家族的アパート『セラフ』へようこそ。 (コンソメパンチップス)
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第零週間 家族を失った者達へ
○一人目-アパート『セラフ』-


ども。コンソメです。
タグ文字数限界越えてミスって今もっかい書いてるなんて言えない。
お待たせしました。終わりのセラフほのぼのです。
短いので電車に乗っているときにでもどうぞ。


 

これは、とあるお話。

家族が失われてしまった者たちの、絆の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優兄!優兄!」

一人の男の子が、兄と思わしき男の子に寄り添ってきた。

「なんだよ…」

優兄、と呼ばれた男の子は、構うのも面倒らしく、そっけなく本を読んでいる。

「優兄、遊んでよ!」

ぐいぐい、と兄の服の袖を引っ張る弟。

「私も遊んでー!」

もう一人、妹らしき人物が近寄ってくる。

「何なんだよ…本が読めねえだろ」

いかにも鬱陶しそうなそぶりを見せるが、その顔は満更でもなかった。

「まったく優ちゃんったら、ホントはうれしいのに、素直じゃないなー?」

少年と同い年くらいのもう一人の少年が、他の妹や弟と遊びながら話しかける。

「はぁ!?んなわけねえだろミカ!」

優、と周りから呼ばれている少年は、少し顔を赤くしながら怒鳴った。

「うっそつけー。耳赤いぞー」

背後から一人の少女が、優の頬を強くつねった。

「い…いたたた!やめろよ茜!」

たくさんの兄弟たちに囲まれながら、優は必死に茜と呼ばれた少女の手を振り解く。

「あーもー…わかったよ。遊べばいいんだろ」

優がそう言ったと同時に、周りの子供たちが一斉に喜び出す。

 

彼らは家族。

『義理』という一文字で繋がれ、百夜という名字で紡いだ、

一つの幸せな家族。

 

 

不幸を歩んできた彼らだからこそ、感じられる幸せ。

 

 

幸せに生きているからこそ、求めたくなる幸福。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸福になるほど、近くなっていく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は一瞬で過ぎ、東京のある一角。

電車の音が少し遠く、人通りもそんなに多くない、東京の中の過疎地域。

そんな殺風景な街の通りに、一人の少年が歩いていた。

「ここが…例のアパートか?」

ピタッと立ち止まり、一つの建物に視線を向ける。

アパート『セラフ』。

少年が目的地としていた、大小偏りのないごく普通のアパートである。

「ピコンッ」

少年の携帯に、一通のメッセージが届く。

少年はポケットから端末を開き、メッセージを確認した。

 

〈優ちゃん、そろそろアパートついたと思うんだけど、どう?当たった?〉

 

軽い調子でかかれたメッセージに、無意識に少年は苦笑いしていた。

「あいつ…ほんと勘だけはすげーな…」

あまりのタイミングの良さに、もはや監視されてるんじゃないかと思われる勢いだった。

 

【ああ。今着いた】

ピコンッ

〈ホント!?やったビンゴだ!〉

 

【こんなどうでもいいことでメールすんなよ…ミカ】

ピコンッ

〈いいじゃんこんぐらいさー…ちゃんと大家さんに挨拶してね!〉

 

【はいはい。わかってますよ】

 

少年は返信するのも面倒になって携帯をしまう。

「とりあえず、挨拶だけして部屋の準備するか…」

キャリーバッグに大きなリュック。

片手には取ってのついたバッグ。

まるで海外旅行でもいくかのような格好で、少年は歩きだした。

 

 

 

 

アパートの階段近くに、例の大家さんらしき人が立っていた。

「よお、お前が百夜優一郎か。随分と大荷物だな。それと遅すぎだ」

見た目はすごく若いその大家さんは、少年の名を呼ぶ。

遅い、と言われたが、さっきのメールの相手、百夜ミカエラが丁度よくメールしたあたり、彼は少年が遅刻すると知っていたのだろう。

「あんたが大家の一ノ瀬グレン?」

季節はすでに冬。

悴む両手に突き刺さる寒さに耐えながら、少年は相手の名前を確認した。

「初対面にタメ口使われるのは初めてだ」

「それはあんたもだろ」

少年、優一郎は鋭いツッコミを大家、グレンに指摘する。

「俺は大家だし年上だから許される」

「どうでもいいから鍵」

不自然な屁理屈を述べるグレンに、優一郎は冷めた様子で鍵を要求する。

「全く…短気な奴だな」

グレンは仕方なさそうに鍵を鞄から取り出す。

優一郎はそれを奪い取るように取り、さっさと階段をあがっていった。

通路の右側に二つくらい部屋があるが、優一郎の部屋は正面に見える、そのまま通路の奥までまっすぐ進み、突き当たったところにある。

扉の目の前まで到着し、

グレンからもらった、いや、奪取した鍵を差し込んだ。

形はピッタリ。

当然ではあるが、あのグレンの性格上偽装でもされているのでは、と優一郎は感じていたのだ。

ドアノブに手をかけ、ガチャリ、と部屋を空けた。

全く何もない。

引っ越しをした以上それが当たり前なのだが、あまりの殺風景な空間に少し違和感を優一郎は覚えていた。

「…妙なもんだな」

優一郎が持ってきたものは必要最低限のもの。

テレビやベッド、エアコンはすでに準備されているが、それ以外のものは全く用意されていなかった。

「はあ…重かった…」

優一郎はドサッと荷物を地面においた。

今まであまり感じなかった疲れが今になって優一郎の体にのしかかった。

「きゅーけー、きゅーけー」

そう言って彼はベッドに横になった。

疲れと同時に、妙な眠気が優一郎を襲う。

すこしずつ眠気に侵され、ウトウトし始めた頃。

「お隣にも挨拶せず、気持ちよさそうに寝るなんて、随分と常識がない人ですねぇ」

部屋の中で女性の声がした。

優一郎はハッと自分が眠りかけていたことに気づき、ガバッと起きあがる。

玄関に、一人の背の小さい女性が立っていた。

「…誰だお前」

優一郎は眠そうな顔で女性に聞いた。

「失礼ですね。歴としたお隣さんですよ。普通引っ越した側がお隣さんに挨拶するものじゃないですか」

女性は玄関付近から動こうとしない。

「扉の向いてる方向が違うから『お隣』じゃねーよ」

「屁理屈は結構です」

優一郎は少し小さな欠伸をした。

「で…名前は?」

「普通はそっちから紹介するものでしょうに…私は柊シノア。あなたの部屋のすぐ近くに住んでいる者です」

女性、柊シノアは、優一郎に愚痴を言いながらも、自ら名前を紹介した。

「…で?何しにきたの?」

優一郎はシノアに聞いた。

「はあ…私はグレンさんに頼まれて、あなたに生活面のことについて説明をしに来たんです」

シノアは優一郎の失礼ぶりに呆れて、ため息しかつけなくなった。

「生活面?」

優一郎が復唱する。

「はい。よくよく見てください。この部屋、何か変だと思いませんか?」

シノアが唐突にクイズを出し始めた。

優一郎は何もつっこまずとりあえず大人しく答える。

「…なんか寂しい」

「ブッブー!マイナス10ポイントです」

「ポイント制かよ…」

優一郎は訳がわからない、と言った仕草を見せる。

「正解は、キッチンがない!でした」

シノアが言った言葉に反応し、優一郎が周りを見渡す。

確かに、キッチンは一つもなかった。

「…ガスコンロでも買えと?」

優一郎は少し間を空けてから質問する。

「違いますよー。今からそれを説明するんです」

そういうとシノアは部屋に上がってきた。

「ここにスライド式ドアがあるのに気づきました?」

シノアが指さした方向に、気でできた扉があった。

一見クローゼットのようにも見えるが、どうやらそうではないらしい。

「さあさあ開けてみてください」

シノアが促し、優一郎は仕方なさそうにロックを解除し、開けてみる。

するとそこには…

 

 

 

「…なにこれ」

「はい、この通り通路があるんです」

ドアの向こう側には、玄関側の外の通路と同じような構造の通路があった。

ただ、床は木でできているし、天井や壁も存在している。

「…これは何のための通路?」

何事にも無関心な優一郎でも、これには呆気に取られる。

「まあまあ、着いてきてください」

シノアがついてくるよう指示する。

優一郎は黙ってついていった。

優一郎の部屋以外のところにもドアがあるのはつまり、他の部屋もこの通路と隣接しているとわかる。

「じゃ、このおっきいドアを開けてみましょう」

まるでゲームのチュートリアルのようにシノアは話を進めていく。

優一郎はもう好きにしろとばかりに強くドアを開いた。

 

そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キッチン?」

「ピンポンピンポーン大正解。ここはつまり『セラフ』に住む人たちが食事をするときに使う兼用リビングアンドキッチンなのです」

…は?

優一郎は思わずそう言いたくなった。

なんで赤の他人とこんなところで団らん組まなきゃいけないんだ。

もんもんと不満が募るも、表には出さなかった。

しかし、優一郎には別の心配事が心境に存在していた。

「…当番制か?」

優はその恐れていたことを一応シノアに聞く。

「当然じゃないですかぁ。誰か一人に任せきるのは余りに酷すぎるでしょう?」

シノアがとーぜん、といった顔で返答した。

まじかよ、優一郎はその場にしゃがみ込んだ。

こんなの聞いてない。

このアパートにこんなルールがあったなんて聞いてない。

 

誰かと馴れ合う必要はない。

とりあえず住めればそれでいい。

あの時の自分の慎重さが欠けていたことを恨む。

優一郎は今になって、自分の選択に後悔し始めた。

「理解しましたか?あなたにはこれから、私たちとともに、『家族』のように、このアパートで生活してもらいます。百夜優一郎さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の言葉など、優一郎の耳には入らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、家族を失った者たちの物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望を希望へと巻き戻す、

優一郎たちの爽快な日常を描いた、

誰も知らない物語。

 




お疲れさまです。
短かったですよね?
幻想行進曲疲れたらちょっと書くくらいなんで短いし投稿遅いんですよ。
少しずつ進めていくんで暖かい目で見てください。
幻想行進曲もよろしくです。
それじゃあまたね!


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○二人目-家族構築-

ども。コンソメです。
すいません遅れました。
ほんとは25日にやりたかったんですけど生憎都合が…
なんでかはわかりますよね?
優一郎と入力するのは面倒なんで「優」とさせていただきます。
それではかぞアパセラフ、スタートです。


これは、とあるお話。

新しい家族ができるまでの、賑やかで波乱の物語。

 

 

 

 

 

『住人と家族のように過ごすこと』

それがアパート『セラフ』にすむための原則。

一見交流が深まって夢のような生活に思える人ぱかりだが、やはりその中に例外はいる。

優はその希少な例外の一人だった。

シノアの説明が終了した後も優の不満と怒りは収まらない。

「なんでこんな目に…」

自室の椅子にぐったりと座りながら、優は一人呟いた。

そもそも、アパートをミカに任せたのが軽率だった。

優は初歩的なところから過ちに気づいていなかったのだ。

自分ではアパートのことなんてわからない、と知識豊富なミカエラに任せた過ちに。

知力が人一倍あるからこそ、感情が表に出ればずる賢い手が思いつく。

もともとミカエラがそういう性格であるのは優でも十分わかっていた。

かと言って、今更ミカエラを攻める気にもなれない。

ここまでしっかり物事を進めてくれたのは事実だし、お金まで援助して貰えたのだ。

結局自分に甘えてこういう結末になってしまったのだから、仕方ないと言えば仕方ない。

 

 

 

 

とはわかっていながらも、優はなかなか気持ちがすっきりしなかった。

まず何より住人で鍋でも囲うようなアパートなんて優は生まれてから一度も聞いたことはない。

そうシノアに言っても、返された言葉は

「ここは『家族的』アパートなんですよ。今更どうこう言われたって、私は大家さんじゃないですし」

と、結局つばめ返し。

ここに住むためには、やはり共同生活が条件なのだとか。

他人と飯を食い合う関係なんて優にとってはとんでもなかった。

 

 

 

 

 

 

もう解消もできない。

これ以上引っ越しをしていたら身も費用も持たない。

生きるためには多少我慢も必要だ。

優はそう自身に言い聞かせて、もやもやした感情を無理矢理圧し殺した。

飯食ってすぐ帰るだけ。

急いで食べれば30分もたたない。

 

 

 

 

まだ取り出されていない持ち物。

優は今は考えないでおこう、と暗示して片づけに取りかかった。

 

 

 

 

すると。

ピンポーン。

部屋にチャイムの音がした。

 

引っ越し業者か?

 

優は急いで玄関に向かう。

シノア、優曰く『浮かれチビ』が部屋に勝手に入ってこないよう、二つの鍵だけでなくチェーンまで丹念にかけていた。

急いでチェーンをはずし、ロックを解除しドアをあけた。

そこにいたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その『浮かれチビ』だった。

 

 

 

 

「…今度は何」

優は怒りを我慢して一応用件を聞く。

「何って、せっかくだから片づけ手伝いに来たんですよ」

別名浮かれチビはニヤニヤしながら優に応答する。

そのニヤニヤに嫌気と不安を察してか、優は無言で勢いよくドアを閉めた。

 

ガァン!

 

「!?」

「させませんよ~」

シノアはドアの内側のチェーンを外側に取り出し、ドアと縁とで挟ませた。

当然ドアの動きは封じられる。

「遠慮しないでくださいよー」

「くっそ…!」

ドアを無理矢理開けようとするシノアを妨げるように、優はドアを必死に掴む。

「開けてください!」

「開けるかボケ!」

優とシノアは延々とこの攻防を続ける。

お互い力を込めすぎて、体がプルプル震えている。

「放せよ!」

「今更譲りません!」

ググググ…とドアがきしみ出す。

頭の回転の遅い優でも、このチェーンを内側に戻さない限りこのドアが閉まらないことくらいわかっていた。

これ以上はドアもやばいな、などと優が考えていると。

「えい」

「!?」

ドスッと優のわき腹のあたりで物の感触が伝わった。優はその違和感の感じた方向をよく見てみる。

枝だ。近くに落ちていたのだろうか。対して尖っていない少し長い木の枝である。

するとシノアはその枝を円を描くように動かし始めた。

「あ…あっははははははっ!!」

変にくすぐったいその感覚に、優は我慢できず笑い出す。

「ははははっ!…やっ!…やめっ!はははははっ!!」

「ほらほら、わき腹弱いんですか?」

シノアはニヤニヤしながら枝で優をつつく。

先ほどまでは明らかに力の強い優がなんとか抑えていたが、これにはたまらず力を緩める。

ガチャッとドアが開いた。

「ふふふ…私の作戦勝ちですね」

シノアは勝ち誇ったように高笑いする。

「く…くっそ…このチビが…」

優は息を荒げながら悪態をつく。

「チビなんて言っちゃっていいんですか?もっとやりますよ?」

シノアはニヤーっと笑みを浮かべながら手を構える。

「や…やめろ!」

優は慌てて少し後ろに下がった。

「ふふふ…冗談ですよ」

さっとシノアが手を下ろし、優はほっとため息をつく。

「さっ片づけしましょう」

シノアは靴を脱いで部屋にさっさとあがっていく。

こいつはなんともできない。

優はしぶしぶついていった。

「えー全然やってないじゃないじゃないですか」

部屋に入ったシノアは全然物が取り出されていないバックを見て呆れたように言い放つ。

「うっせーよ。お前が勝手に入ってくるからだろうが」

優はここでキレたら負けだ、と気持ちを抑えようとはするものの、完全には抑制できていなかった。

「あ、もしかして」

シノアは何かを察したようにバッグに近づく。

やれやれ、と優は頭を掻いた。

どうやら注意するのは諦めたようだ。

「ふふふ…もしかしたら…あんな本やこんな本が…」

ガサゴソとバッグ内を漁る。

「んなもん入ってねぇよ」

優が怒りを必死に抑えながら応える。

「むぅー…どうやらホントですね。悔しい」

シノアが悔しそうに眉間に皺を寄せる。

「あのさ、いい加減出てってくんない?」

優が早くいなくなれとばかりに強い口調で話す。

「えー、でも片づけしないとですし」

シノアが露骨な嘘をつく。

優はそのことに怒りを覚えてか、優はシノアの首の後ろの服のえりを掴んで持ち上げた。

「わっ!」

「うざいんだよ。早く消えろ」

優はそのまま運び、玄関から外へシノアを投げ捨てる。

「あうっ」

「二度と入ってくんなよ」

シノアの靴も放り投げ、ドアを強く閉めた。

「もー…ケチですね…」

シノアは仕方なさそうに自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片づけもほとんど終わり、優はカレンダーを貼りながらふとあることに気づく。

「今日、クリスマスかよ…」

どうりで道中の駅がうるさいと感じたわけだ。

優ははぁ、と息を漏らして12/25の日にちを見る。

 

あいつらがいたら今ごろパーティの準備でもしてたのかな。

 

なんて考えながら。

優は貼り終えたカレンダーを見てしみじみと記憶を振り返っていた。

すると。

コンコン、と屋内の通路に続く扉からノックする音が聞こえた。

優はまたあいつか!?などと警戒するが、妙なことに、入ってくる気配がない。

「…なんだよ」

優は仕方なく返事をする。

「あ…いるんだ!」

明るい声がした。声質や口調からして、明らかにシノアではなかった。

優は安心と不安を募らせながらもう一度返事した。

「用があるなら早く言えよ」

明るい声はそれに反応する。

「あ、えと、もう昼食の時間だから、君を呼んでこいってシノアさんが…」

優はふと時計を見た。

12:00。いつの間に。

片づけに没頭していたとは言え、あまりに死刑宣告は早かった。

 

「…」

優は無言でドアを開き、通路に出た。

そこには、少し弱気そうな男が立っていた。

「君が…百夜優一郎くん?」

少年は優の近づくなオーラに重圧を受けて、弱々しく名前を確認する。

「…そうだよ。お前は」

感情の隠っていない口調で優は少年に質問した。

「僕?僕は早乙女与一。君の部屋から二つ目のところに部屋があるよ」

自らの部屋まで詳しく説明する。

「君は…」

与一が何かを言いかける。

「いや、なんでもないや」

不自然なタイミングで話を区切った。

しかし、優にはそんなことなどどうでもよかった。

とにかく早く食べ終わり、すぐにでもリビングを退出する。

その一心だけを胸に優は気張っていた。

何も言わないまま例の部屋に到着。

慎重にかつ自然な形で部屋のドアを開ける。

中には、合わせて三人の男女がいた。

一人の少女が優に寄ってくる。

「お前が百夜優一郎か…私は三宮三葉。このアバートの一号室に住んでる。宜しく」

少女、三葉は優に簡潔に自己紹介した。

優は少し戸惑いながらも、「はいはい」

と受け流した。

すると、一人の少年が近づいてくる。

「ずいぶんと冷めた野郎だな…友達がいないぼっちだったろ、お前」

悪態をつきながら優に話しかけた。

しかし優はやはり交流する気分にはとてもなれず、

「そうだねー」

と優自身も適当に返した。

「君月さん本日の昼食は何ですか?」

優の天敵、シノアが眼鏡の少年にメニューを聞いた。

「あ?ただのスパゲッティ」

少年、君月が荒々しく返事する。

「えーまたですか?もういい加減飽きました」

「文句言うなら自分で作れよ」

「僕が今度作ってみるよ」

シノアたちが楽天的に会話する中、優はイライラしながら話の終わりを待っていた。

決して話に入りたかったわけではない。

 

早く食わせろよ。

 

ただ早く食べてすぐさま逃げることしか考えていなかった。

君月がお皿を配り始める。

 

優の目の前にもスパゲッティが置かれた。

キュピーン、と優の眼が光る。

近くのフォークを取り出し、逆さまに持ち変える。

急角度の皿に穴が空きそうなものすごい速度と威力で麺に刺した。

さらに、まるでドリルのような回転で麺とフォークを絡み合わせる。

全ての麺をゲットし、一気に口に運んだ。

口内に含んだ食材を食べ、よく噛みながら飲み込む。

ガシャンとその場に皿を置き、即座にリビングを退室した。

 

その秒数。

わずか0.3秒。

何も言わずいなくなった優に、残りの四人は呆然としていた。

ありえない速度の食事。

もはやギネスも夢じゃない。

「早っ」

君月がポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

優はミカエラに向かって愚痴をこぼしていた。

【ホントふざけんなよ…何が家族だってんだ】

 

〈優ちゃん…別にそのくらい許してあげてもいいじゃないか〉

 

ミカエラが宥めるように優にメッセージを送る。

 

【第一家族も失ったこともない奴に家族だ何だ言ってほしくねえよ…こっちは勉強すら集中できねえよ】

 

〈…優ちゃん、そんなこと言って勉強から逃れようとしてないよね〉

 

優の脳内に無意識に今のミカエラの顔が浮かんできた。

 

【んなことしねーよ。俺なりに集中するときはするよ】

 

〈ホントだね?〉

 

【ホントだって】

 

優が呆れたようにため息をつく。

 

〈茜ちゃんたちの分も、しっかり勉強して、幸せにいきるって約束したんだから、守ってよ?〉

 

ミカエラは今頃真面目な顔をしているのだろう。

文体からも手に取るようにわかる。

 

【…わかってるよ】

 

優はいかにも念頭にすでに入れているような態度を取る。

 

 

 

 

 

あんな出来事、いくら俺でも忘れない。

 

 

 

 

 

 

優は心の中で静かに呟き、携帯を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

そう、それはあの日。

一生忘れることの無いだろう、悲劇の一日。

 

 

 

 

優の幸せがまた消え去った、遠いいつか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優兄、おままごとしようよ」

一人の少女が優に向かってそう提案した。

「はぁ!?この年でおままごとかよ!?」

優はイヤだイヤだと首を振る。

「えー…」

少女が落胆した。

それを見た優は少し後ろめたくなる。

「違うよ、優ちゃんホントはやりたいんだよ」

ミカエラが少しからかい気味に少女に話しかけた。

「はぁ!?」

「うわぁツンデレだ」

茜もクスクスと笑いながら優をいじる。

「つんでれだー!」

「つんでれ!」

「つんつんでれーん!」

子供たちが一斉に笑い出す。

「お、お前等なあ…」

優が顔を赤くする。

幸せな時間。

 

いつまでもこんな生活をできたら…なんて幸福なのだろう。

優がそんなことを思っていた瞬間だった。

 

ガチャリ。とドアの開く音が聞こえた。

「先生お帰り!」

一人の少年がその方向に向かっていった。他の者は無言だったが、突然妙なことに気づく。

戻ってこない。

声すらも出さない。

ミカエラと優が心配になり走っていった時。

ヌッと包丁を持ったフードを被っている男が出てきた。

ナイフからは…

大量の血液が。

優は驚き一歩退く。

ミカエラも釣られて下がった。

それと同時に。

「ああぁあぁぁぁああぁ!!」

男がナイフを振り回しながら走ってきた。

優とミカエラは危険を察し、遊び場に逃げる。

当然男も追ってきた。

中にいた子供たちが一斉に悲鳴をあげる。

「きゃああ!」

「わああぁ!」

それぞれが違う方向に逃げまどい、必死に走る。

「うあぁぁあぁ!」

男の振り回すナイフが一人の子供を叩ききった。

ずさっ、とその子はその場に倒れる。

「逃げろ!」

優が他の子供たちに逃げるよう指示した。

しかし。

「うわぁ!」

「きゃああ!」

男は強引に振り回し、子供たちに致命傷を負わせていく。

「みんな!」

ミカエラが叫んだ。

残されたのは優とミカエラと茜と一人の少女だけ。

男が茜たちに近づいていく。

「お願いします…見逃してください…」

茜が必死に少女をかばいながら説得しようとする。

「や、やだ…殺さないで…」

目は泣き目で、声は震えていた。

しかし男に容赦はない。

包丁を逆持ちにして振りかぶった。

優は危険を察し、助けにいこうと血相を変え、走り出した。

だが。

 

「ダメだ優ちゃん!」

ミカエラが止めた。

「はぁ!?」

優がミカエラに視線を向けた。

「僕らが助けにいけば、僕らの命も危ない!」

ガシッと優の腕をつかんで離さない。

「あいつらを見捨てろっていうのかよ!?」

優が無理矢理腕を取り解こうとする。

「お前は家族を見殺しにするような奴なのかよ!?」

「そうじゃない!」

優は怒りで顔が強ばった。

「もういい!死にたくないなら逃げてろよ!そんなに自分がかわ…」

「違う!!!」

ミカエラが珍しく声を張り上げた。

「今の…今の僕たちに何ができるんだよ!?」

「…!」

優は目を見開く。

ミカエラは、泣いていた。

「今の僕たちには…勝てるわけがない…」

ミカエラからは一回も聞いたことのない弱音を、優は初めて聞いた。

「そ、そんなのわか…」

「わかるよ!!!」

再びミカエラが大声を出す。

「僕らは…非力なんだ…」

優はハッと茜の方を見た。

茜もこちらを向き、震えた声で話し出した。

「ふ…二人とも…い、今のうちに逃げて…」

体はガクガクと震え、まともに立つことすらできていなかった。

「何言ってんだ!!お前も逃げるんだよ!!」

優はこの上無いくらいの声を出した。

「お願い…逃げて…」

それでも茜は逃げるように言い聞かせる。

「…逃げよう、優ちゃん」

ミカエラが静かに言った。

「お前!いい加減に…」

「僕だって!!」

ミカエラの目は赤くなり、涙がダラダラと流れていた。

「僕だって逃げたくないよ!!…でもっ…僕らが行ったところで…何も変わらないんだ!!」

ミカエラは弱音を叫ぶ。

「僕らが助けに行っても…みんなの命も、僕ら自身も、無駄に終わってしまうだけなんだよ!!」

ミカエラの言っていることは間違っていない。

しかしそれでも優は納得が出来なかった。

「で、でも!」

「早く逃げてよ!バカ!」

茜が渾身の声で叫ぶ。

優は驚いて喋らなくなった。

「私たちの分も…生きてよ」

優は茜が言った言葉に、何も返せなかった。

否、何も言葉が見つからなかった。

「今まで…ありがとう」

茜がニコッと笑った。

優の目に、無意識に涙が伝る。

その瞬間。

ドスッ、と茜にナイフが刺さる。

それと同時に、ミカエラが力の抜けた優を引っ張った。

優は、何も抵抗せず、茜の方向を向きながらミカエラに引かれていく。

 

 

 

 

 

 

 

それが百夜孤児院の、終焉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【…そろそろ勉強する。またあとでな】

 

〈うん。バイバイ〉

 

ミカエラに別れを告げた優は、勉強道具を取り出した。

中学校の参考書。

優は高校生でありながら、未だに中学の単元を攻略できていない。

「えっと…昨日は因数分解までやったな」

しかし、それでも優なりにはがんばっていた。

茜たちの分、みんなの分、と自分に言い聞かせて、学習に熱を入れる。

そんな中、ふと優は筆箱をみて何かを思い出した。

「そうだ、文房具買ってこなきゃ」

筆箱には壊れたシャーペンや小さい消しゴム、芯の少ないシャー芯ケースなどが入ってある。

優は鍵と財布を持ち、道中無駄の無いように参考書を持って、玄関を出た。

優はコートを着ているが、冷たい風があたり、少し肌寒く感じる。

階段を降り、参考書を開いたその時。

「買い物ですか?」

階段の近くに、シノアがいた。

優はまたもやもやと怒りがこみ上げてくる。

「今度は何だよ」

「いいじゃないですかー買い物につきあうくらい」

シノアはとても調子がよい様子だが、優はストレスがたまり怒りを抑えるのがギリギリだった。

「おや、参考書ですか。いいですねー勉強熱心ですね…て、あれ?」

シノアは気づいた。

参考書の内容が中学単元であることに。

「あはぁ、もしかして、高校生にもなってこんな簡単な中学生の問題も解けないんですか?」

その言葉に、優の怒りはさらにこみ上げた。

「しょうがないですね。この天才シノアちゃんが特別に教えてあげましょう」

妙に上から目線の言葉に、ついに優の怒りは爆発した。

「いい加減にしろよ!!」

「!」

突然怒った優に、シノアは不意に驚いた。

「人が黙ってたら勝手なこと言いやがって!!それも人の気も知らずに!!」

「あ…え…」

シノアは唐突な優の態度に戸惑う。

「…お前みたいに簡単に勉強の内容が理解できる奴もいれば、俺みたいにいくらがんばってもなかなか理解できない奴もいるんだよ!」

優はもう怒りを制御できなかった。

「人の努力も侮辱して…何が楽しいんだよ!…大体なんなんだよ!家族家族って!家族を失ったこともない奴が気安く家族を語るな!」

ハァ…ハァ…と優の息は怒りで荒れていた。

そして優はそのまま売店まで歩きだす。

 

 

 

シノアは、追ってくる様子がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんだよ畜生…」

優はショッピングモールに着いても怒りが収まらなかった。

イライラしながら必要な文房具をそろえていく。

ついでに、と新しい参考書も手にしてレジに向かう。

未だに怒りも抑えられず。

ただ、優は怒りの裏に別の感情もあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

きつく言い過ぎたかな…

 

 

 

 

 

 

 

 

女子に対しての態度としてはやりすぎたか、と内心不安もあった。

 

 

 

 

 

 

 

もし俺のせいで自殺とかしたら…

 

 

 

 

いやいや。悪いのはあいつだ。

俺は当然のことをしたまで。

人を侮辱する奴を叱って何が悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

優はそう自分に言い聞かせて不安をかき消そうとする。

 

しかしそれでも完全に消えることはなかった。

「あー…なんかモヤモヤすんなあ…」

そんなことを呟きながらレジに着くと。

 

「お」

「!」

グレンがレジに並んでいた。

「よう。まさか一日のうちに二回も会うとはな」

「なんでいんだよ…」

優は勘弁してくれと言うようにため息をつく。

「いや、単にクリスマスだしお前等に予定記入用ホワイトボード買ってやろうと思ってたとこだ」

余計なお世話だ、何がクリスマスだよ、と優は文句を心の中で言い放った。

「それと、これをシノアにな」

グレンはそう言って一つのマフラーを優に見せる。

「さっき洋服店で買ってな。結構いいヤツなんだ」

「どうでもいいんだよそんなの…」

何で喧嘩した奴の話なんてしてくんだ、と優はイライラしながら話を聞く。

「いや、あいつ家族いないからよ、俺と他の住居人とでこうやって色々プレゼントし合うんだよ」

優はピクッと耳を動かした。

「家族が…いない?」

グレンがそれを聞いて何かに気づいたような顔をする。

「あ、もしかしてお前知らない?」

「はあ?何をだよ」

優が聞き返した。

「あそこの住居人、みんな家族を失ってるってこと」

「!」

優が目を見開いた。

「みんなそれぞれ家族を失っててな。全員少なくとも両親は失ってる」

「え…」

優が絶句する。

それにかまわずグレンは話を続けた。

「三葉と君月は両親だけ、あ、でも君月には病気の妹がいたな。与一は両親含めて姉も…だったかな。おっと順番だ」

グレンは一度話を止めて会計をした。

その後に続き優もレジを済ます。

優はレジを終えた後、自らグレンに話しかけた。

「…で、あのチビは?」

「あいつか?あいつは姉が亡くなったな。ただあいつそれだけじゃなくてよ。実の兄とかに捨てられた捨て子だったんだよ」

「捨て子?」

優が聞き返す。

「ああ。色々利用されるだけされて捨てられたらしい。境遇でいえば一番あいつがひどいな」

優は何も言葉が出なかった。

「…待てよ。もしかしてお前今日が何の日か知らねえだろ」

グレンが何かを察したように優に聞く。

「は?クリスマスだろ?」

優が何を当然なことを、と呆れながら言った。

しかしグレンは首を振った。

「違う違う。実はな…」

グレンが何かを言いかけたその瞬間。

ピリリリリリ、とグレンの携帯がなった。

「あ、やべ。あのこと忘れてた。…わりぃ、俺これから忙しいからこれシノアに渡しといてくれ」

携帯を取り出しながら優にさっきのマフラーの入った紙袋を渡す。

「は!?なんで!?」

優がグレンに問いかけるも、グレンはそそくさとどこかに行ってしまった。

「はあ…」

ポツンと取り残された優はため息を漏らして、仕方なさそうにショッピングモールを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノアの部屋の玄関の前に着いた優は、例のマフラーを持ってポケットから手を出した。

インターフォンを押す手に力をいれ、グッとボタンを押した。

ピンポーン、と軽快な音がなる。

しかし、反応は一向になかった。

「なんなんだよ…」

そう言って優ははぁ、とため息を漏らす。

今度はコンコン、とドアをたたいた。

「おい。おいっつってんだろ」

やはり反応はない。

優は腹がたって、無意識にドアの取っ手に手をかけ、無造作に引いた。

すると、なぜかドアがグンッと開く。

「!?」

なぜか開いたドアに、優は不意に驚く。

どうやら鍵がされていなかったらしい。

「なんだよ不用心だな…」

そんなことを言いながら、優はふと足元に目をやった。

そして、あることに気づく。

「靴がない…」

靴箱は見あたらない。

明らかにこの部屋にはいないことを知った。

「…!」

優はもう一つとある場所に視線を向ける。

それを見たと同時に、自分でも知らず知らずのうちに走り出していた。

自分が買った文房具やグレンに渡されたマフラーを置いて。

優が最後に見た場所。

玄関にかけられたカレンダー。

12/25のところに、とある文字が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…くそ…どこだ…」

優は行き先のわからない人を探して走っていた。

ぜいぜいと息を切らしながらとにかく走り続ける。

周りがクリスマスで鮮やかに彩られ、人々は笑顔に包まれている中、優だけは一人違った。

ただ一人、たった一人の人間のために走っていた。

どこに行ったかなんてわからない相手を、とにかく探し回っていた。

「くそ…どこだよ…!」

怒りを向ける相手は同じでも、先程とは違う怒り。

その憤りのあまり、優は思わず叫んでいた。

「おい、どこだよ!!返事しろよ!シノア!!」

その、探し人の名前を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寒い…。

 

辺りが暗くなり、電灯が点き始めた公園。

そこにある小さなベンチに、一人の少女が座っていた。

上着を着ているとはいえ、冬の肌寒い気候は、少女の体に冷たくまとわりついた。

体が小刻みにブルブル震え、白い息が呼吸する度に出てくる。

寒い、そう少女が感じる反面、別の感情も湧き出ていた。

 

人を傷つけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分が正しい接し方をしてあげられなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分勝手な態度で相手に迷惑をかけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分はただ仲良くなりたかっただけなのに。

 

 

 

 

 

 

 

どうしていつもこうして相手を傷つけてしまうんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

素直になれない自分が嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ろくなコミュニケーションもできない自分が憎い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分は、なんて卑劣なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次々と自責の感情が生まれ、そして少女自身を卑下した。

自分には帰る資格もない。

そんなことを思いながらベンチにうずくまった。

自然と涙が頬を伝る。

どうしてこうなってしまったんだろう。

どうしてこんなことになったんだろう。

数々の疑問が浮かぶが、それはすべて自分に降り懸かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、やだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分に対する嫌みが、世界に対する弱音に変わった。

自分にはこの世界でいきる価値はない。

少女の目からさらに涙が流れ出す。

必死に声だけは我慢しながら、ベンチの上で静かに泣いた。

静かな公園に、一人ポツンと少女は座りこむ。

顔をうずめ、もうどうでもいい、と思い始めた、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何してんだよ」

一人の少年の声がした。

少女はハッと顔をあげる。

目の前に、嫌われたはずの相手がいた。

「え…」

少女は涙を流した顔で呆然とする。

「ほら…早く帰るぞ」

少年、百夜優一郎が手を差し伸べる。

「え…な…なん、で…」

震えた声で少女、柊シノアは聞き返した。

「別に…心配して来た訳じゃない。単に渡し物があったから探してただけだ。それに…」

優が少し間を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「家族がいないとき探すのは…当然だろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…」

シノアは声が出ず、思考すらも働かない。

「…あのさ、」

優が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

シノアが涙の止まらない目を大きく開く。

あの優が、自分に謝ってきた。

「家族を失ったのは…お前等もだったんだな。それなのに俺だけ知った振りしてさ…本当に知らないのは俺の方だった。ごめん」

優が頭を下げたのを見て、シノアはあたふたと慌て始める。

「いや…その…」

「…お前への態度も少し厳しすぎたかもしれない。そこも謝る」

優は心のモヤモヤする何かをすべて祓おうと、気にかけていることを次々と話した。

すると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ち、違うんです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私からも…ごめんなさいなんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…?」

優は少し戸惑う。

「私…ただ仲良くなりたかったんです…優一郎さんと。それなのに…自分に素直になれなくて…変に悪態ばっかりついちゃって…優一郎さんが怒るのも当然なんです」

シノアは泣き止んではいるものの、顔は今にも泣きそうだった。

「私…人と仲良くしようとするといつもこうなんです。相手を困らせることしかできなくて…自分で自覚はしてるんです。なのに直せない自分が憎いです」

「ホントにすみませんでした。行動が何もかも軽率すぎました。…もし許されないと言うのなら私はここに…」

「ダメだ」

「!」

優が急に口を割った。

「別に気にしてねえよ。もう。俺だって悪いところはあったんだし。俺は許せる立場じゃない。それに…」

優が少し間を空けた。

「お前が無事なら今はそれでいいよ」

シノアは予想外の答えに少し戸惑った。

「いいん…ですか?」

「ああ」

自分を許してくれた。

シノアはそのことに素直に喜びを感じた。

「帰るぞ。他の連中も待ってんだろ。それにクリスマスなんだから…今日くらい楽しまないと」

優が再び手を差し伸べる。

シノアはその手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。

そして、ハッと何かを思い出す。

「あの…優一郎さん…さっき『家族』って…」

優もそれを思い出し、少し顔を赤くしたが、

「俺がいた孤児院と、同じ感じがしただけだ」

笑顔で言葉を返す。

初めて笑顔を見せた優に、シノアは少し安心した。

「その…これから、よろしくな。シノア」

珍しく優が自ら挨拶をする。

シノアも少し微笑みながら、

「はい。よろしくお願いします、『優さん』」

明るい声で返した。

「なんだよ『優さん』って…」

「ふふ…優一郎さんだと呼びにくいので」

暖かな会話が続く中、優がふと何かを思い出した。

「あ、そうだシノア」

「?」

突然の切り換えにシノアがきょとんと首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誕生日、おめでとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

シノアが少し赤面して驚く。

「知ってたんですか?」

シノアの質問されたが、優はどこで気づいたか覚えていなかった。

「えっと…確かどっかで何かを見たんだよ。それで知った」

何を言っているのかわからないな、と優は自分の言動に反省する。

シノアはまだ驚きは続きながらも、

「あ、ありがとうございます」

と返すことができた。

「えっと…それで一応買ってきたんだけど…」

そう言って優は何かを取り出した。

「!」

シノアが驚愕する。

「なんか…クマのキーホルダー。ごめん、こんな安っぽいものしか買えなくて。それとも気に入らなかったか?」

優の問いにシノアはブンブンブンと首を振った。

「これ…この冬限定の特別版ですよ!いつも人気で売り切れの店ばっかりだったのに…よく買ってこられましたね」

「そういえば…これラスト一個だったな」

優が買ったときの状況を思い出す。

「これ…ホントに貰って大丈夫でしょうか…優さんが買ったんですし優さんが貰った方が…」

「いや、俺はいいよ。シノアのためって思って店に行ったおかげで買えたんだと思うし。第一男がこれ持つのは恥ずかしいよ」

シノアの気遣いを、優は拒否した。

「男って損な生き物ですね…ホントに貰ってもいいんですか?」

「ああ。全く問題ない」

優は笑顔でそう言って見せる。

「じゃあ…ここは素直に受け取らせていただきます。ありがとうございました」

シノアが丁寧にキーホルダーを優から受け取る。

「さ、帰ろうぜ」

優がシノアの手を握った。

「あっ…」

シノアは不意に赤面する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今この瞬間、優の家族生活が再稼働し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時に、小さくながらも二人の一つの物語が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、一つの物語。

 

 

 

家族と、もう一つの関係が構築されていく、暖かく平和な物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈優ちゃん、そっちでの生活、大丈夫?〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【…わからない。でも…】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【なんか、うまくやっていける気がする】

 




お疲れさまでした。
ちょっと長かったですねwすいません
次回はもう少し短くします。
また、今回で一時シリアスは終了します。
次回からはほぼコメディってことで。
まあ、たまーにシリアスも入ってくるかな?
ちなみに幻想行進曲をメインとして投稿してるんでこちらは更新は遅いです。
それでも投稿はやめないんで安心してください。履いてますよ。
それじゃあ次回もお楽しみに!


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第一週間 始まる日常
●三人目-ホワイトボード-


はいども。コオンソォメどぉぇす。
はいスンマセンふざけました。

えっと前回シリアスばっかりだったのですが、今回から本格コメディです。

本格ほのぼのです。

本格息抜きです。

本格手抜k げふんげふんげふん。

決して手は抜いてません(遠い目 

まあ、ホントに短いし、気軽に見てください。

ホントに息抜きなんで。
形式もだいぶ変わってるんで。

たぶん頑張るのは恋愛要素出すときかシリアス展開出すときかのどっちかだけになります。

気楽にゆっくり見てください。



これは、一つの物語。

 

日常にも、非日常にも当てはまらない、不思議な話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノア「さて、みなさん」

 

シノアがバンッと机をたたいた。

 

時間は夕食の時。

 

シノアの誕生日が過ぎ、まだ一日しかたっていない頃。

 

シノアが、急に話し出した。

 

君月「何だよ…」

 

君月がいかにも面倒な様子で返答した。

 

シノア「はぁ…ホント君月さんは先々が読めませんね…そんな調子だから君月さんはいつまでたっても君月さんなんですよ」

 

君月「君月という名字をなんだと思ってるんだお前は」

 

シノアのしれっとした態度に、君月が呆れた様子で物申す。

 

シノア「じゃあ、回答権変わって…優さん!」

 

優「俺?」

 

昨日入居したばかりの優。

 

初めは生活作法に不満はあったものの、一日もたてば順応していた。

 

君月「クイズか何かですか?」

 

シノア「はい君月さんうるさい。それで優さん、答えをどうぞ!」

 

優「えー…なんだろ。今日はカレーとか?」

 

シノア「はい死刑。 「死刑!?」 じゃあ与一さん!」

 

不満あり気な優を無視して、シノアは進行を続ける。

 

与一「うーん…昨日もらったホワイトボードの使い道…とか?」

 

与一が元気よく回答した。

 

シノア「ピンポンピンポンだいせいかーい。やはりあそこの野蛮な二人とは考えてることが違いますねぇ…」

 

シノアがプクク、と笑いをこらえるような顔をした。

 

それを見た優と君月はピキピキと怒りを堪える。

 

三葉「それでシノア。そのホワイトボード、何に使うんだ?」

 

三葉がシノアに使い道を聞く。

 

シノア「一応全員分として貰ったんですし、誰か一人が独占するわけにもいきません。そこで…」

 

何かを言いかけたシノアを遮るように与一が何かを思いついた。

 

与一「当番表に使うんだね!」

 

シノア「そこ当てちゃいます…?」

 

 

 

 

______________

 

 

 

シノア「とまあそういうわけなのです!」

 

シノアがバンバンとホワイトボードを叩いた。

 

優にはホワイトボードが「やめろおおお」とでも書かれているように見えた。

 

君月「…で、まず何の当番表なんだよ」

 

君月が質問する。

 

シノア「まずは料理当番表を作ろうかな、と」

 

シノアが腕を組んで質問に応答した。

 

与一「朝昼晩と分けるの?」

 

与一も問いかける。

 

シノア「いえ、さすがに手間がかかりますし、一日交代で良いと思いますよ」

 

シノアがそう言いながらホワイトボードに曜日と名前欄を書いた。

 

シノア「では、まず日曜日!」

 

シノアが聞くが、誰一人として返事をしない。

 

シノア「えー…誰もやらないんですか?」

 

シノアが困ったような顔をする。

 

そんな時、一人の少年の言葉が、その場を切り裂いた。

 

優「もう全部君月でいんじゃね?」

 

優がぼそっと言い放つ。

 

君月「…は?」

 

シノア「それもそうですね」

 

シノアがあっさり肯定した。

 

君月「いやちょっと待て」

 

君月がすぐに止めに入る。

 

シノア「なんでですかー。いいじゃないですか。一週間のうちの七日くらい」

 

君月「お前は一週間を何日だと思っているんだ」

 

優「…」

 

君月「お前は無言で君月を記入するな」

 

優「え、じゃあ君月さん?君月くん?君月様?」

 

君月「そう言う問題じゃねえよ」

 

優「じゃあ君月ちゃんだな」

 

君月「俺に何があった」

 

シノア「違いますよ優さん、君月たんですよ」

 

君月「誰がさらにかわいくしろと言った」

 

与一「じゃあ僕にも考えさせてよ」

 

君月「やめろ、さらにややこしくなる」

 

三葉「なら私も」

 

君月「人の話を聞けぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果

 

日 君月

 

月 君月さん

 

火 君月様

 

水 君月ちゃん

 

木 君月たん

 

金 君月伯爵

 

土 君月官房長官

 

 

 

 

君月「いやこれただの奴隷だろ」

 

君月はもはや声は諦め調子だった。

 

与一「すごいよ三葉さん…ここのアパートには欧米のお偉い人が住んでたんだ…」

 

三葉「ホントだ…初耳だったな」

 

君月「いやそれただの君月だから」

 

シノア「見てください優さん、国務大臣が三食作ってくれますよ…」

 

優「マジかよすげぇな…」

 

君月「いやだからそれただの君月だから」

 

もはや君月の話など聞こうともしない。

 

シノア「さ、この調子で掃除当番も決めちゃいましょう」

 

優「これも全部君月でよくね?」

 

君月「優お前もう黙れ」

 

シノア「大丈夫ですよ君月さん。私たち一同応援してますから」

 

君月「いやそれは理屈としておかしいだろ」

 

三葉「安心しろ君月、骨は拾う」

 

三葉がグッとガッツポーズをした。

 

君月「掃除で死ぬとか惨めすぎるだろ」

 

与一「大丈夫だよ君月くん。昔の百姓に比べれば安いものだよ」

 

君月「このアパートにいつから兵農分離が生まれた」

 

優「なー頼むぜ君月ぃー」

 

優が君月の腕を揺らした。

 

君月「せめて掃除当番だけでも分散しろ」

 

シノア「   そ う じ と う ば ん   はい分散しました」

 

君月「お前殺すぞ」

 

シノア「もー仕方ないですねー…じゃあ月曜日は私やります」

 

優「じゃあ俺は火曜日かな」

 

与一「じゃあ僕は水曜日」

 

三葉「なら私が木曜日か」

 

あっさりと君月以外曜日が決まっていく。

 

君月「…金土日は?」

 

「…」

 

君月「結局俺かよぉぉぉ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはとある物語。

 

楽しく賑やかに彩られていく、そんな一つの物語。

 




はい終わり。
短かったですよね?スイマセン。

ホントに息抜き小説なんです。

シリアスまたは恋愛展開が来ないと頑張れないんです。

もし話の会話の部分で、

優「~」

とかが

「~」

みたいな「」の前に名前がなくなってたらシリアスまたは恋愛きましたと思ってください。

それじゃあまたね!


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○四人目-除夜+迎春-

ども。コンソメかもしれません。

今回真面目パートです。

真面目でもヘタクソだけどね。へへへ。

今回恋愛メインですかね。

ONE OK ROCKの『カゲロウ』でもかけてみてください。

てか今回相当遅い迎春っつーな。

まあ気軽に見てください。

少々長いのでお時間ない場合は注意してください。

では、どぞ。


 

これは、とあるお話。

 

新しく新年を迎える者たちの、小さな物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小綺麗にライトアップされた街の光。

 

田舎の住民は汚く見えるとは言うけれど、好みは人それぞれ。

 

寧ろシノア的には好きの部類に入るだろう。

 

適度な雪の加減や、混雑もなく進めるゆったりとした歩道の幅。

 

静かな空間が好きなシノアにとってはなおさら最高の大晦日だった。

 

そんな大晦日の寒い夜に、シノアがわざわざ外出する理由。

 

それはもちろん、これから『セラフ』の住民と新年を神社で迎えるため。

 

あの神社は屋台や除夜の鐘など、大晦日にぴったりの物が勢揃いのため、新年を迎えるには絶好のスポットなのだ。

 

世界遺産登録、とまではいかないが、観光名所程度の評価はあってもおかしくは無いくらいの綺麗な建物もある。

 

家族と殆ど絡んだことのないシノアには、『みんな』と、新年を迎えられる、と聞いただけで心が弾み出すほどの期待と嬉しさが溢れていた。

 

「はぁぁ…楽しみですね…」

 

周りの目など気にせず、歩道を歩きながら独り言を繰り返す。

 

できればこの道中も誰かと一緒に歩きたかったものだが、やはり『家族的』とは言ってもアパートはアパート。

 

それぞれに都合があるのだから、無理なわがままはできない。

 

シノアが吐く息一つ一つが、周りの空気で白く染められる。

 

マフラーやコートを着ていても、冬の寒さはすり抜けるように伝わってくる。

 

ただ、そんな寒さも忘れるほど、何故かシノアはポカポカと暖かい気持ちだった。

 

実を言うと、アパート全員と新年を迎えるのは今日で3回目なのだ。

 

正直もう慣れてもいい頃のはずだろうが、なぜか今年は更に期待が膨らんでいる。

 

やることは全く例年と変わらないはずなのに。

 

ただ鐘を鳴らして、屋台道をブラブラ歩き回って、あとは新年を迎えるだけなのに。

 

それなのに何故か、シノアの愉悦は収まりを知らない。

 

妙なものだった。

 

何も変わらない一日。

 

全てが同じ過ごし方。

 

三回も経験すれば、飽きも来るはず。

 

なのに、それなのに。

 

 

 

 

 

どうして…? 

 

 

 

 

シノアが自分自身に問いただす。

 

しかし自分は答えを知らない。

 

答えどころか、例年の記憶すらあやふやだ。

 

何度も何度もヒントや記憶を探っていく中、シノアはハッ、と目を見開き、一瞬立ち止まる。

 

 

 

優さんだ。

 

 

 

 

 

記憶に眠っていた、例年との唯一の違い。

 

かろうじて残っていた一つの相違点。

 

そう、優だった。

 

優と過ごす大晦日は、これが初めてとなるのだ。

 

そして当然、優と新年を迎えるのもこれが初体験。

 

優はどんな気持ちなのだろう。

 

どんな服装で来るのだろう。

 

小さいけれども、そういった感情が積もってシノアの気持ちを山のように高くあげているのだ。

 

そう、新メンバーの優が加わった、『新しいみんな』で過ごす12月31日だから。

 

と、シノアは自分自身で答えを言い聞かせるように出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自らの頬が、赤く火照っていたとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノアが神社についた頃には、既に赤い鳥居のあたりに三葉が待機していた。

 

それに気づいたシノアは、よかった、と少し安心する。

 

これは毎年のことなのだが、三葉が誰かに悪い意味で目をつけられていないか妙に心配してしまうのだ。

 

男勝りなところがあるとは言え、三葉も紛れのない女子。

 

ましてや周りからはちやほやされそうな美貌を有している。

 

いつ変な男に襲われてもおかしくないような存在であるのだ。

 

勿論、シノアは直接その事を三葉に言ったりはしないが。

 

なぜなら、心配しても結局『余計なお世話だ』と怒鳴られるだけ。

 

変に女子扱いされるのも嫌なのだろう。

 

無論、シノアが一度柄にもなくその事を言ったら、三葉に案の定、

 

「お前の方が心配だ」

 

と返される始末。

 

確かに明らかに力や性格は三葉の方が強靱ではあるが。

 

その上、君月には笑われ、与一には体調を心配される事態。

 

二度とあんなことは言わない、とシノアは密かに決心した。

 

とはいえ、そんなことは過去の話。

 

とりあえず今日を楽しめばいい、とシノアは過去を振り返らず三葉の元へ走っていった。

 

「みっちゃん、お待たせしました!」

 

走る動作に含めて、手を振りながら三葉の愛称を呼ぶ。

 

その声に気づいた三葉は、ここだとばかりに手を振り返した。

 

「ふぅ、ちゃーんと待っててくれましたね」

 

わかっていたことを知らなかったように口に出す。

 

「私は優じゃないぞ」

 

三葉は見くびられたかと少しムッとする。

 

シノアが冗談ですよ、とスピードを少しずつ落としながら話そうとした、その時。

 

「あ、そこ気をつけろ」

 

三葉が何かを警告した。

 

「へ?」

 

何も知らないシノアはポカンと疑問を浮かべる。

 

すると。

 

ズルッ、とシノアの靴が水平方向に滑った。

 

「へ?」

 

さっきと同じイントネーションと声質で発生する。

 

しかし今は明らかに身の危険を感じていた。

 

「おっと」

 

三葉が転びかけるシノアの腕を掴む。

 

そのお陰でかろうじてシノアはバランスを保った。

 

「あ、危ない…」

 

緊張が続いたような、緩んだような、どちらとも言えない声でとりあえず安堵の声を漏らす。

 

今年一年の締めを『転倒』で終わらせるところだった。

 

「なぜかその辺りが綺麗に凍ってるんだ。私も転びかけたけど、何とか体勢はキープできた」

 

三葉が実体験を交えながら開設を明確に話す。

 

足元の危険とは、なかなか恐ろしいものだ。

 

「ありがとうございます、みっちゃん。危うく転倒する新年を迎えるところでした」

 

シノアがふぅ、と安心したような息をついた。

 

その息も、霧のように色を繕っていく。

 

「そんなことで一年が崩れるわけないだろ」

 

三葉がハハハ、と笑って返した。

 

本当にこの話し方を聞いていると、男の人と話している感覚になる。

 

当然、声質や高さは全然違うのだが。

 

「でもこれ…うまく活用できるかもしれませんね」

 

シノアがふと何かを思いついた。

 

そして、少し三葉の方に寄る。

 

「なんだ…?」

 

三葉が問いかけるも、シノアは無視してその場に待機するだけ。

 

顔がにやけ、口からフフフフフ、と悪魔のような笑い声が文字のように見えてきた。

 

すると、そのすぐ直後にシノアと三葉の名を呼ぶ声がする。

 

「すいませーん!待たせてしまいました!」

 

明るくて、まだ幼さの感じられる声。

 

間違いなく与一の声だった。

 

「おーい!」

 

女子二人に呼び聞かせながら、その方向へ走っていく。

 

その後ろには君月の姿があった。

 

どうやらいつものように同伴できたらしい。

 

「こっちでーす!」

 

シノアが手を振った。

 

顔は優しく笑っているが、眉間にはうっすらとだが陰がかかっている。

 

確実に、何かしら悪事を考えている顔だった。

 

氷を活用。

 

不敵な笑み。

 

間違いない、と三葉は確信した。

 

その確信通り。

 

ズルッと、与一の靴が大きく滑った。

 

「えっ」

 

疑問の形にすらする暇もないまま、後ろに上体が倒れ込む。

 

そのまま地面へ、と思われたが。

 

「おまっ…」

 

君月にHITした。

 

君月も足元の氷に接触し、後ろに倒れ込む。

 

体は後ろへ。

 

足は前へ。

 

そのままの位置で、君月を土台に二人が転倒した。

 

「わっ!?」

 

「おわっ!?」

 

二人の声が重なった。

 

ドシーンと痛々しい音を鳴らしながら、凍結した道路に倒れ込む。

 

「わっ…君月くん、ありがとう!」

 

何とか氷面に接触せずに済んだ与一が君月にお礼を述べる。

 

当の君月は強く打ちつけた背中を抑えた。

 

「いや、別にそういう訳じゃ…」

 

「ありがとう!ごめんね!そしてさようなら!君月くん!」

 

「いや勝手に殺すな」

 

君月の話など聞かず、与一はお経まで唱え始めた。

 

同時にシノアがグッと親指を三葉に立てる。

 

「やりましたね、みっちゃん」

 

 

「私を共犯にするな」

 

「やってやりましたぜ、ボス」

 

「主従関係を生めとは言ってない」

 

三葉がシノアの頭を鋭くチョップした。

 

いたっ、とシノアが痛覚に耐える声を漏らす。

 

与一と君月も、お互いため息をつきながらその場に上体を起こした。

 

「やれやれ…これで全員か?」

 

君月が腰を抑えながら立ち上がる。

 

強く打ってしまったらしく、サスサスと腰を撫でていた。

 

それはまるでどこかの老婆のように見えて、思わず三葉は吹き出しそうになる。

 

危うく共犯と自ら疑われかけた。

 

「君月さん、優さんの存在を忘れてますよ」

 

シノアがニヤー、とにやけ顔で言葉を返した。

 

どうやら、作戦が成功した優越感にまだ浸っているらしい。

 

「そうか、あいついたんだっけ」

 

君月は特に憤りもなく普通にシノアの言葉に返答した。

 

恐らく、シノアの犯行であることには全く気づいて無いのだろう。

 

「今年初めてだからねー。優くんは」

 

与一が何事もなかったように笑いながら会話に入ってくる。

 

凍結した路面も恐ろしいが、シノアの完全犯罪の効果も恐ろしい。

 

この二人がほとんど気にしていないのもある意味恐ろしいが。

 

そして、この二人がターゲットとして狙われた以上、一番遅いあの少年も目標として捕捉されるのだろう。

 

人間の執着心というのは侮れないものだ。

 

一度成功したことを何度も続けようとする執着心。

 

利点もあれば欠点もある、なかなか調整の難しい感情だ。

 

実際、失敗をすれば飽きられたように捨てられる。

 

まだ可能性を秘めていたとしても。

 

逆に、何度も上手くいくものはいつまでも愛される。

 

効果が無くなればすぐまた捨てられるのだが。

 

人間の好き嫌いや向き不向きというのも、同じ人間からしてもよくよく考えればなかなか恐ろしい。

 

だからこそ、『もったいない精神』を持つことは難しい。

 

人々の感情は、ボタンやレバーで精密に動かないのだから。

 

必ず、故障という『飽き』も、すぐやってくる。

 

「みんなー!わりぃ待たせたー!」

 

そうこうしている間に、優が向こう側から走ってきた。

 

シノアたちの前に、鮮度抜群のよく滑る氷があるとも知らずに。

 

「優さーん、こっちですよー」

 

棒読みの下手な演技を優に演じる。

 

普段はあまり感情を表に出さないシノアでも、本性を一度表せばしばらく消えることはない。

 

「今行く!」

 

それに気づけないただの『鈍感』男。

 

どう見ても悪意しか見えない憎悪の塊のようなシノアを目撃しても、何の抵抗もなく近づいてくる。

 

そして、ついにカウントダウンが始まる。

 

新年……ではなく、優が氷に到達するまでのだが。

 

氷まで、

 

 

 

 

残り、5m。

 

 

 

 

 

4m。

 

 

 

 

 

3m。

 

 

 

 

 

2m。

 

 

 

 

 

1m。

 

 

 

 

 

0m。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優の足が、氷に到達した。

 

「うおっ!?」

 

案の定、優の足は氷に沿ってスケートのように滑り出す。

 

しかし、今回は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

「わっ」

 

「おいっ」

 

「ちょっ」

 

優が、四人に向かって前倒しのまま突っ込んでいく。

 

四人も予想だにしなかった、優のタックルパターン。

 

計画していたシノアでさえ、このパターンには呆気にとられた。

 

「……えっ…」

 

優が苦笑いしてシノアたちに勢いよく接近する。

 

その距離は確実に縮まり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

接触した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ!?」

 

「きゃっ!?」

 

「ぐはっ!?」

 

五人が同時に雪の上に倒れ込む。

 

たった一人、不幸な男を土台にして。

 

「痛いですよ優さん…」

 

「優くん…ひどいよ…」

 

「別にわざとじゃねーよ!?」

 

「俺はまた下敷きか」

 

「下敷きみたいなもんだろ、存在そのものが」

 

「あぁ!?誰がコケたせいだと思ってんだ!?」

 

「うわっ…優!君月!暴れるな!」

 

「いたたた…痛いよ君月くん!」

 

「ゆ、優さん!変なところ触らないでください!」

 

「は!?俺は君月しか触ってねーよ!?」

 

「今俺の名前とその『触る』とかいうワードを使うな!誤解を招く!」

 

「優さん優さん!そこスカートの中です!」

 

「え!?俺はホントに違…うわっごめんシノア!」

 

「え!?優くんホントだったの!?」

 

「優…女子に手を出すとは…」

 

「いや、与一と三葉!これは事故で…」

 

「うわぁぁぁ!優さんのバカぁぁ!」

 

「シノア!俺の上でジタバタすんな!」

 

「わわわわわわわ…」

 

「ちょっ…みんな落ち着いて!」

 

全員が倒れたままで、なかなか起きあがることができない。

 

ギャーギャー、と人の目も気にせず大声で叫び続ける。

 

近くを通りかかった老婆に、『微笑ましいねぇ』とにこやかに見られたのは、また別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新年まであと二時間を経過したところ。

 

除夜の鐘を鳴らす人の行列も、少しずつ増えてきた。

 

現在優たちは、そんな行列の前から三番目に立つ。

 

彼ら自体結構早めに神社に集合していたため、特に混雑することなく鐘を鳴らす順番に並ぶことができた。

 

実の優たちはというと。

 

「ごめんってシノア…」

 

妙に重々しい空気が漂っていた。

 

シノアが無言で顔を逸らし、優はひたすら謝り続ける。

 

どうやら先程起こった事故をシノアはまだ引きずっているらしい。

 

「ホントありえませんよ優さん…女子への変態行為に走るなんて…」

 

シノアが赤くリンゴのように赤面しながら本人の優に愚痴をこぼす。

 

本気で怒っている、というわけではないが、かなりそれ相応のショックは感じているようだ。

 

「次やったら絶対許しません。あと、十万はしっかり払ってもらいますよ」

 

「十万!?マジかよ…アルバイトでもギリギリだ」

 

「ちなみに利子と消費税は込みです」

 

「ちょっと銀行行ってきます」

 

勝手に決められたことだというのに、優はあっさり銀行に向かい出す。

 

折角並んでいたのにどこに行く、と三葉に捕まったが。

 

「はぁ…こんなことになるならあんな事しなければ良かったです…」

 

シノアが自分の悪行にようやく後悔する。

 

かなり今更だが、元はと言えばシノアの考えた策略が原因だったのだ。

 

「お前…その事はもういいだろ。煩悩と共に忘れろよ」

 

「君月さんに女子の何がわかるんですか!家事ができるからって女子力高いアピールはしないで下さい!」

 

「女子力アピールする男なんてよっぽどのバカかただのオカマくらいだ」

 

君月のフォローも虚しく、今のシノアには何の慰めの言葉も通用しない。

 

ここまで引きずるのもなかなか過剰意識であると言える。

 

「あ、順番だよ」

 

与一の声と同時に、ついに優たちの番がやってきた。

 

優たちの目の前に、ずっしりとした、歴史を感じさせる鐘が近づいた。

 

先程君月が述べたとおり、除夜の鐘は人の煩悩を新年に向けて祓うことを目的とした鐘である。

 

人間には108の煩悩が存在しており、それらを鐘で鳴らすことで怒りや欲望、執着心を消し去って、爽やかに元旦を迎えられる、というわけなのだ。

 

勿論五人それぞれに忘れたいことはいくつかあるのだろう。

 

さっき起こったことを忘却したい、と望む者もいれば、今年一年苦しかなかったな、と全てを忘れ去りたい者もいる。

 

十人十色。人数合わせれば五人五色。

 

誰もが同じ事を忘れたいとは限らない。

 

一人一人の忘れたいことには、個性があって分かりやすいものだ。

 

「じゃあ、かけ声合わせるぞ」

 

三葉が他四人に声をかけた。

 

全員が木の棒をくくりつけた紐を掴むと、鐘と反対側に勢いよく引く。

 

これ以上は引けないと言う位置まで。

 

「いっせーのーでっ!」

 

そして五人が息ぴったりに声を重ね、思い切り鐘に木の棒をぶつけた。

 

グワァァン、と今日一番に大きな音が鳴り響く。

 

予想以上に大きな音に、群衆が一瞬どよめいた。

 

すると。

 

パンッ、と、息のあった手を鳴らす音が二つ響きわたる。

 

「!」

 

君月がそれに気づき、隣を振り返る。

 

それに合わせて、与一と三葉も視線をその方向へ向けた。

 

「…?」

 

三葉が不審そうに隣の二人の顔を覗く。

 

優とシノアが、手を合わせて何かを祈っていた。

 

その顔はどこか期待に膨らみ、どこか不安に満ちている。

 

「何をしてるんだ?優たちは」

 

三葉は与一と君月の方に顔を向け、状況を問いかけた。

 

そんな間でも、優とシノアは何かを祈り続ける。

 

煩悩を忘れる日に、延々と手を合わせるあたり、とにかく忘れたいことがあるのは目に見えているが。

 

「…どうしたんだろう?」

 

与一が苦笑いしながら優たちをもう一度見る。

 

やはりその顔からは心情は伺えない。

 

「どうでもいいだろ。どうせさっきのこと引きずってんだろ」

 

「あぁ…なるほど…」

 

君月の面倒そうな推測に、察したように与一が頷いた。

 

 

優とシノアは未だ無言ではあるが、図星に見えなくもない。

 

というより、ほぼ的中はしていた。

 

「こいつら置いて、さっさと屋台いこうぜ。このままじゃキリねえよ」

 

いつまでたっても二人は動かない。

 

君月が限界とばかりに歩きだした。

 

「そうだね。怒られるのは嫌だし」

 

与一も同意して君月の後に続く。

 

三葉も言葉こそ発しはしなかったが、さすがに長すぎると見て二人に従った。

 

三人がいなくなっても、なかなか二人は動こうとしない。

 

ついには群衆から遅いと野次が飛んできた。

 

それに耐えきれなくなったのか、住職が二人に近づく。

 

「あの…お二人共、何かを忘れたい気持ちはわかるけど…」

 

「ああああ!もう!忘れるのって難しすぎだろ!」

 

 

優が話しかけた住職を無視して大声で叫んだ。

 

その声に驚き、住職は一瞬たじろぐ。

 

シノアは未だ動く様子が見えなかった。

 

すると突然、優がお坊さんに顔を向ける。

 

「あの!お坊さん!」

 

「は、はい?」

 

人を無視しておきながら、半ばやけくそに住職に話しかけた。

 

住職は訳がわからず混乱しながら、とりあえず返事だけをする。

 

しかし優は忘れられないストレスのせいか、顔がかなり強ばっていた。

 

住職は髪のない頭から冷や汗が垂れる。

 

そして、優がようやく口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を鐘の代わりにしてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

住職と言えど、当然の反応だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五人が二人と三人に分かれて、少し時間がたった頃。

 

結局住職に叱られた優とシノアは、どんどん賑やかになっていく屋台の道をゆっくり歩いていた。

 

今日はいつも以上に月がよく見えて、優たちのいる神社にも綺麗に光を反射している。

 

毎年恒例とはいえ、やはり来てみればおもしろみがあるものだ。

 

「優さん、次は何を食べたいですか?」

 

シノアが共に歩く優に問いかけた。

 

もうどうやら三人を探すのは諦めたらしい。

 

「俺?んー…何でもいいけど、今はとにかく遊んでみたい」

 

優が一瞬考える素振りをしてから、手の位置を変えて銃を撃つ真似をした。

 

どうやら射的を表しているらしい。

 

なかなか分かりやすいハンドサインだ。

 

「じゃあ…あれやってみます?」

 

シノアがニヤッと笑って何かを指さした。

 

優はその方向をみた瞬間、おぉ、と少し嬉しそうに顔を緩ませる。

 

赤い魚。弱々しい網。元気な屋台爺。

 

そう、金魚すくいだ。

 

「へぇ…懐かしいな」

 

優の顔を見ている限り、かなり期待度が高いのだろう。

 

シノアも無意識に心が暖かくなった。

 

「へい、らっしゃい!」

 

案の定いい年こいた屋台爺が楽しそうに挨拶してきた。

 

金魚の量はなかなか多く、これなら初心者でも簡単に捕ることが出来そうだ。

 

「おじさん、一回お願い」

 

優が屋台爺に一ゲーム頼んだ。

 

看板に書かれてるとおり、二人分で200円を渡す。

 

一回100円とは結構金銭的においしいものだ。

 

「あいよっ。それじゃあ網は一人三つ。何匹取れるかな?」

 

無駄にノリノリな屋台爺。

 

老後が心配になってくる性格だ。

 

「優さん、ゲームということは、もちろん罰ゲーム、ですよね?」

 

シノアがニヤーッと悪意に満ちた笑みを見せた。

 

先程のにやけ顔も、結局そういう意味だったのだ。

 

「マジかよ…絶対無理なものは買わせるなよ」

 

優が苦笑いしながら返答した。

 

粗方予測はしていただろうが。

 

「わかってますって!じゃあ、向かいのたこ焼き屋で一パック奢りってことで」

 

シノアがいつになく張り切っている。

 

たこ焼き争奪戦。

 

思った以上に低出費で助かるな、と優は内心密かに感じた。

 

二人が片手に一つ網を構え、もう一方に器を持つ。

 

そして…

 

「それじゃあ、スタート!」

 

シノアのかけ声と共に、二人の手が動いた。

 

まずはお互い一匹目を狙う。

 

優がめがけたのは黒いデメキン。

 

狙った理由は単にレアっぽいから。

 

優らしい、素朴で単純な理由である。

 

洞察力と瞬発力を存分に使い、デメキンに全力で網を近づけた。

 

ただ、悪魔で『全力』。

 

水に入れた瞬間、一瞬で網が破れた。

 

「えっ!?」

 

思えば優は、金魚すくいをやるのは数年前以来。

 

少なくとも、小学生以下であったことは確かだ。

 

「兄ちゃん、少し力みすぎだぞ」

 

「う、うっさい!」

 

屋台爺からのよけいなちょっかい。

 

これもまた、金魚すくいの定番と言えるだろう。

 

「もっとゆっくり…ゆっくり…」

 

優が慎重にそーっと水の中に網を入れる。

 

しかし、余りに遅すぎて逆に金魚に逃げられた。

 

「くっそ…難しいなこれ…」

 

優が悔しそうに弱音を漏らす。

 

そして、ふとシノアの様子を見てみた。

 

そのシノアは。

 

「よっと」

 

ポチャンと器に金魚の二匹目を入れていた。

 

まだ網は一つも破れていない。

 

「なっ!おまえ凄いな」

 

優が素の声で驚愕する。

 

それを聞いたシノアは、ニヤッと再び不適な笑みを浮かべた。

 

「ふふふ…この天才シノアちゃんに出来ないことはありません」

 

挙げ句の果てには自慢げに器を優にちらつかせて言葉を言い放った。

 

中の金魚が踊るように器の中を泳ぐ。

 

「お、俺だって!」

 

優が焦って網を水に突っ込んだ。

 

かろうじて網は破れなかったが、金魚はひらりと網をかわす。

 

「ふふふ…勝負ありですね」

 

シノアはすでに勝利を確信していた。

 

というより、誰から見ても決着は目に見えているが。

 

「くぅ…あ!こいつノロマだ!」

 

優が動きの遅い金魚を狙いにいった。

 

動きが遅いのは弱っているからに決まっているが、そこを理解しない優は容赦なく網を近づける。

 

もう少しで金魚に届きかけた、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピタッと優とシノアの手が接触した。

 

シノアがその感触に気づき、視線をその方向に向ける。

 

確かに、優と手がぶつかっていた。

 

「ふぇ!?」

 

シノアの手から、優の熱が伝わる。

 

シノアの体温はどんどん上がっていき、顔が沸騰したように赤くなった。

 

状況を理解し、慌てて勢いよく手を離す。

 

それと同時に網が破けた。

 

しかし、そんなことはシノアにはどうでもいい。

 

ただ、手がぶつかっただけ。

 

シノアは、ただそれだけでここまで意識してしまった。

 

ふと、優に顔を向ける。

 

どうやら二枚目も破れたらしく、悔しそうに苦い顔をしていた。

 

…全く気にしていなかった。

 

シノアはほっとしたような、残念なような、妙な気分に陥る。

 

自分だけ意識していた、という事実を知ると、ますます恥ずかしくなり顔が赤面していった。

 

すると。

 

「シノア」

 

優が突然話しかけてきた。

 

「ふぁ、ふぁい!」

 

シノアは驚きのあまり思わず二枚目の網を水に落とす。

 

網は切なく水中で破れていった。

 

「網全部破れちゃった…ハハハ。俺負けたし、今たこ焼き買ってくるわ」

 

優が器をシノアに見せてきた。

 

確かに一匹も金魚は入っていない。

 

網も一つも余っていない。

 

優は屋台爺に器を返そうと、すぐに立ち上がる。

 

その時のシノアは、妙な気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝ったのは嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

けど、何となく寂しい気分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何となく悲しい気分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優に対してシノアは、何故か申し訳ない気持ちが出てきてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、もう一つの気持ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優と離れたくない、という気持ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知らないうちに芽生えていた感情が、心の中で溢れててくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、シノアが気づいた時には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優の器を返す腕の袖を、掴んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シノア?」

 

優がキョトンとしてシノアの名を呼ぶ。

 

それでもシノアは無言のまま、優の器を手に取った。

 

そして、残り一個の網を使って、自分の器から金魚を一匹すくい出す。

 

金魚が網の上で跳ねたせいで、網に亀裂が入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破れると同時に、優の器の中に、金魚が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで…引き分けです」

 

シノアが俯いたまま、静かに優に告げた。

 

優は少し驚きながら、シノアの顔を見る。

 

顔は真っ赤に染まって、暖かい熱を帯びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人で…食べませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さくシノアが言った、一文。

 

月が南中した、午後11時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノアと優の距離が、ほんの少し近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たこ焼きを二人で買った優とシノアは、神社の階段で隣り合わせに座っていた。

 

ホカホカとできたてのたこ焼きが、冷たい空気の中に湯気をたたせる。

 

ハムッ、とシノアは一つ、口の中に爪楊枝でたこ焼きを運んだ。

 

「ふぅ…なかなか美味しいものですね」

 

シノアがしみじみと何かを悟りながら優に話しかける。

 

既に神社には、新年を待ち望んでウキウキしている人が数多くいた。

 

「そりゃたこ焼きだからな」

 

優が意味のわからない理屈を述べる。

 

優にとってはたこ焼き=美味しいの方程式が成り立っているらしい。

 

「新年まであと10分ですね」

 

シノアが自分の携帯を見て残りの時間を簡潔に告げる。

 

優も携帯を確かめると、確かに時計は午後11時50分を示していた。

 

「…今年一年も終わるな」

 

優がはぁっ、と息を吐く。

 

冷気に包まれた暖かい息は、白く空気にとけ込んでいった。

 

「優さんはまだ来て一週間もたってませんよ」

 

シノアがもう一つたこ焼きを口に入れて、もぐもぐと噛んで飲み込んだ。

 

その通りに、優はクリスマスにここに来たばかり。

 

一年もここにいたわけではない。

 

「いや、俺にとっては一年分くらい過ごした気分だけどな」

 

優が笑いながらそう答える。

 

時間は新年まで残り5分を示していた。

 

「なんか、お前らに会えてよかったよ。今俺すっごい幸せだと思う」

 

優が楽しそうに話すのを見て、少しシノアは顔を赤くするが、すぐに表情を元に戻す。

 

そして、いつものようににやけた顔で、口を開いた。

 

「ははぁ。優さんってツンデレなんですね」

 

「はあ!?」

 

ニヤニヤと定番の嫌味を言い放つ。

 

こうやって毎回反応してくれる優だからこそ、一緒に話すのはシノアにとって面白い。

 

「ふふふ…冗談ですよ。優さんはホント鈍感ですねぇ」

 

「お、お前なぁ…」

 

シノアの述べた言葉に、優は呆れたようにため息をつく。

 

時間は残り一分となり、神社は少しずつ騒がしくなって来た。

 

「…でも、ホントにお前らといると楽しいんだよ。嘘でもデレでもなく。純粋に楽しいんだ」

 

優が再び微笑んで、さっきと同じようなことを繰り返した。

 

シノアも少し間をあけた後、フフッ、と優と同じように笑った。

 

「私もですよ。優さん」

 

他人には殆ど見せない、とびきりの笑顔で。

 

どこかで、大声でカウントダウンする声が聞こえる。

 

間違いなく、時間は残り10秒を示している。

 

「そろそろだな」

 

「はい」

 

新年が一秒一秒近づくにつれて、シノアの心臓がドクンと鼓動する。

 

その音は、耳には聞こえずとも少しずつ大きくなっていき、自然とカウントを減らしていた。

 

新年まで残り、5。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2。

 

 

 

 

 

 

「シノア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1。

 

 

 

 

 

 

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0。

 

 

 

 

 

「今年もよろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノアの心臓の鼓動が、一番大きく揺れて、

 

 

 

 

 

 

 

ついに新年が、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!こ、こちらこそ!」

 

シノアがドギマギしながら新年の挨拶を返す。

 

一瞬何を言われるか心配で、言葉を返し損ねるところだった。

 

「よかったー。新年最初はシノアに挨拶しようと思っててさ」

 

優が優しく笑って言葉を返した。

 

その言葉に、シノアは一瞬で赤面する。

 

「…えっ!?」

 

「あ、与一たちだ。オーイ」

 

シノアの動揺にも気づかず、優は走ってくる与一たちの姿向けて手を振った。

 

そこに与一たちが近づいてくる。

 

「優くん、シノアさん。あけましておめでとう!」

 

「おう!おめでとう!」

 

「お、おめでとうございます」

 

「?シノアさん顔赤いよ?」

 

「風邪か?」

 

「いや、そういうわけではなくて…」

 

「あけましておめでてう、だ。優。シノア」

 

「うっす三葉。おめでとー」

 

「ぉ、おめでとうございます。みっちゃん」

 

「?シノアの顔が赤いな」

 

「だよね三葉さん」

 

「そんなに赤いですか!?」

 

「なんだよ…折角新年だってのにうるせぇな」

 

「君月…ホントKYだな」

 

「あぁ!?こっちはお前ら探すのにどんだけ時間かかったと思ってんだ!」

 

「はぁ!?元はといえばお前らが置いてったからだろ!?」

 

「あーもー!優くんと君月くん喧嘩しないでよー!」

 

「そうだぞ君月。落ち着け」

 

「俺だけ!?」

 

「というよりシノア、体調でも悪いのか?」

 

「え!?」

 

「確かにお前さっきから喋ってねぇな」

 

「あ…いや…」

 

「どうしたんだよ?」

 

「な、何でもないんです!」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識するたび、少しずつ、鼓動が早くなっていく。

 

動揺も大きくなり、何となく恥ずかしくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、その特別な感情に彼女は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だ自覚がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、とあるお話。

 

とある住人たちが迎える、迎春を紡ぐ物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らは昨日まであった煩悩など、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかり忘れていた。

 





おつかれさまでした。

ね?『一応』真面目だったっしょ?

やっぱいいねー。青春は。

自分恋愛モノ嫌いではないです。

そろそろもう一個の作品(MOP)も恋愛入れてきたいけどなー。

なんか…ホント霊夢と咲夜で迷うんだよね。

ま、どっちも駄作になるのは目に見えてますが。

何度もいいますがこっちは息抜き小説なんで更新遅いです。

たまーに書くくらいなんで。

ゆったり見てください。

ではでは。またね!

-追記-
テスト故、2/2まで投稿休止しています。


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●五人目-値段の黄金比-


はい。お待たせしました。

コンソメでございます。

今回はおふざけパートとなりました。

シリアスまたは恋愛待っていた方は申し訳ありません。

ホントにこっちは息抜き小説なので。

基本こういったほのぼのしか投稿しません。

今回は優とシノアがまったり会話しているだけです。

ほとんどあの三人は出てこないです。(若干飛び出てくるところはありますが)

ホント短いので気楽にみてください。

文も台詞しか記入してないので。

では、どぅぞ。


 

優「ん?シノア何だそれ?」

 

シノア「はい?」

 

優「いやだからそれだよ、それ」

 

シノア「この折れかけの爪楊枝のことですか?」

 

優「何でそんなゴミがそこにあんだよ。違うって。その隣に置いてる段ボール箱のことだよ」

 

シノア「これですか?これはただ君月さんを詰め込んだ箱です」

 

優「何か事件起きてるんだけど」

 

シノア「実はこの爪楊枝で黒ひげ危機一髪をやろうと思ったのですが…」

 

優「どんな趣味?」

 

シノア「何故か内部からへし折られました」

 

優「やるな君月」

 

シノア「折角君月さんが苦痛で飛び出す瞬間が見られると思ったんですけど…」

 

優「まず考えが危ない」

 

シノア「てことで次はこのアイスピックで試してみようかと」

 

優「おまわりさぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノア「これはあれです。電気ストーブですよ」

 

優「よかった君月ステーキじゃなくて」

 

シノア「最近リビングも冷えるので…今年の冬対策のためにと買ってきました」

 

優「確かに…最近妙に寒いもんな」

 

シノア「色々多機能ついてますから…使い勝手自体は問題ないと思います。ま、20000円もしたんですから。当然の結論ですよね」

 

優「うわぁ、20000…高すぎだろ…因みに支払いは誰が?」

 

シノア「すべて私ですよ」

 

優「マジで!?すげぇなお前!」

 

シノア「勿論皆さんにも後で払って貰いますが」

 

優「ですよねー」

 

シノア「あ、優さんにはしっかり12000払って頂きますよ」

 

優「はぁ!?」

 

シノア「比率で言えば6:1:1:1:1。優さんはそのうちの6です」

 

優「いやいやいやいや。ほぼ押し売りじゃねーか」

 

シノア「加えて初回契約費ということでもう1500円プラスです」

 

優「何でお前が売ったみたいになってんだよ」

 

シノア「さらにさらに今回は送料(私が運んだ労力分)もお付けします」

 

優「消費者基本法完全無視か」

 

シノア「いいじゃないですかー。この位。お買い得ですよ」

 

優「お買い得したのはお前らだけだ」

 

シノア「そんな気にしなくても…所詮12000円と2000円の違いじゃないですか」

 

優「どう見ても圧倒的だろ!?お前6倍の差なめるなよ!?ミドリムシだぞ!?そいつらのここ五年間の販売完了総数だぞ!?」

 

シノア「何故ミドリムシ」

 

優「頼むよ…せめてお前ら全員で14000円分、俺が6000円の7:3にしてくれよ。いいだろ?お前ら一人で3500円なんだから」

 

シノア「何ですかその七三分け」

 

優「あれだよ。奇跡の黄金比。よくよく考えてみろよ。前髪があんなにまで整えられてる髪型はそうそうねーだろ」

 

シノア「まあ…唯一無二とまではいきませんが確かに鬱陶しくはないですよね」

 

優「だろ?先祖が生み出した奇跡の前髪だろ?」

 

シノア「七三じゃないのにべた褒め?」

 

優「お前は嫌いなのか?結構現代でもいるだろ。十代の中にだって」

 

シノア「十代昭和臭っ!」

 

優「まあ安心しろって。少なくとも俺は七三にはしないから」

 

シノア「どこに安心する要素が?」

 

優「いやお前七三がショウガ臭いとか言うから」

 

シノア「優さん『臭い』の意味を勘違いしてます。あとショウガって何ですか」

 

優「…てか正直思ったんだけど」

 

シノア「?」

 

優「そんな面倒な事しなくても君月に全額払わせればいいじゃん」

 

シノア「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノア「それもそうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君月「…っ」ブルッ

 

与一「ん、どうしたの?君月くん」

 

君月「いや…なんか悪寒が…」

 

与一「オカン?お母さんの霊にでも呪われた?」

 

君月「お前さりげなく凄いこと言ったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノア「てかこのストーブいつ取り出しましょう」

 

優「今でしょと言いたいところだが…今回話題も作者のスタミナも大分終盤に近いし、このまま次回でいいだろ」

 

シノア「生々しい話題止めません?」

 

優「それでいいよな?作者」

 

コンソメ「おう。俺は今非常に膝の関節のあたりが痛いのでな」

 

シノア「執筆に膝関係あります?」

 





終わりー。

はい。これだけです。

何度も言いますがこちらは「息抜き」なので。書く側も気楽に書いてます。

ただ、あくまで「基本は」なので、たまーに恋愛要素等が出て文も頑張ってることがあります。

真面目パートが読みたい方はしっかり目次をご覧になってから話を読んでみてください。

ちゃんと詳細は書いてあるので。

以上、膝の裏を机にぶつけて悶絶中のコンソメがお送りしました。


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●六人目-比較級と最上級-

ども。コンソメです。
受験終わってようやく投稿できました。
しかし…今回もおふざけパートと…
なんか申し訳ありません。
今ちょっとメイン小説のMOPがコラボってことで色々忙しいんですよ…
もしかしたらコラボしてる間は真面目パート書かないかもしれません。
ホントごめんなさい!この通りだ!
orz≡3(ダイナミック土下座であり決してお○らではない)

それでも良いって方、見て下さるととてもありがたいです。
では、どぞ。


 

優「ぬー…難しい…」

 

君月「何だよ急に」

 

優「いや、なんか中学で習ったはずの英語が滅茶苦茶難しいんだよ」

 

シノア「ぷくく…相変わらず優さんは優さんですよねぇ~」

 

優「な…なんだよ!じゃあお前らはわかるのか!?」

 

君月「まず何の単元か見せて見ろよ…ん?『比較級と最上級』?」

 

優「ああ、それそれ。なんか形容詞だか何だかが変形するみたいなんだけど、形容詞ってのがよくわからなくて…あと変形の形もだ」

 

君月「変形って聞いてトランスフォーマーを連想した俺を許せ」

 

優「は?何言ってんだ?」

 

君月「すまん。自分でも分からん」

 

優「そうか」

 

シノア「形容詞の判断基準は簡単ですよ?まず、物や人の様子または感覚を表していて…単語の最後の文字は、必ず「~い」になるんです」

 

優「具体的にはどんなのがあるんだ?」

 

シノア「例えば…『醜い』だとか『儚い』とか『虚しい』とか…」

 

君月「もっと明るい単語を使え」

 

シノア「あとは『家庭』とか」

 

君月「それは明らかに名詞だろ」

 

優「え、じゃあ『ヤバい』とかは?」

 

シノア「あんまり使われない単語ですけど…まあ間違ってはないです。大方君月さんと残菜の違いです」

 

君月「おい」

 

優「なるほど」

 

君月「納得!?」

 

優「じゃあこの…変形した形ってのは?」

 

シノア「基本的に…比較級には『er』、最上級は『est』が使われますね。場合によって前の文字が変化することもありますけど」

 

優「例えばどんた使い方なんだ?」

 

シノア「まず、マイナーなのは『fast』『faster』『fastest』、『hot』『hotter』『hottest』とかですかね。その他も様々ありますが」

 

君月(…)

 

優「ああ…じゃあ『big』なら『bigger』『biggest』ってことか」

 

シノア「そうですね。じゃあ『小さい』の場合は?」

 

優「『small』『smaller』『smallest』か?」

 

シノア「いえっす。正解です」

 

優「ほうほう…」

 

シノア「じゃ、『優しい』の場合はわかりますか?」

 

君月(何か普通に真面目だな)

 

優「…『yasasy(やさしい)』『yasasyer(やさしぇー)』『yasasyest(やさしぇすと)』」 

 

君月(前言撤回)

 

シノア「違いますよ。じゃあこっちの『易しい』は?」

 

優「『yashasy(やしゃしい)』『yashasyer(やしゃしぇー)』『yashasyest(やしゃしぇすと)』」

 

 

シノア「どこも変わってないじゃないですか」

 

優「いや、『やさしい』の『さ』が『しゃ』になった。ちょっと可愛くなった」

 

君月「無駄に女子力高っ」

 

シノア「そんなこと言ってたら名詞の『残菜』だっていくらでも変形できちゃうじゃないですか」

 

優「ああ、『kimizuki(きみづき)』『kimizukier(きみづきゃー)』『kimizukiest(きみづきぇすと)』」

 

君月「なぜそうなる」

 

優「だってお前さっき残さi くぁwせdrftgyふじこlp」

 

シノア「はあ…じゃあ残菜やめて残飯にします」

 

君月「そういう問題じゃねぇだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

三葉「へぇ…最近の電気ストーブには『首振り機能』なんてついているんだな」

 

与一「早速やってみようよ」

 

三葉「そうだな」ポチッ

 

 

→→→ウイーン

 

 

 

 

←←←ウイーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三葉「こ…こいつは一体何を拒絶しているんだ…!?」

 

与一「きっと『私は環境を破壊する醜い人間のために在るのではない』って言ってるんだよ」

 

三葉「そ…そうかなるほど…い、色々すまなかったストーブ…これからは身の回りに気をつける…」

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり。




はい終わりぃ。
何にもなかったな。内容という内容が。
かなり難しいな…最近ネタが思いつかないんですよ…
一種のスランプというか…そういう感じですかね。
決して執筆が嫌になったわけではないですが、どうしてもネタが思い浮かばないんですよなぁ…

もし『こういうのが見たい』って場合は是非ご連絡下さい。
真面目パートでもおふざけパートでもどちらでもかまいません。

ぬー…悩む…


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