秋津洲ちゃれんじ (秋津洲かも)
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秋津洲(あきつしま)チャレンジってなあに?







 

ご存じよ!毎日やってる!という方は次話へお進みください

 

秋津洲?知らない子ですね?という方は読んで頂ければ幸いです

 

 

 

 

秋津洲(あきつしま)はオンラインゲーム、艦隊これくしょんに登場するキャラクターです

 

モデルとなったのは実際に存在した大日本帝国海軍の水上機母艦秋津洲、海の上で離着陸することができる飛行艇(映画紅の豚に登場する飛行機)を運用する一種の空母です。

 

その搭載する飛行機が特徴的で名前は二式大艇(にしきだいてい)、当時、世界最高性能を誇る飛行艇でした。

 

最高速度は450キロ以上、巡航速度はおよそ300キロ、航続距離は最大約6000キロに及びます

 

その分、大きさも巨大で長さ約30メートル、横幅約40メートル

主に『偵察』を任務としていました

 

そう秋津洲はかの有名なゼロ戦などを搭載していた空母である赤城や加賀とは違い、前線で戦うための船ではありませんでした

 

 

 

お話をゲーム、艦隊これくしょんに戻します

 

艦隊これくしょんでは戦艦であれば砲撃、空母であればゼロ戦など、艦載機による爆弾攻撃、駆逐艦では砲撃・魚雷攻撃を両方とも行えます

 

とにかく敵、深海棲艦を攻撃してやられる前にやっつけるゲームなのです

 

では水上機母艦 秋津洲はどうやって敵と戦うのか

 

偵察用の二式大艇しか積めない秋津洲は困りました

 

そこで小さい「砲」とも呼べないような「機銃」を手に取り戦うことにしました

 

それがゲームの中で反映され、秋津洲(あきつしま)はとてもステータスの低い、弱いキャラクターとして誕生しました

 

ところがこの秋津洲、ゲーム内ではとても手に入りづらく、イベントが行われたとき限定でとてもとても苦労に苦労を重ね、やっと手に入れることができるような希少なキャラクターなのです

 

入手手段はそのイベント1回きりで、2015年12月現在は入手する方法がありません

皆さんそうして血と汗と涙を流してようやく手に入れた秋津洲

 

期待を大きく大きく上回り、非常に貧弱だったのです

 

最弱だったのです

 

RPGに例えると最初の町・お城などの周囲の敵にボロボロにやられてしまう

 

それではレベルをあげることも叶いません

 

でも何か特殊能力を持っているんじゃないか、そう期待した方も多いですが、見事に期待をやぶり、特殊能力どころか他のキャラクターが持っている最低限の能力さえ有して、持っていませんでした

 

これは苦労をして手に入れたプレイヤーの怒り、反感を買い、やがていじめられるようになりました

 

そのいじめのうちの1つが『秋津洲チャレンジ』だったのです(中には愛しているが故に行う方もいます)

 

最弱の秋津洲(あきつしま)を他のキャラクターと1対1、つまりタイマンで戦わせ、どちらが勝つだろうかと予想し、それを楽しむものです

 

結果はもちろん、最弱の秋津洲は相手にまずほとんど勝利することはできません

 

けれども最弱とされているキャラクターがけなげに巨大な敵、戦艦大和などに立ち向かう姿は見る者に大きな感動を与えます

 

 

これが『秋津洲チャレンジ』です

 

この物語は偵察だけが唯一の取り柄の、彼女のゆっくりした成長を描くものです

 

 

 

(次話より本編になります)

 




そっかー、あんまり知られてなかったかも!

次回、秋津洲登場!『見捨てないで欲しいかも』


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秋津洲 解体の危機!
見捨てないで欲しいかも


人は生まれながらにして不平等である

 

彼女はそれを身をもって、感じていた

 

容姿、家柄は選べない

しかし、それだけで後の人生は大きく影響される

 

けれども正しく努力を行えば、少しは報われる

 

でもどうしようにもならないこともある

 

あきらめが肝心

 

 

なぜ私は艦娘に生まれてきたのだろうか

 

 

 

 

「秋津洲、異動もしくは解体どちらを選ぶ?」

 

目の前にいる男は私に問うた

 

もはや、私に興味がないとでもいうように、書類に目を通しながら

 

 

 

私は驚かなかった

 

いつかこの日がやってくるだろうと思っていた

 

それがたまたま今日だった

 

「判断は、お前に任せる」

 

時刻は1700

 

空の色が青からオレンジへ変わる

 

この場所にいるだけで、全身から汗がにじみだしてくる

 

休めの姿勢のその背後では

 

いつものように両手をぎゅっと握りしめている

 

提督執務室は私にとって常に処刑台のようなところだ

 

ここに来るたびに、叱責され、蔑まれ、まったくと言って良い思い出がない

 

 

いや、着任初日だけは違ったか

 

皆、本当に喜んでくれた

 

それが遠い昔のことに思える

 

 

どれだけの苦労をして私を手に入れたのか

 

どれだけの資源・時間・犠牲を費やしたのか

 

大本営が私の顕現を報じ、どの鎮守府に配属させるか募集をかけたとき、艦娘を有する全ての鎮守府が私の着任を希望した

 

 

うれしかった

 

必要とされていることが

 

でも、その周囲からの期待が失望・無関心に変わるのに大した時間はかからなかった

 

「返答は明日の1700までだ、以上。さがっていいぞ」

 

私は敬礼し、回れ右

 

執務室を出て、一目散に自分の部屋に戻る

 

誰にも会わないように

 

後ろ手に扉を閉めるとふいにため息が出た

 

一人部屋で良かった

 

扉に背をもたれながら、うずくまる

 

涙が頬を伝う

 

必死に声を押し殺して、泣く

 

誰にも聞かれたくない

 

悔しくて、惨めで、情けなくて

 

いっそこと、お前は解体だと言われた方がまだ良かった

 

 

自分で決めなくてはならない

 

私は新しい場所で戦うことを望んでいるのか

 

それとも自身の解体を望んでいるのか

 

 

 

 

 

 

 

―――――2週間前

 

 

空の色がオレンジから青へ変わる

 

太陽が顔を出す

 

全長200メートルをゆうに超える巨大な輸送船が横浜港へ向け、神奈川県三浦半島城ケ島沖南西5マイルを北東へ向け航行していた

 

天気は雲一つない快晴、波も穏やか

 

巨体は自分こそ海の覇者であるかのように優雅に揺れることなく進んでいく

 

ただ、その周囲は平和には程遠かった

 

輸送船から少し離れたところに自衛隊の駆逐艦が2隻、輸送船を横から挟み込む陣形で航行している

 

それだけではない

 

輸送船の近傍を4隻の艦娘が前後左右を取り囲む形で護衛している

 

軽巡1駆逐艦3の合計4隻

 

この遠征が成功すれば、約1年ぶりに中東から東南アジア、シーレーンを通り日本の太平洋側に直接、物資を送り届けることになる

 

これは大本営にとって大戦果である

 

深海棲艦に奪われた日本の海を取り戻す、そのための第一歩を成し遂げたと明日の新聞にでも載れば、困窮にあえぐ国民へのメッセージとしては最高のものとなる

 

 

 

「みんな、もうすぐよ、横須賀鎮守府はもう目と鼻の先よ」

 

輸送船の前方、リーダーである軽巡の艦娘が無線機に伝えると、すぐに返答

 

「あー、つかれたー、腰いたいー」

 

「大丈夫?」

 

「横にいると、輸送船の作った波が腰にひびくんですよ」

 

目の下にクマをつくった左の駆逐艦が腰をひねる

 

「横須賀に着いたら、カレーを食べにいきませんか?」

 

とは、右の駆逐艦

 

「あともうちょっとだから気を引き締めて。敵潜水艦の反応はどう?」

 

「「「異常無し」」」

 

3人から簡潔に報告がかえってくる

 

よし、みんないい子ね

 

「ここまで、来たらもう大丈夫ですよ」

 

あら

 

今度は後方の駆逐艦が、気が抜けるようなことを言う

 

「ふあー、あ、あれは・・・?」

 

左の駆逐艦があくびをしながら視線を上に向ける

 

上空、左前方から1機の飛行機がこちらに向かってくる

 

「じゅ、11時の方向!航空機を視認!」

 

11時の方向、つまり陸地の方向からこちらに向かってくる

 

プロペラを4つ装備している

 

機体の形からすると自衛隊の戦闘機、そして艦娘の運用している戦闘機や攻撃機の類ではないようだ

 

「大丈夫、あれは味方の偵察機よ、今、横須賀から連絡が入ったわ。エスコートしてくれるそうよ」

 

「よかったー、ここまで来て敵機なんて勘弁ですよー」

 

ほっとしていると、飛行機の姿はどんどん大きくなり、輸送船の上空に差し掛かった

 

「わー、見たことない機体ですよ!フロートがついてますし、水上機ですよね」

 

無邪気に手を振っている

 

飛行機はバンクをかけ、艦隊の上空で円を描き始めた

 

「んー?瑞雲とはちょっと違うかな」

 

「二式大艇という機体だそうよ」

 

味方の偵察機が到着し、安心したのか艦娘は皆、空を見上げている

 

 

 

 

現在、三浦半島沖南西3マイル

 

 

ザザッ

 

≪大艇ちゃん、異常はないかも?≫

 

「こちらだいていようせい、いじょうなしです」

 

「ふきんをこうこうしてるふねはいません」

 

≪わかったかも、引き続き偵察おねがいかも≫

 

「りょうかいです」

 

プツン

 

送受信の赤ランプが消える

 

それを確認すると、二頭身のかわいらしい女の子は再び首に下げた双眼鏡を構える

 

隣の子は操縦桿を握っている

 

また、機内の後部座席には左右の見張り窓に座っている子たちがいる

 

全部で4人

 

妖精さんである

 

大艇妖精さんである

 

「ていさつけいぞくするです!」

 

機内のスピーカーから聞こえてくる

 

上空200メートル、二式大艇は輸送船と艦隊の上空を旋回しながら、周辺警戒を行っていた

 

機体後部の見張り窓の座席に座った大艇妖精さんは目を凝らし海をじっと見ていた

 

これ以上高度を上げると、深海棲艦のサイズでは確認するのは厳しい

 

深海棲艦は人間よりも一回り大きいぐらいで、しかもその色は海に紛れるには絶好の黒

 

目視と双眼鏡で見つけるのはなかなか難しい

 

ではどうやって探すのかというとそこは長年の経験と勘が頼りだ

 

ここは横須賀鎮守府から近い、鎮守府近海、地図上では1-5エリアと表記されている

 

船ならばできれば避けたいのだが、東京湾に入るにはここを通らざるを得ない

 

ここで敵が奇襲をかけるとするなら、潜水艦の待ち伏せ攻撃の可能性が高い

 

もし輸送船単艦であったのなら非常に危険な場所だ

 

敵のやり方は縦長の輸送船の横腹へ向け、魚雷を発射、その後急速潜航で逃げ切る

 

となると、敵の潜望鏡を優先的に探す必要が・・・

 

視界に何か入る

 

ん、海に浮かぶあれは漁船用のブイ?

 

そんなわけがない

 

このエリアで漁をするなどそれこそ自殺行為だ

 

間違いない、あれは

 

 

予感的中

 

 

潜水艦の潜望鏡

 

「みつけたですー!」

 

無線機に叫ぶ妖精さん

 

 

 

 

現在、三浦半島沖城ケ島から南1.5マイル

 

「はい、分かりました。長音2回ですね。陣形変更了解です」

 

軽巡が無線機を耳に当てている

 

「みんな、聞こえる?もうすぐ浦賀水道に入ります。狭路に備えて自衛艦が輸送船の前後になるよう陣形を変えます、さっき、言った通り、私たちはここからは二名ずつ、輸送船の左右につきます。いい?」

 

「「「陣形変更、両舷二名ずつ、了解」」」

 

いい返事ね

 

私は輸送船の右わきへ動く

 

後ろを見ると100メートル以上離れてはいるが駆逐艦がちゃんとついてきているのを確認できた

 

この遠征ももうすぐ終わりを迎える

 

私たちは呉鎮守府を出発して、和歌山県沖で佐世保鎮守の艦娘と合流、輸送船護衛任務を引き継ぎ、ここまで来た

 

この重要な任務を担当することができて誇らしい

 

 

 

ボ―――ボ―――――

 

 

自衛艦の汽笛が鳴る

 

自衛艦の陣形変更の合図だ

 

右手の自衛艦が増速、左の艦は減速の手筈だ

 

私の右にいた自衛艦がゆっくりとした相対速度で前へと離れていく

 

その航跡に足を取られないように重心を低くする

 

そういえば左のあの子は本当に大丈夫なのかしら

 

腰が痛いと言っていたし

 

横須賀に着いたらゆっくりさせましょう

 

カレーもいいけど、せっかくだし買い物に行きたいな

 

私服を買いに行って、甘いもの食べてそれからそれから

 

やりたいことが頭の中をめぐっている

 

 

航跡の波が穏やかになり、姿勢を戻す

 

自衛艦がさらに離れていき、私の右の視界が開けてきたと同時に

 

 

 

え?

 

ソナーが何かを捉えた

 

と同時に無線を受信

 

「こちら横須賀鎮守府!こちら横須賀鎮守府!輸送護衛C隊へ」

 

「は、はい!こちら輸送護衛C隊です、そちらの感明良好どうぞ」

 

突然の無線にびくっとする

 

「そちらも感明良好、上空の偵察機が潜望鏡を発見した。方位0-8-0、距離750。繰り返す方位0-8-0、距離750」

 

ソナーの反応は、これのことだったのね

 

無線に返答する前に反射的に右を見る

 

何も見えない

 

ソナーの妖精さんに確認する

 

すると妖精さんは真っ青な顔をしつつ、状況を必死になって伝えてくる

 

状況は切迫していた

 

嘘?

 

ほぼ右真横から、魚雷が何本も、10いや20以上・・・数えきれない・・・

 

こちらに向かってきている

 

まだ距離は十分ある

 

私は余裕をもって魚雷を回避はできる

 

それは私たち艦娘ならばの話しである

 

 

 

でも私の左には巨大な輸送船がいる

 

なんとかしなきゃ!

 

でも増速した自衛艦とは大分距離が離れてしまった

 

この状況の私たちに何ができる

 

海面を塗りつぶす多数の魚雷

 

絶望に息が詰まり声が出ない

 

唾を飲み込む

 

横須賀鎮守府からの無線は何かを言っているが、耳に入ってこない

 

なぜこのタイミングで・・・

 

「あ・・・」

 

やっと出たわずかな声

 

私が身を挺して輸送船を守る?

 

いや、向かってくる魚雷はそれで済む本数ではない

 

輸送船への直撃はは避けられない、頭の中で冷静に確信した

 

 

私は足が震えて動けなくなってしまった

 

恐怖からだろうか

 

輸送船を守れなかった自責の念からだろうか

 

時間だけが過ぎていく

 

私ももう避けられない、来る!

 

あと数秒で魚雷は到達する、目をつぶり覚悟をした

 

「みんな、ごめんなさい」

 

私の命はあとわずか、最後に口にした言葉は謝罪だった

 

 

 

 

 

 

 

 

魚雷は私には命中しなかった

 

 

おそるおそる目を開ける

 

 

 

 

 

 

 

 

が、さらに数秒をおいて

 

 

 

左から爆風が襲い、私は意識を失った

 

 

 

 

情報が入ってこないことに秋津洲は焦っていた

 

先ほどから大艇ちゃんはいくら呼びかけても沈黙していた

 

「どうなってるかも!黙っていたら分からないかも!」

 

つい声を張り上げる

 

≪あ・・・と、ゆそうせんにてきのぎょらいが・・・たくさん、め、めいちゅうしたです≫

 

≪ゆそうせん!えんじょう!けいしゃしていきます≫

 

≪きゅ、きゅうえんをようせいするです!≫

 

「え?ど、どうしてっ!潜望鏡のことは、すぐに提督さんに伝えたかも!護衛する艦娘だっていたんでしょ!」

 

≪せいぞんしゃさがすです!≫

 

≪はやく!きゅうえんをむかわせるです!≫

 

「うっ・・・。こちら秋津洲、至急指令室へ-------

 

 

 

(続く)

 

 




見るに耐えない駄文かと思いますが、
書く側のしんどさ、これを少しでも理解でき、ぐったりしてるかも!

ありがとうございました


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秋津洲の出番まだかも?

秋津洲さんは登場しません
いえ、できませんでした
すいません、なんでもするかも


「失敗した?」

 

男は作業の手を止めた

 

パソコンの画面から目を離し、驚きの表情を浮かべている

 

「はい、大本営から緊急連絡がありました。本日、0715横浜港に向かっていた輸送艦隊が敵の奇襲に遭い、横須賀正面海域において輸送船は大破。その他の被害状況はまだ入ってきていません」

 

対する女は冷静に報告をする

 

凛とした雰囲気に青い袴の弓道着、サイドテールがわずかに揺れている

 

「それで、うちの艦娘たちは無事なのか?」

 

男は思わず、椅子から立ち上がる

 

椅子が反動で後ろの壁に当たる

 

「はい、10分程前に通信にて安全を確認、佐世保到着予定1100です」

 

それを聞いて、男は肩の力が抜けたのか、ふうと息をつく

 

腕の時計を見る

 

「あと2時間か、分かった、ありがとう、情報収集を続けてくれ」

 

「はい、提督。では私は司令室に戻ります」

 

女は踵を返し、扉に向かう

 

何かに気付いたのか、提督と呼ばれた男がそれを止める

 

「すまん、待ってくれ加賀、ひとつ頼みがある。護衛機を飛ばして、護衛隊を迎えに行ってやって欲しい」

 

「あの子たちのことが心配なのですね。分かりました。零戦52型を1スロット、帰還援護に向かわせます、お任せください。鎧袖一触よ」

 

加賀と呼ばれた女は決め台詞が決まったことに満足し、柔和に微笑みながら、ドアノブに手にかける

 

 

 

 

 

加賀は執務室を出ると、しんとした廊下を足早に階段の方向へ向かった

 

その姿はどこか不自然だった

 

わずかに左足をひきずっている

 

だが痛みはないのか顔をしかめることもなく平然としている

 

階段に差し掛かると少し慎重に何かをかばうように、手すりをたよりに下っていく

 

下りきった正面、木板に達筆な文字で通信指令室と書かれた部屋に入る

 

入室と同時に一人の少女と目が合う

 

「戻りました、夕張さん、何か情報は入りましたか?」

 

夕張は通信卓に座り、何かを台帳に記入している途中だった

 

見渡すと、この部屋には彼女一人

 

様々な通信機器が並び受信機が雑音を拾っている

 

「秘匿回線でFAXが3枚、はい、これです」

 

秘匿の印が右上にある用紙を手渡される

 

目を通し、内容をつかむ

 

輸送船の沈没が確認された

 

敵潜水艦を全て撃破

 

被害状況は現在、確認中

 

今回の事案を受けて、各鎮守府は深海棲艦の今後の動向に注意されたし

 

特に潜水艦には厳重に警戒を

 

大まかにいえば、こんなところだろう

 

左上にホチキス留めされた書類をぱらりとめくり、最後の3枚目、情報元を示す注釈のところで目が止まった

 

〈水上機母艦 秋津洲 隷下 二式大艇〉

 

本人に会ったことはないが、聞いたことがある

 

超長時間且つ超長距離運用可能な飛行艇を持つ艦娘の存在を

 

同じ飛行機を運用する者として興味があった

 

そういえば、ここ、佐世保提督も彼女に是非着任して欲しいと子供のように散々駄々をこねていた

 

秘書艦である私にところかまわず彼女の有用性を熱弁していた

 

しかしそれは叶わず、彼女は日本最大の鎮守府である横須賀鎮守府へ着任した

 

それを聞いた佐世保提督は落ち込み、数日間、書類仕事をおろそかにし

 

それを見とがめた加賀は執務室を爆撃した

 

あの時は頭に血が上りまるでどこかの五航戦のような真似をしてしまいました

 

まだ見ぬその水上機母艦に嫉妬していたのだろうか

 

嫌なことを思い出してしまい、ふと感情が口に出る

 

「頭にきました」

 

「ひっ」

 

隣の夕張がおびえた声を出す

 

いけない、落ち着きましょう

 

書類を夕張に返す

 

「私はこれから輸送船護衛隊の帰還援護のため護衛機を飛ばします。彼女たちの現在位置を教えてもらえるかしら」

 

「はい、えっと、ここです」

 

夕張はパソコンを操作し、画面上の地図にプロットされた点を指さす

 

「ありがとう、それでは、少しの間、司令室を任せます」

 

 

 

 

鎮守府正面玄関を出る

 

玄関から鎮守府正門まで一直線に石畳が続いている

 

その道に沿って植えられた桜の木が揺れている

 

今日は少し風が強いようね

 

湿度もかなり高い

 

けれど雨の心配はなさそう

 

機体のエンジンスタートを慎重にやりましょう

 

正規空母として生まれた彼女は天候の変化に敏感だった

 

加賀は鎮守府の出撃ドックではなく、海に面した運動場へ向かう

 

開けた場所まで行くと、歩が止まる

 

芝生の上から海の方向へ目をやり、体の力を抜き、自然な姿勢をとる

 

なめらかに唇が動く、そうして何かをそっとつぶやくと

 

光と共に艤装が展開された

 

長弓と矢筒、胸当て、右手には弓懸けそして左に飛行甲板

 

 

 

発艦準備に入る

 

ピンと背筋を伸ばし、射法に従い、1点を見つめ、構える

 

コンタクト、エンジンスタート、油圧・回転計チェック、各種動翼の動作を確認、ランナップ完了、全て良好異常無し、チョークアウト

 

素早く手順を終える

 

呼吸が止まる

 

完全に矢の先端が静止した

 

「零戦52型、20機、発艦します」

 

 

 

 

(続く 次はなにがなんでも秋津洲出すかも)




痛感したかも
文章を書くのって下準備が大切なんですね
設定ってむずかしいかも


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水上機母艦 秋津洲 出廷します!

「それでは、宣誓を行ってください」

 

「はい、えっと、私、横須賀鎮守府所属 水上機母艦 秋津洲はここに真実のみを証言することを宣誓しますかもっ、あっ!」

 

失敗を自覚

 

余計な語尾のせいで、周囲から厳しい視線を向けられている

 

も、もう一度最初から言ったほうがいいかも?

 

ここからは「かも」は禁止!

 

「まあ、いい。本日は先の輸送船護衛任務において、証言人 水上機母艦秋津洲のとった行動について不備がなかったか、これを聴取する」

 

海軍軍令部軍法会議第三法廷

 

海軍内で行われた不祥事などを裁く場所

 

証言台には緊張した面持ちで秋津洲、その正面に半円を描くようにして、監査官たちが座っている

 

「ふむ、そう固くならなくていい。我々は当時の状況を知りたいだけなのだ。形式にこだわる必要もない。楽にしたまえ」

 

正面、監査官の中でも一番年老いた、いや、老獪をにおわせる監査官が笑顔を浮かべる

 

言葉に応じ、秋津洲は、直立不動から休めの姿勢をとる

 

背後では両の手をぎゅっと握りしめている

 

「では、始めよう。まずは、秋津洲君、当時の出撃までの状況を聞かせてくれるかな?」

 

この老人は笑顔を崩さない

 

秋津洲にはそれが逆に不気味に思えた

 

「はい、当日は本来であれば、私は出撃しない予定でした。朝5時半過ぎに起こされて、直ちに出撃準備を行えと言われ、まず通信指令室へ向かいました」

 

「ほう、では本来は誰が出撃するはずだったのかね?」

 

「えっと、千歳さ、水上機母艦 千歳が出撃の予定でしたがカタパルトが不調と聞き交代しました」

 

「誰が君にそれを命じたのかね?」

 

「横須賀提督です」

 

「いいよ、状況を続けて」

 

矢継ぎ早の質問にうまく思考がまとまらない

 

「はい、ええと、通信指令室に着いたら、状況の説明を秘書艦の山城さんにしてもらいました。輸送船が湘南沖にいるので、横浜港まで周囲の警戒監視にあたれとのことでした」

 

「君はそれを聞いてどう思ったかね?任務遂行は可能かどうか」

 

「と、以前にも同じような任務をしたことがありましたし、私の二式大艇の能力ならば十分で完遂できると思って・・・う、いました」

 

しかし、任務を完遂することはできなかった

 

「大丈夫かね、当日の天候はどうだった?」

 

「当日は快晴で雲も出ていませんでした」

 

「ふむ、そうだね。海上にも霧は出ていなかった。日は昇っていたし、警戒監視に問題はない」

 

監査官は自分の席の前に設置されているディスプレイで何かを確認しながら言った

 

こう言葉を挟まれると何も言えなくなる

 

汗がにじむ

 

この部屋に入ってから何分が経ったのだろう

 

「出撃は何時頃だったか覚えていますか?」

 

変わって右の方向から質問が来る

 

「状況説明を受けてからすぐに出撃したので0600頃です」

 

「出撃してどこに向かいましたか?」

 

「鎮守府正面から出撃し、二式大艇が十分な離陸滑走を行える鎮守府の東2マイルの位置に向かいました」

 

「そこで、二式大艇を離陸させたということですね」

 

「はい、二式大艇をクレーンで海面に降ろして、飛行前作業を行い、南へ向け離陸させました」

 

「時刻は?」

 

今度は左から来た

 

「正確な時刻は覚えていませんが、0615頃だと思います」

 

「思いますとはどういうことかね?」

 

左は意地が悪い

 

「き、鎮守府からの移動距離と離陸作業時間から逆算するとおおよそ0615です」

 

「まあ、いいじゃないかね」

 

正面はまだ笑顔でいる

 

「何はともあれ二式大艇は離陸した、では次は飛行ルートと輸送船上空到着までだ。話を続けて」

 

「はい、離陸完了してからすぐに高度を上げ、三浦半島を横断、南下しました。飛行中の異常はありませんでした」

 

「輸送船の上空に到着したのは0630過ぎ、高度を200メートルに下げました」

 

「では警戒監視を開始したのも同時刻で問題ないね」

 

「1つ疑問があるのですが、よろしいでしょうか」

 

あ、女性の監査官もいる

 

全員、男性だと思っていたから少しほっとした

 

「秋津洲さん、あなたは事前に状況説明で大まかな輸送船の位置を知らされていたでしょうが、どのようにして輸送船を発見したのですか」

 

確かに大艇妖精さんによれば、輸送船は発見されにくいように喫水線に至るまで全体を深い緑に塗装され、甲板上も同じ色のシートかなにかがかぶさっていたらしい

 

「二式大艇は、航跡の白い波を目視し、それを追いかけていったところ、輸送船を発見しました」

 

「そう、ありがとう」

 

「次は、輸送船発見以降だ、話して」

 

「輸送船発見時、私は護衛隊の詳細な編成を知らされていませんでした。すぐに確認したところ、自衛隊の駆逐艦が2隻、艦娘は艦種までは分かりませんでしたが4人です」

 

「警戒監視を続け、三浦半島沖南西約2マイルの位置で潜望鏡らしきものを発見しました。 時間は0652です」

 

はっきりと覚えている

 

妖精さんが大声で報告してきた

 

それは時間の猶予が無いことを示していた

 

「そして君はどうしたのかね?」

 

「横須賀鎮守府に無線で潜望鏡発見を報じました」

 

 

「潜望鏡発見から横須賀鎮守府に伝えるまでの時間差はどれくらいか?」

 

笑顔の老人の隣に座る男が割り込んできた

 

「発見後、直ちに鎮守府に無電したので数分もかかってはいません」

 

「しかし、大艇妖精が発見し、君に伝えた、それを君が横須賀に送ったのだろう。多少時間はかかるのだと思うが間違いないのかね」

 

この男はなにが言いたいのだろうか

 

私も大艇妖精さんもそんなノロマではない

 

「そもそも君は無線で横須賀鎮守府の誰に連絡をいれたのだ?」

 

 

 

 

「横須賀提督です」

 

 

 

 

その瞬間、法廷の空気が変わった

 

 

 

 

老人の笑顔を作っていたしわは消え

 

 

 

 

 

目がぎらつき

 

 

 

 

 

瞬きもせず私をじっと見ている

 

 

 

 

 

数秒後、老人に笑顔が戻ると口を開いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらは横須賀提督から潜望鏡発見の話など聞いていない」

 

 

 

 

 

 

(続く)




今回は話数を増やしていくと矛盾が生まれていくことを学びました

そろそろちゃんとした設定を考えたほうがいいかも!


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秋津洲、ピンチかも!

「ど、どういうことですか!」

 

思わず、大きな声を出してしまう

 

開始から30分、第三法廷では秋津洲の聴取が続いている

 

「どういうことも何も、私は潜望鏡発見の話など初耳だ。むしろこちらは問う立場だ。

うむ、落ち着いてくれ。もう一度、聞く。いつ、どこで潜望鏡を発見した?」

 

正面の監査官、老人は顔こそ笑顔のままだが、その細めた目は油断なく

 

私の一挙手一投足を見ている

 

明らかに私の言葉に穴がないか隙がないかを見張っている

 

けれども私はこの場では事実を正確に相手に伝えるほかに手段がない

 

先ほどの証言に監査官と何か行き違いがあったのかもしれない

 

「時刻は0652、三浦半島沖南西約2マイルの位置で潜望鏡を発見しました」

 

「君は先ほど潜望鏡〈らしき〉と言わなかったかね?ここでの証言は録音されている。確認が必要かね?」

 

「い、いえ、確かに言いました。しかし、その後、そ、その目標に対し、高度を下げ何度も接近し、確認を行いました」

 

「それが間違いなく、潜望鏡だという根拠はあるのかね?」

 

押しが足りないのだろうか、老人は簡単には納得しない

 

二式大艇には自衛隊の哨戒機が搭載するようなカメラは装備していない

 

写真に残せれば決定的な証拠になるが、私のそれは妖精さんの目視、証拠能力のとしてはとても薄い

 

でもこれまでずっと一緒に出撃してきた大艇妖精さんを私が信じないで誰が信じるのだろう

 

「私の二式大艇の妖精は経験豊富で、これまで何度も潜望鏡発見の実績があります」

 

「ふむ、では仮に妖精が見たものが潜望鏡だったとしよう。そしてその情報を・・・どうしたのかね」

 

「横須賀提督に無線で伝えました」

 

「間違いないのかね?無線の先で彼は何と言っていた?」

 

「輸送船護衛部隊に潜望鏡の位置情報を至急伝えると言っていました」

 

「昨日、君に先んじて横須賀提督の聴取を行った。そこで彼は潜望鏡のことなど一切、話さなかった。となると可能性は3つ。ひとつ、君の言葉が流言であり潜望鏡など発見していなかった。ふたつ、君は潜望鏡を発見も横須賀提督に知らせなかった。みっつ、君の言葉は正しく、横須賀提督は潜望鏡の存在を知っていた上でそれを我々に隠した」

 

「無線機の調子が悪かったということはないのかしら?秋津洲さん」

 

「いいえ、確かに返答を得ました。護衛部隊に伝えると!」

 

私は確かに伝えた

 

この部分は監査官には言わなかったが、横須賀提督は私にこう返答したのだ

 

『秋津洲、よくやった』

 

本当に本当に久しぶりに私を褒めてくれたのだ

 

だからこそ私は提督の言葉をよく覚えている

 

「護衛部隊が横須賀提督から情報を得ていたのならば、深海棲艦に対し何らかの対処を開始するはずだが、そういった形跡は今のところ見つかっていない」

 

確かに妖精さんもそのようなことを言っていた

 

深海棲艦の魚雷攻撃を受けたとき、自衛隊の護衛艦は輸送船を前後に挟み、単縦陣の形となり、距離が開いていた

 

そして輸送船の左右にいた艦娘たちは、敵の奇襲当時、抵抗することなく輸送船への魚雷攻撃を許したと

 

しかし、誰か知っていたはずだ

 

私は横須賀提督にちゃんと伝えた

 

どういうことなの

 

なにかがおかしい

 

そ、

 

そうだ当時輸送船を守っていたのは自衛艦と艦娘

 

自衛艦が狭路の浦賀水道に入るまで、単横陣、つまり輸送船の左右に位置をとっていたのは、輸送船の横っ腹を敵の攻撃から守るため

 

もし魚雷攻撃や砲撃くれば、輸送船の代わりに自衛艦が攻撃を受け沈む

 

自衛艦は攻撃ではなく、防御、そのためだけに存在していた

 

妖精の加護無しの通常兵器では深海棲艦にダメージを与えることはできない

 

ならば深海棲艦への攻撃を担当したのは4人の艦娘

 

横須賀提督が私からの情報を得て、潜望鏡への警戒を伝える相手は

 

連絡指揮系統からすれば

 

その4人の中の旗艦に他ならない

 

知っているとしたら彼女だ

 

「護衛部隊の艦娘たちには、聴取を行ったのですか?」

 

私はこの部屋に来て初めて逆に監査官に質問をした

 

私はその答えが否であることを信じていた

 

きっと提督は監査官に潜望鏡の件ついては伝えることを失念していたのだ

 

私は提督へ情報を伝え、提督は護衛隊に伝えると言った

 

これは間違いない

 

提督から艦娘の旗艦に情報が伝わる

 

きっとこの事件の後処理やごたごたでまだ聴取を行っていないのだろう

 

 

 

「もちろん、聴取は行った。彼女たちからも潜望鏡の話は聞いていない」

 

そんなわけが

 

「艦娘の旗艦はどうなのですか?彼女なら知っているはずです!」

 

 

 

 

老人が答える

 

 

 

 

 

 

 

「彼女は轟沈した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府執務室

 

 

彼は恐怖に震えていた

 

もはや本当の真実が今後、歴史の中の真実になることはないはずだ

 

あの時、通信指令室には自分しかいなかった

 

秋津洲の無線報告を聞いたのは自分だけ

 

そして、私が情報を伝えた軽巡の艦娘は沈んだ

 

今頃、秋津洲は監査官から疑いの目を向けられているはずだ

 

だが少なからず疑われるのは自分も同じ

 

だがそれは権力をもってすれば押しつぶせる

 

もう後戻りはできない

 

あの時、呉鎮守府の提督から金を受け取ったときから

 

呉提督は海軍大学校の私の2期先輩にあたる

 

断れなかった

 

彼は自分の艦娘4人の不始末に責任をとるつもりはない

 

今回の輸送船沈没の責任を取るのは

 

輸送船の盾の役割を怠った自衛艦側になる手はずだ

 

私は欲しいものは何でも手に入れてきた

 

容姿や指揮の才能にも恵まれ、日本の顔、横須賀鎮守府提督の地位にまで昇りつめた

 

新しい艦娘が顕現したとき、私はその入手に資材も金も労力もいとわなかった

 

提督を生業としている者は清廉潔白ではいられない

 

誰かを優遇し、誰かに不幸を押し付ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、あとは秋津洲の口を封じるだけ

 

 

 

 

 

(続く)

 




もう少し、明るい雰囲気のお話が読みたいかも

秋津洲の活躍の日は近いかもかも?


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秋津洲の出番ないかも?

お読み頂く前に正直に言いますが

また、秋津洲ちゃんの姿が見えません




執務室に一人となった佐世保提督は立ったまま天井を仰ぎ、大きく息を吸い込む

 

そしてため息、下を向いて首を振りひとごこちつく

 

「やはり、急ぎすぎたのか」

 

誰に言うでもなく口に出す

 

執務机の引き出しの奥から煙草の箱を取り出し、窓を開ける

 

ぬるい空気が部屋に流れ込んできた

 

今日は少し、風が強い

 

ライターの火が消えないよう、左手で囲う

 

ふと音のする方向に目を向けると

 

離陸していくレシプロ戦闘機が見えた

 

ぐんぐんと高度を上げ、空中集合が完了すると、編隊を組み南の方角へ消えていった

 

加賀に命じた輸送船護衛部隊の帰還援護だ

 

艦娘たちが帰ってくるまであと2時間を切ったところだろうか

 

煙草を携帯灰皿に入れ、椅子に腰をかけ書類にむかう

 

 

 

 

先ほど通信指令室の当直を担当していた夕張から報告があった

 

輸送船の沈没が確認されたとのこと

 

『大快挙! 海自 シーレーンを奪還!!!』

 

『1年ぶり!横浜港に大型輸送船到着す!』

 

こんな感じになるはずだったのだろうか

 

自嘲気味に思考をくゆらせる

 

明日の新聞一面を埋めるはずだった大戦果は失態の二文字に変わった

 

大本営は事を急ぎ過ぎた

 

目の前にぶら下げられたニンジンにつられ、足を踏み外し

 

取り返しのつかないことをした

 

これでまた、状況はふりだしに戻った

 

結果論にはなるが、私は反対したのだ

 

ほころびだらけの輸送作戦を

 

こんな作戦に私の艦娘を使いたくなかった

 

 

再び煙草を手に立ち上がった

 

 

 

深海棲艦の出現により世界各国は混乱に陥った

 

船舶を使用した世界貿易は一時、完全に麻痺し、世界は恐怖と恐慌に包まれた

 

特に甚大な被害を受けた大国が2つある

 

イギリスとそして日本、いずれも資源の無い島国である

 

その2つの国にとってシーレーンの破壊は国の崩壊と同義である

 

いや、事はもっと深刻だ

 

シーレーンという土台の上に、国家という家が建っている

 

その土台が失われたのだ

 

この惑星の8割の面積を占める遠い異国へと延々と続く穏やかで〈 安全な海原 〉

 

これを前提条件としてはじめて南北3000キロに伸びる縦に細長い列島は、国家として成り立つ

 

そう、本来であれば民間の船舶は世界中どこであっても安全に航行することができる

 

いかなる国家であれ、それを妨げてはならない

 

深海棲艦は船舶の無害通航権という人類共通の国際ルールを破壊した

 

 

そして

 

我々は第二次世界大戦で学んだ

 

石油は、資源は国の血潮であると

 

それは技術の発達した今でも大して変わらない

 

体中の血管をふさがれた日本はどう動いたか

 

このまま黙っていれば、やがて体は死んでいく

 

飛行機による輸送では積載できる重量・体積共に圧倒的に少ない

 

そこで細かい血管を犠牲にし、大きな大動脈を1つ確保することにした

 

その一端はここ、佐世保港、そしてもう一つが上海

 

大陸からの物資を上海港に集積し、東シナ海を突破して、最短経路で佐世保に向かう直線

 

「佐世保・上海ライン」

 

これが現在の日本の大動脈である

 

 

 

 

ここ、佐世保鎮守府はこの生命線を死守するために設置された

 

 

 

 

突然

 

執務室の扉がノックもなしに開かれる音がした

 

「提督さん!大変っぽい!」

 

煙草をくわえたまま、振り返る

 

「どうした、夕立?あと、ノックはするように」

 

ここまで走ってきたのだろうか

 

上気した顔で息を切らしながら、駆逐艦夕立が部屋に入る

 

「それどころじゃないっぽーい!」

 

何かを訴えかけるように、両手を広げつつ息を整えている

 

ふわっと黄金に輝く髪が照明に反射し、見る者を釘付けにする

 

「落ち着け、何があった?」

 

夕立の息が整うのを待ち、大人しく要件を聞くことにした

 

「て、テレビが、ニュースが大変なことになってるっぽい!」

 

思い当たる

 

輸送船の襲撃から2時間、国民には事前に知らされていなかったとはいえあれだけ巨大な船だ

 

横須賀沖ならば人目につかないはずもない

 

マスコミがかぎつけたのだろう

 

「とにかく、テレビのところに行くっぽい!」

 

「と!こらこら」

 

夕立に手を取られ、引っ張られる

 

「あらあら、夕立ちゃん。あわてて飛び出していったと思ったら、執務室に来ていたのですね」

 

開いたままの扉から声がする

 

「提督、申し訳ありません。夕立ちゃんたらテレビを見ていたら、突然、提督に知らせると駆け出してしまったのです。ね、夕立ちゃん、提督を離して差し上げて」

 

「ああ、鳳翔さん、良いんです、気にしていません」

 

夕立の提督を引っ張る手が片手から両手になり、んー、と言いながら駄々をこねている

 

引っ張られる力が2倍になった気がする

 

「あの、提督、一つよろしいでしょうか、その口にくわえているものは?」

 

鳳翔さんは微笑みながら、首を少しかかげ、私の口元をじっと見ている

 

感覚を自身の唇に向ける

 

 

 

しまった!!!!!!

 

 

私は禁煙をしてから2ヶ月ということになっているのだ

 

気管支炎をこじらせ、床に伏せたとき、本当に心配そうに見舞いにやってくる艦娘たちを見て心に決めた

 

確かに私は皆に宣言したのだ

 

復帰してすぐの朝礼のときだったか、1日の流れを皆に伝え、最後の締めくくり、きょうのひとことで、

 

『私の自己管理が足らず、皆に迷惑をかけたことを申し訳なく思っている。今後はこのようなことが無いよう、私はここにひとつ宣誓する!二度と煙草はやらない!』

 

私の宣誓を懐疑的に見る者もいたが、多数は喜んでいた

 

その多数の中で、一番、喜んでいたのが鳳翔さんだったのだ

 

「こ、これは・・・」

 

頭をフル回転させようとするが、鳳翔さんの私を見つめる目をみると、

 

う・・・

 

微笑みの鳳翔さんの首を傾げる角度が10度ほど増えた

 

「はい、何ですか?」

 

人生、時にはあきらめが肝心である

 

「煙草です」

 

「はい、お煙草です。いけませんね?」

 

私の敗北Dが確定した

 

 

 

 

娯楽室

 

艦娘の憩いの場所

 

普段であれば、おしゃべりをしたり、DVDを見たり、一心不乱に少女漫画を読む艦娘がまばらにいるくらいだが、今日はいつもと様子が違った

 

部屋に入りきれないほどの艦娘であふれている

 

多数の視線は一か所に注がれていた

 

通信指令室以外では唯一、設置されているテレビに

 

離れている者にも聞こえるように、音量が大きい

 

面々を見ると

 

息を忘れ、じっと見る者

 

怒りを押し殺す者

 

青ざめる者

 

互いの手を繋ぎあう者

 

「ひ、ひどい・・・」

 

誰かが呟くがその声に反応する者はいない

 

 

 

通信指令室

 

艦娘たちと同じ情景を見ている

 

夕立がテレビテレビとあまりにも騒ぐので、鳳翔さんのお説教は持ち越しとなった

 

公共放送が伝えている

 

画面の上にはテロップが流れ、市民への避難指示や鉄道の運行情報が流れている

 

『繰り返しお伝えします。現在の映像は、神奈川県横須賀市浦賀水道の様子です』

 

『先ほどまで1隻の船舶が炎上していましたが、およそ1時間半前に船体が見えなくなりました。いまだ、周辺は焦げたような匂いが立ち込め、こちらからは、自衛隊の艦船が2隻見えます』

 

『横須賀港周辺では、自衛隊と警察により厳重な警備がしかれ、ものものしい様相となっています』

 

 

映像から、冷静に状況を把握する

 

確かにもやがかかったように煙の痕跡がある

 

護衛艦2隻のほかに、海上に浮かぶ船舶は無い

 

海上にはコンテナが浮かび、海面の色が平常とは異なる

 

深い緑ではなく黒

 

輸送船から漏れ出した重油だ

 

ああ海が汚れていく

 

 

 

映像が上空に向かい、ズームがかかる

 

資料でみた覚えがある

 

大きな翼

 

 

 

ああ、あれが二式大艇か

 

 

 

 

(続く)

 

 

 




ここまでがプロローグです
シリアス路線なのかどうか情緒不安定です

次回、秋津洲 決断の時 かも?


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秋津洲の決断

東の水平線上、太陽の端が現れ、ようやく空の色を変えようとしている

 

 

横須賀鎮守府艦娘寮はまだ活動を開始していない

 

廊下の照明は最低限に落とされ、しんと静まり返っている

 

 

 

3階の一番北側にある最も日当たりの悪い場所、308号室も静寂を保っている

 

部屋の中には机が2つ、ロッカーも2つ、そしてベッドも2つ備え付けられている

 

それぞれの1つずつには使用感がなく、片方のベッドの上は荷物置き場になっている

 

もう片方のベッドは布団の中央が盛り上がった形になっているが、人の存在は外からは見えない

 

 

 

 

 

 

アラームが響きわたる

 

条件反射で目が開く

 

しかし、目の前は暗闇

 

秋津洲は布団から顔を出すことなく、腕だけを布団から出し、器用に目覚まし時計をたたく

 

腕が布団に吸い込まれていく

 

中からため息が1つ聞こえ

 

再び部屋は静寂を得た

 

 

 

秋津洲は布団の中で横を向き、腕を枕にしてハムスターのように縮こまっている

 

 

 

 

きっかり5分が経過する

 

布団の山がもぞもぞと動き、のっそりと顔を出す

 

目の下にはクマがきざまれている

 

何も思考をしていない、無表情であった

 

 

 

 

『総員起こし5分前、総員起こし5分前』

 

 

 

 

女性の声が、スピーカーから響く

 

同時に廊下の照明が端から順番に明るさを増していく

 

 

 

秋津洲は上体を起こし、ベッドから降りた

 

下着の上に大きめの白いTシャツの恰好

 

布団を整えて、ベッドの下の衣装ケースから赤いジャージと靴下を取り出し、素早く身に着ける

 

部屋の隅にある洗面台に向かい、洗顔を済まし、目の下のクマをコンシーラーで隠す

 

両手を頭の後ろに回し、髪を集め、ヘアゴムで左側に束ねる

 

一連の動作を機械的に、そして驚異的な速度で終えた

 

ここまでベッドを出てから3分弱

 

いまだ無表情であった

 

この鎮守府に配属されてから何百回と繰り返してきた日常

 

それもあと残り、何回くらいだろうか

 

冷蔵庫から大きめのボトルの茶を取り出し、コップに注ぐ

 

一息に全部飲む

 

これも何百回と繰り返してきた習慣だ

 

 

 

『総員起こし、総員起こし、集合場所 寮前広場、集合場所 寮前広場』

 

 

 

そこで初めて顔に表情が浮かぶ

 

眉根を寄せた

 

昨日は< あれから >すぐに部屋に戻って夕食を摂っておらず、シャワーを浴びてすぐにベッドにもぐった

 

今日は雨が降っていない、朝から空腹の中、走らされるのだ

 

表情が消え扉に手をかける

 

 

 

 

 

食堂は少女たちの喧騒に包まれていた

 

その中で秋津洲は食事にほとんど手を付けないままトレイを持ち、席を立つ

 

これだけ空腹なのに喉を通ろうとしない

 

 

 

 

 

そして

 

朝礼が始まる、あの男が目に入った

 

横須賀提督はいつもと変わらないように、今日の予定・編成・注意事項を伝える

 

ふとその目がこちらを通り過ぎる

 

秋津洲はうつむいた

 

 

 

横須賀提督をはじめ、私以外の艦娘にとってはいつもと変わらぬ毎日なのだろう

 

横目で周囲の艦娘たちを見る

 

でも私は今日、1700に提督室に赴き『返答』を伝えることになっている

 

返答の内容はもう、心の内に決めている

 

朝礼が終われば、その時間まで私は特にすることがない

 

『朝礼終了 別れ!』

 

敬礼の姿勢をとる

 

 

 

 

 

 

かわって、佐世保は雨で一日を開始した

 

朝礼が終わり、佐世保提督は秘書艦である加賀と共に執務室に戻ってきた

 

椅子へ座り、パソコンを起動する

 

パソコンが立ち上がるまでの間に、書類の決裁を済ませる

 

内容は演習場使用許可、艤装使用許可、使用弾薬燃料その他物品使用返納書など慣れたもので一見しては、ぱたぱたと決裁印を押していく

 

何百回と繰り返してきた作業だ

 

決裁済み用のトレイに書類を一束入れると

 

ちょうど加賀がお茶を運んでくるのが見えた

 

「提督、どうぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

加賀はそのまま執務机の左隣、わき机に身をおさめ、書類仕事を始める

 

「今日は朝からよく降るな」

 

「ええ、そうね」

 

互いに向かい合うことなく会話をする

 

仲が悪いというわけではなく、これこそが穏やかな日常である

 

佐世保提督は湯呑を口から離し、外を見ながら

 

「こんな天気の中、演習させるのはちょっとかわいそうだな」

 

「実戦での天候はいつも晴れとは限りません、必要なことです」

 

「そうか、そうだな」

 

こういった他愛のない会話を延々と繰り返した

 

 

 

湯呑を机に置き、マウスを手にメールのチェックにとりかかる

 

一番面倒な仕事だ

 

一日に何百通、何か事件事故が発生すれば千通を超える

 

その大半はすぐにゴミ箱行きだが

 

歓談会の誘いから自衛隊・海軍のOBの葬式、隊員の結婚式などは

 

参加の可否をいちいち返信しなければいけないので正直、参ってしまう

 

隣に座る加賀は今、それらの電報を処理しているはずだ

 

メールのゴミ箱への直行を妨げるためにわざわざタイトルに『重要』『必見』『重大案件』などの言葉を連ねる者が年々多くなってきた気がする

 

特に下手に知恵をつけた若い奴に多い

 

はあ

 

しかしいくら手を込んでも

本当に必要なメールというのは大体、直感で分かる

 

これはいらない、これもいらない、これはいる、いらない、いらない、これは後で見よう

 

削除の数字があっという間に増えていく

 

 

お?

 

 

その中で変わった送り主を見つけた

 

『大本営海軍軍令部主席監査官』

 

俺、なにかやったっけ?

 

見るからにあまり関わりたくない役職だが、メールを開き内容を確認する

 

件名は

 

『鎮守府の物品管理状況について』

 

良かった、まあ些細なことだな

 

件に関しテレビ会議を行いたいから、可能な時間を知らせてほしいとのこと

 

今日は特に急ぐ仕事はない

 

こういう気が進まないものは日を跨がずにさっさと済ませてしまおう

 

1315と記載し、メールを返信する

 

昼食を摂った直後は頭が若干鈍る、こういった案件をうまくやり過ごすための知恵だ

 

俺は会議が始まる前に何か軽くかじって、昼食は終わってから摂ろう

 

汚い大人になってしまったな

 

30分程したら先方に確認の電話をいれよう

 

 

 

 

 

横須賀は昼過ぎ頃から筋状の雲が南から入ってきた

 

 

わずかに肌に感じる程度の生温かい風が吹いている

 

 

演習を終えた艦娘たちが帰投し、その声が聞こえる

 

 

開いた窓からは夕食の準備が始まったのか湯気の匂いが提督執務室に混じっている

 

 

今日やるべき執務は既に完了した

 

 

時計を見る

 

 

 

1657

 

 

 

そろそろか

 

物事を成すには下準備が肝要だ

 

根回しに根回しを重ね、抑えるべきは抑える

 

そうやって既成事実を積み重ねていけば既に結果は出たもの同然である

 

さっさと済ませてしまいたい

 

今日は一杯やるか

 

 

 

 

 

扉がノックされる

 

無表情の秋津洲が入室してきた

 

執務机の前で敬礼

 

「休め、さて、昨日の質問の返答を受けようか」

 

一拍をおかずに言葉が返ってきた

 

「はい、私は、水上機母艦 秋津洲は解体を希望します」

 

 

 

 

(続く)

 




次回、 秋津洲・・・・・どうなるかも?


※設定を書き損ねました
作品内では艦娘を束ねるのが海軍軍令部であり、自衛隊は陸・海・空自の別の組織となります
海軍軍令部及び自衛隊は大本営の管轄下に置かれています
ご了承ください


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秋津洲の解体

「はい、私は、水上機母艦 秋津洲は解体を希望します」

 

 

 

 

「それでいいんだな?」

 

横須賀提督は確認をとるために再度発言を促す

 

自分の勝利を確認するために

 

「はい、私は解体を希望します」

 

横須賀提督はわざと考え込むようなふりをし、顎に手をやる

 

1つ鼻でため息をし、さも残念だったかのように振る舞う

 

しかし心の内では『    勝った    』その3文字が浮かんでいる

 

横須賀提督はいとも簡単に自分の手元に転がり込んできた勝利に、表情を変えないよう平常心を保った

 

もし万が一、秋津洲が異動を希望した場合に備えていたカードが無駄になってはしまったな

 

秋津洲は自分の思惑通り、自身の解体を希望してきた

 

あれだけの根回しを行ったのだ

 

当然の結果ともいえる

 

だいぶ、お偉いさんの『信頼』を得るために出費がかさんでしまったが

 

なあに、金は天下の回り物だ

 

手元に置いておくだけでは、もったいない

 

資源も資材も艦娘たちも使えるだけ使ってやるのが提督としての務めだ

 

うまく投資をすれば、やがて自分のもとに元本以上の利益が帰ってくる

 

 

 

私は今まで『   敗北した    』ことはない

 

作戦ミスで艦娘を轟沈させたとき、ああ、あの時はかなり焦った

 

すぐさま同じ容姿の艦娘を建造し、無理やり練度を上げさせ大本営からの追及を乗り切った

 

今回もうまくいった

 

あとは詰みの一手を間違えなければよい

 

「そうか分かった、よく考えた結果だろう。では申請書類を作成する。そこのソファーに座れ」

 

横須賀提督はあらかじめ準備しておいた1枚の書類がはさみこまれたバインダーを手に執務机を離れる

 

応接用のテーブルを左右に囲むソファー、その上座にどっかりと腰をすえる

 

それに続いて秋津洲も着席する

 

テーブルの上にバインダーを置く

 

ご丁寧に書類には秋津洲の記入すべき欄に鉛筆で丸のしるしがしてある

 

指で三か所を示す

 

「ここと、ここと、ここに署名しろ。ああ日付は空白でいい。私が記入する」

 

そう言って、秋津洲に万年筆を手渡す

 

記入されていく一語一語に不備がないか書類をじっと見つめる

 

「では解体は3日後、0900とする。それまでに身辺整理を行え。当日は最終的な意思の確認のため大本営の人間が立ち会う。質問はあるか」

 

「ありません」

 

「書類上、表向きは大本営への異動ということになる。他の艦娘にはくれぐれも他言するな」

 

「分かりました」

 

「では以上だ。もどっていいぞ」

 

「はい」

 

秋津洲は立ち上がり、敬礼

 

「今までお世話になりました」

 

そう言い残し、扉へ向かっていく

 

その様子を見た横須賀提督は自分の勝利を祝い、秋津洲に『なにはともあれ、今までよく横須賀鎮守府に貢献してくれた』とでも情けの言葉をかけてやろうかと思ったが、この場にいるのは私と秋津洲の二人だけ、もうすぐこいつはいなくなる

 

そう気を遣う必要もないか

 

扉の閉まる音がした

 

書類を机の鍵のかかる引き出しに入れ終わると、ひとごこちつく

 

ああ、今日はうまい酒が飲めそうだ

 

 

 

 

 

 

秋津洲は部屋に戻る途中、自分の名前が呼ばれた気がして後ろに振り向く。そこには手を振ってこちらにやってくる水上機母艦千歳が見えた

 

「待って待ってー!秋津洲さん、いいところにいたわ。一緒に食堂へ行きましょう」

 

千歳は見るからに機嫌が良さそうだ

 

自分の置かれている状況にも関わらず、自然とほおが緩む

 

千歳は同じ水上機母艦としてこの鎮守府で一番の親友である

 

「なんだかうれしそうかも。何かいいことあったかも?」

 

「うふふ、分かる?今日ね、演習でMVPになったの」

 

「ほんと?それは大活躍かも!どうやったかも!?」

 

「えとね、甲標的で先制攻撃をして、最初に相手の旗艦を轟沈判定にもっていったの!」

 

「じゃあお祝いしないとだめかも!ご飯のあと、間宮さんのところに行くかも!お金なら心配しなくていいかも!」

 

「えへへ、いいの?じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら」

 

食堂が見えてきた

 

あの日、もし千歳のカタパルトが故障しなかったなら

 

あの日、もし航空偵察に出撃したのが千歳だったのなら

 

許せるはずがないが

 

もしかしたら、解体に追い込まれていたのは千歳だったのかもしれない

 

自分で良かった

 

秋津洲はそう思いながら食堂の入り口をくぐる

 

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府提督執務室

 

その室内はいつもと様子が違っていた

 

本来執務机にいるのは男だが今、そこに座っているのは女だった

 

今日は佐世保提督が不在のため、執務は加賀が代行する

 

加賀は手を休めずに書類を片付けながら思考する

 

今頃、提督は大丈夫かしら

 

急用が発生したので今日の日が昇る前に提督は出かけて行った

 

こういったことは今まで何度かあったので、提督の業務はすっかり覚えてしまった

 

『代理 加賀』と決裁印の横に赤ペンで書くのも慣れたものだ

 

何か問題が発生しても連絡はすぐとれるようにしているので、すぐに判断を仰げる

 

あの人は時々、信じられないような単純ミスをするので、私がしっかりしないと

 

ふふ、まあ、今回の急用もあの人なら何とかするでしょう

 

お茶にしようかしら

 

「痛っ・・・」

 

加賀は椅子から立ち上がろうとすると、声を上げた

 

天気の変わり目には古傷が痛む

 

左足のふともも

 

傷をおってから、それを隠すためにニーハイソックスでなく、黒のタイツを身に着けるようになった

 

ミッドウェー海の深海棲艦による大反攻

 

そこで赤城、飛龍、蒼龍そして加賀の正規空母4人は轟沈してもおかしくないような深手を負った

 

飛龍、蒼龍はリハビリを続けその後、性能を若干落としながらも何とか前線へ復帰することができたが赤城はいまだ車椅子での生活を強いられており、加賀も水上走行が困難な状態にある

 

 

 

そんな状況の中、あの子、瑞鶴は正規空母の新しいリーダーとしての役割を与えられるようになった

 

あの子に本当にそれが務まるのかしら

 

瑞鶴に嫌悪をもってそう感じているのではない

 

私にムキになって反抗してくるあの子

 

建造したての頃は「かがしゃん!かがしゃん!」と私の後ろをついてまわり

 

私の作戦からの帰還が遅れると夜の出撃ドックでひとり体育座り、泣きべそをかきながら私の到着を待っていたあの子

 

そして誰よりも厳しく弓の指導をしたあの子

 

もう誰も失いたくない

 

せめて、あの子だけはこの戦争を生き延びてほしい

 

なにもしてあげられない自分の体が恨めしい

 

窓を通して青空を見上げ、あの子の無事を祈る

 

今、瑞鶴は上海にいる

 

 

 

 

 

 

解体当日の朝

 

 

 

昨晩はすんなり眠りにつくことができた

 

秋津洲は布団の中で横を向き、腕を枕にしてハムスターのように縮こまっている

 

聞こえてくるのは自分の呼吸音だけ

 

今日は自然と目が覚めてしまった

 

感覚からするとあと3分くらいかな

 

それまでは布団の外の空気を浴びたくない

 

もぞもぞと動き体が楽なポジションを探す

 

ああ、今日で終わりなんだ

 

あの赤いジャージを着るのも

 

朝から走らされるのも

 

ご飯を食べるのも

 

みんなの顔を見るのも

 

 

 

 

そして

いつも通りの時刻にアラームが鳴り響く

 

 

 

 

 

 

0830

 

朝食を終えた秋津洲は部屋の最終確認をし終えると工廠の隣にある部屋、艤装保管庫に向かっていた

 

本来この時間ならけたたましい音を上げるはずの工廠からは工作機械の音がしない

 

工廠の入り口には本日使用禁止の札がかかっている

 

札に目をやりながら、前を通り過ぎる

 

艤装保管庫へ入室する許可はとってある

 

ポケットの中から鍵を取り出し掲げる

 

しかし手が震えていて鍵穴にうまく入らない

 

さっきまではそんなことなかったのに

 

そうぎりぎりまで私はこの部屋にこようとしなかった

 

申し訳なくて、来れなかった

 

 

 

 

艤装保管庫の中は空調がきいていて高さは10メートルくらい、床は清潔に保たれており、塵一つ落ちていない

 

右を見ると艦種別に整然と艤装が並べられている

 

左を見ると妖精さんの暮らすいささかミニチュアサイズの妖精寮

 

ここには艤装とそれに宿る妖精さんが暮らしている

 

私はまず右に向かい、水上機母艦のプレート、そして私ともう一つの名前が目に入る

 

 

 

『  水上機母艦秋津洲    二式大艇  』

 

 

 

周囲のどれよりも大きな機体

 

 

特徴的な顔つきをした私の戦友

 

 

近づき

 

そっと大艇ちゃんを撫でる

 

深い緑色のジュラルミンから少し冷たい感触が伝わってくる

 

「いままで、本当にありがとう」

 

言葉に伝えきれないほどの気持ちをこめる

 

 

 

するとその声に気付いたのか

 

大艇妖精さんたちが駆け寄ってきた

 

「あきつしまさーん!」

 

「ほかんこへようこそー、ごいりようでー?」

 

「おひさぶりでーす!」

 

あっという間に取り囲まれる

 

みんな本当に嬉しそう

 

それが逆に心に響いた

 

「おはよう、みんな元気にしてた?」

 

「げんきですよー」

 

「しゅつげきですか?せいびですか?」

 

交代要員も含め全員で10名、ずっと一緒だった

 

「ちょっとしばらく出かけないといけないの、だからみんなの顔を見にきたの」

 

「どこにいくです?」

 

「少し遠いところよ」

 

「いつからいくです?」

 

「ごめんね、すぐ出発しなきゃいけないの」

 

「いつもどってくるです?」

 

「っと、きっと・・・・きっとね・・・・」

 

 

こうなるとは会ってしまったら、きっとこうなってしまうとは分かっていたけど

感情が制御できない

 

「どうしてないてるです?」

 

「どこかいたいです?」

 

「きゅうごはんをよぶです!」

 

私を心配した妖精はわたわたと心配そうな顔をしている

 

「ううん、大丈夫、どこも痛くないよ」

 

「ごめんね、もう行かなきゃ、みんな、いままで本当にありがとうね」

 

 

 

私が立ち上がり、退出する気配を感じると妖精さんたちはすぐに私に向かい整列し、気をつけ、敬礼する

 

 

 

みんなの顔を一人ずつしっかりと脳裏に焼き付けておく

 

 

 

絶対に忘れないよ

 

 

 

私は『敬礼』を返す

 

 

その2文字に、最大の感謝をこめながら

 

 

 

 

 

 

『解体』とは建造とは逆

 

建造が資源を用意し、建造妖精の技術により特殊な開発資材を用いて第二次世界大戦の船霊を宿す作業であるとすれば、解体とはその資源と船霊とのつながりを断ち切る作業である

 

しかし、建造において、どこからどのようにして船霊がやってくるのか

 

そして解体において、分離された船霊がどこへ行くのかは解明されていない

 

 

 

 

 

0850

 

音のしない工廠に入る

 

横須賀提督は一瞬こちらを見るが、すぐに目をそらし、エレベーターのかごのような四角い小さな部屋に顔を向き直す

 

大体3、4人が中に入れば一杯になってしまうような小さな部屋

 

扉の横にタッチパネルがあり、提督は何か操作している

 

 

「水上機母艦 秋津洲 参りました」

 

「ああ」

 

返ってくる音はそれだけ

 

静寂が戻ろうとしたとき、後ろから一人の男性が入室してきた

 

立会人だろう

 

目をやると海軍軍令部のあの法廷にいた笑顔の老人と視線がぶつかった

 

「久しぶりだね、元気にしていたかね?こうしてまた会えて嬉しいよ」

 

笑顔に隠れ、本気で言っているのかは判断できない

 

私が黙っていると、横から

 

「主席監査官殿、初めまして、横須賀鎮守府提督●●です。本日はよろしくお願い致します」

 

「ふむ、こちらこそよろしく頼むよ。さて、準備はできているのかね?」

 

「はい、あとは意思の最終確認を済ませるだけとなっています」

 

「ほう、準備がいいね、助かるよ」

 

老人は鞄から書類を取り出すと

 

笑顔を私に向ける

 

「では、さっそく。君は横須賀鎮守府所属 水上機母艦 秋津洲 で間違いないかね?」

 

「はい、間違いありません」

 

「解体希望の理由は戦闘意思の明らかな欠如及びPTSDによる精神的苦痛の緩和のため、これで間違いないかね?」

 

「はい、間違いありません」

 

「では次に横須賀提督、君は横須賀鎮守府所属水上機母艦 秋津洲の解体を了承している。これに相違ないかね?」

 

「はい、相違ありません」

 

「よし、ではあとは私のサインを解体申請書に記入するだけなのだが」

 

 

老人の笑顔が濃くなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その必要はない」

 

 

 

 

 

その言葉と共に

 

 

 

 

解体申請書類を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破り捨てた

 

 

 

(続く)

 






次回、秋津洲 ほんとにもー!どうなるかもー!

改めて、次回 クライマックス! 「 真実 」


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真実

静寂の中を書類が落ちていく

 

冷たいコンクリートの上でカサリと音を立てた

 

一瞬の間をおき横須賀提督は床に落ちた書類を拾おうと、老人へ近づき、手をのばす

 

しかしその手が届くよりもはやく老人は書類を踏みつけた

 

なかば這いつくばる形となった横須賀提督は歯を食いしばり、足の下の書類から目を離し、見上げるようにして抗議をこめた視線を老人へ向ける

 

「この解体申請書類は一度、大本営に提出し、確認を受けたものです。抗議させて頂きます」

 

自分の行いの正当性を示すため、感情をできるだけ出さず平静を装う

 

「ああ申し訳ない、破けてしまった。書類無しにこの場で秋津洲君の解体を行うことはできない」

 

老人は悪びれることなくおどけて、違うかね?と視線を返す

 

「う・・・、お話になりません、一旦執務室に戻らせて頂きます。秋津洲、ついてこい」

 

横須賀提督は老人とすれ違い扉へ向かおうとするが、肩に手を置かれ足が止まる

 

あまりの力に次の一歩が踏み出せない

 

「まあ、待ちたまえ」

 

肩に置かれた手に力が込められる

 

横須賀提督は無理やり体を捻じり、ようやく手から逃れた

 

「主席監査官とはいえ、あまりに非礼ではありませんか。通してください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てと言っとるだろうがああああ!!!」

 

一瞬、鬼の形相が垣間見えた

 

全ての生物を怯ませるような音が工廠に響く

 

横須賀提督は声を失った

 

提督の地位についてからこんな怒号をくらったことなどない

 

「あー、いやあ、ちょっと君に聞いておきたいことがあるんだ、なに、時間はとらせないよ」

 

菩薩に戻った老人が問いかける

 

「さきの輸送船沈没の話なのだが、本当に君は潜望鏡の存在を知らなかったのかね?」

 

老人の目が細まる

 

そう法廷のあの時の、相手の一挙手一投足を見張り、何一つ見逃さず、全てを絡めとる視線

 

「な、何をいまさら。それはもう終わったことではありませんか」

 

「質問に答えたまえ。君は秋津洲君から潜望鏡の存在について知らされていなかった。間違いないかね?」

 

「間違い、ありません」

 

「その言葉が聞けてうれしいよ。私は今、確信に至った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は嘘つきだ」

 

「な、何を根拠にそうおっしゃるのですか?」

 

「簡単なことだ。艦娘は嘘をつかない。長年、監査官をやっているのだが、今まで聴取に虚偽を返した艦娘はいない」

 

「まあ、優しい嘘という根拠のない、すぐにその場で露見するような嘘をつく子は何人かいたがね」

 

「では秋津洲君にもう一度問おう。なあに緊張するな。ほら、リラックスして。では、君はいつ、そしてどこで潜望鏡を発見したのだね?」

 

突然、矢先を突き付けられ一瞬、戸惑う

 

「じ、時刻は0652、三浦半島沖南西約2マイルの位置で潜望鏡を発見しました」

 

「そしてそれを誰に伝えたかね?」

 

 

 

「横須賀提督です」

 

「嘘だ!私はそんな報告は受けていないし、護衛隊にも伝えていない!」

 

「そうだ、横須賀提督。聴取においても君は報告の話はしなかった。でもね、君から潜望鏡の存在を聞いた艦娘に思い当たりがあるんだ」

 

「そのような者がいるはずがない!」

 

 

 

 

 

「護衛隊の軽巡の艦娘だよ」

 

 

「ありえない!轟沈した者からどうやって報告を受けるっていうんです?」

 

 

「君にはこの質問をしなければならないようだ」

 

 

「君が艦娘を出撃させるとき一番考慮することは何かね?」

 

 

 

「それは・・・戦闘に勝利することです」

 

 

 

「それは頼もしい。では艦娘が轟沈する条件とは?」

 

 

 

「は?」

 

 

 

「まだ気が付かないのかね」

 

 

 

それは艦娘の大原則

 

 

艦娘にかかわる者であれば誰でも知っている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦娘は大破状態で戦闘を継続しなければ、轟沈することはない」

 

 

 

 

 

 

 

駆逐艦 睦月のソナーが魚雷を捉えた

 

すぐさま妖精さんが分析をかける、5、10・・・・とてつもない数だ

 

敵は?敵はどこ?

 

左の輸送船によるノイズでそこまでは感知できない

 

魚雷の針路は・・・?

 

いけない!

 

こちらに、輸送船に真っすぐ向かってきている

 

なぜ?ここまで来て・・・あと少しで横浜港なのに・・・

 

●●さんは私の100メートル以上前方にいる

 

気付いてるはず

 

 

なのに・・・指示は無い

 

前方、豆粒程度の大きさの軽巡は足を止める気配がない

 

え、気付いていない?

 

このままじゃ、取り返しのつかないことになる

 

「●●さんっ!こちら睦月!応答してください!」

 

睦月は無線機に呼びかけるが、軽巡は他の無線を受信しているようで繋がらない

 

ようやく前方の軽巡の足が止まる

 

え?●●さん、どうして避けないの?

 

このままじゃ、

 

まさか輸送船の盾になる気?

 

あ・・・

 

だめ・・・

 

避けて!

 

避けて!

 

避けて!

 

避けて!

 

避けて!

 

避けて!

 

あ・・・

 

 

 

いやっ!

 

目をつぶろうとするが、それも叶わない

 

 

 

 

 

 

 

軽巡●●は水面に叩きつけられ、意識を取り戻した

 

「っ・・・う・・・」

 

くらくらする

 

視界が真っ赤だ

 

急激な加速度を体に受け、眼球に血が溜まったのだろうか

 

必死に首を振る

 

仰向けに倒れたまま、頭だけを起こす

 

ようやく視界が戻る

 

胸の上に何かがいる

 

妖精さんがぐったりしつつも私に微笑みをむける

 

あなたたちが守ってくれたのね

 

手をつき上体を起こし、状況確認を始める

 

足は?

 

 

 

足は動く

 

頭から血が滴っている

 

体中がきしみ、今もなお、殴りつけられているように痛い

 

艤装はほぼ砕け落ち、煙をくすぶらせている

 

間違いなく大破、それもぎりぎりだった

 

味方の偵察機が上空を旋回している

 

その音に混じり

 

誰?後ろから声がする

 

「・・・・・っ!・・・・●●さんっ!」

 

睦月の声がする

 

睦月が駆け寄り、体を支えてくれる

 

 

ああ、あなたは無事で良かった

 

本当に良かった

 

 

 

 

そのとき背後の艤装に小規模な爆発音

 

体が引き裂かれるような痛み

 

再び、ここが戦場であることを自覚する

 

いま、何をすべきなのか?

 

 

急げ!

 

 

「睦月!あとの2人と合流して、潜水艦を沈めて!」

 

「でもっ、潜水艦がどこに潜んでいるかなんて分かりません」

 

私は記憶をたどる

 

無線を聞いてから前方へどれくらい進んだか

 

先ほど聞いた位置から逆算する

 

「方位0-9-0、距離およそ700っ!」

 

「そんなっ!ソナーもまともに使えない状況でなぜ分かるんです!?」

 

「間違いないわ」

 

「私はいいからっ!はやく!行きなさいっ!」

 

「このまま●●さんを放ってなんかおけません!」

 

「行きなさい!」

 

 

「嫌です!」

 

 

「行きなさい!」

 

 

「嫌です!」

 

 

「行きなさいったら!」

 

 

「嫌です!」

 

攻防が続く

 

埒が明かない、そう思った私は睦月の頭をやさしく撫でる

 

「もう・・・分かったわ・・・、私はすぐに退避するから、ね・・・、いい子だから、ね?」

 

「う・・・絶対ですよ、や、約束ですよ?」

 

睦月の泣き顔を久しぶりに見た

 

 

泣かないで

 

あなたは明るい笑顔が一番なの

 

「うん約束よ、正直ちょっと体、辛いの。だからね、はやく倒してきて。迎えに来て」

 

「分かりました・・・」

 

 

 

「行きなさいっ!」

 

右手で睦月の背を押し出しながら、力の限り叫ぶ

 

睦月は名残惜しそうに半身でこちらを何回も見ながら、他の2隻と合流するため去っていった

 

 

 

 

 

遠のいていく睦月の姿を見ながら思考する

 

私にはまだやることがある

 

後ろから割り込んできた自衛艦はどうやら輸送船の盾になるつもりらしい

 

けれどももう輸送船は助からない

 

大破孔から海水が侵入し、みるみるうちに傾斜していく

 

私が船員の救助に向かっても、この体では役に立たない

 

救助は自衛艦に任せるしかなくなる

 

その自衛艦を死守するのが私の使命だ

 

次こそ私は沈む

 

かすっただけで致命傷になるだろう

 

だが

傾く輸送船からこぼれ落ちていく人達を見て、躊躇はしなかった

 

私は自衛艦を背にして立つ

 

きっと来るはず

 

ここに第2射の魚雷群が

 

何も見逃してはいけない

 

 

 

 

 

来た!

 

 

 

遠方に雷跡が見えた

 

 

5つ

 

 

単装砲を連射する

 

 

残弾を全て!

 

 

1つ水柱が上がる

 

 

あと4つ

 

 

ありったけの爆雷を前方にばらまく

 

 

3つの水柱

 

 

残りは1つ

 

 

もう使える武器はない

 

間に合わない

 

いや、守るんだ!

 

誰の意志かは分からないけれど

 

第二次世界大戦を経て

 

人のために

 

そのためにもう一度生まれてきたのだから

 

 

足の艤装が意志に従い、最期のうなり声を上げる

 

 

あの子、腰は大丈夫かしらね。体を大事にしてね

 

 

一緒にカレー食べにいけなくて、ごめんね

 

 

睦月ちゃん、怒鳴ったりしてごめんね

 

 

約束・・・守れなくてごめんね

 

 

呉鎮守府のみんな・・・

 

 

最期に浮かぶ顔は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督・・・

 

 

さよなら

 

 

 

 

 

 

「君は軽巡洋艦●●君に潜望鏡の位置を伝え、それが睦月君に渡った。つまり、そういうことだ」

 

「当時の事を改めて睦月君から聞いたよ」

 

「秋津洲君、二式大艇はあの高度でよく潜望鏡を見つけたね。他の艦娘では成しえなかったことだ」

 

「そんな・・・私は・・・何もできませんでした。何も・・・っ」

 

「いいや、良くやった。輸送船は残念だったが、自衛艦2隻を守れた。迅速に救助が行われ、被害を最小限に食い止めることができた」

 

「・・・・・っ」

 

「法廷でのことを謝罪しよう。君は、君の妖精は優秀だった。あ、ああ、ほら泣くんじゃない」

 

私の泣き顔に少し戸惑った笑顔の老人に頭を優しく撫でられる

 

私はその場にうずくまり、感情のままに泣いた

 

 

 

 

「さて、横須賀提督。秋津洲君は、君に潜望鏡の位置を伝えていた。そして君は軽巡洋艦●●君にそれを伝えた」

 

「間違いないね?」

 

「まあ、そのおかげで助かった命もあるのだから、君には感謝しないといけないね」

 

「それでも君は法廷において嘘を語った。とりあえずそういうことで大本営に向かおうか。他にもまだまだ君に聞きたいこともあるしね」

 

 

 

横須賀提督は初めての『  敗北  』に青ざめ、呆然と立ち尽くす

 

 

「ここはちょっと寒い。いつまでも、ここにいる必要もあるまい、さ、行こう」

 

老人は私の手を取り、出口へと促した

 

 

 

扉を出ると一人の男性がいた

 

あわてて煙草の火を消している

 

老人はその人ににこやかに話しかける

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあやあ佐世保提督。偶然だね。少しの間、ここ、横須賀鎮守府の指揮を任せるよ」

 

 

 

 

 

(第1章 艦!)

 




読んでくれた皆さん!
本当にありがとうございます
おかげでここまで書ききることができました

批評等お待ちしています
では、また・・・


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秋津洲チャレンジ!
秋津洲の新生活


 

拝啓 寒さの中に春の気配を感じる頃になりました。

 

お変わりなくお過ごしでしょうか。

さて私こと水上機母艦 秋津洲はこのたび、佐世保鎮守府にて新しい生活をスタートしました。

横須賀鎮守府においては、いろいろとお世話になり、ありがとうございました。

慣れない新生活に戸惑うことばかりですが、新天地において自分の実力を十分発揮できるよう邁進していく所存です。

佐世保鎮守府の皆さんには本当に温かく迎えて頂き、近々演習に参加することが決定しました。

今後ともご指導ごべ・・・

 

 

 

ごべんたつ

 

 

 

どういう字だったっけ?

 

本棚から辞書を取り出す

 

 

 

ご鞭撻

 

 

 

む、難しいかも

 

本紙に書く前に一旦、メモ紙で練習をしておこう

 

ペンを走らせる

 

なかなかうまく書けないかも

 

 

「あれー?秋津洲さん、そんなに真剣に何書いてるんですかー?」

 

突然、顔の横からふわりとシャンプーのいい香りがする

 

「ぴゃあ!?」

 

「わわ、驚かしちゃった?ごめんね」

 

「びっくりしたかも!夕張さんお仕事中じゃなかったかも?」

 

私のルームメイト、軽巡洋艦 夕張さん、コーヒーカップを片手にこちらを覗いている

 

「うん、ちょっと休憩中。それにしてもピンクの便せんまで用意して、どこの殿方へのラブレターなんですか?」

 

「ラ、ラブレターなんかじゃないかも。お世話になった人への感謝の手紙かも!」

 

あわてて机に覆いかぶさり手紙を隠す

 

「あらあら、邪魔しちゃってごめんね。ふふ、じゃあわたしは退散するから続きをどうぞ」

 

夕張さんは手をひらひらさせながら部屋から出ていく

 

そう、これは大事な人への手紙

 

元大本営主席監査官

 

そして現在は横須賀鎮守府提督

 

そうあの笑顔のおじいちゃん

 

私が自身の解体を望んでしまった時、佐世保提督とおじいちゃんは私を救ってくれた

 

解体からというだけでなく、私の心も

 

少しの間、佐世保提督が横須賀鎮守府の指揮を執り、期間が終了すると私は提督と共に佐世保へ来た

 

既に私は横須賀鎮守府には存在しないことになっていたから

 

千歳さんたちと別れるのは辛かったけど、最後はみんな笑顔で送り出してくれた

 

飛行機の形のペンダント、大切にするよ

 

みんな元気かなあ

 

と、いけないいけない

 

お昼ご飯までに書き終えないと

 

えっと、ご鞭達 ご鞭達

 

 

 

 

 

 

 

佐世保提督はご機嫌だった

 

執務中にも関わらずその手にはペンもマウスもない

 

手を頭の後ろで組み、背を椅子にもたれ部屋の天井を見ている

 

最近は佐世保・上海ラインの輸送作戦が順調に推移している

 

こちらの損害はゼロ、深海棲艦の動向もほぼ把握することができている

 

そして新たな仲間も鎮守府に加えることができた

 

 

彼が当初から秋津洲を着任を希望したのは、あるプランを心に秘めているからだった

 

これがうまくいけばさらに他の艦娘の負担を減らせる

 

その期待は表情に明確に現れていた

 

そんな彼をじっと見つめる者がいる

 

 

「提督、まもなく正午となります。どこか体の調子がお悪いのですか。普段の半分も終えていないではありませんか?」

 

対照的に少し不機嫌そうな雰囲気をまとう青い袴の女性

 

「ああ、加賀、ちょっと考え事をしていたんだ。体はどこも悪くないよ」

 

「頭を動かすのも結構ですが、手を動かして頂かないと。今日中に終わりませんよ」

 

「ハハ、すまない。午後から本気だすからさ。ほらもうお昼だ。食堂へ向かおう」

 

佐世保提督は返答を得る前に席を立つと、一度背を伸ばしてから歩みを始める

 

加賀はため息のあとそれに続く

 

二人の歩みはゆっくりだった

 

 

 

 

 

加賀は前を行く白い制服の背に思う

 

歩幅を合わせてくれている

 

彼からは私が見えてないはずなのに、私に無理のない速度で進んでくれる

 

二つの足音が重なっている

 

いつも通りだけれど、やはりこういった気遣いは心に響く

 

階段を下るときは、注意深く私を見てくれている

 

もし転んだら受け止めてくれるだろう

 

そうなったら存外に嬉しいけれど、そんな勇気はない

 

少しでも私のことを考えてくれるのなら十分なはずだったのに

 

ずっと一緒にいるから分かる

 

今、彼の心のなかは新しく着任したあの子のことで一杯なのだと

 

彼はあの子のどこが気に入っているのだろう

 

 

容姿だろうか

 

 

性格だろうか

 

 

性能だろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋津洲はご機嫌だった

 

「ごちそうさま!」

 

「はい、お粗末様でした」

 

「間宮さん!デザートの水まんじゅう、最高に美味しかったかも!秋津洲生まれてきて良かったかも!」

 

「あら、良かった。自信作だったの。また作るから楽しみにしててね」

 

ほっぺたが落ちるほどおいしかった。手紙も書けたし、あとは郵便屋さんに渡すだけ

 

部屋に戻って、歯磨きしてから手紙を出そう

 

食堂の出口扉に手をかけると、正面から来た人物に目が止まる

 

「提督、こんにちはかも!」

 

「おう、秋津洲、嬉しそうだな。好物でもでたのか?」

 

「デザートがとても美味しかったかも!でも提督には食べるまで秘密かも!」

 

「ハハ、そうかそうか。じゃあ俺も早く・・・。加賀?」

 

提督は扉が閉まらないよう手で押さえたまま、加賀の入室を促す

 

加賀の視線は一直線に秋津洲に向けられ、次に口が開く

 

 

 

 

 

 

「秋津洲さん。明後日の演習ですが、まず私がお相手致します」

 

 

 

 

(続く)

 




美味しかったかも!

作品の雰囲気が少し明るくなりました

楽しい鎮守府ライフをお送りするかも!

次回、「秋津洲チャレンジ VS加賀」



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秋津洲チャレンジ VS加賀 戦闘開始

「秋津洲さん。明後日の演習ですが、まず私がお相手致します」

 

加賀は言葉を発した直後に激しく後悔をした

 

彼女が私に敵うはずがない

 

決して慢心からではなく、ただ事実として、空母としての秋津洲の性能は加賀のそれを大きく下回る

 

そもそも秋津洲の二式大艇は偵察機である

 

これが加賀の戦闘機、攻撃機とぶつかればおのずと結果は見えている

 

これでは私が一方的に弱者を叩こうとしているように写る

 

提督にだけはそんな風に見られるのは嫌だ

 

加賀は心配になり、隣に立つ提督の顔を見る

 

提督、違うの。これは

 

私はそんなつもりで言ったのではないの

 

こんなこと言うつもりではなかったの

 

お願い。誤解しないで

 

「加賀さん」

 

一転して秋津洲の視線が加賀に突き刺さる

 

「な、何かしら」

 

視線の刃に加賀は怯む

 

加賀の心はすがるように提督の方へ向けられている中、秋津洲の返答は極めて理性的だった

 

「分かったかも、よろしくお願いします」

 

そう言って秋津洲はぺこりと頭を下げてきた

 

「んーそうだな。秋津洲の対空戦闘能力は知っておきたいし、いい機会だ。加賀、よろしく頼むな」

 

提督は二人のやりとりを特段に気にする風でもなく、演習を了承した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夕張さん、私、明後日加賀さんと演習することになったかも」

 

秋津洲はベッドの上でうつ伏せになり、長い脚をぷらぷらさせながら思い出したかのように話しかける

 

視線の先には少女漫画、紙面上では二人の男女が抱き合っている

 

「へ?」

 

夕張は全く予想していなかった言葉をくらい、お茶を飲む手が止まる

 

「ねー聞いてる?夕張さん、加賀さんと演習するかも!」

 

「う、うん聞いてるよ、ってええええええ???」

 

 

 

「秋津洲さん、それ、ほ、本気で言ってるの?」

 

「うん、加賀さんがね、そう言ってきたの」

 

「加賀さんってあの加賀さん?」

 

「うん、あの加賀さん」

 

「・・・勝てそう?」

 

「ううん、分かんないかも。やるだけやってみるかも!」

 

夕張とて秋津洲が偵察機しか運用できず、他の兵装といっても駆逐艦以下の機銃しか装備できないことを知っている

 

対するはあの一航戦。足を痛めて水上走行は思うようにできないようだが、今回二人の勝負は航空戦となるだろう

 

獲物を狩る鋭い爪を持ち疾風のように空を駆ける鷹と優雅に空に舞う鶴がぶつかれば結果は明白だ

 

とても勝ち目など望めない。こてんぱんにやられるだけ

 

結果、夕張の思考は次のように着地した

 

 

(この子、何か加賀さんに恨みを買うようなことをしたのかしら)

 

 

 

 

 

 

 

演習当日 出撃ドック

 

大艇妖精さんは久しぶりの出番にはしゃぎまわっている

 

「おひさしぶりですー」

 

「でばんないかとしんぱいしておりました」

 

「きょうはなにするです?ていさつです?」

 

「みんな、今日は演習かも!相手は正規空母かも!」

 

「それはおめでたいです」

 

「おせきはんたくです」

 

「わーぱちぱちぱち」

 

大艇妖精さんは秋津洲に拍手喝采を送っている

 

「そうね、私たちの実力を見せつけてやるかも!」

 

「なにかさくせんあるです?」

 

秋津洲は一瞬、うーんと考える素振りを見せるも

 

「ないかも!いつも通りにやるだけかも!みんな出発かも!」

 

「「「おー!」」」

 

大艇妖精さんが二式大艇に意気揚々と乗り込む

 

それを見届けると秋津洲も自分の装備を確認する

 

砲とも呼べない機銃が片手に1つずつ

 

これがまぎれもない自分の装備

 

駆逐艦にも劣る、いつも通りの自分の装備

 

手のひらに汗を感じる

 

久方ぶりの戦闘に脳が興奮と緊張を繰り返している

 

 

 

 

 

 

 

 

秋津洲と加賀、二人の見る水平線の距離は約4.4キロメートル

 

演習はそれよりも遠く、距離6キロの位置から開始される

 

互いの位置は知らされておらず、先に敵を発見したものが機先を得る

 

雲一つない快晴、無風、海上は穏やかな凪

 

 

通信指令室には秋津洲の初演習を見学しようと多数の艦娘がモニターの前に集まっている

 

佐世保提督は鎮守府屋上に設置されたカメラからの映像で位置に着いたことを確認すると、無線へ呼びかける

 

「二人とも、準備はいいか?」

 

「「準備良し!」」

 

秋津洲は果たして加賀相手にどのように戦うのか

 

ここでどのような戦い方をするかで彼女の評価が決まる

 

「それでは始めるぞ。演習開始!」

 

「「演習開始」」

 

その声と同時に二人はその場から動くことなく発艦作業にかかる

 

加賀は流れるような所作で次々と矢を打ち出していく

 

構え 射 残心、構え 射 残心、構え 射!

 

空中の矢は光に包まれ、獰猛な狩人に形を変えていく

 

零戦52型20機、天山20機、彗星46機

 

索敵同時攻撃、敵を見つけると同時に襲い掛かり、力で捻じ伏せる編成

 

総勢86羽の狩人はそれぞれ編隊を組み、加賀を中心として全方位に満遍なく広がっていく、そして急上昇をかけると迷うことなく一斉に獲物を求めて向かっていく

 

 

 

かたや秋津洲は水上の二式大艇を緩やかに離陸させていく

 

二式大艇1機

 

波しぶきを上げながら翼が揚力を得る。機首が上を向き始め、離水

 

二式大艇は飛び立つと、力の限り高度を得ようと必死にもがく

 

エンジン出力を最大に保ったまま、悲鳴のような音をまき散らし空へ空へと向かう

 

 

 

離陸数十秒後、秋津洲の脚が先に動いた

 

大艇妖精がはやくも加賀発見を報告してきた

 

脚の艤装出力を最大限にし、加賀のいる方向へ海上を駆ける

 

 

 

 

(続く)




大艇ちゃん一緒に頑張るかも!


次回、「二式大艇」ちゃんかも!


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二式大艇 (川西航空機 H8K)

加賀へ向け、秋津洲は全力疾走していた

 

脚の艤装は悲鳴を上げているが他の艦娘に比べればかなりの低速航行

 

潮風がほおに当たるのを感じると戦闘前の高揚と緊張は安らいできた

 

この演習はどのような目的を持っているのか

 

加賀から演習の申し出を受けたそのときから、秋津洲は自身が演習に勝利することなどありえない、それを念頭に置いていた

 

自分が誰よりそれを自覚している

 

私は負ける

 

ならばどう戦うべきか

 

いつも通り戦い、そして負けるだけだ

 

二式大艇は模擬弾とはいえ、加賀さんの艦載機にぼろぼろにやられるだろう

 

だからといって私にはまともな砲撃戦などできない

 

もうすぐこちらにも艦載機がやって来てハチの巣にされるだろう

 

 

 

だから

 

ここはみんなへの、提督への自己紹介の場だ

 

みんなに私が何ができて何ができないのか、正直に見せること

 

その結果、蔑まれたっていい

 

馬鹿にされたっていい

 

あたたかく迎え入れてくれたみんなにできる、私のできる限りの誠意

 

いつも通り、全力で戦う

 

 

再び海を駆けるこの機会をくれた提督、おじいちゃん、ありがとう

 

加賀さん、演習してくれてありがとう

 

 

私に出来ること、それは決まっている

 

 

 

 

 

 

 

零戦が二式大艇を目視した

 

二式大艇は雲一つない空へ向かい上昇を続けている

 

重力に逆らい、上を目指す巨大な機体は速度を失いつつある

 

零戦にとって対戦経験が無い相手ではあるがセオリー通り、後方の位置を確保するため周りこむ

 

攻撃意志が見られないことを確認し、艦娘攻撃用の天山、彗星は素通りさせ、零戦で囲い込む

 

万全を期すため、無線で他の零戦も呼びよせる

 

二式大艇は周囲を完全に囲まれてもなお、巨体を空へ押し上げている

 

他の方位へ向かっていた零戦も合流し、二式大艇を射程に捉えようとした時、

 

 

 

 

 

二式大艇は火の塊と化した

 

何が起きたかと理解する前に、次々と味方の零戦が撃墜判定を下され

 

とてつもない数の火線が空を埋め尽くしている

 

巨大な火を吹くハリネズミがその中心にはいる

 

戦闘機の機銃は前方のみしか発射できないが、このハリネズミは周囲のどこにいても狙いを定めてくる

 

同じ空にいた零戦はあと数機となった

 

この機体はやばい、とっさに離脱をかける零戦

 

なんなんだこれは?

 

第二次世界大戦時、零戦と同じように米軍が最も恐るべき相手とした航空機

 

当時、世界最高の飛行艇

 

航空戦艦ならぬ、戦艦航空機がそこにはいた

 

 

 

「きちょう、まもなくだんがんあとわずかです」

 

「わかったです。なにかにつかまるです!」

 

「「「らじゃー!」」」

 

 

機銃の嵐が止むと二式大艇は上昇を止め、突然機首を下へ、海へと向けた

 

残った零戦は機銃に警戒しつつも後を追いかける

 

プロペラ推力そして重力の力を受け、二式大艇はぐんぐん加速していく

 

速度計と昇降計の針がめまぐるしく回転する

 

海の青が迫ってくる

 

零戦はそれを追いかける

 

やがて二式大艇の機体はきしみ始めた

 

限界速度を超えれば最悪、機体は空中で分解する

 

海面が目の前に迫った瞬間、操縦桿を思いっきり引く

 

 

「あがれーーーーーーーーー!です!」

 

 

すんでのところで、正面から海面に突っ込むところだった二式大艇はそのままフロートを海面に着けていく

 

急ブレーキがかかった機体は前のめりになりながらもなんとか停止、着水は成功

 

後から追ってきた零戦は海面を避けるために早めに機首を上げ、二式大艇の上空を通過しようとする

 

 

 

「いまでーーーーす!」

 

「「「うてーーーーー!」」」

 

 

再びハリネズミと化した二式大艇から火が吹く

 

機体を立て直すため操縦桿を握るので精いっぱいの零戦はまたたくまに撃墜判定となった

 

 

「きちょうとしなのにむりするです」

 

「きぼちわるいですう」

 

「おなじくです」

 

 

顔を真っ青にした大艇妖精たちは機内でうずくまっている

 

やがて大艇妖精たちは肝心なことを思い出す

 

 

「こうしてはいられないです」

 

「あきつしまさんのところにいくです」

 

「「「おーーー!」」」

 

 

再び二式大艇は海を駆け空へと向かう

 

 

 

 

(続く)

 





戦闘シーンは大変かも!

次回、「秋津洲流戦場航海術」


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秋津洲流戦場航海術

海面の色とは違う青の袴

 

 

自身の零戦が次々と撃墜判定を受けて行く中、加賀は未知の相手との戦闘に不思議な感情を抱く

 

加賀の心に湧いたのは、驚愕ではなく興奮

 

いまだ経験したことのない空中戦、強大な防御火力を持つ相手の機体

 

普段の書類仕事の中では絶対に得ることのできない緊張感

 

 

自分が戦場に戻りたがっていることに改めて気づく

 

もしかしたらもう一度、仲間たちと海を駆けることができるのかもしれない

 

赤城さんもきっとこの演習を見ているはず、ここで私が十分に戦えることを示せばきっと赤城さんも希望を抱いてくれるに違いない

 

車椅子に座る赤城の姿が脳裏に浮かぶ

 

そしてみんなを、五航戦のあの子を守れるかもしれない

 

一度膨らんだ期待は際限なく広がっていく

 

意志が伝わったのか足の艤装が徐々に回転数を上げていく

 

秋津洲のいる方向へ向け、ゆっくりと航行を開始する

 

「痛っ・・・」

 

加賀は膝を折りうずくまる

 

古傷を宿す左足は脳に必死に痛みを訴えかけ加賀を現実に引き戻した

 

 

 

秋津洲さん、感謝します

 

一時でも希望の中に身をゆだねられたこと

 

そして秋津洲さん、私は貴方に嫉妬しています

 

提督が貴方の名前をはじめて口にした時からずっと

 

 

視界に秋津洲の姿を捉えた

 

水しぶきを上げ、一直線に向かってくる

 

 

 

一切の無駄な思考が消え、迫りくる彼女に敬意を払う

 

加賀は例え相手が深海棲艦であっても敬意を払う

 

鎧袖一触、これは自分の本意ではない

 

周囲を安心させるためにこの4文字を並べることはあるが、心の内では全くの逆

 

全力で倒すことが一兵士としての礼儀

 

改めて心に誓い、声に出す

 

「全力でお相手致します」

 

砲や機銃などの武器を装備していないこの身に今できることは何か

 

爆撃と雷撃による一斉飽和攻撃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零戦は先ほどの戦闘で近づくことは危険と判断したのか二式大艇から距離をとり、積極的に攻撃を仕掛けてこようとはしない

 

離陸を終えた二式大艇が再び秋津洲の上空に戻ってきた

 

『あきつしまさん、まもなくじょうくうにとうたつするです』

 

「わかったかも。みんな無事かも?」

 

『すこしきもちがわるいですが、だいじょうぶです』

 

『まもなくてっきがくるです!』

 

「どこから来るかも?」

 

『しょうめんじょうくうからばくげきき、らいげききはあきつしまさんをかこんでいます!』

 

『あと2ふんくらいです!』

 

 

秋津洲から回避のための選択肢が全て奪われた

 

上空からは爆弾の雨嵐、海中からは四方八方から魚雷の群れが同時に襲い掛かってくるだろう

 

もはや逃げる場所などどこにもない

 

「加賀さん容赦ないかもー!」

 

圧倒的に不利な状況の中、再度確認する

 

演習は勝利することが目的ではない

 

戦術や陣形の確認、新人艦娘の育成、戦意の高揚

 

今日の私にとっては自己紹介の舞台

 

言葉ではなく行動で何を見せるか

 

 

生き残る執念

 

 

戦場における私の使命は生き残って、大艇ちゃんからの情報を鎮守府に送り続ける

 

非力な私は仲間の生存のために、自分の生存を優先する

 

足を止め視線を上げると、情報通り上空に彗星の姿が見えてきた

 

編隊を解き、一列に並び替え、彗星は1機また1機とダイブに入ろうとしている

 

腹に抱えた爆弾が太陽に反射してきらめく

 

そして海面すれすれの低空からは天山の姿、それも秋津洲を中心とした全方位から迫ってくる

 

戦艦をも一撃で黙らせることのできる魚雷が牙を研いでいる

 

四方八方上空から不可避の、一切の容赦ない必殺の一撃がやってくる

 

命中すれば例え大和型であっても轟沈判定を免れることはできないだろう

 

 

 

秋津洲は薄い銀色の髪に架かる右のリボンをほどき海中へ投げ込むと、今度は加賀の方向とは逆に疾走した

 

150メートルほど進み、脚の海上走行器を完全に停止させる

 

背中に手をまわし、クレーンの位置を調整する

 

 

そして大艇妖精から送られてくる着弾予想のカウントダウンに耳を澄ませる

 

『ぎょらいとうか!』

 

『てっきちょくじょう!』

 

目をつぶる

 

見てくれている人たち

 

加賀さん、艦娘そして提督に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泥まみれのみっともない姿を見せてやる!

 

 

 

 

『あと10びょう!』

 

横須賀鎮守府において秋津洲は幾度となく経験してきた

 

戦闘中、被弾していく艦娘たち、そんなとき秋津洲は少し離れたところで見守ることしか出来なかった

 

下手に戦闘に参加すれば即大破

 

唯一できることは、仲間が傷ついていく様を事細かく鎮守府に伝えていくことだけ

 

無線先から怒鳴り声が響き、やがて諦めたかのように撤退の指示

 

唯一無傷の自分が仲間に撤退の指示を伝えに行く

 

仲間たちは秋津洲に文句を言うことはなかったが

 

無傷の体とは別に秋津洲の心は徐々に傷ついていった

 

『あと5びょう!』

 

何度となく自分を呪ってきた

 

自身の無力に、運命に

 

突然、ある日、朝、目が覚めたら特別な能力が自分に備わっていることなどあり得ない

 

誰かが特別な能力を授けてくれることなどあり得ない

 

自分の手にあるカードで精一杯戦うしかない、毎朝目が覚めるたびに自分に問う

 

『まもなくです!』

 

全ての方向から秋津洲に暴力が襲い掛かる

 

 

瞬間、目を見開いた秋津洲の右手が動く

 

その先は背中のクレーンに向かう

 

安全装置を解除、艤装の全出力を電動クレーンのウインチに集める

 

海面から艤装に伸びる垂れ下がったワイヤーの先はクレーンに繋がれている

 

もう一方のワイヤーの先端は前方150メートル先の海中に転がるイカリに固定されている

 

他の艦娘には類を見ない工作艦明石を上回る巨大な最大荷重35トンを誇る電動クレーン

 

本来であれば二式大艇を持ち上げるためのそれである

 

最終確認、衝撃に備え姿勢を低くする

 

レバーを≪ 巻き上げ ≫の方向へ目一杯倒す

 

艤装の発生する全電力を受けたウインチモーターは高速回転を始め、35トンの力で秋津洲を前方に引っ張る

 

そこから生まれる強大な加速度に自分の体重の数倍を支えている膝が耐えきれずに折れそうになる

 

息ができない

 

歯を食いしばる

 

駆逐艦島風の最大戦速をはるかに置き去りにし、船舶では到達できない速度領域に突入する

 

それはカタパルトから打ち出される戦闘機の様に似ている

 

なお加速を続ける

 

風圧は速度の2乗に比例する

 

苦痛に耐えながら目を閉じず、前方を見つめる

 

 

 

 

 

 

前方から迫りくる魚雷が視界に入ると同時に跳躍

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着地の衝撃と同時にはるか遠く、背後で大きな衝突音

 

模擬爆弾そして模擬魚雷同士のぶつかる甲高い悲鳴

 

 

立ち直った秋津洲は意識もうろうとなりながらもすぐさま周囲の状況を確認する

 

加賀は先ほどの一撃に全力を注いでいたようだ

 

天山・彗星ともきびすを返し、母艦へ向かう

 

いまだ意識のはっきりしない秋津洲は動かない

 

必死で呼吸を整えようとするも、体が呼吸の方法を思い出せない

 

たまらず膝を海面につき、嗚咽を繰り返す

 

 

 

 

 

 

 

しばし、海は静寂に包まれる

 

 

 

 

 

 

 

 

『あきつしまさん!だいにじこうげきくるです』

 

『はやくにげるです!』

 

危機は去ったもののまだ演習は終わっていない

 

視線が定まらないまま立ち上がる

 

ここからがこの演習の本番

 

「・・・ま、まだまだかも!」

 

再び爆弾そして魚雷が襲ってくる

 

二式大艇の情報からどう動けば最も相手が狙いにくいか、その最適解を導き出す

 

先ほどのような強引な回避は1度きり

 

あとは気力の続く限り足を動かす

 

回避

 

 

回避

 

 

回避

 

 

近接弾

 

衝撃で体が海面に転がる 中破判定

 

回避

 

 

回避

 

 

回避

 

 

近接弾

 

水面に叩きつけられる 大破判定

 

「・・・まだ・・・かも」

 

気力を振り絞り、立ち上がる

 

回避

 

 

回避

 

 

回避

 

お腹の中から何かがこみ上げてくる

 

ひどく気持ちが悪い

 

回避

 

 

回避

 

脚の震えが止まらなくなる

 

回避

 

 

回避

 

目に入った汗を無理矢理ぬぐう

 

回避

 

おぼろげな視線の先、1機がこちらに突っ込んでくる

 

その腹には爆弾も魚雷もない

 

 

 

 

 

 

 

 

零戦の機銃が火を放つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演習結果 正規空母加賀 S勝利

 

 

 

 

 

(続く)

 

 





恐らくですが予想されていた戦闘の結末とは相反する話となったかもしれません

次回、「秋津洲の役割」

海水まみれかも、はやくシャワー浴びたいかも!


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