ωヾ(`・ω・´)ノω━━━!!!


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第四十九話 川中島の合戦

新キャラ登場の予感。


山本勘蔵が殺された。

それが天竜の手によるものであると、彼自身がすんなり暴露したため、武田家中にて不穏な空気が流れていた。

 

 

「お前が殺したのか?」

 

「えぇ」

 

「何故だ」

 

「勘蔵殿は非道にも罪なき遊女を殺しました。さらに、危険な非人道的薬物にも手を付けました。

だから粛清した」

 

 

天竜は昌豊の事件の関与をあえて隠す。

 

 

「まぁ、それはいいとして.....」

 

 

いいんだ.....

 

 

「それは何だ」

 

 

信玄は天竜の腰あたりを示す。

 

 

「主さまぁ〜o(*゚▽゚*)o」

 

 

昌豊が天竜にすがりついていた。

 

 

「ま.....ま.....まさ..........

えぇと.....まさと..........なんだっけ?

そいつが何でここにいる?」

 

 

まだ覚えられてないのか。

 

 

「内藤昌豊。修理ですよ」

 

「そうそう!修理だ修理!

............だからなんでここにいる!?」

 

「私のご主人はドラキュラ様ただ1人ですぅ」

 

「は?」

 

「病気かなんかだと思って下さい」

 

 

正直説明が面倒臭かったし、

説明すると人斬り事件にも繋がってしまうので、あえて省いた。

 

 

「ところで、対上杉戦ですが.....」

 

「そうだ。それを伝えに来たんだ。

天竜。お前は昌幸に追軍しろ」

 

「昌幸.....殿?」

 

「真田昌幸だ」

 

 

真田昌幸。

武田家臣の中で最も優れた武将。

四天王には入らずとも、その実力は桁違いだ。後に、関ヶ原の合戦と同時進行で行われた上田合戦では、徳川秀忠の大軍を2度も退かせ、その圧倒的強さを示してみせた人物。

 

 

「おっ、丁度来たぞ」

 

 

昌幸が2人のもとへ近づく。

 

その見た目は腰まで伸びる赤黒い髪。グラビアアイドルとも思えるプロポーション。30代前後といったところか?

 

 

「ごきげんよう信玄様。

そちらは新しい軍師様でしたかしら?」

 

 

お嬢様のような口調の昌幸。

 

 

「羽柴秀長です。はじめまして」

 

 

天竜は手をさしだす。

 

 

「ふふっ」

 

 

昌幸もまたその手を取り、握手する。

 

 

「ふふっ。小田原征伐における貴方のご活躍。よく聞いておりますわよ?良い頭をお持ちですねぇ?」

 

「それは.....光栄の限り」

 

「どさくさに紛れて常陸を取るだなんて、とても私にはできませんわ」

 

「なっ.....!?」

 

 

こいつ.....!!

 

 

「何か勘違いをなされてますね昌幸殿。

常陸は私の元家臣、朧が独断で取ったもの。それでは私が朧を差し向けて常陸を強奪したかのような言い方ではありませんか!」

 

「あら?

てっきりそうだと思っていましたわ」

 

「くっ.....!!」

 

 

真田昌幸.....面倒な女だ。

 

 

「待ってくだ〜い!」

 

 

すると、遠くから昌幸を縮めたような少女が走ってくる。

 

 

「信繁。挨拶しなさい」

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....コホンッ!

真田信繁です!

よろしくお願いします!秀長殿!」

 

 

真田信繁。

もう一つの名の方が現代人には馴染み深いだろう。昌幸の後継者として破格の才能を持ち、大坂の役においては、特に夏の合戦では、大軍で攻め寄せた徳川軍を真逆に追い詰める功績をみせた。

 

だが、信繁の最初の家臣は上杉景勝。

もう生まれているのか.....

武蔵や政宗みたく、神のいたずら.....いや、悪魔のいたずらで早くに誕生した英雄の1人か。

 

 

「はじまして信繁殿。

信繁殿は昌幸殿の妹さんかな?」

 

「あら、嬉しい。娘ですのよ」

 

 

あっそ.....

 

 

「源四郎は..........じゃない、

私は秀長殿にとても憧れてたんです!」

 

「ほう」

 

「あの小田原城を全壊させた爽快さ!

それまで戦の風潮を無視した大胆さ!

素晴らしいです!」

 

「ベタ褒めは嬉しいがね」

 

「はい!結婚して下さい!」

 

「..............................は?」

 

 

突然のカミングアウトに、

天竜と信玄はおろか、

親である昌幸まで驚愕する。

 

 

「のっ.....信繁!!

なんて事言うのですか!!」

 

「母上。私も13歳!

充分結婚できる年齢です!

だから秀長殿を夫に選びたい!」

 

「側室でいいかな?」

 

 

天竜も面白がって参加する。

 

 

「秀長殿(怒)!!」

 

 

昌幸が叫ぶ。

 

 

「正室希望で!!」

 

「残念ながら正室の座は埋まってる。

それに俺の女になりたいなら、

あと3年分は成長してくれ」

 

「..........分かりました!

それまでに母上のように

ボンキュッボンになりますね!」

 

「いや、俺としては

キュッキュッポンの方が.....」

 

「秀長殿(怒)!!!」

 

 

真田昌幸.....

始めは面倒臭いだけかと思ったが、

娘の信繁を利用すれば.....くくくく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今回もまた

川中島での合戦となろう。

その戦略、俺に一任させてほしい」

 

「できるのか?」

 

 

信玄が問う。

 

 

「おいおい勝千代。

俺は戦略で小田原城を落としたのだぞ?

実力はその際に確認済みだろう」

 

「むっ.....むぅ」

 

「分を弁えたらどうなの坊や」

 

「ほう?」

 

 

昌幸が反論する。

 

 

「貴方は軍師であって、

総大将は信玄様。

最近調子に乗り過ぎではなくて?」

 

「それは俺より強くなってから言うんだな。

僻みにしかならんぞ?」

 

「なっ!?」

 

「それに坊やじゃない。

俺は見た目より老けててな。

実年齢はあんたと対して変わらん」

 

 

怪物としてなら500歳以上だし。

 

 

「くっ.....!

信玄様。この男は危険ですわ。

この男は織田を裏切った男。

武田に忠誠を誓うとは到底思えません!」

 

「うえーん。助けてくれ信繁-。

君の母上が虐めるよー」

 

 

超棒読みで信繁に助けを求める。

 

 

「母上!秀長殿を虐めたらこの源四郎.....じゃない。私が許せません!」

 

「うっ.....うぅ.....」

 

「天竜と呼ぶ事を許可しようではないか信繁くん!代わりに源四郎と呼んであげよう!」

 

「わぁぁ!ありがとうございます!」

 

「ぐぐぐ.....」

 

 

わざと演技調に言うことで

昌幸をおちょくる。

 

 

「という事だ。

よろしくお願いしますよ。

お嬢ちゃん」

 

「ぐぐぐ.....おのれ羽柴天竜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

越後にて。

 

 

「謙信様?」

 

 

上杉謙信の懐刀、直江兼続は問う。

 

 

「先程、武田から宣戦布告があった。

また戦になる」

 

「また.....ですか」

 

「しかも今回は、小田原征伐を果たした魔将軍が出てくる。前回のようにはいかないでしょう」

 

「魔将軍.....羽柴秀長」

 

「ある意味、魔王織田信奈よりも厄介な相手かもしれない。私には奴の考えが読めぬ。織田を裏切り、武田に着いたかと思えば、直様北条と戦を起こして滅ぼし、関東を平定してしまった」

 

「謙信様.....」

 

「だが私は負けない。

イタズラに戦ばかりを起こす羽柴秀長を許すわけにはいかない!」

 

 

毘沙門天の再来は立ち上がる。

 

 

「軍備を整えよ!

これより正義の戦を行う!

敵は魔将軍、羽柴秀長!」

 

「はっ!」

 

 

軍神が来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武田軍。

相手は軍神。規律の取れた武田の大軍団をものともしない戦略にて、いつも武田を追い詰めてきた。あの山本勘助ですら上杉謙信には敵わなかった.....か。

通常の戦では勝機は0。

 

 

「ふっくくくくく.....

面白い。面白いぞ!!

この俺があの上杉謙信を相手に牙を向いているとは!素晴らしい!

我が戦術をとくとご覧あれい!!」

 

 

天竜は再び無線機を手に取る。

 

小田原征伐では、風魔衆までもが無線機を所有していたために少々手こずったが、今回はその心配がない。

 

 

「こちらはズルしまくりだが、

戦において卑怯も何もない!よって俺はいくらでもズルして勝ってやる!

それが羽柴天竜の行動である!」

 

 

無線機のスイッチを入れる。

 

 

「全軍!進撃だぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上杉軍。

 

 

「始めは敵をおびき寄せよ。その上で左右に配置した伏兵にて敵軍を囲む!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

天竜軍。

 

 

「隊を2つに分けよ。隠れていると思われる伏兵部隊を先に叩け!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「策を読まれた?

では、本隊を3つに分離。

第壱隊は敵軍を正面から足止め、

弐隊、参隊は敵軍の背後を取れ!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ほう。では分割した軍はそれぞれ左右に移動せよ。囲まれる前に檻から脱出しろ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「くっ.....敵を例の地点へ誘い込め!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「となると.....次は罠を仕掛けてくるか。

深入りはするな!

その位置から遠距離射撃に入れ!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「なっ!?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「見事なものだ.....」

 

 

信玄は無線機を持ち、地図を睨みつけながら的確な指示を出している天竜の後ろから見守っていた。

 

 

「小田原征伐では近くでその采配を見ることは出来なかったが.....ここまでとは」

 

 

天竜の未来的戦争術に驚愕する。

 

 

「さらにあの情報技術に加え、奴の軍。

騎乗しながらにして鉄砲の発砲ができる騎馬鉄砲隊。さながら織田が誇る鉄砲隊と、我ら武田が誇る騎馬隊が合体したかのようだ」

 

 

天竜軍騎馬隊鉄砲隊は今までは織田の痩せ馬を暗示をかけて利用して戦をしていたため、やや機動力に欠けていた。

それに対応するために、紀伊でサラブレッドの量産にも挑戦していたが、まだ全軍に配備するまでは整っていなかった。

だが天竜は今や武田軍師。

武田家にて多数飼育されているペルシャ馬を自由に出来た。この事で天竜軍の機動力は劇的に進化した。

 

 

「天竜が持ってきたサラブレッドという馬.....我らが所有する馬とまたどこか違い、さらに優れていた。信濃の広大な地を利用すれば、サラブレッドの更なる量産も可能であろう」

 

 

天竜軍は丹波戦からの歴戦の雄姿達の集まり。今や大将クラスまで成長し、強くなった者も多くいる。

 

信玄はそんな時、

思わず天竜に恐怖した。

 

 

「つくづく味方で良かった」

 

 

敵であったらと考えるだけで恐ろしい。

北条家の二の舞にはなりたくない。

 

 

「よし、今度はこっちが攻めだ。

各隊、両翼に陣を開け!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「まっ.....まさか!?

退け!敵があの陣を作る前に!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「遅い。

そして翼は開かれる」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「くっ.....!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは.....鶴翼の陣!?

あの男、こんな短時間でどうやって.....」

 

 

昌幸が言う。

 

 

「やっぱり天竜殿は素晴らしいお方!」

 

 

そう言いながら信繁が出る。

 

 

そんな中.....

 

「うおおおぉぉ!!!」

 

 

1人の姫武将が馬で駆けてくる。

 

 

「では、あれから倒します!」

 

 

信繁がそれに向かえる。信繁の朱色の十文字槍が向かってくる姫武将を捉える。

 

 

「だあぁ!!!」

 

 

だが、姫武将はそれをいとも簡単に槍で返してしまった。

 

 

「なっ!?」

 

「むっ.....六銭紋。

貴方は真田の人間ですか?」

 

 

彼女は信繁の兜からそう判断する。

 

 

「.....真田昌幸が娘、真田信繁。

そっちは?」

 

 

その姫武将は、白色を中心とした鎧を纏い、兜には『愛』の一字。

 

 

「謙信様が懐刀、直江兼続!」

 

「へぇ〜」

 

 

信繁はニヤリと微笑む。

 

 

「あんたを討てば

天竜殿に褒められるかもねぇ!!」

 

 

信繁は再び槍を振るう。

 

 

「ふんっ!」

 

 

兼続もまた応戦する。

 

ここより2人の一騎打ちが始まる。

 

 

「だあぁ!!!」

 

「はあぁ!!!」

 

 

2人の実力はほぼ互角。

周りにいた両軍の兵も思わずその一騎打ちに見入ってしまう。

 

 

「強っ.....!

こんなのが上杉にいたんだ!」

 

「くっ.....!

私より幼そうなのに.....

なんだこの攻撃の重さは!」

 

 

お互いに決め切れず、

時間だけが過ぎてゆく。

その時、

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ!!!」

 

 

何者かが2人の一騎打ちを邪魔するかのように突撃してくる。

 

 

「ういっ!?」

 

 

その勢いで信繁は落馬してしまう。

 

 

「おうっ!大丈夫か兼続!」

 

「慶次殿!武士同士の一騎打ちを邪魔するとは何事か!」

 

「えぇ〜。負けそうになってたじゃん」

 

「うるさい!」

 

「うぅ.....ズルいぞ直江兼続.....

2対1だなんてぇ!」

 

「あっ.....あう.....」

 

「命をかけた戦に

卑怯も何もないんだよ小娘」

 

 

巨馬に跨り、その身体も強大な姫武将。

 

 

「誰だよあんた!」

 

「前田慶次だ」

 

「はぁ!?.....なんで織田の人間が上杉に味方してるの!?」

 

「あたしゃ織田じゃねぇよ。

ただの不浪人さ」

 

 

前田慶次。

史実では、前田利家の義理の甥である。

相当な歌舞伎者であり、

叔父の利家や豊臣秀吉と仲違いし、

上杉景勝のもとへ亡命した。

 

 

「何処にいるかと思って犬千代に何度か聞いたが、まさかもう上杉にいるとはな。

やはり先の読めぬ歴史程面白いものはない」

 

「「「!?」」」

 

 

3人とは別の所から、その男は現れる。

 

 

「天竜殿!」

 

「よう源四郎。元気か?」

 

「これは驚きました。

敵軍の軍師が最前線に出てくるとは.....」

 

 

天竜は例の白夜叉の鎧と兜を着用し、

巨大な馬に跨っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武田本陣。

 

 

「むっ?

天竜は何処にいった?」

 

「あの.....先程前線に行かれましたが?」

 

「なにぃぃぃ〜〜〜!!?」

 

 

天竜の悪い癖を知らない信玄は驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話には聞いていたが、本当にお前、

犬千代と同い年か?」

 

「チビの犬千代と一緒にすんな!

いくら従姉妹といえど、

あたしとあれは育ちが違うんだよ!」

 

 

身長差だけなら親子ととってもいい。

 

 

「どうでもいいさ。

俺の友人の親戚といえど、

敵なれば討ち倒すのみ」

 

「「「だあぁぁ〜!!」」」

 

 

その時、上杉方の足軽らが天竜に向かって突撃してくる。

 

 

「五月蝿い」

 

 

天竜はそれを虫ケラを蹴散らすかのように槍で撫で払う。

その槍は方天画戟。呂布の得物だ。

 

 

「ふぇ〜。軍師ってこんな強いの?」

 

 

慶次が言う。

 

 

「羽柴.....秀長!」

 

 

兼続が睨む。

 

 

「天竜.....殿?」

 

「源四郎。兼続の方を頼む」

 

「えっ?」

 

「俺は久々に運動だ」

 

 

天竜が最後に最前線に出たのは、

対村上水軍戦以来であろう。

「人間」としてなら若狭戦以来だ。

 

 

「へぇ。武田の軍師さんはあたしとの一騎打ちをご所望かい?じゃあ、やめときな。あたしはそんじょそこらの軍師が敵う相手じゃ.....」

 

「武士なら黙ってかかって来い。

ベラベラ喋ると実力の低さが滲み出るぞ」

 

「あぁ?」

 

 

挑発された慶次はその勢いのまま

天竜に襲いかかる。

 

 

「ははっ!すぐに怒る所がまた弱々しいな!」

 

「手前ぇ!!」

 

 

だが天竜はそれを風のように

全て受け流す。

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

犬千代に毛が生えた程度の貴様がぁ!

俺様に勝てるわきゃねぇだろぅ!」

 

「うわっ.....!?」

 

 

逆に押されている。

 

 

「慶次!」

 

「余所見してちゃ駄目ですよぅ!!」

 

 

兼続に信繁が襲いかかる。

 

 

「くっ.....!!」

 

「源四郎っ!兼続は殺すなよ!

生け捕りにして俺のもとで調教.....

いや、再教育させる!」

 

「ですって、直江兼続!」

 

「おのれっ!!」

 

 

 

 

 

 

この2対2の攻防戦が繰り広げられる最中、ある異変が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

「兼続様!本陣が襲われています!

至急お戻りを!」

 

「なっ!?」

 

 

いつの間に本陣を!?

先程まではそんな事.....

 

 

「まさか.....私達をここに釘つけて、

その間に本陣を!?」

 

 

ほんの数分だけの戦闘だと思っていた。

しかし、想像以上の時間が経っていた?

それとも、敵の進軍が早過ぎた?

 

 

「羽柴秀長〜!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦、天竜という情報を得ていなかった上杉側の最大の失態。

 

 

「どうする?

ここで主君の最後を見届けるかい?」

 

「ぐぐぐっ.....!!」

 

「いいぜ。見逃してやる。戻って主君に俺という存在を伝えてくるがいい」

 

「くっ!退くぞ慶次!」

 

「くそっ!」

 

 

彼女らは急ぎ足で本陣の救援へ向かった。

 

 

「よし。そろそろよかろう」

 

 

天竜は無線機で命令を下す。

 

 

「全軍、撤退せよ。

これ以上の交戦は許可しない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼らは自軍の本陣まで

撤退していった。

 

 

「何故だ!何故追軍しない!」

 

「上杉側にはこちらの強さを充分示せた。となれば次は上杉謙信も本気になる。無理に攻めれば真逆にこちらが追い詰められる。

今まで同じ手で上杉に

やられていたのだろう?」

 

「むぅ.....」

 

「心配せずとも、これで終わらせるつもりはない。軍備を整え次第、再び攻める」

 

「.....それともう一つ。

お前は常に最前線に出るのか?」

 

「いいや?時と場合によるよ。

まぁ俺から言えるのは、

『命を賭けない大将に、

部下に死ねと言える資格はない』

事かな」

 

「.....ふむ」

 

 

なんだか天竜に説教されている気分の信玄だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な〜んか。ここも居心地悪いなぁ」

 

 

誰も聞いていない中で、

誰かが呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

天竜軍。2度目の侵攻である。

だが今回はいきなりの戦闘に突入することはなく、前日の事もあるため、互いに様子見をし、少しずつ陣を動かしあっている。

 

武田本陣。

 

 

「くっ.....もう三刻(6時間)は経つぞ」

 

 

昼頃始まった合戦であるが、特に目立ったような動きはほとんどなく、もう日も沈みかけていた。

 

 

「天竜と昌幸は?」

 

「はっ、最前線にて陣を張っております!」

 

 

信玄はその時、

天竜の前日の言葉を思い出す。

 

 

「命を賭けない大将に部下に死ねと言える資格はないか.....まさにその通りだな。

よし、本陣を動かすぞ」

 

「信玄様!?」

 

 

側に着いていた昌景は驚愕する。

 

 

「な〜に。敵の矛先が届く位置まで行くわけじゃない。まぁ、鉄砲の流れ弾は飛んでくるかもしれぬが.....」

 

「えぇ〜.....」

 

 

不安しかない昌景である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時間。その瞬間。

異変は起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むっ!?」

 

 

こちら側の軍の様子がおかしい。

戦闘が始まったようではあるが、

これでは.....

 

 

「同士討ち!?」

 

 

武田の兵同士が戦いあっている。

いや、あの兵は.....

 

 

その時、使者が駆け込んでくる。

 

 

「お伝えします!

謀反が発生!謀反が発生!」

 

「なっ.....なんだと!?

一体誰が!?」

 

 

 

 

 

 

「謀反者は、

真田昌幸殿!真田信繁殿!

内藤昌豊殿!.....」

 

「昌幸がっ!?何故だ!?」

 

 

だが、さらに驚くべきは次の人物だ。

 

 

 

 

 

 

 

「.....羽柴秀長殿!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?...................天竜が!?」

 

 

彼は織田を裏切った過去がある。

だが、私は織田信奈と違って彼を蔑ろにしたり、屈辱を与えた覚えはない。むしろ、優秀な家臣として、ある程度の勝手事も見逃してやっていた。

なのに何故!?

 

 

「何故裏切った!天竜〜!!!」

 

 

その時、別の使者が駆け込む。

 

 

「報告します!織田・徳川軍がそれぞれ、西方、南方より侵攻して来ました!!」

 

「なっ!?」

 

「更に関東からも羽柴軍!

東方常陸より朧軍襲来!」

 

「馬鹿なっ!?」

 

 

羽柴朧は天竜と敵対していたのでは!?

まさか昌幸の指摘通り、

本当に影で繋がっていたのか!?

 

東西南北全方向より囲まれた武田軍。

武田包囲網の完成である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜軍。

 

 

「我が軍は上杉軍に合流し、

北方より武田本陣を叩く!

高坂昌信、山県昌景、馬場信房ら

残りの四天王は生け捕りにせよ!

武田信玄、武田逍遥軒も同様である!

降伏する兵は直ちに自軍に加えよ!

武田の勢力を残らず吸い付くせ!」

 

「羽柴天竜万歳!

羽柴天竜万歳!」

 

 

昌幸が叫ぶ。

その瞳は紅に輝き、

首筋には噛み跡があった。

 

 

「あっはっはっはっはっは!!!

天竜殿.....いや、天竜様はやはり恐ろしく、

素晴らしいお方だ!

天竜様万歳!天竜様万歳!」

 

 

信繁には変化が見当たらなかったが、

天竜に絶対的な忠誠を誓っていた。

 

 

「勝千代。貴様には何の恨みもない。

だが、俺の前で隙を見せてしまった。

俺の前で弱さを見せてしまった。

天竜軍の更なる活性化の為に、

倒れて貰うぞ武田信玄!!」

 

 

 

 

 

これが「呂布」に最も近いとされた男の本質であった。この時より天竜は、『裏切り魔将軍』の渾名をつけられる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新キャラ、真田昌幸と真田信繁と前田慶次。
信繁は元気の良さから、
無双よりバサラの幸村を参考。
でも、誰かと被ってる気がする。
なんだか強くなった三成みたい。
さて、はたまた裏切った天竜。
こりゃまた天竜ファンと天竜アンチに分かれますな。
次回予告
謙信との会見。
さてさて、国と妹。どっちを取る?〜


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第五十話 謙信との会見

天竜アンチ急上昇中!


武田包囲網。

四方八方を敵軍に囲まれた武田軍は、逃げる事もできず、只々減り続ける自軍の行く末を見守る他なかった。

 

つい先程まで共闘していた戦友が、気がつけば敵軍に寝返っている。戦友が自分を殺しに来る。その恐怖に耐え切れず、気がつけば自分も敵軍に寝返っていた。

方法は簡単だ。武田軍を象徴する旗を折ればいい。赤塗りの鎧を脱げばいい。それだけで連合軍に加えてもらえた。

 

 

 

 

 

織田軍。

 

 

「どっ.....どういう事よ十兵衛!?」

 

「天竜の指示です。織田軍はこのまま武田包囲網に参加して下さいです」

 

「馬鹿言わないで!

どうしちゃったのよ十兵衛!」

 

「不満があるのですか?そうなれば、織田は武田と同じ扱いとなりますです」

 

「なっ!?」

 

 

十兵衛は真顔でそれを言う最中、

拳をギリギリと握り締めている。

 

 

「どうしますですか?

武田の同盟国として屠られるか、

今は仮に共闘するか。

徳川殿はとうに攻め込む準備を済ませていますです」

 

「...............あんたも、天竜側の人間になっちゃったのね」

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徳川軍。

 

 

「待った。長らく待ち続けた。

だからこそこの機会を得た!

武田への復讐の機会を!!

..........あの羽柴天竜に味方するのは少々癪ですが、今は.....」

 

「遠江、駿河の兵を整えました。

武田軍への全面侵攻はいつでも.....」

 

 

服部半蔵は言う。

 

 

「よし、進軍!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関東。

 

 

「まさか......貴方達と共闘するとは......」

 

 

三成は呆気に取られた。

 

 

「私もです。

よろしくお願いしますね石田殿」

 

「羽柴天竜の指揮下にある以上、

仕方ないと言えば仕方ないが......」

 

「あたしは暴れればそれでいいや!」

 

「奇しくも僕も脳筋さんと考えが

被りました」

 

 

それは忍城メンバー。

長親、丹波、和泉、靱負だった。

先の合戦で争い合った両者が手を組むなど、前代未聞である。

 

三成は、未だ腕を吊っている長親を見て心を痛めてしまう。

 

 

「そんなに悪いのですか?」

 

「はい。傷が完治しても、もう肩より上には上がんないみたいで......」

 

「ごめんなさい」

 

 

三成は咄嗟に謝ってしまう。

 

 

「そんな、石田殿に心配してもらうまでの事じゃないですよ。のこのこ前に出てきた私が悪いんです。そんなとこで呑気に踊ってるから撃たれたんですよ」

 

「..........かたじけない」

 

 

合戦を通して、

両者に友情が芽生えたのだろうか。

 

 

「結束が高まったのなら、その団結力を武田にぶつけようじゃないか」

 

 

吉継が言う。

 

 

「よし!ついでに羽柴秀長も倒して長親も取り戻す!」

 

 

成田甲斐だけが勝手な野望を膨らませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常陸。

 

 

「作戦は〜で〜で〜がいいんじゃないですかね?」

 

「うん。流石は元戦略参謀。

その戦略、上出来だよ」

 

「............言わないで下さい」

 

「なんだ。

まだ裏切った事を気にしてるの?」

 

「私は......天竜様の前で髷を落とし、その忠誠を誓ってみせた。ですが裏切った事で、あれは嘘だという事になってしまう」

 

「ふふっ......」

 

 

朧は高虎を抱き寄せる。

 

 

「私だって天竜だよ。

私は貴方が共に来てくれて、

とても嬉しい」

 

「うぅ......」

 

「私は貴方を弟のように想ってるわ」

 

「..........」

 

「あら!?余計だった!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻って天竜軍。

 

 

「武田に謀反する!?なんと愚かな!!」

 

 

当然昌幸は反対した。

 

 

「前々から連絡は付けてある。

西から織田軍。南から徳川軍。

東南から関東天竜軍。東から朧軍。

そして北からこの羽柴・真田と上杉の連合軍が追い詰める事で、武田を完全に包囲できる。

もう武田に勝ち目はない」

 

「貴方の裏切り行事に付き合えと

仰るのですか!」

 

「その通りだ」

 

「そんな事.....私は耐えられませんわ!

信玄様を.....主君を裏切るくらいなら!

私は死を選ぶ!」

 

「馬鹿が!!何故、忠誠だとか友情だとかで気軽に命が捨てられる!

何故己ではなく、他人の命を優先できる!」

 

「それが家臣というものです!だから私が、刃を向けるのは信玄様じゃない!魔将軍に利用されようとしている自分自身だ!」

 

 

昌幸は小太刀を抜く。

 

 

「自害するのか!

それが武士の志というものか!

素晴らしい!

素晴らしいまでに虫唾が走る!!

俺は陰陽師だ!武士の志など知らぬし、

知る気もないさ!

幸村!!」

 

 

すると、昌幸を後ろから何者かが押さえ付け、自害を防いでしまう。

 

 

「のっ.....信繁!?」

 

 

自分の娘ながら、簡単には抜け出せない程、彼女のホールドは固い。

 

 

「今は幸村です母上。

天竜様に付けて貰いました。

親から貰った名を捨てるのは心苦しいですが、想い人から与えられた初めての贈り物。大事に使わせて頂きます」

 

「可愛いぞ幸村。

後で頬に口付けしてやる」

 

「この親不孝者!!

魔将軍に魂を売るなんて!」

 

「ごめんなさい母上。

私も母上には死んでほしくはないのです」

 

「その通り。お前はまだまだ使える。

俺は面喰いでな。

美人なら中身は正直どうでもいい。

調教.....教育次第でなんとでもなる。

君をみすみす殺すくらいなら、

俺は教育を選ぶ」

 

 

天竜は昌幸に噛み付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅玉の瞳を持った彼女は今、

俺の隣りにいる。

 

 

「その.....すまない」

 

「私は貴方の下僕ですわ。

貴方の敵は私の敵ですわ」

 

「あぁ。その通りだ」

可愛い俺の眷属だよ」

 

 

天竜は昌幸の唇にキスをしてやる。

 

 

「主様?」

 

「詫びのつもりだ。

親子を又にかけた事のな。夫は?」

 

「4年前に戦で.....」

 

「なら安心だ。寝取るのは趣味じゃない...........覗いてんじゃねぇぞ幸村!」

 

 

側で隠れてた幸村が出てくる。

 

 

「うぅ.....私の約束がまだです」

 

「年功序列だよ。

たまには熟れた果実も美味いものだ。

だがこの武田征伐の功績次第では、

若い果実も食べたくなるかもな」

 

 

 

 

 

それを聞いた瞬間、

幸村は槍を掴んで出撃してしまう。

 

 

 

 

 

「可愛い奴だ全く」

 

「えぇ。源四郎は私の娘ですもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武田軍。

 

 

「報告します!馬場軍壊滅!

信房殿は捕らえられました!」

 

「報告します!高坂軍壊滅!

昌信殿は逃げ.....撤退戦を敷いていたようですが捕らえられました!」

 

「くっ!!昌景を本陣に戻せ!今更進軍した所で返り討ちになるだけだ!

今は甲斐に戻って態勢を整える」

 

 

信玄は2つの報告を聞き、愕然としていた。四天王はほぼ全滅。今自分に着いて来ている兵だっていつ裏切るか分からない。

 

 

 

 

 

 

「報告します!

甲斐が落ちました!」

 

「馬鹿な!!?」

 

 

 

 

あそこは逍遥軒.....自分の分身とも言える者に任せていたのだぞ!?

 

 

「城内に間者が出たようです。

その者が逍遥軒殿と勝頼殿を一早く確保し、人質に取ったようです。それで、降伏を.....」

 

「馬鹿な!!

何故私が戻るまで耐えられなかった!!」

 

 

とはいえ、妹が2人も人質にされている。

これは.....圧倒的に絶体絶命。

 

 

 

 

 

 

ピリリリリリリ!!!

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

信玄の懐から、

この時代には似合わない機械音が鳴る。

天竜から与えられた携帯電話だ。

これをかけてくるのは1人しかいない。

信玄は恐る恐る電話に出た。

 

 

「...........お前か?」

 

『そうだよ勝千代ちゃん』

 

「ぐぐぐっ.....!

一体私に何の用だ!」

 

『昌景の援軍を期待してるようだが無駄だ。昌景ならたった今俺が捕らえた』

 

「なんだとっ!?」

 

 

となれば、武田軍はもう数千程度の本陣しか残っていないのか!?敵は元武田の精鋭も吸収した十数万の大軍だぞ!?

 

 

『今ここで武力を持って君の本陣で潰す事は容易だ。だがそれでは面白くない。

降伏しろ勝千代。

妹らの命が惜しければな』

 

「貴様っ!!」

 

『甲斐の躑躅ヶ崎館にて待つ』

 

 

そう言って天竜は電話を切った。

 

 

「おのれおのれおのれ〜!!!!」

 

 

信玄は怒りのままに

携帯電話を握り潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、躑躅ヶ崎館。

 

 

「赤丹と月見ができたぞ」

 

「猪鹿蝶と四光です」

 

「うわ〜負けた。強いな四郎は」

 

 

あろうことか、天竜は四郎と花札をやっていた。逍遥軒はその様子を何とも言えぬ表情で眺めている。とても人質になっているようには見えない。

 

 

「姉上は来るでしょうか?」

 

「当たり前だろ。お前の姉ちゃんだぞ。

確実に来るさ」

 

「はい.....」

 

「安心しろ。

『みんな仲良く革命大作戦』だ。

だれも不幸にはしない。

そうだ!革命で思い出したから、

次は大富豪教えてやる」

 

 

天竜は右手にトランプを召喚する。

 

 

「ありがとです」

 

 

その時、そこへ使者が訪れる。

 

 

「報告します!

武田信玄殿、降伏致しました!」

 

「やっとか.....」

 

 

天竜は腰を上げる。

 

 

「おいで四郎。

お姉ちゃんに会ってこよう」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特に拘束もされず、まるで客のように奥に通された信玄。元館主という事もあり、不思議な気分だ。

 

 

「よう勝千代」

 

 

天竜はそこにいた。

本来は信玄がいるべき席に、

膝の上に四郎を乗せて.....

 

 

「四郎!無事か!!」

 

「はい!

天竜さんにずっと遊んでもらってました!」

 

「はっ!?」

 

 

予想していた状況と全く違い、戸惑う信玄。

 

 

「勝千代。四天王を始めとする大多数の幹部を奪われ、最後は残った数千の兵にすら見切られ、直前まで仲間だった者に捕らえられ、手土産のように差し出されたとか。難儀なこった」

 

「ぐぐぐっ!!一体誰のせいでこうなったと思っている!!」

 

「勿論俺のせいだな」

 

 

天竜は始めから開き直っている。

 

 

「どうだ。父親を追放して権力を奪ったお前が、逆に権力を奪われる気分は?

自分自身が下剋上に逢う気分は?」

 

「ぐっ.....!」

 

「何故俺が謀反を起こしたと思う?

それはお前が弱いからだ」

 

「なっ!?」

 

「武田には到底倒せなかった北条家。俺は難なく倒し、関東を平定してみせた。

武田が何度挑んでも、逆に攻め込まれ、ほとんど歯が立たなかった上杉を、俺はいとも簡単に退けてみせた。

多くの武田兵が思ったであろう。

『武田信玄最強説など、

マヤカシではなかろうか?』とな。

お前は優れた将に頼らねば弱い。

四天王などの猛将がいなければ、

戦もできない。

山本勘助などの智将がいなければ、

戦略も中途半端。

戦力差で押し潰せる徳川は倒せても、

奇怪な戦略と戦術を用いる織田には到底敵わないのだよお前は。

たった1人になってしまえば、

ただの、か弱い乙女に過ぎぬ。

お前はもう、『武田信玄』という幻の最強大名の姿をしているだけの、ただの雌餓鬼だ」

 

「......................天竜。

お前の目的は何だ?

何を目標にしている!?」

 

「世界を征服して、

世界平和を作り上げる」

 

「その先は.....お前は何をする?

一つになった世界の王になるのか?

それとも、やりたい放題好きなだけ人を殺し続けるのか!?」

 

「ふふっ.....平和になった世界に、

俺の姿はないよ」

 

「なんだとっ!?」

 

「何故なら.....俺は平和になる直前に死亡するからだ。いや、俺の死を切っ掛けに平和になると言った方が正しい」

 

「...........」

 

「俺は今まで多くの罪を犯してきた。

これからも多くの罪を犯すだろう。

俺は重罪人だ。重罪人が国の頂点に立つ事は許されない。俺が国を一つに無理矢理にでもまとめ上げ、俺が認めた後継者に俺を殺させる。そうすれば、世界は真の形で平和になる」

 

「天.....竜.....」

 

「最初はその役に良晴を推薦しようと思っていたが、この際お前でもいい。俺を殺したまえ」

 

 

天竜はそう言って懐から小太刀を取り出し信玄に投げ渡した。

 

 

「銀製だ。それを心臓を突き刺せば多分死ぬと思うぞ」

 

「...........」

 

「それに納得いかないなら、

この場で俺を殺してもいい。

君にはその権利がある」

 

「わっ.....私は.....」

 

 

信玄は小太刀を拾い上げる。

 

 

「姉上?」

 

 

信玄は天竜の膝の上の四郎を見つめる。この場で天竜を殺せばきっと、四郎は悲しむだろう。

 

 

「羽柴.....天竜。この悪魔め!!」

 

「俺は魔将軍だ」

 

「ふっ.....」

 

 

 

 

 

信玄は微笑み、

小太刀をその手から落とす。

 

 

 

 

 

 

「降参だ。

私の負けだよ天竜」

 

「信玄.....」

 

「だが約束したぞ!全てが終わった時、お前を殺すのは私だ!」

 

「あぁ」

 

「隠居する気だってない!

お前と私の上下が逆になるだけで、私はこれからもお前の隣りで口出ししてやる!機会を待って下剋上を仕返してやる!!」

 

「あぁ、その方が俺も気が楽だ。

四郎。姉ちゃんの所へ行ってこい」

 

「はい!」

 

 

四郎は天竜から離れて、

信玄のもとに駆け寄った。

これは人質解放と取ってもよかった。

 

 

「.....いいのか?」

 

「俺は織田信奈じゃないからな」

 

 

そう言って、天竜はその部屋を後にする。

その直後、天竜はその場に崩れ落ちる。

 

 

「天竜様!」

 

 

側に付いていた幸村が支えた。

 

 

「我ながら脆い神経だ。

裏切る度にこれか.....」

 

「天竜様.....」

 

「俺はこれからも人を騙し、

多くの者を絶望させるだろう。

お前はどうする幸村?」

 

「源.....私ですか?」

 

「将来的に俺はお前も裏切るだろう。

どうせそうなるのなら、

今のうちに俺から離れろ。

俺は気にしない」

 

「それはありません!」

 

「キッパリだな」

 

「源四郎は!.....源四郎は!.....」

 

 

天竜は幸村の頭を撫でてやる。

 

 

「本当に馬鹿だよ.....お前は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして前代未聞の武田政変は、

軍師だった羽柴秀長が下剋上にて駆け上がり、元主君の信玄が彼の勢力下に入るという革命騒動となった。

 

此度の武田包囲網に共闘する事となった織田と徳川には、信濃国を分割して献上する事となり、両者に借りを作る事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、仮ではあるが同盟を組む事となった上杉謙信。天竜は次にこの後始末をつけるに当たった。

 

 

 

謙信の居城、春日山城。

 

 

「むしゃむしゃむしゃむしゃ」

 

「「「...........」」」

 

「ガツガツガツガツガツ!!!」

 

「「「...........」」」

 

 

謙信、兼続、慶次を前にして、

出された料理を遠慮なく頬張る天竜。

 

 

「あの〜.....羽柴殿?」

 

「んん〜!やっぱ米は越後が1番ですね!」

 

 

謙信の問いかけも無視し、

天竜は料理に夢中だった。

 

 

「おいおいおい!!

調子に乗るなよ軍師さんよう!」

 

 

痺れを切らした慶次が叫ぶ。

 

 

「もう軍師じゃねぇ。

下剋上で競り上がった今、

俺が甲斐や関東の大名だ」

 

 

飯を頬張りながらも返答する天竜。

 

 

「羽柴殿。貴方はどのような要件でこの春日山城へ?」

 

「ん?あぁ.....」

 

 

天竜はここで驚くべき提案を言い出す。

 

 

「上杉家は我らに降伏し、

勢力下に入る事」

 

「「なっ!?」」

 

「...........」

 

 

両脇の兼続と慶次が驚愕し、

謙信は黙って天竜を睨み付けた。

 

 

「羽柴殿。自分が何を言っているのか理解をして申しているのでしょうな?」

 

「あぁ。そうなれば、上杉が持つ越後の支配権は俺に移る。あんたの関東管領職も失われる。俺様の下僕としてあんたらは世界の彼方此方に連れ出される。

そんなの納得いかないあんたらは、俺に対して尋常じゃない程の殺意を抱いているだろうね」

 

「理解していないようではなさそうですね。それで、そこまで分かっておられる貴方は私達をどう説得するおつもりですか?」

 

「俺は異能の力を持っている。いざとなればお前達全員を服従させる事も可能だ」

 

「へぇ。ふ〜ん」

 

 

謙信は頬杖をつき、余裕の表情を見せる。

 

 

「ふくっ.....くくく.....

義理の将、上杉謙信か」

 

「何がおかしいのです?」

 

「お前の偽善に塗れた伝説に

虫酸が走ってな」

 

「へぇ〜」

 

「お前の代表的とされた義が、

織田朝倉の対立時であろう。

上杉は始めの姉川合戦の頃は、まだ弱い立場であった織田に味方した。ところがだ。小谷合戦の時期になると、今度は立場の弱くなった朝倉側に味方するようになった。

この事から、

上杉は弱い者の味方。

真の義将を大々的に表現できた。

 

だが、違うだろ?

お前の本当の目的は.....

 

お前は最初から織田を潰す気満々だったんだ。だから、始めは織田に味方する事で油断をさせ、織田の虚を突くつもりだったのだろう?結局失敗したがな」

 

「...........」

 

「なぁ偽善者。俺にゃあ、お前さんが何をしたいのか分からんのさ。領地やら金が欲しいわけじゃない。だが、織田は討ちたい。どういう事?」

 

「織田はどの大名よりも他国への繋がりを持とうとした!この日の本の風潮を滅ぼそうとした!それは絶対にならない!」

 

「分かる!宣教師なんかこの国を征服する事しか考えてねぇ。奴らを信用しきって国を植民地にされた亜細亜の諸国が多数ある!

宣教師に好き勝手させるのは俺も反対だ!」

 

「ほう」

 

 

 

珍しく利害が一致した事に驚く謙信。

 

 

 

「.....だがな。港の開き過ぎも国を滅ぼすが、閉じ過ぎもまた国を衰退させる。

鎖国は俺は反対だ。俺なら、宣教師は入れずに貿易だけを継続させる方法を考える。

謙信よ。お前の保守思想を理解していないわけではない。だが、保守に走って後々後悔するのは目に見えている」

 

「.....貴方に何が分かる!」

 

 

「分かるさ。お前さん。

異国の血が入ってるだろ?」

 

 

「!!?」

 

「その目を見れば分かるさ。

亜細亜人に特有の茶黒い瞳ではなく、

紅く輝く瞳。

そう、我ら吸血鬼と同じ瞳だ」

 

「でっ.....デタラメを!!」

 

「だから戦場ではお前は顔を隠す。

日の本を死守しようとしている者の面相が1番日本人離れしているのだからな。だからお前は認めたくないのだ。自身の血筋を!追い出してしまいたいのだ。異国の血筋を!」

 

「ちっ.....違う!!」

 

「所詮は貴様も己の為に刀を振るうのだ。多少は民の事を思っても、結局の所はただの外人嫌いから始めた戦争だ!」

 

「違う!!違う!!」

 

「お前は怪物である事を認めたくない。だからこそ、それを証明してしまう異国人を日本から追い出したい」

 

「デタラメを言うな!

貴方に私の何が分かる!!」

 

「色々知ってるぜ?

直江兼続がお前の腹違いの妹だという事。

お前に生き別れの姉がいる事。

2年前に拾った捨て子を自らの義妹にし、その子に溺愛している事」

 

「...........」

 

 

そこにいた者全員が唖然とした。

特に反応していたのは兼続だった。

 

 

「わっ.....わわ私が.....謙信様の.....妹!?」

 

「だっ.....騙されるな兼続!

虚言に惑わされるな!!」

 

「うるさいなぁ百合のくせに.....

ひょっとして妹を抱いてるのが暴露されるのを恐れて、その事実を隠したのかぁ?」

 

「黙れぇ!!」

 

「実はお前の姉さんと知り合いなんだけどさぁ、あいつは凄えよ?自身が鬼である事を知った上で、その血の定を守ろうとした。俺が唯一認めてる宿敵の1人だ。

あまりにもお前と顔がそっくりだから、まさかと思って問い詰めたらあっさり吐きやがった」

 

「一体.....誰が.....」

 

 

飛騨の鬼.....

 

 

「それからその捨て子。

 

実は俺の子供なんだよね」

 

 

 

 

 

 

 

「......................は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「Έλα.Για τον πατέρα του.

Αγαπημένε μου κόρη του.

(おいで。父のもとへ。私の愛しい娘よ)」

 

 

天竜が謎の呪文のようなものを唱える。すると、まだ3つか4つ程度の可愛らしい幼女がヨタヨタ歩きで入室する。

 

 

「卯松!!

何故入ってきた!?」

 

 

上杉景勝。

幼名は卯松。上杉謙信の後継者として越後を治め、豊臣政権五大老の1人に選ばれた。

 

 

「卯松か.....

俺はこの子に影(かげ)と名付けた。

景勝にちなんでな」

 

「おと.....しゃ」

 

「おぉ。ちゃんと覚えていたか。

犬は3日の恩を3年忘れないと言うが.....

いやいや、娘を犬扱いしちゃいけないな」

 

 

天竜は卯松を膝に乗せた。

 

 

「おやおやおや〜?

そうなってくると面白いなぁ。

影は俺の実子。

んで、この子は上杉謙信の義妹。

つまり上杉謙信は、

俺の義娘という事にならないかなぁ?」

 

「なんと!!?」

 

 

この男.....これを目的に自分の子供を!

 

 

「我が子を政治の道具に使うなど!

貴様が親を名乗る資格はない!」

 

「この時代じゃあ普通だろ。

この子は俺の分身のようなものだ。

どう使おうが、知った事ではない」

 

「この外道がぁ!!!」

 

 

謙信がついに刀を抜く。

だが天竜は待ってましたとばかりに微笑み、膝の上の我が子の頭に拳銃を突き付けた。

 

 

「!!?」

 

「動くな!可愛い妹の頭を吹き飛ばされたくなかったらなぁ!」

 

「くっ.....!!

どこまで腐っているのだ貴様は!

自分の子供を撃てるわけがない!」

 

「撃てるさ。この子を撃ったら、直後に俺も自害するからな」

 

「おと.....しゃ?」

 

 

卯松は何も分かっていないようだった。親である天竜を完全に信用している。

 

 

「おのれ.....!!」

 

 

謙信の卯松を本当に溺愛していた。一目見た時から、その捨て子を育てる事を決意した。卯松もまたそれを受け入れてくれた為、謙信はまるで宝のように卯松を愛した。

前に一度、信玄とどっちの妹が可愛いか口論になり、それがそのまま戦に繋がった事もあった(正直、あの時の私は少々幼かったな)。

 

 

「どうする謙信」

 

「わっ.....私は.....」

 

「どうする?どうする?どうする?

殺すのか?生かすのか?

お前に妹が見捨てられるか?

できるわきゃねぇよな〜??

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

な〜にが毘沙門天だ!

な〜にが軍神だ!

妹1人の為に国を売り渡す愚将め!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

 

悪魔の高笑いをあげる天竜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああ!!!!」

 

 

ある少女の掛け声と共に天竜の高笑いが止まった。そして、直前まで口を聞いていた顔が、宙を舞う。

 

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

 

天竜の後ろ、その刀を振るったのは.....

 

 

「兼続!!」

 

 

油断していた天竜の首を刎ねた兼続。

 

 

「申し訳.....ありません。

でも!.....でも!」

 

 

返り血と涙が一色担になり、

兼続の顔がくしゃくしゃになる。

謙信は慌てて兼続に駆け寄り、

彼女を抱き寄せた。

 

 

「もういい。もういいんだ。与六」

 

「謙信さまぁ.....私は例え.....

謙信様が姉であっても、

お慕い申しています.....」

 

「与六.....」

 

「謙信さまぁ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『馬鹿!手元狂って撃っちまったらどうすんだ!首チョンぱって痛いんだぞ!

.....まぁ弾なんて入ってないけど』

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

2人が振り向く。

すると、天竜の首を抱く慶次が.....

 

 

「慶次ぃ!!」

 

『大丈夫大丈夫。喉が使えなくて喋れないから口を借りてるだけだ。催眠術を解けば元に戻るさ』

 

「お前.....人間か?」

 

『限りなく悪魔に近い、な。

.....ったく、撃つわけねぇだろ。

俺は身内にだけは優しいんだぜ?

本気にしやがって』

 

 

操られた慶次は、

天竜の首を元の位置まで運んでゆく。

 

 

『最近血を飲むようになってから、益々死に難くなってな。いくら術を使っても、寿命が減る気配は全くないし、力もドンドン増幅している。

吸血鬼様様だよ』

 

 

そうして接着される。すると切断跡も消え、始めから何も起きなかったようになる。その瞬間、慶次の催眠が解けた。

 

 

「あっ.....あれ!?

あたしは.....」

 

「影、気絶してんじゃねぇか。

まぁ、父親の頭が跳ぶ所見ちまったらしょうがねぇか。トラウマになったらどうするつもりだ?」

 

 

直前まで首を斬られていた者の

様子とは思えない。

 

 

「俺、帰るわ」

 

「!?」

 

「信玄と同じように脅せば何とかなると思っていたけど、無理っぽいしな。

虎も龍も虐め過ぎると後が怖い。

クワバラクワバラ」

 

「羽柴.....?」

 

「まぁ、越後は保留にするわ。

首斬られて興が冷めたし、

だから邪魔すんなよ?

これから東日本を統一すんだから」

 

 

天竜は気絶している卯松を隣りにいた慶次に渡す。

 

 

「人質として預けとくな。

どっちにしろ、あんたの所の方が安全そうだ。影.....卯松を頼むわ」

 

「...........」

 

 

天竜はさっさと帰り支度をする。

 

 

「お腹すいた.....

血半分くらい出ちまったし.....」

 

「羽柴秀長.....貴方の目的は?」

 

「.....俺は悪党だ。

今更偽善に走るつもりはない。

だからこれからも凶悪に卑怯に下劣に生きてやるさ。いつか倒されるその日まで」

 

「?」

 

「魔王織田信長を裏切った悪党明智光秀を討った羽柴秀吉が、平和を手に入れたように、世を支配した平氏を倒した源氏が実権を握ったように、独裁を行う蘇我入鹿を討った中大兄皇子と中臣鎌足のように、俺を倒してくれる者を。引き返せなくなった俺を解放してくれる者を、俺は待ってるよ。

虫がいい事は理解してる。

だが、その者は確実に現れる。

俺は魔将軍。『倒される者』だ」

 

「...........」

 

「お前はどうする?

義父の俺を殺してみるかい?」

 

「なっ!?」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

怒るな怒るな。

やっぱ『龍虐め』っておもろいわ」

 

「くぅ.....」

 

「俺は一刻も早く、

日本を統一させなければならない。そしてその権利を次の者に引き継がねばならない。

あの御方の為にも.....」

 

 

あの御方?

 

 

「さてもう一つ」

 

 

意味あり気な言葉を言った直後である。

天竜は刀を抜く。

 

 

「えっ?」

 

「お前の為だ。許せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜は謙信の右手首を切断した。

 

 

 

 

 

 

 

「あぐあぁっ!!!?」

 

「謙信様!」「謙信!!」

 

 

兼続と慶次が動こうとしたが、

その直後。

 

 

「ぐっ.....!」

 

 

天竜は自らの手首をも切断した。

 

 

「「「!?」」」

 

 

そうして天竜は無言で切断した自分の右手首を謙信の右手へと接着する。そしてそのまま結合させてしまった。

 

 

「なっ.....何を!?」

 

「お前のそのアルビノは、血を飲まな過ぎた吸血鬼に特有の症状だ。そのままだと、今更血を飲んだ所で手遅れになる。

だから俺の肉片を植え付けた。これならお前の寿命も多少なら伸ばせる

まぁ、前妻の受け入りだがな」

 

 

すると謙信の髪の色が、白色から黒色へと変化していった。

 

 

「あくまで応急処置だ。

これからは定期的に血を飲め。

でないと左手も付け替える事になる」

 

「血だなんて.....」

 

「それとだ。

3つ約束を守ってもらう。

まず一つ。その手を日光には当てるな。焼け爛れるぞ。

二つ目。その手を濡らすな。別に怪我するわけじゃないが、多分酷い目に遭う。

三つ目。0時.....夜中の子の刻が過ぎたら朝の午の刻まで何も食事をしない事。そうなったら俺でも助けられなくなる。

それさえ守れば結構使えるぞ。

その悪魔の右手は」

 

「悪魔の.....右手?」

 

 

天竜は謙信の元の右手首を拾い上げ、バリバリと食べてしまう。それに伴い、天竜に再び右手が生える。

 

 

「それじゃ、俺からの贈り物を大事に使えよ。アデュー」

 

 

そう言って煙のように消えてしまった。

 

 

「羽柴秀長.....一体何者だ?」

 

 

 

 

 

 

流血事件となったこの会談。

この会談に意味はあったのだろうか。

 




だいぶ長くなりました。
前回ので天竜を外道にし過ぎたので、
少し抑えようと努力しましたが、
結局外道になりました(泣)
信玄と謙信を又にかけた脅し。
信玄はどうにかなったが、果たして謙信は?
次回予告
宣教師
〜どうした?貴様らの標的はここにいるぞ〜


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第五十一話 宣教師

最近、天竜を悪人にし過ぎた。


関東を平定し、

元上司の武田を勢力下に置き、

上杉とは仮同盟を結んだ。

中部・関東地方における絶対的な権限を得た天竜軍。本来ならば、一早く東北征伐に向かいたかったが、あえて小休止をして、勢力を整える事にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

越後、湯沢温泉。

 

 

「何故こうなりました」

 

 

謙信が言った。

例の流血事件から数日もしないうちに、天竜はまた越後を訪れた。

色々と連れてきて.....

それでいて、さらに混浴だった。

 

 

「貴方はいつから羽柴秀長の家臣に成り下がったのですか?」

 

「馬鹿言うな!誰が家臣だ!その時が訪れるまで仕方なく大人しくしているだけだ。

此度の戦で少々私も頭を冷やされてな。家臣の裏切り一つで壊滅する軍なんかで天狗になっていた己が恨めしい。暫くは反省し、いずれ再び大将に返り咲き、この男をも驚愕させる大将軍になってやるさ!

あっはっはっはっはっはっは!!」

 

 

完全に吹っ切れた信玄は、

あえて今の状況を受け入れ、

修行の一貫か何かと捉えている。

 

 

「私を生かしておいた事を後悔させてやろうではないか!この裏切り魔将軍が!」

 

「そうか。俺は後悔するのか。

じゃあ今のうちに殺しとくか」

 

 

天竜は拳銃を召喚し、信玄に突きつける。

 

 

「ばっ.....馬鹿者!!」

 

「バーン」

 

 

だが銃口から飛び出て、信玄の顔面に直撃したのは、鋼鉄の弾丸ではなくただの水だった。

 

 

「水鉄砲だよ」

 

「ぐぐぐぐぐ.....!!」

 

「ほれっ。お前らにやる」

 

 

一緒に入浴していた四郎と卯松に渡す。

火花を散らす姉達とは違い2人は何のわだかまりもなく、普通に仲良くしていた。特に四郎は年下の卯松を妹のように可愛がっている。2人はお互いに水鉄砲を撃ち合ってキャッキャとはしゃいでいた。

 

 

「あれが本物の鉄砲にならない事を願いたいねぇ」

 

 

天竜が独り言を言う。だがそれは、信玄謙信双方の心へと突き刺さった。

四郎が武田家後継者の武田勝頼として、

卯松が上杉家後継者の上杉景勝として、

2人が憎しみ合い、戦を重ねている光景を想定してみると、心が締め付けられるようにチクチクと痛む。

 

 

「もうさ、いいんじゃね?」

 

「「!?」」

 

「戦力及び戦術に自信を持つ武田。

戦略に絶対的な自信を持つ上杉。

その両者が互角であるがゆえ、いくら争っても決着がつかない。だが、両者が組めば天下などあっという間だろう。無駄な血を流すくらいなら、その方が手っ取り早いんじゃあねぇの?」

 

 

 

 

「「お前が言うな!!」」

 

 

 

 

「へぐぅっ!!?」

 

 

珍しく息の合った虎と龍に顔面を殴られる天竜。

 

 

「痛っ〜...........ぶったな!?

親父にしかぶたれた事ないのに!」

 

 

そう言いつつ、天竜は無傷だった。むしろ、彼女ら2人の方が拳を痛めたようであった。

 

 

「くっ.....!!なんて硬い顔だ!

岩を殴ったみたいだ!」

 

「うぅ.....」

 

「すまん。とっさに勘解由小路家伝統の防御拳法を使ってしまった。功夫と合気道を組み合わせた応用技で、殴ってきた相手の拳を複雑骨折させる技で.....」

 

「貴様は全身凶器か!!」

 

「大丈夫。本気でやったわけじゃないから捻挫程度だよ」

 

 

信玄はつい涙が出るほど痛がっている。

 

 

「うぅ.....」

 

 

謙信も同様であった。

 

 

「謙信〜、何で左腕で殴った?

その悪魔の手で殴れば俺の頭ぐらい吹き飛ばせたんじゃねぇのか?」

 

「...........」

 

 

謙信は右手が濡れないように、布でぐるぐる巻きにしている。

 

 

「それは悪魔の右手。

生命を奪う、死の右手。

どんな生物であろうと、その右手で触れたものは全て死滅する。まぁ、元の持ち主である俺には効かないが、それでも通常の千倍近い怪力が出るぞ。

まぁ、そんな使い方したら肩が耐えきれずに脱臼するだろうけど.....

他人の腕に接着させた時にしかその効果が出ないから、俺も羨ましいんだぜ?」

 

「.....天竜。謙信に何を植え付けたんだ?」

 

「いりませぬこんなもの!

すぐにでも斬り落としてくれる!」

 

「別にいいけど、

それ取ったら死ぬぞ?」

 

「!?」

 

「お前は見た目以上に重病人だ。

ほんの少し握っただけで割れてしまうような脆いガラス玉だ。だが、死なせるには勿体無いから応急処置をした。あくまで応急処置だ。

それを外せばお前は再び白色化し、

そのまま灰になって消える。

俺も一時期似たような症状だった事があるから、あの辛さはよく理解している」

 

「...........」

 

 

天竜は謙信の右手を引き、

お湯の中に漬ける。

 

 

「なっ.....何を!?」

 

「その目で見ろ。

自信が何者であるかを」

 

 

そうして天竜は右手の布を取ってしまう。その中から出現したものに、信玄も直前までキャッキャと遊んでいた2人の妹も驚愕する。

謙信の右手はまさに悪魔の手。

異形なものへと変化していた。

謙信は目を逸らしている。

 

 

「ちゃんと見ろ。これがお前だ。これが千切れかけたお前の生命の糸を紡ぐ唯一の希望だ。こいつはもうお前自身のようなもの。自分の右手を認めてやれ」

 

 

 

 

 

 

 

「貴方が言うな!!!」

 

 

 

 

 

 

今度は右手で殴られた。

痛そうなので流石に避けた。

 

 

 

 

 

「うぅ.....」

 

「血もちゃんと飲めよ?

人間のが無理なら牛でも豚でもいいから。

あと3つ目の約束もな。

あれを破ると、右手の変態が全身に廻って人間としての原型を無くし、心も悪魔になって周囲の人間を無差別に食い殺すようになってしまうからな」

 

「何故そんな事を黙っていた!!

尚更この右手を外したい!」

 

「食わなきゃいいだろ。

そんなに夜中に食べたいのか?

太るぞ?」

 

「黙りなさい!私は常に爆薬を背負って生活するのが不安なのです!」

 

「血さえちゃんと飲んである程度まで回復すれば、悪魔の手を外しても大丈夫な風になるから」

 

「うぅ.....」

 

「なんか大変だな。お前も」

 

 

信玄に同情される謙信。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても.....」

 

 

話も終盤の頃。

 

 

「謙信って胸小ちゃいな」

 

「殺します!是が非でも殺します!」

 

 

右手で構える謙信。

 

 

「天竜.....幾ら何でも失礼過ぎるだろ」

 

「違う!小ちゃくて可愛いらしいと言おうとしたのだ!」

 

「殺します!」

 

「落ち着け!俺は貧乳好きだ!」

 

「殺します!!」

 

「だが、お前は氏康よか大きいだろ!」

 

「ご主人様.....私は誰よりも

小さいのですか?(泣)」

 

「お前いたの!?」

 

 

一緒に入浴していた事をすっかり忘れられていた記憶喪失中の氏康。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、頭部を吹き飛ばされた

天竜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲斐。

 

 

「ちっ.....!俺は光と違ってバラバラにされたら結構ヤバイってぇのに.....」

 

「自業自得じゃないですか」

 

 

織部にツッこまれる。

 

 

「今の天竜様の評価は賛否両論なんですよ?武田信玄を勢力下に置いたからといって、武田家を服従させたわけじゃないんです。反発者なんていくらでも出てきます。

私なんてさっき石投げられましたよ」

 

「すまんな.....一体誰に投げられたんだ?」

 

「もう殺しましたよ全く.....」

 

「...........そう」

 

 

こいつもこいつだな。

 

その織部。何の衣装か知らないが、

随分ボロボロな黒ドレスを着ていた。

 

 

「なんつー格好してんだ?」

 

「よくぞ気いて頂きました!

これは利休殿の『ごす・ろり』を私なりに解釈し、応用を重ねた完成形です!利休殿とはあんな決別の仕方をしてしまいましたが、あの方の茶人としての実力は本物!

今も尊敬しています!」

 

「お前どっちの味方だ」

 

「そして!

私なりの『ごす・ろり』がコレ!

新品にも美しさはあります。

しかし私的には、

使い古されたものにこそ趣がある!

だから壊れてるものの方が美しい!

まずはこの南蛮服を始めとし、

茶道具や自宅も壊したり、

歪ませたりしてみせます!」

 

 

それでこの服装か。なんか決戦が終わった魔女のような

中2的ファッションにも見えなくもないが.....

 

 

「なんか貧乏人か、乞食みたいだぞ?」

 

「ガーンΣ(゚д゚lll)」

 

 

 

 

 

 

それはさておきである。

天竜らはとある市場を訪れていた。

 

 

「ここらへんだな」

 

「本当にここでしょうか?

堺などならまだしも、

こんな甲斐の田舎市場で.....」

 

「いや、当たりだ!

あそこにいたぞ!」

 

 

その先にいたのは商人。金色の髪に碧眼を持つ40歳前後の中年の南蛮商人。

奴が売っていたのは.....

 

 

「日本人の皆様方見てください!

昨今は戦争ばかりが起きて、

とても心苦しいでしょう!

イライラが溜まるでしょう!

そんな時にはコレ!魔法の薬!

コレを煙草のようにスッと吸えば!

気持ちもスッキリ!

怪我や病気の痛みも消えます!

本来なら高価な薬ですが、

日本人さんになら特別にお安くしますよ!

さぁ買った買った!」

 

 

そうして男は謎の薬物を

市民に売りつけていた。

 

 

「あれが例の

『阿片売りの男』か」

 

 

甲斐では阿片被害がジワジワと広がりつつあった。南蛮商人が持ち込んだ阿片が、日本人を壊しているのだ。

山本勘蔵に阿片を売ったのも奴だ。

 

 

「気を付けろ!

それは毒薬だ!吸ったら死ぬぞ!」

 

 

天竜は周りの市民にも聞こえる程大きな声で叫んだ。

 

 

「ひぃっ!?」

 

「いやぁっ!!」

 

 

つい今買った市民や武士が、慌てて阿片を捨てる。

 

 

「ちょっとちょっと!

デマカセ言っちゃ駄目ですよお客さん!」

 

「客じゃない。

俺は役人としてこの店の調査をする」

 

「だっ.....誰ですか!?貴方は.....」

 

 

天竜が帯刀している所から、

商人は始めと武士が来たのかと思ったが、

服装は西洋式の軍服。

キリシタンかとも思った。

 

 

「ここ、甲斐の新大名羽柴秀長だ」

 

「だっ.....大名様でしたか。

どうです?羽柴様も一服」

 

「黙れ。阿片は人も国も壊す。

そんな物を危険と知りながら売り捌く貴様を俺が許すと思うか?」

 

「うっ.....うぅ.....」

 

 

弱った素振りを見せながら、

男は懐に手をかけた。

 

 

「小癪な!」

 

 

天竜はすかさず男の腕を斬り落とす。

 

 

「ぎゃあああああぁ!!!」

 

 

落ちた男の手には小型の鉄砲が

握られていた。

 

 

「商人が武器なんか携帯してんじゃねぇ」

 

「いぃ.....痛いぃ!!

痛い痛い痛い痛いぃ!!!」

 

 

天竜は男の襟を掴んで引き上げる。

 

 

「貴様のせいでどれだけ多くの人間が苦しめられたと思う?どれだけ多くの人命が奪われたと思う?貴様に今日を生きる資格はない!よってこの俺が裁く!」

 

 

天竜は阿片の束を掴み、着火させる。

 

 

「そんなにいい薬なら自分で吸え!」

 

 

それをそのまま男の口内に詰め込んだ。

 

 

「もがっ!もががががが!!」

 

「爛れて死ね!」

 

 

すると今度は男の身体全体が炎に包まれる。もがき苦しむも、数十秒後には動かなくなってしまった。

 

 

「ふくくくくくくく.....

麻薬の煙は百害あって一利なしだが、

人間の煙はなんとも香ばしいものだ」

 

「!?」

 

 

織部が何かに気付く。

 

 

「天竜様。アレ」

 

「ん?」

 

 

織部が指した方向。

そこには西洋人の男女が3人程いた。

 

 

「宣教師.....か?」

 

 

だがいつもの奴らとは違う。

いつになく猛々しい。

 

 

「お久しぶりですなぁ。

かれこれ3年ぶりだ」

 

「知るか。誰だ?」

 

「またご冗談を。ガスパールですよ。

ガスパール・カブラルですよ」

 

 

あっ、こいつがそうなの?

名前は聞いてたけど顔を見るのは始めてだ。随分と屈強なおっさんだな。しかし、史実ではフランシスコ・カブラルじゃなかったか?

 

 

「後ろのは?

特に左の美人さんが気になる」

 

 

だが先に答えたのは右の男。

 

 

「ワタシハカブラルノ弟子、

ロマーニオ・コルテス!」

 

「知らん」

 

「私はミッシェル・ラル・アンダーソン」

 

「ミッシェルさん。

これからちっとお茶でもしないかい?」

 

「お断りします」

 

「ちぇっ」

 

「貴方様はドラキュラ伯爵!

.....で、間違いないですね?」

 

「そうだけど?」

 

「じゃあ死ね!」

 

 

カブラルは懐から鉄砲を取り出した。

 

 

「短筒。中身は銀の弾丸か?」

 

「その通り!鉄砲の速さだ!

避けられまい!」

 

 

カブラルが発砲する。

 

 

「避けるまでもない」

 

 

天竜の正面に、鋼鉄の盾が出現する。

弾丸はその盾に防がれてしまう。

 

 

「流石俺の織部だ」

 

「キャッ。天竜様のものだなんて

そんな!」

 

 

それは織部のナノマシンだった。

 

 

「なるほど、ドラキュラ以外にも厄介な奴がいるようだ。

ミッシェル!ロマーニオ!

もう1人から先に片づけろ!」

 

「「了解!」」

 

「行け、織部。

大和撫子の力を見せつけてやれ」

 

「はっ!」

 

 

宣教師2人と織部の交戦が始まる。

 

 

「全く。手前ぇらはエクソシストか?

宣教師ってこんな強いものなん?」

 

「私達の任務は、

このジパングの植民地化と

ドラキュラの討伐!

其れ相応の専門家だよ」

 

「ハッキリ言っちゃったよ。

キリシタン共が聞いたら泣くぞ?」

 

「貴様がオルガンティノに良からぬ事を吹き込んだせいで、私のこのジパングにおける行動が少々制限された!いい宣戦布告を貰ったよ」

 

「そりゃ願ったり叶ったり」

 

「よもや貴様の本拠地がこんな極東の地で、その血筋もまたこんな『ジャップ』共と同じとは笑い者だな!」

 

「...........」

 

 

急に天竜の様子が変わる。

 

 

「手前ぇ、今なんつった?」

 

「このジャップめ!」

 

 

次の瞬間、

刀を抜いた天竜が目の前に現れた。

刀を振るうがカブラルには避けられる。

 

 

「おっと危ない危ない。

ジャップが怒ったぞ」

 

「黙れよ『白豚グリンゴ』がぁ!!」

 

 

天竜は連続して刀を振るう。

だが、その全てを避けられる。

 

 

『時よ止まれ!』

 

『時よ動け!』

 

「なっ!?」

 

 

時を止めて確実に殺そうとしたが、強制的に再び動かされた。

 

 

「はっ、最近の宣教師は魔法も使えるのか。

.....全く便利なものだなぁ!!」

 

 

マグナム銃を取り出し、カブラルに向ける。だが、その時にはもう彼は天竜の背後に回っていた。

 

 

「死ねぇい!!」

 

 

カブラルは天竜の背中を拳で殴った。

ただの素手の攻撃.....

かと思われたその拳は、

そのまま天竜の胸まで突き抜けた。

 

 

「がはっ!?」

 

「急所を外したか。

だが、かなりのダメージを与えたはずだ」

 

「げふっ!!」

 

 

吐血し、地面に手を着く。

 

 

「はっはっはっは!!!

3年前の戦いで力の全てを使い果たしたという話は本当だったようだなぁ!」

 

 

カブラルは天竜の頭を上から踏み付ける。

 

 

「がぁっ!?」

 

「ふっくっくっく!

我らイエズス会積年の恨みを私が晴らせると思うと、とても愉快だ!」

 

 

するとカブラルは十字架を取り出し、その長い部分を天竜の背中の傷穴に突き刺した。

 

 

「はぐぅあぁ!!!?」

 

「苦しめ!苦しめ!苦しめ!」

 

「おぐああああああああぁぁ!!!」

 

「はっはっはっはっはっは!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、飽きた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっはっは................へ?」

 

 

次の瞬間、カブラルはその場から

吹き飛ばされた。

 

 

「何っ!?」

 

 

数メートル飛ばされ、尻餅をつく。

だが、そんなものはどうだっていい。

先程まで苦しんでいたはずの男が、

今は平気そうに立っており、

不気味に微笑んで、見下している。

 

 

「お遊びで乗ってみたけど飽きた。

もう死んでいいよ?」

 

「何だと!?」

 

「時間停止が出来ない事と手前ぇが異常に速い事を確認できれば、後は問題なし」

 

「くっ...........くくくくく。

問題ないだと?馬鹿め!

私はまだ5割の力しか見せていない!」

 

「そうか。俺は2割だ」

 

「ほざけっ!!」

 

 

カブラルから出てくる。

 

 

「術による身体の強化及び硬化か。

これじゃあ弾丸も通らないな。

魔法以外に科学も混じってやがるな?」

 

「分かったからどうなる!3年前と比べて我々は見違える程強くなった!死にかけの貴様が勝てる道理などない!」

 

「だから知らねぇって。

それは朧に言ってくれ」

 

 

カブラルの拳闘による攻撃に、

最低限の動きで対処する天竜。

 

 

「式神!」

 

 

カブラルの目の前に鉤爪竜が出現する。

 

 

「むっ.....眷獣!?」

 

 

カブラルは裏拳で鉤爪竜の頭を砕く。まるでポップコーンのように脳が飛び散らせ、霧のように消えていった。

 

 

「化け物かよ.....

俺も人の事言えねぇけど」

 

「げひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「式神召喚!召喚!召喚!」

 

 

鉤爪竜を使い捨てのように次々召喚するが、その度に撲殺され、消えていく。

 

 

「無駄無駄無駄無駄ぁ!!!」

 

「無駄じゃねぇよ。

式神、特殊召喚!!」

 

 

再び鉤爪竜が現れる。しかし、明らかにそれまでの個体とは違った。首だけで十本近くあり、鉤爪もまた数十本あった。それでいて巨体である。

 

 

「手前ぇがバカスカ考えなしに砕いてくれたお陰で簡単に召喚できたよ。死んだ鉤爪竜を融合させた特殊式神

『鬼魔已羅』。暴れて来い!」

 

「ちっ.....蜥蜴の魔物め!」

 

「さてさて、

式神任せて俺は退かせてもらおう」

 

「待てドラキュラァ!!!」

 

 

だが無視をして天竜は消えてしまう。

 

 

「ギャアアアア〜!!!」

 

「邪魔だ雑魚がぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、織部。

 

 

「よう、織部」

 

「天竜様!」

 

 

織部の方はすでに戦闘が終わっていた。

 

 

「おふ.....服がボロボロだから、

壮絶な戦闘があったみたく見える」

 

「やっぱり格好いいですよね!」

 

「それでも、貧乏臭さが抜けないな」

 

「えぇ〜.....」

 

「んで、宣教師共は?」

 

「1人殺して1人を捕虜にしました」

 

「ご苦労。捕虜の方は?」

 

「みっしぇるという女です」

 

「上出来だ」

 

 

ナノマシンにスライムのように巻き込まれ、ロマーニオはバラバラに。ミッシェルは下半身と腕を拘束されていた。

 

 

「やぁミッシェル。また会ったな」

 

「.....ドラキュラ」

 

「なぁ、俺って3年前にもあんたらと戦ってたみたいなんだけどどういう事?」

 

「ふざけるな!我が父の仇め!」

 

「本当に身に覚えがないんだけどなぁ」

 

 

天竜はミッシェルの首筋に近づき、

そこをペロリと舐める。

 

 

「うっ.....殺してくれ」

 

「やだ♡

美女殺しても意味ないし、

勿体無いし、後が悪い。

殺すくらいなら服従させる。

こんな時に眷属作りは便利だ」

 

 

口を開け鬼歯をちらつかせる。

 

 

「.....兄さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラキュラァァァ!!!」

 

「あん?」

 

 

今にも噛み付こうとしたその時、

カブラルが戻ってきた。

 

 

「もう倒しちゃったのかよ」

 

「逃がすかジャップがぁ!!」

 

「うざっ。織部やっちゃって」

 

「はっ!」

 

「カブラル様!来ちゃ行けません!

ここは.....」

 

 

すると突如、地面から鞭のようなものが生え、カブラルの両足を切断した。

 

 

「ぐはぁっ!!?」

 

「バーカ。ここら一帯はナノマシンの舌の上だ。手前らなどいつでも始末出来たのだ」

 

「がぐぐぐぐぐ.....!!!」

 

 

天竜がにやにやしながら近づいてくる。

 

 

「俺が何の用意もせずに手前ぇらの相手をしたと思うか?敵がどんな奴らであっても対応できるよう、織部にナノマシンを忍ばせた。それに気付かず、手前ぇらはまんまと地面に擬態したナノマシンに乗っかっていたんだよ」

 

「この.....ジャップが.....」

 

「織部、両腕も」

 

「はい」

 

 

カブラルの両腕が宙を舞う。

 

 

「かぐあっ!!?」

 

「ダルマになる気分はどうだ?

え?この白豚が」

 

「おのれ.....おのれ.....」

 

「予想していたのより呆気なかったな。

宣教師などこんな程度か」

 

「...........ふっくくくく.....」

 

「ん?」

 

「貴様を倒そうと狙っている宣教師が、私だけだと思っているのか?」

 

「『私が倒れた以降も、

第2、第3の魔王が.....』パターンかよ」

 

「先日連絡を取った!

長崎より甥のコエリオが!

そして、勇者ガブリエルが!」

 

「.................................誰?」

 

「なっ!?」

 

「1人はガスパール・コエリオだろ?

もう1人はガブリエル?天使?」

 

「馬鹿な!

ガブリエル・クロウ・アンダーソン!

本気で忘れたと言っているのか!」

 

「聞いた事ない」

 

 

史実でも知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガブリエルですって!?」

 

 

全く別の所から声が聞こえる。

振り返った所にいたのは、

 

 

「朧っ!?」

 

 

一応裏切った事になっている現常陸大名。

 

 

「ガブリエルは大天使の名を持った神父

.....私を1度殺した男よ」

 

「なっ.....!?」

 

 

それがこっちの天竜が目覚めたキッカケ。

 

 

「まさか.....ドラキュラが.....2人!?」

 

「あ〜.....とりあえずこいつは

殺していいか?」

 

「好きにしなさい。どちらにせよそれを生かしておいた所で、害しか残らないでしょうね」

 

「おっしゃ殺すわ」

 

「くっ.....」

 

 

すると、天竜の見た目が大きく変容する。

 

 

「前妻に教わった技使いますかね」

 

 

筋肉が倍の大きさに隆起する。

鋼鉄にて鋭利な爪が伸び、

猛々しき角が出現する。

猛獣のように口を裂かす。

そして背中には巨大な蝙蝠の翼。

 

 

「あ.....あ.....あ.....」

 

 

それは3年前に見た、

ドラキュラの真の姿。

悪魔に最も近づいた人間的怪物。

 

 

『くたばれ白豚が』

 

 

右腕をカブラルの胸に突き刺す。

 

 

『弾けろ』

 

「イエス様〜〜!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カブラルの身体が粉々に消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長崎。

 

 

「今しがた、叔父が死んだようだ」

 

「...........」

 

「ガブリエル。これはやはり.....」

 

「本物の.....ドラキュラだ」

 

「叔父程の者を倒したのだ。

以前の傷など、等に治っているだろう」

 

「関係ない。倒すだけだ」

 

「妹のミッシェルは?

どうやら死んでいないようだが?」

 

 

2人はこの長崎にて、甲斐で起こった事の様子を不思議な力で感じ取っているらしい。

 

 

「ドラキュラに捕まったのだ。

恐らくもう眷属になっているだろう。

次会う時には倒すべき吸血鬼の1人だ」

 

「いいのか?」

 

「.....父を殺された時より覚悟はしてる。

吸血鬼と戦うとはそういう事だ」

 

「いざとなれば、この九州のキリシタン大名を使って奴らを押し潰す方法もある。本国より援軍を呼び、このジパングごと滅ぼす事も可能だ」

 

「俺は反対だ。植民地ばかり作って、弱者を力で押さえて何になる?弱い者虐めは好かない」

 

「お前は宣教師ではなく、ただの神父だ。

この国においては私が上司。

ドラキュラ退治の英雄といえど、

私に従ってもらう」

 

「...........分かった」

 

 

長崎より2人の刺客。

ガスパール・コエリオ。

ガブリエル・クロウ・アンダーソン。

来る。

 




カブラルよりガブリエルを目立たせたかったので
早めに死んでもらいましたアーメン。
新ライバルのガブリエル。
果たして天竜を倒してくれるのか!?
(恐らくファンの希望)
次回予告
東北征伐
〜伊達と最上。味方をするならどっち?〜


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登場人物紹介6

一杯出し過ぎて
正直処理が面倒臭い。


勘解由小路光

見た目24〜25歳。実年齢400歳以上。

旧姓は明智。正体は明智左馬助。

輪廻の呪いにより400年間も異世界を漂い、人間界に戻って始めて会った本当の明智光を殺害し、それにすり替わった。

若き日の天竜はそれを知らずに結婚してしまい、後々騒乱となる。

元人斬りという事もあり、

未来の世界においても度々殺人事件を起こし、天竜はそれを揉み消していた。

自身を魔物に変えたアマテラスと組み、戦国時代に風魔小太郎として戻ってきた。不死身の吸血鬼であるため、力で勝る天竜ですら殺せない。

天竜が過去に遡った事件に深く関わっている。現在、天竜軍で敵なのか味方なのか分からない態度を取っている。

 

 

 

 

羽柴闇

4〜5歳?

天竜と光との間に生まれた1人娘。

母の光が妊娠中に死亡したかと思われた為、彼女もまた死亡したかと思われたが、無事に誕生し、母と共に時を遡った。2人の吸血鬼との間に生まれた純血種であり、次世代のドラキュラである。

父の天竜に預けられ、彼にとても懐いている。

 

 

 

 

北条氏康

元関東覇者。小田原征伐において天竜率いる連合軍と壮絶な戦闘を行い、その末に降伏。天竜と共闘する事を決意したのだが、家臣の風魔小太郎(勘解由小路光)に裏切られ、その怪我が元となって記憶喪失に。その後は天竜の側室として影の薄い存在となっている。

 

 

 

 

ドラキュラ伯爵

500歳以上。正体は羽柴朧。

概要は謎であるが、欧州にて数百年に渡って魔王として人類に恐怖を与えた存在。3年前に1度退治されたようで、それをキッカケに天竜が目覚めた。

 

 

 

 

内藤昌豊

愛称は修理。主君にも名前も顔も覚えてもらえない不憫な子。天竜が唯一覚えていてくれた為、彼に恋のような憧れを感じるようになる。そんな最中、山本勘蔵に目立たない立場を利用され、阿片を用いて操られ、吉原にて遊女殺しを行ってしまう。

勘蔵が倒された後、一概に無罪には出来なかった天竜によって眷属にされ、四天王を脱退して天竜に忠誠を誓った。

 

 

 

 

真田昌幸

30歳前後。信玄の旧友でもあり、姉のように最も信用されていた。指揮官としての才能が高く、その点においてはあの山本勘助も認めていた。

だが、真田が天竜に協力し武田を追い込む意向を示している事を知り、絶望。信玄と心中する覚悟で自害しようとした為に、やむ負えず天竜によって眷属にされた。

実は『真田忍組』という、風魔に負けず劣らずの忍者集団を操つる事ができる。

 

 

 

 

真田幸村

昌幸の娘。まだ13歳で、元服して間もないにもかかわらず、その実力は猛将並。また未熟ではあるが、母と同じく指揮官としての才能も持っている。

成長して天竜の嫁になるのを夢見て、日々牛乳を飲んでいる。

 

 

 

 

前田慶次

犬千代と同い年だが、その成長度は親子並の差がある。犬千代の従姉妹として彼女もまた柴田軍に従軍していたのだが、勝家や犬千代と仲違いした末に敵国の上杉家に走る。

謙信に快く迎えられた彼女は、兼続のように謙信の剣となった。

 

 

 

 

直江兼続

愛称「かねたん」

まだ若いながら、謙信の懐刀として奮闘。

伊達家の片倉小十郎に恋しながら、

兜に愛の字を飾り、戦場を駆ける。

だが、天竜の証言によって謙信の腹違いの妹であった事が判明(謙信だけがその事実を知っていた)。しかし、その上で家臣として迎えてくれた謙信との間の結束が改めて深くなる事となった。

 

 

 

 

上杉謙信

鬼一族の母を持つ上杉家頭首。

だが、人外である事を認めたくなく、幼少期より吸血を拒否。お陰で年々生気を抜け、白髪化。アルビノ状態となった。

天竜の「治療」により、髪は黒髪に戻り、悪魔の手を手に入れた。貧乳を指摘した天竜の頭部を吹き飛ばす程の代物である。

松山主水は姉にあたる。

 

 

 

 

ガスパール・カブラル

史実はフランシスコ・カブラル。

原作は恐らく、コエリオと合同させて登場させたようだが、私はどちらも登場させる。

日本国植民地化計画の責任者。

差別主義者であり、植民地にした国の先々で原住民に対し無礼な態度を取り、日本人も蔑んでいた為に、他の宣教師からも嫌われていた。

天竜を「ジャップ」と呼んで怒りを買い、粛清される事となる。責任者の座は甥のコエリオに引き継がれた。

天竜の時間停止術を破る術を使ったり、身体を強化して天竜の恐竜式神を生身で倒すなど、エクソシストとしての実力は高かった。

アーメン。

 

 

 

 

ロマーニオ・コルテス

覚えたてのあやふやな日本語が特徴。

カブラルの弟子の1人だが、

織部によって数分で敗北。

身体をバラバラに斬り刻まれ死亡。

例え生き残ったとしても、

「捕虜は女だけでいい」

と、天竜に殺されていただろう。

アーメン。

 

 

 

 

ミッシェル・ラル・アンダーソン

18歳。ガブリエルの妹。

天竜も一目惚れする程の美貌を持つ。

エクソシストの実力は高いが、

織部にすら敵わなかった。

捕虜とされ、眷属にされかける。

アーメン。

 

 

 

 

ガスパール・コエリオ

カブラルの甥。年はまだ21歳と若い。

カブラル同様に差別主義者。

ガブリエルとは同期だが、

その仲は悪い。

日本人同士を無理矢理争わせ、衰退した所を征服しようと野望を匂わせている。

アーメン。

 

 

 

 

ガブリエル・クロウ・アンダーソン

ミッシェルの兄。20歳。

大天使の名を持つ神父。

3年前にドラキュラを1度倒すも取り逃がしてしまい、それをずっと心残りにしている。

父を殺され、妹を奪われた為、

ドラキュラに尋常でない程の恨みがある。

植民地計画には反対であり、

弱い者虐めは許さない善人。

エイメン。

 

 

 

 

羽柴天竜秀長

17歳(27歳)『裏切り魔将軍』

信奈に裏切られたのをキッカケに、

朧と同じく極悪の道に走る。

恩を仇で返し、

欲しいものなら無理矢理手に入れる魔王。

ただし、身内への愛は忘れず、

女性は滅多な事がなければ絶対に殺さない。

平気に裏切っているのではなく、

彼自身心を痛めている。

だが、その上で目的を達成させようと尽力し、世界平和のための世界征服を目指す。

最近度重なる悪の行為により、

読者から彼の不幸を求められているが、作者だけは彼もまた幸せになってほしいと願っている。

 

 

まぁ、なりませんけど。

 

 

 

 

 

 

 

上杉卯松。

後の上杉景勝。初名は影。

天竜家の長女。

(次女が闇。長男が拾)

2年前に謙信に拾われる。

母親は不明。

何人かが父の天竜に問い詰めたが、

彼は回答を拒否。謎のままである。

 

この母親の正体こそが、この物語のクライマックスに繋がるであろう。

 




モミモミ☆インジャナーィ!! (´д`)ノノ(▲Y▲)ボヨヨ~~ン


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第五十二話 東北征伐

モゥダメポ゙━━。゚(。ノωヽ。)゚。━━ォ!!!


宣教師らとの騒乱後。

甲斐のとある牢屋にて。

 

 

「うぅ..........殺して.....」

 

「駄目だ。君を殺したら、君の怖いお兄さんが俺を殺しに来るんだろ?」

 

「兄さんは..........強い。

必ずドラキュラを..........殺す」

 

「うへ〜怖い怖い」

 

「うぅ.....」

 

「君を眷属にする手もあったがやめたよ。

君をこのまま捕虜していた方が、

人質として役立ちそうだしね」

 

「おのれ.....」

 

「拘束を解いてあげよう。

暴れないと約束してくれたらね。

俺は捕虜には寛大でいたい。

ある程度の制限はかけるが、

君を自由にしてあげてもいい」

 

「どういう.....つもりだ?」

 

「ふふっ.....」

 

 

このミッシェルを上手く手懐ければ、そのガブリエルとやらを出し抜く突破口になりえるだろう。

 

 

「この.....ジャップめ!」

 

 

次の瞬間、天竜は小太刀をミッシェルの首筋に突き付けた。

 

 

「男の捕虜ならこのまま掻っ斬っていた。

女だから1度我慢してやった。

次その言葉を吐いてみろ。

死以上の恐怖を味合わせてやる」

 

「くっ.....!」

 

「まっ、カブラルじゃないんだから。やたらと差別用語を使えばろくな事にならないって事。覚えといた方がいいぜ?君が女じゃなければ、もう4回くらい殺してるから」

 

「.....くそっ!」

 

「大人してろよ?俺ちょっと戦争してくるから。次暴れたら、野武士連中の中に素っ裸で放り出すからな」

 

 

そうして天竜はそこを後にする。

 

 

「.....兄さん」

 

 

拘束の解かれた彼女は十字架を握り締め、

ひたすら神と兄に祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲斐

 

 

「さてさて。東北征伐を始めますかね」

 

 

その為の作戦会議だ。

 

 

「東北.....奥羽における最大の勢力。

それは出羽国の最上義光、

それと陸奥国の伊達政宗だ。

だが同時に相手するには骨が折れる。

幸い両者は対立している。

だから片方に敵を絞り、

もう片方と同盟を組もうと思う」

 

 

最上と伊達か.....

 

 

「普通に考えて伊達では?伊達に味方するとなれば上杉の協力も得られるかもしれませんし」

 

 

幸村が言う。

 

 

「あぁ。梵天丸に一目置いている謙信なら、頼めば増援もくれるかもしれない。

だがな.....」

 

 

相手はあの伊達政宗だ。

 

 

「俺は梵天丸を放置する事にも危機感を持っている。極々短期間にて陸奥の統一を果たした最年少の大名。

対処しなければ後々厄介な相手となる。

それに目的は奥羽の獲得だ。

梵天丸が服従するとも考え難い」

 

 

とても難しい選択だ。逆にここで最上を選べば、上杉が同盟を破棄して攻めてくる可能性もある。

 

 

 

 

 

 

「....................よし、決めた。

手紙を書く。誰か書き物を持ってきてくれ」

 

 

天竜が選択した味方とは.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸奥、米沢城。

 

 

「政宗様!甲斐の羽柴秀長より文が!」

 

「うぇっ!?」

 

 

使者より手紙を受け取る梵天丸。

天竜とは堺での決闘にて、

天竜の式神の大蛇に飲み込まれて以来、

恐怖しかなかった。

 

 

「どうされたのですか姫?」

 

 

梵天丸の親友にして有能な家臣、

片倉小十郎が尋ねる。

 

 

「羽柴天竜から.....文が来た」

 

「裏切り魔将軍から!?」

 

 

武田信玄程の者を謀反にて倒してしまった事もあり、裏切りの名は日本中に滞っていた。

 

 

「それで、何と?」

 

「羽柴天竜は....................」

 

 

手紙には衝撃の事が記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出羽、山形城。

 

 

「殿!羽柴秀長は何と!?」

 

「ふふっ.....魔将軍め」

 

 

 

 

義光はニヤニヤと微笑む。

 

 

 

 

 

「奴から同盟の誘いが来た。

共に伊達政宗を討とうとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は米沢城に戻る。

 

 

「羽柴天竜は敵となった。叔父最上義光と組み、この陸奥を攻めてくる」

 

 

手紙を読んだ梵天丸は家臣にそう告げた。

 

 

「魔将軍が.....来る」

 

 

武田を服従させ、上杉すら退けさせた天竜軍。勢いとハッタリだけで成り上がった伊達軍が敵う相手なのだろうか?

 

 

「小十郎.....ちょっと」

 

「姫?」

 

 

弱々しい声の梵天丸。

彼女に連れられ、部屋の外へ出てゆく。

 

 

「小十郎.....元気づけて」

 

「は?」

 

「お願い!」

 

「はぁ.....分かりました」

 

「梵天丸は何者?」

 

「姫は伊達政宗。陸奥の大名です」

 

「違う!ちゃんと!」

 

「はぁ.....」

 

「梵天丸は何者!?」

 

「姫は邪気眼竜伊達政宗!

黙示録のびぃすと!

天上天下最強の魔王です!」

 

「よしっ!やる気出た!!」

 

「はぁ.....」

 

 

溜め息が出る。だがこの程度でやる気が出るなら安い苦労だ。

 

梵天丸は部屋に戻る。

 

 

「クークックックックックッ!!!

よく聞け者共!

我、伊達政宗は魔将軍との決戦を決意したぞ!例え叔父上と魔将軍が結託しようが所詮は烏合の衆!

この黙示録のびぃすとの!

優れた戦略の前に平伏す事となろう!」

 

「「「おおおぉ〜!!!」」」

 

 

伊達軍は大将の気分次第で大きく実力が変化する。だから家臣らは空気を読んでとにかく梵天丸の太鼓を持ってそのテンションを上げさせる。

 

 

「でもさ、相手も戦略を得意にしてる魔将軍。デタラメとハッタリが専売特許の伊達に、奴を出し抜く戦略なんて存在するのか?」

 

 

空気の読めない伊達成実が言う。

 

 

「ククク。それなら心配ない。ある者に魔将軍の弱点をちゃんと聞いておいた!」

 

「「「おおおぉ〜!!!」」」

 

「その為にも、成実。

君の力が必要となる!」

 

「?」

 

 

悪魔の仔、羽柴天竜秀長。

自称黙示録の獣、伊達梵天丸政宗。

 

本物と偽物の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山形城。

 

 

「はじめまして最上義光殿。

副将軍の羽柴秀長です」

 

「あぁ。よろしく頼む」

 

 

2人の悪人が手を結ぶ。

 

 

「中部や関東の守護にも人出を回しておりますので我が全軍を導入しての進撃はできませんが、よろしいですか?」

 

「構わない。魔将軍程の者が味方になってくれるだけで頼もしい」

 

「ありがとうございます」

 

 

一礼をし、

天竜はその場を後にする。

 

 

「その.....殿.....」

 

「なんだ?」

 

 

家臣に尋ねられる義光。

 

 

「本当に羽柴秀長と同盟を組むのですか?」

 

「そうだが?」

 

「奴は武田を騙し討ちした

裏切り魔将軍ですよ!?

我らとていつ裏切られるか.....」

 

「だからお前は二流なのだ」

 

「!?」

 

 

出羽国の悪党は言う。

 

 

「裏切られる前に裏切ってしまえばいい。どうせ裏切られるのなら、奴の油断している背後を突き、梵天丸ごと滅ぼしてやる」

 

「!?....................本当に可能でしょうか?」

 

「奴の目的はこの奥羽の侵略。

この伊達征伐。最上に協力するというのは名目だけで、侵略は自分の力だけで全部やってしまうだろう。手柄も独り占めしてな。そして伊達を滅ぼし次第、引き返して逆に攻めてくるだろうな。

そこの虚を突く!!

羽柴が梵天丸を倒す直前の、

まさに最高の状況において、

この俺様が全力で横槍を突く!

これぞ漁夫の利!

羽柴秀長さえ倒せば、あの武田信玄さえ俺を敬うようになる。利用されているだけ上杉謙信も同様にだ。

奴らを担ぎ上げれば関東制圧、

そして京への上洛も、

夢ではなく現実となる!

やり方は裏切り魔将軍と変わらぬのに、奴の悪名の高さのお陰で俺はとんだ英雄様だ。

これは.....一石に対し、二鳥どころでは済まないだろうな。十鳥でも百鳥でも!

芋づる式に利益が出てくるであろう!

この俺様の『裏切り返し』の策略。

一流であるとは思わんか?」

 

「すっ.....凄い!!

そこまでお考えだったんですね!!」

 

「そして!梵天丸が死ねば!

お義も帰ってくる!

天下人になれば.....

義姫との結婚だって.....夢ではなくなる!!」

 

「..........」

 

 

義光のシスコンぶりに

何とも言えぬ家臣だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所詮は三流の小悪党だ」

 

 

誰かがボソりと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、天竜軍。

天竜は手にした無線機に叫ぶ。

 

 

「いざ進軍!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが今回の戦。前回の上杉同様にいきなりの戦闘には至らなかった。それどころか、天竜軍に異変が起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この獣には、また、大言を吐き汚しごとを語る口が与えられ、四十二ヶ月のあいだ活動する権威が与えられた。

 

また、大いなるしるしを行って、人々の前で火を天から地に降らせることさえした』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「あぁ〜!!

邪気眼が来る!!

邪気眼が来る!!」」」

 

「「666の謎を解き明かせねば〜!」」

 

 

 

 

伊達側がバラ撒いた怪文書により、

天竜軍側の兵が混乱していた。

 

 

 

 

「なるほど。あのやり方で成り上がったのか。ここまでくるとむしろ立派だな」

 

「大変です!この三成にも解けません!」

 

 

三成まで混乱していた。

 

 

 

「「「666の謎〜!!!」」」

 

 

 

 

 

天竜は無線機に叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「聞け阿呆共!!!

666の謎はこの羽柴天竜が解いた!!」

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

 

「ヨハネの黙示録を読み解くと、666は、

将来現れるソラトという悪魔の名だ。

シュタイナーによると、この名は、400+200+60+6=666の太古の暗号法から、太古では数字をアルファベットで記し、

400はT(タウ)、200はR(レシュ)、

6はW(ヴァウ)、60はS(サメク)

を表すという。

TRWSの子音体に、母音を補い、右側から発音することで、「ソラト」となるのだ。

 

ソラトは、

またの名をサタンという。

 

666はサタンと最も関係の深い者に与えられる獣の数字。この数字を与えられし者こそサタンの仔を示す!

 

ちなみに俺は、

6月6日の6時に産まれた!

俺こそが666!

獣の仔なり!サタンの仔なり!

 

伊達政宗は

俺の真似事をしているに過ぎない!

伊達政宗などただの中2病の偽物だ!

 

嘘つきに罰を与えよ!!!」

 

 

 

「「「おおおぉ〜!!!」」」

 

 

これがキッカケとなり、

天竜軍は一気に士気を取り戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜様、

6月6日が誕生日だったんですか!?

先月は知らなかったとはいえ、

お祝いをできず、申し訳ありません」

 

「いいよいいよ。嘘だし」

 

「....................は?」

 

「伊達さんのやり方を利用してもらっただけだよ。お陰で自軍は士気が戻り、真逆に敵軍の士気は駄々下がりだ」

 

「はぁ....................

では本当のお誕生日は?」

 

「俺が産まれたのは、

4月4日の4時。

『死』の3連星。444だ」

 

「不吉すぎます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊達軍。

 

 

「報告します!

敵に666の謎を解かれました!」

 

「にゃにおぉ〜!!?」

 

 

梵天丸は驚きのあまり椅子から転げ落ちる。いつか自分で解こうと思っていた謎をあっさりと解かれてしまったのだ。

この中2病対決は天竜に軍配が上がる。

 

 

「ク..........クク。

仕方あるまい。成実!」

 

「用意は出来ているぞ」

 

 

成実は数台の投石機の隣りにいた。

 

 

「よし発射!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜軍。

 

 

「ふふっ.....」

 

『報告します!

敵軍から投石が!!』

 

 

無線機からの報告がくる。

 

 

「ほう。では用意してある盾を用い防げ」

 

『そっ、それが.....

飛んできてるのは石ではなく.....

うわぁっ!?

うわああああああぁぁぁ!!!!』

 

「!?.....おい!どうした!?」

 

『黒いのが!!

黒い奴らが!!!

ぎゃああああああああああぁぁ!!!』

 

 

そこで通信が途切れてしまう。

 

 

「..........一体何が?」

 

「天竜様投石が!!」

 

 

三成に言われ上を見上げると、

何かが頭上から降って来てるのに気づく。

投石かと思い、兵達は咄嗟に避ける。

 

 

「あれは.....」

 

 

石ではなかった。風呂敷状のものであり、何故かガサゴソと蠢いている。

 

 

「まっ.....まさか!?」

 

 

本能的に天敵の存在を察知する。

 

 

「撤退だ!!

全軍撤退せよ!!!」

 

 

天竜が叫ぶ。

 

 

風呂敷の中から飛び出たのは.....

 

 

 

 

 

 

 

 

数百匹のゴキブリだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊達軍。

 

 

「いや〜。いつか役に立つかと思って繁殖させていた10万匹のゴキブリがここで活躍するとは」

 

 

指の上にゴキブリを乗せて遊ぶ成実。

 

 

「ククク。まさか魔将軍の弱点が

ゴキブリとはな」

 

「姫も苦手じゃないですか」

 

 

小十郎の影で怯えている梵天丸。

 

 

「いい情報を感謝する」

 

「あら、どうも」

 

 

彼女は魔将軍に瓜二つの女性。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜軍。

 

 

『報告します!

常陸の朧殿が伊達側に付いております!』

 

「あいつか〜!!!

この俺の弱点をバラしたのは!!

ゴキブリに塗れて死ね!!」

 

 

だが、実際死にそうになってるのは天竜だった。優勢だったにも拘らず、天竜の発狂によって一気に劣勢に陥る。

 

 

「のわ〜!!!

こっちに飛んできた!!

むっ.....!?動けないぞ!?

まさか金縛り!?

梵天丸め。まさか本物の!?」

 

「天竜様!

それは腰が抜けているだけです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

スパッ!

 

 

 

 

 

 

 

今まさに天竜に飛びかかろうとしていたゴキブリが突然

輪切りとなって真下に落ちる。

 

 

「!?」

 

「全く。お前は何をしてるんだ?」

 

 

それは風魔の女郎蜘蛛。

 

 

「仙千代!?」

 

「久しぶりだな天.....」

 

「どこほっつき歩いてた!!

小田原征伐終わった途端に消えやがって!」

 

「そういう約束だったろう」

 

「あれはツンデレ的な何かで、

『今後もあんたを守ってあげるわ。

勘違いしないでね!

借りを返すだけなんだから!』

みたいなものかと.....」

 

「断じて違う!!」

 

「でもいい!

ツンデレでいいから助けてくれ!」

 

「だから違うって!!」

 

「お前しかいないんだ!!」

 

「!?」

 

 

その言葉に仙千代がやや赤くなる。

ここに来たのもやはり、

「借りを返すだけだからね!」

的理由だった。

 

 

「お前の糸で数万匹のゴキブリを

全部斬ってくれ!」

 

「それは流石に無理!!」

 

 

天竜も混乱して、

おかしな命令を出してしまっている。

 

 

「小田原の時を思い出せ。風魔の予想外の進撃でお前は何をした?頭を使ってお前に勝てない相手などいないだろう!」

 

「むっ.....むぅ」

 

「それまでは私が盾になってやる。

借りを返すだけだ」

 

「やっぱツンデレやん」

 

「違う!!!」

 

「....................よし」

 

 

天竜は思考を重ねる。

 

敵は俺の天敵としてゴキブリを出してきた。となればこちらもゴキブリの天敵を用意すればいい。

 

 

『大変です!日が沈みます!!』

 

 

くそっ!夜になればゴキブリが闇に隠れ、進軍がさらに困難になる。

夜のゴキブリの天敵.....

 

 

「はっ!!..........そうか!!」

 

 

天竜は大量のお札を用意する。

 

 

「出でよ式神!!!」

 

 

数千枚はあろうというお札を一気にばら撒く。するとお札が次々に式神に変身していく。

 

 

「あっ.....あれは!?」

 

 

仙千代も驚愕する。

それは白色の蝙蝠達だった。

 

 

「蝙蝠は夜行性。

目で見るのではなく、

超音波で捉えた獲物を獲って食す。

さぁ、

『飢える蝙蝠(ハングリーバット)』共よ!

ゴキブリを食いつくせ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、夜明けがた。

 

 

「おぉ.....」

 

 

周囲にゴキブリホイホイで結界を作り、

拳銃片手に一睡もできなかった天竜が戦場を見た時、そこにゴキブリは一匹も残ってはいなかった。

 

 

「よくやった.....よくやったぞ」

 

「天竜様!!」

 

 

緊張が解けた天竜はそのまま倒れるように気絶してしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最上軍。

 

 

「ぐぐぐぐ.....なんだこれは!!」

 

 

天竜に待機を指示されていた義光は歯痒い思いをしていた。それもそうだ。

天竜軍は伊達軍とろくな戦闘をしていないのだ。伊達軍が天竜軍に対して謎の怪文書をばら撒き、天竜がそれを解き明かし、伊達軍がゴキブリボールを放ち、天竜軍がその駆除を行う。

死傷者も出ないような随分平和な戦だった。

 

 

「どういうつもりだ羽柴。これでは俺が仕掛ける機会が掴めぬではないか!」

 

 

裏切る気満々の義光にとっては納得いかない状況だ。今もなお、天竜伊達の戦は睨み合いが続いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その東北の地で、

2人の魔王がニヤリと微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告します!!

北から伊達軍が!!!」

 

「なっ!?」

 

 

報告を受けた義光は驚愕する。

それもそうだ。天竜軍と睨み合っていたはずの伊達軍が何故突如北から出現する!?

 

 

「それと.....

北からは伊達軍だけではなく、

天竜軍もまた攻めて来ました!!」

 

「なんだとっ!?」

 

 

魔将軍が裏切った!?

いや、待て。何かがおかしい。

伊達軍は俺の目を盗んで北に分軍を送っていた。だが、同時期に天竜軍もまた分軍を北に.....

 

奴はいつから裏切っていた!?

 

北方まで分軍を送るにはそれなり時間がかかる。開戦して間も無くか!?いや、まさか.....

 

 

「開戦前.....最初から裏切っていた!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは宣戦布告の手紙を送られた時の事。

 

 

「ククク」

 

「姫」

 

 

小十郎と2人だけの時。

 

 

「これを読んでみよ」

 

「..........これは!?」

 

 

手紙には、梵天丸より伝えられていた内容の他に、驚くべき内容が書かれていた。

 

 

 

『私、羽柴天敵秀長は其方、伊達政宗との戦を

決意をした....................

 

と言いたい所だが、それはない。

その前に最上を潰すべきと判断した。

だが、そのままでは倒すには少々時間がかかる。だから特殊な戦法を考えついた。

 

俺は始め、最上に付く。

最上に味方であると思わせる。

その上で.....いや、裏でお前と組む。

 

戦争においては、最上を効率よく騙すため、死傷者を出さぬように戦況の均衡状態を作りたい。その方法はそちらに任せる。

 

そして、今回の作戦は情報の漏洩が命取りとなろう。この作戦は極力、味方にも広めないでほしい。広めずに作戦を遂行してほしい。

『敵を騙すなら味方からだ』

 

この私が其方を信用していたからこそ、

この作戦を提案した。

良い結果を望むよ。

 

 

魔将軍より、

黙示録のビーストへ』

 

「..........これは」

 

「格好いい!!

『敵を騙すなら味方から』!!

魔将軍天竜.....敵ながら天晴れ!

いや、味方か。ククク」

 

「本当に乗る気ですか姫!?

相手はあの裏切り魔将軍ですよ!?」

 

「奴が始めから裏切るつもりなら、

こんな回りくどいやり方はせず、

こちら側に付いていたはず。

だが、それがないという事は.....」

 

「!?」

 

「この手紙は信用できるという事。

ククク.....

というより、我がそう解釈すると予見した上でこの作戦を考えたようだぬ」

 

 

小十郎は息を飲む。

梵天丸の戦略家としての成長に驚く。

 

 

「また会ってみたい。

あの魔将軍に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜軍。

 

 

「どうだ。

これこそが一流の裏切りであるぞ。

三流の貴様が勝てる道理があるはずない!

小悪党が魔王に勝てるかよぉ!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 




不思議な裏切り方をした天竜将軍。
これが、天竜と梵天丸との間に、
今後どのような関係性を持つのか。
次回予告
邪気眼竜
〜偽物が本物になる時〜


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第五十三話 邪気眼竜

心の洗濯♪(ノ*'-')ノ┣心━心━心┫


最上義光は絶壁に立たされていた。

味方であったはずの天竜が最初から敵であった事が判明し、一気に劣勢へと立たされていた。

天竜の今回の所業、

裏切り者というより、間者だ。

最上のもとで味方であるかのような顔で近づき、全てを奪っていく。

 

 

「おのれ羽柴秀長!!!」

 

「報告します!

南方より上杉が!!」

 

「なんだとっ!?」

 

 

あの上杉が自ら動いた!?

義理人情はどこに行った!!

 

東方、北方より天竜伊達軍

南方より上杉軍。

西方は日本海であるため逃げ道なし。

 

 

「このままでは武田の二の舞ではないか!」

 

 

裏切られると予見していたにもかかわらず、何もできなかった。「裏切り魔将軍」という名に手玉に取られたのだ。

 

 

「こんな馬鹿な話があってたまるか!

山形城に戻るぞ!

あそこから体制を立て直す!」

 

「報告します!

山形城が落ちました!」

 

 

「..............................は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山形城。

 

 

「わぁ〜凄い。

貴方の言う通りに攻めたら

簡単に落ちちゃいました!」

 

 

幸村が歓喜の声をあげる。

 

 

「いえ.....」

 

「何で天竜様のもとを離れてしまったんですか藤堂さん?」

 

「分かりません。ただ、今の私は朧さんに従ってゆくだけ.....」

 

「好きなの?」

 

「.....はい」

 

「分かりますよぉ〜。私も天竜様好きです!いつか結婚してもうために毎日牛乳飲んでます!」

 

「何故?」

 

「そりゃあ成長するためです!

天竜様に相応しいよう背を伸ばしたくて!」

 

「..........牛乳じゃ背は伸びませんよ?」

 

「え!?」

 

「牛乳は骨を丈夫にしますが、

背は伸ばせませんよ?

背を伸ばすなら.....

軟骨とかでしょうか?」

 

 

背を伸ばすならコラーゲンだ。

 

 

「分かりました!!

これからは軟骨を主食にします!」

 

「.....はぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

最上義光は山形城を放棄し、他の支城を求めて出羽国中を逃げ回っていたのだが、天竜伊達上杉の連合軍に追い詰められ、ついに捕らえられた。

 

 

「ふえ〜。上杉からの援軍って聞いたから誰かと思ったら、あんたか」

 

「あんたとはなんですか。失礼な」

 

 

愛と正義の甲冑服美少女戦士 直江兼続

 

 

「『謙信に代わってお仕置きよ!』」

 

「..........?」

 

「すまん。なんでもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、兼続もここに用か?」

 

 

2人は捕らえられた義光に会う前に、梵天丸らと合流するため、米沢城を訪れていた。

 

 

「呼び捨てにしないで下さい。不愉快です」

 

「面倒臭せぇクソガキだなぁ」

 

「クソガキとはなんですか!!

 

「ガキだガキ。

所詮色恋も知らねぇ未通女(おぼこ)だろ」

 

「うっ.....未通女かどうか別として、

私だって恋心は知ってます!!」

 

「ほほう。じゃあ誰だよ。

お前の想い人ってぇのは?」

 

「そりゃあ、小じゅ..........なっ、何で貴方に言わなきゃならないんですか!」

 

「ちっ!弱みを握れると思ったのに」

 

「どこまで下衆なんですか貴方」

 

「言われ慣れて今じゃもう褒め言葉だよ」

 

「はぁ.....」

 

「それにしても『小じゅ.....』か。

まさか片倉小じゅ.....」

 

「わぁ〜!!!わぁ〜!!!」

 

 

大声で喚き散らす兼続。

 

 

「はいはい頂きました。

見事に引っかかったなお前」

 

「しまった!?」

 

「カッカッカッカッカッカ!

精々俺の機嫌を損なわないよう、

気をつけるこった!」

 

「ぐぐぐ.....!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

米沢城本丸。

そこにて2人の魔王(?)が会見を行う。

 

 

「クックックック!

よくぞ来た魔将軍!

我こそが黙示録のびぃすと!!

邪気眼竜、伊達政宗である!!」

 

「はじめまして。

副将軍の羽柴秀長にございます」

 

「....................ありっ?」

 

 

中二病全開の部屋で中二病全開の挨拶をする梵天丸だったが、普通の返し方をされた梵天丸は一気にペースを崩される。

 

 

「この度は最上征伐にあたり、

我が羽柴軍と同盟を組んで頂き、

誠にありがとうございます」

 

「うっ.....うん」

 

「今回における策略。

順調に遂行できるに当たったは、

伊達殿の全面協力によるもの。

とても感謝している」

 

「.....うん」

 

「この秀長。今戦において其方との間に友情なるものが見えました。これ以降も良きお付き合いをば.....」

 

「..........」

 

 

梵天丸は凄いつまらなそうな表情をしていた。折角出会った自分と同じ臭いの者が思ってた以上に普通過ぎてガッカリしているのだ。

 

 

 

 

 

 

「.....んなわけなかろう!!」

 

「!?」

 

「我は魔将軍なるぞ!!

乳臭きガキ風情などと

友情があるなど虫唾が走る!

我と友になれるは地獄の閻魔のみ!

断じて貴様ではない!!」

 

 

急に天竜が中二病モードになる。

 

 

「おっ.....おのれ魔将軍!」

 

 

咄嗟に小十郎が反応するが、

 

 

「.....クク

クーーーーーーーークックックック!!!

そう!それでこそ魔将軍!!

この黙示録のびぃすとの

永遠の宿敵であろう!!

魔王織田信奈の前に、

貴様から倒してくれよう!」

 

 

梵天丸復活!

 

 

「ったく、これでいいのかい片倉殿?」

 

「おっ..........恩にきます」

 

 

中二病の遊びに乗るのは大変だ。

 

 

「とはいえ、最上が倒れたばかりの陸奥で、この俺が貴様と戦争を起こすとなると、調整も効かず、あやふやな戦闘となり得よう。今だけは勘弁してやろうではないか!」

 

「ククク、同義である。

だが、我はまだ未完成体!

完全体のびぃすとへと覚醒し時、

魔将軍すらをも飲み込む化け物となろう!

それまで精々御祈りでもしておけ!」

 

「はいはい」

 

 

今の所は仮同盟を組む事となった。

 

 

「ところで.....

兼続さん!用があるのでは?

片倉殿に!!」

 

「へあっ!?」

 

 

キッと兼続が天竜を睨み付けるが、

彼は知らん顔をしている。

 

 

「何でしょう直江殿?」

 

「へっ.....そのっ.....あのっ.....」

 

「小十郎に何の用だ『かねたん』」

 

「かねたん言うな!」

 

「へぇ〜、かねたん。

くっくっくっく.....」

 

「うぐぐぐ.....」

 

 

ニヤニヤ見てくる天竜に殺意を覚える。

 

 

「直江殿?」

 

「あっ.....ええと.....

そう!めご殿に会いに来ました!

めご殿に会わせて下さい!」

 

「はぁ.....」

 

「ふっくくくく.....」

 

 

必死に笑いを堪える天竜に更なる

殺意を覚える。

 

 

「めごには会わせん。

かねたんは越後に帰れ」

 

「なっ!?」

 

「そうだ帰れ帰れかねたん」

 

「死ね!!」

 

 

悪乗りし始める天竜に思わず

抜刀しそうになる。

 

 

「まぁまぁ。

そう言っては直江殿に失礼ですよ」

 

「小十郎殿.....」

 

「お優しいですね片倉殿!!

かねたん殿を嫁に貰ってあげては?」

 

「本当に死ね貴様!!」

 

「かねたん五月蝿い。早く帰れ」

 

「貴様も黙れ梵天丸!!」

 

「えぇ〜.....」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

 

梵天丸のテンションは下がり、

兼続は顔が真っ赤にになり、

天竜は爆笑している。

小十郎は話について行けない。

 

 

「っひゃひゃひゃひゃ..........ん?」

 

 

天竜が小十郎を見て何かに気づく。

 

 

「何か?」

 

「....................まさかな」

 

「いいから帰れ!

いつまで居座る気だかねたん!」

 

「かねたん言うな!

言われなくても帰る。

だが、その前にだ。

コホンッ、

謙信様は其方をとても気にかけおられる。魔王に堕ちるか、正義の竜となるか」

 

「我は魔王となる!」

 

「いいから聞け!精々魔将軍のような外道には決してなるなという事だ!」

 

「悪い子代表が俺か」

 

「自覚ないんですか!」

 

「あるよん」

 

「ぐぐぐ.....」

 

 

もう殺意しか湧かない。

 

 

「うん分かった。帰れかねたん」

 

「そうだ。帰れかねたん」

 

 

気がピッタリ合っている2人。

 

 

「うわ〜〜ん!!」

 

 

涙目で飛び出していく兼続だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて。五月蝿いかねたんも帰った所で、こっちの本題に入らしてもらおうか」

 

「ほう」

 

「その前に.....片倉殿」

 

「?」

 

 

天竜は立ち上がり、

小十郎の前までやって来る。

 

 

「あの.....?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜は小十郎の股間に触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっ!!!?」

 

「やっぱお前女か」

 

 

悟空のような性別の確かめ方だ。

 

 

「男って聞いてたのに、

女にしか見えないからどっちかなと」

 

「なっ!?.....なっ!?.....なっ!?」

 

「流石は俺の神眼!

美少女を見分けるのは確実だな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ赤になった小十郎にはたかれる天竜。

 

 

「痛っ..........!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛がる小十郎。

 

 

「すまん。また無意識に.....」

 

 

天竜を殴れば逆に怪我するのでタブーだ。

 

 

「うううぅぅぅ....................!!

いやあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

泣きながら出て行く小十郎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最低だなぁ〜お前」

 

「お褒め頂きありがとう」

 

「..........それで、小十郎を追い出してまで我に尋ねたい事とはなんだ?」

 

「気づいてたか」

 

「ククク。

この邪気眼で見えぬものはない!」

 

「見えねぇだろ。眼帯してるし」

 

「うっ!..........我が邪気眼は眼帯の下からでも通ずるのだ!!」

 

「それは邪気眼じゃない。

遺伝による眼球の異常だ」

 

「違う!これは邪気眼!」

 

「いや、日本人の母と南蛮人の父から産まれたお前が持ち得た特徴だ」

 

 

梵天丸の主張をあくまでも否定する天竜。

 

 

 

「嘘だ!我は邪気眼竜政宗!」

 

「お前はただの人間だ!!」

 

 

 

その言葉が矢となり、

梵天丸の胸に突き刺さる。

 

 

 

「お前はただの弱い人間だ。本物になれないからこそ、演技をして本物に近づこうとするだけの偽物!」

 

「違う..........我は.....本物」

 

「偽物だ!」

 

「うぅ.....」

 

 

涙を流す梵天丸。今日天竜が泣かせた女性3人目であるが、これが一番深い意味をなしていた。

本物を演じる事で生きる糧にしてきた。

偽物となってでも生き抜いた。

その根源を否定されたのだ。

 

 

「お前は本当ではない。偽物だ」

 

「うぅ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが、偽物が本物より劣るとは限らない。必ずしも本物が強いとは言えない」

 

「!?」

 

「トンビが鷹を産むという言葉があるように、親の背中を見習って真似をした子供が絶対に親を越えられないとは言えない。

ハッキリ言うが、

お前の父の伊達輝宗より、

娘の伊達政宗の方が優れていると言える」

 

「.....?」

 

 

天竜の言いたい事が全く分からない。

 

 

「えぇと..............................。

あぁ〜!まどろっこしい!

これだから説明は苦手だ。

聞くぞ梵天丸!

貴様は偽物で構わない!

偽物でも充分強い!優れている!

正直このままでも構わないさ!

だが.....

貴様が本物を望むというなら.....」

 

「我は.....」

 

 

梵天丸は涙を拭き、叫ぶ。

 

 

「我は邪気眼竜政宗!!

始めから偽物も本物もないわ!!

どうしても我を本物にしたいというのなら、やってみるがよい!」

 

「いいのか?」

 

「構わん!!

....................というのか何をするのだ?」

 

「了解と受け取った」

 

 

天竜は梵天丸の眼帯を外す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜は梵天丸の左目に指を突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!?」

 

「お前の左目を頂く!」

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

梵天丸が悲鳴をあげる。

 

 

「姫!?」

 

 

騒ぎを聞きつけ、小十郎が飛び込む。

 

 

「なっ!!?」

 

 

小十郎の目に飛び込んだのは、丁度天竜が梵天丸の紅の眼球を引き千切った所の光景であった。

 

 

「よっ.....よくも貴様!!!」

 

 

刀を抜く小十郎。

 

 

「動くなっ!!!」

 

「!?」

 

「術式の途中だ。失敗はしたくない!」

 

「術式!?」

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

梵天丸は今もなお泣き叫んでいる。

 

 

「すまない。麻酔を使ってやりたかったが、それでは成功率は限りなく低くなる..........ふっ!」

 

 

すると、天竜は自身の左目にも指を突き入れ、眼球を引き出した。天竜と梵天丸双方の鮮血が辺り一面に飛び散る。

 

 

「偽物が本物になる時だ」

 

 

自身から引き出した左目を、

梵天丸の左目の穴に嵌めた。

 

その瞬間!梵天丸の左目の傷が回復する。

 

 

「あっ.....あっ.....」

 

「おめでとう.....

これで君は邪気眼竜政宗だ」

 

 

片目を失った天竜が言う。

 

 

「あっ.....あれ?」

 

 

今までの痛みが嘘のようにも無くなり、

不思議だけが残る梵天丸。

 

 

「ふぅ.....」

 

 

逆に体力を使い果たしたらしい天竜は血だまりの上に腰を落とす。

 

 

「片倉殿。すまないが包帯かなんかを持ってきてくれないかい?」

 

「..........」

 

「持ってきてやれ小十郎」

 

「はっ.....はい!!」

 

 

 

 

梵天丸に言われ、

小十郎が慌てて包帯を取りに行く。

 

 

 

 

「....................我に何をした!?」

 

「言っただろう。

本物の邪気眼をくれてやった」

 

「本物!?」

 

「俺はサタンの実子だ。

その目玉の力はまさに邪気眼と言える」

 

「サタンの.....実子!?」

 

「包帯持ってきました!

めご様よりお借りしたのですが.....」

 

「すまない」

 

 

天竜は包帯を受け取ると、

自身の左目の穴を覆うように頭に巻く。

 

 

「ほれ。これやるよ」

 

 

それは梵天丸から引き千切った元の目玉。

 

 

「うぇっ!」

 

「受け取ってやれ。これはお前の実父から受け継ぎしお前の財産だ。

いらねぇなら俺が食うが?」

 

「....................いる」

 

 

天竜から目玉を受け取る。

そしてそのまま口に入れてしまった。

 

 

「あっ.....」「姫!」

 

「うえぇ.....ぶにゅぶにゅしてる。

鉄の味がする.....」

 

「吐き出して下さい姫!」

 

 

だが、梵天丸は目玉を

ゴクリと飲み込んでしまった。

 

 

「クークックックックック!!

大義であるぞ魔将軍!!

この新しき邪気眼は大変調子が良い!

左目を中心に身体中がカァーッと熱い!」

 

 

梵天丸の左目は相変わらずの紅色であったのだが、瞳孔の色が黒色から黄金に輝いていた。

 

 

「そりゃどうも。その目は黄金や金剛石なんかよりも高価なものなんだから大事にしろよ」

 

「うむっ!」

 

「ふぅ.....」

 

 

天竜は小型の水筒を取り出し、それを飲む。

中身は血だった。

 

 

「あぁ〜〜〜.....少しばかし楽になった。でも先日に式神の大量召喚した副作用なのか、再生速度が驚くぐらい遅いな」

 

 

天竜が包帯を外すと、目玉の形だけは形成されていたが、瞳の色もない、ただの球体の状態であった。

 

 

「..........」

 

「心配するな。

血さえ飲めばあと2日で治る」

 

「心配は全くしてない」

 

「あっそ.....」

 

 

天竜は立ち上がる。

全身血だらけで、白軍服も台無しだ。

 

 

「眠たい。一泊止まらせてくれ」

 

「じゃあ馬小屋を貸してやる」

 

「もうそこでいいや」

 

「姫.....流石に失礼しすぎませんか?」

 

「むぅ.....邪気眼をくれた恩もあるしな.....

部屋を一つ用意させよ

あそこがいい。我の祈祷部屋だ」

 

「あの髑髏やら剥製やらがたくさんある不気味な部屋ですか!?」

 

「そこでいいよ寝られるなら」

 

 

小十郎に連れられ、フラフラしながら付いて行く天竜。

 

 

「一つ聞く魔将軍」

 

「ん?」

 

「何故我にコレをよこした?」

 

「ふふっ.....」

 

 

やや微笑して彼は答える。

 

 

「昔の俺に似てんだよお前は」

 

「魔将軍に?」

 

「俺も元中二病だ。ある意味今もな。

だから本物を求める側の気持ちは

よく分かるつもりだ。

だから.....お前に与えてやりたかった。

同時に、

本物の苦しみを共有してほしかった。

それはお前の武器であると同時に、

お前に課せられた楔だ。

どう使おうともお前に任せるよ。

いらなくなったら言うがいい。

また引きちぎってやるから」

 

「....................うっ.....うむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

 

「刀よ浮け!

..............................むぅ。

料理よ出ろ!

..............................むぅ。

魔物召喚!

..............................むぅ」

 

「姫?」

 

「小十郎。魔将軍を起こしてくれ。

邪気眼の使い方が分からぬ」

 

「はぁ。その前にめご様を知りませんか?朝から見えないのですが.....」

 

「めごが?....................まさか!?」

 

 

慌てて祈祷部屋に飛び込む。

 

 

「めごっ!!」

 

「姉者?」

 

「ひゃふへてふれ!」

 

 

そこには、

めごとミイラ男状態の天竜がいた。

 

 

「姉者。仲間がいた」

 

「違う!それはただの怪我人だ!」

 

「ひいはらほほへっ!」

 

 

 

 

 

やっと解放される天竜。

 

 

 

「まだ.....か」

 

 

眼球は瞳とおぼしき濁りが出るまで回復したものの、まだ失明状態である。

 

 

「邪気眼の使い方を教えろ?」

 

「うむ。全然仕組みが分からぬ」

 

「ふぅ。じゃあ行くか。

実験体に会いに」

 

「実験体?」

 

「行くぞ山形城に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山形城。

幸村と高虎によって落とされた後、

捕らえられた義光が収容されていた。

 

 

「よう義光、お久!」

 

「ぐぐぐ.....羽柴!」

 

「惨めだなぁ。奥羽を1度は掌握するかとまで言われた

悪党が、姪っ子とどこぞの陰陽師に滅ぼされてん

だからなぁ」

 

「ぐぐぐ.....!!」

 

「さぁ梵天丸。こっちへ来い!」

 

 

梵天丸が状況も分からず、

恐る恐る近づく。

 

 

「梵天丸、叔父を恨め。怨念を込めろ。

憎悪こそが、その邪気眼に力を与える」

 

「憎.....悪?」

 

「ふざけんな!こんなチビガキ連れ出して何をやるつもりだ!!」

 

「チビガキじゃない!!

我は邪気眼竜政宗なるぞ!」

 

「邪気眼?はぁ?馬鹿か?

そんな嘘をまだ通してんのか?」

 

「嘘じゃない!!

我は本物になったのだ!」

 

「はっ!偽物だろう。

幻想ばかり見て現実を見れないガキが!」

 

「我は本物だ!!!」

 

「いい加減認めろよ!

この父親殺しがっ!!」

 

「!?」

 

 

梵天丸は真実を知らない。

 

 

「うぅ.....うぅ.....

うわああああああああああああああ!!!」

 

「!?」

 

「叔父上など死んでしまえ〜!!!」

 

 

梵天丸が眼帯を外す。

 

 

「窒息して死ねぇ!!!」

 

「がふっ!!?」

 

 

急に義光に異変が起きる。

 

 

「ぐがっ!!?」

 

「死ね!死ね!死ね!死ねぇ!!」

 

「がぶぁっ!!?」

 

 

泡まで吹いて苦しむ義光。

 

 

「ククククククク!!」

 

「ががががぐぐぐぐがが!!」

 

 

痙攣まで始まっている。

 

 

「はい。ストップ」

 

 

天竜が左手で梵天丸の邪気眼を覆う。

 

 

「ぷはぁっ!!!

はぁ!.....はぁ!.....はぁ!.....はぁ!.....」

 

「どうだ義光?

これでも梵天丸は偽物か?」

 

「羽柴..........梵天丸に何しやがった!」

 

 

梵天丸の背後に憑く天竜は死神にも見えた。

 

 

「この子を本物の獣にしたまで。

本物の魔獣にな」

 

「くっ.....!!」

 

「手を離せ魔将軍!

我は叔父上を殺す!!」

 

「ダ〜メ♡

義光にはまだ使い道あるんだ。

お前の一念で抹殺する事は許されない」

 

「この化け物が!!」

 

「「!?」」

 

「化け物が!

そうだ!お前は人間じゃねぇ!

化け物の人間同士の争いに

関わるんじゃねぇ!」

 

「..........」

 

「よせ!本当に死にたいのか!?

これ以上この子を追い込むな!」

 

「消えろ!消え失せろ化け物!

死にさらせぇぇ!!」

 

「うわああああああああああああ!!!」

 

 

涙を流しながら彼女は叫ぶ。

 

 

「そうだ!我は化け物だ!

黙示録のびぃすとだ!

死ね、人間んんんんん!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

その時!

天竜の手を突き破って何かが出た!

 

それがそのまま義光の肩を貫通する。

 

 

 

 

 

 

「痛った!!」

 

 

それは天竜の手すらも突き破る威力。

 

 

「これは.....」

 

 

無意識に出した梵天丸も驚いている。

 

 

「ぐあああああああああ!!!!」

 

 

肩に穴の空いた義光は痛みのあまり、

転げ回る。

 

 

「『空裂眼刺驚』

眼球内の体液に高圧力をかけ、瞳の向ける先に発射する技だ。原理的には水圧カッターのようなものだな。

痛ってててて.....」

 

「これが.....邪気眼」

 

 

梵天丸が不気味に笑みを浮かべる。

 

 

「クークックックックック!!!

素晴らしい!素晴らしい!

これで我は魔王にまた一歩近づいた!」

 

 

梵天丸はまた視線を義光に向ける。

 

 

「くたばってしまうがよい!」

 

「よせ!梵天丸!!」

 

 

これは天竜にとっても誤算だった。

制御しきれない強大な力を持ってしまった者がどのような末路を辿るのか、理解していたつもりなのに。

 

 

 

 

 

「魔帝波状鮮血刺殺光線!!!」

 

 

 

 

 

なんか変な名前付けやがった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

義光には当たらなかった。

2人の間にある者が入り込んだからだ。

 

 

「梵天丸!!」

 

「はっ.....母上!?」

 

 

梵天丸から放たれた技は義姫の頬をやや傷付けていた。

 

 

「梵天丸!」

 

「ちっ.....近づくな母上!

母上も殺してくれる!」

 

「この馬鹿娘!」

 

 

義姫は梵天丸に抱きつく。

 

 

「えっ....................」

 

「この馬鹿娘!馬鹿娘!

まだ幼く、未熟なのに、

ここまで追い詰められて.....」

 

「母上?」

 

「私が悪かった。

私がお前を追い詰めてしまった」

 

「..........うううぅぅぅぅ」

 

 

梵天丸が泣く。

 

 

「うわあああああああああああ!!!」

 

 

赤子のように母の胸で泣く。

 

 

「羽柴殿。この子を支え、

助けて頂いた事には感謝します。

ですが、この子をこれ以上危険な道に追い込めようというのなら、私は貴方を殺す!絶対に許さない!」

 

「ふっ.....これが母親の力か」

 

 

天竜はふと義光のもとへ歩み寄る。

 

 

「男を噛むだけで気持ち悪いが、

腕で妥協しとくか」

 

 

義光の腕に噛み付く天竜。

 

 

「がふっ!?」

 

 

しばらく痙攣していた義光はやがて大人しくなると、天竜のもとに跪く。その瞳は紅色で.....

 

 

「ご命令を我が主」

 

「今日から梵天丸に仕えよ。

梵天丸を主として忠誠を誓え」

 

「はっ!」

 

 

今度は梵天丸に跪く義光。

 

 

「これで義光はお前の眷属だ。

煮るなり焼くなり好きにしろ。

まぁ、俺なら利用するがね」

 

 

天竜は落ちていた梵天丸の眼帯を拾い、彼女に投げ渡す。

 

 

「..........魔将軍?」

 

「天竜だ。迷惑かけたな。体制を整え次第移動するよ。伊達家とは同盟関係継続でいいのかな?」

 

「魔将軍.....天竜。これから何処へ?」

 

「蝦夷」

 

「蝦夷!?」

 

「蝦夷も東日本の一部だ。

陸奥から薩摩までが天下と言われているが、俺なら蝦夷から琉球まで取る。場合によってはそれ以上もな」

 

「..........」

 

「一緒に来るかい?」

 

「!?」

 

 

梵天丸はしばらく思考を重ねた後、

義姫の顔を見て、覚悟を決める。

眼帯をつける。

 

 

「クークックックックック!!!

我は黙示録のびぃすと!

邪気神眼竜伊達政宗である!!」

 

 

邪気眼から邪気神眼に

グレードアップしてる。

 

 

「貴様は我を倒すもにょだ!」

 

「逆だ逆」

 

「あっ.....我は貴様を倒すもにょだ!

精々首を洗って待つがよい!」

 

「ふふっ....................

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

笑死!貴様如きが私を倒すだとぅ?

馬鹿も休み休み言え!

我こそは魔将軍!

いや.....魔神ドラキュラである!

何人も寄せ付けぬ、

森羅万象の侵略者である!!

軽くあしらってやろう!!」

 

 

天竜もまた中二病で返した。

 

 

「という事だお母さん。

梵天丸はもうとっくに子離れした戦士だ。

充分に立派だよ」

 

「その.....ようですね」

 

「それでは、また会おう」

 

 

霧となって彼は消えた。

 

 

「ククク」

 

「羽柴.....秀長!」

 

 

義姫はじっとそこを睨みつけてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん。

やっぱ蝦夷攻略に協力してくんね?」

 

 

格好つけて去ったのに、

また戻ってきた。

 




中間でなんかゴチャゴチャしてた気がします。
なんかおかしな描写があるかもしれません。
なんだかんだで、
敵なのか味方なのか分からない立場になった梵天丸。
今後のお付き合いに期待。
今回は色んなパロが混じってた.....
次回予告
天竜vs良晴(前編)
〜まだこれは始まりに過ぎない〜


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第五十四話 天竜vs良晴(前編)

d(´Д`_)右ヨシ(_´Д`)b左ヨシ(´∀`)p逝ってヨシ!!!


伊達家の援助を受けつつ、

さらに北上をした天竜軍。

津軽にて船に乗り、

ついに蝦夷地へと足を運んだ。

 

この時代、汚れの地とされてきた蝦夷の地形は性格には分かっておらず、地図も現代のような菱形ではなく、歪な形の大きな離島程度にしか見られていなかった。

 

だがこの天竜。

この蝦夷地の重要性を誰よりも理解していた日本でただ一人の人物である。

 

天竜軍は上陸して早々、陸奥北部から蝦夷地南部にかけてを治めていた大名檜山安東氏。

その安東氏と戦争状態に入る。新兵器を大量に導入した天竜軍の前に安東軍は始めから劣勢であった。

さらに安東氏の家臣の蠣崎氏が安東氏から離反。蠣崎家の独立を条件に天竜軍に味方するようになる。

 

時間はさほどかからなかった。

天竜軍莫大な物量に押し潰され、

安東氏は壊滅。残りは降伏。

安東氏が蝦夷地に持っていた権力は丸々天竜へと引き継がれる事となった。

 

 

「私こそが蠣崎の六代目!天才丸です!」

 

「はぁ.....また梵天丸パターンかよ」

 

 

蠣崎慶広。

あだ名は新三郎。

 

基本自信過剰な奴は梵天丸パターンに分類される。散々梵天丸に振り回された天竜にはうんざりであった。

 

 

「天才丸って.....それ赤ん坊の頃の名前だろう。何で未だにそれを名乗ってんだよ」

 

「何を隠そう私が天才だからです!

だからこそ、私は安東の阿呆と共倒れにはならず、こうして貴方様に仕える事で、新たなる道を開けた!

とても感謝していますわ!」

 

 

本当に自信過剰なお姉ちゃんだ。

17歳ぐらいだろうか?

肩まで伸びる茶髪に前髪がパッツン。

胸は.....Bか。嫌いじゃない。

 

 

「まぁいい。

こんな北の地にいて

俺を知っているのか?」

 

「勿論存じております。天才ですから。

副将軍羽柴秀長様。

『裏切り魔将軍』様♡」

 

「ほう。それを知っていて、

何故俺に仕える?」

 

「蠣崎家は武田の遠戚ですから、

貴方様の前に立とうとした信玄公の愚かさも存じております。貴方様程の武芸者の矛先の餌食になるのも自業自得と考えていますわ。兵士の刀の前に立つなど阿呆のする事。きっと黄泉で後悔してるでしょうね」

 

 

勝千代生きてんだけど.....

 

 

「この世で最も安全な地は、

最も強い者の後ろですわ。

私はいつもそれを元に行動します。

天才ですから」

 

「ふっくくくく.....

では強者であり続けなければ、

俺は後ろから刺されてしまうな。

魔将軍が裏切られたら名折れだ」

 

「大丈夫ですよ。天才である私の見解では、この日の本で最も強いのは貴方様ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四国。

 

 

「はいしドードー!はいドードー!」

 

「ひぃ〜〜!!」

 

 

四国の覇者である少女を背中に乗せ、

お馬さんごっこ(?)をする良晴。

 

 

「元親ちゃん降りてくれ〜!

腰がもう限界だ〜!」

 

「むっ!妾が重いだと!?

無礼な猿にはこうなのだ!」

 

「痛ったたたたた!!!

尻尾引っ張らないでぇ!!」

 

 

読者のほとんどが忘れていただろうが、

良晴には尻尾が生えている。

(作者も忘れていた)

 

 

「あっはっはっはっは〜!!」

 

「ひぃ〜!!」

 

 

良晴がこんな目に遭っているのには

訳がある。

この少女は長宗我部元親。

弱冠15歳にして四国を統一した

麒麟児である。

 

織田家の四国攻略事業。

元は天竜が担っていた事であった。

とはいえ、天竜が独断で内密に行っていた為、天竜が織田における権力を失った際に、その権利もまた剥奪された。

それを受け継いだのは明智光秀。

天竜が侵略ではなく、同盟という関係で四国を味方につけようとしていたのを習い、十兵衛も自ら四国を訪れて元親と交流を重ねるなど、努力を重ねていたのだ。だがその十兵衛もまた、天竜を求めて織田を離れた。

 

そのさらに後継として良晴が選ばれた。

 

本来は九州攻略を担当する予定だった彼だが、他に適任も見つからず、九州は後回しとなった。

信奈もまた播磨に留まり、

未だ動向の見えない毛利を監視している。

 

ちなみに、

史実において四国攻略を担っていた光秀だったが、信長によって急遽その権利を剥奪され(息子の信忠に四国を任せ、家臣が力を持つ事を阻止し、なおかつ織田家による独裁政権を築こうとしていたと思われる)、それが原因となって本能寺の変が起きたとも言われているのだ。

 

 

「十兵衛に会いたいのだ!

連れてこいサル!」

 

「十兵衛ちゃんは今、織田にはいないんだよ。だから無理だ」

 

「生意気なのだサル!」

 

「痛ったたたたた!!!」

 

 

また尻尾を引っ張られる。

 

場合によっては侵略するという意図の信奈を抑えるため、なんとかしてでも元親から好感を得る必要があった。例えその末に尻尾が千切れるような事があろうとも.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

「羽柴氏」

 

 

闇に紛れて1人の忍が現れる。

 

 

「五右衛門!」

 

「信奈様がお呼びでございまちゅ」

 

「可愛い!」

 

「うぅ.....兎にきゃく安土じゃうに戻ってくだちゃれ!のびゅなちゃまはもうおいでぅえだす」

 

「..........言いたい事は伝わったよ」

 

 

つまり信奈が俺に伝えたい事があるから安土城に一度戻ってほしいとの報告だ。

 

 

「という事だ。

俺一回帰るよ元親ちゃん。

用事が済んだらまた来るから」

 

「やだ!もっとサルと遊ぶのだ!」

 

「痛ったたたたた!!!」

 

 

また尻尾を引っ張られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安土城。

 

 

「来たわね」

 

「おう」

 

 

信奈は天守閣にて待ち構えていた。

 

 

「貴方をここまで呼んだのは

他でもないわ」

 

「うん」

 

「天竜を覚えてる?」

 

「..........忘れるはずないだろ」

 

 

良晴が天竜と最後に会ったのは、

伊勢イスパニア島にて、オルガンティノを脅していた彼を発砲した時だろう。千利休に指摘され、『銀の弾丸』を使用した。致命傷には至らなかったが、確かに効果があるという事を宣教師側に伝える事となった。

結果的、オルガンティノは日本国守護派として、侵略派であるガスパールらと全面対立。いくら良晴が「天竜の思う壺だ」と説得しても、聞く耳持たなかったという。

その末、何が正しいのかも分からなくかった良晴であったという。

 

 

「私からも説明致します」

 

 

蒲生氏郷が現れる。

 

 

「先々月、羽柴秀長を討ち倒そうと向かわれた3人の宣教師様。やっと魔将軍が消え去ると私も安心していたのですが、翌日に知らされた報告で私は真から恐怖を覚えました」

 

 

3人全員が返り討ちにあったのだ。

 

 

「カブラル様、ロマーニオ様は惨殺され、

ミッシェル様は捕虜にされました」

 

「..........(長崎よりコエリオ様と

ガブリエル様を呼び寄せている)」

 

 

利休も現れる。

 

 

「..........(とはいえ、羽柴秀長は逃げるようにどんどん北上。まだ博多近辺に駐留している為、間に合わない)」

 

「これは昨日届いた報告ですが、

..........羽柴秀長が蝦夷を統一しました」

 

「なっ!?」

 

 

氏郷が衝撃の事実を聞く。

 

 

「北条氏を倒し、

武田氏を倒し、

上杉氏を抑え込み、

最上氏を倒し、

伊達氏を抑え込みました。

着々と東日本の統一を図っていましたが、

先月に蝦夷に上陸した秀長は、

蠣崎氏と手を組み、

安東氏を倒し、

アイヌと呼ばれる民族の掌握を行っていたようですが、それからたった一月で蝦夷を統一してしまいました」

 

「そして蝦夷地を日本国として、

正式に改称したらしいわ。

その名は『北海道』」

 

 

200年も早くに北海道の誕生。

 

 

「東海道とかに掛けたんでしょうけど、

むしろ上手くて、腹が立つわ」

 

 

信奈が歯ぎしりをする。

 

 

「さらに蝦夷地.....北海道の地形調査の結果、領域面積が予想の3倍近い事が判明し、波紋が広がっております。

秀長が北海道国を手に入れたとなれば、伊達家の陸奥以上の巨大国家を手に入れた事になります」

 

「..........」

 

「良晴.....私は決意したわ」

 

「信奈?」

 

「天竜を倒す」

 

「..........」

 

「この決意も遅すぎたわ。

あの安土城での会見で.....

奴の息子を盾にしてでも倒すべきだった。

いえ、もっと昔。『安土城の変』で彼を迎えたのがそもそもの間違いだった。騙し討ちをしてでも殺すべきだった。

例え卑怯と言われようが.....

天竜はなんとしてでも絶対に殺さなければならない、この世に存在してはいけない悪魔だった」

 

「信奈.....」

 

「良晴。北海道国を攻めなさい」

 

「えっ!?」

 

「毛利がこの話に乗ったわ。

水軍を提供してくれる。

九鬼水軍を使いたい所だけど、天竜の息がかかってるから寝返る可能性もあるしね。

それと上杉も乗ってくれた。

でも上杉は奴と同盟関係にあるから影ながらの協力だけれど.....」

 

「作戦を伝えます。

神戸より船を出し、日本海側を回って北上します。そして越後にて停泊し、上杉より補給の物資を受け取ります。そしてそのまま北海道国へ突撃」

 

「..........(秀長本軍は今、陸戦用の軍備しかない『箱館』という地にて駐留している。そこを襲撃すれば、秀長を倒せる)」

 

「その先陣を貴方に任せたい。

貴方以外に頼める人がいないわ。

もちろん私も同行する」

 

「信奈.....それはお前の意思か?」

 

 

良晴が真剣な表情で尋ねる。

 

 

「羽柴秀吉。貴方は秀長の弟というだけではなく、同じく未来より訪れて、この世の秩序を乱す秀長の次に駆逐されるべき存在。ですが、今は秀長問題が解決すべき最重要課題であるがゆえ、今は見逃すのです。

素直に了承しなさい!」

 

「..........(良晴。これは殺人ではない。秀長は人ではなく、悪そのもの。奴がいる限り世に平和は満たされない!)」

 

 

氏郷、利休が言う。

 

 

「うるせぇ!!!」

 

「「!?」」

 

「人間は操り人形じゃない!

だから皆自分の意思で動くんだ!

宗教だとかいう糸でしか動けないお前らの都合を押し付けんじゃねぇ!!」

 

「「..........」」

 

 

この時2人は思った。

良晴も天竜に似てきていると.....

 

 

 

 

 

 

「信奈!お前がこいつらに言いくるめられて、宗教的理由なんかで天竜さんを倒すとか言うんなら、俺はお前に失望し、絶対に協力なんかしねぇ!!」

 

「良晴.....」

 

 

良晴は硬く拳を握り締め、

そこから血を滲ませている。

信奈はそれに気づき、

そっと彼の手を握ってやった。

 

 

「良晴。私はレオンや利休、バテレンなんかの説法で考えを変える程ヤワじゃないわ!

天竜を倒すのは私の意思。

私が倒したいから倒す。

織田の命運をかけて、

奴との因縁に蹴りを付けるわ!」

 

 

その信奈の高々とした宣言に、

良晴はホッとした様子を見せる。

 

 

「ふっ.....

じゃあ、いっちょやっか!!」

 

「えぇ!」

 

 

信奈と良晴はお互いに笑顔で、

お互いを分かち合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景を

2人の邪悪なキリシタンが睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新国家、北海道国。

天竜はこの北海道国建国において、

最も重点を置いたのが、

アイヌ民族との接触。北海道国が成り立てば、過半数を占める事となるであろうアイヌ民族。言い方を変えれば、これもまた植民地である。

力による侵略を行おうとしていた安東氏を倒した事によって、アイヌ民族からの天竜に対する印象が良くなった。そこを利用し、ギリギリ侵略にならない形でアイヌの族長らを自身の味方につていった。

100%ではないが、事実上蝦夷は統一され、北海道国大名として天竜が君臨した。まだまだ反乱分子の残る危うい状態ではあるが、そこは時間をかけて努力するのみだ。

 

 

「?」

 

 

この北海道国建国の最大の協力者、蠣崎慶広は見た。箱館湾の沿岸にて、ずっと海の向こうを眺める天竜の姿を.....

 

 

「どうしたんですか?」

 

「慶広。『五稜郭』の建設は

どうなっている?」

 

「順調ですよ〜。私が担当してるので再来年には完成します。天才ですから」

 

「そうか.....」

 

「何故海を見ているのですか?」

 

「もうすぐ来る.....

俺に対し強い殺意を持った者共が

俺を殺しに.....」

 

「そうですかね〜。

伊達方からは何も言われてませんが?」

 

「ふっ.....気のせいかもしれないがな」

 

 

織田の水軍は水路から秘密裏に迫っている為、天竜にも情報が入っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.....なわけがない。

 

 

『日本海側から来るよ!

数は軍船だけでも10隻!

九鬼水軍と同じく鉄甲船だよ〜!』

 

「ありがとう阿斗。今後も諜報を頼む」

 

『吽斗だよ〜?』

 

「うえっ?そうか。

すまんすまん」

 

 

天竜は携帯を切った。

 

 

「ふぅ、織田がようやく動いたか」

 

 

始めから予見していたかのような言い方。

 

 

「さてさて、こっちの水軍は近畿と関東に置いてきてあるため、今から呼んでも間に合わない。自軍も北海道の各地に分配しているから、ここの箱館の防備はやや手薄だ。鉄甲船なんかで襲撃されれば、敗北は必至」

 

 

しかも、対伊達戦で魔力をだいぶ使ってしまい、これ以上は身体に負担がかかるだろう。

 

 

「おもしれぇ.....」

 

 

天竜は武者震いしていた。

久々の危機的状況に戦争屋の血が滾る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織田水軍内。

船頭で会話を交わす信奈と良晴を後方で睨む2人のキリシタン。

 

 

「おかしな状況になりましたね。

姉様はあの秀吉の言いなりになってしまっておられる。私達は姉様にキリシタンになってもらおうとしていただけなのに、ついにはキリスト教についても否定的になってきている.....」

 

「..........(良晴.....なんとかせねば)」

 

「秀吉を未来に返還させるという案もありましたが.....この際、秀長と一緒に消してしまった方が.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を話しているのだ貴様ら!」

 

「「!?」」

 

 

彼女は突然現る。

 

 

「森.....蘭丸」

 

「..........」

 

「何を企んでいるのかは知らぬが、

これ以上織田信奈には近付くな!」

 

「くっ.....!」

 

 

姉様がキリスト教に否定的になった最大の原因がこの女、森蘭丸だ。

本名、森水青蘭。秀長の実姉。突然現れて姉様の小姓もとい護衛役になった人物。

流石の姉様も不審がって側には付けませんでしたが、それでも影ながら護衛を続けていた。

そんな中、彼女が護衛以外で行っていた唯一の行動がある。それが我らキリシタンや宣教師と姉様との間に壁を作る事だ。我らがどれだけ姉様をキリシタンにしようと近付こうとしても、奴が壁として立ちはだかる為、中々近付けない。

姉様が奴を遠ざければ、

その分だけ比例して我らも姉様から離れてしまう。常にそれが保たれてしまう。

たまに姉様に近付けたとしても、

その頃には姉様はキリスト教の教えもすっかり忘れてしまっておられる。

お陰で姉様は仏教同様に、キリスト教にも良い印象を持たなくなってしまわれた。

 

 

これが羽柴秀長の目的?

 

 

姉様が秀長を恐れて蘭丸を遠ざければ遠ざける程、秀長の思う通りになる。

もしそれが本当なら、本当に恐しい。

二手三手も先を読み、

確たる選択を取る魔将軍が.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箱館。

 

 

「来た!」

 

 

望遠鏡で日本海の向こう側をじっと眺めていた天竜。彼は訪れた10隻の鉄甲船を見つけた。

 

 

「あれが.....ですの?」

 

 

慶広が尋ねる。

 

 

「あぁ、鉄甲船。村上水軍600隻をたった6隻で撃退した優れもの。焙烙玉でも燃えない頑丈な船だよ。あれは九鬼の鉄甲船を毛利が真似た奴だな」

 

「大丈夫ですの?」

 

「こっちは運搬船しかない。海戦じゃまず勝てないな。だからといって、みすみす上陸されれば、敗北したも同然。五稜郭の工事や、他地方の開拓に回してしまっている」

 

「援軍は?」

 

「伊達に頼んだが拒否された。

『魔将軍なら自力で解決せよ』だと。

あんのクソガキめ」

 

「ふぅ、絶体絶命ですね」

 

「そうだな」

 

 

天竜は微笑する。

 

 

「だが、面白い!」

 

 

天竜は絶壁のような地に立つ。

 

 

「俺が単独で攻める。お前らは上陸されないよう、大砲でも鉄砲でもバンバン撃って援護射撃してくれ。

お前に任せられるか?」

 

「天才ですから♡」

 

「ふっ.....じゃあ行くか」

 

 

すると天竜は崖から飛び降りてしまう。

真下は海。

 

 

 

「召喚!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織田水軍。

 

 

「さぁ、箱館に着いたわ!」

 

「あぁ..........あれ!?」

 

 

良晴は箱館湾を見る。

 

 

「なんだ..........アレ!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

 

箱館湾に軍船がある。それも巨大な。

 

 

「まさか.....」

 

 

全長約40mはある鉄甲船の2倍の大きさを持った巨船。そしてその形も新しい。

 

 

「良晴!.....あれは!?」

 

「軍船じゃない.....あれは軍艦だ!」

 

 

その船は1853年の浦賀に訪れて、

鎖国中であった日本に開国を求めた。日本とアメリカの文明の差を見せつけるに当たって最大の効果を見せた軍艦。

 

 

「黒船.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒船。

 

 

「黒船サスケハナ号。

この時代じゃあたった一つの蒸気船だ。俺が今まで召喚したものの中で最大級の未来兵器だ」

 

 

とはいえ、天竜単独での操縦は無理だ。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

天竜は両手の指から爪を長く伸ばし、

黒船の床に突き刺す。

 

 

「物理上はこれで可能のはずだ」

 

 

爪の刺さった地点より、血管のような模様が黒船全体に広がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........天竜!?」

 

 

蒸気を上げながらこちらに迎え討とうしている黒船の様子を望遠鏡で眺める信奈。その末に、黒船の船頭にいる天竜を発見する。

 

 

「..........天竜以外に誰もいないわよ!?」

 

「馬鹿な!蒸気船だぞ!?

1人2人で操縦できる船じゃない!」

 

 

 

 

 

「『騎士は徒手にて死せず』

またの名を、

『ナイト・オブ・オーナー』」

 

「「!?」」

 

「カブラル様より教わりました。触れた物体を自身の絶対的指揮下に置く超常技。ドラキュラの特技の一つです。」

 

 

氏郷が言う。

 

 

「ドラ.....キュラ」

 

「..........(アレに触れられた物質は物質でなくなる。全てドラキュラの肉体の一部。つまり、あの船こそがドラキュラの肉体そのもの)」

 

「姉様。あの船を沈没させるられれば、秀長を殺すまでいかなくても、致命傷に近いものを与えられます!」

 

「.....よく分からないけど、

やってみるわ!

敵は一隻しかみたいようだしね」

 

「だめだ!相手は蒸気船なんだ!

風の力でしか動けない鉄甲船と、

自力で動ける蒸気船じゃ分が悪過ぎる!」

 

「こっちは10隻よ。

取り囲めれば大砲で集中砲火できるわ」

 

「くっ.....!!」

 

 

ただの戦闘ならいけるかもしれない。

だが相手は天竜だ。

異形な能力を持った怪物。

 

 

「勝てる..........のか?」

 

 

不安ばかりが残る。

 

 

「天竜.....」

 

 

実姉の蘭丸(青蘭)はじっと向こう側の黒船を哀しげな表情で眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒船。

天竜は爪を通して黒船と一体化した、天竜という頭脳を手に入れた生きた軍艦。

 

 

「術式は成功。

今の所異常はなし。

問題は燃料.....魔力不足か。

さっき血は飲んだが、体内で分解されて魔力に変わるまではしばらくガス欠状態だな。

残り少ない力で、

敵軍が壊滅するのが先か、

俺が力尽きるのが先か、

どちらであろうと死闘は避けられまい」

 

 

黒船は蒸気を上げ、さらに進行する。

 

 

「さぁ、戦争の時間だ」

 




急遽前後編に変更。
さて壮絶な海戦が開幕!
多分艦コレとかの影響。
(やった事ないですが)
次回予告
天竜vs良晴(後編)
〜DEADorDEATH〜


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第五十五話 天竜vs良晴(後編)

(*・.・)ノ'★.。・:*:・゚'☆スリープ♪ (((-_\)三(/_-))) ネムイ・・


織田軍、鉄甲船10隻。

天竜軍、蒸気船1隻。

1世紀以上の性能の差がある船。

果たして、どちらが勝るか。

 

 

「ふぅ.....ふぅ.....」

 

 

天竜は黒船の船頭でやや息切れをしていた。黒船と一体化した事により、通常の倍以上の魔力を浪費する。

 

 

「ふぅ.....ふぅ.....ふぅ.....」

 

 

そして喋れない。

言語能力だけではない。

その他多くの機能が制限されている。

喋れず動けず、他の術も使えない。

黒船の支配で一杯一杯なのだ。

 

ふっ.....!

 

 

 

黒船が蒸気を上げ、

急速にて進行。

 

 

「敵軍船!こちらへ進行!」

 

「待ち構えて、大筒で狙いなさい!」

 

 

10隻全てが大筒を発泡する。

巨大な鉄の塊が黒船に向けて飛んでゆく。

 

 

「がぅあっ!!」

 

 

だが、黒船はさらにスピードを上げ、大筒の砲丸を次々と避けてしまう。

 

 

「くっ!!

第二弾装填!!」

 

 

だが、間に合わない。

 

 

「ががごあぁっ!!」

 

 

黒船は鉄甲船のうちの1隻に

正面衝突した!

 

 

「なっ!?」

 

 

鉄甲船は鉄板を貼り付けたとはいえ、

材質は木だ。

鉄製の軍艦などに正面から衝突なんてされれば、一溜まりもない。

この数分のうちに、

織田軍鉄甲船1隻が沈没する。

 

 

「くっ!!

船を横に向け、

再度敵軍船に大筒発射!」

 

 

黒船は正面衝突に伴い、

動けずにいる。

 

 

「ふぐぅ!ふぐぅ!ふぐぅ!」

 

「発射!!」

 

 

残った軍船より大筒が発射され、

動けない黒船に命中する。

 

 

「があああぁぁぁ!!!」

 

 

旧式の弾丸とはいえ直撃すれば、

黒船へ強烈な一撃を加えられる。

 

 

「がげごぎがぐがぐげへご!!!」

 

 

言葉にならない叫びを上げる。

天龍源一郎の方がまだ聞き取れる。

 

すると黒船に搭載された『ダルグレン式前装填滑腔砲』が鉄甲船に照準を向ける。

 

 

「よっ.....避けろ!!」

 

 

良晴が危険を察知し叫ぶが、

もう遅い。

 

 

「ばがぼごごがぁ!!」

 

 

全12門からなる砲門より、この時代にはない最新型の弾丸が発射される。

 

 

「そんなっ!?」

 

 

9隻中5隻が命中。うち2隻が沈没。

 

 

「馬鹿な.....嘘でしょ.....」

 

 

たった一撃で沈没する程の威力。

直撃を免れたものの、黒船の攻撃を受けた鉄甲船は、その防御力を活かす事すらできずに、大破してしまっている船もある。

 

信奈はその圧倒的な差に、膝を付く。

 

 

「これが.....本当の魔王の.....力」

 

 

恐怖のあまり、震えだす信奈。

信奈は表が強いのとは対象的に、

精神はすこぶる弱い。

そんな時。

 

 

「バトンタッチな」

 

 

良晴が気遣うかのように、

信奈の肩をポンッと叩く。

 

 

「良晴.....?」

 

「ここから俺がやるよ。

今度は俺が天竜さんと戦う」

 

 

良晴出る。

 

 

「理解しているのですか羽柴秀吉。

貴方は秀長は愚か、私達の誰よりも劣っている貴方が、あの羽柴天竜秀長に、魔将軍に本当に敵うとお思いで?」

 

「思わないよ?全く」

 

 

キッパリ言う。

 

 

「でも、戦えないわけじゃない。

俺がやれる限度をやり切るだけだよ」

 

「.....どうやって戦うおつもりで?

その腑抜けた能力をどう使うつもりで?」

 

 

皮肉たっぷりで言う。

 

 

「俺の好きなシュミゲーが戦国ものだけじゃないって事を見せつけてやんよ!

あと口の聞き方に気をつけろよ。お前は将来、俺の義妹にもなるんだからな!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「壱の船と弐の船!

黒船の両側になんとか付けてくれ!」

 

 

良晴の指令通り、鉄甲船が動く。

 

 

「がぎぎぎぐげごご!!?」

 

 

追いかけて来る鉄甲船を蒸気の力で振り切る天竜。だが、そのスピードがドンドン落ちていく。

先程の鉄甲船から放たれた砲丸が黒船のエンジンに損傷を与えたのだ。

 

 

「がぎぎげげぐががごぶば!!!」

 

 

天竜は踏ん張るが、黒船は減速する一方であり、逆に鉄甲船に追いつかれてしまう。

 

 

「両側からぶつけてやれ!!」

 

「ちょっと!

鉄甲船が壊れちゃうじゃない!

安くはないのよ!?」

 

「いいんだ!

あれで黒船は止まる!」

 

 

良晴の命令で、鉄甲船2隻が黒船の両側から衝突する。鉄製の軍艦に無理矢理衝突したせいで鉄甲船2隻は双方とも大破してしまう。だが、その衝撃により、良晴の目論見通り黒船の進行は停止した。

 

 

「よし!黒船に乗り移って天竜さんを確保しろ!」

 

 

そう命令する良晴。

誰もが諦めかけた中、良晴だけが正しい判断をして、逆に天竜を追い詰めてみせた。未来の知識とは違う、新たな才能を見せる良晴に、信奈はおろか、氏郷や利休までもが驚愕する。

 

両側から挟んだ鉄甲船より多数の兵が黒船の甲板上に乗り込む。

 

 

「いたぞ!羽柴秀長だ!」

 

 

兵達は船頭にて爪を突き立て構える天竜を取り囲む。

 

 

「「捕らえろ!!」」

 

「ぐがががが.....」

 

 

命令は生け捕り。

兵達は網やら縄やらを用いて天竜を捕縛しようと一斉に飛びかかった。

 

 

 

 

「ばがべ!!」

 

 

 

 

言葉になるかどうか微妙な言葉を叫ぶ。

そして兵達は気付く。

 

 

「これは.....!?」

 

 

船内に設置された、侵入者を射殺する為に設置された大量のバルカン砲を.....本来なら黒船に搭載されていなかった代物だ。天竜は黒船召喚時において同時にこれらも召喚し、黒船の武器としてこれらもまた操っていたのだ。

 

 

「じね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

良晴は目撃する。黒船に乗り込んでいった兵達が次々と蜂の巣にされ、倒されていく様子を.....

 

 

「羽柴秀吉。貴方の責任です!

どう責任を取るおつもりですか!!」

 

「くっ.....!!」

 

 

氏郷の指摘はもっともだった。

良晴は自分の命令で死なせてしまった兵達の事を思い、苦渋の決断を下す。

 

 

「この船を黒船に近づけてくれ。

俺自らが乗り込む!」

 

 

それは自殺行為に等しい。

 

 

「やめなさい良晴!!

レオンの言った事はそこまで重く受け止めなくてもいいのよ!?」

 

「姉様!!」

 

「大丈夫さ信奈。

俺なら天竜さんはすぐには殺さない。

ギリギリまで説得をしようと思う。何も天竜さんを倒すのは殺す事だけじゃないからな」

 

「良晴.....」

 

「この船を黒船へ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒船に降り立った良晴。

甲板上に大量に転がる蜂の巣の兵達からは目を逸らし、まっすぐと天竜のいる船頭まで歩を進める。

 

 

「天竜さん.....」

 

 

良晴は思わず息を飲む。

天竜は異形な形相をしていた。

 

 

「がるぐぐぐぐぐぐぐ.....!!」

 

 

口は耳まで裂け、鬼歯が剥き出しになり、

黒船に繋がった爪から肩にかけては、この世の生物とは思えない程邪悪に変化して、

その瞳は血のように紅色。

 

 

「よ.....じ.....ば.....る.....」

 

 

地の底から絞り出したような低音波の声が引き出される。

 

 

「あんた.....何やってんだよ。

あんたがやりたかった事は.....

あんたがなりたかったのは、

そんな化け物みたいな奴かよ!」

 

「ぎざまにだにがばがる!

(貴様に何が分かる!)」

 

「分かるさ!

俺だって同じ未来から来て.....

この時代を愛して.....

この時代を変えようと必死に努力した!」

 

「どろぐだげでばがべでだいごどぼばる

(努力だけでは変えられないものもある)」

 

「確かにそうかもしれないさ」

 

 

何故か聞き取れる良晴。

普段五右衛門のカミカミ語を聞いているお陰なのか、オンドゥル語を理解しているためなのか。

 

 

「でもやり方がだってあるだろ!

皆を不幸にして、そこまでして得る天下って何なんだよ!!」

 

「※貴様の言う不幸な者とは誰だ?

信奈か?勝千代か?氏康か?

謙信か?梵天丸か?貴様か?

指でも数えられる程度であろう。

日本国民全員と比べれば、

ほんの些細なものだ」

 

 

※翻訳済み

 

 

「多くの幸運の為には小さな不幸はしょうがないって言うのか!」

 

「※当たり前だ」

 

「そんなの俺は認めねぇ!

俺は全ての幸せを願いたい!」

 

「※甘えるな!!」

 

「!?」

 

「※幸運だけの世界などあってたまるか!

幸運と不幸はコインの裏表。

幸運があるから不幸がある。

不幸があるから幸運がある。

この因果関係は何よりも大切だ。

当然、貴様の行動の中にも

不幸な者はいたはずだ!

今川家はどうだ?

義元はともかく、残された一族の多くは殺され、氏真も浮浪者になった。

朝倉家はどうだ?

元は友好があった浅井は、まだ善処されたのに対し、完全に対立していた朝倉は一族ごと皆殺しだ。

六角は?三好は?宇喜多は?

毛利は?長宗我部は?伊達は?

武田は?北条は?伊達は?

貴様の行動で不幸にならなかった者は1人もいなかったのか?

.....十兵衛はどうだ?」

 

「くっ.....!」

 

「※貴様が信奈を求めるあまり、

十兵衛を蔑ろにし続けた。

それこそ本能寺の変の原因になるのではないか?俺が十兵衛を求めなければどうなったであろうな?」

 

「..........分かってるよ」

 

「...........」

 

「俺だって無知じゃない!全部の幸運を拾うなんて無理だって事くらい分かるさ!

でも守りたいんだ!」

 

「※なら、貴様はそれを極めてみろ」

 

「えっ?」

 

「※貴様の歴史の変え方。

俺の歴史の作り方。

どちらも当たっていて、

どちらも間違っている。

正解など存在はしない。

俺は貴様に俺の中の常識を押し付け、

貴様もまた貴様の中の常識を押し付ける。

それでいいだろう。

俺を倒しに来い良晴。

俺に貴様の常識を押し付けろ。

この俺様を貴様の常識で屈服させてみせろ。

この俺様を否定してみせよ!

俺もそれに全力で応えて

叩き潰してやる!!」

 

「天竜.....さん」

 

 

良晴は刀を抜く。

 

 

「分かったよ.....

俺はあんたを倒す!」

 

「※構えがなっちゃいないな。

時間があれば鍛えてやったのに.....

剣道の先生の経験はないが、

貴様相手ならできたかもしれない」

 

「弟子いたんじゃなかったっけ?」

 

「※あれは弟子という肩書きで仕えさせていた家臣だよ。あいつらは始めから基礎以上のものが出来上がっていたからな。技を盗み、教えてもらってたのは俺の方だ」

 

「へぇ〜」

 

 

そう言って良晴は走り出す。

 

 

「天竜ぅ!!!」

 

「よじばるぅ!!!」

 

 

勇者と魔王は向かい合う!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備は整った」

 

「「!?」」

 

 

良晴は動きを止める。

黒船の上空にあるものを見つけたからだ。

 

 

「あれは!?」

 

「でぃぎゅう!!」

 

 

天竜はそれに気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「利休!?」

 

 

信奈もまた気付く。

黒船上空に浮かぶ黄金でできた巨大な剣が利休によって作られた事を。

信奈らが乗った鉄甲船はすでに黒船を離れており、その黄金の剣が発動した所で信奈らには何の影響もない。それを承知で信奈の言い分を無視し、氏郷らの判断で黒船より距離を開けさせられたのだ。

 

 

「利休!!何をするつもり!?」

 

「..........(秀長は止まった。動きの遅い私の攻撃も通じるはず。今こそが秀長を殺す絶好の機会)」

 

「あの船にはサルもいるのよ!?」

 

「..........(秀長の退治がいかに重要か彼も理解しているはず)」

 

「なっ!?」

 

「姉様。秀長を倒す為に殉死する事はとても名誉であります。神も彼を許すでしょう」

 

「..........狂ってるわ。貴方達」

 

 

利休や氏郷の言葉に信奈は思わず恐怖心をおぼえる。

 

 

「この妄執者が!」

 

 

その女は信奈と氏郷らの

中間に立ちはだかる。

 

 

「蘭丸!?」

 

「「..........」」

 

「貴様らの下衆さは目に余るものがある。

とても弟を侮辱できたものではないな!」

 

「忘れてました。羽柴秀長と秀吉。

それに継ぐもう1人の来訪者。

同じく未来より現れ、この世の規律を乱す異端者。

森水青蘭。いや、森蘭丸」

 

「私はただの観察者。歴史を変えるつもりも作るつもりもない」

 

「どうですかね」

 

「ちっ!」

 

 

蘭丸は刀を抜く。

 

 

「余計な真似はするな!

いざとなれば、私は観察者から殺戮者になる覚悟はある。今ここで貴様の首を刎ねてやる事もな!」

 

「くっ.....!」

 

「..........(残念ながら。術式はとっくに発動している)」

 

「なっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だろ!?

あれを黒船にぶっ刺す気かよ!」

 

「ばぼぐぞばま!!

(あのクソアマ!!)」

 

 

天竜も良晴と戦闘する余裕はなかった。

 

 

「くそっ!!」

 

「よじばるぅ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして黄金の剣は降下する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良晴ぅ!!」

 

 

遠く離れた鉄甲船の上で、黄金の剣により貫かれた黒船が真っ二つになり、沈没していく様子を信奈は絶望した表情で見ていた。

 

 

「.....してやる」

 

「?」

 

「殺してやる!!」

 

 

信奈は利休の襟元を掴み上げる。

 

 

「信.....奈.....」

 

「死んで良晴に謝りなさい!!」

 

 

そして利休の細い首を握り締める。

 

 

「かっ.....かはっ!!」

 

「落ち着いて下さい姉様!

そんな事をしても意味がありません!」

 

「黙りなさいレオン!!

貴方も殺すわよ!!」

 

 

信奈は涙を流していた。

瞳も充血し、吸血鬼のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目だな。それを殺すのは俺の仕事だ」

 

「「「!!?」」」

 

 

真上から声が聞こえた。

 

 

「天竜!!?」

 

 

天竜はいた。背中に蝙蝠の翼を生やし、腕で良晴を拘束している。

 

 

「..........(まさか、剣が突き刺さる直前に船との接続を切ったのか!?)」

 

「その通り、そっちが海戦で挑んできたから海戦で応じてやったのに、途中で別の戦法使って来るんだもんな。だから俺も本来の戦い方をさせてもらうわ」

 

「くっ.....良晴を離しなさい天竜!」

 

 

信奈が叫ぶ。

 

 

「やなこった。

こいつは丁度いい人質だ。

利用させてもらうよ!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「天竜ぅ!!!」

 

「..........天竜さん?」

 

 

信奈が憤る中で、良晴だけが冷静に疑問に抱いていた。

 

天竜の言う理論が通れば、自分なんかはさっさと殺して、まとめて信奈らも殺してしまえばいいのだ。

だが、彼は黄金の剣が突き刺さる直前、全力で自分を助けたのだ。

その天竜の行動が疑問なのだ。

 

 

「構いません。鉄砲隊用意」

 

「何っ!?」

 

「レオン!!」

 

 

人質ごと俺を殺す気か!?

 

 

「ふざけないでレオン!!

良晴まで殺す気!?」

 

「言ったでしょう。

ここで羽柴秀長を逃がせばもう倒せる機会など早々やって来ない。その絶好の機会を恋沙汰などで潰す気ですか?」

 

「本当に狂ってるわ貴方!!

貴方も利休と同じなのね!!」

 

「撃ち方用意!」

 

 

もはや信奈の命令すら聞かない。

 

 

「姉様をここまで弱くしてしまったのは、やはり羽柴秀吉。ここでまとめて始末しなければ.....」

 

 

複数の鉄砲の銃口が

天竜と良晴に向けられる。

 

 

「おいおい!マジかよ!!?」

 

「ちっ.....!」

 

 

すると天竜は何を思ったか、

良晴の拘束を解いてしまう。

 

 

「えっ?」

 

 

良晴はそのまま鉄甲船の甲板上に落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「てっ.....天竜さん!?」

 

「ふっ.....俺らしくない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃てぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

複数発の銀の弾丸が天竜の身体に撃ち込まれる。翼にも穴が空き、天竜もまた甲板上へ落下した。

 

 

「かっ.....ぐはぁっ!!

....................痛つつつ.....」

 

 

それでも死なない。

いや、死ねない。

 

 

『天竜様大変です!』

 

 

そんな時、天竜の服の懐の中で奇跡的に無事だった無線機に通信が入る。相手は蠣崎慶広だった。

 

 

「何だ..........こんな時に.....」

 

『伊達が同盟を破り、北へ進軍!

箱館が襲撃されております!』

 

「なっ!?」

 

 

梵天丸の裏切り。

 

 

「なんだってこんな時に!!」

 

 

確かにかかって来い的な事は言ったが、

このタイミングか!?

ここまで卑怯だとは思わなかった!

次から自分の裏切りは自重しよう!

 

だが次があるかどうかも微妙な状況だ。

 

 

「次弾発砲用意!」

 

「くっ!!」

 

 

陸に逃げ道もなく、

泳げない彼には海への逃げ道もない。

翼は折られ、空にも逃げられない。

 

死こそがこの恐怖からの逃げ道。

 

 

 

 

 

「.....クソッタレ!」

 

 

 

 

 

「撃てぇ!!!」

 

 

氏郷の号令と共に、

銀の粒が天竜の身体を抉っていく。

 

 

「ごぼあぁっ!!!」

 

 

噴水のような吐血が天竜より発せられる。

 

 

「はぁ!.....はぁ!.....はぁ!.....」

 

 

鉄砲による衝撃で右脚が千切れ、

左腕が原型を留めぬ程ズタズタにされ、

顔の右側の頬肉が抉られている。

とても人間が生きていられる

状態じゃない。

 

 

「くっ.....!!

まだ生きているのか!?」

 

「98..........94.........................88.....」

 

「!!?」

 

 

何を数えている!?

まさかここからまた再生するのか!?

 

 

「.....73.....70..........66....................59」

 

「うっ.....撃てぇ!!!」

 

 

再び銀の弾丸が天竜に撃ち込まれる。

 

 

「44...............39.....36....................28」

 

「うわあああああああぁぁ!!!」

 

 

恐怖にかられた氏郷は自ら鉄砲を持って天竜のもとまで駆け寄る。

 

 

「.....17..........14....................9」

 

「死ねっ!!ドラキュラァ!!」

 

「..........7.....5..........3.....」

 

「だっ!!」

 

「いっ.....」

 

 

氏郷の発砲した弾丸は一直線に天竜の頭部に直撃し、口から上を粉々に破壊した。

 

 

「..........」

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

「..........」

 

「死ん..........だ?」

 

「..........」

 

 

死人に口無し。

 

 

「あはっ.....あはははははははは!!!」

 

 

氏郷は高笑いをする。

 

 

「そんな.....」

 

 

良晴は変わり果てた姿の天竜を見て

愕然とする。

 

 

「やった!ドラキュラが死んだ!

宣教師様すら倒せなかった化け物を!

この私が!!」

 

 

勝手に1人で演説を始める。

 

 

「この手柄があれば.....日の本も.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。1隻の鉄甲船が信奈らが乗る鉄甲船に突進してきたのだ。

 

 

「なっ.....何っ!?」

 

「一体何で!?」

 

「嘘っ!?」

 

「..........!?」

 

 

氏郷、信奈、良晴、利休も状況が

掴めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、私がいないと

駄目駄目な夫ですね!!」

 

 

衝突してきた鉄甲船の船頭に乗っていたとある姫武将。額のとても広い.....

 

 

「十兵衛!?」「十兵衛ちゃん!?」

 

 

天竜の正室第一候補、

明智十兵衛光秀。

 

 

「私の夫を返してもらうです!!」

 

 

江戸湾より船を進行させ、

北海道まで天竜を救出しに来た十兵衛。

 

 

「残念だったな明智光秀!

ドラキュラはすでに死した!」

 

 

自信満々に言い放つ氏郷だったが、

十兵衛は笑顔で返す。

 

 

「馬鹿ですね。天竜がその程度じゃ死なないくらい、私が1番よく知ってますです。

天竜!

いい加減に死んだフリをやめなさい!」

 

「はいはい」

 

「「「!!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?..........うぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

氏郷が悲鳴を上げる。

氏郷の左腕より大量の鮮血が噴き出る。

 

 

「なんぼか楽になった」

 

 

氏郷の左腕をボリボリと食べながら、天竜は立ち上がる。右脚も左腕も再生され、食事をする口の上も徐々に再生されていく。

 

 

「沙九把・秉無・覇寿于羅!」

 

「うぐっ!?」

 

 

氏郷の腕の傷口が塞がる。

 

 

「腕代だよん。

処女の肉だから結構美味かったし」

 

「ぐぐぐ.....」

 

「十兵衛、海戦のリベンジマッチだ。

こいつらに泡吹かせてやれ」

 

「はいです!」

 

「くっ!」

 

 

信奈はうねる。

 

 

「十兵衛.....ちゃん」

 

 

良晴はふとある事を後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「双方待たれよ!!」

 

「「「!!?」」」

 

 

織田水軍と天竜水軍を割って入るようにとある小舟が出現される。

 

 

「何よっ?」

 

「何だ?」

 

「あれは?」

 

「何です?」

 

 

信奈、良晴、天竜、十兵衛

誰も分からない。

 

 

 

 

 

「我らは関白様、近衛前久様の使者です。

双方共刀を納め、武装を解除しなさい!

これ以上戦闘を続ければ、

双方を朝敵と見なして処分する!」

 

「くっ.....!」

 

「ちっ!」

 

 

信奈も天竜も構えを解いた。

 

 

「何で.....近衛が?」

 

 

だが、使者の言葉は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なお、関白様が軍師。

副将軍、羽柴天竜秀長様は、

至急、御所に戻れとの事!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「....................えっ?」」」

 

「ちっ!..........余計な事を.....」

 

 

そこにいた全員.....いや、蘭丸を除いた全員が、初情報に驚愕する。

 

 

 

 

 

「いいだろう。帰ってやるよ。

姫巫女様のもとへ.....」

 




またもや中身がゴチャゴチャの中で、
異例の最後となりました。
次回何故か最終回!?
次回予告
革命
〜時代は変えるものではなく、作るもの〜


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第五十六話 革命

なんと最終回。
という事で内容も、
普段の倍の量になってます!


京、御所。

 

 

「はぁ〜。1年ぶりかなぁ」

 

 

最後に訪れたのは織田家仕官の直前。

副将軍就任時には、本来ならば御所へ自ら報告しに行くべきであったが、面倒臭がってあえて避けており、足利義輝に任せていた。

 

 

「お待ちしておりました。副将軍様」

 

 

御所より黒装束の連中が何人も出てきて、天竜を取り囲む。これでは連行だ。天竜は両腕を連中に掴まれる。

 

 

「離せ。痛いぞ」

 

「いえ、無理矢理にでも連れて来いとの事でありましたゆえ.....」

 

「一刻も早く、目の前に連れ出せと.....」

 

 

連中の言葉に天竜はカチンとくる。

 

 

「離せと言うのが分からんのかぁ!!」

 

「「「!?」」」

 

 

連中は慌てて天竜より手を離す。

 

 

「急かされんでもすぐに行くわ。

怒り狂った麻呂関白は恐しいからな」

 

「はっ.....はぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜は1人だった。

たった1人でこの御所へ来ていた。

何故彼が関白に呼ばれたのか分からなかった信奈らはおろか、家臣や十兵衛も意味が分からず、京周辺にて天竜の様子を伺っていたのだ。

唯一事情を知っていたのは、

天竜の弟子にして古参の家臣。

宮本武蔵のみであった。

 

 

「武蔵殿。天竜が関白様の軍師とは本当の事なのでありますですか?」

 

「....................本当だ」

 

 

天竜家臣へと成り下がった十兵衛。

目立たないが、天竜軍最有力の武蔵は同位の家臣仲間という事になる。

 

 

「3年.....いやもう4年になるか。

宇喜多の客将を辞め、数日だけ御所の麻呂に世話になってた事があるんだ」

 

 

相変もわらず口の悪い武蔵。

 

 

「まっ.....正確には、天竜を助けてくれた姫巫女。天竜はあの小娘に絶対的な忠誠を誓ってる。多くの主君を裏切ったあいつが唯一心から慕ってる奴だよ」

 

「です.....か」

 

 

口が悪過ぎて十兵衛も

冷や冷やとしてしまう。

 

 

「それで、それを利用した麻呂が天竜を軍師に取り立てたんだ。そして第一の命令として、織田への仕官を指示したんだよ」

 

「関白様が.....?」

 

 

あの関白が命令したと聞き、

十兵衛は驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二条城。

 

 

「近衛が?」

 

「うん.....」

 

 

信奈、良晴は幕府管領である今川氏真を訪ねていた。佐々木小次郎は死に、左馬助こと光は行方不明のため、昔の天竜を知るのは武蔵を除けばこの氏真だけだ。

 

 

「私は今川。

織田にはまだまだ恨みがある。

愚姉はまだしも.....

私はお前が嫌いだ」

 

「もう2年近い前の話よ。

未だに未練たらしく恨んでるのあんた?

小さいわね〜。

能天気な義元の方が立派に見えるわ

.....わっぷ!?」

 

 

良晴が慌てて信奈の口を防いだ。

 

 

「ごめん、氏真ちゃん!

たしかヒコちゃんだっけ?」

 

「死ねばいいのに」

 

「うえっ!?」

 

「それは友、武蔵と小次郎、天竜のみに許した呼び方。サルに呼ばれる筋合いは毛頭ない」

 

「うぅ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は友に入らないのぉ?」

 

 

その時、霧と共に勘解由小路光が現れる。

 

 

「どの面下げてここへ来た左馬助」

 

「懐かしい呼び方。ハルって呼んでくれたらもっと嬉しいね」

 

「死んでも呼ばない。

小次郎の仇が抜け抜けと.....

お前が死んでしまえ」

 

「おや、怖い」

 

 

鋭い睨みをきかせる氏真と、

不気味な笑みを浮かべる光。

 

 

「貴方.....本当に十兵衛にそっくりね」

 

「あらあら、これは織田信奈様。

お久しぶりですね」

 

「確かに十兵衛に瓜二つ。

でも中身は真逆ね。十兵衛には貴方のようなドス黒い下衆さは滲み出てないもの」

 

「うふふ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御所。

 

 

「来たでおじゃるか.....天竜」

 

「はいはい来ましたよ」

 

「なんでおじゃるか!その態度は!!

麻呂が何故こうも憤っているのか、

理解しておるでおじゃるであろうな!」

 

「織田を裏切ったのに、

信奈を殺さなかった事?

小田原征伐をしたのに、

氏康を生かした事?

武田を裏切ったのに、

信玄を殺さなかった事?

上杉を騙してでも

服従させよという命令に背いた事?

最上を裏切り、伊達の信用を得て、

倒す機会があったにもかかわらず、

それをしなかった事?

蝦夷を、北海道国として統一した事?

多くの命令に背いた事?」

 

「全部でおじゃる!!」

 

 

近衛は激怒していた。

だが、恩人でもある。

関白が姫巫女の名を使って出した勅使により、北海道での戦闘は中断され、伊達も陸奥へ退いたのだ。

 

 

「今挙げたもの以外にも、

数多くの麻呂の命令を無視し、

多くの同僚を殺したでおじゃる!

その1人として、土御門久脩!!」

 

「あんた阿呆だろ。対立してる二族を同時に雇おうなんて、無理があるだろう。必ず抗争が起き、どちらかが倒される」

 

「黙るでおじゃる!!

土御門に限らず、松山主水、荒木村重等にも勝手に対立し、本猫寺とは共闘せずに倒してから勝手に懐柔したでおじゃる!!」

 

「織田包囲網。あんたにゃあ絶好の状況だったんだろうが、逆に俺にゃあ不都合があった。だから織田の味方のフリを続けた。猫ちゃんらは目下に置いといた方が色々と都合がいいしな。にゃあにゃあ」

 

「黙るでおじゃる!黙るでおじゃる!!

貴様程主君の言う事を聞かぬ軍師は

初めておじゃあ!!」

 

「.....御言葉ですが関白様。

貴方の命令もなかなかですがね」

 

「おじゃ!?」

 

「これですよ」

 

 

天竜は懐よりとある複数の書状を取り出す。

 

 

「これらは全て、俺がどこかの大名の世話になっていた時に送られしものばかり。

内容は全て『そいつを裏切って権力や領土を奪ってしまえ』だとか『今の主君を騙して殺してしまえ』だとかそんなの。

忠実に実行してたら、裏切り魔将軍なんて呼ばれるようになりましたよ」

 

「嘘つくなでおじゃる!!

貴様は殺せと命じた大名の多くを生かし、自身の配下に加えたでわないでおじゃるか!」

 

「それが頭のいい人のやり方だよん。

全部が全部を破壊すれば殺戮者。

それになりたくない俺は、

侵略者に留まっただけの事。

.....にしても、あんたも罪なお人だ。

前までは利用してた大名らを、

自身の都合で全部滅ぼすなんてねぇ」

 

「黙れでおじゃる!!

この国を本来の形に戻そうと尽力した麻呂に罪などあるものか!!」

 

「典型的な保守思想。

お前が戻したいのは、

源平などの武士が現れる前。

貴族の貴族による貴族のための政治

が行われてた頃だろう?」

 

「当たり前でおじゃる!!」

 

「それで藤原天下にしたいわけだ!」

 

「そうでおじゃ.....違う!姫巫女様を中心とした国家を作りたいのでおじゃる!!」

 

「ふくくくくくく.....

本音が出かかったな」

 

「ぐぐぐぐ!!」

 

 

 

 

 

 

近衛は刀の鞘を持ち、

それでいきなり天竜に殴りかかる。

 

 

 

 

 

 

「たかが陰陽師の分際で!

この関白に無礼な態度を!!

分をわきまえるでおじゃる!!」

 

 

近衛は何度も天竜を殴打する。

 

 

「..........その賀茂家を、たかが陰陽家に成り下げたのはどこのどいつだ.....皇族であった我らを除外したのは.....手前ぇら藤原家だろう」

 

「まだそんな口を聞くか!」

 

 

骨が割れるような音がしても、

近衛は殴打をやめない。

 

 

「気味の悪い奴じゃ.....

傷つけても傷つけても、

すぐに回復するとは.....」

 

「当たり前だ.....俺は月読命の仔だぞ」

 

「まだ言うか!!」

 

 

近衛は再び鞘を振り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よせ近衛!

それ以上の暴行は朕が許さぬ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

その言葉を聞き、

近衛は慌てて鞘を投げ捨てる。

 

 

「めっ.....滅相もないでおじゃる!

麻呂はただこの愚者を躾ていただけで.....」

 

「もうよい。下がれ」

 

「はっ.....はいでおじゃる!」

 

 

関白をこのように扱える人物はただ1人。

 

 

「大事ないか天竜?」

 

「姫.....巫女様」

 

 

所々に怪我をする天竜を気遣う姫巫女。

 

 

「心配入りません。

死ににくいのが取り柄です」

 

 

その言葉の通り、天竜の怪我はみるみるうちに回復してしまう。

 

 

「ふっ.....天竜が朕と同族であるという話は本当のようであるな」

 

 

穏やかな表情で、

姫巫女は天竜の頬に触れた。

すると、怪我の回復が倍以上に早くなる。

 

 

「なんて.....暖かい。

1年前と同じ。貴女様の御手は素晴らしき温もりを感じまする」

 

「すまぬ.....天竜。

朕が弱いばかりに近衛の横暴を許した。

お陰で其方にも、東の日の本の者達にも大いな迷惑をかけた。許せ」

 

「滅相もございませぬ。

関白の命令とはいえ、

東日本を征服したは自らの意志。

決して姫巫女様に責はありません」

 

「ふっ.....姫巫女とは不便じゃの。

皆が朕を恐れて、朕に気遣う。

誰も朕を責めず、朕を怒らぬ。

いっそ怒られた方がどれだけましか.....」

 

「姫巫女様.....」

 

「変わったな天竜。

もう朕をあの名で呼んでくれぬのか?」

 

「それは.....恐れ多い」

 

「ふっ.....其方が何を恐れる。

己以外を一度も恐れた事もないお前が」

 

 

 

「..........では失礼ながら、

方仁(みちひと)様」

 

 

 

 

それはこの姫巫女の諱だった。

 

 

 

 

「朧命よ.....」

 

「その名は残念ながら譲りました。

今はただの天竜にございます」

 

「そうか、天竜。

約束せよ。他者がいぬ時は、

互いにこの呼び方じゃ。

其方は朕の数少ない友であるからな」

 

「方仁様.....」

 

 

天竜は涙を流した。

そして、彼女以外には絶対に見せる事のない。憧れの眼差しを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、とある計画を思いついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二条城に話は戻る。

突如現れた光の他に、さらに驚くべき人物がそこを訪れる。信奈も良晴も想像しなかった.....

 

 

「武田信玄!?」「勝千代ちゃん!?」

 

「久しぶりだな織田信奈。

それから羽柴良晴」

 

 

天竜に裏切られ、天竜の配下に成り下がった信玄。遭われに思いつつも、強敵が1人いなくなった事に安堵をおぼえつつもあった。

それと.....

 

 

「貴方は.....?」

 

 

信奈は彼女を見る。

白い服装とは裏腹の綺麗な黒髪。

右手だけにした手袋。紅玉の瞳。

会った事のない美女。

 

 

「私の名は、上杉謙信」

 

「「えっ!?」」

 

 

驚くしかなかった。

只々訪れたならまだしも、

宿敵の信玄と共に現れたのだ。

 

 

「羽柴天竜がこの京にいるはずです」

 

 

謙信は言う。

 

 

「.....えぇ。御所にいるらしいわ」

 

「くっ.....止めなければいけません!」

 

「どうしてよ?」

 

 

謙信は手袋をした右手を押さえ、

汗を流しながら言う。

 

 

「私は.....この国を卑怯なやり方で支配し、人々に悪夢を見せ続ける魔王は織田信奈。貴方だと思っていました。

でも違った。真の魔王は天竜。

羽柴天竜秀長。魔王天竜。

その魔王が、姫巫女様に接触してしまった。なんとしても止めねばなりません!」

 

 

女神と魔王の接触。

 

 

「分かってるわ。でも止めようとしても、関白近衛が邪魔で近づけないわ」

 

「関白様か.....それは困った」

 

「ふん!場合によっては近衛だって無理矢理蹴飛ばして、姫巫女様を救出するわ!」

 

「そんな事ばかりしてるから誤解されるんじゃないのか?」

 

 

信玄が言う。

 

 

「これは.....」

 

 

良晴は驚いた。天竜を倒すという共通の目的のために、戦国最強の3人の大名が集結したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殿〜下〜」

 

「!?」

 

 

先程とは打って変わって、にこやかな表情で近衛に近付く天竜。

 

 

「うぅ.....貴様が麻呂を殿下と呼ぶ時は、何か良からぬ事を考えたに違いないでおじゃる!!」

 

「そんな馬鹿な事を。もしそうなら、姫巫女様に触れられた時に全部ばれているではありませんか」

 

「そうで.....おじゃるが.....」

 

 

姫巫女は神通力を持っており、触れた相手の怪我を治すだけではなく、心まで読み取る事ができる。

 

 

「それはそうと殿下。

私、貴方の養子になるので、

関白職を譲って下さい」

 

「はっ....................はぁ!!?」

 

 

突然の提案に驚愕する。

 

 

「話を聞けば殿下。

以前信奈脅されて、良晴を養子にして、良晴に関白職を譲るよう恐喝されたとか。そんな事になれば、藤原良晴が誕生し、信奈はさらなる権限を持ってしまう。そう嘆いていましたね」

 

「うぅ.....そうでおじゃる」

 

「では、私が関白に先になってしまえばいいでしょう。私は殿下の軍師ですし、心配は全くございませんよ?」

 

「うぅぅ.....そう言われても」

 

「良晴が関白になり、

もし信奈が太政大臣になったら、

どうするおつもりで!?」

 

「おっ.....織田信奈が、

太政大臣になるでおじゃるか!?」

 

 

太政大臣。

太政官の長。何の権限も持たない為、本来なら空き職になる事が多く、平安時代から不人気であったこの職は、多くの貴族らが嫌々押し付けあっていたという。

だが、それはある時を境に

大きく変わったのだ。

平氏の平清盛が太政大臣になった。

兵力、領地、財力。

ありとあらゆる力を備えていた彼が太政大臣の職を手にした事で、その職は初めて効果を発揮した。序列上、関白よりも高い地位にあるため、朝廷は完全に平清盛の乗っ取られてしまったのである。帝も奪われ、それまで威張りくさっていた関白らは完全に蔑ろにされたという。

 

 

「織田家は平氏。

太政大臣になる資格はあります。

天魔と呼ばれた平清盛の恐怖が、その再来である信奈によって再びもたらせられますよ?」

 

「ひっ.....ひぃ!!

どうすればいいでおじゃるか!!?」

 

「簡単です。私に関白職を譲り、

代わりに貴方が太政大臣になりなさい。

そうすれば、誰も手出しできなくなる。

東日本に絶大な権力を持つ私が関白になれば、もう誰も逆らえなくなる。

その上官として東日本を統治するのは貴方です殿下。そうなれば、殿下の天下統一の夢も、遠い未来ではなりますまい」

 

 

その天竜の提案に近衛は歓喜した。

 

 

「お前は天才でおじゃる!

麻呂が太政大臣!

麻呂が天下統一!

これ程素晴らしい策略は

他に聞いた事がないでおじゃる!」

 

「それはなにより」

 

 

和やかに答える。

 

 

「だが、お前の事じゃ。

他意があるのではないでおじゃるか?」

 

「そんなもの.....

あるわけないじゃないですか」

 

「念の為でおじゃる」

 

 

 

 

 

 

近衛は天竜の手を引き、

姫巫女のもとへ連れてゆく。

 

 

「姫巫女様、この者が良からぬ事を考えていないか、もう一度触れて確かめてはくれませぬでおじゃるか?」

 

「姫巫女.....様」

 

 

姫巫女はじっと天竜を見つめ、

行動に出る。

 

 

「許せ、天竜」

 

 

再び彼の頬に触れる。

 

 

「!?」

 

 

そして、

姫巫女は天竜の心から何かを感じ取った。

 

 

「何か分かったでおじゃりまするか?」

 

「..............................いや。

天竜に他意はない。

よきにはからえ」

 

「はっ.....ははぁ!」

 

 

近衛が土下座をし、

天竜もまた同じ行動をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その天竜を姫巫女は、

哀しげな表情をしながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

なんと、中国の小早川隆景。

陸奥の伊達政宗。

三河の徳川家康までもが京を訪れる。

皆、関白の命によって呼び出されたのだ。

 

 

「ククク。魔将軍を倒すために皆が皆出てきて躍起になるとは、まとめてこの邪気神眼竜伊達政宗が根絶やしにしてくれるわ!」

 

「お静かに姫!

我ら伊達はただでさえ秀長様を裏切って印象が悪いのです。もっと弁えて下され!」

 

「ん?..........秀長様?

小十郎。いつからお前は魔将軍にそんな呼び方をするようになった?それといつもの服はどうした?なんか華やかなものなんか着て」

 

「これは.....その.....」

 

 

男装には違わないが、普段の地味な服装ではなく随分と可愛らしくなっていた。

実はこの小十郎。以前天竜に股間をまさぐられてからずっと彼の事を想い続けており、北海道での伊達の裏切りを誰よりも阻止しようとしていた人物でもある。

 

 

「股間なんか触られたら.....

嫁に行くしかないじゃないですか.....」

 

「ん?何か言った?」

 

「何でもありません.....」

 

 

その時、上杉ら一行と遭遇。

謙信の付き添いは直江兼続。

 

 

「あっ!小十郎殿!」

 

「げっ.....かねたん」

 

「かねたん言うな!

.....それはそうと梵天丸。魔将軍のやつに目を抉られたとは本当か?」

 

「ふん!逆に奴の目を毟り取って、

己の目の穴に埋め込んでやった!」

 

「違うでしょ姫。秀長様はわざわざ自身の目をもいででも、姫を本物にしてくださったのではないですか」

 

「だから何でお前は魔将軍を

擁護するにょだ!」

 

「いっ.....いや.....」

 

「あぁ、小十郎さまぁ」

 

 

うっとりする兼続。

 

兼続→小十郎好き。天竜嫌い。

小十郎→天竜好き。兼続を信頼。

天竜→小十郎可愛い。兼続可愛い。

というおかしな三角関係に.....

(注:この場合の「可愛い」は好意ではなく、いじり甲斐があって可愛いとの事)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、この日。

近畿の織田。

甲斐の武田。

越後の上杉。

陸奥の伊達。

といった重鎮が御所に呼ばれたのだった。

そこには十兵衛の姿も.....

 

 

「十兵衛!」

 

「信奈.....さ.....殿」

 

 

「様」と言いかけたが、あえて言い直す。

 

 

「あんた天竜から聞いてないの?」

 

「いっ.....いえ、天竜とはあれ以来会っていないですから.....私も分からないです」

 

「そう.....」

 

 

大広間のような場所に呼び出された。誰も状況が掴めず、不安な表情をしていた。

 

 

「むぅ.....彼は一体何をする気

でしょうか.....」

 

 

同種であるせいか、側に服部半蔵を付けた家康は、天竜の気配をひしひしを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「関白殿下、おな〜り〜」

 

 

号令がかけられ、

騒がしい室内に関白が入場する。

だが、

 

 

「なっ!?」「えっ!?」

 

「そんなっ!?」「馬鹿な」

 

「嘘っ」「なんたる事!」

 

 

そこにいた誰もが驚愕する。

現れた直衣の格好をしていたのは、

天竜であった。

 

 

「くっ.....やられた!」

 

 

家康はすぐそれに気づく。

 

そして、彼はやがて口を開く。

 

 

「私が、新たに関白に就任した、

藤原天竜秀長にございます」

 

 

天竜はそう言った。そしてその直後、ドヤ顔の近衛が入室する。

 

 

「そして麻呂が、太政大臣に就任した近衛前久でおじゃる」

 

「太政大臣!?」

 

 

信奈も驚く。

 

 

「知っての通り、麻呂はこの天竜の主君でおじゃる。だから、天竜が管理している東方の日の本の管理は全て、この麻呂が持つでおじゃる!」

 

「「「!!?」」」

 

 

全て近衛前久の野望。

 

 

「そして、近畿の織田。四国の毛利も、麻呂に忠誠を誓えでおじゃる!この日の本を姫巫女様に代わって管理するのは余ぞ!」

 

「「「くっ.....!!」」」

 

 

隆景も、この事態に苦悶する。

 

そして、全員が理解する。天竜の裏にいた黒幕こそが、近衛であると。

 

 

「おう、天竜。

お前も何か言ってやれでおじゃる!」

 

「ふっ.....では」

 

 

そう言われて、彼はまた口を開く。

 

 

「俺は知っている。

毛利が織田に船を貸した事を」

 

「くっ.....!」

 

 

隆景がうねる。

 

 

「俺は知っている。

北海道攻めに上杉が協力していた事を」

 

「くっ.....!」

 

謙信がうねる。

 

 

「俺は知っている。

蜂起しようと、武田が裏で動いている事を」

 

「くっ.....!」

 

 

信玄がうねる。

 

 

「俺は忘れない。

伊達の裏切りを」

 

「ククク.....」

 

 

梵天丸は強がっているようで、

ガタガタと震えていた。

 

 

「俺は忘れない。

織田が俺にした、数々の無礼を」

 

「「くっ.....!!」」

 

 

信奈、良晴がうねる。

 

 

「俺は関白になった!

その俺が、最初に言いたい事がある!

それは.....」

 

 

皆が死を覚悟した。

 

 

「おじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ!!!」

 

 

近衛が高笑いをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は関白を辞す事とする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「........................................おじゃ!?」

 

 

事を理解した近衛。

 

 

「どっ.....どどどどういうつもりでおじゃるか天竜!?関白を.....辞す!?」

 

「はい。そしてその権利を譲りましょう。

我が弟、良晴に」

 

「えっ!?」

 

「だからといって、職なしになるわけじゃない。だから俺は、太閤になる!」

 

「「「!!?」」」

 

 

関白を辞した者がなれる太閤。

 

 

「太閤命令だ。近衛前久、

貴方から太政大臣職を剥奪する」

 

「おじゃあ!!?

どういうつもりでおじゃるか天竜!

貴様が麻呂になってくれと頼んだではないでおじゃるか!!」

 

「それは関白になるために、

お前を煽てただけの事。

なってしまった後はもう必要ない。

第一貴様のような強欲の塊に、

この俺が国を任せるわけなかろう」

 

「おじゃじゃじゃじゃじゃ!!!」

 

 

近衛は歯ぎしりをし、

ちゅうちゅう歯を吸う。

 

 

「姫巫女様じゃ!!

姫巫女様が許すはずないでおじゃる!」

 

 

近衛は言う。

 

 

「どこまで馬鹿なのだお前は?

あの時、俺の心を読んだ姫巫女様が何故何も言わなかったと思う?」

 

「まっ.....まさか!?」

 

「黙認されたのだ。俺がこうやってお前を追い詰める事をな.....」

 

 

近衛は大量の汗を吹き出す。

顔に塗りたくった白粉が落ちる程に。

 

 

「天竜.....さん?」

 

 

良晴が尋ねる。

 

 

「もうちょい待ってろ。

すぐに終わるからな」

 

「!」

 

 

すると、近衛は刀を抜いた。

 

 

「許さぬでおじゃる.....

よくも麻呂を裏切ってくれたな.....」

 

「裏切り魔将軍を作ったのはお前だろう」

 

「おぉぉのぉぉれぇぇ!!!!!」

 

 

刀を構え、向かってくる近衛。

丸腰だった天竜には絶体絶命!

 

 

「ばいちゃ!」

 

 

するといきなり、

天竜の前の空間に時空の穴が空いた。

 

 

「おじゃあ!!!?」

 

 

近衛は穴に向かって一直線に走り去り、やがて穴は閉じてしまった。

 

 

「てっ.....天竜さん!?

近衛は何処へ!?」

 

「『どこ』?『いつ』って聞いてくれ」

 

「!?」

 

「暦道陰陽術の最高峰。

『時空転移術』だ。

やっとのことさで

発動できるようになった。

まぁ、行き先がランダムだからいつに飛ばされるか分かったもんじゃないから、自分にも使えないがね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近衛が飛ばされた先.....そこは、

 

 

「ここは.....何処でおじゃるか?」

 

 

何やら見知らぬ時代に飛ばされていた。

周りの皆が皆の服装が古い。

 

 

「誰だ貴様!!」

 

「おじゃあ!?」

 

 

誰かに叫ばれる。

振り向いてみると、その者は自分にそっくりな顔をしていた。

 

 

「お前は入鹿の仲間のものか!!」

 

「いっ.....入鹿!?」

 

 

そう言われて見てみると、遠くの方で誰かが倒れて死んでいる。そして、この男。入鹿を斬ったと思わしき剣を持っていた。

 

 

「というと.....つまりお前は.....」

 

「怪しい奴め!

斬り伏せてやる!!」

 

「まっ.....待つでおじゃる!!

麻呂は関白の.....」

 

「でまかせを言うでない!」

 

「おじゃあ!!!?」

 

 

近衛はそのまま首を刎ねられてしまった。

 

 

「.....たり殿〜!.....鎌足殿〜!」

 

「おう巫女様!」

 

 

少女が走ってくる。

 

 

「中臣鎌足殿。それは?」

 

「分かりませぬ。だが、蘇我入鹿の手の者の可能性がありましたからな」

 

「うむ.....だがこの顔、其方に似てないか?」

 

「はっはっは!

ご冗談を、中大王巫女様。

こんな気色悪い白顔がわしに似てるわけないではありませぬか!」

 

「それもそうかな」

 

 

己の祖先に殺され、

生涯を終える近衛であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現代に戻る。

 

 

「さてと.....」

 

 

近衛は消え、ここは天竜の独壇場となる。

 

 

「小早川隆景にも、

上杉謙信にも、

武田信玄にも、

伊達政宗にも、

俺は言いたい事が沢山ある」

 

「「「「くっ.....!」」」」

 

「だが、後回しだ。

先に決着をつける相手がいる。

織田信奈!!」

 

「..........えぇ、分かってるわ」

 

 

信奈は分かっていた。

この2人こそが、

誰にも劣らない宿敵同士であるからだ。

 

 

「信奈。俺は貴様に感謝こそしている。

俺がこの地位に立てたのは、

最初に貴様が俺を召し抱えたお陰だ。

毛利でも武田でも上杉でも北条でもない。

貴様を選んだからこそ今がある。

そして、最愛の女性とも出会えた」

 

「そりゃあ良かったわね」

 

「信奈。俺は不思議な事に、貴様から何の魅力も感じなかった。確かに美人だが、女としてはとても見られなかった。何故良晴が好いたのか、疑問に感じる程にな。

それは.....貴様は俺が倒す者であると心が決めていたからであると思う。貴様を倒す事が、この日本における最大の目標であったと。

倒す事は殺す事ではない。

殺す事は幼子でもできるが、

倒す事は優れた者にしかできん」

 

「ふぅ〜ん」

 

「信奈。俺は貴様を倒す」

 

 

天竜は宣言した。

 

 

「戦でも起こす気?」

 

「それがどれだけ無意味であるか、

理解してないわけではあるまい」

 

「そうね.....」

 

 

今までの織田が好き勝手やれたのは、朝廷の後ろ盾を得ていたからだ。だが、今の天竜は朝廷そのもの。日本国を敵にするのだ。天竜の一言で国中の大名が織田になだれ込むだろう。

 

 

「でも、貴方を認めないのは

私だけじゃないわよ?」

 

 

ここには各国の『天竜の敵』

が集まっている。

唯一無二の味方は十兵衛ぐらいで、

四面楚歌状態となっている。

 

 

「それはそれは、怖い怖い。

一度は倒した強敵が合体して戻ってくるか。俺を独裁者にしたてて、姫巫女様救出を大義名分に俺を殺すか.....

 

 

 

笑死!

 

 

 

仙千代!凪!」

 

 

その時、鋼鉄の糸が何処からともなく飛び出す。大広間にいた信奈を除いた全員の首筋に巻き付く。

 

 

「「「!!?」」」

 

 

その中には十兵衛まで混ざっていた。

 

「私がちょいと糸を引けば、

全員の首が飛んじゃうぞ♡」

 

 

女郎蜘蛛現る。

 

 

「仙千代!?」

 

 

信奈は驚愕した。

1年前に目の前で自決した人物が

再び現れたからだ。

 

 

「くっ.....!こうなったら、

魔帝波状鮮血刺殺光線で.....」

 

「そうはいかない!」

 

「にゃっ!?」

 

 

邪気神眼による力で天竜を攻撃しようとした梵天丸の延髄に、凪が手刀を入れた事で彼女を気絶させてしまう。

 

 

「凪まで!?」

 

 

凪に至っては生首まで見た人物だ。

死んだとばかり思っていた2人が同時に信奈の前に現れたのだ。それだけで精神をおかしくさせる。

 

 

だが、何より気にかけなければならないのは、自分を除いた大広間の全員の首を鋭利な糸が締め付けているという事だ。

 

 

「あんたどういうつもり!?

良晴や.....十兵衛まで殺す気!?」

 

「そんな気ないさ。良晴と十兵衛の命を奪うのはお前の意志だよ。だから殺さないでくれ」

 

「天竜!!あんたは最後まで!

どこまで卑怯に腐り続けるつもりなの!?」

 

「何とでも言え。

戦国時代を終わらす為ならば、

いくらでも卑怯になってやる!」

 

 

良晴と十兵衛だけではない。

信奈には、

武田信玄。付き添いの高坂昌信。

上杉謙信。付き添いの直江兼続。

徳川家康。付き添いの服部半蔵。

伊達政宗。付き添いの片倉小十郎。

計10人の命がかかっている。

信奈の返答次第で、

10人の首が同時に飛ぶのだ。

 

 

「こんな手を使ってくるとは.....」

 

「逃げたいです〜!!」

 

「無念です」

 

「こんな所で死にたくはないぃ!」

 

「お姉様は隠れ博愛主義者。

きっと助けてくれるはず!」

 

「申し訳ありません姫。

この半蔵、一生の不覚!」

 

「すやすやすや.....」

 

「うぅ.....秀長様に殺されるなんて!」

 

「天竜さん!人質は俺1人で充分だ!

皆を解放してくれ!」

 

「信奈殿!天竜は誰も殺したくないんです!素直に彼に従って下さいです!」

 

 

それぞれのバラバラの言葉が、

信奈の精神をさらに狂わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ従えというのもあれだな。

.....よし、決めた。

土下座しろ信奈。

この俺に向かって、

他の大名らがいる前で。

この俺が安土城でしたように.....」

 

「くっ.....!」

 

「頭を惨めに地に着け、

そして降伏を宣言しろ!

そして、

俺の息子を返せ!!」

 

 

そう、天竜が織田を裏切るキッカケとなった出来事。卑怯にも、天竜の息子、拾を人質に天竜と立ち向かい、天竜は降伏したにもかかわらず、息子の返還はなかった。

天竜はそれを1度も忘れた事はなく、

いつか信奈を完全に屈服させ、

息子を奪い返そうと決心していた。

 

それが今なのだ。

 

 

「土下座しろよ信奈。

されで全てが終わる」

 

「うぅ.....」

 

「じゃあ皆には死んでもらおうか」

 

「!?.....待って!!」

 

「ふんっ.....」

 

 

信奈は尋常じゃない程の汗を垂れ流す。

天竜に降伏するという事は、

天下統一を諦めるという事。

今まで死んでいった、

義父の斎藤道三。

義母の松永久秀。

実母の土田御前。

 

そして、今もなお信奈の帰りを待つ

織田家臣団の皆々。

 

 

彼らの想いを全て踏み躙る事となるのだ。

「もののふ」ならば、良晴らを見捨てでも、天竜は倒さなければならない。

魔王には魔王で挑まなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、それは不可能だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信奈は正座で床に手を着いた。

そして、徐々に頭を下げていく。

 

 

彼女は愛を知ってしまった。

最愛の者を失う苦痛を実感してしまった。

もう失いたくないという気持ちが、

勝ってしまった。

 

 

「信奈!!」

 

 

良晴が叫ぶ。

 

 

「ごめん良晴。ごめん.....皆」

 

 

信奈は頭を床に着けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「降伏するわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信奈敗北。

 

 

「もう一度いえ。丁寧に」

 

「私、織田信奈は

太閤殿下に降伏します」

 

「俺に謝れ」

 

「数々の無礼をお許し下さい。

全て謝罪致します」

 

「最後にだ.....息子を返せ」

 

「承知しました」

 

 

丁寧な言葉とは裏腹に、

信奈は血が滲む程拳を握り締め、

瞳からは悔し涙が零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....................終わった」

 

 

天竜はふと呟く。そして、

 

 

「終わった!終わったぁ!!俺の4年の歳月をかけた大計画がここに終結したぁ!俺の望む世界が!

今、この手の中に!!

俺の太閤殿下!

俺の日本国!

全てが俺のものなりぃ!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

 

 

 

 

 

天竜は恒例の高笑いをする。

だが、今回はどこか哀しげで.....

 

 

 

 

 

 

「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ..........

はぁ........................................

凪、皆の拘束を解け」

 

「はいはい」

 

 

大広間の全員に巻きついていた鋭利な糸が外れる。

 

 

「ふぅ.....」

 

 

天竜の緊張が解ける。

 

 

「本当に.....終わったのか」

 

 

そう呟いた天竜は、

身なりを整え、その場に正座する。

 

 

「織田信奈殿。

降伏宣言、お受け致します」

 

 

そう言い、天竜もまた頭を下げた。

 

 

「良晴の左大臣関白就任に伴い、

信奈殿には右大臣に就いてもらう」

 

「えっ?」

 

 

死をも覚悟していた信奈には予想もしなかった状況だ。

 

 

「なにぶん、私も未熟者。

1人で日本国をどうのこうのするには無理があると思われる。是非御力添え頂きたい」

 

「天.....竜?」

 

 

もう、天竜の言っている事が嘘なのか本当なのかも分からなくなっていた。

ただどちらにせよ、信奈に決定権がない事は明白であった。

 

 

「私はあんたに負けたわ。

好きになさい」

 

「ふっ.....協力感謝する」

 

 

天竜は立ち上がる。

 

 

「他の者に宣言しよう!

私に協力すれば、

いつでも好きなものをくれてやる!

地位も名誉も、金も領土も!

そして最後には平和な世をくれてやる!

だが、それを妨害したいなら、

いくらでも名乗り出るがよい!

私自ら叩き潰してくれる!」

 

 

だが、異議を唱える者は出ず。

 

 

「あぁ、私はなんたる魔王なのだろうか。先代の魔王すら、人々の記憶から消し去る程の邪悪ぶり。我ながらに悍ましい!」

 

「えっ?」

 

 

天竜の謎の言葉に良晴はふと反応する。

 

 

「いいだろう!

障害が消えたのなら、進むのみ!

目指す最初の目標は天下!

蝦夷の先から琉球の先まで征服しよう!

そして真の日本帝国を築こうではないか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太閤天竜。

 

彼は後に、姓を『豊臣』に変え、

豊臣天竜秀長が誕生する。

 

北海道から本州全土を掌握した彼は、

その後四国を屈服させ、

九州征伐に取り掛かった。

 

そして、海戦の末に琉球を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太閤殿下就任からたった4年間で、

天竜は天下統一を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

第一部 : 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして1人の神父は、

大天使の名を背負い、

魔王を殺す為に挑む。

 

 

 

 

そして1人の勇者は、

同じ人間として、

魔王を救う為に挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二部に続く。

 




ご都合上、続きは二部に持ち越し。
別枠にしようかとも思いましたが、
面倒なのでそのままの枠で続きます。
2クールみたいなもんです。
では、第二部で再びお会いしましょう!
次回予告
あれから3年
〜嫌われ者か好かれ者か〜


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第一部まとめ

あやふやにしてた部分をまとめました。

ダイジェストみたいなもんです。


登場人物紹介7

 

 

蠣崎新三郎慶広

17歳。茶髪に前髪パッツン。

幼名である『天才丸』を未だに名乗っており、それに伴って口癖も『天才ですから』

今の所真意は不明だが、

天竜に忠誠を誓っている。

後に姓を『松前』に改称し、

北海道国(蝦夷国)の初代大名となる。

 

 

 

豊臣天竜秀長

18歳(28歳)。茶髪に短髪。

東日本のほぼ全域を統一し、

義父近衛前久より関白職を与えられる。

だが、直後関白職を義弟の良晴に譲り、

太閤を名乗る。

近衛前久も殺害し、

この国の支配者となった。

毛利、織田を屈服させ、

北海道と本州は彼の管理下となる。

それに伴い、義弟が左大臣関白。

織田信奈は右大臣になる。

 

ちなみに彼の一族は、

羽柴良晴秀吉は豊臣良晴秀吉。

羽柴辰乃介秀俊は豊臣秀秋。

と改称された。

ねねは太閤の妹という事で、

北政所という職についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残された謎について

 

・天竜=ドラキュラ伯爵の問題

天竜がサタンの息子であり、

吸血鬼の王である点から、

天竜こそがドラキュラである事が判明。

だがドラキュラは正確には朧を指し、

天竜はその力を得ただけの別人。

(天竜と朧の見た目は性別を除けばほぼ同じである為、ドラキュラを知る南蛮人らには違いが分からなかった)

 

天竜は当初、自身が吸血鬼である事を知らなかった為、血を飲む事なく衰弱し、術を使う度に瀕死に陥っていた。

血を飲んでからはそんな事もなく、

むしろ以前よりもパワーアップ。

だが、加減を知らずに使用する事でガス欠になった事もあった。

 

天竜は眷属作り以外では直接吸血したりはしない。多くの場合、バラバラに引き千切ってから、肉ごと食したり、予め冷凍保存しておき、水筒に入れて携帯したりしている。

一般人には手を出さず、

主に囚人などを食料にする。

(天竜は美女に甘く、大抵の罪なら許してしまうので、大体は男性の血である。主に異性の血を求む吸血鬼には、珍しい現象だ)

 

 

 

 

・天竜の指輪の問題

天叢雲指輪(あめのむらくものゆびわ)

という名称。

三種の神器の天叢雲剣と関係あり。

ツクヨミから与えられた神具。

(本文中では、ツクヨミ=八岐大蛇)

まだ天竜の能力が低かった頃に彼に力を与え、同時に寿命を奪っていた。

この指輪と、ツクヨミから与えられた逆十字架を組合わせて飲み込む事で、ツクヨミの力を得る事ができる(ツクヨミ化)

これは又の名が『ドラキュラ化』

であり、能力の低かった天竜が自力で変身できなかったのを指輪と逆十字架で補ったものである。

現在は自力での変身を可能としており、

完全変身や、翼だけなどの部分変身

ができる。

 

 

 

 

・勘解由小路光の問題

本名は明智左馬助光春。

朧が放った呪いによって400年異世界に飛ばされ、不死者として平成の世界に行き着き、過去の天竜と結婚。その後、天竜を追うように戦国時代に戻ってきた。

アマテラスに利用されており、

天竜に殺される事を望んでいる。

娘が1人いる。

 

 

 

 

・天竜vs朧の問題

パラレルワールドの別世界より連れて来られ、1つに合わせられた天竜と朧。その後2つに分離したが、生命は1つなので、片方の死がもう片方の死に繋がる。

天竜が目覚める前の500年間を朧が身体を支配し、ドラキュラを名乗っていた。

能力はほぼ同一であるが、

性格は似てるようで違う。

 

 

 

 

・ツクヨミの問題

欧州名=ルシフェル・サタン。

エジプトではセクメト(バステト)を名乗る。

ルシフェル=ミカエルという真実が判明。

多くの名前と共に、

多くの伝説が世界中にある。

当初、天竜を己が入る依り代としてしか見ていなかったが、共に生きていくうちに愛着が湧いたのか、次第に彼に親身になってきている。

天竜を研究材料扱いする

アマテラスと対立。

 

 

 

 

・アマテラスの問題

欧州名=アモン

エジプトではアメン・ラーを名乗る。

この物語における最大の黒幕。

朧を再び出現させたのも、

左馬助を不死者にしたのも、

天竜をドラキュラとして覚醒させたのも、

全て彼女の仕業。

観察者として、人の命を天秤にかける

魔神。

 

 

 

 

 

 

鬼族について

 

・和製鬼と洋製鬼の違い

和製鬼はツクヨミの配下、

宿儺鬼を原種とする子孫一族。

洋製鬼はドラキュラによって増殖させられた眷属一族またはその子孫一族。

通常ならば和製鬼の方が強力であるが、

千年以上の月日で血が薄れている為、

新生の洋製鬼に劣ってしまっている。

 

和製鬼には数種類いる。

天敵は錬金術師。

 

・純血鬼

宿儺鬼の正当な子孫。

弱点は金など.....

松山主水や上杉謙信を示す。

 

・鬼人

呪術によって作られた人工鬼。

その者の恨み辛みの念を吸って、

その力としている。

純血種と同じく金が苦手。

紛い者である為、日光を浴びると

その力が著しく低下する。

朝倉義景を示す。

 

・羅刹

原理は鬼人とほぼ同じ。

だが恨み辛みなどでの強化がない為、

鬼人と比べれば、穏やかな性質。

でもその分、能力は劣る。

人間に近い為、金は弱点としない。

だが、日光に弱い点は同じ。

黒鬼(波多野秀治)等を示す。

 

・鬼武者

宿儺鬼の肉片を媒介に作られた鬼人。

原初の鬼の力を得ている為、

鬼人や羅刹とは桁違い。

金や日光すらも克服している。

だが、『童子切り』などの

特殊刀などには弱い。

村上武吉等を示す。

 

・呪い

祖先が高等な鬼に憑かれた場合、

その子孫にも鬼の呪いが現れる。

呪いは様々であり、本人を痛めつけるようなものもあれば、本人を鬼化させるものもある。

源義経や明智左馬助を示す。

 

 

 

 

洋製鬼について

天敵はエクソシスト。

 

・吸血鬼

ヴァンパイア。洋製鬼の名称。

人間世界に溶け込む事に特化。

雄をドラクル、

雌をドラキュリーナと呼ぶ事がある。

銀と日光を苦手とする。

 

・ドラキュラ

洋製鬼の頂点。サタンの子供。

近代現れた最強の鬼である。

数百年に渡り、世界を混沌に陥れた。

通称、『ナイトウォーカー』

銀が苦手だが、

日光に対する耐性を持っている為、

『デイウォーカー』とも呼ばれる。

天竜や朧を示す。

 

・眷属吸血鬼

吸血鬼に噛まれて、そのヴァンパイアウィルスを注入され吸血鬼化した存在。

主に絶対的忠誠を誓う。

自力で吸血する権利を持たず、

主人に分けて貰う他ない。

その制約すらも振り切り、

自力での吸血に成功した者こそが、

独立した吸血鬼となれる。

内藤昌豊や藤堂高虎等を示す。

 

・ダンピール

吸血鬼と人間のハーフ。

一般的に、吸血鬼より劣るとされているが、銀や日光などの弱点を克服していたり、時に吸血鬼以上の能力を発揮したりもする。

豊臣秀頼や上杉景勝(?)を示す。

 

・肉片持ち

ドラキュラなどの高等吸血鬼から、

その肉片の一部を移植された者。

ドラキュラも持たないような、

特殊能力を持つ事があり、

生命を奪う能力と怪力を持つ手や、

絶対遵守の命令を与え、

『空裂眼刺驚』を撃つ眼球などがある。

だが、吸血鬼化するのは、その移植部分のみなので、本人は吸血鬼ではない。

上杉謙信や伊達政宗を示す。

 

・悪魔憑き

魔界の悪魔に憑かれる、

もしくは憑かす事によって、

その悪魔の力を得ている。

吸血鬼とは別種な為、

弱点が不明である事が多い。

明智左馬助を示す。

 

 

 

 

 

 

 

未解決問題

 

・天竜が時代を遡ったキッカケ

(同じく良晴と青蘭も)

・上杉景勝の母親

・天竜は人間の子か魔王の仔か

(サタンが生母なのか、

人間が生母なのか、

そこらへんがハッキリしていない為)

・アマテラスの野望

・ツクヨミの真意

・朧との関係

・光の真意

・キリスト教との抗争

・ガブリエルの存在

・サンジェルマン伯爵の存在

・天竜の真意

 

 

 

 

 

第一部にはまだまだ残ったままのフラグが多くあります。そこらへんは、第二部で後々回収していくので、楽しみにしてて下さい!

 

 

しばらくは、第一部の誤字脱字の修正をするので、更新が遅れるかもしれませんが.....

 

 

 

 

乞うご期待!

 




オリャ!!(ノ´□`)ノ ┫:・'∵:.┻┻:・'.:┣∵・:. ┳┳☆ピタッ☆


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第二部 一章 太閤天竜
第五十七話 あれから3年


さぁ、第二部の始まり始まり!

ところで、新アニメで信長系の2つ出てきましたね。
ノブナガンは好きませんが、
ノブナガザフィールは個人的に好きです。
ジャンヌが登場してる点とかで共感できます。
(ノブナガンにもサンジェルマンいるけど.....なんかなぁ〜)


これは、太閤就任から4年で天下統一を果たした天竜の、やや直前の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太閤就任から3年目、

元日の朝8時頃。

 

 

「兄様〜!テン兄様〜!」

 

 

とある少女の声が通る。

 

 

「いつまで寝てらっしゃるのですか兄様?」

 

「ぐ〜..........ぐ〜..........」

 

「兄様!」

 

「あと..........2時間」

 

「駄目なのです!いつもそうやって誤魔化すから寝坊するなのです!」

 

「.....新年会は12時からだぞ?」

 

「人は起きてからは3時間は頭働かないのです!

だから今のうちに起きなさいなのです!」

 

「じゃあ1時間は寝れるはずだ。

おやすみ」

 

「だぁ〜!!

ヨシ兄様はもう起きてるなのです!

サル関白なんかに負けるななのです!」

 

「我は眠れる森の太閤殿下。

可愛い姫が添い寝してくれたら、

目覚めるかもしれない.....」

 

「えっ..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴寝室。

寝ぼけ眼の良晴がねねによって起こされていた。

 

 

「うぅ〜.....頭痛てぇ.....」

 

「昨晩は飲み過ぎでしたぞ兄様。

若いうちからそれでは、

将来は飲んだくれになりますぞ?」

 

「ジュース割りだから、

発泡酒感覚で飲んじゃって.....

これが二日酔いというやつか.....」

 

「早く起きて下され!

お昼からは各地から大名が集まって、

新年会を行います!

奥方様も来られるのですぞ?」

 

「そうだな。起きるか」

 

 

良晴は布団から出た。

 

 

「天竜は?」

 

「辰が起こしに行ったですぞ!」

 

「そっか。じゃあ俺も行くかな。

天竜って最近寝不足で、

寝起き悪いし」

 

「ねねも行くですぞ!」

 

 

それから2人は、さほど離れていない。

天竜の寝室へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは.....」

 

 

天竜の寝室に着いた。そこには天竜がぐっすりと熟睡しており、彼の布団の胸のあたりがやけにもっこりしている。

 

 

「まさか!?」

 

 

ねねが異変に気付き、布団を引っぺ返す。

 

 

「辰乃介!!」

 

「ありゃりゃ.....」

 

 

良晴もついあきれてしまう。

秀秋は天竜と一緒に熟睡していたのだ。

 

 

「はっ!?」

 

 

彼女も目を覚ます。

 

 

「辰乃介.....何してるのですか!」

 

「ちっ.....違うなのです!

添い寝をすれば起きると言うので.....」

 

「それで一緒に熟睡したのですか?」

 

「..........はいなのです」

 

「ミイラ取りがミイラになってやがる。

秀秋も子供だな」

 

「うっ.....五月蝿いなのです!

このサル関白!!」

 

「うっ.....」

 

 

その時、天竜も目覚める。

 

 

「良晴さん。妹も虐めるのはやめなされ」

 

「あんたが起きないのが悪いんだろう」

 

「寝不足なのだ。睡魔には勝てん」

 

「計画性がないから徹夜しまくったりしてんだろ」

 

「誰かさんが年末にサボってナニしてるせいで俺の仕事が増えたんじゃねぇか」

 

「うっ.....」

 

「まぁいい。いい加減目も覚めた」

 

 

天竜も布団から起きる。

 

 

「新年会には誰々来んだっけ?」

 

「外からは家康と、隆景と輝元、

勝千代ちゃんと、梵天丸と、

元親ちゃんとと天才丸と、

虎千代ちゃん」

 

「虎千代?」

 

「あぁ、上杉謙信」

 

「お前らいつの間に仲良くなったの?」

 

「いやぁ.....」

 

「そんなあちこち手ぇ出すからカミさんにドヤされるんだろ」

 

「文字通りに手を出す人に言われる筋合いないよ!」

 

「俺は奥さん公認だからいいの」

 

「いや、十兵衛ちゃん結構気にしてるぞ!?」

 

「..........」

 

「..........」

 

「ふっ.....お互い、

勝気な新妻には苦労するな」

 

「まぁな」

 

 

豊臣兄弟は微笑をする。

 

 

「「?」」

 

 

ねねも秀秋もそれを不思議に見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大坂城。

本猫寺跡に建てられた世界一の巨城。

顕如との会談により、

摂津天満に新たな本猫寺を建立し、

その建築費用を天竜側が出すのを条件に、

本猫寺の明け渡しが成立。

その立地条件を利用し、

大幅に土地ごと改築。

広大な費用を負担して造り上げた、

天下の巨城にして堅城。

大坂城の完成である。

 

それは.....

近江の安土城に並ぶ.....

いや、安土城を追い越す城でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新年会。祝い金5百文を条件に多くの客が大坂城に訪れる。この魔王の城へ.....

 

 

「明けましておめでとう御座います!」

 

 

良晴の号令と共に、

出席者全員が天竜に頭を下げる。

 

 

「ふっ.....」

 

 

あぐらに頬杖を付き、

天下人の余裕の笑みを浮かべる。

 

 

「大坂でも珍しく雪が降った。

そんな寒空の日によくよく来てくれた。

皆の者ご苦労なこった」

 

「「「..........」」」

 

 

頭を下げた半数の者が歯痒い思いをしていた。仕方なく下に着いているものの、3年経った今でさえ誰も彼を天下人と認めていなかったのだ。

一方、彼を絶賛して応援する者もいる。

 

 

「おめでとう御座います!親方様!」

 

 

天竜を親方様と呼ぶこの少女、

なんと真田幸村である。

 

以前高虎に言われた通り、軟骨に含まれるコラーゲンを毎日摂取し続け、行く末には豚足にも手を出した事で、3年で見違える程の美女に変身したのだ。

胸の成長は足りなかったが.....

 

 

「あぁ、中部の様子はどうだ?」

 

「上々です!不穏分子も全部潰したので、

中部は正真正銘、親方様のものです!」

 

「宜しい。今後も中部の管理を頼む」

 

「はいっ!」

 

 

幸村は、元武田の領地を与えられていた。

一度は織田に譲った北信濃も吸収され、

中部における、北側の巨大勢力となった。

 

 

「そっちはどうだ家康?」

 

「同じく上々です。お姉様から任された尾張も含め、中部地方の南部は順調に治めています」

 

「そうか」

 

 

こちらは徳川家康。

子狸の頃からだいぶ成長したのだ。

大狸と言うと聞こえが悪いので、

女狸と言うべきか、女狐ならぬ女狸。

明らかに裏で策略を巡らせている、

相変わらずの腹黒さだが、

一応表では忠臣の姿を見せている為、

それなりの地位を与えている。

 

 

「越前は?」

 

「はい。変わらずの状況です」

 

「..........簡潔な報告をありがとう」

 

 

上杉謙信。

天竜の養子という関係にもかかわらず、未だ天竜に抗おうと策略を巡らせている者の1人だ。

 

 

「また髪白くなったな。

ちゃんと血ぃ飲んでんのか?」

 

「太閤殿下に心配されずとも、

自身の体調管理はできています」

 

「できねぇから言ってんのに.....」

 

 

そんな時、謙信の隣にいた少女が出る。

 

 

「おめでとうございます!お父様!」

 

「おう景勝!姉ちゃんといい子にしてたか?」

 

「はいっ!」

 

「そっか!じゃあ後でお年玉やる」

 

「わーい!」

 

「うぅ、卯松.....」

 

 

だが、謙信にこの妹がいる限り、

天竜を殺す事は不可能であろう。

 

 

「して、関東は?」

 

「はい、天竜様」

 

 

関東の管理は古田織部。

 

 

「今日はお前だけ?」

 

「はい。長親様は畑仕事を終わらせてから来られるとの事」

 

「あいつ何やってんだよ」

 

「氏康様は.....引きこもってます」

 

「またか.....」

 

 

長親は太閤の側室として、高い地位にあるものの、未だ忍城の城主である。そして、今でも百姓らとの交流を続けている。

 

そして、氏康.....

まだ記憶喪失のままである。

最近はとことんコミュ障になり、

新設された小田原城の城主から

出なくなってしまった。

会いに行けるのは夫の天竜ぐらいだ。

 

 

「それで、東北はどうだ?梵天丸」

 

「はっ.....はいっ!

.....じょっ.....上々です」

 

「ふ〜ん」

 

 

不適な笑みを浮かべる天竜。

 

 

「氏郷はどうだぁ?」

 

「はっ、はっ!.....同じくです!」

 

「ふっ.....」

 

 

3年前の伊達の裏切り.....

天竜が太閤になった事で、

その野望はもろと崩れ去った。

 

死罪すらも考えられた梵天丸だったが.....

 

 

「許そう」

 

 

天竜は一言だけそう言った。

 

 

「えっ!?」

 

 

白装束に巨大な逆十字を背負って、死を覚悟してまで土下座をし、助命懇願をしていた梵天丸も驚いてしまった。

 

 

「だが、罰を与える。

米沢を放棄し、岩出山に移住せよ。

そして、陸奥の会津黒川を没収する」

 

「はっ.....ははぁ!!」

 

 

歯ぎしりしながらも、従うしかなかった。今の梵天丸に天竜を倒せる可能性なんて微塵もなかったのだ。

そして、

没収された会津だが.....

なんとそれは蒲生氏郷の領土となった。

 

天竜に最も反感を抱いていた氏郷に土地を与える.....42万石はある土地を与えるなんて、異常な事態であった。

だが.....

 

 

「おいっ、キリシタン。

こっちに寄るな。もっと左に行け」

 

「黙りなさいアンチ。貴方と同じ空気を吸っているというだけで悍ましい」

 

「なんだと!?」

 

「お前らうるさい」

 

 

この2人、途轍もなく犬猿の仲なのだ。

梵天丸からすれば、

氏郷は会津を奪った泥棒。

氏郷からすれば、

梵天丸も天竜と同じ異端者。

仲が悪くなるのも当たり前だ。

 

これが天竜の策略。

敵の敵が味方とは限らない。

邪魔者の梵天丸と氏郷をぶつけさせる事で、上手くいけば同士討ちにでもさせられるからだ。

 

 

「中国は?」

 

「はっ!輝元が正式に頭首に就任以降、

国内経済も安泰となり、

継続中である九州攻めも順調であります」

 

 

隆景が言う。

 

 

「ほう.....

では輝元よ、毛利の家督を正式に継ぎ、

若干齢13で大大名になった気分はどうだ?」

 

 

輝元に尋ねる。彼女はまだ公の場に出る機会が少ない為、やや緊張していた。

 

 

「はっ.....はいっ!

私はまだ若輩者でして.....

1人で中国を治められるような、

立派な大名でありません。

ですが、いずれは姉者達のような、

偉大な武将になろうと思いまする!」

 

「輝元.....」

 

「そうか、宜しい!

これからも精進してくれ!」

 

「はいっ!」

 

 

純真無垢な輝元は、

天竜のお気に入りでもある。

 

 

「して.....四国は?」

 

「..........」

 

 

一瞬、その場が凍りついた。

四国大名、長宗我部元親。

去年の四国攻略において、

天竜に降伏したばかりの存在。

四国はそれまで天竜、十兵衛、良晴が何度も交渉を続け、同盟を持ちかけた国である。

だが、いずれも失敗。

最後は天竜が太閤として交渉をするも、

天竜側が出した、

『讃岐、伊予を没収し、

土佐・阿波のみを残させる』

という提案を突っぱねてきた為、

本格的な侵略に発展してしまったのだ。

最終的には阿波をも没収され、

今は土佐一国の大名に成り下がる。

 

つい最近まで敵だった事もあり、

この新年会では肩身の狭い思いをしていた。

だが、十兵衛や良晴が味方となってやっている事で、なんとかやれているようだ。

 

 

「どうなんだ?」

 

「..........現在、毛利殿と合同で行っている九州攻め。我々ではどうにもできないのである」

 

「元親!」

 

 

隆景が小声で元親を制止しようとする。

だが、

 

 

「救援を求めた大友宗麟殿が言う通り、

太閤殿下直属の軍を出して頂きたいのだ!

毛利と長宗我部だけの兵では足りないのだ!

大坂に閉じ籠るんじゃないのだ!」

 

「ほう。お前がそれを言うのか?」

 

「当たり前なのだ!

元は敵とはいえ、妾は九州攻めの任を正式に承った身なのだ!

だから.....」

 

「違うな。俺が言いたいのは.....」

 

 

天竜は立ち上がる。

 

 

「お前如きがそれを言うのかと問うたんだよ」

 

「ひっ!?」

 

 

元親は思わず慄いた。

立ち上がった天竜はとても大きく見えた。

それは身長だけではない。

太閤という偉大な位も、

そして天竜より出でる、

魔王の風格がそう見せているのだろう。

 

 

「生意気にもこの太閤に背き、

この俺様に戦争を仕掛けたにもかかわらず、

むざむざと敗北した小娘が、

今なお、この俺にそのような口を効くのか?

貴様如きが!!」

 

「ひゃうっ!?」

 

 

ズンズン近づいてくる魔王に、

元親は思わず腰を抜かして後退りする。

 

「ちょっと.....天竜.....」

 

「お前は黙ってろ十兵衛!!」

 

 

新年会に出席していた十兵衛にも、

天竜は止められない。

 

 

「どうした?

もう言うことは無いのか?」

 

「ひっ.....ひっ.....ひぃ!?」

 

 

ただ天竜が近づいて来ただけだというのに、まるで、野獣.....いや、魔獣に追い立てられているかのような.....

元親の瞳に涙も溜まる。

 

 

「どうなんだ元親?」

 

「その.....その.....」

 

「どうなんだ?」

 

「..........ふぇ.....ふぇ.....」

 

 

嗚咽も聞こえ出す。

周りの大名らは目を逸らしてそれを黙っている事しか出来なかった。誰も元親を庇えないのだ。

 

 

「言ってみろよ元親」

 

 

天竜は元親の目前まで迫り、

彼女の顎を掴む。

 

 

「分をわきまえろろよ。

今やお前はこの太閤の側室なのだぞ?」

 

「うぅ.....」

 

 

それが四国戦での降伏条件。

天竜の側室の中で、彼に反抗意識を持つ唯一の存在なのが元親だ。

 

 

「まぁ、勝気な嫁は嫌いじゃないがね」

 

 

そう言い、元親の頬にキスをする。

 

 

「確かに、そろそろ頃合いだと思っていた。

いいだろう。何かの機会だ。

今年からは俺自らが太閤軍を指揮しよう。

可愛い奥さんの頼みだからな」

 

「..........」

 

「言う事があるだろうに」

 

「あっ..........ありがとうございます.....」

 

 

歯痒い思いにて、それを言う。

 

 

「ふっ.....」

 

 

すると天竜はまた穏やかな表情になる。

 

 

「場を濁したたな。

今日は馳走をたくさん用意した。

皆の者、楽しんでいってほしい」

 

「「「..........」」」

 

 

これが、天下人の威圧であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、大坂城天守閣。

 

 

「天竜」

 

「違うだろ。太閤殿下様だ」

 

「このまま鼓膜を突き破るですよ?」

 

「ごめんごめん!」

 

 

天竜は自室で十兵衛に膝枕をされ、

耳掃除をしてもらっていた。

 

 

「元親は私の妹分でもあるのです。

あまり虐めないで下さいです」

 

「ふっ.....可愛い子程虐めたくもなるだろう」

 

「全く.....」

 

 

十兵衛は深い溜め息をつく。

 

 

「最近自惚れすぎですよ?

太閤になったとはいえ、

まだまだ認められてはいないんです。

天狗になり過ぎれば寝首をかかれますです」

 

「くくくく.....

富や栄誉に興味はない。

俺はただただ、それを利用するだけなり」

 

「..........」

 

 

十兵衛は暗い表情をする。

 

 

「何年になりますですか?」

 

「ん?」

 

「.....結婚して」

 

「まだ2年ちょいだろ。

これは熟年夫婦になってからする会話だぞ」

 

「だからです。

まだ2年の結婚生活なのに.....」

 

「..........」

 

「貴方には死相が見えるです」

 

 

十兵衛は言う。

 

 

「お前が占いか?らしくないな」

 

「そういうわけではありませんです。

でも、何かを感じるのです。

貴方が突然.....

突然貴方がいなくなってしまいそうで.....」

 

「..........」

 

「もうやめませんか?

今すぐとは言いません。

せめて九州攻めで統一事業を終えても.....」

 

「無理だよ」

 

「えっ?」

 

「俺はそれでいて強欲でね、

日本列島だけじゃ満足できんのさ。

日本の統一が終われば、

朝鮮、明、インドと落とし、

このアジアを一つにする」

 

「アジアを.....」

 

「そうすれば、欧米列強に対抗できる。

西洋と東洋は、真の意味で対等になれる。もう、アジアは侵略されるだけの国ではなくなるのだ。

植民地政策なんて馬鹿げた政策は、

全部ぶち壊してやろう!」

 

 

そして、世界は一つとなる。

 

 

「その結果、貴方は死にますです!」

 

「あぁ」

 

「.....嫌です!それは絶対に!」

 

「十兵衛.....」

 

「やっと掴んだ幸せなのです!

身分なんていりません!

世界だってどうでもいい!

私は貴方が.....貴方さえいれば.....」

 

 

天竜は目頭が熱くなった十兵衛の頬をそっと触れてやった。

 

 

「世界から英雄と認められる事に興味はない。

むしろ、俺は世界中から恨まれるだろう。

でも.....君だけでも、

例え俺を愛してくれるのが君だけでも、

俺は嬉しい」

 

「天竜.....」

 

 

2人はキスをする。

 

 

「将来の幸せも大事だけどさ、

今の幸せをとりあえず楽しむ事も

悪いことじゃないだろ?」

 

「はい.....」

 

 

2人はもう一度キスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大坂城二の丸。

 

 

「良晴!」

 

 

他者を退けて、

2人だけの時間を作った良晴と信奈。

 

 

「こうやって個人で会うのは久々だな」

 

「どっかの誰かさんは、毎日のように奥さんと顔を合わせてるみたいだけど?」

 

「うっ.....だってしょうがないだろ。お前が維持張って大坂城に住もうとしなんだもん」

 

「あんたが安土城に来ればいいじゃない!」

 

「いや、一応俺お飾りでも関白だし、

結構天竜とセットになってないと

都合悪いみたいだし.....」

 

「そう!あんたは私より関白の栄誉の方が恋しいのね!」

 

「そんな事言ってないだろ」

 

「分かってるわ!あんたは身分に託けて女の子をたくさん連れ込んでるんでしょう!

あぁ、やだやだ。助平が移るわ」

 

「ったく.....」

 

 

良晴は信奈を引き寄せ、

そのままキスをした。

 

 

「..........ふんっ!」

 

 

照れ隠しにそっぽを向く信奈。

 

 

「これでも週一で通ってんのに.....」

 

「7日に1回しか来ないくせに!

十兵衛なんていっつも天竜の側に.....」

 

「あぁ、嫉妬してたの!?」

 

「うるさい!!」

 

 

信奈に殴られる。

 

 

「夫婦なのに別居してるのが悪いのよ!

それって離婚の元よ!?」

 

「う〜ん。ちょっと天竜に相談してみっか」

 

「あんたはいつもそうよね。

いっつも『天竜!天竜!』

天竜と結婚すればよかったじゃない!」

 

「そう拗ねるなって」

 

 

良晴は信奈を後ろから抱き寄せる。

 

 

「だっ.....誰が!」

 

「俺だってお前に会えて嬉しいよ。吉」

 

「.....うぅ」

 

 

顔をリンゴのようにに紅潮させる信奈。

2人は寝室へと入っていった。

 

 

生々しい口づけを交わし、愛撫をする中、

良晴は思った。

 

この時代に来て5年。

ついに成人すら越えてしまった。

当時はまだ幼かった姫武将達も、多くが大人の女性となっていった。あれから家臣も増え、次世代の若い姫武将とも多く出会った。

そして、別れも多くあった。

 

 

「.....良晴」

 

 

身体を火照らせ、

ひたすら彼を求める信奈。

良晴も懸命にそれに応える。

世界中の誰よりも愛する女性を.....

 

 

 

 

 

 

 

2年前、良晴と天竜はお互いに愛する女性とついに結婚を果たした。

実は同じ日に結婚式を挙げているのだ。

 

 

 

 

「十兵衛.....」

 

「天竜!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「吉.....」

 

「良晴!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「愛してる」」」」

 




さて、3年は結構長いもので、
あの頃の幼女も今では立派な大人。
そこらへんを次回以降から、
ドンドンやっていこうと思います。
次回予告
太閤と関白
〜2人の王様〜


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第五十八話 太閤と関白

テストの都合上配信遅れました。
二部二話目です。


新年会には続きがあった。

 

 

「ところでだ。指名手配中の、

千利休、

ガブリエル・クロウ・アンダーソン、

ガスパール・コエリオ

についてだが.....」

 

 

利休は信奈の後ろ盾を失って以降は織田を離れ、各地を転々としている。降伏した氏郷とは違い、天竜が太閤になった後も反逆を続けた為、指名手配扱いとされた。

それと2人の南蛮人.....

 

 

「話によると、奴らは東日本に潜伏していると思われる。身内を疑うつもりはないが.....

もし匿っているというのなら、

すぐに差し出せ。

今ならその罪も許そう。

だがそれすらもせず、

土壇場になって裏切り者が露見した場合、

利休ら共々道連れにしてくれる!」

 

「「「..........」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の関東。

 

 

「..........(織部.....)」

 

 

その黒服の少女は呟く。

 

 

「はぁ.....心臓が潰れるかと思いました」

 

「..........(申し訳ありません。私の為に.....)」

 

「いいのですよ。

私の意志で匿っているのですから。

主君と敵といえど、

利休殿から学べられる事は数多くあります」

 

「..........」

 

 

すると利休は何を思ったか、

突如立ち上がった。

 

 

「織部」

 

「利休.....殿?」

 

 

利休が喋った。良晴の言う通り、その声色はアニメ声優のように美しくて.....

 

 

「卑怯を専売特許としているような奴に卑怯で挑むのが間違いであったのかもしれない。これからは正面からもぶつかってみようとも思う!」

 

「天竜様の直臣である私には何とも言えませんが、利休殿にはそれでいてほしいと考えております」

 

「うむ。その第一の策として、

奴の影に彼を忍ばせてみた!

これこそ灯台下暗し!」

 

「正面からぶつかるんじゃ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新年会に話は戻る。

 

 

「北海道はどうだ?」

 

「はい」

 

 

天才丸こと慶広。

天竜が太閤に就任したのを契機に、

姓を蠣崎から松前に改称。

名を松前慶広とした。

 

 

「北海道程土地の広大な国であると、

各地で起きる一揆の制圧は大変で.....

特にネラシャインの動きが激しくて.....」

 

「ネラシャイン?」

 

 

聞いた事がないな。

 

 

「でも私にかかればそんなものは造作もない事。ネラシャインなど簡易に片付けて見せましょうぞ!

天才ですから!」

 

「.....まぁ、よかろう」

 

 

そんな時、天竜はある事に気付く。

 

 

「勝千代はどうした?

来るって聞いてたが.....」

 

「信玄様ですが.....

最近急に体調を壊されてしまい、

今は病床に伏せっておられます」

 

「「!?」」

 

 

幸村の報告に天竜も良晴も反応する。

 

 

「.....それは心配だ。

近々見舞いに参ると伝えておいてくれ」

 

「はい.....」

 

 

信玄が病気になった.....

これの意味とは?

 

 

 

 

 

 

それから、太閤天竜より今年の主な計画等を伝えられ、新年会の主な挨拶は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある日、安土城にて。

 

 

「..........」

 

 

良晴は信奈と会い、2人である部屋を訪れる。

 

 

「やぁ、元気か?」

 

「あっ、秀吉様」

 

「様はやめてくれ。

あんたの方が年上だろ?」

 

「いえ、行き場の失った俺を拾ってくれた恩があります。ありがとうございまする」

 

「寝床を用意してるのは私なんだけど?」

 

 

不満気な信奈である。

 

 

「なぁ、ガブリエル」

 

 

彼は神父、

ガブリエル・クロウ・アンダーソン。

 

 

「気軽にクロウと呼んで下さい。この国では、身近な者同士ではミドルネームで呼び合うのでしょう?」

 

「ん〜.....まぁ、似たようなもんか。

じゃああんたも気軽に『良晴』って呼んでくれ。それから敬語もナシ。

お互いタメで話そうぜ?」

 

「はい..........いや、分かった。

これからもよろしく頼むよ良晴」

 

「あんたら、私の事完全に無視してるでしょ」

 

 

益々不満気になる信奈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれからもう2年か.....」

 

 

クロウが言う。

少し哀しげに.....

 

 

「でも対したもんよ。

あの化物野郎に真剣勝負を挑むなんてね」

 

「ふっ.....そんな大層なものではない」

 

「考えてみれば、天竜に挑んで勝てた奴なんて1人もいないよな」

 

 

良晴が言う。

 

 

「だから.....そんな事俺はしていない」

 

「他の南蛮人達が今の立場を保っていられるのも、あんたが尽力したお陰よ」

 

「あぁ、宣教はだいぶ規制がかかったみたいだけど、バテレン全員の追放までには至ってないみたいだし.....」

 

「つっ.....」

 

 

2人の言葉にクロウが怒る。

 

 

「そんな同情はいらない!!」

 

 

クロウは激昂した。

 

 

「俺はドラキュラ..........

豊臣秀長に勝負すら挑めていない!

その手前で弾き落とされた!」

 

「「..........」」

 

「奴と本当に真剣勝負できていたのなら、刺し違える所までいけていたのかもしれない!

だが、奴は.....」

 

 

クロウは天竜を倒す秘策を用意していた。それは昔、ドラキュラを倒した技で.....

だが天竜はそれを見越していて、

 

 

「奴に忍び寄る4人のアサシン!

あの4人がいる限り、

豊臣秀長には近づけない!!

案の定俺も.....

秀長と勝負する事すら出来ず、

奴らに蹴散らされた!

奴のアサシン共を退けなければ、

秀長に辿り着く事すら出来ないんだ!」

 

「..........そうだけど」

 

「あの双子、阿斗と吽斗。

それから凪と仙千代ね」

 

「凪は石川五右衛門。

それから万見仙千代重元。

今は風魔を継いで、

10代目風魔小太郎。

特に双子の方は4年の間にドンドン強くなってるって、小六も言ってた」

 

「小六?」

 

「蜂須賀の方の五右衛門だよ。

石川の方の名前が有名になっちゃって、

区別が付けにくくなったからさ、

俺があいつに名付けてやったんだ」

 

「へぇ〜」

 

「兎に角!」

 

 

話が脱線したので、

クロウが区切りをつけた。

 

 

「あの4人を秀長から引き離したい!

だが私にはそれができない。

協力してはもらえないだろうか?」

 

「「4人を引き離す!?」」

 

「うむ!アサシン共さえいなくなれば、

もう一度ドラキュラと戦える。

俺の力はドラキュラのような存在にこそ通じるが、生身で強いアサシン共には全くの無害なのだ。

だからこそ、アサシン共を秀長より離すんだ。

方法は何でもいい!

殺すのは好かないから、例えば.....

こちら側に調略したり、彼女らと秀長との絆をブッツリ切ったりして!」

 

「「..........」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。大坂城、二の丸。

 

 

「引き離せってもなぁ.....」

 

 

良晴は自身の居城の天守にて寛いでいた。

 

 

「クロウに協力するのは、

天竜を殺すって事だし.....

だからといって、クロウの信念をまるきり無視するのもやだし.....なんだかなぁ.....」

 

 

妙な板挟みに、良晴は苦悩していた。

 

 

「天竜を.....殺す、か.....」

 

 

いつから彼を呼び捨てにするようになったのだろうか。成人して、結婚して、所帯を持って.....

自分も同じ大人になってからは、あの人が妙に身近に感じてしまって.....

気付けば呼び捨てにして、

彼もそれを気にしなかった。

 

 

「天竜も.....最近は丸くなったんだよなぁ」

 

 

3年前のように、仕えた主君を次々に裏切るような極悪人だった頃とは違い、主に国造りの方に力を入れている為、誰の期待を裏切る事もなく、良き主君となっている。

 

 

「むしろ今死なれたら.....」

 

 

天竜の統治によって九州を除く日本国のほとんどが征服された。だが天竜が死ねば、また日本中が戦国時代に逆戻りとなる。

そう、天竜と同じか.....

それ以上の実力を持った者が現れない限り。

 

「世界征服の暁に、

俺は殺されるだろう。

俺を超える力を持った者に.....

侵略者に統治権はない。

魔王を倒した勇者にこそ、

国を任せられるのだ」

 

天竜はそう言った。

この場合で言う勇者はクロウか?

だが、クロウは天竜を殺す事しか考えていない。その後の世界をどうこうしようという気は全くないらしい。目的はただの復讐なのだ。

だとすると.....

 

 

「俺は.....」

 

 

ないない!俺が勇者なんて。

確かに黒船の上で俺は、本気であの人を倒そうと覚悟した事もあった。

でも.....

 

 

「俺も天竜が好きなんだよな」

 

 

いずれ倒す時が来るかもしれない。

だが今はまだ.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良晴さん」

 

「ん?」

 

 

良晴の部屋にある人物が現れる。

 

 

「半兵衛!」

 

「お久しぶりです」

 

 

竹中半兵衛、良晴の軍師だ。

 

 

「まだ5日も経ってないだろ」

 

「ふふ.....でも私は寂しかったです」

 

 

そう言って良晴の側による半兵衛。

 

 

「うっ.....」

 

「恥ずかしがらずに.....」

 

「だって.....」

 

 

良晴の腕に抱きつき、胸を押し付けられる。離れようとすると、むしろ寄ってきてしまう。信奈に見られれば、きっと殺される。

 

 

「良晴さぁん.....」

 

「半兵衛.....」

 

 

良晴が関白になってから、

半兵衛は急に良晴に接近してきたのだ。

まぁ良晴も満更でもなく、

それを受け入れていたのだ。

あの頃の幼女も3年で大きく成長した。

大人の女性の身体になり、

胸もそれなりに大きくなった。

良晴にはどストライクだった。

 

 

「官兵衛は?」

 

「はい。現在も大坂城の増強に勤めています」

 

「ふぅん。

これ以上でっかくしてどうすんだか。

チビ共もか?」

 

「はい。正則殿も清正殿も、

城造りに協力しておいでです」

 

「そうか」

 

 

福島市松正則と加藤虎之助清正。

良晴に仕えし小姓だ。

とはいえ、その実力は双方共猛将並。

若輩にして良晴軍のエースになった。

 

 

「しかし.....太閤様の側近であられる、

石田治部少輔殿や大谷刑部少輔殿とは、

とても仲が悪くて.....

いつも喧嘩ばかりしてるんです」

 

「またか。そろそろなんとかしなきゃな」

 

 

その対立が原因で、

関ヶ原の合戦を起こされても困る。

 

 

「そうだ。前田殿と柴田殿が来られていますよ?」

 

「犬千代と勝家が!?

それを早く言え!」

 

 

良晴は喜びの表情で彼女らのもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、犬千代!勝家!」

 

「「良晴!」」

 

 

そこには懐かしの友がいた。

勝家は胸がまたデカくなった事以外に変化はなかった。

ところが犬千代は、3年前からは見違える程成長し、チビだった頃の印象は残っていなかった。

まぁ、ぺちゃパイのままだが.....

 

 

「相変わらずの平らだな」

 

 

無神経な良晴。

 

 

「ふんっ!胸なんか飾り。

偉い人にはそれが分からない」

 

「その台詞どっかで聞いたぞ!?」

 

「でも天竜は分かってくれるから嬉しい」

 

「おいおい」

 

 

太閤天竜がおっぱいソムリエとして貧乳の斡旋をしている事もあり、犬千代は天竜に対しては結構高評価なのだ。

 

 

「対して勝家は.....

もうメロンどころか西瓜だな」

 

「それは貶しているのか!?」

 

「いや?俺だっておっぱいソムリエ!

俺は巨乳押しだぜ!」

 

「むぅ.....」

 

 

頬を膨らませる犬千代だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、今日は何の用?」

 

「用がなければ来ては駄目?」

 

「いや、そういうわけじゃねぇけど」

 

「最近さ、治部少輔がうるさいんだよ!」

 

 

勝家が言う。

 

 

「三成ちゃんが?」

 

「そう!何かやろうとする度に規制規制。

あいつ百姓には甘いくせに、

武家にはとことん厳しいんだよ!」

 

「まぁ、三成ちゃんは第二の天竜って言っていいくらいに頭いいしな」

 

「前にういろうの食べ歩きしてたら、

ういろう没収された。

あいつ許さない」

 

「それは食べ歩きしてたお前が悪い」

 

「「..........」」

 

「ん?どうした?」

 

「良晴。何故治部少輔を庇う?」

 

「そうだよ!お前だってあいつに規制されまくってんだろ?」

 

「まぁ.....そうだな」

 

 

案の定、良晴もまた規制されている。

実は良晴が信奈と7日に1度程度しか会えないのは、三成のせいなのだ。未だ不穏分子である良晴と信奈が積極的に密会させるのを危険と感じ、2人を引き離したのだ。

本来なら月一程度になるはずだったが、

天竜の善処によって週一になったのである。

だが、良晴はその真実を信奈にも伝えていないのである。

 

 

「三成ちゃんだって考えあってでやってるんだよ。まぁ、ちょっと厳しいかもだけど、お互い頑張ろうぜ?」

 

「むぅ.....サルもついに、

天竜側の人間になっちまったんだな」

 

「何故そうなる!?」

 

「良晴は最近、天竜と仲良くし過ぎ。

天竜は姫様から天下を奪った男。

いい奴ではあるけど、

それだけは忘れちゃ駄目」

 

「うっ.....うん」

 

 

その後も2人の多くの愚痴を聞かされた良晴であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、犬千代と勝家は帰宅していった。

 

 

「お前は帰らないのか?」

 

「泊まってもよろしいですか?」

 

「うっ.....俺の奥さん怖いんだけど」

 

「今に始まった事ではないではないですか」

 

 

そう言って良晴の腕に抱きつく。

 

 

「半兵衛最近、急に肉食系になったよな」

 

「そうでしょうか?」

 

「むぅ.....昔の半兵衛はもっとおどおどしてて、泣き虫で、結構人見知りだったよな」

 

「うふふ。女性がいつまでも変わらないなんて幻想はいつまでも抱いてはいけませんよ。女の子は好いた男性の為にいくらでも化けてしまうのですから」

 

「本当に化けたな.....」

 

 

これはこれでアリではあるが.....

 

 

「全く.....人には散々言っておいて、

お前だって不倫しまくってるじゃないか」

 

「..........」

 

「..........」

 

「ん?どうした?」

 

「なんでお前がいるんだよ!!」

 

 

いつの間にか侵入していた天竜。

 

 

「何でって.....同じ城の中だし」

 

「本丸と二の丸じゃだいぶ距離あるだろ!」

 

「吸血鬼の壁抜け術なら一直線だ」

 

「むぅ.....」

 

 

神出鬼没過ぎる。プライバシーもあったものではないな。

 

 

「側室を作る事を禁止された恐妻家の良晴くんは、鬼の居ぬ間に洗濯かな?」

 

「へっ.....変な言い方するなよ!」

 

「あながち間違いでもあるまい。

半兵衛、良晴との間に肉体関係は?」

 

「そっ.....それは.....」

 

「馬鹿!!半兵衛に何聞いてんだ!」

 

「..........」

 

 

半兵衛は意味あり気に只々顔を赤らめる。

 

 

「あるんだな?」

 

「..........はい」

 

「半兵衛!!!?」

 

「そう焦るな。お前ぐらいの年ならたった1人の女の身体なんかじゃ満足できねぇだろ。

それに漬け込んで無理な借りを作ったり、信奈に言い付けてお前の立場を追い込んだりなんかしねぇよ。

むしろ色んな女とバンバンやって経験積んだほうがずっと健康的だ」

 

「元教師の言う台詞か!!?」

 

「実はな俺は最近、撮影が趣味なんだ」

 

「!?」

 

「目に入ったものを適当にバシャバシャ撮ってるとたまに、こんなのも撮れたりする」

 

 

そう言って天竜が懐から取り出したのは1枚の写真。そこには、良晴と半兵衛が何かの店屋に入る画像が写っていた。

 

 

「それは.....あの時の.....」

 

 

半兵衛が顔を赤らめて何か言う。

 

 

「この店は茶屋のようだな」

 

「うっ.....」

 

「現代人にはピンとこないかもしれないが、この時代の茶屋は喫茶店のようなものではなく、男女の情事を行うのに便利な宿屋。いわばラブホだな」

 

「うぅ.....」

 

 

これは不倫の決定的な証拠だ。

 

 

「そんでもって、

無意識に壁抜け術を発動させながら、

無意識に撮影をしていたらな、

こんなのも撮れた」

 

 

2枚目に出した写真は、まさに情事の最中の良晴と半兵衛が写っていた。

 

 

「あんた絶対故意で写しただろ!!!」

 

「無意識だから罪はない」

 

 

絶対に嘘だ。

 

 

「あぁ、情事の最中の私はこんなにもイヤらしい表情を.....客観視してみると、とても恥ずかしいです」

 

「はっ.....半兵衛ちゃん?」

 

「それでいて、情事の最中の良晴さんはこんなにも野生的な雄の表情を.....」

 

「だぁぁぁぁ!!!」

 

 

やばい、半兵衛が変態化する!

 

 

「だが、こんなのは問題じゃない。

不倫相手が半兵衛1人なら、

まだ可愛いもんだ」

 

「いっ!?」

 

 

天竜は懐から写真を大量に取り出す。

全部、情事の隠し撮り写真だった。

しかも、複数の女性との.....

 

 

「こっちが官兵衛で、青姦プレイ。

鹿之介とはSMプレイ。

蜂須賀の忍とはアクロバティックプレイ。

犬千代とはアニマルプレイ。

勝家とは和姦。

それと、勝千代や謙信ともしてるな。

他には家康やフロイスとも.....

有名どころ以外でも、

池田恒興や佐々成政にも手を出してやがる.....

 

お前はエロゲの主人公か!!」

 

「うぅ.....」

 

 

これだけ出されればグゥの根も出ない。

 

 

「これは.....」

 

 

半兵衛も驚きを隠せなかった。

 

 

「流石の俺も引いたぞ。

まだ童貞坊やの頃が可愛いかったのに.....

どうしてこんなに汚れたのか.....」

 

「半分はあんたのせいだよ!」

 

「何を言う?

俺は中途半端に愛人など作らず、

全部側室に召し抱えるぞ?」

 

 

当時愛人だった筒井順慶も今や側室の1人だ。

 

 

「うぅ.....」

 

「だが、これも問題ではない」

 

「はぁ!?」

 

 

大問題には違いないが.....

 

 

「本題はこれからだよ」

 

 

天竜がまた写真を出す。

 

 

「つっ!!?」

 

 

正直、これが1番良晴をギョッとさせた。

そこに写っていた良晴の相手は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、孫市と寝ただろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雑賀孫市。天竜の最初の側室。

 

 

「つい最近、孫市が泣きながら謝ってきたから、何事かと思えば.....

これだよ」

 

「そっ.....それは」

 

「分かっているさ。

先に誘ったのは孫市の方。

やった後になって良心の呵責に耐えられなかったんだろうな。俺も呆れて多少叱責もしたが、そんなに怒る気にもならなかった。それ以上に.....」

 

「..........」

 

「お前さ、ちったぁ自重しろよ?」

 

「うっ.....うん」

 

「お飾りとはいえ、お前は関白だ。

主君である太閤殿下の側室を寝取ったなんて話が、世間様に広まったらお前、どう収集つける気だ?」

 

「.....あぁ」

 

「まっ、世間や俺がどうこうする前に、

お前の恐妻がお前を殺すだろうな。

文字通り問答無用で」

 

「.....うん」

 

「今回は孫市から誘ったから俺はこうやって説教だけにするが、もしお前から誘ってたなら.....

俺はお前を殺してた」

 

「..........」

 

「そして、もし相手が十兵衛だったなら、

どちらが誘ったにかかわらず、

俺はお前を殺す」

 

「心得ておく」

 

「戯け!『太閤の女は取らない』

って千回書いた調書を灰にして飲め!」

 

「うぇっ!?」

 

「冗談だ。だが、2度目はないからな。

またやれば、俺も問答無用だ」

 

「分かった.....」

 

 

そう言って天竜は去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

 

緊張が解け、良晴は息切れをする。

天竜の威圧により、一時呼吸の仕方も忘れていたのだ。

 

 

「良晴さんの性癖はともかく.....

太閤殿下は本当に恐ろしい方です」

 

「確かに俺も羽目を外し過ぎた。

これからは俺も自重するよ。

『誠死ね』のフレーズを背負った例のあの人にはなりたくないし.....」

 

「よく分かりませんが、

それがよろしそうですね。

では.....」

 

 

半兵衛が良晴を押し倒す。

 

 

「っ.....!?半兵衛!?」

 

「自重するのは明日から。

今日は付き合ってもらいます」

 

「はっ.....半兵衛!

確かに嬉しい誘いだが.....

じゃない!

さっきの今で抱けるか!!」

 

「えぇ〜.....」

 

 

不満気な半兵衛。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。ラッキースケベの進化系としてそれなのか.....今までのフラグクラッシャーよりはマシだがな」

 

「「!!?」」

 

 

まだ帰ってなかった天竜が上半身だけ壁抜けしながら、カメラを構えている。

 

 

「ん?あぁ、続けていいぞ?」

 

「帰れ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ドンドン天竜化している良晴だった。

 

 




3年で変わり過ぎだろ!!
って思うかもですが、暖かく見守って下さい。
全く変化しない方がむしろ奇妙です!(笑)
1度まとめないとゴチャゴチャしそうです。
次回予告
日本の生き神
〜私は王だ。そして彼女が神だ〜


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登場人物紹介8

お腹すいた


豊臣天竜秀長

21歳(31歳)。太閤殿下。

3年前に近衛前久を殺して太閤に就任。

北海道本州を制圧し、日本の王となった。

去年には四国の長宗我部を倒し、

九州戦に取りかかる。

3年前の東日本の制圧における外道な行いから、多くの大名から嫌われているが、農民や商人のための政策を積極的に行う為、市民の多くからは慕われている。

気に入った姫武将は次々に側室にし、

有能な部下は敵だろうと調略する。

そうして一大国家を作り上げた。

正室は明智十兵衛光秀。

子供は3人おり、全員異母兄弟。

跡継ぎは妹の秀秋という事になっている。

無類の貧乳好きで、側室にも貧乳が多い。

正体はドラキュラ伯爵。

バテレンと対立中。

 

 

 

豊臣良晴秀吉

21歳。お飾りだが、関白殿下

3年で大分たくましくなった。

勉学には乏しいものの、

奇想天外な戦略を思いつく事がある。

天竜より剣術を習い、そこまで強くはないが、実戦できるレベルには仕上がっている。

正室は織田信奈。

情事時のみ主従が逆転!?

側室を作る事を許されていないものの、

本人は複数の女性と関係を持ってしまい、完全にプレイボーイ化。愛人の中で一番のお気に入りは半兵衛である。

いつか罰が当たるだろう。

未だにタイムスリップした理由が分からず、本人も全くと言っていい程帰る方法を探さない。

 

 

 

織田信奈

21歳。右大臣。

天竜の元主君にして、最大の宿敵であったが、ついに降伏。今は彼の下に留まり、特に反逆行為をしている気配はない。

天竜が主に外交を担当をするのに対し、

信奈は良晴と共に内政を担当する。

とはいえ、最終決定権は天竜にあり、

三成を仲介して色々口出されている。

こちらもいわばお飾り右大臣。

だが今は最愛の人を夫に貰い、

とても幸せな様子。

夫婦別姓をとっている。

 

 

 

明智十兵衛光秀

20歳。太閤夫人。天竜の正室。

天竜の影響から洋服を着るようになる。

それに合わせて髪も短めのまま。

現在は長宗我部元親と四国を共同統治している。だが、普段は大坂城で暮らしている。

天竜の最大の理解者になろうと心がけ、

いつも彼の側に仕え、

お互いに支え合っている。

BカップからCカップに成長し、

天竜に捨てられないか心配している。

信奈と同じく夫婦別姓。

 

 

 

竹中半兵衛

16歳。良晴の軍師。

3年で幼女から大人の女性へと転身。

同時に性格も変化。

気弱で泣き虫だった彼女も、

今や心身共に強く成長した。

今までは控えめであった彼女も自分に正直に生きると決意し、不倫と知りつつも良晴に愛を注ぐ事になる。

 

 

 

豊臣辰之介秀秋

15歳。位は中納言。

天竜や良晴の義妹である。

元服し、立派な姫武将となった。

曲がりなりにも天竜の才能を受け継いでいるため、やや性格が捻くれ始めている。

現時点で、次期関白。良晴に不幸が起きて、関白を辞職しないか願っている。

 

 

 

ねね

13歳。位は北政所。

秀秋同様天竜や良晴の義妹。

元服したものの姫武将にはならず、兄達のサポートに務めている。

算術の力、理財に大きく長け、

その才能は三成にも匹敵。

若き姫武将らの姉的存在。

兄弟の仲を繋ぐ唯一の存在でもある。

 

 

 

石田佐吉三成

17歳。位は治部少輔。

天竜の右腕として、更なる力をつける。

天竜に出会うまでは底辺の暮らしをしていた為か、立場の弱い百姓らには優しい。だが逆に、それまで散々猛威を振るってきた武家社会には不満を抱き、最近は武家に不利な政策を行ったりもしている。

日本が一つに統一されれば、日本人同士で殺し合う為に用意されたような武士は必要なくなる。彼女は武士の必要のない世界を作ろうとしているのかもしれない。

 

 

 

大谷紀之介吉継

16歳。位は刑部少輔。

三成が右腕なら吉継は左腕。

医術もだいぶ発達し、火傷跡も多少なら隠せられるようにもなったが、彼女はそれを拒否。相変わらず仮面を着けている。

三成の親友にして最大の理解者。たまに暴走してしまう三成を冷静に諌めている。

未だ佐吉・紀之介と呼び合う仲。

 

 

 

福島市松正則・加藤虎之介清正

共に15歳。良晴の小姓。

実は4年前から良晴に仕えている。

(当時は天竜をピックアップしていたので)

良晴軍団の中でも特に若輩にもかかわらず、その実力はエース級。鹿之介とも互角に渡り合う程である。

特に清正は城造りにも精通し、

官兵衛と共に大坂城を増強しており、いつか自身の居城を自身の設計で造る事を夢見ている。

融通が利かない三成と対立。

 

 

 

長宗我部元親

18歳。土佐国大名。

元四国覇者の麒麟児。天竜傘下に入る事を拒み、戦争状態に突入した。それまで散々同盟を破棄されてきた事もあり、痺れを切らした天竜は全力を持って四国を襲撃。去年にはついに大敗し、降伏。

罰として土佐を除く3国を没収され、

天竜の側室になった。

政略結婚や恋愛結婚で天竜の側室になった者は多くいるが、罰として結婚したのは彼女が初めて。

仕方なく従っているが、

未だ天竜を憎んでいる。

まぁその度に良晴と十兵衛が諌めて、

残りの3国も十兵衛預かりという事となっているので、取り敢えずは大人しくしている。

現在、九州攻めの任を受けている。

 

 

 

小早川隆景

中国大名輝元の後見人。

まだ若輩である輝元を常にサポートしており、自身の才能を必死に妹分に植え付けようと努力を重ねる。

3年前に最後の抵抗を見せ、

天竜討伐の為の軍船を貸し出したが、

天竜はそれすらも打ち破り、

関白、太閤へと就任した為、

そこで改めて降伏を決意した。

天竜を正式な天下人と認めたのだ。

それ以降は、父の遺言通り天竜を支えていくと決意。天竜もまた彼女を信頼し、本州における最大の味方となった。

当初は、監視役として天竜の側室の清水宗治が睨みをきかせていたが、和解後は彼女とも再び交流し、今も仲がいい。

 

ところで、最近表舞台に出てこない

姉の吉川元春だが、実は.....

 

 

 

毛利輝元

中国3代目大名。

まだ幼女だが、確実に祖父元就の才能を受け継いでいる。2人の姉代わりと暮らし、特に隆景の才能を強く受け継ぐ。

最年少大名であるが、

天竜の為に役立とうと努力している。

 

 

 

上杉謙信

21歳。越前大名、関東管理職.....という役職にあるものの、未だ関東は手に入れられていない。

天竜の養子でもあり位は高いが、

彼女はその位をむしろ嫌っている。

右手に悪魔の手を持ち、それで命を繋いでいる。だが、血を飲むことをなるべく避けているので、最近また髪が白くなった。

義妹の景勝を溺愛。

異母姉妹の直江兼続と百合関係にあると噂が立っているらしいが.....

 

 

 

上杉卯松景勝

6歳。次期上杉家頭首。

天竜の実子として、幼少期に本人も半分も理解せずに上杉家に入る。

父と姉両方を愛しており、

2人が対立する事を知らずに防いでいる。

母は未だ不明。

 

 

 

武田勝千代信玄

21歳。元甲斐の大名。

元家臣の幸村に完全に地位を奪われ、

ほぼ隠居状態。

最近、病に侵されているらしいが.....

 

 

 

真田幸村

17歳。北中部大名。

元武田の領地を治め、それに反抗する勢力を次々と潰していった、天竜軍のエース。

天竜の理想の肉体となり、

彼と結婚できる事を望んでいる。

彼女は武士だけでなく百姓らにも人気であり、彼女の武勇伝を知らぬ者はいない。

 

 

 

徳川家康

16歳。南中部の大名。

今は天竜に従っているが、

腹黒く、天竜を倒す機会を伺っている。

 

 

 

古田織部重然

18歳。仮関東管理職。

元関東大名の北条氏康が記憶喪失な上に引きこもりの為、彼女が代理で関東を収めている。裏方仕事を得意とすら彼女には少々荷が重いが、周りにサポートされながら、然るべき相手に明け渡す事になろう。

 

 

 

伊達梵天丸政宗

15歳。東北部大名。

天竜を裏切って奇襲するも失敗。

天竜に降伏する事になる。

その際会津を没収され、

そこに氏郷が入った為、

彼女と対立する事に.....

 

 

 

蒲生氏郷

17歳。会津大名。

天竜が、梵天丸とぶつけさせる為にここの領地をあえて与えた。天竜と同じく異端者である梵天丸とは犬猿の仲になる。

 

 

 

松前新三郎慶広

20歳。北海道大名。

未だに幼名の天才丸を名乗る。

広い北海道を1人で治めている。

天竜が信頼を置いている者の1人。

現在、アイヌの族長ネラシャインと対立。

 

 

 

千利休

現在指名手配中。

降伏した氏郷と違って反抗を続けた為に指名手配に。元弟子の織部くらいしか頼れなく、彼女の下に身を寄せる。

喋るようになり、正々堂々戦う事を決意。

 

 

 

ガブリエル・クロウ・アンダーソン

23歳。現在指名手配中。

天竜に1度敗北。

良晴信奈のもとに身を寄せる。

天竜単体であれば倒せるが、彼を守る4人のアサシンだけは倒せないと自負。良晴信奈に天竜から引き離すように依頼した。

妹のミッシェルは.....

 

 

 




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第五十九話 日本の生き神

現在自動車教習所に通い中


会津。陸奥から切り離した元伊達の領地。蒲生氏郷はその会津における最大の都市黒川に居城を建築する。

やがて、この地を伊達でも天竜でもない、蒲生流に上書きするかの如く、都市名を改称。

そう、『若松』と。

会津若松城に帰参した氏郷は激昂していた。

 

 

「くっ.....!!」

 

 

またしてもだ!

3度目の年越しを迎えても、

私はまだ奴に頭を下げ続けている!

 

 

「こんなものの為に.....!」

 

 

氏郷の手には、天竜が新年会の出席者全員に土産として配った『天正大判』があった。

 

 

「こんなもの欲しさに奴の下僕になったのではないわっ!!」

 

 

氏郷は天正大判を床に叩きつける。

だがそのつもりだったのが、

大判は氏郷の右手からすっぽ抜け、

そこらに転がる。

 

 

「おのれ.....」

 

 

それも当然、氏郷に左腕はなかった。

バランスが取れにくくなっているのだ。

3年前の箱館海戦において天竜に左腕を喰われ、それ以降ずっと隻腕のままなのである。

 

 

「.....未だに傷が痛む」

 

 

身体的傷の痛みではない。

それは天竜の陰陽術で完治した。

問題は精神的傷である。

 

確かに腕は喰われた。だが、その直後に術をかけられ、出血死する事も破傷風にもならずに済んだ。

あのドラキュラに情けをかけられたのだ。

私は彼を殺そうとしていた。

そのまま放置して私が死んだ方が、

奴には好都合だったはず。

なのに、奴は私を助けた。

討伐対象に助けられた。

これ程の屈辱があってたまるか。

 

さらに伊達政宗。

彼女もドラキュラを倒さんとする同志であるにもかかわらず、異端者。私の行動をしつこく邪魔してくる腹立たしい存在だ。

 

だが、それよりも大きな問題がある。

 

 

「奴の様子はどうであったレオン」

 

「コエリオ様.....」

 

 

利休、クロウと同じく指名手配犯。

3人はバラバラの場所で匿われているのだ。

 

 

「奴を殺してきたのか?」

 

「.....できるわけないではありませんか。

奴は今や太閤。ただでさえ守りが固いのに.....奴をあそこで仕留めたら、私まで殺されます」

 

「ドラキュラの討伐は名誉あること。

それで死んだ者は殉教者として、

聖人として称えられよう。

お前は刺し違えてでも、奴を殺すべきだった」

 

「!?」

 

 

氏郷は愕然とした。

この男は私に死ねと言ったのだ。

 

 

「もっ.....申し訳ございません」

 

「次会う時は必ず殺せ」

 

「くっ.....」

 

 

氏郷は歯痒い思いをしていた。

 

 

「叔父が殉教されてから3年。

貴様らはいつになれば、

その仇が取れるのだ?」

 

「申し訳ございません」

 

 

手前ぇが自分でやれ!

 

 

「私をいつまでこんなカビ臭い地にいさせる気だ?」

 

「申し訳ございません」

 

 

匿われてる分際で偉そうに!

 

 

「家はボロボロ。食は不味い。

文化は未発達。争いしか知らぬ阿呆共め」

 

「申し訳ございません」

 

 

何故私が謝る必要がある!?

日本文化を理解しようともしない奴に!?

 

 

「謝るしか能がないのか?

これだからジャップは.....」

 

「.........」

 

 

カチンッ!

 

 

「ふざけんなよこの白豚ぁ!!!」

 

「!!?」

 

 

氏郷が急に暴言を吐いた。

 

 

「はっ!?」

 

 

ハッと、今自分がしでかした事に気づく。

 

 

「れっ.....レオン!?聞き違いか?今とんでもない言葉を聞いた気が.....」

 

「きっ.....聞き違いです!

やだなぁ!私がコエリオ様に暴言なんて言うわけないじゃないですか!」

 

「ならいいが.....」

 

 

ちっ.....!

 

コエリオは白豚の名をそのまま当てはめたような百貫太りの宣教師。つい本音が出てしまった。

 

 

「全く、ジャップはこれだから」

 

「くっ.....!」

 

 

カブラルの時もそうだったが、

この宣教師らの人種差別行動は目に余るものがあった。いくらキリシタンとはいえ、流石の氏郷もこれには怒りを覚える。図々しくこの若松城でわがままばかり言うコエリオに、氏郷はそろそろ限界に来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲斐、躑躅ヶ崎館。

ほぼ没落したに等しい武田家の最後の領地である。武田の領地や兵卒の多くが真田家に吸収され、信玄の後継者である武田勝頼こと四郎も、幸村預かりなのだ。だがそれでも、武田家が完全に滅亡しなかったのは、天竜の善処によるものであろう。

 

 

「これは、太閤殿下様!」

 

「おう、久しいな昌景」

 

 

山県昌景。未だに小柄の彼女は、多くの将が真田に流れた後も武田家に残り、信玄を支えていたのである。

高坂昌信や馬場信房は真田家へ。

内藤昌豊は豊臣家へ行った為、

武田四天王は消滅したと言える。

 

 

「勝千代は?」

 

「芳しくありません。

ずっと寝込んでいて.....」

 

「そうか」

 

 

過去に裏切られ、恨みを抱いていた昌信も、身分の差だけはキッチリしているようで、天竜に対しては礼儀を尽くしている。

 

問題は信玄だった。

 

 

 

 

 

 

天竜は彼女の寝室を訪れる。

 

 

「あっ、太閤殿下様!」

 

「よい、そのままで」

 

 

信玄を担当していた医者が治療を中断して慌てて頭を下げようとしたのを天竜はやめさせた。

 

 

「玄朔、勝千代の様子は?」

 

 

曲直瀬玄朔。ベンジョールこと道三の姪にして、養子にして、後継者である。

 

 

「はっきり言って、

信玄様は重病にかかっておられます。

熱は高体温にもなれば低体温にもなり、

嘔吐を繰り返し、下痢が止まりません。

たまに吐血をする事もしばしば。

父さえいれば.....」

 

「いや、道三でも無理だろう。

恐らくこれは病ではなく、

呪いの類いだ」

 

「呪い!?」

 

「あぁ、俺の専門分野だ」

 

 

そう言い、天竜は苦しむ信玄の傍に座る。

そして、彼女の胸部に手を添えた。

 

 

「慈鬼流!」

 

 

突然、天竜の手が鮮やかに輝きだす。

 

 

「どんな術による呪いかさえ分かれば治しようもある。陰陽術か幻術か魔術か.....」

 

 

天竜は特殊な術によって、信玄にかかった謎の呪いの正体を探る。

 

 

「むっ?」

 

 

とある異変に気づく。

 

 

「どれも当てはまらない。

陰陽術でも幻術でも魔術でもない。

これは一体.....」

 

 

その時一筋の電撃が流れ、

天竜の手を強制的に弾いた。

 

 

「つっ!?」

 

「殿下!?」

 

 

玄朔が案じたが、天竜は気に留めなかった。

 

 

「まさかとは思ったが.....これは」

 

 

天竜は冷や汗をかく。

 

 

「これは『神術』だ」

 

「しん.....じゅつ?」

 

「神の呪術と書いて神術。

神術は世の中の運命そのもの。

世の中の流れそのものなのだ。

あらかじめ決められていた事。

変更は不可能」

 

「不可能?」

 

「歴史の特異点の修正?帰られし記録がが本来のあるべき姿へと戻るというのか!?」

 

 

天竜が言っている意味が分からない。

 

 

「良晴によって死を回避した武田信玄。

だが、それすらもなかった事に!?」

 

 

死の回避の事実が消滅。

 

 

「俺の記憶と史実が正しければ、

武田信玄は病死する。

この神術が確実に発動すれば、

多少の時差があろうとも、

勝千代は死ぬ。絶対に.....

くそっ!!」

 

 

天竜は床を殴りつけた。

 

 

「神はこの俺からまた奪うのか!!

.....いや、そうはさせない!

絶対にさせてやるものか!

抗ってやるぞ!

神の定理という奴に!」

 

 

この時代が武田信玄を必要としていないのならそれでいい。その代わりに俺はその定義ごと全てを叩き潰してやる。

 

 

「勝千代よ。

貴様の死はこの太閤が剥奪する。

もう少しこの愚かな世にて、

もがき苦しんででも生きてもらうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、

九州島津家より使者が参った。

 

 

「はじめますて。豊臣秀長殿」

 

「太閤殿下に無礼であろう!」

 

 

使者に対し、三成が叫ぶ。

 

 

「我が主君はやそよ認めていませぬ。

『成り上がりの太閤に対し、礼儀をすっぱいす必要なし』とのこと」

 

「馬鹿にも程がある!」

 

 

三成は激怒していたが、

天竜はニヤニヤと笑っていた。

使者にここまで言わせるか.....

島津とは面白いな。

 

 

「確かに俺は成り上がった。

没落した貧乏陰陽師が、

大名の位にまで跳ね上がり、

多数の部下共を従え、

戦国最強とまで言われた武田上杉北条を倒し、伊達毛利を抑え、蝦夷の地まで制覇した。最後には織田を屈服させ、太閤となり、それまでの貴族制度を変革させた。

去年には四国を落とした。

北九州の大友宗麟は既にこちら側。

世の流れも知らずに、田舎大名がこの天下人に牙をむいているのだぞ?

これ程愚かな事が他にあろうか」

 

 

天竜は天下人の風格でそれを言う。

 

 

「確とそうかもしれん。けども、あたいどん島津にも誇りがある。 強き者に従ごは世の習いかもしれんが、 お前如きに媚びを売っのだけは嫌でごわす」

 

 

鹿児島弁が強いが、

なんとなくは理解できる。

だが、この使者の男.....

たかが使者にしては、やけに口が達者だ。

 

 

「なるほどな。

ところで、貴殿の名を聞くのを忘れていた。名を何と申す?」

 

「.....おいどんは」

 

 

使者は名乗る。

 

 

「16代頭首島津義久が弟、

島津義弘でごわす」

 

「くはっ!」

 

 

天竜は邪悪な笑顔で吹き出した。

 

 

「島津義弘といえば、

島津軍の副司令ではないか!

その副司令自ら使者として参ったと?」

 

「だからそう言っちょる」

 

「ぷっくっくくくくくくくくくくく.....

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!

お前のような奴を見るのも久々であるが、お前を送り出したお前の兄はどんな奴であろうか!」

 

「姉者は女子でごわす!」

 

「そうかそうか、すまぬ。

ふっくくくくくくくくくくくくくく.....」

 

 

天竜は腹を抱えて爆笑している。

三成は、しばらく見なかった天竜のこの姿を見て唖然としていた。

 

 

「お前らのような愉快な馬鹿は、

元親依頼の久しぶりだ!

あぁ.....武者震いがしてきた。

お前らと直接戦ってみたい!

お前らを叩き潰してみたい!

お前らを屈服させてみたい!

お前らを征服してみたい!

滅さず、陥れず、ただただ征服したい!」

 

 

天竜は力強く語った。

その表情は無邪気な子供にも見える。

 

 

「ふっ.....

やれるやいがなっものならやってみな!」

 

「勿論!九州は全力で征服させてもらう!

よき戦であらんことを!」

 

「ふっ.....」

 

 

義弘は改めて宣戦布告されたにもかかわらず、満足気で大坂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一つお聞きしても宜しいですか?」

 

「ん?」

 

 

義弘が去った後、三成が尋ねる。

 

 

「太閤殿下様は、この日の本を統一され次第、どうされるおつもりで?」

 

「天竜でいい。

今更気遣う必要もなかろうに」

 

「では失礼ながら.....天竜様」

 

「うむ。それが1番落ち着くよ」

 

「..........」

 

 

三成はやや頬を紅潮させた。

 

 

「まず最初の目標としては、

アジアの統一だな」

 

「亜細亜の?」

 

「そっ。手っ取り早く、

『大日本亜細亜帝国』を作りたいな」

 

「だっ.....だいに?」

 

「『大日本亜細亜帝国』だ。

まっ、あくまで目安なだけで、

目的はアジアを一つの国家にする事だ」

 

「亜細亜を.....国に?」

 

「あぁ。佐吉、アジアで重要な国とされる三国はどこか分かるか?」

 

「重要な国ですか?

.....明と.....天竺と.....朝鮮ですか?」

 

「随分卑屈だな。

この国はどうしたこの国は?」

 

「あっ!」

 

「朝鮮は昔から支那の属国。

朝鮮と明は合わせた国であると考えて、

三国は明、天竺、日本と言える。

ここで昔話をしよう」

 

 

天竜は話を続ける。

 

 

「この国にはとある天下人がいた。

その者は、俺と同じくアジアの統一を目指していた。その第一目標として、明を狙った。

だが、彼は明を攻める上で、朝鮮を先に落とすべきと考えたんだ。

当時、世界における最強の軍隊は日本兵とされた。1度に十数万の兵を動かすような奴は日本ぐらいだからな。

圧倒的物量により、初戦は日本軍の圧勝だった。だが、大きな問題が起きた。分かるか?」

 

「.....病ですか?」

 

「正解。流石佐吉だ。

日本と朝鮮では気候も衛生面も大きく変わる。現地人には普通のものも日本人には猛毒だったりしたんだ。

向こうにもそれなりの知識があったようで、糞尿をぶっかけられて強制的に病気にさせられたらしい。

あとは食糧問題なども重なって、

朝鮮侵略は失敗に終わった。

だが、失敗理由は前述以外にもう一つある。それは分かるか?」

 

「明ですかね」

 

「はたまた正解。

朝鮮をいくら攻めようが、

明が無尽蔵に援軍を送り出すために、

いくら奮戦しようが終わらない。

火の粉をいくら振り払おうが、

燃え盛る炎は消せない。

降りかかる炎は元から断つ!

明を直接叩く!

そうなれば属国の朝鮮も自然と落ちる!」

 

「ですが.....明は強国です。

今の日本の国力で倒せるのでしょうか?

病と食糧の問題もありますし.....」

 

「だからだ、ギリギリまで日本兵は使わない。もう一つの強国を明にぶつけさせる」

 

「まっ.....まさか!?」

 

「天竺.....インド・ムガン帝国を調略する。

なんとか日本の味方につける。

実力が近い両国をぶつけ、

両国が衰退した所で漁夫の利する!

これが天竜太閤の策略よう」

 

「なっ.....なっ.....!?」

 

 

この御方は他国すら手の平で踊らそうとしているというのか!?

三成は驚愕する。

同時に、憧れの念が強くなる。

 

 

「何処までも着いて参ります!」

 

「ふふっ.....」

 

 

跪く三成の頭を天竜はそっと撫でてやった。

 

 

「俺はアジアを制圧次第、

日本国領土を陛下に返上し、

支那の地に首都を移そう。

アジアさえ統一できれば、

世界征服も夢ではなくなるのだ」

 

「はい。貴方様なら不可能ではない。

いえ、必ずできるでしょう」

 

「ふっ.....今の俺は日本国王。

だが、いずれは日本を神の国に、

生き神たる陛下に大日本を、

そして俺は世界王に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にできるのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

その女は現れる。

この国に3人といない、

純血のヴァンパイア。

 

 

「はろろ〜ん!」

 

「光.....!」

 

 

天竜は怒りが混じった静かな声をあげる。

 

 

「貴様.....何しに来やがった!」

 

「む〜ん。折角愛妻が来てあげたっていうのに。つれないな〜」

 

「黙れ!」

 

 

天竜の彼女に対する怒りはさらに増していた。

 

 

「貴様のような汚物は見とうない!

さっさと立ち去れ!!」

 

「消えてほしいのなら、

文字通り消してしまえばいいじゃない?

さぁ、どうぞ?」

 

 

光は両手を広げて、無抵抗を主張する。

 

 

「いくら不死者といえど、

消し方は存在する。

貴方だって知っているでしょう?」

 

「くっ.....!」

 

 

天竜はそのまま部屋を出て行ってしまった。

 

 

「天竜様!」

 

 

三成がその後を追う。

 

 

「ふふふ.....」

 

 

ドラキュリーナはただただ微笑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜様!」

 

「そう叫ぶな。俺はここにいる」

 

 

天竜はすぐ外の縁側に座っていた。

 

 

「やはり.....あの.....」

 

「あぁ、俺は二度とあいつと和解するつもりはない。例え生まれ変わってもな」

 

「では、何故奴を討とうとされないのですか?奴の言う通りならば、天竜様は勘解由小路光を倒せるのでしょう?」

 

「あぁ」

 

「なら、何故?」

 

「ふっ.....俺にも分からん」

 

 

天竜は遠くを見てそう言う。

 

 

「.....やはり、まだ彼女らの事が忘れられないのですか?」

 

「...........忘れられるわけないであろう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、天竜が太閤に就任した翌年の事である。とある2人の姫武将は重装備にて身構えていた。

 

 

「よし!やるぞヒコ!」

 

「合点承知!」

 

 

天竜軍古参の将、宮本武蔵。

室町幕府管領、今川氏真。

天竜に残された2人の弟子がある人物を倒さんと意気込んでいた。

 

 

「「打倒左馬助!!」」

 

 

明智左馬助光春。十兵衛の従姉妹。

武蔵や氏真の姉弟子にもあたり、

天竜の一番弟子。

だが、天竜に恋をしたのが

悪夢の始まりだった。

十兵衛との恋を成就させたかった天竜は、ある意味邪魔者である左馬助を無意識に遠ざけていた。それが、左馬助の精神を壊した。いや、元々壊れていたのかもしれない。

彼女は失恋の悲しみを打ち消そうとしているかの如く、人斬りを始めた。多くの女子供が犠牲になったと言われる。

その結果、その毒牙は天竜の側室らにも及び、十兵衛も襲われた。

すんでの所で十兵衛は救われたが、

代わりに佐々木小次郎が餌食とされた。

怒り狂った天竜は討伐軍を出し、

最後は彼自身の手で左馬助を異次元に追放し、その事件は幕を閉じる。

だが数ヶ月後、左馬助は風魔小太郎として戻って来た。400年の恨みを携えながら.....

以前愛した妻であるという秘密を抱えて.....

 

左馬助こと光は、死ぬ事を望んでいた。

最愛の者から拒絶され、この世への未練など残っていないにもかかわらず、死にたくても絶対に死ねないのだ。

だからこそ、自身の殺害を天竜に依頼した。

天竜も言われた通り、彼女に対して考えうる全ての殺害方法を試した。あるたった一つの方法を除いて.....

ある時、その最後のたった一つの方法こそが、光を殺せる唯一の方法だと気づいてしまった。

光は頼み込んだ。

その方法を実行してほしいと、

だが何故か、天竜はそれを断った。

殺せるはずなのに.....

殺したいはずなのに.....

 

 

 

 

 

 

 

だから光は.....

天竜に殺意を沸かせる為に、

再び人斬りを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでもなお、光を討とうと動かない天竜に痺れを切らし、2人の剣豪が行動に移した。

 

 

「もう放っておけない。

左馬助討つべし.....」

 

「あぁ、あたしも同感だ!

本来ならもっと早くにあいつを止められるはずだった!あいつに情けをかけた天竜の責任だ!」

 

「天竜は悪くない。

悪いのは悪行の限りを尽くす左馬助」

 

「けどな.....天竜がこうも非協力的だと、

あたしらは命令違反してるのと一緒になるじゃんか。あいつと心中するなんて嫌だぞあたしは!」

 

「天竜、最近ちょっと冷たい。

特に昔話しようとすると、

天竜凄く怒る」

 

「あぁ、特に左馬助関係の話か」

 

「もしかしたら天竜は.....」

 

「まだあいつの事を.....」

 

 

2人はある想像をする。

 

 

「あいつは今病んでる。あたしらがその原因を取り除いてやんないと!」

 

「.....左馬助を殺す!」

 

 

2人は刀を持つ。

 

 

「「いざ、出陣!」」

 

 

2人だけの討伐隊が今動いた。

 




3年でキリシタンらの思いも変化。
そして九州島津にも動きが.....
さて次回は2年ぐらい前の話です。
次回予告
姉妹弟子
〜あの頃にはもう、戻れない〜


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第六十話 姉妹弟子

現在は北海道。
寒くて寒くてサムムムムーン!


2人の討伐隊は、ここ数ヶ月行方不明の明智左馬助光春こと勘解由小路光を追っていた。天竜が太閤に就任する直前に、氏真の前に姿を現したというが、それ以降はよく分からない。気付いたら消えていた。

武蔵も氏真も、天竜子飼いの将として、ある程度の権力を持っていた。その権力を利用し、光の徹底捜査が行われたのだった。

それから数ヶ月後、奴本人より手紙が来たのだった。

 

 

「ヒコッ!」

 

「うん.....」

 

 

手紙の内容はこうだった。

 

 

『拝啓 宮本武蔵様、今川氏真様

お久しぶりですね。明智左馬助光春です。

今は結婚致しまして、

勘解由小路光と名乗っております。

娘も1人います。

貴方方にはここ数年の話かもしれませんが、私には数百年の時差ありますので、貴方方とは本当に久しぶりなのです。

ですが、今でも当時の思い出は何故か鮮明なのです。武蔵殿や氏真殿。そして、今は亡き友の小次郎との剣の修行は今でも忘れられません』

 

「.....友だとう!?」

 

 

武蔵が怒りを表す。

手紙は2枚目に移る。

 

 

『さて、貴方方はこの私を倒さんと、

ヤッケになってこの私を探し回っておられるようですが、いいでしょう。貴方方が望むのなら、私は貴方方の前に再び姿を見せます。

たかだか人間風情が、このヴァンパイアを倒すというのなら、受けて立ちましょうぞ。

播磨のあの場所で.....』

 

 

それは、以前決闘した地を指していた。

 

 

「ふざけやがって!」

 

 

武蔵は手紙を引き千切った。

 

 

「行くぞヒコ!播磨へ!」

 

「分かった!」

 

 

ピリリリリリリリッ!!!

 

武蔵の懐から機会音が鳴る。

 

 

「あいつか.....」

 

 

武蔵は確信していた。この世に自分に電話してくる奴なんて.....

武蔵は慣れない手付きで電話に出る。

 

 

「なんだ天竜?」

 

『なんだじゃない。電話に出る時は

「もしもし」だ』

 

「..........もしもし?」

 

『お前達、何をする気だ?』

 

「何って.....お前の因縁に蹴りを付けてやるんだよ」

 

『馬鹿が!奴とお前らの実力差をまだ測れないのか!!以前死にかけたのを忘れたのか!!』

 

 

電話の向こうで、天竜は怒っていた。

だが、

 

 

「そんな危なっかしい相手をいつまでも放置してるのはどこのどいつだよ!」

 

『うっ.....!?』

 

「あたしだって無知じゃない。

お前は不死身である左馬助を殺す方法を知ってるにもかかわらず、躊躇してそれをしないって事もな!」

 

『..........』

 

「なぁ、天竜。今やお前は太閤だぞ?

幕府が塵みたく衰退してる今、

日本の頂点はお前だぞ?」

 

「幕府管領である私としては、今の言葉に撤回を求めたい.....」

 

『..........』

 

「国の王は民衆に支えられ、

民衆を率いてかなきゃならない。

だが、お前は民衆を無差別に襲う左馬助を放置している。それはいいのか?」

 

『..........』

 

 

武蔵の知力は乏しい。

だが、このような事に関してはズケズケと言う奴だ。天竜も言葉が出ない。

 

 

「まだ左馬助が好きなんだろ」

 

『.....っ!!?』

 

「.....その反応でガッテンいったよ。

前の決闘でも、異世界に飛ばしちまった左馬助に対してお前は、泣いてまで自身の行動を後悔してたしな」

 

 

あの時天竜は、当時はまだ体内にいた朧に身体を乗っ取られ、気付いた時には無意識といった状況になっていた。

 

 

「しかも聞けば左馬助は、飛ばされた先が400年も経った未来で、そこで出会ったお前と結婚したんだろ?

まぁ.....あいつの事だから、自然を装って計画的に結婚に持ち込んだんだろうけどな。夫婦生活もそこそこ円満だったらしいじゃねぇか」

 

『..........』

 

「その後何があったかは知らないが、

お前はこの時代に来た。

それを追って奴も来た。

いくら小次郎を殺された過去があるからといって.....自分のカミさんの正体が分かったからといって.....それまでの思い出まで消え去るとは到底思えない。

愛情とか友情ってさ、ちょっとの事では壊れるもんじゃねぇだろ。例え喧嘩したって、結局は仲直りする」

 

『ふっ.....小次郎と喧嘩ばっかだったお前からそれを聞かされるとはな。競い合ってるのは表だけで、裏では大親友だったのかい?』

 

「好敵手だ。お互い認め合ってた』

 

『ふっ.....』

 

「お前は大の天邪鬼だ。昔からな。

口ではあいつを殺すとかほざきながら、内では真逆の事を考えて.....

お前は優し過ぎる。

小早川隆景にも、北条氏康にも、

武田信玄にも、上杉謙信にも、

伊達政宗にも、長宗我部元親にも、

豊臣秀吉にも、織田信奈にも.....

鬼のような卑怯な所業をしておきながら、なんだかんだで奴らの事を思って、何かしらの対処をする。

誰にも褒められない。

誰にも理解されない。

なのにお前は必ず他人の為に動く」

 

『ふっ.....お前には俺はそう写ってんのか』

 

「そのまんまだろ。

何年分の付き合いだと思ってんだ?」

 

 

武蔵はその身体の小ささとは裏腹に大人だった。精神はとてつもなく大きかった。

 

 

「あたしらが死ねば、お前はあいつ本気で殺そうと考えるのか?」

 

『なっ!?.....お前らまさか!?』

 

「バーカ。ただで殺されるとでも思ったか?

あいつに敵わない事ぐらいは理解してる。

でも、でもな。

前回の戦いであたしは生き延びた。

それは私が逃げおうせたんじゃない。

織部やお前に助けられたからだ。

この宮本武蔵がお荷物になったんだ。

こんな事.....納得いくわけがない!」

 

『馬鹿が!

そんな下らないものの為に、

己が命を捨てるのか!!』

 

「お前は陰陽師だからな。

侍の志なんか分からんだろ」

 

『剣豪という名の無職だった奴が何を言う!』

 

「天竜.....あたしは.....まだ小次郎の仇をこれっぽっちもとれてないんだ」

 

『うっ.....』

 

「復讐したって、何もならないのは分かっている。でも、友を殺した奴が今ものうのうと生きて、無実な民を殺し続けている事に.....

あたしは我慢ならない!」

 

『武蔵.....お前は小次郎と約束したはずだ。

拾を立派な剣士に育て上げ、

いつかあいつの代わりに決闘すると.....』

 

「....................ごめん。それは無理になった」

 

『この単細胞の大馬鹿が!!』

 

「そんな怒るなよ。お前らしくもない。

いつもみたく冷静に対処してくれ」

 

『俺の弟子は皆馬鹿だ!

悪魔に唆されて魂を売ったり、

自分を殺した相手を許そうとしたり、

自殺行為に近い事を、誇りだ仇討ちだなんて理由で、平気でやろうとして.....』

 

 

天竜の言動は震えていた。

電話の向こうで泣いているようだった。

 

 

「お前の弟子だからだよ。

お前と会わなければ、あたしはいつまでも、奇襲とかの卑怯な戦法しか取らなかった。小次郎とだって、まともに戦う事だなんてなかっただろう。

仇討ちだとか、他人の為に刀を振るいたいなんて思えるようになったのはお前のお陰だ。ありがとう」

 

『馬鹿が.....全然嬉しくもないぞ』

 

「そんじゃ、もう切るぞ?

そろそろ約束の刻限だからな」

 

『駄目だ、切るな!

場所を教えろ!俺も向かう!』

 

「それこそ駄目だよ。

今の動揺してるお前じゃあ、

多分、左馬助を殺せない。

あたしらの死を受けて、

気持ちが落ち着いて、

覚悟が決まった時に、

あいつを殺しに行け」

 

『何を言ってるんだ武蔵!!』

 

「それじゃあな..........

どうやって切るんだっけ?

まぁ、いいや」

 

『おい、武蔵!!』

 

 

武蔵は携帯をへし折った。

 

 

「もういらないしな.....」

 

「覚悟は決まった?」

 

 

氏真が問う。

 

 

「勿論。そっちは?

お前は新しい家族ができたんだ。

なのに、わざわざあたしに付き添わなくていいんだぞ?」

 

「いい。刹那の時間だったけれど、

幸福は実感できた。

姉上とはまだ蟠りがあったけど、

私はもう、許した」

 

「そっか〜.....あたしは一度でいいから男と一発やってみたかったなぁ」

 

「なら、素っ裸で歩けばいい。

荒くれ者が処女を奪ってくれる」

 

「いや!犯され願望があるわけじゃねぇよ!?どうせだったら天竜と.....」

 

「つまり弟子の中で天竜に抱かれなかったのは武蔵だけ..........ぷっ」

 

「あっ、手前ぇ笑ったな!?

..........ちょっと待て!

お前はどうなんだよ!」

 

「私は塚原卜伝の弟子時代に.....

あの頃は同期で対等だったし.....」

 

「ズルいぞお前!!

唯一のおぼこ仲間だと思ってたのに!!

というかその頃のお前ってガキだろ!

やっぱあいつ幼女好きだったか!」

 

「うるさい。死ねばいいのに」

 

「あぁ〜、押し倒してでも天竜とやればよかった」

 

「そんなに言うなら股を開いて。

鞘で刺せば、膜なんてすぐ破れる」

 

「そんな事したら、痛くて決闘どころか馬にも乗れねぇよ!第一あたしは処女を失いたいんじゃなくて、男とやりたいの!」

 

「そんな、女子が大声で.....」

 

 

氏真は呆れ顔をする。

 

 

「それなら僕が抱いたげよっか?」

 

 

突然声が聞こえ、煙玉と共に彼は現れる。

 

 

「「吽斗!?」」

 

 

双子忍者の片割れ、吽斗。

当時は全く判別できなかった2人だが、成長期に入り、姉の阿斗の方は大分女らしい身体つきとなり、誰が見ても、2人を判別できるようになっていた。

だが、通じなくなったのは入れ替わり術のみであり、2人の強さには更なる磨きがかかっていた。

とはいえ吽斗が女装すれば、またもや阿斗との判別がつかなくなるのだが.....

 

 

「天竜から姫武将殺しを習ってるから、女の子の抱き方くらいわかるよん?」

 

 

主に阿斗が男性を、吽斗が女性を相手にし、籠絡や暗殺をしたりする。まぁ、吽斗が女装して男性を相手にし、そのまま暗殺してしまう事もある。

 

 

「いや、やっぱいい.....」

 

 

阿吽姉弟の恐しさは天竜軍に広く知れ渡っている。あの双子に関わると、命の危機だとの事.....

 

 

「えぇ〜.....僕は武蔵お姉さんとやりたいなぁ。お姉さんはもう直ぐ死ぬんでしょ?勿体無いじゃん?

年貢の納め時って事で処女くれない?」

 

 

軽く言うが、とんでもない事である。

 

 

「うぅ.....」

 

「武蔵、抱かれれば?

吽斗なら、天竜と同じ美少年だし、

先導してくれる..........ぷっ」

 

「なんだったら、天竜に連絡入れてもいいんだよん?携帯持ってるし」

 

 

吽斗は自身が天竜から貰った携帯を見せびらかす。

 

 

「決闘は明日でしょ?

今日一晩楽しめるじゃん」

 

「うぅ.....あたし処女喪失がこんな形になるなんて.....鞘突っ込まれるよりはマシだけど.....」

 

「毎度あり!」

 

「頑張ってね武蔵..........ぷっ」

 

「どうせならヒコお姉さんも一緒に楽しもうよ!」

 

「..............................は?」

 

「そうだ!1人じゃ心細い!

お前も付き合え!命令だ!」

 

「私の方が格上だし.....

死ねばいいのに!」

 

「さぁ!行こう行こう!」

 

「「うぅ.....」」

 

 

近くの茶屋(ラブホ)に連行される2人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、播磨。

 

 

「多少なりなら補助したげる。

2人合わせて6回分の手伝いをね」

 

 

中々の性豪である。

 

 

「まぁ、やばくなったら逃げるけど」

 

「「..........」」

 

 

味方になってくれるのは、ありがたいが、そこまでの期待はしない2人。吽斗が参戦したくらいで左馬助との決闘に変化が起きるとは思えないからだ。

 

 

「「「..........!?」」」

 

 

そんな差中彼女は突如現れた。

霧のように、煙のように、

そこには存在しなかったはずのそれは、

突然そこに形を成した。

 

 

「あら?懐かしいお顔がもう一つ。

お久しぶりね。忍者ちゃん。

貴方は阿斗かしら吽斗かしら?」

 

「弟の方だよ。

..........左馬助のお姉さんこそ、しばらく見ない間に、ますますおっかなくなってらぁ」

 

「ふふふ.....」

 

 

その女は微笑する。

 

 

「この場合においてのみ、

私は旧名を名乗りましょうか。

私は明智左馬助光春。

最強にして、最大にして、

最悪にして、最凶の吸血鬼です」

 

「「「..........」」」

 

「とはいえ、私も正確には吸血鬼ではない。

私は、果心居士から得た幻術を利用し、

己に封印されし茨木童子を引き出した。

さらに、魔界からの異邦人。

血の神マグラを喰らうた事で、私の身体は九割九分九厘が血.....液体となった。

さらにさらに。天竜さん.....いや、この場合は朧さんに輪廻の呪いをかけられ、異次元へと飛ばされ、400年間も輪廻旅行をする羽目になった。終わった時、私は不死身になっていた。

私はあの人から吸血鬼であると命名されたが、実際の所では、和製鬼なのか、悪魔なのか、哀れな人間もどきなのかも分からない、中途半端な存在になってしまった」

 

 

左馬助はそう言う。

 

 

「さて、今宵はどんな闘争をしましょうか?

今の私は大分気分が良いので、そちら側の条件で乗ってあげましょう」

 

「..........あたしらは.....」

 

 

武蔵が呟く。

 

 

「あたしらの力は、お前には到底及ばないって事は理解してる。戦えば確実に負け、殺されるって事がな」

 

「おやおや。さしもの武蔵も、ようやく学習という能力を身につけたようですね。パチパチパチ」

 

 

左馬助は軽く拍手する。

 

 

「..........お前を殺すのはあくまで天竜だ。

あたしらじゃあない」

 

「当たり前ですね」

 

「しかし、あいつの全力がお前の全力に及ばない事もあるかもしれない。だから、あいつの為にあたしらはお前の力をギリギリまで下げる事にする」

 

「へぇ」

 

「だからこれは決闘じゃない。

ただの嫌がらせだ」

 

 

 

武蔵は二刀を抜き、構える。

氏真もまた、愛刀と特殊鞠を構える。

吽斗はその手に謎の暗器を構える。

3人の腰には予備の刀が数本刺さっていた。

 

 

「前のようなヘマはしない!

しかも今回はただのイジメだ!

3人同時にかかるぞ!」

 

 

武蔵が叫ぶ。

 

 

「勿論!」

 

「異存はないよ」

 

 

氏真と吽斗も承知する。

 

 

「くふふふふふふ.....

くひひひひひひひひ.....」

 

 

だが、左馬助は邪悪な表情でケタケタと笑っていて.....

 

 

「御三人方。イジメの定義というものはちゃんとご存知で?」

 

「「「!?」」」

 

 

左馬助は言う。

 

 

「イジメというものは、加害者側に悪意があろうがなかろうが、被害者側がその悪意を感じ取ってしまった瞬間、それはイジメになる。

逆に言えば、被害者が悪意を感じ取らない限り、加害者が何をやろうが、それはイジメには値しない。

..........今の私は、悪意など微塵も感じない。むしろ好調である。

御三人方から伝わる殺気により、

私は興奮してしまっている。

素晴らしい。素晴らしいまでに濡れる」

 

 

邪悪な笑みを浮かべながらに言う。

 

 

「特別サービスです」

 

 

すると、左馬助の右手には愛刀『鬼包丁』。

左手には手持ち包丁が4本出現する。

 

 

「私は人間として貴方達と戦いましょう。私の得物はこれだけで、これ以上は増やしません」

 

「「「!!?」」」

 

「再生能力も使いません。

あくまで人間として.....」

 

「どういうつもりだ?」

 

 

武蔵が聞く。

 

 

「これは決闘でも嫌がらせでもイジメでもない。ただの遊び。ただの『暇潰し』です」

 

 

唇をペロリと舐め、挑発をしてくる。

 

 

「洒落せェ!!」

 

 

武蔵は出る。

 

 

「相変わらず挑発に弱い!」

 

「はっは〜!」

 

 

氏真と吽斗も出た。

 

 

 

 

 

 

 

そうして、暇潰しと称された合戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関東地方、上空。

 

 

「くそっ!播磨とは盲点だった!

お陰で日本中を飛び回る羽目になった!」

 

 

天竜は巨大な蝙蝠の翼を生やし、

高度3000Mの高さを羽ばたいていた。

 

 

「てっ.....天竜!!

もっと低く飛んで!!」

 

 

天竜の背中には吽斗の双子の姉、

阿斗がしがみついていた。

 

 

「大丈夫だ。落っこちてもちゃんと拾ってやるよ!」

 

「やだぁ!高過ぎるぅ!!

怖いよぉ!!降ろせぇ!!」

 

 

普段は生意気な阿斗も、人生初の超高度飛行には完全にビビってしまっているようだった。

 

 

「暴れると余計に危ないぞ」

 

「というか.....なんか息苦しい.....」

 

「やばっ!酸素薄くなってんのか。

500Mぐらい下がるか」

 

 

そうして高度2500Mの位置に低下する。

 

 

「ちょっと待ってろ」

 

 

天竜は飛びながら何かを召喚する。

そして、それを阿斗に渡す。

 

 

「これ何!?.....眼鏡!?」

 

「ゴーグルだ。ちょっくら速度上げるから、目がキツくならないように装着してろ」

 

「..........うん」

 

 

慣れない手付きでゴーグルをつける阿斗。

ついでに、彼女をベルトで固定する。

 

 

「そらっ!スピードアップ!!」

 

 

蝙蝠の形の翼が、鳥のような形になる。

それは燕の翼の形のようだった。

天竜は急加速し、

その速さは、およそ時速150km。

 

 

「ひゅ〜!!!」

 

「うぎぎぎぎぎぎ!!!」

 

 

人外の天竜はともかく、生身の阿斗にはかなりの負担だった。

 

 

「天竜天竜天竜天竜天竜!!!

止めて止めて止めて止めてぇ!!!」

 

「駄目だ!!1秒でも遅くなるだけで、武蔵達の寿命が縮まってしまう!

今は一刻も早く播磨に辿りついて、武蔵達を殴り飛ばしてでも光から引き離さなければ!!」

 

 

さらに時速180kmに加速する。

 

 

「せめて地上を走ってぇぇぇぇ!!!!」

 

「駄目だ!空の方が早い!」

 

 

さらに時速200km。

 

 

「ぎゃあああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

天竜は滑空しながら、冷や汗をかいていた。いくら剣豪の武蔵と氏真、一流忍の吽斗といえど、化け物の光に敵うとは到底思えない。

光の性格を考えて、武蔵達を一方的に追い詰めるような事はしないだろうが、始めは相手に勝たせて徐々に追い詰めて絶望を与えていくような奴なので、余計たちが悪い。

 

 

「まだ死ぬなよ!!

武蔵!ヒコ!吽斗!」

 

 

最高速度時速300kmに加速。

 

 

「助けてぇぇぇぇ!!!!」

 

 

阿斗の涙や鼻水やらが宙を舞った。

 

 




武蔵、氏真の捨て身の攻防。
面白半分で着いてきた吽斗。
邪悪な笑みを浮かべる左馬助。
時速300kmで滑空する天竜。
初フライトで死にかける阿斗。
次回あたり過去編決着。
次回予告
天竜一門の惨劇
〜左馬助と武蔵と小次郎と氏真〜


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第六十一話 天竜一門の惨劇

仮免試験に落ちてしまった。
明日再試験だ。


近畿上空。

時速150kmで滑空する天竜がいた。

 

 

「くっ.....!」

 

「..........」

 

 

時速300kmに耐え切れず、阿斗は気絶してしまっていた。その為、その負荷も考えて、減速してしまっている。

このままでは間に合わないかもしれない。

 

 

「まだ近江か..........くそっ!」

 

 

阿斗をおぶったままでは、最高でも時速300kmしか出せない。かといい、阿斗を地上に降ろすとなると、今後の計画に支障が出る。1人じゃ、奴らの闘争は止められそうにないからだ。

 

 

「まだ死ぬんじゃねぇぞ馬鹿共!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今更ながらに思ったが、

飛行機を召喚して操縦すれば、

もっと速く飛行できるのでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

播磨。

 

 

「があああああぁ!!!」

 

 

武蔵が二刀を持ち、舞う。

 

 

「ふっ!!」

 

 

氏真が特殊鞠を打ち込む。

 

 

「ほっ!ほっ!ほいさっ!」

 

 

吽斗が針のようなものを投げる。

 

 

「あはははははっ♡!!!」

 

 

だが左馬助はその全てを避け、弾き返してみせる。3人対1人だというのに、異様な実力差だ。以前と同じく、白い着物1枚の左馬助は、その般若のような威圧にさらに磨きがかかっていた。

 

 

「くっ.....!!」

 

 

武蔵は焦っていた。左馬助の速く重い剣撃は、以前のものよりも数段に強くなっていたからだ。まるで別人。400年間も地獄のような場所で暮らしていたというのは本当であったか。

 

 

「軽いっ!遅いっ!弱いっ!手の内は後にとっておく程命取りになりますよぉ♡!!」

 

「「「くっ.....!!」」」

 

 

天竜の弟子の4人。

明智左馬助光春。宮本弁之助武蔵。

佐々木小次郎巌流。今川彦五郎氏真。

彼女らを評価する上で、

大きく分けても3つの属性がある。

それは、強さ・速さ・技能である。

 

強さ部門においての1番は、

佐々木小次郎であろう。

彼女の剣撃は誰の剣よりも重い。

一度刃を交えれば、押し負ける程に。

弱点は長刀ゆえにが遅いという点だろう。

彼女はそれをカバーする為に、

必殺技の『燕返し』を編み出した。

 

速さ部門なら宮本武蔵。

身体の小柄さと軽さを利用し、

やや短い刀を使って、迅速に敵を斬り伏せる。

ただ弱点があるとすれば、その剣に重みがない事。刃を合わせれば押し負けてしまうのだ。

それをカバーする為に、

彼女は二刀流を極めた。

 

技能で言えば、今川氏真。

彼女は扱うのが複雑な武器も軽々と使い熟してみせる。忍が使うような武器も使える剣士は氏真ぐらいであろう。

弱点は、スキが多い事。

複雑な武器ともなれば確実に相手を捉えられたとしても、状況に応じてその効果が出てしまうがゆえに、常時同じ強さを発揮できないのだ。

それをカバーする為に、

彼女は遠近両用の戦闘術を身に付けた。

それが刀と特殊鞠。

仕込み刀が入った鞠を自由自在に操り、

近付いてきた相手には、

卜伝仕込みの剣技を食らわせる。

 

 

なら、明智左馬助は?

 

 

ハッキリ言おう。

彼女に、突出したような属性はない。

強さも速さも技能も平等の性能なのだ。

逆に言えば、弱点がないという事。

さらに平等というのは、平均並という事ではなく、平等に高い性能を誇っているのだ。

それ故に、彼女は強い。

それ故の、1番弟子。

その剣は重く、その剣は速く、

どのよな武器も使える。

剣士の才能で言えば、

左馬助がダントツに高いのだ。

さらに左馬助にはとある性質がある。

それは、感情の起伏が激しいという所だ。

ほぼ二重人格とも言っていいほどの、

変化である。

彼女は闘争の際、強い興奮状態になる。

一流の剣士に言わせれば、興奮時よりも冷静時の方が、周りに目を向け的確な判断ができるとの事だが、彼女の場合は真逆だ。

むしろ脳が蕩けている状態は、

脳によるリミッターが外れる為、

全ての能力が格段に跳ね上がる。

壊れた彼女こそ、最強の状態。

そして最悪な状態なのだ。

 

 

左馬助と同じ力を持つのは師匠の天竜。

2人には経験の度合いやその血筋によって、

その実力差が分かれているが、

全てを平等にした時、

勝つのはどちらであるか.....

 

 

 

 

 

 

 

ハッキリ言おう。左馬助である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、武蔵らは諦めなどしない。

後悔だってしない。

そんなものはとうに置いてきた。

これは小次郎の復讐かもしれない。

偽善者野郎は、

『復讐からは何も生まれない』

『死んだ者は喜ばない』

なんぞとほざきやがるが、

糞食らえ!知ったことか!

その通り、

この復讐劇から学ぶ事も、

小次郎が生き返るわけでもない。

だが、けじめはつけるべきなのだ。

左馬助という憎むべき存在が残っている限り、武蔵も氏真も、死ぬまで小次郎の事を重荷に考えて生きていかねばならない。

後ろばかり見てはいけない。

昨日に未練を残してはいけない。

過去に囚われてはいけない。

大事なのは今日。今日より明日。

現在より未来なのだ。

左馬助という障壁を取り払い、

小次郎への想いを振り切らねばならない。

それが.....それこそが、

武蔵らができるたった一つの選択。

希望なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい残念〜♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左馬助の巨大包丁が武蔵の刀を二刀ごと叩き割る。

 

 

「武蔵っ!!!」

 

 

氏真が血相を変えて叫ぶが、

鬼包丁は武蔵のすぐ頭上に振り上げられる。

 

 

「あなたはここで終わり。

GAME OVER。じゃあね♡」

 

「くっ.....!!」

 

 

鬼包丁が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

「「!?」」

 

 

武蔵も氏真も左馬助も唖然とする。

左馬助が右手に持っていた鬼包丁はその手からすっぽ抜け、武蔵の後方に突き刺さっていた。

そして、左馬助が左手に持っていた手持ち包丁らもボロボロとこぼれ落ちる。

 

 

「手の感覚が.....」

 

 

左馬助がそう呟く。

だがすでに手どころか、ほぼ全身の感覚が麻痺していたのだった。

 

 

「これは.....まさか!?」

 

 

左馬助が慌てて、己の腕を見る。なんと、戦闘中には死角だった位置に針が刺さっているのだ。全身が血液とはいえ、全身に目があるわけではない。完全に影からの攻撃。

両腕合わせて7本も.....

 

 

「ようやく効いたんだ。

お姉さんタフ過ぎるよ」

 

「っ.....!?」

 

 

左馬助が麻痺した状態の首を無理矢理そちらへ向ける。

 

 

左馬助に針を投げたのは吽斗だった。

 

 

「う.....ん...........と」

 

 

舌まで麻痺している。

 

 

「それはトリカブトの毒を塗った針だよ」

 

「!?」

 

「1本で熊だって倒れるのに、

何本打っても動き回るんだもん。

ビックリしたよ。

でもまぁ、7本も打てば流石に効くか。

致死量にまではいかなかったみたいだけどね」

 

「がぐぐぐぐ.....」

 

「今が好機だよ。武蔵お姉さん」

 

「分かってる!」

 

 

武蔵が腰から予備の刀を抜く。

 

 

「僕は天竜と同じ女好きだよ。

特に、左馬助お姉さんみたいな魔性の女は大好きだ。

でもね.....」

 

 

それまで朗らかだった吽斗の表情が険しくなる。

 

 

「母のように慕っていた小次郎お姉さんを殺し、父のように憧れていた天竜を苦しめたお前は.....

何があっても許すわけないだろう」

 

 

吽斗は左馬助の額に毒針を打ち込む。

 

 

「毒は忍の必需品さ。

薬品の毒も、心の毒もね」

 

「うらあああぁぁぁ!!!」

 

 

武蔵が左馬助の左手首を切断する。

 

 

「くっ.....!?」

 

「再生すんなよ?

そういう約束だからなぁ!!」

 

 

更に正面から斬り伏せる。

 

 

「ちっ!浅い!」

 

「おのれ.....!」

 

 

おぼつかない足取りで、左馬助が間合いを取る。しかし、その直後に後方からも斬られる。

 

 

「!!?」

 

 

それは氏真の特殊鞠だった。

 

 

「くそぉっ!」

 

「念仏は数えたかぁ?」

 

 

武蔵が斬りかかる。

 

 

「勝てる!.....勝てる!」

 

「いや、無理でしょ?」

 

「!?」

 

 

左馬助の演技にまんまと引っかかった武蔵。左馬助は器用に足下の手持ち包丁を蹴り、武蔵の大腿部に突き刺す。

 

 

「あぐぅあっ!!?」

 

「「なっ!?」」

 

 

これには氏真も吽斗も驚愕する。

 

 

「馬鹿なっ!?

毒で動けないはずじゃあ!?」

 

「そんなもの.....10秒で治りましたわ」

 

「なっ!?」

 

 

立っているのも奇跡であったはずの毒量であったのに、何だこの治癒能力は.....

彼女に対して、人間の常識で挑んだのがそもそもの間違いであったか!?

恐らくもう毒針は効かない。

刺すのが不可能というわけではなく、

毒に抗体ができてるはずなのだ。

あれ程の治癒力ならあり得る。

 

 

「汚ないよ!再生は使わない約束だよ!」

 

「これはこれは.....無意識のうちになってしまったようです。再生だけでなく、自然治癒力の速度も人間並に設定し直さないと.....」

 

「くっ.....!」

 

 

すると左馬助は右手で鬼包丁を持ち、自身の周囲を直径1m程の円を描く。

 

 

「しょうがないのでハンデをあげます。

私はこの円の外には出ません」

 

 

そんなハンデ貰った所で、3人に勝機が上がったとはとても思えなかった。左馬助はこの闘争が始まってから、数歩程度しか移動していないのだ。ほとんど開戦時の位置である。今更範囲を制限した所で、何も変わらない。

 

 

「さぁ、続きをしましょう!」

 

「「「...........」」」

 

 

改めて死を予感する3人である。

 

 

「おいっ!

お前らもうちょっと近くで戦え!

お前らが後方支援しかしないから、近くで戦ってるあたしばっか被害受けてるぞ!」

 

「そんな事言ったって、

僕は忍だから、近接戦闘はちょっと.....」

 

「被害を多く受けるのは、

武蔵の不注意のせいだと思う」

 

「ぶっ飛ばすぞお前ら!!」

 

「くすくすくす.....

相変わらず武蔵は喧嘩好きだこと」

 

「好きでやってんじゃねぇ!!」

 

 

敵味方双方からなめられている。

 

 

「しょうがないなぁ」

 

 

すると吽斗は懐に手を入れる。

 

 

「よし」

 

 

急に手を出したかと思うと、そこには拳銃が握られており、いきなり発砲する。

 

 

「!?」

 

 

左馬助は慌てて鬼包丁で防いだ。

 

 

「あぁ.....惜しい!」

 

「惜しいじゃねぇ!

チャカ出すなら先に予告しろ!」

 

 

ヤクザみたいな言い方だ。

弾道は武蔵のすぐ横で、

一歩間違えれば武蔵に当たっていた。

 

 

「予告したら不意打ちにならないじゃん」

 

「あたしが死んだらどうすんだ!!」

 

 

左馬助に敗北して戦死するならまだしも、味方の誤射で死亡するなど、格好悪いったらありゃしない。

 

 

「くひひひひひひひ.....

あっはっはっはっはっは♡!!」

 

 

左馬助に爆笑される。

 

 

「くひひ.....相変わらず.....

相変わらず愉快な人達ですね」

 

「笑うな!!」

 

「武蔵お姉さんも離れなよ。

円から出ないって言うなら、

ずっと遠距離から攻撃すれば.....」

 

 

その直後吽斗の方へ、

手持ち包丁が飛んでくる。

 

 

「円の外へものを投げるのは反則かしら?」

 

「危っ...........なぁ」

 

「安心はまだダーメ♡」

 

 

さらにその直後、吽斗の後方へ飛んで行った包丁がそのまま戻ってきて、吽斗の右肩を斬り裂いた。

 

 

「あぐっ!?」

 

「ほらね♡」

 

 

武蔵らは左馬助が何かしらの術を使ったかと思ったが、それは間違い。

 

 

「包丁に...........糸を!?」

 

 

武蔵が言う。

 

 

「アッタリ〜♡」

 

 

左馬助は糸に繋がった包丁をブンブン振り回して言う。やはり技能面でも、彼女は強い。

 

 

「そ〜れと」

 

 

左馬助は右手と口を利用して、手持ち包丁の内の1本の柄を外す。そしてその刀身の部分を左手の切り口に突き刺した。

 

 

「「「!!?」」」

 

「これは規則違反かしら?」

 

「くっ.....!!」

 

 

恐らく痛みも感じていないだろう。

だからこそあんな芸当ができる。

 

 

「なら.....」

 

 

氏真が鞠と刀を置き、

背中に刺していた別の得物を用意する。

それは彼女の身の丈程はある両刃の剣。

日本刀が主流となったこの時代において、両刃剣はむしろ珍しくもある。

 

 

「そんな骨董品出して、

何をされるおつもりですかぁ?」

 

「一応新品。世界で一つの傑作」

 

 

氏真がその大剣を構える。

やはり大きい分重いらしく、

ややヨタヨタしている。

 

 

「斬り裂け」

 

 

氏真が剣で突いた。方向こそ合ってるものの、全く距離の足りていない位置で.....

だが、異変は起こった。

 

 

「なっ!?」

 

 

油断していた左馬助はそれへの対応が遅れてしまい、そのまま腹部を抉り取られる。

 

 

「あぐっ!?」

 

「痛みは無いんでしょ?運良かったね。

この剣は、相手を殺すまでに無駄に傷つけて、痛まさせるのが特徴だから」

 

「くっ.....!!」

 

 

それは、左馬助が使った糸付き包丁の原理にもよく似ている。だが、違いがあるとすれば、ブレードの数と言える。

伸びる剣。しなる剣。踊る剣。

様々な言い方で揶揄されるそれは、

可変式の特殊剣。

扱い方も複雑で、素人が使えば自身が斬り裂かれてしまう。危険武器。

剣形態と鞭形態に使い分けできるそれは.....

 

 

「じゃ...........蛇腹剣!?」

 

「知ってるんだ.....極秘で製作されたものなのに。未来じゃ有名なのかな?」

 

「くっ.....」

 

「この剣には名前がある。

天竜が付けてくれた名前。

かまいたちの如く、血しぶきをあげさせならが、吹き続ける邪まな風。

その名も『風邪(ふうじゃ)』」

 

「「「...........」」」

 

 

それって、風邪(かぜ)じゃね?

 

3人が3人とも呆れ顔となる。

名付け親が天竜ともなると、

恐らく冗談半分で付けたのに対して、

氏真が真に受けてしまったのだろう。

 

 

「斬る。縛って、斬る」

 

 

氏真が再び蛇腹剣を伸ばす。

 

 

「くっ.....!?」

 

 

蛇腹剣は左馬助の両足に巻き付き、

その肉に食い込む。

 

 

「くそっ!!」

 

「弾けろ」

 

 

氏真が蛇腹剣を引き上げる。その瞬間、左馬助の脚部がバラバラに裂かれた。

 

 

「あぐっ!?」

 

 

ダルマ落としの要領で、左馬助は真下に自由落下。だが、足の付け根の切り口部分で体制を立て直し、再び立ってみせる。

 

 

「武蔵、今っ!!」

 

「よしきたっ!!」

 

「何っ!?」

 

 

左馬助の背後をとった武蔵。そしてそのまま、二刀にて左馬助の両腕を肩から斬り落とした。

鬼包丁は、右手が柄を握っている状態で地面に突き刺さる。

 

 

「がっ!?」

 

「四肢を落としたぞっ!!

あとは首と心臓だ!!」

 

「やって!武蔵!!」

 

「武蔵お姉さん!!」

 

「おのれぇ.....」

 

 

再生能力及び、その他の異能の力を禁じられている今、左馬助には何をすることもできない。手足のない、芋虫状態の彼女には.....

 

 

「死ね左馬助ぇ!!死んであの世で小次郎にもう一回殺されろ!!」

 

 

武蔵が二刀を振り上げる。

その勝利を確信して.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なめるなよ青二才が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先は、何故そうなったかも分からない程に、刹那であった。

 

 

「がひゅっ!?」

 

 

大量の鮮血が宙を舞う。

それは、武蔵が左馬助を斬り伏せた際に飛び散った血であると確信していた傍観者達であったが、それは間違い。

 

 

 

真逆に斬り返され、

胴から2つに割れた.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武蔵の血肉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左馬助が使った武器。

それは紛れもなく鬼包丁。

だが、手足のない左馬助には使えない。

 

否、左馬助は使ったのだ。

己の右手を.....

 

 

武蔵が二刀を振り上げた瞬間、

左馬助は地面に突き刺さった鬼包丁を握ったままの自身の右手に噛み付き、歯を肉に食い込ませ、己の一部とした。そしてそのまま、鬼包丁を顎の力だけで振ったのだ。

それは返し技。カウンター。

 

鬼包丁の強力な斬撃をもろに食らった武蔵は、胴から真っ二つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「武蔵ぃぃぃ!!!」

 

 

氏真が今まで見せたことないであろう表情で叫んだ。

 

 

「五月蝿いな」

 

 

左馬助は咥えていた鬼包丁をさらに振り、氏真の方向へ飛ばす。

 

 

「ぐはっ!!?」

 

 

それはそのまま氏真の腹部に刺さる。

 

 

「氏真お姉さん!!」

 

「貴方はコレ♡」

 

 

左馬助が口に含んでいた何かを吹き出した。それは吽斗の首筋に刺さる。

 

 

「うっ.....!?」

 

 

それが刺さった瞬間、

吽斗は仰向けに倒れる。

 

 

「こ...........れは.....」

 

「貴方の毒針♡

多少効力は弱まってるかもね」

 

 

投系の武器の弱点は、その武器を敵に奪われる可能性がある事。それを知っていたにもかかわらず、吽斗はミスを犯してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

30分間に及ぶ闘争。だが、決着が着くまでに要した時間はほんの十数秒程。追い込まれた左馬助にはその程度の時間しか必要なかったのである。

 

 

「決着は着いたようですね」

 

 

左馬助の肉片が意思があるかのように本体に移動し、元の身体に戻る。

 

 

「ふぅ.....」

 

 

元の姿に戻った美しい鬼は円から出て、

真っ二つの武蔵の前まで歩を進める。

 

 

「げっ.....げふっ!!がはっ!!」

 

 

吐血する武蔵。この状態でまだ意識を保っているなど、奇跡だ。

 

 

「愚かな人。こうなる事なんて理解していたはずなのに」

 

「げふっ...........愚かで結構.....

敵討ちだとか誇りだとかじゃなくて.....

純粋に.....悔しかったんだな」

 

「悔しい?」

 

「前回は.....お前が幻術を使ったせいで、半分も実力を発揮できなかった...........それはいきなり斬られた小次郎も同じ...........

剣士としてのお前と戦いたかった.....

ありがとな.....」

 

「自分を殺した相手に御礼とは、

貴方方はとことん愉快だ」

 

「いくら後で生き返れるからっても.....

お前は四肢が無くなった以降も術等は全く使わなかった.....信用はしてなかったがな.....」

 

「私も大人ですからね。子供に対してそこまでムキになる程、野暮じゃないですよ」

 

「ふっ..........ほざけ」

 

 

斬り口より大量の血が流れ出る。

明らかに致死量だ。

 

 

「なんて顔してんだ?」

 

「?」

 

「もっと勝者の顔しろよ。

なんでそんな哀しそうな.....」

 

「はぁ?」

 

「それがお前の本質かよ.....

意外というか.....何というか」

 

「だから何を言って.....」

 

 

その時、一滴の雫が左馬助の目から落ちる。

 

 

「えっ?」

 

「くく...........お前もそんなもんだ。

どれだけ堕ちようが、変わろうが、

お前は『人間』だ」

 

「.....貴様!!」

 

「怒るな怒るな。

かはははははは.....

最期に面白いもんが見れた.....満足だ.....」

 

 

左馬助は武蔵の上半身を掴んで引き上げた。

 

 

「調子に乗るなよ貴様!

貴様に何が分かる!!

貴様に......................!?」

 

 

左馬助は異変に気づく。

武蔵は全く動かなくなっており、

開いたままの瞳は、瞳孔が開いていた。

武蔵はこと切れていたのだ。

 

 

「死んだ...........のか?」

 

 

冷や汗が流れる。

最後の最後まで、自分は武蔵に振り回された。

『これがお前の本質』だと?馬鹿馬鹿しい。

 

 

「...........」

 

 

だが左馬助は笑顔のままでこと切れた武蔵の亡骸を見て、また哀しげな表情を見せた。

 

 

「ありがと...........か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左馬助は武蔵の亡骸に食らいついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「光ぃ!!!!!!」

 

「?」

 

 

はるか上空からその男が降ってきたのは、それから約1分後の出来事。

 

 

「貴様ぁ!!貴様ぁ!!!」

 

 

瞳は紅蓮の色に変わり、

見るからに激怒していた。

 

 

「天竜!!」

 

 

背中から降りた阿斗に叫ばれ、

天竜は周囲を見回す。

倒れていたのは2人。氏真と吽斗。

氏真は腹部に鬼包丁が刺さっており、

吽斗は首筋に毒針が刺さっている。

だが、辛うじてまだ息がある。

 

...........1人足りない。

 

 

「武蔵...........は?」

 

 

奴の方を見る。明らかに奴のものではない血に囲まれ、奴はつい先程まで何か(誰か)の血肉を食していたようだった。

 

 

「武蔵は何処だ?」

 

「ん〜?」

 

「武蔵は何処だぁ!!!」

 

「ここ」

 

 

奴は自身の腹部を指した。

 

 

「食べちゃいました」

 

「...........」

 

 

天竜は黙った。黙ったまま、瞬間移動の如く奴に接近する。だが、それを予期していた奴は頭から天竜を地面に押さえつける。

 

 

「がああああああああああぁぁぁ!!!

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すぅ!!!!!」

 

「そう、早くにそう決心していれば、こんな事にはならなかった」

 

「貴様ぁ!!」

 

 

天竜は起き上がろうとするが、

怪力で押さえつけられてできない。

 

 

「私は失望した。

貴方は何年経とうとも意気地なし。

結婚する前から、した後も、今も。

貴方の弱さが不幸を生む。

貴方が非情にならない限り、

犠牲はいくらでも増える。

皆は貴方の為に死のうとする。

それは貴方が殺しているのと変わらない。

武蔵を殺したのも貴方」

 

「おのれぇぇぇ!!!!!」

 

 

その時、奴は.....

光は.....左馬助は.....

天竜の耳元に顔を近づけてそっと囁いた。

 

 

「私の血を吸いなさい。天竜」

 

「!?」

 

「今、結界を張った。小声であれば外に会話が聞こえる事はない。特にあの.....アマテラスには.....」

 

「何っ!?」

 

「アマテラスの望みは貴方に私を殺させて、人間としての情を捨てさせようとしている。そして、ただの機械同然となった貴方を人形のように操ろうと企んでいる。

私はそれが許せない。

だから、話に乗ったフリをした」

 

「まさか.....」

 

 

アマテラスがそんな事を!?

 

 

「『輪廻の術』あれをもう一度かけられると、私は不死の呪いから解放される。私は不死者ではなくなる。

それがたった一つの殺害方法。

だけれど、もう一つ。

吸血という方法がある。

私は九割が血液。吸血すれば何も残らない。

私は死なないまでも、貴方に吸収されて、貴方の一部になる。不死の呪いも貴方に移るでしょうね。そうやってアマテラスを出し抜く」

 

「何で俺がそれに従う必要がある!!

アマテラスなど関係ない!

俺は決めたぞ!お前を殺してやる!」

 

「......アマテラスは貴方の実母を殺した奴よ。そんな神の為に、律儀に働く気?」

 

「なっ!?」

 

 

それは初耳だった。

 

 

「よく考える事ね。

そして情を捨てるがいいわ。

今回がいい勉強になったでしょう?」

 

「左馬助ぇ!!」

 

「あら、貴方からそう呼ばれるのは懐かしい。何百年ぶりかしら?」

 

 

左馬助は離れる。

 

 

「出直すわ。貴方の頭が冷めるまでまた隠れる事にする。それまでに決めなさい。神の玩具になるか、1人で生きていくか.....」

 

 

左馬助は霧のように消えてしまった。

 

 

「俺は.....」

 

 

怒りが徐々に薄れる。

あたりに散らばった武蔵の血液を見て、別の感情が湧き出てきてしまった。

 

 

「武蔵ぃ...........」

 

 

眼からボロボロと涙が出る。

最後に彼女と会話を交わしたのは電話の時のみ、今は影も形もない哀れな姿。

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

嗚咽が止まらなかった。

 

武蔵を殺したのは左馬助ではない。

俺なのだ。

俺のせいなのだ。

俺がこの事態を招かなければ.....

俺が彼女達と出会わなければ.....

俺なんて奴が生きていなければ.....

武蔵が死ぬなんて未来は回避できた。

 

 

『仇討ちだとか、他人の為に刀を振るいたいなんて思えるようになったのはお前のお陰だ。ありがとう』

 

 

武蔵と最後に交わした言葉が頭を過った。

 

 

「武蔵...........ごめん.....ごめんなさい.....」

 

 

謝罪をする。何が変わるというわけでもないというのに.....

 

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい.....」

 

 

ただただ謝り続ける。そして泣く。

 

 

 

 

 

泣きたくないから鬼になったというのに.....

今の天竜は紛れもない人間だった。

人間として.....後悔していた。

 

 

 

自身の存在と、愚かさを.....

 




またもや鬱な展開になりました。
序盤からのキャラであった宮本武蔵。
結構なお気に入りキャラでもあったのに.....
この事件に犯人などいない。
これはただの惨劇にして、悲劇だから。
次回予告
また1人.....
〜彼と関われば不幸になる〜


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第六十二話 また1人.....

とりあえず仮免受かった


第六十二話

 

播磨にて、明智左馬助と武蔵・氏真・吽斗との決闘は、宮本武蔵が死亡した事によって決着が着いた。

だが、生き残った氏真と吽斗もそれぞれ腹部を切り裂かれ、毒針を打たれ、瀕死の状況であった。

 

 

「ヒコッ!!ヒコッ!!」

 

「うぅ.....」

 

 

いつまでも武蔵の事で泣いてもいられなかった。今は、死んだ武蔵よりも生きている氏真達を優先しなければならなかったからだ。

 

 

「阿斗!!吽斗はどうだ!?」

 

「解毒剤は打った!

幸い少量しか入らなかったようだ」

 

「そうか」

 

 

吽斗は一度左馬助に打たれた針を改めて打たれた為に、そこまでの毒は効かなかったようだ。更に、阿吽姉弟は自ら毒を飲んで対抗力を付けるなどの過酷な修行をしている為、トリカブト程度で死亡する事はないという。だから吽斗は阿斗に任せておけばなんとかなるだろう。

 

問題は氏真だ。

彼女は正面から巨大な鬼包丁を刺され、

腹部に大きな穴を開けている。

破れた腸まで飛び出ており、

明らかに致命傷だ。

 

 

「待ってろ!傷は全部受け入れてやる!」

 

 

例えこの傷が天竜に移動しようが、

吸血鬼の強力な治癒力を持つ彼には関係ない。瞬時のうちに再生されるだろう。

 

 

「沙九把・秉無・覇寿于羅!」

 

 

今まで何度も使った術だ。

術をかけた相手の身体の異常を自身に移す慈悲の陰陽術。

これさえ使えば氏真は助か.....

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、電撃が走った。

術を強制的に弾いたのである。

 

 

「なん...........だ?」

 

 

わけがわからなかった。

しかし、放っておけば氏真は死んでしまう。

彼は再び術をかけるが.....

 

 

「つっ.....!?」

 

 

再び弾かれた。

 

 

「これは.....」

 

 

可能性としては4つある。

一つは、氏真に対抗性がある事。

氏真が術に慣れすぎて.....

もしくは、先天的に術が効かない体質であるがゆえに、術が効かない。

 

 

 

 

 

答えはNoだ。

俺は以前にも氏真らに術を使用している。

この状態異常の移植術も何度か使った。

それなら先天性があるのはあり得ないし、

そんな短時間でいきなり対抗性ができるとは考えられない。

 

 

二つ目は、俺に問題がある事。

自分でも気づかないうちに、

俺の術者としての能力は衰退しており、

術すら発動できない。

 

 

 

 

 

Noだ。

俺の能力はむしろ進化している。

自身が吸血鬼であることに気づき、

吸血行為をするようになってから、

その血を媒介に俺の魔力は格段に増えている。術が使えなくなるなどあり得ない。

 

 

なら、光の仕業か?

鬼包丁を氏真に刺した時に、

何かしらの対抗術をかけ、

俺の術を打ち消した。

 

 

 

 

Noだ。

多少のブランクはあるが、俺と光とでは、術者としての実力差が大きい。

確かに彼女は幻術使いであり、未来の世界で俺の勘解由小路系陰陽術を少しなりとも習ったりもしているが、それでもだ。

第一、この移植術は俺のオリジナル。

元々あったわけではない。

0から作り上げた新術なのだ。

他の誰も知らない術を光が安々と理解できるとは到底思えない。

 

 

なら...........ならだ。

光や俺を超越した術者。

人知を越えたような存在の仕業であるとすれば、どうだろう?

人間には到底できない.....

『人間である俺』には到底敵わない、

創造主の仕業であるとすれば.....

 

 

 

 

「......................」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Yesだな。

犯人は神だ。

神の仕業なのだ。

神のみぞ知る事柄なのだ。

 

 

「...........アマテラス!!」

 

 

犯人はあいつだ。

あいつが邪魔をしている。

つい先程の光の話.....

完全に信じるのもあれだが、もし本当だとすれば奴は本気で、俺の人間部分を殺しにかかっている。

手始めに氏真を殺す事によって!

 

 

「アマテラス!!」

 

 

再び叫ぶ。

奴がせせら笑う様子が目に浮かぶ。

 

 

「くそっ!!くそっ!!」

 

 

何度も移植術をかけようとするが、

その度に弾かれる。

 

 

「神よ!!貴様ら我々に対して、

どこまでも残酷なのだ!

何故こんな力を与えた!!

人々を救う為ではないのか!

世界を変える為ではないのか!」

 

 

だが、当の神は答えない。

 

 

「くっ.....!!

黙殺するならばそれでいいさ!

俺はもう西洋や東洋だとかで貴様らを区別するのはやめにする!

纏めて駆逐してやる!!

貴様ら神を喰ってやる!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが結局、神が答える事はなかった。

 

 

「くそっ!!」

 

「うっ.....」

 

 

氏真は今尚死にかけている。

 

 

「俺に.....力があったら!!」

 

 

小次郎と武蔵に引き続き、

また失うのか!?自分の家族を!!

 

 

「いや...........あるじゃないか。

俺には...........力が!!」

 

 

天竜は自身の口内の、鬼歯を確認する。

 

 

「氏真を眷属にすればいい.....」

 

 

それがいい。

それしか方法はない。

眷属作りは魔力を介さない。

吸血鬼のウィルスを直接流し込むのだ。

これならアマテラスとて邪魔はできない。

 

 

「なら善は急げだ!」

 

 

早速、吸血に取り掛かる天竜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ.....め.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

噛み付こうした天竜だったが、

それは氏真本人によって阻止される。

 

 

「何故だ氏真!!

まっ.....まさかアマテラス!!

氏真を操ってまで.....」

 

「違う.....これは私の.....意志」

 

「!?」

 

 

氏真の本心が眷属になる事を拒否している!?

 

 

「人間として...........死なせて」

 

「駄目だ!!

ここでお前にまで死なれたら.....

今度こそ俺は自分自身を許せなくなる!」

 

「ごめん.....なさい.....

ごめんなさい...........」

 

「謝るな!

...........謝らなくていいから

...........生きてくれ」

 

 

氏真の手を握り、

涙を流しながらに訴える天竜。

 

 

「...........分かった」

 

「じゃっ...........じゃあ!」

 

「でも条件がある...........

先に.....先に姉上達に.....会わせて」

 

「義元達に!?」

 

 

義元、義昭、義輝は未だ二条城にいる。

 

 

「あそこに行けば、

眷属になるんだな!?

生きてくれるんだな!?」

 

「...........うん」

 

 

か細い声で答える。

 

 

「よしっ!!」

 

 

天竜は氏真を抱き上げ、

開いた腹部を布で隠してやる。

 

 

「高速で行く。

多少風圧が強いが我慢してくれ」

 

 

天竜は背中に巨大な翼を広げる。

 

 

「阿斗!吽斗を頼む!」

 

「分かった!」

 

 

その直後、瞬時に飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時速は500kmは出ていた。

先程ので学習した為、

今度は氏真に保護結界をかけ、

負担を軽減させている。

 

 

「待ってろよヒコ!

ほんの数分で着くからな!」

 

「...........」

 

 

氏真は静かだった。

顔に色をなくし、呼吸も限りなく小さい。

 

 

「天...........竜」

 

「喋るなヒコ。もう少しだから!」

 

「ありがと.....」

 

「!?」

 

「天竜が...........拾ってくれた。

姉上とも...........仲直り.....できた。

全部...........天竜のお陰.....。

家族ができたのも...........」

 

「もういい。喋るなヒコ」

 

「でも...........意識とびそ.....」

 

「分かった!

なら今度は俺が喋ってやる!」

 

 

氏真が眠れば、そのまま二度と帰ってこないような気がしたので、天竜は焦って口を動かす。

 

 

「俺が初めてこの時代に飛ばされて来た時の話でもしようか」

 

「うん.....」

 

「あれは今から4年.....5年前か。

何の前触れもなく、突然過去に遡った俺は、いきなり近くの兵にとっ捕まったんだ。

まぁ、当時は未来の服をそのまま着て来てたから、そいつらも不気味に思ったんだろうな。とっ捕まって早々、処刑されかけたんだよ」

 

「うん.....」

 

「そんな時に通りかかったのが、

俺とお前の師匠でもある塚原卜伝先生。

先生はどうやったかは知らないけど、

その兵達を説得してくれたんだ。

まぁ、説得したというよりは剣の腕で黙らせたというのが正しいかな。と言っても、先生が現れてなきゃ兵達は俺に殺されてただろうな。

かははははははは.....」

 

「うん.....」

 

「最初は蟠りがあったが、そんな時間がかからない内に弟子になった気がする。

しばらくしてだ。

長良川戦で敗走した左馬助と会い、

桶狭間戦で家が没落したお前と会い、

京で決闘してた武蔵と小次郎を諌めて.....

まるで昨日のように鮮明だ。

その後、堺で弥九郎のゴタゴタに巻き込まれて.....その時、阿吽姉弟と仲間になって.....」

 

 

弥九郎とは小西行長。

豪商小西ジョウチンの娘だ。

直家死亡後は、

秀家と共に良晴の家臣となっている。

 

 

「中国では宇喜多家の世話になって、

卜伝先生が亡くなって...........あれ?」

 

 

唐突に思った。

ありえないはずであるのに.....

 

 

「先生って.....

どんな顔だっけ?」

 

 

ただど忘れしたというわけではない。

卜伝と過ごした思い出がそっくりそのまま抜けているのだ。自分自身が塚原卜伝弟子であったという根本的情報はあるのに、彼がどのような存在であったのか、全く分からないのだ。

 

 

「...........天竜」

 

「!?」

 

「二条城...........見えた」

 

 

氏真に伝えられる。言われなければ通り過ぎていたかもしれない。

 

 

「おっ.....おう。

降りるから衝撃に備えてくれ!」

 

「.....天竜」

 

「ん?なんだ?」

 

「大好き」

 

「...........あぁ、俺もだ」

 

 

天竜は速度を落とし、

そのまま二条城の門前に降りる。

 

 

「ヒコッ!着いたぞ!ヒコッ!」

 

「...........」

 

「.....ヒコ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二条城。飛び出てきたのは義元だった。

 

 

「天竜さ...........太閤殿下!

氏真は!?彦五郎は何処に!?」

 

 

大御所といえど、身分制度はしっかりと守っている彼女。

 

 

「...........」

 

「殿.....下?」

 

 

天竜は呆然と立っていた。

その瞳は光を失っていて虚ろだった.....

 

 

「殿下......................!?」

 

 

義元は気づく。天竜が腕に抱く少女に.....

 

 

「彦.....五郎?」

 

 

布に隠されてはいたが、その下が酷い状態である事はすぐに気付いた。布の上にも滲み、大量の血が下に流れ出ていた。

氏真は完全に血相を失っており、

真っ白な顔をしていた。

手足はダランと垂れ下がり、

見るからに重そうになっていた。

 

 

「...........彦?」

 

 

義元が氏真の頬に触れてみる。

だが、その肌は冷たくて.....

 

 

「.....嘘...........嘘!!」

 

 

義元はその場に腰を落とした。

次第に大粒の涙が流れ出る。

 

 

「氏真!!」

 

「天竜!?」

 

 

後ろから義昭と義輝も飛び出てくる。

 

 

「ごめん.....間に合わなかった」

 

 

天竜は眠りついた氏真をそっと地面に腰を下ろした義元に渡してやる。

やはり、眠りについた氏真はズシっとくるほど重たくなっていた。

 

 

「なんだかな.....ははっ.....」

 

 

天竜は微笑する。

 

 

「俺より若い命がドンドン消えていく。

俺が死に導く。俺が殺す。

俺は死神なんだろうか」

 

 

感情のない声で呟く。肩の力も抜け、完全にやる気が失われている。

 

 

「疲れた.....もう疲れた.....」

 

 

長時間に及ぶ飛行による身体の疲れ。

2人の家族を同時に失った精神の疲れ。

それらが天竜を押し潰した。

 

 

「どうしたのですか氏真?

こんなにグッスリと眠ってしまって.....

...........そうですか。はい。

それは、愉快ですわ」

 

「「!?」」

 

「義輝様。氏真が今度の蹴鞠大会に一緒に出ようですって。是非応援に来て下さいます?」

 

「何を言ってるんだ菊!?」

 

 

夫の義輝は義元の異常に気づく。

彼女の瞳もまた、虚ろになっていた。

 

 

「見て下さい義輝様。氏真がこんなにお花を持ってきてくれたんですよ?」

 

 

義元は氏真より流れ出た血を掌に溜め、

義輝に見せつけた。

 

義元は壊れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ねばいいのに.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは氏真の口癖でもあった。

 

 

「お前が死ねば良かったのに!!」

 

 

それを叫ぶのは足利義昭。

 

 

「何でお前が生き残るのじゃ!!」

 

「義昭!!」

 

 

兄が諌めようとするが、義昭は止まらない。

 

 

「お前は氏真の師匠じゃろ!!

弟子を盾に生き残るなど外道じゃ!」

 

 

忘れていた。

義元とは蟠りがあった氏真も、

義昭とは仲が良かったのだ。

本来なら氏真がやや年上だったのだが、

義昭が妹が欲しいと我儘を言った為、

わざわざ義昭の言うことを聞いて妹になってやる程に氏真は義昭を信頼し、期待に応えた氏真を心から家族として認めた義昭。

義昭が怒るのも無理ない。

 

 

「氏真を返せ!!彦を返せ!!」

 

 

義昭は憤る。

 

 

「よせ義昭!!

天竜とて傷ついている!

全ての責が天竜にあるというわけではない!」

 

「五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!!!

兄様は黙るのじゃ!!

第一こやつは元副将軍!

それなのにわらわ達を差し置いて、

上位の関白やら太閤になるのがおかしい!

幕府を蔑ろにする売国奴なのじゃ!」

 

 

義昭はここで全ての不満をぶつける。

将軍就任時は天竜に感謝し、

ある程度は彼を認めていた義昭も、

天竜が太閤となった事で態度を一変。

裏切り者として彼を非難した。

 

 

「わらわは宣戦布告する!

魔王天竜を討ち果たすのじゃ!

わらわの手紙にて集結した各地の大大名が魔王退治を目標にお前の野望などケチョンケチョンにのしてくれるのじゃ!」

 

 

なんだかんだで人任せの義昭。

 

 

「馬鹿な事を口走るな義昭!!」

 

 

義輝も呆れて叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっくくくくくくくくく.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

天竜が突如笑い始めた。この光景をあまり見ない義昭は急に怯え出す。

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

「ひいぃっ!!?」

 

 

義昭は天竜の威圧に押し負け腰を抜かす。

 

 

「この俺が売国奴だとう?

貴様如き雑種がよくぞそんな戯言を叩けたものよのう、この太閤に向かって!」

 

「ひいぃっ!?」

 

「太閤は陛下の代わりを務める身。

そして陛下は日本国そのもの。

貴様は日本国に刃を向けているのだぞ!

それこそ売国奴ではないのか!!」

 

「うぅ.....」

 

「本気で勝てると思うのか?

本気で大大名が味方すると思うのか?

衰退した幕府と.....

栄え始めた朝廷.....

皆々はどちらに味方するであろうな。

どちらが有利と思うだろうな。

どちらが有益と思うだろうな。

お飾り将軍と太閤。

どちらが良いと思う?」

 

「うぅ.....五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!

わらわは第16代征夷大将軍!

足利義昭であるぞ!

成り上がりのエセ太閤なんぞに、

負けるはずがないのじゃ!

勝負なのじゃ豊臣天竜秀長!!」

 

「分をわきまえない雑種が!

戦う前に勝手に自滅するのがいいオチだ」

 

「なんてことだ.....」

 

 

義輝は頭を抱えた。

2人の性格は知っているはずだった。

義昭は自己中心的であり、

一度興奮すれば何をしでかすか分からない。

天竜は普段常に冷静沈着だが、

身体的、精神的に追い込まれると、

豹変して、わけがわからなくなる。

善悪の区別すらつかなくなり、

自身の障害を徹底的に排除する。

 

相性の悪い2人が完全に瓦解してしまった。

 

 

「義輝様。彦は蹴鞠の新技を編み出したようですわ。勝負するのが楽しみですね」

 

 

氏真の死体を抱き現実逃避した義元は虚ろな目をしつつも、朗らかな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果は天竜の言った通りだった。

 

義昭は各地に手紙を書き、

各地の大大名に援軍を求めた。

だが.....

毛利・長宗我部はそれを黙殺。

徳川は拒否。

武田はそもそも没落状態。

伊達は蒲生と対立しており援軍をする余裕がなく、蒲生もそれは同じだった。

上杉は期待ができたものの、

『豊臣と争うにはまだ早い』

と判断した謙信は援軍を泣く泣く拒否。

最後の望みで織田を頼ったが、

豊臣と同盟状態にあった為、

これも拒否される。

それ以外の大名は全員豊臣傘下。

 

義昭の味方大名は1人とていなかった。

さらに、義昭に着いて行く事に絶望した彼女固有の兵らも次々に離れて行った。

 

 

そして兄の義輝は.....

 

 

「くそぉ〜!

こうなったら九州の大友に!

いや、島津に手紙を書くのじゃ!」

 

「もうやめよ義昭!イタズラに戦を起こすな!天竜が治めた日の本を再び乱世に陥れる気か!!」

 

「乱世なんてどうでもいいのじゃ!

問題なのはわらわの将軍としての立場が危ぶまれていることなのじゃ!」

 

「......................は?」

 

「わらわが将軍になれぬのなら、

乱世のままでよいのじゃ!」

 

「なんて...........愚かな」

 

 

何故こんな子になってしまったのだ?

将軍という肩書きそうさせたのか?

こうも捻くれてしまって.....

父上よりこの子の世話を任されて.....

一体何処で間違えたというのか!?

やはり明に逃げた私が悪いのか?

これから私はどうすればいい?

妹を取るべきか、友を取るべきか。

人としてなら.....

前将軍としてなら.....

妹を支えるべきなのだろう。

 

 

 

 

 

いや.....違うだろう。

 

 

 

 

 

前将軍であるからこそ、日の本の未来を考えて正しい選択をしなければならないのでないか?

なら答えは一つ。

 

 

「...........縁を切る」

 

「えっ?」

 

「お前との兄妹の縁を切る!」

 

「......................どうして?」

 

 

義昭は信じられない表情で兄を見る。

 

 

「己の胸に聞いてみよ。

私は天竜側に付く。

その後お前がどうなろうと、

他人である私はもう知らぬ!」

 

 

そう言って、腰に刺していた将軍家に伝わる宝刀を叩きつける。

 

 

「足利家は終わりだよ」

 

 

そう言って義輝は義元を連れて二条城を後にした。

 

 

「兄...........様?」

 

 

兄に見限られた義昭はただただ呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、義昭は戦すらも始められずに自滅した。これも天竜の予言通りだった。

 

 

「義昭と縁を切ったのか?」

 

「あぁ」

 

 

「義昭は京で捕らえた。

すでに将軍職は剥奪している。

奴は今や戦犯だ。

義昭を処刑せよという声が多く出てる」

 

「そうか.....」

 

「いいのか?」

 

「構わない」

 

「嘘を付くな。顔に出てる」

 

「...........」

 

「山城慎島1万石をやる。

3人で隠居するには丁度いいだろう」

 

「かたじけない.....」

 

 

 

 

 

こうして、室町幕府は正式に滅亡した。

 

 

 

 

 

その後義元は大御所を辞め、

隠居地で家族と静かに暮らしている。

だが、心の病は未だ治らない。

氏真が葬られた後も彼女が死んだ事を認めようとはせず、もういない氏真をひたすら探し続けていた為、天竜が氏真そっくりに作った人形を送った。義元はそれを氏真だと信じ込み、それ以降肌身離さず抱き続けている。

その後、義元と義輝の間に男子が生まれた。

だが、病が治らない限りは母親としての責務は未だ果たせていないという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後.....

伊勢神宮が焼き討ちされる事件が起きた。

 

実行犯は天竜。

 

 

氏真が死んだのはアマテラスせいであると考え、彼女を祀る神社をを滅ぼそうとしたのだ。

だが、神主らによって止めらた為

半焼に済んだという。

三成らによる後処理で、

この件はただの事故という事にし、

真実は闇に葬られたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「武蔵...........ヒコ...........」

 

 

弟子を全員失った彼は完全に意気消沈し、

数ヶ月間大坂城に引きこもっていた。

四国や九州戦に踏み込むのが遅かったのはこれが原因だという。

 

 

「おのれアマテラス...........」

 

 

天竜はひたすら神を呪った。

 




過去編終了。
また姫武将殺してしまった。
しかも義元を鬱状態に.....
しばらくは自重します。
次回あたりは平和編です。
次回予告
兄弟和気藹々
〜将来の夢は何か〜


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第六十三話 兄弟和気藹々

誠に申し訳ありません。
バグったせいで、
中途半端な状態の駄文を披露してしまいました。
こちらが修正版です。


第六十三話

 

大坂、とある無人の広場にて。

 

 

「セカンド」

 

「おう.....」

 

「クラッチ踏め」

 

「おう.....」

 

「ロー」

 

「うん.....」

 

「そりゃサードだ」

 

「うわっと!?」

 

「ブレーキ踏め、ブレーキ!」

 

「踏んでるよ!」

 

「それはクラッチだ!」

 

「あれぇ?」

 

「ほら!今度はアクセル!」

 

「えっ!?動かなくなったぞ!?」

 

「それはエンストしたんだ。

エンジンかけ直せ」

 

「うぅ.....」

 

 

この広場にて、良晴は天竜に車の運転を習っていた。天竜は助手席にもブレーキが付いている教習車を召喚し、それで勉強させていた。

 

 

「マニュアル難しい!

天竜、オートマ車のやり方教えて!」

 

「駄目だ。今時オートマしか乗れない奴なんて何処の仕事場も雇ってくれないぞ?」

 

「俺、関白なんだけど.....」

 

「それに、マニュアルにさえ慣れちまえば、オートマなんて簡単過ぎて笑えてくるぞ?まぁ、オートマはオートマで別のコツがあったりするんだがな.....」

 

「早く上手くなりてぇなぁ」

 

「完璧に乗り熟せるようになったら好きな車をやるよ。なんか希望はあるか?」

 

「えぇ〜と.....フェラーリとかポルシェ?」

 

「お前.....知ってる車名言っただけだろ」

 

「バレたか」

 

「初心者は車体と窓が大きめのがいいな。

多分何回か事故るだろうから、

丈夫な奴がいい」

 

「事故るの前提かよ」

 

「俺のオススメはバンかBOX系だ。

いや、プリウスっていうのもある。

取り敢えずレガシィあたりだな」

 

「えっ?えっ?えっ?」

 

 

聞きなれない単語に混乱する良晴。

 

 

「本当に無知だな。

男のくせに車の趣味もないのか?」

 

「悪かったな。日本史の趣味しかなくて」

 

「悪かねぇよ。ただ、最近の若者の趣味にはちょっと疎くてな」

 

「そんな、年寄りじゃないんだから」

 

「実年齢ならもう三十路だよ」

 

「それでも若いだろ。

最近の若者かぁ.....

といっても、俺も5年前までの知識しかないんだけどなぁ。流行なんて1年でだいぶ変わるだろ?」

 

「5年前のでもいいから教えてくれ」

 

「そうさなぁ.....

やっぱオシャレとかじゃね?」

 

「オシャレ?」

 

「うん。格好いい服とか来たり、

髪型を特殊な形にしたりな」

 

「そういやトイレとか行く度に、

何分間もかけて髪いじってた奴いたな」

 

「そうそう。ワックスで固めてな」

 

「でもあれって、頭の悪いチャラ男がモテたいが為に、己の醜い外見を無理矢理偽る行為だろ?」

 

「全国のチャラ男を敵に回すな!」

 

「ふんっ!あんな奴らなど所詮草食動物。

群れなければただの雑魚だ」

 

「チャラ男になんか恨みでもあるのか?」

 

「昔、カツアゲされた」

 

「...........」

 

「ああいうタイプは本当にクズだ!」

 

「まぁ、カツアゲされれば誰でも腹立つな」

 

「ああいうのは、群れないと個々では貧弱の糞虫ばかり!そしてターゲットはいつも自分より格下の大人しそうな奴ばかりだ」

 

「?」

 

「奴らの視点からは、

俺は格下であると判断された!

それに限りない程の憤りを感じた!!」

 

「そっちかい!」

 

「確かに俺の見た目は、巨人な清原やアントニーオ猪木のように強そうな感じではない」

 

「何故その2人を.....」

 

「だからって俺の身体もそれなりにガッチリはしてる!

細マッチョだ!」

 

「身体じゃなくて.....顔じゃね?」

 

「分かってるさ!

俺は女顔でナヨナヨしてそうだよ!」

 

「ん〜...........

んで、そのチャラ男らはどうしたんだよ」

 

「3人で同時に襲ってきたんだが、

これには正当防衛で対応したよ」

 

「へぇ〜。護身術とか?」

 

「顔が3倍ぐらいに腫れるまで殴って、

あのウザい髪をバリカンで剃って、

3人のペニスを接着剤で接合して、

全裸で電柱に結び付けてやった」

 

「それは過剰防衛だ!!」

 

 

この人怒らせると本当に怖い。

ライオンかよ!

 

 

「そんなわけでチャラ男は嫌いだ」

 

「チャラ男というか、チンピラな」

 

 

舐められた恨みを他のチンピラに回すな!しかもチンピラとチャラ男を一色端にしてる。

太閤権限で『チャラ男一掃化計画』なんてものを発動されてからでは遅い。

 

 

「もしかして松田がゴールデンウィーク明けに急に坊主の素直な青年になったのって.....」

 

「特別合宿をして更生させた」

 

 

松田は良晴のクラスのちょいチンピラだった男だ。校則をオール無視し、金髪にピアスに喫煙で、問題児だった。だが、天竜が彼をいい子ちゃんに変えてしまい、その後は勉強大好きな好青年になってしまったのだ。

その功績により天竜は大人気教師になった。

 

GW中に何があったかは、

聞かない事にする。

多分体罰ギリギリの事してるだろうし.....

 

 

「男も女もスッピンが1番だ!」

 

「天竜はそれでいいだろうさ。

素が完璧なんだから」

 

 

若い頃は美少年。20代後半になってもそのイケメンさをキープさせられる遺伝子。

 

 

「天竜って吸血鬼なんだよな?

それでその外見なんじゃねぇの?

老ける要素も全くなさそうだし」

 

「そうなのか!?」

 

「前になんかの本で見たよ。

吸血鬼は何百年も老けない。

しかも、異性を魅きつける.....

ちゃーむ?だとかがあるって」

 

「つまり俺がモテるのは、皆俺じゃなくて吸血鬼の方に魅かれてるのであって、俺自身は何の魅力もないという事か」

 

「ちっ.....違うよ!?」

 

 

やばい。怒ってる。

 

 

「とにかく!運転の練習続けようぜ!」

 

「むぅ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからも毎日良晴の教習は続き、

1ヶ月程で上手に乗りこなすようになった。

 

 

「まぁ、合格だな」

 

「よっしゃ!」

 

「でも未来に帰ったら、

改めて教習所行けよ?

今のお前は無免許運転者なんだからな」

 

「分かってるさ。

...........といっても、帰れないしな」

 

「お前は驚く程帰る方法を探さないな」

 

「う〜ん。まずなんでこの時代に飛ばされたのかっていうのかが全く分かんないんだよなぁ。

だから帰る方法も探しようがないんだ。

それに帰るに帰れないぐらい、

幸せなんだよなぁ」

 

「綺麗な嫁さん貰ったもんな」

 

「まぁな」

 

「その他に愛人が12人もいれば、

帰りたくもなくなるわな」

 

「それは言わない約束だろ!!

それに愛人じゃねぇよ!」

 

「でもセックスはしたんだろ?」

 

「酔ったなれゆきで.....」

 

「それで何人と?」

 

「7人.....」

 

「それ以外の5人が愛人なのな。

羨ましいねぇ」

 

「あんたに言われると本当に腹立つ」

 

「取り敢えずは前の写真で撮った女子で全員みたいだな。何人か被ってる子もいるが.....」

 

「はぁ?」

 

「ほら、池田恒興とか佐々成政とか。

あの子らとなら俺もやったぜ?」

 

「なんですと!?」

 

「あの子らっていつも一緒で、

セックスも一緒だから、

やる時はいつも3Pなんだよなぁ」

 

「.....むぅ」

 

「今度4Pでもやるか?」

 

「ふざけんなっ!」

 

「かかか。冗談だ冗談」

 

 

ここ最近、天竜の中身がオヤジ臭くなった気がする。

 

 

「しかし以前見かけたが、

なんだか大喧嘩してたぞ?

『テン派・ヨシ派』とか」

 

「絶対俺達だよなぁ!?それって!!」

 

「聞けば、

『テンは優しそうな外見とは裏腹に、

激しい情事をしてくれる』

『ヨシは野生的が外見と裏腹に、

情事はとても優しい』とか」

 

「聞いちゃったのかよ!

プライドないんかあんたは!!」

 

「腐女子にBLネタにされるよかいいだろ」

 

「いや.....まぁ、そうだけど」

 

「それと勝家とやった事もあるぜ?」

 

「あんた.....愛人は全員側室にするんじゃなかったっけ?」

 

「セフレだからまだいい」

 

「...........」

 

 

こいつもこいつだな.....

 

 

「あんた貧乳好きじゃなかったっけ?」

 

「苺が好物だからといって、メロンは絶対に食べないなんて事はないだろう?」

 

 

分かりやすい例えだが、

最低な例え方だ。

 

 

「戦の鬼も、ベットの上じゃ乙女だ。

普段馬に乗る事が多い彼女は、

やはり騎乗位が1番好きらしい

お前も彼女とする時はいつも騎乗位だろ?」

 

「勘弁して下さい!」

 

 

完全に天竜のペースにされてる。

 

 

「まぁ、冗談はここまでにしとくか」

 

「絶対故意で嫌がらせしてるだろ!」

 

「かかか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は一度教習車を降り、

教習車を消滅させる。

 

 

「さて、姫路城までドライブでもするか」

 

「播磨行くのか?」

 

「あぁ、九州戦の打ち合わせにな。

どれ、お前の車を出してやる」

 

 

天竜は良晴用の車を召喚する。

車種はレガシィ。

 

 

「改めて、その技って便利だよなぁ」

 

「教えてやろうか?」

 

「俺でもできんの!?」

 

「それ程複雑ではない。

場合によっては半兵衛や官兵衛にも使える。

しかし、彼女らが知っている.....

見たことがあるものに限られるがな」

 

「場合?」

 

「パスワードだよ。術師にはそのお家によってアドレスのようなものがあってな。

勘解由小路の暦道、

土御門の天文道、てな具合にな。

パスワードってのは、その家に伝わる記録とも知識とも違う、コツのようなものだよ。だからそのコツが他家に流れる事は禁忌中の禁忌だ。

案の定、そのコツが土御門に流れたが為に勘解由小路は没落した」

 

「へぇ〜」

 

「だからそのコツさえ分かれば、

術師である者はどんな術だって使える。

己の霊力に見合った範囲内でね」

 

「ちょっと待ってくれ!

俺は術師じゃないぞ!?」

 

「そんな事はないだろう。

前に使った事はないか?」

 

「あっ.....」

 

 

良晴は思い出す。4年程前、宇喜多直家に捕らえられた官兵衛を救う為、良晴は前鬼よりにわか仕込みに教わった術を使い、気配を消して門番をやり過ごした事があった。

 

 

「前鬼に教わったんだ」

 

「むっ?...........清明がか?.....珍しい」

 

 

途中ゴニョゴニョ言っていて、

良晴には聞こえなかった。

 

 

「才能0の奴にはいくら教えたって、

術の1つも使えないさ。

大事なのは『蛇口』があるかどうか」

 

「蛇口?」

 

「人間には大小に関係なく必ず霊力が存在する。これを1つのポンプとして考えろ。

大きかろうが小さかろうが、蛇口が無ければその霊力を出す事は絶対にできない。

その蛇口が生まれつきあるのが、

勘解由小路や土御門などの術家。

もしくは蛇口を植えられた、

半兵衛や官兵衛のような存在。

あとは妖怪や鬼とかだ。

あとは異例中の異例で、

一般人にまで蛇口があったりする。

お前みたいにな」

 

「...........」

 

「その前鬼が教えたのは蛇口の捻り方だ」

 

「捻り方?」

 

「蛇口は捻らなければ、

着いてないのと同じだからな。

それから、ポンプや蛇口の大きさによって術者の格も変わってくる。

ポンプが小さければ小技しか出ない。

蛇口が小さければ少しずつしか出ない」

 

「ふ〜ん」

 

「勿論俺はどちらも特大だ。

まぁ、少なくとも蛇口は修行次第でいくらでも大きくなるがな」

 

「じゃあ俺は?」

 

「ハッキリ言えば、

お前の蛇口は赤ん坊のチンコの如く極小だ」

 

「へいへい、俺は極小ですよ!」

 

「だが.....」

 

「?」

 

「お前はポンプが驚く程でかい」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ、一般人がそれだけの霊力を持てば、すぐにパンクしてしまうはずなのに.....」

 

 

天竜はマジマジと良晴を観察する。

 

 

「なんか信じられねぇなぁ」

 

「もしかして、何か特別な一族の家系なのかもしれないないぞ?」

 

「相良家が?」

 

「さぁな。相良は教科書に乗りはするが、他家と比べてかなり地味だからな。特別な事件も起さねぇ、つまらない奴らだ。

相楽ならともかく相良はな」

 

「一族を全否定すんな!

全国の相良さんに謝れ!」

 

「そういえば、この物語の作者さんの住んでいるアパートの隣りの部屋も相良らしくてな。

そいつがニートの引きこもりらしくて、

毎日漂ってくる異臭に迷惑してるそうだ」

 

「本当に何の話だ!?」

 

 

全国の相良さんごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、天竜は自身の愛車を召喚する。

 

 

「おっ!デロリアンだ!」

 

 

急に良晴のテンションが上がる。

 

 

「知ってたか『DMC-12』のMT車だよ」

 

「うん。『Back to the Futuer』好きだもん」

 

「趣味が合ったな。

あれは英語の教科書にも出るぐらい有名な映画だからな」

 

「あぁ、マイケルJフォックス?」

 

「そっ。噂じゃ2015年にⅣが出るとの事だったが、もしそれが本当だったら、見てからタイムスリップしたかったな。完全に同じ境遇だし」

 

「だよなぁ」

 

「子供の頃に初めて見た時はかなり興奮したもんだ。本気でタイムマシンが欲しくなったからな」

 

「分かる分かる!

未来に行って自分の将来の姿見たり、

過去に飛んで、昔の自分の失敗をやり直したいとか思ったもん!」

 

「戦前の日本に飛んで未来知識や兵器を持ち込んで、日本を強化して太平洋戦争で勝って、日本を世界のリーダーにしたいとか思ったもんな!」

 

「子供はそんな物騒な事思わねぇよ!

一緒にすんな!!」

 

 

天竜の幼少期がいかに捻くれていたか分かる。

 

 

「こいつは特注品でな。

偶然自動車会社のお偉いさんと仲良くなって、特別に作ってもらったんだ。

ボディはセラミックで防弾加工。

ガラスも防弾素材だ。

エンジンも日本製の最新機種。

ただ、俺が外車の運転が苦手だったから右ハンドルにしてもらったんだ。

車高もなるべく高くしてもらった」

 

「完全に改造車じゃねぇか。

何をそんなに守る必要がある?」

 

「俺は極道の組長だぞ?」

 

「あぁ.....」

 

 

そういやそうだ。

 

 

「カラーリングは銀。

まぁ、無塗装と同じだな」

 

「デロリアンはやっぱ銀だろ。

いいなぁ、俺もデロリアンがいい」

 

「言っただろ。レガシィで慣れたら

平車にしてやるさ。

どうせ信奈と乗るんだろ?

.....あとは愛人達とデートして、

カーセックスでもするんだろ?」

 

「まだ引っ張るか!!」

 

 

この先一生このネタで揺すられそう.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、大坂から播磨まで数時間かけてドライブをする2人。山や谷、獣道を避けて平道だけを選んだ為、かなり時間がかかってしまい、到着したのは翌日であった。

 

 

「道路がない事がここまで苦痛とは.....

何かしらの対策を取るか」

 

「2台しかない車の為だけに道路作んの!?」

 

「それよりも鉄道だ。

鉄道さえあれば日本は次の世代に進化する」

 

「電車.....じゃなくて機関車か」

 

「まっ、それも日本を統一してからだ」

 

「そうさな」

 

 

2人は姫路城下に車を駐車する。

 

 

「置きっぱでいいのかなぁ.....」

 

「これ貼っとけばバッチリだ」

 

 

天竜はボンネットに

『初心者マーク』の要領で、

豊臣の家紋である『五七桐シール』

を貼る。

 

 

「これで怖がって誰も近づけねぇよ」

 

「.....そうだね」

 

 

2人は姫路城に入城する。

 

 

「にしても、お前バック下手だなぁ」

 

「う〜ん.....練習はしたんだけどなぁ」

 

「先週の夜も失敗してたろ?」

 

「先週!?」

 

 

先週は昼練だけで夜は運転してないはず。

 

 

「ぼら、二の丸で信奈と.....」

 

「いつ覗きやがった!!」

 

「忍による監視だけじゃ心許ないから、

監視カメラ付けてんだよ。

勿論お前の寝室にもな。

にしても、正常位だけじゃ飽きられるぞ?

まっ、信奈はともかく、

お前の愛人らはお前にメロメロだから、

下手なバックでも満足だろうがな」

 

「いい加減にしろよ!!怒るぞ!!」

 

「かかか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫路城、本丸。

 

 

「よう万千代。彼氏できたかぁ?」

 

「第一声がそれですか!!」

 

 

丹羽万千代長秀。蒲生氏郷失脚後、再び信奈の参謀に返り咲いた彼女。

絶賛婚活中である。

 

 

「そもそも私の婚期を奪ったのは貴方です!」

 

「だから俺が側室に貰ってやるって言ってんのに」

 

「結構です!!」

 

 

以前の、長秀と天竜ができているという噂はまだ生きており、長秀は太閤の愛人であるというのが巷に流れている。

 

 

「なんなら良晴の愛人に...........痛った!!」

 

 

弟に腰を抓られた。

 

 

「冗談だ。いき遅れ女子はほっといて、

本題に入るとしよう」

 

「誰がいき遅れですか!!」

 

 

この時代の女子の婚期は10代。

20代後半に突入した長秀は完全にいき遅れなのだ。この年で彼氏もいない。

彼女を意識している男性は少なくはない。

だが、太閤の愛人の疑惑のある彼女を得ようなどと、危ない賭けをする奴はいないのだ。

 

 

「さて、本題に入るか」

 

 

急に天竜の目付きが変わる。

今までの朗らかだった時とは打って変わり、戦争屋の顔つきになる。

 

 

「いよいよ島津との決戦ね。太閤さんはどんな戦略を考えてるのかしら?」

 

 

同じく九州戦に参加する信奈が尋ねる。

 

 

「くくく.....聞きたいか?」

 

「べっつに〜?」

 

「機嫌直せよ。教習中にお前をほっぽってた事は謝ったろ」

 

「貴方は黙ってなさい!」

 

 

ほぼ付きっ切りの教習は、良晴と信奈のデートの時間を奪ってしまう形となり、信奈の恨みは天竜に向いていた。

 

 

「大友宗麟の救援依頼として、この九州攻めもとい、島津攻めを担ったのだが.....」

 

 

天竜が壁側に立ち、片足を壁に付ける。

 

 

「「「!?」」」

 

 

天竜は『壁に立った』

重力方向が変わっているかのようだ。

そのまま歩を進めて、

今度は『天井に立った』

完全にコウモリだ。

 

 

「島津攻めの直前にやる事ができた」

 

「なんだ?」

 

 

良晴が尋ねる。帰ってきた答えは想像を絶するものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先に大友宗麟を倒す」

 




せっかく教習中なので、
このネタを入れました。
今回は基本的にギャグ回です。
さて、味方であるはずの大友宗麟を倒すとは、
天竜の心境やいかに。
次回予告
大友宗麟
〜天竜は神か悪魔か〜


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第六十四話 大友宗麟

数日前に間違ってまた未完成を投稿してしまい、
すみませんでした。
実はスマホのデータが全部飛んでしまいました(泣)
かろうじてSSのデータのバックアップが取れたので、
話は続けられそうです。
本当に良かった。
そういえば来月11巻が出るそうですね。
打ち切りになったとばかりσ^_^;


「キッカケは文通だった」

 

「「「!?」」」

 

 

『天井に立った』ままの状態で天竜が語る。

 

 

「大友宗麟と初めて会ったのは、

四国戦が終わったばかりの頃、

『彼女』が救援を求めて来た時だった。

正直驚いたよ。

普通は使者でも寄こす所だが、

彼女は自ら大坂城を訪れた。

その上で彼女は俺に頭を下げ、

俺に付き従うと誓ってくれた」

 

「じゃあ...........なんで?」

 

 

良晴が訴える。

 

 

「なんで宗麟を倒すなんて言うんだ!!

俺だって宗麟の人柄の良さは知ってる!

なんだって味方のはずの宗麟と争うんだ!!」

 

「奴がキリシタンだからだ」

 

「!?」

 

 

天竜は答えた。ハッキリと.....

 

 

「いや、俺がアンチだからか」

 

「.....どういうことだよ?」

 

「どうもこうもない。キリスト教徒と異教徒の仲が悪くなるのは当たり前であろう」

 

 

それは3年前の天竜と氏郷・利休との抗争においても言えた事である。

 

 

「だが、それが不可解であった」

 

「何でだ?」

 

「俺は予め、大坂城での会談時に自身が反キリスト教の立場にあるという事を彼女に伝えている」

 

「!?」

 

「その時の彼女は納得こそしなかったものの、それなりの理解はしてくれていた。

その後何度か文通のような形で、お互いの考えのようなものを伝え合い、慎重にコミュニケーションを取っていこうとした。何しろ彼女は、日本で最大のキリシタン大名なのだからな」

 

「それじゃあ...........なんで?」

 

「俺にも分からん。

ある時突然、その関係が崩れた。

それまで、なんとかいい関係を築こうと俺も努力をしてきたというのに.....

誰かが!

誰かが馬鹿な入れ知恵を与えたのだ!

そのせいで彼女は俺に不信感を抱き、

勝てる見込みもないのに、島津と豊臣を両方敵に回すような愚かな選択をしやがった。

宗麟に要らぬ入れ知恵をした何者かを潰さない限り、この九州攻めは成功しない」

 

「誰かって.....誰よ?」

 

 

信奈が尋ねる。

 

 

「考えられるのは1つだ」

 

「そうだな.....」

 

 

良晴は理解していた。

 

 

「「バテレンだな」」

 

「「...........」」

 

 

信奈も長秀も驚愕する。

それは天竜に対してではなく、

天竜と同じ答えを出した良晴に異質な何かを覚えたのだ。天竜に近づいている良晴に.....

 

 

「親日派のフロイスやオルガンティノ、

最近知り合ったヴァリニャーノら以外の、

俺が反日派と判断した連中の多くは、

俺の目の届かない長崎方面に逃れた。

全国指名手配である例の3人は別としてな」

 

「「...........」」

 

 

そのうちの1人を匿っている良晴と信奈は少し黙ってしまう。

 

 

「長崎にいるであろう反日派のバテレン。

もしくは宗麟が昔出会ったバテレンが遠くの地から宗麟に命令を出しているのかもしれない」

 

 

そもそも、現在の日本のバテレンのリーダー格であるガスパール・コエリオが反吐が出る程の反日派にして差別主義の糞虫なのだ。容疑者なんていくらでもいる。

 

 

「俺の正体がドラキュラで欧州で酷いことをしただとか、『裏切り魔将軍』の名を大袈裟に盛って、宗麟の真意とは関係なしに誘導させたのだろう。そうやってバテレン共は多くの国を植民地にしてきた」

 

「あぁ.....」

 

「俺とて馬鹿ではない。

ここで宗麟と戦争して勝った所で、

島津にはメリットしかないし、

こちらはデメリットしかない。

宗麟とは戦争しない」

 

「だな。ここは単独で攻めて、宗麟自身を取り押さえて改心させるのが有効な手じゃねぇのか?」

 

「その通り。流石だな。

宗麟にこっそり接近する。

そして今件の首謀者を引き剥がし、

大友軍の裏切りをやめさせる。

宗麟が洗脳されてて言葉じゃ説得できないのなら、ぶっ叩いてでも心入れ替えさせる。そうでないと宗麟は日本一の売国奴になっちまう」

 

「物騒な言い方すんなよ。

せめて愛のムチとか言えよ」

 

「おやおや。昔は『愛』という言葉で誤魔化せた躾も、今じゃ体罰体罰とうるさいではないか?」

 

「ここは戦国時代だ」

 

「そうだな。くくくく.....

第一俺の教育方針はスパルタ式でな。

鞭どころでは済まないかもしれない。

さしずめ『愛の半殺し』か」

 

「半殺しに愛はない!!」

 

「かかかかか!」

 

「「...........」」

 

 

何も言えなくなってしまった信奈、長秀の2人はこの時こう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴が天竜化している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてだ。この任務は俺1人じゃしんどい。

手伝ってくれるか?」

 

「勿論だ。いいぜ」

 

「そういうこった。また旦那借りるよ?」

 

「ふんっ。勝手に持っていけば?」

 

「全く、愛する夫なのにな。

夫の有り難みはセックスレスになってから思うのだぞ?しばらく欲求不満が続くんだからお前も愛人でも作るか?」

 

「はぁ!?ふざけんじゃないわよ!

それに『も』って何の事よ!」

 

「天竜(怒)!!!」

 

 

こいつ.....口が軽すぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北九州、豊後。

結局、お忍びで訪れる事になった2人。

いや、キャラバンにはもう1人いた。

 

 

「なんだって官兵衛も?」

 

「シム。シメオンが信奈様から受けた

任務は主に2つ。

1つは宗麟と会う為の橋渡し。

無知の良晴と異教徒の豊臣秀長だけじゃ、

まず会えないからね。

それから浮気調査。

九州で浮気しないように見張るのが、

シメオンの役目」

 

「へ.....へぇ.....」

 

 

苦い笑いしかできない。

今は、良晴は官兵衛にフルネームではなく、名前で呼ばれている。距離が縮まったからであろうか?

 

 

「だがその官兵衛も良晴の愛人の1人だとは知らない信奈であった」

 

 

わざとナレーション風に言う天竜。

 

 

「本当にしつこいなぁ!!

友達無くすぞ!!」

 

「この時代に来るまで友と呼べる者は1人もいなかった。今更いなくなった所で、なんとも思わんよ。

てゆうか、友達ほとんど死んだし」

 

 

てゆうか、ほとんど自分で殺したし。

 

 

「まさに外道!」

 

「豊臣秀長。一つ言っておく。

良晴とシメオンは決して愛人関係ではない。

良晴の家臣団の結束を固める為に、

彼との距離を近づけただけ。

他意はない」

 

「そうなのか?」

 

「シム!」

 

「でもセックスしただろ」

 

「うっ.....」

 

 

黙っちゃった。

 

 

「しかも外で」

 

「うぅぅぅぅ.....!」

 

 

彼女の褐色の肌でも分かるほど、

顔が赤く火照っている。

 

 

「こんな顔してヤってるのに、

本当に他意がないんだぁ」

 

 

天竜は良晴と官兵衛の青姦の写真を出す。

 

 

「!!?」

 

「こんな顔して喘いでるのに、

他意はないとねぇ?」

 

「うぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

「そこまでにしやがれ」

 

 

良晴はなんと、取り出した拳銃の銃口を天竜の側頭部に押し付けた。

 

 

「おやおや。

それはオモチャじゃあないよ?」

 

「分かってる。引き金を引くだけで人間なんて頭に一発で死ぬ。まぁ、あんたにゃあ何発必要かは分からねぇがな」

 

「分かっているのならいいさ。

あとは引く覚悟だけ。

それもあるのなら、

ここで俺を射殺するがいい」

 

「俺はあんたの真意を確かめたいだけだ。

あんたが全く意味のない事を繰り返すとは思えない。多分意味があるはずだ。

何を企んでるかまでは分からんけどな。

だが、その真意が何であろうと、

目の前で大切な家臣が虐められている所を黙って見てるわけにはいかない!」

 

「良晴.....」

 

「そうかそうか。お前らしい。だが.....」

 

 

天竜が突然良晴の拳銃を持つ手を捻り、

拳銃を取り上げてしまう。

そして、腕を捻って押さえ付けた良晴の後頭部にその拳銃の銃口を突きつけた。

 

 

「あぐっ!?」

 

「撃つ気もないのに拳銃なんか出さない事だな。こうやってすぐ逆転される。気の迷いや甘さが命取りになるからだ。覚えておけ」

 

「ぐぐぐぐ.....」

 

「お前もだ豊臣秀長」

 

「おや?」

 

 

良晴を押さえる天竜のさらに後ろから、

官兵衛が拳銃をこちらに向けている。

 

 

「良晴を離せ!」

 

「くくく、俺もまだまだ未熟か。だが、鉛玉なんかで俺が止められると思うか?」

 

「残念ながらこれは銀の弾丸」

 

「あちゃ〜。お前もキリシタンだったな。

吸血鬼対策は万全なわけな」

 

「シム。だからもし、大友宗麟や宣教師様に危害を加えるような事があれば、シメオンは太閤であろうと殺す」

 

「その結果、お前が罪人として処刑されるような事になろうともか?」

 

「それが殉教となるならば本望」

 

「ふん。妄執者が」

 

 

天竜は良晴を解放した。

 

 

「だがな官兵衛。お前も隙だらけの分際でよくぞそんな事が言えたものだな?」

 

「むっ!?」

 

 

官兵衛の引き金にかかっていた人差し指、両足、胴に、鋼鉄の糸が巻き付いていたのだ。

 

 

「このまま殺っていい?」

 

「駄目だ。官兵衛はまだ必要なんでな」

 

 

突然現れた4人目。

 

 

「万見.....仙千代!?」

 

「今は風魔小太郎。10代目のね。

でも仕事がこの男の護衛ってのも退屈なものだけれど。まぁ、たまにあんたみたいな身の程知らずが現れるから、悪くはないよ」

 

「くっ.....!!」

 

「俺の周囲には常に4人の忍が潜んでいる。

だから俺の暗殺は不可能だ」

 

 

全く気配を察知できなかった。

こんな奴があと3人も隠れているのか!?

 

 

「シム.....分かったよ」

 

「よろしい。だが安心しろ。

宗麟には危害は加えんさ。

彼女はまだまだ利用できる。

逆に死なれては困るんだ。

それとバテレン殺しも自重している。

3年前に南蛮商人を含めた3人を殺し、

1人を人質にした。

去年も人身売買をやろうと女子供を誘拐しようとしていたバテレンを処刑した。

全員死んで当たり前の連中だが、これが原因で貿易を止められても困るからな」

 

「むむむ.....」

 

「それにだ。

仲間割れしてる場合ではないようだぞ?」

 

「「!?」」

 

 

4人は数人の兵によって囲まれていた。

兵士達は首に十字架をぶら下げている。

明らかに大友軍だ。

 

 

「何者だ貴様達。ここは豊後大友宗麟様の領地と知った上で訪れているのか?」

 

「その通りだ。さっさと宗麟を出せ」

 

 

天竜は上から目線で言う。

まぁ、実際偉いのだが.....

 

 

「不届き者め!お前らのような怪しい奴らを宗麟様に会わせるわけがないであろう!」

 

「ん〜?」

 

 

これには天竜も呆れる。

 

 

「おいおい良晴。こいつらはこの国の代表の顔も知らないらしいぞ?

外国との交易をたくさんしてる経済都市なのかド田舎なのか分かったもんではないな!」

 

「しょうがねぇだろ。

TVも無ければ写真もねぇんだから」

 

「そっか〜.....まぁいいや。

知った所でこいつらもう死ぬし」

 

「「「!?」」」

 

 

兵士達が身構える。

 

 

「ド田舎者にいい事を教えてやろう。

それは『正当防衛』だ」

 

 

兵士達は刀を抜き、斬りかかってくる。

 

 

「正当防衛.....ようは相手から攻撃してくればいいのだ。先に手を出してしまえば最後、殺されても文句は言えないのだよ!」

 

 

正当防衛はそんな法律じゃない!

良晴は内心で叫ぶ。

 

 

「さてさて、遊ぼうではないか!」

 

 

天竜は長槍『方天画戟』を召喚する。

 

 

「処刑開始!」

 

 

その槍を地面に突き刺す。

 

 

『串刺城塞(ガズィクル・ベイ)!!』

 

 

その瞬間、兵士達の足元より無数の槍が突き出てきて、数人の兵士達を串刺しにした。

 

 

「おや、もう終わりか?」

 

「「ひぃっ!?」」

 

 

串刺しを免れた兵士が恐れ慄く。

 

 

「駄目だろう。取りこぼしては」

 

「「へぶばっ!!?」」

 

 

その兵士らも仙千代の糸によって斬り裂かれる。

 

 

「弱そうなあの男を狙うんだ!」

 

「「おおおおぉぉ〜!!」」

 

 

残った兵士達が一斉に良晴に向かっていく。

 

 

「やばっ、俺が狙われてる」

 

「自分でなんとかするんだね」

 

 

そう言って官兵衛は良晴の背中に隠れる。

 

 

「「「おおおおぉぉ〜!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朧月光流..........神無月!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんと良晴は天竜の技で向かってくる兵士達を流れるように斬ってみせたのだ。

斬られた直後、3人はバタバタと倒れていく。

 

 

「ふぅ.....」

 

「コラッ!!

そんな中途半端な神無月があるか!」

 

「だって.....」

 

 

良晴に斬られた3人は生きていた。

良晴は峰で斬ったのだ。

 

 

「朧月光流はあくまで殺人剣。

情けはかけた分だけ、

その技の威力を低下させる!」

 

「俺は.....あんたらみたく、人を殺す事に覚悟を決めるのがどうしてもできないんだ。

俺はこの剣を人を守る為に使いたい!」

 

「ちっ.....!」

 

「「おごばっ!!?」」

 

 

天竜が方天画戟を地面に突き立てた瞬間、倒れた3人の内の2人が地面から突き出た槍によって串刺しにされる。

 

 

「なっ!?」

 

「俺だって好きだから殺してるわけじゃない。俺だって守りたいさ。多くの命を.....だから殺すのだ。

その相手を殺す事が結果的に多くの命を救う事になるのであれば、俺は容赦はしない」

 

「そんな.....」

 

 

天竜は生き残った1人を叩き起こす。

 

 

「さて、宗麟のもとへ案内してもらおうか」

 

「だっ.....誰が!

死んだって宗麟様には会わせない!」

 

「じゃあ死ね」

 

 

天竜はその兵士の首筋を噛んだ。

 

 

「命令だ。宗麟の居場所を教えろ」

 

「承知しました」

 

 

その兵士の瞳は紅に変色していた。

 

 

「「..........」」

 

 

あまり見慣れない良晴や官兵衛はその様子を恐ろしげに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白杵城下。

 

 

「あそこにおられるのが宗麟様です」

 

「そうか」

 

 

大友宗麟は水色を中心とした南蛮服。

髪も水色であり全体的に透き通って見える。

 

 

「よう。宗麟!」

 

「!?..........豊臣秀長!?」

 

 

天竜の訪れを予感していなかった彼女は驚きの表情を見せる。

 

 

「久しぶりだなぁ。大友宗麟」

 

「くっ.....!」

 

「こいつに案内してもらったよ」

 

「!?」

 

 

宗麟はその兵士がすでに人間ではなくなった事に気づく。

 

 

「だが、もう用はない」

 

「えっ?」

 

 

天竜はその兵士をポンッと押す。

次の瞬間、その兵士は天竜の手によって心臓を貫かれた。

 

 

「「「なっ!?」」」

 

 

これには宗麟はおろか、

良晴や官兵衛までもが驚愕する。

 

 

「ある..........じ.....様ぁ」

 

 

その言葉を呟いて兵士は灰となり消えた。

 

 

「無駄な眷属は作らない主義でね」

 

「外道め!!」

 

 

宗麟が構える。

 

 

「なぁ、宗麟。俺はお前さんがどんな奴にどんな言葉で言いくるめられたのかなんて.....

そんなものに俺は興味はない。

正直どうでもいい。

俺はただ、

予定を崩したお前にお仕置きをし、

黒幕をぶっ殺したいだけだ」

 

「くっ.....!」

 

 

宗麟は胸に下げた十字架を握る。

 

 

「見えぬ神にすがるな。

何もできぬ神にすがるな。

不幸しか持ち込まぬ神にすがるな。

俺は神も仏も嫌いだ。

実態の掴めぬ神が嫌いだ。

目の前に現れたのが悪魔しかいなかったのだから、

俺は悪魔に魂を売った。

俺の希望が悪魔しかいなかったのだ」

 

 

天竜は胸の逆十字を握る。

 

 

「Heretic(異端者)め!!」

 

「異端で結構!

だが、俺は悪魔に魂を売っても、

悪魔に全てを委ねたわけではない。

全ての選択は俺の意志だ。

俺自身が俺の世界を作ったのだ。

神に誘導されなければ何もできないお前のような弱者とは違う。

神を騙るバテレン共に言いくるめられてしまうような弱者とは違う」

 

「黙れぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

その瞬間宗麟の手から何かが飛び出て、

天竜の腹部を貫いた。

 

 

「がはっ!?」

 

「勘違いするな魔王秀長!

私がRebellion(謀反)を起こしたのは、

何も宣教師様に

Abet(唆す)されたわけではない!

確かに決断を下したのは、宣教師様から貴方のお話をしてもらったから.....

でも、決断を下したのは私のWill(意志)!

Others(他人)にResponsibility(責任)を押し付ける気は毛頭ない!」

 

 

所々に英語が混じった奇妙な喋り方だ。

まるでルー●柴

宗麟は天竜に突き刺した何かを引き抜く。

 

 

「くっ.....くくくくくひひひひひひ.....

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!

面白い!面白いぞ大友宗麟!

元親以来、久しぶりに手応えのある女だ!

ただのお仕置きではつまらない!

.....喰ってしまおうか?」

 

 

狂気の表情を浮かべた天竜だったが、

その額には冷や汗が.....

 

 

「ふぅ.....」

 

 

傷の治りが遅い.....

いや、むしろ悪化している?

宗麟が使った武器が銀製だった?

しかし、だからと言ってこれは.....

 

 

「なっ!?」

 

 

天竜は宗麟を見て驚愕した。

 

 

「これが私が、神より得た新たなforce(力)!」

 

「何故お前が.....」

 

 

ソレは、宗麟の横に従者の如く仕えていた。

だがその形は人の形ではなく、

スライムのように不規則で.....

その体色は金属のものに近い。

生きた金属。

 

 

「流体多結晶合金.....」

 

 

それは、天竜の家臣古田織部も使う、

鋼の精霊。

 

 

「何故お前が『ナノマシン』を!!」

 

「Go to Hell!DRACULA!!」

 

 

再びナノマシンが天竜を襲う。

 

 

「かぐあぁっ!?」

 

 

ナノマシンが左肩、右大腿部、右腹部に同時に突き刺さる。

 

 

「Death!Death!Death!Death!

デスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデス!!!!」

 

 

糸状に伸びたナノマシンが天竜を縫う。

 

 

「お前..........はなから見れば.....

立派な魔女だぞ?」

 

 

身体をグチャグチャされながらも、

天竜がツッコむ。

 

 

「Noisy(うるさい)!Shut up(黙れ)!」

 

 

ナノマシンが天竜の左胸に高速で伸びる!

 

 

 

 

 

 

 

「させるか!!」

 

 

 

 

 

 

ナノマシンが心臓に届く直前、

仙千代の鋼鉄の糸にてナノマシンが拘束され、動きを封じられる。

だが、同じく鋼鉄であるナノマシンを切断する事はできない。

 

 

「くっ.....!!」

 

「Outsider(部外者)は邪魔!!」

 

 

ナノマシンが仙千代を撫で払う。

 

 

「がぁっ!?」

 

 

糸にて防御したものの、それもお構いなしにナノマシンは仙千代に激突する。

そして、数メートル先まで飛ばされた。

 

 

「ぐぐぐぐ.....肋骨をやられた.....」

 

 

たった一撃で仙千代を戦闘不能にさせてしまったのだ。

 

 

「仙千代っ!!」

 

「Opponent(対戦相手)から目を離さないで下さい!!」

 

 

ナノマシンが再び天竜を捉える。

 

 

「おのれっ!!」

 

 

油断が天竜の誤算だった。

いくらナノマシンとはいえ、天竜が敵わない相手ではない。だが、油断してしまったが故に、その攻撃を予測する事ができなかったのだ。

 

 

「AMEN!!」

 

「くそったれがぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、一発の銃声が鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

それに伴い、ナノマシンも止まる。

 

 

「よ.....しはる?」

 

「さっさと下がれ天竜!」

 

 

発砲したのは良晴。

宗麟に拳銃を向けていた。

 

 

「関白豊臣秀吉.....

貴方は我らキリシタンにLeniency(寛大)と聞いていましたが.....貴方も兄と同じく私のEnemy(敵)なのですね」

 

「威嚇射撃だ!

すぐに術を解いて手を挙げろ!」

 

「Raise My Hands.....ですか?」

 

 

宗麟は両手を挙げる。

 

 

「Refused(お断り)!!」

 

 

そのまま両手を振り下ろす。

それに伴い、ナノマシンが良晴を襲う。

 

 

「うわああああぁ!!?」

 

 

吸血鬼の天竜ならともかく、ただの人間の良晴がナノマシンに襲われればひとたまりもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「式、『烏天狗』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナノマシンから良晴を誰かが守った。

それは烏の頭と翼を持つ、人型の式神。

 

 

「やれやれ。このシメオンまで戦う事になろうとわね」

 

「官兵衛!?」

 

 

その式神を呼び出したのは官兵衛だった。

 

 

「修行不足で出せるのは1体だけだよ。こんな事なら

おばばにもう少し教わればよかった」

 

「ドン・シメオン!

貴方までHeretic(異端者)なのですか!?」

 

「ドン・フランシスコ。

シメオンは別に異端者になったわけではないよ。豊臣秀長の味方なんて絶対に嫌ださ。

でも君の行動も目に余るものがある。

今の君は戦乱をただ掻き乱す、

War abnormals(戦争異常者)だよ」

 

「くっ.....!!」

 

「それから良晴。

錬金術師に拳銃1丁で挑むなんて無謀だ。

勝つ見込みぐらい計算してから行動に移すんだね。君の悪い癖だ」

 

「.....分かってる」

 

 

その時だ。

 

 

「なっ!?」

 

 

宗麟は見た。ふと目を離した隙に、

天竜が行動に移していたのだ。

懐に忍ばせていた水筒を取り出し、

中の液体をガブガブと飲んでいる。

中の液体は人の血であった。

 

 

「ぷはぁっ!!」

 

 

全て飲み切ると、空の水筒をその場に捨て、ムクリと立ち上がる。あれだけグチャグチャにされていた身体の傷は完璧に再生され、服だけがボロボロになっていた。

 

 

「全く、人の一張羅を穴ボコにしやがって」

 

 

天竜は着ていた白軍服を破るように脱ぎ捨てると、新品の同じ白軍服を召喚して、それを身に付けた。

 

 

「この俺が追い詰められたのは光.....

左馬助の件以来、久方ぶりだ。

俺はお前が心の底から欲しくなった」

 

 

天竜は再び方天画戟を召喚し、構える。

その瞳は紅に輝き、背中に翼が生え、

半分だけドラキュラ化していた。

 

 

「お前を真から手に入れてみたい!

心も身体も手にしてみたい!

俺に服従させてみたい!

お前を征服してみたい!」

 

 

今度こそ本気の天竜。

 

 

「ふっ.....」

 

 

宗麟は微笑する。

 

 

「Do not try if what I can do that!!

(やれるものならやってみな!!)」

 

 

 

 

 

 

豊後の地にて、

一つの戦乱が起きようとしていた。

 




新キャラ大友宗麟。
キャラ作りを迷走した結果、
本当にルー●柴みたいなキャラに.....
悪い子じゃないんですが、
色々手一杯になってるんですね。
年は長秀と同じく25歳という設定です。
次回予告
宗教
〜宗教が人々を救い、宗教が人々を殺す〜


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第六十五話 宗教

明後日に本免試験!
スピードコースを選んだので、
もう免許会得です!
でもテスト自信ない.....



白軍服、逆立った髪、鋭い鬼歯、

小さくも立派に生えている角、

紅く輝く瞳、白銀の巨大な翼。

これが天竜のドラキュラ化。

だがこれでも半分程度だ。

完全体になれば全体的に筋肉が隆起し、

顔も化け物じみたものとなる。

だが、完全体は霊力の消費も激しい事もあり、天竜はこの状態を保っているのだ。

 

 

「..........少しよろしいですか?」

 

 

宗麟が尋ねる。

 

 

「宣教師様のお話ではDRACULAは、

Black(黒)なWing(翼)を持つとお聞きしました。

ですが貴方のはWhite color(白色)。

そして、服装もBlackを好むと聞いていましたが、貴方はWhiteを好むよう。

どういう事なのでしょう?」

 

「ふっ.....伝記とは、

人々が何度も何度も伝え合い、

それが長くなればなるほど、デマや誇張によって、その姿は本来のものから大きくかけ離れてしまうものなのだ。

まっ、もしかしたら奴は本当に黒かったのかもしれないがな」

 

「?」

 

「俺はドラキュラではない」

 

「はぁ!?」

 

 

この後に及んでどんな言い逃れだ。

 

 

「といっても、俺もまたドラキュラ。

俺はドラキュラであって、ドラキュラではない。あいつは俺であって俺ではない。

あいつがドラキュラだからといって、

俺までドラキュラであるとは言えないし、

そうであるとも言える。

俺は偽物であって、本物であるとも言える。

だが、あいつの証言では俺は偽物であるというのだから、俺は偽物であいつは本物なのであろう。

それもまた違うと言えるがな」

 

「What??」

 

 

全く理解できない。

 

 

「俺は個の『天竜』を持ち、

個の『ドラキュラ』を持つ。

あいつも個の『天竜』を持ち、

個の『ドラキュラ』を持つ。

だがあいつは個の『天竜』を捨て、

新たに『朧』という個を持ったがな」

 

「「「???」」」

 

「もういい!!

さっさと戦いますよ!!」

 

 

周りの良晴らも理解できない。

 

 

「まぁ、結論を言うとだ。

俺は偽物だ。偽ドラキュラだ。

だが.....偽物が必ずしも、

本物より劣るとは限らない!

偽物の方が強くたっていいのだ!」

 

 

白いドラキュラは構える。

 

 

「大友宗麟よ。

宣教師に何を聞いたかは知らんが、

聞いた話よりも大袈裟に捉える事だな。

そうでなければ、

実力の差に腰を抜かすぞ?」

 

「Keep your mouth and say to the death!

(死ぬまでほざいてろ!)」

 

 

宗麟はナノマシンを構える。

 

 

「私の宝具『Mercury』は無敵!」

 

「Mercury.....意味は水銀か。

『Nanomachine』という名称も嫌いではないが、いい名付けをする」

 

 

戦闘の最中に敵を褒めている。

 

 

「ふっ.....」

 

 

天竜は槍を地面に刺す。

 

 

「串刺城壁(ガズィクル・ベイ)」

 

 

マーキュリーを狙って技をかける。

しかし.....

 

 

「むっ!?」

 

 

槍が自分の真下から生えてきたのだ。

天竜は慌てて避ける。

 

 

「カウンター術か何かか?

これじゃあ直接攻撃系の術は使えないな」

 

「Shot!!」

 

 

宗麟がマーキュリーを如意棒のように伸ばしてくる。

 

 

「おっと!」

 

 

天竜は華麗に空へ飛ぶ。

 

 

「Go Find a Psychic(曲がれ)!」

 

 

マーキュリーは急展開して、

空に逃げた天竜を追う。

 

 

「しつこいぞクズ鉄が!」

 

 

天竜は方天画戟でそれを薙ぎ払った。

 

 

「かかった!」

 

「!?」

 

 

マーキュリーは、斬撃を食らう直前に急に形を変え、天竜を包み込むような形になる。

こんなのに巻き込まれれば、

10割の確率で死ぬ!

 

 

「式、鉤爪竜!!」

 

 

咄嗟に式神を召喚。

 

 

「ギャアアアアアア!!?」

 

 

鉤爪竜はそのまま、天竜の代わりにマーキュリーに巻き込まれてしまった。

 

 

「なんて奴!自身のServant(使い魔)を囮にするなんて!」

 

 

「グゲッ!グガガガガッ!」

 

 

巻き込まれた鉤爪竜は金属に押し潰され、

バキバキと骨を折られている!

 

 

「よくも俺の式神を.....許さない!」

 

 

いや、あんたが殺したようなもんだろ。

と、良晴が内心で思う。

 

 

「召喚!!」

 

 

天竜が今度召喚したのは、

なんと『RPG(ロケットランチャー)』だった。

 

 

「Cannon(大砲)!?」

 

「喰らえクズ鉄!!」

 

 

天竜はそのまま発射させる。

 

 

「なっ!?」

 

「花火を上げるぞ!!」

 

 

ロケットランチャーはミサイルの如くマーキュリーに向かって行き、マーキュリーを鉤爪竜ごと破壊した。

 

 

「ひゅ〜!!」

 

「Mercury!?」

 

 

大爆発を起こし、上がった煙のせいで状況がどうなっているか分からない。だが、マーキュリーが粉々になっている事は誰でも想像できた。だが.....

 

 

「何っ!?」

 

 

爆炎の中から、マーキュリーの破片が飛び散って来ているのが分かった。爆風に乗せられて来ているのではない。自らの意志でこちらに飛んで来ているのだ。

 

 

「こなくそっ!!」

 

 

天竜は方天画戟を目の前で回転させ、防壁を作る。

弾丸のように飛んでくるマーキュリーの破片をいくつもいくつも弾いていったが、その内の数個を取りこぼしてしまう。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

マーキュリーの破片が天竜の前面に複数突き刺さる。

 

 

「やばっ.....!!」

 

 

体内に入り込んだマーキュリーの破片がうにゅうにゅと更に奥底へ潜り込もうとしている。このまま体内で暴れる気なのだ。

 

 

「させるかっ!!」

 

 

天竜は全身に力を加える。

すると、天竜の身体の穴という穴から鮮血が噴き出した。同時に、傷口に潜り込んでいたマーキュリーも弾き出された。

 

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

 

全身から血液を垂れ流す天竜。

だが、一向に再生が始まらない。

 

何故だ.....ナノマシンの主成分は、

鋼60%に水銀が40%だったはず。

その程度で吸血鬼の王である俺が!?

 

 

「!?」

 

 

今になって気づく。マーキュリーは銀色である織部のナノマシンと違い、金色に近いのだ。

 

 

「.....金が含まれている?」

 

 

金も銀も鬼の弱点だ。

 

 

「金と銀の合金.....琥珀金か!

くそったれ!!」

 

 

それなら再生が極端に遅くなるのも理解できる。あれは.....マーキュリーという名の化物は.....

『吸血鬼を殺す為だけに作られた兵器だ』

特に俺にとっては天敵とも言っていい。

 

 

「こうなってくるとだ.....

『宗麟を生かした状態で』マーキュリーを倒すのは限りなく難しいぞ!」

 

 

ただのナノマシンだったなら、ナノマシンを弱らせてその間に術者を捕らえれば良かったのだ。だが、マーキュリー相手にはそうはいかない。

マーキュリー単体と戦うには骨が折れ過ぎる。この場合は術者を狙うのが有力であるが、宗麟は殺したくない!

 

アマテラスとの戦いにも備えている為、

力はあまり使いたくない.....

 

 

「殺すしかないのか!宗麟を!!」

 

 

天竜は地団駄を踏む。

今の大友宗麟は危険人物だ。

天竜のいつもの理論が通るなら、ここで殺してしまった方が、世の為人の為になるというものだ。

 

 

「やなこった!!」

 

 

この状況においてのみ、

そんな理論は破棄する。

女を殺すくらいなら世界を滅ぼした方がマシだ。でなくとも、俺は絶対にやりたくない!!

 

 

「くそおおおぉぉ!!!」

 

 

天竜は再度突撃する。

 

 

「ギギギギガガガガガガ!!!」

 

 

機械のような金切り声をあげるマーキュリーが応対する。

 

 

「糞鉄がぁ!!

『マーキュリー』なんてややこしい名前しやがって!琥珀金なら『エレクトラム』って名前にしやがれ!!」

 

「あっ.....それもGoodなNameですね」

 

 

宗麟がボソりと呟く。

 

 

「ガガガガゲゲ!!」

 

 

マーキュリーが天竜の両足に巻き付く。

 

 

「ちっ!」

 

 

天竜は両足を槍で斬り取った。

 

 

「Mercury!DRACULAを逃がさないで!」

 

 

宗麟の命令に従い、空へ逃げようとする天竜を何処までも追うマーキュリー。

良晴達見学者は、

それを見ている事しかできなかった。

 

 

「しまっ.....!?」

 

 

回り込みされた天竜はマーキュリーに取り込まれてしまう。マーキュリーは天竜はバキバキと締め付ける。

 

 

「がぁっ!?..........くそっ!!」

 

「Die(死ね)!DRACULA!!」

 

「No Thank You(やなこった)!!」

 

 

天竜は手榴弾を召喚し、

その場で自爆した。

 

 

「なっ!?」

 

 

爆発には弱いらしいマーキュリーは天竜と共に爆発し、解放された天竜はバラバラの状態で飛ばされて来る。

 

 

「天竜!!」

 

 

バラバラになった天竜を受け止めたのは良晴。だが天竜は、顎から上と四肢が完全に消滅していたのだった。

 

 

「あっ...........」

 

 

服も皮膚も引き千切られ、

肋骨の大部分が剥き出し状態に.....

とても元人間の身体とは思えない。

だがそれでも確実に動く心臓が、

破れた皮膚の間から見えた。

 

 

「..........今なら」

 

 

良晴は右手に握っていた拳銃を見る。

実は銀の弾丸が装填されている。

このまま心臓を撃ち抜けば天竜は死ぬ。

この魔王を殺せるのだ。

 

良晴はふと後ろを向く。

仙千代は先程のダメージが大きいのか、

まだ倒れている。

そして隠れているかもしれない3人の忍。

天竜がこんな状況にも関わらず、未だ姿を見せないという事は、先程の天竜の言葉はハッタリであり、本当はいないのではないか!?

 

なら今こそが、天竜を殺る最大の好機!

 

 

「あんたさえ死ねば.....

信奈にも...........再び天下が.....」

 

 

3年前に全てを奪ったこの男を.....

『好きでもないのに』ヘラヘラしてずっとあの男の側に付いてきた苦痛が、やっと解放されるのだ!

 

 

「俺が...........殺れば」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、良晴は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拳銃を仕舞った。

 

 

 

 

 

 

そして、代わりに小太刀を取り出す。

 

 

「蘇れ天竜!!」

 

 

良晴はそのまま小太刀で自分の腕を傷付け、流れ出た血を天竜に掛けた。

 

 

「うがっ!!?」

 

 

急に天竜が叫び声をあげ、次の瞬間には天竜の身体がまるで生え変わるかの如く再生されていく。衣服も同時に再生されているようだった。

 

 

「はぁ!!はぁ!!はぁ!!」

 

 

流石の天竜も、今のには生死を彷徨ったのか、多量の汗を流していた。

 

 

「よっ.....良晴か.....すまない」

 

「いや.....」

 

 

良晴は寸前で思い留まったのだ。

このまま天竜を殺せば、

向かってくる宗麟を誰が倒す?

天竜でも勝てない相手をだ。

それに、豊臣軍の大将が死亡したとなれば、

島津は余計に勢いづくだろう。

混乱する豊臣軍は逆転されるかもしれない。

そう考えて、殺すのを踏み止まったのだ。

 

 

「どれ.....」

 

「えっ!?」

 

 

天竜が自身の親指を歯で傷付け、

そこから出た血を良晴の腕の傷に塗ってやる。

すると見る見るうちに傷が治ってしまった。

伝説通りだ。

 

 

「良晴」

 

「なっ.....なんだ?」

 

「先程の暴言は聞かなかった事にしてやる」

 

「...........」

 

 

バレていたようだ。

 

 

「それはともかくだ.....

そろそろ宗麟がヤバい」

 

「!?」

 

「ナノマシンは見た目以上に高度でな。

術者への反動が限りなくでかい。

織部は経験からそれを抑えるすべを学んだようだが、宗麟は恐らく初心者。何も理解してない。それに2回もマーキュリーを爆発されれば、術者には相当の苦痛がいくだろう」

 

 

良晴はふと彼女の方へ視線を向けると、

青白い顔で胸を押さえながら、

激しい動悸の中で戦う姿が見えた。

 

 

「このままじゃ.....先に死ぬのは宗麟だ」

 

「そんな.....」

 

「あぁ〜面倒臭せぇ!」

 

 

天竜はフラフラの状態で立ち上がる。

 

 

「良晴!官兵衛!」

 

「「!?」」

 

「お前達に頼みがある!

この作戦はお前達無しには成功しない!」

 

「何をするんだ!?」

 

 

良晴が尋ねる。

 

 

「ふっ.....」

 

 

天竜は微笑した。

 

 

「この世で最も格好悪い勝ち方だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世で最も格好悪い勝ち方とは?

天竜は思考を重ねた。

宗麟との勝負に蹴りを付けるには、

124通りの方法がある。

だが宗麟を殺さずに済むには、

31通りとなってしまう。

犠牲者を全く出さずにするなら、

5通り。

今現時点で、最も有力とされている方法は.....

 

 

「よしっ!行くぞ!!」

 

 

天竜は翼を広げ、

低空飛行にて突進してくる。

 

 

「Mercury!!」

 

「ガガガガゲゲギギギギギギ!!!」

 

 

マーキュリーも再び応対する。

 

 

「式、鉤爪竜!!」

 

「ギャア!」

 

 

再び鉤爪竜を召喚し.....

 

 

「ギャア!?」

 

 

再び捨て駒に使った。

 

 

天竜の代わりに身代わりになった鉤爪竜はマーキュリーに捕まり、バキボキと締め付けられている。

マーキュリーを掻い潜った天竜は、

まっすぐ術者の宗麟のもとへ.....

 

 

「なっ.....」

 

「Γεια σας(こんにちは)!」

 

 

何故かギリシャ語で挨拶した天竜はそのまま宗麟を抱えて空高く飛び上がる。

 

 

「後は任せた!」

 

「えっ!?」

 

 

そのまま何処かへ行ってしまった。

 

 

「「...........」」

 

「ガギギギ!?」

 

 

取り残された良晴らと、

主人を失ったマーキュリー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ逃げやがった!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げるが勝ちという言葉があるが、

確かに格好悪い.....

というか、最低な勝ち方だ。

 

 

「聞かなかった事にするとか言って、

やっぱ怒ってたんじゃねぇか!!」

 

 

こんな事なら助けるんじゃなかった。

 

 

「いやこれで、術者のいなくなったマーキュリーの能力は著しく低下するはず!

力も弱くなるし、頭も悪くなる。

術者からの霊力の供給がない限り、

マーキュリーは特殊な攻撃もできない!

ある意味いい方法かもね」

 

 

官兵衛が言う。

 

 

「とはいえ、見捨てた事には違いないだろ!」

 

「そうかもね.....」

 

「ぬしらを信用したとは考えぬのか?」

 

「「!?」」

 

 

良晴が慌てて振り返ると、そこにいたのは刀を持った美女。忍と侍の中間のような服装をした人物。

 

 

「石川五右衛門!?」

 

「久しいな関白秀吉」

 

「なんで君が!?」

 

「太閤様から聞いていないのか?

我らは常に4人で太閤様の周りを護衛してるという事を」

 

 

ハッタリじゃなかったのか!?

もしあのまま天竜殺してたら、

俺は今頃.....

 

 

「先程貴様が太閤様によからぬ事をしようとしていた時も太閤様は『てれぱしぃ』で余計な事はするなと仰られたのだ。そして、貴様らを手助けしろともな」

 

「そうだったのか.....」

 

「私は聞いていないぞ!」

 

 

遠くの方で仙千代が叫ぶ。

 

 

「『敵を騙すなら味方から』

だって仙千代お姉さん!」

 

「『仙千代は独断で命令外の事もする節があるからまだまだだな』だって仙千代お姉さん!」

 

 

仙千代の左右の地中から阿吽姉弟が出てくる。

 

 

「あんの腹黒太閤め〜!!」

 

「はい傷薬。

天竜の血で作ってるから塗れば一発だよ!」

 

「代わりに塗り塗りしたげよっかぁ?」

 

「屈辱!!」

 

 

どうやらちゃんと3人いたらしい。

全く気配が無かったのに.....

 

 

「それでどうするんだい?

弱くなったとはいえ、

相手はあの鋼の化物だよ?」

 

 

官兵衛が言う。

 

 

「相手が金やら銀程度なら、問題はない」

 

 

凪は答えた。

 

 

「「!?」」

 

 

凪はマーキュリーの目の前に出る。

鞘に仕舞った刀を一本もって.....

 

 

「ギギギギギギギガガガガガ!!!」

 

 

金切り声をあげ、暴走したマーキュリーがまっすぐ凪のもとへ突進してくる。

 

 

「私はただの抜け忍。

ただのしがない泥棒だ」

 

 

凪は居合の状態で構える。

 

 

「私ができるのはただの窃盗。

敵の情報を盗み、敵の宝を盗み、

時には敵の命を盗み.....」

 

「ギギギギギギギガガガガガ!!!」

 

「お命頂戴致す!」

 

 

そして、凪は刀を抜く。

 

その技の名は、『残鉄剣』

 

 

「ギギギッ!?」

 

「またつまらぬものを斬った」

 

 

何処かで聞いたような台詞だぞ?

と良晴。

 

 

「ゲガッ!!!」

 

 

マーキュリーは4つに分断されてしまった。

 

 

「私の残鉄剣で斬れぬものはない」

 

「「「「ギギギギギガガ!!」」」」

 

「あ.....」

 

 

分断されたマーキュリーはそれぞれで動き始めてしまった。

 

 

「敵増やしてどうすんだ!!」

 

「かたじけない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の天竜。

ひたすら東へ飛んでいた。

 

 

「Tied(離せ)!Drop(降ろせ)!」

 

「いいけど、俺が手を離したら死ぬぞ?」

 

「うぅ.....」

 

 

天竜の飛行速度はなんと時速1224km。

マッハ1だ。

これも保護結界を張っているからできる事で、それがなければ宗麟の方が持たないだろう。

 

 

「俺の羽だけじゃこんなに早くは飛べん。

重力操作も使っているんだ。

土御門小僧の受け入りだがな。

重力を横向きに上へ転換させてるから.....」

 

「You do not know the meaning!

(意味がわからないぞ!)」

 

「あっそ.....................!?」

 

 

その時、ガクンッと高度とスピードが落ちた。

 

 

「What!?」

 

「すまん。魔力使い果たした.....

無理矢理な再生とマッハ飛行で.....」

 

「Lie(嘘)でしょ!?」

 

「良かったじゃねぇか。Drop(降下)できるぞ?」

 

「Fall(落下)の間違いでしょ!!」

 

 

天竜と宗麟はそのまま、

富士山の頂上近辺に墜落した。

とりあえずは無事だった。

 

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

「生きてっか?」

 

「Shut up(黙れ)!」

 

 

天竜が何かしらの術を使って、宗麟にかかる負担を極限まで抑えたのだ。そのせいで、逆に天竜は動けずにいる。

 

 

「今こそがChance(好機)!」

 

 

宗麟は懐から短筒を取り出し、

天竜へ向ける。

 

 

「命の恩人を殺すのかい?」

 

「Shut up!Shut up!!

DRACULAは殺さなければならない!」

 

「何故俺の殺害に拘る?

誰にどんな告げ口をされた?」

 

「貴様が今後我らキリシタンにしようとしている事だ!」

 

「むっ?」

 

「貴様はまず、日本におられる宣教師様達をDeportation(国外追放)するんだ!」

 

 

俗に言う『バテレン追放令』だ。

 

 

「そして日本における、キリストの教えを完全に

Ban(禁止)にするんだ!」

 

 

『禁教令』だろう。

豊臣は許可制までだったが、

徳川は全面的に廃止しようとし、

挙句の果てには鎖国をしてしまった。

 

 

「さらに貴様は!

26人に及ぶChristian believer(キリスト教信者)を処刑するんだ!」

 

 

『日本二十六聖人殉教事件』

メキシコに向かおうとしていたスペインの船

サン・フェリペ号が台風にて日本に流された。奉行の増田長盛らが船員らを尋問し、彼らから『スペインが日本を植民地にしようとしている』という事を知った秀吉は、京都に住むフランシスコ会員とキリスト教徒全員24人を捕縛して処刑するよう命じた。

さらに共に死ぬ事を希望した2人を加えて、

26人が磔にされた。

 

 

「何故お前が知っているんだ!?」

 

 

それは未来に起きる.....

史実において、これから起きる事になっている出来事の数々だ。

ひょっとして宗麟を誑かしたのは未来人か?

 

 

「女性キリシタン100名を次々にRape(強姦)して、何人もの女性を孕ませては堕胎させ、孕ませては堕胎させ、その子供のMeat(肉)を喰らうんだ!」

 

「誰の話だそれは!!?」

 

 

デマまで流してるのか!?

いくらなんでも誇張し過ぎだ。

 

 

「よくもまぁ、自分達が完全な被害者のように言えるな」

 

「!?」

 

 

天竜は反論した。

 

 

「キリシタン共が.....

全く何もしなかったと思うのか!?

キリシタン大名やキリシタンによって寺社が焼き払われてしまったり、僧侶が迫害されてしまったりした事もある!逆もある事はあるが.....

さらにポルトガル商人によって日本人が奴隷として海外に売られている事例だってあるんだ!

それからバテレン共!

奴らは日本人を人間だと思ってない!

キリスト教において、

神は自分に似せて人間を作ったとある。

だが、神は白人だ!

異教徒達や、白人以外の黒人・黄人達は人間として

認識されていないんだ!

だから植民地支配や奴隷貿易を平気で行える!」

 

「そんなのLie(嘘)だ!

だって..........宣教師様達は.....」

 

「だからだ。お前だってあいつらに人間扱いなんてされていない。あいつらにとってお前は、都合がいいから側にいさせているだけの愛玩動物(ペット)に過ぎない!」

 

「なっ.....!?」

 

 

宗麟はその言葉に絶望する。

そして、大粒の涙を流した。

 

 

「いいか、よく聞け宗麟。

人間とは脆い生き物だ。

何かに頼らなければ、

生きてはいけない弱い存在だ。

自身を裏切らない宗教に身を委ねたい奴の気持ちだって分かってるつもりだ。

だがな.....

宗教を作ってるのもまた人間なんだ!

それは弱きを助ける為だけじゃない。

罪をなすり付ける為にも宗教は使われる。

宗教を理由に多くの人間が殺された!

宗教を理由に多くの戦争が起きた!

宗教が多くの不幸を作り上げた!

俺の友人の1人にそんな奴がいた。

彼女は戦争に負けて、主君に裏切られ、

でも聖人だから処刑はできなかった。

しかし邪悪な人間共は、

宗教を使って意図的に彼女を異端者『魔女』に仕立て上げ、火炙りにしやがった!」

 

 

それは『オレルアンの乙女』

 

 

「うぅ.....」

 

「宗麟、神はいないんだ。

人間が創り上げた妄想に過ぎない。

例え人知を超えるような存在が現れたとしても、それはそういう存在であって、宗教で教えられているような神々しい奴らではない!」

 

 

少なくとも天竜は、

アマテラスやツクヨミに対して、

このような感情を抱いている。

 

 

「人間を救えるのは神じゃない。

人間を救える事ができるのは、

人間しかいないんだ!」

 

「じゃあ.....」

 

 

宗麟が弱々しく尋ねる。

 

 

「貴方は私を助けてくれますか?」

 

「..........」

 

 

それは心からの叫びだった。

 

 

「私を救えるのがHuman(人間)しか駄目なのなら.....

貴方は私を助けられますか?」

 

 

人間でない天竜に.....

 

 

「俺は.....」

 

 

天竜は人間ではない。

 

 

「俺は化物だ」

 

 

天竜は答える。

 

 

「ただし、人間のような化物だ」

 

「えっ?」

 

「この世には化物のような人間が数多くいる。そのような奴らがこの世を乱すのだ。

なら俺は何だ?

俺もまた、世を乱す化物の1人。

だが人間ではない。

人間の定理とはなんだ?

特殊な異能の力を持たない者の事か?

なら、お前や官兵衛まで化物になっちまう。

だから俺は思う。

人間とは、『愛』を持つから人間なのであるという事を.....」

 

「ら..........Love(愛)?」

 

「俺の言い分を戯言と捉えるならそれでいいさ。だが俺はな、人間と同じように多くの者を愛している!

この国を愛している!

この世界を愛している!

お前も愛してやろうか!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「ぷっ.....」

 

 

宗麟は微笑する。

 

 

「豊臣秀長.....いえ、太閤様。

もう貴方が化物で構わない。

私を助けて下さい」

 

「俺は助けないさ」

 

「えっ?」

 

「俺が導いて、お前自身が自ら助かるんだ。

お前の世界を創り上げるのは、

お前自身だからな」

 

「Yes.....」

 

 

宗麟は向けていた短筒を降ろす。

 

 

「戦争ってのは話し合いで解決しきれなくなった時に起こす外交行為だ。

だが、俺達は全く話し合ってない。

これからは先に話し合おう。

俺達の事も.....

キリシタンの事も.....」

 

「Yes!」

 

 

2人は握手を交わした。

 




最後はトントン表紙で和解した2人。
真意を表に出し始めた良晴。
さて、次回は取り残された良晴達の戦いです。
4体に分裂したマーキュリーを果たして
倒す事ができるのか!?
そして、今件の黒幕とは!?
次回予告
サタン教
〜キリスト教に代わる新たな.....〜


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第六十六話 サタン教

風邪を引いて更新が遅くなりました。

免許受かりました!


富士山頂上付近で和解した天竜と宗麟。

これからまた豊後に戻らなければならない。

 

 

「ぷっ.....」

 

「ん?.....どうした宗麟?」

 

 

宗麟は再び微笑する。

 

 

「だって今思い返せばFunny(可笑しい)なんですもの」

 

「何がだ?」

 

「直前まで言ってたのが、

『HumanはHumanにしか救えない』

なんて言っていたのに、

『Meは助けない。Youが勝手に助かるんだ』

だなんて、完全にContradiction(矛盾)してます」

 

「ふふっ.....矛盾なんてしてないさ。

だってSave(救う)とHelp(助ける)だぜ?」

 

「Vocabulary(語彙)の違いでしょう?」

 

「いいや。俺にとっちゃ中身も違う」

 

「Why?」

 

「さぁな。俺にも説明できん。ふふっ.....」

 

「?」

 

 

よく理解できない宗麟だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、帰るか。

.....と言いたい所だが、どうすっかなぁ」

 

 

2回も完全再生した上に、マッハ越えの高速飛行により、天竜は帰るだけの余力を残していない。

 

 

「ヘリ1機でも出せればいいが.....」

 

 

そんな中、天竜は後ろで弱々しく佇む宗麟を見る。

 

 

「なぁ、宗麟。

お前に錬金術を教えたのは誰だ?

それと俺の悪口振りまいたのは?」

 

 

昨今の日本において、錬金術を習得をしていると思われるのは3人。1人はこの大友宗麟。後の2人は千利休とその弟子の古田織部だ。

織部は千利休から技を盗んで応用し、

ナノマシンを手に入れた。

そして利休は.....

 

 

 

 

 

 

 

「お前の師匠はひょっとして.....

『サンジェルマン伯爵』か?」

 

 

 

 

 

 

 

「!?..........何故ご存知なのですか!?」

 

「やっぱりか.....」

 

 

サンジェルマン伯爵.....謎多き男。

宗麟がナノマシンを使い出した時から、

奴の名前が脳内でちらついていた。

利休に錬金術を教えたのは奴。

なら宗麟も同じではないかと.....

 

そこでまた疑問が残る。

俺は当初、利休は味方であると思っていた。

それは、黒魔術師のサンジェルマンが彼女の師という事を知って、その考えは濃くなった。

だが、利休は根っからのキリスト教信者だった。そして、宗麟も言うまでもなくキリスト教信者であった。

 

なら、サンジェルマン伯爵とは何者だ?

 

伯爵もまた、実はキリスト教信者なのか?

仮にそうでなかったとして、

何故自分に不利のような事をする?

『敵』に力を与える?

目的は何だ?何なのだ?

 

 

「少なくとも、私にAlchemy(錬金術)をお教え下さったのはEarl Saint-Germain(サンジェルマン伯爵)様です」

 

 

宗麟が含みのある言い方をする。

 

 

「すると、お前を唆したのは.....

サンジェルマンとは別の人間か?」

 

「.....Yes」

 

「誰か教えてくれないか?」

 

「Found(分かりました)。

そのお方は宣教師様です」

 

「まぁ、予想はしてたよ」

 

 

となると、容疑者はあいつか?

 

 

「ガスパール・コエリオか?」

 

 

天竜は尋ねる。

 

 

「いえ、確かにあのお方も関わってはいますが、Center(中心)となった方ではありません」

 

「じゃあ、誰だ?」

 

 

宗麟は答えた。

更なる恐怖となる答えを.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Francisco de Xavier

(フランシスコ・デ・ザビエル)様です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豊後、臼杵城下。

4体に分裂した(させた)マーキュリーとの決戦をしていた良晴ら。

官兵衛以外生身の一般人であるこのキャラバンで、果たしてこの鋼の化物を倒せるのか!?

とはいえ、生身で化物並のアサシンが4人もいるのだが.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というか、こっちの方が化物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あはははははははは!!!!」」

 

 

昔から変わらない、無邪気な笑い声と共に残虐に身体を動かす双子。

 

 

「ねぇ〜!待ってよぉ!」

 

「ギギィッ〜!?」

 

 

逃げ惑うマーキュリーαを鉄砲を乱射しながら追いかけ回す阿斗。いや、鉄砲と言うにはそれは、あまりに簡潔過ぎる。

彼女は機関銃を装備していた。

『トンプソン・サブマシンガンm1928A1』

世界大戦において、アメリカ軍が製作した機関銃だ。1分で600発は撃てるフルオート機能を持っている。

第二次世界大戦において日本人を何万人も蜂の巣にして殺害したこの兵器を阿斗が使用するのは、皮肉なものだが.....

 

 

「きゃははははははははははははは!!!」

 

 

阿斗は至って楽しそうだった。

恐らく天竜の召喚によるものだが、

何てものを子供に渡すのだ!

 

 

「あはははははははははは!!!!」

 

「ギギャッ!?」

 

 

一方の吽斗。

彼は特殊剣にてマーキュリーβしつこくを追いかけ回し、撫で払っていた。

その特殊剣は.....

かつて今川氏真が使用した剣。

『蛇腹剣』であった。

対左馬助戦の唯一の生き残りである吽斗がこの剣を受け継いだのだ。

マーキュリーβがどれだけ距離を離そうと逃げ惑っても、蛇腹剣はしつこく対象者を追い回し、必要以上に傷を付ける。

 

 

「いやぁ!!へあぁ!!かあぁ!!」

 

「ゲギャッ!?」

 

 

 

石川五右衛門こと凪は、マーキュリーγをまるで絹ごし豆腐の如くスパスパ斬っている。刀の斬れ味がいいのか、剣士の腕がいいのか.....

いや、両方だろう。

ただの鉄刀ではないのか?

だが斬れ味が良すぎて、小型のマーキュリーがどんどん増えてしまっている。

 

 

 

「くたばれっ!!」

 

「ゴギャッ!?」

 

 

仙千代もまた、マーキュリーδを斬り裂く。

先程は斬り裂けなかった鋼鉄の糸だが、

今度は悠々とマーキュリーを斬り裂いている。

それは何故か?

糸を束ねて使っているからだ。

輪ゴムは数千個重ねれば西瓜も砕く。

それと同じように鋼鉄の糸を何重にも重ねて大きな鞭を錬成しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺らいらねぇな」

 

「シム」

 

 

見学者の良晴と官兵衛。

役に立っていないというか、

入り込む余地すらない。

生身で化物とタメを張れる4人とは違うのだ。

 

 

「天竜どこいったんかなぁ」

 

「分からないね。東に行ったようだけど、

姫路城あたりにいるんじゃないかい?」

 

 

いや、富士山にいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ギギギギガガガガガ!!!」」」」

 

 

突然、4体のマーキュリーが叫び出した。

次の瞬間、マーキュリーらのいる地面がどんどん銀色に変色してきている。

 

 

「まっ.....まずい!!」

 

 

官兵衛が言う。

 

 

地面は変色しているというよりは、

変化しているようだった。

同じ水銀に.....

 

 

「「「「ギャギャギャギャギャ!!!」」」

 

 

水銀に変化した地面をそれぞれのマーキュリーが捕食している。それに乗じて4体のマーキュリーが巨大化している。

 

 

「馬鹿な.....ナノマシンが自ら錬金術を使って地面を変化させた!?あり得ない!!」

 

 

官兵衛が否定する。

だが、現実に起きてしまっている。

 

 

『「ギギィギギィギャギャギャギャ!!!」』

 

 

更に、4体が再び融合した。

最初の時の10倍ぐらいの大きさになっている。

 

 

「キングスライムかよ.....

いや、この場合はメタルキング?

それともゴールデンスライム?」

 

「何を馬鹿言っているんだい!」

 

 

緊張感のない良晴を一蹴する。

 

 

「これは私にも無理だ!」

 

「くっ!天竜はいつ帰ってくる!?」

 

「まるで怪獣だね」

 

「獣じゃないから怪金属じゃない?」

 

 

4人のアサシンにもお手上げのようだった。

 

 

 

「何をやってるんだい豊臣秀長!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

富士山頂。

 

 

「馬鹿な!!

フランシスコ・ザビエルだと!?

ザビエルは10年以上前に死んでいるはずだ!」

 

「No。ザビエル様はLive(生きて)しれおられます。数日前にもMeet(会う)しました」

 

 

どういう事だ?

 

 

「ザビエル様は.....本気でこの日本をDestroy(滅ぼす)おつもりなんです」

 

「何っ!?」

 

「以前Meetした時は.....

あんな方ではなかったのに.....」

 

「詳しく教えろ!

一体何が起きてるんだ!?」

 

「げほっ!.....

そもそものTrigger(キッカケ)は.....

私の義妹が.....

Anti-Christian(反キリスト教徒)に.....

なったから.....」

 

 

だんだん宗麟の息遣いがおかしくなっている。

 

 

「義妹!?」

 

「...........すまない奈多.....

これは私へのPunishment(罰)だろう.....

げほっ!!げほっ!!」

 

「奈多夫人か!?」

 

 

『奈多夫人』

史実において、宗麟の正室にあたる。

あまり知られていないが、

大友宗麟の正室はアンチなのだ。

彼女は八幡奈多宮の生まれであり、

神道を重んじている。

だが、宣教師が持ち込んだキリスト教によって、夫や息子がキリシタンになってしまい、彼女の運命は変わった。

周りがどんどんキリシタンになっていく中で、彼女だけが神道を貫き通し、決してキリスト教を許さなかった。

多くの者に棄教を勧め、

従わぬ者には廃嫡処分を与えた。

宣教師とも真っ向から対立し、

激怒した宣教師が彼女に、

当時キリスト教の敵である、

イスラエルの王の妃の名をとって、

『大悪女イザベラ』と渾名を付ける事もあった。

宣教師達は、宗麟に奈多夫人と離婚するよう訴えかけた。宗麟はそれにまんまと乗ってしまい、一族の大反対があったにもかかわらず、あっさりと離婚してしまう。

その後、侍女であり宗麟の愛人でもあったキリシタンのジュリアが、宗麟の新しい正室になったという。

奈多夫人は離婚後も、宣教師らからの嫌がらせを受ける事があったが、決してその信念を曲げる事はなかったようだ。

 

この世界では、奈多夫人は宗麟の義妹として登場しており、史実と似たような出来事があったのだろう。

 

 

「ごめん奈多..........ごめん澪琴(みこと)」

 

 

どうやら名前は奈多(大友)澪琴らしい。

 

 

「宣教師様達ばかりをPriority(優先)して、

あの子を大友家から追い出したから、

だから...........Damnation(天罰)が下ったんだ.....

げほっ!!げほっ!!げほっ!!」

 

「宗麟!?」

 

「太閤様.....後はお頼みします.....

げほっ!!!」

 

「!!?」

 

 

宗麟は吐血した。

 

 

「宗麟!!!」

 

「折角Settlement(和解)できたのに.....すみません」

 

「まさか.....まだマーキュリーとの接続を切っていないのか!?」

 

 

豊後と富士のある駿河では1000km以上も距離がある。それだけ離れているにもかかわらず、まだ霊力を送り続けているとなると、術者への負担は相当なものとなるだろう。

 

 

「一体何故!?」

 

「Mercuryは私とのLink(接続)が切れれば、

近くのDragon pulse(龍脈)から

Spiritual power(霊力)を吸収する習性がある.....

だからMercuryは無敵.....げほっ!!

手っ取り早く消滅させるならば、

必要以上にSpiritual powerを送り込み、

Overheat(オーバーヒート)させれば.....

MercuryはCessation of activity(活動停止)する.....

げほっ!!げほっ!!」

 

「宗麟.....」

 

「島津との戦.....

きっと貴方様ならWin(勝つ)するでしょう.....

そして、この国のRepresentative(代表)である貴方様なら.....げほっ!!

キリシタンの行く末もFree(自由)にできる。

だからお願いです.....

この日本を.....Peace(平和)な国に.....

げほっ!!げほっ!!」

 

 

なおも吐血し続ける宗麟。

 

 

「ふざけるなっ!!

天下統一を目の前にして、

一足早く退場するというのか!

俺は認めないぞそんなもの!

死ぬのなら全てやり切ってから死ね!

何もかもを中途半端にして死ぬな!

言ったじゃないか!

これからは共に協力し合おうと.....

勝手に死ぬ事は許さない!

人間を捨ててでも生きてもらうぞ大分宗麟!」

 

 

天竜は宗麟を抱き寄せる。

 

 

「.....太閤様?」

 

 

天竜はふと、2年前の出来事を思い出す。

あの時ヒコを吸血鬼にしていれば、

ヒコはまだ生きていただろうし、

義元が壊れる事も、

義昭と対立する事もなかった。

ヒコの反対など聞かず、

無理矢理にでもやっておけば.....

 

 

「お前を吸血鬼にする」

 

「Vampire!?

駄目ですそんなの!!」

 

「黙れ。俺は二度と同じ轍は踏まない!

これ以上大事な奴を.....

死なせるわけにはいかない!

お前を救う為なら、

俺は鬼にも悪魔にもなる!」

 

 

天竜は宗麟の首筋に歯を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臼杵城下。

巨大化したマーキュリーを前に、

6人は動けずにいた。

 

 

「くそっ!」

 

 

良晴が呻く。

 

 

『「ガガガギギギギゲゲゲ!!!」』

 

 

巨大マーキュリーが攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Τεράστια εμφάνιση κύβος

Terástia emfánisi̱ kývos!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「!!?」」」」」」

 

 

何者かが呪文のようなものを唱えた。

次の瞬間、マーキュリーの上空に金属製の巨大な立方体が出現する。

 

 

『「ギルガガガガ!?」』

 

 

鉄製の立方体はそのまま真下に落下する。

 

 

『「ギュペッ!!?」』

 

 

マーキュリーは押し潰されてしまった。

 

 

「くふふふふふふ.....

塩ちゃんもまだまだ未熟だな」

 

 

宗麟の幼名は塩法師丸。

 

 

「あんた...........は?」

 

「ん?」

 

「あんた誰だ?」

 

 

その男は、南蛮服に金髪。

40代の中年の外国人。

胸には逆十字。

 

 

「私の名前はサンジェルマン」

 

「サンジェルマン?」

 

 

良晴には聞き覚えのない名前であった。

 

 

「君が未来からもう1人来た、

相良良晴君だね?」

 

「俺を知ってるのか!?」

 

「私は何でも知っているからね」

 

 

堂々言い放つ。

 

 

「伯爵様。そろそろ.....」

 

 

伯爵の隣にいた少女が言う。

 

 

「君は?」

 

「私の名は奈多。渾名はイザベラ。

どちらでもお好きな呼び方をどうぞ」

 

 

なんと宗麟の妹だ。

服装は日本の神道式の巫女服。

だが、胸には伯爵と同じく逆十字が。

 

 

「気軽にベラちゃんって呼んであげな」

 

 

伯爵が言う。

 

 

「はぁ.....」

 

 

「ところで良晴君。

早くこの豊後の地を離れた方がいい」

 

「?」

 

「南方より島津が攻めて来た」

 

「!?」

 

「史実上、豊後は島津に一時的に奪われる。だが、豊臣本軍の介入によりすぐに奪還できる。

それまでは筑前に避難すべきだ」

 

「...........」

 

 

この感じ、何処かで.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギルガガガガ!!」

 

「「「!!?」」」

 

 

9割が金属の立方体に押し潰されたマーキュリーだったが、残りの生き残った1割が良晴の方へ襲って来たのだ。

 

 

「うわぁっ!!?」

 

「おやおや。

塩ちゃんを侮り過ぎたか」

 

 

伯爵は余裕の表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギニャッ!!?」

 

 

マーキュリーは再び押し潰された。

だが、やったのは伯爵ではない。

 

 

「大友宗麟!!?」

 

 

良晴は驚愕する。天竜と共に何処かへ飛び去った宗麟が戻って来たのだ。

だが決定的に違うのは、

翼を生やした天竜が宗麟を

連れて行ったのに対して、

『翼を生やした宗麟』が天竜を

連れて来たのだ。

 

 

「おやおや。塩ちゃんも眷属デビューかい?」

 

「...........伯爵様」

 

 

宗麟は物静かに呟く。

彼女の瞳は紅に染まっていた。

 

 

「ただいま良晴」

 

「天竜...........宗麟に一体何を?」

 

「何って.....ほっといたら死んじゃいそうだから、人間を辞めてもらったんだよ」

 

「!?」

 

「丁度良かったんだ。

魔力を全部使い果たしたのに、

周囲には供給できるものが何もない。

帰るに帰れなかったんだよ。

『だから宗麟を吸血鬼にした』

その上で俺の翼を植え付けたんだ。

驚いたよ。

まさか俺より5倍も早く飛べるたぁね。

行きに1時間かかったのに、

帰りは10分足らずだよ」

 

「なっ.....!?」

 

 

宗麟は天竜の眷属になっていた。

 

 

「自分の都合の為だけに.....

宗麟を化物にしたっていうのか!!」

 

「口を慎め。

それは宗麟も侮辱する事になる。

.....まぁ、否定はしないがね」

 

「腐ってやがる!」

 

「お前と対して変わらんよ」

 

「ちっ!」

 

 

表では協力し合う仲良し兄弟も、

裏ではこうも歪み合っている。

 

 

「.....姉上?」

 

 

奈多は、人間ではなくなった元義姉に話しかける。白いコウモリの翼を生やした宗麟は、哀らしい表情を浮かべていた。

 

 

「澪琴...........ですか。

笑えるでしょう?

貴方を異端と言って追い出した私が、

異端の象徴である吸血鬼になるなんて」

 

 

宗麟は妹相手に、あえて日本語のみで語る。

 

「笑えませんよ.....」

 

「.....澪琴...........ごめん」

 

「何故謝るのです?」

 

「だって.....」

 

「姉上は昔から駄目人間じゃないですか。ちゃんと見てないと何をやらかすか分からない阿呆です。

挙句の果てに悪徳な異国宗教に惑わされて.....

人間を辞めた以前に、姉上は人間としてトコトン終わってたではありませんか」

 

「うぅ.....」

 

 

奈多はかなりの毒舌だった。

 

 

「だから.....

今更吸血鬼になった所で、

嫌いになったりしませんよ」

 

「!?」

 

「むしろ目が覚めたんじゃないですか?

今までの愚者としての人間から一新、

新しい人生が開けたんですから。

いや、吸血鬼生ですかね?」

 

「...........澪琴」

 

 

宗麟は泣いた。

 

 

「泣けるうちは姉上は人間ですよ。

姉上は心が純粋なんです。まぁ、純粋過ぎてすぐ騙される馬鹿ですけどね」

 

「ごめんなさい!」

 

 

やっぱり怒っている!?

 

 

「心が人間であるだけマシですよ。

人間の分際で悪魔の心を持った屑もこの世には巨万といるのですから」

 

「...........」

 

 

奈多が天竜と同じ事を言った。

それで、何だか安心してしまった。

 

 

「姉上。私は貴方が異国宗教の虜になった事だけに怒っているのではありません。

伯爵様に習いましたが、

確かにキリスト教にも、

日本にはないいい教えはあります。

私が怒っているのは、

耶蘇に土地を売り渡した事。

我ら家族を蔑ろにした事です」

 

「うん」

 

「姉上は馬鹿ですから、

私がまた見てやらないといけませんかね」

 

「それって.....」

 

「どうしてもと言うのなら、

戻ってあげてもいいですよ?」

 

「!?」

 

 

奈多の朗らかな表情での言葉に、

暗かった宗麟はパァーッと明るくなる。

 

 

「Thank You!!」

 

「ふざけているのですか?

この状況で正気を疑いますよ?

本当に馬鹿で愚かですね。

そんなんだから耶蘇に利用されるんです」

 

「あうあう.....」

 

 

完全に頭が上がってない。

追い出してしまった負い目があるのか、

それとも昔からこんな関係なのか.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、とりあえず逃げね?」

 

 

天竜が言う。

 

 

「さっき空から見たけど、

島津の大軍が豊後に攻め込んできてる。

今の戦力じゃ勝つのは無理だ。

ここは退いて、後で取り返そう」

 

「...........」

 

伯爵と全く同じ考えを示した天竜。

良晴は改めて天竜の実力を知る。

 

 

「あんたとの話も後回しだ伯爵」

 

「構いませんよ伯爵」

 

 

ドラキュラもサンジェルマンも同爵位。

 

 

「一時的に領地手放しちゃうけど、

いいか宗麟?」

 

「構いません。

第一もう、私は貴方に逆らう事ができない」

 

 

それが吸血鬼の眷属。

 

 

「んじゃ、とっととずらかろう」

 

 

彼の4人のアサシンはその時にはもう姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

その後、島津は豊後を占領。

大友家の領地は筑前のみに留まり、

九州の九割が島津に奪われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筑前、岩屋城。

 

 

「これどう思う?」

 

 

天竜がとある書物を宗麟に渡す。

 

 

「What Is This(これは)?」

 

「黒聖書だ」

 

「Bible Black!?」

 

 

その名前の割には聖書の表紙は白だった。

 

 

「俺が編纂したんだ」

 

「これは.....」

 

 

宗麟は軽く聖書をめくる。

 

 

「その内容ならキリシタンも安堵されるぞ」

 

「ですがこれでは宣教師様が.....」

 

「何か問題でも?」

 

「いえ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜が作った聖書。

それは.....『日約聖書』だった。

 

 

日本人が作った、

日本人主導による、

日本人の為の聖書。

 

 

宣教師が植民地支配の為に持ち込んだ聖書を没収し、改めてこの聖書を与えるのだ。

 

 

「教えるのはキリスト教ではない。

『サタン教』だ」

 

「SATAN教!?」

 

「別に悪逆非道を行えという意味ではない。

聖書が伝えている事はそんなに、

普通の奴とは変わらんさ。

だが、その本質が違う」

 

「Essence(本質)?」

 

「キリストの天使としての姿がミカエル。

ミカエルとルシファーは同一天使。

ルシファーはサタン。

サタンは月読命。

この聖書における絶対の神は、

月読命。俺の母親だ」

 

「太閤様の.....」

 

「だからって神の子として教祖に崇めたてられるつもりは、塵程もない。

崇めたてられる役目は、

『正親町の天皇陛下』ただ1人」

 

 

この言い方を生み出したのは天竜。

『姫巫女』という名称から『天皇』という名称に変更したその真意とは?

 

 

「この行為の目的は、

キリシタンと宣教師の引き離し。

それと、キリシタンの保護だ。

宣教師の為のキリシタンじゃない。

日本人の為のキリシタンなんだ」

 

「日本人の為.....」

 

「これから暫くは南蛮人とは貿易のみでいこうと思っている。少なくとも鎖国するつもりはないさ。

キリシタンには異国の神ではなく、

この国の神を信仰させる。

尊敬の対象は宣教師ではなく、陛下にさせる。

キリシタンはあくまで、

外国人ではなく、日本人なんだ」

 

「Yes」

 

「『キリシタン』という名称もだ。

キリスト教信者を表すクリスチャンから来ているが、あくまでキリスト教としてのクリスチャンではなく、サタン教としてのキリシタンなんだ」

 

「Yes」

 

「日本の頂点に国家神道を。

その派生としてサタン教と仏教を置く。

サタン教と仏教が仮に対立しても、

神道によってそれを諌められるようにな。

宛らユダヤ教の派生で、

キリスト教とイスラム教が生まれたように」

 

 

異国の宗教ではなく、

日本の宗教にしてしまう。

これこそが最良策。

 

 

「白人主義のキリスト教と違い、

サタン教に差別思想は全くない。

白人も黒人も黄人も。

皆が平等で皆が同列なのだ。

人間としての差は存在しない。

それらの境界を破壊する事が俺の目的。

国境など必要ない。

世界を一つに俺はしたい」

 

「太閤様」

 

 

宗麟は尊敬の眼差しで天竜を見た。

 

 

「太閤様。Please(お願い)がございます」

 

「なんだ?」

 

「私に改めてChristian name(洗礼名)をBestow(授ける)してはもらえないでしょうか?」

 

「洗礼名?」

 

「私は今は亡きカブラル様にChristian nameを頂きました。しかし、貴方にKin(眷属)にされた事で、貴方の思いもTravel(伝わる)してきました。

そのResult(結果)、カブラル様がいかにLowest(最低)な男であったかを知りました。何故ああもRespect(尊敬)していたのかをWonder(不思議)に思う程.....

だからWiping(払拭)して、

New nameが欲しい。

是非貴方に付けて頂きたい」

 

「俺がか?

そんなのは趣味じゃないんだが、

ポチとかタマとかじゃ駄目か?」

 

「Serious(真面目)に!」

 

「そうさなぁ.....だったら」

 

 

天竜は答える。

 

 

「『ベルフェゴール』」

 

「えっ!?」

 

「サタン教に因んで悪魔の名から取った。

お前の妹さんがイザベラで、

愛称が『ベラちゃん』だろ?

ベルフェゴールだから、

愛称は『ベルちゃん』。

ベルとベラで対になってるからな。

...........駄目か?」

 

「Wonderful!!」

 

 

気に入ったようだ。

 

 

「それじゃあ、

『活版印刷術』で黒聖書を増刷するからさ。

お前さんはできる限り多くのキリシタンにサタン教を広めてくれ。国が本腰をあげてキリシタンを認可してやったんだ。きっと多くの賛同者が出るはずだ。

頼むぜベルちゃん!」

 

「Yes Your Majesty!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして宗教嫌いだった男は、

誕生した新興宗教の創設者となった。

 




サタン教は別に悪魔信仰はしません。
あくまで和式のキリスト教。
いわゆるツクヨミ教です。
果たしてこの行動がどのような結果を生むか?
良晴との歪み合いも気になる所。
次回予告
主人公豊臣良晴
〜第一次九州戦線〜


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二章 関白豊臣良晴秀吉
第六十七話 主人公豊臣良晴


新章です。
今回から、それまでは出番の少なかった
良晴の出番が増え始めます!


天竜が発足した『サタン教』。

これは今まで、豊臣とは馬が合わなかったキリシタン達には快挙であった。

ほんの少しの妥協で、

信教が国から許されるのだ。

だがだからといって、

いきなり大勢が参加する事はなかった。

『その妥協さえも、神への冒涜』

『これは魔太閤の罠』

などの理由を付けて.....

結局は皆、怖かったのだ。

 

サタン教に入るという事は、

バテレンを正面から敵にする事だったからだ。

 

 

 

 

だが、その不安を断ち切った者がいる。

 

それが日本最大のキリシタン大名、大友宗麟。

新洗礼名はベルフェゴール。

彼女が率先してサタン教に入った事で、

一気にその信用度が増したのだ。

 

次に驚かれたのが、

関白良晴が軍師、

黒田官兵衛のサタン教参加だった。

それが決定打にもなったかもしれない。

 

次々にキリシタンが今の信仰を捨てて、

サタン教信仰を始めたのだ。

 

 

始めは豊臣や織田家臣のキリシタンの高山右近や小西ジョウチン、小西行長などから、内から外にかけて多くのキリシタンがサタン教に入ったのだ。

 

他にも古田織部が参加。まぁ彼女は信仰心よりは、天竜が作ったものという事での参加である。彼女はむしろ思想がアンチ寄りでもあるのだ。

織部が天竜より受けた洗礼名は、

『ベルゼバブ』

 

本来は天竜の敵であった梵天丸も、

サタン教という響きに感化され、

中二病目的で参加。

洗礼名は『アスモデウス』

実は色欲を司る悪魔であるが、

天竜に騙されてしまっている梵天丸。

本人は『リヴァイアサン』がいいとせがんだが、受け入れてもらえなかったようだ。

 

 

とはいえ、不参加者はちゃんといた。

以前までの信仰を捨てられない者、

バテレンに心底入れ込んでいる者、

天竜がそもそも信用できない者、

天竜と敵対している者等である。

それは、蒲生氏郷や千利休などだ。その為、その者らの立場はどんどん狭くなっている。

 

さらに仏教徒との関係。

元々からキリスト教と仏教は対立していた。

お互い同士が異教徒だと蔑んでいたのだ。

だがキリスト教がサタン教になり、

サタン教も仏教も日本神道の派生、

つまり兄弟のような関係になったのだ。

さらにだ。

サタン教の代表は天竜。

仏教の代表は宗派が多くあれど、

最も位が高いのはけんにょ。

本猫寺戦以来の仲良しなのだ。

おまけに親戚同士。

対立しようにも、

トップクラスで手を取り合っている以上、

下の者らは従わなければならない。

 

よって均衡が取れているのだ。

 

サタン教の成立が平和を樹立したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがこれは、親日派であったフロイス達を傷つける結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある日。

 

 

「久しいなフロイス」

 

「天竜さん..........いえ、太閤様」

 

「天竜でいいよ。

あんたはこの国の人間じゃねぇんだから」

 

「.....ですが」

 

「いいんだ。

あんたはもう宣教師ですらねぇんだ」

 

 

サタン教の成立と共に、

多くのバテレンは宣教活動に絶望を抱き、

この国を去って行った。

キリスト教が浸透したのではない、

逆に利用されてしまったのだ。

サタン教信者が敬うのは、

宣教師でも西洋神でもなく、

豊臣秀長と正親町天皇なのだ。

宣教計画は完全に失敗である。

 

とはいえ、日本の植民地化の方法は宣教に限らず、その気になれば遠征軍を送り込むという方法だってあるのだ。

南蛮人側からすれば、

日本占領策の1つを潰されたに過ぎない。

とはいえ、多くの南蛮人が日本の占領を不可能であると実感して帰って行った。

 

 

「もう私も用済みのようですね」

 

「そのようだな」

 

「でも悔いはありません。

この素晴らしい国日本で、

数え切れない大切な事を学びました。

とても楽しかったです。

皆さんと決別してしまったのは、

とても辛い事ではありましたが、

日本の方々が引き続きイエス様の教えを学んでいるのは喜ばしい事です。

ですが.....

イエス様がサタンだと言うのは

流石に横暴ですよ?」

 

「しゃーねーだろ。

本当の事なんだから」

 

「またまた」

 

「いや..........ガチなんだよ」

 

 

天竜自身、ツクヨミが正確に何者であるのか分かっていない。

 

 

「この後どうすんだ?」

 

「マカオに戻る予定です。

この国にとって私はもう、

不要な存在のようですから」

 

「!?」

 

 

フロイスは一筋の涙を流した。

 

 

「ったく、俺も女にゃあとことん甘い。

泣かれたりなんかすれば尚更だ」

 

「天竜さん?」

 

「フロイス.....

駐日大使にならないか?」

 

「駐日大使!?」

 

「今ポルトガルはスペインと統合されてるだっけか?じゃあスペインの駐日大使だ。

スペインとはこれからも良い関係を結びたいからな。お前さんがその橋渡しになっちゃくれないか?

勿論、オルガンティノやヴァリニャーノも一緒で構わんぞ?」

 

「私が.....橋渡しに.....」

 

「それとだ。

きちんと規則を守ってくれるのなら、

引き続き宣教しても構わない。

ただしサタン教をな。

学校であんたの教育を受けるのを楽しみにしている子供らも多くいるからな」

 

「.....いいのですか?」

 

「別にいいよん?

サタン教は作ったものの、

俺もよく理解してないだわさ。

そこはプロにお頼みしたい所がある。スペイン大使館だって作ってやる」

 

「天竜さんはそのようなものを作るのは嫌いだったのではないですか?

伊勢イスパニア島のように.....」

 

「大丈夫大丈夫。

俺もスペインに日本大使館作るし」

 

「えっ!?」

 

「いざとなれば、

フェリペ2世を脅してでも作るさ。

『作らなきゃスペインを滅ぼす』ってな」

 

「それは.....」

 

 

この人ならやりかねない。

 

 

「それにだ。

君程美しい女性を手放すのも惜しい」

 

「お世辞を言われても.....」

 

「お世辞じゃあないさ。

俺は最近、人ものも欲しくなりだしてな。

良晴の愛人であるお前が欲しいのだ」

 

「なっ!?」

 

 

天竜は懐より例の写真を取り出す。

 

 

「南蛮寺の裏でのひと時♡」

 

「ひどいです!

隠れて見てたんですか!?」

 

「弟を監視してたら偶然撮れてしまった。

ただの事故だよ(嘘)」

 

「私を.....脅す気ですか?」

 

「?..........しないしない!

こんなの公表したら、せっかく築き上げたキリシタンとの関係もオシャカになってまうからな。

ただ、良晴なんかより俺と付き合う方が

効率的だと言ってるんだ」

 

「良晴さんは素敵な方です!」

 

「言うと思ったよ。

でも良晴はかなりのヤリチンだ。

お前はその内の1人だ」

 

「うぅ.....」

 

「まぁ俺も対して変わらんがね」

 

 

天竜はフロイスを抱き寄せた。

 

 

「ちょっと!天竜さん!?」

 

「いい匂いだ。西洋人は東洋人とは別の美しさがあるから嫌いになれん」

 

「ちょっ.....駄目っ.....いやっ!」

 

 

フロイスは天竜にそのまま押し倒される。

 

 

「大丈夫だ。

何も考えなくていい」

 

「そうじゃなくて!」

 

「俺はお前を失いたくない。

ずっと日本にいてほしい。

そばにいてくれ」

 

「!?」

 

「そのためならば、

俺は何だってするさ。

お前を抱いてでもな!」

 

「..........くすっ」

 

「!?..........何が可笑しい!?」

 

「わざわざそんなお芝居しなくても、

その提案はお受けしますよ?」

 

「本当か!」

 

「やっぱりお芝居だったんですね.....

私も貴方の政策には賛成なんです。

昔から貴方に助けられた事が多くありました。

多くの同僚が貴方をドラキュラと非難しますが、私は貴方の内面を評価しているので、決して貴方を否定するつもりはありません」

 

「フロイス.....」

 

 

天竜はフロイスの両手を握る。

 

 

「ありがとう!本当に嬉しい!」

 

「うふふ.....」

 

 

天竜は母性フェロモンに弱いらしく、

母性の塊であるフロイスに天竜は弱い。

 

 

「やばい.....余計に抱きたくなった」

 

「えっ!?」

 

「我慢できん。抱かせてくれ!」

 

 

天竜はフロイスの服を脱がせる。

 

 

「ちょっ.....!?

本当に駄目ですって!!」

 

「やーだ♡

1度決めた事は最後までやり通す主義なんで!」

 

「立派ですけど!」

 

 

フロイスの豊満な胸を揉みしだく。

 

 

「うむっ!

豊満な胸も嫌いじゃない!」

 

「やんっ.....激し.....」

 

 

フロイスもその気になり出す。

 

 

「そこまでだゲス野郎!」

 

 

良晴が拳銃片手に乱入してきた。

 

 

「また邪魔するのか偽善者左翼ザルめ!」

 

 

酷い言われようだ。

 

 

「お前が誰を抱こうが関係ないが、

俺の情事まで邪魔するたぁ!

許されたものではないぞ!!」

 

「うるせぇよヤリチン野郎!

なんだかんだで側室以外にもあちこちで手ぇ出してんじゃねぇか!!」

 

「黙れヤリチン小僧!

女性は男にとっての共有財産だ。

俺の女は俺の女!

お前の女も俺の女!」

 

 

最低なジャイアニスト。

 

 

「今日という今日はもう許さねぇ!

この糞野郎はぶっ殺す!!」

 

「返り討ちしてくれるぞハゲネズミ!」

 

「ちょっとやめて下さい!!」

 

 

フロイスが叫ぶ。

 

 

「どうしたのですか良晴さん。

以前はとても仲のいいご兄弟だったのに!」

 

「知らねぇよ!

最近のこいつはとことんムカつくんだ!」

 

 

天竜の良晴への挑発行為は日に日に激しくなっている。

 

 

「勿論、お前を怒らせる為だ!」

 

「何でだよ!」

 

「ふっくくくくくくく.....お前を限界まで怒らせればどうなるか 楽しみに待っているからな!」

 

 

何を考えている!?

 

 

「もういい!

俺はお前との縁を切る!」

 

「いいだろう!その代わりに、

10万の兵やるから島津を攻めてこい!」

 

「だから何で!?」

 

 

会話が成立していない。

 

 

「太閤命令だ。

さっさと行ってこい偽善者左翼ザル」

 

「うるせぇよ!行くよ!!

ふざけやがって右翼吸血鬼が!!」

 

 

涙目で出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうしてあんな事を?」

 

 

フロイスが尋ねる。

 

 

「勿論、奴に俺を殺させる為だ」

 

「!?」

 

「だからこそあいつを3年かけて育ててきた。

勉学も剣術も射撃も.....

教えられるもんは何でも教えた。

俺の分身を作り上げた。

そしていつか俺を超えてもらう。

俺が本気で任せていいと思う男になってもらう。

俺が作った世を任せられるのは、

本気の俺を倒した奴だけだ」

 

「その為に挑発を.....」

 

「良晴は現代日本が生んだ、

悲劇のような平和ボケ糞ガキの1人だからな。

あいつは怒れば怒る程強くなる。

殺気が篭った奴の眼力は俺も身震いがする。

奴の本気とぶつかってみたい!

俺に匹敵する霊力を隠し持った奴に!

どうすれば奴を覚醒させられるか.....

いっそ吸血鬼にしてしまおうか?

くくくくくく.....」

 

「貴方は.....自分を殺してくれる人を探しておらられるのですか」

 

「間違っているか?」

 

「答えかねます。

私のような小さな器では、

支え切れぬ程大きすぎる問題です。

私はただ祈る事しかできない」

 

「ふっくくくくくくく.....

奴が覗いてる事を承知であえて襲ってみたが、

お前であるからこそ、

今日の挑発も成功したようなもんだ」

 

「それも芝居だったんですね.....」

 

「おうよ!

しかし、お前を抱く価値は限りなく高い。

お前は心身共に美し過ぎる。

男に抱かれた以降も汚れを知らぬ。

むしろ抱かれて余計に色気が出た。

全く汚れていないからこそ、

自分の色で汚してみたいという、

俺の邪悪な心が疼いて騒ぐ」

 

 

天竜はフロイスを引き寄せる。

 

 

「国際問題にならない程度のお付き合いをば」

 

「分かりました」

 

 

フロイスは天竜の口づけに応じる。

 

 

「さてだ。

九州戦は良晴に預けてだ。

これからちっと忙しいぞ!」

 

「何をなされるので?」

 

「くっくっく.....」

 

 

天竜は不敵に微笑する。

 

 

「蒲生氏郷を調略する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筑前にて。良晴一行。

 

 

「あ〜!!!糞ムカつく!!

ぶっ殺してやりてぇよあいつ!」

 

「言葉遣い酷いですよ。くすんくすん」

 

 

半兵衛になだめられる。

 

 

「だって.....」

 

「なんだか最近良晴さんがどんどん凶暴化しているようで、私は恐ろしいです」

 

「そうか?」

 

「そうです。貴方は心身共に強くなった代わりに、大事なものを失い始めている気がするのです」

 

「大事なものを.....」

 

 

良晴は考察する。

だが、出てこない。

 

 

「ところでだ。

何でお前がいる!?」

 

 

半兵衛の他にもう1人。

 

 

「仕方ないだろう。

信奈に協力せよと頼まれたのだ」

 

 

彼はガブリエル・クロウ・アンダーソン。

 

 

「どうでもいいけど、人のカミさん呼び捨てにすんのはやめてくれ」

 

 

神父ガブリエル。

ドラキュラを倒した過去を持つ男。

 

 

「でもクロウ.....

お前って、異能力者相手にしか力を発揮できないんじゃなかったっけ?」

 

「あぁ、そうだが?」

 

「ただの役立たずじゃねぇか!」

 

「まぁまぁ。島津方に異能力者がいれば私に任せてほしい」

 

「うぅ.....」

 

 

宗麟の例があるから、

島津方にもいそうだな.....

 

 

「島津義久ってどんな奴なんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豊後、臼杵城。

大友軍より奪い取ったこの城に、

島津軍大将はいた。

 

 

「大友が本格的に豊臣と手を組んだ。

これより豊臣とのいっさになるでごわす」

 

 

島津義弘が言う。

 

 

「姉上からもどんぞ!」

 

 

弟に言われ、大将島津義久が口を開く。

赤紫色の髪に褐色の肌の美女だ。

 

 

「وقد انخفض المعدة. أريد أن أكل البطاطا」

 

「「「..........」」」

 

 

何語!?

 

 

「姫!もう一度ご報告をば!」

 

「البطاطا الحلوة هي جيدة. أريد أن أكل البطاطا المخبوزة الساخنة من الفرن!」

 

 

もうわけが分からない。

なまり(?)が酷過ぎる。

 

 

「姉上はこう言うておられる」

 

 

どうやら義弘が翻訳してくれるようだ。

 

 

「『お腹が減ったから、今日の晩御飯は焼き芋がいい』とのこっと」

 

 

全然関係ねぇ!!

家臣らは心の中で叫ぶ。

 

 

「لديهم ما يقولونه إلى السادة من.....

(諸君らに言いたい事がある)」

 

 

だが義久は続ける。

 

 

「جيش تايكو والجيش شيمازو لدينا، هناك فرق في قوة سلحفاة حول لينة قصفت والقمر

(我ら島津軍と太閤の軍では、

月とすっぽんぐらいの戦力差がある)

لقول ذلك، والرجل لا يذهب إلى رجل مغرور تايكو بعد كل شيء، لعدم السماح الحكم على اليابان أكثر

(だからと言って、奴は所詮成り上がりの太閤。これ以上奴に日の本を治めさせるわけにはいかない)

القول فرص الفوز لأن أدنى مستوى ممكن، فإنه لا يستطيع أن الاعتراف بالهزيمة فشلا ذريعا. أقاتل بكل فخر والجيل ال من شيمادزو. أنا أستطيع أن تثبت أن تغلب تايكو!

(勝つ見込みが限りなく低いからと言って、

無様に負けを認めるわけにはいかない。

島津の16代目当主として、

太閤と誇りを持って戦う!)

أنا أستطيع أن تثبت للفوز على تايكو!

(太閤を倒してみせる!)」

 

 

力強く宣言してみせた義久。

 

 

「「「.....???」」」

 

 

だが、家臣らに言語は通じない。

 

 

「義弘様!姫は何と言いとっと!?」

 

 

姉の翻訳をできるのは弟だけだ。

 

 

「???」

 

「義弘様〜!?」

 

 

弟も理解できていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は良晴らに戻る。

 

 

「あっ!サルなのだ!」

 

「よぉ元親!」

 

 

長宗我部元親。四国戦にて天竜に敗北して4つ持っていた国のうち3つを没収され、天竜の側室となるをえなくなった悲劇の少女。

とはいえ十兵衛の妹分という事で、

そこそこの地位を保っている。

 

 

「今唐突に思ったけど、

お前って土佐弁じゃないのな。

口癖も『ぜよ』じゃなくて『なのだ』だし」

 

「それは作者の誤植(ミス)なのだ」

 

「作者!?」

 

「どうでもいいのだ!!」

 

「痛ってててて!!!」

 

 

尻尾を引っ張られる良晴。

(お忘れだろうが良晴は尻尾付き)

 

 

「久しぶりですね関白良晴」

 

「隆景?」

 

 

小早川隆景。中国大名毛利輝元の後見人。

高い知力を持って、

今九州戦においての軍師役である。

 

 

「正月以来だな。輝元は元気か?」

 

「うむ.....」

 

 

だが、姉の吉川元春の姿はない。

 

 

「隆景様!お久しぶりです!」

 

「秀家!今戦ではよろしくな!」

 

 

宇喜多秀家。直家死後、天竜や良晴に管理されていた備前・美作を正式に受け継いだ、宇喜多家の新頭首。幼馴染の小西行長共々良晴の家臣である。

天竜が太閤に就任した事で、

中国における歪み合いが消滅し、

官兵衛含め皆仲良くなったのだ。

 

 

「その.....なんか存在しててすみません」

 

「宗治さん!?」

 

 

備中大名、高松城主。

4年程前の高松城水攻めの際、

天竜の側室となる事で命を助けられた。

天竜と隆景の関係回復の橋渡しとなった。

だが、自分の命可愛さに元主君を裏切ってしまった罪の意識が今更になって生まれ始め、卑屈になり、加害妄想キャラとなってしまった。

 

 

「太閤様側室として無駄な権力持っててごめんなさい。

生まれてきてごめんなさい」

 

「..........」

 

 

とにかくだ。良晴側の勢力が盛大でである事が実感できた。

 

 

「よしっ!豊後を取り返すぞ!」

 

 

良晴軍10万が出陣した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くひひひひひひひ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが彼は、島津軍に潜む悪魔の存在に気づく事ができなかった。

 

 

島津軍。

 

 

「鬼と称されたわしが本物の鬼を雇う羽目になろたぁ」

 

 

義弘が言う。

 

 

「げひひひひ.....

利用できんもうなら利用せな!」

 

 

義久や義弘の弟、家久が言う。

 

 

「親っ父、下品じゃき」

 

 

家久の娘、豊久が言う。

年齢は上から、28、27、24、10。

これが島津四人衆。

 

 

「ولكن إذا كان هذا شيطان، وأسنان ماي الوقوف الخ الحديث عن تويوتومي.

(だがあの鬼なら、

豊臣といえど歯が立つまい)」

 

「「「???」」」

 

 

家族の誰にも言葉を理解されない義弘。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急に良晴軍の進行が止まった。

 

 

「どうした!?」

 

「はっ!敵に強力な武将が出ぎぇしたようで、

わぎゃぎゅんがおちゃはちめておりましゅ!」

 

 

小六こと蜂須賀五右衛門が報告する。

 

 

「強力な武将!?一体誰が!?」

 

「現在鹿之介殿が応ちゃいを!」

 

 

山中鹿之介は良晴軍の最強武将。

その鹿之介でさえ、

防御に徹するのがやっとだとか。

 

 

「一体誰が!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁはぁ.....

こんなにも強い者が相手なんて、

なんたる幸運!

はぁはぁはぁ!!」

 

 

かえって興奮している。

 

 

「気持ち悪っ.....

こんなのがいるんだ☆」

 

 

その相手は、武将というよりは幻術師のような格好をした人物。五芒星を瞳に浮かび上がらせた謎の人物。だが、その瞳は鬼の象徴と言ってもいい程紅く輝いていて.....

 

 

「貴様は何者だ!はぁはぁ.....

名を名乗れ!!」

 

 

鹿之介の問いに、奴は答える。

 

 

 

 

 

 

「僕の名前は松山主水。

天竜くんとは同族の鬼だよん☆」

 




ここに来て松山主水の再登場。
だいぶ前に性別を暴露してからずっと影を潜めていた
松山主水。
今になって何故突然敵方に!?
天竜不在の豊臣軍は、
果たしてあの鬼を倒せるのか!?
次回予告
豊後奪還戦争
〜初めて動く、異国の神父〜


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第六十八話 豊後奪還戦争

またちょっと更新が遅れました。
実は今回良晴がなんと!?


豊後の戦場にて、睨み合う良晴軍と島津軍。

そこに、場違いとも言っていい程異質な雰囲気を醸し出す鬼。

松山主水。

かつて、大和東大寺の盧舎那仏を操って近畿内を行進し、十数人の家来の幻術師と共に、安土城を襲撃した。

その後、紀伊南蛮蹴鞠大会にて梵天丸に憑依した状態で出場した。

さらにその後、左馬助討伐を控えた天竜の前に現れ、左馬助の正体と、戦う上でのアドバイスのようなものを伝えた。

ついでに性別を暴露した。

先祖は両面宿儺という太古の鬼。

宿儺鬼を蘇らせた奴は、

その肉片を用いて鬼武者軍団を作り上げた。

そして自身も、その肉片を用いて太古の鬼の力を手に入れた。

そして.....上杉謙信の実姉である事が判明した。

 

 

ここまでが、こちらが知りうる奴の情報の数々。それ以外は、全くの謎なのだ。

ここ3年間影を潜めて、存在すらも忘れられかけていた奴が、今になって何故突然戻って来た!?

 

 

「僕は常に強者を求め続ける。

鬼は戦争に生き、戦争で死ぬ。

根っからの戦闘民族なのさ☆」

 

 

これが理由。

 

 

「とはいえ、宿敵の天竜くんが何処まで強くなるか影から見てたら、いつの間にか途方もないような存在になってしまった。

能力も権力も僕には遠く及ばないよ☆

まっ、僕の性別を知っている天竜くんに僕は殺せないだろうけどね☆」

 

「むむっ.....」

 

「山中鹿之介だっけ?

君は充分に強いかもだけど、それでも僕にとっては有象無象の1人に過ぎないんだよね☆」

 

「はぁはぁはぁ.....

私もそこらの雑兵の如く、

虫ケラのように斬り伏せられるんですね!

なんて、たまらない!

はぁはぁはぁ!」

 

「変態☆」

 

 

重装備に愛槍を構える鹿之介に対し、

極めて軽装で、刀一本の主水。

にもかかわらず、

力の差は歴然であった。

鬼と人間。

その違いは言うまでもない。

 

 

「山中鹿之介〜!」

 

「官兵衛殿!?」

 

「おや?☆」

 

 

助太刀とばかりに、官兵衛が自作の

『おーとまた7号機』

に乗り込んでやってきた。

試行錯誤の結果、

下半身はキャタピラ式。

腕にはガトリング砲。

肩にはアームストロング砲を装着。

見た目はほとんどガン⚫︎ンクだ。

 

 

「そいつは鬼だ!

人間じゃ到底敵わない!」

 

 

コックピットから官兵衛が叫ぶ。

 

 

「構わない!」

 

「!?」

 

「到底敵わない方が、

むしろ萌える(燃える)というもの!

はぁはぁはぁ!」

 

「..........」

 

 

だめだ.....早くなんとかしないと。

 

 

「鹿之介さん!

今は取り敢えず退いて下さい!

殿のご命令でもあります!」

 

 

官兵衛と一緒にコックピットに乗り込んでいた半兵衛が顔だけを出して叫ぶ。

 

 

「むっ、殿のご命令とあらば!」

 

 

鹿之介の唯一成長した所と言えば、

良晴に忠実になった所だろう。

鹿之介が退き、迎え合う両兵衛と主水。

 

 

「久しぶりですね。竹中半兵衛さん」

 

 

主水は半兵衛の元家臣だ。

 

 

「お久しぶりです主水さん」

 

「出世しましたねぇ半兵衛さん。

今や関白殿下の軍師ですか。

おまけに関白殿下の愛人☆」

 

「なっ.....何故それを!?」

 

「天竜くんから聞いたんだよん?

彼と僕は宿敵同士だけど、

最近はいい飲み仲間だからねぇ。

前に教えてもらっちゃった☆」

 

「あの人.....」

 

 

敵だろうが、女であればとことん甘いのが天竜の良い所(?)。

 

 

「でも僕には関係ないやぁ。

貴方が例え元主君だろうが、

戦場で向かい合った以上、

殺し合うだけ☆」

 

「主水さん.....

どうしても戦わなくてはなりませんか?

あの太閤様だって宗麟さんと和解したんです。私達だって.....」

 

「違う」

 

 

主水は切り捨てる。

 

 

「違う違う違う違う違う違う違う違う違ぁう!!

違うよ違うんだよ半兵衛さん!

僕は別に貴方に恨みがあって戦おうとしてるんじゃないんだよ!そこは勘違いしないで!☆」

 

「じゃあ.....どうして?」

 

 

主水は邪悪な表情で返答する。

 

 

「言ったでしょ?

僕ら鬼は根っからの戦闘民族!☆

私情なんて戦う理由にはならないんだよ!

僕はただ強い相手が欲しいんだ。

そんじょそこらの努力じゃ勝てないような、

自身の常識を超えた強敵が!

本能的に感じちゃうのさ。

そんな強敵と戦ってみたいって!☆

僕の全力でも倒せないような相手と

戦ってみたいって!☆」

 

「主水さん.....」

 

「その為に貴方から離れた。

貴方は天竜くんが現れるまでは、

最強の術師だったからね!☆

天竜くんの次に戦いたい相手なんだ。

だから.....」

 

 

主水は刀の切先を半兵衛に向ける。

 

 

「天竜くんという料理の、

前菜ぐらいには僕を楽しませてよ☆」

 

「..........」

 

「半兵衛?」

 

 

急に黙り込む半兵衛に官兵衛が尋ねる。

 

 

「つっ!?」

 

 

そして怯える。普段とはとても似つかわしくない表情をした彼女を見て.....

 

 

「式!十二神将!」

 

 

主水の前に十二体の式神が出現する。

 

 

「官兵衛さんは退いて下さい」

 

「半兵衛!?」

 

「あの人は私が倒します。

これ以上野放しにはできない!」

 

「くひひひ.....」

 

 

半兵衛はおーとまたから降りる。

 

 

「勝負です!松山主水!」

 

「半兵衛.....」

 

 

官兵衛はしばらく深く思念し、

そして.....

 

 

「式!烏天狗!」

 

 

官兵衛の式神が出現する。

 

 

「官兵衛さん!?」

 

「前に言わなかったか?

君とシメオンは一心同体。

2人で1人の最強軍師だ。

戦う時も一緒!死ぬ時も一緒!」

 

 

官兵衛はおーとまたを起動させ、

半兵衛をもう一度コックピットに乗せる。

 

 

「官兵衛さん.....」

 

「まっ、シメオンさえ加われば、

死ぬ確率なんて0%だけどね!」

 

「くすっ.....」

 

 

半兵衛は何かを悟ったように微笑する。

 

 

「では行きますよ官兵衛さん!」

 

「シム!」

 

 

関白軍の両兵衛が出る。

 

 

「ひーふーみー.....

敵さんしめて15人。

その内の1人が絡繰戦車に乗車中。

ちょっと骨が折れるなぁ。

これってイジメじゃない?☆」

 

 

とはいえ、負けそうな様子は一切見せない余裕な態度。

 

 

「んじゃ、新技でも使いますか☆」

 

 

主水はポリポリと頭を掻いたかと思うと、

頭皮に生えていた髪の毛を数本引き抜いた。

 

 

「「!?」」

 

「痛ったぁ〜!☆

えぇ〜とぉ?..........7本ね!

えいっ!☆」

 

 

主水は引き抜いた髪の毛を周囲にばら撒いた。

 

 

「何を.....」

 

「驚くなかれ!☆

我が不思議な不思議な異能力の数々!☆」

 

「まさか!?」

 

 

半兵衛は一早く異変に気付く。

 

 

「主水さんの妖気が.....

8つに増えた!?」

 

 

ばら撒かれた髪の毛は、

次々と主水の姿へと変化していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは!?」

 

 

その妖気は、幻術や魔術には疎い良晴にも伝わった。世にも恐ろしい悪魔の気配を.....

 

 

「半兵衛!官兵衛!」

 

 

気づいた時には、

良晴は本陣から飛び出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっはははははははははは!!!☆

かの『斉天大聖』の如く、

体毛から分身を作ってみたよ!

.....いや『孫悟空』の名は、僕よりサル関白の方がお似合いかな?」

 

「くっ.....!!」

 

 

半兵衛は慄く。無理もない。

ただでさえ強敵の主水が8人に増えたのだ。

 

 

「どうだい?

僕は既に鬼の枠を超えた!☆

馬鹿な人間共に蔑まされる事も、

利用される事だってない!

母上のように殺される事も.....

僕は神に限りなく近づいた!!

もう人間共を恐る事なんて.....」

 

「話長いよ」

 

「へぶばっ!!?☆」

 

 

主水の分身の1人が、おーとまたのガトリング砲によって狙撃され、蜂の巣になる。そして、灰となって消滅した。

 

 

「なっ!?☆」

 

「やはり吸血鬼と同じで、

日本鬼にも銀は有効だね」

 

「黒田官兵衛ぇぇぇ!!!☆」

 

「調子に乗り過ぎだよ松山主水。

君がどのような惨めな思いしてきて、

どれだけ人間が嫌いかなんて、

シメオンには知った事じゃない。

おーとまたの射程範囲に入った以上、

何人増えようと、

何度でも射殺してやるさ」

 

「おのれぇぇぇぇ!!!☆

これならどうだぁ!!」

 

 

8人の主水がそれぞれ自分の頭から3本ずつ髪の毛を引き抜き、ばら撒く。すると、その髪の毛もまた主水の分身に変化した。合計32人。

 

 

「なっ!?分身も分身を作れるのか!?」

 

「どうするぅ〜?

その気になれば一個大隊だって作れるよ☆

でもそんなに作っちゃったら禿げちゃうかもしれないけどね☆」

 

 

それから.....

主水らと半兵衛らの戦争が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オン・アロマヤ・テング・ スマンキ・ソワカ オン・ヒラヒラ・ケン・ヒラケンノウ・ソワカ.....

天候制御!雷電!!」

 

 

半兵衛が九字を切り、突如呪文を唱えたかと思うと、上空に暗雲が立ち上り、そこから一本の雷が落ちた。

その雷は数人の主水に直撃し、彼女らを焼き殺す。

 

 

「くっ.....流石竹中半兵衛☆

てか、以前より強くなってない?」

 

「3年で病は完治しました!」

 

「..........そうか房中術か!☆

関白の愛人になったのはそれが由縁ね」

 

「べっ、別に!己の寿命欲しさに殿の寵愛を受けたのではありません!」

 

 

やや頬を紅潮させながら叫ぶ。

 

 

「そうなのぉ〜?

主君から精気を盗むなんて、

乙な事してると思ったのにぃ〜」

 

「あうあう.....」

 

「気にする事ないよ半兵衛。

所詮は敵の挑発さ」

 

 

官兵衛よりフォローを受ける。

 

 

「官兵衛さん.....」

 

「でも少し自重しないと、

いつか右大臣様に殺されるぞ?」

 

「うぅ.....」

 

 

一応、階級だけなら天竜の次に偉いのが信奈だったりする。だが、最近の彼女は表舞台に出てくる事はあまりないので、一般的に天竜の次に偉いのは良晴という事になっている。

 

 

「いやはや。でもサル関白だって君程の美女とやれて、代償が精気程度なら安いものかもね!☆」

 

「うぅ......!!」

 

「君だって人の事言えないじゃないか!

僕ら鬼や天竜くん達吸血鬼は生きる為に人を食べる!牛や豚では吸収しきれない精気を得ないと僕らはいとも簡単に死んでしまう!その精気は人間からしか取れないんだ!☆

君だって同じさ!

生きる為に主君の命を喰ったんだ!

君だって吸血鬼!

いや..........吸精鬼か!☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女性を泣かせるとは.....悪趣味だな」

 

「「「!?」」」

 

 

誰もが気付かなかった。

気付いた時には、彼はそこにいた。

主水らと半兵衛らの間に立ち、

身体は主水らの方へ向いていた。

 

 

「ガブリエル・アンダーソン!?」

 

 

主水の1人が言う。

 

 

「君とは会った事はなかったが、

私はこの国で有名人になっているようだな」

 

 

彼は両手に西洋の銀の双剣を持っていた。

 

 

「くっ.....!!耶蘇がぁ!!☆」

 

 

主水の1人がクロウに刀で斬りかかった。だが、その斬撃をクロウは片手剣で受け止めた。

 

 

「なっ!?」

 

 

それはあり得ない事だった。

両手で持った刀の斬撃を.....

しかも鬼の力による斬撃を.....

両面宿儺の太古の鬼の力の斬撃を.....

彼は片手で防いだ。

ただの人間の彼が.....

 

 

「まさか!?」

 

 

クロウの瞳は紅く輝いていた。

そして、額には1本の角が.....

 

 

「Amen!」

 

 

クロウは主水を真っ二つに斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ぇ!!同族かぁ!!☆」

 

「一緒にしないでほしい。

私は貴様らヴァンパイアとは違う」

 

 

クロウに斬られた主水の1人は灰となって消滅していた。

 

 

「第一貴様が何だって構わないさ。

私はただ女性の味方だ」

 

「僕だって女だ!☆」

 

「うぇっ!!?」

 

 

急にクロウの態度が変わる。

 

 

「性別を知らなかったとはいえ.....

相手がヴァンパイアとはいえ.....

女性を斬ってしまったなんて!」

 

 

クロウはどんどんブルーになる。

 

 

「私離脱します.....」

 

「「!?」」

 

 

せっかくの助っ人かと思ったクロウがスピードで現れ、スピードで離脱。

 

 

「ちょちょちょっ!!

何をやってるんだい神父ガブリエル!」

 

 

官兵衛が叫ぶ。

 

 

「いや.....女性は絶対に殺さないって主義で生きてるんで、勘弁して下さい」

 

「相手の大半は髪の毛から生まれた分身だ!

女以前に生物としても微妙な存在だぞ!?」

 

「いや.....私の脳内で女性を認識してしまった時点でもう無理なんです」

 

「この軟弱者ぉ!!!」

 

 

結局、何をしに出てきたのだ?

 

 

「ちょっと待ってよ☆」

 

 

退却しようとするクロウを主水が呼び止める。

 

 

「僕の分身を斬った罪は僕をちゃんと女扱いしてくれた事でチャラにしてあげるよ。今まででは君と天竜くん以外いなかったしね」

 

 

それでいいんだ。

 

 

「その代わり教えてよ。

君は確かにさっきの一瞬、

吸血鬼になっていた。

なのに今の君は本当にただの人間だ。

どゆこと?☆」

 

「なんで敵方に教えなきゃいけないんです?」

 

「そりゃそうだ☆

じゃあ.....おっぱい見せたげるから教えて♡」

 

「なっ!?」

 

「「..........」」

 

 

十二神将や他の主水らが必死に戦闘を行う中、4人の周りの時間は完全に停止していた。

 

 

「いいです!結構です!」

 

 

真っ赤な顔で拒否するクロウ。

 

 

「あら、純心で可愛い〜☆

もしかして童貞君なのかなぁ?」

 

「ほっといて下さい!!」

 

「いいよぉ?☆

お姉さんが始めての相手になってあげても♡」

 

「秘密なら教えるので勘弁して下さい!」

 

 

主水のペースに持っていかれてしまっている。

 

 

「なぁ、半兵衛。神父ガブリエルの性格が全くと言っていい程掴めないんだけれど.....」

 

「大丈夫ですよ官兵衛さん。私もです」

 

 

置いていかれている両兵衛。

 

 

「私の力は.....生まれついての呪い。

相手の異能の力のみを複写する.....」

 

 

相手の力をコピーする。

 

 

「!?..........すると君はさっき、

僕の鬼の力を複写したの!?

それで君は一時的に鬼になってたの!?」

 

「はい.....」

 

「待ってよ!いくら複写したからったって、"僕は"さっき僕の力を超える力で君に斬られたよ!?☆

複写して同じ力になるんならおかしくない?」

 

「私の力は相手の力の150%を複写できるんです。複写した相手を確実に上回って倒せるように」

 

 

相手が強ければ強いほど、クロウはそれ以上の力を手にできる。

 

 

「ドラキュラに勝つわけだ.....」

 

 

官兵衛が呟く。

彼女も始めてクロウの能力を知った。

 

 

「ふ〜ん☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「尚更君と戦いたくなっちゃった☆」

 

「!?」

 

 

邪悪な表情で主水は言う。

 

 

「だって君は必ず僕より強いんでしょ?

僕がどれだけ強くなろうと、

君はさらに強くなるんでしょ?

何度も何度も何度も何度も何度も、

僕が君に向かっていっても、

君はそれ以上の力で受け答えてくれるんでしょ?

それって、最高じゃなぁい?☆」

 

 

舌でペロリと唇を舐め、

虚ろな目で、顔を火照らせ、

息遣いが荒くなっている。

何かのスイッチが入ったようだ。

 

 

「いただきまぁぁぁす!!!☆」

 

 

主水の1人がクロウに斬りかかる。

 

 

「なっ!?」

 

「ほらっ!ほらっ!ほらっ!ほらっ!!

斬り返してよぉ!!

僕の身体を傷付けてよぉ!!

僕の勝利の確率を著しく減らしてよぉ!!

僕に絶望を与えてよぉ!!☆」

 

 

ドMなんだかドSなんだか分からない。

狂気状態の主水は鋭い斬撃を何度もクロウにぶつける。クロウはそれに応対するだけ。

 

 

「やめて下さい!!

私は女性だけは殺したくない!!」

 

 

さっきとは打って変わってクロウが劣勢。

 

 

「くけけけけけけけけけけけけ!!!☆」

 

「くっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神父ガブリエル!!!」

 

「がひゅっ!!?☆」

 

 

誰かの叫びの直後、無数の弾丸がその主水を蜂の巣にし、肉を抉った。そして、また灰となって消滅する。

 

 

「なっ!?」

 

「この軟弱男!!殺意を持って向かってくる相手に対して何だいそれは!

うちの主君じゃあないんだから、

勇者としての誇りを見せたらどうだい!」

 

 

官兵衛が珍しく怒っている。

主水をガトリング砲で射殺したのは彼女。

 

 

「余所見しちゃだめぇぇぇ!!!☆」

 

 

別の主水がクロウに斬りかかる。

 

 

「式!摩虎羅さん!」

 

「ぎゃぼっ!?☆」

 

 

ウサギの頭を持った武神がその主水の首を斬り落とす。同時に灰となって消滅した。

 

 

「クロウさん!邪魔です!

戦わないなら退却して下さい!」

 

 

式神を操りながら、半兵衛も叫ぶ。

冷や汗を流し、彼女も焦っていた。

 

 

「主水さんのあの状態を見るのは2回目.....

"あの子"と喧嘩して以来.....

危うく美濃を滅ぼしかけました。

あの時は前鬼さんの仲介で何とかなりました。

でも彼はもういない!

私が止めないと!」

 

 

彼女はもう弱い頃の彼女ではない。

心身共に成長した彼女は、

愛する者全てを守る為に戦う!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無駄だよ半兵衛さん☆」

 

「「「!?」」」

 

 

気付いた時はもう遅かった。

主水は既に100人以上に増加していた。

 

 

「お戯れはもうやめにするよ☆」

 

 

主水が急に戦法を変えた。

今までの主水は応戦する十二神将に対し、

1対1で戦っていた主水。

恐らくそれはお遊びだったのだろう。

武神1人に十数人の主水が斬りかかった。

 

 

『ガアァァァァ!!!?』

 

 

頞儞羅という名の羊の武神が喰い殺される。

その他の武神も次々に喰い殺される。

それは魔獣のようにも見えた。

 

 

『クアアァァァ!!!』

 

 

官兵衛の烏天狗も喰い殺される。

 

 

「「なっ!?」」

 

「ごちそうさま☆」

 

「このっ!!」

 

 

官兵衛のおーとまたがアームストロングが火を吹き、弾丸がまっすぐ主水に向かって飛ぶ。しかし.....

 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!☆」

 

「なっ!?」

 

 

なんと1人の主水にその弾丸を止められてしまったのだ。しかも片手で。

 

 

「痛ってててて.....

骨が折れちゃったじゃないか。

お返し!!!☆」

 

 

逆に弾丸を投げ返してきた。

弾丸はそのままおーとまたに直撃した。

 

 

「馬鹿なっ!?」

 

 

たった一発。たった一発でおーとまたが操縦不能になったのだ。

 

 

「半兵衛さ〜ん☆官兵衛さ〜ん☆」

 

「「!?」」

 

 

コックピットを引き千切るようにこじ開ける主水。邪悪な笑みを浮かべながら、凍てつくような殺気をぶつけてくる。

両兵衛はただ震える事しかできなかった。

 

 

「ガブリエル君はやる気ないし、

先に君達を先に食べるね☆

君達の霊気を食えれば、

天竜くんとも互角に戦えそうだしね」

 

「「くっ.....!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後の事だ。

 

 

「がぐぐぐぐぐぐぐ.....!!!☆」

 

 

主水は首の後ろから剣を刺され、

虫の息になっていた。

 

 

「ガブ.....リエル君。

戦う気なったのは嬉しいけど、

後ろから襲うのは関心しない...............!?」

 

 

主水も驚愕する。

クロウは両目に大穴を開け、失明していた。

 

 

「貴方が誰であるかは分からないが、

今この戦場で殺気を出している者は全員私の敵となる。斬られても文句を言わないでほしい」

 

 

彼の両耳からも血が出ている。

戦いの為に光と音を捨てたのだ。

 

 

「そんな.....☆」

 

 

主水は灰となって消滅する。

 

 

「竹中さん!黒田さん!

先程は無様な姿を見せてしまい、失礼した!

今度は私の番だ!

貴方達は退いてほしい!」

 

 

何処にいるか分からない2人に対して、

大声で叫ぶクロウ。

 

 

「うるさいなぁ!目の前にいるよ!」

 

 

至近距離で叫ばれ、鼓膜が破れそうだった。

官兵衛は持っていた十字架をクロウに持たせる事でその存在を知らせる。

 

 

「..........勝てるのか!!」

 

 

官兵衛は今度、クロウの脳に直接響くように叫んでやる。

 

 

「大丈夫だ!」

 

「全く.....君は強いのか馬鹿なのか分からん。

うちの主君とそっくりだ」

 

「頑張って下さいクロウさん!」

 

「?」

 

「半兵衛.....もっと大声出さないと聞こえないよ?」

 

 

そのまま両兵衛は撤退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「半兵衛!官兵衛!」

 

 

すれ違いに良晴が到着する。

 

 

「あれいないぞ?.....って、クロウ!?」

 

 

目と耳を失ったクロウを見て良晴がギョッとする。

 

 

「むっ.....敵か!?」

 

「うわっ!?」

 

 

いきなり斬りかかってきた。

 

 

「俺だよ!俺!」

 

「くっ!すばしっこいな!」

 

「駄目だ気づかねぇ!」

 

 

良晴はあるものをクロウの手に触らせた。

 

 

「むっ!?

.....この猿の尻尾のような触り心地。

まさか良晴か!?」

 

「..........」

 

 

これでしか自分の存在は認識できないのかと、ややナーバスになる。

 

 

「サル関白が前線なんて珍しい〜☆

人間のくせに度胸ある〜☆」

 

「松山主水か..........安土城以来だ」

 

 

本当は紀伊南蛮蹴鞠大会でもあっているが、良晴は知らない。

 

 

「クロウ!聞こえてるなら返事しやがれ!

今から俺も参戦する!

だが、ここにおける秘密は誰にも言うな!

いいか?誰にもだ!」

 

「良晴?」

 

 

脳でその音を聞き取ったクロウ。

 

 

「変身!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ!!!!!☆」」」」

 

 

その光景を見ていた主水らは全員爆笑した。

 

 

「本当に愉快だよ!!☆

君なんて今まで僕の眼中に無かった!

なのに君こそが大穴だったとは!

本当に面白よ!素晴らしいよ!

素晴らしいまでに気持ち悪い!!☆」

 

 

主水は言う。

 

 

「あの糞女め.....僕をはめたな?この僕を!!☆」

 

「..........」

 

 

何を言っているか分からない。

だが、良晴だけはそれが理解できた。

 

 

「天竜くんは気付いてるのかな?

君の事だろうから内緒なのかな?☆

でも天竜くんなら、既に気付いてるかも☆」

 

『..............................ガルルル』

 

「でも因果なものなのかねぇ。

兄弟で"大妖怪"だなんてなぁ☆」

 

『黙れ』

 

「兄が吸血鬼ヴァンパイアでぇ.....☆」

 

 

主水は言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弟が『人狼ウェアウルフ』だなんて☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいからさっさとやろうぜ』

 

 

彼は獣になっていた。

尻尾のみが猿のままの奇妙な狼。

 

 

『気をつけろよ松山主水。この状態の俺は理性があんま働かないから、殺されても知らねぇからな』

 

 

喉の奥から響くように良晴の声が鳴る。だがその口は耳まで裂けた、鋭い牙だらけの獣の口。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴は人狼になっていた。

 




クロウのキャラ迷走中.....
良晴が人狼になってしまいました。
できれば人間のままで、良晴には天竜に立ち向かわせたかったのですが、天竜が強くなり過ぎた為にこの状況に.....
いずれ良晴がこうなった理由も執筆します。
男ばっかり目立って姫武将置いてけぼりですね。
どうか迷走中の今作を見守って下さい。
次回予告
人狼良晴
〜こうなったのは俺の意志。後悔はない〜


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第六十九話 人狼良晴

久々の投稿です。
自分より閲覧人数の多い最近出てきたばかりの
信奈のSS作品を見ると少しブルーになりますね(笑)

そういえば11巻発売来月に延期されましたよね。


それは二足歩行の巨大狼。

衣服は引き千切れ、

猛々しき筋肉が隆起する。

全身に黒色の体毛を生やし、

怪物のような牙を裂けた口から見せ、

猿の尻尾を尾部に携えた、

人間のような狼。狼のような人間。

それが人狼、ウェアウルフ。

吸血鬼に対なるものとして、

または同一の存在であるとも伝えられ、

ヴァンパイアと同じように、

西洋における伝説の大妖怪。

 

そんな大層な存在に、

何故良晴はなってしまった?

ただの人間であった彼が、

伝説上の怪物になってしまった。

かつてない程の異常事態。

 

 

《良晴!》

 

『ん?』

 

 

頭の中にクロウの声が聞こえた。

 

 

《今からこれで君と会話する!

あのヴァンパイアと戦う前に教えてほしい。

君はウェアウルフになってしまったのか?

一体いつなったんだ!?

"誰に"させられたんだ!?

君は後悔していないのか!?》

 

『黙れよクロウ』

 

《!?》

 

『そんなのどうだっていい。

戦えればそれでいい。

血が滲むような戦闘ができればそれでな』

 

《..........》

 

 

なんだこの変わりようは.....

ウェアウルフの血は穏健な彼をここまで変えてしまうものなのか!?

 

 

「ねぇ、そろそろ戦おうよ☆

僕も人狼と戦うなんて久しぶりで楽しみなんだ!殺し甲斐があってね☆」

 

『俺も鬼と戦えるなんて楽しみだ。

天竜とはいつだって修行に付き合わせられるが、あいつはいつも手加減しやがるからな。

本気で殺意を向けてくる化物と相対するのは俺も本当に久しぶりなんだよ』

 

「へぇ〜。じゃあその通りに

僕も本気出しちゃおっかな〜☆」

 

《馬鹿な!あれが本気でないだと!?》

 

 

実際に戦ったクロウが驚愕する。

 

 

「君は本気の僕を更に超えられるから別に心配する事なんてないでしょ?☆

官兵衛さんはともかく、

半兵衛さんも本気では戦ってなかったよ?

まず殺意が全く無かったしね。

彼女が殺意を持って本気で向かって来たら、流石の僕も怖いね」

 

『いいからさっさとやろうぜ』

 

「分かってるよん☆

待っててねぇ〜...............がっ!!」

 

 

その変貌は急激に起こった。

全体的に細身の身体の主水。

圧倒的に変わったのはその威圧。

天竜のように見た目から変わる事もない。

しいて変わった点と言えば、

その面相ぐらい。まるで石仮面のようだ。

一本角を携え、鉄のような爪を持つ。

これが鬼の完成体なのだろうか。

 

さらに驚くべき事は、100人近くに増殖した分身全員が同じ姿になったという事だ。

 

 

「さぁ、やろうか★」

 

 

心なしか声色も低くなった気がする。

 

 

「この状態になるのは本当に久しぶりだ★

"あいつ"との戦い以来.....

君は"あいつ"の眷属でしょ?

まぁ、人狼に眷属って概念があるかどうかは知ったこっちゃないけ.....」

 

 

次の瞬間だ。一つの風が吹いた。

主水が気づいた時、良晴は己の後ろにいた。

両腕にあるものを抱えて.....

 

 

『そらっ、返すぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

返された2つの塊.....

それは主水の生首だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首の切り口から鮮血をあげる2人の主水。

血柱が2本上がる。

 

 

「流石天竜くんの最後の弟子だ★

彼と同じで容赦ないね。

いや、女性をいきなり殺す点は、

彼より野蛮かな?」

 

『同じにすんな。

俺はあいつとは違う。

どちらにせよその他大勢は分身で偽物だろ?

最後に残った本物を生け捕りにすればいい』

 

《..........》

 

「ふ〜ん★前に会った時よりだいぶ頭も良くなってるようだね」

 

《これは.....》

 

 

クロウは思った。

これは良くなっていると言えるのか?

まるで別人ではないか。

これは主水の言う通りではないか。

良晴が豊臣秀長に近づいている.....

 

 

『ガルルルル.....』

 

 

良晴は自身の腕に付いた主水の血を舐める。

 

 

『不味いな。糞みたいな味だ』

 

「中々失礼だね君は★

それはしょうがない事だよ。

鬼もとい吸血鬼は人狼と右と左。

陰と陽と関係。

そもそも受け入れられないんだ。

飲むだけなら不味いで済むよ。

胃でギリギリまで消化するしね。

まぁ、お腹下すかもだけど★

血液中なんかに直接入れたら大変だ。

細胞そのものを破壊されて、

絶命してしまうからね★」

 

『じゃあ今度は噛んで、

直接血を注ぎ込んでやるよ』

 

「じゃあ僕もやっちゃおうかなぁ。

でもすぐ終わっちゃうだろうから

まだやらないけどね★」

 

『黙れよモスキートが!』

 

 

良晴が再びその駿足を見せた。

 

 

「ぐえっ!!?★」

 

「ぎゃはっ!!?★」

 

「えがっ!?★」

 

「ぎんっ!!?★」

 

 

次々に主水が血祭りにあげられる。

 

 

「"土よ動け"★」

 

 

1人の主水が幻術を使った。

その途端に地面が突然盛り上がった。

それは次第に形作られ、

巨大な腕の形になる。

 

 

『所詮は幻覚だ。

本物と捉えなければ影響はない』

 

「本物にそれで大丈夫〜?★」

 

 

巨大な腕が良晴に向かって振り下ろされる。

良晴は特に構えもせず受け止めようとする。

だが.....

 

 

『つっ.....!?』

 

 

良晴が慌てて避けた。

するとその直後、振り下ろされたその場所の地面が抉られた。

 

 

「あら、失敗★」

 

『手前ぇ.....』

 

 

なんと岩石腕の幻覚に主水の分身が隠れていたのだ。避けていなければ斬られていただろう。

 

 

「僕は鬼だけれど、本職は幻術士。

幻術のぷろふぇっしょなるの僕に、

君如きが勝てると思うかい?★」

 

『400年前の日本の化物が英語使ってんじゃねぇよ』

 

「君もある意味400年前の化物だけどね★」

 

『言うな糞ったれ』

 

「口悪いなぁ〜.....★

女の子に言う台詞じゃあないよ?」

 

『女の子ってたちか?手前ぇが?』

 

「むっ.....」

 

 

良晴の言葉は主水の癇に障ったようだ。

 

 

「やっぱり君は天竜くんとは違うわ。

天竜くんは女の子に対してそんな腹立たしい言葉なんて吐かないもん。それはそこのクロウくんも同じだね。

君を心の底から下衆って感じたよ★」

 

『んだと?』

 

 

良晴は構える。

 

 

『あいつと同類と言われるならいざ知れず、

あいつよりも下衆だと?この俺が?

ふざけるなよ下等生物がっ!!』

 

「そうそれ★

そういう差別的な考えが幼いって言ってるの。

分かんないかな〜

君の評価だだ下がりだよ?★」

 

『黙れ!!』

 

 

良晴が再び向かう。

 

 

「むぅ単細胞は変わらないみたいだね★」

 

 

主水もまた再び地面の土を幻術にて操り、巨大な腕を出現させる。

 

 

『同じ手が食うかよ!!』

 

 

良晴は岩石腕の中に潜んでいるであろう主水を攻撃しようと突撃する。だが.....

 

 

『!?』

 

 

岩石腕には誰もいなく、

そのまま通過してしまう。

 

 

『しまっ.....』

 

 

まんまと罠にはまった。

今度はただの幻覚だった。

俺は敵の射程圏に自ら飛び込んだようなものだ。

岩石腕を通過した直後の事、

別方向より主水が攻撃してきたのだ。

 

 

「スッキあり〜★」

 

 

良晴は刀で背中を斬りつけられた。

 

 

『がぁっ!!?』

 

「やっぱ鉄刀じゃ厳しいか★

銀刀ぐらいは用意しないとねぇ★」

 

『この糞がぁ!!』

 

 

良晴はその主水を八つ裂きにした。

 

 

 

「まだ来るよ〜★」

 

『くっ.....!!』

 

 

良晴は今度ははなから近付こうとせず、

岩石腕から距離を取ろうとするが、

 

 

「後ろも見ないと★」

 

『なっ!?』

 

 

今まで姿を幻術で隠していた主水が突然斬りつけた。

 

 

『ガルググググ.....!!』

 

 

良晴の怒りがさらに溜まる。

 

 

「くひひひひひ!!★」

 

 

主水が再び斬りかかってくる。

だが、幻覚か本物かも分からない。

 

 

『くそっ.....』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《良晴〜!!!》

 

 

クロウが双剣を持って駆け付ける。

 

 

『!?』

 

 

だが、クロウが斬ったのは向かってくる主水ではなく、良晴の真後ろの空虚。誰もいないはず空間だった。

 

 

「えぐっ!!?★」

 

 

すると今までは見えなかった主水が胴体から真っ二つになった状態で出現する。

逆に今まで見えた主水は消えてしまった。

 

 

『クロウ!?』

 

《いい加減にしろ良晴。

あの吸血鬼は力で押し勝てる程、

易い相手ではないぞ!》

 

『ぐぐぐ.....』

 

《良晴よ.....お前は今まで何人との吸血鬼と死闘を繰り広げた?》

 

『..........』

 

《そんな事だろうと思った。

吸血鬼は1人毎にその特性が大きく変わる!

吸血鬼を全部理解する事はできない。

敵を侮るな!

敵を過小評価するな!

戦うなら!.....殺すなら!

誠意を持って殺せ!!

殺す相手を尊重しろ!

それができないのなら、

戦いなどやめてしまえっ!!》

『貴様.....言わせておけば.....』

 

《君に少しでも良晴の部分が残っているのなら、覚えておけ!

私は差別が嫌いだ!

だから、殺す相手にはいつも敬意を払う!

命を奪う事に大小などない!

元より我らに他者の命を奪う権利など存在しないのだ。だからこそ、その罪を見極めよ!

例え相手が虫風情でも、

どうしようもない極悪人でもだ!》

 

『くっ.....』

 

 

良晴の興奮状態がやや治まる。

 

 

『分かった.....心掛けよう。

代わりに教えろ。

どうやって奴の幻術を見破った!?』

 

 

それもまた気掛かりだった。

クロウは未だ目も耳も潰れたまま。

どうやったのだ?

 

 

《見て通り、目も耳も使ってないさ。

敷いて言えば、使ったのは直感。

捉えたのは姿でも音でもない。殺気だ》

 

 

殺気.....さっきも言ってたな。

 

 

《君ももうただの人間じゃないのなら、

あの豊臣秀長から修行を受けたのなら、

できるはずさ》

 

『殺気.....』

 

「もうういいかなぁ?

戦闘を再開せてもさ★」

 

 

クロウの言葉を受け、今までの荒々しい態度を改めて、ゆっくりと目を閉じた。

主水らはもう動いている。

 

 

『....................殺気』

 

 

使うのは目でも耳でもない。

使うのは第六感のようなものか?

 

 

「くけけけけけけけ!!!★」

 

 

前方より主水の高笑いが聞こえる。

だが良晴はその声をあえて無視した。

 

 

『....................殺気』

 

「くひひひひひ!!!★」

 

 

主水の声はさらに近づいてくる。

 

 

『........................................殺気』

 

 

そして.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.....後ろ..........左斜め上』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所さえ掴めれば、後は簡単だった。

 

 

「げっ.....ぐがぁっ!!?★」

 

 

前方より聞こえた主水の声は幻聴。

本物の主水は姿を消して後ろにいた。

人狼のスピードは吸血鬼とは比べものにはならない。居場所を完全に捉えられてしまった以上、吸血鬼に勝ち目はない。

 

 

「がぐっ.....ぐぐぐぐ....★」

 

 

首を握られた主水は呼吸を無理矢理止められている。

 

 

『確かにそうだ。戦う相手には敬意を示さなければならない。さっきの俺はどうかしていたのかもしれない。

なにぶんこの身体には慣れてなくてな』

 

「げぎゃっ!!?★」

 

 

良晴は主水の首を握り潰した。

 

 

『少しだけだがコツは掴んだ。

.....いけそうだ』

 

 

良晴は動いた。

 

 

『ガアアアアアアアアァァァ!!!』

 

 

狂戦士は舞う。

ハチャメチャな戦闘にも見えたが、

圧倒的にその戦闘スタイルが違う。

それは視覚でもない、聴覚でもない。

使うのは第六感。

 

 

『ガアアアアァァァ!!!』

 

「ひぎゃっ!!?★」

 

 

良晴は幻覚主水の後ろに重なるように隠れていた本物の主水の胸を素手で貫いた。

 

 

『ガルルルルルルァァァ!!!』

 

「げはっ!!?★」

 

 

良晴がそこらに落ちていた刀を拾い、そのまま地面に突き刺した。すると、地面に擬態していた主水が浮かび上がった。

 

 

『ガアアアアアアアアァァァ!!!』

 

 

先程までの翻弄が嘘のように、

良晴は次々に主水を殺害する。

幻覚と本物を正確に捉え、

本物だけを確実に始末している。

 

 

《ふっ!!はっ!!たぁ!!》

 

 

クロウもまた同じように主水を斬っていた。

 

 

《..........》

 

 

だが、その視線はずっと良晴に向いていた。

 

 

《人狼.....豊臣良晴秀吉》

 

 

クロウはこの男の存在に恐怖した。

殺気で相手を捉える方法など、教えてすぐ習得できるような簡単なものではない。

だが、良晴は瞬時に行ってみせた。

 

 

《人狼.....ウェアウルフ》

 

 

彼がどのような経緯で人狼になったのかは定かではない。だが、彼が明らかに人狼とはまた違う人狼になっているのが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

本来の人狼は理性を持たないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

人間形態時は別として、人狼形態時は人間であった部分を全く残せないのだ。本能赴くままに殺戮の限りを尽くす化物。

それ故に吸血鬼によって使役させられてしまう事もあるが、時として吸血鬼を上回った力によって主人すらも食い殺す事もあるのだ。

にも関わらず、

良晴には野蛮ではあったが理性があった。

おまけに喋った。

人狼は今までにも斬った事はあったが、

こんな種を見たのは初めてだ。

 

 

いや....."あの人狼"以来か。

 

 

今は辛うじて味方.....か?

少なくとも共闘はできている。

おまけに人狼良晴は驚く程強い。

一時は魔法で優位に立っていた主水も、

見破られた途端に一気に劣勢に立たされた。

100人近くいた主水もどんどん数を減らし、ついには指で数えられる程になっている。

良晴がまるで風に見えた。彼だけ生きている時間軸が違うかのような駿足。

いや、あの気味の悪い移動方は.....

 

 

《コックローチ.....》

 

『誰がゴキブリだコラァ!!』

 

 

クロウのテレパシーを感じ取った良晴がこちらにツッコミを入れてきた。

以前良晴に豊臣秀長の弱点を聞いた事があったが、奴はゴキブリが苦手らしい。一目見ただけで一目散に逃げ出す程だとの事らしい。

 

まさか奴の弱点は良晴!?

 

なんて馬鹿な考えはともかくだ。

良晴が味方(?)であるだけでありがたい。

もし彼が人狼としての本能を覚醒させて、

人々を襲うような存在になれば.....

豊臣秀長と並ぶ脅威。

いや、それ以上の脅威となるだろう。

 

 

《願うばかりだ》

 

 

良晴が寝返らないよう願うばかり。

この手で彼を殺す日だけは来て欲しくない。

 

 

「「くけけけけけけけ!!!★」」

 

 

クロウの後ろから2人の主水が襲う。

 

 

《ふっ!!》

 

「「ぐえぇっ!!?★」」

 

 

双剣を2人の額に突き刺して始末する。

 

 

《勝負..........着いたか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ..........くそっ!☆」

 

 

たった1人残った主水が半殺し状態で倒れていた。恐らくこいつが本物だろう。

変身も解け、元の女子の状態だ。

 

 

『覚悟できたか?』

 

「くっ、くくくく.....天竜くんと戦う前に倒れちゃったのは残念だけど、君にすら勝てないんじゃ、彼にも到底敵わないってとこか.....ひょっとしたら、彼より君の方が強いのかも☆」

 

『ふんっ.....』

 

 

良晴が手刀を構え、

主水の胸を貫こうとしている。

 

 

『そのぉ.....なんだ。

お前との勝負は楽しかった。ありがとう』

 

「くふふふ.....

本当に面白いね君☆

今後の展開がどうなるかも気になるけどしょうがないね。いいよ。やれば?☆」

 

『そうさせてもらおう』

 

《..........》

 

 

クロウは目を逸らした。

主水よりコピーした鬼の力で目玉も耳も再生させたクロウ。後で再生できるとふんだ上で、この選択を取ったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って下さい殿!!」

 

 

遠くから声が聞こえる。

ポニーみたいな馬に乗った半兵衛と官兵衛だった。一度退いた2人は改めて戻って来たのだ。

 

 

「良晴さ..........!!?」

 

「これは.....!?」

 

 

2人は驚愕した。目の前より感じてくる霊気は確かに良晴のもののはずなのに、目の前にいるのは狼の化物。

敗れた主水を今にも殺そうとしている。

 

 

「良晴さん..........なんでっ!?」

 

 

半兵衛が叫ぶ。

 

 

「なんでなんですか!?

どうして..........そんな.....」

 

 

馬から降りた彼女はその場に崩れ落ちた。

 

 

「良晴..........何故黙ってたんだ。

本陣に戻ってから君の霊気が跳ね上がったから、何事かとは思ったが.....」

 

 

官兵衛も驚きを隠せなかった。

 

 

『半兵衛.....官兵衛.....』

 

 

良晴は低い声で言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前ら美味そうだな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

「いかん!!離れろ2人共!!」

 

 

クロウが叫んだ。

 

 

『喰わせろぉぉぉ!!!』

 

 

突如良晴が2人に牙を向いた。

 

 

「くっ.....!?」

 

 

慌ててクロウが双剣で止める。

 

 

『どけっ!!邪魔だ!!』

 

「落ち着け良晴!!

あの子らは君の大事な仲間じゃないか!!

あの子らを食べる気か!!?」

 

『邪魔だクロウ!!お前も喰うぞ!!』

 

「くっ.....!?」

 

 

この良晴はもう.....

悪魔や妖怪の食欲は、

その者の性欲や愛にも比例するという。

良晴は2人が好きなのだ。

だからこそ視線に入った瞬間、

彼の人間の部分が飛んだのだろう。

もう説得した所で意味はない。

こいつはただの人狼だ。

 

 

「お願いだ。これ以上は待てない。

これ以上は..........

君を殺さないといけない!!」

 

 

こんなにも早くこの時がやってくるなんて.....

恐らく簡単に殺せるだろう。

今の自分の力は良晴の人狼の力をコピーして、その1.5倍の力を持っている。

あぁ、自分はなんて不幸なのだ。

 

 

『ガルルルァァァァ!!!』

 

「Amen!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く.....未熟な子には困ったものね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 

その者は突如現れた。

 

 

「君、邪魔ね」

 

「!?」

 

 

それまで良晴を抑えてたクロウが、

その者に吹っ飛ばされた。

 

 

『ガッ.....ガルルル.....ガルルルァ』

 

 

良晴がその者を見て驚愕していた。

もう言葉にもなっていなかった。

 

 

「あれだけその力を過信するなって伝えておいたのに、君は全く..........えいっ!」

 

『ガッ!!?』

 

 

その者が人差し指を良晴の眉間に刺した。

その瞬間良晴はその場に倒れ、

元の人間形態に戻った。

息はしている為、死んではいない。

 

 

「なっ.....なっ.....」

 

 

半兵衛が言う。

 

 

「どうして.....貴方が」

 

 

その者は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてですか....."後鬼"さん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その者は半兵衛の式神、後鬼。

前鬼と並んで半兵衛を支えていた。

戦闘支援や軍略支援を前鬼が、

生活支援を主に後鬼が行っていた。

対した力は持たない為、

滅多に表には出てこなかった式神だ。

 

 

「ごめんなさい主人様。

召喚される前に出ちゃいました」

 

「後鬼.....さん?」

 

 

普段と少し様子が違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「離れろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロウが再び叫ぶ。

先程より大きな声で、焦った声で.....

クロウは後鬼に双剣を構えていた。

信じられない量の汗をかきながら、

歯をガチガチと鳴らしながら.....

 

 

「なんでお前が!!」

 

「あら?ガブリエル・アンダーソン?

お久しぶりね」

 

「えっ!?」

 

 

半兵衛は驚く。何故後鬼とクロウが知り合い!?

クロウはここ数年で来日したばかりの異国の神父のはず。自分の知る限りでは2人はあっていないはず。

 

 

「竹中半兵衛!!君は今まで何も知らずにこいつを使役していたというのか!?」

 

「えっ.....」

 

「うふふふ.....」

 

 

後鬼は不敵に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつは、あのドラキュラの片腕!

ドラキュラ軍の双璧と言われた奴だ!

ワラキア国をあそこまで強国にした大将軍。

オスマン帝国をあべこべに追い詰めた化物!」

 

 

史実では、ルーマニアはオスマン帝国の植民地状態にあり、何度も何度も独立戦争を起こすが、失敗。

正式にルーマニアとして独立したのは、

第一次世界大戦後との事。

 

だが、この世界では違うらしい。

むしろオスマン帝国を追い詰めている。

 

 

「その力はドラキュラにも匹敵する.....

伝説の最強のウェアウルフ。

その強さから"ベルセルク"の異名を持って、他の人狼からも分けられる人狼の中の人狼。

その名前はギリシャ神話の魔犬と同じ、

ドラキュラ軍の番犬とも言われた女!」

 

 

クロウは言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人狼.....オルトロス!!」

 

 

 

 

 

 

それは.....幼少期の天竜のペットの名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の顔だけは忘れない!!何故なら数年前にお前を倒したのは俺なんだからな!!」

 

 

クロウの一人称が変わる。

それだけ興奮しているのだ。

 

 

「あははははは!!!

この我が人間風情にやられるぅ?

馬鹿も休み休み言いなさい!」

 

「くっ.....!!」

 

「後鬼さんが.....ドラキュラの片腕?」

 

 

今の主人である半兵衛は驚くしかない。

 

 

「後鬼ぃぃ!!!

なんでお前がここにぃぃ!!!☆」

 

 

半殺し状態だった主水が急に怒りをあらわにさせる。2人共半兵衛の下で働いていたのだ。

 

 

「あら、主水さん。

前に喧嘩した以来ね」

 

 

主水の喧嘩相手とは、後鬼だったのだ。

 

 

「まっ、まさか!?☆

"奴"が仕組んだのか!?

"奴"が全ての黒幕だったというのか!?☆」

 

「はい、そこまでね」

 

 

後鬼が掌を主水に向ける。

 

 

「なっ!!?☆」

 

「失せろ」

 

 

後鬼が掌から何かを放った。

それは『妖力波』

自信が持つ霊力をそのまま放つ熱線だ。

全てを焼き尽くす最強の妖術。

案の定、主水は跡形もなく消し飛んだ。

 

 

「ふぅ、五月蝿いのが消えました」

 

「後鬼さん!!なんで.....

なんで主水さんを殺したんですか!!?」

 

「殺してませんよ?」

 

「!?」

 

「今のは彼女の分身。

多分最初の分裂の時点で8本の髪を抜いて、分身を8体誕生させて、本物はとっくに隠れていたんですよ。

よく探れば、ほら。

遠くの方に彼女の霊力を感じるでしょ?」

 

「..........」

 

「さっ、邪魔者は消えました。

さっさと島津軍を追い詰めて、

豊後国を奪還しちゃいましょう!」

 

 

後鬼は朗らかに言う。

 

 

「後鬼さん.....」

 

「はい?」

 

「あなたは誰ですか?」

 

 

今更になって言う。

彼女と会ったのは7年近く前。

それまでそんな事気にもしなかったのに.....

 

 

「ただの後鬼ですよ」

 

「!?」

 

「ただし、同時にオルトロスでもあります。

"ベルセルク"とも"番犬"とも呼ばれた。

ドラキュラの唯一無二の親友です」

 

「一体.....なんで.....」

 

「うふふふふ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人狼オルトロスは不気味に笑う。

 




ここで後鬼を使いました。
ついでに以前の過去編の伏線を回収しました。
後鬼の正体は人狼オルトロス。ドラキュラの片腕。
良晴を人狼にしたのも彼女。
その真意とは.....?
次回予告
島津軍との死闘
〜逆転された島津はやがて.....〜


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第七十話 島津軍との死闘

更新遅れましたぁ
最新話でぇす


「何っ!?あの鬼が負けた!?」

 

 

臼杵城にて、島津義弘が言う。

島津軍が切り札として送り込んだ松山主水は、良晴とクロウのタッグの前に敗北。形成は逆転。島津軍は良晴軍の圧倒的戦力の前に押されつつあった。

 

 

「一騎当千の鬼が負けるとは.....

おいどんながら、なんて大誤算」

 

「يوشيهيرو(義弘).....」

 

「姉上。申し訳ありんせん。

鬼に頼るという、非人道的方法を取ったぁばかりに、こな結果だしてもうて」

 

「لا تهتم. قد بدأت للتو الحرب. أنا دائما لأن الفشل هناك نانت، وأنا لا أحاول أن تشمل ما يلي

(気にするな。戦はまだ始まったばかり。失敗なんていつだってあるのだから、次に備えて努力すればいい)」

 

 

島津軍総大将、島津義久が励ます。

 

 

「???」

 

 

だが、伝わらなかった。

 

 

「مو يو ~(むぅ).....」

 

 

義久は紙と筆を取り出す。

そこにスラスラと文字を書いた。

 

 

「えぇ....................と.....?」

 

 

この時代の日本の文字は一筆書きのように繋がって、現代人には読みにくいものであるが、義久の文字はこの時代の人間にも読みづらい程下手なようだ。

 

 

「分かり仕った!

めげずにこのまま戦えっちゅう事ですね!」

 

「أم(ふむ)」

 

 

なんだか久しぶりにちゃんと会話できた気がする。義弘は姉の言葉を少しぐらいなら翻訳できなくもないが、長文だとさっぱりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴軍、本陣。

 

 

「はっ!?」

 

 

総大将豊臣良晴は突如目覚めた。

 

 

「ここは.....」

 

「良晴さん!」

 

「良晴!」

 

 

最初に目に飛び込んできたのは自分の大切な家臣、半兵衛、官兵衛、だった。目覚めた良晴に歓喜し、2人に同時に抱きつかれる。

 

 

「そっか.....俺変身してたんだっけ」

 

「「「..........」」」

 

 

2人は黙ってしまう。

その時、

 

 

「我があげた人狼の力はどう?」

 

「..........後鬼」

 

 

奴もまたそこにいた。

 

 

「これからは身体だけじゃなく、

精神力も鍛えなきゃね。

じゃないと、またあぁなるよぅ?」

 

「あぁなる?」

 

「後鬼さん!」

 

 

半兵衛が制止しようとするが、

 

 

「そこにいる主人様や黒田官兵衛を食べようとしてたのよぉ〜?覚えてない?」

 

「なっ!?」

 

「後鬼さん!!」

 

 

半兵衛が怒る。良晴が覚えていないなら、それでやり過ごそうとしていたようだ。

 

 

「俺が..........半兵衛と.....官兵衛を.....」

 

「うん!あの時の君は人狼そのものだったからねぇ。我が止めてなかったら、今頃君は血の海の中で泣いていたか、そこの神父さんに首を取られてたかもねぇ」

 

「..........」

 

 

クロウは陣幕によしかかり、じっと後鬼を睨みつけていた。怒りが篭った鋭い瞳で.....

 

 

「精神力..........それを鍛えれば人狼に変身してる間でも、ずっと理性を保ってられるのか?

また暴走したりは.....」

 

「それなら大丈夫よ。

普通の人狼なら難しいけれど、

君はそれが可能なの」

 

「!?..........どういう事?」

 

「君は人狼の紛い者。半人狼なのよ」

 

「「「「!?」」」」

 

 

この言葉に良晴は勿論、両兵衛もクロウも驚く。

 

 

「人狼っていうのはそもそも、

人間と狼神の間に生まれた存在。

つまり半人半妖なの。

まぁ、今でこそ人狼も純粋な妖怪として扱われているけどね。

我が君に注いだ人狼の血は、

"本来必要とされる量の半分"。

だから君は人狼の半分なの。

人狼になりきれない人狼。だから半人狼。

妖怪としてなら、君は4分の1だけ妖怪。

半々妖。クウォーターウルフなの」

 

「クウォーターウルフ..........

つまり俺の4分の3はまだ.....」

 

「うん。君は4分の3人間よ。

本来ならそんな存在は驚く程弱いはずなんだけれど、血が我のものだけあって、通常の人狼にも引けを取らないけどね。

この"ベルセルク"と呼ばれた我の血をその身に4分の1も入れてるのだからね」

 

「なんか、ぬら孫みたいな話だな」

 

「「?」」

 

 

半兵衛官兵衛にはさっぱりだ。

 

 

「あ〜!我も知ってるぅ!

未来であの子が読んでたのを、

膝の上に座って、一緒に見てた!」

 

 

急に後鬼のテンションが上がる。

 

 

「あんた.....未来から来たの?」

 

「言ったでしょ?私はドラキュラの親友。

竜ちゃんとは子供からの仲。

"人間"の友達がいなかったあの子の、

唯一無二の大親友」

 

「..........」

 

「後鬼さん」

 

「ん?」

 

 

半兵衛が尋ねてくる。

 

 

「貴方は何ですか?」

 

 

再度その問いを投げかける。

 

 

「我は後鬼だよ?それで持ってオル.....」

 

「それはさっき聞きました!

今私が知りたいのは、

何故貴方が私に仕えるにあたり、

何故貴方が良晴さんを.....人狼に.....」

 

「何故って、貴方が私を式神とし雇った。

ただそれだけではないですか」

 

「!?」

 

「我は欧州で聖職者共とのの抗争に敗れ、

故郷であるこの国に逃げ帰った。

全身ボロボロで、死にかけの我は、

美濃近辺にて行き倒れ状態だった。

そんな時に主人様、貴方と出会った」

 

 

もう7年近く前の話だ。

 

 

「その時私は、ともかく消耗していた。

霊力も切れかけ、死に損ない状態。

だから貴方は我の正体に気付けなかった。

さしずめ、人間か強妖怪に襲われた

弱妖怪程度にしか見えなかった。

だが、我は主人様の式神になった。

向こうじゃ、サーヴァントとも言いますがね」

 

「式神.....」

 

「我には休息が必要だった。

まだまだ未熟の童女に仕えるのは、

とても居た堪れなかったが、

それでも我は主人様に頼る他なかった。

弱ってる間に人間に襲われては、

元も子もないですからね。

しかし、貴方には参りましたわ。

貴方というより、貴方の式神.....

前鬼にはね」

 

「前鬼さん!?」

 

「彼はすぐに私の正体に気付いた。

ですが、我に何かしらの行動を行うだけの霊力が残ってない事を知って、大目に見てくれましたわ。

ただ、血の契約をする羽目になった」

 

「血の.....契約?」

 

「血の契約は魂の契約。

破れば魂を失う事となる。

 

一つ目は、主人様が許可しない限り、主人様の式神である事を放棄しない事。

 

二つ目は、主人様とその周囲の人間には手出しをしない事。

 

三つ目は、食事は人間の食料のみにし、人間を餌にする事を禁じる。

 

四つ目は、主人様には絶対に正体を明かさない事。

 

以上の四つですね。

これさえ守れば我は安全を保証された。

まぁ、契約相手はあくまで前鬼なので、

彼が昇天した時点で契約は破棄されましたがね」

 

「前鬼さんが.....そんな事を」

 

「その後は道楽で貴方の式神を続けましたわ。

勿論契約も守り続けてね。

一時期の貴方には肝を冷やしました。

あちこちで龍穴を潰して回って、

我の霊力までどんどん奪ってくのですから、

まぁ、その後に蘭奢待や房中術でちゃんと自分の分の霊力を回復してくれたお陰で、我も霊力を回復させる事が出来ましたがね。

現在の日本は竜ちゃんのお陰で、

再び龍穴が増えて住みやすいですわ」

 

「何ですって!?」

 

 

半兵衛と前鬼が必死になって破壊した龍穴を天竜が再び開いた!?

 

 

「どうして.....」

 

「主人様。龍穴の定義をご存知で?」

 

「定義?」

 

「龍とは何か.....

龍は"黒龍"。つまりは月読命。

ツクヨミ神の力の発動こそ、龍穴の生まれ。

『不滅の法灯』を始めとする数々の龍穴にはツクヨミ神が関わっています。

あの子はそのツクヨミ神の仔。

あの子がドラキュラとして力を引き出す事は、

ツクヨミ神の力の発動に等しい。

すでに備中、十津川口、播磨、甲斐、箱館、この豊後の地には強力な龍穴が開きつつある」

 

「そんな.....」

 

「あの子を責めては駄目よ?

多分あの子も気づいてない。あの子も自分の正体は6割程度にしか理解していないようだしね」

 

「..........」

 

 

半兵衛は急激落ち込んでしまった。

自分が死ぬ気行った努力を水の泡にされたのだ。無理もあるまい。

 

 

「話を戻させてもらうわ」

 

 

後鬼が言う。

 

 

「良晴。貴方は半人狼。

その気になればいつでも人間に戻れるわ」

 

「えっ!?そうなの!?」

 

「先程も言ったように貴方は4分の3人間。

ただの人狼では無理でも、半人狼であるなら、人狼の血だけ我が吸い取ってしまえば、貴方は人間に戻れるわ」

 

「..........」

 

「同時に、簡単に人狼になる事もできる。

でも一度それをやっちゃったら、

もう二度と人間には戻れないけどね」

 

「人間に.....戻る」

 

「戻りたい?」

 

「!?」

 

「今じゃなくてもいいよん?

貴方が人狼として全ての事をやり終えた暁には、君を人間に戻してあげても.....」

 

「いい!」

 

「良晴さん!?」

 

「良晴!?」

 

 

良晴は即答した。

 

 

「いいの?戻れなくて?

後になってやっぱりってのは、

無しだよん?」

 

「構わない。俺は人狼さ。

これは俺が選択した道。

俺は守る為に人間を辞めた!

俺が守りたいと思う大切な人達皆をの為に俺は人間を辞めたんだ!

私欲なんて捨てた!

俺はもう見てるだけ人生を捨てた!

人間であり続けたいだなんて、

無意味なプライドなんて持つ気はない。

何かを得る為には何かを失わないといけない。

それを俺は"敵"から教わった。

だから俺は皆の幸せの為に、

人間としての幸福を捨てたんだ。

間違っているか?」

 

「良晴さん.....」

 

「良晴.....」

 

 

半兵衛も官兵衛もそれ以上良晴を責め立てる事はできなかった。

 

 

「あいつを倒すには、

あいつの全てを理解しないといけないんだ。

あいつを否定ばかりしていては、

多分絶対に倒せないと思う。

あいつの考えを理解するべきなんだ。

あいつの苦しみを理解するべきなんだ。

納得はできなくても、

理解だけなら悪い事じゃない。

むしろ無知の方が、それだけで罪だ。

あいつが人外になったのなら、

俺も人外になってやる!

そうまでして初めて、

あいつと同じ土俵に立てる気がする!」

 

「良晴.....」

 

 

それは先のクロウの受け入りだった。

 

 

「グッド。グッド。ベリーグッド♬」

 

 

後鬼が愉快そうに唄う。

 

 

「いいねぇ〜。見込んだだけの事はあるよ。

その答えを待っていた!

これ以外の答えなら殺してたよ〜♬」

 

「怖っ!?」

 

 

そんな重大な質問だったのか!?

 

 

「中途半端に人間に戻りたいだなんて思ってたら、途中で我の計画を潰される可能性もあるからねぇ。

少なくとも全てが終わるまでは、

君には人狼でいてもらう。

絞り切ったボロ雑巾になるまでわねぇ。

ふくくくくくくく.....」

 

 

後鬼は邪悪な笑みで言った。

 

 

「もういいか?」

 

 

クロウが割って入った。

 

 

「ここからは私が問う。

答えろ人狼オルトロス。

貴様はこの国に何しに来た!!」

 

「言ったでしょ〜。

ここは我の故郷。

ただの里帰りだよん」

 

「ふざけるなっ!!

教えろ!貴様の計画とは何だ!?」

 

「豊臣秀長を殺す事」

 

「なっ!?」

 

「「「!!?」」」

 

 

これには良晴らも驚愕した。

 

 

「馬鹿な!?貴様はドラキュラの片腕のはずだ!

その貴様が何故豊臣秀長を殺す!?」

 

「だからだよ。あの子の為に、

我は豊臣秀長を殺すんだ」

 

「はぁ!?」

 

 

豊臣秀長の為に豊臣秀長を殺す!?

 

 

「あのドラキュラを騙る偽物を殺す。

それさえ達成できれば、

あの子は本来の力を取り戻せる」

 

「あっ.....」

 

 

良晴は理解した。

後鬼が言っている事を.....

 

 

「"カーミラ"も協力してくれてる」

 

「なっ!?」

 

 

驚いたのはクロウだった。

 

 

「奴が.....生きてる!?

奴がこの国に来ているだと!?」

 

「まぁね。"カーミラ"も日本生まれだしね。

オスマン帝国との戦争や、

十字教との抗争を中断してる間、

ドラキュラとその双璧の3人は全員、

この国で療養している。

まぁ、カーミラは元から生きてるのか死んでるのか分からない奴だから、休む必要もないけどね」

 

「くそっ!!まさかあいつまで.....」

 

「クロウ.....カーミラって誰だ?」

 

「.....そのオルトロスと同じく、

ドラキュラの片腕の化け物だ。

"ノスフェラトゥ".....不死者の名を最も表現したような奴だ。ドラキュラと同じ吸血鬼。

だが、ドラキュラとはまた違う強さを持つ」

 

「ひょっとして.....」

 

 

良晴には心当たりがあった。

 

 

「それも気になるが、まだ合戦中だ。

今は対島津戦を優先すべきだと思うよ」

 

 

官兵衛がこの話に区切りをつけた。

 

 

「そう.....だな。

いつまでも長々と戦を続けるわけにはいかない。

互いの軍の為にも、

早急に島津を鎮圧すべきだ」

 

「「..........」」

 

 

半兵衛も官兵衛も思った。

良晴は本当に変わった。

昔の彼とは比べ物にならない。

三木城の兵糧攻めにて、飢え死にさせるのは可哀想だという理由で、こっそり兵糧を分け与えるという、訳の分からない行動を取っていた時には驚愕したものだが.....

やはり太閤秀長の影響か。

 

 

「良晴さんは.....いつから太閤殿下と戦おうと決心されたのですか?」

 

 

半兵衛が尋ねる。

 

 

「いつからだって?」

 

 

そして、良晴は答える。

 

 

「"元春を殺したのが"あいつだという事を知ってからだと思うよ」

 

 

良晴は静かに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『囲師必闕の戦法』でいこうと思う」

 

「いしひっけつ?」

 

 

松山主水が敗走したのを機に、良晴軍は一気に島津軍を追い詰め、形勢を逆転された島津軍は臼杵城に立て籠もってしまったのだ。

 

 

「孫子の兵法ですね」

 

 

官兵衛の軍略に半兵衛が付け加えた。

 

 

「シム。臼杵城を四方八方から攻めれば、

島津軍はより一層根気強く抵抗してくる。

だがあえて三方だけを囲み、

あえて一方を開ける。

すると敵さんはそこから逃走を図り、

無駄に戦闘をせずに城を手に入れられる」

 

「うん。いいんじゃねぇか?」

 

 

良晴も納得する。

 

 

「ふぅむ。東洋の戦法も馬鹿にはできないな」

 

 

西洋人のクロウも関心した。

 

 

「この場合は南方を開けた方がいいね。

ついでにこの南方に伏兵を仕込めば、ひょこひょこ逃げて来た島津軍を一網打尽にできるよ」

 

「官兵衛さん.....くすんくすん」

 

「許可できねぇ」

 

「何故だい良晴。

ここで島津義久を討ち取れば、

この九州攻めは終結するんだぞ?」

 

「今回の目的は豊後の奪還だ。

今ここで島津義久まで討つ必要はない」

 

「さっきと言ってる事が違うじゃないか。

君は先程、島津軍早急に鎮圧すべきだと言ったんだ。だが、今の君は矛盾しているよ?」

 

「ここで島津義久を討てばどうなる?

九州は豊後だけじゃないんだ。

島津に負けて従う羽目になった連中だって大勢いる。そんな奴らがいきなり武力放棄すると思うか?いきなりこちらの味方になると思うか?

島津家という枷が外れた途端、

各々で独立しようとして、

一斉に蜂起するに違いない。

そうなれば九州は火の海血の海だ。

それを避ける為に、

島津家をあえて生かす事で、

他の勢力も徐々に抑え、

まとめて鎮圧してしまった方が効果的だ」

 

「!?」

 

 

天竜仕込みの軍略を披露する良晴に、

官兵衛は驚愕する。

 

 

「官兵衛さん。私も殿と同じ考えです。

くすんくすん」

 

 

半兵衛が同調してくれた。

 

 

「ちっ!..........賢くなったね良晴」

 

 

馬鹿だ馬鹿だと思ってた良晴に一杯食わされた事に頬を膨らませる官兵衛。

 

 

「ん〜?いじけてんのか官兵衛〜?」

 

「うっ、うるさい!!」

 

「可愛いなぁ〜官兵衛は〜」

 

 

良晴は官兵衛に背中から抱きついて、

ウリウリとおちょくる。

 

 

「調子に乗るな!くっ付くなぁ!!」

 

「ふふふ.....羨ましいです」

 

「笑ってないで助けろ半兵衛〜!!」

 

 

今度は頬を真っ赤にさせる官兵衛だった。

 

 

「初々しいねぇ〜」

 

 

後鬼がその光景をニヤニヤしながら見ていた。

 

 

「むぅ..........分からん」

 

 

それと、色恋沙汰には疎いクロウ。

 

 

「ひょっとしてまだ童貞〜?」

 

「なっ!?.....貴様まで何だ!?」

 

「あ〜、主水にも言われたのね?

顔はいいのに可哀想(笑)」

 

「黙れオルトロス!斬るぞ!!」

 

「はっはっは〜♬」

 

 

結構愉快な本陣であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臼杵城。

 

 

「姉上、北と東と西は関白の軍に包囲されもうした。じゃけんども、南方は手薄な様子でごわす」

 

 

義弘が言う。

それに対して筆談で応答する義久。

 

 

【お前ならどうする義弘?】

 

「うむ。恐らくこれは『囲師必闕の戦法』

迂闊に南方より撤退すれば、

伏兵に一網打尽にされるじゃろうに。

少なくともわしは、

南方から逃げるは避けるべきじゃと思う」

 

【そうか、あい分かった】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴軍、本陣。

 

 

「島津軍が動かないだって!?」

 

 

知らせを受けた良晴は愕然とした。

 

 

「恐らく策を読まれたね。

いもしない伏兵を疑ってるんだろう。

相手は恐らく.....島津義弘。

文武両道で有名だからね」

 

 

官兵衛が推理した。

 

 

「ちっくしょう!どうすればいい?

島津軍に撤退してもらわないと、

膠着状態が只々続くだけだぞ!?」

 

「シム。敵さんに、南方が安全である事を伝えられればいいけれど、そう簡単には.....」

 

「そうか、それだ!!」

 

「はっ?」

 

「ちょっと行ってくる!

ここは任せたぜ官兵衛!」

 

「ちょっ..........どこ行くんだい良晴!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして.....

 

 

「城内に敵が侵入しました!!」

 

「「!?」」

 

 

島津姉弟に異例の連絡が入る。

 

 

「して、数は!?」

 

「いっ..........1体です!!」

 

「体!?」

 

 

人間の単位は「人」だ。

「体」は通常、動物等に使われる単位。

 

 

「もっ、もの凄い速さで暴れ回っています!

刀も槍も矢も鉄砲も何も効きません!

あれは..........化け物です!!」

 

「化け物だとぅ!?」

 

 

我らが鬼を使ったように、

関白も妖怪の類いを飼っているのか!?

 

 

「うわぁ!?来たぁ〜!!?」

 

『ガアアアァァァ!!!』

 

「ぎゃっ!!?」

 

 

その兵は何か異形な存在に吹っ飛ばされた。

凄い勢いで壁に打ち付けられたが、

死んではいないようだ。

 

 

「くっ.....!?」

 

「ما هو هذا الوحش(なんだこの化物は)!?」

 

『ガルルルルルルルル.....』

 

 

獣のような唸り声。

七尺以上はある長身。

全身に覆われし黒い体毛。

耳まで裂けた口から覗く鋭い牙。

二足歩行の巨大狼。

 

 

「ばっ.....化物め!!」

 

『心外だな。これでも4分の3は人間なんだ』

 

「「!?」」

 

 

狼の化物は口を聞いた。

 

 

『ちょっと待ってろ』

 

 

そう言うと狼の化物は何か構えた。

次の瞬間狼はみるみる内に小さくなり、

身体中の体毛は抜け落ち、

異形な面相も、より人間に近いものとなる。

 

 

「なっ!?.....お前は!?」

 

 

義弘は彼を見た事があった。

そして、散々馬鹿にしてた奴でもあった。

成り上がり関白。お飾り関白。

傀儡関白。サル関白などと.....

そして、今戦にて争った敵の総大将でもあった。

 

 

「とっ、豊臣秀吉!?」

 

「لكم هو تويوتومي هيديوشي

(お前が.....豊臣秀吉)!?」

 

「あぁ、そうだよ。

そっちのお姉さんとははじめましてだな。

あんたが島津義久か?」

 

「يا...تويوتومي هيديوشي. أنت أو إنسان؟

(あぁ.....豊臣秀吉。お前は人間か)?」

 

「さっきも言ったが、4分の3は人間だ。

だが、残りは狼の血が入ってる。

俺は人狼だ。半分だけな」

 

「......أنا لا أعرف تماما، ولكنك لا يمكن فهم مشترك

(..........よくは分からないが、お前が普通ではない事は理解できたよ)」

 

「そりゃどうも」

 

「なんて事だ.....」

 

 

義弘は驚愕した。

自分でもたまにしか翻訳できない姉の酷いなまりを、豊臣秀吉は完全に理解できている。何者だこの男!?

 

人狼というとてつもないような存在が現れた事以上に驚く義弘。

 

 

「الناس البيض في الذئب الأبيض للإنسان،

وظهور أو كيف شيء أمام النساء؟

(人にしろ人狼にしろ、女子の前でその格好はいかがなものか)?」

 

「おっ、すまんすまん」

 

 

良晴の格好は服が人狼化に伴って破れ、

残った布の一部が腰に巻き付き、

大事な部分だけを辛うじて隠している、

そんな状態で、ほぼ裸だった。

 

 

「ごめんな。人狼になってる最中って、

恥じらいとかそういうのが無くなるから、

自分が今どんな格好なのか気づけねぇんだ」

 

 

良晴はそこらに張ってあった陣布を身体に巻く。

 

 

「انها جانبا. ما مجموعه العام للالعدو كان الخروج هنا كل وسيلة؟(それはさておきだ。敵の総大将がわざわざ何でここまで来たのだ)?」

 

「ふっ.....」

 

 

良晴は似合わない微笑をしてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は一時的な和睦を提案しに来た!」

 




良晴は半人狼。
場合によっては人間に戻れる。
でも彼にその意思はない。
そういう設定にしてみました。
次回予告
蒲生氏郷という女
〜私は誰だ?〜


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第七十一話 蒲生氏郷という女

新学期のバタバタや、
バイトの面接で更新が遅れました。


臼杵城天守。

そこで睨み合う良晴と島津姉弟。

 

 

「和睦.....だと?」

 

「そっ。そっちが臼杵城及び豊後を放棄して、

撤退してくれるのなら、俺らはこれ以上島津軍を追い詰める事はねぇ。見逃してやるってこった」

 

「ふざけるなっ!!」

 

 

良晴の提案を義弘は真っ向から反論する。

 

 

「我らはまだ負けておらん!

そげん気遣いされる筋合いはない!」

 

「あぁ、あんたらはまだ負けてないさ。

だが押されている事には違いない。

このままじゃ消耗戦になる。

勢力豊かな俺の軍と違って、

あんたら島津軍には地獄の戦争だ」

 

「くっ.....!!」

 

 

それは図星であった。

 

 

「義弘。俺はそんな戦は好まない。

どうせなら真正面から本気でぶつかりたいさ。

だが、あんたらがこの豊後に頑固にしがみ付き続けるとなると、只々死者を増やすだけの糞戦になり兼ねない」

 

「おのれ.....言わせておけば」

 

「俺は戦が嫌いだ。

戦なんて無くなればいい。

なんで戦なんかがあるんだと思ってる。

だけれども、俺はその戦の中心にいる。

俺の命令一つで多くの命が露と消える。

俺が人を直接殺した事はない。

だが、間接的に殺した人は数多くいる。

俺はその責から逃げるつもりはない。

それしか対処法が無いのなら、

これからも人を殺すだろうさ。

もう甘い考えだって捨てた。

お前らがちゃんと正面からぶつかってくれるのなら、俺だってそれに受け答えてやる!

俺は誇りあるある合戦がしたい!

お願いだ!

今だけは退いてくれ!!」

 

 

 

 

良晴はその場に腰を落とし、頭を下げた。

 

 

「うっ.....!?」

 

 

義弘はそれを見て大きく揺らいだ。

文武両道で武士としての誇りを何より大事にしている彼がだ、誇りある合戦を求められたのだ。

さらに関白という目上の職にもかかわらず、良晴は格下である義弘らに頭を下げたのだ。

これを断れば、自分達の品格が問われる。

 

 

「あっ.....姉上」

 

 

だが、最終決定権は義久にある。

良晴の願いを聞いた義久は.....

 

 

「تويوتومي هيديوشي(豊臣秀吉)」

 

 

義久はスッと良晴の方へ歩み寄り、

頭を下げる良晴の前に立つ。

 

 

「くっ.....」

 

 

良晴は冷や汗をかく。

自分はまだ島津義久がどんな奴か知らない。

信奈のように傍若無人な大名かもしれないし、

隆景のように話せば分かる大名かもしれない。

天竜のように邪悪な奴かもしれないのだ。

 

 

 

 

「※やっと見つけた!私の理想の"嫁"!」

 

 

※翻訳済み

 

 

 

 

「「はっ!?」」

 

 

これには良晴も義弘も驚くしかなかった。

 

 

「※薩摩のような田舎では、

其方のようないい男には中々ありつけなかった!

せめて弟の義弘ぐらいにはたくましい男と望んでいたが、高望み過ぎて見つかりはしなかった!

お陰で齢28になった今でも処女だ!

だが見つけたぞ!理想の男を!

志しも良し!家柄も良し!顔も良し!

おまけに文武両道で大将の器もある!

これ程完璧な男もいなかろう!

是が非でも"嫁"にしたい!」

 

「嫁って.....」

 

 

ベタ褒めされて悪い気はしない良晴。

 

 

「姉上!!何でそげんこっと!?」

 

「※薩摩大名の嫁が関白豊臣秀吉というのも面白いものでしょう?」

 

「第一、奴は人間じゃなかと!

奴は狼の化け物じゃろうに!」

 

「※あら?男は皆、狼でなくて?」

 

「意味が違う!」

 

 

なんだか良晴そっちのけで姉弟喧嘩を始めてしまった。

 

 

「※とにかく。其方が私の嫁になってくれるのなら退いてやってもいいぞ?」

 

「いやいや、嫁にはなれねぇよ。

色んな意味で.....」

 

「※仕方あるまい。婿で妥協してやる」

 

「妥協しているように聞こえる。不思議だ。

本質は一切変わってねぇよ。

俺はあんたが思ってる程凄い奴でもねぇぞ?

文武両道たって、合戦時のみだし」

 

「※私はそれでもいい!

私が生まれて初めて惚れた男だ!

維持でも手にしたい!」

 

「顔だって良くねぇよ!?

会う奴会う奴皆からサル顔サル顔って言われて、自分でも納得するくらい醜男だって事は分かってんだ!」

 

 

自分で言ってて悲しくなってくる!

 

 

「※私にはド直球(ドストライク)だ!

田舎臭い顔立ちがもろ好みだ!」

 

「おぉふ.....」

 

 

ここまで真っ直ぐに惚れられたのは初めてだ。

信奈を含めた多くの女子はツンデレだし。

半兵衛やフロイスは恥ずかしがってここまで俺を褒めてくれる事なんてない。

俺もちょっと好きになりそうだ。

 

 

「いや、俺は4分の1は人狼だし.....」

 

「※構わん!

私はそんな細かい事は気にしない!

第一私と其方との間に子が生まれれば、

その子は8分の7は人間。

普通の人間と対して変わらない!」

 

「てか、俺は既婚者だ!

勝手に結婚なんてしたら.....」

 

「※気にするな。私は心が広い。

其方に何人妻がいようが、

何人の妾をはべらせていようが、

全く気にする事はない!」

 

「いやいや!俺じゃなくて、

俺のカミさんがヤバいんだよ!

きっと俺もあんたも殺される!」

 

「※なら大坂から薩摩に越してくるがいい。

薩摩にいる限り、私も其方も絶対安全だ」

 

 

いや.....信奈の事だろうから、

大軍で攻め込んで来そうだ。

 

 

「いや、待てよ?

ここで政略結婚してしまえば、

九州戦は終わるんじゃないか?」

 

 

少々卑怯で天竜的であるが、それが犠牲を最小限に抑える最善の方法であるのなら、この縁談実に良い。

 

 

「※いや、それはないよ」

 

「はぁ!?」

 

 

じゃあ何だってこうも結婚をしたがる?

 

 

「※其方が言ったのだぞ?

真正面から誇りある合戦をしようと」

 

「でも.....!」

 

「※私は情けなどで施しを受けるのが嫌いだ。

この合戦は島津家と豊臣家の維持の張り合い。

それはどちらかが滅びるまで続くだろう。

私は本気で合戦を行って、その結果島津家が滅びるような事があってもそれを受け入れようと思っている。

だからこそ、政略結婚による同盟でこの合戦を終わらすのは限りなく惜しく感じるのだ。

だからこそ、私は勝ちたい。

勝った上で其方を手に入れたい!」

 

「義久.....」

 

「※この合戦.....

私が勝った暁には其方を嫁.....

いや、婿に貰うとしよう!」

 

「..........俺達が勝ったら?」

 

「※しょうがあるまい。

私は其方の側室になるとしよう」

 

「変わんねぇじゃねぇか!!」

 

「※いや、違いはあるぞ?

私が其方を娶るか、其方が私が娶るか。

どちらかが上位に立つかを決めるのだ。

まぁ、夫婦になる事には変わらないけどね」

 

「うぅ.....」

 

 

完全に屁理屈だ。

 

 

「少しいいか?」

 

 

義弘が口を挟んだ。

 

 

「姉上は1度決めた事は絶対にやり遂げるお方。

それはわしにも止められぬ。

そこでだ豊臣秀吉。

おまん、島津家に入る気は無いか?」

 

「なっ!?」

 

「わしも男だ。貴様が敵方として応対してくるんなら、

それなりの態度取らせてもらうが、

味方になるんなら話は別じゃ。快く受け入れようと思う。

貴様.....いや、君の率いる軍さえ協力してくれれば、島津軍の勝率も限りなく上がるだろう。

君の義弟になる事だって受け入れるさ」

 

「意味わかんねぇよ!!

俺に皆を裏切れってのか!?

てか、さっきまで戦うって話だったろ!?」

 

「※あ、それもいいかも」

 

 

信念曲げないんじゃなかったか!?

 

 

「どうだ豊臣秀吉?

島津に寝返る気はないか?

姉上の婿として、大いに歓迎するのだが?」

 

「断る!!

俺には、俺を信じて付いてきた数多くの大事な仲間がいる。そいつらの期待を裏切るような事は、俺は絶対にしたくない!!」

 

「「..........」」

 

 

これで.....いいのだろう。

 

 

「※ふっ.....ふっくくくくくく.....

それでこそだ.....

それでこそ私が見込んだ男!

やはり其方こそ我が嫁に相応しい!」

 

「!?」

 

「全く.....姉上には困ったものだ」

 

「試したのか!?」

 

「※ふむ。だが将来の愛妻にすべき事ではなかったな。

謝罪しよう」

 

「だから妻って.....」

 

 

俺は男として見られてないのか?

 

 

「※仕方あるまい。当初の予定通り、

私が勝てば、私は其方を嫁に。

其方が勝てば、其方は私を嫁に。

これで良いだろう!」

 

「全く納得いかん!!」

 

 

そうしてそのまま、良晴は義久と婚約関係を結んでしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「※ではだ。約束通り、

島津軍は豊後を放棄しようと思う」

 

「本当か!!」

 

「※うむ!私も"漢"だ!

二言などは存在しない!」

 

「男!?」

 

「"漢"だ!!(怒)」

 

 

義弘に怒鳴られた。

 

 

「びっくりした.....

間違ってオカマと婚約したのかと思った」

 

「※失礼な人だな。私の性別は雌だぞ?」

 

「いや、男を"嫁"にしようとしたり、

全体的に男勝りだからさ」

 

「すまぬ義兄上。姉上は由緒正しき島津家の大当主いもかかわらじ、中身は昔から田舎娘。

今じゃ、他の姫大名だってどんどん近代的になっとうのに、姉上だけがいつまでん古いお人じゃ」

 

「※お前はお前で失礼だのう」

 

 

義兄上と呼ばれたのはスルーか!?

 

 

「※とにかくだ。約束は絶対に守ろう!」

 

「あぁ、ありがとな義久」

 

「※そっ.....その.....」

 

「ん?」

 

 

急に義久がモジモジし始めた。

 

 

「※"虎寿丸"と呼んではくれないか?」

 

 

義久の幼名であった。

 

 

「あぁ、虎寿丸」

 

「※(≧∇≦)」

 

 

なんかすっごい嬉しそうだ。

 

 

「※これからよろしくな良晴!」

 

 

こちらも名前で呼んできた。忘れがちであるが、まだ戦争は終わってなく、2人は敵方同士である。

 

その時だ。

 

 

「叔母上!叔父上!大丈夫か!?」

 

 

島津家久が娘、豊久が飛び込んで来た。

 

 

「おっと、じゃあ俺は帰らせてもらうわ」

 

「※うむ!」

 

「させるかぁ!!」

 

 

豊久が鉄砲を構えて発砲してきた。

 

 

「よっ!」

 

「なっ!?」

 

 

良晴は弾丸を軽々避ける。

『玉よけのヨシ』もパワーアップし、

『弾丸よけのヨシ』になっていた。

彼に捉えられない物は存在しない。

 

 

「ほんじゃ帰るな!」

 

「※また会おう!」

 

 

出入り口が兵によって塞がれていた為、

天守閣から飛び降りる良晴。

落下の途中で人狼に変身し、

そのまま臼杵城を後にした。

 

 

「※やっぱりカッコいい〜♡」

 

「そうかぁ?

姉上が選んだなら従う他ないがや」

 

「!???」

 

 

よく分からない豊久だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴軍本陣。

 

 

「良晴!!」

 

 

留守を任されていた官兵衛が迎える。

 

 

「喜べ官兵衛!島津が豊後を放棄してくれたぞ!」

 

「何っ!?一体何をしたんだい!?」

 

「島津義久と直接会って説得してきた!」

 

「!?....................全く」

 

 

官兵衛は呆れ顔をする。

 

 

「つまり君は、たった1人で臼杵城を制圧して、

島津義久に会って来たのかい?」

 

「あぁ!」

 

「君は凄いのか馬鹿なのか全くもって理解しがたいのだが良晴?」

 

「いやぁ〜」

 

「褒めてないよ」

 

 

それでも官兵衛は納得してくれたようだ。

 

 

「一体どんな事を条件に島津義久を説き伏せたんだい?

幾ら何でも、タダで彼女を動かす事はできないだろう?」

 

「政略結婚」

 

「へぇ〜政略結婚....................は?」

 

「島津義久と結婚する事になった」

 

「はぁ!!?」

 

 

官兵衛は驚くしかないだろう。

 

 

「何がどうなってそうなった!?

なんだってあんな田舎大名と!?」

 

「虎寿丸を馬鹿にすんな!

あれでもいい子だったぞ!?」

 

「敵と仲良くなってんじゃねぇ!!(怒)」

 

 

相当キレてる。

 

 

「とにかく落ち着け!一から説明すっから」

 

 

良晴は先程の会談の内容を伝える。

 

 

「シム。理解はしたけど納得はしない!」

 

「やっぱりねぇ〜」

 

「なんだってそんなややこしい結果になった!?

政略結婚したならそのまま同盟を結べば九州戦は一発で終わりだったさ!」

 

「俺だって思ったさ!でも、誇りある戦いをしたいっていう相手側の意見を尊重した結果、こうなっちまったんだ!」

 

「君は昔から何にも変わらないねぇ!!

馬鹿だから自分勝手な行動ばかりして、

いつも周りに迷惑をかける!

君がした約束のせいで、

島津はより一層本気で来るんだぞ!?」

 

「あっ.....」

 

「それにだ!

島津は勝とうが負けようが、

君と結婚して確たる地位を保てるから、

メリットしかないだろうさ!

だが豊臣が負ければどうだ?

関白である君が島津に連れて行かれ、

日本の支配権が島津に移るんだ!

豊臣秀長によって整理された日本国が、

再びバラバラになるんだ!

デメリットしかない!!」

 

「どっ.....どどどどどうしよう!!?」

 

「最悪の場合、島津家の者を全員皆殺しにすれば何とかなるかもしれない」

 

「!?....................官兵衛!!

お前.....また!!」

 

「あくまで最悪の場合だよ」

 

「!?」

 

「今あげたのは負けた場合だ。

勝てばそんな心配はないさ」

 

「官兵衛.....」

 

「だから維持でも勝ってもらう。

シメオン達も全力で君を支える。

勝った上で、島津義久を自由に側室にすればいいさ。それについては君のご褒美でいいよ」

 

「官兵衛.....ありがとう」

 

「全く.........."シメオンとだってたまにしか付き合ってくれないのに".....」

 

 

小声でボソッと呟く官兵衛。

 

 

「なんだって?」

 

「何でもないよ!」

 

 

フラグクラッシャー良晴。

 

 

「でもそんな事より心配なのは

....................信奈様だよね」

 

「そうだよっ!!

最近益々浮気がバレかけてんのに、

敵方の姫と結婚したなんて言えば、

絶対に殺される!!」

 

「まぁ、それに比べれば浮気なんて

可愛いけどね」

 

「どうしよう!!あぁ、どうしよう!!」

 

 

完全にパニックになっている。

本当に恐妻なのだ。

 

 

「全く。浮気するだけの度胸はあるくせに、

小心者なんだからなぁ。

しょうがない。シメオンが仲介してあげるよ」

 

「本当か!?」

 

「なるべく怒らないように説き伏せてあげるよ。成功率は低そうだけれどね」

 

「サンキュー官兵衛!!」

 

「そっ.....その代わり.....

今度、花見に行かないかい?

.....その、いい桜が見れる場所があるんだ」

 

「おっ、いいぜ!"皆で"行こう!」

 

「そうじゃなくて..........

........................................."2人きりで"」

 

 

又もやボソッと呟く。

 

 

「....................成る程!デートか!」

 

「はっきり言うな!!」

 

 

今回のフラグは回収したようだ。

 

 

「2人きりだなんて。

可愛いなぁ〜官兵衛は」

 

「五月蝿い!!」

 

「いいなぁ〜。良晴さんとお花見」

 

「半兵衛いたの!?」

 

 

いつの間にかいた半兵衛ちゃん。

 

 

「君も来るかい半兵衛?」

 

「いいのですか!?」

 

「いいのかよ官兵衛」

 

「いいよ。シメオンと半兵衛は2人で1人だしね。半兵衛くらいなら大丈夫さ。ただし、調子に乗ってこれ以上増やさないように良晴!」

 

「わーい両手に花だ〜♬」

 

「調子に乗るな!!」

 

「うふふ.....」

 

 

 

 

 

その後、島津軍は約束通り臼杵城から撤退し、豊後を放棄するに至った。

こうして、大友家領土の豊後国奪還戦争は大勝利にて幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、会津若松城。

 

 

「はぁ.....」

 

 

会津国当主、蒲生氏郷は苦悩していた。

 

 

「もうヤダ..........こんな生活」

 

 

それは先月の事である。

隣国同士という事もあり、

陸奥の伊達と会津の蒲生はよく会談を行う事が多かった。

ただ伊達政宗、蒲生氏郷の代表同士が大変不仲である為、セッティングをするのはいつも家臣達である。

この日も、

伊達の家老片倉小十郎と、

蒲生の家老関一政が共同で企画した、

伊達と蒲生の食事会が開かれていた。

 

今回は伊達家が会津に呼ばれていた。

上座にて不機嫌そうな2人が黙々と食事をし、

両国の家臣らが冷や冷やしながら見守るという、全く会話のない葬式のような食事会となっていた。

 

 

「ククク。どうだ蒲生氏郷?

"元伊達領土"だった会津の住み心地は?」

 

 

梵天丸が含みある言い方で話題を振る。

 

 

「えぇ、そちらさんの領土だった頃はどうだったかは定かではありませんが、"蒲生領土"になってからはとても良国となっておりますよ?」

 

 

氏郷も含みある言い方で返した。

 

 

「そうか、ククク」

 

「ふふふ」

 

 

お互い笑顔ではあるが、殺意が籠っている。

 

 

「そうだ!会津の名産を用意させたのですよ。

どうぞ召し上がって下さい」

 

 

氏郷がそう言って用意させたのは、

郷土料理『あんこう鍋』だった。

 

 

「ふんっ、会津が伊達領土だった頃には飽きる程食べていた。新鮮さも何もないな!」

 

 

そう言いつつ、香ばしい匂いにヨダレが出そうになる梵天丸。

 

 

「"それは毒入りです"」

 

 

氏郷が言った。今にも口にしようとしていた梵天丸は慌てて箸を止める。

 

 

「なっ!?」

 

「そのあんこう鍋は毒入りです。

食べない方がよろしいですよ?」

 

「..........なんのつもりだ蒲生氏郷」

 

「別に。事実を明確に提示したまで」

 

「ふざけるなっ!

そんなハッタリ通じるか!」

 

「はてさて、どうでしょう?」

 

「ちっ!」

 

 

すると梵天丸は自分に運ばれたあんこう鍋と、氏郷に運ばれたあんこう鍋を交換した。

 

 

「おや?」

 

「クークックック!

貴様の妄言を信じるわけではないが、

我はこっちの方が食べたくなった!

こっちのあんこう鍋を食べるとしよう!」

 

 

梵天丸が豪快に鍋を食べようとする。

 

 

 

 

 

「貴方がこのような選択をすると予見した上で、あえてどちらの鍋にも毒を入れていたとしたらどうします?」

 

「..........」

 

 

周りに沈黙が走る。

 

 

 

 

「波っ!!!」

 

 

 

梵天丸は眼帯を外し、天竜より移植された悪魔の目より『空裂眼刺驚』が発射された。彼女は『魔帝波状鮮血刺殺光線』と命名したらしいが.....

 

梵天丸が放ったそれは、目の前の料理を皿やおぼんごとバラバラに切り裂いた。

 

 

 

「不愉快だ!!帰る!!」

 

 

そう言って、プンスカしながら梵天丸は部屋を後にする。

 

 

「待って下さい姫!」

 

 

それを片倉小十郎を始めた多くの伊達家臣団が部屋を後にした。

 

 

「ふふふ.....バーカ」

 

 

そう言って、自らが"毒入り"と宣言したあんこう鍋を堂々と食す。

 

 

「うん。美味美味」

 

「「「..........」」」

 

 

只々溜め息をつく蒲生家臣団達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

「うぅ.....」

 

「ククク」

 

 

氏郷は今度、陸奥に1人で呼ばれていた。

梵天丸が居住する岩出山にある茶室。

実は梵天丸は最近茶道にも興味を示しており、指名手配されているはずの千利休にも弟子入りしている。

ちなみに氏郷も弟子の1人で、

梵天丸とは姉妹弟子という事になる。

 

 

「ククク」

 

「むぅ.....」

 

 

先日の事もあり、氏郷は不安だった。

 

 

「ククク」

 

 

氏郷は違和感を覚えていた。

普通茶の湯は茶を立てる際、身体の側面を相手に向ける事によって、作法や茶器などを評価し合うものだ。

だが、梵天丸ずっと氏郷に背中を向け、

茶を立てる様子を見せようとしない。

 

馬鹿なのか無知なのか、

とても利休に習ったとは思えない。

それとも、何か企みを?

 

 

「ほら、できたぞ」

 

「..........」

 

「これは毒入りの茶だ」

 

「!?」

 

 

数日前に氏郷が言ったのと全く同じ事を言ってきたのだ。

 

 

「これはこれは、なんとも物騒ですね」

 

 

馬鹿かコイツ?先日やられた腹いせに全く同じやり方で仕返しか?阿呆としか思えない。何だって自分がこいつに対抗心を燃やしたのか信じられなくなる。

 

 

「毒は怖いですが、伊達殿の立てられた茶を飲まないのは礼儀に反します。飲ませて頂きましょう」

 

 

梵天丸の誘いには乗るまいと、

ドヤ顔で茶を飲んだ氏郷。

 

 

「!?」

 

 

だが、異変が起きた。

氏郷が茶を吹き出したのだ。

 

 

「苦ああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

 

あまりの苦さに転げ回る氏郷。

 

 

「はい水」

 

「かたじけない!!.....ゴクッ、ゴクッ、

....................辛ああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!?」

 

 

再び転げ回る氏郷。

 

 

「クーーークックックックック!!!

始めに飲ませたのは、

5倍に濃くした抹茶に青汁を混ぜたものだ!

次に飲ませたのは、唐辛子、獅子唐、山椒等の

様々な香辛料を混ぜ合わせたもの!

この2つをどちらも飲むなど、

毒を飲むのとも匹敵するであろう!

だから申したはずだぞぉ?

それは"毒入り"だと」

 

「きっ.....貴様ぁ!!」

 

 

梵天丸は先日の氏郷の嫌がらせを見抜いた上で、同じ事を彼女にやり返す事で、彼女が絶対に茶を飲むと予見していたのだ。

 

 

「このクソアンチがあぁぁぁ!!!」

 

 

氏郷がブチ切れ、茶碗を梵天丸に投げつけた。

 

 

「痛った!!?」

 

 

茶碗は梵天丸の額に直撃する。

 

 

「何すんだこの耶蘇があぁぁぁ!!!」

 

 

梵天丸もブチ切れた。

 

 

「異端者の分際でこのレオンにぃ!!

神の名の下に死ねぇ!!」

 

「サタン教すらも認めない分際でぇ!!

悪魔の名の下に死ねぇ!!」

 

 

そこからは殴り合いの喧嘩となり、

家臣団が止めに入るまで大乱闘となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は現在に戻る。

 

 

「痛たた.....」

 

 

まだ傷が痛む。

殴られた頬ではない。

ゲンコツされた頭が痛いのだ。

 

実は2人の大喧嘩は天竜を大坂から呼ぶ程までの騒動になっていたのだ。一歩間違えれば、戦争になっていたからだ。

 

 

「このたわけ共がぁ!!」

 

「「痛った!!?」」

 

 

喧嘩両成敗でどっちもゲンコツされた。

 

 

「さぁ抱き合え!

抱き合って仲直りしろっ!!」

 

「「..........」」

 

「抱き合えぇい!!!」

 

「「うぅ!?」」

 

 

天竜の怒りの威圧に2人ともビビって、

慌てて抱き合った。

 

 

「全く!!

くだらん事でわざわざ大坂から寄越しやがって!!

ふざけんじゃねぇぞ貴様ら!!

いつまでもガキでいやがって!!」

 

「「はっ.....ははぁ!!!」」

 

 

2人は歯痒い思いをしながら土下座をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!」

 

 

実は傷は氏郷の方が多かった。

無理もあるまい。

氏郷は隻腕なのだ。

腕一本足りない分殴る回数も減るし、

防御もしづらくなる。

 

 

「もう.....ヤダ。私が何をしたの.....」

 

 

問題は外だけではない。

内にも大きな問題があった。

 

ガスパール・コエリオ。

指名手配犯の1人だ。

 

彼が会津に住み着いてもう1年以上になるが、

ハッキリ言って邪魔だ。

 

自分では何もせず、面倒事は全部氏郷にやらそうとし、

生活面まで他人に世話させようとしてくる。

本当に自分では何もしようとしないので、

日に日に肥えていき、

見るも耐えないような外見になっている。

昔の威厳など欠片もない。

おまけに常に文句ばかり言っている。

「面倒臭い」が口癖なのだ。

前に、

「息をするのも面倒臭い」

と言った時には絞め殺してやろうかと思った。

しかも風呂嫌いなので臭い。

ほとんど豚だ。

 

いや豚は清潔好きと言うから、

奴はウンコ以下だな。

 

 

「..........」

 

 

氏郷の右手にはサタン教の黒聖書が握られていた。

 

 

「サタン教か.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜?サタン教に興味にあんのぉ?」

 

「!!?」

 

 

全く気配を読めなかった。

まるで背後霊の如く、

天竜は真後ろに立っていた。

 

 

「なんだ。お前も興味あるのかぁ」

 

「ハッ、まさか!

これは破って山羊に餌として与えるんです!」

 

 

そう言って黒聖書をビリビリに破く。

 

 

「山羊に紙食べさせたら腹下すぞ?

ていうか、豊臣家で発行してる書物を、

太閤の目の前で破くじゃねぇよ」

 

「すっ.....すみません!!」

 

 

つい謝ってしまう。

 

 

「まぁ、スペアあるし」

 

 

そう言って別の黒聖書を出す。

 

 

「..........」

 

「なぁ、氏郷」

 

「なっ、なんでしょう?」

 

「くっくっくっく.....」

 

 

天竜の笑いは死神の微笑にも聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のものにならないか?」

 




久々のギャグ回です。
戦争回や鬱回よか、
書いてて気が楽ですね。
さて、どう収集つけようか.....
次回予告
宣教師との決別
〜正しい道を進むか、悪魔に魂を売るか〜


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第七十二話 宣教師との決別

バイトの面接が忙しくて更新遅れました。

11巻出ましたね。買ったけどまだ未読です。
表紙は隆景とムキムキ良晴ですね(笑)


会津若松城天守閣。

ここには蒲生氏郷と豊臣天竜しかいなかった。

 

 

「貴方の.....ものに?」

 

「あぁ、義姉織田信奈より見限られ、

京から遠く離れた会津の地にて、

伊達なんかと争う事しかできない、

惨めで哀れな生活。

いい加減うんざりしてるのではないか?」

 

「私をこんな状態に追い込んだのは貴方だ!

地位も名誉も家族も奪われ、

この左腕まで奪われた!!」

 

 

氏郷はまるで生まれつき生えていないかのような左腕の断面を見せつける。

 

 

「だからさ。俺はお前から多くのものを奪ってしまった。明るい未来もな。

だからその償いをしたい」

 

「うるさい!うるさぁい!!

ドラキュラの言う事など聞けるかぁ!

貴様の二枚舌で一体どれだけ多くの人間が騙されてきたと思っているのだ!!」

 

「人聞きが悪いな。

俺はあくまで選択肢を与えたに過ぎない。

それを選択したのはその者本人だ。

その責任まで取れとは酷い話だ」

 

「おのれ〜.....!!!」

 

 

氏郷は拳銃を取り出した。

 

 

「雑賀製の拳銃か。

そこに拘りは持たないのな」

 

「黙りなさい!

片手で撃つにはこれが丁度いいのだ!」

 

「へぇ〜」

 

「何をヘラヘラしている!?

これは極秘で製作された、

法儀式済み水銀弾頭を装填している!

キリスト教は貴様達吸血鬼を滅ぼす為に、

日々進化し続けているんだ!」

 

「くくく。その技術を提供したのは我々だがな」

 

「うるさい!教会の技術だ!」

 

「どこぞの隣国みたいだな」

 

 

だが、天竜は余裕の表情を見せていた。

 

 

「なぁ、氏郷。

何故未だにバテレン共に媚びを売る?

キリスト教ではないが、サタン教として国で宗教を自由に認めているんだ。

バテレンなどもう必要ないだろう?

ましてや、ガスパール・コエリオなんてウンコをいつまでも匿う必要はないのだぞ?」

 

 

気が合ったな。

 

 

「..........知っていたのだな。

私がコエリオ様を匿っていた事を.....」

 

「俺は何でも知っているからね。

お前がウンコを匿ってる事も、

織部が利休を匿ってる事も、

良晴達がアンダーソンを匿ってる事もな」

 

「..........」

 

 

この男.....

 

 

「全ての情報を知っているからこそ、

今のお前の不遇さも知ってる」

 

「きっ.....貴様に!私の何が分かる!?」

 

「分からないさ。

人間が人間を完全に理解するなんて不可能だ。

まぁ、俺は人間ではないがね。

できるのは共和。そして同情さ。

俺は今のお前の糞のような人生に同情をしてやっているのだ」

 

「くっ.....!!」

 

「だからこそだ。

お前に救いの手を伸ばしてやろうと言うんだ」

 

「ふざけるな!!

私が貴様に何をしたか覚えていないのか!?

私は貴様の産まれたばかりの子供を人質に取り、貴様の全てを奪おうとした!

計画では貴様から何もかもを搾り取り、

最後には子供や家来諸共、

公開処刑にしてやろうと考えていた!

箱館では義弟の豊臣秀吉ごと

殺してしまおうとした!

私と貴様は敵同士だ!

私は貴様が嫌いだ!

今更馴れ合うつもりはない!」

 

「俺だってお前が嫌いだったさ。

いつか食い殺してやろうと思ってた。

だがな.....」

 

 

次の瞬間、天竜が目の前から消えた。

 

 

「なっ!?」

 

 

気づいた時天竜は氏郷の真後ろにいて、

そのまま氏郷を羽交い締めにする。

 

 

「はっ、放せドラキュラァ!!」

 

「や〜だ♡

雄が雌を捕まえてそのまま逃すと思うかい?」

 

「私を.....喰う気か!!?」

 

「ある意味な。俺は今、

お前さんに欲情してしまっている。

お前をとてつもなく犯したい」

 

「なっ!?」

 

「俺は変態なんだよ。

一方的に向けられる好意よりも、

怨念や殺意の方が興奮する。

お前が俺を恨めば恨む程、

お前は俺を喜ばせるのだ」

 

 

天竜は右手を胸元に、

左手を股間に挿し入れる。

 

 

「やめろ.....このケダモノッ!!

殺す!!貴様を殺す!!

銀の杭を心臓に突き立ててやる!!

聖水の風呂で溺死させてやる!!

ニンニクを腹一杯に詰め込んでやる!!

生皮を剥いで日光を直に当ててやる!!

十字架で磔の刑にしてやる!!」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!

いいぞ蒲生氏郷!

その殺意だ!いいぞ!

股ぐらがいきり立つ!!」

 

「うぅ.....!!」

 

 

興奮した天竜がなお一層激しく氏郷を弄る。

 

 

「おのれぇ!!」

 

「はむっ」

 

「ひゃんっ!!♡」

 

 

耳を咥えられ、変な声が出た。

 

 

「ん〜?耳が弱いのかぁ〜?」

 

「やんっ..........やめっ!」

 

 

甘噛みをされ、感じてしまう。

 

 

「可愛いよ鶴千代」

 

 

下着の中にまで手を伸ばした。

 

 

「いやんっ♡」

 

「ふんどしじゃなくて、

南蛮製のパンティーか。

いいぞっ!そそるぞっ!」

 

「このっ!!」

 

 

氏郷は無理矢理天竜を振り払った。

そして、再び拳銃を向ける。

 

 

「死ねドラキュラ!!」

 

「くくく」

 

「AMEN!!」

 

 

氏郷が発砲する。

 

 

「がぁっ!!?」

 

 

弾丸は天竜の右目に直撃する。

その勢いで、右顔面が抉り取られた。

 

 

「やった!!」

 

「どころがギッチョン!」

 

「なっ!?」

 

 

右顔面が崩壊しているにもかかわらず、

天竜はまだ平気な様子だった。

 

 

「酷いなぁ。顔がグチャグチャだよ」

 

「くっ!!.....やはり心臓でないと駄目か!」

 

 

氏郷は今度、胸部に拳銃を向ける。

 

 

「死ねぇ!!」

 

 

再び発砲される。

 

 

「残念」

 

 

天竜は瞬時に刀を抜き、弾丸を斬り伏せた。

 

 

「馬鹿なっ!?」

 

「くくくく。

凪に『斬鉄剣』を教えたのは俺だぞ?

おまけにこいつは『天羽々斬剣』

我が母をも斬った神剣だ。

といっても偽物だがな」

 

 

その通り偽物。

本来は両刃の剣であるそれは、

日本刀の形をしていた。

 

 

「俺は陰陽師であり、侍でもある。

剣より刀の方が使いやすいんだよ」

 

「くっ.....」

 

「そうそう!神剣で思い出したよ。

お前が盗んだ草薙剣。返してもらおうか?」

 

「何故それを!?」

 

「あと八咫鏡と八尺瓊勾玉もな。

何に使うつもりかは知らんが、

それは朝廷が管理すべきものだ。

お前如きにやるわけにはいかん」

 

「くっ.....!!」

 

 

氏郷は振り返り、走り出した。

 

 

「アレの事までバレているなんて!

もう遅いというのか!!」

 

 

只々、ある物がある部屋へ走った。

 

 

「くくくく.....」

 

 

天竜は余裕な表情でゆっくりと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっはっはっは.....!!!」

 

 

急ぎ足にて例の部屋の前に駆け込む。

その部屋の前には巨大な南京錠がかかっていた。氏郷は十字架と一緒に首にかけていた鍵を用いてその南京錠を外した。

 

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

 

殺風景な部屋だった。

それを祀る以外には全く活用されてない部屋。

部屋の中央、祭壇に祀られし、

三つの神器。

 

 

「くっ.....!!」

 

 

 

伊勢神宮や熱田神宮。

もしくは村上武吉から神器は回収した。

当初、その目的は決まっていた。

 

 

"相良良晴"を未来へ返す事"

 

 

未来より現れ、この時代の摂理を破壊した男。

彼は無意識だろうが、この時代の流れは確実に変化してしまった。

だが、それ以上に問題の男が現れた。

 

それが"勘解由小路天竜"

 

月読命の子孫を自称し、

この国.....いや世界に混乱をもたらした。

相良良晴と違って自らの意思にて世界改変を実行しようとし、それを認めようとしない十字教と対立した。

 

終いにはだ。

自らがツクヨミの実子であると言い、

ツクヨミ=龍=魔神サタン。

ツクヨミの仔=龍の仔=サタンの仔。

ドラゴンの仔、だからドラキュラ。

ワラキアでヴラド3世と名乗った彼は、

ドラキュラ伯爵として、

100年に渡って戦争を続けた。

 

 

ただしだ。最初からドラキュラが十字教と対立していたかと言うと、そうではない。

 

 

何故なら、ドラキュラは元キリスト教徒。

仲間であったはずなのだ。

 

 

だがそのドラキュラのあまりの強さに、

キリスト教はドラキュラを恐れた。

そして裏切った。

 

 

ドラキュラは大敗北した。

そして処刑された。

 

 

 

だが、死ねなかった。

いや違う。人間として死んで、

悪魔として生まれ変わったのだ。

 

 

魔王として、ワラキア軍を再編成した彼は、

欧州全土を敵に回した。

オスマン帝国を中心とするイスラーム。

ローマ帝国を中心とするカトリック。

イギリスを中心とするプロテスタント。

彼の敵はそこらじゅうにいた。

 

結局、それ以降は均衡が保たれた。

逆に言えば、100年間誰も彼を倒せなかったのだ。

 

 

数年前に特殊能力を持った少年、

ガブリエル・クロウ・アンダーソンが、

ドラキュラと死闘の末に勝利した。

だが、それでも命までは奪えなかった。

 

 

彼は日本に戻って来て、今に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隠してるかと思えば、

ご大層に飾ってるたぁね」

 

「くっ.....!!」

 

 

天竜が到着する。

 

 

「ふぅ.....ふぅ.....ふぅ.....」

 

 

恐らく機会は一回のみだ。

失敗した瞬間、私は彼に殺される。

 

 

「焦るなよ。俺は"まだ"何もしない」

 

「!!?」

 

 

 

天竜のその言葉に、氏郷は反射的に動いた。

 

 

 

「うわああああああああぁぁぁ!!!」

 

 

草薙剣を手に取り、切先を天竜に向ける。

 

 

「神よ!!我に力を与えたまえ!!」

 

 

その号令と共に、草薙剣が輝きだす。

後ろの八咫鏡と八尺瓊勾玉もだ。

 

 

「ほう。天岩戸を開くつもりか?

時空の道を無理矢理開き、

俺を未来へ強制送還するつもりか?」

 

「違う。貴様は存在するだけで、

この世に破滅をもたらす破壊魔。

未来へ返した所でそれは同じ。

むしろ危険なはずだ。

より発達した科学力を利用して、

世界大戦を引き起こすに違いない!」

 

「安心しろ。

俺がいなくとも世界大戦は起きる。

2回は起きる。

その内の1回で日本は1度滅びかけるがな。

そして3回目もやがて.....」

 

「うるさいっ!!

だから未来には送らない!

過去にだって送らない!」

 

「なるほど。"狭間"か」

 

 

天竜は何でも知っていた。

 

 

「そうだ!

貴様を時空の狭間に送る!

絶対に抜け出せない異次元に閉じ込めてやる」

 

「くくくくくく.....不可能だ。

一方的に送り出すならともかく、

狭間に送るなんて複雑な術.....

一般人のお前にできるはずがない。

"穴"を開ける事はできても、

閉じる技術を持たねば、

お前も吸い込まれるぞ?

時空の穴はブラックホールそのものだ」

 

「構わない!」

 

「何っ!?」

 

「私の人生は既に腐る所まで腐った!

夢も希望も全て失った!

私が消えようとも悲しむ者などいないだろう!

だからこそだ!

私は貴様を道ずれに狭間に飛び込んでやる!

貴様と時空の狭間で永遠に過ごしてやる!」

 

「中々ロマンチックな事を言ってくれる。

俺もお前のような美少女と永遠に暮らすなんて、願ったり叶ったりだ」

 

「ほざけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

氏郷は剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....い..........おい!..........起きろ!!」

 

「うぅ.....」

 

 

頬をペチペチと叩かれる。

 

 

「起きたかいお嬢さん?」

 

「豊臣秀長!!?」

 

 

目を開いていきなり飛び込んできたのは彼の顔だった。相変わらずの美少年で一瞬うっとりとしてしまったが、すぐに我に返り、離れる。

 

.....ていうか、膝枕されていたのか!?

 

 

「失敗..........した!?」

 

「いんや成功してたよ。

俺とお前は確かに時空の狭間に入った」

 

「なら何で!!?」

 

「簡単だよ。1度入って一緒に出てきたんだ」

 

「あり得ない!狭間の中から出てくるなんて!」

 

「そうでもないよ。これを使えばね」

 

 

天竜は自身の右手中指にはめた指輪を示した。

 

 

「それは.....」

 

「こいつの名は『天叢雲指輪』

草薙剣から産まれた子供だな」

 

「なっ!?」

 

「ちょっと神話を話そう。

八岐大蛇伝説の話だ。

俺の愛剣の天羽々斬は八岐大蛇を斬った剣だ。

その際、大蛇の尾の中にあった草薙剣に当たって天羽々斬は刃こぼれしてしまったという。

その欠片を利用して、

賀茂家が独自で製作したのがコレ」

 

「それが何の関係が.....」

 

「本題はこれからだ。

天羽々斬が刃こぼれした際、

草薙剣の持つ妖力が欠片に流れ込んだんだ。

その影響で、

欠片は草薙剣と同等の存在となった。

だから天叢雲指輪。この指輪もまた神器。

神器だからこそ、狭間の中から出てくる事ができたんだ。そして、八岐大蛇であったツクヨミの仔である俺だからこそこの指輪を使いこなせる」

 

「そんな.....」

 

 

氏郷にはそれ以上の手は無かった。

 

 

「殺せ」

 

「は!?何で!?」

 

「ふざけるなっ!!

私は三種の神器まで使ったのだ!

にもかかわらず失敗した!!

これ以上生き恥を晒せるか!!

貴様が殺さぬのなら、自ら果ててやる!」

 

「お前が言う生き恥とは何だ?

それは日本人としてか?

それとも、コエリオの飼い犬としてのか?」

 

「うっ.....」

 

「いい加減目を覚ませ氏郷。

お前の生き様は犬であり続ける事か?

所詮どれだけ努力しようとも、

最期は絞り尽くされて、

ボロ雑巾のように捨てられるだろう。

自分の人生を見つめ直してはどうだ?

お前が犬のままでいたいというのなら、

それで構わんがな」

 

「..........」

 

「よく考える事だ。

これも貸してやるよ」

 

 

天竜は黒聖書を置いていく。

 

 

「またな鶴千代ちゃん」

 

「..........」

 

 

天竜はそのまま出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれっ?」

 

 

天竜が若松城から出てすぐ、

見知った顔を見つける。

 

 

「ドミニク!アンドレ!」

 

「「天竜!?」」

 

 

氏郷に仕えし黒人奴隷だ。

 

 

「久しぶりだな天竜」

 

「なんて懐かしい」

 

「お前らも日本語上手くなったな」

 

「ドミニクと呼ばれたのも久しぶりだ。

我は紳助と言っただろう?」

 

「我は喜助だ」

 

「いや、むしろそっちの名前を忘れちまっててな。カタカナの方が覚えやすいんだ」

 

「可笑しな男だ」

 

 

2人の服装は上品な南蛮服に、

そこそこは上物の武具を身につけていた。

 

 

「意外と裕福な暮らししてんだな。

氏郷に食わしてもらってんのか?」

 

「レオンはいい主君だ。

彼女は人種差別は決してしない。

我らを同じ日本人として扱ってくれる」

 

「日本人は優しい。白人とは大違い。

レオンに買われて感謝している」

 

「そっか」

 

 

意外だな。あの氏郷が.....

 

 

「レオンも気の毒だ。

あのウンコ白人にこき使われて.....

あのままじゃ壊れてしまう」

 

「いつか我らが救出しようと時を探ってるんだ」

 

「ふ〜ん」

 

 

いい家臣を持ったな。

 

 

「レオンも最近どんどん女らしい身体付きになって楽しい。というか段々色気づいてきた」

 

「普段はツンケンしているが、

時よりデレっとするのが堪らない!」

 

「..........」

 

 

変な道に入っているな。

 

 

「あの綺麗な素足で踏まれてみたい!」

 

「あの声で非難罵倒してもらいたいな!」

 

 

M奴隷と化している!?

 

 

「豊臣秀長!」

 

「ん?」

 

 

向こうから、赤髪の白人女性が近付いてくる。

 

 

「ジョバンナか!」

 

「今は勝成だ」

 

 

旧名ジョバンナ・ロルテス。

新名は、山科羅久呂左衛門勝成。

正式に日本人になった白人だ。

今は氏郷の与力である。

 

 

「元気かい?

蒲生家での生活はどうだ?」

 

「飯は美味い」

 

「....................それだけ?」

 

「うむ」

 

「まぁ、いっか」

 

 

そんな時、紳助と喜助が恨みの篭った瞳でジョバンナを睨み付けていた。

 

 

「何の用だ白人。

冷やかしに来たならすぐに帰れ」

 

「お前の態度は気に入らない。

いつも見下されているようだ」

 

「頭2つ分は高い身長で仁王立ちしてるくせに、

そんなデカブツをどうやって見下すのだ?」

 

「やめろお前ら!」

 

 

このままでは乱闘になりそうだ。

後で知ったがこの3人は特に仲が悪く、

いつも大喧嘩しているらしい。

 

 

「白人黒人など関係ない。

お前らはもう同じ日本人だろうが」

 

「「「しかしっ!」」」

 

 

ハモった。

 

 

「言っとくが俺は日本人と白人のハーフだ。

紳助と喜助は俺も軽蔑するか?」

 

「「それは.....」」

 

「それは白人が黒人にしてきた事と同じじゃあないか?」

 

「「..........」」

 

「ジョバンナもだ。お前は人種や肌の色で優劣を決めるような糞のような奴に成り下がったのか?」

 

「そんな事はない」

 

「ならだ.....」

 

「「「?」」」

 

 

悪魔は言う。

 

 

 

「真の敵を見つけるべきだろう?

人種差別を罪とも思わない、

糞のような存在を.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コエリオ様」

 

「あぁ?」

 

 

コエリオの自室にて。

玉座に座る、百貫デブがそこにいた。

 

 

「なんだ飯の時間か?」

 

「いえ.....」

 

「愚か者!私が空腹の時には、

察して料理を用意せよ役立たずが!」

 

「.....申し訳ありません」

 

「じゃあ何だ?」

 

「実はドラキュラと.....」

 

「ドラキュラを倒したのか!?」

 

「いえ.....」

 

「は?」

 

「最後の手段として神器を使いましたが、

失敗に終わりました」

 

「何をやってるんだ貴様ぁぁぁ!!!」

 

 

コエリオはそこらにあった茶碗を氏郷に投げつけた。茶碗は氏郷の額に直撃する。

 

 

「つっ.....!!」

 

 

その茶碗は利休から貰った高価な茶碗であったのだが、

コエリオからすればただのコップに過ぎないのだ。

 

 

「前にも言ったはずだぁ!

ドラキュラとは刺し違える覚悟で挑めと.....

にもかかわらず、

むざむざと生き残りおって!!」

 

「私もそのつもりで挑みました!しかし.....」

 

「言い訳をするなぁっ!!」

 

 

今度は皿を投げてくる。

皿はフリスビーのように飛んで、

壁に当たって割れた。

ってか!

あれは姉上から頂いた有田焼の皿じゃないか!

 

 

「ぐぐぐぐぐ.....!!」

 

「全く.....これだからジャップは」

 

「ぐぐぐ..........のくせに.....」

 

「はぁ?」

 

「全部人任せのくせにっ!!」

 

「!?」

 

 

氏郷は爆発した。我慢の限界だった。

全てをぶっちゃけた。

 

 

「レオン!?」

 

「ドラキュラ討伐だけじゃないです!

普段の生活においても、

やれ面倒臭いやれ面倒臭いと言って、

全部私に任せるじゃないですか!

私は貴方の召使いじゃないんです!!」

 

「貴様はクリスチャンだ。

この私から教えを被ったのだぞ?

それくらい当たり前ではないか」

 

 

コエリオは悪びれる様子もない。

 

 

「第一、こんなカビ臭い城なんぞに住まわせ、貧乏臭い飯を食わせ、臭い生活ばかりではないか。

これのどこが世話だ?

この国は本当に未発達だ。

文化どこまでも貧乏臭いし、

国民も皆貧乏臭い。臭い臭い」

 

「ぐぐぐぐぐ.....」

 

「分かったらもう一度ドラキュラに挑んでこい。そしてもう帰ってこなくていい。奴を道ズレにするんだ。

奴は地獄に落ちるが、

殉教する貴様は天国に行けるだろう。

なんとしてでもガブリエルより先に、

ドラキュラを倒さねばならん」

 

 

クロウとコエリオは対立している。

ただ使命を全うしたいクロウと、

手柄を独り占めにしたいコエリオで、

馬が合わなかったのだ。

 

 

「一つだけ.....一つだけお聞きしても?」

 

「なんだ。まだあるのか」

 

「約束は守って下さいますよね?」

 

「約束?」

 

「ドラキュラ討伐を了承した時にした約束です!

私がドラキュラを倒せば、

"日の本の植民地化計画を見直してくれるって!"」

 

 

これが氏郷の願望であった。

ずっとドラキュラと対立していたのは、

時には卑怯な手でも使ってでも、

彼に勝ちに行こうとしていたのは、

全てこの国の為だったのだ。

氏郷も宣教師の目的は理解していた。

 

だから、天竜のように外から破壊しようとするわけではなく、内からそれを変えようとしていたのだ。

その為に、命まで投げ打って.....

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな約束したか?」

 

 

 

 

 

 

 

返ってきた答えに、氏郷は絶望した。

 

 

「あ〜、頭の固そうな貴様を説得する為に、貴様からの要望を適当に了承してた時期があったっけなぁ」

 

「そっ.....そんな!!

じゃあ日の本の植民地化計画は!?」

 

「勿論実行する。

これは俺の意思ではなく、

イスパニアの意思。

フェリペ2世様の意思である。

これは決定済みの計画だ。

貴様のわがまま一つで覆るわけなかろう」

 

「そんなっ!!」

 

「言っておくがこれはビジネスだ。

この極東を得る事はイスパニアの最大の利益となる。今更こんな美味い話を手放すわけなかろう」

 

「そんな.....」

 

 

じゃあ私は何の為にずっと奮闘していたのだ?

姉上からは嫌われて、

左手まで食われたというのに、

地位も名誉も失ってまで、

ずっと戦い続けていたのに!

 

全て無駄だった。

希望は潰えてしまった。

私の存在価値もなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........てやる」

 

「はぁ?」

 

「キリシタンなんて辞めてやる!!」

 

「!?」

 

 

氏郷は首にかけていた十字架を引き千切り、

床に叩きつけた。

 

 

「キリスト教が私から幸せを奪うなら!

キリスト教が私に絶望しか見せないのなら!

私はそんなもの、もういらない!

今まで散々貴方の犬に成り下がっていた!

全ては愛すべき故国の為!

貴方達の腐った野望の為なんかじゃない!

日の本を本気で救いたかったから、

私は人生を売ったんだ!!」

 

 

氏郷は涙を流しながら訴える。

 

 

「私は自由になりたい!

もう貴方の犬になりたくはない!

地位や名誉がなくたっていい。

裕福な富が欲しいわけでもない!

私は生きたい!

人間として幸せに生きたい!

心から幸せと思える生き方をしたい!

 

"私は人間になりたい"!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァンッ!!

と一発の銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぐぅあああああ!!!!」

 

「全く.....」

 

 

左肩に大きな穴を開けた氏郷が叫ぶ。

 

 

「何が人間になりたいだ愚か者め。

キリスト教を否定した時点貴様は、

畜生以下。ゴミ同然だ。

貴様もドラキュラと同類という事だ。

このどうしようもないクズめ」

 

「うううぅぅぅ.....」

 

 

コエリオが脂肪だらけの重い腰を上げ、

氏郷の目の前に立った。

そして、拳銃を氏郷の頭に向ける。

 

 

「最後まで面倒臭い"奴隷"だったな。

目障りだからもう死ね」

 

「私は.....」

 

 

引き金がゆっくりと引かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は生きたい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ならばその願い。聞き届けよう!』

 

 

それは神の声にも聞こえた。

 




氏郷を殺さなかった当時の私に感謝です。
だからこそこの展開に持ち込めました。
氏郷とのフラグが立った分、
コエリオが想像以上にウンコになりましたね。
さて、どう殺してやろうか。
次回予告
蒲生氏郷
〜レオンは死んだ。お前は新たに生まれた.....〜


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第七十三話 レオン

最近キリスト教を悪く書き過ぎて、
クリスチャンの読者や何かの組織から
批判を受けないか心配です。


蒲生氏郷。渾名は鶴千代。

蒲生賢秀の嫡女として近江日野に産まれた。

元は六角家の人間。

六角家が織田に倒された際に、

まとめて織田家に吸収された。

やがて元服して、氏郷を名乗った。

そしてキリスト教の洗礼を受け、

レオンを名乗った。

ただ問題があったとすれば、

親日派キリスト教系であった官兵衛と違い、

反日派キリスト教系の洗礼を受けた事だろう。

始めはそんな宣教師に洗脳されたように、

憧れを抱いていたのだが、

次第にその闇に気付いていった。

 

そして、それを自ら変えたいという気持ちが生まれていった。

 

ガスパール・カブラル、

ガスパール・コエリオ。

彼女が世話になったこの2人。

どちらも反日派の宣教師。

かなりの人種差別主義者だ。

白人、特にキリスト教徒こそが唯一の人間と考え、それ以外の黒人や黄人などは人間とは思わず、異端者は駆除対象と捉えている。

だから、私も人間とは見られていない事にも、早い段階で気づいた。

ただキリスト教を信仰しているから、

野良犬から番犬と昇級されていたのだと思う。

番犬となった私は、

野良の王、ドラキュラとぶつけられた。

 

ドラキュラは記憶を失っているのか、

当時程の強大な力は出せないようだった。

だが、強い事に変わりはしない。

まともにぶつかれば、

塵のように消されていただろう。

だから私はドラキュラの内面を攻めた。

彼の息子を人質に、彼の勢力を奪った。

心が痛かったが、仕方なかった。

私は国を背負って戦っていたのだ。

失敗すればこの国は滅びる。

常に怯えながら戦っていた。

元々髪の色素が薄いお陰で目立たないが、

私の髪の四割は白髪だったりする。

だが、失敗した。

姉上を巻き込んでの戦争は、

奴が太閤となったことで終結した。

もう彼に勝つ事は不可能だった。

私は左手を食われた。

姉上は私に絶望し、見放した。

私は全てを失った。

痩せ細った番犬は、

役に立たなければもう用済み。

死んで土に還るか、

肉食獣の餌になるかだ。

 

 

通常狩りにおいて、

狩人は仕留めた獲物を犬に取りに行かせる。

だが、今回の場合の彼らは動かない。

私達に狩りを丸投げするのだ。

例えるならば「鷹狩り」。

あれは狩人の腕次第と言われているが、

実際に狩りをするのは鷹だ。

狩りの成績は鷹の実力によるだろう。

基本は馬と同じだ。

騎手が馬に乗るのではない。

馬が騎手を乗せてやるのだ。

馬を信用しない騎手に、

良い騎手など1人もいない。

鷹だって、いかに鷹を信用しているか、

いかに鷹に信用されているかで決まる。

私は鷹だ。

番犬と比べれば聞こえがいいが、

本質は同じ。

所詮は愛玩動物。

でも愛されてなんかいない。

私はただの玩具なのだ。

 

 

 

 

 

 

だから私は、飼い主の手を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コエリオが引き金を引いた瞬間、

パァンッという銃声音と重なって、

バシュッ!という肉が抉れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

 

氏郷は驚愕した。

確かにコエリオは拳銃を発砲した。

1秒もしない内に氏郷の頭部はポップコーンのように弾ける筈だった。だが.....

 

 

拳銃を持っていたコエリオの右腕が丸ごと消滅していたのだ。まるで食いちぎられたかのように。

 

 

『ヒギャアァァ!!』

 

 

何かの鳴き声が聞こえた。この世にいる生物の鳴き声とはとても思えない異質な化け物の鳴き声。

恐らくコエリオの右腕を食った化け物だ。

近くにいるのか?

なら早く私も逃げなければならない。

まばたきをした一瞬でコエリオの右腕を食ったような化け物だ。私なんてひとたまりもない。

周囲を見回す。

まずが化け物の位置を探らなければいけない。

逃げようにも、どちらの方向へ逃げなければいけないか判断の必要があるからだ。

よもや化け物の方向へ逃げるなど、

阿呆のする事だ。

 

 

『ヒギャアァ!!』

 

「えっ?」

 

 

そんな心配をする必要はなかったかもしれない。逃げるという行為そのものが無駄だったのだ。逃げる必要そのものがなかったのだ。

化け物は氏郷の左側にいた。

失われた左手の方だ。

まるで失われた左手に重なるように.....

 

 

「お前は.....何だ?」

 

『ヒギャア?』

 

 

つい質問してしまった。

おかしな状況だったのだろう。

自分を襲ってくるかもしれない化け物に対して、質問するなど。

 

 

「この化け物めぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

コエリオが叫んだ。始めはこの化け物に対して言ったのかと思った。

でも違う。

化け物と示した対象が違う。

私だ。私を左人差し指で指し示していた。

私を化け物扱いしたのだ。

 

失礼な男だ。

私は人間の父母から産まれた、

人間の少女だ。人間として生きてきた。

その私が化け物だと?馬鹿馬鹿しい。

犬や玩具、奴隷と言われた方がマシだ。

.....なんて思う私も可笑しいか。

 

 

『ヒギャアァ!』

 

「お前は誰だ?」

 

 

質問を変えてみた。

こいつには意思がある。

だからこの二人称にしてみた。

 

 

「そいつはお前自身だ」

 

「!?」

 

 

突如彼は現れた。まるで霧のように。

 

 

「そいつはお前のもんだ。

何故ならお前自身だからな」

 

「私の.....もの?」

 

『ヒギャアァ!』

 

 

それは答えた。見方を変えれば可愛くも見えてくるから不思議だ。

 

 

「私の.....左手?」

 

 

この生物を左手と呼称していいか分からないが、私はこいつを左手と呼ぶ資格がある。そうと呼ぶしかないのだ。

この化け物は氏郷の失われた左手から生えていた。食いちぎられた断面から生えていた。

 

 

「これは.....」

 

「吸血寄生獣、クリムゾン」

 

「くりむぞん?」

 

 

そんな差中。

 

 

「どっ.....どどどドラキュラ!!?

レオン貴様ぁ!!

貴様、ドラキュラと手を組んでいたのか!!

悪魔に魂を売ったのか!!」

 

「そっ.....その.....」

 

「ひいいぃぃぃ!!!?

よるな化け物ぉぉぉ!!!」

 

「うっ.....」

 

『ヒギャアァァァ!!!』

 

「ひいいぃぃぃ!!!?」

 

 

クリムゾンは氏郷を貶したコエリオを威嚇する。

 

 

「クリムゾンは氏郷の感情に合わせて、

その性質を大きく変化する。

氏郷を怒らせない方が身の為だ」

 

「とっ.....豊臣秀長!

私に一体何をした!?

私に何を植え付けた!?

一体いつ植え付けたんだ!」

 

「植え付けたのは3年前。

箱館湾での海戦の時にだ」

 

「あの時!?」

 

 

そうだ。氏郷はその際、卑怯な手で天竜を倒そうとした結果、左手を食われる羽目になったのだ。

 

 

「その時に植え付けたんだ。俺の鬼歯をな」

 

「鬼歯!?」

 

「そう鬼歯だ。吸血鬼としての妖力が最も詰まった部分。その内の一本をその左手に植えたんだ。さながら種子のように.....」

 

「種子.....」

 

「謙信や梵天丸のような即席とは違う原理で移植したんだ。たっぷりと時間をかけて熟成させたのだ。

他の誰よりも高い性能を誇る。

これを只々悪魔の手と命名するには申し分ない。

だから、俺をそれをクリムゾンと呼ぶ」

 

「熟成.....?」

 

「気づいてねぇみたいだな。ホレ」

 

 

天竜は鏡を召喚し、氏郷を写してやる。

 

 

「なっ!!?」

 

 

氏郷は紅の瞳をしていた。

 

 

「クリムゾンの種はゆっくりと時間をかけてお前の肉体を改造したんだ。人間の肉体から吸血鬼の肉体へとな。

だが、ただの吸血鬼じゃない。

生まれながらの吸血鬼だ。

 

俺はこの国で何人もの眷属を作った。

内藤昌豊、真田昌幸、大友宗麟を始め、

数多くの人間の人間の部分を殺してきた。

だがお前はその誰とも当てはまらない。

お前は眷属とはまた違う。

正真正銘の真祖の吸血鬼。

俺と同位の高等吸血鬼。

俺と同じくNo Life King。

俺と同じくDay Walker」

 

「私が.....吸血鬼に!?」

 

 

氏郷は訳が分からなくなっていた。

彼女が倒すべき存在に、

彼女自身がなってしまったのだ。

 

 

「おのれドラキュラめっ!

よくも私の奴隷を奪いおったなぁ!!」

 

「何が奴隷だ。氏郷は誰のものでもない。

いや、たった今俺のものとなった!

クリムゾンの発動がその証拠だ!」

 

「何っ!?」

 

「クリムゾンの発動条件は、

氏郷が本気で俺を求める事だ。

つまり.....

今の氏郷は俺に惚れてるってこった!」

 

「..........はぁ!!?」

 

 

今の台詞を理解するのに一瞬遅れてしまった氏郷である。

 

 

「てか俺も惚れてる!」

 

「馬鹿ですか貴方は!!!」

 

「!!?」

 

 

コエリオはこの状況を理解できない。

それ以前に出血多量で意識が朦朧としている。

 

 

「まぁいいや。先に真っ青で死にそうなこいつの始末が先だな。このまま死なれるには、勿体無さ過ぎる」

 

「おのれぇぇぇ!!!」

 

 

床に落ちていた拳銃を左手で拾い、

天竜に向ける。

 

 

「死ねドラキュラァァァ!!!」

 

「ふっ.....」

 

 

天竜は微笑した。

何故なら拳銃を向けた瞬間、

コエリオの左腕までもが消滅したのだ。

 

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!?」

 

「左腕で構えるまでが自然な動きだったな。

もしかして両利きかい?

結構おいしい人材ではあるな。美少女か、最低でも美少年だったなば是非臣下に加えたかったな。

まっ、肉玉じゃ到底無理だがな」

 

「いっ.....今!何をしたっ!!?」

 

「俺じゃないさ。

やったのは氏郷の方だ」

 

「なんだとっ!?」

 

「えっ?」

 

 

氏郷には見覚えがないようだ。

 

 

「やっぱり愛されてるなぁ!!

惚れた男の為に無意識で能力を引き出してくれるとはぁ!俺は嬉しいぞ!」

 

「五月蝿い!!」

 

「まっ、それは置いといて.....」

 

「置くな!捨てろ!!」

 

「クリムゾンの能力だ。

3年もかけて育てさせていたからな。

予想以上に強くし過ぎて俺も怖い。

氏郷はもう二度と敵にしたくないなぁ」

 

「私は今だって敵だ!!」

 

「はへ.....」

 

 

コエリオはさらに出血して青白くばっている。

 

 

「おっと勝手に死ぬなよ?」

 

 

天竜は術をかけてコエリオの両腕の傷を塞いだ。

 

 

「クリムゾンは食しん坊な蟲だ。

だが、こいつはただ食べる訳じゃない。

こいつは敵が攻撃に移る以前の敵を食うんだ」

 

「?」

 

「クリムゾンが攻撃するのは過去の敵。

一瞬だけタイムスリップができる。

さっきのは拳銃を握って発砲してくる以前の右腕を食ったのだ。だからこそ、発砲したという事実が消滅した。

腕を食われては発砲はおろか、

拳銃も握れないからな。

弱点があるとすれば、クリムゾンが発動するのは殺意をもって攻撃してきた相手のみ。まぁ、弱点というべきでもないがな。

クリムゾンは剣であって盾でもある。

爆レアなもんだから俺も欲しいよ」

 

「..........」

 

「それもさて置きだ。

貴様に聞きたい事があるコエリオ」

 

「な.....にぃ!?」

 

「フランシスコ・ザビエルの事だ」

 

「なっ!?」

 

「その様子じゃ知ってるな。

ザビエルがどこで何をしていて、

何をしようとしているのかを」

 

「ぐぐぐ.....」

 

「ゲロってもらおうか。

こっちも事前に対処して、

撃退したいからな」

 

「そんな.....言うわけないであろう!!」

 

「チョメ」

 

「はぐぅあああぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

 

天竜は指をコエリオの右目に突き刺す。

そしてそのまま眼球を引き出した。

 

 

「早めにゲロる方がいいぞ?

でないと、貴様の大事なもの全部なくすぞ?」

 

 

天竜は眼球をブチュリと潰した。

 

 

「俺は貴様の腐った血肉など、

一片たりとも口にしたくないよ」

 

「ふぐぐぐ.....」

 

「次は睾丸でも踏み潰すか」

 

「言う!言うから!!

..........その代わりだ。保証してくれ」

 

「何をだ?」

 

「私の命をだ。

私の身の安全を条件に、

ザビエル様の事を言う!」

 

「ほう。散々俺の邪魔をしてきた分際で、

よくもそんな口が聞けたな」

 

「ふぐぐ.....」

 

「まぁよかろう。約束する」

 

「口約束では信用できん!」

 

「えぇ〜」

 

「裏切り魔将軍を信用しろというのが、

難しいのでは?」

 

 

氏郷が言う。

 

 

「仕方ないな」

 

 

天竜は何かの書類を召喚した。

 

 

「!?....................なんだそれは!?」

 

「『セルフギアススクロール』

これがある限り、俺は貴様を殺せない。

これは魂の盟約。

破れば俺は死ぬだろう。

だから、俺は貴様を絶対に殺さない」

 

「なるほど.....」

 

 

天竜の言葉に安堵する。

 

 

「では話してもらおうか」

 

「分かった.....では」

 

「別に言葉にする必要はない」

 

「なっ!?」

 

 

天竜はコエリオの腕の断面に噛み付いた。

 

 

「はぐっ!!?」

 

「記憶を見るだけだから、

盟約には違反されんよ。

安心しろ鬼歯は立てん。

貴様なんぞを眷属にしたくない」

 

「ぐぐぐ.....」

 

「なるほど。理解した」

 

 

天竜はコエリオの腕から口を離すと、

すぐさま喉の奥に手を入れ、掻き回し、

強制的に嘔吐した。

今しがた飲んだ血を吐き出したのだ。

それ程までにコエリオの血が嫌なのだ。

 

 

「なんだか、侮辱されてる気分だ」

 

「俺はスカトロ趣味はないよ」

 

 

そう言いながら、歯磨きを始める天竜。

完全にウンコ扱いだ。

 

 

「まぁ、いいや。

必要なものは全て手に入れた。

貴様にもう用はないよ」

 

「私を..........逃がしてくれるのか!?」

 

「ふふふ.....」

 

「豊臣秀長?」

 

 

氏郷がふと天竜の方を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなわけないだろう。この汚物が!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

邪悪の権化のような表情で言う。

 

 

「なっ!?」

 

「貴様を生かして逃したとなれば、

俺も名折れだ。殺してやるよ」

 

「馬鹿なっ!!?

それではさっきの盟約は.....」

 

「そうだ。その通りだ。

俺には貴様を殺す事が絶対にできない。

....................俺にはな」

 

 

その時、部屋にドタドタと2人組が入室する。

 

 

「貴様を始末するのは俺じゃない。彼らだ」

 

 

2人は黒人奴隷の紳助と喜助だった。

 

 

「レオンを泣かせたな!

絶対に許さない!!」

 

「お前に酷い目に合わされた他の奴隷達の分まで、お前を痛めつけてやる!」

 

 

2人の目は殺気に満ちていた。

 

 

「ひいぃっ!!?」

 

 

コエリオは慌てて逃げ出す。

だが.....

 

 

「はぎゃっ!!!?」

 

 

ガキンッ!!とコエリオの片足に何かが食い込む。その影響によりコエリオはそのまま倒れこんだ。

 

 

「ごみ〜ん。"虎バサミ"置きっぱだったわ」

 

「なっ!?なっ!?なっ!?」

 

 

虎バサミは塗装してあり、

一見分からなくなっていた。

 

 

「それを仕込んだのは盟約の前だ。

だから盟約違反じゃありませ〜ん♬」

 

 

捕らえられたコエリオを見下すように、

紳助と喜助が立つ。

 

 

「ひっ!!ひっ!!ひっ!!..........!?」

 

 

コエリオは気付く。

部屋の入り口にジョバンナがいるのを.....

 

 

「ジョバンナ!!助けろ!!

私は宣教師極東支部の代表であるぞ!!

金は払う!!名誉だってくれてやる!!

だからさっさと助けるんだ!!

この野蛮人共を殺せぇ!!!」

 

「無理です」

 

 

ハッキリと拒否する。

 

 

「その2人が赤の他人なら話は別ですが、

彼らは私の"兄"なので無理です」

 

「なっ!?」

 

「この国ではですね、

血の繋がりはあまり重要ではないらしく、本人達の同意次第で簡単に兄弟や親子になれるらしいんです。

私も誠に不愉快ではあるが、

豊臣秀長のせいでその2人と、

半強制的に義兄妹にされてしまった。

だがなってしまった以上、

私は2人を兄と呼ばなければならない。

破れば騎士道に反する」

 

 

ジョバンナこと、山科勝成は言う。

 

 

「俺もこいつと家族になるのは不愉快だが、

兄として目上に立てるのは気分がいい。

ふん。今度風呂で背中でも流してもらおうか!」

 

「義妹という表現がなんとも.....

何故だか勝成が急に可愛く.....

いや、そんなのありえない!!

好きになんかなってないんだからな!」

 

 

こいつら危ねぇな。色んな意味で.....

 

 

「まぁいいや。紳助、喜助。

なるべく酷い目に合わせてやれ。

武器はあまり使うなよ?

すぐに死なれちゃツマらないからな」

 

「「おう!」」

 

「ひぃぃぃぃぃ!!!?」

 

 

天竜は氏郷を連れて部屋から出て行こうとする。

 

 

「ドラキュラァァァ!!!

このケダモノ!!この化け物め!!」

 

「化け物?.....違うな。俺は悪魔だ」

 

「くっ.....!!

地獄に落ちろクッソタレめぇ!!」

 

「聖職者が下品な事を言う。

地獄上等だ。悪魔の故郷は地獄だからな。

貴様は天国に行けるのか?

良かったな。

なら、死こそが快楽と思える程に

大いに苦しむがいい!

ふっくくくく.....くひゅひゅひゅひゅひゅ.....

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」

 

 

悪魔は邪悪な笑顔で嗤う。

 

 

「誰か!!誰か助けてくれ!!

レオン!?.....助けてくれレオン!!」

 

 

往生際の悪いコエリオは、先程まで侮辱して、殺そうとしていた氏郷にまで助けを求める。

 

 

「助けてくれ!私を助けるんだ!

金だって名誉だってくれてやる!

そうだ!お前が言っていた、

日本の植民地計画だって私がなんとかしてやるさ!

私は約束は守る!

お前をこの国の王にしてやる事もできる!」

 

「王?」

 

「そうだ!王だ!

我がイスパニア王国の力ならば可能だ!」

 

「それは.....日の本を完全に征圧し、

本来の王である天皇陛下を殺し、

征服された状態になった日の本を、

仮初の王位によって治めさせるのではないのですか?

他の諸国のように。

それは植民地と何が違うのですか?」

 

「それは.....」

 

「もううんざりなんです。

罪を罪とも思わない。

悪を悪とも思わない貴方の主張は。

開き直ってる太閤の方がまだマシです!」

 

「おいおい」

 

「レオン!!私が全部悪かった!!

いいから早く助けろぉぉぉ!!!」

 

「どうする氏郷?涙と鼻水とヨダレでグチャグチャになりながら叫んでるぞ?」

 

 

天竜が言う。

 

 

「..........うん」

 

 

氏郷は軽く頷くと、

無言でコエリオの方へ近づく。

 

 

「ああああぁぁ..........

ありがとう!ありがとう!!」

 

 

命乞いが通じたと思ったのか、

コエリオは心から謝礼を言う。

だが.....

 

 

「コエリオ様」

 

「ぶぇ?」

 

「最後はあんなんでしたが、

私は貴方方のお陰でキリスト教に会えました。

貴方自身から得た教訓は何もありませんが、

貴方のお陰で色々と成長できました」

 

 

氏郷は頭を下げて礼をする。

 

 

「れっ.....レオン?」

 

「一応色々とお世話になりましたしね。

今まで"よくもありがとうがざいました"」

 

 

邪悪な表現で言う。

 

 

「レオン!!?」

 

 

氏郷は振り返り、部屋から出て行こうとする。

 

 

「レオォォォォン!!!!

見捨てないでくれぇぇぇ!!!

助けてくれぇぇぇ!!!!」

 

 

そうして部屋の扉がゆっくりと閉じられる。

コエリオが最期に見たのは、

扉の隙間から見えた、

怨念の篭った表情の氏郷と、

邪悪な笑顔の天竜であった。

 

 

「ふんじゃ。始めますかい」

 

「すぐ死ぬなよ?」

 

「私は自室で寝るから、

後は任せたぞ義兄上達よ」

 

 

紳助と喜助は関節をボキボキと鳴らし、

ジョバンナは欠伸をしながら部屋を出ていく。

 

 

「ひぃっ!!ひぃっ!!ひぃっ!!」

 

 

これにてコエリオの腐った人生は幕を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コエリオの悲鳴は1時間程続き、

やがて聞こえなくなったという。

 




本当はもっとコエリオの拷問の様子を描写を書く予定でしたが、途中で面倒臭くなってカットしました。
さてガスパール・コエリオを倒し、
氏郷を手に入れた天竜。
迫り来るザビエルの脅威にどう立ち向かうか!
次回予告
レオパルド
〜神の使徒と悪魔の使徒〜


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第七十四話 レオパルド

73話のサブタイトルと
71話のサブタイトルが被ってたので、
今回のサブタイトルを含めて変更致しました。



コエリオの悲鳴が途絶えて、

しばらくしてからの事だ。

 

 

「終わったか?」

 

 

元コエリオの部屋に戻り、その部屋の中央で返り血で染められた2人の男、紳助と喜助に問う。

 

 

「「天竜.....」」

 

 

それぞれが呟く。

 

 

「どうだ?憎っくき白人をぶっ殺した気分は?

それもただの白人じゃあない。

奴隷貿易を積極的に行ってた奴だ。

黒人だけじゃない。我ら黄人もまたこいつらの餌食にされた。

お前らにはまさに宿敵と言えるだろう。

どうだ?糞虫を潰した気分は?」

 

「あまり.....いい気分じゃない」

 

 

紳助は答えた。

 

 

「恨みは晴れたはずなのに.....

まだ何か心の中に残っている感じだ」

 

 

喜助は言う。

 

 

「ふ〜ん」

 

 

天竜は渇いた表情で眺めていた。

 

 

「にしても、よくもまぁこうもグチャグチャにしたもんだ。何を使ったらこうなるんだ?」

 

 

拷問後のコエリオは、原型を留めない程に損壊していた。この肉塊が数時間前には息をして動いていたとはとても思えない。

この肉塊の周りには鈍器や刃物などの拷問道具がズラリと並べられていた。

 

 

「トゲトゲの鞭に鉄パイプに、

ノコギリに爪削ぎ鋏にトンカチ。

釘に棍棒にポン刀にガスバーナー.....

ガスバーナー!?」

 

 

適当に拷問道具を召喚して用意したが、

こんなものまで出してたのか。

まぁジャンヌには悪いが、

火炙りは拷問の基礎だしな。

 

 

「天竜よ。一体どういう事なのだ?

この白人を殺せば、我らの悩みは解消されるはずでは?」

 

「そうだ。解消されるどころか、

新たな闇が出つつあるぞ」

 

 

2人は天竜に訴える。

それに対して天竜の返答とは.....

 

 

「当たり前だ。復讐を成し遂げた時点で、

貴様らはもう"正義"ではないからな」

 

「「!?」」

 

 

天竜は続ける。

 

 

「迫害され、いつか復讐をしようと心に決めていた頃はさぞや気分が良かっただろう。

何故なら、そこに悪などはない。

一方的な被害者であったからこそ、

復讐を正義という名目にできたからな。

"これは正義の行い。

間違っている事など何もない"とな。

だが、成し遂げてしまってはそれは正義ではなくなる。被害者から加害者になるからな。その両手は血で染まる。糞を始末した時点で、お前らは糞の同類になれたわけだ。

良かったな。黒人が白人に並んだぞ。

お前らも正真正銘の人間だ」

 

「「..........」」

 

 

2人には天竜の思考が読めなかった。

明らかに自分達を挑発している。

しかし、蔑んでいるとは思えないのだ。

 

 

「人間になった気分はどうだ?

さぞやいいご身分であろう?

白人が同じ目線にいるかい?

黄人が畜生に見えるかい?

なら、俺はどう見える?

化け物か?悪魔か?それとも糞虫か?」

 

「何が言いたい天竜!」

 

 

紳助がたまらず叫ぶ。

 

 

「そうだ。お前らしくもないぞ!」

 

 

喜助も叫ぶが.....

 

天竜は突如キツい面相となり、

ドスの効いた声をあげる。

 

 

「被害者面が気にくわねぇんだよ」

 

「「!?」」

 

 

天竜は怒りの混じった言い方をする。

 

 

「今言ったように、貴様らは加害者だ。

貴様らに善は最早存在しない。

貴様らは悪だ!極悪だ!

正義という仮面を被って、

己の罪を濁すゴミ屑さ!

その肌の色と同じく性根から黒く濁っているのだ!そんな奴が未だに、弱者を名乗るのが、俺は途轍もなく気に食わない!」

 

「「天竜!!」」

 

「怒るか?この元奴隷共!

この世に完全なる正義、完全なる善、

完全なる被害者が存在すると思うか?

人間は必ず悪を持つ。虚無を持つ。

そして、誰もが加害者なのだ。

貴様らがやっとなれた人間は、

そんな腐った存在なのだ!」

 

「天竜お前!!」

 

「お前がそんな奴だったとは思わなかった!!」

 

「思わなかった?はぁ?

貴様らは気づいていただろう。

俺は日本人であるが、半分は白人なのだ。

貴様らが憎んだ悪の根源さ!

白き衣とは裏腹に、

俺の心は闇よりも暗い。

俺こそが諸悪の根源さ!」

 

「「天竜!!」」

 

 

2人は怒って部屋が出て行ってしまった。

 

 

「ふん.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故、そんな事を言うのだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人が去った後、ジョバンナが扉際で尋ねる。

 

 

「今貴様が言った言葉は、先程義兄上達を説き伏せた言葉とは真逆のものだ。

単細胞な2人は気付いてないがな」

 

「ほう、お前に分かるのか勝成?」

 

「貴様を理解するつもりはない.....

と言いたい所だがさしずめ、

先程のは、我らのわだかまりを解消させる為と、

コエリオ様へ立ち向かわせる為。

今の発言は、彼らを強くする為。

奴隷という身分から抜け出した彼らにはまだ、奴隷特有の弱さがある。弱さが染み付いている。だから貴様は、あえて悪役を買う事で彼らから弱さを取り除いた。

彼らに己という宿敵を作る事で、

彼らに目標や使命を与えた。

彼らを戦士にした」

 

「おいおい。それでは俺がいい奴であるかのようではないか」

 

「違うのか?」

 

「違うね。何故なら俺が生粋の悪だからだ。

だから悪役を買う必要などない。

全ては自分の為さ。

コエリオを始末する為に利用し、

いずれ利用する為に、家畜として肥えさせたまでだ。

そこに正義などない。

それこそが俺の野望さ」

 

「ふむ。貴様はそっちの方がいい。

いずれ倒すべき目標は、

やはり生粋の悪の方がいい。

その方が後味が悪くない。

貴様の言葉を借りるなら、

正義という仮面を被って、

罪を濁すことができる」

 

「ふっくくくく.....

お前の主人の氏郷は既に俺のもの。

彼女にも刃を向けるのかい?」

 

「レオンは私が全力で救出する。

今は無理でも、いつか必ず.....」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

その時を楽しみにしてるよ勝成ちゃん!」

 

「..........」

 

 

ジョバンナは思い詰め、

そして言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は..........寂しいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

「孤高とはまた違う。

貴様は孤独な王なのだな。

常人ならとても耐えられないような負の境地に貴様はいるのだな。同情するよ」

 

「お前!!」

 

「ふふふ。伯爵に一言言えた時点で満足だ。

私はもう一度一眠りしてくるよ」

 

 

そう言って彼女は自室に戻って行った。

 

 

「....................ちっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜は氏郷の部屋に戻った。

 

 

「氏郷.....いいか?」

 

「..........」

 

 

氏郷は答えなかった。

部屋の隅でジッと俯いていた。

コエリオを見捨ててすぐ彼女はすぐさま自室に戻り、大声で泣いていたのだ。

 

今でこそ泣き止んでいるが、

心を痛めてしまっている事には変わらない。

 

 

「コエリオの死亡を確認してきた。

これで君の首輪は外れたわけだ」

 

「..........ふっ、私も同じように野良犬になったわけですか。貴方と同じように」

 

「..........クリムゾンの様子はどうだ?」

 

「眠ったようです」

 

 

腹がいっぱいになったクリムゾンは眠りにつき、左手の形に変質した状態で大人しくしている。日常生活にも影響はしなさそうだ。むしろ、3年ぶりに左手が戻ってきて、氏郷にはある意味嬉しい誤算だったのかもしれない。

 

 

「実はですね.....

私、サタン教に憧れてたんですよ?」

 

「うん。知ってる」

 

「..........キリスト教において、神は自らに似せて人間を作った。神は白人だから、白人以外は人間ではない。キリスト教を信仰しない者は白人だろうと認められない。

その思考が、カトリックは特に強い。

白人以外が認められるには、

キリスト教を信仰し、

彼らの犬になるしかない。

犬になることでしか、

この国を守るすべはなかった。

そんな時、サタン教に出会った。

本質こそはキリスト教と同じ。

なのに、そこに差別思想など存在しない。

白人も黒人もアジア人も皆平等で、

世界は身分や富の差で、

人間の価値を決めるべきではないとある」

 

「俺のサタン教は儚い夢である、

"民主主義"を謳っただけに過ぎんよ。

まぁ、キリスト教を散々利用してる連中は権力を持ちたい、教会や貴族共だからな」

 

「そう。だから、貧しい者達は上にすがる他なかった。下であり続けなければならなかった」

 

「上に昇ろうとする事をタブーにしたんだ。

あくまで権力者が国を支配できるように。

だが、いつまでも民は我慢できない。

そしてやがて、革命が起きる」

 

「歴史はその繰り返し。

そんな中、異端中の異端者が現れた。

それがウラド3世。ドラキュラ伯爵」

 

「..........」

 

「元はキリスト教徒。にもかかわらず、

裏切られ、異端に落とされた。

それからは、キリスト教の最大の脅威になった。欧州全土を敵に回して、100年も暴れまわった大魔王」

 

「"100年?"」

 

 

氏郷の言葉に天竜は何か違和感を覚えた。

 

 

「いや、なんでもない」

 

「私はある意味、貴方に畏怖の念を抱いていたのかもしれない。この世で最も力を持ったキリスト教に真っ向から対立し、己が理念を貫き通そうとする貴方の信念に.....

だからサタン教にも共感できた。

コエリオ様のやり方に納得いかず、彼の目の前で廃教を宣言した。その結果、私は駆逐対象になった。

神に見捨てられ、生きる価値もなくなった私に手を差し伸べて来たのは、己が散々陥れようとしてきた悪魔で.....

私はその悪魔と同種になった。

だが、不快感は不思議と感じなくて」

 

「氏郷」

 

「先程貴方は、私は貴方のものであると言った。

それすらも嬉しいと感じてしまう自分がいて。

不必要であるはずの自分を、

敵であるはずの自分を、

私というちっぽけな存在を、

一個人として、人として見てくれた貴方に.....」

 

 

氏郷は涙を浮かべつつ、笑顔で言う。

 

 

「好意を持っている自分がいるんです。

可笑しいですよね。笑ってください」

 

「可笑しくないさ」

 

 

天竜は氏郷を抱き寄せた。

 

 

「くくく。皆が皆、俺を勘違いしているな。

俺がそんないい奴に見えるか?

俺だって差別主義者だぞ?」

 

「えっ?」

 

「くくく。俺は性別差別主義者だ。

この世には俺と雌以外はいらないと思ってる。

全雌人類を妻にしたいとまで考えてる。

お前だってその内の1人だ」

 

「流石はドラキュラ伯爵ですね」

 

「それは蔑みかな?」

 

「これでも褒めてるつもりです。

私は貴方に惚れてるのでしょう?」

 

「くくく。そうだったな」

 

「何故、私だったのですか?

別に私でなくとも.....」

 

「おいおい、それを言うのか?

随分と難しい質問だな。

面喰いの俺にどう答えろと?」

 

「最低ですね」

 

「むぅ.....そうさなぁ。

俺は自分を完全に曝け出してくれる女子が好きなんだ。逆に隠す子は嫌いじゃないが苦手でな。

お前は他の女子とはジャンルが違うが、

確かに自分を曝け出してくれた。

殺意の篭ったお前の熱意に萌えたのだ。

これが理由かもな。

あと血がメチャクチャ美味かった」

 

「..........それでよしとしときます」

 

 

氏郷は完全に天竜は身体を預けた。

天竜はそのまま氏郷の唇を奪う。

 

 

「..........」

 

「ファーストキスは頂いた」

 

「何故それを!!?」

 

「ありゃ?本当にそうなの?」

 

「!?.....よくもやりましたね!」

 

「カマかけたつもりはないんだが、

ってか、真っ赤になってるその顔も可愛いな」

 

「誤魔化さないで..........っ!?」

 

 

再び口付けされる。

今度は深く、舌を絡ませて.....

 

 

「ぷはぁっ!」

 

「いいな、たまには。

新しい女を抱くのはいつも新鮮だ」

 

「..........とことん魔王ですね。

いいですよ。私の処女を捧げます。

私を汚してください。

私を壊してください。

私を貴方の色で染め直して下さい」

 

「氏郷」

 

「私は生まれ変わらせて下さい。

私はもう貴方のものなんですから」

 

「..........よし」

 

「?」

 

「『レオパルド』」

 

「え?」

 

「お前の新しい洗礼名だ。

ドイツの言葉で"豹"を意味する」

 

「女豹とでも言いたいんですか。

ドイツとは?」

 

「この時代にはまだない。

プロイセン。今より300年後くらいに現れる。

俺が尊敬する国の1つだ」

 

「へぇ。レオパルドですか」

 

 

ドイツの戦車から取った事は内緒にしておこう。

 

 

「では気軽に"レオ"とお呼びください」

 

「なんか犬みてぇだな」

 

「伯爵!」

 

「冗談だ」

 

 

天竜はそのまま氏郷を押し倒す。

 

 

「あっ.....」

 

「安心しろ。

言われずとも優しくしてやるさ。

女性の扱いに関しては紳士なつもりだ。

脱がすぞ?」

 

「はい.....」

 

 

露わになった乳房に触れる天竜。

小ぶりではあったが、やや弾力があった。

 

 

「Bだな」

 

「変態伯爵」

 

「ふっ.....くくくくくくくくくく」

 

「ふふ」

 

 

笑い出してしまった2人。

その後、またキスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

 

「..........」

 

 

目覚めた天竜は、隣りに裸で眠っていた氏郷にそっと布団をかけ、素早く着替え、部屋を抜け出す。

 

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調略は終わりましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如現れた少女、それは大友宗麟だった。

 

 

「そんな大それたもんじゃないさ。

今回のはただの引き抜き。

"レオ"は半分味方のようなもんだったさ。

ただ、その価値観の違いからわだかまりがあっただけに過ぎない」

 

「しかし、上手くいったものです。

まさか"貴方の思惑通り"に事が進むなんて」

 

「まぁな」

 

 

この時、2人は気付いていなかった。

氏郷が目覚めて、聞き耳を立てている事を.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"俺が裏から手を回してコエリオに圧力を回し、面倒臭がりの彼がレオにキツく当たるように仕向けた"。

その予想通りにコエリオはレオを虐め抜いた。双方の性格の関係もあって予想以上の結果になり得たよ。

その結果レオの心はコエリオから離れ、その弱みに漬け込んだ俺を信頼するようになった、という事だ。

レオを味方にする気は3年前からだが、

この計画は去年からのものだ。

まさかこうも予定通りに進むとは、

自分でも驚いているよ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「.....!!?」

 

 

この事実に、氏郷は絶望した。

地獄のドン底にいた自分に手を差し伸べてくれた救世主が、今回の事件の黒幕だったのだ。無理もない。

 

 

「どうして!?何で!?」

 

 

神のようにも見えた。

自分を導いてくれる唯一の存在であると。

だから身体を許したのに.....

だが、やはり彼は悪魔だったのだ。

 

 

「ドラキュラァ!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「レオにはいずれ、謝らないければならない」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「!?」

 

 

今にも部屋から飛び出そうとした時、

天竜のその言葉で氏郷は止まった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「例え俺が介入せずとも、

氏郷はその内壊れていただろう。

コエリオらのバテレン共に利用され、

搾りカスになるまで駒のように使い古され、

ボロ雑巾のように捨てられる。

バテレン共は容赦しない。

レオ自身に日本人の虐殺を命じるかもしれなかった。

そんな事をすれば、レオは心を殺され、本当に人間ではなくなってしまっていただろう」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「..........」

 

 

氏郷は扉を背に膝を抱えて座り、

じっと天竜の話を聞いていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「だからこそこの行動に出た。

善人であれば、回りくどいやり方をしてでも、正しいやり方で彼女を助けただろうし、俺もそれをやるべきだったのかもしれない。

だが俺は生憎悪人だ。

手段を選んだりはしない。

最も早急にレオを救う事ができる道があるなら、

俺はそれを選ぶ。

例え卑怯だ悪だと非難されたとしても、

"レオを救う"という結果を一早く手に入れる事ができるなら、俺はどのような責任だって負ってやるさ。

そこから新たなイザコザが起きたり、不幸な者が現れたら、その後に解決すればいい。

今回の優先対象はレオだ。

俺はレオを救うためだったら何でもするさ!」

 

「はい」

 

 

宗麟は黙って頷いた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「やっぱり..........

私は..........間違っていなかった」

 

 

氏郷は涙を流す。

 

 

「聞いていたのだろう?レオ」

 

「!?」

 

 

天竜は扉を開けた。

 

 

「そっ.....その.....太閤様」

 

「天竜でいい」

 

「..........天竜様」

 

「うむ。蒲生レオパルド氏郷よ。

お前の所領の会津を加増しよう。

これよりは会津92万石を治めよ。

それに伴い、お前に参議の官職を与える」

 

 

それは破格の待遇であった。

 

 

「ははっ!」

 

「それとだ。我が軍としては、

お前には外交官を勤めてもらいたい」

 

「外交官.....ですか?」

 

「あぁ、外交と言っても、

今までと違って日の本の外との国とだ。

日の本はあと少しで完全統一される。

そうなれば、朝鮮や明や天竺だけでなく、

欧州諸国との貿易も多くなる。

その総括をしてほしい。

特に欧州とはお前の力が何より必要だ。

やってくれるな?」

 

「ははっ!ありがたき幸せ」

 

「ふふっ.....右手を出せレオ」

 

「?」

 

 

言われた通り、氏郷は右手を出す。

 

 

「そらっ!」

 

「きゃっ!?」

 

 

天竜はその右手を掴んで自身に引き寄せる。

氏郷は天竜に抱かれる状態になる。

 

 

「俺はお前を手に入れられて大変嬉しい。

俺がドラキュラであるという事を理解しながらも俺を認めてくれた。俺はお前を誇りに思っている」

 

「.....天竜様」

 

「これからも俺に付いて来てほしい。

俺がお前を導いてやる」

 

「はい.....」

 

 

氏郷はまた涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城を出た2人。天竜と宗麟。

 

 

「日差しがキツいな」

 

 

2人共黒い日傘を差していた。

 

 

「最近は益々だ。妖力が削られる。

デイウォーカーである俺は平気のはずなのに」

 

 

通常、吸血鬼はナイトウォーカーと呼ばれる。

だが、ドラキュラなどの太陽を弱点としない種族は別に

デイウォーカーと呼ばれる。

 

 

「このまま"常陸"に向かう。

すまないが運転を頼む」

 

「はい」

 

 

宗麟に車の鍵を渡す。すでに教習済みだ。

 

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

 

助手席に乗り込んだ天竜は大汗をかきながら息切れをしていた。

 

 

「大丈夫ですか天竜様?」

 

「心配するなベル。今はとにかく安全運転を心がけてくれ」

 

「はい.....」

 

 

天竜の愛車デロリアンが常陸に向けて今発車した。

 

 

「寿命が近いのか.....」

 

 

天竜はボソリと呟く。

 

 

「..........」

 

 

ベルフェゴールと呼ばれた少女、大友宗麟は不安な顔で車を走らせた。

 

 

「仮に死ぬとしても、

俺はその前に会わなくてはならない。

もう1人の俺に..........

場合によっては奴ともう一度.....」

 




天竜がいい奴(?)っぽい回でした。
だが、その天竜にも何故か死期が!
続きが気になるかもですが、
その前に何話か挟みます。
ちなみに次回は番外編です。


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登場人物紹介9

iPhoneは駄目だすぐデータが飛ぶし、復元できない。
せっかく書いた番外編が消滅したので、
今日一日で即席で書いた登場人物紹介をどうぞ


豊臣天竜秀長

21歳(31歳)。太閤殿下。

通称『外道右翼吸血鬼』

北海道、本州、四国を統一し、

天下統一まであと一歩まで迫る。

3年間の間にドラキュラとしての力の使い方に応用する事を覚え、特殊な変身や特殊な技を発動させるようになる。

『完全変身』と『部分変身』を使い分ける。

完全変身はドラキュラ本来の姿に戻る能力。

その力・技の制度は全妖怪中、最上位。

だが燃費がかなり悪く、強大な技には強大な魔力を必要とし、完全変身の度に大量の血液補給と休息を要する。

本来のドラキュラであればそんな事態に陥る事などあり得ないのだが.....

部分変身はその名の通り、身体を部分的にドラキュラ化させる能力。完全変身よりは魔力を節約できる為、そこそこの相手と戦うならば、この状態が最も効率がいい。

だが、燃費が悪い事には変わらない。

 

必殺技は『串刺城塞(ガズィクル・ベイ)』

手持ちの槍を地面に突き刺し、

敵の足元より多量の槍を出現させ、

敵を串刺しにする能力。

ドラキュラ伝説を具現化した技。

だがこれも簡易的なものであり、

本来の能力ではない。

 

 

 

 

 

 

 

豊臣良晴秀吉

21歳。関白殿下。

通称『偽善者左翼ザル』

400年後の未来より訪れた少年。

所帯を持った彼は未来に帰る方法を探そうとせず、この時代に生き、行く末を見届けようと決意する。その上で、自分と妻である信奈の希望を奪った天竜を、表では仲良くしつつも、裏では恨んでいたが、殺意まではには至っていなかった。

ところが、とある事件によって吉川元春が犠牲となり死亡した事をキッカケに、天竜の抹殺を密かに決意する。

そして、天災級に膨れ上がった怪物天竜に立ち向かうべく、後鬼より人狼の血を受ける。だが後鬼の考えで、その血は半分しか送られなかった。

妖狼と人間の中間が人狼。

その人狼の半分なので半人狼。

つまり4分の3は人間である。

 

吸血鬼がパワーなら、

人狼はスピードである。

肉眼では捉えられない速さで移動し、

瞬時に対象を駆逐する。

だが良晴はイマイチこの力を制御できず、

興奮すると理性が死んで、暴走する。

彼の秘密を知っているのは、

後鬼、クロウ、主水、半兵衛、官兵衛。

そして、敵方の島津家のみである。

..........という事になっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

宮本弁之助武蔵

14歳(故)。元天竜軍戦闘隊長。

師匠にあたる天竜が太閤になってからは、天竜の最古参家臣として地味な地位を得ていた。だが、好敵手であった佐々木小次郎を卑怯な形で殺した明智左馬助(光)をこの手で討とうと、たった3人で出陣した。

吸血鬼で不老不死の左馬助を倒すのは不可能であると理解していたが、彼女の目的は左馬助の抹殺ではなく、彼女とのリベンジマッチであり、勝利までは望んでいなかった。

吸血鬼の能力を意図的に封じた左馬助をあと一歩まで追い詰めるが、カウンター技に敗れ、胴体から真っ二つに。

最期は左馬助の本心を見抜き満足そうに死んでいった。その亡骸は勝者である左馬助によって食された。

 

 

 

 

 

 

 

 

今川彦五郎氏真

15歳(故)。元室町幕府管領。

やっと掴んだ家族の愛に見切りをつけ、

武蔵らと共に左馬助討伐に参陣する。

接近戦の武蔵と違い遠距離にて援護した。

いつもの特殊鞠と刀での戦い以外に、蛇腹剣という特殊剣も扱う。剣名は『風邪(ふうじゃ)』命名者は天竜な為恐らくワザと。気づいてないのは彼女ぐらいだ。

最期は武蔵が討たれた事に動揺し左馬助の攻撃に対象できなく、鬼包丁にて腹を抉られる。

さらにアマテラスの妨害もあり、天竜の介抱も虚しく、家族にもう一度会う事なく出血多量で死亡した。

この件が原因で幕府と豊臣の対立を生み、室町幕府は滅亡する事なす事となってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

吽斗

14歳(現在)。天竜軍隠密起動隊副長1。

姉の阿斗とは双子である。

昔は全く区別がつかなかったが、

最近は阿斗が女の身体になった事で見分けがつけ易くなった。だが、吽斗が女装すれば元の木阿弥である。

天竜を父として小次郎を母として慕っていたらしく、小次郎を殺した左馬助を密かに恨んでいた。

武器は毒針。

トリカブトから抽出した毒であり、

1本で人間を抹殺できる。

左馬助には7本打って麻痺させる事に成功したが、すぐに耐性を作られてしまい、逆に毒針を打ち返される。

幸い使用済みな為、辛うじて命を取り留めた。

この事件の唯一の生き残りである。

現在彼は天竜のアサシンとして、

氏真の蛇腹剣を持って戦っている。

 

 

 

 

 

 

 

阿斗

14歳。天竜軍隠密起動隊副長。

最近はどんどん色っぽくなる。

天竜直伝の床術によって哀れな男共を何人も翻弄させ、地獄を見せている。

愛用武器は、

『トンプソン・サブマシンガンm1928A1』

彼女達はアサシン、暗殺者だ。

目的は対象者の抹殺。

敵を殺せればいいのだ。

その為、手段は選ばない。

平気で未来兵器を使う。

吽斗も拳銃を扱っていた。

 

例の事件をキッカケに、高所恐怖症になる。

 

 

 

 

 

 

 

勘解由小路光(明智左馬助光春)

400歳以上。天竜の元妻。

朧によって呪いをかけられ、不老不死。

自分の死に場所を探し、天竜に殺される事を望んでいる。元々はアマテラスと組んでいたが、影にて反旗を翻し、己を天竜に喰わせてアマテラスを倒そうと試みている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大友宗麟

20歳。豊後・筑前国大名。

初期のキリシタン大名。

初期洗礼名は『ドン・フランシスコ』

現洗礼名は『ベルフェゴール』

通称『ベル』

アンチである天竜とは敵対する派閥に属するが、初めは友好な関係を築こうしていた。

しかしザビエルに唆され、天竜に反逆する。

サンジェルマン仕込みの錬金術を駆使し、

天竜を追い詰めるも敗北。

天竜に諭され、和解する。

だが瀕死の状態に陥った為に、

天竜によって眷属にされた。

 

錬金術の精霊『マーキュリー』を操る。

金と銀の合金"琥珀金"で精製されており、

吸血鬼の天敵である。

 

 

 

 

 

 

 

奈多(大友)澪琴

15歳。宗麟の義妹。

通称『大悪女イザベラ』『ベラちゃん』

神道を準じている。

義姉がキリスト教にハマり、家族を蔑ろにした為、キリスト教に反発意識を抱き、何かと宗麟の信教を邪魔しようとした結果、バテレン共にアンチだ魔女だと非難され、大悪女イザベラと呼ばれるようになる。終いには宗麟を唆して澪琴を大友家から追い出してしまった。

そんな過去があるにもかかわらず、

義姉を未だ信頼している。

 

かなり辛口で毒舌でもある。

だがそれは、彼女なりの愛情表現だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

サンジェルマン伯爵

??歳。錬金術師。

時をかける謎の白人。

利休と宗麟の錬金術の師匠。

様々な事情を知っているが謎多き男だ。

 

 

 

 

 

 

 

島津虎寿丸義久

28歳。薩摩国大名。島津軍総大将。

九州統一を掲げる豪傑。

大友宗麟を滅亡寸前まで追い込んだ。

褐色肌の美女である。だが訛りが強過ぎて、その言葉を聞き取れる者はいない。

弟の義弘ですらたまにしか翻訳できない。

唯一聞き取れるのは何故か良晴のみ。

良晴にベタ惚れしてしまい、

戦争中にもかかわらず、

彼と婚約を結んでしまった。

かなり自己権意欲が強い。

 

 

 

 

 

 

 

島津又四郎義弘

27歳。島津軍副大将。

文武両道の島津の最強戦士。

兵士としても軍師としても秀でている。

薩摩を強国に育てた張本人。

薩摩弁で話すが、結構上品である。

良晴を義弟と認めている。

 

 

 

 

 

 

 

島津又七郎家久

24歳。島津軍戦闘隊長。

上の2人と比べてかなり卑劣な男。

喋り方もそうだが、思想や、戦争のやり方がいずれも下品であり、島津家の嫌われ者でもある。

だが、その強さは本物である。

 

 

 

 

 

 

 

島津豊寿丸豊久

10歳。義久の小姓。家久の娘。

鳶が鷹を生んだのか、父に全く似ないいい子に育った、放任主義の家久ではなく、義弘に育てられたお陰である。

実父よりむしろ伯父を慕っている。

まだまだ若いが、無限の可能性を秘めている。

 

 

 

 

 

 

 

松山主水

??歳。飛騨の鬼。

最古の日本鬼、両面宿儺の子孫。

上杉謙信の実姉である。

宿儺の肉片を用いてパワーアップしており、

天竜の前座として良晴軍を襲った。

分身能力によって彼を追い詰めた。

だが、まだ奥の手を隠している。

 

 

 

 

 

 

 

オルトロス(後鬼)

100歳以上。

元は天竜の飼い狼だったが、

何故かワラキア公国軍の将軍を務める。

最強の人狼『ベルセルク』として、

ドラキュラと並んで恐れられた。

良晴を人狼にした張本人。

欧州での敗戦後単騎で日本に赴き、

弱っていた所を半兵衛に保護される。

 

 

 

 

 

 

ガブリエル・クロウ・アンダーソン

23歳。カトリック神父。

唯一ドラキュラを倒した男である。

相手の力や能力を1,5の割合で複写する特殊能力を持っており、敵が強くなればなるほどパワーアップする。彼の素性は未だ謎が多い。

 

 

 

 

 

 

 

蒲生鶴千代氏郷

20歳。会津国大名。

初期洗礼名は『レオン』

現洗礼名は『レオパルド』

かつての天竜の宿敵である。

だが、梵天丸の相手とコエリオの相手に板挟みになり、最近はどんどんやつれていっていた。

三種の神器も天竜に打ち破られ絶望し、

コエリオからも人間扱いされない事に憤怒し、背教を決意した。

彼女の目的は最初から、

"日本の植民地化を食い止め、救う事"

それに感銘を受けた天竜に手を差し伸ばされ、彼に付き従うと誓った。

左腕にドラキュラの鬼歯を移植され、

『クリムゾン』を発動する。

敵が攻撃に移る前にタイムスリップして攻撃する為、敵はクリムゾンを食い止める事が不可能なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

紳助・喜助

それぞれ25歳。旧名、ドミニク・アンドレ。

黒人奴隷として氏郷に売られたが、

彼女は彼らを奴隷ではなく一人間として扱った為、2人は彼女に主従以上の信頼を抱いている。

むしろM奴隷に.....

天竜には好感を抱いていたが、

蔑まれた事で反感を覚える。

 

 

 

 

 

 

 

山科羅久呂左衛門勝成

24歳。蒲生軍戦闘隊長。

旧名は、ジョバンナ・コルテス。

元ヨハネ騎士団所属のイタリア人。

信奈の命令で氏郷の与力になる。

紳助や喜助とは仲が悪かったが、

良晴によって強制的に義兄弟にされた。

義兄弟になってからはそこそこの関係である。

 

 

 

 

 

 

 

ガスパール・コエリオ

23歳。スペイン宣教師。

白豚グリンコ。屑である。

世の公害。生ゴミである。

両利きである。

 

 

 

 

 

 

 

フランシスコ・デ・ザビエル

??歳。スペイン宣教師。

元はフロイスやオルガンティノの恩師。

信奈とも面識があり、彼女の初恋の相手。

10年も前に死亡したはずが、現在になって復活。

裏で何かと暗躍している。

その目的は?

 

 

 

 

 

 

 




あばばばばばばばばばばばばばば


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番外編5

永らくお待たせいたしましたぁ


13話 魔王と老医

天竜の太閤就任から2年の時。未だ建築中の大坂城のとある茶室にある男は呼び出されていた。

 

 

「むぅ.....」

 

 

男の名は 曲直瀬ベンジョール。医者だ。

だが仕事に来たわけではない。

太閤天竜に医者など不要だからだ。

彼は吸血鬼ドラキュラ。その血に含まれる不死の力。それがあり続ける限り、彼はどんな致命的ダメージを受けても復活する。彼が倒れるとすれば、その不死力を直接削るような攻撃。つまりは銀製品による攻撃をされた時ぐらいであろう。

そんな天竜が何故ベンジョールを呼んだのか、それは茶を啜りながらただ世間話でもするためか?

否、天竜はとある目的の為に彼を呼んだのだ。

 

 

「待たせたな」

 

「こっ、これは太閤殿下!

おひさしぶりでございます。

ご機嫌麗しゅう!」

 

「余計な気遣いなど無用だ。

そう怖がるな。取って喰いわせん。

どちらの意味でもな」

 

「はぁ.....」

 

 

ベンジョールが天竜と関わりを持ったのはたった2回のみ。左馬助事件の被害者であった、十兵衛と小次郎の治療を担当した時の事だ。

十兵衛殿は浅い傷だった為に命を取り留めたが、小次郎殿は腹を抉られていた為に死亡してしまった。ほぼ致命傷であったが故に、匙を投げてしまったのだ。太閤様が短気な人物であったのなら、私は斬り捨てられていたであろう。案の定、彼は実行犯であった左馬助を全軍にて追い詰め、死体も残らぬ程に滅殺したとか。

そしてその左馬助の亡霊が、この件に関わった人物を殺しにかかっているとか。先日、宮本武蔵殿と今川氏真殿がそれの犠牲となり、亡くなられたとか。2人共まだ若かったというのに.....

 

 

「貴様を呼んだのは他でもない。貴様がこの国で最も確かな腕を持った医者であると確信したからだ」

 

「それは光栄の限りで」

 

「であるからこそ、これを進呈しよう。

俺の時代からの贈り物さ」

 

 

そう言って、天竜は懐より分厚い本を取り出す。それは医学書のようだった。

 

 

「これは?」

 

「未来の.....400年後の医学書だ」

 

「400年後の!?」

 

 

それは、医者であるなら喉から手が出る程欲しいものだろう。この時代では治療不可能な病や怪我でも、未来であるなら高確率で治療できるかもしれない。そんな希望が詰まった書物なのだ。

 

 

「これ1冊で終わりではない。医学は幅広いからな。他にも数冊ある」

 

「.....それをどうされるのですか?」

 

「先程言ったように貴様に進呈しよう」

 

「条件は?」

 

「ん?」

 

「お惚けにならないで戴きたい!

それだけの物を私にくれるという事はしたそれなりの対価を求めているという事!お教え戴きたい!その医学書の対価とは如何に!?」

 

「何もねぇよ?」

 

「.....はぁ!?」

 

「強いて言えば、その医学書を活用する事でこの時代の医術を大きく発達させ、それを国民に提供して貰う事かな?

それが対価だよ」

 

「..........」

 

 

何を考えている!?そんな事、この男に言われるまでも無くするつもりだ。というより、それ以外に活用のしようがない。

いや、待てよ?

きっと別の方法があるのではなかろうか?

彼は『裏切り魔将軍』

味方を装って朗らかな表情で対象者に近付き、裏切って一気に地獄に叩き落とす卑怯なやり方で、この男は数々の人物を不幸にしてきた。

暗殺された宇喜多直家や、権力と領土を全て奪われた武田信玄がいい例ではないか。私は騙されんぞ!

 

 

「本当にそれだけですか?

他意はございませんか?」

 

「無いよ。俺はこの未来の医術を国民全員に提供し、皆々の幸福を作ろうと考えている」

 

 

この男は息をするように嘘を吐く。

お前の二枚舌はお見通しだ!

 

 

「俺は今まで多くの不幸な者を見てきた。

戦で大怪我をするも、医術が未発達な為に助けられない者達。

不治の病にかかるも、医術が未発達な為に助けられない者達。

疫病が蔓延するも、医術が未発達な為に没落してしまう村々。

見るに耐えなかった。

俺が良かれと思って行った政策によって不幸を招いた事もあった。世界を幸福のみで満たす事や、世界から不幸を取り除く事は不可能だ。

だから俺は、俺が作れる限りの幸福を立場の弱き者らに与えてやりたいと思っている」

 

 

これは嘘.....のはず。

 

 

「俺は国の王となった。だが、国に本当に必要なものは王ではなく、広大な土地でも、圧倒的な兵器でもない。

国民だよ。国に必要なものはね。

国民の支持も得られないような者に国を治める資格はない。国民を1人でも救えないような王に、国を治める資格はない。

俺は王だ。この国の王だ。

その責務は全力で果たしたい」

 

 

嘘.....のはずだ。

 

 

「貴方は自らを王だと言う。

王という名称がこの日の本の代表を務める者であるのなら、王は姫巫女様.....いや、正親町天皇陛下であられるのではなかろうか?」

 

「違うな。陛下は王ではない。

陛下は皇帝に属するのだ」

 

「皇帝?」

 

「人間が成り得る最上位の役職だ。

俺が国民の代表であるのに対して、

陛下は人類そのものの代表。

最上位の人間。

それは最早神に等しい。

肉体を持ち、現世に実在する生き神。

俺はその代行人に過ぎない」

 

「..........」

 

 

訳がわからない。何処までが嘘だ?何処までが本当だ?彼のこの言葉はそのままの意味なのか?それとも別の意味が隠されているのか?

 

 

「なら.....何故貴方は織田を裏切った!!」

 

「それが貴様の.....俺への恨みか」

 

 

曲名瀬ベンジョールは元織田付きの医者だ。織田信奈を敬愛し、彼女に付き従い、彼女の天下統一を願い、見守ろうとしていた。

そんな中に現れたのが勘解由小路天竜。

彼は極々短期間で織田に溶け込み、

織田の中で血を啜り続けた。

次は武田の中で、伊達の中で、

蝦夷地にて.....

最後は関白前久を下して、

現在は朝廷で血を啜り続けている。

彼はヴァンパイア。彼はドラキュラ。

彼は裏切り魔将軍。

主君や同志を裏切り、破滅させる。

信奈までもがその毒牙にかかった。

各地の大名や良晴を卑怯にも人質に取り、あろう事か自身の愛するものにまで刃を向けた。そんなやり方をされれば、内心は優しい信奈は降伏しざるを得なくなった。

ベンジョールはそんな天竜を死ぬ程恨んだ。信奈は亡き友であった斎藤道三や松永久秀の希望も背負っていたのだ。それだけではない。織田家臣団を含め、数多くの者の希望を背負っていたのだ。

それを奪った天竜.....

彼を恨んでいたはずなのに.....

 

 

「俺は王として、その責務を果たさなければならない。それが俺の義務なのだ。

俺は平和を実現しなければならない、一早く平和を実現しなければならない。

だが、それには犠牲が出るだろう。

だからこそ、俺がその罪全てを背負うつもりだ。俺の命令で人殺しを行った皆々には、絶対に負担を与えるつもりはない。

俺はこの全人生と全生命を用いて、

俺は平和な世界を作り上げる。

それには未来の医術とお前の腕が必要だ。

もう一度言う。お前に協力してもらうぞ曲名瀬ベンジョール!」

 

「..........」

 

 

 

 

 

この男は.....ズルい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お断りいたします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベンジョールははっきりとそう言った。

 

 

「残念だ。非常に残念だ。所詮、耶蘇とアンチは相容れないという事か」

 

「違いますよ。ご協力はさせて頂きます。

ただ、その医学書は我が娘、

"曲名瀬玄朔"にお渡し下さい」

 

「曲名瀬玄朔?」

 

「姪です。妹の子を養子にしました。

我が医術の全てを詰め込ませた愛娘です。

まだ未熟ですが、成長次第で私以上の名医となるでしょう。きっと殿下のお役に立てるでしょう」

 

「何を言っている!

俺は貴様の力を必要としているのだぞ?

この際、玄朔と共にでいい。

俺の元に来い!」

 

「ふふっ.....私の様な老獪など長持ちはしませんよ」

 

「?................まさか!?」

 

 

天竜は気付いた。その事態に。

ベンジョールの顔色は死人のように白く、その頬は干物のように干乾びている。

 

 

「永くないのか?」

 

「自身の体調は自身が1番理解しておりまする。なんせ名医だからね」

 

「なら尚更だ!未来の医術を使えば貴様を救えるかもしれないだろう!俺は技術を持たないが知識はある!必要な薬品や器具は何でも用意する!だから.....」

 

「嬉しいです。そこまで案じてくれて。

それが例え私個人ではなく、私の腕を案じているのだとしてもね。

それでも駄目です。

その未来の医術を使うのは、貴方や玄朔ら若い世代。年寄りがいつまでも生き残るわけにはいけませぬ。

私はこの身体のせいでもう、まともな診療もできなくなっている。病が治った所で、この歳ではあまり変化はないでしょう。そんな生き恥を晒すぐらいなら、さっさと逝って、黄泉にてマムシや弾正と酒を酌み交わしたいと考えております。

私はこの時代の医術で治せない最後の人間でありたい。そうやって、未来の医術とやらにほんの少し対抗してみたいのです」

 

「何を言っている!

何故貴様は長生きしようと考えない!?

人間とはそういうものではないのか!?」

 

「それが誇りですから」

 

「貴様らは馬鹿だ!!何故何より誇りを重視できる!?何故誇りなんぞを理由に、命を軽視できる!?

人間の癖に.....人間の癖に.....」

 

「申し訳ありません」

 

「永く生き続ける事を嫌うのは化物だけじゃないのか?」

 

「それが人間です。私も貴方もね」

 

「ふっ.....俺も人間扱いか」

 

 

天竜は身なりを整え、

ベンジョールに向かって頭を下げた。

 

 

「感謝する。医聖ベンジョール」

 

「それ程でも。吸血鬼ドラキュラ。

往生際で面白い者に会えました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベンジョールは1ヶ月後、静かに息を引き取った。天竜は彼の死後、最も偉大な医者として、正二位法印を与えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曲名瀬ベンジョール道三の墓前。

そこに2人は眠っていた。

 

 

「ゆっくり眠って下さいねお義父様」

 

 

花を手向ける玄朔。彼女はベンジョールの歳の離れた妹の子で、15歳の少女だった。

 

 

「約束通り玄朔は貰ったぞ」

 

「はい。玄朔は殿下のものです」

 

 

玄朔の瞳は紅に輝いていた。

 

 

「俺は貴様に嘘をついた。未来の医術は国民を救う為だけに使うと言ったが、あれは嘘だ」

 

「..........」

 

「俺は他人の為だけに動ける程、人は良くない。これだって自分の為さ。

未来の医術を使えば、

"吸血鬼の謎も解明できるかもしれない"

俺は自分がドラキュラであると知った。

敵を知らない事は愚かだが、

己を知らない事はより愚かだ。

吸血鬼を知りたかった。

ヴァンパイアを知りたかった。

ドラキュラを知りたかった。

そして、弱点強点を把握したかった。

いや、これは自分だけじゃないな。眷属達の事もある。

俺が死ねば眷属は共に消滅するか、吸血鬼のまま生き残るか、人間に戻るか.....

可能性が高いのは前者2つ。

場合によっては、俺が死ぬ前に彼女らを元の人間に戻す必要もある。

俺のエゴで変えてしまったんだ。

その後の人生まで奪う権利は俺にはない。

眷属を元に戻せれば.....」

 

「御自身が戻ろうとは思われないのですか?」

 

 

玄朔が尋ねる。

 

 

「戻るも何も、俺はこの世に誕生した時点で既に化物だ。今も昔も変わらないよ。これからもな」

 

 

そう言って、天竜は墓を後にする。

 

 

「にしても、俺に自ら眷属になる事を志願してきた奴なんて、お前が初めてだぞ玄朔」

 

「私はこれより吸血鬼についての研究をも任されるのでしょう?ならば、自分自身で先になってしまった方が、理解も深まるというものです」

 

「ふっ.....」

 

 

天竜は最後にもう一度墓に向かって呟く。

 

 

「俺は貴様に嫉妬していたのかもしれない。

簡単に死ねる身体で、

人生に何の悔いも残さず死ねる貴様が.....」

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14話 少女医と妖狼

 

吸血鬼の眷属はドラキュラ程ではないが、何かしらの能力を持っており、それには優劣がある。

ある者はより優れた怪力を持ち、

ある者は誰よりも速く移動し、

ある者は特殊な技で他者を圧倒する。

ここにもう1人、

特殊な能力を開花させた人物がいる。

 

曲名瀬玄朔。

 

彼女は吸血鬼の眷属になった後も、特に他者を圧倒させるような能力は持たず、戦力的には低いステータスであった。

そう、戦力的には.....

 

 

「やぁ、玄朔」

 

 

天竜は播磨に建てられた玄朔の研究所を訪れていた。彼女の本職は医者だが、吸血鬼の研究もまた任されている。

 

 

「くぅヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!

順調順調!デラ順調ですよ!

続続々と吸血鬼の謎が明かされています!」

 

「そうか、程々にな。俺じゃあるまいし、女の子がそんな笑い方するもんじゃない」

 

 

そう言って、天竜は玄朔の頭に手を乗せた。

 

 

「ひうっ!?」

 

「どうした?」

 

「なっ.....何でもありです!!!」

 

「?」

 

 

玄朔はマットサイエンティストと化していた。普段はこんなのではないのだが、最早趣味にまでなっている吸血鬼研究になると、こうも豹変するらしい。

吸血鬼の血は玄朔の脳に作用していた。

吸血鬼の脳は基本人間と同じだが、

玄朔は脳が進化したような状態になっている。モーターが1個から10個になったと言えば分かり易いか。彼女の頭脳は天竜ですら計り知れない。頭脳勝負だけなら、天竜は確実に負ける。

将棋、囲碁、チェス、麻雀、ポーカー。

色々試したが、全部負けた。

だが、これは計算力だけだ。

駒にそれぞれ意識がある戦争では、人間観察に長けた天竜に武がある。

だから、彼女は科学者として強いのだ。

 

だがたまに、患者を科学者目線で見る節があるから注意せねばなるまい。

 

 

「具体的に何が分かった?」

 

「主に吸血鬼の特性ですね。吸血鬼の吸血鬼たる由縁。何故血を啜る必要があるかの理由です」

 

「ほう」

 

「理由は主に2つ。

1つは、ヘモグロビンの摂取です。吸血鬼の赤血球は人間のものと根本的に違います。酸素を通常の十倍以上の速度で循環させます。その効果によって、吸血鬼は人間とは桁違いの怪力や俊足が生み出せるのです。

ただ、その分大量の酸素を取り入れる為に大量のヘモグロビンが必要となります。だからそれを外部から取り入れる必要があるのです」

 

「なら、それだけならわざわざ人間から吸血する必要はないんじゃないか?しかし以前、牛や豚の血で代用しようとしたが、上手くいかなかったぞ?美味くなかったし」

 

「それがもう一つの理由です。

もう一つは霊力の回収。それこそが吸血鬼の吸血鬼たる由縁そのものでもあります。

人間を好んで食す妖怪は数あれど、人間から効率よく霊力を吸収できるのは吸血鬼だけです。和製鬼ですら龍穴よりい出る霊力に頼らねば生きてはゆけませんが、吸血鬼は龍穴など無くとも、自力で自給自足できるので、生存率が他の妖怪と比べて高いんですよ。

だから吸血鬼は何より人間を尊重しています。吸血鬼は人間と共存する事で、その命を繋いでいるのですから。餌が無ければ生きてはいけませんからね。

くぅヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」

 

 

また興奮してしまっている。

 

 

「それからヘモグロビンの問題でもう一つ。

人間と同じで一酸化炭素を吸えば中毒を起こしてしまいますので、煙草はお控えになった方がよろしいかと?人間時の十倍の速さで肺癌になりますよ?」

 

「うえぇっ!?」

 

「あれでしたら、一酸化炭素ではなく酸素を吸える煙草を作りましょうか?」

 

「マジか!?」

 

「理論上なら容易に作れますよ。少々特殊な薬物を必要としますので、それさえ用意して下さればね」

 

「お前がドラ●もんに見えてきたよ。いや、発明家という点で考えれば、キテ●ツか」

 

「?」

 

「つまり、吸血鬼は血を吸わない酸欠状態になるに等しいというわけな。そう考えると、吸血鬼はとても繊細なのだな。弱点も多いし」

 

「そうです。吸血鬼が最強というのはマヤカシです。戦闘面において吸血鬼はどんな生物よりも勝るかもしれませんが、生物としては最弱の部類に属します。ですから、力に頼って傲らないように!」

 

「へいへい」

 

 

まるで叱られる子供の気分だ。

 

 

「さぁ!!そんな事はさておきです!

殿下を呼んだのは他でもありません!

私の実験に是非立ち会っていただきたいのです!」

 

 

またマッドサイエンティストに戻る玄朔。1番傲ってるのはコイツなんじゃないのか?

 

 

「ご存知の通り、吸血鬼の血は万能です!

少量であれば、どんな怪我も治しますし、最高の解毒剤にもなります。ですが、この血そのものが凶悪な猛毒である事も事実です」

 

「まぁな」

 

「そして、吸血鬼から派生して生まれた種も多く存在します。その1つとして人狼」

 

「ウェアウルフか?

ってか、本当にいるんだ」

 

「ドラキュラのくせに.....」

 

「俺は目で見たものしか信じないんだよ。悪魔は信じるが、神を信じないのはその為だ」

 

「.....話を戻します。人狼は妖狼と吸血鬼の中間に生まれた種族です」

 

「そうなんだ。てっきり人間と狼が獣姦して生まれた妖怪かと思ってた」

 

「.....エイズはそれが原因で発生したらしいですが違います。しかもあれは猿とです」

 

「へぇ〜」

 

「話を脱線させないで下さい。

そこで私は通常の狼に吸血鬼の血を注入して眷属状態にすれば、その狼は人狼になるかの実験をしようと考えています」

 

 

狼を眷属にするのか。その血は玄朔のものを使うのだろうか?

 

 

「眷属が眷属を作る事はできるのか?」

 

「は?」

 

「お前は俺の眷属だろ?」

 

「違いますよ?」

 

「へ?」

 

「とっくに眷属は卒業して、れっきとした吸血鬼になっています。気づきませんでした?」

 

「全く.....」

 

 

だから妙に偉そうだったのか。

 

 

「それはさておきです!さっそく狼に吸血鬼の血を注入しましょう!」

 

 

玄朔は薬で眠らされ、診療台に括り付けられた狼を持ってくる。

 

 

「ニホンオオカミじゃねぇか!」

 

 

ニホンオオカミは未来じゃ絶滅種。

剥製以外で初めて見た。

狂犬病問題のせいで人間に意図的に駆除されて絶滅したらしいが、そんな将来の天然記念物をモルモットにするのか.....

 

 

「それでは注入しますね」

 

 

玄朔は注射器で狼に吸血鬼の血液を注入した。

次の瞬間だ。

 

 

「ガアアアアアアアアアァァァァァ!!!!」

 

 

狼が突如目を覚まし、呻き声をあげる。

 

 

「おい、苦しがってるぞ!

これであってるのか!?」

 

「理論上は成功のはず!

しかし.....これは?」

 

「ウガガガガガガガガァァァァァ!!!」

 

 

犬程度の大きさだったは3倍、5倍とその身体を巨大化させていく。そして全体的に骨格も、四足歩行から二足歩行のものへと変化していく。

そして.....

 

 

「ガアアアアァァァ!!!」

 

「「!?」」

 

 

狼はその怪力で拘束具を引き千切った。

 

 

「..........」

 

 

静かになる狼。二本足で診療台に立ち、こちらを見つめてくる。

 

 

『お前らは何だ.....人間?』

 

 

驚く事に狼は知能を持ち、口を聞いたのだ。

 

 

「わっ.....私達は人間ではありません。

ヴァンパイア。吸血鬼です。

私は貴方の生みの母親。

そんでもってこっちが父親です」

 

「おい」

 

『父さん.....母さん.....」

 

 

狼は呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『違う』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

次の瞬間だ。目にも止まらぬ速さで、狼は2人の首を切断した。

 

 

『父さん母さん、人間が殺した。

おで、人間憎い。殺す。食べる」

 

 

狼はそのまま研究所から逃げ出してしまった。

 

 

「痛ったたたたた.....」

 

 

首だけの天竜が言う。

天竜の身体はフラフラとよろめきながら自身の首を掴み取り、首の断面図に装着した。すると、溶接されたかの様に、傷は塞がってしまう。

 

 

「玄朔..........玄朔!?」

 

「ここで〜す」

 

 

玄朔の首はかなり遠くに飛ばされていた。身体は首を見つけられずに右往左往としている。

 

 

「手伝ってくれません?」

 

「あっ.....あぁ」

 

 

眷属のままでは無事では済まなかったかもしれない。だが、この回復力。戦闘型ではないにしろ、恐るべきものだな。

天竜の手伝いによって玄朔も首が元に戻る。

 

 

「申し訳ございません。感情制御にあそこまで難があったとは、予想もしませんでした。やはり始めは"通常の吸血鬼"の血を使えばよかったかもしれません」

 

「は?どういう事だ?

一体何の血を使ったんだ!?」

 

「天竜様のものです。ネズミでの実験にて、眷属等の下級吸血鬼の血では効力が薄く、不向きである分かり、血の濃い天竜様のものを使用したのです。

ドラキュラの血はまだまだ未知数。

きちんと調査してからすればよかった.....」

 

「何てことだ!話と違うじゃないか!?」

 

 

いや、俺がただただ勘違いしていただけか。彼女は自分の血を使うなんて一言も言っていない。

 

 

「本当に申し訳ございません!!」

 

「いや、気にするな。これは事前確認を怠った俺の責任でもある。俺の血が原因でもあるからな。今は被害を抑えるのが優先だ。奴がどこに向かったか分かるか?」

 

「妖気の感じからして.....西方面に高速で移動しています」

 

「中国の方か。よし、隆景に事前に連絡しよう」

 

 

天竜は携帯電話を取り出し、電話をかける。

 

 

『もしもし?』

 

 

隆景が出る。電話は事前に渡しており、容量がいいためか、元春と違って短時間で使い方をマスターしていた。

 

 

「隆景!俺だ。天竜だ!」

 

『太閤様?』

 

「いいか、手短に言う。よく聞け!

そっちの方にデカい狼の妖怪が向かった!」

 

『なっ!?』

 

「そいつは危険な奴だ!俺が向かうまでに市民に外に出ないように伝えておいてくれ!いいか!奴を見つけても、絶対に近づくんじゃないぞ!!」

 

『わっ.....分かった!..........あっ、姉者!?

駄目だ............そんな!?』

 

「何だ?元春がどうしたんだ!?」

 

「すまない!!今のを聞いて、姉者が狼の退治に向かってしまった!」

 

「なにっ!?くっ..........仕方あるまい。隆景は市民の方を頼む。元春は俺が止める」

 

『すまない。痛みいる』

 

 

そこで電話は切れる。

 

 

「行くぞ玄朔。狼退治だ!」

 

「はっ!」

 

 

天竜は中国方面に向かった。

その先に何が待っているとも知らずに......

 




曲名瀬家2代との掛け合いでした。
さて次回は、本編に戻る前に、番外編の続きを少しだけ挟んどきます。
次回予告
天竜と朧
〜お前が私で、私がお前なのだ〜


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番外編6

更新がだいぶ遅くなりました。
番外編が予想以上に伸びて、
本編は次回に持ち越しです。


15話 元春散る

 

「待て姉者!」

 

 

刀を持って勇猛果敢に妖狼に挑もうと出向こうとする元春を止める隆景。

 

 

「なんじゃ隆景!我らの領土で暴れてるらしい魑魅魍魎はこの元春が討つじゃき!」

 

「違う。豊臣秀長のあの慌てようからして、敵はきっと魑魅魍魎だなんて安い言葉で表せるような相手ではない。大魔王であるはず彼が言う妖狼.....一体どれ程の脅威なのか.....」

 

「じゃあ行ってくるじゃき」

 

「話を聞け姉者!」

 

「何を狼狽えてる?この元春は以前、ヒグマ5頭をまとめてぶっ倒したのを忘れたのか?」

 

「あぁ.....いや、あれはあれで凄かったが、きっと妖狼はヒグマなんかよりもずっと.....」

 

「はんっ!狼なんぞよりヒグマの方が強いに決まってる!しかもこちとら5頭じゃき」

 

「いや、狼じゃなくて妖狼.....」

 

「そんじゃ行ってくる!」

 

「だから話を聞け元春ぅ!!」

 

 

そのまま元春は吉田郡山城を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中国地方内を駆け回る2つの影。

 

 

「うぅ.....科学者にかけっこは辛いよ〜」

 

「吸血鬼のくせにバテてんじゃねぇよ」

 

「玄朔は戦闘型じゃない.....ふぅ、体力は一般人強程度しかないのです。一昼夜走りっぱなしでは流石にバテますよ。なにゆえに自動車なるものを使わないのです?」

 

「エンジン音と震動が邪魔で妖力探知ができねぇんだ。人型妖怪と違って妖狼は妖力がまだらで見つけにくいんだよ!」

 

「ですが、こうしている間にも妖狼は多くの民間人を襲うでしょう」

 

「分かってる!くそっ!」

 

 

天竜は更に走りの速度を速めた。

既に時速300kmは越えている。

 

 

「あの妖狼.....」

 

 

玄朔が呟く。

 

 

「父親と母親は人間に殺されたと言っていた。そして人間のような存在である玄朔の手によって化物にされてしまった......哀れな存在なのかもしれません」

 

「ふっ、甘いな玄朔。それでも科学者か?」

 

「?」

 

 

天竜は言う。

 

 

「人間は生物学的にどこに属す?」

 

「?」

 

「はっきり言おう。人間は生態系とは別枠の部類に属していると考えている。生物はより大きく、より強い力、より強い武器、より強い毒を持つ生物が上位に入る。だが人間はそれらが未熟である為、それだけならゴリラにも劣る。

ところが、人間には高い知性がある。

それがどの生物よりも勝る事ができる方法。

この知性が何より勝る力を生み出し、何より勝る武器を生み出し、何より勝る毒を生み出す。

これらなくして人間とは言い難い。

知性もまた人間のステータスの1つだ。

そう考えると人間が生態系の頂点と捉えられるかもしれないが、それも違う。人間が持つ知性という名の絶対の武器は、人間以外は持たないからだ。

だからこそ人間に天敵はいない。

天敵がいない以上、人間を特別に生態系のピラミッドに組み込むわけにゃあいかん。

だからこそ人間は地球の支配者になった

..........はずだった。

ところがどっこい、人間の天敵が現れた。

 

それが吸血鬼。全ての妖怪の原点さ。

 

吸血鬼が唯一人間に勝っていた。

力だけではない。知性も持っていた。

そして吸血鬼らは人間を食べて生きる。

吸血鬼を含む妖怪集の出現により、人間は再び生態系ピラミッドに戻されたんだ。こうして均衡は保たれた。

だが、納得しなかったのは人間共だ。当たり前だ。頂点から引き摺り下ろされたんだからな。

己を棚に上げて我らを否定しまくった。

妖怪が人間を食べる事は生態系として当然の事なのに、生態系の頂点で有り続けたかった人間は我らを否定したんだ」

 

 

時速300kmでよくもまぁ、ペラペラ喋る。

 

 

「それが今回と何の関係が?」

 

「今回の件であの狼はこっち側になった。全ての生物を見下せる立場にな。それは生物であるなら、この上ない幸福だよ。

あいつに可哀想な所なんてない。憎き人間も簡単に殺せる力を手に入れた。吸血鬼と肩を並べる力を手に入れた。

あいつも心の奥底では仄かに笑ってただろうな」

 

「..........」

 

「だが、俺は奴を自由にする事はできない。

これでも人間共の代表なんだ。王なのだ。俺は女の子が好きだ。だが、男子が嫌いというわけではない」

 

「りょっ.....両刀!?」

 

「違ぁぁぁ〜〜〜う!!!

.....俺は女子とか男子とかではなく、

人間という生き物が好きなのだ。

全ての可能性を持つ人間という生き物が。

叶う事なら、俺は人間として産まれたかった。

だが、俺は吸血鬼だったようだ。

だからこそ俺は人間を愛している。

その人間に牙を向けようとする奴を俺は許さない。

殺さないまでも二度と逆らえぬよう、

死ぬ目にあわせてやる!」

 

「はい.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中国地方とある村。

 

 

「早くっ!逃げるべ!!」

 

「おっかぁ!」

 

 

ある女百姓が娘の手を引き、必死に逃げ惑っていた。奴から逃げる為に.....

 

 

「おっかぁ、おっとうは?おっとうはどこ?」

 

「おっとうは.....後からくるべ!」

 

 

その女の服には大量の返り血が付いていた。

彼女の夫のものだ。

 

 

「このままじゃオラ達まで食われてしまう!

せめて、せめてこの子だけは!」

 

 

だが、奴からは逃げ切れない。

 

 

『ガアアアアアアアアアアァァァ!!!』

 

「くっ!?」

 

「うわああああぁぁぁ!!」

 

 

妖狼はその強靭な腕を振り上げた。

 

 

「避けろっ!!」

 

 

彼女は娘を突き飛ばした。

 

 

「おっかぁ!?」

 

「お前だけは.....生きて.....」

 

 

次の瞬間、女は肩から真っ二つに切り裂かれた。

 

 

「!!?」

 

『ガルグググググ.....』

 

 

妖狼は息絶えた女の肉を貪っている。

 

 

「ひっ.....ひぃ!?」

 

『人間食う。雄も雌も老獪も赤子も』

 

 

妖狼は目標を娘に変えゆっくりと向かってくる。

二本足でゆっくりと歩を進める。

その足は熊のように巨大で、

その手は人間と獣の中間のような形をしている。

妖狼。人狼と似て非なるもの。

 

 

『ガアアアアァァァ!!!』

 

 

妖狼は娘の右腕を食らった。

 

 

「うあああぁぁぁ!!!?」

 

『ガルグググググ.....』

 

 

妖狼に噛まれた。奴らに噛まれた者の末路は.....

 

 

「えっ?」

 

 

急に痛みが引く。そして妙な力も入る。

その瞳の色も徐々に変化していく。

 

吸血鬼も妖狼も人狼も、人間を食べる。

だが食事の時と眷属を増やす時とでは、

その意味合いが変わる。

はっきり言えば、奴らに噛まれた者は問答無用で眷属になってしまう。だがそうなれば、奴らはネズミ算式にどんどん増殖して、そのうち人間を絶滅させてしまう。そうならないのは何故か?

理由は簡単だ。奴らは気まぐれで眷属を作る程度であり、めったに眷属は作らないのだ。では、どうすれば眷属にならないのか?

その方法も簡単。変質する前に食い殺せばいい。もしくは、バラバラに引き裂いてから食すのだ。だから眷属になる事はない。

つまり眷属を作る気がない場合、

その対象は必ず殺されるのだ。

 

 

『おで、仲間いらない。死ね人間』

 

 

妖狼は再び腕を振り上げた。

 

 

「誰か...........助けて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」

 

『ガッガガウゥ!!?』

 

 

遥か遠くから走り抜いて来た姫武将が、妖狼の右手首を斬り落とした。落ちた手首は切られたムカデのように、バタバタと動きまわっている。

 

 

「ひえっ!?きんもちわりぃ!」

 

「姫.....様?」

 

 

毛利両川が1人、吉川元春。

 

 

「石丸じゃねぇか!母親はどった?」

 

「あそこ.....」

 

「なっ!?......................すまん」

 

「姫様逃げて!あいつは化物じゃ!」

 

「来て早々逃げられるか!

あれは私が倒す対象じゃき!」

 

 

元春は愛刀の姫切を構える。

 

 

「うおおおおぉぉぉ!!!」

 

 

元春は妖狼に突撃した。

 

 

『ちっ!』

 

 

妖狼はそれに対して左手で軽くジャブを打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たったそれだけの出来事で、勝敗は決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャブは、パンチの中でも最も早く出せる技だ。

主に敵を牽制する為に使われる。

ところが使ったのは妖狼だ。

地球上で最速の妖怪のジャブ。

妖狼は吸血鬼程の怪力を持たないが、そのスピードで吸血鬼を上回る攻撃を生み出せる。そんな奴が放ったジャブだ。牽制どころでは済まされない。人間にとっては必殺拳にも等しい。

案の定この一発で、元春はダウンした。

 

 

「うがあぁぁ.....」

 

 

顎と鼻が同時に砕けた。

元春の顔面が鮮血にて染まる。

 

 

「ふぐぅ.....ふぐぅ.....」

 

 

口元を手で押さえ、よろめく。

 

 

「姫様!!」

 

「ひえお.....いひあう(逃げろ石丸)」

 

 

顎を砕かれ上手く話せない。

元春はこの一瞬の出来事で、至極冷静になった。

理解したのだ。実力の差を.....

 

 

「ひえおいひあうぅ!!!」

 

「姫様!!」

 

『ガアアアアァァァ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元春の両腕が飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜がやって来た。

 

 

「ああぁ!!?」

 

 

天竜が到着した時には全てが終わっていた。

貪られた女の死体。ボロボロの少女。何かを貪る妖狼。そして.....

 

 

「そんな..........馬鹿なっ!!!」

 

 

 

食われていたのは元春だった。

 

 

 

途端に天竜の脳であの映像が流れた。

あの時も間に合わず、大事な家族だった武蔵は食われ、救えたはずの氏真は見殺しにしてしまった。

あの悪夢が.....

 

 

「また救えなかった.....また俺のせいで!!」

 

「天竜様.....」

 

 

玄朔は言葉が見つからなかった。

どうこの人を慰めればいいのか、分からない。

 

 

『ガルグググググ.....』

 

 

妖狼は天竜に気付き、元春をボロ雑巾のようの捨て、彼を茶化すかのようにこちらに向かってきた。

 

 

『まさか、さっきの連中か?見た目は人間だが、どうやら人間ではないらしいな。どうだ?おでと手を組まないか?

一緒に協力すれば、人間共を根絶やしにできるぞ?』

 

 

人間を食した事で、知能が上がっている。

 

 

「.....ま.....れ」

 

『一緒に食いまくろうではないか!

人間などおで達に比べれば、遠く劣る。

この世界を征するのは人間などではないという事を知らしめてやろう!』

 

「黙れ!!」

 

『!?』

 

「それ以上口を開くな。畜生如きが俺と手を組むだと?馬鹿も休み休み言え。貴様はこの世の公害、生ゴミだ。生ゴミと共闘するなど、糞もまだマシだ」

 

『おでがゴミ!?

許さない.....お前は人間と一緒だ!食ってやる!』

 

「天竜様!?」

 

 

目に止まらぬ速さで妖狼は手を突き入れてくる。

だが.....

 

 

『なっ!?』

 

 

妖狼の左腕を天竜はいとも簡単に掴んでいた。

 

 

「やはり畜生だよ。攻撃が直線的過ぎる。どれだけ速かろうがどこに来るのか読めれば、対処も容易だよ」

 

 

天竜は妖狼の左腕を握り潰した。

 

 

『ギャアアアアアアアアアァァァ!!!』

 

「おやおや、人間のように痛がるじゃないか」

 

『ひぃ!?.....ひぃ!?』

 

 

腰が抜けて、無様に尻もちをつく妖狼。

 

 

「どうした?お前は妖狼だろう?

化け物が恐怖するのかよ。与える側の分際で」

 

『ひぃぃぃ!!?』

 

「拍子抜けだ。俺の血で産まれた癖に、なんたる失敗作か。これ以上見ていられない。吐き気がする!」

 

『ヘギョォッ!!!?』

 

 

天竜は妖狼の頭部を踏み潰した。

 

 

「玄朔、今の内に血液を採取しておけ。

このゴミは焼却処分する」

 

 

妖狼はまだ微動しており、微かに生きている。

 

 

「はっ.....はい!」

 

 

玄朔は慣れた手付きで注射器にて血を抜く。

その後、天竜は魔術で妖狼を焼いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........君は誰だい?」

 

「いっ.....石丸」

 

 

天竜は理解した。この娘の母親は妖狼に殺され、この娘を守ろうとした元春もまた犠牲になったのだと。

 

 

「とよ..........と...........なが.....」

 

「元春!?」

 

 

驚いた。内臓を食われてまだ息があるのか。

なんという執念だ。

 

 

「待ってろ元春。今なんとかして.....」

 

「おい.....」

 

 

言葉を遮るように、元春は呟く。

 

 

「隆景を.....頼む.....戦争は..........起こすな」

 

 

天竜はまた瞬時に理解した。今回の事件を引き起こした原因は豊臣側にある。豊臣のせいで、吉川元春は死亡した。そんな状況を捨て置けば、小早川隆景は必ず抗議に出てくる。それが悪い方向へ進めば、毛利と豊臣の全面戦争にもなりかねない。そうなった場合、毛利が敗北して滅びるは必至。豊臣も毛利を失うのは痛手過ぎる。

元春はそれを案じているのだ。

自分の命よりも家を優先したのだ。

本当に人間共は.....

 

 

「分かった、約束する!」

 

「ふっ.....」

 

 

本当に人間共は馬鹿ばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元春は安心したように、永久の眠りについた。

もしかしたら、これを俺に伝える為だけに必死に生き続けていたのかもしれない。かつて己をドン底まで突き落とした俺を信用して.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後。吉田郡山城にて元春の葬儀は行われた。

妹の隆景の意向で毛利家のみでのものとなった。

 

3日前の隆景は酷かった。元春の死を伝えると彼女は錯乱して、そこら中に弓矢を射まくり、姉の遺品である「姫切」にて近づく人物全てを斬りつける有り様だった。天竜も全身ボロボロになるまで斬りつけられた。隆景は天竜を恨んで斬りつたのではない、元春を失った事に錯乱したのだ。

 

後から聞いたが、彼女の兄である毛利隆元が暗殺された際にも彼女は錯乱して大問題となったようだ。あの時は元春や村上武吉が彼女を諌めたが、2人はもういない。

彼女はもう"ひとりぼっち"だ。

 

 

「うわああああああああああああぁぁぁ!!!」

 

「隆景!」

 

 

錯乱する彼女をなんとか諌めようと歩み寄ろうとする。肉を抉られようとも、天竜は退かなかった。今、彼女を抑えられるは彼だけだった。

その役目を持っていた2人はどちらも俺が殺した。

俺がやらなければならない。

これは俺の義務なのだ。

 

 

「隆景ぇ!!」

 

「いやぁっ!!!来ないでぇぇぇ!!!」

 

 

 

グサリ.....

 

 

 

「!?」

 

「落ち着け.....隆景」

 

 

天竜は隆景を抱き寄せた。

姫切は天竜の右の肺に突き刺さっていた。

だが、吸血鬼には致命傷にもならない。

 

 

「俺は村上武吉を殺した」

 

「!?」

 

「俺は吉川元春も殺した」

 

「..........」

 

 

隆景は天竜が直接手を下したわけではない事も、故意によるものではなかった事も知っている。

 

 

「卑怯なやり方で毛利を追い込み、卑怯なやり方で毛利を降伏に追い込んだのは俺だ。お前をも人質に取り、無理矢理天下人になったのも俺だ。お前は俺を恨む資格がある。

お前にも俺を殺す資格がある。

俺はお前に殺されても仕方ないと思っている。

今この右胸に刺さっているこいつを.....」

 

 

天竜が刺さった姫切を引き抜いて、自身の左胸の心臓部に突き刺そうとした。

 

 

「駄目っ!!」

 

 

だが隆景はその姫切を取り上げ、投げ捨てた。

 

 

「隆景.....?」

 

「あっ.....」

 

 

2人の視線が重なった。

天竜の美しくも哀しき紅い瞳に、

隆景は顔を赤らめて目を逸らした。

 

 

「隆景」

 

「.....っ!?」

 

 

天竜は隆景に口付けをする。

そしてそのまま押し倒してしまう。

 

 

「豊臣..........秀長?」

 

「これが外道である事ぐらい理解している。だがこんな事ぐらいでしか、お前を繋ぎ止めておく事ができないんだ」

 

 

そんな俺の頬に隆景は手を伸ばし、いつの間にか流れていた涙を拭った。

 

 

「..........」

 

 

彼女は何も喋らなかった。

ただ仄かな笑顔を作って、天竜を受け入れた。

 

 

 

 

「お前は.....強いな」

 

 

 

 

2人は再び口付けをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは今宵限りの出来事。

夜が明ければまた主君と家臣に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葬儀に出席しようとした良晴は、身内だけで行いたいという隆景の意思を汲んで、城を出てきた所で、一服していた天竜と出くわした。

 

 

「天竜か。よく来れたな」

 

「四国戦の後始末に色々追われていて忙しかったが、関係者である以上来るしかないからな。まぁ、お前同様門前払いされたんだが.....」

 

「そうじゃない。よくノコノコやって来れたなって言ってるんだ!」

 

「..........」

 

 

良晴はこの上ない程激怒していた。

 

 

「なんだってそんな顔ができるんだ!!」

 

 

天竜は無表情だった。

怒るでも泣くでも笑うでもない。虚無の表情。

 

 

「なんだ?泣いて欲しいのか?

『ごめんよ〜俺が悪かった〜』なんて大声で喚いて、貴様の前で無様に泣き散らせば、気が済むのか?器の小さい男だな」

 

「黙れ!!元春の為に何か思ってやる事はないのかと言っているんだ!」

 

「ないね」

 

「手前ぇ〜!!!」

 

「俺は退けと先に忠告したんだ。だが、奴は自らの意志で妖狼に挑んだ。完全に自業自得だろう」

 

「手前ぇに人の心はないのか!!」

 

「それもないね」

 

「ぐっ.....!!」

 

「だが、こちらとしては好都合だ。

今回の実験結果で妖狼の生態がよく理解できた。今後は慎重に研究を進め、いつぞや、ウルフマンソルジャーの軍団を完成させる事ができるかもしれない」

 

「実験!?.....................狂ってる!!」

 

「壊れているだけだ」

 

「くっ.....!!元春はこいつの下らない野望の為に殺されたってぇのかよ.....これじゃあ、あんたが否定した宣教師達と同じだ!!」

 

「下らないだと?世界平和がか?」

 

「あんたはそれを成し遂げる為に何人犠牲にするつもりだ!」

 

「では逆に問う。お前ならできると?

全く犠牲を出さずに平和を作れると?」

 

「分からない.....だが俺はやってみせる!

全ての実を拾ってやるさ!」

 

「それこそ愚かだ」

 

「何っ!?」

 

「貴様はそれを民主主義かなんかと勘違いしているかもしれないが、それはただの共産主義・社会主義だぞ?」

 

「.....っ!?」

 

「皆が幸せになるのを目指しているのに、結局は皆が不幸になってしまう。それは所詮、夢物語なんだよ」

 

「それは.....」

 

「現代教育の悲劇だな。共産的教育が馬鹿な左翼を増やす。そして、そいつらは伝染病のように増殖していく。考えれば信奈達も貴様に毒されたようなものだったな」

 

「手前ぇ.....」

 

「"腐ったみかんの方程式"って知ってるか?」

 

「天竜ぅぅぅ!!!!!!!」

 

 

良晴が天竜に殴りかかる。

だが、あべこべにねじ伏せられてしまった。

 

 

「ぐがあぁっ!!?」

 

「はい残念。相変わらずの弱さだな良晴。

もうちょい"頑張れ"よ」

 

「!?.....................おのれぇぇぇぇぇぇ!!!!」」

 

 

彼は自らの生徒に「頑張れ」とは決して言わない。頑張れはそれまでの努力を否定する事に繋がるからだ。

だから彼は「頑張っている」と言う。

逆に彼が頑張れと言う時は、

彼が相手を最高に貶している時なのだ。

 

 

「あぁ.....分かったよ。強くなってやる。

強くなって、あんたを否定してやる!!」

 

「ほう」

 

「だから俺に.....剣道を教えろ。

武術を教えろ。戦略を教えろ。陰陽術を教えろ!」

 

 

天竜から技を盗んで、その技でこいつを殺してやる。

 

 

「いいだろう!!教え込んでやるさ!

強くなれよ良晴。

強くなってこの心臓を獲ってみせろぉ!!

それまで精々"頑張れ"よぉ〜!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は何をやっているのだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからだ。妖狼の血を受け継ぎ、

人狼となった少女「石丸」

天竜は彼女を義妹として引き取り、

逆に豊臣秀秋を隆景の義妹にした。

だが秀秋は中国地方に向かうのを拒否し、

未だ小早川姓を名乗らずに大坂城に住んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石丸はその後、豊臣秀次と名乗った。

 




これが元春事件の真相です。
原作で良晴と隆景がフラグ立ていたので、
こっちでは天竜と立ててみました。

原作キャラの姫武将まで殺してしまったこの物語。
どないして収集つけようか.....


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第七十五話 天竜と朧

超超超更新遅れました!
色々あったとです!
では最新話とです!


常陸国、太田城にたどり着いた天竜はフラフラの身体で城内に入ろうとする。

 

 

「大丈夫ですか天竜様?」

 

「むぅ.....昨日の性行でレオからいくらか精力を頂いたが、全く足りなかったようだ」

 

 

堅い笑顏を作り冗談を言う天竜だが、彼は刀を杖代わりにしないと立てない程、重症だった。

 

 

「なんだって突然.....」

 

「何も驚く事ではない。俺の死期が近づく時はいつだって突然だ。俺は常に断崖絶壁に追い込まれているような存在。俺は無敵の化け物であるが、同時に可弱い生物でもある。生命の糸はいつも千切れかけだ」

 

 

そう言い、天竜は太田城内に入っていく。

 

 

「天竜様っ!」

 

「来るなベルフェゴール!俺はこの先どうなるか分からない。次会う時は元気な姿か、それとも無様な死骸か.....

最期の瞬間は、独りで終わりたい。

できれば好いた者に無様な死骸を見せずにな。

だから頼む。なるべく早く終わらせるから.....」

 

「天竜様.....」

 

「さよなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太田城に1人で入城した天竜。早速、朧配下の兵達に囲まれる。

 

 

「邪魔だ貴様ら。吸血鬼になってるからとはいえ、今の俺でも消し炭にする事くらいわけないぞ」

 

 

そんな時、懐かしい顔に出会った。

 

 

「お待ちしておりました太閤殿下。朧様がお呼びです」

 

「高虎!?」

 

「話は向かう途中で致しましょう」

 

「..........ふん」

 

 

天竜は招かれるままに、太田城天守へと向かっていく。

 

 

「お久しぶりです太閤殿下」

 

「あぁ、お前が裏切ってから3年6ヶ月と14日だな」

 

「うっ.....」

 

 

重い圧力をかけられる高虎。

 

 

「かような所が私には苦手でしたよ!」

 

「ふん、そうかい」

 

「でもそんな所も、あの方にそっくりだったりする」

 

「そっくりも何も、あいつと俺は同一人物だからな。あいつに噛まれたのか?」

 

 

天竜は高虎の瞳の色と、噛み傷から判断する。

 

 

「自ら進んでその道を選びました。私は貴方様を裏切って、朧様に付いていく事選んだのです。これくらいの代償は当たり前です」

 

「代償?本当にそうだろうか?」

 

「えっ?」

 

「吸血鬼は悪魔と似たような存在だ。お前は朧という悪魔に魂を売った。悪魔を崇拝した。その上でお前は朧に悪魔にしてもらった。それは信教者が天使にして貰えるくらいの光栄であろう。

お前は朧と肩を並べる存在になったのだ。高嶺の花も目の前にしたのだ。これ以上の幸運もあるまい。偽善者ぶるのはよすこった」

 

「...........何もかもお見通しですね。

...........本当にあの方にそっくりだ」

 

 

高虎は哀しげに言った。

 

 

「朧も死にかけているのだろう?

元は同じだけあって感覚的に分かる」

 

「はい.....」

 

「恐らく今日でどちらが生き残るかが決まるだろう。お前としちゃあ複雑だろうな。想い人を殺すかもしれん男と話すのは」

 

「............」

 

「そういやお前、童貞臭くねぇな。

もう朧とヤったのか?」

 

「なっ.....!?」

 

「自分の分身が男とヤったなんて複雑だが、とりあえず言っとくよ。童貞卒業おめでとう」

 

「貴方は相手の性事情が臭いで分かるのですか!?」

 

「うんや?」

 

「えっ?」

 

「その分だと本当にヤったようだな」

 

「!?.....................図りましたね天竜様!」

 

「ふっくくくくくく.....二度ととそうは呼ばせまいと思っていたが、久々に呼ばれると気分がいいな」

 

「むぅ.....」

 

「なるほどなぁ.....よし」

 

 

天竜が自らの首に指を突き入れた。

 

 

「なっ!?」

 

 

しばらく喉のあたりをグチュグチュとかき回し、引き抜いたかと思うと、喉の傷は瞬時に再生した。そして.....

 

 

「これでどうかしら高虎?」

 

「うえぇっ!?」

 

 

天竜の声が女性のものになった。これは朧の声だ。

 

 

「声帯を作り変えてみたのよ。元々演技が上手いお陰か、女性口調も不思議と容易にできるわ」

 

「だめだっ!本物にしか見えぬ!

朧さんはただでさえ中性的な顔たちで、胸もそれほど大きくはない。天竜様が女性口調になれば見分けなどつくわけがない!

だめだっ!これは朧さんじゃないんだ!

しかたない!天竜様!裸になって下さい!

それで朧さんとの見分けをつけます!」

 

「混乱しすぎだ。気持ち悪い」

 

「ガーン(;´Д`)」

 

 

声と口調が戻る。

 

 

「個人同士ではさん付けなんだな」

 

「あっ.....いや、その.....」

 

「仲良いじゃんか。お似合いだと思うぜ?俺も久々に自分の奥さんズとイチャイチャしたいよ」

 

「天竜様.....」

 

 

これから起こりうる事柄を知っている高虎は複雑な表情をする。

 

 

「気にするな高虎。俺と朧は元より1人の存在。別れて駄目だったのなら、再び1人に戻るだけ。その際に、人格を支配するのが俺になるか奴になるかだ。お前としちゃあ、朧の方に生き残ってほしいのだろうがな」

 

「そっ、そんな事はございませぬ!..........私は既にあの御方との折り合いはつけました。生き残るのが貴方様であれ、あの御方であれ、どちらにも忠誠を誓う覚悟であります」

 

「.....大した忠誠心だ」

 

 

 

 

天竜は天守閣の前のとある部屋に通されていた。

 

 

「朧様の前に、ある御方に会ってもらいます。では.....」

 

 

そう言って高虎は部屋を後にする。

そして、入れ替わりに入室した人物が。

 

 

 

 

 

「お久しぶりですね伯爵」

 

「.....サンジェルマン」

 

 

 

 

 

サンジェルマン伯爵。豊後での大友宗麟との対決以降、再び姿を消していた謎の錬金術師。

 

 

「やっぱりお前は朧側の人間だったか。お前の後ろに誰かが黒幕として存在してるのは何となく予想できていたが、まさか自分の分身がそれとはな」

 

「私はオボロ様の命にて参上仕りました。貴方様に内密にしていた謎を全てのお教えするようにとの事。何でもお聞き下さりませ。可能な限りお答えいたしましょう」

 

「奴にしては気前がいいな。これから死ぬにあたって、全ての仕事やら野望やらを押し付けようとしているのか。それとも俺を無知のままに殺すのが気に食わないのか.....」

 

「恐らく両方でありましょう。どちらの結果に転んだ場合でも、共通の糧を得られるようにされたいのかと」

 

「そんじゃ遠慮なく問わせてもらおうか。サンジェルマン、お前は何者だ。何故朧に付き従っている?」

 

「私はワラキア公国軍にて軍師を務めてまいりました。対オスマン帝国戦の戦略を立てたのは私でございます」

 

「お前は朧の眷属の吸血鬼なのか?」

 

「いえ、私は不老と時間転移の術を用いておりますが、オボロ様の眷属ではございませぬ。吸血鬼の血は申し分程度に持っていますが、戦闘向きではありません」

 

「利休と宗麟に錬金術を教えたのは?」

 

「偶然出会って、彼女らに求められたが故に伝授しました」

 

「嘘をつくな。錬金術は使い方を間違えれば、世を惑わす危険な代物だ。彼女らに錬金術を与えたのには意味があるはずだ」

 

「やはり貴方様には敵いませんね。勿論今後のドラキュラ軍の為でございます。双方にも、このサンジェルマンはクリスチャンであると伝えておりました。それを信じた彼女らはキリシタンとなり、錬金術はドラキュラ伯爵を滅する為のものであると確信し敵対関係にしました。しかしこれには訳があります。あえて十字教側に居を構えさせる事により、十字教の闇の部分を悟らせ、最終的にはこちら側に引き込むという目的でございました。その見込みがあったのがあの御二方でございまする」

 

「ベルはともかく、利休はそうか?

あいつはレオ以上にタチ悪いぞ?」

 

「さぁ?それは貴方様次第でございます」

 

 

俺の行動次第で利休もこちら側に引き込めるのか。

 

 

「では、お前はなんだ?

眷族でもないのに何故朧に付き従う?」

 

「それは今回の件とは無関係ですのでお答えかねます」

 

「...........そうか。なら仕方あるまい」

 

 

追求はしなかった。それ以上に聞くべき事柄があったのだ。

 

 

 

 

 

 

「では聞こう。俺は誰だ?」

 

 

 

 

 

 

「...........」

 

 

至極可笑しな質問だ。だが、今の俺にとってはそれが最重要観点であるのだ。

 

 

「俺はずっと、俺と朧は互い平行世界を生きる同一人物。神共のせいでこの世界にて一つの肉体に封じ込まれてしまった。始めは朧が全身を支配し、次は俺。やがて二つの人格は肉体ごと二つに分かれてしまった。そう聞かされてきた。だがそれだと、おかしな点がいくつもある。

奴は言った。自分は本物で、お前は偽物だと。

始め俺はドラキュラ伝説を作った張本人は朧なのだから、ただその力を受け継いだだけの俺がドラキュラを名乗るのは筋違いであると言われているのだと思っていた。だが違う。奴が言いたかったのは、俺はドラキュラとしてだけではなく"天竜としても"偽物と言っているようなのだ。これについてはどう説明する?」

 

「お答えはできますが、よろしいのですか?それを知れば、貴方はもう二度と戻れなくなりますよ?」

 

「無論そのつもりだ。話せ」

 

「分かりました。では.....」

 

 

サンジェルマンは一呼吸置き、やがて口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方は勘解由小路天竜ではありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....................はぁ!?」

 

「貴方は勘解由小路天竜ではないのです」

 

「何を言って.....」

 

「勘解由小路天竜という名を指せる人物はただ御一人。

オボロ様だけでございます」

 

「ふざけるな!俺と朧は平行世界を互いに生きる同一人物。どちらも勘解由小路天竜であろう!

..........はっ!?」

 

 

口にして気付いた。それを疑問に思って彼を問いただしたのではないかと。

 

 

「確かに豊臣天竜秀長を指すとするならば、貴方様以外にはおりますまい。ですが、勘解由小路天竜はオボロ様だけでございます」

 

「どういう意味だ!!」

 

 

 

「"勘解由小路天竜という個人の性別が女性だから"です」

 

 

 

「.....................な!?

何馬鹿を言ってるんだ!俺は男だぞ!?」

 

「貴方は確かに男性です。ですが、勘解由小路天竜個人の性別は女性です。1,990年4月4日4時44分に誕生した勘解由小路天竜はこの戦国時代でオボロと名乗る現在まで性別は一度たりとも変化しておりません」

 

「馬鹿な!?って事はつまり.....」

 

「男装ですよ。幼少期の時点で男装を始めた彼女は24歳の教師になった時点においても男装を貫き、家族を除く他の誰にもそれを悟らせておりません。正妻の明智光とは同性婚という事になります。ドラキュラとしてこの世界で戦争を引き起こした時点においても男装を続けておりました」

 

「待て待て待て!では、俺は何だ!?仮に勘解由小路天竜が女だったとして、平行世界に男の俺がいてもおかしくはあるまい!」

 

「それはありません。他の一般人ではそれが通じるかもしれませんが、勘解由小路天竜ではそれが例外となる。勘解由小路天竜はどの平行世界においても女性でございます」

 

「何故だ!?」

 

「勘解由小路天竜が神の仔だからです。人間とは違う世界観にて生きている。人間に適応される概念は神には無干渉だったりもする。

『時間を表す縦の世界線』においても、『平行世界を表す横の世界線』においても、神の存在は共通。どこにでもいて、どこにもいない。曲がりなりにも神の血を受け継いでいる勘解由小路天竜にはむしろそちらが適応される」

 

「じゃあ..........誰なんだよ」

 

「はい?」

 

「俺は一体誰なんだよ!!」

 

「貴方は.....」

 

 

サンジェルマンは再び一呼吸置き、話す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方は勘解由小路天竜が生んだ妄想。

それが具現化した存在に過ぎません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?それって.....どういう」

 

「貴方様は勘解由小路天竜が何故男装をしていたかお分かりですか?」

 

「何故ってそりゃあ.....」

 

「そう。女性が主に男装をする理由は主に四つ。

一つは、趣味や性癖。

二つ目は、なんらかのペナルティか劇など。

三つ目は、正体を隠す為。

そして、最後は.....」

 

「...........性同一性障害か」

 

「当たりです。勘解由小路天竜の性別は女性でしたが、心は男性であった。ずっと自身を男性であると信じて生きてきた。そしていずれは男性の肉体も手に入れたいと考えていた。その機会が巡ってきたのが、この世界にやってきての事。霊気の溢れるこの世界では彼女の思うのままの事が現実となった。

一時的には男性に変幻して、その肉体を使って思う存分女性と性行でその欲を解放したりもして.....」

 

「そういやレズビアンだったなあいつ。」

 

「だがそんな時、異変は起きてしまった。勘解由小路天竜はドラキュラ伯爵として、ガブリエル・クロウ・アンダーソンに討伐されてしまった。その影響により、勘解由小路天竜にはもう一人の人格、もう一つの魂が宿る事となる。それが貴方様。削られた勘解由小路天竜の魂に高い霊力が覆い被さった事が原因だったと思われます」

 

「..........つまり、俺は朧から生まれた単なる記憶媒体、ノイズ、邪魔者か。ある意味朧は俺の母親みたいな存在だったわけか。いや、双子の姉と言うのが正しいかな。それで、何で俺は男なんだ?」

 

「性同一性障害であられた勘解由小路天竜は、自身を男性であると信じ、真の男性でありたい、なりたいと待望していた。呪いとも言える程に.....

そうして貴方様という妄想が生まれ、それに命が宿り、もう一人の勘解由小路天竜として具現化した。そして、宿主である勘解由小路天竜から分裂した。

貴方が満月の夜のみ肉体が女性化してしまっていたのは変化ではなく、月光によってその真の姿が顕になっていただけなのでございます」

 

「なる程.....そういう事だったのか」

 

 

天竜は達観してそれを聞いていた。

 

 

「貴方様は上杉景勝様の母親が何方かご存知でしたか?」

 

「..........そういう事な」

 

「はい」

 

「俺はあいつの父親だが、母親は誰なのか?

実を言うと、俺はそれを知らなかった。

直感で"影"こそが自らの娘であると気付いたというのに、如何なる経緯にてあの娘が産まれたのか.....俺はそれを知らなかった。知ろうとしなかった。知ろうという気が起きなかった。いや、知ろうという気が打ち消されたんだ」

 

「オボロ様は元より貴方様の宿主でございます。

ある程度の記憶改竄は容易の事」

 

「ふっ.....要するにだ。俺は影の父親じゃなく.....

"母親"だったわけだ」

 

「正しくは勘解由小路天竜が母親でございます」

 

「うるせぇ.....あいつは俺の娘だ。

たとえ血の繋がりはなくとも、生物としての繋がりはなかったとしても、俺は家族としてあいつを愛している。それは秀頼や秀勝にも言える」

 

 

佐々木小次郎との間に生まれた息子、豊臣拾秀長。

勘解由小路光との間に生まれた娘、豊臣闇秀勝。

 

 

「そんで?この俺様を孕ませるような度胸のある男は何処のどいつだ?」

 

「それは禁則事項です♡」

 

「オッサンのそのセリフ聞いても何のご褒美にもならねぇよ」

 

「それは残念でございます」

 

「まぁ、大方の見当はついてるよ。じゃあ次の質問だ。人格が二つに分かれたまではいいが、何故俺達は肉体まで二つに分かれた?何故分ける必要があった!」

 

「はて?」

 

「とぼけるな!貴様らと弾正が裏で繋がっていた事は知っている!肉体を二つに分けた事にも意味があるのだろう!」

 

 

その時だ。

 

 

 

 

「うふっ、意地悪されないで教えてあげたらどうなの?

サンジェルマン殿?」

 

 

 

 

「なっ.....!?」

 

 

突如現れた齢10歳程の少女。

あの女によく似た、あの女の雰囲気を持った.....

 

 

「弾.....正.....?」

 

「違います。私は娘の久通。松永彦六久通ですわ」

 

「弾正の娘!?」

 

「貴方の事は何と呼べばいいのでしょう?

太閤殿下?魔王陛下?天竜オジさん?

それともお父様?」

 

「なんだと!?」

 

「私は朧様が我が母を斎藤道三から寝取って産まれた娘ですわ。だから貴方は私から見ればお父様に値する人物だという事。パパとでも呼びましょうか?」

 

「くっ.....!?」

 

「母上から記憶を半分頂いてるので、私を松永久秀の分身か生まれ変わりと捉えてもらってもかまいませんわよ?

うふふふふふ.....」

 

「...........」

 

「ピ●コロ大魔王から生まれたマジュニ●みたいなものですね」

 

「空気を読んでくれ伯爵」

 

 

時々、サンジェルマンがいつの時代の人間か分からなくなる。

 

 

「貴方様は『ガリヴァー旅行記』という書物を読まれた事はありますか?」

 

「読んだ事はある。だがそれが何だ!」

 

「 ガリヴァー旅行記第三篇。ラピュータの後に訪問するのがバルニバービの医者。医者が対立した政治家を融和させる方法を思いつく、二人の脳を半分に切断してつなぎ合わせるという手術。節度ある調和の取れた思考が可能になるという」

 

「それはいい意味で捉えるものなのか?半分は皮肉を綴った言葉だろう」

 

「ですが今は、これが最も例えやすい状況です」

 

「それはつまり、一度二人に分かれた俺と朧が融合する事で、より強いドラキュラが誕生するという事か?」

 

「強くなったピ●コロが神様と再び同化する事によって、スーパーナメ●ク星人神コロ様が出来上がるようなものです」

 

「非常に分かり易いが、空気を読んでくれ伯爵!

どんだけピ●コロ好きなんだお前は!?」

 

「ほっほっほ!」

 

 

サンジェルマンが本当に何者か分からなくなる。

 

 

「つまりだ。俺と朧は再び同化して、本来のドラキュラに戻る。人格は朧が支配し、元の勘解由小路天竜となる。俺はその糧となる運命だったというわけか。それも何年も前に決まっていた.....」

 

「はい」

 

「うふっ」

 

「そうか...........ふくくくくくくく」

 

 

天竜は静かに俯いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい気になるのも大概にするのだな糞虫共!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!

黙って聞いておれば何だ?この俺が偽物?この俺が記憶媒体?この俺が利用されていた?この俺が朧に喰われる運命であった?

ふざけるな!巫山戯るな!!

俺は俺だ!豊臣天竜秀長だ!本物も偽物もない!

運命などクソ喰らえだ。決まった未来など存在せん!

未来とは.....歴史とは作るものだ!

自らの意志によって築き上げるものだ!

他人の都合如きに邪魔されてたまるか!

もう一度言う。

いい気になるのも大概にしろ糞虫共!!」

 

「ドラキュラ様!!」

 

「お父様!!」

 

「貴様を認知した覚えは無いぞ松永久通!」

 

「.....っ!?」

 

「朧なんぞ知った事か!俺は俺の道を行く。邪魔をする障害は全て排除する!」

 

「お待ち下さいドラキュラ様!それはいけません!

兼ねてからの計画に差し障ります!」

 

「黙れサンジェルマン!その計画はこの俺を滅ぼす事であろう。それを俺が黙って受けると思うか!」

 

「くっ.....!!こうなればドラキュラ様といえど、このサンジェルマン。容赦しませぬ!」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!

弱体化しているとはいえ、貴様らを縊り殺す事くらいわけないぞ!」

 

 

天竜はサンジェルマンに対して睨みを効かせる。その次の瞬間、サンジェルマンは壁に向かって叩きつけられた。

 

 

「うがぁっ.....!?」

 

「伯爵様!!」

 

 

久通がサンジェルマンに駆け寄る。

 

 

「どけ」

 

「嫌でございます!」

 

「邪魔だ小娘。貴様如きの始末に残り少ない魔力を使いとうはない」

 

 

天竜は懐より拳銃を抜く。

 

 

「っ.....!?」

 

「許せ。俺はここで倒れるわけにはいかぬのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幼女に銃口を向けるとは、らしくないわね。

それだけ追い詰められてるって事か。

まっ、私も人の事言えないけどさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朧!?」

 

 

部屋の入り口に松葉杖を付いた朧がいた。

 

 

「とりまそれ没収ね」

 

「うっ.....!?」

 

 

天竜の握っていた拳銃が見えない何かに弾き飛ばされた。

 

 

「いくら往生際とはいえ、勘解由小路天竜という個性を見失っちゃいけないわよ?」

 

「それを言うお前はどうなんだ?身体は女でも中身は男なんだろ?自分ながら随分と可愛らしくなってるじゃあないか。口調も格好も女性物。軽くだが紅も通してる。とても性同一性障害とは思えないね。案外俺の好みだぜ?」

 

「お褒めいただき結構..........正直、いくら人体変質をしても自身が男ではないという実感はあったわ。それでも私女なんだと.....でも貴方は違う。身も心も男性体。

だからそれで良かった。私には叶えられなかった夢を希望を貴方が叶えてくれるのならそれで.....

でも貴方の最近の行動には目に余るものがある。

必要以上に眷属を増やし、神に喧嘩を売るなんて。

いい加減イライラしてきたわ」

 

 

朧が怒りの篭った視線をぶつけてくる。

 

 

「あぁ、俺もだ。本当にいい加減決めないか?

どちらが本物であるかどうかを?」

 

「えぇ、いいわよ。ストレスも解消できるし身体も元に戻る。一石二鳥とはこの事ね」

 

「余裕ぶっこいてられるのも今の内だぞアバズレ」

 

 

 

「ふひっ..........くひゅっ!.....」

 

「ふっくくくくくくくくひゅひゅひゅ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人同時に笑う。天竜の専売特許とも言えるこの高笑い。果たして最後まで立ち続け、この高笑いをできる者はどちらであろうか?

 

 

「ドラキュラ様.....」

 

「お父様.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは神のみぞ知る事であろう。

 

 

 




いつもより盛大に巻いておりま〜す!
時間が開いてしまった事もあって急に急急展開。
いきなしクライマックスでございます。
これにて天竜の謎の一辺が明かされる事となりますた。
さて生き残るのは天竜か朧か!
次回予告
二人の決意
〜背負うぞ。お前の覚悟を〜


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第七十六話 二人の決意

最近自分の作品を見返してみると誤字脱字があまりに多く、顔が真っ赤に染まります。ぼちぼち修正していく予定です。


朧によって築城された太田城天守閣。

そこで、二人のドラキュラが睨みを効かせていた。

今より、命を賭けた決闘が始まるのだ。

観客は松永久通、サンジェルマン伯爵。

 

 

「朧..........いいか?」

 

「ん?」

 

「仮に俺が倒れた場合、お前は今後どうするつもりだ?」

 

「ん〜.....とりあえずはワラキアに戻ろうかな。

そこからワラキア公国をルーマニア帝国にして、

中途半端だったオスマン帝国討伐をやり遂げる。

それからウザいカトリック教会と、プロテスタント教会あたりを潰して、欧州を征服しようと思ってるわ」

 

「この日本はどうなる!」

 

「知らないわよ。何もしなくったって100年ちょいは保つでしょ?私は降りかかる火の粉は元から絶つ主義なの。脱亜滅欧よ。日本にいつまでも拘ってらんないわ」

 

「..........なる程。いくら同一人物とはいえ、その思想はだいぶ違うな。俺はこの故郷日本を愛し、日本を大国にしようと考えている。だが、お前にとってのそれはワラキア公国の方なんだな。お前は500年ワラキアで過ごし、俺は30年日本で過ごした。年数は明らかに違うが、その想いはなんら変わらない」

 

「は?.....500年?」

 

「何っ?」

 

「あ〜〜そういう勘違いしてたのか〜。

サンジェルマン!なんで説明してあげなかったのさ!」

 

「はい。問われなかったもので」

 

「あんたの律儀さがたまにムカつくわ」

 

「何の話だ!」

 

「知らないの?私がワラキアでドラキュラとして蜂起したのはほんの100年前。残りの400年は別で過ごしたわ」

 

「何だと!?.....一体、何処で!?

一体何処で過ごしていたんだ!?」

 

「..........教えてあげない」

 

「朧っ!!」

 

「意地悪してるわけじゃないわ。説明が難しいのよ。きっと貴方は理解できないだろうし、納得もしない。

貴方はまだ"知るべき立場"にもないわ」

 

「..........」

 

「そんなに心配しなくても、私を喰えば私の記憶は全部貴方のものになる。未だ謎にしている事柄も全て分かるようになるわ」

 

「!?」

 

「勘違いしないで。それは貴方が万が一.....いえ、億が一、兆が一、京が一私に勝てた場合の為の保険よ」

 

「ふっ.....それが例え、那由多の彼方だとしても、俺には充分すぎるよ。ってか、俺ら2人がこの台詞言うの可笑しくね?」

 

「ふふふ.....」

 

「んじゃ、始めますかい」

 

 

天竜は屈伸運動をし、戦闘の準備をする。

 

 

「俺が負ければお前さんは欧州に帰って、日本は放ったらかし。王様が突然いなくなって国内は大混乱。植民地にされるのも時間の問題か。こりゃ意地でも勝たんとなぁ」

 

 

指の関節をボキボキと鳴らす。

 

 

「貴方に倒せるかしらぁ?こ・の・私をぉ」

 

「倒すさ。倒れてもらわなきゃ困る」

 

「さっすがもう一人の私!

でもどうやってぇ?偽物が本物に勝てんの?」

 

「偽物が本物に劣るとは限らないよ」

 

 

天竜は右手を挙げる。すると右手が仄かに輝きだす。

 

 

「むっ?」

 

「お前も知ってるだろう?我が一族の家訓をよぉ」

 

「まさか!?」

 

「召喚!!」

 

 

天竜の上方に何かが出現する。

 

 

 

 

「『勝てば官軍。負ければ賊軍』

勝てばいいんだよ。勝てば!」

 

 

天竜が召喚したそれは.....

 

 

「とっ.....トマホーク!?」

 

 

『トマホーク』

アメリカ合衆国で開発された巡航ミサイル。

全長はブースターを除けば5.56m。

速度は時速880km。

村上水軍を壊滅させた際に使ったミサイルだ。

 

 

「俺は勝つ為に手段は選ばない!」

 

 

そこまで広くない天守閣内にてミサイルを召喚したのだ。ミサイルそのものを避けられても、爆風に巻き込まれるのは必須。

 

 

「でも巻き込まれるのは貴方も同じでしょ?」

 

「ミサイルの爆風ぐらいで死なないのはお前も俺も同じだろ?第一、俺とお前の命は繋がっている。お前を殺しちまうような攻撃を俺がするわけ無いだろ?」

 

「ふふっ.....」

 

「Οίδημα εμπόδια!」

 

 

サンジェルマン保護結界にて自身と久通を包む。

 

 

「くらえやぁっ!!!」

 

 

そしてトマホークは発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇっ!?」

 

 

外で待機していた大友宗麟は驚愕する。

突如太田城の天守閣が爆発したからだ。

太田城は、常陸国が朧のものとなってから大幅に改築され、小田原城にも負けず劣らずの巨城だった。だからこそ、その爆発は常陸国の住民の殆どが目撃するものとなる。

 

 

「朧さまぁぁ!!!」

 

 

同じく外で待機していた藤堂高虎も叫ぶ。

その時だ。

 

 

「おのれぇっ!!」

 

 

翼を生やした朧が爆炎の中から飛び出した。

 

 

「無茶をしやがる!」

 

「まだまだまだまだぁ!!!」

 

「くっ.....!!」

 

 

朧のさらに上空に天竜はいた。

大量のトマホークを引き連れて.....

 

 

「避けれるものなら避けてみよ!!」

 

 

天竜の合図と共に、大量のミサイルが朧に向けて発射された。

 

 

「調子に乗るのもいい加減にしろぉ!!」

 

 

朧の様子がガラリと変わる。口調もいつもの女のものではなく、本来のドラキュラのものへと、身も心も変質したのだ。

 

 

「そんなオモチャ、蹴散らしてくれる!」

 

 

翼を大きく広げた朧はその羽ばたきによって、突風を引き起こした。その突風は時速880kmで突出してくるミサイルの軌道を次々に変えていく。軌道を変えられたミサイルはあちこちの方向に飛んで行き、各地で火柱を上げる。

そのうちの一本が宗麟らの方へ落ちる。

 

 

「えっ!?」

 

「そんなっ!?」

 

 

宗麟にも高虎にもどうする事もできない。

 

 

「 Οίδημα εμπόδια!」

 

 

その時だ。謎の結界が張られ、ミサイルはその結界に衝突し爆発した。

 

 

「爪が甘いよ塩ちゃん。今はベルちゃんだっけ?」

 

「 Earl Saint-Germain(サンジェルマン伯爵)様!!」

 

「あれ?ベラちゃんの影響でやめたんじゃないのその喋り方?」

 

「あっ.....いえ.....奈多も Not in(いない)ですし」

 

「知らないよぉ?彼女地獄耳だしね」

 

「うぅ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラオラオラオラァァ!!!」

 

 

続けざまにトマホークミサイルを発射する天竜。

 

 

「ハアアアアアアアアアァァァァ!!!」

 

 

それを翼の羽ばたきによって跳ね返す朧。

両者の力は互角だった。

同一人物である以上当然と言えば当然かもしれないが、朧にはドラキュラとしての長年の経験がある。にもかかわらず、こうも実力が僅差となっているのだ。朧も相当限界がきているという事なのだ。

 

 

「いい加減にくたばりやがれぇぇぇ!!!」

 

 

天竜が再びトマホークを放つ。だが。

 

 

「むっ!?」

 

 

今度のミサイルは、朧の羽ばたきによって軌道を変えることができなかったのだ。

 

 

「なる程。魔術による補強で強度を上げたな?ならば!!」

 

 

朧の身体付きが変わる。全体的に筋肉が隆起したのだ。そしてそのまま、飛んで来たミサイルを受け止めた。

 

 

「なんだとっ!?」

 

 

ミサイルは爆発しなかった。朧が絶妙な加減で衝撃を吸収しているのだ。

 

 

「お返しだよっ!!」

 

 

朧はミサイルを抱え、そのまま天竜の方向へミサイルを投げ返した。

 

 

「ちっ!.......... 因達羅、 波夷羅、摩龜絲疊!!」

 

 

天竜の目の前に、五芒星を形どった保護結界が出現し、ミサイルから天竜を防御する。

 

 

「あ〜あ。惜しい」

 

「はぁはぁはぁ.....」

 

 

あれだけの攻防で、息を切らしているのは天竜だけだった。

 

 

「ふっ.....」

 

 

彼は微笑する。

 

 

「!?」

 

 

天竜が上空に新たなミサイルを召喚する。

 

 

「なにっ!?」

 

 

それは朧も驚愕した。天竜が召喚したミサイルは、トマホークとは比べ物にならない程巨大な柱だったからだ。

 

 

『R-36』通称『サタン』。

ソビエト連邦の大陸間弾道ミサイル。

これは冷戦当時世界最大のもので10個の核弾頭を搭載して敵対国家を攻撃することを目的とされた。西側ではサタンの名称で恐れられる。このミサイルは冷戦時代を象徴する代表的な兵器である。

 

 

「生憎、こいつは通常弾頭だ。お前に死なれちゃ困るし、日本を滅ぼすわけにもいかねぇからな。だが、通常弾頭でもここら一体を焼け野原にするぐらいは容易だぞ!!」

 

「おのれ.....」

 

 

朧は思考する。

天竜だって当然、この巨大ミサイルで私をこの太田城ごと消し炭にしようとだなんて考えていない。下には高虎や大友宗麟がいる。そして、罪なき多くの常陸国の人民が存在する。その者らの犠牲を出そうとしているとは、到底思えない。だから、私の選択肢はたった一つ。

 

 

「天竜!こっちだ!!」

 

 

朧は天竜のさらに上空に飛び上がる。

そう、それが天竜の策略だった。

 

 

「お前は俺だ。だからその思考も読み易い。

俺達の基本は悪だが、同時に王でもある。

王がいるから人民がいるのではなく、

人民がいるから王がいるのだという事。

お前が下の連中を巻き込まぬように上空に逃れる事は初めから予見していたのだ.....よ!!」

 

 

天竜は朧の方向へR-36を発射した。

 

 

「..........」

 

 

朧は静かに黙って.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思い通り」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

 

天竜は気付いた。自分が何処にいるのかを.....

それは朧がいた場所。逆に自分がいた場所に朧がいる。そして、例の巨大ミサイルが自分に向かって飛んで来ているのだ。

 

 

「幻術よ。天竜くん♡貴方は私がただ上空に飛んだように見えたかもしれないけれど、実際に上空に飛んだのは貴方の方。幻術で自身が朧であると錯覚し、この巨大ミサイルを私に預けて、自らミサイルの射線上に移動しちゃったわけ。残念だったわねぇ♡」

 

「おっ.....おっ.....朧おおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「汚い手を使った貴方が悪いわよ。

まぁ、私も人の事言えないけどねぇ」

 

「くそっ!!」

 

 

天竜は再び保護結界を張る。ところがだ。凄まじいまでの突出力を誇るR-36にはそんなもの.....ただのガラスに過ぎない。案の定保護結界は容易く突き破られ、ミサイルは天竜に激突した。

 

 

「ぐげぁっ!!?」

 

 

ミサイルは天竜を先端に貼り付けながら、みるみるうちに上昇していく。

 

 

「ありゃりゃ。これじゃあ宇宙まで行っちゃうなぁ。

どうするんだろ天竜くん?」

 

 

太陽と重なって見えなくなったミサイルを見上げる朧だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はるか上空。日本列島がはっきりと見える、成層圏の部分にまで突入していた。

 

 

「ウオのおおおおおおおおぉぉぉぉれれれれれれれぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

朧と同じように筋肉を隆起させ、ミサイルの軌道を変えて逃れようとする天竜だったが、流石はR-36。ドラキュラの力でもビクともしない。

 

 

「こんな死に方あってたまるかぁぁぁ!!!」

 

 

己の命が懸かっているのに、朧がこれで俺を殺そうとしているとは到底思えない。俺が何かしらの方法で生き残ると見越した上での行動であろう。なめられたものだ。

 

 

「時よ止まれぇぇぇぇ!!!!」

 

 

その瞬間だ。ミサイルの半径40mを謎の結界が包んだ。すると、R-36はその場で停止し、その空間に留まった。

 

 

「ぐっ.....!!」

 

 

その機を狙って天竜はR-36から離れる。その際、熱で張り付いていた彼の生皮がベリッ!と剥がれた。

 

 

「はぁ!!はぁ!!はぁ!!はぁ!!.....」

 

 

この俺が死ぬかと思った。この豊臣天竜秀長が本気で死を実感した。本気で死を恐怖した。こんな事あってたまるか!!

 

 

「はぁ.....はぁ.....ぐげっ!!がぁっ!!.....

畜生.....ここはオゾンが多い.....肺が焼けるようだ。

おまけに全身が凍てつき始めている。

早急に地上へ戻らなければ.....」

 

 

その時、停止中の巨大ミサイルが目に入る。

 

 

「ふっくくく.....いい事思いついた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!?」

 

 

朧が空を眺めているとだ。突然何かが上空で大爆発を起こした。それがR-36によるものである事はすぐに気づいたが、自身が何ともない以上、あの爆発に天竜が巻き込まれた様子はない事も同時に理解できた。

まぁ今現在瀕死中で、

着々と死に向かっている可能性もあるが.....

そんな事を感がえながら待っていると、彼は戻ってきた。まるで隕石のように。

 

 

「なる程、ミサイルの爆風を利用して猛スピードで降下してきたのね。でも、見動きの取りにくい空中では格好の的よ!」

 

 

朧は右手の拳を突き上げ、天竜に迎え撃とうと飛び上がる。

 

 

「ハアアアアアァァァァァァ!!!!」

 

 

天竜の圧倒的不利。誰もがそう思った。

 

 

「えっ!?」

 

 

拳が当たる直前の事。天竜の身体が透け、そのまま幻のように消えてしまったのだ。

 

 

「幻.....術.....!?」

 

 

消えた幻術に変わりにこちらに飛んで来たのはトマホークミサイルだった。

 

 

「ちっ!!?」

 

 

慌てて避ける朧。

だが、そこに一閃。

一発の弾丸がトマホークを貫いた。

 

 

「何っ.....!!!?」

 

 

朧がその弾丸が発射された方向を、吸血の強靱な視力によって睨みつける。そこには.....

 

 

「石田三成!!?」

 

 

遥か2000m先の山中にて、石田三成が天竜から預かった『バレットM82』による長距離射撃をしているのを目撃する。

 

 

「おのれぇぇぇ!!!!」

 

 

咄嗟に右腕で防御姿勢を取る朧だったが、時すでに遅し。トマホークにより朧は爆炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、我が物顔で降りてくる天竜。

 

 

「全く〜、古臭い手に引っかるのねぇ〜朧ちゃん?

それにしても我が軍のスナイパーは優秀だ。孫市に継ぐ名射手だぁ!」

 

「きぃさぁぁまぁぁぁぁ!!!」

 

 

片腕を失った彼女は憤怒の表情を浮かべていた。

 

 

「がぁっ!!」

 

 

掛け声と共に、失われた右腕が生えてくる。だが完全には再生しきれず、筋組織が剥き出しになっている。

 

 

「もういい!!もういい!!

こうなったら九分殺しにしてやるぅ!!」

 

「あらら?完全に怒ってらぁ..........!?」

 

 

 

 

一瞬の油断だった。瞬きの瞬間彼女は天竜の背後に周り、刀を振り上げていた。

 

 

 

 

「やばっ!?」

 

 

天竜の振り向きざまに召喚した『天羽々斬』を振るう。ところが、刃と刃が交わりあった瞬間、お互いの刀は粉々に砕けてしまった。

 

 

「何ぃぃぃっ!!?」

 

「がぁっ!!」

 

 

続けざまに朧は天竜の顔面を殴りつけた。

 

 

「ぐふっ!!...........ふざけんなよ糞アマァァ!!!」

 

「がぁぁっ!!?」

 

 

天竜も同様に殴りつける。

 

 

「この俗物がぁぁっ!!!」

 

「うるせぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

朧のストレートに対し天龍が放ったのは『クロスカウンター』その一発で互いの顎骨を砕いたのだった。

 

 

「うぐぅっ!!?」

 

「がふっ!!?」

 

 

両者ノックダウンとなり、お互いに地面に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜様ぁぁ!!」

 

「朧さん!!!」

 

 

 

 

観客と化していた2人がそれぞれの想い人のもとへと駆け寄る。だが.....

 

 

「「さわるなぁ!!!」」

 

 

声がハモった。ガタガタの身体の2人はそれでも立ち上がる。

 

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

 

朧が何かを召喚した。ミサイルとはまた違う、黒い球体の物体。

 

 

「いっ.....いけない!!あれは原子爆弾だ!!」

 

 

サンジェルマンが叫ぶ。

朧が召喚したのは『ファットマン』

プルトニウムをエネルギーとする原子爆弾。

1945年8月9日に長崎に落とされたものだ。

 

 

「面白い!!」

 

 

天竜も同様に召喚する。

こちらは『リトルボーイ』

ウランをエネルギーとする原子爆弾。

1945年8月6日に広島に落とされたものだ。

 

 

「早く止めなければ!2人共正気を失っている!!」

 

 

サンジェルマンが近寄ろうとするが、彼は見えない壁に妨害されてしまう。

 

 

「これは.....!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『邪魔しちゃ駄目でありんすよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知っているかい天竜?

召喚術ってぇのは、自らそれを作成しているのではないのよ。それだとより複雑な術式を組む必要があるからね。

これは既に存在しているものを移動させてきているの。未来の世界からね。だから、一度見た事あるものしか持ってくる事ができないの。

つまり、パラレルワールドになって、原爆が落とされなかった世界が生まれているのよ」

 

「バーカ。6日や9日に落とされないだけで、日にちを変えて原爆は落とされてるよ。どんな形に弄ろうとも、結局世界の到達点は同じだ」

 

「分かってるわよ!!!

でも私はあの人を救いたい!!

何度生まれ変わっても!何度世界をやり直しても!!」

 

「何を.....!?」

 

「死ねぇ天竜ぅぅ!!!」

 

「お前が死ねぇ朧ぉぉ!!!」

 

 

お互いがお互いに原子爆弾を投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『駄目でありんすよ。

この世界は今までの世界の中でも最も都合の良い世界。

もう一回作るのは難しいでありんすよぉ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「アマテラス!!?」」

 

 

アマテラスは2つの原子爆弾を抱えていた。そしてそのうち、原子爆弾はアマテラスの力によって消滅させられてしまう。

 

 

「アマテラス!会いたかったぜ糞神!!

今川氏真の敵!!

それと、勝千代にかかってる呪いを解きやがれ!!」

 

『まぁまぁ、天ちゃん。今は落ち着きなはれ』

 

「退きなさいアマテラス!あんたの出る幕はないわ!」

 

『そっちの天ちゃんもいい加減にするでありんす。目的を見失っちゃいけないでありんすよ?』

 

「くっ.....!」

 

『わっちには朧の方の天ちゃんに勝ってもらわなければ困るでありんす。遊んでないでさっさとあ奴を喰うがよい』

 

「おのれぇぇぇ..........ツクヨミィィ!!!」

 

 

その呼びかけと共に天竜の背後に月読命が出現した。

 

 

 

 

『久々の呼び出しであるな。全く、我が仔は益々死に難くなりおって、いつになればその身体を我にくれるのだ?』

 

 

 

 

ツクヨミは3年前と同じ姿だった。

 

 

 

 

「ツクヨミ!アマテラスを殺せぇ!!」

 

『おいおい。いつから我は貴様の部下になったのだ?』

 

「いいから殺れぇ!!」

 

『ふんっ.....まぁ良い。

いい加減奴にもうんざりしていた所だ。

ここらでどちらの立場が上か決着を付けてやろうぞ!』

 

「つっ.....!?」

 

 

構えるツクヨミにやや怯える朧だったが、とうのアマテラスはというと.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふっくくくくくくくく.....

まだ信じてるでありんすかぁ?

"存在もしていないような神"の事を』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

『本物の月読命こと、"勘解由小路黄泉"はとうの昔に死んでおる。わっちがこの手で殺したからの。それはそちが作った妄想と、死んだ母親を重ね合わせて作り上げたただの妄想。ただの幻覚でありんすよぉ?』

 

「うっ.....嘘だ!!

嘘だと言ってくれツクヨミ!

嘘だと言ってくれ母さん!!」

 

『あれはアマテラスの虚言だ。騙されるな』

 

「母さん.....」

 

 

 

 

『嘘だと思うならその目で見るがいい!!』

 

 

 

 

次の瞬間アマテラスはツクヨミの目の前に現れ、彼女の胸に右手を当てた。

 

 

『死ねぇ!このゲロカス妄想ぉ!!!』

 

 

アマテラスの右手より放たれた光線のようなものは一瞬にしてツクヨミを消し飛ばした。

 

 

「あぁ!!.....あぁぁぁ!!!.....あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

天竜が言葉にならない叫びを上げる。

 

 

『妄想の妄想なんて、笑い話にもならないよ』

 

 

アマテラスの口調が変わった。

 

 

『朧よぉ。こいつもう殺っていいだろう?

命が尽きる前に食せばいいんだからさぁ』

 

 

そう言って、戦意喪失中の天竜へとどめを刺そうとするアマテラス。

 

 

「待てっ!!」

 

 

朧がとある鎖を放つ。

それは『六道輪廻の鎖』

左馬助を倒した鎖だ。

人間に使えば不死者にできるが、

本来の効果は神の拘束である。

 

 

『むっ.....?』

 

「私が殺る。これは私のケジメだ」

 

『別にいいけど、早くしないと貴様も殺すぞぉ?貴様の代わりの天竜はいくらでも連れてこれるんだからね』

 

「分かってる.....」

 

 

落ち着いた表情で天竜に近寄る朧。

 

 

「済まない。いくら自分であるからといって、貴方には迷惑をかけ過ぎた。だからせめて.....ひとおもいに.....」

 

「ひとおもいに死ねぇ!!」

 

「!?」

 

 

天竜が突然飛びかかってきた。

朧は仰向けに倒れ、天竜は馬乗りの状態になる。

 

 

「死ねぇ!!」

 

「ぐふっ!!?」

 

 

思い切り顔面を殴りつけられる。

 

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇ!!!!!!!」

 

「ぐがっ!げはっ!ごはっ!ぐげっ!」

 

 

まるでマシンガンの如く、顔面を殴り続ける天竜。その連撃は止まらない。

 

 

『お〜い。朧ちゃん?』

 

「ぐふっ!!」

 

『本気になんないと、貴様の想い人殺すぞぉ?』

 

「!?」

 

 

その時、朧の目付きが変わる。

 

 

「がああぁっ!!!」

 

「何っ!!?」

 

 

朧は殴ろうとした天竜の拳を喰い千切った。

そして、足蹴リによって天竜を引き離す。

 

 

「ぐっ!!?」

 

 

その一瞬の隙をついて、真逆に朧が天竜を押し倒す。

そして.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜の四肢。両手足を全て引き千切ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんの一滴で良かった。ほんの少しでも貴方から血を摂取して、体力さえ回復できれば、貴方に勝つ事なんて容易かった。

手加減して弄ぶような真似してごめんなさい」

 

「..........」

 

 

朧は瀕死の天竜を起こして、抱き寄せる。

 

 

「もう、いじめないから.....

楽にしてあげるから.....

貴方の苦悩を.....終わらせてあげるから」

 

「..........」

 

 

朧は天竜の首筋に噛み付く。

そして血を吸う。

全て吸い切る頃には全てが終わっている。

 

 

「天竜様ぁぁ!!!」

 

 

宗麟の虚しい声が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この瞬間を待っていたぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

 

天竜もまた、朧の首筋に噛み付く。

 

 

「勝てばいいんだよ。勝てば!」

 

 

お互いに血を啜り合う2人。

 

 

「馬鹿なの!?そんな瀕死の状況で、私に吸血で勝てるわけないじゃない!!」

 

「うるせぇ!!やらなきゃ、結果は出てこない!

俺は自らの人生に悔いを残さぬ!

意地でも生き延びてみせる!!!」

 

 

 

 

「天竜ぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!」

 

 

「朧ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、決着は付いた。

 




今回は武器や兵器がワンサカ出てきました。
別に僕はミリオタじゃないのに.....
途中で何のSSを書いてるのか忘れるところでした。
次回、やっと2人の因縁の戦いに決着が!
次回予告
私の名前は.....
〜私は天竜?朧?それとも?〜


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第七十七話 私の名は.....

バイト先での扱いが酷い。


常陸国。現在では茨城県と言われる。

常陸国は佐竹家の領土。当主は佐竹義宣。

だが3年前、当時はまだ武田の軍師だった羽柴天竜秀長によって小田原征伐が行われた際に、天竜の影武者を務めていた羽柴朧軍1万によって攻め込まれ、小田原城が落ちる時と同じ時期に常陸国は落とされてしまう。

その件についても、朧が手っ取り早く佐竹義宣を自身の吸血鬼兼パシリにし、常陸国を明け渡させたとも言われている。

その後の常陸国の運営を義宣に丸投げにしてしまった為に、常陸国における吸血鬼の大量発生が引き起こされたという逸話もある(まぁ、事実だ)。

朧は逆らう部下は人間だろうが吸血鬼だろうが容赦無く切り捨て、有能な部下を集めた吸血鬼軍団にて常陸国の勢力を拡大させ、ここ数年、常陸国は不可侵地帯となっていた。北は蝦夷から南は四国までが統一されている日本国における、唯一の独立国だったのだ。

 

朧王国の象徴とされる太田城。元は佐竹家の居城であったが、朧が城主となった際に彼女と藤堂高虎によって大幅な改築が行われ、大坂城、安土城に負けず劣らずの天守閣を用いた巨城。堅城となっていた。

その太田城も、2匹の化物による壮絶な大戦によりほぼ壊滅状態にあった。

 

互いに力が弱っているとはいえ、2匹共ドラキュラ。この世で最も邪悪な妖怪。悪魔に最も近づいた人間。最早、悪魔と呼んでも過言ではない。

どうせ尽きる命。勝てば本来以上の力を取り戻し、負ければもう片方に吸収され、存在そのものが消滅する。力と記憶だけが相手の身体に残り、それまで形成だれていた人格や思いは全て消えてしまう。

それ故に2匹共必死であった。自身を死の縁まで追い込んでまで戦った。下手をすれば魔力切れで力尽きるかもしれないというのに.....まさに背水の陣。勝たなければ生き残れないデスゲーム。

途中邪神たちの介入もあり、その闘争は泥沼となるかと思われたが、アマテラスに精神を追い込まれた朧の猛攻の前に、天竜はついに敗北した。信頼していたツクヨミを消された今となっては、彼の勝機は失われていたのかもしれない。

 

だが彼は諦めていなかった。朧が彼を吸血する為に最大限に近づいたのだ。わざわざ抱き寄せてまで。己の分身とはいえ美少女に抱きつかれれば、男子としては気分の良いものであるが、今のこの状況では関係がない。

彼は朧の首筋に噛み付いた。彼女が己の首筋に噛み付いたのと同じように。朧は天竜を吸収する為に、首筋から彼の血を。天竜は生き残る為に彼女の首筋から.....

 

 

その吸血勝負は、それが始まってからものの1分で着いた。最後まで生き残り続けていたのは.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朧だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁ〜やぁ〜!!やっと終わったでありんすねぇ朧ちゃん!いや、新しい天ちゃん?

まぁ、元々はそちが本物の天竜であったのだから、こう言うのも可笑しなものでありんすねぇ』

 

 

アマテラスの口調がまた元に戻る。

 

 

「..........」

 

 

勝者の朧は、生まれ変わった自身の身体をまじまじと見つめていた。

 

 

「天竜.....」

 

 

彼女は呟く。敗者の天竜は、着用していた衣服のみがそこに残り、それ以外は完全に消滅していた。まるで、最初からそこにいなかったかのように。

 

 

「天竜...........様ぁぁ」

 

 

宗麟はその場に崩れ落ちる。無理もあるまい。やっと見つかった信頼できる主君を目の前で失ったのだから。

 

 

「朧.....様」

 

 

その真逆に、高虎はホッとした。同時に、元主君の死を心の片隅にでも望んでしまっていた自分自身を少し恨む。

 

 

 

 

 

 

「どういう事!?..........天竜様が.....消えた!?」

 

 

遠くの山中にてスコープを覗いていた三成は、天竜が消えた謎の現象を見て困惑していた。

 

 

 

 

 

 

『さぁ、勘解由小路天竜よ!わっちと共に欧州に戻るでありんす!そして、遅れた世界征服を成し遂げてみせよ!!』

 

「...........えぇ、そうね」

 

 

朧は不敵な笑みを浮かべる。そして.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気が変わった」

 

 

朧は素手でアマテラスの胸を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なっ!?』

 

 

太陽神は理解できなかった。

妹のように可愛がっていた朧の突然の裏切り。

それ以前に.....

 

 

「痛いかぁ?痛いのぉ?アマテラスぅ!

不老不死の神といえど、腹を貫かれれば死ぬ程痛いみたいねぇ!ふくくくくくくく.....!!」

 

 

奴は.....この朧は、姿と声こそ朧のものであるが、その滲み出る雰囲気はむしろ.....

 

 

『天.....竜.....!?』

 

「くふふふ.....」

 

『貴様は天竜か!朧から生まれしゲロカス妄想か!!』

 

「口が悪いわね。化けの皮が剥がれてるわよアマテラス」

 

『黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!!

朧は死んだのか!?妄想如きに殺されたのか!?』

 

「半分あってて、半分間違えている」

 

『何っ!?』

 

「私は私であって、"俺でもある"」

 

『っ.....!?』

 

 

この混ざりあった口調。これはつまり.....

 

 

『同化したのか!?』

 

「That's light!」

 

 

"その天竜"には天竜と朧の二つの気配があった。

 

 

「"俺"も実際一か八かの賭けだったわ。吸血勝負ではどう考えても"私"に分がある。だから俺は吸血ではなく『給血』したのよ」

 

『給血!?』

 

「あぁ。吸うのではなく、逆に血を注入したのよ。そうなればどうなるか分かる?」

 

 

天竜は得意げに言う。

 

 

「綱引きの要領よ。私は俺が張り合ってくれるとばかり思って精一杯の吸血をした。ところが、俺が無理矢理に入って来た為に、想定外の事が起こったのよ。

吸血は体内に血が入った瞬間に私の養分として吸収される。だが俺は、私が認識できない程の速度にて侵入してきたわ。だから、しばらくの間は俺は吸収されずに私の体内を動き回る事ができた。だが永遠ではない。見つかれば即OUT。内から食い尽くしても良かったけれど、リスクが高過ぎる。

だけれど、それ以上にいい案を思いついの」

 

 

そこで天竜は女の身体から、男の身体へと変質した。同時に声もやや低くなる。

 

 

「それが同化だよアマテラス。俺は最後の策として私の血液に混ざり込んだ。それは最早、化合と言ってもいい。俺と私はお互いを認識できない程に混ざりあった。やがて俺という天竜も、私という朧も時の間のうちに消えて、新たな存在が誕生した。

それがこの俺、ウラディスラウス・ドラグリアだ」

 

 

『ドラ.....ドラ.....ドラキュラァァァァァ!!!』

 

「誤算だったなアマテラス!

あんたの私はすでに俺のものだ!

たかだかゲロカス妄想如きの俺に邪魔されるなんてなぁ!

ふっくくくくくくくくくく..........!!!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

『ドラキュラァァァ!!貴様をもう身内の者とは思わぬぞぉ!!末代に至るまで一族郎等根絶やしにしてくれる!

神に刃向かった愚かさを思い知れぇ!!!』

 

「神に挑む覚悟はとうの昔に出来てるよ。

じゃあな.......................消え失せろ!!!」

 

『げひゃっ!!!?』

 

 

アマテラスの胸に突き刺さった腕が眩く輝き、次の瞬間にはアマテラスをバラバラに引き裂いていた。

 

 

「...........ふぅ」

 

 

散らばったアマテラスの死体を見る。するとアマテラスの死体が彼女のものではなく、別の人間のものへと変質していく。

 

 

「憑依していたのか。器用な奴め」

 

 

アマテラスの退場により、高虎達を妨害していた障壁が消滅した。

 

 

「朧さん!!」

 

「天竜様!!」

 

 

高虎と宗麟がそれぞれ叫ぶ。

 

 

「すでに俺は朧でも天竜でもないよ。

本当の名前も忘れてしまったただのドラキュラさ」

 

「まさにピッ●ロ.....」

 

「Shut up!!」

 

 

サンジェルマンがまたふざけている。

 

 

「おやおや伯爵。塩ちゃんの口癖移ってませんか?」

 

「黙れよ伯爵。それから俺はもう伯爵じゃあない」

 

「?」

 

「一応は天竜の意志を受け継ぐつもりだ。

そして、朧の意志もな。

だが、しばらくは豊臣秀長を続けてやる」

 

「「「...........」」」

 

 

高虎も宗麟もサンジェルマンも、そこにいた数百人の常陸国の兵達も、全員が天竜に注目していた。

 

 

「俺はただのウラドさ。なんなら"ドラキュラ陛下"と呼んでもいい!」

 

 

伯爵よりランクが上がっている!?

サンジェルマンは心中で叫ぶ。

 

だが同時に思った。この日本国において、陛下という名称が使われるのはただ1人。それを天竜が使ったという事は.....

 

 

「俺の目的は世界征服だ。

世界平和のための世界征服だ」

 

「「「!?」」」

 

「俺は征服するよ。大きなものから小さなものまで。殺さず、討たず、滅ぼさずに倒し、我が傘下に加える。人類の虐殺が世界征服に繋がるわけではない。全人類を導いていく事こそが世界征服なのだ」

 

 

天竜は傍に落ちていた男天竜が着用していた白軍服の拾って羽織る。

 

 

「俺について来るがいい。俺が貴様らを導いてやる」

 

「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

 

 

そこにいた誰もが叫んだ。天竜という人間は史上最悪の

『人たらし』かもしれない。この世の誰よりも他人の心を読み取る事に長け、それを様々な状況に応用できる天才。人心掌握術を最大限に引き出されれば、落ちない人間などいない。

 

 

「彼こそ"メシア"の再来か」

 

 

サンジェルマンは呟く。

そして暖かい目で彼を見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで高虎。生まれ変わった記念に一発ヤラない?」

 

「えぇぇぇ!?」

 

 

朧の姿に変質して誘惑する。

 

 

「天竜様.....Men(男)もOKなのですか?」

 

 

宗麟が信じられないという表情で見てくる。

 

 

「今の私は男と女両方の性別を持っているわ。

だから孕む事も孕ます事もできるの。

なんだったら...........君もどうだいベル?」

 

 

今度は美少年の姿で誘惑する。

 

 

「うぅぅ.....」

 

 

 

 

「メシアと同等と言うには少々無理がありますかね」

 

 

サンジェルマンが言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後、大坂城に戻ってきた天竜。

廊下を口笛を吹きながら能天気歩いていると、目の前に見慣れた女性がヒョコヒョコ歩いているのが目に入る。

 

 

「だ〜れだ♪」

 

「ひゃわっ!!!?」

 

 

目ではなく、胸を覆う天竜。

 

 

「このっ!!!」

 

 

女は刀を抜き振り上げる。

 

 

「無礼者ぉぉ〜!!!」

 

「落ち着け十兵衛!私だ!天竜だ!」

 

「えっ!?」

 

 

十兵衛は刀を天竜の顔面が斬り裂かれる寸前で止めた。

 

 

「天竜.....です.....か?」

 

「私じゃなかったら誰なんだよ」

 

「その口調といい、長髪といい、いつもよりも女らしい顔つきといい、高い声色といい.....」

 

「ひゃんっ!?」

 

 

突然十兵衛が股間を触ってきた。

 

 

「じゅっ.....十兵衛!いくら夫婦だからって大胆だよ!

十兵衛が昼間からって言うなら私はそれでも.....」

 

「やっぱりですね」

 

「ん?」

 

「天竜。また女になってるですね?」

 

「うぅぅ....うん」

 

 

天竜は備中にて一度、村上武吉に殺されている。その際に芦屋道海に貰った10年分の寿命にて彼は若返った。だがそれは、眠っていた朧を起こすキッカケになった。

身体に朧がいる影響により、天竜は満月の夜のみ女体化するようになった。前述した通り、正確には満月の夜のみ本来の姿に戻っていたのだ。

それを間接的に知っていた十兵衛。何度死んでも生き返り、どんどん人間離れしていく天竜だけあって、彼女もそういうものであると納得していた。

やがて天竜が武田に寝返り、そこで朧と分離。

その日を境に女体化は起きなくなった。

十兵衛には"病気"が治ったと適当にボヤかしていた。

 

 

「また"病気"になったですか?にしてもまだ昼間ですし、満月でもないです」

 

「あぁ、いやぁ.....今回のは病気じゃないんだよ。肉体変質を自由にコントロール.....操作できるようになってさ。こんな風に」

 

 

すると天竜の身体が全体的に筋肉質になり、声も低くなる。長髪と顔達以外は全体的に男性体になった。

そして、十兵衛の手の中にある物体が出現する。

 

 

「うっ.....」

 

「ところで十兵衛、なんだって大坂に?良晴達と九州攻めしてるはずだろ?」

 

「奥方に一物握らせた状態で話す内容ですか!」

 

「いいじゃん。僕らはいつも以心伝心だよ」

 

「意味わかんねぇです!

..........向こうでちょっとした問題が起きて

こちらに戻って来た所なんです」

 

「どんな問題?」

 

「えぇと.....後で話すです」

 

「ふ〜ん。あぁ.......................十兵衛?」

 

「なんですか?」

 

「セックスしねぇ?」

 

「なっ!?」

 

「いやぁ〜!前にレオを抱いたんだけど、俺が満足しきる前にあいつの方が力尽きちまってよ。お前見てたらムラムラしてきたんだ。ヤろうよ」

 

「何考えてるんですか!!!!

...........って、なに大っきくしてるですか!!!」

 

「お前もなに律儀に握り続けてんだよ。」

 

「そっ、それは『何』と『ナニ』を掛けているですね!!?そんな下らないお遊びで誤魔化せると思ったら大間違いですよ!!!?」

 

「いや.....別に」

 

 

いけない。ウブな十兵衛が暴走している。

 

 

「お前も結婚して1年以上経つのに、これぐらいの下ネタで狼狽えてんじゃねぇよ。それ以上の事何度もヤってるだろ」

 

「うっ.....」

 

「全く、お前は"どの世界でも変わりないよ"」

 

「.....はぁ?」

 

「いっ、いや!!何でもないよ!?」

 

「んん??」

 

 

まだだ。まだ彼女に教えるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはともかくとして興奮しました。やらせて下さい」

 

「だ〜か〜ら〜!!」

 

「いいじゃん。ヤらせてよ」

 

「嫌です!!!貴方とはしませんです!!」

 

「...........」

 

「..........天竜?」

 

「(´;ω;`)」

 

「え?え?え?えぇ!?」

 

「十兵衛は"僕"が嫌いなんだ」

 

「ちょっ.....ちょっと!?」

 

「お姉ちゃんは僕が嫌いなんだ!」

 

 

いつの間にか天竜がショタ化している。

中身だけではなく、見た目から変質している。

身長も十兵衛の腰ぐらいに縮む。

 

 

「僕はお姉ちゃんが大好きなのに。お姉ちゃんは僕が嫌いなの?本当は僕と結婚するのも嫌だったの?」

 

「いやいや!!そこまで言ってないですよ!?」

 

「じゃあ僕とエッチしてくれる?」

 

「うっ.....」

 

 

何年も天竜と付き合い、エッチやセックス等の単語も十兵衛は理解してしまっている。

 

 

「おチ●チン勃っちゃった。お姉ちゃんが諌めて」

 

「童はそんな台詞言いませんです!!」

 

「ちっ!」

 

 

天竜が元に戻る。

 

 

「ならこいつでどうだ!」

 

「!?」

 

 

天竜が顔を押さえてうずくまる。やがて顔を露わにしたかと思うと.....

 

 

「十兵衛ちゃん.....」

 

「っ.....!!?」

 

 

天竜は良晴に変身した。声まで一緒だ。

 

 

「酷いよなぁ十兵衛ちゃん。俺の事はもう好きじゃないのかよ?」

 

「せっ、先輩に変幻したって騙されません!」

 

「信奈は捨てるよ。あんな女より君の方がずっと魅力的だ。俺のもんになれよ十兵衛ちゃん」

 

 

良晴(天竜)は十兵衛を壁際に追い込む。そして、少女マンガにおける必殺技『壁ドン』を繰り出す。これで落ちない人間などはいない。

 

 

「なぁ、我慢の限界なんだ。そんなヤラしい身体付きで挑発しやがって。抱くなっつうのが無理な話さ」

 

「わっ、私は!愛する夫と×××がいるから無理です!」

 

 

十兵衛もノリノリだな。

.....一部聞き取れない所があったが。

 

 

「もう何も言うな」

 

「ンっ.....!?」

 

 

強引に彼女の唇を奪う。

 

 

「甘いな。君の唇は」

 

「ンンッ....れろ.....ぷちゃ.....むちゅ.....ンンンッ....!!」

 

 

舌を絡めた熱いディープキスをする。端から見れば良晴と十兵衛が不倫しているようにしか見えない。

 

 

「ぷはっ!..........だめですっ!..........先ぱっ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってるのよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはっ!..........のっ、信奈様!?」

 

 

十兵衛が叫ぶ。

 

 

「あんた一体何やってるのよ!!」

 

 

信奈は拳銃を構え、銃口を良晴(天竜)に向けていた。

 

 

「おいおいよせよ信奈。俺達夫婦だろ?」

 

「ふんっ!」

 

 

だが、信奈は問答無用で発砲してきた。

 

 

「ぐがぁっ!!?」

 

 

良晴(天竜)の頭部が弾け飛ぶ。

 

 

「何をやってるのか聞いてるのよ天竜!!」

 

「ぐぐぐ...........見破られてたのね。これは失敬」

 

 

天竜は瞬時に良晴の顔を再生させる。

 

 

「アイツの顔で、アイツの声で喋るな!

虫唾が走るわ!」

 

「何言ってんだか。お前が夫婦の情事を覗いてっから、

からかってやっただけのに」

 

「気付いていたの!?だからって良晴の姿で十兵衛にせっ.....接吻するなんて!!」

 

「覗きは否定しないのな」

 

「うるさいっ!!」

 

「ちっ.....」

 

 

天竜の様子が変わった。

 

 

 

 

「口の聞き方がなっちゃいないな」

 

 

 

 

次の瞬間、天竜は信奈の目前に瞬間移動した。

 

 

「っ.....!?」

 

 

慌てて拳銃を構えた信奈だが瞬時にソレを弾かれ、首を掴まれ、宙吊りにされる。

 

 

「がっ!?.....ぐぅ.....」

 

「誰の好意で生かされているのか理解していないよう

だなぁ、このマヌケがぁ!!!」

 

「こっ、この.....下衆っ!」

 

 

天竜はさらに首を掴む腕に力をを入れる。

 

 

「げほっ!!がはっ!!?」

 

「やめるです天竜!!

そのままでは窒息してしまうです!」

 

「うるさいなぁ。今調教中なんだから静かにしてよ」

 

「てっ......天竜?」

 

 

天竜の性格が変だ。前とは別人のように。

 

 

「そうだ!趣向を凝らしてみよう!」

 

 

すると良晴の顔がグニャリと歪み、別の顔が形成される。その顔は.....

 

 

「わしは失望したよ信奈」

 

「っ.....!!?」

 

 

それは彼女の義父、斎藤道三の姿だった。

 

 

「わしはお前こそが天下を取れるものだと信じてわしの全てを託したというのに。とんだ拍子抜けじゃよ。所詮はうつけ姫だったか」

 

「うっ、うるさいうるさいうるさぁい!!!

その声で喋るなぁぁ!!!」

 

「うふっ。私も貴方には失望しましたわ信奈様」

 

 

今度は松永久秀に化ける。

 

 

「私が爆死してまで貴方を盛り立てたというのに、それも無駄になりましたわね。本当に屑虫な女ですわね」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!」

 

「吉.....」

 

「!!!!?」

 

 

今度は土田御前、信奈の実母に化けた。

 

 

「本当に貴方は.....とても私が産んだ子とは思えない程に汚らわしい思想の者に育った。本当は悪魔の子なんじゃないかしらとよく思いました。でも貴方は間違いなく私から産まれた存在」

 

「はっ.....母上.....?」

 

 

「あんたなんて産むんじゃなかった」

 

 

「あぁぁぁっ.....!?」

 

 

信奈に異変が起きた。身体的には強い彼女も精神面はすこぶる弱い。姫武将でも姫大名でも天下人の風格も消え失せて、ただの少女となって大粒の涙を流した。

 

 

「いっそこのまま首をへし折った方が私はどれだけ幸せかしら?」

 

「がっ!?.....かぐあぁ!!?」

 

 

ミシミシと首の骨が唸りを上げる。

 

 

「さようなら。我が愛しの娘」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のお腹には赤子がいるです!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..............................え?」

 

 

叫んだのは十兵衛だった。土田御前(天竜)は信奈から手を放し、元の姿に戻る。

 

 

「今何て言ったんだ?」

 

「本当はもっと別の形で伝えるべきでした。でも、こうでも言わないと貴方は私の声すら届いてませんでした」

 

 

天竜は振り返って足元を見る。涙、鼻水、唾液、嘔吐物を撒き散らし、赤い顔から青い顔に変化してしまっている瀕死の信奈を。天竜が女性に対してここでしたのは初めてかもしれない。

 

 

「俺は.....なんて事を.....」

 

 

無意識だった。信奈を拷問する事を心から楽しんでた。

 

 

 

 

「俺は.....誰だ?」

 

 

 

 

その時だ。十兵衛が天竜に抱きついてきたのは。

 

 

「貴方は私の夫です」

 

「十兵衛?」

 

「貴方は昔から何も変わっていませんよ。貴方は大きな力を手に入れる度に本来の自分を見失いつつある。私だって似たような状況に陥った事がよくありました。

正室は殿の子をを産むための存在だなんて時代遅れな風習がありますですが、夫の弱い部分を補佐し、補佐され、互いに支え合っていく事こそが夫や妻の役目だと私は思いますです」

 

「十兵衛.....」

 

「天竜にとって私は子孫残す為だけの借り腹に過ぎませんか?」

 

「そんな事はない!俺は.....」

 

「分かってるじゃないですか」

 

「..........」

 

「私は貴方の事をなんでも出来る完璧超人だとか神様だとかなんて思った事はないです。皆と同じように悩み、皆と同じように苦しみ、皆と同じように前に進んでいく。貴方も私も同じなんです。同じ人間なんです。

だから一緒に話し合うです。

これからの事も、この子の事も.....」

 

 

十兵衛は自らの腹をさすった。

 

 

「..........ありがとう十兵衛..........君という尊い存在が俺を認めてくれる事が何より嬉しい。こんな壊れた俺を愛してくれて.....」

 

「私もです。手間のかかる旦那様」

 

 

2人は改めてキスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十兵衛、信奈は?」

 

「別室で寝かせたです。貴方から貰った薬を飲ませた所、嘘のように落ち着いたのですが、この薬は?」

 

「あぁ、そいつは俺の血だ」

 

「..........むぅ、いまいち吸血鬼とやらの生態が分からないです」

 

「安心しろ。俺も分からん」

 

 

その時。

 

 

「よろしいかしら?」

 

 

とある女が物陰から現れる。

 

 

「おぉ、オルトロス!久しいな!」

 

「ん!?ちょっと混ざってるじゃん!

まさかしくじったの天竜!?」

 

「いんや。これが正解だったんだ」

 

「もぉ。どうなってもしらないよ?」

 

「あの.....」

 

 

話についていけない十兵衛。

 

 

「貴方は誰ですか?」

 

「ん〜。私はオルトロス。ベルセルクとも呼ばれてる。天竜の大親友だもん!」

 

「十兵衛。詳しい話は向こうでするよ」

 

「向こう?」

 

「あぁ、目指すは九州だ!」

 

 

 

 

魔王動く。

 

 




こうして、天竜と朧は新天竜として生まれ変わる事になりました。しかし、そこに新たな問題が発生。まだまだ続きます。天駆ける龍の伝記。
次回予告
九州での血戦
〜俺はそれでも...〜


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三章 天龍と良晴
第七十八話 九州での血戦


夏休みなのに、仕事が忙しくて3週ぶりの投稿になりました。遅れて申し訳ありません。


天竜が会津や常陸にて死闘を繰り広げていた頃の事。

豊臣良晴秀吉によって行われた九州征伐。良晴軍10万に加え、天竜軍10万が九州に送り込まれる大戦争となっていた。しかし、大将豊臣天竜秀長は東方にて諸事情の対処にあたっていた為実質、良晴が20万の大軍の指揮をとっていたいたのである。

しかし、その全員が良晴の命令通りに動いたわけではない。半数以上は天竜に忠誠を誓う天竜側の武将達。天竜と半分敵対しているような良晴の命令を聞くわけがない。彼らの指揮は、天竜の代理でもあった治部少輔石田三成が務めた。

しかしながら三成もまた、多くの者から『天竜の右腕を自称する気に食わない奴』と反感を買い、10万の指揮に大変苦労していた。

皆が皆、天竜の帰還を願っていた。

それは良晴も同じだった。彼の力を借りるのは気に食わない事ではあるが、この大軍の指揮を完璧にとれたのは天竜ぐらいであろう。反天竜派の多い良晴軍や織田軍の人間とて、この状況で天竜に反発する程馬鹿ではない。天竜の命令通りにするのが、今最もすべき事であるのなら、仕方なく従うといった所。必要なのは忠誠心ではない。どのような状況であろうとも大将としての行動が取れ、部下の思想にかかわらず、それを従えられるカリスマ性。良晴には圧倒的にそれが欠けていた。忠誠心や絆だけではどうやったって破れない壁がある。大事なのは器なのだ。

とはいえ、それでも豊臣軍の優勢には変わりなかった。始めは九州全体を統治していた島津軍5万は各地で大敗し、残るは薩摩を残すだけとなっていた。

それには4人の力が大きく出た。

日向方面を担当した石田三成、大谷吉継。

肥後・筑前を担当した竹中半兵衛、黒田官兵衛。

『関白の両兵衛』『太閤の両少輔』と対比される4人。本来、敵対する立場にある彼女達も今回ばかりは協力しあい、総大将である良晴をサポートした。三成らも天竜の命令とあらばと、一時的に良晴を上司として扱ったりもしたり.....

良晴もまた、摂津より本猫寺の顕如を連れてきて、九州の浄土真宗を味方につけるなどの働きを見せた。

そのような勢いにより、日向高城や根白坂にて大勝。島津軍の勢力を著しく削っていった。あとは島津軍大将、島津義久の決断次第である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月21日、天竜と朧が同化してから1ヶ月後。

九州攻めは最終局面にあった。

だがあと一息というにもかかわらず、良晴軍はそれに踏み込めずにいた。元は島津方であった龍造寺政家や有馬晴信などの有力武将を仲間にして、九州を濁流の如く飲み込んでいった豊臣軍も最後の難関、薩摩における島津一族の必死の抵抗に苦しめられていたのだ。

 

 

「.....................ふぅ」

 

 

本陣にて冷や汗をかきながら溜息をつく良晴。

 

 

「どうしたんだい良晴?」

 

「どうしたも何もあるかよ官兵衛。

ここまで来て何で落ちないんだ」

 

「しょうがないとも言えるかな。相手は鬼と呼ばれた島津義弘。大将の島津義久だけならまだしも、あれは戦略家にして戦術家。戦力だけで倒せる相手じゃあないよ」

 

「理解してるさ。そこを戦略家たるお前に何とかしてもらいたいんだよ」

 

「むぅ。戦略だけなら鬼島津とも互角。いや、シメオンの方がやや勝る。いや、シメオンが圧倒的に勝るけれど.....」

 

「そんな所で張り合わんでいい」

 

「鬼島津はそれだけでなくとも強いんだよ。彼の兵は猛者が多いし、彼自身も破格級に強いんだ。戦略のみで倒すには少々骨が折れる」

 

「...........いや、ここは桶狭間方式でいけるんじゃないか?」

 

「!?..........なるほど、先に島津義久を屈服させるのか。さしもの鬼島津とて、姉が降伏したとなれば、武装解除せざるを得ない。仮にしなかったとしても、島津義久には無理にでも説得してもらう。

対島津義久の戦略なら容易に立てられるよ」

 

「頼んだよ官兵衛。半兵衛は?」

 

「今は治部少輔の所に状況報告に行ってるよ」

 

「ふぅん。三成ちゃんにも今回ばかりは世話になってるしなぁ」

 

「..........」

 

「どうした官兵衛?」

 

「べっつに〜.....」

 

「どうしたよ官兵衛。ヤキモチかい?」

 

「だっ、誰が!!」

 

「むふふ〜♪相変わらず可愛いなぁ官兵衛は」

 

「ちょっ、抱きつくなぁ!!

良晴、最近酷いぞ!

どんどん豊臣秀長に似てきていいる!!」

 

「そうかぁ?」

 

「そうだよ!女癖の悪さなんてそっくりだ!」

 

「侵害だ。俺はあいつとは違うんだ!」

 

「何処から湧いてくるんだいその自信は?」

 

 

そんな馬鹿みたいな会話をしている最中の事、その情報は入った。

 

 

「報告します!敵軍より奇襲!

この本隊が襲われておりまする!!」

 

 

使い番の報告が入る。

 

 

「何っ!?」

 

「敵は誰だい?」

 

「はっ!恐らくは島津義久が弟、島津家久かと思われまする!」

 

「島津家久だって!?」

 

「シム。島津兄弟の四男坊だね。奴は島津義弘と違って頭は悪いけれど、彼と同じく一騎当千の化物。厄介な相手だね」

 

「くそっ!.....こんな土壇場になって!」

 

「島津家久に対抗しうるこちらの武将がいるとしたら、山中鹿之介か柴田勝家か。どちらも島津義弘の方に回ってしまっているから、呼び寄せている時間はない。むぅ.....」

 

「こうなったら、また俺が変身して.....」

 

「それは感心しないな。君は豊後での戦い以降も何度か人狼になっているようだけども、その度に自我をなくしている。保っていられたのは臼杵城から島津を追い出した時ぐらいだ。あれは島津を殺したくないっていう君の強い意志があったからこそ出来た事なんだろうけど、それ以外はてんで駄目。生半可な気持ちで人狼になれば、死ぬのは味方の方だよ」

 

「ならどうすればいい!!?」

 

「シム。こういう事もあろうかと、既に伏兵を忍ばせたよ。シメオンに戦う力はなくとも、考える力はある。戦況を変えるのはいつだって、ここの強い者さ」

 

 

そう言って、己の頭を指す。

 

 

「官兵衛.....」

 

「報告します!伏兵部隊壊滅!」

 

「えぇぇ!!?」

 

 

官兵衛が間の抜けた声を上げる。

 

 

「しっ.....ししし.....島津家久めぇ!!

戦略が戦術に負けてたまるかぁ!!!」

 

 

たった今格好つけた事もあり、彼女の堪忍袋の尾が切れた。

 

 

「落ち着け官兵衛!」

 

「本隊を魚鱗の構えにて敵を迎え撃つ!

長宗我部隊に援軍命令を出せ!

部隊を2つに分けた上でこの本隊と挟み撃ちにするんだ!

三方向から敵軍を追い詰めよ!

そして石田隊に連絡を取り、半兵衛を連れ戻せ!」

 

「はっ!」

 

「おふ.....」

 

 

キレてても正確な命令を出す官兵衛に呆気を取られる。

 

 

「報告します!」

 

「今度は何だい!!!」

 

「ひぃ!?」

 

「いいから落ち着け官兵衛。

俺が聞くよ。何があったんだ!?」

 

「はっ!所属不明の部隊が敵軍の奇襲を食い止めております!」

 

「「!?」」

 

「更に薩摩より南方の海岸より、正体不明の軍が現れ、島津軍と交戦中。その数1万!!」

 

「正体不明の軍だって!?

一体何処の輩なんだい?」

 

「..........」

 

「良晴?」

 

 

良晴はブルブルと震えていた。

 

 

「何度も.....何度も.....俺はこの感じを味わった」

 

「?」

 

「この全てをもぎ取られるような感覚.....」

 

「良晴.....もしかして.....」

 

「あぁ、間違いない。この嫌味な雰囲気.....」

 

「..........まさか!?」

 

「あいつが帰ってきた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

島津家久軍。

 

 

「げひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

殺せ殺せぶち殺せぇぇぇ!!!!

豊臣の虫けら共を駆逐しろぉ!!!」

 

 

この島津家久。文武両道の兄島津義弘とも、礼儀正しい娘島津豊久とも似ない、とてつもなく下品な男だった。

 

 

「や~や~我こそは!黒田官兵衛が家臣!

伊東正右衛門である!

島津家久殿とお見受けする!

いざ尋常に勝ぶっ.....ぐげぇっ!!?」

 

 

名乗り切る前に槍で喉を突かれ、

そのまま首を飛ばされる正右衛門。

 

 

「げひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「「「...........」」」

 

 

その卑劣さは敵からも味方からも恐れられていた。

 

 

「げひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「下品な高笑いはやめにしなさいのです」

 

「ひゃひゃひゃ..........んん?」

 

「微妙にあの方と被っているのが余計に癇に障りますなのです。高笑いはあの方の専売特許なのですから、貴様のようなクズがそれをするのは万死に値するなのです」

 

「誰だおめぇ?」

 

 

その者は声や体格から姫武将である事が分かったが、顔が隠れる形の兜を被っている為、顔が分からない。巨馬に跨がってはいるが、身長はかなり低いようだ。

 

 

「今から貴様を滅ぼす者です」

 

「はぁ?」

 

「いざ尋常に勝負!!」

 

 

その姫武将は駆ける。その手に槍を携え.....

 

 

「げひゃっ!!姫武将を殺るのは久々だぁ!

手足を斬り裂いて、衣服を引き千切り、

全身を小太刀で傷付けながら、

死ぬまで犯し続けてやるわっ!!」

 

 

そう叫びながらヨダレを垂らし、槍を振り回す家久。

 

 

「下衆め!なのです」

 

 

小さな身体で、巨大な馬と槍を操る彼女。ややヨタヨタしていて、家久程の猛将を相手にするには大分無理があると思われた。その決闘を見守っていた双方の兵は皆、首が飛ぶのは姫武将であると思った。しかし.....

 

 

 

 

「あり?」

 

 

 

 

家久は気付いた。自分は槍を持っていたはずだ。だが、愛用の殺人道具は向こうに転がっている。そして、その槍には自分の右腕も握られている。

 

 

「ひぇええぇあああああああああ!!!!?」

 

 

その事実を認証したと同時に、激痛が家久の右腕の斬り口より生じる。

 

 

「やった!捕れたなのです!」

 

「このガキィ!!!」

 

 

家久は懐から左手で短筒を取り出し、彼女に向ける。

 

 

「くたばれっ!!!」

 

「ツグちゃんお願いなのです」

 

『はいはい』

 

「!!?」

 

 

家久は気付く。馬の頭部に何かが乗っている。

 

 

『ごめんなお馬さん。すぐ降りるからの』

 

「ばっ.....化物!!!?」

 

 

家久の目の前に現れたのは小型の人狼だった。

 

 

『可弱い美少女に失礼だの〜ぬし。

そんな輩はこうじゃ!』

 

「いっ.....!!!?」

 

 

その人狼が軽く家久の左手を叩く。その瞬間、家久の左腕が吹き飛んだ。

 

 

「あああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

『うるちゃい、うるちゃい』

 

 

人狼は耳を塞ぎながら、家久を馬上から蹴り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううううぅぅぅ.........うああっぁぁ......」

 

 

瀕死状態の家久を見下すように二人の少女が見下す。

片方は鎧装備の姫武将。

もう片方は人狼から人間体に戻った少女。

 

 

「だっ..........誰なんだ..........おめぇ.....」

 

 

すると、人狼だった少女はニッコリと笑って。

 

 

「あたしは豊臣石丸秀次。太閤殿下の義妹だよ♪」

 

「太閤の...........妹?」

 

 

更に兜を被っていた姫武将も兜を外し、素顔をあらわにする。

 

 

「我が名は小早川秀秋。小早川隆景公の義妹なのです」

 

「こっ............小早川だと!?

それこそ太閤の妹じゃ.....」

 

 

 

 

 

次の瞬間、秀秋の手によって家久の喉元に槍が突き立てられた。

 

 

 

 

 

「私はあの方の妹ではないのです。私はあの方の.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「※何っ!?家久が討たれただと!?」

 

「??」

 

 

※翻訳済み

日本語が喋れない島津家の総大将、義久が叫ぶ。

 

 

「どうされますか姫!!」

 

「※待て!今考えている!!」

 

「??」

 

 

こんな些細な命令まで通じていない。翻訳係でもあった弟の島津義弘は他の城の守護に回っており、誰も彼女の言葉が分からないのだ。

 

 

「報告します!!南方より現れた敵軍の対処にあたっていた桂忠詮殿の軍が壊滅。忠詮殿は降伏したとの事です!!」

 

「※忠詮までもが.....」

 

 

義久は力が抜けたようにその場に腰を下ろした。

 

 

「※もう...........潮時だな」

 

 

そう言った義久はやや微笑していた。

 

 

「※秀吉殿に伝えておくれ。

『私、島津義久は其方に降伏する。各所で抵抗している義弘、歳久等の者にもすぐにでも武装解除し、降伏するように説得しよう。代わりに、島津一族を含めた全家臣の身の安全をお願いしたい。それがなされるのであれば、この義久の首を取っても構わぬ』とな」

 

「???」

 

「..........」

 

 

義久は黙って紙に今言った事柄を書く。

 

 

「ん!」

 

「えっ.....と.........あっ、はい!かしこまりました!」

 

 

字が下手だったために読解に手間取っていた家臣だったが、やっと理解して部屋を出ていく。

 

 

「ふぅ..........」

 

 

義久は明後日の方向を見ていた。

 

 

「※良晴と結婚したら、まず標準語を教えて貰おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月8日。島津義久が豊臣家に正式に降伏。

ところが、弟の島津義弘、歳久は末弟である家久を討たれた恨みから抵抗を続けていた。義久が説得したのだが、

"2人は納得せず、降伏はしなかった"。

これは良晴にも予想外だった。

 

 

「くそっ!歴史通りなら、"虎寿丸"の説得で義弘と歳久は納得して降伏するはずだったんだ!何で家久を殺したんだ天竜!!」

 

 

謎の援軍が天竜の軍である事に良晴は直感で気付いていた。だからこそ、天竜の不可解な行動により歴史が変えられ、戦争状態が未だ継続している事に、良晴は理解できなかった。

 

 

「君が言ってる事は理解できないけど、今の状況が芳しくない事は確かだね」

 

「くそっ!どう収集つけるんだよ」

 

「シム」

 

「お前と違って、何も考えずにやったわけではないよ」

 

「そうかよ.....................ん?」

 

「シム!?」

 

 

良晴と官兵衛の間に天竜がいた。

 

 

「なんだ?」

 

「なんだじゃねぇ!!何でいるんだ!?」

 

「何でも何も、お前を迎えに来たのだぞ?」

 

「!?」

 

「島津方とある程度話はつけた。

一時的に停戦協定を結んだよ。

明後日、日向高城にて連中と落ち合う事になっている」

 

「シム。島津義弘や島津歳久がよく応じたね」

 

「なぁに。"従わなければ義久を殺す"と言ったら、すんなり言う事を聞いてくれたよ」

 

「天竜!!手前ぇぇぇ!!!」

 

「よしなよ良晴。それが戦国の習いというものさ」

 

「官兵衛!?」

 

「それよりも豊臣秀長。勝算はあるんだろうね。君の行動が今の状況をより一層悪化させるものに繋がるというのなら..........シメオンとて容赦はしないよ?」

 

「おやおや、怖い怖い。

天下二の軍師の片棒とは争いたくないものだな」

 

 

睨みつける官兵衛に対し、天竜は邪悪な笑みにてそれを返した。

 

 

「........................?」

 

 

良晴がとある事に気付いた。

元より中性的な顔たちの天竜であったが、今の天竜は本当の女性にしか見えない。

長髪だし、服装もどちらとも言えない。

むしろ一般的女性よりもずっと.....

 

 

「どうした良晴?人の顔をジロジロと?」

 

「あっ、いや」

 

「惚れたのかい?良晴のエッチ」

 

「ふざけんな!殺すぞ!!」

 

「怖い怖い」

 

 

今ふと浮かんでしまった感情を必死に忘れ去ろうとする良晴であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月10日、日向高城。

この日この場所にて、九州征伐最後の会談が行われる。

参加人物は、

豊臣方より天竜、良晴、大友宗麟。

島津方より義弘、歳久、義久が参加。

だが義久はすでに降伏済みな為、実質の相手は、2人だけという事になる。

 

良晴と義久が協力し、現状説明と、降伏後の島津家の安否についてを説明。決して悪い方向に持っていく事はないと、必死に伝えた。だが.....

 

 

「貴様のその顔が納得いかぬ!!」

 

 

島津兄弟の三男坊、島津歳久が言う。

 

 

「姉上と秀吉殿の言葉はまだ理解できるものがある。

だがしかし!貴様はなんじゃ豊臣秀長!!

先程より何も口にせず、ただただこちらを眺めてクスクスと笑うばかり!見下しているつもりなら、こちらにも考えがあるぞ!!」

 

「ふっくくくくく..........いやいや、見下しているわけではない。ただ.....ただな?(笑)

これから起きる事を先に予想していたら、笑うのを我慢できなくなってしまったのだよ!(笑)

ぷっくくくくくくくくく.....!!!」

 

「これから起こる事!?」

 

 

黙っていた義弘が何かを察知した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、お料理をお持ちいたしました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言い、天竜の料理人『黄黄』が他の料理人を引き連れて入室する。彼女は普段では見られないような、怯えきった表情をしていた。料理が淡々と皆々の前に並べられていく。

 

 

「「「「!!!?」」」」

 

「...........」

 

 

状況を理解できない4人と、知っているために、黙って目を瞑っている宗麟。

その料理とは.....

 

 

「なぁっ!!!?」

 

 

良晴はつい叫んでしまった。

一見、綺麗に盛りつけられた料理。

だが、それはすぐに分かった。普通の料理との違いが.....

 

 

「こいつは.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"人肉料理だ"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつは"とある人物"の心臓を圧縮機にてすり潰して作った葡萄酒だぁ!」

 

 

そう言って、天竜は血の入ったグラスを一口飲んでグラスを壁に投げつけ、割る。

 

 

「それからこれは奴の長舌のサラダ!

まっずいから食う気もせん!

こっちは奴の腹部の皮で包んだスズキのパイ!

真っ黒な脂肪だらけで身体に悪い!」

 

 

これらは口にもせず、皿ごと投げ捨てて料理をあたりに撒き散らす。

他の者はそれを見ている事しかできなかった。

 

 

「そしてこいつは.....」

 

 

天竜が最後に手にした皿は、運ばれたものの中でも特に大きく、『ドームカバー』と呼ばれる丸皿用の蓋が被せられ、一際印象があった。

 

 

「ではご開帳!!♪」

 

 

天竜がフタを外した。

 

 

「うわあぁぁぁ!!!!!!!?」

 

 

良晴は恐怖のあまり叫んだ。

 

 

「※そん.............な..............」

 

 

義久は力が抜けたように腰を落とした。

 

 

「そんな.....馬鹿な............」

 

 

義弘もそれには面を食らったようだ。

 

 

「うっ、嘘だ!嘘だ!!嘘だぁぁぁ!!!」

 

 

歳久は発狂する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皿の上にあったのは、島津家久の生首だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「島津家久の頭とぉ〜!

リンゴのオーブン焼きでございま〜す!♪」

 

 

天竜は笑顔で紹介する。

 

 

「殺す!!この男は絶対に殺す!!!」

 

 

歳久が涙を流しながら刀を抜く。

 

 

「食事中は〜お静かに!!」

 

 

すると、歳久の目前に移動した天竜は彼の顎を掴み、無理矢理口を開けさせる。

 

 

「あがっ、あががががぁぁ.....!!!?」

 

 

そして、彼の口に生首を無理矢理捩じ込む。

 

 

「ほぅら島津歳久ぁ!愛弟が呼んでるよぉ?

『お兄ちゃんお兄ちゃん!僕を食べてぇ!』ってねぇ!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!!!!」

 

「やめろ天竜!!!!!!」

 

 

良晴が殴りかかってくる。

それを天竜はいとも容易く後ろ蹴りにて飛ばす。

 

 

「ぐはあああっぁぁ!!!!?」

 

 

壁に激突する良晴。

 

 

「馬鹿な..........人狼の........俺が......避けきれなかった!?」

 

「※良晴!!」

 

 

義久が駆け寄る。

 

 

「やめるのじゃ豊臣秀長!!」

 

「義弘ぉぉぉ♪頭のいいお前だったら分かるよなぁ?

これからお前がすべき事をよぉ!!!」

 

「!?....................そうか...........そういう

意味か」

 

 

咄嗟に理解した彼は突然その場に跪き、そのまま土下座の体制になった。

 

 

「私、島津義弘は太閤殿下様に降伏致しまする」

 

「「「なっ!!!?」」」

 

 

彼の突然の行動に、誰も理解できない。

 

 

「何故じゃ兄上!!!?

ここまで酷い挑発をされて、引き下がるのか!!?」

 

「違う!!これは挑発じゃない!!」

 

「!?」

 

「これは.........."警告"なのだ」

 

 

 

 

『家久と同じ目に遭いたくなければ、さっさと降伏しろ。でなければ、島津家はおろか、島津に加担した者は問答無用に皆殺しにしてやるぞ』そう伝えているのだ。

 

 

 

 

「わしは獅子の.....いや、魔獣の眠りを覚まさせてしまったようじゃ。最早、わしらの都合だけで争いを起こせば、それこそ罪。これ以上無駄な血を流す事は許されぬ。

わしらの負けだよ」

 

「....................................嫌だね!!!」

 

 

歳久が再び刀を持って天竜に突撃した。

 

 

「待て!歳久!!」

 

「うおおおおおぉぉぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「ベルフェゴール」

 

「はい」

 

 

次の瞬間宗麟の背中から鞭のように翼が生え、歳久の両腕を斬り裂いた。

 

 

「うxjぅjckぇっfxj!!!!!?」

 

 

声にならない悲鳴があがる。

 

 

「感謝しろ。命は助けてやる。

よく猛省するこった。行くぞベル」

 

「はい」

 

「歳久ぁ!!」

 

 

義弘が歳久が弟を抱き寄せる。そして、自身の不甲斐なさを悔やんだ。

 

 

「待て!!!」

 

 

呼び止めたのは良晴。

 

 

「何が目的だ!何のためにこんな事をした!!」

 

「................良晴よ。元親の弟を知っているか?」

 

「!?....................あぁ、信親か?」

 

「今回が初陣だったらしい。だが運悪く討死してしまった。彼を討ち取ったのは島津家久だ」

 

「あぁ、俺も知っている。だが、それが?」

 

「それが理由さ」

 

「はぁ!?」

 

「信親が死に、元親はショックで狂ってしまった。無理もあるまい。愛すべきたった一人残った肉親が死んでしまったのだから。

だから敵討ちだ。これでも彼女の夫でね」

 

「だからって!これだけの人を傷付けていい理由にはならない!!家久だけならともかく、義久達まで.....」

 

「自分の女の悔いを晴らす事が!!

理由になっちゃいけないのかよ!!!?」

 

「!?」

 

 

天竜の叫びに、良晴は言葉が詰まる。

 

 

「だから味合わせてやったのさ。大事な家族を奪われる苦しみを百倍返しにしてなぁ!!」

 

「..........天竜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な〜んてね♪」

 

「!?」

 

「ぶっちゃけ、そんなの理由にならんのは当たり前だよねぇ?いかなる理由があろうとも、殺しは殺し。大義名分は存在しない。

だからこの行動は〜元親の為じゃなくてぇ!

自分が楽しむ為ってのが本音かなぁ?」

 

「っ.....!?」

 

 

良晴もまた腰が抜け、その場に座り込む。

 

 

「あんた誰だよ?」

 

 

そう言った。

 

 

「う〜ん。"天竜"とは少し違うんだよねぇ。

天竜と朧の融合体。

..............だから、『天龍』とでも名乗ろうか?」

 

「天.....龍.....?」

 

 

その時だ。

 

 

「ぷっ.....あっはっはっはっはっはっはっは.....

やっぱあんたはあんただ。

いつも冷静に冷酷に残酷に.....

人の二歩三歩手前を歩き、

俺達足の遅い奴らを置いていく。

これで九州は落とされた。

そのうち琉球や朝鮮も同じように落とすのか」

 

 

力無い笑いをあげる良晴。どれだけ変わろうと、どれだけ力を手に入れても勝てない、圧倒的存在を前に疲労したのだ。

 

 

「..........良晴」

 

 

天龍は口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"琉球ならもう落としたぞ"?」

 

 

 

 

 

 




途中、うみねこネタ入ってました。
これにて九州戦終了!
だが残る謎、小早川秀秋、豊臣秀次。
琉球王国が落ちた理由とは!?
次回予告
天下統一
〜戦国時代終結の時〜


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第七十九話 天下統一

前回の誤植。
黄黄が日本語慣れしてる...3年も暮らしてれば日本語も慣れるだろうけど、「〜アル」は正直残したい。
義弘が標準語に...ぶっちゃけ、薩摩弁に直すの面倒いです。

気が向いたら直します。


「琉球ならもう落としたぞ?」

 

 

天龍はそう言い切った。

 

 

「なん.....だって!?」

 

 

さしもの良晴もこれには驚かざるを得なかった。天龍の所在が見当たらなくなってからの1ヶ月間、九州征伐が行われている裏で琉球征伐が行われていたなんて、誰が思うだろうか?

 

 

「.....やってだ?」

 

「ん〜?」

 

「どうやって琉球を落とした?」

 

「ほう?」

 

「この国の戦力の大部分は九州征伐に回していた!なのにあんたは琉球を落とした!九州征伐不参加の大名であんたに付き従うような者はそう多くない。

水軍と陸軍両方に優れた兵が必要なはず。

あんたはそれをどうやって用意した?」

 

「おやおや、成長したじゃないか良晴。

愚か者ならここで『Why?』と尋ねるのに対して、お前は『How?』と尋ねた。上出来だよ」

 

「..........」

 

「答えよう。水軍は用意しなかった。何しろ九州征伐に軍船も軍艦も導入してしまっていて、持ち出す余裕がなかったからな。

"だから空軍を用意した"」

 

「空軍!!?」

 

「あれだよ」

 

 

天龍は外を指す。

 

 

「なっ.....!?」

 

 

それは空にあった。まるで巨大な船。

飛行機などとは違い、空中で停止している。

 

 

「気球..........いや、飛行船か!?」

 

「その通り。チェッペリン硬式飛行船。

あれで琉球に夜襲を仕掛けた」

 

「夜襲!?」

 

「いいや、暁襲(ぎょうしゅう)と言うべきか。人が最も油断する時間帯は真夜中ではなく明け方だ。多くの人物が眠っている。おまけに人間は夜行性ではないから敵の姿すら見えない。

我々と違ってな」

 

「我々?」

 

「使った兵は全員吸血鬼だ。常陸で臨時収入でたくさん手に入ったからな。飛行船で首里城の真上、1kmの位置にて停止し、そこから総勢100人の吸血鬼が一斉に降り立った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一月前、琉球王国。

 

 

「ちょっ.....本気で飛び降りるのですか!?」

 

 

藤堂高虎が言う。

 

 

「何言ってるんだい高虎。吸血鬼の君にはこんな高さなんて、わけないじゃないか。悪くて足が折れるくらいさ」

 

「嫌ですよそんなの!?私が高所が苦手だって知っているでしょう!?太田城の天守閣の高さですら私には震える程だったのですよ!?」

 

「だから後でおっぱい揉ませてあげるって言ったじゃん」

 

 

今は女性体の天龍だ。

 

 

「揉ませる程の乳なんてないでしょう!」

 

 

高虎が口走る。天龍は貧乳だ。

 

 

「...........」

 

「あっ、あの.....すみません!その.....」

 

「えいっ!♡」

 

 

天龍は高虎を蹴り飛ばした。そしてそのまま飛行船から落ちた。

 

 

「ひぎゃくぅあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

頭から落ちていく高虎。これでは首が折れる可能性がある。

 

 

「くっ!!!くあああぁぁ!!!!!」

 

 

高虎の腕と足、それから股の間に皮膚が薄い膜のように広がる。上皮の変質。高虎はムササビのような状態になった。

 

 

「ひゅ〜やる〜!高虎に続け!奴らが戦闘態勢に入る前に首里城を陥落せよ!」

 

「「「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

 

総勢100人の吸血鬼が一斉に降下する。その中には宗麟や、あの蒲生氏郷までもがいた。それからついでに、伊達政宗まで興味本位で付いてきた。

 

 

「おい梵天丸。お前は目玉以外は人間だから、この高さから落ちたら死ぬぞ?」

 

 

一斉降下中の天龍の一言。

 

 

「にゃにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?

それは飛び降りる前に言ってくれ!!

まさか魔太閤め!我を謀ったな!?」

 

「ちゃんと言ったさ。なのに一人中二やって人の話聞いてなかっただろ。自業自得だ」

 

「ぷっ.....馬鹿な餓鬼アンチの死が目の前で見られるなんて、なんたる幸運か」

 

 

氏郷が言う。

 

 

「くそぉぉぉ〜!!!糞耶蘇のくせに〜!!」

 

「しゃ〜ない。レオ、梵天丸をおぶってやって」

 

「なっ、なんで私が!?」

 

「レオ.....これは命令だよ?」

 

「あうぅ.....」

 

 

仕方なく宿敵の梵天丸をおぶる氏郷。

 

 

「や〜いや〜い!」

 

「振り落とすぞ餓鬼」

 

「ひぃえっ!!?」

 

「むぅ.....対処に困る」

 

 

悩む天龍。これが落下中の出来事である。

 

 

 

 

 

 

4時35分に始まったこの暁襲。決着がついたのは2時間後の6時30分の事。人間よりもはるかに強力な吸血鬼100人の強襲だ。琉球側も慌てて4000人あまりの兵を差し向けようとしたものの殆ど間に合わず、首里城は陥落してしまい、国王尚寧王は捕らえられた。

まぁ正面からぶつかったとしても、結果は同じだったと思われる。被害が最小限に抑えられた分、いいのかもしれない。

 

 

「※離せ!私は尚寧王であるぞ無礼者!」

 

 

※翻訳済み

琉球語は最早日本語ですらなかった。

島津義久の薩摩弁以上に分からない。

 

 

「※おやおや。沖縄美女がどんなものかと楽しみであったが、やはり大和撫子とはまた違う美しさがあるな。まだまだ幼女ではあるが、私好みだ」

 

「※ひゅわっ!!?」

 

 

天龍がスラスラとした琉球語でナンパする。

尚寧王は去年就任したばかりの新米王だった。

 

 

「えっ!?何故天龍様が琉球の言葉を!?というか、何故私達は琉球の言葉を理解できるので!?」

 

 

宗麟から疑問が生じる。

 

 

「そりゃあ、俺らが人外だからさ。

人外に人間の概念は存在しない。

神が人間に与えた呪いすらもな」

 

「神が与えた呪い!?」

 

「『バベルの塔』をしってるか?」

 

「存じています。旧約聖書の創世記に登場する聖なる塔の事ですよね?」

 

「それなら私も知っている」

 

 

氏郷が話に参加する。

 

 

「世界中の人間が手を取り合い、天にまで届く高い塔を建築し、神に挑んだ。それに怒った神はその"いかづち"にて塔を破壊した。その影響により、人間達の言語はバラバラとなり各国に散らばり、その後手を取り合う事は二度となくなった。

一説には言語を分けた事により、塔の建築を中断させたという話もありますね」

 

「その通りだ。真実がどちらかは分からんが、それをきっかけとして人間はそれぞれで言葉を持ち、自国の言葉が通じない相手は"敵"と認識するようになったんだ。

まぁぶっちゃけ、人間達に争いという概念を植えつけたのは神だって話なんだけどな。

今でこそバイリンガルというか、他国の言語や文化を学んで交流しようという国が増えてきてるがな」

 

 

平成の世では英語という世界共通言語により国際化が進んでいる。

 

 

「すると.....吸血鬼はその神による言語の分断化の影響を受けないのですか?」

 

「吸血鬼に限らず、妖怪悪魔の人外の類いは全部だな。あくまで"人間"に課せられる縛りだ。人間を超越した時点でそれはなくなるよ。それは国外だけでなく国内でもな。方言も言わば小さな言語の分断化だ。薩摩弁や琉球語が理解できるのはその為だよ」

 

「「なるほど」」

 

 

2人とも納得したようだ。

 

 

「ククク。デマカセを言いおって。

この伊達政宗には琉球語など分からぬぞ」

 

「さっきも言ったが、お前は目玉以外は人間だからな。他国の文字は読めても、言語は聞き取れんよ。耳でも移植しない限りはな」

 

「にゃにぃ!?じゃあ耳をくれ!」

 

「えぇ〜?やだよ〜」

 

「図々しいぞ伊達政宗!"ウラド様"よりその瞳を与えられただけでも光栄を思わぬか!!」

 

 

氏郷が言う。

 

 

「つい最近まで命狙ってた奴の言う事かよ」

 

「はっ!?.....すみません!!」

 

「いいよ。レオに限らず、ベルも高虎も敵側にいた奴だし」

 

 

天龍はこの吸血鬼一味の中だけなら、

"ウラド様"と呼ばれていた。

 

 

「ウラド様!!この高虎めはずっと貴方様の味方だったではありませんか!?」

 

「"天竜"の敵だったろ?」

 

「そんな殺生な」

 

 

そうして、天龍軍の"第一次"琉球征伐は終了した。この時点では琉球を征服せずに講和扱いとし、その講和の条件として、琉球王国は『外政権』を天龍軍に委ねる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外政権!?」

 

 

良晴に尋ねられる。

 

 

「あぁ、琉球は明の冊封国.....つまりは属国だったからな。征服する上でその繋がりを断ち切る必要性があった。だからこそ外政権を奪った。それにより琉球を日本側に引き入れ、『世界の中の一つの国』としてではなく、『日本国内の中の一つの国』としたのだ。

簡単に言えば、琉球王国を琉球国。

尚寧王を国王ではなく大名にしたのだ」

 

「...........それが"第一次"って事はまだ続きがあるんだろ?」

 

「その通り。その7日後に俺は再び琉球を襲った」

 

「何でだ」

 

「一つは残った目標、『内政権』を奪う事。

それさえ奪えば琉球は征服したようなもんだ。

二つ目は尚寧王を完全に屈服させる為だ。

一度目の襲撃では、琉球にはまだ兵力も気力も残した状態での勝利だった。だからこそ、いつ反旗を翻すか分からない。俺は"第二次"において、あえて敵に襲撃の日時と時間帯を予め伝え、準備させた上で正面からぶつかった。

そしてこれでもかという具合に叩きのめした。

 

ぶっちゃけやり過ぎた。

 

終わった頃には尚寧王なんかマジ泣きしてたし、途中で明からの援軍まで来ちまって、怖気づいた梵天丸が慌てて

『 空裂眼刺驚』を撃って、四艘撃沈しちまって.....かなりの大惨事になっちまった」

 

「..........」

 

「ちなみにそれが明への宣戦布告と取られたようだ」

 

「なっ!?」

 

「お陰で明からの特使が長崎に集結してな。まぁ、相手すんの面倒いから待たせてんだけどさ。

首斬って明に送り返そうかなぁ」

 

「冗談でもやめろよ!?今の日本に明とまともにぶつかるだけの戦力なんてないぞ!?」

 

「まぁ、冗談くらい言わせてくれ。

今の俺はウキウキしてたまらないんだ!」

 

「?」

 

「考えてもみろ?これで俺は正真正銘"天下人"だ」

 

「!?」

 

「これで第一目標の日本征服は達成されたわけだ。これから国内の内政を整えつつ不穏分子を排除し、国家を安定させた後、第二目標の"天竺調略"。第三目標の"明の侵略"に繋げていくのだ。

いやぁ〜!こういう時に吸血鬼は便利だ!寿命の概念がないから、何世紀でも戦争が続けられる!」

 

「なんだと!!?」

 

 

良晴は激昂した。

 

 

「手前ぇ!!一体いつまで!

どこまで戦争を続けるつもりだ!!」

 

「無論、世界が統一されるまでだ」

 

「手前ぇ!!」

 

「良晴よ。世界征服と天下統一。何が違うんだろうな?」

 

「!?」

 

「信奈の征服事業は応援する。だが、俺の征服事業は反対。完全に偽善じゃあないか」

 

「違う!!俺は.....」

 

「だがお前にどう思われようとも、この計画を見直す事はないがな?」

 

「くっ.....!!」

 

「そして、然るべき人物にその世界を明け渡す。俺をも超える力を持ち、俺を倒す事ができる強者に。統一された世界全てを託す」

 

「何故そんな事を.....」

 

「生憎俺ができるのは、"破壊"と"創造"だけでね。創造された後の世界を持続させ続ける力までは持たない。だからこそその権利を委任するのさ」

 

「間違ってるよ.....そんなの.....」

 

「完全に正しい事なんてこの世にあるのかい?」

 

「手前ぇ!!」

 

「候補は何人かいる。お前は勿論の事、武田信玄、上杉謙信、伊達政宗。それからガブリエルもな。それ以外に海外にも候補は数多くいる。信奈にもそこそこ期待はしていたが、お前に毒されて弱くなった奴は既に俺の敵ではなくなったよ」

 

「黙れっ!!」

 

「しかし勝千代は病気、梵天丸は未熟、謙信はその気はあっても、妹の存在が足枷に。ガブリエルは"絶対に"俺を殺せない。つまり大本命はお前という事になるなぁ?」

 

「あんた.....その為に俺を.....」

 

「あぁ、想像の通り。お前を人狼にしようと計画したのは俺さ。いや?正確には"私"かな?当時、"俺"はその事を知らなかったからな」

 

「!?」

 

 

天龍の台詞の意味が分からない。

 

 

「大体4年前くらいか。お前を人狼にしたのは」

 

「そっ、そんなに前から!?」

 

「あぁ、お前が無様に寝てる最中にオルトロスにお前を噛ませた。入れさせた血は半分だったから、お前に人狼の力が覚醒したのはつい最近だがな。その証拠に、お前は箱館湾の軍艦の甲板上にて、俺の支離滅裂な言語を正確に聞き取ってみせた。

"人外は全ての言語の理解ができる"。

それが理由さ」

 

「くっ.....!!」

 

「とはいえ、今のお前じゃあ俺は倒せん。前までの半分の俺ならともかく、完全な1人のドラキュラとなった俺を果たして"君は"倒せるかね?」

 

「..........倒すさ。今は無理でも、いつか手前ぇの息の根を止めてやる!」

 

「おやおや怖い怖い。楽しみにしているよ。精々おっかなビックリ寝首でも掻きに来るがいいさ」

 

「正面からぶつかって殺す!!」

 

「くひゅひゅひゅひゅひゅひゅ.....!!!

そのいきだ。まぁ、"頑張りな"!」

 

「絶対に殺す!!」

 

 

良晴の瞳は吸血鬼とは対照的な『黄金色』の人狼の瞳に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十日後、島津軍の残った不穏分子を全て排除した後の事。総大将島津義久と副将島津義弘は大坂城に呼ばれていた。最後の戦後処理の為だ。

 

 

「貴様らの領地についてだが、九州にて新たに得た地は没収。だが、薩摩と大隅、それから日向の諸県郡だけは安堵してやる」

 

「「(※)ははぁ!!」」

 

 

島津姉弟は歯痒くも天龍に頭を下げる。

 

 

「それとだ。貴様ら良晴とで勝手に結んでいた政略結婚についてだが.....」

 

「※..........!?」

 

 

義久が多くの汗を流す。

 

 

「良しとする。勝手に結婚でもSEXでもするがいいさ」

 

「※..........ほっ」

 

 

義久は安堵した。ここでもし反対なんぞされていたら、この場で切腹でもしてやろうと考えていたからだ。

 

 

「ただし条件がある。義久は結婚するにあたって、この大坂城に入ってもらう。それに伴い、島津家当主の座を義弘に壌土せよ」

 

「「(※)なっ.....!?」」

 

 

それはつまり、義久に人質になれという事。

 

 

「※..........わっ.....私は.....」

 

 

義久は義弘と視線を合わせながら、再び大量の汗を流す。

 

 

「くっ.....」

 

 

義弘もまた同じ反応を示す。弟としては姉に幸せな結婚生活を送って貰いたい。だがしかし、薩摩から遠く離れた大坂で人質として暮らす運命に晒させるわけにはいかない。

 

 

「どうする?私はどちらでも構わんぞ?くくく.....」

 

「「(※)くっ.....!!!」」

 

 

困惑する姉弟をニヤニヤと眺める天龍。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「虎寿丸は俺が責任持って保護する。安心して任せてくれ義弘」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....良晴!」

 

 

義弟からの救いの手に感銘を受ける。

 

 

「良晴.....」

 

 

義久は思わず涙を流した。

 

 

「ちっ.....!」

 

「ふんっ」

 

「「.....................」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話はこれで終わらなかった。

 

 

「そういや貴様も独り身だったな義弘」

 

「はっ、はぁ.....」

 

「この際だ。お前も結婚しちゃえ」

 

「はぁ!!?」

 

「何言ってんだ天龍!!?」

 

「いいじゃんいいじゃん」

 

「しっ、しかし殿下!某にはかようなオナゴなどいませぬ。唐突に言われ申しても、某が結婚など.....できぬでごわす」

 

「別にお前の嫁は用意しとるよ。

.....そっちで個人的に結婚されても困るし」

 

「!?」

 

「うちにいき遅れの女がいてな。

..........丹羽長秀って知ってっか?」

 

「それは..........太閤の愛人の.....」

 

「それただのデマな」

 

「天龍!!!よりにもよって長秀さんを!!」

 

「実は既に呼んでる。仙ちゃ〜ん!」

 

「誰が仙ちゃんだ!」

 

「離せぇぇぇ〜!!!」

 

 

万見仙千代が鋼鉄の糸で拘束された長秀を無理矢理引っ張って連れてくる。

 

 

「ほらっ、連れてきたぞ」

 

「ありがと。御礼は今夜な」

 

「..........莫迦」

 

 

やや頬を染めた仙千代が退室する。

 

 

「何なんですか秀長殿!!

突然こんな所に連れて.....

って、島津ぅ!!?」

 

「まぁ、いいや。万千代、義弘と結婚しろ」

 

「えっ!結婚!?♡

..........じゃない!なんですか結婚って!?」

 

「今、一瞬嬉しそうだったじゃんか。

どんだけ男に飢えてんだよ」

 

「うるさいDEATH!!」

 

「おいおい。十兵衛じゃねぇんだから」

 

「貴方が...........丹羽殿?」

 

 

義弘が尋ねる。

 

 

「あっ.....いや..........その.....」

 

 

慌てて身なりを正し、正座する長秀。

田舎から来た乱暴者のような想像をしていた長秀は、義弘の上品さに驚いていた。しかも彼が、結婚相手として紹介されているのだ。そうでなくとも、意識してしまう。

 

 

「うぅ.....」

 

「丹羽殿?」

 

「ひゃっ、ひゃいっ!!?」

 

「ふふっ.....まぁ焦らずとも、某も貴方もまだ若いのです。今すぐとはいわずゆっくりと関係を育み、お互いの気持ちが理解し合えてからでも遅くはないのではござらぬか?」

 

「..........はっ.....はいっ!!!」

 

 

長秀は満面の笑みで答えた。

普段、いき遅れだのアラサーだの半熟女だの(全て天龍に)言われている彼女には、若いと言われた事が何より嬉しかったのだ。

 

 

「さてさて後は若いの2人に任せて、私らは退散しますかね。ほら行くぞ?」

 

「「(※)むぅ.....」」

 

 

天龍が良晴と義久を連れ出した。

 

 

「秀長殿!」

 

「ん?」

 

「わしはまだ其方という人間が分からん。九州における恨みはまだ残っており、家久や歳久の事もまだ許したわけではない。

だが...........少しだけ、ほんの少しだけ其方の一片が知れた気がする。礼を言うでごわす」

 

「そりゃあ、どうも」

 

 

天龍は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!

島津義弘。想像よりよっぽど馬鹿な男だ!」

 

「「(※)なっ!!?」」

 

 

部屋からだいぶ離れた場所で狂い笑う。

 

 

「義久だけを大坂城に寄せたとなれば、それに反対した他の家臣共が不満をぶつけ、抗議してくる可能性があった!

だが、逆にこちらから丹羽長秀を送った事でこれは平等な人質交換となる。

.....と、誰もが思うだろう。

ところがどっこい、万千代に人質としての価値はない!何故なら、長秀を失った所で、俺には何の痛みもないからだ!

奴らが例え万千代を盾に交渉に応じて来ようとも、盾ごと滅ぼせば済むのだからなぁ!!」

 

「天龍!!手前ぇまた!!!」

 

「※豊臣秀長。義弘と話をさせてもらう。場合によっては今回の講和は.....」

 

「そうはいくかよ」

 

 

次の瞬間、2人を闇から現れた多くの兵が取り囲む。瞳の色からして全員吸血鬼だ。

 

 

「この数に勝てるかな?」

 

「天龍ぅぅぅ!!!!!!」

 

「貴様らはもう二度とあの2人には会えまい。

仮に会えたとしても、島津が滅びた後の、

晒し首となった2人であろうなぁ!」

 

「この外道がぁぁぁ!!!!!」

 

「とはいえ、島津はまだまだ使える。まだまだ利用できるのだよ。だからこそ、俺の手を煩わせないでくれたまえ。貴様らが黙っていれば、万事解決。みんな平和で万々歳。貴様らがきちんと従えば生きた2人ともう一度会えるの

だぞぅ?」

 

「※うぅ.....」

 

「くっ!!......................なんで」

 

「ん〜?」

 

「なんでこんな事をするんだ!!

世界征服するならするでいいさ!

それがみんなの幸せに繋がるなら!

でも、手前ぇのやり方は悪質すぎる!

不必要に人を不幸に追い込んで!

一体なんだってこんな事をするんだ!」

 

「理由を尋ねてるのか?そんなのただ一つさ」

 

 

天龍は良晴の寸前まで顔を近づけ、耳元で囁く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が嫌いだからだよ」

 

 




万千代姉さんが結婚!?お幸せに!
…かと思ったら、そこにも天龍の陰謀が!
ぶっちゃけ、島津家も万千代も天龍にとってはどうでもよく、ただ良晴に嫌がらせをする事だけが目的だったのです。その真相は次回!
次回予告
いざ天竺へ!
〜インドとイギリスと日本〜


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第八十話 いざ天竺へ!

今回から舞台はインド。戦国ものを楽しみにしている方々は少々お付き合い下さいませ。


「俺が.....嫌いだからだと!?」

 

 

良晴は天龍の言葉に驚愕しざるを得なかった。

 

 

「本気で..........言ってるのか?」

 

「あぁ」

 

「!!!」

 

 

良晴は天龍の胸ぐらを掴む。

 

 

「やめろよ。破けるだろ」

 

「そんな事の為に!!!

そんな下らない理由で!!

今まで数多くの人間を不幸にしてきたのか!!」

 

「下らない?...........貴様がこの俺に何をしたか.....何も分かっていないのか?」

 

「はぁ!?」

 

 

天龍は良晴の右腕を掴む。

 

 

「うぐっ.....!?」

 

 

ミシミシと骨が鳴る。速さならともかくとして、力で人狼は吸血鬼に敵わない。

 

 

「教えてやろうか?」

 

「何っ.....!?」

 

「十兵衛だよ」

 

「っ.....!?」

 

「お前...........十兵衛に何を言った?」

 

「..........」

 

「十兵衛に何を言った!!!!」

 

「..........真実だ」

 

「真実だとう?」

 

 

右腕を掴む手にさらに圧力がかかる。

 

 

「がぐっ!?」

 

「お前が言う真実は.....『天竜が最低な奴だから、奴のものから俺のものになれ』という事か?」

 

「ちっ、違う!!俺はそんな事.....」

 

「同じだ!!どちらにせよ、あいつは思い出してしまった。昔愛した男への思いをな!!」

 

「そんな!?俺は!!」

 

「なら何故一度捨てたんだ!!」

 

「捨てたって.....俺は.....」

 

「俺と出会うまで十兵衛は貴様一筋だった。いや、俺と出会った以降もそうだったんだ。だが逆に俺はあいつに光の面影を重ねて.....ずっと俺は十兵衛ではなく、彼女の奥の死んだ光に恋をしていた。

だが、光は生きていた。

それにだ。記憶を取り戻して初めて気づいたが、俺は光をこの世に呼び寄せた張本人だった!呼び寄せたどころではない。一緒に時空の壁を渡って来たんだ!そこで俺はドラキュラとして、あいつはその妻"吸血鬼カーミラ"として100年も一緒にいたんだ。

それを知って、俺はもう一度光を愛してしまった。明智左馬助光春を愛してしまった。だがそれは、十兵衛から気持ちが離れる事にも繋がる」

 

 

今の天龍はまさしく"天竜"だった。

 

 

「今のあんたは十兵衛ちゃんを愛せてないのか?」

 

「愛している.....と思う。思いたい。これが偽りであるという事は信じたくない。だが、俺はあいつを愛していると言い切れない。

たとえあいつが俺の子を孕んでもだ」

 

「えっ?」

 

「十兵衛が孕んだ。正真正銘俺の子だ。

俺は愛してやるべきだ。

拾を産んだ小五郎と同様に.....

だが気づいてしまった。

俺の十兵衛に対する愛が"偽り"だった事に。

今の俺からすれば、十兵衛は孫市や嘉隆と同じ側室程度の想いしか持てていない」

 

「お前がそんなんだから!!!

..........今の手前ぇに十兵衛ちゃん相応しくない。

十兵衛ちゃんは俺が!.....」

 

「それが許されないと言ってるんだ」

 

「何っ!?」

 

「そうでなくとも十兵衛は俺の"所有物"だ。

俺のものは俺のもの!

貴様如きにくれてやるものか!

貴様にくれてやるぐらいなら殺した方がましだ!」

 

 

良晴はたまらず、天龍の顔面を殴る。

その衝撃は凄まじく、彼の顎部を粉砕した。

 

 

「死ぬべきは手前ぇだ天龍.....

自身の都合で世を惑わす化物め!!」

 

「それは貴様も同じ事だろう!!」

 

「!?」

 

 

瞬時に顎を再生させ、今度は回し蹴りで良晴の頭蓋骨側頭部にヒビを入れた。

 

 

「がぐっ.....!?」

 

 

「人狼も吸血鬼も元は同じ一族。だから、霊力回復の為には血液から霊力を摂取する必要がある。だが、もう一つ回復の方法はある。

それが『性行為』さ。

性行為によって得られる精力は人間の血肉から得られる霊力に等しい。食人を嫌うお前はむしろそちらの方法を多用した。だがそれは無理があった。信奈1人との性行為で得られる精力には限界があったからだ。

だから貴様は信奈以外の多くの女子と関係を持った。生きる為、本能赴くままに女子を貪り食した。これが化物でなくて何なのだ?」

 

「違う!!..........いや、俺は確かに化物さ。

でも人の心は無くしていない!

俺はただ誰も殺したくないだけで.....」

 

「最近の姫武将が元気無いのが何故か知っているか?」

 

「なっ!!?」

 

「精力とは魂の一部を指す。貴様が食ったのは姫武将達の魂さ。貴様は血を飲まん分、数多くの姫武将を犯す必要がある。

貴様は知らず知らずに多くの人間の命を食っている。多くの人間に不幸を与えて、幸せを吸っている。全ては生きる為だ。俺と何が違うのだ?

いつか死人も出よう。

果てさて、貴様に命を投げ出す女子が何人出ようか?」

 

 

今の天龍は冷酷さ滲み出た"朧"だ。

 

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!!」

 

「そうだ!面白いものを見せてみよう!」

 

 

そう言うと、天龍は人差し指を良晴の首筋に突き刺す。

 

 

「あぐぅっ.....!!?」

 

「今から送る記憶は真実さ。俺も正直忘れていた記憶だ。融合して初めて思い出したんだ」

 

「何を.........................なっ!!?」

 

 

良晴は脳内で何かの映像を見た。

そして、次の瞬間には意気消沈していた。

 

 

「そんな.....そんな馬鹿な.....」

 

「全て真実だ」

 

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁ!!!!」

 

「ふっくっくっくっくっく.....

精々嘆け。そして俺への恨み辛みを溜めるこった」

 

 

そう言い、天龍は姿を消す。

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「※うっ.....よっ、良晴!」

 

 

子供のように泣き叫ぶ良晴。側室となった義久は初めて見る彼のそんな姿を前に、何もできずにいる。そんな時。

 

 

 

 

「良晴!!」

 

 

 

 

正室の信奈が現れた。良晴の戦勝を聞きつけ、わざわざ大坂城から単騎で駆けつけたのだ。大坂城には妊娠した十兵衛を送り届けに行っていたのだ。

 

 

「どうしたの良晴!?あんたが泣くなんて!」

 

 

笑った良晴。困った良晴。怒った良晴。

数多くの良晴の顔を見てきた彼女も、彼が泣いた所を見たのは初めてだった。夢を見て静かに涙を流していた事は何度かあった(未来に残してきた母親に関する事で)。だが、このように子供の如く大泣きするのは見た事がない。

 

 

「※.....あう.....」

 

「あんたが島津義久ね。新しい側室の」

 

「※えっ!?」

 

「驚かなくても知ってるわ。皮肉にもあの"天竜"に教えられてね。それから"猿"の妖怪になってる事もね。それが原因で色んな女の子と浮気してる事も(怒).....」

 

「※猿じゃなくて狼じゃ.....」

 

「あん?」

 

「※ひぃぃ!!ごめんなさい!!」

 

 

恐妻で知られる信奈。勝手に側室になった事に微かに後ろめたさを感じて、信奈にビビる義久。

普段ならこんな事はないのだが、良晴がこんな状況になってしまい、彼女も混乱しているのだ。

 

 

「いや、謝られても.....

それが薩摩語なの?何言ってるか全然分からないわ。

南蛮語とほとんど一緒ね」

 

「※..........」

 

 

信奈が気にしていたのはそちらの方だった。

薩摩弁も一応、日本語である。

 

 

「...............れた」

 

「「!?」」

 

 

良晴が小声で呟く。

 

 

「良晴、どうしたの!?」

 

「.....殺された」

 

 

放心状態で返答する。

 

 

「一体誰が.....誰に殺されたの!?」

 

「俺は.....もう帰る場所も無くしちまった」

 

「※良晴!」

 

「もう一度ちゃんと教えなさい!

一体誰が誰に殺されたのかを!」

 

「..........」

 

 

良晴は答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さんと母さんが...............天龍に殺された」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからして。天龍は勝ち取った豊前国を黒田官兵衛に、朧から受け継いだ常陸国を竹中半兵衛に与えた。

 

 

「何故あの二国を彼女らに?」

 

 

三成が聞いてくる。

 

 

「良晴から離す為さ。九州と関東じゃあ、そう簡単には2人を頼れんだろう?」

 

「ですが何故?」

 

「良晴は両兵衛に頼りすぎる節がある。

あいつには、軍師なしでも俺を倒せるぐらいに強くなってもらう必要がある。良晴軍の強さはあの軍師達によるものだと言っても過言じゃない。

お前も九州ではよく分かったろ」

 

「.....はい」

 

 

三成自身、九州では天龍不参加という事もあり、いつも通りの実力が発揮できず、いくつもの失敗を繰り返してしまった。それを全て両兵衛がカバーしたのだ。

大谷吉継は三成の補佐の役に留まった為、九州は実質両兵衛によって制圧されたようなものだった。

 

 

「特に半兵衛だ。復活してからは昔以上に冴えている。ほとんど化物さ。俺自身、奴と向かい合うのはなるべく避けたい。

官兵衛もだ。半兵衛程の実力はなくとも、常人ならざる才能の持ち主。潜在能力も高い。将来は半兵衛以上の化物になるかもしれん」

 

「そっ、そんなに!?」

 

「だってさ、官兵衛の作った『おーとまた8号』を見たけど、完全にガン●ンクだぞ!?

あんなのが100機も量産されてみろ!

国がひとつ滅ぶぜあれは。

いつかガン●ムくらい作るなあれは。

半兵衛は半兵衛で、陰陽術を完全に開花させてる。俺のとは相性が悪いから、本気でぶつかったら殺されるかもしれん」

 

「はぁ.....」

 

 

逆にどんどん自信を無くす三成。

 

 

「まぁいいや。俺、明日から天竺行くから後よろしくな」

 

「天下統一されて間も無いのに、もう天竺に行かれるのですか!?」

 

「別に戦争しに行くわけじゃねぇよ。ただの挨拶さ。向こうの連中だって、日本が統一されて豊臣秀長っていう人物が治めているなんて知るよしもない。そういう点においても日本はまだまだ弱小国だよ。今回はただ顔を覚えて貰うだけさ」

 

「そんな!天龍様はこの世界で最も偉大な国王です!」

 

「一応、天皇の代理って立場なんだけな.....

まぁいいさ。俺が行ってる間の代わりをお前に務めて貰いたいわけよ。良晴に任せる気なんてさらさらないし。名目上は金吾にさせっから」

 

「秀秋様に?」

 

「うん。俺の後継ぎ。でもまだまだ未熟だから補佐しちくり」

 

「そういえば、何故秀秋様は突然小早川への養妹を受け入れられたのでしょう?ああも嫌がっておられたのに、九州でも急に初陣に行かれ、いきなり島津家久の首も取られて.....」

 

 

 

 

「あぁ、俺があいつとの義兄妹の関係切って、

"結婚した"からさ」

 

 

 

 

「....................は?」

 

「あいつからしたら、俺との関係が第一だったみたいでさ。義妹も捨てがたかったようだけれども、結婚しようって言ったら、直ぐ様了承したぜ?

とりあえず通い妻って事にして、中国に送ったさ。これでとりあえず小早川もとい毛利とは安泰だな。今後とも毛利の力は重要になってくるしな」

 

「.....はい」

 

「いやはや。ずっと妹として可愛がってきたが、嫁になった途端、女としての魅力が滲み出てきて、美味しそうだ♡」

 

「....................そんなんだったら、私も嫁に貰ってくれてもいいのに」

 

 

三成がボソリと呟く。

 

 

「そんな事言ったって、お前とまで結婚しちまったら、勝猛のやつに殺されちまうよ」

 

「聞こえてらしたんですか!!?

そこは『え?なんだって?』でしょう!?」

 

「吸血鬼の聴力なめんな」

 

「それに何故左近が出てくるんですか!?」

 

 

島左近勝猛は三成の右腕の猛将だ。

 

 

「付き合ってんだろお前ら?」

 

「付き合ってません!!

..........まぁ左近は忠実ですし、名の通り猛々しいですし、いざという時には命懸けで守ってくれますし、時より見せる優しさがなんとも.....」

 

「へいへい。御馳走様」

 

「だから違いますって!!」

 

「それは置いとくとしてだ」

 

「置かないで捨てて下さい!!」

 

「向こうへの付き添いはレオとベルにするからな」

 

「..........むぅ」

 

「不満か?」

 

「不満です!蒲生氏郷も大友宗麟も元は敵対していた耶蘇!それが最近になって急に味方になって、我が物顔で天龍様の側近に付いて!

昔から天龍様の側近は私なのに!!」

 

「そう言うな。お前にはお前の、あいつらにはあいつらの仕事があるんだ。お前だけが頼りなんだよ」

 

「ですが.....」

 

「しょうがない」

 

 

天龍は三成に口付けする。

 

 

「むんん!!?」

 

「頼むよ佐吉。俺の為に」

 

「わっ.....わきゃりましゅた❣」

 

「よっしゃ!」

 

「うぅぅ.....どうせそうやって多くの女性をてごめにしてきたのでしょう?」

 

「否定はしない」

 

「(~_~;)」

 

「半分女だけあって、女の扱いにだけは自信があるのさ」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。飛行船『ワイヴァーン(名付け親は天龍)』に乗りこんだ天龍一行は日本を発ち、目指す天竺ことインドへ向かった。海路を使わなかったのは、敵対中の明がそこら一帯の海を取り囲んでいる為だった。だからこそ、安全な空路を選んだのだ。

 

 

「ふい〜。着いた着いた」

 

「そういえば、我らが出向く事は伝えられたのですか?」

 

 

氏郷が尋ねる。

 

 

「うん。一昨日ぐらいに言って来た」

 

「言って来た!?」

 

「あぁ『ラホール城』に忍び込んで、皇帝の寝室にこっそり手紙置いてきた。ちゃんとペルシア語でな。オシャレに薔薇の花を添えてな」

 

「それじゃあ不法入国と変わらないじゃない!!」

 

 

あまりの出来事に、氏郷も敬語を忘れる。

 

 

「いいんだよ。本来ならあっちから挨拶するべき所を、こっちがわざわざ出向いてやってんだ。不法なんざ知ったことか」

 

「顔を覚えて貰う為の下向きな挨拶じゃないの!?」

 

「なんでこの俺様が天竺如きにヘコヘコ頭下げなきゃならんのだ?いずれは俺の支配下に堕ちる国なのに」

 

「はぁ...........貴方はそんな人間だったわね。忘れてたわ」

 

「そう言うなよレオちゃ〜ん」

 

「ちょっ.....抱きつかないで!!」

 

 

ムガル帝国。当時のインドを治めていた帝国。

この時点での皇帝はアクバル。

 

 

「アクバルとはどのような人物なのですか?」

 

「知らん」

 

「そんなんでよく挨拶する気になったわね」

 

「お前が聞いたのはアクバルの人間性じゃなかったのか?アクバルの詳細なら分かるぞ?

ジャラールッディーン・ムハンマド・アクバル。

ムガル帝国の3代目君主だ。

西暦1556年に13歳で皇位に就いて、それから半世紀かけてムガル帝国を巨大帝国に育て上げた"大帝"だ。亜細亜じゃ明に次いで大国。欧州も目をつけるものの、植民地支配に手こずる程だ」

 

「おおふ.....」

 

「んまぁ、ムガル帝国も200年後には英国に滅ぼされんだけどね」

 

「嘘っ!?」

 

「マジだよマジ。ぶっちゃけると欧州で英国は最大の勢力国になる」

 

「そんな!?ポルトガルは!?イスパニアは!?」

 

「そんなん英国との戦争で負けて、後は衰退の一途さ。対立国の神聖ローマ帝国やオスマン帝国も滅び、フランスも勢力を落とし、世界のトップに躍り出るんだ」

 

「そんなに.....」

 

 

とはいえ米国の出現により、その座を譲り渡す事になるのだが.....

 

 

『そろそろLanding(着陸)致します!』

 

 

宗麟が艦内放送で伝える。操縦者は宗麟だった。

 

 

「宗麟殿もよくこんな鉄の塊を飛ばせるわね」

 

「あいつは元々要領がいいんだよ。車の運転だってすぐ覚えたし。今後の操縦担当は宗麟だな。戦艦や戦闘機も簡単に使いこなしそうだ」

 

「あっ!」

 

「ん?」

 

「敬語使うの忘れてた」

 

「いいよタメ口で。むしろ無理に敬語使われる方がなんか気持ち悪いし」

 

「すみません.....」

 

 

そうして飛行船ワイヴァーンはラホール城前に着陸した。

 

 

「あり?」

 

「あり?じゃないわよ.....」

 

 

氏郷が怒るのもそのはず。着陸して早々、ムガル帝国の兵達に囲まれ、鉄砲を向けられているのだ。

 

 

「 مهاجران غیر قانونی من چه کسی!」

 

「あーあ。不法入国者と勘違いされたみたい」

 

「事実そうじゃない!」

「まぁいいや.....

ما رسولان از امپراتوری ژاپن. من به خوش آمد می گوید امپراتور. خواهید شما را از طریق اجازه.

(私達は大日本帝国からの使者である。皇帝に挨拶に来た。通してもらおう!)」

 

「 آیا به اعلیحضرت بچه های مشکوک که دوست دارند و اختلاف از! بدون انجام و یا حتی به سند ناشناس مربوط به زمانی که آن را روز قبل از دیروز رسیده است. توقیف

ضربه!

( 誰が貴様らの様な怪しい連中を陛下に会わすか!一昨日届いた怪文書にも関係があるやもしれぬ。引っ捕らえよ!)」

 

「怪文書とか言われてるわよ?貴方の手紙」

 

「あるぇ〜?(・3・)」

 

 

新しい天龍は妙な所で爪が甘かった。

 

 

「まぁよかろう。立ちはだかるなら"排除"するのみ」

 

「貴方、最初からそのつもりだったでしょ?」

 

「そういう人間ですよ。彼は」

 

 

操縦席から出てきた宗麟が言う。

 

 

「旧式の火縄銃がたったの20丁か。話にならん。俺が出るまでもない。ベル、さっさと片付けろ」

 

「はいはい。残虐外道魔太閤様」

 

「なんだその酷い言われよう」

 

「自覚しなさいよ」

 

「してるよん♪(*´ω`*)」

 

「(´・ω・`)」

 

 

 

 

その後、宗麟の『ウィング・ザ・リッパー(天龍命名)』によって兵達は駆逐され、ほとんど無理矢理ラホール城に入る事が許されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※以降、全て翻訳済み

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朕こそがムガル帝国皇帝!

ヌールッディーン・ムハンマド・サリームであるぞ!」

 

「あり?」

 

 

色々と暴れた結果、なんとか皇帝に会う事はできた。しかし出てきたのアクバル皇帝ではなく幼女。名前からアクバルの娘?である事は分かったのだが、何故か皇帝を名乗っている。

ヌールッディーン・ムハンマド・サリーム。

後の4代皇帝ジャハーンギールだ。

愚帝として有名であり、イギリス東インド会社設立を許可した事から、インドが英国の植民地になった最初の原因とも言われる。

 

 

「あの.....アクバル帝はいずこに?」

 

「ふんっ!愚かな父は呑気に遠征中だ。

だからこそ皇帝に最も相応しい朕がここにいる!」

 

 

つまりクーデター中だという事だ。

 

 

「まぁこの際サリーちゃんでもいいさ」

 

「誰がサリーちゃんだ!!」

 

「怒った顔も可愛いよサリーちゃん♪」

 

「(# ゚Д゚) ムッカー」

 

「皇帝を口説こうとしないで!」

 

 

氏郷に釘を刺される。

 

 

「冗談はさておきだ。サリーヌよ!」

 

「!?」

 

 

 

「大日本帝国宰相として其方に伝えよう!

我が国と同盟を組め!

そして、"支那"を討つ手助けをせよ!」

 

 

 

 




急展開の八十話でした。
もうぶっちゃけ「信奈の野望」ほとんど関係ありません。
果てさて。ムガル帝国をどう調略するのか!
次回予告
幼女皇帝
〜卑しい大臣から少女を守れ!〜


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第八十一話 幼女皇帝

中二要素が減少する原作に対し、
増大しまくる今作品。今日この頃です。


自称ムガル帝国皇帝サリームに対し、自称大日本帝国宰相の天龍はムガル帝国に対し、同盟を申し出た。しかし、これはお願い口調ではなく、命令口調でされたものであった。

 

 

「きっ、聞こえなかったなぁ〜。

もう一度言ってもらおうか?」

 

 

サリームは頬を引く付かせながら問う。

 

 

「我が大日本帝国と同盟を組め。

その上で支那を討つ手助けをせよ」

 

「ほっ、ほう?シナを討てとな?一体何故であるか?」

 

「実はつい最近、琉球を落としてな」

 

「リューキュー?..........あぁ!琉球ね!」

 

「.....その際に誤って明船まで攻撃してしまってな。お陰で予定よりも早く明に宣戦布告する事になってしまった。だが、今の日本に明を滅ぼせるだけの戦力はまだない。だからこそ、其方の国に援助を頼むのだ」

 

「ほっ.....ほう?何故我が国に?」

 

「ムガル帝国とて元はモンゴル帝国ティムール朝の民族。兄弟国でもあった元国を滅ぼした明国には恨みもあろう」

 

「えっ?そうなの!?

..........じゃない!存じておる存じておる」

 

「なぁ、サリーム」

 

「ほえ?」

 

「お前って馬鹿なの?」

 

「なっ!?」

 

「琉球って言われてパッと出てこないし、己の国の歴史も知らないし、もしかして血筋だけで成り上がったただの幼女なの?」

 

「幼女言うな!!地理と歴史は苦手なんだ!」

 

「得意科目は?」

 

「朕は絵が得意だ!」

 

「美術の才能だけで皇帝になった奴なんて聞いた事ねぇよ」

 

「うるさいうるさい!!」

 

「まぁいい。それでだ。皇帝陛下の返答を貰いたい」

 

「同盟は却下だ!さっさとジャパンに帰れ!」

 

「おやおや。理由をお聞きしたい」

 

「第一に貴様は朕に対して礼儀がなさすぎる!朕は皇帝だぞ!!世界で1番偉いんだぞ!!?」

 

「頭を下げる相手は選ぶ主義なので」

 

「だにぃ!?」

 

「俺が謙る相手はただ御一人。

大日本帝国皇帝こと、正親町天皇陛下のみ」

 

「ふぐぐぐ....!!小国のサルの分際でぇ!!」

 

「そのあだ名の者は他にいるよ。もっとも、今はイヌザルと呼ぶのが相応しいけどね」

 

「うるさいうるさい!!

お前生意気だぞ!朕は!.....朕は!」

 

「ウラド!言い過ぎよ!あんなんでも皇帝なんだから!」

 

「あんなん!(;´Д`)」

 

 

氏郷の一言がサリームに追い打ちをかける。

 

 

「まぁ黙って見てろレオ.....」

 

「!?」

 

「同盟をすれば当然、そちらにも利益はある」

 

「!?」

 

「まだ終了していないインド大陸の統一。手伝っても構わない。それとだ。現在対立しているアクバルとの関係にも終止符を打ってやろう。アクバルの皇位を廃し、君が真の皇帝になる手助けをしてやる!」

 

「しかし.....朕はもう皇帝で.....」

 

「アクバルがそれに反対すれば?

まだ多くの者がアクバルを皇帝と支持していよう。さすれば君はすぐにでも反逆者にされてしまうだろう。だからアクバルを倒すのだ!」

 

「父上を倒す.....」

 

「そうだ!君こそが真の皇帝に相応しい!

俺と組めば、その道も遠くはないぞ〜?」

 

「朕が.....真の皇帝に.....」

 

「ふっくくく.....」

 

「..........」

 

 

氏郷は改めて思った。本当に彼は恐ろしいと。

彼の人たらしは常人の粋を逸脱している。特に女性は彼に弱い。それは顔が良いだとか、口説きが上手だとかではない。彼より滲み出るオーラのようなものに、皆感化されてしまうのだ。これが吸血鬼のチャーム、魅惑の術なのだろうか?

自分もまた彼に魅入られた者の一人。

そして思った。あのまま彼の敵で有り続けていればどうなっただろうか?跡形もなくバラバラにされたガスパール・コエリオの隣りで同じくバラバラにされていたのは自分だったかもしれない。そう思うと、彼の味方になって、心の底から良かった。

 

 

「どう思うアブル?」

 

 

サリームが隣にいた男に問う。髭面の中年男だ。

 

 

「陛下のお好きなようになされませ。私はどこまでも陛下の味方ですから」

 

「そうか!」

 

「.....アブル.....ファズルか?」

 

 

天龍が呟く。

 

 

「よし!明日に改めて宮殿に来い!返答をくれてやる。それまでは町の宿屋に泊まるがよい!一番いい店を用意してやる!」

 

「分かり申した」

 

 

上機嫌のサリーム。この分だといい結果になりそうだ。

 

 

「.....むぅ」

 

 

しかし、天龍には一筋の不安があった。何か見落としがあるのではないかと.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の日本。

 

 

「話に乗る気になったか?」

 

 

良晴はとある地を訪れていた。

 

 

「わらわはもう将軍でもない。兵も持たぬただの1人姫武将じゃ。それでもよいのか?」

 

「構わない。今は一人でも多く仲間が欲しい」

 

「..........分かったぞ!あの魔太閤に一泡吹かせられるのならこの足利義昭!関白殿下に協力しようぞ!」

 

「よろしくな義昭」

 

 

そう言い、良晴は彼女の頭を撫でてやる。

 

 

「えへへ.....」

 

 

あの件依頼、一緒に暮らすものの距離を空け続けている義輝からちっとも撫でてもらえない義昭にはいいご褒美になったようだ。

 

 

「..........」

 

 

だが、その良晴の目は虚ろで死んでいた。

 

 

「兵を1万与える。尽力してくれ」

 

「御意!」

 

 

義昭は敬礼のポーズを取った。

 

 

 

 

 

「足利義昭.....調略完了」

 

 

 

 

 

帰りの道中。巻物に書かれた名前を消す良晴。その行動は織田家中にいた頃の天竜そのものであった。

 

 

「次は.....上杉謙信」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?言ってた宿屋ってここじゃないの?」

 

「俺は他人から勧められた宿屋には泊まらない主義なんだ。昔それで酷い目にあってね」

 

 

それは村上武吉との和睦交渉中の出来事。泊まった宿屋に武吉からの刺客が現れ、更には宿屋ごと焼き殺されかかった。まぁ、それをきっかけに大谷吉継と出会ったのだが。

 

 

「今日は飛行船で寝よう。あそこなら刺客も入ってこれまい。その前に腹ごしらえだ。あそこの店でなんか食おう」

 

「Dinner(夕食)ですか?我々は Vampire( 吸血鬼)ですから食事は Unnecessary(不必要) では?」

 

「そう言うな。伝説とは違い、俺達は美味しく料理を食える。飢えは人間を食す事でしか満たせないが、食事を楽しむ事ぐらいはできよう」

 

「そうね」

 

「Yes!」

 

 

入った店はカリー屋だった。

 

 

「なにこの物体.....もしかしてウン.....」

 

「こらっ!女の子がそんな事言うんじゃない!

しかもこれから食べるものにウンコだなんて!」

 

「貴方も言ってるじゃない」

 

「あの.....ウラド様?Spoon(匙)のようなものはないのですか?」

 

「あぁ、この"ナン"を付けて食うんだ」

 

「これパオン?」

 

「まぁパンだな」

 

 

彼女らが天龍の言う通りにナンにカリールーを漬ける。

 

 

「これは元は英国の料理なんだ。ちょっと時期的に伝わってくるのが早い気もするが、英国人が持ち込んだものだろう。先程聞いたが、東インド会社の設立が着々と進んでいるようだしな」

 

「へぇ〜...........あがぁっ!!!?」

 

「Hot(辛い)!!!?」

 

 

初めてのカリーに悶える美少女二人。

.....を見てニヤニヤする天龍。

 

 

「かっかっか!やっぱそうなったか。本場の奴は粉じゃなくて香辛料だけを使ってるらしいから相当辛いだろうさ。まぁ俺程グルメになれば、このような珍味も美味しく食べられるのだよ。ぱくっ.......................辛あぁぁっぁぁ!!!?」

 

「貴方も同じじゃない!!!」

 

「おかしい..........カリー屋『田島ハール』で本場の辛いカリーには慣れていたはずなのに.....

この時期のカリーとは違うのか!?

それとも吸血鬼の弱点はカリー!?」

 

「なんなのよこの"カレー"ってのは!

毒でも入ってんじゃないの!!?」

 

「カレーじゃない!カリーだ!!」

 

「どうでもいいわよ!!」

 

「 Help me the water(水で私を助けて)!」

 

 

宗麟がおかしな英語を使う。

 

インドでの初のディナーは散々なものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

「どうじゃった?昨夜はよく眠れたか?」

 

「く.....口が痛くて眠れませんでした」

 

「?」

 

 

天龍の主義の一つで、出された料理は完食するのが礼儀というものがあり、一口ですら辛いカリーを全て食したのだ。家臣の二人もそれに殉ずる破目になった。

翌日に動けたのは天龍だけであり、現在、美少女二人は口を真っ赤に腫らしながら飛行船内で寝込んでいる。

 

 

「まぁ良い。ぬしの言った同盟、受けるぞ!」

 

「今日はまた突然ですね」

 

「うむ、朕も昨夜よくよく考えた。このムガル帝国の為、朕の為にはどの選択が正しいのか、その結果ぬしと手を組むのが最も合理的と思ったのじゃ」

 

「有り難き幸せ」

 

 

天龍は軽く頭を下げる。

 

 

「では早速じゃ。アクバルを討つ手助けをせい!」

 

「はっ!」

 

 

頭を下げながら、天龍は邪悪な表情にて微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話は聞かせてもらったぞサリーム!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ...........ちちちちちち.....父上!!!?」

 

「まだ貴様にその呼ばれ方をされるとは光栄だなサリーム!!この逆賊めが!!」

 

「ひっ.....ひいぃぃぃ!!!?」

 

「皇帝.....アクバルだと!?」

 

 

まずい。このままでは計画が.....

 

 

「誰ぞ。この逆賊を捉えよ。皇帝陛下を弑逆し、帝国の転覆を謀らんと企む重罪人ぞ!」

 

「えっ!?」

 

 

サリームが拘束される。

 

 

「アッ、アブル!!?

うっ.....裏切ったなアブル・ファズル!!」

 

「わしは初めからアクバル皇帝が宰相。

陛下の命にて貴君を監視していたのじゃ。

その結果、貴君に反逆の意思があると分かったからこそ、前々より陛下にそれを伝え、今朝方到着なさるように連絡をつけたのじゃ」

 

「ふぐぐぐ.....」

 

「サリームよ」

 

「つっ.....!?」

 

 

アクバルがサリームの真正面に顔を近づける。

 

 

「貴様を極刑に処する」

 

「なっ!!?」

 

「期日は明朝。それまで牢で今までの愚行を恥じるがよい!」

 

「そん.....な.....」

 

 

サリームは手の平を返した元自分の兵に連行されていった。

 

 

「そのジャパンの不届き者も捕えよ!」

 

 

アブルが言う。

 

 

「ちっ.....!」

 

 

天龍が腰の刀に手をかけた。その時。

 

 

「その者とは話がある。別室に通せ」

 

「はっ...........はっ!!」

 

「!?」

 

 

アクバルの命名により、天龍はとある部屋に連れられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクバルが口を開く。

 

 

「初めて見た。貴様がオスマン帝国を恐れさせ、ジャパンを完全に統一したというドラキュラ伯爵か。予想以上に若いな。まるでオナゴのようだ」

 

「なっ!?」

 

「これでも他国の状勢を調べるのが趣味でな。

特にドラキュラ伯爵は朕のお気に入りだ」

 

「は、はぁ.....」

 

「気を悪くせんでくれ。世間で言われているものとは違い、朕はそれなりに貴様を評価している。その行動も人間性もな」

 

 

アクバルは語る。

 

 

「のうドラキュラ。真の平和とはなんじゃ?」

 

「なんだ。いきなり」

 

「国民は戦争を嫌う。だがそれは、戦況が劣勢にある場合、双方に被害が大きい場合だけだ。圧倒的な力で弱小国を討ち倒せば、国民は活気に満ちた表情で喜ぶ。

この矛盾をどう思う?」

 

「そんなもの、矛盾でも何でもない。

人間とは常々、自身の利益のみを優先させる。利益になれば、それを良いものであると錯覚し、不利益ならばそれは悪いものであると錯覚する。

人間の本質は何千年経とうとも全く変わらない。

だから犯罪やら戦争が終わらない」

 

「ほう。では、どうすれば戦争は終わる?」

 

「簡単だ。勝てばいい。全ての対抗勢力を勝って潰し、征服し、対抗意欲を完全に奪ってしまってばいいのだ」

 

「それが本当に正しいやり方か?」

 

「戦争に正しいも間違ってるもあるのかい?

それにこれはあくまで戦勝の方法の1つだ。手段を選ばなければ、勝つ方法なんぞいくらでも存在する。戦争というものは一種の外交手段なのだから」

 

「だが、ぬしは別に外交目的で戦争をしているわけではあるまい。自身の欲の為ではなく、全人類の平和の為に.....」

 

「馴れ馴れしいな。お前に何が分かる?」

 

「王の地位に就いて初めて気付くものもある。

朕が思うに、目先の欲の為だけに争いを起こすのはもう古い。欧州各国がアフリカ大陸やアジア諸国を植民地にしている現在。誰かが止めなければ、世界中で大きな戦争が起こるだろう。誰かがこの世界を破壊し、新たな世を創造しなければ.....それを成しうる可能性を持つ者は、朕とぬしぐらいであろう」

 

「...........」

 

「朕と組まぬかドラキュラ?」

 

「俺はお前の娘とお前の暗殺を企てていたのだぞ?」

 

「それはサリームを傀儡とし、新たな国家を創造しようとしていたのだろう。朕がぬしの立場なら同じ事をする。朕はそのような事で恨んだりはせぬ。王と暗殺は日常茶飯事であるからな」

 

「変わってるな。お前」

 

「朕の後はぬしに継がせたいとまで思っておる」

 

「まじか」

 

「サリームのような己の利益しか考えられないような者に国を任せれば確実にムガル帝国は滅んでしまうだろう。だからこそぬしに頼みたい」

 

「サリームはどうする?」

 

「生かしていても、災いを呼ぶだけだ。朕は王として娘を犠牲にしてでも、数多くの国民を救済しなければならない」

 

「.....そうか」

 

 

天龍はやや微笑し、そして言う。

 

 

「いいだろう。.....共に平和を」

 

 

手を差し出す。

 

 

「共に平和を」

 

 

アクバルもまた手を差し出し、固い握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くひゃっ.....!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ラホール城の外の広場にて、拘束されたサリームが処刑場に連れ出される。彼女に付けられた首輪の紐を悠々を引くのは、アブル・ファズル。

 

 

「陛下!罪人サリームを連れ出しました!」

 

「うむ」

 

 

玉座に座るアクバルの前にサリームは座らされる。そこに天龍の姿はない。

 

 

「ムガルを一大国家に育て上げ、ありとあらゆる大業を成し遂げてきた朕であるが、唯一の失敗があるとすれば.....貴様だよサリーム」

 

「ふぐぐぐ.....」

 

「これから生まれる新しい平和な世に、貴様のような強欲な愚者は不要だ。今の今まで、実の娘だからという理由だけでその横暴何度も何度もを見逃してきたが、今度いう今度はもう無理だ。貴様を滅して、すべてに蹴りをつける」

 

「..........」

 

「やれ!」

 

 

処刑方は刀による斬首。処刑人は3人。2人がサリームを押さえつける係で、もう1人が斬る係だ。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

処刑人が刀を振り上げ、サリームの細首めがけて勢い良く振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『串刺城塞(ガズィクル・ベイ)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

 

突然であった。処刑人の3人が地面から突き出た長槍に串刺しにされたのである。それに乗じ、サリームが拘束を解いて動いた。荒縄で緊縛されていたはずなのに、まるで初めから緩く結ばれていたように。

サリームは、誰も串刺さずまるで彼女の為に用意されたかの様に突き出た槍を掴み、そのままアクバルのもとへと突っ込む。

 

 

「小癪なっ!!」

 

 

アクバルは懐から短筒を取り出し、サリーム向ける。ところがだ。突如として何処からか発砲された弾丸がアクバルの右手首を貫き、彼の右手を短筒ごと吹き飛ばした。

 

 

「がぐぁっ!!!?」

 

 

だがそれ以上に驚いたのは、その自分を撃った人物が、己の右腕とも呼べたムガル帝国宰相のアブル・ファズルだったのだ。

 

 

 

 

ブスリッ!

 

 

 

 

槍は一直線にアクバルの胸に突き刺さった。周りの兵達も反応できない程の一瞬の出来事である。

 

 

「何故.......................。!!!?」

 

 

掠れる目でアクバルは見た。アブルの顔がグニャリと歪み、粘土のように変質し、それがあのドラキュラ伯爵の顔に変わったのだから。アクバルは目を疑ったが、それは現実の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。ラホール城の屋根に惨殺された本物のアブルがボロ雑巾のように捨てられ、その横に宗麟と氏郷が佇んでいた。

 

 

「Master.....」

 

「ムガル帝国の終わりね.....」

 

 

処刑場の方に視線を向け、哀しく眺める2人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐふっ.....!!!」

 

 

吐血をしながら、アクバルはその場に倒れ込む。

 

 

『よう!アクバル!』

 

 

アクバルの脳内に天龍の声が聞こえる。

 

 

『ドラキュラ...........裏切ったな』

 

『裏切りは俺の専売特許だからな』

 

『何故だ.....我々の目指すものは同じはず。なのに何故なんだ.....朕の何が気に入らなかった.....』

 

『お前はいい奴だよ』

 

『!?』

 

『誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりも王として相応しく、誰よりも国民を想い、誰よりも平和を求める。俗に言う完璧人間さ』

 

『なら.....何故?」

 

 

 

『それでも完璧ではなかった。

お前は父親として失格だったのさ』

 

 

 

『!!!?』

 

『俺も4人の.....いや、"7人"の子供の親だから。子を持つ者の気持ちは理解できる。だからこそ、貴様を許すことができない。どんな生物だろうと、子を蔑ろにする親など存在しない。それをする生物は人間くらいだ。それでも、人間の親だって子を大切にする事は当たり前とされている。

お前は人間どころか、生物としても失格だ。

しかもサリームは年端のいかぬ幼女。

俺の中では、世界平和より美少女を優先しちまう質でな。世界を敵に回してでも、1人の美少女を取るぐらいだ。まぁ、そのせいで世界征服に時間がかかってるんだがな。俺の前でサリームの処刑宣言をした時点で、お前を殺す決断はついていたよ』

 

『そんな............馬鹿な』

 

『それに今回の俺の目的はあくまでムガル帝国の調略。言い方を変えれば征服だ。お前の言う通り、サリームは傀儡にするには丁度いいからな』

 

『なっ.....!?』

 

『対してお前は俺の予想以上に強く、そして若かった。すぐに死ぬような老いぼれなら良かったが、あと数十年も待つぐらいなら、操りやすいサリームを使うさ』

 

『まさか............朕は.....このゲームのプレイヤーだとばかり思っていたというのに...........実際はドラキュラが操る駒の1つに過ぎなかったというのか?

虎の威を借る狐だったというのか?』

 

 

アクバルの目の前には、狂喜の表情で槍を構え、とどめを刺そうとしてくる実の娘、サリームの姿。その後ろで死神のように憑き、邪悪な笑みにてこちらを眺める天龍の姿が見えた。

 

 

「魔王...........ドラキュラ.....」

 

 

その最期の言葉の後、アクバルはサリームによって胸を再度突かれ、絶命したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皇帝サリーム及び.....ムガル帝国調略完了」

 

 

 

 

 

 

 




たった2話でインド攻略(笑)。
一方で暗躍する黒良晴。
次回あたりから2人の抗争が本格化!
次回予告
日ノ本の国と大日本帝国
〜魔王vs魔王〜


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第八十二話 日ノ本の国と大日本帝国

あっさりアクバル殺しちゃったけど、もしかしたらイスラム教の読者に命を狙われそうで怖いです。

今更気づいた昔の誤植。
人斬り事件→辻斬り事件
姫巫女のセリフに漢字がある。(原作は全部平仮名)


アクバルの死亡後、彼の親衛隊達が天龍とサリームを捕らえようと突撃してくる。だが天龍はアサルトライフルを召喚し、親衛隊を虫けらの如く薙ぎ払った。

 

 

「控えよ下郎!この愛苦しい顔が目に入らぬか!」

 

「「「!!?」」」

 

 

天龍が叫ぶ。

 

 

「ここにおわす方を何方と心得る!

ムガル帝国皇帝、サリーム陛下あらされるぞ!」

 

「「「はっ、ははあああぁぁぁ!!!」」」

 

 

残りの兵達が全員土下座する。

ほとんど水戸黄門だ。

 

 

「いっちゃんやってみたかったのさ」

 

「大儀であるぞジャパニーズ!

予定とは違ったが、これで朕が真の皇帝じゃ!」

 

 

全身が返り血で染まったサリームが無邪気に抱き着いてくる。

 

 

「いや、アクバルとの関係に蹴りをつけたのはあんたさ。俺はその手助けをしただけに過ぎない。

それより、ジャパニーズなんて呼び方やめてくればいかね。ちゃんと名前で呼んでくれ」

 

「呼ぶも何も、ぬしは朕に名乗っていないではないか」

 

「ありゃ?そうだっけか?」

 

「名を名乗れ。ジャパンの王よ」

 

「ふっ」

 

 

天龍は微笑し、名乗る。

 

 

 

 

「俺の名は、ウラディスラウス・ドラグリア。

気軽にウラドと呼んでくれ」

 

 

 

 

「うむ。宜しく頼むぞウラド!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはサリームの処刑が始まる前夜。

 

 

「よう、サリーム」

 

 

吸血鬼の壁抜け術で彼女の牢に侵入する。

 

 

「あぁ!!貴しゃ.....むぐぐ!!?」

 

 

慌てて叫ぼうとするサリームの口を塞ぐ。

 

 

「馬鹿!見つかったらどうする気だ!

折角立てた計画がパーになるだろ!」

 

 

小声で話す。

 

 

「うむぐっ.....五月蝿い五月蝿い!!

朕を裏切って父上と組んだくせに!!」

 

「知ってたのか」

 

「さっき牢人が嫌がらせのように伝えてきた!

所詮、みんな父上のような大きな力を持った者に惹かれるんだ!朕のような弱者はみんなからハブられる運命なのじゃ!」

 

 

サリームが泣き叫ぶ。信頼していた家臣のアブル・ファズルに裏切られた事が余程ショックだったのだろう。続けて俺まで裏切ったなんて聞かされれば、人間不信にもなる。

 

 

「勘違いするなサリーム。俺は別にアクバルと組んだわけではない。奴を油断させる為にあえて組むと言い、裏でお前と改めて組んで、奴を騙し討ちしようと考えての行動だ!」

 

「五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!!

そんな優しい言葉で言いくるめて、再度朕を騙して裏切ろうとしているのだろう!アブルと同じじゃ!朕の味方なんて1人もいないんじゃ!!」

 

「サリーム.....」

 

 

天龍はサリームを抱き寄せた。

 

 

「なっ.....」

 

「可哀想に.....可哀想なサリーム」

 

 

そう言って彼女の頭を撫でてやる。

 

 

「まだまだこんなに小さいのに、もう負の境地にいるだなんて.....君はなんて可哀想なんだ」

 

「.....うっく.....ぐすん.....」

 

 

いつしかサリームもまた天龍に抱き着いていた。サリームは天龍に亡き母親を重ねていた。そもそもサリームが反乱を起こしたのも、母が亡なったにも関わらず、何の労いも見せなかったアクバルに嫌気をさしての事だったのだ。

 

 

「俺が君を裏切ると思うか?

俺は金や土地、名誉なんかには興味はない。

ましてやアクバル如きに惹かれると思うか?

俺が惹かれるは君だけさサリーム」

 

「ジャパニーズ?」

 

 

天龍はサリームに口付けをする。

 

 

「んん!!!?」

 

 

更には舌を絡め、そのまま押し倒す。

 

 

「んん!.....れろっ.....やめっ.....!んあっ♡」

 

「これでもまだ信じてくれないか?」

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

 

目が蕩け、女の顔になるサリーム。

 

天龍は見た目こそ美少年だが、それでも年の差は10歳くらいはありそうな構図だ。実年齢なら500歳差ぐらいだ。完全にロリコンである。

 

 

「俺と契約を結べ。我が愛しいサリーム」

 

「..........うん」

 

 

コクリと頷くサリーム。

その後、明日の予定等を彼女に伝える。その間ずっと惚けた表情で天龍を見つめるサリームであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朕のものとなれウラド!」

 

「突然ですね」

 

 

アクバル殺害の翌日。

天龍は改めて、玉座に座るサリームのもとを訪れる。側に氏郷と宗麟を連れて。

 

 

「朕はウラドが気に入った!ジャパンの宰相をやめて、我がムガル帝国の新たな宰相となるがよい!」

 

「お断りします」

 

「にゃっ!!?」

 

 

即答だった。

 

 

「駄目...........なのか?」

 

 

捨てられた子犬のような表情で見つめてくる。

 

 

「勘違いをしないで頂きたい。

俺は故郷でもある日本を捨てるのができないだけだ。だからこそ俺は、大日本帝国とムガル帝国双方の宰相を務めたいと考えている」

 

「「「えっ!!?」」」

 

 

これにはサリームだけでなく、氏郷や宗麟も驚愕した。

 

 

「ちょっとウラド!!二君に仕える気!?」

 

「ウラド様!それはDanger(危険)です!」

 

「問題ない!俺がルールだ!」

 

「それが一番危険よ!!」

 

「うるさいなぁ」

 

 

天龍は家臣2人を引き寄せ、耳元に囁く。

 

 

「俺がなるのは、宰相という名の『総督』だ」

 

「「!?」」

 

 

その一言で2人は理解した。

 

 

 

 

「サリームよ!」

 

「ん?」

 

「俺と結婚しろ!」

 

「はにゃ!!?」

 

「この馬鹿!ハショり過ぎよ!!」

 

「いいから任せとけ.....

サリームよ、俺は考えたのだ。始めは大日本帝国とムガル帝国が同盟を組めば勝てない相手はいないと高を括っていた!だが!だがだ!!

ただの同盟ではそれも難しいと気付いた!

大日本帝国とムガル帝国が一つの国に!

同じ国にならなければ!」

 

 

ほとんど演説だ。

 

 

「ジャパンとムガルが.....同じに?」

 

「その通り!これぞ『日印併合』!

それを成す為にも、我らの結婚が必要なのだ!

俺と結婚しろ!皇帝サリーム!!」

 

「はいします」

 

「おぉふ...........即答だな」

 

「日印併合か。面白い考え方じゃ。ここで歴史を一新し、新たな道に進むのも一興である。

ぬしと朕の未来も.....

よし!国の名を変える!」

 

「いきなりっすね」

 

「うむ!何もかもを一新するのじゃ!

ウラドよ!いい案はあるか?」

 

「インダス川から取って、インド帝国は?」

 

「おぉ!!斬新であるな!

よし!朕は今日からインド帝国初代皇帝じゃ!」

 

「..........」

 

 

天龍には馴染み深すぎて今更感が半端ない。

 

 

「この際、改名もしたいぞ!」

 

「ジャハーンギールはどうっすか?」

 

「おっ!なんか格好良いぞ!」

 

「意味は『世界を征する者』っす」

 

「なんと!素晴らしい!!」

 

「は・は・は」

 

 

段々天龍の目が死んできている。

ちょろイン過ぎてやってられないのだ。

 

 

「んで、サリーム」

 

「こら!改名した意味がないではないか!!」

 

「いいじゃん。こっちの方が可愛いし」

 

「可愛い.....♡」

 

 

完全にデレている。本当にちょろインだ。

 

 

「話を戻すが、俺一回日本に帰るな」

 

「えっ!?何で!?朕達の甘い夫婦生活は!?」

 

「インドの残りの領土を手に入れる為にはもう少し兵力が必要なんだ。その為にも、一度日本に戻る必要がある。"任せてきた政策"がどのようになっているかも気になるしな」

 

「むぅ.....」

 

「待っててくれサリーム。いい子に皇帝としていられたら、先日の続きをしてあげるよ」

 

「♡♡♡!!!」

 

「は・は・は」

 

 

なんか、かえって心配になってきた。

 

 

「ベルお前、インドに残ってサリームの監視.....じゃない。補佐をしてやってくれ」

 

「あ.....aye,aye,sir」

 

「(#^.^#)」

 

 

終始ゴキゲンなサリーム皇帝だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りの飛行船にて。行きの操縦士だった宗麟がいないので、急遽氏郷に運転方をレクチャーし、彼女にさせる。

 

 

「全く.....なんで3人でしか来なかったのよ。わざわざ、不器用な私に.....」

 

「いや、後ろの倉庫にいっぱいいるよ?」

 

「えっ?」

 

「ただ棺桶に入って寝てる。もしムガル帝国が俺等を襲った時の保険として持ってきたんだ」

 

「じゃあなんで起こさないのよ」

 

「吸血鬼とはいえ、元は足軽とか農民とか頭の悪い連中だから、使い勝手が悪いんだよ。琉球征伐でよく思い知ったよ。ほっといたら非戦闘員まで殺そうとするし」

 

「全く.....」

 

 

溜め息の後、氏郷が再び問う。

 

 

「今回の貴方はらしくなかったわね。あんな幼女の為だけに皇帝を殺すような賭けに出るなんて。まぁその後、サリームを傀儡皇帝にして、実質ムガル帝国を.....いえ、インド帝国を植民地したのは貴方らしいと言えば貴方らしいけれど」

 

「結果だけを想定して、あくまでムガル帝国を征服する為だけに、あの小娘を利用するだけ.....」

 

「..........」

 

 

「当初はそう予定してた」

 

 

「?」

 

「俺はあの小娘に同情していた。

この500年を生きた大吸血鬼がだ」

 

「同情?」

 

「あの子はある意味天涯孤独なんだ。

愛すべき母を早くに失い、父からは愛されない。政治の道具程度にしか思われず、彼女に近付く人間は皆、彼女の血筋が目的。真に彼女を思ってやれる人間なんて一人もいなかった。

なんとなく、俺に似てるんだよ。

それでも尚、彼女は諦めなかった。

幼く、知識もなく、人を疑えないからすぐ騙される。それでも彼女は行動を起こした。それもまた馬鹿な行動であるが、それが俺にはとても美しく見えた。

同時に思ったよ。こいつは俺が守りたいってな」

 

「.....ウラド、貴方って情に弱くない?」

 

「そうか?」

 

「そうよ。普段は誰にでも強気で、人の幸福よりも有益を優先するような文字通りの魔王なのに、弱い立場の者を前にすればメシアのそれになる。私の時だって.....」

 

「むぅ.....」

 

「まぁ、ある意味では貴方のいい所ね。普段からそれなら言う事なしなんだけどね」

 

「ふっ、それでは世界征服はできまい」

 

「それもそうね。本当に可笑しいわ。魔に染められる事に幸福を感じるなんて。昔の私が知ったら殺されるわ」

 

「その時はまた守ってやるさ」

 

「ふふふ.....」

 

 

 

 

そんな時、天龍に電話がかかる。

それを受けた彼は急激に顔を青ざめた。

 

 

 

 

「どうしたのよ?」

 

「ベルとサリームが宗教論争始めて、大喧嘩してるらしい」

 

 

サリームはイスラム教徒だ。

 

 

「ちょっ、それやばいんじゃないの?ベルフェゴール.....処刑されたりなんかしない?」

 

「吸血鬼だから心配ないだろうけど、それ系の知識持ってる奴がいたらやばいな。これが原因で同盟破棄もあり得るし」

 

 

 

「「............」」

 

 

 

「「まぁ、いっか」」

 

「まっ.....まぁ!サリームは俺にメロメロだから婚約破棄にも繋がるような事はしねぇだろうしなぁ!」

 

「そっ、それもそうね!」

 

 

まるでなかったかのように無理矢理誤魔化し、禍根を残したままの帰国をする2人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

越後にて。

 

 

「それはどういう意味だ謙信?」

 

「申したままの意味です関白殿下。我ら上杉軍は逆賊秀長の討伐には参加しません。貴方様の傘下に入るつもりも毛頭ありません。独自に動かせて貰います」

 

「いい度胸だな。俺は既に天皇陛下より天龍討伐の下知を頂いている。貴様ら各々の大名を従える権利もな!これは勅使であるぞ!それに従わないとは何事か!!」

 

「..........変わったわね豊臣良晴」

 

 

2人は以前、肉体関係を結んだ事がある。だが、謙信が処女で有り続ける事に拘った為、それは菊門にて行われた.....

当然それに愛はなく、良晴は生きる為。

謙信は豊臣に忠誠を見せる為に差し出したまで。とはいえ、一般の男女の関係ではない事に変わりはない。

 

 

「昔の貴方はそのような事を言う人ではなかった。誰にでも優しく、暴力を嫌い、己を犠牲にしてでも多くの命を守ろうとした。私はそれを尊敬していた。そんな貴方が何故?」

 

「妹可愛さに奴の義娘に成り下がり、ここ3年半何も出来ずにいるようなお前に言われたくはない!」

 

「っ.....!?..........それは」

 

「あの軍神はどこにいった?」

 

「平和になったこの国には最早、軍神は必要ない」

 

「それは偽りの平和だ!この国は、あいつに都合良く利用される為だけに征服されただけだ」

 

「天下統一とは本来そういうものよ」

 

「違う!!あいつのやり方は人間のそれを超えている。あいつが天下人になってやろうとしている事を、お前が知らないわけがない!」

 

「...........」

 

「奴がインド飛んだ後、奴の代行を務めたのは秀秋。だが実質、支配しているのはあの石田三成だ。俺も驚いたよ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大坂城にて。

 

 

「役職の廃止!?」

 

「はい。日本各地の大名、その家臣、下級武士に至るまで、多くの者らが持っている役職は全て廃止します。正確には、全ての役職を天皇陛下に返還させるのです」

 

「馬鹿な!!そんな事をすれば各地で暴動が起きるぞ!?」

 

 

それは武士だけでなく、公家衆もだろう。

 

 

「その為の対策は既にあります」

 

「!?」

 

「まず各地の大名に、領民と領土を天皇陛下に返還させます。次に大名を国知事に任命します。その上で国を廃し、県を置きます。それから国知事を失職させ、代わりに非世襲の県知事を送る事で中央集権を確立させるのです」

 

 

俗に言う、廃藩置県と版籍奉還だ。

この場合は廃国置県であるが。

 

 

「更に、身分制度も一新させます。

公家、元大名を華族。武士を士族。

農民、商人、職人は平民。穢多非人も平民に入れます。

従来の士農工商から四民平等に変えるのです」

 

「四民.....平等」

 

「武士が力を独占する時代は終わるのです」

 

 

それは三成の悲願でもあった。

 

 

「更に、律令制を廃止します」

 

 

この日本を千年近く支えた律令制の廃止。

 

 

「ここで欧州を習い、憲法を公布するのです。

それまでは国ごとがそれぞれ決まりを作ってきましたが、これにより、日本国全体の決まりを作るのです。

それにあたり、立法、行法、司法は分断します。

立法は大谷吉継が、司法は私が。

そして行法には天龍様が就きます」

 

 

立法と司法が行政の息がかかっているとなれば、独裁と変わらないじゃないか。

 

 

「役職を返還するにあたって、天龍様も太閤ではなくなります。当然、貴方も関白ではなくなる。天龍様は行法において内閣を設立し、『内閣総理大臣』となるのです。天龍様が大日本帝国の宰相となるのです」

 

 

大日本帝国.....今までの日ノ本の国は消滅し、天龍の独裁政権が誕生するというのか!?

 

 

「全部天龍の命令か?」

 

「はい」

 

「間違ってはいない.....間違ってはいないさ。

いずれ日本はそうなるべきだ.....

だが早すぎる!ゆっくりと馴染ませなければ、国民は誰も付いて来ないぞ!?」

 

「その対処は容易ですよ」

 

「何っ?」

 

「逆らう者は全て排除すればいい」

 

「なっ!?.....それじゃあ独裁だ!!」

 

「天龍様に刃向かう者に生きる価値はない!」

 

 

駄目だ.....早く何とかしないと。

 

 

「俺は認めないぞ!そんな政策。

陛下に直々に掛け合って、止めさせてやる!」

 

 

良晴はその場を後にする。

 

 

「ふっ.....今更動いたって、もう無駄ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都御所にて。

 

 

「誰でおじゃるか!この聖域に汚らしい格好で!」

 

 

麻呂言葉の公家が出てくる。死んだ近衛を思い出す。

 

 

「退け!陛下に用がある!」

 

「無礼な!陛下に用などと..........って、関白殿下!?」

 

「陛下のもとへ案内しろ!」

 

「はっ、はいでおじゃる!!」

 

 

良晴は腐っても関白だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きたか、さがらよしはる。いまはとよとみひでよしだったか?」

 

「..........」

 

 

良晴は黙って頭を下げる。昔とは大違いだ。

 

 

「陛下.....どうか俺の話を聞いてほしい」

 

「ぞんじておる。てんりゅうのことだろう?」

 

「えっ?」

 

「あやつがいままでのひのもとのふうしゅうをはかいし、まったくべつのあたらしいよをそうぞうしようとしていることを.....」

 

「.....ご存知だったのですか?」

 

「それをきょかしたのは朕ぞ」

 

「なっ!?」

 

「このくにはかわるじきなのかもしれぬ。たこくのものらがこのくににおおくおとずれ、こうりゅうがさかんになってきた。からやらおりにとじこもるのはもうやめるべきであるとおもう」

 

「陛下.....」

 

「.....いま朕のなかにはややこがいる」

 

「!?」

 

「てんりゅうとのこじゃ」

 

「そういう.....事だったのか」

 

 

良晴は理解した。何故天龍が、従来の『姫巫女』という名称から『天皇』という名称に変えたのか。それは簡単な事だ。

 

天龍は自分の子供を天皇にする気なのだ。

男女どちらでもいいように、天皇と。

 

首相となった後も莫大な権力を得る為に、皇族の一員になるつもりか。

 

 

「奴はそれを?」

 

「しらぬ。これをしるせしは朕とぬしのみ」

 

「.....そうか」

 

 

 

 

 

 

良晴は正親町天皇を押し倒した。

 

 

 

 

 

 

「..........」

 

「天龍によって汚された貴方を.....俺の手によってもう一度汚す」

 

「とよとみひでよし.....」

 

「陛下の中にいるのは天龍の子供じゃない。"俺の子"だ!」

 

「またいくさをおこすのか?てんりゅうによっておさめられた、このひのもとで」

 

 

そう言って、彼女は良晴のほほに触れた。

正親町天皇の特殊能力、触れた者の思考を読み取る力。

双子の妹の一益も、触れる事で相手の本音を吐き出せる。

天照大御神の子孫だけに宿る神秘の力。

 

 

「もう偽らない.....

そうさ!俺がこれから起こすのは戦争だ。俺のせいで多くの人が不幸になり、多くの人が死ぬだろう」

 

「..........」

 

「これは俺の意地だ!

天龍を倒したいという欲望によるものさ!

言い訳なんかしねぇ!誰かの為だとかじゃなく、俺自身の誇りかけて、俺は天龍という強大な目標を打ち倒したいんだ!一人の男として、己の人生の全てを賭けたい!」

 

「それでこのせかいにこんらんをもたらすとしても?」

 

「その後の世界は俺が支配する!」

 

「!」

 

「俺はこれからこの世で一番の重罪人になるだろう。争いの種を生んだ、戦争犯罪者にな。だからこそ俺はその全ての罪を受け入れるつもりだ。その贖罪として、俺は奴の意志を継ぐ!」

 

「そのもくひょうにまよいはあるか?」

 

「ない!」

 

「..........ふっ」

 

 

天皇は微笑する。

 

 

「ここまでげんどうとしこうがいっちするとは.....

そのかくごはほんものとうけとった。

よかろう。朕はぬしのみかたとなろう」

 

「本当か!」

 

「朕をおしたおすようなおのこなど、てんりゅうをのぞけばぬしだけじゃ。ただしげんきゅうするが、朕はてんりゅうのみかたでもある。それだけはゆずらぬ」

 

「分かってる」

 

「ではぞんぶんにあばれるのじゃ。ばあいによってはそのつみ、朕がかぶってやってもかまわぬ」

 

「それはだめだ!絶対にさせられねぇ!」

 

「ふふっ、つくづくにておるの。ぬしもあやつも」

 

「..........」

 

「どうした?だかぬのか?」

 

「えっ!?」

 

「朕にかくごをみせるのじゃろう?

なれば、そのたぎるおもいもすべて朕にはきだせ」

 

「..........分かった」

 

「ふっ」

 

 

彼女は目を閉じた。

 

 

「では、失礼致します」

 

 

良晴は彼女に口付けをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ程の覚悟をもっていたの.....」

 

 

良晴から全てを聞かされる謙信。

 

 

「もう一度聞くわ。貴方の目指すものは?」

 

「天龍を倒して、俺が次の天下人になる!」

 

「..........そうですか」

 

 

謙信は跪く。

 

 

「虎千代.....」

 

「脆弱ながらもこの上杉謙信。

豊臣良晴秀吉様に協力致します」

 

 

上杉謙信が初めて人に頭を下げる。

 

 

「ありがとう.....感謝する」

 

 

 




なんかもう...凄い展開です。


次回予告
開戦前夜
〜2匹の化物は何を思うか?〜


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第八十三話 決戦前夜

原作の新作が出てますが、それがこの作品にも影響が出ますね。私の作品の上杉謙信は、原作でも登場回数が少なかった頃に、オリジナルで作ったキャラなので、あそこまでハッチャケたキャラだとは思ってもいませんでした。
一応、自分の作品の上杉謙信で通す予定です。

指を鋏で斬ってしまい、痛くて文字が打てず、更新が遅れました。



「できれば殺さないでほしい」

 

「何っ?」

 

 

上杉謙信が言う。

 

 

「お前、まだ天龍に」

 

「違う!私ではなく卯松の為だ」

 

「.........」

 

「知っての通り、卯松は豊臣秀長の娘だ。にも関わらず、私はあの子を愛してしまった。それ故に私はあの子を諦める事ができず、私は秀長の義娘にならざるを得なかったわ。秀長が死ねば、卯松はきっと悲しむ。

あの子を天涯孤独にはしたくない!だから.....」

 

「黙れ!」

 

「!?」

 

「俺はあいつに両親を殺された」

 

「えっ!?」

 

「それだけじゃない。奴は数え切れない量の人間を、奴の野望の為に殺された。そんな奴を生かせだと?馬鹿も休み休み言え」

 

「しっ、しかし!」

 

「二度は言わぬ!天龍は殺す!

場合によっては奴ら一族郎党皆殺しにする!」

 

「そんな!」

 

「大切な妹まで殺されたくなければ、俺の目に付かぬように隠しておくんだな!俺はよしみで鬼であるお前を見逃しているが、それ以上庇うのは無理であると思え!」

 

 

おかしい.....天皇陛下は神通力のようなもので人の心を読めるはず。なれば、この良晴の野蛮な精神も読み取れたはず。陛下は知ってて見逃したのか?それとも、何か別の方法で神通力を逃れた?

そう謙信が思った矢先。

 

 

「謙信、お前は江戸を攻めろ」

 

「江戸を?」

 

「元は関東管領職を持つ上杉が持つべき領土だ。この際に征服して構わない。幸い今の関東の管理は甘いからな。そのまま征服してしまえ」

 

「さっきまでと言っている事が逆ではないですか!これでは豊臣秀長と全く同じでは.....」

 

「俺のやり方に文句があるのか?」

 

「っ.....!」

 

 

良晴が尖い眼光をぶつける。

天龍の紅の瞳とはまた違う、青銀の瞳で.....

 

 

「お前が二言か上杉謙信?」

 

「.....いえ」

 

「では、言われた通りにしろ」

 

「承知しました、殿下.....」

 

 

良晴がその場を去る。

 

 

「貴方は.....何処へ向かうつもりなの?」

 

 

見えなくなった彼に対して、そっと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関東武蔵国、とある茶室。

 

 

「..........」

 

 

京都にはとある茶人の茶室がある。

その名は『待庵』。

わずか2畳に満たない狭い茶室。だが、実際に入った者しか感じられない独特な雰囲気を醸し出す茶室であるのだ。

しかしその茶室の持ち主である茶人は、後に天下人となる者の怒りを買い逃亡した為に、待庵はその天下人の命にて破壊されてしまった。

この武蔵にある茶室。彼女の弟子達が天下人の目を誤魔化してまで密かに作り上げた、今は無き待庵を忠実に再現した茶室。親しみも込めて、この茶室もまた『待庵』とよばれている。

 

 

「..........ふぅ」

 

 

茶道具の手入れを終え、一息つく茶人。そこへ。

 

 

「宗匠、お客人が」

 

「.....ふんふん」

 

「いえそれが..........お客人は太閤殿下でして」

 

「っ.....!?。.....(ついにこの時が)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず狭い入り口だな」

 

 

待庵の入り口は屈まなければ入れない程狭い。当然、帯刀したままでの入室はできない。この茶室に入る時は、士農工商誰だろうと、丸腰でなくてはならないのだ。

 

 

「まるで処女の膣口だな」

 

「...........」

 

 

いきなりのセクハラ発言だ。

 

 

「どっこいしょ!」

 

 

だらしなく胡座をかく天龍。利休は黙ってそれを眺める。この茶室は壁、床、天井全てが黒く塗られており、茶道具も黒。利休の服装も黒。窓も閉められており、天龍の白軍服と、利休の白い肌だけが目立つ。利休に至っては顔だけが目立つので、まるで生首が宙に浮いているかのようだ。

 

 

「久しぶりだな千利休。3年半ぶりだ」

 

「.....(えぇ)」

 

「どうしてた?はじめっから関東にいたわけじゃねぇんだろ?」

 

「.....(各地の大名のもとや、商人のもとにて鳴りを潜めていました。しかし、貴方の手が及ぶたびに移動する羽目となりました)」

 

「まるで親権者が死んで、面倒を見るのが嫌な為に、遺族連中にたらい回しされる哀れな子供だな。最終的にその子が行く先は大抵の場合、施設だ」

 

「.....(何が言いたいのですか?)」

 

「お前はもういらない子なんだよ」

 

「!?」

 

「確かにお前の茶人としての地位は未だ高い。だがだ。今やお前は豊臣家に楯突いた愚か者。天皇に匹敵する発言権があるこの俺の敵となった。この国の敵となったのだ。そんな爆弾をいつまでも匿いたい奴なんざ、ほとんどいねぇだろうなぁ」

 

「っ.....!」

 

「ふんっ」

 

 

冷静だった利休の様子が変わる。

 

 

「.....(茶番はいい!さっさと私を殺すがいい!今日はその為に来たのだろう!?)」

 

「いいや、殺さない」

 

「.....(女子は殺さないという主義か!?それとも、別の使い道で私を利用する気か!?)」

 

「そうじゃない。お前が俺の㊛だからだ」

 

「.....えっ?」

 

 

利休がつい声を出す。良晴の言う通り、その声色はアニメ声優のように綺麗で。

 

 

「すまんな、ちょっとしたドッキリだ。

何しろ"思い出すのに"3年半もかかってしまったんだ。本当はもっと早くに迎えに来る筈だったのにな。予定が狂って、その分だけお前に負担をかける羽目になった。本当にすまないと思う」

 

「天.....龍?」

 

「帰ってこい与四郎。今の俺にはお前が必要だ」

 

 

次の瞬間、茶道具を放って天龍のもとへ突撃した。何をするのかと思えば、彼女はそのまま天龍に抱き着いたのだ。天龍もまた彼女を受け入れる。

 

 

 

 

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

利休は泣いた。必死に天龍にしがみつき、涙も鼻水も垂らし、顔をくしゃくしゃにしながら、大泣きした。天龍は穏やかな表情で彼女の頭を撫でてやっていた。

彼女が泣き止んだのは約10分後の事である。

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに嬉しかったのか?」

 

「当たり前。この3年半、"天龍の敵の役"を演じきるのは苦痛だった。信奈とも絶縁されるし.....」

 

「悪かったよ。でもこれからはずっと一緒だ」

 

「ふふっ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

読者も混乱しているだろう。

話は天龍がまだ天竜で、織田家中だった頃に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....(私が天竜の子供を人質にとる!?何で!?)」

 

「織田を倒す為だ。これを気に俺の地位を最下位に落とす事で、織田家中に不信感を抱かせるのだ。期を狙って俺は武田、上杉、北条のいずれかに亡命するだろう。だが、織田家中の不信感はそのままだ。

やがて俺は他家にて出世し、下剋上にてそのまま家を乗っ取ってしまうだろう。それを繰り返し、自軍をどんどん膨れ上がらせる。その上で再び織田とぶつかる。

だが、その頃の織田家中の連帯感はほとんど無い。

倒すのは容易だ。

お前には俺が抜けた後の織田にて、織田家の連帯感を潰してほしい。あくまで陰ながらな?」

 

「.....(はぁ)」

 

「それとだ。俺はこれから今の内容の記憶を消す」

 

「.....(えっ?)」

 

「正確には記憶の封印だ。これからするのは全力の自作自演だからな。成功率を高める為にも必要なんだ。記憶が欠けている事すら忘れているから、当然、自分で封印を解除する事はできない。誰かこの秘密を知っている、能力の高い術師に封印を解いてもらわねばならない」

 

「.....(それは)」

 

「そう、お前だ。始めは敵として俺に対立し、時期を見て俺の記憶を取り戻させてほしいんだ。

だが危険もある。俺はお前が息子を誘拐した極悪人にしか見えていないからな。下手をすればそのまま殺してしまうかもしれない。だからなんとしてでも生き残ってくれ、その為に俺に攻撃する事は構わない。ちょっとやそっとじゃ俺も死なねぇから全力でやってもいい。

あれだったら仲間を増やしてもいい。過激派キリシタンの蒲生氏郷とかが利用できそうだしな。当然、この事は内緒にしてだ。とりあえずは、ガスパールカブラルの策略とでも誤魔化しておけ」

 

「.....(分かった。でもそんなに上手くいく?)」

 

「いくさ。俺が何日かかって作り上げた計画だと思ってるんだ?3日もかかったんだぞ?」

 

「.....(3日.....)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところがどっこいだ。箱館海戦の時に記憶を取り戻すはずが、良晴やレオの猛攻が思った以上に激しく、十兵衛までやって来て、俺も調子に乗っちまったせいで、記憶を取り戻す機会を失ってしまった。

ようやく取り戻せたのは、天竜と朧が融合した時の事で、それでようやっと封印が解けたんだ。それまでずっとお前に負担をかける事になってしまった。本当にすまないと思うよ」

 

「いいの。それでも貴方にもう一度こうやって抱きつく事ができた。私の方こそ感謝を示したい」

 

 

箱館海戦にて利休が発動した、巨大な黄金の剣。これにより、天竜の操る黒船を真っ二つにした事から、利休が天竜を良晴ごと殺そうとしたという現実が、それを目撃した誰もが実感した。しかし真実では、あれこそが封印解除の術であったのだ。本来であれば天竜はあれで記憶を取り戻す予定であったが、避けてしまった為に、その後3年半封印され続ける羽目になってしまったのだ。

 

 

「計画通り」

 

「だいぶ狂ったけどね」

 

「言ってみたかっただけさ」

 

 

 

 

全ては自作自演。

天竜が破滅させられたのも、

彼の息子、拾が人質に取られたのも、

織田家中の絆が粉々に壊されたのも、

全ては彼の策略。

 

 

 

 

「これで私も、枕を高くして寝られます」

 

 

そう言いながら、胸の十字架を逆十字に返す利休。

 

 

「それで?私の役目は各地の大名に接近して、豊臣秀吉に対抗しうる有力な軍隊を集めるってとこ?」

 

 

良晴蜂起の知らせは既に天龍にも届いている。

 

 

「いや、その逆だ」

 

「えっ?」

 

「良晴側に付いた大名に接近して、蜂起を止めさせてほしい。お前お得意の話術でな」

 

「どうして?戦しないの?」

 

「状況が悪過ぎる。俺が発案した新政策のせいで、多くの大名に不安が募っている。恐らくは、数多くの大名が良晴に付く。一方、俺は個人の兵しか出せない。精々、真田軍と関東軍、北海道軍ぐらいにしか協力を頼めん。毛利と長宗我部は望み薄だろう。

戦争に参加しない大名を計算に入れても、良晴軍と我が軍の勢力は五分五分。勝つにしろ負けるにしろ、被害の規模は尋常ではない。双方に多大な死傷者が出るに違いない。これから作り上げる政府に必要な人材まで失われてしまう。デメリットしかない」

 

「確かに.....何故こんな事態に」

 

「そもそも!陛下が良晴に戦争を起こす許可を与えた理由が分からない!彼女は誰より戦争を嫌っていた。数多く死傷者が出るのは分かっている事なのに、陛下がそんな事を許すわけがない!絶対に!」

 

「では何故?」

 

「昨日、陛下に真意を問う為に御所へ向かった。しかし、御所には悪魔除けの結界が張ってあった。強力のな。数時間かけて結界を除去する頃には、陛下は御所から消えていた。公家衆に聞いてもオロオロ麻呂麻呂するばかりで役に立たん。多分、陛下が何者かに誘拐された」

 

「結界の触媒は?」

 

「こいつだ。御所の屋根にあった」

 

「これは.....フランシスコ会の十字架!!」

 

「やはりか」

 

 

天龍は十字架をギチギチを握り締め、そのまま潰してしまう。

 

 

「フランシスコザビエル!!

全ては奴の策略か!

陛下を騙り、良晴を騙して擁立し、

影より戦争を起こそうとしている!

この日本を手の平で弄び、神にでもなったつもりか!」

 

 

怒りのままに畳を殴る。しかも、そのまま床をぶち抜いてしまった。

 

 

「ザビエルよ。未だ会った事はないが、貴様程ムカつく糞ったれは他に見た事がないぞ!!」

 

「.........」

 

「利休、ザビエルに会った事は?」

 

「一度だけ。でもすぐに距離を開けられ、それ以降は。恐らく内心を悟られたんだと思う」

 

「そうか。そこは近日まで会っていたというレオやベルに聞かなきゃならんな」

 

「うむり。でもまずは豊臣秀吉との戦争を」

 

「あぁ、あの馬鹿をなんとかする。最悪の場合、奴と戦争しざるを得なくなるかもしれない。その時は全力で叩き潰す」

 

「戦うの?」

 

「1番手っ取り早い戦勝は圧倒的力で叩き潰してやる事だ。長引かせず、苦しませず、短期間の間に確実に征服する。勝つ事こそが最善の策だと、俺は思うよ。殺意の持つ相手に話し合いなどそもそも無駄だ。その根底を断ち切ってしまえばいい」

 

「殺すの?」

 

「その時にはな。良晴は考えられる、唯一俺を殺せる人物だ。だが、死ねばそれまでの奴だったという事さ」

 

「ふむ」

 

「んま、悔いの残らない結果を出したいものだ。俺ならまだしも、自分が原因で不幸な者が現れるなんて、良晴にはまだ感じさせたくないしな」

 

「ふむり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だ。待庵の屋根が吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!?」」

 

「天竜!!!」

 

 

そこにいたのは柴田勝家。織田家家老、戦闘隊長である。

 

 

「勝家?」

 

「.....!?(何故貴方が!?)」

 

 

勝家は憤怒の表情で睨み付けてくる。

 

 

「全部聞いたぞ!お前が利休と組んで、自作自演の大芝居をし、我らが姫さまに悪名を押し付け、結果的に織田を没落に追い込んだ、貴様の下劣な行為を!!」

 

「盗み聞きしてたのか?なら理解してるはずだ。陛下が誘拐され、良晴がその犯人に騙され、戦争を引き起こそうとしている。今はそちらを対処すべきだ」

 

「五月蝿い五月蝿い!!それはあたしが盗み聞きしている事を事前に察知して、お前特有の虚報を流したに違いない!!」

 

「うわぁ.....」

 

「.....(脳筋)」

 

「黙れぇぇ!!いつもいつもあたしを馬鹿にしやがって!もう許さない!!」

 

 

勝家が槍を構え、先端を天龍の腹部に突き刺す。

 

 

「ふぐっ!?」

 

「!!(天龍!!)」

 

「うらあぁぁぁっ!!!」

 

 

天龍を突き刺したまま槍を振り回す勝家。衝撃で天龍は近くの大木に叩き付けられた。

 

 

「柴田殿正気か!彼は太閤殿下だぞ!!」

 

「お前、そんな声だったのか。これはあたしと奴の因縁を付ける為だ。織田の家臣としてじゃない。あたし自身の意志で、あいつを殺す。それに天竜さえ死ねば、良晴も戦を起こさずに済む。その次はお前だ千利休。

お前はボコボコに殴った後、姫さまの前に引き釣り出した後、土下座させてやる!」

 

「くっ!」

 

「覚悟しろ外道共!!」

 

 

 

 

「お前が言う因縁とは何だ?数年前にお前を張り倒した事か?それとも、いつも泣くまでSEXしてる事か?それとも.....」

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

大木に叩きつけたはずの天龍が全く別の場所に座り、でニヤニヤと眺めている。

 

 

「それに天竜じゃなくて天龍だ。未だに無知なのか。脳筋も大概だな」

 

「お前ぇぇぇ!!!」

 

 

再び槍を突いてくる。天龍は前回と同じく、捌きの体制にてそれを受け流そうとする。

 

 

「ふんぬっ!!!」

 

 

しかし勝家は、右脚を地面に突き刺す形でその突撃を停止し、それを軸に回転。そのまま天龍の真横から槍を振るう。

 

 

「何ぃっ!!?」

 

 

天龍がそれに気づき、防御の姿勢に入っても遅かった。西洋では『ハルバート』と呼ばれる勝家の斧槍が天龍の左腕を抉るように斬り裂いた。

 

 

「がぐっ!!?」

 

 

骨と筋肉のお陰で急所は免れるが、左腕は再生せずにどんどん腐っていく。

 

 

「ちっ、銀製か。知恵を付けたな」

 

「ふふん♪」

 

「ふんっ!」

 

「いっ!?」

 

 

天龍は左腕を引き千切る。その後、そこから新しい腕を生やす。完全にピ●コロだ。

 

 

「化け物め!」

 

「その化け物に抱かれたお前は何だ?同じく化け物か?それとも豚か?」

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

「面白い。ヤってやるよ六」

 

 

愛槍の方天画戟を召喚し、構える。

 

 

「これがお前の希望だろ?」

 

「ハハッ!お望み通りだ!」

 

「ん?」

 

「へ?」

 

 

次の瞬間天龍は勝家の真後ろに回り込み、槍を振るう。勝家は慌てて地面に伏せる事で回避する。

 

 

「不意打ち卑怯だぞ!!」

 

「だってお前が妙な言葉使うから.....」

 

「五月蝿いぞ馬鹿!」

 

「そら、もういっちょだ」

 

「っ!?」

 

 

今度は天龍が突撃してくる。

勝家はカウンターで槍を突き出す。

 

 

「この鳥頭!」

 

 

天龍は槍の柄を地面に突き刺し、身体を空に浮かす。そうして勝家の槍の突きを躱す。さらに回転をかけて槍を降下。その回転力を利用し、勝家の側頭部を蹴り飛ばす。

 

 

「うぐあぁっ!!!」

 

「.....(凄い)」

 

 

瞬時に勝家の戦闘術をコピーし、更に上回った形にて応用。確実に仕留めにいった。やはり天龍は戦闘面においても、天性の才能を持ち合わせている。

 

 

「糞っ!!」

 

 

再び槍を突く。

 

 

「ヒャッハー!」

 

 

ひらりと躱し、クロスカウンターのように槍の柄を突く天龍。それは勝家の装着していた鉄の鎧すらも砕き、胸を突く。

 

 

「がぁっ.....!?」

 

 

息が詰まる。

 

 

「くひゃっ♪」

 

「ぎっ.....!?」

 

 

至近距離に近付き、頭突きを食らわす。ただの頭突きではなく、勝家の額を割る程の衝撃波となる。

 

 

「ふっ!」

 

 

今度は勝家の背後に周り込み、羽交い締めにする。

 

 

「ぐっ!?」

 

「モミモミ〜♪」

 

「うあぁ!!」

 

 

右手で乳房を、左手で股間を掴む。

 

 

「どうした六〜?あの夜を思い出したか〜?」

 

「うわぁ!離せぇ!!」

 

「ダーメ♡利休!待庵借りるぞ!」

 

「.....ふん(汚れないようにちゃんと布団引いてね)」

 

「OK」

 

「嫌だぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ.....」

 

 

待庵からやや離れた木陰にて、利休は自ら淹れた茶を啜り、くつろいでいる。

 

 

 

一方。

 

 

 

「ひっくっ.....えぐ..........うぁ.....ひっくっ.....」

 

 

半壊した待庵で天龍に犯された勝家は啜り泣いていた。

 

 

「何をそんな悔しがる?俺とお前の実力の差なんて目に見えていたじゃあないか。今更そんな」

 

「.....違う。あたしだって分かってた.....ぐす.....あたしが悔しいのは今の今までお前を良い奴だって信じてた事だ」

 

「..........」

 

「確かにお前は姫さまを裏切った。織田を陥れた。石田三成に命じて、武士の権力をことごとく奪った。

でも、お前の民に対する優しさは本物だった。

家臣には家族のように接した。

敵に厳しく、味方に優しい。

そんなお前の人間性に、あたしは惚れていた。

なのに.....なのに.....

信じてたはずのお前が.....」

 

「貴様如きが俺を語るな。

人間が人間を理解するなどそもそも不可能だ。

人間の考えは常に変化する。

考えがまとまってない方が実は一番普通なのさ。

何年も何年も同じ事しか考えられない奴なんて、それこそ気持ち悪い。俺は世界を征服し、その世界を俺を殺せた人物に献上しようと考えていたが、場合によっては俺がそのまま支配しようとも考えている。目の前にある真実が全て本物であるとは言えないのだよ」

 

「えぐっ.....そんな.....」

 

「それとだ.....」

 

 

耳元で囁く。

 

 

「俺はドレッドノート級のサディストだ」

 

「!?」

 

「お前さんの涙に欲情した。また食わせろ!」

 

「そんな.....もう身体が持たない」

 

「安心しろ。今度のは性行じゃない。"食事"だよ」

 

「えっ?」

 

 

天龍が勝家の首に齧り付いた。

 

 

「ああああああああぁぁぁぁ!!???

うああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

勝家が悲鳴をあげる。だが天龍は止まることなくゴクゴクと吸血を進める。

 

 

「ああああぁぁっく!!!

はああああああああぁぁぁぁぁぁあん♡」

 

 

悲鳴が喘ぎ声に変わる。

 

 

「知っているか?人間は吸血鬼に吸血される時、絶頂に近いものを感じる。まぁ、理由は暴れて吸血行為を邪魔される事を防ぐ為だがな。

癖になるだろ?中にはこれを求めて自ら吸血鬼の餌になる異常者もいるようだ」

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁん♡

はああああああああぁぁぁぁぁぁあん♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、大坂城。

 

 

「なっ.....!?」

 

 

大坂城は天龍不在のうちに実質、良晴に占拠されていた。天龍に忠誠を誓う者らは城を離れ、逆に良晴派の家臣達が集まっていた。

そこに、天龍が堂々と現れたのだ。

 

 

「どうだ良晴。世界一の巨城を支配する気分は?」

 

「天龍!!」

 

「おっと、COOLにいこうぜ糞餓鬼。

俺と戦争したいんかい?じゃあしてやるよ!」

 

「んだとっ!?」

 

「だが、お前の相手は俺じゃあない」

 

「何っ!?」

 

「こいつだ......」

 

 

 

 

天龍の影から現れたのは、柴田勝家。

 

 

 

 

「勝家!!?」

 

「六、命令だ。あの糞餓鬼の戦争に付き合ってやれ、殺しても構わん」

 

「はい。御意のままに、我が主」

 

 

勝家の目は紅に染まっていた。

 

 

「天龍ぅぅぅ!!!!貴様ぁぁぁぁ!!!!」

 

「お前が始めた戦争だ。落ち度はお前にある。

全てはお前の責任だ」

 

 

そう言い、2人は姿を消す。

 

 

「おおおぉぉぉのおおおぉぉぉれえええええぇぇ!!!」

 

 

良晴は嘆き苦しんだ。そして、天龍に対する憎悪をさらに積み重ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦の場は、賤ヶ岳。

 




拾事件の真相が天竜の自作自演という事実。
勝家が魔墜ちしました。
そして裏で暗躍する。ザビエル。
次回より戦争開始。
次回予告
賤ヶ岳の戦い
〜敵は勝家〜


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第八十四話 賤ヶ岳の戦い

原作にもとうとう石田三成登場。
しかも、吉継、正則、清正全員良晴の妹とか。
しかもねねより年下だから、ほとんど赤ちゃん。
これに欲情したらガチの病気ですね。
読んではみたものの結局、上杉謙信がよく分からない。
参考にしようにも難しい状況ですね。

明後日から「ドラキュラZERO」公開!
見に行ってきます!


これは、俺が戦国時代に飛ぶ7年前。

相良良晴、10歳の夏。

とある剣道大会(個人戦)会場にて。

 

 

「父ちゃん。飽きた〜」

 

「もうちょい我慢してろヨシ。今ようやく決勝戦に入って面白くなってんだからさ」

 

 

良晴の父、『相良敏晴』が観客席で言う。実は彼は高校生時代、剣道部に所属しており、剣道大会の観戦を趣味にしている。彼自身、現役時の戦績はあまり良くないのだが、その事実を知るのは妻の『相良葉子』のみである為、息子にはいつも嘘の武勇伝を語っている。

 

 

「まさか弱小校だったうちの高校から決勝まで這い上がる強豪剣士が現れるたぁなぁ」

 

「父ちゃん、腹減った」

 

 

その時、敏晴イチオシの剣士と敵校の剣士が入場する。

 

 

「あちゃー、ありゃ相手が悪いな」

 

「おしっこ」

 

 

敵校の剣士は身長2mの巨漢。見るからに大将の風格を漂わせていた。後から聞いた話だが、彼は今までも数多くの大きな大会に出て記録を残しており、いずれも優勝。「日本最強」を自称する程だ。今回の大会にはあくまで己の高校への建前での出場である。それまでの試合でも、相手に一本も与えない完封勝ちでの決勝戦。

対してだ、その相手は無名の剣士。体格も小柄で華奢。とてもこの日本最強の相手が務まるとは思えなかった。

だがだ。

 

 

「えっ?」

 

 

敏晴は思わず声を漏らす。何故なら.....

 

 

「どっ..........ど、ど、胴一本!」

 

 

小柄な剣士が日本最強から一本を取ったのだ。開始1秒も経たない間にだ。日本最強自身も、ちょろい試合だと思って油断していたのか、唖然としている。誰もが日本最強の勝利を確信し、試合を軽く見ていたのに、小柄な剣士だけが、本気で向かっていたのだ。

 

 

「ばっばっばっ、馬鹿な!!」

 

 

日本最強が叫ぶ。それに対し、小柄な剣士がクスクスをほくそ笑む。

 

 

「まだ本気出さないの?日本最強(笑)さん?」

 

「野朗ぉぉぉ!!!!」

 

 

日本最強が突撃する。そして、目に見えないスピードにて鋭い斬撃を繰り出す。

 

 

「「「おおおおおおおぉぉぉ...........ぉぉぉぉお??」」」

 

 

誰もがそれとは別のものに驚愕する。小柄な剣士がその日強(略)の斬撃を紙一重でヒョイヒョイと避けてしまっているのだ。

 

 

「す、スゲー!!」

 

 

敏晴も心躍る。彼自身、現役時代は『刀避けのトシ』と呼ばれ、制限時間いっぱいまで敵から逃げ回り、引き分けに追い込むという卑怯な戦法を取っていた(その才能は後に良晴に受け継げられる)のだが、彼から見ても小柄な剣士は相当な実力である事が分かった。

 

 

「はぁ!!はぁ!!はぁ!!!」

 

「どうした日強(略)?息が切れてるぞ?」

 

「がああぁぁ!!!」

 

 

日強が必殺の上段を打ってくる。

 

 

「駄目だ。全然駄目だ」

 

 

一瞬の隙を狙い、小柄な剣士は中断から突きを打った。突きは真っ直ぐ日強の喉に直撃し、突っ込んできた日強の勢いも合わさり、凄まじい衝撃音がなる。

 

 

「がふっ.....」

 

 

そしてそのまま、日強は気絶。再度凄まじい衝撃音を立てながら仰向けに倒れる。

 

 

「つっ.....突き一本!」

 

 

この時、小柄な剣士の優勝が決まった。

日本最強相手に完封勝ちした化物の誕生である。

 

 

「凄いなあの子!えぇ〜と、名前は?」

 

 

敏晴はトーナメント表を見て、名前を確認する。

 

 

「かん、かい、ゆ、しょう、ろ、あま、たつ?」

 

「勘解由小路天竜よ!」

 

 

隣に座っていた少女が叫ぶ。

 

 

「君は?」

 

「私の名前は明智左ま.....いや、明智光!

天竜さんの婚約者よ!」

 

「はぁ」

 

 

その時、少女とは反対側に座っていた良晴の姿が見えなくなっているのが分かる。敏晴が慌てて見渡すと。

 

 

「お姉さん、いい身体だね。スポーツやってるおかげで全身が引き締まってる。少し触ってもいい?」

 

「何この子供?」

 

 

剣道部のマネージャーらしき女性をナンパしてた。

 

 

「こら!お前はしんちゃんか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は現代に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜。あの時の剣士がまさか先生だとは!」

 

「そんな昔話なんて.....」

 

 

相良邸、今日は家庭訪問だった。母の葉子が友人の結婚式に行ってしまい、代わりに偶然帰国していた敏晴が受け持っていた。

 

 

「そんでどうですかい先生!うちのヨシは!」

 

「はい。数学が壊滅的に糞ですね。

このままじゃ評定は1です」

 

「お前.....」

 

「そんな目で俺を見るな!」

 

 

成績の特に悪い良晴には地獄の時間だ。

 

 

「でも日本史の成績はいいんですよね。この間のテストも学年6位でしたし。でも、授業中は居眠りして、課題も全然出さないので、評定は4ですが」

 

「お前ってやつは.....」

 

「うぅ」

 

「それ以外はほとんど2ですね。あっ、でも、保健体育が性教育の分野だった時だけは4取れてましたね」

 

「駄目だなもう」

 

「もうやめて!俺のライフはもう0よ!」

 

 

良晴が発狂した。

その後も成績の話で父と教師両方からいびられ、地獄の家庭訪問タイムは継続していた。話が終盤に至った時だ。

 

 

「先生!この後、ご予定は?」

 

「いえ、訪問はこれで終わりなので、後は帰るだけです」

 

「夕飯食べていきなさい!」

 

「そうですね。お言葉に甘えて」

 

「おう、即答っすな」

 

「建前上の『悪いですよ。いいよいいよ。ではお言葉に』というくだりを省略したかったもので」

 

「建前ってハッキリ言っちゃったよ。やっぱ面白いな君」

 

「お父様には負けますよ」

 

「それも建前かい?」

 

「はい」

 

「はっはっは!!」

 

 

なんやかんやで天竜先生が夕飯を一緒する事に。天竜は家に電話をかける。

 

 

「あん?何言ってんだよ光。違ぇって!

"今回"のは浮気じゃねぇよ!

俺が嘘つく時は、逆に『女の家で食ってくる』って言うだろ!だからあんま心配すんなって!じゃな!」

 

 

携帯を切る。

 

 

「今回はって.....波乱な人生送られてるんですね」

 

「先生、教育者が不倫は駄目だろ」

 

「何を言う?不倫は文化だろ?」

 

「「..........」」

 

 

もう何を言っても無駄だと悟る相良親子だった。

 

 

「はっはっはっはっは!!

やっぱりそうだよな!

不倫は不健全じゃない!単なる男女交友なのさ!

やっぱ先生は分かってるよ!」

 

 

その上で敏晴が意気投合してた。

 

 

「母さんに殺されるよ?」

 

「バレなきゃ不倫じゃあないさ!」

 

「やっぱしてたんか.....」

 

 

その時、敏晴の携帯にメールが入る。

 

 

【私が帰ったら覚悟して下さいねあ・な・た♡

しばらく日本から逃しませんから♡】

 

「ぎゃっ!!!?」

 

「えっ、嘘!?監視カメラでもあんの!!?」

 

「お宅も大変っすね.....」

 

 

他人事とは思えない天竜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、相良敏晴はこの勘解由小路天竜をえらく気に入り、彼が日本に帰国する度に彼を食事に誘った。時には彼の妻である勘解由小路光もだ。美人である光に鼻の下を伸ばす敏晴に対して、包丁を持ち出して葉子がヤンデレぶりを発揮する事もあった。

葉子と光も仲良くなり、光より『正しい包丁の使い方』をレクチャーするなど、女同士での交流も多かった。

.....包丁をどのように使おうとしているかは謎だが。

次第に、ただの教師家族と生徒家族の交流から、友人のような交流関係になってゆき、特に良晴には、天竜と敏晴はまるで親友のような間柄に思えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのに、天竜は敏晴を殺した。葉子を殺した。

古い剣のような凶器を用いて、良晴の前で惨殺。

これが良晴の失われていた記憶の一部。

 

 

「.........」

 

 

天龍は何故、この記憶を呼び覚ましたのだ。放っておけば、俺もここまで奴を憎まなかった。いや、逆か。むしろこれが目的なんだ。俺に奴を殺す理由を与えたかったんだ。

 

 

「あれ?」

 

 

良晴は思い出す。

 

 

「確かあの日、親父はジャカルタ出張に行ってたはずだ」

 

 

なのにあの日、敏晴は日本の我が家にいた。まるで天竜に殺される為だけにそこにいたように.....

俺は何かとんでもない思い違いをしてるんじゃないのか?そうでないとこの矛盾は説明できない。

 

 

「いや.....」

 

 

それは天龍を倒せば分かることだ。

それからでも遅くはない。

今は、目の前の"敵"に専念せねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

賤ヶ岳の戦い。

 

柴田軍3万。良晴軍"12万"。

 

この勢力差だけで、勝家は負けたも同然の状態であった。だがしかし。

 

 

「何故3万しかいないのでしょう.....太閤殿下であれば、十数万の大軍を導入できたはずなのに.....」

 

 

良晴軍師、竹中半兵衛が言う。

 

 

「そんなのは簡単さ。勝家が奴の駒だからだ。遊んでるんだよ。勝家を利用してな」

 

「勝家殿が吸血鬼になるだなんて」

 

「..........」

 

 

今までの天龍は、その者が死に直面している時、その者が生を諦めた時など、死なせるには惜しいと感じた時に眷属を作った。まぁ、常陸で大量発生した吸血鬼達は例外としてもだ。今回は明らかにそれに値しない。

まるで俺をけしかける為だけに眷属にしたようだ。

 

問題はそれだけではない。

勝家の蜂起の賛同者が複数出たのだ。

その代表格が滝川一益。元織田家家老。

次が佐々成政。猛将佐久間盛政。いずれも強敵だ。

さらに前田利家。犬千代は現在、勝家の家臣扱いである為、彼女もやむを得ず柴田軍に加わっている。

勝家単体ならまだしもそのような厄介な連中が怒涛を組んでいるのだ。それに、良晴にとって滝川一益とは親友のような関係であるし、佐々成政とは肉体関係まで結んだ事がある。やりに難いったらありゃしない。

 

 

「何で一益や成政まで.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前。伊勢、長島城。

 

 

「それは真かてんてん太閤!?」

 

 

太閤となった今でも一益からは"てんてん"と呼ばれている。天龍も気にしていないので、そのまま呼ばせている。

 

 

「あぁ。本当だ」

 

「まさか.....陛下が」

 

 

一益に天皇が誘拐された事件を伝える。さらにその犯人がフランシスコ・ザビエルという宣教師の仕業であり、良晴をけしかけて戦争を起こさせたのも奴である事も伝える。

 

 

「噂ではあるが、良晴本人が犯人という話もある。天皇を幽閉し、その罪を俺に着せ、自らが天下人になろうと。むしろそっちの方が自然だ」

 

「まさか!」

 

「だが真実がいずれのものであるかは、本人に会わない以上分からん。不幸か幸いか、勝家が良晴の暴走を止める"協力をしてくれた"。お前にはそれに乗じて、同じく軍を出してほしい」

 

「ヨッシーと.....戦う?」

 

「俺の策略が計画通りに進めば、誰も不幸にならずに戦を終えれるよ。お前さえ協力してくれば」

 

「てんてん.....。分かった!姫もてんてんと共に戦うぞ!てんてんはどうするのじゃ?」

 

「俺はひとまず、この期に陛下を捜索するよ。安心しなお前のたった一人の家族だ。命がけで救ってみせるよ」

 

「ありがとな.....てんてん」

 

「ふふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょろいな。相変わらずちょろいよ一益ちゃん。

 

これじゃあ3年前の繰り返しだよ。

 

 

 

利休と口裏を合わし、楢柴肩衝の"贋作"をプレゼントした。目利きの悪い一益は身近の利休等に聞く他なく、利休の虚言に完全に騙され、それを楢柴肩衝を本物と信じて疑わなかった。その上で利休に楢柴を取り上げさせた。後は楢柴を処分して証拠を消せば計画完了。織田家四天王の一人が織田離れした事により、繋がっていた織田家臣団の絆はプツンッと崩壊。皆が皆、疑心暗鬼になった。

後は九州征伐時に筑前国の秋月種実より本物の楢柴を強奪。それにより、真実は闇に葬られた。

 

 

 

それにだ。一益が天皇の双子の妹である事は調査済み。これをネタに十二分に利用ができた。それの機会が今回になって回ってきたのだ。

 

 

滝川一益は既に俺様の操り人形だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九州、肥後国。熊本城。

九州征伐の手柄で佐々成政に与えられた領地。だが、城作りを得意としていない彼女は未だ、熊本城の改築が出来ていなかった。

 

 

「私めが、越中に!?」

 

「あぁ、お前の元居城の富山城に戻り、勝家に追軍しろ。越前の後ろの上杉を抑えてほしい。まぁ、恐らく上杉は関東を狙うだろうから、上杉軍とかち合う危険性は少ないだろうがな」

 

「はぁ.....」

 

「今更だが成政よ。お前はどっち側だ?」

 

「え?」

 

「俺と良晴、どっち側だ?」

 

「..........」

 

「俺と良晴双方に股を開き、双方に恩義を売っているお前がだ。本心としてはどちらなんだ?」

 

「それは.....」

 

「どうする?俺が嫌であるならそれでいい。だが、このまま貴様を見逃すわけもない。敵としてここで処分する」

 

「そっ、その.....」

 

 

成政が多量の汗を流し、目があちこちに泳ぐ。

 

 

「ふふっ、分かってるよ。お前が『テン派』だろ?」

 

「はっ.....はい!!」

 

 

佐々成政とよく対にされる池田恒興。

この二人は天龍良晴と肉体関係を持つ。

だが好みというものもあり、この両殿下双方と肉体関係を結ぶ娘達は、天龍を好む『テン派』と良晴を好む『ヨシ派』に分かれていた。

 

 

「では、俺に協力するかね?」

 

「はい!」

 

「では池田恒興をこちら側に引き込めるかね?」

 

「.....えっ?」

 

「できるかい?いや.....やれ」

 

「はい!」

 

 

成政は深く土下座した。

 

 

「ふっくくく.....」

 

 

 

 

 

 

甘いよ成政ちゃん。この程度の脅しで屈服するなんてね。所詮は『馬廻』上がりか。戦上手であっても、新しい世ではろくに出世できんだろう。

史実で秀吉に殺されても仕方ないな。

 

 

でも、俺はそんな事しないよ?

何故なら君は俺の奴隷だから。

 

 

 

 

俺の可愛い可愛い雌奴隷だからね。

ふっくくくくくくくくく.....!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在。北近江、長浜城。元は良晴の居城。しかし良晴が大坂城に移って以降は柴田家の領土及び城である。

 

 

「ふふっ」

 

「んっ、んっ、んっ、んっ、んんっ!」

 

「うぅ.....」

 

 

前田利家こと犬千代は気不味い表情で佇んでいた。

 

 

「どうした犬千代?お前も交ざるかい?」

 

「いい」

 

 

即答される。何故なら.....。玉座にどかりと座った"天龍の一物を勝家が奉仕するかの如く咥えていた"のだ。

 

 

「勝家.....」

 

 

かつての友を憐れみの表情で見つめる。

 

 

「無様なものであろう。通常の眷属に課せられる誓約は『主に逆らわない』という簡易なもの。元から俺に忠誠を誓ってる奴ならともかく、敵対してた奴だと、何かと誓約を掻い潜って俺の邪魔をしてこようとするから面倒なんだ。六の場合は特にな。だからちょいと"再教育"した。

これで六は俺の真の雌奴隷だ」

 

 

洗脳された勝家は天龍の犬となっていた。

 

 

「もうついて行けない。天龍、お前は異常。

お前のもとで戦うのは吐き気がする」

 

「ほう、寝返る気か!いいぞ、良晴のチ●ポがいいなら向こうのをしゃぶってくるがいい!んまぁ、奴の粗チンで満足であるのならな!」

 

「っ.....!?」

 

 

軽蔑の視線で天龍を睨みつけ、犬千代は踵を返してその場を後にしようとする。

 

 

「犬千代〜!」

 

「むっ.....?」

 

「俺は大将の器はあれど、裏切り者を許してやるような広い心は持ち合わせていないわけよ〜」

 

「何っ?」

 

 

天龍は邪悪な表情で言う。

 

 

「今度相見える際には、お互いちゃんと"生きた状態"で会いたいものだな!」

 

「なっ!?」

 

「"犬の晒し首"は何処に飾れば映えるかな?」

 

「つっ.....!!?」

 

 

 

 

犬千代は慌ててその場を走り去ってゆく。その表情は焦りと恐怖に満ちており、只ひたすら天龍から離れる事に専念していた。

 

 

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!

誰もがこの俺を恐れる。皆が俺を恨む。

かつての天下の姫武将すら、俺様の慰め者。

最早姫武将は物語の要にあらず!

俺と良晴の物語のサブキャラに過ぎぬ!

主役の座は既に我らだ!

女が強い時代はもう終わりなのさ!

これ程愉快な事があろうか!なぁ、良晴!」

 

 

天龍は勝家の頭を掴んで無理矢理行為に及ぶ。

 

 

「んんっ!!んんんあ!!!」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いざ、進軍!」

 

 

総大将良晴の号令と共に、ついに始まってしまった賤ヶ岳の戦い。この戦は無事に鎮火するか、血で血を洗う地獄となり得るか、それは全て良晴の行動次第。

 

竹中半兵衛・黒田官兵衛両軍師を従え、戦闘隊長に山中鹿之介を置き、先鋒にはルーキーにしてエース、福島正則と加藤清正を配置。これら良晴軍団を基本とし、協力者となった織田、徳川、伊達、長宗我部、島津の軍を率い、柴田勝家に挑む。

 

 

「勝つのは俺だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、凶報は入った。

 

 

「中川清秀殿、討死!!」

 

「何っ!?」

 

 

織田家旧来の家臣であった清秀の討死。

 

 

「高山右近殿、討死!!」

 

「馬鹿な!!?」

 

 

同じく織田家旧来の家臣の右近の討死。

史実において、右近はこの戦で死ぬ人間ではなく、豊臣秀吉が天下人となった後、反日派の宣教師を秀吉に謁見させてしまった事で怒りを買い、バテレン追放例を引き起こす。その後、徳川家康よりマニラへ国外追放処分を受け、その地で死亡する。

 

既に大きく歴史の変わったこの世界で、更に歴史を変える出来事が起きてしまっているのだ。

 

 

「佐久間盛政軍が山中軍を急襲!!」

 

「山中軍、敗走!!」

 

「っ.....!!?」

 

 

鹿之介すら負けた。どうなっている!?

 

その時、官兵衛が馬で本陣に駆けてくる。

 

 

「良晴、体制を立て直すべきだ!今、佐久間盛政を黒田軍で全力で抑えている。でもそれも時間の問題だ!」

 

「ちっ!これは半兵衛と官兵衛が共同で考えた策略だぞ!一体何故こんなに劣勢に回るんだ!!」

 

「柴田勝家.....馬鹿だ脳筋だと下に見てきたが、ここまで戦上手だったとはね」

 

「いや、これは勝家じゃない。もっと別の.....」

 

 

その時だ。

 

 

「殿!敵の軍師の正体が分かりました〜!」

 

 

今度は半兵衛がポニーで駆けてくる。

 

 

「一体誰だ!こんな状況を作った奴は!?」

 

 

半兵衛は一呼吸置き、その名を言う。

 

 

「とっ.....藤堂高虎殿です!」

 

「藤堂高虎!?それってあの、常陸国で羽柴朧に付いて、3年間一度も常陸を落とさせなかった、あの!?」

 

「それとですが、美濃にて不穏な動きがあるようです。現在、偵察隊を送っているのですが」

 

「美濃?あそこは信澄が守ってるはずだろ。

まっ、まさか!信澄の身に何かが!?」

 

 

丁度その時、半兵衛が送った偵察隊が戻ってくる。しかし大分人数を減らしており、帰ってきた者らも傷だらけの状態なのが大多数であった。

 

 

「皆さん、どうされたのですか!?

すぐにでも治療を.....」

 

「治療など後回しで構いませぬ!

それよりも殿に至急でおお伝えすべき事柄が!」

 

「何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「津田勘十郎信澄殿謀反!柴田軍に寝返りました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........嘘.....だろ?」

 

 

最も予期せぬ事態が起きた。あの勘十郎が敵に寝返った。しかも、明らかに敵が不利の状況でだ。しかし、美濃が敵に落ちたと考えれば、旗色が悪いのはむしろ良晴軍である。

 

 

「シム。津田信澄の長女は豊臣秀長の長男と許嫁の関係。そこらへんが絡んでいそうだね」

 

「だからといって、この状況で裏切るなんて.....」

 

 

 

「どうでもいい!!!」

 

 

 

両兵衛の言葉を打ち消す。

 

 

「原因など、裏切りの理由などどうでもいい!

勘十郎が俺の敵になったのなら、打ち倒すのみ!」

 

「良晴!?」

 

「殿!?」

 

 

良晴は既に昔の彼ではなかった。

 

 

 

 

 

「俺の邪魔者は全て倒す!

天龍も!勝家も!勘十郎も!

.....この世に混乱をもたらす存在であるのなら、

俺自らの手で殺す!!」

 

 

 




相良夫婦には名前がなかったので、適当に付けてみました。
はてさて、作者自身もよく分かっていない新賤ヶ岳の戦い。三つ巴にも四つ巴にもなりそうな、メチャクチャ展開。ついてこれますか?
今ひとつ言える事があるなら、
一益ちゃんと六ちゃんごめんね。
次回予告
柴田勝家
〜鬼柴田、最後の奮戦〜


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第八十五話 柴田勝家

ドラキュラZERO見ました〜。数万匹の蝙蝠を操って敵の大軍を蹴散らすシーンが超カッコよかった!

更新もだいぶ遅れましたね。
その分、今回は量が多いので見応えがあると思います。


「手っ取り早く勝家本人を押さえる」

 

 

作戦会議の冒頭にて、良晴が言う。

 

 

「伊勢での一益の蜂起、越中の成政の蜂起、美濃での勘十郎の蜂起。いずれも無視できない問題ではあるが、その本元は越前の勝家の蜂起がきっかけだ。つまり、勝家さえ倒せば三勢力は勢いを無くすはずだ」

 

「シム。しかし、それも難しい。柴田勝家を相手にするにあたって、一番の問題は佐久間盛政だよ。柴田勝家に勝るとも劣らない武勇を誇り、中川清秀、高山右近を討ち取って、シメオンら黒田軍にも大きな打撃を与えた巨漢さ。あんな男が柴田に付いたなんてね」

 

「半兵衛、何か策略はあるか?」

 

「そうですね.....」

 

「ちょっと待ちたまえ!」

 

「どうした官兵衛?」

 

「何で迷いもなく半兵衛に聞くのさ!

シメオンに聞きたまえよ!半兵衛と違って前線で戦って、実際に戦況を見てきたんだぞ!?」

 

「くすんくすん。別に私は遊んでいたわけでは.....」

 

「何か策略あるのか?」

 

「ふふ〜ん。ちゃんと考えてあるよ!

まずは良晴、君は美濃を攻めるんだ!」

 

「話を聞いてたのか?」

 

「聞いてるよ!!そうじゃなくて『豊臣秀吉が賤ヶ岳を離れて美濃攻めに行ったという状況』を作り出すんだ。

佐久間盛政は柴田勝家と同じく脳筋で猪突猛進であると聞く。だからこそ、君がいなくなった賤ヶ岳を落とすなら今だと考えてまんまと進行してくるだろう。そんな油断してる佐久間盛政を一気に大軍で追い詰めるんだよ!

どうだい、シメオンの策略は!」

 

 

自信満々の官兵衛に対し、苦い表情の2人。

 

 

「官兵衛さん。それは大変素晴らしい策略であると思うのですが、果たしてそう上手くいきますでしょうか?」

 

「どういう事だい半兵衛?」

 

「佐久間盛政さんは豊臣軍12万が真正面からぶつかっても、真逆に押し返す実力の持ち主です。相手に地の利があったとはいえです。そんな相手をただの奇襲で倒し切れますか?」

 

「うぅ.....」

 

「それにです。敵が勝家さん単体ならまだしも、あちらには戦上手の藤堂高虎さんが軍師を務めているんです。奇襲作戦も読まれていると考えた方がいいでしょう」

 

「じゃあどうすればいいんだい!」

 

「逆ギレはいかんよ官兵衛ちゃん。

もっとリラ〜クスしないと」

 

「五月蝿いよ良晴!そういう所は太閤とそっくりだ!」

 

 

いけない。これ以上いじめると泣くな。

 

 

「ですが賤ヶ岳に敵を誘い込む戦法は使えます。それをもっと応用すればいけますよ」

 

「やれるか半兵衛」

 

「はい殿」

 

「うぅぅ!!!」

 

「そうむくれるな官兵衛。活躍できる機会なんていつでも見つけられるだろう」

 

「大体!君が急に賢くなったのが悪いんだ!君と半兵衛が何でも決めちゃうからシメオンの活躍所が全然無くなったんじゃないか!」

 

「そんな事言われても.....」

 

「君は変わり過ぎだよ!5年位前の馬鹿だった君の方が、あれこれ誤魔化せて、そのまま相良家を乗っ取るという手段も取れそうだったのに!」

 

 

なんか下剋上の意思を暴露された。

 

 

「君と信奈様をどうにかして結婚させた後、それを傀儡にシメオンが天下人になる計画だってあったのに.....」

 

 

なんか恐しい野望まで暴露された!

 

 

「なんだよなんだよ有能になっちゃってさ!冷静に戦況を判断して、冷酷に決断して、戦闘時には残酷に敵を追い立て、魔王のように勝利を飾るようになっちゃってさ!知らない間に化物になっちゃって.....」

 

「官兵衛さん!!」

 

 

半兵衛が尖い眼光で睨みつける。

 

 

「うぅぅ.....言い過ぎたよ。謝る」

 

「気にしてないよ官兵衛」

 

 

普段官兵衛は半兵衛に対し対抗意識を燃やし、よく強気に出ているが、半兵衛が逆に怒った場合、たまらず弱くなってしまう。

 

 

 

『ふむゅ。官兵衛は小さい人間なのにゅ』

 

 

 

「「「?」」」

 

『どうしたにゅ?』

 

「誰だお前?」「誰だい君」「どなたですか?」

 

『"すねこすり"だにゅ!!!』

 

「あぁ〜こんなネズミいたなぁ!」

 

「くすくす。すっかり忘れました」

 

「シム。本当にド忘れしていたよ」

 

『官兵衛!!すねこすりは官兵衛と利休に作られたんだにゅ!?』

 

「そだっけ?」

 

『良晴!女難の相の君に取り付いて、君に女の子を近付けさせないようにしていた事を覚えていないのかにゅ!?』

 

「いや〜、今女に困ってないし」

 

『下衆だにゅ!?』

 

「うるさいですよドブネズミ。空気が穢れます」

 

『何故か半兵衛に暴言吐かれたにゅ!!?』

 

「まぁ、ぶっちゃけ今のこの物語にお前が出てきても、使い道ないしなぁ」

 

『メタ発言にゅ!?』

 

「すねこすりだっけ?なんか変身とかってできるか?

ドラキュラに匹敵するような化け鼠とかに」

 

『なれないにゅ!!それにドラキュラって何にゅ!』

 

「ふぇっ!?ドラキュラ知らないの?天龍は?」

 

『誰にゅそれ!』

 

「.....お前、5年間くらい異次元に飛ばされてたんじゃないのか?いつから消えてたんだ?」

 

「シム。松永久秀の蜂起以降見てないね」

 

「ううむ。これは何か偉大な存在に消されていたと考えるしかないな。お前、神様に嫌われてたのか?」

 

『なんでにゅ!』

 

「いや、そんな大事じゃない気がするよ。単純に作者に存在を忘れられてたんじゃないかな?連載1年半目になって突然思い出したとか。というか、今回がこの作品に初登場だよね君は」

 

『またメタ発言にゅ!?』

 

「くすくすっ、もう今回きりで、二度と出ないんじゃないですかぁ?あはははははははは!!!」

 

『うにゅっ!?メタ世界の半兵衛が黒いにゅ!』

 

「文字数勿体無いからバイバイな」

 

『文字数って何にゅ!?』

 

 

 

 

 

メタ終了。

 

 

 

 

 

「それでだ。どう攻めるんだ半兵衛?」

 

「はい。まずは.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柴田軍、本陣。

 

 

「.....で.....で、以上の事を実行してくだされば、この戦力差を埋める事ができましょう」

 

「承知した。ありがたい」

 

 

紅の瞳の勝家が律儀に例を言う。天龍の"再教育"の影響で操り人形のようになってしまっている。

 

 

「ウラド様は何を考えておいでなのか」

 

 

ウラド様が言うには、柴田勝家に施した洗脳はあくまで催眠術的なものであって、いつでも解く事ができるとか。

なら何故柴田勝家を使った?

此度の改革制度によって多くの大名の支持を失った。しかしそれでも、未だ彼に付く強者は多い。何故その者らを使わずに敵を洗脳してまで.....柴田勝家は猛者であれど、猪武者であり、脳が筋肉でできてるような姫武将だ。もっとマシな武将もいただろう。上杉謙信でも洗脳すれば、関白殿下など容易に蹴散らせたろう。

という意思を本人に伝えた所、

「この真意に気づけぬのならまだまだ」

と鼻で笑われてしまった。

 

 

「ううむ」

 

 

あまり深く考えない方がいいかもしれない。あの方は我ら凡人には到底考えつかない思考の持ち主だ。悪く言えば、破綻している。逆にあの人の中身を見ようと探っていては、こちらまで参ってしまう。あの人の口癖の通り、「人が人を完全に理解するなんて不可能」なのだ。

 

 

「私の役目は以上です。ウラド様のお申し付けの通り、私はここで去る事にしますが、柴田様それでよろしいですね?」

 

「相分かった」

 

「では.....」

 

 

高虎は霧のような状態に変じ、消える。

 

 

勝家は感情の亡くした表情で、戦地の方向をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐久間盛政軍。

 

 

「ふんっ!天下の豊臣軍など、太閤殿下無しでは烏合の衆に等しい!全て蹴散らしてくれる!!」

 

 

巨馬に跨り、佐久間盛政率いる軍団が一度退いた良晴軍に再度圧力をかける。柴田軍の多くは織田時代から騎馬隊が中心。鉄砲も装備しているが、勝家が鉄砲をあまり好まず、使い熟せなかった為、あまり積極的に器用したりはしなかったのだ。信奈への建前として、申し分程度に鉄砲の訓練をしていた程度である。その分、騎馬隊を主に訓練していた。

しかしだ。当時は織田の痩せ馬で弱小だった柴田騎馬隊だが、武田信玄が倒れ、彼女が多く所持していた強靭な武田馬が織田に流れたのだ。勝家は歓喜して武田馬を騎馬隊に導入し、自軍の強化に務めた。その結果柴田騎馬隊は、当時の明智鉄砲隊や天竜騎馬鉄砲隊に匹敵する軍隊となっていたのだ。

 

この賤ヶ岳の戦い。兵力こそ良晴側に非常に有利ではあったが、地や兵の強さは柴田側に利があった。極めつけは藤堂高虎の指揮。更には猛将の佐久間盛政が味方についた。

この戦争。柴田の勝ちか.....?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殿!前軍が体制を崩しつつあります!撤退すべきかと!」

 

「何っ!?」

 

 

盛政に入った悲報である。

 

 

「何を言う!秀吉は恐れをなして賤ヶ岳から逃げ出したのだ!今こそが賤ヶ岳を占領する絶好の機会であろうに!何故に今更になって我が軍の体制が崩れる!?」

 

「てっ、敵が!地面に爆薬を仕掛けていたようで!その爆薬を踏んだ馬の足元から次々に爆発し、その爆音に驚いた他の馬も暴走を始めています!」

 

「何だと!?」

 

 

 

 

 

 

半兵衛の策略。それは何と『地雷作戦』だった。

忍者が使う埋火(うずめび)と呼ばれる爆薬の入った木箱を地面に仕込み、そこを踏めば爆発する地雷に近いものを応用。火薬の量を増やし、本物の地雷に近い威力のものとなっていた。

しかしそれは、人を殺す為の道具ではない。

それに応じて殺傷能力もそこまで高くない。

 

 

 

 

 

 

「ひえ〜!エグい光景だね」

 

 

半兵衛と官兵衛は高台から眺めていた。

 

 

「目的は命を取ることではありません。相手に怪我を負わせることが目的なのです。怪我をすれば、それを治療する人間が必要になる。それだけの手間が必要となる。馬だって、足を怪我しただけで使い物にならなくなる。

それにです。突破力を売りとする騎馬隊には、そんな爆発物が埋まっているような地面は危なくて走れませんし、仮に全ての埋火をを除去した所で、穴ボコだらけの地面はどちらにせよ走れない。

今この場において柴田騎馬隊こそが烏合の衆」

 

「君にしては手段を選ばないやり方だね。昔の君はこんな無差別虐殺的な事は避けていただろう?」

 

 

官兵衛が含みある言い方をする。

 

 

「俺が許可したんだ」

 

「良晴?」

 

「俺は今まで、敵も味方も皆が皆幸せになれる戦争を解決方法を探っていた。だが、そんなものはない。長引く戦争から生まれるものはない。本当に幸せを得たいのであれば、勝てばいい。勝って戦争を早々に終わらせればいい。最早手段は選んでいられないんだ。俺はそれを最も憎むべき敵から教わった。

例え外道に墜ちようと、例え下衆と罵られようとも、俺は勝ち進んでやる。俺が次の天下人だ」

 

 

良晴から黒いオーラのようなものが見えた気がした。

 

 

「殿、私は殿に一生涯の忠誠を誓いました。ですから、殿が何処へ向かおうとも付いていきますし、破滅に向かおうとしているのなら必死で食い止め、正しい方向へ導きます」

 

「全く。主君がここまでしっかりしているのなら、軍師の張り切り場所だってないじゃないか。君が無能でなければ、下剋上の機会だって回ってこないよ」

 

「お嫌いかい?」

 

「いいや?」

 

 

官兵衛は微笑し、軍配を握る。

 

 

「放てぇ!!」

 

 

投石機によって 焙烙玉を次々に投げ込む。

その惨状は時刻絵図だった。

 

 

「悪に墜ちた君も大好きだよ!

鉄砲と弓を雨あられの如く放つんだ!!」

 

「まぁ」

 

「ふっ」

 

 

その時、蜂須賀五右衛門が参上する。

 

 

「良晴氏。柴田軍が越じぇんのきゅたのしょうへじょうへてっちゃいしちゃようじぇごじゃる!」

 

「分かった。越前の北ノ庄城に撤退したんだな」

 

 

人外の力でオンドゥル語を正確に和訳する。

 

 

「行ってください殿!ここは私達に任せて!」

 

「行くんだ良晴!君には全てを変える天運がある!」

 

「半兵衛、官兵衛.....分かった!行くぞ小六!」

 

「御意!」

 

 

良晴は単独で前線に駆け出した。

 

 

敵兵とぶつかるのを避ける為、良晴は森に飛び込む。ろくに道も整理されていない状態だ。

 

 

「変身!」

 

 

良晴は四足歩行モードの人狼に変幻し、獣道を駆ける。

 

 

『小六乗れ!もっとスピードを出す!』

 

「わっ、分かったでごじゃる!」

 

 

小六が良晴に乗りかかる。

 

 

『痛くねぇから!毛を掴んでもいいからもっとしっかりしがみつけ!振動で振り落とされるぞ!』

 

「ぎょっ、御意!!」

 

『おらっ、飛ぶぞ!!』

 

「ひゃっ!!?」

 

 

良晴は崖から飛び降りる。通常の動物なら落ちたら即死レベルの高さだ。しかし、良晴は難なく崖を下り、ひたすら越前の北ノ庄城を目指す。

 

 

『あれは!?』

 

 

金ケ崎にてとある洞窟を見つける。金ケ崎の退き口にて良晴が死にかけ、十兵衛に介抱された洞窟だ。

 

 

『懐かしいな。あれから4年半か』

 

「良晴氏!」

 

『あぁ、済まない』

 

 

良晴は再び駆け出す。感傷に浸っている場合ではない。一刻も早く勝家と会い、倒さなければ。そして彼女にかけられた洗脳を解き、救出しなければならない。

 

 

『アオオオオォォォォォォォォォォン!!!』

 

「ちゃっ、よちひゃるうじ!もっとゆっきゅり!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

越前、北ノ庄城。

一足早く撤退した柴田勝家は城の守りを固める事に躍起になっていた。洗脳の影響で感情がないにもかかわらず、その顔には焦りが見えた。

まず第一に、前田利家が寝返った。しかも犬千代がそのまま振り返って攻撃してきたのだ。その後佐久間軍が壊滅し、盛政が捕らえられたのだ。それだけでない。頼りだった伊勢の一益は、海路から突如現れた丹羽長秀が率いる島津軍が、伊勢に猛攻をかけているのだ。美濃の勘十郎には徳川軍が対処。

さらに驚くべき事は、織田信奈だ。

今まで鳴りを潜めていた彼女が突如動いたのだ。その影響で一益も勘十郎も勢いを衰えさせ、越中の成政ですら動揺した。動揺したのは彼女らだけでない。勝家もだ。

洗脳されていても、彼女の内心では心から信奈を慕っている。だからこそ、信奈が敵になった事で勝家はかつてない程恐怖した。それによって味方の盛政を見捨ててでもこの越前まで逃げ出したのだ。

 

北ノ庄城に戻った勝家は天守閣に逃げ込み、そのまま引き篭もってしまった。そしてブツブツと呟き続ける。

 

 

「あたしは悪くない.....あたしは悪くない.....

あたしは悪くない.....あたしは悪くない.....」

 

 

爪をガジガジと噛む。感情がわずかだが浮き彫りになっているのかもしれない。

 

 

『勝家えええええぇぇぇ!!!!』

 

 

城の外から人間離れした声がしたかと思うと、窓を突き破って巨大な狼が飛び込んで来たのだ。

 

 

「!!!?」

 

『よう、会いたかったぜ勝家』

 

「よし.....はる.....?」

 

『降伏しろ勝家。お前を殺したくない』

 

「誰が.....」

 

 

その時、城内で爆発音がする。

 

 

「なっ.....!?」

 

『小六があちこちに焙烙玉を投げてんだ。時間次第でこの城は火達磨になるぜ?』

 

「何っ!?」

 

『安心しろ。川並衆に城内の人間の救助をさせてる。まぁ、それでも抵抗する奴、自害する奴はいるから、そいつらの命までは保証しないがな』

 

 

以前の良晴からは考えられない台詞だ。

 

 

「お前はあたしが殺す。豊臣良晴秀吉」

 

 

そう言い、愛槍のハルバートを構える勝家。

 

 

『好きだったよ.....六』

 

 

人狼の状態で構える良晴。

 

 

『ガアアアアアアアアァァァァ!!!!』

 

 

先に動いたのは良晴。目にも止まらぬスピードで勝家に飛び込む。ところが!

 

 

「ふふっ」

 

『何っ!?』

 

 

微笑をしながら勝家が捌いた。回るように、流れるように良晴の後方へ移動し、ガラ空きになった良晴の背中にハルバートを振るう。

 

 

『こなくそっ!!』

 

 

地面を蹴り、空に逃げる良晴。

 

 

「逃さない!」

 

 

勝家もまた飛び上がり、回転しながら良晴に追い討ちをかける。

 

 

『かぐあぁっ!!?』

 

 

良晴の横腹をハルバートが抉り斬った。

その勢いで彼を壁に叩きつける。

 

 

『げふっ!!.....銀製か!?』

 

 

吐血をする。横腹が焼けるように熱い。人狼は吸血鬼以上に銀に敏感だ。場所が悪ければ即死する程に。案の定、良晴の怪我もそこから肉繊維が腐り始めている。

 

 

『ちっ.....敵になった途端にこれか。味方であった時がいかにいい女だったか、今になって理解するぜ』

 

 

良晴は瞬時に体制を立て直し、再び勝家に突撃する。今度は彼方此方に高速移動を繰り返し、まるで瞬間移動をしているかのように見える。それを勝家は。

 

 

「噴っ!!!」

 

 

床を踏みつけた。

その衝撃波は凄まじいものとなり、木っ端微塵となった床の木材が周囲に散乱する。その木材が周囲を高速移動する良晴を傷付けた。

 

 

『くっ.....!?』

 

「見つけた」

 

 

ハルバートが振るわれた。良晴はなんとかそれを避ける。そして、ハルバートの次なる攻撃を避ける為、勝家の懐に飛び込む。しかし。

 

 

「甘い」

 

『がぁっっぅぃぅ!!!!?』

 

 

真正面から蹴られた。良晴の肋骨の過半数が折れる。骨が内蔵に突き刺さり、大ダメージを受ける。吸血鬼の蹴りはショットガン並の威力だ。

そして再び吹き飛ばされる。

 

 

『がふっ..........全く、本当にいい女だ』

 

 

吸血鬼でも人狼でも、人間から人外になった奴の力の差は、人外になってからの戦闘の経験の量から生まれる。しかしもう一つ。"生前"の力の差が大きく出るという。

良晴が人狼になったのはここ数ヶ月。しかしそれでも数々の戦闘行為を繰り返し、その経験値を高めていった。しかし、勝家は吸血鬼になってから数日のペーパーヴァンパイアだ。そんな奴の能力などたかが知れている。

しかしだ。勝家の能力は良晴のそれを上回っている。良晴が半人狼であるとはいえ、この力の差は異常だ。つまり。

"生前"の能力だけで良晴の能力を上回ったのだ。

 

つまり、時間次第で勝家は最強の吸血鬼にも成り得るという事。パワーだけなら天龍のそれを超える。

 

 

「もう終わりか?」

 

『まさか!』

 

 

良晴は立ち上がり、あろう事か変身を解く。

 

 

「むっ?」

 

「俺としちゃ、こっちの方が慣れてるんでね」

 

 

全裸の良晴。しかし、彼は背中の方から替えの服が出現し、それに着替える。

 

 

「何っ!?」

 

「不思議だろ?変身の度に裸になるのは何かと面倒だからすぐに身に着けたかったってのもあるけれど、一番はあいつへの対抗だがな」

 

 

良晴が右腕に力を込める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「召喚」

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴の右手に日本刀が出現した。

 

 

「召喚術!?」

 

「苦労したんだぜ?教えてもらう前にあいつと仲違いしちまったからな。自力で修得すんのに苦労したんだぜ?お陰で奴の召喚術とは違う原理のものになっちまってる」

 

「くっ.....!」

 

 

良晴が刀を構える。

 

 

「人外戦には慣れちゃいないが、刀ならここ3年間修行しまくってるからな。とはいえ、10年以上修行してるお前らからすれば笑いもんかもしれんがな。

それでも.....負けるつもりはない」

 

「そこまで言うなら、やってみろ!」

 

「もうやってるよ」

 

 

勝家の脇から声が聞こえた。直後、良晴が峰打ちで刀を振るってくる。

 

 

「うぐっ!?」

 

 

何とかそれを避け、槍を返す。しかし、斬ったと思われた良晴はそのままで、代わりに真後ろに良晴が出現する。

 

 

「幻術.....いや、残像か!?」

 

 

人狼の力の制御。吸血鬼でも人狼でも、確かにフルパワーになれば無敵の力を得られる。だが、このような繊細な戦闘では、一時的に力を引き出す方が使い勝手がいいのだという。

瞬時に足腰を人狼化する事で、敵の攻撃を避ける。

瞬時に上半身を人狼化する事で.....

 

 

「敵を討ち倒す怪力を得る!」

 

「ちっ.....!?」

 

 

再び峰打ちを打ってくる。勝家はそれをとっさに槍で受け、鍔迫り合いになる。

 

 

「なめてるのか?」

 

「なめてねぇよ。俺がしたいのは"殺し"じゃなくて"倒し"だしな。それはそうと、ちょっと感情戻ってねぇか?」

 

「なっ!?」

 

「はい。隙見っけ」

 

 

再び瞬時に背後へ移動し、峰を打ちつける。

 

 

「貴様っ!!」

 

「それ幻影ね」

 

 

鳩尾。

 

 

「がぁっ!!!?..........このハゲザルッ!!!」

 

「げぐっ!!?」

 

 

顔面を殴られる。歯も顎骨も粉々に碎かれ、又もや壁に叩き付けられた。

 

 

「はぁはぁはぁはぁ...........。!!?」

 

「ふっ.....」

 

 

砂埃が晴れたそこには拳銃を握り、銃口をこちらに向ける良晴の姿があった。

 

 

「ちっ!!」

 

 

良晴はそのまま発砲。彼の持つ『コルト・パイソン』の弾丸6発を全て勝家に撃ち込む。だが、勝家はハルバートを器用に振り回し、弾丸を弾いた。

だが、それは想定済み。

拳銃をその場に捨て、勝家が怯んだ隙を見て前に出る。刀を居合の体制に持ち、唱える。

 

 

「朧月光流.....奥義!」

 

「っ.....!?」

 

 

 

 

 

「如月!!」

 

 

 

 

 

いわゆる、バトル漫画でもよくある「双方が走り出し、中央でぶつかり、すれ違っていく。そして、どちらかが負けて倒れる」展開になった。そして.....

 

 

良晴の背中が割れ、血飛沫が散布する。

 

 

「獲った」

 

「いや、獲られたんだ」

 

 

ハルバートにヒビが入る。

 

 

「何っ!?」

 

 

そのままハルバートが木っ端微塵に砕けた。

朧月光流奥義「如月」

かつて信貴山城にて森水青蘭が丹羽長秀に放った事がある技。敵の持つ獲物を還付無きまでに破壊する。そして.....

 

 

「がぁっ!!?」

 

 

勝家の右腕の肉が分断される。

斬るのは武器だけではない。武器を持つ腕すら斬る。それがこの技の本来の効果。命を奪わず相手を無力化できる。だからこそ良晴はこの技を選んだ。

 

 

「おのれっ!!!」

 

 

だが勝家は左手で小太刀を抜き、扨し掛かってくる。

良晴はその手を捌き、勝家の腹に峰打ちを当てた。

 

 

「かはっ!!?」

 

「ごめん」

 

 

決着はついた。彼女は完全に戦闘不能になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

〘そこまでだ六〙

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

そこにいたのは蝙蝠。白い蝙蝠。

 

 

〘充分に時間は稼げた。お前の戦争はここまでだ〙

 

 

声は天龍だった。

 

 

「天龍の.....式神!?」

 

 

本物の天龍は関東の江戸城にいた。

 

 

〘お前の力では良晴には勝てん。そこから逃げ出すだけの力はあろう。さっさと戦線離脱しろ〙

 

「天龍!!貴様!!」

 

「断る!!!」

 

「!?」〘!?〙

 

 

叫んだのは勝家だった。

 

 

「あっ、あたしは.....武士としての真剣勝負に敗れた.....そっ、その責務を.....果たさねばならない!!」

 

〘..........。何馬鹿な事を言っているんだ?

これは命令だ。さっさとそこから.....〙

 

 

 

「黙れ!!!!!!!!!」

 

 

 

〘なっ!?〙

 

 

 

地響きが鳴るかのような怒号。天龍の洗脳を執念で跳ね飛ばしているだ。

 

 

「あたしは!!!この柴田勝家はぁぁ!!

貴様如きに操られるような雑兵ではない!!」

 

〘ちっ!〙

 

 

白き蝙蝠が突如変質し、天龍の身体に実体化する。

 

 

〘聞き分けの悪い小娘だ!〙

 

「がぐっ!?............。効くかそんな妖術!!!」

 

〘くっ!〙

 

 

洗脳を強くするが、それでも跳ね飛ばす。

 

 

「あたしは!!おのが生き方を他人に左右されるつもりはない!あたしは!あたしとしての誇りを持って!その責務を全うする!!」

 

 

勝家は左手で小太刀を逆手に持つ。

 

 

〘いかん!〙

 

「.....勝家?」

 

〘良晴!六を止めろ!!このままでは.....〙

 

「なっ!?誰が手前ぇの指図なんか!!」

 

〘馬鹿が!!!六を殺したいのか!!?〙

 

「何だと!?」

 

 

逆手小太刀。これの意味するものとは.....

 

 

「くっ!」

 

「豊臣天龍!!もうあたしは貴様になんかに操られない!もう貴様になんかの玩具にはならない!!貴様のようなのクズに.....」

 

〘六.....〙

 

「ふっ.....」

 

〘!?〙

 

 

終始険しい表情を見せていた勝家であったが、最期に彼に見せた表情はこの上ない程に優しい顔だった。

 

 

「これが柴田勝家の生き様ぞ!!!」

 

〘良晴!!!〙

 

「くそぉ!!」

 

「噴っ!!!」

 

 

再度床を踏み潰した。その衝撃波により、止めに入った良晴は吹き飛ばされてしまった。

 

 

「ぐあっ!!?」

 

〘やめろ六!!!〙

 

「ふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝家は小太刀を腹に突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「六!!六!!!」

 

〘六!!!〙

 

 

腹を一文字に斬り裂き、倒れた勝家を2人が囲む。

 

 

「げふっ!!がはっ!!!」

 

「しっかりしろ六!!」

 

〘これは.....〙

 

 

天龍は勝家の小太刀を拾い上げる。それは銀刀だった。

 

 

〘これでは.....もう〙

 

「おい!しっかりしろよ六!!」

 

「へっ、へへ......切腹って、痛いんだな。ヘマする度に.....馬鹿みたいに切腹、切腹なんて叫んでた...........自分が恨めしいな」

 

 

勝家の腹部は腐蝕が始まり、身体全体に崩壊現象が起きていた。

 

 

「良晴..........天龍..........」

 

「!?」〘!?〙

 

「この国に.....平和を.....争いの無い世界を.....あたしみたいな馬鹿が.....無駄に命を散らす事のない世を............生んでくれ..........二人で..........二人なら.....」

 

「天龍.....と?」

 

〘..........〙

 

「頼む。痛くて.....痛くて.....おかしくなりそうだ..........介錯を.....」

 

「っ.....!?」

 

 

するとだ。勝家の崩壊現象が突如治まり、代わりに勝家の腹の傷から触手のようなものが生え始める。

 

 

「これは.....」

 

〘.....覚醒だ〙

 

「覚醒?」

 

〘死の間際でも執念の強過ぎる吸血鬼に、極稀に起こる現象だ。その対象の死後、寄生虫のようにその遺骸を蝕み、別の生命として覚醒する。六の身体を持った.....化物に。『もののけ姫の祟り神』。あれと似たようなものだよ〙

 

「.....そんな」

 

〘小太刀を持て良晴。小太刀で六を刺せ〙

 

「何っ!?」

 

〘六を化物にする気か?理性も持たず、只々、人を喰い殺すだけの、愛をも持たぬ化物に!〙

 

「ぐぐぐ.....」

 

「良晴.....お願いだ」

 

〘良晴!!〙

 

「くそぉ!!」

 

 

良晴は銀の小太刀を掴む。

 

 

「うあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ.....」

 

 

胸に小太刀を刺され、勝家の祟りも止まった。やがて、勝家の身体が灰の結晶のように崩れていくのが分かる。

 

 

「良晴...........泣くなよ」

 

「うっく.....ぐっ.....うぐっ.....ぐっ.....」

 

「天龍..........後は頼んだよ。人間の未来も、吸血鬼の未来も.....全部お前の手腕に掛かっている」

 

〘分かった。ゆっくりと休め柴田勝家〙

 

「ふっ.....」

 

 

 

【犬猿の 夢路はかなき 龍の名を 

天上にあげよ ほととぎす】

 

 

 

勝家の辞世の句。これだけでは意味は全く伝わらない。だが、良晴を表す"犬猿"と天龍を表す"龍"が入っている事から、彼らに対する想いが込められているのだろう。

 

 

「良き.....人生だった...........有り難うな.....信奈様.....良晴.....天龍.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言い残し、勝家は灰となって死んだ。

享年23歳。短い生涯であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〘げふっ!!!?〙

 

 

勝家が消滅したと同時に、天龍が苦しみだした。そして、天龍は先程の白い蝙蝠に戻ってしまい、更に式札にも戻ってしまった。

 

 

「一体.....何が!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関東、江戸城。

 

 

「げはぁっ!!!!」

 

 

天龍が胸を抑え、吐血をしながら転げ回っていた。

 

 

「天龍様!!?」

 

 

側近の石田三成は突然の状況にオロオロする。

 

 

「しっ、心配すんな佐吉.....

只のしっぺ返しが来ただけだ」

 

「しっぺ返し!?」

 

「吸血鬼が眷属を作る際、自身の魂を切り離し、分け与える事で眷属とするんだ。だが、眷属が死ねば魂は返還される。それも傷付いた状態でな。それがしっぺ返し。眷属が味わった死の苦しみが倍の強度が返ってくる。嫌なものだよ全く」

 

 

だがすぐに立て直し、身なりを整える。

 

 

「眷属は言わば、俺の分霊箱だ。眷属がいる限り俺は不死身で、眷属の死は俺の死に繋がる」

 

「..........」

 

「開戦の準備は整ったぞ佐吉」

 

「はっ、はい!」

 

「六.....お前の作った時間は無駄でなかった。

お前の存在した歴史は、俺が証明してみせよう」

 

 

 

 

魔王出る。

 

 

 

 

「勝負だ良晴」

 

 




最近暗い話が多かったので、たまにはギャグも入れてみました。その後すぐシリアスに戻りましたがね。
勝家を生かすか殺すか最後の最後まで悩みました。サブヒロインの1人でもありましたしね。ちょっと寂しい気もします。
さて賤ヶ岳戦が終わり、次は良晴と天龍の本格戦が始まります。
王の采配
〜戦争に卑怯もラッキョウもあるか〜


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四章 天下分け目の合戦
第八十六話 王の采配


艦これにはまって更新が遅れました。
プレイして気付いたのですが、天龍と朧というキャラがいて驚きました。2人の名前は戦艦から取ったわけではないので新鮮でしたね。今の所お気に入りは「扶桑」です。

そういえば改正版ですが、面倒臭いので没のしました。
本編を地道に治す事にします。
分かり易いように(改)マークでもつけときます


ここで、賤ヶ岳の合戦の後日談を執筆しよう。

まずは佐久間盛政軍。竹中半兵衛の地雷作戦により、柴田騎馬隊の大部分を壊滅させられた彼は、続く黒田官兵衛による焙烙玉の投石により、それ以上の戦闘行為が不可能だと悟り、関白軍に対し全面降伏。武装解除をし、戦線を離脱する事となる。盛政は切腹を申し出た。

しかし、賤ヶ岳における武勇を知る者らは彼の命を惜しみ、敵に関わらず、彼の存命を願い出る者が多く出た。しかし、盛政は切腹以外の処分を断固拒否した。

最終決定権は良晴にある。彼が下した命令は.....

『監禁』だった。

 

 

「なん.....だと?」

 

「佐久間盛政は監禁とする。自害できるような道具類は一切与えず、我が兵として精進するように改心するまで、牢屋に入れておけ。食事を拒否する場合は、薬漬けにしてでも飯を詰め込む。絶対に死なす事は許さない」

 

 

武士の魂なども完全に無視した処断である。

 

 

「きっ、貴様ぁぁぁ!!!!」

 

 

良晴に飛び掛かろうとする盛政だったが、周りの兵に数人掛かりで取り押さえられてしまう。

 

 

「貴様に!貴様にもののふの魂は無いのかぁ!!」

 

「生憎、俺は武家の生まれじゃないんでね」

 

「下衆め!!」

 

 

盛政は良晴に唾を吐きかけるが、良晴はなんとその唾を持っていた布で弾き返し、盛政にぶつける。使った布はその場に捨ててしまった。

 

 

「豊臣秀吉〜!!貴様、勝家様を斬ったらしいなぁ!!」

 

 

真実では勝家は切腹で果てたのだが、このような噂が流れてしまっている。良晴が北ノ庄城に乗り込み、そのまま城を全焼させてしまた事が原因であろう。

 

 

「あれ程姫武将を擁護していた男が!!元は仲間で深い関係にもあった姫武将に手をかけるとは何事かぁ!!!」

 

 

これは苦し紛れの暴言だった。普通なら聞き流すだろう。もしくは反対意見を述べるべき。だが、あろう事か良晴は。

 

 

「それが何だ?」

 

 

そう吐き捨てた。

 

 

「柴田勝家は主君でもあるこの関白に楯突いた。それだけで死罪に値しよう。昔の関係など意味はない。邪魔だから斬ったそれだけだ」

 

「貴様.....貴様に人の心は無いのかぁ!!」

 

「生憎、人間はとうに辞めている。立ちはだかる敵の"駒"を獲った。ただそれだけだ」

 

「こっ、駒.....だとう?」

 

 

この発言については、周りにいた良晴直属の家臣まで肝を冷やした。元は穏健派だった彼は、怒りと復讐心、怨念に喰われ、その様はまるで.....

 

 

 

 

「魔王め!」

 

 

 

 

盛政が言った。

 

 

「魔王め!醜悪な魔王め!下劣な魔王め!!

世に混乱を齎し、人類に不幸を齎す害虫め!!」

 

 

この戦国時代における『魔王』という名称。それは最強の人物に与えられる愛称ではない。どのような人物にもどのような生き物よりも醜悪であり、下劣であり、外道。誰からも嫌われ、疎まれ、恐れ慄かれ、存在すらも恨まれる、完全な悪役に対して与えられる蔑称。

 

 

「俺が.....魔王だと?」

 

 

良晴がその言葉にワナワナと震え始めた。周りは彼が怒っているのかと思っていた。だが、違った。良晴は怒っているのではなかった。彼は.....

 

 

「ぷっくくくくくくくくくく.....」

 

 

笑っていた。

 

 

「これ俺が魔王か!太閤天龍を魔王と断定し、それを討たんと正義を掲げて出陣したこの俺が!魔王か!!なんて素晴らしい!!素晴らしいまでに虫唾が走る!

ふっくくくくくく.....はっはっはっははははははははははははは!!!!!!!」

 

 

高笑いをあげる良晴。その太閤を彷彿させる異様な雰囲気に、誰もが息を呑んだ。

 

 

「せっ、戦国の世が生んだ化物め!!」

 

「ふんっ」

 

 

良晴が盛政の顔面を蹴り飛ばす。

 

 

「がぐっ!!?」

 

「牢にブチ込んでおけ!」

 

 

連れて行かれる盛政。周りの家臣は良晴の存在にただ、嫌な汗をかく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊勢にて。長島城に立て籠っていた滝川一益であったが、織田信奈軍が長島城を包囲した事で滝川軍の士気は急激に低下。更に、柴田勝家が北ノ庄で討たれたという情報が入り、兵は戦意すら消滅し、一益が降伏を決断するだけとなっていた。

 

 

「ふむぅ.....」

 

「ひっ、姫!織田信奈が!この城に!!」

 

「なんじゃと!!?」

 

 

九鬼嘉隆より情報を受けた一益は急ぎ足にて元主君、信奈のもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たわね、左近」

 

 

信奈は堂々とそこに座していた。

 

 

「の.....信奈ちゃん」

 

「あら?まだその呼び方をされるなんて思ってなかったわ。ふふっ、『第六天魔王織田信奈』の名前がまだ残っていたお陰で、たった五千の兵なのに、貴方や勘十郎を抑える事ができた。織田信奈もそろそろ年貢の納め時かしらね」

 

「ふぐぅ」

 

「安心して。私は貴方を責めに来たんじゃないの。私も貴方も予測できない現状に右往左往してる立場だしね」

 

「信奈ちゃん.....」

 

「ここ最近の動きは特におかしい。まるで、予め決められていたかの様に、世界が良晴派か天龍派に別れている。貴方やレオンのように天龍に付いた者もいれば、上杉や島津、長宗我部のように良晴に付いた者もいる。まるでこの日の本の真の支配者を決める最後の大戦であるかのように.....

それに織田家が入れなかった事には歯痒く思うけどね」

 

「むぅ」

 

「それとね左近。あんた天龍に騙されてるわよ?」

 

「えっ?」

 

「前の楢柴肩衝事件の事よ。私もあれには責任を感じて、利休が持ってきた楢柴肩衝についてちゃんと調べたの」

 

 

すると信奈は懐から何かを取り出す。

 

 

「それは?」

 

「楢柴肩衝の破片よ」

 

「えっ!?」

 

「利休がいつの間にか処分していたのよ。なのに、利休は今も楢柴肩衝を所有している。これがどういう意味か分かる?」

 

「てんてんが姫に渡した楢柴は.....偽物?」

 

「えぇ。偽物を貴方に渡し、利休が貴方からそれを強奪する。それを私に渡す事で、私から左近を引き離そうとしたのね。本当に小賢しい!」

 

「そんな.....てんてんが.....」

 

「左近。貴方には本当に酷い事をしたと思ってる。いくら裏に天龍の陰謀が隠されていたとはいえ、その罪は軽いものではないわ。でもね、でもね左近。されでも私は貴方を心の底から想ってる。家臣としてじゃなく、妹として、家族として。...........お願い。戻ってきてちょうだい」

 

 

信奈が涙を流しながら頭を下げた。一益は慌てて彼女を起こす。

 

 

「もういいのじゃ信奈ちゃん。姫は元より誰も恨んではおらぬ。誰にも怒ってはおらぬ。てんてんだって、姫に嘘を付いていたとはいえ、あやつとの友情が丸きり偽りであるとも思えぬ。当然信奈ちゃんともじゃ」

 

「左近.....」

 

「信奈ちゃん.....実は言っておく事がある」

 

「何?」

 

「姫は姫巫女。いや、天皇陛下と姉妹なのじゃ」

 

「えっ!?」

 

「双子の妹なのじゃ。3年程前に陛下に直接会って、本人から直接聞いたのじゃ。思えば、姫の生まれつき持つ不思議な力も皇族だけが持つ遺伝的な能力なのかもしれぬ」

 

「ちょっと待って!その事を他に知ってるのは!?」

 

「えぇと、よっしーとてんてんとくっきーとあけっちーとくっきーの子分達と、せんちゃんと死んだまろとかじゃったか?」

 

「か、かなりいるわね.....渾名じゃ分からないからちゃんと名前で教えて」

 

「良晴、天龍、嘉隆、光秀、嘉隆の子分、利休、近衛。後何人かいた気がするけど覚えてないのじゃ。何しろ、"ご先祖様"が大勢の前で暴露してしまって.....」

 

「ご先祖様って!?」

 

「天照大御神様」

 

「..........はぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

信奈が驚くのも無理はない。そのような類いに彼女はほとんど関わっていないのだ。天龍がドラキュラであるという話も、何となくにしか理解していない。吸血鬼も妖怪の一種だと思っている。

 

 

「あんた神様に会ったの!?天龍みたく、自称神様とかじゃなくて!?」

 

「本物なのじゃ!瀬戸内海近辺でうろちょろしてたくっきーの船を一気に明まで飛ばしてくれたのじゃ!」

 

「そういえば、前将軍を明まで向かいに行ったとか言ってたけど、そんな凄い事になってたのね.....」

 

「そんでもって、明の軍船に追っかけられてた姫達を助ける為に、巨大な化け蛸を召喚して、明の軍船を壊滅させてたのじゃ!」

 

「何それ.....」

 

 

正確には、一益達を使って明軍に喧嘩を売って遊んでいたアマテラスだったが、敵の砲弾が直撃して大怪我を負った腹いせに皆殺しにしたというのが真実だ。

 

 

「でも、てんてんとご先祖様が仲が悪くなってしまったらしいのじゃ。この間聞いたのじゃが、てんてんがもう一人のてんてんと合体して、超てんてんになって、ご先祖様をバラバラにしたらしいのじゃ」

 

「全然分からない.....つまり天龍が神様を殺しちゃったの?」

 

「違うのじゃ。ご先祖様はどこにでもいて、どこにもいない不確かな存在だから、そもそも神様達に死という概念が存在しないらしいのじゃ。だから今も何処かに存在しているらしいのう」

 

「そういう神道系の話ってややこし過ぎて理解し難いのよね」

 

「姫も半分も理解してないのじゃ。全部てんてんの受け売りだしのう。とりあえず、それだけ凄い神様の子孫が姫なのじゃと理解しておる♪」

 

「神様のカの字すら神々しい所がないじゃない」

 

「むぅ!」

 

「ぷっ」

 

「くすくすくす」

 

 

2人は笑いだしてしまった。まるでかつての2人のように、本当の姉妹のように。

 

 

「ところで左近。勘十郎がどうなってるか分かる?」

 

「すみすみか.....実を言うと姫にも分からぬ。同じくてんてんに協力していたとはいえ、別々に動いていたからのう。そもそも、彼がてんてんに付いたにのも最近になって初めて知ったのじゃ」

 

「そうなの?」

 

「すみすみが信奈ちゃんを裏切った理由.....やはりあ奴の子供達かのう?」

 

 

信澄には3人の子供がいる。長女は前から知られている茶々。下の2人は天龍の天下統一後に産まれた双子の初と江だ。因みに、初が女子、江が男子だ。

更に長女の茶々は天龍の息子、豊臣拾秀頼の許嫁。

それを反対していた信奈であったが、天龍が天下人になった事で彼に逆らえなくなり、許嫁どころか婚約関係となってしまったのだ。

 

 

「だからって!勘十郎がそんな事で裏切るはずがないわ!あの市だって付いてるのよ?何かあったに違いないわ!」

 

「その通り、あの男がまたやりました」

 

「「!?」」

 

 

そこに丹羽長秀が入室した。

 

 

「たった今戻りました姫。信澄殿率いる美濃勢は島津と徳川軍の猛攻により、一族共々信濃方面へと逃れました。とりあえずは80点です」

 

「万千代、あの男って天龍でしょ?またあいつが何かやらかしたの!?」

 

「えぇ、信澄殿の子息3人全員を養子に迎えたのです」

 

「えっ!?」

 

「さらに彼の娘、豊臣闇秀勝を信澄殿の長男である江殿の婚約者にしてしまったのです。つまり、信澄殿はあの男に子供全員を人質に取られてしまったのです。恐らく、人質解放の条件こそこの蜂起だったのではないでじょうか?」

 

「なっ、なんて奴.....」

 

「政略家としてなら90点各です」

 

「0点よ!0点!相手ならともかく、自分の子供まで!まだ何も分からない年端の行かぬ幼児をおのが野望の道具にするなんて!」

 

「信奈ちゃん。この戦国の世では普通ではないのかのう?」

 

「違う!あいつの場合はそれが異なる!そもそもあいつはこの時代の人間じゃない!人間ですらない!全ての行為に愛を持ってない!その行為に間違って入るとかいう意図を持てない!それが当たり前であるかのように只々邪悪な道を進んでいく。そんな男よあいつは!」

 

「よく理解しておるな」

 

「あいつにはいつも煮え湯を飲まされてるからね。でもそれは昔の話。今は.....」

 

「今の相手はよっしーか」

 

「そう。天龍の眼中には良晴しか写っていない。この織田信奈はあいつとってはもういない存在。もう敵とすら見られていないわ!」

 

「信奈ちゃん.....」

 

「姫.....」

 

「だからこそそこ隙がある!」

 

「「!?」」

 

 

信奈は立ち上がり、宣言する。

 

 

「織田信奈はまだ終わらない!天龍が良晴にしか興味を示せていないこの絶好の機会を突く!油断しているあいつの横腹にキツい一撃を加えてやる!魔王の名は返してもらうわ!」

 

「姫、では出陣されるのですね!?」

 

「えぇ、万千代。今の私は何点?」

 

「70点です」

 

「..........良くも悪くもない点ねそれ」

 

「..........むぅ」

 

「どうしたのよ左近?」

 

「信奈ちゃん.....信奈ちゃんはいつから『魔王』なんて呼ばれ方をしなくなったのじゃ?」

 

「えっ?」

 

「信奈ちゃんは魔王と呼ばれなくなってからよっしーと結婚できたんじゃないのかのう?てんてんが魔王の名称を代替わりしてから.....」

 

「それってどういう.....」

 

「もしかしたらてんてんは信奈ちゃんから魔王の名前を奪ったのではなく、その責務を信奈ちゃんの代わりに引き受けたのでは.....」

 

 

その時、兵が部屋に飛び込む。

 

 

「報告!太閤軍、江戸より出陣!その数11万!」

 

「なんですって!?」

 

 

その驚くべき情報に一益の話は中断させられてしまった。

 

 

「左近、話は後よ!まずは目先の化物をどうにかしないといけないわ!」

 

「うっ、うむ」

 

「例の政策の件で彼の味方は少なくなっていると聞いていましたが11万は予想外でした。30点です」

 

「どうせまたそこらの大名を洗脳したんでしょ?六みたいにね!」

 

 

信奈は怒りを露わにする。勝家が天龍を洗脳した事も、良晴が勝家を討ったという噂が流れているのにも、彼がそれを認めてしまっているのにも.....

 

 

「天龍.....あんただけは私の全身全霊を賭けて殺す!!」

 

「..........」

 

 

誰もが天龍に対して憎しみを抱く中、一益だけがその光景を哀しげに見つめていた。

 

 

「哀しいのう......てんてん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信濃。天龍軍、本陣。

 

 

「準備は滞りないか佐吉?」

 

「えぇ、何時でも"決壊"可能です」

 

「ふっくく.....今回も水の策略だ。お前にはいいリベンジマッチになるんじゃないのか?」

 

「りっ、りべ?」

 

「まぁ、名誉挽回って感じだ」

 

「ふふっ、そうですね」

 

 

石田三成が微笑する。

 

 

「はてさて、良晴くんはどう出るかねぇ」

 

「ふふふ。何もできませんわ。この策略の前には」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じく信濃。良晴軍。

槍ヶ岳近辺を進行中の良晴である。

 

 

「ちっ!六の事があったばかりだってぇのに、何でまたあいつは戦争を起こすんだ!」

 

 

天龍は勝家と約束した。戦争のない平和な世界を作ると。にも関わらず、彼は再び蜂起した。

 

 

「シム。特に不思議がる事はないんじゃないかな?彼にとっては、戦争に勝つ事こそが平和へ続く道であると捉えているんだろ?なればこそ、柴田勝家との約束の影響も相余ってこの蜂起を早めたんじゃないかな?」

 

「くすんくすん。あの方らしいと言えばあの方らしいですが」

 

「くそっ!」

 

 

 

「本当にそうでしょうか?」

 

 

 

この軍には場違いな、中年の西洋人が言う。

 

 

「どういう事だ?....."ザビエル"?」

 

 

フランシスコ・デ・ザビエル。天龍の宿敵だ。

 

 

「Ms,シバタの死も彼によって作られたものだったとすれば?そうなれば、彼の蜂起の意味合いも変わってきます」

 

「どういう意味だ?」

 

「貴方はMs,シバタが死の直前に腹の傷から触手を生やし、『覚醒』という名称にて変化しようとしていた。そう語りましたね。だからやむを得ずトドメを刺したと」

 

「あ.....あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吸血鬼にそんな特性はありませんよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

「執念の強い吸血鬼が死の直前に覚醒するなんて、そんな都合の良い話があるわけ無いじゃないですか?いかに執念が強かろうとも吸血鬼も生物の端くれ。死ぬ時は普通に死にます。肉体を灰に変じてね?」

 

「ばっ、馬鹿な!?実際に六は本当に覚醒しようとして.....」

 

「私はドラキュラが誕生する前の、古代から生息する吸血鬼の文献も詳しく存じ上げますが、吸血鬼が死の直前に別種に変身するなど、聞いた事がありません。それはきっとドラキュラの嘘ですね」

 

「う.....そ?」

 

「敵であるはずの奴の虚言を信じるとは、貴方も随分と人がいいですねぇ?今まで何度彼に騙された?今まで何度陥れられた?いい加減他人を過剰に信じるのはやめなさい。よもや、彼のようなペテン師を信じるなど自殺行為だ」

 

「そん.....な!?」

 

「恐らくきっとMs,シバタの体内にドラキュラの肉片を植え付けていたのでしょう。奴にはそのような特技がある。

触手、ですかぁ...........例えば髪の毛とか?

それをドラキュラが操作し、さも触手が生えているかのように見せた。シナリオはこうです。

『Ms,シバタから触手が生えてきた。これは祟りと言って、このままだと彼女は化物に覚醒してしまう。そうなれば人間の心も残らない化物に。だからこそ人間の心が残ってる間に殺してあげなさい。結果、彼女は秀吉様の手によって殺害される事となった』

かくしてドラキュラの計画は成功した。計画通り"貴方にMs,シバタを殺させる事に成功させた"のです」

 

「!!?」

 

「いっ、いくら何でもそれは!」

 

「太閤殿下が良晴さんに柴田殿をわざと殺させたって言うんですか!?それこそ憶測です!」

 

 

官兵衛半兵衛が激しくザビエルを否定する。

だが、とうの良晴はと言うと.....

 

 

「天龍に騙された........また騙された.........俺が.....六を殺した..........天龍に殺させられた..........あいつが殺した」

 

 

完全にそれを信じ切っていた。

 

 

「ザビエル様!いくら何でも酷すぎる!

良晴を何処まで壊す気だ!!」

 

 

流石の官兵衛もブチ切れた。宣教師を崇拝する彼女であったが、彼女の中では、フランシスコザビエルは10年以上前に死亡しており、このザビエルは名前を騙ったパチモノの扱いなのだ。しかもザビエルは少し前からずっと良晴に付き纏い、あれこれ進言しては、良晴を凶暴化させようと策謀しているのだ。

 

 

「君は黙っていろシメオン。今秀吉様を"治療"しているんだ」

 

「なっ、なんだって!?」

 

「本来は滅ぼされるべき人狼、それを魔を討つ神の剣として整形しているんだ。これは神命。それを邪魔する事は神に対する冒涜。ドラキュラと同等の扱いをする事になるよ?」

 

「っ.....!?」

 

「それに、そろそろだしね」

 

「そろそろって.....」

 

 

その時だ。各所で爆音が鳴り響き、それに乗じて尋常ならない地響きが辺りから強く伝わる。地響きは引くかと思われたが、むしろ次第に大きくなるばかり。

 

その時、使番が飛び込む。

 

 

「報告します!!突如、土砂崩れが発生!!」

 

 

「「土砂崩れ!!?」」

 

 

両兵衛が口を揃えて叫ぶ。

 

 

「土砂は水分を多く含んでおり、濁流となって我が軍に壊滅的打撃を与えつつあります!!」

 

「水だって!?こんな山だらけ岩だらけの土地の何処に水があるんだい!?」

 

「恐らくこれは人為的に起こされたもの.....ですが、どうやってこの様な大規模に............はっ!?」

 

 

半兵衛が何かに気づく。

 

 

「まさか.....官兵衛!今何月だ!?」

 

「えっ!?3月ぐらいだけど.....」

 

「太陰暦じゃない!太陽暦の方だ!!」

 

「へ!?」

 

「4月末ですよ。秀吉様」

 

 

ザビエルが答えた。

 

 

「そうか.....やっぱりそうだ!」

 

「ちょっと待ってよ!何が分かったんだい!?」

 

「官兵衛さん.....天龍さんはまた、自然の摂理を利用したんです。今は春。冬にあったものが無くなり、下流に流れてくる季節です」

 

「はっ!?」

 

 

官兵衛も気付いた。

 

 

「なんて事だい。それはつまり.....」

 

「はい。勝家さんは本当に時間稼ぎの囮だったようですね」

 

「畜生ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

「ふくく.....」

 

 

良晴が激昂し、ザビエルは微笑しながらそのまま姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍が使ったのは『雪解け水』。

それを冬の間に堤防を作る事によって堰き止め、多量の水を溜め込んでいたのだ。更に、水の通り道を作るために山岳を地道に削り、土砂が流れやすいように土を耕してまで.....

後はそこに良晴軍が通りかかるのを予測して堤防を決壊。自然の流れによって土砂崩れが発生し、良晴軍を飲み込む。渓谷でもあった為に、逃げる事も叶わずに次々に生き埋めにされる。

だがこの作戦には問題がある。

1つは成功率が低い事。なんとなく造ったのではまず成功しない。数年に渡って何度も統計を繰り返し、何度かの実験を行って初めて成功する高等技術だ。

もう1つは、そもそも良晴軍がこの場所を通る確率が低過ぎる事。良晴軍がここを通る事が100%実証できない限り、この罠は無用の長物となってしまうのだ。

にもかかわらず、天龍は成功させた。

 

第一にだ。時間的に考えて、この罠を作り始めたのは少なく見積もっても数ヶ月前。つまり.....

 

 

 

 

 

 

天龍と良晴が対立する前。九州征伐以前にはもう、この計画は持ち上がっていた事になる。

 

 

 

 

 

 

「オン・キリクシュチリビキリ・タダノウウン・サラバシャトロダシャヤ・サタンバヤサタンバヤ・ソハタソハタソワカ!!」

 

 

半兵衛が巨大な結界を作り出し、土砂を堰き止める。

 

 

「わっ、私が時間を稼ぎます!!ふぐっ!.....殿は一早く渓谷を脱出して下さい!!」

 

「半兵衛.....そんな!」

 

「安心して下さい.....私はこんな所で死ぬ気なんかサラサラありませんよ?」

 

 

半兵衛が無理にでも笑顔を作り、良晴を安心させようとする。

 

 

「分かった!行くぞ官兵衛!!」

 

「しっ、シム!!」

 

 

 

 

 

 

良晴は早馬にて渓谷を駆け出した。

 




今回は繋ぎの回でしたね。
激戦を繰り広げる天龍と良晴。
立ち上がる織田信奈。
次回はなんとあの人が!?
次回予告
信濃戦争
〜あれらを止められるのはきっと〜


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番外編7

最近、不定期更新になってますね。
本編が大分ごたついてきているいるので、小休止をはさみました。でも、今後のフラグが混ざってたり、混ざってなかったりするので、捉えるとすれば、84,5話ですね。


16話 京極竜子

 

これは賤ヶ岳の合戦が始まる数日前の事。柴田軍に対抗する為の軍隊を大坂に集結させているさなか。そんな時期に良晴は数人の護衛を連れて大坂の町を巡回していた。

 

 

「ひえっ!?関白殿下様や!」

 

「あのお優しかった殿下様も変わったのう」

 

「太閤殿下様の影響やろか?」

 

「次の魔王め.....」

 

「平和になったばかりの天下を再び乱しおって」

 

 

良晴が通る度に民の噂話が聞こえてくる。

 

 

「くっ!お兄ちゃんの悪口ばっかり言ってるよ!あの下人共を引っ捕らえて来るのよさ!」

 

 

福島市松正則が言う。

ちょっと頭の弱そうな喋り方が特徴だ。

 

 

「視線、五月蠅い。奴ら駆除したい」

 

 

加藤虎之助清正が言う。

何故か片言の面倒臭い日本語が特徴だ。

 

 

「落ち着けお前ら。俺らは一応真の平和を得る為に行動を起こしたんだ。それこそ、力なき民を守る為にな。なのにお前らがその調子だとなぁ」

 

「お兄ちゃんを蔑んだ時点で、奴らに生きる価値なんてないのよさ!」

 

「激しく同意。お兄ちゃんのお人好し、異常」

 

「お前らが三成ちゃんと仲悪いの、単なる同族嫌悪な気がしてきたぞ」

 

「あいつなんかと一緒にするんじゃねーのよさ!」

 

「賛同。三成、排泄物と同義」

 

 

難儀だなぁ三成ちゃん。

 

 

そんな時だ。1人の女性が良晴達の前にフラフラと出てきてしまう。

 

 

「そこの女、邪魔よ!どくのよさ!」

 

「私達ここ通る。貴方、障害物」

 

 

俺の妹分達がこんなに口が悪いわけがない。

 

 

「すみません。こっちの方がどきますね」

 

「お兄ちゃん!」

 

「兄者阿呆。でも、嫌味なし。ポッ(*´艸`*)」

 

「いっ、市松もお兄ちゃんが好き!」

 

「はいはい」

 

 

良晴も2人の扱いには慣れている様子だった。

 

 

「あのう?貴方は?」

 

 

その女性が聞いてくる。

 

 

「.....豊臣秀吉だ」

 

「あぁ、やっと会えました」

 

「ん?」

 

 

彼女はよく見れば、月下美人と言えるような美貌を持っており、見ているだけでこちらがドキドキしてしまう。

 

 

「きっ、君は?」

 

「ふふっ、京極竜子です」

 

「ふぇっ!?」

 

「「ん?」」

 

 

護衛の2人には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大坂城本丸。部屋で二人きりの良晴と彼女。

京極竜子。史実では、京極高次の妹として生まれる。母は浅井家の人間であり、浅井長政は叔父にあたるという。始めは若狭守護、武田元明の妻になる。元明は本能寺の変後明智光秀に付き、従軍したものの、山崎の戦いにて討死。竜子を含めた一族は勝者であった秀吉に捕虜として連れ去られ、その際に秀吉の側室になったとされる。生きる為に、夫の仇の女になったのだ。境遇が似ており、従姉妹同士でもあった浅井三姉妹とは仲が良かったらしい。

 

ところがだ。この世界では本能寺の変も山崎の戦いも起こってはいない。夫である武田元明と仲睦まじく暮らしているはずだ。にもかかわらず、彼女は何故ここに?

 

 

「武田元明?誰ですそれ?」

 

 

大坂城に戻って早々、彼女がそう言い放った。

 

 

「すると何か?あんたはまだ未婚で、武田元明なんて全然知らない。今日は個人的に俺に用があって来たと?」

 

「はい♡」

 

「んで、俺に何の用なのよ。言っとくが俺は今、戦の準備で忙しいんだが?」

 

「はい♡私を性奴隷にして下さいませ?」

 

「.......................」

 

「殿下?」

 

「パーデュン?」

 

「?」

 

「すまないが、もう一回言ってくれ」

 

「この名称じゃ分からないですね。じゃあ言い直しますね。.....私を性欲処理の肉便器にして下さいませ」

 

「言い直して余計悪くなったぞ!?」

 

 

この時代に肉便器なんて名称があったのか!?

 

 

「ちょ〜と待つがよろし〜!!」

 

「待機、要求!!」

 

 

正則と清正が部屋に乱入した。

 

 

「そこの女!破廉恥だ破廉恥!お兄ちゃんのナニをアッーしていいのはあちきだけなんだらねっ!おめーはすっこんでろブスッ!」

 

「落ち着け市松!お前が喋ると話がややこしくなる!」

 

「女、城から帰る。兄者、私を娶る」

 

「虎之助も対抗してんじゃねぇ!」

 

 

 

「黙るがいいこの下女共が」

 

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

竜子が突如暴言を吐く。

 

 

「関白殿下の好みの女性は私のような大人の肉体を持つ美女です。決して貴方達のような、年の割には発育の遅れた、雌の糞餓鬼が出る幕ではありません」

 

 

可愛い顔して口悪っ!?

こいつらといい勝負だな。

 

 

「なんりゃ、とこらぁ!」

 

「市松噛んだ.....ぷぷっ」

 

「うるしゃいぞ虎っち!!」

 

「おい、お前らいい加減に.....」

 

「おや?おやおやぁ?私から見れば惨めにびぇーびぇー喚く、小猿にしかみえませんわぁ〜!」

 

 

竜子のその言動に2人がプツリと切れた。

 

 

「にゃにお〜!!?

もうo(`ω´*)oプンスカプンスカ!!

殺しちゃうもんね〜!!!」

 

 

言葉こそ軽いが、その小さな身体より滲み出る殺気は尋常ならないものであった。『関白軍の若き猛牛』と呼ばれた次世代の姫武将、福島正則。

いくつになっても童心を忘れない彼女は、遊び感覚にて戦地で暴れる。戦場で誰よりも清々しき笑顔で敵兵を惨殺する野獣。一度暴れれば、誰も手がつけられない。

 

 

「そこの女、殺す。これ、決定事項」

 

 

『関白軍の若き猛虎』こと、加藤清正。

実は、織田の虎と呼ばれた前田利家こと犬千代の弟子でもある。この間やっと犬千代より与えられた朱槍を持つ。突破力こそは正則に劣っている。だが、戦術、戦略、財務、城作りなどをオールマイティに熟す順応性。更には戦闘時、凍てつくような彼女の冷酷な視線を前にすれば、戦いが始まる前に戦意が殺され、一網打尽にされる。

あの口調は犬千代の真似らしいが、あんま似てない。ちなみに、帰国子女だとか、言語障害だとかではない。ただの中二病だ。彼女には格好いい口調であると捉えられているのだろう。梵天丸みたいな邪気眼だけが中二病ではないのだ。

 

 

「やれるもんならやってみなさいな」

 

 

竜子が邪悪な笑みにて言う。

 

 

「殺すったら殺すのよさ!」

 

「抹殺開始」

 

 

だが、竜子の挑発は止まらない。

 

 

「いいからやれよ雑魚共」

 

「「死ね!!雌豚が!!」」

 

 

2人の声がハモる。そして、どこに仕込んでいたのか槍を取り出し、竜子に襲いかかった。

 

 

 

「いい加減にしやがれテメェらぁ!!!!!」

 

 

 

「「!!!?」」

 

 

良晴の怒号に2人の攻撃はビタリと止まった。

 

 

「分を弁えろよ餓鬼共!

俺の目の黒いうちは勝手は許さねぇぞ!!」

 

「はっ、はいお兄ちゃん!!」

 

「御意のままに兄者!」

 

 

慌てて答える。良晴に怒りに恐怖し、従っているのだ。まるで躾をされた飼い犬のように。

 

 

「素晴らしくドスの効いたお声ですねぇ。任侠者に負けず劣らずの迫力ですぅ。ヤクザにでもなられたらどうです?」

 

「ふざけるな!一体何が目的なんだ京極竜子!」

 

「やっと本性が出ましたね」

 

「何っ?」

 

「ふふっ」

 

「ふぇっ!?」

 

 

次の瞬間だ。竜子が正則の首根っこを掴み、顔面から床の畳に叩きつけたのだ。

 

 

「いっ、市松!!?」

 

「痛ぁ〜い!!」

 

 

顔は真っ赤で涙と鼻水が出てるが、無傷だった。

 

 

「えいっ!」

 

「うっ!!?」

 

 

正則に気を取られた清正が背後に移動した竜子によって思い切り蹴り付け、飛ばされ、障子に頭から突っ込む。

 

 

「無念。ガクリ」

 

 

気絶したフリをしてるが、清正も無傷だ。

 

 

「くふふ.....」

 

 

市松達が頑丈なだけなのか、この京極竜子という女が絶妙な加減によってそれを成しているのか。竜子の余裕の表情からは後者と受け取れる。しかしそれが事実であるのなら、彼女に隠された力はどれだけあるのだ?

 

 

「京極家の家督は兄が継いだので、私は姫武将ではなく、一介の姫として育てられました。しかし、独自で武術も修得しておりますの。護身術ぐらいですけどもね」

 

 

嘘だ。この女の覇気は百戦錬磨のそれだ。

 

 

「強い姫はお嫌いかしら関白殿下?」

 

「.....いいや」

 

「そうでしょうね。色とりどりの姫武将を毎日美味しく戴いてるぐらいですから」

 

「..........」

 

「その末席に加えて頂ければ」

 

「断る」

 

「あれま」

 

「俺が抱く対象はあくまでも、俺が好きになれた女だ。俺を好きになってくれる女だ。そこに愛があるからこそ、俺は抱く。だがあんたには、それが当てはまらない。俺にはあんたが別の理由で俺に近付いて来たようにしか思えない」

 

「だったら、あちきも抱いてよお兄ちゃん〜!」

 

「同意!同意なの兄者!」

 

「俺を兄と呼ぶ奴を抱けるか!!」

 

 

もう復活した妹分共がぼやいている。

 

 

「ぷっくくくくくく.....」

 

「何が可笑しい?」

 

「だって、抱く対象に対して求めてるものが何かと思ったら、まさか"愛"と言われるなんて思いもしませんでしたもの.....今時、三文芝居でも古いですわよ?」

 

「何っ?」

 

「ただ性欲を解消する為、ただ"食欲"を満たす為に彼女らを貪り食っている分際で、何を格好つけてんだってお話」

 

「!!?」

 

 

今、食欲と言ったかこの女!?

 

 

「何故、それを知っている!?

お前は何者だ?天龍の手の者か!?」

 

「ふふふ。さて、どうでしょうかね」

 

 

竜子はスクッと立ち上がったかと思うと、出口の方へスタスタと歩いて行ってしまった。

 

 

「まっ、待て京極竜子!!」

 

「出直しますわ。いずれ、月の綺麗な晩に」

 

 

そのまま部屋を後にする。良晴が慌てて追いかけようとしたが、部屋を出た時には、既に彼女の姿はなかった。

 

 

「あの女は.....一体」

 

 

疑問だけが不気味に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後、大坂城。

 

 

「ふふ〜ん♪ふ〜ん♪」

 

 

黒田官兵衛が自室の化粧台にて身を整えていた。

 

 

「よし、バッチリだね」

 

 

普段の彼女は女らしく化粧をする事なんて、まずない。だが今日は"あの日"なのだ。

 

 

「さ〜て!官兵衛ちゃんが行っきますよ〜♪」

 

 

超上機嫌だった。

官兵衛が向かった先は良晴の部屋。

 

 

「ふふふ」

 

 

前に記述した通り、良晴は魔力補給の方法として、食人よりも性行為を頻繁に行っている。人狼となった彼が唯一残している優しさもそこに該当するだろう。

その性行為であるが、一般人と行為に及ぶ際、体内の気力の大半を良晴に吸収されてしまう為、対象となる女性は例え体力のある姫武将だろうとも、たった1回でバテてしまうのだ。しかし、人狼化は大量に魔力を消費する為、それだけ性行為の回数も必要になる。それ故に良晴は多くの女性と関係を結ぶ破目になった。ちなみに、相手が男性でも問題はないのだが、良晴はあえてそれを避けている。

 

だが例外は存在する。それは対象の女性が術師の場合、妖怪の場合だ。これらは元から体内の魔力が多く、性行為で魔力を吸われても、大きな問題にはならないからだ。

その為、半兵衛や官兵衛は良晴の相手になる回数が多い。官兵衛は最近になって陰陽術の修行を再開した半人前ではあるが、『術式回廊』はきちんと存在するので問題はない。半兵衛とは、魔力補給とは別に、房中術によって真逆に魔力を送ったりもしており、魔力循環を行う仲だ。

実は妖怪である後鬼とも関係を持っているのだが、この場ではあえて伏せておこう。

 

話は戻る。

 

 

「ふふふ〜ん♪」

 

「ご機嫌ですね。何か良い事でも?」

 

「へへへ。今日は久々に良晴が相手を..........へ?」

 

「くふふ」

 

 

官兵衛が振り返り見たものは、光る紅い瞳。

 

 

『帰って眠りなさい。今日は貴方の番でなくてよ?』

 

「.....シム。帰って、寝る。今日はシメオンの番にあらず」

 

 

催眠術によって、虚ろな目の官兵衛は来た道をスタスタと引き返してしまった。

 

 

「さてさて、夜這い夜這い♡」

 

 

 

 

 

 

その女が良晴の部屋に入室する。

良晴は布団に入りながら、呑気に漫画を読んでいた。

 

 

「来たか官兵衛。お前と協力して修得した召喚術だけど、わりと順調だぜ?とりあえず、『ドラグナーボール』を召喚して読んでるんだけど、一度読んだ事ある漫画しか召喚できないんだよねぁ。こんな事なら、餓鬼の頃にもっと読んどきゃよかったぜ」

 

「今だって餓鬼なくせに」

 

 

その女性は"官兵衛の声で"言う。そして良晴の布団に潜り込んでいく。

 

 

「おいおい。今日はやけに積極的だな」

 

「くふふふ」

 

 

女は良晴の下半身を弄びだす。

 

 

「うっ、ちょっ.....官兵衛!お前急に上手くなったな」

 

「それはどうも」

 

「えっ?」

 

 

聞こえたのは官兵衛の声ではなかった。慌てて掛布団をひっぺ返す。そこにいた女は、京極竜子だった。

 

 

「へ?...........へ!?」

 

「ひょんあんふぁ」

 

 

モノを咥えながら挨拶。

 

 

「うわぁぁぁっ!!!?」

 

 

慌てて竜子を引き離した。

 

 

「あら、乱暴な方」

 

「ふぅ.....ふぅ.....ふぅ.....」

 

 

良晴は恐怖した。人狼であるはずの彼がだ。京極竜子からは何か邪悪な気配を感じていた。少しでも油断すれば喰われてしまいそうに。そんな女がだ、文字通り己の急所を握っている。そんな状況で恐怖するなという方が無理だ。

 

 

「なっ、ななな!!何であんたが!!?」

 

「申したでしょう?月の綺麗な晩に会おうと」

 

「まだ3日しか経ってねぇし!それにまだ三日月だ!」

 

「あら、三日月でも月は綺麗ですわよ?」

 

「ふぐぐぐ.....」

 

「んじゃ、頂きますねぇ」

 

 

再び下半身に手を伸ばしてくる。

 

 

「だからやめろって!あんた怖い!!」

 

 

このままだと女性不信になる!

 

 

「あんたは何なんだ!何が目的なんだ!?」

 

「勿論、殿下の肉便器になろうと.....」

 

「嘘つけ!!そんな態度微塵もねぇだろ!!」

 

「あら、バレました?」

 

 

隠す様子もない。

 

 

「でも、男と女が裸で床にいるのです。やらないというわけにはいかないでしょう?」

 

「うえっ!?」

 

 

いつの間にか服をぬがされていて、竜子も裸だ。

 

 

「さぁ〜、夜はまだ長いですわよ♡」

 

「らめえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アアアアアァァァァーーーーー!!!!」

 

逆レイプされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐすっ、ぐすっ、酷いよぉ.....」

 

「女々しいわね。それでも人狼なのかしら?」

 

「だってぇ...........ん?」

 

「あ.....」

 

「今あんた何つった!?」

 

「あちゃー」

 

「何でお前が俺の正体を知っている!?」

 

 

それだけではない。良晴はいつも以上にリフレッシュしていた。それだけ多量の魔力を吸収したのだ。にもかかわらず、竜子は全く衰えている様子が見受けられない。

 

 

「あぁ、私はなんて慢心家なのだろうか。いつもこの油断が、己も周囲も巻き込む。さしずめ、私は魔性の魔女ね」

 

「誤魔化すな!」

 

「え〜!言いたくないです〜!」

 

「ふざけんなよ!このままじゃ犯され損だ!」

 

「いいじゃない。時代はFreeSEX。いつまでも古く考えずに、どんどんやりまくるべきなのよ!レイプだって、相手が感じれば合法よ!」

 

「話をすげ替えんなっ..........ん?」

 

「.....またやっちゃった」

 

 

なんか竜子の台詞がこの時代の人間にマッチしていない。まさかこいつ.....

 

 

「あんた......未来人か?」

 

「ミライ?それはどこの国ですの?それとも料理?私は今、沢山戴いてお腹いっぱいです」

 

「今更そんなボケいいから!!」

 

 

絶対にこいつ未来人だ!

 

 

「あぁ!私はなんて愚かなのか!SEXの余韻で判断力がシッチャカメッチャカに!こんな私の愚行に幾万もの人物に迷惑を被ったか!私はさしずめ、迷惑な世界のノイズ!」

 

「さっきから何だ!!それ、知ってる気に食わない奴思い出すからやめろ!」

 

「それって太閤殿下?」

 

「よく分かったな.....あいつだっていつもそうだ。やってる時は自信満々に下劣な行為を繰り返し、終わって被害が大きくなってから、

やれ『俺はなんて酷い行為をしてしまったんだ』とか!

やれ『さしずめ、俺は邪悪な魔王か』だとか!

ウザいだけなんだよ!きっと読者も同意見さ!」

 

「自身の罪を反省できるなんて、立派じゃないですか」

 

「違う!ただただ自分を憐れむだけで反省なんかしてないんだ!だから同じ事を何度も繰り返す!!あんなのはただのアピールさ!

『俺は大変な事をしてしまった。これは俺も望んでいなかったんだ。やらないといけない事なんだ。俺もまた被害者なんだ。こんな俺って、可哀想でしょ?』

ってな!虫が良過ぎんだよ糞が!!」

 

「ちっ!」

 

 

竜子は舌打ちの後、良晴の顔面を殴った。

 

 

「痛ったぁ...........なっ、何すんだよ!!」

 

「いや、なんかムカついたから」

 

「はぁ!?」

 

「私から言わせれば貴方もウザいわ。

『天龍を倒す事は自分の指名。これは正義の行い。天龍を殺す悪い事だけれど、自分は正義だからやってもいい』

そんなのただのアカ派の主張じゃない。

アカ派って知ってる?日本赤軍とか連合赤軍とか、自分を特別な存在と思い込んで、平気でテロリズムを起こし、多くの民間人を殺し、ただただ馬鹿みたく暴れる異常者集団。貴方はそれと同類。

今度の戦争なんてまさにそう。色々な屁理屈こねてるけど、結局はただの私情じゃない。せっかく平和になった世を何でまた戦乱に戻したの?

まぁ、太閤殿下が気に食わなかったのはまだ分かるわ。でもそれならば、何で彼と直接対決しなかったの?何で戦争なんて、無駄に被害が広がる方法を取ったの?」

 

「それは.....」

 

「答えは一つ。勝つ自信がなかったから。だから協力という名目で他人を巻き込み、安心感を得た。平和を崩した罪も、大勢で協調した事により軽くした。口八丁で皆を誤魔化し、騙して、自分のエゴに、修羅道に無理矢理引き込んだ。とんだ大悪党よ。そういう貴方に対してうってつけの言葉があるわ」

 

「なっ.....なんだよ?」

 

「『魔王』」

 

「っ.....!?」

 

「貴方は立派な魔王。豊臣秀長に継いでいて、愚かで、醜く、下劣で、極悪な.....皆の嫌われ者。第六天魔王」

 

「.....うるさい」

 

「んん?」

 

「五月蠅い五月蠅い五月蠅い!!!

五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅いぃぃぃ!!!」

 

「あらあら、魔王の称号は偉大すぎたかしら。今の貴方は魔王にすら成り切れない、ただのちゃちな小悪魔。虎の威をかる狐ならぬ、サタンの威をかる淫猥なインプ」

 

「手前ぇ!!!!」

 

 

良晴が右腕だけを人狼化させ、竜子の細い首を掴む。

 

 

「だからこそです」

 

「!?」

 

「.....完全には"こちら側"ではないからこそ、貴方はまだ戻れる。魔王と蔑まれる地獄の道ではなく、元の人間としての道へと軌道修正ができる。.....貴方はまだ選択の余地があるの!私と違ってね。

だからよく考え直して。貴方に相応しい生き方はきっとあるはず。

魔王としての生き方は辛い上に虚しい。.....結末はいつだってBADENDなのだから」

 

「あんたは.....」

 

 

その時だ。

 

 

「 此の竹葉の青むが如、此の竹葉の萎むが如、青み萎め!またこの塩の盈ち乾るが如、盈ち乾よ!また此の石の沈むが如、沈み臥せ!」

 

 

呪文の詠唱と共に、部屋の外から熱風が吹き荒れ、京極竜子のみを吹き飛ばした。

 

 

「ちっ!」

 

「大丈夫ですか良晴さん!」

 

「半兵衛!?」

 

「官兵衛さんが何故か催眠術に掛かっていたのでまさかと思い、式神を飛ばして確認しました。予想は当たりました!」

 

「式神!?」

 

 

半兵衛は懐から用紙を取り出し、良晴に渡す。

 

 

「これは?」

 

「京極家にて調べました。それが本物の彼女です」

 

 

そこに描かれていたのは京極竜子の人相書。しかし、それには目の前にいる月下美人ではなく、おかめのようなガマガエルのような、小太りの女性の絵が描かれていたのだ。

 

 

「これが本物の京極竜子って事は.....こいつは?」

 

「偽者です。素性を偽って、殿に何をする気だったのですか!?」

 

「あちゃちゃのちゃ。せっかく領地を大坂から遠ざけたのに、軍師として単身で大坂に来てるんじゃ意味なかったなぁ。官兵衛ちゃんは出し抜けても、君は流石に無理か」

 

「貴方はまさか.....」

 

「とりあえずは退散するわ。良晴君に魔力あげすぎて私でも一応疲れているの。ここで貴方と術比べする余裕もないわ」

 

 

すると竜子の足元が霧のように崩れ、段々と消えていく。

 

 

「まっ、待ってくれ!あんたは一体!?」

 

「いずれ分かる日が来るわ。その時まで御機嫌よう」

 

 

竜子は霧となって消えてしまった。

 

 

「半兵衛、あいつが誰か分かったか?」

 

「えぇ、まぁ」

 

「マジか!?教えてくれ!!」

 

「いえ、自分で気づいた方がいいと思います。多分彼女は.....あの方はきっと、良晴さんの最大の目標となる方でしょうから」

 

「???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大坂城二の丸の屋根の上。二つの影あり。

 

 

「終わったの?」

 

 

天龍軍外交官、蒲生氏郷が言う。

 

 

「えぇ」

 

 

京極竜子の身体が変質し、男性体になる。

 

 

「お疲れ様ウラド」

 

「あぁ」

 

 

京極竜子は天龍になっていた。

 

 

「m(_ _;)m」

 

「どうしたの?」

 

「気づいたら.....良晴とSEXしちまってた」

 

「自覚なかったの!?」

 

「女体化時は女としての意識が確立してるから、男としての意識はふっ飛ばされちまうんだ。だから、本能でオスを求めてしまった.....」

 

「うわぁ.....」

 

「そんな目で見るなレオパルド」

 

「いや、でも!英雄色を好むって言いますし!今の世の中、男色も珍しくないですよ!?キリスト教は同性愛禁止ですけど.....」

 

「下手な敬語がむしろ腹立つ!!」

 

「うぅ.....」

 

「男と睦むのは別にいいんだよ。前から高虎や吽斗とだって関係持ってたしな。勿論、女体化時にな?」

 

「それをさも当たり前のように語られても.....」

 

「問題なのは相手が良晴だからだ!

生徒だし、弟だし、美少年じゃねぇし、猿だし、性格悪いし、言う事聞かないし、可愛くないし、不潔だし、ウザいし、俺の事嫌ってるし、猿だし、キモいし、猿だし、猿だし、猿だし.....」

 

「後半全部悪口ね」

 

「ふむぅ」

 

「そんな嫌いな相手なくせに、今回は何であんな、救済者みたいな役回りをしたのさ?」

 

「俺は嫌われてるけど、俺はあいつの事嫌いじゃないぜ?」

 

「?」

 

「本当は俺を反面教師にしてほしかった。なのに、今のあいつは俺を後を追っちまってる。このままじゃ、あいつもまた滅びの道へ進む。そうなる前に、対処が必要だった」

 

「まるで先生ね」

 

「ふっ、何を今更.....」

 

 

天龍は微笑する。

 

 

「人生を先に生きているから先生なんだ。先に学んでいるんだ。だからこそ、後から生まれる者を導くのは、先に生きる者の義務なんだよ。皆の先生として、父として、母として」

 

「ふふっ、そうね」

 

 

これにて京極竜子事件は終結する。

 

 

 

 

「機会はまだまだある。お前の教育はまだ序章であるぞ生徒の良晴君?」

 

 

 

 




BL気持ち悪い?そんな事はありません。天龍は男性であると同時に女性でもあるので、今回はただの逆レイプ話です。

ちなみに牛娘と虎娘のモデルは、
福島正則はイリスマキナ(笑)
加藤清正はチャイカ(笑)


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第八十七話 信濃戦争

また遅れました。
ちゃんと更新日時を決めないとですね。


信濃にて始まった天下分け目の決戦。天龍軍が放った土砂崩れの罠により良晴軍の中枢は崩された。その佳境に天龍軍11万がなだれ込む。半兵衛の術によって全滅を避けられた良晴は生き残りの兵達を引き連れ、天龍軍にぶつかる。狙うは豊臣天龍が首一つ。奴さえ倒せれば、残りの連中などどうとでもできる自信があった。その良晴の自信が、過信であるかは定かではないが.....

 

 

 

 

こちらは罠を逃れた先遣隊。

 

 

「あぁ!我に七難八苦を与え給え! 」

 

「また言ってるよ。馬鹿の一つ覚えなのよさ」

 

「我に七難八苦を与え給え〜(笑)」

 

「正則殿も清正殿も五月蝿いですぞ!!」

 

 

軍の先頭を馬で駆ける3人。山中鹿之助、福島正則、加藤清正。彼女らこそ良晴軍が先頭隊長。絶望的な状況を切り開く関白軍のエースなのだ。それぞれ身の丈以上の長さの槍を振り回し、天龍軍兵を一網打尽に討ち果たしていく。その時。

 

 

「そこの連中待った!」

 

「「「!?」」」

 

 

そこに立ちはだかった一人の軍服の姫武将。特有の緋色の軍服を着用。六連銭を型どった家紋の、これまた緋色の陣笠を頭に装着する全身赤尽くめの戦士。

その名も真田幸村。信濃の支配者。天龍軍エース。

 

 

「真田幸村か。相手にして不足なし!」

 

「ゆっきーちゃんじゃん。お久!」

 

「お久」

 

 

鹿之助以外は全く緊張感がない。

 

 

「あら、市松っちゃんと虎っち!お久!」

 

 

緊張感がないのは幸村もだった。どうやら3人は友人関係らしい。

 

 

「大変だよのね。互いの主君が喧嘩おっ始めちまったもんで、市松達まで巻き込んでよ〜。戦は嫌いじゃないけどゆっきーとぶつけられるのはマジ勘弁なのよさ〜」

 

「同意。兄者、空気読んでない」

 

「だよね~。正直、こちとら防衛戦と言いつつ、隙あらば侵略も許可されてるわけで.....何人知人を斬ればいいんだか」

 

「あの〜」

 

 

勢い余って置いて行かれる鹿之助。

 

 

「でも殺すけどね!」

 

 

幸村の瞳に殺気が篭った。

 

 

「そうこなくっちゃね」

 

「抹殺を開始」

 

「..........」

 

 

鹿之助には理解し辛かった。彼女達には偽りなき友情が存在する。しかし、この戦場においては別だ。戦場で敵として向かい合った以上、その相手は敵。殺すべき相手。槍で刀でその身体を貫き、斬り裂き、その首を斬り落とす獲物となるのだ。彼女達はそれを理解している。だが、悲しんだり憎み合ったりはしない。互いにただ楽しむ。戦場の、殺し合いの雰囲気を楽しむ。ただそれだけなのだ。

ただ、仕える主人が違っただけなのに。

楽しむ為に、主人の為に、手柄の為に、殺されない為に、殺す為に殺す。殺したいから殺す。殺すという行為そのものが快楽。使命にして目標なのだ。

 

 

「待った。ここは某にやらせて頂きたい」

 

「えっ?最近全く活躍所がなくて、九州でも鬼女にぶっ飛ばされ、役柄がただのマゾの雌豚に成り下がったあの鹿之助先輩が!?」

 

「どこで覚えたのかそんな言葉!!」

 

「お兄ちゃん」

 

「殿ぉ.....」

 

「先輩、ドンマイ(笑)」

 

「〜!!!」

 

「そっちも大変そうですね。山中鹿之助さんでしたっけ?尼子家の猛将さん」

 

「その通り!念願であった尼子家の再興は最早叶わない願い。ですが、今の主君は豊臣良晴秀吉。今こそは彼の天下取り手伝いできる事こそが今の私の使命!」

 

「んー、その関白さんの敵が主君である私としては複雑な気持ちですけど」

 

「とりあえず先輩に殺されとけなのよさ」

 

「これは決闘ではなく誅罰」

 

「ありゃりゃ〜、本当に戦では敵扱いですね、これ」

 

 

その時、2人組の騎馬武者がその場に合流する。

 

 

「呼びましたか?」

 

 

騎馬武者の1人が問う。

 

 

「呼んでないですけど?」

 

 

幸村が答える。

 

 

「あら、そう。でも争いの火種を感じ取って来た甲斐はあったようですね。私も混ぜさせてもらいませんか?」

 

「えぇ〜!全部私の獲物ですよぉ!?」

 

「先輩の頼みは聞くものですよ?」

 

「ブー!」

 

 

その騎馬武者は首に数珠を掛け、幸村と同じく十文字槍を所持している。

 

 

「宝蔵院流..........まさか筒井順慶殿!?」

 

 

鹿之助が言う。

 

 

「あら、合戦にはあまり出向かないこの私ですが、この戦装束だけで分かる方がおられるとは」

 

「いや、小田原攻めの仏鬼伝説は有名なので.....」

 

 

小田原攻めにおいて、今まで溜めるに溜めたストレスを一気に爆散させ、北条兵を文字通り鬼のように斬り殺した事件があった。

 

 

「では私はそこの牛っ子を相手にしようかしら?」

 

「市松を?」

 

「じゃあ虎子の方はこの子にお願いしようかしら」

 

「むむっ?」

 

 

もう1人の騎馬武者。その者は見るからに異質であった。何しろ背中に、身の丈サイズの大太刀を2本も背負っているのだから。一本は長さ五尺三寸、約175cmの太刀。兼ねてより彼女が愛用していた太刀だ。もう一本は同じく五尺三寸の大太刀、『真・備前長船長光』。本来の持ち主であった佐々木小次郎の死後、彼女の師である天竜より引き継がれたこの太刀。本来は三尺、1mあまりであったのだが、彼女用に鍛え直されたのだ。

そう、人造人間・真柄直竜の為に。

 

 

「ばぶ〜」

 

「「「..........」」」

 

「まだ赤ちゃんなんですか順慶殿?」

 

 

3年前に松永久秀によって、姉川の戦いにて戦死した真柄直隆と真柄直澄の亡骸を繋ぎ合わせて造られた人造人間。それが真柄直竜。しかし、ご主人様になった天竜になかなか懐かない上に、命令違反を繰り返した為に、天竜もぞんざいに扱ってきたが、次第に、その思考が幼体化。幼児退行していったのだ。そして現在に至っては完全に赤ちゃん思考にまで戻ってしまった。

 

 

「天龍様いわく、一度赤子まで後退したのだから、心はこれから成長するみたいですね。一応身体だけは大人なので、ちゃんと天龍様の夜の御相手もされてるようですね。思考が赤子の娘まで相手にするなんて、あの御方の性癖は底がしれませんがね」

 

「身体だけはどんどん成長してくくせにですね!何ですかこの胸!!赤子には蛇足です!」

 

「ばぶぅ!?」

 

 

幸村が直竜の胸を強引に揉む。

 

 

「天龍様が貧乳好きでなければ、切り取って自分の胸にくっつけたいですよ全く!」

 

 

幸村は身長のわりに貧乳だ。スレンダーと言うべきか。

 

 

「はーい!ちゃーん!」

 

「しかも、はーい、ちゃーん、ばぶしか話せないし.....」

 

「あぶぶぶぶぶぶぶ.....」

 

「あっ、新しい言葉」

 

 

その次の瞬間だ、清正が槍を持って馬で突っ込んでくる。そして、瞬きもする間もなく槍の切先を直竜の胸に刺した。

 

 

「お前、隙ありすぎ」

 

「あぶぅ?」

 

「!?」

 

 

確かに心臓を突き刺した。にも関わらず、その赤ん坊少女はニヤリと微笑した。そして。

 

 

「ちゃーん!」

 

 

ヌルリと背中の大太刀を両刀抜き、二刀流にて上段より構える。

 

 

「ちゃんと忠告したではありませんか」

 

 

隣りで順慶が言う。

 

 

「彼女は"人造人間"であると」

 

「HAAAAAIIII!!!!」

 

「くっ!?」

 

 

清正は緊急回避で馬からわざと落馬した。残された馬は直竜の大太刀によって、頭から真っ二つに両断されてしまう。

 

 

「この子はかの医療の奇術師、"曲名瀬玄朔"の最高傑作。人造人間。天龍様のお言葉を借りるのなら『さいぼおぐ』なるもの、鋼の装甲で固めた心臓は槍でも鉄砲でも貫けません!」

 

「ばぶ!」

 

 

すると、直竜の背中の肉繊維が変質を開始し、中からアサルトライフルが2丁出現する。

 

 

「吸血鬼の肉体!?」

 

「流石は山中鹿之助。ただの痛がり屋ではないようですね。その通り、この子の肉体改造において、吸血鬼の.....それもドラキュラたる天龍様の血肉を使いました。それによって、この時代の技術医術では不可能な改造が容易に成せたようですの。今、この子の体内には"48"の特殊兵装が埋め込まれてましてよ」

 

「うっへ〜!本物の化物とはああゆうのをいうのよさ」

 

「いえ、本当の化物は彼女を改造したという曲名瀬玄朔の方です!.....一体、どのような精神構造をすれば、かような非人道行為が成せるのか!」

 

「どっちも化物!駆除対象!!」

 

 

清正が駆け出す。

 

 

「ばぶ!」

 

 

直竜がアサルトライフルを筋繊維を器用に操り、清正方面に銃口を向け、発泡。アサルトライフル『AK-47』の毎分600発の弾丸が清正を襲う。清正は人間離れした瞬発能力によってそれを全て走って避ける。そして、清正は直竜を槍の間合いに追い詰める。

 

 

「じ、えんど!」

 

「ちゃーん!」

 

「うっ!?」

 

 

直竜が槍並みに長い大太刀を振りかざす。一太刀を避けられても、もう一太刀ばかりは避けられそうにない。清正は止むを得ず、後退する。

 

 

「HAAAAAAAIIIII!!!!」

 

 

直竜が左腕から火炎放射器を出現させ、清正に発射する。

 

 

「くっ!!.....こいつ、隙無し!!」

 

「虎っち!!」

 

「私を忘れてもらっては困りますよぅ!!」

 

「うっ!?」

 

 

正則を順慶が襲う。槍による鍔迫り合いが始まる。

 

 

「邪魔だのよ糞尼!!市松はこれから虎っちの救援に向かうのよ!黙って道開けろブスッ!!」

 

「口の悪い小娘だこと!!」

 

 

順慶の瞳が紅に染まる。

 

 

「ふえっ!?」

 

「驚きました?私も遂に眷属に成れましたの!まぁ、あの御方の愛人としての役目もありましたし、あの御方自身にはずっと反対されていたのですが、遂に!遂にやっと成れたのです!」

 

「便廃亜(ベンパイア)!」

 

「ヴァンパイアじゃボケェ!!」

 

 

順慶が正則を槍で押し出し、ふっ飛ばした。

 

 

「のわぁぁぁっ!!?」

 

「もう頭きた!!この小娘は殺す。何が何でも、是が非でも抹殺する!覚悟しろチビ餓鬼!」

 

「うぅ.....ま●こに槍突っ込んで奥歯ガタガタ鳴らすぞブスッ!」

 

 

不利な状況でも威勢だけは人一倍ある。

 

 

 

 

 

 

「なんか私達だけ遅れとっちゃいましたね」

 

「むむっ.....」

 

「じゃあ、ボチボチ始めましょうか」

 

「くっ.....!」

 

「ご安心を。私は彼女達のように肉体改造を受けたり、人外に転生なんて事はしておりません。只の人間ですよ?」

 

「むぅ......」

 

「.....でも」

 

 

気づいた時には遅い。幸村は既に目前にまで高速移動していた。

 

 

「誰よりも強いですよ?」

 

「うくっ!?」

 

 

清正同様に落馬して避ける鹿之助。案の定、鹿之助の馬は幸村の十文字槍によって首をかっさられた。

 

 

「ごめんなさいお馬さん。後で念仏を唱えてあげる」

 

「くっ.....!?」

 

「じゃあ、早急に終わらせますか。油断無く、躊躇い無く、殺される前に殺してあげますよ」

 

「このっ!」

 

「ふふっ」

 

 

鹿之助の槍による全力の突き。しかし、幸村はいとも簡単に弾いてしまった。

 

 

「何っ!?」

 

「これはどうです?」

 

 

すると幸村は、十文字槍をまるで棒切れでも持つように軽々と振り回し、鹿之助に驚異的な攻撃を浴びせ続ける。

 

 

「うぐっ!!」

 

「足元がお留守ですよ七難八苦!!」

 

 

槍の柄を掛けられ、鹿之助は尻餅をつく。

 

 

「おのれっ!!」

 

「あっははははははははははは!!!」

 

 

同じ十文字槍でも筒井順慶のものとは明らかに違う。宝蔵院流を主体とする彼女の槍術とは明らかに。この真田幸村の槍術に型はない。何の流派もない。全て我流。

故に読めない。

殺し合ってみてればよく分かる。読み合いにおいては、型に嵌っているからこそ繰り出せる強さも存在するが、型に嵌っているからこそ読み易いというものもある。処が奴は我流。変幻自在。己の気分でコロコロと戦い方を変える。

そうか。この真田幸村という姫武将は、何処かの道場に通っただとか、師匠に教わったとかで強くなったわけではないのだ。あくまで実戦。足軽から始め、コツコツと戦場で己の技量を高めたのだ。それが、天竜という悪魔と出会って自分に合った確たる戦い方を見つけ、ここまで強くなったのだ。

 

だがそれは、凄い話でもない。極々普通の事なのだ。今時なら誰でもやってる。特に下級武士なら皆だ。だが、それでも。この真田幸村という姫武将が大名として、一軍の将としてまでその技量を高める事が出来たのは、言う間でもなく、彼女の才能による所が大きいのであろう。戦う為に生まれてきた存在。神童。あの魔王天龍と同じ天才。

 

 

「羨ましくも思うぞ真田幸村。この山中鹿之助とて己の半生を戦に投じてきた。だが、それは一筋の才能には遠く及ばない。私の幾千万もの努力とて、天才である其方から比べれば、露ほどものであるのなだな。お前も太閤も、真の天才だ」

 

 

鹿之助は幸村を褒めた。あくまで心に思っている事を率直に述べ立てた。しかし、幸村は.....

 

 

「..........何ですかそれは?侮辱のつもりですか?」

 

「何っ?」

 

 

幸村は憤怒の表情を浮かべている。

 

 

「自分には才能が無い?お前は天才だぁ?巫山戯んなって話ですよ!!」

 

「えっ!?」

 

「私が努力をしてこなかったとでも?そんなわけあるはずが無い!私はここまでに至るまで、ありとあらゆる努力をしてきた!土を、泥を啜ってでも這い上がってきた。それを『天才』などという安直な言葉で綴られるなど、甚だ腹立たしい!かような言葉で簡単に見切りを付けられるなど、只々憎らしい!

これは天龍様も言っておられた!」

 

 

 

『天才という言葉は"天から与えられた才"と書く。つまりそれは、それまでの努力が全て無きものとされるものなのだ。それは最早、差別に等しい。更にだ。天才という言葉を使う事で努力を怠った者が諦める際にも使われる。才能なんてものは誰にだってあるものだ。だが、それを見つける事が最も難しい。せっかくの才能も使えなければ、見つける事ができなければ、それは無いに等しい。凡人と呼ばれる者だって努力はしていよう。だが、努力の方向を間違えている。才能を活かせる努力が出来ずにいる。しかし、これには"運"も関わってくるから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

それでもだ。努力した者こそが才能を得られる事には違いない。かくゆう俺も、努力によって這い上がってきた人間だ。だからこそ俺は、何も知らぬ他人に天才などと呼ばれる事を、著しく嫌う』

 

 

 

「それを聞いてこの幸村、心を入れ替えました!私もまた天才と呼ばれる事を嫌おう!だからこそ、先程の発言を撤回して頂きたい!!」

 

「...........すまなかった。何も知らずに、過ぎた言葉を申したよ。謝ろう」

 

「ふ〜ん..........あっ、でもこんな事も言ってましたよ?」

 

「?」

 

 

 

『でも.....それでもいるんだよ。文字通り、神により才能を与えられ、その才能を使い熟す、努力だけではどうやっても超えられない、本当の天才って奴がな』

 

 

 

「その人物は鹿之助さんもよくご存知の御方ですよ」

 

「.....まさか!」

 

 

それこそ、天龍が唯一無二の宿敵とする人物。

 

 

「さぁ、無駄話はここまでです!お互いの軍も佳境に入っています。ここでさっさと決着を付けましょう。さっさと殺し合いましょうよ!」

 

「.....うむ。私も全力で向かわせてもらう。これが私、山中鹿之助の乾坤一擲の行末とならん事を!我に七難八苦を与え給え!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅れて現れるのが主人公。英雄というものだろうか。だとすれば、俺はその役割を心から降りたいと思う。そして、ただの一般人としてでいいからやり直したい。そう思う。

 

 

「しっ..........鹿之助」

 

 

良晴は遅れた。遅すぎた。天龍の土砂崩れを利用した罠をなんとか潜り抜けてきた良晴の目に入ったものは.....

 

 

 

幸村に討たれた直後の山中鹿之助の姿だった。

 

 

 

「鹿之助ぇぇぇ!!!」

 

 

良晴が慌てて彼女に駆け寄る。それに乗じて幸村が下がった。

 

 

「鹿之助!しっかりしろよ鹿之助!」

 

「うぐっ...........殿.....ぉ」

 

「鹿之助ぇ!!」

 

「殿.....戦に勝ったの.....ですか?」

 

「えっ?」

 

 

彼女は十文字槍によって胸を突かれた。それにより、見るからに致命的な量の血液がダラダラと流れ出している。それだけではない。頭部にも大きな切傷がある。そこからは、血液以外に脳と思われるものまで垂れている。ハッキリ言って死ぬ寸前だ。よくこんな状態で戦えたものだ。

 

 

「殿.....が来れた.....という事は.....戦に勝ったのですね?.....太平な日の本が来たのですね」

 

 

脳へのダメージにより、記憶が混乱している。

 

 

「あのな..........鹿之助」

 

「はい.....」

 

 

真実を伝えなければならない。しかし、希望に満ちた眼差しの鹿之助を裏切る事となる。散々苦悩した挙句、俺はなんとか口を開いた。

 

 

「戦は.....」

 

「はい.....」

 

 

 

すまない鹿之助。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大勝さ!俺が率いる関白軍がドアーッと関東まで流れ込んでよう!天龍軍の奴らを追い詰めたんだ!天龍の奴も暴れたんだけど、俺が直々にぶちのめしてやったんだぜ?見せたかったなぁ!

お陰様で、俺の天下取りは大成功さ!

皆が.....皆が待ちに望んでいた平和が来たんだ!」

 

 

 

 

 

「それは.....おめでとう.....ございます」

 

「鹿之助!お前のお陰だぞ?お前がいなかったらこの勝利は掴めなかったんだ!お前の.....お前が俺の役に立てたんだ!」

 

「.....殿」

 

「だから!............これからも.....俺の側にいてくれよ.....」

 

「殿.....泣いておられるの.....ですか?」

 

「えっ?」

 

「駄目ですよ............これからは皆が笑って暮らせる世を作るのでしょう?.....その殿が............泣いていては.....示しがつかぬ.....ではありませんか」

 

 

弱々しい手付きで涙を拭ってくれる。

 

 

「そっ、そう.....だな!...........こうか?」

 

 

無理に笑顔を作ってみせる。

 

 

「やっと.....笑ってくれた。.....殿は笑っているお顔が一番魅力的なんですから、いつも.....いつも笑っていて下され.....」

 

「あぁ!」

 

 

彼女の手を握り締め、力強く頷く。

 

 

「尼子家再興のは叶いませんでしたが.....これでも...........いいですよね....."殿"」

 

 

これは恐らく、既に亡き尼子の殿を言っているのだろう。

 

 

「七難八苦...........承りました.....」

 

 

そう言い終わり、彼女はだらりと垂れてしまった。

 

 

「.....鹿之助?」

 

「...........」

 

「冗談やめろよな.....何でお前が.....」

 

 

勝家に続き、鹿之助までも.....

 

 

 

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

泣いた。泣きじゃくった。戦地のど真ん中にもかかわらず、良晴は号泣する。戦闘を行っていた正則達も両軍の兵達まで、動きを止める。そして.....

 

 

「そうさ...........勝たなきゃ」

 

 

突然泣き止んだかと思うと、ボソリとつぶやき、幸村に視線を向ける。

 

 

「かっ、仇討ちでもするつもりですか?いいでしょう!相手にとって不足はありません。いざ!」

 

「真田...........幸村」

 

 

良晴は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の側につかないか?」

 

 

 

 




鹿之助死亡会でした。
姫武将の死亡インフレが止まりません!
自重せねば。
そして何故か幸村を勧誘する良晴。
次回予告
姫武将の叫び
〜戦わなければ得られないものもある〜


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第八十八話 姫武将の叫び

ここん所の忙しいのが済んで春休みに入ったので、更新を再開します。変に見栄を張らずに不定期更新という事にしますね。




「俺の側につかないか?」

 

 

家臣山中鹿之助を失った直後、良晴が鹿之助の仇でもある真田幸村に向けて発した言葉だった。

 

 

「.....は?.....もう一度仰ってもらえませぬか?」

 

「俺の側に付け。天龍を裏切って、俺の家臣にならないかと言っているんだ」

 

「なっ...........何を!?」

 

 

たった今、大事な家臣を失って号泣していた男の言葉とはとても思えない。

 

 

「たった今、俺は兵を1人失ってしまった。それも将棋の駒で言うなら飛車クラスの強駒がな。つまりは人員不足なのだ。早急に穴を埋めなくてはならない。それもまた飛車クラスの猛将を。そこに来てお前だ、真田幸村よ。お前は我が軍の山中鹿之助を討ち破る程の猛将。紛れも無い強駒だ。是が非でも我が軍に加えたい」

 

「............」

 

 

幸村は言葉が出なかった。こいつは何を言っている?この関白豊臣良晴秀吉という人間は、この私を、山中鹿之助を、彼の家臣全員を、将棋の駒として扱っているというのか?

 

 

「悪くない相談だと思うぞ?」

 

「ふっ、巫山戯るな!!何が将棋の駒だ!

確かに私はこの手で山中鹿之助を討った!

しかしそれは余りにも非情ではないか!?

我々だって生きているんだ!

そんな我々を駒扱いするなんて!」

 

「戦争で何人も人間を殺し、それを嬉々として楽しんでいるような奴に、人権を求められるとはな。愉快な話だ。そうは思わねぇか?」

 

「なっ!?」

 

「殺しを楽しんでしまった時点でそいつはもう人間じゃない。ただの化物、害虫さ。そんな物に人権など必要あるか?」

 

「もっ、物.....」

 

「だから俺が有効活用してやると言ってんだ。山中鹿之助の代用の駒として、お前を使ってやると言ってるんだ」

 

「ふぐぐっ!!」

 

 

幸村が憤怒の表情で十文字槍を構える。

 

 

「貴様をあの御方の義弟とは思わん!貴様は天龍様なんかよりもずっとずっと外道だ!貴様なんかがこの国を治めた所で、平和な世など実現できるはずがない!この悪のケダモノめ!」

 

「何を言う。貴様の主君だって言ってるじゃないか」

 

「何だとっ?」

 

「勝てば官軍、負ければ賊軍。勝った方が正義。負けた方が悪。勝てばいいのさ、勝てば。この台詞って、十兵衛ちゃんも使ってたっけ?」

 

「ほざけぇぇぇぇぇ!!」

 

 

幸村が十文字槍を振り、良晴の即答部を刺す。

 

 

「天龍様は疎か、姐様まで貶す愚者は死ね!」

 

「死ねねぇんだよ」

 

「!!?」

 

「これくらいじゃ俺は死ねねぇんだよ」

 

 

側頭部を確実に突き刺し、鹿之助同様に脳が垂れているにもかかわらず、良晴に致命的な一撃を与えられたとは到底思えなかった。吸血鬼や人狼にとって脳髄は一臓器と同等に過ぎず、弱点足りえない。全身が考える筋肉のような連中には、その攻撃は無意味なのだ。

 

 

「お仕置きが必要だな」

 

「っ.....!?」

 

 

良晴が突き刺さった槍を片手で外す。幸村はそれを慌てて引き抜こうとする。しかし、強靭な筋力にて刃を握られ、槍を引き戻す事が出来なくなっている。

 

 

「くっ!!.....離せ化物!我が十文字に触れるな!」

 

「ほう」

 

 

良晴はそのまま十文字槍の刃を握り潰す。ずっと引き抜こうしていた幸村は反動で後ろに引かれ、その場で尻餅をつく。

 

 

「きゃふっ.....!?」

 

「きゃふっだって!可愛いねぇ〜。

どうしたよ真田幸村。ちったぁ"頑張れ"よ」

 

「ふぐぐ.....おのれ!...........そんなに楽しいか!」

 

「何がだ?」

 

「貴様の家臣、山中鹿之助を討った私を弄ぶ事がそんなに楽しいか!!」

 

「.....何か勘違いしているな」

 

「何っ!?」

 

 

彼は微笑する。先程までとは大違いの雰囲気。

 

 

「ずっと言っているだろう?俺は勧誘しているのさ。鹿之助が死んで空いた穴をお前を入れる事によって埋める必要がある。単なる駒の補充さ。にもかかわらずお前が頑なに拒んでいるのだろう?」

 

「先程から駒、駒と耳障りだな貴様!!

私は人間だ!仕える主人は己で決める!」

 

「痩せ我慢か。滑稽だな」

 

「ぐぐぐぅ.....!!!」

 

 

顔を真っ赤にして憤怒する幸村。ここまで侮辱されたのも初めてなのだろう。

 

 

「お兄ちゃん言い過ぎなのよ!確かにゆっきーはアレだけど、そこまで言うのは酷なのよさ!...........それに、それじゃあ市松達だって駒って事に.....」

 

「市松に同意。兄者、暴言撤回、要求!」

 

 

それを見ていた正則清正両名も、たまらず幸村擁護に回る。しかし。

 

 

「駒を駒といって何が悪い?」

 

「「!!?」」

 

 

そう吐き捨てた。

 

 

「やはり貴様は間違っている!貴様が存在するだけで世が乱れてしまうだろう。だからこそ!ここで討つ!」

 

 

幸村は破損した十文字槍を捨て、腰から刀を抜く。『無銘正宗』。天龍より与えられた至高の品だ。日本刀の中でも高度の斬れ味を誇る名刀。無銘なれど、その性能は他の刀と比べ物にならない。

 

 

「滅びよ豊臣秀吉!!」

 

 

ただ向かってくるだけで刀から出づる風圧、剣圧が直に伝わる。一度斬られれば、木綿豆腐のように斬り刻まれてしまうだろう。手持ちの刀でも防ぎきれるか微妙な所。だからこそ良晴は。

 

 

 

 

 

 

「妖力波!!!」

 

 

 

 

 

 

かつて後鬼こと人狼オルトロスが松山主水に対して放った技。自身の持つ魔力や妖力を波動として撃ち出す必殺技。例えるならば破壊光線。全てを焼き尽くす炎の剣。

 

 

「がふっ!!!?」

 

 

波動は広範囲に広がり、主水を一撃で風化させたものと同等とは思えなかった。波動があちこちにまだらに飛び散り、幸村自身に与えたダメージは微量なものだっただろう。にもかかわらず、幸村の身に着ける防具を軽々と削りとるだけの能力はあった。だがそこまで。幸村を気絶させるだけに留まり、あまり高い効果は見受けられなかった。

 

 

「パッと見外傷はなし。脳へのダメージもなさそうだな。真田幸村捕獲完了」

 

「「..........」」

 

 

正則清正は複雑な心境でそれを見ていた。

 

 

「お前らはどうする?真田幸村を連れて行かれないよう、抵抗でもするか?」

 

「遠慮しておきます。私とて吸血鬼ですが、あくまで眷属。天龍様と匹敵すると思われる貴方様の敵になりますまい。それはこの直竜とて同じ事。まだ調整段階である彼女をここで"壊す"わけにはいきますまい」

 

 

順慶が言う。

 

 

「賢明な判断だ」

 

「ですが覚えておいて下さいませ。天龍様はあれで人情にお熱き御方。仲間の仇討ちは全力を以って行う事でしょう。それも幸村殿を捕虜とされたとなれば、血気となった魔獣の軍団が貴方の大坂に攻め込み、町ごと飲み込む事となるでしょう。それでも宜しいのであればどうぞ」

 

「その前に返り討ちにしてやるさ」

 

「ふふっ.....」

 

 

順慶が直竜を連れて撤退する。

 

 

「お兄ちゃん.....」

 

「兄者.....」

 

「どうしたお前ら?.....おっ、正宗は無傷みてぇだな。流石は名刀!」

 

 

気絶した真田幸村を看ている。

 

 

「お兄ちゃんがさっき言ってた、市松達を駒として見てるって本当なの!?」

 

「兄者、外道!」

 

「あのなぁ.....」

 

 

良晴は溜息をついて答える。

 

 

「嘘じゃなきゃ、あんな事言わねぇよ」

 

「「ふぇっ!?」」

 

「"一部の人間"を除いて、人間ってのは感情が高まりまくってる時が一番隙が出て弱くなるんだ。確かに真田幸村は自称するだけあって、人外の化物にも引けを取らない才能を持っていた。戦いのセンスは一流だ。だからこそ挑発した。怒りに任せて猪突猛進に突っ込んで来たところに確実に相手を鎮圧できる技を放ってやったってわけ」

 

「.........................さすがお兄ちゃん!」

 

「さすがお兄様!」

 

「調子いいなお前ら.....」

 

「てっきり騙されちゃったのよさ!」

 

「真顔の、大嘘付ける兄者、素敵!」

 

「へいへい」

 

 

 

 

 

 

まっ、表向きはそういう風にしておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それこそ貴様がついさっき覚悟に決めた決意であろう!ただの本音ではないのか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スピーカーを通したような、大きな音声。良晴軍側からその声は聞こえた。

 

 

「何だアレは!!!?」

 

 

天龍は大型の車両に乗っていた。

大型作業車に高速回転する鉤爪が装備。

鉤爪で砕いたものを噴出する管。これは.....

 

 

「除雪車!?」

 

 

いや違う。北海道とかの大雪注意報等でニュースに出ていたような除雪車とは明らかに違う。全体的に通常より大型の車体であり、鉤爪もより強度であり、"雪や氷なんかよりもずっと硬いものを砕く為"に強靭な刃とモーターが使われている。あれは.....

 

 

「.....除肉.....車」

 

「ひえぇああああぁぁぁ!!!」

 

「助けてくんろ!助けてくんろ!

あああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

「魔王じゃ!魔王に楯突いた罰があたったんじゃ!」

 

 

次々に良晴軍の兵を巻き込み、ロータリーにて粉砕し、その血肉を噴出口から兵達に噴きかける。しかもその徐肉車は1台に留まらずにあちこちで出動し、殺戮行為を行っている。良晴軍は大パニックだ。

 

 

「なんて奴だ.....なんて酷い事を.....」

 

 

ワナワナと震える良晴は右手に力を加える。

 

 

「召喚!!」

 

 

良晴が召喚したものは擲弾銃。通称、グレネードランチャー。タイプは『グレネードランチャーM79』。良晴は擲弾を装填し、有無を言わずに天龍の乗る徐肉車に向けて発砲した。

その名の通り擲弾、つまりは手榴弾等を発射する小型のバズーカのようなもの。発射された擲弾は真っ直ぐ徐肉車に向かっていき、直撃。直後に爆発した。衝撃でエンジンが故障し、ロータリーの駆動が止まる。

 

 

『ありっ?』

 

 

スピーカーで天龍が混乱しているのが分かる。良晴は無言で次段を装填する。中折式の単発銃なのだ。

 

 

『ちょっ!?タンマタンマ!!』

 

 

良晴は無言で発砲する。

 

 

『やばいよやばいよ〜!』

 

 

良晴は無言で(以下略)

 

 

『やっべ!中まで引火し始めた!』

 

 

良晴は無言(以下略)

 

 

『熱っつ!?皮膚が燃える皮膚燃える!!』

 

 

良晴は(以下略)

 

 

『やべーよ。心臓こそ術で守れてるけど、今はもう焦げた皮と骨だけだわ』

 

 

(以下略)

 

 

『ウザいし、もう出るか』

 

 

爆破炎上する徐肉車の中から、動く焼死体が飛び出てくる。外に脱出した途端、焼け焦げた皮膚やら内臓が超速再生し、天龍の姿になる。だが、服までは再生されなかった為、全裸。しかも女性体だった。

 

 

「むっ?」

 

「そういや、俺のこれはまだ見せてなかったな。天竜と朧が融合した事で生まれたのがこの"私"、天龍。肉体のベースは朧だからね。女の子とヤる時以外は女性体なの。体格的には男物の服着るだけで男性体として見せる事ができるのよ」

 

 

会話の途中で天龍の口調が女性のものになる。その最中に愛用の白軍服を召喚し、それを着用する。

 

 

「ふん、俺には知ったこっちゃない」

 

「えっ?」

 

「ん?」

 

「あー、そっか。あの時は化粧してたし分かんないか。」

 

「はぁ!?一体、何言ってんだよ!」

 

「いや、この事は私自身あんまり思い出したくないし、君の尊厳を傷付ける可能性もあるから、内緒にしておくよ」

 

「??」

 

「まぁ、いいさ。とりあえずさっさとやろうぜ。俺らの目的は元々1つだろ?」

 

 

奴の口調がまた男のものになる。

 

 

「あぁそうだな。互いがいくら戦力を増やそうとも、俺かお前が大将をぶっ殺せば、それで戦争は終わる」

 

「どうかな?」

 

「何っ!?」

 

「よちはるうじぃ〜!!」

 

 

蜂須賀小六が来る。

 

 

「どうした小六!?」

 

「四国が.....ちょうしょきゃべがみゅほん!!」

 

「長宗我部...........もっ元親が謀反!?」

 

 

何でだ!?何だって今になって!?戦況は今こそこちらに傾いている。天龍に復讐したいという共通意志によって同盟を組んでいたはずなのに。

 

 

「四国のうち、没収した三国を返却したんだ。そうしたらすぐに寝返ってくれたぜ?」

 

「つっ.....!?」

 

 

しまった!良晴はそう思う。良晴は元親と同盟を組むにあたって、四国の没収された残り三国の返還を彼女に約束していたのだ。しかしそれは、あくまで天龍軍を一掃した後のご褒美のようなもの。確実性はない。

ところが、それを予想してか天龍は先に四国を返還してしまった。天龍から取り返す予定だった四国を天龍本人から還されたのだ。

つまり、元親には天龍と争う理由が消失してしまったのだ。しかし元親は天龍に個人的な恨みを持っていたはず。弟を殺された事だ。天龍こそ弟の仇討ちなんだ!

 

 

「.....................違う!」

 

 

何馬鹿なことを言っているんだ豊臣良晴!

彼女の弟屠ったのは島津家久。天龍はあくまで彼が討たれるキッカケとなった戦争を引き起こしたに関わらず、元親が恨むべき相手は元々は島津家だったはずだ。しかし家久は天龍に討たれた。正確には義妹の秀秋にだが.....そもそもあの子が何故そんな大役を?ともかく、弟の仇討ちは天龍によって果たされたのだ。その後の義久や義弘達に対する嫌がらせだってその一環だろう。その際に天龍は元親と何らかの話し合いをしたのだろう。何を話したかは知らないが、その際にすでに決着を付けたのだろう。

何だよ.....元親は最初からあっち側だったてぇ話じゃないか。そもそも元親は天龍の側室なんだぜ?俺側に付いてた事こそ不思議な話だったんだ。俺だって勢いだけで元親を丸め込んだに過ぎない。今まで妹みたいな存在として扱ってきたからきっと協力してくれると信じて.....でもあいつは迷っててたんだ。だから兵を出すのも渋々だった。ところが今回の四国返還で踏ん切りが付いたんだ。だから天龍を選んだ。天龍こそが己を受け入れてくれる存在であると確信したんだ。

 

 

「ちっ!」

 

 

慌てて電話をかける。敵前でこの行動は異常かもしれないが、緊急事態だ。天龍もまた余裕な表情でニヤニヤとはにかんでいる。

 

 

 

 

「はぁっ!?それはどういう事だ隆景!?」

 

 

四国の対処で小早川隆景に電話をかけた直後だ。

 

 

『言った通りよ。毛利家はこの戦から一切手を引くわ』

 

「馬鹿が!それがどういう状況か分かって言ってんのか!?あとちょっとだ!あとちょっとで天龍を倒せるんだ!そんな所で毛利に抜けられたら戦況が完全にひっくり返っちまう!戦争に負けちまうんだよ!真田軍が動揺してる隙をついて俺達全軍と、前々から話していた東北の伊達とで天龍軍を関東まで一気に追い詰められるんだよ!」

 

『..........』

 

「手前ぇ巫山戯んなよ!!!誰があれだけ多額の援助金を毛利家に支払ったと思ってるんだ!!天龍との関係が切られて困ってる所を俺が拾ってやったんじゃねぇか!それを仇で返すってぇのかよ!!おい聞いてんのか!?この戦争に負けたら手前ぇのせいだぞ!?おい隆景!!返事しやがれよ糞ったれがぁ!!!」

 

 

 

 

ブツッという音と共に、通話が途切れる。

 

 

 

 

「糞ったれ!!」

 

「ノンノン。駄目じゃあないか女の子にそんな暴言吐いちゃあ。電話切られるのだって当たり前当たり前。特に隆景なんてデリケートなんだから、男側が気遣ってやんないとぉ〜。だからモテないんだよ。見た目や中身じゃなくて権力でしか釣れないんだよぉ」

 

「腐れ外道め!お前にだけは言われたくない!!」

 

「ふくくくくくくくく.....」

 

 

とはいえ、毛利の裏切りは仕方無いものがあった。元より毛利家は天龍側の立場であったのだ。しかし近畿を良晴が、四国を長宗我部が、南九州を島津が抑えた事により、毛利包囲網が完成してしまったのだ。頼りの天龍は関東に移動。毛利に逃げ道はなかった。だからこそ良晴側に付いたまで。毛利家はあくまでお家大事の為、あくまで仕方無くであるが.....

だが、今回の長宗我部謀反に基づいてその包囲網が崩れた。毛利家が寝返る好機を与えてしまったのだ。長宗我部、毛利が相次いで天龍に付いた。北九州の大友も加えれば、逆に包囲されてるのは島津の方だ!

 

 

「当然、琉球にも手を回してんだろ?」

 

「あぁ、琉球海軍が東シナ海一体を包囲してる。明海軍もいるだろうから迂闊には動けんだろうな。制海権は我らにある」

 

「そんな..........いや、まだある!俺等にはまだ好機が!」

 

「上杉か?」

 

「なっ!?」

 

「上杉と手を組み、我が軍を関白軍で惹きつけ、上杉や伊達が関東を追い詰め、我らの本拠地を奪う。本当の前衛は上杉の方。いい策略だな。俺だって同じ立場であるならば似た策略を思いついたであろう。だが良案であればある程、読みやすいものはないよ」

 

「なんだとっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上杉軍。

 

 

「何故だ。今関東を守っているのは茶人大名の古田織部のはず。いくら戦力やら屈強な城やらで守ろうとも、優れた指揮官なしに、ここまで強固な守備戦ができるなど.....」

 

「ひっ、姫ぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

前線に出ていた直江兼続が本陣に戻ってくる。

 

 

「どうであった。敵の戦況は?」

 

「そっ、それが!.....関東軍の大将は、古田織部ではありません!」

 

「何っ?では一体誰なのだ?」

 

 

兼続は一度息を整え、発言する。

 

 

 

 

「ほっ、北条..........北条氏康です!」

 

 

 

 

「...........何だと!?」

 

 

一瞬思考が遅れる。一番想像していなかった人物が出てきたからだ。

 

 

「奴は3年前の小田原征伐にて記憶を失い、以降は再建された小田原城にてずっと引き篭もっていたはずだ!そんな奴がどうして今になって!?」

 

「分かりませぬ。ですが、北条氏康の報せはずっとあの豊臣秀長から発せられていたもの。そもそも、記憶を喪失していたという事実そのものが偽りだったのでは!?」

 

「まっ、また奴か!この上杉を幾度となく謀りおって.....あの下郎め!」

 

「おいどうする謙信の姐さん。伊達が反撃を喰らってやばそうだぜ?」

 

 

上杉の客将、前田慶次が言う。

 

 

「残念ながら私に北条を討つ事はできぬ。討った過去を持つ豊臣秀長の息の掛かった北条など尚更だ!

だから待つしかない、関白殿下が.....

良晴殿が好機を作るその時まで!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうするよ良晴ぅ?長宗我部と毛利から見放され、上杉と伊達は当てに出来ない。徳川も大忙し。犬千代は越中攻めに手を拱いている。他に打つ手はあるかぁ?」

 

「うっ.....打つ手はあるさ。ここでお前を.....」

 

「大将の俺を討てば一見落着か?」

 

「うぅ.....」

 

「学習しない奴だ。それが最も困難である事を一番理解しているくせに。実力で倒せないから集団戦に出た。実力で倒せないから戦争という手段を取った。これは最初から逃げを目的としていたんだ。お前の心の弱さが具現化した戦いだったんだ。お前が負けるのは必然だったんだよ」

 

「黙れ黙れ黙れえええぇぇえええ!!!」

 

「その程度か貴様の憤怒の咆哮は!!

その程度の力で俺を殺すとは笑止千万!!」

 

「黙れっつてんだろ!!!!」

 

 

良晴が刀を抜いて突進してくる。

 

 

「くひひひ.....」

 

 

天龍は悠然とそれを迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲斐。

 

 

「ついにぶつかったか.....あの2人が」

 

「はい」

 

「昌幸に連絡を取れ。彼女なら分かってくれる」

 

「はっ!」

 

 

命令された武将、山県昌景が応える。

 

 

「止めさせなければならない。彼等はまだ争うべきではないのだ。この日の本の為にも、彼等の為にもな」

 

「はい.....」

 

「私の寿命は残り少ないだろう。だからこそ、その限られた寿命の中で私は最後の責務を全うしたい。誰も彼等を止めないのなら、蚊帳の外にいる私が2人を止めなければならないのだ。それがきっと、私の最後の指名なのだ」

 

「姫.....」

 

「ふっ.....因果なものよう。相良良晴という男に目を掛けるも振られ、信奈に持っていかれ、続いて目を掛けた羽柴天竜には裏切られ、彼の家臣にまで墜とされた。その後不治の病になり、死に行くのを待つばかり。

そんな私があの2人を救う為に尽力しようとはね。アッハッハッハッハッハ!!いやはや、面白い面白い!!」

 

「姫様、身体に障ります.....」

 

「そう言うな。これが最期なのだ。

私はただでは死なぬ。

黄泉に逝くには未練が多過ぎる。

これが最期だ。これを最期に散るとしよう!」

 

 

 

 

元、最強の大名が立ち上がった。

 

 

 

 

「見せてやろう!

この武田信玄の最期の散り様を!!」

 

 

 




とうとう2人の主人公の一騎打ちが始まりました。かと思えば、武田信玄が介入どうなるこの物語!?
次回予告
刀対刀
〜奇跡は起こるのではなく起こすもの〜


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第八十九話 刀対刀

急遽題名を変更しました。予定していた題名は次回です。


関東、小田原城。

 

 

「ふあぁぁ〜〜あぁ!」

 

 

大きな欠伸をする北条氏康。

 

 

「退屈ね。上杉も伊達も思ってた以上に弱くなっちゃったわね。たった3年の天下はこうも人を弱体化させるのかしら?」

 

「ですね〜」

 

「記憶が吹っ飛んでた期間にこの国もおかしくなったわね。よもや、あの天竜が天下を取って、それに反発した相良良晴が戦を起こして、天下が真っ二つになるなんてね」

 

「ですね〜」

 

「でも天竜も頭がいいわ。この関東を本拠地にするなんてね。この私が守備に回った以上、彼が負けるわけがないわ。一応私も側室になったしね。一度奴に負けた以上、私も全力で協力させて貰うわ」

 

「ですね〜」

 

「.....あんたさ〜」

 

「はい〜?なんすか"千代ちゃん"?」

 

「だれが千代ちゃんじゃ!」

 

 

それは忍城城主、成田長親。彼女もまた天龍の側室。氏康には義姉のような存在だ。

 

 

「あんたさー、私の事ナメてるでしょ」

 

「そう?」

 

「天龍の側室になってちょっと地位が高くなったからってさ、あんたと私の立場の上下は昔からそのままなのよ?」

 

「分かってる分かってるってば」

 

「むぅ.....ところで氏長は?」

 

「今は農作業中だよ?」

 

「はぁ!?」

 

「地位も名誉もふんだくって一百姓になってもらったんだ。そうすれば彼女も命の大切さを理解できるからね」

 

「.....あんたって意外と腹黒いのね」

 

「それはそうと、古田さんはどこ行ったの?」

 

「あの茶人大名?知らないわよ。戦が始まってすぐにどっか行っちゃったわ」

 

「なんか嫌な予感がするです」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信濃。未だ化物2匹の戦いは続いていた。

 

 

「いい加減にクタバレこらぁ!!!」

 

「貴様がクタバレこらぁ!!!」

 

 

目にも止まらぬ速さの殺陣が繰り広げられていた。

 

 

「刀が軽いぞ!素人かよバーカ!!」

 

「闇雲に振り回すだけかよ!お遊戯かよ!」

 

「んだとっ、こらぁ!!!」

 

「やれるもんならやってみろ犬ザル!!!」

 

「えぇと.....クタバレよこらぁ!!」

 

「それはさっき聞いたよ〜ん!語彙が貧困じゃあありませぬかお主??」

 

「死ねよモスキート野郎!!!」

 

 

 

殺陣よりも罵声怒声が目立つ対決。いや、これは対決というよりは、ただの喧嘩だった。

 

 

 

「朧月光流、奥義!!」

 

 

良晴が出る。憎き敵の技にて。

 

 

「文月!!」

 

「睦月!!」

 

 

突きによる一閃である文月を回転技である睦月にて天龍が返した。

 

 

「あぁ〜くそっ!!朧月光流奥義!神無月!」

 

「霜月!」

 

「うえぇっ!!?」

 

 

摩擦力を利用し、敵の得物を奪う技、霜月。それが良晴の放った神無月すら打ち消し、彼の刀を遠くに投げ飛ばした。

 

 

「くっ.....!!」

 

「いいよん待っても。拾ってこいよ」

 

「いいよ。そんなん.....召喚!」

 

 

良晴は新たな刀を用意する。

 

 

「おいおい、立派な日本刀を使い捨てか?割り箸じゃねぇんだぜ?」

 

「へっ、うるせ。所詮は贋作だよ。それよりもだ!お前さ前に、『技を出すなら奥義名をキッチリ全部唱えてから』って言ってたじゃんかよ!」

 

「そだっけ?」

 

「ちっくしょ〜!!次からは省略する!」

 

「お好きにどんぞ〜」

 

 

その直後、良晴が前に出る。

 

 

「甘いな。皐月!!」

 

「へっ、皐月にはこいつだぜ。弥生!!」

 

 

次の瞬間、良晴の刀が粉砕した。

 

 

「へっ?..........ふぐっ!!?」

 

 

同時に両腕の筋が分断される。

 

 

「きっ、如月!?」

 

「くひひひひひ.....」

 

「手前ぇ、嘘付いたな!!」

 

「世界一のペテン師が嘘付いちゃ悪いのかよ?」

 

「糞ったれ!!」

 

「はてさて。その両腕を治すのに何秒かかる?」

 

「は?」

 

「待ってやるよ?待っててやるから、さっさと再生したまえ。強者には弱者にハンデをやるという義務があるからなぁ」

 

「じゃ.....弱者だと」

 

「人狼の力はその程度か。えっ?負け犬君」

 

「ガアアアアアアァァァァァァ!!!」

 

 

腕の再生もままならぬ状態で良晴が突っ込んだ。

 

 

「おや?」

 

「手前ぇなんて脚だけで充分だ!!」

 

 

瞬速のハイキックが繰り出される。

 

 

「フッ」

 

「何っ!?」

 

 

天龍は避けなかった。避けもせずに即答部で良晴のハイキックを受け、そのまま鼻から上が吹き飛ばされる。だが.....

 

 

「ぬかったな犬ザル!!!」

 

「しまっ.....!?」

 

 

相手が吸血鬼である事を念頭に入れるべきだったであろう。

 

 

 

 

 

 

「葉月!!」

 

 

 

 

 

 

「えっ.....!?」

 

 

気付けば、良晴は宙を舞っていた。肩に刀を刺されたまでは覚えていた。だが、次の瞬間には宙に放り投げられていたのだ。徐々に下降する肉体。それを地上で待ち受ける天龍。

 

 

「ちょっ.....待っ!?」

 

「朧月光流奥義、葉月!! 」

 

 

刀は振られ、両足が切断された。

 

 

「ふぐっ.....!?」

 

「手足がなくなったお前はただの芋虫だ!!」

 

 

天龍は四肢を失い、地面に落下した良晴の背中を踏みつける。

 

 

「くそっ!馬鹿にしやがって!」

 

 

良晴は瞬時に両腕を再生させ、腕を付いて立ち上がろうとする。

 

 

「何っ!?」

 

 

だが立ち上がれない。何か巨大なものが背中に乗っていて、押さえ付けられているようだ。天龍は良晴を踏んでいるが、そこまでの怪力を使っているようには見えない。なら何故だ!?

 

 

「身柱」

 

「なんだとっ!?」

 

「二つの肩甲骨の中心。ここを足で踏んでやれば腹這いの相手は起き上がれないんだぜ?」

 

「はらばい?.....うつ伏せじゃなくて?」

 

「意識があるかないかの違いだ。うつ伏せは寝てる状態。腹這いは起きてる状態だ」

 

「へぇ.....じゃねぇ!早く起き上がらねぇと!!」

 

「無駄だ無駄だ。俺の拘束を解こうなんざ四世紀早い」

 

「ちっきしょ〜!!!」

 

「じゃあここでオシオキタイムだ」

 

「っ.....!?」

 

 

天龍の召喚したものは蝋燭。瞬時に火を点ける。

 

 

「おっ...........おい.....」

 

「こいつは洋蝋燭。溶けた時の温度は約70度ってとこだな。こいつを今からお前の首にかける」

 

「なんだとっ!?ふざけんな!!!」

 

「いくら人狼でも熱いものは熱い。高速再生するだけでダメージそのものは他の生物と変わらん。だがお前はどこまで耐えられるかねぇ?ふくくくくくくく.....」

 

「くそっ!くそっ!くそっ!くそぉ!!」

 

「くふひひひひひひひひひひ.....」

 

 

天龍はその蝋燭で懐から取り出した葉巻に火を点ける。

 

 

「ふぅ.....やはり葉巻はいいな。煙管も嫌いじゃなかったが、葉巻に比べればな。ふくくくくくくく.....やはり葉巻はハバナ産に限るよ」

 

 

天龍が一服している間にも良晴は必死に抜け出そうと試みる。だがその拘束は彼を中々抜け出させてくれない。

 

 

「んじゃ、やるか」

 

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「そんじゃ、ばいび」

 

「くっ!!!!!」

 

 

蝋がかけられる。良晴は歯がその食い縛りによって割れるのではないかという位に縛る。そして.....

 

 

 

 

「あり?」

 

「ぷっくくくくくくく.....くひゅひゅふふふふふふ.....」

 

「えっ?えっ?えぇっ!?」

 

 

蝋は熱くなかった。熱いといってもちょっとだけ温度の高いお湯をかけられた程度。

 

 

「低音蝋燭だよバーーカ!!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

「てめぇ!!!」

 

 

低音蝋燭の温度は精々45度だ。

 

 

「ふざけんなよ糞ったれ!!!」

 

「そうだよなぁ。根性焼きならこっちの方がいいな」

 

 

すると、有無も言わずに吸っていた葉巻の火を良晴の首に押し付けた。煙草の火の温度は600度だ。

 

 

「あがああぁぁぁぁっ!!!?」

 

「ふくくくくくくく.....」

 

 

更に、押し付けながらその葉巻を吸う。吸った時の煙草の温度は800度だ。

 

 

「はぐぅあああああがああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

涙を流しながら良晴藻掻き苦しむ。だが、その拘束は外れない。

 

 

「あ〜あ〜気が済んだ。もういいや」

 

 

根性焼きが終了した。

 

 

「はぁ!!.....はぁ!.....はぁ.....」

 

 

動悸が徐々に治まる。やっと終った地獄の時間に安堵する。ところがだ。

 

 

 

 

「ちゃっちゃとおっちね。犬ザル」

 

 

 

 

天龍が銃を向けていた。ウィンチェスターだ。

 

 

「ちょっ、待っ!!」

 

「バーン!」

 

 

良晴の頭部に向けて発泡される。その一発で良晴の右側頭部が噴き飛ぶ。

 

 

「ひぎっ!!?」

 

「〜〜♫」

 

 

鼻唄を歌いながら、スピンローディングにて次弾を装填し、再度発砲する。次は左側頭部だ。

 

 

「アディオス!」

 

 

後頭部を撃った。その衝撃にて首が千切れ、良晴の頭と思わしき物体が前方に飛ぶ。

 

 

「さっさと治せ。死んでないことは分かっている」

 

「ちっ」

 

 

すると彼方此方から彼の肉片が不規則な動作をしながら元の肉体に戻ろうと移動を始めたのだ。天龍が離れる頃には良晴の身体は完全再生されていた。

 

 

「はぁ!はぁ!はぁ!!」

 

 

再生でダメージは回復しても、体力は大幅に削ったらしい。

 

 

「果てさて。お前は何回死んだ?化物の力が無かったとすれば、お前は何人必要だ?何回殺せばお前は果てる?」

 

「黙.....れよ.....」

 

 

気迫の抜けたフラフラの状態で立ち上がる。この時点で勝敗は明らかに思えた。

 

 

「何っ.....?」

 

「へへ.....」

 

 

良晴が懐から怪しげな瓶を取り出す。その中身は明らかであった。血だ.....

 

 

「お前.....そこまで」

 

 

良晴は人狼。生きていくには人間の血より得られる魔力が必要だ。だが彼はそれを嫌い、あくまで性行為によって得られる精気のみに頼っていた。だが天龍はそれをむしろそれを尊敬していた。人狼という化物になった後も、人間としての尊厳を失おうとはせずに、人間にとっては異常行動である吸血を避けてきた彼を。人間として尊敬していた。その良晴がだ。自分との決着をつける為に、嫌いな血を飲もうとしている。人間としての尊厳を捨ててまで、俺に勝とうとしている。

 

 

「いいだろう。これからはもうおふざけもなしだ。俺もこれからは全力でいく。全力でお前の想いを受け止めてやる。そして、全力で殺す」

 

「有り難いね」

 

 

良晴は瓶の血を一口で飲み干し、それを叩き割った。そして、新たに用意した刀を持ち、構える。

 

 

「如月!!」

 

 

良晴から駆け出す。

 

 

「葉月!!」

 

 

先程と同じように斬り上げ技である葉月を繰り出す天龍。相性は最悪だ。

 

 

「待ってたぜそれを!!」

 

「むっ!?」

 

 

良晴は自ら拳を突き出し、天龍の刀にワザと突き刺したのだ。その勢いのまま良晴は空に斬り上げられる。斬り上げられた良晴は空を蹴って逆に地面に急降下してきた。

 

 

「なるほど」

 

 

刀を一直線に目標へ向ける。これぞ一閃。まるで流星の如き光の線は天龍を抉らんと突撃してくる。これが『文月』

 

 

「馬鹿め!そのまま地面に突っ込むがいい!」

 

 

天龍は地面を蹴り、急速にてその場から離脱する。

 

 

「逃がすか!!」

 

 

良晴は地面に激突する直前に『睦月』を放つ。回転技によって地面を抉り、無理矢理軌道を変えたのだ。今度は横向きの一閃。逃げた天龍を再び。

 

 

「何っ!!?」

 

 

こうなっては急な動作によってバランスを取れずにいた天龍が不利になった。バランスを取る為にはもう一動作必要だ。だが、そんな猶予はもう残されていなかった。一動作している間にも彼の文月は自らに届く。敵の心臓部に照準を合わせ、そこへ一閃を届ける文月。最早、敗北は必至に思えた。

 

 

「くひゃっ!!」

 

「なっ!?」

 

 

奴は.....天龍は、軸足の定まっていなかった。だからこそ、バランスの崩れた奴を追い詰められる絶好の好機と思えた。ところがだ。何故か奴の軸足が突然復活した。斜めの状態で立つ彼に、地面に垂直にそびえ立つ軸足が。

 

 

「は.....羽!?」

 

 

『ウィング・ザ・リッパー(切り裂き羽)』

これは彼の眷属である大友宗麟の技。大友宗麟は彼に翼を移植される形で吸血鬼になった。元は彼の翼である。当然、彼もそれが使える。天龍は自らの翼を変質させ、地面に突き刺し、もう一本の足にしたのだ。これで軸足は取れた。後はもう.....

 

 

「三日月!!!」

 

 

刀が横一文字に振られる。それによって生じた"かまいたち"が形ある斬撃となって、向かってくる良晴を襲った。

 

 

「くそっ!!」

 

 

斬撃と一閃は相殺した。だが、その衝撃波が辺りに迸り、砂埃が舞う。

 

 

「くひゃっは!!」

 

 

邪悪に笑う天龍は上空へ飛ぶ。

 

 

「惜しかったな!だが、まだまだだ!!」

 

「どうかな?」

 

 

砂埃の中で彼はそれを構える。

 

 

「やべ」

 

 

良晴は撃った。先程も持っていたそれ、グレネードランチャーを。発砲された榴弾は一直線に天龍の右肩に直撃する。そして爆発した。

 

 

「がぁぐっ!!?」

 

 

右半身が抉られ、地上へ落下する。しかし、受身を取って瞬時に立ち上がる。

 

 

「やはり慢心は毒だな。すぐに命取りになる」

 

「教えろ。さっきの『三日月』とはなんだ!?"『師走』を除いた"11の技が朧月光流なんじゃないのか!?それとも別の.....」

 

「いや、これも朧月光流さ。しかし出来立てホヤホヤの新技だがな」

 

「なんだとっ!?」

 

 

右半身を回復させ、彼は語る。

 

 

「朧月光流を編み出したのは俺の父親だ。とはいえ、扱えなかった。あくまで俺に使わせる為にな。当時は明確な技名も型もなかった。原型としてあった剣技を、俺と青蘭が完成させた。睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、長月、葉月、神無月、霜月、計11の剣技。つまり朧月光流は俺の技だ。俺が作り上げたんだ。

だからこそ、新技を編み出す事も可能なのだ」

 

「新技!?」

 

「十三番目の奥義、三日月。吸血鬼の鋭い筋力だからこそ編み出せる斬撃。人間には発動不可能。吸血鬼になったからこそ使えるようになった。当然、お前にも使えるよ」

 

「.....十三番目と言ったな。じゃああるのか?十二番目の奥義.....『師走』が」

 

「あるにはある。やり方も知っている」

 

「じゃあ何故使わない!?」

 

「理由は主に2つ。1つは扱いが難し過ぎるのだ。下手をすれば、自身にしっぺ返しが来る。リスクを避ける為にも、この技は禁技としたよ。もう一つは.....」

 

「.....?」

 

「この技が正常に作動すれば、相手は確実に死ぬからだ」

 

「なにっ.....!?」

 

「人間に限らない。相手が吸血鬼だろうと人狼だろうと悪魔だろうと。命があるのならば神だって死ぬ。そう確信している。一度も相手に使った試しはないが、絶対に殺せるよ」

 

「おもしれぇ。じゃあ俺に使ってみろよ!」

 

「いいのか?使えばお前は死ぬ。絶対に。そうなってしまえば.....」

 

「うるせぇ!さっさとやれってんだ!!手前ぇに気遣われることなんざねぇ!俺は手前ぇを殺す!ただそれだけさ!」

 

「...........そうか。分かった」

 

 

そして、構える。

 

 

「朧月光流最終奥義.....」

 

「くっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師走」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この期に及んで手加減しやがったな?」

 

「すまない」

 

 

四肢を再び失い、胸から下を全て無くしている良晴がそこに横たわっていた。だが、驚くべき現象が起きていた。良晴に傷という傷はなかった。というより、斬られていなかった。まるで生まれつき無かったかのように、忽然と消滅したのだ。奪われた四肢や腹部も全て消滅した。今あるのは、頭と胸だけの達磨。いざとなれば、身体全体を全て消し去れただろう。だが、そうはされなかった。情けをかけられたのだ。この、天龍に。

 

 

「殺せ」

 

「あぁ.....」

 

 

心臓部に刀を突き付けられる。

 

 

「さらばだ」

 

 

心臓を刺されれば良晴は死ぬだろう。両親の仇討ちも叶わず、愛する者等も残し、この国、この世界の安否をこの天龍に任せる事になる。それは良晴には絶望でしかなかった。だが、それしかない。今の自分に、この天龍を超える力など持ち合わせてはいないのだから。

 

 

「完全なお前になれば、俺にも勝てたかもな」

 

「...........なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちください!!!」

 

「「!!?」」

 

 

二人の間に槍が投げ込まれた。それは朱き十文字槍。

 

 

「我が主よ。お待ちくださいませ!」

 

「.....昌幸!?」

 

 

それは真田昌幸。幸村の母親だ。

 

 

「昌幸、お前は徳川攻めに出していたはずだ。何故こんな所にいる?持ち場に戻れ」

 

「いいえ。戻りませぬ」

 

「!?.....命令に従え!」

 

「拒否いたしますわ」

 

「何っ.....!?」

 

 

眷属の呪縛が効いていない。まさか。

 

 

「私が解きましたよ?我が主様」

 

「玄朔!?.....貴様!!」

 

 

曲名瀬ベンジョールの娘、曲名瀬玄朔。天龍の眷属だったが、科学の力でそれを克服。今はフリーの吸血鬼だ。

 

 

「今はそんなことをやってる場合じゃないわ。今すぐ停戦して下さいませ」

 

「我が主君の望みにございます!」

 

「ふざけるな!何が停戦だ!ここまでやってきて今更...........待て、お前の主君だと?...........まさか!」

 

 

 

 

 

「わたしだ」

 

 

 

 

 

 

「勝千代!?」

 

 

良晴が叫ぶ。山県昌景に車椅子にて運ばれた彼女が、この戦場のど真ん中まで来ていたのだ。

 

 

「武田.....信玄.....」

 

「貴様の"じどうしゃ"なるものを借りたぞ。馬もいないのにあんな鉄の箱が自力で走り回るとはな。しかも馬車よりも早いときた。いやはや、凄かった凄かった」

 

「茶化すな!!何の様だ!病で現役を離れたお前が今更戦場に出てくるなんて!!そんな事をすれば身体に障る!今すぐ療養するん.....」

 

「戯け!!」

 

「!?」

 

「貴様、以前言ったな?貴様が私を裏切った際、いつでも自分を裏切り返し、自身の地位を取り戻してもいいと。今がそれだ」

 

「なんでそんな昔のことを.....」

 

「私は武田信玄。落ちぶれたとはいえ、戦国最強と唱われた姫武将だ。その誇りを持って、貴様らの下らん戦をぶち壊してやる!」

 

「なんだとっ.....」

 

「勝千代.....」

 

 

それは天龍、良晴双方に指されていた。

 

 

「武田家元当主、武田勝千代信玄が宣言する!」

 

 

戦国最強が言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「豊臣天龍秀長、良晴秀吉はこの武田信玄を嫁に迎えよ!そして、この馬鹿げた戦をさっさと終わらせるのだ!!」

 

 

 

「「.......................はぁ?」」

 

 

 

信濃の戦場が凍り付いた一瞬だった。

 

 

 




正則と清正は今回登場してませんが、良晴と天龍が戦っているのを見学しているというような感じです。出し忘れました。
次回予告
政略結婚
〜平和への架け橋〜


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第九十話 政略結婚

第二部もいよいよ大詰めです。


駿河国、徳川軍。

 

 

「流石は真田軍ね。武田から移り変わってから勢いこそなくなったものの、安定の強さは相変わらずだわ」

 

「はい。しかし大将の真田幸村は麒麟児とはいえまだまだ未熟。しかも、信濃の前線に出されていて、軍に統制力がない。代理を務める昌幸は太閤に妖怪変えられたせいで、むしろその圧倒的な存在感が消えましたからね。耐えに耐え抜き、新編成させた超徳川軍に死角はありません!

ふっくっくっくっく.....」

 

 

徳川軍と合流した信奈との会話である。

 

 

「姫、真田昌幸が戦線を離れたとのこと」

 

 

突如現れた服部半蔵がそう伝える。

 

 

「ふっくっくっくっく!ついに我が超徳川軍に恐れをなしましたか!来ました来ました!あの武田信玄に習って山のように耐えた甲斐がありました!」

 

「竹千代、あんたは興奮するとむしろ失敗しやすくなるから、冷静に対処した方がいいんじゃない?三方ヶ原でもそれで武田信玄に還付無きまでに叩きのまされて、脱糞したんでしょ?」

 

「しっ、しししししししてませんよ!!?

ってか、どこから情報が漏れてる.....

じゃない!誰がデマを!!?」

 

「天龍」

 

「予想通り過ぎて安心しました!」

 

 

その時だ。敵軍に大きな動きがあった。

 

 

「お伝えします。真田軍撤退!真田軍撤退!」

 

「来た来た来たぁ!!!今こそが絶好の好機!ついに真田を!武田の連中を葬る時が来ましたぁ!!」

 

 

その時、1人の忍が服部半蔵に耳打ちする。

 

 

「むっ!?.....それは真か!?」

 

「はっ!」

 

「くっ.....」

 

「どうしましたか半蔵?」

 

「それが.....姫.....」

 

「早く言いなさい。何があったのです?」

 

「はっ、関白殿下と太閤秀長に大きな動きがあったとのこと」

 

「良晴が?」

 

 

良晴とは別離に動いている信奈には新鮮な情報だった。

 

 

「殿下がどうされたので?」

 

 

以前はサル晴さんなどという言い方で馬鹿にしていたが、関白になった以上それもやっていられなくなり、今は敬称にて呼んでいる。

 

 

 

 

「関白殿下と太閤秀長が停戦を結んだとのこと」

 

 

 

 

「は?」

 

 

この戦争で大きな手柄を得ようとしていた家康には衝撃の事実である。

 

 

「良晴が天龍と.....服部半蔵、それは事実なの?」

 

「はっ、甲斐の武田信玄が仲介に入ったと」

 

「武田信玄!?.....武田信玄って、あの武田信玄よね!?重い病で表舞台から離れていた彼女がなんで今になって出てきたのよ!?」

 

「武田...........信玄.....あいつが?」

 

 

家康がボソリと呟く。

 

 

「それが.....関白殿下と太閤秀長の双方が武田信玄を政略結婚にて嫁に迎え、改めて義兄弟なることで停戦に結びつけるのだとか」

 

「はぁ!?何よソレ!?良晴からは何も聞いてないわよ!!?」

 

「申し訳ないが、これ以上の詳細はまだ.....」

 

「絶対に天龍が絡んでるに違いないわ!今や武田信玄もあいつの家来。信玄を利用して良晴を騙そうとしているに違いないわ!あいつ.....信澄だけに飽き足らず、良晴まで唆す気!?」

 

「いえ、まだそこまでは.....」

 

「武田信玄.....奴がまたしゃしゃり出てきた.....三方ヶ原だけでなく、ここでもまた私の邪魔をする?またも我が野望の障害となる?」

 

 

ブチッ!!

 

 

「ひっ、姫!?」

 

 

半蔵が動揺する。家康が爪を噛み始めたからだ。家康はまだ松平元康と名乗っていた頃からこの癖があり、爪を噛んでいる時こそ、彼女が最高にキレている状態なのだ。三方ヶ原の合戦でも、これが原因で敗戦しているのである。

 

 

「病にかかってようやくくたばると思っていたのに.....あの死に損ないめ。何故、こうも鬱陶しい。何故、早く死なない?さっさと死ねばいいのに。死ねばいいのに。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね.....」

 

 

ブチッ!

また爪が噛み千切られる。

 

 

「竹千代!!」

 

「っ!...........どうしましたかお姉様?」

 

「.....あんた大丈夫!?」

 

「何がですか?」

 

「だってあんた、また情緒不安定になってたから.....」

 

「何を言ってるのですか。この停戦が成功し、そのまま講和が結ばれでもすれば念願の平和が訪れるのですよ?これ程喜ばしいものはありません」

 

「えっ!?」

 

 

あれ程までにこの戦を楽しんでいた者の言葉とは思えなかった。

 

 

「さぁ!私達もすぐさま兵を納め、殿下の元へ向かいましょう。この大業を成し遂げた信玄殿にもお会いしたいですしね!」

 

「え、えぇ.....」

 

「ふくくくく.....英雄武田信玄にね.....」

 

「...........」

 

 

何が彼女を変えてしまったのか。そこにはもう、純真無垢だった竹千代、松平元康の姿は無かった。今の彼女はドス黒いオーラを醸し出す魔王の風格が出ていたからだ。まるで昔の自分を見ているよう。ひょっとすれば時々自分もあぁなってるのかもしれない。

天龍良晴という魔王に加え、ここにまた魔王の卵が誕生しつつある事は、信奈には気掛かりでしかなかった。元魔王であったからこそ分かる事である。

 

 

「どうなってるのよ..........良晴」

 

 

今ほど夫である彼を求めたいと思ったことはないだろう。自分が悩んだ時にいつも側にいてくれた彼は、今もう手も届かないくらい遠くにいる気がしてならない。

 

 

「会いたいよ............良晴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関東、江戸城。

 

 

「ほう。随分と奇妙な城を作ったものだな」

 

「うるへ」

 

 

信玄を自動車を運転して運んできた天龍。8人乗りのワゴン車で、助手席には気絶した真田幸村。後部座席には真田昌幸、山県昌景、武田信玄。そのさらに後ろに不貞腐れた表情の加藤清正、福島正則、豊臣良晴が乗っていた。

 

 

「天龍〜。取り敢えず周りは安全だよ!」

 

「OK。見回りサンキューな」

 

「"ゆあうえるかむ"だよ」

 

 

車の上に乗っていた阿斗が上から頭を出し、状況報告する。この上には更に吽斗、凪、万見仙千代が乗っていて護衛しているらしい。心強くはあるが、あまりの神出鬼没ぶりに身震いする良晴。

 

 

「さぁ、着いたぞ。ようこそ我が城へ」

 

 

天龍が居城、江戸城に到着する。居城が大坂城であった頃は支城という扱いであったが、今では立派な本城である。

 

 

「うわっ、城主の正確な滲み出たような趣味の悪い城だな」

 

「文句言うなら入れねぇぞ」

 

 

江戸城は木造建築が主の日本式ではなく、石を多く使用した西洋式であったのだ。しかも大坂城並の大きさを誇り、日当たりが悪いのか巨大な影を作っている。白色の城にもかかわらず、暗い印象を与えてしまっている。

 

 

「これが本当のドラキュラ城だな」

 

「寒いこと言ってねぇでさっさと入城しろ。停戦協定は俺達個人が勝手に定めたものだからな。それを認めない連中が勝千代を狙うかもしれない。だからこそ、危険な甲斐ではなく、安全な江戸まで来たんだ」

 

「手前ぇに言われるまでもなく分かってる.....だが、俺だってまだ認めてねぇからな!」

 

「そうか、それは良かったな」

 

 

良晴を適当にあしらうと、天龍は助手席側にまわる。

 

 

「源次郎は.....まだオネムか。しゃあない」

 

 

天龍は気絶した幸村をおんぶする。

 

 

「主様、そんなことは私めがしますのに」

 

「いいよ昌幸。ただ好意でやってるだけだし。それよりも、この状態で目が覚めて、慌てふためくこいつの顔を見るのが楽しみでもある」

 

 

 

 

数分後、案の定目覚めた幸村は天龍の予想通りに慌てふためき、顔を真っ赤にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

江戸城、天龍室。

 

 

「さて、会談の場を作ってやった。ちゃっちゃと済ませよう」

 

「なんで天守閣じゃないんだよ?」

 

「天守閣に布団を敷くのか?」

 

 

この天龍室には信玄用に布団が敷かれ、その周りを囲むような形で会談が行われてる。

 

 

「それに命を狙われる可能性もある。だから、誰もが場所を知る天守ではなく、俺の部屋にした。俺の部屋は暗殺者対策の為に毎日入れ替えてるからな。家臣も側近ぐらいしかこの場所を知らん」

 

「独裁者そのものだな」

 

「誰かさんが怪しい連中と手を組んだものでね」

 

「ちっ.....」

 

 

皮肉を言い合う2人に楽しげな様子は欠片も無かった。それを信玄は悲しげに見つめる。

 

 

「ハッキリ言おう俺は勝千代の提案には反対だ」

 

「良晴.....」

 

「俺はもうこいつと馴れ合うつもりはないんでね。全力を持ってこいつを追い詰め、殺す。負ければそれまでだったってところだよ」

 

「ボロ負けしてた奴がよく格好つけられるな」

 

「なんだとっ!?」

 

「俺は賛成だ。勝千代との政略結婚にな」

 

「天龍.....」

 

「そりゃ手前ぇはそうだろうさ。戦争さえ終わっちまえば主導権は立場が上の手前ぇらだ。俺らはすぐに叩き潰される!」

 

「ふっくくくく.....だろうなぁ。貴様らのようなゴミ共をいつまでも残しておく程、俺もお人好しじゃあない」

 

「手前ぇ.....」

 

「2人共落ち着け」

 

 

だが信玄の声は届かない。

 

 

「どうだろうなぁ!馬鹿な思想を掲げる愚者共を串刺し刑にする様は!さぞ、甘美であろう!!」

 

「手前ぇらは一族も家臣団も害虫同然だ!全員まとめて駆除してやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「喝っ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「っ.....!!?」」

 

「餓鬼か貴様らは!貴様らの都合でどれだけ多くの民が傷ついたのかよく考えよ!.....良晴、貴様に言っているのだぞ!?」

 

「かっ.....勝千代」

 

「貴様もだ天龍!そもそもこの合戦は貴様が無用な挑発を良晴に何度も仕掛けたのが原因だ!先に戦を始めた良晴にも問題はあるが、1番の戦犯は貴様であるぞ!!」

 

「..........」

 

「今はどちらが天下を取るかではない!どうすればこの国の平和を守れるかを考えるべきであろう!!なのに貴様らは!..........ゲホッゲホッ!!!」

 

「姫!!」

 

 

昌幸が信玄に駆け寄る。

 

 

「.....私も同じだったからこそ分かる。戦場を離れて見て初めて気づいたのだ.....良晴よ、権力とは恐ろしいな。上位に立って全てを見通せるかのように思えて、何も見えなくなってしまうのだ.....」

 

「勝千代.....俺は.....」

 

「思い出せ。貴様はそんな男だったか?苦しむ民も見えず、只々己の欲望を満たす下劣な男が本当の貴様か?死の命運にあった私を、敵であった私を救ったあの男は今、どこにいる?それは貴様ではなかったのか?」

 

「俺は.....」

 

「それと.....天龍」

 

「ん.....」

 

「貴様のその野望はそうも大事か?そうまでして良晴と戦いたかったのか?良晴を挑発することでこいつの甘さを消そうとしたのか?ここまでする必要は本当にあったのか?.....もういいだろう。国を任せる相手を1人に絞ることに拘るのは.....これからは良晴と天龍、2人が協力すれば.....」

 

「勝千代っ!!」

 

 

天龍が突然叫んだ。それも血相を変えて.....

 

 

「なんだよ.....国を任せるって.....甘さを消すって.....一体何の話をしてんだよ!?」

 

 

良晴も混乱しだす。

 

 

「すまないが良晴、今少し席を外してはくれまいか?」

 

 

信玄が言う。

 

 

「ちょっと待て、まだ話が.....!!」

 

「源次郎」

 

「はっ!」

 

 

天龍に命令された幸村が良晴を無理矢理部屋から連れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「離せ幸村!!」

 

 

部屋を出された良晴は幸村の手を振り解く。

 

 

「一体何なんだよ!?」

 

「今は取り敢えず落ち着き下さいませ」

 

「黙れ!!あいつを放置すれば騙されて不幸になる人がどんどん増える!今のうちに殺さないと.....」

 

「お願いです!!」

 

「うっ!?」

 

 

幸村が俯きながら良晴の服の裾を掴み、叫ぶ。

 

 

「お願いですから!...........今は抑えてくださいませ...........その為なら、この幸村.....なんでも致しますから.....」

 

 

今にも泣き出しそうな表情で言う。山中鹿之助を殺し、つい先程まで自分と死闘を繰り広げていた彼女が今、こんな顔で自分にしがみついている。そう思うと、何か特殊な感情が湧き出てしまう良晴。

 

 

「真田.....幸村」

 

「お願いで御座います、関白殿下」

 

 

「お兄ちゃ〜ん!!」「兄者〜!!」

 

 

別室で待機していた正則、清正が駆け寄ってくる。それに驚き、慌てて離れる幸村。

 

 

「鬼ババがやって来てうるさいのよさ!お兄ちゃんなんとかしちクリ!」

 

「鬼ババって.....もしかして信奈か?お前らどんだけ信奈のこと嫌いなんだよ」

 

「便所虫以下なのよさ!」

 

「乞食よりも劣悪」

 

「そりゃ相当だな」

 

 

幼女には好かれやすい信奈も、この2人だけにはかなり毛嫌いされている。大好きな兄を取る泥棒のように思っているのだろう。

 

 

「しゃあない。行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出ると、門前払いをされている信奈と家康がいた。

 

 

「あっ、サル!あんたこんな所で何やってんのよ!!」

 

「その呼び方は相変わらずなのな」

 

「どうでもいいわよ!それよりも天龍と停戦したって本当なの!?」

 

「一時的なものだ。信玄達との交渉が失敗すればまた戦争状態に逆戻りだろうな」

 

「ならさっさと蹴って再戦しなさいよ!何を油売ってるわけ!?」

 

「いや、そうも言ってられなくなった」

 

「えっ?」

 

「四国の元親があちらに寝返り、それに乗じて中国の毛利も寝返った。島津は遠く離れた薩摩を守る為に撤退し、上杉は復活した北条氏康に苦戦。共闘を誓った伊達も今は様子見だ。しかも、さっきとんでもない話が出てきたんだ」

 

「とんでもない話!?」

 

「北海道の松前軍が地元民の反乱を抑えて、こっちの戦争に参加する表明を出した」

 

「なんですって!?」

 

「北海道には一揆鎮圧の為に大勢の遠征軍が出されていた。そいつらが敵の援軍として一気に帰ってくるんだ。勝てんよ.....これはもう」

 

「なに弱気になってんのよ!そんなのにビビってどうすんのよ!今こそ力を合わせて.....」

 

「気合でどうにかなる戦争なんざ、とうに終わってんだよ!!」

 

「っ.....!!?」

 

「もう時代じゃねぇんだ。奴が持ち込んだ情報伝達技術の向上によって、今勝つのは、力の強い軍でも、気合の入った軍でもない。頭のいい奴が勝つ時代なんだよ。お前だってそうだっただろ織田信奈!」

 

「うぅ.....」

 

「だが俺は奴との頭脳戦に負けた。それどころか一騎打ちにまで負けた。実力の差ってやつをむざむざと見せつけられた。そして俺は..........鹿之助を失った」

 

「良晴.....」

 

「俺はもう織田家中にいた頃のような只の兵士じゃない。何万という大軍の命を背負った大将だ。俺の行動一つで多くの命が動き、そして失われるだろう。だからこそ俺は決断をしなければならないんだ。選択肢は困ったことにもたった二つ。講和か戦争だ」

 

「講和か戦争.....」

 

「今の状況を考えれば講和が妥当だろう。だが講和でいい状態にいくにはそこそこの有利な戦況でなければならないんだ。ところが今は劣勢。講和したところで主導権は天龍側。もしかしたら俺の兵たちに不憫な判決が下されるかもしれない。それだけはあってはならない。

だとしたところで、戦争か?すでに一方的な虐殺のような戦況になりつつあるのにだよ。ここで講和を跳ね除けたところでいい状況になるなんて保証は何処にもない」

 

 

怒りだけではない。このような状況をよく考えた上で、良晴は苦悩していたのだ。

 

 

「良晴、あんた変わったわ。尾張で初めて会った頃とは大違いよ。甘さはほとんど残ってないし、頭は良くなったし、逞しくなった。それと、恐ろしい程に"もののふ"の心を染み付いたわ」

 

「そうか.....」

 

「でも肝心なところは何も変わってない。貴方は私利私欲で動いたことなんてない。いつも誰かのために戦ってるわ」

 

「それは耳が痛い」

 

「戦の話よ!あんたの日常生活が色欲に塗れてるのなんて最初から知ってるし。.....そうじゃなくて。あんたは弱者の.....いえ、全ての者の気持ちを知っているのよ。上も下も経験したからこそね。全ての人を平等に見れる。だからこそ、誰もが貴方に惹かれるのよ」

 

「信奈.....」

 

「私は最近、そういう者こそが天下人の器ってのを持っているんだと思うようになってきたわ。誰からも恐れられるから天下人になれるんじゃない。誰からも愛されるから天下人になれるのよ。あんたはその素質があるわ。私にも天龍にも無かった、真の天下人の素質がね。きっとそれはあいつだって気付いてるはず.....

だからこそ、私も踏ん切りがついたわ」

 

「信奈?」

 

 

 

「あたしね、姫武将やめる」

 

 

 

「っ.....!!?」

 

「お姉様!?」

 

 

これには家康も驚愕した。

 

 

「右大臣職も返上するし、織田の家督も貴方に譲るわ。もう、戦場には出ない」

 

「信奈.....お前、何を言って.....」

 

「だって天下人になるのを夢見て姫武将になったのよ?なのにこうも大きな天下人の器を持った人が目の前にいるんだもん。勝てるわけないわ。そもそも勝つ気だって無い。だってその人は、私が生涯で最も愛した男性なんだから」

 

「信奈.....」

 

「だからこそ私は貴方の下に付きます。これからは只の姫、信奈を好きにお使い下さいませ。.....この私がこうも下手に出てあげてるのよ?感謝しなさいよね」

 

「.....あぁ」

 

 

良晴は黙って信奈を抱き寄せた。

 

 

「講和が"逃げ"だと思ってるかもしれないけど、全然そんなことはないわよ?それは貴方がそう認識してるだけ。負けるなら負けるでいいじゃない。ただし格好悪い負け方は駄目よ?負けるなら格好良く負けなさい!」

 

「あぁ.....ありがとう」

 

 

信奈を身体から離す。

 

 

「俺、勝千代の提案受けるよ。でも、負ける気はねぇ。あいつに勝った上で勝千代も平和もまとめて頂いてやる!今こそ、俺の本気の見せ所だぜ!」

 

 

満面の笑みで応える。

 

 

「そう、じゃあ」

 

 

 

信奈が良晴の首根っこを掴んだ。

 

 

 

「堂々と浮気宣言をした落とし前を払ってもらおうかしら?(怒)」

 

「えぇ〜!?」

 

 

笑顔で言われるとなお怖いです。

 

 

「島津との結婚は九州征伐を終わらせる為に仕方がなかったんだと腹を切る思いで妥協したけど、今度という今度は許さないわ!他にもいっぱい浮気してたのはちゃんと知ってんだからね!!死んだ六や鹿之助も含め、犬千代、官兵衛、上杉謙信、フロイス、雑賀孫市に半兵衛に半兵衛に半兵衛に半兵衛に半兵衛に半兵衛!!!」

 

「えぇ〜!!?」

 

「全部聞いたわよ、蘭丸からね!!」

 

 

森蘭丸、本名森水青蘭。天龍の姉。

今は信奈の小姓だ。

 

 

「なんであの人が知ってんの!!?」

 

「関係ないわ!一回でいいからあんた斬られなさい!どうせ妖怪なんだからバラバラになったって死なないんでしょ?一回くらい安いじゃない!ほら、首差し出せ!!」

 

「首斬られたら流石にやばいわ!!」

 

「問答無用よ!!!」

 

「えぇ〜!!!?」

 

 

だがこれらには殺意や憎しみも無かった。ただのじゃれ合い。お互いに笑顔で受け取り合っているのが、傍目からはよくわかった。

 

 

 

 

 

 

 

「...........」

 

 

 

 

 

 

 

だがそれを、憎悪だけで見つめる女狸が一匹。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍室に戻った良晴。傍らには信奈も付いていた。

 

 

「政略結婚の件、受けてやるよ」

 

「ほう。お前の決断にも驚いたが、おっかないカミさん連れてきてまで言うとはね」

 

「受けてくれるか良晴!」

 

「だがしかしだ!.....条件がある」

 

「ほう、お前如きの立場の者が条件とな?」

 

「天龍」

 

「っ.....分かったよ!黙って聞くよ」

 

 

少し部屋から離れている間に信玄と天龍の立場が逆転していた。

 

 

「天龍。お前、もう一度俺と一騎打ちをしろ」

 

「はぁ!?お前、ついさっき負けたばかりだろ!なのになんで.....」

 

「いいんだ。ちゃんと考えを持って言ってるんだ」

 

「ほう?」

 

「だから!俺が勝った時にはこの講和、双方が平等な立場になるようにしてもらいたい!」

 

「良晴、そんなことをせずとも講和は平等にする予定で.....」

 

「いいぜ。受けてやるよ」

 

 

天龍が答えた。

 

 

「天龍」

 

「止めてやるな勝千代。豊臣良晴という漢が覚悟を決めて出してきた提案だ。それを受けないほど俺も卑怯じゃない。だがよ、良晴。それでも負けた時は.....」

 

「あぁ、それも覚悟してる」

 

「決まりだな。屋上に行こう。いい決闘場がある」

 

「屋上なんてあるのか?つくづく城の作りを無視してるな。そこに日本風の拘りはないのかよ?」

 

「うるへ。さっさと行くぞ」

 

「ふふっ.....あぁ!」

 

「良晴.....天龍.....」

 

「見守りましょうよ武田信玄」

 

「織田信奈」

 

「男達の戦いを見守るのも女の義務ってもんよ?」

 

「そう、だな.....」

 

「屋上まで連れてってあげるわ。私達も義理の姉妹になるわけだしね(怒)」

 

「なんか怖いのだが.....」

 

 

 

 

 

 

 

最後の決闘、始まる。

 

 

 




さて、次回決戦。結末はどうなるのか!

次回予告
決闘の行く末
〜争いの結果生まれたもの〜


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第九十一話 決闘の行く末

すいません。またサブタイトルをずらしました。


江戸城、屋上にて。

 

 

「ゲホッゲホッ!!.....ゲホッゲホッ!!!」

 

「姫.....」

 

 

咳づく信玄に昌幸が毛布をかけてやる。

 

 

「ケホッ...........なかなか終わらんな」

 

「はい。こんな戦い、初めて見ました」

 

「良晴.....」

 

 

信奈が見守る中、その2人の戦いは続いていた。

 

 

「はぁ!!.....はぁ!!.....はぁ.....!!」

 

「ぜぇ!!ぜぇ!!ぜぇ!!」

 

 

その時間なんと5時間。日も既に暮れていた。

 

 

「あぁ、もう!!本当につえぇなぁ!!」

 

「うっせ.....ふぅ、さっさと倒れやがれ」

 

「やなこった!」

 

 

再び刃が交わる。

 

 

「こっ、これでもか!!」

 

「くっ、決め切れん!!」

 

 

天龍がトドメに放った奥義を良晴が返し、カウンターを放つが、それも届かない。

 

 

「うっ!?」

 

 

疲れも溜まり、良晴の足がもつれる。

 

 

「隙あり!!」

 

 

天龍が突撃してくる。

 

 

「なんちゃって!」

 

 

すぐに体制を整えた良晴が左手にグレネードランチャーを召喚し、天龍に向けて発泡する。

 

 

「っ.....!?..........ふんっ!!」

 

 

上空へ跳躍し、榴弾の爆発を避ける。

 

 

「隙ができたのはそっちだな!!」

 

「くっ!!」

 

 

上空へ逃げ、見動きが取れなくなった天龍に対し、良晴はグレネードランチャーを捨て、左手を天龍に向ける。

 

 

「これが俺の妖力波だ!!」

 

 

真田幸村に放った必殺技。自身の魔力を熱戦にして放つ人外ならではの技。だが、彼女に放ったような広範囲に広がるようなものでは天龍には効かない。だからこそその範囲を絞り、天龍に向けて一点集中する。

 

 

「いい加減にくたばりやがれぇぇぇ!!!」

 

「無駄だ!!」

 

 

天龍が刀を構える。

 

 

「神無月!!」

 

「うえぇっ!!?」

 

 

敵の勢いを利用し、受け流すように斬り裂く攻撃である神無月。それを応用し、良晴の妖力波を受け流すようにに斬り裂く。そして、流れるように良晴に近づいてくる。

 

 

「どんだけだよ!!」

 

「言葉を返すぞ!くたばるのは貴様の方だ!」

 

「へっ!.....相良流奥義、必殺!刃飛ばし!!」

 

「い"っ!!!?」

 

 

文字通り、良晴が右手に持っていた刀を天龍に向かってぶん投げる。天龍は慌ててそれを刀で弾いた。反動により、天龍の技は決まらずに、彼は良晴の後方へと転げ落ちていく。

 

 

「へっ!どうだ!俺も作ったぜ新奥義!」

 

「あんなのどこが奥義じゃ!!」

 

「へへん!でも、予想できなかっただろ」

 

「自分の得物ぶん投げる奴なんざ予想できるか!」

 

 

戦いはまだ続く。

 

 

「どうなってるのよ.....良晴はさっき天龍との一騎打ちでボロ負けしたんじゃないの?ものの半日で何が変わるのよ」

 

「そんなの、簡単な答えです」

 

「えっ?」

 

 

信奈の疑問にとある人物が答えた。

 

 

「先の戦闘において、先輩は剣士として天龍に戦いを挑んでいたんです。だからそれ以上の力は使わないように.....天龍もそれに出来る限り合わせていたと思いますです。調子に乗り過ぎた結果かなり追い詰められて、ズルしてまで反撃してましたですが」

 

「十兵衛!?」

 

 

身重である天龍の妻、明智十兵衛光秀現る。

 

 

「ですが今は違いますです。この勝負の勝敗がこの国の命運を決めることとなるです。だから2人共本気で戦っているんです。天龍も先輩も己の全力を持って勝負しているです。異能の力も全て使って.....勝負が均衡するのも仕方ないですよ。でも、それも時間の問題です」

 

「...........」

 

 

自分以上に2人を理解する十兵衛。それが信奈に複雑な心情を思い起こす。

 

 

「うおおおぉぉぉあああああぁぁぁ!!!」

 

「がああああああああああぁぁぁ!!!」

 

 

未だ決着つかず。

 

 

「ふっ!!」

 

「う"っっ!!!?」

 

 

良晴が再び発泡したグレネードランチャーの榴弾が天龍の胸部に直撃し、その場で大爆発を起こす。最早、それすら避けられない程に疲弊していたのだ。

 

 

「はぁ!!はぁ!!はぁ!!......終わった.....勝った...........うえっ!!?」

 

 

爆炎の中から拳銃を構える天龍の姿が見えた。

 

 

「う"ぎっ!!?」

 

 

右肩に直撃した。しかし、思った以上の衝撃であり、彼の右腕をそのままもぎ取った。

 

 

「があ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁ!!!」

 

「『PfeiferZeliska』600NE弾、世界最強の拳銃さ。やっぱ威力の強い鉄砲は痺れるねぇ...........って、あり?脱臼してりゅ。やっぱ片手撃ちは駄目か」

 

「ぐぅ〜!!ぐぅ〜!!ぐぅ〜!!」

 

 

無理矢理腕を再生させる良晴。

 

 

「むっ.....胸ぇ.....」

 

「あぁ、これかい?実はチタン埋め込んでんだよ。中学時代はアフリカの紛争地帯に傭兵に行っててさ、胸に銃弾喰らってたのよ。そんでチタンを埋め込んだわけ」

 

「チ............タン?」

 

「チタンさえ埋め込んどきゃあ、なんとなるのだ!」

 

「なんつー.....ご都合主義」

 

「だとしても.....今のは流石に死ぬかと思ったぞ.....

ったく、隙さえあればグレラン、バカスカ撃ちやがって」

 

「へへへ.....そうだ。いい考えがある」

 

「あ"ん?」

 

「お互い、次の一発で最後にしよう。もうどっちも戦う余裕なんてねぇだろ?だったら.....な?」

 

「ふん。構わんさ。体力のもうない貴様にハンデを与えてやるくらいわな」

 

「へへ.....それでだ。お前.....もう一回あの技を使ってこいよ.....師走を使うんだ」

 

「..........」

 

「どうしたぁ?臆したのかぁ?2回目だもんなぁ。俺に見切られてるかもしれないしなぁ」

 

「良晴。先程も言ったが、師走は非常に繊細な技だ。体力に余裕がある時ならともかく、こうもバテていては操りきれん.....下手をすれば、お前を本当に殺してしまう」

 

「へっ、そりゃおっかない」

 

 

ハッタリじゃない。現に師走は俺の下半身を風化したように消滅させる程の威力だ。まともに喰らえば、人狼である俺でさえ、一撃で屠れるだろう。だが。

 

 

「安心しろい。絶対に受け止めてみせるさ」

 

「良晴.....」

 

「勘違いすんなよ?投げやりで言ってんじゃない。確信があるからだ。俺は確実にお前の師走を受けて、生き残ってみせる!」

 

「...........いいだろう。だが、絶対に避けろ!朧月光流の中にも、師走に対抗しうる技は存在しないんだ」

 

「分かってるさ」

 

「本当にやばいぞ?ハリポタで言うならば、アバダケダブラ並にやばいぞ?」

 

「いいから撃てよ!」

 

「............よかろう」

 

 

天龍は刀を一度鞘に納め、構える。

 

 

「.....いいんだな?」

 

「どんとこい!!」

 

 

刀を野球のバットのフォームのように構える良晴。師走を打ち返すつもりなのか?

 

 

「朧月光流最終奥義.....」

 

「朧月光流奥義.....」

 

 

そして、撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師走!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三日月!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっ...........どうなったの?」

 

「勝負がつきましたです」

 

 

信奈の問いに十兵衛が答える。

 

 

「じゃっ.....じゃあ、まっ、まさか!?」

 

「えぇ、そうです」

 

 

十兵衛はやや微笑しながら答えた。

 

 

 

 

「先輩の勝ちです」

 

 

 

 

 

「まっさかな.....」

 

 

仰向けに倒れながらに天龍は言う。

 

 

「俺の師走を打ち消すとはな。しかも三日月で」

 

「俺は三日月の謎を説いたまでだよ」

 

 

同じく体力を使い果たし、その場に座り込む良晴。

 

 

「ただ斬撃を飛ばすだけの技としてはちとショボいなって思ったんだ。遠距離に攻撃したいのなら、わざわざ新技なんざ作らずに遠距離武器を使えばいいんだから。コンボに使うにしたって、遠距離に攻撃する奥義は他にもあるからな。じゃあ、三日月とはなんなのかってね」

 

「お見通しだったか」

 

「気がかりだったのは、お前が三日月を使った状況だ。あん時は俺がトドメの技として文月を放っていた。それに対し三日月の斬撃が飛んできて、俺の文月を完全に消しちまった。俺にダメージを与えるでもなく、ただ、文月を消したんだ。余韻も残さない程に、跡形もなく。それで気づいたんだ!

"三日月には敵の奥義を打ち消す力がある"と。

三日月は攻撃の剣技なんかじゃない。

防御の剣技だったんだ。」

 

「ふっ」

 

 

天龍が微笑する。

 

 

「多分、朧月光流の奥義ならなんでも打ち消せるんだと思う。そもそも、朧月光流自体が普通の剣技と違うからな。朧月光流もまた異能の一種なんだろうと思う。だから師走も消せるんじゃないかと思ってな」

 

「だが、師走は通常奥義とは根本的原理が違う。次元が違うのだ。それなのによく打ち消せそうと思ったな。というか、どうして打ち消せたのだ?」

 

「だってさ、師走も三日月もお前の技なんだぜ?"自分の技が自分の技に通じるかなんて、試さない限りは実証できないじゃんか"。それなら、打ち消せる可能性も無くはないと思ってな」

 

「はぁ!?たったそれだけの理由で全てを賭けたのかよ!?」

 

「おうよ!」

 

「呆れた」

 

「でも、1番の心配は三日月が使えるかだったなぁ。一回見ただけで、教えて貰えなかったし」

 

「馬鹿言え。練習なしにぶっつけ本番で発動しやがったくせに。それも生半可なものじゃなくて、俺の師走をも消すくらいに完璧なやつをだ。本当に腹の立つ餓鬼だぜ」

 

「なははは。お前こそ何言ってんだ。全然本気で撃ってなかったくせに」

 

「ぷっ.....くくくくくくくくく.....!!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」

 

 

突然2人が笑い出した。ああも憎み合っていたにも関わらず、たった一度の決闘で、それら全てを消し去ってしまったのだ。

 

 

「良晴.....」

 

「ん?」

 

「お前の勝ちだ」

 

「あぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のことである。天龍は約束通り、双方に有利な講和の状態を作ってくれた。あまりに上手く行き過ぎるから、何か裏があるのではないかと疑ったが、天龍の様子を見ているうちに、そんな疑いもなくなった。改めてこの人を信用してみようと思ったのだ。

 

 

 

『停戦期間は、武田信玄存命中までとする』

 

 

 

「むぅ」

 

「まぁ、妥当だろうな。こうすれば、戦争やりたい過激派連中を納得させられる。その分、さらに勝千代が命を狙われる可能性が高くなるが、仕方あるまい」

 

「終戦じゃなくて、停戦か」

 

「俺ら上部連中が不戦の約定を交わしても、下っ端連中は未だに憎み合ってるんだ。完全な終戦にするには、もうちょい時間がかかるな」

 

「だな」

 

「それでだ。争いの発端にもなった宣教師連中についてだが」

 

「あぁ」

 

「今は保留にしよう。一概に処刑や国外追放は行ったりはしない。俺もあいつ等とは話したい事があるからな。だが、いずれ決着はつけるぞ?」

 

「分かった」

 

「それで今後の政策だが、このままの武家社会と維新による文明開化。どっちがいいかはお前が決めろ。勝者の権利だ」

 

「俺が!?」

 

「あぁ」

 

「俺は.....」

 

 

良晴は答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「武家社会.....は、もう終わりにした方がいいと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ維新か?」

 

「うん。俺もここ最近の動きで、他国が皆この日本を狙ってるって知って、武家社会のままじゃとても太刀打ちできないなと思ってな。新しい世で国を強くした方がいいと思うようになってきてる。でも、今すぐ変えるのは反対だ。他の皆とも話し合って、納得させてからゆっくりと変えていきたいと思う」

 

「何を悠長な!.....と言いたいところだが、やめておこう。お前がその道を選んだのなら、それに突き進むがいい」

 

「お前ちょっと優しすぎじゃね?ちょっと怖いんだけど」

 

「これでも君を尊重してるつもりだよ。罪滅ぼしも含めてね」

 

「...........」

 

「コホンッ。私を抜きにして会話を続けられては困るのだが」

 

「あぁすまん勝千代」

 

「私達は存在すら忘れられてるし」

 

 

会議の部屋は先程と同じ天龍室。ここには信奈らもいた。

 

 

「それと天龍!講和すんなら勘十郎返しなさいよ!あんたんところで人質になってんでしょ?」

 

「そうだよ天龍。それも頼む」

 

「俺は一向に構わないが、信澄を納得せにゃどうにもならんぞ?」

 

「はぁ?どうしてよ!」

 

「だってあいつは自分から俺に寝返ったんだぞ?わざわざ妻子を人質として押し付けてまでな。俺はてっきり織田が嫌になってこっちに来たのとばかり.....」

 

「「!?」」

 

「今信澄は越中で成政と共に陣を張っている。奴もまた過激派の1人だ」

 

「そんな.....どうして!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間に及ぶ会議も大詰めになり、天龍は一服しようと屋上に登る。すると先客がいた。

 

 

「あり?お前も吸うんだ。身体に悪ぃ〜ぞぉ?」

 

「ヘビースモーカーには言われたかねぇな」

 

 

喫煙者は良晴。一応成人しているので問題はない。銘柄は『マイルドヘブン』。天龍も隣りで葉巻に火をつける。

 

 

「戦争も終わっちまえばあっけないな」

 

「開戦した本人が言うか」

 

「火種をつけたのは誰だ?」

 

「ふふっ.....ふぅ〜」

 

「ははっ.....ふぅ〜」

 

 

互いにニコチンの煙を吐きあう。

 

 

「山中鹿之助の件は気の毒に思う。すまない。恨むなら俺を恨んでくれ。だから、源次郎を.....幸村を責めないでやってくれ」

 

「あぁ...........分かった。でもあいつも本望だったと思うぜ?戦いの中で、しかも真田幸村だなんて名将と戦って散れたんだから」

 

「...........」

 

「終わっちまったもんは仕方ないさ.....人は誰しも..........いつかは死ぬんだから」

 

「...........」

 

 

無理に笑顔を作ってみたが、彼にはお見通しのようだった。

 

 

「なぁ、天龍」

 

「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が俺の両親殺したって話。あれ、嘘だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....................あぁ」

 

「そっか」

 

「信じるのか?これも嘘かもしれんぞ?」

 

「お前が俺に対してつく嘘に、真から悪意のあるものなんて無いんだろ?」

 

「...........」

 

「決闘効果ってすげぇよな。ただ殴り合うだけで互いの思ってることが分かり合えるような感じになれるんだもんな」

 

「良晴...........俺は.....」

 

「あんたは本当にいい奴だよ。俺のストレスの発散場所になってくれてたんだから。あんたのお陰で俺もだいぶ強くなったよ。そうとも知らずに俺は.....本当に馬鹿だった」

 

「良晴.....」

 

 

何を思ったのか、天龍は自分の突然こめかみに指を突き入れたのだ。

 

 

「天龍!?」

 

「待ってろ」

 

 

すると、そこから流れ出した血液を召喚した小瓶の中に流し込み、蓋をする。

 

 

「ほれ。やるよ」

 

「なんだよこれ.....」

 

「その血の中に"あの日"の俺の記憶を詰め込んでやった。飲めば分かる。あの日、本当は何が起きたのか。敏晴さんと葉子さんが本当は誰に殺されたのかを」

 

「..........」

 

「別に今じゃなくてもいい。気持ちの整理がついて、本当に真実が知りたくなったのなら、飲むといい」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「でも血は腐りやすいので早めにお召し上がり下さい」

 

「うっ、うん......」

 

「ふぅ〜」

 

 

また煙が吐かれる。

 

 

「天龍、六の件だが.....」

 

「案ずるな。それも一緒に入ってる」

 

「そっ.....か」

 

 

その一言で、六の件にも何かしらの事情があったと確信する。

 

 

「ありがとな..........兄さん」

 

「なんだ突然。気持ち悪いな」

 

 

そこに信奈が来た。

 

 

「あんたら、イチャイチャと何やってんのよ。気持ち悪いわね」

 

「2人してなんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍室。ここには信玄が1人でいた。万が一の為に、家臣や主治医の曲名瀬玄朔らは廊下で待機していた。

 

 

「ゲホッゲホッ!!ゲホッゲホッ!!」

 

 

痛々しい咳は止まらない。

 

 

「ゲホッゲホッゲホッ!!!ゲハっ!!!」

 

 

突然、信玄が吐血する。手で口を押さえた為に、信玄の右手が鮮血に染まる。

 

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....はぁ.....くっ!!」

 

 

頭を掻き毟る信玄。

 

 

「なっ!!?」

 

 

だが、掻き毟った手には抜け落ちた大量の髪の毛があった。

 

 

「くそっ!!くそっ!!くそっ!!」

 

 

悔しさで布団を殴るが、衝撃で爪が割れる。

 

 

「はは.....」

 

 

つい笑い声が漏れる。

 

 

「情けない。これが武田信玄の末路か.....」

 

 

 

「姫.....」

 

 

 

ふすまの隙間から見ていた昌幸が哀れな友の無念さに涙を流す。

 

 

「いや、まだだ。ここで私が死ねば、2人の決意が無駄となる。意地でも生きなければ!」

 

 

そんな時、とある人物がこの部屋を訪れた。

 

 

「むっ!?」

 

「随分と苦しそうですね武田殿」

 

「徳川家康.....」

 

「あぁ、なんたることでしょうか。ああも憧れていた武田信玄殿がこうも哀れなお姿になって仕舞われるとは.....悲しい限りでございます。しくしくしく.....」

 

 

ヨヨヨと泣くような素振りを見せる家康。

 

 

「よく言うぞ、この狸め。目が笑っているぞ」

 

「くひっ.....」

 

 

一瞬だけ邪悪に笑った家康だったが、すぐに真顔になる。

 

 

「貴様もまた変わった。あの子狸が、一人前に武将の顔をするようになった。時間の問題では、真田の軍とて貴様には敵わなくなるであろうな」

 

「それは感激の至り」

 

「まともな人格に育っていればの話だがな」

 

「っ...........」

 

「今のお前は子狸でも中狸でも、そして勿論、大狸でも女狸でもない。今のお前は、下劣で醜い『蛇』だ」

 

「蛇?」

 

「あぁ、龍の威をかりた陳腐な蛇だ。貴様は天龍の一番悪い部分のみを鮮明に感化されてしまったようだな。見習う相手を間違えなければ.....いや、もっと自身を見間違わなければ、立派な武将になれたものを.....情けない」

 

「わっ.....私が蛇?.....下劣で.....醜い?」

 

 

ワナワナと震えながら爪を噛む。そして。

 

 

「黙れよ死に損ない」

 

 

信玄の真正面までぐいっと顔を近づけ、そう吐き捨てた。

 

 

「いいですとも。私は蛇です。太閤殿下を見習い、その生き方を変えた。小さな小さな蛇ですとも。ですが、この私にも大きな武器はありますとも」

 

 

舌舐めずりをする。

 

 

「"毒"ですよ。私には毒がある。蛇は蛇でも私は毒蛇。そこらの青大将とは違う。私の毒は強力です。既に何人かはその影響を受けてしまっている。そう、お姉様もその1人。そして、信玄さん。貴方もね」

 

「何が言いたい?」

 

「いいですかぁ。その低能な頭によくよく刻み込んで下さい。この世を最後に手に入れるのは、貴方のような武に強い方ではない。お姉様のように、頭のいい方でもない。サル関白のように、勇気溢れる方でもない。魔太閤のように、千里も見渡すような化物でもない。

最後に勝つのはこの私、蛇なんですよ♡

どんなに戦に勝とうとも、どんなに人を殺そうとも、どんなに策略を練ろうとも、どんなに歴史を作ろうとも!最後は毒が回って皆死んでしまうんです。そうして、あれよあれよとしている内に骸は積み重なる。その上にようやく立つのは、毒が回るのを待つに待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って!

天敵を全て排除した地を支配できる。毒蛇なんですよ。

その為ならば、何百年でも待ちますよ?

うひひひひひひひひひひひひひひひ!!!」

 

 

そうして家康は蛇のように信玄の頬を舐める。

 

 

「まずは最初の骸のできあがり。

さっさとおっ死ね。ばーーーか。

うひひひひひひひひひひひひひひひ!!!」

 

「下郎め」

 

 

その光景を廊下の昌幸らも見ていた。

 

 

「おのれぇぇ.....もう許さぬ!!」

 

 

刀に手をかけようとした昌幸を幸村が止める。

 

 

「落ち着き下され母上。今ここで暴動を起こせば、この講和は無かったものとされてしまう。それにここには曲者が多い。恐らくは服部の忍。出れば母上が死にまする」

 

「だが、この無念さはどうすれば.....」

 

「今は抑えてください。徳川家康はこの世にいてはならない大悪党です。その内、必ず天罰が下ります!ですから今は.....」

 

「それまで待つのか.....我らはなんと無力か」

 

「天罰を下すのは神だけではありません。きっとあの方が.....きっと.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、結婚式はようやく訪れる。

 

 

 

 




サブタイトル変更は決闘が予想以上に長引いたのが原因です。さて、次回は結婚式。和解した兄弟と、本性を現した家康。壊れていく信玄。無事に結婚式は迎えられるか?
次回予告
風林火山
〜疾きこと風の如し〜


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第九十二話 風林火山

作品が安定期に入ったので、更新ペースが早くなってきました。


「はぁ!?キリスト式ぃ!!?神前式でも仏前式でもなくか!!?」

 

 

式場を何処にするかという話し合いで、信玄が突然妙な提案をする。

 

 

「うむ。南蛮の者らが行うという結婚方式でやってみたいのだ」

 

「いやいや、お前は仏前式でなきゃだめだろ。"信玄"なんて法名も付けてんのに」

 

「だめ.....なのか?」

 

 

信玄が上目遣いでおねだりしてくる。涙ぐんでいて、かなり可愛い。

 

 

「駄目だ」

 

 

あっさり切り捨てられる。

 

 

「だって、俺がやなんだもん」

 

「我侭だな」

 

 

良晴が言う。

 

 

「だって俺、反キリストの総本山だし、何故だか教会の中って息苦しいし、宣教師どももウゼーし。てか、そもそも教会式が生理的にアレだし」

 

「じゃあ神前式にするのか?」

 

「ん〜。俺、今は日本の神とも対立しちまってるからなぁ.....なんか気不味いしなぁ」

 

「日本と西洋両方の神を敵に回してよく生きてられるな」

 

「どうせ俺は地獄の魔王様だよーだ」

 

「じゃあ仏前式か?」

 

「仏前式もなぁ。坊主に木魚叩かれながらするんだろ?なんか葬式みたいで味気ないし、縁起悪いし」

 

「お前もう結婚すんな!!!」

 

 

盛大に叩かれた。

 

 

「勝千代の好きな形式でいいじゃねぇか。だって.....もうこれが最初で最後になるかもしれねぇし.....」

 

「...........分かったよ」

 

「本当にいいのか?.....お前が嫌だと言うなら私も諦めるが.....」

 

「いいよ。宣教師とかは単なる言い訳だし。今度の主役はお前なんだから出来る限り善処してやる」

 

「おぉ、ありがたい!私も花投げとかが楽しみで仕方ないのだ!!」

 

「うわ〜〜デジャヴ」

 

「でじゃゔ?」

 

「いや.....昔、前のカミさんとちょっと.....あれは俺の黒歴史だったりして.....」

 

 

 

 

 

「あら?どんな黒歴史?」

 

 

 

 

 

「い"い"ぃぃぃ!!!?」

 

 

5mは飛び上がる天龍。

 

 

「なんてね、です」

 

「十兵衛かよ!!!」

 

「どうですか?似てましたですか!?」

 

「やめろよ〜.....心臓止まるかと思ったぞ」

 

「止まる気配の全くない心臓持ってるくせに、よく言うですね」

 

「もういいよ。どっか行けよお前」

 

「何がどっか行けですか!!身重の妻をほっぽいてあちこちで戦を起こして!やっと帰ってきたと思ったら結婚!!?ふざけるのもいい加減にしやがれです!!」

 

「おいおい。怒るのは胎教に悪いぜ?」

 

「五月蠅いDeath!!!」

 

 

空気が悪くなってきたので、良晴が口を挟む。

 

 

「十兵衛ちゃん、今は何ヶ月なんだ?」

 

「うぅ.....大体三月目ぐらいです。最近はつわりが酷くて酷くて.....もう辛いですよ」

 

「だから寝てろって言ってんだ!無理して堕胎なんかしたら離縁するからな!!」

 

「厶キーー!!!こんな旦那こっちから御免するです!!!」

 

 

そう言って部屋から出ていく十兵衛。

 

 

 

 

 

「仲いいな」

 

「どこが!!?」

 

 

信玄が謎の呟きをする。

 

 

「喧嘩してるうちは仲が良いと言うだろう。夫婦は会話がなくなった時点でもう終わりだろう。私の両親もそうだった」

 

「喧嘩してそのまま離婚しちゃ、元も子もないがな」

 

「んで、教会式でいいのか?」

 

「いいけど、何で突然それをやりたくなったんだよ?」

 

「いや、花投げがやりたくてな」

 

「そんなら花束やるから屋上からぶん投げてこいよ」

 

「.....天龍」

 

「分かったよ!!.....ブーケトスがいいのか?」

 

「あぁ、花投げをやってその花束を取れた者は次に結婚できるんだろ?」

 

「まぁ、そういう制度だな」

 

「たったその程度のことで"幸せ"というものを分け与えられるというのなら、是非そうしたいのだ。私はもうその幸せを得ることも、国の民に与えることもできぬ。だからこそ、私は最期にそれをやってみたいのだ」

 

「.....勝千代」

 

 

良晴が涙ぐんだ表情で言う。

 

 

「そっか...........そういうことならもうちょいお客さん呼ばなきゃな!流石に元武田の家臣団だけじゃ寂しいだろ。いっちょ連れてくっか!」

 

 

天龍が立ち上がり、何処かに向かおうとする。

 

 

「どっ、何処行くんだよ!?」

 

「ちょっくら飛んでくるよ」

 

「飛ぶ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

「おいおいおい.....」

 

「どうだ。いっぱい連れてきたぞ」

 

 

江戸城には各国の大名や名将が集まっていた。

 

 

「 ഞാന് എന്റെ കൊണ്ടുവന്ന ഞാന്!」

 

 

琉球からは尚寧王まで来ていた。

 

 

「何で自分まで連れてきたのよ!だって」

 

「いや、俺も人狼だから聞き取れてるけどさ」

 

「 အိမ်ထောင်သည်အတွက်ခင်ပွန်းခဲ့ဘယ်အ!」

 

「お前は更に酷くなってるな」

 

 

元薩摩大名、島津義久。

 

 

「何で結婚しちゃったのよダーリン!だってさ」

 

「だから聞こえてるよ!.....大坂で暮らしてて、標準語も練習してるくせに何で酷くなんだよ。ずっと薩摩に住んでる義弘の方がよっぽど綺麗な日本語だよ!」

 

「あれま、良晴殿。まんた結婚しもった?もう、姫さまに怒られたんほいならんですかい?」

 

「なんで長秀さんが薩摩弁になってんだよ!!」

 

「うふふ。冗談ですよ」

 

「冗談かい。でもちょっと下手だったよ?」

 

「いいお世話です!」

 

「ん?」

 

 

ふと良晴が視線を向けると遠くの方に、長宗我部元親と小早川隆景の姿を見かける。裏切った手前もあって気不味いのか、居心地悪そうにしている。

 

 

「あいつらとはまた今度だな」

 

 

争う理由がなくなった今、すぐにでも関係を修復する必要もない。今後ゆっくりと仲直りをすればいいと心で思う。

 

 

「だ〜ん〜な〜さ〜ま〜♪(怒)」

 

「げっ!!?」

 

 

隆景の隣りにいた、小早川秀秋が天龍の前に現れる。

 

 

「よっ、よう秀秋。げっげげげ元気だったか?」

 

「はいなのです。愛するテンお兄様に義妹をやめて妻にならぬかと言われ、歓喜して九州戦にて初陣を飾り、島津家久を討ち取る程の功績を見せ、いの一番に旦那様にお褒めいただこうと思った矢先!旦那様は九州平定直後に天竺に旅立たれ、秀秋は待ちぼうけ。帰ってきたかと思えば、ヨシ兄様と合戦。しかも秀秋は隆景お姉様の軍なので、憎き敵側に。必死にお姉様に寝返るように説得し、ようやくそれが叶い、愛する旦那様と共闘できると思った矢先に停戦。しかも、仲介人の武田信玄殿とヨシ兄様とで重婚。秀秋はまだ口約束だけで結婚式の話すらなかったのに、しかもその重婚を祝えと?それはそれはおめでとう御座いましたなのですよ?えぇ、はい。秀秋は元気なのです」

 

「本当に申し訳ありませんでした!!」

 

 

秀秋の存在をど忘れしていた天龍はその場で平謝りした。

 

 

「兄さん!元気?」

 

「おー!秀次じゃないか!あれからどうだ?人狼化の後遺症とかはあるか?」

 

「誤魔化すななのです!!!」

 

「はい.....」

 

 

天龍より強い秀秋。

 

 

「あっはっはっはっは!!!怒られてやんの!!浮気した数だけ修羅場迎えやがれ!!」

 

 

良晴が下品に笑う。

 

 

「と.....殿ぉ.....くすんくすん」

 

 

全身ボロボロで泥だらけの少女が近寄る。

 

 

「半兵衛!!?」

 

「太閤殿下の土砂崩れの罠から兵達を守る為に、自らの霊力全てを導入し、殿を含めた数多くの兵を救いました。兵達全員を脱出させた後、私も逃げ出そうとしましたが、唐突に霊力が切れてしまい、私は土砂に巻き込まれてしまいました。しかし、そこに丁度龍穴あったようで、土砂に含まてていた霊気が私に力を与えてくれ、なんとか脱出する事ができました。

皮肉ですね。自らが潰そうとしていた龍穴に助けられるなんて。そうしてやっと殿に再びお会いすることが叶ったかと思えば、殿は信玄殿とご結婚されるようで大変幸せそうで、幸せそうで。死にかけていた私は放っておかれ、存在を忘れられ.....

でも殿が幸せなら、私も幸せですよ。

くすんくすんくすん.....えぐっ.....」

 

 

やばい。マジ泣きしそう!?

 

 

「半兵衛!!俺がお前を忘れるわけないじゃんか!!ずっと心配してたんだぞ!?このイザコザが終わればすぐにでも迎えに行くつもりだったんだ!!」

 

 

そう叫びながら半兵衛を抱き寄せ、頭を撫でてやる良晴。

 

 

「ぐすっ、ぐすっ、えぐっ.....

嘘でも嬉しいです.....えぐっ、えぐっ.....」

 

「嘘なんかじゃないさ!!もう大好きだよ半兵衛ちゃん!!愛してる!愛しまくってる!!もう結婚しちゃいたーい!!ちゅっ!ちゅっ!ちゅっ!」

 

 

オーバーアクションで半兵衛の頬にキスをする。

 

 

「本当に兄と一緒でどうしようもない、下衆ね」

 

「確かに、浮気の数だけ苦労するようだな。あの男も」

 

「うっ.....」

 

 

信奈と信玄のジト目の視線に串刺される。

 

 

「あんたの気持ちがようやく分かったよ兄さん.....」

 

「お前と一緒にすんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、此度はめでたいのぉ信玄!」

 

「義輝様!?.....っ!」

 

「そのままでよい。辛いのだろう」

 

 

車椅子から無理に立ち上がろうとした信玄を気遣う義輝。

 

元足利幕府13代将軍、足利義輝。

 

 

「天龍の奴めが突然迎えに来た時には驚いたぞ!まさかぬしが結婚とはな!しかも重婚とはやるのぉ!」

 

「いえ!それは滅相もない!」

 

 

義輝は信玄の憧れの人物でもあった。上京に失敗し、とうとう再会する機会がなかったのが、こんな形で出会えて、本当に快く思える。

 

 

「病はどうなのじゃ?」

 

「えぇ、お陰様で今宵は身体も軽く、義輝様を見てさらに元気になれ申した!」

 

「それは何よりじゃ!」

 

「それと.....そっちは.....義元か?」

 

 

旧名、今川義元。桶狭間の戦いでの敗北後、一時はお飾りとはいえ征夷大将軍。さらには、足利義元として大御所まで登りつめた人物であるが、最愛の妹、今川氏真を失った悲しみで心を閉ざしてしまったのである。

 

 

「しょり〜しょり〜気持ちいいですね〜」

 

「うぅ、やめてくだされ姉上ぇ!」

 

 

虚ろな表情で隣りの小坊主の禿頭を撫でている。

 

 

「えっ!?足利義昭公!!?」

 

 

義昭は出家していた。毛利を使い、義元を倒して自分が将軍になろうとするも、天龍に拉致られ失敗。しかし、棚から牡丹餅で結果的に傀儡で将軍になれた人物。しかし、氏真を守れなかった天龍を敵対視し、出兵するも敗北して、強制隠居させられた。しかし最近、良晴の要請で再び出兵していたのだ。

 

 

「関白殿下の命とはいえ、また性懲りもなく出兵したからな。思い切って出家させたのだ」

 

「だからって髪まで剃らせることないじゃないではないか!髪は女の命なのじゃぞ!?」

 

「そうでもせんとまた出兵するじゃろう。全く、弱いくせに乱世だけは好きな奴じゃ。精々そのつんつるてんな頭を公開して猛省せい!」

 

「うぅ.....」

 

「つんつるて〜ん♪」

 

「だから触るでない〜!!」

 

 

義昭は半ベソで義元から逃げ回っていた。

 

 

「菊もやっとやっと回復したのだ。天龍に貰った槙島の風土が良かったのかもしれぬ。昔のようなおちゃらけていた頃のあの子に戻るのも時間の問題かもしれぬ」

 

「そうですね」

 

「全く、海道一の弓取りも酷い様ね」

 

「氏康!?」

 

 

元相模国大名、北条氏康。

 

 

「貴様、記憶が戻ったようだな?」

 

「お陰様でね。ご機嫌よう義輝殿」

 

「うっ、うむ」

 

 

関東に王国を作ることに拘っていた氏康にはあまり、義輝との面識はなかった。

 

 

「貴方、義元を不幸にしたら怒るわよ?」

 

「うっ、うむ。精進する」

 

 

元将軍にもこの態度だ。とはいえ、氏康もまた天龍の側室。義輝よりは立場は上だ。

 

 

「それよりさ、信玄。天龍どこか知らない?」

 

「あぁ、今は元妹を慰めているぞ?」

 

「あらそう。ちょっと用があんのよ。ちょっとあの茶人大名のことでね....じゃあごめん遊ばせ〜」

 

 

氏康が去る。

 

 

「では、拙者達は先に式場に向かってるよ。婚姻の式を楽しみにしているぞ!」

 

「あっ、はい!」

 

 

義輝達も去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりですね」

 

「おぉ、貴様か」

 

 

永遠のライバル。武田信玄と上杉謙信が対面する。

 

 

「痩せましたね晴信」

 

「逆にお前は太ったのではないか景虎?」

 

 

2人は互いを旧名で呼びあった。

 

 

「うふふふ。まさかこんなことになるとは.....豊臣秀長が大きな鉄の鳥に乗ってやって来た時には腰を抜かしたものです」

 

「飛行機と呼ぶらしいぞ?あれは」

 

 

天龍は小型ジェット機を乗り回すことで国中から各国の重鎮達を連れて来ていたのだ。

 

 

「貴方とも数奇な運命に結ばれたものですね。"六度"に渡る対戦を迎えたにも関わらず、結局決着はつかなかった」

 

「あぁ、五回も合戦したのに全然倒せずに近郊状態が続いた大国がだ。天龍が現れたと同時にすぐにひっくり返った。あれ程出し抜くのに苦労した相手が苦戦するのを見て、あぁこれはいけると思った矢先、私は奴めに裏切られて全てを失った」

 

「その彼と結婚するのはどこの誰ですかね?」

 

「ふふっ言うな。貴様も貴様だよ。奴の実子を知らぬ間に義妹に迎え、そのせいで奴の養子に成り下がったくせに」

 

「養子?.....あぁ、そういえば彼は私の義父でしたね。記憶から消していました」

 

「よく言うよ。妹可愛さに義父と戦うことを躊躇い、ズルズルと三年半も全く動けなかったくせに。まぁ、妹想いな点は共感するがな」

 

「それだけじゃない。私はきっと心の奥底で彼を恐怖していたのかもしれません」

 

「天龍を恐怖?」

 

「別に彼に殺されるのが怖いだとかの間の抜けた理由じゃありません。私は本来は死ぬ筈の存在でした。知っての通り、私は人間じゃない。鬼.....。母方が鬼の家系であり、私には生き別れた鬼の姉がいる。何度聞いても納得できず、耳を塞ぎ続けていました。でも、そうしているうち身体から魂が抜けていき、気づいた時には真っ白になっていた。何にもない無個性な女に。あぁ、私はこのまま死んでいくのだと思った矢先に現れたのが彼、豊臣天龍秀長。彼は私の命を助けた。やり方は強引だったけれど、少なくとも私は本来の姿になれた。自身の身体、生まれ、瞳の色。全てが嫌で、戦場でいつも頭巾を付けるだけだっただった私、閉じこもっていた私を引っ張り出した.....救世主と呼ぶにはかなり不釣り合いな奴。それが彼でした.....」

 

「貴様.....もしかして奴のことが」

 

「私は義を重んずる考えで生きています。その私が彼に義が無いとでも?」

 

「...........」

 

「この間.....姉に会いました」

 

「確か名前は...........松山主水」

 

「えぇ、それも偽名のようですがね。彼女との会話はほんの刹那。すぐに何処かへ消えてしまいました。.....でも、彼女は教えてくれた。本当の名前を」

 

「本当の名前?」

 

 

 

「あや.....綾と書いてあや。」

 

 

 

「ふ〜ん」

 

「その事を秀吉殿に伝えると、『あぁ、それは綾御前だ!』なんて申されて、何のことやら.....」

 

「良晴とはどうなんだ?ひょっとして、私が良晴と結婚すんのを知って妬いてんのかい?ん〜?」

 

「まさか。私と彼とはただの主君と家臣の関係。そのような下劣な感情は持ち合わせてはいませんよ」

 

「下劣とな。とわいえ、貴様程の人間が良晴の下に付くとはねぇ。いやまぁ、良晴が下等と言っているわけではないが、てかむしろ、上等な男子であるがな。私と違って貴様のような奴は良晴とは合わんと思っていたんだが?」

 

「さぁ、何ででしょう?」

 

「おいおい」

 

「ふふふ.....でも、彼もまた私には関係の深い方なんです。殻に閉じこもった私を無理矢理引き出したのが豊臣秀長で、そっと暖めてくれたのが秀吉殿。そういう簡素な関係なんです」

 

 

「もしかして貴様.....想い人両方を持っていった私に嫉妬しているのか?」

 

 

「........口が過ぎますね。悪い口はここですか?」

 

 

謙信は信玄の両頬を抓って引っ張る。

 

 

「いひゃい!いひゃい!やめへふへ〜!!」

 

「変なことを口走るからですよ」

 

「うぅ.....貴様、想像以上に面白い奴になったなぁ。昔とは大違いだぞ?」

 

「えぇ、だいぶ変わりましたよ。私の性格も、この時代も.....」

 

「だな」

 

「たった2人の青年が全て変えてしまった。因果なものですね。歴史というものは.....」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真田幸村が大泣きしながら信玄に近寄る。

 

 

「えぐっえぐっ.....姫しゃまぁぁ!おめでとう御座いましゅぅ」

 

「おいおい幸村。めでたいのに何故泣くのだ?お前はこれからも旧武田の軍勢を背負っていくのだぞ?それがこんな泣き虫でどうする?お前は亡き我が妹、信繁の名も継いでいるのだ。良き大将となれ!」

 

「はぁい!!」

 

 

続いて真田昌幸。

 

 

「姫」

 

「昌幸。お前は私の本当の親友だった。これからも母として幸村を支えてやってくれ」

 

「うぅ.....勝ちゃん.....」

 

 

山県昌景。

 

 

「姫さま」

 

「三郎、お前は可愛いんだからは背の高さは気にしなくても、いい男はお前を放っておかないだろう」

 

「はっ、はい!」

 

 

馬場信房。

 

 

「ひめさまぁ。わたしもうれしゅうございます」

 

「お前は身体の大きさも相まってよく怖がられるが、私はお前の個性も含めて好きだった。武田家の良き盾となってくれた。ありがとう」

 

「ひめさまぁ」

 

 

高坂昌信。

 

 

「姫さま!結婚なんていいです!私と一緒に隠居先へ逃げましょう!」

 

「弾正、お前の退却戦は本当に一級品なのだ。だからその臆病な精神を鍛えて、次の主君のもとでも精進しておくれ」

 

「うえぇ.....」

 

 

内藤昌豊。

 

 

「姫さま。私は一度姫さまを裏切ってしまいました。そんな私がこの最後の挨拶の場に呼んで頂けるなんて.....本当に嬉しゅうございます!」

 

「.................あっ.....あぁ、ありがとう修理」

 

「っ!?.....姫さまが名前を覚えてくれた!本当に!本当にありがとうごいまするぅ!!」

 

(ぶっちゃけ忘れてたけど、ちゃんと思い出せてよかった)

 

 

武田逍遙軒。

 

 

「姉上.....」

 

「孫六。影武者として長年、よく務めてくれた。もう危険な影武者として生きなくてもよいのだ。これからは1人の人間、孫六として生きておくれ」

 

「はい.....」

 

 

武田四郎勝頼。

 

 

「姉さま」

 

「四郎、とうとうお前に私の天下を見せてやることは叶わなかった。元は赤の他人であった其方を無理に妹に迎え、私の都合で振り回してしまった。本当にすまなかったと思う」

 

「姉さま。四郎は姉さまに拾われて不幸に思ったことは一度だってありませぬ。今まで姉さまと一緒にいられて、四郎は本当に幸せだったですよ」

 

「ありがとう..........幸村、四郎を頼む」

 

「はい!これからは勝頼様を主君として!姉として!いずれは武田の家督を正式に譲れるよう、精進致します!」

 

「......まぁ、お前がそのつもりならそれでもいいか」

 

 

全てを幸村に譲ってよいとも考えていた信玄でもあった。

 

 

「「「うぅぅ.....」」」

 

「おいおい、何故皆泣くのだ?葬式じゃあるまいて。私はまだ死んでおらんぞ?」

 

 

家臣達も察していた。信玄がもう永くない事を。

 

 

「私はそんななよなよとした家臣を持った覚えはないぞ?我が家臣団であれば豪快に笑って主君を送り出せい!!」

 

「「「はっ、はい!!!!」」」

 

 

応えを受け、信玄は微笑する。

 

 

「さぁ!いよいよ挙式だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、べっぴんさんだべっぴんさん!」

 

「親父臭ぇ感想だな」

 

「美しいものを美しいと言って何が悪い?変な言い回しでもすればいいのか?.....あぁ、君はなんて丹頂のように切れ長で、水辺に舞い降りた女神のように神々しいのだ〜.....しゃらくせぇ!真に美しいものを見た時には、美しいという言葉しか出ないくらい余裕が無くなんだよ!!」

 

「あぁ!悪かった悪かった!俺が余計なこと言ったよ!ったく、ベラベラ喋るオッサンだこと!」

 

「これ、新郎同士で喧嘩するでない」

 

 

信玄は、絹のウエディングドレスを着ていた。化粧もし、この日の華となっていた。

 

 

「ってか、本当にそれ被んのか?蛇足というか、むしろドレスに不釣り合いで台無しな気がするんだがよう?」

 

「まぁ、勝千代らしいっちゃ勝千代らしいけどさ」

 

 

信玄はウエディングベールの代わりに、武田信玄のシンボルでもある大兜を付ける気でいた。

 

 

「改造させたものだから軽いだろうけどさぁ.....やだな〜。頭から角生えた嫁さんと結婚すんの」

 

「この兜は私の、武田信玄の存在そのものなのだ。だからこそ、これが私なんだというものを証明したいのだ」

 

「ん〜。まぁいっか。主役はお前なんだし、好きにするといいよ。ただ、誓いのキスの時には邪魔になるし外すからな?」

 

「きす?それは接吻のことか?なんと!南蛮の結婚式では大勢の客の前で公開接吻するのか!随分と大胆だな!」

 

「知らなかったのか.....メインイベントなのに」

 

「そうだ、肝心なことを忘れてた!引渡し役は誰にする?通常は花嫁の父が務めるのだが.....」

 

「あぁ.....父は数年前に逝った。母も幼少時に」

 

「私が務めましょうか?」

 

 

昌幸が話を聞きつけてやって来る。

 

 

「おぉ!お前なら適任だ。是非頼む!」

 

「このしがない引率で宜しいならば」

 

「うし!全部準備は終わったな。良晴。俺達は先に礼拝堂で待ってよう」

 

「そういや、ドラキュラ城の中に礼拝堂があるというツッコミをするのを忘れてたぜ」

 

「一応、サタン教の創始者なんでね。飾りのつもりで作ったが、こんな事に役立つとはとても思わなかったよ。ほら、行くぞ」

 

「へいへい」

 

「天龍、良晴」

 

「「ん?」」

 

「私の最期の我侭に何から何まで付き合ってくれて、とても感謝している。2人を愛おしく思うぞ!」

 

「いいってことよ!俺らは美少女には優しいんだぜ?」

 

「そうそう天龍の言う通り。俺だって勝千代の為だったら鼻からスパゲッティ食べることだって厭わないんだぜ?」

 

「じゃあ食うか?鼻でスパゲッティ」

 

「いや、冗談だから」

 

「かかかっ!!」

 

「へっ!」

 

 

新郎2人が笑いあい、信玄はそれを穏やかに見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!?」

 

 

礼拝堂の前に車椅子が止められ、入場をまで待つ時間。この瞬間に異変は起きた。

 

 

「ゲホッゲホッ!!!ゲホッゲホッゲホッ!!!」

 

「姫さま!!?」

 

「ゲホッ!!あっ、案ずるな。ただの咳だ!ゲホッゲホッゲホッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前。

 

 

「いいですか?薬の効果があるのは三刻(6時間)だけです。それが過ぎれば、貴方様はもう.....」

 

 

信玄の主治医、曲名瀬玄朔が言う。

 

 

「ゲホッ!!ゲホッゲホッゲホッ!!!.....頼む。きょ、今日だけでも身体が保てばいいのだ。せめて今日だけでも.....」

 

「..........」

 

 

玄朔は黙って薬を渡す。

 

 

「強力な薬です。ひょっとすればもっと早くに効果が切れるかもしれない。効果が切れたら.....貴方様の身体は反動にきっと耐えられないでしょう。それでも飲みますか?」

 

「ゴクッ!」

 

 

返事を待たずして信玄は薬を飲んだ。

 

 

「これで.....これでいいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薬の効果が切れた。絶え間ない激痛が信玄を襲う。

 

 

(まっ、まだだ!!!まだ逝くわけには!!!)

 

 

 

『新婦ご入場!!』

 

 

 

アナウンスが入る。そして、礼拝堂の扉が開く。

 

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

 

意識も朦朧とした信玄が前に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは。

 

 

 

父、武田信虎だった。

 

 

 

「父.....上.....?」

 

 

 

隣には

 

母、大井の方。

 

 

「母.....上?」

 

 

 

父も母も穏やかな表情で迎えてくれた。

 

 

 

 

『姉上.....』

 

 

 

 

 

信玄の右手を誰かが握った。

 

 

「次郎.....?」

 

 

信玄の亡き妹、武田信繁。

 

 

 

 

『姫さま.....』

 

 

 

 

左手もまた握られる。

 

 

「勘助.....?」

 

 

信玄の軍師、山本勘助。

 

 

「あぁ.....」

 

 

 

バージンロードをみんなが一緒に歩いてくれる。痛みで苦しんでいた自身を和らげるように.....

 

 

 

「.....勝千代」

 

「勝千代!」

 

 

 

祭壇前の天龍と良晴が優しく呼びかけてくれる。

 

 

 

「あぁ.....私は.....」

 

 

 

 

 

 

なんと果報者であろうか。

 

 

この世に神という者が本当にいるのであれば感謝しきれぬ。

 

 

戦国大名として生きて、多くを殺し、多くの不幸を生んできた私には過ぎたる幸運。

 

 

この武田信玄。最期に極楽を見つけたり.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 大ていは 地に任せて 肌骨好し

紅粉を塗らず 自ら風流 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝千代?」

 

「おい、勝千代?」

 

 

 

 

祭壇前まで来た信玄。だが、返答は既になかった。その表情は赤子のように穏やかに固まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武田信玄、死去。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で一度、この章を占めとします。
最終回ではありません。
次回予告
講和の後始末
〜天龍と良晴の選択は?〜


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第九十三話 講和の後始末

すいません。今回で終わりじゃありませんでした。次回で章末です。


信玄が礼拝堂前にて咳づく頃、一方の祭壇前。

 

 

「いや、すまんな。またお前の世話になる」

 

「いえいえ。天龍さん、良晴さんと結婚式を担当してきましたが、やはりこれほど誇らしげで嬉しい役目は他にありませんから」

 

 

牧師兼シスターは元宣教師ルイス・フロイス。今はポルトガルの駐日大使を勤めている。

 

 

「また胸膨らんだんじゃないのか?どれ、ちと触診を..........げっ!?」

 

 

天龍がふと振り向く、そこには拳銃の銃口を向ける十兵衛、孫市、氏康、嘉隆、元親、信奈が!奥さんズ+@に銃口を向けられてるではないか!?

 

 

「冗談冗談!...........って長親まで!?」

 

「いやぁ〜.....なんかぁノリで」

 

「怖い怖い。腐っても魔太閤の妻たちだ」

 

「「「誰が腐ってるですって!!?」」」

 

「ひー」

 

「はっ!いい気味だぜ!」

 

「ほほう良晴くん。君が抱いてるのは誰かね?」

 

「へ?」

 

 

良晴の胸の中には半兵衛が。

 

 

「結婚式当日に浮気とはいいご身分だー」

 

「いやっ!?これは!!?」

 

 

すると、今度は良晴に銃口が向けられる。しかも、良晴の側室や愛人も追加されているので、倍の数になっている。武田家臣団からも殺意が向けられている。

 

 

「シム。やれやれな関白だね」

 

「そういいつつ、お前も拳銃向けてんじゃねぇか!」

 

「殿ぉ.....」

 

 

半兵衛は戦疲れと泣き疲れで、半分眠っていた。

 

 

「お二人共"モテモテ"というやつですね」

 

 

フロイスが言う。

 

 

「そんなお二人のHeartをお掴みになられた信玄さんはさぞ、素敵な御方なのですね!」

 

「いやぁ、半分は政略結婚だからなぁ」

 

「すると、この結婚にLOVEは無いのですか?」

 

「もちろんある。俺は勝千代を愛している」

 

 

天龍は迷いなく答えた。すると、良晴が微笑しながら続ける。

 

 

「勝千代とは初対面の時から感じるものがあった。史実では途中退場しちまう武田信玄が、まるでそれを感じさせない程に豪快に生き、この世を駆け巡っていた。思えばあの頃から惚れてたのかもな。だからこそ、俺も必死になってあの子を死の運命から救ったんだ。今だってそうだ。病弱にも関わらず、この講和を買って出た。こりゃ負けたなって思ったよ」

 

「ふふっ、誰が奴を嫌う?勝千代程自身の道を真っ直ぐに通す女子いるまい。そのブレない姿勢も、行動も、容姿も全部、俺にはドストライクだったね」

 

「..........素敵なお話の途中ですみませんが.....」

 

「「うぇっ!!?」」

 

 

両方の奥さんズが般若の面相で殺意を向けてくる。一方で武田家臣団は納得したらしく、うんうんと首を縦に振る。

 

 

「結婚って面倒臭いな」

 

「お前がそれを言うのか!?」

 

「かかかか...........さて」

 

 

 

 

このような茶番にも一切の反応を見せない連中がいる。それがこの戦争が激化した原因の一つ、過激派の連中だ。

 

 

 

 

「果てさて、どうしたもんか」

 

 

形式は講和のための政略結婚の為、その席も良晴側と天龍側とで別れている。右が天龍側で左が良晴側だ。まさに右派左派の論争だな。ちょっと違うか?

前の席に座る者らは、本気でこの結婚式を祝い、平和を求む者達。主に織田信奈や明智光秀、武田家臣団達だ。

真ん中に座るのは、結婚式自体に興味はないが、この戦争におけるやる気を無くし、穏便に済ませたい者達。主に長宗我部元親や小早川隆景らだ。

そして後ろの席。そもそもこの結婚式を呪い、すぐにでもぶち壊したい者達。過激派だ。

主なメンバーとして、良晴側は、前田利家、福島正則、加藤清正、伊達政宗、島津義弘、池田恒興。

天龍側は、佐々成政、津田信澄、蒲生氏郷、大友奈多(宗麟が不在な為)、筒井順慶。

 

 

「良晴」

 

「.....うん」

 

 

良晴に視線を送る。やはり同じ考えらしい。

信奈らが当然のように銃器を持ち込んでいるように、連中も隠し持っているだろう。規制した所で反論されるのは目に見えていた。中には信玄の暗殺を狙う者もいるだろう。信玄が死ねば再び乱世に逆戻り。そういう契約で講和したのだ。問題点は、彼らを一概に処罰できない点だ。

何故なら、天龍と良晴こそが戦争を始めた張本人であるから。

2人の独断で停戦させることができても、処罰はできない。戦争を続けようとすることを罰せられるようにするのならば、そもそもの原因である2人まで裁かなければいかなくなる。それを押し切って無理に処罰すれば、家臣達はもう二度と我々を信用しなくなるだろう。そこの調節が極端に難しいのが現状。今はイタチごっこをやっている暇はない。日本国が正規の国家として他国に認めさせる為にも、一早くの完全統一が必要なのだ。

 

 

「その為の結婚式だ」

 

 

そう、これはただの政略結婚ではない。日本がまた割れるか統一されるかを決定付ける重要な大儀式であるのだ。お前が未だ列記とした最強戦国大名、武田信玄であることを示し付け、馬鹿な連中を震え上がらせてやれ!頼むぞ勝千代。

 

 

 

『新婦ご入場!』

 

 

 

アナウンスと共に礼拝堂の扉が開かれ、此度の主役の花嫁、武田信玄が入場する。

 

 

「...........」

 

 

勝千代は至極穏やかな表情をしていた。今日という日をあれだけ楽しみにしていたのだ。さぞ満足であろう。

 

 

「.....勝千代」

 

「勝千代!」

 

 

優しく語りかけ、それと同時に良晴も声を出す。勝千代もまた朗らかな表情で返してくれる。

 

 

「さぁ.....決めてやろうぜ武田信玄」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祭壇前に到着した勝千代。だが、様子がおかしい。

 

 

「勝千代?」

 

「おい、勝千代?」

 

 

こんな時に眠っているのか?呑気な奴だ.....いや。

 

 

「...........まさか!?」

 

 

急に天龍が青ざめ、勝千代の首筋に手を当てた。

 

 

「.....やはり!.....玄朔!玄朔!!」

 

「はっ!」

 

 

霧の如く現れる曲名瀬玄朔。

 

 

「頼む」

 

「.....はい」

 

 

彼女は既に予感しているようであった。脈、鼓動、呼吸、瞳孔を調べる玄朔。暫く経って、彼女は振り返った。

 

 

「ご臨終です」

 

「..........」

 

「薬の効果がこんなに早く切れるとは.....」

 

「薬?」

 

「私が調合した薬です。病の苦痛を後にズラすことによって、苦痛を和らげていたんです」

 

「馬鹿が!なんてものをあいつに渡したんだ!!」

 

「えっ?」

 

「勝千代はあのままでも3日くらいは生きれたのだ!多少、苦痛があろうとも、結婚式さえ乗り切ってしまえば、3日もあれば講和なんていくらでも操作できたのに!!」

 

「そんな.....!?」

 

 

玄朔は己の早とちりを呪った。

 

 

「そんな.....嘘だろ!?」

 

 

良晴が激しく動揺する。無理もあるまい。だが、問題は観客たちの方だ。

 

 

「嘘です!!姫さまぁ!!!」

 

 

幸村が激しく泣きじゃくる。他の武田家臣団も同様であった。

 

 

「そんな.....馬鹿な」

 

 

宿敵の死に、上杉謙信は落胆した。

 

 

「天龍.....」

 

「良晴.....」

 

 

たった今、結婚相手を失った2人を羨む声を、十兵衛と信奈があげる。

 

 

「なんと.....哀しい定めなのだ」

 

 

義輝もまた、信玄の死を悔やむ。

 

 

「これは.....なんとまぁ...........ぷくくく」

 

 

家康は影で笑いを堪えた。

 

 

 

 

だが、問題は後ろの連中だ。

 

 

 

 

「死んだ!!武田信玄が死んだぞ!!」

 

 

過激派連中の誰かが歓喜の声を上げる。それに呼応するように周囲も大声で喜び合うのだ。

 

 

「手前ぇら.....!!」

 

 

良晴はワナワナと震える。

 

 

「これでこの茶番も終わりです!今すぐにでも再戦しましょうぞ!」

 

 

天龍側の人間が言う。

 

 

「関白殿下!あんなゴミ連中なんぞはさっさと滅ぼしましょう!後々の弊害になるだけです!」

 

 

良晴側の人間が言う。

 

 

「どっちも屑ね」

 

「害悪はどっちだかです」

 

 

信奈と十兵衛が呆れた声をあげる。

 

 

「貴様ら!言わせておけばぁ!!」

 

「戦争主義の異常者共め!!」

 

 

武田家臣団からは怒りの声があがる。

 

 

「...........」

 

 

連中の主君でもあった元将軍足利義輝は目を瞑り、黙っている。

 

 

「ふっ.....」

 

 

天龍はふと微笑した。そして.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、諸君らに問おう。戦争を起こして、その後はどうするのだ?」

 

 

信玄の死に落胆し、塞ぎ込んでいた天龍がふと立ち上がり、天龍軍の将と良晴軍の将の間で質問をする。

 

 

「我が太閤軍が勝てば、再び荒れた日ノ本を再統一できる。関白軍が勝てば、この俺手動の天下を奪い取り、良晴手動の天下にできる。それが双方の目的。そうだろう?」

 

 

どちらの者達もそうだと頷きあう。

 

 

 

 

「よくもまぁ、そんな戯れ言が吐けるものだ」

 

 

 

 

天龍はそれを一蹴した。

 

 

「もし本当にそうならば、どちらも望むのは平和な世のはず。なのに、何故貴様らは戦争を望む?双方に多数の被害が出る事が分かっているはずなのに、何故また乱世を望むのだ。これは私と良晴個人の問題、貴様らには関係ないだろう?私達の和睦に反対し、再度対立を望むのは一体何故なのだ?」

 

 

その問いに、連中は答えを渋った。

 

 

「答えは簡単だ。自身の領地を増やしたいからであろう。天下が統一され、各々の領地が確立してからは、国内で戦争でも起きない限りは領地を増やす機会がない。だからこそ貴様らは戦争を望む。自身の私欲の為に、多くの民の不幸を望む。情けない。この私の失態も含めて非常に憎らしい。そんな部下など.....」

 

 

天龍はふと謎の薬瓶を召喚する。

 

 

「ちょっといいですかい?」

 

「.....斎藤龍興?」

 

 

斎藤道三の孫にして義龍の息子の斎藤龍興。織田家の美濃統一後、斎藤家残党の龍興は各地に放浪していた。その過程で近衛前久、土御門久脩に拾われ、当時の天竜を追い詰める為の捨て駒にされた。雑魚程度にしか見ていなかった天竜は軽く脅して家財一切を没収し、放り投げてしまったのだ。

その後天竜が天下統一した際に、ちゃっかり降伏し、名目上は津田信澄の家臣として存在していた。どうやら信澄謀反にも一枚噛んでいるらしい。

 

 

「何をおっしゃられるのですか。我々は只々、殿下の国造りの少しの助けになればとの思いで行動を起こしているのです。そのようにおっしゃられては、我々が惨めではありませんか?」

 

「ほう?」

 

「殿下はただ御命令をなさるだけで良いのですよ。憎き関白軍の連中を駆逐せよと。我らは殿下の槍となり盾となりまする。さぁ!今一度ご命令をば!ただ戦をしろとおっしゃればよろしいのです!」

 

「.....命令?...........いいだろう。くれてやる」

 

「はい!なんなりと!」

 

 

 

「爛れろ」

 

 

 

「へっ?」

 

 

天龍は手に持っていった小瓶の中身を龍興にぶちまける。

 

 

「い"い"っ!!!?」

 

 

その液体がかかった瞬間、龍興の表面が溶けるように燃え上がった。中身は硫酸だったのだ。

 

 

「お"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁがががががががががががががががぁぁぁ!!!!!!?

 

 

その場で悶え苦しむ龍興。だが、その劇薬の強力な酸は龍興の顔面の皮膚を抉るように溶かしていく。

 

 

「ひぃぃぃ!!?」

 

 

隣にいた信澄が恐れ慄く。それは他の家臣たち、良晴の家臣たちも同様であった。

 

 

「誰にものを言っているのだ、この身の程知らずが。貴様のような下劣な存在がよくもこの私に口を出せたものだ。貴様らに任せろだと?この国は私のものだ。どうするかは私が決める。貴様ら駒はただそれに従い、動き、死んでゆけばよいのだ。駒が主人にしゃしゃり出るなよ」

 

「なんだとっ!...........うっ!?」

 

 

天龍の家臣がたまらず立ち上がるが、再び召喚された小瓶を突きつけられ、動揺する。

 

 

「どうした?何か言いたいことでも?」

 

「くっ!!」

 

「重ねて言おう。この国は私のものだ。この国を平和な世にしようが、乱世の頻発する不毛の世にしようが、全て私の勝手だ。逆らうことなど許さぬ。もし、それを阻む者がいるならば、何人足りとも、それを生かしてはおかぬであろう。.....それがもし、私の家臣であったのならば」

 

 

天龍両手に大量の小瓶を次々と召喚する。

 

 

「自軍の粛清に、私は一体何本の瓶を使えばよいのやら?」

 

 

極めて邪悪な表情で、彼は言う。それは天龍の家臣達を真から震え上がらせる脅迫となった。

 

 

「それがその男の本性だ!」

 

 

誰かが叫ぶ。それは良晴軍側の兵。池田恒興。賤ヶ岳の合戦の際、天龍が佐々成政に調略を命じていた姫武将である。元々2人は織田家臣時代から大変仲が良かったのだが、天龍良晴といった若い男子に見初められ、次第に恋慕をするようになる。そうして、佐々成政が通称"テン派"。池田恒興が"ヨシ派"となった。

話は戻るが成政の調略。これは結果的には大失敗に終わる。恒興は良晴に付くことを心に決め、成政と決別したのだ。それを逆恨みした成政もまた恒興を敵対視し、それが今回の過激派に繋がったそうな。

始めは恋話の一貫としての派閥が、日本を揺るがす大戦争に繋がる対立に発展しまうとは、何とも皮肉な話である。

 

 

「奴こそ私欲の為だけにこの日の本を天秤にかける魔王だ!奴をのさばらせておけば、いずれ破滅を呼ぶ!」

 

「キツいなぁ〜。成政と一緒に身体を重ねた仲ではないか。なっ、恒ちゃん?」

 

「黙れ!外道め!!」

 

 

恒興は懐から拳銃を取り出し、天龍に向ける。その時!

 

 

「むっ!?..........きゃっっ!?」

 

「誰がそんな命令出した?」

 

 

祭壇前から高く跳躍してきた良晴が恒興の持つ拳銃を蹴り上げて掴み、そのままその拳銃の銃口を恒興の額に突き付ける。

 

 

「誰がこんな命令を出したのだ!!」

 

「ひっ、ひいぃぃぃっ!!?」

 

 

恒興がまるで鬼でも見たかのように怯える。その通り、今の良晴の表情はまるで般若のそれであった。

 

 

「この俺の顔に泥を塗るつもりか?勝手は許さない。次、何かしてみろよ恒興.....」

 

 

その彼なしからぬ行動に、彼の家臣達は息を呑む。

 

 

「"ぶち殺すぞ.....ごみベラ"」

 

 

そう言い放った。

 

 

「もっ、ももも申し訳ありません!!!」

 

 

恒興は泣きながらその場で土下座する。良晴のこの行動には家臣達は疎か、信奈らも驚愕させる。優しかった彼があんな暴言を、ましてや女子に対してするなど、考えられなかったからだ。

 

 

「ふふっ.....」

 

 

その光景を見て、天龍はふと微笑した。

 

 

「それはそうと。今は式典の最中だ。騒ぎ出さないでもらおうか?」

 

「「「えっ!!?」」」

 

 

これには良晴も驚く。

 

 

「ちょっと待って下さい!武田信玄はもう.....」

 

 

佐々成政が尋ねる。

 

 

「私は武田信玄と結婚するのだ。彼女がどのような状態であるかは問題ではない。武田信玄は没しようとも武田信玄。すると何か?没した今、それはただの肉か?」

 

 

既に絶命した彼女の遺体を指差す。

 

 

「そっ、それは.....」

 

 

答えなど、始めから決まっていた。

 

 

「武田信玄殿です.....」

 

 

こう答えなければ殺されていただろう。

 

 

「宜しい。フロイス、続きを頼む」

 

「はっ、はい!!」

 

「天龍.....」

 

 

良晴も仕方なくそれに従う。

 

 

 

この前代未聞の結婚式は、信玄の遺体との結婚という形で幕を閉じることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

江戸城、屋上。

 

 

「「すぅー..........ふぅ〜.....」」

 

 

全てを終わらせ、一服付く二人。

 

 

「結局こうなっちまったか」

 

「仕方ねぇよ。まさか勝千代が.....あんな」

 

「言うな。分かっている」

 

 

勝千代の死は二人に大きな衝動を与えていた。

 

 

「ふっ、それにしてもあれはねぇだろ。いきなり家臣に硫酸ぶっかけるなんてよう」

 

「命あるだけの物種というものだ。お前の方こそ、女子にごみベラはねぇだろ。ごみベラは」

 

「ははっ、あん時は頭に血が登っちまって無意識にやってたよ。恒興には悪いことしたな」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃっひゃひゃは!!!

それでこそ貴様らしいというものだ!!」

 

「ふんっ」

 

 

 

「"勝千代は俺らの中で生きている"」

 

 

 

「えっ?」

 

「この事態を収集するのに相応しき言葉だ。ちと、古いがな?

講和の条件は『武田信玄の存命中』だっただろう?どのような形での存命かは明記されていないわけだ。だから、俺達が勝千代を想い続ける限り、武田信玄は不滅。講和は続くわけだ。本当なら、結婚式も無事に終った後、勝千代が息絶えた後の始末として考えていたものだが、これくらいの独裁も、たまにはよかろう?」

 

「てっ、天龍!」

 

 

良晴が尊敬の眼差しを向ける。

 

 

「それでいいよな.....勝千代」

 

 

空に向かってそう告げた。彼女はきっと笑顔で応えてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話は変わるが....."方仁"はどこか知ってるか?」

 

「方仁?」

 

「その.....陛下だよ」

 

「あぁ.....」

 

 

姫巫女こと、日の本第106代天皇、正親町天皇。その諱は方仁。天龍良晴双方の味方であった人物だ。

 

 

「さぁ、知らねぇな。合戦始まる前に会って、それきりだぜ?」

 

「そうか..........陛下が攫われた」

 

「はっ!?.....何の冗談だよ!!?」

 

「公家連中を眷属にして、口封じしたせいもあるようだな。陛下は御所から連れ去られたよ。何者かの手によってね」

 

「何でそれを早く言わないんだ!!?言ってくれれば、すぐに探し出せたのに!!」

 

「お前はブチ切れていきなり戦争おっ始めるくらい不安定だった。俺がなんと言おうと聞く耳持たなかっただろうさ」

 

「そんな.....そんなのって」

 

「最後に会って、陛下と何を話した」

 

「俺が合戦を起こすって言ったら応援してくれたんだよ。それで.....」

 

「馬鹿野郎!!!」

 

「えっ!?」

 

「いいか!?陛下はこの日本中の誰よりも戦争を嫌ってるんだ。いくら天下泰平の為とはいえ、殺生の伴う戦争には否定的だった。俺の出陣にも、陛下は表では支持しつつ、裏では訝しげな心情であらせられたのだ!!その陛下が戦争を応援するなど!!.....あいつが認めるなど、断じてあり得ない!!!」

 

「じゃ、じゃあ!!俺が会った陛下は一体誰なんだ!?」

 

「知るか。操られた方仁という線もあるが、1番考えられるのは幻覚か変装で化けた別人だよ」

 

「そん.....な」

 

 

良晴は彼女こそ方仁と思い込み、彼女が天龍の子を身籠っている話を信じ、彼女の頼みともあり、"彼女を抱いた"。その、天皇と名乗った、全くの別人を、良晴は方仁と思い込んで抱いた。

そう思った瞬間、猛烈な吐き気が襲ってきた。

 

 

「んま、それは貴様の自己責任だ。どんな醜女と一夜を共にしていようと、知ったこっちゃない。問題は本物の方仁方だ」

 

「あっ、あぁ.....」

 

「犯人はザビエル連中だよ」

 

「あぁ、何となくそんな気がしていた」

 

「今の俺には、奴らと繋がる唯一のコネクションが貴様なのだ。だからこそ、方仁救出には貴様の尽力が必要不可欠となる」

 

「あぁ、全ては俺の責任だ。陛下を助けられるよう、頑張るよ」

 

「頑張る.....か。実に貴様らしい」

 

「それでも、俺とあんたがまた共闘とはね。対立してた期間が長かったせいか、不思議な気分だよ」

 

「いやいや、貴様も随分と自分勝手だな。一方的に対立し、殺意を向け、気が済んだら許して、仲直りからの共闘しようか。やれやれだな」

 

「それに至るまでの原因を故意に作ってたのは誰だよ」

 

「かっかっか」

 

「へへっ」

 

 

 

 

 

 

「ふぅ...........言わなきゃ駄目だな」

 

「何がだ?」

 

「今だからこそ言わなきゃならない真実だ。今の貴様はそれを知れる立場にある」

 

「だから何だよ?」

 

「"勝千代の死因さ"」

 

「っ.....!?」

 

「当然、ただの病死ではない」

 

「あぁ、アマテラスっていう神様がかけた呪いだろう?そいつがあんたを精神的に追い詰める為に、勝千代の死に関する歴史の強制力を無理矢理に引き起こしたって.....」

 

 

良晴は間接的に教えられた情報を話す。

 

 

「あぁそうだ。これは神の呪い。半人半神に過ぎない俺には到底敵わぬものであると.....少なくとも"当時それを知った天竜はそう思い込んでいたよ"」

 

「.....は?」

 

「記憶の制御と暗示によってそう思い込むように誘導されていた。だから真実にも気付けなかったし、治すこともできなかった」

 

「おい、どういうことだよ!?」

 

「朧との融合で全て思い出したよ.....」

 

「まっ、待てよ」

 

「勝千代を殺したのは.....」

 

「言うな!聞きたくない!!」

 

 

それを確信していた良晴は聞く耳持とうとしなかった。せっかく信用した彼にまた失望することとなるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝千代を殺したのは俺だ」

 

 

 

 

 

 




またかよ!って思うかもしれませんがご付き合い下さい。次回はなるべく早く上がらせます。
次回予告
12年前のできごと
〜男と少女と怪物と〜


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第九十四話 12年前の出来事

早くに投稿するとか言って、全然できませんでした。
全ては艦これのイベントが重なったせいだ!
そうに違いない!٩(๑`^´๑)۶


江戸城。夕日が差し掛かる頃の屋上。地べたに座り込み、葉巻を吸う天龍と、彼の後頭部に拳銃の銃口を突き付ける良晴の姿があった。

 

 

「言え.....何があった?」

 

「俺が勝千代を殺した。これ以上に言うことがあるのか?」

 

「理由を言え!!あんたのことだ!どうせ何か理由があってそうなってしまったに違いない!」

 

「俺が個人的に勝千代が気に食わなかったんだ。それと、勝千代の死が俺に個人的利益をもたらすからだ」

 

「ちっ.....!」

 

 

良晴は拳銃を振り上げ、グリップで天龍の頭を殴り付けた。

 

 

「ぐっ.....!」

 

「そんな嘘で誤魔化し切れると思っているのか?真実だけを早急に述べろ!」

 

「..........分かった」

 

 

頭部からの流血を拭うこともなく、天龍は語り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から12年前の話だ。ワラキアで大敗した俺は、前から目をつけていた日本に亡命したんだ。だが、すぐにでも反撃する気でいた。だがそれには兵が、軍がいる。そこで俺は戦国時代であった日本を統一し、その日本軍を使って連中にリベンジするつもりだった。

そこで目をつけたのが武田家。当時の当主は武田信虎。勝千代の父だった」

 

「武田.....信虎?」

 

「流れは安土城の時と同じだよ。信虎の遠征中に甲斐を占領。それを取り返そうとしてきた武田軍を単身で蹴散らした。当時はまだ吸血鬼の力がバリバリ使えたからな。ワラキアでの力の枯渇もあったが、相手が人間なら全く問題はなかった」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「往生際が悪いな武田信虎。貴様はこの私に負けた。さっさと軍を明け渡せ!」

 

「ふざけるな妖怪め!お前などにくれてやる兵など1人とていない!!」

 

「黙れ」

 

「ぐっ!!?」

 

 

天竜は信虎の頭を上から踏み付け、地面に無理矢理頭を付けさせ、土下座させた。

 

 

「引き際を読み込めぬ大将程醜いものはないぞ?」

 

「がぐっ.....!!」

 

「ちっ.....いいだろう。では一つゲームをしようか」

 

「げっ、げえむ?」

 

「なに、簡単な賭け事さ。この遊びに貴様が勝てば私は潔く引こう。二度と武田には関わらぬ」

 

「おっ、お前が勝てば?」

 

「武田家の持つ一切の権利を没収し、貴様には死んでもらう」

 

「っ.....!?」

 

「勝負の内容は貴様が自由に決めよ。私はどんな不利な状況であろうとも受けよう」

 

 

天竜は信虎を解放し、何処からか召喚した玉座にドカリと座る。

 

 

「くっ....勘助!!」

 

「はっ.....」

 

 

武田家軍師、山本勘助。

 

 

「ど、どう思う?」

 

「ふむぅ.....きゃつめはこの勘助めの戦略をいとも容易く打ち破りましてございます。妖怪変幻といえども、その能力は非常に高い。ここはきゃつめの案に乗るのが上策かと」

 

「ふむ」

 

「妖怪殿。勝負の内容は双六に致しまする。これは殿の大得意なのでの。ふぇっふぇっふぇ.....」

 

「ほう。スゴロクか」

 

「かっ、勘助!わしは双六のやり方こそ知っていても、そこまで強くはないぞ!?むしろ娘の次郎の方が強いくらいだ!」

 

「ふぇっふぇっふぇ。心配ありませぬ。この勘助めにお任せを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勘助の策略は、イカサマだった。信虎が振るサイコロと天竜が振るサイコロを瞬時に入れ替え、信虎にはいい数が出るように、天竜には不利な数が出るように仕掛けるのだ。

 

 

「あがり」

 

「ふぇっふぇっふぇ..........ふぇ!?」

 

「馬鹿な!!?」

 

 

天竜の勝利だった。

 

 

「あり得ない!何故負けた!?」

 

「それはイカサマの話か?」

 

「なっ!?」

 

「流石は名軍師山本勘助。常人には気づけぬであろうサイコロ捌き。恐れ入った。だが、常人までにはな。私もまた手を打たせてもらった。貴様がサイコロを入れ替えるよりも更に早い速度でサイコロを入れ替えさせてもらった。生憎、私も博打は得意でね」

 

「なっ!?.....なっ.....!?」

 

「イカサマでも勝てなかったのだ。私の勝ちでいいね」

 

「..........くそっ!!」

 

「さて、君の命と軍を貰おうか」

 

「.....一つだけ約束しろ!わしの命を持って、他の兵には一切の不遇を与えぬと!」

 

「とっ、殿.....」

 

「約束しよう。何しろ、私のものとなるのだ。悪い扱いなどせぬ」

 

「よかろう」

 

 

信虎は小太刀を取り出し、切腹の準備をする。

 

 

「待った。今すぐ死なれても困るのだ。貴様の命一つでも使い道は色々あるのでな」

 

「何っ?」

 

「こいつを飲んでもらう」

 

 

天竜は謎の薬瓶を取り出した。

 

 

「私特製の毒薬だ。飲めば半年間を苦しんだ後に死亡する」

 

「楽には死なせてくれんか。何故だ?」

 

「いきなり貴様に死なれても、貴様の兵は私には付かん。むしろ主君の弔い合戦とばかりに反抗するやもしれん。だが主君が瀕死となればどうだ?主君の為にと渋々私に仕えるだろう。半年もあれば充分。洗脳することなど容易い」

 

「.....ふっ、勝てぬわけだ」

 

 

覚悟を決め、信虎は薬瓶に手を伸ばす。その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なりませぬ父上!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

突如乱入した少女がこちらに駆け寄り、薬瓶を取り上げ、そのまま飲んでしまった。

 

 

「かっ、勝千代!!?」

 

(勝千代?まさかあの武田信玄か?)

 

「怪物め!これしきの事で我が武田家が滅んでたまるか!貴様のような存在には、甲斐国も武田の兵も、欠片だってくれてやる...........もん.....か.....」

 

 

勝千代はその場に倒れてしまった。

 

 

「勝千代!!馬鹿な.....勝千代ぉぉ!!」

 

 

信虎が気を失った勝千代に駆け寄り、大いに嘆く。

 

 

「聞けば、信虎殿は嫡長女には不満とのこと。後継には妹君の信繁殿をと思い、そちらにより一層の愛着を注いでるいる様子。此度の嫡長女の死は好都合であったのではなかろうか?」

 

 

あれ?

 

 

「何故それを!?.....はっ!?」

 

 

思わず口走った勘助がすぐに気づき、口を塞ぐ。

 

 

「ん〜。流石に毒薬の飲み直しだなどという仕打ちも酷なものだ。よろしい。此度はその娘の命一つで満足しようか」

 

 

やめろ.....下衆な言葉を連ねるな。

 

 

 

 

「貴様ァァァ!!!!」

 

 

 

 

信虎が天竜の胸ぐらを掴む。

 

 

「むっ?」

 

「今すぐだ!今すぐ勝千代を生き返らせろ!!是が非でも死なせるな!!」

 

「しかし、貴様はその娘が嫌いであったのでは.....」

 

「己の子を愛せない親などあってたまるか!!!」

 

「っ.....!!?」

 

「子を愛さずに見殺しにしたり、自ら手にかけるような親など屑以下の畜生だ!人間ですらない!そんな奴など死んでしまえばいい!!」

 

 

 

「............」

 

 

 

「のう妖怪.....お前に子はいないのか?」

 

「..........いる」

 

「なら分かるだろう!わしの気が!勝千代を助けてくれ!頼むっ!わしの命はいくらでもくれてやる!だから.....勝千代を助けてくださいぃ.....」

 

 

涙ながらに信虎はその場に土下座した。

 

 

 

「無理だ」

 

 

 

だが、無情にもそう切り捨てられた。

 

 

「あの毒薬は私の血を媒介に調合したもの。ただの毒ではない。飲用してしまった以上、その者の死は決定される。彼女の死を止めることはできない」

 

「そんな.....!」

 

「だがだ。死を先延ばしにはできる」

 

「なっ?」

 

「どけ」

 

 

信玄のもとに向かい、横たわる彼女を抱き上げる。そして....."彼女の首筋を噛んだ"。

 

 

「なっ.....何を?」

 

「っ...........ふぅ..........こんな感じか」

 

 

天竜は彼女を信虎に預けた。

 

 

「俺の血をくれてやった。寿命付きのな。多分、10年間は生きられるだろう。特殊な形での給血だからな。人間のままで生きられる。多少の影響はあるだろうがな」

 

「10年間.....それでも勝千代は生きられるのか!?」

 

「生憎と私も今はジリ貧でね。これ以上はこちらが死んでしまうからな」

 

「それでも.....勝千代が生きられるなら」

 

「いんや、10年後にまた来るよ。その時にまた補充してやろう。まぁ、それまでに生き残れたらの話だがな」

 

「.....何故、そこまで」

 

「ふっ、気まぐれだ」

 

 

そう答える天竜はそのまま去ろうとする。

 

 

「まっ、待て!何も獲らぬのか!?

わしの首も、甲斐の領土も、武田の兵も」

 

「いらん、興が醒めた」

 

 

背中の翼を広げ、空に飛び上がる。

 

 

「待て!お主、名はなんと!?」

 

「ウラディスラウス・ドラグリア。ドラキュラだ」

 

「どらきゅら..........妖怪.....ドラキュラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

富士樹海にて。

 

 

「らしくなかったわね。どしたの?」

 

「うるさい」

 

「"あの子達"を思い出したの?」

 

「黙れ!!」

 

 

天竜は青白い面相となり、生気を感じなかった。

 

 

「そんな、死にかけになってまで何で助けたのよ。武田信玄なんて、そんなに重要な人間だっけ?」

 

「さぁな」

 

「あんな小娘助けたところで、"あの子達"が帰ってくるでもないのにね。貴方のミスで奪われた可愛い子供達は.....」

 

「..........」

 

「偽善者」

 

「偽善?はっ!.....善人を気取ったつもりなど」

 

「どうだかね。貴方が悪人であった頃のほうが少ない気もするけど?」

 

「ちっ.....」

 

「それでどうするのよ。せっかく獲った武田領を放棄しちゃって、これからどうすんの?"教会"連中をどうやって陥れる気なのよ?」

 

「織田に行くよ」

 

「まだ栄えてないわよ」

 

「あぁ、だから数年は待機して、それから向かうとする」

 

「随分と悠長だこと」

 

「それとだ。織田入りにおいて、私は一度記憶を消すことにする」

 

「..........」

 

「先程の一件で思い知らされた。私は心まで人を捨ててしまったのだと。己の夢と野望の為に人間を捨て、力を手に入れたのに、俺は肝心なものを失っていたようだ。教会に負けるはずだよ。だからあの子らは奪われた」

 

「"インゲラス"も"セリーン"も貴方と私の血を持った強い子達よ。いつか、両親の無念を晴らしてくれる時が来てくれるわ」

 

「その為にも、彼らが暴れやすい環境を作らねばならん。教会の目を欺くという理由も込めて、私にやり直しのチャンスをくれ」

 

「...........」

 

「カ―ミラ...........いや、光」

 

「分かったわ。乗ってあげる。勝率はあるんでしょ?」

 

「あぁ、今度は間違えないよ。私の記憶が消えている間は君も姿を消してくれ。まずは若い頃の君とも会わなければならないしね」

 

「長良川戦にはまだ2年あるわね」

 

「それまでに部下を集めるとするさ。出来る限り目立たないように、剣の弟子ということにでもしておくか?」

 

「懐かしい。とりあえずは任せるわ。またいずれ、再会しましょ。時が来るその時にまで」

 

「あぁ」

 

 

去り際に彼女は言う。

 

 

「.....教会に死を」

 

「教会に死を」

 

 

同じように天竜も返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は現代に戻る。

 

 

「そんな事が.....」

 

「あの一件が俺を変えた。信虎と勝千代との関係を目にしていなければ、俺はより凄惨なやり方でこの国を手に入れていただろう。貴様に後を継がせるなどという考えも当然浮かばなかった」

 

「勝千代はそれを?」

 

「.....記憶が蘇った時、俺は一目散で彼女の元へ向かった。人格が朧と統合され、完全な元のドラキュラとなった今でも天竜の記憶は残っていたからな。己のせいで死にかけていると知り、罪悪感が急に生まれたのだ。丁度今年が与えた寿命の切れ年だったしね。まぁ、これも計算のうちであったことは天竜は知る由もなかったがな。

だが、勝千代は断った。

それどころか、俺があの時の妖怪であると知っていたのだ。初めて会ったその日から.....」

 

「なんだとっ!?」

 

「唖然としたよ。そして、俺の記憶が消えていることにも気付いていたらしい。俺が軍師として武田入りし、そのまま乗っ取ることも、遠からず予感していたそうだ。

彼女は俺への負担と考え、あえて昔のことを口にしなかった。大した女子だったよ。あいつは」

 

「待て!勝千代はなんで断ったんだ?」

 

「もう未練がなかったらしい。自身の手で天下が取れない以上、武田信玄は必要ないと」

 

「だったら!!なんで武田信玄としてではなく、勝千代としての人生を見出してやらなかったんだ!」

 

「言ったさ。何度も.....何度も何度も、

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!

だが、彼女はいつも断ってきた。

ただ一つ、叶えたい夢を実現するまでは.....」

 

「夢?」

 

「この和睦さ」

 

「っ.....!?」

 

「そう、俺と貴様が再び手を取り、この国を治める事が何よりも夢だった。だが当時の時点で、お前の俺に対する反逆はすでに表面化しつつあった。近々起こる戦争すらも予感していた。最大まで激怒した貴様を抑えるには.....そう考えて、己の命を犠牲にするという考えが浮かんだらしい。それが彼女の最期の決断だったのだ」

 

「そんな.....」

 

「思えばだ.....武田信玄を勝千代に戻す以前に、勝千代と武田信玄の間で迷っていた彼女を完全な武田信玄に引き入れた、良晴。貴様の責任なのかもな」

 

「なっ.....!?」

 

「冗談だ。いずれにせよ、彼女は自らの意志でその道へ進んだであろう。貴様の干渉する以前に、俺との出会いによって武田信玄の運命は大きく変わった。死の日付もだ。あの暗殺事件はいずれにせよ回避されていたもの。貴様に罪はない」

 

「でも.....」

 

「むしろ、罪人は俺の方さ。俺と貴様が戦争を起こせば勝千代が出てくる。それを知ってて行動を起こした。全ては貴様と、俺の為に。私情を優先させた結果、勝千代は死んだ。もっと言えば、選択の結果において、俺は勝千代を切り捨てた。貴様とこの国、それと勝千代を天秤にかけ、前者に軍配をあげた。俺はそういう奴だよ」

 

「っ.....!?」

 

 

良晴が改めて銃を突きつけた。

 

 

「撃てよ。ほら」

 

「ふざけるなっ!!何だってお前は!!」

 

「貴様の為だ」

 

「はぁ!?」

 

「説明が面倒だ。渡した血を飲め」

 

「くっ.....」

 

 

ポケットから例の小瓶を取り出す。

 

 

「飲め。少なくとも、俺の考えの一端を掴めるだろう」

 

「くそっ!!」

 

 

良晴は銃を持ったまま口で栓を開け、そのまま口にする。

 

 

「っ.....!?」

 

 

舌にその血液が触れる。生臭さとか、鉄の味や臭いが鼻にツンとくる。

.....そう思っていたが、それとは全く違う感触に苛まれた。

 

 

美味い。

 

 

己の人狼の血がそうさせるのか、その血は果てしなく舌の神経を刺激し、それが全身に伝わる。絶頂すら覚えるその刺激に、腰が抜けそうになったが、それをなんとか耐える。人狼の血を刺激しないよう、少しでも吸血行動はしないように心がけていたが、この快感を覚えてしまうと、天龍を含めた吸血鬼が日課のように人食いをするのが納得できてしまう不可思議。

 

 

「えっ?」

 

 

その直後、頭の中に走馬灯にような描写の映像が走り抜ける。まるでヘッドギアを付けたかのように目前にその映像が流れる。

 

 

「あああぁ.....」

 

「.....」

 

「ああああああああぁぁ.....!!」

 

「それが真実だ」

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

拳銃もその場に落とし、泣き崩れる良晴。同時に恐怖の悲鳴も混じる。震えながらうずくまる彼を天龍は哀しげに見つめた。

 

 

「大丈夫か?」

 

「...........」

 

「俺を撃たないのか?」

 

「撃てるわけねぇだろ馬鹿野郎ぉぉ!!!」

 

「そうか」

 

 

天龍は立ち上がり、持っていた携帯灰皿で葉巻の火を消した。

 

 

「話は以上だ。これから今日の後始末を行う。気持ちが落ち着き次第、貴様も手伝え」

 

「うううぅぅぅ.....」

 

「..........」

 

「何であんたは.....」

 

「...........」

 

「何であんたはそんな生き方しかできないんだよぉぉ.....」

 

「俺が化物だからだ」

 

「っ.....!?」

 

「俺は化物だ。人間の感情は捨てたし、理解もできない。常に合理的考えで生きている。悟ったんだ。一度人を捨ててしまった以上、その者は二度と人に戻れないのだと。そう.....思い至ったんだ」

 

「くっ.....」

 

「貴様の罪はない。俺が全部引き受ける。今の俺の存在理由など、その程度しかない」

 

「そんな事.....」

 

「もうちょい頑張れよ良晴。貴様は.....君は俺よりもずっと大きな才能を持っているのだから」

 

 

『頑張れ』という言葉。天龍は努力をしている人間にそれを言うのは酷であるからだと。だから、彼がその言葉を使うのは、その相手を非難する時。努力しない相手を罵倒する時にだ。

最近の天龍はよく自分に対して頑張れと言う。初めは自分もそれを罵倒と捉えて、只々激昂していたが、改めて聞けばそれが激励の声にも聞こえてくる。

 

 

 

 

何故なら.....自分は何の努力もしていないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの話。天龍軍と良晴軍は正式に和睦した。そしてその結果、天龍兼ねてよりの望みであった版籍奉還が実施され、戦国大名というものが消滅した。それが、戦国時代の終わりを告げるものとなる。全ての領地は帝である天皇のものへと返還され、ここに天皇中心の中央集権国家が再び誕生することとなる。力を持った武士がいなくなり、日本国が真の意味で完全統一されたのだ。だが反発する者もいた。だが、中央集権たる天龍良晴の政府軍があまりに強大であった為に、それに対抗しうる手段がなかったのだ。

それに加え、天龍らが掲げた『四民平等』の宣言。それは、それまで虐げられてきた百姓らは勿論、果てには穢多非人をも救うものとなる。それに呼応し、反政府を掲げる国々にて一揆が多発。反政府派を行動を著しく制限するものとなった。それ以降、連中は鳴りを潜めている。過激派の事もある。間違った方針や圧政を続ければ、いつかきっと暴動が起きるであろう。史実で言うと西南戦争のような。

 

この国は改めて天皇主権国家になった。だが、その肝心な天皇たる方仁は未だ見つかっていない。宣教師らとの連絡もつかない。だが、早くに行動を起こさねば、疑い出す者も現れるだろう。是が非でも彼女を取り戻さねば、この国は終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、俺に子供ができた。信奈が妊娠したのだ。勝千代との結婚式以来、塞ぎ込んでいた自分達に唯一の希望のようなものができた。

男の子かな?女の子かな?

女の子だったら信奈のような美少女になるんだろうな。性格まで似るのは少し御免だが(笑)。男の子だったら俺みたいなワイルドな美成年(?)に育つに違いない!..........誰だ、今笑った奴!

一方十兵衛ちゃんも臨月に入り、出産を間近にしている。天龍にとって第.....六子だか七子だか?かなりの子沢山だ。西洋にいるっていう2人の子供も気になるな。

天龍にとっては数回目でも、十兵衛ちゃんには初めての出産だ。とても不安がっている。そこに同じく妊娠中の信奈が相談しに行ったりなど、2人に改めて親交が生まれ、とても嬉しく思う。

 

生まれてくる子供を見て、俺はどう思うのだろう?感動するかな?嬉しくて笑ってしまうかな?

子供はどう思うのだろう?信奈は別として、俺のような父に持って.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん............きっと悲しむよな。

俺みたいな奴を父に持ってしまって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

努力をしない。生きていく目標すら見出だせない。天龍がいなければ、ずっと前に死んでいたような俺を父に持って、子供は喜ぶか?喜ぶはずがない。だって.....

 

 

 

 

 

 

 

 

"自らの両親の手にかけた殺人鬼"な俺を.....

 

 

 

 

 

 

 

 

子供はきっと悲しんで産まれてくるに違いない。この子は生まれた時点で殺人鬼の子のレッテルを貼られるのだ。

「今の内に殺してしまうか?」

追い詰められた末にこんな独り言を言っていた。すぐに信奈にぶたれたよ。当たり前か。今の俺を見て、信奈も不安がっている。胎教にも悪いよな。しばらくは近づかないでおこう。うん。それがいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍は何故、この記憶を呼び覚まさせたのだろう。自分が両親を殺していたなんて記憶、ずっと消えていればよかったのに.....

 

それが彼には気に食わなかったのか。罪を罪として認めず、そもそも記憶から抹消して自分だけの幸せを掴もうだなんて、天龍よりも質が悪い。

罪に気付かせる。これが天龍の目的だったんだ。でも、結局は自分の力だけでは気付けず、彼の血の記憶というズルをしなければ達成できなかったのだ。それすら知らず、己だけが正しいと思い込んでいた自分を殺したい。

 

でも自殺は許されない。罪という呪縛から逃げることは許されない。そう、天龍が許さない。

きっと彼は俺に、罪を乗り越えることまで望んでいる。罪を乗り越え、心から我が子を愛せるように、成長しろと.....

 

 

 

 

でも、今の俺にとってそれは重すぎる課題だ。とても1人では持ち切れない。だから、今の俺にそれを受けることは出来ないのだ。愛する資格がないのだ。そう.....

 

 

 

 

 

 

 

今はまだ.....

 

 




はい。やっと今回で章末です。謎だらけの終わり方ですが、ちゃんとまた次回へ続きます。それではまた。
次回予告
良晴の"しせん"
〜諦めた男の...〜


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五章 終わりの始まり
過去編3


色々あってやっと新章ですよ。でもいきなり番外編です。ずっと艦こればっかやってて、更新忘れてました。
新刊出ましたね。何を血迷ったか、本能寺の変飛ばしていきなり九州戦ですよ!てなわけで、又もや私のオリジナルキャラが潰されそうだ!しかもあっちはまた美少女で、こっちは四兄弟中3人がオッサンだよ!でも設定変える気は無いよ!オッサン達のいい雰囲気を出していきたいからねぇ!でも家久は死んだけどね!チェケラ!


そう、あの日も同じだった。学校が終わっって、帰宅後に自分の部屋に篭もると、いつものようにパソコンの電源を入れ、お気に入りのゲーム『織田信長の野望』を起動。そして、時間も宿題も忘れてゲームをのんびりとプレイ。

いつもと同じ時間。いつもと同じ行動。いつもと同じ、いつもと.....

 

 

「がぐっ.....!!?」

 

 

時は突然訪れた。プレイ中に身体にあちこちで激痛が走り、俺は座っていた椅子から転げ落ちたんだ。

 

 

「良晴っ!?」

 

 

その騒音に驚いた母、葉子が部屋に飛び込む。突如として意識不明の重体に陥った俺を抱き、直ぐ様病院へ連れて行った。

 

 

 

だが、どの病院に行っても医者は匙を投げた。俺が何故倒れたのか、厳重な診査をしても分からなかったのだ。身体は至って問題がないにも関わらず、苦痛が広がり、熱は40度近く上がり、発作も止まらない。治すどころか、何故彼がこうも苦しんでいるのか、原因が一切不明だったのだ。

 

 

 

知らせを聞きつけた父、敏晴が出張先のジャカルタより急遽帰国。瀕死の息子を心配していた。

 

敏晴のコネで腕の立つ海外の医者らにも救いを求めた。でも、結果は全て同じだった。

 

 

 

「もしかしたらこれは病気ではなく、呪いか何かではないか?」

 

 

 

追い詰められた2人は、そんなオカルト的なものにまで頼る他なかった。それからは、医者探しから霊媒師探しに変わった。

敏晴は持てる資産全てを使ってまで有能な霊媒師を探した。だが.....

気休め程度のお祓い。インチキ霊媒師。詐欺師などに騙され、2人精神をズタボロにするだけの結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時、1人の陰陽師を名乗る人物が2人の元を訪れた。それが天竜である。

 

 

「驚いたよ先生、まさか君が陰陽師とはね。どうして隠してたんだい?」

 

「むしろ公言してる連中の方がどうかと思いますね。そういう連中は大抵偽物のクズなんで、気をつけた方がいいですよ?」

 

「あ、あぁ.....」

 

「さて、いっちょ始めますか」

 

 

天竜は持参したアタッシュケースの中から何やら古びた剣を取り出した。

 

 

「なっ、何だいそれは!?」

 

「天叢雲剣。草薙剣って言った方が分かりやすいか。三種の神器とされるアレだよ。それから、コレとコレも」

 

 

すると、天竜はひょいひょいと残りの神器、 八咫鏡と八尺瓊勾玉を取り出し、並べる。

 

 

「れ、レプリカか何かですか?」

 

「うんや?これは正真正銘本物の三種の神器。皇居とか神宮にある方が贋作なんだ。アレはアレでBランク相当の高い宝具だけど、これには及ばないね」

 

「なっ、何で君がそれを持ってるんだい!?」

 

「大昔から代々受け継がれてるんですよ。戦国時代を経て朝廷の力が限りなく小さくなった時期に、当時の帝が信用できる陰陽家にこの三種の神器を全て預けたんです。土御門らが武家と手を組んでいたと事もあって、ほぼ滅亡していた勘解由小路に託したみたいです。

明治期に皇族から返還を求めて来たみたいだけど、その時にそっくりな贋物を贈ったらしいの。俺の高祖父がそれに当たるんだけど。神器の魔性に惹かれたのかね。ずっと保管してたらしいのよ。

当時はバレたら処刑ものだし。今だってバレればマスゴミが五月蝿いからね。これは内緒っすよ?」

 

「うっ、うむ.....」

 

 

すると、天竜は八咫鏡で良晴を写す。

 

 

「う"があ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!」

 

 

急に良晴が苦しみ出した。

 

 

「あちゃー。かなり進んでんなぁ」

 

「ちょ、ちょっと!何を.....ひいいぃぃ!!?」

 

 

敏晴が鏡を除き込んだ瞬間、甲高い悲鳴をあげた。つられて同じように除き込んだ葉子もまた黄色い悲鳴をあげる。

 

 

「何なんだ!?.....そ、それは!!?」

 

「これが良晴ですよ」

 

「はぁ!?」

 

 

鏡に写っていたのは、良晴の顔ではなく、猛獣とも爬虫類とも取れる、悪魔的面相であった。

 

 

「良晴の体内にはとある悪魔が封じられています。それがこの間の地震によって無理に開かれた龍穴に呼応して解かれつつあるんです。それを今から封じ直す」

 

「あっ、悪魔?.....天竜くん、君は一体」

 

「17年前に貴方達夫婦に良晴を預けたのは私の親です」

 

「なっ!?」

 

 

良晴本人は知らないが、彼は敏晴の養子なのだ。

 

 

「生物学的は別として、神類的にはこいつは私の弟なんですよ」

 

「っ!?............君が良晴の本当の家族」

 

「家族.....まぁそういう言い方でもいいかもしれない。俺も良晴も所詮、神や悪魔に利用されるだけの兵器に過ぎない」

 

「一体何を言って.....」

 

「さて、第二段階だ」

 

 

天竜が八尺瓊勾玉を良晴の額に置く。するとその直後の事、彼が今まで以上に苦しみ始める。

 

 

「さて仕上げだ。あとはこの剣で胸をぶっ刺せば、封印完了となる」

 

「何だと!?」

 

「この悪魔に最も因果となる剣だ。ただの神剣よりも高い効果が見受けられるだろう」

 

「そうじゃない!!.....良晴を刺すのか!?俺の息子を殺す気かぁ!!」

 

「安心して下さい。天叢雲剣は武器としては人外にしか効きません。中の悪魔だけを刺し、良晴自身には影響を及ぼさない(.....ということにしとこう)」

 

「ふざけるなっ!!.....天竜くん、君が本当は何者かなんて私には分からない。だがな、息子が刺されようとしているのを黙って見ている親がいてたまるか!くだらないオカルトなら他所でやってくれ!これ以上、私達を馬鹿にするならただじゃおかないぞ!出て行ってくれ!!」

 

「こちとら本気でやってんだ。邪魔をするなら、あんたら方が出て行ってくれ!」

 

「何だとっ!?良晴は君のオモチャじゃないんだぞ!!」

 

「素人が口を出すんじゃないよ。俺だって神の血は流れてはいるものの、ほとんど人間だ。ただの人間には神器の扱いには骨が折れすぎる。今だってかなりの神経を使ってるんだ。邪魔するなよ!!」

 

「狂ってやがる!!君を少しでもいい人と思った俺が間違ってた!もう二度と君を良晴に近付けないようにしてやる!」

 

「混乱してるのはどっちだ!.....敏晴さん、貴方の気持ちは充分に理解している。だから!今だけは俺を信じて良晴を任せて下さい!!」

 

「うるさい!!うるさい!!もう私らには構わんでくれぇ!!!」

 

 

 

『ガァァウ!!』

 

 

 

「何っ!?」

 

 

突如覚醒した良晴はその場から跳ね起き、天竜を裏拳で弾き飛ばした。

 

 

「がぐっ!!?」

 

 

飛ばされた天竜は近くの本棚に激突し、そのまま崩れた木材やら本に埋もれてしまう。

 

 

「てっ、天竜くんっ!!?」

 

『ぐぅぅぅ....グルるるるる.....』

 

「良晴!お前なんてことを..........えっ?」

 

『...........』

 

 

 

 

敏晴は気づいた。そう、気づいた。

 

 

 

 

 

 

息子が既に.....良晴ではなくなっていることに。

 

 

 

 

 

 

 

「離れろ敏晴さん!!!」

 

 

瓦礫の中から天竜が叫ぶ。だがもう遅かった。

 

 

『ちね.....』

 

 

足元に落ちていた天叢雲剣を拾いあげ、敏晴に向かって振り上げた。

 

 

「ちっ!」

 

 

ズガンッ!

懐から出した拳銃の弾丸が良晴の右腕を貫き、天叢雲剣を弾き飛ばした。

 

 

『いだい.....いだいよぉぉ.....』

 

「化物め。良晴からさっさと出ていけ」

 

「けっ.....拳銃!?それは.....本物!?」

 

「伏せてろ敏晴さん。ソレはもう、あんたの息子じゃない」

 

「え.....」

 

『おま"え.....ヅグヨミの仔かぁ?』

 

「そうだ。死した母に代わり、貴様を封じに来た。大人しく去れよクソ神」

 

『なるぼど〜.....なら殺ざねぇと.....ヅグヨミもアマ"デラズも.....その末裔にいだるまで.....』

 

「......何する気だ?」

 

『皆殺じだ!!』

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「「なっ.....!!?」」

 

 

それは唐突であった。悪魔に取り憑かれた良晴は、その手刀によって母葉子の胸を貫いていたのだ。

 

 

「よっ...........葉子ぉぉぉぉぉ!!!」

 

「くっ.....!!」

 

『ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!

まずは、一人め"ぇ〜』

 

「野郎.....!」

 

 

葉子の胸から引き出した心臓を良晴は大口を開けてバクリと食してしまう。

 

 

『ん〜。よいよい。沁みる。沁みるぞぉ〜』

 

 

人の生き肝を食した影響からか、良晴に取り付いた悪魔の知能が上がっている。

 

 

「...........いいぜ?やってやるよ」

 

 

天竜は持参してきた荷物の中から袋に入った日本刀を取り出す。

 

 

「上手くいけば使う予定はなかったが、死人まで出た以上、仕方があるまいて.....」

 

『莫迦め。この俺に刀("人間の武器")なんかが効くか』

 

「そりゃそうだ。"神"にはこんなナマクラ効くかよ。だからコレを巻く」

 

 

天竜はもう一つ、ガムテープのようなものを取り出し、日本刀の刀身にぐるぐると巻き付ける。よく見れば、それには細かく呪文のようなものが描かれている。

 

 

「えぇっと〜.....古代ヘブライ語だったかな?こっち側のバ神に言われて写経しただけだから、俺もぶっちゃけ読めないんだよねぇこれが」

 

『ぐっ.....!!』

 

「にしてもヘブライ語ねぇ。実の所、お前さんが何処の墜ち神かは全く聞かされていないんだけれども、大体の想像はつくな。恐らくは旧約聖書における『バアル神』と言ったところか.....そこんとこどうなんですかね"ムシキング"さん?」

 

『.....その減らず口の苛立ちさはあの2人とよく似ているな。見ているだけで無償に腹立たしいのう』

 

「あらまビンゴ?察するにアマテラスやツクヨミの後釜狙って失敗したって所か?それで封印されてんだから、お笑い草だぜ?」

 

『神に向かって何て言い草だ。そうまでして死にたいか.....ヒューマン!!』

 

「話はそれだけかムシキング。んじゃ、神狩りの時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相良敏晴は困惑していた。出張先で息子の危篤を聞きつけ、仕事もほっぽり出して帰国したというのに、目の前で起きている現象は理不尽そのものだった。悪魔だか悪い神様だかに憑かれた良晴は、強靭的能力を手に入れ、妻の葉子はそんな息子の突きで心臓をもぎ取られ、死亡した。そんな人殺しの息子は息子で、彼に憑いた悪魔を祓いに来た担任の先生と殺し合いの真っ最中だ。

 

だがそれは殺し合いというよりは、一方的な惨殺というのが正しいであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴に手も足も出ない天竜がボロボロにされていた場面であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうしたヒューマン?先程までの減らず口は何処へ行った?んん?どうしたよぉ!おいおい、もうちっと頑張れよぉカスがよう!!』

 

「あ.....」

 

『あぁ?』

 

「あまり強い言葉を使うな.....弱く見えるぞ精螻蛄(しょうけら) 」

 

『ちっ.....』

 

 

良晴は天竜の顔面を掴んで引き上げる。そして手刀にて天竜の胸を突き破る準備をする。

 

 

『身内の好みだ。最期の言葉くらい聞いてやる』

 

「(くたばれ虫野郎) לעזאזל ממזר חרקים 」

 

『死ねヒューマン』

 

「ちっ.....!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ.....」

 

 

天竜が気付いた時には窓の外に放り投げられていた。だがそれは良晴によって行われたものではない。2人の邪魔をした第三者による影響なのだ。

 

 

「天竜くん.....」

 

「つっ.....!?」

 

 

天竜は突進してきた敏晴のせいで良晴の拘束を解かれ、窓を突き破って外へ投げ出されていた。

 

 

「疑ってすまなかった..........息子を頼む」

 

「敏晴さん!?」

 

 

天竜が最後に見た彼の顔は、とても落ち着いた穏やかな表情であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ..........くそったれ」

 

 

庭の木の枝に引っ掛かりながら1階に落ちた天竜。しばらく翻弄としていたのだが、すぐに覚醒し、2階へと戻った。

 

 

「なっ.....!?」

 

『お、戻ったのかい?そのまま逃げると思ったのだがね』

 

 

奴は更に知恵を付けたようだった。それもそうだ。"人間の2人分"の栄養を得たのだから。

 

 

「あぁ.....そうだな。分かってたよ。神を相手にすればこういう事もあるって.....あんたもそうなるって分かって俺を助けたんだ。同情はしないよ」

 

 

敏晴は死んでいた。胴体から一文字に切り裂かれたか。奴は先程落とした天叢雲剣を持っている。アレで斬られ、即死したようだ。

 

 

「あぁ.....同情はしない。そこのオッサンの死はそいつの自業自得だよ。自ら犠牲になったのだ。後悔だってないさ。.....しないがな..........くそ腹立つんだよ虫けら野郎!」

 

『すぐ貴様もこうなる。このようにっ!』

 

 

良晴が天叢雲剣を大いに振りかざした。そう、たったコンマ1秒でこの剣は天竜の肩から斬り込み、脇下へと抜ける。先に殺された相良敏晴と同様に真っ二つに両断されるであろう。その速さは人間には認識不可能。どんな武道の達人であろうと、その一撃を捉える事は無理だ。

 

 

「フッ.....」

 

 

 

 

だが天竜は微笑する。何故なら天竜には驚異的な速さなどが全くの無意味なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「   "止まれ"   」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所詮.....全てのオチは他愛もない、つまらないものだよ」

 

 

止まっていた。全てが停止していた。そこにいる全ての生物は停止し、時計の針も止まっていた。

 

 

「返せ。それはお前が持つには重すぎる代物だ」

 

 

良晴の手から天叢雲剣を引き剥がした。

 

 

「この能力は俺に生まれつきあったんだ。先祖代々にあった術書に書かれた陰陽術は一切使えなかったのに、これだけは使えた。誰も知らない俺だけの能力。.....ふんっ」

 

 

そうして剣を彼の胸に突き刺した。

そして時は動き出す。

 

 

『うぐうぅぅぅ.....!!?』

 

「理解できないか?そりゃそうだ。違う次元に生きてたんだから。.....普通、神様には通用しないんだよこの技。でもお前は人間の肉体を得ていたからな」

 

『がふっ!!?.....貴様ぁぁぁ.....!!』

 

「おや?その様子じゃ、意識だけはあったのか?なら尚更屈辱だったろうな。動きたくても動けず、お気に入りの武器を取られ、それで刺されるなんてな」

 

『ヅグヨ"ミ"ィィィィィ!!!!』

 

 

 

 

「理不尽か『スサノオ』よ。これが現実だ」

 

 

 

 

剣を更に突き刺し、背中を抜ける。その瞬間、良晴から邪気が消えたのがわかった。

 

 

「これは時間を止めたんじゃない。何故なら"動いてたのはアンタら"だったんだからな」

 

「ん..........んん.....」

 

 

良晴の胸の傷が回復していく。それもそうだ。良晴が死ねば中の奴も死ぬ。完全に復活するまでは良晴を生かしておくだろう。最も、肉体をやる気も復活させる気もないのだけれど.....腐腐腐。

 

 

「お前の敗因はたった一つだぜムシキング。たった一つのシンプルな答えだ。お前は俺の作品.....じゃない、お前は俺の生徒を傷つけた。

別に怒ってないしな。人はいつか死ぬんだ。2人はちと運が悪かったんだ。成仏しろよ?南無南無。

 

でもしょうが無い。死人が出た以上、事後処理しなきゃな。流石にこのままじゃ良晴が親殺しの罪で捕まっちまう。弟の為に死体処理しなきゃな。良晴は当分、朧組で軟禁だなぁ。やれやれだぜぇ。

 

.......................................は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっく............せ.....先生?」

 

 

良晴が気付いた時、目の前には担任の教師の天竜の姿があった。だが、狼狽えている。

 

 

「莫迦な!!?『天岩戸』は開かないはずじゃ.....そんなはずは!!?」

 

「先生?」

 

「騙したなアマテラス!!最初からこれが目的で良晴にスサノオを!あんの性悪魔神め!!.....くそっ!!」

 

「えっ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで良晴の記憶は途絶えた。次の瞬間には尾張の地で織田と今川の戦いの真っ最中だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは.....?」

 

 

見知らぬ地、見知らぬ国に天竜はいた。ここは本当に何処だ?

 

 

「あれは?」

 

 

すぐ近くを行軍する部隊がいた。旗は赤旗に白い月と星。

 

 

「トルコ............いや、オスマン帝国!?」

 

 

何故数百年前の帝国の旗を持った軍隊がいる!?映画の撮影.....なんて茶地なものではない。俺には分かる。あれは本物だ。

 

 

「あうぅ.....ああぁぁぁ!!おぎゃああ!!」

 

「は?」

 

 

足元に赤ん坊がいる。誰かの捨て子か?

 

 

「っ.....!?」

 

 

自らの容姿の変化に気づく。若返っているのだ。身体は縮み、顔立ちはあの頃のものに.....整形してまで変えたかった女の顔に。

 

 

「時空嵐による成長率の変動だっけか?バ神のいらん知恵が役に立つとはね。となるとこの赤ん坊は.....」

 

「おぎゃああ!!おぎゃああ!!」

 

 

もう、訳が分からない。

 

 

「ふぅー.....どれ」

 

 

赤ん坊を抱き寄せる天竜。

 

 

「あぅぅ。ばぶ」

 

「よちよち。しゃーなしだ。とりあえずあそこのトルコ人どもにSOSしにいきますかね。あーあ。自分の順能力が恨めしい恨めしい」

 

 

女性の容姿をした天竜は歩きだした。悪魔を宿した赤ん坊を連れて。

 

 

 

 

 

「さてはて、どうなるやら」

 

 

 

 

 




これが良晴がタイムスリップした真相です。次回から本編に戻りますよ。シーユーアゲイン!


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第九十五話 良晴の"しせん"

また題名の変更を行いました。
最近暑くて暑くて...


その男はまた問いかける。

 

 

「..........しはる」

 

 

血だらけの身体で彼は問いかける。

 

 

「良晴.....」

 

 

彼は自分に語りかける。彼の妻はもう自分の手によって殺されているというのに。

 

 

「良晴.....」

 

 

彼は呼びかける。魔と化した息子に。己もいつ殺されてもおかしくないというのに。無防備の体制をあえて見せている。

 

 

「良晴.....」

 

 

そうして彼は笑顔を向けた。剣を振りかざした息子に向かって。

 

 

『死ね。ヒューマン』

 

 

意識とは裏腹にそんな台詞が出てきた。全く望んでいないのに。

 

 

「良晴.....」

 

 

そして、彼は言った。

 

 

 

 

「俺も母さんも.....何があろうとお前の味方だからな」

 

 

 

 

(そんな.....父さん、俺は.....!!)

 

『ほざくなゴミめ』

 

(違う!俺はそんな事は思ってない!!)

 

『とりあえず死んどけ』

 

「良晴.....」

 

 

そして剣が振り下ろされる。

 

 

 

「頑張れ」

 

 

 

その言葉を最期に相良敏晴は絶命する。

 

 

(やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ.....!?」

 

 

それをキッカケに良晴は目を覚ます。

 

 

「チッ.....またこの夢か」

 

 

又もや悪夢で目を覚ます。悪夢を見るのは久方ぶりだ。金ヶ崎の退き口の時も悪夢は見ていたが、克服して以降は見る事もなくなっていたのに、また.....

 

 

「フン...............あ」

 

 

手にタバコを召喚し、火を付けてようとする時に気付く。

 

 

「ん..........んん」

 

 

隣りに信奈が眠っていたのだ。

 

 

「しゃーないな」

 

 

良晴は布団を出てそのまま部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

墨俣城。時の美濃合戦にて設立された一夜城をベースに建てられた良晴の支城である。

 

 

「フゥー.....」

 

 

部屋の外の窓際にてタバコを吹かす。数年前までなら吸う気にもならなかったタバコだが、今では完全なニコチン中毒になっているようだ。

 

 

「フゥー.....」

 

「けほっ!けほっ!.....殿、けほっ!」

 

「半兵衛か?すまん。今消すよ」

 

 

半兵衛の登場に、慌ててタバコを消火し、吸い殻を携帯灰皿に入れる。

 

 

「い.....いえ、そのままご一服されても良かったですのに」

 

「病人の前じゃ吸えねぇよ」

 

「病気はもう治りました」

 

「そうだっけか。すまんすまん」

 

「いえ.....」

 

 

病気の完治に良晴との肉体関係がある為か、半兵衛は顔を赤らめている。

 

 

「お部屋で吸われないのですか?」

 

「生憎と身重のママさんが寝てるんでね」

 

「あぁ.....」

 

 

信奈はもう臨月に入り、見た目からも妊婦であることがよく伺えた。

 

 

「信奈様も変わりましたね。姫武将制度が廃止される前に自ら戦から離れたせいか、とても奥ゆかしい方になられました」

 

「ん〜.....今でもガミガミ言う所は変わらねぇぜ?怒ったら胎教に良くないって言ったら、余計に怒るんだ」

 

「フフッ.....」

 

 

 

 

そう。姫武将制度は廃止された。もとい、武家社会が終わりを告げたのだ。領地、地位等を全て朝廷に返還させた事により、日本中の武士が一斉に無職になった。これが大きな波紋を生んだのだ。元大名は全員都心部の政府に集められ、逆に政府の息のかかった信用できる人物らを知事として各地の新設された都道府県に送る。早い段階でこれを実施した為に、他勢力が力をつける前に日本の統治が果たせたのだ。

行き場を失った多くの武士は選択を迫られた。下級武士は農家や商人と共に平民として働き、上級武士は羅卒及び『巡査』として警察機関に属する者もいれば、軍人として改めて刀を振るう者もいたのだ。

野武士というものもまた取り締まわれ、日常生活での帯刀が禁止された以上、そのような行政機関に入隊することを余儀なくされたのだ。

 

 

 

 

「とはいえだ。警察も軍も、武家社会時代の御偉いさん方が上位に付く以上、やっぱり元姫武将が統治することになるんだよね」

 

「それは仕方ありませんね。それがコチラとアチラの最善の譲歩だったのですから」

 

「きっと俺じゃあ纏められなかっただろうよ。その変はアイツに感謝しなきゃな。アイツのカリスマスキル異常だし」

 

「えぇ、少なくとも世代が変わるまでは従来通り姫武将に実権があるでしょうね。廃止された以上、これ以上姫武将が増えることもありませんから」

 

「あぁ、男尊女卑ってわけじゃないが、女子が力を付けるにはちと時代が早すぎたんだ。確かに女は強い。男以上に生物として優れている。男以上の団結力を誇るだろう。女に国を任せればその国は確実に強国になるだろう。.....だが、何処かで男との均衡を保たなければ、その国は滅びる」

 

「.....えぇ、確かにそうかもしれません。殿.....じゃない。『閣下』も賢くなられましたね」

 

 

半兵衛が軽い皮肉を言う。

 

 

「フン。アイツの入れ知恵さ。それと閣下はやめてくれ閣下は.....ナチスの総統みたいじゃんか」

 

 

地位が無くなったのは俺や天龍も例外ではない。摂関制度もまた廃止され、俺の関白職も奴の太閤職も無くなり共に再就職。内閣が設立されていない現状においては、天龍は陸軍大将。俺は海軍大将。称号は共に『元帥』。それまでは殿下と呼ばれていたものが、今では閣下だ。ランクこそ下がったが、この国における立ち位置はさほど変わらない。

 

 

「まぁ、新政権が誕生したとはいえまだ序章の序章。赤ん坊みたいなもんだ。キチンとした規律で守らなければ、いつ旧政権やら外部の脅威に襲われるか分かったもんじゃない」

 

「えぇ.....」

 

「まぁまぁ、ゆっくりじっくり時間を立てて行こうじゃないの。本来ならば数世紀後の政策だ。経験も無ければ歴史もない、ろくに準備をする暇さえ与えられなかったようなその場しのぎで作った政策など、大きく膨れ上がった所でそんなもの、ゴミ袋のビニールよりも薄く脆いものに過ぎん。詰め込めれば詰め込める程に層は薄くなり、そこから亀裂が走る。あとはゲロ臭いゴミだめを一気にばら撒くだけさ。そうだろう半兵衛?」

 

「ま.....まぁ、間違ってはいませんが、その.....口が悪過ぎます。ここの所酷いですよ?」

 

「ん〜、俺は普通に喋ってるつもりなんだけどなぁ」

 

 

確実に天龍近づいている。それは自覚できた。

 

 

「それはそうと半兵衛。いい所に来た」

 

「は?」

 

「信奈の安定期も終わってしまって、俺も溜まっているんだ。どうだ?朝までしないか?」

 

「.....そこだけは似ないでほしかったです。2人も奥方がおられるというのに.....」

 

「しゃーないだろ。信奈は妊婦だし、虎寿丸(島津義久)は九州だしな。大っぴらに妾なんて作ったら信奈が五月蝿いしよ」

 

「義久殿は何故九州に?」

 

「あぁ、甥っ子が産まれたんだと。えと、弟の歳久の娘だそうだ。本当なら、義久は大坂から出られない誓約だったんだけど、天龍との和睦以降はそこらへん、緩くなってるしな。とりあえず虎寿丸だけ行かせたんだ。俺は政策で忙しいし」

 

「だからって何で私と.....他の方となさればいいではないですか」

 

「そんな事言わずにさぁ、やろうぜ?」

 

 

半兵衛を壁際に追い詰め、壁ドン。これで落ちない女はいない。

 

 

「お断りします」

 

「ありゃ?」

 

 

予想外。フラれてしまった。

 

 

「むぅ〜つれないなぁ半兵衛ちゃん.....お兄さん寂しいよ。しくしく」

 

「女の子に対して節操がなさ過ぎれば、周りはどんどん離れていくことを良晴さんには知ってほしいです」

 

「うぅ、あの心優しかった半兵衛は何処へ」

 

「それは、性欲処理の相手として都合の良い相手だったということですか?」

 

「ちっ、違います.....!!」

 

「ど〜ですかね〜?」

 

「うぅ、お前は意地が悪くなったな」

 

「黒くなった主人を律する為には必要なんです!」

 

「うひー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それは困るのぉ。その小僧にはとことん黒くなってもらわねばならぬでありんすのに』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「つっ.....!?」」

 

 

2人のじゃれ合いを割くように、唐突に奴は現れた。

 

 

『こんばん〜わぁ』

 

「アマテラス!!」

 

「天照大御神様.....」

 

 

この国における全知全能の神、アマテラス。

 

 

『良い月でありんすのう。そうは思わぬかや?』

 

「お前が現れなければさぞ綺麗であったろうな。だが今の俺の目には、目の前の汚物のせいで歪んで見える」

 

『くひゃははははははははは!!!!見ぬうちにまた強くなったのではないかや?益々興味がそそるでありんすよ』

 

「黙れよアマテラス。その口を裂かれたくなければな」

 

『口を閉ざしたいのに、切り開くとはコレいかに?』

 

 

その言葉を発した直後、アマテラスは良晴によって口をこじ開けられ、頬を裂かれ、無様に下顎を垂らす。方仁こと天皇や滝川一益と同じ姿形の彼女の口を裂くことに、良晴は何の躊躇いも無かった。

 

 

「コイツでどうだ神様?これでもまだ気味悪く笑うのか?」

 

 

アマテラスの頭を掴みながら言う。

 

 

『が.....あ".....ぐか".....あ".....ひ"ゃ".....』

 

「っ.....!?」

 

 

 

『くひゃひゃひゃひゃひゃははははははははははははははははははははははははははは!!!!!』

 

 

 

「チッ!」

 

 

下顎をぶらぶらと垂らしながら笑うアマテラス。良晴は彼女をその場に投げ捨てた。

 

 

『痛いではありんすか小僧よ。神へのこれ以上の冒涜もあるまいて』

 

「今度はその嫌味たらしい目玉をくり抜くぞアバズレめが」

 

『ふっくくくくひゅひゅひゅ.....』

 

「何しに来た太陽神。昼の神が俺に何の用だ。夜の神の仔なら今は岐阜城にいるぞ?」

 

『いやいや、わっちは貴君に用があるのだよ。え?そうであろうよ"地の神の仔"よ』

 

「...........」

 

『見たんだろ?記憶を。己が親を糞のように喰い殺す様を。え?どうなんだい?』

 

 

アマテラスの様子が変わる。いや、これが奴の本性なのだ。

 

 

「見たさ。俺の中には神がいる。お前らの弟の"スサノオ"がな」

 

『そこまで知ってるなら理解してるだろ?このわっちが何故に貴君のもとへとワザワザ足を運んだか』

 

「...........天龍の後釜か?」

 

『当た〜り〜♪。ぶっちゃけ天龍でも良かったのだが、アレはもう駄目じゃ』

 

「駄目.....だと?」

 

『アレは最早、生への未練を失っている。希望も夢も存在しない。心が存在しない。ただ、そこに存在しているだけ。アレはもう、そんな状態さ。アレはもう使えない。使ったところで、何一つ得られるものはなくなってしまった。面白くなくなってしなった』

 

「面白い.....だと?」

 

『退屈は神を殺す。天龍はわっちの渇ききった心を潤すのには十分過ぎる程に十分過ぎた。いい暇潰しだった。だがそれも悠久の闇へと消え去った』

 

「何が言いたいんだよ」

 

 

そう言うと、その神は歪んだ笑顔で言う。

 

 

 

 

『天龍の寿命が尽きようとしている』

 

 

 

 

「「なっ!?」」

 

『とはいえ彼奴めは病にもかからぬし、魔力が尽きることもない。だが、彼奴の命は尽きる。彼奴がそれを臨んでいるから.....』

 

「どういう意味だ」

 

『さぁな。死を臨む以上、わっちは彼奴を求めることもない。水辺に浮く"肴"とピチピチと跳ねる"肴"なら、後者を選ぶであろうて?』

 

「チッ.....天龍がグレた理由も分かるよ」

 

『クスクスクス.....神は皆死にたがりなんだよ。わっちだってそうさね。だが天龍は人一倍一早く投了したがってるがね』

 

「じゃあさっさと首を括れ。死んどけ!」

 

 

不気味に笑うアマテラスはその後、こんな台詞を吐いた。

 

 

 

 

『神は皆、意味のある死を臨んでいる。だから自殺したって意味は無いんだよ。ましてや、わっちは天龍以上に死に難いんだよ。【誰かに倒されなければ死ねない】のが天龍で、【誰かに座を押し付けなければ死ねない】のがわっち。そんな時に神の因子を中に持つ貴君のような存在がいれば、これ以上の説明もいるまい』

 

 

 

「俺が天龍を殺し、お前は神の座を俺に押し付けるってか?本来は天龍がなるはずだった神の座に」

 

『おうとも』

 

「はぁ.....神ねぇ」

 

 

 

すると良晴は右手に手榴弾を召喚する。

 

 

 

「オゥりゃッ!!」

 

 

安全ピンを抜いたそれをアマテラスの胸に突き入れる。

 

 

『いやん』

 

「神だとかの訳の分からん話は俺には専門外でな。俺は巻き込まんでくれよ。天龍あたりとやっといてくれ。今の俺にはどの道天龍は殺せないよ。実力的にも.....精神的にもな」

 

 

そう言い、良晴はアマテラスを墨俣城の外へと放り投げた。

 

 

『それでも貴君は選ぶさ。これはもう、500年も前に決められていたこと。貴君はその為だけに作られた傀儡なのだから』

 

 

そう言い残し、アマテラスは爆散する。

 

 

 

 

「分かんねぇよ。身体の中に神がいるなんて言われても.....両親と血が繋がってなかったり、天龍と本当の兄弟だったり、両親を俺が殺してたり.....一度にバラし過ぎだよ.....そんな一度にどうやって受け入れればいいんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、天井裏から蜂須賀五右衛門が落ちてきた。忍者の制度も意味を成さなくなった今、彼女はいわゆる女スパイだ。

服装も良晴の命令で、着物からラバースーツに変更している。とても不満だそうだった。

 

 

「ちゃっ!ちゃがら氏ぃ!?今のばくはちゅは!?」

 

「おぉ〜小六!いい所に来た。今夜の相手をしてくれ」

 

「ふぇっ?」

 

「だって〜半兵衛が相手してくれなおんだもん」

 

 

イヤらしく半兵衛を見る。

 

 

「先の今でよくそんな行動に出れますね.....はぁ、良晴さんらしいと言えば良晴さんらしいですが」

 

「交ざる?」

 

「拒否します!」

 

「いけず。いーよいーよ今日は小六と遊ぶんだい」

 

「え?えぇ?」

 

 

五右衛門は混乱していた。

 

 

「そうですか。では奥方を起こしてきましょう」

 

「なっ!?」

 

「閣下がこうもだらしないのであれば、かような荒療治も必要でしょう」

 

「.....半兵衛」

 

 

良晴の声色が低くなる。

 

 

「この俺を怒らせてただで済むと思うなよ?お前のような小娘如き、力でどうとでもできるのだからな」

 

「どうぞご勝手に」

 

「へ?」

 

 

 

「貴方がそのような下劣な行為をなされないのは存じていますから」

 

 

 

「むぅ.....」

 

「では、お休みなさい」

 

「やっぱヤダ」

 

「えっ?.......きゃぁっ!?」

 

 

半兵衛の真後ろに高速移動し、そのままお姫様抱っこをする。

 

 

「決めた。今宵は半兵衛ちゃんの再教育!一晩じっくりやってやる!小六、お前も手伝え!」

 

「ちょっ.....しぇちゅめいを求みましゅ!」

 

「下ろしてください〜。・゚・(ノД`)・゚・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫.....大丈夫よ」

 

 

良晴の部屋の扉に寄りかかり、彼の伴侶である彼女は独り言を言う。

 

 

「あいつは私を裏切らない.....だから私もあいつを信じないと.....あいつの女癖は今に始まったものゃないしね」

 

 

別の女性と関係を重ねる夫を、彼女は赦した。

 

 

「でも.....もしかしたら...........あっ」

 

 

その時、胎内にて赤子が腹を蹴った。

 

 

「そうだよね。お父さんをしんじてあげなきゃね。一緒に頑張ろうね.....」

 

 

赤子の名前はもう決まっていた。男子でも女子でもいいように。平和を願った両親に付けられた。

 

 

「早く産まれてきなさいよね、和(かず).....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、岐阜城。

 

 

「聞いてくれよ良晴ぅ〜。仙千代がレオタード着てくれないんだぜ!?」

 

 

唐突だった。

 

 

「やっぱ㊛スパイならレオタードだろ!絶対似合うはずなのに着てくれないんだぜ?」

 

(同志よ.....)

 

「にしても何でレオタードなんだ?体操選手じゃあるまいし」

 

「何言ってんだ。㊛スパイはともかくとして、㊛怪盗と言えばレオタードだろ。それでEDではシルエットのみで踊るんだ」

 

「お前はいつの時代の人間だよ」

 

 

少なくとも平成の世では自分とは10年しか変わらないはずだ。

 

 

「断然、瞳派だな」

 

「俺は愛ちゃんかな」

 

「お前も見てんじゃねぇか」

 

 

キャッツ●アイはわりと好きだ。

 

 

「猫目もいいけど、俺は都市狩人の方が好きかな」

 

「もっこりリョウさんか」

 

「俺は香ちゃん派」

 

「フン。野上冴子をおいて他にいるまい。にしても香ちゃんか。愛といい、本当に勝気なキャラが好きなんだな」

 

「うるへ」

 

「話が変わるが、仙千代にレオタードを着させたいのだが、何か案はないか?」

 

「うちじゃ、ラバースーツなんだけどな」

 

「ほう、悪くない。検討しよう。ボンテージは如何なものだろうか?」

 

「ボンテージってなんだっけ?」

 

「コレだよコレ」

 

 

天龍がボンテージを召喚する。

 

 

「肌の露出多くね?」

 

「ボンテージにも種類がある。なんならこのタイツを合わせたタイプによって肌も隠せる」

 

 

あぁ、『運命』って厨二アニメの旧版で見たことあんな。確かボンテージ桜とか名称ついてたな。

 

 

「それじゃあ、黒すぎてボンテージの利点消してんじゃねえのか?」

 

「フッ、青二才め。肌の露出をあえて減らすことによる想像力の拡大、更にはタイツから見える"透け"が一層のエロスを掻き立てる!これこそが至高!」

 

「なるほど!是非うちでも採用を検討したい!」

 

「うむ。しかしテストをせねばなるまい。.....えぇと、丁度いいマネキンはっと...........おい三成!」

 

「ふえっ!?」

 

 

遠くで聞こえないふりをしていた石田三成が急遽呼ばれる。

 

 

「ちょっとこのボンテージスーツを着てくれ。そんでもって被写体になってほしい。なぁに、給料なら上乗せして出そう。ついでに、この新発売予定のネグリジェも.....」

 

「こんなド変態ぃぃ!!!」

 

 

突如として、天龍が後ろから木刀で殴られる。

 

 

「痛ったぁ.....」

 

 

と言いつつも彼にはダメージというダメージはなさそうだった。いや、瞬時に回復したと言うのが正しいか。

 

 

「三成をそんな阿呆なことに巻き込むなデス!公式会議の場で何やってるデスか!!」

 

「うぅ.....感謝します姐様」

 

 

彼の正室.....いや、時代が変わった今は正妻か?天龍の正妻の明智光秀。通称、十兵衛。なんだかんだで三成とは仲が良い。というより、他の家臣と仲が悪い三成との橋渡し役をやっている。史実の北政所のようだ。

 

 

「いやいやこれも重大なんだぜ?コスチュームとは言わば全ての団体の顔にあたる部分だ。服装がダサければそれだけで周囲の印象は下がるし、モチベーションも上がらない。それは影の存在である彼女等にも同等に言えるものだ。だからこそ、それを決めるこの会議はやらなくてはならない。否!必定なの.....」

 

「..........」

 

 

無言で木刀を構えられる。

 

 

「ごめんなさい。私が悪かったです」

 

 

奥さんを怒らせたくないのか、天龍はすぐに根負けしてしまった。世界最強は十兵衛だったのか?

 

 

「でもよぉ、建前で公式会議なんて大それたもんを毎月やってはいるが、大して話し合うことなんてないんだよな。政策は全部こっちで作ってるし、そっちにはちょっとの確認だけ頼んで採用しちゃうし.....ぶっちゃけ会議やる意味だよ?少なくとも、内閣が出来上がるまでは必要なくね?」

 

「いいかれやれデス!!」

 

「うわっ、木刀振り回すなって。産後で鈍ってるからって、俺にやつ当たるなよ。分かった分かった。建前だけだけどとりあえずやりますかね」

 

 

天龍は書類を取り出す。そして、わざとらしい敬語で案件を読み始めた。

 

 

「えっと、連絡事項です。

・憲法の完成度が約7割ぐらいです。来年には完成するそうで、それに合わせて国会も開けます。

・あと国民統制のために、新しく戸籍を設けます。今年の干支が壬申なんで『壬申戸籍』と呼称しましょう。とはいえ、国中の調査なんで時間はもうちょいかかりますがね。

・反乱分子について。親衛隊の皆さんが頑張って粛清してるんで大丈夫です」

 

 

ナチスかよ。因みに三成がこの国のラインハルト的な働きをしているそうな。

 

 

「・そちらから出されていた普通選挙法導入案は却下。まだ日本には早いです。

・あと憲法は、明治憲法をベースに戦後憲法の良点等も入れつつ、私のオリジナル憲法にする予定です。

・インドの大友宗麟から連絡。インド大陸の統一が完了したようで、遠征に出してた我が日本軍が帰ってきます。しかもサリーム.....インド(傀儡)皇帝のジャハーンギールさんがついでに来日するようなんで、準備してください。

・あっ、今日の晩ご飯はラーメンです。

・明に対馬が落とされました。

・ラーメンは特製の豚骨ラーメンです。

以上です」

 

 

 

 

 

 

 

「......................ん?」

 

 

 

 

 

 

 

なんか変な文章が混じってなかったか?

 

 

「天龍.....今なんて言いましたデスか?」

 

「ラーメンは豚骨」

 

「違うデス!!もっと前です!!」

 

「スパイの制服はボンテージ?」

 

「何処に戻ってんデスか!!」

 

「明に対馬を落とされたことか?」

 

「「っ.....!?」」

 

 

彼はサラリと通したが、これは途轍もない緊急事態であった。何故なら対馬は長崎県の目と鼻の先。日本国領土だ。そこを敵国に取られた。これ以上に危険なことがあろうか?

 

 

 

日本国が再出発して最初の難題である。

 

 




アマテラスとの会話シーンは内容を意味深にし過ぎかつ、フラグっぽい何かを詰め込み過ぎてわけ分かんなくなってます。もうちょい綺麗にできなかったかなぁ。
良晴はもはや別人です。経験したものがものなんで暗黒面真っ盛りですよね。
次回予告
対馬開戦
〜時の始まり〜


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第九十六話 対馬開戦

また題名変更しました。時間を空けちゃうと、書きたい内容も変わってしまいますからね。


対馬が明に占領された。対馬は長崎県に属する島。廃国置県(言わば廃藩置県。しかし藩はない為、こういう名称をしている)されてからは『厳原県』と改称され、その後、『伊万里県』や『三潴県』との間を転々し、最終的に長崎県に参入された県。それが奪われた。本土から目と鼻の先である。これはつまり、本土を効率よく攻撃できるチャンスを明に与えてしまったということなのだ。

 

 

「おい.........何やってんだよ」

 

「何が?」

 

「何がじゃねぇよ!対馬が取られたって.....それ本気で言ってるのか!?」

 

「あぁ」

 

「じゃあ何でそんな呑気でいられるんだ!対馬が取られたなんて異常事態を!これでいつ明が攻めてくるか分からないんだぞ!?」

 

「別に対馬が奪われることなど珍しくもない。鎌倉時代、文永の役、弘安の役が起こった元寇では最大の戦地だ。神風のお蔭で元軍及び属国の高麗軍を追い払えたものの、その際には一時的にでも対馬が占領されたと言っても過言ではない」

 

「今は日本史などどうでもいい!すぐにでも兵を出すべきだ!隆景に声をかけ、海軍を出動させる!」

 

「待て。勝手な真似は許さん」

 

「ふざけるなっ!!自国を守る為に抗って何が悪い!!人の心を持たぬクズは消えていろ!!」

 

「はぁ〜............あのなぁ、良晴」

 

 

天龍は大きく溜息を吐いて言う。

 

 

 

「俺が安安と対馬を取られると思うか?」

 

 

 

「はぁ!?だって対馬は明にもう.....」

 

「おい義智!」

 

「はっ!」

 

 

天龍に呼ばれ、若い青年が現れる。

 

 

「宗義智(そうよしとし)に御座います」

 

「そ、宗って.....」

 

「宗義智。宗家の20代目当主。元対馬の領主だ」

 

 

知ってる。宗家は 12世紀頃に対馬国の在庁官人として台頭し始め、現地最大の勢力阿比留氏を滅ぼし、対馬国全土を手中に収めた頃から、対馬にて長い歴史を持つ一族だ。しかも宗義智は、対馬国の大名だけではなく、本来ならば江戸幕府の対馬藩藩主となっていたはずだ。しかし版籍奉還の影響でその権利を失い、元大名として江戸に来ていた。今は華族令により、伯爵の地位を得ている。

 

 

「対馬の民の移動は既に済んでいます。必要な物資も既に移動済み。閣下の指示通り、三月前から実施し、明軍占領の前には完了しています」

 

「よろしい。計画通りだ」

 

「まっ、待てよ。それって」

 

 

まるで明軍の対馬占領を予期していたかのようだ。

 

 

「そうだよ。あえて明軍を誘い込んだんだ。無人になった対馬へな」

 

「ど、どうして?」

 

「一箇所に固める為だ。敵対する明の軍船は今までずっと日本海や東シナ海を転々と巡っていた。だがだ。この俺様と海軍中将の九鬼嘉隆と小早川隆景の包囲作戦によって明の軍船軍を一箇所にて捕らえることができた。対馬という鳥籠を使ってな」

 

「海軍大臣俺なんだけど!?」

 

「陛下に統帥権借りちゃいました♡」

 

 

 

 

関白軍太閤軍間の東西戦争が勃発する直前に何者かによって誘拐された方仁こと今上天皇。終戦後、両軍が総動員する事によって日本中を捜索。仮に国外へ連れ出されたとなると捜索は難航。もし殺されたとなれば、国の一大事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果から言ってしまえば、彼女は見つけられた。九州筑前のとある民家にて発見される。犯人は男女10数名の※クリスチャンのだった。

※(サタン教発足後、キリスト教から改宗しようとしない者らとサタン教キリシタンとを区別する為)

 

かなり衰弱はしていたが彼女は無事保護。命に別状はなかった。その後の尋問、拷問によって計画の立案者を吐かせようとするものの、誰一人として自白する者はいなく、7日もしないうちに全員死亡。死因は原因不明の心臓麻痺。真実は謎に包まれた。

天龍が御所にて見つけたというフランシスコ会の十字架。この誘拐事件にザビエル一味が加わっているかは、未だ解らず終い。俺があの日抱いた彼女は一体何者だったのかも.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「統帥権、奪ったの間違いじゃ.....」

 

「失敬だな。ちゃんと陛下直々に許可を頂いたぞ?ただ、他の誰にも邪魔されない2人きりの場所でコッソリ頂いただけだ。陛下には説明だけして、特にあの方自身の意見は聞いてないがな」

 

「ほとんど強奪じゃねぇか!」

 

 

太閤時代と一切変わってねぇ。

 

 

「こんなの.....史実の戦前の軍部と同じだろ。今から軍部が天皇を支配してるようじゃ、この国の未来も真っ暗だな」

 

「おい、陛下ぐらい付けろ。彼女を呼び捨てとはいい度胸だな」

 

「あん?お前だってプライベートじゃあ、彼女のこと方仁って.....」

 

 

天龍のその何気ない台詞がただの軽いツッコミだと思っていた良晴は、同じく軽くあしらう気で返すが、振り返って見た彼の視線は至極殺気の篭ったものであったのだ。

 

 

「俺はともかくとして、貴様如きが陛下を軽く見るな。虫唾が走る。貴様ら庶民共は陛下からは遥か下の分類であることを忘れるな」

 

 

まるで自分は彼女らと同じ位に位置する存在のような発言。いや、事実そうなのだろう。彼は正真正銘、神から生まれた存在。同じく神の子たる天皇と同格。それ以上と取っても過言ではない。

 

それに天龍は方仁を、『彼女の人柄を敬え』ではなく、『天皇という、彼女の血筋に敬え』と言っているかのような。

 

右翼だとか愛国主義だとかの茶地な思想ではなく、それのみによって突き動かされているような.....そう、まるでロボットだ。

 

 

「すっ、すまん!口が過ぎた。俺が悪かったよ」

 

「分かってくれるならいいさ。俺も感情的だったようだ。考えてみれば、お前も俺と同じような存在だしな」

 

(.....同じような存在、か)

 

 

天龍はまた朗らかになる。アマテラスが言った通り、彼は正常ではなくなっているのかもしれない。

 

 

 

そして、この俺も.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話、続けて下さいです」

 

 

天龍と良晴が喧嘩腰になってしまった事によって、説明のタイミングを失ってしまった義智がオロオロしていると、それを見兼ねた十兵衛が話を戻す。

 

 

「はっ、はい!此度の対馬作戦においてですが、曲名瀬軍医総監によれば、新兵器の実験へと活用するとの事ですが.....」

 

「あぁ、玄朔から聞いてるよ」

 

「確か官兵衛も関わってなかったっけその新兵器。何て名前なんだ?」

 

「正式名称、

Mobile Action Grace Active Robot Aero‐type。

通称『MAGARA』です」

 

 

義智が淡々と答えた。

 

 

「...........は?」

 

「『MA・GA・RA』です」

 

「聞こえてるよっ!マガラってアレだろ!?真柄ちゃんだろ!?何だよ、ついにロボットになっちゃったのか!?」

 

「厳密にはサイボーグだ。より使い易く、より強い個体を求めた結果完成してしまったのだ。当初としては量産も計画していたが、何分コストが高くてな。まだまだ改良の余地がありそうだ」

 

「そんなのどうだっていいよ!!てか、官兵衛からも聞いてないよ!?」

 

「そりゃそうだ。吸血鬼に関する資料を渡したことを条件に買収したんだから。こっちには利休もいるしな」

 

 

あんのマッドサイエンティストめ!

 

 

「それはともかくとして、だ。良晴、お前も見に来るか?」

 

「見に来るって?」

 

「いや、一応改良したマガラの性能を見ときたくてな。俺等も対馬に行くんだよ。お前も来るか?」

 

「............行く」

 

「よし。じゃあのんびりもしてられん。さっさと出発だ」

 

 

天龍が会議を終わらせて対馬へ発とうとするが。

 

 

「ちょっと待つです天龍!今日は会議が終わったら暇になるから"子龍"と遊んでくれるという約束はどうなりましたですか!?」

 

「あ~、ごめん。仕事入っちゃったわ」

 

「そんな!?天龍は明との戦争と実の息子、どっちが大事なんデスか!!」

 

「勿論君達家族さ。だからこそ戦争に勝って君達を守らなければならない。だから戦争に行ってくるわ」

 

「ムッキ〜〜!!そんな格好付けたところで、ただの屁理屈なのはとっくにお見通しなんですからね!!子龍が父親の顔を忘れても知らないデスから!!」

 

「分かった分かった。帰ったらいっぱい遊んでやるから。それまで待っててちょ」

 

「絶対デスからね!また破ったら今度こそ離婚デス!!」

 

「へいへい」

 

 

いつも通りの2人を見た気がする。夫婦生活ももう4年になるが彼女らはいつも変わらない。あるとすれば家族が増えたことだろうか。

 

勘解由小路子龍(しりゅう)。

 

天龍と十兵衛の間に産まれた息子。

苗字が勘解由小路なのは、父親が勘解由小路に苗字を戻したからである。

 

 

天龍は織田家臣団に取り入る為に、柴田勝家と丹羽長秀、明智光秀から一字ずつ貰い、羽柴秀長と名乗った。そして、関白や太閤となった事で、苗字を豊臣へと変えた。ところが摂関制度が廃止され、豊臣を名乗る必要がなくなった。それにより、旧姓の勘解由小路に戻したのである。なんだかんだで、旧姓が気に入っていたのかもしれない。

一方俺はというと、同じく豊臣姓を捨てたのだが、旧姓の相良ではなく、天龍と同じく勘解由小路姓を名乗っている。理由としては、まだ義兄弟の関係でいた方が今後の政策を進める上で、色々と都合がいいのだとか。未だ反政府組織が残っている現状では致し方ないのかもしれない。相良の姓を捨ててから長い為か、勘解由小路になっても、特に嫌悪感はしなかった。ただ、署名が一々面倒くさい。

 

 

勘解由小路良晴。少々語呂が悪いが、これが今の俺の名前だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対馬上空。大日本帝国陸軍大将専用硬式飛行船『ワイヴァーン』内にて。

 

 

「なんだかんだでこの飛行船に乗るのも初めてなんだよな。気球とは大分違うんだよな。飛行機しか乗ったことないもん」

 

「この飛行船は軍事用だ。都市爆撃だってできる。風船なんかと一緒にするな」

 

「うん、凄い船だってのは分かるよ。なんだか、某アニメ映画の『ゴリアテ』みたいだもん」

 

「あれは空中要塞ラピュータの為のかませ役みたいなもんだろ」

 

「言われてみればそうかな。

見ろ!人がゴミのようだ!てか?」

 

「ちょっと似てて腹立つな」

 

「なんでだよ!」

 

 

天龍と良晴が盛り上がるが、周りは誰も付いていけない。

 

 

「宜しいですか閣下?」

 

「おぉ、玄朔。どった?」

 

 

日本陸軍軍医総監、曲名瀬玄朔。

 

 

「はい。今作戦についての報告をさせて頂きます。今回新しく改装したマガラの実験内容についてです。真柄直竜の脳を改造して製作したAIは自律思考型です。よって、明軍兵士との戦闘を通してその戦闘能力を向上させる予定です」

 

「自律思考型かぁ。本能のままに暴れる赤ちゃんモードも好きだったんだけどな」

 

「あの状態では細かい作戦まで実行できません。世話役を務めていらした筒井中佐も大変苦労されてましたし」

 

 

筒井順慶。陸軍での階級は中佐。

 

 

「まぁいいや。マガラはもう出せるの?」

 

「前田少将殿が現地にて囮役を行って下さっているお陰もあり、明軍は作戦予定地に集結しております。いつでも作動可能です」

 

 

前田利家。海軍での階級は少将。

 

 

「よし来た!例の装置も使えるな?」

 

「はい、可動できます」

 

「例の装置?」

 

 

その時だ。玄朔の助手に連れられ、全身を鎖や拘束具によって巻かれたマガラが現れる。

 

 

「おいおい、なんだこりゃ」

 

「改装が済んだばかりで、調整が不十分ですからね。操作できることが確信するまではこうして運ばねばなりません」

 

「え~、可哀想だろうがよぉ」

 

「んー!んん〜!!」

 

 

猿轡までされていて、喋ることを許されない。

 

 

「可哀想も何も、コレは兵器です!一歩間違えれば私達がコレの餌食となってしまうんです!閣下にはそういう点をもう少しご理解を.....」

 

「えいっ♪」

 

 

天龍がマガラの拘束具にデコピンをした所、それらが全て紙のように破け、粉砕してしまった。

 

 

「あうぅ...............あ"ああああぁぁぁ!!!」

 

 

マガラが肩甲骨を変質させ、それを新たな2本の腕にする。そしてそれを、天龍の身体に巻き付ける。

 

 

「閣下!!」

 

「あ"あ"ああああぁぁぁ!!!」

 

「いけない!.....なれば、マガラを私自らの手で破壊せねば.....」

 

 

玄朔が爪を鋭い凶器へと変質させ、マガラに攻撃しようとしたその時

 

 

 

 

「パパァ!!!」

 

 

 

 

「「「..........ん!?」」」

 

「パパァ!♡.....パパァ!♡」

 

 

マガラが天龍に抱き着き、頬を擦り寄せる。周りはおろか、天龍まで困惑している。

 

 

「パ〜パ♡」

 

「おい、俺はいつからコイツの父親になったんだ?」

 

「かっ、可能性としてはですが、マガラを改造するに当たって使用した閣下のドラキュラとしての細胞に反応しているのではないかと.....閣下の細胞にて誕生した生体兵器であるので、閣下の娘であると取っても、過言ではありません」

 

「パパァ♡パパァ♡パパァ!♡」

 

「おい、良晴」

 

「なんだ天龍」

 

「コイツめちゃくちゃ可愛いんだけど!」

 

「あぁ!.....アンタがめちゃくちゃ羨ましい!」

 

 

盛り上がる変態2匹。

 

 

「何だこれは!?これが親子プレイというやつか!?血筋関係が一切関係ない他人同士だからこそ得られるこの高揚感!枕営業をする変態社長共の気持ちが分からなくもない!」

 

「あぁ、しかもパパ呼ばわりだろ!?最高のシチュエーションじゃないか!是非、彼女に学校の制服を着させて改めて言わせてみたい!.....否、言ってほしい!」

 

「これが.....日本の代表ですか..........」

 

 

玄朔が不甲斐無い変態閣下2人に頭を抱える。

 

 

「じゃっ、じゃあ!俺のことは"お兄ちゃん"と!」

 

「オニィ.....たん?」

 

「ぐはっ!」

 

 

良晴のハートが撃ち抜かれる。

 

 

「じゃあ次は良晴お兄たまと.....」

 

「やめんか変態!!」

 

 

玄朔に刀の鞘で殴られる。

 

 

「お前、海軍の元帥相手に容赦ないのな」

 

 

天龍が呆れているものを言う。

 

 

「自身の作品をオモチャにされれば流石に怒りますよ。度が過ぎるようでしたら....."注射"しますよ?」

 

「なっ、何それ?」

 

「吸血鬼や人狼の細胞、血液に反応して作用し、化学反応を意図的起こさせて、破裂させる薬です」

 

「どういうこと!?」

 

「つまりはです。閣下方に打てば、身体の中から爆発して、臓物を撒き散らすことになるんです」

 

 

 

「「申し訳ございません!薬はどうか打たないで下さい!!!」」

 

 

 

天龍は頭を下げ、良晴は土下座する。

 

 

「こんな光景、国民が見たら哀しむわね」

 

「レオ.....」

 

 

外務大臣、蒲生氏郷。

 

 

「馬鹿やってないで、さっさと出撃させたら?」

 

「助かります蒲生様.....」

 

 

氏郷の助けによりマガラが解放され、出撃の準備がなされる。

 

 

「どうやって出撃させるんだよ?」

 

 

良晴が問い、氏郷が答えた。

 

 

「この飛行船に搭載されているカタパルトによって射出するのよ」

 

「カタパルトってぇと、飛行甲板?」

 

「いや、投石機の方だ。分かりやすく言うならば、パチンコ。スリリングショットと言うべきか」

 

 

天龍が説明する。

 

 

「えっ!こんな上空から落とすの!?この高さから落ちても平気なくらい丈夫なのか?それとも、羽根が生えてて飛べるとか?」

 

「いえ、羽根は生えてませんが飛行は可能です」

 

 

玄朔が答えた。

 

 

「それってどういう.....」

 

「どうでもいいが玄朔よ.....アレは彼処で何をやっているのだ?」

 

「えっ?」

 

 

マガラが1人無言でコックピットの扉の前に立ち、そのまま扉を引き千切るように破壊し、外へと飛び出してしまう。

 

 

「えええぇぇぇぇぇ!!!??」

 

「こりゃ、躾が必要だな」

 

 

飛び出したマガラはそのまま落下するのかと思いきや、腰の辺りが変質し、そこからエンジン及びプロペラが飛び出し、回転。そのままマガラは滑空する。

 

 

「何.....アレ?」

 

「戦闘機のエンジンだ。当初はヘリコプターのようにホバリングさせる予定だったが、今一つ速度に欠けてな。太平洋戦争末期に登場した日本の戦闘機『震電』の仕組みを思い出して、アレに搭載したんだ」

 

「..........なんか、スト魔女思い出した」

 

「震電と同じく、改造次第でジェットエンジンも搭載できるぞ?」

 

「ここって戦国時代だったよなぁ!?」

 

「良晴よ。時代の流れというものは哀しいものだ」

 

「いい話風にまとめんな!!」

 

「それよりだ。マガラが地上に着陸したぞ」

 

 

ガラス窓から眺める天龍ら。数百メートル先の状況ではあるが、彼らの視力にはそのような距離など、関係ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜?」

 

「※ナッ、ナニモノカ!?」

 

 

※翻訳済み

 

 

「コノ女、空カラキタゾ!?」

 

「トイウカ、天にウカブアノ船ハ!?」

 

「おいちゃんたち、だえ?」

 

「「「!!?」」」

 

「パパァをイジメるの?パパァのてき?パパァが嫌いなの?パパァを殺す?マガラの為にすっごく頑張って、一生懸命やってくれてるパパァを殺すの!?」

 

 

彼女の様子が変わる。

 

 

 

 

「そんなわけないじゃない!!!」

 

 

 

 

「「「っ.....!?」」」

 

「そんなのヤダ!そんなのヤダ!!

パパァはわたしの!おいたんたちなんかに渡さない。渡すもんか!パパァは殺されちゃいけないの。殺されちゃうなんてヤダァ!!そんなのヤダァァァ!!!」

 

 

マガラの腹部が変質し、中からM134ミニガンの砲塔が飛び出す。

 

 

「ねぇ分かる?分かるよねぇ?分かってるでしょ?」

 

「「「............!???」」」

 

 

明兵らは困惑している。

 

 

「分かるよねぇ?」

 

「「「..........」」」

 

 

 

 

 

「"分かったら返事くらいしなさいよ!!!!!"」

 

 

 

 

 

マガラの瞳が吸血鬼の如く紅く染まり、戦闘形態に移る。

 

 

「死んじゃえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれって正常なん?」

 

「いえ、異常です」

 

 

天龍の問いに玄朔が冷や汗をかきながら答える。

 

 

「随分とめちゃくちゃやってんね」

 

 

ここからでも下が地獄絵図となっているのが理解できる。マガラに搭載されたミニガンが明兵をボロ雑巾の如く薙ぎ払い、生き残った連中は肩から飛び出た大太刀によって斬り払われる。武器を投げ、逃げ出した兵は左肘から露出した火炎放射器にて焼き払う。

 

 

「そもそも、今回の実験の目的って何だったのさ。あれじゃあ、前と変わんないだろ」

 

「いえ、自律思考型という事もあり、マガラは敵の戦闘方法を吸収する性質があるんです。以前までの狂戦士状態と違い、戦えば戦う程成長するように。この戦で、明兵の戦闘の"でーた"を得たかったのですが.....」

 

「最初っから実力差があって、教育にならないってか。しゃーないな」

 

「閣下?」

 

「ガキはほっといても身体の成長はするが、導いてやれる大人がいなければ、心の成長はいつまでもしない。奴のパパァとして、その責任は持たなきゃな」

 

「閣下!?」

 

「俺の本職は軍人でも政治家でもなく、『教師』なんでね」

 

 

そう言い、天龍はマガラぶち破った扉から飛び出して飛行船から落下していった。

 

 

「ああああぁぁぁ!!!?」

 

「俺も行ってくるわ!」

 

 

良晴も飛び出して行く。

 

 

「もぉぉぉ〜!!!なんで我が国の代表はどっちも自分勝手なんですかぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落下中の閣下2人。

 

 

「おぉ!お前も来たか」

 

「あんただけ行かせるわけねぇだろ」

 

「俺の背中は甘くはないぞ?」

 

「いつも言ってるだろ。闇討ちなんかしねぇ。前からぶつかって倒すだけだよ」

 

「じゃあ、タイマンできるまで精々強くなるこった。自律思考型なのはお前さんも同じだからな」

 

「あぁ、強くなってやるさ。あんたがこの世に未練を無くしていようと関係ない。俺があんたを追い越すまでは絶対に生き続けてもらう。何年かかるか分からないが、必ず追い越す。俺があんたを終わらせてやる」

 

「............ふっ、何年かかるのやら」

 

「そう遠くないかもな」

 

「戯け。俺の世界はそう簡単には手に入れさせんさ。まぁ、精々見様見真似に俺背中を追い続けるがいいさ。俺も貴様がしゃんとするまでは、おちおち寝てもいられん」

 

「おうよ!」

 

 

良晴は太刀を2本出現させ、二刀流に。

天龍は 『Pfeifer Zeliska』の二丁持ち。

 

 

「うっわ。なんだその化物拳銃」

 

「オーストリア製Pfeifer Zeliska。使用弾頭、600ニトロ・エクスプレス及び458ウィンチェスターマグナム。全長550mm。重量6kg。60口径のハンティング銃だ」

 

「それを二丁拳銃にするとか.....

お前はどこの旦那になるつもりだよ」

 

「いつかはあの拳銃も使ってみたいな。怪力を持つ吸血鬼の特権のようなものだ」

 

「全く.....」

 

 

良晴は微笑する。たった今殺すと宣言した相手と、こうもふざけ合う自分が可笑しかったのだ。以前までなら考えられなかっただろう。今まで数多くの宝を奪った天龍との会話。不思議と苦にはならない。そういう環境を、そういう時代を作り上げたからか。

 

 

天龍を殺す。

 

 

野蛮に聞こえるかもしれないその目標が、俺にとっては今一番の華なのだ。それは彼も同じ思いなのだろう。彼と2人で作ったこの国で、この時代で、生き残る方を決めるラストゲーム。アマテラスなど関係ない。スサノオなど知ったことか!これは俺の思い、俺のゲームだ。俺が動かし、俺が戦い、俺が終わらせる。

 

 

 

 

「パーティの開始だ」

 

 

 

 

地上はあとわずか。

どのような戦況になろうが、どのような地獄が生まれようが関係ない。俺はただ、超えるだけだ。この吸血鬼、勘解由小路天龍という存在を。

 

 

 

 

 

勘解由小路良晴の物語は今始まった。

 

 

 




打ち切りみたいな終わり方だけど、更新ペースが遅いだけでまだまだ続きます。
次回予告
功夫少女
〜中国からの刺客〜


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第九十七話 功夫少女(前編)

2ヶ月の休載をへて復活しました。完全新シリーズです。更新遅すぎて読者さんが残っているかも分からないですが、"頑張って"連載続けていきます!


対馬。対明国海軍との戦に備え、対馬の住民を全員本土へ輸送。前田利家率いる囮部隊の配置。小早川隆景、九鬼嘉隆の日本海軍軍艦による誘導。全ての準備した上での決戦。

 

 

 

『明帝国対倭強襲海軍』

大型軍船8艘、中型軍船43艘、小型輸送船500艘。歩兵3万名。総兵力4万名。

 

 

『大日本帝国対明防衛軍』

自律思考型戦闘装甲生体兵器1体。歩兵2名。総兵力3名。

 

 

 

「いいか、指示をするまでは動くな」

 

『御意!』

 

 

耳にインカムを装着し、上空の飛行船に連絡を入れる。

 

 

「パァパァ〜!!」

 

 

天龍を見つけて、返り血によって全身が紅に染まったマガラが飛び付き、頬擦りをする。

 

 

「よしよし。どんな感じだい?」

 

「あのねあのね。いっぱい"壊した"の!!」

 

 

彼女は敵兵を殺す事を壊すと表現した。幼女程度の感情しか持たない彼女には精一杯の表現なのであろう。

 

 

「よしよし。よくやったぞ我が愛しきマガラ」

 

「ぐへへへ〜♡」

 

 

天龍に頭を撫でられ、不気味な笑い声をあげる。

 

 

「※マタ空カラ来タゾ!」

 

「※バケモノ共メ!」

 

「化物?俺は悪魔だよ支那の海兵諸君」

 

 

両手に持った巨大拳銃の銃口を明兵へと向ける。一方良晴はというと、両手に持った太刀を構えるわけでもなく、立ち竦している。

 

 

「良晴よ。お前はどう選択する?」

 

「...........」

 

「knock or kill。生かすも殺すも自由だ。好きにするといい。その為に来たのだろう」

 

「あぁ。もう決めてる」

 

 

良晴は覚悟を決めていた。天龍を殺すという目標がある今、彼の選択は.....

 

 

「来るぞクズ共。ミッションスタートだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目を離すなよマガラ!全てが終わるその時まで俺を見ていろ!」

 

 

 

天龍の持つ Pfeifer Zeliskaはシングルアクションの回転式拳銃。S&W等のダブルアクションリボルバーと違い、撃鉄を一発ごとに下ろさねば発砲できないのが特徴。リロードにも特徴があり、通称『ソリッドフレーム』と呼ばれる、シリンダーが固定式な為、弾丸の装填は1発ずつであると同時に、空薬莢を捨てるのも一発ずつというものだ。『スイングアウト』の振出式と比較しても扱いが難しいが、その分、強力なマグナム弾が放てられる。

 

 

 

「ぐふげぇっ.....!!???」

 

 

象等の巨大生物を殺す為に使われる狩猟用拳銃。人間に対して撃てばどうなるかなど、言うまでもない。弾丸が腹に直撃した明兵は身に着けていた鎧に一切守られないままに、腹から真っ二つに別れた。

 

 

「ぎゅぃっ.....!!!!」

 

 

頭に直撃した明兵はその瞬間に、的にされた西瓜の如く鮮やかにその頭部を破裂させる。

 

 

「2つ持ったままなのは邪魔だな。召喚」

 

 

一方天龍は西部風なホルスターを召喚して、拳銃を仕舞うなどの余裕を見せる。

 

 

「※アンナノニハ勝テナイ。殺サレル!」

 

「※オ助ケェ!」

 

 

明兵らがパイファーを恐れ、後退する。

 

 

「逃しはせんぞ!」

 

 

ホルスターから引き抜いたパイファーをガンスピンにてクルクル回転させながら構える天龍。逃げ出した明兵を確実に捉える。

 

 

「不思議だ。この緊張感」

 

 

リロードを開始しながら語る。

 

 

「マグチェンジでは到底味わえない.....」

 

 

素早いガンスピンも駆使し、高速にてリロードを完了させる。

 

 

「どうだ跳弾の味は!」

 

 

それまでは1人に対して一発だったのに対し、1人に当てた弾丸を跳弾させ、横や後ろにいた兵に当て、これまた即死させている。また、2連続で弾丸を放ち、弾丸に弾丸を当てることによってそれを破裂させ、細かい粒子を周囲にバラ撒き、多くの兵に直撃させている。1発あたりに最低2人、多くて5人は仕留めている。

 

 

「おぉ、リロードタイムがこんなにも息吹を」

 

 

そしてまた、奇妙な動きでリロードをする。さらに、先程よりもスピードが上がっている。

 

 

「※コナクソ!」

 

 

ある明兵が対抗し、鉄砲を持ち出す。いや、それはポルトガルの火縄銃に劣る旧世代の鉄砲、中国製『火槍』だ。

 

 

「暴発に注意しな!」

 

 

今や発砲されようとしていた火槍の銃口にパイファーの弾丸が捩じ込まれ、筒内にて暴発。火薬にも引火し、その明兵は炎に包まれる。

 

 

「へぎょっ!」「ぎぃっ!」「ぢゅっ!」

 

 

 

一丁目、6発を撃ち切るまでに14人。

二丁目、12発目を撃ち切るまでに31人。

 

 

そしてリロードタイム。

 

 

 

「俺のリロードはレボリューションだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処の山猫部隊だよ.....」

 

 

SAA(シングルアクションアーミー)ならともかく、全長550mm。重量6kg。60口径のハンティング銃を軽々振り回す光景は異常そのものだった。しかし彼は以前、西洋風江戸城(ドラキュラ城)の屋上の対戦時にこの大拳銃を片腕で使用して手首を脱臼している。その対策もしたのか、心なしか、彼の肘から先も隆起した筋肉によって巨大化している。それで調節しているのか。

 

 

「無茶苦茶やるねぇ」

 

「カッコイイ♡」

 

「マジか」

 

 

マガラは問答無用に天龍に対して好意を抱いている印象だった。

 

 

「おっ?」

 

 

天龍によって一気に押し返された明兵がこちらに押し寄せて来た。

 

 

「よ〜〜〜〜〜い.....」

 

 

二刀を構え、スタンディングスタートにて駆け出す。

 

 

「ドンッ!!」

 

「い"っ!?」「う"っ!?」

 

 

躊躇なく、向かって来る2人の明兵を斬る。

 

 

「ふんっ!」

 

「がぁっ!!?」

 

 

肩への強烈な一撃が走る。だが、何故か出血はしない。

続けて強烈な斬撃を喰らわせる、大太刀は明兵3人を捉え、まとめて斬り裂く。だがまた、出血はしなかった。

 

 

「三日月っ!!」

 

 

朧月光流、特型『三日月』。魔力を持った斬撃。可視化された斬撃を相手方向へそのままの威力にて飛ばす技。本来ならば、対朧月光流用の防御技。威力に応じて様々な朧月光流奥義を打ち消す技だ。

だが、普通に使えばただの遠距離武器。空飛ぶ巨大な刃だ。明兵相手には丁度いい。案の定5人近くが巻き込まれ、飛ばされる。

 

 

「うっし!」

 

「オニィたん、すぅごい」

 

「おうよ!」

 

「..............あぁ、そっか」

 

 

天龍が何かに気付く。

 

 

「"オニぃたん、オニィたん、まだ壊れてないよ?"」

 

「あぁ〜〜、それなぁ.....」

 

 

良晴に倒された多くの明兵は確実に戦闘不能となっていたのだが、多くは気絶したり痛みで蹲っていたりなど、死者は全くと言っていい程出ていなかった。ぶっちゃけ、全員生きていた。

 

 

「なんでなんでぇ〜?オニぃたん、ちゃんと斬ってたよ?」

 

「実はな.....」

 

「よっ!」

 

 

天龍が何かを投擲する。

 

 

「い"っ!!?」

 

 

突然飛んでくる硬式野球ボール。

良晴は慌ててそのボールを刀の刃で"弾いた"。

 

 

「弾いた.....か」

 

 

投げたのは天龍。

 

 

「よっ!」

 

 

トルネード投法から繰り出される第二球目。球速160kmの豪速球。再び良晴めがけて飛んでいく。

 

 

「またかよ!?」

 

 

バットを構えるかのように球を待ち受ける。鉄砲の弾丸すら避ける人狼の身体能力の前に、野球のボールなど止まって見えよう。

 

 

「次は打つぜぇ!」

 

 

ところが、球は直前になって落ちる。

 

 

「なっ、フォーク!?」

 

 

空振り。

 

.....かと思われたが、良晴は瞬歩にて下がり、再び構える。そして、刀を刃に返さずに下から斬り上げ、硬式ボールを峰で"斬った"。

 

 

「なる程、『逆刃刀』か。明兵が死なんわけだ」

 

「確かめる為だけに、本気ボール投げんじゃねぇよ!」

 

「ふっふっふ〜。たかが100マイル如きが俺の本気ボールと思うか?」

 

「十分メジャー級だよ.....」

 

「まぁ峰は刃だし、バットとかじゃないだけマシか」

 

「何だよ。また甘いって言いてぇのか?」

 

「いんや?それが貴様の最終選択というのなら、もう何も言わんさ。貴様のソレも、決して間違いというわけではない。いや、むしろそれが正解という考え方だってできよう。だが.....」

 

 

邪悪な笑みを浮かべ、彼は言う。

 

 

 

 

「その程度の覚悟で俺を越すぅ???

何処をどうやればそんなモノが達成できるぅ?

どうやればこの俺様を殺すことができるんだぁい?

ママゴト遊びが一体いつまで続くものなのやらぁ?」

 

「オニぃたんのチキン」

 

 

 

 

「...........」

 

 

以前までの相良良晴であれば、すぐに反発していたであろう。

 

 

「チッチッチ!残念ながら、今の俺は煽り耐性MAXだぜ?」

 

「あれま」

 

「でもマガラの罵倒は効いたぁ.....」

 

「そりゃそうじゃ」

 

「別に、殺せないわけじゃない。確かにこれは戦争だが、殲滅だけが戦勝の秘訣ではない。無力化も十分に意味のある行為だ。殺す必要がないなら、無闇に命は取らないさ」

 

「むぅ」

 

「それとだ天龍。俺はまだ人を殺したことが"一回"しかないんだぜ?」

 

「そだっけか?てっきり2〜300人程殺してるかと」

 

「そりゃあ、俺の命によって家臣に殺めさせた敵は数知れない。それを省く気はないよ。でも、直接手に掛けた相手は『1人しかない』。人狼になって以降もずっと理性で抑えてたしな」

 

 

良晴が殺した1人。切腹の介錯ではあるが、彼にとっては自ら手に掛けたことに変わりはないのであろう。

 

 

「でも、殺意を持って殺した相手は1人もいない。本当に誰もいないんだ」

 

「..........」

 

 

 

 

「だからさ。お前を最初で最後にするよ。殺意を持って直接抹殺するのをな」

 

 

 

 

「..............ほう」

 

「へへっ」

 

「殺す殺す詐欺にならんといいがな」

 

「死ぬ死ぬ詐欺してたのどいつだ?」

 

「ぶっちゃけ俺は常時死んでるようなものだしな」

 

「殺せないゾンビめ」

 

「忠誠心のない犬め」

 

 

互いに微笑した後に、双方が武器を相手へ構える。

 

 

「貴様は何人"倒せるか"俺は何人"殺せるか"」

 

「勝負スタートだ」

 

「くひゃっ!!」

 

 

天龍が良晴に向かって発砲。弾丸は一直線に良晴の後方へと流れ、奇襲しようとしてきた明兵の頭蓋を砕く。

 

 

「どっせいっ!!」

 

 

瞬歩にて天龍の後方へと周り、斬る。気付けば左方向より近付いていた明兵に逆刃刀の峰打ちを喰らわせ、戦闘不能とさせる。

 

 

「マガラもやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行船内。

 

 

「あれって、実験になってるの?」

 

「むぅぅ.....」

 

 

蒲生氏郷の問いに、玄朔は答えを渋る。

 

 

「どっちにしろヴラドの勝ちね」

 

「いや、あまりに有利になれても.....少しくらいは不利になって故障とかしてくれれば.....それはそれで研究材料になるのに.....いやでも.....」

 

「いいじゃない。そんなに急ぐ事なの?」

 

「欧州・明と敵対している現状においては、少しでも戦力が必要なわけで.....」

 

「ぶっちゃけ、ヴラドと猿閣下が一騎当千.....いえ、当万の値の猛将だから、必要ないと言えばないのだけれどね」

 

「うぅ、お二人もいつまでもご存命というわけでもないので.....百年使える兵器というものが必要なわけで.....」

 

「あんたも異常ね。昔の武家社会じゃあ、そんなの口にすれば即打ち首よ」

 

「今は軍医総監なので」

 

「やれやれね」

 

「むぅぅ.....これはむしろ閣下方にマガラの相手をして頂ければ.....いや、マガラの未発達の感情でそれは.....」

 

「私は休んでるわね」

 

「どうぞご自由に」

 

「ふぅ.....................えっ?」

 

 

氏郷が何かに気づき、戻ってくる。

 

 

「何よアレ!」

 

「わっ、分かりません!あんな人間が明に!?」

 

「まさか.........."ヴラドが殺されるなんて!"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」「うぇっ!?」

 

 

良晴もマガラも目を疑った。何故なら、たった一人の明兵に"頭部を碎かれた"のだ。一発の蹴りで.....

 

 

「ぱ.....パパぁ............パパァ!!」

 

「何者だお前っ!」

 

 

天龍を蹴り殺したその明兵が振り向く。

 

 

「っ.....!?」

 

 

その明兵は女だった。

 

 

「"お前は我ら明の言葉が分かるのか?"」

 

 

他の明兵と違い鎧も剣も持たず、ただの格闘着のみを身につけた、シミオンヘアーの少女。日本語で尋ねてきたように思えたが、これは良晴らが理解できるというだけで、彼女の話す言語は中国語だ。

 

 

「絲春蔡(スー・チュンツァイ)。これが私の名前だ」

 

「あらまぁ、可愛い名前だこと」

 

「言っていろ倭人。貴様達は私が始末する」

 

「おっかねぇ〜、くわばらくわばら」

 

 

彼女は天龍を一撃で殺した。当然ながら、そのレベルは『人外クラス』ということだ。

 

 

「おいマガラ、アレはちっとやべぇぞ。ここはタッグ組んで..........マガラ?」

 

「よくも殺したな。よくも殺したな。よくも殺したな。よくも殺したな。よくも殺したな。よくも殺したな。よくも殺したな。よくも殺したな。よくも殺したな。よくも殺したな.....」

 

 

小声でブツブツと呟く。

 

 

「おっ、おい!?」

 

「よくもパパァを殺したなァァ!!!!」

 

 

再び感情が高ぶり、無防備にも一直線にシーと呼ばれる女格闘家へと突っ込む。

 

 

「愚かな」

 

 

爪を刃の如く研ぎ澄ませ、シーの細い喉をトマトのように握り潰そうとしたマガラの両腕をただの回し蹴りによって粉砕した。

 

 

「あっ.....あ.....」

 

 

マガラにも何が起きたのか理解できなかったであろう。

 

 

「終わりだ」

 

 

マガラの胸に拳を置き.....

 

 

 

『発勁』

 

 

 

「がぁぁっ!!!?」

 

 

見えない衝撃波を零距離より浴びたマガラは、血肉や機械の部品らを撒き散らしながら真後ろへと吹っ飛ばされる。

 

 

「マガラ!」

 

 

半分バラバラになったマガラを良晴が受け止める。彼女の胸は散弾銃を撃たれたかのように酷く抉れていた。

 

 

「がひゅっ.....がひゅー.....」

 

「無理に喋るな。待ってろ、すぐに玄朔の所に連れてってやる!」

 

「逃すと思うか?」

 

「あぁ、思うね!」

 

 

良晴はその場で常識外れな跳躍力によって飛び上がる。飛行船までジャンプする気なのだ。

 

 

「へっ!流石に上空にまではカンフーできねーだろ!」

 

「私はな」

 

「へっ!?」

 

 

飛び上がった良晴に巨大な銛が超高速で向かって来る。

 

 

「やべっ!?」

 

 

良晴は慌てて素手で銛を弾く。しかしそのせいで、せっかくの跳躍が失われてしまった。

 

 

「くっ.....召喚!!」

 

 

良晴が召喚したの小型の気球。その先に付いた紐を瞬時にマガラに結び付け、気球の浮遊によって彼女を上空へと放る。落ちながらにして、はるか上空の飛行船にて、予測して外に出ていた氏郷によってマガラが回収された事を確認し、安堵して地に着く。

 

 

「何だ今のは?」

 

「フルトン回収だよ。まぁ、説明しても分かんねぇだろうけどよ」

 

「ふぅむ」

 

「っていうか、誰だ?銛なんていきなりぶん投げてきた奴はよ」

 

「銛とは無礼な。これでも某の愛槍なのだがな」

 

「むっ?」

 

 

これまた屈強そうな武人が出てくる。

 

 

「某の名は戚継光。我ら戚家軍の将だ」

 

「.....せき、けいこう?てか、日本語じゃん」

 

「普段は倭寇の相手をしているのでね」

 

「戚継光.....戚継光ねぇ。ちょっと待ってて。今百科事典で調べるからさ」

 

「?.....よくは分からぬが、向かわせてもらうぞ。うぬも名のある日ノ本の将なのであろう。なれば、お覚悟を!」

 

 

継光が槍を構えて突進してくる。

 

 

「うわっ!?」

 

 

それは、良晴が押し負ける程のもの。

 

 

「こいつっ.....!巨体のくせに!!」

 

 

2m近い巨身で猫のような瞬発力。

 

 

「スー、貴君も手伝え!」

 

「助太刀致す!」

 

 

 

スーも出ようとしたその時。

 

 

 

 

 

「どこに行こうというのかね?」

 

 

 

 

 

「つっ.....!?」

 

 

スーは真後ろに嫌な邪気を感じ、その場から瞬時に距離を置く。

 

 

「そこまで怖がることもなかろうに。中々にショックだぞ?」

 

「.....何者だ。貴様」

 

「日本の陸軍大将閣下様だよ」

 

「そうじゃない!貴様、人間じゃないだろう!頭だ!頭を潰したんだぞ!?」

 

「いかにも。俺は人間ではない」

 

「妖怪か!物の怪か!いくらかような魑魅魍魎といえど、頭を潰されて生き残れる生物がいてたまるか!この化物!」

 

「化物?違うな。俺は悪魔だ」

 

「くっ.....!」

 

「良晴は戚との戦いに集中しているようだ。なれば、我々は2人きりでデートをしよう」

 

「来い化物!頭で死なぬのなら、その全身全てを粉々に砕いてやる!我が功夫がそれを成してみせよう!」

 

 

スーが構える。

 

 

「惜しいのう、惜しいのう。シー・チュンツァイ。お前を殺すのは大変惜しい。俺はお前が欲しい。是非我が軍に、否.....我が物となれチャイナガール!お前を我が眷属にしてくれる!」

 

 

天龍は銃を消し、スーに合わせて素手で構えた。

 

 

 

 




ネタ満載パロディ満載の最新話でした。そして、新キャラのシーと継光。ずっと遅い投稿だったので、たまには早い更新を目指しましょう。次回、対馬編決着です。

次回予告
功夫少女(後編)
〜ただ、家族の為に〜


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第九十八話 功夫少女(後編)

前回からのカンフー少女の話が長引いたので後編にしちゃいました。インドのわがまま娘の話はまた次回に引き伸ばしです。


『戚継光』明帝国武将。16世紀、中国沿岸で密貿易を行っていた倭寇によって明軍が総崩れになっていた所、戚家軍と呼ばれる水軍を指揮し、倭寇の討伐を行っていた。大規模な万里の長城の補強工事の際にも、彼の名前はあがっている。

しかし、彼が水軍として活躍したのは16世紀中期のこと。(恐らく)16世紀後期である現在は、北方指揮官として陸にいるはずだ。彼もまた、歪んだ歴史が産んだ結果なのだろうか。

 

 

 

 

「へ〜〜」

 

 

 

 

百科事典を読みながら、良晴は余裕な態度を見せる。

 

 

「もう良いかね」

 

「あぁOKOK!いやぁ、日本史の戦国時代じゃ、中国関係の話はほとんど触れられてないから、全然分からんかったのよう。でも、これでスッキリした!」

 

「ふん。余裕といった表情であるな」

 

「あぁ、俺はあんたより強いよ」

 

「慢心もいいところだな。それこそが命取りとなろうぞ?」

 

「慢心じゃねぇよ。俺はあんた程度に負けてやる余裕がねぇのさ」

 

「なに?」

 

「俺の宿敵はただ1人。その宣言をさっき奴にしちまってな。俺は奴を倒さなけれならない。それまでは絶対に負けてられねぇ!奴より下の連中には特にな!!」

 

「奴とは.....先程貴君といた男のことかね」

 

「あぁ」

 

「.....ぷっ」

 

 

継光は吹き出す。

 

 

「あっはっはっはっはははははははは!!!

貴君の目は節穴なのかね!彼は貴君の目の前で死んだではないか!スーに頭を碎かれ、無様に脳髄の肉片をバラ撒きながら!貴君の目標はあの死骸のことかね!そうか!そうか!あっはっはっはっはははははははは!!!!」

 

「精々笑ってろよ」

 

「はははは.....あぁ?」

 

「奴が頭を碎かれくらいで死ぬかよ。気を付けろよ戚継光。早く対処しないと、砕き殺した化物が蘇るぞ?」

 

「なにを言って.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くひゃっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つっ.....!!!!????」

 

 

首の後ろに気配を感じ、慌てて継光が振り返る。だがそこには誰もいない。ただ振り返った方向から、スーがいた方向からとてつもなく膨大かつ、邪悪な気が痛い程伝わってくる。

 

 

「いっ、一体.....」

 

「うわぁ、でたよあいつのデビルオーラ。霊力駄々漏れじゃん。ここまでビリビリ伝わってくるな。こりゃ、わざとやってんな?」

 

「まっ、まさか本当に.....」

 

 

砕き殺した化物が蘇る。

 

 

「良かろう」

 

 

継光は持っていた銛のような形の槍をその場に捨てる。そして、腰に差していた日本刀によく似た細い刀を抜く。

 

 

「日本刀?」

 

「これは『倭刀』だよ。先代宋の時代にこの日ノ本より伝わった刀を我らなりに量産してみせたものよう。如何せん、貴君の国の刀にはよく劣るが、それでもこれは、"剣より長く、槍は柄ごと斬り裂く"。

貴君の話が真であるならば、スーでは敵うまい。早くに某が救援行ってやらねば彼女が死ぬ。だが、その前に貴君を早急に討たねばならぬ。なれば、某の『竜行剣』を喰らうが良い!!」

 

「へっ、それは楽しみだぜ!」

 

 

良晴もまた刀を構え、向かい打つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!!はぁ!!はぁ!!はぁ!.....」

 

 

武闘家スー・チュンツァイは激しい息切れをしていた。明らかに彼女の方が推しているというのに。

 

 

「どうしたチャイナガール。それで終わりか?」

 

「省省吧(黙れ)!!」

 

 

スーの上段回し蹴りが天龍の顎部を貫く。

 

 

「発勁!!」

 

 

その瞬間、天龍の顎部が爆発したように破裂し、肉片を飛び散らせる。

 

 

「くひゃっびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!!」

 

 

下顎のない状態でゲラゲラと高笑う。

 

 

「おのれぇ!!」

 

「ぐびゃっ!」

 

 

天龍が拳を突く。

 

 

「発勁!」

 

 

天龍の右腕を捻るように押し出し、そのまま橈骨、尺骨、上腕骨を砕き、筋肉から飛び出させる

 

 

「ぐびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!!」

 

 

痛みを感じていないのか天龍は笑い続ける。

 

 

「くっ.....!」

 

 

スーは焦っていた。彼女は天才格闘家だ。特に勁の武術については、様々なもの種類の勁をマスターしている程の強豪。

 

翻浪勁、螺旋勁、纏絲勁、轆轤勁、沈墜勁、十字勁、掤勁、整勁、内勁、外勁、翻浪勁、螺旋勁、纏絲勁、抽絲勁、寸勁、分勁、零勁、暗勁、分勁、.....浸透勁。

 

覚えている全ての勁を天龍に叩き込んだ。だが、この男が倒れる様子は全くない。

 

 

 

「もう終わりか?」

 

 

気付けば、天龍は元の姿に戻っていた。これだ。まるで蜥蜴の尻尾が生え変わる様子を高速で見たかのような。どれだけ、肉体を抉ろうと、次々に再生する不死身の肉体。全くもって弱点が読めない化物。

 

 

「しっ、心臓なら.....」

 

 

掌で打つ勁では、与えられる衝撃は分散する。相手の再生回数に限界があるのであれば、破壊すればする程敵が弱体化するのであれば、それでも良いだろう。だが、相手は無限の肉体を持つ、不死の大妖。脳で駄目であったのなら心臓を破壊する。それで駄目なのなら、もうこの男の討伐は不可能なのだろう。

 

 

「次で決めよう.....」

 

 

スー・チュンツァイは構える。自身の最も得意とする、浸透勁の構えにて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「某と来るか?」

 

 

10年前、泥だらけの少女スーは戚継光に拾われた。

 

 

 

 

 

明国。もとい中国は昔から栄えるのは都心部のみであり、地方は貧しい寂れた村が多かった。スーはその中でも特に貧困層の生まれであり、わずか4歳で親に奴隷として売られた経歴を持つ。富裕層の男に性処理道具として、玩具として、遊ばれ続けていた。

8歳の冬、寝ている奴隷主を殺害。

路頭に迷っていた所、とある暗殺教団に拾われる。そこでの7年間、様々な暗殺術を手に入れ、勁の術をマスターした。

15歳、暗殺者として政府に忍び込む。反政府側の依頼にて、とある人物を暗殺する為に。

 

 

標的は、戚継光。

 

 

 

 

結果は失敗。女の武器を使い、ベットの上で暗殺する。暗殺道具は必要ない。拳さえあれば、誰でも殺せた。

だが失敗した。武人継光の超人的直感の前に、暗殺前に正体を見破られる。衛兵に追われ、命からがら逃げ出し、暗殺教団まで戻る。しかし、待っていたのは教団からの刺客。暗殺に失敗した彼女は、もう教団からも用済みとされていた。

刺客からも逃げ延び、撃退し、泥を被り、全身傷だらけで、山中で遭難。

 

死を待つだけだった。

このまま失血死するか、餓死するか、それとも野犬やら猛獣やらに喰われるか、スーは諦めかけていた。元々呪われた人生だった。どうせならさっさと終わってほしい。痛みはできるだけ少ない方が助かる。このまま眠れば、安らかに死ねるかな.....

 

 

 

 

 

「某と来るか?」

 

 

 

 

 

掠れゆく意識の中で言われた。これが仏とやらか?儒教も仏教も信じていないが、暗殺者である私でも極楽に連れて行ってくれるのなら、何処へでも.....

 

 

「つれ..........連れて.....行って」

 

「うむ」

 

 

 

 

気付けば保護され、養われていた。

戚継光に。

不思議な関係だった。いや、自分で連れて行ってくれと頼んだものの、まさか暗殺対象に助けられるなんて。

 

 

「私はお前を殺そうとしたんだ。その私を助けようだなんて、何を考えている?馬鹿なのか?」

 

「そうだろうなぁ。馬鹿なのかもなぁ」

 

「む?」

 

「某は思うのだ。貴君のような幼子が、暗殺などに携わるなど。某には見過ごせぬのだ」

 

「幼子.....私は15だぞ」

 

「某には幼子だ」

 

「それに、私は殺ししかない。8で初めて殺して、今まで何人も殺してきた。教団で友達になった子達もみんな殺した!殺さないと私が生きていけないから!お世話役になってくれたオジさんも殺した!みんな殺した!」

 

「ふむ。それが貴君であるのなら、しょうがあるまい。貴君はずっとそのままでいるがいい。それが貴君の生き様というのならな!」

 

「は?」

 

「なれば、今度は某の為に殺してくれ!」

 

「お前の依頼を受ければいいのか?」

 

「違う。某のものになってくれ!某の剣に!盾に!暗器になってほしいのだ!」

 

「............」

 

 

 

 

 

 

 

返事はしなかった。だが、そのまま継光のものになっていた。今度は政府の暗殺者として、反政府側の要人を暗殺した。立場が逆になっただけで、やってる事は昔と変わらなかったが、不思議なものか、以前とは違う感じだった。生きる為、殺されない為の暗殺じゃなくて.....

 

あの人の為にやれるのが嬉しかった。

やり遂げて帰って、褒められるのが嬉しかった。

 

 

 

 

「ひのもと?.....島国の倭人の国の事か?」

 

「そのような言い方をするでない!

上の連中も皆、あの国を弱小国家と過小評価しているが、そうは思わん。西洋の技術を文化を積極的に取り入れ、それまでとは比べならぬ程の成長を遂げている。

特にトヨトミとかいう男が凄い。極々短時間にてあの国家を纏め上げ、琉球までもぎ取りおった。感服感服」

 

「はいはい、親日親日.....でもそんな大好きな国を攻めても大丈夫なのか?」

 

「構わん!憧れているからこそ、死闘を繰り広げられるのが楽しみで仕方が無い」

 

「ふ〜ん。でも、日ノ本というのも無能なのだな。本土と目と鼻の先の対馬の警備を薄くするなんてな」

 

「いや、恐らく罠だろ」

 

「えっ!?」

 

「かなり自然な形ではあるが、あれは罠だ。我ら戚家軍を囲い込み、殲滅する魂胆であろうな」

 

「はぁ!?それに気付いてるなら、さっさと上層部に掛け合ってこの侵略作戦をやめさせないと!」

 

「言ったさ。だが無理だった。仮に罠だった所で弱小の倭人に勝つのは楽だとさ」

 

 

私は知っている。強過ぎる継光は上層部から嫌われている。北京の連中からはさっさと戦死してほしいとか言われてる。多分、罠って知っていてわざと出撃させたのだ。厄介払いにする為に。

 

 

「それでもだ。かのトヨトミと争う機会あるのならば、罠と知っていても突撃したいものだ!」

 

 

呆れた。

 

 

「じゃあ、私が殺すよ」

 

「む?」

 

「奴の前に立つ兵は皆、殺してやる。トヨトミまでの道を作ってやる。だからトヨトミはお前が殺せ」

 

 

スーはわりと野蛮な台詞を笑顔で宣言する。

 

 

「ふふっ、有難うなスー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞっニッポンジン!」

 

「くひゃひゃっ!!」

 

 

面ではない。面ではなく、点。点で撃つ!

 

 

「烈!!」

 

 

右手を剣のように鋭く伸ばし、一直線に刺す。

 

 

「ふふっ」

 

 

天龍もまた、左掌を出すが。

 

 

「鋼!!」

 

 

スーの手は天龍の掌を貫く。砕くわけでも、壊すわけでも、破るわけでもない。貫く。針のように貫く。鋭く。尖く。美しく貫く。

 

 

「なっ!?」

 

 

スーの手はただただ一直線に跳ぶ。狙うは左胸。心臓。

 

 

「弾!!」

 

 

発勁。

 

 

「うぐっ!!?」

 

 

衝撃は点から線となって貫かれる。ただ一つ。ただ一つの心臓を貫く為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ない。

 

 

 

心臓がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「琉....」

 

 

天龍の右足から衝撃波が周囲に伝わり、地面が割れる。

 

 

「勁.....」

 

「あっ」

 

 

天龍の右掌はスーの腹部に添えられていて。

 

 

 

 

「梵!」

 

 

 

 

ズドンッ。

文字で表すならこんな衝撃。

弾丸。ショットガン。徹甲弾。

 

 

 

 

「ぐっ............げぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

あまりの威力に身体が麻痺したのか、そこまでの痛みは感じなかった。だが嘔吐した。胃の中の内容物が全部出た。少しだが、吐血もする。

 

スーの浸透勁を利用したカウンターの勁。全力でやれば、きっと殺していた。だが、直前に足へと勁を半分以上流した為に、そこまでの殺傷力はなかった。

 

 

「なっ.....何故だ..........何故足に.....勁を流した」

 

「言ったはずだ。俺はお前を殺すのではない。お前は俺のものにするからな」

 

 

似たような台詞を、昔言われたな。

 

 

「くそっ..........くそっ!.....くそっ!」

 

 

もう、嫌になる。"心臓が存在しない"奴なんて、どう倒す?そもそも倒すというような概念がそもそも奴にはあるのか?

 

 

「あ.....悪魔か」

 

 

悪魔ならしょうがないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では次は俺の番だ」

 

「何っ!?」

 

 

地面に吸い込まれる。いや、地面じゃない。影に吸い込まれる。奴の影に。影に喰われる。

 

 

「くそっ!!」

 

 

影が形になる。どう言葉にすればいいか分からない。影から出てきた"腕"がスーの両腕を掴み、拘束する。四肢が全て不自由になる。

 

 

「どうな気持ちだスー・チュンツァイ」

 

「つっ!?」

 

 

気付けば、真後ろの影の中から天龍が出現する。そして、胸と股間を鷲掴みにされる。

 

 

「うぅっ.....」

 

「どう思うのだスー・チュンツァイ。これから喰われる側の気持ちは?」

 

「おのれっ!!」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 

 

 

もう、抵抗すらできない。

 

 

 

「這是怎麼回事了!! 謙虛的人!!!

(クタバレ下衆野郎)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ばかな..........莫迦な!!!」

 

 

半分折れ、ボロボロに刃こぼれした倭刀を構え、それ以上に全身が傷付いている継光がいた。

 

 

「貴君.....ひょっとしてトヨトミか?」

 

「んまぁ、一応豊臣秀吉って名乗ってた事はあるな」

 

「やはり貴君が!」

 

「でもあんたの言うトヨトミって多分あいつの事だろうな」

 

「あいつ!?」

 

 

先程スーに殺された(?)男の事か。

いや、それよりもこっちの男が先決だ。

こいつは.....

 

 

「もういっちょ行くよ?」

 

 

すぐ真横で声がする。振り向く前にその斬撃は来た。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

刃に峰があり、峰に刃のある特殊な刀を使っているので、斬られたというよりも打たれたという方が近いだろう。

 

 

「ひゃ〜。オッサンタフだな。大抵の奴なら一発でノビちまうのにさ。やっぱり人外の類いだったりすんの?」

 

「貴君の問いに答える義務はない!」

 

「そっか。じゃあ、俺もそろそろ終わらせるか。あっちは終わったようだしな」

 

「.....何!?」

 

「があああああああァァァァァ!!!」

 

「つっ.....!?」

 

 

良晴が正体を現す。

 

 

「狼の.....化物」

 

『あの世の入り口を見せてやろう人間』

 

「くっ!!」

 

 

実力が大きく開いた瞬間でもあった。元々不思議な力により、常人ならざる能力を得ていた継光であったが、大妖ウェアウルフにとってはそんなもの、毛が生えた程度の力の上昇。本物の進化には到底及ばない。

 

 

「あ~あ。ええかっこしいねぇ」

 

「つっ!?」

 

 

気配の全くしなかった方向から声がする。そこには一仕事終えて一服する日本人がいた。

 

 

「はじめまして戚継光。俺の名前は勘解由小路天龍。お前さんが探していたトヨトミだよ」

 

「きっ.....貴君が」

 

 

天龍は仄かに笑みを浮かべる。その視線は余裕に満ち満ちていた。

 

 

『おい天龍!これは俺様の獲物だ!!』

 

「変身すれば理性が吹っ飛ぶのは相変わらずだな。駄目だよ。今のお前では、勢いで殺しかねん。この男にはまだまだ利用価値があるんでな。こちらで始末をつける」

 

『巫山戯んな!今すぐ貴様から喰い殺してくれる!!』

 

 

雄叫びをあげながら良晴狼が超スピードで突っ込む。しかし。

 

 

 

 

『なっ.....!?』

 

 

ひらりと躱され、延髄への裏拳。相手が一般人なら、その一撃で首が千切れるだろう。

 

 

「いくら俺以上の超スピードを持っていようとも、工夫も応用もなしに突っ込んでは、避けられん方がおかしいというものだ」

 

「く.....そぉ.....」

 

 

良晴の変身が解ける。

 

 

「まだまだ改善点大ありですね。まっ、精々修行を"頑張れよ"(笑)」

 

「くっ.....超ムカつくなその言い方」

 

「ふんっ」

 

 

弟とのじゃれ合いを終え、継光へと向き直る。

 

 

「貴君が.....トヨトミ」

 

「降れ」

 

「な.....に?」

 

「貴様らとの勝負は決した。これ以上の戦闘は無意味であろう。投降しろ戚継光」

 

「ふっ、莫迦な事を.....」

 

「む?」

 

「それを決めるのは我々ではなく、上の人間。軍人に過ぎぬ我々は上の人間の剣として死ぬまで戦わねばならぬのだ。某はここで死ぬが、それは貴君らも同じこと」

 

「なんだと?」

 

 

その時だ。海岸線より巨大な砲筒の弾丸が陸地へと発射される。それは天龍らを狙ったものではあるが、同時に戚家軍の兵達も同じ様に巻き込む。

 

 

「どうやら上に見捨てられたようだ。船には監視役として上官様も乗船されていてな。その御方の命により陸への艦砲射撃がなされたのだろう。もう貴君も某もここで終わりであろう」

 

「艦砲射撃.....」

 

 

天龍は海岸線に佇む数隻の軍船に視野を移す。

 

 

「残念だ。貴君との一騎打ちを望んでいたのだが、叶わず終いに至ってしまった。残念だ。非常に残念だ」

 

「ふん」

 

 

天龍は背に巨大な翼を広げ、空へ飛び上がる。

 

 

「邪魔をするな俗物」

 

 

掌を軍船に向ける。直後、掌より魔力の籠った波動がミサイルの如く発射され、軍船を真っ直ぐに捉える。それが直撃した瞬間、軍船は爆弾でも爆発したかのように炎上。そのまま沈没してしまう。その技は、良晴ら人狼も扱う『妖力波』によくよく似ていた。

 

 

「貴様らもだ。この俺を不快に思わせ、生きて出られると思うなよ?」

 

 

他の軍船も同じ様に波動を撃たれ、炎上。明の水軍はたった一人の宰相閣下によってほぼ壊滅状態となる。

そして、ある程度の軍船を破壊し終わった天龍は地面の方へと戻ってくる。

 

 

「一隻逃したが無駄だ。既に対馬近海は我が国の海軍で包囲している。最早駕籠の鳥だよ」

 

「...........」

 

「勧誘の続きだ。投降しろ戚継光。降参して俺のものとなれ」

 

「断る。恐らく今の一連で上官様は亡くなられただろう。なれば某も、それに殉じらねばならん。生きて本国へ戻った所で、某に生き場所は用意されておらぬだろう。ならば死ぬまで戦うのみ、折角邪魔が消えたのだ。それこそ一騎打ちにて死合ってみたいものよう」

 

「むぅ。ではこれでどうだ?」

 

 

天龍が右手で念力のようなものを発動させ、生き残った戚家軍の兵達を空中に浮かべた。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「兪大猷!劉 顕!」

 

 

『兪大猷』も『劉 顕』も継光の部下。歴戦を共に勝ち抜いてきた友だった。

 

 

「戦って下さい戚将軍!」

 

「我らのことなど気になさらず、倭人どもを倒して下され!!」

 

「ピーピーと五月蝿い連中だ」

 

 

天龍が掌に力を入れた所、数人の兵が爆発し、血肉をバラ撒く。

 

 

「なんということを!!.....おのれトヨトミめ!貴君だけは許しておけるものか!某が打倒してくれる!」

 

「やべ、かえって火付けちゃった。もう面倒臭いなぁ。軍人魂は俺にはさっぱり分からんよ」

 

 

天龍は困った表情で呆れる。

 

 

 

 

 

 

『それは駄目だ。私も許さない』

 

 

 

 

 

「.....何!?」

 

 

 

 

聞き覚えのある声がした。恐妻家であるがゆえに、他の女子との交流の一切を断たれた継光が娘の様に育て、実の子のように愛した少女の声。この場所に天龍が来た時点でその安否を諦めていた人物。

その少女は天龍の影より背後霊の如く参上する。

 

 

「すっ、スー!?」

 

 

スー・チュンツァイは確かにそこにいた。

 

 

「投降して継光。もう明の水軍は負けた。もう上の連中に媚びを売る必要はないんだよ」

 

「お前.....トヨトミに寝返ったのか」

 

「違う。新たな主人を見つけただけ」

 

「同じ事だ。呆れたよスー。お前も、所詮は強い者に惹かれるだけの哀れな存在だったのか」

 

「呆れてもいい。見下されても結構。でも継光は生きてほしい」

 

「終わりだよ。某とはお別れさ」

 

「なら私も終わる」

 

 

するとスーは懐から短剣を取り出し、胸に突き立てる。

 

 

「継光が死ぬなら私も死ぬ」

 

「何っ!?」

 

 

それは以前の彼女であるなら、想像もつかない行為であった。

 

 

「トヨトミ!スーに何をした!!」

 

「スー・チュンツァイは俺の眷属となった。俺の一部として従事し、俺の命令で死んでいく存在に」

 

「ではお前が!」

 

「俺が与えた命令は『戚継光を説得しろ』というもの。俺は眷属の感情までは操れぬからな。これはスーの意志によるものさ。随分と愛されているな。妬けてくるものよ」

 

「なんだと!?」

 

 

スーを拾い、助けたのは確かに某だった。だが彼女はそれに対して、何の恩も感じていなかったはず。某が一方的に娘のように愛しただけ。なのに何故.....

 

 

「そんなことはない継光。恩を感じなかったなんてあるはずがない」

 

「スー」

 

「私も、継光を父のように思っていた。親に捨てられた、愛されなかった私を唯一愛してくれた相手。それが貴方。私も継光を愛してる。だから死なないで継光。私をまた1人のしないでよ.....」

 

 

スーは涙ながらに訴える。こんな顔、今までに見たことがあっただろうか。ただの仕事のパートナーではない。二人の絆がここにはあった。

 

 

「.....分かった」

 

「ん?」

 

「投降する。だから兵達を解放してやってくれ」

 

 

その解答に天龍はニヤリと笑みを浮かべ、念力を使っていた掌を緩めると、兵達は途端に地面に降ろされ解放される。

 

 

「すまないスー。某のわがままでお前に辛い思いをさせた。許してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷっくくくく.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

「あっはっはっはっはははははははははははは!!!!!本当に滑稽ね貴方は!!」

 

「スー.....なにを言って.....」

 

「よくやったぞスー」

 

「えぇ、新しき我が主様」

 

 

スーは天龍に頭を下げる。

 

 

「命令通りだ」

 

「昔から男を騙すのは得意なの。以前の失敗の汚名を返上できて気分がいいですよ」

 

「素晴らしい演技力だ。これは今後も使えるな」

 

「えぇ!正直、騙せるか不安でしたが、なんとかなりました!戚家軍の鬼将軍と言えども、衰えればただの雄。騙すのは容易です!」

 

 

天龍とスーはイエーイとハイタッチをする。

 

 

「スー.....嘘だろ?嘘だと言っておくれ。某を父のように思っているのでは.....」

 

「私の両親は私が13の時に殺したわ。殺されて当然よ。"私を捨てたんだから"。家族なんていらないわ。父なんて特にね。私に必要なのは私自身。私は主様で、主様は私。それ以外は何もいらない」

 

 

紅の瞳でスー・チュンツァイは言った。同じ色の瞳を持つ勘解由小路天龍に抱かれながら。

 

 

「そうか.....某が勝てぬわけだ」

 

 

トヨトミよ。貴君の強さはコレか。貴君に対峙した者は皆絶望を味わう。それに耐えられた者こそ、対等な立場で立ち向かえる。だが某は.....

 

 

「逆効果じゃないのか?」

 

 

良晴がそっと天龍に耳打ちする。

 

 

「投降させたいなら、騙したままの方が良かっただろ。なんでバラしたんだよ」

 

「甘いな。俺は別に同志を作りたいわけではない。欲しいのは従僕のみ。力の差を魅せる為にも、『上げて落として、そこから更に谷底に突き落とす』。それが効果的麺なのだよ。このような男の場合は特にな」

 

「う〜わ。下衆ぅい」

 

 

良晴は特に批判もなかった。そういうものなのだと、強引に思うようにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の事、戚家軍は全員武装解除。捕虜として本土に連行すると思いきや、継光は明に返す事となった。いずれ明に攻め込む際のスパイとして.....

 

その際の人質として彼の息子を日本側が預かる事となった。この息子は妾の子供らしく、戚一族の中でも疎まれた存在の子だったが、今の消沈した継光には充分だろう。真逆に、継光の監視役としては蒲生氏郷が任命され、一緒に明へと渡って行った。氏郷なら、例えスパイとバレても敵を皆殺しにしながら堂々と帰国しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいのか?」

 

「何が?」

 

 

残った軍船で明へと帰っていく戚家軍を、海岸より天龍とスーが見送っている。

 

 

「演技ってのは嘘で、ほとんどあれが本心なんだろ?一応俺もそれに合わせたが」

 

「いい。あぁでもしないと彼は、いつまでも軍人のままだから。人を全く疑わない優しい性格だからこそ、彼はそこが弱点。上官なんかの裏切りで死んでほしくない」

 

「そうか。全部終わったら、養子縁組でもするといい。血のつながりなど無くとも、絆だけでその者らは家族となれる。我々の国ではそれが強く保証されてるよ」

 

「...........検討してみる」

 

 

スーは軍船が見えなくなるまで地平線を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、天龍の懐にあった携帯電話が鳴る。

 

 

「はいはいもしもしもし♪

こちら対馬戦にて大戦果をあげた陸軍大将閣下天龍様の携帯電話でございますよ?」

 

【ハローマスター。ベルフェゴールです】

 

 

インド在住の大友宗麟からだ。

 

 

「おぉベルちゃんじゃねぇか。久しいな!」

 

【ついother day(先日)の事なのですが、ついに Heart's desire(念願)の大陸制覇がCompletion(完了)致しました】

 

 

インド帝国もとい、元ムガル帝国の新皇帝ジャハーンギールに、インド大陸の完全統一を命じていたのだ。それに伴い、日本からも支援や援軍を送り、その進軍を早めていたのだが、それがやっとの事で完了したのだ。

 

 

「そうかそうか!それは良かった!お前の説明下手も相変わらずで何より!」

 

【それでなのですが..... Imperial Majesty(皇帝陛下)様が.....】

 

「サリームがどうした?」

 

【マスターにmeet(会う)しに行くとsay(言う)して、ジャパン行きのship(船)に.....】

 

「は?」

 

【ストップしたのですが.....】

 

「ちょっと待て。それいつの話だ?」

 

【mobile phone(携帯電話)が通じず、contact(連絡)がlate(遅れる)ましたが、7日前です】

 

 

連絡できなかったのは、宗麟の電話を国際仕様に替え忘れていたからだ。特殊な個人サーバーを利用している為に、他国まで離れると電波が届かないのだ。

いや、待て。その電波が通じたという事は?

 

 

【もう長崎です】

 

「............やべ」

 

 

 

 

 

 

 

問題児来る。

 




対馬編終了です。
あまりに胸糞すぎる終わり方だと、また反感を買いそうなので、微妙に補完しました。でも、批判は覚悟しとります。
次回予告
天竺の問題児
〜天龍焦る〜

いつになったら予告通りになるのやら


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第九十九話 天竺の問題児

あけましておめでとうございます。
前回投稿からかなり時間が経ってしまいましたね。作品自体はわりと早くに作ってたのですが、投稿という行為を忘れていました。すいません。
傷物語見に行きました!60分という短さに不安を覚えていましたが、次世代アニメを相関させる映像美に感動しましたわな。夏が楽しみだ。




ヌールッディーン・ムハンマド・ジャハーンギール。ムガル帝国第四代皇帝にして、新生インド帝国初代皇帝。幼名及び、天龍からの愛称はサリーム。皇位継承を巡り実父アクバルと争い、偶然にも渡印してきた天龍の協力を得て、アクバルを殺害。改めて皇位継承権を手に入れる。その際、国の名称をムガル帝国からインド帝国に改称した。

 

 

 

「よっ!来てやったぞヴラド!出迎えが遅いではないか!」

 

「連絡も無しに唐突に来日されても対応できん。第一俺は対馬で明と戦争中だったしな」

 

「なにシナとだと!?それでどうした。勝ったのか?」

 

「圧勝」

 

「素晴らしい!それでこそ朕のものである!」

 

 

サリームはペルシア語とチャガタイ語が混じり合ったような言語を話している。『バベルの塔の定理』のある"人間"では、自国民でも聞き取りずらいだろう。

 

 

「そこの女は何だ?ジャパニーズじゃないぞ?」

 

「こいつの名前はスー・チュンツァイ。明からの亡命者みたいなものだ」

 

「ほう。流石はヴラドじゃ!」

 

「まぁね」

 

「ところで、いつになったら宰相として我が国に帰ってくるのじゃ。ジャパンとインドが合わさり、一つの国となるのだろう?」

 

「ちょっと待っててな。準備中だからさ」

 

「分かったぞ!愛する者の為に朕はいつまでも待つぞ!良妻賢母とはそういうものらしいからな!」

 

「はぁ.....」

 

 

天龍のテンションはだだ下がりだった。理由は一つ。サリームが"ちょろイン"過ぎるからである。攻略難易度の高い女子を全力で堕としにかかり、服従させることを好む天龍にとって、勝手にドンドコ惚れ込んでくるサリームは苦手なのだ。

いや、そのような娘など日本の方にも結構いる。問題はまだあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日印同盟とやらだが、主体は当然インドなのであろう?」

 

「は?」

 

「は?ではない。当たり前じゃろう。弱小国ジパングを主体にするとでも思っていたのか?」

 

 

長崎の港にてサリームを迎え、官兵衛主導で新たに栄えた都市、博多のとある洋館にて彼女と会合していたのだが、思わぬ展開となった。

 

 

「サリームよ。どちらが主体だとか、どちらが上に立つなんてのは下らないことだ。『併合』とは即ち同位の存在となる事。インドも日本も全く等しい同じ国になるということなのだぞ?」

 

「分かっておる!だが、国の名前はどうする?国を治める帝はどうする?同じアジアンの人間とはいえ、文化も人種も違うのじゃ。完全なる合併なぞ無理であろう。どちらかを主体にせねば、折り合いが付かぬではないか!」

 

「ちっ.....」

 

 

サリームの言う通りだった。現に、史実の『大日本帝国』と『大韓帝国』の併合の際も、主体はあくまでも日本。植民地と取られてもおかしくはない合併だった。

第一、清国の滅亡により、従属国であった韓国は国家としても文化としても滅亡の一途を辿っており、日本に頼る他なかった状態。その衰退した韓国朝鮮民族のベースに合わせていては日本まで滅びてしまう。だからこそ、韓国朝鮮人の日本人化を目指したのだ。

 

当初の目的としては、インドとは合併という名の同盟を組み、対明国戦に備える予定であった。そうして亜細亜各国を吸収していき、その過程でインド人の日本人化を進めようとしていた。インド帝国が日本以上の勢力を誇っている以上、そのように騙し騙しでやっていく必要があった。その為の傀儡皇帝サリームを擁立したのだが、如何せん上手く行かないものなのだ。

父アクバルという強敵の前ではただのか弱き幼女に過ぎなかったこのサリーム。アクバル死亡後は打って変わる程の采配ぶりに驚かされるばかりである。良晴との戦争やその後の統治の問題で本土を離れなれなくなり、インドへは支援物資を送る程度の手伝いしかなかったにも関わらずだ。

彼女は1人の皇帝としてインド軍兵士を指揮し、ほんの半年程度でインド大陸を統一してしまった。当然、監視役で送っていたベルフェゴールこと『大友宗麟』の戦略の助言もあっただろうし、送った支援もこちら日本でも使われている『"未来の武器"』な為、完全に彼女の実力かどうか問われれば答えを渋りたくなるが.....

それでも、彼女は国の長としての大将を務めた。「億を越える人民の王」を務めたのだ。流石の俺でも脱帽しざるをえない。

腐ってもムガル帝国皇帝。彼女にもまた、名君アクバルの血が流れていたということかもしれない。

 

 

 

だが、それがむしろ問題でもある。

それでは傀儡としては約立たずであるからだ。インドが独自に成長してしまっては、我が国が介入する隙間がないではないか。

 

 

 

 

 

「.....俺の命令を聞けサリーム」

 

「嫌じゃ。何故宰相如きの命令を聞かねばならぬのじゃ。朕は皇帝であるぞ!」

 

 

めんどくせぇ。

 

正直、しばらくの間サリームと距離を空けていたのは失敗だった。こちらの目が届かぬうちに彼女は勝手に成長し、皇帝としての確たる自身を付けてしまっていた。これではなんの為に傀儡にしたのだ?

 

 

 

「とっ、取り敢えずそれは置いておこう。まず対明戦についての打ち合わせといかないか?」

 

「.....ヴラドよ。よもや使う兵はインドの民ばかりが中心であり、手柄だけをジパングが掠め取ろう思っておるのではあるまいな?」

 

「ギクッ!!?.....なんでさ?」

 

「ジパングはここ数年で統一されたばかり。言わば産まれたばかり赤ん坊国じゃ。にも関わらず隣国のシナとは敵対どころか戦時中の状態にある。国土だけなら朕のインドすら越える大国じゃ。まず勝てぬであろうて。しかし、都合よくジパングは朕のインドと同盟を組んでおる。では、やることは決まっておろう。インドにシナと戦わせて手柄だけジパングが貰う。そうであろう?

現に、ジパングはインド統一の際には同盟国にも関わらず全く協力の意志を見せず、ちょっとした支援を送ってきただけのくせに」

 

 

 

 

正直、予想以上の成長率だ。初対面時のバカさ加減が偽りであったかのような。親殺しは幼女をここ迄変えるか。

 

 

 

 

「待て待て待て!言っただろう、その時は運悪く内戦が続いて、インドに援軍を出す余裕が無かったと。それに送った物資は少なからず大陸制覇の役には立ったはずだ。旧世代の火縄銃や明から伝わった"火槍や石火矢"くらいしか火薬武器が無かったインド軍の兵力をガラリと変えたはずだ。そうだろう?」

 

「そうなのじゃがなぁ。朕はどうしても納得いかぬのじゃ!」

 

「何がさ」

 

「結婚の約束は何処へ行ったのじゃ何処へ!」

 

「えっ?」

 

「朕と婚約したじゃろう!!」

 

「あ.....」

 

 

そういえばそうだった。そもそもそれをキッカケにして同盟やら併合の話に発展したのだ。正直、本当にキッカケに過ぎなかったので完全に忘れていた。

 

 

「やっぱしないと駄目か?」

 

「駄目じゃ!断れば同盟を破棄し、颯爽と日本に攻め込んでやる!ヴラドを殺して朕も死んでやる!」

 

 

中途半端にヤンデレときたか。

 

正直口約束はしたものの、俺は結婚に対して積極的ではなかった。

俺は現在、日本国天皇こと方仁・インド皇帝ことサリーム、双方に宰相として仕えている。しかしこれは、かなりグレーな線で均衡を保っており、公にできる状態ではないのだ。未だ封権社会が根強い為か、二君に仕えている事に対する評価は低い。

結婚となれば話はまた変わる。結婚した所でインドの皇帝は依然サリームのままだ。しかし、皇帝の伴侶という立場は手に入る。子供が産まれれば、その子が次期皇帝。皇帝の父の立場も手に入るのだ。

かの平清盛はコレと似た方法よって朝廷すら掌握し、日本国において絶大的な権力を手に入れた。だが、何時の時代も何処の国でも、急激な成り上がりに対する評価は手厳しい。日本を征服した平氏は、それに反発する朝廷や源氏武家によって滅ぼされた。

きっとインドでも同じ事が起きるだろう。家臣や国民は日本からの間者によってインドが侵略されたと感じるだろう。きっと暴動が起きる。革命が起きる。文明開化したとはいえ、未だ弱小の日本は成すすべもなく、サリーム政権は崩壊。その隙を狙って英国あたりに植民地にさせる。

 

軽く考えるだけで、最悪な未来がよくよく見えてしまう。

 

 

「朕は絶対皇帝じゃ!朕のものに過ぎぬお主は朕の命令を聞いておればよいのじゃ!」

 

「............面倒臭い」

 

 

ボソリと呟く。

 

【違うよサリーム。貴様は絶対皇帝なんかではない。このヴラディスラウス・ドラグリアことドラキュラが、ムガル帝国を都合よく侵略し、征服する為だけに救出し、擁立させてやった皇帝だ。所詮は傀儡皇帝。所詮はただの幼女。俺が貴様のものではなく、貴様が俺のものなのだ。俺の人形なのだ。】

 

 

「ヴ.....ヴラド?」

 

 

サリームは天龍の異変を感じ取る。

 

【俺が生かしてやっているのだ。俺の機嫌を損ねれば、貴様のような小童など時代の荒波に打ち消されるだろう。虫ケラの如くに。

分からぬだろうな。分からぬであろうな貴様のような凡愚には。正しき事を学べぬ莫迦どもいつも早死する。貴様も死ぬかサリーム。貴様は邪魔だ。貴様の存在は邪魔だ。貴様の存在は我が覇道の前には障害となる石ころに過ぎぬ!殺すか?そうだ殺そう。殺すなら暗殺がいい。それもこの俺様の仕業と気付かれないように。】

 

 

「ごっ.....ごめんなさ!.....ち、朕が言い過ぎたのじゃ!だからそんな怖い顔はせんでくれ.....ヴラド.....謝るから」

 

「そうさ。そうなのさ。幼女1人を都合良く消す事などわけないのだ。ならどう消す?証拠を一切残さずにサリームをどう暗殺する?そうだ、爆殺しよう。彼女が搭乗する乗り物に爆弾を仕掛け、粉微塵にして殺そう。死体の判別も点かぬ程に、もしくは溺死させるか。サリームが帰りに乗る船を砲撃にて撃沈し、他の船員と共に葬ってやればいい。そうすれば、犯行を明の仕業と偽装する事もできる。明に皇帝を暗殺されたと伝われば、インドの国民は皆、対明戦の鬼となるだろう。死人や狂人となって積極的に参戦する。この俺の駒に、人形になるだろう!」

 

「ひっ.....!?」

 

 

感情のない顔で早口に淡々と己の暗殺計画を暴露する天龍に対して、サリームは膨大な恐怖感を覚える。声にならない悲鳴が漏れ、歯がカタカタと鳴り、少々だが失禁までしてしまう。今の彼にはそれだけの邪悪さがあった。

 

 

「サリ〜〜ム〜」

 

「ひぁっ!?ヤダヤダ.....殺さないで!!」

 

 

腰を抜かし、大声で悲鳴をあげながらサリームは後退る。今度は激しく失禁し、涙も同様に流れ落ちた。彼女にはもう、天龍は人には見えていなかった。それは"影"。漆黒の、何処までも深淵の黒の霧に包まれた『死』に、紅く光る眼球が二つ。

喰われる。殺される。

恐怖を具現化したその生物を前にすれば、皇帝の地位など紙一重に過ぎない。奴の前では、我々は等しく餌なのだ。

 

 

「サリ〜〜ム〜」

 

 

天龍と思わしき影がサリームの首に手を回す。

 

 

「助けて.....お母様.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談だよサリーム。本気にしたかい?」

 

「............え」

 

 

気づけば元の天龍の姿に戻り、穏やかな表情でサリームの頬にキスをする。それ迄がまるで、刹那に見た悪夢のように。

 

 

「うっく.....うわぁぁ.....」

 

 

サリームは緊張の糸が切れたように嗚咽を漏らし、そして。

 

 

「うわあああああああああああああああああァァァァァァん!!!!あああああああああぁァァァァァァ!!!」

 

 

彼女はその場で泣き出してしまった。皇帝としての権威を身に着けようとも、恐怖で感情を引き出されれば、彼女は実年齢に相応しく、か弱き幼女に過ぎないのだ。

 

 

「よしよし。怖がらせたな。ごめんごめんサリーム」

 

 

サリームをその身に抱き寄せ、頭を撫でてやる。

 

 

「うううううぅぅぅぅ.....」

 

「安心しろサリーム。俺がサリームを殺すわけがないじゃないか」

 

「うううううぅぅぅぅ..........うぅぅ」

 

 

 

 

「俺は美少女にも暴力は振るうが、殺すことはないんだぜ?」

 

 

 

 

「...........」

 

 

絶句した。

 

ならもし、自分が男子に産まれていたら?

もし、己が醜女の容姿に育っていたら?

 

彼は迷わず自分を殺していただろう。きっと。絶対に。

 

彼には人間としての感情がない。愛を感じない。感じるのは一つだけ、自分に利益があるかどうか。それしかないのだ。

それが怪物、ドラキュラ。

自分はそんな存在の主人なのだ。

 

 

「ごめんなさい.....ヴラド」

 

「いいよ。時にサリームよ」

 

「うん?」

 

「お前、処女か?」

 

「...........」

 

「いや、分かりきった問いだったな。すまない。質問を変えよう。初潮は既に済んでるのか?」

 

「.....しょちょう?」

 

「月経、生理、女の子の日。一月ごと股から血は出るか?子の産める身体になっているのか?」

 

「.....去年から。.....朕を吸血鬼にするのか?」

 

「よし、今夜俺の寝室に来い。抱いてやる」

 

「...........」

 

 

 

今までの自分なら跳んで歓喜し、頬を染めたことだろう。しかし、現在に至ってそれは無くなってしまった。従わなければ殺される。抱かれなければ喰われる。そういった感情がサリームに覆い被さっていたのだ。

 

 

 

「分かった。今宵朕はヴラドに抱かれよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"不倫は文化だ"

"セックスはスポーツである"

性欲に正直に生き、複数人と肉体関係を結ぶ人間はよくこのように性行為を表現する。

性行為に愛などいらない。性行為は愛確かめ合う為だけのものではない。愛を確かめ合う方法など他にいくらでもある。その行為に愛が無いからといって、不純であるだとか、汚れた関係だとか、身体を大事にしていない。ヤリチン、ビッチだとか。

そんなもの、他人には関係ない。迷惑をかけているわけではないのだから口を出すな。そんな考え方がある。

 

当の俺はというとだ。セックスがスポーツであるという考えがある訳ではないし、複数人と肉体関係を結んでいるからといって、それが愛のない無情な関係や、汚れた関係であるとも思えない。少なくとも、相手は己に対して最大の好意を向け、愛を感じていると言ってもいいだろう。

 

だが、この俺に愛はない。

 

誰かを愛した事がない。愛して性行為をした相手がいない。愛を感じるセックスなどしたことがないのだ。それは政略結婚にて関係を結んだ側室は勿論のこと、前妻のヒカリとも、現在の正室の十兵衛においても、愛は感じていなかったのだ。

だからといって、好きでもないのに仕方無く抱いたわけではない。幾らなんでも、俺とてそこまで捻くれているわけでもない。十兵衛のことは好きだし。他の側室や愛人達だってそうだ。ヒカリとだって、『好きだったからこそ、似合わない結婚なんて真似をした』のだろう。

 

そんな俺に子供が産まれた。7人もだ。子は夫婦の愛の結晶と言われるが、俺は我が子に愛を感じられない。愛を知らない家庭に産まれた俺には、愛の与え方が分からないのだ。

 

 

「でもまぁ、仕方あるまい。俺は所詮.....」

 

 

所詮吸血鬼。所詮悪魔だ。

 

愛を持たないから悪魔。それでいいじゃないか。

だからこそ.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『福岡城』。黒田官兵衛とその妹、松寿丸こと黒田長政の管理する城である。その一室を借りた。

インド皇帝サリームは見慣れぬ木造建築の和室や、床に横に二枚並べられた布団を前にそわそわとしながら、未だ現れない天龍を待っていた。

 

 

「真に.....大丈夫なんじゃろうか」

 

 

初めての夜伽を前にする彼女には、不安感しかなかった。つい先程、膨大な恐怖心を植え付けられ、絶望を覚え込まされた相手に抱かれようとしている。ましてやここは異国の地。逃げ場などは無い。好いた相手の故郷だからと来てみたが、些か早計であったと、サリームは後悔を覚えた。

 

 

「待たせたな」

 

 

襖を開け、天龍が入室した。

 

 

「............えっ?」

 

 

彼の姿形を見て、サリームは開いた口が塞がらなくなってしまった。

 

 

「よっ」

 

「もしかして、ゔっ.....ヴラドか?」

 

「うん、そだよ〜」

 

 

天龍は幼体化していた。元々中性的で、外見から性別が判断しにくい天龍だったが、幼体となっては余計に分からない。

整った顔つき、雪のように白い肌、腰まで伸びる長い黒髪、全体的にほっそりとした身体。大人の彼との共通点があるすれば、紅の瞳と滲み出る黒い邪気。

 

 

「どうしてなのじゃ.....」

 

「なにが〜?」

 

「どうして子供になっておる!」

 

「それが吸血鬼の能力だしな〜」

 

「朕を愚弄しておるのか!」

 

「べっつに〜」

 

 

口調まで子供のように変化している。先程の魔王の覇気とは打って変わった雰囲気に、サリームは戸惑うしかない。

 

 

「君の立場に立ってみただけさ。子供の君にね」

 

「朕を子供扱いするな!」

 

「子供だよ。大人の脳では感じられないものもある。真の意味で君を知りたかったからこそ、僕はこの年齢まで戻ったんだ」

 

「うっ.....く、お主は一体全体何がしたいのじゃ!」

 

「まぁまぁまぁ。今はしがらみも何も全部忘れてセックスしようよ」

 

「ちょっ..........んんっ!?」

 

 

反論しようとしていたサリームの口を唇で塞ぐ。そしてそのまま彼女を布団へと押し倒してしまう。

 

 

「ぷはぁっ!!.....いきなり接吻しおって!朕を馬鹿にしておるのか!」

 

「五月蝿いおにゃの娘はキスで黙らせろってね。まだバードキスだけだろ。これからは大人のキスだよ」

 

「待っっ......んんん〜!!!」

 

 

口内に舌を捩じ込まれ、己の舌に絡められ、舌の表、裏、口内の上側下側、歯、歯茎に至るまでを全て舐め取られる。

 

 

「だめぇ......こえらめぇ.....」

 

「ホレ、じゅるじゅる」

 

 

今度はサリームの短い舌を天龍の口内に吸い入れる。

 

 

「ヒタふわないでぇ〜.....!」

 

 

その舌が天龍のものなのか、サリームのものなのか、はたまた一本に繋がってしまっているかと錯覚する程に絡まり、それによって発生した大量の唾液が互いの口内を行き来する。

 

 

「どう?吸血鬼のヨダレは?滋養強壮、美容、万能薬に媚薬の効果もある。そこらの漢方薬なんかよりもずっと高価なんだよ?」

 

「もう、飲ませちゃやらぁ」

 

「お腹いっぱいかい?ならコッチだ」

 

「ひぅっ.....!?」

 

 

股間に手を伸ばす。

 

 

「濡れ濡れのぐしょぐしょだね。その年でいい感度だ。素晴らしく魅力的だよサリーム。小麦色の肌が美しく火照ってる」

 

「どうして.....こんなこと」

 

「僕のこの姿はね、只見た目を変えてるだけじゃないんだ。肉体そのものを幼体期まで退化させてる。この身体のこの外見こそ、当時の僕の姿さ。僕は生まれながらに化物だからね。一般の吸血鬼に出来ないことが僕にはできる。天竜も朧も出来ないことを、この"僕"になら可能となる。

幼体化の欠点は性格まで変わっちゃうことかな。僕は肉体を老若男女どれにでも変化させられるが、その分それに応じた性格の変化もしてしまう。僕の場合、子供になれば無邪気に、㊛になれば痴女っぽくなっちゃうんだ。爺婆にはまだなった事ないけど、案外口煩い老害になるかもしれないね」

 

「何を.....」

 

「初めての女の子には、僕の全力を捧げたいからね。大人の僕の身体じゃ君に負担かけちゃうかもしれないし、丁度いいだろ?」

 

「もう.....好きにすればいいのじゃ」

 

 

抵抗する気も失せたのか、仰向けにクタリと布団に寝転がり、無防備な状態となる。

 

 

「じゃあいただきます」

 

「んっ♡.....」

 

 

 

 

 

 

 

そうして、俺は彼女を抱いた。

 

考えてみれば、俺はいつも調略の際にはこの手を使っていたのだと思い出す。調略の天才、第二の姫武将殺しだなんて言われた事もあるが、只々セックスの上手さで㊛を魅了しているだけで、そんなに深い話はない。俺も単純な人間の1人だということだ。

 

サリームは非常に攻略の難しい娘だ。俺そのものに惚れさせる手はアクバルを殺害した際に完了しているだろう。だが、空いた期間の間に、彼女は皇帝としての自信を強化させた。精神面だけではなく、実力すらも伴って。それにより、プライドも発生したのだろう。天龍という男にベタ惚れにも関わらず、皇帝としてのプライドがある為、俺の前では仮面を被り、素っ気ないフリをする。

 

つまり、ちょろインのツンデレキャラの二重属性。幼女キャラやお姫様キャラも合わさり、崩壊すらしかかっている。

 

だからこそ、攻略が難しいのだ。殺してしまう道の方がよっぽど楽ではあるが、それはない。護りたいという感情が生まれた。彼女に俺という存在が必要なように、俺にも彼女という存在が必要になった。

愛してはいないが、好きになった。それだけだ。

 

サリームは皇帝とはいえ子供だ。その考え方は至ってシンプル。俺は500年以上も生きているが、その考え方は同じくシンプル。案外、相性が合うのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ♡.....はぁ♡.....はぁ♡.....はぁ♡.....」

 

 

行為が終わる。彼女は未だ余韻に浸って息を切らす。俺はその脇で葉巻で一服していた。流石に子供の姿で喫煙するわけにはいかないので、肉体は大人のものに戻っているが。

 

 

「は、初めての相手に.....激し過ぎじゃ.....」

 

「そうかな?大人の身体ならもうちょっと色々出来たんだけど」

 

「つっ、次やる時も子供の身体にするのじゃ!これは命令なのじゃ!」

 

「へーい」

 

 

次か.....

 

 

「なぁ、ヴラドよ」

 

「ん?」

 

「明日、『テンノウ』に会いたい」

 

「.....は?」

 

「このジパングの皇帝、テンノウに会いたいのじゃ。いや、むしろこの来日はそっちのが本命での」

 

「お前、また.....!」

 

「お願いじゃヴラド」

 

「なっ!?」

 

 

サリームが頭を下げた。

常に皇帝の権威を振りかざし、高過ぎるプライドのせいで、今の今まで決して頭を下げる事のなかったはずのサリームが頭を下げた。

 

 

「朕がお主の傀儡であることは理解している」

 

「っ.....!?」

 

「朕がインドで皇帝を名乗れているのも、そもそもここに生を成しているのも、全てはヴラドのお陰。ヴラドが現れなければ、朕のような小童は時代の荒波に押し潰され、消えていただろうと。朕はよくよく理解している」

 

「サリーム.....」

 

「きっと朕が出しゃばるよりも、ヴラドがインドを支配.....直接ではなくとも、朕を傀儡に、裏から支配するでも、インドを発展させるのは可能だろう。

だがな、"全く頼りにされぬのも、それはそれは虚しいものなのだぞ?"」

 

「...........」

 

「皇帝権限を振り翳すつもりはない。ヴラドの邪魔になるようなことは絶対にしたくはない。だがな、だがな?少しは役に立たせてほしい。そう思うのだ」

 

「それで方仁に.....日本国の天皇に会おうというのか?」

 

「うむ。朕が会ってどうにかなるものではない事は重々承知しておる。だが会いたいのじゃ。朕すら利用してみせたヴラディス・ラウス・ドラグリアが唯一忠誠してみせたという天皇に!」

 

「..........分かったよ」

 

「まことか!」

 

「ただし俺も同席する。こっちの皇帝様は他国のと違ってかなりデリケートだ。この俺が代行を務めなければならぬ程にな。余計なことをし過ぎぬよう、監視させてもらう」

 

「うむ。それで頼むぞ!」

 

「はぁ.....」

 

 

 

 

 

疲れた。彼女の心を開く為に一芝居打ったわけだが、これは上手くいったと言えるのだろうか?

無駄なまでに高いプライドを振り翳す彼女と対等な立場に立つ為に、彼女の理性をズタズタに引裂き、泣くぐらいに怖がらせてやった。彼女の心を丸裸にしてやる事で、初めて彼女の本心を聞き出せた。最悪の場合、脅迫しても良かったしな。

まぁ、案の定怖がらせて過ぎて、本当に泣かせてしまったな。そのお詫びとして、改めて彼女を丸裸にして戴いたわけだが、褐色美少女を喰うのも乙なものだな。うむ。

 

 

「そっ、それとなヴラド。先程の房時の最中に思い出したんだがな?」

 

「どうした?」

 

「そのな.....」

 

「どうした。言葉を濁さずに言え」

 

 

 

 

 

 

「あのな?.....イングランドやネーデルラントの使者が来て、ジパングとインドの同盟を破棄するように言ってきたのじゃ」

 

 

 

 

 

 

「へ?」

 

「いや、ちゃんとどちらとも断ったぞ!?流石にこれに了承したりして、ヴラドに嫌われたくはなかったしな。そしたら、ヴラドに会わせろって...

外交事業やら何やらは宰相を通せと言うたらそうなってしまっての。許してくれ」

 

「まぁ、怒りゃしないけどさ。ちっと早く言えよ」

 

「すまぬ。まずヴラドに会いに行く気持ちがいっぱいいっぱいで忘れてしまっていた」

 

「むぅ」

 

 

 

 

ここに来てイギリスとオランダか。

今の今まで、他国との関わりが明やインド、西洋との関わりはスペインポルトガル程度しかなかった分、その二大国の干渉は日本国の国際社会への進出を示唆させるものを感じさせた。

恐らく東インド会社関連の事だろうが.....

 

 

 

 

「まぁ、いいか。とりま放置だ」

 

「いいのか。それで」

 

「それどころではない。明とポルトガルの相手だけでも手一杯なのだ。ザビエル連中もあるしな.....」

 

「ざびえる?」

 

「お前は知らなくてもいい。これは俺と連中との戦争だ。もう周囲には迷惑をかけたくない」

 

「んん?」

 

「とりあえずこっちの陛下に会うんだな。東京の皇居の建築が遅れてるからまだ京都にいる。明日に会えるぞ。ヘリ飛ばすから」

 

「へり?よく分からんが、宜しく頼むぞ!」

 

「へいへい、皇帝陛下様」

 

 

イギリスとオランダか。悪い事にならねばいいと思うが。

 

 

 

 

 

 

 

「テンノウかぁ~。どんな奴なんだろうか」

 

「会ってからの楽しみにしておけ。ただ、公家連中を全員クビにしたから、わりと恨み買ってんのよ。う京都で暗殺されるかもしれんから気をつけろよ?」

 

「ひぃっ!?」

 

 

 

 




新年早々エロ回でした。久々の更新で文章やら展開に稚拙な部分がありましたが、早い段階で調子を取り戻せるようにしたいですね。
二人の皇帝
〜方仁は語る〜


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第百話 二人の皇帝

数ヶ月更新が遅れてしまいました。流石にやばいと思って一気に書き上げたので後半の方がわけ分かんなくなってますが、ご了承下さい。スマホがぶっ壊れたりして機種変に時間がかかったんですぅ(泣)


これは信玄の死の二ヶ月後、江戸の千利休屋敷にて。

 

 

「これは.....」

 

「はい、彼です」

 

 

利休屋敷のとある部屋に、ソレはあった。当時はまだ太閤の立場にあった天龍と、関東管理職を北条氏康に譲ったばかりの古田織部が、それを目撃する。屋敷の主である利休は自身の部屋に閉じこもってしまっている。

 

 

「誰がこんな事を」

 

「分かりませぬ。しかし、彼は他人から恨みを買うことが多かったですから」

 

「しかし、これは.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は3年前に遡る。織田家からの出奔を今か今かと待ち遠しくしていた室町幕府副将軍"天竜"が、利休屋敷の小さな茶会に訪れていた時のこと。

屋敷の主である利休は『連客』に回っていた。主賓である『正客』は利休。その隣りの次客や三客には天竜と古田織部が座った。

そして、肝心の『亭主』ことお点前は、利休の一番弟子の『山上宗二』という少年だった。

 

 

「どうぞ召し上がってください」

 

「.....コクリ」

 

 

宗二に出された茶碗を利休が受け取り、茶を啜る。

 

 

「...........」

 

 

通常の茶会であれば、口で礼を言うのが礼儀であるが、彼女が言葉を閉ざしている事を知っている宗二は朗らかにそれに応じる。それに利休は、口には出さずに思考を相手に伝える妙技を持っている為、脳内でそれなりの応対があったかもしれない。

そして.....

 

 

「zzz」

 

「.....(起きて、天竜)」

 

「天竜様?」

 

「んあ?」

 

「もしかして寝てましたか?」

 

「んん.....いやいや、何を言う織部。この神聖な場で居眠りするわけないじゃんか!これは瞑想だよ。そう!瞑想だ!」

 

「相変わらず茶道の心得がないんですね」

 

「いやぁ、だってさぁ、茶会ってば退屈でな。なんか、茶道の匠みたいな人間しかできない感じがなんともなんとも.....

俺としてはもっと盛大な大茶会とかを開きたいもんなんだよ。羽柴秀長としてはそういうのがやりたい」

 

「まぁ、殿は華やかなものの方が好きですからね。弓道より流鏑馬。居合より撃剣(剣道)ですしね」

 

「でもサッカーよりかは野球かねぇ」

 

「さっかぁ.....南蛮蹴鞠ですか。やきゅうとは?」

 

「面白いから今度教えてやるよ。相撲、南蛮蹴鞠に代わるメジャースポーツにしたる!」

 

「それは楽しみですね!」

 

「コホン.....」

 

 

利休が流れを戻した。

 

 

「宜しいですか羽柴様?」

 

「おぉ、スマンスマン」

 

 

改めて茶碗が天竜の前に出される。

 

 

「そんじゃ、頂きます」

 

 

特に形を作るわけでもなく、片手で茶碗を持って中の抹茶を飲み干す。

 

 

「うん。まぁまぁ旨い」

 

「どうも」

 

 

利休に天竜についてを聞かされている宗二は彼のそんな態度に怒りを覚えることなく、頭を下げた。

 

 

「流石は千利休の一番弟子かね。織部よ、お前の茶より旨いんじゃないか?」

 

「てっ、天竜様.....!」

 

 

隣りで茶化された古田織部は居た堪れない想いになる。

 

 

「時に羽柴様.....」

 

「ん?なんだ?」

 

 

ふいに宗二に問われる。

 

 

「機会があれば副将軍様にお聞きしたいことがあったのですよ」

 

「構わん。話せ」

 

「では失礼を承知で.....」

 

 

宗二は天竜に向き直り、物申す。

 

 

 

 

「副将軍様は何故、『未来の道具』をお使いになるのですか?」

 

 

 

 

「.....は?」

 

「副将軍様が"筑前守様"と同様、未来からの来訪者であることは既に聞き入れております。お二人は未来の知識を元に、様々な大業を成し遂げられたとか。

しかし、副将軍様はそれだけに留まらず、未来の道具を実際に持ち込む能力を得ている。この時代の者では到底作り得ない兵器すらも軽々と用意できる程の.....

それらを用い、貴方様はどのような軍勢であろうとも容易く蹴散らし、勝利をもぎ取るお方。その力は最早、主人である"日向守様"は疎か、あの織田様すらも上回るとか」

 

「諄い。簡潔に話せ」

 

「失礼致しました。では申し上げましょう」

 

 

山上宗二はハッキリと告げた。

 

 

 

 

「貴方様はもっと我々に敬意を払うべきだ」

 

 

 

 

「は?」

 

「宗二!!貴様ぁ!天竜様になんてことを!」

 

 

宗二の暴言に織部が突っかかる。

 

 

「お静かに織部さん。私は副将軍様と話している」

 

「なんですって!?」

 

「そうだ織部。少し黙ってろ」

 

「てっ、天竜様.....」

 

 

主人である天竜に引っ込められてしまう。

 

 

「山上宗二よ。この俺にかような事を言うからには、それなりの根拠と覚悟をもって申してるのだろうな?」

 

「勿論のこと。でなければ、このような命知らずな発言はしませんよ」

 

「面白い。話してみろ」

 

 

天竜の表情は朗らかなものから、鋭いものへと変貌していた。その答えによっては彼を斬ることもじさないといった表情だ。

 

 

「時に、副将軍様はどのような武器を好みますか?」

 

「武器?」

 

「えぇ、それも刀や槍ではなく未来の武器です」

 

「そうさなぁ、やっぱ拳銃かね。ライフルとかより扱い易いしね。特にリボルバーだな。俺的には『SAA』かね。弾薬は俺んとこの軍で導入してるウィンチェスターにも互換性も効くしな。シングルアクションは至高!」

 

「そこまでは聞いてませんよ」

 

「あらそう」

 

「では貴方様はそのケンジュウというものをよくお使いになられるのですね。当然、その武器も大量に持込み、この時代の合戦にも導入しているわけだ」

 

「まぁな」

 

「ですが、その拳銃を製作されたのはどなたかご存知で?」

 

「ん?アメリカさんのコルト社だけど?」

 

「私にはその、あめりかというものについても、コルトという施設についても分かりかねますが、少なくとも副将軍様が生きてこられた時代よりも前に製作されたものなのでしょう。当然、貴方様が作られたわけでもない」

 

「まぁな」

 

 

コルト・シングルアクション・アーミーがアメリカ陸軍に制式採用されたのは1872年。

 

 

「そう。貴方が嬉々として使うものの全てが過去の人間の努力によって作られたもの。決して貴方の努力によって作られたものではない」

 

「..........」

 

「そのケンジュウとやらの製造に我々日ノ本の民が関わっているかは分かりませぬ。しかし、我が国でも鉄砲の量産をしている以上、全くの無関係というわけではないでしょう。

つまりはです。貴方がこの時代における功績は、我々過去の人間の多大なる努力の結晶があったからこそ成し遂げられたもの。だからこそ、貴方は我々に敬意を払わなければならない!にも関わらず、貴方はさも己が上位であるかのような態度を取りなされる!我々が下等生物であるかのように蔑みなさる!そして尚且つ傲る!それが私には納得いかないのだ!」

 

「きっ、貴様ぁぁ!!」

 

 

織部の堪忍袋の緒が切れ、懐に手を伸ばす。そこには、錬金術にて精製された人工精霊「ナノマシン」が封じられた茶壷がある。

 

 

「待て」

 

「天竜様!?」

 

 

だがそれも主人に制される。

 

 

「宗二よ。貴様の言い方では、俺がこの時代に持ち込んだ武器の数々が、過去人によって生み出された宝物であるかのようであるが?」

 

「当たり前でしょう。だからこそ、貴方は.....」

 

「いや、間違っている。貴様は間違っているぞ宗二」

 

「何が間違っているのですか!」

 

「お前が言うこれが宝物か?」

 

 

そう言う天竜の手にSAA拳銃が召喚される。その光景を初めて目撃する宗二は唖然とする。

 

 

「これは『道具』だ」

 

「道具?」

 

「それも人間を殺す道具だ。こんなもんに神聖さもあったもんじゃない。使えば殺せる。殺す為の道具だ」

 

「いっ、いや!貴方はそれ以外にも様々な未来機器を持ち出している!それら全てが人殺しの道具というわけでもないでしょう!」

 

 

 

 

「同じだ。それら全てが我が覇道の礎となるべくして利用している。全てを殺し、全てを創り変える為の道具としてな。これは只の道具だ。この俺が好き勝手にやるのに都合が良いのが偶然にも過去のこの時代であり、"偶然にも未来機器を過去に持ち込む術を持ち得ていた"だけのこと。只々利用し、只々殺し、只々征服する為だけに道具を使うだけの事。只々それだけなのだ。神聖味も敬意も何もないさ。俺は狩る側。貴様達は狩られる側。弁えるのは貴様の方だぞ宗二」

 

 

 

 

「...........」

 

 

宗二は唖然とした。ここまで考えが破綻している相手をどう言い負かせればいいというのだ。

 

 

「どうなんだ宗二」

 

「....ふぅ」

 

 

一呼吸置き、宗二は瞑想を兼ねてまた茶を立て始めた。ちらりと師匠である利休に目を向ける。話をする機会を与えたものの、ここまで暴走する自分を尻目に呆れ顔を見せている。

 

そう。元々、羽柴秀長に干渉し過ぎる利休を戒める為に起こした行動だった。秀長こそが天下を治められる人物であると定め、あれ程までに心酔していたはずの織田信奈にまで見切りを付け、この男の織田家転覆の策略に手を貸そうとしているのだ。

結果が全てとはいえ、それに至るまでの過程で大勢の犠牲が出ては、元も子もない。織田家転覆なんてものを起こせば、彼ならば本当にそれが実現させるかもしれない。それを利休が率先して引き起こそうとしている。それを、弟子としてはどうしても阻止したかった。心酔している人物が言い負かされもすれば、利休の敬意も失われるのではと思っていたが.....

 

 

「驚きました。まさか副将軍様がそのような考えをお持ちでいらしたとは.....この山上宗二、無知で御座いました。ですが、その上で申し上げましょう」

 

「なんだ?」

 

「貴方は強い。かの織田信奈よりも。きっと天下人は貴方になるだろう。だが、それはおよそ人の考え方ではない。国家というものは人と人との尊重によって創り上げられるもの。この国は人の考えによって治められるべきだ。民を全く尊重しようとしない、貴方のような考え方は邪道。天下人の資格などありはしない!」

 

「民主主義者か、なる程」

 

「別に独裁だろうと構いません。優れた、人徳のある人物による独裁であれば、きっとその国家は豊かになるだろう。しかし、貴方にはその人徳すらも見受けられぬ。貴方は人間じゃない!」

 

「何を分かりきった事を言っている?」

 

「は?」

 

「俺が人ではない?まぁそうだろうな。今更己を人扱いしてほしいだなんて思わんさ。人外と思いたいのであればそう思うがいいさ。だからこそ、人徳なんぞ持たんさ。民主主義なんて面倒なものも"今は"必要ないさ。全ての人間共は俺だけの為に動き、俺だけの為に死ねばいい」

 

「巫山戯るな!この神聖な国を脅かす魔め!羽柴天竜秀長、貴方は怪物だ!!」

 

「悪魔なんだよ俺は」

 

「くっ.....」

 

 

駄目だ。この男は異常を通り越して、最早何者かも理解し切れない。こんな男をどう言い負かせればいい。どう論破する。まるで屁理屈のように言い分をぶつけてくる天竜にどう勝てばいい?

そうか、屁理屈には屁理屈か。

 

 

「今貴方は自身を悪魔と、人外であると答えましたね」

 

「如何にも?」

 

「私は此度の茶会、貴方を副将軍としてご招待致しました。"人間の副将軍様"としてご招待したのです。その位は幕府の将軍様に認められし『人間』にのみ与えられるもの。当然、人間ではないものは副将軍にはなれない。犬やら猫が副将軍では滑稽ですからね」

 

「何が言いたい」

 

「私は人間である副将軍を招待した。しかし、ここには人間の副将軍はいない。だから、この茶はいりませんね」

 

 

すると、宗二は天竜に立てていた茶を茶碗ごと囲炉裏に放り投げてしまった。大きな蒸発の音ともに、煙が茶室にたち籠る。

これには見ていた利休、織部は唖然とし、天竜は視線が鋭くなった。

 

 

「俺が畜生と同位か。笑わせてくれる」

 

 

殺意の篭った眼光。きっと己は殺される。斬首は避けられぬか。なれば、ここは一思いに。

 

 

「居ね人外め。人外が服を着るな目障りだ。お前は人の世界に関わるべきではない。魔物は異界へ、黄泉へ、地獄へ居ね!!」

 

「...........ほう」

 

「喋るな人外。畜生如きが人の口を聞くな。我々の神聖なる世界に踏みとどまるな。さっさと出ていけ害虫!!寄生虫!!」

 

「...........」

 

 

終わったな。だが、これで利休様は...

 

 

「きっ、貴様ぁぁ!!黙っておけばいい気になって、その首たたっ斬ってやる覚悟しろ!!」

 

 

とうとう織部が抜刀した。

 

 

「斬れ!斬るがいい!かの魔王を言い負かせ死んだとなれば、それも本望!」

 

 

己を殺すのは織部さんか.....いや、彼女に殺されるのであればむしろ.....

 

 

 

 

「織部」

 

 

 

 

「っ.....!?」

 

 

三度、それは止められる。

 

 

「ふっくくくく.....面白い餓鬼だ。大抵の輩は俺を見るだけで竦み上がる雑魚が大半。しかし、貴様は違う。恐れるどころか自身の命運にすら見切りを付けたか。貴様の目的も粗方想像はつくが、大したものだよ山上宗二」

 

「っ.....」

 

「退屈が紛れたよ。今日はここまでだ。いずれまた会おう」

 

 

天龍は立ち上がり、茶室を後にしようとする。

 

「まっ、待て!まだ話は.....」

 

「分を弁えろ。キャンキャン吠えるだけなら犬にもできるぞ。貴様の言い分なぞ、俺を論破できなかったから思考を停止して屁理屈でごねているだけではないか」

 

「くっ.....」

 

「口先だけで世界を変えられるなら苦労しないさ。運命を変えたくば、自ら行動に移せよ『人間』」

 

 

そう言って天竜は退室する。

 

 

「待って下さい!」

 

 

慌てて織部もそれに追従する。

 

 

「...........くそっ!」

 

 

宗二は悔しさから床に拳を打ち付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ち下さい天竜様!」

 

 

そのまま帰還しようとする天竜を織部が呼び止める。

 

 

「何故逃げるように去られるのですか!?あのような無礼な発言を放置していて良いのですか!確たる処分をすべきです」

 

「あれはまだ若い。餓鬼の言い分だ。大人がムキになっていては可哀想だろ」

 

「天竜様は足利幕府の副将軍です!その立場を理解した上で、副将軍として彼に向き合って下さい!!」

 

「.....五月蝿いな」

 

「え?」

 

 

天竜の表情は憤りに満ちている。先程までの余裕綽々な態度が偽りであるかのように。

 

 

「お前のはただの私怨だろ。利休の1番弟子の座を取られて、何をやっても奴を抜けんから俺を使って追い落とすのか?お前は本当につまらない人間だな」

 

「わっ、私は別にそんなことは.....私は天竜様のことを思って!」

 

「媚びる事などそこらの畜生にもできる。俺に気に入られたいのであれば、愛想など振り撒かず、目を見張る程の結果を残すことだ」

 

「あ.....」

 

 

そう言い残し天竜は馬に飛び乗り、駆け去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「ここが彼の弱さですか」

 

「っ!?」

 

 

茶室から出てきた宗二が言う。

 

 

「彼は確かに強い。この日の本の誰よりも覇気を隠し持っている。今の様子では何れ織田から寝返るでしょう。そして彼こそが天下を取る。そんな未来が薄々ではありますが、見えてくる」

 

「そんなの当たり前です!」

 

「だが、同時に破滅の未来も見える」

 

「!?」

 

「貴方は彼を信頼してるのですか?」

 

「当たり前です!私は私を、私という存在を認めて下さったあの方を強く信頼している!」

 

「そうですか。しかし、彼は貴方を信頼していないでしょう」

 

「つっ!?」

 

「貴方だけではない。彼を信頼する信用する多くの家臣、同志は彼から信頼されていない。彼自身が信用しようとしていない」

 

「貴様に何が分かる!!」

 

「否定しないということは、貴方も自覚しているんですね」

 

「なっ!?.....何を.....」

 

「織部さん、彼の下に居続けるのはやめなさい。彼は貴方がたを人と見ていない。彼は人々を利用価値の有無でしか判断しない。そんな彼が作る天下など長続きはしないだろう。他人を尊重しない彼はいずれ.....

時が来れば貴方は道連れだ。奴と共に滅びるなど馬鹿げている」

 

「うるさい!うるさい!!」

 

「正気に戻って下さい織部さん。私は貴方のことが.....」

 

「うるさいつってんだよ!!」

 

 

織部の懐から突如巨大な拳が飛び出してくる。それは彼女の武器『ナノマシン』によるものだ。

宗二は咄嗟に自身も錬金術を発動する。茶壺より出した火精霊の爆炎によってナノマシンの拳による打撃を防ぐ。

 

「ちっ」

 

 

攻撃を防がれた織部はナノマシンを自身の茶壺に収納し、踵を返す。

 

 

「この礼は何れ兆倍で返してやる。覚えておけ山上宗二」

 

 

織部が懐から金粉を撒くと、それが織部を包み、やがて織部を霧のように消してしまった。これが彼女の高速移動術なのであろう。

 

 

「くっ、哀れなことだ」

 

 

トボトボと茶室に戻る宗二。茶室の入り口には利休がいた。

 

 

「好いた女にそうまで嫌われるとは、難儀なものじゃな」

 

「なっ!?」

 

 

突然口を開いたことを含めて、その言い分にも驚愕する。

 

 

「ひっ、久方ぶりに言葉を告ぐったかと思えば、いきなりなんですか!」

 

「別にもう言葉は閉ざしていないよ。これはけじめ。あの魔王に手を貸す道を選んだ私のね」

 

「それが一番納得いかないのですよ。宗匠ともあろう御方が、見える破滅にあえて進もうとは」

 

「お前はまだ若いんだよ」

 

「年齢的にはさほど変わりないでしょう。むしろ外見はむしろ年下...」

 

「心の在り方の話だ!.....相変わらず煽り方だけは一丁前に成長して...」

 

「むっ、悪かったですね」

 

「まぁまぁ、精々気長に待とう。太平の世が訪れた時の真の勝者とは、武人では貴族でもなく、我ら商人達なんだから...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故.....どうしてこうなったのか」

 

 

自室で放心状態にあった利休はそう呟いた。

 

 

 

そうして話は事件現場へと戻る。

 

 

「彼に恨みを持っていた者はいるのか?」

 

「いなかったと言えば嘘になります。むしろ彼の人を見下した態度に腹を立てていた人物は数多くいます」

 

「お前もその1人か?」

 

「.....はい」

 

 

 

その死体は言わずもがな山上宗二。

雑巾のように身体を捻られ、搾られ、全身から血を抜かれた状態で彼の自室の天井の梁に引っ掛かっていたのだ。

 

 

 

「ですが、彼の客である者らにこれ程の所業ができるでしょうか?人間業であるとはとても思えない。この日の本の人間の仕業とはとても思えないのです」

 

「何が言いたい?」

 

「"奴ら"の仕業では?」

 

 

十字教連中の仕業。可能性としては高いのかもしれない。彼はスパイを行っていた利休、その女の弟子なのだ。報復の為に殺されたとなれば納得はいくだろう。だが...

 

 

「証拠が出たとなればいざしれず、予想だけで決めつけはできんさ。それに奴らがこんな静かな場所でやるか?奴らならむしろ事件を公な場所で起こし、騒動にするだろう」

 

「しかし、こんな事をしでかす者は特殊な術を使う者以外おりません!」

 

 

 

「それは自身に言い聞かせているのか?」

 

 

 

「...........え?」

 

 

織部に冷や汗が流れた。

 

 

「それは一体どういう.....」

 

「ふん」

 

 

彼は答えない。私を見ようともしない。だがそれが、私を多大なる重圧で押し潰す。

 

 

「責任は己で取れ。俺に求めているようであれば期待外れだな。俺は犬の尻拭いまでする気はない。身の程を知れ」

 

「.....それでは私がやったかのような言い方ですね」

 

「違うのか?」

 

 

そこで初めて彼は私を見た。それは家臣に対して向けられる者ではない。彼が伴天連どもに向ける視線と同じ。まるで蜘蛛の巣にかかった虫ケラを見るかのような、汚物に塗れた豚を見るかのような、冷ややかな視線。

 

 

「あぐ.....その.....」

 

「精々分を弁えろ。好機は二度無いと思え」

 

「...........」

 

 

そう言い、天龍は去って行った。最後までその高圧的な態度を緩めることもなく.....

織部は血が滲む程唇を噛み締めていた。

 

 

「お前のせいだ」

 

 

その直後。右腕にナノマシンを纏わせた織部の打撃によって、梁から宗二の死体が叩き降ろされる。

 

 

「お前のせいだ!お前のせいだ!!お前のせいだ!!!」

 

 

事切れた宗二の死体を何度も何度も何度も何度も殴り続ける織部。死体から吹き出た血が部屋中に"汚れ"を撒き散らす。部屋全体が紅に包まれた頃、織部の怒りは治まり、むしろ笑いに包まれていた。

 

 

「ははは.....あははははははははは!!!」

 

 

織部は悲壮に満ちた表情宗二の死体を持ち上げ、その唇に口付けをする。

 

 

「そうでした。貴方の言った通りだった。その通りだった。貴方の.....うふふふふふふ」

 

 

咥内に舌を捩じ込み、恍惚した表情で自慰行為に至る。宗二の死体から衣服を剥ぎ、自身の衣服をも脱ぎ捨て、生まれたままの肉体に血肉を擦り付け、悶え続ける。

 

 

 

 

「なら、私は私の道で逝くまで.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都御所(旧御所)。現在建設中である東京都の『皇居』(新御所)に天皇を移す計画が進行している途中。未だ彼女はこの京都御所に留まり続けていた。

 

新インド帝国皇帝、ジャハーンギール。

大日本帝国、方仁天皇。

 

同盟関係にある二国の皇帝同士がこの京都御所にて初の会見を行った。

 

 

「朕こそが新インド帝国皇帝!ヌールッディーン・ムハンマドが・ジャハーンギールである!」

 

「ちんはこのひのもと、だいにっぽんていこくがみかど、だいひゃくろくだいてんのう、みちひとという」

 

 

彼女はあいも変わらず辿々しい日本語で答えた。彼女らの中央に座す天龍が双方の通訳として互いの言い分を伝え合っていた。

 

 

「.....っておる」

 

「は?」

 

「被っておるのじゃ一人称が!『朕』という一人称は大いなるこのジャハーンギールのみが使うべきもの!他人が使うのはどうもむず痒いのじゃ!」

 

「〜だそうだ」

 

 

天龍は出来る限りそのままの内容でサリームの言い分を方仁に伝える。

 

 

「なれば、こちらがあらためよう。もう『ちん』というしょうしかたはするまい」

 

「〜だそうだ」

 

「それでは朕が我儘を言ってるかのようではないか!」

 

「言ってるじゃねぇか」

 

「朕だけか器が小さいといった状況が嫌なのじゃ。其方がそう来るというのなら、朕が朕という一人称を変えるとする。新しい一人称を考えよヴラド!」

 

「え〜ヤダ〜」

 

「考えよ!!(怒)」

 

「なんでもいいだろ。私でも僕でも我でも妾(わらわ)でも」

 

「ちゃんと考えておくれよぉ」

 

「だから好きなの使えったら。俺に何を求めているんだか」

 

「( ゚д゚ )彡そう!ソレ!」

 

「は?」

 

「『おれ』という一人称が気に入った!これからは朕はオレと名乗るぞ!」

 

「ちょい待ち。いくらなんでも一般庶民の男が使うような一人称を皇帝が使うなんて...」

 

「嫌じゃ!もう変えんもん!」

 

「.....そうさな。じゃあ『我』と書いてオレと読むならどうだ?それなら高貴っぽいだろ。かの王様も使ってる」

 

 

そもそも、本来ペルシア語を用しているはずのサリームが日本語の一人称を使ってる時点で可笑しく、メタい話なのだが.....

 

 

 

 

 

 

「くすっ、くすくすくす....」

 

 

その様子を見て、方仁が微笑する。

 

 

「なっ、何を笑っておる」

 

「いやすまぬ。てんじくのちをたんきにてせいあつしたという、いだいなるみかどがどのようなごうけつであるかきょうみがあったのだが、いささかゆかいなおかたであったとあんしんしてな。いらぬしんぱいであったようだ。こころよいおかたでよかったとおもうておる」

 

「〜だそうだ」

 

「っ.....」

 

 

褒められたことにサリームは頬を紅潮させた。

 

 

「というか、サリームよ。お前は陛下に一体何の用でここまでやって来たのだ?」

 

「そうじゃったそうじゃった!んとんと.....」

 

 

サリームが言葉に困っている中、方仁がふとサリームのもとへと歩み寄り、彼女の手を取った。

 

 

「えっ?」

 

「いだいなてんじくのみかどよ。このひのもとのちではげんごのちがいにおこまりでしょう。だが、"こころとこころのかいわ"であるならげんごになやまされることなく、おもいをつうじあわせよう」

 

「どっ、どどどどういうことじゃ?ミチヒトの言っていることが理解できるぞ!?」

 

「方仁は正真正銘、神の子孫だ。手で触れるだけで相手の想いを感じ取り、反対に伝えることができる」

 

「うむむむ、ジャパニーズの皇帝は奇術師なのか?」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

「てんりゅう。これよりはふたりきりでかいわする。そちはさがっておれ」

 

「えっ!?」

 

「そうじゃそうじゃ!ヴラドは下がれ!」

 

「お前らいつから仲良くなったんだよ」

 

 

渋々部屋を後にする天龍。その刹那、楽しげに会話する方仁とサリームの光景が目に入り、朗らかな表情で部屋の扉を閉めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間程で会談は済んだようだった。部屋に戻ると、一番にサリームの大きな笑い声に驚かされる。

 

 

「会談は上手く行ったようですね。日印双方の宰相を務める私としては、どのように会談が進んだのか知りたいのですが?」

 

 

サリームと方仁は互いに顔を見合わせ、答える。

 

 

「乙女の秘密じゃ!」「おとめのひみつじゃ」

 

「なんじゃそら」

 

 

少なくとも、悪い方向へは進んでいないのだろう。

 

 

「まぁ、恋話も程々にしてくださいな。仮にも大国の皇帝同士なのですから」

 

「なっ、何で恋話をしていたことを知っているのじゃ!?」

 

「...あ」

 

「聞き耳を立てていたな!?」

 

「違う!侵入者が現れないかどうか、念力で室内を探ってただけだ!」

 

「同じじゃ!!」

 

 

顔を真っ赤にしてサリームに怒られる。

 

 

「助けて下され陛下。どうか彼女に説明を」

 

「はじをしれ、てんりゅう」

 

「そんな〜」

 

 

天皇陛下に見捨てられた。もうこの国で生きていけない。

 

 

「これは重罪じゃぞヴラド。罰として明日はこのキョートの観光案内をせい!」

 

「それはいいの。ちんもどうこうするとしよう」

 

「勘弁してくれ」

 

 

 

 

サリームが方仁に会いに来た理由。そんなものは本当に些細ものだったのかもしれない。自身の全てを預けている臣下である俺のもう一人の上司。日本天皇への純粋な興味。己と同じ皇帝の位にある彼女への奇妙な親近感。それがサリームを来日という行動に移させたのだろう。

 

ひょっとしたら、自分と身分関係なく付き合える初めての友達が欲しかったのかもしれない。

 

 

 

「まぁ、こんな日があってもいいな」

 

 

 

 

 

これは、何れ来たる暴風雨の前の刹那の静寂だったのかもしれない。この後待っている悲劇の前の、天龍に与えられた短い安息日。

 

 

 

 

そう、やがてくる悲しい惨劇の...

 

 

 

 

 

 




あいも変わらず稚拙な文ですみません。織部の闇落ち、二人の皇帝に差し迫る悪夢。なるべく、早い更新ができるように努力したい。
次回予告
裏切りの水鳥
〜希望はすぐに切り捨てられる〜


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第百一話 裏切りの水鳥

やっと新作上げれました。最近の疑問。原作の新作にて良晴が官兵衛に対して、大河ドラマの『軍師官兵衛』に関する事が語られてたけど、原作第一巻の発売年は2009年。一方、軍師官兵衛の放送年は2014年。良晴が仮に2009年の世界からタイムスリップしてきたのなら、思いっきり矛盾してんだよなぁ。もしかしたら、良晴が2015年とかの世界から来た設定ならギリギリ辻褄が合いそうだけど、多分違うだろうなぁ。明らかに作者の設定ミスだと思われる。
それと、スネコスリの存在を忘れるネタを原作でもやっててワロタ。


第百一話

 

大坂府にて。

 

 

「これは凄んごいの❣❣」

 

 

大坂のシンボル、大坂城を見て、サリームは感激した。

 

 

「この時代じゃあ、大坂城は世界最大の建築物だからな。史実の城にプラスαで色々と要塞設備を搭載してるから、実質世界最強の城塞だな」

 

「我が国のアーグラでさえ、こうはいくまい!」

 

「アーグラ城塞か。俺は好きだがな、『赤い城』。総面積こそ大坂城だけど、アーグラは横に広いだろ」

 

「それだけじゃろ。あんなのただのデカい塀じゃ。色彩も一辺倒で華がない。戦争の為だけの城じゃ。それに対してこっちは城下に豊かな町がある。それだけでここら一体は栄えるじゃろう。しかもこのような城はジャパンの各地にあるのじゃろ?」

 

「版籍奉還をして武家政治が崩壊した現状。城を使ってんのは県知事か、城を買い取った元城主の華族連中だけだけどな」

 

「ふぅむ、益々凄んごいのぉ。このオオザカジョウと我が国のアーグラで一戦交えた場合、どうなるんじゃろうな」

 

 

仮に大坂城の目と鼻の先にアーグラ城塞が出現し、そのままインド軍と戦争状態に突入したとする。その場合においても俺はその戦争でインド軍を圧倒する自信がある。それも大坂城の能力のみでだ。

それだけ大坂城の築城には力を入れた。天下統一がなされ、武家体制も存在しない今、クーデターでも起きない限りその大坂城の城塞としての活力を利用する機会はないのだが、油断はできない。如何なる事態にも対応できるよう、『対東洋人』専用の超城として設計したのだ。

 

それに相対するように築城したのが『江戸ドラキュラ城』だ。こちらに関しては『対西洋人』専用に設計した超城。まず無いと思うが、列強国の侵略による本土決戦を行う場合の切り札として江戸城を持っている。元々はただの西洋風ドラキュラ城だったが、様々な状況を想定して数多くの改修を重ねた為、和洋が入り混じった奇妙な城塞となってしまってる。

 

 

「しかし残念なじゃったの。ミチヒトも来られれば良かったのに」

 

「この国の天皇はまだまだ雲の上の存在だからな。国内の情勢がキチンと整理されるまではまだ皇居に籠ってもらわねば困るんだ。拉致られた前例もあるしな。膿さえ取り除いてしまえば、日本でもインドのように皇帝が国の上に立つ存在になれるさ」

 

「早くそんな時代が来るといいな。ずっとあんな城の中に閉じ込められていては可哀想じゃ」

 

「まぁ、方仁の性格からして万人の上に立つのは苦手そうだしな。だが今のままだと結局の所、戦争等の責任は彼女に取らせる事になってしまう。まだまだ及第点が多いな」

 

「ヴラドならできるはずじゃ!我(おれ)のお墨付きじゃからな」

 

「俺が生きてる間にできれば.....な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後、大坂湾にて。

 

 

「来た時は突然でなんの歓迎もできなかったからな。帰る時ぐらいは、形式に則った式典を開いてやったよ」

 

「有難い。褒めて使わすぞヴラド」

 

 

政府の用人数十名の見送りの元、蒸気船『咸臨丸』にて彼女を送り出していた。咸臨丸には、サリーム滞在中に慌てて本国から追いかけてきたインド帝国の高官達が乗船していた。

政府の用人は元大名だった者ら。天龍の家臣達は勿論のこと、小早川隆景や上杉謙信らも訪れていた。小早川隆景は海軍中将。上杉謙信は警察庁長官の地位にいた。

そして、良晴もまたここにいた。

 

 

「あんたがインドの皇帝様か。正直、戦国時代でムガル帝国とかの人間と関わるとは思わなかったぜ」

 

 

良晴が馴れ馴れしくサリームに話しかける。

 

 

「なっ、なんじゃこの猿は。ジャパンでは口を聞く猿に服を着せ、副官にする文化でもあるのか!?それともこの者こそが『ハヌマーン』!?」

 

「随分と失礼な奴だな!?猿だなんて久しぶりに言われたぞ!?」

 

「あぁ〜〜気付かれてしまった。我が国の特殊技術によって生み出されたモンキーマンの秘密が〜。こうなったらインドと共有でモンキーマン計画を進めますかね?」

 

「それは面白いのっ!」

 

「嘘教えんなっ!!」

 

「冗談はさておきじゃ。其方が話に聞いていたヨシハルとかいうヴラドの弟か?」

 

「あっ、あぁ」

 

 

急に真面目になるサリームに良晴は戸惑いを見せる。

 

 

「其方よ、ちょくちょく謀反を起こして国を騒乱に陥れているようじゃの。でもヴラドの弟だからという理由で今日まで許され続けているそうじゃな」

 

「なっ!?.....また天龍が余計な事を.....」

 

「いや、これはベルフェゴールから聞いた」

 

「大友宗麟〜!!!」

 

「まぁ聞け。其方には其方の信念と正義があって謀反を起こすのだろう。この行動によって真の平和が得られると思って。だがな、周りはどうじゃ?其方の我儘にいつまでも付き合える物好きがずっといてくれると思うか?」

 

「..........」

 

「結果ばかりを追い求めて過程を蔑ろにし過ぎては、いずれ足元を掬われるぞ。この我のようにな」

 

 

己より十は年下かという娘に説教されてしまった。思えば、この時代に来てからこんな事ばかりだった気がする。

 

 

「.....教えてくれ皇帝ジャハーンギール。結果ばかりを追い求めてしまう俺はどう生きていけばいい?」

 

「簡単じゃ。結果など捨ててしまえ」

 

「はぁ?」

 

「手段の為なら目的など選ばない存在になればいい。只々前へ突き進め。其方が信じた道じゃ。道の先なんぞぼんやり見ていないで只々進め。例えその先が嶮しい崖であろうとも、すぐにでも流されてしまいそうな濁流があったとしても、信じて突き進んだ者にのみ、未来は現れるというものじゃ」

 

「.....ぷっくくく。もしそんな事を仕出かしたら、そいつは本当にどうしようもない奴になるな」

 

「当たり前じゃ。古今東西、異常でなかった英雄などおるまい」

 

「ふっ、違ぇねぇ」

 

 

結局の所、彼女は俺の行動を何一つ否定しなかった。どっち付かずに迷走していた俺を元気付けようとしたわけだ。宗麟が何かしら気を利かせてくれたのだろう。後で礼を言わなくては。

 

 

「それでも我のヴラドには勝てぬがな」

 

「勝つさ。例え世紀を跨ぐこととなろうとも。世界の終焉が訪れようとも、その前に必ずな」

 

「良い心掛けじゃ。我は好きじゃぞ。そういう真っ直ぐな人間はな」

 

「有難う御座います皇帝陛下」

 

「にしししっ」

 

 

小さな褐色肌の皇帝は、笑顔で良晴に応えた。

 

 

「陛下との会談には宰相である俺を通してほしいんだが?」

 

 

天龍が近付く。

 

 

「ん?俺のこの国の地位はあんたと同等のはずだ。わざわざあんたに許可貰うはずはないんじゃないのかい?」

 

「俺はインド帝国の宰相として話している。それからすれば、お前は他国の部外者に過ぎん」

 

「うわっ、ズリぃ〜。知らん間に何から何まで力持っちまうんだもんな」

 

「お前もちっとは、自分で力を付けてみろ」

 

「くそ〜。やっぱ総理大臣になるっきゃないかなぁ」

 

「言っておくが、大日本帝国憲法こと明治憲法下において、総理大臣である首相には大した権限なんてないぞ?」

 

「マジっ!?」

 

「あくまで形式上のリーダー、政府の管理者、政府の顔に過ぎん。場合によっては軍部大臣の方が立場は上だ。史実において陸軍が大きな権限を持ったのはそれが理由だろう。

逆に、日本国憲法こと現代憲法では大臣の更迭なんかもできたりするから、その点においては現代憲法が上かもしれんな」

 

「そうなんか〜。アテが外れたなぁ」

 

「総理大臣になるつもりだったのか?まぁ軍部に権限を握られるのも面倒だから、首相にはある程度の力を与えてもいいのかもしれないな。憲法もまだ発布されていないし、内閣も創造されていないからな。その案はいいかもしれん」

 

「マジでっ!?よっしゃ!!」

 

 

 

「なんの話をしているのじゃ?」

 

 

 

「何。これからの日本の礎を作る上での大事な井戸端会議ですよ」

 

「??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは昨夜のこと。

 

 

「サリームを囮にする」

 

「えっ!?」

 

 

天龍の突然の発言に驚愕する石田三成。

 

 

「ちょちょちょ、待ってください閣下。

ジャハーンギール様は天竺の皇帝陛下ですよ!?それを囮にするなんて!」

 

「別に使い捨てにするわけじゃない。当然サリームは全力で守護する。それも万全の体制でな」

 

「しっ、しかし...」

 

「まぁ聞こう佐吉。何をやらかすのかは、知らぬが、それをやってのける自信があるのだろう天龍?」

 

 

大谷吉継は言う。

 

 

「まぁな」

 

「では聞かせてくれ。インド皇帝を囮に使ってまでして、お前は一体誰を嵌めようとしている?」

 

「ザビエルだ」

 

 

即答した。フランシスコ・ザビエル。正体不明の宣教師。10年以上前に死んでいるにも関わらず再び復活し、天龍ら吸血鬼勢と対立する者ら。裏で暗躍するばかりで、滅多に表に出てこない連中だ。

 

 

「奴らが表に出てきたのは今迄にたった三度だけ。

一つ目は、甲斐にてガスパール・カブラル率いる三名のエクソシスト共が正面からぶつかって来た時。しかしこれは、ガスパールを含む二名を殺害し、一名を捕虜とした事で解決した。

二つ目は、例のガブリエル・クロウ・アンダーソンが単騎でぶつかって来た時。しかしこれも、ガブリエルが俺の護衛である凪達に手も足も出せずに撤退した事で解決。

三つ目は、良晴を唆して戦争蜂起させた時だ」

 

「良晴様はなんと?」

 

「どうやら、あの戦が和睦で終わったと同時に姿を消したらしい。奴はザビエルに直接会っている。しかし、どのような顔だったか聞いてみたが、ザビエルは普段からローブのようなものを纏っていた為、顔を見ていなそうだ。当時の良晴は精神的にも異常な状態だったからか、気にする余裕もなかったそうだ」

 

「天龍様は?」

 

「ん?」

 

 

三成が問う。

 

 

「天龍様もザビエルに会われているのでは?南蛮で戦をしていたのでしょう?」

 

「残念ながら分からん。連中の代表は常に顔を名前を変えている。ローマ法王に化けていた時もあったさ。今度はまさか、善人で有名なフランシスコザビエルが長をしているなんてな。しかも基本的に司令官的立場で後方にいる為、ザビエルの正体は俺も分からん」

 

「そうですか...」

 

「そうなると、今のフランシスコザビエルも以前の人物とは別人の可能性もあるのか.....対策が立てづらいな」

 

「だが、奴らが裏で色々と暗躍している事には違いない。最近、何者かの手引きで多数のバテレンが日本を出入りしている情報も入っている」

 

「何者か...やはりキリシタン。いえ、サタン教にすら従わなかったクリスチャン共でしょうか?」

 

「いや、それだけではないだろう佐吉。未だに天龍の方針に反抗的態度を続ける元大名達というのも考えられる」

 

 

吉継は言う。

 

 

「島津に伊達に...いや、身内も考えられますね。信濃戦争時の過激派連中も考えられます。何れにせよ非国民のクズ共です」

 

「まぁまぁ、あくまで可能性があるってだけだ。あんま疑い過ぎて余計な処罰とかすんなよ?」

 

「ですが天龍様!仮に何者かが手引きしてバテレン共を我が国に引き入れているとして、どう対処するおつもりですか!」

 

「それが今回の囮作戦さ」

 

 

インド皇帝サリームを送り出す式典で、彼女を囮に使ってまでしようとしている事とは...

 

 

「俺が思うに、奴らがやろうとしているものの準備は既に完了していると読んでいる。だがそれを起動させる為の、キッカケが無いんだ」

 

「キッカケ?」

 

「この国でドンパチやらかすキッカケさ。それをこちらが作ってやるのさ。その為の囮」

 

「馬鹿な。自ら危険を呼び込むのか?第一、そこまで大々的な誘い込みでは奴らにも読まれているはず」

 

「当然、万全の体勢で迎えるさ。絶対にサリームを傷付けない警備網でな。そして連中が本当に俺の思う通りの奴らであるなら、罠であると知った上であえて飛び込んでくるだろう。そういう連中だ」

 

「まぁ、実際に連中との戦闘を行っているのは天龍様だけですから、連中のことは誰よりも詳しいのでしょうが、そう上手く行きますかね?」

 

「俺が編み出した策で上手くいかなかったものなど今までにあったかい?」

 

「結構あります」

 

「『天龍策に溺れる』なんてしょっちゅうじゃないか」

 

「あれぇ〜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当日の朝方。

 

 

「配置については以上だ。質問はあるか?」

 

「あらへんよ。うちらは怪しい奴を見つけては撃ちゃあええんやろ?」

 

「流石に発砲許可を出してからだ。誰でも彼でも撃たれたらかなわん」

 

「ははははっ!分かっとる分かっとるで!」

 

 

元紀伊雑賀鉄砲隊長、雑賀孫市。天龍の側室でもある。結婚後彼女は紀伊にて大名となった。だが版籍奉還にて大名職を辞し、現在は日本陸軍少将の地位にいる。

天龍は三成と共に、孫市と狙撃班の調整をしていた。

 

 

「まぁ任せとき!うちら雑賀衆にかかれば耶蘇の連中なんざ一網打尽や!」

 

「期待しているぞ孫市。我が国家の命運はお前達の腕にかかっているつもりで任務にあたれ」

 

「にしししし」

 

「謙信にも警察隊の導入は頼んでいるし、ひとまずはこんな所だな」

 

 

天龍は紙タバコを取り出し、口にくわえる。それを見た三成がすぐさま懐に手を伸ばし、そこから"マッチ"を取り出す。流れるような手付きでマッチの火薬部分をヤスリに擦り付ける。だが火付きが悪く、いつまでも着火しない。

 

 

「あれっ?あれっ?」

 

「ほれ、天龍ハン」

 

「うむ、すまない」

 

 

モタモタしているうちに、孫市が出した"ジッポライター"によってタバコに火を付ける。

 

 

「あぁぁぁぁ〜〜〜!!!」

 

「なんや?」

 

「ななな、何ですかその着火器具はぁ!?」

 

「去年、天龍ハンと沖縄旅行行った時にもろたんや。油さえ入れれば火ぃ付くから便利やで」

 

「天龍様ぁ.....」

 

「分かった分かった。今度お前にもやるよ」

 

 

昨今の日本の近代化に伴い、天龍の政策によってタバコ業界は革命を起こしていた。それまで主流とされていたキセルに代わる喫煙具として誕生したのが紙タバコである。比較的安価な材料で手に入る為、大衆タバコとしてこれが大ヒット。天龍もまた、それまで愛煙していた葉巻に代わり、積極的に紙タバコを吸い始めたことで紙タバコが大流行したのである。

それと同時期に現れたのが『マッチ』である。それまでは長年、火打石が利用されてきたが、いかんせん着火が面倒であった。天龍は新たなる着火器具として、マッチを提案。塩素酸カリウムと硫化アンチモンを頭薬とした摩擦マッチを製作。従来の火打石とは大きく変わった火付けの良さに、これもまた大ヒットしたのだ。

とはいえ、今現在のマッチと比べるとまだいかんせん火は付きにくかった。

 

 

「やっぱ、赤燐の方がいいかねぇ。時代に合わせて徐々に進化させるつもりだったけど、今みたくいざという時に着火しなきゃ意味がないからな」

 

「というかその、らいたぁ...なるものを普及させれば良いのでは?」

 

「ライターはまだ早い。燃料となるオイルも、油なら何でもいいわけじゃないしな。孫市にライターをくれてやったのは俺と同じく喫煙者だったからだ」

 

「だって.....煙を吸い続けたら病気になっちゃいますし」

 

「人間はそう簡単にゃあ死なんよ」

 

「天龍様が言っても説得力がありません」

 

「それもそうか。くくくく...」

 

 

微笑しながら、天龍は煙を大きく吹き上げた。

 

 

「そいじゃ、うちはもう配置に付くで。とはいえ、何も起こんのが一番なんやろうけどなぁ」

 

「まぁな。でも、精進はしてくれ」

 

「モチのロンや。そいじゃ、おおきに」

 

 

そうして孫市は去っていった。

 

 

「12名に及ぶ射撃手による護衛ですか。ここまで厳重にしてしまっては、奴らも現れないのでは?」

 

「前も言っただろう。こんな誘い込みにすら恐れ慄き、乗ろうともしない連中なんざ敵じゃない。来ないなら来ないでいいさ。それなら何の躊躇いもせずに叩き潰せるからな。だが、奴らは必ず動く。そう確信している」

 

「随分な信頼ですね。敵に対して」

 

「ただの敬意さ。裏切りとはいえ、一度は俺を滅ぼした連中だ。優れた王は慢心などせんさ」

 

「ですね」

 

「さぁ、配置に着こう。どんな未来が待ち受けてるか、今から楽しみだ。実に楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その時は来た。

 

 

「ん?」

 

 

一発の射撃音。一閃が走ったかと思うと、サリームの近くの地面が軽く抉れる。直後、彼女の髪留めの飾りが割れ、結われていた長い髪がバラリと垂れた。

 

 

「なんじゃ。髪留めが割れてしまったのか?」

 

「.....リームッ!!!」

 

「えっ?」

 

 

血相を変えた天龍が彼女を庇うように押し倒してきた。

 

 

「なっ、なんじゃ!?何のつもりじゃヴラド!?」

 

「いいから伏せてろ!!撃たれている!!」

 

 

再び、そして次々に発砲音。サリームと天龍の周囲の地面が抉れ、数発の弾丸が天龍を襲う。

 

 

「え"っ!!?」

 

「大丈夫だ...大丈夫だから、絶対に顔を出すな」

 

 

天龍は辺りを見回す。慌ただしく狼狽える日本の政府連中や良晴。怯える迎えのインド連中。アクシデントに混乱する雑賀衆。

何処だ。何処から撃ってきた?誰が撃ってきた?

この万全の状態で何が起きた?

何故にこの状況になった?

 

いや違う。

 

どうすればこの事態を起こせる?

"誰を使えばこの状況を作れる?"

 

考え方さえ変えれば答えは自ずと見えてくる。

 

 

「...っ!!」

 

 

目当ての方向に視線を向ける。そして、見つけた。

 

 

「そういうことか...」

 

 

"ソレ"が視線に入り、天龍は哀しいような複雑な表情で微笑する。そして、半分諦めたかのような表情で、庇っているサリームに視線を戻した。

 

 

 

 

「ごめんなサリーム。俺の勝手で巻き込んじまって」

 

「ヴラド...?」

 

 

 

 

その直後、一発の銃弾が天龍の右側頭部を貫通。彼の頭蓋はまるでスイカ割りの西瓜の如く割れ、破裂。中の肉片や脳髄らの破片が全て真下のサリームの顔面に降り掛かった。

 

 

「ひぃっ.....!!!?」

 

 

そして、天龍はそのまま動かなくなる。

 

 

「嫌ああああああああああああああああああああああああああああっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

好いていた男の顔の崩壊が哀しかったのか、はたまた人間の崩れた脳内を目の当たりにしたのに驚愕したのか、それらの血肉が己の顔を汚したショックだったのか...

恐らくその全てだろう。その全ての出来事が、彼女の精神を壊す程の悲鳴を挙げさせた。まるで、この出来事を引き起こした張本人を祝福するファンファーレのように。

 

 

「天龍っ!!!」

 

「天龍様!...陛下!!」

 

 

その騒ぎの最中銃撃を避けながら、良晴と大友宗麟が近寄る。

 

 

「誰がこんなことを.....」

 

 

そうして良晴は見上げた。天龍の頭蓋を粉砕した銃撃を浴びせたと思われる射撃手の方向へ。射撃手は彼らからはやや離れた位置の、高台に悠々とこちらを見つめていた。

 

 

「ばっ..........馬鹿なっ!!!?」

 

 

 

 

 

その者はしたり顔でこちらに視線と、その巨銃の銃口を向けていた。すると"彼女"は懐に手を伸ばし、そこから一本の紙タバコを取り出す。それを口にくわえ、同じく懐から取り出した『ジッポライター』にて火を付け、ニコチンの排煙を己の肺一杯に溜め込み、そして吐き出した。

 

 

 

 

 

「どうして...........どうして君が」

 

 

その時だ。良晴の後方にて、頭部を失っているにも関わらず左手に拳銃を召喚し、その射撃手にそれを向ける天龍の死体の姿があった。

 

 

『どけ、良晴!』

 

「えっ?」

 

 

哀しみに浸るよりも早く、脳内に彼の声が聞こえた。咄嗟に右に避ける。すると、そのすぐ真横を5〜6発の弾丸が通り抜けるのが分かる。その弾丸は真っ直ぐその射撃手に向かっていく。

だが彼女は避けない。避けられないのではない。

 

 

避ける必要がないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「呻れ。『ナノマシン』」

 

 

 

 

 

 

 

それは一瞬の出来事。突如現れた銀色の不定形の盾が彼女を拳銃の弾丸から守護る。

 

 

「What!?.....あれはまさか....!?」

 

 

すぐに気付いたのは大友宗麟。それもそのはず。あの技はかつて自分が人間だった頃にも使用している技。

 

西洋の四大元素ではなく東洋の五行思想を利用し、応用して誕生した新たなる錬金妖術の金属の精霊。媒介とした金属によって様々な能力を持つそれは、使用者によって『ナノマシン』や『マーキュリー』と呼ばれた。アルカヘストの最強武器であり、同時に諸刃の剣でもあるそれは、術者の寿命と引き換えに、どんなものでも粉砕する力を与える。

 

 

 

 

 

 

 

『そうか.....お前もか。これは実に予想外だった』

 

 

頭部を碎かれ、死亡したはずの天龍の死体がムクリと立ち上がる。その死を目の当たりとしたサリームは、訳がわからないといった表情で混乱している。

 

 

『覚悟しろよ貴様ら。ただの敵対ならまだしも、裏切った者を安安と死なせてやる程、俺は甘くない。死以上の苦痛を味合わせてやる』

 

 

徐々に頭部を再生させていく。顎から鼻、そして眼球までを再生させた所でようやく彼の視界にその者らが写った。

 

 

「裏切り者には、死、あるのみだ」

 

 

天龍がそう吐き捨てると、

 

 

「「ぷっくくくくくくく..........アッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!」」

 

 

その二人は途端に笑い出したのだ。

 

 

 

 

「アカンわ。アキまへんワ天龍ハン。それって、分かりやすいぐらいの常套句やないの!折角の大舞台、もっと"えれがんと"な台詞で吐き捨てて貰わナ!!裏切った甲斐もないっちゅうわけや」

 

 

 

「そうですよ。こちとら一大決心で祖国に唾を吐きかけてるんです。もっともっとこの状況を楽しんで貰わないと!.....ね?天竜様ぁ?」

 

 

 

 

 

 

そう、一人はその高い戦闘能力、将としての器、人間性を買われ、一国一城の主、または天下人の側室までに取り立てられた雑賀衆の頭首。

 

一人は、使い番上がりの小姓に過ぎなかった身から、一軍の将、関東管領代理の権限を手に入れ、大宗匠と呼ばれた千利休の後継者になるかもしれなかった人物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雑賀孫市。

 

古田織部。

 

 

反逆...

 

 

 

 

 




ここに来て、古田織部と雑賀孫市の裏切り。織部は前回に裏切る伏線を張ってたけど、孫市は予想外だったと思います。ここから、どのような展開になるか、お楽しみ下さい。
次回予告
崩壊の始まり
〜そう、彼こそが〜


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第百二話 崩壊の始まり

前回から1年近くの放置からの新話です。
実を言うと就活中でした(;_;
まだまだ普通に忙しいのですが、また急に創作意欲が湧いてきたので連載を再開します。できれば月に2話ぐらいのペースで投稿できたらなと思ってます。...なんて見込みのない宣言をして大丈夫なんだろか。

なんだかんだで、原作の信奈の野望も全然読めてません。ぶっちゃけ、原作とは全く別の方面へシフトしてしまっているので、少なくとも「原作10巻以降」の登場人物の、本作にも出てるキャラに関しては、性格や設定、性別などももう直し様のない状態になってしまっていますので、原作愛読者様には混乱する点も多々あると思いますが、もうこのままでいくと決めているのでご了承下さい。(宗麟や島津兄弟など)

いずれ蒲生氏郷のようのに、原作からのゲストキャラとかもまた増やせたらいいなとは思ってます。(相良義陽とか出したいっす)




「どういうつもりだ。貴様らは一体何が目的なのだ」

 

「それは天龍ハンこそ分かっとるんやないの?」

 

「なに?」

 

 

裏切り者である雑賀孫市が言う。

 

 

「うちらが個人で反逆したとでも思うとるんか?そな阿保な話があるわけないやんか」

 

「.....まさか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そのまさかさ。ドラキュラ伯爵』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....っ!!?」

 

 

その者は現れた。孫市や織部の背後。フードを被って面相を隠した男。嗄れた声に小さな体格。予想以上に年をとっているような。

 

 

「久しいなドラキュラ。それとも天竜、いや、勘解由小路天龍と呼んだ方が良いかな?」

 

「その声.....」

 

 

彼はフードを外す。そうして初めて彼の顔が大衆の前に出された。

 

 

 

 

 

 

「あれは.....塚原卜伝殿か!?」

 

 

 

 

 

 

上杉謙信が言った。

塚原卜伝。

鹿島新刀流の使い手として、多数の弟子を排出した偉大な剣豪。天竜もまた弟子の1人だった。

 

 

「おかしいと思ってたさ。俺は桶狭間戦が始まる3年前に一度記憶を消した。その後、織田に仕官するまでの4年間、俺はあんたと行動を共にしたはずだった。その"事実"自体は覚えている。

しかし、俺はあんた自身を覚えていなかった。いや、記憶が消されていた。天竜と朧の同化で全ての記憶を取り戻したにも関わらず、俺は塚原卜伝という人間を思い出させなかった。ようやく納得いったよ。

久しぶりだな、フランシスコ・ザビエル」

 

 

フランシスコ・ザビエル。

全ての黒幕。

 

 

「君がこのジパングに亡命する事は読んでいたからな。あえて泳がせておったのさ。しかし放ったらかしには出来ん。だからこそ、君のすぐ側にいたのさ。ドラキュラという存在を最も近くで観察できるように...」

 

「What!?...ザビエル様は日本人だった!?」

 

 

大友宗麟が混乱している。

 

 

「あのなベル。ザビエルは自在に面相を変えられるんだ。お前と会った時は、まさしくフランシスコザビエルの面相だったんだろ?多分、本当の顔はまだ誰も知らない。奴はフードこそ脱いだが、まだ覆面をしているようなもんだ」

 

「あっ、so you coat on」

 

 

ほとんど日本語じゃねぇか。

 

 

「しかもだ。奴は化けた対象は既に死んでいる者か、自らが殺した者を選んでるようだぞ。10年も前に死んだ、もしくは奴に殺されたザビエルに、同じく殺されたと思われる塚原卜伝。やり方は何も変わらないさ」

 

「いやいや、塚原卜伝氏には感謝しているよ。その意も込めて中国地方にある卜伝の墓には本物の彼の遺体を埋葬させて貰ったからねぇ」

 

 

その時、塚原卜伝の面相をした奴の顔面が歪む。まるで粘土細工のようにグニャグニャと不定形に変形し、やがて別の顔を形成する。

 

 

「っ....!?」

 

 

宗麟は思わず息を呑む。それはまさしくフランシスコザビエルの顔であった。ザビエルの顔は日本では有名な肖像画とはかなり違ったものだ。アレはザビエルの死後の数十年後に、彼を慕うキリシタンが想像で描いたものだ。それよりもむしろ、西洋で描かれた、本来の彼の顔に近い肖像画の方が今の奴の面相は似ている。だが、髪はしっかりと生え揃っているようだ。

 

 

「おやおや、頭は禿げてねぇのかい?」

 

「トンスラは私にとっては時代遅れの象徴ですからね。私の"部隊"では既に廃止にしております。初めて見る人には間抜けに見えますしね。サムライのチョンマゲと違って」

 

 

フランシスコザビエルの姿をした奴の声色は塚原卜伝時とは違って、若々しいものとなっていた。

 

 

「そりゃあいい。貴様ら教会の連中と戦うと、いつも頭のハゲに光が反射してウザったらしかったからな」

 

「普通の吸血鬼であれば、光を苦手とするものだが、君には光の攻撃は無意味だからねぇ。日輪も、十字架も、ニンニクも、聖書も効かない。教会内にも平気で侵入する。銀は効いても致命傷になり得ない。そして弱点であるはずの心臓は、

『相手によって有ったり無かったりする』

もう、どう倒せばよいのやら」

 

「え?」

 

 

その場にいた良晴は今のザビエルの発言に戸惑った。心臓が有ったり無かったり?心臓を潰す事が唯一の殺害方法であったはずなのに、それにすら確実性がないというのか?

 

 

「そんな存在にしたのは何処のどいつだ。お陰様で俺様はいつまで経っても死ねん」

 

「勝手に死なれては困るからだよ。君にはまだまだ利用価値があるからね」

 

「モルモットにされるのはもう御免なんでね」

 

「おい、天龍!」

 

 

たまらず良晴が天龍のもとへと駆け寄り、肩を掴んで呼び止める。

 

 

「なんだ?」

 

「さっきから何を言っているんだよ。モルモットだとか何だとか!」

 

「お前には話さん。まだ知るべき時ではない」

 

「はぁあ!?」

 

 

こいつはいつもそうだ。

 

 

「いずれ分かるさ。欧州での俺の時代についてだ。俺を殺してその血を啜れば、お前に相応しき答えが見えるだろう」

 

「結局そこかよ.....でも、心臓が有ったり無かったりって」

 

「奴の虚言だ。連中ならともかく、"お前は"気にしなくてもいい問題だ」

 

 

益々気になる言い方だ。俺はいつかお前を越えて殺さにゃならんのだぞ!?

 

 

「おやぁ?そこに見えるのは良晴くんではないかい?」

 

 

ザビエルがわざとらしく言う。始めから知っていた癖に。

 

 

「非常に残念な事だよ良晴くん。君とは一度共闘した際に、分かり合えていたと思っていたのだがねぇ。私としては、君ともう一度手を取り合いたいのだが?」

 

「うるせぇ!!何が共闘だ。俺と天龍をぶつけさせて、共倒れを狙っていた癖に、勝手な事言ってんじゃねぇ!!」

 

 

良晴はザビエルに唆され、賤ヶ岳の合戦や、信濃戦争を引き起こしてしまっている。

 

 

「おやおや、学習しないねぇ。またもや君はドラキュラに騙されているのか。一度は真実に気付き、救済されたというのに」

 

「黙れ!!今度は孫市や古田織部を洗脳した手前ぇになんぞに言われたかねぇ!!」

 

 

ザビエルに突っかかる良晴だったが、そこで天龍に制止された。

 

 

「あまり感情的にはなるな良晴。奴は言葉に魔力を乗せて喋り、相手を操る術も持っている。その力で数多くの人間を騙してきた。お前だってその一人だろう」

 

「くそっ!!」

 

 

天龍はザビエルへと向き直る。

 

 

「処でだザビエルよ。よもや貴様、孫市や織部を味方に付けた程度でこの俺様に勝てるとでも思っているのか?

ここは、我が家臣共が防備を固めている。宗麟を含めた眷属達も控えている。そんな状況で貴様はどう動く?」

 

 

そう問う。だが、ザビエルは不敵な笑みを浮かべるだけで。

 

 

「何故我々3人しかいないと思ったのだ?」

 

「なに?」

 

 

その時だ。控えていた、一部を覗いた雑賀衆の者らの多くがザビエルの背後に集まる。そして、その面相にかけていたと思われる術を解いた。

 

 

「.....なるほどな。雑賀衆のほとんどをすり替えてたってか。まぁ、雑賀の頭領の孫市が裏切ってる以上、普通にあり得る話だわな。

ハワード・ファタジア、ゼクスター・ヴィンストン、ロゥリー・ヴィクテリアス。随分とまぁ懐かしい顔ブレだ。何人か新参者もいるようだな」

 

 

雑賀衆に化けていたのは全員西洋の白人。何人かは数年前の"教会"との戦いで見た者達。全員が吸血鬼クラスの戦闘力を持ったエクソシスト共だ。

 

 

「しかし、これでもまだまだかね。他の眷属吸血鬼ならまだしも、君ドラキュラに挑むなら一千人の戦士を用意しても足りない」

 

「.....」

 

 

ザビエル自身、何かしらの策を持っているらしい。

 

 

「だから、今日は退いてあげるよ。そこの良晴くんが匿っているガブリエルとも合流せねばならないからね」

 

「なっ!?」

 

 

良晴は驚愕する。確かにガブリエルことガブリエル・クロウ・アンダーソンを匿っているのは良晴だ。とはいえ、天龍と良晴の関係が改善されてからは、付き合いが少なくなったのだが...

 

 

「では楽しみにしているよドラキュラ。君と私には、平穏な日常よりも、地獄のような戦乱こそ似合っているからね」

 

「ほざけ白豚共。地獄を見るのは貴様らだボケ」

 

「ふっくくくくくく.....いい威勢だ。では失礼しよう」

 

 

何かしらの術で退却しようとしたザビエル。だがその時。

 

 

 

 

 

「だが、こちらはこちらで貴様らに対抗するすべは少ない。なればここで、少々そちらの戦力を削らせて貰おうか!」

 

 

 

 

 

瞬時に飛び上がった天龍は一直線にザビエル一味に突撃する。刀を抜き、ザビエルらのやや上方でソレを振り上げる。

 

 

「クフフ...」

 

「なっ!?」

 

 

天龍が刀を振り下ろした瞬間、ザビエルは霧のように消滅する。同時に、孫市と織部を含めた多数のエクソシストごと消えてしまったのだ。

 

 

「くそっ!"形態変化の術"か!?」

 

『君からの贈り物さ。有難く使わせてもらっているよ』

 

 

スピーカーのように、どこからとも無く奴の声が響き渡る。

 

 

「貴様ら教会共はあくまで人間の術のみで俺らを駆逐するのがポリシーだったんじゃないのか?」

 

『痛い事を言ってくれる。我々も日々昇華しているということ。精々君達を苦しめさせて貰うよ。では、またいずれ...』

 

 

そうして声が聞こえなくなる。完全にザビエルらは去ったようだ。

天龍は渋々と良晴のもとへと降りてくる。

 

 

「おい、天龍!なんだよ今のは!?」

 

「形態変化の術か?簡単な原理さ。肉体を気体、もしくは液体へと変態させ、移動もしくは逃亡をする魔術。形態変化している最中は一切の攻撃ができず、攻撃に移るのであれば肉体を戻さねばならない弱点があるが、変化中はほぼ攻撃を受けないという強みもある。元々は俺ら吸血鬼が得意とする術だったんだがな。どうやらパクられたようだ」

 

「......」

 

「そっちじゃねぇって顔だな。奴との関わりの話だろ。またいずれ話してやるとでも言いたいが、それでは納得できるはずもないか」

 

「当たり前だ。お前は隠し事が多過ぎる」

 

 

一息つき、やがて彼はこう答える。

 

 

 

「.....ザビエルは俺の親だ」

 

 

 

意外な事に答えが帰ってきた。それも、とても理解できない答えが。

 

 

「は?」

 

「語弊があるな。正しくは生みの親というべきか。"俺を吸血鬼にした"のは奴だ」

 

「なっ.....!?」

 

「元々から神の血こそ引いてはいたが、それでも俺はただの"人間"だった。それを自分のモルモットとしていいように弄くり回したのが奴。俺をどうしようもない化物に改造したイカれ野郎だよ」

 

「じゃ、じゃあ!なんであいつらはお前の命を狙ってるんだよ!!」

 

「そりゃあ、研究材料だった実験体が言う事を聞かずに暴れ回ってるからさ。改造されてからの初期は洗脳され、奴の猟犬のような存在になっていたからな。呪縛が解けてからは自由に動かせて貰っている。それが気に食わない奴は十字教のエクソシスト共を動員してでも俺を殺しに...いや、捕獲しにかかっているというこった」

 

「.....」

 

「貴様の言いたい事は分かるさ。だが、俺の過去は口で説明するには長過ぎる出来事だ。特に、欧州における”100年”は特にな」

 

「それと、お前がよく言うもう”400年”の方もな」

 

「いや、そっちの方の説明は案外楽だよ。実際に経験した俺自身としては地獄そのものだったが、説明するとなれば一言で済む」

 

「じゃあなんだよ」

 

「内緒」

 

「おい...」

 

「僻むな僻むな。だがこれは本当に言えないんだ。ほぼ決心が着いてるお前を再び惑わす程の話だ。できれば墓まで持って行きたい事案なんでね」

 

「むぅ...」

 

 

なんだかんだで、俺はこの人のことを何も理解できていない。何も教えてはくれない。何も暴くことができない。

 

 

「そんなのは後回しだ。今はザビエルの対処が先だろう。謙信!」

 

「うむ」

 

 

元越後大名、軍神上杉謙信。

現在、警察庁長官。

 

 

「全国の邏卒隊【らそつたい】へ伝達せよ。各地のキリシタン共、クリスチャン共を検閲せよ。更に伴天連共を一斉検挙し、ザビエル一味を炙り出せ」

 

「承知した」

 

 

謙信は用意させた馬車に乗り込み、すぐに移動を始める。

 

 

「ベル!」

 

「はっ!」

 

「飛行船を使ってもいい。己の翼で直接飛んでもいい。急ぎ明へと渡り、レオを連れ戻せ。外交面を見直す為にも奴の力が必要だ」

 

「御意!閣下から頂いたこの御翼にて滑空し、直様にレオパルド卿をお連れしましょう!」

 

 

元筑後大名、大友宗麟。

現在、文部大臣。洗礼名ベルフェゴール。

 

元会津大名、蒲生氏郷。

現在、外務大臣。洗礼名レオパルド。

 

 

 

 

「それとだ...サリーム陛下」

 

「む?」

 

 

展開に置いてけぼりであったサリームに目を向ける。

 

 

「此度は大変失礼しました。我が国家はこれより欧州イスパニア所属の宣教師軍との戦争状態に入りました。インド帝国皇帝であらさられる貴方様にはこれ以上の我が国内停泊は大変危険となりましょう。なれば直ちに貴国へ帰還なさりませ。お帰りの際の護衛は我が国の海軍が全力でいたしましょう」

 

「ヴラドよ。我にもできることは...無さそうじゃな」

 

 

天龍の表情を見て、サリームはそっと察した。何かを言おうとしたらしいが、それを飲み込み、無言で振り返る。そして自らの意志で船の方へ歩みを進める。

そして、去り際に叫んだ。

 

 

 

「待っておるぞヴラド!我はおぬしと婚約した身じゃ。ジャパンとインディアが手を取り合い、纏まった国家としてこの亜細亜を占める大国とならん事を。その日が来るまで我はいつ迄も待とう。さらばじゃ!」

 

 

 

その台詞と同時に船へと駆け出そうとするサリーム。そんな彼女を天龍は手を掴み、静止させた。

 

 

「あっ...」

 

「何故にそのような哀しい表情で去られるのですか?」

 

「...」

 

 

決して振り向く事はないが、サリームは啜り泣きそうになるのを我慢しているのが、震える肩から気付かされる。

 

 

「まるで私がこの戦争で敗北し、死んでしまう事を予感しているかのような。そんな感情が見て取れる」

 

「だっ...だって!」

 

「だって?」

 

「我だってこの数ヶ月の間に勉強したのじゃ。今の亜細亜各国は欧州の"白い連中"に大きく劣っていると。そんな連中と戦えば、ヴラドは.....んっ!?」

 

 

天龍はサリームを抱き上げ、口付けをしてみせる。

 

 

「誰が負けるって?」

 

「ヴ...ヴラド?」

 

「俺とて元は欧州で100年も国を支えてきた欧州人だ。欧州で得た経験とこの日本国で学んだ知識を活かせば、伴天連なんぞ怖くも何ともない!

...確かに一度は敗走し、国を追われる結果になった。だが、負けたからこそ得るものもある。今度は負けん。折角ここまで掴んだ好機、みすみす彼奴らにくれてやる気は毛頭ない!」

 

「ヴラド...」

 

「勝つさ。勝って正式に結婚しようぜサリーム!」

 

「.....分かった!方仁にも宜しくな!」

 

 

そう言い残し、彼女は乗船した。

 

 

 

 

「嘉隆、インドまで送ったらすぐに戻って来い。これより開戦だ。連中の海上能力はいざしれんが、場合によっては海戦も考えられる。お前と隆景の海軍もまた重要となる」

 

 

元志摩大名、九鬼嘉隆。

現在、海軍中将。

 

 

「.....むぅ、分かったよ」

 

 

むくれた嘉隆は渋々軍艦に乗り込み、サリームをインドへと護送すべく、出航した。

 

 

「さらばだサリーム。いずれ辺獄で...」

 

 

去り行く船に哀しみの表情を浮かべながら、天龍は踵を返し、己の国へと視線を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?どうしたんだお前ら。そんな間の抜けた顔で」

 

 

振り返ると、良晴を含めた面々が複雑な表情で自分を見ている。何人かは頬まで紅潮させている。

 

 

「お前さぁ...いや、分かってたけどさ。公の場でとか、とことん恥知らずなのな」

 

「はぁ?」

 

「いや、いいけどよ。でも、嘉隆姉さんとか可哀想だな。一応は奥さんの1人なのにさ」

 

「??」

 

 

何人かの女性が顔を紅潮させ、呆れ顔を浮かべている。普段からわりと、人前でキスをしているつもりだったが、そんなに刺激が強かったりのだろうか?

 

 

「いや、サリームってまだ幼女だろ」

 

「何を言う。彼女は既に立派なレディだ。肉体は未だ未熟であっても、精神は最早理想の女性として相応しいものとなっているだろう。とはいえ、子供らしさはらしさできちんと残しているのがまたメンコイのだがな」

 

「ロリコン」

 

「俺の歳からすれば人間はどれもかしこも赤ん坊と変わらん」

 

「...そうだったな。もう訳がわからないや。.....さて」

 

 

良晴は荷物を持ち、出発の準備に入る。

 

 

「何処へ行く?」

 

「大阪。フロイスとオルガンティノに会ってくる」

 

 

 

 

ルイズ・フロイス、オルガンティノ。

元ドミヌス会宣教師。

「元」というのは、つまりそのままの意味であり、2名は既にドミヌス会としての宣教師を引退しているのだ。今は亡き、ガスパール・カブラル、コエリヨといったフランシスコ会の過激な植民活動。日本国がキリスト教を厳格にした代わりに新たにサタン教を創設するなど行動にした事から、日本国でのキリスト教の布教を諦め、宣教師職を辞したのだ。

その為に本国へ戻る事が出来なくなり、天龍・良晴へ相談した所。

 

「学校の先生になればいいんじゃね?」

 

という良晴の短絡的な返答が現実のものとなり、かつては天龍領地に点々とあった寺子屋『天竜塾』が武家政治の終焉と共に発足した新政府樹立に際し、正式に学校というものを全国区へ広める政策が生まれる。

それが「学制」である。

まだまだ成長途中の制度ではあるが、既に東京・大阪に大人組の大学校、子供組の小学校が建設されており、本格的に授業が始まろうとしているのだ。(中学校も建設予定だが、小学生組の卒業に合わせて開校の予定)

オルガンティノは子供の方が向き合いやすいとのことから、東京の小学校で南蛮語や算数などを担当。

フロイスは大阪の大学校にてなんと、日本史と国語を担当。

 

 

「国語ってのは、つまり日本語を学ぶ勉強だ。それに日本史も教えるとなると、外国人のあんたにはちと荷が重くないか?」

 

 

天龍はそう尋ねる。対してフロイスは、

 

 

「あら、私は『Historia de Iapam。日本史』を書き上げるくらい、日本の歴史には自信がありますよ」

 

「俺も読んだが、人物紹介にだいぶ偏りがあったじゃんか。『神を信じる人は偉い。天才。名君!...神を信じない人は可哀想。哀れ。自惚れている』ってな感じでさ」

 

「うっ.....あの頃の私はまだまだ若気の至りでした。機会があれば書き直したいと思っています」

 

 

フロイスは赤面して、過去の著作物を黒歴史ノートのように語る。

 

 

「でも、今は違いますよ?織田信奈様や良晴さん。そして貴方様に出会えた事により、日本文化の素晴らしさを知り、よく理解しました。この国を決して潰してはいけない。この文化を絶やしてはいけない。そう思い、あえて難しい日本語と歴史の教科を選びました。これは神のお導きではなく、私自身の誇りに誓って決めた事なんです」

 

 

これに対し、天龍は返す言葉も無く微笑し、これを受け入れる。

 

 

あんたみたいな人が当時の十字教連中に少しでもいれば、俺も"馬鹿な真似"をせずに済んだかもな。

 

 

彼はこう語り、彼女を逆に困らせたという。

 

 

 

 

まだ正式な開校こそしていないが、体験入学という名目で近隣住民を無料で招待。長らく続いた戦乱が終わって得た、束の間の平和の期間を利用し、数多くの好奇心旺盛な若者が勉学を勤しもうと、教室は常に満杯状態だという。

中には、フロイス目当ての助平なオッサン共も混じっていたりするのだが...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確か今はオルガンティノも大阪の方へ大学校の視察に来てるはずだ。まとめて会ってくるよ」

 

「会ってどうする。彼女らとザビエルは別組織。文句を言ったところで、彼女らが困惑するだけだ。ザビエル共を追い詰めるには見当違いの道筋だぞ」

 

「俺かて彼女らが繋がってるなんて毛頭思ってないし、そこからザビエルとかいう奴らの手掛かりが掴めるとも思ってない。ただの安否確認だよ」

 

 

宣教師を辞めて日本の教師になった事から、フランシスコ会では彼女らを裏切り者扱いする者まで出ているという。そんな彼女らを良くて人質、悪くて見せしめに襲撃なんて事態も想定できる。その為に予め様子を見て、場合によれば良晴管轄の海軍の兵によって護衛させるとか。

 

 

「......むぅ」

 

「どった?」

 

 

良晴の返答に天龍は唖然としている。

 

 

「いやまぁ...お前も成長するんだなと思って」

 

「にしししし。俺も大物として板が付いてきたってか?」

 

 

いつもなら、「戯けが。一世紀早えよ青二才」などと馬鹿にされていたが。

 

 

「そうだな。歳を取るってのは怖いな。すぐに若いのに追い抜かれそうになる。クワバラクワバラ」

 

 

などと年寄り臭いことを言って、彼はその場を後にしてしまった。変わってしまったのは果たしてどちらの方なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを境に一同は解散。雑賀孫市、古田織部といった重鎮の裏切りといった波乱に満ちた惨劇となったサリームの送別会。これ以降は全国的に対ザビエル組織として各自が動いて行くこととなる。

 

俺も決断しなければならない。

まだ知らぬ、敵との戦いを。

 

 

そしてだ。

 

 

 

 

 

 

ガブリエル・クロウ・アンダーソン。

神の左。大天使の名を持った神父。

 

 

 

 

ドラキュラ殺しの勇者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんたは一体、どんな決断をするんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日から、天龍らは紀伊の雑賀衆の調査に入った。孫市の裏切りに賛同し、同じく裏切りを行う者がいるかもしれない。もしくは、雑賀衆全員が裏切っている可能性もある。心配になるのも当たり前だ。何故なら天龍の組織する陸軍の主力の大多数が元雑賀衆なのだから。

 

 

 

 

とはいえ、その心配は徒労に終わった。

裏切りは孫市の単独犯行。

『踏絵』紛いのことまでやったが、他にこれといった裏切り者はいなかったのだ。

鶴、小雀、蛍といった雑賀三姉妹という孫市側近も、実の弟の雑賀孫六まで孫市の謀反を知らず、雑賀衆はむしろ大混乱していたのだ。一先ずは信用できる孫六に雑賀衆の統治を任せ、「怪しい動きを見せる者が現れれば、直ぐ様捕らえよ」とだけ命令をしておく。

 

 

 

その命令の直後、

 

「私も姐様と運命を共にする〜!!」

 

と蛍が出奔しようとし、他姉妹2人に羽交い締めにされる少女が現れ、落ち着くまで軟禁状態にする事になった。

 

 

それだけ孫市の影響は雑賀衆でも大きかったのだ。

 

 

「さて、次は利休の所か」

 

 

少し前に弟子を殺され、傷心中の千利休。そこに、弟子が教会連中共に寝返り、日本に敵対したなんて聞かされれば、更に心を痛めることとなるだろう。だが、仕方ない。事実、それは起こってしまっているのだから。

 

 

「平和なんざ。そう簡単には手に入らんわな」

 

 

何かを諭したように彼は言った。

 

 

 

 

天龍は利休に会いに東京へ。

良晴はフロイス達を守りに大阪へ。

 

 

どちらも、その場所で何かしらの手掛かりが少しでも手に入ればと、ほんの少しの希望を胸に、歩みを進める事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、絶望はいつも見当違いの場所で生まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奈良県、興福寺。

土砂降りだったある夜、ここで襲撃事件が起きた。十字架を掲げた南蛮人”1人”によって行われたと、生き残った僧らが語る。

 

死者13名。

 

・興福寺外で見廻りをしていた僧兵が5名。

・何も知らずに犯人に迂闊に話しかけた僧が2名。

・無理矢理進撃しようとする南蛮人を止めに入ろうとした僧が4名。

・南蛮人の説得に試みたが、無残にも討たれた僧正が1名。

 

・『勇敢にも南蛮人に立ち向かい、互角の勝負を見せたものの、敢え無く敗北し、最も酷い方法で惨殺された、現日本陸軍少将』1名。

 

 

 

 

 

 

 

その者は、勘解由小路天龍が羽柴天竜秀長と名乗っていた時代からの旧臣。元僧兵でありながら大名に出世し、天竜と関係を持ち、彼の能力すらも与えられた存在。

 

 

 

 

 

 

『睾丸性女性化症候群』という病気に悩まされ、同一性障害にも陥っていた所を天竜に救い出され、以後彼に人生の全てを託した少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元大和、筒井城城主。

元天竜軍家老。現日本陸軍少将。

 

天龍の愛人の1人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筒井順慶、死亡。

 

 

 

 




前書きでも書きましたが、本作は原作とあり得ないぐらいかけ離れる展開になりました。ましてや、前回から1年も経っているので、原作の内容も入れられるようで全く入れられてません。
(近衛前久が良い奴になってたり、良晴に義姉ができたり、島津が四姉妹だったり、影武者とか朧月夜とか出てきたり、二週目の良晴だったりとか、知らん間に設定増えすぎや!)
本当は九州攻めとかも詳しくやりたかったんだけどね。天龍中心の話ですし、やる暇もなく...

なにはともあれ新展開。本格化した異国からの襲撃、順慶の死。読者が何人残ってるかは分からないですが、また盛り上げていきたいですね。
誤字脱字等の修正も順次やっていきます。
次回予告
筒井順慶
〜私は貴方の為になれた?〜



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天翔ける龍の伝記外伝 伏せる龍 1話

唐突に入れた過去編という名の外伝話です。過去編系のものは今までにも何度か入れていたのですが、戦国時代以前の出来事にしぼったものも製作したかったので、ここで入れました。不定期になりますが、本編に合わせて投稿していきます。


伏せる龍 第一話

 

私の名前は龍宮聖華【りゅうぐうせいか】。仙石高校3年の女子高校生だ。昔からお嬢様のような名前であると言われるが、私自身は言ってしまえば不良。女ヤンキーというやつだ。とはいったものの、私は分かりやすい犯罪行為に手に染める事もなく、誰ともつるまない。1人を好む性格。誰に迷惑をかけるわけでもなく、かと言って大人の言う事を何でも聞くような良い子ちゃんでもない。只々、自由に生きて自由に行動するクールガール。聞こえは良いが、それでも大人達からすれば、そこらの不良共と変わらない、社会からの鼻つまみ者なのだろう。

だがそんな事などどうでもいい。私は自由でいたいだけ。誰に何と言われようとも、そのポリシーは変わらない。どんな奴にだって私の人生を左右させたりなんかさせない。少なくとも家の外では...

そう思ってた。

 

 

 

 

そう、それは”奴”に会うまでの生き方だったのだ。

 

 

 

 

 

その日も私は授業をバックレて屋上に来ていた。

 

中途半端に要領が良かったのが悪かったのだ。なんとなく受験して、なんとなく受かってしまった高校がそれなりの進学校。教師は優等生を名大学に行かせてポイントを稼ぐ事だけを目標にするような奴ばかりで、名大学には到底行けないような劣等生は基本的に放置される...

なら良かったのだが、自分の経歴に『汚点』を残したくないのか、その教師達はより一層劣等生の指導に力を入れる。でも古き良き熱血指導なんかじゃない、単なる間引き作業だ。

腐ったミカンの方程式。某学園ドラマでも取り上げられていたように、劣等生は常に邪魔者扱い。昔の荒れていた時代だけの話ではない。今でもその実態は何も変わらないのだ。個性なんてものは必要ない。大人達に都合の良い、良い子ロボットを作るだけの場所。本当に腐ってるのはどちらなのか。なら、この高校の劣等生はどのように行われる?簡単な話だ。「放置される」のだ。

さっき、放置されるわけではないと言った?その通り。ただの放置じゃない。これは意図的に”いないもの”とされるのだ。クラスにいないものとされる。いらないものとされる。存在を消される。生き甲斐を消される。劣等生である限り、彼らには学校内での生存権を奪われるのだ。傍から見れば、体罰を受けてるわけでも、言葉の暴力を受けているわけでもないから気が付かれない。だが、この仕打ちを受けた生徒はノイローゼになり、劣等生を抜け出そうと無理矢理に努力する。それがどんなに辛かろうとも、心身を壊そうとも、居場所を得られるのならと。それができない者は自分から出ていく。努力しなかった者、普通じゃない可哀想な人、という不名誉のレッテルを貼られて。私は後者の側。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話が長くなってしまった。だが、これからの話に上記の状況は全く関係がない。何故なら私も”奴も”、そんな腐りきった教育環境を全く無視して、ひたすら自由に生きようとし、選択していった物語を執筆してきたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”奴”の名前は勘解由小路天竜。

優等生でありながらわざと劣等生に落ち、この学校の教育者共に中指を立てた変人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”奴”を何故奴と呼ぶのか。彼でも彼女でもない以上、奴と呼ぶしかないだろう。奴には性別なんて無い。状況に応じて立場をころころ変えてしまう。奴に初めて会ったとき、私は奴を天使か悪魔か。そんな異形な存在を意識してしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は戻る。ここは屋上。本来なら生徒は立入禁止の場所。しかし、”誰かが”ここを自由に開けているらしく、入り口はいつも開いていた。教師もそれに関わりたくないのか、放置している。

だがその真相を知る由もなく、私は気分気ままに屋上に上がり、涼しくも暖かい環境で昼寝をする。自販機で買った微糖の缶コーヒーと、歳を誤魔化して購入した軽めの煙草とライターだけを持って、屋上に上がり、そこから更に梯子で登れる校舎で最も高い台に寝転がり、たった1人一服しながらコーヒーを飲む。これが私の日課。

でも、その日だけが違った。

 

 

「ん?」

 

 

その日も、誰が開けたとも知らない屋上で、いつもの場所で一服していた私の視界に写った、梯子を登ってきた生徒。男子生徒なのか男子生徒服を着ている女子生徒なのか。中性的すぎてよく分からない、髪型までポニーテールなのかサムライヘアーなのか。とにかく中途半端なオトコオンナがこの場所に登ってきたのだ。

1人でいたかった私は渾身の睨みをそいつにぶつける。ここには不良がいるぞ。変に絡まれたくなかったら、さっさと帰れ。と、無言で語りかける。

 

にも関わらず、そいつは普通に登ってきて、あろう事か私の横に寝転がりやがった。そして、私がしようとしていたように日向ぼっこをしながら眠りに付く。

何だコイツ!?

 

3分ほど寝ていたかと思った奴はふと内ポケットに片腕を挿入し、そこから煙草を取り出し咥える。そして、ライターも取り出そうとゴソゴソとそこを探るが、急に焦ったように起き上がり、左右の内ポケット、胸、腰、ズボンの横や後ろのポケットを弄るが着火道具を探るが、出てこない。

 

 

「やべ」

 

 

そう呟いたと思うと、急にこちらに歩み寄ってきた。

 

 

「火ぃ貸して」

 

 

当然無視する。

 

 

「ライター忘れちゃった。火貸して。って、貸してってのもおかしいか。火ぃ頂戴?」

 

 

私は関わりたくなかったので、またもや無視する。するとだ。

 

 

「んー」

 

「っ...!?」

 

 

あろうことかこいつは、私の咥えていた煙草の先端に己の煙草の先端にくっつけようとしてきやがった。私は慌ててそいつを払い除け、距離を取る。

 

 

「何考えてやがる!?」

 

「だって貸してくんないから、勝手に貰おうかと...」

 

「ふざけんな変態!」

 

 

本当に何を考えてやがるんだコイツは。ただの馬鹿なのか?

 

 

「ちっ...」

 

 

やや距離を取った位置でそっぽを向く。このまま帰れという意思表示。また近付いてきたら蹴っ飛ばしてやる。

その時だ後ろでライターを絞る音が聞こえる。

軽く振り向くと、奴はライターで煙草に火を付けていた。なんだ、自分のライター持ってるじゃないか。改めて探したら出てきたのか。はた迷惑な奴だ。ならその1本を吸い終わったら、さっさと帰ってくれ。そう思った矢先だ。

奴の持っているライターに見覚えがある。つい最近まで目にしていたような形のソレ。と思っていると、奴がまた近付いてきた。

 

 

「はい。返す」

 

 

何事かと思ったが、返されたライターはまさしく私のライターそのものではないか。

 

 

「えっ!?」

 

 

慌ててライターを入れていたと思われる内ポケットを探る。無い。

なんでコイツが持っている?

スられた!?いつ?

 

 

「いいライターだね。ジッポとはいい趣味だ」

 

「このっ!!」

 

 

無理矢理奪い取る。あまりの出来事で顔を真っ赤にして興奮してしまう。

 

 

「なんなんだよお前!私になんの用なんだよ!」

 

「いや...別に...」

 

「くそっ!」

 

 

私は我慢出来ずにその場を後にしようとする。しかし、唯一の帰り道である梯子の前をコイツが占領してしまっているので帰るに帰れない。

 

 

「邪魔...」

 

「ん〜。どうぞ〜」

 

 

奴はその場に寝転がる。跨がれってのか?

しかし、それに抗議するのも面倒だったので、無理矢理跨がろうとする。

 

 

「...水色」

 

「っ...!?」

 

 

だがその一言に激昂してしまい、跨がるついでに踏み付けてやろうとする。しかし、予感していたかのようにするりと避けられてしまう。そして転がるように高台から飛び降り、奴の方が先に立ち去ろうとする。

 

 

「ご馳走さん」

 

 

その一言を捨て台詞に、彼は姿を消した。

 

 

「死ね!!」

 

 

姿の見えなくなったその変態野郎に大声で罵倒する。だが、それをしている自分に虚しくなり、次の授業時間もその屋上で暇を潰す事にした。

 

 

「誰だよアイツ...」

 

 

今の出来事が私の人生を大きく左右するような事になろうなど、この時点では全く想像できなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。頬に絆創膏を貼った私はまた屋上に登る。いつもの高台に例の変態がいない事を確認すると、気分よく梯子を登って高台に寝転がる。今日もまた有意義な時間が過ごせる。

そう思ったのはほんの3分間。

奴は普通にまた登ってきたのだ。

 

その翌々日も、翌々々日も。

彼は私の3分後に必ず出没するようになった。どの時間帯であろうとも必ずだ。まるで始めから自分がいては、私が嫌がって高台に登らないことを読んでいるように。そして必ず梯子前を占領し、簡単には帰れないようにする。

 

ハッキリ言って、ただのストーカーの変態だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「名前は?」

 

「ん?」

 

 

しかしふと何を思ったのか、私は奴の素性が気になり、質問。

 

 

「名前だよ名前。あとクラス」

 

「今迄ずっと無視してたのに、急に気になったんだぁ。もしかして惚れた?」

 

 

うぜぇ。

 

 

「勘解由小路天竜。3年生。クラス3組だよ」

 

「んん?」

 

 

何やら落語家のような苗字だったが、よく聞き取れなかった。聞き取れたのは下の名前のみ。聞き直すのも癪なので、下の名前だけ覚えておく事に。てか、

 

 

「同い年かよ!」

 

 

幼い見た目なので、年下かと思った。

 

 

「そうっすよ〜龍宮さん♪」

 

「!」

 

 

こいつとの面識は無かったが、奴は私を知っているらしい。流石はストーカーというわけか。

 

 

「いつだよ。いつ私を知ったんだ?」

 

「今」

 

「は?」

 

「龍宮聖華、18歳。3年1組。19●●年3月3日生まれ。住所は...」

 

 

天竜は何やら手帳のようなものを見ながら読み上げるが。

 

 

「ちょっ...それ私のじゃんか!!」

 

 

天竜の持っていたのは私の生徒手帳だった。出席確認等に必要不可欠な為に私のような不良ですら常時携帯していたもの。煙草入れていた左の内ポケットとは逆の右の内ポケットに入れていた手帳。

またスられた!こいつはいつ、私の制服の懐に手を突っ込んだんだ?

 

 

「この変態!!」

 

「すみません。龍宮さん」

 

「!?」

 

 

急なマジトーン。それに合わせて表情も真面目なものとなる。

 

 

「ブラのサイズが合ってないですよ。1カップ落として、ちゃんとCカップ用のものを付けなければ型崩れしてしまいますよ?」

 

「死ね!!」

 

 

右のストレートをぶつけようとするも、又もや彼に避けられる。

 

 

「一発ぐらい殴らせろ!」

 

「嫌っすよ〜。龍宮さんのパンチ痛そうだし〜パンツは水色だし〜」

 

 

今度は回し蹴り。しかしまた避けられる。

こいつはぬらりひょんか!

しかもその際に舞い上がったスカートの中身を間近に覗き込まれ。ニヤリと笑う奴の表情が余計に癇に障った。

 

 

本当に気持ち悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある日の放課後。額に絆創膏を貼った私は部活場所である剣道場に来ていた。

この学校の、「帰宅部0」とかいう方針により、全生徒は何かしらの部活動に所属しなければならないというおかしな制度があった。不良生徒すら入部を強制されるわけだが、活動意欲の無い生徒は最低月3回の出席のみで構わないという、これまた謎制度があるのだ。戦前じゃあるまいし、だいぶ狂っていた学校だったと思う。とはいえそういう事もあって、私もその3回のノルマのみで済ます状況に甘んじていた。

入部先は女子剣道部。

別に剣道に興味があったわけではない。むしろ嫌いだ。中学2年生の頃からずっと。

 

体力にはわりと自身があったものの、「チームの力を合わせてガンバル」とかいうおチャラけた環境が合わず、他のスポーツには昔から馴染まなかったのだ。その点剣道は個人競技。適当に棒振って勝ったり負けたりしとけばいい、非常に楽な競技だ。

団体戦があると聞かされた時は絶望したものだが...

 

 

「今日は男子剣道部のエースが視察も兼ねて合同練習に来る!お前ぇら、男子が来るからって浮かれるんじゃねぇぞ!!」

 

 

ゴリラのような体格をした顧問の剣道部教師、大村大三郎【おおむらだいさぶろう】からそう告げられる。男子剣道部。弱い女子剣道部とは違い、一昨年から急に強豪校となり、大会にて連覇を続けているのだとか。噂によれば、1人の天才剣士の入部がキッカケなんて言われているが、定かではない。とはいえ、そんな強豪男子剣道部エースともなれば、どんなゴリラが出て来ることやら...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、男子剣道部で大将を任させてもらってる、3年の勘解由小路でーす」

 

 

一般的に武道系の部活といえば、ハキハキした挨拶が特徴のようなものだが、やって来たこいつは嫌にヘラヘラしたヒョロヒョロの子男だった。

 

てか、コイツかよ!!?

 

 

「まぁ、部の方針で仕方なく来たんすけど、来たからには女子剣道部をじっくりと見せて頂くんで、本日はどうもよろしくお願いしま〜す」

 

 

軽い挨拶を済ます。

ここで初めて気付いたが、一応”男子”剣道部なんだな。中性的すぎて性別なんて無いかと思っていた。

 

 

「やだ、どんなゴリラが来ると思ったら、超イケメン!超タイプ!」

 

「あれはイケメンというより美少年って感じね!」

 

「キャッ!目が合っちゃった!」

 

「落ち着いてて格好いい!まさに平成の侍ね!」

 

「後で電話番号聞かなきゃ!」

 

 

普段道場に籠って異性との交流が少なく、耐性のない女子部員達が黄色い声で騒ぎ出す。私からしたら、女々しいだけだし、弱そうだし、あまり好みの異性とは言えない。それに、あの屋上でのこいつの気持ちの悪い態様を知らないから、こう騒げるのだ。

 

 

「うっ...」

 

 

私が野獣の眼光で睨み付けているのに気付き、気不味くなったのか目を晒す天竜。それは女子達は「照れちゃってる可愛い〜!」などと騒ぎ立てる。

おいおい、完全に年下扱いだが、コイツはお前らの同年代か年上ぐらいなんだぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで奇妙な合同練習がスタート。道具の手入れ、準備運動、筋トレ、素振りの練習などが行われ、普段の女子の練習に天竜が混ざる形になっている。隣り合った女子、準備運動でペアを組んだ女子などが、皆、恥ずかしそうに顔を紅潮させながらそれを行っている。おいおい、普段の男勝りのだらしない感じは何処へ消えた乙女モード共。

 

そんな私は出席日数の為だけに来ていたので、道着だけ着て壁際でサボタージュに勤しんでいる。正直帰りたかったが、天竜が何を仕出かすかも分からなかったので、結局気になって帰れずにいる。

 

 

「本日は一本試合を行う。誰でも好きな奴から、この勘解にょきょうじに向かって一本を取れ!」

 

 

名前を噛んだのか、純粋に間違えたのか、きちんと紹介されない天竜。

 

 

「え、僕の交代って無いんすか?」

 

「相手は女子だろ!30人くらいちゃちゃっとやれ!」

 

「うへー」

 

 

ざまぁみろ!うちの女子部員は本番に弱くて大会を勝ち残れないだけで中々の強者揃い。今日はボロボロになって死ぬまで残されるといい。クククククククク...

 

 

壁際で邪悪に笑う不良部員に女子部員がどよめき始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「め〜ん!」

 

「はい、小手」

 

「やん♡やられちゃった♡」

 

 

私の予想は大いに外れた。女子部員の大半がお遊びで試合を受けており、天竜とのイチャイチャ試合の方を楽しんでしまっている。顧問の教師大三郎も、女子部員の練度の向上を目的とすると言いつつ、単なる女子部員への息抜きの為のご褒美としてイケメンを連れて来ただけならしく、全く注意する様子もない。

てか、普通にいい先生だなこの人!?

 

 

そんな中

 

 

「うちはお前みたいな女々しい男嫌いや。虫みたく潰したるわ!」

 

 

女子剣道部副将、山大大海【やまだいおおみ】が出てきた。名が体を表したような体格の彼女。山や海のように巨大な彼女は、女子剣道界でも怪物として知られている。去年の大会で、ちょちょいと一本を取ってきた試合相手にブチ切れ、片手で投げ飛ばして重傷を負わせ失格になった事件はあまりにも有名だ。

 

 

「ぶお"お"お"お"お"お"お"お"ぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

とても女子とは思えない咆哮。

 

 

「め"え"え"え"ぇぇぇぇぇんんん!!!」

 

 

隕石のような上段面打ち。これは常人では到底受け切れない威力。さぁ、初めての敗北を味わえ、なんとか天竜!

 

 

「ひょい」

 

「何っ!?」

 

 

アッサリと避けられた。いや、避けたというよりはさばいたように自然な流れだった。

 

 

「こなくそ!!」

 

「ひょい」

 

「ぶるあああああ!!」

 

「ひょひょい」

 

「死ね”!!」

 

「さら〜ん」

 

 

攻撃が一つも当たらない。流石の大海もスタミナ切れで限界近い。

 

 

「ちょろちょろと!!!」

 

 

足を真一文字に斬ろうとする。もうほとんど反則だが、天竜は問題なく飛び上がり、

 

 

「広東麺!!」

 

 

謎の必殺技でとどめを刺した。面打ちを食らった大海はあまりの衝撃にクラクラと揺れた後、象のようにその場に倒れる。

と思いきや。

 

 

「大丈夫かい?」

 

 

倒れる直前に天竜が彼女を支えたので、彼女は倒れて頭を打たずに済んだのだ。

てか、あの巨体をどうやって支えてるんだ?

 

 

「キュン!」

 

 

大海まで乙女モードになりやがった。

相手が強けりゃ誰でもいいんかアンタ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう見てらんない。私が出る」

 

 

壁際でサボっていた私が我慢出来ずに出てきた。すると女子部員らが急に驚愕し、近寄ってくる。

 

 

「駄目ですよ"大将"!怪我しちゃいます!」

 

「大将?」

 

 

天竜の問いかけに私は防具を装着しながら答える。

 

 

「ストーカーのお前でも知らなかったか。そうだよ。この女子剣道部の大将は私さ。サボり魔だから、部長とかの面倒な業務こそ他の子に任せてるけどね」

 

 

一通りの防具を付け終わり、最後に面をかぶる。

 

 

「うちの剣道部は弱小さ。ろくに試合にも勝てない他部員に、強いけどキレたら何も判断ができなくなる馬鹿な副将が1人。そして、活動に不真面目な大将の私。上位になんか到底上がれないから、私達は常に無名さ」

 

 

そして、かの自称天才剣士の前に私は立つ。

 

 

「始め!!」

 

 

大三郎の号令によって試合が開始される。

 

 

 

 

 

それと同時に私は動く。狙うは中段からの面。大方の予想通り、天竜は私の動きを見てから行動を起こす。私の面打ちを流れるように竹刀で受け流し、開いた胴に叩き込む動き。寸分の無駄のない風のような流し。だが、それも予想通りだ。

 

 

「!?」

 

 

天竜は予想していなかった。簡単に流せると思われていた龍宮の面打ちは想像以上に重く、鋭い剛の剣。流すどころか受けるのだけで精一杯の状況。

 

 

「そら、空いたぞ」

 

 

逆に胴がガラ空きになったのは天竜。私は竹刀を持つ腕を捻り、瞬時に面から胴へ攻撃の対象を変える。横の一閃。

天竜は崩れた体勢を直ぐ様切り替え、続いて中段を守ろうとするも、来るのはまた剛の剣。急場しのぎで受けた竹刀は天竜にそれごと衝撃を与え、一本にこそならずとも、胴への重い一撃を加える。

 

 

「ぐっ...!?」

 

 

流石にまずいと思ったか、彼は一旦距離を置いた。

 

 

「...ふぅー、予想の何倍も強いね。流石は大将だけある。怪我するのって僕の方なわけね。さっきの副将さん並の剣の重さに加えて速さまで兼ね備えてる。男子にもこんな選手は多くないよ。何でそれで試合に勝てないの?」

 

 

もっともらしいことを言う。だが、誰もが疑問に思うことだろう。

 

 

「簡単な話さ。基本的に剣道の試合は団体戦。先に3点先取した方が勝ち。うちの剣道部は弱いから、前哨戦だけで負けちゃうのさ。たまに捨て大将作戦で私が中堅を務めることもあったけど、主力が私と山大さんだけじゃちょっとね」

 

「でも、君だけは一度も勝負で負けた事が無い。そんな感じかな?」

 

 

見透かしたように言う。だから私はお前のそんな所が気に食わない。

 

 

「あんたの基本は返し技。相手の動きを見て、後から行動し、相手の力を利用してカウンターを決める。正直、なんであんたが大将か疑問に思うよ。男子は皆そんなつまんない絡繰に引っ掛かっちゃうのかね」

 

「そりゃどうも、とはいえあんたも大分いい加減な実力だ。技なんてものはない。ただ、

『極限まで重く』

『極限まで速い』

それだけ。でもシンプルだからこそ、誰も対応できない。ある意味、僕にとっては”理想の剣士”さ」

 

 

天竜がまた別の構えを見せる。上段でも中段でも下段でもない。...これは「突き」か?

まるで時代劇の真似事のようだ。新撰組関連の作品で似た構えを見た気がする。あれは確か「天然理心流」だったか。

 

 

「僕はむしろ弱いからさ」

 

「?」

 

「特別強く竹刀を打てる筋力もなければ、速く避けられる俊敏さもない。実力で劣っているからこその返し技。この突きだって覚えたけど、学生剣道じゃ禁則事項で縛られ過ぎてて、公式戦でもたまにしか使わないんだけど...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで奴の雰囲気が変わる。今迄のチャラけたものとは大きく違う。生気が、熱が一切伝わって来ない。極限まで冷え切った覇気。面の中の表情すら読み取れない。深くまで覗き込むと、そのまま食い殺されてしまうような。そんなイメージが浮かぶ。

一見すると、お遊びのような構えが、様になり過ぎている。隙が全く存在しない。本物の剣士の、侍のような構え。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

創作における「殺気」を実際に体現するならば、このようなものの事を言うのか。もう、奴をそれまでの実力と変わらないと判断するのは危険。そう、心の中で誰かが言っている気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...ぼろ...こうりゅう.....文月!」

 

「っ...!?」

 

 

ボソリと呟いた奴がついに動いた。返し技を主体とする奴が自ら攻撃に出たのだ。

 

 

「くっ!!」

 

 

すかさず私も動く。相手の狙いは胴か喉への打突。攻撃の中で最も速く遠距離から発せられる技。

 

 

しかし奴の突きの技は予想の何倍も遅かった、出遅れたと思われたが、私には充分対象できる余裕があった。簡単だ。突いてくる竹刀を払い除け、思い切り面打ちを食らわせてやればいい。

まずは奴の竹刀を払い除け...

 

 

 

 

 

除け...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっ...一本!!」

 

 

勝負は決まった。

 

 

「大丈夫っ!?頭打ったみたいだったけど!?」

 

「っ...」

 

 

私は壁際に凭れ掛かるように倒れていた。一瞬だけだが脳震盪を起こしていたらしい。喉元に激痛が走る。私は結局、喉への打突で負けたのか。

 

 

「ごめん!加減知らずに思いっきりやっちゃって!...龍宮さん強いから、きっと大丈夫だと思っちゃって...」

 

「今のは...」

 

 

ふと、ビリビリと痺れるように握ったまま、離せずにいる自分の竹刀を見てみる。そこで私は驚愕したのだ。竹刀の中央からやや下。中結と鍔の中間。丁度奴の突きを弾こうとした際に接触した点だ。

そこがひび割れているのだ。

ただ、割れているのではない。例えるならそう、途轍もなく太いドリルで抉られたような。...そう、ドリルだ。

 

 

奴の突きはただの真っ直ぐに見えて、微量に回転が加えられていた。まるで、始めから私の竹刀の破壊を目的としていたように。

 

 

いや、違う。奴は返し技の剣士。始めから私があれを弾きに来る事は分かっていたのだ。あの位置に竹刀が来る事も。だから壊しに来た。竹刀を抉り、敵の得物を無力化し、そのまま一直線に喉を狙って来た。本気で仕留めに...殺しに来るかのように。

 

 

 

 

 

 

身震いする。

山大や私のようにただ強いだとかとはわけが違う。殺しの剣だ。こんな高校生のお遊びの剣道で本気で私を殺しに来た。私が生きてるのは防具のお陰?運が良かったから?それとも手加減されていた?そんなものは分からない。考えれば考える程、闇に呑み込まれてしまうような、そんな気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

「いい勝負をありがとう。龍宮聖華さん」

 

「...」

 

 

差し伸べられた手を私は無言で受け取った。天使のような悪魔のような。とても普通の人間の雰囲気は感じられない存在。

勘解由小路天竜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この男が今後、私の人生を大きく変える存在になる事を、今の私はまだ知らない。

 

 

 




天竜の元同級生、龍宮聖華の話でした。
彼女と天竜の秘密については2話で分かります。

※以前書いた過去編について、大分昔に書いたので、変わってしまっている設定もあったりするので、近々軽く訂正しようと思ってます。矛盾点も多いですしね。


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