ムササビくん成長日記 (ショウラン)
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1.ムササビくん誕生

奇跡も魔法もある世界なのでこれくらい有っても良くないですか?


西暦2138年、なんやかんやと異世界転移を果たした青年、鈴木悟はゲームキャラクター『モモンガ』の姿で村人を襲う騎士を討ち返す。名前を自分が住まうギルド『アインズ・ウール・ゴウン』に改名し、異世界にその手を伸ばしていく。

 

遥かに脆弱な最高位天使を殺し、サイコかわいこちゃんを圧迫死という方法で殺し、アイテムの力で操られた仲間を殺し蘇生させ、部下の成長のために当て馬感覚で一つの種族を一度に配下に就けさせ、王国で大誘拐をしたかと思えば変装して一気に英雄になり(しかも軽く一人を恋に落とし)、ギルド拠点への侵入者を自ら呼んでおいて全力で葬り、その他諸々、なんだかんだとしてきたアインズだが、此れからは少し違う話をしていきたいと思う。

 

 

 

 

 

 

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『ムササビ成長日記』

・一日目

 

日記を付けるというのは初めてだ。普段はわざわざ記さなくとも記憶に焼き付く日々か凄くどうでもいい日々だったし。

だが、これからは違う。私の最愛の子供が産まれたのだ。元気な男の子。アルベドには感謝しなければならない。子供を産むのに協力してくれたペストーニャとニグレド、ソリュシャンにも多大な感謝を送らねば。

 

襲われた時にはどうなることかと思ったが、子供というモノは素晴らしい。私が指を伸ばせば、きゃいきゃいと指を握ってくるのだ。愛らしくて愛らしくて仕方がない。 アルベドに似て美形で、一部は私と寝て骨となっている。種族的には【半・(ハーフ)骸骨の魔法使い(スケルトンメイジ)】とか【半・(ハーフ)小悪魔(インプ)】とかになるんだろうか。いや、どうでもいいか。私の子供ならばどんな種族でも可愛いに決まっている筈だ。

 

明日は何をしようか。オムツとかいるのか?あぁ、わからん。分からんが...分からない事がこんなに楽しいなんて初めてだ。

 

 

では、今日はこの辺で筆を置こうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「アインズ様、おめでとうございます!」

 

『おめでとうございます!!』

 

玉座の間で朗らかに我が子を抱くアインズに、部下の者達が祝福の言葉を投げ掛ける。

 

「ありがとう。後、声の大きさを落とせ。ムササビが起きてしまう」

 

静かに、だが綺麗に響く声でアインズは部下に注意する。アインズの子息、そして男の子である『ムササビ』は先程寝たばかりだ。寝るまでは割りと苦労を強いられたが、アインズは精一杯いないいないばぁ、とすると笑いながらムササビは眠った。

 

部下の者達は、慌てて口を抑えた。自分達の声でアインズの子息が目覚め泣いてしまえば命を絶つ他、許される筈がないのだから。

 

「皆に、改めて伝えよう。

この子が、本日産まれた愛しの我が子...ムササビだ!」

 

部下の者達は声には出さないものの、空気を変えた。ぶわっ、と張り詰めた歓喜の心が場を包む。

 

ムササビ。命名はアインズ、もといモモンガだ。

 

なんと素晴らしい名前。なんと見事な風格。生まれたばかりにして、自分達の上位に立つ者の雰囲気が感じられる。そんな存在に敬意を示し、忠義を尽くす。

 

アインズは満足げに頷き、では、と続きを話す。

 

「そして此方が今回私の伴侶となったアルベドだ」

 

「皆さま、ふつつか者ですが、アインズ様の為心身共々削る思いで尽くす事を誓います」

 

アルベドの慈母じみた笑顔に、数人は目を奪われる。部下達の中で最前列に立つ階層守護者の一人、シャルティアは涙を顔に浮かべていた。なんだかんだで、彼女も嬉しいのだ。

 

皆、自分達の忠義の対象が増えたことに、そして仕えるべきアインズの妻としてNPCの最高位存在であるアルベドが就いた事に喜びを感じる。

 

「では、皆よ!我がアインズ・ウール・ゴウンの更なる指標は、我が子ムササビの生育だ!ムササビを...私以上の実力者に育て上げるのだ!!」

 

わぁぁぁぁ!!と心の中で歓声を上げるシモベ達を見てアインズはしめしめ、と笑う。

 

(これでムササビは安心して育つし、絶対者も引退できる。最高じゃないか!)

 

珍しく最適の案を思い浮かんだ時分を褒め称えつつ、我が子を撫でやる。

 

 

 

と、同時に「おぎゃぁぁぁぁ!」と泣くムササビを前にして、その場にいる全員がとてつもなく慌てるのは、また別の話。




一話辺りこれくらいです。


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2.シャルティアとムササビ

続けて書きました。一話辺り二十分くらいで作ってます。


ムササビが泣けばナザリックがひっくり返る。

 

 

『ムササビ成長日記』

 

二日目だ。昨日は大変だった。泣いたときは死ぬかと思った。あんなにも精神が沈静化されたのは生まれて初めてだろう。あのパンドラでさえ素で慌てたのだから、仕方あるまい。

 

二日目の今日は、シャルティアが我が子を抱きに来た。アルベドが早速二人目を作ろうと張り切っていたタイミングであった為、少し喧嘩にはなっていたが、気にする程の事では無かった。

 

我が子は非常に優秀だ。トイレはしないし、何故か既に首も据わっている。もしかしたら今週中には魔法も使えるのではないか。そんな気がしてくる。

 

そんな我が子の成長に希望を持って、今日はここまでとしておこう。

 

 

 

 

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「《転移門(ゲート)》」

 

転移が阻害されるナザリック地下大墳墓内で転移魔法を使い暗闇の部屋に現れたのは、ナザリックの第一から第三階層守護者のシャルティア・ブラッドフォールンだ。

 

(何故だかアルベドに、アホが感染る(うつる)から会うな、と言われたでありんすが...独り占めしたいだけでありんすね?そうはさせないでありんす。妾も第二妃としてそろそろ子を孕む準備をする必要がありんす。

アルベド?先にいい思いをしたのでありんすから、ご容赦おくんなまし?)

 

そう思いながらシャルティアは種族的に闇夜の暗さを無いものとして過ごすことが出来るため、真っ暗の部屋を進む。

 

ここにムササビを寝かせてあるのは階層守護者だけが知っている。今日はシャルティアの当番なのだが、アルベドが来る前に《転移門(ゲート)》を使い会いに来たという訳だ。

 

どうせアルベドが居たら抱っこもさせてくれないだろう。そう感じるシャルティアは、悲しみと怒りで顔を少し歪ませた。

 

しかし、ゆりかごを見た瞬間、そんな思いは消え去り即座にそこまで早歩きで向かった。

 

ゆりかごの中には、顔の半分ほど骨の顔が剥き出しの非常に可愛らしい子供だ。産まれたばかりの人間の子は猿のようだ、と言う者も多いがムササビは違う。顔にしわなどなく、小さな女の子がお人形さんとして遊ぶ赤ちゃんのような不自然な美貌を持っていた。

 

そんなムササビに、シャルティアは目を爛々と輝かせる。

 

「よちよち!シャルティアおねぇちゃんでちゅよぉ!.....か、可愛いでありんすぅ」

 

ゆりかごの中で笑顔を向けたムササビに心を射たれたシャルティアは、その顔を撫でてすこしの変顔を見せる。そして、その余りの可愛さに身悶えするのだ。

 

こんな可愛い子が存在するなんて、ナザリックはやはり凄い。

 

とてつもなくお気楽な感想がシャルティアを埋め尽くした時、シャルティアの脳天に衝撃がはし走る。

 

痛みのあまり振り替えると、そこにはとても満面の笑みで―――しかし顔に青筋を浮かべた―――アルベドがそこに立っていたのだ。

 

「な・に・を・し・て・い・る・の・か・し・ら・?」

 

ニコニコと笑顔は崩さないまま、怒気を纏った声で威圧をかけるアルベドに、シャルティアは思わず一歩下がってしまう。

 

(これが子供を守る母親の"凄み"でありんすか!)

 

シャルティアは感心しつつも恐怖しながら少しだけアルベドから距離を取った。

 

「あ、アルベドがダメって言うから少し見に来ただけじゃない」

 

「なに?見るだけなら言ってくれれば構わないわよ」

 

「え、えー...」

 

何その超理不尽、とは口に出さずシャルティアは肩を落とす。勿論、物理的にではない。

 

アホが移るから近付くのはダメだが、遠目で見るのは良い、というよくわからない思考にシャルティアは困惑するも逸かは自分がその番になる、と言い聞かせてその場を引こうとする。

 

そんなシャルティアを見かねたアルベドが、少し照れ臭そうにムササビを抱き抱えた。

 

「...先にやっちゃったから、そのお詫びよ。今回だけ抱かせてあげるわ」

 

「ほ、ほんと!?や、やった!」

 

シャルティアは思わぬサプライズに小さなガッツポーズを取った。アルベドが「何かしたら殺すわ」と言っているのも聞こえないようで、その小さな体を抱く。

 

シャルティアの小さな腕の中にすら埋まる小さな体は、その存在を鼓舞するかのように腕を振り、シャルティアの頬をぺちぺちと叩いた。

 

「ム、ムササビさまぁ...!」

 

ムササビのアプローチ(?)に興奮したシャルティアはその叩かれた頬をムササビの骨の方の頬に擦り合わせる。

 

ムササビは少し嫌そうにするものの、きゃいきゃいと笑って見せた。既に空気を読む力が彼に備わっているかは、その時はだれにも分からなかった。

 

それからアルベドから子育てのなんたるかを教えて貰いながら、逸かムササビと共に手を繋いで散歩をする時分の姿を想像しながら、シャルティアは静かに下着を濡らしていった。

 

 

 

 

 

この後の悶着は、また別の話。




ムササビを抱くシャルティアはお姉ちゃんっぽいですよね。


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3.ムササビとアインズ

今日はこれで最後かと。あと、二話と日付は変わっていないので日記は書かないです。


 

 

 

 

アインズは、今現在シャルティアに説教しているアルベドから離れてムササビの所に来ている。

 

やはり《闇視(ダークヴィジョン)》が使えるアインズは、暗さに関して不便を感じないため、その愛くるしい顔をすぐに覗くことが出来た。

 

アルベドに似て可愛らしい顔の一部は白骨化してこり、時折見せる顎のラインは自分にソックリだとアインズは思っていた。

 

「いないいない...ばぁ~!」

「きゃっきゃっ!」

 

人間種でなくとも見ればトラウマ間違いなしの、いないいないばぁ、を見てもムササビを動じさせることはない。この程度、ムササビからしたらちょっと頑張るお父さんにしか見えないのだ。

 

自分のギャグが受けた事に、アインズは小躍りをしてから再び繰り返す。そして笑う息子を撫でてやるのだ。

 

愛らしくて仕方がない。ただただ可愛くて、生きていてくれるだけで価値がある存在に思いを馳せる。

 

アインズは、ムササビを抱くと同時に、《伝言(メッセージ)》を使う。

 

『アルベド、私はムササビと散歩に出掛けてくる』

 

『ならば私も!』

 

『いや、私は子供と二人で行きたいのだ。今度お前と二人でいくし、お前もムササビと二人で外出するといい。それが済めば今度は三人で行こう』

 

『...畏まりました。素晴らしいです...!』

 

向こうから歓喜の声が聞こえる事に、アインズは再び小さくガッツポーズを取ると《伝言(メッセージ)》の魔法を解除し《転移門(ゲート)》を発動する。

 

そして我が子と共に以前行った草原の真ん中に立つ。

 

夜風がアインズとムササビを撫で、星が二人を優しく照らす。草のざわめきは一層増し、冬になった草原には一部霜が降っている。

 

そんな世界の中でアインズは《飛行(フライ)》を使った。

 

「よーし、ムササビー。たかいたかいだ!」

 

そう言うとアインズは遥か高くに物凄いスピードで上昇していく。

 

ひんやりした空気が、アインズとムササビの肌を責め(アインズに肌はないが)アインズのローブからは風に煽られて悲鳴の音が鳴る。

 

「きゃきゃきゃ!」

 

愉快そうに、とても愉快そうにその、たかいたかいを楽しめる我が子に(とんでもねえ度胸だ)と感心しながら感動を覚える。

 

我が子のこれからの将来が楽しみで楽しみで仕方がない。そんなアインズは、息子の指に指輪を嵌める。

 

指輪はその小さくぷにぷにの指に合わせて小さく縮こまった。

 

一度だけ即座に蘇生される指輪を持たせたアインズは、安心して《転移門(ゲート)》を使う。

 

いつかこの子にも好きな女ができて、そして孫を見るのかもしれないな。

 

そんな思考に浸りながら、再びゆりかごにムササビを寝かしつけるのであった。




これから増えるかな、この話。


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4.ムササビとメッセージ

寝る前に一話だけ。





『ムササビ成長日記』

今日で六日が経った。それまでに、シャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴスが我が子を一目見ようとその地位を利用して来るほど我が子は愛されている。勿論、私も愛している。

昨日はデミウルゴスが担当してくれた為、久しぶりにアルベドとデートをした。森の中で服を脱ぎ出したアルベドには大変驚かされた物だ。こんなに可愛い子供が二人になったら私はどうなるのだろうな。

 

そして、六日目の今日は守護者全員と戯れたのだが、なんと...。

 

 

ムササビは生後六日にして魔法を使ったのだ。

 

 

 

 

 

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『おー、か、さーま。おとー、さ、ぅ』

 

守護者全員と、どのオモチャが一番良いかを話し合っていたアインズに、一つの声が届いた。

 

今まで誰からも聞いたことのない、緩やかなしゃがれた声の相手が分からず周囲をキョロキョロするアインズ。それを見た守護者は訝しげにアインズを見た。

 

アルベドもアインズと同じように首を動かしている事から、何かムササビの身に何か?そう思った守護者達がムササビを見て、アインズとアルベドも同じように見つめたのと同じタイミングであった。

 

『おか、さま。お、とーさ、ま。しゃる、ちゃん、こきゅーと...さん、あうらーさーん、まれさ、ん...で、ぅるすさん』

 

その場にいる全員に聞こえたようであるその音声の発信源は...ムササビであった。

 

 

「う、うぉぉぉぉ!!お、お前達!ムササビが魔法で喋ったぞ!」

 

驚きと歓喜で手放しで喜ぶアインズを見て、高まる思いを守護者達も吐き散らす。アルベドもだ。

 

「ム、ムササビしゃま!さすがはアインズ様のご子息でありんすぇ!」

「ナントイウ!コレガ、ムササビ様!ナント素晴ラシイ強サナンダ!」

「う、うっそぉ!生後六日で...しかも複数人に使えるなんて!天才!」

「て、天才なんて言葉で、収まる、凄さじゃないよ...お姉ちゃんっ!」

「これがムササビ様の力...その歳にして脆弱な人間を越えましたか!」

「さすが、私とアインズ様のムササビぃ...!出来が段違いだわぁ!!」

 

各々、興奮鳴り止まぬという風に喜ぶ。そんな彼らを知ってか知らずか、ムササビはニコニコと笑う。これ以上の魔法使用はMP的に無理なので、これ以上は喋ることは出来ないが、そんな些細な事アインズ達にはどうでもいいことだった。いや、気付いていれば寝かせていただろうが、気付かなかった。

 

「よぉし!これからお父様が魔法を教えてやるからなぁ!」

 

張り切って教えてやろう。もしかしたらレベルが200くらいまで上がるのかもしれない。

 

そう思いながらムササビを掴むと、ムササビはその手を叩く。

 

何事かと思うと、ムササビは手をチャパチュパしていた。

 

つまり、ムササビは腹が減った、と伝えるために《伝言(メッセージ)》を使ったということだ。

 

アルベドは急いでその豊満な乳房を外界に晒け出す。

 

綺麗な肌の山の頂上にあるピンク色の突起物に、ムササビはしゃぶりついた。

 

チュパチュパ音を立てながら飲むムササビは非常に可愛らしい。目がトロンとしてきている。

 

ちなみに、アルベドの授乳に戸惑ったのはアインズだけだ。他の男陣は全く気にしていない。

 

 

 

「わ、妾の母乳も吸い出しておくんなまし!」

 

やけに響く願い事を遮ったのは、アルベドのチョップであったのだった。

 

 

 

 




今更ですけど設定とかガバガバだなぁ、と。気が向いた時にポンポン更新していきますので、よろしくお願いします。

それと、赤ちゃんの可愛いエピソード、よければ聞かせてください。


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5. ムササビとアインズとザリュースとその他

今回少し長いです。
それと、今回から日記は後に来ます






絶大なる存在、アインズ・ウール・ゴウンの傘下に入った種族―――蜥蜴人(リザードマン)最強の男、ザリュースは今日も今日とて生け簀作りに余念がない。

一度はアインズ・ウール・ゴウンに仕えるコキュートスという存在に奪われた命だが、死すらも凌駕する圧倒的な力を持ったアインズの手によって蘇ったのだ。

 

腰に携えた蜥蜴人(リザードマン)の元至宝である獲物がカチャカチャと音を鳴らす。一度ナザリックを見た彼にとっては、この剣(フロスト・ペイン)など取るに足らない物なのだと思い知った。それでも付けているのは、この剣だったからこそコキュートスに一撃当てる事が出来た武器だからだ。

 

それに、これを取るために殺した蜥蜴人が報われないじゃないか。そう思った思考を何処かにやりながら餌の分量を計っていると、すぐそばに半円状の闇が現れる。

 

「ご苦労、ザリュース」

 

その闇から顕現せし存在こそ、生死など状態の一環でしか無いと言い張った神。アインズ・ウール・ゴウンだ。

 

ザリュースはその邪悪な姿を垣間見た途端に、全ての物を放り出してその場に跪く。そこには反抗心など微塵もなく、心からの忠誠が溢れている。

 

「これは、アインズ様。ようこそおいでなさいました」

 

「うむ。面を上げよ、今回はお前に話を持ちかけに来たのだよ」

 

そう言うと、アインズは一枚の写真を取り出す。写真というものを初めて見たザリュースは、とても精密な絵画なのだろうと改めて凄さを感じながらそれに写った存在に疑問を浮かべる。

 

「アインズ様?此方は?」

 

「よく聞いてくれたな。これが、私の息子のムササビだ!聞いたか?聞いたよな!ムササビだぞ!」

 

恐る恐る伺うザリュースとは対照的に興奮しながら名前を叫ぶアインズに、既視感を覚えるザリュース。

 

ついぞ彼は思い出さなかったが、ザリュースの嫁のクルシュが第一子を産んだ後は暫くこんな感じだったのだ。武技を教えるハムスケにも散々自慢していた姿は、今子供の事で舞い上がる姿にソックリだと、当の本人が気付いていないのだから、父親というのは総じて親バカである。

 

「ムササビ様ですか!素晴らしいお名前です!」

 

そう叫びながらザリュースは再度写真の姿を思い出す。非常に端正な顔立ちをしながら一部が白骨化した小さな男の子。確かに可愛いが、アインズはそんな事の為にわざわざ会いに来たのだろうか?

 

ザリュースのそんな思考は一瞬で断ち切られる。

 

「だろう。では、ザリュース。私の息子とお前の息子で勝負と行こうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓の闘技場には、現在白い粉でレーンが引かれていた。

 

それは運動場のトラックと何一つ変わらない物であるが、違うのは観客の盛り上がり様だろうか。

 

各々、『MUSASABI♥LOVE』とか『最強無敵ムササビ様』『必勝』等と書かれた横断幕やら団扇やら、何かと沢山持っていた。

 

「では!これより、第一回赤ちゃんハイハイ選手権を開始します!」

 

闘技場の中央に立つ司会のアウラの声と共に、闘技場のゲートが開く。

 

上手側にはアインズ、アルベド、そして乳児服を着たムササビがアルベドの腕の中で笑っている。

 

対する下手側からはザリュース、クルシュ、その息子のリューシュがクルシュの白い頭の上に居る。

 

そう、これから起こるのはこのトラックの中をハイハイで競い、早くゴールした方が勝ちという至極単純なルールだ。

 

ザリュース達からすれば自らを応援する者がいない完全アウェーだったが、めげることはない。クルシュは少し気圧されているが、ザリュースが尻尾をクルシュの尻尾に巻き付けると、クルシュは照れたように笑う。

 

「皆、静まれ」

 

アインズのその一言で、先程までの黄色い歓声が一瞬で消え去った。

 

「では、これからハイハイ選手権のルールを説明する。アルベド」

 

「はっ。...では、ルールの説明を行います。

制限時間無しでこのトラックを一周して貰い、先にゴールした方の勝利でございます。また、大人が子供の妨害行為を働くことは禁止となります。質問は?」

 

そのアルベドの問いかけに手を挙げたのは、ザリュースとクルシュの共通の悪友―――ゼンベルだ。

 

「聞かせてください。これ、勝利した方はどんなメリットがあるんですか?」

 

普段は横暴なゼンベルの敬語に違和感を覚え吹き出すことを抑えると、ザリュースは耳を傾けた。

褒美はやる、とは聞いたものの何なのか分からないかザリュースからすると、非常に有り難い質問だったのだ。

 

そしてその問いに答えるのは、アインズだ。

 

「お前達が勝てば、お前達の待遇向上、さらにはオムツ一年分だ」

 

「なんと!」

 

剛かな特典にザリュースは目を輝かせ、尻尾を床に叩き付ける。バシン、という音と共にアインズは続けざまに言葉を放つ。

 

 

 

「私が勝った場合の報酬はいらん」

 

「何故?」

 

当たり前だ。それこそ、アインズに何の利点があるのかを理解できずザリュースは喉を鳴らした。

 

そしてアインズは、皮肉げに口調を和らげる。

 

「私だって、出来レースで報酬は求めたりはしないさ。それは、ワガママだからな」

 

「ほう...」

 

あくまで、負ける可能性は一切頭にない。そう言い切るアインズに、ザリュースは久しぶりに戦士の顔で笑う。

 

 

 

ザリュースは、息子の値にキスをすると、スタート地点に四つん這いで待機させる。

 

アルベドも、ムササビのあらゆる所にキスをして、スタート地点に待機させる。

 

それを見たアインズは、何処から出したのか日本の大剣を闘技場の土に差し込み、両手を広げ支配者ポーズを取り、敢えて傲慢に振る舞った。

 

 

 

 

「決死の覚悟でかかってこい!」

 

 

 

 

 




次回に続きます。ちなみに今日はもう出しません。
日記は次回ですかね。


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6. ムササビのワガママ

後編、はじまるよー。








ナザリック地下大墳墓、第六階層に存在する闘技場に与えられた名前は『円形劇場(アンフイテアトルム)』。

かつて行われた1500人の大侵略時以外の侵入者の全てをここで葬った所。侵入者を役者に起き、それをゴーレムが観賞する。貴賓席にアインズ・ウール・ゴウンのメンバーが着き、嘲笑う事から名付けられた場所は、未だかつてないほど盛り上がっていた。

 

アインズの言葉と共に、開始の笛が鳴る。

と同時に、無詠唱化された魔法を詠唱する。

 

時間停止(タイム・ストップ)

 

観賞しており時間停止対策を持っている守護者達は、アインズが何をしようとしているかを理解して、ニコニコと微笑む。アインズは、その笑顔に答えるように、腕を広げた。

 

「〈上位硬化(グレーター・ハードニング)〉〈上位全能力強化(グレーター・フルポテンシャル)〉〈自由(フリーダム)

上位幸運(グレーター・ラック)〉〈死者の炎 (アンデッド・フレイム)〉〈力の聖域(フォース・サンクチュアリ)

魔法詠唱者の祝福(ブレスオブマジックキャスター)〉〈鎧強化 (リーンフォース・アーマー)

上位筋力増大(グレーター・ストレングス)〉〈上位俊敏力増大 (グレーター・デクスタリティ)〉」

 

計十個の補助魔法を唱えたと同時に、止められた時間が起動する。

 

齢八日のムササビに、目映い神秘の光が灯る。

 

様々な音色を奏でながら、ムササビの身体能力が上昇していく。それは、補助魔法の強さによりレベル1のムササビがレベル12程のステータスになる程の強化だ。

 

生後八日目にしては有り得ないほど強くなったムササビは、余りの強さに二足歩行を可能とした。そのぷにぷにの足を器用に使い、大地に立った。

 

「おぉぉぉぉ!!」

 

アインズは、思わず叫ぶ。自分の子供が、補助魔法の効果とは言え立ち上がったことに喜びを感じない父親など居ない。何処から持ち出したのか、カメラでその勇姿を必死に撮る。

 

観客達も盛り上がるなか、疑問を孕んだ言葉がアインズに投げ掛けられた。

 

「な、なにをしたんですか?」

 

それは困惑したザリュースの声だ。

ザリュースは信じることが出来なかった。筋肉の構造上、絶対に立ち上がることは出来ないと確信していた目の前の赤子が凛々しく立ち上がったのだ。困惑するな、という方がおかしいだろう。

 

第一、ハイハイ選手権では無くなるじゃないか

 

そう思う心を奥のほうでしまうザリュースに、アインズはさも当然のように告げる。

 

「時を止めて、補助魔法を掛けただけだが?」

 

「時...を...」

 

驚愕の声を漏らすのはクルシュだ。

ただでさえ彼女は先程から(ムササビ様が負けたら腹いせで殺されかねないし、圧敗すればザリュースの機嫌が悪化してそれを察されて殺されかねないし...うぅ、どうしたらいいのよもう!)と、胃が凭れる程苦しんでいた。

そこに追い討ちの〈時間停止(タイム・ストップ)〉だ。クルシュは半分ほど思考を放棄しそうになる。

 

 

対するザリュースは、割りと冷静に状況を判断する。

天変地異を起こす存在が時ぐらい止めたって大して驚かない。それ程には彼の感覚は狂っていた。

(どうする?リューシュにクルシュの補助魔法を足してもアレには勝てない...。クソ!兄者が此処に居れば知恵と魔法を借りれたものを!やはり俺は未熟にも程がある!)

適材適所、という言葉を蜥蜴人(リザードマン)の誰よりも理解し、大事にしているザリュースも、さすがに歯噛みしてしまう。こんな時に補助魔法を使えない自分を恥じてしまう。

 

ザリュースの役割は、剣で敵を裂き、知恵で味方を導いて、勇気で空気を震わせる。英雄と呼ばれる戦士のソレだ。後ろで補助魔法を使いサポートに回るのは、その戦士に守られるからこそ成り立つのであって、それを求めるのはザリュースらしくもない。本人だってそれに気付いてはいるものの、煮え切らない感情を抑えられない。

 

どうすれば我が子を勝たせることが出来るのか...。

そんなザリュースに助け船を出したのは、同じ戦士の蜥蜴人(リザードマン)のゼンベルだ。

 

「ちょっと待ってください!これは反則じゃないんですか!」

 

しかし、その意見は一蹴される。

 

「反則?アルベドは妨害(・ ・)は駄目と言ったんだ。補助魔法を禁止した覚えはないな?」

 

「そ、それはワガ―――」

「ああ、言い忘れていたな」

 

ゼンベルが言い掛けた言葉を、アインズは更に大きな声で遮る。

絶対者は、理不尽を振りかざした。

 

 

 

「私はな...非常にワガママなんだよ」

 

 

 

ニヤリ、と笑うアインズの頭の中に声が響く。

 

補助魔法で強化され、二本足で立ったものの、直立して微動だにしていないムササビの〈伝言(メッセージ)〉だ。

 

『おと、さま...このこが、かわ、そぅ...。たかりゃ、いかに...ぃよ』

 

ムササビは、確固たる意思でアインズに伝える。それは、不公平さを嫌うスポーツマンシップの現れだ。

 

ちなみに、属性が中立であることと、コキュートスに武人の心(フェアプレー)を教えられたからであるが、それを知るのは満足げに頷くコキュートスだけだ。

 

アインズは、焦って〈伝言(メッセージ)〉を返す。

 

『ムササビ、何故だ?勝てるのだぞ?勝ちたいだろう?』

 

優しく語りかけるように伝えるアインズは、イヤイヤするように首を振るムササビを見た。

 

 

『それ、ぼくのじゃ...ない、ら』

 

 

アインズは、それだけで理解する。

息子は、自分の力で平等に戦って勝ちたいのだ。

種族も歳も違うのに、それでも貪欲に勝ちたい。

そう望む息子を、どうして止められるだろうか。

 

「...分かったよ。ザリュース、私はムササビの補助魔法を消し去ろう」

 

「何かよく分かりませんが、ありがとうございます」

 

「気にするな。私よりも、他人のためにワガママな王子さまが居ただけさ」

 

そしてアインズは、ムササビのバフ効果を打ち消す魔法を使う。その瞬間、再び四つん這いになるムササビ。そして、それを待っていたと言わんばかりに笑うリューシュ。

ニコニコと笑うムササビとリューシュは、再び横並びに四つん這いになる。そして。

 

 

 

「行けぇー!ムササビー!」

「勝てるぞ!リューシュ!」

 

 

 

二人の父親(親バカ)による声援を受けて、二人の赤子が地面を強く膝で蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ムササビ成長日記』

8日目の今日は、ザリュースの所の子供とハイハイレースをした。さすがはムササビだ。スポーツマンシップを重んじた上で勝つとは。しかし、辛勝だった。リューシュ君は、もしかすれば良い蜥蜴人(リザードマン)になるかもしれない。いつか、ムササビのライバルとして立ちはだかってくれることを、楽しみにしておこう。

 

そして、我が息子の成長(ワガママ)に至福を感じたところで、今日は筆を置こうと思う。

 

 

 

いつか、私を越えてくれよ。ムササビ。




リューシュくんの制作過程

ザリュース→リューを取ります
クルシュ→シュを取ります


完成です




追記
シリアスな笑いを目指しました。だってこれ端から見たら赤ちゃんが立って佇んでまたハイハイ始めただけなのですよ。


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7.ムササビとデミウルゴス

前の二話は疲れたので、いつものに戻します。





デミウルゴスは、暗闇の部屋に存在するゆりかごに目を向けた。失礼の無いようネクタイを締める。

その中に居るのは、ナザリック地下大墳墓の絶対支配者アインズ・ウール・ゴウンの息子、そして次期支配者候補第一位の、ムササビだ。

 

アンデッドでありながら、食事も睡眠も必要とするムササビに疑問は感じたが、やはり小さな子供ならば有り得るのかもしれない、そう結論を出したのは、つい最近の話し合いだった。

 

以前のレースでレベルが2に上がったようで、使える魔法は〈伝言(メッセージ)〉〈魔法の矢(マジック・アロー)〉〈早足(クィック・マーチ)〉になった。

 

そんな偉大なるムササビに深い忠誠を誓うデミウルゴスは、ゆりかごの中で寝ているムササビを見やる。

ゆりかごの中にアンデッドがいれば、それは『ゆりかごから墓場まで』を一つだけで表しているようなチグハグ感を感じさせる。

 

寝ているならば見ているだけでいい。そう考えたデミウルゴスだったが、その気配を感じ取ったからか否か、ムササビは目を覚ます。

 

「ひぎゃぁぁぁ!おぎゃぁぁぁぁ!」

 

ムササビは、久しぶりにしっかり寝た後に起きたからか、生後三日以来久しぶりの涙を流す。

精一杯の生を世界に訴えるように、力強く泣くムササビを、デミウルゴスは慌てながら宥める。

 

普段の彼を知っているならば、そんな事を言っても想像すら出来ないだろうが、実際今デミウルゴスは必死に変顔や、モンスター形態に変化したり、おもちゃの太鼓を鳴らしたりと大忙しだ。

 

「ムササビ様ぁ~、いないいない...ばぁ!」

 

アインズから教えてもらった必笑ネタを使うデミウルゴスだったが、ムササビは泣き止まない。

 

(なんということだ、アインズ様直伝の技を持ってしてもこの体たらく...情けない!)

 

デミウルゴスは、自分を叱責しながら必死に笑顔を取り繕う。どうしたらいいのだ、そう思っていると、その暗い室内に光が差し込む。

それは、子供を産んでから黄金の瞳の輝きが増したアルベドだ。

 

「あら、デミウルゴスだったのね、どんちゃかどんちゃか煩いからシャルティアかと思ったわ」

 

「非常に心外...とも言い切れないな。アルベド、申し訳ありません。私ではどうしても...」

 

アルベドのジョークに、本格的に滅入っているデミウルゴスは正しい反応が出来ない。そんな弱気なデミウルゴスを見てアルベドは、柄でもないわねデミウルゴスの癖に、と優しく微笑む。

 

旧知の友人のような間柄の二人は、とても安定した組み合わせなのだ。

 

「くふふふ!あー、可笑しいわね!」

「...?アルベド?どうしたんですか?」

 

「いえ、なんでもないわ。そんなデミウルゴスの一面もあったなんて、コキュートス辺りにでも教えてあげようかと思っただけ。

さて、ムササビ?これが欲しかったのよね?」

 

そう言うとアルベドは、豊満な乳房をさらけ出し、ムササビに吸わせる。それにムササビは素直に応じ、チュパチュパと乳を吸う。

 

要はムササビはお乳が欲しかっただけだったのだ。

 

デミウルゴスは、自分の頑張りの空回り具合に苦笑しか溢せない。多少の知恵者だという自負はあったが、やはり子供に対しては母親のアルベドに全く敵わない、それを改めて痛感する。

 

いつか、私も父になれば分かるのでしょうかね。

 

そう思うデミウルゴスの顔は清々しい表情だったのだと、後のムササビは語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ムササビ成長日記』

 

今日で10日経った。凄くないか?10日経ったんだぞ?我が息子は、たった10日でレベル2だ。カルネ村が襲われた時の村人の殆どより強いんだぞ?それもたった10日だ。いや、私にとってはとても長い10日だったな。

 

改めて我が息子は、可愛い。可愛すぎる。なんだこの生物。いや、死んでるのか?ええい、どうでもいいことだ。とにかく可愛いのだ。ここまで一つの存在に可愛いと思えたのは初めてだ。勿論、アルベドも愛しい。ナザリックの皆を愛しているのは真実だ。

だが、更に一歩向こう側にあると言っていい程、ムササビは可愛いのだ。約束を破って針千本飲もうが、目に入れようが全く痛くない自信がある。といっても、その程度ではダメージにもならないが。

 

はぁ、可愛い。ムササビが可愛いくて仕方がない!

と、精神も沈静化した辺りで筆を置こうと思う。



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8.アインズとアルベド

ランキング入りしてました。ありがとうございます。こんな作品でも気に入ってくださり嬉しいです。





「はぁ...どうしたものか」

 

アインズは、一人大きな机に顔を伏せながら呟く。後ろにいるアルベドに惨めな姿は見せられないと粋がっていたアインズだが、息子が出来てからというものの醜態を曝し続けたアインズは、そういう態度を取るのが若干疎かになっていた。

 

アルベドは、悩ましげに呟く愛する旦那の気持ちに寄り添うように、優しく訪ねる。

 

「どうかなさいましたか?アインズ様」

 

「アルベド...。そういえば...アルベドは私と結婚しただろう?なのだから『アルベド・ウール・ゴウン』になるのか?この場合何処が苗字なのだろうか?」

 

アインズは、質問しようとした事とはまた違った質問を口に出す。

外国的には『アインズ(ファーストネーム)ウール(ミドルネーム)ゴウン(ファミリーネーム)』だろう。だから実際、『アインズ・ウール・ゴウン』と名乗ったときは大抵の人が「ゴウン殿」「ゴウン様」「ゴウン氏」と呼んでいる。

 

しかし、スーパージャパニーズ思考のアインズからすれば『アインズ(呼びやすい)・ウール(変てこりん)・ゴウン(短くない?)』くらいにしか分けられない。つまりは、外国風に言うならばアルベドは『アルベド・ゴウン』もしくは間にミドルネームを混ぜるのだろうが、そもそもミドルネームって何だよ、というような返答しか出来ないアインズは結論を出すことが出来なかった。

 

「私は、アルベドのままで構いませんよ。タブラ・スマラグディナ様が与えてくださったこの名前には、苗字が存在しませんですし。アインズ様も、かつてはモモンガ様でいらしたではありませんか」

 

結論を出せないアインズに助け船を出すようにアルベドは話す。その笑顔は慈母のようだ。

アインズはかつての自分の名を思い出す。

 

折角異世界に転移したというのに、転移直後に改名した為、異世界でもその名を知る者はおらず、そしてナザリックでもその名を使う者は、アインズ・ウール・ゴウンに改名したことを知らない者のみだ。

 

ナザリックには存外、名前が短い者も多い。

 

例えばコキュートス。例えばデミウルゴス。例えば恐怖公。そして、アルベド。

 

苗字は?と言われても答える術を持たざる彼らに、元は苗字もないアインズが与えるのも、よく分からないものだ。

 

ならば気にしなくていい。そう思いアインズは朗らかに笑った。

 

「そうか。お前がそう言うならば構わない。

で、だ。アルベドよ。本題はそこではないのだ」

 

一度笑ったアインズは、先程から呻いている案件についてアルベドに相談するために真面目な声音に戻した。

 

「この私の身で解決するのであれば何でも致します。どうぞ申し付けくださいませ」

 

同じく至極真面目な声を出すアルベド。

 

アインズは数秒思考し、どの言葉が最も最適かを考える。その考えを説明する言葉は多数ある。だが、何が一番アルベドの心に衝撃を与えるか。

 

そして最も良いであろう言葉を出す。

 

 

 

「ムササビに同級生が少なすぎるんだが」

 

「あっ」

 

 

 

 

 

 

 

『ムササビ成長日記』

 

今日で19日が経過したが、今になって気付いてしまったのだ。子供にとって大切である同級生の友達候補がリューシュ君くらいしかいないのは非常に不味い。ペロロンチーノさんがナザリック学園を設立しようとしたのは、実は子供にとっては良い事だったのではないか?

 

私が青春という存在を大人になってから知った身だ。我が子には、どうか若いうちに青春を味会わせてあげてやりたい。どうするか。

アルベドから「エルダーリッチ」の案が出たが、今度試してみよう。幼稚園服をエルダーリッチに着させて幼稚園を建ててやるか。フールーダに...いやダメだな。司書長に任せるとしよう。

ペロロンチーノさん。ナザリック学園、なんとしても設立しますからね。

 

 

 




この雑さ。

ランキング入りが嬉しくて読み返したら誤字がヤバかったので後で直します。


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ex.ムササビとサンタクロース

当然の如く時事ネタ投下。


ナザリックのとある一室。

ムササビを寝かしつける役を戦闘メイド(プレアデス)の六人に任せた者が一度にそこに集まる。

 

ナザリックの支配者アインズと、階層守護者達のシャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴス、そして守護者統括のアルベド、執事(バトラー)のセバスが小さな部屋に集まった。

 

「皆、揃ったな?...よし、では始める」

 

()()()()を着たアインズが、開始の合図とばかりに、小さなベルをチリンチリンと鳴らした。

 

そう、本日はクリスマスである。

 

世界最大級の宗教を説いた者の誕生日であり、何故か日本では恋人と過ごす聖夜に成り果てたイベントだ。

 

だが、彼らがしようとしているのは正しいクリスマスだ。子供にプレゼントの夢を与える、素敵な日である。

 

「出席を取ります。まずは第一、第二、第三階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン」

 

「おりんすぇ」

 

サンタ服(女子達はミニスカサンタ服)を着たアルベドが名簿帳を開き、シャルティアを呼び返事が返ってきたのを確認すると、シャルティアの横にあるチェックマークに印を付ける。勿論、シャルティアもサンタ服だ。

 

「では次。第五階層守護者、コキュートス」

 

「コノ場ニ...」

 

コキュートスはサンタ服のコートにあたる部分を、前で締めることが出来ないため羽織っているだけだ。そのライトブルーの体は晒され続けている。

 

「なんだか、コキュートスが服を着ているのは違和感があるでありんすねぇ」

「ヤメテクレナイカ、シャルティア。ソレデハ私ガ変態ミタイジャナイカ」

 

「私語は慎みなさい」

 

「も、申し訳ないでありんす」

「ス、スマナカッタナ」

 

シャルティアの言葉に応答していたコキュートスは、申し訳無さそうに頭を垂れた。シャルティアも同様に目を伏せている。

 

アルベドは、ある程度二人を見ると、コキュートスのチェックマークに印を付けてから、一つ咳払いをする。

 

「コホン。では、次に。第六階層守護者、アウラ及びマーレ」

 

「なんで私たちだけ略されたのかが分かんないんだけど...はいはい、いるよ」

「います...はぃ」

 

アウラは普段の少年然とした服装ではなく、ミニスカートのサンタ服を着用しており、マーレは男であるにも関わらずミニスカートのサンタ服を着用している。

 

その二人に印を付け、アルベドは再び口を開く。

 

「次に、第七階層守護者、デミウルゴス」

 

「居ますよ」

 

デミウルゴスもサンタ服を着ているが、インテリコワモテな見た目のデミウルゴスではチグハグ感を感じさせる。

 

「最後に、セバス・チャン」

 

「はい」

 

デミウルゴスとは対照的に白い髪と白い髭、ガタイの良さからして非常にサンタ服が似合っているのがセバスだ。

 

アルベドやシャルティア、アウラにマーレは「サンタコスしてプリプリ~」みたいな雰囲気がするが、セバスは本職なのでは?と疑いたくなる程、様になっている。

 

最後にアルベドが自分とセバスに印を付けると、アインズの横に立った。

 

 

 

「お前達、よく集まってくれたな。その服、なかなか似合っているぞ」

 

アインズがサンタの帽子の先の方にある白い玉を揺らしながら、その骸の眼孔を仄紅く染める。

 

まさに支配者足る雰囲気を放ち、最も目を引く赤い装束は返り血のようである、と誰もが思うに違いない。

 

「アインズ様。このような素晴らしいお召し物をくださりまして、誠に有り難うございます」

 

『有り難うございます!』

 

アルベドが礼と共に跪いたのと同時に他の面々も同じように頭を下げた。

 

ユグドラシルでのクリスマスガチャで、やたらめったら出るのがサンタ服セットとトナカイ服セットだ。女服の物も容赦なく出るが、コレクターのアインズは何となく全部溜め込んでいたのである。

 

アインズは嫉妬マスクを12個、男サンタ服を9着、女サンタ服を8着持っている、云わばクリスマスマスターである。

 

そんなアインズは、面を上げよ、と伝えてから再びベルを鳴らした。

 

 

「今宵は、子供が最も楽しみにしているだろうクリスマスだ。我が子にもクリスマスというものを楽しんで貰いたい...なので、お前達を呼んだわけだ」

 

そう言ったアインズは優しげに白い袋を撫でる。プレゼント袋と呼ばれるものだ。

 

「失礼ですがアインズ様。クリスマス...そしてサンタクロースという者について御享受頂けませんでしょうか」

 

「あぁ、デミウルゴスですら知らないのか...ふむ。では、説明しよう」

 

アインズは、椅子を立ち上がり何処から持ってきたのか大きなホワイトボードにペンを走らせる。

 

「クリスマス、というものは暦の上で12月25日の事を指す。とある偉人...いや、聖人というべきか?まぁ、要は凄い人物の誕生日の事をクリスマスというんだ」

 

アインズは、うろ覚えな知識を総動員して説明をする。彼自身天涯孤独の身である為、親にクリスマスを祝って貰う等を経験した試しがない。なので、その知識は得てして少ないのだ。

 

アインズの説明に少し空気が変わる。当たり前だ。絶対者であるアインズの口から「偉人」「聖人」「凄い」等と言われて警戒しない方がおかしいだろう。

 

「では、サンタクロースと言われる者はその強者なのでしょうか?」

 

デミウルゴスは考える。アインズを持ってして凄いと謂わしめる人物の姿を。今身に纏っている深紅と純白の服を着ながら数多のモンスターを狩り殺す死神の姿を。

 

思わず、デミウルゴスは震えてしまう。アインズからあのような高評価を得て、常に返り血で頬や服を濡らしながら強靭な肉体を持っているサンタクロース。その存在に潰される自分の肉体の亡骸を想像したからだ。

 

(サンタクロース...まさか、クリスマスはサンタの誕生を祝うことで怒りを鎮める為の儀式か...?)

 

魔王(サタン)という種族も、もしかすればサンタクロースが元になっているのでは?そこまで更に考えると、自分の強さがサンタクロースに届かない事に不甲斐なさを感じ、デミウルゴスは歯を食い縛った。

 

しかし、アインズは気にしていないようで優しく語りかける。

 

「うん?サンタクロースは違うぞ。サンタクロースは、良い子供に望むものを与える者だ」

 

そのアインズの言葉を聞いて、デミウルゴスは破顔しそうになって、止める。

 

それは悪魔のようではないか?と。

 

純粋無垢な子供の願いを聞き入れ、代わりに魂を奪う。それがサンタクロースなのではないか?いや、そうに違いない。何故なら、アインズに、あれほど言わせた者の部下であるからだ。...恐らく自分と同じLv100のシモベであることは間違いない。

 

そんな者がただ望みだけを叶える善人なり得るか?それは勿論、セバスという特例もあるだろう。が、このように返り血で服を染める存在がまともな思考をしているはずがない。

 

やはりサンタクロースは強敵か...。

 

デミウルゴスは仮想敵との闘いで勝ち得る術を模索しながら、アインズに話しかける。

 

「では、何故私たちはサンタクロースの格好をしているのでしょう」

 

デミウルゴスの質問に、アインズは何を言っているんだ?という風に首を傾げ、口を開いた。

 

「決まっているだろう。私たちがサンタになって我が子に夢をやるんだよ」

 

そして今度こそ、デミウルゴスは破顔する。

 

 

 

つまり、アインズの言っている事はこうだ。

 

サンタクロースが純粋無垢なムササビの魂を狙っている。ならば、我々がサンタクロースとなり、その根本を破壊し、その「偉人」とやらを退かせ自らが君臨し、『クリスマス』をアインズの日に置き換える。

 

なんと崇高な作戦。なんと見事な提案。我らのアインズ・ウール・ゴウンが世界全ての者に祝福される姿を思い浮かべる。極悪非道なサンタクロースを滅ぼし、自分達がアインズの望む夢のみを与える優しきサンタとなる。

 

素晴らしい。なんと輝かしい未来。人間如きにそのような態度を取るつもりは全くないが、敬い慕われるアインズの子息のムササビの安全も守られ、更には幸せを手にいれることが出来る。

 

さすがです。そう思いながらデミウルゴスは感謝の念を伝えた後、大きく頭を下げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでだ。この中で相手の心を読むなどの技術に秀でている者はいないか」

 

「精神支配でなら可能でありんすが、ムササビ様はアンデッドとインプのハーフでありんすから、難しいかと思われんしょう」

「私ハ、一切ノ手段ヲ持ッテオリマセン。申シ訳ゴザイマセン」

「動物と話ができますけど、ムササビ様はアンデッドですから難しいです」

「魔法で、という手段であれば可能ですが、ム、ムササビ様には効果が無いので...申し訳ございません...」

「私もムササビ様に対しては不可能でございます」

「私も不可能でございます。赤子である為表情から読むことも難しいかと」

「私も...申し訳ございません。アインズ様」

 

守護者各員、セバス、アルベド、全員が知ることが出来ないという。その事を大体予測していたアインズは、構わないとジェスチャーし大仰に頷いた。

 

「気にするな。我が超位魔法を使えばその程度の事、容易いさ...」

 

そして、サンタ服のアインズが部屋中に響く大声で唱える。勿論、夏のボーナスのあの指輪は使用しないが。

 

 

 

「超位魔法...!〈星 に 願 い を(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉!!」

 

アインズの周りに、そして小さな部屋全体に、青く目映い魔方陣が展開される。それは一つたりとて同じ文字を表さず、そして巨大なドーム型に拡がっていった。

 

アインズは感じる。巨大な経験値の消費を。だが、それは何とかLv100という数値を変えるには至らなかった。

(―――後で無欲に貯めた経験値を、強欲で奪わねばならないな)

そう思考しながら、アインズはそのとてつもなく凄い魔法を行使した。

 

 

 

「l wish...ムササビの願いを教えろ!」

 

 

 

その瞬間、青く煌めく魔方陣が一気に駆動し、それを形作った。

 

 

『ムササビの願いは、ナザリックの者達が笑っていられること』

 

 

そして、その文字を象り終えた魔方陣を中心として、全ての魔方陣が砕けたガラスのように、その場に割れ散ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう願い事だとしても、一応プレゼントは大事だからな。うん」

 

あのあと、ムササビの優しさにアインズ含め全員が号泣。セバスもデミウルゴスもその涙を止めることなく流し続けた。精神作用無効化を遥かに振り切り続けた。

 

全員が涙でサンタ服をビショビショにしてしまった為、数度のやり取りを経て解散にしたのだ。

 

 

 

とは言っても、やはり父親であるアインズは息子のクリスマスにプレゼントを置かない選択肢は取れなかった。ので、アインズは、人体模型を携えてムササビの寝室にいる。

 

プレアデス総出で必死に宥めた結果寝かしつけることに成功したのだろう。涙ぐましい努力が、やり切った顔をしてドアの前で待っていたプレアデスから察することができた。

 

相も変わらずサンタ服で人体模型をムササビの枕元に置く。

 

改めて見る自分の子供の可愛さに目配せが止まらない。なんと優しい子なのか。全く可愛すぎてどうにかなりそうだ。

 

そんな事を考えながら、アインズは指輪の力を使って自室へと帰る。

 

ムササビの枕元に、よれよれのミミズみたいな文字で書かれた紙が有ることに気付かないまま。気付いても読めなかっただろうが。

 

ちなみに、そこにはこう書いてあった。

 

 

 

 

 

『おかあさま、おとうさま、だいすき』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ムササビ成長日記』

 

今日はクリスマスだった。私の愛しい息子の初クリスマスにあたふたしたが、息子の優しさに惚れ込み泣いてしまったのは不覚だ。涙は出なかったが。

何やらデミウルゴスが「さすアイ」「さすムサ」と連呼していたのが気になったが、気にすることでもないか。

 

人体模型、気に入ってくれるだろうか?なんでもデミウルゴスお手製らしいが、どこにあんな材料があったのだろうか?まぁ、二本足のキメラを飼育するデミウルゴスだから、それくらい作れても違和感はないか。

 

来年こそ、ムササビが物を欲しがるのを祈ろう。それまでは、皆でムササビの願い通り笑っていられるように頑張ろうじゃないか。

今日はこの辺で筆を置こうと思う。

 

 

 

メリークリスマス、ムササビ。




皆さま、メリークリスマス!

ニ、三日程投稿できない日が続きますのでお休みします。


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9.アインズの招待状①

サブタイトルで察したと思いますが、この話は後2話くらい続きます。

この話は9巻以降の話なので、大虐殺の後の皆ってどんなだろう?と、10巻を待たずして書きました。すみません。

ちなみにエンリさんは出てきません。多分一番変えてはいけないかと思いまして。
では、久しぶりにどうぞ。(ギャグ少なめ)


トブの大森林。

ナザリック地下大墳墓の近くにある大森林であり、モンスターと薬草が命の歌声を上げる場所である。

 

そこに、トブの大森林近郊の村―――カルネ村に住む薬師『ンフィーレア・バレアレ』は日々のポーション研究の新しい化学反応にでもならないかと、様々な種類の薬草を取るために大森林に来ていたのだ。

 

正直、研究などしている場合ではないのだろうが今は驚異の存在よりも遥かに強い存在の庇護下にあるから問題はないだろう。

 

何があったのかというと、先日、カルネ村に王国の王子と兵士達が完全武装でやってきたのだ。かの者達から女子供を守るために闘ってくれた大人達が数人死んでしまったが、絶対なる至高の存在―――アインズ・ウール・ゴウンにより、カルネ村の村長『エンリ・エモット』に渡された超高級アイテム(アーティファクト)の力で切り抜ける事が出来た。

 

その代わりに、カルネ村の住人はとんでもなく増えたのだが。まさかあんなにゴブリンが増えるなんて思わないじゃないか...。

 

彼らは基本的に自ら食事を取りに行っている。魔法で食物が出るご時世だ。多少ながら食材には余裕があるこの世界で、実力のある彼らは全く飢えに苦しむ事は無かった。

 

彼らは今日もまた、カルネ村の手伝いをし、村人を鍛え、女子供には魔法使いのゴブリンが魔法を教えてくれている。

 

だからこそ、という訳ではないがンフィーレアは安心して薬草捕りに行けるのだ。

 

 

 

ンフィーレアは、今回一応護衛を付けて歩いている。

彼は子供だ。漆黒の剣士―――そしてカルネ村の恩人アインズ・ウール・ゴウンもといモモンが連れ去った、森の賢王『ハムスケ』や最近村を襲った東の巨人『グ』等と同格の存在が現れれば、逃げ切る事は不可能と断言できる。

 

その為、ゴブリンの『ジュゲム』を護衛に連れていたのだ。

 

そのジュゲムは、森の少し開けており心地好い微風が肌を撫でる所で薬草採取の鎌やら笊やらを取り出したンフィーレアに懐疑の顔を浮かべながら問いていた。

 

「ンフィーレアの兄さん。本当にここら辺でいいんすか?特に何も見えねえんすけど」

 

「うん。ここら辺は風の強さとか湿度が凄く良いんだ。狙いの薬草の群生条件としてピッタリなのはカルネ村の近くじゃここ以外はないと思うな」

 

僅か、とは言えない程強烈な薬草の青臭さ漂うエプロンを着たンフィーレアは、前髪で隠された瞳をキラキラさせながらジュゲムに説明した。ジュゲムは分かってるんだか分かってないんだか微妙な反応を示しながら、周囲に敵がいないか見やる。

 

ジュゲムの持つ剣には魔法が施されており、防具はエンリが仕入れてきた防具を身に纏っている。人間が見ても「おぉ」と感心するほど上等な装備である。

 

その装備をもってすれば、ユグドラシルで言うところのレベル20までなら善戦出来る力を備えている。万が一勝てない敵が出た時は、命に代えてでもンフィーレアをエンリの所へ送り届けねばならない。

 

ンフィーレアは、ジュゲムを完全に信用しているため薬草採取に全集中力を使っていた。薬師関連のクラスを持っていないジュゲムでは絶対に見つけられない薬草を、パパパっと見分けては、刈り取ったり毟り取ったりしている。

 

大丈夫そうかな、とジュゲムが安心した瞬間、背後から声が掛けられた。

 

「良くやっているな。ンフィーレアくん」

 

パッと振り返ると、漆黒のローブに身を包み無骨なガントレットを嵌め狂気の仮面を付けた人物が現れた。

 

彼こそがアインズ・ウール・ゴウン。つい先日国を建て上げた、通称『魔導王』。

 

ジュゲムは察する。この強者は確実に今まで見てきた中では最強のルプスレギナを、片手で捻り潰せるオーラがあると。

 

探知阻害アイテムを身に付けているアインズにはそんなオーラは出ていないのだが、ジュゲムはその相手の強さをとてつもなく漠然とだが分かる術に長けている。

 

それは、誰が誰より強いだとか、そんな程度の術だがそれを用いて今まで生き延びたのも事実である。

ジュゲムは背中に携えた大剣の柄に手をかけて強く歯を軋ませる。

ンフィーレアの名前を知っていたのは奇妙だが、どうしても強者に対しての警戒は緩められない。

 

一人ジュゲムが緊張した面持ちで額に脂汗を垂らしていると、ンフィーレアからは場違いな朗らかな声が出てきた。

 

「ゴウン様!何故こちらに!」

 

「ンフィーレア君に招待状を持ってきたので受け取って貰いたくてね...」

 

「わざわざ!?あ、ありがとうございます!」

 

なんだか仲良さそうにしている二人に、ジュゲムは大剣の柄から手を離し、服の袖で脂汗を拭き取る。

 

(この男がカルネ村を救いカルネ村を取り込んだ存在...アインズ・ウール・ゴウンか...成る程、こいつは人間の国一つ敵に回した所で敵にもなりゃしねぇ破格の強さがありやがる...)

 

ジュゲムはこの人物と人間国家一つを天秤に掛けたとき、どう考えてもこのたった一人の男に傾くことを理解した。いや、してしまったと言うべきか。

 

圧倒的カリスマを感じる一つ一つの所作に、自らの宝物であるエンリからの装備が埃のように思えるほど強力な装備。

勿論、ジュゲムは自分の装備を()などとは思わない。むしろ誇り(・ ・)に思っている。

 

だからアインズの装備に嫉妬はしない。ただ客観的に見て、アインズの装備が圧倒的に上だと言うのが見て分かるからジュゲムは恐ろしいのだ。本能ではなく理性が語りかけてくる。

更には指輪だ。魔法の力を感じる輝きが、とてつもない力を放って存在している。しかもそれが十個(・ ・)と来た。

こんな存在は、今にも過去にも見たことは無い。自らを呼んだ角笛の持ち主だったらしいが、そこには感謝の念だとか尊敬だとかは感じられない。今あるのは恐怖のみ。

 

そんな恐怖の存在が招待状とは何の用だろうか?ジュゲムは思い付くことが出来ないでいた。

自己紹介ついでに聞いてみようかとしたジュゲムを遮ったのは、誰でもなくアインズの声だ。

 

「我が息子の...出生パーティさ。少し立て込んで忘れてい―――」

『むむむむむ、息子ぉ!!?』

 

アインズの言葉に、思わず二人揃って叫んでしまう。

この強者の息子。それは即ち圧巻の才能を持った存在が生まれる可能性がある。勿論、母親にも寄るだろうが半分...いや、1/5でも引き継いでいれば、アインズに勝てなくとも敵無し級の強さとなり得る。

 

そんな者の出生パーティ、というのはパーティなんて名ばかりの、云わば見せしめである。

 

自らの子息が生まれ、それの強さを知らせることで対外的に次期最強の存在を見せる。そして忠誠を誓わせる、そういう魂胆に違いない。

 

ジュゲムは、ンフィーレアの無事を祈りつつアインズに質問した。

 

「大声だしてすみませんね...。私はジュゲムという者でして」

 

「あぁ、話はエンリから聞いたよ。ゴブリン代表で君がエンリとンフィーレアの傍に着いていってやるといい」

 

「...本当に話が早くて助かりますよ...」

 

ジュゲムはそのパーティでのンフィーレアの警護を頼もうとした。だが、どうやらエンリとも知り合いらしく自分達の事も知っていて、更には要求を先読みして快く引き受ける。

 

自分は綺麗好きだが、汚い生物だと罵る者も少ないこのご時世で、エンリが呟いていた『お伽噺のお城みたい』な所に上げ込むということは、それだけの器の持ち主か。はたまた居ても居なくても構わない程の無関心からか。

 

ジュゲムは再び警戒レベルを上げる。この男は、超絶な力を持ちながら隔絶した頭脳も持ち、破額の富を持つ化け物だと。

 

恐らくエンリに金貨数千枚(ジュゲムには価値が良く分からないため、装備何個分という教え方をされた)の装備を適当に渡すはずがない。何かしらの魂胆あってこそ、だろう。

 

ルプスレギナがエンリに『ンフィーちゃんはアインズ様から絶対に守れって言われてるんすよねー!寝取っちゃうっすよー?』と言っていたのを思い出す。

 

つまりは、ンフィーレアとのコネクションを作るためにエンリを利用した...?

その為の駒にエンリがなり得る事を、まさか予知していたのか?

 

有り得ない。そう思いつつも、この男なら可能な気がする根拠は無いが納得してしまう空気が有る。

 

だとするなら、アインズに救ってもらったエンリは、アインズにとって重要なンフィーレアとの架け橋。

つまりは、ンフィーレアが死ねばエンリは漏れなく巻き添えで死んでしまう。殺されるのだ。

 

要は最初から詰んでいたのだ。ンフィーレアが生まれ、エンリを好いていた時点で。エンリが騎士に襲われていた時点で。

 

己の無力にジュゲムは目を細めた。

勝てないなら逆らえない。ならばこの誘いは行くしかない。

 

「わかりや...コホン。ました。兄さん、行きましょう」

「え?勿論!楽しみだね、ジュゲム!」

 

「ははは!そうか、可愛いからなぁ。楽しみにしているといい!」

 

では、ポーション作りに励んでくれ、と言いながら一枚の紙を渡して何処か闇の中へと消えていった。

 

ジュゲムはその緊張が抜けたことから安堵の溜め息を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアは枕に顔を埋めて唸っていた。

 

自らが都市長として重役する『要塞都市エ・ランテル』が『魔導王アインズ・ウール・ゴウン』に明け渡されたのだ。

 

彼は都民を見捨てて逃げ出すような男ではない。故に残ってアインズと闘うつもりだった。

今はモモンの力もあり血を流さず統治が進んでいる。生活水準も上がり、ハッキリ言って以前より進んだ生活をしていると言っていいだろう。

 

だからと言って、いつまでも安心な訳ではない。漆黒の英雄が更に強くなるのを待つのみの現状は、なんとも複雑なのだ。

 

(すまない...モモン君には本当に頭が上がらないな...)

 

パナソレイは一通り、枕に愚痴を言い続ける日課が終わったのか、でっぷりとした体を気怠げに起こして顔を洗いに水場に向かう。

 

その為にドアを開くと、ドアの前に一つの影があった。

 

漆黒の英雄モモンが、ノックをしようとする体勢のままで止まっていた。

 

「お、おぉ!モモン君!どうしたのかね!ま、まさかアインズ・ウール・ゴウンへの有効策が!?」

 

「都市長...いえ、パナソレイ殿。あまり大声でアイツへの反逆心を表に出していると、あの女に気付かれるかもしれません...。お控えください」

 

「む、むん。その通りだ。すまない」

 

実際、あの女はアインズの悪口やら陰口を言う存在に容赦をしない。だからこそ、誰も文句は言わないし、生活は豊かになった為、その意味では少しだけ満足している。

 

中には『周辺国家でも最高の国だ』等と本心かは別として謳う愚者もいたが、それは所詮井の中の蛙。帝国や法国に比べれば同格か少し下くらいだろう。

 

恐怖による圧政で統治された国が素晴らしくなる筈がない。

王国は確かに腐ってはいたが、まだ人間の種族として死ねた筈だ。

しかし、この国にいる限りそれは叶わない。異形の魔王に従う俗として死なねばならないのだ。なんと不名誉な事か。

 

その状況を打破し、再び人に戻してくれる可能性があるのはモモンだけなのだ。だからこそ、モモンが未だ無理だと言えば無理でしかない。

 

諦めたように納得の意も混ぜて溜め息を漏らすと、ふと疑問に思う。

モモンは何をしに来たのだ?と。

 

「それで、モモン君は何をしに来たのだね?用があるのだろう?」

 

「はい。件の...」

 

モモンは少し声を落とし、パナソレイの耳に口を近付ける。

 

「アインズ・ウール・ゴウンからの手紙をお持ちに参りました」

 

その言葉と共に顔を離すと、手紙をパナソレイに渡す。

 

パナソレイは体をガクガク震わせながらその手紙を受けとる。手紙は小刻みに震え、かさかさと音を鳴らしている。

 

いったい何の手紙なんだ。そう思いながらパナソレイは手紙を決して破らないように丁寧に取り出した。

 

 

 

『パナソレイへ

 

しろ を かりる。あすの よる おまえも こい

 

アインズ』

 

 

 

「な、なぜこんな単語単語の手紙なのだろうか?」

「うっ...そ、それは...多分字が書けないんじゃないですかね。はい」

 

アインズは字が書けない。

というのも、アインズは日本人であり異世界の国の言語など分かる筈もないのだ。

だから、必死に翻訳帳を作り、可能な限りで手紙を出したのだ。喋って呼べば声でモモンとの関係性を疑われるから。

 

それを知らないパナソレイは、少し優越感に襲われる。

字では私の方が強い。そう思いながら。

 

「ところで、それはモモン君に伝言を頼めば良かったのでは?」

「あっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前書きでギャグって書きましたけど、これギャグストーリーなんですかね?(震え声)


追記
間違えて同じ話を3話投稿しました。すみません。


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10.アインズの招待状②

今回の話を書くに当たって9巻を読み直したんですけど、自分の中ではジルクニフって宮野守ボイスなんですよね。でもパンドラズ・アクターで使われてるし。とかとか思ってました。

―追記―
ムササビくんを書きたい。






「ぐぇっ...うぇぅ...ももんしゃまぁ~!」

 

「...はぁ。なぁイビルアイよぉ...確かに漆黒の英雄が魔導国に捕らえられて悲しいのは分かるけどよぉ...そろそろ酒止めねぇか?」

 

「う、うるしゃいわ!ぐすっ...私はだいたい酔わないんりゃよぉ~!」

 

「何お前場に酔ってんの...?おいラキュース!おめぇも手伝ってくれよ!」

 

「魔導王...私も何か...邪眼姫ラキュースのような...」

 

「ガガーラン。ラキュースは独り言が止まらないから、話しかけても無意味」

 

「それより、私たち三人で今回の被害とアインズ・ウール・ゴウンの対策、それに蘇生からのリハビリやら装備の新調...。山積みの案件を片付ける方が良い」

 

「っはぁ...蒼の薔薇のリーダーと蒼の薔薇最強がこの調子で大丈夫なのかねぇ...」

 

 

 

リ・エスティーゼ王国のとある貴族の領地。その中に最近出来た酒屋『ルベンゼ』。

 

落ち着いたシックな雰囲気の木造店舗の中にあるカウンター席で、騒いでいる女達の姿があった。

 

彼女達こそ、リ・エスティーゼ王国アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』。

 

なんでも酒が無限に出てくる飲み放題の店だとかで巷では密かな人気を集めていた店だ。更に言えばそこそこお手頃な価格で飲めることでも評判となった。

 

普段は、先日の戦争から帰ってきた兵士がヤケ飲みをして愚痴を溢す酒場となっていたが、本日に限っては蒼の薔薇が貸し切った。

 

その原因は、魔導王アインズ・ウール・ゴウンにより捕らえられた漆黒の英雄『モモン』の喪失によって涙に明け暮れたイビルアイである。

 

最初は怒りのあまり、元エ・ランテルに出向こうとしたイビルアイだったが、他のメンバーに止められてからと言うもの、暫く部屋に籠って赤子のように泣き続けていた。

 

彼女は実のところ吸血鬼(ヴァンパイア)なので、精神は沈静化されているのだが、今は沈静化されないギリギリのラインの悲しみが延々と続いている。

 

その状況を芳しく思わなかったガガーランが、最近『黄金のラナー』と内政で大忙しだったラキュースも連れて、この飲み放題の酒場を貸し切りにしたのだ。

 

この店の店主は、2mにも及ぶ巨体と目に出来た深い切り傷の持ち主だったが、投げ出した金貨50枚を見て『畏まりました』と少し籠った声で応答していた。

 

何故だか店の壁には巨大な魚の剥製が置いてあり、蜥蜴のマークがサインとして描かれていた。

 

そんな店を貸し切った蒼の薔薇は、どんどん出てくる微妙だが癖になる酒を煽りながら会議をしていた。

 

普段はクールさを表に出すイビルアイもラキュースも、今晩ばかりは大騒ぎだ。店主の大男は少し暖かい目でティアとティナを見つめていたが、気付かれる事は無かったらしい。

 

「ががーりゃん!ももんしゃまが居なくなった事よりそんなことが大事にゃのかぁ~!?」

 

「お前呂律回ってねぇぞ!ちょっ、あんまくっ付くな!俺はそういう趣味はねぇんだよ!」

 

「この光景、どう見てもガガーランが変質者」

 

「同意」

 

「んだっとごるぁ!?」

 

わーわーぎゃーぎゃーと、話題を戻そうとしてもすぐにこれである為、会議は一向に進まない。

 

「ふふははは!!唸れ!暗黒剣!」

「ラキュース。それ、ただのスプーン」

「ラキュースはスプーン使いなの?」

「うにゃぁー!ががーりゃん覚悟!」

「意味わかんねぇよ!」

 

ラキュースにも酔いが回ってきたのか、先程までの独り言とは打って変わって騒ぎ遊んでいる。これで場の空気は騒然OF騒然だ。

 

このどうしようもない空気を変えられる者はいない。

 

といってもこの中には、だが。

 

 

 

「すまねぇ。空いてる...事はねぇかな?」

 

「悪いな。今は貸し切りだぜ」

 

店の扉を開けた無精面の男に返された大男からの返事に、客の男は肩を落とした。

 

彼はブレイン・アングラウス。かのガゼフ・スノロノーフと拮抗した力を持つとされる、英雄の領域に片足突っ込んだシリーズの人だ。何処かの化け物の世界では『噛ませ犬』等と呼ばれるレベルの強さである。

 

そんな彼を見た蒼の薔薇の面々は、(あぁ、そう言えばこんな奴前にも見たな)等と下らない発想に行き着く。

 

帰ってくれるなら有り難い。と思っていると、ブレインはドアの向こうに声を掛けた。

 

「クライム君!ここは今日は貸し切りのようだ!別のところへ行こう!」

 

その言葉に、蒼の薔薇のメンバーは耳を傾けた。

 

クライム。リ・エスティーゼ王国第三王女であるラナーの専属騎士。強さは然程であるがその熱意と忠誠心は王国でも郡を抜いて強い。

 

蒼の薔薇は考える。絶好の中和剤が来た、と。

 

「店主!彼らも入れてやれ!顔見知りだ!」

 

ガガーランが蒼の薔薇を代表にして声を上げる。その声に気付いたのか、クライムはひょっこりと顔を出して除き込んだ。

 

「蒼の薔薇の皆さん!ありがとうございます!」

 

「固っ苦しいのはナシだぜ童貞!」

 

暫くツッコミにばかり回っていられなかったガガーランは、ここぞとばかりに持ちネタを突っ込む。

 

「クライム君はてっきりあのお姫様とヤってんのかと思ったよ。悪いな、聞いちまって」

 

「ブ、ブレインさんまで!酷くないですか!」

 

最近仲の良さが増したブレインからの言葉に、つい声を大きく上げてしまったクライムは、慌てて口を抑える。

 

「きにしゅんなよクリャイム!それより私の酒のめや!」

 

そんなクライムを見かねたイビルアイが、飲みかけのグラスを片手で挙げながらクライムに大声を出す。

 

クライムは、あはは...と苦笑するばかりだ。表情こそ変わっていないが、若干の諦めを感じる息遣いである。

 

「おいおい、蒼の薔薇っつーのは子供に酒飲ませんのか?」

 

ブレインがそう言うと、クライムは思わずジト目になってしまう。自分でも気付かない程冷たい声が口から出た。

 

「ブレインさんが言えた事じゃないでしょうに...」

 

クライムは、それだけ言うと以前の事を思い出す。潰れるまで飲まされて、危うく貴族達に見つかって大事になるところだった。

 

そんな事を知らずに憤怒の声を上げたのは、突っ伏して唸っているイビルアイではなく頬を紅く染めるラキュースだ。

 

「誰が子供ですって!私は暗黒邪眼漆黒聖悪姫ラキュースよ!私のこのボディを見ても子供だとか言うわけ!」

 

ラキュースは、装備を数パーツ外して大胆にも谷間を大きく晒してみる。が、全く反応のない男衆にラキュースは負けた気がしたのか机を殴り付けた。

 

「ラキュースの事ではないと思う。たぶんイビルアイ」

 

ティナがフォローを入れると、イビルアイはきょとんとした顔でティナを見る。無自覚なんだな、と呆れているのも束の間。ブレインから爆弾が投下された。

 

「いやいや、お前も子供だろ?な、クライム君」

 

「ど、どうですかね...」

 

「むっ!」

「聞き捨てならない」

 

突然の同意を求められたクライムが目を剃らす視線の先では、可愛らしく頬を膨らますティアとティナの姿があった。

 

「まぁよ!いいから座れ!な!」

 

そしてガガーランに勧められた席に二人が付き、宴は始まりの鐘を鳴らした。

 

 

 

 

 

二時間後、でろんでろんに酔った面々の下に一つの闇が生まれた。

 

「んにゅ...?ついに私の闇のパワーが...?」

 

ラキュースは場違いな感想を漏らす。

その闇の正体は、もう分かっただろうか。

 

「こんばんは。ニンゲン達よ」

 

ご明察だ。アインズ・ウール・ゴウンである。

彼はモモンと同じ声であるので、今は口唇蟲を付けている。声はとある男の声を使用している。

 

突然の魔導王の登場に、その場にいた全員の酔いが一気に冷めた。勿論、店主はその限りではない。

 

各々自慢の武器を掴み臨戦態勢に入る。

 

「まぁ待て。...はぁ、面倒な連中だ。お前達に招待状を持ってきただけだ。黄金のラナーとやらにも後で渡しに行く。必ずその招待状通りに来い」

 

「待て!ラナー様に何を!」

 

クライムの叫びは、優しい骨の手で遮られる。

 

「...何もしないさ。君には少し転がっていて貰おう。〈麻痺(パラライズ)〉」

 

それだけ言いクライムを倒したアインズ・ウール・ゴウンは再び一瞬にしてその場から消えると、招待状を手首をスナップさせ手裏剣のように投げ渡す。

 

「では。来なければ王国が滅びると思え」

 

それだけ告げたアインズは再び一瞬にして闇に消えていった。

 

余りの突然の出来事に彼らはただ呆然としていた。

 

彼らは知らない。

 

 

 

店主が内心冷や汗ダラダラだったことを。

(ア、アインズ様こ、こえぇーーっ!!)

 

 

 

 

 

 




店主誰でしょうクイズです。いったい何ベルなんだ。

かなりのキャラ崩壊...ギャグが書きたかったのよ!
次回、みんな大好き古田さんに乞うご期待!


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ex.大掃除

部屋の大掃除が全く進まないので書きました。







ナザリック地下大墳墓の宝物殿。

パンドラズ・アクターとアインズ・ウール・ゴウンは燦然とした風景に頭を悩ませていた。

 

「フム...本日は大晦日...掃除するところ等無いかと思っていたが、まさかこんな所にあったとは」

 

盟主(アインズ様)...この状態が最適かと思っておりまして放置しておりました。誠に申し訳ありません...」

 

アインズが言った通り、本日は大晦日である。

年の暮れ。12月31日の事であり、日本では年越し蕎麦を啜りながら炬燵で寛ぐのが良くある光景である。2138年になってもそれは変わらなかった。

 

そして、そんな大晦日には大掃除をする習慣がある。

 

清らかな心で年を越すだとか、清潔な部屋で新年を迎えるだとか、まぁ諸説あるがそれは日本に染み付いた習慣である。

 

 

 

良くある物...かは分からないが、部屋を掃除していたら懐かしい漫画が全巻出てきて読破したとか、昔のアルバムに思いを馳せたりだとか、大好きなネット小説が更新されていて興奮鳴り止まず気付いたらそのジャンルの他作を新たに読破するだとか.........。

 

 

 

挙げればキリが無いが、大掃除とは得てして気付いたらやっていないものである。決してネット小説を書き初めてはならない。

 

おっと、話は逸れたが。アインズはそんな風習を重んじて大掃除を命令した。

 

と言っても、普段から埃一つないナザリックでは掃除する必要は殆どない。せいぜい五大最悪の部屋の清掃くらいか。

 

と思っていたが、アインズは思い出したのだ。宝物殿の有り様を。

 

そこには、ある程度の金貨を越えると所有できないギルド金庫をオーバーした金貨を全て置き去りにした。

 

結果が、この有り様である。金貨が山となって光を照らしているのは凄まじいが、これでは少々乱雑と戒められても仕方あるまい。

 

「とーさま!とーさま!ぴかぴか!」

 

生後○カ月経ったムササビは片言でだが言葉を話せるようになった。当たり前か。あれだけ早く言語を魔法で話したのだから。

 

ムササビは目を爛々と輝かせながら、ヨチヨチと金貨の山へと飛び込むと、金貨を掬い上げては溢す遊びを楽しんでいた。

 

 

(やっべ、超かわいい)

 

 

アインズはムササビの愛くるしさに精神沈静化が訪れるのを煩わしく思いながら口に手をやった。

 

言葉を発しない赤子というのも可愛いが、喋りだして間もない時期もまた乙である。

辿々しさと あどけなさから可愛さが増加するのだ。更にはムササビの無邪気な行動が、ソレに箔を掛けている。

 

「ムササビよ。すまないが、これは片付けようと思うんだが。どいてはくれないか?」

 

アインズは自分でも驚くほど優しい声で語りかける。

が、ムササビは珍しく反抗気に頬を膨らませた。

 

「いや!ぴかぴか、すき!」

 

「...oh」

 

「ア、アインズ様?御気を確かに!!?」

 

息子の発言にアインズは膝を付いてしまう。

自分のお願いが、金貨に負けたのだ。

 

アインズは悲しくて悲しくてここら一体に〈あらゆる生ある者の(The goal of all)目指すところは死である(life is death)〉を使用しそうになるが、一歩踏みとどまる。

 

しかし、考える。

これは好感度アップのチャンスだと。

 

「よ、よし。ではその金貨を一山お前の部屋に置いてやろう。パンドラズ・アクターよ。残りは私のインベントリに突っ込んでおこう」

 

「ほんと!?やたー!」

 

「畏まりました。我が神のお望みとあらば(Wenn es meines Gottes Wille)!」

 

「ふ、ふふふ。やったぜ」

 

 

こうして、一日早いムササビへのお年玉の金額は約5億金貨という破格の額であった。

 

 

 

 




気、気付いたら書いてたんです。許して。


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