織田信奈の野望 〜乱世に迷いし少年〜 (ふわにゃん二世)
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原作開始前
プロローグ


織田信奈の野望の二次創作です。
頑張っていきます。

2016/02/22
多大なる矛盾が感想に寄せられたので大編集をしました。


「ふわぁ〜やぁっと終わったか」

 

授業終了のチャイムが鳴り、俺長谷川長門は鞄を持つと学校を後にした。今日は帰りにゲーセンでも寄っていくか。今日は何やろうか、格ゲーにするか、確か新しい台が入るっておやっさんが言ってたよな。うむむ………今から迷うな………

 

「おーい長門、一緒に帰ろうぜ」

 

俺が思考の渦にハマっていた時に俺の親友、相良良晴が後ろから声をかけてきた。こいつは歴史ゲームとかが好きで、いつもその話で盛り上がる。さもいう俺も歴史が少し好きだったりする。ちなみに良晴は「信長の野望」派で、俺は「戦国無双」派だ。

 

「別にいいが、今日俺ゲーセン行こうと思ってたんだが」

 

「じゃあ俺も付き合うよ。勝負しようぜ」

 

「ふっ、随分と威勢がいいな。まだ俺に一度も勝ててないくせにな」

 

「う、うるせーな!今日こそ勝ってやるよ」

 

と笑いながらゲーセンまでの道のりを親友と笑いながら歩く。

この時は思ってもいなかった。この後に待っている悲劇に

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは駅前のゲームセンターに来ていた。ここにはメダルゲームからUFOキャッチャー、格ゲーにスロット、その他諸々………

駅前だからか平日だというのにかなり盛況だった。ゲームセンター特有の響くようなサウンドと、ほのかに香る煙草の臭い。

俺と良晴はゲーム台を物色しながら歩いていた

 

「さて、じゃあまずは何で勝負するか」

 

「まずはガンシューティングのスコアで対戦しようぜ」

 

「ふっ、俺の実力を見せてやる」

 

俺は銃を手に取りニヤリと笑った。

 

 

 

一1時間後、結果は俺の圧勝だった。シューティングゲームの他にも、音ゲーや格ゲー、UFOキャッチャー等、俺は良晴を完膚なきまでに叩きのめしてやった。

 

「だぁーくそー!強すぎんだろ長門」

 

「お前が弱すぎるだけだっつの」

 

頭を掻き毟る良晴を無視しながら俺は戦利品であるいちごオレを飲む。

 

「さて、そろそろ帰るか」

 

「そうだな」

 

それなりに楽しんだ俺たちは変えることにした。

しかし、

 

ーザクッ‼︎ー

 

「ぐっ⁉︎」

 

俺の胸には鋭利なもので刺されたような痛みがあった。ナイフで胸を刺されたのだった。

 

「長門⁉︎」

 

「くそ………がぁ‼︎」

 

俺はナイフを持っていた男をぶん殴った。男は吹き飛んだが、俺は体に力が入らず、その場に倒れてしまった。しかも前に倒れたせいで胸に刺さっていたナイフはさらに深く刺さってしまった。

 

「あがッ‼︎」

 

「おい!しっかりしろよ‼︎長門‼︎おい‼︎…………」

 

やべぇ、目が霞んできやがった。耳も遠くなってくるし、なんかいろいろと見えてきたし、これが走馬灯って奴なのか?

あぁ、もう駄目だ。

そして俺の意識はそこで潰えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




取り敢えずここまで!
誤字、感想お待ちしております!


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緋村家?聞いたことのない

今回はオリジナル大名が登場します。
史実とは相違点などがありますがあしからず



 

 

長谷川長門は目を覚まして見た光景にかなり驚いていた。目を覚ました場所が病院や自宅、あるいはナイフを刺されたゲームセンターならいざ知らず、目を開けて最初に目にしたのが木造建築の天井だったのだ。しかも着物を着た女性の腕の中にすっぽりと収まっている。まるで別世界のような感覚に長門は陥っていたのだ。

そして自分の体のがきかなくなっていたのだ。ナイフに刺されたならばここまで体の自由が奪われることはないはずであるからだ。精々傷口が痛むだけのはずである。そして彼の体が思いの外小さくなっていること。そして彼は己の状態に気付いた時にはとてつもなく驚いていた。

 

(俺、赤ん坊になってるー⁉︎)

 

そう、彼は赤ん坊になっていたのだ。しかも前世の記憶を持ったまま。

彼はアニメやライトノベルなどの類いのものを見ていた為、転生をしてしまったと直ぐに理解していた。

 

(仕方ない、俺はここで生きていかなければいけ無いんだし……)

 

そう長い時間の葛藤の後、そう自己完結し、再び眠りについた。

 

 

長門が転生したのは戦国時代であった。そして、転生してから十年が経ちいろいろとわかってきたことがある。長門が産まれたのは美濃国、黒野に勢力を持つ、緋村家という史実では聞いたことのない大名家に生まれたのである。この世界では緋村家は黒野の豪族であり美濃の国主、土岐氏に対抗する勢力であったが、土岐氏の家臣である斎藤道三が下剋上をし、美濃を奪いとってからは彼とは同盟という形で彼の下に降ったのである。

そんな緋村家当主、緋村長隆の三男として長門は生まれたのである。

そして長門は今は兵法の勉強をするため、兵法書を読んでいた。そこにズカズカと大きな足音が近づいてきた。

 

「おお!千熊丸、ここにおったのか! どれ、久しぶりに兄が稽古を付けてやろう」

 

足音の正体は彼の兄で長男の隆成である。彼は背丈が180センチと大柄でその体格に相応しい武力を持ち、兵を指揮する能力も優秀であるが、知力にやや欠けるところがあるらしい。

 

「あ、兄上。今私は兵法の勉強をしようと……」

 

「なに、案ずるな。勉強などいつでも出来る。ほら、表へ出よ。稽古じゃ」

 

隆成に引きずられる形で長門改め千熊丸は庭に連れて行かれていった。

 

 

「えい! やぁ! たぁ!」

 

「脇が甘いぞ! もっと早く動け! その程度では戦で直ぐに首を取られてしまうぞ!」

 

隆成に半ば強引に稽古に引きずられ、たんぽ槍を使い、実戦形式で撃ち合っていた。しかし十歳の千熊丸の腕前では『鬼に金棒、隆成に槍』と異名を持つ隆成には相手にもならなかった。

 

「ふんっ! せいっ!」

 

「うわっ!」

 

隆成の突きが千熊丸の槍を弾き飛ばす。千熊丸は尻餅をついて肩で大きく息を吐いていた。

 

「よし、今日はここまでだ」

 

「は……はい……兄上…」

 

かれこれ二時間以上槍を振らされ続けた千熊丸はその場に寝転んだ。

 

「ほう、隆成よお主が稽古を付けておったとはな」

 

そこに緋村家当主であり、彼らの父である緋村長隆が顎鬚を撫でながら縁側に座っていた。

 

「はい、千熊丸は書物ばかりを読んでおります。武士たるもの武芸は日々鍛錬するもの、そこでこの隆成が稽古を付けたのです」

 

「ふふ、よいよい。千熊丸は兵法に興味があるようじゃな。こやつはお主や義隆よりも頭はよいのじゃろうな」

 

長隆はふ、ふ、ふ、と笑いっている。

 

「それよりも隆成、儂はお主に兵の訓練を頼んだはずだが?」

 

そう長隆が言うと隆成は思い出したと言わんばかりに顔を慌てさせ、長隆に一礼すると小走りで去っていった。

 

「では儂もいくかのぉ。千熊丸よ、隆成ではないが文武のどちらも偏ることなくしっかり励め」

 

「はい、父上!」

 

長隆は笑いながらその場を後にした。千熊丸も父の姿が見えなくなったときに兵法書の続きを読むために自室に戻った。

 

 

 

 





歴史では黒野城は1594年に豊臣秀吉の名によって加藤貞泰が築城した城ですが僅か16年で廃城となった城です。
織田信奈の野望では豊臣秀吉は死んでいるので黒野城を貰おうという理由で使わせてもらいました。

『織田信長の野暮風能力値』

緋村(千熊丸)長門
統率71
武勇69
知略90
政治77
義理66

緋村長隆
統率89
武勇81
知略70
政治72
義理80

緋村隆成
統率90
武勇92
知略56
政治34
義理75

………なかなかに緋村家チートっぽくなってしまった……

誤字、感想があればよろしくお願いします


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初陣へ

戦場描写を描いてみようかと思います。


ーーー美濃国、黒野城ーーー

 

 

あの日から五年後、千熊丸は元服し長門と名乗っていた。長隆の長を取っての名前であるが本人としては慣れ親しんだ名前であることは内心嬉しかったそして、武芸、軍略、政略において、上達していた。現在は兄である隆成と手合わせをしていた。

 

「ふっ!はっ!たぁ!」

 

「ふっ、腕を上げたな、長門よ」

 

長門は次々に木刀を振り下ろす。その剣尖は五年前とは比べものにならないほどに上達していた。しかし、長門に才能があり、上達していようとも、緋村家の猛将である隆成にはまだ敵わない。

 

「ふっ!」

 

「甘い!」

 

長門が木刀を振り下ろすが隆成は、それを難なく弾く。長門の手から木刀が消えて、カランと音を立てて木刀が地面に落ちた時には成秀の木刀の切っ先が、長門の首に向けられていた。

 

「………参りました。兄上」

 

「なに、お主もここまで強くなったではないか。このまま日々の鍛錬を重ねればお主は良き将になれるぞ」

 

隆成が差し伸べた手を取り立ち上がる長門。

 

「おお、義隆。お主も長門と手合わせをしていくか? お主らの手合わせは近頃やっておらんのだろう?」

 

「いえ、それはまたの機会にしておきましょう。今は私も政務で忙しいですからな」

 

涼しげな笑みを浮かべる緋村義隆。長隆の次男で情熱的な隆成とは違い常に落ち着いており水面のように静謐な男で隆成の諌め役であり隆成が一番に信頼する人物でもあった。普段は債務や検知、後方支援を主にしているが一度槍をとれば鬼の緋村の名に恥じぬ働きを見せる。

着流しを整えた長門は渇いた喉を潤そうと水を飲みに行こうとした時に、隆成の部下が息を荒らげながら走ってきた。

 

「何事だ!屋敷を走りおって!」

 

「申し訳ございません!火急の事態にござります故」

 

「何があった、申してみよ」

 

「近江の浅井軍が黒野に向けて進行中!その数七千との事!隆成様!義隆様、長門様は急ぎ、城に戻られよとの事!」

 

「何だと⁉︎浅井が……!」

 

「兎に角まずは城に戻りましょう!軍議を開かねば」

 

長門達は身支度を整えて直ぐに黒野城に向かった。

 

 

黒野城では当主である長隆を中心に軍議が行われていた。浅井の軍勢は約七千、対する緋村は三千ほどである。先程伝令兵によると斎藤道三の援軍が到達し四千になった。

家臣の中で軍議は盛んに、急速に行われていた。

 

「軍を率いているのは浅井久政、彼奴は戦下手で無駄に慎重。防御を固めれば手を出して来ず直ぐに国に引き返すでしょう」

 

「ですな、敵は包囲する程の軍勢でもない、久政に城を落とせる策は無い」

 

籠城を進言するのは義隆と緋村家家老の長束広家である。長束広家は元々近江国の出身だが、緋村家に士官し政務と長門の教育係りを務めていた。

 

「しかし、この黒野城は籠城には不向きな城。ただ籠城するにはこちらにも有利では無いでしょう」

 

「うむ、いっそ野戦で押し潰すのはどうだ」

 

対する隆成と緋村家家老筆頭の前田玄以は打って出るべきと意見は割れていた。前田玄以も美濃の僧侶で広家と同様に緋村家に士官し政務を取り仕切っていた。この意見の対立に長隆は腕を組み悩んでいた。籠城にしろ、打って出るにしても漠然としており、具体的な策が出てこない。

どうにかしないと、と考えていると地図を見ながら何やら思案する様子の長門が目に入った。

 

「長門よ………お主はどう考える?」

 

「………私………ですか?」

 

長門は少し驚くような表情を浮かべる。

 

「何か考えがあるのだろう?構わん、申してみよ」

 

そう長隆に言われ、長門はふぅ、一つ溜息をついと正面を向いた。

 

「………打って出ましょう」

 

「長門、なぜそのように思った」

 

「確かに、籠城は私も考えました。しかし、それでもこの黒野城は平城で籠城には適しませんし数では浅井が上です。ならばその数の不利を利用するまでです」

 

「………ならば、何か策でもあるのか?」

 

「ええ、一種の賭けですが成功すれば浅井を撃退出来る策です」

 

長門は地図を広げ、策を話し始めた。それを聞いた長隆は目を間開いた。

 

「こ、この策なら……!」

 

「ああ、確かに危険だが、やる価値のある策だ」

 

「よし、長門。お主の策を採用する!」

 

「はっ!では、まずは父上は黒野城にて千八百を率いて待機を、兄上達はそれぞれ四百ずつ率いて下さい。私が残りの四百を率いて……」

 

長門の策が採用され、長門は地図を指しながら陣形を指揮し始めた。

 

 

 

軍議が終わり各々の所定の場所へと移動し始めた。長門も甲冑を着込み、戦支度を進めていた。

 

「長門様!」

 

そんな長門の下に甲冑を着た一人の少女が走ってきた。義隆によると姫武将というものらしく、第一子が女の場合は女に家督を継がせるらしい。どこもそれほど人が不足しているらしい。

艶やかな黒髪を現代で言うポニーテールにした少女は片膝をついた。

 

「高次、準備は出来たか」

 

「はい!長門様は初陣とお聞きしましたので、私が貴方様をお守りします!」

 

京極高次、もともとは浅井方の人間であるが浅井を出て緋村に士官してきた。そして今は長門の小姓として使えていたのだ。

 

「ふふ、頼もしいな。だが記憶が正しければお前も初陣のはずだが?ではよろしく頼むぞ?」

 

うう、と顔を赤らめる高次の頭を撫でると長門はあつまった四百の兵に向かって叫んだ。

 

「これより敵は浅井、数は七千。こちらは援軍を合わせて四千。だがその程度の数、我らにとっては然程のものでは無い‼︎ 奴らにこの地に踏み入ったことを後悔させてやれ‼︎」

 

おお‼︎と兵達からは雄叫びが上がり、黒野城を出立した。

これが転生者緋村長門の初陣である。

 

 




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長門の軍略

2016/01/16、サブタイトルを変更しました


軍議から一刻半伝令通り、浅井軍は黒野に侵攻し、黒野城へと進軍していた。浅井軍七千を率いる浅井久政は悠然と進軍し、陣を敷いていた。

 

「久政様、すんなりと黒野に入ることができましたな」

 

「うむ、おそらく籠城であろう。その前に黒野城など、直ぐに落としてやる」

 

「ですが父上、やけにあっさりすぎはしませんか、何かあるとも考えられます」

 

そう隣で馬を並べるのは久政の嫡男、長政であった。その可憐ないでたちはまさに美青年と言えるもので街を歩けば女は惹かれる顔立ちであった。

 

「長政、緋村は我らにとって因縁の相手だ。そして緋村は猪武者の集まりのようなものじゃ。そこまでの脳は無い」

 

意気揚々と軍を進める浅井軍。そして丘を越えた先には約三百程の兵が槍や矢を構え備えが敷いてあった。

 

「殿、緋村が正面に」

 

「ふん、あの程度の兵で我らと戦おうとはな。我らも甘く見られたものだな」

 

「しかし殿、何か策があるやもしれません。用心された方が………」

 

「ふん、寡兵の緋村がどんな策を講じようと初戦は焼け石に水だ。一息に攻め落とすぞ」

 

久政は家臣の諌めを無視して久政は軍を進める。所詮は寡兵と侮っている。そして隊に突撃を命じようとしたその時、先鋒が騒がしくなった。

そして、血まみれになった伝令兵が入ってきた。

 

「で、伝令‼︎緋村軍の伏兵により兵糧が焼かれました‼︎」

 

「なんじゃと⁉︎」

 

 

 

浅井軍の先鋒は長門が指揮する伏兵部隊により混乱状態に陥っていた。そしてそれを合図と見るや城前に備えていた三百の兵も突撃を始めた。

 

「奇襲は成功だ‼︎このまま攻めたてよ‼︎」

 

長門の下知が飛び交い、長門隊の合計四百は浅井軍の先鋒を圧倒していた。荷駄隊が火矢に焼かれた所をすかさず伏兵を送り出し、そして総統が乱れたと見るや突撃。もはや先鋒は総崩れであった。

長門も馬上で槍を振るっていた。

 

「おのれ!」

 

「邪魔だ‼︎」

 

侍大将が長門に切り掛かるが、一合も打ち合わずに首を跳ねられた。初陣には見えない獅子奮迅であった。

 

「落ち着け! 敵は少数だ隊列を整えよ!」

 

しかし、先鋒の指揮を執っていた磯野一昌は懸命に指示を送っていた。暫くすれば浅井軍は落ち着きを取り戻し始め、徐々に押し返していた。

三百の部隊を指揮していた高次は長門に寄った。

 

「長門様!浅井軍が落ち着きを取り戻し始めました‼︎我が軍は押され始めています‼︎」

 

「計算通りだ!よし、城に退くぞ」

 

長門は撤退の合図を送り、長門隊は黒野城へと撤退を始めた。

 

「逃がすな!追え‼︎追えぇぇ‼︎」

 

そしてそれを聞いた本陣の久政は全軍の追撃を命じた。しかし、長門隊は城内へと撤退した。

そのまま追撃を指示していた先鋒の磯野一昌は追撃を止めさせた。

 

「一昌様、一体なぜ? 城門は開ききっております!」

 

「今の部隊を指揮していた将、恐らくあの者がこの策を指揮しておるのだろう。それほどの将が城門を開けっ放しなどをするということは、我らがこのまま追撃を続ければ伏兵がおるのだろう」

 

一昌は、長門が頭に血が上った浅井軍がそのまま追撃し、城前の堀から伏兵が出ると踏んでいた。一昌は乱れた隊列を整えようと一度撤退を始めた。

 

「一昌様‼︎本隊が両翼より奇襲を受け、さらに兵糧が焼かれました‼︎」

 

「なんだと⁉︎」

 

まさかここで本陣のを奇襲するとは、先鋒に動揺が走った。しかし、それを嘲笑うかの如く、次の報せがやってきた。

 

「黒野城から緋村軍が突撃を始めました‼︎」

 

先程の四百に合わせ城に待機していた八百の計千二百の兵が再び突撃をしてきた。

浮き足立った浅井軍は完全に分断されていた。

 

 

「おのれ、緋村め‼︎」

 

「よもや、緋村にこれほどの知将がいるとは……」

 

 

 

 

本陣では久政は扇子をへし折った。五千の兵がここまでやられるとは思ってもいなかった。本陣は隆成、義隆部隊の計八百の伏兵により陣形が崩されていた。その際に兵糧が焼かれてしまった。

 

「で、伝令‼︎斎藤道三が全軍を引き連れて援軍に!」

 

斎藤道三が全軍を引き連れてきた、その証拠に遠巻きにだが斎藤の旗軍勢がこちらに進軍をしてきていた。

もはや形勢も兵数も逆転していた。

 

「殿! ここは近江に撤退しましょう!」

 

「くッ!おのれ!」

 

散々の被害を被った浅井久政は手勢を引き連れ近江へと撤退した。こうして、長門の初陣は勝利で幕を閉じた。

 

 

 

黒野城に帰参した長門を長隆が迎えた。

 

「見事だったぞ長門。まさかここまで上手くいくとはな」

 

長門の策とはまず長門が伏兵により、先鋒を混乱させ、相手が落ち着きを取り戻したところで撤退し、陣形を間延びさせた所を、隆成、義隆の第二伏兵により分断し、兵糧を焼く、そして本隊が突撃すると言う策であった。斎藤の援軍の予定よりの速さは嬉しい誤算であった。

 

「いえ、浅井は数で上回り油断があると踏んだまでです。そこを突けばこちらの思う通りに動いてくれるとは思っていましたが、まさかここまで思い通りとは」

 

そして伏兵を担っていた隆成、義隆が帰ってきた。

 

「なんというやつだ、長門。我らの被害をほとんど出さずに浅井を倒すとは!」

 

「ああ、お主には軍師の才もあるのか」

 

「いえ、これも兄上達や皆の教育の賜物です」

 

成秀に頭をもみくちゃにされ、苦笑いを浮かべながら長門も応える。黒野城には長門を讃える喝采が起こっていた。

 

 

浅井を退けた黒野では宴が開かれており、始まって直ぐにお祭り騒ぎになっていた。

 

「……酒ってあんまり美味いもんじゃないな」

 

酒に慣れていない長門はちびちびと飲んでいた。そこに高次が酒を持ってきた。

 

「長門様、お飲みになられないのですか?」

 

「いや、まだ慣れなくてな。私は兄上のようには飲めん」

 

長門の目線の先には成秀が義隆と無理矢理飲み比べをしていた。真面目な義隆は「節操がなってない‼︎」と抵抗はしていたが、無理矢理飲まされ、寝てしまった。

 

「長門様……」

 

そして高次が長門を向いてその場に正座する。

 

「殿のご命令で、私はこの度、正式に長門様の家臣とならせていただきます」

 

「ん、そうなのか? まあ、お前のような家臣がいるなら安心だな。これからもよろしくな高次」

 

長門は笑いながら高次の頭を撫でる。

 

「な、長門様……」

 

高次は顔を赤らめながら俯いていた。

 

「ほ、ほら! 今日は長門様の初陣の祝いです!どんどん飲んでください!」

 

「ちょ、ちょっと……」

 

照れ隠しに長門の杯に酒を注ぐ高次。隆成たちにも煽られ、長門は寝るまで飲まされた。

ちなみに長門は四杯目を飲みきると同時に寝てしまった。

 

 

 




戦国時代で主人公は戦国時代の習わしで元服を迎えたためお酒を飲んでいます。
皆さんは成人を迎えるまでは飲酒は駄目ですよ!

オリキャラ能力値

緋村義隆
統率77
武勇79
知略85
政治90
義理80

京極高次(補正)
統率60
武勇50
知略68
政治50
義理67

義隆さんはバランスの良い人ですね。高次は補正かけてあります。

それでは誤字、感想があればよろしくお願いします


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美濃編
美濃の蝮、斎藤道三


長門の一人称は『私』です。心の中では『俺』ですが。


初陣から一週間が経ち、戦後処理などが落ち着いた緋村家は美濃の国主である斎藤道三から登城の命が下り、明朝に隆成と長門、その配下は黒野を出発した。

だが、長門は黒野を出てから落ち着きがなかった。

 

「どうしたのじゃ、長門。やけに落ち着きがないようだが」

 

「はい、油売りの商人から美濃の国主まで登りつめた美濃の蝮と謳われる斎藤道三殿との謁見など……考えるだけで緊張が……」

 

斎藤道三、元々は油商人であったが、その才能を美濃の元国主である土岐氏に見出され家臣となる。そしてクーデターを起こし、土岐氏を追放し、美濃を盗ったとされている。

 

「はっはっは!そこまで気負うことはない。道三殿はそこまで気の難しい方ではないからな」

 

大笑いをする長隆。彼の緋村家は黒野周辺の美濃を支配する一族であり、土岐氏とは美濃の覇権を争っていたが、国盗りを成した道三に惚れ込み、同盟を結んだのだった。

 

「左様ですか……」

 

長門はふぅ、と溜息を吐く。それを見た長門の家臣である京極高次は心配そうに近づく。

 

「長門様、大丈夫ですか?」

 

「ああ、父上はああ仰ってはいるが、どうも落ち着かない」

 

「それも仕方ないことです。相手はあの斎藤道三様なのですから」

 

「だよなぁ………高次、私の服、どこかおかしくなってないか?」

 

普段とは違い狼狽える主を見た高次はクスッと笑う。それを見た長門はムッと顔を顰める。

 

「なんだ?私が狼狽えるのがそんなにおかしいか」

 

「い、いえ、長門様がそのような顔をなされるのは珍しいなと思っただけです」

 

高次は恥ずかしそうに顔を赤らめる。長門は本日4回目の溜息を吐く。

黒野を出て約一刻後、稲葉山城に到達した。金華山になる稲葉山城は難攻不落の名城として名が知れている。その城を前に長門は目を輝かせる。

 

「これが……稲葉山城か。確かに名実ともに堅固な城だと頷ける」

 

「本当ですね。私も初めて来ましたが、これを攻めるとなると難しいですね」

 

稲葉山城を好奇の目で見る若者二人を隆成らは暖かな目で見る。その視線に気づいた二人は恥ずかしそうにそっぽを向く。

その後、城下町を見ながら城門をくぐり、隆成と長門は天守に呼ばれた。

現在隆成と長門は案内のものに連れられていた。そして謁見の間には美濃三人衆など、齋藤家の重臣が数人集まっていた。そして暫くの間が空き、齋藤道三が入ってき、上座に座った。長門は作法に乗っ取り平伏する。

 

「表をあげよ」

 

道三の命により、長門と隆成は顔を上げる。道三は禿げた頭で如何にも爺さんといった見た目だが、放つ覇気は隆成と同等のものを感じる。

道三はまず隆成に視線を向ける。

 

「久しぶりじゃな、隆成殿よ」

 

「いやいや、道三殿こそ、相変わらずそうじゃのう」

 

はっは!と二人で笑い合う。長門はそれを黙って見続ける。一頻り笑いあったあと道三は長門に視線を向ける。長門は慌てて頭下げる。

 

「お初にお目にかかります。私、緋村家の三男緋村長門と申します。道三様に拝顔賜り、恐悦至極に存じます」

 

長門は平伏するが道三は長門に頭を上げさせる。

 

「ほう、お主が長門か。先の戦のことは聞いておる。なるほど、良き面構えじゃな」

 

道三は長門を見て満足そうに頷く。道三はどうやら尾張の姫大名、織田信奈に美濃を譲ることになったそうで、それを聞いた斎藤家重臣たちはみな反対し始めた。

 

「先日尾張の信奈ちゃんと会った時に信奈ちゃんの付き添いに来ていた小僧が未来から来たと言っておったな」

 

「なんと……!」

 

「名前は確か、サルと呼ばれておったな」

 

長門はその場で頭を高速書いてさせ始めた。

 

(戦国時代でサルって言ったら豊臣秀吉だよな。それが未来人ってことはどういうことなんだ?何かのドラマ見たいにその人の代わりに生きる的なやつなのか?いやでも、なんでそんなこと?)

 

「どうしたのじゃ?難しい顔をしおって」

 

「あ、いえ申し訳ございません!」

 

長門は再び頭を下げる。場所に関わらず思案に没してしまうのは彼の悪い癖である。

しかし、家臣たちはそれどころではなかった。

 

「殿!それはどういうことですか⁉︎」

 

「何故尾張のうつけ姫なんぞに⁉︎」

 

家臣たちは尾張の織田信奈に美濃を譲渡することが気に食わなかったようだ。

それも当然だ。長門が効いたとこによると織田は弱兵と罵られることもあるらしい。家臣たちは自国一つ纏められない小娘と思っているのだろう。

 

「恐れながら、よろしいでしょうか?」

 

長門は挙手しながら割って入る。一同が静まり返り長門に視線を向ける。

道三はなんじゃ?と長門に尋ねる。

 

「道三様は何故尾張の織田家に美濃をお譲りになろうとお考えになったのですか? 織田の姫君に美濃を譲渡する価値がおありだと?」

 

「ええい!貴様!殿の御前でなんという!無礼じゃ!」

 

「よい、ワシが許す」

 

道三が家臣を諌め、長門の質問に答える。

 

「ワシとて最初はうつけ姫とたかを食っておったがあの子は将来天下を取ると確信したのじゃ」

 

「それは何故?」

 

「まずは鉄砲じゃ。正徳寺に来る前に鉄砲を用意しておった。その数も練度も高かった」

 

「鉄砲は、確かとても高価なものだったはずですが……確かにその財力は侮れませんが、それだけでございますか?」

 

長門は矢継ぎ早に質問していく最早国主とその家臣の子とは思えないが何故か誰も諫めようとはしなかった。

 

「いや、それだけではない。信奈ちゃんの夢は海の先を見ておった」

 

「海の………先を?」

 

確かに史実通りだ。信長は天下を統一した後は海外に手を伸ばそうとしていたと言う説は本当だったのだと長門は驚いた。その織田信奈も考えは伝えられている信長と同じだったのだと。

 

「その時、ワシの野望を引き継いでくれるのは信奈ちゃんしか居ないと思ったのじゃ」

 

「……なるほど、蝮と称される道三様がそう仰るならばそうなのでしょう。いやはや、拙者もそのうつけ姫とやらに会ってみとうなりました」

 

「そうか、信奈ちゃんは絶世の美少女じゃったぞ?」

 

「はい?」

 

「尻も胸もよいものだったぞ。触ろうとしたら蹴られたがのう」

 

ワハハハと爆笑する道三。長門は唖然としていた。

 

(古今東西男ってみんな馬鹿なのか?俺も男だけど)

 

長門はかつての女好きの友人のことを思い出していた。その彼と初めて会ってから女好きということを知った時、「バッカじゃないのお前?」と言ったことを思い出した。

道三は何かを思い出したかのように長門を向いて長門を凝視する。

 

「お主も男と言う割には随分と美麗な面じゃな」

 

この時長門は自分の持っていた斎藤道三への考えが変わった。

斎藤道三は確かに蝮と言われるだけに覇気があったがそれ以上にエロいオヤジだと。

 

 

 

 

 

 

 




道三って意外に難しい。長門との絡みがなかなか難しいもんですね。

ではでは、誤字、感想のほどよろしくお願いします。


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真面目すぎるのにも困る

卯の刻、まだ日が昇らぬ明朝に長門は目を覚ます。

 

「この時間は、やっぱり冷えるな」

 

そう言いながら俺は、布団を押入れにしまうと槍を取り、屋敷の庭に出ると、早朝の鍛錬を始める事にした。何でわざわざこんな時間にやるかっていうのは、まあここの生活も慣れてきてから始めたんだけど、義兄上たちに早く追いつきたいからっていうのが一番強い。

日本史には緋村家なんて大名なんていないから知らなかったけれど、緋村家は武勇に富んでいて、かなり強いらしい。他家からは『緋村は鬼の住まう家』とまで言われる武力チートな家らしい。

 

「ふっ!ふっ!はっ!せいっ!」

 

一定のリズムを守りながら槍を振る。誰も起きていない静かな空間に響く槍の風切り音は心地よかった。槍、木刀と素振りをしていると、家臣の高次も起きていた。

 

「おはようございます長門様。今日も鍛錬ですか?」

 

「ああ、おはよう。習慣だからな」

 

実は俺はこの高次と二人で暮らしているのである。未来人脳の俺は流石に夫婦でない男女が一つ屋根の下で一緒というのは如何なものかと思ったが、高次もはっきりと否定しないし、なし崩し的にそうなってしまった。

まあ俺が間違いを犯すことはないとは思うが………なんせ未来人は草食系男子だからな。すまん、全国の草食系男子よ………

 

「では、今日は私とお手合わせを………きゃあ⁉︎」

 

縁側から降りようとした時に、自分の足に引っ掛けて盛大にすっ転んだ。暫く高次といる時に気付いたが、高次はしっかりとしている癖に何処か抜けているっていうか、何かとドジを踏むドジっ子だったのだ。戦や政務をこなしている時は優秀だが、普段は別人なほどにドジを踏む。所謂ギャップ萌えってやつかと笑いをこらえながらうずくまっている高次に駆け寄る。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

「だ………大丈夫です……」

 

「うわぁ……」

 

あろう事か、高次は鼻から血を流していた。まあ確かに顔面から落ちたもんな。溜息を吐きながら俺は布を手に取る。

 

「ったく……ほら、取り敢えず止血だ」

 

「だ、大丈夫ですよ‼︎ 自分でできますから。主にそのような事をさせるわけにはいきません」

 

布を高次の鼻に当てようとした時に、何故か顔を赤くして俺から布を取ろうとする。

 

「堅い事を言うなこんな程度の事で、いいから任せろ」

 

「い、いえ。ほ、本当に大丈夫ですから!」

 

俺と高次は布一枚に無駄な争いを繰り広げていた。我ながらなんて不毛な争いだと思った事か、だがなんとなく引けない状態になってきて俺も意地になっていた。

だが、その不毛な勝負は俺に勝利の天秤が傾き始めた。

 

「〜ッ‼︎ああもう!大人しくしとけ‼︎」

 

「ふがぁッ⁉︎」

 

やや強引ではあるが布で鼻を抑える事に成功した。

 

「ほら、もうだいじょ……う…ぶ?」

 

俺が抑える前にはツゥという感じで大して出ていなかったのに、白い布はみるみる赤く染まってきた。

ビクッとしてつい布を離してしまった。そしたら、鼻血が噴水のように吹き出していた。

 

「お、おい!高次⁉︎しっかりしろ‼︎ありえない量の血が出てるぞ⁉︎」

 

揺すって叫ぶが何故か笑顔で痙攣していた。俺の叫び声に飛んできた女中と共に高次を緊急処置をして懸命の処置の果てに一命はとりとめた。鼻血の原因を離したら女中たちから「それは長門様のせいですよ」とニヤニヤしながら言われた。解せぬ!

 

 

鼻血でダウンした高次を寝かせた長門は今日の債務に取り組んでいた。長門は大量の書簡を相手に筆を走らせていた。長門は前世では成績は良い方だったが字の違いややり直しのきかない筆の扱いに苦戦し、最近やっと慣れてきたところであった。

書類には民の問題解決や自然災害によって損壊した橋の修理など報告書を纏めていた。

そして数刻後、完成した書簡を義隆の確認を貰い、その後に隆成に提出し今日の債務は終了した。

長門が屋敷に戻る時には復活した高次が涙目になっていた。

 

「も、申し訳ありません長門様!長門様の家臣でありながら、債務の全てを長門様に!如何なる罰も受ける所存!」

 

「おいおい落ち着けよ。ちょっと本気以上に頑張ればなんとかなる量だったし、気にすんなって。罰なんざないよ」

 

地に頭をつけて謝る高次に狼狽える長門は頭を上げさせようとする。

 

「な、長門様がお望みならば………その……身体で……」

 

「オイィィィィィィ!それは違うだろ‼︎」

 

気が動転している高次をに激しいツッコミを食らわせた長門は、真面目すぎるのも問題だと、思っていた。

 

 

その後、食事をとった後に長門は食後のお茶を飲んでいた。高次は湯呑みを置くと長門に視線を向ける。

 

「長門様、これから斎藤は織田の下に降るのでしょうか?」

 

「多分な。織田のお姫様は今、弟と家督争いになっている最中だし、正式な美濃の譲渡は織田が尾張を統一してからだろうな」

 

現在尾張では、織田信奈は弟が幾度も謀叛を起こしているらしく、尾張の国勢も安定はしていなかった。

 

「ただ、一つ懸念もあるがな」

 

「懸念?いったいどういうことですか」

 

「道三殿は確かに織田のお姫様に美濃を渡すとは言ったが、道三様は家督を嫡男の義龍殿に譲っている。それに義龍様は美濃譲渡をよしとはしないだろうな」

 

「ということは……」

 

「長門様!ここにおられましたか!」

 

そこに高次の言葉を遮った兵が庭に膝まづいた。

 

「申せ」

 

そして長門の懸念が当たることになったのだ。

 

「ハッ! 斎藤義龍様、ご謀叛!打倒道三様に兵を掲げました!」

 

「それは本当ですか⁉︎」

 

ある程度想像していた長門は兎も角、高次は驚いていた。

 

「なお、今より軍議を開くため、長門様は御出席なされますよう」

 

「分かった。御苦労だった。具足を持て!」

 

そこからの長門は早かった。具足を身につけ、厩戸から馬を取り出し、黒野城へと急いだ。

 

(さて、どちらに着くかそれによって立てる策が違ってくる)

 

城に向かう時にも長門の頭はずっと回転していた。

 

 

 

 

 




日常風から戦闘描写へ。なんという展開の速さ!本当にゴメンナサイ(泣)

では、誤字、感想があればよろしくお願いします。


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選択

長門が黒野城に着いた時にはすでに家臣たちが軍議を開いていた。長門が来たことに成秀が気づいた。

 

「おお、来たか長門よ!」

 

「兄上、戦況はどうなっておるのですか?」

 

隆成は長門に地図を見せた。

 

「道三殿は息子である義龍殿に稲葉山城を追われた。そして手勢を率いて長良川へ出陣した。そして義龍殿もその十倍近い大軍で長良川へ出陣、という状況だ」

 

成秀が戦況を説明する。長門に付き従う高次は眉をひそめる。

 

「ですが、何故道三殿は籠城戦をしないのでしょうか?ここまでの兵力差がありながら……このままだと全滅では……」

 

高次の言う通りである。兵法の常識から考えればこの状況では籠城策が賢明であろう。しかし道三はあえて野戦に出ていた。

 

「多分織田のお姫様の為だろうな」

 

「ど、どういうことですか⁉︎」

 

長門の言葉に高次は何故⁉︎という表情を浮かべている。

 

「籠城して戦を長引かせれば、織田が援軍を出すだろう。確かにそうすれば道三様は助かるかもな。だが、尾張は現在今川が上洛の準備を進めている。もし織田が援軍を出したら瞬く間に今川が織田を攻めるだろうな」

 

「うむ、道三殿は恐らくこの戦で散る覚悟なのじゃろうな」

 

長門の考えに長隆は肯定する。道三とは国盗り時代からの旧知の友である長隆は道三のことがわかるのかもしれない。

 

「しかし父上、我ら緋村はどうするのですか。義を貫き道三殿にご助力するか……義龍殿に味方し、黒野の安泰を計るか」

 

「あの兵力差では幾ら蝮と恐れられる道三殿とて………」

 

隆成と義隆は頭を抱え悩む。隆成も目を瞑り、考える仕草を取る。緋村家は浅井との戦果や道三に従わない領主の城を攻めたり、その軍勢の規模を八千までに広げていた。しかし領地は黒野とその周辺とあまり変わらずであり、旧な軍勢は出せても所詮は焼け石に水であろう。

 

「……長門様」

 

重い空気にオロオロしながら高次は長門の見る。しかし長門はそれに気にかけずに考え事をしていた。

 

(史実ではこの戦は道三殿が負ける。後の事を考えるならここは義龍殿に付くべきだろうが、義父上たちは義に厚い。そう簡単に首を縦に振らないだろうな。だが我らが全兵を出しても兵数は全然足りないだろうな。なら……)

 

実際に史実では道三に与した敗将は斬首や国外追放など罰せられていた。戦国乱世ではそれが世の常である。

 

「長門よ、お主ならどうする?」

 

隆成は長門に視線を向ける。最早考えが出ない成秀も義隆も長門に視線を向ける。横を見ると高次もこちらを見ていた。長門は一度溜息を吐くと話し始めた。

 

「俺は、この戦、静観すべきかと。後から先日の大雨で国が荒れ、復旧の為と申して」

 

「なんと⁉︎静観とは⁉︎」

 

声をあげたのは隆成だが義兄達や高次も目を開いていた。確かに先日大雨で村や集落の被害が出たがそれも二日前に終わっている。

 

「むむむ、しかし……道三殿を見殺しにするなど……だが道三殿味方したと知れれば義龍はここ黒野を攻め立てるだろう」

 

「ええ、ですから静観といっても形だけです。道三殿お救いする為に」

 

「??」

 

長門の説明に誰もが頭に疑問符を浮かべていた。

 

「私の見立てでは織田は援軍を出すかと思います。あくまで勘ですが」

 

「うむ」

 

「確かに義龍軍は大軍です。我らが全兵を挙げても数では及ばないでしょう。無論私の初陣の奇襲のように上手くいく保証はどこにも無い」

 

ならばと長門は言葉を続ける。

 

「義龍殿に偽報を流し、疑心暗鬼に陥らせます」

 

「「「なんだと⁉︎」」」

 

隆成達の驚きがちょうど三重奏の如く揃った。

 

「まずは美濃に間者を義龍軍に忍び込ませます。その者達に道三殿の密書を義龍殿に渡させます。そこには『ワシが合図を送ったら側面を突け』などと書かせておけば」

 

「なるほど、さすれば軍の統率が乱れる」

 

「密書は部下に書かせました。梅!」

 

「……ここに」

 

天上うらから黒い忍者服に身を包んだくノ一が姿を現した。

 

「これを義龍殿に持っていけ、そしてこう付け加えろ。『怪しい者を捕らえた。道三様からの密書だと吐いた』と」

 

「御意!」

 

そして梅と呼ばれたくノ一は直ぐに消えた。

 

 

 

 

「ぬぅ、流石は美濃の蝮と呼ばれた親父殿。簡単には行かぬか……」

 

道三の息子、斎藤義龍は寡兵である道三の粘りに手こずっていた。戦場は霧が立ち込めていた。しかし多勢に無勢、勝負の天秤は義龍に傾いていた。

 

「だが、最早ここまでだ。全軍で仕留めよ!」

 

義龍は自らも馬に乗ろうとした時に伝令兵が入ってきた。

 

「義龍様。怪しい者を捕らえました。道三殿の手の者だそうです」

 

道三という単語を聞いた瞬間、義龍は兵から密書を奪い取り、それを開く。そこには道三と、義龍についた川村某の内通の証拠であった。

それを見て、義龍は道三の斥候を斬った。

 

 

「ええい!川村某め!稲葉に川村を潰せと命じろ!」

 

伝令兵は直ぐに陣を後にした。義龍は憤慨し、采配をへし折った。義龍が川村某を攻めさせたことで義龍は長門の術中にはまっていたのを気づく者はいなかった。

 

 

 

義龍が謀叛を起こしてから約二半刻ほど経っていた。中立を選んだ緋村家は黒野城で待機していた。

 

(これは一種の賭けだ。もし失敗したら緋村は終わりだ)

 

そこに伝令兵が入ってきた。

 

「伝令!義龍勢の川村某が裏切り、義龍軍を奇襲!義龍軍は混乱しております!」

 

なんと統率を乱すためのでっち上げが誠になるとは思ってもいなかった長門。彼は天に愛されているのかもしれない。

その半刻後、伝令兵が入ってきた。

 

「伝令!尾張の織田が美濃に到着、道三様は救出されたとの事!」

 

そして長門の予想通り、織田が援軍を出した。そして道三を救出した。

しかし織田は今川が上洛を始めたや否や直ぐに尾張に戻ったらしい。

 

「長門よ、よくやった。これで道三殿もこの黒野も無事じゃ」

 

隆成は長門を讃える。だが長門は首を横に降る。

 

「いえ、まだやるべき事があります。とりあえず義龍殿に弁明をしなければなりません」

 

確かにそうである。緋村家はこの戦に関わっていないのである。緋村家はこれからの対策を夜が明るまで話し合っていた。

 

 

 

 




誤字、感想あればよろしくお願いします


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美濃へ

長良川の動乱から暫く経った。結局あの後は静観を決め込んでいたことを言われたが、それでもなんとか黒野の地は安堵された。その条件として織田との戦には必ず参加を言い渡された。

長門は商人に取り寄せさせた三線を縁側で弾いていた。前世ではギター等の弦楽器を弾いたことのない長門は見よう見まねで音を奏でていたが上手くいかない。

 

「ん〜なかなか難しいもんだな。無双の元親みたいに弾きたいって思ってんだが……」

 

「長門様、お茶をお持ちしました」

 

そこに高次がお盆にお茶と団子を持ってきた。長門は三線を弾きながらありがとうと礼を言う。

 

「いい音色ですね、三線……でしたか」

 

「ああ、堺の商人に取り寄せさせてな。つい買ってみた」

 

お茶をすすりながら高次は、溜息を吐きながら空を眺める。

 

「長門様、なんとか緋村家の存続はなりましたね」

 

「ああ、結果オーラ………じゃなくて、最終的には嬉しい誤算もあったしな。取り敢えずは危機は去っただろうな」

 

「恐らく織田はこの美濃へ攻めてきますね、桶狭間で今川を破った勢いもありますし、いくら難攻不落の稲葉山城とはいえ………」

 

高次が団子を食べながらそう言うと、長門も三線を置き、お茶を口に含む。その後の歴史を知っている長門は後に稲葉山城が落とされるのは分かっているが、中途半端な自分の知識では大した助力にはならないと思い、極力それを誰かに話すことを良しとしない。

 

「まあ、暫くは大丈夫だろう。美濃には道三殿を上回る智謀の士がいるらしいしな」

 

「え?そんな人がいるのですか?長門様とはどうですか?」

 

「阿呆、私なんかと比べんな、虚しくなるだろうが」

 

長門は団子を食べると再び三線を弾きだす。

 

「忍び隊に斎藤を調べさせたら、ある一人の軍師が浮かび上がった。あの美濃の蝮、斎藤道三をも上回る神算鬼謀の持ち主で、今孔明と称される軍師、竹中半兵衛」

 

「た、竹中半兵衛………?」

 

ポカンと誰それ?という表情を浮かべている。長門はまあそうだろうな、と三線を弾きながら話し出す。

 

「三国志は知ってるよな?それには諸葛孔明っていう天才軍師がいてな、その孔明のような智謀の持ち主だからその渾名がつけられたんだろうな」

 

「な、なるほど……そんな軍師がいるのですか」

 

「………長門様」

 

話し込んでいた2人の後ろから薄い桃色の小袖をきた梅が声をかけた。梅は諜報や戦が始まるときは忍び服であるが、仕事が無い時や、屋敷にいる時は小袖をきているのだった。

閑話休題。長門は後ろを振り向きながら何事だ、と尋ねる。

 

「長隆様が、登城するようにと。美濃への援軍のことで話しておきたい事があるそうです」

 

「軍議か………梅、私の馬を用意しておけ。高次、支度だ」

 

「「ハッ!」」

 

長門が命じると梅も高次もすぐさま支度に急ぎ始めた。長門も三線を持ち、城へ向かうために支度を始める。

 

 

 

 

黒野城の広間に集まった緋村家一門。長門が着く頃には既に全員がついていた。

 

「申し訳ありません。長門、ただいま参りました」

 

「よい、此度はそこまで急ぐ事では無い故な」

 

隆成が笑いながら長門を座らせる。長門が座ったところで軍師を始めた。

 

「さて、先程、義龍殿から我らに援軍要請が届いた。そしてその援軍に隆成と長門に行ってもらう事にした。軍勢は我が軍総勢八千から二千ほどだ」

 

斎藤軍の援軍は隆成と長門が行くことになった。隆成と長門はハッ!と返事をすると広間を後にした。

そして長門は軍備を整え、二千の軍を従えた隆成と合流し、稲葉山城へと向かうことにした。

 

 

 

稲葉山城の城下町につくと、戦が始まるためか町の空気はどんよりとしたものだった。そして稲葉山城に入城すると、家臣に案内され、城内を歩く。

そして広間に案内されると既に美濃三人衆を筆頭に斎藤家家臣が集まっていた。上座に座る義龍に成秀と長門は平伏した。

 

「緋村家より援軍に参りました、緋村隆成と三男の長門です。どうぞお見知り置きを」

 

「うむ、ならば軍議を始める」

 

そして長門たちも家臣たちに混じり軍議に参加した。そして軍議が終わり、義龍は広間を後にした。家臣たちも続々と広間を後にしようとしていたので、長門たちも広間を出て城を後にした。

 

 

そして数日後、織田が美濃へと軍を進めた。緋村勢は織田の進軍経路である木曽川がよく見える場所に陣取っていた。しかし、暫くすると霧が立ち込めてきた。

 

「な⁉︎霧だと?」

 

「恐らく、噂の竹中半兵衛の仕業でしょう。噂によると半兵衛は陰陽師でもあると聞きます。私も詳しくは知りませぬが陰陽の術の何かでしょう」

 

隆成にそう説明する長門。長門たちは竹中半兵衛の姿を見てはいないが、美濃三人衆の一人、安藤守就の舅であるとらしい。

 

「なら、木曽川にあるあの石の塔も半兵衛の策ということなのか?」

 

「ええ、あれは三国志で有名な軍師、諸葛孔明が用いた、石兵八陣というものです。相手を石の迷路に迷い込ませ、溺死させる罠です」

 

「なんと………ここまでの大掛かりの策とは……破る術はあるのか?」

 

「ええ、まあ………っと織田が来たようです」

 

長門の目の先には織田が美濃へと進軍していた。無論半兵衛の石兵八陣の術中にはまっていた。

 

「前に道三殿がおっしゃっておりました。織田には未来から来たものがいると聞きます。そのものが頭の切れるものならば、この策を知っているでしょう。例えばこの石を破壊するとか……」

 

そういった時に、爆発音が木曽川に鳴り響いた。

 

「なるほど、迷路で迷うならそれを壊すと」

 

「ええ、ですが………では、兄上、そろそろ」

 

「ああ、決して油断せぬようにな」

 

ニヤリと笑う長門。そして自分の配下を連れて移動しはじめた。するとさらに大きな爆発が起こった。

 

 

時間は少しだけ遡り、織田陣営。

織田家当主織田信奈は、霧の中、軍を進めていた。

 

「なんなのよ、これ。石の迷路?」

 

「霧も出てきて味方も混乱しております二十点」

 

その信奈に付き従うのは幼い頃より信奈の小姓として従えている丹羽長秀。よく点数をつける癖がある。

そこにその時代にあるはずのない学ランを着た少年、相良良晴がうーんと考え込む。

 

「これって、三国志で見たことあるな」

 

「三国志………諸葛孔明の石兵八陣⁉︎」

 

長秀が気づいたと同時に銅鑼がなった。その銅鑼が織田軍に不安が起こる。

良晴は配下の忍び、蜂須賀五右衛門に指示を出す。

 

「五右衛門!石をぶっ壊せ!迷路に迷うんならぶっ壊せばいい!」

 

「承知つかまった相良氏」

 

五右衛門は爆弾で石の塔を破壊しようと試みた。そして爆弾が爆発すると同時にさらに大きな爆発が起こり周辺の兵が吹き飛んだ。

 

「何⁉︎」

 

「どういうことよサル‼︎」

 

「恐らく、この破壊まで読んで石に火薬を仕掛けていたのでしょう。姫様、撤退しましょう、この状況は………零点です」

 

一つが爆発すると周辺の石が誘爆していた。織田はかなりの被害を被って尾張に撤退し始めた。

 

「〜っ!あぁ〜もう!なんなのよあの策は‼︎」

 

「ですが、信澄様が退路を確保してくれたおかげでなんとか撤退はできました。ここで退路まで断たれていたら……」

 

「織田は終わりってか?」

 

「「「え?」」」

 

信奈たちは目を疑った。目の前には僅か百以下の手勢とはいえ軍勢を率いている青年が立ちふさがっていたのだ。

目の前の青年、緋村長門は馬から降りた。

 

「お初にお目にかかる、織田のお姫様。私はは緋村隆成の養子、緋村長門と申す」

 

「緋村長門………噂には聞いたけれど………何よ、私たちを倒しに来たの?」

 

信奈は長門を睨みつける。長門はその視線を感じても笑みを崩さない。

 

「いえいえ、道三殿がどう感じて美濃をお譲りになろうと考えたのか、その織田のお姫様と未来から来たと言う者に興味が湧いただけですよ」

 

「俺たちの撤退の邪魔をしに来たわけじゃ無いのか?」

 

五右衛門の後ろから話す良晴を見る。長門は暫く良晴の顔を眺めるとクスリと笑う。

 

「ええ、こんなことが外に漏れたら我らは義龍殿に攻め入られます。第一この少数ではできることなどたかが知れてます」

 

「じゃあ、通してくれるのねじゃあ………」

 

「ええ、早い事尾張に撤退されるのが賢明かと思われますよ?」

 

では、と長門は林道から姿を消した。織田は再び撤退を開始した。

 

 

 

長門は良晴の顔を見て少なからず混乱していた。

 

「まさか………何であいつが?」

 

未来から来た良晴とこの時代に転生した長門、かつての親友との邂逅だと知るのは遠い話ではなかった。

 

 




長門と良晴が再開を果たしました。
後、石兵八陣の石に火薬を仕込んだのはもちろん長門です。

誤字、感想があればよろしくお願いします


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鬼の家緋村

原作の織田信奈の野望では『十面埋伏陣』→『石兵八陣』という順番でしたが、この作品ではその逆という設定にしています。


美濃から逃げ延びた織田信奈は悔しそうにしていた。その後も何度か織田は美濃に侵攻しているがその度に竹中半兵衛の策によって阻まれていた。

 

「あぁ〜!もうっ!なんなのよ!石兵八陣⁉︎十面埋伏陣⁉︎陰陽術の霧⁉︎わけわからないわよ!」

 

竹中半兵衛にいいようにしてやられた信奈は相当ご立腹のようで終始不満をあたりにぶちまけていた。

実は美濃攻めの前に信奈は美濃から逃げ延び、尾張で隠居生活に勤しんでいる道三に諌められていたがそれを聞かず強行していたのだった。

 

「やはり、美濃攻略の鍵は竹中半兵衛か……」

 

未来から来た少年、相良良晴はそう言いながら頭の中でゲームで得た『竹中半兵衛の調略』を思い浮かべていた。しかし道三はうーむ、腕を組む。

 

「じゃが、半兵衛を抜きにしても侮れん、ワシの作った稲葉山城は難攻不落。それに向こう側には緋村家がついておる」

 

「緋村……確か現当主長隆殿は道三殿とは盟友と聞き及んでおりましたが…」

 

「なあ、ずっと思ってたんだけど緋村家ってなんだ?」

 

良晴隣に座る虎の被り物を被った前田犬千代に聞く。

 

「……良晴、知らないの?」

 

「だってそんな大名家ゲームには出てこないからな」

 

「緋村家、美濃国黒野の大名家で現当主長隆殿は剛勇の持ち主で勝家殿以上の武勇を持つお方です。そしてそのご子息も父譲りの武勇を誇り、『緋村は鬼の住まう家』とまで言われています」

 

未来には登場しない大名家に戸惑う良晴のために長秀か説明する。尤も「マジかよ、勝家よりも?」と良晴はさらに戸惑ってはいたが。

 

「しかし、長隆殿のご子息は隆成殿と義隆殿の二人は知っておりますが、緋村長門とは何者なのですか?」

 

「うむ、長門は長隆殿の三男。今は緋村家の軍師を務めておる。初陣では黒野に侵攻してきた浅井の軍勢七千をわずか二千弱程度で大損害を与えておる」

 

「「な、なんだってー⁉︎」」

 

道三の言葉に勝家と良晴が同時に驚きの声を上げた。

 

「おそらく長良川で義龍軍が突如統率が取れなくなったのも今考えれば長門の策のような気がしてくる」

 

義龍は史実では長良川で果てるはずだった。それを良晴の必死の説得で逃げるとなった時に、急遽義龍軍が統率を乱し、味方同士で乱戦になっていたのだ。それは勿論長門の策で疑心暗鬼に陥らせる為であったのだ。そんな長門に戸惑っている時、良晴は長森であったあの武将、緋村長門のことを思い浮かべていた。

 

(………あの緋村長門って凄いやつなのかこっちに味方になってもらえたら、信奈の天下に近づくんじゃないか?)

 

 

 

 

 

「へっくし‼︎」

 

その頃長門は黒野に一時帰還し屋敷で政務に勤しんでいた。長門は豊臣秀吉が行った『太閤検地』を再現する為に、計画書を作成している。そのほかの書類作業を終え、長門はふぅ、と溜息を吐いた。そして、いつものように三線を弾く。

その脇に、梅が瞬く間に長門の背後に跪いていた。

 

「………長門様」

 

「ご苦労さん、どうだった?織田は何かうごきはあったか?」

 

「…………はい、どうやら織田の侍大将の相良良晴というものが僅かな手勢を率いて美濃へと向かいました」

 

「そうか………となると、竹中半兵衛を調略しに来たのか」

 

「……………恐らく、長門様の仰る通りかと……」

 

「………配下の者によりますと、井ノ口で竹中半兵衛の家臣面接なる者がやっているとの情報が」

 

実は長門は良晴とは違い、その後梅の調べで紛れも無いかつての親友相良良晴ということが確認できていた。しかし、それが明確になったからこその悩みがあった。なぜ彼はここにいるのか。なぜ、彼が侍大将になっているのか?

 

「………高次、支度をしろ」

 

「はい?な、長門様?」

 

「井ノ口に行くぞ。ちょっと気になることがある」

 

「え?今からですか?昨日帰ってきたばかりですよ?」

 

「だから政務をある分全部終わらせたんだろうが。ほら、早く支度しろ」

 

高次にそう言い放った長門は井ノ口に赴く為に隆成に許可を貰いに行くところだ。

 

(良晴……….なんでお前がこの時代にいるんだ?なんの為に………竹中半兵衛もあるが、あいつのことも気になるな)

 

長門はかつての親友に会い、彼の考えを聞く為に井ノ口に向かう準備を始めた。

そして……

 

ガッシャーン‼︎

 

突然の音に驚くが、音の正体は足を引っ掛けた高次が湯呑みを落とし、割ってしまったのだ。

長門が井ノ口に行く為に黒野を発ったのは、湯呑みを落としてから一半刻後になった。

 

 

 

 




長門にもうひとりふたり欲しいですねー

誤字、感想お待ちしております。


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再会?

どうしても話の進行が早い。どうにかしてこの辺で話数を稼がねば!!


美濃国。金華山、稲葉山城の麓の町、井ノ口。長門は彼の側近である高次と共に井ノ口を訪れていた。

 

「……長門様。やはり道三様の時とは違って城下の様子が変ですよね。なんというか………活気がないと言いますか……」

 

「多分戦が始まって不安があるのはそうだが、義龍が美濃の関所の復活させたのも少なからずあるのかもな」

 

城下の活気の無さを見て不思議に思った高次は長門に問う。実際に美濃の国主が道三の時代は美濃の関所を撤廃し商業の発展をしていた。自国の外で商業をするためにはその国の関所で関銭を支払わなければならない。そしてその関銭は国主の義龍や美濃の国人たちの懐に一定の関銭が支払われていた。ちなみに緋村では長門の献策で関所は撤廃されている。その他にも検地を行なったりなどしている。

今回の目的は『竹中家士官面談』が開催される為、長門は竹中半兵衛を見たいと言う興味本位で参加することにしたのだ。それともう一つの目的は、

 

「多分良晴の奴も来るだろうな……」

 

彼の元・親友相良良晴である。彼は無類の戦国ゲーム好きであった為、恐らく半兵衛の調略についてくるであろうと考えていたのである。そして彼に何故ここにいるのかなど聞きたいことが山ほどあったのだ。

そして井ノ口の長良川沿いにある鮎屋が遠目に見えてきた。

 

「あそこの鮎屋で竹中半兵衛の士官面談があるのですね」

 

「ああ………なんだありゃ?」

 

長門の眼の前では虎の被り物を被った少女前田犬千代に鮎で餌付けをしている男。と言うなんとも言え無い光景が広がっていた。しかもその餌付けをしている男と言うのが長門が会いたかった親友、相良良晴であった。

 

(なんだぁあいつは何やってんだ?女好きというのは知っていたが、まさか、ロリっ娘をペットにする趣味が出来ちまったのか?)

 

心の中で親友を心配する。それは当然であるだろう。久しぶりにあった親友がそっちの趣味に走っているとは思いもしなかった。

 

(ま、まあ他人に迷惑をかけてるわけじゃ無さそうだし、いいか)

 

長門の脳内会議も終わり取り敢えず、鮎を食べるかとなり馬を降り鮎屋に入る。

そして

 

「犬を飼い慣らす猿か………これは天然記念物かな?」

 

「なんだと⁉︎誰だって………お前⁉︎もしかして」

 

「お久しぶりですな。えっと……相良……良晴殿でしたかな?」

 

良晴は食べていた鮎を落としてしまった。ちなみに落ちた鮎は「………勿体無い」と犬千代がくすねていた。

 

「そなたらも士官面談なのだろう?少し話さないか?」

 

そして店の主人から鮎を貰って運んできた高次も共に良晴との対話をした。

 

 

「なるほど、未来とはそんなところなのか」

 

長門と良晴は話す言葉が柔らかくなっていた。良晴と打ち解けてきた事を装っているようだ。こっちは知っているが相手は自分は死んだと思っている為、それは言うべきではないと判断したのだ。

 

「ここに来たということはそなたも竹中半兵衛を?」

 

「ああ、俺様の説得で織田に来てもらう。そうすれば、美濃をとれるしな」

 

「説得できればの話だろ?」

 

「大丈夫だ。それは!それよりもあんたさ……」

 

「お若いの、半兵衛に士官する為に来られたのかな?」

 

良晴たちの前にどこか軽薄そうな笑みを浮かべる老将が座敷に座り込んだ。その老将に長門は心当たりがあった。

 

「お久しゅうございます。安藤殿、ご健勝そうで何よりです」

 

「おお、そなたは緋村長門殿。久しぶりじゃのう」

 

長門たちはひとしきり挨拶を済ませ、安藤伊賀守に案内され半兵衛のいる奥座敷に案内される。

そこには艶やかな美少年が正座していた。

 

「お前は、浅井長政⁉︎」

 

「貴様は……サル⁉︎」

 

突然、良晴がその美少年に噛みつき、浅井長政と呼ばれた美少年のほうもそれに乗っかる。そして彼らの言い合いを長門と高次はただ眺めていた。

 

「高次、あれは浅井長政で間違い無いんだよな」

 

「はい、忍び部隊に探らせましたが、人相はそっくりですね」

 

「これはこれは緋村長門どのではありませんか。私は近江商人の息子、猿夜叉丸と申します」

 

長政はイケメンオーラを出しながら長門に挨拶をする。長門もそれにならって挨拶を返す。

 

「では、わっちは下の階に集まっている貧乏浪人どもを解散させてくる。じきに半兵衛が参るであろう」

 

どうやら銭無しの浪人はお断りらしい。長門の横では良晴、犬千代、長政の三人がいがみ合っていた。

 

「お初にお目にかかる。いかにも、俺が竹中半兵衛重虎」

 

いつの間にか、奥座敷のど真ん中に白面長身の青年が一人、ごろりと寝そべっていた。

 

 




今回は短めにします。ここで区切るのが丁度良さそうだったので。
け、決して話数稼ぎとか、そんなんじゃ無いんですからね!

すいません冗談です。

では、誤字、感想あればよろしくお願いします。


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天才軍師、竹中半兵衛

「お初にお目にかかる。いかにも、俺が竹中半兵衛重虎」

 

突然、奥座敷のど真ん中に寝転んでいる青年、竹中半兵衛に声をかけられて良晴、犬千代、長政、高次は驚く。

 

「うわああああっびっくりした⁉︎」

 

「この私が気配を感じ取れぬとは?いつの間に?」

 

「………腰が、抜けた」

 

「………へ?」

 

しかし、何故か長門だけは驚いてなく、

 

「何やってんだよ……」

 

「というより、なんで長門様は驚かないのですか?」

 

高次が長門をそう言いながら肩を落とす。良晴たちも声は出さ無いもののほぼ同意していた。

長門たちの前に現れた竹中半兵衛はおよそ30代前後程度の見た目であった。

長門の好きだった『戦国無双』の半兵衛とはイメージは程遠いが、良晴たちに前後を取り巻かれても知らぬ顔で寝転んだままの半兵衛の器の大きさを感じていた。

 

「しかし、半兵衛どのは実はおなごらしいと聞いていたが………」

 

「俺はこの通り水も滴る美男子だ。あてが外れたな、浅井長政どの」

 

「くっ、最初から全てお見通しというわけか」

 

長政は歯噛みした。長政は半兵衛が女ならば己の美貌で籠絡しようとしていたのだろう。それが浅井長政の何時もの手口なのだろう。それに反応した良晴が怒り狂い、信奈を巡る喧嘩が勃発していた。

 

「ぶっ………くくっ……」

 

「な、長門様……笑っては……駄目……ですよ……」

 

良晴と長政が喧嘩をしている最中、長門と高次が笑いを堪えていた。犬千代がそれを発見し、睨んでいるが大して気にしていない。

 

「遠路はるばる、井ノ口までよく起こしなされた。まずは、みたらし団子と粗茶をどうぞ」

 

半兵衛が手を叩くと町娘姿の美少女が一人ふらりと部屋に入ってきて、団子を置いた。その頭からオオカミの耳がぴょこんと飛び出している。良晴がその娘に鼻の下を伸ばし、犬千代がむぅと、頬を膨らます。

 

「その娘は、我が式神の『後鬼』ですよ」

 

「式神って安倍晴明が使役していたって言われるあの式神か?」

 

「左様、我が始祖・晴明公をご存知とは、意外と相良どのは物知りと見える」

 

「俺の暮らしていた未来では安倍晴明が流行っててさ」

 

「ほう、未来とは面白いお方だ」

 

「でも、式神って鬼なのか?人間なのか?尾張には鬼も妖怪もいなかったぜ」

 

(なんだっけな……確かネットとかで見たことあったんだがな……)

 

それは尾張が異邦人が行き交う港町にて人々の心が銭や商品に夢中であるからよ。と半兵衛は狐のような笑みを浮かべた。

 

「……あぁ、そういうことか」

 

「ど、どういうことだよ長門」

 

納得がいったような表情を浮かべる長門に良晴が問い詰める。

 

「世界の万物は陰と陽から成っている。陽ってのが実体をもつもの、まあ人間とか物のことだと思ってくれればいい。陰ってのがそういった実体を持たない『気』だ。つまり陰陽道ってのはその陰、『気』を理解しそれを力として用いる術ってところだ。要するに先程の半兵衛殿の仰ることが正しいのなら、尾張のような港町では人や銭が飛び交い陽の力が強いところではその力は弱まるってことだ」

 

まああくまで私の推察ではあるが、と付け加える長門。半兵衛は少し驚いた表情を浮かべていた。

 

「………これは驚いた。多少違っていることがあるとは言え、まさかそこまで理解しているものがいるとは……流石は緋村の軍師、長門殿と言うべきか」

 

「何、半兵衛殿が陰陽師と言う噂を耳にした折に城の書物庫を漁り陰陽師の書物を少し読んだ程度ですよ」

 

「それでも大したものよ、俺の『石兵八陣』に細工を加えたのは貴殿なのだろう?」

 

良晴と犬千代はそうなのか?という表情をし長門は半兵衛に習い知らぬ顔でそっぽを向く。

 

「ともあれ、遠路ご苦労。皆の衆、八丁みそをたっぷりとかけただんごをどうぞ」

 

先程後鬼が持ってきたみたらしだんごには三河名物の八丁みそがたっぷりと塗ってあった。その上、美味しそうに湯気を立てているお茶がなみなみ注がれていた。

 

「俺の好物、飛騨特産のみたらしだんごだ。飛騨は米があまり美味しくない。ゆえに米をだんごにして食べるものが多いのだ」

 

半兵衛が得意げにだんごを講釈。稲葉山城は水の手が少ない山城であり炊くために水を使う米は籠城時には食せない。そのため、手軽な保存食としてみたらしだんごを数多く貯蔵しているのである。

 

「いやぁ喉が乾いてたところなんだ、いただきますっ!」

 

「……だんご、美味しそう。ぱくっ」

 

良晴、犬千代はお茶とだんごに食いついていた。長政は味噌が苦手なのか口をつけようとしなかった。

長門と高次もまた然り。

 

「おや、長門殿に高次殿もよろしいのか?」

 

「いや、我らは先程の鮎屋で腹ごなしは済んでおりますゆえ、」

 

「わ、私もです!」

 

「高次……涎が出てるぞ」

 

「へぁ⁉︎」

 

高次は我慢しているようだが、涎が口元から垂れており説得力がなかった。

 

「うめぇ、うめぇ!このお茶の微妙な生暖かさが、疲れ果てた胃袋にちょうど優しいお湯加減っ!」

 

「……めぇ、めぇ。みそだんご、ほろ苦くて美味しい」

 

良晴と犬千代がほくほくとした笑顔でいた。高次も羨ましそうに見つめている。

だが、

 

「くっくっくっ、あーははははっ!」

 

突然半兵衛が大笑いを始めた。

 

「わが、『十面埋伏陣』と『石兵八陣』を破った尾張侍には期待していたがこの程度のいたずらにあっさり騙されるとは!」

 

半兵衛はゲタゲタと大笑いする。気づけば半兵衛の顔はすっかり狐顏になっていた。

 

「何、毒ではない、そのお茶は馬の湯張りにだんごは馬糞だ」

 

その瞬間、良晴と犬千代は顔色が悪くなり、えずく。長政は「食べなくてよかった」と安堵の表情を浮かべていた。

 

「さて、相良良晴どの、浅井長政どの、緋村長門どの、この糞だんごを一つ残らず食い尽くし、土下座をすれば俺は斎藤を辞してそちらについてもいいぞ?」

 

半兵衛がそう言うと良晴と長政は葛藤していた。馬糞のだんごなんかは食べたくなかった。しかし、長政は信奈を妻にするため、良晴はその結婚をぶち壊しにするため、糞だんごに手を伸ばそうとする。

しかし、この男は違った。

 

「……食う必要はない…」

 

「え?」

 

良晴たちは思わず長門を見る。その顔はニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「梅‼︎」

 

「………御意……」

 

突然、屋根裏から長門の忍び、梅が現れ、忍刀で斬り伏せた。

こーん!と一声鳴いて狐半兵衛はもんどり打って倒れてしまった。

 

「な、何てことを……貴様!」

 

「お、おい、長門………何でこんな」

 

二人の怒りの視線をひらりと受け流し梅と高次に何か指示を出し良晴に向き直る。

 

「相良良晴……お前は恥ずかしくないのか?こんなコケにされたままで、こんなことできるなんて人じゃない!犬だ。武士なら頭を下げちゃいけない時ってのがある。今がその時なんじゃないのか?」

 

長門の言葉に良晴も押し黙る。しかし、問題は解決していない。

 

「し、しかし半兵衛どのを切ってしまってどうするつもりなのだ………」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「大丈夫じゃねえだろ。半兵衛死んでるし!」

 

「そうじゃない。ほら、よく見てみろ奴の死体」

 

「死体って言ってるし………ってあれ?」

 

「死体が……」

 

「………消えてる?」

 

先程倒れていた狐半兵衛は幻の様に消えていた。

 

「長門様!長門様のおっしゃる通り」

 

「………見つけました………」

 

「やっぱりか……」

 

「………きゃっ………い、い、い、いぢめないで………ください………」

 

高次と梅が小柄な小さな少女の腕を持ち連れてきた。

 

「ま、まさか……」

 

「この子が………」

 

 

「「「竹中半兵衛⁉︎」」」

 

一呼吸開けて三人の声が揃ったのだった。

 

 

 

 




誤字、感想、あればよろしくお願いします。


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半兵衛、稲葉山城へ

高次と梅に引きずられて、奥座敷に姿を現した竹中半兵衛は小柄の少女だった。そもそもこの竹中半兵衛の家臣面接は、半兵衛は体が弱く故郷で晴耕雨読の生活をしており、余程ではなければ斎藤家に仕えるつもりはなかった。しかし道三から覇権を奪った義龍に半ば脅される形で斎藤家に仕えることになり、軍師として采配を振い体の弱い半兵衛の影武者として前鬼が戦場に出ていたのだ。

しかし半兵衛が実は姫武将という噂が流れ、それに乗じて元道三派であった美濃三人衆や半兵衛を害そうという東美濃の動きがあったのだ。

 

「なるほど……確かに長良川の時は道三様を逃し、織田の侵攻のほぼ無傷で退けた半兵衛に疑いが持たれたため、明日登城せよというわけか……」

 

「そうじゃ、もしかしたら明日の登城の時に半兵衛が害されるかもしれん、幽閉や暗殺があるやもしれんそこで腕利きの侍を募集しておったのだ」

 

この家臣は見栄のためではなく、暗殺を防ぐための護衛という言い方のほうが良いのかもしれない。

 

「だが、他家からの調略があれば話に乗って半兵衛を美濃から逃がそうと思っていたのだが…………」

 

「……くすん。謀反はダメです……謀反は、不義です」

 

「この通り、謀反を何より嫌う子でのう。明日は登城する、義龍どのに影武者を用いた件を詫びて申し開きする、と言って聞かぬのじゃよ」

 

長政がお任せあれと調子よく頷くと良晴もムキになって声をあげていた。良晴が声を張り上げたため、半兵衛がまた怯えて泣き出し、前鬼がまた良晴に襲いかかっていた。良晴と前鬼の取っ組み合いを眺めながら長門は溜息をついた。

 

(史実とはやっぱりだいぶ違ってるな………明日の登城で半兵衛が城を乗っ取っちまうのか?まあ、恐らく義龍は半兵衛を斬るつもりだろうな)

 

そう思いながら皿に残っていた八丁みそが塗られていたみたらしだんごを口に運んだ。

 

「……不味くはないけど、普通にみたらしだんごが食べたかったな」

 

「そうですか、私は結構好きですよ?」

 

何故か高次も食べていた。

 

 

翌日、半兵衛とその家臣一同は稲葉山城のある金華山を登っていた。義龍の居城である稲葉山城は金華山そのものを天然の要害とした巨大な山城であり、長良川や木曽川などが天然の堀としての役割を果たし織田の侵攻を阻んでいたのである。

 

「井ノ口の町を王城と見立てればまさしく“背山臨水”。井ノ口と稲葉山城は陰陽道の理にかなった王都と言えます。天下を望む蝮様や織田信奈様がこの城にこだわるのもわかりますね」

 

「川が近くになければその町は栄えない、だけど山のない平地ばかりだと今度は防衛が難しい、といったところか………確かにこの井ノ口は山も水も備わっているという意味ではその通りだな」

 

顔を布で覆った長門が半兵衛に同調する。

 

「そういえば長門、なんでそんなものをかぶっているんだ?」

 

「一応緋村家は斎藤家とは同盟関係にあるからな、顔がわれるのは困る。だからこれは病で顔を見せることができないっていうことにするためさ」

 

なるほどな、と良晴は頷く。長門としては堂々と顔を晒して斎藤家に確執を作ることも考えたが、今はまだ見極めるという隆成の方針の為、それはできないでいる。

長門が見ると半兵衛がひぃ!と小さい悲鳴を上げた。

 

「ひ、緋村長門さんは怖いです……。『石兵八陣』に火薬を仕込んで爆発させましたし………長良川でも偽書を送って疑心暗鬼に陥らせてます……」

 

「それはそれは、褒め言葉として受け取っておこう」

 

半兵衛が怯えているが長門はそれをさらりと受け流していた。良晴たちはそれにちょっと引いていた。

 

 

その頃、稲葉山城内では半兵衛の処遇について家臣たちが大激論を繰り広げていた。それも美濃三人衆の一族である半兵衛の出仕を快く思っていないからであった。特に義龍の懐刀とも言える斎藤飛騨守が三人衆と半兵衛を失脚させる為にあの手この手と義龍を疑心暗鬼に駆り立てていた。そしてその中には道三の盟友で今は義龍に従っている緋村隆成の姿もあった。

 

「義龍さま。半兵衛の叔父である安藤伊賀守は、道三の片腕でしたぞ。しかも信頼のおけぬ男。半兵衛は、安藤と謀って道三を尾張に逃がしたに違いありませぬ」

 

義龍が東美濃衆を重用し始めてから立場が苦しくなってきた美濃三人衆。安藤伊賀守は半兵衛に随行している為、後の二人、稲葉一鉄と氏家卜全はかつて道三の盟友であり、三人衆たちとの親交のあった長隆の協力を仰ぎ、半兵衛の弁護をしていた。

 

「飛騨守!そもそもお主の讒言があったから長良川では道三どのを、そして織田信奈を逃したのではないか!」

 

「そうじゃ!お主の讒言がなければ儂等は織田信奈を討ちとれたというのに!」

 

「黙れ!西美濃衆は信頼ならぬ。先日みた半兵衛は如何にも面妖な面で武家のものではない!」

 

それに、と斎藤飛騨守は長隆に目配せをし、

 

「緋村どの、そなたも道三とは盟友であったな。最近、道三を逃したのはそなたらが裏で糸を引いているという噂が立っているではないか!」

 

もちろん、斎藤飛騨守はそれが事実だとは思っていない。長良川の時には緋村の軍勢は長門と手勢が少々出た以外黒野の地で静観を決め込んでいたのだ。それに目ざとく気付いた斎藤飛騨守は緋村をも害してしまおうと考えていたのだ。

 

「さて、何のことじゃろうな、儂らが兵を出せぬ状況にあったことは先日説明したではないか。半兵衛が男なのか女なのかは今日決まるのであろう?いつまでもこんなところでくだらぬ言い合いをする暇はないのではないか?」

 

長隆は国の為ではなく己の私利私欲の為に手を尽くす斎藤飛騨守が大嫌いであった。

 

「ぐぬぬ…………」

 

斎藤飛騨守も最初は緋村の武力を恐れており下手に出ていたが最近の長隆の言動には耐えきれなくなっていた。

結局、義龍は飛騨守の意見を取り入れ稲葉と氏家は沙汰が決まるまでは謹慎が言い渡された。

 

 

 

(さて、そろそろ潮時じゃな。美濃は織田にとられるのやもしれんのう)

 

 

 

 

稲葉山城についた半兵衛一行は義龍たちが待ち構える御殿へと近づいていた。一ノ谷の兜をかぶった半兵衛が子馬にのって門を潜ろうとした時に、門の屋根の上に仁王立ちしていた斎藤飛騨守は犬の小便を半兵衛の頭目掛けて垂らした。

 

「思い知ったか、わが主君にに阿る文弱の徒が!」

 

半兵衛は一瞬何が起こったのか理解できず固まっていたが、声の主を確認し、己の頭にかけられた生暖かい液体の正体に気付いた。

 

「……きゃああああああ!」

 

小動物のような黄色い悲鳴が響き渡った。半兵衛は思わず『虎御前』を抜刀しかけたが、叔父である安藤伊賀守や良晴たちがなんとか抑えたが浅井長政が怒り、抜刀してしまった。

 

「お前、何やってんだよ! 相手の思う壺じゃねーか!」

 

「し、しまった……猿に窘められるとは」

 

「ええい、皆の者出合え出合え! 竹中半兵衛、ご謀反でござる」

 

この飛騨守の声を聞きつけ館内から義龍たち美濃侍が一斉に門前まで躍り出て半兵衛一行を包囲していた。

 

「……ぐすん……ぐすん、ぐすん。い、い、いぢめ……いぢめられ……」

 

混乱した半兵衛に危機が迫った。良晴も長政も犬千代もあまりの展開に声が出ない。

 

「おいおい……これは流石に不味いぞ……」

 

この後の展開が読めてしまった長門は珍しく焦っていた。安藤伊賀守も慌てて美濃侍たちに刀を納めさせようとしたがそれよりも先に半兵衛が爆発してしまったのだ。

 

「いぢめないでくださあああい!」

 

叫びながらドーマンセーマンのお札を乱舞させ、手持ちのお札を全部をぶちまけ、計十四体の式神を召喚していた。

すなわち、本当に謀反を起こしてしまったのだ。その式神に驚いた美濃侍たちは式神たちに驚き、逃げ出してしまった。それを式神たちが追いかけ回していた。

長門たちが唖然としている間に半兵衛一行は稲葉山城を落としてしまったのだ。




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長門、斎藤へ

お久しぶりです。




半兵衛は稲葉山城を乗っ取ってしまった。斎藤飛騨守が一計を謀り、半兵衛に犬の小便をたらしその後に義龍以下美濃将勢が一斉に現れ半兵衛一行は囲まれてしまったのだ。そしてそれがいじめられたと感じた半兵衛はキレてしまい式神で義龍達を追い払ってしまったのだ。

その事実にいち早く気づいた安藤が「でかした半兵衛」と喜んでおり、半兵衛は事の重大さに気付き震え上がっていた。

しかし、また問題が発生したのだった。安藤伊賀守が浅井長政に誘拐されてしまったのだ。そして長政は伊賀守を返して欲しければ墨俣に半兵衛が来いという事だったのだ。そして半兵衛一行は夜陰に紛れて木曽川を下り、墨俣の地にたどり着いたのである。

しかし、そこには長政はおらず地面に書き置きが置かれていたのである。その内容は今度は一人で近江に来いと言うものだった。

 

「長政にしてやられたな……半兵衛を調略とみたら義龍たちに稲葉山城を奪還させるために墨俣まで誘き寄せたのか」

「くそっ! 長政め、ただの女たらしじゃなかったのか……!」

 

良晴は地団駄をふみ悔しがっているが、長政の周到な策に長門は感嘆を覚えていた。これで織田は自力では稲葉山城を落とせない。そして浅井に助力を乞うことになり織田は浅井に有利な形で同盟を組まなければならなくなってしまう。

 

「……これで姫さまは長政と結婚するしかなくなった」

「まだだ犬千代。俺は諦めない、稲葉山城を自力で落とす策を考えるぜ……というか長門。織田についてくれないか?」

「は?」

 

良晴の突拍子も無い発言に長門は素っ頓狂な声をあげていた。

 

「貴様! 長門様に向かって堂々と寝返れと⁉︎ 無礼も……むきゅ⁉︎」

「落ち着け高次」

 

正面切って「織田に寝返ってください」とお馬鹿発見をする良晴に腹を立てた高次の口を塞ぎ、抜刀しようとしていた右手をはたき落とすという妙技を炸裂した長門。

高次をなんとか宥めた長門は良晴に正対する。

 

「結論から言っておこう、それはあり得ない話しだ」

「そこを頼む! 信奈が天下を取るために、何としても自力で落とさなきゃならねぇんだ!」

「その為に緋村が斎藤を見限って、織田につけと? ハッ! 先程まで半兵衛には謀反人にしたくないなんて言ってた男の言葉とは思えんな」

 

良晴は墨俣に来る前に「半兵衛に謀反人としての運命を背負わせたくない」と言っていたのを長門は聞き逃さなかったのだ。今の長門には良晴の言葉は都合のいい子供の言い訳にしか聞こえなかったのだ。

しかし、自称戦国一の女好きの相良良晴も“半兵衛”という単語が耳に入り引き下がれなくなった。

 

「うるせぇ! 俺は日本全国のかわいい女の子の味方だ! 藤吉郎のおっさんの志を継いだ俺が半兵衛ちゃんにそんな悲しい思いをさせられないだけだ」

 

良晴ははっきりと言い切った。その目には嘘偽りもなかった。一片の曇りの無い目には女にかける良晴の情熱が感じられた。

 

(ここまで言い切るとは……やっぱり良晴は良晴か……)

 

これには長門も驚きを隠せないでいた。だが甘い、長門はそうも思った。その甘い考えではこの乱世は生き残れない。さらにかなり自分勝手だ。戦国を経験していない時代に生きていた良晴だからだろうか、女好きも相まって姫大名にかなり甘い。

 

(その考え………いずれ後悔することになるぞ)

 

そして梅が引き連れてきた井ノ口の町に止めておいた馬に跨った。

 

「なあ長門。もう一度言うが……」

 

「織田には下らない。今のは聞かなかったことにしてやる。次同じことを言ったら斬るぞ」

 

そう言い残すと長門は闇の中に消えていった。

 

 

 

黒野への帰路の道中、長門と高次はのんびりと馬を走らせでいた。

 

「長門様、よろしかったのですか?」

「何がだ?」

「いえ、あの相良良晴というもの、彼処で斬ってもよろしかったのでは?」

 

まさか、とその考えを否定するように笑う長門。暗闇で辺りは見えないが後方、良晴達のいる墨俣を見つめる。

 

「まあ確かにそうだろうが、ただ奴を見極めたいと思ってな」

 

(そう………お前の選んだ道はイバラの道だ。その覚悟で何処までやれるのか見せてもらおうか………)

 

 

そう言うと長門は再び馬を進める。会う時代が変わってもかつての親友は変わってはいなかった。その事実を知った長門は高次に見つからないように笑みを浮かべていた。

 

 

翌日、井ノ口には良晴や長門らの人相書きが辺りに触れ回っていた。これでは義龍が黒野を攻めるのも時間の問題。そう思った長門は白装束を着て、明朝から長隆に目通りをしたのだった。

 

 

「父上、この度は私の軽率な行いで、この緋村家の名に泥を塗るような真似をしてしまいました。この責任は私が腹を切りお詫び申し上げる次第!」

 

長門は頭を下げながらそう述べる。これは自分の責任だ。恐らく自分の首を義龍に差し出せば緋村は安泰するだろうと。

 

(すまんな良晴。俺はここまでみたいだ)

 

長隆は何も言わずそれを見つめている。そしてゆっくりと長門に近づき、

 

「馬鹿者ぉぉぉ‼︎」

 

思いっきり殴った。長門の腹を捉えたボディーブローで長門は宙に浮き、思いきり床に叩きつけられた。

 

「グハッ!」

 

体を叩きつけられた長門は肺の空気が外に吐き出され咳き込む。そして長隆は長門の胸倉を掴み、顔面を殴る。

 

「なぜ儂がお主の首を跳ねねばならんのだ⁉︎ 義龍の為にお主が腹を切る必要は無い。あやつがこの黒野を攻め立てると言うならば我が緋村家の恐ろしさを義龍に教え込むまで!」

「し、しかし……」

「話は終わりじゃ」

 

そう言い残すと長隆は広間を後にした。殴られた頬をさすりながらポカンとしている長門に隆成、義隆兄弟は肩を置く。

 

「長門、父上はああいうお方じゃ。失態は戦で返せば良い」

「そうだ。我ら緋村の武勇とお主の知略があれば義龍も恐るるに足らん!」

 

兄二人もそう笑いながら言う。

 

「ふ、ふふふ。ありがたき幸せ……この長門、より一層緋村家の為に身を粉して精進していきます」

 

つられながら笑う長門。その目頭からは光るものが滴り落ちていた。

しかしその翌日、義龍からの援軍要請が来たのであった。

 

 




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邂逅、柴田勝家

お久しぶりです。
今回は勝家が墨俣に築城しようとします。


ー墨俣城ー

長良川の中州に位置する墨俣の地に一夜にして建てられた別名“墨俣一夜城”と呼ばれた木下藤吉郎の逸話が有名である。

美濃を取るために織田信長は墨俣に城を建てることを決意したが、佐久間信盛、柴田勝家といった重臣が築城に失敗するなか、木下藤吉郎が築城に成功し、美濃の国人たちが続々と寝返り、稲葉山城を落としたのだ。

その戦略的要地に降り立ったのは織田家家老筆頭柴田勝家であった。なぜ彼女がいるのかというと、信奈が良晴に三日後に稲葉山城を落とせなかったら浅井長政に嫁ぐ事をにしたといい放ち、このままでは姫さまが浅井長政に奪われる! と思った勝家は信奈と同じく家老の長秀の制止を振り切り、仕事を横取りされそうになって食ってかかる良晴を殴って気絶させ郎党を集めていっせいに墨俣に繰り出したのだ。

兵の数は三千、城普請に駆り出された人足は五千。総勢八千の大軍を率いた勝家は決死の覚悟で挑んでいた。

 

「みんな、気合いを入れろーーー! あたしたちが失敗すれば、麗しの信奈さまを浅井長政に穢される〜!」

 

兵站と築城の指揮を一人で採る勝家。その迫力には兵たちも「勝家さまの後ろに鬼が見えるだみゃあ」などと味方を恐れさせていた。

 

一方その時、長門ら緋村家は黒野城を出立し、五千を引き連れ稲葉山城に入り軍議に参加していた。しかしその軍議を始める前に一悶着があったのだ。長政の入れ知恵で長門が半兵衛の稲葉山城乗っ取りに関与している事が義龍に漏れていたが、長隆らが知らぬ存ぜぬを一点張り。義龍も納得はしなかったが、その時長門は布を顔に巻き、その素顔を見たものがおらず、長政の存在は話せなくそれ以上に言及ができなかった。

何より、鬼の巣窟である緋村家を手放す事は義龍には出来なかった。

そして夜の帳が下りてきた時に美濃の伝令兵が広間に入ってきた。

 

「申し上げます! 長良川の中州、墨俣にて織田の兵が築城を始めたとの事その数八千」

 

その伝令に重臣たちは一瞬騒ついた。それを聞いた義龍はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ふん、小癪な。直ぐに兵を集めよ」

 

「義龍どの、ここはワシらに任せて頂けぬか」

 

義龍の命令にいち早く反応したのが長隆であった。その進言に義龍は少し面を食らったような顔をした。

 

「良いのか長隆どの」

 

「無論、我が子長門のつけた汚名も我らの槍ではらいたいのでな」

 

長隆はニカっと歯を見せて笑みを浮かべる。

 

「よかろう、緋どのは村は直ぐに戦じたくを整え夜明けと共に出陣せよ!」

 

義龍の一括で軍議はお開きとなり、長門らは、出陣の用意に取り掛かった。

 

長門らは井ノ口の周辺山に陣取った。ここからならば墨俣の築城部隊が丸見えであった。長隆を始めとしたその息子たちは墨俣を見下ろしていた。

そして偵察に出ていた梅率いる忍び部隊が長隆に敵状を報告する。

 

「………築城部隊を率いるのは柴田勝家、八千の内兵はおよそ三千、残り五千は築城のための人足かと………」

 

「うむ、やはりか……思ったより築城に人が多いのう」

 

「ええ、ですが彼らは兵ではありません。我らが攻め込めばその殆どは逃げ出すでしょう」

 

長門の言葉を聞きながら長い顎髭を撫でながら長隆は築城部隊を眺める。確かに墨俣に城を築ければ織田の勝利に傾くが墨俣の地は長良川を始めとする幾つもの川が交差する地形、築城部隊は自然と背水の陣となり、足場は泥濘に足を取られ槍働きも儘ならない。ゆえに墨俣は死地と呼ばれているのだ。

長門この時に長門の頭にはすでに撃退の戦略が浮かんでいたのだ。長門は墨俣周辺の地図に石を兵に見立て作戦を話し始めた。

 

「突撃は義龍どのがおっしゃった通り夜明けと共に奇襲をかけましょう。軍は二つに分けましょう。そして戦闘部隊が迎え撃ってきたら別働隊は迂回し、築城部隊に奇襲をかけるのです。そうすれば築城部隊は堪らず逃げ出すでしょう」

 

そして、と続けながら戦闘部隊に見立てた石を指差した。

 

「あとは柴田勝家率いる兵を包囲して叩けば良いでしょう」

 

「うむ、戦闘部隊は間伸びするように誘い込むべきじゃな」

 

長門の策に長隆は肯定する。

 

「ならば私が別働隊を率いましょう義龍どのからお借りした二千の兵を私にお預けください」

 

そして義隆が別働隊を引き受けることになった。

 

「先陣は長門、お主じゃ」

 

「はっ! この不肖長門、先陣を勤めさせて頂きます」

 

軍議の時の通りに先陣は長門が勤めることになった。

 

(悪いが良晴、俺はお前と敵としてあたることになるだろう。だが、これくらいのことを乗り越えられなきゃ織田のお姫様は天下なんてとれないぜ)

 

そう心の中で親友を思い浮かべる長門。そして長男の隆成に近づく。

 

「兄上、お話が……」

 

 

またまた場所は変わって墨俣では勝家率いる築城部隊は城の普請に急いでいた。陣頭指揮をとりながらも勝家の頭の中は信奈のことでいっぱいであった。

 

(もし墨俣に城を造れなければ姫さまは浅井長政の妻にされてしまう。しかし万が一サルに任して城を造れば、美濃はとれるが姫さまは「恩賞自由」の約束によってサルの嫁に⁉︎どっちも嫌だー‼︎)

 

うがー! と頭を掻き毟る勝家、そしてまた頭を抱えて考え込み、また頭を掻き毟る。その繰り返しを見ていた兵たちは安定しない勝家の情緒を心配していた。

そして夜の帳に朝の光がうっすらと浮かび上がり暁の空が昼夜通して働いていた人足たちの疲労感を増すのには十分だった。

その時だった。銅鑼の音と共に緋村の軍勢が一斉に襲いかかってきた。

 

「て、敵襲だぁ!美濃の敵襲だみゃあ!」

 

織田勢は夜明けの奇襲に浮き足立っていた。逃げ出すものこそ少なかったが、直ぐに槍を持って迎え撃つことができたのは半数の兵たちと勝家やその勝家に連れてこられた池田恒興や佐々成政くらいだった。池田恒興、ポニーテールのその少女は母が信奈の乳母であり、乳姉妹に当たる。温厚で誠実な性格で今回は勝家の暴走を止めようとしたが止められなかった。そして佐々成政は信奈の馬廻であり、真っ直ぐな性格でいつも慕っている勝家に従軍していた。

 

「怯むな! 迎え撃て!」

 

勝家が先陣を切り、それに続く形で織田勢は美濃勢を迎え撃つために出撃を開始した。

 

 

「進めぇ! 一気に織田を叩け!」

 

先陣を切る長門に続き三千の兵も未だに体制が整いきってない織田勢に突っ込んだ。そして直ぐに乱戦となった。

ある者は槍で敵を叩きつけ、ある者は槍で突き刺され、ある者は倒れた兵の首を掻き切りった。

戦況は奇襲を仕掛けた美濃勢がわずかに優勢だった。しかし勝家の獅子奮迅の働きが総崩れを防いでいた。

 

「死ねやぁ、死ねやぁ姫さまの操のために〜!」

 

勝家は戟を振るい敵を撫で斬りにしながら味方を鼓舞し続けた。その姿、まさに鬼柴田であった。勝家に鼓舞された織田勢が徐々に体制を整え、混戦となった。

 

「一旦退け! 弓兵部隊は有りっ丈の矢を打ち込め!」

 

長門の指揮で歩兵は撤退を開始し、後方に控えていた弓兵部隊が撤退援護を行う。一斉掃射された弓矢はまるで弾幕の如く降り注いだ。

 

「逃がすな! 追え、 追えー!」

 

「お待ちください勝家どの! これは明らかに誘われております!」

 

矢を戟で払い除け背を見せる長門を恒興の制止を振り切り追撃を開始する。

恒興は戦場でここまで焦っている勝家を見たことはなかった。

 

(日の出と共に奇襲、そして機を見ての撤退、これは緋村の得意戦術。この撤退にも何かあるはず……)

 

思考を巡らせる恒興。

 

「まさか………」

 

恒興は思考の答えにたどり着いた。すぐさま勝家を止めに入る。

 

「勝家どの! ここは引きましょう。罠です! 我々は……」

 

しかしその時には既に遅かった。追撃に気を取られ、少し陣形が延びていた。

 

「何⁉︎ あたしは騙されてたのか⁉︎」

 

伏兵の登場で頭に登っていた血がすぅっと冷めた勝家は己の行動を悔いた。直ぐに体制を整えようと後退するかと考えた時だった。

 

「柴田勝家どのとお見受けした! 私は緋村長門! み印頂戴する!」

 

再び転進した長門が迫ってきており馬上から槍を突き出した。

 

「お前が長門か、ええい! あたしは姫さまの操を守るんだぁ!」

 

長門の突き出した槍を最小限の動きで躱すと横薙ぎに戟を払う。突きの後に横腹がガラ空きだった長門は防御がギリギリ間に合わず直撃は避けたが勝家の怪力で馬上から弾き飛ばされた。

 

「ガッ!」

 

地面に叩きつけられた長門。受け身をとっていたが殺しきれなかった衝撃が身体中を巡った。

 

「はっ!頭はいいけど槍はあたしの方が上みたいだな」

 

「くっ……そがっ!」

 

勝家が振り下ろした戟を身体を捩り躱し、勝家に蹴りを入れ距離を取り立ち上がる。

しかし倒れた時に脳震盪でも起こしたのか上手く立ち上がれない。

 

(クソッタレ………こんな時に………‼︎)

 

「長門様‼︎ご無事ですか」

 

その長門に駆けつけたのは彼の一番の家来である高次であった。高次は自身の馬に長門を乗せた。

 

「待て!」

 

長門を討ち損なった勝家は追いかけようとするが入ってきた伝令にそれどころではなくなった。

 

「申し上げます! 美濃勢の別働隊が城を攻め、築城の人足は殆ど逃げ出した模様‼︎」

 

「なんだって⁉︎それじゃあ……」

 

踊らされた。勝家はこの時、長門の知略、戦略の恐ろしさの一旦を知った気がした。

 

「勝家どの! ここは撤退を! このままでは全滅を待つばかりです!」

 

恒興と成政は勝家に進言する。勝家は苦虫を噛んだような顔をして撤退を指示した。

勝家は包囲が完成する前に撤退し何とか小牧山に戻った。そして責任をとって腹を切ると言い出し、長秀らが止めるのに苦労したのは別の話し。

 

 

高次の馬の後ろに乗せられていた長門はようやく意識がはっきりした。

 

「くっ……!高………次?」

 

「もう大丈夫です!長門様の策が成りました。柴田勝家は墨俣城の築城に失敗、撤退しました」

 

「そうか………じゃあ一先ずは勝利だな」

 

長門はほうとため息を吐き高次の背中に身体を預ける。

 

「へあ⁉︎な、長門様⁉︎」

 

「すまんが少し休ませてくれ。陣に戻るまででいいから」

 

そう言って高次の腰に手を回し寝息を立てる長門。普段冷静な長門からは想像出来ない行動である。頭を打った時の衝撃で幼児退行を起こしたようだった。

兵たちが見たのは顔を真っ赤に染めた高次とその背中にもたれかかる長門という謎の絵図であった。

 

 

 

 




長門、弱くね?
武力チートの緋村家なのに………いや違う勝家が強いだけなんだ。この子はその分頭が良いからね!これでプラマイゼロだ(?)

では誤字、感想よろしくお願いします。



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相良良晴対緋村長門

美濃編もあと2.3話で終われるようにしたいなと思ってます

多少編集しました


稲葉山城内広間の奥座に胡座をかいている義龍の前に、長門らは集まっていた。長隆が織田を撃退した旨を伝えると、義龍はそうかと満足そうにうなづく。

織田の墨俣への築城の妨害、さらに織田きっての猛将柴田勝家を撃退したならば斎藤の士気は上がるだろう。

そして義龍は長隆の陰に隠れる位置に座していた長門に目を向ける。

 

「緋村長門よ、おぬしの働きも聞き及んでおる。大義である」

 

「はっ! 有り難きお言葉」

 

「うむ。長隆どのよ、もう下がってもよい。兵たちをゆっくりと休ませてやれ」

 

「では、そうさせて貰おうかのう」

 

長隆がそう言うと長門たちも広間を後にした。

そして兵たちに飯を与え始めた。長門は私室に篭って地図を眺め始めた。暫くそのまま地図を眺めていたがふとある事に気付き地図から目を外した。

 

「いいぞ………入れ」

 

「………はっ」

 

「全く………私が一人の時は入ってきていいって言っただろう」

 

「………いえ、長門さまのご許可が無いと…………」

 

天井裏から現れたのは梅だった。長門が勝家を撃退した後に梅を尾張に忍び込ませていたのだった。だが梅は長門が入れというまでずっと天井裏で待っていたようだった。

 

「織田の様子はどうだった?」

 

「………柴田勝家が失敗し、次は相良良晴が築城に取り掛かると」

 

「やはりか………」

 

「………?」

 

「奴が本当に未来から来たというならば奴の性格ならばいつかは築城を買って出るだろうとは思っていた」

 

長門は「自分も未来から来ましたー!」などと言えるはずもないため、適当な理由をつけた。梅はそれで納得したのかそれ以上その事を言及する事はない。

梅が再び天井裏に姿を消すとほぼ同時に高次が盆に湯呑みを持ってきた。

 

「長門様、お茶をお持ちしました」

 

「ああ、すまない」

 

お茶を受け取ると一口含む。熱すぎず、かといってぬるすぎるずじんわりと体内を温めていく。

もともと身の回りの世話を小姓や女中にあまり任せず、一人でこなす事の多い長門。しかしお茶は高次に汲ませている。(高次の名誉のために断っておくが長門は何も高次にお茶汲みだけををさせているわけではない。あくまで高次のお茶が好きなだけである)

 

「先の戦はお見事でした。長門の知略に勝る者は無しですね」

 

「そこまで過大に評価をするな。しかしまぁ、柴田勝家は強いな。戦には勝ったが勝負には負けた気がするな。まあ戦にかったから良しとするか」

 

高次は長門をしっかりと立ててくれている。しかも上辺や隠している事もないその眼は高次の心の清廉さを物語っているようだった。

 

「まぁまた直ぐに戦になるだろうがな」

 

「それは………どういう意味でしょう」

 

「梅からの報告だ。相良良晴が今度は築城に取り掛かるらしい」

 

「相良良晴………あのサル顔の者ですか?」

 

「まぁ、今夜には取り掛かるだろうな。兵の消耗もあるが明日だとこっちも体制は整うからな」

 

「もし、今夜だったらまた同じ様に攻めれば良いのでは?」

 

「普通ならな。だがそこはあっちも承知だろう。それに対策を講じないのならただの無能だと判断せざるを得ないがな」

 

それと、と長門は続ける。

 

「面白い情報が入ってな。明日までに稲葉山城を落とせなかったら織田のお姫様は浅井に嫁ぐらしいんだ」

 

「えぇ‼︎それは本当ですか」

 

「ああ、それなら勝家のあの気迫も説明がつく。相良も長政のそれを邪魔する目論見だろう」

 

そう言うと長門はお茶を飲み干し、戦支度を整える。

 

 

時は移り、相良良晴とその相棒蜂須賀五右衛門、そしてその五右衛門に従うロリコン集団である川並衆。その数は数百人程度であった。その少なすぎる手勢のなかで良晴は天下に名高い「墨俣一夜城」を作り上げようとしていた。

良晴が選択したのはツーバイフォー工法を利用する事にした。あらかじめ別の場所て建物の部品を作り、それを現地に運んで一気に組み立てる方法である。

良晴たちは早速行動に移した。斎藤軍の眼の届かない山中で気を切り出し部品を組み立て、廃寺となった建物を解体して部品に加えた。そして切り出した部品を筏に乗せ、激流である木曽川を下った。

 

「相良氏。墨俣にござる………朝が来る前に城を組み立ててちまいまちょう」

 

「そうだな。ここからは一刻を争う勝負になる」

 

良晴はそうつぶやき築城に取り掛かった。真っ先に柵を立て囲いを作り、美濃勢の襲来に備えながら次々と組み上げていく。わずかな手勢のなかで当初は順調に進んでいた。

しかし天運尽きたか、朝日が東から登り築城部隊が丸見えとなりたちまち美濃勢が怒涛の如く押し寄せてきた。その数は八千近くにも及んだ。

美濃勢の先陣を切ったのは長門の言葉を聞いて警戒していた緋村勢だった。

 

「彼奴等は数百人、包囲しながらじわじわと追い詰めよ!」

 

先鋒で陣頭指揮を執る隆成。頭が硬いところが難点だが、武力と指揮能力では長門を遥かに凌駕する。

 

「弓兵、矢の雨を降らせよ!鉄砲隊も打ちまくれ‼︎」

 

弓矢と鉄砲玉の二つの飛び道具の弾幕が、ゲリラ戦術をとる五右衛門と川並衆を次々に襲う。

 

「歩兵、突撃をかけよ!」

 

長隆の下知に緋村勢は一気に攻め込んだ。その中には自らも槍を振るう長門の姿もあった。

自分に襲いかかる川並衆を一息に撫で斬りにし、拙い槍さばきで暴れまわっている良晴と対峙した。

 

「残念だったな良晴。あと一息だったのにな」

 

「うるせえ!いまはどいてくれ、俺は五右衛門を守るんだ!」

 

全身から気迫が滲み出ている良晴。ここまでの気迫を出している良晴を長門は今までは見たことが無かった。

 

(この世界で少し変わったかな?)

 

親友の変わり様に乱世の持つ雰囲気に関心した。

だが、

 

「そんな、生半可な覚悟で乱世を生き残れるかぁ‼︎」

 

槍を構えた。

 

「うおおおおお!」

 

良晴は槍を長門に向かって振り下ろした。しかしそれは所詮素人の槍、前世の喧嘩の記憶と転生後の17年間の修行を積んだ長門には部が悪い。

 

「大振り過ぎる!もっと脇を閉めろ!」

 

振り下ろされた槍の軌道を槍で変え地面に受け流す。上体を崩した良晴はよろめくが何とか体制を立て直した。良晴が再び突きに転じようとした時に横からの力で倒された。

 

「………うにゅう」

 

五右衛門が良晴をかばい種子島の弾を受けたのだ。目を回しながらぐったりと倒れる五右衛門。

 

「五右衛門……!嘘だろ……おい死ぬなぁぁぁ!」

 

「………おのこは、いずれ選ばねばなりませぬ………選ぶ勇気を持たれよ、ちゃがらうぢ………」

 

そう言うと五右衛門は静かに目を閉じた。良晴は五右衛門を抱えて吼えた。

 

「これじゃ、話が違うじゃねえか………!」

 

「そうだ、同じな訳がない」

 

五右衛門の死に悲しんでる良晴を嘲笑うように長門は現実を突きつける。

 

「お前はすでに桶狭間で今川義元を生かしている(・・・・・・・・・・・・・・・)。その時点でお前の知る歴史とは違うものなんだよ!」

 

「えっ………?」

 

良晴は耳を疑ったなぜ彼がそのことを知っているのだろうか未来からやってきたことは伝えたが今川義元が歴史では死んでいることは言った覚えがない。

ならば。

 

「お前は………誰なんだ?」

 

「私が誰だろうとも関係ない。お前はどうするんだ?お前が思い描いた歴史とは違い、大切なものを死なせてしまった。お前はこのまま変わり始めた歴史の波に消されるのか?」

 

「…………」

 

「抗ってみせろ、この絶体絶命の窮地に、そして時代に‼︎」

 

「………」

 

しかし良晴の目に輝きはない。長門は興がさめた。

 

「所詮はその程度か………お前の覚悟は。とんだ期待はずれだな」

 

長門は刀を抜き上段に構えた。

 

(じゃあな良晴………どうやらお前はこの時代に相応しくないらしい)

 

良晴は見覚えがあった。入学式に不良に絡まれた時に助けてくれた背中に、普段はクールなくせに心は誰よりも熱く真っ直ぐな言葉を。そして一番の決め手は『彼』の好きなゲームの台詞。

 

(………長門?お前なのか?)

 

良晴が顔を上げた。確かに面影はある。しかしその顔は殺す事に躊躇いのない一人の武将の顔だった。

 

(いや、いまはいい。確かに俺は馬鹿だった。俺が歴史と違う行動をとれば歴史は変わる。あいつの言う通り俺には覚悟が無かった)

 

変わりゆく歴史に抗う覚悟が。良晴は自分の心に鞭を打ち、自身を奮い立たせた。

長門の刀か良晴の首を目掛けて振り下ろそうとしていた。しかし直前の所で本陣から悲鳴に近い声が上がった。

 

「た、竹中半兵衛重虎、義によって………いえっ、義より大切なもののために良晴さんに助太刀いたしまします………!」

 

「こーん!前鬼見参!」

「後鬼、見参」

「「「「「「十二天将見参! 名乗りは長いので省略!」」」」」」

「ににに西美濃三人衆筆頭、この安藤伊賀守も仕方なく相良の坊主にお味方いたす………あう、あうあう」

 

「な、なんだと………?」

 

驚愕の表情を浮かべる長門。彼にとって計算外の事が起こったのだった。天が良晴の味方をした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




長門の正体をほぼ理解し始めた良晴。
歴史に抗う覚悟が出来るのか、そして信奈の結婚を邪魔できるのか?
誤字感想あればよろしくお願いします。



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敗北

どうしよう………展開が思ったよりシリアスになってきた………


何が起きた。長門がまず思ったことがそれだった。川並衆から軍勢を借りた半兵衛がポニーのような仔馬に跨り采配を振るい、長政によって行方不明になっていた安藤伊賀守も一族郎党の兵を引き連れ、斎藤勢の本陣を背後から突いていた。

 

「ちっ! やっぱりそっちに着いたのか半兵衛‼︎」

 

悔しそうに歯ぎしりする長門。長門はもともと本来の歴史を信じてはいなかった。著名な大名が女だったり存在しない筈の大名がいたりなど、歴史の知識はあくまで知識としてだった。

元の歴史を考慮しつつ自身の頭で考えて策を練っていた長門。長門はおそらく良晴が墨俣城を築城し、慌てて出てきた美濃勢を引きつけておき手薄になった稲葉山城を攻めてくるのだと踏んでいたのだ。実際に良晴はその手はずの筈だった。

 

「伝令‼︎ 三人衆の稲葉と氏家も寝返りました‼︎」

 

何てことだ!と長門は舌打ちをした。この二人もいずれは織田に寝返るはずだが、まさかこのタイミングだとは思ってもいなかった。長門は槍を良晴に突き出す。

 

「ちっ!なら攻めてこいつの首は………」

 

「そうはさせぬぞ! こーん!」

 

しかしそれを阻んだのが、竹中半兵衛の式神、前鬼であった。

 

「相良良晴! 今の内に」

 

「っ!ああ、助かったぜ前鬼」

 

そう言うと良晴は五右衛門を抱えて墨俣城に戻っていった。長門は前鬼と対峙していた。

 

「………そこを退け」

 

「退くわけにはいかんな。この者は我が主が主君と認めた人間。倒させるわけにはいかんな」

 

「良晴が………? おいおい何を考えているのだ貴様の主は」

 

「さて、そなたの頭で考えてみることだな」

 

そう言い残すと前鬼はすうっと立ち去っていった。

 

「長門様!」

 

ここで長門の頼れる家臣、高次が馬を連れて駆けてきた。その甲冑のあちらこちらには矢傷や刀傷で溢れていた。

 

「ここは一度お退きに!」

 

「ああ」

 

半兵衛らの登場で斎藤勢は混乱に陥っていた。緋村勢は指揮を執っていた隆成の采配でなんとか軍の混乱は最小限にとどまっていた。

長門は高次の連れてきた馬に乗り隆成に合流した。懸命に采配を振るっていた隆成も頬や鎧には矢傷でまみれていた。

 

「兄上!」

 

「うむ、緋村勢、攻勢に出る! あの式神とやらは種子島が有効だと聞く。 鉄砲隊はあの式神に狙いを定めよ! 火矢を放て! 城を燃やしてしまえ! 」

 

隆成の一括で緋村勢はすぐに行動を開始した。鉄砲隊は式神を重心的に狙い、火矢を放ちながらジリジリと追い詰めていった。

 

「おお、緋村どの、見事な武者ぶり!」

 

「我らも続けー‼︎」

 

最初こそ浮き足立っていた美濃勢だが、義龍の鬼神の如くの気迫と緋村の勇猛果敢な戦ぶりを見て奮起し、再び墨俣城を攻め始めた。

状況は斎藤が再び優勢になった。しかし長門は胸騒ぎがした。

 

(おかしい………織田のお姫様はまだ稲葉山城を攻めないのか?)

 

長門は織田が稲葉山城を攻め始めた時のために備えて城に十分の守護兵と伏兵をしのばせていたのだ。そろそろ梅が報告に来てもおかしく無いはずだった。

兵刃が重なり合う音や切られた者の絶叫の中に長門は微かに大きな足音がこちらに近づいているのが分かった。

 

「兄上‼︎兵を退いて下さい! 増援が……」

 

「墨俣城の完成はあと少しよ! みんな、美濃勢を追い払うのよ!」

 

時既に遅し。南蛮の甲冑を身につけた織田信奈が全軍を率いてい墨俣へと雪崩れ込んできた。

前線で指揮を執っていた義龍は「まさか」と唸り声をあげた。義龍も長門と同じ考えを持っていて、稲葉山城に守護兵をたっぷりと残してきていた。

しかし状況が変わり織田が全軍を率いていきては大将である自分が討たれる。

 

「お、お、お、策士策に溺れるとはまさにこのこと……」

 

「義龍どの、ここは退かれよ」

 

そう言葉を放ったのは緋村長隆だった。美髭公を彷彿させる顎髭を撫でながら槍を持ち馬に跨った。

 

「ここは我ら緋村が殿を承る。最早我らに残されているのは稲葉山城に立て籠もることしかなかろう」

 

「ぐぬぬぬ………全軍、稲葉山城に撤退しろ!」

 

悔しそうに義龍は全兵に撤退を命じた。義龍も馬に乗ると墨俣の地を後にした。

戦場に残ったの緋村勢。兵数は三千程度。だが長隆は命じた。

 

「緋村の勇猛果敢なる士よ! 織田の者共に見せてやれ! 我ら緋村の底力を! そして、鬼緋村を‼︎」

 

長隆の一喝に兵達はおお!歓声を上げた。緋村の兵達は農兵の他に元山賊や川賊、それと国を追われた者達など多くのものを長門が迎え入れた者達だった。長門が常備兵を集めるために持ち出した案件で、あらゆる罪を不問とする代わりに死ぬまで緋村のために尽くすという約定のもと彼らを軍に組み入れた。最初こそ「賊を軍に加えるなど」反対が多かったが、長門や賛成した家臣共々理を必死に唱え続け、そして迎え入れられた賊達も自分らのためにそこまでしてくれた長門らに恩義を感じ死に物狂いで働いた。

一癖も二癖もある連中であるが裏を返せば一騎当千のもの達であったのだ。

 

「緋村長隆! 鬼神と呼ばれた我が武、とくとみよ‼︎」

 

緋村長隆。黒野の豪族から城持ちの大名にまでのし上げた。その武勇はまさに鬼の如くと呼ばれ、「鬼神」と称された豪将。城持ちになり始めた頃から己が戦場に出ることは少なくなったがその武勇は衰えが無かった。

 

「我こそが緋村長隆が嫡男緋村隆成である!我が槍の錆になりたいものから前に出よ‼︎」

 

隆成も武勇や指揮能力で長隆の血を一番濃く引き継いでいた。兵を指揮しながらも自分も槍を振るっていた。

 

 

「同じく三男、緋村長門! これより修羅に入る! 我が首取れるものならとってみよ!」

 

緋村一門が先陣を切って織田の先鋒に食らいついた。兵数では劣っている緋村だが長隆らの怒涛の攻撃は兵力差などなんのその。羽虫の如く振り払っていた。

織田は陣を六つに分けて敷いていた。第一陣、第二陣と破った第三陣には森可成、佐久間信盛の旗印が見えた。森可成は十文字槍の名手で柴田勝家、に並ぶ次ぐ武勇を誇り「攻めの三左」として知られている。そして佐久間信盛も古くからの織田の重臣で撤退戦を得意とすることから「退き佐久間」と呼ばれている。

そんな織田の重臣達を相手にしても彼らは退くことは無かった。

長門も彼らに負けない気迫で馬上から槍を振るっていた。近くものを叩き殺し、引き摺り下ろそうとするものを足で蹴り槍を振り回す。柴田勝家や自分の兄には劣るもののその時の長門武勇は並の将を遥かに凌駕していた。

その長門の背後をとった織田兵が斬りかかろうとしていた。しかしその背後の剣戟が長門を守った。

 

「長門様‼︎」

 

高次と長門が互いの背中を守るように背を合わせた。長門は一度深呼吸をして高次に声を掛けた。

 

「高次………」

 

「はっ………」

 

「………背中は任せたぞ」

 

「御意‼︎」

 

その言葉と同時に2人は駆けた。ただ眼前敵を切るためそして互いの背中を守るため。

長門の気迫は鬼気迫るものがあった。武勇名高き緋村に生まれながらもその武勇は並の将ほどのものであった。しかし今の長門は死と隣り合わせの死戦の中で確実に成長していたのだ。

しかし、その激戦は長門から確実に体力を奪っていた。槍で薙ぎ払った勢いが余って泥濘に足を取られその場に転倒してしまった。それを好機を見た織田兵は長門を組み敷き首を掻き切ろうした。しかしそれを高次が解き、切り捨てる。

 

「長門様!ごぶじっーーー⁉︎」

 

突然横に弾き飛ばされる高次。高次の背後から種子島を狙う兵を視線に入れた長門は咄嗟に高次をはじき飛ばした。そして種子島の鉛玉は、

 

「ぐっ………!」

 

長門の脇腹を貫いた

 




誤字感想お待ちしております。


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降伏

長門が目を開けて最初に目にしたのは見慣れた木製の天井だった。そしてあたりを見渡すと長門の私室であった。

 

(俺は………生きているのか………?)

 

長門は自分が生きていることに困惑していた。あの時自分は高次を守ろうと種子島の射線上から外した。種子島から鉛玉が放たれた瞬間がハッキリと見えて、自分の死を実感していたのだ。

上体を起こそうとした時に脇腹を貫いた種子島の痛みが襲ってきた。どうやら本当に生き残っていたのだ。

(部下を庇って自分が犠牲に………やれやれ、俺も良晴のことを言えないな)

 

はあ、と深くため息を吐いた。

 

「結局、俺も甘かったのか………」

 

「誰が甘いのですか?」

 

えっ?と長門は自分一人だと思っており、驚いて振り向く。そこには高次が、正座をしていた。

 

「た、高次………」

 

「長門様………」

 

自分の名前を呼ぶ高次の顔は悲しげな表情を浮かべていた。

 

「う………」

 

「う?」

 

「うわああああああん‼︎ながどざまああああああ!」

 

「ええッ⁉︎」

 

高次の子供が喚くように泣いた事に長門は本当に驚きを隠せない表情をしていた。15歳の少女でありながらも真面目なしっかり者というのが高次だと思っていたのでまさかこんな風に泣くとは思ってもみなかった。

そして長門は高次をなだめ、何とか話せるまでに落ち着かせた。

 

「で、大丈夫か………?」

 

「は、はい」

 

主の前で子供のように泣いた事が恥ずかしかったのか顔を赤らめる高次。

 

「戦は………我らはどうなった」

 

「はい、戦は…………」

 

 

種子島の乾いた銃声音が響き渡る。その刹那だけ時が止まったような感覚に襲われる高次。吹き飛ばされて目の前に映る光景は種子島で脇腹を撃ち抜かれた長門が膝から崩れ落ちる光景であった。

 

「な………長門様ぁ‼︎」

 

立ち上がった高次は長門に駆け寄り体を揺するが反応はなく意識が無かった。

 

「う、うぐっ………」

 

意識を失っていた長門は漏れたような呻き声を上げる。恐らく急所からほんの少しずれたのだろう。致命傷になる傷でないことに一先ず安堵したが、そう悠長にはしていられなかった。

怒涛の攻めを繰り返していた緋村勢が徐々に織田軍に押され始めたのだ。始めこそ獅子奮迅の働きを見せる緋村勢であったが、ほぼ全軍の織田軍とかたや数千の軍勢では多勢に無勢、徐々に押され始め、戦線が維持できなくなっていたのだ。

 

「父上、これ以上はもう限界です。ここはご決断を!」

 

嫡男の隆成が長隆に撤退を促す。

 

「うむ………前線も長門の負傷で戦線を維持できなくなってきておる。致し方ない………全軍、黒野城へ撤退せよ‼︎」

 

数時間の攻防の末ついに緋村勢も撤退を始めた。織田の追撃を鉄砲隊と弓兵隊にありったけ撃ちながら、時に反転して突撃をしつつ織田の追撃を振り切り黒野城へと到達した。

しかし織田軍も当然黒野城へも軍勢を差し向けた。黒野城攻めの軍勢は丹羽長秀、森可成を差し向けた。

長秀は始めは力攻めで攻め落とそうとしたが、籠城には向かないはずの平城である黒野城を攻め落とせない。この黒野城は長門の指示で空堀を二重に掘らせたのだ。それで敵の勢いを殺し、足の止まった兵に種子島に弓矢、石を落として織田軍に被害を与えた。

しかし、兵たちも多く負傷し、隆成ら将兵らにも疲れが見え始め抜かれるのも時間の問題であった。

 

 

「そうか………なら父上たちはまだ」

 

「はい、疲弊した兵を鼓舞しながら………しかし、それも長くは………」

 

そうかと高次の話を聞いて布団から立ち上がる長門。

 

「長門様?」

 

「父上らが戦っておるのに私が寝ているわけにはいかない。鎧を持て」

 

長門は痛む傷を堪えながらも長隆らの元へ向かう為に、部屋を後にした。

 

 

「父上!」

 

甲冑を着込んだ長門が自ら先頭に立ち兵を鼓舞し回っている長隆と隆成、義隆兄弟の元に駆け寄った。

 

「長門、お主傷は………」

 

「私の事は心配ご無用。敵の動きは」

 

「今は動きは無い。このまま持ち堪えて、明日の明けと共に別働隊を向かわせ一気に崩す」

 

長隆の言葉は正しいと長門は思った。しかし、織田は長政との結婚を阻止すべくと息を巻くものもおり、何としても今日の内に落とそうとするだろう。

それは長隆も同じ思いであろう。

 

「ご報告!」

 

そこに一人の伝令兵がやって来た。

 

「何事だ」

 

「織田軍からの軍使です。軍使は丹羽長秀とおぼしき人物かと」

 

とうとう来たか。

長門も長隆らもこの事は想像していた。恐らく降伏を勧める軍使だろうと。しかも長秀が直々にである。

 

「通せ!」

 

長隆の一言で城門が開けられた。その門を丹羽長秀は潜り抜け、広間へと案内された。

広間では一門を始めとし、前田玄以、長束広家ら重臣たちがすでに集まっていた。

そして長隆が奥座に座ると長秀は作法に倣って平伏する。

 

「織田家家臣、丹羽長秀と申します」

 

「儂は緋村長隆だ」

 

「此度の緋村どのの戦振りは実にお見事でございます。その屈強さ、まさに鬼の如く………」

 

「丹羽どの………世辞は結構。早く本題に入られよ」

 

何の為に来ているのかはすぐにわかる。長秀は、これは失敬と軽く謝罪をし、背筋をピンと伸ばした。

 

「では単刀直入に申し上げます。緋村長隆どの、織田に降ってくださりませんか?」

 

長門は予想通りだと思った。このままやっても長隆らには勝ち目は無いのは明らかであった。

 

「悪いがそれはできん。儂らは斉藤とは同盟を結んでおる。義龍に恩義は無いが義理はある。それまでは儂らは戦うぞ」

 

長隆が言った。義理を果たす。その為に降ることは出来んと。

 

「ですが、稲葉山城が落ちるのは時間の問題です。そうなれば姫様はすべての軍勢をこの黒野城に向けるでしょう。降伏してくだされば黒野の安堵は私が姫様に説得いたします」

 

長秀の言葉に長隆は口を閉じる。正直な所、緋村にはもう弓矢や鉄砲玉もここから巻き返す策も残ってはいなかった。

 

「父上………」

 

長門は神妙な面持ちで長隆を見つめる。その顔を見るに長門にも既に挽回の策は無いのだろう。

しかし、長隆の考えは走ってきた伝令兵によって一択に絞られることになった。

 

「伝令! 稲葉山城が陥落、斎藤義龍殿は降伏しました!」

 

「何だと⁉︎」

 

「こんなにも早く?」

 

稲葉山城陥落に重臣たちはそれぞれに口を開く。幾ら形成不利とはいえ、あの堅牢な稲葉山城をこんなにも早く落とすなど考えられなかった。

長隆はしばらく瞑想し、ため息を吐くと長秀に視線を向ける。

 

「丹羽殿」

 

「何でしょうか?」

 

「儂らは降伏する。その旨を織田信奈どのに伝えられよ」

 

長隆の言葉にさらにざわつきは大きくなった。

 

「父上!何故です! 何故………」

 

長門は信じられなかった。確かに策も鉄砲玉も尽きかけていたが、彼にも意地があり、降伏を受け入れられ無いのだろう。

 

「長門よ………儂かて出来るのであれば最後まで戦いたい。じゃが、この地に住む民をこれ以上傷つけることは儂には出来ん、許せ」

 

長隆はすまんと頭を下げる。ここまでされると長門もまだ戦う意思を持つ家臣たちも何も言えなかった。

こうして緋村長隆は降伏したのだった。

 

 




負けてしまいました。これから先はどうなるのでしょうね。
それはともかく、今回緋村長門の絵を描いてくださる方を募集したいと思います。
ちなみにこれが私の書いてみた長門です。

【挿絵表示】

一応これを参考にしていただければ有難いです。限定するのは髪型だけなので後は皆さんの好きなようにしていただいて構いません。書いた方はメッセージでお願いします。
期限はありません。それと頂いた絵は後書きで発表したいと思いますので、掲載してもいい方のご応募をお待ちしたいです。
どうかよろしくお願いします。(高次ちゃんを描いてもOKです!)
では誤字感想、よろしくお願いします。


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親友再び

 

 

 

 

 

緋村長隆が降伏を宣言した翌日、長隆は一門と重臣を連れて信奈のいる稲葉山城改め岐阜城に赴いた。

長隆らは謁見の為、岐阜城の広間へと案内された。暫くすると信奈がズガズガと大股で奥座敷に胡座で座り込んだ。

これには信奈を初めて見た長隆らは少なからず驚いた。でたらめな茶筅に結っている茶色の髪、湯帷子を片袖脱ぎにし、腰に巻いたわら縄に、太刀と脇差を指し、火打袋とひょうたんをぶら下げ、そして腰と足を覆う袴の上には虎の皮を腰巻きのように巻いていた。

長門は一度信奈を近くで見たが、戦場での南蛮鎧の格好からは想像が難しかった。

 

(なるほど、これは確かにうつけ姫と呼ばれるわけだ。普段着ならともかく謁見の間にふさわしい格好とは言えないな)

 

そんな事を考えながら長門は長隆らに倣い武家礼法に則り平伏する。信奈はそれを一瞥すると、まずは長隆に視線をむける。

 

「緋村長隆、何か言いたい事は無いの?」

 

「儂らは敗北した身。敗将が語る言葉がありましょうか」

 

長隆は信奈を前にしても毅然とした態度で話す。義龍にも勝るとも劣らない巨躯、そしてかつての軍神を彷彿とさせる顎髭からは歴戦の強者の雰囲気。こんな男を降伏させたのかと織田家家臣は辺りでひそひそと話し始めた。全盛期は「鬼神緋村」と呼ばれたその武勇一つで土岐氏と争いを繰り広げ、道三と同盟を結んだ。

道三と彼の違いは野心にあった。天下に想いを馳せていた道三とは対象的に、長隆はその野心が無かった。

 

「そう、じゃあ早速処遇についてだけど………」

 

信奈は一度間を置いた。その空気は静謐なものだった。

 

「黒野は安堵、ただしそれ以外の領地は没収、そして人質を私の元によこしなさい」

 

「「「はっ‼︎」」」

 

長門らは直ぐに平伏した。黒野だけとはいえ、領地を安堵され、お家の改易も無し。長門はこの破格すぎる処遇に胸中が穏やかでは無かった。

 

(馬鹿な、いくらなんでも甘すぎる。途中で寝返ったならまだしも、最後まで徹底抗戦したんだぞ?それが黒野以外の領地没収と人質だけってかなり甘いぞ)

 

実はこの裏では、長秀と良晴の働きがあったのだ。合理的な信奈に理を解き、緋村の利用価値を出しこの破格の処遇が生まれたのだった。さらに言えば信奈はもともと緋村は傘下に加えようと考えていたのである。

 

「じゃあもう終わりでいいわよ。だけど緋村長門」

 

「は!」

 

「あんたはここに残りなさい。」

 

「え………?」

 

突然の事に長門は暫く魚のように開いた口が塞がらないでいた。

 

 

 

長隆らが広間を後にする中一人長門は信奈の小姓に案内されながら歩いていた。

 

(なんだ俺だけ残されたんだ?何かあるんだろうが………ハッ!)

 

長門は長森での記憶が蘇ってきた。半兵衛の石兵八陣に細工を仕掛け、梅に焙烙玉で爆発させ仕込んでいた火薬を誘爆させ織田に被害を与えた鬼畜とも言える策を実行したのである。

 

(まさかその時の報復を⁉︎いやいや、それは織田としても立場がなくなる。だが俺の口を封じさせれば………)

 

策を練る時と同等否、それ以上の頭の回転でこれから自分の身に起こる事を次々に考えては捨て、考えては捨てという思考の無限ループに陥っていた。

 

「こちらにございます」

 

小姓が襖を開けると中には地球儀に虎皮の敷物、そして南蛮から買い求めた世界地図が壁に貼られていた。どうやらここは信奈の部屋のようだ。そしてそこには部屋の主の信奈と何故か良晴もいたのだった。

 

「よく来たわね。そこに座りなさい」

 

長門は信奈に言われるがままに腰を下ろし正座をする。信奈が自分をここに読んだ事も疑問だが、良晴が同席している事も疑問だった。

 

「緋村長門、あんたもこのサルと同じ、未来から来たの?」

 

「は…………」

 

信奈のどストレートな質問に長門は声が出なかった。何故ばれたかというのは十中八九隣のサルだろう。

 

「お前、長門だよな………」

 

「ええ、私は緋村なが……」

 

「そうじゃねえ! お前は長谷川長門だよな?俺の親友でゲーセンで俺をかばって死んだ長門だよな⁉︎」

 

良晴の剣幕に長門は言葉が途切れた。この前の戦まで良晴も他人の様に接していた。いつ良晴が気づいたのかと。

 

(良晴の忍びが死んだ時か………やっぱり余計な事はするもんじゃないな………)

 

長門は五右衛門が死んだと思っているが、五右衛門が目の前に現れ驚いたのは別の話。長門ははぁ、と溜息を吐く。

 

「確かに私は………俺は良晴とは親友と呼べる間で今でもそう思っております」

 

「でも墨俣でこのサルを殺そうとしたそうじゃない」

 

「それは、良晴の親友であるが、その前に私は緋村の三男の長門であるということであり、戦場では例え友でも斬る覚悟であった所存」

 

それが長門の答えであり、長門がこの戦国の世界で生きていくための覚悟であった。この前の良晴の行動には、その覚悟が感じられなかった。それだから長門は良晴を斬ろうとしたのであった。

 

「良晴」

 

長門は信奈に向けていた視線を良晴に向けた。

 

「戦の時にも聞いたが、もう一度聞くぞ? お前が選ぼうとする道はイバラの道だ。それでもそこから逃げず、抗う覚悟はあるか? その道は立ち止まることも振り返ることも許されないからな」

 

「………ッ!」

 

良晴は言葉に詰まった。長門の言いたい事はすぐに理解した。しかし、その覚悟を直ぐに決めるには良晴は欲が強すぎた。

長門はふぅ、と溜息を吐く。

 

「まあ、今直ぐにその覚悟を固めろとは言わん。だが近いうちにはその決断をする時が来る」

 

「ああ………」

 

良晴もその言葉に肩を落とす。長門はふっと笑みをこぼす。

 

「その時、必要だったら私に言え、いつでも力になる」

 

「ああ! ありがとな、長門」

 

長門と良晴は互いに手を取り合う。ここに、時空を超えて再会した親友達が手を取り合ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと無理やり気味でしたが緋村家は難を逃れました。普通じゃありえませんよね?
この展開はちょっと俺得な気がしますが後悔はしてません!
では誤字、感想あればよろしくお願いします。

〜おまけ〜
長門「ところでお姫様?」

信奈「なによ?」

長門「私を呼んだ理由は?」

信奈「あんたとサルが友達だったのかを確認したかっただけよ」

長門「え? それだけ………」

信奈「そうよ。他になにがあるのよ?」

長門「ええー…………」

良晴「長門………ドンマイ………」


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信奈上洛編
上洛前拠点フェイズ



スーパーお久しぶりです。
久しぶりに書いたので感覚が戻りません。
やっぱりサボりはいけませんね(トホホ………)
今回はリハビリも兼ねての拠点フェイズなので短めです。ご了承ください。


 

 

美濃国、稲葉山城改め岐阜城。織田信奈がこの美濃を平定してから早くも二週間が過ぎた。

信奈は美濃を平定して直ぐに、後の世にも語られる『天下布武』を掲げた。『天下布武』とは「武力を以て天下を取る」「武家の政権を以て天下を支配する」という解釈をされるが一説には中国の史書からの引用で七徳の武という為政者の徳を説いたものだと言われている。

そんな織田信奈は近々桶狭間の合戦で打ち破った今川義元を擁立し上洛の軍を起こすらしい。

 

「信奈様が上洛の軍を起こすという噂が町民の間でも広がっているようですね」

 

茶屋で団子を口いっぱいに頬張りながら緋村長門の一番の家臣京極高次。

 

「こういう話ってのは直ぐに尾がつく。彼らは戦の被害者だからな、否が応でも気がつくんだろうな」

 

美濃国黒野、緋村長隆の三男で最近は「黒野の鷹の目」と呼ばれている緋村長門はそれを返しながら団子を手につけるが既に団子の乗せられた皿には既に団子は無くなっていた。

緋村家は織田に降伏した後に元々の黒野の領地は安堵されたが、その代償として長門が織田の人質となる事が条件となった。

しかし基本的な人質と比べると殆ど形だけで特別な制限をかけられる事もなく厚遇も厚遇な扱いを受けていた。

 

「では、そろそろ屋敷の方に戻りましょう」

 

「そうだな、幾ら行動に制限をかけられないとはいえあまり自由過ぎるのもな」

 

「………だったら私を無視して話を進めないで下さい。二十点」

 

団子を食べ終え(殆ど高次が食べてしまったが)茶屋を後にしようとしていた二人に声をかけるのは織田家家老丹羽長秀、愛称は万千代。織田家家老筆頭の柴田勝家と並んで重要視されている重臣で、その落ち着いた雰囲気で自称織田家のお姉さんという立場を確立していた。

因みに長門は何故か長秀の監視下に置かれて生活を送っていた。

それはというのも長門が織田の人質として岐阜城に登城した時に、

 

「万千代、緋村長門はあんたに預けるわ。六やサルじゃ何か良いように言いくるめられそうだし適任かしらね」

 

と決めてしまったのだ。これには長門本人が一番驚いた。そもそも何を言いくるめると思っているのかが分からない。

 

「これは失礼致しました長秀殿、この長門人質の身であるというのに出過ぎた真似を申し訳ありません」

 

「も、申し訳ありません………長秀様」

 

「………そう思っているのなら私で遊ばないでください。十五点」

 

こうも素直にあやまられると怒るにも怒れない。長秀は少し不貞腐れながらも許すしかなかった。

 

「今川義元殿を将軍に擁立か………確か今川は足利家の分家でしたか」

 

「はい、『御所が絶えれば吉良が継ぎ、吉良が絶えれば今川が継ぐ』と申しますし、義元どのが正統な将軍継承者、七十五点です」

 

今川家は鎌倉時代、足利義氏の庶長子として吉良家を興した吉良長氏の二男である国氏が吉良氏の所領から三河の今川荘を分与された事が今川氏の始まりであった。

その為あってか、今川家は足利家・吉良家に次ぐ足利一門として重きを置かれていたのだ。

信奈はその今川義元の下、京の街を荒らす三好、松永を打倒するという大義名分を掲げて上洛する腹づもりである。

なるほど、これで武田と上杉も迂闊に攻め込めないな、と義元を生かしていて良い事があったなと考えた長門。

 

「長門様、緋村家にも出立の命が降るでしょうか?」

 

「と言うよりもう兄上達は既に軍備を整えるらしい。長秀殿、もう命は降っているんだろう?」

 

「はい、緋村家の武力と兵の精強さは姫様も期待してます」

 

緋村の強みは武力がもちろんだが兵の七割を常備兵を占めているというどこにもある。その為に農作物の繁昌期も兵を確保できない事が殆どない。

 

「日も落ちて来ましたね。そろそろ屋敷に戻りましょう」

 

随分長いこと話していたらしく、既に日は西の空に隠れ始め、茜色の空が広がっていた。

 

 

「………こう見ると凄い顔ぶれだな」

 

岐阜城、金華山の麓、織田信奈の号令のもと家臣団が一斉に集まっていた。

柴田勝家、丹羽長秀、森可成、佐久間信盛など譜代の重臣に始まり『美濃三人衆』の稲葉、氏家、安藤、そして先日父長隆から家督を継いだ緋村隆成。

そして信奈と同盟を結んだ三河の松平元康。弱兵呼ばわりされる織田だがその印象を吹き飛ばすほどの顔ぶれである。

具足に身を包んだ長門はその中に懐かしい顔を見つけた。

 

「十兵衛殿!」

 

親友相良良晴の隣に侍っていたのは、十兵衛こと明智十兵衛光秀。実はこの二人は道三がまだ美濃の支配者だった頃に二人で武芸の研鑽や教養を高めていたのだった、所謂幼馴染みであった。

 

「これは長門殿、お久しぶりです。息災にありましたか?」

 

「十兵衛殿こそ、長良川の合戦以降各地を放浪していたとは風の噂で耳に入れていたが、戻って入られたのか」

 

長門は久しぶりの再会に話に花を咲かせていた。

 

「え、長門って十兵衛ちゃんと知り合いだったのかよ」

 

十兵衛ちゃん?と良晴の呼び方には「ん?」と思った長門だが、そこまで気にすることでもなく直ぐに記憶の追憶に追いやった。

 

「ああ、十兵衛殿が道三殿の小姓をしていた頃からな。その頃から十兵衛殿は才能に恵まれていたよ」

 

「へえ、やっぱり十兵衛ちゃんって凄いんだな………って長門ちょっといいか?」

 

そう言うと良晴は光秀から離れ長門と二人きりになった。

 

「なあ、十兵衛ちゃんって………」

 

「ああ、『本能寺の変』の首謀者の明智光秀だ。確認するまでもないだろ?」

 

「でもなああんな素直で可愛いい十兵衛ちゃんが謀叛なんて、考えられないんだよなあ」

 

「歴史が全て正しいとは限らん、事実この世界では今川義元は生きているしそもそも殆どの有名武将が女だ」

 

壁に寄りかかって空を眺める。ふう、と息を吐くと壁から離れ歩き出す。

 

「俺たちがここにいる時点で歴史は違う道を辿ってるんだ。これからどういう道を辿るかはお前次第なんじゃないのか」

 

「長門………」

 

まあ頑張れよとそう言い残すと長門は自分の持ち場に戻った。

 

「あ! お前長秀さんと一緒に住んでるって聞いたけどどうなんだよ!」

 

羨望と怨念の混じり合った声を長門は聞こえてないふりをして立ち去った。

 





次回は頑張る………次回からは上洛戦を深くまで書けたらなぁと思います。
誤字、感想、意見よろしくお願いします。


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上洛開始箕作城の戦い

今回から上洛戦が開始します。
六角氏との戦いは掘り下げたつもりです。


「………全員揃ってるわね!」

 

南蛮鎧を身に纏い赤いマントを羽織った信奈は馬上から全軍を見渡す。

 

「はい姫様、松平殿の援軍も含め織田全軍揃っています、百点満点です」

 

自称織田家のお姉さんの丹羽長秀。渾名は万千代。

 

「あたしもいつでも出撃できます!」

 

特注の鎧を纏い既に鼻息を荒くする柴田勝家。渾名は六。

 

「………良晴、ちゃんと捕まってる?」

 

「あ、ああ俺も早く馬に乗れないとなぁ」

 

馬に乗れない良晴を背中に乗せるのは前田犬千代。

 

「おーほほほほついにわらわの宿願の今川幕府を開くときですわ! 元康さん、頼みましたよ」

 

「は、はい〜義元さま〜」

 

無駄に豪華な御輿に乗り無駄に甲高い笑い声を上げる今川義元とその側に侍る松平元康。

その他にも新参者の明智光秀や同じく新参の緋村隆成率いる緋村家。

 

「全軍、京へ!」

 

信奈の号令、一騎掛けを合図に後に続く武将たちもその後を追う。

 

「長門様、いよいよ上洛ですね。確か我らはこれから東山道を通り北近江で浅井と合流するのでしたよね」

 

長門の隣で馬を走らせる高次。

東海地方から上洛するには大きく2つの選択があった。

一つは清洲から伊勢・南近江を通る東海道。そしてもう一つが今織田軍が進軍している岐阜から北近江を経て南近江で東海道と合流する東山道。

信奈は道中、北近江で浅井長政の一万の兵と合流するつもりであった。

 

「ああ、織田が上洛する上で浅井との同盟は必要不可欠だったからな。もし同盟が上手くいかなかったら上洛なんて後何年かかっていたのやら」

 

信奈は長政との婚姻同盟の為に妹お市御寮人と称して弟の勘十郎信澄を送り込んだのだ。

早い話、長政を騙して同盟に漕ぎ着けたのだ。万一にバレていたら北近江に着いた瞬間に戦闘になってしまうのであった。その不安は織田家中にもあった。

しかしその心配は杞憂に終わった。

 

「義姉上、この長政と共に参りましょうー天下へ」

 

長政は別人のようになっていた。その変わりようには信奈さえが君悪がっていた。

 

「………長門様」

 

「………とにかく浅井が信頼に足るという事がわかって良かったんじゃないか?」

 

なんとも言えない雰囲気に包まれながら五万に膨れ上がった大軍は南近江に向けて進軍を再開した。南近江の六角承禎は佐々木源氏の流れを汲む名門守護大名で三好一党と軍事同盟を結んでおり、織田に徹底抗戦する構えだった。

信奈は愛知川の北側に陣取ると直ぐに軍議を開いた。

まず口を開いたのが六角の仇敵である長政である。

 

「義姉上、六角の兵はさして強く無いですが観音寺城はかの稲葉山城にも匹敵する難城。いったん野陣を構築し、支城をを一つずつ気長に落としていくのが上策かと思います」

 

六角氏は観音寺城の他に和田山城、箕作城の三城他に十八にも及ぶ支城にそれぞれ兵を配置していた。

長政の正道とも言える献策に反対するものはいなかった。

しかしその中でその策に意見するものがいた。

 

「愚策ですな」

 

「な、なんだと長門殿」

 

同じく軍議に参加していた長門だった。城攻めの定石とも言える定石を愚策と言い切る長門に織田家中にも驚きが広がった。

長門は地図を指差し始めた。

 

「六角の狙いは我らが支城を一つずつ攻め落とすと考えているだろう。そして我らが攻めあぐねているところを挟撃しようと言う腹づもりだろう。まあこれも単純すぎて読むまでも無いですがな」

 

その説明を聞くと「確かに…」などと声が聞こえ始めた。その声を信奈がパチンと扇子を叩き静粛にさせた。

 

「だったら何か策があるっていうの? 武田が上杉と争っている今しか上洛する機会がないのよ。ゆっくりと攻めてなんていられないわ」

 

「六角の主力は観音寺城、和田山城、箕作城の三つの城に集中しています。この三つの城さえ落とせば後は勝手に城を捨てるでしょう」

 

さらに長門は地図に碁石を三つ置いた。

 

「ですので軍を三分割し観音寺城、和田山城、箕作城を攻めましょう。そして…………以上です」

 

「分かったわ、長門、あんたの策で行くわ。全軍、進めぇっ!」

 

信奈は愛知川を渡ると軍を三つに分けた。緋村隆成、美濃三人衆筆頭に観音寺城攻めの軍。

柴田勝家を大将とした和田山城攻めの軍。

信奈を中心にした本隊は箕作城へと向かった。長門は箕作城攻めに加わった。

和田山城を攻める勝家に同行した犬千代と別れた良晴は長門の後ろに乗せてもらっている。

 

「なあ長門、どういうことだ? 本隊は観音寺城を攻めずに箕作城を攻める。おまけに観音寺城は一切攻めるななんて」

 

長門は観音寺城攻めの部隊に観音寺城は攻めずに包囲しておくようにと言っていたのを聞いた良晴。

 

「観音寺城は長政も入っていた通り落とすなら時間を掛けないと無理な城だ。まず今日のうちには無理な話だ」

 

「ですが、それなら箕作城も同じなのではないのですか? 二十点です」

 

長秀も長門の献策に難しい顔を見せた。長門は大丈夫だと言いそれ以上は何も話さなかった。

信奈は到着するや否や直ぐに城攻めを開始した。

 

「突撃ぃ‼︎六角など恐るるに足らず、我ら黒野兵の精強さを見せてやれ‼︎」

 

箕作城は観音寺城と同じく、山の上に築かれた山城で攻めるに難く守るに易い城であった。

一隊の指揮を任された長門の指揮のもと六角勢を押し込んでいたが、箕作城の城代を任された吉田出雲守という将がこれまた優秀で地の利を生かした指揮を発揮し次々に押し返していった。

 

「長門様! 押され始めています!」

 

「…………頃合いか、よし撤退するぞ」

 

5時間にも及び攻め続けたが箕作城攻略とはいかなかった。

しかし長門の表情は笑みを浮かべていた。

 

 

「申し訳ありません、箕作城の攻略、失敗いたしました」

 

本陣に戻った長門は信奈の前で頭を下げた。

 

「というか城攻めは私の判断よ。あんたが謝る意味が分からないわ」

 

信奈は長門が戻って早々頭を下げたことに長政の時並みに君悪がっていた。

 

「ですが、今夜でこの城は確実に落ちます」

 

「なんですって⁉︎」

 

長門の発言はまたもや皆を驚かせた。彼は平和な世界ならば有名な噺家になれているだろう。

 

「長門殿、それは一体どういうことなのですか? 」

 

長秀がそう言うと同時に長門は一枚の書状を取り出した。

 

「信奈様、こちらを」

 

長門から手渡された書状を確認すると中にはとんでも無いことが書かれていた。

 

「これって…………内通者⁉︎」

 

「はい、愛知川での軍議の前に我が配下の者を放ちました。そして、その者はこちらに寝返る約定を結ばせました」

 

長門は密かに六角に調略を仕掛けていたのだ。

 

「今夜夜襲を掛けます。その折に城門を開け放ち一気に城を落とします。敵も先程の抗戦で疲れが出ているでしょう。直ぐにこの城は落ちます」

 

陣営内に静寂が訪れた。先程の無謀な力攻めも、この為の布石であったのだ。

信奈も長門の考えには驚きを隠せなかった。だが確かに犠牲も少なく最短で城を落とせる方法であるだろう。

しかも今夜中に箕作城を落とせるならば観音寺城や他の支城の指揮も下がる。

 

「分かったわ! 日が落ちた時に夜襲をかけるわ。指揮は万千代、与力に長門をつけるわ」

 

「はい姫様」

 

「は! それと良晴、お前にやってもらいたいことがあるんだが」

 

「え?」

 

 

「とはいえ夜の行軍は何度も経験があるが、やはり暗いなぁ」

 

「それを献策したのは貴方ですよ十三点」

 

長門と長秀は信奈から千の兵を預かり静かに箕作山を登っていた。

 

「それにしてもサル殿に何をお話しになったのですか?」

 

「ああ、ちょっと仕上げの細工でして。万が一にもということもありますし」

 

「そうですか…………着きましたよ」

 

箕作城の城門まで辿り着いた。そして門兵は長門らの姿を確認するとゆっくりと城門を開け放ったのだ。

 

「さあ、一気に落としましょう‼︎」

 

 

箕作城内は静かに夜を迎えようとしていた。まさか箕作城をいきなり攻めると思っていなかった為兵は浮き足立ちそれなりに犠牲が出てしまった。

長時間に渡る敵の攻勢に兵は初日から疲労がたまっていた。

 

「不味いな、我らは織田の攻撃に士気は下がる一方だ。だがこのまま落とされるわけにはいかない」

 

箕作城の守りを任された吉田出雲守は疲弊した兵を自ら鼓舞し歩き回っていた。

出雲守は麓に松明の灯火が大量に確認できた。

 

(織田の、いや緋村長門の策か、我らに攻めると見せかけるつもりか、だがそんな見え見えの策に嵌められる私では無い)

 

そう考えて兵には何も指示を出さなかった。しかしこの時に周囲の警戒を、強化させておけば長門の策に気づけていたかもしれない。尤も、すでに長門の術中の中にあったのだが。

そこに伝令兵が現れた。大汗をかいており余程の自体だったと推測できた。

 

「出雲守様!」

 

「どうしたのだそんなに慌てて…………」

 

「和田山城が内部の裏切りがあり、落城、したとのこと!」

 

「何だと⁉︎こんなにも早く…………」

 

出雲守は動揺を隠せなかった。勿論この伝令は長門の部下で和田山城はまだ落城していなかった。

しかしその虚報は城内の士気を一気に低下させた。

そしてその動揺が彼らにとっての最後だった。

 

「た、大変です!西側の城門が開け放たれ織田の兵が城内に雪崩れ込んで来ます‼︎」

 

最早士気は皆無だった。兵たちは抵抗という抵抗も出来ずに我先にと武器を捨てて逃げ惑っていた。僅かに立ち向かった兵たちは次々に彼らの刃にかかっていた。

 

「最早ここまでか…………」

 

出雲守は敗北を悟ると降伏を宣言した。

 

(『黒野の鷹』、緋村長門、鬼の緋村の中でも武芸は劣ると思っていたが、この智謀何という男よ)

 

出雲守は兵達に武装解除させ、城を明け渡すと落ち延びていった。

 

 

「…………此度はお主のお陰でこの城を落とせた。まずは例を言う」

 

長門は一人になりたいと長秀に言うと事後処理を彼女や高次らに任せある男とあっていた。

 

「何を仰るか、私は六角の中でもぞんざいな扱いを受けており我慢の限界でしたので」

 

その男は長門の内通者で今回の夜襲を手引きした、坂下新八ノ助という男であった。ひっひっひと笑うその顔は卑しさが溢れていたのだ。

 

「では、約定通り私の命は……」

 

「ああ、だが最後に確認させてくれ、六角を裏切ったことに後ろめたさなどはあるか?」

 

「まさか、裏切りは戦国の世の常、後ろめたさなど…………」

 

「そうか…………ならばお前はもう用済みだ」

 

そう言うと長門は太刀を引き抜き新八ノ助を突き刺した。

 

「ぐあぁぁっ‼︎貴様…何を⁉︎」

 

「少しの後ろめたさがあれば命は助け私の配下として雇っていたかもしれぬのにな。お前のような男を生かしておくのは信奈様の天下の妨げになる。火種は確実にしておく…………」

 

「おのれ…………貴様は私と同じ地獄に…」

 

言い切る前に長門は新八ノ助の首を跳ねた。

 

「…………地獄なら行ってやるさ、俺が地獄に行くくらい、天下や皆の為なら安いものさ」

 

太刀を納刀すると顔についた血を拭い。その場を後にした。

 

 

 

 




誤字、感想あればお願いします。


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南近江征服

信奈たちが箕作城の攻略に取り掛かっている時と同刻、柴田勝家を大将に和田山城を取り囲んでいた。

和田山城は箕作城、観音寺城とも近い和田山の山頂に建てられた山城でこの城はもともと対織田の城ではなく、浅井長政との戦いで敗れた際に対浅井の牽制として建てた城だった。

六角承禎は織田軍が最初に攻めると想定しこの和田山城に多くの兵を詰めたのだ。

勝家は悶々としていた。出立する直前、長門の残した言葉が勝家をイライラとさせていた。

 

「長門めぇ‼︎ 何で攻めちゃ駄目なんだよぉ、兵力じゃこっちが勝ってるんだから一気に攻めればいいじゃんか」

 

簡易で建てた陣で地団駄を踏む勝家。ついこの前まで敵だった長門に指示される事も癪に触らないというわけではないが、この勝家は何より信奈に褒められたいということを第一に考えており、自力で和田山城を落としてしまいたかった。

方やその長門は逐一箕作城に攻勢をかけていた。

 

「あぁぁ‼︎ 我慢出来ない! こうなったらあたしも突撃を………」

 

「駄目です、勝家殿! 長門殿が動いてはなりませんとおっしゃってたのです。それにこれは信奈さまのご命令でもあるのですよ」

 

「勝家、我慢する」

 

「うう〜………」

 

勝家と共に和田山城を囲んでいた新参者の明智光秀と虎の被り物を被った前田犬千代が勝家を抑える。勝家が突撃をしそうになった度に信奈という単語をいうとすぐにおとなしくなる。

あぁ姫さまぁ〜と兵の前ならば士気の下がりそうな情けない顔で嘆く勝家。夕暮れの空がまるで勝家に同情するかのようにどんどんと暗くなっていった。

あたりは直ぐに暗闇に包まれ視界の頼りは松明の炎だけであった。勝家は一度兵を陣に戻し、警戒を怠ることもなく休息を取らせていた。

 

「なぁ光秀、あいつって何を考えてるんだろうな」

 

「長門殿ですか………彼は昔から偏屈な人なのです。でも、どこか落ち着いていて、不気味なくらいに」

 

勝家らは長門の愚痴大会となっていた。あいつは偏屈だとか、何を考えてるか分からないなどと、言い合っていた。

 

「勝家、良晴が来た………」

 

「何、サルが?」

 

勝家が遠させると良晴が陣に入った。

 

「何のようだサル! あたしは長門のせいで機嫌が悪いんだ!」

 

「その長門から伝言を預かったんだよ『今夜のうちに箕作城は落とすので落としたと同時に和田山城を攻めて欲しい』………だってさ」

 

「たったの1日で? 長門殿は本気ですか?」

 

「何でも敵に内通者がいるんだってさ」

 

「内通者が⁉︎ ………流石は長門殿」

 

「え? あたし難しい事わかんないんだけど」

 

「詳しくはこれを読めって」

 

良晴は懐から書状を取り出した。直ぐに光秀はそれを見ると合点がいったように書状から目を離した。

 

「勝家殿、攻撃の準備を! 」

 

「え? あ、ああ‼︎」

 

勝家は何のことかはイマイチ分かっていなかったが取り敢えずやっと動ける事に喜びを感じ始めていた。

 

 

勝家以下、一万と二千の兵は今か今かと出撃の時を待っていた。勝家は早く戦いたくてウズウズしていた。

それと同時に箕作城で大きな歓声と煙が上がっていた。そして薄っすらと見える城から松明の火が灯され振られていた。

 

「勝家殿!」

 

「行くぞ‼︎ 和田山城を攻め落とせぇ!」

 

勝家はいの一番に駆け出していた。光秀や犬千代らもそれに追随するように駆ける。

 

「織田軍が突っ込んで来たぞ! 迎え撃て!」

 

和田山城の守備を任されていた一人田中治部大輔は織田の攻勢を見ると慌てて弓兵部隊に指示を出した。

だがあたりは暗く、敵兵の顔を確認することが出来ない。ならばと松明の辺りには間違いなく敵がいる。

田中は即座に弓兵に松明兵を狙わせるべく指示を出す、その時にある事が耳に入って来た。

 

「箕作城、陥落!」

 

田中治部は自分の耳を疑った。そして箕作城を見ると箕作城には織田の旗が掲げおり、この喧騒の中に勝鬨を聞き取った。

その凶報は直ぐに兵たちにも伝わり同様が広がっていた。

 

「み、箕作城が落ちたじゃと⁉︎」

 

「そんなたったの1日で………」

 

「もう駄目じゃぁ」

 

和田山城の守備兵らは箕作城の早くもの陥落と眼前の柴田勝家の狂ったような強さに戦意をなくしていた。

 

「オラオラー! 今のあたしは誰にも止められないぞ!」

 

鎖を外された犬が嬉々してのを駆け回るように暗い中だというのにそんなのは御構い無しと言わんばかりに大暴れを繰り広げていた。

織田軍はその勢いのまま城門を突破し一気に攻め入った。

 

「オラオラ〜!死にたい奴からかかってこい!」

 

半ば暴走状態の勝家を止められるものなどいるはずもなく和田山城もすぐさま降伏をしたのだ。

 

 

「みんな、良くやったわ!」

 

あの後箕作城、和田山城の落城の件を聞いた観音寺城の六角承禎は降伏し、甲賀の里に落ち延びていった。

六角の残党は各地でゲリラ戦を挑んできたがあまりの数の違いに打ち取られていった。

最後まで抵抗の意思を示していた蒲生堅秀、氏郷親子だが、最後は降伏し信奈の傘下に加わったのだ。

現在信奈たちは琵琶湖の三井寺に将兵を集めていた。

 

「それと緋村長門、あんたの策は見事だったわ。おかげで余計な犠牲も無かったのだもの」

 

「身に余るお言葉」

 

長門はその場で平伏した。恩賞第一項は満場一致で長門であった。誰もが納得した表情で見ているが、ただ一人、丹羽長秀だけは複雑な気持ちになっていた。

 

 

時は箕作城まで遡る。

長門が通じていた者、坂下新八ノ介を切り捨てた。長門は顔に飛び散った鮮血を手拭いで拭う。

 

「長門様!」

 

そこに高次が走り寄ってきた。高次は倒れている新八ノ介を見て顔を少し曇らせた。

 

「………斬ったのですね」

 

「ああ、それより誰にもつけられなかったよな」

 

「はい、どさくさに紛れて抜けてきました。長秀殿にも…………」

 

「私が何ですか、十点」.

 

長門と高次が振り返るとそこには長秀が怪訝な面持ちで佇んでいた。バツの悪そうな顔を浮かべた長門は長秀を一瞥すると直ぐに目をそらす。

 

「…………何故ですか」

 

「何故とは?」

 

「惚けないでください!」

 

何故自分と内通していたものを殺す必要があったのか、長門も聞かずとも分かっていた。

 

「この男はもともと寝返りを繰り返して来た男だ。その場の優劣で直ぐに寝返る、これほどいざという時に裏切るかもしれない者は排除すべきだ」

 

「でも…………」

 

「誰かは泥を被らなければならない。信奈様にはそんなことはさせられない。出来るならばそれは私が引き受ける」

 

「長門どの…………」

 

「この事は誰にも言わないでください、長秀殿」

 

そう言うと長門は兵を呼び、死体を運ばせた。

 

「…………すまん」

 

「え?」

 

去り際に微かに聞こえた長門の言葉、その言葉の後には何も語らず、兵を纏めるためにその場を後にした。

 

 

 

(長門どの…………)

 

長秀はその時の長門の表情が忘れられなかった。葛藤を無理矢理押し込めたような眼はいつか己自身を闇に引き込むような眼をしていた。

その眼を見てから長秀は心の中がモヤモヤとしたものがあふれていた。

 

(私は貴方が何を考えているのかを知りたい。何を考えているのか、貴方と言う人を…………)

 

長門が何を考えているか、それは今の自分では分からない。だから長秀はまず、長門という人物をもっと知る事にした。

 

 

(長門様…………)

 

高次も同じく長門の危うさを危惧していた。目的のためならばどんな汚れ役を引き受けることのある長門を高次は昔から知っていたのだった。

故にいずれその抱えたものに押しつぶされないか、それが心配していた。

 

(私はどんな時でも長門様を支えます。たとえ…………誰もが長門を信じなくなっても)

 

高次はそんな主君をいつまでも支えていく決意を固めた。例え、誰を敵に回しても

翌日、六角勢のあまりの敗北の速さに動揺した三好勢はろくな抵抗を見せずに畿内へと逃げ帰っていった。

ここに織田信奈は上洛を達成したのだった。

 




取り敢えず今の所ヒロインは高次ちゃんと長秀さん(?)と言うところでしょうか。

勝家ってあんな奴だったっけ?微妙にキャラ崩れ気味なところがあったね。
みっちーも口調が変な感じがしたし。

誤字、感想よろしくお願いします!


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入京、勝竜寺城の戦い

お久しぶりです。
全然更新してなかった。twitterではしっかり生きてるんで消えたってことはないです。
あと一つ。
岩成さんなんであんな喋り方なん?


 

ー山城國、京ー

六角氏を南近江より追い出し、京への障害を排除した織田軍はその勢いのまま京へ入った。

天下布武を掲げ、岐阜を立ってから一月足らずでの上洛は異様の速度であった。大和の松永久秀は戦わずに降伏し、逃げるように自国の大和へ撤兵した。

三好勢も六角氏の観音寺城がたった一日で落とされたと聞いて、慌てて摂津へと引き上げた。三好、松永を京から駆逐した織田軍は悠々と京へ入った。

だが、長い間戦乱の渦に巻き込まれていた京の民は木曾義仲のように織田が略奪や乱暴を働くのではないかと皆、戦々恐々としていた。

だがその不安は信奈の発布した政策によって払拭された。

 

「私が京に入ったからには兵の乱暴狼藉は許さないわ! 民に乱暴する者は打ち首! 町に火を着ける者も打ち首! 銭や米を民から取り立てるのも厳禁よ!」

 

これほど、民を案じる戦国武将がこの京にいたのだろうか。織田の兵は各々派手に歌舞いた成りをしていたが乱暴を働けばすぐさま種子島を撃ってくると身に染みていたのだ。

戦乱の渦に巻き込まれていた京の民は瞬く間に信奈を歓迎した。

その光景には長門や緋村家の面々も驚きを隠せなかった。

 

(実際に織田信長も民には慕われていたんだ。そこには驚きはしない)

 

信長は有名な所だと『楽市楽座』や『関所の撤廃』などと、政治能力も高い大名として知られている。その革新的とも言われる手法に後の豊臣秀吉、徳川家康など後世に名を残す英傑たちが惹かれ集まっていった。

だがその反面、信長は仏教勢力、一揆衆といった反対勢力との衝突も多かった。

 

(つまり信長は悪しき風習の破壊者、革命者であるが故に天下の土台を作ることしかできなかったというところか)

 

『織田が搗き、羽柴が捏ねし天下餅、座りしままに食ふは徳川』三英傑による天下統一までを江戸時代の浮世絵師、歌川芳虎が徳川家康を酷評する為に描いた錦絵であるが、信長は確かに天下統一という夢物語の道標を作った人物であろう。そしてその覇業を継いだ豊臣秀吉、徳川家康が天下統一、そして二百年以上続いた泰平を成したのだった。

長門は、先頭に立ち歓迎する民に応える信奈を見つめる。

 

(この織田信奈も同じ運命を辿るというなら夢半ばで天下の舞台から降りねばならない時が来るんだろうか)

 

天正十年六月二日、丁度此処、京の本能寺で天下統一を目前に家臣である明智光秀の謀反によってその烈火の如き人生に自ら幕を下ろすことになる織田信長。

(だが、明智光秀、今の十兵衛殿が謀反を起こすとは到底思えない)

 

一般的には本能寺の変は明智光秀によるものだと言われているが、秀吉黒幕説など、その真相は見つからなかった信長の首とともに今も闇に葬られたままでいる。

 

(だが、此処ではその秀吉は既に亡く、歴史的にそのポジションにいるのが良晴だ)

 

おそらく良晴もそこは考えているだろう。と長門は自分の前を行く親友を見ていた。良晴が信奈を見つめるその目線には羨望だけではないように感じた。

 

(良晴は恐らく信奈様に惚れているんだろう。まあ認めやしないだろうが)

 

そう思うと長門は自然と笑みがこぼれた。

 

(良晴、お前はそのままでいろ。そのままの馬鹿で、何かを諦めるという事を認められない餓鬼のままで…………手を汚すのはこの長門の仕事だ)

 

「長門様? どうかなさいました?」

 

「うん?」

 

だいぶ長い間考え事をしていたのだろう。既に民衆のパレードを抜けていた。ぼーっとしていた長門を不思議に思った高次が声をかけた。

 

「…………いや、大丈夫だ。少し考え事をしていた」

 

「そう、ですか」

 

そう言う主人の背中を高次は不安そうな顔をして見つめる。

 

(長門様は私では考えも及ばない事を考えているに違いない。なら、私はどんな事があろうとお側で支えるだけ)

 

むんっ! と気合を入れる高次。それが家臣としての務めであると言うかのように。

 

 

京に入った信奈の行動は早かった。上洛を果たしたが畿内では三好家が権勢を振るっていた。信奈は柴田勝家を大将とした三好攻めの軍二万を派遣した。

大将を柴田勝家、与力として森可成、蜂屋頼隆、西美濃三人衆、緋村隆成が名を連ねていた。

勝家はまず三好の防衛拠点である勝竜寺城を攻めた。勝竜寺城では三好三人衆の一人岩成友通の二千が守っていた。

 

「敵は観音寺城が一夜にして落とされた事で士気は高くない。一息に攻め落とす!」

 

勝家は脳筋だが武力と機を見極め戦の潮目を逃さない戦術感、一軍を率いて戦う武将としての能力は織田軍内でも一二を争う武将である。

勝家の方針について反対はない。むしろシーンと静寂が訪れていた。彼らは了承のつもりで意見をしなかったがそれが勝家には反対に感じたのだろう。

勝家は「えっ? えっ?」とオロオロし始めた。

 

「な、なんだよー。誰か何とか言ってくれよー」

 

オロオロした勝家に他の面々も「えっ?」と逆に面を食らっていた。

そこに末席で「御無礼ながら…………」と長門が挙手をする。

 

「な、長門⁉︎ 何か策があるのか?」

 

「あるにはありますが、勝家殿がおっしゃられた通り力攻めでもよろしいのですよ」

 

「へ?」

 

勝家は素っ頓狂な声を出して驚いた。勝家は最近、信奈が良晴に構い過ぎる事に「姫様がサルに寝取られる!」と焦る気持ちがあった。だからこの戦で大手柄を上げて信奈に褒められようと言う実に勝家らしい事を考えていた。

それ故に失敗は許されなかったのだ。今回の陣営には美濃で最強を誇った緋村勢に加え自分を手玉に取った長門が陣営に参加していた。こう言う時に長門の頭を使おうと考えていただけに、勝竜寺城簡単に落とす策があると思っていた勝家は驚かずにはいられなかった。

 

「え…………なんか策とか無いのか? 相手が勝手に城を棄ててくれるような策とか」

 

「そんなものがあれば今頃我ら緋村は美濃の覇者になっていますよ。先程ご自分で仰られていたではないですか」

 

「え?」

 

「“観音寺城が簡単に落とされ敵の士気は高くない”と」

 

「あっ!」

 

実際に勝竜寺城始め、三好三人衆の各支城は観音寺城の落城に士気は下がっていた。

 

「辛うじて士気が高いのはこの勝竜寺城くらいでしょう。この城一つに時をかければかけるほど畿内の制圧にも時間がかかります」

 

「な、なるほど」

 

「ですが、やはりこちらの被害は抑えるにいいに越した事はないでしょう。岩成を城から釣り出すと言うのはどうでしょう」

 

長門は地図上の勝竜寺城、桂川に敷いた本陣の二つにそれぞれ石を置いた。

 

「まずは小畑川を下りましょう。無視されたと思った岩成は必ず追ってくるでしょう。それに敵は川を背に進軍していると見れば奇襲を仕掛けてくるでしょう」

 

「そこを反転して押し返し、一気に城を落とすのか?」

 

勝家がそう聞くと長門はコクリとうなずく。そして作戦を綿密に打ち合わせする。

 

「よし! 出陣だ」

 

 

京南方、勝竜寺城。

三好にとって最前線の防衛拠点を任された岩成友通は小畑川に陣取った織田本陣を眺めていた。

 

「三好は絶体絶命です。ですが兄上から任されたこの城は抜かせません、岩成です」

 

岩成の闘志に当てられた将兵らの士気も旺盛であった。これでは数に任せた力攻めも犠牲を覚悟しなければならない。

その時織田軍が動き出した。

何故かこの勝竜寺城を素通りしようという動きを見せてた。

 

「まさか…………我らを無視して摂津へ向かうつもりか!」

 

岩成も誰もがこの防衛拠点である勝竜寺城を狙うと思っていただろう。それがまさかの素通りするとはその分遠回りになるし背後からの攻撃のリスクもある。

敵は何故そんな愚策を取ったのか、岩成は分からなかった。

しかしここですんなり通すわけにはいかない。

 

「出陣! 敵の陣形は間延びした長蛇の陣! ひと叩きして城に戻ります! 岩成です」

 

岩成は城内に守備兵七百を置くと残りを率いて勝竜寺城を出陣した。

ひと叩きふた叩きできればいい、敵が勝竜寺城で少しでも足を止めることが出来れば軍備を整え、三好も戦える。

この先に織田軍が! もう先鋒部隊が織田軍の背後を捉えているだろう。

しかし伝令が運んできた知らせは岩成の想定していない知らせだった。

 

「で、伝令‼︎ 織田軍、突如反転し我らを迎撃‼︎ 先鋒隊はほぼ壊滅しました‼︎」

 

岩成は驚愕した。まさか自分は誘い込まれていたのかと。

 

「勝竜寺城に撤退します‼︎ 岩成です!」

 

「で、伝令‼︎」

 

撤退を支持しようとした降りまた別の伝令兵が馬を走らせてきた。

 

「勝竜寺城…………緋村隆成率いる別働隊により陥落しました‼︎」

 

 

「そんな…………私は織田の掌で踊らされたのか…………」

 

長門は兄隆成に五千の別働隊を頼んでいたのだ。隆成率いる別働隊は桂川から出陣する際に本隊とは別の道を通り、岩成が出陣したと同時に城攻めを開始したのだ。

七百の守備兵は最初こそ抵抗したものの、隆成の怒涛の攻めに戦意を失い押し切られ勝竜寺城は落城したのだった。

 

「くっ! 摂津まで撤退だ…………」

 

岩成は動ける兵を引き連れ本国である摂津まで撤退したのだった。

 

 

 

 




マジで岩成さんのシリアス口調がわからん…………どうしても「岩成です」をつけるとギャク臭くなるので中途半端になってしまった。
もう合戦時は使わない方がいいのかな。


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凱旋、そして電撃和睦






 

 

「はあ…………今頃勝家や長門は摂津かなぁ」

 

そうぼやく相良良晴は信奈に与えられたやまと御所の警護に当たっていた。

天下の政を司る都である京。そう言えば聞こえは良いが実際は応仁の乱による戦国時代の始まり、今の今まで戦乱の渦におり京の町や人は痩せ細っていた。それは、神事を司る姫巫女のいるやまと御所も例外ではなく、直ちに修復が必要であった。

かと言って白昼堂々とやまと御所を襲撃しようなどと考える者などいないであろう。そんなことをすれば朝敵として全ての大名を敵に回すことに他ならない。

つまり相良良晴はただ今超絶に暇なのである。

 

「これなら俺も勝家と一緒に摂津に乗り込みたかったぜ…………ん?」

 

服を引っ張られる感覚を覚えた良晴は足を止める。そこには何処か不思議な雰囲気を醸し出す巫女装束の少女がいた。

 

 

その頃勝家筆頭の畿内制圧軍は、勝竜寺城を落城させた後はそのまま南下し、山崎を経て畿内へと侵攻し、摂津の芥川城、越水城、滝山城と摂津を悉く制圧していた。

しかし摂津平定は、思わぬ抵抗にあい叶わずにいた。勝家から七千の兵を預かっていた緋村隆成が池田城を攻めあぐねていた。

池田城は五月山南麓の丘陵地に築かれた平山城で西側には崖、北側には杉ヶ谷川、東と南には幅約27メートル、深さ約6メートルの大規模の土塁と言う防御に優れた城であり、城主の池田勝正は勇将であり抵抗は強固であった。

 

「そうら! 織田に降った緋村など最早恐るるに足らず‼︎蹴散らしてやれ!」

 

池田勢は緋村勢が茶臼山の麓で休息を取っているという伝令を聞くと夜明けと共にに勝正自ら二千を率いて奇襲を仕掛けた。

 

「何もかも長門の予想通りだ‼︎ 鉄砲隊、前に‼︎ 撃てぇ‼︎」

 

その奇襲を読んでいた長門は、予め用意していた材料を組み立て即席の砦を築いていた。長門自身は「良晴の墨俣城を真似させてもらっただけ」と言うその砦は簡易でよく見れば粗悪で防御力としては大したことのないものであるが驚かせるにも十分効果があったであろう。

そして屈めば人が隠れられる程度の空堀から飛び出した二百丁の鉄砲隊の業火は勇んで駆けてきた池田勢を容易く地に落としていた。

撤退した池田勢を追い立てる緋村勢であったが、籠城に徹した池田城は思いの外堅く、なかなか崩せずにいた。

満足な休息もない行軍に、夜通しの工作、緋村勢の疲労の色は顔にも現れてきた。

池田城を見つめる長門の顔色も疲労が現れてはいるが、それを隠すように表情を固くするを浮かべる。

 

「休まなくてよいのか?」

「小兄上…………」

 

そうにこやかに告げる次男の義隆は握り飯を一つ長門に差し出す。彼は何時も隆成の補佐として、隆成の良き相談相手として支えていた。何より義隆は人徳があり、隆成が「我が生涯にて義隆に勝る人無し」と後の世に語る程に隆成も義隆を頼りにしていたほどの男である。

 

「ありがたいことですが、生憎私は今腹は空いておりません。その握り飯は家臣らに」

「ここ五日飯も食わない男が何を言う。それに家臣らも交代でだが飯は食っておる」

「ならば小兄上に…………」

「ええい、強情な奴め。飯も食わぬ男の策などで、どう城を落とすと言うのだ」

「むぐっ⁉︎」

 

何かと言って食事を取ろうとしない長門に義隆は無理矢理握り飯を口に押し込んだ。口に入れられたものを吐き出すわけにもいかず、何度か咀嚼し飲み込む。

 

「小兄上…………」

「長門、お前は頭が良く思慮深い男だ。だが己を顧みないのが欠点だ。将たるもの、常に壮健で、皆の手本となるものであれ…………と父上もよく申していたであろう」

「はっ! 申し訳ございません小兄上」

 

長門はバツが悪そうな顔を浮かべながら頭を下げる。

 

「さて、兄上がお呼びだ。行くぞ」

 

義隆が踵を返すと長門もその後に続く。様々な思いを胸に秘めつつ…………

 

 

その後長門は調略と偽報によって疑心暗鬼を誘い、再三、降伏の使者を送っていた。そして10回目の説得によってようやく勝正は降伏し、池田城を落とし、丁度勝家率いる本隊が三好勢の支城を落とし、三好勢は阿波へと落ち延びていった。

勝家は三好勢を畿内から駆逐し、信奈に褒められると思っているのか、ウキウキな表情を浮かべていた。自分が率い、畿内で牽制を振るっていた三好勢を阿波へと追い払いこれ以上のない喜びの表情を浮かべる勝家であったが、そんなテンションの勝家を迎える信奈の口からは勝家の想像とは違う答えが返ってきた。

 

「六。なんで逃してるのよ! どうせ四国までおいかけてないんでしょ。これからはただ勝てばいいってわけじゃないのよ。 ほら、褒美は割れた茶碗」

「姫様⁉︎ うわあぁぁ‼︎」

 

褒められるどころか逆に怒られた勝家はあわあわと涙を流していた。勝家の事を無視して評定は続き長秀は御所の修理や大通りの整備など、地味ながら堅実な長秀らしい働きを褒められていた。

そして京の盗賊は犬千代と五右衛門が捕まえ、犬千代は信奈よりういろうを貰っていた。

 

「十兵衛、あんたはどうだったの?」

 

信奈は十兵衛とこ光秀に声をかける。唯一公家の面々との交流がある光秀に任された仕事は今川義元の将軍宣下の交渉であった。この一番重要な仕事は難航していた。

 

「関白の近衛前久どのは今川幕府の設立を認めないそうで…………それに厳しい条件を突きつけてきました」

「十兵衛殿、その条件とは?」

「今月中に十二万貫文を御所に納めよと…………無理難題かと」

「たっ、たいへんだぁぁぁっ! ってどの辺りが無理なんだい? なんちゃって…………」

 

勝家のしょうもない冗談で空気は凍りつき信奈からもジロリと睨まれる。

 

「…………あの、あたし、本当にわからないんですけど」

 

涙目で周りに訴える勝家。もう気の毒すぎて誰も彼女と目を合わせられないでいた。

そこに光秀が助け船を出した。

 

「とてつもない大金を要求されてるんですよ」

「なるほど、待てよ? 十二万貫文って事はあたしの俸禄が月千二百貫文。ということはあたしの俸禄を十年タダにすれば調達できるよなっ⁉︎やった、解決したあっ!」

「いいえ、違います、百年分です。それに今月中に耳揃えて払わないと将軍宣下は永遠に無いのですよ?」

 

妙案を思いついたばかりに上機嫌になる勝家だが、直ぐ光秀に突っ込まれ、また涙目になる。

しかも今月もあと一週間しか無く織田の面々も慌て出した。そしてそこにさらに混乱を巻き起こす伝令が届く。

 

『武田信玄と上杉謙信、電撃和睦』

 

「なんですって⁉︎」

 

越後の龍、上杉謙信、毘沙門天の化身と恐れられる無敗の戦国武将で戦の天才と言われる神の軍略の持ち主。そして甲斐の虎武田信玄。最強無敵の騎馬軍団を率いるこちらも神の軍略を持つ最強の武将。お互いを好敵手と認め合う両者は今まさに川中島で5回目の激戦を繰り広げていた。信奈が上洛に踏み切ったのもこの両者が争っている間に上洛を果たすためであった。

その両者が突然の和睦、事の真相は不明だが、武田信玄は前々から上洛の機会を伺っていた。もし武田信玄が上洛の軍をあげたら織田の領はひとたまりもなく塵芥と化すだろう。

 

「おかしいわね、武田信玄はともかく信濃を侵略し続ける信玄の悪行を許すまじと目の敵にしている上杉謙信が和睦を…………」

 

信奈の悩みはそこにあったがこの状況で悠長に考察を練る暇もない。信奈の決断は早かった。

 

「信玄が上洛の機を疑っているなら本国を留守にしていられないわ京の守備は十兵衛に任せるわ、十兵衛の下には犬千代、サルの軍団もつけるわ」

「お待ちくだされ信奈様」

「何よ、緋村」

 

隆成が声を上げる。

 

「京の守備に我が弟、長門を何卒」

「…………そうね、考えたく無いけど何かあれば戦慣れしてる長門がいればなんとかなるでしょうし、許可するわ! 」

「はっ!お任せを」

「兄上⁉︎」

「というわけだ、長門よ、しかと務めを果たせ」

 

というと家臣らはそれぞれの陣に戻っていった。だが長門は暫く固まったまま動けないでいた。

 

「長門どの?」

「お、おい長門?」

 

光秀と良晴が固まったままの長門に声をかける。長門は良晴を見ると

 

「なあ良晴…………人質ってなんだっけ?」

 

その問いに答えられるものはいなかった。

 

 

 

 

 





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