艦娘?いいえ、不良品です。 (バイオレンスチビ)
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とある研究者の日記

深海凄艦、
現代兵器を駆使してもまったく受け付けない
謎の生命体。
手当たり次第に船を襲い、
人類のシーレーンをズタズタに切り裂いた。

艦娘
妖精とともに現れた人間の少女そっくりの艦。
かつて沈んでいった船魂が擬人化したもの。
現在の
深海凄艦に対抗するための唯一の存在。



20XX年○/●

我々は、

取り返しもつかない

罪を犯した。

 

人体実験である。

 

私は、

反対派であったが

結局、止めることができなかった。

 

つまり、

私は彼等と同類で

この少女達の運命を狂わせたのだ。

 

病気,事故によって腕一本動かせぬ少女達を

大量の資材とともに

妖精に差し出し、艦娘に改造しろと言った。

 

○/▲

妖精によると、

実験は、失敗したらしい。

 

やはり、

私の考えは間違っていなかった。

 

出来たのは、

精神崩壊した生ける屍と

無惨な屍。

そして、

不完全な

艇娘であった。

 

無事であった奴は、

鎮守府に派遣され、

戦いに出される。

 

この世に神はいない。

 

 

○/×

妖精によると、

不完全な艇娘達の能力は、

通常よりも火力重視で強めに作ったらしい。

 

そんなこと

どうでもいいと心底思った。

 

○/&

出来たのは、

千鳥型水雷艇だった。

友鶴事件で有名な

アンバランスな艇である。

せめて、

隼型とかにできなかったのか…。

 

何処が不完全なのか

 

・人間の記憶が残っている

・体に異常がある

 

作るなら、

きちんとした者にしてあげて欲しかった。

 

○/!

私は、

「友鶴」になつかれたようだ。

 

友鶴事件の友鶴

 

少し、嬉しかったが…。

こいつが海で命のやり取りをするのは、

想像したくなかった。

 

○/?

被験者番号6が死んだ。

精神崩壊を起こしていたのだから、

生きていても可哀想なだけであった。

そう考えたものの

やはり、悲しい。

我々が人類の生命の禁忌に触れたばかりに

この少女は、命を落とした。

 

○/↓

友鶴が鎮守府に異動した。

寂しかったが

そこの鎮守府ならば、安心だ。

 

そこで幸せになって欲しい。

 

 

 

○/→

この日記をお前に託すことにした。

我が娘にして

最高の提督へ。

 

 

 

 

 

 

パタン

 

 

 

 

 

 

執務室に乾いた音が響く。

 

「人間ってずいぶん身勝手な生き物なのね。」

 

人体実験して

失敗して

人に押し付けて

 

実験台となってしまった

子達のことも考えず

 

死人まで出して…。

 

 

「やっぱり人間は、

嫌いだなぁ…。」

 

あの娘は、自分自身が

不良品の艦娘のなりそこないだとよくいう。

 

彼女曰く

千鳥型水雷艇って

維持費が安くて

的が小さくて

駆逐艦並みの火力を搭載してるだけだよ。

バランス悪いし、

速力も遅い

 

らしい。

 

確かに、

火力重視で強くて

小さいから

敵の砲弾も当たりにくい。

バランスも演習,練習で克服した。

 

しかし、

無理な改造によってかかった体への負担は大きく

問題が山積みである。

体が弱く、

出撃も演習も気を配る必要がある。

やり過ぎると、すぐにボロがでる。

自分自身の力に自信がないから無茶ばかりする。

 

世話の焼ける娘だが、

可愛いのでついつい許してしまう。

 

 




もし、良かったらコメントください。


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その娘は不良品

のんびりとした日常


寮の中で

1人、部屋の中でベッドの中で

膝を抱える少女。

 

細身で小柄で

小学生か中学生になったばかりのような体格だ。

 

「今日も眠れなかった。

食欲もない

まったく、困ったな…。」

 

彼女は呟く。

 

ゆっくりとドアに向かって歩き出し、

 

ガチャッ

 

あける。

 

 

 

食堂に行かなきゃ。

心配かけたらいけない。

 

よろよろしながらも

何とか食堂に着いた。

 

「おはよう、友鶴ちゃん。

もしかして、今日も眠れなかった?」

間宮さんが話しかける。

「おはようございます。間宮さん。

まったくもってその通りです。」

 

こまったことに、

調子が悪い日は

高確率で悪夢をみる。

自分が1人、海に立っていて

敵の戦艦やら空母が

たくさんたくさん迫って来て殺られる。

そんな夢だったり

ゾンビのような自分に追いかけられたり

研究所にいるときに受けた実験だったり…。

とにかく、

寝られた物じゃないし

寝たら寝たで

寝起きが致命的に悪い。

その上、夢と現実が一時的に混乱したりする。

 

そして、

この謎制度。

きちんと起きて来るか、

食事をとっているか、

間宮さんが私のことを提督に知らせるのだ。

 

さりげなく、

赤城さんの横に座らせてもらう。

 

「何を食べる?」

「食欲もないんですけど…。」

「ダメ。何か食べなきゃ。」

「じゃあ、aセットで…。」

「わかった。じゃあ、ちょっと待ってね?」

間宮さんが厨房に行く。

 

「赤城さん、今日もよろしくです。」

「はい、喜んで。」

 

食べきれない分は、

赤城さんに食べてもらう。

もう、慣れたものだ。

 

そもそも、

水雷艇って燃費の良さが特徴の一つだしね。

 

「はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

料理を受けとる。

そして…。

 

赤城さんにサインを送る。

 

シュバッ

 

主菜がなくなる。

 

今日も

デザートと

このスープだけでいい。

 

赤城さんは、

お腹いっぱい食べられて

私も

残さないで食べられて

 

両者共に利益しかない。

 

 

 

さてと、

部屋に戻るとしよう。

「ご馳走さまでした。」

 

部屋に帰るために

再び歩き出す。

 

 

「ん?友鶴か。おはよう。」

 

「おはようございます。長門さん。」

この鎮守府最強の長門さん。

あだ名は、ながもん

何故かこんな私にもやさしい。

 

「どこに行くのだ?」

「今日は調子が悪いので部屋に帰ろうかと…。」

「たまには、外の空気に触れろ。

そうだ、一緒に散歩に行こうではないか。」

「いや、その「大丈夫だ。背負ってやる。」」

どうやら拒否権はないらしい。

 

まだ早朝といえる時刻である。

時計でも、05:00

寝られた日なら起きるのが10:00

こう考えると我ながら

不健康だなぁと思う。

 

しかし、

長門さんの背中は…落ちつ、く…。

 

 

 

 

結果

私は、一時間近く長門さんの背中で寝ていたらしい。

 

「ごめんなさい。寝てしまいました。

ご迷惑をおかけしました」

 

「大丈夫だ。どうだ?良い夢見れたか?」

 

「夢も見ないほど爆睡してました。」

 

「ん。まぁ、睡眠は大切だからな。」

何故か嬉しそうな長門さん。

 

この後

私は、無事に部屋に戻った。



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部屋の中で

提督と友鶴


ノックの音がした。

 

ガチャ

 

「入るよ~。」

提督さんでした。

 

「どうしたんですか?

というか、

入るよ~っていいながらすでに入ってるし…。」

 

「気にしない。気にしない。

あ、そうそう。今日も調子が悪いの?」

「ごめんなさい。

なにゆえ、不良品な者で…。」

「不良品って言うな!」

「しかし、

これは紛れもない事実です。」

そう

私は、不良品である。

人類のためってことで身を捧げられ、

結果、人間でもなく艦娘でもない者にされた。

そんな中途半端で

しかも、欠陥だらけ。

 

これで不良品でなかったらおかしい。

 

「夜、

一度も電気が消えなかったわ。何をしていたの?」

うわぁ、言いたくない。

激しく言いたくない。

「言わないとダメですか?」

とりあえず、拒否権の確認。

「なんで?言えないの?」

アウトォ!!

「誰にも言わないですか?」

 

「言わない言わない。なんでそんなに警戒するの?」

 

「耳をかしてください…

 

暗いのが怖いだけです(ボソッ)。」

 

「プッwなにそれww可愛い…」

笑われた…。

「これ真剣な悩み事なんですけど!!」

 

そうなのである。

これ、実は真剣な悩み事なのである。

暗いとこって何故か実験室を思い出してしまうんです。

お陰で、

全然眠れない夜は、

川内(夜戦バカ)さんと一緒に散歩したり…。

早く起きてすぎた日は、

古鷹さんとお話ししたり…。

 

とにかく、

独りではいられないのである。

 

「そういうことね。

ん?」

人の気配が…。

 

「青葉、聞いちゃいました!

フフフ…。

これで<謎の艇娘友鶴の生態>の記事が増える!」

 

ん?

 

スッ

 

ドアの隙間から何か…。

 

ドドドドドド!!!

対空機銃!?

 

「ヒィッ!?な、なんでぇ~!?」

 

盗み聞きするからです。

 

「提督さん、納得していただけましたか?」

「うん、わかった。

納得したよ。んにしても、理由が可愛いけど」

 

「可愛いは余計です。」

まったく、これわりと深刻な悩み事なのに…。

 

「んじゃあ、またね~。お大事に。」

 

「はい。またねです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗いのが怖いかぁ。

まぁ、仕方ない事だろう。

日記に書いてあったけど…。

ひどい実験だったようだ。

更に

見ているだけで吐き気がするような

扱いを受けて、

過労死寸前まで追い詰められるほどの

訓練。

 

確かに、

この記憶を思い出すのは…。

怖いんだろう。辛いんだろうな。

 

この実験の死者は

二人。

生ける屍と化して

消えることしかできなかった

運命を狂わされた

少女。

 

彼女は、

「まぁ、元々腕一本動かせぬ身体だったので

良いんじゃないですか?

不良品にされた事は

嬉しくないことこの上ないけど…。」

と語っていた。

 

痩せ我慢だろう。

すぐに無理するんだあいつは…。

 

 

 



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演習

調子が良い日の出来事


今日の秘書艦は

時雨。

 

何処か犬を連想させる娘である。

 

私は深夜の内に出来るだけの仕事を

やっておくために

日中は(睡眠時を除き)暇である

 

よって

ちょいちょい仕事しつつ、

秘書艦と雑談したり…。

 

まぁ、

充実しているのである。

 

そして、

コレが問題の話題。

「ねぇ、提督。

友鶴ちゃんって強いのかい?」

 

「強いよ。とっても。」

 

「じゃあ、

演習させて?」

 

「ごめん。無理。」

 

「何で?」

 

「説得が大変。」

 

「そこを何とかして下さい。

って夕立にも言われてるんだよ。」

 

上目遣いで見つめてくる時雨

 

「わかった。わかったよぉ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は調子が良い。

こんな日は

少しは外に出て来て見ようかな?

 

ガチャッ

 

「あのさ…「すみません。」。」

 

 

 

やっぱり止めよう。

 

コンコン

 

「入ってまーす!」

 

コンコン

 

「入ってまーすって言ってますが…。」

 

「提督です。鍵を開けて下さい!」

 

「開けました~」

 

ガチャ

 

 

ガンガン

 

「開いてないじゃん。」

 

「カンヌキ掛けたもん。」

 

「んじゃあ、わかったよ。

11:00から演習場に来なさい。

命令だからね?」

 

嫌だなぁ。

演習。嫌いなんだけど…。

 

しゃあないから殺ったるか。

 

 

 

 

11:00 演習場

 

「「お願いします。」」

 

相手

 

何か最近私の事をクソニートと呼んでいる

狂犬ポイヌこと

夕立

忠犬時雨犬こと

時雨

私に対する目が異様に冷たい

加賀さん

いつもお世話になってる

赤城さん

バァニングラァーブの

金剛さん

 

 

対するは、

一航戦嫌い?

瑞鶴

優しいお姉さん

翔鶴さん

不幸型戦艦

扶桑さん

ダメ提督製造機

なのです

そして私

友鶴

 

 

 

開始!!

 

アナウンスの後に

「「第一攻撃隊発艦」」

瑞鶴&翔鶴さんの

素早く発艦される

艦載機の群れ

 

それでは

殺りますか。

 

ブワァッ

 

風になびく髪

 

心地よい潮風

 

 

敵の艦載機の群れを発見

 

ダダダダダダダダダ!!!

 

対空機銃を連射。

そして、

明石&夕張コンビ(マッドサイエンティスト)に頼んだ

三式弾(駆逐艦用)を主砲(妖精さん特製)にセット。

 

ドカァーン

 

ドカァーン

 

艦載機の群れからの攻撃を避けつつ

連装砲を撃つ。

 

焼けながら墜ちる

敵機

 

「的が小さくて当たらないのぉ?

うわぁ~。」

挑発してみよっ

 

ブーンブーン

ジャボン

ジャボン

 

ん?魚雷!?

 

爆雷で誘爆させちゃえ

 

ズドカァーン

 

「あっぶないなぁ。」

 

さぁ、じゃんじゃん行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけ「せいっ!!」…。」

 

 

へ!?

 

曙が一瞬で吹っ飛んだ。

そして気絶。

 

「敵っぽいぃい!?」

珍しく恐がる夕立。

それはそうだ。

突然出て来て、

僚艦が一瞬で吹っ飛んだのだ。

 

「来るな、来るなっぽい!!」

 

魚雷、一斉射

 

ズドカァーン!!!

 

水柱が上がる。

 

 

「ぽいゃあぁあぁ!?」

 

ドカァーン

まさかの

錐揉み式に吹っ飛んだ。

 

爆煙の中から飛び出す友鶴。

 

手に魚雷を持ち、

全速力で突っ込んでくる。

 

「えっちょっ「えいや!!」」

 

衝撃

 

そして

 

意識を刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますとそこは入渠場。

 

扶桑の腕の中で眠る友鶴に目が行った。

 

 

そう、

ボクたちは負けたんだ。

 

 



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いらない娘だから

扶桑さんの腕の中で目を覚ますと

時雨がこっちをガン見している。

 

なんで?

 

「君は、何でそんなに強いのかい?」

 

「ただ引きこもり生活してるように見えたの?」

 

「君は

三ヶ月前の作戦でも活躍していた。

しかし、

正規空母や戦艦が出撃した2ヶ月前の作戦に

出なかった。

それどころか

駆逐艦がでるたくさんの仕事にも出なかった。」

 

「だからどうしたの?

私は、

不良品のなり損ない。

水雷艇友鶴の皮を被ったごみ。

人間でありながら人間でない

艦娘でありながら艦娘でない。

人間達のオモチャ。」

 

「…。」

 

「やっすい消耗品なんだよ

私は。」

 

「だから、あんな攻めかたなのかい?」

 

「まぁね。

沈んでも良いオモチャなら

せめて役に立ってから逝かなきゃでしょ?」

自嘲的に笑う。

「オモチャなら何でボクたちより強いんだよ!?」

 

「…。もう、時間だ。」

ザパァッ

タオルを巻き直し

お湯から上がろうとする。

「待って!!」

扶桑が肩に手をかける

「何ですか?のぼせちゃったんですけど…。」

 

「少なくとも

提督と私はあなたがオモチャなんてこと

思ってないし、認めない。」

 

「…。ありがとう。」

 

ゆっくりと上がる

 

ユラリ

 

すべてがスローモーションになる。

 

あっ!!

 

ゴテンッ

 

「うう…いったいな…。あっヤバイ!!」

慌てて身体を隠す。

少しだけ見えた

背中には無数の傷痕。

 

「「……。」」

静まり帰る入渠場。

 

「失礼しました。」

走り出す友鶴。

 

 

「待って!!」

時雨が慌てて追いかけるも

すでに友鶴は脱衣場から消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

「時雨だよ。

友鶴いるかい?」

 

「いないよ。」

そう、

友鶴なんていない。

ここにあるのは

人間達のオモチャ

友鶴の皮を被ったオモチャ

「いるんだね?」

 

「いない。

私はオモチャ。

ここに存在するだけ。」

 

「間宮さんにアイス貰ってきたんだけど一緒にどうだい?」

 

「夕立あたりと食べれば良い。」

 

「そう言わずに…。」

 

「あの傷痕のことを他に言うようなら消す。」

こちらからの用はこれだけ。

 

「怖いね。言う気はないけど。」

 

「なら「教えて欲しいんだ。」…。」

 

 

ガチャ

 

「何を?何を知りたいの?」

 

「君のこと。」

 

ガッ

 

靴をはさんでドアを止める。

 

「痛いな。」

 

「じゃあ、やめなさいな。」

 

「中に入れて?」

しつこいな。

「解ったよ。入れるだけだよ?」

取り合えず中にあげる。

 

 

「意外と寂しい部屋だね。」

「そう?こんなに大きい私と言う置物があるのに?」

この部屋は、物が少い。

基本的にベッドの上にいることが多い生活の上に

倒れることが多い

このからだのために

置くものをよく考える必要がある。

 

「君の話は「ダメ。提督に聞いて?

冷静に話せないかも知れないし…。」」

 

 




明けましておめでとうございます‼
今年もよろしくお願い致します‼

コメント,評価待ってます!!


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知りたい

「提督。教えて欲しいんだ。」

真剣な表情の時雨

「何を?」

 

「友鶴のことを。」

空気が凍る。

「知ってどうしますか?貴女は。」

睨みを効かせて言う提督。

「…。」

 

沈黙。

 

「彼女を助けてやれるのですか?

救えるのですか?

覚悟は、あるのですか?」

提督の言葉。

「…。ある。あります‼」

仲間のことを知りたい。

囚われている過去があるのならば、

助け出したい。

過去に囚われるのはとても辛いから。

 

バサッ

 

ファイルを机に広げる提督。

「ここにすべてがあるわけではない。

一部に過ぎない。

後は、本人に聞きなさい。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

後天的手法による艦娘化計画

 

 

 

妖精による改造によって

人間の少女を艦娘にすることが目標となる。

 

なるべく

物質に近い状態の被験者が必要という妖精の要求から

要求に合う6人の少女を選抜。

 

実験室に運び込まれ

妖精による改造が行われた。

 

不完全な艦娘が4隻

精神崩壊を起こした個体が1隻

蒸発が1隻

 

 

この実験は失敗した。

 

耐久試験及び

教導中の事故により、

精神崩壊した個体が消滅。

 

尚、

4隻は

別々の鎮守府に送る事とする。

 

 

 

ファイルの内容はそんな事であった。

 

 

 

「ついでに、

研究者の一人の私の父の日記がこれ」

 

手渡される日記

 

「提督の?」

 

 

20XX年○/●

我々は、

取り返しもつかない

罪を犯した。

 

人体実験である。

 

私は、

反対派であったが

結局、止めることができなかった。

 

つまり、

私は彼等と同類で

この少女達の運命を狂わせたのだ。

 

病気,事故によって腕一本動かせぬ少女達を

大量の資材とともに

妖精に差し出し、艦娘に改造しろと言った。

 

○/▲

妖精によると、

実験は、失敗したらしい。

 

やはり、

私の考えは間違っていなかった。

 

出来たのは、

精神崩壊した生ける屍と

無惨な屍。

そして、

不完全な

艇娘であった。

 

無事であった奴は、

鎮守府に派遣され、

戦いに出される。

 

この世に神はいない。

 

 

○/×

妖精によると、

不完全な艇娘達の能力は、

通常よりも火力重視で強めに作ったらしい。

 

そんなこと

どうでもいいと心底思った。

 

○/&

出来たのは、

千鳥型水雷艇だった。

友鶴事件で有名な

アンバランスな艇である。

せめて、

隼型とかにできなかったのか…。

 

何処が不完全なのか

 

・人間の記憶が残っている

・体に異常がある

 

作るなら、

きちんとした者にしてあげて欲しかった。

 

○/!

私は、

「友鶴」になつかれたようだ。

友鶴事件の友鶴

 

少し、嬉しかったが…。

こいつが海で命のやり取りをするのは、

想像したくなかった。

 

○/?

被験者番号6が死んだ。

精神崩壊を起こしていたのだから、

生きていても可哀想なだけであった。

そう考えたものの

やはり、悲しい。

我々が人類の生命の禁忌に触れたばかりに

この少女は、命を落とした。

 

○/↓

友鶴が鎮守府に異動した。

寂しかったが

そこの鎮守府ならば、安心だ。

 

そこで幸せになって欲しい。

 

 

 

○/→

この日記をお前に託すことにした。

我が娘にして

最高の提督へ。

 

 

 

 

そこで終わっていた。

「自分勝手でしょ?

ただの人殺しだよねこの実験。」

 

「酷いね…。」

 

人類の狂気の一部をはっきりと

見せつけられた気がする。

 

 

「後は、本人に聞きなさい。」

 

「解った。」



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時雨と友鶴

コンコン

 

今日は特に調子が悪い。

それこそ、

起き上がる事もできない。

先程

間宮さんと提督に携帯でその事を伝えた。

<心配いらない。>と

 

「時雨だけど…。」

 

息が苦しく声も出ない。

 

取り合えず

ベッドから出て歩き、

ドアを…

 

バタンッ

 

「うぐぐぐ…。」

 

倒れた。

 

力を込めて立ち上がる。

ダメだ。

力が入らない。

四つん這いのまま

ドアに向かって進む。

 

意識が遠のき、

視界が歪む。

 

ポケットからカッターを出し、

手首を切る。

 

少しだけ意識が覚醒する

 

 

 

「ごめん。友鶴、開けるよ!!」

部屋からの音に心配になった時雨が叫び、

提督から預かった鍵をさして開ける。

 

部屋には、

倒れている友鶴が口をパクパクさせている。

「大丈夫!?」

取り合えず、

抱き上げてベッドに移す。

 

小さな声で

「ありがとう。」

という言葉が聞こえた。

真っ青な顔で呼吸も荒く汗だくになっている友鶴。

 

「大丈夫?」

首を縦に振る。

「大丈夫。

痛みも感じる。生きてる。」

精一杯聞こえるように答える。

「大丈夫じゃないよ。それは…。

取り合えず、汗は拭くよ?」

ダメだ。

首を横に振る。

 

良いよ。大丈夫だから。

私の身体を見たら、

不快になって私を嫌うでしょう?

声がダメになったので

視線で訴える。

 

「衛生的に拭かないとダメだよ。

それに、汗で体が冷えて風邪引くよ?」

 

言いながら、

彼女は私の服を脱がせる。

 

抵抗できる力もないため

おとなしく拭かれる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕が

彼女の寝巻きを脱がすと

彼女の全身は、

案の定

傷だらけであった。

優しく丁寧に拭いて行く。

 

着替えるのも手伝ってあげる。

 

提督に伝えるために携帯を出す。

すると、

袖を引っ張られてしまった。

ダメだよってことかな。

「ダメかな?」

肯定する彼女。

「心配かけたくない?」

またも肯定。

「薬とかある?」

震える手で指差す彼女

 

ドア?

 

「出てけってこと?」

否定。

「もしかして鍵?」

肯定。

 

何で鍵なんだろう。

まぁいい。

閉めよ《ガチャ》

「大丈夫?

友鶴ちゃん!?」

勢い良く飛び込んで来る雷

 

何故か手に巨大レジ袋

 

 

 

「時雨っ。

早くこれ、氷枕。

準備して!」

 

「わ、わかった。」

次々に飛ぶ指示。

さすが

鎮守府古参艦娘の一人

 

「明石さん呼んだわ!

これで大丈夫。

貴女が心配いらないって言うときは、

大体ヤバイ時なんだから!

鳳翔さんも心配してたわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

明石到着。

 

 

「うーん。

風邪ですね。

はい、薬。

多分、

演習で無茶してびしょびしょになった後に

入渠した後に髪を乾さないとかで湯冷めしたとか。」

 

「いや、してないしてない。

演習でも手ぇ抜いたし、

入渠した後には、

とある艦娘から全力で

隠れて逃げて寝たし「「ダメでしょ!!」」」

 

「とにかく、1週間安静です。」

 

「そうさせてもらいます。」

 

「くれぐれも、

部屋から出て遊び回ることのないように。」

 

「はーい。」

 

 

 

「部屋から出られないなら、

コレが必要ね。」

 

「きゃっ!ちょっと待って!!大丈夫だから!!!

ちょっ、時雨助けて!!」

 

 

イヤァアァー

鎮守府に悲鳴が響き渡った。



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お艦鳳翔 母の温もり

ぱたぱたぱたぱた

「どうしたの!?」

 

部屋のなかには

パジャマのズボンを必死に守る友鶴と

何故か手にオムツを持ち、

友鶴のズボンを下ろそうとする雷と

必死にそれを止める時雨の姿。

 

「どういう状況!?」

 

「鳳翔さん!

助けて下さい!!」

 

事情説明中

 

 

 

「んで、雷にオムツ履かされそうになったと(クスクス」

ロリお艦恐るべし。

「グスッはい…。

って笑い事じゃないんですよ!?

何が悲しくてこの年でオムツ履かなきゃなんですか!?」

 

「その外見で言われてもね?」

 

「見かけで判断してはいけません!!」

体格こそ中1成り立て見たいなものだが、

身長は雷達より頭一個分小さい。

人間の頃も小さかったが、

これでも一応高校一年生だったんだよ!!

 

「ふふふ、

でもまぁ時雨ちゃんだって

雷ちゃんだって心配して来てくれて

看病してくれた上に

明石さんまで呼んでくれたのでしょう?

良かったじゃない?」

 

「そうですね…。

ご免なさい。

時雨ちゃん,雷ちゃん。

心配をおかけしました。」

 

「何で謝るの?」

 

「こんな私の為に貴女方の貴重な時間を割かせ

手間を掛けさせたのです

醜い身体までさら「もっと私に頼って良いのよ!

いつもいつも<こんな私>とか言っちゃて

そんなんじゃダメよ!!」…。」

「僕も同感だ。

君の過去に何があったかも知らないけど、

君はよく自分を不良品って貶す。

もっと自分を誇って良いと思うよ」

 

「だめです。

私の罪は誰よりも深い。

確かに私は、過去に囚われていると言えるのでしょう。

でもね、私は自分が嫌いなんですよ。

罪から逃げて弱い自分から逃げて、

それでも明日を夢見てしまう。

罪は消えず何も護れず、

”あの日々“の幻覚に引きずられ

皆さま方に迷惑をかけることしかできない。

私は、不良品です。

人間達のオモチャ。人形です。

人間でもない。艦娘でもない。

『被験者No.2

千鳥型水雷艇友鶴と思われる艤装を授けられた少女』

でしかないんです。

所詮は贋作…ニセモノです。

そんなゴミのような自分を

憎み嫌い蔑む。

そうすることで生きてきたんですから。」

……。

静寂。

「そうするしかなかったの?」

 

「…。はい。」

 

「貴女は、ニセモノなんかじゃない!!」

「いいや、ただのニセモノなんですよ。

この傷が証拠。

入渠しても痕は残ってしまう。

まぁ、毎日殴られて蹴られての生活だったから

だんだん痛覚も鈍くなってしまいましたが」

確かに私は、本物に近い方だ。

真鶴なんかは、

痛覚がなくて痛みを感じる事さえない。

自分の損傷具合も把握しずらく、

本人より僚艦が慌てることが多い。

千鳥は、四肢の欠陥のことと

夢遊病と幻覚症状に悩まれている。

初雁は…。

 

「それでもね、

生きたいって思うんですよ。

こんな身体、

早くおさらばすれば良いのにね。

消えたくないって思うんですよ。

何ででしょうね?」

溢れだした涙が止まらない。

「貴女が生きてるからでしょう。

生きてる人に艦娘に

二人も同じ存在はいないんです!!

貴女はニセモノなんかじゃない‼」

 

はじめて感じた人の温かさ

 

殴られて蹴られての生活を送ることがないという安心感

 

いろんな思いがごちゃごちゃになって、

涙が止まらない。

 

私の意識は暗転した。



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鳳翔さんと一緒

んん?

いつの間にか私は眠っていたようだ。

鳳翔さんの腕の中で…。

また迷惑かけてしまったのか。

 

「あら、起きたんですね?おはようございます。」

爽やかな鳳翔さんの声。

「おはようございます。」

 

「よく眠れた?」

 

「はい、お陰さまでぐっすりと。

ご迷惑おかけ「してないですよ?」…。」

にっこりと微笑む鳳翔さん。

「ありがとうございます。おか…鳳翔さん。」

あぶないあぶない。その間違えはダメでしょ。

とても恥ずかしい。

「ふふふ、どういたしまして。私の可愛い娘さん。」

本当に綺麗な人だ。

私の母は…

駄目だ。思い出すだけで震えてくる。

「どうしたの?」

やっぱり心配かけたくない。

でも、言わないと余計に心配しちゃうかな?

「いえ、

ただちょっと自分の母を思い出しただけです。」

嘘は言ってない。

「じゃあ、何故震えているの?

少しでも良いから教えて?私に貴女の過去を。」

 

「ふ、震えてなんていませんよ?

そ、そんなことより一緒にご飯にいきませんか?」

話をすり替えないと

「嘘が下手なのね…。

ご飯なら、作っちゃったわ

といっても、明石さんに言われたレシピだけどね?」

申し訳ないです…。

「すみま「違うでしょ?」ありがとうございます。

「はい、どうぞ召し上がれ」いただきます。」

鳳翔さんからスプーンをもらって食べようとするも、

手が震えて上手くいかない。

なんで?

なんでなんで?

なんでなんでなんで?

「ほら、震えてる。

しょうがないですね。はい、あーん。」

「ごめ…あ、ありがとうございます。」

結局

鳳翔さんに<あーん>してもらう事で

朝食を食べることができた。

鳳翔さん自身は、

寝ている私をおんぶしながら

ご飯を作って食べたらしい。

鳳翔さん…。

いつから私は、

赤ちゃんになったんですか。

私は一応、

身長は120くらいはあるはずですよ?

「軽すぎです。ちゃんと食べているんですか?」

食べられる量は食べているんですよ?

「はい(赤城さんが)。食べられる量は…。」

「頑張ってね?」

「はい。」

 

 

 

「ところで貴女のお母さんってどんな人だったの?」

どんな人か…。

わからない。何が正しいかわからない。

どう答えれば良い?

・・・。

スッ

袖を捲る。

「っ!!これってお母さんが!?」

火傷の痕

「煙草をよく吸う人でした。

あの人にとって私は灰皿でした。」

 

「…。酷い。」

 

「その上、

学校でも上手くいかなかったから」

腕をひっくり返した。

「これって…。」

元の肌の色が見えないくらいの無数の傷痕。

「毎日の日課でした。今日まで。」

 

「今日まで!?」

 

「私の長~い昔話。

本当に話して良いんですか?」



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長い昔話

友鶴の過去


母は、

タバコをよく吸っていた。

毎日イライラしていて、私に何かと理由をつけては

ジュッ!!

いやぁあぁ~!!

毎日のように私で火を消していた。

さらに炊事洗濯家事全般が私に押し付けられた。

殴ったり蹴ったりなんて当たり前。

 

私は奴隷のように働いた。

 

父が帰って来ると、

父は、酒に酔いしれて

私をサンドバッグにしたり、

私を痛め付ける事でストレスを解消していた。

父は、

ずる賢く主に他人からは見えない部分を傷つけた。

 

 

学校も上手くいかない。

登校して教室の前、静かにドアを開ける。

ガラガラガラ…。

静まりかえる教室。寄ってくる人間の形をした何か。人で有りながら、人ではない獣。

「ケッ今日も来やがった。何しにきてんだ?きもいんだよ。あ~あ、気持ち悪!」

毎朝、この騒ぎである。

菌扱いされ、物を隠され、悪質な嫌がらせを受ける人の気持ちも考えて欲しい物だった。

誰かに助けを求めても意味はなく、悪口や嫌がらせは、絶えず続いた。

 

皆に死ね死ね言われ続けた

存在を否定されて悪質な嫌がらせを受け続けた

そんな扱いを3年間も受け続けた私の心は壊れてしまった。

 

 

毎日カッターナイフを腕に突き立てた。

血を舐めて

「今日も死ねなかった。」

独り呟く。

 

生きるのが辛い。

でも、死ぬことが怖い。

 

そして私は、

飛ぶことにした。

皆のお願いを叶えて死にたいとおもったから。

辛くて消えたくて仕方なかったから。

私は校舎の屋上からとんだ。

 

迫る地面。

廻る記憶。

苦しみの哀しみの記憶が廻る。

 

 

 

 

 

 

 

暗転。

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めたところは病室。

周りには、妖精さんがたくさんいた。

混乱する私に現実は容赦なかった。

 

ズキンズキンズキン

頭がいたい。

割れそうな程に。

知らない記憶が流れ込んできた。

 

この瞬間から

私は

被験者No.2

千鳥型水雷艇友鶴の船魂を授けられたと(思われる)少女となった。

 

周りには、

同じような状態の女の子が4人いた。

 

白衣の男性が入ってくる。

「やぁ、犠牲者の諸君。

こんにちは。

君らは、人類の為の生け贄に選ばれたのだ。」

 

意味がわからなかった。

「生け贄に選ばれたのだ?

はぁ?何言ってんだてめぇ?」

一人の女の子が言う。

「うるさいな。

No.6。次に騒いだら罰を与える。」

「うるさいなだと?

てめぇがワケわからんこと抜かして≪バキィ≫…!!」

血の気が引けた。

普段の暴力の何倍も酷い音だった。

「そして、連帯責任だ。」

 

それから毎日

何度も何度も殴られて

何度も何度も蹴られて

骨が折れたり皮膚が裂けたり

入渠だと言われてお風呂に投げ込まれ、

回復が遅いと罵られ

 

 

一番反抗的で強かったはずの

私にとっての初めての親友のNo.6も壊れてしまった。

延々と「死にたい死にたい死にたい…。」と繰り返し、

研究者達の捌け口にされて…。

口封じのためだろう

実弾演習の時に≪殺せ≫という事になった。

 

彼女は、

私に向かって真っ直ぐに向かってきた。

 

私は、彼女を助けたかった。

それでも恐かった。

彼女を殺らなかった暁には

自分が研究者達の捌け口にされるかもしれない。

言うこと聞かなければ、何をされるかわからない。

 

 

私は、動かなかった。

彼女が私を殺れば彼女の価値が上がり、

私も死ねる。誰も傷つかない。

突然向かってきた彼女に押し倒された。

彼女は笑っていた。

それこそ見たことがないぐらい安心したかのように。

私と一緒に倒れ込んだ彼女は私の砲を奪い取り、

自らの頭に突き付けて

「バイバイ」

そう言いながらゼロ距離で引き金を引いた。

飛び散る血飛沫。

あまりにも突然で

止めることもできなかった。

彼女は沈んだ。

 

 

 

私は、彼女を殺したんだ。

自分が助かりたかったが為に。

見捨てたんだ。

自分の手さえも汚さずに。

 

豪雨の中,演習場で私は泣き叫んだ。

あんなに優しかったのに

あんなに強かったのに

彼女は死んだ。

こんな私を親友にしてくれたのに、

私は彼女を殺したんだ。

 

 

コレが私の罪。

 

 

その後、

この事が世間に知れるとまずいと言うことで、

この教導及び訓練の事実はもみ消され、

我々不良品は、

高い戦果を上げる鎮守府に引き取られることになった。



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生きてて良い

「私は、生きてて良いのですか?

あの日あの場所で死ぬべきだったのですか?」

 

「大丈夫。生きてて良いんです。

それに、

貴女が死んでいたら

3ヶ月前に誰が私を助けてくれたんですか?

もう1つ、貴女が死ぬのなんて私が許しません。」

 

「鳳翔さん…。

私は、私は、「大丈夫。大丈夫ですよ。

もう泣いて良いんです。

貴女はもう十分に我慢したもの。」…」

鳳翔さんの腕の中は、

温かくて優しくてなぜか安心してしまう。

「貴女は、

オモチャなんかじゃない。ニセモノでもない。

不良品なんかじゃない。

だって心があるし、生きてる。」

「はい…。」

「心も身体もボロボロにされて、

痛かっただろうに辛かっただろうに…。

よく頑張りました。

それに、貴女が人殺しなわけないです。

だって彼女が死んだのは、貴女のせいではないはず。

彼女が死んだのは

自殺。彼女が彼女自身の死を望んだの。

貴女が悪い訳じゃない。

彼女だって貴女が悪いなんて

微塵も思っていないだろうし、

貴女の死を望んだ訳がない。」

 

「でも、私は、私は、ムググ…。」

力が強くなる。

「大丈夫。貴女は悪くない。大丈夫。大丈夫です。」

 

大丈夫。大丈夫。

繰り返し繰り返し言われる言葉。

温かい手が背中をさする。

 

溢れる涙が止まらない。

悲しくないはずなのにどうして?

 

顔を上げると

「やっと素直になってくれた。」

嬉しそうに言う鳳翔さん。

そして、

「コレも要らないですね。」

捨てられる私のカッターナイフ。

「え?」

「貴女を傷つける物なんて要りません。

それに、」

鳳翔さんが私の腕を持ち、

自分の髪につけていたリボンを巻く。

「つけるなら傷なんかよりも

こっちの方が可愛いです。」

 

「あ、ありがとうございます。」

何でこの人は…。

「どうして、私にそんなに優しいんですか?」

「そうですね…。

きっかけになったのは、

3ヶ月前の作戦の時に

潜水艦から中破した私を助けてくれた時に

気になったからですかね。

悲しそうに笑いながら敵を葬る姿が

どうしても忘れられなくて、

この娘の本当の笑顔をみたいって思ったの。」

 

「本当の笑顔…?

笑いかたがわかりません。」

 

「私が教えてあげます。

今日から私は、貴女のお母さんです。

私は、貴女を大切にします。

いっぱいいろんなことを教えてあげます。」」

 

「良いんですか?

私は、

ワガママだし世話が焼ける娘ですよ?」

 

「良いんです。

いっぱいワガママ言ったって

世話が焼ける娘だったって、

幸せだったらそれで良いんです。」

 

「お母さん?」

「なぁに?」

「「フフフフフフ…。」」



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感謝の作戦

水雷艇の友鶴。

好きなものは、
○○○である。

昼間、
鳳翔さんが仕事中の時から


作戦は始まっていた。


なにやら真剣な表情でホワイトボードを指す少女と

話を聞きメモをとる妖精さん達。

「議題は、ここにある特製特大プリンを

いかにして確実に安全になおかつ衛生的に

標的の部屋まで運ぶかです。」

 

「陸路しかないですよ。」

「ただ、空母寮が厄介ですね…。」

「約一名とんでもない化けもんいますからね。」

 

「やっぱり直接「無理です!!」」

 

地図を広げて

「ここは?」

「ダメです。一航戦に近すぎます。」

 

「誰に渡すのですか?」

「お母さんと電&雷ちゃん,

古鷹さんと川内さん時雨に赤城さんと長門さん

…龍田お姉ちゃんにもあげたいんだけど。」

 

「この塗りつぶしは?」

「島風ロード。一応危険地帯。」

 

「天井裏はどうですか?」

「衛生的にダメです。」

 

 

 

 

 

 

深夜

 

「準備は?」

「プリン&手紙、持ちました!!」

「行けますか?」

「「「行けます!!」」」

 

「01:00。作戦開始!!!

暗いため、総員足元に注意せよ!」

 

「「了解!!」」

 

作戦を開始する。

(本人は部屋で指揮を取り、

明け方に援護に入る。)

≪こちら、雷電担当隊。≫

「どうしましたか?」

≪先程、気づきましたがプリン二つで良いのですか?≫

「特大プリンを駆逐艦が独りで食べるのは無理です。

したがって、四人で分ける事になるでしょう。」

≪なるほど、わかりました。任務を継続します。≫

 

 

 

≪不知火です!!前方約50メートル

不知火が半目を開いて立っています!!≫

張り詰めた声での報告。

「半目なら奴は寝ている!

音を立てず、ルートBから行けますか?」

≪了解!!≫

 

特大プリンを担ぐ妖精さんと

無線手

麻酔薬入りの矢を込めたクロスボーを担ぐ

護衛班

 

 

≪空母寮に突入しました!!

予定通りF班と分離しました。≫

「奴は?」

≪まだ、大丈夫です!!≫

「危険だと判断した場合、即時撤退を許可する。」

≪了解。≫

 

 

≪軽巡寮に突入した。≫

「川内さんは後回しに龍田さんのお部屋に行って」

≪わかっています。≫

「川内さんに行くのは03:30~04:00です。」

≪了解≫

 

 

 

 

 

 

 

≪こちら古鷹隊、青葉が青葉がいます!!≫

「見つかった!?」

≪青葉接近!!!≫

「逃げて下さい!!」

≪目標加速!狙いは我が隊です!!!≫

「護衛班、戦闘を許可する!!」

 

 

パシャッ

「目が、目がぁ!?!!」

暗闇に馴れた目に対する容赦ないフラッシュ

「青葉、取材。行きまーす!!」

加速する目標。

「撃てぇ!!」

パシュパパシュ

「ムギャッ」

バタン

 

 

 

 

≪目標沈黙、証拠の隠滅完了。≫

「よくやりました!!」

 

 

01:15

電&雷

目標達成。

02:00

長門

目標達成。

02:15

青葉撃破

02:20

古鷹さん

目標達成。

03:00

龍田

目標達成。

03:45川内の熟睡確認。

目標達成。

 

≪プリンが、プリンが奪われましたぁ!!!≫

「嘘!?」

≪赤城さんが寝ながら奪い取りました≫

「私も出る!!」

早くしなければお母さんが起きてしまう。

予備のプリンを持って走る。

急がないと

空母の他の人も起きてしまう。

朝練とか言う摩訶不思議な文化を持つ人たちだ。

朝は早い。

 

 

夢中で走った。

 

 

ドアには、鳳翔の文字が…!!

そ~と部屋に入り、枕元にプリンを置く。

 

任務達成!!

 

小さくガッツポーズを決めて

静かに退却。

 

足があれ?

あれ?

動かない。

もしかして…?

鳳翔さんの綺麗な手が私の足を掴んでいた。

「どうしましたか?こんな早くに。」

 

任務失敗。

 

 

そのあと、

一緒に寝てから

ゆったりと二人一緒にプリンを食べました。



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演習場にて遭遇

噂によると近々大きな作戦があるとかないとか…。
そんな噂が流れる中で駆逐艦吹雪が着任した。
コレは、戦力増強のためだろうか。
しかし、
この吹雪は…。



大きな月が出ているなか水面に一人たたずむ小柄な少女

後ろからは鎮守府の明かりがその背中を照らしている

寒いだろうと以前長門がくれたパーカーを羽織り、

 

一人考える。

最近、近々大きな作戦があるとかないとか

っていう噂が流れている。

戦力増強の為に、

あの≪特型駆逐艦吹雪≫が他の鎮守府から移動になって着任したとか。

ちょっと嬉しい反面、

友鶴の記憶を持つ身としては心配だ。

他人のこと言えないけど、

過武装&むちゃな設計で

とんでもない事件起こすくらいだもの。

ホントに他人のこと言えないけどね。

そんな事よりも

大きな作戦があるとかないとか

っていうのが本当に嫌だ。

怖いし、死にたくないし…不安です。

 

 

タッタッタッタ

タッタッタッタ

ん?

「あの、すみません。貴女、艦娘ですよね?

その…よかったらちょっとお時間良いですか?」

岸から叫ぶ人影。

誰ですか!?

「な、何でしょうか?」

怖い。初対面の人はやっぱり怖い。

 

「私、特型駆逐艦の吹雪なんですけど

艤装が重過ぎるのかなかなかうまくいかなくて…。

ちょっと教えてもらえませんか?」

 

重過ぎてって私に言われても困ります。

「14%。

コレは貴女の武装搭載比率です。

私は、24%。

重くったってなんとかなりますから!

わ、私じゃなくてほら、

川内さ「お願いします!」…。」

 

「…わかりました。」

そこまで言われては断れない。

NOと言えない水雷艇。

 

平常心。平常心。

大丈夫です私。

長門さんのパーカーのフードで

顔も見せてない名乗ってもない。

 

相手が来る。

 

「何を教えて欲しいの?」

 

「水上移動からお願いします。」

 

あ~。

誰かが転ぶ度に殴られたシーンが浮かぶ。

「わかりました。

取り合えず、

私に引っ張られて

動いているときにバランスを取って下さい。」

 

水上移動なんて

移動とバランスをべつべつにやれば、

なんてことないんです。

 

ただ、

特型駆逐艦って重いですね。

私が弱いのか?

 

「大丈夫ですか?

フラフラしてますけど!?

きゃあ!!」

 

「ひゃあっ!!!」

 

転んだ吹雪に巻き込まれて

ひっくり返ってしまい、頭からずぶ濡れです。

 

慌ててフードを直し、

「まったくもう、集中して下さい。」

 

「何でフードを被るの

可愛い顔なのにもったいないよ?」

 

み、見られた!?

 

「…。次に砲撃です。」

強引に進める。

「え?うん。」

 

「コレは努力次第。

水上移動から出来てない場合、

不安定な足場からの攻撃になるから

当たらなかったと思うけど、

これから頑張れば良いと思います。」

スッ

袖から拳銃のような形の単装砲を出して

ドンッ

的を粉砕する。

「努力をすればたぶん…ね?」

 

「わかった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝

友鶴が起きたのは12:00

熱が出てしまい喉も痛いので

お昼(朝)ご飯は、備蓄したプリンとなった。

 

 

 

その頃、

演習場では

「吹雪~。動きがよくなったな。」

ほめられていた。

「ありがとうございます。利根さん。」

 

「誰に教えてもらったっぽい?」

「確かに気になるねぇ。教えて?」

 

「うーん。

名前、聞けなかった。

フードを被ってて、

小柄で服がぶかぶかな娘だったんだけど…。」

 

 

「それって、昨日のよるかい?」

「そうだけど?時雨ちゃん。」

 

「友鶴。また無茶したのか~。何時まで?」

「夜明けまで。」

アウトォ!!

「たぶん…。今頃は寝てるよ。」

 

「へぇ~。友鶴って言うんだ。

お礼に行かなきゃだね。」




日記

「毎日ちゃんと寝ないからこうなっちゃうの」
とお母さんにあきれらちゃいましたが
事情を説明したところ、頭を撫でてくれました。

嬉しかったけど、
これからは体調管理に気をつけていきたいと思います。


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凶夢

目を覚ますと狭くて暗い入渠所だった。

低い予算で作られたと思われる

ドラム缶の小さな五右衛門風呂。

体に走る激痛に身動きできず、息が出来ず、苦しくて熱ぃ…。

 

ザバァッ

 

抱き上げられる体。

「だ、大丈夫?」

その声はNo.3(真鶴)の声だ。

むせかえりながらうなずく。

 

お湯の高さまで背丈がないため、

ドラム缶の端を持っていないと溺れる。

そのうえ、小柄と言えど同時に利用するのは

5~4(No.6が独房入りした時)人。

今日はNo.6が独房入りしている上に

怪我の少なかった二人が体を洗っているが

全員大破(大怪我)の時は同時に浴槽につかる。

身動きできず、体どうしも当たってしまう。

私たちは不良品だから入渠にかかる時間が長いため

かなりの苦痛である。

 

「真鶴。ごめんなさい。傷、大丈夫なの?」

模擬戦闘訓練で私と組んだが為に負けて罰を受ける事になった姉が心配なので聞く。

「痛みが感じられないの…。背中、どうなってる?」

その背中には、

痛々しいみみず腫がたくさんできていて

皮膚が裂けているところもあった。

「酷いことになってるよ…。

ごめんなさい。本当にごめんなさい。」

謝ることしか出来ない。私のせいだもの。

「大丈夫です。大丈夫。大丈夫。

それよりも友鶴、手が震えているけど…。手もやられたの?」

バレた。心配させたくなかったのに。

「い、いえ。なんにもされ「見せなさい!!」」

ゆっくりと動かし、片手を見せる。

「酷い…。なにこれ、どうしたの?」

焼けただれた手。

「痛…ぃ。オイルかけられて火を、火をかけられた。」

手だけじゃない足もだ。

鞭で背中を叩かれて悶絶する私を

腫れ上がるお尻を押さえる私を彼等は笑っていた。

おんなじ人間だったはずなのに何で私は、私たちはこんなにも酷い扱いを受けなきゃならないの?

 

 

バァン

 

「誰だぁ!うるせぇ馬鹿はぁ!!」

酔った男が酒瓶片手に乗り込んでくる。

 

「誰だって言ってんだぁ!」

 

「私です。」

手を上げる真鶴姉さん。

「違います!私です!!」

真鶴姉さんの手を押さえていう。

 

「No.2かぁ!てめぇ、ぶちのめしてやる。」

ガンッ

「「きゃあぁあ!!!」」

ドラム缶を倒されて転がる。

そして、腕を捕まれて引きずられる。

 

 

 

 

 

 

 

独房に放り込まれた。

そこには、No.6がいた。

鎖に繋がれて、体中ぼろぼろにされていた。

血が飛び散り真っ赤だった。

そして、

真っ赤に焼けた鉄の棒と焼きごてを持った

先程の男とその仲間。

「悪い娘にお仕置きしなきゃなあ。」

 

怖い。

 

迫り来る鉄の棒。

 

やめて。

 

狂気の渦巻く笑顔を浮かべる男たち。

 

来ないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぃ、いやぁあぁあぁあ!!!!」

 

 

ガバッ

 

飛び起きる。

夢か?夢だよね?

 

隣には赤いナニかと包丁を持ったヒト。

 

殺される。

 

逃げなきゃ。

 

死にたくない。

 

「待ちなさい!!」

追いかけてくる。

「落ち着くのです!!はわわっ!!」

 

ドンッ

 

衝撃

 

 

 

目の前にいたのは…電ちゃん?

 

「電ちゃん?と雷ちゃん?」

 

「なのです!!」

「そうよ?」

「僕もいたけど?」

時雨ちゃん…。

「ごめんね、洗濯物出して来てたの。」

お母さん…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあと、

皆でリンゴを食べました。

雷ちゃんが枕元で剥いていたのは、

真っ赤なリンゴだったのです。

 

 

No.6(むーさん)私は、幸せです。



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大規模作戦の幕開け

一人二人と部下が去っていく…。

お前のせいで死んだのだと私をにらむ部下達。

そんな目で私を見ないでくれ。

一人がいう。

「………。」

ガバッ

 

大丈夫だ。

いつもの夢ではないか。

 

私は提督だ。

それ以下でもそれ以上でもない。

今も昔も私にできることは

仲間を死地へと送り出すことでしかない。

そしてこれからもだ。

 

放送で艦娘達を食堂に集める。

 

 

 

 

 

提督が言う。

「隣の鎮守府からの報告。

≪鎮守府近海にて強力な敵の新型艦を発見した。

姫級だと思われ、

特殊な触手のようなものでの攻守と

強力な砲雷撃によって討伐部隊の全員が大破した。

ある艦娘の情報だとその個体は

チガウ、オマエジャナイとしゃべったらしい≫です。

…上から討伐命令が出たんだ。

私もほんとは皆をそんな危険な場所に行かせたくない。それでも、力を貸してくれるだろうか?」

 

口々に艦娘が叫ぶ

もちろんだとか大丈夫です等といった言葉が聞こえる。

 

「写真を見せよう。

隣の鎮守府の青葉がウチの青葉に送った写真だ。」

 

 

 

絶句した。

その敵は、私の見たことのある人物そっくりだった。

しかし、思い出そうとすると激しい頭痛に襲われた。

明らかに見たことのある顔なのに…おかしい。

「友鶴ちゃん、大丈夫?」

静かにうなずく。

 

 

提督は言う。

「こいつは、正規空母も戦艦も返り討ちにしたと言う。

触手に砲弾も魚雷も弾かれる。

艦載機も練度が足りなければ触手に叩き落とされる。

それに

この触手は戦艦の腹をも貫く。気を付けて欲しい。」

 

その後、

新たな艦隊が編成された。

 

私は、鳳翔さんの護衛艦となった。

護衛艦となったからには、

お母さんに指一本触れさせない。

心に誓った。

ただ、お母さんと私は文字どおりのお留守番となった。

提督いわく大規模作戦中に鎮守府を奇襲された例がある為に防衛戦力を少し残したかったかららしい。

 

 

 

”よかった。“

 

そう思ってしまった自分に気づいてしまった。

いつのまにか私の周りに大切な人達がたくさんできて

生きてることの楽しさを知ってしまった私は、

死ぬのが怖くなってしまった。

1度は棄てた命なのに、1度はこの世の全てに絶望してこの身を投げたのに…。

不安になる。

艦娘が死を恐れるなんて間違っているのかもしれない。

 

 

 

「お母さん…。変な質問だけど良いですか?」

 

「どうしたの?」

 

「艦娘でも死ぬのって怖い?」

 

「怖いよ。

でもね、

戦わないと大切なモノが護れないから戦うんだと思う。

それぞれみんなの考えることとか感じることは

違うのかも知れないけどね…。」

 

「よかった…。」

お母さんを護りたいが死にたくはない。

なるべく戦いたくない。

私は、護るために戦うだけで充分です。

 

貴女の護りたかったのは何でしたか?

むーさん。



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作戦前夜

暗い廊下を走る。

何処までも何処までも走る。

速く…速くしないとアイツが来る。

暗闇の中で赤い目を光らせ、血を流しながら

怨みのこもった目で私をにらむアイツが。

 

息が切れて視界が霞む。

喉が音をたてて、血の臭いがする。

足がもつれて転び、また走る。

止まることは出来ない。

 

 

 

アイツは止まらない。

ズタズタに引き裂かれた皮膚から滴り落ちる赤い液体さえも無視して私を追う。

 

 

 

 

窓がある。

躊躇うことなく飛び込んだ。

 

ガシャーンッ!!!

 

 

地面に転がり落ちて顔を上げる。

 

 

月明かりに照らされる顔。

ア イ ツ は 目 の 前 に い た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫っ友鶴!?」

し、時雨ちゃん?

「……。」

 

「すごく魘されてたけど…大丈夫?」

「大丈夫、だと思う。

心配してくれてありがとう。

寝汗かいちゃったからお風呂に入って来るね。」

 

「僕も行くよ。」

え?

「こんな時間から?」

夜中である。

「君だって行くんだろう?

それに僕だって心配になるよ。

君の場合、お風呂で溺死しかねないじゃないか。」

 

「…そう?

流石に風呂で溺死はないでしょ。」

深いところにいくと確かに足はつかないが…。

「ほら、行こう?速く行って出て早く寝ようよ。」

手を引く時雨。

「う、うん。」

なんか立場がおかしくなった気がする。

結果的に時雨ちゃんの部屋に寄って時雨ちゃんの着替えを取ってからお風呂に行くということになった。

 

廊下を歩き1つのドアの前で止まる。

部屋のプレートには<白露型>の文字があった。

 

時雨ちゃんが着替えを取りに入ろうとする。

「ちょっと待っててね。」

「ごめんなさい、独りは無理です…。」

「じゃあ、静かについてきてね?」

「わかりましたっ。」

ポイ~。

ポイ~ポイ~。

「…。時雨ちゃん…!」

「あれは、夕立のいびき。」

いびき!?

いびきでもあの娘ぽいぽい言うの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

服を脱いで素早くタオルを巻く。

「二人っきりなんだからタオルなんか巻かなくても良いんじゃない?」

「いままでずっとこうやってたから癖になっちゃた。」

 

シャワーの音が響く。

隣の時雨の後ろに回って言う。

「時雨ちゃんの頭、洗ってあげるよ。」

「ありがとう。」

シャンプーを泡立ててやさしく洗う。

地肌を傷つけないように髪を傷めないように丁寧に。

「髪、きれいなんだね。」

「そう?気にしたことないけど。」

「痒いとこある?」

「ないよ。上手なんだね。」

「そうかな?

っとそろそろ流すね。」

 

シャワーで泡を落とす。

 

「はい、終わったよ。」

「ありがとう。」

 

自分の椅子に戻ろうとすると

「待って。僕も洗ってあげるよ。」

「え?ありがとう。」

時雨ちゃんの柔らかくてきれいな手が

とても気持ちよかった。

 

 

ふたりで背中を洗いあい、その後に湯船につかる。

 

「温かい。」

「そうだね。」

 

 

「時雨ちゃん、私が敵の新型艦にまけたら…怒る?」

「いいや。怒らないけど?」

「よかった…。」

「でも、君も留守番部隊でしょ?」

「アイツはたぶん来る。アイツならそんな気がする。」

「何で?」

「わからない。」

 

 



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小さな戦い

朝から長門を旗艦とした敵凄地攻撃隊が出撃して行った。

そこから私たちの仕事も始まる。

敵が鎮守府を直接攻めるかも知れないということを警戒して、遠征担当組が哨戒任務を留守番部隊が見張りをするはめになったのだ。

青い空白い雲。

青い海に白波が立ち、美しい風景を作り出している。

その平和が崩されるかも知れない。

そんな事なんてしらないとばかりに押しては返す波。

 

もしかしたら

この風景を見ることも今回が最後になるかもしれない。

もう二度と起き上がることのない屍になるかもしれない

 

怖い。

細かく手が震えている。

 

ふと、温かい手が私の頭を撫でる。

「手、震えているよ?」

お母さん…。

「武者震いってやつですよ」

私の予想が正しければアイツは来る。

「そう?」

「そうです。」

怖くなんてない。

 

来るなら来い、できるなら来るな!!

 

「後、これをお願いします。

冷却用の注射です。一応お母さんに渡しておきます。」

「え?」

「嫌な予感がするんで…!!」

艤装を展開して見張り台からお母さんを引っ張りながら飛び降りた。爆発して崩れ落ちる見張り台。

 

砲撃だ。

 

敵の砲撃を受けたのだ。

 

 

 

 

 

「ここは私に任せて避難誘導をしてきて下さい。」

「わかった。無理はしないでね?」

 

「別にやっつけても良いんでしょ?」

黄色い注射を腕に突き立てる。

細胞が活性化されて動きが軽くなる。

「行ってらっしゃい。」

お母さんの声に振り返った瞬間。

鎮守府の要の 執 務 室 が 吹 き 飛 ん だ。

 

アイツを殺してやめさせなければ…。

提督を殺したんだ。情けも容赦もなにもない。

光も音もない闇の世界に送り込んでやる…。

 

≪電探に感あり!!≫

見ればわかる。

腕が触手になったアイツがそこにいた。

「ヒサシブリダナ。」

「!!」

やっぱりアイツだ。

「ひさしぶり?昨日もあったじゃない夢の中で。」

「ハ、フリョウヒンガヨクシャベル」

「黙れ。しゃべるごみ。」

「ツメタイナァ、No.2ハ。」

「黙れ。【No.4】なら今すぐ帰れ。」

「ジャア、テアシヲチョウダイ?イマスグニ!!」

 

蒸発したはずのNo.4。

まさか深海凄艦に改造されたなんて…。

信じたくない。信じられない。

でもア イ ツ は こ こ に い る。

 

覚悟を決めて弾を込める。

敵の砲撃をくぐり抜け、雷撃をすり抜け…。狙うは顔!!

 

触手で弾かれる。

 

無駄だ。そんな事解っている。それでも何度も何度も繰り返し絶え間ない攻撃を加える。

触手に叩き落とされる弾丸。

攻撃され続けて回避を続けて攻めあぐねる私。

 

「…性能が違う。」

「ワタシハフリョウヒンナンカジャナイ!!!

オマエラミタイナフリョウヒンナンカジャナイ!!

…ゼンブコロシテショウメイシテヤル。」



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絶望の中で

まずい。このままだとじり貧。

性能が違い過ぎる。

触手による防御。強力な砲。溢れ出る殺気と憎悪。

勝てない…本能が告げる残酷な結論。

 

でも、負けたら…沈んだら…また独りぼっち?

勝たなきゃ。

海底で独りぼっちなんて…苦しいのは寂しいのは嫌だ。

ならば、負けなければ良い。

ある日、

No.6が言った「相手が負ければそれで良い」と。

違う。

こっちが負けなきゃ勝ちなんだ。

 

 

 

「痛いからやりたくないんですけど…。」

爆雷を頭上に投げる。

「うぅ!!」

背中から衝撃。前に爆発的な力で押し出される。

拳を突きだして…。

 

身体ごと触手に弾かれる。

着水と同時に爆雷を投げつける。

 

…決まった。

 

触手に叩き落とされる爆雷。

しかし、次の瞬間顔の目の前で爆発。

この間に持てる火力を全力で叩き込む。

直撃。

そう、さっきの動作は殴るためでなく

爆雷を顔の前に持っていくカモフラージュに過ぎない。

 

「ワタシハフリョウヒンナンカジャナイ…。

マケルコトナイ…ホンモノダァ!!!」

叫び声と共に浮遊感が私を襲う。

 

激痛。

よく見れば触手に腹を貫かれていた。

 

「フリョウヒンナンカニ…!!」

迫る触手。壊れた単装砲をしまい、急いで刀を抜く。

出血でフラフラしてきて力が入らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督!!!」

執務室。

お母さんと呼んでくれる少女がようやく打ち解けたあの娘がいつまでも持つはずがない。あの娘は無茶ばかりするから…速くしないと手遅れになる。

「鳳翔さん?誰でもいい。バケツを持ってきて!!!」

「え?」

「良いから、速く!!!」

時雨ちゃんの叫び声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迫る触手になすすべなく捕らえられる。

 

殺 さ れ る

 

なら仕方ない。

死ぬよりましなこれを使う。

赤い注射。強制的にXシステムになる危険な薬だ。

 

左右から引っ張られて左腕がちぎれる。触手に叩き落とされる事によって着水。

私の艤装もとっくに大破している。

何度も何度も繰り返し繰り返しどちらが上か見せつけるように触手に叩き落とされる身体。

なぶり殺しか…。

もう、痛みも感じない。

なら…。

最期に一花咲かせてやりましょう。

残った腕で単装砲を投げつけ、

肩に乗った連装砲でそれを撃ち抜き、

残った弾と火薬が爆発して爆発を起こす。

「フリョウヒンノクセニ…。

イタイカ?クルシイカ?ハハハハハハ!!」

残った腕が触手に吹き飛ばされた。攻撃出来なくなった?

「孤独に泣くより痛みで泣いたほうが何倍もましです!!不良品?不良品が弱いと誰が決めたの?」

否、ここからだ。

傷口を加熱された砲身で焼く。

 

前日に仕込んだ装備を使おう。

身体に巻き付けた大量の爆弾を…。

既に潰れてしまった物が多いが要は爆発すればいい。

しかし、相手に肉薄しないとだめだ。

 

全速力で突…敵の魚雷が爆発して足がもげた。

なすすべなし。

あぁ、あの日と同じです。

圧倒的戦力の前になにもできず、誰も守ることができなかったあの日と…。

 

触手に首を捕まれる。連装砲が暴発して出血。

グキッ

嫌な音がする。

血が喉を逆流し、声もでなくなった。

 

 

ガンッ!!!

千切れる触手。

「私の可愛い娘に何してるの?

この敷島(提督)が黙ってるとでも?」

殺気をみなぎらせた提督。

「敷島型、なめてるの?」

「私の娘に何してくれるの?」

怒りに燃えるお母さん。

「バイハ”イ」

もう、手も振れないよ…。

 

 

これを最期に私の意識は跡絶えた。



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戦いの終結

長門を旗艦とした部隊は危機に瀕していた。

新型艦なんてものは何処を見ても居らず、いるのは飛行場姫そしてその配下達。

配下の中に駆逐凄姫等といった姫級も見られる個体も含まれている上にエリートやフラグシップも多く含まれていた。

「何なんだこの敵部隊。撤退だ‼」

長門の叫び声と共に撤退戦が開始される。

 

 

この戦いは熾烈をきわめ、大勢の大破者を出した。

しかし、途中に入った突然の提督出撃の報告により撤退の足は速まり、敵艦隊を退けて轟沈なしで無事撤退した。

ただ、鎮守府の資材が枯渇し入渠上が満員になることは避けられなかった。

提督が敷島という名と知っていたものはいたが、

敷島型戦艦一番艦の敷島と知っていたものはいなかった。尚、提督は上層部による査問を受ける模様。

【鎮守府新聞】

 

 

 

 

 

「朝ですよ~。」

眠り続ける友鶴ちゃんに声をかける。

目を覚ます気配もない。

「おはようございます。」

それでも諦められない。声をかける話し掛ける。

プリンを出しても反応しない。

病室のベッドの上に眠るこの娘は、

1ヶ月も寝たままだ。

こぼれ落ちる涙を拭い、笑顔を装う。

ガチャ

明石さんが入ってきた。

「うーん、今日もか…。」

「この娘はどうなるのでしょうか?」

「取り敢えず貴女に賭けてみるか?」

「え?」

「いい?説明するよ?」

この妖精さんの能力で心から治したいと思う。

資材が枯渇して手足が復活できてないのは仕方ないけど

意識を戻さなきゃそろそろまずい。

結果的に言えば精神世界に入って助け出さなきゃダメ。

「わかりました。」

「じゃあ、この妖精さんと友鶴ちゃんに同時に触れて?」

言う通りにした。

 

 

目を開けると廃墟が広がっていた。

酷い嵐で友鶴が心配になる。

港には沈没寸前の水雷挺友鶴があった。

建物はどれも壊れていてぼろぼろ。

地面には瓦礫とガラスが散乱し足の踏み場もない。

 

雷が落ちる。

ん?

かすかに聞こえた。確かに聞こえたその声は…。

私の可愛い娘の声。

 

走り出す。

走れ。

あの娘を助けなきゃ。

あのときのような後悔はしたくない。

教え子が娘が死ぬのは護れないのはもう嫌だ。

 

 

 

建物の扉を蹴破る。

そこにいたのは、膝を抱えて座り込む小柄な少女。

探し求めていた友鶴。

「雨、凄いね。」

話し掛ける。

「…怖い。また一人散るの?誰も守りきれずに…。」

応答。

「もう、貴女を独りになんてしない」

「本当に?」

「はい。絶対に独りになんてしません。

だから約束して?私を独りにしないって。」

「わかりました。…約束です。」

小指を差し出す友鶴。

温かい手。ここにいるとはっきりとした証明。

「早く戻ってきて」

「ごめんなさい。怖くて出られないんです。」

震える身体を優しく抱き上げて

「怖くても、二人なら進めるでしょ?」

「はい。」

「一緒に戻りましょう!!」




もし、よかったら
コメントや評価をしてくれると嬉しいです。


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目覚め

「どのくらい寝てました?」

長い夢を見ていたようだ。

「1ヶ月。寝すぎですよ?」

鳳翔さんの優しい声。

 

何故か起き上がれない身体。

 

よく見たら

…ない。

私の手足がない!!

鳳翔さんのくれたリボンがない。

「手足がないんですが…。」

1ヶ月もあったなら修復くらいできたでしょうに…

「もうちょっと待ってくださいな。駆逐艦の子達も頑張っておつかい行ってますから。」

やっぱりだ。

貯めとけよ提督。

その辺ちゃんと準備しておけよ提督。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事より友鶴ちゃん。」

「なんですか?」

「手足が取れていたのに…大怪我してたのに…

何であんな無茶をしたの!」

「ごめんなさい。

記憶が曖昧で「ばか。普通はそうなる前に退くの!!」…」

「沈んだら…どうするつもりだったの?

1ヶ月も待ったお母さんの気持ちがわかる?

もう私は、誰も失いたくないの…!」

 

「ごめんなさい。本当にごめんなさい。

でも…。アイツは、元仲間で死んだはずの披検体で深海凄艦に成り果てていて…もう、見てられなくて、あの娘の悪夢をこの手で終わりにしようとムグッ」

 

「だからって独りで逝かないで下さい。

もう、抱え込まないで下さい。

世の中、独りでなんでもできる人なんていないんです。

もっともっと頼って下さい。

…お母さんからのお願い。」

 

私は静かに頷いた。

そこに言葉は必要なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くぅう~。

どこか抜けた音がした。

顔が熱い。

「お腹減ったの?」

「はい…。」

お母さんはお台所までちょっと嬉しそうに歩いていった。

戻ってきたその手には…!

プリン!!

「はい、あーん。」

お母さんの手作りプリンをゆっくりと味わって食べる。

しばらくは

私は軽いものしか食べてはいけないらしく

また、食べる量にも制限がかかっている。

まぁ、無理もない。

1ヶ月も何も食べなかったのだし、

そのうえにあの戦闘では、

内臓にダメージを受けた可能性も高い。

明石さんいわく、

私の身体はまだ細かいところまでは修復できていないそうだ。

死んでないことが奇跡のようだ。

 

 

 

コンコン

「青葉です~。ちょっとインタビュー良いですか?」

え?

コンコンコン

「青葉です~。起きたのでしょう?」

何で青葉さんが知ってるの!?

「いいですよ~。」

笑いながら答える鳳翔さん。

いやいやちょっと待ってくださいな。

ここ私の部屋だしそんでもって答えるのも私だし…。

「今回の敵、知り合いだったって本当ですか?」

いきなりこの人はとんでもないことを…。

「一応ですけど…。まぁ、知り合いでしたね。」

そう、知り合いだった。

研究所の披検体の最初の犠牲者が彼女だったのだ。

あれ以来、何故か私の夢の中にもアイツは現れて私を追い詰めるのだ。

「第二問。提督についてどう思いますか?」

話題の変換が大き過ぎるような…。

「戦艦の敷島だったとか人間の敷島だったとか

私にとってはそんなのどうでもいい話で、

あの人は命の恩人であると同時に大切な司令官である。

ただそれだけです。」

 

私にとっては提督の正体が戦艦だとか人間だとかそんな事はどうでもいい話であり、

重要なのは、あの人が無事であり笑顔であること。

ただそれだけでいい。



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お見舞い

「お見舞いなのです!」

「お見舞いに来たわ!」

ドアが開いて瓜二つの少女が二人入ってきた。

雷電コンビである。

可愛いことに雷ちゃんがドクターの電ちゃんがナースのコスプレをしている。何故か微笑ましい。

しかし、雷ちゃんの手には巨大なレジ袋。

この展開は…まさか!!

 

「友鶴ちゃ~ん!」

走り寄って来る電。

ちょっ、え?

「はわわわわっ」

衝撃。

「ゴハァ!?」

何でこの娘はこんなにも勢いよく転ぶのだろう?

正直に言って滅茶苦茶痛い。

怪我人にダイブしちゃダメだよ…。

 

は!

電ちゃんに気を取られていたらその間に雷ちゃんがレジ袋の中身を出した。

大きめの袋に大きく<ぱんぱかぱーんつ>という文字。

何でオムツなんですか。

というかどこで買ったのそれ?

 

「電、友鶴ちゃんを抑えてて。」

「了解なのです。」

え?

ちょっと待って!!!

 

コンコン、ガラッ

ん?

「吹雪です、入ります。」

神様~!!

「吹雪ちゃん、今すぐにこの二人止めてぇ!!!」

「え?あ、うん。」

 

吹雪による武力介入によって何とか助かった私だが、

脱がされかけたズボンのために残酷な現実を見せられるはめになった。

そう、私は既にオムツだったのである。

この年でオムツって…。

恥ずかしい。恥ずかしすぎて表を歩けません。

「うぅ…お嫁に行けない…。」

「大丈夫。私がいるじゃない!!」

いやいや大丈夫じゃないでしょ。

「大丈夫なのです。」

「その外見ならねぇ~。」

これでも元高校一年生だったのに…。

現在の身体の大きさは小学生だ。

手足が現在寸足らずなので余計に小さく見えるらしい。

「昏睡状態の時もオムツやってあげてたんだから。

もっと私に頼っていいのよ?」

帰ってショックです。

恥ずかしすぎて顔が盛大に火を吹いています。

 

 

 

「そういえば、提督ってどうなったの?」

 

「査問を受けてから新型の戦艦の練度上げのための演習に付き合わされたみたい。」

 

「司令官、ぐったりだったのです。」

 

新型の戦艦…。

大方、大和型戦艦だろうな。

そりゃあ、敷島型戦艦が相手をするのは無茶だし、

そもそも相手にならない。

逆にぐったりしない方がおかしいと思うよ?

 

「でも、勝ったらしいのです!!」

!?

「え?」

「だから、勝ったらしいのです!!」

!?!?

「ウソでしょ!?ありえないって!!」

いくら提督でもあの大和型に勝つなんてありえない。

いや、勝ってはいけない。

「夕張さん達が泣いていたのです。」

そら泣くよ。

46㎝砲なんてもんを持った最新鋭の艦がおんぼろ艦に敗けるなんて…。

彼女は、そんな事は予想できなかったはず。

更に、彼女からしてみれば新兵器を超旧兵器が倒すなんてことあってはならないのだ。

 

まったく、あの提督は何をしたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局。オムツははかされた…。



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充電中なのです

「やるとしてもリハビリですよ?

良いですか?リ ハ ビ リですからね?」

明石さんに何故か心配されている。

ついでに人間だったら確実に絶対安静だと言われた

 

そのくらいわかっている。

さすがに手足を復元してもらってからすぐに

トレーニングとか砲雷撃戦とかやるほど

私は馬鹿ではない。

少なくとも数日は提督とゆっくり過ごすつもりです。

(提督さんは大和型と演習して筋肉痛。)

 

 

壁をつたってゆっくり歩く。

まだ足の動きもぎこちなく手先も上手く動かない。

明日には解決する問題らしいのだが…。

それ以上に

【リハビリ】をやりたくないという

非常にやっかいな問題が浮上してきた。

別にやらなくても回復するのだが、

やった方が回復が早いとか身体に優しいとか言われている。

あくまで噂であり、

船である艦娘にそれが当てはまるかどうかはわからない

「もしかしたら~っぽい(かも)。」の話なのだ。

 

 

 

提督の私室の前で足を止める。

ドアに大きく【充電中なのです】という張り紙がある。

静かにドアをあけて突入。

 

案の定、提督が電ちゃんを抱き枕にして寝ていた。

文字どおり【充<電>中】

さりげなくまざる。

私も久しぶりに【充電】したかったし、

手術終わったら疲れちゃったし…。

 

布団に潜り込むと

やはり、心地よい暖かさだ。何より安心できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友鶴ちゃんったらどこに行ったのかしら?

きっとあの娘のことだからリハビリなんて絶対しないわ。」

パタパタと廊下を走る。

「電は用事があるって言ってたし…。」

ん?

【充電中なのです】

んん?

ドアを静かにあけて進入。

電は提督の抱き枕になっていた。

「司令官。私もいるじゃない!!」

ずるい。

よし、そっとまざろう。

司令官のベッドは無駄に大きいから大丈夫なはず。

さりげなく布団を直しながら入る。

 

寝返りをうつと友鶴ちゃんの顔が見えた。

「もう、そんなんじゃダメじゃないっ。」

頭を撫でながら呟く。

そして、睡魔にまけた。

 

 

 

「ねぇ、友鶴ちゃんってどこにいるか知ってる?」

 

「知らないっぽい。」

「知らないかも。」

うん、気にするな私。

気にしたら負けだ私。

「ありがとう。」

あの娘のことだからリハビリする訳がない。

姉さんも姉さんで駆逐艦と仲良くお昼寝だと思うし…。

ん?

駆逐艦を越えるロリがここには存在する!

そう、水雷艇だ。

まったく姉さんは…。

YESロリータ NOタッチって何度言っても聞かないんだから

 

【充電中なのです】

ここか!

静かに突入だ。

そこには幸せそうな四人の寝顔(うち三人はロリ)。

ヤバい。

鼻血がとまらない。

この朝日、戦いのなかで戦いを忘れた…。

 

 

 

 

 

 

その後、鳳翔さんによって全員起こされたらしい。



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手紙

友鶴へ

 

体調は大丈夫ですか?

最近、無理をして大怪我をしたと聞きました。

姉としてとても心配しました。

独りで抱え込んで突っ走るのは貴女の悪い癖です。

でも、

良き仲間が出来て幸せなのなら私はうれしいです。

 

私は、変わらずにやっています。

強いていうならば大鯨さんと仲良くなりました。

いっしょにいると、お母さんと一緒にいるみたいです。

腕の件もばれていません(大鯨さん以外には)。

提督も優しくてとても楽しい日々を送っています。

 

 

これからもお互い、

無茶せずに“生 き て い き ま し ょ う”。

 

 

 

千鳥型水雷艇一番艇、千鳥より

 

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんから手紙が来た。

とてもうれしいけど、1つ疑問。

私が無茶した件、

何で他の鎮守府にいるお姉ちゃんが知っているの!?

 

まぁ、その辺はどうでもいい。

なにを書こうかな…。

…。

……。

「何してるの?」

「お手紙を…ってお母さん!?」

いつの間に!?

「?さっきからいましたよ?

そんなことより何をそんなに悩んでいるのですか?」

 

「手紙、何て返したら良いかわからなくて…。」

 

「そうですねぇ…。

手紙に写真を添えたらどうでしようか?」

「写真かぁ~。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦を無事に成し遂げたことへの記念撮影ですね!

青葉にお任せください!!」

なんか今日も元気いっぱいハイテンションな青葉さん。

「あ、ありがとうございます。」

 

 

 

はーいじゃあ、皆さん並んでください!!!

あ、提督は真ん中で!

あぁ⁉誰か急いで白雪ちゃん連れてきて!たぶん部屋のこたつにこもっているはずだから!!

不知火さんは笑顔で!ほら、那珂ちゃんみたいに!!!

長門さーん!手を緩めて!!

友鶴ちゃん死んじゃうから圧死しちゃうから!!

 

「それでは…。はい、チーズ!!」

パシャア

「あ~。天龍さんが目瞑っているからもう一回お願いします‼」

パシャア

「今度は木曽さんです~。もう一回だけ、もう一回だけやらせてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

千鳥姉さんへ

 

今日は、記念撮影をしました。

皆、とても仲がよくておもしろい人びとばかりです。

ここに配属されて本当によかったです。

千鳥姉さんも幻肢痛で大変でもきちんと睡眠をして下さいくださいね。

最近、重巡洋艦の青葉さんと仲良くなりました。

何故かよく、インタビューを受けたり写真を撮られたりしています。

なんだかとても明るくておもしろい人です。

 

 

 

 

腕の件は大丈夫ですか?

何か少しでも大丈夫じゃないことがあったらすぐに治してくださいね。

私が言うのもなんですけど、お姉ちゃんこそ無茶をせずに自分を大事にしてください。

 

 

また一緒に第21水雷隊で活動したいですね。

 

大好きです。

 

 

千鳥型水雷艇二番艇、友鶴より



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事件の始まり

「どうしよう…。」

ケータイのメールを開いたら母からのメールが来ていた。内容は単純。

〈明日、会いに行くよ(金の準備しとけよ)〉

あの人にとっては、金が一番で私はサンドバッグ。

この身体になってから私は、金が出るサンドバッグになったようだ。

さらに、父母がここに来るということは私が家に三日ほど帰らされなければならないということだ。

その3日間にあの人達が私にあたえる苦痛は正直いって気が狂いそうになるほど辛い。

でも、逆らうことは出来ないし逃げられない…。

逆らったら…死ぬかもしれない。

逃げれば死ぬまで何処までも何処までも追ってくる。

 

 

 

「大丈夫か?」

突然頭上からの凛々しい声。

 

「ひゃいっ!?」

 

「私だ長門だ。そんなに驚かなくても良いだろうに。」

 

「ごめんなさい。考え事をしてました。」

 

「<悩みごと>の間違えだろう?

隠さなくて良い。普段、鎮守府にこもっていてろくに出撃もしない戦艦なんだ。心配くらいさせてくれ。」

 

「でも…。」

さすがにこの問題は長門さんでも解決は出来ない。

ただの迷惑になっちゃうかもしれない。

 

「ビックセブンの力を侮るなよ?

迷惑なんて気にしないしどちらかといえばかけて欲しいぐらいだ。火力と暇をもて余しているんだ。何か些細な事でも良い、言ってみろ。」

 

「実は…私の父母は私のことをストレス解消の道具としか考えていなくって、私がこの身体になってからはお金を巻き上げるために私を家に強制帰宅させるようになったのです。帰宅したらまた殴られたり蹴られたり…辛くって怖くて…。

でも、私じゃどうしようもなくって……。

 

長門さん、助けて下さい。」

 

「わかった。」

そう言って長門さんは私を抱き上げて走り出した。

長門さんの顔は真っ赤でとてつもなく怒っているのがわかる。

普段、駆逐艦に向けている表情の真逆だ…。

 

 

バタァン

 

 

「鳳翔!!!作戦会議だぁ!!」

叫ぶ長門さん。

「は、は、はい?!」

びっくりするお母さん。

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず、お茶でも飲んで落ち着いてください。」

 

「ありがとう。」

 

「それで、どうしたのですか?」

 

「実は……。」

長門さんが説明を進めていくうちに鳳翔さんの顔がどんどんひきつって行くのがわかる。

 

「…難しい問題ですから味方を集めて考えましょう。」

真顔で言う鳳翔さん。

 

 

 

 

集まったのは…

雷電,龍田さん、古鷹ねぇ、時雨ちゃん、吹雪ちゃん。

そして提督。

 

 

 

話終わると

「腐った敵は沈めたいのです。」

「復讐?大丈夫よ私がいるじゃない!」

「死にたい馬鹿は…フフ、フフフフ。」

「情報集めてばらまいてやります。」

 

皆、殺気だってる!!?

 

 

 

 

「取り敢えず落ち着け。」

提督の地を這うような声。

「論点がずれている。確かに殺りたいのは山々だ。

しかし、パンピーに手を出したらダメだ。」

 

「でも、殺す以外に…。」

 

「あ~あ。艦載機作りたいのに赤城がボーキ食いあさったせいでボーキがないんだよなぁ~。おや?こんなとこに駆逐艦よりも燃費の良い船がいるぞ?遠征頼めるかい?」わざとらしく言う提督。

 

「青葉さん、録音OKですか?」

 

「OKです。」

 

「じゃあ、<お客さん>はわたしが案内するわ~。」

 

「殺すなよ?」

 

「さぁ、どうかしら?」



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事件

「提督さん、どう言うことですか!?」

目の前の男性が怒鳴る。

「どうもこうもありません。彼女は今、任務中です。人類のために働いてもらっているところです。お引き取りください。」

私が冷静に伝えてもダメなのか…?

「妻が、妻がつれてったんですか!?」

「任務中と言ってるでしょ!それに貴方の奥さんなんて見てませんよ‼」

 

「何が起きても知りませんよ…。」

男は気持ち悪く笑いながら呟いた。

 

 

 

≪提督!!助けてください!!!≫

突如緊急通信が入った

「どうしたぁ!?」

≪めっちゃ強い新型?がいます!しかも友鶴ちゃんばっかり狙って…きゃあ?!≫

「古鷹!?」

≪大丈夫っかはぁ?!て、敵がつ、追撃してきます!!≫

「なんとか持ちこたえてくれ!!

 

おい!大淀さん、長門とか金剛とか呼んで来て!!」

 

「わ、解りました!!」

 

「いつまでも突っ立ってんじゃねぇ。邪魔だ。」

男に言い放つのは鎮守府古参メンバーの一人、天龍。

「お、俺は娘のために…「うるせぇ!何が娘のためにだよ、その娘が死にかけてる時にへらへらしやがって!経歴も調べさせたが…てめえ、なにもんなんだ!!」」

……。

「なにもんだって?元研究員だ。人間を使って深海悽艦と戦うための研究をしていた研究員だ。」

…ふざけるな。

「友鶴達があんなになったのもお前のせいか?」

天龍の怒気がビリビリと伝わって来る。

「いいや?あれは弟の実験の結果だよ。もっとも、失敗作だがね…。フハハハ!!人類のために身を捧げた自慢の娘だよ!!傑作だよ傑作。」

 

「てめえぇ!!」

天龍が刀を抜く。

「天龍さん!お止めください!!」

大淀が斬りかかろうとする天龍を全力で止める。

 

 

「命を…人間をなんだと思って…!!」

 

「オモチャですかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、静かに部屋を出た。

指令室のほうに召集をかけることにしよう。

 

誰もいないね…。

…。

……。

「くそ野郎がぁあ!!!」

思わず壁を殴る。何度も何度も…。怒りが収まらない。

これでも一応戦艦だ。壁がべこべこへこむ。

沸き上がる憤怒に任せて拳を叩きつける。

 

ガシッ!!

誰かに止められた。

「提督…もうやめるデス。

手から血が、いっぱい血が出ますよ。」

金剛…。

「すまない。冷静さを欠いていたようだ。」

 

「そんなことより止血しなきゃデース。」

 

「君の綺麗な手を汚してしまったことへの謝罪とさっきのお礼という事で後で一緒に入渠しようか?」

 

「ついでにティータイムもしましょう!」

 

 

 

 

指令室を見渡すと呼び出した連中が揃っていた。

 

 

「さぁ、戦争を始めるよ!!!」



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モンスターペアレント

目の前にいるはずのないものがいた。

本来、海上に立てるはずがないのに母がいた。

しかも禍々しいオーラを放っている。

「サァ、可愛イ私ノ娘。早く帰リマショ?」

 

「……!!!」

怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い「落ち着いて!!」

「大丈夫。大丈夫だから。」

 

「まともにやり合って勝てる相手じゃないわね~。」

龍田さん…。

 

「オカアサンハココヨ…。」

手招きするゲテモノ。

 

「撤退しましょう。」

「そうですね…。」

 

「ニガサナイ…!!!」

お母さんの肩の砲から弾が発射される。

 

「回避ー!!」

「避けろっ!」

しかし、弾は空中で炸裂。

艦隊の全員に向けて降り注ぐ炎と破片。

 

「オ母サンカラ逃ゲヨウッテネェ…。愚カナッフハハハ!!!」

 

お母さんは砲を次々に発射して弾幕を張ってさらに、高角砲を使っているのか空高く打ち上げた弾を炸裂させて鉄の雨を降らせて来る。

 

「きゃあ?!」

目が目がぁ!!!痛い!!

破片が右目に当たって血が出た。

……見えない。

全身が焼かれているのが解る。機銃が潰されたり暴発したりして妖精さんが悲鳴をあげて死んでいくのも聴こえる。

「友鶴ちゃん!!」

ふ、古鷹さんが名前を呼ぶ声が聴こえる。

まだ、死ねない。

「オカアサンハココヨ…。」

気がつけばあいつは私の目の前にまで迫っていた。

ガシッ

捕まれたのが解る。

「オカアサントイッショヨ~。タダ、オシオきダァ!!」

 

「がはぁ?!」

めり込む腕。串刺しになった身体。喉は血が逆流して息も出来ない。

恐怖に震えていた身体から熱が血が奪われていくのが嫌でもわかった。

 

世界が溶けていく。

どろどろのぐちゃぐちゃに五感が麻痺していく。鼻を満たす血の臭いと赤に染まった左目に写る風景だけがやけに鮮明に鮮明に心にまとわりついてくる。

 

「お母さんのところへいらっしゃい~?」

 

あぁ、もうダメかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「友鶴ちゃん!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は艦載機を発艦させた。

皆、ベテランの熟練の優秀な子達です。

 

 

「…。見えました。」

意識を集中させて妖精さんとリンクすると新型の深海悽艦に丸飲みされそうになっている友鶴ちゃんを見つけた。

 

 

「全機、攻撃に移って!!!」

 

 

 

 

 

 

鳳翔さんの命令を聞いて

炸裂弾を回避しつつ敵艦に襲いかかる。

「腹減ってんならこれでも喰らっておけっ!!!」

 

口裂け女のようになった女の顔に爆弾を投下して旋回。機銃を撃ちながら再度突入した。

 




感想、評価お待ちしています‼


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母とお艦

「…!!」

レシプロ機特有のプロペラ音と爆発音,衝撃が私の今にも飛んで行ってしまいそうな意識を覚醒させる。

多分この艦載機を発艦させたのは【お母さん】だ。

 

被害状況を確認すると単装砲が壊れていて機銃座は全滅。連装砲は片方が撃てなくなっていて破片が傷つけたのか肩から出血している。

貫通された私の腹部はオカアサンの腕が栓になっているのか出血はそんなにひどくはない。

 

オカアサンの注意が艦載機に向いている間に腰に装備された大型ナイフを2本とも抜き、右手でオカアサンの腕を切り裂き左手で刺突を叩き込む。

 

「ウグァ!!?オマエモワタシヲヒテイスルノカァ!!!!」

 

その瞬間、オカアサンの腕が斬られたはずの腕が動き出した。

「…!?!!?」

体内で蠢く腕によって言葉に出来ない痛みが私を襲う。

 

でも、ま だ 死 ね な い。

 

いや、死 ぬ わ け に は い か な い

 

力が入らない。狭くなった視界が更に歪む。

私には帰りを待っていてくれる人がお母さんがいる。だから死ぬわけにはいかないんです。

 

 

 

敵放った魚雷のの雷跡が迫る。

避けなきゃ。体が軋む。避けなきゃ。痛い。

あ、当たる…!

 

「文字どおりの悪手だな…この長門を怒らせたのは!!」

 

体が持ち上がる。

魚雷は長門さんの股をすり抜けていった。

「長…門さん?」

「あぁ長門だ。もう少しだ頑張れ‼」

 

長門さんの41㎝砲が火をふく。

 

「ナゼココマデコレタノダ?ダンマクモアッタハズダ!!」

そう、こいつの背中の砲はいまだに火を吹き続けている。

「ビッグ7の力を侮ったな?私を沈めたいなら核でも持ってこなきゃ無理だというのに。まぁ、今は核でも沈まないがな…!!」

長門さんの鋭い蹴りがオカアサンの顔を直撃する。

飛んでいくオカアサンに魚雷を撃つ。

 

爆発して煙の中から出て来たオカアサンにお母さんの艦載機が突っ込む。

 

「オカアサントイッショヨニイヨウ?」

声が聴こえる。

「オカアサントイッショヨニイ「友鶴ちゃんのお母さんは私です!!」」

「ウソダァ!!!ワタシガ…ワタ「お母さぁん!!」」

長門さんが私をお母さんに渡す。

「血が繋がった存在なら家族なのでしょうか?否、愛の有無があるからこその家族です!貴女は友鶴ちゃんを愛していなかった。虐待までしてこの子を踏みにじっておいてなぜ貴女は母であると言えるのですか!!」

 

ズルリッ

 

お腹に刺さっていた腕が落ちた。

「ドウシテミンナワタシヲヒテイスルノ?」

オカアサンは黒い煙となって消えていった。

 

栓になっていた腕がなくなってとんでもない勢いで血が吹き出る。

 

 

私の意識は飛んでいった。




感想、評価お待ちしています‼


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目が覚めたら

「ふぇ?」

目が覚めたら湯槽の中で龍田さんの膝の上にいた。

タオル一枚で…。

「あら、起きたの。傷は大丈夫かしら?」

「はい。」

あれからどうなったのだろうか。最後に見えたのは鳳翔さんの慌てている顔。まぁ、腕の中にいる子から血が吹き出るなんてことがあったら誰でもそうなります。

 

「あれからどうなったのですか?」

 

「両親そろって何て言うか黒い煙みたいなものになって消えてっちゃったわ。残っていたらあの手を落としてやりたいわ~。あ、ちなみにあれから3日経ってるわ。」

 

「他の方々は?」

 

「提督以外みんな無事よ。私は内臓が破裂してとんでもないことになったからいったん入院して、今ここで入渠中ってわけ。」

みんな無事ならよかっ…ん?

「て、提督は!?」

 

「うーん。単純にいえば超絶ご立腹。ハイパーご機嫌ななめなのよ。あまりにも怖くって天龍ちゃんが逃げ出しちゃうぐらい怒ってる感じよ…。」

背中の傷をなぞりながら龍田さんが言う。

「…そんなに?」

 

「えぇ。まぁ、私も怒っているんだけどねぇ?」

溢れ出る殺気に背筋が凍る。

「龍田、殺気をおさめろ。友鶴が怖がってるだろ!」

 

「ごめんなさい天龍ちゃん。つい、感情的になっちゃった。」

「あと、俺は逃げ出してなんかねぇからな!あれはただの戦術的撤退だからな!!」

たいして変わらないかと思うのですが…。

「そうかしらぁ?〝やべぇ、提督めっちゃ怖かった。〟って言ってた気がするのだけど?」

「げっ聞いてたのかよ!」

その発言は墓穴だと思うのですが…。

「え?はったりだけど?」

でしょうね。

「んな!?だ、誰にも言うなよ!」

真っ赤になって言う天龍さん。

「フフフ、天龍ちゃんったら真っ赤になっちゃって可愛い~。」

「はーい(笑)。」

 

「ようやく笑ってくれた~天龍ちゃんのおかげね。ありがとう。」

「オレを笑いのために使うな!!」

「「善処しま~す。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで何で天龍さんが入渠しに来たんですか?」

 

「いや、そのあれだ…何て言うかその…色々あったんだ!」

「多分だけど、提督のお部屋から飛び出して行ったら曲がり角でちょうど電ちゃんが転んでそのダイビングヘッドが鳩尾にクリーンヒットして損傷ってとこじゃないかしら?」

何でそんなに具体的に…。

「…何で龍田がしってんだよ!エスパーかよ!!」

あってるのですか!?

「軽巡洋艦(女)の勘よ?」

え?軽巡洋艦ってそんなに勘が鋭いの?

「友鶴!真に受けるな!!いくら世界水準越えでもそんな能力はない!!!」

 

「ちなみに今日の天龍ちゃんの下着の色は「友鶴!後で一緒に近接戦の練習しような!!」…。」

 

 

「の、のぼせちゃいましたぁ。そろそろ出ませんか?」

「下着は…「やめろー!!!」」




感想と評価待ってます!!


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提督の出撃(ストレス解消法)

「ふん!!!」

拳を叩きつけるとイ級が飛んでいき、そのまま数隻の駆逐艦級に衝突。ついでに砲撃を加えると周囲を巻き込んで爆散した。

「提督ぅ~。すばらしいパワーね!」

金剛に誉められる。

「そりゃあね。まだまだ老朽艦とは言わせないですよぉ~?」

一昔前なら逆だったのにな。

一応、金剛となら一時期一緒に戦っていたことがある。

あの頃は私があの娘の面倒を見てあげていたんだけど今じゃ私が介護されてるって感じになってしまった。

 

 

ストレスが半端なくたまったために気分転換に出撃してみたのだが、これが中々楽しい。

自分の教え子の成長を改めて感じることができるし、心置きなく体を動かせるというのがまたうれしい。

 

 

 

ん?

 

 

「あの飛行物体は敵機か?」

不味いな…。対空戦闘能力の不足が明治艦が大敗した原因の1つでもある。

「龍壤さん、お願いします。」

 

「了解。さぁ、艦載機のみなさんお仕事お仕事~。」

巻物みたいな飛行甲板から艦載機を発艦させた。

小柄で陽気で面白い彼女であるが戦闘のときは心強い助っ人だ。

「全砲門ファイヤー!!」

 

「三式弾、撃てーっ!!」

金剛四姉妹は、あの頃と比べ物にならないくらい強くなった。何でも四姉妹そろって近代化改修という名の魔改造をしたらしい。

何をどうしたのかは知らないけど、昔よりも早く動けるようになっている。噂によれば大和の一部を持っているとかどうとか…。

 

よし、見えた。

敵艦補足…。

ヲ級1とル級1と駆逐が4

 

 

勝てるね。

 

 

 

襲いかかる駆逐艦を薙ぎ倒して砲撃。

バレないようにそっとル級とヲ級に魚雷を撃つ。

金剛達も駆逐艦を次々に倒していく。当たり前だ私たち敷島四姉妹が育て上げた最強の戦艦達なのだから。

ヲ級の頭は砲弾を叩き込んだら艦載機に誘爆して爆散してしまい、そのまま沈んでいった。

最後に力一杯ル級を殴り付けて、倒れたところに魚雷を撃つ。

ついでに集中砲火を与えて撃滅完了。

 

 

 

 

「終わった終わったぁ…。」

 

「提督ぅ!後ろぉ!!!」

 

「ふぇ?」

 

ズグシァッ

「きゃあぁあ!!いつの間に!?くっそぉ…!腕を持ってかれたか。」

 

後ろにいたのは戦艦レ級。

この戦艦。正真正銘の化け物である。戦艦のくせに艦載機を発艦させたり魚雷を撃ったりといった攻撃が可能という〝もうこいつだけで良いんじゃない?〟って思う深海悽艦の1つだ。

明治生まれのおんぼろ艦なんてオモチャ同然だ。

 

 

 

でも…。

頭に来ちゃいました。

「ふん!!!!!」

おもいっきり蹴飛ばす。相手の小さな体は吹っ飛んでいって何処かに消えた。

 

「さぁ、じゃんじゃん行「撤退です!」へ?」

 

ガシッ

 

ちょっ!金剛!?これ、もしかしてお姫様だっこ…。




このストレス解消法おもに提督さんにおすすめです。
RJ「誰ができるか!?」




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お風呂

「ただいま…。」

一応、止血はできたのだが血を失いすぎてフラフラする。

「おかえりなさいなので…す!?」

私のあまりの姿に卒倒する電。

「え?ちょっ!!どうしよう!?」

そんな…確かにホラーみたいな絵面だけどふつう卒倒する?提督の姿に驚いて卒倒する電ちゃんは君が初めてだよ多分。

「金剛!どうしよう!?」

 

「取り敢えず提督は私たちと一緒に入渠デース!!」

いやいやそっちじゃなくって今右手に抱えてるこの娘のことだよ!

「霧島、電ちゃんを頼むね~。」

 

「はい、おねえさま!」

 

私は提督のお世話ね~。

「…!?」

お、お姫様だっこ!?

「提督ぅ~!もう私はこの上なく幸せデース!!」

 

「ヒエ~!わ、私は!?」

 

「皆で一緒にお風呂にドボーンでーす!!」

 

走り出す金剛。速い、速すぎる!正直いってめちゃ怖い。ちょっ!?階段は跳ばないで!!

 

「榛名はこっちを持つでーす。私はこっちを持ちます。比叡は止血のための布を外してください。」

 

息ぴったりの動きととんでもない勢いで脱がされた。

そして龍壤、私の胸など見ても仕方ないぞ?

 

そして今気付いた。こんな怪我してるのに高速修復材なんて使って大丈夫なのか。

まぁ、ダメでも数日間寝込むだけだけどね(経験あり)。

 

 

「「「「はい、ドボーン!!!」」」」

さすが息ぴったりきれいにハモった。

 

 

「提督ぅ~!やっぱり可愛いでーす!!」

まったく…。こんな老朽艦に何を言ってるんだか。

金剛達の方がよっぽど可愛いわ。

 

 

「んもぅ、照れちゃいます~!

でも、提督が老朽艦だったら提督に敗けた武蔵はなんなのね~?っていうか提督はまだまだ現役行けちゃいまーす!!!」

「え?声に出てた?」

うんうんとうなずく金剛四姉妹&RJ

「おもいっきり出てました~。」

ヤバい恥ずかしい。

まぁ、教え子にお姫様だっこされてから膝に乗せられて湯槽に浸かってる状態で言うのもあれだけど…。私が足引っ張ったからこうなっているんだよね。

まぁ、現役なんて無理だよ。

 

 

「それと金剛、背中に当たってるんだけど…。」

 

「当ててるので~す!比叡も抱っこしたいですか?」

 

「はい、お姉様!!」

「榛名もやりたいです!!」

「私も!!」

残念ながら私の教え子の方が私よりも大きい(何がとは言わない)。そして強く、美しい。あの戦争でも戦艦の中ではもっとも活躍したと言うではないか。長門や大和といった大鑑巨砲主義の塊の新型と速さにものを言わせた明治艦の一員金剛の戦果は比べるまでもないらしいし…。

 

「金剛四姉妹は私の…私たちの誇りですよ。」

 

「私たちにとっては敷島四姉妹が誇りでーす!!」



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マッサージ

「あぁ~う!そこはちょっと強めで踏んで?」

 

「こうですか?」

ボキボキッ

「おぁ!良いねぇ~効くぅ~」

なぜか秘書艦のはずなのに書類を届けに来た雷電ちゃんと一緒に提督のマッサージをすることになった…。

 

「う!?ちょっと雷ちゃんそれ!痛いって!!」

本を片手に足を揉む雷ちゃん

「ここが痛いってことはそうとう疲れがたまっているってことよ?」

お艦モード全開の雷ちゃん。

「そ、そうなの?」

 

「無理しちゃダメじゃない!ちゃんと明石さんにマッサージとかメンテナンスとかしてもらってる?やってもらってないでしょ。」

 

「だって効くけどあの人のやつは痛いんだもん…。それにこのくらいの疲れならこのぐらいのマッサージでなんとかなるよ。」

 

 

私は気づいてしまった。

ドアの向こう側で隙間から頬を赤く染めながら羨ましそうに覗いている長門(ながもん)に…。

「羨ましいなぁ(ボソッ)」

 

目が、目があっちゃった!!!

「どうしたのですか?」

「電ちゃん…ロ、ロリコンがいるよ」

「そんなときにはシカトなのです。そもそもそんな事言ったら司令官さんもロリコンな気がするのです。」

言われて見れば…。

「何で!?何で私がそんなに冷たい目で見下されるの!?」

「いやぁ、提督がロリコンっていう説が正しいのか知りたいから青葉さんに聞こうかなと思っただけです。」

 

「青葉はダメだよ!青葉の情報ダメ 絶対!!

それに私のロリコン疑惑なんて

鎮守府新聞の一面飾っちゃうの確定じゃん!!

っていうか二ヶ月前のやつで実際に飾っちゃったし。

今日の新聞の見出しなんて〝【衝撃】提督、レ級を消し飛ばす〟だったんだからね?」

 

「「はーい。」」

やっぱりロリコン疑惑は前から出てたんだ…。

 

「わかればよろしい。」

「結局、どっちだったのですか?」

「あ~も~!!そうだよ私はロリコンだ!ロリコンであって何が悪い!!」

もしかして連合艦隊旗艦になる人は皆ロリコンにはしる傾向にあるのかな…。

だってもう長門さんドアの隙間から首こっちに出してるもん。目、血走ってる上に息荒いし…。

 

「ぴゃあぁあぁ!?お 化 け なのです…。」

ズデン

い、電ちゃん!?

確かに怖いけど、軽くホラーだけど

あれは一応、第一艦隊旗艦の長門さんだから!!!

「こ、腰がぁあぁ~!!!」

悶絶する提督。気絶する電ちゃん。

提督の私室は修羅場と化した。

 

「と、とにかく明石さん呼ぶから!!!」

「お願い、雷ちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁここは(バキボキッ)~。」

 

「明石さん、ギブギブ!!痛いって痛いって!!!」

 

 

その後提督の私室にて提督の断末魔が響きわたった。




yesロリータ noタッチ

マナーはしっかり守りましょう。


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出合い

マッサージのお礼ってことでもらった間宮券を使ってアイスを食べることになったけど…


「ねぇ、龍田さんとの出合い教えてよ。」

「電も知りたいのです!」

……え?

「間宮アイスというおいしい物を食べてる時にその話題で話すのは…。」

「だって気になるんだもの。大丈夫よ?この雷様は口も固いんだから!」

「電も大丈夫なのです!」

あぁ、そんなに目を輝かせないで…

「私的にはかなり恥ずかしい話なんだけど…。」

 

 

 

 

 

 

 

嵐の夜に二人はやってきた。

研究所という名の牢獄にその制服は純白で風になびく髪は艶やかにまるで女神のようだった。

もう一人は天使のようだった。暗闇の中の私を救いに来た天使。

「私は敷島。あなたを助けに来たの。」

「龍田だよ~。ひさしぶりだね友鶴ちゃん。」

龍田さんを私は知っている。いや、正確にいえば友鶴(自分)は知っていた。嵐の中で沈んでいく私を救いに来てくれた艦だ。

「た、龍…田さ…ん…?たす…け…てくだ…さい…。」

独房に入れられて数週間ほとんど飲まず食わずだったからか声もかすれて上手くしゃべれない。度重なる暴行によって私は目も当てられないほどの状態であったと思う。衰弱しきった身体にはもはや力などほとんど入らず、自分の死を望んだことなんて数えきれないほどだった。それでもこの瞬間だけは強く思った。死にたくない、助かりたいと…。

残った力を振り絞り、私を拘束している鎖をジャラジャラいわせながら鉄格子へと這う。

首にはめられた鉄の輪が引っ張られて首が苦しかった。腕は折れて変な方向に曲がっていて足は動きそうになかった。吐血が止まらなくなってきて視界が歪む。限界が近いことはわかっている。

 

ギィイィイ

白い服の女性が鉄格子を力ずくでこじ開ける

その隙間から龍田さんが入って来て

バキィーン

薙刀で鎖を叩き斬った。

「ごめんなさいね。待たせちゃった。」

胸に抱かれてその声を聴いた瞬間、涙が溢れた。

毛布にくるまれて龍田さんに横抱きされて独房を出た。

 

横殴りの雨と空を駆ける稲妻、響く風と波の音。

脅える私を少し強めに抱き、優しく撫でながら何度も何度も耳元で〝大丈夫〟という優しい声が温かい体温と鼓動が私を暖め、ぬくもりが私を包んでいった。

そのまま私は眠りについた。

それまで感じたことがないほどのあんしんかんとぬくもりを感じながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

……

「提督さんを初めてかっこいいって思ったかもしれないわ…。」

「すごい話なのです…。」

「いや、もうこれは一大スクープですよ!」

…ん?

「いつの間にいたんですか!?青葉さん!!」

ずっとここにいたみたいな空気を出してますけど!?

「いやぁ、なんかすごいお話をしていたので飛んできちゃいました。」



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青葉のインタビュー

「たまりませんねぇ…。」

アイスを食べながら談笑する駆逐艦の幸せそうな表情は心を浄化してくれる気がします。

それを写真に収めるのもまた一興。

ん?急がないと古鷹が来てしまいます!

新しい情報と写真の整理がまだなのに…!!

 

コンコン

 

「青葉~入るよ?」

ヤバい、もう来ちゃったんですか!?

 

ガチャ

 

「何してるの青葉?」

入り口で固まる古鷹さん。

確かに、目の前に駆逐艦の写真と他の盗撮写真が並んでいたら固まっちゃいますよね……。

 

「しゃ、写真の整理をしてます。」

 

「じゃあこれは?」

古鷹さんの指差す先には古鷹さんのお着替え中の写真。

 

「写真に決まってるじゃないですか。」

嘘じゃないですよ。撮るの大変だったし…。

 

「ダメじゃない!!盗撮は犯罪よ?」

腰に手を当てて言う古鷹さん。

「好きな写真持ってって良いですから今日はお許しください!」

「そういう問題じゃない…ん?」

古鷹さんの視線の先には友鶴ちゃんがアイスを食べてる写真。

「それは友鶴ちゃんっていう娘です。可愛いですよね。」

「うん。あの娘は可愛いよね。上目使いで〝お姉ちゃん〟なんて呼ばれたときの破壊力はすごかったよ。」

!?

「え?〝お姉ちゃん〟ですか…?ちょっと詳しくお話を聞きたいんですけど。」

 

「良いけど…。」

 

 

 

 

 

 

 

あの日は秘書官で夜遅くまで提督と仕事をした時のことだ。

提督はいつも夜遅くに仕事をほとんど終わらせて昼間はのんびりするという変な生活スタイルの人だということが青葉の情報提供によって明らかになったから夜中の3時まで仕事を手伝っていた。

提督にもう寝なさいって言われたので探照灯を着けながら部屋に戻ろうと歩いていると

 

〝キャアァァアア〟

ゴテンッ!!

 

!?

「え?!な、ななに!?」

医務室から悲鳴と物音が聞こえた。

…行かなきゃ。

正直いえばとても怖いが何か重大な問題だったら困る。

しかも医務室だ。何かあったのかもしれない。

 

コンコン

ドアを静かにノックする

ガチャ

 

「失礼しまーす。」

探照灯を使って部屋の中を照らす。

ベッドの上には誰もいない。

…ピトッピトッ

何かが蠢いている。

ハァ,ハァ

耳を澄ませば微かに呼吸音が聞こえる。

「誰がいるんですか?」

…誰かがいる。

「お姉ちゃん?」

ベッドの横の床に倒れている少女がいた。

「助けて…。」

 

電気をつけて見ると、

彼女の体には包帯やギブスが巻かれていて自力では立てないみたいだ。

「ベッドから落っこちたの?」

目にも包帯が巻かれていて見えていないようだからきっと私と彼女の姉(?)を間違えているのだろう。

「うん。怖い夢をみて飛び起きたら落っこちちゃった。」

「ベッドに戻してあげるよ。自力じゃ無理っぽいし。」

「おねがいします。」

軽!?軽すぎてビックリした。

布団をかけ直してあげて…これでよし。

「お休みなさい。」

「お休み…あのさ、また来てくれない?」

「いいよ」

という約束をしてその夜は別れた。

 

 

次の日、

「古鷹さん、ちょっと良いかしら?」

龍田さんが来た。

「な、なんですか?」

「昨日、友鶴ちゃんを助けてくれてありがとね。

ただ、あなたのことを千鳥っていう友鶴ちゃんのお姉ちゃんと間違えちゃっているみたいなの。」

…千鳥?

誰?

「誤解は早いうちに解いた方がいいですよね…。」

「ごめんなさいね?」

 

 

 

 

この後、誤解は解けたのに何故か時々姉呼びされることがある。

 

 

 

 

 

 

 




水雷艇千鳥は敵の潜水艦によって沈められましたが、何故か敵の潜水艦は千鳥を重巡古鷹だと間違えたらしいです。
そんなところから引っ張って見ました。


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体調不良

「う、ううっ。」

朝起きたら身体が焼けるように熱く、

身体が思うように動かない。

その上、いつもの熱とは違う感覚でなんだか吐き気までする。

これは…早く明石さんのところに行かないと厄介なことになる。

薬が切れる前にもらっておけばよかったのに…。

「最悪…」

ベッドから充電器までは距離があり携帯電話が取れない。提督やお母さん達に伝えなきゃなのに…。

「仕方ない…。」

ゆっくりと身体を起こし歩こうとした瞬間ベッドから転落した。やっぱり今回は不味いほうらしい。

取り敢えず提督に伝えなきゃ。四つん這いのまま進む。

「取り敢えず…電話の方が良い感じですかね。」

プルルルル、プルルルル

「はい、もし(テイトクゥ~!!!!…」

ガシャン…ブツッ…。

…。

……。

ついてないな。

おそらく、金剛さんが青葉さんの記事で暴走して提督に飛び付いたか何かした拍子に電話が壊れてしまったってところでしょうか。

はぁ、なんかすごく不運だ…。

お母さんも瑞鳳ちゃんって人と卵焼きつくる予定があるらしいし……取り敢えず明石さん呼ばなきゃ

プルルルル、プルルルル……。

<ただいま電話に出ることが出来ません>

…。

……。

まぁ、そんな日もあるんだろうね。

そんな日が私の命日になるんだろうけどね。

たぶんあの人は工廠にいるかな…。

でも、工廠までの道の途中で冷たくなって動かなくなるのは嫌だな…でもまぁ仕方ない頑張ろう…。

 

 

携帯電話をパジャマのポッケに仕舞い込んで立ち上がる。んぅう…なんかグワングワンしてる…しかし、諦めるわけにはいかない。

ゆっくりと部屋の壁を伝って歩く。

息が上がり、汗が滲むけど気にせずに歩く。

「つ、つらい…。」

だんだん症状も悪化してる。腕はビール瓶のように重たいし足は上がらなくなってきている。

ドアを開けて…転げながらも部屋から出る。

「…痛い。」

転んだ拍子に携帯電話がポッケから出ちゃった…。

ん?携帯電話…?

 

 

ーいつでもこの長門に電話してくれて構わんぞ?

…。

そうだ長門さんがいた。

プルルルル、プルル…ガチャッ!

「こちら長門だ。」

…よかった。

「もしもし、友鶴です。今、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、大丈夫だ。どうしたんだ?」

 

「ちょっと助けてほしいんです。」

 

 

 

 

 

 

 

ーやっぱり駆逐艦はかわいいな…。

「ん?電話か…。」

駆逐艦ウォッチングを中止して

電話を見ると〝友鶴〟と表示されていた。

…ん?

友鶴ちゃん!?

「こちら長門だ。」

珍しい、何かあったんだろうか

「もしもし、友鶴です。今、大丈夫ですか?」

この長門いつでも大丈夫だぞ?

「あぁ、大丈夫だ。」

 

「ちょっと助けてほしいんです。」

これはかなりしんどそうな声だな…。

「わかった…何処に行けば良い?」

 

「私の部屋まで来て頂けますか?」




駆逐艦ウォッチングとは…
遊んでいる駆逐艦達を遠くからバレないように観察することである。主にロリコ…戦艦に人気のスポーツである。


ヤバいなネタが切れてきた…。




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体調不良2

「大丈夫か!?」

駆け付けると友鶴ちゃんが床に倒れていた。

「は…い大丈…夫です。」

息が荒くて本当につらそうだ。

「工…廠の明石さ…んに薬をもらっ「わかった!私に任せろ!!」…。」

早く連れて行ってやらねば…

「少し揺れるが我慢してくれ。」

ただ、今日は明石は出張だ。

ならば、やることは1つだな…。

 

 

私は全力で走った。

そしてドアを蹴破り叫ぶ。

「夕張ぃ!!!」

妖精さん達がビックリしてこっちを見ているが気にしない。

「はい!??なんでしょうか!?」

明石と一緒に本部から派遣されて一緒に工尚に入り浸っているこいつなら何とかできるかもしれない。

「薬、持ってないか?友鶴が死にそうなんだ!」

早く出せ!

「え?あ、はい!えっとぉ………これです!!」

〝対拒絶反応用〟と書かれた袋が出てきた。

そして、夕張が注射器を持ってきて

「え~と、これを打ちまして…」

細い腕に針が刺し、薬剤を注入した。

「…っ!」

痛かったのかちょっと涙目になる友鶴。

「ごめんなさい外しました!!」

どうやら血管に上手く刺さらなかったらしい。

「…っ!」

……

………。

「ごめんなさい!次こそ、次こそは…「夕張、いいから早く入れてやれ」…。」

まったく…5回目だぞ?5回目。

「……っ!」

もう友鶴ちゃん半泣きだし…。

「ふぅ…で、後はえ~と…これとこれとこれですね。

ただ、さっきの注射とこの薬はよく効くのですが副作用で筋肉が弛緩してしまうってことを承知しといて下さい。」

「は…い…。」

これは早く寝かせてやらなければダメだな

でも、これはこれでかわい「それと、ドアの修繕費、後で請求しますからね!」え”?

「あぁ、窓はいいんだな「窓もです!あとちょっとで死ぬところだったんですからね!!死因がドアになるところだったんですからね!!」…。」

…不味いな。

金欠なんだよなぁ…奮発して良い双眼鏡を買おうとしたら意外と高額だったのに…ついつい買ってしまったのが失敗だったな。まぁ、陸奥に借りるか。

「そんな事より、お風呂とかってダメか?」

そうすれば合法的に裸が拝めるぞグヘヘ…

「うーん、余りお勧め出来ませんね。

お風呂とかって意外と体力を消耗するので。

そうですね…体を拭いたりするぐらいで良いと思います。」

「そうか…食事は?」

危ない危ない、想像しただけで鼻血が出そうだった。

「柔らかくて食べやすい物が良いですかね。

咀嚼する力も落ちますし、飲み込む力も落ちますから」

ん?これなら、口移ししても怒られないぞ!

やったぁ!!

「それじゃ、部屋に戻して来る。ありがとな、夕張。」




ながもん暴走中です
駆逐艦の皆さんと、一部の軽空母の皆さんは気を付けてください!


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母とながもん

「んぅ…?」

目が覚めたらベッドの上にいた。

そして、何故か頬を紅くした長門さんが立っている。

汗を拭おうとしても身体が重くてまともに動かない…。

あぁ、あの薬のせいですね。

「大丈夫か?友鶴。」

心配そうに聞く長門さん。

「さっきはありがとうございました。」

長門さんの目を見ながらいう。

「なに、気にするな。あれくらいどうってことない。」

長門さんの顔が何て言うか紅いし、何て言うかちょっと不気味。

「そんなことより…その様子だと自力では困難だろうから汗を拭いてやろう。」

え?

「なに、気にするな。」

そう言いながらボタンを次々に外す長門さん。

「それにしてもかわいいな(ボソッ」

え?ちょっ!目が完全におかしいって!!

なんか目覚めてるよこの人!!

ガチャッ!

「大丈夫?友鶴ちゃん!」

ドアから入って来たのはお母さん。

凍る空気。

「…長門さん、何してるんですか?」

ジト目でいうお母さん。

「あ、これはだな…その、汗を拭こ「ワイセツですか?」…。」

……。

「汗を拭こ「ワイセツですか?」」

……

………。

まぁ、女の子の服をはだけさせて鼻息を荒くして頬を染めていればそうなりますよね。

「わ、私はやましいことなど…!」

必死に否定する長門さん。

「友鶴ちゃん、大丈夫だった?」

必死に否定する長門さんを完全に無視。

「大丈夫です。長門さんが私を助けてくれましたし、薬ももらえましたから。」

「あ、そうだったんですか…誤解しちゃってごめんなさいね、長門さん。」

「わかってくれればそれでいい。」

ホッとした表情でいう長門さん。

「ただ、提督が呼んでましたよ?何でも工廠のドアで敵艦沈めるのは止めろだとか…なんかよくわからないことをいってましたけど…。」

え?ドアで敵をやっつける?

「わかった…すぐにいってくる。」

とても残念そうな顔で出ていく長門さん。

なんかちょっとかわいそう。

「汗、拭きますよ?悪化する前に。」

そう言いながら服を脱がし始めるお母さん。

「お願いします。…っ。」

お母さんの手がひんやりしてて気持ちいい。

柔らかくて肌触りのよいタオルが不快な感覚を拭いとっていく。

「これ…お着替えね。」

ん?これって…。

「お母さんの着物?」

 

「お揃いです。着物ってサイズの調整ができるっていう特長があるので大丈夫だと思ったの。ただ、さすがに袴は無理そうですね…。」

う~ん、確かにそれは仕方ないことです。

「どうですか?似合ってますか?」

お母さんに着せてもらってちょっと嬉しい。

実は、初めて着物を着たのである。

「似合ってますし、かわいいですよ。」

そう言って頭を撫でるお母さん。

だんだんと目を開けているのが辛くなってきて

私の意識は遠くへと飛んでいった。

 

 

 

 




イ級「ホントだって!ドアが飛んできたんですよ!〝工尚〟って書いてあるやつが!!!」


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第六駆逐隊のお見舞い

「…んぐぅ!?」

突如、言葉に困るような衝撃と痛みがお腹に走った。

目を覚ますと目の前には見慣れた顔があった。

「い、電ちゃん?病人に対してねダイビングベッドはいけないよ?」

最近、慣れては来たけれどやっぱり痛い。

「はわわわ!大丈夫なのです?」

慌ててる電ちゃん。

何でこの子はこんなに転ぶんだろうか。

「まぁ、一応大丈夫だけどね。」

相変わらず殺風景なこの部屋に転ぶ要素は見当たらない

「大丈夫?友鶴ちゃん」

可愛くブカブカの白衣を来て来た雷ちゃん。

「明石さんの治療とお母さんの看病のお陰で1日寝たらだいぶ良くなってきたから

たぶん、あとちょっとで復活できると思う。」

そんな事より…あのドアから覗いてる人達は誰?

それと、

「何で自然な流れで服を脱がされてるの私?

それと、今回はオムツ要らないよ?」

駆逐艦がそんなにオムツ買ってていいの?

店員さんメチャメチャ怪しむよ?

「オムツ…要らないの?」

残念そうに言う雷ちゃん。

逆に何でそんなに私はオムツを着けなきゃダメなの?

「あの…すごく気になるんだけど良い?

ドアから覗いてる人達って誰?」

言った瞬間に引っ込んだけどスカート挟まってるし…

転んだ音とか“キャア!?”とか“ウゥ…イタイナ。”とか聞こえてくるし…。

「たぶん、暁ちゃんと響ちゃんなのです。」

暁ちゃんと響ちゃん?

「私たちのお姉ちゃん達よ!ちょっと待っててね捕まえて来るから!」

あ、姉妹なんだ…

「いや、捕まえて来なくても良いよ…って行っちゃったし。」

やっぱり雷電コンビは似てるから暁ちゃんと響ちゃんもそっくりなのかな?

「捕まえて来た…というよりは助けて来たわ!」

そこにはスカートを押さえて顔を紅くした黒髪の女の子とそれをさりげなく隠してあげようとする白髪の女の子がたっていた。

「あ、暁よ!一人前のレディーとして扱ってよね!!」

黒髪の方が暁ちゃん

「響だよ。その活躍から不死鳥の通り名もあるよ。」

白髪の方が響ちゃんね…。

「わ、私は「この子は千鳥型水雷艇の友鶴ちゃんよ!」…。」

台詞とられちゃった…まぁ、そんな事より心配なのは「スカート、縫いましょうか?」

大きく破けちゃったみたいだし…

何より、女の子がそれじゃダメでしょ。

誰にとは言わないけど襲われるよ?たぶん。

「えぇ、お願いするわ。」

 

「ちょっと待っててね…。」

始めようと針に糸を通そうとすると、

「友鶴ちゃん、調子が良くないんだからそこは私がやるわ。」

雷ちゃん、できるんだ…。

「さすが雷、すさまじいお艦スキル。」

そこって女子力じゃないの?

「わぁ~、お姉ちゃんすごいのです!」

皆の視線が雷ちゃんに向いてるうちに

赤面してうつむいている暁ちゃんにスカートを渡す。

さすがに下、パンツだけじゃ恥ずかしいよね…。

(ありがとう。)

小声で言う暁ちゃん。

(どういたしまして。)

同じように小声で返す私。

(それと…これ。電達が貴女の部屋があんまりにも殺風景だって言ってたから…あげるわ。)

そう言って小さなサボテンをくれた。

(ありがとう。大切にするね。)

そう言うと暁ちゃんは胸を張りつつ

(ま、レディーのたしなみの1つよ。)

 

 

 

その頭を無性に撫でたくなったのは秘密です。




明石「ごめんなさい!
朝日さんの治療に行ってたんです。」
友鶴「何で朝日さん?」
明石「46㎝砲を無理矢理もって主に腰を大破しちゃったらしいんです。」
友鶴(それってただのギックリ腰では…?)


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プリン輸送

「これでもう大丈夫だけど、病み上がりなんだから無茶はしないこと…まぁ、貴女の場合はしなそうだけどね。」

そう言って部屋から出ていく明石さん。

「ありがとうございました!」

一時は本当に死ぬかと思ったけど死ななくてすんだ。

かわいいサボテンが日の光を受けて綺麗な緑色に見えて

何だか今日は体が軽くて…健康って良いですね。

一応、お母さんと提督に完治したというメールを打つ。

そして、サボテンのお礼にプリンを持って暁型の部屋まで行きたいと思う。

でも、正直言えば駆逐艦寮は少し苦手。

知らない人が怖いのにあれだけ人数がいると

嫌でも遭遇しちゃう。

それに、私が怖がったら相手の子に不快な思いをさせてしまうから。

でも、慣れない限りはきっと怖がりなままだろうし…。

覚悟を決めて行きたいと思います。

 

静かにゆっくりと進んでいく。

大きいプリンを4つも運ぶのは大変なので

妖精さん達も総動員して運ぶ。

このまま順調に進んでいくことができれば…!

ドドドドドド

!?

何の音!?

「待てぇー!!!」

ドドド

「おーそーいー!」

え?

凄い勢いで走り抜ける島風と…日向さん!?

「私の瑞雲を返せぇー!!!!!」

瑞雲?瑞雲のためにそこまでするの?

そもそも、瑞雲って何?

「ヒィー!?」

え?ちょっ!待って!?

「何でこっちに来るのぉ!?」

急いで壁に寄ってプリンをしっかりとホールドして…。

ビューーン

ビューーーン

目の前を通りすぎる二人に残像があったのはきっと病み上がりだからだろう。

戦艦って基本的に鈍足だよね?

速いのは英国生まれの帰国子女ぐらいだよね?

 

「あ、友鶴ちゃんなのです!どうしたのです?

鳩が12.7㎝砲を食らったような顔したまま固まって…

おーい!なのです。放心状態なのです?」

……。

「あ、ごめん電ちゃん。ちょっと放心してた。」

気が付いたら目の前に電ちゃんがいた。

「大丈夫なのです?」

心配そうに言う電ちゃん。

「うん、大丈夫だよ。

ちょっとビックリしちゃっただけだから。」

本当は全然ちょっとどころじゃなかったんだけどね?

ただ、ちょっと腕が疲れて来た。急いで運ばなきゃ。

「ちょっと重そうなので手伝うのです。」

察してくれたのか私の持っていたプリンを持ってくれる電ちゃん。

コンコン

「友鶴です。入っても良いですか?」

暁型のドアをノックすると…

ガチャッ

「よく来たわねぇ!病み上がりなのに凄いわ!!」

なぜか雷ちゃんに頭を撫でられ、

「ただ、レディーと言うか女の子なんだから身だしなみぐらいちゃんとした方が良いわよ?そうだ、一緒にお風呂に行って来ましょ!」

暁ちゃんが私の直し忘れた寝癖を見ながら提案して

「「「賛成!(なのです!)」」」

ルンルンでお風呂に行くことになっちゃった。

ヤバイ…ピンチです。

 

 




感想、評価お待ちしてます!

これからもよろしくお願いいたします!


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お風呂への道

「お風呂…ねぇ。」

困ったな…どうしよう。

断るのも悪いしだからと言って私の汚い身体を晒すわけにはいかないでしょう。

「ダメ?」そう聞く暁ちゃんには悪いけど…暁ちゃんの綺麗な目を汚したくない。それにこの時間の入渠場は人が多いと思う。

「ごめんね、またこんどにしてくれないかな…」

素直に謝る。それしかないだろう。

出撃してきて疲れている人も多いのに

こんなに酷い身体の水雷艇が入って来たら

大抵の人は不快な気持ちになると思うし、

私自身もそんな思いをさせたくないし、

こんな身体を晒したくなんてない。

「じゃあ、いつもはどのタイミングで入るの?」

そりゃあ…

「人が少ない早朝とか深夜とかかな。」

ちなみにお風呂の時の霧島さんは目付きが悪くて恐かった。多分、本人にはその気はなかったんだろうけど裏社会の住人に見えたのは多分私だけじゃなかったと思う。

ついでに言うと霧島さんはド近眼らしくてその時、

私が誰だかもわかってなかったらしい。

私にしては運が良かったということだけど今回ばかりは…それに余り教育にもよろしくないこの汚い身体を純粋な駆逐艦達に見せるわけにはいかない。

「わかったわ。今夜にしましょう。」

…え?

「いや、だから暁ちゃ「賛成なのです!」…。」

ど、どうしよう?!

「ちょっと二人とも、友鶴ちゃんは身体の傷を気にして言ってるのよ?」

さすがは雷ちゃん!

「一人前のレディーは全然そんなの気にしないわ!」

「私も気にしない。」

暁ちゃん、響ちゃん…。

気持ちは本当に嬉しいんだけどね…

「本当に?私、最初の頃にいた睦月型の子に怖がられちゃったんだよ?〝ぴゃあ!?お化けだぴょん!!〟って…まぁ、小さい子には刺激が強すぎたのかもしれないけど…。」

あれはさすがに傷ついたなぁ。

まぁ、お互い悪気はなかったんだろうけど…。

しかもその後で鎮守府内では怪談話として語られることになったし…。

「「ちょっとウサギ狩りして来ていいかしら(なのです)?」」

ちょ!?その錨どこから出したの!?

「ダメです!」

気持ちはありがたいけど暴力はダメです!

「「「え?」」」

怖いから!笑ってるつもりだろうけど割りと目がマジだからね!?

「響ちゃん!どうにかし「シベリア送りだ…。」…。」

シベリア!?そこまでしちゃうの!?

っていうか君、いつからスターリンになったの!?

そもそも君、まだ改二じゃないし!

「大丈夫、大丈夫だから!

私、一緒にお風呂行けますから!」

どうかその錨(怒り)をお納め下さい!!

 

 

 

 

 

 

 

こうしてウサギ狩りは中止となった。




お待たせしました!
ごめんなさい!




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第6駆逐隊とお風呂

「そろそろ…その、お風呂に行きますか?」

本当はもっと遅い時間が良かったのだけど…

暁ちゃんと電ちゃんがすごく眠たそうでだんだんかわいそうになって来てしまいました。

「えぇ…そう…ね。レディーは夜更かしなんてしないもの。」

すごく眠たそうだなぁ…大丈夫かな?

お風呂で溺死とかシャレにならないからね?

ちなみにお風呂でこの前のぼせてしまって溺れそうになってしまい、龍田さんに助けてもらいました。

「暁も気を付けなよ…この前、龍田さんと一緒にお風呂に入って溺れた人がいるらしいからね。」

!?

何で響ちゃんがそれを知ってるの!?

もしかして青葉さんがまたへんなことしたの?

ん?ちょっと待て…

あ、天龍さんのことでした。

この前、提督さんと一緒に演習してボロボロに負けた時に疲れ過ぎて溺れたらしい。

まったく…うちの提督は何をしてるんだろうか。

大本営の大和型戦艦に演習で勝ったり自称世界水準超えの軽巡をボコったり不知火さんを戦艦だと思っていたり(その後めちゃめちゃ怒られていた)…。

 

「は、はわわわわ…!!!」

突然慌て出す電ちゃん。

「ど、どうしたの?」

「友鶴ちゃんは病み上がりなのです!

夜更かししちゃダメなのです!!」

…。

……。

「「「…。」」」

沈黙。

「「ヤバイじゃない!」」

え?

「大丈夫だよ?アレは病気とかそういうんじゃ「みんな、急ぐわよ!」…。」

暁ちゃん、話は最後まで聞いて欲しい。

「「「了解」なのです」」

え?

ちょ!?

「何で私、おんぶされてるの?!響ちゃん!?」

そして無言で走り出す響ちゃん。

私、着替えも何も持ってないよ!!

「響ちゃん待って!!私、着替持ってないよ!」

「電が何とかするさ。」

いや、すました顔で言うけど君、妹に丸投げしたでしょ!

「怖い怖い怖い怖い…!」

凄い勢いで走られているので怖い。

しがみついてないと落ちてしまいそう。

「フフ…不死鳥の名は伊達じゃない。」

不死鳥でもはらしょーでも何でも良いけど

取り敢えずスピード落としてください!

夜だからか響ちゃんのテンション高いし

チラッと後ろで転んでる電ちゃん見えたし!

「響ぃ~!ずるいじゃない!!」

「私もおんぶとかしたいわ!」

暁ちゃんと雷ちゃんも凄い勢いで走ってくる。

最後尾は電ちゃん。

 

 

脱衣室に入った瞬間に電ちゃんに追突されるという悲劇も起きたけど何とか生きてたどり着きました。

 

 

 

ただ…どうしよう……。8つの目が私を見つめている。

恥ずかしいし…これじゃいつもみたいにタオルを巻けない。「あの、あまりじっくり見ないでください…。」

そう言うとバッっと目を反らす4姉妹。

その隙に急いで脱いで素早くタオルを巻く。

このまま皆が来る前に体を洗って湯船に浸かってしまえば醜い身体を晒さなくてすむ。

 

「行かせないよ」

!?

「え?」

肩を抑えられて振り向けば響ちゃんの姿があった。

「一緒に行くって言ったはずだよ?」

ちょっと怒ってますねこれ…。

「ごめん…。」

ただ、白いお子さまパンツで言われてもね…。

結局タオル1枚のままでみんなを待つことになった。

「お待たせ~。」

「もう、速いよぉ。」

「待ってなのです!」

……。

逃げ場がない。

でも、たぶんだけど…電ちゃんも雷ちゃんも時々一緒に入るし大丈夫だと思う。認めたくないけど結局私は嫌われるのが怖かっただけなんだ。

 

 

「背中流してあげるわ。」

そう言いながら暁ちゃんはゆっくりと私のタオルをとった。身体中に刻まれた傷があらわになり、暁ちゃんは一瞬ビクッとしたけど優しく私の背中を洗ってくれた。

「痛くない?」

「はい、大丈夫です。その…気持ち悪くないですか?」

「全然大丈夫よ。(この傷つけた連中…海に沈めて魚のエサにでもしてやりたいわ。)ボソッ」

「(文句なしにシベリアだね)ボソッ」

!?

なんか凄く怖い言葉が後ろから聞こえたような…

電ちゃん震えてるし雷ちゃんなんて電ちゃん抱き締めてるし…。今後、怒らせないように気をつけよう。

 

 

 

 

 

その後何故か皆に抱っこされながらお風呂に入った。少し恥ずかしかったけど嬉しかった。




ただ、着替えとして用意してあったのが暁ちゃんがレディーを意識して(足柄さんの読んでいた雑誌を参考に)選んだ際どいもので…結局、干してあった司令官のバスローブを上から着ることになりました。






遅れてごめんなさい。
これからもよろしくお願いします。


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呼び出し

「おはよう、あ、そう言えば司令官が呼んでたわよ!」

雷ちゃんの大きな声で起こされる。

こんな朝早くに?まだ…ん?あれ!?もう10:00なの!?

「ありがとう!そして、行ってきま…「ダメよ!ちゃんと朝ご飯食べなきゃダメじゃない!」…。」

雷ちゃんとご飯を食べたのちお母さんと提督にメールを<ごめんなさい寝坊してしまいました!>と送る。

電ちゃんと暁ちゃん、響ちゃんは先に執務室に行ってるらしい。

「私達も急がないとね」そう言いながら私に暁型の制服を差し出す雷ちゃん。

なぜ?

「これ、私が着るの?」

「ふふふ、私達とお揃いよ。

それにあなた自分の制服持ってきてないじゃない。バスローブ1枚は流石に不味いわ。」

あ、そう言えばそうだった。

顔が真っ赤になってるのが自分でもわかる。

そう、暁ちゃんいわく〝レディーの下着〟を着させられて際どいパジャマと提督のバスローブのうちどっちを着るかで選ばされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

「友鶴です。失礼します。」

「雷、入るわよ!」

二人で執務室に入る。無駄に大きくて立派なドアが少し威圧感を出してしまっているけれどこれは扶桑型の二人のためらしい。ちなみに戦艦という割には提督はそんなに大きくない(私からしてみれば充分大きいと思うけど)。

 

ドアを開けると3人にマッサージされて凄く嬉しそうな顔をしている提督が。

「あ、来た来た。よく眠れた?」

あくびをしながら尋ねて来る提督。

「はい、快眠でした。ただ、その感じだと提督はまた徹夜で書類を片付けていたようですね。あまり無理は行けませんよ?」

「本当にまったく…心配するじゃない!」

「一人前のレディーは健康にも気を使うものなのよ?」

「まったくだ。」

「無理はダメなのです。」

口々に提督を心配する言葉を言うがまったく効いていないようだ。きっと頭の中だと〝友鶴…あんただけちは言われたくないよ〟とか思ってるんだろう。

「まぁ、前向きに検討するよ。いや、割りと本気で!だからみんなそんな目で見ないで!」

……。

………。

お姉ちゃん、今日も私の鎮守府は平和です。

 

 

 

 

「友鶴ちゃんは知ってるだろうけど、こんど友鶴ちゃんと一緒に大本営いかなきゃなのよ。だから、私がいなくても大丈夫なように駆逐艦の皆をまとめてほしいの。」

そう、定期検診のような感じで私は定期的に大本営で検診を受ける。ちなみに提督は身体にガタが来てないかどうか調べてもらいに行くらしい。

「この雷様達に任せなさい!(なのです!)」

「ま、一人前のレディーである私が出来ないことなんてないからね!」

「了解だ。」

駆逐艦のまとめ役は第六駆逐隊になることが多い。古参である電ちゃんや雷ちゃんがなんか良い感じでまとめてくれる。ちなみに軽巡は天龍姉妹(特に妹)や神通(覚醒)さんがまとめたり、駆逐艦の世話を焼いたりする。空母はやっぱりお母さんがまとめるし、戦艦は長門さんがまとめることが多い。

 

「あの…質問、良いですか?」

一応、1つ聞きたいことがある。

「なに?」

「随伴艦って誰になりますか?」

随伴するのは誰なのか、どんな人なのか…。ちなみに前回は叢雲さんでした。

「特に考えてないかなぁ。

…時雨あたりをつれていこうかな?」

あ、これ完全に提督の気まぐれで決まるパターンだ。

 

 

結局誰になるんだろう…。



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大本営1

「友鶴ちゃん、お久し振り~!元気だった?」

大本営の明石さんは相変わらず元気そう。まぁ、私はいつも通りなんですけどね。

「はい、大丈夫でした。」

そう言うと

「いやぁ、あなたの大丈夫は信用出来ないからね?」

まぁ、確かにそれは時雨ちゃんにも言われてしまったことですから反論できません。

「なんか最近、調子悪いところとか気になることとかある?」

「いや、特には…あ、そう言えば少し太ってしまったかもしれません。」

この前、体重計に乗ったら少し体重が増えてしまっていた。艦娘はあまり痩せたり太ったりすることはないはずなのに…。

「たぶん、ちゃんとご飯食べるようになったからだと思うよ?それに前回よりもだいぶ良くなってるし、心配しなくても大丈夫だよ。でも、まだまだ軽すぎるし…これからも頑張ろうか。」

そっか…。確かにご飯はちゃんと食べてる。お母さんや雷電姉妹、時雨ちゃん達と一緒にご飯を食べることが増えて…今度、ちゃんとお礼言わなきゃだね。

「はい。」

レントゲン撮ったり、体重計ったり、よく分からない機械に入れられたり…なんだかんだ言って一日かかってしまうこの検診は疲れてしまう。検診を終えた後、演習で大和型を倒す提督はいったい……。

 

「んじゃ、今日はここまでね。」

明石さんはホントにいつも元気だなぁ…

「ありがとうございました。」

仕上げにマッサージを受けて身体検査は終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここのご飯も美味しいんだね。」

休憩に時雨ちゃんと一緒にご飯を食べる。

「まぁ、さすがは大本営の間宮さんだよね。」

勿論、私たちの鎮守府の間宮さんも美味しい物を作ってくれるが大本営の間宮さんは更に上を行く。ただ、注意点をあげるとなるとサイズが少し大きめなのだ。そして会員証を見せると(一部を除き)ちょっと安くなる。

「そういえば、明日はどうするのかい?」

明日…ねぇ。

「一応、艤装の点検と検査それと…新兵装の試験かな?それが異常なく終われば帰れると思う…。」

問題なく終われば良いのだけど…。大丈夫だろうか?前回も引っ掛かったので心配になってくる

「何で弱気になってるんだい?あれだけ実戦でも演習でも動けていたんだ、異常があるわけないとおもうんだけど?」

「それもそうだよね、大丈夫だよね?まぁ、これで提督が今日の検査で引っかかっていたら元も子もないんだけどね?それと…時雨ちゃんありがとう。」私は珍しく今回の検査を1回で通ることが出来た。これは紛れもなく時雨ちゃんやお母さん達のおかげである。

「?」

いまいち理解できていないのか聞こえなかったのか首をかしげる時雨ちゃんに何でもないよと言う。あぁ、なんて普通で幸せなんだろう。



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大本営2

「艤装、問題なし!ただ…実はこの新式の弾を使ってほしくてねぇ。」

目をギラギラさせながら私の艤装を出してきた夕張さんは紫色の弾薬を持ちながら狂ったように笑っている。目に理性というものを感じられないからこの人は怖い。時雨ちゃんも固まっちゃってるし…五月雨ちゃんが見たら泣いちゃうと思う。実際、私もこの人と初対面の時は怖くて提督の後ろに隠れて震えていた覚えがある。

「け、検査、ありがとうございます。ところでその弾、どんな弾なんですか?」

一応、説明くらい聞いておきたい。前回、撃ってみたら閃光弾で観測してた全員(私も含め)が倒れたことは強烈に覚えている。

「よくぞ聞いてくれました!これは濃縮した比叡カレーエキスを磯風料理にブレンドして毒性を高めた物が入っていまして…なるべくそれを広範囲に撒き散らし、敵を一気に殲滅する弾ですね」

それ…ある意味化学兵器だよね?後、時雨ちゃん、なんかすごい顔してるし、それ…女の子のして良い顔じゃないよ?

「時雨ちゃん、大丈夫ですか?」

ちなみに私が撃つ〝駆逐艦用の三式弾〟などはこの人達の作品です。

「大丈夫…取り敢えずここの夕張さんがイカれてることはわかったよ。」

何処か諦めたように言う時雨ちゃん。まぁ、ここの夕張さん達がマッドなのは今に始まったことではないし、もう手遅れなのは言うまでもない事実だから仕方ないけど…。

「か、化学兵器は良くないと思います…海、汚れちゃいますし思いっきり〝毒〟とか言ってますし…。」

……。

「そっか…それは残念だな…武装比率20%越えというロマンを実現する君でもダメなのか…。」

いや、別に好きで重たくしてる訳じゃないのですが…。それにその武器…ちょっと、いやかなり比叡さん達に失礼なような気がする……。それに後で霧島さんとかにバレたらタダではすまなそうだ(ここの霧島さんは何故か恐ろしいほどに近接戦が得意)。

「まぁ、艤装のほうは特に弄った所はあんまりないし大丈夫だろうけど後で感想聞かせてね?」

「「ありがとうございました。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば次はどこに行くの?」

 

「提督が一緒に出掛けるって言っていたので合流のために戦艦敷島のレプリカがあるところまで行きます。」

大本営の敷地内のいろんなところに飾ってある歴代の連合艦隊旗艦のレプリカ。その中の1つに敷島もきちんと入っている。

「どこにあるかわかってるよね?さっきから同じ場所を行ったり来たりしてるけど…。」

……。

「おかしいですね…確かここだと思ったのですが。」

目の前にあるのは厳ついおじさんの像…しかも【榎本武揚】と書いてある…。

諦めて提督をここに呼んだ方が早そうです…。




更新遅くてごめんなさい。
次回からもよろしくお願いいたします。



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大本営3

「あれ、君たちどうしたの?」

白い軍服のお兄さんが歩いてきた。金髪のロン毛で何というか凄くチャラい…。

「僕さぁ、まだ新人でね?ま、学校内でも優秀だし、親父も偉いからぁ身分と金だけはたくさんあんだわ…なぁ、君ら艦娘だろ?暇してるんなら僕と一緒に遊ぼうよ。」

「ボクたちは提督を待っているのでそういう訳には行かないんですよ。」

バッサリと切り捨てる時雨ちゃん。

「へぇ…何て言う提督なんだい?なぁに、許可を取ればいいんだろう?」

「敷島提督です。」

男の表情が消えて冷や汗をかいているのが嫌でもわかった。名前だけで脅えられるって提督は一体何者なのだろうか…。

「へ、へぇ…教官殿が今や提督でございますかぁ…。」

「そだよ。」

そうだったんだ…ん?

「「提督、いつの間に!?」」

いつの間にか男と私たちの間には提督が立っていて男の顔は真っ青になっていた

「きょ、教官殿…お早う御座います!」

悲鳴に近い声でそう言いながらガチガチになりながら海軍式の敬礼を決める男。

「君は、一体何をしているんだね?全く…ウチの娘が怖がってるじゃないか。誰彼構わずナンパしようとするんじゃないよ…それとも君はロリコンかい?」

「わ、私はただ博愛主義なだ「だまらっしゃい。」…」

 

その後、男は涙目になりながら何処かへ立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

時雨ちゃん付けといて良かったわ…友鶴ちゃん一人にしておくと不安だし、電ちゃん(未覚醒)とかだとお持ち帰りされかねないし…。時雨ちゃんはNOと言える駆逐艦だからね。無意識なのか時雨ちゃんの右腕に抱きついていた友鶴ちゃんが顔を真っ赤にして謝っている姿も可愛らしい…あれ?ちょっと私、ながもん病がうつった?可愛い物が好きで何が悪い!

「友鶴ちゃんの私服を買いに行こうと思うんだけど何処か希望のお店とかある?」

首を横に振る二人を見て考え込む…あまり人気のある所は得策ではない。友鶴ちゃんはタダでさえ方向音痴なのだ。となると知り合いのあの店がベストかしら。

「じゃあ、私の知り合いがやってるお店にしようか。」

あの店は主人の趣味からか様々なジャンルの服を揃えている。ちなみに鎮守府の売店にある服の一部もこの店から取り寄せている。一人前のレディーのお店は何でも揃っている物なんだとかどうとか…。

 

 

「いらっしゃいませ。敷島さん?お久し振りですね。」

出迎えたのは二代目の暁ちゃん。ロシア生まれの帰国子女(?)だ。夢は特Ⅲ型の暁ちゃんにお母さんと呼ばせること。

「お久し振り。早速で悪いけどこの子に似合う服と水着をよろしく。」

 

「はい、わかりました。んじゃ、ちょっとこっちにおいで?一人前のレディーが似合う服を持ってきてあげよう。」

流石は駆逐艦、速い速い。あっという間に暁ちゃんに手を引かれた友鶴ちゃんは店の奥へと消えて行った。

 

時々店の奥から聞こえる悲鳴とかは気にしてはいけない。

 

「さて、時雨ちゃんも服を選ぼうか…。」

「え、いいのかい?」

フフフ…これは勝負なんだよ。

「最近、服が減ってたり伸びてたりしたでしょ?」

え?という顔をする時雨ちゃん。

「何で知ってるの?」

不思議そうな顔をする時雨ちゃん。長門も手を出さないような悪事に手を染めた輩がいただなんて純粋なこの子に伝えていいんだろうか…しかし、これは言わねばなるまい。

「私、見ちゃったのよ…脱衣室で山城が貴女の服を脱ぐ所を……。」

「嘘でしょ?山城が山城がそんなことを…。」

残念ながら長門ではなかったわ。

 

「提督、ボクの分の服は山城の給料から引いといてほしいな。まったく…黙って持ってくなんて酷いじゃないか。」

あ、申請すれば持っていっていいのね。




感想、評価お待ちしてます!


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神通さんの演習Ⅰ

友鶴へ

 

お久しぶりです。

元気にしていましたか?

このところ気温の変化が激しくて私は風邪をひいてしまいました。この時期の風邪は長引く事が多いので気をつけてください。なんだか流行っているようなので大本営に行くときや買い物に行くときには特に注意が必要です。会えないと凄く心配になってしまいます。また姉妹全員が会える日が欲しいですね。

 

千鳥より

 

 

 

 

 

「はぁ…。」

お母さんや雷ちゃん達のおかげで風邪はひいてないのだけど体力がないからかバテてしまいました。なんだか食欲も湧きませんし、すぐに疲れてしまいます。

鏡越しに白い人影が見えたり金縛りにかかったり…。

やっぱり疲れているのでしょうか。

「う~ん…。」

手紙の返事の内容も思い浮かばない。

バテたとかあの人に知れたらとんでもない事になってしまいそうだし提督に買って頂いた新しい服を着て写真を撮るって言うのも恥ずかしい…。それに前回のように青葉さんに写真を撮ってもらうのも理由がありませんし…。

 

 

 

 

 

「友鶴さんいますか?」

誰だろう私のところに何か用があったのだろうか?

ガチャッ

手紙を急いで片付けてドアを開ける。

そこに立っていたのは満面の笑みを浮かべる神通さん。あの陽炎型の皆さんや戦艦の山城さんと不知火さんから〝鬼〟と恐れられている神通さんがこんな私に何の用があるのでしょうか…。

「私たちと一緒に演習しませんか?」

目が…目が笑ってない。

「わ、私なんかとですか?あの…その……「やりますか?」はい!」

何でこんなに怖いのだろうか…もしかして何か怒らせるような事を気付かないうちにやってしまったのだろうか…まったく覚えはないのだけど……。

「それではルールの説明をしますね。時間は無制限で駆逐艦もしくは水雷艇のみが参加可能で形式は6対6の殲滅戦でいいでしょうか。」

……

どうしよう…お母さんも提督も入れてはいけないとなると…。私と戦ってくれそうな人なんてそんなにいないかもしれない。

第六駆逐隊は遠征に行ってるから暁型のみんなはダメってことになる。なかなか厳しい事になりそうです。

 

取り敢えず時雨ちゃんから行こう。

「時雨ちゃん、今日のスケジュール空いてますか?実は神通さんに演習に誘われちゃって…。」

図書室にいた時雨ちゃんに声をかけて

「良いよ、ちょうど暇だったんだ付き合ってあげるよ。」

一人目を確保!

 

もう一人のほうは大丈夫だろうか

「若葉さん、今日はスケジュール空いてますか?

実は神通さんに演習に誘われちゃ「問題ない。むしろウェルカムだ。」

目を輝かせながらOKを出す若葉ちゃん。

「あの神通さんのだよ?」

「だから良いんじゃないか。あの神通さんだぞ?あの不知火でさえ鬼と恐れれた華の二水戦…想像しただけで興奮して来るぞ。」

ふ、二人目も確保…。

このメンバー大丈夫なのかなぁ……。




更新が不定期になってしまってすみません。

感想、評価お待ちしています!


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神通さんとの訓練後

「ぅ、うう…。」

全身が痛い上に貧血だからか気分も悪い。

結局、あの後六人集まることはなかったから演習ではなく訓練をすることになったのだ。

結局、私はウォーミングアップみたいなノリで言われたトラック20週(一周200メートル)をやって両足の脹ら脛を吊ってしまい激痛に襲われ、半分で許してもらったのだが、謎のロープ昇降訓練やその他諸々で全身の筋肉が崩壊してしまったのだ。

たぶん、最後まで残っていたのは若葉ちゃんのみだと思う。時雨ちゃんは途中で放送が入って早退したから若葉ちゃんのみが残ったのだ(私は気が付いたら医務室にいた)。

神通さんには悪いことしてしまったかもしれない。せっかく私の為にと演習(訓練)に誘ってくれたのに…私は期待に応えることもできなかったのだから。

手も足もプルプルしてしまっていて全然力が入らない。ちなみに龍田さんがあの後、神通さんを入渠場へと投げ込むという事件が起こったらしいけど聞かなかったことにしよう。

 

しかし、この一連の騒ぎで私は手紙の内容を貰うことができました。嘘を書くのは気が引けましたし…ちょうど良かったのかもしれません。

 

 

 

 

 

千鳥姉さんへ

 

 

お元気ですか?

私は幸い風邪をひくことはなかったのですが訓練をやり過ぎてしまって筋肉痛になってしまいました。

でも、たまには外に出て体を動かすことも大切だと思います。ただ、やり過ぎには気をつけないと大怪我をすることもあるので注意したほうが良さそうです。

 

またみんなで会いたいですね。

姉妹が遠く離れているのは私も少し寂しいです。

しかし、友達も何人かできたのでまだまだ頑張れる気がします。また会える日までお互い頑張りましょう!

 

 

友鶴より

 

 

 

 

「お見舞いに来たよ?」

見れば山城さんの服を来た時雨ちゃん。普段、黒い制服に見慣れているからか凄く新鮮な感じだ。

「ありがとう。まぁ、貧血と筋肉痛だからすぐによくなると思うんだけどね?」

倒れた時の状況などから原因は貧血だと診断された。今も少し気分が悪いけど、たぶん大丈夫だと思われる。あれを全部絶えた不知火さん達は凄いと思った。さすがは戦艦です。ん?

「あれ?そういえば、今回の訓練って私以外は駆逐艦だけですよね?どうして不知火さんが?」

 

「…いや、あの子も駆逐艦だよ?実際、確かにあの眼光は戦艦並みだけど陽炎型の二番艦だから。」

 

…ずっと戦艦だと思っていました。

 

「それと、若葉ちゃん無事ですか?」

 

「無事というか凄くキラキラしていたよ?〝キツかった。だが、悪くない〟とか言いながら。」

…。

……。

彼女を何かに目覚めさせてしまったような気がする。




感想、評価お待ちしています!


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停電

「いらっしゃいませ!」

 

青葉がいつもより良い笑顔で挨拶してきた。また新作が入ったんだろうか。

 

「今回の新作はなんだ?あぁ、駆逐艦もしくは水雷艇で頼む。とびっきりのやつをな。」

 

駆逐艦ウォッチングで自らの手で写真を狙うのもありだが、プロ(青葉)の写真には敵わない。

 

「いろいろありますよ。今回は珍しく若葉さんの写真が手に入りましたし、貴重な写真をいくつもご用意できました!」

 

若葉の写真…確かに貴重だな。この間、神通の訓練に参加して何故か良い笑顔でキラキラしてたからな。それはもう、滴り落ちる汗を舐めとりたい程にかわいいものだった。

ついでにあの訓練で友鶴が倒れたと聞いた時には慌てたが、幸い大事には至らなかった。しっかりお見舞に行ってリンゴをその場で絞るととても喜んでくれた。

 

「…長門さん、ちょっとヤバイ顔でしたけど大丈夫ですか?と、取り敢えず鼻血止めてください。」

 

「す、すまない。」

 

机に広げられた駆逐艦の生写真。

牛乳を飲んだ直後の白い髭のついた暁や、並んで眠っている雷電、夕張に甘える五月雨に卵焼きを焼いている瑞ほ…瑞鳳!?まぁ、かわいいから良いか。

 

「友鶴ちゃんのお写真も手に入っま…<ブッ!>あれ?!」

 

「停電…か?」

 

先程まで取引に集中していて気付かなかったが、外は大荒れでとんでもないことになっていた。

 

「まずい!部屋の窓があけっぱなしだぁ!!!」

 

文月の写真週刊誌を整理しようと部屋中に広げたままだったのをすっかり忘れていた。もう遅いかもしれないが、目も当てられない事態に陥る前にお文様を救出せねば!

 

 

「うぉおおおお!!!」

 

ドアを開くことも忘れて飛び出した。

 

「あぁ!?私のドアがぁ!?」

 

 

 

 

 

 

「…ん、停電か?って友鶴…怖がりすぎやろ。」

 

「だって…。」

 

<ウォオオオオ!!!>

 

<ガッシャアァン!!!>

 

「ひぃ!?」

 

絶対なにか聞こえました。何か壊れる音もしたし…凄い雄叫びでしたし…。

 

「友鶴、いいか?…この世で一番怖いのは竜飛さんがキレる事だけや。」

 

龍驤さんも酔っ払ってるし。

 

「龍驤さん…このくらいにしといた方が良いんじゃないんですか?だいぶ酔ってますよ?」

 

お母さんが止めても言うことを聞かない。そもそも竜飛さんって誰なのでしょうか…。

 

「友鶴ちゃん、先にお部屋に戻っても大丈夫よ?たぶん、匂いだけで酔いかけてるでしょうから。」

 

「はい…ちょっと気分が。」

 

お酒臭いのはちょっと苦手です。なんだか気持ち悪くなってしまいますし…。

 

「一人が怖ければ今から一分以内に外に出れば長門さんが走って来ますから長門さんとお部屋に戻れます。友鶴ちゃんの部屋の電気は付くでしょうから大丈夫です。」

 

長門さんが?

 

「竜飛さん、ついに未来予知まで始めおったか!」

 

「え?竜飛さ「気にしなくても大丈夫ですよ?」…。」

 

一瞬、薄暗い中でお母さんの目に物騒な光が灯った気がした。

 

その後、長門さんによって無事に部屋まで帰ることができました。




友鶴ちゃんの部屋は元々医務室であったのを改造したものです。配線は停電中も使えるものになっています。



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お茶会

「た、竜飛さん…し、知らない名前ね。そうよね、山城?」

 

「はい、私も何も知りません!」

 

「「?」」

 

扶桑さんと山城さんも知らないのですか…。時雨ちゃんも知らないって言ってたし、お母さんに聞くのもなんだか気がひけるし…。

 

「時雨、そんな事より何か面白いことなかったの?ほら、駆逐艦の寮なんだから何かしらあったんじゃない?」

 

「う~ん、若葉が無駄にキラキラしていたとか…五月雨が夕張とホラーアニメ見に行って僕達の部屋に三日間帰って来なかったとか?」

 

夕張さんのお部屋には恋愛アニメからロボットアニメまでいろんなジャンルのDVDと漫画雑誌があります。ちなみに散らかってしまって足の踏み場もない状況になると五月雨ちゃんがお片付けに行って綺麗にします。時々、私もお手伝いしますが…あの部屋は本当に転びます。

 

「あら、時雨だって<怖い夢見た>ってよく布団に潜り込んできたじゃない。」

 

「ちょっ山城!?いわないでよ!!!」

 

「へぇ、時雨ちゃんでもそうゆうことしたくなることがあるんですね。」

 

正直言って少し意外です。いつもしっかりしていて白露型駆逐艦の姉妹のまとめ役をしている時雨ちゃんでも甘えたくなることがあるだなんて。

 

「僕だって色々あるんだよ。でもさ、いくらなんでも文字通りに押し潰されるって信じられるかい?」

 

「な、なんのことかしら…。」

 

「まぁ、山城の寝相は良いとは言えないわね。それにしてもまさか、深夜に駆逐艦を抱いて入渠場に走るはめになるとは思わなかったわ。」

 

「大丈夫だったんですか?」

 

「えぇ、窒息して危なくなってただけだったみたいで流石は幸運艦よね。」

 

それって大丈夫なんでしょうか…。まぁ、死んでないということは大丈夫だってことで良いんでしょうけど。確かに二人とも(何がとは言いませんが)大きいですからね…。

 

「そんな事いってますけど、扶桑お姉様だって友鶴ちゃんと初めてあったとき事件を起こしちゃったじゃないですか。」

 

「へぇ、何をやったんだい?」

 

「いや、あれは事故なのよ…。」

 

そう、確かに死んじゃいそうにはなったけれどアレはたぶん事故でしかないと思います。

 

 

 

 

 

あの日は……。

 

旧演習場

 

「…なんだか騒がしいですね。」

 

「こんなに風が強いのによくやるわよねぇ。」

 

隣の演習場では大きな艦娘(たぶん主力艦)の人たちが演習を行っていました。

 

「まぁ、主力さん達のことは私達にはあんまり関係ないでしょう?。」

 

「そうですね。」

 

そう、今日は珍しく提督が酸素魚雷の実弾を使っても構わないと言ってくれたので龍田さんと一緒に練習しに来たのです。

 

 

「お、重たい…?」

 

「そうね…でも、今までの魚雷からかなり進化してるのよ?」

 

ブゥ…ン

<キャー!ワタシノズイウンガ!!>

 

「威力も射程も今までとは比べ物にならないから、誤射とかには今まで以上に気を付けないといけないわね。」

 

ブゥーーン

<アレ!?アッチッテ…>

 

「へぇ、誰かやらかした人がい<ズガァアアアン!!!>…。」

 

気が付いたら音を立てて世界が回転していた。視界の端に飛んでいく右足が見えたような気がした。不思議と痛みは感じなかった。

 

「…友鶴ちゃん!?しっかりして!こっちを見て!!龍田お姉ちゃんだよ、ほら!!!」

 

 

 

 

……。

………。

「う…ぅん?」

 

「あらあら、起こしちゃったかしら?」

 

枕元にはなんだかご満悦な様子の龍田さんが座っていました。

 

「私…どうしたんです?」

 

「とある初心者が使っていた瑞雲が強風に煽られて魚雷発射管にぶつかったみたい。あぁ、大丈夫よ?沈めてないから。」

 

足は…くっついているけど…少し、違和感がある。この感じだと何日か車椅子でしょうか。

 

「まぁ、わかっているでしょうけど何日かは車椅子か〝ナニ〟かになるわね。」

 

「そうですか…。」

 

「まぁ、その〝ナニ〟がそろそろ着く頃かしら?」

 

 

 

<コンコンコンコン>

 

「入って良いわ。」

 

ガラガラ。

 

「し、失礼します!えっと…友鶴ちゃん本当にごめんなさい!」

 

「ふぇ!?」

 

何故かボロボロな女の人が入って来ました。激しく渦巻く負のオーラが更にホラーです。

 

「扶桑型戦艦、姉の方の扶桑です。…この度は御迷惑をおかけしてすみませんでした。」

 

「ふ、扶桑さん?何でそんなにボロボ「階段から落ちたのよね?」…。」

 

「は、はい。ちょっと階段を踏み外しまして…。」

 

それから数日間、龍田さんがお仕事の時は扶桑さん姉妹にお世話になりました。

 

 

 

 

 

 

 

「なんと言うか、とんでもない出会い方だったんだね。

…ところで本当に階段から落ちたのかい?」

 

「それは「そうよね?」…。」

 

 

「「「「た、龍田さん?!」」」」

 

「友鶴ちゃん、私の分もお茶淹れてくれる?天龍ちゃんが入渠してて暇なのよ。」

 

「は、はい!」




ご感想や評価、お待ちしています!

これからもよろしくお願いいたします。


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闇夜の執務室

「…腐ってないといいんですが。」

 

船団護衛をしたご褒美が大量の魚介類とは…どういうことなのでしょうか。まぁ、届け先で嫌がらせを受けたりしたことがある私からすれば、今回の八雲提督はかなり良心的な人なのでしょう。

 

 

 

 

「おかえりなさい、どうだった?」

 

「ただいまです。無事に帰還しました。」

 

無事と言っても今回も敵の出没しない安全な海域を護衛することになっていましたし…船団護衛と言いつつ、今回の輸送船なんて2隻しかいませんでした。

 

「八雲提督、元気そうだった?」

 

「…はい、とても元気でした…。」

 

 

 

「そう言えば、八雲提督と提督って友達なんですか?八雲提督も〝敷島さん、元気にしてる?〟って言ってましたよ?」

 

「友達…まぁ、そんなところかな。一応、先輩後輩の仲でもあるんだけどね。」

 

「へぇ、そうなんですか。」

 

 

八雲提督は非常に優しい方で、私たちをわざわざ桟橋まで出て来て出迎えて下さいました。その上、親切にも空き部屋とお布団を貸してくれました。

 

「八雲のことだから無茶はさせなかっただろうけど、明日は非番にしておいたから好きにしてて良いよ。」

 

「そ、それじゃあ…提督とお布団、借りても良いですか?」

 

「いいけど、入渠してから寝てね。あと、私はちょっと遅れるから先に寝ててね。」

 

「了解しました。だけど、提督も早く来て下さいね。」

 

提督は毎晩、夜更かしをしている。時々、早く寝たりすることもあるし、無理をしない範囲で執務をしているらしいのですが…なんだか今日は特に辛そうな顔をしてる気がします。

 

「わかったけど、友鶴ちゃんは早く行かないと意識がおちちゃうんじゃない?」

 

時計を見れば03:00。

 

「…そうですね、急いで入ってきます。

それでは失礼しました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…。」

 

友鶴が出ていってからため息がもれた。原因は単純に大本営からの報告書。

 

〝被検体の一部の深海棲艦化〟

 

「ずいぶんと難しそうな顔をしているじゃないデスカ。

はい、頼まれていた紅茶デース。」

 

「ありがとう、金剛。」

 

…うまいな。

金剛とはかなり長い付き合いだ。きっと私の好みもわかっているのだろう。

 

「私、君からのアドバイスが欲しいな。」

 

「oh、師匠から求められるなんてびっくりデース。」

 

「天下の敷島様も無敵じゃないのよ。この身体になってから悩むことばっかりだわ。」

 

コトッ。

 

 

「まぁ、提督も私達と同じで一介の艦娘に過ぎない訳ですからね。たまには弱さぐらい見せてくれたっていいんですよ?」

 

片言喋りをやめて私の目を覗き込む金剛は何時になく真剣だった。

 

「将がそれじゃあダメでしょ。

これから部下の体内に爆弾を埋め込もうとしている非情で無能でどうしようもない将校に泣く権利なんてないの。」

 

深海棲艦化した時に速やかに無力化させるための爆弾。私にはそんなことできない。部下を殺すなんてことできない。しかし、やらねばならない。

 

「なら、どうするんですか〝戦艦〟敷島?」

 

「…戦うしかないのか。」

 

戦艦なら〝戦う〟。敵が例え同士だろうと自分自身であろうと、守りたい者の盾となり敵を凪ぎ払わねばならない。

 

「大本営に抗議書を送り付けたり、頼りになる自慢の妹の力を使ったり、どんな手を使ってでも勝ちに持っていく…それが敷島って艦娘デショ。」

 

…無茶を言ってくれる。

 

でも、

「金剛もやっぱりそう思う?とりあえずまぁ、三笠ちゃん辺りから協力を仰いでいく感じかな。」

 

多少の無茶もできないで何を守れるというのだ。動かぬ戦艦は戦艦ではない、ただの置物だ。

 

「戦艦が簡単に沈むなんてあり得ない話しデース。」

 

権力闘争は大嫌いなんだが。

私とて軍人の端くれ、戦いで負ける訳にはいかない。

 

「金剛、これから忙しくなるわ。それこそ月月火水木金金よ。」

 

「そんなの海軍に生まれた時点で決まっていたことデース。それこそ海の娘の艦隊勤務ネ!」

 

…動くには早い方がいいはず。

 

「金剛、提督は私用があるから明日はいないって他の艦娘に通達しておいて。」

 

「了解ネ!」

 

「ついでに代わりに姉妹で協力してもいいから書類もお願い。第六駆逐隊の四人には大会議室の掃除の指揮をさせて欲しい。」

 

一部では被検体となっていた者は殺し尽くすべきだという過激な意見をあげている者もいるらしいが、…そんな事させはしない。いや、させてたまるか。

 

 

「「さぁ、戦の時間だ。」」

 

 




遅れてしまって申し訳ございません。
どうか、これからもよろしくお願いいたします。


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提督との外出

「ねぇ、友鶴ちゃん。せっかくの休暇だから、ちょっとお出掛けしようか。」

 

出掛ける…どこにでしょうか。

 

「どこか遠い所ですか?」

 

「ううん、今日は町に出ようと思ってね。ほら、友鶴ちゃんはあんまり町とかいったことないでしょう?」

 

確かに言われて見れば着任してから外出なんてしたことなかったかもしれません。

 

「まぁ、少し前まで大本営の明石さんからドクターストップがかかっていましたからね。」

 

鎮守府の外で倒れられると対応に困るということらしいのですが、流石に艤装をつけたまま外出するわけにもいきません。そもそも、私の存在自体が海軍にとってあまり都合のよい物ではないので今回の外出も私は身分を隠した状態でということになるでしょう。

 

「今日の分の書類は金剛姉妹に丸投げといたから大丈夫。それに、外出届は日付をいじって昨日出したことにしておいたから問題ないはず。」

 

「…いいんですか?」

 

「まぁ、私的には大淀さんにバレなきゃセーフなのよ。」

 

コンコンコンコン

 

「提督、ちょっと書類のことで…。」

 

 

 

「友鶴ちゃん、逃げるよ!」

 

そう言いながら流れるような動作で私を抱き上げて窓から外にでる提督…いや、ちょっ!?

 

「ここ二階ですよ!?」

 

「さぁ、歯ぁ食いしばってぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

初めての町です。たくさんの人がいて活気があって…今、戦争しているってことを忘れてしまいそうになるくらいに笑顔が溢れてます。

 

「あ、提督さんいらっしゃいませ!」

 

提督が店内に入ると

 

「トモちゃんってコレ食べたことある?(あわせて)」

 

と、トモちゃん?

 

「な、ないです」

 

「へぇ、提督さんの連れているその子って〝トモちゃん〟って言うんですね。

あぁ、トモちゃん。はじめまして、私の名前はアキっていうの…まぁ、この店の店長をやっているわ。」

 

「まだ若いのにすごいんですね。」

 

「(わ、若い?!)嬉しいこと言ってくれるのね!可愛いし礼儀正しいし、アキ姉ちゃんサービスするわ!!」

 

「アキ、落ち着いて。トモちゃんが怖がってる。

…トモちゃん、大丈夫?」

 

「ごめんね。ビックリしちゃったよね。」

 

「だ、大丈夫です。」

 

 

 

 

「んじゃ、気を取り直して御菓子を選ぼうか。

トモちゃん、何がいい?お金なら腐るぐらいあるから気にしないで良いよ。」

 

「え、いいんですか?」

 

「うん、選んで欲しいの。」

 

店内のショーケースの中には古今東西の様々な御菓子の数々があり、1つ1つがまるで芸術品のように丁寧に造り上げられています。

 

「アキさん、何かオススメとかってありますか?」

 

「オススメかぁ、例えば8番のプリンケーキとか12番のチョコケーキだね。」

 

「じゃあ、8番のでお願いします。」

 

「アキ、トモちゃんが選んだの奴を2個と棚のここからここまでを全部1つずつ。そんで、ラムネ二本。」

 

「ふぇ!?」

 

提督、どんだけ食べるつもりですか!?

 

「また豪快な買い方をするねぇ。」

 

「トモちゃんが選んだの以外は、1週間後の15:00に届けて欲しいのだけど…できるよね?」

 

「なるほど訳ありってことね…。」

 

「まぁ、そんなところね。ほら、コレで一括払いで良いわ。」

 

「毎度ありがとうございます、またのご来店をお待ちしています。」

 

 

 

 

「アキさん元気で良かったですね。」

 

「そうね、いつも通りのアキで安心したわ。」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。あ、友鶴ちゃんは気に入られたみたい。ほら、ラムネにメッセージがくっついてる。」

 

〝また来てね!〟

 

「また、会いたいですね。」

 

私たちは戦争をしているんだ。そんな事実さえ忘れてしまいそうだった。

 

「大丈夫、会えるよ。私たちが戦うのは国のためでもなければ義務でもなくて、そこに居る友人を助けるため、この町を守るため…そんな小さなことでいいと思うの。」

 

 

 

「そうですね。ただ、提督も疲れてしまっていませんか?私ができることがあったら何でも言って下さい。」

 

「ありがとう。」



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帰り道

「…可愛かったなぁ。」

 

敷島さんがカードと一緒に渡してきたメモを読めば事情はわかった。〝アキさん〟はここまで。ここから先は〝戦艦安芸〟の時間だ。

とはいえ、やることは簡単だ。メモに書いてあった通りに退役艦娘達にあって署名を集めて一週間後にお菓子と一緒に敷島さんに渡せばいい。

 

「へぇ、そんなに可愛かったんだ。いいな、私も愛で…見たかったなぁ。」

 

「薩摩姉さんも手伝ってよ。ロシア組とか話しかけるの辛いんだから。」

 

日露戦争でロシアから戦利艦として日本に来ることになった艦の艦娘達に声をかけるのは石見さんと仲がいい薩摩姉さんの役目になることが多い。

 

「まぁ、敷島さんからすれば話しかけづらいよね。」

 

それに敷島さんはマークされている恐れがあるので下手に動くことはできない。

 

「しょうがないなぁ。私達、ワシントン組に期待しちゃうなんて…頑張りたくなっちゃうじゃん。」

 

「姉さん、ケータイここに置くよ。」

 

「お、丁度さがしてたんだよ。」

 

色んな艦娘がこの店には来る。色んな物を買いに来る。でも、それだけじゃない。私達の店は少しでも現役の艦娘達の力になるために立っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ寄り道したら遅くなっちゃったね。もうすっかり暗くなっちゃった。迷ったら嫌だから手でも繋ごうか。」

 

太陽は海に沈んで代わりに星と月が空を彩っている。夜になって少し冷えてきたけれど提督の手は暖かい。

 

「…綺麗ですね。」

 

「そうだねぇ…。ねぇ、やっぱり持とうか?」

 

「大丈夫ですよ。この体になる前はもっと重たい物を運んだりしてましたから。」

 

小さい頃から全てを完璧にこなせと言われ、様々な事をやって来た。それでもやっ「そぉおい!」…!?

 

「て、提督!?高い!高いです?!」

 

視界が一気に高くなった。

 

「しっかり掴まっといてね。まぁ、肩車されたことあればわかるかな?」

 

肩車なんてはじめてです。視点が凄く高くなり、色んなものが新鮮に見えます。

 

「早く帰らないと淀殿が怒るから少し急ぐよ。たぶんそろそろ金剛のケータイ使って淀殿が私に電話してくるから。」

 

「すみません走るのは…。」

 

「いや、いくら私でも肩車した状態で走ったりなんてしないって。ちょっと裏道使って早歩きするだけだって。」

 

手で足を押さえられてるので抵抗なんて無意味です。こうなったら提督の頭にしがみついているしかありません。

 

 

 

 

 

 

「そんなにくっつかなくても大丈夫だよ。(と、友鶴ちゃんの太ももが…やばい鼻血出そう。)」

 

 

 

ちょっと酔ってしまったけれど無事に帰れました。



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舞台裏にて

「それでは、皆さん抜かりなくお願いネー。」

 

<わかったわ、暁達に任せなさい!>

 

「それじゃあ、失礼しマース。」

 

カチャンッ

 

今日の予定を電話で第六駆逐隊に教えた。大会議室の掃除はこれでなんとかなるでしょう。

 

 

 

「もしもし、提督ですか?もしもし、もしもーし…。」

 

「大淀、言いづらいんだけどサ…提督のケータイが1つ引き出しの中で鳴ってるヨ。」

 

提督は、ケータイを複数個持っていますから普通に連絡はできるし心配事があれば私から連絡する事もできます。

 

「まったく、変なところは抜け目ない提督ですね。一応、友鶴ちゃんの外出許可書は昨日の日付になって通っていますが、肝心の提督自身の方が印鑑を押し忘れています。」

 

「印鑑なら右の二段目の引き出しの奥デース。

…榛名、ちょっと誤字がありマース。」

 

「す、すぐに直します!」

 

今日はやることが山積みですが、手を抜くわけにはいきません。全ては提督を動きやすくするために必要な準備ですから。

 

「それじゃあ、ここはみんなに任せるネ。」

 

「わかりました金剛お姉様。ここの指揮は艦隊の頭脳である私、霧島にお任せください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと、ここから先が重要ね。

酔った勢いで執務室にある電話を壊してから何となく行くのを躊躇っている居酒屋〝鳳翔〟…。

 

「こんな時間にどうしました?提督なら友鶴ちゃんと一緒に外出してますよ。」

 

「鳳翔さん。貴女にいくつか頼みたいことがあります。…この手紙を届けてくれませんか?」

 

正規の手段で送ると途中で反艦娘派に妨害を受ける恐れがあるから零戦か何かで手紙を届けて欲しい。

 

「提督と友鶴ちゃんのためなんです。」

 

「えぇ、頑張ってみますけど…片言じゃないんですね。」

 

「まぁ、キャラは大事だけどTPOは大切にしなきゃだめネ。」

 

鳳翔さんの使っている零戦の妖精さんのほとんどは高練度であり、夜間飛行ができる者も多い。航続距離だけなら秋津洲の二式大艇を使っても良かったけれど大きすぎて目立ってしまう。その点、どこの鎮守府にもおいてありそうな零戦なら大丈夫でしょう。

 

「5日以内でお願いできマス?」

 

「…いいでしょう。ただ、私一人では荷が重いので龍驤さんにも手伝ってもらいましょう。護衛のための機体も飛ばして貰いたいですし、手数が多いに越したことはありません。」

 

「oh、流石は鳳翔さんナイスなアイデア!

…それでは皆さんぬかりなく。」

 

≪お姉様、昼食ができました!この比叡が気合い、いれて、作りました!≫

 

 

 

「…オワッタ。」

 

あぁ、神よなぜ私を見捨てるのです。

 

「お、お互い頑張りましょうね。」




ちなみに電話を壊したその日、金剛は階段から落ちたらしい。


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会議当日

「…静かですね。」

 

一人部屋のなかで呟いた。今日は提督に部屋にいなきゃダメと言われたからお母さんや龍田さんに会いに行けない。何より問題なのは昼食をどうするかです。買い置きとかありませんし、こんな私でもお腹ぐらいすきます。

 

「なんだか寂しいな。」

 

コンコン、コンコン。

 

「友鶴ちゃん、出前ですよ。」

 

私、出前なんて取りましたっけ?というか、そもそもお母さんの店って出前頼めるんでしたっけ?

 

ガチャッ

 

「お母さん?」

 

「良かった、両手がいっぱいで開けるに開けられなくってちょっと困ってたところだったんです。一緒に食べましょ?」

 

「ちょっと散らかってますが大丈夫ですか?」

 

「大丈夫ですよ。」

 

 

 

「「いただきます!」」

 

お母さんは、お店では和食をよく出しているけれど実は洋食も中華も得意です。メニューに書いてない料理でも作ってくれます。そして、お母さんに作ってもらったおにぎりを持って赤城さんが出撃すると通常の三倍の戦果を叩き出すとも言われています。

 

「お金は提督がくれたから心配しないでいいですよ。

大慌てで飛んできたものだから少し笑ってしまいました。」

 

「提督ってちょっと抜けてるところありますよね。」

 

元高校生としては〝お子さまランチ〟な見た目のこれを食すには少し抵抗がありますが、今の私なら別に違和感はないでしょう。

 

「友鶴ちゃんも食べたら着替えなきゃダメですよ。」

 

「そうですね。」

 

朝食を食べてから帰ってきて二度寝するためにパジャマになったのをすっかり忘れていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ご覧の通り、友鶴には異常なんて物は見られません。それに精神も回復してきています。それなのに首輪(爆弾)をつけるなんて許されるべきではありません。しかし、大本営は被検体には首輪(爆弾)をつけろと言っているのです。私はそんなこと許せない!だから、みんなに力を貸してほしい!」

 

鳳翔さんの服に夕張特製の超小型カメラをつけて映像をスクリーンに映しながら説明する。しかし、実を言えば私は三笠なんかと違って大勢の前でしゃべるのはあまり得意ではない。映像や資料、スライドショーを利用して落ち着いてプレゼンする。一応、やれることは何でもやって来た。人事は尽くした。

 

 

「駆逐艦地位向上委員会としては異論はないわ。よろこんで、協力させていただくわ。」

 

「我々、駆逐艦を愛でる会も同じく異論はない。」

 

ありがとう、同士長門よ。そして、暁(二代目)ちゃん!

 

「私達も協力するわ。」「教官、我々も全力をもって援護します!」「しょうがない、先輩には世話になりましたから。」「お姉様の仰せのままに!」

 

教え子が後輩が妹達が叫ぶ。

 

「やるぞぉおおお!!!」

 

「「「おぉおぉおお!!!」」」

 

「いくぞぉおおお!!!」

 

「「「おぉおおお!!!」」」

 

士気は充分だ。いくら頭の硬い上層部とはいえ、我々の声を無視する事はできないだろう。私はあの娘は一人じゃないのだから。



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抱き枕

【悲報】提督、倒れる!

 

敷島提督が昨夜未明に階段から転げ落ち、負傷しました。明石による検査の結果、疲労の蓄積による注意力の散漫が原因と見られています。この事による執務の遅れは心配されていませんが、疲労の回復の為に数日ほど休養するとのことです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「て、提督…寝ているんですか?」

 

今回の鎮守府新聞に書かれている内容と、真鶴お姉ちゃんからの手紙の中身を照らし合わせると提督が忙しくしていた原因はほとんど私でした。思い返してみればここのところ頻繁に外出していましたし、夜遅くになっても帰ってこない日もありました。

 

「今回の件についてのお礼をしに来たのですが…。」

 

真鶴お姉ちゃんの手紙には

〝敷島提督のお陰で私たちは救われました。敷島提督が大本営の上層部を説得してくれなかったら私たちは今ごろ<首輪>をつけられていたか、どこかの海に棄てられていたことでしょう。ちゃんと会ってお礼を言いたいのは山々なのですが、そんな事はできないので私の代わりにお礼を言っておいて下さい。〟

って書いてありました。千鳥お姉ちゃんや初雁ちゃんの手紙にも同じようなことが書かれていて知らなかった自分をちょっと情けなく思いました。でも、それをわざと私に伝えなかったのも提督の優しさだとも思えます。

 

「熟睡しているのを起こすのも可哀想ですし…。」

 

いつも私達を守ってくれる提督の寝顔は優しく…ん?どうしてここに雷電姉妹がいるのでしょうか?提督を挟むように並んで幸せそうに眠っています。

 

「じゃ、じゃあ…私も行って大丈夫ですよね?」

 

二人も三人もあんまり変わらない気がします。それに、私はそんなに大きくありませんし、重くもないはずですから…。ちょっとだけ、ちょっとだけ一緒に寝かせてもらいましょう。感謝や謝罪は大切だけと思うけど、TPOの方を尊重した方がいいという場合もありますから。

 

「気持ちいいですね…。提督、今回は本当にありがとうございました。おやすみなさい。」

 

雷ちゃんの横に慎重に潜り込むとすぐに瞼が重くなってきてしまいました。

 

「…ん、友鶴ちゃん?」

 

……?

 

「…ふぁい!?」

 

お、起きてたんですか提督!?

 

「もっとこっちにおいで…んぅ、暖かいねぇ。」

 

「え、あの…人形?」

 

隣にいた雷ちゃんと電ちゃん、まさかの人形ですか!?実寸大ですし、なかなかリアル…。

 

「提督、本当にありがとうございました。」

 

「ん、いいのよ。かわいい孫のためなら何だってできるわ。ただ、ちょっと今はこうさせて?

…怖かった。」

 

…え?




更新が遅くなってごめんなさい。


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抱き枕2

「……。」

 

研究所の最下層には死臭が漂っていた。薄暗い廊下に靴音が響くが部屋から漏れる悲鳴や呻き声を掻き消すほどではなかった。

 

「いい検体がいくつか入ったんですよ。復讐に駆られた殺人鬼。まだ完成していませんが、見せる価値は充分にあります。」

 

「…改造中ですか?」

 

「そうです。今、ちょうど記憶の植え付けをしています。」

 

どういうことだ?

 

「洗脳ってことですか?」

 

「いえ、そんな恐ろしいことしてませんよ。

脳の記憶というものは電気信号です。コンピューターで記録し、新品の脳に書き写す。戦闘データ、記憶、生活、人間関係…全部書き写せます。

そして今回は小学生にして12人を殺傷した殺人鬼の脳を手にいれたわけで…は、ははっははははは!!!

いやぁ、もう最高ですよ!」

 

確かに研究所はクローンを使って人体実験をすることを秘密裏に認められている。しかし、これは酷すぎる。

 

「…悪魔だ。」

 

人間とは呼べない。

 

「その悪魔とあなたは契約をしてしまったのです。

…今回、大本営の堅物を打ち破る手伝いをした我々が何か見返りを求めても文句はありませんね?」

 

「あなた方にしても自分の研究結果が不当な評価を受けたことで処分され、研究所の信頼性や評価が下がるのは避けたかったんじゃないの?不祥事のあとにリコールなんて立場が酷いことになりそうね。」

 

誰がこんな悪魔なんかに協力してやることか。

 

「これは手厳しい…。

おっと、目的の部屋はここでした。」

 

ガチャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

「て、とく……。」

 

「怖かった、ですか?」

 

 

…と、とと友鶴ちゃん?!

んな、ななぜに私はベッドで幼女抱き締めてしかもこんな格好!?記憶が記憶は…響ちゃんからもらったお酒を飲んだところまでしかない。

や、ヤバイ…とりあえずバスローブどこいった?

 

「ご、ごめん!」

 

うん、とりあえず謝ろう。酔った勢いとはいえ、やっていいことと悪いことはある。

 

「い、いえ…あの、大丈夫ですか?」

 

…なんか心配されてる?さっきも私に何か言っていたような気がする。

 

「さっき〝怖かった〟って言ってました。」

 

「気にしないで、研究所の施設でなんか気持ち悪いオヤジに絡まれただけだから。夢にまで出てくるとは思わなかったわ。」

 

気づかれないように探しているのに…どこ行ったんだバスローブ!

 

「あと、ありがとうございました。ここにいられるのは提督のおかげです。わ、私…提督のためだったらなんでもします!」

 

言えない、酔って転けたなんて言えない。

 

「まったく大袈裟なんだから…。なんでもしてくれるの?それじゃ、添い寝でもしてもらおうかな。」

 

「えっとじゃあ、パジャマを…ふぇ!?か、風邪引きますよ?」

 

…もう、いいや。バスローブは諦めよう。いいじゃん、透け透けだけど服着てるし…いいじゃん、下着の上下が揃ってなくても…

あ、友鶴ちゃん暖かいな…

 

 

 

 

 

 

 

 

(み、みちゃいました!)

 

 

後日、鎮守府新聞で写真つきの記事を書こうとしていた重巡が高速戦艦に逮捕され、写真は回収された。



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休暇の終わり

「提督は…仕事ですか。」

 

起きたら一人だったのでビックリしました。提督は着替えて仕事にいったみたいですね。よく見たら机の上に書き置きがありましたし、そもそも慌てる必要もないのですが…どうも臆病というのはなおらないものです。

 

「もう、起きなきゃ…。」

 

提督が置いてくれたのでしょう、ここ何日か二人で寝ていたベッドには丁寧に畳まれた制服がおいてあります。ただ、なんであの人が私の下着まで準備できるのかはわかりません。

 

「…ねむ、いです。」

 

昨日、提督と一緒に町に出てアキさんのお店に行ったりショッピングセンターに行ったりしたのがまだ残ってるみたいです…いや、でも人の布団で二度寝って……。

 

 

コンコンコンコンッ

 

「んにゅっ!?」

 

…ビックリして変な声出ました。

 

「ちょっと待ってください…すぐに開けますから…。」

 

ガチャ、ガチャガチャっ

 

「提督、秋雲なんだけど!」

 

あ、ダメだこの人待てないタイプの人だ。それとも寝起きで私の声が出ていないのか。

 

ガチャッ

 

「あれ、提督は?」

 

「お、お仕事で執務室の方にいると思います…。も、もしもお急ぎでしたら内線でお伝えしたらいかがでしょうか…。」

 

「いや、そんなに急いでた訳じゃないんだけどね?提督って意外と朝が弱いところあるじゃん。…まぁ、二度寝されないように大声だしただけなんだけどさ。」

 

 

 

 

 

「そ、そうですか。」

 

「…そういえば、見ない顔だねぇ、なんて名前?」

 

「えっと、友鶴です。千鳥型水雷艇の三番艇です。」

 

…そういえば私、さっき起きたばっかりで顔も洗っていないんですが…

 

「ふぅん、これが噂の友鶴かぁ。」

 

「はい、あなたは…えっと、陽炎型ですか?」

 

…誰かが言っていました。駆逐艦で名前がわからなくてセーラー服じゃなかったらそう言えばいいって。ちなみにセーラー服を来ていた場合は〝特型ですか?〟と聞いておけば大丈夫だろうって。

 

「お、よくわかったねぇ。制服とか夕雲型だから間違える人多いのに。というか、秋雲さんも昔は夕雲型だと思ってた時期あったし。」

 

秋雲さんってどこかで聞いたことあるような気がしますね。どこか、どこでしたっけ…あ、夕張さんの部屋を掃除したときに見つけた漫画の作者さんはこの鎮守府にいる秋雲さんなんだって話をした気がします。

 

「そういえば、提督にはどんなご用で?」

 

「え、あぁ。暇だし、被写体になってくれないかなって思ってさ。」

 

あぁ、なるほどだからスケッチブック持ってるんですね。

 

「あ、そうだ!せっかくだから秋雲さんがイラストでも描いてあげよう。」




お待たせしてすみませんでした。


ちなみに10月1日は友鶴の進水日です。


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似顔絵

「あ、そんな感じで…うん、ちょっとその体勢のまんまで動かないでね。」

 

一緒に描いて欲しい人とかいる?と聞かれて龍田さんと二人で描いてもらうことになったのですが…。

 

「あら、どうしましたぁ?」

 

膝の上に座らせてもらうのはやっぱりちょっと恥ずかしいです。

 

「なんでもないです。」

 

「いいねぇ、いいねぇ、捗るわぁ。

あ、ついでに資料用の写真ももらいますわ。」

 

楽しそうな顔をしながらすごい勢いで色鉛筆を滑らせていく。…資料って何の資料でしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「…秋雲さんがこの鎮守府に来て最初に書いたのが提督だったんだけどさぁ、金剛さん達とお茶会してるところを描いたわけよ。」

 

「へぇ、そうだったんですか。」

 

というか、おしゃべりしながらかけるなんて秋雲さんって器用なんですね。

 

「まぁ、ちょっと遠くから見つからないように描こうとしたんだけど…次の瞬間、ブァッて風が吹いたと思ったら提督達と一緒にテーブルを囲んでたわけ!ヤバイわ、うちの提督化け物だ!って思ったのを覚えてる。」

 

「ふふふ、まぁ…ちょっと人外じみてるところあるからね。例えば天龍ちゃんが斬りかかったら提督の手刀で刀を折られたってこととか。噂だと峰打ちで姫を沈めたとか、深海棲艦を相手に100人斬りを達成したとか…調べればどんどん出てくるかしら?」

 

あ、だから天龍さんの刀が一時期なかったのか…きっと修理に出していたのですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、完成!」

 

「よかったねぇ、友鶴ちゃん。」

 

「はい!」

 

秋雲さんに似顔絵を描いてもらいました。龍田さんとのツーショットです。

 

「秋雲さんありがとうございます!」

 

「いやいやぁ、こちらこそありがとう。龍田さんまで描けるとは思わなかったよ!」

 

「あらそう?」

 

「頭の上の浮いてるやつの描き方がわからなくてねぇ、それにこの秋雲さんはこの鎮守府にいる全員の絵を描くという目標があるから。まぁ、気がついたら増えてるんだけどね…」

 

これだけ大規模な鎮守府なら所属する艦娘も相当な数になりそうですけど…。

 

「次の漫画も楽しみにしてるわ。」

 

「あ、それで思い出した…よかったらこれを君にあげよう。布教、布教っと…。」

 

「え、あ…ありがとうございます。」

 

「初心者向けの優しいやつだから。あ、龍田さん…これは全年齢対象のほのぼの系だから…その、教育的な悪影響とかそういうのは…。」

 

「あら、ならいいのだけど。」

 

「おっと、そろそろ巻雲が帰ってくるから失礼するよ。じゃ、またねぇ!」

 

ウォッ!ナガトサン,ナガトサンナンデ!?

 

…なんか曲がり角のほうから聞こえた気がするんですけど。き、気のせいですよね?

 

「駆逐艦って元気でいいわねぇ。見てるとこっちまで元気がもらえるわ。」

 

「そうですね。」

 

 

 

「あ、一緒に酒保でもいきましょ。絵を飾るならやっぱり額縁がないとダメだもの。」

 

あ、たしかに額縁なんて持ってませんでした。

 

「天龍ちゃんの歯ブラシがちょっと古くなってきたから買い換えてあげようと思ってね。一緒にどうかしら?」

 

「いきます!」



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酒保にて

「いらっしゃいませ!」

 

明石さんはどうやって工厰と酒保を掛け持ちしてるんでしょうか。一説によるとどっちかがアンドロイドでどっちかが本物ということらしいですが、気になりますね。

 

「こ、この絵を入れる額縁がほしいんですけど、おいてありますか?」

 

「あ、かわいい!友鶴ちゃんと龍田さんですか?絵のタッチからすると秋雲さんですね。」

 

「はい、描いてもらいました!」

 

それにしても意外と秋雲さんは有名な人だったんでしょうか?一目見ただけで特定できるってことは…

 

「漫画、欲しくなったら買いに来てくださいね。

他にも夕張さんが書いた本とかありますよ。」

 

「へぇ、意外とそういうことしてる人っているんですね。」

 

夕張さんはよく自室に籠って何かをしているけど、アニメや漫画の消費だけじゃなくて生産もしてるんですね…。

 

「えぇ、艦娘とはいえ普通の女の子ですからね。いろんなことをする子がいますよ。まぁ、あんまり度が過ぎるようだと青葉さんみたいに怒られますが…。」

 

…あの人、いったい何をやらかしたんですか!?

 

「他には…加賀さんのCDとかありますよ。この鎮守府の加賀さんのじゃないですけどね。」

 

「え、演歌ですか…」

 

なかなか渋いところをいきますね…あんまり加賀さんが歌ってるところが想像できないのですが、それって私だけでしょうか。

 

「あ、そうだった…えぇっと絵の大きさ敵にこの辺りですかね?」

 

「あ、ぴったりっぽいです。ありがとうございます。」

 

「他に欲しいもの何かある?」

 

「缶詰のパインとミカン、あと桃缶がほしいです。」

 

牛乳を頼みすぎちゃって杏仁豆腐を作ったんですが、杏仁豆腐だけで食べるより、フルーツも入れたかったんです。

 

「はい、代金ぴったりいただきました。

重たいので気を付けてくださいね。」

 

ちょっと安かったからって調子に乗って買いすぎましたかね…なんか、気のせいか明石さんの姿がちょっと揺れてるんですけど…

 

「あらあら…友鶴ちゃん、運んであげましょうか?」

 

た、龍田さん…

 

「お願いします。」

 

「ただ、戻ったらとりあえず検温しようか。なんだかちょっと顔色がおかしいから。」

 

あ、やっぱり?そんな気はしてたんですよ…。昨日の提督との外出がちょっと影響してきちゃったのかもしれません。

 

「ちょっと今日は一緒にゆっくりお休みしましょうか。ふふ、天龍ちゃん寂しくないかなぁ。」

 

あ、頭がいたくなってきましたね…そろそろ限界かもしれません。この間みたいに廊下で倒れてるのを発見されるようなことがないように気を付けないと…。

 

 

 

 

…37.3℃

 

フルーツ杏仁は明日作ることにします。



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暁ちゃんとのティータイム

「35.7℃…でした。」

 

ベッドに腰掛けるのは暁ちゃん。

 

「そう。よかった。暁は暇で退屈で大変だったのよ。」

 

暇も退屈もそんなに変わらないような…。まぁ、私も明石さんから熱は下がったけど念のため今日は部屋で休んでくださいと言われてますから暇なんですが。

 

「わざわざありがとうございます。」

 

「お礼なんてしなくていいのよ。暁はレディだから友達のお見舞いにいくのも当然のことなのよ!」

 

レディは関係あるのでしょうか?…まぁ、それを言うのは野暮ってもんでしょう。

 

「えっと…他のみんなは?」

 

「天龍さんたちと外出したわ。…まったく、起こしてくれればいいのに。」

 

あぁ、だから少し不機嫌そうな顔をしてるのですね。

 

「そんな暁ちゃんにお願いが1つ…」

 

「何かしら?暁にできること?」

 

えぇ、この状況では暁ちゃんにしか頼めないことです。

 

「実は、間宮券の有効期限が今日までなんです。腐らせるのはもったいないですし、私は部屋から出られません。ちょっと協力してもらえませんか?」

 

「わかったわ。そのくらい簡単よ!」

 

「じゃあ、頼みましたよ?」

 

「たくさん持ってるのね…。」

 

他の艦娘の皆さんには理解できないかもしれませんが、食が細い私が間宮さんの甘味を堪能するには多少の工夫が必要になるんです。

 

「一人じゃ食べきれないことがありまして…。」

 

ちょっと苦い思い出です。

 

「うん、まぁ…そういうこともあるわ!」

 

あ、納得してくれました。ちなみに赤城さんに同じことを言うと〝この子は何をいってるの?〟という表情になります。

 

「チョコとバニラどっちがいい?」

 

「2枚ありますから両方買ってきて二人で分けて食べませんか?そうすれば一石二鳥です。」

 

「なるほど!」

 

実を言えば他の第六駆逐隊のメンバーは暁ちゃんの着任記念日を祝うプレゼントを買いに行ったのです。だから、ここは私も協力します。大切な友達ですからね。

 

「じゃあ、行ってくるわ!」

 

「おねがいします。」

 

さて、私が今回任されたのは暁ちゃんの暇潰しの相手。これは非常に難しい任務です。電話で指令を受けたときはビックリしましたよ。

 

「お湯を沸かさないと…。」

 

ただ、何をすれば喜んでくれるのかいまいちわからないのでお茶会でもしましょうか。提督や金剛さんのティータイムを羨ましそうに見ていたことがありましたから喜んでくれるかもしれません。

緑茶にするか紅茶にするか…〝レディ〟といったら紅茶でしょうか?たぶんコーヒーは飲めないでしょうから砂糖とかレモンとかいれて調整できる紅茶にしましょう。

 

「あ、レモン切らしてました…。」



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暁ちゃんとのシエスタ

「食べたら眠くなってしまいました…。」

 

体力が回復しきってないのか、ただ単純に老化してしまったのか…。いや、艦娘は老化しないって聞きますから疲れてるんでしょう。人混みに揉まれて大変でしたし、満員電車は慣れてない人にとっては地獄です。降りてからも暫く揺られてる感じがしてました。

 

「え、眠くなっちゃったの?」

 

「すみません…。」

 

毎朝、あの電車に乗って仕事に行く人は本当にすごいと思います。私だったら倒れてしまうかもしれません。吊革に手が届かないと結構苦労します。

 

「まったく…食べたそばから寝るなんてレディじゃないわ。すぐに寝ると馬になるのよ?」

 

それを言うなら牛では?

 

「え、あ…なんかごめんなさい。」

 

気を使わせてしまったのか暁ちゃんが布団に入ってきます。

 

「べ、別に暁は眠くなんかないんだからね!友鶴ちゃんが魘されないように隣で寝てあげるだけなんだから!」

 

あ…やっぱり暁ちゃんも眠かったんですね。

 

「こういうのをシエスタって言うのかもしれませんね。」

 

「そうなの?それってどういう意味?」

 

「スペインの伝統的なお昼休憩のことです。平たく言ってしまえば昼寝の時間って感じです。」

 

昔から友達がいなくて本ばかり読んでいたからか、無駄な知識ばかりが蓄積されてしまいました。

 

「え、それってみんな寝てるってこと?」

 

「少なくとも昔はそうだったみたいですよ。あ、でもスペインの公務員は2000年代に入ってからシエスタが廃止されたらしいです。まぁ、公務員が昼寝してたら色々問題がありそうですからね…。本を読んだのも結構前のことですし、うろ覚えなので間違ってるかもしれませんが…。」

 

小学校の図書室で読んだ本ですからね。うろ覚えにもなります。薄暗い図書室の中で一人でページをめくる感覚。時間を忘れて読書した覚えがあります。まぁ、追いかけてきたクラスメイトに捕まらなければでしたが…。

 

「へぇ、ちょっと興味が湧いたから後で図書館とかで調べてみようかしら。スペインってサッカーと闘牛しかイメージがわかなくて…。そんなこと全然知らなかったわ。」

 

「サッカーと牛…確かにそうですね。」

 

あと思い付くのはフラメンコぐらいでしょうか?世界史をやると無敵艦隊とか日の沈まぬ国とか情熱の国とか色々と出てきますが…。

 

「暁もなんだか眠くなってきちゃったわ…。」

 

あぁ、やっぱり暁ちゃんは暖かいですね。

 

「おやすみなさい…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、二人とも熟睡してしまって夕飯の時間にお母さんに起こされました。



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海防艦と水雷艇

「あら、国後ちゃん?こんばんは。」

 

国後さんってあまり聞かない名前ですが、新入りさんでしょうか?

 

「こんばんは、鳳翔さん。」

 

入ってきたのは私と同じくらいの小柄な艦娘さん。となると、駆逐艦か軽空母って感じ…いや、水雷艇の可能性も捨てきれません。

 

「ん、国後か。」

 

そういいながら敬礼する若葉ちゃん。…どうして敬礼してるんでしょう。研究所で受けた授業で艦娘同士で敬礼をすることはあまりないと聞いたのですが。

 

「あ、若葉さん。」

 

若葉ちゃんに笑顔で答礼する国後さん。…国後さん、国後さん?どこかで聞いたことがあるような気がするのですが思い出せません。

 

「ふ、ふふふ…我、国後なり。海防艦ですよ。」

 

海防艦っていうと船団護衛の時にお世話になった記憶があります。

 

「えっと、海防艦ってことは…元戦艦ですか?」

 

そういえば提督が言ってました。実は昔やったことがあるって。古くなってしまった主力艦の就職先の1つだとか…。

 

「えっと、どうしてそうなったの?」

 

長門さんがいってたポケット戦艦ってタイプでしょうか。とても気になってるっていってましたし…。

 

「いや、でも常盤さんとか…。」

 

え、違うんですか?

 

「国後達は海防艦として建造された海防艦だ。だから軍艦だったことはあるが、戦艦になったことはない。」

 

ですよね。ビックリしました。私より重装備を強いられた人がいたとしたら大変なことです。

 

「なるほどそういうことなんですね。」

 

珍しく、もしかしたら私の方が背が高いかもしれません。だからなんだと聞かれればそれまでですが、やっぱり少し嬉しく感じる自分がいます。

 

「そうだよ。軍艦だったけど途中で制度が変わって海防艦も私たちと同じ艦艇に分類されることになったから別に敬礼も本当はいらないんだ。子日はなぜかすごく慌ててたけどね。」

 

「響さん、それは…」

 

さっきまで寝てたと思うんですが、復活したみたいですね。ウォッカなんて度数の高いお酒を加減しないで飲むからそういうことになるんですよ。

 

「ウィスキーだよ。」

 

…水じゃないんですか?!お酒をお酒で割ってどうするんですか!結局、量が増えちゃうだけじゃないですか。

 

「んぐっ、ゴホッゴホッ!?」

 

ちょっ、若葉ちゃんも大丈夫ですか?

 

「だ、大丈夫ですか…?」

 

喉を押さえながらコップを倒してしまったので中身が全部こぼれてしまいました。まぁ、濡れてしまっても着替えればいいだけなので私はあまり気にしていませんが、どうしたんでしょうか。

 

「喉、いたいぞ…だが、わるくない。」

 

ちょっと涙目になってますし、顔も赤いです。

 

「鳳翔さん、タオルか何かありませんか?」

 

とりあえず、国後ちゃんにはかかってないみたいですね。ハンカチで応急処置だけしておきましょう。

 

「んんっ、初霜か…?」

 

「違いますよ。」

 

「雷か?」

 

「違いますよ。」

 

エタノールっぽい匂いがするのは気のせいでしょうか。というか、初霜ちゃんと雷ちゃんは結構な違いがあると思うんですが…。

 

「えっと、タバコは…?」

 

水没してますね。完全に箱がふやけてます。

 

「ごめんね、若葉ちゃん。このお店はね、禁煙なの。」

 

ふやけた箱と格闘しているうちにタオルを持ったお母さんにタバコを取り上げられてしまいました。

 

「近くにいたので阿武隈さんを呼んできました!」

 

国後ちゃんが手を引いて阿武隈さんをつれてきました。てっきり初霜ちゃんと雷ちゃんかと思いましたが、確かに阿武隈さんとも仲がいいと聞いたことがあるので大丈夫でしょう。

 

 

 

 

 

 

 

「私の指示にしたがってください!」

 

千鳥足でふらつく二人の手を引いて第一水雷戦隊旗艦は帰還していった。




お待たせしてすみませんでした。


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対潜哨戒後の話

「差し入れです。」

 

友鶴という艦娘はよく飴玉を持ってきてくれます。工廠妖精にとってこれは日々の楽しみのひとつなので、友鶴が来た日は作業効率をあげるように頑張ったりします。

 

「元気でしたか?」

 

時々大ケガをして帰ってくる友鶴の艤装は他の艦娘と何かが違って歪に感じることもありますが、コツをつかめば直すことも簡単です。それほど資材と時間を消費する必要がある艤装でもありませんからね。

 

「そうですか、それならよかったです。」

 

…メロン味を手にいれた!

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさまでした。」

 

艤装の隙間から手を振る妖精さん達に何となく手を小さく振って応えて私は工廠の小さな従業員さんに会いに行きます。普段からお世話になっていますからね。…まぁ、今回は至近弾しか浴びてないですから大きくは壊れていないと思うのですが。

 

「やっぱりかわいいですね…。」

 

明らかに自分より大きな主砲なんかを数人で協力して外したり整備したりしている様子を見るとなんだか心が暖かくなります。

 

「あ、どうも…」

 

いつまでも見ていられそうな気がしますが、私も早くお風呂に入ってきたいので飴玉を置いて早くいきましょう。不意打ちを受けてバランスを崩し、勢いよく海面を転がることになったことについては触れないでください。対潜用の爆雷を使おうとした瞬間に砲弾が飛んでくるなんて誰も対応できませんよ。だって潜水艦しかいない海域だって大本営も発表していたじゃないですか。

 

「やった、メロン味だ。」

 

夕張さんが嬉しそうにしていますが、やっぱり夕張さんはメロンが好きなのでしょうか?好物は蕎麦だって聞いたことがありますが、そんな味の飴は…ちょっと想像できませんね。

 

「いやぁ、ありがとうね。」

 

「あの、目の下すごいことになってますが…。」

 

眠れない日が続くと私もそういう顔になりますが、夕張さんにもそういう日があるのでしょうか?

 

「あ、これ?」

 

自分の目元をさわりながら夕張さんが苦笑いしています。わかります、言いづらいこともありますよね。なんか、本当にすみません。

 

「いやぁ、仕事で楽しみすぎちゃって。」

 

…あれ?

 

「一回この鎮守府って空襲されたでしょ?それで対空用の設備が足りないってことになって対空用の高角砲とか古くなった駆逐艦の主砲とかを改造して作った高射砲擬きで次こそは撃退してやろうってことで新作を作ったり配置を考えたり…まぁ、そんな感じでやってたらだんだん楽しくなってきちゃって…最終的に五月雨ちゃんに怒られて今日は休暇になっちゃった。」

 

「…怒られるまでやるんですね。」

 

まぁ、工廠の仕事は夕張さんの趣味みたいなものですから明石さんだけでも問題なく回るんでしょうけど…五月雨ちゃんが怒る姿はいまいち想像できませんね。

 

「好きなことになるとやっちゃうんだよねこれが。」

 

あ、噂をすれば五月雨ちゃんが来ました。

 

「あの、夕張さんの忘れ物は見つかりましたか?」

 

「うぅん、ここじゃないのかもしれない。

…あ、そろそろ入渠してきたら?ごめんね、話し込んじゃって。」

 

あ、大変です。早くいかないとそろそろ遠征の人が帰って来る時間になってしまいます。

 

「えと、ありがとうございました。」

 

 

 

この後、お風呂場までの道の途中でマンホールに足を引っ掻けて転んだのは内緒です。



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失せ物探し

「ないっ、ないっ…!」

 

ど、どうしましょう。確かに私の運は高くない方だって自覚していますが、神様…これはあんまりじゃないですか。時雨ちゃんがお守りとして渡してくれた髪飾りがその日の内にどこかにいってしまうなんて…。

 

「妖精さんも知りませんか?」

 

首を振られてしまいました。どうしましょうか。落とし物ならやっぱり大淀さんに相談でしょうか。この間、ネクタイがどこかにいってしまったと困っていた時雨ちゃんが、実は大鯨さんとデザインが同じで混ざってしまっていたのだとか、食堂のスプーンがないと思ったら赤城さんの部屋にあったとか…。色々と解決した実績があります。…まぁ、よく探しているのは提督がなくした印鑑や書類なんかですけどね。でも、大淀さんに聞いて探してもらうのも気が引けます。大淀さんは忙しそうに働いていますし、もしこの事が時雨ちゃんに露見したなら…。怒られるかもしれません。でも、なるべく早めに素直に打ち明けたなら被害が軽くてすむ可能性も…?

 

「お困りのようだな?」

 

上から声が降ってきました。この声、この雰囲気からすると…

 

「日向さん?」

 

瑞雲が好きな航空戦艦…でしたっけ?航空戦艦ってことは、やっぱりあの大きな艤装で空を…?

 

「あぁ、君が瑞雲を探し求めているような動きをしていたものだから声をかけてしまった。」

 

探してはいますが、瑞雲では…いや、ちょっと待ってください?瑞雲ってよく扶桑さんが使ってる飛行機ですよね…。索敵ができるってことは、探し物をすることに関してはすごい戦力になってくれるんじゃないですか?

 

「えと、日向さんは今お暇ですか?」

 

脱衣場でこんな会話をするのもシュールですが…。

 

「すまない、これから少しばかり入渠するんだ。」

 

…確かにここにいるってことはそういうことですよね。

 

「そ、そうですか…。」

 

 

 

 

 

 

そうです、どうして着替える中で落としたと決めつけられましょうか!…うぅ、自分でも焦りすぎて思考がおかしくなってきているのがわかります。

 

「あ、明石さんっ!」

 

突然走り出したものですから、少し気分が悪くなりましたが…ご飯を戻してしまうほどではありません。そんなことよりも大事なのは髪飾りのことです。

 

「うぉっ、ビックリさせないでくださいよぉ。」

 

いや、私としてはその振り上げた大きなレンチで何をどうするつもりだったのかも質問したくなってきたところなんですが。

 

「えと、時雨ちゃんにもらった髪飾りを見ませんでしたか?」

 

「見てないなぁ。艤装の妖精さんに聞いてみたら?」

 

確かに、ドックの妖精さんに聞くよりも早いかもしれません。流石は明石さんです。

 

 

 

 

「魚雷を受けてバランスを崩して頭から水面に叩きつけられる前まではついてたんだけど…帰投した時にはすでになくなってましたたよ?」

 

「えっ、それは…」

 

12.7㎝連装砲の妖精さん、それは本当なんですか?私の探しているものはすでに海底への遥かなる旅路についたってことですよね。でも、私は潜水艦でもありませんし広い海で髪飾りを探すなんて難しいことはできません。というか、潜水艦の巣窟でそんなことをしていたら自分まで海底に引きずり込まれてしまいます。

 

「…終わった、終わってしまいました。」

 

「ん、どうしたんだい?」

 

どうしたもこうしたもありませんって…。

 

「あの、あのですね…っ!?」

 

っていうか、時雨ちゃんじゃないですか!?

 

「あぁ、工廠に飛び込んできたときからいたよ。」

 

え、じゃあ…完全にアウトじゃないですか!?

 

「な、なんか焦ってるみたいだけど…別に僕は怒ったりしないよ?」

 

「ほ、本当ですか?でも、ごめんなさい!もらってその日のうちに海に落としてしまうなんて…」

 

「いいんだよ、僕は君が無事に帰ってきただけで満足なんだ。遠征が終わって帰ってきてみたら友鶴の艤装が修理中だったからビックリしたよ…。でも、お守りが身代わりになってくれたならよかったよ。」

 

よかった、よかったぁ…。嫌われたり顰蹙を買ったりしたらどうしようかと思いました。



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暴走、明石さん

「ええっと、薬は…。」

 

あ、もうなくなりそうですね。明石さんにもらってこないとです。忘れると大変ですから覚えているうちにもらってきましょう。

 

「そういえば、この鎮守府の明石さんって凄い人ですよね…。」

 

まぁ、私が知ってる他の明石さんは研究所で血の染み付いた白衣を着て私達に酷いことをしたあの明石さんだけなんですが。

ここの明石さんは、優しいし仕事も完璧です。まぁ、趣味の開発では大淀さんから“地球を滅ぼすつもりですか!”とか“不可です、絶対に許可しません!”とか言われてることもありますが、色んな意味で凄いものを作ってます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが完成したなら、大きな進歩ですよ。」

 

“列車砲”

 

これなら余剰になった艦砲の再利用としてロマンと実用性の両方を兼ね備えた理想的な装備が開発できます。

 

「夢が広がりますね、明石さん。」

 

目指すは世界最大最強の列車砲【ドーラ】っていいたいところですけど私達は海軍装備の再利用を目指してるので最終目標は46㎝列車砲の作成としておきましょう。まずは、中口径の20.3㎝砲からいきましょうかね。

 

「えぇ、これはすごい考えですよ!」

 

迅速な陣地展開。線路さえあれば配置転換が簡単。発砲位置を変えてしまえば撃ち返される前に逃げることもできるかもしれない。…んんっ、素晴らしい考えです。

 

「じゃあ、やっちゃいますか。」

 

「やっちゃいましょう!」

 

量産を目的とした装備を開発するならできるだけ簡単な作りにしないと不都合が生じることになります。まぁ、仲間内で使うのみなら整備も製作も私たちがやるので好き勝手にやらせてもらいますがね。

 

「そういえば、磯風ブレンド比叡カレー煙幕も化学兵器を作るなって叱られましたね…。」

 

「…平行して小口径バージョンも作ってみましょう。対空戦闘なんかに需要があるかもしれません。」

 

前回の<バラける61㎝三連装魚雷3号>なんかは大淀という壁を乗り越えても大本営というラスボスから“こんな魔改造を見せつけられても困る”とか“正規としての採用には無理がある”とか、さんざんな評価でしたからね。あれで北上さんなんかが先制雷撃をしたら楽しいことになったでしょうに…。

 

「なら、小口径主砲の12.7㎝も使っちゃいましょう。」

 

「動力は廃棄予定の偵察機から流用しようかしら…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「わわわっ…」

 

なんか、お仕事みたいです。盗み聞きするのは悪いことですが何を作ってるのか気になります…。

 

 

<旋回機能は要らないでしょ。>

 

<いや、やっぱりここは無限軌道で!>

 

<連装砲をそのまま使用っ!?

何て素晴らしい言葉でしょう!>

 

<三式比叡カレー弾も装填したい<それだ!>っ…!>

 

こ、これは…。ノックをしても気づいてもらえないやつです。それどころか、また暴走してるみたいです。明石さんと一緒にいるのは夕張さんでしょうか。夕張さんも趣味として新装備の開発をすることがありますから。

以前、【12.7㎝単装超速射砲(通称、夕張マシンガン)】なるものを使って演習相手だった長門さんと提督に思いっきり怒られてました。その時の夕張さんの他の装備は【バラける61㎝三連装魚雷2号】と【夕張式強化タービン】。結局、大淀さんに没収され封印されましたが一種の伝説になっています。他にも【磯風サンマ魚雷】とか色々なものを開発しています。

 

「ごめんね、先に入っていいかしら?」

 

あ、大淀さん。…なんだか、今日は機嫌があんまりよくないようですね。

 

「ちょっと、耳を塞いでてね。」

 

「…あ、はい。」

 

ちょっと普段より強めなノックをして勢いよくドアを開けて飛び込んでいきました。

 

「明石ぃいいいい!!!」

 

さすがは、大淀さん。慣れています。

 

「げっ、大淀さんっ!?」

 

 

 

また明日出直しましょう。



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打ち合わせ

「さ、作戦ですか…?」

 

もしかして、昨日明石さんのところに大淀さんが踏み込んでいったのと関係があるのでしょうか。

 

「うん。作戦に参加してほしいんだ。大規模作戦じゃないから安心して?」

 

まぁ、偉い人から言わせれば私の存在は不都合そのものですからね。私を知る人も少ない方がいいのでしょう。

 

「それで、どんな作戦なんですか?」

 

死ねと言われたら死ぬつもりではいますが…。

 

「あぁ、心配しなくても大丈夫。今回は支援するのがお仕事だからね。夜襲を受けた小さな鎮守府が建て直されるまで仕事を手伝うって感じ。これが資料ね。」

 

あぁ、確かにそれなら私が出ても大丈夫そうですね。

 

「この資料の感じでいくと…。」

 

哨戒を担当する艦隊と輸送船団を護衛する艦隊に別れて作戦を行う感じですね。私は哨戒担当で組まれてるみたいですね。

 

「仕事先は船団護衛とか海域哨戒なんかを主に担当する鎮守府だからね。備蓄もそんなにないし、その資材も襲撃で燃えちゃったし…。大型艦を派遣しても扱いきれるだけの資材もない。だから、作戦の終盤になったら投入する予定。あぁ、工廠と入渠施設は心配しないで。艦娘用の母艦を用意してるから。」

 

「もしかして、明石さんですか?」

 

私を助けに来たときもその船できたらしいですけど…。

 

「うん、昨日から整備してもらってる。妖精さんと明石の共同作業だね。」

 

なるほど、薬をもらった時に酷く疲れた顔してたのはそういうことだったんですね。

 

「艦娘母艦は簡単に言えば移動する鎮守府みたいなもの。向こうの鎮守府も大分やられてるから入渠施設は自前で用意しろって言われてるのよね…。」

 

「それ、大丈夫なんですか?」

 

相当手酷くやられた感じですけど…。

 

「ダメだね。だから、大本営から「忙しいし、間に合いそうにないから助けにいけ」って命令が出てるんだけどね。奴等が忙しいのは椅子取りゲームやってるからだろうに…。あぁ、何でもない。何でもないよ。」

 

「私で大丈夫なんでしょうか?」

 

提督や仕事先の人が大本営の人に睨まれたりしませんよね?大丈夫ですよね?

 

「うん?あぁ、そういうこと。大丈夫。仕事先の司令官は私の教え子だし大本営も一枚岩じゃないからね。友鶴ちゃんを良くない目で見る人も確かにいるけど私達の味方だってたくさんいる。だから心配しないで?」

 

提督の教え子ですか。確かにそれなら安心です。世の中には増援として艦娘や妖精さんを借りておきながらなかなか返さなかったりする組織もあるみたいですからね。

 

「じゃあ、母艦の準備ができてから出発って感じですか?」

 

魔改造されてなければいいのですが…。



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小林提督の懐かしい夢

「あぁ、つかれたなぁ…。」

 

学校の校舎の影で艦娘達が楽しそうに話してるのを見ながらスケッチブックを開いた。授業では使わない筆箱を開ければ私が家を追い出される前に買い揃えた色鉛筆が顔を出す。

 

「なんだって私は…。」

 

暇があれば絵ばかり描いていた。小さい頃から私はそうだった。いつからか風景画を多く描くようになった。たぶん上手にできなくても風景は文句をいったりしないからだろう。

 

「あんた、こんなところで何してるの?」

 

そんなことをぼんやりと考えていたのが悪かったのかセーラー服ワンピースの艦娘さんに声をかけられてしまった。頭の上に浮いた変な機械が気になるけど、今はそれどころじゃない。

 

「えと、私ですか?」

 

「そうよ。あんたのこと。」

 

何か言わないと。でも、暇だから絵を描いていたなんて言ったら怒られるかもしれない。“上手でもない癖に絵なんか描きやがって!画用紙を汚したもので飯が食えると思うなよ!”って怒鳴られてスケッチブックをゴミ箱に入れられてしまうかもしれない。

 

「き、休憩をしています!」

 

私は筆箱を閉じて鞄の中に突っ込んだ。

 

「へぇ、こんな湿っぽいところで?」

 

慌てて撤収しようとしたのが悪かったのかスケッチブックが鞄に上手く収まらない。欲張ったりしないでもう少し小さいのを購入すればよかった。

 

「ほら、白の鉛筆落ちてるわよ。」

 

「ひぇっ!?」

 

赤鉛筆なら言い訳ができた。授業で使うとか鉛筆派なんですとか。丸つけに使いますとか。でも、白は無理だ。普通に勉強するんじゃ白は使わない。

 

「落ち着いて、深呼吸しなさい。別に怒ったりなんかしないわ。」

 

「す、すみません。」

 

勉強も運動もそれほどできる訳じゃないし、人の名前すら覚えられない私に話しかけるなんて暇な人だと思う。

 

「ほら、謝んないの。あんたはこれから艦娘の上にたって仕事をするようになるんだから。」

 

「すみません…。」

 

白い色鉛筆を筆箱に戻して顔をあげれば、彼女は呆れたような顔をしていた。

 

「謝んなっていってるそばから謝らないの!そうだ、私はこれを届けに来たの。明日からあんたの担当は敷島教官になるわ。教室は旧校舎の一階だから。忘れずにいくのよ?」

 

「はい、わかりました。」

 

プリントを受け取ってファイルにしまう。

 

「一応、自己紹介だけしておくわ。

特型駆逐艦五番艦の叢雲よ。」

 

そう言いながら叢雲は私に向かって手を差し出して

 

「えと、小林榛名です。」

 

私はその手を恐る恐る握った。

 

 

 

 

 

 

今更こんな夢を見るなんて、叢雲は何て言うかな?笑われるのか、照れ臭そうな顔をするのか…。

 

 

 

砲弾の破片にやられた腹部を焼けた軍刀で止血したら叢雲に泣かれてしまった。もしかしたら、まだ泣いてるかもしれない。教官が助けに来てくれたのかもしれない。やることは山積みだ。…寝てる場合じゃない。

 

 

 

早く現実に戻らなくては。



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作戦の変更

「はい、はい…えぇ、こちらとしては最善を尽くしているつもりなのですが…。」

 

メモするために持っていたボールペンが不吉な音をたてています。声こそ冷静なままですが、ペン先はメモ帳に突き刺さり顔は紅潮しています。

 

「それはそれは…手厳しいですねぇ。

あ、わかりました。」

 

折れた。折れちゃいました。しかも片手で。

 

「我々は大本営の皆さんの邪魔をしないように動けばいいのですね?」

 

ペンの破片が傷つけたのか少し血が出ています。

 

「はい、わかりました。それでは失礼致します。」

 

 

…ガチャン。

 

 

 

 

「あの、提督…?」

 

小林提督が意識不明の重体だと聞いてから、部屋の空気が一気に重たくなりました。それに加えて空気の読めないことで定評のある大本営の偉い人からの電話。火に油を注ぐと言いますか、ガソリンを注ぐと言いますか…。

 

 

 

「淀殿?あぁ、ごめんね。冷静になるべきだったね。」

 

口角が上がるものの、目に光はなく…。今の提督を見たら完全武装して部下を従えた港湾水鬼だって泣いて許しをこうでしょう。

 

「まったく…。」

 

文句をいいながらも赤ペンは踊るように作戦の変更点を書き上げていく。

 

「ハラワタ…」

 

その目は真剣で

 

「ナワトビ…」

 

恐ろしくて

 

「淀殿、加賀さんに連絡してくれる?腕利きの零戦21型を用意してほしいって。」

 

提督の相手をすることになる深海棲艦を哀れに思った。

 

「零戦21型ですね?」

 

「うん、矢文を飛ばしてほしいんだ。通信をとってもいいんだけど、言葉だけじゃ伝わらないでしょ?」

 

「わかりました。」

 

これは、加賀さんも緊張するかもしれませんね。

 

「できれば少数精鋭でいきたいな…。」

 

なるほど、敵に発見されるのを防ぎたいのですね。

 

「あと、古い種類の艦娘が載ってる図鑑とかほしいな。」

 

「えっと、なんのためにですか?」

 

たぶん、資料室の本棚に納められていたと思いますが…。何に使うのでしょうか?

 

「いや、引っ掛かるところがあってね?」

 

「わかりました。探してきます。」

 

明石だって頑張ってるんですから私も頑張らなきゃ行けませんね。

 

「あと、そろそろ茶菓子を買いにいった金剛が戻ってくるから途中で捕まえて仕事を分担してもらってね。」

 

あぁ、なるほど前日の秘書艦は赤城さんでしたか。間宮さんと伊良湖さんのところに金剛さんを買い物にいかせたのはそういうことでしたか。

 

「襲撃された小規模鎮守府は三つになった。海上で撃破される定期船も出てきた。

これ以上の被害が出る前に下手人の首を飛ばす。」

 

「…いってきます。」

 

ここまで来てようやく大本営も動き出しました。それを見越しての作戦変更なのでしょうけど…。

 

「いってらっしゃい。」



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叢雲の提督

「大本営が、どうして…?」

 

私の提督が大本営に呼び出しを受けるほどのことをしただろうか。

 

『同じような被害が出てて、観測所と小規模な基地がいくつか夜襲されたの。他の指揮官はミンチになったり行方不明になったりで復帰できる可能性が低いの。だから、詳しく話が聞きたいってことだと思う。たぶんだけど意識が回復するまで待ってくれるし、海軍の病院に入れられるから安心して。』

 

あぁ、あの大きな病院か。それにしても変だ。

 

「ありがとうございます。」

 

あと少し遅かったら提督も生きてはいなかっただろう。象に向かって鼠のような素早さを求めてはいないけど、せめて象のように大きな耳を持っていてほしいものだ。

 

『叢雲達も提督の付き添いになる。まぁ、緊張しなくても大丈夫だけど下手なことを言うと面倒なことになるから寛大な心をもって接してあげてね。お年寄りが多いから。』

 

「あはは、そうですね。」

 

生き字引みたいな人もいるけど、耄碌しちゃったみたいな人もいる。

 

『…で、どうなの?』

 

「まだダメそうです。寝起きが悪いものですから。」

 

軍人らしくはないかもしれないけど、この鎮守府では前線の鎮守府のような厳しい規則は必要ない。前線に出るわけでもないし、人数も多くないから最低限の規則で運営できている。

 

『あ、ごめん…。また後でかけ直すね。』

 

「はい、わかりました。」

 

…ガチャン

 

 

 

 

 

 

 

大本営なんて久しぶりだ。最後に呼ばれたのは反艦娘派の活動家に襲撃を受けて提督が買ったばかりの色鉛筆で撃退した事件以来だろう。まぁ、完全にやり過ぎて出世コースから外れちゃったんだけど。あれは私もビックリした。ナイフが腹部に突き刺さった状態から色鉛筆で反撃して相手を殺しかけた。

 

思えば最初にあった時から軍人っぽくはなかった。ドジを踏むことも多いし、寝ぼけて階段から転げ落ちたりするし。何度もやってるのにいまだに演習の砲撃とかで飛び上がることとかあるし。小心者というか何て言うのか…。ただ、怒らせると何をするかわからないとこで定評がある。あの襲撃事件の時もそうだったし、先輩の顔をたてるべき演習で本気になって潰しにかかったりしたこともある。

まぁ、やればできる子なのだ。スイッチさえ入れば優秀な提督なのだ。ただ、本人がスイッチの場所を知らないだけで。

彼女とは長い付き合いだ。初期艦になる前から学校にいる頃からなんだから。まだまだ新米だけど私の提督は小林榛名だけでいい。私を疎んじる生徒もいたけれど、彼女は真剣に私の話を聞いてくれた。彼女は私を必要としてくれた。

 

提督には私が必要だし、私には提督が必要だから。

 

…だから

 

 

 

「…早く起きなさいよ。」



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執務室と病室

「…以上、報告終わり。」

 

開いた口が塞がらない。大淀の報告が本当だとすれば、電話してきた頭の悪い将校が敵の出所を探り当てたらしい。24人もの艦娘の命と引き換えに。より詳しく言うならば死者24人、大破1人、行方不明5人。大破しながら戻ってきたのは峯風型の島風のみだったという。

 

「…なんてことを!?」

 

紅茶がこぼれて軍服が茶色くなっていた。報告を受けている間に冷めてしまったために火傷はなかった。

 

「提督、相手方が執拗に手出し無用と伝えてきたのは自分の不正を暴かれたくなかったからだそうです。」

 

そんな、そんなことで仲間の命を海に投げ入れられるのか?馬鹿げてる!そんな鬼畜の所業…。

吐き気が込み上げてくる。

 

「つまり、私は騙された…?」

 

艦隊を引き上げさせたのは不正が露見しないための手段。権力を振りかざして強引に小林鎮守府にいた艦娘を大本営に召喚したのもそういうことだったんだ。

 

「そう、なりますね。」

 

謹慎+降任という処分が下ったようだ。奴は確かに不正を働いていたが、免職を逃れた。普通これだけのことをしたら免職を避けられたとしても、しばらくは大本営特製の壁の中でのお勤めをすることになるか懲罰部隊で働くことになるだろうと思うのだが…。

 

「資材の横領に艦娘の不正運用。これだけやっておきながら、こんなに甘い処罰でいいのだろうか。」

 

わけがわからない。

 

「どうしようもないですね。」

 

奴が上に無断で運用していた艦娘は97人。上手い具合に騙して運用していたようだ。この闇艦娘を使って届け出をしていない遠征を行うことで資材を獲得。それを何も知らない新人提督や仲間に転売。こういう方法で金に変えていたらしい。

 

「本当に大変だった頃はこんなことをしなかったんだけどなぁ。」

 

みんな目の前に精一杯で必死で…。

 

「おそらく、謹慎が解かれると同時に届け出をして退職金を受け取って姿を消すかと。」

 

最近の不正は目に余るものがある。経費の不正利用なんてかわいいもので、何も知らない駆逐艦娘を利用して違法薬物を運んだりしたりなんてことも起こっている。それでいて問題が起こると“秘書がやりました”なんていうのだ。そのうち、深海棲艦じゃなくて身中の虫に内側から食い荒らされそうだ。

 

「厄介なことばかり残して逃げるなんて…。」

 

あぁ、本当にどうしようもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…む、らくもぉ?」

 

気の抜けた声で私を呼ぶ。死にかけたというのに提督は父でも母でもなく私を呼ぶんですね。

 

「何よ、ようやく目が覚めたの?」

 

どうしてか素直になれなくて強い言葉ばかり浴びせてしまうけれど…。

 

「あぁ、心配させちゃってごめんね。」

 

「べ、べつにそんなことないし!」

 

包帯だらけになりながら優しく私の手を握り返してくる提督。何故これほどに優しくて善良な提督がこんな不幸にあっているんだろうか。

 

「そぅ?でもありがとう。」

 

死んでもおかしくないくらいの大ケガだったのになおってしまうなんて、素直にすごいと思う。提督を治療してくれた軍医さん達には本当になんてお礼をいったらいいのだろう…!

 

「もう、バカね!」

 

…こういう時、素直になれない自分の口を少し恨めしく思う。



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敷島鎮守府フル稼働!(1)

「はい、はい…。」

 

電話をしながら頭を下げる。今回、騒動が大きくなったのは下手人の言うことを信じて艦娘達を下げた私にも問題があると向こうは言うのだ。

 

「ええ、その事は本当に申し訳ないと思っています。」

 

それが本気なのかどうかは問題ではなく、彼等にしてみれば誰かに責任を押し付けたい。自分の権力闘争において不利になるようなことは避けたい。そんな思いから私を叱責しているのだろうと思う。

 

「はい、それでは…。」

 

始末書。…始末書かぁ。昔はよく無鉄砲なことをして書かされたものですわ。食後の運動にバレーボールをしていたら窓ガラスを突き破ったとか艤装を展開した状態で振り返って近くにいた明石の後頭部を強打して入渠させることになったとか…。

 

ガチャンッ

 

「あぁ、耳がガンガンする…。」

 

そんなに怒鳴らなくたって聞こえる。わかってますよ。今回、私が動けていたなら犠牲者の数だって減ったかもしれない。今とは違った展開になっていたかもしれない。しかし、そうならなかった。タラレバの話をしたところで現実は変わらない。私が殺したようなものだ。

 

「提督ぅ…?」

 

「ごめんごめん。金剛、心配しないで?ちょっと怒られちゃっただけだから。」

 

金剛が心配そうにこっちを見ていた。いけないな。それはいけない。私は提督なんだ。

 

「さて、金剛。これから忙しくなるよ?」

 

この辺りでは私の鎮守府が一番大きい。保有する戦力も大きいし、少し古いけど設備も整っている。

 

「この辺の海域を哨戒する任務が下った。…つまり、壊滅した大本営の艦隊が建て直されるまで部分的でいいから代役をしろというわけだ。」

 

とはいえ、大本営は文字通りに大きいので人員の補充は結構早く終わると思われる。それに、任された範囲もギリギリ許容範囲内だ。

 

「oh…それって、提督の仕事なの?」

 

「あと、査察を受けろと言われたね。」

 

かなり忙しくなりそうだ。痛くもない腹を探られるのは気に入らないが、それで気がすむのなら好きなだけ見ていけばいいさ。

 

「あぁ、後で明石に高い茶葉でも差し入れておこうかなぁ。」

 

「大丈夫デース。私も一緒に謝りマース!」

 

私は椅子に座っていればいいけれど、明石はメンテナンスしたり修理したり色々と仕事が多い。大淀もそうだけど、頑張りすぎじゃないかと時々心配になってしまう。

 

「さて、準備にかかるとしようか!」

 

駆逐艦や軽巡洋艦、軽空母を中心に哨戒のための艦隊を編成して。航空機の整備をしながら基地航空隊を編成して。資材が足りなくなりそうだから遠征用の艦隊も編成して。敵の本丸を叩きにいく大本営への手伝いとして装備の貸し出しを許可する書類を書いて。資材の貸し出しを許可する書類を書いて。…貸し出しを強引に迫られたってのも気に入らないのだが、文句をいっても深海棲艦は減らない。査察に向けて整理整頓して掃除をして…。

 

「なんか、嫌になってきた。」

 

「oh…。」



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心労の憲兵と過労の提督

「…お腹いたい。」

 

敷島鎮守府。元連合艦隊旗艦の戦艦敷島が治める鎮守府だ。下手を打てば物理的に首が飛ぶ。そして、このタイミングでの査察はきっと歓迎されないだろう。いや、そもそも学生がテストを嫌うように提督も査察を嫌うものだ。死ぬかもしれない…。

 

「大丈夫でありますか?」

 

あぁ、大丈夫だとも。この仕事を選んでしまった過去の私に言いたい。その先は地獄だぞ。

 

「胃薬とか持ってる?」

 

基本的に嫌われる仕事だ。でも、好かれることもない訳じゃない。黄金色に輝くお菓子を送られた同僚を見たことがあるし、その同僚が三日後に辞職したことも知っている。あれは二月だったから。バレンタインの贈り物だったのだろう。12月に先輩が退職したときには小さな箱が本部に送られてきた。退職祝いかもしれないが、先輩が行方不明なので上司が先輩の実家まで届けにいった。後で聞いた噂によれば先輩は小さくなって帰ってきたらしい。

 

「あと、緊張してきちゃった。」

 

「エチケット袋は自分のものを使ってほしいのであります。」

 

この仕事が終わったら小さい頃憧れた花屋さんに転職しよう。パンジーやビオラ、グラジオラスに朝顔…。

 

「帰ってくるであります!」

 

「ゆ、揺らさないで…。」

 

あきつ丸さんが私のことを揺らす。せっかく夢を見てるのだから、そのままにしておいてほしい。

 

「頼むから、車の中で戻さないでくださいね!?」

 

運転手が悲痛な叫びをあげる。残念。私にこの吐き気は制御不能だ。

 

「本当に頼みますよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ってくるネー!」

 

紅茶の香りと金剛の声で意識が戻ってきた。危ない危ない。少し意識が飛んでた。

 

「寝るんだったらゴートゥーベッド!」

 

「…昼から寝られるわけないでしょ。それに私なら大丈夫。だんだん、楽しくなってきちゃった。」

 

足りないところから貸し出しを強制するな。余計足りなくなるだろうが。…そもそも、この書類が多いんだよなぁ。でも、ちゃんと書かねば貸した分が戻ってこない。

 

「ほら、見て金剛。あれは、彗星かしら。…違うね。彗星ならもっとバァーッっと動くもの。」

 

「て、ていとくぅううう!?」

 

たぶん、この時間なら鳳翔達が航空機の試運転しているはず。ならば、ここに近づく車もそろそろ見えるのではないか?この忙しいときにくるんだ。多少の不便は勘弁してもらいたい。

 

「あとは、友鶴ちゃんだよなぁ。」

 

友鶴ちゃんは近海の警備を担当している。木を隠すなら森の中とはよくいったものだ。…変に突っかかってくる人じゃなきゃいいのだけど。



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倒れる提督

「死ぬかと思った。」

 

素直な感想はそれだけである。月月火水木金金なんて歌がある時点で海軍はブラックなのだが…。いや、それにしてもひどかった。

 

「お疲れさまでした。」

 

途中で姉妹からの援助がなかったら本当に干からびていたかもしれない。夢の中では沈んだ初瀬がいい笑顔で手を振っていた。…というよりも出迎えに来た人やっぱり多かったわ。軍艦旗どころか横断幕とか出してたわ。

 

「少し、部屋で休みます。代行、よろしく。」

 

目が痛む。というより、全身が不調を訴えている。これは、夕飯の時間には間に合わなそうだ。

 

「わかりました。」

 

もうしばらくは印鑑押したくない。ペンも握りたくない。ついでに言うと、受話器もとりたくない。視察に来ていた憲兵の見送りも本当なら私の仕事だけど。最低限こなせばいいや。

過労死とか笑えないわ。資材を海に捨てるような使い方をするなんて新人研修だったのだろうか…。新人だってもう少しまともな動きをしそうなものだけど。まぁ、過ぎたことをいっても仕方ないか。

“潜水艦型モニター”、つまり敵は戦艦並みの主砲を搭載した潜水艦だった。敵の主力は潜水艦や水雷船体だった。そんな相手に戦艦やら空母やらを並べたところで勝てるはずがない。最終的には敵の援軍としてPT小鬼群まで参戦して大騒ぎだった。

最後は敵に占拠された拠点ごと敵を迫撃砲や空襲、対地攻撃に特化した武器で吹き飛ばしたらしい。

 

「て、てて提督!?」

 

視界が歪む。何故か目の前には淀殿がいる。まるで私を抱きしめようとするような感じで…。

自分の膝から力が抜けているのに気づいた。なんだか、他人事のように感じる。ゆっくりと近づく地面。

 

「ちょっと、そこで大人しくしていてください!」

 

抱き止められて地面に寝かされて。呆然とする私に向かって叫んでから…明石でも呼ぶのだろうか?黒電話(内線)を手にとって指示を出している。

せっかく一緒に整理した書類が地面に落ちるのも気にせずに動いてくれている。…いや、仮にも指揮官である私が床に伏せてるのは良くないだろう。

 

「大人しくしていてください!動かないでって言っているんですよ!」

 

「いや、なんか鼻血が出てきちゃって…。」

 

喉の奥に血液が流れ込むと気持ち悪いし、危ないと思う。それに軍服とか床とか汚れる。

 

「じゃあ、そこの本棚にでも寄り掛かっておいてください。」

 

 

 

長門の模型が上に飾られている本棚。長門が作った長門の模型。横においてあるのは敷島の模型。これは、妹からの贈り物だった。

…いけない。そんなことをぼんやりと考えていたら目がチカチカしてきた。瞼が重たい。目を開けてられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただの過労かと思われます。」

 

そんな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れ落ち、大淀に抱き止められた提督。何やら叫ぶように明石を呼ぶ大淀。明石に連れ出される気絶した提督。その胸元は真っ赤に染まっていた…。

 

「あきつ丸、見てしまったのであります…。」



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引き上げる査察

「なんだ、誤解だったのでありますか。」

 

あぁ、よかった。よかったのであります。あの三笠様のお姉さまに何かあったとなれば軍の内部に嵐が吹き荒れることになったでありましょう。

 

「そうですよ。どうしたらそんなに物騒な誤解をするんですか。まったく、青葉はビックリしましたよ。」

 

鎮守府の青葉さんは情報通なことが多いものでありますが、今回の鎮守府でも情報に強いみたいで助かったのであります。

 

「ご協力、感謝であります。」

 

間宮スペシャルは懐には痛い一撃でありますが、この辺りは経費が降りるでありましょう。

 

「いえいえ、あきつ丸さんもお勤めご苦労様です。また面白い話を聞かせてくださいね。」

 

夜警をしているときの怖い話って需要がそんなにあるとは思えないのでありますが…。あぁ、夏の特別号なんかに使うのでありましょうか。海軍怪談集みたいな感じで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督は、現在お会いになることができませんので代理として大淀が書類を受けとります。」

 

「秘書艦の金剛デース!よろしくお願いしますネー!」

 

怖いくらい手を震えさせながら書類の確認をする同僚殿。査察する側がビビってどうするんでありますか?まったく、そういう態度だから出世できないのであります。臆病であることは戦場で大切なことでありますが、時と場合によるものであります。

 

「失礼。このあきつ丸が代読させていただくのであります。」

 

『基本的には問題なしであります。されど、過大な業務を押し付けられているようにも思われるところであります。この点については、こちらから話をつけに行くので心配無用であります。』

 

「つまり、この鎮守府には問題がない。あるとしたら、仕事を押し付けすぎた上の人間であると?」

 

眼鏡を持ち上げながら訪ねる大淀さんと無言で腕を組む金剛さん。

 

「その通りであります。その他には特に指摘すべきと感じることはなかったので、詳しくはその書類に記載してあります。ああ、あと提督によろしくお願いするのであります。」

 

ボロが出るタイミングとして多いのは査察に来た人間が帰ろうとするとき。きっと、気が抜けてしまうのでありましょう。そして、そのタイミングで提督殿は倒れてしまったのであります。自分達がプレッシャーを与えてしまったという面も否定はしきれないものでありますから、とても申し訳のない気持ちになってしまったものであります。

 

「はい、確かに受けとりました。」

 

「では、これからも武運長久を祈っているであります。」

 

「えぇ、これからもお互い頑張っていきましょう。」

 

揃って敬礼。回れ右で退室。慣れた流れであります。



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提督の復帰

「ふふふ、復活でーす!」

 

テンションがおかしくなった提督が復活しました。1週間ほどの休暇でしたが、普通に病欠なので途中で暇になったのか病室から抜け出したり明石に叱られたり…。まぁ、我らが提督が簡単にやられるはずがないのですが…。

 

「お早うございます。提督。」

 

「oh…。」

 

書類、書類、書類の山。まぁ、提督が一週間もいなければ机の上に山脈ができるでしょうね…。

 

「早速ですが、至急のものは右。急ぎでないものは、左。中間にあるのは、今日中の書類です。」

 

「えぇ…。なにこれ?え、嘘?」

 

…でも、仕方がないんですよ。提督の代わりとして秘書艦や代行が手を出せる範囲は規則で決まっています。

 

「淀殿、内線。援軍を呼ぶ。これしかないよ。」

 

懐から何枚もの間宮券を取り出す提督。…それ、援軍じゃなくて買収。あるいは間宮券で雇うタイプの傭兵じゃないですか?

 

「内線ですね。どうぞ。」

 

確かに空母や戦艦といった大型艦の皆さんは休暇中ですが、軽巡洋艦、それに駆逐艦や海防艦の皆さんは遠征任務で大忙しです。そして大型艦の中には、大本営からの資材の運搬の手伝いをしているという人もいます。

 

「…金剛型と友鶴ちゃんしか捕まらなかった。」

 

金剛型の四人なら書類仕事も慣れていますし、特に心配はありませんね。それに執務室に沢山の艦娘を集められても人数が多すぎて上手く回りそうにないですし、ちょうどいいかもしれません。

 

「逆に誰を捕まえたかったんですか…。」

 

「誰でもよかった。」

 

…私、しっかり見てましたからね。提督がどこに電話かけていたのか。

 

「あ、そうだ。予備の椅子とか出してあげよう。金剛たちなら机とか椅子とか運べるだろうけど、友鶴ちゃんがやると階段から転がり落ちかねないからね。」

 

確かに彼女は平らな地面でも転びますからね。それにマンホールに足を引っ掻けて転倒とか雨の日に足を滑らせて全身ずぶ濡れ…。そんな彼女に椅子と机を運ばせるなんて恐ろしいことは任せられませんね。

 

「ええと、これはミカン箱。こっちは、リンゴ…?こっちは、ビールケース?こんなの入ってたっけ?」

 

何で2パターンあるんですか。あと、誰ですかビールケース隠したの…。

 

「これだ、ちょっと待って…」

 

…何故この流れから小中学校で使われるような机と椅子が出てくるのかわかりません。しかし、その収納スペースは後でゆっくり掃除させてもらうとしましょう。

 

「はい、これ落とさないでね。中のティーポット、凄くいいやつだから…。」

 

「いいやつ、ですか?」

 

木箱に墨字って時点で触りたくないんですけど…。

 

「うん、いいやつなんだ。」

 

一気に片付ける気が失せてきました…。



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分業の執務室

「この机って…」

 

どこから見ても学校で使うものですよね?鎮守府って軍事施設であって教育施設じゃないですよね。

 

「あぁ、ごめんごめん。手前にあってすぐに出せそうだったからさ。」

 

まぁ、小中学生でも運べるものですからね。

 

「裏に“タカシ君”とか書いてあるんですが…。」

 

タカシ君って誰なんですか…。ええっと、これはどういう?どこから出してきたんですか。

 

「あ、本当だ。誰なんだろうね。」

 

“古い鎮守府の中には学校や病院を転用していることがある。学校や病院といった場所は総じて生死問わず多くの人々を集める場所であり、我々も気を付けねばならないのかもしれない。彼らの方へ引き込まれないように。”

…い、嫌なタイミングで青葉さんが毎年出す【夏の海軍心霊特集号】の内容を思い出してしまいました。

 

「たぶん、使い回してるから仕方ないんだよね。ほら、廃校になったりすると椅子や机が余るでしょ?よく言えばエコ。悪く言えば貧乏性なんだけどさ。海軍としては、中古で揃えた方が安上がりだと思ったらしいよ。」

 

なるほど。確かに駆逐艦娘の皆さんや私みたいに小柄な艦娘にはピッタリかもしれませんが…。

 

「あとは、たぶん先任さんの趣味じゃないかなぁ。この鎮守府も古いからね。いろんな理由で頭がすげ替えられたり中身ごと一新されたりしてるのよ。」

 

…い、嫌なことを聞きました。それって要するに事故物件ってことですよね。“いろんな”って“そういうこと”ですよね。実際襲撃されて大ケガしたこともありますが怖いことを聞きました。

 

「はい、これは榛名の机に。こっちは比叡の机にお願いね。」

 

羊羮で雇われた妖精さんたちが書類を運ぶ姿は可愛らしいのですが、そろそろ日付スタンプを押し込む右手が震えてきました。

でも、向こうで「ワン、ツー!」と「ダイジョブデス。」を淀んだ目でリズムよく繰り返してる二人や「時間と場所を考えなよ…」と呟きながら不可の判子を押してる金剛さん。そして、軽口を叩きながらも目を血走らせながら筆記する提督に山盛りの書類を運び込んでくる大淀さん。…うん、まだまだ私は元気です。

 

「誰、こんなに遠征に出したの?…私じゃん!」

 

私も早く“タカシ君”から解放されるように頑張ります。確かに大変な仕事です。でも、正直なところ呼んでもらえて私は凄く嬉しいのです。こんな私でも皆の役に立ててるってことを実感できますから。

 

「そろそろ休憩にしませんか?」

 

「あれ、お母さん?」

 

…なるほど、お昼の時間でしたか。

 

「うん、そうしよう。ごめんよ、付き合わせてしまって。さっき渡した間宮券、置いていかないでよ?」

 

これで超高速お餅つき状態にあった金剛さん達も休めるはずです。

 

「あぁ、それと鳳翔さん。」

 

「なんですか?」

 

「…夜食の準備もお願いします。」

 

…午後は他の人を呼ぶらしいですが、病み上がりなので無理しないでください!



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密室のお茶会

「そう、報告ご苦労様。」

 

艦隊の充足率は徐々に戻ってきたらしい。多くの艦娘たちが訓練を終えて配属されている。

 

「このまま、次回の任務から通常の業務に戻れる感じだと聞きました。」

 

今回の不祥事では、失ったものも多かった。しかし、得られたものがなかったわけではない。代償は法外に大きかったわけだが得られたものは0じゃない。

 

「大変なのね。」

 

腕利きの艦娘が所属する大本営直属の艦隊。輸送任務や護衛任務を主にする艦隊だって例外ではない。新型から旧型まで幅広い艦娘が経験豊かな艦娘が所属している。

 

「そろそろ、到着する頃です。」

 

目の前にいる彼女は淀殿ではない。大本営所属の大淀の一人だ。教官時代からの付き合いで今でも親交がある。あだ名は小淀。

 

「陸軍の艦娘。神州丸かぁ。」

 

あきつ丸と同じ揚陸艦の艦娘だ。きっと憲兵との繋がりを持った艦娘だろう。

 

「はい、彼女については事前に連絡が来ていると思います。…勲章の1つも用意できなかったのは本当に申し訳なく思っています。」

 

「わかってるし、貴女が謝ることじゃないよ。」

 

今回のことは表沙汰にはしないことになっている。だから勲章や表彰なんて目立つことはできない。それに私は別に勲章や表彰といったものには興味がない。誉められたくって仕事をしている訳じゃないし、出世欲があるわけでもない。

 

「でも、我々が助かったことは事実です。本当にありがとうございました。」

 

「それで、それだけじゃないんでしょ?」

 

それだけなら人払いをする必要はない。わざわざ二人になる必要なんてない。

 

「…研究所が動いてます。」

 

研究所?友鶴ちゃんを艦娘にした研究所のこと?

 

「何だって今さら?」

 

「まだ、完全にはつかめていません。でも、動いていることは確かです。」

 

…なるほど。だから陸軍の艦娘さんなのか。憲兵との繋がりがあって陸戦を知っている艦娘。例えそれが事実でなかろうと相手は警戒せずにはいられない。

 

「ありがとう。」

 

それに万が一の事態が起こらないように警戒する必要も出てくる。海軍だけなら身内のトラブルで片付くけれど、陸軍の艦娘や憲兵を巻き込んだとなれば話は別だ。

 

「私にできる手伝いはこのくらいです。」

 

小淀の人選なら安心できる。

 

「これが神州丸達のデータです。」

 

メガネに仕込まれたメモリーカードを受けとる。

 

「一応、査察が終わった直後なので適当な理由をつけておきました。」

 

…ティーカップから立ち上がっていた湯気はいつのまにか消え失せていた。

 

「もう、こんな時間ですか。」

 

ミニ羊羮を口に運びながら一言。

 

「今日は、ありがとう。」

 

「いえいえ、とんでもない。それでは、私もそろそろ戻ります。まだまだ青い娘の集まりですから。」

 

相変わらず厳しいようだ。

 

 

 

「まるで引率の先生ね。」

 

扉の外には朝潮型の艦娘が五人。私達のお茶会が終わるのを待っていたのだろう。

 

「茶化さないでください。」

 

少し照れたような顔で言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず、素直じゃないなぁ。」

 

ミニ羊羮は5つ減っていた。



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お茶会 前段作戦!

「あと少し。あと少し…。」

 

鍋を使ってカラメルを作ります。使うのは砂糖と水だけです。単純に煮詰めるだけではなく、加減が大切な繊細さを問われる作業です。

 

「ここです!」

 

今日はケーキの型を使った大物を作るので少し大変ですが…。自分で食べるものではなく、誰かに食べてもらうのですから。少しでもいいものを準備していきたいものです。

 

コンコンッ

 

「…?」

 

こんな時間に誰でしょう?今日も皆は忙しそうでしたし…。

 

「ドアの隙間から明かりが漏れていたものですから。」

 

赤城さんですか。きっと提督から私のことを見てきてほしいって頼まれて見に来てくれたのでしょう。

 

「ところで、この凄くいい香りは…?」

 

「今、プリンのカラメルを型に流し込んだところなんです。」

 

「プリン、プリンですか!いいですねぇ。あの甘くて柔らかくて溶けるように優しい味。癖になりますよね。」

 

赤城さんってプリン好きだったんですね。知りませんでした。

 

「あの、材料なら余ってますから一緒に作りますか?」

 

「いいんですか?やりました!ふふふっ、実は私も料理は好きなんですよ?」

 

赤城さんは楽しそうに食事する人ですし、お母さんも<赤城さんの残念なところとしては味見しすぎることくらいかしら?>って言うくらいですから料理の際には繊細な味付けを楽しむ人なのでしょう。

 

 

 

 

 

「加賀さんと半分こですから…。寸胴とかありますか?」

 

「食堂までいけばありますけど…。えっと、流石に寸胴プリンはやりすぎじゃないですか?」

 

寸胴って大きい鍋のことですよね?一応、お母さんのお手伝いをしているときに見かけたことがありますが…。

 

「そうですよね、バケツプリンならぬ寸胴プリン。面白いとは思うんですけどねぇ。あ、ちょうど面白いものを思い出したので少し待っていてください。」

 

赤城さんの矢は零戦になって飛んでいきました。懐から出して放り投げるまでの動作は洗練されていて赤城さんのレベルの高さを物語るようにも感じました。流石は一航戦です。

 

「じゃあ、お借りしますね?」

 

 

赤城さんが鍋の中でカラメルを作っている間に卵をよく混ぜておきましょう。一度、網を通すので無駄にならないようにきめ細かくなるように念入りに混ぜておきます。この卵に牛乳が加わるのはもう少し先のことになります。牛乳を熱して砂糖を溶かして粗熱を取る。そうしたら網を通してボールに移すのです。

 

「そうそうこれこれ。」

 

人差し指と中指ではさんで矢になった零戦を受け止める赤城さん。一瞬手のひらに刺さったんじゃないかと心配になりました。

 

「これって…升ですか?」

 

節分のときのやつですけど…。結構大きいのもあるんですね。

 

「はい、私はこれでいきます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…結局、上手く固まらなくてお母さんにオーブンを借りました。



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お茶会作戦、決行!

「ありがとう、友鶴ちゃん」

 

友鶴ちゃんからプリンをもらう。そして、今日からは非番の艦娘たちに茶葉を配って“お茶会週間”を実施させる。ルールは簡単。お茶菓子を持ち合って艦娘同士の交流を深めること。形式は問わない。飛び入り参加もOK。

 

「それにしても、どうして私だったんですか?」

 

「私が食べたかったからよ。」

 

これには二つの目標がある。1つは私の行う“お茶会”を隠すため。2つは艦娘同士の交流を深めること。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

少し照れる友鶴ちゃん。鳳翔さんが誘うと言ってたからそろそろ迎えに来る頃だろう。

 

「そろそろ、時間だから準備するね。」

 

鳳翔さんに誘われたからか、もらった着物を来ている友鶴ちゃん。時計を指差すとパタパタと帰っていった。

 

「転ばないように気を付けてね!」

 

手を振りながら声をかける。

 

 

 

 

 

 

「さて、と…。」

 

青葉は古鷹に誘われている頃だろう。あの子は古鷹の誘いは断らない。姉妹艦がいない島風は長門が誘えたことを嬉しそうに報告してくれた。

…いや、現実逃避はこの辺にしておこう。新入りさんには先に部屋に入ってもらってる。

 

「それは何でありますか?」

 

「プリンよ。お皿に出すから少し待ってて。」

 

わざとドアを少し開けて会話が聞こえるようにした。手製のプリン。これで少しでも後ろめたいことがあればすぐにわかることだろう。

 

「いいお皿でありますね。」

 

「…貰い物だけどね。」

 

生徒がくれた大皿。陶磁器の職人が家業であった生徒の焼いた皿。家業は兄が継ぎ、弟である彼は職人気質で無口な生徒だった。

 

「いいものはいいものでありますよ。それに値札を見て価値を決めるのは…。いえ、やめておきましょう。壁に耳あり障子に目ありでありますから。」

 

「壁も障子もよく調べておいたわ。」

 

そのために妖精さんの偵察機なんかも飛ばさせないように工夫しているんだから。

 

「なるほど。用意周到でありますね。」

 

「嫌いかしら?」

 

フードを外す神州丸。

 

「歓迎を感謝するのであります。」

 

神州丸はここでようやくテーブルに手を出して椅子に深く腰かけた。

 

「あ、そういえば…。あきつ丸も一緒してよろしいでしょうか?」

 

「これだけ大きなプリンなら大淀も呼びましょう。」

 

事前にした打ち合わせと同じように互いの仲間を呼ぶ。よかった。本物だ。偽物だったらどうしようかと…。

 

「今日は、いい日になりそうね。」

 

天気もいい。楽しそうな声に溢れる鎮守府。新しい仲間が増えた日だ。

 

「ええ、こちらこそよろしくおねがいします。」



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大人のお茶会

「今回の実験には色々と目的があるようなのであります。」

 

ガサゴソと音をたてて隠していた書類を引っ張り出す。なんか、若干温いような温くないような…。

 

「ええっと、見た感じは問題ないのかな?」

 

『20㎝30連装噴進砲の試験』

 

…いや、これはダメでしょう。陸軍さんも何考えてるんですかね。

 

『短12㎝砲、短20㎝砲の試験』

 

あの中途半端な砲を改めて対地攻撃に利用しなくてもいいんじゃないかな。

 

「一番の問題は、彼らの興味関心の中に敷島提督。あなたがいることです。」

 

「え、あっ…!?本当だ!」

 

今更こんな老朽艦に何を期待してるんだか。

 

「決して、採血をはじめとした理由のはっきりしない検査を受けたりしないでほしいのであります。」

 

「そうだね、肝に命じておくよ。」

 

あんな不気味な連中のする根拠のない検査だってなったら自力で海路を通って鎮守府まで帰るわ。

 

「さらに、我ら陸軍を悩ませる上陸先の敵を撃破するために開発したのが先に読んでいただいた新型装備の噴進弾であります。」

 

巡洋艦の20.3㎝砲弾を流用するような設計。しかし、対空用の12㎝噴進弾みたく多ければいいってものでもない。構造上、仕方ないことだけれど弾薬を甲板に並べているようなものだから。その威力が大きければ大きいだけ、数が多ければ多いだけのリスクを負わされるように思える。

 

「それで、何で私?」

 

「旧式の前弩級戦艦が最新鋭の超弩級戦艦相手に勝利したこと。身に覚えがありませんか?」

 

…え゛?まさか、そんなことで?!

 

「いやいやいやいや。それはない。」

 

基本的に反則ギリギリの攻撃なのよ?アボルタージュとか衝角攻撃とか。隠し持った魚雷を叩きつけるとか。

 

「でも、実際のところ柔らかいのに弾きますよね?」

 

「弾くように当たってるの!」

 

それでもギリギリなんだからね。死にそうなのよ?わかってほしい。46㎝砲弾なんて受けた時にはバカじゃないのかと思うくらい装甲を持っていかれてビックリしたわ。

 

「一線を退いた旧式艦娘たちの再戦力化。これが最終目標なのであります。人員における無駄を省き、予備艦を名実ともに確固たる存在にする。ここに主眼をおいているのであります。時間稼ぎのための盾でなく、確実性のある鎧とするための。」

 

「それで、私に近づきたいのね。」

 

妹の三笠は英雄だ。強い戦艦でありながら周囲をよく守られている。本人は窮屈と嘆くが、手出しを受けることはない。朝日は戦艦というよりは工作艦としての活動が多い。…そうなれば、やはり私のところが一番やり易いのだろう。

 

「一応、我々も同行するのであります。これでも陸の出身。頼りにしていただければ、幸いであります。」

 

なるほど。

 

「それじゃあ、よろしくね。」




活動報告にリクエスト欄を設置しました。

これからもよろしくお願いします。


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