シズ・デルタに恋をしたナザリックの機動兵器 (t-eureca)
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プロローグ 間に合わなかった機動兵器

初投稿です。


プロローグ

間に合わなかった機動兵器

 

ああくそ、ヤケ酒をしていたらもうこんな時間になってしまった!

 

自分のアパートの帰り道を全力疾走で走る。こんなに走ったのは生まれて初めてなんじゃないか?と思うくらいのスピードで走っていた。

 

「くそ! 頼むから間に合えよ!!」

 

途中すれ違った人に2度見されたと思うがそんな事を気にする余裕はない。

 

「今日で最後ってわかってたら……くそ!?」

 

急げ急げ急げ!! このままじゃ間に合わなくなる!!

 

「よし着いた! ……ってあと5分!?」

 

俺はすぐにあるゲームを起動させた。

 

DMMO-RPG ユグドラシルオンライン

 

今までで一番自分が夢中になったゲームであり心の拠り所でもあった場所。生活に必要な金以外を課金しまくったがそれ以上の価値があった。

 

広大なフィールドや色々な種族、すさまじく自由度が高いゲームであった。だがどんなに人気でもそれは永遠ではない。それはユグドラシルも例外ではない。

 

それが今日終わる。

 

「1か月間もログインできなかった事をモモンガさんに謝んないといけないってのに!?」

 

アインズ・ウール・ゴウン

 

ユグドラシルで全プレイヤー中9位に入る程の強豪ギルドの一つ。全員が異形種であるという変わったギルドで、「DQNギルド」やらいろんな意味で有名だったが俺にとっては第二の家族と言っても過言ではないギルドであった。異形種狩りに遭っていたところを助けてもらったモモンガさん。ワールドチャンピオンのたっち・みーさん。ピンクの肉塊というインパクトある見た目の茶釜さん。マブラヴやデモべの話で気の合ったペロロンチーノさん。

その他にも個性的なメンバーでいっぱいだった。

 

そんな色々な異形種の中で俺がなっていた種族は自動人形(オートマトン)の最上位の一つ機械神(デウス=エクス=マキナ)

 

名前は『マシンナー』

 

機械の英語のマシンと某スーパーロボの名前を組み合わせた名前。Zやグレートは着いてないからな?

 

見た目がロボットアニメに出てきそうな外見だったので、某大型掲示板からは「出るゲーム間違ってる」「スパロボに出ろ」と叩かれて苦笑いしてしまったのも今となっては良い思い出である。

 

「くそ、もう時間がない!」

 

刻々と迫るタイムリミットに焦る俺、せめてモモンガさんに最後の挨拶がしたい……!

 

「……最後にシズにも会いたかったな」

 

自動人形のシズ。正式名称はCZ2128・Δ……。NPCとわかっていながらも、彼女の姿に心を射抜かれてしまった。せめてユグドラシルでは彼女を嫁にしたかった。せっかく『あの人』から許可もらったのに……!

 

「よし出来た!!」

 

俺はすぐにログインする……が。

 

「エラーが発生しました。」「エラーが発生しました。」「エラーがはっ……くぁwせdrftgyふじこlp」

「エ縺ェ縺ゥ縺ァ豁」縺励¥譁・ュ励′陦ィ遉コ縺輔l縺ェ」「エ縺ェ縺ゥ縺ァ豁」縺励¥譁・ュ励′陦ィ遉コ縺輔l縺ェ」「エ縺ェ縺ゥ縺ァ豁」縺励¥譁・ュ励′陦ィ遉コ縺輔l縺ェ……」

 

エラーが発生した後に意味不明な文字が出てきた後俺は意識を失った……。

 



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第1話 モモンガ様!空からロボットが!!

主人公ナザリックにエントリィィィィ!!


ひとりの老紳士が草原に現れて辺りを見渡していた。彼の行動の一つ一つはとても洗練された動きである。

この老紳士の名はセバス・チャン。己の主の命を受けて周囲の状況を確認しにきたのだ。

彼は景色を確認した後、自分の偉大なる主に〈伝言〉(メッセージ)の魔法を飛ばす。

 

「草原だと…?」

 

「はい、辺りは草原に覆われており、確認された生物も小動物で戦闘能力が殆ど皆無の物ばかりでした」

 

セバスの回答に対し、モモンガから僅かに驚いたような声が聞こえた。偉大なる主にとっても現在の状況が未知の事であることを知り、セバスは戦慄する。しかし、動揺を悟られれば主であるモモンガの信頼を裏切る行為である。至高の御方のシモベであるという矜持を思い出し、辛うじてセバスは冷静さを保っていた。

続けて周囲を探索して最低限確認したこと、人工的な建築物が全く見当たらないこと、そして空には夜空が広がっている事をモモンガに告げる。

 

「そうか…ご苦労だったなセバス」

 

「勿体無きお言葉…」

 

セバスの報告を聞きながら、モモンガは考えこむ。

モモンガは自分たちの拠点、ナザリック地下大墳墓が何処か別の場所へ転移したのではないか考え、それをセバスに告げる。それを聞いたセバスは「成る程」と納得する。しかし、何処に転移したのだろうか。それが不明な現状では決して安心はできまい。

次の行動を考えながら周囲を見渡していると、空から微かに何かが落ちてくるような音が聞こえてきた。

 

「モモンガ様何かが落下してきます」

 

「何!?」

 

ドガァン!!と轟音を響かせながら地面に落下してきた物体の周囲はクレーターになっていた。

 

「モモンガ様、確認いたしますか?」

 

「頼む、だが油断はするなよ。確認したらすぐに〈伝言〉(メッセージ)を送れ」

 

「畏まりました」

 

深々と頭を下げて〈伝言〉(メッセージ)の解除を確認し、すぐにセバスは落下地点に向かう。月光に照らされている落下地点を確認する。

 

「これは…」

 

巨大なクレーターの中心に落下してきたものがあり、ブスブスと煙を上げていた。セバスは意を決してその物体を確認する。

 

「ッ!?」

 

対象を捉えた瞬間、セバスは今日一番と言ってもいい衝撃を受けた。

 

「あ、あの雄姿は…まさか…!」

 

「ウ…ア…」

 

セバスはすぐにその物体に駆け寄り声を上げた。

 

「マシンナー様!!」

 

マシンナーと呼んだものに何度も声をかけるが、僅かに小さく声を上げることしかできなかった。これが決して良くない状況だと悟ったセバスは焦った。

 

(このままではマシンナー様が…!)

 

セバスは思わず最悪の展開…マシンナーの死を想像してしまう。すぐにモモンガに〈伝言〉(メッセージ)を送る。

 

「モモンガ様!」

 

「どうしたセバス?」

 

先ほどとは違い興奮気味のセバスに少し驚いたが、次の報告がそれを凌駕した。

 

「マシンナー様を発見しました!!」

 

「な…!」

 

その報告に一瞬頭の中が真っ白になったが、次の瞬間それは絶望に変わる。

 

「しかし…意識がありません」

 

「何だとぉッ!?」

 

 

叫び声を発したモモンガに、待機していた守護者達はビクリと身を震わせた。セバスが何か不敬を働いたのだろうか? もし仮にそうだとすれば到底許されることではない。しかも視線を向けた守護者たちが見る限り、モモンガは明らかに動揺していたのだ。

疑問を抱く皆を代表して、〈守護者統括〉アルべドが立ち上がる。

 

「モモンガ様……どうなされましたか?」

 

モモンガにアルべド。だが、アルベドの問いには答えない。モモンガは〈伝言〉(メッセージ)相手のセバスと話すのに夢中になっていた。

 

「すぐにペストーニャの所に送れ! 私もすぐに向かう!」

 

〈伝言〉(メッセージ)を解除をしたモモンガはアルべドに顔を向ける。

 

「すまないアルべド、急用ができた、内容は後で伝える」

 

そう言ってモモンガはすぐに彼がいる所に転移していった……。




マシンナーだ! やられたんだ! 落ちてくる!

マシンナー「ホワァァァァ!?」


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第2話 再起動

マシンナー、ナザリックに立つ。


「ん…」

 

目を開けた俺は開口一番にこう言った。

 

「知らない天井だ……」

 

エヴァで言ってみたかったセリフのひとつを言い、ベッドから身を起こす。

 

確か俺はユグドラシルにログインして意識を失ってしまったんだっけ?

というかよく見るとここ俺の部屋じゃないか。

壁に設置している武器や制作途中の俺の作品(兵器)……見覚えのあるものがいくつもある。あれ?なんでいつもの円卓じゃないの?、さっきのエラーのせいか?

 

「てか俺自分の部屋で「知らない天井だ……」って言ったのか、うわ恥ずっ!」

 

思わず顔を押さえる俺、しかし「ガチャリ」と開いた扉から入ってきた人物に驚愕した。

 

「失礼します……。ッ!マシンナー……様?」

 

「……え?」

 

 

間抜けな返事をしてしまったが。これは驚きのあまり、頭の中が真っ白になったとでも言おうか。だが、次の瞬間凄く平坦なものになる。その現象に凄く戸惑ってしまった。

 

あ、まただ。なんなのこれ?

 

しかし俺は部屋に来た一人の少女を確認する。

 

ミリタリー風味の飾り付けに赤金のストレートロング。

 

綺麗な翠玉の瞳ともう片目を覆うアイパッチ。

 

金属で覆われた箇所がある給仕服と迷彩柄のマフラー。

 

ポーカーフェイスに綺麗な顔立ち。

 

ナザリック地下大墳墓第9階層にいる戦闘メイド、プレアデスの一人であり俺が愛してやまなかった、シズ・デルタ(正式名称CZ2128・Δ(シーゼットニイチニハチ・デルタ))、その人であった。見間違える筈がない。

その彼女が俺に話しかけてきたのだ。

 

(あれ? NPCってしゃべれたっけ?)

 

シズがしゃべった事に驚きと疑問を浮かべるが、また平坦になってしまう。

うっとうしいなこれ……。

そう思っている内にシズが俺のベッドの近くまでに来ていた。

ああヤバイ、久しぶりに見たからいつもより可愛く見える。いやいつも可愛いけど。

 

「体の状態はいかがでしょうか……?」

 

「え、あ、だ、大丈夫……えと、ここは?」

 

少し呂律が回らなかったが、自分が大丈夫だということを伝える。

あれ? 何か自分の声が変わってる? 元々声は低い方だったが更に低くなっていると感じた。あ、でも何か渋くてカッコイイ……。

 

「ここはナザリック地下大墳墓、マシンナー様の自室でございます……。

ナザリック外の草原にて、意識不明になってお倒れになっているところを、セバス様が保護致しました……」

 

「そうか…」

 

やはりここはナザリックにある自分の部屋か……。は? いやちょっとまて、意識不明になっていた? 草原? 沼地じゃなくて? てかセバスってたっち・みーさんが生み出したNPCだよな?

 

何がどうなってる?

 

そしてまた鎮静化、もう驚かねえぞ。

 

それよりも俺は別の事で驚いている。

 

やっべシズ可愛いぃぃぃぃい!こんな喋り方なのか。

 

静かな口調とポーカーフェイスが特徴の彼女。そんな彼女の種族は最初に自分が選択した種族、自動人形(オートマトン)なのだ。

改めて近くで見ると本当に人間のようだ。しかもギルドのNPCの中では唯一のガンナーである。腰に装備したライフルがカッコイイ。

 

シズがこういう風になっているという事は他のNPCもだろうか?

 

NPCで俺は自分が生み出した存在を思い出す。

 

(なら俺の軍団の隊長格と、領域守護者のあの2体はどうなってるんだろう?)

 

ユグドラシルで自分のNPCが作れるということを知り、俺は全部で7体のNPCを生み出したのだ。機械系モンスターだけの軍団を作りたかった俺はそのうちの5体を軍団の隊長格として設定し、

残りの2体を領域守護者にした。後で会ってみなきゃ…。

 

「シズ、頼みたいことがあるんだが……」

 

「は…何なりと…」

 

おお、綺麗なお辞儀。

 

だがやっぱり自分のいつもの声とは違う。それに口の中が冷たくて、なんだか鉄の味がする。

 

「鏡持ってきてくれないか? 自分の姿がどうなってるか確かめたい」

 

「こちらに」

 

「はやっ」

 

俺の部屋に置いてある姿見を即座に持ってきた。目の前に映った自分の姿に驚きが限界突破どころか天元突破してしまう。

俺は自分の顔をまじまじと見る。

 

「俺…だな、うん…」

 

言葉に少し間が空く。

 

それは現実世界のいつもの顔ではない。

 

ロボットアニメに出てきそうな外見をした身体、色は全体的に黒と白をベースに細かい所に赤や青の色がある。

 

金属特有の輝きと、堅牢そうな装甲、マッシブな体格。

 

胸部にはフィルターや、発射口と放熱板がある。

 

身体全体をよく見ると小型のスラスターもついていた。

 

そして顔はまさしくロボアニメのライバルメカのような風貌をしていた。顔に左右対称に鋭利な角がついており設定ではこれがアンテナとなっている。

目は黄色でその下に赤いラインがはいっており、血涙にも見える。人間の鼻と口を模したような部分があり、口元が動いているのを確認した。

たしか戦闘時のフェイスガードも展開できるはず、後で試そう。

 

「はい…貴方は紛れもなく至高の御方であられる、マシンナー様です……!」

 

さっきと同じ口調だったが喜びが混じった声色でシズは肯定してくれた。




次回でようやくモモンガ様と再会。


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第3話 オーバーロードとの再会

1月1日 少し編集しました。


まず状況を把握しよう。とりあえずコンソール開いてどのぐらいの時間が経ってるか確認しなければ。そう思い、俺はいつも通りコンソールを開こうとするのだが……。

 

「反応しない?」

 

もう一度開こうとする、やっぱり反応しない。

故障か? それともさっきのエラーが原因か?

 

次は時間を見る、そして俺は驚愕した。

 

「サービス終了時間を過ぎてるだと?」

 

何がしたいんだ運営は? ユグドラシル2でも始めたのか?

俺は顎に指を添えて考え込み、「ん~……」と唸る。

確か友達が持っていたラノベにゲームに閉じ込められて、そこでデスゲームが開始されるってやつだったけ?

そうなると洒落にならんぞ……!?

 

「マシンナー…様?」

 

話しかけられて、俺は我に返り声の方角を見ると、シズがこちらを心配そうに見ていた。

 

「いや何でもない、気にしないでくれ」

 

仕方ないこうなったら周囲を散策するか、あまりにも情報が少なすぎる。

とりあえず少し身体を動かそう、戦闘になっていざって時に本調子じゃなかったら洒落にならんし。

 

ベッドから降り、基本動作を確かめる。基本は人間と変わらない、だけど手首は360度回転させることができるようになってる。

戦闘用のフェイスガードを下ろす「シャキン……!」という音ともに口に金属のマスクが装着された。

軽くシャドーもしてみる。驚いたことにスピードがユグドラシルの時よりも速くなっている。何か風が巻き起こったけど……。

フィニッシュブローをした後。腕を引いて構えた。

一通りの動きが終わった後、全身から「プシュー……」と音が鳴り、少量の煙が出る。

本当に機械の身体になったみたいだ、違和感が無く、むしろ身体が軽い。

 

「……………」

 

なんかシズがジーっと見てる。「そんなに見ないでくれ、照れちゃうだろ?」じゃなくてどしたんだろ?

 

「どうしたシズ? 大丈夫か?」

 

「!……いえ、何でも、ありません、至高の御方の前で、とんだ失態を……!?」

 

一瞬だけ「ビク」っとなり我に返る。あら可愛い。

こういう不思議系がこういう反応するってすごくいいよね? それが好きな子になると尚更だ。

 

しかしそんな姿を見せられると何だか、こっちが申し訳なくなってしまう。

確かにシズ達プレアデスや他のNPC達はAOG(アインズ・ウール・ゴウン)のギルメンたちに仕える設定だが、最初から忠誠心高すぎじゃね?

忠誠度のパラメータがあったら、絶対にぶっちぎってるぞ?

 

あ、でも一人だけニューリーダー病設定されてた奴いたな? 確かペンギンのエクレールだっけ? エクレアだっけ? それともエクシア? アイツどうなんだろ?

とりあえず畏まっているシズとコミュニケーションしなければ…!?

 

「気にしていないよ、それより何か用事があってきたんだろ?」

 

「ッ…ありがとう、ございますマシンナー様、差し違えなければ、教えて下さい、御身体の調子は如何でしょうか?」

 

心配そうな感情をこめた声色で俺の身体の心配をしてくれるシズに心の中で号泣する俺。

そんなに心配してくれるとは……。

 

「まだ起きたばっかりだから、ちょっと寝ぼけてる感じかな? 身体の痛みとかは全く無いし、そういえばシズが俺の部屋に来たって事はシズが看病してくれたのかい?」

 

「はい、マシンナー様がセバス様に保護された後、ペストーニャ様が回復魔法で治療なされた後にマシンナー様の個室に運びました。その後にモモンガ様の命により、マシンナー様がお相手ならば、私が良いだろうと仰せに……。特別に個室に入らせて頂く許可を頂きました。」

 

なんということでしょう! シズがずっと看病してくれてたとは…!!

それにペストーニャが治療してくれたとは、後で礼を言わないと……。

ん? まて? 今モモンガ様って言わなかったか?

 

「シズ、今モモンガ様って言わなかったか?」

 

「はい、言いました」

 

「あの人もいるのか!!」

 

「モモンガさんがいる」その言葉を聞いて俺は思わず声を大きくしてしまった。

 

「! は…はい、第十階層の玉座におられます」

 

あ、やば! これ絶対引かれてる!?

 

「す、すまない驚かせてしまった…ついうれしくて……申し訳ない」

 

咄嗟に頭を下げる俺、これで少しはマシな印象になるか?

 

「! そんな事、ありません…! どうか御顔をお上げください……!?」

 

慌ててるシズ可愛い……。………おっといけないモモンガさんがいるんなら早く行かなければ。

その前にシズに御礼を言わないと。

 

「シズ」

 

「ッ! なんでしょうか?」

 

「シズの献身的な看病のお陰で俺は意識を取り戻せた、本当にありがとうシズ」

 

「……! 勿体無いお言葉……! 至高の御方にお仕えする者として当然の事を果たしたまでです!」

 

シズの声がすごく嬉しそうに聞こえる。そう言ってくれると本当に嬉しい。

あっ、また鎮静化、嬉しい時もなるのかよ……。

チクショウめぇ……。

 

「じゃあ、モモンガさんに会いに行っても……?」

「はい、元よりそのつもりとの事です…。目覚め次第こちらに伺うと…」

 

じゃあ、シズは俺が目を覚めた事を報告するんだろうか。じゃあ、こっちから出向いた方が手っ取り早い、身体も大丈夫だし。

 

「あ、それなら一緒に行こう。そのモモンガさんの下へ案内してくれ」

「かしこまりました……。第十階層へご案内致します……」

「ありがとう」

 

そういえばシズも言ってたけど、なんで玉座なんだ? いつもの円卓じゃないとは。

ま、本人に聞けばいいか。

 

おお、一か月ぶりのナザリックだ……!

 

俺の目の前には久しぶりの、ナザリック地下大墳墓の第九階層。ナザリックに帰ってきたって感じがする。

 

そんなこんなでモモンガさんが待ってる玉座の扉の前に到着。

 

尚、第九階層の周辺をずっと見てたためその間のシズとの会話ゼロ、オオゥ……。

 

それと、途中で見覚えのあるNPC達が俺を向いて次々に跪いていた。

 

ギルメンの個室は第九階層にあるので、割と近くて助かる。

 

「モモンガ様はマシンナー様と二人きりでのお話を御所望ですので、ここで失礼します……」

「ああ、道案内ありがとう」

 

ペコリと頭を下げ、シズがそそくさと去っていった。あー……もっといたかった。

 

また会えるだろう、ポジティブに考えるんだ。今はモモンガさんとの面会が先だ。俺はやたらでかくて豪華な扉を開ける。

 

おお、玉座も相変わらず凄い出来だ。RPGのラスボスの部屋みたいだが、俺にとっては実家のようなものだ。

 

この玉座の間にいるはずのアルベド等のNPC達はモモンガさんと二人きりで話したいとの事で、ここにはいないようだな。

 

玉座に座す神器級アイテムに身を包んだ死の支配者(オーバーロード)。どう見てもモモンガさんだ。たくさんの思い出が沸いてくる。何から喋ればいいか分からねぇや…。

 

「……」

 

「……」

 

お互いになにも喋らず。互いに何から喋れば良いか考えてるのだろう。だがこのままじゃお互い何も話せなくなりそうだから、俺から言おう。

 

「えっと……ただいまモモンガさん?」

 

「お帰りなさい、マシンナーさん……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




シズの口調再現すんの難けぇぇぇぇ!!


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第4話 オーバーロードとの楽しい会話

1/3 文章を修正しました。
11/30 文章を修正しました。


「マシンナーさん、意識が戻って本当に安心しましたよ! セバスから意識が無いって言われた時は本気で焦りましたもん!」

 

「お騒がせして申し訳ありませんモモンガさん、モモンガさんこそ元気そうで何よりです」

 

「ええ……、それにしても驚きましたよ、まさか空から降ってくるなんて、なにかあったんですか?」

 

「ああ、それはですね、俺もよくわかんないんですけど……」

 

俺は終了時間ギリギリでログインしたこと、ログインには成功したんだがエラーが発生して意識を失った事を伝える。

これにはモモンガさんも少し驚いていた。

 

「――って具合ですね」

 

「……そうですか、誰かに襲撃されたのかと思ったのですが、杞憂でしたね。あ、シズにナザリックの外の事聞きましたか?」

 

「ええ、確か草原になっていると聞きました、モモンガさんはなにか知ってますか?」

 

「ああ、それはですね……」

 

そこで俺がモモンガさんから聞かされた事実に衝撃を受けた。

 

俺達の状況を纏めるとこうだ。

①俺たちを含むナザリックが丸ごと異世界に転移した事。

②その時に、NPC達に意思が宿った事

③俺たちギルメンを「至高の41人」と呼んでいる事。

④NPCの忠誠心がガチである事。

 

「マ ジ か ! ?」

 

「うわ!?」

 

衝撃すぎる事実に思わず叫んでしまう俺、あ、また鎮められた。

 

「あ~……またか…」

 

「あ、無効化発動したんですね」

 

「え? 無効化?」

 

「精神作用効果無効のことですよ、この世界だと感情がある一定の部分まで強制的に鎮められるんです」

 

「あ、そういえば自動人形にもありましたもんね、無効化」

 

更に教えてくれたんだが、この世界だと自分が持ってるスキルや魔法や装備も問題なく使えるらしい。

じゃあ俺のスキルや装備も使えるって事か。早いとこ試さなくては。

そうこう考えてるとモモンガさんが真剣そうな?顔で俺に質問してきた。

 

「……マシンナーさんは現実世界に戻りたいって考えてますか?」

 

「え?」

 

「俺は現実世界に未練なんてありません、ですがマシンナーさんは……」

 

「ありませんよ?」

 

「即答!?」

 

「もう両親とは死別してますし、それに……勤めてた会社が潰れてしまいまして……」

 

「え?」

 

「モモンガさん、俺が一か月間来れなかった理由知ってますよね?」

 

「ええ、確か勤めてる会社がヤバイ状況になっていてそれで当分ログインできないって……」

 

「はい、その会社がこの前潰れてしまったんですよ……」

 

俺は現実世界では整備士として働いていた。勤めていた工場は中小だったが、それでも生活していくには十分な給料を貰っていた。

しかし大手企業が進出してきてその影響で、倒産してしまったのだ。

俺が来れなかった一か月間は会社を倒産させないために頑張っていたのだが、結局報われなかった。

 

「だから俺は現実世界に未練なんて全くありませんよ、それに……」

 

「それに?」

 

「シズが実際に生きてるんですよ!? NPCだったシズが生きてるんですよ!!」

 

「なんでシズの事を二回言うんですか?」

 

「大事なことだから二回言ったんです!」

 

「さいですか……」

 

ちょっとモモンガさんが引いてるがそれを無視して興奮して喋りまくる俺、するとまた無効化が発動する。

 

「……ふう」

 

「いやでも、思い出しますね~」

 

「ん?」

 

「マシンナーさんが、シズの事をしょっちゅう話していたのを、あの人にばれて、「ちょっとお話ししようか?」ってなって、ただの屍にされちゃいましたもんね? いや、この場合は鉄屑でしょうか?」

 

「モモンガさん、俺がガチ装備じゃなくてよかったですね、次言うたら、モモンガをだし汁にしますよ?」

 

「おお怖い怖い」

 

「うわうぜぇ……」

 

そんな馬鹿な会話をしながらモモンガさんは俺に質問してきた、勿論シズについて。

 

「そういえばシズで思い出したんですけどマシンナーさんシズh……」

 

「そりゃ言わなくても決まってるでしょう?」

 

「ですよねー」

 

俺個人の最終目標は『シズと一緒になること』だ。せっかくあの人が許してくれたんだ、これでやらなきゃ男じゃねぇ……!!

ただ、恋愛経験がない俺には長く険しい道になりそうだ。

 

「そういえばモモンガさん、今後のナザリックの目標って決まってるんですか?」

 

「いえ、残念ながらまだ……」

 

「ま、ゆっくり考えましょうよ、時間はいくらでもありますし」

 

「そうですね」

 

今後のナザリックの目標……ちゃんと考えないとな。

 

「あ、マシンナーさんに聞きたい事がもう一つあったんです」

 

「はい?」

 

「軍団の事ですよ。マシンナーさんの」

 

「あ」

 

シズの事で頭がいっぱいになってたからすっかり忘れてた。あと領域守護者のあの2体も。

 

「軍団の各隊長、あなたが意識不明だと聞いて半狂乱になってしまって抑えるのが大変でしたよ……」

 

「あ……すみません、本当に…」

 

「いえいえ、それだけ貴方を慕ってるって事ですよ。これが終わったら顔出してやって彼らを安心させてやってください」

 

「はい」

 

玉座の間からでたら真っ先に顔を出そう、うんそうしよう。

 

「そういえば領域守護者の「ディアヴォルス」と「アンヘル」の2体は?」

 

「ディアヴォルスは領域で、自分の眷属製造しまくってますね。アンヘルは常時待機状態で待機してますよ」

 

どうやらあの2体もちゃんと生きているようだ、あいつらにも会いに行かないと。

 

「そういえばマシンナーさんの軍団の名前ってなんでしたっけ? 確かラテン語なのは覚えてたんですけど」

 

「ああ……<マキナ>ですよ」

 

デウス・エクス・マキナはラテン語だし軍団の名前もラテン語で決めたかったんだよね。

 

「あ、それじゃマシンナーさん。これから階層守護者達とセバスを集めますのでみんなに挨拶してください」

 

「わかりました」

 

さて、がんばるぞ。

 



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第5話 挨拶と最初の印象は大事

挨拶は大事、古事記にもそう書かれている。


俺とモモンガさんはこれから守護者達への挨拶の流れを話し合っている。

モモンガさんによると第六階層の闘技場で『忠誠の儀』をやっていたんだが、俺が落ちてきて意識不明だった為途中で切り上げてきたらしい。

重ね重ね本当に申し訳ない……。

しかもモモンガさんは、次々と引退していくギルメン達の中でたった一人でギルドを維持し続けていたらしい。

それがどれだけ大変な事か……!

 

「モモンガさん、一か月もログインできなくて本当に申し訳ないです、大変だったでしょう?」

「ええ、まあ……、でもこうしてマシンナーさんと再会できました。それでいいじゃないですか」

 

ああ…やっぱりこの人はいい人だ、本当にいい人だ……!

心の中で号泣しつつも、俺は口を開いた。

 

「えーと……確かNPC達は俺たちギルメンを『至高の41人』って呼んでるんですよね?」

「はい、だから俺は支配者としてNPC達に接しています」

「なるほど…なら俺もそうした方が良いかもな、ああ出来るかなぁ……」

「大丈夫ですよ、マシンナーさんの見た目悪のロボットの親玉みたいですし」

「そういうモモンガさんだってどう見ても悪の大魔王じゃないですかぁぁぁ……、てか今更ですけど声めっちゃイケボになりましたね? なんかマジンカイザーSKLの真上の声に似てるんですけど、気のせいでしょうか?」

「だれですかそれ? マシンナーさんも何か渋くなってますね? 元から声は低かったですけど」

 

そんな事を喋りながら、俺とモモンガさんは挨拶の流れの打ち合わせの話に戻る。

 

「てことはこれからやるのがその『忠誠の儀』の続きみたいなものですか?」

「みたいな感じです、……緊張してます?」

「当たり前ですよ、現実じゃ俺、ただのしがない整備士だったんですよ?」

「まあそこは大丈夫ですよ、無効化ありますし」

「あ……なるほど……」

 

ここにきてやっと無効化の良さがわかった気がする、まあ常時賢者モードみたいなもんだけど……。

緊張して挙動不審になるよかマシだ。

 

「それにメッセージの魔法を使って、俺とマシンナーさんだけで会話すれば内緒話も簡単です。だからお互いのフォローもできますよ?」

「ありがたいっす、まぁ……何ができるかわかりませんけど…」

「大丈夫ですよ、俺も最初はそんな感じでした」

「そうすっか……まぁやるだけやってみます」

「わかりました、じゃあ守護者達が来て跪いた後……」

「ほいほい……」

 

暫くの間は、真剣に挨拶のおおまかな流れを話し合い大体の流れが固まった。リハーサルする時間は取れなかったがしょうがない。

モモンガさんが守護者統括のアルべドにメッセージを飛ばしている間、俺は頭の中でシミュレーションを繰り返していた。

 

 

そして5分にも満たない時間で玉座の間に守護者各位が勢揃いしていた。いや早すぎだろ。

ちょっとビビってしまった。

 

 

さっきまで俺とモモンガさんしかいなかった玉座の間にはアルべドを筆頭とするナザリック階層守護者たちが勢揃いしている。

はっきり言おう、壮観だ……。

 

(すげぇ……少しでも気を抜いたら圧倒されそうだ)

(でもマシンナーさんもこれ以上に多い軍団を率いてたんでしょう?)

 

モモンガさんの言葉に俺は(そうだったな)と思った、数だけなら今いる面子を凌駕する軍団を俺は率いてたんだ、これで圧倒されたらあいつらに申し訳がたたない………!

改めて俺は気合を入れなおした。

 

モモンガさんは玉座に深く腰掛けている、それだけでも魔王の風格を漂わせている、ような気がする。一方俺はどこからか引っ張り出してきた椅子に腰掛けている。玉座に比べれば明らかに見劣りするが、それでも普通の椅子に比べれば豪華な椅子だ。ものすごく良い座り心地である。

 

俺は椅子にモモンガさんと同じぐらいに深く腰掛け、腕組みをして座っていた。

自分でやっててなんだけど、すごい偉そうに見える。いや実際偉いかもしれないけど……。

他にもっと良い座り方あった筈…もういいや手遅れだ、別の事考えよう。

そうして俺は集まっている面子に目を向ける.

 

そういえば他にもヴィクティムとガルガンチュアがいたけど、アイツら特殊すぎるんだよな。ガルガンチュアに至ってはデカすぎるし。

そして、各守護者に目を向けた。

 

まず、守護者統括のアルべド

 

守護者達の纏め役であるサキュバスだ。設定魔のタブラさんが生み出しただけにすさまじい程の設定過多のNPC。

設定だけを見ればすごくヤバイ設定(特に最後のビッチ)なのだが、終了時間ギリギリでモモンガさんが『モモンガを愛している』設定にしてしまったらしい。

オォウ……モモンガさん……。

まあタブラさんなら許してくれるだろ多分……。

 

次に第一、第二、第三階層守護者のシャルティア。

 

トゥルー・ヴァンパイアで単純な戦闘力なら、守護者で最も強いんじゃなかろうか? ステータスならモモンガさんを超えてるくらいだし。

だが生み出したのがAOGで一番のド変態、ペロロンチーノさんだから、その設定も恐ろしいものばかり……、うん正直に言おう、最初シャルティアの設定見たときめっちゃドン引きしました!!

 

第五階層守護者、コキュートス。

 

うん、いつ見てもかっこいい。昆虫系のキャラはかっこいいのがお約束だがそれを差っ引いても素晴らしいデザインだ。

武人武御雷さんが作った昆虫武人。最初見たときはとても興奮して「オーラバトラーだ! 聖戦士だ!」と盛り上がってしまった程。

 

第六階層守護者、アウラ&マーレ。

 

ペロロンチーノさんの姉であるぶくぶく茶釜さんが生み出した双子のダークエルフ。ビーストテイマーのアウラとドルイドのマーレ。

最初見たときは、アウラが兄で、マーレが妹だと思ってたのだが、茶釜さんにより真実を告げられてた時は開いた口が塞がらなかった。

さすがペロロンチーノさんの姉だ、色々と深いな、色々と……。

 

 

第七階層守護者、デミウルゴス。

 

魔法職最強のウルベルトさんが生み出した悪魔だ。ナザリック一の知恵者という設定なので、俺とモモンガさんがボロを出さないように最も警戒すべきNPCの一人だろう、頭脳戦とか無理だし。しかしその忠誠心は本物と言われている。

なにか困った時に相談するのも良いかもしれないな。でもカルマ値ー500という超極悪なのは変わりないため、しっかりと用心しなければ。

 

そしてプレアデスの面々と、その先頭にいる執事、セバス。

 

ワールドチャンピオンのたっち・みーさんが生み出したNPC、LVは守護者達と同じ100。種族は竜人で本気状態のドラゴン形態になれば、アルべドやコキュートスにも勝つこともできるらしい。

カルマ値はデミウルゴスとは反対の300の極善。たっち・みーさんの意思を受け継いでるといっても過言ではないNPCだ。

 

あれ? 階層守護者の他に宝物殿の領域守護者のパンドラズ・アクターがいたよな。

 

(モモンガさん、そういえばパンドラは?)

(……)

(アッハイ、何でもありません)

 

やっぱり黒歴史扱いになってる、話題で出してこれだから、実際に会ったらどうなるんだろう……。

 

それにしても本当に緊張する、皆、跪いてるが、それでも緊張する。いや、跪いてるからこそか……。

 

(さあ、そろそろですよマシンナーさん)

(了解です、モモンガさん)

 

さあ気合入れていくぞ……!!




モモンガさんの中の人ってってマジンカイザーSKLの真上やってるんだよな…。
しかも髑髏が共通してるし。


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第6話 決意と宣誓

跪いている守護者達にモモンガさんが声をかける。

 

「面を上げよ」

 

凄まじく威厳に満ちた声で、守護者達に顔を上げるよう促す。守護者達は一斉に顔を上げた。

 

「皆、よく集まってくれた。今日は皆に集まってもらったのは他でもなく、我が友であるマシンナーさんの意識が回復された」

 

顔を上げてくれた守護者達は黙ったままだったが、その眼には喜色に満ちていた。

中には涙目の人もいる。モモンガさんの言うとおり、忠誠心は本気(マジ)だ、この期待を裏切らないようにしないと……。

 

「さて、何故彼が一時期ナザリックから消えたのか、気になるだろう? マシンナーさん、すまないが、皆に話してくれないか?」

「無論だ、我が友よ」

 

モモンガさんに促され、俺はスッと立ち上がり、皆の前に出た。

 

「その体勢ではきついだろう、立ち上がってくれ」

 

俺が立つよう促すと、彼らは一糸乱れずに立ち上がった。これも忠誠心の成せる事なのだろう。

 

「皆、久しいな。先ほど目覚めた至高の41人の一人、マシンナーだ。これから俺が一時期ナザリックから姿を消したその理由を話そうと思う……」

 

そして俺は彼らにこう語った。

 

「俺はナザリックとは別の場所で、ワールドアイテムを得る為の資金を調達する為にある任務についており、その日も任務を遂行していた……」

「しかし、その場所に敵が襲撃してきた為、俺はその迎撃に出た……」

「勿論、そこにシモベは配置してあった、実力も十分にある者たちだった」

「しかし、敵はそれ以上の者達で構成されていたため、俺が直接その者たちの迎撃に出たが、連日のようにそいつらは襲撃してきた為、俺は予想以上の苦戦をしてしまった」

 

話がその辺にまで行った時にシモベ達の顔が険しくなっている、怖……。

俺が人間だったら、これだけで死ねるってぐらい怖い。

 

「そして最近になって、ようやくそいつらを殲滅させることに成功し、俺はナザリックに帰還をしたのだが、蓄積されたダメージが予想以上のものだったため、意識を失い、転移したナザリックの外に落下し、そこで幸運にもセバスに保護されたのだ……」

 

そこで話を切り、俺は彼らの前で正座をし……。

 

「勝手な判断をして、皆に迷惑をかけただけでなく、余計な心配までかけてしまった。本当に……すまなかった」

 

俺はそのまま頭を深々と頭を下げる。その行動にシモベ達がざわついてるが気にしない。

こんな大勢に心配させてしまったたのだ、最低でもこれぐらいはしないと。

 

「皆が許してくれるなら、この醜態をこれからの働きで払拭させてほしい……」

 

そして俺はこう誓う。

 

「もうナザリックから消えるような真似は決してしない!! そしてモモンガさんとナザリックの皆の為に、この力を振るう事を俺はここに誓う!!」

「最後に……、こんなことを言う資格は無いかもしれないが……俺がいない間、ナザリックとモモンガさんを守ってくれて、本当にありがとう」

「俺からは以上だ……」

 

そして俺は立ち上がり椅子に戻る、なんかめっちゃ泣いてる人がちらほらいたが、俺なんか変な事いったかな?

 

「では、皆に問う。マシンナーさんの復帰に異存は無いか? 私は、再び彼を迎えいれたい。この場に異を唱える者がいるならば、理由を聞こう」

 

少しシン……と静まり返ったが誰も反対するものはいなかった、とりあえず安心だ……。

 

「無いようですよ? マシンナーさん」

「それを聞いて安心した。では皆、これからよろしく頼む!」

「では最後に守護者達よ、最後にお前たちに確認したい事がある」

 

それを聞いて守護者達の顔は真剣な表情になり、身構える。よしここでフォロー入れて、優しい上司アピールだ!

 

「そう身構えなくていい、簡単なことを聞くだけだ、そうだろう? モモンガさん」

「ええ、各階層守護者に問う、お前たちにとって我々はどういう存在だ?」

 

この確認は本来『忠誠の儀』で聞く予定だったのだが、俺が落っこちてきたため、結局聞けずじまいだった。

 

「まずシャルティア」

「モモンガ様は美の結晶。まさにこの世界で最も美しいお方です。その白きお体と比べれば、宝石さえ見劣りしてしまいます」

「マシンナー様は破壊の象徴。あらゆる物を破壊しつくす姿は、神や悪魔ですら恐怖に怯えるでしょう」

 

(美しいってなに? 骸骨にそんなのあるのか?)

(設定に屍体愛好家(ネクロフィリア)の趣味が入ってましたからね)

 

「――コキュートス」

「モモンガ様ハ守護者各員ヨリモ強者デアリ、マサニナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者ニ相応シイ方カト」

「マシンナー様ハ、武人トシテモ、一人ノ将トシテモ、ソノ鑑デアラレルオ方デス……」

 

(いやいや強者って……ロールプレイ重視のスキルビルドだから、ガチビルドのシャルティアには普通に負けると思うんだけど……)

(まあ、相性最悪ですもんね……伊達に守護者最強のスキルビルドにしてませんし)

 

「――アウラ」

「モモンガ様は慈悲深く、深い配慮に優れた素敵なお方です」

「マシンナー様はどんな敵が来ても怯まずに立ち向かう勇敢なお方です」

 

(深い配慮ってなんだ?)

(どんな敵にも怯まずってどういうこと?)

(1500人のプレイヤーが乗り込んできた際に、軍団率いて迎撃したことじゃないですか?)

 

「――マーレ」

「モモンガ様は、す、すごく優しい方だと思います」

「マシンナー様は、そ、その、か、カッコいいです」

 

(マーレが一番無難ですね)

(この身体をかっこいいと言うとはわかってるじゃないかマーレ、女装しているけどやはり男の子なんだな……!)

 

「――デミウルゴス」

「モモンガ様は賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力も有された方。まさに端倪すべからざる、という言葉が相応しきお方です」

「マシンナー様はかの大軍勢を己の手足のように扱える知謀と戦略に長けたお方です」

 

(誰の事を言ってるんだデミウルゴス!)

(いやでもモモンガさんの判断力ってすごいと思いますよ? てかデミウルゴス、なんかダイヤモンドの瞳、潤んでない?)

 

「――セバス」

「モモンガ様は至高の方々の総括に就任されていた方。そして最後まで私達を見放さず残って頂けた慈悲深き方」

「マシンナー様は配下の者たちを何よりも大事にするお方。そして、私達の為に帰ってきてくださった慈悲深き方」

 

(この認識って他のNPCも同じなんでしょうか?)

(だとするとすごい罪悪感がありますね、早くあいつらに会わないと…)

 

「そして最後になったがアルベド」

「モモンガ様は至高の方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人であります。そして私の愛しいお方です」

「マシンナー様は、モモンガ様と私どもをお守り下さるお方。まさにナザリックの守護神です」

 

(あぁぁぁあ!……タブラさんのNPCを穢してしまった……)

(こう考えるんですモモンガさん! 『嫁』にしてしまえばいいと…!)

(全然フォローになってませんよ!?)

 

「……そうか、では、私はマシンナーさんと円卓で少し話がある。後の事はアルベドに任せる,

今後とも忠義に励め!」

「失礼する」

 

 

 

再び頭を下げた守護者達のもとから俺たちは円卓に転移した。

瞬時に玉座の間から、円卓に移動したのが分かる。

そして俺とモモンガさんは椅子に座って揃って肩を落とした。

 

「モモンガさん」

「マシンナーさん」

「「アイツら……マジだ」」

 

ピカーンと互いの目を物理的に光らせ、そう言った後俺は盛大にため息をつく。

 

「あぁぁぁぁ、緊張した。でも何とか成功しましたね、一部泣いてる人いましたけど……大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ、にしてもあの評価ははすごかったですね」

「モモンガさん、守護者達に確認している間、終始絶望のオーラ垂れ流しだったじゃないですか、なんすかあの圧迫面接?」

 

守護者達に確認とっている間、モモンガさんは絶望のオーラを垂れ流しているのを俺は二度チラ見してしまった、怖すぎんよ。

 

「あ、圧迫面接じゃないですよ!」

「……でも本心からいってるんですよね、やべえ、あの評価落とさないようにしないと」

「そうですね、一緒に頑張りましょう」

「…でも理由が思いつかなかったとはいえ、あんな嘘をついてしまった……最低だ俺」

「そんなに落ち込まないで下さいよ? 仕方ないじゃないですか」

 

仕方なかったとはいえ、自分の嘘にテンションガタ落ちになっていたマシンナーを、モモンガはポンポン、と背中を叩いて励ましていた。

 

「俺ができるのは、戦闘と軍団率いて蹂躙する事と、道具と兵器作るぐらいですがよろしくお願いします」

「あ、やっぱこの世界でも作るんですか、兵器?」

「辺り前ですよ旦那、こちとら技術屋の端くれですぜ?」

 

ナザリックで俺は戦闘以外ではトラップの配置や自作のアイテム、兵器などを作るなどが主だった。

物は銃器から始まり、過去の世界にあった実際の兵器からそのコンセプトから似たようなものを作り、俺なりにアレンジしたのだ。それを敵対している人間種の拠点に、定期的にそれの実験兼嫌がらせをしてきたのを覚えている。

 

「でも前みたいに定期的に実験と称しての人間種への嫌がらせみたいな事しないでくださいよ? この世界の生物のLVはまだ分からないんですから……」

「流石にそこまで馬鹿じゃありませんよ? でも楽しみだな~、さて手始めにどんな物作ろうかな~フヒヒヒヒ……」

「だめだこいつ、早く何とかしないと…、それよりこれから会いに行くんでしょ?」

 

目を赤く光らせて指をわきわきしながら変態技術者のオーラ全開のマシンナーにモモンガは呆れていたが、思い出したように口にする。

 

「おっとそうだった、それじゃちょっと行ってきます、モモンガさん」

「はい、行ってらっしゃいマシンナーさん」

 

マシンナーはモモンガに軽く挨拶をすると、第六階層に転移していった。

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓の第六階層のジャングルに転移し、周囲を見渡す。

 

「確かここから東だったよな……」

 

これから行く目的地の道を思い出しながら、俺は歩き始めた……。

 

 

 

 

第六階層の密林に覆われたジャングルに似合わない要塞のような場所があった。

金網のフェンスで周囲を囲い、作業区や居住区に分けられており、それぞれ頑丈そうな建物が建っている。その中でもプラントの中心には一際大きい、円柱状の建物があった。所々にビーム砲台や、ミサイル砲台も。櫓には小銃やレーザー銃で武装をした、ロボット兵が見張りをしている。

フェンスだけでなく、堅牢な壁も築いており、そこから軽機関銃が顔を出しており、迂闊に近づけないように地雷原も配置してあった。

その他にも球体の形をしたドローンが飛び回り、両腕がガトリングのロボットが周囲を警戒している。

ロボットだけでなく、戦闘車両や航空兵器も動き回っており、滑走路と思われる場所には戦闘機から人型に変形するロボットでいっぱいだった。

 

「一か月ぶりだ……」

 

俺が精魂込めて作った、「フェツルム・レギオー」の拠点。早速俺は入り口から入る。

 

「マシンナー様……!」

 

門番をしていたロボットの声に反応した他のロボット達も振り返りマシンナーの姿を視界に捉え、一斉に声を上げた。

 

「マシンナー様ガ帰ッテコラレタ!」

「我らフェツルム・レギオーの最高司令官が帰ってこられた!」

「おお……マシンナー様、他の至高の御方と同じように、消えてしまわれたと少しでも考えてしまったこの愚かな身に罰をお与え下さい」

 

うおお、すごい歓声、本当に生きてるんだなと俺は彼らを見て改めて感じた。しかし、当初の目標もある為、長居はしてられない。俺は手をスッと上げた。

 

「静まれ」

 

その言葉で他の物達は一斉に静まりかえる。そして謝罪とこれからやる事を話した。

 

「皆、心配をかけてすまなかった、これからは決して諸君らの前から消えるような事はしない」

 

その言葉をきいてまたも「おおおおお!」と歓声を上げる、兵たち。俺はすぐに「静まれ」といった。

 

「皆が元気そうで何よりだ、だが今から各隊長達に会わねばならない……」

「そこのお前」

「ハ!」

「すぐに各隊長達に一時間後に司令室に来るように伝えろ!」

 

そう伝えた後、俺は拠点の司令室がある中央タワーに向けて歩いていった。

 

 

 




フェツルム・レギオーの拠点のイメージはは、映画ターミネーター4に出てきた、スカイネットの拠点のような感じです。


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第7話 悪魔の思いと隊長達

前半デミウルゴス視点あります。

11/30修正しました。


それは狂喜であった。

 

第七階層守護者のデミウルゴス、「ナザリック一の知恵者」と呼ばれる彼の胸の中の感情は計り知れない「狂喜」

で満たされていた。

 

ナザリックの主にして、至高の御方の纏め役であるモモンガを残し、何処かへ去っていた至高の41人。その内の一人である、マシンナーが意識を取り戻した。マシンナーが意識不明という事態を聞いたとき、多くのものが騒然となった。普段冷静な彼も大量の冷や汗をかくほどの衝撃であったのだ。そのマシンナーが意識を取り戻したと聞いた彼は心の中で狂喜乱舞した。そして彼は、来るであろう招集の命令を心待ちにしていた。玉座の間ではモモンガとマシンナーが会談を行っているであろう。今の自分は、その場に乱入し兼ねないほどの高ぶりを感じていたからであった。

 

暫くして、玉座の間へと緊急招集が行われた。

デミウルゴス以外のシモベ達もその理由は簡単に理解出来た。

 

そして守護者各位と、シモベ達は玉座の間に一堂に会する。

 

玉座には、死の支配者と漆黒の機械神が待っていた……。

 

それを目にしたデミウルゴスは視界が滲んでいくのを感じた。しかし無様な姿を晒す訳にはいかない……。

他のシモベ達も同様の思いだった。

 

「面を上げよ」

 

シモベ達全てが寸分の狂い無く同時に面を上げる。訓練された訳ではない。忠誠心がなせるワザだ。

 

「皆、よく集まってくれた。今日は皆に集まってもらったのは他でもなく、我が友であるマシンナーさんの意識が回復された」

 

シモベ達は一つ、黙したままであったが、その場の空気が明らかに変わった。理由は言うまでも無い事であった。皆、胸に込み上げる熱い思いを抑えていたのだから。

 

「さて、何故彼が一時期ナザリックから消えたのか、気になるだろう? マシンナーさん、すまないが、皆に話してくれないか?」

「無論だ、我が友よ」

 

マシンナーが立ち上がり一歩前へと進み出る。静かな重低音の足音と共に、その精悍な御身体が圧倒的な覇気を生み出し、それに圧倒されそうになる。

 

「その体勢ではきついだろう、立ち上がってくれ」

 

マシンナーの命令にシモベ達は先ほどと同じように同時に立ち上がった。

 

その言葉だけで、彼が本物のマシンナーだと、シモベ達は確認した。否、至高の41人の特有のオーラを放っている彼を、偽物だと判断する愚か者などいない。

雄々しくも他を圧倒する鉄の意思を具現化したような容姿に相応しい重低音での声が響く。

 

「皆、久しいな。先ほど目覚めた至高の41人の一人、マシンナーだ。これから俺が一時期ナザリックから姿を消したその理由を話そうと思う……」

 

至高の御方が、直々にお語りになった内容はこうだ……。

 

「俺はナザリックとは別の場所で、ワールドアイテムを得る為の資金を調達する為にある仕事をしており、その資金を調達していた……」

「しかし、その場所に敵が襲撃してきた為、俺はその迎撃に出た……」

「勿論、そこにシモベは配置してあった、実力も十分にある者たちだった」

「しかし、敵はそれ以上の者達で構成されていたため、俺が直接その者たちの迎撃に出たが、連日のようにそいつらは襲撃してきた為、俺は予想以上の苦戦をしてしまった」

 

そのくだりで至高の御方の至高の場所に襲撃するという愚か者の所業に、我々が例えようのない怒りを感じたのは当然だ。一切の救いようの無い愚者は、シモベ全ての殺意を一身に浴びる。

 

「そして最近になって、ようやくそいつらを殲滅させることに成功し、俺はナザリックに帰還をしたのだが、蓄積されたダメージが予想以上のものだったため、意識を失い、転移したナザリックの外に落下し、そこで幸運にもセバスに保護されたのだ……」

 

(……)

 

デミウルゴスは己の涙腺が緩んでいくのを感じた。主の危機を助ける事が出来なかった無念からなのか、それとも、そのような状態になりながらもナザリックに帰還しようとした、マシンナーの決意に胸を打たれたのか……。

おそらくは両方だろうと結論付け、至高の御方を前にして、込み上げる感情を抑える。

 

そしてマシンナーがシモベ達の前で正座をしたのだ。

 

(な……!)

 

「勝手な判断をして、皆に迷惑をかけただけでなく、余計な心配までかけてしまった。本当に……すまなかった」

 

そのまま深々と頭を下げ、謝罪をするマシンナーを前に、玉座の間に集ったシモベ達がざわめく。何をもって迷惑とするか…!

 

「皆が許してくれるなら、この醜態をこれからの働きで払拭させてほしい……」

 

あくまで汚名となされるのか……。そのようなこと我々は一切思っていないというのに……。

 

「もうナザリックから消えるような真似は決してしない!! そしてモモンガさんとナザリックの皆の為に、この力を振るう事を俺はここに誓う!!」

「最後に……、こんなことを言う資格は無いかもしれないが……俺がいない間、ナザリックとモモンガさんを守ってくれて、本当にありがとう」

「俺からは以上だ……」

 

……ああ、これは効く、どんな攻撃よりも……。

 

周囲を見れば、涙をこらえているものや、嗚咽を隠そうともしない者もいる、だがこれは仕方がない。そう思いデミウルゴスはこらえきれず頬を伝う涙を懐から取り出したハンカチでそっと拭った。

 

そしてマシンナーは再び椅子に戻った。

 

「では、皆に問う。マシンナーさんの復帰に異存は無いか? 私は、再び彼を迎えいれたい。この場に異を唱える者がいるならば、理由を聞こう」

 

そんな者が居る筈も無い。仮にそのような愚か者が居たならば、私は堪え切れずに一切の容赦なく無慈悲にこの場で殺してしまうだろう。

 

それは他の守護者達も同じ反応だ。

 

友人であるコキュートスも、周囲を見渡している、ハルバードを持っている手の力がいつも以上に強くなっているのが見えた。

 

「無いようですよ? マシンナーさん」

「それを聞いて安心した。では皆、これからよろしく頼む!」

「では最後に守護者達よ、最後にお前たちに確認したい事がある」

 

最後に守護者各位の思いを伝えた後、モモンガとマシンナーは円卓に転移していった。

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓第六階層<マキナ>拠点「マシーネ・パラディス」最上階司令室

 

豪華絢爛な玉座の間とは違う、近未来的なデザインと、数々のコンピュータや巨大なモニターが付けられた司令室。その部屋に相応しい椅子にマシンナー様は座っていた。

 

「やっべえ……あと少しだよ、緊張するなぁ……」

 

現在至高の四十一人の一人である俺は、絶賛緊張中であった。

玉座の間の時はモモンガさんがいてくれたが、今回は俺一人なのだ。

 

「そうだ、素数を数えよう……2 3 5 7 11 13 17 19 23 29 31 37 41 43 47……ってこんなんで落ち着けるかぁ!」

 

緊張のあまり、素数を数えるが、全く効果がないぞチクショウ……、あ、鎮静化された。

そういやこれがあったな、なんだかんだで便利だな、うん。

 

(あっちではボロを出さずにやれたんだ、なら今回のも上手くいく筈…)

 

鎮静化されたことにより、一気に冷静になった俺、そうだよ、自分が精魂込めて生み出したNPCと会うんだ、それは言わば自分の子供達と会うようなものだ、ここで無様なところを見せたら、父親の威厳()が崩れ去ってしまうことになる、いやそんなの元からないけど。

 

「……失礼します」

 

「ん……?」

 

一人で考え込んでいる間に一人、来たようだ。

 

視界に入った人物を俺はよく知っている。

 

髪は真紅のような赤と、髪の両サイドに赤い髪飾りがある。背丈はシャルティア程で人間そっくりの顔、少女のような顔と翠の瞳。

上半身は胸の部分に黒い装甲のようなパーツで覆っており、腕の部分は二の腕部分の肌が露出しており、左側の二の腕から下は黒地に赤の籠手が左右対照についていた。下半身は腰の部分にも甲冑のような装甲と袴のような衣装で覆われていた。

 

「アルティマ……」

 

アルティマ・レイ・フォース

 

自分が最初に生み出したNPCであり、役職は「フェツルム・レギオー司令官補佐官」である。

設定上では、フェツルム・レギオーの司令官である自分の補佐と参謀役も設定しているのだが、設定の中に「主であるマシンナーを傷つけたものに対しては、阿修羅すら凌駕する怒りをそのものにたたきつける」という設定がある。しかもブチギレたら、主である俺が制止しない限り、怒りが収まらないという設定までつけてしまったのだ。

単純なスキルビルドも、十分高いため、この世界では隠れ武闘派みたいなポジションになるだろう。まあそれは俺がちゃんと手綱を引いておけば大丈夫だと思う…多分。

あと、これだけは言っておく、アルティマは見た目は完全に女の子みたいだが、れっきとした「男」だ。

俺がアルティマの初お披露目をした時に、ぶんぶく茶釜さんに「男」と伝えたら、茶釜さんに「中々良い趣味してるじゃない…」と称賛されるがペロロンチーノさんには「マシンナーさん、そっちの性的嗜好があったの!」と盛大に誤解されたのだ。

見た目は人間みたいだがこいつには変形能力があり、本気状態の姿は別にある。

 

「マシンナー様、よくぞお戻り下さいました! アルは…アルはこの時を心待ちにしてました!」

「ああ……心配をかけてすまなかったな、元気そうで安心したぞアルティマ」

 

そう言った後に、アルティマは翠の目から液体を流している、なんだろう? ウォッシャー液かな?

 

「勿体ないお言葉! そのお言葉だけで、元気が出ます!」

「大袈裟だな、全く……」

 

苦笑いしながら俺はアルティマの頭を撫でていたのだが、何故か撫でている間、アルティマは口を開けたまま絶句している。何故だ?

 

「アルティマ?」

「あ、い、いえ、何でもありません、光栄です!」

「お、おう」

 

なんか人間みたいだな、俺と同じ機械系なんだが、こいつは感情豊かだ。

そんな事をしている間にもう一人来ていた。

 

「一番を狙っていたが、アルティマに先を越された……」

「バレット・ローグ……」

 

使い込まれたマントをなびかせながらカーキ色のロボットが立っていた。

無骨そうに見えるが、実用的な増加装甲であるチョバムアーマーを肩や足に装着している。右肩は血のような赤で染められており、左肩にはナイフを装備していた。ヘルメット状の頭部には狙撃用のバイザーが装備されている。

顔はバイザー状の目をしているが、その奥から二つの眼が光っていた。

 

「御帰還お待ちにしておりました、総司令官(コマンダー)マシンナー様」

「ああ、いま帰ったぞローグ」

 

バレット・ローグ

 

俺の軍団(フェツルム・レギオー)の部隊の一つ、機人兵団の隊長で、プロの兵士というコンセプトで制作したのだ。アルティマはアンドロイド寄りのデザインで制作したが、ローグはリアルロボット寄りのデザインで制作した。その身体の各部分にリアルロボット系のアニメ要素を詰め込んである。(ガンダムやボトムズ等…)性格はクールな一匹狼という感じにしているが、命令は聞いてくれそうだ。

 

「モモンガさんからは、この頃敵は攻め込んできていないと聞いたが、暇だったか?」

「ええ、この頃は部下たちを鍛えていました」

 

さすがはプロだな、平時でも、抜かりなしだ。

 

「そうか、ご苦労だったな」

「勿体ないお言葉…」

「うぉぉぉぉお!!」

 

ビシッと敬礼をする姿に素直にカッコいいとおもった。

その後に後ろから大きな声が聞こえてくる。

 

「よくぞ御帰還されました、マシンナー様!!」

「お、おう……」

 

トリコロールのカラーで塗られたスーパーロボットが猛烈な勢いで入ってきた。マッシブな体格と重厚な装甲と背中の翼からヒロイックな印象を受ける。身体をトリコロールカラーに染めており、更にヒロイックな部分が強調されていた。その大きな声とマッシブな体格のお陰で何とも言えない迫力がある。

 

「ゴルドソウル! 御方の前で何をやっている、マシンナー様が戸惑っておられるぞ!」

「え? …あ! も、申し訳ありません! すぐに自害を!!」

「やめんか!!」

 

アルティマの叱責で自分がとんでもない事をしたと思ったのか、ゴルドソウルは右腕を光らせ、自分の頭に叩き込もうとしたため、マシンナーはすぐにやめさせる。

 

「誰が自害をしろなどと言った? 拳を下ろせ、ゴルドソウル」

「し! しかし私は!!」

「俺は気にしておらん、だからやめろ。むしろ元気そうで安心した」

「も、勿体ないお言葉!!」

 

ゴルドソウル

 

軍団の部隊の一つ、特機兵団の隊長で、往年のスーパーロボのようなデザインで製作をした。スキルビルドは前衛向きに調整しており、スキルによる恩恵により、単純火力なら、ナザリックのNPCの中でも上位に食い込むほどの威力を生み出せる程。ちなみに名前がゴルドなのに身体の色がトリコロールカラーなのは理由がある。こいつはある一定のダメージを負うと、色がゴールドカラーに変わり攻撃力を倍増させる<ハイパー化>のスキルがあり、この状態でこいつの最強のスキルも使えば、ワールドチャンピオンにも大ダメージを与える事すら可能なのだ。

 

「全ク……騒ガシイゾ、ゴルド」

「ドランザー」

 

銀色の龍のような外見をしており、コキュートスと同じぐらいの背丈。肩には大型キャノン砲がついていて、手足も大きく、小さな生き物くらいなら軽く握り潰せるだろう。その他にもミサイルポッドや、レールガン等の武装を装備していた。

 

「来たか、ドランザー」

「御帰還オ待チニシテオリマシタ、マシンナー様……」

 

ドランザー

 

機獣兵団の隊長で、特撮物のロボット怪獣をモチーフに制作したNPC。圧倒的な火力で蹂躙するスタイルと、野獣のような荒々しい動きで戦う二つのスタイルがあり、知能も高い究極の機械獣という設定のNPCだ。また、こいつのスキルの中には<拘束解除>というものがあり、簡単に言えばリミッターを解除するようなもので、攻撃力を上げる反面、防御力が著しく減少してしまうデメリットがある。

 

「よく来てくれたな…」

「オ呼ビトアラバ即座二……」

 

ゴシュー、と身体の隙間から排気する、ドランザー、すごい迫力だ、「グルル…」って唸ってるし。

 

「この頃は獲物がいなくて退屈だったか?」

「イエ、コノ「機械の楽園」……ヒイテハナザリックヲ守護スルノハ我々ノ役目デス、退屈等…」

 

コキュートスみたいな喋り方だな、でもカッコいいからOK。

 

「遅れて申し訳ありません」

「ソニック・スレイヤー…」

 

戦闘機からそのまま人型に変形したような身体に茶色のカラーリングが施されている。身体の装甲は流線形の物が付けられており、隙間からはフレームが覗いていた。両肩には飛行機のエンジンのようなパーツが装備されており、右手にはガトリングが装備されている。背中には翼が装備されている。頭部は流線形をしており、その顔には黄色の目がブン、と光っていた。

 

「哨戒任務御苦労だったな」

「勿体なきお言葉……」

 

ソニック・スレイヤー

 

軍団最後の部隊、機動兵団の隊長、某ロボット生命体をモチーフにしている。モチーフがモチーフなだけに、勿論戦闘機に変形する。戦闘機らしく戦い方も一撃離脱(ヒット&アウェイ)のスタイルで、ユグドラシル時代には、軍団の切り込み隊長をさせていた。

ちなみに哨戒任務というのは、俺がこいつの設定の中に「戦闘や、任務以外では哨戒が主な任務」と設定したのだが、こっちの世界では本当にしてるらしいな、第六階層って結構広い筈だが…。

 

「そうかいつも御苦労だな」

「勿体なきお言葉、そのお言葉だけで報われます」

 

シャキッと敬礼をするソニック・スレイヤー、スマートなスタイルが素敵ですよ。

そう思っているとアルティマから質問が来る。

 

「マシンナー様、ディアヴォルスとアンヘルは?」

「彼らは領域守護者故に呼んでいない、勿論後で会いに行く」

「わかりました」

 

質問が終わるとアルティマは各隊長達に「全員整列!」と言い、一斉に跪いた。

 

ザッ!!

 

「<マキナ>司令官補佐アルティマ以下各兵団隊長、全員揃いました!!」

 

うんヤバイみんなカッコよすぎて泣きそう……。




各隊長格の外見イメージ

アルティマ・レイ・フォース
外見は機巧童子ultimoのウルティモのようなイメージ。

バレット・ローグ
ボトムズのスコープドッグ、ガンダムのジムスナイパー、パトレイバーのヘルダイバーを合わせたような感じ。

ゴルドソウル
勇者ロボシリーズのガオガイガーのようなイメージ

ドランザー
歴代メカゴジラのいいとこどりです。

ソニック・スレイヤー
遊戯王のダーク・ダイブ・ボンバーを更に戦闘機のようにした感じです。


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第8話 ただいま、そしてありがとう。

今回は短めです。


それにしても感動的だ、かつて生み出した自分のNPCが一堂に会して…いや

「アンヘル」と「ディアヴォルス」がいたな、後で会わないと。

その前に、アルティマ達に話さないとな、そう思い俺は椅子から立つと、アルティマ達は跪く。

 

「皆よく来てくれたな、感謝する、嬉しいぞ」

「いえ、至高の御方であり、我らの直接の創造主であるマシンナー様のためならばこれぐらい……」

 

うん、やっぱり忠誠心は本当に高いな…しかもアルティマのさっきの言葉、本心から言っているようだ。くそ、本当に良い子じゃないか。俺は現実問題があったとはいえ、こいつらに寂しい思いをさせてしまったのか! くそうなんだか目から液体が……ん?液体?

 

「マ、マシンナー様、どうかなさったんですか!?」

「え…」

 

アルティマの言葉で、思わず俺は目をこすり、手を確認すると、透明な液体がついていた。

 

(これ…涙か?)

 

俺は眼のカメラを絞り、成分を調べる。どうやらこういう所もハイテク化されてるらしい。

調べた結果、ウォッシャー液だった。

涙の代わりにウォッシャー液ってバン〇ルビーか俺は、いや今の俺の状態はもう人間じゃなくロボット生命体みたいなものだったな

 

「マ、マシンナー様……もしかしてアル達がなにか……」

「いや、すまん、つい…な……」

 

俺は涙?を拭い、彼らに向き合った。

 

「皆、俺が何故一時期ナザリックから離れたかを言わなければならん、聞いてくれるか?」

 

その言葉にアルティマ達は真剣な表情になり、それを確認した俺は彼らに玉座の間で話した事を話した。

すると話の途中から、全員の顔が憤怒の表情になっていた。

アルティマは目からハイライトが消えており、ローグは平静を繕っているが武器のライフルを握る力が強くなっているのがわかる。ゴルドはトリコロールカラーが剥げつつ、今にも金色の破壊神になりそうだった。ドランザーは「グルル…」と唸っており、目が赤くなっている。ソニックは身体に仕込んでいる、ミサイルや銃器などを展開していた。怖すぎんゴ……。

 

「……俺の判断で皆には迷惑をかけてしまった、本当にすまない」

 

玉座の間の時と同じようように、俺は彼らに頭をさげた。

 

「そんな! アル達は迷惑等と、微塵も思っておりません、ですから御顔をお上げ下さい!」

「アルティマの言うとおりです、司令官……我々は貴方が御帰還なされた事に、喜びのみを感じています……」

「そのような事を考える不届き者がナザリックにいれば……私が全力で排除いたします!!」

「我々フェツルム・レギオーハ、貴方ガ居テコソ、真二輝クノデス…」

「ですから、ご自分を責めないでください! 皆あなたの御帰還を心の底から喜んでいるのです……!」

 

アルティマ達の声に俺は胸を打たれる。ああ、こいつらは俺をこんなにも必要としてくれていたのか……!

 

「お前たち……」

「むしろ詫びなければならないのはアル達の方です」

「なに?」

 

え?どういうこと?詫びられる事こいつらしてないだろ?

 

「マシンナー様が一時期御姿を現されなかったので、不敬にもアル達はマシンナー様も他の至高の御方とともに御隠れになったと思ったのです…」

「少しでもそう思ってしまった我々に、どうか処罰をお与え下さい……」

 

なんだよそれ、何でお前たちが謝らなきゃいけないんだ……、悪いのは俺なのに。

 

「馬鹿な事を言うな……!」

「「「「「……!?」」」」」

 

こいつらは悪くない…。

 

「俺がお前達の事を放って置いて、消える訳がないだろ…!」

 

悪いのはそう思わせた俺なのだから……。

 

「先ほども言ったように、非はお前たちにそう思わせてしまった俺にある……だから、償いをさせてほしい」

 

だからこいつらの為に改めて誓う……。

 

「俺はお前たちとナザリックの皆を守る。それが俺の償いだ…!」

「「「「「……!」」」」」

「最後にこれだけは言わせてほしい…」

 

家に帰ってきたらいう言葉は決まっている。

 

「…ただいま、そして俺がいない間、ずっとここを守ってくれてありがとう」

 

その時点でアルティマは嗚咽を漏らしており、ローグも目頭を押さえていた。ゴルドはウォッシャー液を流しており、ドランザーは身を震わせ、ソニックは手の隙間から小さな火花が出るほど握り締めていた。

そして彼らは一斉に口を開く。

 

――――おかえりなさいませ!マシンナー様!!

 

現実世界のしがない整備士「敷島十蔵」は死んだ。

今ここにいるのはナザリック地下大墳墓のAOG(アインズ・ウール・ゴウン)の「マシンナー」だ…!

 

 




実写版トランスフォーマーのバンブルビーは可愛い…(●´ω`●)


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第9話 マシンナーの装備実験:1

とりあえずアルティマ達が落ち着くのを待つ。う~ん、ちょっと空気がしんみりとしちまったな、俺のせいなんだけど……。

よし、こうなったら……気分転換にアルティマ達と飲みに行こう、酒でも飲んでパーっと行こうではないか、確か第九階層にバーがあったはず……て俺この身体で飲食できんのかな?

そう考えてるうちに、モモンガさんからメッセージが来る。

 

「こちらマシンナー、モモンガさんか? どうした?」

 

先ほどと違って、全員の顔に緊張が走った。アルティマは、思わず「ゴクリ」と唾を飲み込む。

 

『あ、マシンナーさん、いまどこですか?』

「いまか? 第六階層の『機械の楽園』の司令部にいる。今アルティマ達と話をしていたところだ」

『あ、そうなんですか』

「うむ」

 

アルティマ達の心配は杞憂に終わった。マシンナーがこちらに腕を向けて親指を立てて「大丈夫」のサインを送る。この御方の事だから、我々に配慮して下さったのだろうとアルティマは確信する。マシンナーに生み出され、直属のシモベとして長く仕えているアルティマ達にはマシンナーがどんな御方かを知っているのだ。

 

『マシンナーさん、まだスキルや装備の実験はしてませんよね?』

「実験か、そういえばしていなかったな……」

『俺も闘技場で自分のスキルや魔法を実験しましたからね、マシンナーさんもしてみませんか?』

「そうだな……いざというときに使えなければ、目も当てられん…それに専用の武具がなければ、満足に戦えんからな」

『わかりました、じゃあ宝物殿で俺がマシンナーさんの装備をとってきますよ』

「いや、そこまで世話になるわけにはいかん。自分の物ぐらい、自分でとってくる」

『え…』

「あ~いや……心配するな、とってきたら、すぐに戻ってくるから」

『……本当にすぐ戻ってきますか?』

「大丈夫だ、問題ない」

『…わかりました、でもとってきたらすっっっぐに戻ってきてくださいね?』

「お、おう……では、すぐに向かう」

 

俺はモモンガさんからのメッセージが終了するのを確認し、アルティマ達に視線を向ける。

 

「すまん、少しモモンガさんと話をしてくる」

「畏まりました。それでしたら、アル達は本来の職務に戻ります」

 

アルティマ達は、マシンナーがモモンガと個人的に話をするとなれば、自分達は邪魔になるだろうと判断した。我々の創造主である至高の御方、その総括直々の呼び出しともなれば、自分達シモベ等よりも優先すべき事だと理解している。

 

「すまんな、暫くしたらまた戻ってくる」

 

そう言って、マシンナーは転移していった。転移した後の司令室には、アルティマと他の隊長格のみとなっていた。

マシンナーが転移した後、暫くして、アルティマを筆頭に次々と立ち上がった。

 

「また、再びあの御方にこうしてお仕えできる日が来るなんて……」

 

アルティマは流し終ったはずのものを再び目に浮かべる。そしてそれは他の隊長格も同じ気持ちであった。

 

「そうだな…」

「うむ!」

「アア…」

「至高の御方の為に我々は更なる忠義に励まなくては…」

「そうだね、アル達のマシンナー様とモモンガ様の為に……」

 

それぞれが強い意志で決意する。再びナザリックに帰還したマシンナー。

その御方から直接生み出された我々は今まで以上に創造主である至高の御方に恥じない働きをしなければならない。

 

「それに我々は、モモンガ様の前で大きく取り乱してしまった、この醜態を雪(きよ)がねばならん!」

 

アルティマ達はマシンナーが意識不明と聞いた時、全員、卒倒しそうになった。

アルティマはショックのあまり崩れ落ち、ローグは拳銃自殺を考え、ゴルドは「嘘だ!」と慟哭し、ドランザ ーは悲しい咆哮をあげ、ソニックは「理解不能、理解不能…」と煙を上げてしまうほどだった。

 

「そうだね、ゴルド、アル達は少しでも早くこの汚名を雪がないと、マシンナー様に顔向けができないよ」

「…そうだな」

「応!!」

「グルル…」

「ああ…!」

 

至高の41人の総括であるモモンガと、その1人にして、自分達の創造主であるマシンナーの為にアルティマ達は更に忠誠心を固める。

 

(こうしちゃいられない、更に戦力を増やしてナザリックの防衛力の強化、そして再びマシンナー様が率いられるに相応しい軍勢にしなくちゃ、ふふ……これからもっと忙しくなるぞ♪)

 

再びマシンナーに率いられる<マキナ>、そしてナザリックに刃向かう愚か物を蹂躙し焼き付くし、勝利の剣を掲げるマシンナーの姿を想像し、アルティマは、思わず笑みを浮かべる。

 

 

 

 

『機械の楽園』から、俺は宝物殿に転移していた。

 

「さてと…行きますか」

 

転移したマシンナーは、一歩歩き出す。転移した先は数え切れないほどの金貨や宝石、アイテムなどで溢れかえっている。

 

「いざ現実になって見てみると、まるでお伽話に出てくる宝の山だよ…」

 

いままで貯蔵していたナザリックの運営資金、アイテムなどが周りに散らばっているのを見て、「ドラゴンでも住んでそうだな」とマシンナーは言った。

 

「《フライ/飛行》」

 

マシンナーは《フライ/飛行》を使い、空に舞い上がる。しかし、普通の《フライ/飛行》とは違い、彼の場合は、背中と足の裏のスラスターを使って飛んでいた。

自分の身体に対して、改めて彼は驚く。

 

「いやはや、本当に機械の身体になったんだな…」

 

俺は自分の身体に改めて驚く。自分の思った通りに速度を調整でき、しかも思った通りに進めるのだ。少し感動している。

 

「そろそろだな」

 

目的地の奥の扉を見つけ、スラスターのパワーを落とし、ズン、と着地した。

目的地の宝物殿の奥の黒い壁のような扉、その扉に浮かび上がった金の文字にあうパスワードを言い、扉を開ける。

 

『Ascendit a terra in coelum, iterumque descendit in terram, et recipit vim superiorum et inferiorum. 』

「えっと……『かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう……』だったな…」

 

開かれた扉の向こう。先ほどの宝の山とは違い博物館の展示室のような中を俺は歩く。

目的地は終着の待合室だ。その部屋にはソファーとテーブルだけがおかれ、目の前にはあの『宝物殿領域守護者』がいた。

 

「ようこそおいで下さいました、至高の41人が御一人マシンナー様!」

 

ピンク色の卵に似た頭部、ナチスSSの制服に酷似した軍服を身に纏っているNPC。

そう、ご存知モモンガさんが生み出したNPCであり、黒歴史である「パンドラズ・アクター」

設定上ではアルべドやデミウルゴスと並ぶ、ナザリックトップクラスの頭脳と知略、そしてギルメンの能力の八割ほどを行使できるドッペルゲンガーとしての能力に特化したすごい奴である。

 

 

カツンと踵を合わせる音と共に、パンドラズ・アクターはオーバーアクションで俺に敬礼をした。

俺は「ご苦労」と、ジャキンと敬礼を返す。

 

「それで、本日はどのような御用でこちらに?」

「なに、俺の装備を取りに来ただけだ」

「おお! あのマシンナー様専用の装備、『黒の機神』ですね!」

「お、おう...これから霊廟に行ってくるから、指輪を預かってくれないか?」

「承知いたしました…」

 

なんか劇団の俳優みたいな感じだな、まあアクター(俳優)だからそんなもんか。

さてと、早く我が装備を探さなければ…。

俺は指輪をパンドラに預けて奥の霊廟に入っていった。

 

 

 

 

「いや~なんか圧巻だな…」

 

霊廟に入ると、そこにはモモンガさんを除いた、他のギルメンを模したゴーレムがずらりと並んでいる。

指輪を付けたまま入ると、ギルメンの装備を付けたゴーレムから、一斉に攻撃されるという恐ろしい仕掛けがある。

こういう作業はモモンガさん苦手って聞いたんだけど、そんなに不格好じゃない。

俺は味があっていいと思うんだがな…。

 

「あった、あった、俺のゴーレム…」

 

少し歩いた後に、自分の装備を付けたゴーレムを発見する。

黒い装甲と武装、そして黒いマントが着いた鎧のような装備を付けていた。

 

「職場が倒産寸前までいってたから、最悪引退するかもしれないって言って、モモンガさんに託したんだっけ?」

 

まあこうして戻ってきたわけだし。再び纏うとしようじゃないか。

俺はゴーレムから、自分の装備をとっていった。かつての「ナザリックの機動兵器」にへと戻るべく…。

 

「最後にマントっと…」

 

ゴーレムから装備を外し、それを自分自身に装着していく。最後に残ったマントを掴んでそれを剥ぎ取り、自分の身に纏う。

 

「…うん馴染む、実に馴染むな」

 

上半身には、頭と肩、そして胸を保護するアーマー、背中には翼状のスラスターが収納されており、その上に鎖がついた黒いマントを纏う。下半身には腰にアーマー、脚部には増加スラスターとブレードが着いているアーマーが装着されている。

色は自分と同じ黒で、細かい部分には赤いライン等が入っている。

 

俺の専用装備シリーズ「黒の機神」こいつを作るのに、かなりの額の課金とアイテムをつぎ込んだものだ、しかしそのおかげで一つ一つが神話級の装備にまでなった。

装備の性能だけなら、ワールドチャンピオンのたっち・みーさんの装備にも引けを取らない。そしてこいつには、ちょっとした面白い機能がある。

 

「さて、早いところモモンガさんの所に行くか…」

 

俺はパンドラから預けていた指輪を貰い、礼を言って、モモンガさんがいる玉座の間に転移する。

 

 

 

 

「お待たせしました、モモンガさん」

「お帰りなさい、マシンナーさん」

 

転移した玉座の間で、モモンガさんが玉座に座っていた。

……なんかアンデッドなのに疲れている感じがするけど俺は気にしない。

 

「どうでしたマシンナーさん、隊長格の様子は?」

「いや~感動しましたよ、アルティマ達を見て、改めて命が宿ったんだなって思いましたよ」

「ハハッ、アルティマ達を製作する決心をした時のマシンナーさん、すごい熱意でしたもんね? 他の人達がNPCを見て、「なら俺も俺のロボ愛を詰め込んだNPCを作ってやらぁ!」って意気込んで、7体も制作しましたからね」

「ユグドラシルで自分だけの軍団を作るのが夢でしたからね、ディアヴォルスとアンヘルは領域守護者にしましたけど」

「それ聞いて思ったんですけど、何であの2体を領域守護者にしたんですか? スキルビルドを見ると2体とも高い方でしたし……もしかして俺と同じ理由ですか?」

「ああ、それは違いますよ」

 

一応あの2体を領域守護者にしたのには相応の理由がある。

 

「ディアヴォルスはモモンガさんの知っての通り眷属を制作して、物量で押しつぶす戦闘スタイルです。ディアヴォルス自体も戦闘力なら階層守護者にも匹敵しますが、普通のNPCより大きいから結構的になりやすかったんです」

「アンヘルは熾天使(セラフ)級の天使を真正面から潰せるスキルビルドに調整されているんですが、ステータスが結構偏ってて…」

 

あの二体は確かに強い、俺が生み出したNPCの中で性能だけならこの二体がダントツだ。しかしアルティマ達に比べれば、少々汎用性にかける。だから切り札的な意味も含めて、第八階層の領域守護者に設定したのだ。

 

「パンドラも元気にしてましたよ? 後で会い行ったらどうです?」

「ああ~…考えときます」

 

オオゥ…やっぱり黒歴史扱いされてる。こりゃ会うのに時間がかかりそうだ。そう思っているとモモンガさんが「まあそれより…」と話題を変える。

 

「装備も揃いましたし実験やりましょうよ、闘技場でアンデッドやモンスター召喚しますから、それ練習相手に使って下さい」

「ありがとうございます、久しぶりにはっちゃけますか!」

 

久しぶりの戦闘に俺は気合を入れるために両手の拳をガン、と打ち鳴らすと、金属同士の衝突で少量の火花が散った。

フェイスガードを下していない顔がニヤリと笑っているのが自分でもわかる。

 

「気合はいってますねぇ…そうだ、シャルティアとも戦ってみます? 本気形態のマシンナーさんの性能チェックの為に」

「まあいいですけど…大丈夫かな? 相性ではモモンガさんよりかはいいけど」

「危なくなったらなんとかしますよ、じゃあアウラにメッセージを送るので、ちょっと待ってて下さい」

「了解です」

 

早く暴れたい気持ちを抑えながら、マシンナーはモモンガのメッセージが終わるのを待った。



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第10話 マシンナーの装備実験2

ようやく戦闘(模擬戦)です。(途中アルティマ視点あり)


「マシンナーさん、アウラから許可をもらいましたよ。一時間後に行きましょうか」

「うす」

 

 

 

第六階層中央部闘技場

 

(……なんぞこれ?)

(……すみません、マシンナーさん)

(……なんすかこれ?)

(……なんか話が大きくなってしまって)

 

話は一時間前に遡る…。

 

モモンガはアウラに<メッセージ>を送った。

 

『はい、モモンガ様何か御用ですか?』

『マシンナーさんの装備のテストをする為に、闘技場を使いたいんだが構わないか?』

『勿論です! 至高の御方が闘技場を使うのに許可なんて必要ありません! それにマシンナー様が戦うんなら、是非見てみたいぐらいです!』

『そうか、お前も見てみるか?』

『え!良いんですか?』

『ああ』

『ありがとうございます! ではマーレや他の人達も呼んできてもいいでしょうか?』

『ハハ、それぐらい構わないぞ?』

『わかりました! では準備をするので一時間後に来てください!』

『ああ…』

 

 

 

 

(で、こうなったんです)

(えー…)

 

俺の目の前に広がる光景は観客席がナザリックのモンスターで埋め尽くされている闘技場の光景だった。

なにこれ、武道館コンサートの会場ですか? なんか熱気をすごい感じるんですけど。

 

(これナザリックの大部分のモンスターいますよね? ていうかこんなに集まって大丈夫なのか?)

(いや本当にごめんなさい)

 

まあモモンガさんも悪気があったわけじゃないし、というか誰もこんなに集まるとは思わないし、てか許可しちゃった俺も悪い。

周りをよく見てみると、アルべド含む各階層守護者(ガルガンチュアとヴィクティム除く)とセバス、プレアデスの面々もいる。

 

(あれ?……マキナの面々もいる、お、アルティマ発見)

 

アルべド達が座っている座席より少し離れたところにアルティマ達隊長格達とレギオーの機械系モンスター達が陣取っていた。あいつらも来てくれたのか、こりゃ無様なところは見せられないな、てかアルティマよ、なんでビデオカメラ3個ほど設置してんの? ローグもなんか準備してるし。

 

「ローグ! カメラちゃんと映ってるよね? バッテリーは十分? 予備もちゃんとある?」

「無論だ問題ない、予備10個もあるからな…」

 

視覚センサーと音響センサーを使って会話を聞いてみる、いやいやお前ら運動会の親御さんですか? てか予備のカメラが10個って多すぎやしませんか? ローグさん?

 

「全て撮り終わったら観賞用と保存用と予備で分けるぞ!」

「久シブリニマシンナー様ノ戦イガ見レル…何トイウ幸運…」

「心が躍るな…」

 

おいゴルド! 観賞用と保存用と予備ってなんのことだよ!

そう心の中で突っ込んでいると、アルティマがこっちを向いてるのに気づいたのか、ぺこりと頭を下げる。

俺はそれを返すように手を振る。

 

「おお…! マシンナー様が我らに手を振っておられるぞ」

「マシンナー様…」

 

ゴルド達も気づいたらしいな、そういえばプレアデスが全員いるという事は……。

 

「……」

 

シズ発見! 目はズームできるから、はっきりと見える。

俺はシズに向けて腕を上げる。

 

あれ?もしかして気付いてない? まあ結構距離あるからなぁ……。

しかしユリ・アルファがなにやらシズに耳打ちしている。

 

「ほらシズ、マシンナー様が手をお振りになってるのよ?」

「…うん」

 

お、ぺこりと頭を下げてくれた。良かった良かった。

そういえばシズの好感度上げるにはどうすればいいだろうか?

勿論、いいところを見せるに限るんだが…。

 

(て今がそのいいところ見せるチャンスじゃね?)

(どうしたんですか、マシンナーさん?)

 

横からモモンガさんの声が聞こえたので、俺はモモンガさんの方に首を向ける。

 

「モモンガさん」

「はい」

「(シズに良いところ見せるチャンス作ってくれて)ありがとうございます」

「え?」

「モモンガ様ー! マシンナー様ー!」

 

俺がチャンスをくれたモモンガさんに礼を言ってると、アウラがマーレを引っ張ってきた。

 

「ようこそおいでなさいました! モモンガ様! マシンナー様! この通り、準備完了してます!」

「うむ、ご苦労だったな」

「ご苦労だった、礼を言う」

「お礼だなんてとんでもない! シモベとして当然の事をしただけですよ!」

「ふふ…そうか」

 

俺はアウラの頭をワシワシと撫でる、撫でられたアウラは「えへへ…」と笑っている。可愛い奴だ。

隣のマーレは少し羨ましそうに、見ていた。

 

「マーレもな、ありがとう」

「え!? は! はい!」

 

マーレにも頭を撫で、撫で終わった後に、モモンガさんの方を向いた。

 

「ではモモンガさん、貴賓席に座って観戦しててくれ」

「ええ、わかりましたマシンナーさん」

「アウラとマーレも席に着いててくれ」

「「はい!」」

 

その後モモンガさんとアウラ達は転移し、座席に座っていた。

そして俺は闘技場にいる悪魔やらアンデッドの集団を見つめる。

頭の演算装置で数を計算し、その総数を出した。

 

(500か…ま、ちょうどいいか)

 

目の前の集団が獲物を見つけたような目で俺を見て、今にもとびかかりそうだ。

そこにモモンガさんが「始めろ」という。

 

「それではこれより至高の御方であるマシンナー様とナザリックの配下による、実戦演習を行います」

 

その言葉を聞いて、待ってましたと言わんばかりに、襲いかかってくる。

さ~てひと暴れしますか。

俺はフェイスガードを装着し、腰に差していた柄を握り閉め、俺の装備の一つ<41式斬艦刀>の刃を展開させる。

剣の柄からは赤い刀身が出現し、大剣となっていた。

 

前方からスケルトンの集団がとびかかってくる。

それぞれのスケルトンがその腕や、口を使って襲いかかろうとした。

 

「遅い…」

 

マシンナーが右手に持っていた斬艦刀を片手で軽々と振るい、襲いかかってきたスケルトンを次々と両断した。

スケルトンを切り捨てたマシンナーは何事もなかったように歩を進める。

 

 

 

 

sideアルティマ

 

マシンナーがナザリックに帰還して程なく、階層守護者のアウラとマーレからマシンナーが模擬戦をするというメッセージを聞く。

しかも見学は自由。

そう聞いて、アルティマ達フェツルム・レギオーは狂喜乱舞した。

この知らせは他のシモベ達にも伝わった。

アルティマ達隊長格は主要なモンスター達を率いて闘技場に向かった。

 

(マシンナー様の戦いを見られるのも久しぶりだな…)

 

アルティマ達が闘技場に着き、席に着いた後、少したってからマシンナーが姿を現す。

 

(ああ…やはりいつ見ても見事…)

 

アルティマは全ての装備をつけたマシンナーに感動していた。

マキナの司令官補佐として、いつも傍らから見ていたアルティマ。

司令室で見せた優しい主として姿ではなく、「ナザリックの機動兵器」と敵から恐れられたマシンナーの姿だった。

 

「あの姿こそ我々が知っている司令官だな…」

「ああ! ここからでもあの御方の覇気を感じる…!!」

 

録画用のカメラを設置し終えたローグと、マシンナーの姿に感動で打ち震えているゴルド。

そう思うのも無理はない、自分も例えようのない感情が湧き上がっている。

 

「ほらシズ、マシンナー様が手をお振りになってるのよ?」

「…うん」

 

(先ほどの手は、やはりシズ・デルタに向けていたのか…マシンナー様も罪作りな…)

 

アルティマはマシンナーがシズに手を振っているのを確認し、自分の創造主の行動に微笑を浮かべる。

マシンナーがプレアデスのシズ・デルタに恋心を寄せているのは知っているからだ。

シズを創造した御方が、御隠れになる前にマシンナーの自室に来たことを思い出す。

そしてその御方から「シズを任せる」と言われたのを、傍らにいたアルティマは覚えている。

 

「それにしても本当に久しぶりだよ、マシンナー様の戦いが見られるなんて」

「…そうだな」

 

アルティマがそうつぶやき、ローグが頷く。そしてモモンガが貴賓席に転移するのを確認し、そこからアルべドの開始の言葉が聞こえる。

 

「そろそろだね…」

「カメラをまわすぞ」

 

開始の言葉を聞いて即座にローグはカメラを起動させた。

 

 

 

 

sideマシンナー

 

斬艦刀は問題なく使用できた。ならば飛び道具の方も実験しよう。

 

丁度、地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)獣の動死体(アンデッド・ビースト)が徒党を組んでこっちに向かってくる。

 

「馬鹿め」

 

ロールプレイしながら俺は射撃武器の<シュバルツ・カノーネ>を取り出す。

黒い銃身に銃口の下には銃剣代わりにパイル・バンカーが装備されており、近距離に近づかれても迎撃できるライフルなのだ。

 

「ターゲット、インサイト!」

 

俺は突っ込んでくる地獄の猟犬と獣の動死体の頭部にロックオンする。

 

「撃ち抜く…!!」

 

ドドドドン、とシュバルツ・カノーネを連射する。飛んでいったエネルギーの塊は突っ込んできた地獄の猟犬と獣の動死体の全ての頭部に命中したのだが、あいつらが弱いためか、上半身も吹っ飛ばしていた。

続けて翼の生えた悪魔達が編隊を組んで俺に向かって飛んでくる。

 

「<クラッシュ・レイ>!」

 

自分がよく使っているスキルの一つ、威力は低いがその分使い勝手はいいため、牽制等に使っていた。

自分の眼を光らせて光線を発射、そのまま首を回し光線を横薙ぎにして命中、悪魔たちは消滅した。

 

(真マジンガーの光子力ビームかよ…悪魔が消滅しちゃったよおい)

 

威力検証でこの状態でのフルパワーで発射したとはいえ、まさか消滅するとは思わなかった、威力では一応低い方に入るんだけど。

そう考えている間もなく、アンデッドと悪魔が襲ってきたので、それを迎撃することにした。

その中であるアンデッドを見つける。それは鎧で覆った死霊の騎士。

左手には巨大なタワーシールドを、右手にはフランベルジュを持っている。

 

死の騎士(デス・ナイト)か…」

 

中位アンデッドであり、優秀な壁役である死の騎士。

そいつが俺にフランベルジュを振り下ろしてきたので、俺はそれを掴んで止める。

 

「どうした? それで全力か?」

 

死の騎士は雄叫びを上げ、力を入れるがびくともしない。

俺は空いている手を死の騎士の目前に突き出した。

 

「次は俺だ」

 

こぶしに力強く握りしめ、思いっきり叫んだ。

 

「<ロケット・パンチ>!!」

 

叫んだ後にドガァン、と飛び出した俺の拳が死の騎士の身体を勢いよく貫通していった。

勢いがありすぎたのか、死の騎士の後ろに居た奴らにも襲い掛かり、次々と身体をぶち抜いている。

 

「…ちゃんと戻ってくるかな?」

 

飛んでいった自分の拳を見て、そうつぶやく、一応ゲームではちゃんと戻ってきたから大丈夫だと思っているけど。

そう考えながら、俺はさっき襲いかかってきた悪魔の頭をアイアン・クローで握りつぶす。

そして何かがこっちに接近してくるのを確認し、それが俺の腕だとわかり、安心する。

 

「良かった良かった、危うく自分で拾いに行くとこだったよ」

 

腕がゆっくりとこっちに来たので、俺は無い方の腕を伸ばす。

飛んできた方の腕は反転し、そのままガチャンと、小気味いい音を出していた。

 

「さて…ここからは攻めるとしようか」

 

俺は地面に突き刺していた斬艦刀を持ち、肩に担ぎ、スラスターを全開にし、アンデッドと悪魔の集団に突撃する。

 

「お前たちに教えてやろう、全てを焼き尽くす暴力というものをな……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘描写が難しい…( ;∀;)


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第11話 マシンナーの装備実験:3

(あ、これマシンナーさん派手にやる気だ…)

 

モモンガは顎に手を添える。過去にマシンナーが単身で集団に突撃する時は、自身の火力と装備を活かして大暴れするパターンがよくあったのだ。

 

(あの人、単純な火力と耐久力だけならギルドの中でもトップクラスだったからな…)

 

アインズ・ウール・ゴウンで最強と言えば、戦士職最強のたっち・みーと魔法職最強のウルベルトである。

しかし単純な火力と耐久力の分野だけで言えば、マシンナーがギルドの中ではトップクラスであった。

特にその防御力はある理由により、ウルベルトが「お前とだけは戦いたくない」と言わしめたほどである。

 

(持っていたスキルや魔法が実際に使えるからな…。マシンナーさん、やりすぎなきゃいいけど…)

 

「モモンガ様? どうかされましたか?」

「ん?ああ、いやなんでもないぞアルべド」

 

かつて敵対ギルドに、猛威を振るったあのバ火力がこの世界だとどうなるんだろうと、モモンガは少し不安になった。

 

 

 

 

某フロムゲーのキャッチコピーを啖呵に使い、俺は集団に突撃する。

徐々に集団との距離が縮まっていく。

俺はマントで自身の身体を包む。

別に寒いって訳じゃない、そうする理由がある。

 

「<スパイラルマシンナービーム>!」

 

包んでいたマントの隙間から赤い光線が弾幕のように一斉に発射され、次々とアンデッドと悪魔達を殲滅していく。

集団との距離が目と鼻の先にまでになった時に、俺は斬艦刀を構えて切り込んでいった。

 

「うおおお!!」

 

ドワオ! ドワオ!と聞こえてきそうな音を出しながら、俺は目の前の敵を切り刻んでいく。

切る度にアンデッドは骨が吹き飛び、悪魔は赤黒い臓器と血をまき散らしている。

 

(どうせだから素手での肉弾戦もやってみよう)

 

スーパーロボットは肉弾戦が基本だからな、俺はそこら辺にいた、デビルマンのジンメン似の亀の悪魔の首を掴んで地面に叩きつけ、逃げないように対艦刀を突き刺した。

 

「ぎぇああああああ!!?」

 

うわ超うるせぇぇぇ!!、しかもよく見ると甲羅には人の顔みたいな物がついているではないか…。

どう見てもジンメンです、本当にありがとうございました…じゃねえ!

このやろう、俺のトラウマの一つを思い出させやがって…!

 

「てめえは俺の個人的な理由で撲殺する!」

「アイエエエエ!?」

 

俺は拳のスパイクを展開させてジンメンをタコ殴りにする、勿論一発一発に殺意を込めてだ…!

殴りつけるたびに甲羅の顔から悲鳴が上がり、臓物が散乱する。

十発くらい殴った後にはそこにはもうジンメンだったものがあった。

 

「スッキリしたぜ、おっと?」

 

腕についた血はらっていると、死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)が<ファイヤーボール/火球>の魔法をぶっぱなしてくる。

 

「あ、やば…」

 

マシンナーはそれを避けもせずに<ファイヤーボール/火球>を喰らう、それを好機と見たのか、他のエルダー・リッチも<ライトニング/電撃>、<マジック・アロー/魔法の矢>を連発してくる。

ある程度魔法をうったのか攻撃をやめ、様子を見るエルダー・リッチ達。

 

「効かんな…」

 

魔法の直撃で上がった煙から、対艦刀を持ったマシンナーが飛び出し、豪快にエルダー・リッチを切り付ける。

マシンナーの膂力と斬艦刀の質量による攻撃により、地面を叩き割りながら、エルダー・リッチを粉砕する。

その攻撃により周囲に衝撃波が発生し、近くにいたアンデッドも吹き飛ばされる。

生き残っていたエルダー・リッチはマシンナーに再び魔法を撃ち始め、マシンナーに命中するが…。

 

バキィン!!

 

「!?」

「ああ悪かったな、俺の装備のスキルが発動したらしい」

 

エルダー・リッチが発動した魔法が命中した部位からは、煙一つ上がっていなかった。

これはマシンナーの装備のスキル<ABCマント>が発動したからである。

このスキルの効果は自分の防御力の向上と、一定以下の魔法は完全に防げるというもの。

一見<上位魔法無効化>のスキルと似ているが、実はこの<ABCマント>のスキルはもう一つあり、超位魔法を一回だけ完全に無効化する効果があるのだ。

 

「下手な魔法は効かねえぞ?」

 

再びシュバルツ・カノーネを装備し、エルダー・リッチを撃ち殺す。

そしてアンデッドと悪魔達に何かを射出した。

 

「いけよファンネル!」

 

黒い小型のビーム砲が一斉にマシンナーから発射され、それが自動的に敵に襲いかかる。

それを見たマシンナーはスラスターを吹かし、上空に舞い上がった。

 

「そろそろ決めてやろう…」

 

胸の砲口にエネルギーを貯め、そこに膨大なエネルギーが集まっていく。

 

「<ブレスト・ファイヤー>!!」

 

溜め込んでいたエネルギーが一斉に放射され、残りのアンデッドと悪魔達に襲いかかる。

その瞬間、凄まじい轟音と爆風、光と熱量が周りに広がった。

 

僅か数秒でそれらは収まったが、着弾地点は凄まじい惨状となっていた。

その場にいたアンデッドと悪魔達は消滅しており、着弾した場所にはクレーターができていた。

穴の周辺には熱気と煙が上がっている。

 

(え?ブレスト・ファイヤーでこれ?)

 

ユグドラシル時代では、丁度いい威力と燃費も良かったため、雑魚狩りやPVPにも使っていたスキルなのだが、現実で使用してみるとまさかこんな事になるとは思ってもいなかった。

 

(ちょっとマシンナーさん! それブレスト・ファイヤーですよね!?)

(当たり前ですよ!、ファイヤーブラスターやダイナミックファイヤーはこれの倍の威力あるんですよ!)

(…本気形態でマシンナーさんの全力の火力ぶつけたらどうなるんでしょう?)

(…ナザリック消滅しちゃうんじゃないでしょうか?)

(冗談でもやめてください)

(すんません…)

 

すかさずモモンガからのメッセージに答えるマシンナー。彼だってここまでの威力を持っているとは思わなかったのだ。

この形態のブレスト・ファイヤーだけでこんな事になるのなら、本気形態で攻撃したらどうなるんだろうと不安になった。

 

「すごい…」

 

シズは感動していた。先程の剣技もさることながら、マシンナーのその圧倒的な火力とその攻撃手段の多さには感動と同時に戦慄もした。

 

「一回だけで、いなくなった……」

「あれがマシンナー様が「ナザリックの機動兵器」と言われた所以ということね…」

 

ユリもまたマシンナーの力に息を呑んだ。

 

(あ~…そろそろシャルティアの所に行ってきます)

(やりすぎないでくださいね?)

(…善処はします)

 

モモンガさんととのメッセージを切って、俺はシャルティアの所に向かう。

目の前に、輝く笑顔をこちらに向けて跪いているシャルティアがいた。

 

「マシンナー様……先ほどの御力といい、御言葉といい……このシャルティア、畏敬の念を禁じえません」

 

御言葉ってさっきの「全てを焼き尽くす暴力」発言か? そう考えながら、俺は

改めてシャルティアの方を向く。

 

「ふむ……流石は我が友ペロロンチーノ、良いシモベを創造してくれた」

「はい?」

 

その発言に首を傾げるシャルティアに俺はこう告げる。

 

「お前は俺の力をぶつけるに相応しい相手ということだよ」

 

デモべとマブラヴをよく語り合ったペロロンチーノさん。クエストを手伝ってもらったり、おすすめのエロゲを教えてもらったりしていた。

一緒にクエストに行ったときに、「アインズ・ウール・ゴウンを無礼るな!!」とか「レムリア・インパクトぉ!」ってお互い叫びながら暴れまわっていたな~。

そう考えながら俺は上半身にかけていたマントをバサっとほうり捨てる。

 

(なぜマントを?)

 

「シャルティア……全力で来い、手加減するなよ?」

 

その言葉にシャルティアはすぐに真面目な表情となり、自身の装備を装着する。

血のような紅い鎧とヘルムを纏い、手には特徴的な槍、スポイトランスを持っている。

 

「行きます!」

 

突撃してくるシャルティアにマシンナーは対艦刀を構え、迎え撃った。

 

 

 

「あの、モモンガ様、何故マシンナー様はご自身の装備の一つをお外しになったのですか?」

 

守護者最強のシャルティア相手に何故装備の一つを捨てたのかアルべドにはわからなかった。

 

「そういえばアルべド達守護者はマシンナーさんの戦いを見たこと無かったんだったな?」

「はい、お恥ずかしながら……」

「まあよく見ておくがいい、マシンナーさんの装備は少々かわっているんでな」

 

"かわっている"

至高の御方であり、総括であるモモンガからのその言葉は、アルべド達が興味を持つのには十分すぎる理由だった。

 

 

 

シャルティアが高速でスポイトランスを突いてくる。マシンナーはそれを捌きながら、反撃をする。

互いに一歩も引かない応酬を繰り返していた。

 

(そろそろ"変形"させるか…)

 

「モードチェンジ……"アスラ"!」

 

バァンと衝撃破を全身から放ち、シャルティアを怯ませる。

怯んだシャルティアはすぐにマシンナーの方を向き、マシンナーの変化に驚いた。

 

(装備が変わった?)

 

先程までのマシンナーの身体は重騎士のような姿だったが、今のマシンナーはその装甲が少なくなっており、腕の装備はガントレットのような形状の物になっている。

身体も重騎士から、格闘家のような姿となっており、足の装備もスパイクやブレードが付いていた。増加装甲は、身体の重要な箇所と両手両足の装備に付いていた。

 

「行くぞ…」

 

ヒュン、と言う音とともに大地に小さな穴が開いた。

 

(速い!)

「目の前だ」

 

シャルティアの目の前にまで接近し、全力で殴りぬく。シャルティアはすぐにスポイトランスで防ぐが、拳の衝撃により、後退する。

 

「<マシンガン・ブロー>!」

 

ドガガガ、とすかさず高速のラッシュで追い打ちをかける。一発一発の威力は低いが、多段ダメージを与えられるためこの形態ではよく使っているスキルだった。

 

「<エルボー・ロケット>!」

「<グレーター・テレポーテーション/上位転移>!」

 

そのままフィニッシュブローを放つが、シャルティアは上位の転移魔法でマシンナーの背後に回る。

 

「ぬ?」

「<ヴァーミリオンノヴァ/朱の新星>!」

 

シャルティアが魔法を唱えた瞬間、マシンナーの身体は炎に包まれた。

 

「ぐぅ…!」

「もらいました!」

「させん!<マキナ・フィンガー>!」

 

接近してくるスポイトランスを避けつつ、マシンナーは右手を赤熱化させてシャルティアの頭を掴む。掴んだ瞬間、爆発してお互いに吹っ飛ばされた。

吹っ飛ばされたマシンナーは立ち上がり、態勢を立て直す。

 

(装備変形機能も使えるな、さてシャルティアの様子は…)

 

爆発の時に起きた煙が消えてシャルティアの姿が見えた。

 

(おかしいな、そんなにダメージを受けてない。当たった時の威力はかなり高いんだがな。ということは…)

 

マシンナーの考えている通りシャルティアはスキル<時間逆光>を使用していた。

 

(自分の肉体の時間を巻き戻して致命傷も一瞬で修復するって奴だったよな…)

 

「行け、眷属よ!」

 

シャルティアは己の眷属である古種吸血蝙蝠(エルダー・ヴァンパイア・バット)吸血蝙蝠の群れ(ヴァンパイア・バット・スウォーム)吸血鬼の狼(ヴァンパイアウルフ)を多数召喚した。

召喚された眷属が群れで襲いかかってくる。

 

「モードチェンジ、"へカトンケイル"!」

 

再びマシンナーの身体が変わる。再び重装甲を装備し、頭には、大型のビーム砲。肩には大型のキャノン砲が着いている。両腕にシュバルツ・カノーネを持ち、手の装備にはガトリングが両腕とも二門装備されていた。

両足にもキャノン砲とミサイル・ランチャーが装備されている。

 

「数の暴力には、それを上回る火力で挑むべし!」

 

先程のブレスト・ファイヤーよりも強力なエネルギーが集まってくる、増加装甲も展開され、そこから小型機銃やらミサイルの弾頭が顔を覗く。そしてそれらを全てロックオンした。

 

(ちょ、マシンナーさん! その形態でその技は…)

「<バーニング・ビッグバン>!」

 

一斉に解き放たれたビームや実弾の暴風がシャルティアと眷属達を襲う。先程の爆発よりも大きな爆風と光が広がった。

直撃した場所の惨状は先程より凄まじいものだった。

眷属達は塵一つ残っておらず、クレーターは先程のそれ以上に大きいものができていた。

 

「凄まじい…」

 

シモベの誰かがそうつぶやく、それ程までの光景だった。

 

(あ~…これ最悪モモンガさんから超位魔法喰らうかもしんない…)

 

またも作ってしまった惨状にマシンナーは内心冷や汗をかいていた。

しかしすぐに戦闘に戻る、真上から白い物体が接近してきたのだ。

それはシャルティアそっくりの物体だった。

 

「エインヘリヤルか」

 

スキルは使えないが、ステータスは同等の分身を作り出すシャルティアの切り札というべきスキルである。

それをマシンナーはすぐに装備を高機動戦闘特化の形態に変形させる。

 

「モードチェンジ、"ゼファー"!」

 

背中に収納していた翼を展開する。装甲もモード・アスラの時より少なくなっており、着いている部分は肩と足の部分だけだった。

全スラスターを展開させ、接近してきたエインヘリヤルの分身の槍をかわす。

そこにシャルティアが突撃してきたので、斬艦刀を構える。

突撃して来たシャルティアを斬艦刀で受け止める。

 

「流石だな」

「マシンナー様も流石でありんす…」

 

力任せに、シャルティアを突き放し、そのまま空中でドッグファイトを展開する。

そこにエインヘリヤルの分身も加わって、更に凄まじいものになった。

 

 

 

 

「相手や状況によって形態を変え相手を追い詰める。あれがマシンナーさんの戦い方だ…」

 

貴賓席にいるモモンガは守護者達にマシンナーの戦い方を伝える。

マシンナーの戦いを見て、シャルティアを除く守護者達は驚いていた。

それぞれの形態による戦い方、そしてその力に戦慄する。

 

(ま、それでも切り札は使ってないんだよな…)

 

 

 

 

(流石は守護者最強、強いな)

 

シャルティアの分身、エインヘリヤルとの連携攻撃を受け流しながら、シャルティアの強さを知るマシンナー。

そしてこの状況をどう切り抜けようかと考えていた。

 

(アスラはタイマン用だし地上戦がメインだ。へカトンケイルは対多数用だし、機動力は低い。ゼファーはスピードはあるけど決定打にかける、どうしたものか…)

 

このままだと埒があかない。そしてマシンナーはある決断をする。

 

(切り札を使うか…)

 

再びエインヘリヤルが突撃してくる。それを回避してマシンナーは切り札を使用した。

 

「コード:<デウス=エクス=マキナ>!!」

 

その瞬間、マシンナーの身体は黒いオーラに包まれる。

 

「モモンガ様、あれは!」

「とうとう使ったか…」

 

マシンナーが発するオーラに驚くシモベ達と「絶対やばい事になるな」と予感するモモンガ。

 

「おいアルティマ、あれはまさか!」

「切り札を御使いになられるんだ…」

 

オーラによってはっきりと見えないが、マシンナーの身体の形が変わっていくのがわかる。

そしてオーラが消えた後に、マシンナーはその姿を現した。

 

身体の色は黒のままだったが所々に金色のラインが入っている。装備はそれぞれの形態の特徴を持っていた。

両腕両足にはアスラのものよりも攻撃的なデザインになっており、一回り大きくなっている。右手には斬艦刀、左手に大型のキャノン砲が装備されていた。

両足の装甲は展開されており、スラスターが増え、赤いラインが見える。背中にはへカトンケイルのキャノン砲が装備されている。

翼を展開し、そこからビーム光がでており、光の羽のようになっていた。

顔も大きく変わっており角は2本から4本になっており、中央にも大きな角が生えていた。

目には瞳が入り、目の下の血涙のようなラインもあるからか、異様な迫力を出している。

そして金色の粒子を出しながらシャルティアと対峙した。

 

「教えておこう、あれがマシンナーさんの切り札…」

「マシンナー・ザ・アンリミテッドだ…!」



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第12話 マシンナーの装備実験:4

「………」

「…ッ」

 

いや~久しぶりになったな、この形態。なんか全身から力が漲ってくるぞ、最高にハイってやつとはこういう感じなんだろうな。

俺がそう考えて納得していると、シャルティアが先制攻撃を仕掛けてきた。まあ先手必勝って言うしね。

だけど…。

 

バキィン!

 

「生憎負ける訳に行かんのだよ、負けられぬ理由(シズに良い所を見せる)があるのでな」

 

突っ込んできたシャルティアのスポイトランスを腕に装着している斬艦刀で受け止める。

そして後ろからエインヘリヤルが迫ってきたので俺は左手に装備しているシュバルツ・カノーネ・ギガを展開し、エインヘリヤルに向ける。

 

カァオ!!と巨大な光弾が発射され、エインヘリヤルを飲み込み、消滅させた。

 

「そろそろ終わらせようか?」

「……っ」

 

バキィンと力任せにシャルティアを突き放し、追撃をかけるべく突撃した。

 

「……! <清浄投擲槍>!!」

 

シャルティアの手に神聖属性を持つ3mもの長大な槍が出現し、それを投擲する。

 

「しま…!」

 

マシンナーはすぐに回避しようとしたが、このスキルの効果の一つにMPを消費すれば必中効果も付与できるのだ。

従って、マシンナーには避ける術は無い。

 

ズン!

 

清浄投擲槍がマシンナーに命中し、動きを止める。すかさず追撃をかける。

シャルティアのスポイトランスが目の前にまで迫ってきた。

 

「…量子化」

 

マシンナーは全身に金色の粒子を発生させると、全身が金色の粒子になる。

 

「消えた!」

 

その粒子はシャルティアの背後に素早く回り込み、マシンナーの姿に再び戻る。

 

「な!」

(このスキルも無事使えるようで安心した、この状態での切り札の一つだし)

 

先程のマシンナーのスキル<量子化>は相手の攻撃を一回だけ無効化させ、逆に相手にカウンターが取れる一日に二回しか使えないスキルだ。

 

(じゃ、そろそろ決めるか、あんまり長引かせるわけにはいかないし)

 

俺は背後に回ったシャルティアを掴み、豪快に地面に投げつける。

地面に叩きつけられたシャルティアに俺は腕に装着していた斬艦刀の柄を持ち、斬艦刀の刃を大剣にし、全スラスターを一斉に吹かし、斬艦刀を振り上げる。

 

「<機神破壊斬>!!」

 

すぐにシャルティアは体勢を立て直すが、マシンナーはもうそこまで迫っていた。

 

「チェェェストォォォオッ!!」

 

斬ッ!!!!!!

 

勢いよく振り下ろされた斬艦刀はシャルティアに直撃し、更に直撃による衝撃でシャルティアを闘技場の壁にまで吹っ飛ばした。

 

「…………我に断てぬもの無し」

(やっべえぇぇぇ! シャルティア生きてるよな? 一応HPもちゃんと残り、尚且つ大ダメージを与えられるように考えて使ったんだけど)

 

ゼンガー親分の決め台詞でカッコつけるが、内心ではめっちゃ冷や汗かいています。

これでシャルティア死んだら、俺モモンガさんとペロロンチーノさんに殺される…!!

 

「…う」

 

シャルティアは生きていた! 良かったあぁぁ…。でもやっぱりかなり削られてるっぽいな、HPが3分の2ぐらい。

そう考えていると、シャルティアが唐突に跪いた。

 

「も、申し訳ありませんマシンナー様、その…降伏したいでありんすけど……」

 

うんそりゃそうだよね、あんなに強烈に叩きつけられりゃ誰だって降伏したくなるわ。

まあそれにちゃんと装備が使えるのもわかったし。

 

「うむ、ご苦労だったなシャルティア、下がってよいぞ」

「は、はい…」

 

鎧を解除したシャルティアはそのまま下がろうとしたが、俺は「待った」と言った。

 

「<リカバリー・レイ>」

 

シャルティアに向けて手をかざし、緑色の光線を発射する。俺のスキルの一つで回復系スキル、<リカバリー・レイ>だ。

実験に付き合ってくれたシャルティアへのせめてもの礼である。

 

「せめてもの礼だ、ありがとう」

「ああ…マシンナー様、光栄でありんす…」

 

シャルティアの体力もある程度回復させ、俺はアンリミテッドモードから通常形態に戻る。

装備が凄まじい速さで変形していき、最後にAMCマントを装着する。

 

「至高の御方万歳!」

「至高の御方マシンナー様万歳!」

 

ナザリック中のモンスター達による大喝采が、闘技場中に響き渡る。俺は「ここまで称賛されたのって今まで一度もなかったな」と考えながら、闘技場を後にした。

 

 

 

 

「あ~……疲れた…」

「お疲れさまですマシンナーさん」

 

闘技場を去った後、円卓に転移した俺がだらしなくぐったりしていると、モモンガさんが転移してきた。

 

「あ~…モモンガさん、あの、闘技場の事申し訳ありません」

「本当ですよ、今マーレが闘技場直してますよ」

「あ~、後で謝っておこう」

 

モモンガさんの姿を確認した俺はすぐに闘技場の事を謝罪する。

マーレには今度お菓子でも持っていこう。

 

「にしてもまさかあそこまでの火力になるとは…」

「俺も同感ですよ、使った本人が言うのもなんですけど、正直ビビりました」

 

俺はギルド内での火力はトップクラスだったがまさか転移してあそこまでの威力になるとは思わなかった。

 

「そういえば結構魔法喰らってましたけど、大丈夫でしたか? いや、スキルと装備の効果でガチガチに固めているのは知っていますけど」

「正直シャルティアの清浄投擲槍以外全然痛くなかったです」

「マジか…」

 

その言葉を聞いて思わずモモンガは手で顔を覆う。

 

(……たっち・みーさんの本気の攻撃にも耐えきったもんなマシンナーさん。しかも常時発動型スキルで<レアメタル魔法反射装甲>もあるし…)

 

過去にマシンナーがたっち・みーとウルベルトに模擬戦を挑んだ事を思い出す。

結果はどちらともマシンナーの敗北だったが、その耐久力でたっち・みーの<リアリティ・スラッシュ/現断>と<次元断切/ワールドブレイク>を耐え抜き、ウルベルトには装備であるAMCマントと常時発動型スキル<レアメタル魔法反射装甲>で第十位階までの魔法を全て耐え抜き、挙句の果てには超位魔法が直撃しても、3割しか削れなかった程。

そのおかげでワールド・ディザスターであるウルベルトからは「お前とはもう絶対に戦いたくない」と言わせた程である。

 

マシンナーの持つ常時発動型スキル<レアメタル魔法反射装甲>は<魔法反射装甲>の上位互換である。

このスキルは文字通りある程度の魔法を無効化できるスキルだが、物理防御の上昇等はなかった。

しかしその上位互換である<レアメタル魔法反射装甲>は第一位階から第十位階の魔法を完全に無効化、しかも物理防御の底上げという効果まで付いてあるという恐ろしいスキルだった。

 

(ウルベルトさんが本気で焦って、課金アイテム使っての超位魔法の連続攻撃浴びせてようやく倒れたもんな…)

 

装備の変形能力であらゆる距離に対応し、その圧倒的な火力で吹き飛ばし、その耐久力で魔法職の天敵になり、挙句には軍団を率いて襲いかかってくるというマシンナーの存在は、敵対ギルドからはかなり嫌われていた。

 

「まあこれで後顧の憂いなく戦えますよ、汚物は消毒だぁ~!?」

「やめてください本当に世界を焼き尽くしそうですから、マシンナーさんのさっきの火力見ちゃったら…」

「まあこちらに敵対してくる連中がいたら「見ろ! 人がゴミのようだ!」って高笑いしながら撃ちまくりますけど?」

「とりあえずこの世界の生命体の強さがわかるまでしないでください」

「わかってますよ、そこまで脳筋じゃありませんよ、それにこの世界の文明がどれぐらいかが気になりますね」

「そうですね…」

 

後でドランザーに頼んで機獣兵団から、比較的実際にいる動物に似ている機械種のモンスターを使って偵察させようかな。

まあ、今はもう一つ確かめたい事があるから自室に戻るか。

 

「あ、モモンガさん、俺自分の身体整備してくるんでまた後で」

「え? ああそうか、身体が機械になりましたからね」

「ええ、じゃ、また」

「あ、マシンナーさん、待っ…」

 

引き止めるモモンガの声が聞こえなかったのかマシンナーはそのまま転移していった。

 

「ま、いっか…セバス、マシンナーさんの自室に…」

 

モモンガはセバスにある用件を伝えるべくメッセージを飛ばす。

 

 

 

 

「まさか自分の身体を整備することになろうとは……」

 

俺は自室の作業台の椅子に座り、工具とパーツをチェックしていた。

 

「メガネ良し、モンキー良し、インパクト良し、スパナ良しっと」

 

工具が入っている箱を開け、工具が全て揃っているか確認する。

 

「ドライバー良し、うん全部あるな」

 

工具を全て確認した俺は自分の装甲を解除する。

 

<装甲・解除>(アーマー・パージ)

 

俺の装備が自動的に外され、その下の装甲も解除され、金属フレームが剥き出しになる。

なんかターミネーターのエンドスケルトンのような姿だな…。

 

「さーて、始めますかね。まず右手のボルトを外して…」

 

元々現実世界では整備士をやっていたため、俺は慣れた手つきでボルトを外していく。

そこまでは良かった。

 

(え? なにこれ?)

 

ボルトを外し、内装を見てみると、俺は絶句した。

パーツは見覚えのあるものばっかりだ。それはまだいい。

ただあまりにも構成が複雑だった。

 

「おいおい、俺が整備していた作業用ロボットがプラモデルに見えるぞ?」

 

見たことのない配列でつながれた配線。シリンダーや金属パーツも自分のしらない構造で付けられていた。

幸いパーツは見覚えのあるものばっかりだったため、できないことはない、ただ時間はかなりかかりそうだった。

 

「やれやれ、せめてもう1人いればな…ん?」

 

打開策を考えていると扉からノックの音が聞こえてくる。

 

「入れ」

「失礼致します…」

 

扉が開けられて、入ってきた人物に俺は目を見開く。

 

(シズ!?)

「プレアデスはシズ・デルタ御身の前に…」

 

やったぜシズが来てくれた! 俺は心の中で狂喜乱舞するが、一つ疑問が湧いた。

あれ?俺シズ呼んだっけ?

 

「シズか、どうした?」

「モモンガ様の命で…私はマシンナー様の…お世話…命じられた」

「………そうか」

 

マジか! モモンガさんありがとう、そしてありがとう! 圧倒的感謝!!

でも今は仕事ないんだよな…ん? 待てよあるじゃん、仕事。

 

「なら頼みたいことがあるんだが…」

「頼みと仰らず…命令とあらば…即座に遂行…します」

 

仕事熱心だなぁ…シズ。

偉いなぁ…シズ。

可愛いなぁ…シズ。

頭撫でたいなぁ…はっ! 俺は何を!?

ぶんぶんと頭を振って煩悩を払い、シズに向き直る。

 

「では言うが…」

「はい…」

 

 

「今から自分の身体を整備するんだが、補助を頼めないだろうか?」

 



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第13話 楽しいメンテナンスと夜空での会話

バレンタインデーでチョコを貰っているリア充を見ると縮退砲とイデオンガンをぶっぱなしたくなるのは俺だけだろうか?


「整備の…補助?」

 

頭に?マークが出てそうにシズは首を傾げる。まあそう思うのも無理もないか。

 

「そうだ。無論俺一人でも出来る事なんだが…」

 

うんごめん、本職の整備士の俺でもこんな複雑な構造だと流石に苦労する。

だから丁度いい時に自動人形のシズが来てくれたので補助を頼む事にしたのだ。

いやまあ、アルティマ達もいるけど、あいつらも仕事があるから邪魔するわけにはいかない。

「種族が機械神なのに自分の身体の整備も出来ないとかwww」思われたくない。

ましてやシズにそう思われるとか、絶望のあまり俺は自爆してしまうだろう。

という事で俺は尤もな嘘をつくことにした。

 

「一人よりも二人でやる方が効率が良い、それに一人だと見落としてしまう事もあるが二人なら大丈夫だろう?」

 

実際に整備の作業は複数でやったほうが速いし、一人が見落としてしまった所も複数人ならカバーできる。

それにシズに助言してもらいながら整備するのも悪くない。

 

「仰る…通り……です」

 

良かった、納得してもらったよ。

でもなんかちょっと困惑してるような顔をしている。

あ~もしかしたら、上司の身体に触れるのに戸惑ってるのかもしれない。

今までのNPCの高すぎる忠誠心を見ればそういう考えもあり得る。

俺としては普通に会話をして距離を縮めたいんだけどな……。

 

「うむ。何せこの前までは敵と戦ってたのでな、そろそろメンテナンスをしなければならない。それにこの世界は我々にとっても未知の世界だ。もしもこちらに敵対する勢力がいれば万全の状態で臨まなければならない。だからプレアデスであり、同じ機械種であるシズに補助を頼みたいんだ」

「……」

 

相変わらず無表情のままだったが、元々不思議系キャラとして設定されてたからそこは気にしないし、俺が好きになった所の一つだ。

 

「……わかり…ました、全力でマシンナー様の身体を完全な状態にしてみせる…」

「ああ頼む、ならまず最初にこの腕なんだが……」

 

そうやって分解しかけていた腕をシズの方に向け、構造と整備の仕方を聞くことにした。

 

「この腕の構造と配線なんだが…」

「これは…」

 

説明を受けて、俺は腕に工具を入れる。

なるほど、こういう構造だったか、思ったより難しくない。

 

「すまないシズ、右手首を押さえてくれないか?」

「…はい」

 

結構きつく締まっているボルトがあったので少し力を入れて外すため、右手が動かないようにするためシズに押さえてもらう事にした。

 

(手に温もりが...)

「マシンナー……様、何時でも大丈夫...です」

「ん? あっ、すまない」

 

シズの手の温もりに一瞬気が緩んでしまうが、俺はすぐに作業モードに切り替えた。

 

「右手は終わったな」

「...オールグリーン、異常無し……」

「次はここだが」

「そこは……」

 

 

 

 

シズから各パーツの構造と整備の仕方を聞いていく。

聞いていくにつれて、そこまで難しい内容ではなかった。

俺はシズの言葉通りに作業していく。

そうしながら作業は順調に進んでいく。

途中何度かシズをチラ見(サブカメラで)していたがバレてないよな?

 

「後はこのネジを締めれば完了だな」

「……」

 

そして俺は最後のねじを締め、確認の為に軽く身体を動かす。

うん、大丈夫だな。

 

「これで完了だな」

「全ての箇所に異常なし…問題なし」

 

そして再び装甲と装備を纏っていつも通りの姿に戻る。

 

「すまないな、手伝わせてしまって」

「いえ…」

 

手伝ってくれたし、なんかお礼しないとな。何がいいだろう? やっぱりガンナーだから銃器がいいかな…。

いや待てよ、確かシズ用に作った「あれ」があったな。丁度いいから、ご褒美としてプレゼントしようかな?

 

「……」

「ん? どうした?」

「!……いえ、なにも」

 

なんだか俺の方を見ていた気がするけど、多分気のせいだろう。しかし気になった俺はシズが見ていた方角を見る。

後ろには俺が集めた銃器類が飾ってあった。

 

(ああ、なるほど…)

 

やっぱりガンナーだから興味があるのかな? 少し尋ねてみよう。

 

「気になるか?」

「………はい」

「銃は好きか?」

「はい…」

「好きな種類とかあるか?」

「ライフル系…」

「そうか、俺はガトリング等の重火器だな。敵を薙ぎ払うのに丁度いい」

「狙撃銃もいい…」

「ふむ、なら…」

 

なら少し触らせてあげよう。同じ趣味を共有できるし、さっきのお礼も兼ねられるし、何よりシズと会話ができるし!

俺は椅子から立ち上がり、銃器の中からハンドレールガンの「YWH16」を取り出し、シズに持っていった。

 

「触ってみるか?」

「…え?」

 

相変わらず無表情だったが、それでも目には動揺の色が出ている。

 

「で、出来ない!…マシンナー様の物を…」

「なに、さっきの礼だ、それに銃は嫌いじゃないんだろう?」

「…はい」

 

少しの間が空き、シズは静かにこくりと頷く。

 

「ほら持ってみろ」

「…」

 

俺はシズにハンドレールガンを手渡す。

最初は少しオロオロしていたが、すぐにいつも通りに戻った。

 

「ハンドレールガンYMH16…」

「またの名を「産廃超電磁砲」だ」

「…産廃?」

「こいつはあるボスが持っていた神話級の武器でそいつを倒さなければ手に入らない武器でな、チャージ式で一応チャージ無しでも撃てるんだが……」

「……?」

「チャージ無しだと下級モンスターも一撃で倒せないというクソみたいな威力でな…」

「うわぁ…」

 

まあそう言うのもわかる。現に実際に試射したところ、下級のゴブリンも倒せなかったので当時の俺も同じ反応をした。

だがまあ一応フォローすべきところもある。

 

「まあフルチャージすれば上級のドラゴンも一撃で殺せる」

「おぉー…」

「でもフルチャージまでの時間が長い。だから産廃超電磁砲っていうあだ名が着いた」

「うわぁ…」

 

フルチャージの下りで一瞬だけシズは目を輝かせたが、すぐに輝きは消えてしまった。

まあ俺も使ったの一回だけだったし。

 

「他に見たいのはあるか?」

「じゃあ…右にあるものを……」

「ああ、これか」

 

俺は飾っている銃器の中で一際長いライフルを持った。

 

「これはロングレンジバスターライフルといってだな…」

 

そのまま俺はシズが気になったと言う銃を解説していった。

 

 

 

 

モモンガはプレアデスのナーベラルを伴って第九階層を歩いていた。

向かっている場所はマシンナーの私室である。

 

「ここだな」

 

歯車とロボットをイメージしたエンブレムが描かれた扉の前で停止する。

後ろに控えているナーベラルが扉を叩き、中にいるプレアデスのシズに来訪を伝える姿を見ていた。

 

「どうぞ…お入りくださいモモンガ様…」

 

扉を開けて出てきたシズがそう言うのを確認すると、モモンガはナーベラルと共に、マシンナーの部屋へと入っていった。

 

扉を開けるとマシンナーが部屋のソファに座っていた。

黄色の眼光をギラリと光らせながらモモンガを待っていた。

 

「おお、一体どうしたモモンガさん?」

「急に来てすまないマシンナーさん、実は個人的な話があって来たんだが…」

「うむ、そうか。すまないシズ、一旦退出してくれ、これからモモンガさんと大事な話がある。後でまた呼ぶ」

「はい…わかりました…」

 

マシンナーの命に従い、シズとナーベラルが退出する。二人が退出するのを見届けたマシンナー達は素の状態で会話を始めた。

 

「マシンナーさん、どうですか身体の調子は?」

「いや~メンテしたら身体が軽くなった感じがしますよ~しかもシズに手伝って貰ったり、お話ししたりで気分上々ですよ」

「ハハハ。よかったですね」

「本当にありがとうございますモモンガさん。今ならモモンガさんに一万回五体投地できですよ」

「ハハハ、大袈裟だなぁ…」

 

絶賛片思い中のシズに癒されているマシンナーを見て、モモンガは少し羨ましさを感じる。

自分にもプレアデスの一人であるナーベラルがいるが、堅苦しく自分に仕えている。

無論それをとやかく言うことはないが、やはり少し苦労してしまう。

 

「で?話ってなんですかモモンガさん?」

「ええ、実は…」

 

 

 

 

「…てわけで気分転換に散歩しようと思って、マシンナーさんもどうかなって…」

「いいですね、俺も行きますよ。でも誰か付いてきそうですよ、そこんとこどうするんですか?」

「変装してお忍びで散歩しようかな~って考えてるんですけど」

「いやいやいや即行でばれると思うんですけど! てか今ナザリックって警戒態勢敷いてるんですよね? NPC達に誤解されて攻撃仕掛けられたらどうするんですか!」

「ばれなきゃ大丈夫ですよ! 多分…」

「えぇぇぇ……」

 

それは流石に軽率すぎると思うんだけど。何とかモモンガさんを止めようとしたが、すでに<上位道具創造>により、目の前に黒い騎士となっているモモンガさんが立っていた。

 

「さ、行きましょう!」

「絶対ばれるって……わかりましたよ。人間形態になるんで待っててください」

 

俺のその言葉と共に身体が光りだす。光が消えるにつれて先程の黒い装甲がなくなり、代わりに人間の皮膚が見えてきた。

光が完全に消えると。俺の身体は身長が190cmくらいありそうな青年の姿となっていた。

身体付きもよく、筋骨隆々で逞しい。顔も渋く、男前で目は黒い。髪も目と同じ黒髪だった。

服は上半身はグレーのTシャツの上に黒いレザースーツを着ており、下も同じ色のレザーのズボンを穿いている。

最後にサングラスを装着した。

 

「毎度毎度思うんですがター◯ネーターみたいな格好ですね」

「カッコいいからいいじゃないですか」

 

そんなやりとりをしながら俺とモモンガさんは部屋を出ていくが…。

 

「マシンナー様! モモンガ様!」

 

扉を開けた瞬間、アルティマが俺達の前に立っており、すぐに跪いた。

開けた瞬間でもう終わっちゃったよ……。

 

(だから即行でばれるって言ったじゃないですか…)

(いやいや、いくらなんでもこれは予想外ですよ!)

「どうしたのだ、アルティマ? 何か用事か?」

「はい!マシンナー様とモモンガ様に機械の楽園周辺巡回の定時報告に来ました!」

「ご苦労、それで異常は?」

「はっ! 異常は全くありませんでした!」

「そうかご苦労だったなアルティマ」

「勿体なき御言葉…それでマシンナー様、モモンガ様、何故いつものお姿ではなくそのお召し物を?」

「あ~…それは…」

「!…成程…そういうことですか…」

((え?))

「正に至高の御方として素晴らしいお考えです。アルは改めて感服致しました…」

 

いやいやいや、特別なんか考えての行動じゃないぞアルティマ。

俺達はただ散歩したいだけなんだけど!

 

(なんか勘違いしてません?)

(元々参謀役として頭脳キャラとして設定したんですけど…何を思ったんだ?)

 

「ですがやはり供を付けずに行くのは少々危険です、どうかアルを護衛として付けてくださいませんか?」」

「……よかろう、付いてこいアルティマ。モモンガさんもいいだろう?」

「ん? ああ勿論だとも、お前も来いアルティマ」

「感謝します…」

 

 

 

 

あの後デミウルゴスにも見つかり、アルティマとデミウルゴスを引き連れてナザリックの外に行き、夜空を見上げている。

モモンガさんが飛行魔法用のネックレスを取り出すのを見て、俺は本来の姿に戻り空に舞い上がった。

俺とモモンガさんが同時に飛んだ後に、アルティマとデミウルゴスも飛んできた。

アルティマは背中から赤い翼を出し、デミウルゴスも変身して羽を広げて飛んでくる。

 

「……すごいな」

「ああ、正に宝石箱だ…」

 

モモンガさんの言葉に俺は同意した。この満天の星を宝石箱と言わず、なんと言えばいいんだろう。

まさしく絶景だ……。

ブルー・プラネットさんにも見せてやりたかった。

 

「……この夜空を見ていると、俺が作っていた物がちっぽけに見えてしまうな…」

 

第六階層の夜空や広大な自然を創り出したブルー・プラネットさん。

俺が作っていたものはこの美しさとかけ離れた、言ってしまえば破壊兵器ばかり作ってたな…。

 

「そんなことはありません、マシンナーさんが作ってきたものも皆凄いものばかりですよ、それにマシンナーさんが作ってきたものにはフェツルム・レギオーや、アルティマ達もいるじゃないですか」

 

その言葉を聞いて俺はアルティマを見る。そうだったな、こいつも俺の作ってきたものの一つであり、最高傑作の一つだ。

 

「…そうだったな、アルティマ達とフェツルム・レギオーが俺の最高傑作だ…」

 

最高傑作と言われたアルティマはその言葉に感極まった表情をしており、それに対してデミウルゴスは羨ましそうにアルティマを見ている。

 

「……だがこの夜空を俺たちだけで独占するのは贅沢だな、もし他の皆が戻ってきたら、皆で分け合いたいものだな」

「なら世界征服でもしてみますか? この世界を手に入れれば、全てのこの宝石箱がナザリックや他の皆とも分け合えますよ?」

「「!?」」

 

モモンガさんの冗談に俺は破顔してしまう。確かに面白そうだが、実際にやってみると長い道のりになりそうだ。

 

「ふふふ…それはおもしろいな。なら世界征服ついでに俺もこの世界でフェツルム・レギオーの名を世界に轟かせてやろう、アルティマ、お前はどう思う?」

「はっ、流石はマシンナー様でございます」

「今の御二人の言葉、私もアルティマもこの胸に刻み付けさせて頂きます……」

「ふふ…そうか」

 

二人の問いに俺は満足気に笑いながら、再び夜空を見上げた。

 




マシンナーの人間態の姿はターミネーターのシュワちゃんのイメージです。


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第14話 マーレにお詫びと周辺調査

「あれは…」

「どうしたモモンガさん?」

 

モモンガさんが不意に下を向いたので、俺もその方向を向くと地形改造中のマーレが居た。

偽装工作頑張ってんなー…あ、闘技場滅茶苦茶にしたの謝んないと…。

 

「モモンガさん、闘技場の件でマーレに謝罪に行ってきていいか?」

「もちろんですよ、丁度私も陣中見舞いに行こうと思っていましたから…」

「詫びの品に何がいいと思う? やはり菓子折りか?」

「ふむ…そうだな、私も何が褒美として何がいいか…デミウルゴス、アルティマ何がいいと思う?」

「モモンガ様がお声をかけられるだけで十分かと…」

「アルもそう思います」

「うむ…」

 

NPCの忠誠心を見れば確かにそれだけで十分だろう。でもあっちが誠意を見せれば、こっちも誠意を見せないといけない。

ん~何がいいかな。

 

そう考えているとモモンガさんはマーレの所に向かって行くのを見て、俺たちもそれを追うようにマーレのもとに降りていった。

マーレがこっちに気付いたのかこっちに向かって走ってくる。

 

「モモンガ様! マシンナー様! どうしてこちらに? 僕何か失敗でも…」

「違うともマーレ…」

 

まあいきなり組織のトップ二人がアポなしで来ればそうなるよね。

でも別に叱る気は全くないのよ? 寧ろ褒めに来たのよ。

 

「ナザリックの発見を未然に阻止するお前の仕事は最も重要な物だ…」

「はい!」

「私がどれだけ満足しているか知ってほしい…」

「はい、モモンガ様」

「よし、ではこれを…」

 

そういうとモモンガさんが手の平から一つの指輪を出した。

おろ?それは確か…。

 

「り! リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン!!」

 

その効果は「ナザリック内のほぼ全ての名前が付いている部屋に回数無制限で自在に転移できる」というもの。

部屋から部屋への転移はもちろん、外から一気に内部への転移もできる。

特定箇所間以外での転移魔法を阻害しているナザリックでは、ギルメンにとってはこれほど便利な指輪は無い。

 

「これは至高の方々しか所持されるのを許されない物! 受け取れるはずが…」

「冷静になるのだマーレ」

「そうだ、落ち着け」

 

この転移した世界ではNPC達は命が宿り、意思を持って動いている。

ならこれからの仕事の効率や防衛上の必要性から守護者達に渡した方がいいと思う。

そういう配慮を思いつくとは流石モモンガさん。

現実世界で本当にただのサラリーマンだったんだろうか?

 

「さあこれを着け、ナザリックの為に貢献せよ」

「は、はい…」

 

マーレはおそるおそる指輪へと手を近づき自分の薬指にはめた。

ん? なんで薬指にはめてんの? 君男だろ? 男の娘とはいえ男だろ?

モモンガさんもなんか言えよ?

 

(ちょっとモモンガさん、マーレ薬指にはめてますよ?)

(え? いや大丈夫ですよ、マーレに深い意味はないですって…)

(いやいや大昔には小姓というのがいてですね…まあいいや)

「マーレ、俺からも渡すものがある」

「え?なんですかマシンナー様?」

「まあ…モモンガさんが渡した指輪のような凄いものではないが」

 

俺は手のひらからお菓子を少し出し、それをマーレに差し出した。

 

「えっ」

「少なくて悪いが、詫びの品だ」

「え? お詫びってなんですかマシンナー様?」

「模擬戦の時闘技場にでかいクレーター作ってしまったろ?

悪かったな、中々加減が利かないものでな」

「い、いえそんなお詫びだなんて!」

「これは褒美も兼ねての物だ、貰ってくれ」

「い、いいんですか!?」

 

素直に貰ってくれるか心配だったが、喜んでくれたようだ。

オッドアイをきらきらと輝かせてお礼を言われた。

 

「ありがとうございます! マシンナー様!」

 

この後、アルべドが来てマーレの指輪を見て嫉妬の炎を燃え上がらせているのに軽く引いてしまった俺はモモンガさんにはやく指輪を渡すようにメッセージを飛ばしたのはまた別のお話。

 

 

 

 

「蹂躙された村か……」

 

あの後から一日経った後、身体の整備を終わらせた後に周辺の調査をしていた二グレドからメッセージが来た。

どうやら調査の途中に何者かに襲撃され、蹂躙された村を見つけたらしい。

どうもナザリックからかなり離れているらしく、襲撃者まではわからないらしい。

 

(さてどうするか……)

 

二グレドからはその村の周辺には誰もいないらしく、いたとしてもこちらには無害な野生動物くらいらしい。

ならば、と思い俺はモモンガさんにメッセージをとばす。

 

《モモンガさん、これからその村に行って調査しようと思っているんですが、よろしいですか?》

《構いませんけど、一人で行くとか言わないですよね?》

 

流石にそんな軽率な真似はしない、この世界の生物がどれぐらい強いかもわからないしな。

 

《護衛としてアルティマとシズを連れていきます。シズにはもし敵が襲撃してきた時の撤退の援護を任せようと思います》

《わかりました、念のためセバスも連れていってくださいね?》

《了解です》

 

 

 

 

「お待たせ致しました」

 

セバスがシズを伴って俺の部屋に入ってくる。

一緒に来たシズはメイドとして隙の無い動きでセバスと合わせて一礼してくる。

 

先程俺の武器を興味深そうに見ていた時とは違い、完全な仕事モードに切り替わっていた。

ならこっちも上位者として振る舞わないとな。

 

「よく来てくれたなセバス」

「はっ!」

 

そしてアルティマとローグも到着する。

 

「遅れて申し訳ございません」

 

アルティマは深々と一礼し、ローグはジャキっと敬礼をしたので俺も敬礼で返した。

 

「アルティマもよく来た、ではこれからやることを話す」

「これから二グレドによって発見された村の調査に入る。二グレドの情報によると人間種のみの村なんだが、何者かに襲撃されたらしい。襲撃者の方は発見できなかった。周辺にも危険な生物はいないらしいが、もしこちらに襲い掛かってくる者がいたら、即座にナザリックに帰還しろ。今のところ確認されているのは人間種の姿のみなので、異形種を嫌悪するものがいるかもしれない。だから外見が人間に完全に擬態しているもので編成した。よって俺も人間態になる」

 

そう言ってマシンナーは機械の身体から人間の姿になる。

黒髪の背の高い青年の姿となった。

衣装は上から黒いコートと黒い長ズボン、黒い手袋をしている。

 

(人間態の姿がこんな所で役に立つとは思っていなかったな…)

 

マシンナーが人間態を作ったのは20世紀のあるSF映画の影響だ。

その映画に出てくる人間に擬態したロボットを見た当時のマシンナーは凄まじい衝撃を受けた。

そのため、ユグドラシルでは外装は機械種だけでなく、人間の外装も作ったのだ。

アインズ・ウール・ゴウンに入ってからは、ログアウトするときに時々「I'll be back」といってログアウトすることもあった。

 

因みに元ネタを知らないメンバーは毎回頭に?マークが浮かんでいたという。

 

 



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第15話 アルティマの怒り

アルティマを除いて、セバス達は初めて見るマシンナーの人間形態だった。

初めて見るその姿に少し目を見開くが、マシンナーの視線に気付きすぐに頭を下げる。

 

「失礼致しました…」

「ん? ああ…そういえばこの姿はアルティマ達やモモンガさん以外には初めて見せたな」

 

実際に俺がこの姿になったのはモモンガさんやギルドのメンバー、アルティマ達隊長格のみだったな。

セバスの目が少し驚いた感じだったが、まあ初めて見るしな。

アルティマは見慣れているのか、特に反応してないな。

 

「……」

 

シズは何故かこっちをじーっと見ている、可愛い…。

は! いかんいかん、去れ! マーラよ!!(だれ?)

さてじゃあ行くか…、おっといけないセバスに救助してくれた時の礼を言うのを忘れるところだった。

 

「セバス」

「は! なんでございましょうか?」

「俺がこの世界に落ちて、気を失っていた時にセバスが発見してくれたとモモンガさんから聞いた。礼を言うのが遅くなってしまったな、ありがとう」

「勿体なき御言葉…寧ろ謝罪するのは私の方でございます…」

「ん?」

 

あれ? モモンガさんからはセバスが何か失敗したって事聞いてないんだけど?

俺も思い当たるのは何もないし。

 

「実はマシンナー様がこの世界に落ちてきたあの時私は、その近くにおりました…」

(ああ、それで即座に救助されて自室のベッドに寝ていたってことか…でもなんも悪いことしてないような気が…)

「そして私は落下してくるマシンナー様を確認しながらも私は何もできませんでした…誠に申し訳ございませんでした」

「……」

 

う~んつまりは落下してくる時の俺を見つけたんだけど、受け止める事ができず申し訳ありませんでしたって事かな? いや別に気にしてないし、しかもその時俺意識不明だったし。

てか落下してくる金属の塊を受け止めるのって相当力いると思うんですが…。

とりあえず俺は気にしてないことを伝えないとな。

 

「セバス…」

「はっ…」

「俺は救助してくれたセバスに感謝している。あの時セバスがいなかったら俺はただの屑鉄になって錆びていただろう…」

「…」

「俺はセバスに助けられた。その事にとても感謝している。よってお前の罪を問う気もないし、そもそも悪いとも思っていない」

「ですが…!」

「それに俺は頑丈さが唯一の取り柄だ。あんな衝撃どうってことない、だからこの話はお終いだ。良いな?」

「…ありがとうございます」

 

うん、とりあえず気にしてないというのは伝わったようだ。

さて、本題を言わないと……。

 

「さて、それじゃこれからの流れと各々の役割を伝える。楽にしてくれ」

 

俺の言葉にセバス達は反応して立ち上がる。跪いたままなのもきついしな。

 

「今回の調査の指揮は俺が執る。次席はアルティマ、次にセバスだ。調査中に不測の事態によって俺が指揮を執れなくなった場合はアルティマの指揮に従え。アルティマも無理の場合はセバスの指揮に従え。シズは、現地で狙撃手として周囲を見張ってほしい。こちらに敵意を持っているものがいれば可能であれば狙撃してもかまわん。現地に赴くのは俺、アルティマ、セバス、シズの他にドランザーとローグに頼んで索敵能力が高いヘルスパイナーとホークアイも連れていく。そしてバックアップにはモモンガさんが着き、ローグはヘルスパイナー達の現場指揮官をやってもらう」

 

全員真剣に聞いてくれているな、さて流れを話すか。

 

「現地到着後はローグ達の部隊に目的の村を包囲させ、包囲が完了したら、ある程度の数を偵察に回す。

ローグは包囲した部隊と共に見張りとして待機。セバスは周辺の徘徊を。シズは、狙撃ポイントを見つけ、そこでいつでも狙撃できるようにしておけ。念のためシズの所にも索敵能力の高いナイトオウルと援護用ドローンのオービットをつける。

村に最初に入るのは俺とアルティマだ、俺が最初にいく理由は実際に見て、行動に移せるか判断する為だ。アルティマを選んだ理由は生き残っている村人を見つけた場合アルティマの外見ならパッと見人間の子供にしか見えないからあまり警戒されないだろうと思っての判断だ」

 

そして最後に俺は目的をアルティマ達に話す。

 

「最後にこの調査の目的はこの世界の情報を少しでも持ち帰ること。どんな些細なことでも小さな事でも構わない、この世界では俺たちには少しでも多くの情報が必要だ。その為、戦闘に入った場合に少しでも自分が不利だと思ったら即座に撤収すること。……お前たちが誰か一人でも欠けたら俺とモモンガさんは耐えられない、いいな?」

 

最後の俺の「死ぬな」の強い念押しの理由はナザリックのNPC…特にセバスとプレアデスの設定に関係する。

元々第九階層の最後の盾兼時間稼ぎとして創造したセバスとプレアデス達。その為他のNPC達よりも簡単に死にに行く可能性がある。

アルティマも死ぬことを顧みなさそうだが、直属の創造主である俺が「死ぬな」と命令している限りは多分大丈夫だろう。

 

(「セバスとプレアデス達の役割はあくまでも時間稼ぎ」の設定が働いて俺の身を守って死ぬこともあるかもしれないからな…)

 

それでシズが死んだら、俺はこの世界を跡形もなく破壊するまで暴れまわるだろうな……。

 

「俺からは以上だ、では出撃するぞ」

 

 

 

 

俺はアイテムで《転移門》を開き、アルティマと共にそれをくぐる。

くぐった先の村は事前に見ていた通りの惨状だった。

辺り一面は燃えており、人間の遺体がそこらじゅうに転がっていた。

 

「酷いな…」

「…はい」

 

俺の言葉にアルティマは頷く。そして俺は付近に敵がいないことを確認し、待機しているセバス達を呼んだ。

 

 

 

 

セバス達が所定の位置に着くのを確認し、俺とアルティマはセバスとは別の方向で歩いていく。

しかしやはり人間種の遺体ばかりだった。

子供をかばって死んだもの。

体を袈裟切りに切られて死んだもの。

まだ5歳にもいっていないだろう子供。

弓矢に射抜かれた者の遺体等が次々と見つかる。

 

最初は野盗の仕業かと思ったが、遺体を見ると野盗の仕業でないことがわかる。

おまけにセバスの情報によると馬の蹄らしきものがあったらしい

どこかの騎士団か、もしくは庸兵団の可能性が高そうだ。

 

(ただまぁ…)

 

俺は傍に転がっていた子供の遺体の顔に触れ、スッと瞼を下ろす。

 

(これは…酷いな)

 

不意に昔のことを思い出す。

自分が住んでいた家によく遊びに来てくれたお隣さんの息子を思い出す。

わんぱくものだったが元気があって、明るい子供だった。

今はもう中学生になっているが、それでも変わらず自分を慕ってくれたのを思い出す。

 

「……ちっ」

「!」

 

小さく俺は舌打ちしたが、どうやらアルティマに聞かれたらしい、明らかに顔が動揺していた。

 

「マ、マシンナー様?」

「なんでもない、昔のこと思い出しただけだ、調査を続けるぞ」

「は、はい…」

 

ああ…これなんか変な誤解させちゃったかな?

いや、アルティマの表情を見る限り本気で心配してくれたんだろう。

これ以上心配かけさせるわけにはいかないし、調査を続けるか。

 

(さっきの舌打ち、さっきの子供の顔に触れてからしたものだった……)

 

アルティマは先程のマシンナーの舌打ちの事を考えていた。

さっきの子供とはマシンナーとの面識はない。

ならばなぜあの行動をしたのだろうと考えていた。

 

(もしかしたらマシンナー様の過去に人間の子供が関係した出来事が? それを思い出されたからから舌打ちを?)

 

マシンナーの後ろを歩きながらアルティマは考えを広げる。

だが「マシンナーの過去に人間の子供が関係するなにかがあった」その考え以外に有力な答えは思いつかなかった。

 

(やはり僕程度の頭じゃこの程度か、自分の浅はかさが恨めしい。だけど……)

 

アルティマは目を少し殺気立たせる。

あともう少し怒りで満ちていれば、戦闘形態に変形するくらいの怒りも宿す。

 

(マシンナー様を一瞬でも不快にさせたクズは絶対に殺す。いやただ殺すだけじゃだめだ、じっくりとゆっくりと痛めつけてやろう……)

 

至高の御方であり、自分の直接の創造主であるマシンナーに舌打ちをさせた。その要因を必ず見つけ、この世に生まれた事を後悔させるくらいの地獄を見せてやろうと考えていた。

 

 

 

 

 

 



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第16話 機械神降臨

ようやくカルネ村まで来た…(゚Д゚;)


別働隊を率いているローグは村の包囲を完了していた。

周囲には索敵能力の高いヘルスパイナーとホークアイの他に、獣のようなタイプの機械種やローグと同じ人型のものも展開していた。

 

今のところ周囲に、生命体は存在していないが何が起こるかわからない為、厳戒態勢に入っている。

 

(今のところは異常なしか……)

 

専用のライフルを持ち、周囲を見渡すローグ。

勿論敵と戦闘に備えてマシンナーから「フル装備で来い」と言われ、自身が持つ最強の装備で臨んでいた。

右手には神話級の性能を持つライフル「KARASAWA」を、左手にはリボルバーの回転式弾倉に杭をつけた武器、パイルバンカー「アイゼン」。右肩には索敵能力向上装備「レドーム」、左肩には折り畳み式の「グレネードキャノン」を装備していた。

 

(だがいつ何が起こるかわからん、マシンナー様ですらこの世界は未知の世界だと言っていたからな…)

「いいか全員気を抜くな! なにか少し変化があればすぐに知らせろ!」

「「「ハッ!」」」

 

展開している部下に指示を飛ばしつつ、自身も今一度気を引き締めるローグであった。

 

 

 

 

「情報になりそうなものは、あまりないな…」

「そうですね…」

 

あの後更に村を探索したのだが、やはりあるのは遺体くらいだった。

家の中も見てみたが、どれも特別なにかありそうな物は全くなかった。

 

(もう少し探索して何もなかったら引き揚げるか、長居をするわけにもいかないし)

 

もしもこの村を襲撃したものがまだ付近にいたら面倒だからな。

 

 

 

 

あれから少し経った後に、俺達はナザリックに帰還した。

モモンガさんの方でも、あまりいいものは見つからなかったらしい。

 

「そうですか、ありませんでしたか…」

「すみません、隈なく探索したんですが生存者は皆無でした…」

「そんなに気にしないでください、まだ周辺にはいくつか村がありますから、そこを改めて調査しましょう」

 

おお、ならまだチャンスがあるな。

 

「でも全く成果なしというわけではないじゃないですか、少なくとも文明はあまり進んではいないほうでしたし」

 

モモンガさんの言うとおりあまり文明は進んでいるように見えなかった。

まるで中世のような感じだったな…。

 

「てことはあまり科学レベルもそんなに高くないかもしれないな…」

「ですね、銃とか発明されてなさそうでしたし…」

「まあでもこの世界の人間のレベルがどれくらいか気になりますね」

「ええ、ただの一般人でも我々からすればlv100という事もありますよ」

「そうなると本当にわらえないですね…」

 

割と本気で笑えないですよモモンガさん、でもじっさいそうだったらヤバイな、この世界の人間全員がGガンダムのモビルファイターやジャイアントロボの十傑集並の身体能力とかマジ勝てないんだけど……。

 

「こりゃ本格的に今まで作ってきた物、総動員してナザリックの防衛力にあてるか…」

「今まで作ってきた物をですか? でもマシンナーさんが作ってきた物の中には割と洒落にならないものもあるからなあ…」

「えーと……例えば?」

「ほらあのバカでかい大砲の…「列車砲です」そうそれ!」

「ああ『グランド・ドーラ』と『グスタフ・マキシマ』ですね、でもあれ拠点攻撃用だからなあ…」

 

『グランド・ドーラ』

『グスタフ・マキシマ』

 

マシンナーが製作した兵器の中では単純な破壊力と射程では最高クラスを誇る兵器。

一発の威力はとんでもないもので小さな拠点ならば瞬く間に破壊できる代物。

しかし単発式でなおかつ再発射にはかなりの時間がかかり、なおかつ列車砲自体もかなりの大きさで、一旦見つかってしまえば集中攻撃されるため、使うときはもっぱら短期決戦のみだった。

 

「モモンガさん、折り入って頼みが…」

「駄目です」

「まだ何も言ってないのに!!」

「列車砲の実験をしたいって言うんでしょ? 流石にあれは目立つので駄目です」

「くそっ…」

 

俺は思わずガクッとうなだれた。

 

「こうなりゃパンジャン・ドラムを…」

「それネタ兵器じゃないですか、というか作ったマシンナーさんも「これネタ枠だから」といってたじゃないですか」

「こけおどしにはなるはず!…多分」

 

この後適当に駄弁りながら時間を過ごす俺とモモンガさんであった。

 

 

 

 

「お!ようやく動いた!」

「《遠隔視の鏡》の使い方って結構難しいな…」

 

あれから一日が経ち、俺とモモンガさんは《遠隔視の鏡》の使い方に四苦八苦していた。

というか骸骨とロボットが鏡を弄り回す絵面ってかなり変な光景のような…

 

「使い勝手が悪いなあ…」

「せめてこれが機械だったら改造の余地もあるんですけどねぇ…」

 

《遠隔視の鏡》の扱いにくさにぼやきながら、俺とモモンガさんはあるものを見た。

 

「何だこれ? お祭りかな?」

 

《遠隔視の鏡》をいじった時にたまたま出てきた村の映像、しかし村人たちは忙しなく動き回っている。

鏡をいじるとそれが鮮明に映し出された。

 

「祭りは祭りでも血祭りの方じゃねえかよおい…」

 

甲冑を被った兵士が村人を切り捨てていく。この前村を襲ったのももしかしてこいつらか?

 

「モモンガさんどうする?」

「見捨てる、危険を冒してまで助ける必要はない」

 

モモンガさんを見ながら俺は思った。

言葉ではこう言っているが、本心は助けにいきたいんじゃないか?と。

この未知の世界では軽率な判断をすれば瞬く間に自分の命を失う。

モモンガさんの判断は正しい。

けどなにか違う。

人を殺されるのを見て、なにも思わない、いやなにも感じない。

 

(心まで鉄になったってのか俺は…!)

 

変わったのが身体だけでなく心も変わってしまった事に、恐怖を抱いていた。

そう思っていた時、モモンガさんが後ろにいたセバスの方に振り向いていた。

 

「誰かが困っていたら助けるのは当たり前……」

「モモンガさん…その言葉!」

 

たっち・みーさんがよく言っていた言葉…。

モモンガさんと一緒に俺をPKから俺を助けてくれた人。

 

「あの人なら…助けにいくでしょうね…」

「ええ、たっちさんなら…」

 

「マシンナーさん」

「ええ、行きましょうモモンガさん! セバス!」

 

俺はセバスに護衛としてアルティマを完全装備で来るように伝える。

モモンガさんはナザリックの警備の指示とアルべドを完全武装で来るよう指示を出していた。

画面を見ると逃げる少女の姉妹が映っている。

あっ! 野郎背中を切りやがった!

あまり、時間は残されていないな……

 

「モモンガさん! すまないが…」

「ええ、先に行っててください、後で合流しましょう」

「了解! マシンナー、出る!」

 

アイテムを使いゲートを開いて、俺はそれをくぐった。

 

 

 

 

もう駄目だ、私達は此処で死ぬんだ…。

姉妹の片割れであるエンリは震える妹を抱きしめて思った。

自分達は目の前の騎士に殺される。

騎士が自分たちに向けて剣を振りげる。

エンリは妹を抱きしめる手の力を強くする…。

 

『ロケット・パンチ!!』

 

――――――バゴォン!!!

 

大きな声と共にもの凄い音がした。

今まで聞いた事の無いくらい大きな音が。

恐る恐る、伏せた顔を上げると……

先程の騎士の上半身と下半身が真っ二つに引き裂かれて、上半身は遠くに吹き飛ばされ、下半身の方は倒れて自分たちの方に倒れる。

 

「ひっ!」

 

思わず声を上げ、その音の方角を見る。

するとそこには黒い鉄の人のようなものが立っていた…。

 

「な、なんだこいつは! ゴーレムか!」

「いや、腕を飛ばすゴーレムなんか聞いたことねぇぞ!」

「何もんだてめえ!!」

「……」

 

騎士たちは現れた者に向かって叫んでいる。

だが「それ」は何も答えない。

代わりに「それ」の右腕が飛んできて「それ」に装着される。

そしてそれはドスン、ドスンと足音を歩き出す。

 

「び、びびるな! 相手は丸腰だ!」

 

騎士の一人が斬りかかった。

大きく振りかぶり斬りつける、が。

バキャン!と金属の折れた音が森に響いた。

剣の刃が身体に触れた瞬間折れた。

ぽっきりと折れたのだ。

斬られた「それ」は傷一つ負っていない。

 

「…んな……くら」

 

小さいが、初めて「それ」は声を出した。

しかし何を言ったか聞き取れない。

そしてもう一度「それ」は喋った。

 

「そんななまくらで俺を斬れると思ってるのか?」

 

今度ははっきりと、そして凍てつくような低い声で喋り、斬りかかってきた騎士の頭を鷲掴みにし、持ち上げる。

私はそれを呆然と見ていた。

 

 

「あああ! 痛い痛い痛い! 熱い熱い熱い!

離してくれぇ! 頭が! 頭がぁぁあ!」

 

捕まれた騎士が絶叫し必死にもがいて懇願している。

 

バキ…メキ…ジュゥゥ…

 

耳障りな音と何かが焼けるような音と匂いがする。

よく見ると頭と顔を覆うヘルムが凹み、熱で焼かれていた。

騎士は暴れるが、「それ」は気にもしていない。

 

「い! ぎゃぁぁあ! あづい!! あづい!! あづ…!!」

 

ぐしゃ

 

「それ」は躊躇なく騎士の頭を握りつぶした。

 

「ば、化け物……」

 

残っている騎士たちはガタガタと震えていた。

そして「それ」は残りの騎士たちを睨みつける。

 

ガシュン…フシュ—……。

 

どこからか音が聞こえ、「それ」から煙が出てくる。

 

「生憎俺はゴーレムではない…」

 

「それ」はどこからか現れた血のように赤い色をした大きな剣を握りしめ、残りの騎士たちに突っ込んでいく。

 

「ひぃぃぃい!」

「逃げろぉ!!」

 

騎士たちは一目散に逃げ出す。

しかし「それ」の速さは騎士たちを遥かに上回っていた。

 

「俺は…」

 

ズン!!!!

 

すさまじい音と風が周囲に響いた。

目を開けると、驚くべき光景が広がっていた。

騎士たちの身体はバラバラに寸断されており、「それ」が立っているところの地面は大きく凹んでいた。

そしてゆっくりとその身体が起き上がる。

 

「機械神<デウス=エクス=マキナ>だ…覚えておけ」

 

そしてそれは私達の方を向くと、またドスン、ドスンと足音を立ててこちらに近づいてくる。

後ずさりたかったが、恐怖で動けない。

そして私達の目と鼻の先まで来ていた。

 

「……」

 

黄色い瞳が私達を見下ろしている。

私達はあの騎士と同じように殺されるのだろうか……。

エンリとネムは再び窮地に立たされた。

 

 



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第17話 殺戮の始まり

ふむ…思ってたよりこの世界の人間は強くないな、とりあえずは安心した。

おっといけない、後ろの姉妹の姉の方は背中斬られてたな、治療しないと。

俺は後ろを振り向き、姉妹の方に歩み寄っていく。

けどさっきのあれが強烈すぎたのか、めっちゃ怖がられている…。

 

(まあ仕方ないか…)

 

いきなりこんなスーパーロボが出てくれば驚くし、あんな殺し方をすれば怖がられるのも無理はない。

だけど、とりあえず敵じゃないことは伝えなければ。

俺は身体を下ろし、姉妹達に話しかけた。

 

「大丈夫か?」

「え?」

 

言われた事が予想外だったのか驚いているようだった。

構わず俺は続ける。

 

「たまたま通りかかっているときにお前たちの姿を見てな、背中の傷は大丈夫か?」

「え、あ、は、はい!」

「そうか…その子は大丈夫か?」

「え?…は、はい大丈夫です!」

 

うん取りあえずは大丈夫そうだな、じゃあ治療を…。

そこへ、タイミング良く《転移門》からモモンガさんが現れた。

 

「「ひっ!」」

 

モモンガさんを見て、怖がる二人。

まあどっから見てもラスボスな骸骨様だしな……。

 

「怖がらないでくれ。彼は俺の友人であり、恩人なんだ」

「え? あ、すみません!」

「ご、ごめんなさい!」

「いや気にしてない。露払いご苦労だったなマシンナー」

「あの程度造作も無いよモモンガ」

「うむ、では…ん?」

 

モモンガさんが何かに気付いたのか視線をずらす。

俺もその方向に目を向けると、騎士が一人いた。

 

「な、なんだお前たちh「心臓掌握(グラスプ・ハート)!」がっ…!」

 

しかしすぐにモモンガさんの心臓握りで昇天してしまった、出落ちか!

 

(モモンガさん、人間種そんなに強くなかったです)

(そうですね、取りあえず一安心です)

(まあでもまだ油断はしない方がいいですね、あいつらだけが弱いだけってこともありますし。モモンガさん、壁アンデッド出してくれません? 勿論俺も出しますよ)

(わかりました、では死の騎士を出しますよ)

(わかりました、なら俺は『機械の戦士/マシン・トルーパー』を出しますよ)

 

「―――――中位アンデッド作成 〈死の騎士〉」

 

さっき殺した騎士の口からドス黒い物が溢れ出し、ゴボゴボと音を立てながらその身を死の騎士へと変貌させていく。

 

「ウォォォオァァァア!!」

 

凄まじい咆哮と共に、誕生した死の騎士。

よし俺もやるか。

俺は手のひらから歯車やら螺子やらの金属パーツを地面に落とす。

 

「―――――中位機械種作成<機械の戦士/マシン・トルーパー>起動!」

 

落としたパーツは空中に舞い上がり、ガチャガチャガチャン!と音を立てて集まり組み上がっていく。

 

「………」

 

緑色のカラーリングが施された装甲、ピンク色のモノアイがグポン、と輝く。

左手はガトリングが付いており、右手には大型ヒートブレードを装備された、機械のモンスターがズシン、と降り立った。

 

 

「死の騎士よ。この村に居る騎士…鎧を着ている者を駆逐せよ」

「機械の戦士よ。死の騎士を援護し、騎士たちを皆殺しにしろ」

 

その命令を受けた死の騎士は力強い咆哮を上げ、機械の戦士はモノアイを強く光らせた後

 

 

 

モモンガさんと俺を置いて村の方角へと走っていった……。

 

「「えぇぇぇぇぇぇ……」」

「何で、守るべき対象を置いていくんだよ……いや命令したの俺だけどさ!」

「どうする? いやホントマジで?」

 

すると転移門から完全武装したアルティマとアルベドが現れた。ナイスタイミング!

アルべドはガッチガチに黒い鎧とバルディッシュで武装している。

アルティマは身体を赤いアーマーで覆い、顔も同じ色のバイザーで顔を隠していた。

 

 

「モモンガ様、マシンナー様、遅れてしまい申し訳ありません。準備に時間が掛かってしまいました」

「申し訳ありません」

「いや、むしろ丁度良いタイミングだったぞ、アルベド、アルティマ」

「ああ、いいタイミングだ……ん?」

 

そこに転移門からもう一人現れた。

頭にはゴーグル付きの防弾ヘルメットを被り、胸には防弾チョッキ。両腕は鉄のガントレットを装着しており、

魔銃を持っている。スカートには金属パーツがさらに増えているが、ベースはメイド服だった。

そして俺はその顔をよく知っている。

 

「シズ?」

「……プレアデスはシズ・デルタ。マシンナー様とモモンガ様の援護をするために来ました」

 

転移門から現れたのは完全武装の姿のシズだった。

武骨な装備とメイド服が何とも言えないアンバランスな感じがしたが、俺的にはグッドである。

これがカッコ可愛いという奴だろうか?

 

「(マジかよ…)誰からの命令だ?」

「はい、アルが命令を出しました」

 

マジかよ、こんなかでレベルが一番低いのはシズだぞ。

まあ取りあえず理由を聞くしかないな。

 

「何? 理由は?」

「はい、敵は如何な武装をしているかもわかりません。ですので飛び道具による援護に特化したガンナーであるシズを呼びました」

「ローグはどうした? 奴もガンナーだぞ?」

「ローグには後詰めの部隊の指揮を任せました。他の隊長達も控えております」

「むぅ…」

 

後詰めの部隊の指揮をローグ達に任せたか…。

まあ、戦力は多いのに越したことはないが…。

 

(どうしますモモンガさん?)

(確かに飛び道具による援護は要りますね、後衛は私しかいませんし…)

 

「勝手な判断をして申し訳ありません。死罪も覚悟しております…」

 

いやいやそんなんで死刑にするほど冷酷じゃないよ。

まあでも注意はしとかないとな。

 

「確かに勝手な判断だが、お前の言うことにも一理ある。よって死刑にはせん」

 

「だが」と俺は言い、アルティマを見る。

 

「次こういう事を勝手にしたら『お仕置き』は覚悟しておけよ?」

「っ、はい!」

「それでいいか、モモンガ? アルべド?」

「え? まあ構わないが…」

「はい、承知いたしましたマシンナー様…それで」

 

アルべドが姉妹の方に視線を下ろす。

 

「その生きている下等生物の処分はどうなさいますか?」

 

おい物騒な事言ってるぞ、今回の趣旨わかってるのかアルベドよ?

ちょっとモモンガさん、しっかり説明して!

 

「ふむ、怪我をしているようだな、飲め」

 

モモンガさんが回復用のポーションを出し、姉妹に渡す…が。

 

「の、飲みます! だから妹には……」

「お姉ちゃん!」

 

うん、怖がってるね。仕方ないね。

こんなおっかない骸骨が赤い液体持ってたらそりゃ怖がられるわ…。

 

(げ、解せぬ……)

(モモンガさん! 顔! 顔! 流石に素顔は不味いですよ!)

(あ…)

(俺がやります、貸してください)

 

そう言ってモモンガさんからポーションを受け取り、姉妹に渡す。

 

「使え…」

 

ピカーン! ガシュー!

目を一際光らせ、全身から煙を吐き出しながら、重低音の声で言うマシンナー。

 

「い、い、いも、妹だけは……」

「うぁああん!」

「え…」

 

え? なんで泣くの? 泣いちゃうの?

骨よか怖くないでしょ?

 

(……)

(やっぱり見た目が怖いんですよ、どうしたものか)

(……われた)

(へ?)

 

 

 

 

 

 

(スーパーロボが子供に嫌われた……だと?は、ははは……)

(え? マシンナーさん?)

 

「チクショォオオオオオオオオオオオ!!」

 

ビカァ!!!

 

「「マシンナー様!」」

「え、ちょ…」

 

マシンナーは天に向かって凄まじい爆音の慟哭をあげる。

涙のつもりなのか、両目から極太のビームを天に向かってぶっ放していた。

しかし精神作用効果無効が発動して強制的に鎮められる。

 

(何やってるんですかマシンナーさん!!)

(…すいませんモモンガさんホントスンマセン)

 

やべえ…思わずビームぶっ放しちゃったよ…。

いくらショックがデカいからって不味い事しちまったな…。

 

「御方々の恩情を無下にするとは……!!」

「万死に値する! 懺悔をしながら死ね!!」

 

怒りに震えるアルべドとアルティマがそれぞれの得物を振り上げる。

因みに後ろに控えているシズもいつものライフルからショットガンを取り出しているではないか!

アルべドはバルディッシュを、アルティマは両手を変形させ、指の一本一本が鋭利なブレードになった両腕を振り上げる。

おいちょっとおぉぉぉぉ!!?

 

「やめろ、アルティマ、アルべド、シズ」

 

振りかぶられたバルティッシュと両腕を掴み、マシンナーは言った。

発言と同時に覇気を全身から出す。

アルティマとアルべドは即座に武器を下げた。

シズもショットガンを下ろす。

 

あっぶね~、危うく流血沙汰になるとこだった…。

いやもうなってるけどさ。

 

「急に叫んで済まなかった。そこの2人も心配するな、これは回復用の薬だ。傷もすぐに治る」

 

今度は出来るだけ優しい口調で話しかける。

これでだめなら人間態になろう。

 

「わ、解りました……」

 

姉がポーションをそれを飲み干す。

すると一瞬で背中の傷が回復した。

うん、どうやら回復用のアイテムも問題なく使えるようだ。

そしてモモンガさんはこの2人の周りに防御魔法を展開させて、小鬼将軍の角笛まであげてるよ。

なら俺もなんかあげるか。

俺はアイテムボックスから、あるアイテムを取り出した。

機械の歯車を人型にしたような手にすっぽり入る小さな像を渡す。

 

「これをやろう、『古代機械の胸像/アンティーク・ギア・スタチュー』だ…」

 

姉のほうはそれを貰い、興味深そうに見ている。

取りあえず使い方を教えないと。

 

「そいつもその笛と同じように危なくなったら使え、使い方はそれを上に掲げて「起動!」と叫ぶんだ、いいな?」

「わ、わかりました」

 

(じゃあモモンガさん、俺ちょっとゴミ掃除してきます)

(わかりました、後マシンナーさん、騎士は皆殺しは避けてくれませんか?)

(え? なんでですか?)

(俺達と同じようにユグドラシルプレイヤーがいるかもしれません、そこで宣伝してやるんですよ。

アインズ・ウール・ゴウン此処にありってね。ユグドラシルでは我がギルドは色々と有名でしたし)

(成程、でもどうやって?)

(それはですね…)

 

俺とモモンガさんでメッセージによる会話をしていると、さっきの姉妹から「あ、あの!」と声を掛けられる。

 

「あ、あの、助けてくださって……

ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます!」

 

「気にするな……」

 

モモンガさんは姉妹の感謝に答え、俺は斬艦刀を取り出す。

アルベドとアルティマを引き連れて俺たちは村へと向かって歩きだす。

すると…。

 

「お、名前を……」

 

俺とモモンガさんはとゆっくりと振り返り、答える。

かつての栄光ある、誇りあるギルドの名を。

ナザリックを守り続けた、誇りある名を。

 

「我が名は……アインズ。

アインズ・ウール・ゴウンだ」

 

「我が名は…」

 

斬艦刀をガン、と肩に担ぎ、答える。

 

「我が名はマシンナー。

ナザリックの機動兵器であり、全てに幕引く機械神<デウス=エクス=マキナ>なり」

 

 

 

 

騎士たちは村の中央に村人達を一か所に集め、追いつめていた。

彼らは自分の国の正義の為、そして人類存続の為の任務の為に殺す。

今回も今までと同じようにするつもりだった。

そう、今回までは…。

 

一瞬の出来事だった。

村人を後ろから切りつけようとした仲間。

剣が村人の背に到達しようとしたその瞬間、何かの影が覆いかぶさった。

 

「へ?」

 

後ろを向いた瞬間、その影の主から縦一文字に真っ二つにされた。

 

――――ズン!

 

「ぎゃあああああ!」

 

その悲鳴を聞き、何が起こったのか理解できず、ロンデスは周りの仲間と共に悲鳴の発生源を探す。

そしてそれを見つけた。

 

「オオオオォォォォオオオオアアアアー!!」

 

黒い鎧を着た左手には巨大なタワーシールドを、右手にはフランベルジュを持っているアンデッドの騎士が、現れた。

 

「な、なんだあれは……」

 

仲間の一人がつぶやいた。

ロンデスもそれは同じだった。

何故こんな村にあんな怪物が?

色々と疑念を出していると、ブゥゥゥウン、の音と同時に「がぁ!」と悲鳴が上がる。

 

「何だ!」

 

ロンデスは悲鳴の方角を見ると驚愕した。

仲間の騎士がいつの間に死体になっていた。

それだけならロンデスはそこまで驚かなかっただろう。

しかしその死体は人としての原形を留めない只の肉塊と化していたのだ。

 

「な、何が………!」

 

ロンデスが向いた方向にはもう一体の「化け物」がいた。

緑色の体色をし、目は一つ目、右手には赤い剣を、左手には筒状の武器を持っており、そこから煙を出していた。

 

「な、なんだあのモンスター、あんなの見たことないぞ!」

「こんな場所にあんなのがいたなんて聞いてないぞ!」

(いや違う、あれは自然の生き物なんかじゃない…!)

 

熟練の騎士であるロンデスは思った。

その見た目と持っている武器があまりにも異質だった。

身体は金属特有の光沢を出しており、目には生き物のような生気は全く感じられない。

持っている武器も今まで見たことも無いものだった。

これは何者かが創造した魔物なのでは無いのかと…。

 

しかしその疑念は次の瞬間に消え失せた。

 

ドォン!!

 

「今度はなんだ!」

 

仲間が音の方角を見ると大きな砂埃が上がっていた。

それが徐々に晴れていき、その音の主が現れた。

 

「……フン」

 

黒い重厚な鉄の「何か」がたっていた。

 

「とっとと掃除をするか……」

 

そいつが喋った後に、血のように紅い大剣を振り上げる。

そして…。

 

――――ズン!!

 

凄まじい音と風圧を出しながら、その近くにいた仲間の何人かの身体を横一文字に切り裂き、吹き飛ばした。




アルティマのフル装備の外見はゼノギアスのヴェルトール・イドが鎧になった感じです。


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第18話 機械神、殺戮す

マシンナー、ハッチャけるの巻。




黒い「それ」が仲間を切り飛ばしたのが殺戮の合図だった。

「それ」の瞳がこちらに狙いをつけたように睨みつける。

 

「悪いが貴様らが気に食わんのでな、死んでもらう」

 

その言葉が合図だった。

 

 

 

 

「な、なんだこいつは!」

「ゴーレム!?」

 

さっきの奴等にも言われたが、誰がゴーレムだよ?

そりゃ機械系のモンスターにはマシン・ゴーレムってのがいるけどさ。

 

序盤から相手をビビらせる為に数人まとめて叩っ斬ったが、どうやら成功したようだ。

俺は斬艦刀を地面に突き刺し、拳を合わせて火花を散らす。

モモンガさんに頼んで死の騎士を待機状態にさせ、機械の戦士も俺の命令で待機状態にさせる。

 

「く、くそったれがぁ!」

 

前にいる騎士が斬りかかってきた。

その騎士が勇敢なのか無謀なのかと問われれば、間違いなく後者だな。

あの顔はどう見てもヤケになっている顔だ。

じゃあ一発「軽く」殴って落ち着かせるか。

俺はボクシングでいう左ジャブの要領でそいつの顔に向って殴る。

 

――――ブゥン!! ゴシャ!!

 

モロに入ったそいつの顔は、まるでザクロのようになっていた…。

脆過ぎだなおい、ちゃんとカルシウム取ってる?

おっとさっき俺を「ゴーレム」呼ばわりした阿呆どもを片付けるか。

俺はアイテムボックスから二振りの大斧〈マシン・トマホーク〉を持つ。

斧の刃は赤く光っており、騎士たちの甲冑を軽く両断できそうである。

 

「〈トマホーク・ブーメラン〉!」

「げっ…!!」

「がぁっ…!!」

 

俺は失言した奴らに向って投擲する。

結果は頭を切り裂いて死亡。上半身と下半身を両断されて死亡である。

その後投擲したトマホークがこっちに戻ってきたのでそれを掴んだ。

 

「ひぃいいぃぃぃいいい!!!」

「敵だ!! コイツも敵だぁ!!!」

 

うるせえ奴らだとっとと排除…、いやまてどうせだからこいつらに色々と聞いておこう。

情報は大事だしな。

俺は両腕のロケット・パンチで二人を拘束し、目の前に引き寄せる。

 

「お前たちはどこの所属だ?」

「わ、我々はバハルス帝国の者だ…」

 

バハルス帝国ね…、一応嘘をついてないか確認の為腕の握力を強める。

 

「がぁあぁあ!!! ち、違います!! 我々はスレイン法国の者ですぅ!!!」

「馬鹿野郎! なんてことを!!」

 

どうやらこいつらはスレイン法国とかいう国のものらしい。

ならこいつらがやっているのはその国に濡れ衣を着せるための「偽装工作」って事か。

気に入らねえな、だが殺す前に聞くことがあるな。

 

「ここら辺の村を襲ったのも貴様らか?」

「そ、そうです!!」

 

予想通りこいつらの仕業だったらしいな。

ならこいつらにすることはただ一つ。

 

「そうか……ありがとう」

「し、喋ったでしょう…? だから助け……」

「死ね」

 

―――――ズドン!!

―――――ズドン!!

―――――ズドン!!

 

両腕の隠し武器である「パイル・バンカー」を使い拘束している騎士一人ずつ三発お見舞いした。

 

「神よ、あぁ神よ……どうか我等を御守り下さい」

 

ん? なに言ってんだこいつ?

周りを見てみると、他の騎士たちも「神よ」「神よ」と言っている。

散々殺し回っておいて、神様どうかお助けください?

ふざけやがって……。

 

俺は怒りからか全身から煙を排出する、なら俺が「死神達」からの御言葉を聞かせてやるよ。

 

「もういい、言葉など既に意味をなさない」

 

そして突き刺していた斬艦刀を持ち上げ、騎士たちに向って突き出す。

 

「恐れるな。死ぬ時間が来ただけだ……!」

 

「「「——————!!」」」

 

俺は背中のスラスターを噴射させ、残りの騎士たちに突撃する。

 

「貴様らぁ! あれを抑えよ!」

 

なんか叫んでるやつがいるぞ、あいつが隊長か?

なら最初につぶしとくか。

俺はあいつの方角に飛んでいく。

 

「お前ら! お、俺はこんな所で死んで良い人間じゃない! 時間を稼げ!! 俺の盾になれぇ!!」

 

うわ、こいつ屑だわ…。こんな奴の部下になっていた奴らは苦労したろうな、まあ関係ないけど。

俺はそいつの目の前に着地し右手を鰐の顎の形状の武器<クロコダイル>に変形させ、そいつの身体を挟み込んだ。

 

「あひゃぁああ!! お前ら! 俺を助けろぉ!! お、お前! この村人共に雇われたんだろ?

なら金をやる! 200金貨!

いや、500金貨だ!」

 

おいおいこいつ、救いようが無さすぎだろ……。

というか金で助かろうというのが気に食わん。

なら俺から簡単な要求を出してやる。

 

「なら、あるものをくれたら助けてやる」

「な、なんだ! 言ってみろ!」

 

そんなの決まっているだろう?

 

「お前の命だ」

「え?」

 

俺は〈クロコダイル〉の顎の部分からチェーンソーを展開させ、作動させた。

 

—————ギュィィィイイイン!!

 

「や、やめろ! やめてください!! お金! 払える限り、払いますから!! おねがい……」

 

〈クロコダイル〉の顎の力を強くさせそいつを「処刑」する。

 

「いぎゃおぎゃぎゃぎゃねおぎゃぎゃぎゃねおぎゃぎゃかねねあげまぁぁぁじゅう!!!」

 

やかましく断末魔の悲鳴をあげながらそいつは死んだ。

 

「いやだ…死にたくない!!!」

「助けて、助けてください神よ!!!」

「―――落ち着け、撤退だ!! 急げ!」

 

おっと他の騎士たちをまとめているやつがいるな。

どうやらさっきの隊長よかましな人間だな。

 

「俺が時間を稼ぐ!! お前らは先へ行け!!!」

 

そう叫んで俺に斬りかかってきた。

 

「いい台詞だ」

 

俺は剣を掴んでへし折り。

 

「感動的だな」

 

斬艦刀を両手で大上段に振り上げ。

 

「……だが無意味だ」

 

思いっきり振り下ろす。

 

――――ズォン!!!

 

そいつの死体は、斬られたような潰されたようになっていた。

やだ俺の腕力強すぎ……!?

 

そこへ聞き覚えのある人物の声が聞こえる。

 

「そこまでだマシンナーよ」

 

お、ようやくお出ましか。

 

「遅かったじゃないか……」

 

俺はモモンガさん改めアインズさんの方を向いたが、アインズさんの格好に唖然とした。

 

(え?何で嫉妬マスクかぶってんの?)

 

クリスマスイブに一定時間ユグドラシルにいると、問答無用で手に入ってしまう、通称嫉妬マスク。

クリスマスの時にログインしているプレイヤーに強制的に配信されるアイテムで某大型掲示板から「運営狂ったか」と書き込まれるほど。

俺も一応持っており、貰った時は「いいもん! 俺にはシズがいるもん!!」といったら「あの人」に半殺しにされた思い出がある。

 

「はじめまして、諸君。私の名はアインズ・ウール・ゴウンという」

 

しかし、さっきの事もあるのか、特に反応しない。

 

「投降すれば命は保証しよう。まだ戦いたいというのであれば話は別だが…」

 

その言葉にすぐさま剣が投げ捨てられる。立っている騎士達全員が剣を捨てるのにかかった時間は一秒にも満たなかった。

 

「……よほどお疲れのご様子。だが死の騎士の主人である私と機械の戦士の主人であり、私の友であるマシンナーを前に頭が高いな」

 

その言葉に騎士達は黙して跪き頭をたれる。

 

「……諸君等には生きて帰ってもらう。 諸君らの上司…飼い主に伝えろ」

「この辺りで騒ぎを起こすな。騒ぐようなら『私に心臓を潰されるか、我が友に挽肉にされるか好きな方を選べ』と伝えろ」

 

モモンガさんの言葉に騎士は震える体で頭を何度も上下に動かす。

張り子の虎みたいだな。

 

「確実に主人に伝えろ。行け」

 

その言葉を最後に、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

その後は死の騎士と機械の戦士に自身が殺してゾンビ化させた連中と俺が殺した連中の後片付けを命じ、村人から情報を貰おうとする前にモモンガさんから声を掛けられる。

 

「そういえばマシンナーさん大丈夫ですか?」

「? なにがですか?」

「いや、俺は仮面を被っているから大丈夫ですけどマシンナーさんはほら…」

「あ~…」

 

そういえばいつもの姿で行ったんだよな~。

しかもゴーレム扱いするし。

 

「あ~…なら「元は人間だったが不幸な事故で瀕死になって、アインズさんの手で脳味噌以外は機械の身体に作り変えられた」って設定で」

「なんか俺悪役みたいな感じなんですけど」

「大丈夫です、どっからどう見ても魔王ですし」

 

その後<火球/ファイアボール>が飛んできたのは言うまでもない。

 

 

 

 

(バハルス帝国、スレイン法国、リ・エスティーゼ王国か…)

(全部初めて聞く国ですね)

 

その後、俺はモモンガさんと共に村長夫妻から報酬としての情報収集が終わり、村長の家から出た。

 

(予想してましたが機械種のモンスターはいないらしいっすね)

(ええ、マシンナーさんについての紹介をすると、目を瞠ってましたしね)

 

さっきの騎士たちの反応を見ると、機械種のモンスターは一切見たことないらしい。

そうなると俺の存在はこの世界だとオーバーテクノロジーというわけになる。

 

(で、取りあえずこの後は村人達の葬儀に立ち寄った後に帰って整理しましょう)

(そうですね、んじゃ行きますか…)

 

騎士達に殺された者達の埋葬が終わり、俺達は村人達から少し離れた所で葬儀に参加している。

皆が皆、悲痛な面持ちで死者を悼んでおり、その中には先程俺達が助けた「エンリとネム」の姿もあった。

 

モモンガさんと俺も蘇生アイテムを持ってはいるが、さすがに使う気は無い。

理由としては単純に「面倒事に巻き込まれたくない」という事でだ。

 

「さてこれからどうするか…」

「取りあえず、したいことはしましたし、帰りましょうか」

「そうですね、ん?」

 

この後の事について話し合っていた俺とモモンガさんの前に、アルティマとアルベドとシズの他にナザリックで待機している筈のローグがいた。

しかも後ろにはLV80の機械種モンスター「レッドショルダー」が数体控えていた。

 

(マシンナーさん、これは?)

(多分アルティマが言っていた後詰めの部隊でしょう)

 

ここにいる理由を聞く為に俺はローグに話しかける。

 

「アルティマ、どうした?」

「は!ローグがアインズ様とマシンナー様に急ぎ報告したい事があると」

「どうしたのだローグ何故ここに?」

「はっ! アルティマの命令により、私以下50名の兵を連れてモモンガ様とマシンナー様の護衛をするために同じく護衛を任された八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)と共に馳せ参じました」

 

不可視化が行える八肢刀の暗殺蟲を後詰めの部隊として選抜するなんて流石モモンガさん。

 

「わかった、それで報告とは?」

「は、先程この村の上空で監視しているソニック・スレイヤーから報告で先程の騎士とは違う騎兵がこの村に近づいて来ているとの報告を受けました」

「なに?」

「また面倒事か…」

 

ローグの報告に俺は舌打ちをするのを我慢する。

モモンガさんもそれは同じで苛立ちを顕にしていた。

 

「それでソニックは?」

「は、現在<ステルス>で姿を隠し、部下を連れて追跡を開始しています。ご命令とあれば即座に爆撃を行う事も可能とおっしゃっております」

(どうしますモモンガさん?)

(そうですね、まだ敵かどうかもわかりませんので泳がせましょう)

「(了解です)いやそのまま泳がせておけ。だが念には念を入れて、他のシモベ達が攻撃を何時でも出来る状態にさせておけ」

「は!」

 

村長にその話をするために村長のところに向うが、村長も俺達を見つけて近づいてきた。

どうやら村人も騎兵を見たらしい。

 

「分かりました。我々の力、今回は特別にただでお貸ししましょう」

「おぉ……ありがとうございます!」

「なら村の代表として村長は俺達と共に来てほしい。安心してくれ、村長の身は必ず守る」

 

その言葉に村長さんはまだ震えていたものの、しっかりと返事をした。

怖い思いさせてごめんよ村長。

 

 

 

 

俺とモモンガさんと村長の他にアルティマ、シズ、アルべドと死の騎士と機械の戦士が後ろに控えている。

 

現れたのはそれぞれの装備がバラバラの傭兵のような騎兵だった。

俺は自分の眼のカメラを拡大させそれを見た後に自分の警戒レベルを上げる。

一人一人の武装は統一性がなく、自分たちが使いやすいように武器を改造されてある。

それを見た俺はこいつらがベテランの戦士集団だと察した。

 

「アインズ、先制攻撃を仕掛けていいか?」

「え?」

 

俺は即座に自分の身体を砲撃特化の身体である<へカトンケイル>に変形させる。

全身のありとあらゆる火器を騎兵たちに向ける。

 

「一斉発…」

「ちょ! ちょ待て! 待って待てぃ! 気が早すぎるぞ! マシンナーよ! 落ち着け! 取りあえず落ち着け!」

 

アインズは慌ててマシンナーを制止し、開幕一斉発射を阻止した。此方から敵対行為をしてしまう事は避けたかったのだ。

流石のマシンナーも軽率だと思ったのか武器を下ろし、通常形態に戻る。

その中から馬に乗ったまま一人の戦士が進み出た。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガセフ・ストロノーフだ」

 

 

 

 

 

 




パイルとトマホーク・ブーメラン炸裂!

前回の投稿でシズの装備の事書くの忘れてました。

シズの装備の外観はメイド服にメタルギアソリッドのバトルドレス装備をつけたような感じになっております。
急襲突撃メイドなので、それ用の装備もあるんじゃないかと妄想したのがきっかけです。


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第19話 号砲は切って落とされる

マシンナーVS御大将(嘘です)


「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフだ、この近隣を荒らし回っている帝国の騎士達を討伐するために王のご命令を受け、村々を回っているものである」

 

ざわざわ…ざわざわ…と周りからざわめきが起き、村長が「王国戦士長……」と呟く。

 

「……どのような人物で?」

「商人達の話では、かつて王国の御前試合で優勝を果たした人物で、王直属の精鋭騎士達を指揮する方だとか」

「目の前の人物が本当にその……?」

「わかりません、私も噂話でしか聞いたことがないもので…」

 

俺はメインカメラを拡大させ騎兵たちの紋章が全て同じだという事を確認した。

モモンガさんと村長が話していることが本当なら、警戒することに越したことはないか。

 

「この村の村長だな? 横にいるのは一体誰なのか教えてもらいたい」

 

モモンガさんを凝視していた戦士長の視線が村長に向けられる。

そこにモモンガさん前に出る。

 

「それには及びません。どうも、王国戦士長さん。私の名はアインズ・ウール・ゴウン、<マジック・キャスター>です。そして私の隣に立って居るのは友人であるマシンナー」

「マシンナーだ、後ろに控えている者は部下のアルべド、アルティマ、シズ。たまたまこの村が襲われているのを見かねて助けに来た者だ」

 

自己紹介すると、それに対して戦士長はは即座に馬から飛び降りる。

そして同じ大地に立った戦士長は重々しく頭を下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉も無い」

 

驚いたな。普通なら俺たちのような奴らなら疑ってかかってもおかしくない筈だし、「王国戦士長」っていう地位もある人間がこうも真摯にお礼を述べてくれるとは…。

どうやら悪い人間ではないらしいな、いきなりぶっ放そうとしてごめんよ。

 

その後モモンガさんと戦士長との会話の流れで嫉妬マスクを取ってほしいという要求があったが、死の騎士の制御が出来なくなるから、という理由で回避していた。

……てか死の騎士って未だに消えないんだけど、いつまで居るんだろうか?

もし時間制限が無くなったのなら、そのままナザリックの戦力になるのかな?

そう思ってると俺の方にも話を振ってきた。

 

「マシンナー殿もその仮面は何か魔術的な理由で?」

「すまない、アインズと違って、俺の場合はこれが顔のようなもので…」

「事故にあって生身の身体を捨てたと聞いたが顔は…」

「生身の顔も捨てて今はこの顔が素顔でな、生身で残ってあるのはもう脳味噌しかなくてな…」

 

その言葉に戦士長の部下達は皆、顔を顰めていた。

まあ嘘はついてないな、うん。

 

「……それは、失礼をした。気に障ったのならば大変、申し訳ない」

「いや、気にしないでくれ」

 

本当に良い人間なんだろうな。出来れば敵にはなりたくないな、個人的に。

 

 

 

 

リーダーの二人がまた話し始めるのを見て、俺はアルベド達に他の奴らに聞こえない声で戦士長の評価を訊いてみる事にした。

 

「三人とも、あの王国戦士長をどう思う?」

「はい、アインズ様とマシンナー様は当然として、私達にもまともな傷一つ付ける事が出来ない下等な存在かと」

「統括殿の言うとおり、あまり脅威といえる存在ではありません」

「……警戒レベル1、問題ない」

 

いやいや戦力分析しろって意味じゃないんだけど…。

まあそれも大事か。

 

「ならお前たちならあの戦士長をどれくらいで殺れる?」

「3秒あれば十分かと」

「アルも同じく」

「シズも同じ…」

 

確かに戦士長の今の装備だと、それぐらいの時間で十分だろうな。

だけど、なんらかの切り札は必ずもっているだろうし、警戒するに越したことはないな。

 

「流石はタブラさんの愛娘の一人と俺の最高傑作の一つとプレアデスの一人、素晴らしいな…」

「マシンナー様……何という勿体無い御言葉」

「勿体無き御言葉です、マシンナー様」

「勿体無い御言葉…」

 

完全武装した状態で身を震わせるアルベドを見て「携帯のバイブレーション機能みたいだな」と思っていると、

ソニック・スレイヤーからメッセージが来た。

 

(どうした?)

(は、周囲に複数の人影が村を囲むような形で接近しつつあります)

 

ソニック・スレイヤーからのメッセージの後、一人の騎兵が広場に駆け込んできて、戦士長に大声でメッセージと同じ内容を告げた。

また面倒事かよ…。

 

(それと、奴らは天使を連れています。データ照合で<炎の上位天使/アークエンジェル・フレイム>かと…)

(なに?)

 

 

 

 

その後俺達は村長宅に潜んで近づいて来ている敵の様子を窺う。

肉眼で、傍らには彼等が召喚したであろう『天使』の存在を確認した。

 

「なるほど……確かにいるな」

「戦士長殿、彼等は何者で狙いは一体、何処にあるのでしょうね? 私はこの村にそこまでの価値があるとは思えませんが」

「ゴウン殿に心当たりが無いとすれば狙いは……一つしか思い浮かばないな」

「成程…どうやら、あなたは憎まれているようだな」

 

成程、村人が殺された事に対する怒りを利用され、今の状況になったってことだ。 

どうやら自分がいつかこうなる事も予想していたのだろう、覚悟が決まった眼をしている。

 

「天使を使役しているところを見ると、奴らは恐らくスレイン法国。それもあれだけの魔法詠唱者を揃えられるところをみるとあれば特殊工作部隊群……噂に聞いた六色聖典か…」

「さっき帝国騎士の一人を尋問(物理)して自分の事をスレイン法国の者と自白していたが、どうやら嘘じゃなかったようだな…」

「それでその六色聖典とは?」

「スレイン法国が誇る最強の戦闘集団のことだ…目の前にいる部隊はその一つだ」

 

なるほどな、それにしてもあいつらが使役している『天使』は全部ユグドラシルで見たことあるものばかりだ。

それに『六色聖典』という厨二感溢れる部隊名は実際にユグドラシルでも存在しそうな名前だな、俺の軍団の名前も『フェツルム・レギオー/鋼鉄の兵団』だし。

やっぱり転移したプレイヤーは俺達だけじゃなさそうだ。

 

「アインズ、奴らが使役している天使は炎の上位天使に似ているな」

「確かに似ている、同じモンスターか?」

 

俺たちの会話に、戦士長は鋭く反応する。

 

「ゴウン殿、マシンナー殿。良ければ雇われないか?」」

 

戦士長の提案には俺個人としては手を貸してやりたい気持ちだ。

しかし個人の感情で動くわけにはいかない。

後々面倒な事になる可能性もある。

取りあえずモモンガさんの判断は…。

 

「……お断りさせて頂きます」

「…アインズがそう決めたならば、俺も戦士長に手を貸すことはできん」

 

…まあモモンガさんの判断は正しいとは思う。

でもモモンガさんも戦士長の事は気に入っていたから本当は手を貸してやりたいんじゃなかろうか?

 

「そうか……ならば王国の法を用いる事も考えざるを得ないが?」

「それはやめておいた方が良いでしょう、戦士長殿」

「その手段をとるなら俺達も抵抗せざるを得なくなる」

「……怖いな。そうなれば我々が敵と会する前に全滅か…」

 

…やっぱりこの戦士長は舐めてかからないほうがいいな、「もしも」敵対する事になったら真っ先に警戒すべき相手かもしれない…。

モモンガさんも戦士長に「御冗談を…」と言っているがモモンガさんも同じことを考えているかもしれない。

 

「ではゴウン殿、マシンナー殿お元気で、この村を救ってくれた事を感謝する…! 本当に…本当に…!」

 

戦士長が俺とモモンガさんに握手をする、改めてお礼を述べた。

しかしその後戦士長が再度村を守ってほしいという願いにモモンガさんが「アインズ・ウール・ゴウンと我が友マシンナーの名にかけて」と言って了承した。

そして戦士長が満足気に笑ったところでモモンガさんが戦士長を引き留めた。

 

「……戦士長殿、その前にこれをお持ちください」

 

モモンガさんが渡したアイテムって500円ガチャのハズレアイテム。

あれの効果は確か……。

成程そういうことか、流石モモンガさん。

ならば俺も…。

 

「戦士長、これも持っていってくれ」

 

俺はアイテムボックスから一本の刀を取り出し、戦士長に渡した。

受け取った戦士長は鞘から刀を取り出し、凝視した。

 

「見事な刀だ…」

「『高周波ブレード』だ。切れ味は保証する、もし得物が折れたら使うといい」

「こんな見事な刀までくれるとは今日はついてるな」

 

そして戦士長は部隊を引き連れて出立した。

この村を巻き込まないよう、囮の役目も同時に果たす為に…。

 

「ハァ……初めて会った人間には虫程度の親しみしか無いのにどうも話してみたりすると小動物程度の愛着が湧くな」

「良いじゃないか、俺はあの戦士長を気に入ったよ」

「それでこれからどうします?」

「取りあえず戦士長達の戦いを見てみましょう、時期が来たら行きますか?」

「あ、やっぱりばれてましたか…」

 

自分の考えがばれて照れくさそうに頭を掻くモモンガに、マシンナーは笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

――王国最強、周辺国家でも並ぶものがいないとされる最強の戦士ガゼフ・ストロノーフを抹殺せよ。

 

スレイン法国の特殊部隊、六色聖典の一つである陽光聖典によって召喚された天使達に囲まれた状況でリ・エスティーゼ王国、ガゼフは疲弊しきっていた。

本来の装備ならば苦も無く切り抜けれるが、それは今は無い。そんな中でも自分に付いて来てくれた大馬鹿で、それ以上に自慢の部下達も自分以上に傷つき疲弊し、最早まともに立って居る者はいない。

そして接近してきた天使を斬った瞬間…。

 

—————バキン!

 

何体もの天使を切り捨てため剣に限界が来て、折れたのだ。

それは見た陽光聖典の指揮官ニグン・グリッド・ルーインは完全なる勝利を確信し、笑った。

すぐさま新しい天使が接近してくる。

 

「戦士長!!」

「マシンナー殿!、貴方がくれた武器、使わせてもらう!」

 

ガゼフはマシンナーがくれた刀を持ち、居合斬りの要領で放った。

 

――――スパン!

 

「な…!」

 

接近してきた天使を真っ二つに切り捨てたのだ。

ニグンは驚愕していた。魔法の武器でもない限り、天使を一撃で切り捨てる事なんてできない筈――――!

 

「馬鹿な…、そんな武器の事は聞いてないぞ!」

「ある人物から餞別として貰ったのだ…」

 

そして新しい天使達が接近してきたがこれも一撃の下に切り捨てる。

 

「素晴らしい切れ味だ…感謝するぞマシンナー殿!」

 

 

 

 

「予想以上に奮戦してますね」

「高周波ブレードを持っているって事もありますが、それにしても戦士長が使っているスキルは見たことがありませんね…」

「ええ、この世界特有のものでしょうか?」

 

戦士長が使っているスキル「武技」……使ったものはユグドラシルでは見たこと無いものばかりだ。この世界独自のスキルなのか?

そう考えていると戦士長が<魔法の矢/マジック・アロー>で両足を射抜かれた後、後ろから炎の上位天使が戦士長を刺していた。

そろそろだな…。

 

 

 

 

「ハハッ、この期に及んで笑うとは狂ったか? ガゼフ・ストロノーフ」

 

「狂ってなど、いない。お前達の死に様を思ったら滑稽でな……」

 

「減らず口を……まぁ良い。貴様もあの村もどうせ消えるのだ」

 

「馬鹿め、お前達は分かっていない。あの村には俺よりも強い御仁達が居る。お前達は、お前達はドラゴンの尾を踏んだのだ……」

 

「くだらん、貴様より強い者などこの国に居るはずなかろう」

 

高周波ブレードによって戦局は一時的に盛り返したが、やはり戦力差は覆せず、追いつめられていた…。

そんなガゼフを「愚か」と嘲笑いながらニグンは止めを刺さんと次の攻撃を仕掛けようとした……。

 

「お前達は一体何者だ!」

 

しかし、ニグン達の目の前に現れたのは見たこともない二人組だった。しかもその装備品の数々はどれもが一級品と思えるマジックアイテムだろうことは一目見ただけでも容易に分かる。

 

「はじめましてスレイン法国の皆さん。私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。親しみを込めて、アインズ、と呼んでいただければ幸いです…そして後ろにいるのがアルベド。まずは皆さんと取引をしたいことがあるので、すこしばかりお時間をもらえませんでしょうか?」

 

奇妙な仮面をしている魔法詠唱者とその部下であろう鎧を纏った戦士。

ニグンは不気味だと内心思ったが、すぐに冷静さを取り戻す。

 

「ほう。それで貴様らの目的はなんだ? まさか命乞いをしにきたとでもいうのかな?」

「……お時間をいただけるようでありがたい。さて、まず最初に言っておかないといけないことが一つ。皆さんでは私達には勝てません。私達に戦いを挑むという事は自殺行為と同意である、と知っていたただきたい…」

 

ニグンは嘲笑うようかのように口元を吊り上げながら、挑発じみた口調で言い放った。

 

「無知なのか、それとも虚勢か? どちらにしても哀れなものだな。だがその発言のつけはその身で支払うことになるぞ魔法詠唱者?」

「さて、それはどうでしょう? 私は貴方方の戦いを全て観察していました。その私が此処に来たということは勝利を確信しているから。もし皆さんに勝てないならあの男は見捨てた、そう思いませんか? それに…」

 

アインズは先ほどの口調とは一転、途轍もなく冷たい口調に変わる。

 

「実は……お前と戦士長の会話を聞いていたんだが……本当に…本当に良い度胸をしている」

 

そして仮面の奥にある眼光を赤く光らせながら喋った。

 

「お前たちはこのアインズ・ウール・ゴウンが、そして我が盟友がわざわざ手間をかけて救ってやった村人たちを殺すと公言していたな。これほど不快なことがあるものか…!」

 

その言葉の後に何かが飛んでくるような音が聞こえ、ニグン達は上を向いた。

 

「な、なんだあれは?」

 

部下の誰かが呟いた。

黒い大きな鳥のような物体がこちらに向って急降下してきたのだ。

 

「<変形/トランスフォーム>」

 

そしてズドン! という音と共に砂埃が舞い上がった。

 

「うおっほぉうっ!? あ、やば…じ、実に良いタイミングだぞ! マシンナーよ!」

「黒い力を 正義に変えて 灯せ悪への赤信号! マシンナー、声援受けて只今見参!」

 

砂埃が晴れた後に落ちてきた中心には黒いゴーレムのような存在と、奇妙なメイド服の女、そして紅い鎧を纏った少年が現れた。

突然降ってきたゴーレムに親しげに話しだした魔法詠唱者達。六色聖典の一つ、陽光聖典である我々を前に雑談を始めている。

ニグンはこの者達に嫌な予感がしてならなかったが、現状此方の戦力のが圧倒的に上回っている事実。即座に天使を集結させ、防御陣形をとった。

 

「ドーモ、スレイン法国の皆さん、マシンナー=デス」

「なんだその挨拶の仕方は?」

「戦の前の挨拶だそうだ…奥ゆかしいだろう?」

(なんだあれは…第一喋るゴーレムなんて聞いたことがない!)

 

ニグン達は愕然としていた。飛んできた物の正体は黒いゴーレムのようなものだった。

しかしそれは土で出来ておらず、未知の黒い金属で身体を構成されていた。

血のように紅い線は人間の血管のように見えて、不気味だった。

しかもアインズに対して親しげに会話をしているが、目はこちらを向いており、その瞳からは凄まじい威圧感を出している。

その姿にニグンはゴクリ、と生唾を飲み込んだ。

 

「それで先程の取引の話だが、内容は抵抗する事無く命を差し出せ、そうすれば苦痛無く死を与えよう。 

抵抗すれば……」

「て、天使達を突撃させよ! こちらに近づけさせるな!!」

 

ニグンは半ば悲鳴のような号令をあげながら天使達を突撃させる。

 

「やれやれ、まだ言い終わってないというのに…」

「なら下がってろ、俺が殺る…」

「そうか、命令(オーダー)だマシンナー、薙ぎ払え…」

「イエスマイロード…」

 

突撃してくる天使達が剣を突きだし、アインズとマシンナーを刺し殺そうとした……。

 

その瞬間……

 

ドゴォオン!!?と地響きを起こし、凄まじい爆音が空気を切り裂きながら、衝撃波と共に一気にニグン達の身体を突き抜ける。体感した事のない音と衝撃波にその場に立っていられた者は居らず、皆吹き飛ばされていた。

すぐにニグンは立ち上がろうとするが、目眩と激しい耳鳴りでのたうち回り、直ぐには立てそうになかった。

 

「た、隊長! て、天使達が居ません! 消えています!」

「何故だ! 何故消えたっ!」

「分かりません! あの爆音と衝撃波で我々も……」

「ありえん! あれだけの天使が一瞬で消えるなんて……ありえんだろう!」

 

天使達を一撃で葬ったマシンナー。その肩に担いでいる大きく太いパイプのような大砲。全長ならばマシンナーの身長を軽く超え、実弾系の武器の中では最大、最強の威力を誇るグレネードキャノン……。

 

【超大型グレネードキャノン「OIGAMI」】

 

その威力は凄まじく、超大型のモンスターにもダメージを与えられる巨大なグレネードキャノン。

しかしその反面その反動と大きさで、狙いがつけづらく、なおかつ装弾数も少ないという欠点もあった。

しかしそれを補って余りある威力は凄まじく、マシンナーも気にいっている。

マシンナー曰く「こいつから発射されるのは榴弾ではなく、浪漫である」らしい。

 

「命中…敵天使殲滅確認…」

「流石はOIGAMI、素晴らしいな…」

「お見事でございます!」

 

シズが天使の殲滅を確認し、マシンナーは上機嫌でOIGAMIを褒める。

そしてアルティマは主人の戦果に素直に喜んでいた。

 

「流石だなマシンナーよ…」

「お見事でございます…マシンナー様」

 

アインズもパチパチと拍手をしていた。

そしてマシンナーが一歩前に出る。

 

「では交渉決裂だな…なら貴様らに…」

 

マシンナーはOIGAMIをアイテムボックスに戻し、代わりに斬艦刀を取り出す。

 

「貴様らを苦痛の中で神の世界への引導を渡してくれる!!」



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第20話 機械神(本気)VS最高位天使(笑)

ナザリックの機械神とスレイン法国が誇る最高位天使の手に汗握る戦いが今始まる!!
衝撃の決着を見逃すな!


「か…神の世界への引導だと…」

 

ニグンは驚愕していた。先程のあの数の天使が一瞬で葬られる光景に。ありえない、ありえないと……。

 

(あのゴーレムはなんだ? いやあいつらは何なんだ?)

 

数々の戦場を渡ってきたニグンは未だかつて感じた事のない恐怖を感じた。死の気配が身体の直ぐそばに在るかのような感覚。身体が震え、汗が無数に吹き出している。

 

「て、天使達を再召喚しろ! 四方から突撃させるのだ!」

 

「は、はい!」

 

天使達を再召喚し、ニグンは再びアインズ達に突撃させた。

 

「次は私がやろう、全員下がれ」

 

天使達が襲い掛かる中、アインズの冷静な声がニグンの下まで届いた。

四方八方から襲い掛かる天使たちによる攻撃が迫る中、ゴーレムと護衛達を下がらせるアインズ。

その命令に従って天使たちの包囲網からアインズ以外の者達が信じられない速度で飛び出した。

 

(バカな!なぜあの状態から逃げられる!?)

 

ニグンは再び驚愕する。

そして天使たちが唯一残ったアインズに殺到し、その刃を突き出す。

その前にアインズの魔法が発動した。

 

「砕け散るがいい。<負の爆裂/ネガティブ・バースト>!」

 

ズン、と黒い光の波動が発生した。

アインズを中心に発生した波動が周辺を飲みつくす。

一瞬でその波動は消え去った。しかし、その結果は…。

 

「馬鹿な!……あ!ありえない!!」

 

アインズに襲いかかろうとした全ての天使たちが吹き飛ばされていた。

その光景にニグンは唖然としていた。

そして再びアインズの周りに下がっていた者たちが集まった。

 

「流石は我らの統括だな…」

 

「なんという圧倒的な御力……流石はアインズ様で御座います!」

 

「ふふふ…そうおだてるな」

 

 

 

「な、何なんだ貴様等は!? 我々の天使を事も無げに一瞬で滅ぼす……そんな存在が今まで無名の筈がない! アインズ・ウール・ゴウン!貴様の本当の名を言え!!!」

 

「やれやれお前達の無知にはもう呆れ果てて物も言えんよ…それと確か無知で愚かと言ったか?まぁ、良い…己の愚かさを噛みしめながら…」

 

「死ね」

 

「〈監視の権天/プリンシパリティ・オブザベイション〉、奴らを殺せぇ!!」

 

ニグンの絶叫と共に動き出した天使の一体が光り輝く巨大なメイスを振りかぶり襲い掛かってくる。

 

(アレ動かすと確か効果が消える筈だが……)

 

(余裕が無くなってきたって事だろ、んじゃやりますか)

 

マシンナーはアインズの前に立ち塞がる。

人間の骨を粉々に粉砕することが可能な速度でマシンナーに振り下ろされる。

 

が……。

 

ズン!!!

 

「は?」

 

先程の轟音程ではないが、それでも凄まじい音と砂埃が響くと、目の前の監視の権天使が真っ二つに切り裂かれていた。

まるで薄い紙を切り裂くが如く綺麗に真っ二つになっていた。

如何に防御力に優れている天使だとしてもマシンナーの持つ神話級の武器、41式斬艦刀の前では圧倒的無力だった。

 

「汚物は消毒だな、〈獄炎/ヘルフレイム〉」

 

アインズの指先から黒い火が放たれる。しかしそれはとても小さな火だった。吹けば消えそうな程小さな火だが、その火が監視の権天使の身体に触れた瞬間、それは天使を焼き尽くす焔と化した。

そして呆気なくニグンの上位天使を焼却したのだ。

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

悲鳴のような声を上げながら魔法を乱射するニグン達。監視の権天使が、上位天使が簡単に葬られる様を見て正気を保てる者など居る筈が無い。ただ死にたくないという思いで呪文を叫び続けた。

 

(全部聞き覚えのある呪文ですね)

 

(えぇ、全部ユグドラシルの呪文で間違いないです)

 

(やっぱり他のプレイヤー達もこの世界に転移してるのか?)

 

(となるとプレイヤーが一番いる確率が高いのは今のところスレイン法国か…)

 

(というか炎の上位天使と監視の権天使がいる時点で確実ですね、にしても何でこんな低位の魔法や天使ばっかり使ってくるんだろう? 仮にも一国の特殊部隊なんだから熾天使級は覚悟してたんですがちょっと拍子抜けです…)

 

(取りあえずあいつらには聞きたいことが沢山ありますね)

 

(そうっすね、じゃあ反撃だな。ちょっと鬱陶しいし……)

 

「うわあぁぁぁ!」

 

錯乱した隊員の一人がスリングを取りだし礫を放った。魔法が全く効かない、しかも天使を容易く葬る相手に何の効果があるのだろうか? しかし残念ながら冷静な判断の出来る者などこの場に誰一人いない。ニグンすらその行為を止める事なく只見ているだけだった。放たれた鉄の弾はアインズとマシンナーの頭にまっすぐ飛んでいく。

 

ボォン!!

 

しかし大きな爆発音が周囲に響いた。

 

後ろに控えていたアルベドとアルティマとシズがアインズとマシンナーの前に立ちはだかっていた。アルベドは手に持ったバルディッシュを振り抜き礫を打ち返す、アルティマは両腕を大型の腕に変形させ、そこからビーム砲を二名の隊員に向けて発射し、シズは低い体勢からマシンナーから借りた武器の一つ、ハイパーバズーカを発射する。ドンッという音とそれから発射される弾頭、それらが礫を放った隊員とその周りにいた隊員の頭と身体を跡形も無く吹き飛ばしていた。

 

「な、何が起きた!?」

 

「分かりません! 我々も一体……」

 

 

「アルベド……私達があの程度の飛び道具で傷つく事は無い事は承知している筈だ。わざわざお前が……」

 

「アルティマ、シズ。弾とエネルギーの無駄だ、控えろ」

 

「申し訳ありません…でもあんな物…無礼すぎる…」

 

「シズの言うとおりです、マシンナー様。あのような飛び礫など論外です」

 

「全くその通りよアルティマ、シズ。至高の御方々と戦うのであれば最低限度の攻撃というものがございます。あのような飛礫……御二人に触れる価値すらありません」

 

「ふはは…三人共、それを言ったらあいつら全員失格じゃないか? なあアインズ?」

 

「はっはっはっ、全くその通りだなマシンナー」

 

アインズ達の会話にニグン達は心底恐怖した。そしてニグンは決意を固めた。懐にしまっている【最後の切り札】を使うしかない……と。

 

(もう、手段を選んでいる場合では無い…!!)

 

ニグンは決意を固めた。懐にしまっている【最後の切り札】を使うしかないと……。

 

「お、お前達! 最高位天使を召喚する!! 時間を稼げ!!!」

 

ニグンは部下達に指示を飛ばし、懐からクリスタルを取り出す。

 

「あれは魔封じの水晶か?」

 

「確かにあれは魔法封じの水晶だ。それに最高位天使だと? それにあの輝きは超位魔法以外を封じるものだ……」

 

「アインズ下がれ、俺が殺る…」

 

「待て、もしも熾天使級だったら……」

 

「それの備えも打ってある。アインズ、第八階層のアンヘルをすぐに呼び出せ。あいつの天使殺しの能力なら熾天使級でも問題はない」

 

「アルティマ、シズ、アルべドはアインズと自分の守備に徹しろ!」

 

「マ、マシンナー様! 何をおっしゃるんですか!!」

 

「そのような命令はアルは聞けません!!」

 

「そんな命令……聞け…ない!」

 

「命令だ! お前たちを死なせたくない!!」

 

「っ!……畏まりました」

 

「くっ…!」

 

「……っ」

 

アルティマ、シズ、アルべドの制止を振り切り、マシンナーは前に出る。

そして対魔法装備であるAMCマントを解除した。

己の切り札を使う為に…

 

「コード:デウス=エクス=マキナ……」

 

その言葉を発した瞬間、マシンナーが身に着けている全ての装備が変形を始める。

四肢が一回り大きくなり、両腕にはそれぞれ大型の剣とビーム砲を装備していた。後ろの翼も展開され、金色の粒子を放出している。体にも金色のラインが入り、顔の角は2本から5本に増えていた。

 

「スキル<リミッター解除>、<パワーボンド>、<EXAMシステム>、<HEADES>、<明鏡止水>…」

 

更に自身を強化する全てのスキルを発動する。

全て発動し終わった後、マシンナーの全身から凄まじい覇気が放出される。

 

「来い、粉微塵に貴様らの希望を破壊してやる……」

 

マシンナーがニグン達の方に顔を向ける。ニグンも自身の切り札を出現させていた。

それは光り輝く翼の集合体。翼の間から伸びる手には王権の象徴たる笏が握られている。

しかしその天使には頭も足も無い。異様な外見ではあるが、聖なる存在である事は誰もが感じていた。

 

「見るが良い!!……この尊き姿を! 威光の主天使!!」

 

その姿を前にニグンは感情を抑えきれなかった。凄まじい怒号で叫んでいる。

その姿を見たマシンナーは……

 

「……は? 威光の主天使? は? なんかの冗談?」

 

マシンナーにとっては意外過ぎる相手だった。

彼自身は熾天使級が来るのを予想して、自身を強化するスキル総動員までしたのだ。

しかし相手はマシンナーにとって脅威のきょの字もない、威光の主天使を出してきたのだ。

しかもニグンはドヤ顔までしている。

 

「……俺はたかが威光の主天使如きに覚悟完了していたのか?……ふ、ふふふ…」

 

「アハハハ!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、アーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

壊れた人形のように狂ったように笑いを上げるマシンナー。

声の音量も大きくなったり、小さくなったりとバラバラになっていた。

 

「「「ひいぃぃぃ!!」」」

 

「マ、マシンナー?」

 

「マシンナー…様?」

 

「マ、マシンナー様?」

 

「っ……!!」

 

「…あ~…」

 

その光景に陽光聖典の隊員は怯え、アインズ達はマシンナーを驚きの目で見ていた。

一段落ついたのか、マシンナーは全身から煙を排出していた。

 

「……ここまでコケにされたのいつ以来かな…あ、るし★ふぁーの奴が俺が制作した戦車や戦闘機の色を全身ピンク色にして、♥マークをびっしりつけられた時以来だよな~、あの時はるし★ふぁー捕まえて、メイオウ攻撃を叩き込んだよな~あ~懐かしいな~…とまあ置いといて……」

 

マシンナーはニグン達を養豚場の豚を見るような目で見る。

そして……。

 

バカッとマシンナーの口が大きく開き…。

 

「オォォォォォォォォオォォォォォォォォォォォォォオォォォォオォォォォ!!」

 

どこぞの汎用人型決戦兵器の初号機の暴走のような雄たけびを上げ。

 

「茶番は終わりだ……!」

 

「塵も残さず「地獄」へ落ちるが良い! <聖なる極撃/ホーリースマイト>!」

 

怒号にも近い叫び声に威光の主天使は反応する。手に持った笏が弾けた直後、マシンナーに清浄なる光の柱が落下、直撃した青白い光の柱はマシンナーの巨躯を完全に包み、浄化をせんと一層輝きを増す。

 

しかし…

 

「地獄だと? 地獄なら目の前にあるじゃねえか?」

 

聖なる極撃を受けながら、マシンナーはニグンを睨む。

睨まれているニグンはマシンナーに恐怖した。

かつて魔神の一体を消滅させた、最高位天使の一撃を受けて尚、平然としている。

そしてこう思った。

 

(こいつは魔神じゃないのか?)

 

と…。

 

「俺達が…」

 

『『地 獄 だ !!』』

 

マシンナーがそう叫んだ時と同じタイミングでアインズも叫ぶ。

意外だったのか、マシンナーがアインズの方を向いたのだ。

 

(あれ? モモンガさんマジンカイザーSKL知ってたっけ?)

 

(何故だろう……言わなきゃいけないという使命感にかられてしまった…)

 

(まあ良いや、そろそろぶッ殺…)

 

「か、か、下等生物がぁぁぁ!!」

 

「こ…の…ゴミ屑共がぁぁぁ!!」

 

((あ))

 

アルべドは切れた。真の忠を捧げた者に対し牙を剥き、目の前で噛み付いている。守護者統括として見過ごせるものではない。本来ならば、至高の御方々に無礼な戯れ言を言った時点で極刑も同然。しかし、慈悲深き御方々は「手は出すな」と言う。その命に従い、耐えがたい罵詈雑言と無礼千万な態度も我慢してきたがもう駄目だ。

 

アルティマも同じだった。再び帰ってきた自身の創造主に、噛みついているニグン達(ゴミ)を許せる筈がない。

先日の村の調査でマシンナーを不快にさせた原因が奴らだとわかり、溶岩の如く沸騰している激情を抑えるのに必死だった。しかもその原因を作ったもの達は謝罪もせず、無礼な罵詈雑言を浴びせたのだ。

すぐにでもバラバラにしてやりたい。その思いをマシンナーの命令で抑えてきたがもう限界だ…!

 

「戦闘形態起動! アルティマ・レイ・フォース…目標を殲滅する!!」

「え?アルティマ?」

 

そう叫んだ後にアルティマの姿は変わっていった。

人形のような顔立ちから一変して、バイザーが下ろされ、そこからパーツが展開され仮面のように装着している。目の色はグリーンに変わっていた。

身体も大きく変わっており、マシンナーと同じ身長くらいになっている。

人のような外見から、兵器のような外観に変わる。

腕は細いが、両手は大きく、鉤爪のようになっている。

背中の紅い羽から緑色の光を出している。

 

そして変形が終わり、怒りに震え、バルディッシュを持ったアルべドと共に飛び出そうとした。

 

が……。

 

「ちょ、ちょっと待てシズ! その物騒な武器は何だ? 確か見た事あるぞソレ、確か<オーバード・ウェポン>の

<ヒュージ・キャノン>だったような…何でシズが持っている? いやそれより危ないよソレは! それは危ない!」

 

「ユニット…接続完了……」

 

「シ、シズ、シズ!? それは本当に洒落にならない代物だから! ねえ聞いてる!?」

 

「ロックオン完了…」

 

「シズ!?」

 

「シズ・デルタ……目標を狙い撃つ…!」

 

アインズの必死な制止を無視して躊躇なく引き金を引いた。

 

「「!?」」

 

いつの間にか装備していた、マシンナーから貸し出されていた武器の一つオーバード・ウェポンシリーズの<ヒュージ・キャノン>、それを身体に接続し、砲身を右手で持ち、威光の主天使に狙いを定めて発射した。

発射された「弾頭」が勢いよく飛んでいく。

アルティマとアルべドは素早くそれを回避した。

機械種のみしか使えない武装の中でも、当たれば一撃必殺の威力を叩きだせる武器シリーズ<オーバード・ウェポン>。

しかしその反面、一回の使用しか出来ないという制限がある。

しかしその威力は本物で、その力に惚れ込んで、確実に当てられるまで使いこなせるようになった猛者まで出てきて、その物たちは尊敬を込めて「ドミナント」と呼ばれたという…。

 

一方で出鼻を挫かれてしまったアルティマとアルベドは迷っていた。無礼千万の下等生物(ニグン達)に制裁を与えてやろうとしたらシズに先を越されたからだ。

 

(守護者統括としてアインズ様の命令不服従に対する罰を与えるべき…でも下等生物の行動や言動は不快極まりなかったわ。情状酌量の余地はある…。寧ろ、シズがやらなくても私やアルティマが殺っていたから難しい判断ね)

 

(アインズ様の命を背いたのは許されない事…でもシズがやらなくてもアルと統括殿が殺っていただろうし…う~ん…)

 

シズが放ったヒュージキャノンの弾頭は真っ直ぐ天使へと向かって飛んでいく。

 

「量子化…」

 

光の柱の中にいたマシンナーはそこから消え、それを見たニグンは怒号を上げる。

 

「おい! あの化け物はどこ行った!?」

 

「わ、わかりません! あ! あれを!」

 

隊員の指差す場所に向くと威光の主天使の後ろに消えたと思われたマシンナーが現れたのだ。

そして威光の主天使の翼を掴み、向ってくる弾頭の方に無造作に投げ飛ばした。

 

「吹き飛ぶが良い!…デストラクション……」

 

そして左手のビーム砲、シュバルツ・カノーネ・ギガにエネルギーをチャージする。

その砲塔には巨大な紅い光が出現していた。

 

「オーバ・キャノン!!」

 

凄まじい速さで発射された巨大な光弾は威光の主天使に向っていく。

そしてシズが撃ったヒュージキャノンの弾頭と威光の主天使を挟み込む形でぶつかり……。

 

カッ! ドオォオオオオン!!

 

凄まじい爆音と爆風が巻き起こる。砂埃が少しずつ晴れ、周囲の状況が確認出来るまでになっていった。

 

「あ……あ、天使が…天使がぁ!」

 

尻餅を付き、失禁をした隊員が前を指差しながら叫んでいる。

彼らの切り札だった威光の主天使は塵一つ残さず消滅していた。

 

そして……。

 

「全く…手こずらせおって」

 

ズゥンとニグン達の目の前に着陸したマシンナーはゆっくりと近づいていく。

 

「く、来るなぁ!…こ、こ、この魔神がぁ!!」

 

「は?」

 

喧しく喚くニグンの首をマシンナーは掴み、持ち上げる。

そして隊員達を一瞥し。

 

「妙な真似はするなよ? こいつの首を握りつぶすぞ?」

 

そう警告しなくても、最高位天使を簡単に葬る相手に対して下手な行動など出来るわけがない。

ニグンと隊員達の頭の中は恐怖で埋め尽くされていた。

 

「全く…さっきから聞いてれば俺をゴーレムだゴーレムだって呼びやがって、挙句の果てには魔神だ?」

 

「いいか?俺は別に『鉄の城』でも『偉大な勇者』でも『魔神皇帝』でも『髑髏の魔神』でも…」

 

マシンナーは「髑髏の魔神」と言った後に言葉を区切り、後ろにいるモモンガの方を振り向き、じー、と見る。

 

「……」

 

「……どうした?」

 

「まあアインズは「髑髏の魔神」だが……」

 

「え?」

 

「俺は貴様らが言う魔神なのではない。勘違いしているようだから教えてやる。俺はな……」

 

 

 

 

機械神<デウス=エクス=マキナ>だよ………。

 

 

 

 

 




いや~威光の主天使は強敵でしたね~(棒)

なぜシズにオーバード・ウェポンを持たせたかって?
それは個人的にカッコイイと思ったからだ!!

アルティマの戦闘形態の外見はヴェルトール・イドと紅蓮聖天八極式を合体させた感じです。


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第21話 機械神の判決を下す……死だ!

前回のあらすじ

ニグン「この威光の主天使凄いよぉぉぉ!!」

前半は前回の話のマシンナー視点から始まります。


監視の権天使を瞬殺したらあいつらの隊長が懐から青い水晶を取り出した。

あれ確か見たことあるぞ、確か……。

 

「あれは魔封じの水晶か?」

 

「確かにあれは魔法封じの水晶だ。それに最高位天使だと? それにあの輝きは超位魔法以外を封じるものだ……」

 

となりゃあ熾天使級が出てくる可能性もあるって事か…なら。

 

「アインズ下がれ、俺が殺る…」

 

「待て、もしも熾天使級だったら……」

 

「それの備えも打ってある。アインズ、第八階層のアンヘルをすぐに呼び出せ。あいつの天使殺しの能力なら熾天使級でも問題はない」

 

熾天使級等を対処するために対天使に特化したスキルビルドのアンヘルならば問題は無い。

俺は時間稼ぎをしよう。

俺が倒れた場合を想定して、アル達をモモンガさんの守備に徹させるか。

 

「アルティマ、シズ、アルべドはアインズと自分の守備に徹しろ!」

 

「マ、マシンナー様! 何をおっしゃるんですか!!」

 

「そのような命令はアルは聞けません!!」

 

「そんな命令……聞け…ない!」

 

「命令だ! お前たちを死なせたくない!!」

 

「っ!……畏まりました」

 

「くっ…!」

 

「……っ」

 

アルティマ、シズ、アルべドの制止を振り切り、俺は前に出る。

そして対魔法装備であるAMCマントを解除した。

出し惜しみはしねえぞこの野郎……。

 

「コード:デウス=エクス=マキナ……」

 

切り札である、<コード:デウス=エクス=マキナ>を発動させ最終形態に変形する。

更に自身のステータスを強化するスキルを全て発動させる。

 

「スキル<リミッター解除>、<パワーボンド>、<EXAMシステム>、<HEADES>、<明鏡止水>…」

 

全てのスキルを発動させたからか、全身から粒子が放出している。

そして俺は一歩前に出た。

 

「来い、粉微塵に貴様らの希望を破壊してやる……」

 

どうやらあっちも自身の切り札を召喚したらしい。

相手の天使の外見を見ると、それは光り輝く翼の集合体。翼の間から伸びる手には王権の象徴たる笏が握られている。

しかしその天使には頭も足も無い。

ん?確かこいつは……。

 

「見るが良い!!……この尊き姿を! 威光の主天使!!」

 

切り札の天使を召喚したからか、滅茶苦茶興奮して凄まじい怒号で叫んでいる。

けどこれって……。

 

「……は? 威光の主天使? は? なんかの冗談?」

 

それは意外過ぎる相手だった。

俺自身は熾天使級が来るのを予想して、自身を強化するスキル総動員までしたんだ。

しかし肝心の相手は俺にとって脅威のきょの字もない威光の主天使を召喚してきたのだ。

しかもなんかドヤ顔までしている……。

 

あれ? なんか無性にイラついてきたぞ?

 

「……俺はたかが威光の主天使如きに覚悟完了していたのか?……ふ、ふふふ…」

 

「アハハハ!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、アーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

うんごめん、こいつら馬鹿にしてるとしか思えないわ。

あれだけ煽っといてのこいつらの最高戦力が威光の主天使って……。

うん覚悟完了していた自分が恥ずかしいは…。

 

「「「ひいぃぃぃ!!」」」

 

「マ、マシンナー?」

 

「マシンナー…様?」

 

「マ、マシンナー様?」

 

「っ……!!」

 

「…あ~…」

 

そして精神作用効果無効が発動され、強制的に鎮められる。

あ、まずいモモンガさん達ドン引きしてるよやっべぇ……。

どうするべきか……仕方ないこのまま貫こう。

 

「……ここまでコケにされたのいつ以来かな…あ、るし★ふぁーの奴が俺が制作した戦車や戦闘機の色を全身ピンク色にして、♥マークをびっしりつけられた時以来だよな~、あの時はるし★ふぁー捕まえて、メイオウ攻撃を叩き込んだよな~あ~懐かしいな~…とまあ置いといて……」

 

るし★ふぁーさんとの思い出を思い出しながらぶつくさ呟く俺。

傍から見れば変質者だが、これも演出だ演出。

 

そして口を大きく開き…。

 

「オォォォォォォォォオォォォォォォォォォォォォォオォォォォオォォォォ!!」

 

俺はどこぞの汎用人型決戦兵器の初号機の暴走のような雄たけびを上げた。

 

「茶番は終わりだ……!」

 

「塵も残さず「地獄」へ落ちるが良い!<聖なる極撃/ホーリースマイト>!」

 

威光の主天使から光の柱が落とされる。

でもこれ所詮第七位の魔法だから、俺のスキルでノーダメージなんだよね~。

それに俺の後ろにはお前らが信仰している神様なんぞよりかわいいシズ・デルタという女神が見ているんだよ!

惚れた女の前で無様な姿晒せるかぁ!!

 

そういやあのあの隊長、地獄っていったな。

ならこう返してやる。

 

「地獄だと? 地獄なら目の前にあるじゃねえか?」

 

隊長の顔を見ると、滅茶苦茶ビビッている。

 

「俺達が…」

 

『『地 獄 だ !!』』

 

俺が叫んだ時と同じタイミングでモモンガさんも何故か叫んでいた。

この意外な合いの手に俺はモモンガさんの方を向いた。

 

(あれ?モモンガさんマジンカイザーSKL知ってたっけ?)

 

(何故だろう……言わなきゃいけないという使命感にかられてしまった…)

 

(まあ良いや、そろそろぶッ殺…)

 

「か、か、下等生物がぁぁぁ!!」

 

「こ…の…ゴミ屑共がぁぁぁ!!」

 

((あ))

 

アルティマとアルべドの声が響く。

あ、これ完全に切れてますね。

 

「戦闘形態起動! アルティマ・レイ・フォース…目標を殲滅する!!」

「え? アルティマ?」

 

あ、これアルティマが本気形態になるパターンだわ。

後ろ振り向かんどこ、怖そうだし……。

 

「ちょ、ちょっと待てシズ! その物騒な武器は何だ? 確か見た事あるぞソレ、確か<オーバード・ウェポン>の

<ヒュージ・キャノン>だったような…何でシズが持っている? いやそれより危ないよソレは! それは危ない!」

 

え?

 

「ユニット…接続完了……」

 

「シ、シズ、シズ!? それは本当に洒落にならない代物だから! ねえ聞いてる!?」

 

「ロックオン完了…」

 

「シズ!?」

 

「シズ・デルタ……目標を狙い撃つ…!」

 

「「!?」」

 

マジかシズ! ヒュージキャノンはダメだ! こんな最高位天使(笑)にそんなの使っちゃだめだ!!

あ~これどうしよう。

このままシズにやらせるか…いやでもここからで一丁決めてやりたいし…う~ん。

しかしシズが撃ったヒュージキャノンの弾頭は威光の主天使に真っすぐ向っていく。

よしなら……。

 

「量子化…」

 

「おい! あの化け物はどこ行った!?」

 

「わ、わかりません! あ! あれを!」

 

俺は量子化を使い、威光の主天使の後ろに回り込む。

そして俺は威光の主天使の翼を掴み、迫ってくる弾頭めがけて投げ飛ばした。

そして俺が取った選択肢は……。

 

「吹き飛ぶが良い!…デストラクション……」

 

俺はシュバルツ・カノーネ・ギガにエネルギーをフルチャージ。

 

「オーバ・キャノン!!」

 

発射された光弾はそのまま威光の主天使に向っていく。

そしてシズが撃ったヒュージキャノンの弾頭と威光の主天使を挟み込む形でぶつかった。

 

そう俺が取った選択肢は……。

 

【合 体 技】だ……!!

 

「あ……あ、天使が…天使がぁ!」

 

尻餅を付き、なんか失禁をした隊員が前を指差しながらなんか叫んでいる。

まあ切り札だった最高位天使(笑)が塵一つ残さず消滅していたならそうなるか……。

 

さ~て。

 

「全く…手こずらせおって」

 

俺は隊長の目の前に着陸しゆっくりと近づいていく。

 

「く、来るなぁ!…こ、こ、この魔神がぁ!!」

 

「は?」

 

誰が魔神だよ? 誰がマジンガーだよ?

神は神でも俺は機械神だよ!

一応なんかされないようにこの隊長を人質に取ろう。

 

「妙な真似はするなよ? こいつの首を握りつぶすぞ?」

 

俺の言葉に部下たちはおとなしく従ってくれた。

うんうん、楽で助かる。

 

「全く…さっきから聞いてれば俺をゴーレムだゴーレムだって呼びやがって、挙句の果てには魔神だ?」

 

「いいか?俺は別に『鉄の城』でも『偉大な勇者』でも『魔神皇帝』でも『髑髏の魔神』でも…」

 

あ、でも「髑髏の魔神」はいるか、後ろに。

俺は後ろにいるモモンガの方を振り向き、じー、と見る。

 

「……」

 

「……どうした?」

 

「まあアインズは「髑髏の魔神」だが……」

 

「え?」

 

「俺は貴様らが言う魔神なのではない。勘違いしているようだから教えてやる。俺はな……」

 

 

 

 

機械神<デウス=エクス=マキナ>だよ………。

 

 

 

 

「機械神? な、なら貴方は神の一人なのでしょうか?」

 

すごく怯えた目で見てくる隊長。

……やっぱり機械神はいないのかな?

 

「なんだ? 神を信仰している国だと聞いたのに、機械神の伝承は無いのか?」

 

「知らない……! そんな神がいるなんて、私は知らないっ……!」

 

……どうやら本当にいないらしいな。

ま、村長の話じゃ機械種のモンスターなんか見たことも聞いたこともないって言ってたからな。

 

「な、なら何故…貴方は六大神ではなく、あんな奴らに従っているのです? あんな邪悪な奴らに……」

 

「あ?」

 

ちょっとムカついたので絞める力を強める。

すると「が……ぐ……」と言いながらジタバタともがく。

 

「いいか? 貴様らが信仰している神がどんな神かは知らん、だがな俺の目の前で……俺の友と仲間を侮辱するな…!」

 

「も、申し訳……!」

 

すると突如空間が割れ、それは瞬く間に元に戻った。

俺はモモンガさんの方を向いた。

 

「どうしたアインズ?」

 

「………どうやら、お前達を監視していた者が居たようだが、私の対情報系魔法が起動したようだ。それとマシンナー、そろそろそいつを離してやれ」

 

「イエス・サー」

 

俺はそいつを離してやる、離してもらった隊長はなんかはぁはぁ言っている…なんかキモい。

 

「……マシンナー(良かった、いつも通りだ)、ではお遊びはここまでといこうか?」

 

あれ? なんかホッとしてるぞ? もしかして本気で怒ったって勘違いしてるのか?

大丈夫、怒ってない、怒ってないから……!

 

「ちょ、ま、待ってほしい! アインズ・ウール・ゴウン殿……いや様ぁ!! 取引を! 私たち……いえ私だけで構いません!! 命を助けて下さるのならば、望む物を望むだけご用意します!!!」

 

あーらら、部下見捨てちゃったよコイツ。部下の皆さん絶望しきった顔しているじゃんか…。

 

(どうします?)

 

(取りあえず情報が必要なので捕虜にしちゃいましょう)

 

(了解です)

 

「……アルティマ、あの馬鹿共に説明してやれ」

 

「はっ!……貴様は至高の御二人の慈悲深きご提案を自ら拒否しておきながら無様に命乞いをしているのだけれど、そのような事が許されると思っているのか?」

 

「そ、それは! 大変申し訳なく……」

 

「それに貴様らは、既に4つの罪を犯している。一つ目は至高の御二人のご提案を拒否したこと。二つ目は至高の御二人に対する無礼極まりない暴言の数々。三つめは我が創造主マシンナー様に手を上げたこと。そして四つ目はマシンナー様を不快にさせた事だ。覚悟しろゴミ屑共、死ぬことの方が一億倍もマシだというくらいの苦しみを与えてやる……!」

 

大丈夫だよアルティマ俺そんなに怒ってないから、怒ってないからね?

 

「アルティマの言う通りよ。至高の御二人に死ねと言われれば、下等生物である貴方達は喜んで跪き、命を奪われる時を感謝しながら待つべきだったの…」

 

モモンガさんは嫉妬マスクを外して素顔(骸骨)を晒す。

 

「確かこうだったな?「無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けだ」……後は、何といったかな? なあマシンナー?」

 

「ああ、「苦痛無く殺してやる」だったな……だがこの部分を変えるか……」

 

そしてスレイン法国の特殊部隊、陽光聖典全員が恐怖で悲鳴を上げた。

 

 

 

 

あの後俺たちはスレイン法国の奴らをナザリック送りにした。

多分明日からニューロニストがヒャッハーしまくるだろうな……。

まあ取りあえず戦士長の容態を見るために、一旦村に帰ることにした。

 

戦士長達の様子を見に行ったのだが、体はボロボロでも眼は力強く輝いている。

うんうん、生きてなんぼだしな。

そしてモモンガさんと少し話をした後、俺の方を見てこう言った。

 

「ありがとう、マシンナー殿、貴殿がくれたこの刀のおかげで助かった」

 

「構わんさ、俺は戦士長のような人間は嫌いじゃない」

 

俺の言葉に戦士長は笑い、別れの言葉を口にしてくれた。「また会おう」、と言っていた。

出来れば次会う時は敵として会いたくないな……。

 

 

 

 

「申し訳…ありません…でした…」

 

あの後、ナザリックに戻り、アルティマとシズとアルべドに褒美をやろうと考え、玉座に呼んだのだがアルべドがシズの命令不服従に対する協議が始まった。

 

「シズ、貴女の行動は間違っていない。でもアインズ様の御命令を無視するのはプレアデスとして、許されるものではないわ」

 

「……どんな処分も…甘んじて…受けます」

 

「良い、良くやってくれたなシズ」

 

なんだか重苦しい雰囲気になっていたので俺はその雰囲気をデストロイしにかかる。

現場の判断ってのは大事だし、何よりシズを処分させるわけにはいかない。

 

「ですが、マシンナー様……」

 

「良いのだアルベド。シズとて悪気があった訳ではあるまい。シズの罪を私は許す」

 

 モモンガさんのこの一言で全ては片付いた。俺とモモンガさんは顔を見合わせると示し合わせたかの様に頷く。

 

「それにだ、シズ、俺の為にヒュージキャノンを撃ったんだろ?」

 

「……はい」

 

「……なら俺からも何も言わない、ありがとうシズ」

 

ナデナデ…

 

「……」

 

(……マシンナーさん?)

 

(………“あ”)

 

しまった!無意識にシズの頭撫でていた! 急いで俺は手を引っ込める。

 

「す…すまん」

 

「い…え」

 

やばいよやばいよ、凄い気まずいよ! しかもモモンガさんとアルティマとアルべドにも見られちゃったし!!

 

「おほん……では此度の件で厚い忠誠を示した三人には褒美がある。アルベドは私から、アルティマとシズにはマシンナーから褒美を渡す」

 

アルベドはモモンガさんから褒美を手渡され、身体を小刻みに震わせている。表情や佇まいに特に変わった様子は無い。今の所は……。

一方アルティマとシズは俺の前まで来ると深々とお辞儀した。そして、顔を戻すと、俺は二人の褒美を渡した。

 

「ガ…ガーベラ・ストレート…!」

 

アルティマに渡された刀は神器級にあたる武器だった。

その切れ味は数ある刀の中でも上位に入る程であり、入手方法もかなり難しい武器だった。

 

「それをお前に授ける、俺とモモンガさんの為にその力をこれからも振るってほしい……」

 

「は……はい! 生涯、アルの宝にします!」

 

そしてアルティマは背中に紐でガーベラ・ストレートを結び付けた。

なんか昔あった刀剣乱舞の蛍丸ってキャラみたいになったな…。

 

「シズにはこれを」

 

俺はズン、と巨大なボックスを取り出した。

 

「これ…は?」

 

「少し待っててくれ、パスワードを入力する」

 

俺はボックスにあるパスワード入力の為のキーボードに『CZ2128DELTA』と入力した。

ガシュン、とボックスが展開し。中からパワードスーツが出てきた。

両肩には巨大なキャノン砲とミサイルポッドが搭載しており、腕は太く、拳は殴れば岩くらい簡単に粉砕しそうな程頑丈そうだ。背部には大型のスラスターがあり、両足にはホバー用の装置とミサイルポッドが装備されている。

身体の中心には人が装着するスペースがある。

 

「多目的戦闘用強化外骨格NZ-CZ2128ジャガーノート、俺の最高傑作の一つだ……」

 

「…え?」

 

「こいつは近距離・中距離・遠距離用の武装がふんだんに内蔵されていてな、単純な火力ならこれ一つで一個師団を殲滅させる事ができる。装甲も頑丈だし、防御用の電磁シールドも装備されている。機動力も十分高い装備だ」

 

そしてシズ用に開発したパワードスーツである。

あと、自律AI機能も付いてるから、ジャガーノート単体で動かすこともできる。

 

「これを明日試運転しようと思う。マニュアルを渡しておく」

 

そして俺はシズにマニュアルを渡した。

 

「あ……ありが…ありが…とう…ございままま…」

 

「え?」

 

あれなんか煙出てないか?

嫌な予感が……。

 

ボッ!!

 

「え!」

 

「ぷしゅー……」

 

アイエエエエエエエ!?シズがショートしたー!?

 

「お、おいシズ大丈夫か!? おいアルティマ、すぐにリペアキットだ! あ、でもオーバーヒートの可能性も…!」

 

「「「マシンナー(様)!」」」

 

この後俺が落ち着くのに15分くらいかかったらしい………………。

 

…………………………死にたい。

 

 




マシンナーからもらったジャガーノートの外見は、忍殺のモーターツヨシやガンダム0083のデンドロビウム等を参考にしております。


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第22話 総隊長に相談

「……ん」

 

「良かった。シズ、目が覚めたのね」

 

「……ユリ姉」

 

ぱちりと目を開いたシズは、隣にいたユリ・アルファに気付く。

何故自分がこうなったか記憶をたどる。

 

(確か……マシンナー様から…ご褒美として自作の装備を頂いて……それ…から…)

 

確か至高の御方であるマシンナーから自作の装備を褒美として貰い、自分は気絶したのを思い出す。

 

(あ…あ……!)

 

シズは自分が演じた失態を思い出し、すぐさま立ち上がろうとしたところをユリに止められた。

 

「駄目よシズ、急に動いたら……」

 

「で…も…」

 

「いいから、今マシンナー様を呼んでくるよ」

 

「……え?」

 

ユリの言葉に驚きつつも、シズは何かに気付いたのか、辺りを見渡す。

数々の銃器や武器が保管されており、何かの装置のような機械まである。

それを見たシズはここが誰の部屋かを思いだし、ユリに尋ねる。

 

「ユリ姉……ここ…」

 

「うん、マシンナー様の部屋だよ」

 

「……!!」

 

「じゃあ今からマシンナー様を呼んでくるね」

 

「え?…待っ…」

 

マシンナーの部屋で就寝していたという事に混乱し、しかもユリがマシンナーを呼んでくるという事を聞いて更に混乱する。

そしてユリに連れられてマシンナーが入ってきた。

 

「起きたか。良かった……」

 

シズの顔を見て安堵したのか、胸をなでおろすマシンナー。

そして、ベッドの隣に二つ椅子を持ってくる。

 

「ほらユリも座れ」

 

「え? ですが…」

 

「いいから座れ」

 

「は…はい」

 

マシンナーの言葉に驚き躊躇しながらも、マシンナーに促され、出された椅子に座った。

 

「……申し訳……ありません」

 

「いや、気にするな、大事にならなくて良かった」

 

まあ、ショートした時は焦ったがな。と言われて、シズは慌てて寝台から起き上がって謝罪しようとしたが、それに驚いたマシンナーが制する。

 

「馬鹿、さっき起きたばっかりなんだ、無茶するな」

 

「ですが……」

 

「気にするなって言っただろ?」

 

「……」

 

先の失態を気にするなと言われるも、シズはどこか罪悪感があり、少しうつむいてしまう。

それを見たマシンナーは「じゃあこういうのはどうだ?」と言われ、シズは顔を上げる。

 

「今度俺のスキルの実験をするからそれを手伝ってほしい。それで今回の件は不問にする、それでいいか?」

 

「!ッ……はい」

 

マシンナーの提案にシズは深々と頭を下げた。

 

「ありがとう……ございます……」

 

「ん? ああいいさ、それと……」

 

マシンナーはアイテムボックスから冊子を取り出し、シズに渡した。

 

「ジャガーノートのマニュアルだ。ショートした時、渡せなかったからな、明日の試運転の為に読んどいてくれ」

 

「はい……」

 

 

 

 

あの後シズの体調が良くなったので、シズは職務に戻る事にした。

使っていたマシンナーのベッドもきちんと掃除をし、ユリと共にマシンナーの部屋から退出した。

退出する際、マシンナーから「また調子悪いと思ったら言ってくれ」と言っていた。

 

「ユリ姉…」

 

「なにシズ?」

 

「……聞きたいこと…ある」

 

「?」

 

「私が…ショートした時…マシンナー様が…直してくれた…の?」

 

「そうらしいよ? 僕がモモンガ様に玉座の間で呼ばれた時、マシンナー様が修復したらしいよ?」

 

「……え?」

 

「モモンガ様が「機械に関する知識と技術ならばマシンナーさんの右に出るものはいない」って言ってたわ、マシンナー様も「ショートした部分は修復したが、なんかあったら大変だから念のため俺の部屋のベッドに寝かせといてくれ」って」

 

「……!」

 

至高の御方であるマシンナーから修理をしてもらった事に驚くシズ。

表情は変わってないが、目は驚愕の色を出していた。

 

「だけどもう次は無いと考えなさい、マシンナー様に許してもらえても僕は許さないからね?」

 

「……うん」

 

(でもシズの気持ちもわかるな、マシンナー様から自作の装備を頂いたんだし……)

 

神にも等しい至高の御方から、御方自ら創作した装備を頂いたのだ。

普段感情の起伏が薄いシズでも喜びのあまりショートしてしまうのもわかる。

ユリは正直シズを羨ましく思った。

 

(それにしてもマシンナー様が自ら作った装備を褒美としてシズに授けるなんて…そういえばマシンナー様は以前からシズを気に掛ける素振りを見せてたような気が…)

 

以前からシズを気にかけており、時間があればシズの様子を窺いに立ち寄る事が多かったのをユリは思い出す。

 

(マシンナー様はシズの種族『自動人形』の最上位種『機械神』……これまでの行動、そして今回の事、まさか…いや、早合点はやめておこう……)

 

マシンナーの以前の行動と今回の事を合わせて、一つの「答え」にたどり着いたのだが、まだ確証を得られないため、あくまで「推測」として今は留めようと考えた。

 

「…ユリ姉?」

 

「あ、いや、何でもないよシズ」

 

「…そう」

 

 

 

 

シズとユリは第九階層のシモベ用の食堂に入っていく。

丁度夕飯時であるため、食堂には一般メイドのホムンクルス達とシズとユリを除いたプレアデスの面々がいた。

メイド達が楽しげに会話をしながら食事をとっている。

そこにシズとユリが入ってくるのを見た時、ルプスレギナが気付いてシズに手を振る。

 

「シズちゃん目覚めたんすか!」

 

「…うん、心配かけた…ごめん」

 

「でも、シズが気絶するって珍しいわね? まあ少しわかるような気がするけど…」

 

「至高の御方が作られた装備を頂けるなんてぇ、うらやましぃ」

 

「貰った…ここにある」

 

シズは右手にある銀色の腕時計型の端末を見せる。

端末には『NZ-CZ2128 Juggernaut』と彫られていた。

 

「おお! 見せてほしいっす!」

 

「私も気になるわ」

 

「見せて見せてぇ」

 

三人にねだられたシズは「…わかった」と言い、端末を操作する。

 

「ジャガーノート…スタンバイ…」

 

『イエス・マム』

 

「喋った!」

 

シズが着けている端末が喋った事に驚くルプスレギナ。

そしてシズの身体に迷彩色の重装甲の強化外骨格が装着される。

追加装甲を装着した腕の他に強化外骨格についていた大型の腕、足はミサイルポッドや固定用のアンカーが着けられている脚部のパーツを装備している。

顔には、フェイスガードが装備されていた。

無骨で堅牢なフォルムと全身の武装、そして両肩に装備している、大型のキャノン砲が武装の中でもっとも目立っていた。

 

「うぉー! シズちゃんかっけぇ!!」

 

「こ、これは…素敵!」

 

戦闘メイドだからだろうか、ジャガーノートを装着したシズの姿に大興奮していた。

 

 

 

 

「え~と…ここはこうでっと…アルティマ、モンキーレンチ出してくれ」

 

「どうぞ」

 

「サンキュ」

 

俺はアルティマと一緒に、あるマシンのフレームを制作していた。

一つは二足歩行の自動人形で、もう一つは一回り大きい四足歩行型だった。

 

「マシンナー様、この機体達は一体?」

 

「ああ、これか? ナザリックの警護用のマシンのフレームだ」

 

「ナザリックの?」

 

マシンナーの答えに驚くアルティマ。マシンナーは説明を続ける。

 

「我々は異世界に転移したのだ。知的生命体がこの世界にいる以上、昔のようにこそ泥が侵入してくる可能性がある。この二機はその為の道具だ、完成すればモモンガに見せた後、あの村にも配備させる予定でな」

 

「成程、さすがはマシンナー様です…それでこの機体のコードネームは?」

 

「ああ、この二機か? 『クライナーフォーゲル』と『シュピーネ』だ」

 

因みに意味はドイツ語で「小鳥」と「蜘蛛」ってことである。

 

「これで一段落ついたな…アルティマ、ありがとな」

 

「いえ、マシンナー様のシモベとして当然のことです」

 

「そうか、ならちょっと俺の軍団の総隊長として相談したい事があるんだが……」

 

「そんな! 相談といわず、ご命令してくれればいかようにも!」

 

「ああいや、まだ決まったことじゃないんだ。それにこれはモモンガにも相談する事なんだ」

 

「わ、わかりました。それでご相談とは?」

 

「ふむ、それはな…」

 

俺は一呼吸おいて答えた。

 

「この世界で我が軍団を動かそうと思う……」

 



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第23話 盛大な誤発注

「……!?」

 

アルティマが凄く驚いてる。無理もないか、俺の軍団とはいえそんな簡単に動かせるもんじゃないしな。

本来なら他の隊長達も呼んで相談するほうがいいんだが、「マキナ」の実質No.2であり総隊長であるアルティマに先に言ったほうがいいと思った。

 

「まあ…総軍を動かすと言うわけではない、今のところはな。今回はこの世界の情報収集の為、諜報部隊を組織しようと考えている」

 

「……」

 

アルティマが何だか考えている、戦力的には大丈夫な筈だけどな?

 

(……やっぱりあの夜のモモンガ様との会話は"本気"だったんだ。マシンナー様とモモンガ様は本気でこの世界を手中に収めようと…!)

 

あの夜の会話を聞いて、モモンガとマシンナーが今後何らかの大きな行動を起こすとは考えていたが、こうも早く考えを出すとは思っていなかった。しかもマシンナーの話を聞くと、いずれ『マキナ』全軍をこの世界に放つという事も視野に入れている。

 

(『この世界に我が軍団の名を轟かせる』…あの夜からもう貴方は考えていたのですねマシンナー様。流石は我が創造主…!)

 

「……アルティマ?」

 

「あ、申し訳ありませんマシンナー様、すぐに部隊編成を考えます」

 

「ん? ああいやまだ完全に決まったわけではないのだ、後でモモンガに相談をして、承諾を貰った後隊長達を招集して会議を開こうと思っている」

 

「は! 畏まりました…」

 

「うむ、後それから…ん? 『メッセージ』?モモンガか……」

 

『あ、マシンナーさん、今大丈夫ですか?』

 

『大丈夫っすよ、なんかあったんですか?』

 

『ええ…ちょっと相談が…』

 

『丁度よかった、俺もモモンガさんに相談したいことがあったんですよ』

 

『あ、そうですか。なら円卓の間で待ってます』

 

『了解、すぐ向かいます』

 

モモンガさんから相談か…いったいなんだろ?

アルティマへの相談はまだ途中だけど仕方ないか。

 

「話の途中ですまん。少しモモンガの所に行ってくる。続きは後で話す」

 

「いえ、お気遣いなく…」

 

「悪いな」

 

「いえ」

 

アルティマに謝罪した後俺は円卓の間に転移しにいった。

 

「さて…念のため諜報部隊の編成を考えとくかな?……確か特機兵団以外の部隊は探索スキル持ちが多かったような…」

 

来るべきマシンナーの目標の為にアルティマはプランを考え始めた。

 

 

 

 

俺が呼ばれたのは円卓の間。ここで話をするって事は、だいたい俺達の話になるだろう。

わざわざ呼ぶ上での事だから、何か大事な用事の可能性もある。

 

「来ましたよ~モモンガさん」

 

「いらっしゃいマシンナーさん」

 

モモンガさんは既に席に腰掛けてたので、俺もユグドラシル時代に座っていた席に座る。お互いの椅子の定位置を陣取ってる辺り、少し可笑しくなる。

 

「それにしてもどうしたんですか? いや、この場での話だから大事な話なのはわかりますけど」

 

「ハイ、これからの方針で話があるんですよ」

 

「一体何ですか?」

 

「はい……それは」

 

 

 

 

「アインズ・ウール・ゴウンの名前を世界に轟かせる…。面白そうっすねそれ!」

 

「でしょ!」

 

モモンガさんの目標はこの世界にアインズ・ウール・ゴウンの名を轟かせる事…、俺達のギルドはユグドラシル時代には色々と有名だったため、知らないプレイヤーの方が少ないだろう。

何かデカいことをこの世界でやればきっとこの世界のプレイヤーも集まってくるだろう。

 

「で、最初になにします?」

 

「実は冒険者になって旅に出ようと思うんです」

 

「ヴェイ!?」

 

モモンガさんの答えは俺の予想斜め上を超えていた。

確かに俺も外に繰り出して情報を集めようと諜報部隊を組織しようと考えたが、まさか頭であるモモンガさん自ら行くとは…。

 

「理由聞いていいっすか?」

 

「ええ…」

 

モモンガさんの理由は至ってシンプルだった。

ナザリックの外を自分自身の目で確かめたいとの事だ。

まあ確かに自分で見てわからないこともあるからな…。

しかし……。

 

「でも危険じゃないっすかね?」

 

「はい、ですので俺も含め外を調査する者には世界級アイテムを所持させた上で行動を起こしたいと思います」

 

「……マジか」

 

世界級アイテム…どれもこれもとち狂ったとしか思えない代物ばっかだ。

因みに我らアインズ・ウール・ゴウンは11個所持している。

そしてモモンガさんと俺も自分の世界級アイテムを持っている。

例えばモモンガさんの身体にある赤い球。

あれも世界級アイテムの一つだ。

 

「確かマシンナーさんもありましたよね? 確か『無限の核/アンリミテッド・コア』でしたよね?」

 

「ええ、そうです」

 

俺の身体に内蔵されている世界級アイテム、『無限の核/アンリミテッド・コア』、このアイテムはその名の通り無限とも言える莫大な量のエネルギーを生み出せる世界級アイテムで、燃費の激しい技を繰り出してもすぐに回復ができる。

更にそのエネルギーを技の威力に回すこともできるため、このアイテムから回されたエネルギーを使って大技を繰り出せばそれはそれは恐ろしい威力をたたき出す事もできる。

 

「あれ、本当に恐ろしいですよ。そのアイテムを使ってからのマシンナーさんの「最終兵器」をワールドエネミーにぶっ放した時、かわいそうに思えましたもん。なんですかあの洒落にならない威力?」

 

「あははは……」

 

過去のワールドエネミーと戦った時のことを思いだし思わず苦笑いする。

本当に洒落にならなかったからな。

 

「もちろん俺一人で行くわけではありません、誰か一人同行させようと思っています」

 

「う~む……」

 

俺は腕を組み思考を巡らせる。

何があるか分からないであろう外にモモンガさんが行く。やはり、止めたいのが本音だが……。

だがその危険に見合ったメリットも確かにある。

それに俺は人間に偽装できるスキルもある。

なら俺がやることは一つ。

 

「分かりました。そういう事なら、俺はモモンガさんの行動を精一杯サポートします」

 

「マシンナーさん…ありがとうございます!」

 

「でも条件があります」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「俺も冒険者として旅に出てもいいでしょうか?」

 

「え!?」

 

俺の出した条件にモモンガさんは驚いてる。

まあそりゃそうか。

 

「それはどうして?」

 

「理由は簡単です。二人の方が得られるメリットもあるし、それに互いに情報を持っていれば選択肢も広がります」

 

「マシンナーさん…」

 

「まあ…流石に二人一緒に出かける事はできません。守護者達も心配ですし、代わりばんこですが…」

 

「いえ、構いません」

 

「後もう一つお願いが」

 

「……?」

 

「俺の軍団から諜報部隊を組織してもいいでしょうか?」

 

「諜報部隊ですか……」

 

「はい、俺の軍団から探索に秀でたシモベを使い、それぞれの国や周辺の土地に送り込もうと考えてるんです」

 

「ですが…大丈夫ですかね? マシンナーさんの部隊は全員…」

 

「はい、全員機械種です。だから人間にそっくりなアンドロイド型や小型のドローンを使おうと思っています」

 

「う~ん…」

 

モモンガさんが考えこんでいる。無理もない、なんせこの世界には機械種がいないのだ。

俺やシズ等の存在はこの世界にとってオーバーテクノロジーである。

しかし、シズやアルティマのようなアンドロイド型や小型で機動力があるドローンならそう簡単には正体が露呈しないだろう。

 

「……わかりました、ですが出来るだけ少数にしてくださいね?」

 

「もちろんですよ、俺もそのつもりでしたし」

 

余り人数が多ければバレる確率も高くなるからな。

 

「後最後に1つ……」

 

「はい?」

 

「領域守護者の「ディアボロス」と「アンヘル」を俺の軍団の隊長を兼業させたいんですけど」

 

「理由は?」

 

「ディアボロスのスキルの眷属の生産能力を使って俺の軍団の兵力増強を。アンヘルはスレイン法国対策です」

 

「ああ、そういえばアイツら天使使ってましたね、そんなに強くなかったですけど……」

 

威光の主天使(笑)を最上位天使って呼ぶようなアホな連中だが、プレイヤーがいる可能性もある。

それに本物の最上位天使も持っている可能性もある。

 

「天使殺しとして生み出されたアンヘルなら仮に最上位天使を出されても大丈夫ですし、天使だったらほぼ無双状態ですしアイツ」

 

「わかりました、許可します」

 

「ありがとうございます、それじゃこれからアルティマ達を集めて軍団会議を……」

 

「あ、待って下さいマシンナーさん」

 

「ん?」

 

「これから一時間後に玉座の間にシモベを集めて今後の方針を発表しようと思うんです、後名前もモモンガからアインズに変えようと思うんです」

 

「あ~…確かにそっちの方が知れ渡りそうですもんね…」

 

「ええ…で、これからの流れですが……」

 

 

 

 

「という流れです。わかりました?」

 

「了解です」

 

「それじゃあ今からアルべドに<メッセージ>飛ばしますんで」

 

「うす」

 

 

 

 

モモンガさんはアルべドに<メッセージ>で玉座の間に集められるだけのシモベ達を集めた。

理由はモモンガさんが名前を変えた事と、これからの方針を皆の前で宣言する為だ。

俺とモモンガさんは豪華な玉座と椅子にふんぞり返っている。

 

「お前達、まず今回は私とマシンナーさんが勝手に動いた事を詫びよう」

 

「ちょっとフラストレーションが溜まってたのだ。心配したのなら謝罪しよう、すまなかった」

 

俺もモモンガさんもこれっぽっちも悪いと思っていない感じで集まった皆に謝る。

普通に謝ってしまえば俺達が皆の力を信頼していないと取られる可能性がある、あくまで今回は俺達の個人的な“わがまま”で外に出たという形にした方が皆の為に良いだろうと決めたからだ。

内心滅茶苦茶罪悪感あるけどな!

 

「我々に何があったのかは後でアルベドから聞くように。ただ、その中で一つだけ至急この場に居る皆、そしてナザリック地下大墳墓の者に伝えるべき事がある……」

 

「……私は名を変える」

 

「「「!?」」」

 

そりゃ驚くわな、いきなり最高責任者が名前を変えるって言いだすし。

でも、今後の目標に必要な事なのだ!

 

「これより私の名を呼ぶ時はアインズ・ウール・ゴウン……アインズと呼ぶが良い」

 

「「「…………!?」」」

 

「やはり、驚いてるな。まあ俺も最初モモンガ…いや“アインズ”のこの提案には最初は驚いた。だが別にアインズは本当の名を捨てたわけではない、これはこれからの目標に必要な事なのだ」

 

「お前達に訊く。私がこの名を名乗る事に異論がある者は立ってそれを示せ」

 

アインズさんの言葉に誰も異論を唱える者は居なかった。

内心はどう思っているのかは分からないが…。

 

それを代表するかのようにアルべドが声を上げる。

 

「御尊名伺いました。アインズ・ウール・ゴウン様、万歳! いと尊き御方、アインズ・ウール・ゴウン様、その盟友であらせられますマシンナー様、ナザリック地下大墳墓全ての者よりの絶対の忠誠を!!」

 

アルべドに続いて各守護者達が、モモンガさんの新たな名を称え、万歳の連呼が玉座の間に広がる。

 

「…良かったなアインズ」

 

「…ああ、ではこれからの我々の目標を伝えたいと思う。皆、聞いてほしい」

 

アインズさんの言葉に皆は即座に黙り、聞く姿勢に入った。

動き完璧すぎんだろ…。

 

「我らアインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説とせよ!!」

 

「我々がこの世界で為すべき事は“全ての英雄を塗りつぶす”!」

 

「我等より力ある者は搦め手で!」

 

「数多の部下を持つ魔法使いがいればそれ以外の手段でねじ伏せろ!!」

 

「アインズの…いや、我等が栄光のギルド、アインズ・ウール・ゴウンをこの世界のあらゆる生命体に知らない者がいない程にまで轟かせろ!!」

 

「この世界の全てに! 我々の力を知らしめるのだ!!」

 

アインズさんの宣言に皆は首を垂れ、神様に祈りを捧げているかのような感じだった。

 

(さぁ忙しくなるぞ!)

 

久しぶりにデカいことに取り組むことに俺は大きく心臓を高鳴らせた……。

 

 

 

 

アインズとマシンナー、二人が去った後の玉座の間は誰もが跪き、暫し無言であった。

だがその心中は自らの主達から受けた命令に対する喜びと熱気が渦巻いている。

 

「デミウルゴス、アルティマ、御二人とお話しした際の言葉を皆に…」

 

立ちあがったアルベドの声に、未だに頭を下げていた者達はようやく顔を上げた。

 

「畏まりました…」

 

「わかりました…」

 

マシンナーとアインズの大いなる目標に、二人の偉大さを再確認し、その目標に少しでも役に立てるという歓喜を抑えながらアルティマとデミウルゴスはアルベドの言葉に応える。

 

「アインズ様とマシンナー様が夜空をご覧になられた時ですが…………」

 

 

『この夜空を俺たちだけで独占するのは贅沢だな、もし他の皆が戻ってきたら、皆で分け合いたいものだな』

 

『なら世界征服でもしてみますか?この世界を手に入れれば、全てのこの宝石箱がナザリックや他の皆とも分け合えますよ?』

 

 

『ふふふ…それはおもしろいな。なら世界征服ついでに俺もこの世界で鋼の魂の名を世界に轟かせてやろう、アルティマ、お前はどう思う?』

 

『はっ、流石はマシンナー様でございます』

 

『今の御二人の言葉、私もアルティマもこの胸に刻み付けさせて頂きます……』

 

『ふふ…そうか』

 

この話を聞き終えた玉座に居る者達の瞳には強い決意の色が宿っていた。

主である至高の二人の目標をこの場に居る者全員が理解した事を確認し、アルベドは宣言する。

 

 

「各員、ナザリック地下大墳墓の最終目的はアインズ様とマシンナー様に宝石箱を…この世界をお渡しすることと知れ!」

 

「「「オオオォォォォ!!」」」

 

シモベたちの雄叫びは玉座の間に響き渡り、その本気の度合いを明白に示していた。

 

 

 

 

「………ん!?」

 

「どうしましたマシンナーさん?」

 

「いや、なんかあいつら盛大な勘違いをしている気がするような…」

 

「は?」

 



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第24話 シズ専用強化外骨格ジャガーノート

「……異常なし」

 

シズはもう既に何十回もしたであろうジャガーノートの点検をしていた。

シズが着けているマフラーと同じ柄の迷彩色のカラーリングを施された装甲には傷どころか埃一つ無かった。

シズはそれに満足して整備道具一式をしまう。本来至高の御方が作った装備を点検とはいえ一度分解する事を躊躇したが、マシンナーから「一応念のため点検しておいてくれ」と言われたので、万全の状態まで何十回も点検した。整備道具一式を収納している箱をアイテムボックスに入れようとした時、マシンナーから<メッセージ>が入った。

 

『シズ』

 

『はい……なんでしょうか?』

 

『今からジャガーノートのテストをしようと思うんだが、大丈夫か?』

 

『大丈夫…です…すぐにそちらに向かいます』

 

『わかった、俺の部屋で待っているぞ』

 

そこでメッセージが切れ、シズは身なりを整えてマシンナーの部屋に向かった。

 

 

 

 

俺がメッセージを切って暫く経ってシズが部屋に入ってきた。

 

「よく来たな」

 

「マシンナー様の命令より優先する命令…ない」

 

まあ、今のナザリックで二番目に偉いのは確かに俺だからな。

さてジャガーノートが実戦に耐えられるものかどうか確かめないとな。

いや、実際俺の装備の次につぎ込んだからな、ジャガーノート…。

でもなんかアクシデント起きてシズが危険な目にあったら、首をつるか、確実に切腹する自信がある。

 

「うむ、ありがとうシズ。では実験場所はナザリックから離れた場所にする、一応二グレドのスキルを使って丁度いい場所があったのでな」

 

本当は第六階層の闘技場で実験する予定だったんだけど、ジャガーノートは全身武器の塊と言ってもいい装備であり、武装を一斉発射すれば俺の火力に匹敵する威力も叩き出せる。この前の模擬戦で自分の火力を見て、闘技場を使うのをやめた。

 

「念のため聞くが、マニュアルは読んだか?」

 

「5回程……読み返した」

 

(マジか、作った俺が言うのもアレだけどそれなりの枚数あったぞ?)

 

もしかして読みにくかったか? それなりに丁寧に書いたんだけど…。

 

「……もしかして読みにくかったか?」

 

俺の質問にシズは首を横に振った。

 

「……とても読みやすかった」

 

「そうか(ほっ)、いや、本格的なマニュアル作ったのはあれが初めてだったのでな、不備が無くて良かった」

 

内心ホッとしながらハハハ、と笑いながら頭を掻く俺であった。

 

 

 

 

俺とシズは実験場所に選んだ場所に行き、シズにジャガーノートを装着させる前にシズに今回のテストの流れを言う。

 

「シズ、今回のテストの流れを言うぞ」

 

「…はい」

 

「うむ、まずはジャガーノートの基本動作を一通りやり、次に兵装の試し撃ち、最後に俺のスキルで召喚した機械種との実戦だ、良いな?」

 

「…はい」

 

「良し、装着しろ」

 

「…はい」

 

そういうとシズは端末状態のジャガーノートを構える。

 

「ジャガーノート…起動…」

 

「イエス・マム…」

 

そして僅か0.1秒でシズにジャガーノートが装着された。

シズがいつも身に着けているマフラーと同じ迷彩の装甲、シズの顔を保護するバイザー兼複合センサー、無骨ながらも重厚な外骨格の腕、ミサイルポッドや固定用のアンカーが内蔵されて脚部、そしてジャガーノートの最も特徴的な武装、肩に装着されている大型キャノン砲「シヴァ」。

無骨な強化外骨格をシズのような美少女が纏う。これだけでもかなりの浪漫だが、俺の最高傑作の一つをシズが纏ってくれた事に、内心感動していた。

そして何より……。

 

「……美しい」

 

美少女のシズとメカチックな兵器のジャガーノートのアンバランスさが俺にはたまらなく素晴らしいと思った。

 

「……え?」

 

「あ!いや、な、何でもない! 気にするな…」

 

「……は、は…い」

 

何声に出してんだ俺は…、やばいどうしよう……。と、取りあえずテストを続けよう、気まずいが……。

 

「じゃ、じゃあ…基本動作のテストをしようか」

 

「…はい」

 

若干気まずい思いをしながらも、俺はシズに基本動作をするように命ずる。

強化外骨格の装甲で覆われた手足をいつもと変わらない速さで動かし、外骨格の大型アームもシズの思い通りに動いている。

 

「よし、次は武装のテストだ、今から的を作るから俺が言った武装を使え」

 

「…はい」

 

俺はスキルを使い鉄くずから案山子を複数作り出した。

 

「シズ、まずは大型アームのガトリング砲を使え」

 

「…了解」

 

俺の指令にシズはジャガーノート大型アームに7銃身のガトリング砲が装着される。

口径は30㎜、かつて実在した攻撃機A-10サンダーボルトⅡのGAU-8アヴェンジャーをモデルにしたのだ。

 

「ロック…完了…」

 

「よし、撃て」

 

「…ファイア」

 

ヴウゥゥゥウン!と轟音を上げ、砂埃が上がる。そして10秒経った後俺は「撃ち方やめ!」と言い、シズに攻撃を止めさせる。砂煙がやみ、その結果に唖然とした。

 

(……全部の案山子が粉微塵にされとる)

 

一応十体ぐらいいたと思うんだが、それを十秒で跡形も粉微塵にするとは思わなかった……。

恐るべしアヴェンジャー、恐るべしA-10神、そしてこれの開発に携わったルーデル閣下マジ破壊神…。

そして全ての案山子を粉微塵にしたシズは超カッコいい!

 

「…マシンナー様?」

 

「いや、何でもない…素晴らしかったぞ」

 

「!?……ありがとうございます」

 

「よし、この調子で行こう次はミサイルだ、弾頭の種類はジェリコ」

 

「…了解」

 

俺は再びスキルを使い、小型の空中用ドローンを大量に出現させる。

 

「ロック…完了」

 

ジャガーノートの肩と脚部のミサイルポッドが展開される。

 

「よし、やれ」

 

「…ファイア」

 

展開されたミサイルポッドから一斉にミサイルが発射される、そして発射された弾頭が割れ、中から多くの小型ミサイルが発射され、小型のドローンを次々と落としていった。

 

「よし、次はシヴァのテストだ」

 

「…了解」

 

「じゃあ、ちょっと待っててくれ、少々大型の的を出すから」

 

「…わかりました」

 

俺はアイテムボックスから、少し大きい金属の塊を出した。

それを今までの召喚と同じ要領でモンスターを生み出す。

 

「『アイアンウォール・ガードナー/鉄壁の守衛』起動!」

 

金属の塊から重装甲で覆われたコキュートスサイズの巨体、俺の体を覆えるぐらいの巨大なシールドを装備した機械種、「アイアンウォール・ガードナー」を二体呼び出す。

こいつは壁モンスターとしては優秀な防御力を持っており、ある程度の魔法ならば喰らっても逆に跳ね返すカウンタースキルも持っているのがこいつの良いところだ。

……まあジャガーノートには魔法を使った武器無いけどね。

え? 別に普通の的でいいんじゃないかって? さっきまで使っていた案山子やドローンで良いんじゃないかって?

いや俺も最初そう思ったんだが、今までのジャガーノートの武装見て、ジャガーノートの武装の中で最高クラスの威力を持っている武器の一つである『シヴァ』の威力は絶対に恐ろしい威力をたたき出すのは確実だと思って、防御力に特化したLv50のモンスター、アイアンウォール・ガードナーを呼んだのだ。

 

「結構堅いが、シヴァの威力なら造作もない、遠慮なくぶち抜いてやれ」

 

「…了解…ロック…完了」

 

ジャコン…とジャガーノートの大型キャノン砲「シヴァ」をアイアンウォール・ガードナーに向ける。

 

「良し、撃て!」

 

「……ファイア」

 

ドゴォォォン!!?

 

(え?)

 

先程より凄まじい轟音と砂煙が上がる。そして徐々に煙が晴れていき、その光景に俺は驚いた。

 

(小さいクレーターが出来ちゃってるし!?)

 

アイアンウォール・ガードナーは無残に砕け散っており、そして着弾した場所は、小さいクレーターになっていた。

 

(マジか、予想以上の破壊力だぞおい…)

 

俺は自分が作った装備の恐ろしさを改めて思い知ったのだった…。

でもいつまでも呆けるわけにもいかない、すぐに実戦テストに取り組むことにした。

 

「シズ、最後に実戦テストをする、いいか?」

 

「いつでも…大丈夫…です」

 

俺は鉄くずを多めに持ち、空中高く放り上げる。

そして複数の機械種を召喚した。

 

「『マシン・トルーパー』『ガトリング・オーガ』『アイアンウォール・ガードナー』『クラッシュ・アーム』起動!」

 

鉄くずが凄まじい速さで俺が召喚したモンスターの体を形成していく。

 

緑色の装甲で覆われ、モノアイを光らせるマシントルーパー。

青い重装甲と大型のガトリングガンを装備し、鬼のような一本角をつけたガトリング・オーガ。

先程召喚した大型のシールドを装備したアイアンウォール・ガードナー。

そして丸太の如く太い両腕を持ったクラッシュ・アームが召喚された。

 

「よし、殺れ、シズ」

 

「……了解」

 

シズがゆっくりと動き出す。それに合わせてマシントルーパーとクラッシュ・アームが動き出し、ガトリング・オーガが援護射撃を開始する。それを守るようにアイアンウォール・ガードナーがオーガの前に出た。

シズに向ってガトリングガンの弾丸が襲い掛かる。

 

「……シールド展開」

 

ブゥゥゥン、と音がなると、シズの周りに不可視のシールドが張られ、弾丸を跳ね返した。

 

「……!」

 

ガトリング・オーガは驚いたような反応をする。しかしマシントルーパーとクラッシュ・アームがシズに接近していた。マシントルーパーは左手に装備したガトリングガンを発砲するが、先程と同じようにシールドで跳ね返される。それを見たマシントルーパーは右手のヒートブレードの刀身を赤熱化させ、シズに襲い掛かった。

 

「……エナジーブレード展開」

 

大型アームに大型のブレードが展開され、マシントルーパーのヒートブレードを受け止める。

そのままシズは腕を腰に装着されている銃剣付き2連装ビームライフルをマシントルーパーに向けて発砲し撃破した。

 

「……一体撃破」

 

遅れてクラッシュ・アームがその剛腕で殴りかかってきたが、ジャガーノートの大型アームがそれを受け止める。

 

「……ふん」

 

グシャア!とそのまま握り潰した。

 

「……アームパンチ」

 

そのまま腕を思いっきり振りかぶりクラッシュ・アームの胴体に叩き込み、シリンダーのようにアームが高速で伸び、そのまま貫いた。

そのまま残りの二体にシヴァを向ける。

 

「……これで終わり」

 

そういうとシズは腰に装着されている銃剣付き2連装ビームライフル二丁を連結させ、大型アームにガトリング砲と掌部に付いているビーム砲をチャージし、更に肩と脚部のミサイルポッドを展開させる。

 

「…………レッツ・パーリィ」

 

(メタルウルフ!?)

 

某大統領の名言?を言って、シズはジャガーノートの全武装を展開、一斉発射した。

 

ズドドドォォォン!!!

 

さっきの砂煙より遥かに大きい爆風と砂煙、そして轟音が響き渡った………。

 

 

 

 

「……まさかあんな威力をたたき出すとはな」

 

砂煙が晴れると、目の前には多くの木々が薙ぎ倒され、地面も大きくえぐられており、未だにブスブスと煙を上げている。

 

「…………」

 

シズも少し驚いている表情をしている。

まああんな火力を叩き込んだからな。

 

「……うむこれでテスト終了だ、よくやったなシズ」

 

「……ありがとうございます」

 

「うん、いい結果を出してくれたし、なんか褒美をやろう、何がいい?」

 

「そ、そんな……褒美なんて…」

 

「遠慮するな、なんなら俺の銃のコレクションから一つやるぞ?」

 

銃は集めて楽しいコレクションじゃないって盟主王も言ってましたもんね、あ、アレは核弾頭か。

 

「……あ、あの」

 

「ん?」

 

「……あ、頭」

 

「……?」

 

「……頭を…また、撫でてくれませんか?」

 

「……え?」

 

意外なリクエストに俺は驚く。

え? 良いの? 本当に良いの? いや俺としては逆にこっちが頼みたいくらいのリクエストなんですけど?

 

「……い、良いのか? それで?」

 

「……はい」

 

「そ、そうか…なら…いくぞ?」

 

「…はい」

 

俺はおそるおそるシズの頭に触れる。え? この前普通にやってたじゃないかって? あ、あれは無意識だったから…、え? そっちの方が罪深い? うるせぇよ!?

 

なでなでなで……。

 

「……(なんか…なんか良い匂いが!)」

 

「……ん」

 

それから数十秒くらい俺はシズの頭を撫でた。

 

 

 

 

「……ありがとうございます」

 

「いや、良いさこれぐらい、俺にとってもうれしいリクエストだったし…」

 

「…………え!?」

 

うぉぉぉおい!! また何言ってんだ俺!

 

「さ、さぁ早く帰るか、いくぞシズ」

 

「は…はい」

 

こうして俺達はナザリックに戻っていった。



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第25話 シズの初めての気持ち

スーパーロボット大戦OGの新作がついに発売しましたね!
作者が好きなエクスバインボクサーが再び…!


「て事になりました…」

 

「……マジですか」

 

俺は先程まで行っていたジャガーノートの試運転の報告をしていた。

報告を終えた後俺はアインズさんが使っている机にディスプレイとBDレコーダーを置き、レコーダーに俺はディスクを設置する。それを見たアインズさんは疑問に思ったのか俺に問いかけてきた。

 

「マシンナーさん、そのディスクは?」

 

「あ、これですか? ジャガーノートの実際の戦闘映像ですよ、一回見てもらった方が良いなと思って」

 

「成程、確かに実際に見た方がいいですね」

 

「ありがとうございます、では再生っと」

 

モモンガさんの許可を貰い、俺はレコーダーの再生ボタンを押し、ディスクを再生させる。

シズが装着しているジャガーノートの武装やモンスターとの戦闘映像が次々と映し出されていく。

 

「……凄いですね」

 

「でしょ? 俺が作った装備の中でも最高傑作の一つですからね、データがある程度溜まったらバージョンアップさせる予定です」

 

「改良するんですか?」

 

「ええ、更に完成度を上げるつもりですよ」

 

「そうですか、あれ?」

 

「?……どうしました?」

 

「戦闘試験が終わった後も映像が続いてるんですけど?」

 

「………え?」

 

俺は映像が続いてる事に驚く、運用試験用に用意されたカメラを切り忘れたのかな?

そう考えてると俺の声が聞こえてきた。

 

『なんか褒美をやろう、何がいい?』

 

『そ、そんな……褒美なんて』

 

……………………………え?

 

『遠慮するな、なんなら俺の銃のコレクションから一つやるぞ?』

 

……………………………まさか。

 

『……あ、あの』

 

「アインズさん、それ消して!!?」

 

「え!? 急にどうしたんで……」

 

俺は急いでアインズさんを止めようとしたが、時すでに遅し。

 

『……頭を…また、撫でてくれませんか?』

 

『……え?』

 

「……え?」

 

「うわああああああああああああああああ!!!???」

 

そう俺がシズの頭を撫でた映像が記録されていたのだ!!!

しかも撮影に使ったカメラは俺の頭部に外付けされていたのでカメラの目線は俺の目線とほぼ同じなのである!!

 

「え?……え?」

 

「ちょ! アインズさん後生ですから消してください、お願いします!!?」

 

精神異常無効のスキルが発動しながらも俺は必死でアインズさんに映像を止めるよう言うが、アインズさんは顎が「ぱかっ」と開いて豆鉄砲を喰らったような顔をしている。

結局俺がシズの頭を撫でた一部始終はアインズさんに見られてしまったのである。

 

「……えっと」

 

「………………」

 

そして俺とアインズさんに微妙な雰囲気になってしまった、……映像を確認しなかった俺が悪いんだけど。

 

「……あの、マシンナーさん」

 

「……なんすか?」

 

「……と、取りあえず一歩前進しましたね?」

 

「お願いします、忘れてください。マジでお願いします」

 

「……すみません」

 

「いや、こっちこそすみません、俺の自業自得なのに…ハ、ハハハ……」

 

「ちょ、マシンナーさん、しっかりしてください! 装甲の色が灰色になっていますよ!?」

 

俺は体を灰色に変色させて項垂れていたのをアインズさんは凄く慌ててフォローしてくれた。

その後、俺の部隊の事で少し話し合い、試作している警備ロボの開発も条件付きで許可してくれた。

因みに後で気づいたのだがディスプレイのリモコンを使ってさっきの映像止めれば良かったというのを思い出し、またもや俺の装甲はフェイズシフトダウンしてしまった。

 

 

 

 

アインズさんとの会話を終えた後俺は自分の部屋に戻っており、さっきの映像の編集に取り掛かっていた。

手違いで誰かに見られてしまっては、今度こそ俺は拳銃自殺しかねない。

 

「……まさかカメラがまだ動いてたとは」

 

はぁ…、とため息と共に頭を押さえながら、俺は問題の場面を消去しにかかる。

 

「……なんか勿体無い気もするけど、しょうがないよな」

 

俺はシズの頭を撫でた方の手を見つめる。

 

「……撫で心地最高だったな、後なんか良い匂いしたし……」

 

って何言ってんだ俺は、これじゃ変態じゃないか、お巡りさん俺です。

ガン、と机に頭を下す。

 

「はあ、次はちゃんと確認しねえと……」

 

そんなことを考えながら、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

 

「アルティマです。マシンナー様に見てもらいたい資料があるんですが」

 

「んん…、アルティマか入れ」

 

「はい、失礼します」

 

がちゃりとアルティマは扉を開き、綺麗な一礼をして入ってきた。

 

(さて、気持ちを切り替えてお仕事お仕事っと)

 

そして俺は気持ちを切り替え、仕事モードに入り、アルティマに向き合った。

 

 

 

 

「………………」

 

ジャガーノートの運転試験を終えたシズはマシンナーの部屋まで歩いていった。

マシンナー専属のメイドとして少しでも主の為に尽くしたい為だ。

 

「………………」

 

マシンナーの部屋の扉の前まで来た、後は何時も通り扉をノックするだけである。しかし…。

 

ドクン……。

 

(……っ、また…だ)

 

急に来た胸の高鳴りに、シズは胸に手を当てる。

ここ最近彼女はどういう訳か急に胸が高鳴ってしまう。

昔だったらこんな事は起こらなかった。

しかしここ最近ある時に起こってしまう。

そのある時とは。

 

(ただ……マシンナー様の部屋に入るだけ…なのに)

 

そう、そのある時とはマシンナーと会う時だった。

 

始まりはマシンナーがナザリックに帰還した時に初めてマシンナーと会話をした時だ。

最初は気にも留めてなかったが、次第に高鳴る時が多くなっていき、マシンナーと会う度に高鳴ってしまうまでになってしまった。

 

(なんだろう…これ?)

 

自分の頭の中の演算装置をフル稼働させても全く出てこない、こんな事は初めてだった。

 

(…ユリ姉に相談した方が…良いの…かな?)

 

そう考えている内に扉の注意が消えていたのか、「ガチャリ」と扉が開いた。

 

「……あ」

 

「ん? シズか」

 

扉から出てきたのはマシンナーであった。

 

「……っ」

 

ドクン…ドクン…ドクン…。

 

(……また)

 

「……シズ?」

 

「あ、……いえ、大丈夫…です」

 

「そうか?、なんか一瞬調子が悪そうに見えたんだが?」

 

「!……大丈夫…です」

 

「そうか、だが調子が悪い時はすぐに言えよ?」

 

「……はい」

 

「あ、これから試作している警備ロボの調整に行ってくるから、少し留守にする」

 

「警備…ロボ?」

 

シズがカクン、と顔を傾ける。

 

「(可愛いな……)ああ、ナザリックの警備用の機体だ、まあまだ試作段階なんだがな」

 

「……」

 

警備ロボの言葉にシズは興味を持った。

ナザリックの新しい戦力になるかもしれない機械種と至高の御方が作っているものという物だけでも興味がある。

 

「シズも来るか?」

 

「……え?」

 

「いや、まだ試作段階だから、色々と意見が欲しいんだよ、どうかな?」

 

もちろんシズには断る理由はない。

コクリと頷いた。

 

「喜んで……」

 

「そうか、ありがとよ」

 

そしてマシンナーとシズは第六階層の『機械の楽園』に向かった。

 

 

 

 

『機械の楽園』のマシンナーの研究室に入った俺とシズ。

そして製造中の試作品2体を目にした。

一体は逆関節の足をしており、背丈も人間の成人男性より一回り大きい程度だ。

もう一体は蜘蛛のように足が八本になっておりそのうちの前脚二本は蟹のような鋏になっている。

その蜘蛛のような身体の上に人間の上半身のような物が接続されていた。

 

「これが……」

 

「二足歩行型警備用自動人形とその指揮官機だ、開発コードは『クライナーフォーゲル』と『シュピーネ』だ、まあ完成したら名前は別の名前になるが」

 

別の名前になるというのに疑問を持ったのか、シズは疑問をぶつける。

 

「何故…ですか?」

 

「あ~…アインズに別の名前にしてくれって頼まれてな……」

 

「成程……」

 

(本当は名前言った瞬間、アインズさんがドイツ語に反応して絶叫したんだよな、パンドラの事忘れてたよ…)

 

この2機の名前を言った瞬間、モモンガさんは凄まじい絶叫を上げていたのを思い出す。

なんかごめんモモンガさん…。

 

「完成したら……どの様な?」

 

「ん? そうだな…フォーゲルは装備の交換によって全距離に対応できるように作ってある、シュピーネは豊富な武装による攻撃力とホバー飛行による機動性に優れている機体にするつもりだ」

 

「……すごい」

 

シズに凄いって言われたよ、やったぜ!

俺は心の中でガッツポーズをし、シズに設計図を渡す。

 

「一応設計図があるから見てくれないか?」

 

「…いいんですか?」

 

「ああ、気になったところがあったら些細なことでもいいから何でも言ってくれ」

 

「……わかりました」

 

シズは設計図を手に取り、まじまじと見つめる。

 

「……」

 

至高の御方であり、全ての機械種の頂点に立つ機械神であるマシンナーが設計したものに欠陥などないと信じて疑わないシズであるが、マシンナーが少しでも気になった所があることがあったら何でも良いから言ってほしいと言うのならば必死に探す気持ちで設計図を睨むシズ。

 

一通り見た後、シズは顔を上げる。

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「…シュピーネの下半身の大型ビーム砲が露出してる」

 

「あー……それか」

 

やっぱり気になるよな、そりゃそうだ。

ビーム砲の砲塔が露出してるとかそこ狙ってくださいって言ってるようなもんである。

普通なら格納式にするんだがこれには理由がある。

 

「一応それには理由があってな、素早い敵を瞬時に撃てるようにしてあるんだが、やっぱり駄目か……」

 

「!……い、いえ駄目と言う訳では…」

 

「ん?ああいや、言ってくれって言ったの俺だしシズは悪くはない、何か他にはあるか?」

 

「はい…後は…」

 

それからシズからでた気になる点をメモに取りながら、シズの話を聞いた。

 

 

 

 

「以上…です」

 

「そうか、ありがとうシズ」

 

「……いえ」

 

俺が礼を言った後シズは何故か頭を俯かせていたが、まあいいや。

それにしても結構出たな、まあその分改良する点も増えたから良しとするか。

そう考えてるとアルティマからメッセージが届いていた。

 

『マシンナー様』

 

『なんだアルティマ?』

 

『はい、今後の計画で少しお話があるのですが…』

 

『わかった、すぐに向かう』

 

『ありがとうございます、では……』

 

「さて、戻るかシズ」

 

「……はい」

 

俺達は『機械の楽園』を出て、部屋に向かった。

 

 

 

 

部屋に着き扉を開けるとアルティマが部屋で待っていた。

手元には資料を持っている。

 

「お越し下さりありがとうございますマシンナー様」

 

「良い、それで話とは?」

 

「はい、偵察隊の編成とその数についてです」

 

「うむ、どれぐらい出せる?」

 

「はい、特機兵団以外の兵団から索敵と諜報に秀でたものをそれぞれ10人出す事に決定しました」

 

特機以外からの兵団から10人か、まあ数としては丁度いいか、念の為どういうタイプを送り出すか聞いてみるか。

 

「それぞれの兵団からどのタイプを出すんだ?」

 

「はい、機人兵団からは外見は普通の人間と変わらないアンドロイド型を、機獣兵団からは、鳥獣型、小型の虫型、四足歩行型を、機動兵団からは小型のドローン型で編成させるつもりです」

 

うん、その編成なら心配いらないな。

なら、そろそろ隊長達を集めてディアヴォルス達の事について話すか……。

 

「うむ、その編成で頼む。ご苦労だった」

 

「勿体無い御言葉、マシンナー様達の目標である『この世界を手に入れる』事への達成の為ならこれくらい……」

 

え? 世界?

 

「アルティマ、それは……」

 

俺の疑問に対して、アルティマは輝く笑顔でこう言った。

 

「はい、あの夜のアインズ様との語らい、アルはちゃんと心に刻み込んでいます」

 

え?

 

「そしてマシンナー様が仰った『我等フェツルム・レギオーをこの世界に轟かせる』事も勿論覚えています」

 

(えええええええええええええええ!?)

 

アルティマの言葉に心の中で絶叫を上げるのであった……。



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第26話 鉄の城の悪魔と天使

え? なんだって? 世界征服だって? それどこの悪の組織なのかなアルティマ君?

いや、そりゃナザリックの面子って悪の組織にいそうな奴ばっかだけど……。

てかそれってあの夜の冗談の事ですよね? てことは何ですか? あの冗談をマジと捉えたんですか?

 

マ ジ で ?

 

頭の中が混乱するも精神異常無効のスキルが発動して、強制的に鎮圧される。

アルティマがこう思ってるって事はアルべドやデミウルゴスもそう思っている可能性大?というよりナザリックのみんながそう思っているってこと?

 

(これ今すぐモモンガさんに報告することだよな……)

 

「マシンナー様?」

 

「ああ、いや何でもない、少しアインズに言わなきゃいけないことがあるから少し行ってくる」

 

「わかりました」

 

「あ、それと隊長達を一時間後に全員呼んでおいてくれ」

 

「わかりました」

 

「悪いな、すぐ戻る」

 

「いえ…」

 

「……」

 

そして俺はモモンガさんにメッセージを送り、円卓の間に転移していった。

 

 

 

 

俺が円卓の間に着いた時にはモモンガさんも円卓の間についていた。

 

「あ、すいませんモモンガさんお忙しい時に…」

 

「大丈夫ですよマシンナーさん、それで話とは?」

 

「あー…実はですね…」

 

俺がアルティマから聞いた内容をそのままにモモンガさんに告げる、それを聞いたモモンガさん手を頭に添えて「マジか…」と呟いた。

 

「マジです、多分ナザリック全体も俺達の目標が世界征服って勘違いしてしますよ?」

 

「マジかよ…マジかよ…」

 

次は頭を抱えるモモンガさん、まあ俺もフェイズシフトダウンして装甲の色がグレーになってるんですよねアハハハハハハハハハハハハハハハ……。

 

「……どうしてこうなったんでしょうね?」

 

「……優秀すぎる人材がゴロゴロいますからねえ…ぶっちゃけ周辺の国家の一つの特殊部隊拉致っちゃいましたしね、しかも平穏に過ごしたくても、ナザリックの面子が全員異形種ですから所在ばれたら一触即発待ったなしですし、特にスレイン法国……」

 

そう考えているとふとウルベルトさんとるし★ふぁーさんがユグドラシル時代に『世界征服したいな』って言っていたのを思い出す。

 

「そういえばウルベルトさんとるし★ふぁーさんが言ってましたよね? 『世界征服したいな』って?」

 

その言葉に頭を抱えていたモモンガさんは顔を上げ、懐かし気に「ああ…」と言う。

 

「言ってましたね…るし★ふぁーさんは冗談っぽかったですけどウルベルトさんはガチの感じだったような…」

 

「……多分ガチだったと思います、よくクエスト中に言ってました」

 

「マジですか…そういえばマシンナーさんとウルベルトさんよくクエストで一緒に行ってましたよね? マシンナーさんが暴れこんでウルベルトさんが魔法で援護してたの覚えてますよ」

 

ユグドラシル時代ウルベルトさんとPVPして俺は敗北してしまったが俺の防御力を見込んでもらい、ウルベルトさんからクエストによく誘われた。

その時によくウルベルトさんが『世界征服したいな』と言っていたのを思い出す。

 

「たっちさんとウルベルトさんが喧嘩している時よく一緒に止めましたよね?」

 

「毎度毎度冷や冷やしましたよ本当に…」

 

あの二人が喧嘩するときは本当に冷や冷やしながら止めたものだ、ギルドマスターのモモンガさんも冷や冷やしてたし。

そんな2人の喧嘩も今でも懐かしい思い出の一つだ。

そして俺はある決心をしモモンガさんに話しかける。

 

「モモンガさん」

 

「何ですか? マシンナーさん?」

 

「……やってみませんか?」

 

「……世界征服をですか?」

 

「はい、ユグドラシルでは泣く子も更に泣かすくらいに名を轟かせた俺達『アインズ・ウール・ゴウン』それを伝説にするのが俺達の目標。そのついでに……」

 

「『世界も征服しちゃおうぜ?』って奴ですか?」

 

「まあぶっちゃけよく考えると世界征服もどの道しなきゃいけなくなると思いますし」

 

「本当にぶっちゃけましたね、まあ確かにそうじゃないとらしくないですもんね?」

 

「やっちゃいますか世界征服?」

 

「やっちゃいましょう世界征服」

 

そしてお互いに「くっくっく…」と笑いあった…。

 

 

 

 

円卓の間を出た俺は『機械の楽園』の司令室に向かう。

その前に俺は第八階層に居る『あいつ』にメッセージを送った。

 

『もしもし、ディアヴォルスか?…今からそっちに向かう。ああ…すまんなありがとう。それから…』

 

俺はメッセージを送った主にこれからの事を話し、メッセージを切った。

司令室の扉を開けるとアルティマ位下他の隊長達も集合していた。

シズはどうやらプレアデス定例会議に行ったらしい、残念。

 

「悪いな皆、急に呼び出してしまって」

 

「いえ、お構いなく…」

 

「ソレデ…我々ヲオ呼ビシタノハ…?」

 

ドランザーの質問に俺はすぐに答えた。

 

「うむ、これから皆で第八階層の『鉄の城』に行く…」

 

「「「「「!?」」」」」

 

これから行く所にみんな驚いている。

そういえばこいつらは行った事なかったよな。

そしてそれを守る『彼奴ら』にも…。

 

「あっちに少々用事があってな…」

 

「それでしたら、リング・オブ・アインズウールゴウンで……」

 

「おいおい、それだったらお前らを置いていくじゃないか? それにたまには歩いていくのも悪くないしな」

 

やっぱりモモンガさんに頼んでこいつらの分のリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを借りるか、あ、後シズの分も必要だな。

 

「おっと、指輪で思い出した、ちょっと待ってろ」

 

俺は机の引き出しから金庫を取り出し、その金庫の鍵を取り出し、開けると、中から赤、緑、黄、銀、橙、紫、白の指輪が七つ入っていた。

 

「マシンナー様…これは?」

 

「俺の最新作だ、名前は『リング・マシンフォース』。お前たちの指輪だ」

 

「「「「「え!?」」」」」

 

俺がまだユグドラシルにいたときの最新作『リング・マシンフォース』

この指輪は何かスキルをつけるタイプのものじゃないが、代わりにある機能を付けてある。

 

「こいつは戦闘の時に装着者の任意で指輪から支援用の機体に変わる用に設計してある、赤はアルティマ、緑はローグ、黄色はゴルドで銀はドランザー、橙はソニックだ」

 

「戦闘の時に役に立つ、自由に使ってくれ」

 

「ありがとう……ございます」

 

その間はいったいなんだ? まあいいか。

 

「さて、行くぞ」

 

「「「「「は!」」」」」

 

そして第八階層に到着し、俺は『鉄の城』に向かうために全員に飛行するように指示を出す。

 

「ここから先は飛ぶぞ、遅れるな」

 

「わかりました」

 

全員スラスターを吹かし、目的地を目指して飛んだ。

 

到着すると俺達の目の前には『機械の楽園』程ではないが数々の重火器で武装された要塞が建っている。

そうここが俺の創造したNPC『ディアヴォルス』と『アンヘル』が守護する『鉄の城』だ。

そしてアルティマが口を開く。

 

「マシンナー様、ここが…」

 

「ああ、ここが第八階層『鉄の城』…」

 

「そしてマシンナー様が創造されたシモベ『ディアヴォルス』と『アンヘル』が居るという…」

 

「だが…どのような人物なのだ?」

 

「ワカラン…何セ一度モアッタ事モナイガ…」

 

「心配するな、そろそろ来る」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………。

 

「何ダ!?」

 

「地震…!?」

 

「ゴルド! ドランザー! マシンナー様をお守りし…」

 

「その必要は無い」

 

「え?」

 

「来たぞ」

 

慌てるアルティマ達に制止を呼びかける。

多分次来るのは……。

 

ドオォォォォォォン!?

 

「「「オオォォォォォォオ!!?」」」

 

咆哮を上げながら地面から複数の影が飛び出してくる。

それは鉄の蛇のような胴体に顔はロボットという異様な物たちだった。

それを見たアルティマ達は即座に武器を構えるが、すぐに制止させた。

 

「心配するな、ディアヴォルスの眷属だ」

 

「え?」

 

「さあ…親玉が来たぞ?」

 

ズン…ズン…ズンという地響きを上げながらそれは来た。

黒と紫をベースとしたカラーリングを施された巨大な蜘蛛のような胴体、胴体の中心には顔のような部分が着いている。

その顔の上の部分から人型の胴体のような部分が出ていた。

 

そしてその隣に白銀の天使のような機械種が翼を広げて舞い降りる。

人型の身体に甲冑を付けたような身体、頭には天使の羽のような物が着いている。

顔はまるで人形のように整っており、赤い眼をしている。

 

そして黒い方は蜘蛛の身体を変形させ、二足歩行になる。先ほどは自分たちを見下ろす程の巨体から、コキュートスより一回り大きい程度に収まっている。

 

「お待ちしておりました、マシンナー様。本当に…本当に…お久しぶりです」

 

「再びお会い出来たこと、これ以上に嬉しい事はありませぬ…」

 

「本当に久しいな『ディアヴォルス』、『アンヘル』」

 

そう、この二体こそ俺が作ったNPC『ディアヴォルス』と『アンヘル』だ!

 

「2人とも元気そうでなによりで安心したぞ?」

 

「勿体無い御言葉、その言葉だけで報われます」

 

「私もです…!」

 

うんうん、こいつらも何も変わってなくて何よりだ。

 

「ところで…マシンナー様の後ろにおられる方々はもしや…軍団の?」

 

「ああ、俺の軍団の隊長達だ。お前たち、自己紹介しろ」

 

「は! ディアヴォルス殿、アンヘル殿、僕は『鋼鉄の魂』副官と総隊長を兼任しているアルティマ・レイ・フォースと申します」

 

「機人兵団隊長、バレット・ローグ…」

 

「特機兵団隊長、ゴルドソウルと申す!!」

 

「機獣兵団隊長ノ、ドランザーダ…」

 

「機動兵団隊長、ソニック・スレイヤーだ、ソニックで良い…」

 

「これはご丁寧に…改めて私は第八階層『鉄の城』領域守護者アンヘルと申します、以降お見知りおきを、そして…」

 

「同じく領域守護者ディアヴォルス! お互い同じ御方に創造された身、良き関係を築こう……」

 

良かった、第一印象はお互い悪くなさそうだ。

お互いの挨拶を見て、俺はホッと安堵する。

 

「はい!共にマシンナー様に生み出された者同士、部隊は違えど、力を合わせましょう!」

 

「ほう、丁度いい時に良い言葉を出したな、アル」

 

「え?」

 

「と申しますと?」

 

「うむ、実はここに来たのはディアヴォルス、アンヘルお前達に頼み事があって来たのだ」

 

「頼み事ですか?」

 

「頼みと言わず、ご命令とあればいかようにも…!」

 

おお、ディアヴォルスすげえ気合い入ってるよ、まあずっと第八階層に缶詰だったからな。

 

「うむ、アルティマ達もよく聞いておいてくれ、これからの『鋼鉄の魂』に大きく関係する事だ」

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

俺は、皆が注目するのを確認し、今回の頼み事を話した。

 

「ディアヴォルス、アンヘル、俺の『マキナ』の隊長として働いてほしい」

 

「「「「「「「!!」」」」」」」

 

アルティマ達とディアヴォルスとアンヘルが驚きで眼を見張ったような気がした。




ディアヴォルスのモデルはデビルガンダムです。
流石に大元の様な事にはなりませんが、それでも物語においてこれから彼がどの様に大暴れするのかご期待ください。

アンヘルのモデルはラーゼフォンです。
え?なら真聖ラーゼフォンみたいな姿になるのかって?流石にあれはチートだからなぁ…。


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第27話 シズの恋

オーバーロードの11巻がもう予約受付始まってることに軽く驚いてしまった。(後特装版って事も…)


アルティマ以下隊長達やディアヴォルス達は驚きを隠せなかった、アルティマ達には『マシンナーが創造した強力なシモベで領域守護者の一人』ということしか知らなかった。しかし、実際に会って彼らを見たときその力をすぐに感じ取った。成程、自分達の創造主であるマシンナーが領域守護者として彼らを任せた理由もわかる。

そしてディアヴォルス達もそれは同じで驚いていた。心から敬愛する自身の創造主であり機械の神からの直々の誘い、興奮を抑えられないでいた。

 

「まことで御座いますか!?」

 

「ああ」

 

ディアヴォルスの驚きをすんなり返す俺。

 

「我等アインズ・ウール・ゴウンの目的は不変の伝説になる事、そして世界をこの手に掴む事ということは知っているだろう? その為に俺も軍団を動かす、最初は小規模だがいずれは全軍を繰り出すつもりだ、その為に軍団を増強する必要がある、それでディアヴォルス、アンヘル、お前たちの力がどうしても必要なのだ。勿論アインズの許可は取ってある、お前たちさえ良ければ是非にと思うのだが」

 

「ハッ! 我々でよろしければ是非にお願い致します!」

 

「『鉄の城』の領域守護者として申し分ない働きをして見せます!」

 

「アル達各隊長も賛成です。領域守護者が二人も我が軍に参戦してくれること、これ以上に頼もしい事ありません!」

 

ディアヴォルスの即答を皮切りに、アルティマ達も賛同する。

ディアヴォルスの卷族達もヤル気で満たされていた。

 

「気合十分でよろしい…正式な辞令は後程伝える、辞令が出たら改めてお前たちの事を伝える」

 

「「は!」」

 

「では今回はこれでお暇しよう、行くぞお前達」

 

「「「「「は!」」」」」

 

ディアヴォルス達に別れ、俺たちは『鉄の城』から去っていった。

 

「行ってしまわれましたか…」

 

アンヘルが名残惜しそうに言う。

 

「だがこれで我々はマシンナー様の下で直接働ける、これ以上に嬉しい事はない…」

 

「そうですね、今はそれを喜びましょうか?」

 

「…うむ」

 

 

 

 

俺の部屋に着いた後に俺たちは解散し、部屋に居るのは俺と大隊長兼補佐官のアルティマだけだった。

 

「それにしても驚きました」

 

「ん?」

 

「まさか領域守護者を『鋼鉄の魂』の隊長格に任命するとは思いませんでした」

 

「ああその事か、まあ切れる手札は多いほうがいいからな」

 

「流石はマシンナー様です」

 

「お、おう…」

 

そんなに大した考えじゃないんだがな。

 

(先程マシンナー様から教えられたあの二人の力、ディアヴォルス殿は『自身の眷属を大量に生産する能力』そしてアンヘル殿は『対天使に対する耐性上昇と天使に対する会心率の上昇』…あの二人の能力は我々『マキナ』は勿論、ナザリックの今後の行動にも多大な力を発揮するだろう)

 

(ディアヴォルス殿の能力で我が軍団の兵力増強、そしてアンヘル殿の力であれば今後ぶつかる可能性が一番高いスレイン法国に対する切り札にもなる可能性も高い、やはりマシンナー様はスレイン法国に対してそれほどの警戒を…)

 

あの無礼千万にも程があるニグンとか言うクソ金髪オールバックゴミクズジャンク野郎の事を思い出し、軽くニグンに対する殺意が再び燃え上がるが、今考えるのはそこじゃないので考えを変える。

 

(…その時が来れば徹底的に叩き潰せるように戦力を整えよう、マシンナー様の為に……)

 

「アルティマ」

 

マシンナーが自分を呼んだことで、すぐに頭を切り替えマシンナーの方を振り向く。

 

「はい、何でしょうかマシンナー様?」

 

「少し相談がある」

 

「はい、なんなりと…」

 

「…実はシズを『マキナ』に入れようと思うんだが…」

 

「シズをですか? 勿論それは構いませんが…」

 

「役職は補佐官にしようと思うんだが…」

 

「え!?」

 

アルティマは驚愕した、自分の役職は『鋼の魂』の大隊長であり、マシンナーの補佐官でもある。

自分の役目の一つが減らされるんじゃないかというのに、恐怖した。

 

「あ、あのマシンナー様? なぜシズに補佐の役目を?…もしかしてアルでは務まらないと…?」

 

「え?いやチガ、すまん言い方が悪かった。正確に言うとシズを二人目の補佐官にしたいんだ」

 

先程のアルティマの気迫にちょっとビビったが、俺も言い方が悪かったと思い、訂正する。

それを聞いたアルティマは少し落ちついたのか少し安堵している表情だった。

 

「取り乱して申し訳ありません、二人目の補佐官ですか? 理由を聞いても?」

 

「ああ、アルティマは役職を二つ兼用しているから、負担を少しでも軽減させようと思ったんだ、隊長達から補佐官を出そうと思ったんだが、他の奴らはそれぞれ任せたい仕事があるから外せない。なら新しいシモベを作ろうと思ったが、今のところ少々時間が作れない。だから当分はシズに第二補佐官になってもらおうと思ったんだ(シズと一緒に仕事が出来るという下心はあるけど…)」

 

俺はシズを第二補佐官に任命したい理由を話す。勿論モモンガさんの許可は取ってある。

 

「ア、アルの為にそのようなご配慮を…! ありがとうございます!」

 

「お、おう」

 

そこまで感激してくれるとは思わなかった。

まあ喜んでくれてなによりだ。

 

「んじゃ、仕事終わらせるかアルティマ、書類を出してくれ」

 

「はい!」

 

出てきた書類の束を見て、「とっとと終わらせるか」と決意し、それに取り組みにかかった。

 

 

 

 

マシンナーが仕事に取り組みにかかっている時、プレアデスの定例会議を終えたシズはマシンナーの部屋に向かう。

 

「……」

 

ドクン……。

 

(……また)

 

歩いている足を一旦止め、自分の胸に手を当てるシズ。

 

ドクン……ドクン……ドクン……。

 

(段々…強くなってる…)

 

この頃感じている胸の高鳴り、それが日に日に強くなっていくのをシズは感じた。

 

(なんだろう……これ…?)

 

身体を一度精密検査しても特に異常は無し。

謎が深まるばかりだった。

 

(………マシンナー様に…診てもらった方が…良いの…かな?)

 

アインズ曰く「機械に関しての技術と知識ならばマシンナーさんの右に出るものはいない」と言っていた。

ならば自分にはわからない事でもマシンナーならばわかるかもしれない。

 

「あらシズ、どうしたの?」

 

「……ユリ姉」

 

声の方向を向くと、姉であるユリ・アルファが立っていた。

 

「……ユリ姉、どうした…の?」

 

「え? 僕? シズが考え込んでいる様子だったからどうしたのかなって思って…」

 

「……」

 

そしてシズは何を思ったのかユリに自分の胸の高鳴りの事を聞いてみることにした。

 

「ユリ姉……」

 

「なに? シズ?」

 

「実は…ここ最近…胸が…変…」

 

「え?それってどういう…」

 

「胸が…いつもより…高鳴っている…」

 

「それ…ペストーニャ様には言ったの?」

 

「言った…けど特に異常は無いって…」

 

「それは…困ったね…」

 

「あれ~2人ともなにしてるっすか~?」

 

シズの謎の胸の高鳴りについて考えているシズとユリ。

そこにルプスレギナ・ベータが加わった。

 

「あ、ルプー…実は…」

 

ユリがシズの謎胸の高鳴りの事を話す。

それを聞いたルプスレギナは驚き

 

「シズちゃん、それ大丈夫なんすか!?」

 

「落ち着いてルプー、ペストーニャ様からは特に身体に異常は無いって言ってたわ」

 

「そうなんすか、いや~ホッとしたっす~」

 

ユリの話を聞き安堵するルプスレギナ、しかし謎が解決したわけではない。

 

「じゃあ一体何が原因っすか?」

 

「ねえシズそれに何か前兆とかある?」

 

「え……?」

 

「何らかの前兆があるなら対処出来るんじゃないかな?」

 

「おお!そうっすね流石ユリ姉っす!」

 

「……」

 

シズは正直戸惑った、だがこのままではいつか支障をきたすかもしれない。

シズを意を決して打ち明けた。

 

「……といる時」

 

「ん?」

 

「え?」

 

「マシンナー様……と…いる…時」

 

「え? それって……」

 

「ま、まさか……」

 

「……? 知ってるの?」

 

「知ってるも何も……」

 

「よく聞いてねシズ、その感覚はね……」

 

「……うん」

 

「「恋だよ(っすよ)」」

 

「…………鯉?」

 

「違う、そっちじゃない」

 

「恋愛の方の恋っすよ! シズちゃん!」

 

「……え?」

 

「シズちゃんはマシンナー様に恋してるって事っすよ」

 

「……わ、わからない」

 

「え?」

 

「恋ってもの自体がわからない…」

 

「ん~、んじゃちょっと聞くっすけどシズちゃん」

 

「……?」

 

「マシンナー様といる時どんな気持ちっすか?」

 

「……え?」

 

その質問にシズは少し考えてから答えを出した。

 

「……ポカポカする」

 

「おお!じゃあ喋ってる時は?」

 

「……楽しい」

 

「そして一緒にいるとドキドキするんすよね?」

 

「……うん」

 

「おお!こりゃ完璧っす! シズちゃんマシンナー様に恋してるっすよ!」

 

「……!」

 

ルプスレギナの話に驚きながらもこれまでのマシンナーとの関わりを思い出す。

 

看病した自分に労いと「ありがとう」と言ってくれたマシンナー。

 

機械種にとって最も無防備な所である自身の骨格であるフレームの整備を手伝ってくれと言ったとき。

自身の弱点であるフレームを相手に晒すというのは機械種にとってとても危険なことである、しかしそれを見せるだけでなく、整備の手伝いをしてくれというのは『お前を深く信頼している』という意味でもある。

 

お互いに銃の事で語り合った時間。

 

褒美としてマシンナー自身が制作した装備『ジャガーノート』を授けてくれたときは嬉しさのあまりオーバーヒートしてしまった。

 

ジャガーノートの実戦試験をした後に自分の頭を撫でてくれたのを思い出す。

その時の温もりは忘れることが出来ない、いや忘れたくないと思った。

 

(……そっか)

 

(……私は…)

 

(マシンナー様の事が……)

 

(好きなんだ……)

 

「あれ? シズちゃん? どうしたんすか?」

 

「……」

 

「シ、シズ?」

 

「ぷしゅー」

 

「え? ちょ、シズちゃん大丈夫っすか!」

 

「シズ、しっかりして!」

 

「ユリ姉! あたしマシンナー様呼んでくるっす!!」

 

「え! ちょ…ルプー!」

 

ユリの制止も聞かずにルプスレギナはマシンナーの部屋に直行した。

 

 

 

 

「アルティマ、モンキーレンチ取ってくれ」

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

「所でマシンナー様、このエンジンはいったい何ですか?」

 

書類を全部片付け、次の書類が来るのに結構時間があったため作りかけのベンチエンジンを組み立てていた。

 

「ああこれか? これはV8エンジンっていうエンジンでな…」

 

「マシンナー様、入っていいっすか!?」

 

「ん? 入れ」

 

ドアをノックしたので許可するとルプスレギナが慌ただしく入って来た。

珍しい来訪者に驚くも、すぐに用件を聞いた。

 

「珍しいな、シズは今いないが…」

 

「助けてくださいマシンナー様シズちゃんがオーバーヒートしちゃったすー!?」

 

「マジで?」

 

「マジっす!」

 

「アルティマぁ! すぐに修理道具一式持ってこい!」

 

「え? は、はい!」

 

この後マシンナーが急いでシズのもとに向かい、それはそれはアストナージもビックリな速度で修理したという。



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第28話 初めて笑った

オーバーロード人気投票の中間発表でシズが7位と知ったことに狂喜乱舞してしまいましたwww。
最終発表ではさらに上がって欲しいです!


シズがオーバーヒートを起こしてしまったので、ルプスレギナに案内してもらい急いでシズの所に向かいすぐにオーバーヒートを無効化するアイテム等を使い、シズを再び再起動させた。

ちゃんと再起動してくれた事に俺は安堵する。

再起動したシズは何故か顔を赤くしながら「申し訳ありません…」と謝っていた。

 

(そういえばこの前もオーバーヒート起こしたよな? あの時はジャガーノートを渡してそれでうれしすぎてオーバーヒート起こしちまったっていう原因もあるけど今回は原因がわからないな。もしかしてシズのラジエーターとかの冷却系統がどこか調子悪いのか? 一回シズに頼んで精密検査してみるか…いや流石にこれはセクハラになるか? う~ん……)

 

「マシンナー様」

 

シズとアルティマを連れて自室に入り一人考え込んでいるとアルティマから声をかけられて我に返る。

 

「なんだアル?」

 

「丁度シズもいることですし、シズにあのことを言うのはいかがでしょうか?」

 

「ん? ああアレか」

 

「……?」

 

首をかしげるシズの可愛さに若干萌えつつ、俺はシズの方に向き直る。

 

「シズ、頼みがあるんだが……」

 

「……はい」

 

頼みがあるという言葉にシズは仕事モードに入っている。凜々しいなあ…。

おっと、いけない頼み事を忘れるとこだった。

 

「シズ、俺の軍団に入って秘書として働いてほしい」

 

「…え?」

 

予想外だったのか、一瞬呆けたような顔をするシズ。

可愛い。

 

「アインズからは許可を取ってある、他の隊長達にも伝達済みだ、後で正式な通達が来ると思う」

 

「はい…畏まりました…正式な通達があるまで通常の業務に戻ります…」

 

「ああ、改めてよろしく頼むぞ。俺はシズの能力を高く評価している。期待してるぞ?」

 

「ッ!……勿体無い……お言葉…です」

 

気合十分で良かったとマシンナーが心の中で安堵する。

一方……。

 

(……やった!)

 

一方シズも心の中でガッツポーズをしていた。

 

「アルティマ、30分後に隊長会議をするから集めてくれ。ディアヴォルス達には俺が伝える」

 

「は! 承知いたしました! すぐに連絡しに行きます!」

 

アルティマは俺に敬礼した後、小走りで部屋を出ていった。

 

「シズ」

 

「何でしょう…か?」

 

「渡したいものがある」

 

「?……はい」

 

俺は自分の机から小型のダイアル式金庫を取り出し、ダイアルを合わせそのケースを開ける。

中にはシズの赤金の髪色と同じ色の宝石を付けた指輪が入っていた。

 

「……!?」

 

「お前用に作ったリング・マシンフォースだ」

 

俺が出したものに驚くシズ。

え?その指輪って隊長格だけに作ったんじゃないのかって?

実は隊長格の分を作った後こっそりシズの分も作っていたのだ。

 

「よろしいん……です…か? これほどの…物…」

 

「元々お前用に作ったんだ、やるよ。装備してくれないか?」

 

「は…はい…」

 

リング・マシンフォースを見て驚いたのはある程度予想してたから、別に気にしない。

シズはその細い指へと静かに指輪を嵌めていった。

人差し指、中指…。そして次の指で止まる。

 

「……っ」

 

少し指が震えながらも嵌められる。

その場所は左手の薬指……。

 

(…え?)

 

「え、ちょ…」

 

自分が作った指輪を嵌めた所に俺は思わず声を上げる。

 

「!…申し訳…」

 

「あ、いやすまん、何でもない。だから顔を上げてくれ」

 

「は……はい…」

 

これはちょっと、いやかなり予想外だった。

だって左手の薬指だぞお前、左手の薬指だぞ?(大事なことなので2回言いました)

そりゃ嬉しくないって言ったら嘘になる。

というかめっちゃ喜んでる自分がいる。

とりあえずそれは置いといて……。

 

「その……意味知ってるのか?」

 

「……………」

 

俺は気持ちを無理やり落ち着かせ、シズに問いかける。

シズは左手をそっと握りしめる。

そしてそのまま俺の方を見つめた。

 

「……右手はライフルを持つので、右手につけていたら指輪が傷つくと思い左手につけました…。左手の薬指ならそこまで接触は無く指輪が傷つくことはそうは無いと思い、つけました…」

 

ご迷惑だったでしょうか?と言ったシズに俺は自分の浅はかさに心の中で「俺の大馬鹿…」と毒づく。

普通に考えたらこんな超展開そうそう起きるはずがないだろう俺って本当に馬鹿……。

 

「いや、そんなことないぞシズ。そこまで大切に思ってくれてありがとうシズ」

 

「……あの」

 

「ん?」

 

それでもそんなに大切に思ってくれるのは嬉しかったのでおれはシズに礼を言う。

その後シズは顔を一瞬伏せるが、すぐに顔を上げ、口を開く。

 

「何故……ジャガーノートやこれほどの指輪を私に…」

 

自分は確かにマシンナーと同じ機械系モンスターだが、マシンナーには自らが創造したシモベがいる。

直接のシモベではない自分になぜこれほどの物を授けてくれる事を不思議に思った。

 

「え? ああ~…それは、その…」

 

その言葉にマシンナーは少し気まずそうに頭をかく。

そして何か決心したのかシズの方を向いた。

 

「……誰にも言うなよ?」

 

「………はい」

 

「俺は…………」

 

 

 

 

『…………俺はシズの事が好きだから…だ』

 

『…………え?』

 

 

(て言えねえ…まだ言えねえ…第一まだそこまで行ってないし…)

 

「俺はシズを特別信頼しているからだ」

 

シズは表情が緩まないよう、必死に自制をした。

自ら創造したシモベが複数いるマシンナー。

その御方が自らを特別信頼していると言ってくれた。

自身が愛してしまった御方からのその言葉にシズの中で何度も響く。

先程左手の薬指に指輪を嵌める意味を勿論彼女は知っている。

そしてその時の反応を見て、マシンナーもその意味を知っている。

声を上げた時は見透かされたと思った、それでも許してくれた。

拒まれなかった。それが彼女にとってとても嬉しかった。

 

「勿体無い……お言葉…です」

 

「ああ、これからも頼むぞシズ」

 

「……はい」

 

そしてマシンナーの言葉に何処か嬉しそうに彼女は答えた。

今の自分の顔がどういう状態か彼女自身も気付いていない。

どんな状態かというと……。

 

(笑ってる? いや微笑んでるのか?)

 

そう彼女の顔は微笑んでいた。

ナザリックでも彼女のその表情は見たことないだろう。

マシンナーも初めて見る彼女の表情に一瞬驚くが、すぐにもう一つの思考が出た。

 

(可愛い…)

 

「マシンナー……様?」

 

「ああ、いやシズの笑った顔なんて初めて見たので、驚いてな」

 

「……え?」

 

「え?」

 

マシンナーの言葉に驚くシズ。

そしてマシンナーもシズの反応に少し驚いていた。

 

「……もしかして自覚無かったのか?」

 

「はい……申し訳ありません」

 

「ああいや、謝るな。可愛かったし…」

 

「……え!」

 

「あ! えっとその…」

 

思わず出てしまった言葉に慌てるも、扉からノックする音が耳に届く。

 

「(ナイスタイミング!)アルティマ達か、シズ、出迎えてやってくれ」

 

「……畏まりました」

 

誰だか知らないがナイスタイミングだ。マシンナーはシズを扉を向かわせる。

そして自分の椅子に座り会議内容をおさらいしていく。

なのでシズが少し顔を紅くしていた事に気付かなかった。

 



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第29話 確信

オーバーロード人気投票でシズが八位になっていた事を見てしまって爆発四散しそうになった作者です。
中間発表では上位10名にいなかったのに7位になっているルプー恐ろしい子……!!


シズが扉を開けるとアルティマ達とディアヴォルス達が入ってくる。

なんかアルティマがシズの薬指見てギョッとしていたが、すぐに納得したような顔をした。

何に納得したのかはわからんがまあいいか。

 

「…全員集まったな? では会議を始める」

 

「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」

 

見事なまでのハモリ具合に満足しながら、俺は今回の議題を説明する。

 

「今回お前たちを呼んだのはこの前言った通り、ナザリック外と周辺国家への偵察だ。世界征服に乗り出すからにはいずれ他の周辺国家との衝突は避けられないだろう。アインズもこの世界の人間が使える武技やタレント等の異能持ちを捕獲するために戦力を出すつもりだ、我々の任務は周辺国家への偵察とそのサポートにある。だが困ったことにこの世界には我々以外の機械種はいない。よって、特機兵団以外の部隊は諜報と索敵に秀でた者10名ずつを諜報部隊とし、それぞれ国家に潜入してほしい」

 

「他にもナザリック外を調査する者達のサポートもあるが、編成は後日改めて伝える」

 

「はっ!」

 

「それとゴルド」

 

「はい!」

 

「お前と特機兵団にカルネ村の守護を頼みたい」

 

「えっ!」

 

あら驚いてるご様子…まあ確かに防御より戦闘向きだからな。

まあちゃんと理由はある。

 

「あの…お言葉ですが、俺よりローグやアルティマの方が適任では?」

 

「まあお前の言うこともわかる。理由はこの世界の人間と機械種との共存が可能かどうかを確かめるためにお前にはモデルケースになってほしい、それに特機兵団なら少ない兵力でも他の兵団の戦力を上回るからな」

 

それならドランザーでもいいんじゃないか?と言われてしまうが、ドランザーにはスキル『暴走』があるのでもしも発動なんかしてしまったら目も当てられないことになる。

まあ付けたの俺なんだが…。

 

「流石に一人でやれとか酷なことは言わん、プレアデスのルプスレギナも補佐に入る、なんか相談したいことがあれば遠慮せず言ってくれ」

 

「それと村人からの反感等は極力ないようにしろ。村一つ満足に支配できなければ世界征服など夢のまた夢だからな」

 

「御意! ゴルドソウル! 謹んでお受け致します」

 

「気合十分でよろしい、では今回の会議はこれで終わりだ、俺はアインズさんと少し話がある」

 

「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」

 

 

 

 

会議を終えた俺は玉座の間を訪れる。玉座にアインズさんがいつも通り座っていた。

 

「来ましたよモモンガさん、話って何ですか?」

 

「いらっしゃいマシンナーさん、実は冒険者の件で話があるんですけど」

 

「ああ、あの件ですか、何か問題が?」

 

「ああいや別に問題とかじゃないんです」

 

「じゃあなんですか?」

 

「パートナーとして誰を連れていくかです」

 

「あ~…」

 

まあ確かに一人で行くわけには行かない、特にモモンガさんは本職ではない前衛職でやると聞いて、内心不安だが、まあ大丈夫だろう。

 

「モモンガさんは誰を連れていくんですか?」

 

アルべドかな? それもシャルティアかアウラ? もしかしてマーレ?

 

「俺ですか?俺はナーベラルを連れて行こうかと思っています」

 

あら意外、まあ真面目そうだからなナーベラル。

 

「マシンナーさんは?」

 

「俺ですか? 俺はアルティマとシズにしようかと…」

 

「アルティマはともかく、シズは武装的にちょっと…」

 

「"あ"……」

 

そうだった、シズの武器は銃、しかも見た目は近代火器だ、流石にそれは色々不味い。

が、そう簡単に引き下がりたくない……。

 

「ら、ライフルの代わりにマスケット銃を持たせれば…」

 

「この世界にはまだ銃器無いの知ってますよね?」

 

「うぐ……!」

 

そういえばそうだった。くそ、何で魔法とかあんのにマスケット銃とかは無いんだよ!

 

「ぐぬぬ…どうすれば…」

 

「銃器以外なら大丈夫なんですけどね…」

 

銃器の代わりになる飛び道具って後は弓…ん?

 

「モモンガさん」

 

「はい?」

 

「確かこの世界クロスボウありましたよね?」

 

「ええ、ありましたけど…まさか…」

 

「銃器の代わりにしちまえば問題ないですよね」

 

そう、銃がなければ代わりの飛び道具を使えばいい。

そして銃と同じ持ち方ができるクロスボウがこの世界にはある……!

 

「まあ、それなら問題はないですよ」

 

「よっしゃ」

 

シズを連れて行ける事に俺はガッツポーズをした。

 

「あ、でもシズにすぐにナザリックに帰還できるよう処置しておいてくださいね?」

 

「はいそこら辺は大丈夫です」

 

シズには『ナザリック内のギミックの解除方法や入室パスワードを全て把握している』という設定がある。

もしもシズが捕まって洗脳でもされたらヤバイ事に…。

いやそんな事させる前に俺がそいつらそっこう塵に返すけど…。

 

「なら安心です、まあ…シズがピンチになったらマシンナーさんが本気モードで駆けつけそうですけど……」

 

「もしシズがピンチになったらボソンジャンプで駆けつけて、開幕メイオウと他の八卦の武装をぶっ放してペンペン草すら生えないようにする自信があります」

 

「わ、笑えない……。というかメイオウ攻撃だけで敵全滅しそうな気がするんですが……」

 

「シズを傷つける奴は塵一つ残さずこの世から抹消するって決めてるんで」

 

「ま、まあ…マシンナーさんの専属なんでシズを呼ぶ時にはあらかじめ伝えておきますので……」

 

「助かります」

 

「あ、それとマシンナーさん、軍団の号令はいつかけるんですか?」

 

「さっき隊長達と会議で今後の方針の事伝えたので、そろそろかけようかと思います」

 

「わかりました」

 

 

 

 

マシンナーが部屋から出た後、シズを除くアルティマ達隊長格は『機械の楽園』の隊長格のみが入れる特別舎に入っていた。

ディアヴォルスが最後に部屋に入り、アルティマが扉の隙間から誰もいない事を確認し、扉を閉じる。

そしてどこから出したのかホワイトボードを出してきた。

 

「大隊長殿、これから何をするのだ?」

 

不思議に思ったディアォルスがアルティマに疑問をぶつける。

アルティマの代わりにローグとドランザーが答える。

 

「そういえば初めてこの会議に参加するんだったな?」

 

「……トテモ大事ナ事ダ、コレハ我ガ軍団…ヒイテハナザリックノ未来二関ワル…」

 

「何?」

 

それを聞いたディアヴォルスが眉をひそめるような仕草をする。

アンヘルも少し顔をしかめる。

 

「それは不敬ではないのか? 我々だけではなく、他のナザリックの者達にも……」

 

「いやそれは出来ない、理由が有ってな」

 

「何?」

 

「その理由とは?」

 

「うん、とりあえずこれを見てよ」

 

そう言うとアルティマはホワイトボードに書いた内容を読み始める。

 

「「…………」」

 

『マシンナー様の恋路を全力で応援するプロジェクト』

 

「「!?」」

 

その文章を見たアンヘルとディアヴォルスの頭に稲妻が走った――――!!

 

「ま、待て大隊長殿! これは…これは一体!」

 

「そのまんまの意味だけど?」

 

「マ、マシンナー様がこ、恋を!? い、一体お相手は誰だ!」

 

「プレアデスのシズ・デルタだよ?」

 

「「なん…だと!」」

 

自分達の創造主が恋をしているという事実に驚愕する2人。

 

「だが何故大隊長殿がそれを? マシンナー様から聞いたのか?」

 

「いや、シズの創造主様がマシンナー様に「シズを嫁にしてもいい」と言っていた。それを聞いたマシンナー様は深々と頭を下げながら「ありがとうございます!」と仰られている場面に偶然僕は立ち会ったよ。それ以前からマシンナー様は時間がある時には必ずシズの様子を見に行かれてた。マシンナー様が御帰還になった後にシズはマシンナー様の専属メイドになり、さらにご自身が作った装備である『ジャガーノート』をシズに褒美として授けた……」

 

「なんと…」

 

「至高の御方が決められた密約、確かにそう簡単には広げられない…だが我々が介入していいことでは…」

 

「そう……残念ながら僕らはささやかな援護しか出来ない」

 

アルティマは少々残念そうな顔をする、だがすぐに真剣な眼になる。

 

「だけど今回のマシンナー様の行動を見て、シズがマシンナー様の奥方になる日も近いと僕は確信した……」

 

「何…?」

 

「どういうことだアルティマ?」

 

「何カ進展ガアッタノカ?」

 

アルティマの言葉に隊長達は疑問を持つ。

アルティマも一呼吸置いて隊長達に話す。

 

「……シズの左手の薬指見たかい?」

 

「……薬指?」

 

「……ア」

 

「どうしたドランザー?」

 

「…指輪」

 

「ん?」

 

「……シズノ髪色ト同ジ色ヲシタ指輪ヲ嵌メテイタ」

 

「「「「「―――!?」」」」」

 

再び頭に稲妻が走る隊長達(アルティマとドランザー除く)

 

「なんと…」

 

「本当か?」

 

「マジか…」

 

「……」

 

「なんという…」

 

「そう、シズが嵌めていた指輪はリング・マシンフォース。きっとマシンナー様がシズの為に用意したものだろう…」

 

「ならマシンナー様はシズに告白なされたのか?」

 

ソニックは頭の中に浮かんだ疑問をアルティマに話す、しかしアルティマは首を横に振った。

 

「いや、告白はされてないと思うよ」

 

「何故わかる?」

 

「もし、告白されてシズと婚約したならあの場でマシンナー様は言ってたと思うよ。でもあの場で言わなかったって事は…」

 

「言ってないという事か…」

 

「でも、マシンナー様とシズが婚約するのもそう遠い未来じゃないと思うよ?」

 

「何?」

 

「マシンナー様が指輪を嵌める場所を指定すると思うかい?」

 

「ないな、あの方は慈悲深くお優しい方だ」

 

「じゃあシズ自らの意思で付けたってこともあるかもしれないよ?」

 

「何?」

 

「ということは…」

 

「シズもマシンナー様を少なからず想っている……と?」

 

「Exactly(そのとおりでございます)」

 

 

 

 

「…………」

 

ナザリックの通路を渡っていたシズはマシンナーがくれた、不意に指輪を見つめた。

 

「……綺麗」

 

自身が愛してしいる方からの贈り物、それを貰ったという事だけでも嬉しいが、薬指に嵌める事を許してくれた。

 

「あら、シズ何見てるの?」

 

「…!……ユリ姉…」

 

思わず手を後ろに回すシズ。

しかしそれを見過ごすユリでは無かった。

 

「? 何を隠したの?」

 

「……何でもない」

 

「……何でもないなら見せれるよね?」

 

「…………」

 

一番上の姉であるユリには流石に逆らえないので観念したのか恐る恐る左手を出す。

 

「あれ?、この指輪……」

 

「マシンナー様から…貰った」

 

「え!」

 

「リング・マシンフォース……任意でサポート用の機械種が出せるって」

 

「え? な、何だ驚いた……」

 

至高の御方のマシンナーからの指輪と聞いてユリは驚くも指輪の用途に一旦落ち着くが、すぐに新たな疑問が湧いた。

 

「でもシズ…指輪を左手の薬指に付けるって意味わかってるの?」

 

「…………うん」

 

ユリの問いに顔を少し赤面しながらもコクリと頷いた。

 

「でも…マシンナー様……許してくれた」

 

「え?」

 

「あ、ここにいたのかシズ。探したぞ?」

 

「マシンナー様!」

 

現れたマシンナーに驚くユリ、シズは少し赤らめながらも一礼をする。

 

「……なにやら話している様子だったがもしかして邪魔だったか?」

 

「い、いえ、ただの世間話なので大丈夫です」

 

「そうか、ならシズ連れて行って良いか?」

 

「はい、大丈夫です…」

 

「?まあいいか、行くぞシズ」

 

「……はい」

 

ユリの慌てぶりに首をかしげるマシンナーだが、まあいいかと思いシズとともに歩いていった。

 

(やっぱり……マシンナー様は…)

 

この瞬間かつて考えたユリの推測は確信に変わった……。



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第30話 軍団始動

更新するのに時間がかかって申し訳ありません!。
時間があれば今月中にももう一話投稿したいと考えております。

※主人公の軍団の名前を変更しています。他の話でも随時編集しております。


『モモンガさん』

 

『はい、どうしました』

 

『これから軍団に号令かけようと思ってるので、玉座の間を使ってもよろしいでしょうか?』

 

『構いませんよ、ではアルべドとデミウルゴスには俺が伝えておきます』

 

『助かります、それではまた後で』

 

『はい』

 

俺はモモンガさんとのメッセージを切り、傍に控えていたアルティマに指示を出す。

 

「アルティマ、他の隊長達と各兵団を一時間後に玉座の間に集合させろ」

 

「は!」

 

 

 

 

一時間後の玉座にはアインズとマシンナーが鎮座していた。

 

(それじゃあ頼みましたよマシンナーさん)

 

(了解ですモモンガさん)

 

アインズがマシンナーにメッセージを飛ばし、マシンナーはそれに同意し、立ち上がって前に進んだ。

本来この前にいるのは階層守護者だが、今回は少し違う。

階層守護者及び、シズを除くセバス率いるプレアデス達は皆脇に控えている。

玉座の下、中心にいるのは、アルティマや他の隊長達のそれぞれの兵団の機械族、マシンナーの軍団<マキナ>。

 

形はそれぞれの兵団の特色を出している。あるものはシズと同じ人間と同じような姿をしたアンドロイド型。無骨な形の者や洗練された形の者。乗物の意匠が入っているもの。マシンナーも見上げるような体躯をしたもの。

機械の獣のような姿をしたものなど、ありとあらゆるタイプが揃っている。

 

今回この軍団が集結した理由はマシンナーが軍団に「アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説にする」事と「世界征服」この二つの野望を実現させるために号令をかけるためだ。

 

そしてマシンナーが沈黙を破る。

 

「起て」

 

その言葉の後、軍団は一糸乱れず立ち上がった。

それぞれ関節やモーターの駆動音、そして金属の光沢により威圧感があふれ出ている。

 

「皆、よく集まった感謝する」

 

「アルティマ・レイ・フォース、バレット・ローグ、ゴルドソウル、ドランザー、アンヘル、ディアヴォルス、シズ・デルタは前へ」

 

名を呼ばれた者たちは静かに前に出る。

 

「皆も知っての通り、我らの目標である『世界征服』……その実現の為、我が友アインズの為に我ら<マキナ>は総力を上げてこれに尽力する!」

 

「最初は小規模での活動になるだろう、だがいずれは全軍を繰り出すつもりだ!」

 

一拍間を置き、号令の続きに入る。

 

「作戦名は「オペレーション・レコンキスタ」! この作戦を以って我が軍団の名をこれから未来永劫に続くアインズ・ウール・ゴウンの歴史に刻み付ける!」

 

「大隊長、アルティマ・レイ・フォース。御身の覇道の露払いをさせて頂きます!」

 

「機人兵団隊長、バレット・ローグ。その御心のままにお使いください!」

 

「特機兵団隊長、ゴルドソウル。御身を阻む全てを打ち砕いてみせましょう!」

 

「機動兵団隊長、ソニック・スレイヤー。至高の創造主に叶う働きを必ずやお見せしましょう!」

 

「機獣兵団隊長、ドランザー。我ラガ主ノ爪牙トナリマショウ!」

 

「第八階層領域守護者、ディアヴォルス。我が眷属総て、御身の剣としてお使いください!」

 

「同じく第八階層領域守護者、アンヘル。偉大なる主の剣になりましょう!」

 

「プレアデスが一人、シズ・デルタ。全ての機械の神たるマシンナー様に絶対なる忠誠を誓います……」

 

アルティマ達の言葉に嘘偽りはない、全員マシンナーの為ならば地獄の果てだろうと未来永劫に続く虚無の戦場だろうと喜んでついていく覚悟である。

 

(待ちに待った時が来た、アル達の全てを使い、至高の御方に永遠の栄光を……)

 

アルティマ達、機械種モンスターの軍団<マキナ>の総意。自分達の全てを使い、勝利と栄光を掴むこと。

再び自分達のもとに戻ってきた至高の御方の一人であるマシンナーの為に……。

 

軍団の一つ一つが歯車となり一つの大きな『機械仕掛けの神』は動き始めた。

 

「ナザリックの絶対なる主アインズ・ウール・ゴウン様! そして再び我らの総大将として戻ってきたマシンナー様の為に!」

 

「我らが造物主様に栄光を!」

 

「アインズ・ウール・ゴウン様! マシンナー様! 万歳!」

 

<マキナ>の機械種達も隊長達と同様に例外なく忠誠を誓う。その熱意は動力炉の熱や金属の関節の駆動音。

金属の擦れる音などが響いた。

 

(はは……予想以上だなこりゃ…)

 

それを見てマシンナーは喜びの感情を露にする。

自分が心血注いで創り上げた軍団が嘘偽り無く忠義を誓う。

絶大なる熱量を以ってそれを示した。

動力炉の熱、関節の駆動音が響くがマシンナーは全く気にしない、むしろ全てが嬉しかった。

 

(最初は本当に少ない数だったのに今はもうこんなにでかくなった……その分ナザリックの副統括の責任や<マキナ>の総司令官としての責任はデカい……けど)

 

大きな立場に立った分の責任感は相応に大きい、それでもマシンナーは不安にならなかった。

 

(会社が倒産しちまって半ばやけっぱちになっちまってたが、こいつらは一度は離れてしまった俺を信じて必要としてくれた。モモンガさんは、俺の居場所を残してくれた。そのお陰でまたシズにまた会えた。ならば俺は俺ができること全てを、みんなの為に全力でやってやろうじゃないか)

 

マシンナーは呼吸をするような仕草をして、先ほどよりも一際高く声を上げる。

 

「世界中の無知な連中に思い知らせるのだ、アインズ・ウール・ゴウンに我が軍団在りと!」

 

「連中の記憶に我が総軍の姿を刻み付けろ!」

 

「我らの足音を! 我らの闘志を!」

 

「刻み付けるのだ! 疲れを知らぬ兵の姿を! 恐れを知らぬ戦士の姿を!」

 

「さあ諸君………」

 

「世界を取るぞ!!」

 

「「「「「オオオォォオオォォォオ!!!!」」」」」

 

その言葉で一際威圧感を上げる<マキナ>。

 

(これなら、安心して留守を任せられる。ありがとうマシンナーさん)

 

その様子を見ていたアインズは大きな安心感を抱いた。

 

後に大いなる伝説となるナザリック地下大墳墓、そしてアインズ・ウール・ゴウン。

その中で最大の規模の軍団として名を残した<マキナ>。

マシンナーはこの世界での唯一の機械神として、そしてアインズ・ウール・ゴウンの唯一無二の親友としても名を残すことになるのはまた別の話。

 

 



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第31話 事前の準備は入念に

2016年も今日で最後ですね、皆さん良いお年を!


その日、アインズは自身の執務室でマシンナーと対談をしていた。

他愛もない会話から始まり、お互いの情報整理、今後の活動方針や必要なアイテムの有無や量、戦略的拠点の確保、今後外に出る部下と<マキナ>の人員の割り振り、今ある資源や周辺国家の情報収集等。

 

そしてこれから冒険者として出るので、どのように行くのかを相談することにした。

 

「それでやっぱりマシンナーさんのお供はアルティマとシズで決定ですか?」

 

「はい、2人とも即承諾してくれました」

 

「良かったですね、私は前に話した通りナーベラルを連れていこうと思っています」

 

「わかりました、あの…ちなみに聞くんですけど」

 

「はい?」

 

「アルべドかシャルティア辺り駄目だったんですか?」

 

「あ~……」

 

モモンガさんは少し気まずそうな顔?になりながら。

 

「マシンナーさん、逆に聞きますけど、どちらか連れていったらどうなると思います?」

 

「……ちょっとやばいっすね」

 

「でしょ」

 

ナザリックの面々の多くは人間の扱いは悪い、カルネ村にいたエンリ姉妹も危うくぶった切ろうとしたし。

それにシャルティアには『血の狂乱』のスキルがあったな、あれはちょっと厄介だ。

 

「そういやモモンガさん、戦士で行くらしいですね」

 

「はい」

 

「その…大丈夫なんですか? モモンガさん戦士職のスキルとか持ってないから正直心配で…」

 

「安心してください、いざという時は本来の戦い方で行きますから」

 

「わかりました、でも無理はしないでくださいね?」

 

「もちろんです」

 

「装備はあの時見せたあの鎧ですか?」

 

「ええ」

 

大体予想してたがやはり黒い鎧で行くらしい。

あの鎧ってやっぱりたっちさんリスペクトかな?

鎧自体はシンプルでかっこいいんだけど、でもインパクトも大事だからな~…そうだ。

 

「モモンガさん、俺考えたんですよ」

 

「何をですか?」

 

「モモンガさん、有名になるのはやっぱりインパクトも大事だと思うんですよ」

 

「はあ……」

 

「だからモモンガさんの鎧の外見をちょっといじろうと思うんです」

 

「え?」

 

「まず、そうですねえ~、モモンガさん骸骨だからやっぱりドクロのマークはいると思うんすよ」

 

(なんか嫌な予感が…)

 

「あとモモンガさん声が「アイツ」に似てるんで、こいつをベースにしようと思うんですよ」

 

俺はアイテムボックスから『髑髏の魔神』の画像をモモンガさんに見せる。

見せた瞬間、モモンガさんの顎が「パカッ」と開いた。

 

「まず兜をちょっと尖らせてですね…」

 

「いやあのマシンナーさん」

 

「なんですか?」

 

「これ悪役ですよね?」

 

「立派な主役機ですよ?」

 

「え?」

 

「ちなみにパイロットはコイツらです」

 

そういって俺はパイロットの『地獄の2人組』の画像を見せる。

 

「どう見ても悪人じゃないですか!」

 

「なんて事言うんですか! こう見えても2人とも「善良」な公務員ですよ!」

 

「嘘だ!」

 

うんやっぱりそういう反応するよね。

まあ俺もコイツらが公務員だって知った時は同じ反応したけど。

 

「いやでもやっぱりその画像と同じような外見になったら絶対怪しまれます」

 

「漆黒の全身鎧も結構怪しまれると思いますけど?」

 

「某狂戦士ほど危なそうではありませんよ、とりあえずそのデザインは却下ですよ」

 

「え~……声が真上みたいだから大剣持ってナーベラルと一緒に『俺たちが地獄だ!』って言ってほしいのに」

 

まあ真上の武器は二丁拳銃だけどな、剣使うのは海道だけど。

 

「いや言いませんよ……」

 

「でもこの前は俺と一緒に言ったじゃないですか」

 

SKL知らないのに何で言えたんだろう? もしかして身内の中に中の人がいたのかな?

 

「あれは……なんか言わなきゃいけない気がして…」

 

「髑髏つけます?」

 

「いりません」

 

「ちぇっ…わかりましたよ…」

 

「わかればよろしいんです」

 

「じゃあ『マジンサーガ』の方のZの鎧を……」

 

「やりません!!」

 

その後も一悶着あったが、アインズとマシンナーとの対談は終わり、マシンナーは<マキナ>の拠点である<機械の楽園>に戻っていった。

 

「ふぅ……」

 

モモンガは椅子に背を預け息をつく。しかしそれは疲労によるものではなかった。

 

(久しぶりにああいう会話をしたなあ……)

 

ここ最近色々な出来事があったため精神的な疲労が若干あったが、マシンナーとの会話でそれはなくなっており、

心に余裕もできている。

 

(いきなりナザリックごと異世界に転移、更にギルドのみんなが作ったNPCに意思を持った……。最初は不安だったけど、マシンナーさんがこっちに転移してきたのが一番驚いたな…)

 

勤めている会社が倒産寸前にまで追い込まれたので、一時期泣く泣く離れることになったマシンナー。

最悪の場合引退するかもしれないと言って、自分の装備を託していった。

しかしユグドラシルが終了するギリギリで転移してきた(落ちてきたけど)。

マシンナーの発見、その知らせを聞いた時は思わず守護者の目の前であるにもかかわらず驚いた。

しかし意識不明と聞いて動揺したが、命に別状はないと聞いて安堵した。

 

意識が戻り、久しぶりにマシンナーと話した。尤もほとんどがユグドラシル時代の思い出話ばかりだった。

そして今後の活動と最終的な目標にマシンナーは大いに賛同し、喜んで協力すると言っていた。

 

(本当頼もしいよ、あの人は…)

 

これ以上になく頼もしい事だった。自分一人ではどうにも出来ない局面があっても共になら切り抜けられるという確信と言っても過言では無かった。

 

(でもやっぱり油断は出来ない……。周辺国家もそうだけど今のところ一番危険なのはスレイン法国だな。やっぱり『魔法封じの水晶』以上の切り札がある可能性もある。世界級アイテムも持っている事もある。マシンナーさんもスレイン法国が一番プレイヤーが存在する可能性が高いと言っていたし……)

 

モモンガはこれから活動するメンバーの事を思い冷静に思考を巡らせる。

余裕があると言っても、油断は許されない状況である事には変わりない。

 

(まあとにかく今は今後の計画を進めよう。あ、その前にカルネ村にルプスレギナと一緒に配属する事になったゴルドソウルにも一度会って置かないと…)

 

モモンガは再び今後の事について考え始めた。

 

 

 

 

 

<機械の楽園>の司令官室に戻った俺は外に出る供の一人シズに今後の事を話していた。

もう一人の供であるアルティマは今ソニック・スレイヤーの定時報告を聞きに向かっている。

 

「というわけで近いうちに俺、シズ、アルティマで冒険者として活動するつもりだ」

 

「……わかりました」

 

「それで冒険者としての名前だが、俺は「レイヴン」と呼べ。シズ、お前は「マグノリア」だ」

 

「はい…」

 

「で、アルティマは「ジナイーダ」と呼べ。良いな?」

 

この名前は某フロムゲーから取った物である。傭兵といえばこれだろ(冒険者だけど)。

まあ他にも候補としては「サーシェス」とか「アーバイン」とかもあったけど。

 

「それとすまないな、出る世界の都合上ライフルはどうしても持ってけなくてな。仕方ないとはいえボウガンに変えさせてしまって……」

 

いざとなったら本来の姿で戦っていいとは言ったが、できれば本来の戦闘スタイルで戦わせたかったという思いもあった。

 

「いえ…! お気遣いいただき…ありがとうございます…」

 

まあ一応ボウガンは銃と同じ感覚では扱えると思う。(リロードは大変だが)。

 

「まあなんだ、とりあえず一度偽名で一回呼び合おう」

 

「…え?」

 

うっかりボロがでたらまずいしな。

念のため…。

 

「まあ試しに『レイヴン』と呼んでみ?」

 

「……はい」

 

なんか間があったがまあいいや。

 

「レ……レイ……ヴ…///」

 

え? なんで顔赤くなんの?

ま、まさかこれセクハラか! セクハラなのか!?

 

「お、おいシズ! なんかよくわからんが無理するな! 嫌なら別に嫌って…」

 

「だ…大丈夫…です」

 

「そ、そうか…」

 

気を取り直してもう一度やり直してもらうことにした。

 

「レ…レイヴン…」

 

少々ぎこちなかったがなんとか呼べた。

 

「う、うむ、よく言えた。では次は俺だな」

 

「…はい」

 

「マギー」

 

「…マギー?」

 

「あ、いやこっちの方が呼びやすいから、こっちの方で呼んだんだが」

 

「駄目だったか?」と言うが、シズは「…いいえ」と言い。

 

「至高の御方の望むままに…」

 

「ならいい、次は冒険者としての服装はどうする? 俺の場合は顔は変えられるが…」

 

服装を変えるのも一つの手だが、シズはアイパッチをしている。

もし何らかの形で本来の姿で行けば、もしかしたら身元がばれるかもしれない。

 

「……大丈夫です」

 

「ん?」

 

「……少しお待ちを」

 

「……アナザーモード起動」

 

「え?」

 

シズが「アナザーモード」と言った瞬間、シズの姿が変わり始める。

アイパッチはそのままだが、赤金のストレートロングから黒髪になり、髪形もポニーテールとなる。

目の色もエメラルド色から黒色になっており、マフラーも消え、首にはユリが付けているチョーカーと似ている。

メイド服も金属プレートの黒地に金色のラインが入っており、腕部のプレートは紫の文様が刻まれている。

その姿を見てマシンナーは姫とも呼ばれるような大和撫子を連想する。

 

(え? シズにこんな機能があったのか? てかあの人も教えてくれなかったぞ!)

 

予想外の出来事に一瞬ポカンとするがすぐに意識を取り戻し、思わず見惚れてしまう。

 

(いつもの姿からこうも大きく変わったのには驚いたが、やばい……滅茶苦茶綺麗だ。昔の日本のお姫様を連想してしまう。当時の日本に今のシズのようなお姫様がいたら、絶対歴史に残るぞ。そのポニーテール…俺を惚れ直させる最終兵器ですか?……うんごめんなさい…これは…)

 

(こっちのシズも滅茶苦茶タイプです、センターです、ドンピシャです)

 

「……マシンナー様?」

 

「いや…綺麗だなって思って…」

 

「…! ……ありがとうございます」

 

「ああ…でもその姿は一体…」

 

「……博士が極秘につけました」

 

「あの人が?」

 

「……はい」

 

「(…マジか)その姿の事を知っているのは?」

 

「……プレアデス以外はいません」

 

「アインズもか?」

 

「……はい」

 

あの人もしかして教えるの忘れてたのかな?

ん? てことはプレアデス以外で知っているのって俺が最初? なんか嬉しいな。

 

「そうか、なんか嬉しいな…」

 

「……! ありがとうございます…」

 

「んじゃまあお返しに俺の秘密でも見せるか」

 

「……え?」

 

「カラーチェンジ、<ブレイヴ>」

 

一旦俺の身体の色が灰色になり、そこからまた新しい色が出てくる。

黒を基調としたカラーリングから、青、赤、白等のトリコロールカラーになっていく。

そのおかげでカラーリングだけなら勇者ロボ風の見た目になっていった。

これはかつて俺がアインズ・ウール・ゴウンに入団する前のカラーリングだ。

迫力と威圧感を出すため、身体の色を黒く染めたが、割とこの色も気に入っている。

何気にこのカラーにしたのも久しぶりだ。

 

「どうだ? まあ変わったのは色だけだが…」

 

「いえ…かっこいいです……とても」

 

「そうか?」

 

シズに褒められて少し照れる俺、このまま行けるとこまで行こうと思ったが、アルティマが扉をノックしたので、シズとの会話を終わらせる。

もう少し話したかったがまた次の機会もある。

俺も冒険者としての姿はどうしようかな?

まあボチボチ考えるか。

 

 




シズのアナザーモードはweb版のシズの姿をベースにしてあります。


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第32話 冒険者レイヴン

Qなんで遅くなった?

Aし、仕事の影響で……。

それ前も言ったよね?

……。

死★刑♪

アッー!!!

始まります。


リ・エスティーゼ王国にある都市、城塞都市エ・ランテル。

そこにある安い宿屋の中の一室。その部屋の一角に人影が3つ。

 

「こちらが冒険者用のプレートでございます。紛失した場合罰金が生じますのでご注意ください」

「わかった、ありがとう」

「ではこれから、お世話になります」

「よろしくお願いします……」

「い、いえ…」

 

黒を基調としており赤色の線が入っている武者甲冑を身に着けている。

腰には太刃を佩いており、その見た目は戦国時代の武将のようだ。

もう一人は大和撫子のようないでたちで左目には花の眼帯をしている。

髪は黒のポニーテール。

着物のような衣服に、甲冑のパーツがついている。

そして腰には黒塗りのクロスボウを装備していた。

最後の一人は中性的な顔の少年剣士、赤色の髪で後ろに無造作に縛っており、目は緑色。

背中には長大な野太刃を背負っている。

 

マシンナーとアルティマ、そしてシズがそれぞれ変装した姿だった。

 

「お、おい、誰だよあの美人」

「分かんねぇ、でも着てるもんからして相当ないいとこ出なんだろうよ……」

「黒甲冑、さしずめ漆黒の戦士か。そういやさっきも似たような奴を見たな…」

「銅のプレート付けた黒いフルプレートか、そういやさっき見たな…」

「あっちもかなりの美人連れてたからよく覚えてるぜ」

「にしてもリーダー格のあのでかいのもそうだが、横にいる小さいのもただもんじゃなさそうだ」

「え? そうか?」

「まあ俺もなんとなくだがよ、なりはガキだがありゃ多分結構な腕持ってると思うぞ?」

「わかる、ありゃ表情変えずに躊躇なく相手を殺せる目してるぞ」

 

予想はしてたがやはり周囲からは目立つらしく話し声が聞こえる。

まあ体格がよく、大柄な自分やシズは予想していたがまさかアルティマまでとは思わなかった。

どうやらこっちの世界観でもシズとアルティマは十分美少女と美少年なのだ。

更に黒甲冑の戦士、黒髪の綺麗な大和撫子、赤い髪の少年剣士という面子で銅プレートを下げているのだ。

いやでも目立つだろう。

 

(まあ俺の外見は全身鎧だから少し目立つが連れている2人の外見は美男子と美少女だからなぁ……無理もない)

 

兜の中の目を光らせながらそう考える。

そして紹介された宿屋で一悶着起きてしまった……。

 

「おいおい、銅のプレートのくせに装備だけは一丁前じゃねぇか。けど金持ちにゃ冒険稼業は厳しいんじゃねぇの? なんならコツを教えてやるぜ? そっちの姉ちゃんを一晩貸してくれたらな!」

 

チンピラのような銀のプレートを下げた冒険者が喧嘩を売ってきた、顔を見る限りそれなりに力はあるのだろう。

 

「どの場所でもこういうゴロツキはいるもんだな……」

 

「ああ?」

 

(軽く揉んでやるか…)

 

面倒くさいといいたげにやれやれと首をふるマシンナー。

当時人間だった頃もこういうチンピラに絡まれたことがある。

が、鬼のように怖かった工場の上司の気迫とチンピラの脅しを比べれば月とスッポンの差があったのと日々力仕事をしていてついた筋肉のお陰で逆にボコボコにすることもあった。

 

このトラブルもその延長線みたいなもんだと思い。

拳を握りしめ殺さない程度にボコろうと思いながら前に出るが。

 

「『レイヴン』、露払いは僕が……」

 

「ん? そうか…ならヤれ『ジナ』、殺すなよ?」

 

「…御意」

 

この程度のチンピラ如き自分の主の手を煩わす訳にはいかないと思い、前に出る。

一方のチンピラもガントレットを装着して立ち上がり『ジナイーダ(アルティマ)』を威圧するように近づいていく。

しかし当のアルティマはその威圧を内心鼻で笑う。日夜マシンナーの傍で仕事をしているアルティマにとってチンピラの威圧なんて至高の御方々の威光に比べれば塵芥にも満たない。

 

「餓鬼が何の用だよ。俺とやろうってのか?」

 

「無駄口叩いてる暇あったらとっとと攻撃したらどうです? それとも喋ってないと子供一人殴れないのですか?」

 

「てめぇ…泣いて謝っても知らねえぞ!」

 

ジナの挑発にあっさりとキレたチンピラが拳を振り下ろすがジナは最低限の動きでヒョイとかわす。

 

「は?」

 

「攻撃する隙が多すぎです、そんなんじゃ…」

 

ボグゥ!

 

「ガッ!」

 

「こうやって…」

 

カウンターでレバーブローを放ち、そのまま膝蹴りを顔に叩きこむ。

 

バキィ!

 

「カウンター取られますよ? ん? ちょっと……え? 気絶してるの? だらしないな」

 

膝蹴りを入れて倒れたチンピラを揺さぶるが気を失っていることを知り、ジナは呆れた。

そしてそのままチンピラの方の仲間に視線を向ける。

その顔は明らかに驚愕していた。

 

「あなたたちも御用ですか?」

 

「え? あ、いやないない! ボ、坊主! 連れが迷惑かけて悪かったな、はは…」

 

「お気になさらず、気にしておりませんので……」

 

明らかに愛想笑いだが、この話はこれで終わりになった。

一瞬の出来事とは言え男達の心をへし折る程度の威力はあったようだ。

 

「さすがだな」

 

「お褒めに与り光栄です」

 

レイヴンの言葉に綺麗にお辞儀するジナ、そしてレイヴンは宿屋の主人に部屋を聞き出す。

 

「すまない、部屋を借りたいんだが、出来れば3人部屋を頼む」

 

「お……おう。いいぞ。嬢ちゃんとこ、子供連れだしな…あ、連れ用の寝床も用意すっから少し待ってろ」

 

「感謝」

 

先ほどの事でビビりあがってる主人だがせっせと寝床の準備に入る。

用意が出来たことを知り、レイヴン達は部屋に向かうが最後に『マグノリア(シズ)』がくるっと後ろに振り返り。

 

「……お騒がせして申し訳ありませんでした」

 

そういい残し、宿屋の一室へと去っていった。

 

 

 

 

「周囲には誰もおらんな?」

 

「はい」

 

「この部屋に接近してくる存在……無し」

 

「うむ、んじゃ兜脱ぐか」

 

彼は漆黒の鎧兜に手をかけ、「ガチャッ」と兜を脱ぐ。

その下にはマシンナーの顔があった。

 

(にしてもここ埃っぽいな、俺が最初に借りたアパートみたいだぜ…)

 

「少し埃っぽいなここ…」

 

「全くです! こんなボロ宿、ナザリックの支配者たる御方々であるアインズ様やマシンナー様が宿泊する所ではありません!!」

 

思わずこぼした言葉に同意し、激しく憤慨するアルティマ。

 

「落ち着けアルティマ、俺達はここではまだ冒険者としては駆け出しなのだから」

 

威厳のある重低音のバリトンボイスでマシンナーが言う。

確かに若干埃っぽいが寝る場所があればどこでもいいと思っていたマシンナーは特に不満はない。

 

「でも少し埃が目立つ……」

 

シズも少し不満げに答える。

至高の御方であるマシンナーがこんなボロ部屋に宿泊することに大きな不満がある。

 

「我々は現地を調査するにあたり、偽装身分としての冒険者の中で先に冒険者になったアインズと共に冒険者としての名を上げなければならない。そのためにはこういう場所に滞在するのも必要だ。まして駆け出しだ、仕方ない」

 

「フシュ―」と煙を吐くマシンナー。

 

「なるほど……確かにそれは重要ですね、さすがマシンナー様」

 

彼は顎に手をやりなにやら考えている。

 

(ふむ、モモンガさんの言ってた通り冒険者って思ってたよりあんまり夢のない仕事だな。でもそうわがままも言ってられないしな、まあレベルが上がれば冒険者らしい仕事もできるだろう…)

 

「おっと、こっちも冒険者の登録をしたことをモモンガさんに伝えないとな」

 

彼は耳に手を当てて、<伝言>による魔法の遠距離の会話をする。

 

『モモンガさん、こっちも冒険者の登録完了しました』

 

『そうですか、実は今<漆黒の剣>っていう冒険者のグループと組んで行動しようと思っているんです』

 

『お? そうですか、こっちもとりあえず受けられそうな依頼を取ろうと考えているんです』

 

『わかりました、そういえば潜伏している<マキナ>から何か来ましたか?』

 

『いいえまだ何も、何か情報が来ましたらすぐにモモンガさんに連絡しますので』

 

『よろしくお願いします、それじゃ』

 

『はい、モモンガさんも気をつけて』

 

(さて…お仕事探しますか)

 

そして次の行動に速やかに移るマシンナーであった。




ものすごい今更ですが今年もよろしくお願いします!(本当に今更だな……)


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キャラクター解説:マシンナー

メリークリスマス!皆さんクリスマスを一緒に過ごす人はいますか?
ちなみに私は…………( ;ω;)<チクショウ…


キャラ紹介

 

名前:マシンナー(人間時代の名前は敷島将造)

 

通称:ナザリックの機動兵器

 

性別:男

 

属性:中立(カルマ値40)

 

種族:機械神 特機(特殊人型機動兵器) 六身変形者(シックスチェンジャー) 自動人形

 

クラス:エンジニア、ファイター、ガンナーほか

 

スペック

身長:210cm

重量:(通常時)140kg(アスラ)120kg(へカトンケイル)190kg(ゼファー)100kg(デウス・エクス・マキナ)185kg

出力:通常10万馬力~(デウス・エクス・マキナ時)不明

速度:音速を超える。

動力源:無限の核(インフィニティ・コア)

装甲材質:超合金ZO(装備作成に必要だった金属)

武装:黒の機神、シュバルツ・カノーネ、41式斬艦刀、AMCマント他

 

趣味:機械いじり、又は武器、兵器の製造。

好きな人:シズ・デルタ

 

役職

至高の41人

ナザリック地下大墳墓副統治者代行

機械系異形種軍団『マキナ』最高総司令官

 

主なスキル

リーダーのマトリックス:配下のモンスターの全能力30%増加

破壊大帝の威光:配下の機械種系異形種の攻撃力20%増加

下位機械種創造:一日20体まで創造可能。

中位機械種創造:一日12体まで創造可能。

上位機械種創造:一日4体まで創造可能。

魔法反射装甲:第六位階までの魔法を完全に無効化させる。

レアメタル魔法反射装甲:第九位階までの魔法を完全に無効化、防御力の底上げ。

六身変形:六つの変形形態を取得できる。(マシンナーの場合はロボ、戦闘機、戦車、車、メカ恐竜、拳銃等)

量子化:自身の体を量子化させ、一回だけ敵の攻撃を完全に無効化、また瞬間移動も可(使える回数は一日2回)

 

切り札

機械神化:一定時間の間だけ自身の全能力強化、全武装解禁、全スキルが使用可能になる。

???:俺自身がoooになることだ……。

 

 

キャラクター解説

見た目は完全なスーパーロボット体形でカラーリングは黒を基調としており、体には赤いラインが入っている。全身を堅牢な装甲で覆われており、鎖付きアンカーが付いているAMCマントを着こんでいる。通常時は角が2本だが機械神化すると角が5本になる。顔に赤い血涙のようなラインが入っており、目には瞳がある。

 

戦闘では主に41式斬艦刀とシュバルツ・カノーネだが、自身の体に大量の武器を内蔵してあり、それらを駆使した戦闘を行う。専用装備である『黒の機神』は近接特化の『アスラ』、砲撃特化の『へカトンケイル』、機動力特化の『ゼファー』の三種類に変形でき、切り札である機械神化を使えば全ての武装が使える最終形態である『デウス・エクス・マキナ』と化す。

 

主に機械系異形種の強化やロマンを重視しながらもモモンガや他のギルドメンバー達のアドバイスを参考に調整した結果、圧倒的な攻撃力と第9位階までの魔法を完全に無効化する絶大な防御力を獲得。まさしく動く要塞となった。ギルドメンバーとチームを組んで戦う時は真っ先に敵陣に突撃する特攻隊長の役割を果たしていた。

そのファンタジーな世界観をぶっ壊すような武装と自らの機械系異形種の軍団『マキナ』を率いて突撃してくる姿を見て他のプレイヤーからは「出るゲーム間違ってんだろ」やら「スパ○ボに出ろ」と言われた程。

 

しかし装備破壊のスキルを持った者には弱く、その為ギルドメンバーの一人ヘロヘロは一番の天敵の模様。(しかし同じ技術関係の仕事についてた為仲は良かった様子)

 

現実世界

人間だった頃の名前は『敷島将造』。モモンガこと鈴木悟と同じく、ギルドとギルドメンバーを大切にしていた社会人。機械とロボアニメをこよなく愛している(特にお気に入りはマジンガーとゲッター)。

友人の勧めで始めたユグドラシルではPK狩りに遭いながらも徐々に自身の体をアップグレードしていった。

たまたま出会ったモモンガと意気投合しアインズ・ウール・ゴウンにスカウトされる。

本人の性格も比較的温厚でノリが良かった為、ギルドメンバー達には暖かく歓迎された。

 

入団の折、ギルドメンバーの一人が生み出したNPC、プレアデスの一人自動人形のシズ・デルタに一目惚れ。即座に生み出したギルメンに土下座交渉するも速攻でジャンクパーツにされてしまったが、不撓不屈の精神で何度も頼み込み、漸く認められた。

 

某機械生命体の影響で自分の軍団を作ろうと決意。最初にアルティマ達、後の各隊長を生み出した。

最初は小隊規模から徐々に膨れ上がり、最終的には規模だけならナザリック最大の軍団『マキナ』となる。

 

因みに最初からスーパーロボット体形ではなく、初期の頃の姿はかなり貧相な見た目だったらしい(マシンナー曰くジムみたいな見た目)。レベルアップをしていく内に今の体になったらしい。

カラーリングは勇者ロボ風のトリコロールカラーだったらしいがアインズ・ウール・ゴウン入団の後に黒のカラーリングにしたらしい。

 

ギルドメンバー内で仲が良かったのは、自分をスカウトしてくれたモモンガ、マブラヴ等で話が合ったペペロンチーノ。他には、その防御力をウルベルトに買われ、よくクエストに同行していた(また、ディアヴォルスを創造する時、デザインを共に考えてくれたりもしてくれた)。ギルドメンバー1のトラブルメーカーのるし★ふぁーとはよくトラップを設置したり、変なものを作る事もあった。

 

よくナザリックの自室で自作の機械やら様々な兵器などを制作しており、特に列車砲「グスタフ・マキシマ」と「スーパードーラ」を作った時は他のメンバーを驚かせた程。

 

本人がナザリック入りする前、勤めていた会社が倒産。途方に暮れていたところをユグドラシル最終日にギリギリでログインし、他のナザリックの面々と共に異世界入り(落下してきたけど)。当初自分の身体に驚くがシズを始め他のNPCが意思を持ったことに更に驚いた事で自分の身体の事はどうでもよくなった模様。

 

一度はナザリックに離れてしまったマキナの隊長達に再び会う時は内心不安だったが、彼らが自分を信じて必要としてくれると知り、改めてマキナの総司令官に復帰する。

異世界入りしてからはかつての叶わないと思っていた願望がほとんど叶い、超幸せ状態。

モモンガの目標に心から賛成し、マキナの総力を上げて全面協力する(ついでに世界征服も)。

 

今後の目標は『世界征服』ではあるが、個人的な目標は『シズを嫁にする事』。

 




マキナの隊長達の解説もいずれ投稿するつもりです。


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第33話 報告、そしてカルネ村にGO

友達がスパロボVを買ってクリアしたらしいので遊びに行って(作者はPS4を持ってないので買ってません)個人的に気になっていたマジンガー系の武装を見たら平常運転のZERO様に笑いエンペラーGの武装に痺れてました。
でもZERO様とゲッターエンペラーのコンビの絵面は誰でも心折れると思うの。


エ・ランテルの宿の一室のマシンナー達が宿泊している部屋。

マシンナーは先程簡単な依頼を済ませ、部屋に戻っていた。

 

(冒険者の仕事っていうよりどっちかっていうと使いっぱだな…)

 

マシンナーとしては下級でもいいからゴブリンなどのモンスターと戦闘がしたかった。

しかしあるのはお使いなどのもの、先ほど彼が言ったように冒険者というより使いっぱのような感じだった。

 

(まあ…最下級の銅プレートだから仕方ないか)

 

さてこれからどうしようかと考えていると、マシンナーはあることを思いついた。

 

(そういえば俺達のアイテムってこっちだとどのくらいの価値なんだろう?)

 

この前マシンナー達が戦ったスレイン法国は中級の威光の主天使を大天使扱いしていた。

ユグドラシルプレイヤーからしたら失笑物だが、中級の威光の主天使がその扱いなのだ、なら自分達が普通に使っているアイテムはどんな価値があるのだろうと思った。

 

(鑑定ぐらいなら別にいいか。売ってくれと言ってきたらきっぱり断ろう、しつこかったら威圧で黙らせるか…)

 

「アルティマ、シズ」

 

「はっ!」

 

「……」

 

「この辺りの薬屋に下級の治癒薬を鑑定させる、念のためついてきてくれ」

 

「わかりました!」

 

「了解です…」

 

「よし行くか」

 

マシンナーはアルティマとシズを引き連れて部屋を出る、すれ違う他の冒険者からは少し好奇の目で見られていたが、気にしないことにした。

 

 

 

 

「あの、マシンナー様、聞いてよろしいでしょうか?」

 

「ん?」

 

「何故ここで下級のポーションの鑑定を?」

 

「ここか…」

 

マシンナー達が来たのはとある薬屋。

この薬屋にはどんなアイテムでも使用できるという異能持ちの薬師のンフィーレア・バレアレとその祖母のリイジー・バレアレ。

マシンナー達も最初の仕事でこの二人のことを知り、ポーションの鑑定を兼ねてどういう人物か見ておこうとも思った。

 

カランカラン……。

 

マシンナーは躊躇なく足早に薬屋に入店した。ドアのカウベルが大きな音を立て、薬屋に客が来たことを告げた。

 

「ん? いらっしゃい」

 

マシンナーの応対に出てきたのは老婆であった。年はとっているがそこらへんの若者よりも活気があり、はつらつとしているのが見て取れる。

マシンナーの印象は元気ハツラツな婆さんという印象だった。

 

「すみません、リイジー・バレアレさんでしょうか?」

 

「如何にも、私がそうじゃが?」

 

「私は今日この街に来た冒険者を務めるレイヴンと申します。後ろに居るのは仲間のジナイーダ、マグノリアです」

 

「初めまして」

 

「以降お見知りおきを…」

 

「……確かにここら辺では見ない顔だね、それでなんの用だい?」

 

「はい、あなたにあるポーションの鑑定をしてほしいんですが、よろしいでしょうか?」

 

「ん? なんだそんなことぐらいなら別に構わないよ、そこの椅子に座ってブツを見せてみな?」

 

お互い向かい合うように席に座ると、レイヴン(マシンナー)は懐から下級のポーションを取り出した。

 

「!?」

 

明らかに驚愕しているリイジーの目を見て「やっぱりこの世界では値打ち物か」とマシンナーは確信した。

 

「……やれやれ、また一日で『神の血』に2回お目にかかるとは…!」

 

「……神の血?」

 

(え? 下級のポーションでそんなレベルのシロモノなの?)

 

リイジーの神の血という言葉を聞いて首を傾げるマグノリア(シズ)とこのポーションがそこまでの価値があることに少しレイヴン(マシンナー)は少し驚いた。

 

「……いや、すまんね。今日他の冒険者がこれと同じものを持ってきたんでね、物が物だからまさか2回もお目にかかるとは思わなかったのさ」

 

(ん? 他の冒険者?)

 

リイジーの他の冒険者のことを聞き、マシンナーはモモンガを想像した。

 

「そんなにすごい物なんですか?」

 

ジナイーダ(アルティマ)の言葉によくぞ聞いてくれた。という顔をしそのまま答えた。

 

「ああそうだよ! 全くの不純物も介さない完成された一個のポーション! これは私ら薬師、錬金術師が、何十年何百年かけても辿り着けない境地にある究極のポーションと言っても過言ではないシロモノさ!」

 

「は、はぁ……」

 

レベル差的には、自分より遥かに劣るリイジーだが、この気迫に思わず圧倒されてしまうジナイーダ(アルティマ)。

 

「リイジーさん、聞きたいことがあるんですが」

 

「ん?」

 

「先程このポーションと同じ物を持ってきた人物って誰ですか?」

 

「ああ、持ってきたのは女の冒険者だが、くれたのはモモンっていう冒険者だよ」

 

(…やっぱりか)

 

「モモンか…成程、納得しました」

 

「ん? 知り合いかい?」

 

「ええ、まさかここに来てるとは…」

 

「さっき孫がそのモモンに依頼を出しに行ったよ」

 

「成程、まあモモンなら大丈夫か……」

 

「そんなに凄いのかい?」

 

「まあそこらの奴なら相手にもなりませんよ、それでコイツの価値なんですがどれぐらいなんです?」

 

「そうだね…売ってくれるんなら…色をつけて金貨32枚でどうだい?」

 

「申し訳ないんですが、そいつの効きめは知っているので売ることはできないですね…」

 

レイヴン(マシンナー)がそう言うと、リイジーは「はぁ…」とため息を吐き残念そうな表情を浮かべた。

 

「まあ冒険者っていう因果な職についてる身なら仕方ないね…にしてもお前さん、これをいったいどこで?」

 

「さっき話した通り、モモンからです。ですが…あいつもこれの作り方を知っているかは聞いてないのでわかりませんね、申し訳ない…」

 

「いやいいさ、この話はあたしとあんたらだけということにしておくよ」

 

「それはありがたい、なら今後ともよろしくお願いいたします…」

 

「ああ、あんたの持っているブツほどじゃないがこっちもそれなりの物を持ってるから必要になったらいつでも来な」

 

「じゃあそろそろおいとまします、ではまた…」

 

「……ああ、また来なよ」

 

そしてレイヴン(マシンナー)達は工房を後にした。

 

「にしても今日は色々と起こる日だねぇ…」

 

「そういやさっきのレイヴンって奴、なんか僅かに油の臭いがしたような……まあ気のせいかね…」

 

 

 

 

その後また一つ簡単な依頼を終え、宿屋に戻っていた。

部屋についた後の空はもう夜になっており星が光っている。

そしてマシンナーにモモンガからのメッセージの魔法が飛んできた。

 

『はい、モモンガさん』

 

『あ、マシンナーさん…』

 

『どうしたんですか? なんか元気なさそうですが…』

 

『ああいや…そんなにたいしたことじゃないんですが…』

 

モモンガが言うには先に言っていた四人の冒険者チーム〈漆黒の剣〉と協力して依頼を受けたのだが、

夕食のときに話の流れでかつてのナザリックのメンバー達との身の上話をしてしまい、それを聞いた漆黒の剣のメンバーの一人であるニニャという人物が慰めの言葉をかけたのだが、それに逆に苛立ってしまったらしい…。

 

『…そんな事が』

 

『…ええ、今はマシンナーさんが居るのに、あの対応は不味かったなと思ったんです』

 

『…いや逆の立場だったら多分……いや…俺も同じ反応したと思います』

 

『…マシンナーさん』

 

『そう簡単に忘れられる問題じゃないですからね…』

 

『…』

 

『モモンガさんはその漆黒の剣のメンバーをどう思ってるんですか?』

 

『え? そうですね…一言で言えば昔を思い出す存在です、かつてのアインズ・ウール・ゴウンのように…』

 

『なら嫌ってる訳じゃないんですね?』

 

『はい、そうです』

 

『なら多分すぐに仲直りできると思うんです、モモンガさんの性格ならすぐに仲直りできると俺は思ってます。すみません、こんなことしか言えなくて…』

 

『いえ、そんなこと無いです、ありがとうございますマシンナーさん』

 

『いえ、俺なんかで良ければいつでも相談乗りますよ』

 

『ありがとうございます。ではそろそろ…』

 

『はい、頑張ってください』

 

『ええ』

 

メッセージの魔法がそこで終わり、部屋のドアが開きアルティマとシズが入ってくる。

そしてシズが静かに口を開いた。

 

「……マシンナー様」

 

「ん? 何だ?」

 

「…先程この街に潜入している諜報部隊から情報が……入りました」

 

「…ほう?」

 

思ったより早いな、と思いながら報告を聞いてみることにした。

 

「……墓地に怪しい人影?」

 

「…はい、報告によると見た目の装備で職業は戦士職とネクロマンサーの可能性が高い」

 

「成程、よし諜報部隊にそいつらをマークさせろ。動きを見せたらこちらが先手を打つそれから…」

 

「……もう一つ」

 

「ん?」

 

「……その二人が探しているのがンフィーレア・バレアレと言ってた」

 

「あの婆さんの孫か? そういえばどんなアイテムでも使える異能を持っているって聞いたな…」

 

(その能力を使って何らかのアイテムを使う気か? しかも異能を持っているンフィーレアをわざわざ探してるんだ、ということは曰くつきのアイテムの可能性があるな…)

 

マシンナーが思案しているとアルティマが口を開いた。

 

「そういえばアインズ様が護衛している人間の名前はンフィーレア・バレアレでしたよね?」

 

「……あのお婆さんも言ってた」

 

「となりゃ…やることは一つだな」

 

マシンナーが起き上がり、黄色い目を力強く発光させる。

 

「シズ、アルティマ、準備しろ。今からカルネ村に向かう」

 

「了解しました!」

 

「……任務…了解」

 

(俺もモモンガさんにメッセージ送るか)

 

マシンナーはすぐにモモンガさんにメッセージを送る。

 

『モモンガさん』

 

『マシンナーさん、どうしたんですか?』

 

『すみません、今からカルネ村に向かいます』

 

『え? そりゃ急ですね、いったいどうしたんですか?』

 

『現地に着いたらお話します、それでは』

 

そこでマシンナーはメッセージを切った。

そこでメッセージが切れたモモンガはこう思った。

 

「……別にメッセージで話してからでも良かったんじゃないか?」

 

その後途中でそれに気づいたマシンナーは内心「やっちまった…」と思った。

 




先の話で書き忘れましたが、マシンナーが着ている鎧のモデルはBASARAの本多忠勝をベースにしています。(でも忠勝の武装等は着いてません)
武器も最初は忠勝の槍を使おうと思いましたが先端がドリルの為流石に無理かと思い、マシンナーがいつも使用している斬艦刀の下位の(モモンが使っている大剣と同じくらい)武器を使っています。

活動報告にアイディア募集を書きました。
情けないですが作者である私の経験不足の為、この作品の肝心のイチャラブシーンやラブラブな展開等が中々思いつかないません(涙)。
何か見てみたいアイディアやマシンナーが出してほしい武装等のアイディアがありましたらドシドシ下さい!
皆様の意見をお待ちしてます。


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第34話 到着とちょっとしたドッキリ

活動報告にコメントしていただきありがとうございます!
これからも何かアイディアがありましたら気軽にご投稿して下さい!

※修正しました。


モモンは昨日の問題をマシンナーに相談し彼の言葉で朝には少々ぎこちなくだがはっきりとニニャに話し掛けることができた。

マシンナーにそれを感謝するものの、後から来た『カルネ村で会いましょう』の言葉に少々不安があった。

 

(マシンナーさん、少しせっかちな所あるからな……いったいどうしたんだろう?)

 

マシンナーのことを考えているあいだに目的地であるカルネ村が見えてきたのだが、村の様子を見たンフィーレアは驚き、モモン達と同行している漆黒の剣のメンバーも村の変化についての意見を口にしている。

 

「何だろうあの頑丈そうな柵。前は無かったはずなのに……」

 

「しかも武装した小鬼(ゴブリン)と……あれは見たこと無いがゴーレムか? 見たこと無い種類だな」

 

「でもよ、たしか此処いら一帯は麦畑なんだしわざわざあんな所に陣取ってるのは少しおかしくねえか?」

 

「うむ、奴らが伏兵を隠すための存在であるのは間違い無いのである…」

 

「…思った以上に面倒事になりましたがモモンさん、ナーベさん、どうしましょうか?」

 

漆黒の剣のニニャの言葉の後に他のメンバーもモモンとナーベの方を見る。

昨日の2人の圧倒的な実力を知って、これからの行動を2人に尋ねる。

 

「此処は私とナーベがあの小鬼とゴーレム?達と話をしてきます。ですが何が起こるかわからないので皆さんは彼らの射程圏内に入らないよう、お願いします」

 

ンフィーレアが何か焦っているようにも見えたが渋々頷いた。

そう仰々しく言ったものの、彼は何も心配などしてはいなかった。

あの小鬼やゴーレム…機械系異形種<古代機械>達は以前、自分とマシンナーが村娘のエンリに与えた<小鬼将軍の角笛>と<古代機械の胸像>で召喚された存在にまず間違いない。

ならば話し合いで済む相手だし、万が一戦いになっても無力化できるだけの実力差はある。

 

「行くぞナーベ。私に付いてこい」

 

「はい、畏まりました。モモンさん」

 

まだ色々と問題はあるが基本的には今のところ大丈夫なナーベを連れて入口の方へと歩き出した。

 

「待たれよ!」

 

凄まじい音量の声とともに小鬼と古代機械の中を掻き分け、一人の機械系異形種が前に出てきた。

モモンと同じくらいの巨躯とトリコロールカラーで塗られた機体、胸には機械のライオンの顔が着いている。

マシンナーの機械系異形種軍団の隊長格の一人「ゴルドソウル」である。

その後から彼の兵団<特機兵団>の者たちが何名か出てくる。

身体が赤色で両手にトマホークを持った者、日輪のようなパーツを着けた角を持った者、刺付きの大型ヨーヨーを装備した者らが出てきた。

 

「私はこの村の警備をしているゴルドソウルという者だ! 貴様らは何者だ?」

 

(そういえば特機兵団の何人かも村の警備兼ねて人間種との友好を築くためにマシンナーさんが派遣したんだよな)

 

「私の名前はモモン、冒険者をしている者だ。隣に居るのは私の仲間であるナーベ」

 

新たに現れたゴルドソウルとその仲間たちをみてンフィーレアと漆黒の剣のメンバーは驚愕する。

それもそのはずで全身が金属で作られたゴーレムなんて今まで聞いたことも見たことも無いのだ。

 

「モモン……」

 

「ゴルドの大将、モモンって言ったら『あの人』が言ってた…」

 

「大将じゃない、隊長だ。ああそうだな『あの人』の言う通りの人物だな」

 

「……『あの人?』」

 

(まさか…)

 

「私だ」

 

「!?」

 

目の前でバチバチと電気が光り徐々に黒甲冑の武者が姿を現していく。

それを見たモモンは背中の二振りの大剣の柄を握り、ナーベはマントの下に手を入れて剣から鞘を抜き臨戦態勢に入る。

 

(……やっぱり)

 

目の前の武者が誰かがわかり握っていた手を離す。ナーベも慌てて剣を収めた。

 

「よう」

 

「何やってるんですか…」

 

「仲間とたまたまこの村に立ち寄ってたらお前らの姿を見たんでな、ちょっとしたドッキリを計画したんだ、ほらお前らも出てこい!」

 

その言葉を聞いたときにモモンは「やっぱり連れてきてたか…」と思いながらナーベの方を見る。

 

「シ…んん! マギー、ア…ジナイーダさんまで何故このような所にお出でに……」

 

「ナーベ……どもりすぎ…」

 

「仕方ないですマギー、真面目な所が彼女の性分ですし…」

 

ナーベにツッコミを入れるマギーとそれをフォローしているジナイーダ。

そんなナーベ達を見た後にレイヴンの方を見る。

 

<いったいどうしたんですか?>

 

<話すのならここでも良いんですけど…>

 

モモン(アインズ)レイヴン(マシンナー)にメッセージを送り、マシンナーに来た目的を問う。

しかしマシンナーはアインズの後ろ…ンフィーレアと漆黒の剣のメンバーの方角を見る。

 

<悪いんですけど説明お願いできますか?>

 

<了解です>

 

<とりあえず口裏合わせてくださいね?>

 

<ええ、マシンナーさんもよろしくお願いします>

 

<了解です>

 

マシンナーのお願いに同意した後アインズはメッセージを切り、後ろに居るンフィーレア達の所に向かう。

マシンナー達もその後ろに付いていった。

 

一連の流れを遠くで見ていて漆黒の剣のメンバーとンフィ―レアはモモンですら気配を悟られずに(実際はステルス迷彩使ったんだけど)彼に至近距離まで近づいたという男に驚愕していた。

そして戻ってきたモモンにンフィーレアは恐る恐るモモンに尋ねた。

 

「あの…モモンさん、その人は?」

 

「彼は私の冒険者仲間のメンバーの一人だったマシン…レイヴンです、その後ろに居るのは彼が面倒を見ているジナイーダとナーベの姉妹のシ…マグノリアです」

 

「え! ナーベちゃんの妹さん!?」

 

「いや驚く所はそこじゃないですよルクレット」

 

「それにしてもモモンさんが気づかないなんて…」

 

「あのレイヴン氏もかなりの強者であるのは間違いないのである」

 

驚く所が違うルクレットに突っ込むニニャ。

モモンですら気配に気づけなかったことに驚くぺテルと一連の出来事にレイヴンの力量がかなりのモノと察するダイン。

 

<ありがとうございますモモンガさん>

 

<いえ、では一旦村の中に入って話をしましょう>

 

説明してくれたモモンガに感謝するマシンナー。

そしてそのまま村のほうに入っていった。

 




只今カルネ村にはゴルドソウルとその部隊である特機兵団が何名か駐屯しています。
兵団のイメージとしてはカルネ村の中にスーパー系のロボット部隊が駐屯しているかんじです。

他にも村にはゴブリンだけでなくマシンナーが渡した<古代機械の胸像>を渡しており古代機械の軍団がゴブリンと一緒に村の防衛を務めています。

素ネタは遊戯王の機械族のあいつらです。


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第35話 失敗を活かしてこそ大きく成長する

次の話で森の賢王出したいな……。


「やっぱり赤いポーション渡したのってモモンガさんだったんですか?」

 

「えぇ、お詫びの品という形で渡したんですが…もしかして不味かったですか?」

 

「いえ、ンフィーレア少年の婆さんからは普通の冒険者って聞かされたので特に大丈夫だと思いますけど、何かあったらその時に手を打てば良いと思って…」

 

俺達は村のほうに入っていき、護衛対象のンフィーレア少年はこの間助けた姉妹の片割れであるエンリと話してい

る。まさか助けたあの姉妹と仲が良かったとは予想外だったな、人の縁とは奇妙なものだ。

モモンガさんと同行していた冒険者達<漆黒の剣>はそれぞれの装備の確認をしている。何が起こるかわからないから、こういう事は重要だ。

俺とモモンガさんは漆黒の剣から離れた所で昨日の事について話していた。

 

「そういえば昨日話したい事ってなんですか?」

 

「あっはい、実は昨日諜報部隊から報告がありまして」

 

「諜報部隊からですか?」

 

「はい、なんでもモモンガさんが護衛しているンフィーレア少年を狙っているらしいんです」

 

「ンフィーレアをですか?」

 

「はい、多分彼の異能目当てだと思うんですが…」

 

モモンガさんは顎に手を添え考える。

上手くいけば自分の名声に繋がるんじゃないかと考えたが、もし失敗すれば不味いことにもなる場合もあるしな。

そしてその人物達が今どこにいるかを俺に質問してきた。

 

「その人物達は今どこに?」

 

「少なくとも確認した墓地からはまだ動いていません、密偵らしき人間も見当たらないそうです」

 

「ふむ…」

 

「どうします?排除するならいつでもできますよ?」

 

アインズはひとまず考える、もしその者達がこちらより上の戦力を率いて襲ってくる可能性もあるが、

このあたりにその手の者もいないならエ・ランテルで決行する可能性がある。そうなると少数精鋭の可能性もある。

マシンナーの話によると周辺には『マキナ』からLV50からLV70のモンスター(ステルスや気配遮断スキル持ち等)をそれなりの数で待機させているという、この世界で出会ったトップクラスの戦闘力を持つと言われている戦士長のガゼフが「死の騎士」辺りのモンスターでも対処できるらしいので、仮に規模の大きい集団で来ればその数で殲滅できるだろうと考えた。

 

「いえ、まだ泳がせておいてください。ですがもしその人物達が今の我々の戦力を超えていた場合はお願いします。護衛対象のンフィーレアを守れなかったら元も子もありませんし」

 

「わかりました、なら念のため航空戦力も出しておきます。いざとなれば墓地ごと吹っ飛ばす勢いでやってやりますよ!」

 

「いや流石にそれはやりすぎですマシンナーさん……」

 

流石にそこまですれば結構な騒ぎになるのでそれは制止するアインズ。

突っ込まれたマシンナーもすかさず「冗談です」と呟いた。

 

「というかそれ昨日の<伝言/メッセージ>で言えば良かったじゃないですか?」

 

「いや~その…途中で俺もそれ気づいたんですけど結構来てたのでそのまま来てしまったんですよ」

 

「全く…せっかちな所は相変わらずなんだから」

 

「いや~面目ない」

 

基本的に温厚なマシンナーだが時々せっかちな所が少しあり、それで時々失敗したり空回りする事もあった。

そのせいで他のギルメンからも「せっかちなスーパーロボって…」やら「マシンナーさんって機械神っていうよりドラ◯もんっぽい」などと言われることもあった。

しかし異世界入りして人間をやめてしまい、機械の身体になった自分自身のそういう所が残っているというのはまだまだ人間性は残っているんだなと思うマシンナーと友人の人間臭さがまだ残っている事に少し安堵するアインズであった。

 

「というかここまでどうやって来たんですか?」

 

「えーっと高速戦闘用の<ゼファー・モード>になってシズ達を抱えて全速力…」

 

「え?」

 

「嘘です、本当はソニックの<機動兵団>からヘリ型変形機械種の「ブラック・アウト」を呼んでそれで来ました」

 

(軍団持っている人のやることってスゲー……)

 

マシンナーの移動手段を聞いて、心の中で絶句するアインズ。

そして自分も今後冒険者稼業をしている時にもし徒歩などでの移動が無理であれば、マシンナーに頼んで融通してもらおうかなと考えてしまう。

 

「今度頼んでみます?」

 

「良いんですか?」

 

「いやいやそれぐらいならかまいせんよ。それに今<機動兵団>この頃ナザリックの外出てなかったのであいつらの気晴らしにもなりますし。あ、乗物駄目なら<機獣兵団>から馬型機械種も出しますよ?」

 

「ありがたいですけどそれ変形しませんよね?」

 

「……戦闘モードになると角と翼とレーザー砲が出現します」

 

「駄目です」

 

「獣型機械種の中で空中の機動力だったらドラゴン型機械種の「ギル」シリーズより上回りますが…」

 

「いやいやこの世界だと普通に伝説の生物扱いされそうなんですが…」

 

「あ、やっぱり?」

 

途中で軽口を挟みながらも談笑するアインズとマシンナー。

一方アインズ達から離れているアルティマ達は…。

 

「いや~マシンナー様がアインズ様と楽しそうに談笑なされてなによりだよ」

 

「はい、全くですアルティマ総隊長。アインズ様とマシンナー様が仲良く談笑されているあの光景ほど微笑ましいものはありません」

 

「……総隊長、ナーベラル気持ちわかるけど呼び方戻ってる」

 

ナザリックに居る時と同じようなのがいることで平常運転な二人にシズがツッコミを入れる。

その瞳からはどういう感情なのか読み取れないが、言動には若干の呆れが混じっているような感じである。

 

「…オホン、ごめんねマグノリア。ところでナーベ昨日アインズ様がポーションを渡した女の事なんだけど、どういう人間だった?」

 

「単純な力であれば今私たちと同行しているウジ虫たちとあまり変わりません、とるにたらない存在かと」

 

「まあ、こちらに害を起こすのであれば消すだけだけど」

 

「…総隊長、目が据わってる」

 

「ごめんごめん、でももしこれを総括殿が知ったら嫉妬でその人間嬲り殺しそうだよ」

 

「……一概に否定できませんね」

 

「……マシンナー様と外に出る時にアルべド様の部屋に挨拶に言ったらアインズ様の抱き枕作ってた」

 

「ああ…うんあれは………うん…」

 

「…………マシンナー様は『完成度高いなおい』って驚いてたけど部屋を出た後『アレ(抱き枕)はアインズには黙ってような?(知ったらどうなるかわからないし)』って念押しされた」

 

「……」

 

今ナザリックには二つの派閥が存在する。それはアインズの正妃を巡るアルベドとシャルティア両名の二大派閥であった。

因みにナーベラルはアルベド寄りであるが、今の2人の話を聞いて少し頭を抱えたくなった。

 

「……そういえばマシン…んん!レイヴンさ………んはアルベド様とシャルティア様のどちらがモモンさんの正妃に相応しいと思っておられるのでしょうか?」

 

「………総括殿の相談にも乗ったりモモンさんの好きなものを伝えたりすることもあるけど、シャルティア殿の相談にも親身になって聞いたりしておりますので、どちらがなっても不思議じゃないって思ってるのかも」

 

「つまりあくまで中立?」

 

「うん、それに至高の御方の1人がどちらかに着いたらかなりの影響が出る事も考えていると思うからだからこそ中立の立場に置いてるんだと思うよ」

 

「なるほど、あくまで決めるのはモモンさんという事ですね……それとジナイーダさんもう一つ聞きたいことが」

 

「ん?」

 

「レイヴン様自身は正妃を創るという事を考えているんですか?」

 

「……………!?」

 

(ここで聞いてきたか…後シズ反応わかりやすいよ?)

 

アインズの正妃の話の流れでマシンナーの正妃の話ももしかしたら振ってくるかもと考えていたアルティマ。

ナーベラルの質問に僅かだがシズの目は反応していた。

アルティマは少し考える。ここでばれてしまえば自分達隊長達の計画にもしかしたら支障が出るかもしれない(その可能性は限りなく低いが)

それに特にバレてはいけない人物TOPの1人(もう一人はマシンナー)であるシズが知ってしまえば確実にオーバーヒートしてしまうだろう。

 

(そうなったら確実にマシンナー様素に戻る可能性大きいな。うん、ここは上手くなんとかしようマシンナー様の恋路の為に)

 

「…いや今のところマシンナー様の口から直接は聞いた事は無いよ」

 

「そうですか…ならもし創るとしたら誰がいいでしょうか?同じ自動人形としてならマグノリアが良いと思うんですけど………」

 

「……………ナーベ!?」

 

(おお、ナーベラルがこう言ってるってことは他のプレアデス達もシズを推している可能性があるかも。これはいいこと聞いたよ)

 

ナーベラルの思わぬ発言に驚くがいいことを聞いたと思い、ナザリックに帰ったら他の隊長達にも知らせようと誓

うアルティマであった。

しかし反対にシズは……。

 

「…………何を、言ってるの?」

 

「あらルプーが言ってたわよ?『シズちゃん今マシンナー様に恋してるっすよ~』って」

 

「…………ルプー帰ったら絞める」

 

表情は変わらないが目は静かな怒りが宿っている。

こんなシズ初めて見たなと思うアルティマとナーベラルであった。

 

「あ、でも安心して知ってるのは今のところプレアデスのみだから」

 

「…………総隊長が今知ったけど?」

 

「あ」

 

「心配しないで別に反対するつもりはないから、もしマシンナー様がシズを選んだんなら僕らが反対する理由なんてないよ?」

 

「……総隊長」

 

「でも確実に一筋縄ではいかないわよね?」

 

「…………それは確実」

 

シズ自体この恋が初恋なのだ、恋愛経験なんてしたこともない。

妹の恋を実らせる為にナーベラルも思わず考え込んでしまう。

そしてナーベラルが思いついたのか、顔を上げる。

 

「シズ、<マキナ>の隊長方から聞いてみたらいいんじゃないの?」

 

「……え?」

 

「マシンナー様の好きなものとか好きな髪型とかそういうのよ?」

 

「…………なるほど」

 

そう言うとシズはアルティマの方を向き、何か決意したような目でアルティマに聞いた。

 

「……総隊長」

 

「ん?」

 

「……教えて、くれますか?」

 

それを聞いたアルティマはもちろん賛同する。

上手くいけば短時間でマシンナーがシズと結ばれるかもしれないと考えたので。

 

「うん、僕らで良ければ構わないよ?」

 

「!……ありがとう、ございます」

 

(まあそちらの方が効率良いしね。全てはマシンナー様の恋路の為に…)

 

自分の創造主の悲願の為にと改めて誓うアルティマであった。

 

 

 

「なあ、あの二人何を話していると思う?」

 

「分かりませんけどでも二人とも凄く楽しそうですよね」

 

「心を許し合った仲間であるが故の穏やかな光景であるな」

 

「ナーベちゃん達も楽しそうに会話してるな~」

 

モモン一行とレイヴン一行から離れた所で薬草採集の警護の為、それぞれの装備の点検を行っていた〈漆黒の剣〉のリーダーであるぺテル・モーク、<魔法詠唱者>のニニャ、<森祭司>のダイン・ウッドワンダー、<野伏>のルクルット・ボルブの四人は自分達よりも圧倒的な強さを見せた二人の会話に興味を持っていた。

 

「モモンさんから聞いたんだけど、さっきの透明になる仕掛けだけじゃなくあの鎧まだ仕掛けが沢山あるらしいぜ?」

 

「ええ。彼…レイヴンさん自身そういった事が得意とモモンさんから聞きましたけど、簡単には出来ないことです。それが出来るあの時点であの人がタダ者じゃない事がわかりますね」

 

「その装備に見合うだけの実力の一端を先程の出来事で見せた以上、あの御仁もかなりの強者であることは間違いないのである!」

 

「そうですね。ですが小鬼の他に居たのは何だったんでしょう?一瞬ゴーレムの一種かと思いましたけど、後から出てきたゴルドソウルという者達からは確かな意思が感じられました」

 

「確かにな~金属で出来た種族なんて聞いた事無いしな…でもゴーレムじゃないな絶対」

 

「もしかして違う大陸から移住してきた種族かもしれないな?」

 

「やはりこの世の中はまだ未知で溢れてるであるな!」

 

「それよりもよ、レイヴンの大将が連れていたあの二人もやっぱり強いのかな? ナーベちゃんの妹のマグノリアちゃんはボウガン持ってたし、ナーベちゃんとは戦い方違うだろうからわかんないけど、あのジナイーダって子もでっかい刀背負ってたしな…」

 

「でもあの時レイヴンさんだけでなくあの2人の気配も俺達全然気づかなったぞ?少なくとも俺達より強いってのは確実じゃないのか?」

 

「うむ、それは確実である」

 

「それにしてもマグノリアちゃんもナーベちゃんに負けないくらいの美人さんだったな…」

 

「おいルクレット、浮気か?」

 

「バカ!そんなんじゃねえって!」

 

「いえぺテル、そもそもナーベさんはルクレットに気はありません」

 

「おいニニャ、その言葉ダメージデカいからな?」

 

「さっきまでナーベ氏が妹氏達と柔らかい表情で話してるのを見て『愛しのナーベちゃんがあんな顔をするなんて』と言って膝から崩れ落ちたというのに…」

 

「それは忘れろ。ああでももう一人のジナイーダちゃんももう少し大きくなればかなりの美人さんに…」

 

「「「え?」」」

 

「え?」

 

仲間の反応に首をかしげるルクレット。

他の三人は少し見つめあった後にニニャが口を開いた。

 

「男らしいですよ?ジナイーダさん」

 

「え?…………えぇ!?」

 

「おいルクレット、お前そっちもイケる口だったのか?」

 

「人の趣味嗜好をとやかく言うつもりはないがそれはちょっと引くである」

 

「え、いやちょっと待て違…俺女の子と間違えただけなんだって!」

 

「今度からお前との距離ちょっと考えた方がいいかもな…」

 

「ニニャ、気を付けるのである」

 

「そうですね、とりあえず今から対策考えないと」

 

「だ~か~ら違うんだって!」

 

アッハッハと笑う漆黒の剣のメンバーを見ていた俺とモモンガさんはそれぞれ漆黒の剣の感想を言っていた。

 

「あの人たちなに話してるんでしょうか?」

 

「わかりませんが楽しそうですね」

 

「そうですね、モモンガさんが言ってた昔のギルドを思い出しますって言葉凄くわかりますよ。懐かしく感じます」

 

「私もです、本当に懐かしい…」

 

かつてのアインズ・ウール・ゴウンを懐かしんでいる俺とモモンガさん。

お互いにとってもあのギルドは第二の我が家といっても過言ではなかったからだ。

 

「………たっちさん達はどうしてるんでしょうね?」

 

「………」

 

かつてのメンバーの名前を出したマシンナー、そしてモモンガもかけがえのない友人達である彼らの事を思い出していた。

お互い少し無言になっていたが何か思ったのかモモンガが口を開く。

 

「そういえばマシンナーさん、あの村に駐屯しているゴルドソウル達は大丈夫ですか?」

 

「ええ、村に来た時本人に聞きましたが反感や不満はあまり買ってはいないらしいです……まあ俺達機械系異形種を初めて見るのでまだ自分たちに慣れるのに時間がかかりそうですが…」

 

「そうですか…まあしょうがないですね今まで見たことないですし」

 

「ああでもそんなかからないと思いますよ?」

 

マシンナーの意外な言葉に少し目を見開いた(瞼無いけど)ような反応をするモモンガ。

 

「え?どういうことですか?」

 

「ゴルドソウルが言うには子供が一番兵団と触れ合ってるらしいんですよ、ゴルドソウルに至ってはネムに引っ張りまわされてるらしいですし」

 

「何かそれすごく見てみたいですね…」

 

マシンナーと同じくらいの体格を持つゴルドソウルがネムのような少女に引っ張りまわされてる光景は少し微笑ましい。

 

「いや~やっぱり子供にはわかるんでしょうね、ロボットの良さが!」

 

「マシンナーさん、凄く嬉しそうですね?」

 

「そりゃ当たり前ですよ!」

 

この村だけとはいえ機械系異形種が受け入れられ始めていることにマシンナーは大いに喜んでいる。

この世界の全ての機械系異形種が当たり前に存在する時代が到来するのも遠い未来ではないかもしれないと考え始めていた。

 

そんな時ンフィーレアがモモンガとマシンナーの所に急いで駆け寄ってきた。

 

「どうしたンフィーレア少年、さっきの女の子と何か話してたけどプロポーズでもしたのか?」

 

「違いますよ!いえあの……いずれは告白するつもりですけど…って、そうじゃなくて!」

 

「え?冗談のつもりで言ったんだけどマジで!?」

 

「え、ああ…はい、その…はい…」

 

「レイヴン、あまりからかわないでやってやれ」

 

「いや本当に冗談だったんだよ、その……スマン」

 

「あ、いえ、そんなに気にしてませんので……」

 

ちょっと素が出ちゃったよいけないいけない。いや本当に人の縁って凄いもんだな、まさか好きな女の子がエンリとは…。

にしても俺もシズにプロポーズしたいと思ってるんだけど、まだまだ時間が必要だ。

そう思ってると俺はこのンフィーレア少年に少々親近感が湧いてきた。

彼の恋が実ることを願っていよう。

 

「安心しろ、俺は口は固いから誰にも言わない。約束する」

 

(物理的な意味でも固いですよね、身体が超合金だし……)

 

「えっと…ありがとうございますってそうじゃなくて!……あの、2人に聞きたいことがあるんです」

 

「ん?」

 

「はい?」

 

「単刀直入にお訊きします。お2人は以前この村を救ってくれたというアインズ・ウール・ゴウンとマシンナー…あの彼らはもしかしてモモンさんとレイヴンさんなんですか?」

 

 

(え!?)

 

(なぬぅ!?)

 

予想外の言葉に呆気に取られる俺とモモンガさん、それにしても何故そう感づいた?俺は確かにこの姿でエンリ姉妹とあったが念のためボイスチェンジャーで声は変えてあるからバレてないはず。

慎重なモモンガさんもバレるような事はしてないはず?じゃあ何故?

とりあえず俺はモモンガさんに<メッセージ>で聞いてみる事にしてみた。

 

<どうします?>

 

<とりあえず聞いてみましょう、何か聞けば解決策を思いつきますし…>

 

<了解です>

 

俺とモモンガさんは<メッセージ>を切り、ンフィーレア少年に聞いてみることにする。

最初は俺が切り込んでみることにした。

アルティマ達はいつの間にか後ろに控えており横でいつでも動けるようにしている。

しかもアルティマは<メッセージ>を使っており、誰かを呼んでいるようだ。

 

「何故そう思う?」

 

「……」

 

「エンリから聞いたんですが、カルネ村が襲われてエンリが傷を負った時にゴウンさんが使用したというポーションの色がモモンさんが持っていたという『赤いポーション』と同じ物だったという話で気になって、…後はここまでの道中でナーベさんがカルネ村に来るまでの間に口にした『アルベド』という名前がその二人の部下達の方と同じだったようなのでそう思ったんです……」

 

(しまった、あれか……)

 

(やべぇ……)

 

心の中で2人とも「アチャー」となっているがナーベラルは「やってしまった……」っと狼狽している。

どうしよう…いや本当に…マジで。

勘のいいガキは嫌いだよパターンは嫌だよマジで。

 

「だからお礼が言いたいんです……ありがとうございました、この村を救って下さって」

 

「僕の好きな人を助けてくれて、本当に…本当にありがとうございました!」

 

「「……」」

 

俺とモモンガさんはお互いに顔を見て頷き、再び彼に向き直った。

 

「……頭を上げたまえ」

 

「そういう事なら別に何も言わん…」

 

俺は彼の言葉に他意は感じられなかった。

たぶんモモンガさんも同じ気持ちだろう……。

とりあえず何とかなった、とりあえずひと安心。

そして後ろに控えているアルティマの方を向き、「始末しなくてもいい」という意味を込めて首を横に振り、アルティマも了承したのかこくりと頷いた。

 

「あの……モモンガさんに実は隠していたことがあるんです」

 

「何?」

 

ンフィーレア少年が言うには赤いポーションはこの世界ではやっぱりかなり貴重な代物らしい、あの婆さんも「神の血」って言ってたぐらいだからな。

その製法を知るために今回ンフィーレア少年はモモンガさんに依頼を出したらしい。

 

「やっぱりあの赤いのは貴重なのか…」

 

「はい、僕の祖母が『神の血』って言ってました…」

 

「……悪用する意図があったのならともかく、そうでなければ問題ない」

 

ああ教えるんだ、まあこれでンフィーレア少年とアインズとしての繋がりができたから良いか。

それに教えるメリットの方がデカいし。

何か絵面が秘伝のスープの作り方を弟子に教えるラーメン屋店主みたいだな。

 

その後ンフィーレア少年がこちらに駆け寄ってきて、「今から一時間後に出発します」と確認を取った。

そしてモモンガさんはナーベラルの方を向く。

 

「申し訳ありませんでしたアインズ様、マシンナー様」

 

「そうだなナーベラル、お前がアルベドの名を出したのが原因だ」

 

「流石に迂闊だったなナーベラル」

 

そして何故ら剣を出し、首に当て……ん?首?

 

「この命で謝罪を…」

 

(オイィィィイ!?)

 

そんな事させるわけにもいかずすぐさま剣を掴む。

 

「止めろ!」

 

「マ、マシンナー様?」

 

「良い!ナーベラル、失敗は誰にでもある、それを繰り返さぬよう努力すれば良い」

 

「そうだ、俺達だって何度か失敗してそこから学んで今の俺達があるんだ」

 

「だからお前のミスを全て許そう、ナーベラル・ガンマ」

 

「……アインズ様」

 

「全く早々と自害しようとするな、心臓に悪い」

 

「申し訳ありません、マシンナー様」

 

(マシンナーさん、あなた心臓無いでしょ?)

 

アインズはそう突っ込んでみたかったが、この場の空気を読んで止めておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第36話 森の賢王、驚愕の正体!?

先日pixivの方でシズのイラストを探してたんですけど猫化したパンドラとシズのイラストを見つけたんですが、どうやら劇場版オバロかららしいんですがシズとの絡みがあったのかな?(行きつけの映画館が劇場版オバロ上映してなかったので見れませんでした(涙))


「森の拳王?」

 

「字が違いますマシンナーさん、世紀末覇者ではありませんし黒い馬にも乗ってませんし『我が生涯に一片の悔い無し!』とか言いませんから」

 

モモンガさんが言うにはその森の賢王という魔獣はカルネ村の付近にある森の中で最も強い伝説の魔獣らしい。

何でも数百年を生きてたり、蛇の尻尾を持つ白銀の四足獣という言い伝えがある。

 

「あれですか?もの◯け姫のシシ神様的な奴ですか?そうだと俺達命吸われかねませんよ?」

 

「いやマシンナーさん、俺達は体が機械と骸骨じゃないですか、というか見た目が鹿だと決まったわけではないですし」

 

「わかりました、じゃあモモンガさんその『森の賢王』…略して『森賢』をぶっとばしに行くんですね?」

 

「はい、ですのでマシンナーさん達はンフィーレア達の護衛を頼みます、何が起きるかわかりませんし」

 

「了解です、ところでその森賢は殺すんですか?」

 

「いえ、もしかしたら何か情報持ってるかもしれません、なんせ数百年も生きているらしいですし」

 

「じゃあこっちに引き込むと?」

 

「ええ、出来ればそうしたいです」

 

「了解です、それでどうやっておびき寄せるんですか?」

 

「はい、それはですね…」

 

モモンガさんが言うにはアウラに頼んで森賢を住処からたたき起こしてモモンガさんとこにおびき寄せて、それからモモンガさんが戦うらしい。

 

「で、一つ聞きたいんですがマシンナーさん」

 

「なんですか?」

 

「なんでゴルドソウルまでいるんですか?」

 

「あー…」

 

後ろの出発メンバーの中でほとんど人間の見た目の中に一際目立つトリコロールカラーのゴルドソウルが腕組みして突っ立っている。

 

「その…エンリから頼まれたらしいんです、ンフィーレア少年を守れと…」

 

「よくあっさり承諾しましたね?」

 

「生みの親の色眼鏡もありますけどあいつ中々律儀で頼もしいんですよ?」

 

ゴルドソウルや他の団員から聞いた話だと村人の信頼を得る為に護衛だけではなくゴブリン達と一緒に訓練や農作業、土木工事なども手伝ってるらしい。

その行動により徐々にではあるが彼らの信頼も上がってきている。

 

「万が一の事もありますので、連れてきても損は無いかと」

 

「確かにそうですね、念には念ですし」

 

モモンガさんの許可が出たことを<メッセージ/伝言>の魔法でゴルドに伝え、俺達は出発した。

 

 

 

 

「あとはお願いします!」

 

「頼みましたぞ!」

 

俺達は今薬草採集に来ている。モモンガさんとの打ち合わせ通りアウラが森賢をたたき起こして蛇行しながらこちらに向かってくるんだけど、『漆黒の剣』とンフィーレア少年からすれば見たこともない未確認生物が来るもんだから退避を始める。

 

<失敗しましたね…>

 

<……最悪足の一本は斬り飛ばしてきます>

 

<わかりました、ご武運を>

 

<はい、マシンナーさんも頼みましたよ>

 

<了解っす>

 

俺は<メッセージ/伝言>の魔法を切り、『漆黒の剣』とンフィーレア少年の所に向かう。

向かう先には身構えている『漆黒の剣』と心配そうな顔をしているンフィーレア少年、その正面に立つゴルドソウル。

歩いている時シズが小声で話しかけてきた。

 

「……アインズ様の援護に行きましょうか?」

 

「……心配するな。援護がいる時はアインズが<メッセージ/伝言>を飛ばすと言っていた、その時で良い」

 

「御意に……」

 

シズとの会話を終え、俺はンフィーレア少年達と一緒にモモンガさんを待つことにする。

 

「あの…レイヴンさん」

 

「ん?なんだ?」

 

ンフィーレア少年が俺に声をかける、多分モモンガさんの事だろう。

 

「あの、もしもの話なんですがこちらに近づいている生き物ってやっぱり『森の賢王』なんでしょうか?」

 

「さぁな……もしそうだったらどうする?」

 

「その……相手が森の賢王だった場合、モモンさんは大丈夫でしょうか?」

 

「心配するな、そう簡単にあの人は負けん。伊達にかつての俺達のまとめ役をやってた訳じゃないんだからな」

 

「…………」

 

「あの……レイヴンさん」

 

「ん?なんだぺテルさん」

 

俺がンフィーレア少年と話と会話をしている時に漆黒の剣のリーダーのぺテルって人が申し訳なさそうな顔でこっちに近づいてくる。

 

「バレアレさんの身を守る為にレイヴンさん達がモモンさん達の代わりに付いてきてくれたのは本当にありがたいと思っているんですが、本当なら貴方もモモンさん達と一緒に戦いたかったでしょうに、……申し訳ありません」

 

と深々と頭を下げてくる。

こころなしか他の漆黒の剣のメンバーも少し暗い表情をしている。

 

「気にするな、それにもしも俺とモモンが共にその森の賢王に挑んで負けた場合、護衛の人数が減って依頼者のンフィーレア少年の生存率が下がっちまうより1人でも護衛が多くいた方がいいだろ? それにもしかしたら別のモンスターが俺達を襲う可能性もある。だから俺達はあの人を信じて待つ、それだけだ」

 

「レイヴンさん……」

 

まあ本当にヤバくなったら<メッセージ/伝言>で伝えてくるから大丈夫だろう。

モモンガさんもいざとなったら少し本気出すって言ってたし。

 

「あの、レイヴンさんってモモンさんとの付き合いは長いんですか?」

 

「ん?ああ、俺が昔所属していたチームのまとめ役をやっててな?よく悩みも相談もしてたよ…ってどうしたんだ急に?」

 

「いえ、レイヴンさんがモモンさんをあまり心配していないのでとても信頼されているんだなと感じて……」

 

「ああ、そういう事…まああの人の強さはよく知ってるから、心配はしてねえよ…まあチームの仲間達も揃いも揃って化け物並みだが…」

 

「あ、でもタフネスだけなら俺の方が一番だったんだぜ?」という軽口を叩きながら昔の話をする俺をンフィーレア少年は意味深に見てきてたので不思議に思ったので質問をしてみた。

 

「どうした?」

 

「いえ、レイヴンさんが話している雰囲気が昨日のモモンさんに似ていたので…」

 

「昨日?ああそういう事」

 

昨日のモモンガさんの話でンフィーレア少年が意味深にこっち見てた理由がわかった。

昔の事を話していた時の雰囲気がモモンガさんに似てたらしい。

 

「あれ?レイヴンさん知ってたんですか?」

 

「昨日、若干本人の雰囲気が沈んでたように感じたんでな、話聞いてみて…な」

 

「あ…」

 

それを聞いて漆黒の剣のメンバーの1人のニニャが少し落ち込んでしまう。

……やっぱり気にしてたか。そうおもいながら俺はニニャに話しかける事にする。

 

「ニニャだっけか?どうした?暗い顔して…」

 

「その…原因は私なんです。慰めようと思って言ったんですが、かえってモモンさんを傷つけてしまいました…」

 

「……」

 

そう言って更に落ち込んでしまうニニャ。

本人はもう気にしてないって言ってたけど、やっぱりそういうのは気にしてしまうよな。

けどこのままモモンガさんが帰ってきてもしんみりしてる雰囲気だったらあれなのでどうにかすべく俺は行動することにした。

 

「なあニニャさん」

 

「は、はい」

 

「話を聞いた後本人はもう気にしてないって言ってたぞ?」

 

「え?」

 

「後『慰めるつもりで言ってたってわかってるのに逆に苛立ってしまった…』って反省もしていた」

 

「モ、モモンさんが?」

 

「ああ、だから普段通りに話しかけても大丈夫だと思うぞ?」

 

「は、はい!ありがとうございますレイヴンさん!」

 

モモンガさんも仲直りしようと頑張ってるらしいからな、こういう所もサポートしないと。

そう考えていると、今度はンフィーレア少年と他の漆黒の剣のメンバーが興味津々な目でこっちを見てくる。

 

「今度は何だ?」

 

「あの、レイヴンさん、他にもレイヴンさんの事教えてくれませんか?」

 

「え?」

 

「チーム時代のモモンさんやモモンさんのチームの人達がどういう人か私たちも知りたくて」

 

「あと、なんでナーベちゃんがあんなにモモンさんの事慕ってるのか俺すげ~知りたくてさ~」

 

「おい」

 

「うむ!レイヴン氏の強さはモモン氏から聞いたが、やはりここは本人の口から直接お教え願いたいのである!」

 

「……すみませんレイヴンさん」

 

「…………」

 

その後、俺は真実と嘘を交えながらかつての出来事をンフィーレア少年と漆黒の剣のメンバーに話していたら、シズとアルティマ、ゴルドソウルまで興味津々に聞いている。まあギルドのメンバー以外誰にも昔の事を話してなかったしな。

しかし話し込んでいくうちに段々と楽しくなってきて過去の珍事件まで話してしまったがそこはご愛嬌って事で。

 

そして話しているうちに気配を感じたので俺は立ち上がり気配のする方を見る。

 

「待たせたなレイヴン」

 

「レイヴンさん、只今戻りました」

 

「おう、お帰りお2人さん!」

 

モモンガさんとナーベラルがこっちに歩いてきていた。

………話し込んでいくうちに少しの間忘れていたのは口が裂けても言えない。

しかし2人の後ろにもう一つの気配を感じたのでモモンガさんに聞く。

 

「モモン、後ろに何かいるが……」

 

「あ、ああ…こいつは」

 

「おいおいもしかして後ろに居るのは噂の森の賢王、略して『森賢』か?生け捕りに出来たのか……!」

 

どうやらモモンガさんが噂の『森賢』を生け捕りにしたらしい。

これはどんな姿をしているのか非常に楽しみだ!

さてさてどんな奴かな……?

 

「ええ、レイヴンの言う通り『森の賢王』ですよ。中々の魔獣でしたがねじ伏せて服従させました……おい」

 

「こっちに来い」とペットを呼ぶような感じで噂の『森賢』が姿を見せる。

 

「なん……だ…と……?」

 

俺はその姿を見て固まってしまう。

 

尻尾こそ蛇のように鱗に覆われた鞭のような感じだが、まあるくてうるうると輝く円らな黒い瞳、モフモフフワフワの毛並み、短い手足とまん丸の愛くるしい体。

体長は羆の如くに巨大ではあるが、これは…これは…どう見ても……。

 

「ジャンガリアンハムスターじゃねぇかあぁぁぁあぁぁ!?」

 

「ああ、うん……そうだお前の言う通りデカいジャンガリアンハムスターだ」

 

森の賢王のその正体に「嘘だと言ってよバーニィじゃなかった嘘だと言ってよモモンガさん!」と内心絶叫する俺。

驚愕の声を上げる俺に驚いたような顔をするシズとアルティマとゴルドソウル。

何故かシズとアルティマ以外の漆黒の剣のメンバーとンフィーレア少年は警戒して武器まで構えて一歩引いている。まあそりゃ驚くけどさ…うん。

 

「いやいやなんでこんなデカいハムスターがいるんだよ!水爆実験の影響で巨大化したってパターンか!」

 

「いやいやゴ◯ラじゃないんだから…というかレイヴン落ち着け」

 

「というよりなんでハムスター?普通そこゴリラか鹿だろ森で賢い動物って!なんで?何故ハムスター!?」

 

「お、おいレイヴン…」

 

精神作用効果無効化のスキルが連続で発動しているが全然収まらずそのまま俺は興奮のまま森賢に肩を怒らせながら近づき、右手で森賢の頭を所謂プロレス技の「アイアンクロー」のように鷲掴みにし十分力加減しながらぶんぶんと左右にふる。

 

「レ…レイヴン!」

 

「なんでハムスターなんだよ!ねえなんで!?なんか言ってみろこらぁ!?」

 

「な、な、何でござるか殿!?この剛力は!?それがしが幾ら抵抗しても全然通用しないでござる!しかも揺らす力が妙に手加減している感じなので逆に恐怖を感じるでござるよ!!」

 

「……え?」

 

荒ぶっていた俺が一瞬だけ揺らしていた手を止め聞きなれない声の主の方角を向く。

若干気持ち悪そうな顔をしているがはっきりと森賢が話していた。

 

「…………え?お前喋れるの?」

 

「そ、そうでござる…………後凄い勢いで頭揺らされて気持ち悪いからお願いだからもうこれ以上揺らさないでほしいでござる……オェェェェ」

 

(ご、ござる?)

 

「あの~…レイヴン?」

 

「何?…………あ」

 

一瞬揺らすのを止めた影響か、漸く精神作用効果無効化が働き我に返る。

……やっちまった。

いやだってさ……ねぇ?

 

「ああ……その、悪い。だってほら伝説の魔獣の正体がまさかでっかいハムスターだったなんて思わなかったからさ……だからその」

 

「あの森の賢王にあんな事するなんて…レイヴンさん、貴方という人はどこまで……」

 

「え?」

 

「あれ程の強大な力を感じる魔獣を力で真正面からねじ伏せるとは…レイヴン氏もモモン氏と実力者であると認めざるを得ないのである!」

 

「はい?」

 

「しかも、あの見る限り恐ろしい魔獣を気迫で圧するなんて……凄いです」

 

((……え?恐ろしい?))

 

恐ろしい?いやうんちょっと待とうか?うん俺の感性もしかしてずれてる?

俺は自分の感覚が狂ってないか確かめる為にモモンガさんに質問をする。

 

「…………モモン」

 

「…………なんだ?」

 

「こいつ恐ろしい?」

 

「…全然恐ろしくない、まあ少し驚いたが(予想外すぎて)むしろ可愛いならわかるが」

 

「だよな、どう見ても可愛い方だよな?」

 

うん俺の感性は大丈夫だ。うん。

そう言うとその言葉にその場に居たナザリックメンバー以外の人達が「ありえない!」という目を向けてくる。

いや俺達からすればその反応の方がありえないんだけど……。

 

それでモモンガさんと俺はそれぞれのパートナーに意見を聞く事にする。

 

「ナーベ、お前はコイツをどう思う?」

 

「実際の戦闘力と知能はさておき、力強さと知性を感じさせる姿ではあると思います」

 

「ジナイーダ、マギー、お前らコイツの事どう思う?」

 

「……僕もナーベと同意見ですが、恐ろしさならドランザー……ゲフンゲフン、機龍の方が恐ろしいかと、後そんな毛玉にレイヴンさんのアイアンクローと説教は勿体ないかと思われます」

 

「可愛い…抱きしめて…頬ずりしたい」

 

「ゴルドソウル、おまえは?」

 

「……率直に言うとどこが怖いかわからん、これなら俺の同僚の方が厳ついと思う」

 

他3人はともかくシズは普通の反応だな。

そういえばシズの好きな物って確か可愛いものだったよな?

…………俺もなんか可愛いものに変形できればワンチャン…いや止めよううん。

てかアルティマよお前一瞬ドランザーって言いかけたな? あと、目が殺気立ってる。

EXAM全開のブルーデスティニーみたいになってるぞ?

怯えてるから、ハムスター怯えてるから。

 

 

 

 

そのころナザリック第6階層『機械の楽園』隊長舎にて……。

 

「ブェックショイ!!?」

 

「おわぁ!」

 

「おいドランザー、くしゃみする時は鼻の火炎放射器のスイッチ切っておけと言っただろ?部屋が燃えるだろうが」

 

「イヤ急ニ来タンダ……」

 

「アルティマかゴルド辺りが噂でもしてるんだろ?」

 

「……変ナ噂デ無ケレバ良イガ……」

 

「いや気にする所そこかよ?」

 

 

 

 

 

巨大ハムスターを恐ろしいと思っているのとそれを可愛いって思っている俺達を凄いって思われている事に俺とモモンガさんは『えぇ……』と内心困惑するが、ンフィーレア少年が「あの…」と不安そうに声を掛けてきたのでそっちに意識を切り替える。

 

「その魔獣がこの森一帯を縄張りにしていたのならここから連れ出した場合、カルネ村に被害が及ぶ可能性はありませんか?」

 

……そういえばコイツは見た目はともかくここら一帯の頂点だったな。

伝説の魔獣と呼ばれていた事もあり、相応の強さは確実にあったんだろう。

まあそこら辺は俺とモモンガさんで話済みだ。

 

「確かにそうだな……おい」

 

「むむ!それがしの意見をお求めでござるか?任せてほしいでござる!!」

 

(だからなんでござる口調なんだよ…)

 

ござる口調を心の中で俺は突っ込みを入れる。

そして当の本人?はその長い髭を震わせながら話しだした。

そしてこのハムスターの話では『最近周りがかなり物騒になってきていたらしく、もう自分が居ても安全とは限らない』と言った。

それを聞いたンフィーレア少年はショックを受け暗い顔になり、顔を俯かせてしまう。

 

 

「モモンさん、レイヴンさん」

 

「何でしょうか?」

 

「ん?」

 

「お願いします!!僕を貴方達のチームに入れてほしいんです!!」

 

(ふぁっ!?)

 

(えぇ!?)

 

「僕も出来る事なら自分の力で大事な人を守りたいんです!でも今の自分じゃそんな事夢のまた夢だってことはよくわかってるんです。だから……その為にモモンさん達のその強さを欠片でも教えてほしいんです!」

 

(……ごめんンフィーレア少年、おれ身体が超合金と機械と兵器とコンピューターでできてるから強さの欠片教えるにしても機械化か改造人間みたいな感じの知識しか教えられないの……あ、でも平成仮面ライダーみたいにアタッチメント方式ならイケるかもしんない……おっと、考えが逸れてた)

 

「それは俺達を長い間雇えないから、代わりに俺達の所に入って強くなりたいと?」

 

「はい、僕は今まで薬師として勉強をしてきたので薬学に関して多少は自信があります。どんな雑用だって決して文句なんて言いません!だから……どうかお願いします!」

 

「少年の才能を考えると魔法詠唱者のような職業を極めたいと?」

 

「はい!」

 

「どうするモモン?」

 

ンフィーレア少年の意外な頼みに大いに驚いたが、俺はモモンガさんの方を向く。

そしてモモンガさんも俺の方を向いている。そしてお互いに頷いた。

元からンフィーレア少年の異能と薬師としての能力を知って俺とモモンガさんはンフィーレア少年を『こっち側』に引き入れさせようとお互い考えていたんだが、まさかこうもチャンスが転がり込んでくるとは。

 

「私個人としては君の気持ちは本当に嬉しいのだが君を私のチームに加える事は出来ない……」

 

「……その代わりだがカルネ村に力は貸すし、状況に依って君にも戦い方を教える事はできる」

 

「まあ俺の戦い方はちと特殊だが、基本だけなら俺も教える事も出来るぞ?」

 

「あ、ありがとうございます!宜しくお願いします!モモンさん!レイヴンさん!」

 

「ああこちらこそよろしく頼む」

 

「お互い長い付き合いになりそうだ」

 

そう言って俺達は笑いながらお互いに握手を交わす。

握手を終えてから俺はあることを思いモモンガさんに声をかける。

 

「そういえばモモン、コイツ(森の賢王)の名前はどうする?」

 

「え?名前?」

 

「いやだってずっと『森の賢王』じゃいちいち呼ぶの面倒くさいだろ?別に森賢でも良いが、ペットにしたんだから名前つけるべきだろ?そのほうが愛着湧くと思うし……」

 

「おお!それは良い考えでござるよ御屋形様!殿!それがし是非殿に名前を授けてほしいでござるよ!!」

 

「俺は信玄公じゃねえ!……まあ本人もこう言ってることだし名前付けてやったらどうだモモン?」

 

名前を付けた方が呼びやすいし、愛着も湧いて日々の激務を頑張っているモモンガさんの癒しにもなると思うんだ。

え?逆にお前の癒しはなんだって?そりゃシズに決まって…………言わせんな恥ずかしい。

 

「ん~…急に言われてもな…」

 

「なら俺が候補出すからそこから決めたらどうだ?」

 

「え?」

 

「まずシンプルに『ハム◯郎』」

 

「う~ん…」

 

「じゃあ『ガ◯バ』?」

 

「いやコイツそういう名前の感じじゃなさそうだし…」

 

「『ジェ◯ー』?」

 

「いや~……」

 

「なら『ミッ◯ーマ◯ス』………」

 

「アウトォ!!?」

 

結局名前は『森の賢王』改め『ハム助』に改名された。

それなら「ハム太◯」でよくね?と思ったが本人?も満足しているみたいだから良しとしよう。

やっぱり『夢の国のネズミ』は駄目だったよ………ハハッ!




初期構想ではアインズ様とマシンナーのタッグで森の賢王に会いに行き、戦闘ではマシンナーがメカ恐竜に変形して森の賢王とタイマン勝負をするという感じでしたがそれだとモモンさんの功績が減ってしまうのでやめました。

森の賢王の見た目がハムスターじゃなくて「ガンバの冒険」のノロイ様のような白くてデカいイタチだったらモモンさんも(多分)怖がっただろうに……。


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第37話 襲ってくるんなら返り討ちにされる覚悟もあるんだろうな?

37話を投稿した後にある夢を見たんです。
何故か作者の目の前に夢の国のアイツが現れ、いきなり作者の胸倉を掴んでこう言いました。
『次僕をネタにしたら君にお仕置しをしに行くからね?ははっ♪』
と警告された直後目が覚めて夢だとわかり安堵していると、壁にアイツのマークが血のような赤い色で描かれていました……。






クソつまらない茶番は終わらせて始まります!


「そろそろ着くかレイヴン?」

 

「ああ、もう少しだモモン」

 

レイヴン達がリ・エスティーゼ王国の都市エ・ランテルの付近まで来た頃、もう日は沈みかけ、都市では魔法の街灯が灯り始めていた。

エ・ランテルの大通りを歩いていた通行人はレイヴン達から距離を置き、小声で驚きと称賛の声を上げ僅かな恐怖の視線を向けていた。

 

その要因の一つに力強さと知性を併せ持つ事がその見た目で理解出来る白銀の魔獣、その魔物をしたがえる大柄の黒騎士。そしてそんな彼の隣に居て平然と会話している黒甲冑武者。そして何より……。

 

その魔獣の雄大な背に平然と大の字になって背中にへばりつく眼帯を着けた気品さと可憐さを持つ黒髪の姫のような少女が特に注目を集めていた。

 

『あの……マシンナーさん?』

 

『なんですか?』

 

『時々ハム助に若干嫉妬の籠った目でチラ見するのやめてくれません?ハム助メッチャ怯えてるんですけど…』

 

『…………すいません』

 

そう、これはレイヴン達がカルネ村から出発する前に遡る。

事の始まりはカルネ村から出発するとき、漆黒の剣のメンバーと森の賢王からアインズは「是非とも乗って帰ってみては?」と提案されたのだ。

 

正直恥ずかしくて乗れないアインズはマシンナーに<メッセージ/伝言>で助け舟を要求するが、マシンナーも良い考えが浮かばなかったのだ。

 

少し考えている時に丁度シズが目に入り、シズの好きなものがモフモフな小動物だということを思い出し、シズに乗らないかと言う。

 

内心シズは騎乗したいと考えていたが、プレアデスとして至高の御方の1人であるアインズを差し置いて乗る事はできないと思い、最初は断ったがマシンナーからも『モモンが良いって言ってるんだし乗れ乗れ』と言った。

 

シズはナーベラルとアルティマの方を見ると「至高の御方が許可したのならと特に言うつもりはない」という視線で言っていた。

 

そういう訳でシズは表情に現わさなかったが内心大いに喜びながらハム助に騎乗した。

その光景を見たマシンナーは(俺もモフモフなモノに変形できれば…)と思った。

 

「殿~、何故か御屋形様が時々凄い迫力の視線で某を睨んでくるでござる、某とても怖いでござるよ~…」

 

「気のせいだ」

 

「えぇ…でも本当に感じるでござ……」

 

ハム助が何か喋ろうとしたが、隣でアルティマがちょいちょいとハム助を小突き、指で自分の方へ招く仕草をする。

それを見たハム助は頭に?マークが浮かんでそうな顔をしながらアルティマの方に顔を向け、小声で会話をする。

 

『なんでござるかジナ殿?』

 

『マシ……んん! レイヴンさんが君の方を見ているのは君に乗っているマグノリアだよ、落ちないか心配だからね』

 

『なるほど!従者であるマグノリア殿を気遣ってちょくちょくこっちを振り向いているでござるね!でもそれならなんで時々凄い威圧感だしながら見てくるでござるか?』

 

『それは「絶対落とすんじゃないぞ?絶対だぞ?」って目で言ってるんだよ、レイヴンさんはとても従者思いだから』

 

『御屋形様も殿と勝るとも劣らない器でござる!』

 

アルティマがハム助にマシンナーが見てくる理由を説明し、それを聞いたハム助の中でマシンナーの株が上昇していく。そんな話をしているとは知らないアインズとマシンナーは「何話してんだろ?」と考えたが、話している雰囲気を考えると怖い話ではなさそうだと思いそっとしておくことにした。

だがマシンナーはハム助を見てあることを思う。

 

『俺だって動物に変形できるのに…』

 

『マシンナーさんが変形するの動物じゃなくって恐竜でしょ?しかも見た目がT-REXに限りなく近いじゃないですか、どう見ても可愛いとは程遠い見た目の生物です本当にありがとうございました』

 

『こうなるんだったら恐竜型じゃなくてゴリラ選べばよかった』

 

『いや大して変わらないと思いますけど…』

 

『変形できる形態に"モフモフなモノ"入れときゃよかった…』

 

『いやモフモフなロボットって聞いた事ありませんよマシンナーさん、前代未聞ですよ』

 

『なら作ればいいんですよ!まず全身モコモコの……』

 

『やめてくださいマシンナーさん!気持ち悪い見た目のイメージしか湧きませんから!?』

 

『モモンガさん酷い!』

 

そんなくだらない会話をしながら歩きながらアインズは別の話題に切り替える。

 

『マシンナーさん、例の"2人組"は?』

 

『いますね、ンフィーレア少年の工房の中に……』

 

『2人だけですか?』

 

『はい、2人だけです』

 

『やれやれ、帰ってくるまでが遠足だっていうのに…』

 

『遠足の割には面子がほとんど武装しているんですがそれは…』

 

ンフィーレアを狙っている例の2人組の事はマシンナー達がカルネ村に出た後からエ・ランテルに潜伏しているアンドロイド型の機械系異形種で構成している偵察隊から報告が来た。

他にも小型ドローンタイプが何機か2人組を随時偵察している。

因みにンフィーレアの祖母であるリィジーは今留守にしており、彼女の身柄は今のところ安全だ。

念のためリィジーにも偵察隊から何名かがばれないように護衛に付いている。

 

「モモンさん、レイヴンさん」

 

そこにンフィーレアがアインズに依頼完了の話をするために2人に近づいた。

ンフィーレアの異能を知ったマシンナーは今度会ったら自分の持っている魔法道具を彼の異能で起動する実験をしようと考えている。その為にも例の2人組から彼を何が何でも守ろうと決めた。

 

「あの、お二人とも報酬の件ですが、モモンさんと森の賢王のお陰で高価な薬草を大量に手に入れられた分の追加報酬をお渡ししたいので、組合に寄った後でお店に来ていただいても良いですか?」

 

「ん?ンフィーレア少年もしかして俺達も含まれているのか?」

 

「ええ、勿論ですレイヴンさん、追加報酬だけですが…」

 

「いやいや、俺達は手伝いみたいなもので勝手についてきたようなもんだ。貰う資格なんてないよ」

「そんな! 滅相もありませんよ、せめてもの御礼です。是非貰ってください」

 

頭を掻きながらマシンナーはアインズの方を向く。

アインズの方も『貰っても良いんじゃないか』という視線を向けている。

マシンナーは少し考えてからンフィーレアに話しかける。

 

「なら…俺の分の報酬を少しモモンの報酬に上乗せしてやってくれ、それぐらいが妥当だ」

 

「それはかまいませんが良いんですか?」

 

「言ったろ?勝手についてきたようなもんだって、だからそんなに多くは要らんさ」

 

「レイヴンさん…わかりました」

 

「ああ、それとモモン、俺達はンフィーレア少年の店に先に待ってるからゆっくり来い」

 

「ん?ああわかった、レイヴン」

 

「あれ?レイヴンさん、モモンさんと一緒に組合まで行かないんですか?」

 

「ああ、それにまだ薬草の積み下ろしなんかもあるんだろ?ならそれを手伝わせてもらうさ」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

「シ…マグノリア、そろそろ降りろ」

 

「ん……はい」

 

勿論これは建前で本当はンフィーレアの護衛だ。モモンは魔獣を連れ込むには組合に登録する必要がある為組合に一旦寄らなければならない。

それを聞いた2人はやってしまったと内心思うが、すぐに計画を修正し、マシンナーがンフィーレアを逃がした後アインズが保護するという手筈になった。

 

というわけでマシンナーは例の2人組を"ちょっと"本気で倒そうと決意していた。

 

 

 

 

 

俺達はモモンガさんと一旦別れた後ンフィーレア少年の薬屋の扉まで来ていた。

 

「お疲れさまです、果実水が母屋に冷やしてあるはずですから皆さん飲んでいって下さい」

 

「そいつはいいねぇ!」

 

(アル、首尾は?)

 

(ご安心を、偵察部隊から戦闘がそれなりにできるもの十数名を待機させております。最悪保護対象をアインズ様のもとにまでおくり届けるよう命令してあります)

 

(そうか……シズ、ボウガンをいつでも出せるように準備しておけ)

 

(…………了解)

 

(よし…なら始めるか)

 

「待て」

 

「え?」

 

「レイヴンさん、どうしました?」

 

俺の言葉を聞いてンフィーレア少年と漆黒の剣のメンバーが俺の方を見る。

俺はすぐに説明した。

 

「……一瞬だが中から殺気を感じた」

 

「えぇ!?」

 

「おいおい、レイヴンの旦那流石にそれは気のせいじゃ…」

 

「いや、レイヴン殿のような強者にしかわからない類のものかもしれないのである!」

 

それぞれ様々な反応をするのも仕方ないだろう。

俺も偵察部隊からの報告が無ければ多分知らなかったろうし。

だがぐずぐずするわけにもいかず俺とアルティマとシズはンフィーレア少年達の先頭に扉を開けた。

 

室内は暗くシンと静かで誰も居ないように感じる。

 

「……あの誰もいな『はぁいお帰りなさ~い』え!?」

 

「本当にいた!?」

 

「マジかよ…」

 

ンフィーレア少年が言い終える前に例の2人組の女の方が先に姿を現した。

装備は露出度の高いモノを着ており髪は金色のミディアムヘア。

多分この女の武器であるスティレットを両手に持っている。

顔も綺麗な方だったが、目が少し危なそうなので性格は良くなさそうだ。

 

俺達以外の他の連中が気づかなかったという事は何らかの阻害魔法による可能性も高い。

装備と持っている武器を見ると多分コイツはスピード型の可能性がある。

 

「あれ~?なんだか思ってたより違う反応~?まあいっか~全員殺すだけだし」

 

「クレマンティーヌ、やはり貴様最初からそのつもりだったか…」

 

「ごめーん、カジッちゃん。でもどのみち見られてただろうし、どのみちこいつら殺すしかないよ?」

 

「ふん、全く」

 

もう一つの片割れである老人が相方の『クレマンティーヌ』って女に不満を口に出しながら出てきた。

ローブを纏った痩せこけた土気色の肌で死人のようにも見えた。(あとハゲ)

装備から見るとネクロマンサー辺りの人間だろう。

 

(反応から察するにそれなりの腕前を持ってるんだろう。クレマンティーヌとかいう女が前衛でカジッちゃんとかいう奴が後衛だろうな、ならば…)

 

俺は後ろにンフィーレアさんをここから逃がすよう伝える。

それと同時にアルティマが偵察部隊に漆黒の剣とンフィーレア少年を護衛するよう伝えた。

 

「ぺテルさん、ンフィーレア少年を連れてここから離れろ」

 

「え?でもレイヴンさん!?」

 

「早く行け!」

 

「は、はい!おいみんなンフィーレアさんを連れてモモンさんの所に行くぞ!」

 

「わかったのである!」

 

「旦那!モモンさん見つけたらすぐ戻るから持ちこたえてくれよ!?」

 

「ンフィーレアさん早く!」

 

「は、はい!レイヴンさん!」

 

「ん?」

 

「絶対戻ってきてください!」

 

「へっ!あいよ!」

 

『こちらアルティマ、目標が動いた。アインズ様がおられる場所まで絶対に死守しろ!』

 

『は!命に代えても必ず!』

 

「おやおや感動的だね~、良い台詞だね~、けど無意味だよ~?」

 

「呑気に言っている場合かクレマンティーヌ!?早くこやつらを殺せ!」

 

「は~いはい、わかってるよカジッちゃん」

 

あまり長引くと何使われるかわからないので早めに決着をつける事にした。

アルティマやシズにもそう目配りし、俺の後ろに控えさせる。

 

「見たところコソ泥や薬泥棒には見えないな?」

 

「ん~?まあそうだね~どちらかというと人攫いかな~?」

 

「目的はンフィーレアだな?」

 

「ぱちぱちぱち!正~解~、でもその前に君たちをとっとと殺さなきゃいけないんだよね~?残~念~。まあ運が悪かったと思って諦めてね~?」

 

「元から貴様はそのつもりだろうに…」

 

「そうかい、教えてくれてありがとう。なら……」

 

俺は一歩前に出て指の関節を鳴らす。

シズやアルティマも俺の後に続く。

目的は言うまでもない。

 

「盛大にボコボコにして返り討ちにしてやんないとなぁ?」

 

「あ?」

 

「聞こえなかったか?ならもう一度言ってやる、お前ら2人とも死なない程度にボコボコにした後牢屋にぶち込んで臭い飯を嫌って言う程味わわせてやる。新聞の見出しにはこう書かれるだろうな……『ハゲとクレイジーサイコ女、人攫いをするも無様に返り討ちに遭い捕まる』って見出しで……」

 

「……ぷ、アハハハハハハ!聞いたカジッちゃん?あいつカジッちゃんの事ハゲだってさ!」

 

「え~い黙れ!クレマンティーヌ!」

 

「まあ冗談はさて置いて~、私大っ嫌いなんだよね~…」

 

そう言いながらスティレットを構えて正面から突撃を仕掛けてきた。

 

「そういう冗談がさぁ!?」

 

右手に持っているスティレットで俺の左目を穿とうとする。

なるほど、このスピードなら漆黒の剣の人たちだったら皆殺しにされてただろうな、おまけにこのスピードなら抜刀する隙も無い。だけど……。

 

ガシンとスティレットを左手で鷲掴みにする。

クレマンティーヌは一瞬少し驚いたがすぐに左手のスティレットで刺突してくるがこれも右手で掴んだ。

 

「お前……」

 

「速さが足りねえぞ?そんなスピードだったらス◯ライドのクーガーの兄貴に説教されるぜ?」

 

俺がスティレットを掴んでいるとアルティマとシズが話しかける。

 

「別にレイヴンさん自ら始末される程の相手でもないと思いますが?」

 

「……私達だけで十分」

 

「ならコイツ一回ぶっ飛ばした後で始末頼めるか?」

 

「了解しました…」

 

「………承知しました」

 

(な!こいつら……舐めやがって!!)

 

自分が舐められている事にクレマンティーヌは怒りを覚え、コイツはタダでは殺さない、他の連中を殺した後じっくり嬲り殺してやると決意した。

 

一方俺はそのままスティレットをへし折ろうとしたが、スティレットは思ったより頑丈に作られているのかそこそこ硬かった事に驚いて少し興味がわいた。

 

(へぇ、コーティングしただけのオリハルコン製の割には頑丈だな?)

 

一方のクレマンティーヌも、自分の攻撃を受け止められた事に少し驚いている表情をしている。だがすぐに先程の余裕の笑みになる。

 

「へぇ~…思ったよりやるじゃん?」

 

(あ、これなんか仕掛けてくるな?)

 

「でも受け止めるのはすごいけどさ~」

 

そう言うと、クレマンティーヌのスティレットの先から目が眩む程の眩い電流が迸り出した。

 

「こういう事も想定しなきゃ命取りになるよぉ!」

 

(……あ、コイツスティレットに<魔法蓄積/マジックアキュムレート>仕込んでいたな)

 

「「!?」」

 

恐らく武器に蓄積させてたライトニングの魔法で一時行動不能にさせて痛めつけようとしたんだろう。

ライトニングを受けた俺の姿を見てアルティマ達も動こうとするが、メッセージで制止させる。

 

『心配すんな』

 

『ですが…』

 

『この程度どうってことはない』

 

俺は2人を制止させたあと意識をクレマンティーヌの方に向ける。

クレマンティーヌの顔が笑っている。

多分これで俺を仕留めたと思っているんだろう。

ならその甘っちょろい幻想を粉粉塵してくれるWA!

 

「あのさ、ドヤ顔してる時にわるいんだけどさぁ…」

 

「……え?」

 

「その程度の電圧じゃあ俺の回路は焼き切れねぇぞ?」

 

「何!?」

 

クレマンティーヌとカジッちゃんの顔が驚愕の色に染まっている。

この世界の常識だとそれなりに高い階位魔法かもしれないけど俺の装備とスキルで完全に無効化されてダメージすら入っていない。

 

「まああれだ、『奇跡も魔法もあるんだよ!』って奴だ」

 

「嘘をつけ!貴様マジックアイテムを装備しているな!?」

 

「正解だハゲ君。というわけで君らの魔法は一切俺には通用しません!次はこっちのバトルフェイズだ!」

 

俺は掴んでいる右手を離し拳を握りしめ腕部装甲に収納されていた打撃用ナックルを装着する。それを見たクレマンティーヌは急いで俺から離れようと蹴るなり空いた左手で攻撃するが無駄だ、パワーと装甲が違う。そしてそのままクレマンティーヌの腹に拳を叩き込んだ。

 

「ふがぅ!?」

 

「さっきお前こう言ってたな?」

 

俺の文字通りの鋼の拳は深々と腹にめり込む。

喰らったクレマンティーヌの顔は凄い事になっており目には涙を浮かべ、口から嘔吐物と血が入り混じった液体を勢いよく吐き出した。

 

「『こういう事も想定しなきゃ命取りになるよぉ!』って」

 

「がぁ! はぁ…はぁ…てめぇ……!?」

 

「まだ、反抗する元気があるのか?思ったより頑丈だな?」

 

涙を浮かべながらも俺に般若のような顔をして睨んでくるクレマンティーヌ。

人間の頃の俺だったらしめやかに失禁していたであろう。

正直ちょっと怖い。

 

そういえば相方がやられている時にハゲのカジッちゃんはなにしてんだろ?

そう思って俺はカジッちゃんの方を向くと何やら魔法を繰り出そうとしている、これは止めなければ。

 

「おいクレマンティーヌ、ドッジボールやろうぜ?お前ボールな?」

 

「は?何言って…うわ!」

 

俺はクレマンティーヌを持ってドッジボールで球を投げる構えをとる。

狙いは勿論カジッチャンだ。

 

「チャージなどさせるものか!」

 

このネタわかる人いるかな?まあそれは置いといて。

俺はカジッちゃんに向かってクレマンティーヌをぶん投げる。

 

「なに!ぐぅ!」

 

カジッちゃんはクレマンティーヌが当たる前にギリギリで回避する。

回避されたクレマンティーヌは壁に思いっきりぶち当たり、ハウスダストを大量に撒き上げながら突っ伏している。

 

(おっと…相方のカジッちゃんも行動不能にしなきゃな?)

 

「ええい!貴様…!」

 

「マグノリア」

 

「…はい」

 

カジッちゃんがまた魔法を繰り出そうとしようとしてたが、俺は後ろに控えているシズに指示を出す。

シズはすぐにクロスボウを出し矢を発射した。

矢は見事にカジッちゃんの右腕に命中、カジッちゃんは痛みで悲鳴を上げ、腕を押さえる。

だけどそれだけで済ませる程俺は甘くない。

 

「爆破しろ」

 

「了解」

 

シズは左手に持っていた小さなスイッチを取り出し、ボタンを押すと「ピッ」という音がなった。

次の瞬間、派手な音と閃光とともにカジッちゃんの右腕は血しぶきを上げながら爆散する。

 

「が、ああああああああ!?」

 

「ナイスアシストだ」

 

「……光栄でございますレイヴン」

 

腕が爆散したカジッちゃんは失った右腕を押さえて大きく声を上げる。

先程シズが放った矢の鏃に腕が爆発する程度の爆薬を装着させておいたのだ。

それにしてもいつも愛用している魔銃じゃないのにあそこまでの命中精度を持つとは流石シズだな。

いつもの魔銃だったらあの2人を見た瞬間射殺していたかもしれない。

 

(さてと、それじゃ気絶させてワッパ掛けちゃいましょうかね?)

 

俺はアイテムボックスから手錠を取り出す。

勿論こいつらが暴れても壊れない丈夫な奴だ。

まずカジッちゃんの左手と両足に掛けようとしたがアクシデントが起きた。

 

「こ……の……!」

 

なんと気絶してたと思っていたクレマンティーヌが起き上がってきたのだ。

あれだけ激しく壁に叩き付けられたのに目は闘争心で漲っており、先程まで余裕で満ちていた顔は既に余裕が無くなっており俺に対する殺意で顔を歪めている。両手にスティレットを持って今にも飛び掛かってきそうな雰囲気だ。

 

「クソがあぁぁぁ!?」

 

あまり広いとは言えない部屋で先程よりも速いスピードで突撃してくる。

ならこっちはカウンターで迎え撃ってやろうと構えるが俺とクレマンティーヌの間に入ってくるものが1人いた。

 

「! どけガキィ!?」

 

「痴れ者が…」

 

アルティマがスティレットを両腕から展開した手刀で受け止めクレマンティーヌを押さえ込んでいた。

クレマンティーヌを汚物でも見るかのような目で見ている。

そして力任せにスティレットを掃い腕のみを戦闘形態に部分変形させ腕の推進器を作動させながら顔面を殴る。

 

「口だけのゴミ屑の分際で僕の主の手を煩わせるなよ……この糞サイコビッチがあぁぁ!?」

 

とんでもなく汚い言葉を吐きながらクレマンティーヌを殴り飛ばす、その勢いはクレマンティーヌが店の壁を突き破るほどだった。

どうしようリィジーの婆さんとンフィーレア少年になんて言えば良いか…。

 

(やべぇ……これ弁償だよな?)

 

「クレマンティーヌ!…ええい、クソ!!」

 

カジッちゃんは無くなった右腕を押さえながらよろよろと立ち上がりクレマンティーヌの所に向かう。

俺はアイテムボックスから相手をスタン状態にさせる<電磁ワイヤー銃>を取り出し、発射する。

しかしまだ抵抗する余力が残っていたのか灰色の壁のようなモノを出し、それを防ぎ、クレマンティーヌのもとに向かう。

 

(外に行ったか…)

 

俺はさっきの戦いで開けた穴に向かい、カジッちゃんの後を追う。

穴を出た先には、そこまで遠くない距離でクレマンティーヌに回復魔法を使いある程度回復させているカジッチャンが居た。

回復が終わったのかクレマンティーヌも立ち上がり俺を睨んでいた。

 

「ぐ…う…てめぇ…」

 

「何をしておる今は取りあえず逃げるぞ!?」

 

「ちっ…!」

 

クレマンティーヌはカジッチャンを抱えそのまま逃げようとし、俺は追いかけようとするがクレマンティーヌは先程の数倍以上の速度で駆け出し、そのまま闇夜に消えていった。

 

(なんだアレは?ユグドラシルの魔法じゃないぞ?という事は今あいつが使ったのは武技ってやつか?)

 

となるとクレマンティーヌは捕獲してナザリック送りにした方が良いかもな。

なにせ武技自体がこの世界だけの特殊能力だ、研究する価値もある。

後でメッセージでモモンガさんにも伝えよう。

 

「マシンナー様、奴らは?」

 

「逃げた、まあどこにいるかわかるけどな」

 

俺はアルティマに携帯型レーダーを渡す。

レーダーには赤い点が移動しながら点滅している。

さっきクレマンティーヌと組み合ってた時に念のため小型発信機をつけておいたのだ。

先日の諜報部隊からの情報でエ・ランテルの墓地を拠点にしているので、十中八九そこに向かっているとは思うが、万が一の為にコイツを使って後を追わせるか。

 

俺はマジックボックスからディスク型のアイテムを取り出し、上に投げる。

するとディスクは瞬時に鳥型メカに変形する。

コイツは機械系異形種に変形できるマジックアイテム『変形円盤機/ディスク・トランス・ロイド』の1体、『ファルコン』。

このマジックアイテム自体の攻撃力は低いが、小型で小回りが利き偵察に向いているので機械系のマジックアイテムの中では人気のあるアイテムだ。俺もその利便性で重宝している。

他にも犬型や猿型もあるが、それはいずれお見せしよう。

 

「ファルコン、追え」

 

「キー!」

 

俺の命令でファルコンはクレマンティーヌの跡を追う。

後はアルティマにンフィーレア少年がちゃんとモモンガさんの所に着いたかどうかだ。

 

「マシンナー様、先程偵察部隊からの報告で目標がアインズ様の所に向かったと」

 

「そうか、偵察部隊にご苦労と伝えておいてくれ」

 

「承知しました」

 

「マシンナー様…一度アインズ様の所に合流した方がいいと思う」

 

「ああそうだな。というかアルティマ、お前あの女ぶっ飛ばす時目茶苦茶汚い言葉言ってたけどあれ何処で覚えたんだ?」

 

まさか普段(ナザリック内で)比較的な温厚だと思っているアルティマの口から「糞サイコビッチ」なんて言葉聞くとは思わなかった。お前生み出したお父さんである俺にとって色々と衝撃的だよオイ……。

 

「え?あれですか?う~ん…あの身の程知らずのメス猿が事もあろうにマシンナー様に対して無礼な発言とお手を煩わせると言う大罪を犯したので思わず頭に血……じゃなくてオイルが上ってしまったので思わず言ってしまったんですが……」

 

「駄目だったでしょうか?」と言うアルティマだが別に俺は責めるつもりなんて毛頭ない。

それに俺の為に怒って言ったんだから尚更だ。

 

「嫌、普段穏やかなお前からそういう言葉が出たから色々と衝撃的だっただけだ。助けてくれてありがとう、礼を言う」

 

「いえ、シモベとして当然のことをしたまでです……」

 

そう言ってお辞儀をするアルティマ。

けどアルティマがつい言ってしまったのなら、もしかしたら俺の影響があるかもしれない。

実は昔映画(邦画、洋画面白ければジャンル問わず)を結構見ていた影響で、ガシャを引いてハズレアイテムが連続で出た時等につい思わず「ファック!」とか「クソったれぇ!」とか叫ぶ事があったのでもしかしてその影響だろうか?だとしたらもの凄くカッコ悪い所を見せてしまったという事実に申し訳ない気持ちになってくる。

 

そこにモモンガさんからのメッセージが入ってきた。

 

『マシンナーさん』

 

『あ、モモンガさん。ンフィーレア少年は?』

 

『ええ、今合流しました。漆黒の剣の皆さんも無事です』

 

『そうですか。でも申し訳ありません実は例の2人組逃がしてしまって、あぁでも発信機は付けておいたので今から追うつもりですけど』

 

『あ、なら一度合流しましょうそこで待っててください』

 

『了解です、それでは』

 

俺はメッセージを切り、アルティマ達にモモンガさん達と合流すると話す。

 

「アルティマ、シズ。これからここでアインズ達と合流した後奴らを追う、いいな?」

 

「は!」

 

「了解……」

 

2人も了承し俺達はモモンガさん達を待つことにした。

 




カジッちゃんってああ見えて30代って知ったときは「嘘やん」って思いましたね、顔老けすぎだろ。

今回出てきたアイテム『変形円盤機/ディスク・トランス・ロイド』はトランスフォーマーのカセットロンや仮面ライダー響鬼のディスクアニマルを元にしてあります。

追伸、違う原作の小説を投稿しました。詳しくは新着活動報告に書かれております。


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第38話 合体=浪漫

「レイヴン」

 

「御屋形様~」

 

「おお、モモン来たか」

 

「レイヴンさん!」

 

クレマンティーヌとカジッちゃんをぶっ飛ばして少し経った後モモンガさん達が来た。

息を切らせながらンフィーレア少年がこちらに走ってくる。

 

「無事ですかレイヴンさん!」

 

「ああ、ご覧のとおり五体満足だとも」

 

「良かった…」

 

胸をなで下ろすンフィーレア少年の後に漆黒の剣のぺテルさんがクレマンティーヌ達について聞いてきた。

 

「あの、レイヴンさんあの2人は…」

 

「すまない、戦闘不能にはしたんだが最後の余力で逃がしてしまった…」

 

「戦闘不能って…返り討ちにしたんですか!?」

 

「いやでもヘマして逃がしてしまった、まあ今から捕まえに行くが…」

 

「え?でも見失ったんですよね?」

 

「これがある」

 

俺は懐からレーダーを取り出して見せるがモモンガさんが慌てた様子でメッセージを飛ばしてきた。

 

『マシンナーさん!それ出して大丈夫なんですか?』

 

『ちょっと珍しいマジックアイテムで押し切ります、ちゃんと話さないと怪しまれると思うので』

 

『いやまあ確かにマジックアイテムですけど……わかりました任せます』

 

『すいません、ある程度の本音もこういう時大事なので』

 

「あのレイヴンさん、それは?」

 

「小さい物体を相手に着けて追跡するマジックアイテムだ、今赤い点が付いてるだろ?これが奴らだ。俺の爺さんがどこで手に入れたのか不明だが便利な代物でな」

 

「そんな道具あるんですか?」

 

「いや俺も貰うまで知らなかったんだがな…」

 

「へぇ~、俺も一つ欲しいなぁ…」

 

「ルクレットには優れた耳があるじゃないですか?」

 

「ニニャの言う通りである、もっと自分の力に自信を持つのである」

 

「そうか?ならいつかナーベちゃんに認められるまで磨きかけないといけねぇな~」

 

「それは永遠にありません、ウジ虫」

 

ルクレットさんに対するナーベラルの毒舌に内心おいおいと思いつつもそう言われてもめげないルクレットさんの精神的なタフさに感心する。彼に幸あれ。

でもそれより言わなければならなければならないことがある。

 

「あの~……ンフィーレア少年」

 

「?なんですか?」

 

「あのな、実は…」

 

「ん?ンフィーや?帰ってきてたのかい?」

 

「あ、おばあちゃん」

 

(もっと恐ろしい人来たー!?)

 

さっきの戦闘で家に穴あけてしまった事を少年に言おうとしたら少年の婆ちゃん、リィジーさんが帰ってきた。

個人的にはこっちの方が怖いんですけど!

そしてンフィーレア少年の隣に気づき話しかけられる。

 

「ん?ああアンタあの時の…」

 

「ど、どうも…」

 

「んで後ろにいるアンタがモモンかい?丁度アンタに聞きたいことがあったんだ、ちょっと中で良いかい?」

 

「構いませんがと言いたいところですが、今はちょっと都合が悪くて…」

 

「?どういうことだい?」

 

「レイヴン、説明してくれ」

 

「わかった」

 

リィジーさんの問いに俺は先程起こった出来事を話す。話を終えるとリィジーさんは顔を青ざめていった。

 

「人攫いがンフィーを?何てことだい!?」

 

「ああでも大丈夫おばあちゃん、レイヴンさんが撃退してくれたから僕は何ともないよ」

 

「そうかい、ありがとうね恩に着るよ…」

 

「あの…それで謝らなければいけないことが一つ有るんですけど…」

 

俺の言葉に少年とリィジーさんが顔を見合わせて首をかしげる。そのまま俺はあの事を話した。

 

「「?」」

 

「あの…実はですねさっきの戦闘でその…壁に穴あけてしまいまして…」

 

「は?」

 

「え?」

 

「本当に申し訳ありません!責任もって修繕しますので許してください!」

 

俺はそう言って頭が地面に激突するくらいの勢いで頭を下げる。

周囲は一瞬唖然としていたがそれでも俺は頭を下げなければならない、だって人の家の壁をぶち抜いてしまったんだもの……。

 

「ああ……まあそれはそこまでとやかく責めんよ、孫を守ってくれた恩人だ。これであたしが怒っちまったらとんでもない恩知らずだよ、だから頭上げな?」

 

「そうですよ、レイヴンさんは僕を守ってくれましたから感謝こそすれど責めるなんてできませんよ。だから頭を上げて」

 

「すみません、本当にありがとうございます」

 

2人の寛大な心に内心号泣しつつ、頭を上げ2人にお礼を言う。

そしてこの後の流れをモモンガさんと打ち合わせする。

 

「それでこれからどうするモモン?」

 

「うむ、お前の道具の反応からしてどこがアジトだと思う?」

 

「そうだな…こいつの反応を見ると墓地だな」

 

「墓地ですか?」

 

「そりゃまた悪趣味な所根城にしてるなぁ」

 

「それにしてもンフィーレア氏を攫って彼等は何をしようとしてたであろうな?」

 

「さあな、だがわざわざンフィーレア少年を狙ったんだ余程曰くつきの代物だろうな」

 

「レイヴンさんそうなると今すぐ動いた方がいいかもしれません、この都市から完全に逃げ出す可能性もあります」

 

「そうだな、モモン俺はジナイーダの考えに乗ろうと思う、お前は?」

 

「ああ、私も同じ意見だ。今すぐ墓地に向かった方が良いと思う」

 

「そうと決まれば…」

 

「ああ、ひと暴れしようとするかレイヴン。ぺテルさん」

 

「はい、なんですかモモンさん?」

 

「あなた方はンフィーレアさんの護衛をお願いします、万が一の事もあるかもしれないので」

 

「わかりました、任せてください!」

 

「俺達がンフィーレアさんを守るから安心して行ってきてくれ!」

 

「モモン氏、レイヴン氏、武運を祈るである」

 

「どうかお気を付けて」

 

「ありがとうございます。行くぞレイヴン」

 

「あいよ大将」

 

ンフィーレア少年を漆黒の剣の皆さんに任せ俺とモモンガさんは墓地に向かう為に歩みを進める。

そして人気のないところまで来たら<機動兵団>からヘリ型変形機械系異形種『ブラック・アウト』を召喚し、全員それに乗り込んだ。

 

「それでマシンナー、レーダーの反応は?」

 

「もう墓地に到着している、追跡させている「ファルコン」にこれから音声を聞き出させる」

 

俺は偵察に「ファルコンの音声記録機能のスイッチを作動させる。さっきのカジッちゃんとクレマンティーヌの会話が聞こえてきた。

 

『おい、どうするんだよ?』

 

『…多分儂らのことはもうギルドにも知られてある。そうなるとエ・ランテルの警戒網が厳重になり後日またあの小僧を攫いに行くのは難しくなる』

 

『そんなわかりきった事聞いてんじゃない!これからどうするかって聞きたいんだよ!?』

 

『黙れ!元はと言えばお前が迂闊に姿を晒しただけでなく一方的に返り討ちに遭ったのが原因じゃろうが!?』

 

『…んだと!?』

 

『……今から儀式を始めるしかない、あの小僧がおらんから召喚できるアンデッドの数は予定より減るがエ・ランテルに少なくない被害は出せる。最悪でも儂の目的を達成出来れば良い』

 

『…ふん』

 

俺はそこで音声記録機能のスイッチを切る。とりあえず「ファルコン」にはもう少しだけ情報を集めさせてもらおう。

 

「アインズ、もう予想は着くと思うが…」

 

「ああ、奴ら大量のアンデッドを召喚してエ・ランテルを襲撃するつもりだ」

 

「墓地に待機させている部下に戦闘態勢に入らせる。後ドランザーとソニック・スレイヤーも呼び寄せようと思う」

 

「わかった、だが奴らが行動を開始した時まで待機させてくれ」

 

「それはわかったが何故だ?」

 

「何事も未然に防ぐ事が一番だが何か切り札があるかもしれない、それも考慮して一旦様子見だ」

 

「了解した」

 

モモンガさんとの話を終えた後、俺は待機させている部隊に戦闘態勢に入るよう指示をし、ナザリックにいるドランザーとソニック・スレイヤーにも出撃準備をするように伝えた。

 

『偵察部隊こちらマシンナー、敵との戦闘が予想される、ドランザーとソニックを向かわせるが万が一の事もある。戦闘態勢に入れ』

 

『は!』

 

『だが少しでも不利だと悟れば退け、いいな?』

 

『御意!』

 

『ソニック』

 

『どうなされましたマシンナー様?』

 

『これからドランザーと共にこれから言う場所に向かえ、場所はエ・ランテルの墓地、今から座標を送る。敵の集団の戦闘が予想される。装備を整えておけ』

 

『御意、すぐにドランザーに伝えに行きます』

 

俺はソニック・スレイヤーにエ・ランテルの墓地に向かう準備をするように指示を出した後に<メッセージ>を切る。そのまま俺達は目的地であるエ・ランテルの墓地まで向かう。

 

 

 

 

 

『おいおい、町一つ落とせそうな規模だぞこれは…』

 

『見たところ全て下級のアンデッドですが数だけはとんでもなく多いですね』

 

『さっきの音声記録でこの数でも少し少ないって言ってたからもしかしたらンフィーレア少年を攫おうとした理由ってアンデッドを大量に召喚するアイテムを使わせる可能性も有りますね』

 

俺とモモンガさんは「ブラック・アウト」をエ・ランテルの墓地の上空にステルス迷彩を展開させて待機させ墓地の現状を確認すると、目の前には大量のアンデッドの軍勢でごった返していた。召喚されたのは全員下級アンデッドばかりだが数だけは凄まじく多い。俺とモモンガさん達なら火力と魔法のゴリ押しで正面からでも叩き潰せるが、この世界の住人からすると地獄のような光景だろう。

 

『どのタイミングで行きます?都市まで行かれたら目も当てられないんですけど…』

 

『そうですね、出来れば解りやすい脅威が出てきたところが一番なんですけど、流石にそうそう起こりませんよね』

 

『あ、モモンガさん、<集合する死体の巨人/ネクロスォームジャイアント>ですよ。あれなら丁度良いんじゃないんですか?』

 

『まあ妥当ですね、じゃあ行きますか』

 

『了解っす』

 

「ナーベラル、そろそろ行くぞ」

 

「かしこまりました、アインズ様」

 

「シズ、アルティマ出るぞ」

 

「了解致しましたマシンナー様」

 

「了解…」

 

「ハム助、お前も来い」

 

「承知したでござるよ殿!」

 

俺達は「ブラック・アウト」から飛び降り、門の近くに着地する門に居た兵士達は俺達に驚くが、構わず俺達は名乗った。

 

「ドーモ、冒険者チーム『黒鋼』と…」

 

「冒険者チーム『漆黒』…」

 

「「助太刀に参上した!!」」

 

「でござるよ!」

 

最後のハム助でちょっと締まらなかったが、とりあえず名乗りは完璧だ。

 

「というわけでその門開けてくれよ?オープン・ザ・ドアーしてくれよ?」

 

「何言ってるんだあんたら! アンデッドの大軍が雪崩れ込んでくるぞ!」

 

「そんな事はわかっている、奴らとこの騒動の張本人を始末してやる」

 

「んな話信じられると!」

 

やっぱり取り合ってくれないか、まあ予想通りだけどな。俺はモモンガさんと目を見合わせてお互い頷き歩き出す。

 

「なら無理矢理押し通させてもらおう」

 

「さあ戦いだ!」

 

俺達はジャンプして壁を飛び越えてアンデッドの大軍勢に立ち塞がる。

唯一生物であるハム助にアンデッド共が集中してくるがかえって好都合だ。

 

「数だけは多いな」

 

「アインズ様、ここは私が…」

 

「いや俺が行こう」

 

ナーベラルが先陣を切ろうと前に出るがそれを制し俺が前に出る。

 

「そうか、ならば派手にやれ」

 

「任せろ」

 

モモンガさんからも了承してもらい、俺は迫りくるアンデッドの軍勢に立ち、右腕の人差し指を空高く上げる。

 

「サンダァァァァア!ブレェェェク!!」

 

俺の発した言葉とともに雷が俺の指先に集まり俺はその指を前に突き出した。

指先から発射された雷の光線がアンデッドの群れに向かっていく。それに当たったアンデッドたちは次々に消し炭になっていき消えていく。

このスキルは<ライトニング/電撃>のスキル版みたいなものだが、単純な攻撃力ならこっちの方が上回っている。

後、某偉大なる勇者と同じポーズで放てるので俺は気に入っているスキルだ。

このスキルと同系列で格闘型の<トール・ハンマー・ブレイカー>や全集囲放射型の<ゴッド・サンダー>、完全上位互換版の<サンダーボルト・ブレイカー>もある。

 

<サンダー・ブレーク>を放った後左手を構えて腕から刃を出し構える。

 

「めんどいからデカい方で行くか」

 

俺は強く念じると左手の刃は徐々に大型、刃も弓状になっていき、最終的には自分の背を追い越すぐらいにまで巨大化した。

 

「アイアンカッタァァァアー!!」

 

猛烈な速度で発射された左手はアンデッドを次々に切断しながら進んでいく。

毎度毎度思うんだがこっち戻るまでどれくらい飛んで行くんだろう?

 

「(相変わらず物理法則を無視した変形だな…)流石だな、相変わらず恐ろしいなその力」

 

「そう言ってくれると嬉しいね、それでどうする?このまま突き進んであいつらの所まで行くか?」

 

「いや、マシンナー、すまないがお前の兵の力も借りたい。今戦闘可能な奴らは?」

 

「偵察部隊は全員いつでも行けるぞ?けど単純な火力ならソニックとドランザーを呼んだ方が早い」

 

「なら頼む」

 

「承知した、ソニック、ドランザー、今どこだ?」

 

『こちらソニック、只今エ・ランテルの墓地上空に待機しています』

 

『わかった、ドランザーと共に出撃しろ。派手にやれ』

 

『御意、全て焼き尽くしてやります!』

 

俺はメッセージを切り、アンデッドを蹴散らしながら進んだ。

 

 

 

 

マシンナーからのメッセージが切れた後ステルス爆撃機に変形し、下からワイヤーでレールガンユニットと多目的戦闘ミサイルユニットを装着したドランザーを吊るしていたソニック・スレイヤーはドランザーに話しかける。

 

「おいドランザー、マシンナー様から出動許可が下りた、行くぞ?」

 

「承知シタ…」

 

「久々の戦場だな?」

 

「アア…久シブリ二ヒト暴レシヨウ」

 

目的地に降下し始める二体、そしてアンデッドの群れを確認する。

 

「そろそろワイヤーを離すぞ?」

 

「アア、イツデモ良イ」

 

「行くぞ?鳥になってこい!」

 

「応!(一応龍ナンダガ…)」

 

そのままワイヤーを切り離され、両手に装備されたレールガンユニットからブレードを展開アンデッドを切り倒しながら着陸する。着地したと同時にドランザーは天に向かって大きく咆哮を上げる。

 

「景気良ク行カセテモラウ、<メガ・バスター>!」

 

口から光線を放ち、更に両手に装備されたレールガンから機関銃の如く飛翔体を発射する。

 

「<フィンガー・ミサイル>!」

 

両手を回転させ、指先をミサイルに換装しレールガンと同時に発射する。

ミサイルを喰らったアンデッドたちは次々と爆散する。

更に背中に装備された多目的戦闘ミサイルユニットからもミサイルが発射されその爆発を更に増やす。

 

「ソニック・スレイヤー、変形(トランスフォーム)!」

 

ステルス爆撃機から人型に滑らかに変形し、滑空しながらアンデッドを爆撃やガトリングの掃射によって次々と蹴散らすソニック・スレイヤー。

 

「デカい花火を上げてやる、<神風特攻>!」

 

ソニック・スレイヤーが手を掲げると1体のミサイル型の機械系異形種が10体出現する。

尾翼には「Napalm bomb」と書かれていた。

 

「Lv10『ナパーム・アタッカー』突撃!!」

 

ソニック・スレイヤーの号令でアンデッドの群れに突っ込んでいく『ナパーム・アタッカー』それを遠目から見ていたドランザーは危機感を抱く。

 

「アレハ不味イ…」

 

急いでスラスターを最大に吹かし、上空に逃げるドランザー。

その理由はソニック・スレイヤーが先程使ったスキルである。

ソニック・スレイヤーが使ったスキル<神風特攻>は召喚したモンスター1体のLv×200ポイントをそのモンスターの元々の攻撃力にプラスさせ相手に特攻させるスキルだ。

しかし当初このスキルを習得したユグドラシルプレイヤーはそれだけならただモンスターを召喚して使役したほうが効率が良いという事であまり使用はしなかった。

しかしマシンナーはソニック・スレイヤーにそのスキルを着けさせ、まだこのスキルに召喚する数の制限が無かったので某英雄王の王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の如く多種多様のミサイル型、爆弾型の機械系異形種を召喚しその全てをプレイヤーと拠点に少なくない被害を与え、拠点を陥落させるのに大きく貢献したのだ。

それからもソニック・スレイヤーに先陣を切らせ、<神風特攻>を使ってダメージを与えた後軍団の物量で押しつぶすのが『マキナ』の戦法の一つでもあった。

しかし余りの暴れっぷりに運営も頭を抱えたのか召喚できるのは最大10体までと制限がかかった。その為ソニック・スレイヤーに先陣を切らせる戦法は大幅に弱体化してしまった。

しかしそれでもマシンナーにとっては強力なスキルなのでここぞという場面で発動させて活躍させていた。

 

<神風特攻>の効果により、攻撃力が増加された<ナパーム・アタッカー>は着弾し絨毯爆撃でもあったかのような惨状になる。だがそれでもアンデッドの群れはまだ湧いてくる。ドランザーは上空に上がりソニック・スレイヤーに話しかける。

 

「ヤレヤレ、マダ湧イテクルナ…」

 

「…やはり制限がかかっていてはこの程度か」

 

自分のスキルの弱体化に嘆くソニック・スレイヤー。

 

「ダガ数ハ減ラセタ、コノ勢イニ乗ルゾ?」

 

「そうなると…アレか?」

 

「アア…アレダ…」

 

「「『合 体』!!」」

 

 

これは機械系異形種同士のみ使えるスキル<合体>で合体時の核になる機械系異形種にパーツとなる機械系異形種のスキルと攻撃力を付加できるスキルだ。

当初機械系異形種のプレイヤーや機械系異形種のNPCを創造していたプレイヤーに人気があり、マシンナーも自分と自身が創造したNPC達にも着けていたが、ある日こんなことを言うプレイヤーが居た。

 

『合体するより複数で攻めた方が効率良くね?』

 

その言葉が引き金となり、続々と<合体>のスキルを使うプレイヤーが激減してしまった。因みにナザリックでもマシンナーに面と向かってこの事を聞いてしまい、キレたマシンナーにより一時間のお説教を喰らってしまった者がいたと言う。

 

ソニック・スレイヤーとドランザーの声が重なった瞬間、二人の体が光り始める。

ドランザーはレールガンユニットと多目的戦闘ミサイルユニットをパージする。

ソニック・スレイヤーが体を分解し、ドランザーの体に装着され始める。

連装砲が装着された肩装甲が両肩に装着され、脚部には3連ミサイルランチャー付きの装甲が装着される。

腰には二つのプロペラントタンク、背中にはソニック・スレイヤーの主翼とスラスターが装着される。

左手にはガトリング付きのシールド、右手には大型レールガンが装着された。

最後に鋭角なバイザーユニットが頭部に装着される。

 

『爆竜合体!ソニック・ドラン!!』

 

合体完了したソニック・ドランはミサイルと連装砲を掃射し、更に滑走しながら爪と尾の格闘で蹴散らしていく。

接近してきた集合する死体の巨人をレールガンで他のアンデッドごと吹き飛ばす。

 

『我等に敵なし!!』

 

 

 

 

俺達はアンデッド共を剣でド突いたり、鉄拳制裁したり、魔法で吹っ飛ばしたり、ボウガンで風穴開けたりしながら例のカジッちゃんとクレマンティーヌが居るであろう霊廟にまで到達する。

カジッちゃんの吹っ飛ばした右手がまた生えているのと彼らの外見を見て二人ともそれなりには回復しているんだろう。

 

「よう久しぶりだなハゲ」

 

「な!貴様らどうやってあのアンデッドの群れを突破してきた!?」

 

「紹介しようモモン、先程俺達が返り討ちにしたハゲのカジッちゃんとクレマンティーヌだ」

 

「話を聞かんか!!」

 

「うるせえぞ爺さん、そんなに怒ってると高血圧でぶっ倒れるぞ?」

 

「そうだぞ老人、もっと広い心を持て」

 

「ハッハッハッ」と笑う俺達2人に怒りで顔を真っ赤にさせるカジッちゃん。

 

「黙れ!この場所を貴様らの墓場にしてくれるわ!!」

 

そう怒鳴るとカジッちゃんがまた何かしようとし、こちらも身構えるがクレマンティーヌがカジッちゃんを制した。

 

「ねぇカジッちゃん、悪いんだけどあいつはやらせてくんない?さっきの仕返しもしたいからさ…」

 

いつものふざけた感じが全くないクレマンティーヌにカジットはあっさり承諾する。

 

「ん?まあいいじゃろう……だが止めは残しておけ、わしに刺させろ」

 

「良いよ、ちょっとわかるし」

 

どうやら俺はクレマンティーヌとの第二回戦が確定らしい。

 

「悪いモモンご指名が入った、あの爺さん頼む」

 

「わかった、気をつけろレイヴン」

 

「シ…マグノリア、ジナイーダ。モモンのサポートを頼む、あと任意で全力を出す事を許可しておく」

 

「わかりました」

 

「…お気を付けて」

 

「ああ」

 

「じゃあ場所変えるか?」

 

俺とクレマンティーヌは霊廟を少し離れると、ゆっくりと俺の方向に振り向いた。

顔は笑っているが目は殺気でギラついている。

 

「さっきはよくもやってくれたよねぇ~」

 

「人攫いが来たらぶっ飛ばすってのは常識だろ?」

 

「まあそうだけどさぁ、でもやっぱり負けるのはいい気分しないんだよね?」

 

クレマンティーヌは「だからさぁ…」と言ってスティレットを取り出す。

 

「今度こそお前をぶっ殺してやるよぉ!?」

 

先程とは桁違いのスピードで突っ込んでくるクレマンティーヌ。

どうやらこれが本領発揮らしい。まあ狭かったしね。

てかぶっ殺すってアンタ、さっきのハゲに止め譲るって言ってなかった?まあいいや。

俺は斬艦刀を抜刀し、それを迎え撃つ。

 

スティレットを斬艦刀で受け止めていなし、斬りかかる。

クレマンティーヌはそれを難なくかわす。

やっぱりこいつそこそこ強いな。

 

クレマンティーヌは先程よりも速いスピードで刺突してくるが俺は斬艦刀と手甲で受け流し、カウンターで殴りかかる。

 

「チィっ!」

 

クレマンティーヌは舌打ちしながらその攻撃もかわす。かわされた拳は地面に当たり、地面にめり込んでいた。

その後も暫く攻防を続ける。

 

「……さっきから思ってたんだけど何なの?アンタ」

 

戦闘前から浮かべていた笑みは消え、その顔は苛立ちに満ちていた。

 

「何ってなんだ?ご覧のとおり駆け出しの銅プレートの冒険者としか言いようがないんだが?」

 

「ふっざけんなよテメェ!さっき私をぶっ飛ばしたくせにそれでも銅だと?組合の連中は全員目玉腐ってんのか…」

 

「何それ褒めてんの?怒りながら褒めてんの?出来れば笑顔で褒められると嬉しいけどよ、なら種明かししてやる。俺はこの前まで傭兵やってて冒険者になりたてなんだよ、わかった?」

 

まあ傭兵やってたって言っても某フロムゲーの事なんだけどね?

それを聞いたクレマンティーヌはフンと鼻を鳴らしているが顔はある程度納得した顔をする。

 

「ふん、傭兵崩れかよ。まあそれなら多少は納得したけどアンタのような奴は聞いたことないけど?」

 

「有名にならないようにしてただけだ、名が売れると狙われやすくなるんでな?これでも結構臆病なんだよ」

 

「ふぅん…まだ疑問が残ってるけどとりあえず今は良いや」

 

「そうかい。なら続けようぜ殺し合いを?って言いたいが仲間の援護も行かなきゃいけないんでとっととケリを着けさせてもらう」

 

「チッ!……まあ良い。こっちも次で終わらせてやる」

 

舌打ちをしながら四肢を地につけ、頭を限界まで下げた格好になるクレマンティーヌ。

俺も◯グルイの「秘剣 流れ☆」か「無◯ 逆◯れ」で対抗したいけど漫画で得ただけの知識じゃあまり役立ちそうにないし、後剣術は素人だし。

え?お前スーパーロボットなら、神祇無窮流(じんぎむきゅうりゅう)とか不易久遠流(ふえきくおんりゅう)習得してないのかって?スキルで似た技は使えるけどね。

 

俺は剣を上段に上げ身構えると同時にクレマンティーヌは突っ込んでくる。

斬艦刀の届く範囲に入った瞬間、俺は斬艦刀を大剣形態に変化させる。

そのままクレマンティーヌは哀れそのまま真っ二つに割断されるかと思ったが驚くべきことがおこった。

なんと大剣形態になった斬艦刀の一撃を受ければひとたまりも無いであろうスティレットで攻撃を完璧に受け止めたからだ。そのまま俺の首に突き立てクレマンティーヌは笑みを浮かべる。

 

(まさかこういう武技があるとは正直驚いた…)

 

しかし、それは不発に終わった。首に突き立てても俺がピンピンしている事実に慌ててバックステップでクレマンティーヌが距離を取る。

 

「……嘘?」

 

「嘘じゃねえよ、この通りピンピンしてるよ?まあさっきの武技には驚いたが…」

 

「ふっざけんな!いくらその甲冑が固くても隙間から突けば皮膚に当たるだろ!?てめえまだ隠してやがるな!」

 

「まあ確かに隠してるな、だがそれを知る必要は無い、さあ終わらせようか?」

 

俺はスキルを一つ解放させ、クレマンティーヌに突っ込む。

突っ込んできた俺を迎撃するかのようにクレマンティーヌはスティレットを突き立てる。

スティレットは俺に当たるがそれは一瞬で光となりそして消えた。

 

「!質量のある残像だと!?」

 

「正解だ!そして……」

 

俺はそのままクレマンティーヌの身体を両腕でベアハッグのように締め付ける。

さっき使ったスキルは<M.E.P.E>というもので、機械系異形種のみ習得できるスキルであり機械系異形種の装甲表面の塗装や金属が剥離して撒き散らされるという現象を起こし相手に分身しているかのように錯覚させる事が出来るスキルだ。

 

「!?」

 

「捕まえた!」

 

「ぐっ!この…離せ!?」

 

拘束されたクレマンティーヌは尚ももがくが離すつもりはない。

 

「まあ『人間』にしてはよく頑張った方だよお前、凄いよ」

 

「は?」

 

俺は身に着けていた甲冑をパージし中身である金属骨格の姿を見せる。

おれの姿を見たクレマンティーヌは目を見開き驚愕している。

 

「何だよ……それ……?」

 

「ご覧のとおり人間じゃなくてな?まあ簡単に言うと金属生命体って奴だ」

 

「何だよ……何なんだよてめぇはぁっ!?」

 

「だからさっきも言ったように金属生命体だ、もっとも俺は…」

 

腕の力を強めクレマンティーヌを締め上げる。

締め上げられたクレマンティーヌは血を吐きながらも抵抗した。

 

「そいつらの一応神ってところかな?」

 

「……え?」

 

「というわけで楽しませてくれてありがとう、お礼にこの技をを喰らわせてあげる」

 

そして俺は更に強くクレマンティーヌを締め上げた。

 

「ジーグブリーカァァァアー!!死ねぇっ!」

 

「ガ、アァァァァァァァア!!」

 

某磁石のロボットのネタになってしまった台詞を喋りながら俺は締め上げる。

クレマンティーヌは更に吐血しながら抵抗するが段々その抵抗は少なくなっていき、とうとう完全に意識を失った。俺はクレマンティーヌを放し脈を取る。

 

「……一応ギリギリ生きてるな」

 

俺は死んだら困るのでポーションを僅かに飲ませる。これで暫くは持つだろう。

そして暴れないように幾重にも鎖を巻き、両手両足に手錠をかけた。

え?なんで助けたかって?まあ簡単な理由ではあるが、こいつが武技持ちだからだ。

さっき俺の攻撃を正面から受け止めて尚且つカウンターまで決めてきたのだ。

俺は武技の力を改めて知り、その研究の為にコイツをナザリックに連行すると決めた。

 

「さて、コイツをとりあえず適当な所に置いた後モモンガさんの所に……」

 

しかし俺が言葉を言い終える前に後ろで轟音が響き俺は後ろを振り返る。

 

「え?何?え?何の光ぃ!?」

 

俺が後ろを振り返ると丁度モモンガさん達が居る場所から爆炎と煙が大きく上がっていたのだ…。

 

 

 




※因みにシズも合体スキルあります。

ソニック・スレイヤーのスキル<神風特攻>の元ネタはソニック・スレイヤーの外見の元ネタ、遊戯王のシンクロモンスター、ダーク・ダイブ・ボンバーの効果ですね。
この効果のせいで登場から290日で禁止カードになってしまいました。というかなんで最初こんなぶっ壊れ効果にしたんだKO●AMIよ……。


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第39話 焼け野原のシズ

マシンナーがクレマンティーヌを仕留める少し前……。

 

「ふん!先程はちと油断したが、今度はそうはいかんぞ?」

 

「油断の代償が右腕一本とは大きな代償ですね?もうくっついているらしいですが…」

 

ジナイーダの皮肉にカジットは「ふん」と鼻を鳴らす。

 

「ほざけ、小童どもそんな減らず口叩けるのも今のうち…」

 

台詞を言い終える前にマグノリアがボウガンでカジットの頭を狙撃するが、何やら灰色の壁を出してそれを防ぐ。

 

「……ちっ」

 

「ほう…下等生物の割にはそれなりの反射神経はあるようね?」

 

「ふん、愚か者共め。今頃あの男もクレマンティーヌにやられておるわ」

 

「それより老人、どうやら<死者の軍勢>の魔法を使っているようだが、それ以外にも何かしらのアイテムを使っているのか?」

 

「ほう、戦士職の割には知識はあるようだな?如何にも、この負のエネルギーを蓄える死の宝珠の力の御業よ!」

 

その言葉にモモンは顎に手を添える、カジットの言葉が本当ならばアンデッドに関する魔法の補助効果や何らかの強化ができる可能性があるのではないかと考えた。

 

「やはり、この世界には色々と興味深い物が多いな…」

 

「何をゴチャゴチャ言っている!丁度よいわ! 貴様らから先に絶望させてくれる! 出よ!」

 

カジットが呼ぶと、空から巨大な影が降ってくる。見た目は竜だが無数の人骨で造られた|骨の竜《スケリトル​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ドラゴン》と呼ばれるモンスターが飛来した。

 

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)?それが貴様の切り札か?」

 

「その通りよ!貴様の連れている魔術詠唱者(マジック・キャスター)はそれなりの力を秘めているようだがこの骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の前では何の役に…ぬぅ!」

 

カジットが長々と喋っているのを見かねたマグノリアがまたもやボウガンを発射するが、今度は骨の竜(スケリトル・ドラゴン)がカジットを庇う。

 

「……ちっ」

 

「小娘!人が話している時に二度も邪魔するとは空気読まん『うるさい』ぬぅ!」

 

「…私の姉を……馬鹿にするな…!」

 

「…う」

 

(シズ・デルタがキレた?)

 

(珍しいものが見れたけど…私の為に怒ってくれてありがとうシズ)

 

(ある意味大物だなあの老人…)

 

自分が喋り終えるのを二度も邪魔された事に思わず声を荒らげるが、(ナーベラル)を侮辱された事に静かに怒りと殺意を出しているシズに思わず怯むカジット、だがすぐに正気に戻る。

 

「ふ、ふん、そんな減らず口すぐに叩けなくしてくれる!まずはそこの小僧からだ!」

 

カジットの命令に骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は咆哮を上げジナイーダに突進してくる。

それをジナイーダは背中に装備している野太刀を抜刀し応戦した。

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が前脚を上げて押しつぶそうと攻撃してくる。ジナイーダは当たる直前に回避をしてカウンターで前脚に斬撃を入れる。

 

「援護します」

 

「……ナーベに同じ」

 

アルティマの援護に回るためにナーベは剣を抜き、シズはボウガンを発射する。

三人とも今は命令により制限が掛かっており、全力の状態ではない。

尤も本来のLvで三人の中で最も高いジナイーダ、アルティマはこの状態でも|骨の竜《スケリトル​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ドラゴン》を瞬殺できる。しかしそれをしないのはカジットに利用価値がある人材であるかを見極める為であった。

尤も、現時点では低評価ではあるが。

 

「確かに貴様と儂の実力は貴様の方が上だろう、だがこの骨の竜(スケリトル・ドラゴン)には手も足も出まい!あの世で自分達の愚かさを呪うがいい!」

 

「…ジナイーダさん、もう容赦するのは結構です。そろそろあの蛆虫の身の程を弁えさせましょう」

 

「そうだね、見たところあの"死の宝珠"とかいう物しか価値がなさそうだし…」

 

フハハハと高笑いをするカジットに若干キレ気味の2人、カジット自体に利用価値は無いに等しいと考え、後はどうしようか?と考えていた時、自分達の主からはっきりと"命令"が来る。

 

「ナーベラル・ガンマ!アルティマ・レイ・フォース!シズ・デルタ!ナザリックが威を示せ!!」

 

その命令に躊躇なく3人は同意する。

 

「……御心のままに。このナーベラル・ガンマ、全力を以って対処致します」

 

「お任せを……マシンナー様の創造されたシモベとして、<マキナ>総隊長としての恥じぬ働きをさせて頂きます」

 

「……御心のままに。シズ・デルタ、全力を以って排除します」

 

ジナイーダ、否、アルティマ達が命令の聞こえた方角を向いたのを好機と見てか、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)がアルティマに巨大な尾を叩きつぶそうと振り下ろすが……。

 

ガシ!

 

「………は?」

 

アルティマがその巨大な尾を左手で掴む。骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は暴れるが一向にビクともしない。

 

「サービスタイムは終わりだよジャンク(ゴミ屑)?」

 

「全兵装自由、システムオールグリーン……戦闘モード起動」

 

アルティマの姿が徐々に変形していく。冒険者として着ていた衣服が徐々に真紅の装甲に変わっていくのに合わせて身体の大きさも細くも逞しいシルエットになっていく。

顔も人間の顔から真紅の仮面の様な顔になりと鋭い緑色のツインアイ。身体も鋭角的な外見になっていく。

その四肢も大型になっていき、真紅の装甲で覆われる。中でも目立つのが右腕で左腕よりも一回り大型で掌には何らかの装置がついている。最後に背中から羽が生え緑色の光を放出しながら翼を形成していく。

変形が完了したアルティマの外見は一見真紅の悪魔のようにも天使のようにも思えた。

 

「な…なんじゃお前は!一体何なんじゃ!?お前は!」

 

『さっきまでよくも調子こいてくれたね?お前のような奴にこの姿は勿体無さすぎるけど、絶対的な絶望をプレゼントする為になってあげたよ、死ぬほど感謝してね?』

 

機械的な音声が混じった声でアルティマはカジットに言い放つ。

カジットは目の前に現れた存在に驚愕する。一見ゴーレムのようにも思えたがそれとは確実に違い、尚且つ完全な意思があった。しかしカジットの知識にこのような存在の事など全く存在しなかった。

 

「生物でもゴーレムでもないじゃと?そんな種族聞いたこともない! 貴様は一体なんなんじゃ!?」

 

『本来教える価値も無いが特別に教えてやるよ……41人の至高の御方の一人にして偉大なる|機械仕掛けの神《デウス​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​エクス​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​マキナ》、マシンナー様のしもべにして機械系異形種軍団<マキナ>総隊長……アルティマッ!』

 

左手を目一杯振り回し、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を豪快に叩きつける。

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は悲鳴を上げながらも立ちあがり右の前脚を上げて叩きつけようとするが軽く回避され右手のフックで顔を殴られ、横転してしまう。勿論一撃で壊れないように手加減しているがそれで許すアルティマではない。

 

『まだだよ、御仕置はたっぷりしないとね♪』

 

横転している骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の顔を無理矢理持ち上げ左目に膝蹴りを叩きこむ。その影響で骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の顔の左半分が大きくへこむ。そして何度も何度も軽めのジャブを叩きこむ。勿論骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は暴れるがアルティマの馬力によって完全に抑え込まれている。

暫くして少し飽きたのかジャブの連打を止めると、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の顔は悲惨なことになっていた。所々へこみ、ヒビが入っている。それでも懸命に攻撃を叩きこもうと前脚をアルティマに叩きつけようと振り上げるが、それを見たアルティマは右腕を上げる。

 

『…輻射波動機構(ふくしゃはどうきこう)作動』

 

そう言うとアルティマの右腕にカートリッジが装填され発熱し始め|骨の竜《スケリトル​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ドラゴン》の前脚を受け止める。アルティマの右腕には『輻射波動機構(ふくしゃはどうきこう)』という装備が装着されている。

この装備は魔法職で言えば第十位階の炎属性魔法に匹敵する攻撃力と装備を展開していれば防具にもなる利便性の高い装備だ。欠点を挙げるならば、連続で使用すれば一定時間オーバーヒートしてしまうという所だが、他の武装もある程度充実しているアルティマにとっては微々たる問題である。アルティマは受け止めた足を右腕で払いのけ右腕で|骨の竜《スケリトル​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ドラゴン》の頭を鷲掴む。

 

『無駄な働きありがとう、バイバイ』

 

再びカートリッジを装填し、|骨の竜《スケリトル​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ドラゴン》に輻射波動機構を発動する。

その瞬間、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は内部から赤く発光し始める。その光は徐々に強くなっていき遂には大爆発を起こした。

 

『駆除、完了…』

 

冷たい声色で吐き捨て、そのままアルティマはカジットの方に歩く。

 

『ご自慢のペットは吹っ飛んだよ?寂しいだろうから同じ場所に送ってあげる』

 

アルティマは右腕の爪の関節を鳴らしながらカジットに近づくがカジットは急に笑い始める。

その反応を訝しんだアルティマだが上空を見てすぐに理解した。

 

「フハハハ!馬鹿め!骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が一体だけだと思ったか!?」

 

カジットが高笑いをしているうちにもう一体の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が姿を現す。

それを見たアルティマは一瞬溜息を吐きたくなった。

 

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を倒すとは流石に驚いたが先程の大技はそう連続で発動できまい?今度こそ貴様を始末してやる!」

 

そんなカジットの様子を見たアルティマはさっきのを見てどうして勝つ気になれるんだろうと?疑問に思った。確かに輻射波動機構は連続で使用できないが素の戦闘力でも自分の方が大いに上回っている事になぜ気づかないんだろうか?と思いながら早急に始末しようと歩き始めるが…。

 

「……私が行く」

 

『シズ?』

 

それをシズが制し、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の前に出る。

 

「シズ、でも貴方は後衛…」

 

「大丈夫…コレがある」

 

シズは右腕を上げる、ナーベラルの視線の先にはマシンナーがシズに贈った装備(ジャガーノート)の腕時計型の端末が目に入った。

 

「……ジャガーノート、スタンバイ」

 

《イエス​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​マム

 

その瞬間、シズの身体に数多の装甲と武装が装着される。プレアデスの中ではエントマに次いで小柄な部類に入るシズだが、ジャガーノートを完全に装着したことでまるで重戦車のような威圧感を漂わせていた。

 

ガシィン!

 

左右の両手を打ち付け火花が散り、装着されたヘルメットに付いているバイザーが緑色に発光する。

 

「……叩きつぶす」

 

ズシン、ズシンと重厚な音を響かせてもう一体の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に近付く。しかしそれを見たカジットはシズを嘲笑した。

 

「何を出したかと思えばそんな鈍重な装備でこの骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に挑むとは愚かものめ!そんな装備を遣わした物をあの世で呪うがいいわ!」

 

その言葉にシズは一瞬動きを止める。

 

(……鈍重な装備?そんな装備?マシンナー様の最高傑作の一つを……?)

 

頭の中を戦闘モードに切り替えていたシズの中で何か熱いものが溢れる、オーバーヒートとは違う熱いもの、それは純粋な"殺意"、今シズの脳内の最優先している指令は「あいつ(カジット)を地獄に叩き落とせ」となっていた。

 

「殺すっ……!」

 

緑色のバイザーが赤色に変わり、立ち塞がる障害(骨の竜)を殲滅するべく拳を握る。骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は前脚を振り上げシズに振り下ろし、周囲に何かが砕けた音がした。

 

「……脆すぎ」

 

シズに振り下ろした|骨の竜《スケリトル​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ドラゴン》の前脚はジャガーノートに直撃したあと粉微塵に砕けた。

 

「なっ!」

 

「…次は私」

 

シズは右腕を振りかぶる、その瞬間右腕は凄まじい速度で変形し始める。

右腕の中央部には回転式拳銃(リボルバー)と同じ回転式の弾倉が現れ、掌の代わりに右腕よりも大きい長さを誇る杭が出現する。変形を終えたその右腕事態が一本の杭打機(パイルバンカー)と化していた。

 

回転式弾倉射突式ブレード形態(リボル・パイルバンカーモード)……」

 

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は翼を大きく広げ、シズに飛びかかる。

シズは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に照準を合わせ、捕捉する。

 

目標捕捉(ターゲット・ロックオン)……」

 

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)はその大口を開け、シズを噛み殺そうと接近してくる。

シズもジャガーノートの推進器(ブースター)を全開させ骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に突っ込む。

 

「撃ち貫くのみ……!」

 

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に数メートルの距離まで接近し、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の口が目と鼻の先まで近付いてきた瞬間、シズはジャガーノートの肩からボールベアリング弾を発射し怯ませ杭打機(パイル・バンカー)骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の口に叩きこんだ。

 

「まだ…!」

 

そのままジャガーノートの右腕の出力を上げ、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を突き刺したまま直進する。

 

「……全弾あげる」

 

その台詞の後に右腕の回転式弾倉の中に入っていた弾薬を一発、二発と炸裂させ杭をその弾薬分打ち付ける。

そのまま最後の一発も炸裂させ、そのまま骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を撃ち貫いた。

 

「一撃……だよ?」

 

そのまま豪快にカジットの近くに着地をし弾倉に入っていた弾薬を排莢する。

 

「そんな……儂の…儂の数年間懸けたものが…」

 

「……無駄になったね」

 

「ふっふざけるなッ!!儂はまだ、まだ負けた訳ではないッ!!こんな所で……!」

 

「お喋りはお終い……」

 

そう言うとシズはカジットに向けて両腕を突き出して大型プラズマ砲をを展開した後両肩、両足の格納式ミサイルランチャーを展開、そして両腰の専用ビームライフルを前方に向けて最後に背部の大型レールキャノンに専用ジェネレーターを直結させる。

 

(え?ちょっと待って?もしかしてシズあいつ(カジット)にとどめはフルバーストで刺す気?いやそれは危ないよシズ、余計な被害が生まれるからっ…!)

 

思わずシズを止めようとしたアインズだが少し遅かった……。

 

「一斉発射……!」

 

「ま、待てぇ!」

 

「嫌…待たない」

 

その光景を見たカジットは制止の声を出すが勿論シズに聞く気は全く無く、躊躇なくジャガーノートの銃火器を一斉に発射した――――――。

 

 

 

 

 

ソニック・スレイヤーとドランザーが合体したソニック・ドランが一人佇んでいる。

周囲には無数のアンデッドの死骸が晒されてあった。

ソニック・ドラン―――――もとい合体時のコアロボットとなっているドランザーは合体しているソニック・スレイヤーに話しかける。

 

「アラカタ排除シタカ?」

 

『少なくとも門の所に行くのは今のところ居なさそうだな』

 

「潜入隊ノ活躍モアッタオ陰ダナ…」

 

ドランザーの言う通り潜伏していた潜入部隊がソニック・ドランの攻撃時と共に決起し、ソニック・ドランの撃ち零しを片付けたりしていた。

 

「後ハドウスルカ……」

 

『誰か助けてほしいでござる~!!?』

 

「ン?」

 

『なんだ?』

 

ソニック・ドランは声の方角を振り向き、画面を拡大すると一本の木の上にしがみ付いているがその木の周りにアンデッド達が群がっている可哀想な巨大ハムスターがいた。

 

「オイ、何ダアノ巨大ナ「とっ◯こハ◯太郎」ハ?」

 

『お前が言うと変な感じがするな?』

 

「何ヲ言ッテオル?取リアエズ助ケルゾ…」

 

『ああそうだな、行くぞメカ◯ジラ?』

 

「…◯カゴジラ言ウナ」

 

そんなやり取りをしながら巨大なハムスター……ハム助の救出しにソニック・ドランは飛び出し、すぐにハム助がしがみ付いている木に到着する。

 

「オイソコノデカイ鼠」

 

「ん?わ!なんでござるかお主!一体何者でござる!?」

 

「質問ヲ質問デ返スナ、今カラオ5秒後ニ前ノ周リヲ囲ンデイルアンデッド共ヲ排除スルカラ全速力デ逃ゲロ……」

 

「ええ!?そんな無茶でござるよ!」

 

『じゃないと死ぬぞ?』

 

「死、死ぬぅ!?」

 

「イ~チ…ニ~イ……」

 

「ああもうどうにでもなれでござる!」

 

ドランザーがカウントを取り始めたのを聞いて半ばヤケクソになりながらハム助は木から思いっきりジャンプし、周りのアンデッドを飛び越え全速力で逃げる。勿論アンデッド達もハム助を追い始めるが空中にソニック・ドランが立ち塞がる。

 

『ここから先は立ち入り禁止だ』

 

「ゴ退場願オウ……」

 

ソニック・ドランはアンデッド達に向けて全ての銃火器を一斉発射し、殲滅した。

 

「終ワッタナ」

 

『ああ、一旦合体を解除するぞ?』

 

「了解ダ…」

 

そういうとソニック・ドランが光りだし元の2人(ドランザーとソニック・スレイヤー)の状態に戻る。

そこに先程逃げていたハム助が近付いてきた。

 

「助かったでござるよお二方ありがとうでござる、某九死に一生を得たでござる。あっ申し遅れたでござる、某、殿のペットの「ハム助」と言うのでござる」

 

「殿?」

 

「誰ダソイツハ?」

 

「おっとこれは失礼、殿の名前は「モモン」、冒険者をやっているでござるよ!」

 

その瞬間ソニック・スレイヤーとドランザーに電流が走る。

 

(なん……!)

 

(ダト……!)

 

ハム助の言葉にドランザーとソニック・スレイヤーは目を合わせる。

 

(アインズ様にペットが居た?初耳だぞ!)

 

(落チ着ケ、モシカシタラコノ世界デペットニシタカモシレン、取リアエズアインズ様ノ所マデ護衛スルゾ)

 

(了解した)

 

「これも何かの縁だハム助、君の主を見つけるまで我々が護衛しよう」

 

「同ジク…」

 

ドランザーとソニック・スレイヤーの言葉にハム助は目を輝かせる。

 

「本当でござるか!とても心強いでござる!!」

 

「ウム…」

 

「それでは探そうか?」

 

「了解でござるよ!」

 

こうしてハム助一行はアインズの捜索に向かう事にした。

 

 

 

 

「あれ確かモモンガさん達居る辺りだよな?一体何が起こったんだ?」

 

マシンナーは謎の大爆発が起こった地点にまで簀巻きにしたクレマンティーヌを担ぎながらアインズ達が居る場所まで歩いていく。

 

「お~いアインズ……って何コレ?」

 

到着したマシンナーは到着した場所の状況を見て声を上げる。辺り一面が焼け野原となっており、まるで爆撃でも起こったんではないか?と錯覚するほどに燃え盛っているだけでなく、小さなクレーターまでできていた。

 

前方を見ると黒いフルプレートを纏ったアインズとナーベラル・ガンマ、そして戦闘形態になっているアルティマとジャガーノートを纏ったシズが居た。

 

「マシンナー…」

 

「アインズ、これは一体…?」

 

「ああ、これはだな…」

 

アインズが先程の戦闘の経緯を話す。そしてさっきの爆発がシズのジャガーノートの銃火器の一斉発射だとわかるとマシンナーは納得する。何せマシンナーはジャガーノートを制作した本人であり、その火力の事はよく熟知している。そしてアインズはマシンナーにメッセージの魔法を送る。

 

「そうか、ご苦労だったな三人とも」

 

「勿体なきお言葉…」

 

「……ありがとうございます」

 

「至高の御方のシモベとして当然の事です」

 

(マシンナーさん、あの『ジャガーノート』っていう装備にどんだけ火力詰め込んだんですか?)

 

(いやまあその……かなり?)

 

(シズの一斉発射見て敵にちょっと同情しちゃいましたよ、死体すら残ってないんだから……あ、でも死の宝珠っていうこの世界独自のアイテムは手に入れましたけど)

 

(え?何ですかそれ?名前聞く限りアンデッド関係のアイテムっぽいですけど?)

 

(名前の通り多分そうでしょうね、敵もそう言ってたし取りあえず使い道は後で考えます)

 

(そういえばハム助は?)

 

("あ")

 

(忘れてたんですか!?)

 

「殿~御屋形様~」

 

((あ、いた))

 

ハム助の事を思い出したアインズだったが、丁度良いタイミングでハム助一行も合流してきた。

 

「ハム助、よく戻ってきた」

 

「はい、この御両名が助太刀してくれたでござるよ」

 

「そうか、よく護衛してくれたなドランザー、ソニック・スレイヤー流石はマシンナーのシモベだ」

 

「「勿体なきお言葉(デス)…」」

 

「え? この御二方は殿の知り合いでござるか?」

 

「知っているもなにも彼らは隣にいるレイヴン……いや"マシンナー"のシモベだ」

 

「そろそろハム助にも我々の正体を教えるかアインズ?」

 

「ああ、そうだな」

 

そう言うとアインズとマシンナーは本来の姿である死の支配者(オーバーロード)と|機械仕掛けの神《デウス​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​エクス​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​マキナ》の姿に戻る。勿論それを見たハム助は驚愕する。

 

「え?殿!御屋形!?」

 

「これが我々の正体だ」

 

「ま、今後ともよろしく」

 

「ぎょ、御意でござる…」

 

半ば怯えながらも了承するハム助。

 

「ふむ、では皆帰るとするか?」

 

「了解だアインズ」

 

他のシモベ達もそれに従い、エ・ランテルの帰路についた。




パイルバンカーは浪漫の象徴の一つ。


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第40話 土地勘が無い土地での地図は本当に大切

あの後アインズ達が帰還した後、漆黒の剣のチームに護衛されていたンフィーレアと再会した後、ギルドからモモン、レイヴン両名のチームの成果を讃えられ両チームともクラスが銅からミスリル級にまで上がった。

アインズは「アダマンタイト級にはなれなかったか…」とぼやいていたが、マシンナーから早い時期にここまで出世できたのだから上々の成果だろうと諭され、アインズはそれもそうかと納得した。

 

都市エ・ランテルの中にあるリィジー・バレアレの工房の外でレイヴンの姿をしたマシンナーが先日の戦闘で開けてしまった穴の修繕工事をしていた。

 

「いやはや、孫を救ってもらったのに済まないね」

 

「いいんですよ、穴開けたのは俺なんですから気にしないでください」

 

リィジーとンフィーレアに開けてしまった穴の修繕工事の約束をしていたマシンナーはアルティマとシズに留守番を頼み約束通り朝一番で工房に行き、工事を始めた。レイヴンが来たことにリィジーとンフィーレアは驚き、危機を救った本人に対しそれは申し訳ないと思い最初は断るが、最終的には承諾してくれた。

 

「後もうちょっとで終わるので待っててください」

 

「ああ、終わったら中に入っておくれ。果汁水を冷やしてあるから飲んでいきな」

 

「そりゃありがたい、終わったら頂くよ」

 

リィジーの行為に感謝し、暫く時間が経ったあと、穴の修繕作業も完了し、レイヴンは果汁水が置いてあるテーブルに着き、果汁水を飲んでいる。一見すると機械系異形種が食物を食べるのは不思議な感じがするが、一部の機械系異形種のプレイヤーの中には青い猫型ロボや黄色い丸顔の侍ロボのように飲食ができるプレイヤーも存在した。

マシンナーもそんな一部のプレイヤーの一人である。(因みに時々ではあるが煙草も吸うこともある)

 

(さてと、これからどうしようか?)

 

自分がしてしまった不始末の責任も取り、これからの予定を考える。一旦ナザリックに戻り、溜まっているであろう書類を片付けようか、または未完成のナザリック警備用のロボの仕上げに取りかかろうか?とも考えていた。

 

「レイヴンさん」

 

「ん?」

 

レイヴンは声の主の方を振り返ると先日クレマンティーヌとカジットから守ったンフィーレアが立っていた。

 

「すみません、助けて頂いたのにこんなことまで…」

 

「気にするな。自分でやった不始末だ、なら本人が償うのが筋ってもんだ」

 

「レイヴンさん、ありがとうございます」

 

「良いよ、穴開けたの許してくれたんだ、こっちがお礼を言いたいぐらいだよ」

 

壁の穴を塞いでくれた礼を言うンフィーレアにマシンナーは穴を開けてしまった事を許してくれたお礼を言う。

 

「あの、レイヴンさん、一つ質問をしていいでしょうか?」

 

「ん?何だ?答えられる範囲でなら答えても良いが?」

 

「ありがとうございます、あのエンリから聞いたんですがレイヴンさ…いえマシンナーさんが腕を発射したり掌が高熱化してカルネ村を襲った騎士達を殺したって聞いたんですけど本当なんですか?」

 

「あ~……」

 

ンフィーレアからの質問にマシンナーは少し一考するがンフィーレアに肯定の言葉を話す。

 

「…事実だって言ったらどうする?」

 

「!?本当だったんだ……あの…その話を聞いて思ったんですけどマシンナーさん、貴方の種族は一体何の種族なんですか? 僕の知っている範囲では、マシンナーさんの種族を聞いたことがないのですが…あ、無理なら別に話してくれなくても…」

 

「いや良い、いずれ広く知られるようになるだろうからな、話そう。だがこれからする話はまだ他言無用にしておいてくれよ?」

 

「は、はい、わかりました!」

 

「なら話そう、まずわかりやすく言うと俺は金属の生命体だ」

 

「金属の生命体?」

 

「ああ、人間でいう四肢や骨格、皮膚や目が本物の金属で出来ていて、臓器などは無いが代わりに似たような物で構成されている生命体だ。俺のような人型も存在するが中には獣のような姿に変形するようなものや外見が完全な獣やドラゴンのような姿をしたものもいる」

 

「そんな種族が…でもそれなら何故今まで発見されなかったんですか?」

 

「簡単だ、今までバレないように身を潜めてたりさっきも言ったように獣や物等に変形して隠れてたからだよ。それに外見だけなら完全に人間と見分けがつかない奴も居たからな、そう簡単にはバレない」

 

半分嘘と真実を交えながらレイヴンは自分の種族について簡単に説明をする。

 

「じゃあレイヴンさんの今の姿も仮の姿なんですか?」

 

「そうだな、まあいずれ見せることになるだろうから。俺の本来の姿はまた今度ってことで」

 

「あっはい、わかりました」

 

「後はまだあるか?」

 

「いえ、後はもうありません。ありがとうございます」

 

「いいさ、これから長い付き合いになるんだ。じゃあ壁も直したしそろそろお暇するよ」

 

「わかりました、ではまた」

 

「ああ」

 

レイヴンはンフィーレアに別れを言い、工房を出て行った。

 

 

 

 

宿屋に戻ったマシンナーは部屋に入り、これからの事を考えている時に不意にあることを思いつき、アルティマに話しかける。

 

「アルティマ、そういえばこの町全体の詳しい地図は作成してたか?」

 

「いえ、まだ作成しておりません」

 

「そうか、ならちょっとこの町の地理を散策して調べるついでに地図も作成しておくか」

 

まだこの町の地理をまだ詳しくは知らなかったので、依頼も入っていない今のうちにやっておこうかと考えた。

 

「…お供します」

 

「ああ、ありがとう」

 

「…マシンナー様、それでしたら二手に分かれたほうが丁度良いかとアルは愚考します」

 

「それもそうだな、じゃあメンバーはどうするか……」

 

「ならばマシンナー様はシズと行動というのは如何でしょうか?アルには変形円盤機(ディスク・トランス・ロイド)がありますので大丈夫です」

 

「ん?俺は別に構わんがシズは?」

 

「……マシンナー様が良ければ異存ありません」

 

「わかった、なにかあったら些細なことでも良いから連絡頼むぞアルティマ」

 

「承知しました(よし…!)」

 

アルティマは自分の提案に主が乗ってくれた事に内心ガッツポーズをする。マシンナーがこの辺りを散策すると聞いた瞬間、アルティマはマシンナーとシズを一緒に散策させようと考えた。共に散策させれば大きくないにしろ何らかの進展があるだろうと思ったのだ。

 

(たとえ大きくなくとも小さな一歩は必ず出るはず、アルは邁進願っていますマシンナー様……)

 

 

 

 

 

 

 

 

(総隊長が作ったチャンス……無駄にはしない!)

 

(これは予期もしないラッキー、何とか活かしたいところだが)

 

(けど…)

 

(だけど…)

 

((……何を話そう?(か?)))

 

勿論目的である地理の散策は忘れてはいないがマシンナーとシズは互いにこのチャンスを大きく活かそうと決意するが互いに恋愛経験なんて無い、ましてこうして異性と街で歩いた事すらない。普段ナザリックで2人で歩く時はあるが、シズはメイドとしての職務としてマシンナーは嬉しさ半分とナザリックのこれからの計画の事を考えていた為、あまりそう考えていなかった(2人とも嬉しいという気持ちはあったが)だがいざこういう状況になってしまうとどうしてもそう意識してしまう。

 

(くっそ~、たっち・みーさんとかにデートとかでのアドバイスを聞いておけば良かった…)

 

(……駄目元でアルべド様にアドバイスを聞けば良かった)

 

前者は既婚者なのでまだ説得力があるが後者は暴走しそうな気が若干ありそうな気がするが……。

 

(落ち着いて考えよう。そうだ散策の途中に何気なく話しかけよう、それにはまず最初に行く所を決めて…)

 

(とりあえず話しかけてみないと…)

 

「「なあ/あの…」」

 

((あ…))

 

お互いに話しかけるタイミングが偶然にも重なってしまい2人とも少し困惑する。

 

「あの…お先に」

 

「あ、いや、シズからでいいぞ」

 

「いえ…マシンナー様からどうぞ」

 

「ああいやシズから…」

 

この後暫くどちらが先に話すかで2人とも譲り合うやり取りが続いてしまうのであった。

 

「…メイドが主人より先に言うのは失礼」

 

「そうか、ならまず北の方角から散策しようかと思うんだがどうだ?」

 

「…了解」

 

マシンナーの提案にシズが了承し、北の方角に進もうとするがマシンナーは一瞬足を止める。

 

「…どうしました?」

 

「いや、シズの話を聞くの忘れていたな、すまない」

 

「あ…」

 

歩こうとする前にシズが喋りかけていたことを思い出したマシンナーは一瞬だけ忘れていた事を謝罪する。

 

「マシンナー様が謝る事では…私がさっき言いかけた事もどちらの方角に進もうかという事で…」

 

「そうか、ならシズ、お前の行きたい方向を教えてくれ」

 

そう言うとシズはこれから向かう方角の逆側を向き指を指す。

 

「南…」

 

「よし、なら南に行こう。さっき発言を譲ってもらった御礼だ」

 

「っ、ありがとうございます…」

 

「では行くか」

 

「…はい」

 

マシンナーとシズは先程の道から逆の方向に歩きだした。

お互いセンサーを使って道順を記録していく、そして主に目立つ建造物やこれからの計画に必要な場所の位置情報を記録していく。

 

(やっぱりこういう事を調べるのは大事だな、大まかな事を調べ終えてアルティマとシズの情報を合わせてとりあえず簡単な地図を作成したらモモンガさんに渡そう)

 

頭の中の記録を使いながら、地図をどう作ろうかと考えていく。

そのままマシンナーとシズが担当する区域を進んでいく。

 

(流石に今は仕事以外の話は出来ないか、でもこうして二人で歩いているだけでも幸せだな)

 

流石に仕事をしながらシズとの距離は詰められないと思いながらもこうやってシズと歩いているだけでもマシンナーは幸せだった。

 

(でもなんとかしてアタックはしたい、う~んちょっと怖いがアルべドとかに聞いてみようか?)

 

「…マシンナー様」

 

「うん?どうしたシズ」

 

「……この辺りの区画の記録完了」

 

「む、そうか残りの区画は確か…」

 

「残りの区画は後三つ、私達から見て右から行くルートの方が時間を比較的短縮できる」

 

「よしならばそのルートで行こう」

 

「…了解」

 

次の最適なルートをシズが提案し、マシンナーはそのルートに沿って行くことに同意する。

2人はそのルートを進んでいく。進んだルートで経営されている店や道順を記録していく最中にマシンナーはある露店を発見する。

 

「ん?」

 

「……どうしました?」

 

「ちょっと待っててくれ」

 

「?……はい」

 

マシンナーの言葉にシズは「?」マークを浮かべながらマシンナーを待つ。

マシンナーはその露店に立ち寄る、露店はジェラート店だった。店の主のお婆さんに2本注文する。

 

「いらっしゃい、立派な甲冑だね」

 

「褒めてくれてありがとう。すまぬがこれを二つくれないか?」

 

「良いけど味はどうするんだい?」

 

「一本はバニラ、もう一本はイチゴで」

 

「はいよ、ちょっと待ってな」

 

お婆さんは慣れた手つきでジェラート二本を作り、マシンナーに渡す。

マシンナーはジェラート分のお代を渡すとシズの所にまで行った。

 

「ありがとう、お題だ」

 

「毎度あり」

 

「シズ」

 

「…マシンナー様?」

 

「イチゴとバニラどっちがいい?」

 

「…え?」

 

「気分転換にどうかと思ってな、どっちを食べる?」

 

シズは少し考えてイチゴを選択する。

 

「…イチゴ」

 

「わかった、ほら」

 

「ありがとうございます…」

 

マシンナーからジェラートを受け取りそれを口にするシズ。

イチゴの甘酸っぱさとジェラートの甘みが口いっぱいに広がっていった。

マシンナーもジェラートを口に含む。

 

「おいしい…」

 

「そうだな」

 

シズの言葉にマシンナーも同意する。

 

「次来たときは違う味でも頼んでみるか?」

 

「…マシンナー様」

 

「ん?」

 

「…食べます?」

 

そう言ってシズは持っているジェラートをマシンナーに差し出す。

 

「良いのか?」

 

「……どうぞ」

 

「悪いな…」

 

シズに進められてシズのジェラートに口をつけるマシンナー。

イチゴの甘酸っぱい味に一人満足しているとふとシズのほうを向くと目が合った瞬間、下の方を向いた。

 

「どした?」

 

「…いえ」

シズは一瞬誤魔化そうとしたがナザリックのモノとして至高の御方に嘘はつけないと思い、若干顔を赤らめながら呟いた。

 

「……私が食べてた所」

 

「………え?」

 

シズの言葉にマシンナーは先程シズが食べていた場所と

先程自分が食べた所を思い出す。それを思い出した瞬間、マシンナーは頭の中が一瞬爆発したような感覚に襲われる。すぐに鎮められたものの一瞬だけ鎧の内部から排熱した。

 

「あ…その…すまん、気づかなかったんだ」

 

「……いえ、私こそ配慮が足りなかった」

 

「ああいや気にするな、別に気にしてないし、寧ろ良かったというか…」

 

「え……!」

 

(ゔぁああああああ!何言ってんの俺ぇ!?)

 

思わぬ失言に再びプチパニックになるマシンナーだがアルティマからの伝言(メッセージ)が入り、そのメッセージに応答する。

 

『マシンナー様』

 

『おっおお、アルティマか?どうした?』

 

『はい、僕の方は後少しで完了するので《伝言(メッセージ)》を送ったんですがなにかありました?』

 

『いやなんでもないぞ、なんでもない』

 

『……わかりました、それではまた』

 

『ああ、御苦労』

 

アルティマの伝言(メッセージ)を切る。

 

(なんか変な間があったが…まあ後で聞けばいいか)

 

「さて早く終わらせようかシズ?」

 

「……了解」

 

マシンナーがそう思っているのとは反対にアルティマは…。

 

(さっきの慌てよう…もしやタイミングが悪かったのですかマシンナー様!?)

 

 

 

 

マシンナーとシズが散策を終えてマシンナー達が宿泊していた宿でアルティマと合流し、それぞれの情報を合わせて簡単な地図を作成している。作成している最中にアルティマが誰かの伝言(メッセージ)を受信したのかその伝言(メッセージ)に受け答えしている。

 

「マシンナー様、先程シャルティア殿に同行しているローグから伝言(メッセージ)が入りました」

 

「そうか、内容は?」

 

「はい、先程スレイン法国の者達と思われる部隊と交戦、シャルティア殿のお力添えもあり、殲滅したとのこと」

 

「またあの国か…」

 

「それでその部隊の装備をできる限り回収したらしいのですが一つ不可解な物を発見したと」

 

「不可解な物?」

 

「はっ! シャルティア様のエインヘリヤルの一撃を受けても全く無傷の中華服のような装備があったと…」

 

「何…!?本当か?」

 

「はい、確かな情報です」

 

「今からアインズにこのことを報告する、2人はいつでもここを出られるよう荷物を…って言うほどではないが準備をしておけ」

 

「はっ!」

 

「…了解」




例の中華服登場でござるよ。


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第41話 事情説明1

オバロ第二期が来年放送決定しましたね?来年が楽しみです。


俺は伝言(メッセージ)でモモンガさんにアルティマの話をそのまま説明する。

説明をしたモモンガさんも驚いた様子だった。

 

『本当ですかマシンナーさん?』

 

『ええ、俺も半分驚いてます。早くナザリックに戻ってその例の品を見てみましょう』

 

『そうですね、ではまた』

 

『はい!ナザリックで会いましょう』

 

俺は伝言(メッセージ)を切り、シズとアルティマと共に宿屋を後にしナザリックに帰還した。

 

 

 

 

ナザリックに帰還した俺は円卓の間でモモンガさんと先程のアイテムについて話をする。

 

「一体なんのアイテムを回収したんでしょうか?」

 

「わかりません、ですがもしかするとですが……」

 

世界級(ワールド)アイテムの可能性もありますね」

 

「ええ、否定できません」

 

色々とぶっとんだアイテムが存在していたユグドラシルだがその中でも一際ぶっ飛んだ力を持っているのが今話している『世界級(ワールド)アイテム』だ。その性能は冗談抜きのチートアイテムでこれ一つでも持っているだけでも凄いことである。因みに俺達アインズ・ウール・ゴウンはその世界級(ワールド)アイテムを11個持っている。(今考えるとよく集めれたものである)

 

「もし本当に世界級(ワールド)アイテムだったら…」

 

「やはり現状一番恐れるのはスレイン法国になりますね……」

 

「マシンナーさん、スレイン法国に派遣している偵察隊の数は増やすことはできますか?」

 

「そうですね……王国にいる偵察隊から何名か派遣させることはできますよ?」

 

「ならお願いします」

 

「わかりました、後でアルティマに言っておきます」

 

「ありがとうございます。ではそろそろ行きましょうか?」

 

「はい」

 

話し終わった俺とモモンガさんは円卓の間を出て、皆が集う玉座の部屋に向かった。

 

 

 

 

玉座の間に入ると、アルべドを筆頭にシャルティアを除いた階層守護者とローグを除いた『マキナ』各隊長達が集結していた。マシンナーとアインズが入ってくるのを見た瞬間に全員が横に控える。

そして皆一様に黙して待っていると、玉座の間の扉が開かれた。

 

「失礼しんす。第一、第二、第三階層守護者。シャルティア・ブラッドフォールンただいま帰還しんした」

 

「『マキナ』機人兵団隊長。バレット・ローグ、配下のレッドショルダー3体、スナイプマトン2体、帰還いたしました」

 

玉座の間からシャルティアを先頭に、ローグとその配下の機械系異形種達が後に続く。全員何事もないことを知りアインズとマシンナーはほっと一息吐く。

 

(全員何事もなくて良かった…)

 

同じくアルティマや他の隊長達も胸をなで下ろす。共にマシンナーによって生み出された存在としてアルティマ達隊長格は互いを『マキナ』の同僚としてだけではなく、兄弟のようにも思っている。何よりマシンナーを哀しませるようなことにならなかったと言う事も一つだ。

 

「シャルティア、ローグ、そして『マキナ』の戦士達。皆が無事に戻ってきた事を、私もマシンナーも嬉しく思うぞ」

 

「ああ、よく戻ってきたお前達」

 

アインズの言葉ににシャルティア達は溢れる思いをこらえ、臣下の礼を取る。いつでも報告が出来ると言った様子だ。

 

「帰還早々申し訳ないが、報告を聞かせて貰おう」

 

「畏まりんした」

 

 

 

 

それはアインズとマシンナーが冒険者として出発前の時間帯。

出発前の情報整理としてアインズの執務室にアインズ、マシンナー、アルべドの3人が集まっている。マシンナーは先に出した周辺国家に潜伏している偵察隊からの情報をアインズに報告をする。尤もまだ潜入したばかりなので内部情報はまだそこまで多く集まっていない。

 

「『マキナ』偵察隊は順調に周辺国家に潜伏しているようだな」

 

「ああ、情報は些細なことも逐一報告は来るが、有力な情報は集めるのはもう少し時間がかかりそうだ」

 

「まあそこは仕方あるまい、最初から簡単にうまく行くとは思ってはいない、引き続き調査を頼む」

 

「了解した、何か情報が来たらすぐ報告をする」

 

「頼むぞ。次にアルべド」

 

「はい、アウラからの報告では現在ナザリックの周辺にはユグドラシルのプレイヤーとの接触はなく調査範囲もナザリックを囲む大森林に広げているとのことです、それから先日捕獲したニグンと言う男、スレイン法国の特殊部隊『陽光聖典』の指揮官でした」

 

「スレイン法国か…」

 

「ゴブリン、オーガ、リザードマン等の他の種族に打ち勝つために人間の団結を唱える宗教国家……とか言っていたな」

 

「今はこちらから接触するのは危険だな」

 

他の周辺国家の中で最もユグドラシルのプレイヤーが居る可能性が高い国だ。もし迂闊に手を出せばタダではすまない可能性もある。

 

「では最後にあの村はどのように?」

 

「カルネ村は唯一の足掛かりであり友好を築けた村だ。不仲になることは極力避けろ」

 

「マシンナー、防衛の任務に就くゴルドソウル達にもそう伝えておいてくれ」

 

カルネ村に防衛と人間と機械系異形種が上手く共存できるかの実験を兼ねて防衛任務に就くゴルドソウル達の部隊には特に注意を払う必要があった。

 

「承知した」

 

「かしこまりました、本日のご報告を終了させていただきます」

 

「うむ、皆御苦労だった」

 

「礼を言われるまでもない」

 

「勿体ないお言葉!至高の御身、そして愛する者の頼みであれば如何様にもこの身をお使いください……!」

 

アルベドの喜々とした言葉にアインズは少し気まずそうにしながら言葉を紡ぐ。

 

「……アルベドよ、お前の私に対する感情は私が歪めたもの」

 

(……でも元の設定を考えると大分マシだと思いますよモモンガさん?)

 

転移する前にアインズはアルベドの設定を少し変えてしまい、その事実に後ろめたさを感じながらアインズはその事を話す。しかし以前のアルベドの設定を知っていたマシンナーは逆に変えて良かったんじゃないかと考えてしまう。

 

「だから……」

 

「よろしいのではないでしょうか?」

 

アルベドの意外な言葉に間の抜けた声を出すアインズとその言葉に少し驚くマシンナー。

 

「"え?"」

 

「ん?」

 

「アインズ様、重要な事は一つだと思います…………ご 迷 惑 で し ょ う か ?」

 

(それ断りづらいよアルベドさん!)

 

言葉の中に確かなプレッシャーを感じるマシンナー。

 

「え、い、いやそんな事は……ないぞ」

 

(あ、顎落ちた)

 

アインズは思わず普段閉じている顎を「ぱかっ」と開けてしまう。

 

「なら、よろしいのではないでしょうか?」

 

「ええぇ……」

 

「よろしいのではないでしょうか?」

 

(大事な事なので2回ry)

 

アルベドの言葉の中に宿るプレッシャーの前に普段隠している素が思わず出てしまいそうになるが何とか言葉を紡ぐ。

 

「タ、タブラさんの作った設定を歪めたのだぞ?」

 

「いや、案外許してくれるかもしれんぞ?」

 

「マシンナあァー!?」

 

「マシンナー様の言う通り、タブラス・マラグディナ様なら娘が嫁に行くような気分でお許しくださると思います」

 

「そ、そうか?」

 

(……モモンガさん、やっぱり責任取った方が良いと思うっす)

 

(え、いやそれはわかってるんですけど……)

 

(仲人はやったことないんで本番ガチガチになると思いますけど白い目で見ないでくださいね?)

 

(いや何自分の中で結婚確定的な感じにしてるんですか!?)

 

伝言(メッセージ)でそんな問答を繰り広げていると執務室の扉からノックの音が聞こえた後、シャルティアが執務室に入りスカートの裾を少し上げて礼をする。

 

「アインズ様、マシンナー様。ご機嫌麗しゅう存じんす……」

 

「お前もなシャルティア」

 

「どうした、何か用か?」

 

「それは勿論、アインズ様のお美しい御姿とマシンナー様の逞しい姿を目にするためでありんすえ」

 

「ならば満足でしょう?下がりなさいシャルティア、今私とアインズ様はマシンナー様を交えて大事な話をしている途中なの」

 

「「え?」」

 

(え?何も話ししてないんだけど!)

 

(え?何故に俺まで入っちゃうの?)

 

2人が心の中でそう突っ込んでいるとアルベドの言葉にシャルティアは鼻で笑い、「嫌でありんすねぇ、おばさんは……」を皮切りに仁義なき女の戦いが開催された。

 

「殺すぞてめぇ……」

 

「誰が賞味期限切れだゴらぁ…」

 

(あ、モモンガさん俺用事思い出したんで強制退出させて頂きます!)

 

(え!?いや待ってください!こんな空間に一人にしないでください!)

 

部屋の空気に耐え切れなくなり退散しようとするマシンナーを必死で引き留めるアインズ。

 

(じゃあ早く止めてください!この状況たっち・みーさんとウルベルトの時よりある意味ヤバイですよ!)

 

(わかってますよ!じゃあマシンナーさんも合わせてください)

 

「おい、いい加減にしろ2人とも……」

 

「マシンナーの言う通りだ児戯を止めよ」

 

「「はい、アインズ様、マシンナー様」」

 

(話が通じるだけまだマシか…)

 

(あの2人だと威圧感が凄まじくて話しかけづらいですもんね)

 

2人の喧嘩を止めたアインズはシャルティアの用件を聞こうとするが再び執務室にノックする音が聞こえる。

 

「で何用だシャルティアよ?ん?」

 

「失礼します『マキナ』機人兵団バレット・ローグ、アインズ様、マシンナー様両名に出発前の挨拶に参りました」

 

扉を開けたバレット・ローグは敬礼をしながら用件を伝える。

 

「む……そう言えばお前がシャルティアのサポートに入るのであったなバレット?」

 

「は!命に代えてもシャルティア殿を護衛する覚悟です」

 

「うむ、その気概は良いがお前も何事も無く戻ってこいバレット、お前に何かあればマシンナーが悲しむのでな?そうだろうマシンナー?」

 

「ああ、必ず戻れ、良いな?」

 

「っ、はっ!」

 

「シャルティア、お前もだぞ?」

 

「はい!かしこまりんしたアインズ様!」

 

 

 

 

それからナザリックを発ったシャルティアとバレット・ローグは先に出ていたセバス、ソリュシャン組と合流し、馬車に乗り込み暗いエ・ランテルの外れを走っていた。

馬車の中にはシャルティアとシャルティアに仕える吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)、セバスとプレアデスの一人ソリュシャン・イプシロン、そしてバレット・ローグ。ちなみに馬車の上部にはLv80の機械系異形種「レッドショルダー」三体が透明化して陣取っている。

 

「そいでバレット・ローグ、今の所何か変わった事はありんすか?」

 

「いえ、今の所何も起こっていません」

 

「わかりんした、そう言えば「赤ちび」以外のマキナの隊長とこうやって会話したのは貴方で初めてでありんすねぇ?」

 

マキナの隊長達(ディアヴォルス、アンヘルの領域守護者組を除いて)は基本的に第六階層を警護をしておりアインズ、マシンナーに報告をしているのも総隊長のアルティマの為、今まで他の隊長達は階層守護者とあまり話をすることはなかった。

ちなみシャルティアが言っていた「赤ちび」とはアルティマの事である。(背丈はシャルティアと同程度なのだが)

 

「それは仕方ありませぬ、アルティマは我々のまとめ役であり最初にマシンナー様に生み出されたしもべです。それにあいつの実力と性格を考えれば我々のまとめ役に適しています」

 

「そう言えば貴方達ってマシンナー様に創造された同じしもべなのに性格が一人一人違うでありんす、後体格も」

 

「それはアウラ殿、マーレ殿は双子なのに性格がお互い真逆であるのと同じようなモノです。体格の違いについては我々隊長達の仮説ですがマシンナー様は自分が見た物語に出てくるような存在を自身のしもべでそれらの存在を再現しようとしていたのではないか?と考えております」

 

「物語?」

 

「はい、マシンナー様の書斎には我々の姿に似たような機械系異形種と思わしき存在達が英雄的活躍をする物語が多数置かれてありました」

 

「なるほど、その存在達を模した貴方達を従え、いずれはその存在達のような存在になろうと考えているかもしれないでありんすね」

 

「我々からすれば至高の御方達はすでにその存在達より遥かに偉大な存在ですが……」

 

「それはナザリックの者からすれば常識でありんす」

 

「後は「スーパー系」と「リアル系」でバランス良く分けていた方が良いとおっしゃっていました」

 

「なんでありんすかその……「スーパー系」と「リアル系」って?」

 

「私もよくは知りませんが、それぞれ攻撃と防御に特化した者と回避と命中力が高い者の事を言うらしいのです」

 

「ふーん、やはり至高の御方達の知識量はわらわ達の遥か上を行っているでありんすね」

 

完全に全てを理解したわけではないがきっと何らかの深い御考えがあるのだろうとシャルティアは思った。

実際にはバレット・ローグ達の外見はマシンナーの完全な趣味であるが。

 

「慈悲深きアインズ様とマシンナー様は、私と共に『マキナ』の貴方達を預けてくれんした。この任、絶対に失敗は許されなんし」

 

「勿論です、『マキナ』の意地にかけてもこの任必ず成功させまする」

 

「必要時は貴方がわらわに遠慮なく指示しなんし、あの御方の御命令はよく理解していんす」

 

「はっ」

 

マシンナーはシャルティアに必要に応じてバレット・ローグの指示に従うように命令されている。階級が上のシャルティアに部下としてつくバレット・ローグの指示を聞くかマシンナーは心配していたが、マシンナー直属の部隊の隊長という事で、然程抵抗は無いらしく、マシンナーの不安は杞憂に終わった。

 

「私は探知系のスキルを持ってないので頼りにしているでありんすよ?」

 

「はっ!」

 

探知系のスキルを持ってない戦闘特化のNPCであるシャルティアには戦闘をメインにその他の役目はバレット・ローグの部隊が受け持つ事になっている。

それぞれの役目を話し合っている内に馬車が大きく揺れ、窓から見える景色が動かなくなった。

 

「……停まりましたね」

 

「では行動開始と行くでありんすか」

 

「ですな」

 

「それでは御二人とも御武運を……」

 

「はいな、セバス」

 

バレット・ローグは愛用の回転式拳銃(マグナム)を手に取り、弾丸の数を確認して安全装置を解除して馬車の外へ向かう。勿論上に陣取っている自分の部下たちにも指示を出した。シャルティアもそれについていく形で馬車の外に向かう。

 

 

 

 

馬車を操作する御者を務めていた男、ザックは野盗達とグルであった。

深い森の中、月夜が照らし出す馬車の半周を野盗達が包囲している。野盗達は皆一様に下卑た笑いを浮かべており、馬車の中に居るであろう令嬢を相手に舌なめずりをする。

 

「ここまで手引きしたのは俺ですぜ。分け前は頼みますよ」

 

「分かってる。お前にも美味しい思いをさせてやるよ」

 

武器を出して威嚇していると、馬車の扉が開いた。野党たちは笑みを浮かべながら馬車の前へ半歩進み出るも、中から誰かが出てくる事は無かった。

 

「おらぁ!とっとと出てこいやぁ!」

 

野盗の一人が声を荒げる。男が一人、馬車の中に乗り込んで我儘令嬢を引きずり出そうと馬車の中に向かう。

 

……ガチャ。

 

馬車の中に入りこもうとした野盗の目の前に回転式拳銃(マグナム)が突き出される。

 

「こんばんは」

 

「は?」

 

野盗は一瞬間抜けな声を出すが、令嬢でも執事でもない冷淡に淡々と告げる声が中から聞こえた。

 

「死ね」

 

銃声が響いた後、その野盗は頭部の中に入っていた脳髄をザクロのようにまき散らしながら後ろに倒れて行った。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「やれ」

 

中から出てきたバレット・ローグの指示に透明化しているレッドショルダー達が動き出す。

同じく外で待機していた機械系異形種「スナイプマトン」二体も透明化したまま急所以外を狙って野盗を狙撃し始めていた。

 

「ぐっ!?」

「ひぇあ!!」

「ぎゃあ!!」

「ぬわぁ!!」

「ぎぇ!?」

「あ、足がぁ!?」

 

次々と野盗達が襲われ、もしくは狙撃されて倒れ伏していく様にザックは慌てふためいた。

 

「な、なんだよこれ!どうなってんだよぉ!?」

 

シャルティア達の作戦は既に開始されてていた。

馬車の外で別行動していたスナイプマトンは野盗の群れを発見。ザックが馬車を止め、扉を開けたタイミングで、馬車内で待機していたバレット・ローグ達が襲い掛かった。透明化と気配遮断を用いての背後からの不意打ち。捕獲目的で使う麻痺効果のある武器を使い野盗を次々と行動不能にしていった。

 

「隊長、これで全員です」

 

「御苦労、狙撃班そっちは?」

 

「周囲に我々以外の反応はありません」

 

「わかった。さて、楽しい尋問と行くか。透明化を解け」

 

「了解」

 

周囲に他に人間が居ないことを確認したバレット・ローグは頭部につけている戦闘用マスクの口に当たる部分を外し懐から薬莢を取り出し、口に咥え葉巻の様に火をつける。倒れている野盗の胸倉を掴み、意識があるか確認する為軽く頬に平手打ちをする。バレット・ローグの指示で透明化していたレッドショルダー達は透明化を解く。赤と青のターレットカメラを顔に着け、左肩を血の様な真っ赤な赤で塗装されている人型の機械系異形種三体が現れた。

 

「意識はあるな?今から言う質問に素直に答えろ、嘘をついた瞬間お前の顔の右耳から順に顔に着いているものをそぎ落とす。他の奴らもだぞ?」

 

「わ、わかった。正直に言う!だから命だけは……「無駄な時間は取りたくない」は、はい何でございましょうか?」

 

「お前らの仲間で武技を使える者は居るか?」

 

「きょ、拠点の方に!用心棒がいます!?そいつが武技を使えますぅ!」

 

「そいつの名前と特徴もしくは使う武器は何だ?」

 

「はい!名前はブレインって奴で青い髪の刀を使う剣士です!」

 

「礼を言う」

 

「がっ!」

 

武技を使えるであろう人物の情報を聞き出し、その野盗に礼を言いながら首をへし折る。別の所では吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)が魅了魔法を用いて尋問をする。因みに首をへし折っての殺害は。シャルティアの『血の狂乱』対策の為である。

 

「拠点はどこにあるの?答えなさい」

 

「森の外れのあちらの方角に……」

 

「隊長、残りはどうします?」

 

「全員始末しろ、だが死体は2体持っていく」

 

「了解しました」

 

「そ、そんな!助けてくれ!」

 

「御慈悲!御慈悲を!?」

 

「黙らせろ」

 

必要な情報は聞き出し、残りの倒れている野盗を始末する指示を出し、レッドショルダー達は野盗の首に手を掛け首をへし折る。それを見た野盗たちは一斉に命乞いをするが当然聞き入れるわけも無く一人一人機械系異形種特有の馬力で首をへし折られていった。

 

「隊長、例の男を連れてきました」

 

「ヒッ、ヒイィィィイ!?」

 

「よし、ソリュシャン殿の所に連れていけ」

 

「はっ!来い」

 

「い、嫌だあぁぁぁあ!離してくれぇ!!?」

 

元々、ソリュシャンのターゲットになっていたザックは命は助けられたが、それが良い事であるかは言うまでもない。バレット・ローグに促されソリュシャンの居る場所にレッドショルダーに連行されていった。

 

「今の所腕が良さそうな男はいないでありんすねぇ、ちょっと退屈でありんす」

 

「野盗たちの言う武技を使う用心棒なら多少は楽しめるのではないかと愚考します」

 

「まあ、望み薄でありんすが少し期待するでありんすか」

 

「隊長、賊のアジトを発見しました」

 

「御苦労」

 

「それと賊の死体2体分回収し終えました」

 

「わかった、後でC4爆弾を着けておいてくれ」

 

「その死体何に使うでありんすの?アンデッドとして使うわけでもなさそうでありんすけど?」

 

「ブービートラップの一つです。まあ念のために用意するもので実際に使うかわかりませんが……」

 

「ま、使うとなればそれなりに面白そうでありんすけど」

 

拠点の捜索に出て行ったレッドショルダーが野盗達の拠点を見つけた。尋問の末大まかな場所と偵察用の変形円盤機(ディスク・トランス・ロイド)の働き、探索系スキルを所有している彼らにとっては簡単な事だった。

 

「では野盗の巣へ奇襲を仕掛けるでありんす。貴方達は吸血鬼の花嫁と協力して奇襲してくんなまし」

 

「了解」

 

「畏まりました」

 

バレット・ローグ達に続いて吸血鬼の花嫁二人も行動を開始した。

 

セバス、ソリュシャンとはここから別行動だ。シャルティアとバレット・ローグ達は森の奥へと歩を進めた。

 

「ギィィヤァァァアアアァァァ!痛い!痛いィィイイ!」

 

背後から、ソリュシャンのお愉しみタイムによるザックの悲鳴と、肉が焼けるような音が響き渡った。

 

 

 

 

「シャルティア殿。罠の位置を確認、無効化しに行きます」

 

「はいはい」

 

バレット・ローグを先頭にシャルティア達が野盗のアジトまで移動する。道中やはり罠がいくつかあったが、バレット・ローグの探索用スキルにより無効化される。

 

「シャルティア殿、そろそろです」

 

「はいはい」

 

そうこうしているうちに野盗のねぐらと思わしき洞窟に辿り着いた。

 

「引き続き我々が罠の無効化に行きますので、後ろから着いてきてください」

 

「はいはい」

 

「2番は俺と来い、3番と4番はシャルティア殿に着け」

 

「了解」

 

「了解」

 

「狙撃班は所定の位置に待機、こちらの範囲に来るものがいれば射殺、もしくは無力化しろ」

 

「了解」

 

バレット・ローグに一体のレッドショルダーが着き、残りの機械系異業種達もそれぞれの任を果たす為に行動を開始する。

 

(問題なく進むのは良いことでありんすけど少しは娯楽が欲しいでありんすね……)

 

退屈そうにするシャルティアを尻目にバレット・ローグとレッドショルダーは野盗が次々と殺されていきその度に悲鳴が上がる。

 

 

 

 

「中々現れませんね」

 

「洞窟の内部の構造から考えるとそろそろ出てきてもおかしくはない警戒しておけ」

 

「了解、……隊長前方に一人、無効化してきます」

 

「ああ」

 

中々姿を現さない例の用心棒に少々苛立ちながら先を進み、再び何者かが現れた事を察知し、レッドショルダーが無効化しに行く。

 

(……見つけた)

 

先行したレッドショルダーの目線の先には刀を持った男が一人。それを見たレッドショルダーは透明化しながらスタンロッドを取り出し、飛び出そうとした瞬間……。

 

「誰だ?」

 

(何!?)

 

透明化しているレッドショルダーに気づき刀を居合いの要領で抜刀する。

 

「シッ!」

 

(ちっ!)

 

レッドショルダーは腰から大型のナイフを取り出し、それを防ぐ。

レッドショルダーは透明化したまま距離を取る。

 

「姿は見えないが、そこにいるな。姿を見せろ」

 

《隊長、もうし訳ありません気配を悟られました》

 

《何?》

 

レッドショルダーはバレット・ローグに『伝言(メッセージ)』を飛ばす。

バレット・ローグは僅かに驚いた後、その者が例の用心棒ではないかと考えレッドショルダーに特徴を聞く。

 

《刀は持ってるか?》

 

《はい、今までの奴らの実力と尋問した奴らの情報からして例の用心棒かと。時間は少しかかりますが私一人でも倒せますが如何様に?》

 

《一度シャルティア殿に連絡する。お前は一旦下がれ》

 

《御意》

 

伝言(メッセージ)』を切ったレッドショルダーは一旦下がる。

男は僅かに感じたレッドショルダーの気配が完全に消え、刀にかけていた手の力を少し抜く。

この男こそ例の用心棒ブレイン・アングラウスだった。

 

(気配が消えた?逃げたのか?)

 

 

 

 

レッドショルダーの『伝言(メッセージ)』が切れた後バレット・ローグは後から来ているシャルティアに『伝言(メッセージ)』を送る。

 

《申し訳ありませんシャルティア殿、部下の気配に気づいた者が居ます》

 

《あら?ならそいつが例の?》

 

《……おそらくは》

 

冷静に喋るバレット・ローグだったが内心では悔しさがあった。一切の油断無く行動していたにも関わらずレッドショルダーの気配に気づく者がいた。マシンナーの直属の軍団の一部を任せられている者としてどうしても歯痒かった。バレット・ローグとしては部下の失態の責任を取るために自分がその用心棒を捕らえようと考えていた。

 

《部下の責任は隊長である私の責任、直接私がこの手で…》

 

《いいえ、そいつの相手は私が担当しんす。貴方はそいつが逃げないように退路を塞ぐのを頼むでありんす》

 

《シャルティア殿?しかし……》

 

《丁度動きたいと考えていたでありんすの。それにその用心棒が何か奥の手を隠している可能性もあるでしょう?マシンナー様のしもべである貴方と直属の者達をむざむざ死なせる目に合わせるわけにもいきませんので》

 

《……申し訳ありません》

 

礼を兼ねた謝罪をし、『伝言(メッセージ)』を切る。ナザリックを守る階層守護者の一人であるシャルティアに尻拭いをさせる事に罪悪感はあったが、シャルティアの言葉は正しい。単純な戦闘力では守護者最強のシャルティアならそこらの相手はまず心配ないだろう。そしてブレインと遭遇したレッドショルダーがバレット・ローグの元に戻ってきた。

 

「隊長、戻りました」

 

「例の用心棒の相手はシャルティア殿がすると」

 

「っ……、申し訳ありません。自分のせいで…」

 

「いい、気にするな」

 

バレット・ローグ達と合流したシャルティアは仕事に取り掛かれると喜びながらその用心棒を探しに奥に進む。洞窟の奥から現れたのは青い髪をした刀を携えた男であった。

 

(こいつでありんすか)

 

「貴方が私のお相手でありんすか」

 

「……そうなるな。あんたは余り楽しそうじゃなさそうだが」

 

「暇を持て余していたでありんすぇ。吸血鬼の花嫁に相手させようと思いんしたが、良い加減運動をしたかったの。お相手してくんなまし?」

 

「はん、言われなくとも」

 

予め武技持ちであると言う事は知っているので確実に捕らえよう。透明化したバレット・ローグが逃がさぬよう相手の退路に立ち。左手に装着してある三本の棒状の武装、プラズマ・ステークを装着する。そしてシャルティアは遊戯を開始した。

 

 

 

 

「わあぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

(これは酷い……)

 

シャルティアと刀持ちの用心棒、ブレイン・アングラウスとの遊戯は一瞬で決した。

シャルティアに即行で打ちのめされ心を真っ二つにへし折られた彼は涙目で敗走してきたのだ。バレット・ローグは若干彼を不憫に思いながらも透明化を解く。

 

「!?なんだおま…」

 

「…これも仕事でな、悪く思うな」

 

「がっ!?」

 

バレット・ローグはブレインの胸にプラズマステークを叩き込み、痺れさせた後持ち上げシャルティアの元に連れて行く。

 

「シャルティア殿、どうぞ」

 

「悪いでありんすね。礼をいいんす」

 

シャルティアは口を開け、ブレインの首筋に噛みつく。ブレインは悲鳴を上げるが体は痺れているためまともに動けない。

 

そしてシャルティアのしもべ。人から吸血鬼になったブレイン・アングラウスが誕生した。

 

 




レッドショルダーのモデルは某最低野郎ボトムズのレッドショルダー使用のスコープドッグの様な感じですね。
隊長達のNPCで口元を覆っているキャラはマスクの下に口があり、飲食をする事ができます。バレット・ローグが薬莢を口に咥える描写は実写版トランスフォーマーに出てくるハウンドが常時薬莢を葉巻代わりに咥えていたのでそこからとりました。


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第42話 事情説明2

オーバーロード二期も後少し!予告編も来ましたね!
今年最後の投稿です!皆さんよいお年を!来年もよろしくお願いいたします!


「シャルティア様、新たな僕の獲得おめでとうございます」

 

「少し汚いでありんすが幸運な事に至高の御方達が仰っていた異能と武技を持っていんした、これが終わったら早速ナザリックに連れて行くでありんす」

 

「ブレイン・アングラウスです。よろしくお願いします」

 

刀持ちの男、ブレイン・アングラウスはシャルティアとの勝負(とは程遠いが…)に敗北し吸血鬼化したのだ。その後、洞窟内に居たメンバーと合流しブレインは簡単な自己紹介をする。

 

「シャルティア殿、残りの賊は全て排除と言う方向で?」

 

「そうでありんすねぇ…ブレイン、お前以外武技や異能を使うものは?」

 

「は、はい。俺以外は全員持っていません」

 

「だそうでありんす?」

 

「了解しました、それでは残りのゴミの片付けに行ってまいります。ここからは銃火器を使うのでシャルティア殿は御先に外でお待ちを…」

 

「はいはい、ゆっくり待ってるでありんす。行くでありんす吸血鬼の花嫁、ブレイン」

 

「かしこまりましたシャルティア様」

 

「わ、わかりました」

 

「レッドショルダー、ここからは銃火器の使用を許可する。一人も生かして返すな」

 

「「「はっ!」」」

 

バレット・ローグの命令に敬礼をしながら答えるレッドショルダー達は透明化してバレット・ローグの後に続く。

全員その手には銃火器が握られていた。バレット・ローグもアイテムボックスから三連ガトリング・ガンを取り出している。ある程度進むと野盗の生き残りと思われる者達が武器を構え周囲を警戒している。しかしバレット・ローグ達は透明化しており、すぐそばまで来ていても気づいていない。

 

「殺せ、蜂の巣にしろ」

 

「了解」

 

「了解」

 

「了解」

 

バレット・ローグの号令を受けてレッドショルダー達は一瞬の躊躇い無く引き金を引く。

握られている銃火器から一斉に弾丸が放たれる。銃火器の発砲音と共に野盗たちの喧しい金切り声が響く。

 

「な、なんだ!?」

 

「がぁ!」

 

「ひぃ!頭が吹っ飛ばされて…ぎゃあ!!」

 

「くそぅ!?卑怯者が出て来やがr…げ!」

 

「血が、血が止まらねえ!」

 

悲鳴を上げた後に次々と物言わぬ死体になっていく野盗達。立っている者が居なくなり、バレット・ローグ達は射撃を止める。

 

「撃ち方止め」

 

「…隊長、奥にも反応が」

 

「よし、進め。生かして返すな」

 

「逃げるやつは野盗だ、逃げないやつはよく訓練された野盗だ…」

 

その後も洞窟を進み野盗達をしらみつぶしで探し、見つけ次第射殺していく。洞窟の中からは銃声と悲鳴でこだましていた。

 

 

 

 

「シャルティア様、バレット・ローグ隊長が…」

 

「おや、終わったでありんすか?」

 

「お時間が掛かってしまい申し訳ありませんシャルティア殿」

 

「構わないでありんす、万が一生き残りがいれば後々面倒なことになるでありんすし…」

 

「ご理解頂き感謝します、一応報告しますが野盗の性欲処理に使われていたと思わしき女が数名いました。如何致しましょう?必要なければ処分しますが…」

 

「う~ん供物には程遠そうでありんすがちょっと興味があるから、暫く残して欲しいでありんす」

 

「はっ」

 

シャルティアに報告をして程なくしてバレット・ローグに『伝言(メッセージ)』が入る。

伝言(メッセージ)』は周辺の偵察に出ているスナイプマトンからの『伝言(メッセージ)』だった。

 

『隊長、報告があります』

 

『どうした?』

 

『はっ、先程所属不明の団体を二つ発見致しました』

 

『何?それでどうした?』

 

『はっ、片方は冒険者の様ないでたちだったので冒険者モモン様、レイヴン様の同僚である可能性を考慮して、相棒が麻酔弾で眠らせて無力化しました』

 

『なるほど、それでもう一つは?』

 

『はっ、姿を確認しただけですが服装はスレイン法国の者と類似していました』

 

『確認?攻撃はしてないのか?』

 

『…姿を確認したのですがそのもの達の装備が先程の野盗たちや先ほどの冒険者達よりも遥かに上回ってました、人数は12人ですが、それぞれの腕もかなり立つ者達ばかりでした。おそらくですがスレイン法国の精鋭部隊かと、中でもその中にいた老婆が着ていたものが特に異様さを放っていました。それで我々は一度隊長に報告をしようと決めて報告をしたのです』

 

『バレてはないのだな?』

 

『はい、狙撃用の遠距離スコープで確認していますので、今はまだ大丈夫です』

 

『よし、預けている鳥型、犬型、猿型、蛇型の変形円盤機を偵察に出せ。だが偵察を悟られないようにしろ』

 

『了解しました』

 

『一旦相棒と一緒に合流しろ、良いな?』

 

『はっ!』

 

伝言(メッセージ)』を切った後スナイプマトンはもう一体のスナイプマトンと合流し、バレット・ローグの命令に従って各種類の変形円盤機を偵察に出し、シャルティア達の元に合流した。

 

「そろったでありんすね?…ブレイン、さっきの話で思い当たる節は何かありんすか?」

 

「は、はい!眠らせた方は仰る通りの冒険者。もう片方の集団は……すみません俺もわかりません。えっと貴方は…」

 

「バレット・ローグだ」

 

「どうも。バレット・ローグさん…」

 

「おい」

 

ブレインが説明している途中でレッドショルダーの一人が割り込む。

 

「『隊長』をつけろ」

 

「え?」

 

思わぬ発言にブレインは一瞬呆気に取られるが当のバレット・ローグがそのレッドショルダーの頭を小突く。

 

「今はそんな事どうでも良いだろうが阿呆」

 

「た、隊長…しかし…」

 

「そういうのは後でいい。すまないなブレイン、話の続きを頼む」

 

「は、はい。さっきのバレット・ローグ…隊長の報告通り、スレイン法国以外はわかりません。冒険者ならまだしもスレイン法国が俺達の様な少し規模の大きい野盗相手にそんな精鋭差し向けて来るのはまずあり得ませんし、それ程の団体が来てるなら、俺達の耳にも届いてた筈です」

 

「ふーん」

 

「となると奴らの目的は他にある可能性がありますね。如何致しますシャルティア殿?」

 

「バレット・ローグ、考えがあるなら聞かせて欲しいでありんす」

 

「はっ、常識的に考えますと異能と武技の二つを持ったブレインを捕らえたのでここで撤退するのが最良ですが、既に至高の御方達と敵対関係にあるスレイン法国のものならば先の報告の内容を考えて、ここで始末するのも手です」

 

「なら、始末する方が良いでありんすね。その集団の位置などはわかるでありんすか?」

 

「先ほど出した偵察からの情報で位置は把握しております」

 

「よろしい、そいでバレット・ローグ。作戦は考えてるでありんすか?」

 

「こちらの存在にはまだ気づいていないので上手く誘導させての可燃ガス弾を使い奇襲攻撃がよろしいかと、後は乱戦に持ち込ませるために森の中の方が良いかと愚考します」

 

「わかりました、それで私は何をすれば良いでありんす?」

 

「はっ、シャルティア殿は眷属の召喚、もう一つは申し訳ないのですがエインヘリヤルの分身による援護をお願いしたいのです」

 

「わざわざ私のエインヘリヤルを使う程でありんすか?」

 

「完全なる勝利の為…」

 

「なら良しとしましょう、眷属はともかくエインヘリヤルはいつ投入すれば良いでありんすか?」

 

「我々が乱戦に持ち込んだ後に私の指示のタイミングで」

 

「承知したでありんす」

 

「隊長、我々は如何致しますか?」

 

「先程言ったように奴らを誘導した後、可燃ガス弾を使い、奴らが怯んだ後にレッドショルダーは俺と一緒に攻撃を開始する。今回は一点に留まらずヒット&アウェイで行動しろ」

 

「了解しました」

 

「了解です」

 

「了解」

 

「スナイプマトン、お前達はこれから指示する場所に陣取り狙撃、全員殺せ」

 

「「了解」」

 

「後は…こいつも出すか」

 

そういうとバレット・ローグは指にはめられている緑色のリング・マシンフォースが光る。

 

「起きろ、『ガルル』」

 

その言葉の後にバレット・ローグの指輪が光り、武骨な装甲が全身に装備され、背中には翼らしき物がついた深緑色の狼型の機械系異形種が出現し、咆哮を上げる。

 

「オオォォォオン!!」

 

 

 

 

彼らスレイン法国最強の特務部隊、漆黒聖典が来たのは破滅の竜王の調査に来ていた。先日六色聖典の一つ、陽光聖典がガゼフ・ストロノーフの抹殺の任務を帯びて出向いたのだが部隊は壊滅。隊長のニグン・グリッド・ルーインも消息を絶ち、更に陽光聖典の監視を担当していた土の巫女姫は突如として爆発四散。周辺の建造物にも被害が出ていた。

 

ここ最近スレイン法国では破滅の竜王の復活が予言されていた中このような出来事が重なったため、予言の真実味はともかく何か起ころうとしている事は明白だった。そのためスレイン法国は漆黒聖典を調査に向かわせた。

万全を期す為スレイン法国の秘宝中の秘宝、ケイ・セケ・コゥクを携えたカイレも同行している。

そして今は、エ・ランテル近郊の森。鬱蒼と生い茂る木々の合間を縫うように進んでいるころだ。

 

「ん?」

 

「どうした隊長?」

 

「…何かいる」

 

「敵か?」

 

「わからん、あそこだ」

 

「む?」

 

漆黒聖典の隊長が指さす方角の茂みが大きく動き、そこから二つの影が倒れる。

漆黒聖典の面々は即座に臨戦態勢に入り、武器を構える。影をよく見ると二つの野盗の死体だった。

 

「野盗の死体?何故ここに?」

 

「警告のつもりか?」

 

「セドランすまないが…」

 

「わかった、隊長」

 

鏡のような反射光を放つ大盾を構える"巨盾万壁"のセドランが野盗の死体に近づく。仮に罠だとしてもその大盾で防げるからだ。セドランは死体にゆっくり近づき死体を確認する。

死体は首を折られている以外は特に目立った所はない。死体の状態からしてつい先ほど殺されたのであろう。

セドランは武器の槍を使い、死体をひっくり返す。

 

ピッピッピッピッピッ……。

 

「!?」

 

ひっくり返した死体には箱状の見たことない物が腹に括り付けており、橙色の光りが点滅している。

見たことはないが自分の本能が危険と発している事を感じたセドランはすぐに後ずさろうとする。

その瞬間野盗の死体二つは爆発を起こし、辺りに煙が巻き上がる。

 

「セドラン!」

 

「大丈夫だ…」

 

「全員カイレ様を守れ!」

 

全方位を漆黒聖典で固め、中心にカイレがいる状態を維持しつつ敵を警戒していると、茂みからサッカーボールの大きさ位の球体が黄色い煙を出しながら飛んできた。

 

「次はなんだ!」

 

「破壊しろ!」

 

危険を察知した漆黒聖典は、すぐさま魔法によって迎撃。魔法は球体に命中するが先ほどの爆発よりも大きい爆発が起こり、爆炎と火の粉と破片が辺りに広がる。

 

「ぐわぁ!?」

 

「誰か鎮火しろ!」

 

炎が聖典の隊員の何名かに燃え移り、隊員は火を消そうともがく。

 

《行動開始だ。行け、ガルル》

 

《ウォン!》

 

バレット・ローグの指令で飛び出したガルルは茂みから飛び出し漆黒聖典に襲い掛かる。

手始めに最も近くに居た隊員を組み伏せ、その隊員の頭に噛みつき、勢いよくかみ砕く。

 

「狼?……だが生物のように見えない、あれは一体…」

 

「そんな事言っている場合か!クアイエッセ!」

 

「ああ!」

 

ビーストテイマーであるクアイエッセはモンスターを大量に召喚し、数で抑え込もうとする。

モンスター達がガルルを抑え込もうと数の理を生かして襲い掛かるがガルルは素早く身を交わし反撃に出る。

 

「オオォォォ!!」

 

ガルルは四肢に着いている爪を使い、次々とモンスター達を駆逐していく。金属の爪で向かってきたモンスターの頭部を引き裂き、前足で胴体を押しつぶし、そのモンスターの臓物が辺りに四散する。それでも尚向かってくるモンスターには翼のブレードを左右に展開し、ビームを発生させて突進し、モンスター達を切り殺していく。

 

「なんだと!あれだけの数を一瞬で!?」

 

「グウゥゥ…」

 

《ガルル、そのビーストテイマーの奴を狙え》

 

「ウォン!」

 

クアイエッセは、得意の使い魔が餌食になっていく光景に驚きを隠せない。ガルルは次はクアイエッセを次なる標的にし、向かっていく。

 

「オオォォン!!」

 

「しまっ…!」

 

ガルルはクアイエッセを横切る。そしてクアイエッセは胴体を真っ二つにされ倒れた。

それを見た隊長はセドランに攻撃を命ずる。

 

「クアイエッセ!?」

 

《ガルル、最後に一人始末した後一旦離脱しろ》

 

「セドラン!」

 

「おう!」

 

セドランは槍をガルルに突き出すが、ガルルは空中高くジャンプしてそれをかわす。そしてかわしながら尻尾のテイルブレードを"神領縛鎖"のエドガールに突き刺しそのまま森の奥に引っ張り込もうとする。

 

「エドガール!?」

 

「クソ!エドガールを離せこいつ!?」

 

エドガールが連れ攫われていくのを黙って見過ごすわけには行かず魔法を詠唱してガルルに向けて放つが魔法反射装甲のスキルを持つガルルには通用しない。撹乱用のスモークグレネードを射出してエドガールを引きずったまま森の奥へ消えていった。

 

《よくやったガルル、レッドショルダー隊行くぞ》

 

《了解》

 

《了解》

 

《了解》

 

《狙撃班、狙撃開始、目標の周りにいるモノを優先的に排除しろ》

 

《了解》

 

《行くぞ、行動開始だ》

 

茂みの奥から透明化したバレット・ローグ達が飛び出す。漆黒聖典はすぐに反応するが気配は感じるのに姿が見えないため混乱してしまう。

 

「次はなんだ!」

 

「畜生!姿が見えん!」

 

「とにかく、攻撃だ!このままじゃ全滅するぞ!」

 

(せめてカイレ様だけは!)

 

《殺れ》

 

バレット・ローグの命令でレッドショルダー達は銃撃を開始する。発射された銃弾は隊員の肩や足に命中し、隊員は膝をつくが、装備の性能のおかげか死亡には至っていない。負傷した隊員を他の隊員がフォローする。だがそれはバレット・ローグの作戦だった。

 

死亡していれば助けには行かないが、負傷していれば人は助けようと動く。それは兵隊でも変わらない。しかしフォローする分集中力が分散する。それを彼は狙っていた。

 

「ぎゃあ!」

 

「っ!クソ、我々を嬲り殺しにする気か!」

 

《第二段階に入る。AMC(アンチマジックキャンセラー)チャフを投擲しろ》

 

《了解》

 

《シャルティア殿、眷属の出動をお願いします》

 

バレット・ローグの命令でレッドショルダー達は拳大の手榴弾を投擲する。投擲された手榴弾は爆発するがキラキラと光る粉状の物が舞うだけで何も起こらなかった。しかしその後に森から漆黒の群れが押し寄せてくる。

 

「なんだ?こけおどしか?」

 

「古種吸血蝙蝠!いったいどこから…」

 

「いいから迎撃だ…おい、魔法が撃てないぞ!」

 

「そんな、どうして!?」

 

魔法を撃とうとするが何故か行使する事が出来ない。これはレッドショルダー達が投げたAMCチャフの効果で一定時間魔法が撃てなくなる代物だ。そうこうしている間に古種吸血蝙蝠の軍勢が漆黒聖典に迫り、魔法の攻撃がなくなったからか更に銃撃が激しくなる。

 

「何て魔物だ!魔封じの能力を有しているのか!?」

 

「ぎゃあ!!」

 

目に見えない相手の飛び道具による攻撃と吸血蝙蝠による数の暴力で隊員が一人また一人と犠牲になっていく。

そこに更にごり押しするかのように先ほどエドガールを誘拐し、殺害したガルルも攻撃に加わる。その口には血塗れになったエドガールの頭を咥えていた。漆黒聖典を機動力で撹乱しテイルブレードを使い、隊員を串刺しにする。

 

《そろそろ良いな。シャルティア殿、準備してください》

 

《了解でありんすえ》

 

そしてとうとう漆黒聖典は隊長、カイレ、セドランを含めた数名のみとなってしまう。レッドショルダー達も相手の人数を把握し、銃に弾薬を装填し、何時でも撃てるようにしている。

 

「くっ……完全に追い込まれた」

 

(こうなったらあの狼にケイ・セケ・コゥクを使ってこの場を混乱させて撤退するしか…)

 

漆黒聖典の隊長はカイレのケイ・セケ・コゥクを使ってガルルを洗脳し、この場を混乱させての撤退しか手段は無いと考えていた。そしてこのことを本国に報告しようとも考えていたが、意外なことが起こった。

 

目の前で何故か電流が起こり、徐々に目の前に人型の姿が形成されていく深緑の色の装甲で身を固め、専用のヘルメットを被り口に薬莢を葉巻代わりに咥えた何者かがが現れた。勿論それはバレット・ローグである。

 

「…何?」

 

(自分から姿を晒した…だと?)

 

「……ガルル」

 

「ウォン!」

 

バレット・ローグの呼びかけにガルルはバレット・ローグの元に下がる。不審に思ったセドランは隊長に指示を求める。その大きな盾で死にはしなかったがそれでもボロボロになっている。隊長もそれは同じだった。

 

(何を考えている。隊長、どうする?)

 

(わからん、だが攻撃を止めたという事は交渉の余地があるかもしれん)

 

目の前の存在と上手く交渉すればこの危機を回避できるかもしれない。

縋るような思いで口を開けようとしたが…。

 

「攻撃を止めたとは言ってないぞ?」

 

「え?」

 

「《赤色彗星(せきしょくすいせい)》……見せてもらおうか?スレイン法国の特殊部隊の力とやらを?」

 

バレット・ローグの深緑の色が赤色に染まり、身体の周りから赤い粒子が溢れ出ている。そして先ほどのガルルのおよそ三倍の速さで残りの漆黒聖典に襲い掛かった。

 

「な!速…ぎゃあ!?」

 

「ぐお!?」

 

「クソ!隊長、彼奴…」

 

「ああ、さっきの狼の約三倍の速さだ、気をつけろ!」

 

赤くなったバレット・ローグが両手にペンライトのような物を握り、そこからビームの刃が形成される。そして残りの漆黒聖典の面々を排除していく。勿論隊長にも襲い掛かるが、それを止めようとしたのかセドランが盾で防ぐがバレット・ローグはすぐに背後に回り、セドランの脇腹にサーベルを突き立て胴体を両断した。

 

「セドラン!」

 

「……」

 

セドランを切り捨てた後バレット・ローグは隊長に迫る。バレット・ローグの剣戟を隊長は全集中力でそれをいなす。スピードは速いが純粋な威力は無い事が幸運だと思った隊長だったが…。

 

「今です」

 

「?」

 

「ぐぅぅ!」

 

バレット・ローグの声の後に森の中から羽が生えた鎧を纏う真っ白な少女が現れ、その槍でカイレを刺し貫いてた。更にカイレの頭部に槍を突き刺し貫通させカイレを死に至らしめる。

 

「!カイレ様!?」

 

(最初からカイレ様を狙っていたのか……!?)

 

「余所見している場合か?」

 

「はっ!」

 

「ジェット・ファントム!」

 

バレット・ローグは隊長に右腕の三本のプラズマステークが着いた右腕を隊長の胸に叩き込み、電流を食らわせる。電流をくらった隊長はそのまま倒れ、バレット・ローグは足で隊長の首を踏みつける。

 

「っ……!、お……ま…え……た!……な……に…!」

 

「…」

 

口から血を吐きながらバレット・ローグに問いかけるがバレット・ローグは何も言わず足に付いているターンピックで隊長の首を貫いた。首を貫かれた隊長は数回痙攣した後、全く動かなくなった。

 

「ターンピックが冴えてるな…」

 

バレット・ローグはターンピックを抜き、全員死亡したことを確認しシャルティアに報告をする。

 

《シャルティア殿、敵部隊の殲滅を完了。これより後始末を完了させたのちそちらに向かいます》

 

《ご苦労様ですえバレット・ローグ。了解でありんす》

 

《では後ほど…》

 

バレット・ローグはシャルティアとのメッセージを終えて、部下達を集めて指示を出す。

 

「これから殺した奴らの遺体の処理と処理用の穴掘り、奴らの遺体をできる限り回収、状態はかろうじて頭部の形を保っているものでも良い。装備品…特にあの婆さんが来ていた中華服は回収しろ、良いな?」

 

「はっ」

 

「よし、なら班を分ける。俺とガルルと2人は遺体と装備品の回収、残り四名は穴を掘れ、良いな?」

 

「「「「了解」」」」

 

バレット・ローグはレッドショルダー2名を連れ、遺体の回収と装備品の回収を始める。

幸いエドガール以外の遺体は待ち伏せた場所の辺りに転がっていたため回収は想定より速く終わり、次に装備品の回収を始めた。装備品はアインズとマシンナーに献上する為、洗浄と消毒をし、回収用の頑丈な容器に入れる。そして比較的状態の良い遺体の頭部を身体から切り離し、何個か並べる。その中には漆黒聖典の隊長の頭部もあった。そしてバレット・ローグは左手からスパイクを取り出し、一個ずつ突き刺す。

 

倒した相手の情報を引き出すスキルを持っているバレット・ローグは突き刺したスパイクを介して相手の記憶を読み取って行く。そして全ての記憶を引き出した後、スパイクに着いた汚れを拭き取り、胸部の装甲が開き、そこから引き出した記憶を映像として纏めたディスクが出てそれを容器に入れる。そこにレッドショルダーの一体がバレット・ローグに駆け寄る。

 

「隊長!」

 

「何だ?」

 

「はっ、先ほどの老婆が着ていた中華服を調べたんですが…」

 

「どうした?何かあったのか?」

 

「その…先の戦闘でシャルティア様のエインヘリヤルが刺した箇所を見たのですが、穴どころか全くの無傷でした……」

 

「何?」

 

分身とはいえ身体能力ならば本物のシャルティアと同じ性能を持っているエインヘリヤルの分身の一撃を受けて無傷、これには驚くしかなかった。

 

(報告の事を考えれば最低でも神器級は確実……だがこれはまさか…!いや早合点は止めよう、まずシャルティア殿に報告をしなければ…)

 

バレット・ローグはシャルティアに伝言を送り、さっきの事を報告をするとシャルティアも驚愕する。

 

《それは本当でありんすか?》

 

《はい、自分も確認した所完全に無傷でした…》

 

《ならそれって…もしかして…》

 

《まだわかりません、やはりここは至高の御方達に見てもらった方が良いかと…》

 

《わかったでありんす、なら貴方はマシンナー様に、私はアインズ様に報告するでありんす!》

 

《了解しました》

 

バレット・ローグはすぐにマシンナーと共に行動しているアルティマにメッセージを送り、先の内容を話す。

アルティマも先ほどのシャルティアと同じように驚愕しながらもマシンナーに報告する旨を伝えて伝言が終わる。

 

例の中華服の事は気になるが後の処理の為の穴を掘り終えた部下の報告に気持ちを切り替え、部下に指示を出す。

 

「隊長、穴を掘り終えました」

 

「わかった、今からその穴に死体を全て入れろ、その後に溶解液を入れて、完全に溶かす」

 

「了解です」

 

その後バレット・ローグ達は見に着けている装備品を全て取り去った状態で漆黒聖典の者たちの死体を全て穴の中に投げ入れる。

 

「全て入れ終わりました」

 

「よし、溶解液を流せ」

 

「了解!」

 

バレット・ローグ達は手に持った容器の蓋を開け、穴に流し込む。穴からは何かが焼けていくような音と辺り一面になんとも言えない異臭が漂うが機械系異形種の彼らにとっては微々たるものであった。始めは肉体だったものが徐々に溶け出し最終的には完全に液体となっていた。

 

「終わったな、よし早く穴を埋めよう。シャルティア殿達が待っている」

 

その後穴を埋め終えたバレット・ローグ達は奪った装備品を回収した容器をアイテムボックスに入れて、シャルティア達と合流し、ナザリックに帰還するのであった。




バレット・ローグが出したガルルはデジモンのメタルガルルモンやゾイドのコマンドウルフやケーニッヒ等をモチーフにしています。

最新作スパロボXでマジンカイザーがついに復活しましたね!ZEROとどう戦うか気になります!これに合わせたのかカイザーのプラモを出して「マジンカイザーサーガ」という独自展開を…(ラスボスはSKLかな?)そしてバン〇イがあのゲッペラーの超合金魂を開発進行中とのこと…これもゲッター線の導きか?


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第43話 事情説明3

皆さんあけましておめでとうございます(今更)。
今年もよろしくお願い致します。


「以上が報告でありんす」

 

「こちらがそのディスクです、完全な状態の物は無かったので記憶は断片的ですが…」

 

「うむ、わかった。報告にあった物を鑑定した後拝見しよう」

 

「それで、シャルティアの隣にいる人間……いや吸血鬼だったな?名前は?」

 

「あ、どうも初めまして、アインズ様?と…マシンナー様?」

 

「そうだ、私がアインズで隣にいるのがマシン…」

 

アインズが自分とマシンナーの紹介をしようとしている途中に突然、ブレインに蹴りが飛んだ。ブレインの体はそのまま吹き飛び、壁に大きくぶつかって跳ね返る。人間なら確実に死ぬ威力だが吸血鬼化していた為ブレインは咳き込みながらも何とか生きている。

 

((……え?))

 

咄嗟の出来事に一瞬アインズとマシンナーの頭はフリーズしてその光景を呆然と見つめて状況を把握する。蹴りつけたシャルティアは転がっているブレインに近づき頭を鷲掴みにする。流石にこれはまずいと思ったのかバレット・ローグが立ち上がりシャルティアを止めに入る。

 

「シモベ風情が何至高なる御方達であるアインズ様とマシンナー様に対し馴れ馴れしく口を開いているでありんすか?私が許可したかおい!お前はただ聞かれたことだけしっかり答えればいいんだよ。アインズ様とマシンナー様に許可無く話せるとか思うんじゃネェよ…」

 

「す、ずびばぜん……」

 

「シャルティア殿、お気持ちはわかりますがそれ以上はいけませぬ!今ここで殺すのは…」

 

「わかっているでありんすよ、いくらなんでもそこまで愚かではないわよ」

 

(馴れ馴れしくというよりどっちがどっちでわからない様な感じで聞いたと思うんだけど……)

 

(他のNPCにも言えるがやっぱりこの辺りは少し問題だな)

 

「シャルティア」

 

「はい、アインズ様!」

 

アインズの呼びかけの時にさっきの剣幕な表情から一転して乙女の顔になるシャルティアに『切り替え早…』と思いながらアインズは話し始める。

 

「お前の忠誠は嬉しいが別に先程のブレインの事は気にしていない。そいつと私たちが顔を合わせるのが初めてなのだ、それは流石に酷だ」

 

「も、申し訳ありませんアインズ様」

 

「わかればよい、それで報告の物は?」

 

「は、はい!了解でありんす!バレット・ローグ早く!」

 

「はっ!アインズ様、マシンナー様こちらです」

 

バレット・ローグがアイテムボックスから回収した容器を取り出し、報告にあった中華服を取り出しアインズ達に献上する。

 

「これがそうか……」

 

「アインズ、俺の勘がヤバイものって告げている」

 

「マシンナーもか、私もだ。では鑑定をするとしよう<道具上位鑑定(オール・アプレーザル・マジックアイテム)>」

 

「…注目の鑑定結果はCMの後(ギ◯ンボイス)」

 

「なんだって?」

 

「気にするな」

 

気を取り直してアインズは中華服の鑑定を始める。

暫くして隣にいたマシンナーがアインズの様子が急変したことに気づく。

内心まさかと思いながらもマシンナーはアインズに声をかけた。

 

「……これは」

 

「アインズ?」

 

「あ、アインズ様?」

 

マシンナーと同じくアインズの様子に気づいたアルべドが心配そうに話しかけた後アインズはマシンナーの方へ振り向く。

 

「マシンナー……」

 

「なんだ?」

 

「当たりだ…」

 

「え?」

 

「当たりも当たり!大当たりだ!これは……『世界級アイテム(ワールドアイテム)』だぞ!」

 

「えぇ!?マジか!いや本当か!?」

 

興奮しながら喋るアインズの言葉にマシンナーも同じくらいの声で驚く。

 

「ああ!名前は傾城傾国!効果は使用した相手の洗脳で使用する回数は限られるがそれでも世界級アイテムに間違いない!」

 

「となるとその効果での世界級となれば……どんなに耐性を付けても問答無用って事になるのか!?」

 

「ああ、まだ検証はしてないから詳しい事はこれから確認しなければならないが…」

 

「それでもこの収穫はデカいぞ!夢じゃないよな?いやロボだけど……」

 

「お前達っ!よくやってくれたぁ!!大手柄だぞ!!…………あ」

 

「ん?どうした?…………あ」

 

アインズはシャルティア達に振り返り我に返る。マシンナーもそんなアインズに尋ねるが少し経ってから我に返り、振り返る。そこには階層守護者やプレアデス、マキナを始めとするナザリックの配下達が呆然としていた。

皆が完全に固まっている状態である。デミウルゴスに至っては、眼鏡越しに彼固有である宝石型の眼がよく見える位見開いている。同じくアルティマもデミウルゴスに負けないくらい目を開いており口をあんぐりと開けている。

 

(…しまった)

 

(あ、モモンガさん俺ちょっとスリープモードに入るので10分後に起こしてください)

 

(ちょっと!一人で現実逃避しないでください!)

 

一人現実逃避しようとするマシンナーを怒りつつこの場をどう切り抜けるか考え始める。

そして少し考えた後、2人はこう切り出す。

 

「ああ…そのすまん、つい驚きすぎてしまった物が物だったんで…」

 

「私達としたことが。少しばかり喜びすぎてしまったようだ。すまないな、忘れてくれ」

 

「畏まりました。アインズ様、マシンナー様」

 

「さっき俺とアインズが驚いたの理由はこの中華服……傾城傾国にある」

 

「これはかの『世界級アイテム』の一つで効果は相手の洗脳。シンプルな効果だが世界級アイテムともなればその効力は通常のアイテムとは桁違い、対策をしない限りどんな強大な存在も洗脳できる。それはお前たちは勿論、我々でもだ」

 

この言葉にシモベ達がざわつく。ナザリックの配下としてこの場にそぐわない程、部下達の反応も大きかった。

 

「シャルティア達の手柄はそれだけ大きいという事だ。最早大手柄という言葉でも物足りないくらいだがな……」

 

「そ、それほどまでにでありんすか……!」

 

その事実にシャルティアは驚愕するしかなかった。自身の分身のエインヘリヤルの攻撃で無傷と言う事実にもしやとは思っていたが本当に『世界級アイテム』だと言うことを知り驚愕する。

バレット・ローグもシャルティアと同じく驚愕していた。自分達がした事の凄まじさに機械系異形種でありながら震えている。

 

「命令をこなした者達には褒美を取らせる予定だったのだが……さて、どうしたものか」

 

「持ってきたのが『世界級アイテム』だからな……どうする?」

 

「うむ、そうだなシャルティア達には悪いが褒美は後日改めて渡そう。それで良いか?」

 

「いえ、滅相もありません!褒美を与えられるだけでも畏れ多いのに悪いなどとは思わないでありんす!」

 

「すまないな、では次にこのディスクの中身を確認するとしよう」

 

「なら早速映すとしようか」

 

マシンナーはアイテムボックスから映像投射機と大型スクリーンを取り出し、ディスクを入れ起動させ映像を出す。そこには断片的だが漆黒聖典の人間の記憶からスレイン法国の情報が含まれており、アインズ達はその映像を見てある程度の情報を入手する。

 

「神人……そして漆黒聖典の番外席次か…」

 

「この記憶からするとこの女がスレイン法国の切り札と言うわけか。シャルティア達が倒した漆黒聖典の中にいなかった事を考えると余程の戦闘力……もしくは特別な力を持っている確率が高いな」

 

「そして神人はおそらくユグドラシルプレイヤーの子孫、やはり我々以外にもユグドラシルプレイヤーがこの世界に来ている可能性がますます高くなったな」

 

「だが断片的とはいえこの情報は有難いな、お陰で法国についての貴重な情報が手に……ん?」

 

「どうしたマシンナー?」

 

「いや、ちょっと巻き戻す……よし、ここだ。見てくれアインズ」

 

「ん?」

 

マシンナーが止めた場面を見るとおそらく城の中か、報告の人間が映る。

 

「右の端辺り、こいつだ」

 

「この女は確か…」

 

「ああ、この前ひっ捕らえた奴だ」

 

マシンナーが止めた場面の右端に武技を持っていた為マシンナーが捕獲し、ナザリック送りにした女、クレマンティーヌだった。

 

「まさかスレイン法国に所属していたとは…」

 

「やれやれ、あんなサイコ起用するとは……毒を以て毒を制すって奴か?」

 

「だが、丁度良いタイミングで判明した。早速情報を聞き出すとしよう。アルべド、この女を牢から連れてこい」

 

「かしこまりました」

 

 

 

 

突如牢から連れだされたクレマンティーヌは混乱していた。わけのわからん金属のモンスターに眠らされ目覚めれば何処かもわからない場所に居た。脱出しようかと暴れようとしたが、素材が頑丈なのか全くの無傷であり仕方なく大人しくしているといきなり出ろと言われる。

 

このまま脱走してやろうかと考えたが現れた存在を見てそれは一瞬で失せた。

 

「立ちなさい、アインズ様とマシンナー様がお呼びよ。光栄に思いなさい、下等生物」

 

そのまま連れていかれ目の前に豪華な扉が現れ開かれる。

扉の中を見たクレマンティーヌは絶望した。

 

(駄目だ……絶対に勝てない)

 

一人一人が自分より遥かに強い存在。中でも中央の二つの椅子に座っている存在が桁違いの威圧感を出している。

そのうちの黒い甲冑を着込んだ人物が口を開ける。

 

「クレマンティーヌだっけか?久しぶりだな」

 

「え?」

 

何故自分の名前を知っている?自分は見たことすら無いのに?

そう疑問を抱いていると玉座に座っている死の支配者が口を開く。

 

「マシンナー、そいつには本来(・・)の姿を見せていないのだろう?仮の姿を見せたらどうだ?」

 

「そうだった、忘れていたよ。では…」

 

そういうとマシンナーはスッと立ちあがり甲冑武者の様な姿になる。それを見たクレマンティーヌは驚愕する。

 

「これなら覚えてるか?」

 

「はぁ!?」

 

「思い出したようだな、彼はお前をここに連れてきた張本人さ」

 

「は、ははは…」

 

そりゃ勝てるわけないと悟ったクレマンティーヌは力なく笑う。そして自分が意識を失う前に言っていた神と言うのも嘘じゃないかもしれない。

 

「安心しろ、別に取って食うわけじゃない聞きたい事があって呼んだのだ」

 

「お前が元スレイン法国の者と言うことは知っている、情報を提供してくれれば見返りとして解放はできないが命の保障とそれなりの待遇は約束する。ずっと牢に居るのは嫌だろう?」

 

「わ、わかりました…」

 

「まず最初に聞くが、私の部下達が倒した「漆黒聖典」は法国の中ではどのぐらいの強さだ?」

 

クレマンティーヌは最初の質問の時点で頭を抱えたくなった。

自分がかつて所属していたスレイン法国最強の特殊部隊、漆黒聖典を倒したと言うのだ。

しかも質の悪い事に倒したのが目の前の2人ではなく部下だと言うのだ。

 

「えっと…漆黒聖典はスレイン法国の中では一番強い特殊部隊です……」

 

「やはりな…」

 

なにせコイツを持っていたのだからな…、とアインズは傾城傾国を取り出す。それを見たクレマンティーヌは眼を大きく見開いた。

 

(傾城傾国!?じゃあ本当にやったってのか…!)

 

「次は番外席次だ、こいつは何者だ?」

 

「はい、あの女は強さだけなら人外領域すら超越した化け物で漆黒聖典の切り札で六大神の血を引くとされる先祖返りの化け物です」

 

「後は?」

 

「確か…六大神の内5柱の装備を守っているとか…」

 

「アインズ」

 

「ああ、確実にプレイヤーの装備だな。わざわざ最高戦力に守らせてるのだ間違いない」

 

世界級アイテムを一つ持っていたと言うことを考えると確率は低いが複数持っている可能性も否定できない。

マシンナー達はスレイン法国に対する危険度を引き上げた。

 

「とりあえず今のところ必要な情報は聞いた。約束通り牢よりましな所に映す。アルティマ、『機械の楽園』の居住区の特別舎に連れていけ」

 

「はっ!ほら案内するから立って」

 

「は、はい…」

 

アルティマに促されてクレマンティーヌは『機械の楽園』にアルティマに引っ張られていった。

 

「マシンナーこの後今後の事で話がしたい。いいか?」

 

「承知した」

 

「ではこれより解散する」

 

アインズとマシンナーは今後の事を会議するために円卓の間に転移した。

 

 

 

 

「いや~まさかと思いましたが世界級アイテム持って帰って来るとは思いもしなかった」

 

「それは俺もですよ本当にビックリしました」

 

まさか持って帰って来たものが世界級アイテムだとは思ってもいなかった。

この世界に入ってきて最も驚いた報告である。

 

「でもまだ問題はありますね」

 

「はい、ディスクの中に入っていた番外席次や破滅の竜王の事も気になりますね」

 

「こりゃ更に調べる必要ありますね」

 

「そうですね、『ワールド・エネミー』級だったら本当にヤバイですし」

 

「せめてレイドボス辺りの強さだと良いんですけど、ヤバイ奴だったらマシンナーさん、辺り一面更地にしても構いませんので思いっきりぶっ放してください」

 

「了解です」

 

ディスクの中に入っていた情報の中にあった番外席次や破滅の竜王等の情報を見て、改めて気持ちを引き締める。

 

「ところでモモンガさん、これからの予定は」

 

「はい、近いうちにリザードマンの集落を侵略しようと考えています」

 

ニグレドの報告にあったリザードマンの集落に近々攻め込もうかと考えていた。

 

「侵略した後リザードマンはどうするんです?」

 

「最初は皆殺しにしようかと考えていたんですが、もう一つの考えも浮かびました」

 

「それは?」

 

「はい、見込みのあるものがいればナザリックの傘下に入れようかと考えています、武技が使えるブレインやクレマンティーヌを指導役にして武技を覚えさせようかと考えています」

 

当初リザードマンを皆殺しにしてアンデッド化させようかと考えていたが、マシンナーも転移してきたことによりある程度の余裕が出来、他の選択肢も考えていた。

 

「なるほど、実は俺もこの世界の他種族を味方につけようかと考えていたんです」

 

「ほう」

 

「スレイン法国が人類存続を考えていて亜人種と敵対しているなら逆にこちらが亜人種に比較的友好的な勢力になれば俺たちに賛同する者達が多く現れるんじゃないかと、まあ簡単には行かないでしょうが」

 

「それもいいですね、リザードマンもその方針で行こうかな?」

 

(にしてもリザードマンって事は爬虫類だろ?ゲッターの恐竜帝国みたいだな…待てよ、もしかしたら集落の地下に帝王ゴールみたいな奴がいてメカザウルス的なのを開発している可能性も…)

 

「……ゲッター線見つけなきゃ(使命感)」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

殺風景な冷たい部屋の中、中には機械的な片眼鏡を付けた老人と笑う表情と泣いている表情の模様が半々に塗られている仮面を付けた人物が老人に向かって跪く。

 

「エ・ランテルの墓地に潜んでいたズーラーノーンが殲滅されただと?」

 

「は……カジットは強力な炎系魔法を喰らったのか死体すら残らず、協力者だったクレマンティーヌは行方不明です如何致しますか導師?」

 

「殲滅したのは誰だ?蒼の薔薇か?それともガゼフ・ストロノーフか?」

 

「いえ、それがこの間冒険者になったチーム漆黒のモモンとチーム黒鋼のレイヴンと言う輩です。2人ともこの前まで銅プレートだったらしいですが、ズーラーノーン殲滅の功績を讃えられてミスリル級になったとか」

 

「その者たちの特徴は?」

 

「はい、どちらもフルプレートで実力の高い従者を連れているとか…後はかの大魔獣『森の賢王』をモモンが倒し、これを配下にしたとか…」

 

「あの魔獣をか?近いうちに捕獲して改造を施して我が配下にしようと考えていたが…」

 

導師と呼ばれた老人は顎に手を添えて暫く考えて仮面の男に指示を出す。

 

「その者たちについての些細なことでも良い情報をかき集めろ、周辺国家に潜伏している密偵にも伝えろ」

 

「承知しました導師」

 

「それと、例の物の探索の方は?」

 

「反応が出た辺りを只今絞っておりますがまだかかるかと……」

 

「できる限り急がせろ、良いな?」

 

「はっ!」

 

仮面の男は素早く立ち上がり部屋の出入り口に向かう。

老人は杖をカン、と突いて身体を後ろに向き歩き出す。

 

「やれやれ、新型の戦闘記録をエ・ランテルにちょうど潜伏しているズーラーノーンから取ろうと画策していたが……まあいい、他の奴から採れば良いだけだ、しかし…」

 

「報告によればスレイン法国の陽光聖典が何者かによって消され、法国も被害が発生している……一体この世界で何が起こっている?もしや師が言っていた『ユグドラシルプレイヤー』なる存在がこの世界に現れたのか?ならば急いで準備をしなければならない…」

 

「我が師が授けてくれた知識を使い……作り上げた鋼鉄の軍団の完全なる完成を!」

 

老人は杖を上にあげ、高らかに叫び、部屋の奥の照明が着く。照明が着いた部屋の奥には人間、亜人、モンスター等を機械改造を施された半機械生命体(サイボーグ)がチューブに繋がれ待機をしていた。



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キャラクター解説:『マキナ』の隊長達

名称:機械系異形種軍団『マキナ』

 

各兵団名称:機人兵団、特機兵団、機獣兵団、機動兵団、魔装兵団、聖機兵団

 

解説:ユグドラシル時代、第六階層にある巨大基地『機械の楽園』マシンナーが作り上げた軍団。当初はマシンナーとアルティマ達のみの小隊だったがマシンナーの手腕(課金)により徐々に規模が膨れ上がり、現在では規模だけならナザリック最大の軍団にまでなっている。ユグドラシル時代の軍団は第八階層を魔装兵団、聖機兵団が守護していた為、四つの兵団で構成されていたがナザリックが異世界入りし周辺国家との戦争を見据えたマシンナーがアインズからの許可を得て残りの魔装兵団、聖機兵団も軍団入りさせ七つの兵団に構成され、規模が更に膨れ上がる。

 

各兵団説明

 

機人兵団:バレット・ローグが指揮する兵団、主に人間の様な見た目のアンドロイド型やサイボーグ型、ガンダムやボトムズの様なリアル系ロボの機械系異形種で構成されている。戦闘から修理、偵察等の幅広い分野で活躍する兵団で全兵団では最も多い人数を誇る。

 

特機兵団:ゴルドソウルが指揮する兵団、外見が勇者系ロボや往年のスーパーロボの様な機械系異形種で構成されている。戦闘に特化した者が多いため、戦闘専門の部隊、切り込み隊として活躍する。(僅かながらに修理、補給作業などもいるが)

 

機獣兵団:ドランザーが指揮する兵団、獣や虫、恐竜の様な外見の機械系異形種が多いが隊長のドランザーがメカ◯ジラの様な外見をしているためかメカ怪獣型や◯ジモンのサイボーグ型の様な見た目の者までいる。主に偵察、各兵団のサポートに回ることが多い。

 

機動兵団:ソニック・スレイヤーが指揮する兵団、某変形するロボット生命体の様な乗り物等に変形するモノや完全な乗り物の機械系異形種で構成されている。主な任務は他の兵団の仲間の輸送、土木作業、航空戦力等をしている。

 

魔装兵団:ディアヴォルスが指揮する兵団、他の兵団とは違い自身の眷属で構成されている軍団、形状は人型から異形の形をしたものまでいる軍団。本体であるディアヴォルスを倒さなければいくら倒しても現れるマキナの中で最も面倒な兵団である。

 

聖機兵団:アンヘルが指揮する兵団、機械天使と甲冑型機械系異形種(見た目は十字軍の兵士の様な)で構成されている軍団で「Amen」といながら攻撃してくる。味方が何体も倒されても生き残っている者がいる限り「Amen」と言い続けるある意味質の悪い軍団。

 

各隊長解説

 

名前:アルティマ・レイフォース

型式番号:NZ-001(マシンナーは000X)

性別:男

一人称:ぼく、アル

種族:自動人形、高級自動人形

通称:マシンナーの懐刀、赤ちび(シャルティアからのあだ名)

役職:マキナ副司令官兼マシンナーの第一秘書兼護衛

尊敬している人:至高の御方、マシンナー

特技:家事全般、事務処理全般。

 

解説:マシンナーが最初に生み出したNPCで『マキナ』のNO.2、性格は普段穏やかで物腰も柔かいが戦闘時、又はナザリック(マシンナーに)害するものには冷淡に排除する姿も見せる(時折罵倒しながら殺そうとする)。他の隊長達とは違い直属の部隊は持っていないが、マキナ内ではマシンナーに次ぐ指揮権の持ち主であるため、マシンナーに代わってマキナを指揮することが出来る。通常は人間に近い姿で動いているが、戦闘では専用の形態があり遠中近の戦闘をこなせる万能型。頭脳も申し分なくマキナ内ではマシンナーの参謀としても活躍しマシンナーにとってのデミえもんの様なポジションになりつつある。

ナザリックのシモベと同じように至高の御方達には絶対の忠誠を誓っているが創造主であるマシンナーには何処か親を慕う子供の様な感情も見せる。マシンナーに最初に生み出されたシモベである事を一番の誇りとしている。とある出来事でマシンナーがシズに想いを寄せている事を知り、他の隊長達と共に成就するようささやかな援護もしようと動いている。

 

因みに赤をメインカラーとしているがこれはマシンナー曰く「赤は強いロボットの証」としての意味があるらしい。

 

名前:バレット・ローグ

型式番号:NZ-002

一人称:俺、私

種族:自動人形

通称:一人軍隊、歩く武器庫

役職:マキナ機人兵団隊長

尊敬している人:至高の御方、マシンナー

趣味:銃の収集と銃の手入れ

 

解説:アルティマと同じくマシンナーに生み出されたNPCで機人兵団の隊長。実直な性格で戦闘も作業のようにこなしていく為、口数が少なくあまり多くを語らないが戦闘時の指揮は的確である。薬莢を葉巻代わりに咥える癖があり、いざという時にはこれも武器にする。

地形を生かしたトリッキーな戦術から大胆な作戦も実行する。戦闘の時は大量の銃火器と豊富なスキルを活かした戦闘を展開する。普段は『機械の楽園』でマキナの兵達の教官をやっている。趣味である銃の収集はマシンナーの武器収集に影響しているのか、大量の銃のコレクションを持っている。(マシンナーが授けた物もある)。

現在はマシンナーの命によりシャルティアと行動を共にしており、探索スキルのないシャルティアのサポート等に徹している。アルティマと同じようにマシンナーがシズと結ばれるようにするためにささやかに尽くしている

 

名前:ゴルドソウル

型式番号:NZ-003

一人称:俺

種族:自動人形

通称:マキナの勇者、特攻勇者

役職:マキナ特機兵団隊長

尊敬している人:至高の御方、マシンナー

趣味:鍛錬

 

解説:マシンナーに生み出されたNPCで胸に着いているライオンの顔がトレードマークの特機兵団の隊長。若干血の気が多く、性格は良く言えば「熱血漢」悪く言えば「猪突猛進」、しかし職務を忠実に全うしようとする器量はある。指揮能力も指揮官として相応しい能力も持ち合わせており、マキナの隊長として申し分無い。通常は一体の機械系異形種だが本来は人型の機械系異形種に五個の強化パーツで構成されている。状況によって分離し、別の形態に変形する事も出来る。真っ向勝負ならば他のマキナの隊長達の中でも最も強く、攻撃力と防御力も高い。現在の任務はカルネ村の防衛の任を特機兵団と共に任せられており、防衛の他にもゴブリン達と共に村人の訓練、兵団と共に作業の手伝いなどもして村人からの信頼を得ようと奮闘している。カルネ村で初めてコンタクトを取った人間であるエンリ姉妹の妹のネムに気に入られており引っ張りまわされている。

 

因みに胸にライオンの顔が着いているのはマシンナーの趣味で「勇者ロボみたいでカッコいいだろ?」っと言っている。

 

名前:ドランザー

型式番号:NZ-004

一人称:俺、私

種族:自動人形、機械竜

通称:機獣王、メ◯ゴジラ

役職:マキナ機獣兵団隊長

尊敬している人:至高の御方、マシンナー

特技:口からビームを吐いて後ろ向きに短時間空を飛べる事。

 

解説:他の隊長達とは違い人型ではなく恐竜の様な体系をしている機械系異形種のNPCで機獣兵団の隊長。コキュートスと同じような喋り方で話す。「獣性と知性を両方併せ持つ究極の機械獣」と言う設定の通り、獣の様な外見に似合わず、合理的な考えや的確な指示を出すが、時折咆哮を上げて指示を出す事もある。某怪獣王のメカ怪獣の様な外見をしているせいか他の隊長からは「メ◯ゴジラ」とからかわれることもある。攻撃もそれに似ており口からは勿論、胸や胴体に光学兵器や背びれや尻尾に切断武器、手や足の指からはミサイルが仕込まれており全身を兵器で固めている。他にも素早い動きでの白兵戦とそれに使用する近接武器も数多く装備している。

現在はコキュートスのサポートに付いており、共にリザードマンの集落に襲撃をかける。

 

名前:ソニック・スレイヤー

型式番号:NZ-005

一人称:俺、私

種族:自動人形、変形機械生命体

通称:マキナの切り込み隊長、マキナの爆撃王

役職:マキナ機動兵団隊長

尊敬している人:至高の御方、マシンナー

夢:ナザリック外の空で思う存分飛び回ること。

 

解説:ステルス爆撃機に変形する機械系異形種であり機動兵団の隊長、第六階層を飛行し巡回する事が主な任務。

マキナトップクラスのスピードの持ち主であり、マキナの切り込み隊長。一度獲物を見つければ確実に排除するまで追い掛け回す執念深さを持つ。ユグドラシル時代では敵ギルドの拠点の爆撃も行っており数多くの種類の爆弾を使用しての爆撃から空中から攻撃等で敵対しているギルドやユグドラシルプレイヤーから他の隊長達の中でも藪蛇の如く嫌われておりマシンナーが軍団引き連れて時は真っ先に狙われる程。しかしそんな事は本人にとっては誇るべき事であり「敵の視線が少しの時間でも他の仲間やマシンナー様から逸れるのであれば本望」と言っている。

現在は機動兵団の輸送兵力を使ってナザリックの者達の支援をしているが、本人は自分も何らかの作戦に参加したいと考えている。

 

名前:ディアヴォルス

型式番号:NZ-006

一人称:俺、儂

種族:自動人形、多重変形機械生命体、進化機械生命体

通称:黒鉄の悪魔

役職:マキナ魔装兵団隊長

尊敬している人:至高の御方、マシンナー

特技:眷属一体一体の区別を見分けられる事

 

解説:元は第八階層の『黒鉄の城』領域守護者の片割れ、ユグドラシル時代は領域守護者のNPCとして存在していたがナザリックが異世界入りした後にマシンナーの指示でマキナの新隊長に任命される。他の隊長達よりも多くの変形形態を持ち、変形数はマシンナーのよりも多い。自身のスキルにより大量の眷属を生み出すことができ、兵団も自身の眷属のみで固めている。数での暴力と自身の火力での攻撃を得意とする他にも生物種を機械系異形種に変える能力や相手を捕らえて自身のパーツとして吸収し、その相手の能力を使えることが出来る。最も厄介な能力は相手の拠点を占拠し、自身の陣地に改造することでその拠点そのものがディアヴォルスの巨大な身体となる。身体の中に小型の本体がおりなんとかディアヴォルスの身体を壊しても本体が生きている限り、眷属は動き続ける。(しかし本体自体はそこまで頑丈じゃない)

 

名前:アンヘル

型式番号:NZ-007

一人称:私

種族:自動人形、機械大天使

通称:黒鉄の天使

役職:マキナ聖機兵団隊長

尊敬している人:至高の御方、マシンナー

趣味:演奏

 

解説:ディアヴォルスと同じく第八階層の『黒鉄の城』の領域守護者。ディアヴォルスと同じくマキナの新隊長に任命される。対天使用のスキルや善の属性が強い存在に効果的なスキルを多く持つ。これは最初からアンヘルを対天使用の機械系異形種として設定されて居た為である。しかしこのスキルが使用不可になる代わりに自身の攻撃力が底上げされる「フォールダウンモード」というモードが存在する。通常の口調は礼儀正しいが、戦闘時だとノリノリな甲高い口調で喋りだすため、口調変わってないかと突っ込まれる事が多い。演奏を趣味としており、自身の部屋には大量の種類の楽器が設置されており、その日の気分によって演奏する楽器を決める。




番外編で隊長達の短編も書きたいなと考えております。


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第44話 改良の余地があるほど良いものは作れる

皆様のおかげでこの作品のお気に入り数が1000件突破することができました!
本当にありがとうございます!
これからもこの作品をよろしくお願いします!


(さてと…留守にしてる間に溜まってる書類を片付けるとしようか)

 

俺は『機械の楽園』の自分の執務室にシズを伴って移動する。目的は冒険者として外に出ている間に溜まっている書類を片付ける為だ。俺は執務室に入り、椅子に座り書類を持っているであろうアルティマが来るのを待つ。

隣ではシズが控える。そして扉を叩く音が聞こえた後、アルティマの声が聞こえた。

 

「アルティマです、入ります」

 

(さーて……早く片付けますか)

 

「ああ、入っていいぞ」

 

俺の呼びかけの後、アルティマが部屋に入って来る。さーてどんだけの書類が来る事やらと身構えていると、部屋に入って来たアルティマが書類どころか何も持っていない事にキョトンとする。

 

「アルティマ、一応聞くが書類は?」

 

「はい、マシンナー様。外に出てから今日までの書類はすべてマキナ内で処理が終わっております。何通かはアルの元にも来ましたが充分処理できる範囲だったのでご心配には及びません」

 

(……マジか)

 

それを聞いて俺は驚愕する。まさか出ている間の書類を全て片付けるとは思ってもいなかった。

そりゃ確かに戦闘だけではなく事務処理も得意そうなメンツもいるだろうが正直予想外だった。

 

「……今に始まった事ではないが優秀だな我が軍団は」

 

「御褒め戴き光栄です!」

 

部下だけに仕事を任せっきりにするわけにもいかず、俺はモモンガさんに何か手伝う事はあるか?と聞いたら何も無いと返され、途方に暮れるとある事を思い出す。

 

(……そういえばナザリックに配備するアレまだ模擬戦闘させてなかったな。なら丁度良い、シズを使って模擬戦闘をさせてどれくらいの性能か見てみるか)

 

俺はアウラに闘技場を使う許可を得てシズを闘技場に誘う。

 

「シズ、これから少し実験をする。手伝ってくれるか?」

 

「……畏まりました」

 

シズからも了承を得て俺は執務室の奥にある、俺が開発した物の未完成品等が保管されている部屋に手をかける。

そして扉を開けて二足歩行型の自動人形三体と下半身が蜘蛛型の自動人形一体で計四体の自動人形を引っ張り出す。

 

「……これは」

 

「この前お前に見せた警備用の自動人形だ。名前はドイツ語から日本語に代えて「カラス」と「ツチグモ」に和風の名称に変更した(ドイツ語で言ったらモモンガさん絶叫してたしな)」

 

「これの現段階での性能を調べしたい、頼めるかシズ?」

 

「……合点」

 

「よろしいならば行くとしよう、さて起動させるか」

 

俺は四体全ての電源を入れる。電源が入ると自動人形に僅かに振動して問題なく起動した。

 

「これから闘技場で現段階での性能を確かめる。付いてこい」

 

『『『『畏まりました』』』』

 

俺はシズと自動人形達を連れて闘技場に向かった。

 

 

 

 

《シズ》

 

《はい…》

 

《今回の模擬戦ではジャガーノートは使用するな充分なデータを取る前に戦闘が終了してしまう》

 

《了解…》

 

シズはメッセージによる会話を終わらせ、闘技場にいる四体の警備用自動人形に視線を向け、愛用の魔銃を取り出し、安全装置を外し「ガチャン」と弾倉を装填する。

 

「では模擬戦を開始する、存分にやれ」

 

『『『『了解』』』』

 

「………了解」

 

俺の号令の後、四機中三機のカラスがシズに右手に付いてあるガトリング砲を発射しながら突撃をかける。

対してシズは自分に当たるであろう弾丸だけを捕捉し、魔銃を発射、弾丸同士がぶつかり、互いに跳ねる。

シズは弾を弾いたシズは弾いて空いた弾幕の隙間をすさまじい速さで突っ込み、三機のカラスの後ろを取る。

後ろを取られたカラス達はすぐに反転して胸部の機関砲を展開し、シズに向けて発射する。

 

「……」

 

シズはアイテムボックスから黒色の仕込み傘を取り出し、傘を広げ弾幕を防ぐ。弾の雨にさらされながらも仕込み傘はしっかりとシズを守っている。防御しているシズの後ろから待機していたツチグモが下半身の大口径ビーム砲のチャージに取り掛かる。チャージのエネルギーに気づいたのかシズは後ろを振り返ってツチグモがチャージするのを発見する。

 

「…危ない」

 

シズが危険を察知するのと同時にツチグモはビームを発射する。

シズは横に回転して回避するが先程シズの前にいたカラスの一機にビームが命中し戦闘不能になる。

 

「……よっしゃ」

 

思わぬ幸運に少し喜びながらも、すぐにツチグモに向き直る。ツチグモは下半身に付いている六本足で移動しながら両腕の機関銃でシズに銃撃をする。シズは再び傘を広げ、それを防ぎ傘に付いているトリガーに指を掛けて仕込み傘に付いている機関銃を発射する。

 

『銃撃、回避する』

 

六本足を折り畳み、ホバー移動で横に滑りながら回避し機関銃を連射する。

傘で弾を防ぎ、傘の機関銃で応戦している最中に二機のカラスが左手にブレードを持ちシズに切りかかる。

 

「……」

 

一体目の斬撃を回避し、接近してきた二体目を新たに取り出した散弾銃をカラスの頭部のカメラに向けて発砲し、メインカメラを破損させる。カラスはメインカメラをサブカメラに切り替えようとする。

 

『メインカメラを破損、予備のカメラに切り替え…』

 

「…させない」

 

『よっ…!』

 

ショットガンで攻撃した後シズはカラスに飛び乗り魔銃をカラスの頭部に向け連射し、カラスの頭部を破壊し戦闘不能にさせる。

 

「残り……二つ」

 

残りのツチグモとカラスを一瞥し、魔銃を持ち直す。

先にカラスが突撃し、ツチグモが援護する形で突っ込んでくる。

機関銃を発射しながら突撃してくる両機の弾幕から傘だけでは頼りないと思ったのか設置型の防壁を取り出し設置、防壁を展開し弾幕を防ぐ。

 

そこにカラスが防壁を飛び越え、飛び越え、シズの目の前に立ちはだかる。

 

「うわぁ…」

 

『…!』

 

カラスは右手のブレードを勢いよく振り下ろし、シズは横にかわす。

ブレードが深々と地面に沈んでいるのを確認したシズは猛スピードでカラスに飛び乗り、ナイフを取り出してカラスの首周辺の装甲を無理矢理こじ開け配線をを露出させる。

 

「見つけた……」

 

シズはそのまま配線にナイフを突き刺す。刺されたカラスは僅かに振動した後崩れ落ちる。

その時防壁がビームでぶち抜かれ、シズが飛び乗っていたカラスに命中し爆発、炎上する。当たる直前に降りていたシズにツチグモが豪快に衝突する。ツチグモはそのまま突進力に任せてシズを跳ね飛ばそうとする。

シズは身体の出力を上げて、踏ん張る。ツチグモは下半身の大口径ビーム砲のチャージを開始する。

 

「…投げ飛ばす」

 

シズは身体の出力を更に上げてツチグモを力任せに投げ飛ばす。

投げ飛ばしたと同時にビームを発射し、ビームを発射しながら落下した。

 

「ナザリック地下大墳墓おろし…」

 

(え?大雪山じゃないの?)

 

シズの技名に心の中で突っ込むマシンナー。シズは魔銃を持ち直し、ツチグモの六本脚の関節をロックオンして魔銃を発射する。弾丸はツチグモの六本脚の関節全てに命中したツチグモはそのまま地面に落下した。

ツチグモは必死で立ち上がろうとするが先程の銃撃のせいか全ての脚の関節部分から煙が漏れ、上手く立ち上がれなくなっていた。

シズは魔銃の残りの装弾数を確認して銃弾の再装填をし、ツチグモに近づく。

ツチグモはすぐに両腕の機関銃を発射しようとするが、シズがツチグモの両腕を狙撃した事により両腕の機関銃は破壊される。

 

『……!』

 

「……」

 

ツチグモの側にまで近づいたシズはツチグモの頭を踏みつけ、魔銃を向ける。

そして魔銃のトリガーを引きツチグモの頭部を完全に破壊するまで撃ち続けた。

頭部を完全に粉砕されたツチグモはそのまま沈黙した。

 

「……終わりました」

 

「ああ、よくやった」

 

「……御褒め戴き光栄…です」

 

マシンナーは闘技場に入り、シズの所まで行き頭をなでる。以前なら内心照れていたが、今は自然と出来るようになっていた。撫でられているシズもふ、と微笑んでいる。

 

「…でもあの警備用は戦力的には少し不安が」

 

「うん、シズがそう考えるのも仕方ない。こいつらの強さはこの前見た王国の戦士長ガゼフの強さを基準にしている、我々からすればあまり強くない存在でもこの世界の人間からすれば充分強い存在だ、この大抵の相手ならこいつらだけで充分屠れる。それに戦闘以外の用途にも使う予定だからある程度の量産も考えてるからコスパの事を考えりゃこれぐらいが丁度いい」

 

ナザリックの各シモベはそれぞれの徘徊や警備を担当していおり『マキナ』は主に拠点のあるナザリックの第六階層を主に警備している。この世界に転移してからもそれは変わらないが、やはり侵入者が来る可能性がある。階層守護者達やナザリックのシモベの中にはナザリック外に出向いている物もいる為、それを補うために当初アインズは『マキナ』の兵員から少し回したいとマシンナーに頼んだのだがマシンナーは広大なナザリックの各所に戦闘以外の仕事もあるマキナの各兵団を回す訳にもいかないと言う事でこれは却下された。そこでマシンナーは転移する前から考えていた量産を前提した機械系異形種の開発をすることにしたのだ。

 

強さ自体はガゼフを基準としている為ナザリックの中では低いがこの世界の人間からすれば厄介な相手である。少なくともこの世界の弱い部類の奴ならばこの強さで充分だった。

 

「あ、御屋形様~」

 

「…アインズ様」

 

「む、こんなところで何をしているのだマシンナー?」

 

そこにハム助を連れたアインズが闘技場に現れる。

アインズの姿を見てシズは一礼する。

 

「シズとともに警備用の自動人形の実験だ、まあまだまだ改良の余地があるが」

 

「そうかご苦労だったなシズ」

 

「……勿体無き御言葉」

 

「それにしてもアインズ、ハム助を連れて何している?」

 

「ああ、ハム助を連れてナザリックを案内している、迷子になられたら困るからな」

 

「まあナザリックは広いもんな迷って何かあったらたまらん」

 

「殿の思いやりには頭が下がるばかりでござるよ、それがしの同族まで探してくれる御約束までしてくれたのでござるよ~」

 

<え?そんな約束したんですか?>

 

<ええ、まあ…いるかわかりませんけど>

 

「御屋形様!実はそれがし御屋形様に頼みたいことがあるでござるよ!」

 

2人がメッセージで会話しているとハム助に声をかけられハム助の方を向くマシンナー。

 

「ん?なんだ?」

 

「それがし、御屋形様と手合わせしたいでござるよ!」

 

(え?)

 

目を大きく輝かせながら言ったハム助の言葉にマシンナーは呆気にとられ、アインズはハム助を諫めた。

 

「お前は急に何を言い出す……」

 

「御屋形様の実力は殿と互角と言う事を聞いたでござる!勿論それがしでは相手にもならぬのは百も承知でござるが一度でも良いので御屋形様と手合わせしたいのでござる!」

 

「急にそんな事を言い出すなハム助、いきなり言われればマシンナーも困るだろ?」

 

「ん?まあ別に構わんが…」

 

「本当でござるか!」

 

「良いのか?」

 

「友逹のペットの頼みなら無下にはできんさ」

 

「すまんな…」

 

「ありがとうでござるよ御屋形様!!」

 

「その前にちょっと実験機片づけるから待っててくれ」

 

マシンナーは牽引用の自動人形を呼び出しツチグモ達の残骸を載せて自分の部屋まで運ぶよう命令させた。

自動人形が闘技場を出たのを見た後、ハム助の前にマシンナーは立った。

 

「ハンデとして俺は丸腰で相手してやる、良いな?」

 

「承知したでござる!」

 

「なら判定は私がしよう、シズ」

 

「……はじめ」

 

「先手必勝でござる!」

 

試合開始の直後ハム助はマシンナーに蛇の様な尻尾を横薙ぎに振るう。

尻尾はマシンナーの顔面を正確に捉えるがいとも簡単に掴まれてしまう。

 

「なんとぉー!?」

 

「ぬぅん!」

 

ハム助の尻尾を掴んだままマシンナーはハム助をジャイアントスイング方式で投げ飛ばす。

ハム助は投げ飛ばされるがすぐに着地し、マシンナーに向かって<魅了(チャーム)>等の魔法を使うが対魔法対策をしっかりしているマシンナーに第3位階の魔法は通用しなかった。

 

「なんと!御屋形様は魔法が効かないでござるか!」

 

「少なくともお前の魔法は通用せんぞハム助?」

 

「ならば肉弾戦でござる!」

 

そう言ってハム助はマシンナーに突撃をかける。

それに応えるように脚からローラーを出し、ブースターを展開させてマシンナーも突撃した。

そして激しくぶつかる二体。

 

ぶつかった反動で後ろに仰け反るがマシンナーは自身の身体を変形させた。

 

「こちらも獣の姿で行かせてもらおう、<変形>!」

 

マシンナーは人型から二足歩行の肉食恐竜の姿に変形する。

その姿を見たハム助は驚愕する。

 

「な、なんでござるかその姿は!!」

 

驚愕するハム助にアインズがマシンナーの能力について説明をする。

 

「<6段変形(シックス・チェンジャー)>マシンナーの能力の一つだ、気を付けろ。ちなみにその姿を含めて後5形態あるぞ?」

 

「オオォォォオ!!」

 

「なんの!せいやぁ!!」

 

マシンナーがその顎を開いてハム助に接近する。ハム助はそれをかわし尻尾を鞭のようにしならせマシンナーに打ち付ける。マシンナーは僅かに怯むがすぐに反撃と言わんばかりにハム助を踏みつけようと脚を踏み下ろす。

 

「おっと!」

 

(あ、危なかったでござ……!)

 

脚をかわして一瞬安堵するが、次の瞬間マシンナーの尾が目の前に迫って来ていた。

 

「オオォォォオン!!」

 

「ぎょわあ!?」

 

尾の直撃で大きく吹っ飛ばされるハム助。

そして転がりながら着地をするが、すかさずマシンナーがその身体に(加減をしながら)噛み付く。

そして真上に投げ飛ばした。

 

「のわあぁぁぁあ!!」

 

大きくバウンドしながら地面に衝突するハム助、そしてマシンナーは脚を上げて脚でハム助を押さえつける。

 

「うぅ…」

 

「降参か?」

 

「こ、降参でござる、参ったでござるよ御屋形様…」

 

降参の言葉を聞き、マシンナーは脚を離す。

ハム助は起き上がって体をぶんぶんと振って汚れを落とした。

そこに離れていたアインズがハム助に近づく。

 

「今のがマシンナーの力の一端だ、尤もかなり手加減してたがな…」

 

「あたた…手加減されてもここまでとは驚きでござる…身体もまるで岩のように固いし…」

 

「マシンナーの身体は鋼鉄よりも固い金属で覆われている、生半可な攻撃ではビクともせんぞ」

 

「ひえぇ…」

 

アインズがマシンナーの説明をしていると何故かシズはハム助の方を見ていた。

それに気づいたマシンナーはシズに話しかける。

 

「……」

 

「ん?シズどうした?」

 

「いえなにも……」

 

シズは何も無いように応えるが、マシンナーはシズがハム助を気に入っていたのを思い出しシズに話しかける。

 

「シズ、乗りたいのか?ハム助に?」

 

マシンナーの言葉にシズは少し思案しながらはっきりと応える。

 

「……乗りたい」

 

その言葉を聞いてマシンナーは実験に協力のちょっとしたお礼としてアインズにシズにハム助を乗せてくれるように頼む。

 

「良いかなアインズ?俺の実験を手伝ってくれた礼に」

 

「うむ、良いだろう、良いかハム助?」

 

「それぐらいお安い御用でござる!」

 

そういうとハム助はシズの前に出、シズはハム助に跨る。

その顔はどこか嬉しそうだった。

 

(シズが乗ると絵になりますねマシンナーさん)

 

(……)

 

(マシンナーさん?)

 

「……ハムスターになりたい」

 

「え?」

 



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第45話 黒歴史がくるぞおぉぉおぉぉ!!

パンドラズ・アクターが待機している宝物殿にマシンナーが入る。
それを見たパンドラズ・アクターは即座に立ち上がり敬礼する。

「邪魔するぞパンドラ」

「おおこれはマシンナー様、これは急にどうなさいましたか?何か宝物殿に御用でも?」

「いや、個人的な事でお前に頼みたいことがあるんだが、いいか?」

「至高の御方の頼みならば如何様にも!」

「いや、そこまで大層な頼みじゃないんだがな?お前の声が俺の好きな物語の主役の声に瓜二つなのでそいつの台詞を言ってもらいたいなって思って来たんだが…」

マシンナーの頼みの内容を聞くとパンドラズ・アクターは顔を俯きプルプルと小刻みに震える。
これを見たマシンナーは流石に不味かったか?と考える。

「……」

(あ、流石に切れたか…?)

「おい、パンドラ…」

「マシンナー様…」

「ん?」

そういうとパンドラズ・アクターは凄い勢いで顔を上げ言葉を上げる。

「是非!是非!やらせてください!至高の御方が贔屓している物語の台詞なんて何度でも言わせていただきます!!」

「お、おう。そうか…なら早速この台詞言ってくれないか?」

パンドラズ・アクターの気迫に若干押されながらも、マシンナーはその台詞の内容を見せる。

「ふむ…ふむふむ、なるほど、では!やらせていただきます!」

「ああ、景気よくやってくれ」

そういうとパンドラズ・アクターは大きく深呼吸をし、いよいよ台詞を言おうとしていると。
今後の事を相談するためにマシンナーを探していたアインズが現れてしまった。

「こんな所に居たのかマシンナー…」

「ガン〇ム・エク〇ア!刹〇・F・セ〇エ〇、未来を切り開くぅ!!」

「おお!メッチャ似て…」

『何やってんだあぁぁぁぁ!!!?』



円卓の間

 

「…ごめんなさいモモンガさん」

 

「いや、その、えっと…俺もなんかすいません」

 

あの後アインズの事に気づいた2人のうちマシンナーは事情を話し、自身が謝罪することによりこの場を収めようとしたのだがパンドラズ・アクターがよりによってドイツ語で話した事によりより混沌とした状況になってしまいやっとの事で収まったのだ

 

「パンドラの声があまりにも似てたのでつい…」

 

「……そんなに似てるんですか?」

 

アインズの問いに応えるためにマシンナーは一本の動画をアインズに見せる。

 

「似てますよ、ほら」

 

『俺が…〇ンダムだ!!』

 

「うわぁぁぁあ!!?」

 

「ええ!声だけで!?」

 

動画を見て絶叫するアインズに驚きつつ、気を取り直して話に入る2人。

 

「…すみません、では気を取り直して…」

 

「はい、こちらが今回調べ上げた情報です、今回は全体的に周辺国家の内情等が多いですね」

 

「内情ですか…」

 

「はい、まず帝国は皇帝による完全な統治になっています、昔は貴族も多く居たらしいですが現皇帝の「ジルクニフ」って奴が即位したときの改革により多くの貴族がその位や財産の没収、最悪一族そのものを粛清された家もあったらしいです。軍事力も充分あり、中でも「フールーダー」という魔術詠唱者が帝国側の切り札らしいです。なんでも第六位階の魔法を扱えるとか…」

 

「ほう、この世界の人間を基準にするとかなりの強者ということですね?」

 

「はい、その影響なのか魔術を学ぶ学校もあるらしく魔術詠唱者の育成にも力を入れてるらしいですね」

 

「次に王国ですが、こっちは一応現国王が統治していますが貴族たちがかなり腐ってるらしく、国王はわかりませんが貴族達はかなり嫌われていますね、多少の改革は進められているらしいですが、現状はまだまだ好転していないらしいです」

 

「軍事力は一部の兵士以外は全員民兵らしくて、数はありますが正直それだけです」

 

「意外ですねあのガゼフという戦士長が居るのを見て兵もそれなりに強いと思っていましたが…」

 

「まだ全部調べたというわけでは無いので何とも言えませんがあのガゼフって人以外は大したことは無いと思います。……冒険者を除けばですが」

 

「確かに…」

 

「で、他の王族には王子2人と王女が1人いるらしいです。そのうち王女のラナーはかなり頭が良いらしく、奴隷売買の禁止を始めに改革にもその頭脳で一役買ってるらしく、「黄金のラナー」とも呼ばれてます」

 

「ほう…」

 

「んでその王国の中に「八本指」という裏の犯罪組織があるらしいです」

 

「大体予想が付きますがどんな事してるんです?」

 

「麻薬から奴隷売買の裏取引を始めいろんなヤバい事してますね、王国の一部の貴族ともつながりがあるとか?そいつらの威力部門…ケツ持ちみたいなものかな?「六腕」という組織も存在します、組織の規模から察するに金もかなり持ってると思いますので洗脳でもしてこっちの傘下に収めて上納金みたいにこっちに金貢がせるのはどうでしょう?」

 

サラッと恐ろしい事を言ってるがナザリックの財政の事も考えてアインズはその手もありかもなと考えた。

 

「そうですね、とろあえず考えておきます」

 

「そして一番警戒しているスレイン法国、この国は知っているように人類至上主義を掲げており、亜人等をかなり弾圧しています。人類存続を謳っていますがかなり汚い事もしてるらしいですよ。現にカルネ村を始め他の村も襲ってたらしいですし…」

 

そう言うとマシンナーは非常に忌々しいと言いたげな顔をする。兵士ならばともかく、大義名分を掲げて関係のない村人に手を出す行いに非常に嫌悪感を抱いている。しかもいざ自分達が死ぬ目に会おうとすれば神よ、神よと祈り始める姿を見たときは虫唾が走っていた。

 

「掲げている主義自体が俺たちと完全に相容れません、正直に言うと俺たちの事が知れたら真っ先に潰しに来ると思いますよこの国?」

 

「そうですね、なんだかユグドラシルの異形種狩りのプレイヤー思い出しますよ」

 

「あ~俺もです」

 

「それに世界級アイテムも持っていましたし、侮れません。他の二国はともかく、この国は潰したほうがいいかもしれない…」

 

「なら近いうちに守護者達集めて会議したほうが良さそうですね」

 

「まあまだ完全に潰すと決めたわけではありませんが」

 

「後、この前戦った「ズーラーノーン」こいつらは指導者のズーラーノーンを始め12人の高弟達がいて、クレマンティーヌやカジットもこれに含まれますね、周辺国家から大きく警戒されていますが帝国の中には裏で賛同者が居るらしいです」

 

「予想はしていましたがそれなりの規模はあるのは間違いないですね」

 

「使役しているモンスターがアンデッドであるところを考えるとアンデッドを心棒している可能性もありますよ。モモンガさん見たらなんか崇め奉りそうですね…、乗っ取っちゃいます?丁度クレマンティーヌいますし組織の内情教えてもらうとか?」

 

するとアインズは意外な事を言い始める。

 

「それも良いですがあのカジットって男、後で蘇生させようと思うんですよ」

 

思ってもいなかった言葉にマシンナーは一瞬面食らうが、すぐに疑問をぶつけた。

 

「え?理由を聞いてもよろしいですか?」

 

「はい、この世界の魔法の事情についてと、ズーラーノーンの組織の情報。後は蘇生実験も兼ねてあの死の宝珠について聞こうと考えています」

 

それを聞いてマシンナーは納得した。

死の宝珠はユグドラシルには無かったこの世界独自のアイテムである。

価値はともかく、どうやって手に入れたのかアインズ自身は非常に気になっていた。

 

「なるほど、了解っす」

 

「取りあえず周辺国家についてある程度わかってきましたね」

 

「まだデミウルゴスが出向いている聖王国の情報はもう少しかかりそうですね、申し訳ないです」

 

「いえ、この短期間でここまで情報集めてくれたんだからお礼言いたいくらいですよ」

 

「そう言ってもらえるとありがたいです」

 

「ではこの辺で解散しますか?」

 

「あ、待ってくださいモモンガさん」

 

会談をそろそろ終わらせようとしていたアインズをマシンナーは待ったをかける。

 

「はい?」

 

「シャルティア達の褒美はどうしますか?」

 

「ああ…そうでした、どうしたものか…」

 

「持って来たのが世界級アイテムですからね…」

 

「マシンナーさん、マシンナーさんは勲章とか作れますか?」

 

「え?ああ、はい元の世界にいたとき、叔父の鉄工所でバイトして鉄製品の作り方は一通り覚えましたけど勲章は初めてですが……勲章を贈るんですか?」

 

「はい、パンドラを創るときに集めた資料で『黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章』ってのを見つけたんです」

 

「ああ、あの爆撃王だけしか貰えなかったという…それをモチーフにするんですか?」

 

「はい、鉄十字の部分をアインズ・ウール・ゴウンの紋章に変えますけど、お願いできますか?」

 

「そうですね、後で試作品を何本か作って持っていきますよ」

 

「ありがとうございます」

 

今度こそ会談が終わろうとしていた時、マシンナーは何かを思い出し、アインズに話しかける。

 

「あの…パンドラで思い出したんですけど他のシモベってパンドラの事知ってるんですか?」

 

「え?」

 

「いやあの…この前アルティマに聞いたんですけど…」

 

『パンドラズ・アクター殿ですか?お名前は聞いたことはありますが姿まではアルは見たことありませんよ?』

 

「って」

 

それを聞いたアインズは顔に頭を添えて「しまった…」と言いたげな表情?をしている。

 

「…そういえばずっと宝物殿に居させ続けてました」

 

「やっぱりですか……余計かもしれませんがその…ナザリックの皆に紹介した方が良いと思うんです、ずっと見せずじまいですと信用してないんじゃないかと他のシモベ達が思うかもしれませんので…」

 

「ああ…はい、そう…ですよね。俺も紹介しようと思ってたんですが中々踏み出せなかったんです…」

 

「紹介するなら丁度今が良いと思います、幸い全員居ますし」

 

マシンナーの言葉にアインズは少し考え、少し経ってから何らかの決意をしたような顔つき?になっていた。

 

「そうですね、俺も踏み出さないといけませんよね。今からアルベドとユリを呼んできます」

 

「じゃあ俺はアルティマとシズを呼んできます」

 

そしてアインズとマシンナーは<伝言(メッセージ)>でアインズはアルベドとユリを、マシンナーはアルティマとシズを呼んだ。

 

 

 

 

暫く時間が経った後アルベド達が集合し、アルベド達を連れてマシンナー達はパンドラズ・アクターの所まで向かう。

 

「そういえばお前たち、パンドラズ・アクターの事は知っているのか?」

 

「はい、管理上は把握しておりますが会った事はございません」

 

「アルも同じく」

 

「宝物殿の領域守護者にして、私やデミウルゴスと同等の強さと頭脳を持ち、…アインズ様の御手によって創造された者です」

 

(最後なんか棘があったけど嫉妬してるのかな?)

 

「そうだ、アインズが創造したドッペルゲンガー、能力はどんな姿にでも変身しそのものの全力の約8割まで再現ができる……で合ってたよな?」

 

「ああ、そうだ」

 

そう思いながらアインズ達はパンドラが待機している部屋にまで着いた。

部屋にあるソファーに誰かが腰かけているのが見え、そのものが立ち上がる。

その姿をみてアインズとマシンナー以外の者たちは驚愕する。

 

「マ、マシンナー様がもう一人…!!」

 

「ユリ姉…違う、偽物……!」

 

ユリが驚愕していると戦闘形態に変形したアルティマと魔銃を構えたシズがアインズ達の前に立つ。

 

「何者だ!よくもマシンナー様と同じ姿で現れたな、姿形を真似ても創造された御方を間違えるような事は絶対にしない!!」

 

それに応えるようにもう一人のマシンナーは目を光らせるが、それが更にアルティマの怒りに触れたのか右手の<輻射波動装置>を起動させ今にも攻撃せんと言わんばかりの気迫を見せる。

 

「おのれぇ…!今すぐ解体して……!!」

 

「よせ、アルティマ」

 

「もうよいパンドラズ・アクター、戻れ」

 

そういうともう一人のマシンナーは本来のパンドラズ・アクターの姿に戻る。

 

「ようこそおいでいただきました、先刻ぶりですねマシンナー様、んん~アインズ様!!」

 

「うわぁ…」

 

「えぇ…」

 

(辞めてくれ、そんな冷たい目で俺の黒歴史を見ないでくれ……)

 

「それで、どうなされたのでしょうか?」

 

「……うむ、これから一時間後に皆にお前の事を紹介しようと思ってな」

 

「おおぅ!遂に!つ・い・に!アインズ様によって創造された唯一無二のシモベとして……至高の御方達の御計画という名の舞台(ステージ)に私が立つ時が来たのですね……!」

 

(うわあ!だっさいわぁ……!!)

 

「うわぁ…」

 

アインズは心の中で自らの黒歴史に絶叫し、シズはドン引き、アルティマはどう反応すれば良いかマシンナーに呼びかける。

 

(……マシンナー様、こういう時どんな顔すればいいのかアルはわかりません)

 

(笑えば…じゃなかった無表情で良いんじゃないかな?)

 

「う、うむ。紹介するには頃合いだと思ってな、一時間後玉座の間に来てくれ」

 

「はっ!承知いたしましたアインズ様!」

 

「うむ、それでは我々は戻る。一時間後に玉座で…」

 

「はっ!承りましたアインズ様!そして少年とお嬢様方!」

 

「少年」と「お嬢様方」の反応したアルべド達は一斉にパンドラに振り向く。

 

「…少年?」

 

「お嬢様?」

 

「私は守護者統括、ユリはプレアデスの副リーダー、シズはプレアデスの一員。そしてアルティマはマキナの副司令、そのような軽々しい呼び方は慎むように…」

 

「アルも同じく…」

 

「私からも是非お願いします…」

 

「…うわぁ」

 

「おお…!それは失敬!薔薇の様に美しくも可憐な御姿と意志の強い瞳につい…」

 

とうとう耐え切れなくなったのかアインズはパンドラズアクターの腕を掴み壁際にまで連れて行く。

 

「おいちょっとこっちに来~い!!」

 

(……やっぱり不味かったか?)

 

「は!ドンッッッ!!」

 

壁際に叩きつけたアインズはその真っ赤な目を一際強く光らせながら、パンドラズアクターに問いかける。

 

「私はお前の創造主だ!違うか!?」

 

「仰る通りでございますアインズ様…!」

 

「なら俺の頼みでも命令でも良いからさ…敬礼はやめないか?」

 

「えぇ?」

 

「いや、なんかほらへ、変じゃないか?」

 

「別に変じゃないと思うが…」

 

マシンナーの思いがけない言葉を聞き思わずアインズは振り返った。

 

「ま、マシンナー?」

 

「いや、アルティマとか全員俺と会う時敬礼しているから…まあ軍団というのもあるが…」

 

それを聞いたアインズはまあそう言うならと思い、取りあえず敬礼の件は保留にした。

 

「う、うむ。まあ敬礼と軍服はまあ良しとして…ドイツ語はやめないか?」

 

そういわれたパンドラズアクターは小さく「オォウ…」と言い。

 

「wenn es meines Gottes Wlle!!(我が神の御望みとあらば!)」

 

「だからそれをやめろぉ!!」

 

(あ~あ…やっぱ不味かったかも…)

 

 

 

 

ナザリックの玉座の間にヴィクティムとガルガンチュアを除く階層守護者達。セバス率いるプレアデス、アルティマ率いるマキナ七大隊長が集結していた。

全員顔を上げ、玉座に座っているアインズの言葉を待ち構えていた。

先程宝物殿に居たアルベド達は大体予想していたが。

 

「皆に紹介したい者がいる」

 

そういうとパンドラズアクターはアインズの前に立った。

 

「……さあ、お前のことを皆に紹介せよ」

 

「畏まりました!」

 

踵を合わせて敬礼をし自らの自己紹介を始めるパンドラズアクター。

 

「皆様、お初にお目にかかります私の名はパンドラズ・アクター!宝物殿の領域守護者を任されておりました!どうか、お見知りおきを……親愛なる皆様方」

 

一息に自分の自己紹介を終えると、彼は大仰に振りかぶり一礼をする。

それを見たアインズは次の瞬間精神作用効果無効化の光を発光させる。

 

「うわぁ…」

 

それを見たシズは先程と同じように本日4度目の「うわぁ…」の言葉を出した。

 

(シズ、うわぁとか言わないでやって!もうモモンガさんのライフはゼロなの…)

 

シズの「うわぁ…」の言葉にマシンナーは心の中で「やめたげてよぉ!!?」と絶叫し、アインズの様子を心配し、アインズの方を向いた。

 

「……」

 

精神作用効果無効化の光を全身から発光させるアインズしかしその目にはいつもの赤い光が灯っていなかった。

 

(ゼロどころかマイナス切ってるうぅぅうぅぅー!!)

 

流石に目の光まで消えるとは予想していなかったマシンナーは絶叫し、できるだけ平静を繕ってアインズに解散を促す。

 

「…時間を取らせてしまったな、皆持ち場に戻ってよいぞ」

 

その後シモベ達が各持ち場に戻ったのを確認し、アインズとマシンナーは円卓の間に転移していった。

 

 

 

 

円卓の間に転移し、マシンナーは恐る恐るアインズに問いかける。

 

「モモンガさん大丈夫…なわけないですよね?」

 

「いえ、大丈夫です。どの道パンドラの事を皆に知らせないといけなかったですし、俺も覚悟を決める時だったんです」

 

「そ、そうっすか…」

 

内心少し罪悪感を抱きながらもアインズの言葉を聞き、マシンナーは少し安堵する。

そしてアインズはマシンナーにある質問をした。

 

「……少し聞きますけど、マシンナーさんはアルティマ達とこの世界で初めて会うときってどんな気持ちでした?」

 

アインズの質問にマシンナーは少し間を置き、質問に応え始める。

 

「俺ですか?……正直最初は…その怖かったんです守護者達や他のナザリックの皆に会うよりも。一度ナザリックを離れてしまった俺を見限ってるんじゃないかと思って…」

 

返ってきたマシンナーの応えに流石に不味いと感じたのかアインズは感じ、マシンナーに謝罪をする。

 

「っ!す、すいません!考えも無しに…!!」

 

「いや、良いんです。どんな理由であれ一度離れてしまったのは事実です」

 

そう自嘲気味に語りながらもマシンナーは「でも…」と言い、言葉を繋いだ。

 

「でも、あいつらは……俺が創ったアルティマ達(子供達)は帰ってきた俺を受け入れてくれた。もう一度必要としてくれた、例え万が一それが偽りでも俺はとても嬉しかったんです」

 

マシンナーは一度ナザリックを離れ、再びマキナの隊長達に会うことに内心不安と恐れがあった。

しかし、マキナはマシンナーの帰還を心から喜び、歓迎してくれた。

そのことにマシンナーは深く感謝していた。

 

「だからアイツらの思いに応えるのが俺の今やるべきことだと思っています、いやシズと添い遂げるのもありますけど」

 

最後に個人的な思いを出して返答するマシンナーにアインズはツッコミを入れる。

 

「最後はきっちりしめてくださいよ…」

 

「いやはや面目ございません」

 

頭を掻きながらマシンナーはアインズにパンドラの事を伝える。

 

「まあでも俺はカッコイイと思いますよパンドラ、wenn es meines Gottes Wlle!!(我が神の御望みとあらば!)」

 

最後のドイツ語にアインズが反応し、絶叫しながらマシンナーに思いっきり平手打ちをぶちかます。

 

「やめろぉ!!」

 

対してダメージは通らなかったが勢いが強かったのかマシンナーの頭はぐるんぐるんと回転し、暫く回ってから勢いが徐々に弱まり、手で回転を止め、頬を抑えながらアインズにこう訴える。

 

「な、殴ったね?親父にもぶたれたことないのに!」

 

「殴って何故悪いか!?」

 

そう言ってアインズは上半身を右方向に回転させながら応える。

 

「あ、ヤッてくれるんですねそのポーズ」

 

 

 

 

夜の平原、月が煌めく夜に一匹の白い魔獣の周りをギガントバジリスク4匹が取り囲む。

 

「シャアァァァア……!」

 

「ふん…」

 

ギガントバジリスクの一匹がその魔獣に食らいつこうと襲い掛かる。

しかし魔獣は軽々とかわし、前脚でその頭を踏みつぶした。

他のギガントバジリスクもその魔獣に襲い掛かるがある一匹は頭を食いちぎられ、爪で首を飛ばされ、顎を掴まれて引き裂かれた。

 

「シャア!…ガッ…」

 

辺り一面を血だまりにしながらその身に浴びた返り血を振るい落とし、血が着いた爪を舐める。

 

「ふん、弱い、弱すぎる。100年ぶりにあの大森林に帰るというのに、やはりあの大鼠程の奴はそうそういないか…」

 

そういうとその魔獣は月を仰ぎ見、かつての好敵手の事を思う。

 

「まあいい、奴との決闘前の肩慣らしには丁度良いか…」

 

そして目的地であるトブの大森林に向かうべく魔獣は走り始める。

 

「待ってろよ……大鼠!」

 

目を赤く光らせ、笑みを浮かべながらその魔獣は闇の中に消えていった。

 




唐突に書いてみたくなったネタ

マシンナー「私は神だ!!」
シズ「…おぉー」
マシンナー「知りたいことなんでも教えてやろう!(wiki調べ)」
シズ「…私の事どれぐらい好きか教えて?」
マシンナー「……いっぱいちゅき♥」

ポ〇テ〇ピックさんごめんなさい(orz)



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第46話 白い暴君1

新しい物語、白い暴君編の始まりです。
前話の最後に出てきた魔獣は敵か味方か?

※加筆しました。


ナザリックの第八階層の宝物殿にアインズとマシンナーが来ていた。目的はズーラーノーンのカジットの復活である。

 

「上手く成功すると良いですが…」

 

「今のところ使っている魔法やスキルもちゃんと使えますからちゃんと使えると思いますけど……」

 

僅かな不安を抱きながらアインズはカジットの復活を始めた。

 

「カジット・デイル・バダンテールを復活させよ」

 

そういうと魔法陣が閃光を発しながら現れ、人の形のようなものを徐々に形作りズーラーノーンのカジットが無事復活した。

目を覚ましたカジットは辺りを見渡して混乱する。

 

「こ、ここは!?」

 

「おい」

 

「え?ぶ…」

 

復活したカジットは何も着ていない状態だったのでマシンナーは適当な大き目の布をカジットに投げ渡す。

 

「裸のままじゃあれだろう、取りあえず成功したなアインズ」

 

「うむ、そうだな」

 

「(アインズ?)……な!?」

 

朦朧としていた意識が徐々にはっきりとしていき、布を投げつけられた方を見ると、カジットは絶句する。

目の前に死者の大魔法使い(エルダーリッチ)、否、死の神と呼ぶに相応しい存在と隣に立つ黒い未知の金属のゴーレムのようだが、目の前の死の神と同等の存在感を放っていた。

ゴーレムの方はわからなかったが死の神の方はすぐに思い出し、カジットは裸にもかかわらず目の前の存在達に平伏する。

 

「し、死の神スルシャーナ様!!」

 

(え?誰?)

 

思ってもいなかったカジットの行動と自分の知らない人物の名前に困惑するアインズだがマシンナーはすぐに自身が調べた情報をアインズに伝える。

 

(えっと…確かスレイン法国が崇拝していた神々の中の一柱だったような…死の神だからもしかしてモモンガさんと同じ種族の死の支配者(オーバーロード)だったのかもしれません)

 

(なるほど、でもどうしますか?なんか誤解しているようですけど…)

 

(取りあえず、名前は言っておきましょう、後々変な事にならないように)

 

マシンナーの言う通り後々の事を考えるとそうした方が確かに良い。アインズは自身がスルシャーナなる人物ではない事をカジットに言った。

 

「(わかりました)……残念だがカジット・デイル・バダンテール、私は貴様の言うスルシャーナと言う存在ではない」

 

「え?」

 

その言葉にカジットはそんなバカなと言いたげな顔をしてしまう。

カジットの中では今目の前にいるアインズこそ真の死の神と強く認識しているのだ。

 

「私の名はアインズ・ウール・ゴウン、この世界とは違う別の場所から来たものだ、隣に居るのは我が盟友マシンナー。この者は鋼の神だ」

 

「鋼の……神?」

 

自身の知識の中では存在しない神の名前に一瞬戸惑うが、アインズと同じくらいの存在感、そして別世界の存在という事を聞き、納得した。

 

「うむ、それではカジット・デイル・バダンテール、いやカジット、お前を復活させたのは他でもない……私の配下となれ」

 

「……は!え!?」

 

それはカジットにとって願ってもいない言葉だった。

自身の目的を果たすために死者の大魔法使いになろうとしたが、目の前の死の神のシモベになればその死の大魔法使いにならなくても目的を果たせるかもしれないと思った矢先、偉大なる死の神(アインズ)自身が自分をシモベに勧誘してくれたのだ。自分はなんて幸運なんだと思った。

 

「勿論ただ従属しろとは言わない。命の安全は我々が保障する。実は我々は最近この世界に来た者でな、そのため此方の魔法に深く興味がありその知識を始めとした情報を欲し、探している。貴様にはその情報を提供してもらいたい。対価として私達は貴様が欲している情報を提供する事を約束する……どう…」

 

「は、はい!なります!わ、いえ!私めに出来ることであれば、何でも協力いたします!死の神アインズ様、鋼の神マシンナー様に絶対なる忠誠を誓いますぅ!!」

 

アインズが言い終わらない内にカジットは配下になる意を示し、二人に絶対なる忠誠を誓う。

 

「う、うむ…そうか(あれ?思いのほかあっさりとこちらに側に着きましたよ?)」

 

「(こりゃ、意外ですね。てっきり何らかの条件を出してくると思っていましたが…)カジット」

 

あっさりと承諾したカジットの言葉にマシンナーは不思議に思ったのかカジットに話しかける。

 

「は、何でございましょうマシンナー様?」

 

「…自分が何故ここにいるか不思議に思わんのか?」

 

マシンナーの言葉にカジットはハッと思いだす。自身が数年かけて計画した『死の螺旋』を自身の命と共に叩き潰した冒険者たちの事を。

 

「え?そ、それは…」

 

「ふむ、やはりな……アインズ」

 

「うむ、カジットよ君は一度死に、私が復活させたのだ」

 

「は?」

 

「そしてお前を一度殺した者たち……あれは我々だ」

 

「!」

 

それを聞き、すぐに納得はしたが、次に例えようもない恐怖がカジットを襲う。

知らなかったとはいえ自身が数々の無礼な発言をしたのを思い出し、再び彼らに平伏した

 

「申し訳ありませぬ!数々の無礼な発言申し訳ありませんでした……!」

 

「気にするな元々、貴様の存在を一度抹消させた方が色々と都合がよい」

 

「ところで聞くがカジットよ、何故ズーラーノーンを捨てあっさりとこちら側に着いた?てっきり何らかの条件を追加してくると踏んでいたが」

 

「そ、そんな畏れ多い!配下になるだけでも私にとっては願ってもない幸運な申し入れなのです!……実はズーラーノーンにはある目的を果たすために入ったのです…」

 

「その目的は?」

 

「……は、大変烏滸がましいですが死者の大魔法使い(エルダーリッチ)になるためにズーラーノーンに入ったのです」

 

若干の間を開けながら自分がズーラーノーンに入った目的を話す。

その答えにマシンナーは単純に不思議に思い、カジットにその理由を聞いた。

 

「何?何故そこまで?」

 

「そ、それは……」

 

少し答えようか迷うものの、カジットは正直に話した。

 

「は、母を!私の母をこの世に甦らしたいのです!!」

 

((…嘘やん))

 

どう見ても悪の魔法使いのような外見似合わぬ願いに困惑するアインズとマシンナー。

しかしすぐに抑制により気を取り直す。

 

「……そのために死者の大魔法使い(エルダーリッチ)になろうと?」

 

「は…新たなる蘇生魔法を開発するために不死者の身体を欲したのです」

 

(な、なんか意外ですね)

 

(意外と純粋な願いで驚きましたが…)

 

「ふむ、お前の目的はわかった、では早速命令をだそう、現在のズーラーノーンの情報をお前が知っている全てを話せ」

 

「は…」

 

その後、カジットはズーラーノーンの情報を自分の知っている限り話し始めた、元々ズーラーノーンに入ったのは自分の目的を果たすためだ。さらに自分がいる場所はズーラーノーンの時よりもより高確率で自分の目的を達成できるかもしれない、うまくいけば人間のままで母を生き返るかもしれない。

根拠こそなかったが不思議な確信があった。

 

全てを話した後アインズはカジットに必要な道具と魔導書のリストを書いて後日提出するように伝えた。

 

 

 

 

 

俺がシズたちを連れて依頼を受けようと来てみると組合に来ていた。

周りを少し見渡していると見覚えのある顔を見つける。

 

「「あ」」

 

「なんだ、モモンも来ていたのか」

 

「お前もな」

 

どうやらモモンガさんも依頼を探しに来たらしい、俺は組合の中を見渡すと、こころなしかいつもより冒険者の数が少ないような気がした。いつもならもう少し大勢の人でにぎわっている筈なのだが…。

 

「なんか今日冒険者少し少なくないか?」

 

「お前もか?私もそう感じていた所だ」

 

俺と同じようにモモンガさんも少ないと感じていたようだ。

そこにもう一つ顔の知っている冒険者チームを見つけた。

 

「モモンさん、モモンさんじゃないですか」

 

「お久しぶりです!」

 

「漆黒の剣の皆さん、お久しぶりですね」

 

「よおナーベちゃん!久…」

 

「黙りなさい蛆虫、口を引き裂きますよ」

 

以前、トブの大森林で出会ったチーム漆黒の剣、ルクレットさんは相変わらずナーベラルを口説こうと頑張っているが相変わらずバッサリ振られてちょっと可愛そうに思ってしまう。

するとあることに気づき、リーダーのぺテルさんに声をかける。

 

「ぺテルさん、そのプレート…」

 

「え?、はい!実は俺達『金のプレート』に昇格したんですよ!」

 

「本当ですか」

 

「おお、そりゃめでたい」

 

「そういえば、今日は心なしか他の冒険者が少ないような…」

 

「ああ、それはですね、「白い暴君」が現れたんです」

 

「白い暴君?」

 

聞きなれない言葉に首をかしげるとぺテルさんは俺達が異国の出身だと思い出し、詳しいことを話し始める。

 

「ああ、そういえばモモンさんやレイヴンさんたちは異国から来たんでしたね、白い暴君っていうのは俺も昔話で聞いたぐらいなんですけど、百年前までトブの大森林でモモンさんが倒した森の…じゃなかったハム助でしたね、そのハム助と何度も縄張り争いをしたと伝えられている大魔獣の事です」

 

「ハム助と?」

 

「はい、言い伝えによると白い毛皮と紅い目という特徴があって、性格はかなり残酷だったとか…」

 

ナザリック内ではともかく、この世界の基準だとハム助はかなり強い存在だ、そのハム助と互角ということは確かな実力を持っているのだろう。これはちょっと楽しみになってきた。

 

「その魔獣を見つけたと?」

 

「いえ、目撃者の情報だと言い伝えの特徴とかなり合致しているらしいですが、まだ完全ってわけじゃ…」

 

「けどかなり凶暴なのは確からしいぜ?昨日惨殺されたギガントバジリスクの遺体が数匹も見つかったらしいし…」

 

それだけを聞くと余程好戦的な魔獣らしい。それにハム助と何度もぶつかったというのも本当かどうか気になるな…。

 

「モモンさん、ハム助に白い暴君の事を聞いてはどうでしょうか?言い伝え通りならきっと知っている筈ですし…」

 

ニニャさんが話している途中で突然組合の受付嬢が息を切らせながら俺たちに話しかけてきた。

 

「あのすいません!モモンさんとレイヴンさんはいらっしゃいますか!?」

 

「はい、俺たちですが…」

 

「良かった…今組合長から緊急で来てほしいと言われてさがしてました、急いで組合まで来てください!」

 

(緊急だと?)

 

(一体何でしょうか?)

 

「あ、漆黒の剣のぺテルさんもお願いします!」

 

「え?俺もですか?」

 

緊急の依頼に少し驚いたが多分さっき言っていた魔獣の事だろうと考えながら俺とモモンガさんとぺテルさんは組合長がいる部屋に向かった。

 

 

 

 

「モモン殿!レイヴン殿!よく来てくれた。さぁ、空いてる席にかけてくれ」

 

部屋に入ると偉い人という感じの人が俺たちを出迎えてくれた。確かこの人はプルトン・アインザックっていう人だったような気がする。部屋を見渡すとミスリル級のプレートをぶら下げている目つきの悪いガラの悪そうな男が1人座っている。

 

(モモンガさん、俺たち以外に居るのは漆黒の剣とミスリルのプレートを見るにミスリル級の冒険者、でも今来た奴は…)

 

(やはりさっき聞いた白い暴君とやらでしょうか?)

 

(…やべえまさか俺たちまで呼ばれるとは…)

 

「さて、話を始める前にまずひとつ。モモン殿、レイヴン殿、ミスリル級への昇格おめでとう!例のズーラーノーンによるアンデッド大量発生の件での君たちの活躍は、正式に認められた。このエ・ランテルに住む者の一人として、改めて礼を言わせてもらいたい」

 

「いえ、当然の事をした迄です」

 

「自分たちはやれることをやったそれだけです…」

 

「…ふふ」

 

「さて、改めて自己紹介をしよう。私はプルトン・アインザック。ここエ・ランテルの冒険者組合の長を務めている。そして、モモン殿の隣の男がエ・ランテルが誇るミスリル級冒険者チームである『クラルグラ』の代表、イグヴァルジ君」

 

組合長から紹介されたイグヴァルジという目つきの悪い冒険者、ミスリル級という事は冒険者としての腕は確かなんだろう、だが俺たちを見る視線は明らかに敵意むき出しだ。

 

「ふん…」

 

(モモンガさん…あいつ)

 

(ええ…完全に敵意を向けてますね)

 

(まあ大方新参者を気に入らないんでしょう)

 

「では、本題に入らせてもらおう。まずは例の…」

 

「その前に聞きたいんだが?」

 

組合長が話を始めようとするとイグヴァルジが立ち上がり組合長に意見する。

 

「そこの全身鎧と黒甲冑の奴らは何者だ?モモンとレイヴンとかいったか?俺の記憶じゃ、ミスリル級の冒険者にそんな2人は居なかったと思うんだが。何か功績でもあげたんならどんな功績を上げたのか教えてもらえないか?」

 

「…それを今話すところだ。それに事は一刻を争う事態なのだ。邪魔をしないでもらえるかイグヴァルジ?」

 

「フン!」

 

組合長の言葉に苛立ちを抑えながら座るイグヴァルジ。組合長からの反応を予想するとあまり好かれていないらしいな。まあこういう奴は嫌いなタイプだが…

 

「さて、彼らの功績の話をしよう。先日のアンデッド大量発生の件だが、これはアンデッドを使役する秘密結社、ズーラーノーンの起こしたものだということがわかった。モモン殿とレイヴン殿のチームがこれを制圧、そして……」

 

「たったそれだけか?」

 

(おいおい…)

 

(またか…)

 

組合長の言葉にまたもや横槍を入れるイグヴァルジに内心辟易する。

 

「その話だとアンデッドを制圧しただけじゃねえかコイツらの功績とやらはよ?その程度の事でミスリル級だと?昇格試験も無しでか?そんなの他の冒険者たちが知ったらさぞ不満に…」

 

「…おい」

 

「あ!?なんだよ?」

 

尚も言葉をつづけようとするイグヴァルジに俺は荒々しい口調(演技)でイグヴァルジに制止をかける。

 

「俺達に文句言いたかったらこの打ち合わせ終わった後にしろ、今はそれどころじゃないだろうが?」

「そうですよ、今はそんな事場合じゃありません!」

 

俺の言葉の後にぺテルさんも言葉を上げる。

 

「あぁ!?なんだとテメェら…」

 

「彼らの言う通りだ!いい加減にしろイグヴァルジ!これ以上邪魔をするなら出ていってもらうぞ!!」

 

「なん…!…クソッ!!」

 

(悪いねぺテルさん)

 

(いいえ、お礼を言われるほどじゃないですよ)

 

「はぁ…では話を再開しよう」

 

組合長が言うにはどうやら先日ある森林にて何らかの戦闘の痕跡を見つけたらしくそこに冒険者を送り出した事が事の始まりらしい。

 

(ああ…それシャルティア達だな…)

 

(やれやれ念のための事後処理が仇になったか…)

 

先日の漆黒聖典との戦闘の事後処理をしたが、遺留品等は回収したのだが戦闘の痕跡までは流石に消せなかった。

しかし、今回の問題はそれではなく森林で数名の人影を見たという報告が入ったのだ。

 

「この被害と報告を見るにその森林に何者かが居る可能性があると見て我々は冒険者チームを送り出したのだが、探しているうちに森林を拠点に潜伏していることが判明したのだが帰還して来た者たちによる証言によると白い大型のモンスターを遠目で見かけたという報告が入ったのだ」

 

この報告を聞くとどうやら幸いシャルティア達の事は知られていない事がわかり、俺とモモンガさんは安堵する。

 

「それが今回の騒動の最大の問題、白い暴君思われる存在の出現…何せ百年前の言い伝えなのであまり信用はできないが、すでに先日ギガントバジリスク4匹の遺体が確認された…」

 

「ギガントバジリスクが4匹も…!」

 

その後も他の冒険者を何度か調査に向かわせたのだが、全員が瀕死の重傷を負わせられるという事態に陥ってしまった。

中にはクラルグラ以外のミスリル級の冒険者チームも居たらしいが彼らも同じように叩きのめされ、今も寝たきりだという。そこで『白い暴君』と互角と言われた『森の賢王』を倒し、シモベにしたモモン達『漆黒』と高名な薬師であるリィジー・バレアレの孫であるンフィーレアを狙ったズーラーノーンの12高弟の内二人を返り討ちにしたというレイヴン達『黒鉄』に白羽の矢が立った。他にもチームを呼ぼうとしたが先述の事件により今動ける銅、銀以上の冒険者チームは漆黒の剣しかいなかったので彼らも呼び出されたのだ。

 

「無茶な話だということは重々承知している。現状でこの調査がやれる者達は君達しかいないのだ、どうか前向きに検討してほしい…」

 

「分かりました。お引き受けしましょう」

 

「承知…」

 

「俺達も行きます、何ができるかわからないですけど…」

 

俺とモモンガさんと漆黒の剣が依頼を引き受ける意を示したがイグヴァルジは少し考えている様子だ。

先の件により俺個人としては来てほしくないが…。

 

「感謝する…それで、イグヴァルジ。君はどうする?」

 

「お、俺は……!」

 

イグヴァルジが少し考えた後、イグヴァルジも依頼を引き受ける意を示した。

 

「お、俺も行くぞ!こんな新参者と格下どもなんぞに任せておけるか!」

 

(あれ声が完全にビビってますよね…?)

 

(ビビってますね~)

 

(無理して来なきゃいいのに…)

 

(本当ですね~)

 

「そうか、わかった。それでは諸君、改めて感謝する!それでは、解散!」

 

(マシンナーさんちょっといいですか?)

 

(え?どうしました?)

 

組合長の言葉の後にモモンガさんが話しかけてきたので俺はその話を聞くために俺はモモンガさんに付いていった。

 

 

 

 

「来たかレイヴン」

 

「すまない、待たせたな」

 

「いや、我々も今来たところだ」

 

俺がシズたちを連れて集合場所に来るとモモンガさんとナーベラル、そしてハム助が来ていた。

それから少し経ってから漆黒の剣の面々も来た。

 

「遅くなってすいません」

 

「いえ、我々も今来たところです」

 

「こちらもだ」

 

「またモモンさん達と共同で依頼ができて嬉しいです」

 

「モモン氏とレイヴン氏の強さの一端を見れる機会がまたできて光栄なのである」

 

「よおナーベちゃん半刻ぶり~、寂しかった?」

 

「その舌引きちぎって焼いて食わせますよ?」

 

「……ナーベ、汚い言葉、ダメ」

 

「舌がなければ上手く食べれませんよ?」

 

(違うアルティマ、そうじゃない…)

 

このやりとりも段々風物詩になりつつあるな…。

 

「そう言えばモモンさん、ハム助さんに『白い暴君』の事は聞きましたか?」

 

「ええ、ニニャさん。先ほどハム助から聞きました。どうやら言い伝えは事実だったようです、ハム助」

 

ニニャの言葉にモモンはハム助の方を向き、『白い暴君』の事を話すように促す。

ハム助もモモンの意図を察し、黒鉄と漆黒の剣に『白い暴君』の事を話し始めた。

 

「殿の言う通り皆様方呼んでいる『白い暴君』と某は何度も牙を交えたでござる」

 

(お前のは牙じゃなくて歯だろ…)

 

「あやつの性格は普段はそこまで凶暴ではないのでござるが、狩りになると獲物をいたぶるように殺す趣味の悪いの所があったでござる」

 

「想像してたけどやっぱり恐ろしい奴だな…」

 

「ますます気を引き締めていかないといけないであるな…」

 

その後俺たちは談笑しながらあのイグヴァルジ率いるクラルグラを待つことにしたのだが、30分位経っても一向に現れない。まあその間に出立の準備は整えたからただ無駄な時間を過ごした訳ではないが…。

 

(遅いな…)

 

(なんかあったんすかね?)

 

「何かトラブルでもあったのか?」

 

「ん?おい、馬に乗ってこっちに向かって来てるのってクラルグラじゃないか?」

 

ルクレットが指を指すと歩行者の事等眼中にないと言わんばかりに疾走してくるイグヴァルジを先頭に馬に乗った一団がこちらに向かってきた。

 

「やっと来たであるか…」

 

ダインがやれやれと言いたげな口調でつぶやいていると、到着したイグヴァルジが馬に乗りながら荒々しく口を開いた。

 

「遅せぇぞてめぇら!!なにチンタラやってんだとっとと行くぞ!!」

 

てっきり下手な言い訳でもするのかと考えたがこの暴論には流石にモモンとレイヴンは甲冑の中で眉を顰める。

 

(はぁ?)

 

(何を言ってるんだこいつ?)

 

「お、おい!リーダー!?」

 

「な!待ってください遅れたのは貴方達でしょう!?」

 

「うるせぇ!弱小の金プレートの分際で口答えするな!!やる気がねぇなら帰りやがれ腰抜けどもが!!」

 

「もうやめろリーダー!」

 

「うるせえ!お前はすっこんでろ!」

 

思わずニニャがイグヴァルジに反論するもイグヴァルジは更に暴論を吐き捨てる。

イグヴァルジの暴論に思わずクラルグラのメンバーの一人はイグヴァルジを諫めようとしたが、そんなの知るかと言わんばかりにレイヴン達に喚き散らす。

 

「臆病どもが!そんなに行きたくないなら荷物運びでもしてろ腰抜けどもが!!ふん!行くぞ!」

 

「あ!リーダー!」

 

「すまねえアンタら…」

 

謂れのない文句を言いたい放題にいって最後に荒々しく鼻を鳴らし、馬を走らせる。

他のメンバーはレイヴン達にイグヴァルジの代わりに謝罪しイグヴァルジの後を追った。

 

「な、なんだよあの人…!自分が遅れたのに棚に上げて!」

 

「なんであんなのがミスリル級なんだよ?ワーカーの間違いじゃないのか?」

 

「やれやれ、先が思いやられるのである」

 

「ちゃんと我々と共にする気があるのでしょうか……!?」

 

(やれやれ、依頼中にあそこまで露骨に嫌悪感丸出しにするとは…)

 

(感情が抑圧されてなかったら今頃顔面に一発かましてましたよ全く…)

 

先ほどのイグヴァルジの態度に漆黒の剣のメンバーは大きな嫌悪感を抱き悪態を着く。

モモンとレイヴンも<伝言>で愚痴をこぼす。

 

「はぁ…皆さん気を取り直して行きましょうか」

 

「ああ、早く行こう」

 

モモンは「ハア…」と息を着きながら他のメンバーに出発を促し、レイヴンも賛成する。

二人の言葉にニニャとルクレットはその意見に噛みつく。

 

「モモンさん?でも…!」

 

「良いんですか?あんな理不尽なこと言われて?」

 

二人の意見を聞き、モモンとレイヴンの二人の方を振り向き言った。

 

「勘違いしないでくれ、今言いだしたら無茶苦茶言ってしまいそうなんだ」

 

「皆さんの気持ちはわかります、正直不快にも思っていますよ、ですが今はそれより依頼があります、依頼が終わって彼の事を組合に相談しましょう」

 

「俺も同じだ。正直野郎の顔を馬のケツの穴の中にぶち込んでやりたい位だよ」

 

「二人ともモモン氏の言う通りである」

 

「この依頼が終わったら気晴らしにここにいる全員で酒でも飲んでパァーっやろうぜ?」

 

「そうだな…モモンさんの言う通りだな」

 

「そうですね」

 

仲間の言葉もあってかルクレットとニニャも気を取り直す。

そこにナーベがレイヴンに近づき…。

 

「レイヴンさ……ん、そのあの身の程知らずのナメクジの顔を馬の中に入れる役目私が…」

 

「え?」

 

「いえ、僕にお任せを」

 

「二人とも駄目……馬が可哀想」

 

ナーベの後にジナも手を上げるが、マギーが二人を諫めた。

うん、そうだね。馬が可哀想だからやめてあげよう。いや、言いだしたの俺だけどさ。

そんなこんなで改めて俺たちは出発したのだった。

 

(まあ何も言わないけど悪戯はしないとは言ってない)

 

(マシンナーさんやっちゃってください!)

 

(アイアイサ~)

 

(一時停止(ポーズ)、ガッシャーンってね?)

 

俺は自分の所持するスキルの一つ《一時停止(ポーズ)》を使う。

これは一日に使える回数に限りはあるが時間を停止させることができる。

時間停止だけでなくこのスキルが発動している間に敵を倒した場合、その相手は低位の蘇生魔法では復活できない。

 

(まあ今は殺さないけどな)

 

俺は馬で疾走しているイグヴァルジの所まで転移し、イグヴァルジに近づき、油性ペンを取り出す。

 

「赤白帽を笑うもの赤白帽に泣くってな?」

 

そして俺はイグヴァルジの顔と頬に「肉」の字を書き込んだ。

 

「肉と書かれて気づいた仲間に笑われやがれ」

 

そして俺はまた転移し、モモンガさんの元にまで行き《一時停止(ポーズ)》を解いた。

 

「リスタートだ…」

 

時間停止が解除され他のメンバーや町の住民も動き出す。

 

(マシンナーさん、やったんですね?)

 

(額と頬の肉の字を書いてやりました(笑))

 

(ブフォwww)

 

この後イグヴァルジは笑うのをこらえる仲間の指摘に顔の落書きに気付き、急いで落そうとしたが、中々取れず追いついたレイヴン達にもそれを見られてしまうのであった。

 

残念だが自業自得である。

 

 

 




スキル解説:一時停止(ポーズ)
マシンナーが使うスキルの一つ。一日に使える回数に限りはあるが時間を停止させることができる。また時間停止だけでなくこのスキルが発動している間に敵を倒した場合、その相手は低位の蘇生魔法では復活できない。

元ネタは仮面ライダークロノスの能力であるポーズからとりました。


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第47話 白い暴君2

エ・ランテルから出発して数時間後、辺りは夕方になり、レイヴン達は見晴らしの良い高原でテントを張り野宿をしている。その内『漆黒』『黒鉄』『漆黒の剣』は隣り合うように設置されているが、イグヴァルジの『クラルグラ』だけはその3チームから大きく離れたところにテントを設置しており、丁度夕飯の準備の真っ最中であった。

 

「予定では明日の朝一番にはつきたいですね」

 

「ええ、しかし『漆黒の剣』の人達だけならまだしも……」

 

「イグヴァルジの野郎っすよね…こっちの歩調に全然合わせる気無しですし…」

 

「今後の事を考えると……」

 

「あの時の話と同じ方向で行きますか?」

 

「ええ、ナザリックに連行するつもりです、今のところは」

 

「了解、で待遇の方はどうするんです?」

 

「そうですね……あの男にはナザリックの食糧問題の解決に貢献させるつもりです」

 

「なるほど……『肉』だけにですか?」

 

「ンフw、止めてくださいよ、折角我慢してたのに(笑)」

 

「全然取れてませんでしたね?(笑)描いたの俺っすけど!」

 

「ンフフフフフフ!」

 

先刻のイグヴァルジの横暴の仕返しにマシンナーはイグヴァルジの顔の額と頬に『肉』の落書きを描いたのである。それを知らずイグヴァルジは喚きながら馬を走らせていたが仲間の指摘に自分の顔の落書きに気付き、顔をこする等をして落そうとしたが全く消えず、結局この高原についても全く取れておらず、仲間からは顔を直視されてもらえず、他のチームからは笑いをこらえられる始末になっていた。

 

「あ、でも、できれば首か脳は貰ってもよろしいでしょうか?」

 

「肉体があれば別に構いませんが何に使うんです?」

 

「前に見たアニメで脳かもしくは首を生体パーツにして機械の体に繋いで兵器にするってのがありましてね、こっちでそれを再現しようかと」

 

「発想がマッドサイエンティストなんですがそれは…」

 

「面妖な変態技術者なので」

 

「なんですか面妖な変態技術者って…とりあえずは明日ですね、白い暴君とやらは一体どんなモンスターなんでしょうね?」

 

「森の賢王がハムスターだから白い暴君は猫でしょうか?」

 

「ああ~ありそうですね~」

 

そんなやり取りをしながら夕飯の支度を終えて、『漆黒』『黒鉄』『漆黒の剣』のメンバーで夕飯を囲む。

一応クラルグラも誘ったのだが、メンバーの一人が「飯の時にまで迷惑をかけたくない」という理由で断った。

 

「へぇ、よくここまでの物を…」

 

「ルクレットさんが作ったんですよ」

 

「ほう、では早速…」

 

怪しまれたら不味いのでレイヴンは兜を脱いで食事をとることにした。

兜を取るとき、漆黒の剣はやや目を瞠って見ている。無理もない、この前会ったときは素顔は見せてなかったのだ。

 

特に反応はしていないがモモンもレイヴンの素顔にやや気になっていた。

モモンと同じようにレイヴンも冒険者の時は現実世界の顔にしているのだ。

 

兜を取り、顔につけている面も取った。

 

(え?あれがマシンナーさんの人間だった頃の顔なの?こわ…)

 

素顔になったレイヴンの顔は強面で角刈りという、ヤの着く職業にでもいそうな顔だった。

 

「へぇ~モモンさんとあまり変わらねえんだな、おっさんだ」

 

「おいルクレット!失礼だろ?」

 

レイヴンの顔の感想を言ったルクレットにぺテルは注意をする。

レイヴンはそれを見て笑いながらこう返した。

 

「うるせえ、老けてるんじゃなくて熟年していると言え若造」

 

そして渡された食事に手を付ける。

 

「いただきます」

 

渡された食事を口に運ぶ、味は思いのほか美味い事にレイヴンは驚き、素直に称賛した。

 

「おお、中々いけるな」

 

「へへ、そうでしょレイヴンの旦那?」

 

「うめえなルクレットさん、冒険者辞めて定食屋開いたらどうだい?」

 

「ははは、嫁さんでもできたらそれもいいかもしれねえな、ねえナーベちゃん?」

 

「捻りつぶしますよナメクジ?」

 

「はい今日もナーベちゃんの冷たい一言頂きましたー!」

 

未だめげずにナーベにアプローチをかけるルクレットに苦笑するレイヴン。

 

「タフだねぇ」

 

「へへ」

 

「違いますよレイヴンさん、タフというより馬鹿なだけです」

 

「おいおいそれはないだろニニャ?」

 

「いや、ニニャが正しいである」

 

「ダインもかよ!」

 

ハッハッハ!と大笑いする漆黒の剣を見て、モモンが彼等を気に入った訳をレイヴンは改めて理解した。

 

「そう言えばレイヴンさん達の関係ってどういった関係なんです?」

 

不意にぺテルが振ってきた話題に、レイヴンは食事の手を止める。

 

「ん?」

 

「確かマグノリアちゃんはナーベちゃんの姉妹で、レイヴンさんはモモンさんの戦友で…」

 

「ジナイーダ氏はどういう繋がりであるあるか?」

 

「知り合いの子供とか?」

 

「ん~?コイツはな…」

 

そういうとレイヴンはジナイーダと目線を合わせる。

ジナイーダはこくりと頷き、レイヴンも頷いた。

 

「旅の途中でコイツが倒れていたのを見つけてな、それがコイツとの出合いだ」

 

「へぇ」

 

「でも何故倒れてたんですか?」

 

「話を聞くと、奴隷売買で売られそうになったんだが隙を見てその売人を刺して逃げてきたらしい」

 

「マジか、凄いな」

 

「最初は俺にも警戒心剥き出しだったよ、まあ仕方ないが」

 

「その後は色々あってなんとか心を開いてくれてな、今では良き相棒の一人だ」

 

「えへへ…」

 

「確かに昼間のは凄かったな…」

 

昼間の午後3時辺りに、顔の落書きの件で苛立ちを抑えられないイグヴァルジが漆黒と黒鉄と漆黒の剣に半ば八つ当たりで喚き散らしていた。

流石にこれは見過ごせなかったのか、他のクラルグラのメンバーが総出で止めに入ったが、その制止を聞かずに喚き散らす。しかしレイヴンが凄まじくドスの利いた声で、「それ以上謂れのない文句を言うんなら前歯全部へし折るぞ?」と警告した。その一言にイグヴァルジ以外のメンバーは本格的にこれは不味いと思い力ずくでイグヴァルジを連れ戻そうとするが、癇に障ったイグヴァルジは仲間の拘束を振りほどき、レイヴンに殴りかかったのだ。

しかし横からジナイーダがイグヴァルジの横っ面に飛び蹴りを叩き込まれイグヴァルジは気絶したが、ジナイーダは絶対零度の殺意を込めて「殺しますか?」とレイヴンに問うとレイヴンは「そんなモンスターのクソ以下の奴殺す必要もない」と言ってジナイーダを抑える。

一瞬の静寂の後我に返ったクラルグラのメンバーは漆黒と黒鉄と漆黒の剣に謝罪し気絶したイグヴァルジを抱えて

自分達の野営地に戻っていったのだ。

 

その後レイヴン達は夕飯を食べ終え、交代をしながら就寝をした。

一方レイヴン達のテントから大きく離れたクラルグラのテントの内、イグヴァルジがいるテントの中が何故か光っていた。

 

「り、リーダー……フフっ、せめて…ンフっ!顔はか、隠してくれ!眩しいんだ…ブフっ!」

 

何故かイグヴァルジの額と頬に描かれていた『肉』の字が黄色く発光しており、それをクラルグラのメンバーが笑いをこらえながらリーダーに顔を隠すように頼む、メンバーに指摘されたイグヴァルジは大きく怒鳴った。

 

「うるせえ、黙ってとっとと寝ろ!!!」

 

その後、他のメンバーもイグヴァルジと交代する時、顔を見た瞬間大きく噴き出し、イグヴァルジは顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていたという。

あの時レイヴンがイグヴァルジに使ったペンは洞窟や暗い所にメッセージや合図を残すために使う魔法アイテムのペンだった。

明るいところでは只の文字だが、暗闇だと文字が発光するのである。

 

まだ日も出てない早朝、レイヴン達は朝食を済まし、野営のテントを片付けて目的地に出発準備を始める。

遠く離れたクラルグラが居る場所ではイグヴァルジが顔の落書きを黄色く光らせながら喚いている。

 

「なあ、なんであいつ顔が光ってんだ?」

 

「言うなよ、意識しないようにしてたのに…」

 

「ニニャ、何か知ってるであるか?」

 

「いえ、知らないです」

 

「皆さん、お気持ちはわかりますが急ぎましょう…ㇷㇷ」

 

イグヴァルジの顔に疑問を抱く漆黒の剣にモモンは笑いをこらえながら出立の準備をし、暫くしてそれを終え、クラルグラを先頭に出立したのだが不意にレイヴンが「あいつ先頭に立たせたら、ライト代わりになるな」と言ったらモモンと漆黒の剣はイグヴァルジにばれないように小さく笑ってしまったのは仕方ない。

 

 

 

 

出発して、午前10時の頃に目的の森林にレイヴン達は到着する。

漆黒と黒鉄と漆黒の剣は共に調査を開始したのだがクラルグラは到着してすぐにレイヴン達と別行動を始める。

 

「リーダー、やっぱり協力して調査したほうが…」

 

「うるせぇ!あんな新参と格下共に手柄を取られてデカい顔されてたまるか!!」

 

「リーダー……」

 

クラルグラのメンバーの一人が依頼完遂の効率を高めるためイグヴァルジに他のチームとの協力を提案するがすぐに突っぱねられてしまう。そんなイグヴァルジに他のメンバーもため息をついていた。

 

「いつにも増して荒れてるな…」

 

「仕方ねえよ、この前デビューした冒険者チームが僅かな日数で俺達と同じミスリル級になったんだ、リーダーが荒れるのも無理ない」

 

「けどいくらなんでもあの態度は拙いだろ?只でさえ俺達あまり良いイメージ持たれてねえのによ…」

 

メンバーの言う通り、クラルグラはミスリル級としても文句なしの腕前を持つ冒険者チームだが、リーダーであるイグヴァルジの横柄な態度のせいで組合は勿論、一般人からもあまり良いイメージを持たれていない。

イグヴァルジ以外の他のメンバーは冒険者として今後の事を考えると、このままでは拙いと思っていた。

 

「昨日の事を見て今後の事考えると、改めてリーダーにはもう少しミスリル級としての自覚持ってもらわねえとこの先拙いぞ?」

 

「昇級はおろか、ミスリルから降格させられかねねえよな……」

 

「笑えねえぞそれ…」

 

リーダーの今の状態ではなにか功績を上げたとしてもオリハルコン級にはまず昇級できない。

しかも今話題の2チームがこの先更に功績を上げればワーカー並みに評判の悪い自分達の立場が確実に危うくなる。

そんな心配とは別に悩みの原因であるイグヴァルジは遅れているチームメイトを見て怒声を上げる。

 

「おいなにボサっとしてやがるお前らとっとと行くぞ!!!」

 

「……ああ」

 

イグヴァルジの怒声にため息交じりで答えながら他のメンバーも歩みを進めるのであった。

 

 

(モモンガさん、確かこのあたりに…)

 

(ええ、カジットが言っていたズーラーノーンの隠しアジトがある筈です)

 

(なんだかんだで復活させて良かったですねアイツ)

 

(ええ、研究にも期待できそうです)

 

先日復活させたカジットから得た情報によるとこの森林の地下にズーラーノーンの隠しアジトが存在するらしく。

規模もそれなりにあると言う。自分達の評価を上げるには丁度いい獲物だ。しかし問題もある。

 

(白い暴君はどうしますか?)

 

(ああ、それなら俺達が何とかしますよ)

 

(わかりました、頼みます)

 

「皆さん、ここからはそれぞれのチームで一旦別れて調査しましょう、けどハムスケは漆黒の剣の皆さんと同行させます」

 

モモンは各チームに分かれて調査をする案を提案する。

漆黒の剣にハムスケを同行させたのは戦力を偏らせない為の措置だ(すでに偏っているが)

 

「わかりました」

 

「わかった、皆気をつけろよ」

 

 

 

 

「アインズ様、何故ハムスケをあの者たちに同行させたのですか?」

 

「我々とマシンナー達と比較して漆黒の剣は弱い、だが彼等を生かしておいたほうがまだメリットがある。組合長が言っていた白い暴君とやらに遭遇してもその魔獣と互角だったハムスケが居ればそう簡単にはやられない筈だ」

 

「なるほど、理解いたしました」

 

ナーベラルがアインズに何故ハムスケを漆黒の剣に同行させたのかの理由を聞いている間に目的地であるズーラーノーンの隠しアジトに近づいていた。

 

「ナーベラル、そろそろ目的地だ。気を引き締めろ」

 

「はっ…」

 

そしてズーラーノーンの隠しアジトに着いたアインズ達だったが、予想外な事が起こっていた。

 

「なんだこれは……」

 

隠しアジトは確かにあった。しかし、周辺にはズーラーノーンの構成員と思われる者たちの死体が散乱している。

 

「何者かに先を越されたようですね」

 

ナーベラルの言葉に獲物を横取りされた事への苛立ちと誰がやったかという疑問で溢れていた。

 

「見ればわかる。だが一体誰だ?クラルグラだけでは殲滅は出来ない筈」

 

確かにクラルグラはミスリル級の冒険者だが、少なくとも一チームでこうも短時間で殲滅できるわけがない。

そう考えているとナーベラルが何かを察したのか、アインズに警告する。

 

「モモンさーーーん、来ます」

 

ナーベラルの言葉の後に隠しアジトの扉からフードを被った者達が5人現れる。

一番先頭に居た者は何か袋を持っていた。

 

「何者だ、見たところズーラーノーンではなさそうだが…」

 

モモンがその集団に言葉をかけるが、先頭の者は機械的に喋る。

 

『ミスリル級冒険者二名……発見』

 

『回収する』

 

そういうと後ろに控えていた者達がモモン達に襲い掛かった。

 

「やれやれ、いきなりか」

 

「モモンさ────ん、ここは私が」

 

ナーベが先頭のリーダーらしきものに電撃の魔法を放ち直撃するが、全くの無傷であった。

 

(!、電撃を喰らって無傷だと?)

 

『反射』

 

そういうと、手を正面にかざすと電撃をそのまま発射した。

 

「何!?」

 

モモンとナーベはすぐに回避するが、モモンはそれを見てあるものを思い出した。

 

(今の光、まさか魔法反射装甲か?)

 

モモンは急いでレイヴンに<メッセージ>を送る。

 

(マシンナーさん、ちょっと問題が起きました)

 

(どうしたんです?)

 

(先ほどズーラーノーンの隠しアジトに着いたのですが、ズーラーノーンは殲滅されてました)

 

(なんですって?)

 

(更に謎の集団が現れ、今交戦しています。そこまで脅威というわけではないのですが問題が)

 

(どうしたんです?)

 

(はい、しかも魔法反射装甲を装備していました)

 

(え?本当ですか?)

 

(はい、とりあえずコイツらを倒して詳しく調べます)

 

(わかりました)

 

「……マシンナー様」

 

「どうしたシズ?」

 

「……あっちに反応…あり」

 

「何?」

 

シズが指を刺した方向を警戒しながら進んでいくとそこにはあのイグヴァルジが率いるクラルグラのメンバーの一人が腕から血を流して倒れていた。

 

「あ、アンタら…」

 

「お前クラルグラのメンバーか?一体どうした?イグヴァルジは?」

 

レイヴンはそのメンバーに青いポーションを飲ませて回復させる。

回復したメンバーはレイヴンに感謝の言葉を述べた後、先程まで起こった事を全て話し始めた、

 

「リーダーは…アイツは俺を置いて…逃げやがったんだ!」

 

「何?何があった?」

 

そのメンバーの説明によると、クラルグラが別行動で探索しているときにに何者かに奇襲をかけられたのだという。クラルグラは即座に戦闘態勢に入ったが自分とイグヴァルジ以外のメンバーは瞬く間に殺されてしまい、自身も負傷してしまった。そしてリーダーのイグヴァルジは負傷した仲間を置いて尻尾を巻いて逃げ出して言ったという。

 

(?メッセージ?ニグレドか?)

 

再びマシンナーにメッセージが届く。

メッセージの送り主はナザリックにいるニグレドだった。

 

(マシンナー様)

 

(ニグレドか?どうした?)

 

(今、ハムスケが居る地点にハムスケと同じレベルのモンスターが向かっております)

 

(何?わかった、すぐに向かう)

 

「マギー、ジナイーダ、お前たちは一旦森の外まで出ろ、俺は他のチームを探してくる」

 

「わかりました」

 

「…了解」

 

「す、すまねえ迷惑かけっぱなしで…」

 

「気にするな、困ったときはなんとやらだ」

 

「ではア…僕たちはこの方を森の外まで運んだらすぐに戻りますので」

 

「ああ、頼む」

 

「お任せください、行くよマギー」

 

「……了解」

 

 

 

 

 

 

その頃、漆黒の剣とこれに同行していたハムスケ達も探索を始めていたが、その途中にハムスケが何かを感じ取ったのか険しい顔になる。

 

「むむ!」

 

「どうしましたハムスケさん?」

 

「……静かに、何かがこちらにくる気配がするでござる」

 

「なんだって?」

 

ルクレットはすぐに地面に耳を当て、ハムスケの言う通り何かがこっちに向かってくるのを感じ取る。

 

「……森の賢王様の言う通り、何かがこっちに向かってくる足音がする。しかも足音から察するにデカいぞコイツは!」

 

「!……皆様方!、下がるでござる!!」

 

「え?は、はい!」

 

「皆、急いでハムスケさんの後ろに!」

 

「ジャアァァァアァァァア!!!」

 

ハムスケの指示で漆黒の剣は後ろに下がり、武器を構える。

すると次の瞬間、茂みから巨大な何かがハムスケに攻撃を仕掛けてきた。

 

「ぬうぅ!?」

 

ハムスケは尻尾でそれをいなし、出てきた存在と対峙する。

 

「ふふ…フフフフフフ!!」

 

目の前にはハムスケを上回る巨体、凶暴なモンスターすら逃げ出すような貌、雪のような白い毛皮、目は血のように赤く鋭い、それを支える長い前脚。

 

その姿は巨大な白いイタチだった。

白い暴君はハムスケの姿を見ると次の瞬間、大きく高笑いする。

 

「ハーハッハッハぁ!!久りぶじゃのう大鼠ぃ?」

 

「……やっぱりお主でござったか白いの」

 

ハムスケは警戒と腐れ縁を見つけたような声で喋る。

しかし、ハムスケの言葉を聞いた漆黒の剣は目の前の魔獣がかの伝説の魔獣だとわかり驚愕する。

 

「白い?じゃあまさか!」

 

「あれが……『白い暴君』!!」

 

「見た目は言い伝えそのものだけどよ………実物はそれ以上だぜあれは…」

 

「なんという威容…!?かのハムスケ氏と同格と言われたのも頷けるのである!」

 

漆黒の剣の反応を見た白い暴君は機嫌がよさそうに笑う。

ハムスケは警戒をしながらかつての知己に今回の騒動について尋ねる。

 

「ほう、儂の名もそれなりに知られておるようじゃのう?」

 

「白いの!この度の騒動はお主が原因でござるか?」

 

ハムスケの質問に顔を振りながら、白い暴君はハムスケに答える。

しかし、ハムスケは信用ならないという顔で白い暴君に再度質問する。

 

「ん?ん~?そうじゃのう、半分はあっちょるなぁ。確かに儂を見つけて身の程知らずに攻撃してきた馬鹿な冒険者共は返り討ちにはしたが、数える程しか攻撃しておらんぞ?後は別の奴らの仕業じゃぁ…」

 

「某がそんな嘘信じると思っているでござるか!?」

 

そんなハムスケに白い暴君は半ば呆れたような顔をするが、律儀に答えた。

 

「おいおい百年経ってから随分喧嘩っ早くなったのう大鼠?確かに儂らの関係は血で血を洗う腐れ縁じゃが、儂はおどれにホラを吹いたことは一度もないじゃろ?ん?」

 

「むぅ……」

 

完全に信じたわけではないが、ハムスケは多少納得する。

そして白い暴君は今回戻ってきた理由をハムスケに話す。

 

「……本当に違うんでござるね?」

 

「本当に嘘じゃないわい」

 

「それにな?儂が戻ってきたのはおどれとまた仲良う殺し合う為に戻ってきたんじゃ、というかおどれ…」

 

白い暴君は懐疑的な目で、ハムスケと後ろにいる漆黒の剣を見渡し、疑問に思ったのかハムスケに問いかける。

 

「なんで人間とつるんどるんじゃ?少なくともそがな奴等おどれの敵じゃなかろう?」

 

「……某はモモンと言う偉大な冒険者と出会い、その御方を殿と呼び生涯忠を尽くすと決めたのでござる!」

 

白い暴君はハムスケの答えに若干驚くが、すぐに元の表情に戻り更に追及する。

 

「……まさかおどれ、そいつに負けたんか?」

 

「そうでござる!清々しい位の完敗でござった!!」

 

ハムスケは立ち上がり、胸を張って堂々と叫んだ。

 

「胸を張って言うことじゃなかろうが…だが…」

 

「おどれに勝つ奴がこの辺りに居たとはのぉ?気になるのぉ…」

 

白い暴君はハムスケの堂々ぶりに若干呆れながらも、すぐに好戦的な笑みを浮かべ、あることを思いついた。

 

「よし決めたで!おどれを倒してそのモモンという奴に果たし状を叩き込んだるわ!!」

 

「そんな狼藉、某が許さないでござる!殿の前には絶対に行かせないでござるよ!!」

 

白い暴君の発言にハムスケは再び臨戦態勢に入る。

 

「くっくっく、構えろ大鼠?百年ぶりに仲良う殺し合いをしようや?」

 

そういうと白い暴君はその大きな両手を横に広げ立ち上がる。

それを見たハムスケは蛇のように長い尻尾を鞭のようにしならせる。

 

「容赦しないでござるよ!!」

 

「フフフフフフ!!来いぃぃぃ!!」

 

白い暴君の叫びにハムスケは答える形で回転を加えて尻尾を打ち付ける。

その攻撃を白い暴君は両腕で受け止めた。

 

「衰えてはおらんようじゃのう!安心したわぁ!!」

 

白い暴君は歓喜の声を上げながら、右前脚を豪快に振るう。

ハムスケはそれをすぐに避け、尻尾を白い暴君の首に巻き付ける。

 

「それはこっちも同じことでござる!」

 

「ぬぅ!?」

 

そしてハムスケは白い暴君を尻尾で巻き付けたまま、ジャイアントスイングの要領で思いっきりぶん投げた。

 

「でえりゃあぁぁあぁぁ!!」

 

投げ飛ばされた白い暴君は木々をなぎ倒しながらも着地し、再びハムスケに突っ込んでいった。

 

「けっ!相も変わらず鬱陶しいミミズのような尻尾じゃのう!」

 

白い暴君は苛立ちながら前足を高速で何度も振るう。

 

「なんの!」

 

ハムスケはそれを何とか躱して行くが、その連撃が直撃した地面や木々は穴が開き、吹き飛ばされていく。

 

(!相変わらず馬鹿力でござるね…)

 

「おおっと!魔法は使わせんぞ!そんな隙与えんわ!!」

 

ハムスケは得意の魔法を使おうと隙を伺うが。

白い暴君もそれは知っており、発動させまいと攻撃を仕掛ける。

 

「ルクレット!」

 

「ああ!」

 

ぺテルに促されたルクレットは弓を向け、白い暴君に放つ。

しかし白い暴君はそれを軽く弾き飛ばした

 

「ぬ!?」

 

「皆様方!」

 

「僕たちも戦います!」

 

「例え倒せなくても」

 

「隙位は作って見せるのである!」

 

ハムスケと共に立ちふさがった漆黒の剣を見て白い暴君は苛立ちを隠そうとせずに咆哮を上げる。

 

「邪魔すんじゃねえぞおどれらぁ!!!」

 

 

 

 

「ふん!」

 

『……』

 

突如現れた謎の集団とモモン達、『漆黒』は戦闘に突入した。

戦闘力自体は『漆黒』の方が上だが、連携は侮れないものがある。

 

(先程から気になっていたがこの身体能力、やはり人間ではない。だがアンデッドでもない、ならコイツらは?)

 

モモンの言う通り、身体能力も並みの人間を超えており、モモンの動きにも着いてきていた。

 

「少し本気を出すとするか…!」

 

モモンは先程よりも凄まじい速さで斬りかかる。

 

「はぁ!!」

 

「…!」

 

斬撃はそのまま相手に当たり、刃がめり込んだ。

 

「まずいった…」

 

そのまま次の相手に切り込もうとしたが、先程斬った相手が立ち上がり、モモンに踊りかかった。

 

「何!?」

 

『損傷軽微、戦闘続行可能』

 

「ふん!」

 

モモンはすぐに力任せに引きちぎり、地面に叩きつける。

しかし、次の相手が飛びかかるがナーベが首を切り飛ばした。

 

「モモンさん!」

 

「すまない、ナーベ」

 

「いえ、しかし偶然とはいえモモンさんの一撃をまともに喰らっても生きてるとは…」

 

「ふむ、ますます気になるな」

 

モモンは集団を調べるために迅速に排除することを決意する。

 

「ナーベ、これから切り込む魔法を使い援護しろ」

 

「はっ!」

 

モモンの指示にナーベは了承し、集団の前に立つ。

ナーベは第五位階の魔法<|雷撃〈ライトニング〉>を謎の集団の一人に向けて発動する。

謎の集団の一人はすぐに防御態勢を取り、<|雷撃〈ライトニング〉>を防御をし、すぐに反射しようとするが、モモンはその隙を突き、首を斬り飛ばす。そして残りの2名もそのまま切り伏せた。

 

「よくやったナーベ」

 

「ありがとうございます、モモンさん」

 

「……それにしてもどういう身体をしてるんだコイツは?」

 

モモンは切り伏せた相手の身体を掴み。着ていた衣服を脱がす、するとモモンは驚きの声を上げた。

 

「!、なんだと、これは…」

 

 

 

 

「ぬぅぅうん!」

 

「おわぁ!」

 

漆黒の剣の援護を得て、先程と比べ僅かながらハムスケが優勢の状態であったが、それでもハムスケにとっては強敵に変わりない。

 

「ぐっ…(何とか隙を見つけて魔法が使えれば)」

 

ハムスケは何とか魔法が使える機会を伺いながら戦う。

そこにニニャの魔法の矢が白い暴君の顔に命中し、白い暴君は一瞬だけスキを見せる。

 

(今でござる!)

 

ハムスケはこの隙を見逃さず、得意の〈全種族魅了〉を発動しようとしたが…。

 

「<縮地>」

 

その瞬間白い暴君は一瞬でハムスケの至近距離に瞬間移動した。

 

「!」

 

「〈斬撃〉」

 

更に武技を発動させハムスケを爪で切りつける。

ハムスケは咄嗟に避けた為皮一枚切らせるだけで済んだが僅かばかり血を流していた。

 

「ぐっ!」

 

「なっ!あの魔獣…」

 

「武技を使えるのか!」

 

白い暴君が武技を使った事に漆黒の剣は驚愕する。

 

「くくく、伊達に百年も森林から出てたわけではない」

 

「くっ…」

 

「冥途の土産じゃ、とっておきを喰らわせたる」

 

そう言うと白い暴君は右前脚を横に伸ばす。

すると右前脚が白く光り始めていた。

 

「<鎌居太刀>!!」

 

白い暴君は勢いよく右前脚を振り下ろす。

次の瞬間、見えない衝撃波の刃がハムスケを襲った。

 

「ぎゃあああああ!ぐぐ…」

 

白い暴君の武技を食らったハムスケは木々をなぎ倒しながら吹っ飛ばされる。身体中に傷を負いながらもそれでも立ち上がる。

 

「立っていられるのは流石だな、だが…」

 

ハムスケのタフネスを褒め称えながら白い暴君はハムスケに近付く。

 

「これでしまいだ!…っとその前に…」

 

そして尚も白い暴君に向かって攻撃を加えようとする漆黒の剣のメンバー達を力任せに吹き飛ばす。

 

「ふん!!」

 

「ぐあ!」

 

「くぅ!」

 

「さて外野も静かになった。これで…」

 

そして両前脚をハムスケの首目掛けて振り下ろそうとする。

 

「最後じゃあ!!」

 

振り下ろそうとした瞬間レイヴンが白い暴君に斬艦刀で斬り掛かった。

 

「おおぉぉおらああぁぁぁ!!」

 

「!?」

 

白い暴君はそれを回避し、目に止めを邪魔された苛立ちを込めながらレイヴンを睨みつける。

 

「お、御屋形様ぁ!!!」

 

「誰じゃあ…?おめぇ?」

 

「そいつの主人のダチのレイヴンってもんだ。白い暴君ってお前の事……」

 

斬艦刀を構えなおしハムスケの前に立ったレイヴンは白い暴君の姿を見て、唖然とした。

 

(あれ?なんかコイツ、アレに似てね?ガ◯バの冒険のラスボスのデカいイタチ、名前は確か…)

 

暫く考えた後、レイヴンは思い出したのか手をポン、と打ち喋りだす。

 

「…お前さん、ノ◯イって言う名前のイタチの子孫?」

 

「おどれ儂の喧嘩の邪魔しておいて何を抜かしとるんじゃボケェ!!」

 

 

 

 

「機械が埋め込まれた身体…だと?」

 

謎の集団の一人をモモンが調べると、その者の体内からは歯車や金属製の骨格。

本来なら心臓がある部位には四角い形をした動力装置のような物が入っていた。

 

「サイボーグだと言うのか?だが今のこの世界の技術力でこんな…ましてマシンナーのマキナにもこのタイプの者は居なかった、一体これは…」

 

モモンが様々な疑問を思い浮かべていると、調べていたサイボーグの動力装置のような物が突如として光りだし始めた。

 

「しまっ…!」

 

モモンが言いかけたその瞬間、動力装置は閃光を発しながら爆発した。




コメント欄の中にイグヴァルジの今後を当てる人が居て、この人、ニュータイプか?と本気でビビりました。


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第48話 白い暴君3

今回は少し長めです。


「はぁっ、はぁっ、はぁ!」

 

広大な森の中をイグヴァルジは走っていた。

先程、仲間たちが謎の集団に瞬く間に殺され、負傷した仲間を見捨てて逃げていたのだ。

 

「俺は!俺は英雄になる男だ!こんなバカみてぇな死に方出来るかよ!!」

 

自らの願望を喋りながら全力疾走、持久力が切れたのか近くの木に手を置き、激しく呼吸をする。

 

「あいつを置いて来て正解だったぜ、良い時間稼ぎになってくれたぜへへっ」

 

わざと置いて逃げた仲間の事を思い出しイグヴァルジは笑う。

自分はこんなところで終わる男ではないのだ、自分が王国一の英雄になればアイツらも喜んで成仏してくれるだろうと馬鹿な事を考えながらニヤけるイグヴァルジ。

 

「へへへ…とりあえずこの森から抜け出して組合に上手く話せば……ん?」

 

しかし、幸運はそう長く続かなかった。

 

『…追跡対象発見』

 

『捕獲する』

 

「なっ!?」

 

「くそ!どんだけしつこいんだ!?」

 

イグヴァルジは罵声を上げながら剣を抜き、追ってきた者たちに斬りかかる。

しかし、やすやすと剣をかわされ、左足を切断されてしまった。

 

「ぎゃあ!」

 

イグヴァルジは無様に転倒し、斬られた左足を抑えながら絶叫する。

 

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!俺の、俺の足がァ!!」

 

『捕獲準備完了』

 

追跡者はそういうと棒状の武器を取り出す。先端には電流を帯びていた。

 

『捕獲する』

 

追跡者たちはゆっくりとイグヴァルジに近づく。

 

「ひぃ!来るな!来るなぁ!?」

 

恐怖に震え情けない絶叫を上げるイグヴァルジ。

もはやこれまでと考えていると、どこからか弓矢が2本飛んできて追跡者たちの頭部に当たり、矢の先端に仕込まれている爆弾が爆発し、上半身が爆散した。

 

「なん…だ?」

 

「命中…」

 

「ナイスショット」

 

イグヴァルジが矢の飛んできた方角を見るとボウガンを構えるマグノリアとジナイーダが立っていた。

 

「大丈夫ですか?って…」

 

「お、遅ぇぞ!!助けに来るならとっとと来やがれこのクソガキ!!?」

 

謂れのない文句をほざきながら睨みつけるが顔の肉の字と痛みで涙を流しているので、何とも情けなく見えた。

 

「「……」」

 

(助けない方が……良かった……?)

 

(それには同意だけど、コイツにはナザリックの食糧事情に貢献してもらわないといけないからね、今死なれたら困るよ?)

 

(…肉…だけに…?)

 

(うん、肉だけに)

 

「おい、なにしてやがる!早く俺を助け『うるさい』は?」

 

喚いているイグヴァルジにジナイーダは汚物を見るような目で、一蹴し。

マグノリアはイグヴァルジに麻酔用の矢を打ち、イグヴァルジを眠らせる。

 

「……寝てて」

 

「うっ…」

 

ジナイーダは眠ったイグヴァルジにを鳥型の<変形円盤機/ディスク・トランス・ロイド>を使って、森林の外まで移送させた。

 

「いこっか?」

 

「……うん」

 

気を取り直してジナイーダとマグノリアはレイヴンの下に急いで向かった。

 

 

 

 

「ぉらぁ!」

 

「ふん!」

 

白い暴君がその強靭な前脚を豪快にレイヴンに叩きつける。

それをレイヴンは斬艦刀を大剣形態にさせて受け止めた。

 

「儂の腕力と互角やと!?」

 

「悪いな、俺の方が……」

 

白い暴君は自身の突きをレイヴンが正面から受け止めた事に驚愕し、レイヴンは斬艦刀を豪快に振るい白い暴君を突き飛ばす。

 

「上だぁ!」

 

「ぬぅ!しっ!」

 

突き飛ばされた白い暴君はレイヴンに踵落としを叩き込む。

レイヴンは後ろに飛んでそれを回避した。

白い暴君は着地し、勢いを付けてレイヴンに体当たりを仕掛ける。

 

「おうらぁ!!」

 

「なんとぉー!」

 

白い暴君の体当たりを受け、後ろの大木に叩きつけられる。

白い暴君はその隙を逃さず、顔を上げてその大顎で喰らい突こうとするがレイヴンはその顔に右ストレートパンチを叩き込んだ。

 

「危ねぇ…なぁ!!」

 

「ぐぅ!」

 

レイヴンのパンチを受けて怯んだ白い暴君に立ち上がったレイヴンは追撃をかける。

肘から火が放出し、パンチのスピードと威力を上げる。

 

「<エルボー・ロケット>!」

 

「!、<要塞>!」

 

殴りかかってきたレイヴンに白い暴君は武技で防御力を向上させ、それを受ける。

レイヴンは構わず2発、3発と殴り続けた。

そこまで殴り続けられると流石に耐え切れなくなったのか白い暴君は後ろに跳躍をして距離を取る。

 

「!ぐぅ!、ぜぇぜぇ…おどれ、ただの人間じゃないな?」

 

「…ただの冒険者だ」

 

※スーパーロボットです。

 

「白い暴君と一対一で互角にやりあってる…」

 

「モモンさんと同等の力を持っているのは知ってたけど、実際に見ると本当に凄い…」

 

(…あれでもまだ御屋形様が全力じゃないことは言わないでおくでござる)

 

白い暴君と一対一で互角に渡り合っているレイヴンに漆黒の剣は驚嘆するが、レイヴンとナザリックで実際に戦ったハムスケはレイヴンがかなり手加減をしていることをすぐに察した。

 

「<ハンマー・パワー>!!」

 

レイヴンが両拳を打ち付け、電流を放電させる。

両腕には電流が帯電していた。

 

「!、なんやそれ、魔法か!?」

 

「そういう仕込みだ!」

 

レイヴンは電撃を帯びた拳を(勿論手加減と電撃の出力を落として)殴りつける。

拳の威力と電撃の威力に白い暴君は後ろに飛んで距離を取る。

 

「ちっ、面妖なモン使いおって…」

 

「面妖で結構だバーロー」

 

白い暴君は悪態を突きながら腕の長さのリーチを活かしながら前脚を何度も振るう。

レイヴンはそれを回避と斬艦刀の防御で直撃を防いだ。

 

(やっぱりハムスケと互角って言われた通り、力はそれなりに強いな、いや、腕力だけならハムスケより少し上か?しかも武技まで使えるとは……もう少し時間かけてこの魔獣の事調べたいけどさっきのモモンガさんの伝言も気になる、少し力を出してできるだけ早めに倒そう…)

 

防御をして攻撃を防ぎながら、速めに決着をつけようとレイヴンは決めたが、白い暴君は先程ハムスケに使ったオリジナルの武技を発動する。

 

「防御だけで儂に勝てるか!こいつを持ってけ!<鎌居太刀>!!」

 

「!、ぬお!?」

 

「吹っ飛べやぁ!!」

 

右腕が白く輝いた次の瞬間、白い暴君は勢いよく振り下ろし、白い衝撃波がレイヴンを襲った。

衝撃波はレイヴンに直撃し、大きく吹っ飛ばされ、地面に転がる。

 

「やったか?」

 

「…それ言ったら大抵失敗フラグに言うの止めとけ」

 

「うそ~ん…」

 

レイヴンは何事もなかったかのように斬艦刀を持って構えなおした。

白い暴君はレイヴンが何事もなく立ち上がった事に驚愕しながらも再び攻撃を始める。

 

「おどれえぇぇぇ!」

 

レイヴンは次に来た白い暴君の左前脚を受け止め、脇に抱える。

そしてジャイアントスイングの要領で振り回し始めた。

 

「うおおぉぉぉらぁ!!」

 

(儂を投げたじゃと!!?)

 

そして白い暴君を天高く投げ飛ばし、自身も跳躍し、白い暴君の所まで跳ぶ。

レイヴンは脚を白い暴君の首にギロチンのようにかけ体重をのせ、今度は落下する。

 

「地獄の……断頭台!!」

 

「ぐぅ…こんなの外して!」

 

白い暴君は自分の首にかけられている脚をどかそうともがくが、レイヴンはそれを無理やり制した。

 

「させぬわ!」

 

「ぬぅ!?」

 

そのまま凄まじい勢いで地面に激突した。

衝撃と共に砂煙が舞う。

砂煙が晴れると、レイヴンの脚が白い暴君の首に深々と食い込み、白い暴君はうめき声を上げる。

 

「う、うう…」

 

レイヴンは白い暴君がうめき声をあげながらも生きていることを確認し、白い暴君をどうしようかと考える。

 

(とりあえず終わったな、でもコイツはどうしようか?聞けばハムスケの喧嘩友達らしいし…)

 

そう考えている途中にハムスケと漆黒の剣がレイヴンに駆け寄ってきた。

 

「御屋形様~」

 

「ん?」

 

「すごいですレイヴンさん、あの白い暴君を一対一で倒すなんて!」

 

ニニャが半ば興奮気味にレイヴンに尋ね、レイヴンは白い暴君の力を評価する。

 

「だが強敵だった、久しぶりに骨が折れたよ」

 

レイヴンは白い暴君に近づく。

 

「殺せ…」

 

「え?」

 

「命乞いはしねぇ…殺れよ」

 

(え?まだ殺すなんて一言も言ってないんだけど?)

 

いきなりのくっ殺発言に少し戸惑うが、ハムスケがレイヴンの前に出て、頭を下げる。

 

「御屋形様!」

 

「お願い申し上げるでござる!どうかこの者を御屋形様の傘下に入れてもらいたいのでござる!!」

 

「え?」

 

意外にも先ほどまで己を殺しかけていた相手の助命をするハムスケに若干驚きながら、レイヴンはハムスケの話を聞くことにした。

 

「この者の力ならば必ずや御屋形様の力になれるでござる!どうか!どうか!何卒御慈悲を!!」

 

「だが、そいつはお前を殺しかけていた相手だぞ?いいのか?」

 

「某は全く気にしていないでござる!!だから!」

 

「鼠、余計なことすんなや…」

 

ハムスケの懇願をはねのけ、白い暴君はその赤い目に死ぬ覚悟を宿してレイヴンを見つめる。

 

「とっくの昔に死ぬ覚悟なんぞできておる、やれよ…」

 

「…」

 

それを聞いてレイヴンは斬艦刀を振り上げる。

それを見た白い暴君は声を上げ最後の言葉を叫ぶ。

 

「っ……地獄でお好み焼き作って待っとるからなぁ!!?」

 

そう叫んだ後にレイヴンは斬艦刀を振り下ろした。

 

 

 

 

「ふう…傷はないかナーベ?」

 

「はい、大丈夫ですモモンさん」

 

先刻倒したサイボーグの自爆機能が発動し、爆発に巻き込まれたモモンだったが、爆発に巻き込まれる瞬間に魔法を使って抜け出し、ナーベと共に<飛行/フライ>で空中に飛んで逃げた。

下ではサイボーグ達が一斉に自爆し、爆煙が舞う。

そして煙が晴れるのを確認した後、モモンとナーベは地面に降りた。

 

「まさか自爆機能まで搭載しているとは驚いたな」

 

「モモンさん、この者たちは?」

 

「うむ、見た限りだとサイボーグだな、だがこの世界にはマシンナーとマキナの軍団以外にそんな物は居なかった筈…」

 

「まさか……マキナから裏切り者が?」

 

「いや、その線は限りなく低い、マキナの構成員でさっきの奴らと同じ外見のサイボーグは居ない。更に言うと私の知る限りではあのようなサイボーグは見たこともない」

 

「ならばこの世界独自の…?」

 

「可能性がある、できれば回収してマシンナーと共に調べたかったが…」

 

辺りには先程自爆したサイボーグの部品が木端微塵に吹き飛んでおり、ネジや金属片などの細かい部品はあるが、動力などの重要な役割を持つ部品は完全に破壊されていた。

それを見たモモンは落胆して肩を落とすがもう一つの疑念が浮かんだ。

 

「そういえば奴らが持っていた袋…アレの中身を確認してみるか…」

 

「ならば、私が取ってきます」

 

「頼む」

 

モモンの頼みを聞いたナーベは先程のサイボーグが持っていた袋を取りに歩き始める。

もしかすると何らかの手がかりが見つかるかもしれないという僅かな期待を寄せる。

 

「モモンさん、持ってきました、少々汚れていますが…」

 

「うむ、ご苦労」

 

ナーベが持ってきた袋を受け取り、モモンはその袋を開け中身を取り出す。

 

「…これは」

 

中から出てきたのは薬品を満たした容器に人間の生首を保管したものだった。

それを見たモモンは兜の中の赤い目を光らせる。

 

「やれやれ、これは早くマシンナーと合流せねばな」

 

 

 

 

レイヴンが振り下ろした斬艦刀は白い暴君の顔のぎりぎりのところまで振り下ろされていた。

白い暴君は何故?と言いたげな顔でレイヴンを見つめる。

 

「な、なんで…?」

 

「なあ、ちょっと聞くが」

 

「え?」

 

「なんでお好み焼きだ?」

 

レイヴンの意外な問いかけに白い暴君はしどろもどろにしながら答える。

 

「え?…いや、特に意味はないが…」

 

「ていうかどんな食い物か知ってるのか?」

 

「親父が教えてくれた、親父も実際には見たことなかったらしいが…」

 

「…」

 

しばしの沈黙の後レイヴンはふ、と笑い斬艦刀を上げ、肩に担ぐ。

 

「面白い奴だな、気に入った」

 

「へ?」

 

白い暴君は間抜けな声と面食らったような顔をし。レイヴンを見る。

 

「白い暴君よ、俺の仲間にならんか?俺の仲間になればその命、助けてやろうじゃないか?」

 

「何?」

 

「ハムスケの知り合いをここであっさり殺すのちょっと可哀想だしな。それに…このまま死にたくないだろう?」

 

「む……」

 

白い暴君は一瞬考えた後すぐに答えを出した。

白い暴君はゆっくりと立ち上がり自身の頭を地面に付くぐらいにまで付ける。

 

「…わかった、この白い暴君、おどれの舎弟になろう」

 

「(舎弟?)随分とあっさりだな?」

 

「弱い奴が強い奴に従うのはこの世の掟じゃろう?この白い暴君、レイヴン……いや『カシラ』の舎弟として誠心誠意仕えるここに誓う」

 

「(カシラ?)わかった、ならば立て、白い暴…」

 

レイヴンがそういいかけた時、茂みからモモンが言っていたサイボーグの集団10名がレイヴンの前に現れる。

 

「なんだ?」

 

「ちっ、またアイツらか…」

 

白い暴君は少し苛立ちながら舌打ちをし、レイヴンはモモンに<メッセージ>を送る。

 

(モモンガさん)

 

(マシンナーさん、どうしたんですか?)

 

(さっき、モモンガさんが言ってたような奴らが来たんですけど…)

 

(本当ですか?、そういえばさっき調べたんですけど先程の集団なんですが…)

 

(何かわかったんですか?)

 

(はい、コイツらは全員改造人間(サイボーグ)でした)

 

それを聞いてレイヴンは兜の中で驚く。

まさかこの世界にサイボーグがいるとは思ってもいなかったからだ。

 

(改造人間(サイボーグ)!?本当ですか?)

 

(はい、身体の中に機械類や動力装置のような物が埋め込まれてました)

 

(マジか、この世界にそんな物があるなんて…)

 

(あ、後自爆機能も突いているので気をつけてください)

 

(マジか、随分本格的だな)

 

まだ科学技術は(魔法等は除いて)あまり発展していないであろうこの世界であそこまでの改造人間が作れるのかと疑問を抱く。

 

「知ってるでござるか白いの?」

 

目の前に現れた改造人間(サイボーグ)の集団を見たハムスケは何か知っていそうな白い暴君に質問をする。

 

「ああ、ここ最近見かける奴らじゃ、気ぃつけろ、一人一人は普通の人間より強い程度じゃが死んだらどういう仕組みかわからんが爆発するんじゃ」

 

「爆発?本当でござるか?」

 

「まあ油断しなけりゃたいしたことないが…」

 

白い暴君が言葉を言い終える前の改造人間(サイボーグ)の何人かの目が赤く光る。

 

『…ミスリル級の冒険者発見』

 

『白い暴君、森の賢王発見、他タレント所持者を発見…』

 

『合体を推奨する…』

 

「何?」

 

「え?」

 

そういうと十人の改造人間(サイボーグ)全員がいきなりスクラムを組みだし、「合体」の言葉を発した。

 

『『『『『合体!!』』』』』

 

そういうと改造人間(サイボーグ)達はガチャガチャと身体を組み換えはじめ、緑色のモノアイがついた円柱形の頭部と大木のよう太く装甲で覆われた腕、鋼鉄のブロック状の肩、その肩と腕に銃器のような物をつけた緑色の鋼鉄のゴリラのような姿をした全長7mの巨大な改造人間(サイボーグ)になっていた。

 

『合体完了…』

 

「な…!」

 

「おいおい嘘だろ?」

 

あまりの衝撃に驚愕する漆黒の剣、ハムスケは少しジト目で白い暴君を見つめる。

 

「…白いの?」

 

「…すまん、あれは初めてじゃ…」

 

(マジかよ、合体機能まであるのか?一体どんなメカニズムなんだ…)

 

改造人間(サイボーグ)が合体機能までついている事にレイヴンは驚き、そのメカニズムに興味が湧いた。

レイヴンはジナイーダに<メッセージ>を送る。

 

<マシンナー様、どうなされました?>

 

<アルティマ、面倒な事が起こった>

 

<は…?>

 

<…改造人間(サイボーグ)が現れた。しかも俺たちが知らない型の奴だ>

 

マシンナーのその一言にアルティマは大きく目を見開く。

事前の調査では自動人形(オートマトン)系列の異形種はナザリック以外では確認されていなかったからだ。

 

<!、本当ですか?>

 

<ああ、しかも今目の前で合体したよ…>

 

<なんと…>

 

<色々とこいつを調べたい、できるだけ早く来てくれ>

 

<承知いたしました!>

 

マシンナーの<メッセージ>が終了した後、ジナイーダはシズに大急ぎでマシンナーの下に向かう指示をする。

 

「シズ、さっきマシンナー様からのメッセージが来たんだけど予想外のことが起きた」

 

「…?…何…?」

 

キョトンとした顔で答えるシズにアルティマは一呼吸おいて話し始める。

 

「…僕らの同族がこの世界にも居た」

 

「え?」

 

 

 

 

 

「ちぃ…!」

 

白い暴君は先陣を切って合体改造人間(サイボーグ)に襲いかかる。

 

「おどれぇ!」

 

そして跳びかかりその頭部を叩き壊さんと前脚を振り上げるが、改造人間はその巨体にかかわらず素早くかわす。

 

(図体の割に素早い!?)

 

『……』

 

そして白い暴君の右に回り、がら空きの脇腹に拳を叩き込んだ。

 

「ぐぁ!」

 

「白いの!この…!」

 

白い暴君は大きく吹っ飛ばされる。

レイヴンは内部を透視できるスキルを使い、合体改造人間の内部を見る。

 

(やっぱりな、十個の脳を機体の中に正中線の順で格納されてる。それで反射速度を上げてるんだ…)

 

「待てハムスケ!迂闊に飛び込むな!!」

 

次にハムスケが突っ込んでいくが改造人間は左手を伸ばし、ハムスケに狙いをすませる。

 

『…ロケットパンチ』

 

そして飛ばされた腕がハムスケに飛んでいく。

 

「ハムスケ!避けろ!」

 

「な!ぬお!」

 

ハムスケはすぐにそのロケットパンチを回避するが、その隙を見逃せないと言わんばかりに改造人間はハムスケに体当たりをぶちかます。

不意の攻撃だったため体当たりをモロに喰らったハムスケは大きく吹っ飛ばされる。

 

「ハムスケ!」

 

(ロケットパンチまでついてるとは…)

 

「ハムスケさん!この…」

 

ニニャは改造人間に向かって魔法の矢(マジック・アロー)を発射するが

魔法反射装甲を装備している改造人間には傷一つついていない。

それを見たニニャは愕然とした表情になる。

 

「そんな!魔法が利かない!?」

 

『タレント所持者…捕獲』

 

改造人間は肩の銃器らしきものから弾丸をはっしゃする。

そして弾丸から大きなネットが広がり、ニニャを捕獲した。

 

「!、わぁ!?」

 

そして、右手からワイヤーガンを放ち、ニニャを絡ませそのまま巻き上げようとする。

 

「ニニャ!」

 

ルクレットは改造人間の気を向かせるために矢を数本放つが全てはじき返され、お返しと言わんばかりに右肩の銃器らしきものから錐状の鉄の弾丸をルクレットに向けて発射する。

 

「!やべ!」

 

ルクレットはすぐに回避しようとするが、間に合わない。

そこにレイヴンが立ちふさがり、大剣を盾代わりにして防ぐ。

弾丸は大剣と鎧に命中し、僅かな衝撃がレイヴンに走った。

 

「れ、レイヴンの旦那…」

 

「無事か?」

 

自分が死を覚悟した位の弾丸が命中したのにも関わらず、何時もと変わらない口調で話すレイヴンに驚くもすぐにルクレットは返事をする。

 

「あ、ああ…じゃなくて大丈夫なのかよ旦那?」

 

「ん?ああ、でっかい漬物石ぶつけられた感じかな?まあどうって事ねぇべ?」

 

「いや、どうって事あるってそれ!」

 

「それよりニニャをあのバケモンから取り返さねぇと、さてどうしようか?」

 

ルクレットがレイヴンに突っ込んでいる間にぺテルとダインがレイヴン達に駆け寄りダウンしていたハムスケと白い暴君も立ち上がる。決して低くないダメージは負ったがその目には闘志はまだ消えていない。

そして捕獲されたニニャは改造人間の右手に捕まっている。

ダインはこの場にいる者たちの中で最も実力が高いであろうレイヴンに質問を問いかける。

 

「レイヴン氏、あの怪物の手を切断することは可能であるか?」

 

「できんことはないが、少し援護が必要だなあれは…」

 

ルクレットはすぐにぺテルに自分達が何をすべきかの指示を仰ぐ。

 

「だったらやることは一つだリーダー!」

 

「ああ!レイヴンさんを援護する!レイヴンさん、私たちでなんとかあいつの注意を引きつけます。その間に隙を見つけてニニャを…」

 

「任せてくれぺテルさん。ハムスケ、悪いが手伝ってくれるか?」

 

ぺテルの提案に僅かに笑みを浮かべ、レイヴンは応じる。

そしてハムスケ達にも援護を要請する。

 

「勿論でござる御屋形様!」

 

「カシラの命令とありゃなんだってやってやるわい…」

 

レイヴンの援護要請に喜々として答えるハムスケとそれに続くかのように白い暴君も意気揚々と答える。

 

「それでどうするぺテルさん?」

 

「はい、まずレイヴンさんはあのデカいのと一度戦ってください。その後ダインは植物の絡みつき(トワイン・プラント)で足止めをする準備を、ルクレットはさっきと同じようにあいつの顔に可能な限り矢を浴びせてくれ、効かなくても気はそらせる筈だ」

 

「わかったのである!」

 

「マジかよ、とんでもない注文だな…」

 

ぺテルの指示にダインは勿論、ルクレットはぼやきながらもその顔にはやる気で満ち溢れてる。

 

「ハムスケさん達はレイヴンさんと一緒にあいつに切り込んでいってください、あの白い暴君、ハムスケさんの時に使っていた武技は使えますか?」

 

「使える、丁度あの堅物に一発見舞ってやろうと思っとったんじゃ…」

 

「良かった。なら私の指示で発動してくれませんか?」

 

ぺテルの指示に白い暴君は一瞬険しい顔になる。

 

「何やと?っと言いたいところじゃが状況が状況じゃから特別じゃぞ?」

 

「ありがとうございます!ハムスケさんもお願いします」

 

「承知したでござる!」

 

ハムスケと白い暴君もぺテルの作戦に同意する。

そして戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「行くぞ!!」

 

まず打ち合わせ通りにレイヴンとハムスケ達が改造人間に向かって突撃を始める。

合体改造人間はニニャを掴んでいる右腕以外の左腕と両肩の砲を向けようとする。

 

「やらせるか!」

 

ルクレットが己の弓矢で改造人間のモノアイを狙い、弓矢を放つ。

改造人間はモノアイを横にずらし、弓矢を装甲で弾いた。

レイヴンはその隙に改造人間との距離を詰める。、

しかしサイボーグは左腕を振り上げレイヴンにその巨大な拳を繰り出した。

 

「《要塞》!」

 

白い暴君がレイヴンを守るように立ちふさがり、防御力を向上させ、改造人間の拳を受け止める。

 

「大鼠!」

 

「任せるでござる!でぃやぁ!!」

 

ハムスケは回転して合体改造人間の左足に尻尾を叩きつけ合体改造人間のバランスを崩す。

合体改造人間は持ち直そうとするが、ぺテルの指示でダインが植物の絡みつき(トワイン・プラント)で左足に植物を絡みつかせた。

 

『…!』

 

絡みついた植物を引きちぎろうと脚を動かそうとするが、レイヴンが斬艦刀を構えた。

 

「レイヴンさん、今です!」

 

「おう!」

 

そしてレイヴンが飛びあがり、ニニャが捕まっている網を切り裂く。

切られたと同時にニニャが地面に落下する

 

「うわあぁあああ!!」

 

「おっと!」

 

ニニャが落下する場所にハムスケが駆け付け、自分をクッション代わりにして受け止めた。

 

「大丈夫でござるか?」

 

「ハ、ハムスケさん…」

 

「早く逃げるでござる、ん?」

 

ハムスケが振り向くと合体改造人間がハムスケ達に殴りかかろうと拳を振り上げようとしていた。

 

「危ない!」

 

ニニャが声を張り上げた瞬間、どこからか矢じりに爆竹のようなものが巻き付けられた矢が改造人間の顔に当たる。

矢は跳ね返されるが、矢じりに巻きつけられた爆弾が爆発し、合体改造人間を少し怯ませる。

 

「思ったより…頑丈…」

 

矢が飛んできた方向の茂みから、クロスボウを構えたマグノリアとジナイーダが現れた。

 

「お待たせしましたレイヴンさん!ってこれが…」

 

「本当に……機械でできている…」

 

「ナイスタイミングだ二人とも!」

 

『…新たなるミスリル級の冒険者、出現、捕獲…』

 

「…させない」

 

改造人間は新たに現れた二人の方角を向き右腕の銃器を構え。

二人に向かって発車しようとするが、ジナイーダが再び爆弾付きの矢を装填し、右腕の銃口に狙いをすまし狙撃する。

矢は銃口に入り、合体改造人間が発射した瞬間、同じく矢が爆発し右腕の銃器が吹き飛び、右腕に火と煙が上がる。

 

『…右腕部の武装、大破、使用不能』

 

「おうこら儂も忘れんな!ボケが!!」

 

『!!』

 

そこに追い打ちを掛けるように白い暴君が飛びかかり、顎を使い左肩の銃器を破壊し、その損傷を広げるかの用に右前脚を突っ込み、<斬撃>を発動させ、左肩を抉るかのように斬りさいた。

 

「はっ!さっきの仕返しじゃあ!!」

 

白い暴君は更なる追い打ちを掛けるべく合体改造人間に迫る。

 

『左肩武装、損傷と同時に左肩にも無視できぬ損傷…』

 

『現状況から任務を捕獲から殲滅に切り替える…』

 

合体改造人間はぶつぶつとそう呟くと緑色のモノアイが赤色に変わった。

 

「このままその首も…!」

 

『…右碗部螺旋形態に変形、攻撃』

 

合体改造人間は右手を尖らせ高速回転させ、右腕をドリルに変形させると、白い暴君を貫かんと腕を振り上げた。

 

「!やべ…!」

 

白い暴君は慌てて急停止し<要塞>を発動させようとするが、改造人間の腕の方が早く、右手のドリルが白い暴君の腹部に迫る。

 

「させるものか…って熱っ!!」

 

そこにレイヴンが間に入り、両手でドリルを掴んだ。

掴んだ瞬間、レイヴン両手に火花が散り暑さに小さく悲鳴を上げる、レイヴンは両手の握力の出力を上げ、自分の指を無理やり指に食い込ませた。

 

「カ、カシラぁ!?」

 

「あっちいなこの野郎……やっちまえジナぁ!」

 

「了解…です!!」

 

ジナイーダが背中の太刀を引き抜き、右腕を一刀両断に切り裂いた。

 

「ナイス一刀両断だ…」

 

「お褒めに預かり恐悦至極…!」

 

「んじゃあ、行くか!」

 

そしてレイヴンとジナイーダが合体改造人間に突撃し、マグノリアはそれを援護するようにクロスボウを放つ。

白い暴君とハムスケもそれに加わった。

捕獲から殲滅行動に切り替えたからか先ほどより動きが速くなった合体改造人間は残った右腕と左腕を丸鋸型のチェーンソーに変形させ応戦する。

救出されたニニャは急いで自分のチームメイトたちの所に向かった。

 

「ニニャ、大丈夫であるか?」

 

「ええ、大丈夫です、助かりました…」

 

「ニニャ、まだ魔法は使えるか?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「ダイン、ルクレット二人はまだ戦えるか?」

 

「まだ戦えるけど残りの矢はあまり残ってないな…」

 

「大丈夫である、まだ戦えるのである」

 

「よし、もう一度レイヴンさんを援護する。ルクレットとダインはさっきと同じように、ニニャは私に防御魔法を!」

 

「わかりました!」

 

「わかったのである!」

 

「オーケー、さっきと同じようにやれば良いんだな?」

 

「ああ、行くぞみんな!」

 

ぺテルの掛け声の後に漆黒の剣はそれぞれ行動に移る。

ニニャはぺテルに防御力向上の魔法をかけ、ルクレットは合体改造の側面に回ろうと走り出す。ぺテルはルクレットを守るために共に走り出す。ダインは植物の絡みつき(トワイン・プラント)を発動する隙を伺う。

 

「《鎧強化/リーインフォース・アーマー》!」

 

「しっかり護衛頼むぜ!」

 

「ああ!」

 

幸い、標的はレイヴン達に集中しておりこちらにまだ気づいていない、ルクレットは狙いをすまし、合体改造人間の頭部のモノアイのレールに一射を放つ。

すると偶然にも奇跡的に弓矢はレールの隙間に当たり、深く刺さる。

合体改造人間はルクレットの方角にモノアイを動かすが、矢にさえぎられて止まってしまう。

 

レイヴン達はその隙を見逃すはずもなく、レイヴンは合体改造人間の脇をすれ違いざまに斬撃を与える。

合体改造人間の脇からはオイルと火花が散り片膝を付く。

 

「しゃあ!」

 

(いける!)

 

片膝をついた正体不明の相手の姿に希望が膨らむ。

それは仲間達も同じだったようで、彼方此方で歓喜の声が上がった。

 

『…』

 

しかし、合体改造人間は立ち上がり、ぺテル達の方に立ち上がり、拳を振るった。

 

(!!!?)

 

ごぉん!!

 

反射的に武技《要塞》を発動させるが、甲高い金属の音が周囲に響く。

気がつけばペテルは剣も盾も投げ出して地面に倒れこんでいた。

何か巨大なものが衝突したような痛み。

ルクレットが近くで何か叫んでいる声がかすかに聞こえる

ぺテルはなんとか立ち上がろうとするが体はピクリとも動かなかった。

 

「これ……吸って」

 

するとマグノリアがスプレー缶のような容器を取り出し、緑色の煙をぺテルに吹きかける。

微かに聞こえる声に従って懸命にその煙を大きく吸う。

すると全身の痛みが嘘のように消えていく。

そして意識が完全に戻り、最初に見たマグノリアに一瞬だけ思わず「本当に綺麗だな」っと思うがルクレットの言葉にすぐに覚醒する。

 

「!、ありがマグノリアさん!下がれルクルット!早く!」

 

「わあってるよ!」

 

起き上がったぺテルは矢を撃ち尽くしたルクレットと共にレイヴンの背後まで下がる。

全力で走ったからか息を荒くしている。

 

「あのなぁ、いくら防御力を上げるその武技でも受けられるものにも限度ってのがあるだろ!一発で死にかけてるのを見て肝が冷えたぞ!!」

 

「な!?守られといてそれはないだろう!?第一伝説の大魔獣二体と互角に渡り合える敵の攻撃を受けて生きてるだけでも奇跡だぞ!?」

 

「レイヴンの旦那は無傷だったろうが!」

 

「あの人はあのモモンさんと互角なんだぞ!一緒にするな!」

 

「思ったより元気そうであるな?」

 

「あ、あの二人とも今はそれどころでは…」

 

怒鳴りあうぺテルとルクレットを治めようとニニャは声を掛け、二人は怒鳴りあうのを辞める。

戦況を見てみると、マグノリアとハムスケ、白い暴君も一旦下がって戦況を見つめている。

先程よりも早くなった敵の攻撃をレイヴンはたった一人で耐えている。

そしてジナイーダが素早さを活かして目まぐるしく移動して攻撃をくわえているが、決定打にはなっていない。

 

マグノリア達を見てみると、マグノリアは何かを狙っているように目を鋭くしており、白い暴君も力を溜めているようにも見えた。

 

「チェストオォッ!」

 

レイヴンが凄まじい気合と共に斬艦刀を改造人間の胴体に横薙ぎに振りかぶる。

そして胴体に向かって渾身の一撃が叩きこまれようとしていた。

 

『…装甲増加』

 

すると改造人間は胴体の装甲を何重にも重ねて増加させ、レイヴンの渾身の一撃を受ける。

その結果はなんと驚くべきことに渾身の一撃を受けた胴体に斬艦刀が深々とめり込んでいるが切断はできていなかった。合体改造人間は左手の丸鋸を高速回転しながらレイヴンに向かって振り上げようとしていた。

レイヴンの危機を感じたジナイーダはすぐに走り出すが、残った銃器の連射に足止めを喰らう。

 

「ダイン今だ!」

 

植物の絡みつき(トワイン・プラント)!」

 

「マグノリア!EMPアロー!」

 

「……了解」

 

地面から生えた植物が、振り上げようとしていた敵の左手に絡みつく。

だがダインのドルイド魔法による拘束は、ほんの僅かな効果しか発揮しなかった。

ブチブチと蔓を引きちぎる音と共に敵は攻撃を続行しようとする。

しかし、マグノリアがクロスボウから普通の矢とは形状が少し違う矢を発射し、敵の体に当たる。

そして数秒後敵の体の周りに電撃のような物が体中を駆け巡った。

 

「<鎌居太刀>!!」

 

そして白い暴君が切り札である武技を発動させ、振り上げようとした左手を丸ごと吹き飛ばした。

 

「カシラぁ!トドメじゃあ!!」

 

白い暴君の怒号の後にレイヴンが先程よりも速い動きで敵に突っ込みそして大きく跳躍する。

 

「これで……決める!!」

 

既に死に体になっている合体改造人間はそれでも尚抗おうと動こうとするが、マグノリアが放った弓矢によって、碌な動きが出来なくなっていた。

 

「一刀……両断!!!」

 

先程よりも凄まじい気合と共に斬艦刀を勢いよく振り下ろす。

斬艦刀は改造人間の装甲で覆われた頭部をたたき割り、そのまま真っ二つに両断をした。

真っ二つに両断された改造人間の体はそのまま分かれ、爆発する。

 

爆発の煙が晴れると、レイヴンは斬艦刀を掲げ高らかに叫んだ。

 

「我らに…断てぬものなし!」




解説

謎の改造人間の集団:突如モモン、レイヴン達の前に現れた謎の改造人間の集団。どういうわけかタレント能力所持者や名のある冒険者の捕獲をしようとしている。
周辺国家内ではまだ存在しない、機械工学や化学燃料を用いた電池などで動いており、第5位階の魔法まで跳ね返せる《魔法反射装甲》と同じ効果を持つ盾を標準装備している。ある程度の数がいれば合体も可能で数によってその大きさは変わる。撃破された際、証拠抹消の意味も含めて動力の電池を暴走させて、自爆機能が発動する。(威力は人一人吹き飛ばせる程度)


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第49話 肉の字のイグヴァルジ

六月中には投稿する予定でしたが、遅くなってしまいました。申し訳ありません。


「レイヴンの旦那!」

 

「やりましたね、レイヴンさん!」

 

ルクレットとぺテル、漆黒の剣が興奮気味にレイヴンに駆け寄る。

 

「いや、ハムスケや漆黒の剣の援護があったからこそ倒せた。ありがとう」

 

「そんな!私達はたいした事はしてませんよ!」

 

「我々は僅かな時を稼いだ位なのである。直接奴に手を下したのはレイヴン氏である!」

 

レイヴンの御礼に、漆黒の剣はとんでもない!と言わんばかりに否定する。

そんな興奮している漆黒の剣の面々だったが、ニニャは真っ二つになり爆発した改造人間に疑問を持った。

 

「でも、これはいったい何でしょうか?見たところだとアンデッドという感じではありませんし…」

 

「なら、調べてみるか?白い暴君が言ってた爆発も、さっきしたから大丈夫だろうし…」

 

「そうだな…レイヴンさんはどうですか?」

 

「ああ、俺も気になっていた。調べた方が良いと思う」

 

そしてレイヴン達黒鉄と漆黒の剣は改造人間の残骸を調べ始める。

 

「こりゃ…金属でできているのか?まるでゴーレムみたいだな」

 

「しかし、この敵の姿はあの集団が組み合わさって生まれた姿なのである、一体どういう仕組みなのであろうか?」

 

「ニニャ、ニニャは何か知ってるか?」

 

「いえ、私にもこれが何なのかわかりません。それに…あの巨体でなんであんなに敏捷に動けるのか私にもわかりません」

 

漆黒の剣が頭を捻っている時、レイヴン達はその仕組みを調べ始めている。

 

(なるほど……脳髄を正中線状に配置して、複数の脳みそで巨体に似合わない反射速度を出してたんですね?)

 

(ああ、しかも直で見てみると脳みそにも電子機器が付けられている)

 

(骨格も…金属に置換されている…関節にはモーターのようなものが…ある)

 

(一体誰が作ったんだ?作るとしても周辺国家の現状を見るとここまでの物は作れない筈…)

 

(もっと詳しく調べたい……でも…)

 

(爆発で重要そうな部分が殆ど破壊されている。恐らく機体の損傷によって自動的に自爆する仕掛けなんでしょう)

 

(証拠抹消ってことか、用意周到な事で…おっとアインズに連絡しなきゃな)

 

レイヴンは別行動をしているモモンにメッセージを飛ばし、改造人間の撃破を報告する。

 

(モモンガさん、先程モモンガさんが言っていたサイボーグを撃破しました)

 

(そうですか、それで何かわかりましたか?)

 

(いえ、撃破した後爆発してしまいまして、重要な部分が殆ど酷い状態になっていてあまり詳しい情報は…すいません)

 

(いえいえ気にしないでください、なら、些細な事でもいいので何かわかった事はありますか?)

 

(そうですね、脳みそに電子機器が付けられている事と骨格は完全に金属に置換されていることですかね、他にもモーターやアクチュエータ等の部品も発見しました)

 

レイヴンの報告にモモンは考え込む。文明は中世とあまり変わらないこの世界でそのような技術が存在していれば確実に発展している筈だ。

 

(周辺国家がそんな科学技術がないとすると…)

 

(俺たちと同じく転移してきたプレイヤー、もしくはそれに近しいものの可能性が高いですね…)

 

(マシンナーさん、これをナザリックに持って帰って直接調べたいんですけど)

 

(ええ、後でマキナから回収部隊を出動させる予定です、合体する前のこいつらも調べたいですし)

 

(合体?)

 

(ええ、こいつら結構な人数だったんですが、全員で合体したんですよ)

 

(…マジっすか?)

 

(マジです、合体して結構デカくなったんですけど大きさの割には結構機敏で、ハムスケや白い暴君とも互角に渡り合っていました)

 

(白い暴君?レイヴンさんが倒したんですか?)

 

(はい、倒したらなんか舎弟になりました)

 

(しゃ、舎弟?)

 

(とりあえず、一旦合流しましょうか?)

 

(ええ、そうですね、では)

 

 

 

 

転移魔法を使い、レイヴン達の近くに転移し、少し歩いてレイヴン達と合流した。

 

「(まさか白い暴君がイタチだったとは…)無事でしたか皆さん」

 

「殿!!」

 

「おお、モモン氏!」

 

「モモンさんも無事で何よりです、ズーラーノーンは?」

 

「その件ですが実は先を越されまして…」

 

モモンは先程の戦闘を漆黒の剣と黒鉄の面々に説明をする。

それを聞いた漆黒の剣は驚きの声を上げる。

 

「モモンさんの所にも現れたんですか!?」

 

「その反応から察するに皆さんの所にも現れたようですね?」

 

「ああ、俺たちの後ろの物体がそれだよ」

 

「これが…ですか?我々が見たのとは違いますが…」

 

「ああ、どうゆうカラクリかは知らないが、十人単位の数で一つの存在に融合したんだ」

 

レイヴンの言葉にモモンは僅かに動揺したような動きをする。(勿論演技だが)

 

「何?本当かレイヴン?」

 

「ああ、しかも巨体に似合わず俊敏でな、ハムスケや白い暴君と互角の高速戦闘を繰り広げた程だ」

 

「本当かハムスケ?」

 

「御屋形様の言う通りでござるよ殿、某と白いのより重たそうな見た目なのに同じくらいの速さで動いていたでござる、拙者本当に驚いたでござるよ!」

 

「ちょっとすまねえ鼠、この男が噂のモモンか?」

 

「ん?そうでござるよ!殿!紹介するでござる、この白いのが某と何度も牙を交えた『白い暴君』でござるよ!」

 

ハムスケの紹介の後、白い暴君はモモンに深々と頭を下げる。

 

「この度レイヴンのカシラの傘下に加わった白い暴君じゃ、モモンの叔父貴、今後ともよろしゅう頼みます」

 

白い暴君の挨拶にナーベは少し目を鋭くさせるがモモンに制され、その場は治める。

 

「ほう、この魔獣を手なずけたのかレイヴン?」

 

「ああ、伝説通りハムスケと同格の魔獣だ、おまけに武技も使える」

 

「ほう」

 

モモンは白い暴君が武技を使えることに感心する。

魔獣にも武技が使えるならばハムスケも覚えることができるのでは?という期待が僅かに見えた。

 

「あ~あと、イグヴァルジのクラルグラだが…イグヴァルジともう一人を残して全滅した」

 

「何?」

 

「本当ですかレイヴンさん!?」

 

レイヴンの報告にぺテルは驚く。イグヴァルジの性格はともかく、チームであるクラルグラの実力はミスリル級に恥じない物だ。それがイグヴァルジともう一人を残して全滅するなんてと思ったが、先程の改造人間の力を見れば十分納得できる。そして自分達が如何に幸運なのかを知った。

 

「ああ、話を聞くにどうやらさっきまで俺たちと戦ってた奴らの別動隊らしい、メンバーの一人はジナイーダに任せたが、イグヴァルジの方はどこにいるかわからん…救助した奴の話を聞くと自分をあっさり見捨てて逃げたらしいが…」

 

その言葉にモモンとぺテルは眉を顰める。常に危険と隣り合わせの冒険者だからこそ背中を任せられる仲間こそ何よりも大事な存在なのだ。それを容易く切り捨てることができるイグヴァルジを内心軽蔑する。

 

「あ、それならここに来る前に発見して森の外れに避難させました。相変わらずデカい態度でしたけど…」

 

「そうか、なら探す手間が省けたな」

 

「そうだな、では皆さん依頼は一応完遂しましたし森から出ましょう」

 

「その前にモモン、襲撃した奴らの一部を組合に持っていこう、これは報告しなければならない案件だ」

 

「勿論そのつもりだ。私も先ほど倒した奴等の腕を持って組合に見せる予定だ」

 

「了解した、なら奴の体から比較的損傷の少ない部分のみを持っていく」

 

その後レイヴンは改造人間の比較的損傷の少ない部品を少量を袋に入れモモン達と共には森の外れに出て、倒れているイグヴァルジを見つけ、救助されたクラルグラのメンバーが居るテントに到着した。

 

「よお大丈夫か?」

 

「アンタ達無事だったか!良かった……ってイグヴァルジ!?」

 

「……」

 

レイヴン達が連れ帰って来たイグヴァルジを見てクラルグラのメンバーは驚く。

 

「ああ、アンタを襲った連中に脚を斬られちまったが一応生きている」

 

「……そうか」

 

「コイツを組合に引き渡すが構わないか?」

 

「…ああ、かまわない」

 

イグヴァルジを組合に引き渡す旨をメンバーに伝えるとそれを聞いたメンバーは複雑そうな顔をしながら、それを認める。レイヴンはその後イグヴァルジを置いてテントを出、外で待っていたモモンと会話を始める。

 

「どうでしたメンバーの様子?」

 

「複雑な顔をしてたよ無理もないが、あの様子じゃクラルグラは解散だろうな」

 

「そうですか、まあ却って都合が良いですね」

 

「ええ、組合で処分を受けた後ナザリックに連行する予定です」

 

「わかりました、それにしても…」

 

「はい?」

 

「あの巨大イタチが白い暴君だったとは、そういうと森の賢王はハムスターでしたが」

 

「ええ、正直驚きました」

 

「そう言えば白い暴君はどうするんです?やはりハムスケと同じように?」

 

「ええ、できればナザリックに連れて帰りたいんですけど?良いですか?」

 

「まあ構いませんけど、そう言えば名前はどうするんです?」

 

「ああ、そうだった名前どうしよう、ノロイは色々とアウトだからなぁ…」

 

「イタスケと言うのはどうでしょうか?」

 

「う~ん、そりゃちょっとな~」

 

レイヴンが頭を捻っていると、何か思いついたような顔をし、白い暴君を呼ぶ。

 

「あ、そうだ」

 

「ん?」

 

「白い暴君ちょっと来てくれないか?」

 

「なんじゃいカシラ?」

 

「お前の名前を付ける、白い暴君はちょっと長いからな」

 

「おお!名を付けてくれるんか!?カッコいいのを頼むで?」

 

「ああ、お前の名前は「イアイ」、お前の<鎌居太刀>の構えが居合い切りに似ていたからそれから取った」

 

白い暴君はその名前を聞いてニヤと笑い、自身の名を高らかに叫んだ。

 

「イアイか…まあ悪ない、気にいったで!、儂は今日から白い暴君改め、イアイじゃ!!」

 

名前をもらって嬉しかったのか上機嫌に笑う、白い暴君改め、イアイ。

その後、準備が整い、エ・ランテルに向けて帰還を開始するのであった。

途中起きたイグヴァルジが何か騒いでいたが、イグヴァルジを完全に見限ったクラルグラのメンバーがその度に力ずくで黙らせられていた。

 

 

 

 

森を出立してから3日後、モモン達一行は昼辺りにエ・ランテルに到着した。

エ・ランテルに現れたモモン達一向に街行く人々は注目する。

それは前回のハムスケと同じように皆、イアイに注目していた。

 

ただハムスケの時と同じようにイアイの背にはマグノリアとジナイーダが乗っていた。

これは漆黒の剣がイアイに騎乗してみてはと言われたのだが、レイヴンはイアイが自分の自重に耐えれるのかを心配して、2人に騎乗を許可したのだ。(因みにシズは一目でイアイを気にいった)

 

(確かにマシンナーさん俺より重いからな…)

 

骨だけの自分とは違い、金属製の骨格や原動機、人工頭脳、冷却装置、細かい電子部品等がその身に詰まっている金属の塊である。彼のその重量はアインズは当然、同じ自動人形系統のNPCであるシズとアルティマよりも重い。

仮に乗れたとしても重量により、長くは歩けないだろう。

 

そうしている間にエ・ランテルの冒険者の組合に到着し、ハムスケとイアイを残して組合に入っていった。

 

「よく無事で戻ってきてくれた!モモン君!レイヴン君!ぺテル君!本当によく無事で!」

 

モモン達が組合の会議室入り口の扉を開けた瞬間、組合長のプルトン・アインザックが暴れ牛の如く突進するような形で三人に抱擁をかます。余談だがこの出来事によりモモンとぺテルからは同性愛者疑惑を持たれてしまう。(因みにレイヴンは現実世界で勤務していた工場の同僚の中に海外からの労働者もおり、同じような事があったので特に気にしなかった)

 

「……アインザック組合長、その辺で。早急に報告しなければならない事がありますので…」

 

「そ、そうだったな、申し訳ない、つい感極まってな…。では、詳しい話を訊きたいから好きな席についてくれ」

 

 

 

 

「なんと…!それは本当なのか……!?」

 

会議室でモモン達が語った報告にアインザックは驚愕する。

大森林に秘密基地を構えていたズーラーノーンの一党は壊滅、一人残らず惨殺され、突如現れた謎の集団。

それだけでも問題だが、その集団の装備の中には何らかの方法で魔法を反射する盾を持っており、モモンのチームメイトであるナーベの魔法を跳ね返したと言う。更に集団で一体の巨人のような姿に融合し、その力は「森の賢王」「白い暴君」の伝説の大魔獣二体にも引けを取らない力を持っていたという。

 

「はい、幸い融合した個体はレイヴンと漆黒の剣の皆さんが倒しました」

 

「で、それがそいつらの遺体の一部だ」

 

そう言うとレイヴンは残っていた改造人間の腕を見せる。

アインザックは一瞬たじろぐがすぐに戻り、その腕を観察する。

 

「皮膚の下から金属のような光沢があるだと?…一体これは?」

 

「俺達<黒鋼>と<漆黒の剣>が調べると、どういう方法でやったかはわからんが骨が金属製のものに変えられていていた事から骨格そのものが金属製になっていると推測している」

 

「骨格が金属に置き換えられていただと?そんな事が可能なのか…?」

 

信じられないと言う顔で顔を抑えるアインザック。

アインザックの反応を見たレイヴンはは「この世界にはロボットどころか機械すら無いからな」と思いながら、自分の推測を述べた。

 

「他の残った部分に縫合後があったから恐らく外科的手段でこうしたと思われる、現状ではそれしかわからない」

 

「むむ…」

 

「組合長、彼らの戦力なのですが、不意打ちとは言えミスリル級のクラルグラのメンバーが殺されたらしいです。更に巨人のような姿になっての強さは私のハムスケと互角以上です、これは全体に警戒を促した方が良いと進言します」

 

「ふむ、そうだな、モモン君の言う通りこの集団は警戒する必要がある。後で他の者たちにも伝える」

 

「それと白い暴君はどうしたのかね?やはり退治したのかい?」

 

もう一つの調査対象の「白い暴君」についてアインザックは質問をする。

その質問にレイヴンはすぐに答える。

 

「いや、俺が倒して仲間にした」

 

「えぇ!?」

 

んな馬鹿な!と言いたげな顔で身を乗り出すアインザック、モモンは真偽を確かめさせるべく、窓を開けて見るよう促す。

 

「組合長、外をみればわかりますよ」

 

「え?」

 

アインザックは恐る恐る窓を開いて下を見ると、モモンが従えてる「森の賢王」ことハムスケと駄弁っている「白い暴君」が居た。それを見て口をあんぐりと開けるアインザック、そのアインザックに気が付いたイアイはアインザックの方に振り向く。

 

「あ?、なんか用かワレ?」

 

「……」

 

「オイこらシカトかワレ?」

 

「…失礼」

 

そう言ってアインザックはばたんと窓を閉じた。

 

「なんやありゃ?」

 

「さあ?でござる」

 

「嘘じゃないだろ?」

 

「…ああ(まさかモモン君以外にも伝説級の魔獣を従えさせる者がこんなにも早く現れるとは…)」

 

顔を手で押さえたままアインザックは答える。

まさかモモンの他にハムスケと対をなす伝説の大魔獣を仲間にくわえるとは考えてもいなかったからだ。

 

「後でイアイを組合に登録したいのだが大丈夫か?」

 

「イアイ?ああ、白い暴君の事か。勿論だとも…うん。あ、時間を取らせてすまなかった、もう下がっても構わないよ?」

 

「わかりました、それでは失礼します」

 

モモン達が組合の会議室から去った後、アインザックは一息つく。

 

「はぁ……前から両名とも只者ではないと思っていたが、あれ程とは……」

 

「あの実力だともはやミスリル級では済まされんぞ?オリハルコン級に昇格……いやいっそのこと…」

 

そう考える途中に扉がノックする音が聞こえ、入るように伝える。

 

「組合長、パナソレイ都市長とラケシル魔法組合長がお見えになりました」

 

「ああ、わかった、すぐ向かう」

 

(やれやれ、次は問題のイグヴァルジか、別の意味で頭を抱えることになりそうだ…)

 

次の案件に再びため息をつき、生還したクラルグラの冒険者二名を呼ぶよう指示を出した。

 

 

 

 

部屋に呼び出されたイグヴァルジとクラルグラのメンバーは席につくとイグヴァルジはいきなりアインザック達に怒鳴りつける。

 

「おい!いきなり呼び出してなんなんだよ!?こっちは脚斬られて重傷なんだぞ!!!」

 

アインザックは不快そうに顔を顰めながら、イグヴァルジに問い詰める。

 

「……何故呼ばれたのかわかるなイグヴァルジ?」

 

「そ、それは…!?」

 

問い詰められたイグヴァルジは目を泳がせながら、言いよどむ。

 

「君は今まで色々とトラブルを起こしてきたが実力だけならミスリル級として十分相応しいものである事と今まで仲間を死なせなかった事は私も評価はしていた。だが…」

 

「今回、他のチームに終始高圧的な態度を見せ、連携も取らず、しかもチームメイトが止めてもそれを直そうとせず、更に調査も自分の独断でクラルグラの単独行動。その結果君ともう一人以外戦死、更に唯一生き残った一人も躊躇なく見捨てて一人で逃亡……これはいくらなんでも目に余る!到底見過ごせない事だ」

 

「そ、それは他の奴らに助けを呼ぼうと…」

 

「黙れ!あの時アンタは俺を見捨てた!『未来の英雄になる俺のために囮になれぇ!!』と言いながら俺を突き飛ばしただろうが!!?」

 

「そ、それは聞き間違い…」

 

「ふざけるな!言い訳すんじゃねえぞ!!この…!」

 

メンバーはイグヴァルジの胸倉を掴み、腕を振り上げて、イグヴァルジを殴ろうとするが、アインザックはそれを静止する。

 

「止めたまえ!……気持ちはわかるが、拳を下すんだ」

 

「…わかった……組合長に感謝しろ」

 

メンバーは静かに拳をおろし、席に戻る。

 

「イグヴァルジ!」

 

「っ!…何だよ…」

 

アインザックの声にイグヴァルジは一瞬狼狽しながらも、アインザックに睨む。

アインザックはそれに意に介さず、淡々とイグヴァルジに処分を通告する。

 

「処分は追々伝える。しかし決して軽くはない、覚悟しておくんだな」

 

「な!?」

 

「…これでこの件はお開きだ。2人とも退出したまえ」

 

アインザックは解散を言い放つ。イグヴァルジは不満が顔に現れていたが渋々退出した。

 

「っ!クソ!」

 

イグヴァルジ達が退出した後。残ったアインザック達は偶然にも同時にため息を着いた。

ラケシルはアインザックにイグヴァルジの処遇に着いて尋ねる。

 

「……それでアインザック、奴の処分はどうするつもりなんだ?」

 

「最低でも降格はさせるつもりだ。最悪冒険者の地位も剥奪しようと考えている」

 

ラケシルの質問にアインザックが答えると今度はパナソレイがアインザックに質問する。

 

「一つ質問してもいいかね?」

 

「はい、何でしょうか都市長?」

 

「彼の顔に書かれていた文字?いや模様かね?見たことないのだが最近流行っているのかね?」

 

パナソレイの質問の内容にアインザックは大きく吹き出し。隣のラケシルも笑いをこらえながらパナソレイに訴える。

 

「ぶふぅ!!?」

 

「や、辞めてください都市長今までずっとこらえてたのに…」

 

「なんだ君たちも私と同じだったのかははは…」

 

「そ、それより都市長、ある冒険者チームについて話があるのですが…」

 

先ほどの張りつめた空気は何処へやら、和気藹々な雰囲気になった空間に、アインザックが何かの話を切り出したと同時にアインザックから退出を促されて退出した2人は会議室から退出したが、ある程度会議室から離れた時メンバーがイグヴァルジを殴りつける。

 

「ぐっ!テメエ、いきなりなにしやがる!」

 

「……アンタは確かに色々問題事を起こしてきたが、仲間だけは大切にしていると信じてた、けど…」

 

「…今回の事でアンタにはそれすら無い事が良く分かった。もうアンタには着いていけない、俺はもうチームを脱退させてもらう」

 

「な!?」

 

「俺はもう一度冒険者をやり直す。このまま終われないからな」

 

元メンバーは座り込んでいるイグヴァルジを通り過ぎ、階段に向かう。

 

「じゃあな、世話になった」

 

「お、おい待てよ!おい!」

 

「……」

 

驚愕し、引き留めようとするイグヴァルジを無視して元メンバーは組合の階段を下りて行った。

 

この後彼はミスリル級のプレートを自らアインザックに返上し冒険者として再び銅級から再出発をし新たな仲間を見つけチームを作り、人々の信頼を少しづつ集めて再びミスリル級のプレートに相応しい冒険者になったのは別のお話である。

 

 

 

 

人気のない路地裏、イグヴァルジは顔に何本もの青筋を浮かばせて松葉杖を着き悪態を声に出しながら歩いていた。

 

「クソ!クソ!なんで俺がこんな目に!それもこれもアイツらのせいだ!!」

 

「このまま終わってたまるか!そうだ、アイツらのあることないことをこの町中に言いふらせばアイツらも…」

 

モモンとレイヴンに逆恨みと嫉妬を抱き、彼らの立場を貶めようと画策していると、不意に誰かに当たってしまう。イグヴァルジがぶつかった方向を見ると、2人組の大人の男が前に立ちふさがるように立っていた。

 

「あぁ!?テメエ何処見てやがる!」

 

イグヴァルジは声を荒らげるが2人組はそれを無視して会話を始める。

 

「標的の肉はコイツか?」

 

「ああ、とっとと持ち帰るぞ」

 

「おい、無視してんじゃねえ!俺を誰だと…」

 

無視をされていることに腹が立ったイグヴァルジは更に声を荒らげるが、目の前の2人は無視どころか、手から棒状の物を取り出す。そこから電流が走っているのをイグヴァルジは確認する。

それを見たイグヴァルジは今の状態では不利と悟り、後ろから逃げようとするが背後には別の2人組が立ちふさがっていた。

 

「な、何だよお前ら!どけよ!」

 

しかしそう叫んでいる間に後ろから電流に音と光が走り、イグヴァルジは気を失った。

 

「がっ!?」

 

気を失ったイグヴァルジを見て、4人組は袋を取り出しその袋にイグヴァルジを入れ始めた。

 

「目標確保…」

 

「よし、すぐに基地に帰りナザリックに持ち帰るぞ」

 

「了解…」

 

4人はそのままどこかに消えていった。

 

 

 

 

「んで?カシラ?次は何処に行くんで?」

 

「……アインズと合流する」

 

「は?アインズ?誰やねんそれ?」

 

聞いたことのない名前にイアイは眉を顰めるがレイヴンは構わず、ジナイーダとマグノリアに声をかける。

 

「アルティマ、シズ、ナザリックに戻るぞ」

 

「……了解」

 

「かしこまりましたマシンナー様」

 

更に聞いたことのない単語を聞いてイアイは混乱し、レイヴンに疑問をぶつける。

 

「は?え?マシンナー?え?ナザリック?おいカシラ一体何の話や!?」

 

「イアイ、お前には伝えなければならない事がある」

 

「は?」

 

すると目の前の空間が割れ、転移門が出現する。

 

「まあとりあえず、ナザリックにようこそイアイ、行くぞ2人とも」

 

「はっ!」

 

「……了解」

 

「え?お、おいカシラ!?ええいままよ!」

 

そしてレイヴンとジナイーダ、マグノリアが入っていき、一人残されたイアイは戸惑うが、それでも中に入っていった。

そしてイアイの目の前に現れた光景は一言では言い表せない、豪華絢爛な玉座の間。

そしてその玉座の間に控えるのは自身を軽く上回る存在達が立っていた。

 

(なんやこの場所は?ここがカシラの拠点なんか?というかカシラの正体ってなんなんや?つーかそれより…)

 

(なんやこれ、周り、儂より遥かに上回る化け物どもやんけ!!!って…)

 

そして玉座の間にモモン率いる「漆黒」が現れイアイは驚愕した。

 

「も、モモンの叔父貴!」

 

「イグヴァルジの拉致、完了したぞアインズ?」

 

「ああ、よくやったご苦労だったなマシンナー」

 

そしてレイヴンとモモン達は本来の姿である異形の姿に戻る。

それを見たイアイは口をあんぐりと開けていた。

 

(な、なんやその姿!!モモンの叔父貴はアンデッド……か?見ただけで寒気が、そしてカシラは、なんなんやあの姿、あの時の奴らと同じような…)

 

マシンナーの姿を見てイアイは先日戦った改造人間達の事を連想する。

 

「隠しといてすまないイアイ、レイヴンは仮の姿、本来の姿は機械の神…まあ金属で出来た生命体って覚えてくれればいい、本名はマシンナー、このナザリックの副総括代行をしている。そして」

 

「私の名はアインズ・ウール・ゴウン。このナザリック地下大墳墓の総括をしているものだ。よろしく頼むぞイアイ?」

 

「へ、へぇ…」

 

(人間とは思えない戦闘力だったがま、まさか本当に人間じゃないとは!いやそのほうがむしろ納得良くような…ん?ちょっと待て、さっき金属で出来た生き物って…)

 

マシンナー達の紹介にイアイは内心あの人外染みた強さに納得もしたし、僅かながらに安心した。

あんな桁外れの奴らが人間なんて恐ろしすぎる。

 

「白いの…」

 

そんなイアイのもとにハムスケが近付き、イアイに耳打ちする。

 

(ね、鼠…)

 

(気を付けるでござるよ?ナザリックの方々はほとんどが某達を一瞬で屠る方々でござる)

 

(マジかい…儂、来るとこ間違えたか?)

 

(大丈夫でござるよ、住めば都でござるよ?一つを除いては)

 

最後の方が少し気になるが、マシンナーに声をかけられイアイはハッ、と帰る。

 

「イアイ?、イアイ」

 

「あ、おうなんじゃカシラ?」

 

「アインズがお前に聞きたいことがある、質問に答えてやれ」

 

「へい」

 

イアイが顔を上げアインズの方に顔を向ける。

 

「儂でよろしければなんなりと仰ってくだせえアインズの大頭」

 

「(大頭?ああ、マシンナーさんがお頭だから上司の俺は大頭って訳か)うむ、ではまず君の事から教えてくれ」

 

「は!」

 

イアイは自分の事について喋り始めた。

自身がトブの大森林で生まれ育った事。ハムスケを倒すために大森林を出て旅に出たこと。そして自分の親について喋っていると、アインズは「待て」と言った。

 

「イアイ、君の父親は確かに自分は別の世界から来たと言っていたのだね?」

 

イアイが自分の父親について話している途中に、「親父が死ぬ前に自分は別の世界から来たと言っていた」と言っていたのだ。

 

「へぇ、確か…ユグドラ…「ユグドラシル」あ、そうです、それですわ確かに死んだ親父はそう言っておりましたわ!」

 

それを聞いたマシンナーはアインズにメッセージを飛ばす。

 

(モモンガさん)

 

(はい)

 

「それで後は何か話すことはあるかね?」

 

「え~と…あ!実はカシラの鉄で出来た生き物の言葉で思い出したんですが…」

 

「ん?」

 

「百年前なんですけど…なんかちょっとした小屋ぐらいの鉄でできたデカイ玉を見つけまして、それが心臓みたいに動いてたんでさぁ…見たのはその一回だけなので今どうなっているのかはわかりやせんけど…」

 

それを聞いたアインズとマシンナーは目を見合わせる。

ニグレドの探知にもそんなものの情報はなかったからだ。

 

「なに?」

 

「え?そんなのあったでござるか?」

 

「見つけたのは儂の縄張り範囲内だったからのう、ただ、見た時、不気味やったわ、鉄の玉が心臓みたいドクンドクンしてるんじゃぞ?」

 

イアイの話を聞いてアインズはマシンナーにイアイにその物体について話させるように促させる。

 

「マシンナー」

 

「ああ、イアイ」

 

「へい?」

 

「その球みたいなものについて、何か覚えているか?なんでも構わない、些細な特徴な事でも良いんだ」

 

「ん~…覚えとることなぁ…」

 

イアイは頭を抑えて考える、思い出そうにもそれなりに時が立っているのでそう簡単には思い出せなかったが、

なんとかその時見たものの特徴を覚えている限り伝えた。

 

「色は鉛の色で…所々に赤い点みたいなのがあった、それ以外はわからん」

 

(マシンナーさん、もしかしてですけどそれって…)

 

(ええ、イアイが言っていた特徴から推測すると金属生命体の核の可能性があります。しかも核の時点でそれだけデカイとなると、かなり大型になっている可能性も)

 

(ですが、イアイが核の状態で見たのは100年前の話です。普通そんなに経っているなら言い伝え位はある筈です)

 

(もしかしたら、地下に潜って完全に成長するまで潜んでるかもしれません)

 

(確かにそれもありますね…マシンナーさん、この件は一旦2人で話しましょう)

 

(了解です)

 

「そうか…アインズ、後で話がある」

 

「うむ、わかった」

 

その後、玉座の間にいたシモベ達を元の仕事に戻るように伝えて、アインズとマシンナーその場を後にした。

 

 

 

 

周りに様々な機械が置いている実験室のような場所で、何かの機械を操作している導師と跪いている仮面の男が会話をしていた。

 

「………つまり全機破壊されただけでなく、ズーラーノーンの高弟の首も回収すらできなかったと?」

 

「申し訳ございませぬ!まさかこのような事になるとは…!!」

 

「黙れ」

 

「っ!」

 

仮面の男は導師に謝罪を述べるが導師はそれを睨み黙らせた。

 

「人間をベースに改造した攻撃力が最も低い型とは言え合体状態ならばあの王国戦士長やフールーダーの小僧でも破壊するのに手こずる性能を有しているのだぞ?それがミスリル級と金のプレートの冒険者チームに敗れた?全て破壊された?言い訳だとしてももっと言いようがあるだろう、のうシュラよ?」

 

「ですが破壊したのは只のミスリル級ではございませぬ!破壊したミスリル級の冒険者チームはモモン率いる「漆黒」とレイヴン率いる「黒鋼」でございます!」

 

仮面の男「シュラ」の報告に、導師は興味を抱いたのか、その話を聞き始めた。

 

「何?あの噂の冒険者チーム達が?誠か?」

 

「はっ!その他にもかの「森の賢王」、そして「白い暴君」も戦闘に加わっていたと言う報告を王国の冒険者組合に忍ばせている者から聞きました」

 

導師は椅子に座りながら、頬杖をつき、ふむと答える。

 

「成程…かの伝説の大魔獣達も加わっていたのか、それならば納得が行く」

 

「更に白い暴君もレイヴンの軍門に下ったと言う報告を受けました」

 

この報告に少し驚いたのか導師は眉を顰め、考え込む。

 

「ふむ…」

 

暫く考えた後、導師はシュラに「漆黒」と「黒鋼」について調べるように指示を出す。

 

「シュラ」

 

「はっ!」

 

「すぐに「漆黒」と「黒鋼」について調べろ、そやつらも一応要注意人物としてマークする」

 

「はっ!只今!!」

 

先の失態を挽回するべくシュラは即座に立ち上がり、歩き始めた。

 

「ふぅ…」

 

(全く先日の報告も十分驚嘆する程のものを聞いたばかりだと言うのに全く…)

 

数日前スレイン法国に潜入させている、偵察用の改造人間から法国最強の特殊部隊、「漆黒聖典」が行方不明になり、しかもスレイン法国の至宝の一つである「傾城傾国」までも行方知らずになったというのだ。知っているものからすれば驚かないほうがおかしい位の報告なのだ。

 

そんな時導師は、王国に潜入させた者から気になる報告を受けて居た。

 

(そう言えば王国戦士長を助けた魔術詠唱者の名前が「アインズ・ウール・ゴウン」と「マシンナー」と言う名だったな…)

 

「マシンナーは知らんがアインズ・ウール・ゴウンの方はどこかで聞いた事があるような……後で師が残した資料を見て見るか…」

 

導師は気持ちを切り替え、再び作業に取り組み始めた。




キャラクター解説

名前:イアイ
異名:白い暴君

解説:アインズ達が来る百年前までハムスケと同じくトブの大森林を根城にしていた白い体毛を持つイタチの大魔獣。異名に違わず性格は獰猛かつ好戦的で、森の賢王ことハムスケと何度も縄張り争いをしていたが、ハムスケを倒すために武者修行を行うためにトブの大森林を離れ、その後他のモンスターや魔獣と闘いながら旅をしていた。
旅をしている中で武技を扱えるようになり、独自で編み出したオリジナルの武技<鎌居太刀>の威力はハムスケを吹き飛ばす程。過去に亡くなった父親がどうもユグドラシルプレイヤーだった可能性があり、特に父親が好物だったという「お好み焼き」はとてつもなく興味があったとか。


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第50話 授与式

お待たせして申し訳ございません!


マシンナーとアインズが円卓の間に来る前にカジットの研究室に転移をしていた。

 

「おお、これはアインズ様にマシンナー様、一体どのような御用で?」

 

「うむカジット、見てもらいたいものがある。マシンナー」

 

「ああ、実は先刻、ある集団と戦闘になってな。その中の一人がコイツを持っていた」

 

マシンナーはアイテムボックスから回収した薬品入りの容器に入った生首を見せる。

その生首を見たカジットは驚く。

 

「こ、この首は!?」

 

「うむ、君が以前所属していた組織ズーラーノーンの隠れ家の一つがその集団に襲われ、他の構成員は全滅、この者の首のみが回収されようとしていたのだ」

 

「コイツの首について何か知っているか?」

 

「はっ、この者は私と同じズーラーノーンの高弟の一人でした、腕もそれなりに立つものでしたがまさか…」

 

「ふむ、カジット他に知っていることは?」

 

「申し訳ありません、何らかのタレント能力を持っていたらしいのですが、それが何なのかは…」

 

「ふむ、そうか…」

 

(予想はしていましたがやはりタレント所持者でしたね?)

 

(もしかしてタレントを持つもの達を集めているのか?いったい何を?)

 

「カジット、過去にズーラーノーンに敵対関係があった組織等はあったか?」

 

アインズの質問にカジットは申し訳なさそうに答える。

 

「いえ、特に目ぼしい組織は今までございませんでした」

 

その後もいくつかの質問をしたがあまり有力な情報は得られなかったので二人はカジットにお礼を言った後円卓の間に転移をした。

 

円卓の間に転移したアインズとマシンナーはイアイの言っていた金属の球体について話をしていた。

二人は考え付く限りの答えを模索する。

 

「まさかサイボーグだけでなく金属生命体までいる可能性まで出るとは正直予想してませんでした…」

 

「俺も失念してました、何が起こってもおかしくないと言うのに……」

 

「とりあえずその金属製の球体を探さなければなりませんね、もう球体じゃなくて何らかの形にはなっているでしょうけど…」

 

「それにしてもコアの大きさが小屋同じくらいの大きさですから確実に成長している可能性もありますね、果たしてなんの金属生命体のコアか…」

 

「個人的に禁ゴジュのコアだったら嫌だなぁ…」

 

「ああ…あの「硬い!・デカイ!!・強い!!!」の三拍子のあれですよね?あれもそうですけど、俺はデススティンガーですね、繁殖するわ一応機械なのにプレイヤー捕食して回復しようとするわで」

 

どちらも以前の世界では苦戦させられた機械系のボスモンスターである。

特に前者は特殊能力がない分単純に強かったため大層手を焼いた。

 

「確かに…どっちも嫌ですね」

 

「まあそうと決まったわけではないですが、まずそれを見たというトブの大森林を捜索しなきゃいけませんね」

 

「なら「マキナ」を使って大規模な捜索活動をさせますか?」

 

規模ならばナザリックで最も大きい「マキナ」だからこそできる人海戦術を活かした捜索活動を提案するマシンナー。アインズもその提案に同意した。

アインズもナザリックにいるモンスターやアンデッドを使役させて捜索しようと考えたが、流石にそれは見つかったら不味い。

 

「そうですね、この後のリザードマンの件で一段落着いたら頼みます」

 

「わかりました。あ、捜索の時土地勘があるハムスケとイアイも同行させたいんですけどよろしいでしょうか?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

「ああそう言えばマシンナーさん、鍛冶長から勲章が完成したのを聞きましたよ」

 

先日世界級アイテムを回収したシャルティア達の褒美の為に勲章を制作しており。

マシンナーは勲章の完成の旨をアインズに説明した。

 

「はい、鍛冶長と一緒に今回のメンバー分ばっちり作りました」

 

「そうですか、それでいつ授与しますか?」

 

「そうですね、リザードマンの集落に行くコキュートスとドランザーが出陣する前に上げるのはどうでしょうか?2人のやる気を上げるために、いや元からあの2人やる気MAXですけど」

 

「そうですね、今回の襲撃は勝利だけが目的ではないとは言え、士気を上げることは大事ですから」

 

「じゃあこの後に時間が出来たらやりますか?」

 

「ええ、やりましょう」

 

その後アインズとマシンナーはその後の簡単な打ち合わせを済ましてマシンナーはイアイを呼び、第六階層の闘技場に案内する。

 

 

 

 

「カシラ、一体どこに向かっとるんじゃ?」

 

「第六階層の闘技場だ、ちょっとお前に合わせたい者がいるんでな」

 

闘技場に着いたマシンナーとイアイ、イアイは闘技場の空を見上げ「ここは地下だったはずでは?」という疑問が湧き、マシンナーに疑問を問いかける。

 

「カシラ、ここ外か?」

 

「綺麗な空だろ?残念ながら地下なんだなこれが」

 

イアイの疑問にマシンナーは少々おどけながら答え、イアイは一瞬ポカンとした顔になるがすぐにツッコんだ。

 

「は?」

 

「俺の仲間にそういうのものがいてね、作ったのだよ」

 

「いやいや、なにその小物作るような感覚で言ってんのアンタ!?」

 

マシンナーの言葉に猛烈に突っ込むイアイだったが、マシンナーはそのツッコミを華麗にスルーをして闘技場に来た第五階層の守護者コキュートスを迎える。

 

「待たせたなコキュートス」

 

「スルー!?」

 

「ソノ魔獣ガマシンナー様ノペットデスカ?」

 

「ああ、そうだ。リザードマンの件で忙しいところ悪いんだがこいつの実力を見てもらいたいんだ、頼めるか?」

 

「勿論デゴザイマス」

 

「ありがとう。イアイ、紹介しよう。階層守護者の一人コキュートスだ。早速で悪いのだが戦ってみるか?もし死んでも蘇生するから大丈夫だ」

 

マシンナーはイアイに問いかけ、イアイは即答しコキュートスの前に立つ。

先の玉座の間で実力差は大体把握したが、実際に体験したほうが何より良い。

 

「アイアイサーや」

 

そして両腕を広げ、戦闘態勢に入った。

 

「フム……相手ヲシヨウ」

 

コキュートスは四本腕の一本に彼の創造主である武神武御雷が愛用していた斬神刀皇を構えた。

そしてコキュートスが構えた瞬間イアイは元来の獣特有の直勘と本能による危険信号が激しく告げた。

 

"コイツはヤバイ一撃で殺される"と…。

 

(ダメや、初撃で殺される…)

 

そう悟った居合は構えを解きコキュートスに平伏した。

 

「降伏や、一瞬で屠られる…」

 

内心大量の冷や汗を掻きながら、改めてこのナザリックに自分の常識なんて通用しないと改めて思い知らされたのだ。

マシンナーはコキュートスにイアイについて尋ねた。

 

「コキュートス」

 

「ハ、コノ魔獣ハマシンナー様ノ予想サレテイル通リ並デハアリマセン、鍛エレバ良キ戦力ニナルカト…」

 

コキュートスの評価にマシンナーは顎に手を添えふむ、と言い。

 

「コキュートスの評価ならば安心だな。でついでと行っちゃ悪いのだがもう一つ頼めるか?」

 

そういうとマシンナーは斬艦刀を取り出し肩に担ぐ。

 

「この世界に来てそれなりに戦ってきたが、シャルティア以外は消化不良でな、感覚も忘れたくないから相手頼めるか?」

 

マシンナーはコキュートスに尋ねるとコキュートスは四本腕に一斉に武器を構え、興奮を隠しきれぬ様子で告げる。

 

「全力デ御相手サセテ頂キマス……!」

 

「礼を言う…!」

 

コキュートスの返答を聞いたマシンナーは戦闘用のフェイスガードを下ろし両手にそれぞれ41式斬艦刀とシュバルツ・カノーネを持ち構える。イアイは再び本能からの危険信号が発するのを感じ、急いでその場から退避する。そして次の瞬間両者はぶつかった。

 

「オオオオ!!」

 

「チェストぉ!!」

 

マシンナーはコキュートスから距離を取った後、左拳を向けて高らかに叫ぶ。

 

「<ターボスマッシャーパンチ>!」

 

「ヌウゥ!?」

 

それを持っていたハルバードで押されながらもコキュートスはマシンナーの腕を弾き飛ばし切りかかる。

 

「ハァ!!」

 

「ぬ!?」

 

マシンナーは左腕を再び向け、ドリル状の小型弾頭を放つ。

 

「<ドリルミサイル>」

 

「ぬ!?」

 

<ドリルミサイル>を喰らったコキュートスは飛び道具の防御スキルがあるので全く効いていないが、一瞬だけ隙が生じマシンナーはその隙に付け込む。

 

「<ニーインパルスキック>!」

 

そして右膝からスパイクが飛び出て、コキュートスに叩き込んだ後、左足の脛あたりから刃が出現し、ローリングソバットを繰り出した。

 

「グぅ…」

 

「まだまだ!」

 

更に飛ばした左手がコキュートスに向かって飛来し、指先と掌から放つ。

マシンナーの攻撃は更に激しくなっていった。

 

 

 

 

(何やあれ?ワイどんだけ手加減されとったの?)

 

イアイは目の前の戦闘に見入っており、絶句している。

コキュートスの四本の腕から繰り出される斬撃は一つ一つがイアイからすると確実に即死するレベルの威力だ。

対してマシンナーは斬撃と砲撃で応戦している。その顔はひどく楽しそうに見えた。

 

「常識破りすぎるやろ…」

 

「当たり前だよ、マシンナー様を全てを超越する至高の御方の一人だよ?」

 

「ん?」

 

イアイが声の方向に振り返るとアルティマが居た。

 

「ジナの…じゃなかった」

 

「ジナイーダは仮の名前、本名はアルティマ・レイ・フォース。マシンナー様に最初に創造されたシモベだよ」

 

改めてよろしくと話すとイアイはこちらこそと返した後アルティマに幾つかの質問を始めた。

 

「アルティマの兄貴もあんな風に戦えるんか?」

 

「そりゃあ戦闘型の自動人形だけど単純な強さなら今マシンナー様と戦っているコキュートス殿の方が上だけどね、武器での戦闘ならば守護者随一を誇ると言われてるよ。まあそれより…」

 

「ナザリックに入った感想は?」

 

「……ぶっ飛びすぎやろ、異常すぎや」

 

イアイが一呼吸おいて溜息交じりで答えるとアルティマは僅かに笑い「そういうと思った」と言った後、満面の笑顔で言葉を続ける。

 

「これでもまだ序の口だからね?」

 

「えぇ…勘弁してくれよぉ……」

 

これで序の口かいと内心思いながら引くイアイ、そしてアルティマは何かを思い出したのかマシンナーの近くに駆け寄る。

 

「おっとそうだった、マシンナー様!」

 

「ん?」

 

アルティマに声をかけられたマシンナーはコキュートスとの模擬戦を一旦中止し、アルティマの方を向く。

 

「なんだアルティマ?」

 

「お邪魔して申し訳ありません、アインズ様がマシンナー様にお話があるので執務室に来てほしいと仰られました」

 

授与式の件だな、と考えながらマシンナーは模擬戦をしてくれたコキュートスに礼を良い、アインズの執務室に向かった。

 

「わかった、コキュートス、また頼んでもよいか?」

 

「私デ良ケレバ何時デモ…」

 

「悪いな」

 

マシンナーはアインズの執務室まで転移し、扉をノックした後アインズの「入れ」の声の後にマシンナーは執務室に入った。

 

「モモンガさん」

 

「あ、マシンナーさん」

 

「話って授与式のことですか?」

 

「はい、これから一時間後に行う予定です」

 

「わかりました、じゃあ鍛冶長に勲章の事話してきますね」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

「面を上げよ」

 

アインズの一言で、玉座の間に集合したシモベ達が顔を上げ、座っているアインズとマシンナーに目を向ける。

守護者統括のアルべドは今回の式を取り仕切るためアインズの傍らに立っている。

 

「少し時間が立ってしまったが、これから世界級アイテムを入手して来たシャルティア達に褒美を取らせようと思う」

 

「第一、第二、第三階層守護者、シャルティア。続いて<マキナ>バレット・ローグ、レッドショルダー隊、スナイプマトン隊前へ」

 

目の前に、シャルティアを始め、バレット・ローグ率いるレッドショルダー達とスナイプマトン達で構成された部隊が跪いている。

 

「此の度の世界級アイテム入手、改めて深く感謝しよう。お前達の見事な活躍を称え、褒美を取らせようと思う。マシンナー」

 

「御意」

 

マシンナーはどこからか勲章のようなものを幾つか取り出した。

その形は第二次世界大戦のドイツで作られた「黄金柏葉剣付ダイヤモンド鉄十字勲章」のような形だった。

 

「『黄金柏葉剣付ダイヤモンドナザリック勲章』、我々が今回のような功績を上げた者に授けるために制作したものだ」

 

「マシンナー、バレット・ローグ、レッドショルダー隊、スナイプマトン隊に贈ってくれるか?」

 

「ああ」

 

アインズが勲章を授与するように促しマシンナーは立ち上がり、勲章を贈呈しようと歩き出すと、レッドショルダーの一人が恐る恐る手を上げる。

 

「あ、あの…」

 

「ん?」

 

「レッドショルダーか一体どうした?」

 

「今更で申し訳ないのですが、平の隊員の我々が貰ってもよろしいのでしょうか?」

 

「え?」

 

レッドショルダーの質問にマシンナーとアインズはメッセージで会話を始める。

 

(これってあれですかね?勲章貰う他のメンバーがお偉いさんばっかりだから、逆に気まずい感じですかね?)

 

(多分そうじゃないでしょうか?)

 

しかし二人としては今回の件の報告を聞くと、シャルティアやバレット・ローグ以外の吸血鬼の花嫁やマキナの一般隊員であるレッドショルダー達やスナイプマトン達にも貰う資格は十分にあった。

 

「レッドショルダー、お前達とスナイプマトン達は今回の事に大きく貢献した、貰う資格は十分にある」

 

「マシンナーの言う通り、君たちはこの勲章を貰う十分な事をした。胸を張ってくれ」

 

「「「はっ!」」」

 

「スナイプマトン達もだ」

 

「「ありがとうございます!」」

 

「ではマシンナー」

 

「おう」

 

マシンナーはバレット・ローグの前に立ち、勲章をAMCマントにつける。

マシンナーは僅かに顔を近づけ小さく言った。

 

(よくやった)

 

(!はっ!)

 

そしてマシンナーは他のレッドショルダーやスナイプマトン達に勲章を付ける。

 

「よく似合っている、これからも期待しているぞ?」

 

「はっ!これを機に一層精進させていただきます!」

 

「次にシャルティアだがお前には別のものを渡そう」

 

そういうとアインズはペロロンチーノの装備(カラドボルグ)と同型だが血のような紅色の弓をシャルティアに贈呈する。

 

「わが友ペロロンチーノのお前用に製作していた装備、名前は『串刺し公(カズィクル・ベイ)』だ、受け取ってほしい」

 

「ペロロンチーノ様の?」

 

「お前用のアイテムとしてペロロンチーノが制作した物だが彼がナザリックにいるときは色々あって渡せなかったが、この機会に丁度良いと思ってな」

 

「ありがとうございます!この褒美に恥じぬ働きをするでありんす!」

 

「うむ、頼むぞシャルティア、では式はここでお開きとする」

 

 

 

 

「いや~無事終わりましたね」

 

「ええ、それにしてもモモンガさん、ペロさんあんな装備作ってたんですね、どんな武器なんです?」

 

「ペロロンチーノさんから聞いた話だとシャルティアのスポイトランスの弓版って感じでしたね、矢を拡散する効果もあるとか?近いうちに渡そうと思ってたんですが、今回の件で丁度いいと思って」

 

「そうですか」

 

「それで話は変わるんですけど。マシンナーさん、周辺国家に潜伏している工作隊から何か連絡は?」

 

「まだ連絡ありませんけど、そろそろだと思いますよ?」

 

 

 

 

 

どこかの地下道で数名のマキナ所属の自動人形が穴を掘削している。

そのうちの一人が持っているレーダー探知機のような物から反応が出たので他の自動人形たちに声を掛ける。

 

「よし、どうやらここが床のようだ」

 

コンコンと上を叩き、蛍光ペンで大きく目印を付ける。

 

「早く開けろ」

 

「わかってる、ちょっと待て」

 

自動人形はレーザーカッターを取り出し、起動させる。

刃の部分が発光し煙を上げながら天井の部分を大きく四角に切りとる。そして手を触れてそっと床を上げる。

 

「開けたぞ、周りには誰もいない」

 

周りを確認した自動人形の一体の言葉を聞き、下にいた別の自動人形は、ほかの自動人形たちにマシンナーに報告をする様に指示を出す。

 

「よし、マシンナー様に王国への工作第一段階完了、第二段階を開始する事を伝えろ」

 

「了解」

 

上にいる自動人形は黒いテニスボール位の大きさの黒い球を取り出し、床の外に置く。

その瞬間パカッと球が割れて、超小型の球が夥しい数で辺りに散っていく。

 

「ナノドローン散布完了」

 

「こちら管制、感度良好、問題ない」

 

「了解、これから帰還する」

 

再び床をそっと下ろし、辺りは何事もなかったかのようにシンとしていた。

 




次回からリザードマン編に突入します。


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第51話 リザードマン襲撃準備

ナザリック地下大墳墓の玉座の間にてアインズ、マシンナーの他に跪いているコキュートスとドランザーもいる。

 

「此度ノリザードマントノ戦、我々二任命シテ頂キアリガトウゴザイマス…」

 

『ナザリック、ソシテ至高ノ御方達ノ為、必ズヤ勝利致シマス』

 

今回の蜥蜴人の殲滅作戦に抜擢されたコキュートスとドランザー、頭脳面で活躍している友人のデミウルゴスや世界級アイテムを持ち帰ったシャルティア等他の守護者とは違い、活躍の機会があまり無かったため、コキュートスのやる気と気合は限界値まで引きあがっている。

それに勝るとも劣らない位の気骨を燃やすドランザー、先日<マキナ>の隊長の一人であり、兄弟のような存在の一人であるバレット・ローグがアインズ達に直々に表彰されたのだ。『自分も負けるわけにはいかない』そう決意を固めた矢先にこの任を任された。やる気が出ないわけがない。

 

「うむ、期待しているぞ?」

 

「「ハッ!!」」

 

そう力強く答えた後、コキュートスとドランザーは玉座の間から退出する。

 

「さて…予定通りになるかそれとも…」

 

「まあどっちに転んでも結果は同じですが…」

 

 

 

 

玉座の間を出た後、コキュートスはドランザーに話しかける。

ドランザーは駆動音を上げながらコキュートスの方に振り向く。

 

「ドランザー」

 

『ハッ如何ガナサイマシタカコキュートス殿?』

 

コキュートスは頭を下げ、ドランザーにこう言った。

 

「恥ズカシナガラ、私ハ戦イニハ自信ハアルガ、指揮ハコノ戦ガ初メテダ。頼リニシテイル」

 

コキュートス自身は戦闘ならば絶対的な自身はあるが、軍を率いて指揮する立場はこれが初めてであった。

そして今回マキナの隊長の一人であり己の補佐を任されたドランザー、他の<マキナ>の隊長達と同じく嘗てマシンナーと共に<マキナ>の兵団の一つ機獣兵団を率いてナザリック外に進行してくきた敵を迎え撃った。

その為コキュートスはドランザーを非常に頼りにしていた。

 

『頭ヲオ上ゲクダサイ、コキュートス殿』

 

「ム…」

 

『私ハ貴方ノ補佐官、私ノ知恵デ良ケレバ幾ラデモ出シテ見セマスル。…流石二デミウルゴス殿ノヨウニ行キマセヌガ』

 

ドランザーは冗句を交えつつ某メカ系怪獣の形をしながらも饒舌に話すドランザー。

 

「良イノカ?本当ナラバ助カルガ……」

 

『勿論デゴザイマス、ナザリックノ下デ戦ウ者同士、円滑ナ協力関係ハ必須、私ダケデナク機獣兵団(我々)モドウゾ御使イ下サイマセ…』

 

「……」

 

『…ドウシマシタ?』

 

「イヤ、失礼ナガラ意外ト喋ルノダナト思ッテナ…」

 

『ハァ?マアソレハ置イトイテ、コキュートス殿ハ今回ノ戦デ何カ戦術等ハ何カ考エテオラレマスカ?』

 

その問いにコキュートスはキョトンとした表情?でドランザーに聞き返した。

 

「?正面カラ数デ押シツブセバ良イノデハ?」

 

『…ソコカラデスカ(´・ω・`)』

 

その後ドランザーの提案により司書室にコキュートス達は向かった。

 

 

 

 

 

 

エ・ランテルのギルドの冒険者組合の扉が開く。

そこからマシンナー扮するレイヴンが入る。

入ったレイヴンは真っ先に受付の場所に向かった。

 

「あ、レイヴンさん!」

 

「すまない、組合長から話があると聞いたんだが…」

 

「はい!すぐに取り次ぎますので、お待ち下さい」

 

声を掛けられた受付嬢は急ぎ足で向かっていく。

暫くして受付嬢が戻ってきた。

 

「お待たせ致しました!三階の部屋で組合長がお待ちとのことです!」

 

「どうも」

 

受付嬢に礼を言うとレイヴンはアインザックが待つ部屋に向かった。

 

(それにしても直接のご指名とは、余程危ない依頼っぽいなこりゃ)

 

自分達のチームだけでなくアインズの漆黒にも本来呼ばれていたが、アインズ達は違う要件があり、来れなかったのだ。

 

「おお、レイヴン君急に呼び出してすまないな」

 

ノックして部屋に入ると組合長がいきなり抱擁をかましてくる。

この事でアインズは組合長にホモ疑惑を持っているが、マシンナーは挨拶の意味なのではないか?と考えていたがアルティマとシズに軽い気持ちで話したら、二人とも絶対零度の殺意が籠っていたという。

 

「構わないですよ、早速ですがどのような要件で?」

 

「うむ、そのことなんだがまずこれを見てくれ、こいつをどう思う?」

 

そういうとアインザックは小さな箱を取り出し箱を開けて、中身を取り出しレイヴンに見せた。

 

「金属片?何かの希少金属ですか?」

 

白金色に輝いている15cm位の金属片がキラリと輝いていた。

 

「そうだ、しかも特殊な金属でな、説明がしづらいから実際に見たほうが良い」

 

(どっかで見たことがある金属片だったな?ん~と)

 

「よく見ておいてくれ」

 

そういうとアインザックはどこからか取り出した小さなナイフの切っ先を金属に触れると金属はみるみる内にナイフの先端をコーティングしていく。

これにはレイヴンは大きく驚く。

 

「!こいつは!」

 

「驚いただろ?これは触れるだけでコーティングしてくれる金属なんだ、しかもこの金属でコーティングした矢はオーガの頭を一撃で貫いたそうだ」

 

アインザックはそう説明するがレイヴンが驚いたのは別の意味があった。

 

(嘘だろ…!?何故『ナノメタル』が…!?)

 

嘗てユグドラシル内で存在した特殊合金の一つ。合金そのものは途轍もなく頑丈で、特定の指令を出せばそれに応じて変形する代物だ。その特殊性に目を付け自分の装備の素材の一つにも使用している。

しかし、これを作るには特定の金属と専用のアイテムを使わなければ精製できない代物である。

少なくとも自然に出てくるものではない。

 

(これは特定の金属と道具がなければ精製できないはず?一体何故?)

 

レイヴンは内心考え込んでいるとアインザックの声に我に返る。

 

「レイヴン君?」

 

「あ、ああすいません、こんな金属初めて見たもので…」

 

「ああ、私も最初見た時は自分の目を疑ったよ、それでもう予想はつくだろうがトブの大森林でこれと同じものを採取してほしいんだ」

 

「トブの大森林?あそこで見つけたんですか?」

 

トブの大森林の言葉が出たことに、レイヴンはイアイが見たものの話を思い出す。

そして何か関係があるのではないかと疑問に思った。

 

「ああ、大昔の話だがね、それで大体予想は付くだろうが、トブの大森林に行ってこの金属がまだあるか調査してほしいのだ、もし見つけて回収してくれたら報酬の倍を出そう」

 

「なるど内容は理解しました。準備が整い次第出向させていただきます」

 

レイヴンにとってもこの件は重要なものだったので断る理由はなかった。

アインザックに挨拶をした後レイヴンは部屋から退出した。

 

「ああ、頼んだよレイヴン君」

 

「わかりました、では」

 

レイヴンが退出したのを見届けるとアインザックは椅子にもたれ掛かり、ため息をつく。

連日の激務による疲労の影響だ。

 

「はぁ…」

 

「上からの直々の依頼とは言え、今なおあるのかもわからない物の調査に彼らを使いたくはなかったんだがなぁ…」

 

秘密結社ズーラーノーンの異変後の後処理まだ終わってないというのにもしかしたらズーラーノーンに匹敵するかもしれない謎の組織の情報、元ミスリル級冒険者のイグヴァルジが謎の失踪をとげるという事件が発生、しかも王国から出たところを誰も見ていないという情報まで入った。謎の組織の事はまだ市民から知られてはいないがイグヴァルジの件は噂には流れておりその為住民には僅かながら不安が漂っている。

その為住民の不安を少しでも和らげる為にこの間アダマンタイト級になった<漆黒>と<黒鋼>の最近一番話題になっている冒険者チームが見回りに出ている。

 

「不幸中の幸いなのはモモン君とレイヴン君が同じチームでは無かったことだな、アダマンタイト級の冒険者は蒼の薔薇もいるが戦力はやはり多いほうが良い」

 

アインザックはそう言いながら残りの後処理をするため、自分の執務室に戻っていった。

 

 

 

 

<ナノメタルですか?>

 

<はい、なんでもトブの大森林で見つけたらしいです>

 

<確かですか?>

 

組合を出た後、<伝言(メッセージ)>で先程の依頼内容を知らせる。

アインズもマシンナー同様に驚き、マシンナーから更に情報を聞く。

 

<はい、ナノメタルの大体の特徴もありましたし、ハッキリとナノメタルと表示されていました>

 

<トブの大森林…もしかするとイアイが見た金属生命体の構成パーツかもしれませんとなると上級のモンスターかもしれませんね>

 

イアイが先日言っていた金属生命体らしき存在がいる可能性。その可能性がより確実になってきた。

 

<はい、なのでマキナを使って捜索しようと考えてるんですけど良いでしょうか?>

 

<そうですね俺もそのほうが良いと思います>

 

アインズとの<伝言(メッセージ)>を切ったマシンナーはこの世界のナノメタルがどうゆう存在か考えていた。

 

「さて、見つけたナノメタルの正体は金属生命体のパーツかそれとも…ナノメタルの結晶か…」

 

「レイヴンさん」

 

「どうしたジナ?」

 

「は、例の大捜索にはアウラ殿も同行させた方が効率が良いと愚考致します」

 

「うん、そうだな、戻ったらアインズに頼んでみるか、そうだ後でカルネ村に行こう。近況を確認したい」

 

ゴルドソウルの報告からはカルネ村とは目立った衝突は無いらしく、マシンナーもそれを信じているが念の為一応実際に見に行こうとマシンナーは考えていた。

 

「了解しました!」

 

「…了…解…」

 

 

 

 

 

 

 

司書室

 

司書室の中の机の一つに戦術、戦略が書かれた書物が大量に置かれており、椅子にはコキュートス、ドランザーが座っている。

 

『……デスノデマズヤハリ情報収集カラデス、敵ヲ知リ、己ヲ知レバ百戦百勝デゴザイマス』

 

ドランザーはコキュートスに解説をしながら戦術の重要性を説いている。

コキュートスは興味深い様子でそれを真摯に聞いていた。

 

「ウム、ナルホド…」

 

『敵ノ戦力ハ勿論相手側ノ地形モデス、蜥蜴人達ガ上手ク利用シテゲリラ戦ヲ仕掛ケテクルカモシレマセン』

 

「ソウナルト厄介ダナ、数ヲ活カシタ物量作戦ガ展開デキヌ…シカモ回ノ戦力ニハ指揮キル者ガオラヌ、通常ノ低位ノアンデッドハ判断力ガ乏シイ」

 

『仰ル通リ』

 

知性が低く判断能力が乏しい下級のアンデッドは単調な行動しかできない、そうなるとコキュートスが如何に上手く指揮できるかが肝になる。

 

「ソウ言エバ、アインズ様トマシンナー様ガ例ノ実験体ヲ温存スルヨウ二言ッテイタナ?一体何故…?」

 

そんな時、コキュートスはふと疑問が思い浮かび口に出す。

今回マシンナーが制作したある実験体を受領したのだがどういうわけか最後まで温存するように注意を受けた。

 

『ソレハ私モ気ニナッテオリマシタ、一体何ノ為二?』

 

「フム…」

 

コキュートスがそう考えこんでいるとある結論に至る。

 

「マサカ…ナザリックノ者達ノ意識ヲ改メル為ノ一環カ?」

 

その言葉にドランザーハッとなり、アインズとマシンナーが度々言っていたことを思い出す。

 

『!ソレナラ色々ト納得シマス、アインズ様トマシンナー様ハ常日頃油断ハ禁物ト仰ラレテオリマス』

 

「ナラバ、敢エテ低位ノアンデッドノ軍ヲ率イル様二仰ラレタノハ…!」

 

『コノ戦力デコキュートス殿ガドノ様二考エ蜥蜴人トドウ戦ウカヲ試ス為…?』

 

「ドランザー…」

 

『ハ』

 

「今カラデキル限リダケデ良イ、私ノ頭ノ中二戦術ト戦略ノイロハヲ叩キ込ンデクレヌカ?」

 

コキュートスの頼みにドランザーは快く受ける。

 

『コキュートス殿、ワカリマシタ。出来ル限リノ事ヲ致シマス』

 

やる気を示すかのように目の光を一層光らせた。

 

 

 

 

暫くの間コキュートスはドランザーと話し合いをしながら戦略を考えていたが、あまりいい方向に進まなかった。

 

「駄目ダ、ヤハリコノ戦力デハ勝算ガ低イ…」

 

『…』

 

主な低い理由は低位のアンデッドの知能の低く、どうしてもコキュートスの指揮能力に依存されてしまう。

そしてコキュートスは今回の蜥蜴人との戦争で初めて指揮を執るのだ。

勝算は低い。

 

「一体ドウスレバ…」

 

『コキュートス殿』

 

「ン?」

 

ドランザーは少し間をおいてコキュートスにある提案をする。

 

『…駄目元デアインズ様二戦力ノ増強ヲ願イ出ルノハ如何デショウカ?』

 

その言葉にコキュートスは立ち上がり、猛烈にドランザーに抗議をする。

 

「ソレハナラン、至高ノ御方達ハコノ戦力デノ戦ヲ命ジラレタノダゾ?」

 

勿論ドランザーもそれは理解している。

しかし、このままでは無様に敗北する事は免れない。

それにドランザーにはある疑念が浮かんでいた。

 

『先程考エタノデスガ、至高ノ御方達ハコノ流レモ予測サレテイタノデハ?』

 

ドランザーの一言にコキュートスはハッとする。

 

「!……確カニ、アリエン話デハナイ」

 

『ソレニ先程申した通り駄目元デス、デスガ言ッテミル価値ハアリマス』

 

その言葉にコキュートスはある決心をした。

 

「ソウダナ進言シテミヨウ」

 

コキュートスはアルベドに<メッセージ>を送る。

そしてすぐにアルベドはアインズに連絡をした。

 

「コキュートスとドランザーが面会をしたい?」

 

「はい如何なさいましょうか?」

 

「ふむ、許す。通せ」

 

「は!」

 

アルベドの許可が下り、扉が開きコキュートスとドランザーが入ってくる。

 

「失礼致シマス…」

 

「ふむ、どうした二人とも?」

 

「ハ、先程ドランザート共二戦力ヲ調ベテタノデスガ…」

 

『通常ノ下級アンデッドハ思考能力ガ乏シク、単純ナ行動シカデキマセン、ナノデ…』

 

「蜥蜴人トノ戦ノ勝算ガ低クナル可能性ガ…」

 

コキュートスがそう言いかけているとアルベドは目を鋭くさせながら、コキュートスに反論する。

 

「何コキュートス?貴方達は至高の御方達の考えに異を唱えると…」

 

「良いアルベド、ふむ、コキュートス、良くその考えに行き着いた、だが戦力を増強することはできない」

 

アルベドの発言をアインズが止め、コキュートスがそこまで行き着いた事を褒めるが、戦力の増強は認めなかった。

 

「ソレハ何故デショウカ?」

 

「うむ、その理由は指揮の経験が無いお前にこれからの為に今回を通して色々と学んでほしい、その為あえて兵力を低位のアンデッドにしたのだ」

 

「ソノ様ナオ考エガ…」

 

「今回は絶対なる勝利にはこだわらなくてもよい、だが勝利する思いまで捨てるではないぞ?」

 

「ハ!」

 

(まさかこうなるとはなぁ…、まあそこまで考えが言ったことを良しとするか)

 

 

 

 

気晴らしに俺は副料理長が営んでいるショットバーの扉の前に立っていた。そして扉を開けるとそこに先日表彰されたシャルティアとバレット・ローグが飲んでいた。

だが少々様子がおかしい。

 

「あいんずさま~おやくにたててうれしいでありんす~」

 

「あのシャルティア殿?うれしい気持ちは大変わかりますが…」

 

「おかぁり~」

 

「やれやれ…」

 

「…」

 

シャルティアの様子に副料理長とバレット・ローグは「やれやれ」と言いたげに肩を落とす。

その後、バーの扉が開く音が聞こえ、次の来客を見て驚きの声を上げる。

 

「いらっしゃいま…マシンナー様」

 

「えぇ!」

 

「ああ~…入るぞ?」

 

なんだかシャルティアが酔いつぶれてるようにも見えるが気にせず俺は席に着いた。

 

「副料理長、バーボンあるか?氷で頼む」

 

俺は副料理長にバーボンを頼む。

え?なんでバーボンかって?昔ロックマンの漫画でVAVAってキャラがバーボン持っているシーンあるんだけど、それが物凄くハードボイルドでかっこいいんだよ、それに憧れた口かな?え?お前は泥水でもすすってろ?うるせえバーロー畜生。

 

「はっ…」

 

「あ、あのマシンナー様、さっきのはその…!」

 

俺が来たことにシャルティアは慌てるが、俺は軽い注意だけ言った。きっとさっきまでバレット・ローグと二人で祝杯を挙げていたのだろう。

 

「ん?まあ、うん、祝杯上げる気持ちはわかるがほどほどにな?」

 

「は、はいぃ…」

 

「心配するな、アインズには言わん安心しろ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「まあとりあえず、二人とも世界級アイテムの回収よくやってくれた、改めて言うよ」

 

俺がシャルティアを褒めた後、丁度副料理長がバーボンを持ってきた。

 

「お待たせしました」

 

「ありがとう」

 

副料理長が持ってきたバーボンを口につける。良く熟成されているのか心地よい味わいが口に広がった。

 

「旨いな、銘柄は?」

 

「ブッカーズです」

 

「…え?」

 

興味本位で副料理長に聞くとその口から言った名前に俺は一瞬キョトンとなる。

確かバーボンの中で途轍もなく高い奴だったよな?

 

「副料理長、もう一度聞くが正真正銘のブッカーズなのか?」

 

「はい、正真正銘のブッカーズです」

 

(マジかよめっちゃ高いやつやんけ…確か一万くらいっだたかな?…)

 

すげぇなこのバーって思っているとそこにまた扉が開く音がして振り返るとコキュートスとドランザーが後ろにいた。

 

「!マシンナー様…」

 

『コンナ所デオ会イスルトワ…』

 

「ん?コキュートス、ドランザーどうしたんだ二人して」

 

『ハッ、共二作戦ヲ遂行スル者同士、親睦ヲ深メヨウト思イ副料理長ガ営ムコノバーへ…』

 

「そうか、まあ座れ」

 

「『失礼シマス』」

 

俺の隣にコキュートスとドランザーが座り、それぞれ注文をする。

 

「何時モノヲ頼ム」

 

「私ハE缶デ…」

 

そういうとコキュートスにはストロー付きのグラスとドランザーには通常のグラスで出された。

 

「マシンナー様モバーヲ利用スル時ガ?」

 

「ん?まあ、息抜きの時にな」

 

バーボンを飲み終えた俺は、椅子から立ち上がり、自分の司令室に戻る。

まだ終わってない書類とかもあるからな。

 

「副料理長、バーボン旨かったよ、また来るよ」

 

「はい…」

 

次はシズを誘おうかな?誘えればだけど…。

 

 

 




バーボンとVAVAのシーンは本当にハードボイルド。
ちょっと読み切りみたいな感じで違う話も投稿してみったいな~って考えています(まだ投稿するとは言ってない)


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第52話 大森林調査準備

今日は短めです本当に申し訳ありません(;ω;)



「じゃあ行くぞシズ」

 

「……了解」

 

俺はシズを連れてトブの大森林の所に向かっている。理由は先日モモンガさんに伝えていたマキナを使ってのトブの大森林の大規模な調査、その下見である。

以前からアウラが周辺一帯は調査しており、脅威となりそうなモンスターは居ないらしいので一応大丈夫だと思うが油断はしない。

 

それにしても金属生命体のコアやらナノメタルやら、思ったよりも機械類がこっちの世界に流れ着いたのは素直に驚いた。もしかしたら俺以外の機械系のプレイヤーもいるかもしれない。

 

(会長やサークルのメンバーだったら嬉しいんだがなぁ…)

 

かつて親睦を深めていた自動人形系の種族限定のサークルがあって、そこのメンバー達とは仲が良かったのでもしこの世界に転移していたらまた仲良くしたいな。……もっとも一番転移していて欲しいのはギルドのみんなだが。

 

(っと別の事考えている場合じゃなかったな)

 

「……マシンナー様」

 

「ん?」

 

それ以上の思考を止め、俺はシズの方に振り向く。

 

「……総隊長…は?」

 

「アルティマか?あいつは他の用で外している。今日は同席しない」

 

アルティマはナザリックに潜伏しているマキナの工作隊の報告を受けている。

その後ドランザーが蜥蜴人掃討作戦に出撃するのでその前に一度隊長達の定例会議をするようだ。

 

「……やった」

 

「ん?なんだって」

 

「!……なんでも…ない」

 

「?そうか」

 

何か言った気がするが本人がなんでもないなら詮索しないでおこう。

さてと乗り物を出さないとな…。

 

「来い、トロンべ!」

 

俺は指に嵌めていた指輪から黒い馬型の自動人形を召喚する。

俺を載せるのに十分な大きさを誇り、全身で漆黒の装甲で覆われ、金と赤のラインが入っている。首には青白い鬣の様なエフェクトが出ている。

こいつは俺が作った機械獣で主に運搬が任務である、また変形能力も持っている。

俺は意気揚々とまたがろうとしたがあることを忘れていた。

 

(しまった…シズの移動手段を忘れていた)

 

うっかりシズの移動手段の事をを忘れていた。シズだけ徒歩にするわけには行かない。

だがおれはあることを思い出した。

 

「シズすまん、ちょっと待っててくれないか?」

 

「ん…?」

 

俺はトロンべをバイク形態に変形させ、アイテムボックスからサイドカー用のオプションパーツを取り出し装着させる。

 

「すまんシズ、遅くなってしまった」

 

「良……い」

 

準備を終えた俺はシズを隣に乗せる。

 

「良いかシズ?」

 

「…何時でも…良い」

 

「わかった。さて…行くぞトロンべ!」

 

俺はアクセルを吹かし、サイドカー形態になったトロンべを走らせた。

 

 

 

 

(良し、思ったよりいい感じだ。サイドカーは初めてだが、これなら大丈夫だな)

 

俺たちはアウラのフェンリルと並走する形で走る。初めての騎乗で少し心配だったが大丈夫そうだ。

トロンべも順調に走っている

 

「アウラの報告通り、この辺りには脅威になりそうなのはいなさそうだ」

 

「…何も……いない…」

 

トブの大森林ではイアイとハムスケよりも強い魔獣は居ないのでまず大丈夫だろうが、油断はできない。

ナノメタルと金生命体の件もあるしな。

 

 

その後少し移動していると俺たちは少し開けた場所に着いていた。

見晴らしが良く休憩するには丁度いい。

 

「少しここで休憩するか」

 

「わかりました」

 

「ちょっと待ってろ飲み物出すから」

 

そういうと俺は腹部の装甲を開ける、するとそこに小型の冷蔵庫みたいな空間にコーラがを三本入っておりそれを取り出す。

え?何でついてるかって?……某麦わらの海賊漫画の影響ですよ。

 

「コーラだ、飲むか?」

 

「…!?」」

 

(え?なんで驚いてんの?もしかして腹の冷蔵庫からコーラ出したの不味かった!)

 

自分のやった事にやってまった、と狼狽していると、シズが恐る恐る質問をしてきた。

 

「……マシンナー様、何…それ?」

 

「……俺の腹の部分に緊急時に非常食とか小型の冷蔵庫がつけてあるんだ…」

 

「……」

 

腹の冷蔵庫について説明したのだが、シズは無言でジッと見つめてくる。

 

(罵倒でも良いから何か喋ってくれ、その間が辛い!)

 

しかしシズはマシンナーが持っていたコーラをそっと受け取り、それに口を付ける。

 

「…頂きます」

 

(…どんな構造…なんだろう…?)

 

コーラを飲みながらマシンナーの体の構造を不思議に思い、マシンナーは取り合えず何とかなったのか?と疑問に思いつつ、コーラに口を付ける0。

 

(と、取り合えず何とかなったのか?)

 

「…美味しい」

 

 

 

 

コーラを飲み終えて、この後はどうしようかと考えていた。

 

(さてどうするか…ん?)

 

俺がが考え込んでいる時シズが藪をジッと見つめている事に気づく。

何かいるのか?

 

「シズ、どうした?」

 

「何か…いた」

 

「何?」

 

シズの言葉に俺は斬艦刀の柄を握る。

しかし出てきたのは何の変哲もない野兎だった。

 

「……なんだウサギか」

 

「……」

 

兎だとわかって俺は一瞬安堵するが、シズはウサギに近づいてしゃがみ込む。

 

「?シズ?」

 

「……可愛い」

 

そういうとシズはそっとウサギを抱き上げた。

 

(…そう言えば小動物が好きだったなシズは……ウサギが羨ましい)

 

「…ん」

 

シズは抱き上げている。ウサギの頭を撫でながら愛でている。

俺は内心ウサギを羨ましく思いながらそれを眺めていた。

 

(ウサギになれれば、でもメカウサギじゃ意味ないし…いや待て着ぐるみの中に入るって手も…あら?)

 

そう思っていると、次は木から兎より小さな何かが下りてシズの下で止まる。

 

「次はリスまで来やがった…」

 

「……」

 

シズは兎を右手で抱えながら、リスに腕を差し出す。

リスは何の躊躇も無くシズの手を伝い、肩に乗った。

それを見たシズは肩に乗っているリスを撫でる。

 

「…マシンナー……様」

 

「ん?」

 

「…鳥」

 

シズに言われて辺りを見渡すと鳥が俺の角に数匹止まっている。

木か何かだと思っているのか?ピヨピヨ囀っている。

 

「え?本当だ、いつの間に…」

 

「……」

 

巣でも作られたら溜まったものではないので音か煙でも出して追い払おうかと考えたが、シズがジーっとコチラを見つめているのでそちらに興味が湧いたのでシズに話しかける。

 

「…どうした?」

 

「……面白そう」

 

「え?」

 

意外な質問に面食らい、頬を小さくかいている。

そうしている間になぜか別の鳥が止まりに来た。

 

「……ふふ」

 

「なんで笑ってんだ?」

 

「……おもしろ…い?」

 

「なんだそりゃ?」

 

シズの返答に若干の疑問が生じながらもシズが楽しんでるならば良いかと考える。

そう思った同時に俺はシズにまた来ないかと誘った。

 

「また来るか?暇なときに?お前が良ければだが?」

 

シズは一瞬の間を置いてコクリと頷き

 

「……良い」

 

と言ってくれた。勿論俺の脳内は…。

 

(いよっしゃああああああ!!!)

 

絶賛コロンビア状態であった。

 

「マシンナー……様…?」

 

「ん?いや、なんでもないぞ?」

 

なんとかごまかしたが、その時茂みからガサガサと音がする。

 

「?」

 

「なんだ?」

 

すると茂みからオーガが飛び出してきて俺たちを見た瞬間咆哮を上げる。

それを聞いたウサギやリスが怯えて我先に逃げ出した。

 

「オオオオオオ!」

 

「…」

 

「…」

 

俺は拳をシズは愛用の魔銃を取り出しオーガの顔面と胴体に発砲した。

頭部はシズの魔銃でハチの巣にされ、胴体は俺のロケットパンチで胴体をぶち抜く。

オーガの死体はそのまま勢いよく前のめりになった。

 

 

 

 

その後暫く辺りを周り、終わった後に俺たちはナザリックに転移をする。

シズはこの後、プレアデスの定例会議をするので、ここで降ろす。

 

「すまんなシズ、付き合って貰って」

 

「……良い、必要なら…また…言って…」

 

「あ…」

 

シズが立ち去ろうとしたとき、俺は思わず一瞬だけ手を伸ばしたがすぐに引っ込めた。

 

「はぁ~…まだ仕事以外ではうまく誘えねぇな畜生……」

 

俺はがっくりと肩を落としていると後ろからバイクのエンジン音が聞こえる。

振り向くとトロンべがライトを光らせながら、なんか唸っていた。

 

「ん?」

 

『ブォン、ブォン、ブォン、バーカ』

 

「……」

 

俺にバイク語?なんかわからない。だが何を言ったのかなんとなくわかった。

翻訳すると『なんでそこで二の足踏むんだよ、ばっちり決めろよ。だから彼女と中々進展しないんだよバーカ』と…。

 

「お前今日飯抜きな」

 

『ヒヒーン!?』

 

 

 

 

マキナ司令部『機械の楽園』、その一室でアルティマをはじめとするマキナの隊長達が定例会議をしている。

七大隊長の一人バレット・ローグ率いる潜伏している「機人兵団」からの報告を読み上げていた。

内容は先日判明したナノメタルの事である。

 

「…以上で潜伏している者たちから報告は終了する」

 

報告を終えたバレットは椅子に座る。

その後に他の隊長達は一斉に喋り始めた。

最初にゴルドソウルがバレットに質問をする

 

「ある程度の予想していたがやはり王国はナノメタルでの武器の補強を考えているようだな?」

 

ゴルドソウルの質問にバレットは「ああ」と肯定した。

 

「先程言った調査結果によれば王国は一部の貴族の私兵以外は全部徴用された民、つまり案山子同然の者たちだ。少しでも武器の質を高めて少しでもマシな戦力にしようとしているのだろう」

 

バレットの言う通り、王国の戦力は一部の貴族達の私兵以外は徴用された民兵。

兵としての戦力はナザリックの兵は勿論、帝国の兵にも劣る練度しかない。

だからナノメタルを使って、装備を強化して少しでもマシな戦力に仕立てようとしたのだろう。

 

「…ダガ奴ラハナノメタルの真ノ実態ヲ理解シテイハイナイダロウナ……ヤレヤレ…」

 

排気の様な溜息をつくドランザーの言う通り、ナノメタルの最大の能力はコーティングする事だけではなくその変形性と金属とは思えない増殖能力にある。特定の指令を出せばその指令の通りのものになり、次第にその量を増やしていく事も可能になる。だが使い道を誤れば増殖能力が暴走し山一つをナノメタル化するくらいの勢いで侵食してしまう。

 

「仕方ないよドランザー、ナノメタルをこの世界の人間たちは自然の希少金属だと思っている、だからアレの真の価値を見出していない」

 

ドランザーのボヤキにアルティマは肩をすぼめながら、答える。

だが、ナザリックの者たちにとっても貴重なレアメタルには違いなく、ナザリックの為にも何としてでも真相を確かめなければならない。

 

「だが金属生命体の核も気になる、もしも我々に匹敵する者であれば途轍もない脅威だぞ?」

 

「ディアヴォルス、それ以外にも謎の改造人間共の事もあります」

 

アンヘルの言う通りナノメタルと同じく、金属生命体の核と謎の改造人間の集団の出現。

ナザリック以外で自動人形や機械系の異形種は存在しないと考えていなかった為、報告を聞いたときはアルティマ以外大きく驚いていた。

 

「取り合えず順に解決するしかないよ。まずナノメタルはこの間言ったトブの大森林の大捜索で手がかりを捜索しよう。改造人間は引き続き調査、金属生命体は……ドランザー、もし現れたら手なずけることできない?」

 

アルティマの無茶ぶりにオイオイと思いながらドランザーはできないことを伝える。

 

「…残念ダガ俺ハアウラ殿デハナイカラ無理ダ」

 

「冗談だよ。ゴルド、カルネ村は?」

 

この世界で初めて傘下に加わったカルネ村。

アインズとマシンナーからは住民たちと極力衝突しないように釘を刺されているため、報告はこまめにしている。

 

「大丈夫だ。今のところは至って変わった点はない」

 

「なら良いんだ、明日マシンナー様がお忍びで視察に来るからね。案内頼むよ?」

 

「それは本当か?わかった、任せておけ」

 

「じゃあ今回の会議は終わり、みんな持ち場に戻って良いよ」

 

 

 

 

 

 

「ふむ、やはり書いてあったか…『アインズ・ウール・ゴウン』」

 

古い書斎の様な部屋に謎の改造人間の集団の頭目、「導師」と呼ばれる老人がとある資料を手に取り、読み上げている。

 

「アインズ・ウール・ゴウン……ユグドラシルという世界に存在したというギルドの一つ、ギルドのメンバーの者たち全員が異形の者で構成されているという特徴を持つ。拠点であるナザリック地下大墳墓は難攻不落で、幾重にもの罠が張り巡らされている…か」

 

資料を読み上げて、それを閉じると顎に手を添え考え込む。

 

「となるとアインズ・ウール・ゴウンの名は偽名で、本来は別にあるということか…ギルドのメンバーについても書かれていれば良いが、流石に書かれて無いか…」

 

そう言葉を区切った後、彼は一つの疑問を抱く。

 

「だが何故わざわざギルドの名を?知っているものがいれば狙われる可能性もあるというのに…まさかわざと?」

 

偽名ならば幾らでも思いつくはずなのに、何故かアインズなる人物はギルドの名前を偽名にした。

狙われるリスクもあるというのに…。

その後も彼は暫く考え込むがそれ以上の考えは思いつかず、一旦違う話題に切り替える。

 

「考えても仕方るまい、だがこの資料が事実ならアインズ・ウール・ゴウンとその一党は確実に我が師と同じぷれいやー…つまり我々からすれば神に等しい存在…」

 

自身の一生の中で唯一尊敬し、己の今知っている知識を授けてくれた己の師も「ユグドラシル」なる異世界から来た「ぷれいやー」と呼ばれる存在の一人だった。

ならばそのアインズというぷれいやーも自分の師と同じく神に等しい強大な存在であるのは間違いない。

 

「本来ならば敵対せず恭順を示す方が利口だろう。しかし…」

 

「わが夢は世界の覇権を握ること、ならばアインズ・ウール・ゴウンは邪魔…!圧倒的邪魔……‼」

 

「傍から見れば儂の考えは愚者の考えかもしれん、だが…!」

 

己の野望を邪魔するならば例え至高の神々であろうと挑むのみと彼はそう考えた。

 

「愚者で上等…我、神々に弓引かん……!」

 

そう高らかに宣言した後、彼は高笑いを大きく上げる。その笑い声は部屋全体に轟いた。

 

 

 



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第53話 蜥蜴人襲撃前日

早朝のカルネ村の一軒家にマキナの特機兵団の隊長、ゴルドソウルが押し入れに入って寝ている。

しかしセットしていた目覚まし時計が鳴り、起床した。

 

「…さてあいつら呼びに行くか」

 

家を出て兵団の構成員たちの兵舎にまで行き、胸部のライオンの顔が咆哮を上げる。

 

「おはよう野郎ども!新しい朝が来たぞ!40秒で来なければ腕立て500回だ!!!」

 

「「「「アイエエエ!!?」」」」

 

ゴルドソウルの怒号を聞き、一斉に慌ただしく特機兵団の守備隊が起き、兵舎から出て整列をした。

 

「よし39.8秒だな、よくやった、ではまずラジオ体操である!」

 

その後、ゴルドソウルは小型のラジオを置き、ラジオ体操の音楽を流す。

 

「「「「押忍!!!」」」」

 

ゴルドソウルと特機兵団は音楽の指示に合わせて体操を始めた。

 

「次は森の周辺をランニング!駆け足!!」

 

「「「はっ!」」」

 

ラジオ体操が終わり、ゴルドソウルがランニングの指示を出して、ゴルドソウルを先頭に特機兵団はランニングを始めた。

途中、カルネ村とは違うゴブリンやらオーガとも遭遇したが、彼らによって次々と討伐された。

 

 

 

 

 

 

 

ランニングを終え、再び兵舎の前に整列する特機兵団。

 

「よしランニング終わり!では朝飯だ、行くぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

ゴルドソウルの許可の後、特機兵団はカルネ村で普段食事を取っている場所に向かう。

カルネ村では既に村人やゴブリン、古代の機械の者たちが座っていた。

村人やゴブリン達は普通の食事を取っていたが、古代の機械達は燃料を補給している。

特機兵団が続々と兵団用の席に座っていき、ゴルドソウルも席に座った。

 

「あ、ゴルドソウルさん」

 

「あ、御大将、おはようさんっす」

 

「大将じゃない隊長だ」

 

席に座ったゴルドソウルに気が付いたのか挨拶をする。

ゴルドソウルは口のフェイスガードを解除して「いただきます」と言って少し周りを見渡しながら朝食をとり始める。

 

「どうしたんですかゴルドさん?」

 

「…なんでもないぞ」

 

「ああ、ネムの事ですか…?」

 

「うん…まぁ」

 

ゴルドソウルの返答にジュゲムは笑う。

 

「ははっ、化け物染みて強い御大将もネムさんには弱ぇすね?」

 

「ジュゲム、お前後でタイキックな?」

 

「ふぁ!?」

 

「あ~あ…」

 

ジュゲムに対するお仕置きを聞いた特機兵団の面々は同情するような声を出す。

 

「可哀そうにご愁傷様だな、南無…」

 

「ゴルド隊長は他の隊長達より馬鹿力だからミンチ確定だな」

 

「安心しテ、丁重に葬って上げる」

 

「心配するな運が良ければ下半身が粉微塵になるだけだ。そうなったらナザリック脅威の科学力で改造ゴブリン:ジュゲムに生まれ変わらせてやる」

 

「いや何死ぬ前提で言ってるんですかい!?」

 

絶叫するジュゲムだったが隣でシャドーを始めるゴルドソウルに本気で命の危機を感じたジュゲムはその場で土下座をして許しを請うたという。

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えたゴルドソウルは住まいに戻り、書類に書き込んでいると扉が叩く音がした。

それを聞いたゴルドソウルは思わずびくりとする。

 

「!…まだ時間ではない筈!?」

 

ゴルドソウルが慌ただしく言っていると、扉が開き扉から同じマキナの隊長であるドランザーが立っていた。

ゴルドソウルは安堵し、それを見た不思議そうにドランザーは首を傾げた。

 

「?何ヲ怯エテイル?」

 

「お前か…びっくりさせんなよ……」

 

「ハァ?」

 

「何でもない、どうしたんだ急に?」

 

扉を閉めたドランザーはゴルドソウルが出した椅子に座る。

そして訪問の理由を話し始めた。

 

「明日蜥蜴人ノ掃討作戦ガ開始サレル、ソノ前二会ッテオコウカト…」

 

「なるほどな、E缶で良いか?」

 

「アア、オデン味デ頼ム」

 

「そんな味はない」

 

「冗談ダ」

 

そんな他愛もない会話をしながらゴルドソウルは機械系異形種のエネルギー元の一つであるE缶を手渡す。

ドランザーは礼を言いながらタブを開け、くいっと飲み始める。

 

「で、勝算はどうなんだ?」

 

明日の蜥蜴人掃討作戦の勝算を聞くとドランザーは缶を口から離し、喋りだすがその口調はどこか暗さがあった。

 

「……正直言ッテ今ノ確率ハ五分五分ダ」

 

「何?どういう事だ?コキュートス殿に何か問題でも?」

 

同じマキナの隊長のドランザーの意外な答えにゴルドソウルは少々驚き理由を聞くとドランザーはそのまま続ける。

 

「別にコキュートス殿ガ愚カトイウ訳デハナイ、ダガ本格的ナ指揮ハ今回ガ初メテナノダ」

 

ドランザーの言葉にゴルドソウルは納得した。

戦闘では滅法強いコキュートスだが本格的な指揮は初めてだ。

加えて今回の蜥蜴人との闘いはそれなりの規模になるという。そうなると確実に指揮の経験差が出てしまうのだ。

 

「なるほど……経験値の差はどうあっても補えんからな」

 

加えて今回の戦力は全て知性の低い低位のアンデッド、更に今回の指揮は全てコキュートスの一任になっているので補佐役として任命されたドランザーは補佐することができない。

 

「反対二蜥蜴人達ハソレナリ二戦ヲ経験シテイル、戦力自体モ中々侮レナイ…」

 

「むぅ…」

 

その話を聞いたゴルドソウルは腕を組み考え込む。ドランザーの補佐があれば勝率は上がるだろうが自分達にとって至高の御方であるアインズとマシンナーがコキュートスに一任する命令を出している。その命令を破るわけにはいかない。しかし扉から再びノックする音が響く。

 

『ライオンさ~ん!』

 

少女の様な声に先程まで考え込んでいたゴルドソウルはびくりとし、ドランザーはキョトンとなる。

 

「来た!?」

 

「ン?ドウシタ?」

 

「おいドランザー、外の相手には俺が隠れてる事は言うなよ?絶対に言うなよ!?」

 

「オイオイ急二何ヲ…?」

 

ドランザーが質問する前に、ゴルドソウルは床下の地下室に逃亡していった。

呆気に取られるもドランザーは扉の前に向かう。

 

「ワカッタワカッタ、少シ待テ」

 

扉を開けるとエンリ姉妹の妹のネムが立っていた。

 

「あ、ライオ…誰?」

 

(子供…?)

 

思いがけもしない相手だったが、できる限り穏やかな口調で話しかけるドランザー。

 

「誰ダ貴様…?」

 

「あ、あのネムって言うんですけどライオンさんは…」

 

(確カコノ娘ハエンリ姉妹ノ妹ノネムダッタカ?ダガライオンサントハ誰ダ?ゴルドソウルノ事カ?ライオンガ付イテイルノハ彼奴ダケダシ…)

 

そこでドランザーはアルティマからある情報を聞いた事を思い出した。なんでもゴルドソウルはネムに気に入られていると…。

カルネ村とは友好関係を守ることを義務付けられているため、友好度を上げるのは必要不可欠なので断腸(腸無いけど)思いでドランザーはゴルドソウルをネムに差し出した。

 

「アア、アイツハアノ床二…」

 

するとゴルドソウルが床から豪快に飛び出して絶叫を上げる。

 

「おいぃぃぃぃ!なにあっさりばらしてんだテメェ!?」

 

怒り心頭で怒鳴るゴルドソウルとは反対にドランザーは涼しい?顔で反論する。

 

「イヤダッテドウ見テモタダノ子供デハナイカ…何ヲ恐レル必要ガアル?」

 

「いや、恐れているというわけでは…」

 

ゴルドソウルが話している途中にネムがゴルドソウルの腕を引っ張り外へ釣れだそうとする。

 

「ライオンさん、早く行こ!」

 

「おい引っ張るな!ドランザーお前、覚えていろよ…」

 

 

 

 

 

 

 

「わ~い♪」

 

「はぁ…」

 

「……」

 

ゴルドソウルはため息をつきながらネムを肩車しながら歩く。

その様子を見てドランザーはゴルドソウルに質問をする。

 

「…随分懐カレテルナ?」

 

「……アルティマにも言われた」

 

ゴルドソウルの脳裏に自分の兄弟機の一人であり自分達のまとめ役であるアルティマがからかいながらそう言ってきたのを思い出し。またため息を出した。

 

「マア良イデハナイカ、少ナクトモアノ姉妹ノ片割レト良好ナ関係ヲ築イテイルノハ良イコトダゾ?」

 

「それはそうだが…」

 

「ソウ言エバ、例ノタレントノ小僧ガ今日来ルト聞イタガ…」

 

今日カルネ村には薬師のバレアレの孫でありタレント持ちのンフィーレアがこの村に引っ越してくるのだ。

 

「ああ、念の為森の周辺には警備のため兵を付けてある、いざとなれば何時でも出陣できる」

 

冒険者を雇っている可能性もあるが、念の為村の周囲に特機兵団の伏兵が潜んでいる。

冒険者達が太刀打ちできない相手が現れればその伏兵たちが一斉に動く手はずだ。

 

「用意周到ナ事デ…」

 

「ライオンさん、早くー!」

 

「ゴ指名ダゾライオン=サン」

 

ネムの呼ぶ声にドランザーはクックックと笑う。

ゴルドソウルは今度横っ面ぶん殴ってやると心の中で決めながらネムの所に向かった。

 

「うるさいメカゴジラ」

 

短く捨て台詞を一言残して…。

 

 

 

 

カルネ村の付近でゲートが開きマシンナー、シズ、アルティマのメンバーが出てくる。

 

「そろそろンフィーレアが来る頃だな?」

 

「…ん」

 

「なら今からゴルドにメッセージを送ります」

 

「頼む」

 

マシンナーの質問にシズが肯定し、アルティマがゴルドにメッセージを送る。

暫く応答をするとアルティマはメッセージを切り俺に伝えた。

 

「マシンナー様、ゴルドから集合場所を聞きました」

 

「わかった、すぐに行こう」

 

「……」

 

「シズ、俺とアルティマは一旦ゴルドの所に向かう、お前はルプスレギナと合流しておいてくれ」

 

「了…解……」

 

その後シズと別れたマシンナーとアルティマはゴルドソウルとの合流場所に向かった。

 

 

 

 

俺たちが合流地点に着いたとき、すでにゴルドと何故かドランザーがおり、俺たちの方を見た瞬間敬礼をする。

 

「お待ちしておりましたマシンナー様!」

 

「ああ、急に来てすまないなゴルド」

 

「あれ?ドランザー、君も来てたのかい?」

 

「明日、蜥蜴人ノ作戦前二立チ寄ロウカト思ッテ…」

 

「ああ、なるほどね、でドランザーから見てどう思った?」

 

「率直二言ッテ荒ッポイコイツカラスレバ上手二ヤッテルト思ッタヨ」

 

「んな、お前…!」

 

ドランザーに茶化されたゴルドはドランザーの首を掴む。

喧嘩を起こさせるわけにもいかないため俺は仲裁に入った。

 

「お前ら喧嘩するな。ゴルド、早速だが案内してくれ」

 

俺に言われてドランザーの首を掴んでいたゴルドはしぶしぶ離す。

そして俺に敬礼をして案内を始めた。

 

「ハッ!喜んでご案内させて頂きます!」

 

ゴルドソウルの案内でカルネ村を回る。

村人は俺の姿を見たらすぐにお辞儀をする。

顔を見ると、コチラに対して友好的な姿勢に見えた。

そしてよく見ると畑には特機兵団の構成員と村人が一緒に畑を耕している姿がチラホラ見える。

 

「兵団は上手く共同生活を送っているようだな?」

 

「は、訓練と開拓の時間を分けてやっております」

 

「訓練は村人にも施しているのか?」

 

「ええ、ゴブリン達も手伝ってくれますが意外と指導が上手いですよ彼奴ら、正直感心しました」

 

「ほう…」

 

これには素直に驚いた。あのゴブリン達にそこまでの知能があったとは…。

後でモモンガさんに報告しておこう。

 

「そう言えば古代の機械達は?」

 

「彼奴らは村の周辺の守備に回っている。ゴブリン達より強いからな」

 

俺が渡したアイテムにより召喚された古代の機械、たしかあのアイテム一定時間たてば隠された機能が発動するんだよな。だが確認したところ古代の機械兵士と古代の機械獣、そして古代の機械巨人しかいない事を確認するとどうやらまだ発動していないらしい。多分知らないだろうから後で教えてあげよう。

 

「古代の機械巨人はどうした?」

 

最初の召喚されるモンスターの中では最も強い古代の機械巨人が何故かいない。

ちょっとした小屋よりもでかいからすぐ見つかると思ったんだけど。

 

「奴は巡回中です、獣や魔物が来れぬよう村周辺を徘徊させています」

 

その言葉を聞いて俺は納得する。

あんなデカいのが村の周囲を徘徊してりゃ、そこらの獣やモンスターでは震え上がるだろう。

 

「まあ、アレの戦闘力はデスナイトより高いからな。示威行為には丁度良い」

 

そこに特機兵団の者がゴルドに耳打ちをし、ゴルドはンフィーレアがこちらに来たことを俺に伝えた。

 

「マシンナー様、隊の者から例の少年と冒険者が村に到着したという報告が…」

 

「了解だ、一言挨拶しに行くか。着いてこい」

 

「「「は!(ハ!)」」」

 

俺達はンフィーレア達の元に向かうとンフィーレアと冒険者グループ漆黒の剣のメンバーがいた。

モモンガさんとナーベラルは居ないようだ。

 

「お、いたいた。お~…」

 

俺は声を掛けようと彼らに近づく。が…。

何故かシズの手を取り…。

 

「好きです!付き合って下さ『おい』!?」

 

「今から3秒以内にその汚ねぇ手を放せ、さもねぇとド頭ぶち抜く」

 

なんか言っているルクレットの後ろに立ちいつの間にか俺はルクレットの後頭部に専用武器のシュバルツカノーネを銃口を当てて警告をする。

 

「はいイ~チ…」

 

ズドン!!!

 

俺は2と3を数えることなくシュバルツカノーネをぶっ放す。

だが奇跡的にもルクレットはギリギリで回避していた。

 

「2と3は!!?」

 

「知るかそんな事、良いか男はな、1と0さえ覚えときゃ何とかなるって若本声のグラサンかけたおっさんが言ってたようななかったような…」

 

「いやどんなおっさんだよ!?」

 

「マシンナー…様…」

 

「ルクレット!?」

 

「ンフィーレアさん下がって!」

 

漆黒の剣が各々武器を向けるが後ろに待機している。だが後ろの3隊長も臨戦態勢に入っている。

 

「ヤル気か?」

 

「ぶっ飛ばされたいのかい?」

 

「叩キ潰スゾ?」

 

「いきなり出てきて申し訳ないんだけどよ、異種族が人様の恋愛沙汰に口出すなよ!」

 

この状況で啖呵を切るんだからルクレットって本当に根性あるよな。伊達にナーベラルに何度降られてもめげないだけはある。めげない彼に幸あれと言いたいが俺達からすればルクレットの方が異種族なんだよな・・・。

 

「貴様ぁ……!誰に対してその口を…」

 

ルクレットの発言に怒ったアルティマは腕を大型化させ指をチェーンソーに変形させ計5本の刃を持つチェーンソーと化し今にもスプラッターを始めようとする。しかし村の中でそんな事させるわけにはいかずアルティマを止めた。

 

「良いアルティマ下がれ。この状況でそんな啖呵を切れる根性は認めるが生憎だが彼女は我々の同胞なのだよ発情期のサル君、シズは俺のだ。もしまたふざけたこと抜かしたら貴様の脳みそ後ろの御仲間に食わしてヒンナヒンナ言わせるぞ?」

 

何故かアルティマ達がぎょっとしているが気にしないでおこう。

 

「仲間がすいませんでした!」

 

ペテルさんがルクレットの頭を掴み一緒に頭を下げて謝罪する。

 

「俺はマシンナー、この村で騒ぎは起こすなよ?行くぞ」

 

「「「は!(ハ!)」」」

 

「……ん」

 

 

 

 

 

少し歩いた後見晴らしのいい丘に着き俺とシズはそこにある一本の木の下に俺は寝そべり、シズは座り込む。

アルティマ達は少し離れた所でネムと遊びに付き合っている。

 

「見たところ、完全に上手くやってそうだな」

 

「う……ん…」

 

現時点での俺たちの目標は世界征服だが正直村一つ満足に統治できるか?という僅かな不安もあったが杞憂に終わったようだ。いやー一安心一安心。

 

「これなら安心してアインズに報告できる…」

 

俺がそう言っていると後ろに居たシズが俺の頭の方に座り込む。

 

「ん?どうした?」

 

「膝…貸す……」

 

「え?」

 

つまりそれ膝枕するって意味か?何そのサプライズ!?

一瞬驚愕する俺にシズは問いかけてくる。

 

「い…や…?」

 

とんでもない。

 

「お言葉に甘えさせて貰う」

 

「ん…」

 

俺はゆっくりと頭を上げて、シズの膝に降ろす。

 

「乗せといて言うのもあれだが重くないか?」

 

「頭だけなら問題…な……い…」

 

「そうか」

 

心の中で狂喜していると、指輪からトロンべが出現し内蔵しているスピーカーから曲が流れる。

 

『初めて~のチュウ~、君とチュウ~♪』

 

何故かチョイスがコロ助の曲という謎センスに一瞬と唖然としたが、もしかしてこいつ空気読んでそれに合うBGMを選んだのか?

 

「…」

 

「…」

 

「おい、音楽消せ」

 

俺が注意するとトロンべは流していた曲を止める。

これで静かになった……。

 

『響け~恋の歌~』

 

「曲変えろって意味じゃねぇよ!」

 

 

その後アルマゲドンの例のBGMとか流していたが、最終兵器「今日飯抜きにするぞ?」を使い漸く曲を止めてくれたよ全く。

 

 

 

 

一方マシンナー達から離れた場所で3隊長達がマシンナー達を見ていた。

 

(おい、今回いけるんじゃないか?)

 

(これは期待持てそうだね!)

 

(俺モ同ジ)

 

「ねぇ…」

 

「ん?」

 

「何してんの?」

 

振り向くとさっきまで昼寝をしていたネムがゴルドソウルに話しかける。

 

「なんだお前か…」

 

「見張りだよ見張り」

 

「誰モ襲ッテコナイ様ニナ」

 

「え?見張りというよりどちらかと言うと覗き…」

 

「「「見張りと言ったら見張りです(見張リダ)」」」

 

「えぇ…」

 

ネムの疑問に対する答えに若干戸惑うがそれ以上は言えないネムであった。

 

 

 

 

 

 

なんだかアルティマの方が少し騒がしい。なにかあったのだろうか?

 

「あの…」

 

「ん?」

 

考えているとシズが話しかけてきたので視線をシズに移す。

 

「さっきのやり取りで俺のって…」

 

「!?」

 

そうだった!あの時ルクレットの台詞に一瞬熱くなって思わず言ってしまっていたことを忘れていた!!!

そしてなんであいつらが一瞬驚いていたのは確実にあの台詞に反応してたんだ!とんでもないこと言ってたよおいぃ!?

 

「……す、すまん!つい咄嗟に言ってしまったんだ!不快に思ったなら謝る!」

 

流石に不味いと思い俺はすぐに起き上がりシズに頭を下げる。

どんな答えが来るかと内心ガクブルだったがシズからの答えは意外なものだった。

 

「…良い」

 

「え…?」

 

「…ちょっと……嬉し…かった」

 

「っ!!?」

 

え?もしかして、もしかすると僅かに脈ありって奴か…?

そこで俺はある決意をし、シズの顔を見つめる。

 

「あの…シズ」

 

「ん…?」

 

「その…言いたいことがある」

 

「…?」

 

今のこの場の言える!雰囲気なら言うなら今!

マシンナー大勝負の時…!!

 

「俺は…おm!」

 

「あ、マシンナー様、なにしてるんすか~?」

 

「ル、ルプスレギナ?」

 

予想だにしなかったルプスレギナの登場に若干困惑しているマシンナー。

だが、アルティマ達の方が凄い反応をしていた。

 

(ルプスレギナー!?)

 

(アノ駄犬ーーー!!)

 

(オ・ノーレェエエエエ!!!?)

 

隊長達全員が心の中で慟哭しながらorzの態勢に入っている。

ネムは思わずどうしたの?と声を掛けるが返事は全く帰ってなかった。

シズが行った後アルティマ達がルプスレギナの前に立ちはだかる。

 

「あれ?どうしたんすか?」

 

「…君には失望したよルプスレギナ!」

 

「コノ駄犬!!」

 

「腹を切れぇ!介錯してやる!!!」

 

「え?ちょ?えぇ!!?」

 

突然の罵倒に困惑するルプスレギナ、この後3人に散々追い掛け回されたというのは別の話。

一方告白に失敗したマシンナーの隣にトロンべが近づく。

 

「なんだ?」

 

『明日がある~明日がある~明日がある~さ~』

 

「…」

 

歌で励まそうとしている彼?の優しさに少し嬉しさを覚え「今日は少し良いもの食わせてやるか」と考えるマシンナーであった。

 

 

 

 

その後、シズとルプスレギナはプレアデスの定例会でナザリックに戻り俺は村人達の訓練の見学に来ている。

いつもはゴルドやゴブリン達が指導をしているのだが今回はゴルド、アルティマ、ドランザーの三つ巴の模擬戦だ。ゴルドは参考にする様にと言っていたが多分参考にならんと思う。

 

「飛び道具禁止縛り近接オンリーとはいえ、真向勝負ならゴルドの方が強いな…」

 

「あの…」

 

後ろから声を掛けられたため後ろを振り返るとンフィーレアとエンリが立っていた。

 

「エンリか元気そうだな」

 

「はい、お久しぶりですマシンナー様!」

 

俺が挨拶するとエンリは元気よく返してくれた。

その後ンフィーレアが俺に話しかけてきた。

 

「貴方がマシンナーさん…ですか?」

 

「ああ、驚いたかい?」

 

この本来の姿で彼と会うのは初めてだ。

案の定驚いた顔をしている。

 

「はい、想像以上に予想外というか…」

 

「だろうな、座れよ」

 

「すみません」という言葉の後にンフィーレアとエンリは隣に座る。

 

「あの、マシンナーさん」

 

「ん?」

 

「改めてお礼を言います。エンリを、僕の好きな人がいる村を助けてくれてありがとうございました」

 

ンフィーレアのお礼に俺は「たまたま通りがかっただけだ」と答える。

実際本当に偶々見つけて助けた。でもその縁でンフィーレアと知り合ったのだ、人の縁とは不思議なものである。

 

「え?ンフィー、好きな人がいたの?」

 

え?

 

「え?」

 

「え?」

 

まさかのエンリの発言に俺は恐る恐る聞いてみた。

 

「……話聞いてたのか?」

 

「え?はい」

 

「……なら察しが付くだろ?」

 

「え?」

 

俺の言ったことにキョトンとするエンリに「マジか」と思わず呟いてしまう。

 

(マジでわかってないだと?)

 

「…」

 

「ん?おいンフィーレア?坊主?…!?おい!しっかりしろ!傷は深いぞ!…じゃなかった浅いぞ!ンフィーレア応答しろ!ンフィーレアァぁぁ!!」

 

エンリの反応にショックを通り越して気を失ってしまったンフィーレア。

俺は素で驚き、必死で声を掛けたり体を揺すったが全く反応を示さず暫く意識不明の状態になっていた。

 

余談だがこの事件を切っ掛けに彼の恋路が成就するのを手伝おうと俺は密かに決意した。(自分の恋路も成就させてないけどな☆)

 



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第54話 蜥蜴人掃討戦1

『コキュートス殿、間モナクオ時間デス』

 

「ウム…」

 

掃討作戦の陣地で腰を掛けているコキュートスにドランザーは作戦決行の時間を言い渡す。

それを聞いたコキュートスは自軍のアンデッド達に攻撃の指示を出した。

 

「アンデッド達ヨ、進行ヲ開始セヨ!!」

 

(短期間ダケダガヤレル事ハヤッタ、後ハ見届ケルノミ…)

 

 

コキュートスの指示に従いアンデッド達が一斉に蜥蜴人達に進軍していく。

一方の蜥蜴人も既に戦闘態勢に入っており武器を構えている。

 

「動き始めたぞ…」

 

「指揮官らしき者は見当たらんが…」

 

「指揮官も必要無いってか?嘗めやがって」

 

徐々に接近しつつあるアンデッド達に対して蜥蜴人のザリュースは他の蜥蜴人達に指示を出す。

 

「ザリュース!」

 

「ああ。この戦い勝つぞ!」

 

一方別の場所ではマシンナー、シズ、アルティマ達が風呂敷を広げ、飲み物と食べ物を広げてコキュートスの戦を観戦していた。

 

「始まったな」

 

「はい!」

 

「ん…」

 

傍から見ればピクニック気分だが、

 

(罠ガアル可能性モアル、スケルトンヲ先行サセヨウ。ソノ後弓兵隊デ援護ヲサセナガラ他ノアンデッド達ヲ突撃サセヨウ…)

 

一方のコキュートスはどのように攻めるか思案し、指示を出す。

コキュートスの指示により本来単純な動きしかできないアンデッド達だが、滑らかな動きでその指示を全うしようとする。

 

「スケルトンヲ先行サセ、弓兵隊ノ援護ノ元、他ノアンデッドハ進撃セヨ!」

 

先に突撃をしたスケルトンはコキュートスの読み通り罠にかかるが、スケルトンが囮になったお陰で他のアンデッドの多くが罠にかからず蜥蜴人に攻撃を始める。蜥蜴人も迎え撃とうとするが弓兵隊のスケルトンが放った弓の雨により、中々進行できなかった。

 

「コキュートス殿は本格的な指揮は今回が初めてと聞きますが思いのほか上手いですね」

 

「話を聞くとドランザーに教えを乞うたらしい、ある程度は出来るように仕込んだとか…」

 

コキュートスの指揮の思いのほかの上手さに少々驚くがマシンナーは指揮と戦術をドランザーから教えて貰ったことを話す。

シズはこの戦いがどちらが勝つのかをマシンナーに質問をした。

 

「…どちらが勝……つ…?」

 

シズの質問にマシンナーは「う~ん」と腕を組んで少し唸った後、蜥蜴人が勝つと言う予想を口にした。

 

「多分蜥蜴人だな…」

 

マシンナーの返答にアルティマとシズは少し意外な顔をし、互いの顔を見合わせた後アルティマはマシンナーにその予想の理由を聞いた。

 

「……理由を聞かせてもらっても?」

 

「簡単な答えだ。経験の差だよ、どんなに手腕が優れているものでも経験の差で失敗することがある。それに蜥蜴人達も馬鹿じゃない、何らかの策は練ってるだろうな」

 

更に今回戦っている場所は蜥蜴人が勝手知っている場所だ。地の利は蜥蜴人にある。

 

「…コキュートス様の負け……確定?」

 

「いや、勿論コキュートスが勝つ可能性も十分ある。上手く立ち回ればだが…」

 

今回コキュートスが使役するのはアンデッドの軍団だが、上手く立ち回れば蜥蜴人達に十分勝てる戦力である。

現状コキュートス側が少し優勢であった。

 

「……」

 

「それでマシンナー様、我々は如何いたしましょうか?」

 

「ここで暫く見物でもするとしよう、アインズ達もそうしているらしいしな…」

 

そう言うとマシンナーは置かれていた飲み物に手をつけ、蓋を開ける。

アルティマとシズも食べ物と飲み物に手を付け始めた。

 

 

 

 

蜥蜴人との開戦から少し時間が経ったが、戦況は一転していた。

序盤はコキュートス側が押していたが、蜥蜴人達が次第に対応し始め、押し返され始めていた。

弓兵のスケルトン達を優先的に排除され、援護が無くなったアンデッド達も次第に狩りつくされていく。

 

「ムゥ…やはり押されてしまうか…」

 

『……』

 

コキュートスは逆転できる考えられる手段は尽くしたが、それでも戦況は好転しなかった。

自分の非力さに落胆するコキュートスだったがドランザーは真逆の反応だった。

 

(ダガ今回ガ初ノテト考エレバ悪クナイ流レダッタシ、戦略モ間違ッテイナイ…シカシヤハリ経験マデハ埋メラレナカッタカ…)

 

ドランザーの考え通り序盤は上手く立ち回っており、逆転こそされてしまったが初めての指揮と考えれば十分上手くやった方であると考えていた。

 

「コキュートス殿」

 

「ヤハリ付け焼キ刃デハ駄目ダッタカ……スマヌドランザー、オ前ノ教エヲ無駄二シテシマッタ…面目ナイ」

 

ドランザーに頭を下げて謝罪をしようとするが、ドランザーはそれを止める。

そしてドランザーはこの後の予定を聞きコキュートスはマシンナーから託された実験体を投入することを決意した。

 

『イイエ謝ラナイデクダサイコキュートス殿、時間ヲ考エレバ十分ナ成果デス。デスガコノママ終ワルツモリハナイノデショウ?』

 

「当タリ前ダ。一矢ハ報イテ見セル、実験体ヲ投入スルゾ」

 

『ハッ!実験体を投入させろ!』

 

コキュートスの指示でドランザーは己の部下に実験体の起動する指示を出し、部下はそそくさと出ていく。

そして少し時間が経つと、蜥蜴人によって8割狩りつくされて尚抵抗していたアンデッド達は急に踵を返して撤退していく。

 

「なんだ?急に退き始めたぞ?」

 

「何をする気だ…?」

 

「ザリュース、空から何か降ってくるわ!」

 

「何?」

 

急に撤退を始めたことに違和感を感じた蜥蜴人のザリュースと。その時空中から人型らしきものが勢いよく降下してその下の何名かの蜥蜴人を吹き飛ばしながら豪快に地面に着地した。

着地した衝撃で砂煙が大きく舞う。

 

「何だあれは?」

 

ザリュースを始め他の蜥蜴人達も目を細めて降ってきたソレを見つめる。

砂煙が徐々に晴れ徐々に全容が明らかになってきた。

ザリュースの家族であるヒドラのロロロに匹敵する人型の巨体を暗い紫色の装甲が覆っていた。

頭部に目らしきものは無く、代わりにモノアイが赤く光っている。

両腕には一振りで蜥蜴人数人を薙ぎ払えるくらいの大剣が握られていた。

ソレは最初跪いていたが、モノアイが激しく発光して、雄たけびを上げる。

 

『実験体01、戦闘プログラム起動、ミッション内容:蜥蜴人ノ殲滅…!殲滅!殲滅!!殲滅!!!』

 

両腕の大剣を大きく振り上げて蜥蜴人達に襲い掛かった。

 

『蜥蜴人……抹殺…抹殺…抹殺ウゥ…!!』

 

「なんか…まともじゃなさそうだな?」

 

同じく蜥蜴人のゼンベルがそう呟いた後、ザリュースが弓矢を放つ指示を出した。

 

「弓矢放て!」

 

指示に合わせて蜥蜴人達は弓を構えて矢を放つが実験体は凄まじい速さで滑るように動き弓を避け、大剣で弓矢を弾き飛ばした。

 

『ギぃ…』

 

「糞!あんなにデカいのに何だあの速さは!!」

 

実験体の見た目によらない動きに蜥蜴人の誰かが驚愕する。

コキュートスはドランザーに実験体について質問をした。

 

「ドランザーヨ、少シ聞イテモ良イカ?」

 

『ハ…』

 

「アノ実験体ハ<マキナ>が製作シタト聞イタ。ドウイウ代物ナノダ?」

 

『ハ、マシンナー様二ヨルト、武技ヲ習得シテイル者ノ脳髄ヲ利用シタ改造人間……その試作品ト聞キマシタ』

 

ドランザーが話した内容にコキュートスは僅かに反応する。

 

「武技ヲ修得シタ者ノカ…?」

 

『ハ、武技ヤ異能ヲ持ッタ人間ヲ素材二シタ改造人間デス。摘出シタ者ハ脳ヲ再生サセテイルノデ、コストノ問題モ大丈夫デスシ武技ノ使用モ問題ナク発動シタノデスガ…』

 

「問題ガアルノカ?」

 

コキュートスの質問にドランザーは少し言いよどむが少し間を開けて喋りだす。

 

『ハ…報告ニヨルト元ノ人格二影響ガ見ラレ少々情緒不安定ニナルトイウ欠点ガ見ツカリマシタ…オソラク改造ノ影響カト…』

 

ドランザーの言う通り、実験体は武技を問題なく発動することができた。だがその代償として精神に異常をきたし、一時的に暴走したが、すぐにマシンナーが取り押さえたのだった。

 

『ははははははは!コレガオレノ新シイ力!!!』

 

「ぐお!」

 

実験体は壊れたように大きく笑いながら向かってくる蜥蜴人達を殴り殺し、踏み潰し、切り殺していった。

 

「ちっ!」

 

その時幸運にも実験体の一撃をかわした蜥蜴人が棍棒を持って実験体の頭上めがけて大きく跳び襲い掛かる。

そして実験体の頭部に振り下ろしたが…。

 

『ソンナ子供だまシ…!!』

 

あっさりと棍棒を掴まれそのまま握りつぶし、もう片方の腕で蜥蜴人の頭を掴んだ。

 

『けダもノガぁ!?』

 

そして腕部に仕込んでいたパイルバンカーを作動させて、蜥蜴人の首に大きく穴をあける。

 

「がっ!」

 

「何故ソンナ物ヲ?<マキナ>ノ戦力デモ十分ダト思ウノダガ?」

 

コキュートスの言う通り〈マキナ〉のわざわざ現地の人間を使って改造人間を増やさなくても〈マキナ〉の戦力は現時点でも十分なモノだ。

コキュートスの質問にドランザーは答える。

 

『マシンナー様ガ改造人間ニシテモ異能ヲ使エルノカトイウ実験ヲ最近思イツキ始メマシタ、アレハソノ実験用ノ物デス。戦力トシテ開発サレタワケデハアリマセンガ実戦ノデータモ取ロウトコノ戦イニ投入サレル事二ナリマシタ』

 

「フム…」

 

「クソ!弓で動きを封じろ」

 

コキュートスがドランザーの話を聞いている間、戦場では再度蜥蜴人が弓矢やスリングショット等で実験体を狙うが、実験体は先程と同じようにプロのスケート選手の様に滑走してそれらをぬるぬるとかわしていく。

 

「あの巨体であの動き…どういう身体してるんだ…?」

 

「気持ち悪い…」

 

実験体の動きにザリュースは驚嘆し、クルシュはその動きに嫌悪感を吐露する。

 

「おい、んな事言ってる場合か!何とかしねぇとこっちがやられるぞ!?」

 

「何か考えは…」

 

蜥蜴人達が考えている時、別の場所で見物していたマシンナー達はそれぞれの考えを口に出す。

 

「へぇ…最低限実戦に耐えれるようにはしていましたけど思ったより働きますね?」

 

「まあ生体ユニットとして使った奴は腐ってもミスリル級だったからな。あれぐらいしてもらわなきゃ困る」

 

「……」

 

『ウぉうラぁ!!』

 

「がぁ!」

 

蜥蜴人相手に大立ち回りをする実験体、しかし蜥蜴人達もこのままただやられる訳にはいかない。

何とか打開策はないかと策を練り始めた。

 

「動きや単純な力は我々より遥か上だな…」

 

「…だが見たところ飛び道具は持っていないのが幸いだな、魔法も使ってないのを見ると肝心な時の為に温存しているかそれとも使えないかだ」

 

ザリュースの兄であるシャースーリューの言う通り実験体は近接攻撃だけを繰り出しているのみで魔法や飛び道具などは一切使っていない。

シャースーリューの言う通り前者はともかく、後者ならばまだ希望はある。

 

「で、どうやって倒す?こういっちゃなんだが勝てる気しねぇぞ?」

 

好戦的なゼンベルが珍しく弱気な発言をするがそれを諫める者はいない。数ならば蜥蜴人が勝っているが、このままでは逆に一体に殲滅されそうな勢いになっているのだ。

しかしザリュースは実験体の動きを見ていくにつれて一つ気づいた事があった。

 

「確かに敵はすさまじいが、よく見ると動きが滅茶苦茶で単調だ人の形をしているがどちらかと言うと獣だな」

 

ザリュースの言葉を聞いても何かに気づいたのかそれを口にする。

 

「攻撃も一撃も大振りだ。攻撃を回避してカウンターを入れれば勝てるかもしれない」

 

「兄者、勝てるかもしれないじゃなく勝つんだ。勝たなければ俺達には…!」

 

「ああ、わかっている」

 

ザリュースとシャースーリューの兄弟は改めて勝利の決意を固めた時、クルシュの質問の後にザリュースは策を話し始めた。

 

「それでどうするのザリュース?」

 

「俺とゼンベル、回復役としてクルシュで行く。兄者達は伏兵の可能性もあるからここで待機していて欲しい」

 

「わかった」

 

ザリュースを筆頭に蜥蜴人達は実験体に向かって走り出す。

実験体は嘲笑混じりに言いながら武器を構えた。

 

「敵……動いた…」

 

「そのようだな、さてアノ実験機がどこまで戦えるか…」

 

ザリュースは蜥蜴人の四至宝のひとつである剣『凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)』を構え、ゼンベルは槍を構えて実験体に切り込みを仕掛ける。

実験体はその行為を嘲りながら両腕の武器を大きくふりあげる。

 

『あぁ?タッタ3匹で俺ヲ倒セると思っテイるノかヨぉ!?』

 

そのまま勢いよく両腕の大剣を二人に振り下ろした。

その瞬間大きく土煙が上がる。

 

『ハハっ、所詮蜥蜴……!?』

 

実験体は仕留めたと思い上機嫌になるが、横からザリュースがわき腹に向かってフロストペインを突き刺そう突き立てる。

 

『ヌぅ!?』

 

しかし実験体は胴体に隠されていた小型の隠し腕を出してそれを止めた。

ザリュースは止められた事に舌打ちをしながら実験体の胴に蹴りを入れて距離を取る。

 

「ち…」

 

『テメェ…』

 

実験体はザリュースを切り殺そうとザリュースの方に向かおうとするが、横からゼンベルが実験体に取りついた。

ゼンベルは槍で実験体の身体を何度も突くが、装甲を貫通することが出来なかった。

 

「オラぁ!そいつだけじゃねぇぞ!」

 

『!?』

 

実験体はゼンベルを掴んで力任せに投げ飛ばす。

ゼンベルは着地して槍を構えるが、実験体は激昂しながら突っ込んでいく。

 

『貴様ラぁ…!』

 

そのまま大剣を二人に横薙ぎに振るった。

ザリュースとゼンベルは地面に転がってその一撃を回避する。

 

「避けろ!」

 

「わかってらぁ!」

 

そのままザリュースは実験体に突っ込み、胴体の装甲の隙間に『凍牙の苦痛』の能力を使用する。

実験体の内部の機械は徐々に凍り付いていく。

 

『ガァ!!』

 

「〈氷結爆散(アイシー・バースト)〉!!」

 

しかし実験体は身体を大きく振ってザリュースを振り払う。

そして胸に手を当てながら排気をする。

 

『!ちっ、蜥蜴の癖に生意気な…!』

 

内部の機械は完全に凍り付いていなかったのでまだ問題なく行動できた。

激昂した実験体は大剣を構えて〈武技〉を発動して切りかかった。

 

『死ぃねぇ……!〈斬撃〉!!』

 

「やらせるかよ!」

 

モンクであるゼンベルがそのスキルを使って斬撃を防ぐ。

そこにザリュースが再び切りかかるが実験体は後ろに下がり回避をした。

 

「苦戦……してる…」

 

「あんな簡単に不意を突かれるなんて情けない、中身がアレだからでしょうか?」

 

「中身も結構弄ったからな、その影響が出ているのかもしれん」

 

実験体の生体ユニットになったあの男の事を思い出す。

脳を摘出する前にも関わらずギャンギャン騒ぎ、実験体として起動させるとマシンナーに襲い掛かってきた事もあった。(無論返り討ちにしたが)

その為、多少中身を弄り、ある程度まともにはなった。

 

『ギ!…グぐぐ!』

 

憤慨したのか実験体は全身から怒りを表現しているかのように煙を出し、蜥蜴人の二人に向かって吠える。

 

『クソがぁ!タカが蜥蜴がこの…俺に!……英雄の…俺を…!』

 

「何を言ってるんだこいつ?」

 

「化け物が自分を英雄だとよ?」

 

ザリュースの問いかけにゼンベルは鼻で笑いながらザリュースに返す。

 

「英雄ね…」

 

「冗談じゃないぜ全く…!」

 

あんな怪物が英雄を名乗るなんて世も末だな…と呆れながら肩をすくめる。

実験体は攻撃を再開するが先程よりも動きに粗が出来ている。

 

『ああああああああ!』

 

「良い感じに荒れてきたな」

 

実験体の攻撃をなんとかかわしながらゼンベルは実験体の懐に近づき、右腕を大きく振るう。

 

『!』

 

「おらぁ!」

 

自分のスキルである《アイアン・ナチュラル・ウェポン》を発動させた全力の右ストレートをその身体に叩き込む。当たり所が良かったのか実験体は少し怯む。ザリュースはそれを見逃さなかった。

 

「ザリュース!」

 

「終わりだ化け物!!」

 

ザリュースは先程と同じように実験体の隙間にフロストペインを突き刺す。

そして再び〈氷結爆散(アイシー・バースト)〉を発動させた。

 

(このまま凍らせて…!)

 

この攻撃で終わらせると決意し、更に奥に食い込ませるが実験体は苦悶の声ではなく嘲るような声を出す。

 

『やっぱり蜥蜴だなぁ…?』

 

そういうと実験体は胴体から3門の砲塔を展開させる。

 

(何!?)

 

『死ねよヤァ!!』

 

そのままザリュースに向けて発射してザリュースを大きく吹っ飛ばす。

ゼンベルはすぐにザリュースの下に駆け寄った。

 

「ザリュース!」

 

「が……ア……」

 

辛うじて息をしているが、それでも胸に大きく穴が開き血が溢れている。

ゼンベルはクルシュの方に向けて、ザリュースを全力で投げる。

 

「クソ!あんな所に武器なんて仕込んでたのかよ!!クルシュ!」

 

投げられたザリュースが落ちた場所にクルシュが駆け寄り、すぐにザリュースを回復させる。

ザリュースは息を荒くしながらも目を開けてクルシュを見つめる。

 

「ザリュース!」

 

「う……ぐ…」

 

「待ってて、今治療するから…!」

 

「はあ…はあ…すまないクルシュ」

 

「クソ、やっぱりそう上手くはいかんか…」

 

むしろさっきまで大きなダメージを負わなかったのが奇跡である。

残ったゼンベルは実験体に果敢に立ち向かっているが完全に追い込まれていた。

 

(どうする?もう一人いれば何とかなるんだが、兄者達からだいぶ離れてしまったし…)

 

ザリュースはどうにか策を考えていると後ろから大きな足跡が後ろで響き、ザリュースははっ。となる。

 

「なんの音?」

 

「?」

 

音はどんどん大きくなりザリュースは後ろを振り返ると目を大きく見張る。

 

「な!お前…!」

 

一方実験体を一人で相手にしていたゼンベルは限界が近づいてきていた。

攻撃こそなんとかかわしているがそれだけで精一杯だった。

 

「クソ、まだかよザリュース!」

 

(二人でも精一杯だってのに、一人じゃ避けるだけでも奇跡だ…!)

 

肩で息を荒くしながら心の中でそう呟いていると、後ろから何かコチラに近づいてくる様な音が響く。

ゼンベルは援軍か?と僅かに期待する思いで振り返る。

それは彼自身が思ってもいない意外な者達だった。

 

「なんだ?……って」

 

「ザリュース!とロロロ!?」

 

ザリュースの家族であるロロロがザリュースを乗せ実験体に突撃を仕掛けたのだ。

 

『死にぞこないガぁ!デカいだけの木偶の坊に乗っただけで、俺に勝てルトでも思ってるのか!』

 

『まずはその木偶の坊を先に始末してやる!』

 

実験体は激昂しながら先程ザリュースに重傷を負わせた胸の砲塔を再び展開させロロロの身体にに食らわせる。

命中したロロロは致命傷こそ負わなかったが血が大量に噴き出ていた。

 

「な!テメェ!!」

 

それを見たゼンベルは激昂し、実験体に掴みかかった。

ロロロに追い打ちをかけようとした実験体は邪魔をするゼンベルを引きはがそうとする。

 

『ええぃ!邪魔だ!……!』

 

ゼンベルを引きはがし、ロロロの方に向き直るがロロロは目の前まで迫ってきておりその巨体を勢いよく実験体にぶつける。巨体であるロロロの突進を受け止めるが。実験体は一つ見落としていたことがあった。

 

「すまん……ロロロよくやってくれた。ゆっくり休んでくれ」

 

ザリュースが優しい口調でそう言うと、ロロロから飛び降り実験体に飛び乗る。

そして勢いよくフロストペインを突き刺した。

 

「これで…今度こそ…!」

 

ザリュースは己の残っている力を振り絞って、実験体の内部に更に突き立て最後の〈氷結爆散(アイシー・バースト)〉を発動させた。

実験体はザリュースを振り払おうとするがロロロは己の傷を顧みず実験体に噛みつき動きを抑える。

 

「終わりだぁ!」

 

そして徐々に実験体の内部の精密機械も凍り付いていき、遂に機能停止になった。

動かなくなったのを確認したザリュースは地面に倒れた。

 

「……ハァ…ハァ…倒せ…た…」

 

周りにクルシュやゼンベルの声が聞こえたが、ザリュースは何を言っているのか上手く聞き取れなかった。

 

「……負けた」

 

「マシンナー様…」

 

「実験機にしては思ったよりは働いてくれたな、データもしっかり取れた」

 

(けどやっぱり問題は多かったな、だがもう少し研究してみる価値はある。解析して改善点を見つけるか…)

 

 




解説

・実験体1号
マキナ内で開発された武技を扱える人間の生体パーツを組み込んだ実験データ収集用のサイボーグ。
武技を所持した人間をベースとしているだけあって戦闘力は実験機の割に高く装甲の頑強さと人口筋肉の瞬発力に優れており、武装も遠距離の機関砲から近距離の武装まで揃っているがまだ試作段階の状態で、欠点や不安点等が目立つ。(素体となった人間の性格により暴走する危険性など)


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第55話 蜥蜴人掃討戦2

離れた場所で見ていたマシンナー達も戦いの結果を見届けていた。

 

「決着…着いた…」

 

「マシンナー様の予想通りになりましたね?」

 

「そうだな、だが成果は出た。さてナザリックに戻るぞ」

 

実験体が蜥蜴人に敗れた瞬間をナザリックで鑑賞していたアインズも、予想通りと心の中で呟いでいるとマシンナー達がナザリックに帰還してきた。

 

(まあ概ね予想通りか、マシンナーさんもあの実験体は弄び気味だったし…)

 

「戻ったぞ」

 

「うむ、良く戻ってきたマシンナー、そちら側で何か変わったことは?」

 

「いいや、特には無い、やられた実験体のデータもちゃんと取ってある」

 

実験体が破壊されたとき保険として撃破される寸前のデータをマシンナーが作った専用の端末に転送されるように予め設定されていた。ついでに言うと、実験体の内部には証拠隠滅の為の自爆装置が付いているので蜥蜴人が実験体を調べられる(調べても理解できるかは不明だが)危険性も考慮している。

 

「そうか、ならコキュートス達を呼ぶとしよう」

 

「了解だ、アルティマ」

 

「はっ!」

 

マシンナーに促されたアルティマはコキュートスの下に居るドランザーに〈メッセージ〉を送った。

 

「何トイウコトダ…」

 

『……』

 

コキュートス自身実験体一体で逆転できるとは考えていなかったが、せめて敵の幹部クラス一人でも殺して一矢報いてやろうという気概はあった。

だが結果はそれさえ報えなかった…。

 

「敗北ダケデハナク、命令トハイエマシンナー様ガ作ラレタ製作物ヲムザムザト破壊サセルトハ…」

 

コキュートスは拳を握りしめ、自分の不甲斐無さに憤りを隠せず冷気を出す。

それをドランザーはジッと見つめる事しかできなかった。

 

『コキュートス殿…』

 

その時アルティマからの〈メッセージ〉に気付き、アルティマからの指示を聞いた後コキュートスにそれを伝えた。

 

『ム、アルティマカ?…フム…フム……了解シタ、コキュートス殿』

 

「ム…?」

 

『先程アルティマカラノメッセージデ至急ナザリックニ帰還セヨト…』

 

「…ワカッタ、スグニ行クゾ」

 

『ハッ…』

 

ドランザーの言葉を聞き、コキュートスはドランザーを連れてナザリックに転移した。

玉座の間の扉の前に転移し、扉を開けてアインズとマシンナーの御前に跪く。

 

「第五階層守護者、コキュートス、帰還イタシマシタ」

 

『同ジク機銃兵団団長ドランザー、帰還イタシマシタ…』

 

「ふむ、よく帰還したな二人共」

 

帰還を果たしたコキュートスに向けてアインズは早速質問をする。

 

「それでコキュートス、此度の戦で何か言いたいことはあるか?」

 

「ハ…今回ノ敗北、真二…」

 

「それは良い、この間も言ったようにお前の指揮能力を試す為にこの采配を取った。私が言いたいのは今回の戦で何か学んだことはあるか?」

 

それを聞いたコキュートスは少し考えた後、正直に自分が感じた事を語り始める。

 

「ハ…教エヲ請ウタドランザーノ教エ通リ敵側ノ戦力ヲ侮ラズ、敵側ノ地形ノ把握、敵戦力ノ調査、偵察ノ重要性ヲ改メテ理解シマシタ…」

 

コキュートスの言葉を聞いたアインズは「ほう」と言いながら顎に手を添える。

マシンナーは隣に居るドランザーに今回のコキュートスの指揮は如何ほどだったかを聞いた。

 

「ドランザー、今回のコキュートスの指揮お前から見てどう思った?」

 

『ハ、ヤハリ少々ノ粗トギコチナサハアリマシタガ指揮ノ基本ハ概ネ出来テオリマシタ、経験ヲ積ミ上ゲテイケバコレラノ問題モ解決スルト愚考シマス……』

 

「ふむ…なるほど、その言葉を聞くだけでも収穫だなアインズ?」

 

「ああ、ではコキュートスよ貴様に命令を下す」

 

「ハ…」

 

「次はお前自ら出陣し蜥蜴人を殲滅しろ、良いな?」

 

「ソノ事ナノデスガアインズ様、一ツゴ提案ガゴザイマス…」

 

コキュートスの提案にアインズは「ほう」と呟き、コキュートスの提案を聞く。

 

「ほう?なんだ?」

 

「蜥蜴人ヲ多種族ノ統治ノ実験トシテ支配下ニ置クノハ如何デショウカ?」

 

「成程…面白い事を提案してくれたな、どう思うマシンナー?」

 

「ああ、俺もその案は賛成だ。コキュートス、その考えに至った理由は?」

 

「ハ…先程言ッタ事モ理由ノ一ツデスガ此度ノ戦ノ時、私ハ蜥蜴人達ニ鍛エレバ良キ戦力ナルノデハナイカト言ウ可能性ヲ見出シマシタ」

 

「成程、武人であるコキュートスらしい考えだ。確かに本格的な戦闘用ではないとはいえ俺が作った実験体を破壊したんだ、その考えはよくわかる」

 

「ふむ…」

 

「ならばアインズ」

 

「む?」

 

「もう一度蜥蜴人と戦をさせてやれないか?今度はドランザーの指揮でだ」

 

「理由を聞いても良いか?」

 

「ああ、先の戦では低い戦力とはいえ中々の物を見せてくれた。それを見て俺も奴らに少し興味が沸いてな?少し試して見たくなった。それに計画とはいえ戦で一発やられたらやはりやり返したいしな?勿論さっきのアンデッドと同じLvで奴らと戦ってもらうつもりだ」

 

「成程、よくわかった。コキュートス、それでいいな?」

 

「ハッ!異論アリマセヌ!」

 

「ドランザー」

 

『ハッ!』

 

「機獣兵団から先のアンデッド達と同等の戦力で奴らと戦え、但し空中戦力はなしだ。良いか?」

 

『オ任セヲ!』

 

〈上手く行きましたね〉

 

〈はい、コキュートスから提案が来るとは思いませんでした〉

 

〈いい傾向っすね、これからが楽しみです〉

 

 

 

 

早朝の蜥蜴人の集落に見張りをしていた蜥蜴人が尋常ならない様子で他の蜥蜴人達を起こす。

起こされた蜥蜴人は目をこすりながら、何事かと聞く。

 

「おい!大変だ!起きろ!!」

 

「どうした?そんなに慌てて?」

 

「もしや第二陣が来たのか?」

 

「そうだ、しかも見たことのない種族で構成されている!全身が鉄で出来ている化け物だ!」

 

それを聞いた蜥蜴人は怪訝な顔をして、その情報が正しいかを問いただす。

 

「何?」

 

「鉄で出来た化け物?鎧の間違いじゃないのか?」

 

「良いからみんな起こして早く来てくれ!昨日と同じくらいの数なんだ!」

 

それを聞いた蜥蜴人はすぐに他の蜥蜴人を起こしに向かう。

敵の正体はどうあれ規模が昨日と同じくらいならばすぐにでも戦闘準備をする方が先である。

仲間の報告を聞いたザリュースたちは急いでその場所に向かう。

 

「なんだあいつらは…」

 

目の前に広がるのは鋼の獣達の群れ。

狼の様な姿のモノや虫や恐竜の様な姿のモノが昨日アンデッド達がいた場所に集合していた。

獣同然の見た目の割に微動だにしないところが不気味さを漂わせていた。

 

「おいザリュース、あんなの見たことはあるか?」

 

「ない、身体が金属でできている生き物なんて初めて見る」

 

「ゴーレムってわけじゃねぇな、ゴーレムにしては生き物っぽいし…」

 

目の前の軍団を見て、それぞれの思いを吐露している蜥蜴人。

一方ドランザーとコキュートスは自分達の陣地の外に出ておりコキュートスはドランザーに戦闘開始の指示を出す。

 

「ドランザー…」

 

『ハッ!』

 

合図を貰ったドランザーは機獣兵団に向けて雄たけびを上げる。

そのすさまじい音は蜥蜴人達にも伝わる。

 

『オォォオォォオォォ!!』

 

「何の雄たけびだ!?」

 

「わからん、だがあの生き物達のボスに違いない!現に奴らが進撃を開始し始めている!」

 

一見ただの雄叫びに聞こえるがこれは機獣兵団の指揮方法の一つでありこの雄叫びには多くの指揮が込められていた。それを聞いた機獣兵団は一斉に進撃を開始する。

それを見たザリュースは兄のシャースリューに戦闘の指示を出すように進言する。

 

「兄者、戦士たちに号令を!」

 

「ああ!」

 

シャースーリューの号令を聞き蜥蜴人達も抗戦を開始する。

機獣兵団は獅子型の機械獣、ライジャーが背中の武装のビーム砲を蜥蜴人達に打ちながら先陣を切る。それに続くように他の機械獣も進軍をする。お互いの軍勢が徐々に近づいていく中でドランザーは指示を出した。

 

『モルガ隊ハ沼付近の地面に潜り、蜥蜴人に奇襲を掛けろ。レブラプターはその穴に入りモルガに続け』

 

ドランザーの指示を聞き芋虫型のモルガが地面に潜り掘り進んでいきレブラプターは一列にその穴に入っていった。

一方突撃していた他の機獣兵団はすでに蜥蜴人と交戦を始めていた。先陣を切ったライジャー達が蜥蜴人の首に噛み付き喉元を噛みちぎる。恐竜型のゴドスが蹴りを蜥蜴人に叩き込んで首を蹴り飛ばし、ゴリラ型のハンマーロックがその拳で蜥蜴人の頭をたたき割り、マンモス型のツインホーンがその牙で二人の蜥蜴人を突き殺していた。

勿論蜥蜴人達も只やられているわけでは無い、相手が鎧のような装甲で覆われているのを知って、主に棍棒等の打撃に威力を発揮する武器を持って脚を殴って転倒させ頭部を破壊したりして対抗をしている。

 

『シーパンツァーハ切リ込ミ隊ノ援護ヲ、カノントータス隊ハ蜥蜴人ノ弓兵共ヲ薙ギ払エ、火力ノ違イヲ教エテヤレ』

 

ドランザーの指揮により後方支援の亀型のカノントータスが蜥蜴人の弓兵達に向かって砲撃を開始する。

発射された砲弾は正確な軌道で蜥蜴人達に命中し蜥蜴人達を吹き飛ばす。

ドランザーはその隙にまた一手を出した。

 

『バリゲーターハ沼ノ中カラ奴等ヲ捕食シロ…』

 

鰐型のバリゲーターが沼に潜り、蜥蜴人を沼の底に引きずり込み捕食する。

その戦いぶりを見てザリュースは昨日とまるで違うことを確信した。

 

「戦い方が昨日と違う…」

 

「本腰入れてきたってことか!」

 

「だがまだ戦況は拮抗している今の内に何か考えを…」

 

(トデモ考エテイルダロウナ、残念ナガラソノ時間ハ与エナイ…)

 

ドランザーはある機械獣に指示を送る。指示を受け取った機械獣は凄まじいスピードで背中に着けた銃火器を掃射しながら突撃をしてきた。

 

『レッドホーン、出撃シロ!!奴ラノ陣地ヲ吹キ飛バセ!』

 

「ブォォオォォオォォ!!!」

 

レッドホーンは蜥蜴人をその赤い角で吹き飛ばしながら、蜥蜴人の陣営に突撃を始める。

当然、蜥蜴人達はその存在にすぐに気づいた。

 

「おい、一際デカいのが出てきたぞ!」

 

「何とかして止めろ!」

 

カノントータスの砲撃から生き伸びた弓兵達が弓を構えてレッドホーンに向けて集中攻撃するが、全身の分厚い装甲の前ではただ跳ね返されるだけだった。

 

「駄目だ硬すぎる!」

 

その時レッドホーンが沼に入りそのまま突撃してくるが、少し動きが鈍っていった。

 

(沼に入って動きが遅くなった?ということは奴自身かなりの重さということか?なら…!)

 

「よし、少し動きが鈍くなった、矢で奴を射殺せ!」

 

もう一度蜥蜴人達はレッドホーンに向けて矢を放つが、先程と同じように弾かれていく。

 

『無駄ダ…Lv20トハイエ唯ノ弓矢デハ簡単ニレッドホーンハ落トセン…』

 

『ソレニソイツニハ馬力ガアルシ飛ビ道具モアル。動キヲ止メテモ銃火器ガアル限リ近ヅク事モデキン。サアドウスル蜥蜴人共』

 

ドランザーの言う通り沼に入り、自重のせいで沼に少し沈みかかっているがレッドホーンはそれがどうしたといわんばかりに強引に進む。一方他の地面に潜っていたモルガ達も沼から飛び出し蜥蜴人達に突撃を始める。他の機械獣たちより一際固い頭の装甲を活かして、突撃を掛ける。その穴からパイルバンカーを背負ったレブラプター達も突撃しパイルバンカーで串刺しにし、背中の刃ですれ違いざまに蜥蜴人を切断していく。

 

「クソ!全然矢が通らねぇ!」

 

「ザリュース」

 

レッドホーンに攻撃が全く通らない事に苛立つゼンベルの言葉にザリュースは何とか知恵を絞って何か思いつこうとするが、中々良い考えが思い浮かばない。

 

「何だ兄者?」

 

「昨日アンデッド対策で作ったあれならどうだ?、矢よりはいけるかもしれんぞ?」

 

シャースリューの言葉にザリュースはハッ、となり昨日の戦いの後に急遽作った物を思い出した。

 

「確かに矢よりはマシかもしれん、やってみるか!」

 

そしてシャースリューの指示を聞いた数名の蜥蜴人達は集落の方に走っていった。

 

『ン…?アレハ…』

 

ドランザーは蜥蜴人達が陣地から投石器を引っ張り出してきたのを確認する。

それを見たドランザーは蜥蜴人の判断を褒める。

 

『投石器?成程、確カニ矢ヨリハ利クナ、良イ選択ダ…』

 

「準備良いな?奴の背中の武器を潰せ!破壊しろ!」

 

「放て!」

 

シャースリューの指示の後一斉に投石器から岩が次々と飛ばされていきレッドホーンに命中させる。

ダメージはそこまでないがいくら重装甲でも衝撃は防げる訳ではない、多少ながら怯んでいた。

 

「ブォォオォォ!!」

 

「よし怯んでいる、このまま続けろ!」

 

更に岩をレッドホーンに向けて投下していく。

 

「ほう、機獣兵団に食い下がっているか、序盤からワンサイドゲームにはならなそうだな」

 

マシンナーの言う通り、機獣兵団の機械獣達に苦戦しながらもなんとか蜥蜴人は対抗出来ていた。

刀剣類は通用しないが棍棒やメイス等の打撃に特化した武器で叩き割ったり、投石器でレッドホーン以外の機械獣を圧壊させている。

 

「余裕だなマシンナー?ドランザーが手古摺っているかもしれんぞ?」

 

「何、彼奴だってこれ位は予想してるさ、それよりどのタイミングで撤収させる?あまりやりすぎるわけにはいかんぞ?今後の方針にも響く」

 

「安心しろもう考えている」

 

「なら安心だな…」

 

「ちっ、背中の武器は使い物にならなくったがあいつ自身はまだ健在だ」

 

ゼンベルの言う通り、レッドホーンの背中の武装は投石により銃身が歪んだり砲台そのものが押しつぶされている。しかしレッドホーンはそれでも尚確実に蜥蜴人達に近づいていく。

 

「だが飛び道具が無ければ彼奴が出来るのは突進位だ」

 

「岩をある限り投げ続けろ!」

 

『アマリ長引カセル別ニハイカンナ、レッドホーン、ソロソロ終ワラセロ!』

 

それを聞いたレッドホーンは目を光らせ先程よりも出力を上げて走り始める。

そしてそのまま沼を抜け出した。

 

「ブォォオォォ!!」

 

「なんだ?急に動きが!?」

 

「不味い!突破される!」

 

沼を抜け出したレッドホーンは蜥蜴人達を吹っ飛ばしながら集落の方に突撃していく。

 

「しまった、集落の方に!」

 

「クソ!何としても止めるぞ!」

 

しかし進撃するレッドホーンを迎え撃つように何かが突撃して来る。

 

「ロロロ!?」

 

昨日の傷もまだ完全に癒えてないロロロがレッドホーンに向けて突撃をするが、簡単に吹き飛ばされ返り討ちあってしまう。

 

「ロロロ!」

 

「クソ!」

 

吹っ飛ばされたロロロに近づくザリュース。幸いまだ息はあったが手当をした箇所の傷が再び開き出血していた。

ドランザーはそのまま集落を攻めようと考えていたがアルティマからの〈メッセージ〉を聞き意外なことをする。

 

『ヨシ、コノママ本拠地ヲ…ン?アルティマ?何ダコンナ時二?撤退?了解ダ…』

 

『オォォオォォオォォ!!』

 

再び響いたドランザーの咆哮を聞き、突撃をしていたレッドホーンは突如止まり、引き返していった。

それと同時に戦闘をしていた機械獣達も引き返していく。

 

「なんだ?引いていくぞ?」

 

「引き返した?」

 

「何故だ?」

 

「とりあえず……凌いだのか?」

 

思ってもいなかった敵の行動に蜥蜴人達は啞然とする。

しかし、敵が敗走したというわけでは無い。

現に先程のレッドホーンの進行を機に戦況が機獣兵団側に移りつつあったからだ…。

 

「だが完全に勝ったとは言い切れんな…」

 

「明日も今日の様な戦いだったら…」

 

思わずクルシュはそう口に出してしまい、ザリュースはそれを諫める。

 

「言うなクルシュ、不安なのは皆一緒だ…」

 

「ごめんなさい…」

 

(しかし……不味いことになったな…)

 

ザリュースの考えているように、昨日の勝利から僅かに希望を見出していたが今回の戦闘でそれすらも曇りつつあった…。そして彼らはその翌日更に驚愕する出来事が起こる事にになるとは思ってもいなかった。




機獣兵団達のモデルはもろゾイド達です。
当初、レッドホーンのポジションはゴジュラスにしようかと考えましたが戦闘力的にレッドホーンの方が丁度いいかな?と考えてレッドホーンにしました。


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第56話 蜥蜴人掃討戦3

私生活で色々あり、小説の作成のペースがかなり落ちてしまってましたが元号が平成の時こギリギリ投稿することが出来ました!


機獣兵団との戦闘の傷と疲労が完全に癒えないまま翌日を迎える。

すると一人の蜥蜴人が息を切らしながら慌てて走りながら大声で叫ぶ

 

「お、おい大変だ!湖が!」

 

その問題の湖に他の蜥蜴人湖が見える丘に行くと、湖一帯が完全に凍り付いていた。

この光景を見たシャースーリューは驚愕しザリュースは隣にいるクルシュに目の前の光景がわかるか質問をする。

 

「何だと…」

 

「クルシュ、こんな事があり得るのか?」

 

彼らにとっては、あまりにも常識外れの出来事にシャースーリューは驚愕し、ザリュースはクルシュに問いかけるがクルシュもあまりの事に驚くが、この現象は初めてだということを伝える。

 

「し、知らない、こんなの知らない…!」

 

そんな時蜥蜴人の一人が震えながら声を出し指を指す。ほかの蜥蜴人がその方角を見る。

すると蜥蜴人がさらに驚愕の声を上げた。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「まさかあれが敵の切り札…!?」

 

指さした方角には約30mの巨大なゴーレム、そのゴーレム<ガルガンチュア>は片手に巨大な岩を持ち上げ、それを思い切り投げ飛ばす。岩は凄まじい音と砂煙を出しながら落ちていった。

 

「おいおいふざけんなよ、あんなのに攻め込まれたら…!」

 

更にそこに金色のフルプレートを着込んだアンデッドの騎士と銀色の装甲を纏った自動人形が並び立ち、槍を上げる。

 

「神話の軍隊かよ…」

 

そこにアインズとマシンナーを筆頭に後から階層守護者と七大隊長が進む。

ザリュースとシャースーリューは先頭を歩いているアインズとマシンナーが敵の首領じゃないかと推論する。

 

「見たところ、真ん中の二人が親玉…らしいな」

 

「アンデッドともう一人は何だ?」

 

「わからん、甲冑を被ってるのか?」

 

片方はその見た目からアンデッドだとすぐにわかった。

しかしもう片方は黒い甲冑を被っておりその下はどうなっているのかわからない。

 

「……とりあえず会ってみるしかない」

 

意を決したザリュースとシャースーリューはアインズとマシンナー達が陣取っている場所にまで向かう。

 

「ほう…よく来たな蜥蜴人達、おっと名前を名乗るのを忘れていた。私の名はアインズ・ウール・ゴウン。そして隣に居るのが我が盟友…」

 

「マシンナーだ…よろしく蜥蜴人」

 

「蜥蜴人の族長の一人、シャースーリュー・シャシャ」

 

「弟のザリュース…」

 

その時第六階層守護者のデミウルゴスが兄弟たちにアインズとマシンナーの両名に平伏するように言うと二人は何か強い力に押さえつけられたかのようにその場に伏せられる。

 

『平伏したまえ』

 

「!?」

 

「ぐぅ!」

 

ザリュースとシャースーリューは動こうにもビクともしない。

 

「では本題に入ろう。今回の蜥蜴人との戦、当初は貴様たちの殲滅を考えていた、だが…」

 

「初戦はこちらが少々手を抜いたとはいえ、貴様たちは勝った」

 

「その結果に我々なりの敬意を表し、我々の傘下に入るのを条件に貴様達の集落の存続を認めよう、但し…」

 

「このまま黙って傘下に入るのは貴様たちも不満だろう?そこで…」

 

「こ…降伏…」

 

「何もしないで降伏は許さん…」

 

「お前たちは俺の同胞にある程度抵抗で来たんだ、その可能性をもう少し見たいんだよ?」

 

降伏を宣言しようとしたシャースーリューの言葉を制しアインズとマシンナーはそれぞれの考えを話す。

 

(見せしめということか…)

 

「貴様たちには私の信頼する側近の一人であるコキュートスと戦ってもらう」

 

「時間は日が暮れ始めた頃だ、では楽しみに待っているぞ?」

 

そう言って兄弟の金縛りを解き、守護者と七大隊長と共に自分たちの陣地に〈転移門〉を使って帰っていった。

 

 

 

 

自分たちの陣地に戻り、マシンナーとアインズはこの後の行動について〈メッセージ〉で会話をしていた。

 

(ではトブの大森林の調査はこの件が終わってからですか?)

 

(そうですね、何か変わった物があったらすぐに連絡しますよ)

 

マシンナーの言う通り前から計画していた特殊合金のナノメタルとイアイが見かけた金属生命体の痕跡の調査と捜索をこの件が終わったら行動に移そうと考えていた。

 

(頼みます)

 

「アインズ様、マシンナー様」

 

「ん?」

 

「どうしたデミウルゴス?」

 

「僭越ながら御二方の為に椅子をご用意しました、どうぞご覧ください」

 

メッセージでの会話を終えてすぐ、デミウルゴスが話しかけてきたので二人はデミウルゴスの方を向く。

すると後ろには二つの椅子が置いてあった。

片方は様々な種族の骨で出来ており、もう片方はそれを金属でコーティングされている。

 

(え?何あの椅子、骨で出来てんじゃん怖!いや俺も骨なんだけど、骸骨なんだけど…)

 

(え?何あの椅子、めっちゃかっこええやん、座ったろ)

 

その椅子を見たアインズは引き、マシンナーは素直に感心した。

デミウルゴスは是非とも座ってほしいと言いたげな目でコチラを見ていた。

しかしアインズはあまり気乗りしない。

 

「(ええ…流石に気が引ける、どうすれば…!)シャルティア、確かこの間、泥酔してバレット・ローグを困らせたようだな?」

 

「え?は、はい…」

 

アインズのいう通りシャルティアは先日バーで泥酔してしまい、バレット・ローグが彼女を運び込んだという。

それを聞いたアウラは呆れやれやれと言った感じでシャルティアをなじる。

 

「あんた何やってんのよ全く…」

 

「う、うるさいでありんす!」

 

「その罰としてお前には私の椅子になってもらうぞ?拒否は許さん」

 

「……え?」

 

アインズの思いもよらないお仕置きにマシンナーは一瞬聞き間違いかと思ったがどうやら間違いではないらしい。

シャルティアは拒否するどころか何故か喜び、アルベドは歯ぎしりしている。

 

周りが何故か感心している中マシンナーは一人ドン引きしている。

 

(知りたくなかったわ~こんな形でモモンガさんの性癖知りたくなかったわ~)

 

(せ、性癖じゃないですよ!)

 

(本当っすか~?…ってアルベドが凄い顔してるし…)

 

マシンナーの言う通り、アルベドの顔はさながら般若の様になっており、何故かその場から退出する。

そして少し時間が経った後「ドン‼‼‼‼‼‼‼‼」と凄まじい音が鳴った。

 

「壁ドンって…」

 

オイオイと考えているとアインズが何気なくシャルティアに話しかける。

 

「シャルティア、重くないか…」

 

「あ、アインズ、今のシャルティアの顔見るのは……」

 

マシンナーはアインズを止めようと声を出すがアインズはマシンナーの声を聴く前にシャルティアの方に振り向く。

 

「そんな事ないでありんす!寧ろこのままずっとでも良いくらい…!」

 

振り向くとシャルティアは何故か頬を赤くさせ、恍惚な表情をしていた。

 

「うわぁ…」

 

その表情を見てドン引きしているアインズを尻目にマシンナーはデミウルゴスが作った黒い椅子に座ろうとその椅子に近づき腰かけた。

 

「じゃあ俺はデミウルゴスの作った椅子に…」

 

「よいしょ…」

 

「オぅ!」

 

マシンナーが一瞬間抜けな声を上げるのと同時に何かが壊れるような音が出る。

そしてマシンナーは地面に倒れた。

 

(え?何?何があったのよ…?)

 

一瞬混乱するがアインズが何故か焦りが籠ったような声を出しながらマシンナーに話しかける。

 

「マ、マシンナー…椅子…」

 

「え?」

 

椅子と言われてマシンナーは下を見ると、デミウルゴスの作った椅子の残骸が広がっていた。

 

(…マシンナーさんの重量に耐えられなかったようですね、酷い有様になってる…)

 

それを聞いたマシンナーはデミウルゴスの方を向くと頭を伏せ、わなわなと身体を震わせていた。

 

(やべぇ…デミウルゴス怒ってる、絶対怒ってる…!)

 

〈メッセージ〉で椅子が壊れた原因を推測するアインズと故意ではないとはいえ椅子を台無しにしてしまった事でデミウルゴスが完全に怒り心頭になっていると思いマシンナーはすぐにデミウルゴスに謝罪する。

 

「す、すまんデミウルゴス!まさかこんな事になるとは…『申し訳ございません!』は?」

 

デミウルゴスに謝罪しようとしたがそのデミウルゴスから意外な言葉で制された。

 

「まさかこんな欠陥品を作ってしまっただけでなく、御身にこんな姿を晒させてしまうとは…」

 

「え?いや待て、謝るのは寧ろ俺の…」

 

「その責任をここで…!」

 

そう言うとデミウルゴスは魔力が籠った右手で己の首を貫こうとしたのでマシンナーは急いで止めた。

 

「待て!やめろ馬鹿!!」

 

「全く…デミウルゴス、不慮の事故とは言えこれを壊したのは俺だ、だからお前は謝らなくて良い。謝るのは俺の方だ。すまない…」

 

「いえ、マシンナー様に非はありません!これは私の…!」

 

「いやだから…」

 

「そこまでにしろ、デミウルゴス次はもっと頑丈な椅子を作れ、マシンナー、次から気を付けて座るように…」

 

これ以上続けさせるわけにも行かずアインズは二人に注意しその言葉で漸く、二人の問答が収まった。

 

「わかってるよアインズ」

 

「かしこまりました、次こそは必ず」

 

(で?誰探すんです?)

 

(はい、さっきのザリュースって言う蜥蜴人を探そうかと…)

 

マシンナーが製作した実験体を倒したことによりマシンナーとコキュートスが興味を示し、先程自分たちの前にでた蜥蜴人の片割れを探し始める。

 

(あ、ここらしいですね、さて何やってるか…って)

 

(……)

 

探していると小さな小屋の中に居ることを知り、透視を始めると何故かザリュースがクルシュを押し倒している光景を目撃し、一瞬だけ思考停止してしまう。

 

(あの…これ、アレっすよね?)

 

(ああ…はい、アレ…ですね)

 

少し間を開けた後、二人が何をしていたのかすぐに察してしまい、気まずい気分になってしまう。

そんな二人を察したのか階層守護者があれやこれやと言い始めた。

 

「まあその…なんだ、これが今生の別れになるかもしれんから、このぐらいはな…」

 

「そだねー(棒)」

 

そう言うと「「流石至高の御方!!」」と言いて来たので二人共顔を抑えて…。

 

「「お前ら……黙れ」」

 

そう呟いたのであった…。

 

 

 

 

『キマシタナ?』

 

「ウム…」

 

次第に日が暮れ始め、約束の時刻となり、平原には蜥蜴人の戦士たちが時刻通りに集まりコキュートスとドランザーは一足先に待っていた。コキュートスは氷の門を作り、戦う意思を持つ者のみ入ることを許し、蜥蜴人達はザリュースやシャースーリュー等の族長や比較的年を取った蜥蜴人達がその門をくぐる。その眼には既に決死の覚悟を宿していた。それを見たコキュートスは4本の腕に武器を持ち完全なフル装備で出陣する。

 

「見届ケ役、頼ムゾ?」

 

『ハ…』

 

コキュートスの指示が無くても、元よりこの戦いを見届ける事を決めていた。

ドランザーは出陣していくコキュートスを見送る。

そして蜥蜴人達との最終決戦が始まった。

 

 

 

 

 

それは戦いとは言えない一方的な殺戮だった。

まず、族長以外の蜥蜴人達を一瞬で凍結させ、その後族長達も次々と斬殺した。

ザリュース、シャースーリュー、ゼンベルはある程度食い下がったがそれも蟷螂の斧に過ぎなかった。

そしてコキュートスと蜥蜴人の戦いをドランザーは見届けた。

 

(確カニ見届ケタ…)

 

ドランザーは胸の中で彼らの健闘を称え、コキュートスに近づく。

 

『終ワリマシタナコキュートス殿…』

 

「ウム、良キ戦デアッタ…」

 

『デハ私ハ蜥蜴人達ノ集落ニ行ッテ参リマス…』

 

「ウム、頼ムゾ」

 

『ハ…』

 

ドランザーは残りの蜥蜴人達に戦いの結果を伝えるべく、集落に向かって飛行した。

 

 

 

 

ドランザーがコキュートスの下にクルシュを連れて行き、コキュートスはそのままアインズの所に向かう。(ドランザーは蜥蜴人達の集落に戻り監視役を務めている)

そしてアインズとマシンナーが待つナザリックの陣地に着き、アインズとマシンナーに謁見を求める。

 

「アインズ様、マシンナー様、連レテ参リマシタ…」

 

許可を貰ったコキュートスはクルシュを連れてアインズとマシンナーの両名に跪く。

クルシュも膝を着き手を下につけて平伏した。

 

「うむ、ご苦労だったなコキュートス、下がって良いぞ」

 

「ハ…」

 

アインズの指示を聞き、コキュートスは後ろに控える。アインズはクルシュに「面を上げよ」と言い、クルシュはその指示に従った。

 

「ふむ、君がクルシュか、報告通り白いのだな?」

 

「縁起が良いな蛇ではないが…」

 

「おっと…話がそれてしまったな済まない、君にある頼みをしたくてな、条件はそうだな…君の思い人、ザリュースを復活させてやろうじゃないか…」

 

その言葉を聞き、クルシュは一瞬だけ目を見開くがなんとか冷静になりながらアインズに質問する。

 

「…!一体どのような条件でしょうか?」

 

「ふむ、そうだな君にしか頼めない事だ…なに難しい事ではない」

 

アインズがジッとクルシュをその赤い目で見据える。

クルシュは冷や汗を掻きながら意を決して答えた。

 

「……それは私の体でしょうか?」

 

その瞬間アルベドとシャルティアが歯ぎしりをするが、二人は聞いていなかったのか素を出しつつ返答した。

 

「いや爬虫類はちょっと…」

 

「いや好きな女いるし…」

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「エ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「あ…」

 

思わず言ってしまった言葉にマシンナーはフェイスガードを装着して立ち上がると…。

 

「……自爆してくる」

 

そういって陣地から出ようとしたのでアインズは即座に止めに入った。

 

「お、おい待て!落ち着けマシンナー!お前が誰を好いているかはまだバレていない!シズだというのはまだバレていない!……あ」

 

マシンナーの自爆を止めようと焦ってしまった為かこの状況で最も言ってはいけない人物の名を叫んでしまった。

再び階層守護者再び目を見開き、アインズは「やべ」と口を覆うが時すでに遅し。マシンナーの首が「ギギギ」とアインズがいる後ろの方に振り返る。

 

「…き~さ~ま~ぁ~!?」

 

黄色い目を赤く光らせ、排気された煙が全身から出て、怒髪冠を衝く状態になっていた。

 

「す、すまん!つい口が滑って…!」

 

「…やっぱ自爆してくる」

 

「ま、待て待て待て!おいお前たち、さっきの事は誰にも言うな!言ったら確実に死ぬと思え!絶対にだ!?」

 

「「「「「「は、はい!」」」」」」

 

そのまま外に出ようとするマシンナーをなんとか抑えながら、アインズは先程の事を階層守護者達とクルシュに絶対に口外にしないように言い放つ。

 

「お前もだぞクルシュ、言ったら集落が物理的に消滅すると思え!」

 

「は、はい‼‼‼」

 

凄まじい気迫のアインズにクルシュはただ頷く事しかできなかったのもあるが、蜥蜴人全てを吹き飛ばされる訳にはいかなかった。

 

「だからマシンナー落ち着け、な?」

 

アインズにそう言われてマシンナーは全身から煙を出すと、目の色も元の黄色に戻り、ある程度の冷静さを取り戻す。

 

「ああ…すまなかった、取り乱して」

 

「お、おう…」

 

席に戻ったマシンナーを見て安堵したアインズは話を戻すべく再度クルシュに問いかける。

 

「んん…!話が反れてしまったな申し訳ない、頼みというのは君に蜥蜴人達の監視をしてもらいたいのだよ?」

 

それを聞いたクルシュは少し眉を顰めながら、アインズに言葉を返す。

 

「監視…ですか?」

 

「ああ、我々の勝ちとはいえ反抗する者たちが居なくなったわけではない、そういう奴らを早い時期に始末したいのでな、その為の監視役を君に頼みたい」

 

「我々の中にそのようなものは…!」

 

クルシュは否定しようと言葉を出すも、アインズとマシンナーがそれを制する。

 

「お前は賢い蜥蜴人だ、少なくともお前は確実に裏切らない。だが時がたつにつれ反乱を企てる馬鹿はいずれ現れる、生憎俺たちは臆病でね?泥棒に入られない為に扉にしっかり鍵をかけるだろ?誰だってそうする、俺もそうする」

 

「心配せずともこの事はこの場にいる者しか知らない、だから君やザリュースに敵意が及ぶ事はまずない。だが万が一君たちにそのような事が起きれば遠慮なく助けを求めるが良い」

 

それを聞いたクルシュは否応にも従うしかないと覚悟を決めた。

 

「……わかりました」

 

「では聞くぞ?この頼み聞いてくれるか?」

 

 

 

 

「…ここ…は…?」

 

目覚めたザリュースは朦朧とした意識の中で記憶をたどる。

そしてコキュートスと戦い、そして敗北をし、自分は死んだということを思い出す。

 

「ザリュース!」

 

ここはあの世か?と考えた時、目の前にクルシュが現れ自分を抱きしめる。

 

「ク…クルシュ?何故?」

 

まさかクルシュも、と考えた瞬間、アインズの声を聴きアインズの方を向いた。

 

「ふむ…気分はどうかな?」

 

アインズとマシンナーの姿を見たザリュースは目を大きく見張る。

しかし場の状況を察するに、この二人のどちらかが己を蘇らせたのではないかと予想した。

 

「!…特に…異常は…」

 

「そいつは良かった」

 

しかしザリュースは一つ疑問に思った所があった。

なぜ自分を蘇らせたのかと?

 

「な、何故…私を蘇らせたのですか?」

 

「ふむ、なに簡単だ。そこにいるクルシュにお前の蘇生を頼まれたのでな?」

 

「え?」

 

「それもあるが、お前たちと戦ったコキュートスから強く勧められた。一級の武人であるコキュートスがあそこまで言うのも興味があってな…」

 

「では問おう、貴様たちの願いはなんだ?」

 

その問いにザリュースとクルシュは一瞬だけ目を合わせ、そして頷き、二人に平伏する。

そしてザリュースは答えた。

 

「…蜥蜴人の永遠なる繁栄を…」

 

「それだけで良いのか?」

 

「「はい」」

 

ザリュースとクルシュの言葉を聞き、マシンナーとアインズは顔を見合わせ、小さく頷いた。

 

「ふむ、わかった。では帰るかマシンナー」

 

「了解だ」

 

そういって後ろを向き、歩を進めるが、何故かマシンナーは一旦止まり、ザリュースの所まで行く。

そしてその顔を覗き込んだ。

 

「あ、あの何か…?」

 

「…お前隣のクルシュと付き合って何年位なんだ?」

 

「へ?」

 

思ってもいなかった質問に呆気に取られるがすぐに我に返り、その問いに答える。

 

「いえ、その…実は数日前初めて会って私が告白をしました」

 

「つまり一目ぼれしてすぐに申し込んだと?」

 

「は、はい…」

 

「凄いなお前…」

 

「え?」

 

「尊敬するぞ、ザリュース・シャシャ。今度会ったら酒を飲みながらその経緯を教えてくれ」

 

ポン、とザリュースの肩に手を置き、マシンナーはその場を後にした。

 

「は!はい!喜んで!」

 

((アア…成程…))

 

それをみたコキュートスとドランザーはどこか納得したように少し頷いた。

 

(大丈夫ですよマシンナー様、マシンナー様のペースでシズとの距離を縮めて行ってください)

 

マシンナーの隣で歩いていたアルティマはそう考えながら僅かに微笑んでいた。

 

 

 



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第57話 森林調査開始

5ヶ月も音沙汰なしですみません!(汗)



ナザリック地下大墳墓第六階層「機械の楽園」中央司令室。

 

「アルティマ、準備は?」

 

斬艦刀を研ぎながら隣に控えているアルティマに問いかける。

その問いかけにアルティマとシズは即座に返答した。

 

「できております!」

 

「捜索隊の人数……全員…集…合…」

 

斬艦刀を研ぎ終わり、大剣から刀の形態に戻し鞘に納める。

そして席を立ちあがり、控えている2人に指示を出す。

 

「ならばよし、行くか」

 

「「は!(は…)」」

 

中央司令室を出て「機械の楽園」の外に出る。

目の前には万に匹敵する「マキナ」の捜索隊、そして先頭には隊長達が跪いて待機している。

 

「全員集合しているな、よろしい」

 

「立て」

 

ザ‼、と一斉に立ち上がり敬礼をする。

マシンナーは満足そうに排気口から煙を排出する。

そしてアルティマにアイコンタクトをし、アルティマは大きな声量で軍団に指示を出した。

 

「総員傾聴‼」

 

それに続くようにマシンナーは今回の捜索の目的を話す。

 

「これからトブの大森林で捜索を行う!調査内容は捜索作戦のしおりに描かれている通りナノメタルの痕跡の調査、もう一つは金属生命体の手がかりの調査だ」

 

「お前達には大森林での探索と調査、そして警護を担当してもらう何かあったら逐一報告するようについでにおやつは300円までだぞ?」

 

「質問はあるか?」

 

マシンナーの言葉にイアイが勢いよく手を上げた。

マシンナーはイアイの質問を聞く。

 

「うぃ」

 

「なんだイアイ?」

 

「先生ー、お好み焼きはおやつに入るんですかい?」

 

「……」

 

イアイの質問にマシンナーはゆっくりと近づいてピコピコハンマーでピコ!と頭を叩く。

 

「アタ!」

 

「バーカ、そこはせめてもんじゃ焼きかパンケーキ辺りにしろい!他はいないか?」

 

その問いかけに誰も答えなかったのでそれを質問をしなくても大丈夫とマシンナーは捉えた。

 

「じゃあ気を取り直して…全員、出撃だ!!」

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

 

 

 

現在トブの大森林をトロンべ(馬)に跨り疾走している。

周りにはアルティマを始めとした七大隊長、その次にはそれぞれの兵団からの高Lvモンスターで固められている。上空にはソニックが空中戦力を率いていた。

 

(やれやれ、目立たないように極力数は抑えたが、それでも十分圧倒されるな…)

 

まだ俺たちの事を知られる訳にはいかないので千単位にしたがそれでもその迫力に圧倒されてしまう。

我ながらよくここまで大きくしたものだ(課金だけど)。

そして周りの圧もすさまじい、まあ理由はわかるけど…。

 

(普段の護衛がアルティマ達だけっていう反動もあるのか、にしても…)

 

実はトロンべに乗っている前にはシズが乗っている。

 

「シズ、揺れないか?」

 

「…大丈……夫」

 

本来ならバイク(サイドカー)の形態にして共に行く予定だったのだが、直前でトロンべが駄々をこねたので仕方なくこの状態になった。

 

「悪いな、トロンべの奴が土壇場で駄々こねやがったらよ…」

 

「ん…」

 

『おいトロンべ、今回は馬じゃなくてバイクの方だ!』

 

『ヒヒーン‼』

 

『何?今日はバイクになりたく無いだと?我儘言うんじゃない!』

 

結局、根負けして馬のままで来ちまったんだよなあ、困った奴だ全く。(けど情けない事にシズと一緒に乗れる事に喜んでいる自分もいる…)

 

(なあなあアルの兄貴、シズ姐さん頭の傍に着かせといてええんか?)

 

(良いんだよ、マシンナー様が良かれと思ってるなら)

 

(でもそういうのってあかんのちゃう?)

 

(君獣の癖に勘が悪いなぁ、シズがマシンナーと同乗しているの見て何か察せないの?)

 

(えぇ?……まさかの惚の字って奴でっか?)

 

(……他の者には絶対言わない様に)

 

(マジかぁ~)

 

(どうしたでござるか?)

 

(なんでもねぇよ…)

 

そうこう考えている間に、目的の地点に到着、俺は全員に指示を出す。

 

「ここだ、止まれ!」

 

目的の地点に到着した俺はアルティマにテント地点の設立と捜索隊の招集を命令した。

 

「アルティマ、テントの設置をしろ、拠点の完成後に捜索を始めろ」

 

「は!総員作業開始!」

 

アルティマの命令によりマキナの隊員達が一斉に作業を開始する。

 

「どれ位かかりそうだ?」

 

「そうですね、この人員とスピードなら15分位です…」

 

「そうか、なら俺も用意しておくか」

 

「お館様それはなんでござるか?」

 

「何か入ってんのか?」

 

「まあ見てな」

 

俺はアイテムボックスから大き目の黄色い箱を取り出し箱を開ける。

するとスズメバチ型の機械系異形種が現れた。

 

「『ビーハウス』起動」

 

「おわ!?」

 

「蜂ぃ!?」

 

このアイテムは俺が製作した『蜂小屋(ビーハウス)』、小型の蜂型ドローンを大量に散布することができる。

ドローンの用途は捜索、小型の体を活かした追跡、後は暗殺にも使用できる。(後蜂らしく花から蜜を採取する事も可能)毒の効果はオオスズメバチの5百倍の設定で描かれているのだが、現実世界はともかくこの世界だとどれほど有効かは知らない。

 

今回はこいつらに捜索と周囲に敵対する者がいないかを見張るのを命令する。

一斉に飛んで行ったビーハウスの蜂型ドローン達が一斉に飛び立つ。

全員戻ってくると良いが…。

 

「さて、何か収穫があると良いが…」

 

「マシンナー…様……」

 

一人用意された椅子に座っていると、シズが飲み物をトレーに載せて持ってきていた。

 

「ん?どうした?」

 

「……飲み…物」

 

「ああ、ありがとう、選んでくれたのか?」

 

「ん……」

 

「ありがとよ、喜んで頂く」

 

俺はトレイに載ってあった飲み物に手を取り、一口飲んだ。

 

「うまい、ありがとうシズ」

 

「ん…」

 

俺はシズに礼を言う。

照れなのかシズは少し頬を赤らめながらも一礼する。

可愛いなぁ…。

 

「「「「「……」」」」」

 

なんだか周りを見渡すと何故かじっ、と俺たちの方を見ていた。

それはもう食い入るような眼で…。

 

「……なんだよ?」

 

俺が話しかけると、見ていた奴らは「申し訳ありません!」と言って作業に戻っていった。

何だったんだ一体…。

 

「…上手く……行った」

 

マシンナーから少し離れて

 

「やったね!(ちょっとタイミングが悪かったのは黙ってていよう)」

 

そう考えながらもアルティマはソニックに<メッセージ>を送った。

 

〈ソニック、そっちは?〉

 

〈空中からは何も今の所何もない、木々と林位だ〉

 

〈こっちも今のところはないよ、ゴルドも同じ反応だった〉

 

〈やはり完全に消滅してるのでは?〉

 

〈あの金属を消滅させるなら最低でも第八位階の魔法かもしくはそれに匹敵する威力の物が必要だよ?昔ならともかく、この世界の存在で破壊できるのはこの辺りにはまず存在しないと思うけど…〉

 

一方、他の場所で捜索をしていた兵士達は金属探知機を使用しながら目的の物を探している。

しかし他の隊同様にあまり反応が無い。

 

「何か反応あったか?」

 

「イヤ、金属反応どころか生命体の反応も無い」

 

「おまけにドッグも反応無し」

 

それぞれの捜索隊に貸し出されている探索能力のスキルを持つ『サーチ・ドッグ』も何も反応しない。

 

「…!待て」

 

その時『サーチ・ドッグ』を連れていた兵士が『サーチ・ドッグ』が反応した事を告げる。

他の兵士たちも持っていた金属探知機が同様に反応したのを確認する。

 

「どうした?」

 

「一瞬だけだが反応があった、2時の方角だ」

 

「行くぞ」

 

反応が現れた方角に捜索隊は進むとそれに従ってドンドン反応が強くなっていく事を確認する。

 

「どんどん反応が強くなっている…!」

 

「近いぞ」

 

そして進んでいくと、輝く純銀の歪な形の金属の塊が数個置いてあった。

 

「こいつは…」

 

「バレット・ローグ団長に連絡だ」

 

即座に直属の上司であるバレット・ローグに報告、報告からすぐにバレット・ローグが転移してきた。

 

「これか?」

 

「は!」

 

バレット・ローグはアイテム鑑定スキルでその金属を調べる、するとバレット・ローグは歓喜の声を上げる。

そして金属の正体がわかった他の隊員も声を上げた。

 

「間違いない、形は歪だがナノメタルだ…!」

 

「おぉ!」

 

「団長、早速マシンナー様に…」

 

「ちょっと待ったぁ~!?」

 

「!?」

 

謎の声に全員が一斉に振り向き、装備しているライフルを向ける。

すると一体のドリアードが叫びながらコチラに向かってくる。

 

「何者だ!」

 

「それはこっちの台詞だよ!いきなり出てきたと思ったらそれを持ち去ろうとするなんて…わ!」

 

「手を上げろ、足を打ち抜くぞ!?」

 

銃を向け警告する隊員を制し、バレット・ローグはそのドリアードに歩み寄る。

 

「やめろ…少し待て、お前、これが何処にあったのか知ってるか?」

 

「え?…それは…」

 

口ごもるドリアードを見て、バレット・ローグは「何か知っているな?」と確信する。

それを聞き出すために極力言葉に鋭さを抑えながらドリアードに質問をする。

 

「何かあったのか?」

 

「いや…その…ってああ!」

 

「ん?」

 

「思い出した!それどころじゃないんだよ!あの魔樹が目覚めちゃうんだよ!!」

 

質問の回答が出る前に予想もしてなかった単語が出てきて、バレット・ローグは首を傾げる。

ドリアードの様子に周りにいた隊員たちは若干呆れながら「こいつ何ってんだ?」と口を開く。

 

「魔樹?」

 

「何言ってるんだお前…」

 

ローグ達が聞き出そうとしてもぎゃあぎゃあ騒ぐドリアードを見てこれでは辣があかないと踏んだバレット・ローグはマシンナーに報告を入れる。

 

「マシンナー様」

 

 

 

 

バレット・ローグから『メッセージ』が着たのでメッセージにでる。

すると嬉しい報告と変な報告が同時に来た。

 

「ナノメタルを見つけた?そうか、よくやったぞ。…え?変なドリアードがわめいている?……念の為連れてきてくれ」

 

『メッセージ』を切り、隣にいたアルティマにそれを伝える。

 

「ナノメタルが見つかったそうだ」

 

「本当ですか?」

 

「だが、それについて知っているドリアードが変な事口走っていてな?」

 

そしてしばらく経っているとバレット・ローグと他の隊員達を引き連れ帰還してきた。

後ろには例のドリアードもいる。

 

「連れてきたか?」

 

「は、こちらに」

 

俺は立ち上がり、ドリアードの方に向かう。

 

「こんにちは初めまして、俺の名はマシン…「大変なんだよ!もうすぐこの世界を滅ぼす魔樹が目を覚ますんだよ!世界を滅ぼす魔樹が!いつか復活するとは思ってたけど遂に来た!あの人達はもういないし!」ナー……」

 

あ、だめだこりゃ。俺が話しかける前に怒涛の勢いでマシンガントークを始めるドリアード君。

この勢いだとそう簡単には止まらんだろうなこれ…。

 

「おい、少し静かにしろ」

 

後ろに居たバレットが静かにするように注意するがドリアード君は一向に静かにならない。

 

「ああ、うん、なんか訳ありなのはわかったから一旦落ち着いてくれ、終始マシンガントークじゃあこっちも聞けんよ?」

 

「あのねえ!こんな大変なときに落ちつけるわけないじゃないかバカなのかキミ!もうすぐ魔樹が目覚めるん……」

 

ガチャチャ‼‼‼

 

「ひっ…!」

 

このままでは何も進展できない為バレット・ローグと俺はなんとかなだめようとするが、ドリアード君は全然治まらない、更にヒートアップしそうになったが突如マキナのみんなが一斉にドリアード君に銃口を向け、強制的に黙らせた。レーザーポインターの赤い点々が体中に無数浮かんでいる、後ろに居るバレットローグがドリアード君の頭にショットガンを押し付けていた。

 

「おい、勘違いするなよドリアード?こっちはお前が生きてようが死んでようが情報は抜き取れる…」

 

「マシンナー様のお言葉が聞こえなかったのか…?無礼者が…!」

 

「テメェの本体に焼夷弾ばら撒くぞ?」

 

『グゥウウウウ…』

 

「我が倦族の苗床にしてやろうか?」

 

「いいえ、ファラリスの牡牛に叩き込むのはどうでしょう?」

 

隊長達がやたら怖い事言ってるし、てか苗床ってあんた…。

そう思ってるとアルティマがドリアード君に近づいていく。

 

「……次マシンナー様に舐めた口叩いたら、死んだ方が一兆倍マシな事するよ?」

 

話している内容はともかくドリアード君がビビっているので脅しているのは確かだ。

俺はアイテムボックスからピコピコハンマーを取り出してアルティマの頭を小突く。

 

「止めんか阿呆」

 

「おう!」

 

「お前ら客をビビらせてんじゃねぇよ全く…ああ~悪かったな、正直に話してくれればお前の命は保証するからゆっくり話してくれ?…な?」

 

「う…は、はい」

 

話を聞くとこのドリアード…じゃなくてピニスン君は先程の事もあり、こちらが知りたいことを(少し怯えながら)ペラペラ話してくれた。昔この辺りで世界を滅ぼす力を持つザイトルクワエと言う魔樹の一部が出現し、これをプレイヤーと思われるもの達が撃退したらしい。

 

「ザイトルクワエ…ねぇ…」

 

そういえば法国も「滅びの竜王」とか呼ばれる存在を探しにこの森をさまよってたらしいし、もしかしたらその「ザイトルクワエ」と関係あるかもしれない。それにしてもそこまでヤバい木だともはや怪獣だろ怪獣…。

 

(あれ、それビオランテじゃね?)

 

「なあそれビオランテだろ?」

 

「え?いやザイトルクワエ…」

 

「ビオランテだろ?」

 

「ざ、ザイトルクワエ…」

 

「ビオランテ」

 

「ザ、ザイトル…」

 

暫くアホな問答を繰り返しているとその内飽きて来たのでソニックに上空に飛んでその魔樹らしきものがあるか探すように伝える。

 

「まあいいや、ソニック、上空に飛んでそれらしき物を探してくれるか?」

 

「はっ!おい数名ついてこい」

 

ソニックが数名を連れて上空に飛んでいくのを見届けた後、もう一度ピニスンに質問をする。

 

「で、その魔樹はそいつらが一度撃退したんだな?」

 

「うん、撃退寸前まで行ったんだけど…」

 

「ん?」

 

今まですらすらと喋っていたのに少し言いづらそうな顔をするピニスン。なんだか様子がおかしい。

するとピニスンは思ってもいなかった事を語り始めた。

 

「突然、なんか君たちみたいな全身鉄の化け物が現れて…全員やられた…」

 

「何?それは本当か?」

 

こいつは予想だにしてなかった、ピニスンが言っていた奴らは恐らくプレイヤーの可能性が高い。

そいつらを倒したとなると確実に高レベルのモンスターの可能性がある。

 

「う、うん、確かに金属の化け物だったよ…なんか自分の体の破片を飛ばして攻撃してた」

 

「破片を?なあその破片が刺さったら金属にならなかったか?」

 

「!?……どうしてそれを?」

 

(やっぱりか…)

 

さっきのピニスンの言葉を聞いてまさかとは思ったがどうやら予想が当たったらしい。

 

「その金属についてはよく知っている、あれには生物を侵食して同じ金属に変化させる性質がある……ってまさか」

 

「ピニスン、全員やられたって聞いたが全員金属化しているのか?」

 

「……」

 

そう質問をした後ピニスンは沈黙した。

その反応を見て俺の考えは正解だと理解した。

 

(当たりか…しかもプレイヤーをぶっ殺しているって事は確実にナノメタルで構成されている高レベルのモンスターだな、厄介だ)

 

するとソニックからメッセージが着た、なんかヤな予感がする…。

 

〈マシンナー様お伝えしたいことが〉

 

〈どうした?見つけたのか?〉

 

〈は、それらしき樹を発見しました、ですが悪いニュースが…〉

 

〈…なんだ?〉

 

〈今動き出そうとしています〉

 

だと思ったヨ!?

 

「(マジか)お前ら一旦避難するぞ、ピニスンお前も来い」

 

「え?ちょちょっと待ってよぉ!」

 

噂のビオラ…ザイトルクワエが目覚めて大暴れしそうなので一旦俺は皆に撤退を命じ、ピニスンを掴んでその場から離れる。その間にも後ろから何やら大きな雄叫びが聞こえてきた。

 

 

 

 

ザイトルクワエから一旦避難した俺達はザイトルクワエをどうするかと話し合いを始める。

さっき奴のレベルを測定するとレベル80と思ったよりも低かったのは驚いたが、この世界からすれば十分世界を滅ぼす存在だろう。さてどう処理しようか…。

 

「さて、どうするべきか…」

 

「ん?どうしたソニック?」

 

「『ツァーリ・ボンバ』で吹き飛ばすというのは?」

 

「いや、カルネ村を巻き込む可能性があるから却下だ、それに放射能汚染の問題もある…」

 

ゲームの設定がそのままこの世界に反映するのが判明したから周囲に尋常じゃない量の放射能をばら撒いてしまうかもしれない。それは流石にマズい。

 

「ローグ」

 

「サテライトキャノ…」

 

「却下‼」

 

「ゴルディオンクラッ…」

 

「却下‼‼」

 

「絶対零度砲…」

 

「却下!そういうの類の考えは即却下だ‼‼‼‼」

 

なんでこうも大火力で殲滅しようとするんだよ!一体誰に似たんだ!…って100%俺か…。

頭を押さえているとディアヴォロスが手を上げているのに気づく。

 

「ディアヴォロス何か考えはあるのか?」

 

「は、一旦奴を行動不能にし私の細胞を移植させて眷属に変化させるというのは如何でしょう

?私の細胞ならば自己増殖も可能なので戦力を増やす事が出来ますし、姿形、大きさも変更できるのでかさばることもありません…」

 

「ほう…?」

 

殲滅しか考えていなかったからこの案は寝耳に水だ。

コイツの元にしたモデルがアレだったことをすっかり忘れていた。

しかしそれを聞いたピニスンは猛抗議する。

 

「え?ちょ、ちょっと待って!あの魔樹を増やすつもり!?そんなの絶対世界が滅ぶよ!!?」

 

「心配するな、Lv80のモンスターならマキナにも大勢いる…」

 

加えてナザリックには更にうようよいる。それに格下の奴がディアヴォロスに眷属にされれば完全に支配下にはいるのだ。

 

「それに彼の細胞に侵食されればマシンナー様以外の者は完全に彼の支配下に入ります。彼の支配下に入ればあの魔樹は彼が死んだ時に自動的に消滅致します、ですので貴方が心配するような事はありません」

 

そしてアンヘルが彼の不安を取り除くように声をかける。

まだ多少不安げな顔をしているが、先程よりは薄まっていた。

 

「まあ戦力以外にも素材でも活かせそうだしな、植物と金属のハイブリット素材…加工すれば売れるか?その前に奴を行動不能にしなければならんが、油断もしくはよっぽどの事がまず負けはしない」

 

「マシンナー様、高威力の火器の使用は二次災害で大規模な火災を発生させる可能性があります。ここは出来る限り少数で攻めた方がよろしいかと」

 

アルティマの言う通り周りの被害と俺達が目立つ可能性も高いので俺もその案を提案しようと思っていたが手間が省けた。そうなると俺と隊長達、後Lv90台の機械系異形種で挑むか…。

 




解説:ビーハウス

マシンナーが開発した小型の蜂型機械系異業種を大量に展開させるアイテム。
小さいサイズを活かした偵察と暗殺を得意としている。
毒の効力はオオスズメバチの百倍を持つ…という設定。
他の蜂たちをまとめる女王が存在している。
後蜂蜜を取ってくるのが得意。


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第58話 決戦、ザイトルクワエ

皆さん新年あけましておめでとうございます。()
色々あって投稿遅れてしまいました、本当に申し訳ありません。
まだまだ粗が目立つ作品ですがこれからもよろしくお願いします。


マシンナーはビーハウスを起動させ、ザイトルクワエの周囲に散開するように指示を出す。

 

「ビーハウス、ザイトルクワエの周囲に散開しろ、奴の行動を逐一報告するんだ」

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

指示を聞いたビーハウスは一斉に飛び立った。マシンナーは傍らに控えるシズにジャガーノートの装着と作戦行動を支持する。

 

「シズはジャガーノートを装着して狙撃による支援を頼む」

 

「…了……解」

 

マシンナーの指示を聞いたシズは即座にジャガーノートを装着する。

 

「シズ、改良したジャガーノートの着心地はどうだ?」

 

「問題……ない…」

 

イアイは自分達の役割をマシンナーに聞いた。

 

「頭、儂らは?」

 

「お前らは待機…いやピニスンの護衛をしとけ」

 

「ウイ」

 

「承知したでござるよ!」

 

「よし、行動開始!」

 

「「「「「「「はっ!」」」」」」」」

 

「ん…」

 

 

 

 

目覚めた滅びの魔樹…ザイトルクワエは目立つ行動は起こしてなかったが、それでも低い唸り声を上げている。

 

『……』

 

「よおそこのデカい大木さん」

 

『……?』

 

そこにマシンナーが両腕を大きく広げながらザイトルクワエの前に現れた。

 

「ザイトルクワエ…って呼ばれてるんだっけか?俺はマシンナーってもんだ」

 

『…』

 

マシンナーの問いかけにザイトルクワエは答えないがマシンナーを認識しているようだ。

その証拠に木の枝を伸ばしてマシンナーを叩き潰しにかかる。

 

「お前に話があるんだがちょっと時間貰っても…」

 

「たく、あぶねぇな…」

 

(やれやれ、話が通じる相手ならそれで良いと思ったんだが…)

 

仕方ないと言ってマシンナーは手を上げる。

その瞬間先端にドリルが装着された弾頭がザイトルクワエに向けて発射された。

 

『……!?』

 

弾頭はザイトルクワエの巨大な体に命中し、先端のドリルが高速回転を始める。

 

「削岩弾着弾確認、目標の内部に進行させる…」

 

空中で指揮を執るソニックスレイヤーの指示の後に全ての弾頭のスラスターが勢いを増し、ザイトルクワエの内部に進行を始める。

弾頭は勢いよく内部に進行し、奥深く進んでいく。

 

『……!』

 

「目標の内部に進行確認。爆破させる…」

 

ソニックスレイヤーの合図の後、内部に進行していた弾頭は一斉に爆発しザイトルクワエの身体を内部から吹き飛ばした。

 

『…!!……!!』

 

「爆破確認、続いて撃て!」

 

その指示の後大量のアンカーが射出され、ザイトルクワエの身体を拘束する。

その後、ゴルドソウル率いる特機兵団が強襲を始める。

 

『!!』

 

「着弾確認!」

 

「特機兵団……抜刀!!」

 

「総員、突撃ぃ!」

 

「「「「オオオオオオオオ!!!!」」」

 

一斉にザイトルクワエに切り込み枝を切り落とし、攻撃する。

 

「巨兵隊、行け!」

 

全長15Mの巨大な鋼の巨兵の部隊がズンズンとザイトルクワエに突っ込んで行く。

青い巨兵の「ジプシー」が拳を振るい、巨大な円柱状の頭部を持った「チェルノ」が電撃を帯びた拳を叩き込む。

 

『………!!』

 

「させん」

 

「アンヘル…」

 

「承知…!」

 

マシンナーの指示で飛び出してくる大量の枝を迎え撃つかの如くアンヘルが降り立つ。

 

「<変形>フォールダウンモード」

 

するとアンヘルの全身の白いカラーリングに黒いラインが入り、左右に3対の翼が現れ、顔も凶悪な面構えになりツインアイが六つ眼に変形する。

 

変形した黒い翼から無数の赤い光線が発射される。

 

堕天の嵐(フォール・スコール)!!」

 

発射された赤い光線はザイトルクワエを貫き、魔樹の甲高い悲鳴が上がる。

 

「ほう、流石一撃では落ちませぬか?」

 

そこにゴルドソウルが勢いよく飛び出しザイトルクワエに殴りかかる。

殴った衝撃によるものなのか、ザイトルクワエはその巨体を大きく振るわせる。

 

「ぬぅおおおお!!」

 

右拳を叩き込んだ後、そのまま蹴りを叩き込んだ。

 

「どうりゃあ!!!」

 

ゴルドソウルの勢いに続くように両腕にブレードを装備させたドランザーもザイトルクワエに突撃をしブレードを突き刺し、電撃を流し込む。

 

「ガアアア!」

 

更に戦闘形態に変形したアルティマが急接近し巨大化した右腕で掌底を叩き込む。

 

「爆ぜろ!」

 

そしてそのまま押し当てた右手で至近距離から光弾を発射する。

ザイトルクワエは再び甲高い声をあげる。

光弾が命中した個所は大きく穴が開き煙が上がる。

 

「穴を開けた!シズ!」

 

「ん…」

 

ジャガーノートの大型レールガンを起動させザイトルクワエに目標を定める。

レールガンには貫通力の高い弾丸が装填される。

 

「殲滅波弾……」

 

己のスキルを使いレールガンから弾頭を発射する。

元々の攻撃力に加え、スキルにより攻撃力がより強化された一撃がザイトルクワエの身体に穴を開ける。

 

「……!…!」

 

「モード:アスラ」

 

そして近接戦闘用の形態である「アスラ」に変形し、拳にエネルギーを貯めて勢いよく打ち出す。

「豪熱ナックル!!」

 

赤いエネルギーの塊が先程開けたザイトルクワエの穴を広げる様に大きくする。

「……!」

 

ザイトルクワエはマシンナーを捕えようと多数の枝を使って攻撃する。

それを見たマシンナーは高機動型形態の「ゼファー」に変形しその枝をかわす。

 

「モード:ゼファー」

 

 

「なるほど…枝を使った広範囲の攻撃が奴のやり方か」

 

「枝が邪魔だな…」

 

そう言うとマシンナーは収納されている遠隔兵器でそれらを排除するべく射出する。

 

「シザービット、ソードビット」

 

「蹴散らせ…!」

 

マシンナーの指示でそれぞれのビットたちがザイトルクワエの枝を切り落としていく。

 

「よし、伐採…」

 

ザイトルクワエは切られた枝を再生させて再び襲い掛かってきた。

 

「……まだ生えるんかい!」

 

「マシンナー様!」

 

マシンナーがぼやいた後、アルティマが猛スピードでマシンナーの前に立ち枝をすべて切り落とす。

 

「よくやった」

 

「感謝の極み…!」

 

「言っとる場合かぁ!」

 

ゴルドソウルの突っ込みの通り、ザイトルクワエはまだ闘志が消えてなかった。

再び襲い掛かろうと動き出すザイトルクワエ。

 

『……!』

 

「ったく…」

 

「ローグ!」

 

「ダーインスレイヴ隊…外すなよ?発射…!!」

 

「命中を確認!」

 

「巨人部隊、殴り込め!!」

 

「「「「「………」」」」」

 

「ここまでは順調だな?」

 

「はい、予想以上に生命力はありますが、時間の問題でしょう」

 

「そろそろだな…ディアボロス!」

 

『はっ!』

 

マシンナーの命令で下半身を巨大な蜘蛛の様な姿に変形させザイトルクワエに突貫し組み付く。

そこに巨大なアームをザイトルクワエに突き立てた。

 

『ヌウゥゥゥウゥゥゥウ…!』

 

『……!』

 

ザイトルクワエは抵抗しようと枝を振り回すが、ディアボロスはそんなのお構いなしに自分の細胞を流し込む。

 

『侵食してやる…』

 

『……!…!』

 

ザイトルクワエはディアヴォロスに更に枝を巻き付けて引き剥がそうとするがそれを鬱陶しいと思ったのかディアボロスは蜘蛛の胴体から刃のついた触手を出し、枝を切断する。

 

『無駄だ、観念して我が眷族に…!?』

 

ザイトルクワエを侵食しているディアヴォロス、しかし侵食している時に僅かな違和感を感じた。

次にその瞬間銀色の刃が飛んできてディアヴォロスの両腕を切断した。

 

『なに…?』

 

切断された両腕を再生させ、一旦ザイトルクワエと距離を取る。

ザイトルクワエは全身を銀色に変色させていく。

巨大な樹目の身体も金属に変貌していく。

 

「…!あれは!」

 

「ナノメタルだと…?」

 

身体を金属に変化させていくとザイトルクワエ自身の身体も変化……いや変形していく。

枝の先端がドリル状に代わり、またアーム状の形に変形する。

 

「姿が変わっていく!」

 

口にあたる部分が変形していき、巨大な鰐の様な頭部が出現した。

顔に赤い目が6つ、巨大な口に生える鋭利な牙な鋸刃の様なギザギザがある。

 

『キァァァァァァァァァぁああアァァァ!!』

 

ザイトルクワエは枝でディアボロスを拘束し、更に巨大な口でディアボロスに食らいついた。

食らいついた部分からディアボロスに侵食し始める。

 

『ちぃ、この…』

 

『俺を取り込む気か?舐めた真似を…!』

 

腕を巨大な爪にして頭部を引っ掻くが即座に修復し侵食を続行する。

 

『アアァァアああぁぁあああああぁあああ…』

 

ザイトルクワエは悲鳴のような咆哮を上げる、しかしザイトルクワエもこのまま大人しく侵食されるつもりは無かった。

 

『調子に乗るなよ?金属になっても木は所詮木だろうが!』

 

激昂したディアボロスは自身のスキルを使い、ザイトルクワエの周囲に自分の頭部を模した大蛇の様な眷属を出現させ一斉に攻撃させる。

 

『俺は悪魔の機械だ!!』

 

ディアボロスが攻撃した後、何かがザイトルクワエの顎を切断し、超音波による攻撃を始める。

ディアボロスを拘束していた枝は音波による振動により亀裂が走り、粉砕される。

 

『アンヘル…』

 

身体を元の大きさに戻したディアボロスはザイトルクワエから距離を取る。

その隣にアンヘルが着地した。

 

「貴方が侵食されそうになるとは…」

 

『ふん…』

 

ディアボロスは侵食されていた部分を修復する。

ザイトルクワエは多くの金属化した枝を振り回す。

 

 

「シズ!」

 

「あ…」

 

その一つがシズに向かう。

シズは回避しようとするが間に合わない。

 

(ま…ずい…)

 

だが<アスラ>に変形したマシンナーがサブアームを展開し、合計六本の腕でシズに襲い掛かる枝を粉砕する。

そしてすべて砕いたのを確認し、シズの無事を確認する。

 

「マシンナー…様…」

 

「無事か!?」

 

「ん……問題…な………い」

 

「良かった(あの野郎…)」

 

マシンナーが安堵していると再びザイトルクワエの枝が襲い掛かってくる。

 

「後ろ…来る……!」

 

「ちっ…!」

 

マシンナーは再びそれらを迎撃し始める。

ある程度それを捌き切ったがそれでもザイトルクワエは直ぐに再生をする。

 

「面倒な事になったな…」

 

『マシンナー様…』

 

そこにディアボロスがマシンナーの元にやってくる。

マシンナーはザイトルクワエに侵食されかけたディアボロスに体の調子を聞く。

 

「身体は?」

 

『多少侵食されましたが問題はありません、戦えます』

 

「そうか、だがこれは予想外だったなまさかナノメタルを仕込んでたとは…」

 

元々中にあったナノメタルが自分達の攻撃で危険と悟り、起動したのだろうか?とマシンナーは一人考える。

するとアルティマを始めとした他の隊長達も隣に着地する、アルティマは敵の危険性を告げ他の隊長達もお互いの意見を出し合う。

 

「マシンナー様、このままですと奴がこの森や我々を侵食する可能性があります」

 

「高威力の武器を解禁してやりたいが、この森の中だとな…」

 

「それでは奴を引っこ抜くというとは?」

 

「いや、それはちょっと馬鹿な発想だと思うんだけど…」

 

ゴルドソウルの意見に突っ込みを入れるアルティマ、だがマシンナーは少し考えこみ何かを思いついたような顔をする。

 

「引っこ抜くか…いけるかもしれん」

 

「え?」

 

「お前ら、このままじゃ面倒な事になってしまう。だから早期決着で奴を倒す」

 

それを聞いたマキナの面々はマシンナーの次の言葉を聞く。

 

「というと…?」

 

「デカいのにはなぁ……デカいのをぶつけんだよ!!」

 

それを聞いたシズ、イアイ、ハムスケを除くマキナの面々は目を見開く。

特にアルティマが「まさか…」と呟いた。

 

「…え?」

 

「まさか…あの形態ですか?」

 

(あの…形…態…?)

 

『アアアアアアアア…』

 

遠距離からの攻撃を受けながらザイトルクワエはナノメタルで修復し逆に枝の形状をドリル状にしそれを射出する。マキナはそれを捌きながら徐々に距離を取っていく。

次第にマキナは森の奥へと下がっていった。

 

『……』

 

ザイトルクワエは追撃をしようと枝を延ばすが、不意に地響きと音が響いた。

 

ズン!!

 

『……?』

 

「ズン…ズン…ズン…!!」という音が次第に大きくなりその音の主が自分に近づいてくるのをザイトルクワエは確信する。

 

くる――――!!

 

次の瞬間巨大な腕が凄まじい勢いでザイトルクワエを殴りつける。

 

『!!?』

 

その後、また別の拳がザイトルクワエの身体に叩き込まれる。

 

『やっぱり…デカい化け物には巨大ロボだな…!』

 

そこには漆黒の鋼の巨神が立っていた。

巨大なザイトルクワエに引けを取らない巨大な身体、背中には大型の砲が二門ついており、胸部には三連荷電粒子砲がついている。そしてその身体に見合った肩に二連装砲を装備している巨大な両腕、そして同様に大型化した脚部に三連ミサイルポッドが装備されている。

 

『悪いな、ただの木だったらもう少し手加減してやるつもりだったがそんなの出されたらこっちもそれなりに力を出させてもらう』

 

その巨体に似合わぬ機敏な動きでザイトルクワエに接近し、その巨体を活かした体当たりを叩き込む。

ザイトルクワエの巨体は大きく揺れた。

 

『…………!!』

 

『今日は木こり日和だ…!』

 

一方マシンナーの戦闘地から離れた所でマキナ達はそれを見守っていた。

勿論只見ているだけでなく、観測用のドローンを飛ばしてマシンナーとザイトルクワエの戦闘を観測している。

 

「……隊長」

 

「何?」

 

「マシンナー…様の……あの姿…」

 

シズの質問を聞いたアルティマがマシンナーのあの形態の事について説明をする。

 

「……マシンナー様のもう一つの切り札だよ、マシンナー様自身の全能力を無条件で使える<機神>とは違い耐久力と攻撃力のみを極限まで強化させた姿…<巨神(ギガンティック)>だよ…」

 

「…シャルティア様…と……の…戦闘…では……出さな…かっ……た…」

 

「いや出せるわけないでしょ…」

 

「闘技場ぶっ壊れるって…」と突っ込む。

一方マシンナーの姿を見ていたイアイ、ハムスケ、ピニスンは其々様々な反応をする。

 

「はぁ…デっかぁ……」

 

「で、デカいでござる」

 

「……」

 

イアイはその巨体に仰天し、ハムスケは狼狽し、ピニスンは硬直してしまっている。

その間にもマシンナーとザイトルクワエの戦闘は続いていた。

マシンナーが肩の二連装砲から貫通力の高い徹甲弾を連射する。

徹甲弾はザイトルクワエの身体に穴を開けるがナノメタルで修復していく。

ザイトルクワエは枝を伸ばしマシンナーを拘束する。

 

『野郎…いい加減…』

 

マシンナーは腕のコースクリューを回転させ、枝を強引にねじ切ってザイトルクワエを掴む。

ザイトルクワエは枝を尖らせマシンナーを串刺しにしようとするが持ち前の頑強さはそれを全く通させない。

 

『引っこ抜かれろてんだぁ!!』

 

その両腕の出力を上げ、ザイトルクワエを投げっぱなしジャーマンの要領で引っこ抜く。

「ズゥン…!」と音と振動が辺りに起こった。

 

『…………!…?…』

 

引っこ抜かるなど一度も経験していないザイトルクワエは困惑し混乱する。

その間にマシンナーは立ち上がりザイトルクワエを掴む。

 

『おいザイトルクワエ、お前空を飛んだことはあるかい?』

 

『…?』

 

『行くぞ!』

 

マシンナーは全身のスラスターを吹かしてザイトルクワエを掴んだまま上昇する。

 

(取り合えずコイツの身体の半分を残して、残り半分は始末するか…)

 

その間にもザイトルクワエは抵抗するがマシンナーは意に介さずザイトルクワエをどうしようかと考える。

そしてザイトルクワエを真っ二つにし、脅威となる上半分を消滅させるという方法を思い付いた。

 

『行くぞ!でぃやぁ!!』

 

ザイトルクワエを回転を加えて投げ、巨大化したマシンナーに見合ったサイズに巨大化した斬艦刀を握る。

そしてそのまま勢いよくザイトルクワエに斬艦刀を叩きつける。

 

『斬艦刀……』

 

そして斬艦刀の柄を延ばし、スラスターを全開にしてザイトルクワエに切りかかる。

 

『……暴風怒濤!!』

 

ザイトルクワエを横薙ぎに豪快に切断、左手にザイトルクワエの下半分を右手にザイトルクワエの上半分を握る。

 

『……!…!?』

 

『とどめだぁ…塵一つ残らず消し飛ばす…!』

 

そして胸部の荷電粒子砲をフルチャージさせる、極大の真っ赤なエネルギーが蓄積される。

 

『ファイナルブレストォ……ノヴァアアアァアアアァ!!』

 

真っ赤な破壊の奔流がザイトルクワエ(上半分)に襲い掛かる。

最初は原型を保っていたザイトルクワエだったが瞬く間に消滅した。

 

『汚ねぇ花火だ!……なんてね?』

 

マシンナーはザイトルクワエの下半身を持ちながら降下、元の大きさに戻る。

駆け寄ってきたアルティマにディアボロスにザイトルクワエを侵食するよう命じる。

 

「マシンナー様!」

 

「ああ、アルティマ。ディアボロスを呼んできてくれ、コイツを侵食させる」

 

「かしこまりました!それと見てほしい物が…」

 

「ん?なんだ?」

 

「あれを…」

 

アルティマが指さした場所はザイトルクワエが生えていた場所。

マシンナーはディアボロスにザイトルクワエの下に向かわせ侵食するよう命令しアルティマの指さした方に向かう。

 

「なんだありゃ…?」

 

そこにあったのは何かの金属で構成された何かだった。

アルティマはそれがザイトルクワエの下にあった事を説明する。

 

「マシンナー様がザイトルクワエを引き抜いたその跡地から見つけました」

 

いつの間にマシンナーの隣に来ていたシズがマシンナーに話しかける。

 

「シズ…」

 

「あれ……どう…見ても……」

 

「ああ、機械系異形種だな。多分自動人形…」

 

金属の光沢、そして人型に近い上半身を見て埋まっている者が自分達と同じ機械系異形種と確信する。

 

「マシンナー様?」

 

「掘り出すぞ」

 

「はっ!」

 

マシンナーの指示を受け、アルティマはすぐにソニックスレイヤーの機動兵団から掘削に長けたものを呼び出し、それを掘り出しマシンナーの下に届ける。

白銀の色で塗られた極めて人に近いボディー、頭部には防護用のバイザーらしき物が装着されており、下にはツインアイのカメラが付いている。

マシンナーは掘り出された機械系異形種を見て、通常の機械系異形種のモンスターではないことを確信する。

 

「……完全な機械系異形種だ、しかもただの機械系異形種じゃない」

 

(この前見た改造人間のような奴じゃない、NPCか?それとも…)

 

それをスキャンしているとマシンナーはある事に気付く。

心臓の音と心拍数が確認された。更に頭部には人間の脳があり、機体内部にも一部の臓器が存在していた。

 

「ん?生体部分があるだと?じゃあこいつは改造…」

 

マシンナーがそう推測していると急にその機械系異形種が動き出し、マシンナーに襲い掛かる。

 

「!!」

 

機械系異形種は徒手格闘での連続攻撃からの衝撃砲をマシンナーに叩き込む。

然程のダメージではないがそれなりに効く。

 

「ぐっ…!?」

 

「マシンナー様!」

 

「貴様!」

 

ゴルドソウルが機械系異形種に殴りかかろうとするがマシンナーが制する。

 

「よせ!」

 

「落ち着いてくれ我々は敵じゃない、たまたま君を見つけて…っと!」

 

なんとか話し合いをしようとするが相手は聞くつもりはないと言わんばかりに攻撃をしてくる。

 

「て、聞いてくれよ…」

 

機械系異形種は肘のブースターを使い加速をつけ、拳をドリル状に変形させて攻撃を繰り出した。

マシンナーはドリルを掴み受け止める。しかし、機械系異形種はドリルを射出する。

 

「ちっ…力はあるな」

 

機械系異形種はそのまま追撃を掛けようとマシンナーに突っ込む両方の掌からエネルギ-をチャージし始めた。

マシンナーは構えるが、その前に何者かが立った。

 

「……!」

 

「シズ!?」

 

それはジャガーノートを纏ったシズだった。

手のひらから発射されたエネルギーをジャガーノートで受ける。

しかし次第に、押され始め、最後には吹っ飛ばされてしまう。

 

「……ぐ…」

 

マシンナーはシズを受け止めジャガーノートのハッチを無理やり開く。

 

「おいシズ大丈夫か!?シズ!!」

 

ハッチを強制的に開けるとシズは顔の人造皮膚が少し破け、多少の怪我を負っていたが、深い傷は負っていなかった。

 

「…!!?」

 

「私自身の…損傷……軽……微…」

 

「攻撃力…予想……以上…」

 

「着て…なかったら……やられて…た…」

 

「っ…そうか…回復用のリペアユニットだすぐに…使え…」

 

マシンナーはゆっくりと立ち上がりアルティマを呼び出す。

 

「アルティマ、シズを頼む…」

 

「はっ…」

 

「それと少し離れていろ…ちょっと……嫌…」

 

「完全にキレたぁ!!!!!!!!!」

 

マシンナーはそういうと自身の身体を凄まじい勢いで変形させ最終形態である<機械神《デウス=エクス=キナ》>と変形し追撃をしてきた機械系異形種の突きを受け止める。

 

「!?」

 

「おい…お前」

 

「シズに……シズに何してくれてんだオイ……!」

 

普段は金色のラインだがマシンナーの激情を表すように、真っ赤な赤いラインになっていた。

<精神作用効果無効>も発動しているが精神が治まるどころか逆に怒りが上昇していく。

 

「!」

 

拳にナックルを装着し肘のスラスターを全開にして<エルボー・ロケット>を叩き込む。

マシンナーの拳は深々と機械系異形種の胴体を凹ませる。

更にそのまま<ターボスマッシャーパンチ>(ロケットパンチの強化版)を発射する。

 

「!!」

 

機械系異形種はそれを躱すが左腕に掠めた瞬間、左腕が根元から抉られた。

機械系異形種が驚愕するような顔?していると斬艦刀を構え背中の翼からエネルギを―放出し光の翼のようにしてすさまじい速度で突っ込んでくる。

 

「…!」

 

機械系異形種は左腕を再生させ腕を機関銃に変形させ肩からミサイルランチャーらしきものを展開しマシンナーに向けて一斉掃射する。マシンナーは質量のある残像を出しながら回避し剣を正面に構えて突撃する。

 

「!!!!!!!?」

 

「…」

 

そのまま正面から斬艦刀で刺し貫き、そのまま叩き切ろうとしたが、機械系異形種は貫かれた部分を何かで斬艦刀ごと接着させる。

 

(ナノスキン…?いや、後で考えよう。むしろ再生持ちで良かった…)

 

機械系異形種は両腕をチェーンソーにしてマシンナーの首に切りかかるが火花が散るだけで全くの無傷だった。

マシンナーはその両腕を掴み発光させ粉砕し、拳を握る。

 

「思い切り…ぶっ壊せるからなぁ…!」

 

すると拳から光が発せられエネルギーを貯め始め拳が人間ならば目を覆うほどに光は強くなる。

そして後ろの翼を再び展開しエネルギーを放出する。

 

「機神…」

 

拳を握る力を強くさせる。拳は凄まじい赤いエネルギーで溢れていた。

そしてマシンナーはそれを放った。

 

「紅蓮壊拳…!!」

 

赤い拳を顔面に叩き込まれた機械系異形種は衝撃で斬艦刀からすっぽ抜け凄まじい速度で吹き飛ばされる。

マシンナーはそのまま追撃を掛けるために<量子化>をし、機械系異形種の背後をとり、蹴り上げる。

 

「…!?……!」

 

蹴り上げられた機械系異形種は空中でなんとか体勢を立て直す。

そしてマシンナーの姿を確認するため周囲を見渡す。すると高速で何かが自分の頭上に上がった。

 

「!」

 

「終わりにしてやる…!!」

 

太陽を背にしたマシンナーは全身から走っていた赤いラインを紫色のラインに変色させる。

そして右足に黒い光を発しながら機械系異形種に向けて凄まじい速度で蹴りを放った。

 

「……!」

 

それを見た機械系異形種は恐怖を感じたのか、全身から武装を展開しマシンナーに向けて一斉発射する。

マシンナーは構わず進む。弾丸やミサイル、ビームを勢いで突き破り、機械系異形種に蹴りを叩き込む。

そしてそのまま地上に急速落下、凄まじい轟音と衝撃が走りクレーターを作り上げた。

 

「…ッ……ッ!……」

 

「<ハザード・インパクト・スマッシュ>……」

 

スキルの名前を良い、機械系異形種から足を話す。機械系異形種は全身から火花が散り銀色の装甲は所々ひび割れ、オイルが溢れ出ていた。

 

「……ふう」

 

漸く精神作用効果無効が効き、<機神>から通常の形態に戻る。

 

「とにかく、一度アインズに報告するか…」

 

暫くするとアルティマ達が大急ぎでマシンナーの下に集まり、機械系異形種に応急処置を施してナザリックに送る準備を始めた…。

 




用語解説

・<巨神(ギガンティック)> <機神>とは違うマシンナーのもう一つの切り札。全スキルを無条件で使える&全能力の上昇の<機神>とは違い、マシンナー自身の攻撃力と防御力のみを強化させている(単純な攻撃力と防御力ならばこちらの形態の方が上)。巨神の名の通り、ザイトルクワエに引けを取らない位の巨大な姿になっており、ただでさえ高い防御力が更に高くなり全身に装備された武器で敵を圧倒するのがこの姿での通常の戦術。本来は大量の敵や巨大ボスを相手にするのに使われている。

・ザイトルクワエ(ナノメタル強化) <マキナ>との戦闘中に突如ナノメタルで変異したザイトルクワエ。元々高いHPを誇っていたがナノメタルによって高い防御力と再生能力を獲得。ナノメタルの形状変化能力と侵食能力で<マキナ>を苦しめたが<巨神>となったマシンナーに真っ二つにされ半分を消滅させられる(残り半分はディアボロスの眷属になった)。

・機械系異業種? ザイトルクワエが生えていた場所に埋められていた機械系異業種。生体反応が出ていたので改造人間(サイボーグ)と思われている。マシンナーと交戦をするもシズに傷を負わせた為、本気でキレたマシンナーの手によって大破寸前にまで叩きのめされる。


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第59話 月夜に誘う

前と同じペースで投稿できるように頑張ろう!



ナザリックに帰還した俺達はあの機械系異形種を『機械の楽園』に拘束して連行した後、モモンガさんの下に行き、事の経緯を説明する。

 

「……」

 

「……以上で報告終わりです」

 

報告が終わった後、俺は空気を重く感じていた。

シズを傷つけた彼奴に本気でキレてしまい、大破寸前まで叩きのめしたのだ。

謎の改造人間集団とは違う機械系異形種であり貴重な情報源になるであろう存在を危うく破壊してしまうところだったのだ…。

 

「…………マシンナーさん」

 

「わかってます、例の奴ですよね…」

 

「はい…」

 

「大破寸前までぶちのめしたのは申し訳ありませんでした…しかし……どうしても…」

 

わかってるよ……わかってる、でもどうしても我慢が出来なかった……!シズを傷つけた彼奴に対する怒りが精神効果無効の力を撥ね退ける程あの時の俺の中には奴に対する殺意と怒りで満ち溢れていた…。

 

「……マシンナーさん、俺はマシンナーさんを責める気はありません。俺が同じ場所にいたとしても多分止めなかったと思います」

 

叱責を受けるのを覚悟していたがそれとは反対の言葉に驚くも、モモンガさんがこのナザリックをどれだけ愛していることを知っている俺はすぐに納得もした。

 

「……モモンガさん」

 

「それにマシンナーさんが回収してきた奴は再生機能が付いていると聞きましたし今もそれが正常に動いてるのも聞きました、それなら何の心配もありませんよ。それよりシズの傷は…?」

 

「はい、リペアキットを使って応急処置をした後に俺が修復しました。ジャガーノートのお陰でなんとか軽症で済みました…」

 

「そうですか、それはよかった…」

 

シズの安否を聞いたモモンガさんの顔はガイコツなので表情を変えることはできないが、笑っているように俺は感じた。

 

「はい…」

 

「それで、ザイトルクワエとかいうモンスターにナノメタルが入っていたと聞いたのですが…」

 

「はい、ディアボロスが調べたところ元々内部に破片が休止状態で埋まっていたらしく。俺達との戦闘の影響で活性化しザイトルクワエを取り込んだじゃないかと言ってました」

 

「ふむ、となるとそのザイトルクワエ自体はナノメタルのモンスターでは無かったという事ですか…じゃああの機械系異形種は?」

 

「はい、調べたところ再生機能はナノスキンによるものですがナノメタルは使われていませんでした…」

 

拘束し、応急処置を施して少し経った後、奴の体は徐々に自動修復していた。ナノメタルによるものか調べたが、機体構造そのものにナノメタルは組み込まれていなかったのだ…。

 

「そうですか…ザイトルクワエに残っているナノメタルは?」

 

「先程ディアボロスが抽出したんですが結構残っておりました」

 

ディアボロスの眷属になったザイトルクワエの身体の中にまだ余っていたナノメタルを抽出すると、全長10m程の金属の塊がある程度できる程の量が出たのだ。

 

「そう言えば依頼でナノメタルを採取するのがありましたよね?あれはどうするんですか?」

 

「あれはちょっと大きめの破片を渡そうと考えてます」

 

「大丈夫ですか?連中アレの恐ろしさをあまり知らなさそうでしたけど…」

 

「まあ武器を強化する金属程度の使い道しか知らないぽかったですし、それ以上の使い方はしないと思います、もし何かやばい事に使おうとしたらその前に盗むつもりです」

 

仮になんかしようと考えていても、アレを増やしたり他の方法で利用するには専用の道具や融合炉がいる。

王国にはそんな技術や場所は無い。その為、強化以外に使用用途を見出せないし、仮に見出せたとしてもこれを増殖させる知識も無いので余り問題視していなかった(念の為監視は付かせるが…)

 

「わかりました」

 

「あ、後スレイン法国の六色聖典らしき連中が来てたので排除しました」

 

撤収する際、スレイン法国の部隊が森に侵入するのを確認したビーハウスの機械蜂の知らせを聞き、機械蜂達に排除を命令し、全員を毒殺してくれた。

 

「そう言えば報告で近々森に捜索しに行くと聞きましたね。確か滅びの竜王…ん?」

 

「どうしました?」

 

「偶然か…?」

 

モモンガさんは何かに引っかかったのか、顎に手を添えて何かを考えている…。

 

「何がですか?」

 

「いえ、確かザイトルクワエは《滅びの魔樹》と呼ばれてたんですよね?」

 

「そうですが……あ!?」

 

「もしかして滅びの竜王ってザイトルクワエの事だったんじゃ…」

 

確かにザイトルクワエは《滅びの魔樹》と呼ばれていたし法国は《滅びの竜王》というのを恐れており、わざわざ切り札の一つである漆黒聖典をあの森に差し向けていた、関係が無いとは完全に言い切れない…!

 

「…ありえますねこの世界の住人からすればLv80のモンスターも充分世界滅ぼせる存在だし」

 

まあ部下の眷属になって貰ったけどな!!

 

「俺達サラッと世界救っちゃいましたね?」

 

「征服する側なのにですね?」

 

『ハハハハ…』と互いに笑う。いやまさかね…可能性も十分ありそうだけど…

 

「そういえばあのピニスンとかいうドリアードはどうするんですか?」

 

「ナザリックの第六階層に住んでもらうことにしました」

 

ザイトルクワエをぶっ倒した後、終始ポカンとしていたピニスンだったが暫く立った後最初に合った時のように早口で話し始めた(すぐに治まったけど…)そして治まった後に俺達の事を知ったので、ナザリックにピニスンの条件付きで移ってもらうことにした。

 

「わかりました、では何かあったらすぐに言ってくださいね?」

 

「了解です」

 

俺は円卓の間から退出し、シズの様子見に向かう事にした。

 

 

 

 

マシンナーの部屋で修理をしてもらい、アインズの報告後に改めて状態を確認するため一旦部屋で待機するように命じられたシズは目の前の修理用のスペースに置かれている損傷したジャガーノートに触れる。

 

「………」

 

(マシンナー様……怒って…た…)

 

未だ嘗てあの御方があそこまで怒りの感情を顕にしたことはあるだろうか?少なくとも自分にはその記憶はない、アルティマ達隊長達も冷や汗を掻くほどであった…。

 

「ジャガー…ノー……ト…」

 

自分の問いに弱々しくも光を放ちシズに応えるジャガーノート。それを見てシズはある事を思う…。

 

(私が……壊した…から…?)

 

その瞬間、シズは自分の身体の僅かな変化に気付く。

手が…僅かに震えていたからだ。

 

「私…震え……て…る…?」

 

シズがそう言ったその時、「ガチャ」っと扉が開く音がした。

シズの様子を見に来たマシンナーであった。

 

「シズ」

 

「!……マシンナー…様…」

 

すぐに傍によろうとするがシズの身体の心配をしたマシンナーがそれを止める。

 

「ああいや、動かなくて良い。怪我の方はどうだ?」

 

「大…丈夫……支障…無し……」

 

「そうか、良かった…」

 

それを聞いてマシンナーは安堵する。

修理をした際には特に異常らしきものは無かったがそれでもどこか不安だった為だ。

 

「……」

 

「ご…」

 

「ん?」

 

「ジャガーノー…ト……壊し…て……ごめん……な…さい……」

 

損傷したジャガーノートの事で頭を下げるシズ。

予想外の謝罪とそれを見たマシンナーは慌ててそれを止める。

 

「な、何を言ってる!シズが謝る事じゃ無い!」

 

「…え?」

 

「…ジャガーノートはシズを守るために作った装備だ。シズを守って壊れたんなら別に…いや守れてなかったな…謝るのは俺の方だ…すまない……」

 

「!」

 

そう言って今度はマシンナーが頭を下げる。マシンナーの言う通り〈ジャガーノート〉はシズを守る為の盾であり鎧でもあった。結果的に最悪な事態は免れたが、シズを負傷させてしまった事に変わりはない…。

 

「やめ…て……お願…い、頭…下げない……で…」

 

シズはマシンナーの頭を上げさせようとする、だがシズの力ではビクともしない。

そしてシズは自分の謝った理由を話す。

 

「だが…」

 

「マシンナー様……怒ったの…それが…原因…かと……思って…」

 

それを聞いたマシンナーは頭を掻きながら顔を上げる。

 

「……それで怒ったんじゃねぇよ」

 

「あの野郎が……シズを傷つけた事が…許せなかった……!」

 

その言葉の後に一瞬だけ怒りの感情を示すかのように全身に赤いラインが入る。

それを見たシズは思わず一歩後ずさってしまう…。

 

「っ……」

 

それを見たマシンナーは一瞬だけ己に自己嫌悪を抱くが、気を取り直して言葉を続ける。

 

「…悪い、だがジャガーノートの事は気にするな、いくらでも直してやる。けど…」

 

「…?」

 

「多少の無茶はまだ良いが…無理だけはしないでくれ…」

 

「お前にもしもの事があったら、あの人に顔向けができない…」

 

これはマシンナーの本心からの言葉だった、実際シズが吹っ飛ばされた時マシンナーの頭の中は彼女を心配することで一杯だった。もしもシズが最悪の場合になっていたら、例の機械系異形種どころか世界ごと破壊しかねなかっただろう…。

 

「……」

 

それを聞き、少し俯くシズ。だがマシンナーは言葉を続けた。

 

「だが…あの時庇ってくれてありがとう……シズ」

 

「!……ん」

 

マシンナーからの礼の言葉を聞いてシズは顔を上げ頷く。マシンナーの優しさは元より知っていたがそれでも嬉しかった…。

 

「あ、そうだいっその事ジャガーノートを大改造するか?」

 

マシンナーはジャガーノートの方に指を指す。勿論直せない事も無いがいっそのこと今までのデータを参考にシズに最適な装備になるよう改造するのだ。

 

「……うん、強くして……欲し…い」

 

「そうか、なら今度改造するときシズも立ち会ってくれないか?使ってくれる奴の言葉があればより最適な改造ができる…」

 

「……立ち…会…う」

 

「よし、任せろ!更に強化したジャガーノートを仕上げて見せよう!!」

 

「ん…」

 

マシンナーはガン!と豪快に己の胸板を叩き「任せとけ」と言う。

それにシズがこくりと頷く。するとその後マシンナーにアルティマからの〈伝言/メッセージ〉が来る。

 

「ん?<メッセージ>?……どうした?ああ、そうだったな。すぐに向かう」

 

「どうした…の…?」

 

「定例会議、なんかあったら呼べ、すぐに来る」

 

「……待っ…て」

 

シズの制止にマシンナーは振り返り「どうした?」とシズに問いかける。

 

「もう…動ける……」

 

「おい余り無理は…」

 

「大丈……」

 

「夫」と言いかけるが運悪く少しふらつき倒れそうになるがマシンナーが咄嗟に受け止める。

 

「!…っと!だから無理するなって…」

 

「ごめん、でも大…丈夫……」

 

「わかった、けど無理はするなよ?」

 

「了…解……けど…」

 

「うん?」

 

「顔が…ちょっと……近い……」

 

「ゑ?」

 

シズを受け止めるとき、受け止めたのは良いが互いの顔の距離が後少し近ければ…の距離まで近づいていたのは思ってもいなかった。

 

「す、すまん…!」

 

「ん……」

 

マシンナーはすぐにシズを立たせて、自分も離れる。

「おほん」とわざとらしく咳をして気を取り直し、シズを連れて定例会議の場所にまで行く。

 

「じゃ、じゃあ…行くか?」

 

「……ん」

 

 

 

 

定例会議を終えて最後に捕獲した機械系異形種に何らかの動きがあれば即座に報告をするようマシンナーが言い、会議は解散する。そこにアルティマが例の機械系異形種の状態について報告をする。

 

「マシンナー様…」

 

「ん?どうした?」

 

「はっ、例の機械系異形種ですが身体は完全に再生しました」

 

「そうか…それで目覚めたのか?」

 

「いえ、まだ…」

 

その報告を聞き、マシンナーは顎に手を添える。再生自体は先刻の戦闘で知っていたのでそれ自体は驚かなかったが、目覚めてないというのを聞きこのまま監視するのと、目が覚めてまた暴れ出したらすぐに自分を呼ぶように伝える。

 

「そうか、目が覚めたらすぐに呼べ。場合によっては俺が直接取り押さえる…!」

 

「はっ!」

 

「それと、森の方の見張りを強化させておけ。恐らく法国が改めて調査隊を差し向けてくるだろう、引き続き些細な事でも報告するように伝えろ」

 

トブの大森林にはビーハウスや他の獣型機械系異形種が待機しているが念には念を入れ、アルティマにそう指示を出す。

 

「はっ!」

 

マシンナーはシズを連れて会議室を出る。2人が出たのを確認すると残ったアルティマ達はマシンナーの事について話し合っていた。

 

「……マシンナー様の様子、思ってたより落ち着いてたな」

 

「ナザリックに帰還後、すぐにシズの修復作業に入った時の気迫は真に凄まじかった…」

 

「仕方ないよ、奴はよりによってマシンナー様の逆鱗そのもの言っても過言じゃないシズに傷を付けたんだから…」

 

『アノ時ノマシンナー様ノ御姿ハ正ニ破壊ノ神ソノモノデアッタ…』

 

ユグドラシル時代からマシンナーと戦ってきたディアボロスとアンヘルを除いた隊長達はあそこまで激昂したマシンナーを見たことも無かった。

 

「再生機能を持っている俺でもあの時のマシンナー様に相対すれば死を覚悟する…」

 

「しかし禍々しくも神々しくもありましたね…」

 

再生能力を持ち、隊長達の中では一番の継戦能力を持つディアボロスもあの時のマシンナーには恐怖を覚えた。

空気が少し重くなっていくのを察したバレットローグは例の機械系異形種の処遇について話す。

 

「……一応聞くが奴の処遇はどうなる?」

 

「わからないよ、情報源として使うかそれとも戦力として使うか…」

 

襲撃してきたが自分達の創造主を手古摺らせた実力は本物だ。マキナ全体から見ても充分一線級の戦力に足りえる存在だ。しかしこちらの軍門に下るかもわからないし、更に自分達の主の思い人を傷を負わせた奴でもある。

 

『従ワヌ場合ハ…?』

 

「頭を弄るかディアボロスの眷属にして隷属させようと思う」

 

「最悪の場合だけど」と肩をすくめながら自分の考えを話す。現時点ではそれが最善な判断だろうと他の隊長達も納得する。

 

「……現状ではそれが最善だな」

 

「む…」

 

「了解だ!」

 

『承知…』

 

「応…!」

 

「それが妥当ですね」

 

そう言った後に隊長達も解散し、それぞれの仕事に戻って行った。

 

 

 

 

会議室を出た俺とシズ、シズはこれからプレアデスの定例会議があるので向かおうとするシズに俺は引き止める。

 

「あ、そのシズ…」

 

「ん……?」

 

「その…夜空いてるか?」

 

「?……う…ん」

 

「……その今日満月見に行かないか?ナザリックの外で」

 

「……え?」

 

元々、トブの大森林の件を終えた後に誘う予定だった。予想によると今日は雲一つ無い、星空と満月になる事を聞いたのでこれはチャンスなのではないかと思ったが完治はしているとはいえシズの体調の心配もあるので半ば駄目元だが…

 

「ああいや、無理なら『…良い』んだ……え?」

 

「行く…」

 

え?今なんて言った?行くって言った?行くって言った?

 

「……良いのか?」

 

「ん…」

 

「わかった、じゃあ後で迎えに行く」

 

「……わかっ…た」

 

そう言うとシズは軽くお辞儀をしてプレアデスの会議室に向かっていた。

一方俺はというと…。

 

「………」

 

「……………」

 

周囲に誰もいない事を確認し俺は歓喜の声を上げる。

だって嬉しいんだもの…!

 

「いよっしゃあああああああ!!」

 

『ヒヒーン(おまわりさんこいつです)』

 

その後急に出てきて余計な事を言ったトロンべをピコハンでしばいたのは言うまでもない…。

 

 

 

 

プレアデスの定例会着を終えたシズはマシンナーの部屋に向かっている途中、守護者統括のアルベドが居たので軽く会釈する。

 

「………」

 

「あら、シズ奇遇ね…?」

 

どこか怪しいアルベドの様子に不意に警戒するものの、アルベドは構わずシズに歩み寄る。

近づいて来たアルベドは自分の顔をシズに近づけるとこう話しかける。

 

「アルベド…様……?」

 

「ちょっと場所を変えましょう、話があるの…」

 

「……?」

 

「妃候補で自分の派閥に入って欲しいとか言うのでないだろうか」と考えつつも場所を移動する。

暫く歩いた後アルベドの部屋に到着し、部屋に入る。周囲にはアインズのぬいぐるみやら抱き枕などがあり、若干「うわぁ…」と内心思ってしまったが顔はいつものポーカーフェイスなのは流石である。

 

「ねぇ、シズちょっと聞きたいことあるのだけれど…良いかしら?」

 

「……?…良…い」

 

「貴方好きな御方居る?」

 

思ってもいなかった予想外の質問に一瞬目を瞠るがすぐにいつもの調子に戻りアルベドの問いに答えようとする。

 

「!……それ…は…『マシンナー様でしょ?』……!!」

 

その問いには流石に驚いたのか顔も少し驚愕するような表情になる。

流石にそこまで知っているなら隠し通せるわけもないし、どうやって知ったのかもシズは気になった。

 

「……何…故…知っ…て……?」

 

「それはね…」

 

「……」

 

少しの間が起こりアルベドがその理由を話す。

 

「女の勘よ!!!!!」

 

「…!!」

 

そんな馬鹿なと一瞬思ってしまうがアルベドが言うと妙な説得力もあるのでシズは納得する。

 

(本当はルプスレギナとナーベラルから聞き出したけど…この際黙ってましょ!)

 

「……何か…問題…でも……?」

 

「ん?ああ、そんなに警戒しないで、私は貴方の恋路を邪魔する気はないわよ?むしろ応援したいのよ…」

 

もしや反対されるのでは…?と身構えるが予想の反対の言葉を聞き、思わず呆気に取られるシズ。

そしてアルベドは自分の胸中を語り出す。

 

「……え?」

 

「私だってアインズ様に恋をしているのよ。だから貴方の恋路に苦言を呈する資格なんてないわ」

 

「……」

 

「…貴方はマシンナー様と結ばれたい?」

 

「……う…ん」

 

アルベドの問いにシズは迷いなく、アルベドの目を見てこくりと頷く。

その問いの後にアルベドはシズに手を伸ばす。

 

「なら…手を組まない…?」

 

「……え?」

 

「貴方はマシンナー様、私はアインズ様。共に至高の御方に恋をする者同士、つまり志を同じくする同志という事、そうでしょう?」

 

「……」

 

アルベドの誘いにシズは少し考え込む。アルベドの誘いが単純な善意だけではない事は理解していた。

アルベドと同じく守護者のシャルティアは苛烈なアインズの妃争いをしている。既にプレアデスの何名かはそれぞれの派閥にいる。(因みにシズは中立)

 

(恐ら…く……これは…私を…派閥に……組み込…む狙…い…)

 

しかもつい最近シャルティアは世界級アイテム『傾城傾国』を入手し、現在ナザリックで敵国として認定されているスレイン法国の最精鋭である漆黒聖典を殲滅するという活躍をし、アインズ直々に褒美を授与された。

恐らくこの誘いは危機感を覚えたアルベドがシズを自分の派閥に組み込み、尚且つマシンナーと結ばれればシズは勿論マシンナーもアルベドの後押しをしてくれる可能性も少なくはない。

 

(断るのは…可……能…で…も……)

 

今から自分がしようとしていることは未知の領域、だが同じ至高の御方の一人でもあるアインズを振り向かせようと日々奮闘しているアルベドの知恵を力を借りられるのはメリットが大きい。

 

(メリット…の……方が…大き…すぎ…る)

 

シズはアルベドの手を取り、こう語る。

 

「……組…む…」

 

「ええ、よろしく頼むわねシズ!」

 

「ん……!」

 

 

 

 

提出されていた書類を片付け潜伏している仲間からの報告を全て聞いたりして夜になったが、結局あの機械系異形種は目覚めなかった。できれば早く情報収集したかったのだが、目覚めなかったのは仕方がない、そんなこんなで約束の時間が来た。俺は待ち合わせの場所に五分前に着いたが、同じタイミングでシズも来ていた。

 

「じゃあ行くかシズ?」

 

「……ん」

 

俺達は外に出てナザリックから少し離れた所に座り、月見団子を出して夜空を見上げる。

空には雲一つなく空には数多の星々と満月が輝いてる。

 

「やっぱり、雲一つない夜景は良いもんだ…」

 

「ん…」

 

「満月もある…今日は付いてるな…」

 

そう言って俺は月見団子を一つ食べる。その後にシズも食べ始めた。

前の世界では月がこんなに綺麗なものだなんて考えたことすら無かったな…。

 

「マシンナー…様……」

 

「なんだ?」

 

そうセンチメンタルに浸っていると不意にシズが話しかけてきたのでシズの方を向くとシズは質問をしてきた。

 

「月に……兎が…いる…って……本当…?」

 

「え?……いやぁ…いないと思うがそうも言いきれん…」

 

「?…なん……で…?」

 

「俺が居た世界はいないがこの世界の月はわからん……もしかしたらいるかもしれん」

 

元居た世界ならいざ知らず、この世界ならば月に兎がいる可能性もある。

尤もその兎が宇宙服着て生活しているのを想像してしまうとちょっとシュールな光景だな…(御大将とか出たらどうしよう)

 

「お餅…突いてる……かな…?」

 

「どうだろうなぁ…」

 

シズの次の質問に苦笑しながら答える。果たして無重力で餅突きが出来るんだろうか?仮にしてたらその兎結構ヤバいな…。

 

「……」

 

「どうした?」

 

そう考えているとシズは星空を見つめている。

冒険者として行動するときはあるが本物の星空をこんなに見るのは初めてなのだろうか?

 

「マシンナー様達…は……この…星……空を…宝…箱…言ってた……って…デミウルゴス様から…聞い…た」

 

「確かに言ってたな、あれは本当に宝箱だよ。ブループラネットが見たらどんな反応するだろうなぁ…」

 

ナザリックの自然や星空の大部分を作ったのはブループラネットさんだ、その拘り様には同じく何かを作ることに楽しみを見出す俺も脱帽せざるを得ない程だった。

 

「……」

 

「見てみるか?」

 

「……え…?」

 

「大空でこの星々を見てみないか?」

 

「!…見たい…けど……ジャガー…ノート……無い」

 

「あ…」

 

そうだった、忘れていた…どうすれば良いかと俺は考える。その時俺はある事を思い付く…断られる可能性もあるけど…。

 

「その…シズ」

 

「ん…?」

 

「ああ、その…なら、俺につかまるのどうだ?大丈夫だ、絶対に落とさん!」

 

「え…?」

 

(……で捕まってくれたのはいいんだけど…)

 

(なんでお姫様抱っこしてるんだ俺…!!)

 

いや、よくよく考えれば捕まるってことは俺も抱えなきゃいけないって事だから、どう考えても似た体勢しか思いつかない。下手な抱え方したらそれこそ駄目だ。(そしてシズをお姫様抱っこしている事に喜んでいる残念な俺がいる)

 

(駄目だ…どう考えてもこれしかない)

 

「……そのシズ、嫌なら他の方法でも」

 

「……良い………それ…より…」

 

「うん?」

 

「重く……ない…?」

 

「いやいや、軽いぞ、全然軽いぞ、問題ない!」

 

女に対して重いとか絶対に言えないし!そう思っているとシズは心なしか俺の首に回している手の力をぎゅ…っと少し強めたような気がする…。

 

「……良かっ…た……」

 

シズの少し微笑む顔を見て一瞬ドギマギしながらも、シズを抱きかかえながら飛ぶ。

地上からでも綺麗に見えた空が益々綺麗に見えた。

 

「……綺…麗…」

 

「そうだな…」

 

(まあ、俺にとってそれ以上に綺麗な存在が腕の中にいるんだが…)

 

そう思いながら俺はシズの顔をちらりと見る。

シズは俺の事に気付いたのか俺の顔を見る。

 

「……何?」

 

「いや、綺麗だなって…」

 

「……え?」

 

「!!?………あっその…」

 

やばいやばいやばいやばい何言ってんだ俺は!!?いや正直な言葉だけど…!

うっかり、口が滑り、とんでもない事言ってしまった!!?

 

「……嬉し…い…」

 

顔を僅かに赤くしながら少し微笑むシズを見て俺は思わず、戦闘用のマスクを装着してしまう。

これは超位魔法級以上の破壊力だよ…!

 

「……っ!」

 

このままでは俺の精神が不味いことになりかねないので、たまたま見た月を見てなんとか落ち着かせようとする。

 

「……月が綺麗だな」

 

「…?…う…ん」

 

そう言うとシズは月に向かって手を延ばしてこう言った。

 

「手を……伸ばせ…ば……届く…かも……」

 

「ロケット……パン…チ……できれば…」

 

「いや、無限パンチの方が届くと思うぞ?」

 

「でき…る…?」

 

シズの質問に俺は少し考え込む。実際にやったら届く可能性もあるけど正直どうなるかわからない…。

俺は苦笑しながらシズの質問に答えた。

 

「どうかな~?」

 

その後、もう暫く俺達は夜空を見上げ続け、偶々流れ星を見つけたので俺は願い事をした。(何を願ったって?ぜってー言わねーし!!)

 

 

 

 

その後マシンナーと共にナザリックに戻ったシズは、プレアデス達の部屋に戻って行く。

部屋に戻るとそこにはプレアデスのリーダーであるユリ・アルファが居た。

 

「……」

 

「あら、シズ帰ってきてたの?」

 

「ん…」

 

「マシンナー様に礼を欠くような事はしてないわね?」

 

「……ん」

 

それを聞いてユリは胸を撫でおろす。至高の御方に無礼な真似はせずにちゃんと職務を全うしたこととシズが意中の御方と何の問題もなく過ごせた事に安堵したのだ。

 

「良かった…」

 

「綺麗…な……月…だっ…た」

 

「良かったわね」

 

妹の幸せそうな顔を見てユリも少し微笑む。「常時ポーカーフェイスのシズだが最近シズは表情が柔らかくなってきた」と他のメイド達にも噂になっていた。恋をすればこんなにも変わるんだとユリはそう考えた。

 

「マシンナー様……も…言っ…てた」

 

「え?」

 

微笑から一転、ユリはピシりと表情を変える。ユリの表情を見てシズは不思議そうに首を傾げた。

ユリは間をおいて恐る恐るシズに質問をする。

 

「…?」

 

「ねえシズ、本当にマシンナー様が「月が綺麗だ」って言ってたの?」

 

「?…う……ん」

 

それを聞いてユリは口元を抑えて声を出さずに驚愕する。

 

(月を見た感想?それとも…いやでもまさか………!)

 

そんなユリを不思議がり、シズは話しかけるもユリはいつもの彼女らしくない程にしどろもどろになりながら答える。

 

「ユリ…姉……?」

 

「ああ、いやなんでも無いよシズ!なんでも…」

 

それを見てシズは何かを隠しているのを確信して、問い詰めた。

 

「……なんか…隠し……てる…」

 

「べ、別に隠してるわけじゃ…」

 

「明らか…に……動…揺……して…る……」

 

ジッと…目を細めて自身を見るシズの何とも言えない迫力を感じてうっ…となり、観念して話すことにした。

 

「うっ…(そんな目で見られたら…)」

 

「わかったよ、でもこれは僕の推測だからね?」

 

「?……うん」

 

「月が綺麗って言うのはね……?」

 

「……」

 

「…………あなたが好きですの隠語でもあるの」

 

じっくりと間を置いた後ユリはマシンナーが言った事の隠された意味をシズに告げる。

それを聞いたシズは「ボンッ!」と顔が赤くなり、煙を出す。

 

「……!!!!!!!!?」

 

「し、シズ?大丈夫…?」

 

「何…とか……」

 

「一応聞くけどシズはなんか答えた?」

 

「……手を伸ばせば…届くか…も…って」

 

ユリはそれを聞いて口を抑えながら今度は彼女まで少し赤面する。

シズはそれを見てふしぎがりながらユリに問いかける。

 

「~!!!」

 

「…ユリ……姉?」

 

「シズ、それは偶然で言ったんだよね?」

 

「…うん」

 

「それはね?……月が綺麗の返事の一つでもあるの…」

 

「…え?」

 

「それも意味は私も好きですって事…」

 

「……~!!!!」

 

それを聞いたシズは更に赤面し、煙が更に噴き出していた。

 

(うわ、湯気が出るほど赤くなってる…そりゃそうだよね…)

 

しかしこのままだとまたシズがオーバーヒートする可能性があるので、何とか落ち着かせようと声を掛けるが…

 

「し、シズ…落ち着いて、これはあくまで僕の推測だか…」

 

「シズ…?」

 

「……」

 

時すでに遅く、シズは既にオーバーヒートを起こしてしまっていた。

ユリは口元を抑えて心の中で絶叫する。

 

(オーバーヒートしてるぅー!!!!?)

 

その事態に慌ててしまい、思わず自分達で直すというのを忘れてしまいマシンナーに助けを求めた。

 

「え、えーと…こういう時はマシンナー様に!……気が引けるけど」

 

「あ~やっぱりあれじゃわからねぇよな…やっぱりストレートに…ん?ユリか?」

 

一方、マシンナーは自室でシズにどうプロポーズするか考えている。

恋愛経験なんてこれっぽっちも無いので、全くと言って良いほど答えが出ない。

その時ユリからの〈メッセージ〉がマシンナーに届いた。

 

『すみません、マシンナー様。シズがオーバーヒートを起こしてしまい…』

 

「何?わかった、すぐに向かう」

 

直ぐに修理道具一式を手にシズの下に向かおうとするが、扉をノックした後アルティマの声が聞こえたので入るよう促す。

 

「アルティマか?入れ」

 

許可を出すとアルティマが慌ただしい様子で入り、マシンナーに緊急の報告を入れる。

 

「マシンナー様!」

 

「どうした、何かあったのか?」

 

「はい!例の機械系異形種が目を覚ましました!!」

 

「何!?」

 

「なんてタイミングが悪いんだ!」とマシンナーは顔を抑える。こうなるとすぐにでも早くシズの修理を終えなければならなくなった。

 

「悪いアルティマ…シズがオーバーヒート起こしてしまってちょっと修理に行ってくる、できる限り早めに来る!」

 

「は!わかりました!」

 

「すまねぇ!」

 

そう言うとマシンナーは転移を使い急いでシズの下に向かった。

 




新型コロナで色々と騒がれてますが皆さん、お身体の方は大丈夫でしょうか?
こちらは今の所無事ですがやっぱり不安ですね。皆さんもお気を付けください。


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第60話 目覚めし者

コロナにより緊急事態宣言で極力家に籠らざるをえなくになりました。空いた時間で積みプラを作りながら過ごそうと思っています。


ナザリック地下大墳墓第六階層にあるマシンナー率いるマキナの拠点『機械の楽園』内に存在する修理工場、そこに両手足を拘束されている例の機械系異形種が目を覚まし、辺りを見渡していた。

 

「ここ…は…」

 

「動くな!!」

 

「手を上げて大人しくしろ!!」

 

そこに、マキナの兵士が武器を構えて取り囲む。仮に戦闘が起きても全員Lv80のマキナの上級兵士の為、そう簡単にはやられはしない。機械系異業種は驚きながらも、冷静に考えて自分が囚われた事を理解した。

 

「お前たちは…『言う通りにしておいた方が良いよ?』…!」

 

機械系異形種が言い終える前に戦闘形態になったアルティマが機械系異形種に歩み寄る。

その後に他の隊長達全員が臨戦態勢に入りながら、現れる。

 

「また、大破寸前にまで叩きのめされたくなければね?」

 

「副指令…」

 

隊長達の登場に他のマキナの兵士は敬礼で迎える。機械系異形種は現れたアルティマ達に話しかける。

 

「お前は…ここは一体?」

 

「人に名前を聞くなら自分からでしょ?」

 

「ジュド……」

 

自身の名を話した機械系異形種…ジュドは目の前のアルティマに警戒しながら質問に答える。

 

「ありがとう、僕はアルティマ。この…君の周りにいる兵隊の一応ナンバー2かな?」

 

「何…」

 

「で、単刀直入に聞くんだけど……なんで僕らを襲ったの?」

 

「襲った…?」

 

「……覚えてないとは言わせないよ?今日の昼頃に君は僕たちを襲った。証拠映像もある」

 

「!……これは!」

 

アルティマはマシンナーと交戦した記録映像を見せる。それを見たジュドは驚くような反応を見せる。

アルティマはその理由を聞くために彼に問いかける。

 

「どういう事か説明してもらおうかな?ん?」

 

「その……頭のコントロールメタルが自己防衛モードに…」

 

「自己防衛モード?」

 

「無意識下で作動するモードだ、敵対反応の者や未確認の者が近づいてきた時に作動する」

 

「それで…『我々を襲ったと?』!、マシンナー様!!」

 

ジュドの説明を受け、アルティマが追及をしようとすると、後ろから己の創造主が現れた事に気付き椅子を用意するよう指示を出す。

マシンナーはアルティマが用意してくれた椅子に座りジュドに語りかける。

 

「あ、アンタは…」

 

「僕の主であり創造主であるマシンナー様だよ?」

 

「俺はジュド…」

 

「ああいい、取り合えずそのままでいい」

 

「……む」

 

「身体の方はどうだ…?まあそこまでぶっ壊したのは俺だが…」

 

「調子は…良い…俺に何を聞きたいんだ…?」

 

「全てだ、全てを話して欲しい。君の出自、何故あそこにいたのかを…そして…ナノメタルの事も」

 

ナノメタルという単語にジュドは反応し、マシンナーに警戒するような視線を向ける。

そしてマシンナーの目的を聞き出すことにする。

 

「……!何が目的だ?」

 

「世界征服」

 

質問にあっさりと答えた事と、その目的を聞いて「何言ってんだこいつ」と言わんばかりの顔をしながらこう答える。

 

「……正気か?」

 

「貴様…」

 

「よせアルティマ、大いに正気さ。だからこそ君の知識と情報がいる」

 

それを聞いたアルティマがジュドに詰め寄ろうとするがマシンナーは制止し、本気で世界を取ることを説明しその為にジュドの知識と情報を欲していることを説明する。

 

「……無意識とはいえお前の女に危害を加えたんだぞ?」

 

「ぶっ!?」

 

予想もしていなかった質問に思わず飲んでいたものを噴き出すが、すぐにいつもの調子に戻ってその言葉に答える。何故か周りの視線を感じたが、気にせずに。

 

「……それに関しては完全には許していない、後彼女はまだ俺の女じゃない」

 

(まだ?)

 

(((((まだ?(マダ?))))))

 

「正直に言えばお前をこの場でスクラップにしてやりたいが、取り合えずさっきお前をぶちのめしたからある程度割り切ってる。尤もお前がここで暴れるなら喜んでぶちのめすが?」

 

その言葉の後に全身から煙を放出し、何時でも戦闘可能というのを示す。それを見たジュドは潔く話すことを伝える。

 

「…わかった、まだ死ぬわけにはいかない。話すよ」

 

「そうか、じゃあ移動するぞ」

 

脚の拘束具を解除し、ジュドを立たせ玉座の間にマシンナーは案内する。

そして、マシンナーは自身の立ち位置をジュドに教える。

 

「何処にだ?」

 

「玉座の間」

 

「お前のか?」

 

「いや、俺の友達のだ」

 

「何?」

 

「ここはナザリック地下大墳墓、俺はナンバー2、ナンバー1は玉座にいる」

 

(…コイツより強いのかよ)

 

自身を大破寸前に迄追い詰めた目の前の存在よりも強大な者がいると知り、内心驚きながらもマシンナーに付いていく。

 

「ついて来い…変な気は起こすなよ?」

 

「わかっている…」

 

マシンナーに付いていくと、ジュドはナザリックに目を瞠る。

墓地とは思えない豪華な装飾や、宮殿と見違えるような内装に唯々圧倒されていく。

付いていく内に巨大な扉の前に着く。マシンナーはアインズに入るように促され、扉を開ける。

 

(本当に墓地か…)

 

「アインズ、連れて来たぞ」

 

(アンデッド…?)

 

玉座の間の豪華さに圧倒されるが、その玉座に座るアインズに特に目を引かれる。

その威容と只ならぬ迫力で只のアンデッドではないと感じた。

 

「うむ、ご苦労だった…その者の名は?」

 

「ジュド…」

 

「ふむ、ジュドか…私の名前はアインズ・ウール・ゴウン、アインズで構わない」

 

「それで、何が聞きたい?」

 

「ふむ、もう聞いていると思うが君の事を全て話してもらいたい」

 

「世界征服とやらの為か?本気で言ってるのか?」

 

「ああ、少なくとも本気だ。尤もついでだが…」

 

(ついでで世界征服かよ…)

 

内心おいおいと思いながらも周りにいる人外達を見て、今は自分の保身の為に自身が知りうる情報と知識を話すことを決め、まずは自身について話す事にした。

 

「わかった、まず俺の生い立ちから話そう…俺は元々捨て子で、ある人に養子として拾われた」

 

「ある人?」

 

「ドクトルと名乗ってたがそれはもう一つの名で本当の名は『忠晴』と最期に教えてくれた」

 

「忠晴…」

 

明らかに日本人のような名前を聞いてマシンナーとアインズはそのドクトルという者がプレイヤーだという事を確信する。

 

(間違いなくプレイヤーだな…)

 

「ふむ、君の身体は君の養父上に作ってもらったという事か?」

 

「そうだ、ある時俺がドラゴンに襲われて殺されかけたが父さんが助けてくれた…」

 

「その時に自身の身体に改造を?再生という手段もあったが…」

 

「自分で望んだ……弱ければ生き残れないって身をもって味わったからな…」

 

「そうか…」

 

「で、ちょっと聞きたいんだが、これを知っているか?」

 

マシンナーはアイテムボックスから手のひらサイズのナノメタルの塊を出す。

それを見たジュドは驚愕する様に目を瞠る。

 

「どこでそれを?」

 

「知ってるのか?」

 

「…元々父さんが持っていたものだ、どこで見つけた?」

 

「お前さんを下敷きにしていたバカでかい木の化け物に入ってた」

 

先程まで淡々と喋っていたジュドは明らかに動揺するように声を荒らげる。

 

「!…もう一体いなかったか!これで出来た化け物だ!」

 

「……いやいなかった、だがこれで構成された化け物が居るって話は聞いた。何か知っているか?」

 

その反応を見て、「ナノメタルで構成されたモンスター」に関して何か知っていると確信した。

それに対しての質問するが帰ってきたのは意外な答えだった。

 

「……父さんの研究所だ」

 

「何?」

 

「研究所?研究所が化け物になった?どういう事だ?」

 

「あの金属はそういう特性があるんだ!なんらかの合図を送れば『変形する』!」

 

「俺もあの金属については知ってる、親父さん、別の世界から来たとか言ってなかったか?」

 

「言っていた、その時に自分の本名を…」

 

ジュドの言葉通り、ナノメタルには何らかの信号を出せば変形、増殖する性質がある。

しかし何故そうなったのかを疑問に思いジュドに質問する。

 

「成程…だが何故研究所が?何かあったのか?」

 

「…父さんが死んで10年経った後、巨大な何かが襲ってきた」

 

「何か?何か特徴とかないのか?」

 

「無数のデカい触手と…推定1kmの巨体を持ったバカでかい鉄の化け物だった…」

 

「何だって?」

 

「マシンナー…」

 

「ああ、イアイが言ってた金属生命体の可能性が高い。それにしても1kmとは……」

 

予想以上の大きさだが、その情報のお陰である程度機械系異形種のモンスターを絞り込むことはできた。

さらなる情報を得る為、ジュドに質問をする。

 

「そいつの攻撃が研究所のコントロールルームを破壊し、研究所は暴走して化け物に変貌した…」

 

「そう言う事か……ん?ちょっと待て一つ腑に落ちないんだが…」

 

「なんだ?」

 

「研究所の頭脳を失ったんだろ?暴走ならともかく何故変形した?信号は出ない筈だろ?」

 

研究所の頭脳とも言うべき箇所を破壊されれば暴走する可能性はあるが、一つのモノに変形するのは普通では考えられない。ジュドはその問いに首を横に振って「原因はわからない」と言う。

 

「それは俺も気になってた…なんであの姿に変貌してたんだろうって…」

 

「何か心当たりは?」

 

「悪いが思い当たるのは……あぁでも…」

 

「でも?」

 

「研究所に俗に言う「開かずの間」ってのがあった、父さんに何度かあの部屋の事を聞いたんだが全然答えてくれなかった…」

 

「開かずの間か…」

 

義理とはいえ息子に立ち入ることを禁じたという事は余程の代物があったのは予想がつく。

シャルティアが回収してきた「傾城傾国」の事を考えるともしかしたら世界級アイテムの可能性も捨てきれないが現状ではその程度しか考え付かない。

 

「とりあえず研究所を見つけ出さなければ話は始まらん、追跡方法は?」

 

「昔は探知できたが、暴走した後は探知できないように何らかの方法を使って阻害している…」

 

「地道に探すしか無いというわけか…」

 

「他には?」

 

「ふむ、君の御養父上の知り合いに機械に強い者はいるかね?」

 

アインズの問いにジュドは心当たりがあった。そしてその人物の名を言う。

 

「一人いた、父さんの助手で名前はヘレ…」

 

「ヘレ…」

 

「元は帝国の宮廷魔術師だったそうだが国を追われたらしい、その後養父さんと知り合って養父さんに師事をした…だが、養父さんが死没した後突如として行方を眩ませた」

 

「原因は…?」

 

「わからない…彼奴は養父さんを尊敬していたが用心深い奴だったから…」

 

アインズとマシンナーはジュドの話を聞き、マシンナーに例の改造人間の事を話すように伝える。

 

「マシンナー、彼に例の改造人間の写真を」

 

「了解だ、ジュド、これをちょっと見て欲しい」

 

「これは…」

 

それはマシンナーとアインズを襲ってきた改造人間の映像だった。マシンナーはそれを一時停止させジュドに見せる。

 

「ある時、我々を襲ってきた者たちだ。身体の内部に機械と動力装置が組み込まれている。この世界の技術ではまずできない代物も入っていた」

 

「奴は呑み込みが速かったが、技術力では養父さんにはまだ敵わなかった…」

 

「だが、時間があれば匹敵する可能性もある」

 

「だが奴は人間だ、そんなに長くは…」

 

「お前と同じように自分を改造して生き永らえている可能性は?」

 

その言葉にジュドはハッ、となりその可能性を肯定する。

そしてアインズとマシンナーは彼に最も聞きたいことを問いかける。

 

「あり得る…ならこれを奴が作ったのも…!」

 

「…まあまだそいつだと決まった訳じゃない、で次に聞きたいのは」

 

「君が何故あの場所にいたのかだ、いや正確には埋められていたのかだが…」

 

何故ザイトルクワエの下敷きになっていたのかという事だ。マシンナーの推測だとジュドの戦闘力は少なくともザイトルクワエより上の可能性があり、ザイトルクワエに敗れる事はまず無いと考えていた。

 

「……研究所が暴走して俺は一旦脱出した。研究所は変形して襲ってきた奴と同じ位の大きさに巨大化してそいつと戦闘になった。なんとかしたかったが俺一人では入れる余地が無かったから一度逃げて…数日たった後、激しい損傷を受けていた研究所を見つけた」

 

「俺は原因を突き止めようと調査しようとしたが、研究所は俺を敵と判断したのか攻撃を仕掛けてきた。当然俺も抗戦してたが、ある事が起こった…」

 

「ある事?」

 

「研究所から光が発せられた後、空が割れてザイトルクワエだったか?あのバカでかい木が俺の上に落ちて下敷きになった」

 

「成程、それで奴の下に埋まっていたという事か…」

 

「そうだ…」

 

「色々と話してもらい感謝する」

 

「で、俺をどうするつもりだ?」

 

ジュドは再び警戒するような目をしてマシンナーとアインズを見る。しかしアインズはジュドのナザリックでの立ち位置をマシンナーの部下として付かせる事にした。当初は客分としての扱いを考えていたが、シズを傷つけた者に他のナザリックのシモベ達がどう思うかを懸念し監視を兼ねてこの処置を取ったのだ。

 

「心配せずとも身の安全は保障する、まあ監視は付くが…マシンナーお前の下に付ける。良いか?」

 

「了解だ」

 

「ふむ、それでは皆それぞれの職務に戻るように…」

 

アインズの命令に他のナザリックの面々は其々の職務に戻る。マシンナーはナザリックを案内する為ジュドに付いてくるように命ずる。そこにユリがマシンナーにシズが目覚めたことを伝える。

 

「来い…」

 

「わかった」

 

「あ、マシンナー様…」

 

「ん?なんだユリ?」

 

「先程シズが目を覚ましました、呼びましょうか?」

 

「いや、直接迎えに行く、目覚めた直後だから何かあると困る」

 

「わかりました」

 

「ジュド、お前も来い」

 

マシンナーの言う事にジュドは渋々ついていく事にした。

2人はシズがいるプレアデスの部屋に向かう。

 

 

 

 

オーバーヒートから回復したシズはまたもやこの状態になった自分に呆れてしまい、マシンナーの手を煩わせてしまった事を後悔していた。

 

「…」

 

(そろそろ…行か…ない……と)

 

何時までもこの状態ではいけないと思い立ち上がり、部屋を出ようとするがその前に扉をノックする音が聞こえた。

 

「…?」

 

「シズ、マシンナーだ入っても良いか?」

 

「!!」

 

マシンナーの声が聞こえて、一瞬たじろいたがすぐに持ち直していつも通りの調子に戻る。

扉を開けると声の主であるマシンナーが入ってくる。

 

「……良い」

 

「調子はどうだ?大丈夫か?」

 

「……ん」

 

シズはそう答えるが自分の顔が少し赤くなっているのには気づいていない。

 

「どうした?……少し熱量が上がってるぞ?」

 

「……大丈…夫…」

 

少し不安に思うマシンナーだったが何かあった場合は直ぐに処置をしようと思いながら、後ろに控えているジュドの事を話す。

 

「無理はするなよ?あ、おいジュド」

 

「!」

 

現れたジュドに少し眉を顰めるシズ、マシンナーはそれを察したのかジュドの背を叩き、ジュドが今後自分の配下に入ることを伝え、ジュドに謝るよう促す。

 

「……」

 

「こいつは今日から俺の傘下に入った、まあその前に……おい」

 

「……あの時はすまなかった、本当に申し訳なかった」

 

「…わかっ……た」

 

「ありが…ぐっ!」

 

ジュドが頭を上げた直後シズは愛用の魔銃を出し、ジュドの顔に叩き込む。不意の攻撃で仰け反るがジュドは姿勢を正す。

 

「これで…チャ……ラ…」

 

痛そう…と思いながらマシンナーはシズに気が済んだかどうか尋ねる。

 

「……良いのか?」

 

「ん…」

 

「そうか、なら行くぞ?、これからの事で考えなければいかん」

 

「ん…」

 

「了解した…」

 

撃たれた個所を摩りながらジュドもマシンナーとシズに付いていく。

 

 

 

 

アインズとマシンナーがこの世界に転移する数百年前、数多くのドラゴンがおりその中でも一際強力な『竜王』と呼ばれる存在もいたが、今ではもう数えるほどしか生き残っていない。

 

「やあ、リグリット。君が来るなんて、珍しいね?」

 

「久方ぶりじゃなツアー。お前も元気そうじゃの?」

 

ドーム状の広間で眠りについていた竜王、『ツァインドルクス=ヴァイシオン』白金の竜王と呼ばれる竜王でありアーグランド評議国の永久評議員でもある。そして、目の前に立つ者の姿は彼の旧友であるリグリットという老婆。

 

「……僕は元気だけど、外はそれどころじゃないと感じてね」

 

「あの魔樹の事か?それとも…」

 

ツアーの表情が曇った。リグリットの方はその理由に察しがついているようで、彼女の方から話を切り出した。

しかし、帰ってきた返事が予想外の答えであった。

 

「ああ、どうやら完全に復活したそうだ……だが一時間で消滅したよ」

 

「消滅じゃと?どういうことだい?」

 

「それだけじゃない、あの魔樹は例の金属に寄生されていたんだよ…形も変容していた、正直全力で挑まなきゃいけないとも覚悟したよ」

 

それを聞いてリグジットは険しい顔になる。ザイトルクワエが消滅したのは勿論、ザイトルクワエに寄生していたその金属とは浅からぬ因縁があるのだ。

 

「まさか、あれを倒したのがおるのか?」

 

「ああ…遠くから見てたけど、あの魔樹に匹敵する巨体で魔樹を引っこ抜いたんだよ」

 

ツアーはそう言いながら広間の一角に目を向ける。そこには本来ドラゴンであるツアーが外部の探索に赴く際に操っていた『白銀の鎧』があるのだが、そこに置いていないという事は外部に出ているという事だ。

 

「……は?」

 

それを聞いたリグジットは「何言ってんだお前?」と言いたげな顔でポカンとなる。ツアーはリグジットがそうなるのを予想していたのか。気にせず説明を続ける。

 

「……嘘だと思うだろ?本当の話さ、そのあと天高く魔樹を掴んで飛んで行ってそこから奴の反応が消えた。恐らくその巨人が倒したと思う」

 

リグジットは顔を抑えて天井を仰ぐ、余りにも内容が荒唐無稽すぎるからだ。

しかし彼女が顔を抑えているのはそれだけではない、その巨人の強さがツアーと同等の戦闘力がある可能性があるのだ。

 

「冗談じゃろ…あれを倒したって事は少なくともお前に匹敵するのは確実という事じゃろ?それにあの「金属」がまだ存在していたという事は…」

 

「ああ、アレはまだ存在しているという事だよ」

 

「厄介じゃな…一度はお前を侵食しかけた代物じゃ、それに…」

 

「ああ、私の全力の攻撃で致命傷は与えたが、彼奴は耐えきった。もしも奴が力を蓄えてるというならば…」

 

「想像したくもないね…お前さんの探知でもアレはどういう事か探知できんし…」

 

それを聞いたツアーは顔を曇らせる。鎧を使って100年以上の年月をかけてあの金属の怪物を探したが、見つからずおまけに自身の探知でも見つけきれない…。

 

「……」

 

そんなツアーを見て何を思ったのかリグジットは話題を変える。それは今度はツアーが驚く内容だった。

 

「ああ、それと…漆黒聖典が殲滅されたそうじゃ」

 

「なんだって?あの『世界級アイテム』を持っている漆黒聖典が?」

 

「ああ、全員遺体は未だ見つからず『世界級アイテム』も奪われたそうじゃ…」

 

それを聞いてツアーは顔を険しくする。あの『世界級アイテム』の事を知っている身としては気が気でならない。

そして法国と対立しようとしている存在がいる事を確信した。

 

「一体誰が…」

 

「わからん、それと…」

 

「ん?」

 

「もう一体の金属の化け物の痕跡を見つけたよ…」

 

「本当かい?」

 

「ああ、砂漠で奴の眷属を結構な数で見つけた。相変わらず骨が折れる連中よ…」

 

リグジットはうんざりとした顔でその事を話す。そして再び険しい顔をしながら話し始める。

 

「何かわかったのかい?」

 

「恐らくじゃが…復活は近い、それも完全にな」

 

それを聞いたツアーは近い将来自身が直接対処しなければならない事態がこの世界で起こると確信し、決意を固める表情をする。

 

「……不味いな、完全復活なら尚更不味い、あのナノメタルと同時に復活したら」

 

「……この世界の総ての生命が完全に滅びるじゃろうな」

 

「その時は全力で立ち向かうよ……命と引き換えにしてでも仲間たちとの約束は果たす」

 

 

 

 

それから一日後、ゴルドソウルがカルネ村の守備隊長として村人に訓練を付けている。

訓練を終えた後ネムが近づいてきて、姉のエンリが相談したいことがあると聞き、ネムを連れてエンリとンフィーレアの下に向かう。

 

「東の巨人と西の魔蛇だと?」

 

「うん、なんかそいつらがトブの大森林を支配するために動くんだって!」

 

ゴルドソウルはエンリに事の詳細を聞き始める。

 

「エンリ、経緯を教えてくれないか?」

 

「わかりました」




人物紹介

ジュド:ザイトルクワエの下に埋まっていた機械系異業種。本来はこの世界の人間だったのだが幼少時に親に捨てられ彷徨っていたところをあるプレイヤーに拾われ、養子として育てられる。養父に知識や技術などを教わりながら15を過ぎた時にドラゴンに襲われ瀕死の重傷を負うがその時に養父であるプレイヤーに自身の身体の改造を頼み改造人間として生まれ変わる。改造された身体に内蔵されている武装と自己再生するナノスキンの身体を持っている。


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第61話 巨人と魔蛇の脅威

緊急事態宣言が一応解除されましたが皆さん大丈夫でしょうか?私はまだ大丈夫ですがまだまだ気は抜けませんね…


エンリが事の経緯をゴルドソウルに話し始める。その日の昼辺りにエンリがンフィーレアやゴブリン、古代の機械巨人を連れて薬草の採取の為に森に入って行った。薬草の採取を終え、そのまま村に戻ろうとしたがゴブリンの一人が何かを感知してエンリに警告をする。

 

「姐さん、何かこっちに向かってきます、少し隠れて様子を見ましょう」

 

ゴブリンの指示通りにエンリたちは森の木々に隠れ(古代の機械巨人は出来る限り低くしゃがみながら隠れる)様子を見る。すると一人の小さなゴブリンが傷だらけになりながら走り、近くの木に倒れ込む。

それを見たエンリは助けようと動き出そうとするがエンリが召喚したゴブリンの一人、ジュゲムが何かに気付いたのかエンリを止める。

 

「!、姐さん少し待って下さい!」

 

「え?」

 

すると森から巨大な狼の魔物が現れる、ンフィーレアはそれが何のモンスターなのか気づいた。

 

「バーゲスト!」

 

バーゲストを見たンフィーレアは身体を強張らせるが、バーゲストは倒れ込んでいるゴブリンにしか認識しておらず自分達にはまだ気づいていないそれを見て『何故、自分達には気づいていないのだろう?』と疑問に思ったが自分達が採取した薬草と採取した時に付着した薬草の臭いなどでこちらには気づいていない事を察した。

 

(そうか、薬草の臭いで僕たちには気づいてないんだ…)

 

ンフィーレアはその事を説明してバーゲストがこちらには気づいていない事に一先ず安心する。ジュゲムはエンリの身の安全を最優先に考えて、バーゲストに襲われそうになっているゴブリンを囮にすることを提案する。

 

「なら、あのガキが生け贄になってくれれば問題は解決ですね。エンリの姐さんの身の安全が最優先です、お前もそう思うだろ?」

 

『最善…エンリ司令官の命、優先…』

 

後ろに控えている古代の機械巨人もジュゲムの提案に賛成する。ジュゲムの提案はわかるがエンリは傷ついているゴブリンを助けたいと考えていた。そう思いンフィーレアに視線を向ける。

 

「ンフィー…」

 

「わかった、助けよう。あのゴブリンがなぜここまで逃げてきたのかそれを確認しないと将来的に村に危険が及ぶかもしれない」

 

「それはわかりますが危険は極力避けるべきだと思いますぜ?」

 

「勝てない可能性だってありますぜ?」

 

ンフィーレアの言葉に反対するゴブリン達であったがエンリは自分の考えを伝える。それはかつてスレイン法国の謀略によって両親だけでなく自らの命も奪われかけた事もあり、あのゴブリンにその時の自分を重ねていた。

 

「…私は戦う力もないのに愚かな考えかもしれないけど助けられるかもしれない、でも人を見捨てるのは加害者の片棒を担ぐのに似ていると思います。私は弱者を甚振るアイツらのようにはなりたくない。お願い…」

 

エンリの言葉を聞き、ゴブリン達はエンリの言葉に従う。

戦力確認の為にジュゲムが古代の機械巨人にバーゲストを倒せるか質問し、古代の機械巨人もバーゲストを倒せることを肯定した。

 

「姐さんがそういうなら仕方ねぇ!」

 

「まあそれにこいつもいるしな?おい巨人、彼奴は倒せるのか?」

 

『殲滅可能、問題なし』

 

「よしなら…」

 

そしてンフィーレアはこれからする事を説明を始める。

 

 

 

 

倒れ込んだ小さなゴブリンは傷を抑えながらバーゲストを見るが逃げようにもこのゴブリンにはもう逃げる力が無く、バーゲストを睨みつける事くらいしかできなかった。バーゲストは今にも牙を剥いてゴブリンに襲い掛かろうとするが、そこにエンリのゴブリン達が現れる。

 

「おいおいワンちゃんよぉ!遊んで欲しいなら相手をしてやるぜ!かかって来いよ!」

 

ゴブリン達の挑発にバーゲストは大きく吠えて襲い掛かろうとするがそこにンフィーレアによって身動きが取れなくなってしまう。

 

「ナイスですぜンフィーの兄さん!」

 

「今だぜ巨人!」

 

そこに古代の機械巨人が現れ左手でバーゲストを掴み、右腕を大きく振り上げてバーゲストに勢いよく叩き込んだ。

 

『アルティメットパウンド…!』

 

振り下ろされた拳はバーゲストを木っ端微塵に粉砕し、辺りには血やバーゲストの臓腑が一面に飛び散る。

バーゲストが死んだことを確認してエンリとンフィーレアは傷ついたゴブリンに近づく。

 

「酷い傷…ンフィー、何とかならない?」

 

「じゃあこのポーションを使おう、本来はゴウン様に渡すものだけど…」

 

そう言うとンフィーレアは荷物入れから紫色のポーションを取り出し、ゴブリンにそれを掛ける。

するとゴブリンの傷はたちまち治っていき完治していった。

 

「よし、これでゴウン様に実験は問題なく成功っていえるよね」

 

「ん…」

 

先程掛けたポーションはアインズとマシンナーに赤色のポーションの精製を依頼されており今掛けたポーションはリジ―とンフィーレアの試行錯誤により生まれた物であり赤色のポーション程ではないが青色のポーションより治癒効果がある代物だった。

 

 

「お、お前たちは?」

 

「先ず自分の名前から言えよ?」

 

「ぎ…ギーグ部族の族長の四番目の息子のアーグ」

 

「アーグ君ね…私はカルネ村に住んでるエンリ」

 

エンリは自分の自己紹介をし、今までの経緯をアーグに説明して自分の傷を治したポーションを見て驚嘆する。

 

「気持ち悪い色なのにすごいな!あ、いや…ありがとう…ございます…」

 

「おう、感謝は大事だぞ小僧」

 

『御礼…大事……』

 

「んじゃあアーグ、なんで傷だらけで逃げてきたか話してくれや」

 

「襲われたから逃げてきた!」

 

「簡単過ぎんぞ。どんなモンスターに襲われたんだ?」

 

『情報…詳しく教えろ』

 

「東の巨人の手の者からだ…」

 

それからハムスケこと森の賢王がトブの大森林から離れたことにより「東の巨人」と「西の魔蛇」が手を組み自分達の部族をを始めとした他の部族たちを隷属して力を付けているという事を聞いた。

 

 

 

 

「成程…森の賢王が居なくなったからそいつらが進行してきたのか」

 

(ハムスケがそこまで強大な存在だったとは…いや、イアイもこの世界では伝説の魔獣だ。ありえん話ではない…)

 

エンリの話を聞き、ゴルドソウルは顎に手を添えて見過ごせない件だと考え、アインズとマシンナーに報告しようと考える。だがその前にエンリの考えを聞いてみる事にした。

 

「それで、どうするつもりだ?」

 

「アインズ様に相談するっすか?」

 

自分がエンリに聞いた後にルプスレギナが小屋の扉から出てくる。

 

「ルプスレギナ、来てたのか?」

 

「どうもっす隊長♪」

 

「カルネ村は私たちの村です。私たちでできる限りのことをするべきです」

 

「それならまずは村長に報告しないとね。あとは明日にもエ・ランテルの冒険者組合に相談しに行ってこようと思う」

 

「待て」

 

ンフィーレアがそう提案するとゴルドソウルがそれに待ったをかける。

 

「そういう訳にはいかん。この村の守備を任されている以上、万が一の事も考えてこの事は俺が報告する。それに奴らが攻めてくる村はナザリックの傘下の村だ。つまり奴らは我々ナザリックに喧嘩を売る事、ナザリックの一員として見過ごす訳にはいかない」

 

カルネ村の防衛を務めている身としての責任から無視するわけには

行かないのとアインズとマシンナーに村に何かあれば逐一報告するように言われているのだ。

 

「だがその自分達の手で村を守ろうとする気持ちには素直に敬意を表する、この事は俺から御二方に伝えておく」

 

そう言うとゴルドソウルは立ち上がり、ナザリックに向かおうとしたがンフィーレアに引き止められる。

 

「あ、ゴルドさん。少し待ってもらえますか?」

 

「どうした?」

 

「ゴウン様に持って行って欲しいポーションがあるんです、まだ完全に赤色にはなっていませんが…」

 

そう言うとンフィーレアは先程アーグに使った紫色のポーションをゴルドソウルに手渡す。ゴルドソウルは手に取ったそれを興味深そうに眺める。

 

「もうここまで行ったのか…」

 

効果の方を聞くと傷ついたアーグの身体を瞬時に治したらしい。それを聞いてゴルドソウルは感嘆する。

 

(やはり、御二方が直々にスカウトしただけはあるな、マシンナー様が気に入るのも納得する)

 

ンフィーレアの能力についてマシンナーに聞かされていたがこうも早く成果を出すとは内心驚いていた。

 

「承知した、必ず渡す…」

 

ゴルドソウルが出て行ったのを見てアーグはゴブリンの一人にゴルドソウルについて尋ねる。

 

「なあ、あの胸にライオン着けた奴は誰だ?」

 

「この村の守備隊を任されているゴルドソウルって旦那だ、マシンナーって御方の直属の部下ってのは聞いてるがそれ以外はよくは…」

 

「ただ、滅茶苦茶つえーぞ?俺達が束にかかっても一瞬で塵芥だろうな」

 

「へぇー…」

 

 

 

 

ナザリックに帰還したゴルドソウルは先程の話をアインズとマシンナーに報告をする。

2人の傍らにはハムスケとイアイも共にいた。

 

「ふむ、東の巨人と西の魔蛇か…」

 

「イアイ、何か知ってるか?」

 

マシンナーに質問されたイアイはすこし考えこむと思い出したのかマシンナーに話す。

一方でハムスケは知らない様子だった。

 

「あ~知っておりやすぜ頭、木偶の坊と雌蛇ですわ」

 

「ハムスケは?」

 

「すまんでござる殿、某は面識がないでござる…」

 

「イアイは知ってるような口ぶりだったが…」

 

「へぇ頭、儂がトブの大森林にいた頃あの二体がそれぞれ儂の縄張りにちょっかい掛けてきた時がありまして…まあ返り討ちにしやしたが」

 

「そいつらの強さは?」

 

「東の巨人は再生能力と腕力はそれなりじゃが頭の方はからっきし、西の魔蛇は不可視の魔法が使えるが東の巨人よりかは弱い、サシでやれば儂とハム公には全く歯が立たんわい」

 

「それで手を組んだと?」

 

「恐らく、まあそれでも儂が抜けた後ハム公の縄張りに侵入しなかったのはハム公にビビッとたんじゃろうな?」

 

「某、それ程の立ち位置だったんでござるか?」

 

「お前な…自分の食物連鎖の立ち位置位把握しろや…」

 

自分がそれ程まで影響力があった事に少し驚くハムスケ。それを見たイアイは呆れた様な口調で突っ込みハムスケは「ぐぬぬ…」と言いながら顔を顰める。

 

「ふむ、どうするアインズ?」

 

「そうだな、少し考える必要がある…」

 

「なら連中の縄張りに密偵を送り込むか、ああそれとアインズ」

 

「近いうちにスレイン法国の連中漆黒聖典を死亡扱いして復活の儀式をするらしいがどうする?」

 

先日の法国に潜伏していた密偵からの報告で法国の上層部が漆黒聖典を正式に死亡判定を下し、近い日に彼らを復活させようと儀式を取り計らう報告を受けていた。この決断に至ったのは彼らが一向に返ってこないのは勿論、先日トブの大森林の探索の時にも六色聖典の一つを送り込んだがそれらも行方不明になったのを聞き漆黒聖典の壊滅を確信しこの判断に至ったのである。

 

「そろそろそうするだろうと考えていた。マシンナー、潜伏している部隊に指示を出しておけ」

 

勿論これを知って見逃す2人では無く。妨害工作と同時に法国に少なからずダメージを与える為事前に計画していた行動を起こす事を決意する。

 

「了解だ。タイミングは話し合った通りで良いか?」

 

「構わん、盛大にやってくれ」

 

アインズは己の赤く輝く瞳を一層光らせながらマシンナーに命ずる。マシンナーは二つ返事で承諾した。

その後マシンナーは明日、組合に依頼されていたナノメタルを渡すことを話す。

 

「あいわかった、それと明日王国の組合に行って来る。ナノメタルを渡さなければならなくてな」

 

「うむ、わかった」

 

その後ゴルドソウルはンフィーレアから渡されたポーションを二人に献上する。

アインズはそれを手に取りマシンナーと共にそれを観察する。

 

「それとンフィーレア・バレアレから預かっている物がございます」

 

「これは依頼していたポーションか?」

 

「色は紫だな…効き目は?」

 

「はっ、この世界に存在する青いポーションよりも効き目が良いと…」

 

「ほう…」

 

それを聞きアインズは感心し、マシンナーも同様に感心する。

マシンナーは成果を出してくれたンフィーレアに直接感謝の言葉を伝える事をアインズとゴルドソウルに伝える

 

「よし、なら明日ギルドで用事を済ませた後直接礼を言いに行く。伝えておいてくれゴルド」

 

「御意!」

 

「うむ、下がって良いぞゴルドソウル…」

 

「はっ!」

 

ゴルドソウルは立ち上がり礼をした後、退出し再び村に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

次の日マシンナー扮するレイヴンが王国の冒険者組合にまで足を運んでいた。

レイヴンは組合の受付嬢に組合長に依頼されていた物を持ってきた事を伝える。

 

「すまない、組合長から依頼されていた品を届けに来たんだが…」

 

「レイヴンさんですね、すぐにお知らせいたします!」

 

少し時間が経った後受付嬢に丁重に組合長室の扉の前まで案内される。

受付嬢が扉を数回ノックした後、組合長が現れ恒例の抱擁をする。

 

「おお!レイヴン君。本当に採取してきてくれるとは…!」

 

「はい、こちらです」

 

抱擁が終わった後、組合長の机に拳大のナノメタルを置く。

それを見た組合長は感嘆するような声を上げる。

 

「おお…!まさしくあの金属だ!一体どこに?」

 

「トブの大森林の奥に埋まっておりましたがこれだけしか見つかりませんでした」

 

「そうか…いや、本当にありがとう。報酬は約束通り倍で払おう」

 

レイヴンの手を取って感謝の言葉を述べる組合長。しかしレイヴンはこの依頼についてある疑問を抱いており、それを組合長に質問する。

 

「一つ聞いて良いですか?」

 

「ん?なんだい?」

 

「これを採取するように依頼したのは誰ですか?」

 

レイヴンの質問に組合長は答えるのを渋る。それを見てレイヴンはある事を確信した。

 

「…それは」

 

「……王国の上層部ですか?」

 

「!…察しが良いな、その通りだよ」

 

「帝国と戦争ですか?」

 

レイヴンに言われてもう隠せないと踏んだのか、レイヴンに依頼主とその目的を話す。

 

「……恐らくな、これを採取するように依頼したのは恐らく王国の兵の武器を強化する為だろう、帝国に比べれば寡兵だからな」

 

組合長の言う通り、王国の兵は貴族の私兵以外は平民からの徴兵によるものであり訓練された兵卒ではない為、数だけの案山子同然の戦力であった。それでも今まで帝国と戦ってきたのは王国の戦士長ガゼフの力が大きかった。しかしガゼフの力のみに頼るのではなく兵の力も高めようと兵の練度の低さを武器の性能を上げて補おうとしていた。

 

(それだけで勝てるとは思えねえけど…)

 

「わざわざ、こんな依頼を受けてくれてありがとう。今度はもっと有意義な依頼をするよ」

 

レイヴンに改めてお礼を言い、受付嬢にレイヴンを丁重に見送るように指示を出した。

 

「わかりました、では…」

 

「うむ、君見送ってあげなさい」

 

「は、はい!」

 

受付嬢に見送られながらレイヴンは組合を後にしてカルネ村に向かうのであった。

 

 

 

 

「わざわざ来て下さり感謝いたします!」

 

マシンナーの姿に戻り、カルネ村にまで来るとゴルドソウルと村の守備を務めている特機兵団が敬礼して出迎えた。マシンナーも軽く挨拶してンフィーレアの事を伝える。

 

「良い、それよりンフィーレアは?」

 

「は、工房にいると思いますが…呼んできましょうか?」

 

どうやら工房にいるらしく、恐らくポーションの研究をしているのだろう。

マシンナーはンフィーレアのいる工房まで足を運ぶ事にした。

 

「いや良い、向かうぞ」

 

「押忍…」

 

ンフィーレアの工房に向かう途中、他のカルネ村の住人達がマシンナーを見て次々と頭を下げる。

その途中エンリと遭遇するのであった。

 

「マシンナー様…」

 

「エンリか?久しいな、元気そうでなによりだ」

 

「はい、あの…今回来たのって」

 

「ああ、ンフィーレアのポーションの礼と「東の巨人」と「西の魔蛇」の件だ」

 

「すみません…できればアインズ様とマシンナー様にはご迷惑をお掛けしたくなかったんですけど…」

 

「気にするなカルネ村はナザリックにとっても大事な村だ。危機が及んでるなら助けるまで、だが自分達の力で解決しようとする姿勢は大事だ。俺やアインズもそう思う」

 

実際に無暗にナザリックに頼らず自分達の力で何とか解決しようとするエンリ達の姿勢はアインズとマシンナーは感心していた。

 

「ありがとうございます!」

 

「これからンフィーレアの所に行く、後で今回の件話し合おう」

 

「わかりました!」

 

そしてエンリを伴ってンフィーレアの工房まで来て、エンリがンフィーレアを呼ぶがンフィーレア本人は一向に出てくる気配が無い。エンリはンフィーレアを起こすために工房に入る。

 

「マシンナー様すみません、直接呼んできます」

 

「悪いな」

 

工房に入り、辺りを見渡すと作業をする机に突っ伏して眠っているンフィーレアを見つける。

 

「ンフィー、いる?って…」

 

「………」

 

エンリは呆れて溜息を付き、ンフィーレアの身体を揺すって起きるように声を掛ける。

ンフィーレアは寝惚けながら顔を上げる。

 

「もう…ンフィー起きて」

 

「え?あ、エンリなんでここに…?」

 

「何でって昨日マシンナー様がンフィーに会いに来るって言ってたじゃない?」

 

それを聞いてンフィーレアは勢いよく飛びあがった。

 

「あ!!」

 

「もうマシンナー様来てるよ?」

 

「あ、マシンナー様…」

 

急いで顔を洗い、工房から飛び出すと目の前に「よう」と手を振るマシンナーとあからさまに機嫌が悪いゴルドソウルがいた。ゴルドソウルはンフィーレアに声を上げながら詰め寄る。

 

「ンフィーレア、貴様マシンナー様を待たせるとはどういう了見だ!!」

 

「よせゴルド。まあ遅刻は感心はせんがなンフィーレア?」

 

詰め寄るゴルドソウルを制するがンフィーレアに遅刻したことを注意するマシンナー。ンフィーレアは頭を下げて遅刻したことを謝罪する。

 

「すみません!その、昨日徹夜してしまいそれで…」

 

「…研究熱心なのは良いが身体を壊してしまっては元も子もないぞ?」

 

「す、すみません!」

 

「次気を付ければ良い、それより昨日のポーション、良い代物だった。アインズも喜んでいたぞ?」

 

「そうですか!良かった…」

 

自身が調合したポーションがアインズに気に入られた事を喜ぶと共にンフィーレアは安堵した。

マシンナーは一定の成果を上げたンフィーレアにポーションの研究費を増やす事を伝える。

 

「研究費を増やそう、今後の進展も期待しているぞ?」

 

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

「良かったねンフィー?」

 

「うん!」

 

自分の研究成果が認められた事を喜ぶンフィーレア、その後マシンナーは東の巨人と西の魔蛇の件について話す。

村の防衛を任されているゴルドソウルにも声を掛ける。

 

「で、今回の東の巨人と西の魔蛇だがこの件は俺達がなんとかする。だがもしかしたら連中の手下が村を襲うかもしれない、暫く厳重に警戒していてくれ」

 

「わかりました」

 

「ゴルド、村の防衛、改めて任せるぞ」

 

「はっ!」

 

「何かあったら連絡してほしい、良いな?」

 

「わかりました!」

 

その後、マシンナーはナザリックに戻り、シズのジャガーノートの改良に取り掛かることにした。

 

 

 

 

ナザリック第6階層の『機械の楽園』内の研究室でマシンナーはシズと共に「ジャガーノート」の改良に取り組んでいる。今までのデータを見ながら改良型ジャガーノートの設計図を作成していく。

 

「シズ、こういう感じが良いか?」

 

「ん…」

 

設計図に描かれている改良型ジャガーノートは以前は歩く重戦車の様な見た目だったがそれから少しスリムになったがそれでも充分マッシブな見た目だった。更に背部のレールガンの他にサブアームが増設されている。

 

「装甲をある程度減らして軽量化させるか…防御力は少し下がるがサブアームにシールドを付ければ補えるか…」

 

「マシンナー…様……」

 

「なんだ?」

 

マシンナーが作成しているとシズがズイっと顔を近づけてマシンナーに改造の要望を出す。シズは改造する箇所を指差す、背部の大型レールガンと頭部の狙撃用のバイザーだった。

 

「狙撃…用の……バイザーの…強化と…レールガンの…貫通力……強…化」

 

「了解だ、ちょっと砲塔を調整しよう。後は何かあるか?」

 

レールガンの出力を調整しながら他に何か着けたい武装はあるかとシズに質問するとシズは少し考えて着ける物を提案する。

 

「……小型の…ドローン…着けて欲し…い…」

 

「ドローン、理由を聞いても良いか?」

 

「情…報……収…集……と…小型…の支援機…として……使…う……」

 

「成程な、了解した」

 

「マシン…ナー…様……」

 

「何だシズ?」

 

「ジャガー…ノー…トの……改良…型は…どれくらいで…完…成……する…の…?」

 

「そうだな…基本フレームはそのままに装甲や新型のパーツの換装等が主だから作業自体は時間はそこまでかからん、ジャガーノートは元々換装しやすさも視野に入れて開発したからな」

 

「マシン…ナー……様」

 

「なんだ?」

 

「ありが…と…う…」

 

「気にするな、元々データをある程度取ったら改良しようと思っていた。扱いやすい様に仕上げる」

 

「ん…」

 

「それで…肝心のテスト相手なんだが…丁度良いのがいる」

 

「?」

 

シズがキョトンと首をかしげるのを見て可愛いなと思いながらマシンナーは笑みをうかべながら答える。

 

「東の巨人か西の魔蛇に改良型ジャガーノートの相手になって貰う」

 




解説:古代の機械巨人 
マシンナーから渡されたマジックアイテムにより出現したモンスターの一体。
レベル50の機械系異形種で相手の防御を貫通するスキルを持つ。このモンスターの上位種として『古代の機械超巨人』と『古代の機械究極巨人』が存在する。


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第62話 起動、ジャガーノートMk-Ⅱ!!

更新お待たせしましたです(・ω・)


木々が生い茂る森の中に不自然に入った亀裂の様な巨大な洞窟の入り口があった。

そこに数体のオーガが見張りの様に佇んでいたが、突如オーガの一体が首から血を噴き出し地面に倒れ込み息絶える。それを見た他のオーガは直ぐに警戒態勢に入ったが先程のオーガと同じように首を切られ、あるオーガは射出された杭で脳天を貫かれて即死したり、頭をねじ切られたりした。

見張りが全滅したことを確認すると景色が少し歪み、銀色の身体を持った改造人間、ジュドが現れる。

 

周囲に敵がいないのを確認して耳に手を当てマシンナーに無線を送る。

 

『マシンナー、見張りの排除を完了した』

 

「わかったジュド、他にはいるか?」

 

『いや、入り口付近にはいない。それにいたとしてもアンタならどうとでもなるだろ?』

 

「言うじゃないか…待機していてくれ」

 

『おう…』

 

マシンナーとの通信を切りジュドは周囲を警戒しながらマシンナー達を待つ事にした。

ジュドとの通信を切ったマシンナーは隣にいるアインズに現状を伝える。

 

「マシンナーさんどうでした?」

 

「予定通りジュドが見張りを殲滅しました、後は合流するだけです」

 

それを聞いたアインズは背後に控えてるハムスケ達を呼ぶ。

呼ばれたハムスケ、イアイはマシンナーとアインズの後ろに佇む。

 

「わかりました、ハムスケ」

 

「ここに!」

 

「イアイ」

 

「あいよぉ!!」

 

それぞれの主に呼ばれた二体は威勢よく返事をし2人の後を付いて行く。

そしてその傍らにはシズも控えていた。

 

「シズ、行こうか?」

 

「了…解……」

 

 

 

 

洞窟の中の最奥に、報告に上がっていた「東の巨人」と「西の魔蛇」、そしてその配下たちのモンスター達であった。大きな体躯を持つ妖巨人達の中でも一際巨大な身体と大剣を持った妖巨人…『東の巨人』グが檄を飛ばす。

 

「良いかお前等ぁ!明日他の奴らを集めてあの邪魔な「滅びの塔」の連中の縄張りに攻め込む!従わない奴は殺して良い!!俺達で叩き潰すぞ!!」

 

それを聞いて妖巨人達は雄たけびを上げるがたった一体、それに反対する者がいた。

 

「おいグよ本気で言ってるのか!そんな簡単に倒せる奴では無いのだぞ!?」

 

蛇の胴体に老人の上半身の姿をしたナーガと呼ばれるモンスターにして『西の魔蛇』名を、リュラリュース・スペニア・アイ・インダルンと言う。リュラリュースの意見を聞いたぐグはフン!とそれを鼻で笑い怒号を上げる。

 

「うるせぇ!!俺の力があれば何も問題は無いんだよ!!」

 

それを聞いたリュラリュースは何度目かわからないグの知恵の無さに呆れる。

 

(クソ、滅びの建物の者達の戦力も把握してないのに……何故こうも愚かなんじゃ…!)

 

元々この二体は敵対関係にあったのだがここ最近までは目立った争いは無かった、その理由はハムスケ…即ち『森の賢王』の存在だった。二体とも森の賢王の事は詳しくは知らなかったがだからこそ二体ともこの大魔獣に警戒をして迂闊に争う事は出来なかった。もしも双方争い疲弊すれば森の賢王は好機とばかりに襲ってくるかもしれないと考えたのだ。

しかしもう理由はもう一つある…。

 

(知恵は無いに等しいが力と再生能力のあるこやつを滅びの建物の主にぶつけるしかない…こいつを言いくるめれば…)

 

リュラリュースが策を練っていると、洞窟内から別の声が響き渡る。

 

「はん!相変わらず知恵の無さが丸わかりする声だなぁ…?」

 

「何だぁ…!テメェ…!!」

 

声の主に反応してグは声の方角に顔を向けるが声の主を見て驚愕する。

それはリュラリュースも同じだった。しかも心なしか身体は震え冷や汗が流れている。

 

「ま、まさか…帰って来たのか!!?」

 

「白い暴君!?」

 

白い暴君、今はイアイと名の付いた大魔獣が姿を現した。それを見てリュラリュースは恐怖の表情を浮かべかつての記憶を思い出す。この二体が争わず、森の賢王の事を詳しく調べようとしなかったのは目の前の白い暴君の存在があったからだ。

 

(森で奴の姿を見たという報告を受けてまさかと思っていたが本当に戻ってきていたとは…!)

 

嘗て、森の賢王の事を調べる為にグとリュラリュースはそれぞれの手下を差し向けたがそこで一つ問題が生じた。

森の賢王を調べようとした矢先イアイの縄張りに偶々踏み込んでしまった為手下は全滅、しかしそれだけにとどまらず己の縄張りに土足で踏み込んで来た事に腹を立てたイアイが両名の縄張りに侵入、それによってリュラリュースは瀕死の重傷を負い命からがら逃げ、グは再生能力で死にはしなかったがイアイのサンドバッグにされ気のすむまで嬲られ続けた。更に後日調べると森の賢王は白い暴君と一対一で何度もぶつかり合い、尚且つ互角の力を持つと知り、自分達では敵わないと悟り現在まで森の賢王の縄張りに踏み入れようとしなかったのだ。

 

「白いの?こやつらでござるか?」

 

その後ろからハムスケが現れた。突如現れた存在にグとリュラリュースは困惑するがリュラリュースはその姿を一目見て白い暴君と同等の存在だと瞬時に察知した。

 

(な、なんじゃこの魔物は…!白い暴君にシモベはいなかった筈、まさか森の賢王か!?)

 

「ああ、そうじゃあハム…おっと久しぶりじゃなあ間抜けと蛇、紹介しよう、儂の隣にいるのが南の大魔獣『森の賢王』じゃあ…」

 

(やはり森の賢王…!!ま、まさかあの2体が手を組んだというのか?まさか森の賢王が一時消えたのはこちらの動きを察知して白い暴君と手を組むためか…?)

 

リュラリュースがこの状況が果てしなくマズイと察知するがグはイアイの言葉に顔を真っ赤にして武器であるグレートソードを抜き襲い掛かった。

 

「間抜けだと?テメェ!!!」

 

「な!グ!よせ!!」

 

リュラリュースの静止に耳を貸さずグレートソードを振り下ろすがイアイはそれを鼻で笑って回避して右前脚でグの頭部を殴打し首を弾き飛ばす。

 

「はん!」

 

「ぐ!」

 

「武技を使うまでもねぇ…」

 

(あの力…む、昔よりも上がっておる、マズいこうなったらダメもとで透明になって逃げるか…)

 

リュラリュースがそう考えるとイアイとハムスケの後ろから別の声が聞こえた。

声の後、マシンナーとアインズ、シズが現れる。

 

「おい、はしゃぎ過ぎだぞイアイ?」

 

「ああ、頭すんません」

 

突如現れたその者達を訝しげに見つめるが先程の自分達に向けられた威圧感が嘘の様にその存在の前には素直に頭を下げて詫びるイアイの姿に困惑する。

 

(誰じゃこいつら…?)

 

困惑しているリュラリュース達にイアイとハムスケは声を上げる。

 

「おい、おどれら頭を下げて跪きな?」

 

「我々の主の御前でござる!!」

 

「主…?主だと?」

 

その言葉を聞いてリュラリュースはイアイとハムスケが同時に現れた以上に驚愕する。

かの大魔獣2体が下僕として仕える存在……彼女の中で思い当たるのは一つしかなかった。

 

(あの二体が仕える存在じゃと!……まさか!『滅びの建物』の…!?)

 

「なんだぁお前…?」

 

「ふむ失礼した我が名はアインズ・ウール・ゴウンという。隣にいるのはマシンナーだ」

 

「どうも」

 

「ハハハハ!!彼奴が仕える程の者がどのような奴かと思っていたが、臆病者の名を持つものが主だったか!ここでお前を頭から食ってやるぞスケルトン!」

 

(どう考えても目の前の奴らが只者じゃないと気づかんのか!?こやつここまで愚かだったとは!)

 

「何を言ってるんだコイツ?」

 

「……さぁ?」

 

「こやつらは長き名前は勇気なき証と見なすんじゃよ…」

 

グの浅はかな考えと答えにリュラリュースは呆れを超えて怒りがこみ上げる。

かの二大魔獣すら従う程の存在が弱い筈がある筈が無い。リュラリュースはこの妖巨人と手を組んでしまった事を激しく後悔していた。一方のマシンナー達もグに呆れ果てていた。

 

「ヤレヤレ…イアイの話通り間抜けだな…」

 

「それで、お前はどう思っているのだ?」

 

リュラユースの言葉を聞き、アインズは「あのナーガは利用価値がありそうだな」と答える。そしてマシンナーは傍らに控えてるシズをちらりと見て、指示を出す。

 

「そうか…お前はまだ話がわかりそうだな」

 

「シズ」

 

マシンナーの指示を聞きシズはゆっくりと二体の前に出る。

そしてマシンナーから命じられた「試験運用」の合図が出る。

 

「……」

 

「実験開始だ、存分にやれ」

 

「了…解…」

 

グとリュラユースの前に立つシズ、それを見たグはグレートソードを持ち威圧しながらシズの前に出る。

 

「あぁ?なんだ小娘?食われてぇのか?」

 

グの威圧もどこ吹く風の如く、何時ものポーカーフェイスのままに待機状態になっているジャガーノートを取り出し、起動させる。

 

「ジャ…ガー……ノー…ト…」

 

『YesMaster』

 

シズの声を受け、機械的な音声を出しながら数多の装甲がシズを包み込む、それは徐々に形になって行きジャガーノートを纏ったシズが現れた。

 

「東の巨人、西の魔蛇…光栄に思え」

 

旧ジャガーノートが迷彩色のカラーリングだったに対し、新型のジャガーノートはシズの髪色と同じ赤金のカラーリングに変更されていた。変わったのは色だけでなく、二足歩行の重戦車の如き威容だった旧ジャガーノートであったが新ジャガーノートはマッシブなフォルムはそのままだが余分な重装甲を取り外されて少しスリムになっている。背部に装備されていたレールキャノンは全距離に対応できるように伸縮自在になっており、破壊力は勿論貫通力も強化されている。各部にゴテゴテと装着されていた武装も内蔵式に変更されゴテゴテとしていた外見からすっきりとしていた。

 

「ジャガーノートMk-2の最初の犠牲者になった事をな!!」

 

「……」

 

赤金の装甲を纏ったシズは全身から煙を排出させ「ズシン、ズシン」と力強くグに迫る。

それを見たリュラリュースは狼狽するがグは構うことなく突っ込んで行った。

 

「な、なんじゃあれ…「んなのこけおどしだ!!テメェから食い殺してやる!!」ま、待てグよ!!」

 

「おうらぁ!!」

 

グはグレートソードを力任せに振り下ろし、シズをジャガーノートごと叩き割ろうとする。

しかしシズはその攻撃を左手で難なく受け止めた。

 

「……」

 

「は…?」

 

自身の剛力に余程自信があったのか、ぽかんとするグだったがシズはそれを見逃さず右腕を回転弾倉付きの杭打機の様な形態に変形させる。

 

「…〈衝撃・形態〉(インパクト・モード)

 

右腕を大きく振りかぶり、そのままグの腹部に叩き込んだ。

 

「打ち抜く……!」

 

グの腹部に勢いよく叩き込まれた杭は弾倉の火薬を作動させてその破壊力を更に倍増させる。

シズの攻撃をまともに受けたグの上半身は血肉や贓物をまき散らしながら粉々に吹き飛んだ。

 

「なっ…!なっ…!?」

 

それを見てリュラリュースは驚愕するが、シズは捕獲ネットをリュラリュースに放ち動きを封じる。リュラリュースは抜け出そうともがくが、捕獲ネットは特殊な素材で出来ておりもがけばもがくほどリュラユースの身体に傷をつけて行く。グの能力である再生能力により下半身から上半身が生えてグレートソードを握り再び立ち上がる

 

「ぐっ…うう…」

 

「油断したぁ…だがそれが切り札だろう!?それで俺を殺しきれないなら俺が勝ったも『うる…さ…い…』あ?」

 

グの声を遮るシズ、その声には冷たい殺意で溢れていた。

シズは左手から鞭の様なものを出す。しかしそれはよく見ると蠍の尾の様に尖っており蛇の様に意思を持っているかのようにうねりっている。

 

「黙れ…」

 

「…テイル……アナライ…ズ…起動…」

 

「高…圧濃……硫酸…付加……」

 

「あ?」

 

そしてグを捕捉しそのまま勢いよく射出する。射出された鞭はグの脳天に突き刺さりグは悲鳴を上げた。

 

「射…出……」

 

「がああああああああああ!!」

 

更に鞭が禍々しい紫色に発光するとグは頭から徐々に溶かされていった。

リュラリュースはそれを見て驚愕し恐怖する。

 

(あ、あのグが溶かされている…!あ、あれでは再生が出来ん…!)

 

「が…タズケ……あ…嗚呼…溶け…あ……」

 

どろどろに溶けていき最後にはグが装備していた大剣のみが残った。

シズはそれを確認してマシンナーにグの撃破を報告する。

 

「……撃…破……完…了…」

 

「やれやれ…練習相手にもならなかったか」

 

「うーわ…えげつねぇのう」

 

「こ、怖いでゴザル…」

 

グが予想よりも早く撃破され、「もう少し粘ってくれればデータ取れたんだがなぁ…」と落胆するマシンナー、シズの攻撃を見てその凶悪さにたじろぐイアイと恐怖するハムスケ。ネットで囚われているリュラユースにアインズとマシンナーが近づく。

 

「さてと…西の魔蛇に問う…」

 

「な、なんじゃ…?」

 

「我々の傘下に入ってもらう、拒否すればここで殺す」

 

「わ、わかった!お主たちの傘下に入る!だから殺さないでくれ!!」

 

一応戦力として頼りにしていたグを目の前で滅びの建物の主のシモベにあっけなく惨殺されたのを見てリュラリュースはすぐに命乞いをして降伏をする。

 

「賢くて助かる、さっきのグみたいな輩じゃなくて良かった…」

 

「シズ、ネットを解除してやれ」

 

「ん…」

 

シズはリュラユースを捕縛していたネットを解除する。そして残りの妖巨人達をマシンナーが撃破するため動き出そうとする。しかし

 

「……」

 

「では…残りを潰すとしようか…シズ?」

 

「…お待ち…下さい…」

 

「……メイド…と……して…全て…掃除…す…る……」

 

「…わかった、頼むぞシズ」

 

「ん…」

 

シズはそう言うと、妖巨人達を始末するべくジャガーノートの武装を展開させる。

空中に自動拳銃の銃口の様な見た目をした武装が六つ現れる

 

「目標…捕捉…機銃端末(ピストルビット)……発射…」

 

六つの銃口から放たれる徹甲弾で妖巨人を蜂の巣にし、再生している隙に装填されている弾丸を酸属性の圧縮硫酸弾に変更し妖巨人達に発射しグと同じように溶解させる。

 

「フム…あれが改良型のジャガーノートの力か?」

 

「まだまだあるぞ?楽しみにしておけ」

 

「そうしよう…」

 

その後、マシンナーとアインズは洞窟を去る。リュラリュースは近くにいたハムスケとイアイに自分はどうなるのかを聞く。

 

「わ、儂は一体どうなるんじゃ…?」

 

「心配すんな蛇、頭は自分の傘下に入った物は悪いようにはせん、お前は運がええ…」

 

「ならええんじゃが…」

 

イアイの言葉に偽りは無いが、それでもまだ一抹の不安は残る。イアイもそれを察したのかリュラリュースに助言をした。

 

「ああそれとなんか情報を持ってたら話しておいた方が良いぞ?例えば…なんかやばそうな物とか」

 

「情報か…それなりにあるが、役に立つのか?」

 

「少なくとも知っている事全部話せばとりあえずは大丈夫じゃ…」

 

その後、洞窟内にアウラが派遣されてリュラリュースは彼女が困惑するほど従順に従い素直に聞かれたことを話していき、大森林の支配に多少なりとも貢献する事になる

 

 

 

 

洞窟を出てナザリックに帰還した後「機械の楽園」司令部にいるジュドに今回の働きを労う。ジュドは見張りの始末以外に今回の件でカルネ村、建造途中のダミーナザリックに近づこうとしていた「東の巨人」と「西の魔蛇」の配下を己の手でまたは仕掛けた罠で人知れず始末していた。

 

「ジュド、ご苦労だったな…」

 

「気にするな、新参はまず己を認めてもらわんといかん」

 

「それに、お前やアインズの信頼を得なければならない…」

 

「シズの件なら…」

 

「お前は良いかもしれないが、他の奴らも同じというわけでは無いだろ?お前やアインズが釘を指してくれたから表向きはまだ何も無いが…いつ闇討ちされるかもわからん」

 

先日の一件もありナザリックのシモベ達はジュドを信用していなかった。マシンナーのシモベとして仕える身になったので表向き手を出すことは無いが、それでも棘のある視線は感じていた。その為己の身の安全を守るためにアインズとマシンナーから任された仕事をこなして実績を積み上げて認めさせるしか無いと考えた。

 

「……何か怪しい動きがあれば俺に言え、それに仕事の時は極力側に置かせる」

 

マシンナーも勿論それに危機感を抱いており万が一の事も考えてジュドの身の安全を守るために打てる限りの手は打っておこうと考えていた。

 

「感謝する…」

 

ジュドはマシンナーの言葉に感謝の言葉を述べる。この数日間でジュドはマシンナーを「話の分かる相手でありそこまで悪い奴では無い」という認識をしている。

 

「気にするな、お前はこの異世界で初めて本格的に接触できた同胞だ、それに自分の身内は最後まで面倒みるのが俺の性分だナザリックの皆の信頼を得るのはまだかかるだろうが、何かあれば遠慮なく頼ってくれ……すまん、アインズと少し話をしなければならん、席を外す」」

 

マシンナーが言い終わる前にアインズからの〈メッセージ〉が届き、部屋から退出した。

 

「……思ったより悪い奴じゃなさそうだな」

 

マシンナーを見送った後、ジュドは一人でにそう呟いた。

 

 

 

 

 

マシンナーが円卓の扉を開くと、そこにはアインズが座って待っていた。

 

「マシンナーさん、急に呼んですいません」

 

「構いませんどうしました?」

 

マシンナーが席に着くとアインズは早速呼んだ理由を話し始める。

 

「はい、実は今日冒険者ギルドに顔を出したのですがその時組合の人に呼ばれて組合長と話をしたんです」

 

「一体どんな?」

 

「はい、なんでも『八本指』の討滅に協力してほしいと…」

 

『八本指』…王国に巣食う裏の組織で様々な悪事に手を染めている。マキナの調査により、その詳細が詳しく判明しており。当初は自分達の邪魔になるので潰そうと考えていたがデミウルゴスの提案により自分達に貢がせるという案が上がりデミウルゴスに計画を一任させた。

 

「八本指?例の闇組織ですか?」

 

「はい、マシンナーさんにもいずれ声を掛けると言っていました」

 

「そう言えば、蒼の薔薇とか言う冒険者チームが連中の麻薬の製造場所を潰しまくってるって聞いてますね…」

 

「はい、丁度デミウルゴスの『ゲヘナ計画』もこの機に乗じて開始しようと考えています」

 

「わかりました、主要メンバーの居場所を突き止めさせます」

 

「頼めますか?」

 

「お任せを」

 

「ありがとうございます」

 

アインズの話が淡った後はマシンナーも一つ要件を話した。

先日話したスレイン法国の件である。

 

「あ、後スレイン法国に潜伏してる部隊からの報告なのですが今日にも漆黒聖典の復活の儀式やるらしいです」

 

「わかりました、では打ち合わせ通りに…」

 

「わかりました」

 

 

 

 

スレイン法国の神殿の一つに多数の神官が集い魔法陣の周りに立つ。その神官達の中で高位の人物だとわかる豪華なつくりの服を着た人物がこれから儀式を行う事を宣言する。

 

「…これより蘇生の儀を取り計らう…」

 

それを聞いた神官たちは準備が完了していることを確認する。

 

「うむ、では始める…」

 

呪文を唱え始め、魔法陣には膨大な魔力が溢れ、光を発していた。

その儀式を覗いている小型の虫の様な物が天井で監視している。その小型の昆虫型ドローンを使役していた機械系異形種…マキナの潜入部隊が、部隊長に儀式の経過を報告する。

 

(魔力が予定値に達しました…)

 

(うむ、やれ)

 

(はっ…)

 

隊長の指示を受けて偽隊員は小さなスイッチを押す。その瞬間、神殿の辺り一面が爆音と共に吹き飛び神殿は後跡形も無く崩壊した。すると爆発を聞いたスレイン法国の神官や兵士たちが一斉に集まり出してその惨状を見て崩れ落ちる。

 

「なんだ!」

 

「なにがあった…!!」

 

「な、神殿が…」

 

「崩壊してる…」

 

「これでは蘇生の儀式は当分出来んぞ!」

 

「漆黒聖典の蘇生が遅れればどれだけの被害が!!」

 

「嗚呼…神よ、どうすれば良いのですか!!」

 

あまりの出来事に狼狽している者や崩れ落ちて放心する者、神に無意味な祈りを捧げている。

隊員は成功した報告を部隊長に報告する。

 

(成功です、神殿は周囲の建造物を巻き込んで崩壊しました)

 

(ご苦労、戻れ)

 

(了解…)

 

隊員は姿を不可視化させてその場を離れる。

その後報告を受けたマシンナーがアインズに報告をした。

 

「モモンガさん、神殿の爆破を完了しました」

 

「そうですか、我々の事を知られるのを延ばせましたね…」

 

「ですがまだ問題はあります」

 

「ええ、番外次席ですね?」

 

「はい、マシンナーさんのお陰で部屋の場所は特定できましたが…」

 

「はい、それ以上はわかってませんね。調べようにも一度バレかけましたし…」

 

一度番外次席が守護している部屋の内部に超小型のドローンを入れてある程度録画する事は成功したが番外次席がドローンの方に振り返ったので速攻で退散をした。

 

「ですね、やはり油断できない相手です…」

 

「連中に対する『嫌がらせ』のネタはまだまだあります、ちょいちょいしかけてやりますよ」

 

それを聞いたアインズは内心苦笑する。マシンナーが言う『嫌がらせ』はどれも質の悪いものばかりであり、ユグドラシル時代でも敵対ギルドに「るし☆ふぁー」と共に嫌がらせをして苦しめていた。

 

(敵対関係とは言え流石に同情するなぁ…)

 

この「嫌がらせ」の数々がスレイン法国を内外から徐々に滅ぼしていく要因の一つになるのはまだ先である

 




詳細解説:ジャガーノートMk‐Ⅱ
ジュドの攻撃で中破したジャガーノートを今までの戦闘データを元に修理とアップデートを兼ねて改修、全身に装着されていた重装甲を外してウィークポイント部分に重点的に装着、機体の大幅な軽量化を果たす。機体の駆動系も新調され運動性、機動性も上昇。出力も強化され全体的にパワーアップをしている。シズの戦闘スタイルとスキルに合わせて装備も変更されている。迷彩色からシズの髪色に合わせた赤金のカラーリングに変更されている


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第63話 お誘い

「東の巨人」と「西の魔蛇」の問題を解決して数日後、マシンナーはエンリ達に問題の解決が出来たことを報告する為にカルネ村に向かう。エンリの居場所を聞くために村長に話しかけた。

 

「村長、急に来てすまない。エンリとンフィーレアは何処にいるかな?」

 

「これはマシンナー様、エンリ達なら今工房におりますよ?」

 

「そうか、ありがとう」

 

マシンナーは工房に続く道を歩いていき、工房につく。

 

「ついたな、さてと…」

 

扉をノックしようと手を出すが一瞬手を止める。

 

(……もし中で2人が良い雰囲気だったらどうしよう)

 

そう思った後、マシンナーは小型の虫型ドローンを扉の隙間にいれ工房に潜入させる。

 

(そうだ、これは俺がお邪魔虫にならない為にも仕方のない事なんだ)

 

ドローンを介してみた映像には研究をしているンフィーレアとそれを見ているエンリの姿があった。

マシンナーは安堵して今度こそ扉を叩く。

 

「……只世間話してるだけだな、ヨシっ」

 

「すまない、マシンナーだ開けてくれないか?」

 

「おはようございますマシンナー様、どうしたのですか?」

 

扉を叩いた後、ンフィーレアが扉を開けて出迎えてくれた。

マシンナーは問題が解決したことを二人に伝える。

 

「ああ、例の「東の巨人」と「西の魔蛇」の件片付いたぞ?」

 

「本当ですか!」

 

「良かった、ありがとうございます!」

 

それを聞いた二人はマシンナーに感謝の言葉を述べる。

しかしマシンナーは今回の事を踏まえて同じような事があればまた報告するように話す。

 

「だが、もしかしたらまたここら辺を狙ってくる者もいるかもしれん。何かあればすぐに言ってくれ」

 

「わかりました!」

 

その後マシンナーは以前エンリに上げたアイテム《古代の機械胸像》の事について尋ねる。

 

「そう言えばエンリ、古代の機械胸像はまだ持ってるか?」

 

「あ、はい持っております、どうぞ」

 

マシンナーに聞かれて、エンリは取り出しそれを差し出す。

マシンナーは手に取り、調べるように眺める。

 

(……ふむ条件は満たしてるな、安心した)

 

その後マシンナーはエンリに返してある事を告げる。

 

「エンリ、もしもの事態になったらもう一度これを使え、手順は一度目と同じだ」

 

「え?何か効果があるのですか?」

 

「ああ、もう一度モンスターを呼ぶことができる。まあ使ってみてのお楽しみだな」

 

「そうなんですか…」

 

その後エンリが畑の仕事で工房から離れてンフィーレアと二人になる。

ンフィーレアの研究を見ていたマシンナーはンフィーレアに声を掛ける

 

「…なあンフィーレア」

 

「なんでしょうか?」

 

「エンリとの関係はどうだ?」

 

それを聞いて、ンフィーレアは誰の目からもわかるくらいに動揺する。

マシンナーはそれを見て進展してないと確信した。

 

「え!?……あ、その…」

 

(あ、これ進んでないパターンだ…)

 

何かアドバイスしようと思ったが恋愛経験の無いマシンナーはその面の的確なアドバイスはできない。

なのでマシンナーは自分なりに考えた答えた。

 

「…焦らず堅実にエンリの好感度を上げていけ、ンフィーレアは人当たりが良いからその方が確実だ」

 

「勿論そのつもりですけど…エンリに頼られる存在にもなりたいんです」

 

「でも、力ならエンリの方が強くて…彼女ゴブリンに腕相撲で勝つんですよ、僕なんて一捻りですよ」

 

ンフィーレアの思いを真摯に聞いていたが、エンリの腕力の事を聞くと少々狼狽してしまう。

が、すぐに持ちこたえてなんとか言葉をひねり出す。

 

「え?なにそれ怖…」

 

「だからどうすれば良いのかなと思って…」

 

「ンフィーレア、頼られるのは力だけじゃない。そうだな…例えばお前は頭が良い。それに知識もたくさんある、それを活かしていけばエンリからも頼られると思うぞ?実際に俺とアインズはお前の才能を頼りにしてる」

 

「マシンナー様…」

 

こう言ったマシンナーだったが、一つ心配な点もあった。

それはエンリにあった。

 

「まあでも最大の問題はエンリの鈍感さだな…」

 

「あ…」

 

マシンナーの言う通り最大の難関はエンリの鈍感さだ。

その鈍感さにマシンナーは「彼奴はハーレム系ラノベの主人公かよ…」と突っ込んでしまう位には。

 

「……俺が思うに下手に口説くよりストレートに告白したほうが良いと思う」

 

「やっぱりそう思いますか…」

 

2人で話し込んでいるとンフィーレアの様子を見に工房に来たエンリに声を掛けられ慌てるンフィーレア

 

「何話してるの?」

 

「え?ああいやなんでもないよエンリ!」

 

「?変なの…」

 

(頑張れンフィーレア、俺も頑張ろう!)

 

 

 

 

カルネ村を出た後マシンナーはダミーのナザリックを建造しているアウラの下に建造状況を聞きに向かって行った。アウラはマシンナーを出迎える。

 

「あ、マシンナー様!お待ちしておりました!」

 

「待たせたなアウラ、ダミーのナザリックの建造はどうなってる?」

 

「はい、このままいけばもう少しで完成です!」

 

アウラの言う通り、ダミーのナザリックはおよそ8割近く完成しており、完全に完成するにはあと少しの時間で充分だろう。

 

「そうか、あの後魔物やモンスターは来たか?」

 

「いえありません、あのリュラリュースって奴が上手く抑えてて…」

 

「そうか、やはり生かしておいて正解だったな」

 

仮にも西の魔蛇と呼ばれ恐れられ、大森林の大物の一体として君臨していたリュラユース。戦闘力は兎も角統率力はグに比べれば遥かに高かった。

 

「それでアウラ、西の魔蛇の事だがお前に素直に従ってるか?…」

 

「彼奴ですか?なんか…思ったよりも大人しいんですよね、しかも気持ち悪いくらい従順で正直気味悪い位なんですよ…」

 

アウラの言う通り、リュラリュースは彼女が困惑するほど従順で指示には大人しく素直に聞いた。

元々リュラリュースのシモベだった魔物たちもリュラリュースが入念に釘を刺しておいた(反逆せし者は殺害したが)お陰で配下の魔獣たちも懸命に働いている。

 

「ほう、賢い奴だとは思っていたが…(よっぽどグの死に方に恐怖を抱いたんだろうなまあ気持ちわかるけど)」

 

リュラリュースがそこまで素直になったの事にマシンナーはグの死にざまを思い返し、リュラリュースに少し同情する。

 

「……どうします?マシンナー様のご意志とならば殺しますけど?」

 

アウラの物騒な質問に「おいおい」と思いつつ怪しい動きがあれば報告する様に指示を出す。

 

「いやまだ良い…だがもしも反逆の意志ありと見ればすぐに報告してくれ」

 

「わかりました!」

 

「それと差し入れを用意してきた、休憩時間になったら働いてるもの達と共にでも食べてくれ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

ナザリックに戻り、『機械の楽園』の執務室で事務処理をしている。

隣にはシズもいる。不意にマシンナーはシズにジャガーノートの使い心地について聞いてみる事にした。

 

「シズ、ジャガーノートの使い心地どうだった?」

 

「前よ…り……小回りが…利…く」

 

そう言うと端末形態のジャガーノートをマシンナーに見せる。

ジャガーノートも答えるように光り輝く。それを聞いて内心少し安堵する。

 

「そうか、改良前の特徴だった重装甲を減らしたからな、機動力や運動性も上がっている」

 

「非常…事態の……近接…にも…対応でき…る…」

 

「これからも定期的にアップデートする予定だ、そうすればジャガーノートは益々強くなる。格上相手でもそう簡単にはやられん位にな」

 

それを聞いてシズは少し考え込んでマシンナーに話す。

 

「…マシン…ナー……様…相手…でも…?」

 

「!……シズの冗談を聞けるとは思わなかった」

 

意外な事を言ったシズに一瞬驚きながらもフと笑みを浮かべて答える。

 

「……ごめ…ん…」

 

「いや、良い新鮮だった」

 

「……」

 

そう言われたシズは照れているのか少し頬を染めている。

マシンナーは少し間を置いてシズに話しかける。

 

「なあ…シズ…」

 

「…?」

 

「その…飲みに行かないか、ジャガーノートの初陣と初勝利祝いに…」

 

頭を掻きながら少しぎこちなさそうにシズを誘うマシンナー。

 

 

「ん…」

 

(よっしゃ念願のシズと一緒に飲みに行ける!)

 

内心、お祭り状態なのだがおくびにも出していなかった…。

 

 

 

 

マシンナーはシズを連れて副料理長が経営しているバーに入る、副料理長2人に頭を下げて席に案内される。マシンナーは副料理長にバーボンを注文をした。

 

「副料理長、いつものバーボンで」

 

「畏まりました…」

 

「シズ、お前は?」

 

シズは少し考えて、マシンナーと同じバーボンを注文する。

 

「同…じ……の…」

 

「良いのか?アルコールの度数高いぞ?」

 

「大丈……夫…」

 

マシンナーは少々不安だったがシズは大丈夫と言ったので注文をした。

 

「わかった、副料理長頼む」

 

「畏まりました」

 

しばらく経った後、副料理長がバーボンの入ったグラスを二つ持ってきて、マシンナーとシズに渡す。

マシンナーとシズはお互い注文したバーボンを手に取る。

 

「乾杯」

 

「ん…」

 

互いのグラスを軽くぶつけ、バーボンを飲み始めた。

 

 

 

 

「うぃ~……」

 

「やっぱ酔ってる…」

 

最初は問題無く普通に飲んでいたが次第に飲むにつれて徐々に酔っていきバーボン一杯飲みほした後は完全にシズは酔いきっていた。「やっぱり止めれば良かった」と後悔するマシンナーだったが後の祭りである。シズは酔って頬を少し赤くしながらマシンナーに尋ねた。

 

「マシ…ンナー……様…」

 

「ん?」

 

「博士…は……今…何処に……いる…の……?」

 

それはシズの創造主であり、マシンナーがシズを嫁に欲しいと何度も頼み込んだ人物だ。

今でもその時の事はよく覚えている。そして嫁にすることを許してくれた日の事も。

 

「……あの人はこの世界とは違う世界にいる、会うのは困難だと思う」

 

マシンナーは少し考えてからシズに話す。言葉を少々ごまかしながらも嘘は付いていない。

シズも自分の返事を予想していたのかやはりと言いたげな少々悲しそうな目をしていた。

 

「……」

 

「…会いたいか?」

 

「ん……会って…話が…した…い…色々…」

 

「そうか…そうだよな…」

 

シズの話を聞いてマシンナーはアルティマ達の事を思った、もしもあの時ユグドラシルの最終日に気付かないままだったらアルティマ達もこういう思いをしたんだろうなと感じた。

 

「…一…番……話したい…のは……マシ……」

 

「シズ…?」

 

言葉を言い終える前にシズはカウンターに目を閉じて突っ伏していた。そして静かに寝息を立てる。

それを見て完全に寝たのを確認した。

 

「…」

 

「寝ちまったか…」

 

頭を掻きながらどうしようかと考え、無難にプレアデスの部屋に一度送るという選択肢を取った。

マシンナーはシズを抱きかかえて席を立つ。

 

(プレアデスの部屋に運ぼう、道はわかるし)

 

マシンナーは立ち上がりシズを抱きかかえる。

 

「すまない副料理長、失礼する」

 

「は、またのご来店を…」

 

副料理長に礼を言った後プレアデスの部屋に着き、小型のサブアームでノックしようとしたがシズが目を覚ます。

 

「着いたな、さてと…」

 

「ん……」

 

「シズ?起きたのか?」

 

しかし酔いは醒めて無いのか寝ぼけまなこのままでマシンナーの顔をじっと見つめる。

 

「……」

 

「シズ?(可愛い)」

 

そんなシズに内心ほっこりしているとシズはマシンナーの首に手をまわした。

その行動は予想だにしていなかったので少々臆する。

 

「お、おい…」

 

「……」

 

そんなマシンナーをよそにシズは徐々に顔を近づけるそして…

 

"チュ"

 

「……!?!?!?」

 

フェイスガード越しに何かが当たる感触、そしてシズは顔を離して満面の笑みを浮かべながらこう言った。

 

「……大好き」

 

そう言ってシズはまた眠りに着いた。そこにルプスレギナが現れる。

 

「あれ~マシンナー様じゃないっすか?こんな所でなにやってるんで…ってシズちゃん腕に抱えてる!もしかしてアレっすか?お持ち帰りっすか!!?」

 

冗談交じりにマシンナー達に話しかけるが、マシンナーは全く答えなかった。それどころかルプスレギナに視線も向けていない。

 

「……」

 

不思議に思ったルプスレギナは何度か呼びかけるが一向に反応がない。

目の前で手を振っても同様だった。

 

「マシンナー様?マシンナー様?お~い…」

 

ルプスレギナは少し考えた後、はっと口を塞いだ。

 

「し、死んでる…!!」

 

その後ルプスレギナは「マシンナー様が大往生しちゃったす~!!」と叫びながら走り回った為、ナザリックが一時騒然となりこその一分後フリーズ状態から回復したマシンナーがその惨状を見て「え?何これは…」と唖然となってしまったという…。

 

「で?なんでフリーズしたんですか?」

 

「いったら自爆しそうなんで言いたくないです」

 

その後アインズに理由を問われたら「自爆すると思うんで言いたくないです」の一点張りで通した。

(因みにシズは眠る前の記憶しかなかったらしい)



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第64話 ジュド、冒険者デビュー

投稿遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
リアルの方で色々あって筆が中々進まなかったので遅れてしまいました。
今年最後の投稿です、来年もよろしくお願いします(=゚ω゚)ノ


ナザリック地下大墳墓第六階層にある『機械の楽園』の執務室でマシンナー様は一人溜息を付いていた。

 

「ああ~…」

 

溜息を付きながら机に突っ伏している。原因は昨夜のシズと飲んだ時の事だ…。

 

「確かに聞こえたんだよな…大好きって…」

 

…された後、シズは小さくそう言ったのだ。

小さくてもはっきりと言ったので聞き間違いではない。

 

「あれもしかして俺に…いやいや早とちり過ぎだ別の奴の可…能…性…」

 

そう言うと不意に想像してしまう、自分では無い奴と談笑するシズ、自分では無い奴と戯れているシズ、自分では無い奴とイチャコラしてるシ…

 

「イヤああああああああ!!」

 

マシンナーは絶叫しながら頭を抱えて空を仰ぐ。

その時ドアをノックする音が聞えた。

 

『マシンナー様、アルティマです』

 

アルティマの声を聞き、仕事モードに頭を切り替えたマシンナーはアルティマに入るよう促す。

 

「ん?アルティマか?入れ」

 

「失礼します、マシンナー様こちらの書類なのですがお目を通して頂けませんか?」

 

「わかった、えっと…」

 

書類を受け取り、中身を確認するマシンナー。しかしふとアルティマの視線に気付き声ををかける。

 

「……」

 

「なんだ?」

 

「いえ、その…体調の方は大丈夫でしょうか?」

 

「え?あー…」

 

その質問を聞き、何故自分を見ていたのかマシンナーはわかった。

先日、わずかな時間に自分がフリーズした事だ

 

(シズにチューされてフリーズしてましたなんて口が裂けても言えねぇよ色んな意味で…)

 

原因が原因なので頭を抑えるマシンナー、それでも心配かけさせまいと声を掛ける。

 

「あまり御無理はなさらないでください、マシンナー様が倒れたら…」

 

「大丈夫だ、すまぬな心配かけて…」

 

その時ドアをノックする音が聞えたので入るように促す。

 

「入れ」

 

昨日の事を思い出し、一瞬臆するがいつも通りの口調で声を掛けるマシンナー。

 

「ッ…シズ」

 

「……」

 

「あ、その酔いは大丈夫なのか…?」

 

「ん…職務…に……支障…無…し」

 

「そうか、なら良いんだが」

 

「ん…」

 

どうやら昨日の事は覚えていない事を悟り内心安堵するマシンナー、そして今日すべきことを思い出しアルティマとシズに指示を出す

 

 

 

冒険者ギルドの扉を開け受付嬢に話しかけるレイブン

その隣に一人の青年を連れていた。

 

「失礼する」

 

「あ、レイヴンさん。どうなさいましたか?」

 

「冒険者登録してほしい奴がいるんだ、ジロー」

 

マシンナーに促されると青年はフードを取り鋭い目をした銀髪の青年が前に出る。

 

「……」

 

「コイツを冒険者登録してほしい、黒鋼所属で頼む」

 

「わかりました、少々お待ちください」

 

そして暫くしてジローに冒険者のプレートが贈呈され、黒鋼に所属しているのも登録された。

組合を出てマシンナー扮するレイブンとジュド扮するレイブンはエ・ランテルの街に出ていた。

 

「どうした?」

 

「いや子供の頃昔冒険者になろうと思っていた時期があってな…」

 

街を懐かし気に見渡しながらかつて人間だった頃の事を話すジュド。

それを聞いたマシンナーは興味ありげに聞く。

 

「ほう?」

 

「まあ身体を機械にしてからはもう諦めてたがな…」

 

「なら昔の夢を叶えられたって事か?」

 

「そうだな…だが、今は研究所と奴を止めたいがな…」

 

「そうか…」

 

その後ジュドはマシンナーにある事を御願いする。

 

「少し回っても良いか?街の様子が見たい」

 

「わかった、迷うなよ?」

 

「子供か…」

 

マシンナーの軽口に突っ込みながらジュドはエ・ランテルを散策する事にした。

昔子供のころに養父に連れられてこの街に改台に来ていたのを思い出す。

 

「あまり変わってないな…エ・ランテルは」

 

「あっ!」

 

そう歩いてると不意に誰かとぶつかってしまい、前を見ると金髪の少女がぶつかって尻もちをついており、恐らく買い出しで買ってきた物を散乱させていた。

 

「悪い、大丈夫か?」

 

ジュドは少女に手を延ばして起き上がらせる。少女は魔術詠唱者が使う杖の様なものを握っており。服装もそれらしい格好だった。

 

「平気…そっちは?」

 

「生憎身体は頑丈でね…それより拾うのを手伝おう」

 

「ありがとう…」

 

ジュドは落ちたものを拾い少女に渡していく。

 

「ああ、走る時は気を付けろよ?」

 

「そこまで子供じゃない」

 

「む…悪かった…」

 

「…なら良い」

 

ありがとうと礼を言うと少女は足早に去っていった。

 

「もしこの身体になってなかったら俺はどんな冒険者になってたんだろうな…」

 

そう呟くがすぐに考えを切り替え、自分のやることについて改めて決意を固める。

暫く歩いた後マシンナーと合流をした。

 

(もう昔の事だ、今は養父さんの研究所を探し出さないと)

 

「おう、どうだった?」

 

「良くも悪くもあまり変わってないな王国は…」

 

「まあ相当腐敗してるらしいけどな」

 

「そうか…」

 

「そう言えば今のお前の冒険者の階級はアダマンタイト級だったか?」

 

「ああ、そうだ」

 

「冒険者になって半年も経ってないのにと言いたいが、お前の戦闘力なら納得だ」

 

「実際はそれより強いけどな」

 

少しドヤ顔をして言うマシンナーに溜息をするが、実際そうだから何とも言えない。

 

「全く…」

 

「近いうちに依頼が来るだろう、記念すべきお前のデビュー戦だ」

 

「楽しみにしておく、それよりだ…」

 

「ん?」

 

「本当はシズと来たかったんじゃないか?」

 

そう言った後マシンナーはジュドの頭を拳骨で小突く。

ジュドは頭を抑えながら苦悶の声を上げる。

 

「痛ってぇな…」

 

「変な事聞くんじゃねぇ!」

 

目を赤くし全身から煙を排出させながら凄むマシンナーに若干引きながらも講義をする。

 

「本気で殴るなよ…」

 

「心配するな、本気でやったらお前の頭潰してる」

 

「取り合えず帰るぞ、書類を済まさんとな」

 

「了解だ…」

 

その後マシンナーとジュドはエ・ランテルを出た後<転移門>でナザリックに戻り、マシンナーは書類整理に取り掛かるのであった。

 

「戻った~さて書類片すか…」

 

机に置かれた書類に目を通そうと手を延ばそうとしたが、扉からノックの音が聞えはいるように動かす。

扉から盆に緑茶と包みで隠された菓子を載せたシズが入室する。

 

「シズ…」

 

「休憩…お菓子…持って…来た…」

 

「そうか、悪いな」

 

「良い…」

 

盆の上に乗せられてる菓子の包みを開く。包みを開けるとどら焼きが入っていた。

 

「どら焼きか?」

 

「嫌い…だっ…た…?」

 

「嫌いじゃねぇよ、それにシズが選んできてくれたんだ。ありがとう」

 

「ん…」

 

マシンナーは茶を一口付けた後、どら焼きを齧る。不意に昨日の事を思い出しシズをちらりと見る。

 

「……」

 

「?…な…に…?」

 

「あ、いやなんでもない(普通聞けねぇよ…)」

 

しかし、このままにするわけにも行かないので思い切ってシズに聞いてみる事にした。

 

「その…シズ、昨日の事なんだが…」

 

「…昨日…!」

 

一瞬首を傾げるが、即座に昨晩の事を思い出しマシンナーに頭を下げる。

 

「その…『ごめ…ん……なさ…い…』え?」

 

「酔って…寝ちゃっ……た…迷惑…マシンナー様に…かけ…た…」

 

予想外の反応にマシンナーは少し焦りながらもシズに気にしてない事を伝える。

それと同時に昨日の事を覚えてない事に若干複雑な思いをしながらも安堵していた。

 

「え?いや全く気にしてないぞ、心配するな」

 

「ん…」

 

「ああ、そうだ。どら焼き半分こして食わんか?」

 

「…良い…の…?」

 

「ああ、ナイフは…」

 

マシンナーはナイフを探そうとするが、シズは袖からナイフを出して切り分けた。

それをマシンナーに手渡す。

 

「ん…」

 

「ありがとう、じゃあ」

 

「「いただきます」」

 

2人でどら焼きを齧り出す、中に入ってる粒あんの甘みが口いっぱいに広がった。

 

「久しぶりに食べたが美味いな」

 

「ん…美味…し…い」

 

お互いどら焼きを食した後、シズはマシンナーに質問をする。

 

「マシン…ナー様…甘いの……好…き…?」

 

「嫌いではないな」

 

シズは少し考えた後マシンナーに話しかける。

 

「…今度……私の…特製ドリンク…飲…む…?」

 

「確かいつも飲んでる奴か…?興味あるな」

 

「!……今度…持ってく…る…」

 

その言葉を聞いてマシンナーは一瞬キョトンとするがすぐにマシンナーは答える。

 

「そうか、楽しみにしてる」

 

「ん…」

 

シズはいつも通り答えるが内心ガッツポーズをし、マシンナーは内心大喜びした。

 

 

 

 

 

 

数日後組合いに呼ばれ、レイヴン達は組合長の部屋に呼ばれ事の詳細を聞く。

 

「謎の…集団ですか?」

 

「ああ、ここ最近目撃されててね?何度か冒険者を派遣したのだが…」

 

組合長が言うにはその付近で往来している行商人から怪しい影を目撃したとの報告が多数寄せられてきたので調査として多数の冒険者を送ったのだが、結果は全員未帰還であり組合長は例の改造人間の事を思い出し、万が一の場合に備えてかつて改造人間の集団を撃破したレイブン達黒鋼に依頼をしたのだ。

 

「それで我々に…?」

 

「ああ、もしかしたら例の奴等かもしれない。そこでレイブン達に調査を依頼したんだ」

 

モモン達にも依頼しようとしたのだがモモン達は帝国に先約があり来られなかったらしい。

それもあり、レイブン達が依頼を引き受けたのとてもありがたかった。

 

「わかりました、準備の完了次第向かいます」

 

 

 

 

 

鬱蒼とした森の中、フードを被った数名の者達が集まり会話をしている。

フードの者の一人が中から目を赤くさせながら問いかける。

 

『…見つけた…か…?』

 

『いや…』

 

『……』

 

その時奥からもう一人フードを被った者が現れ口を開き報告する。

 

『反応…してる…』

 

そう言うとその者は懐から液晶の付いた小さな機械のような物を取り出す。

液晶からは赤い光が場所を示すように点滅していた。

 

『…強い』

 

そう言うとフードの者達はその点滅している箇所に飛ぶように移動し始める。

 

 

 

 

組合長に依頼されて1日後に問題の森で調査をするレイブン達だが中々反応や手がかりの様なものは見つからずにいた。

 

「ジナ、何か反応したか?」

 

「いえ、コチラには何も」

 

「こっちも無い」

 

「私…も…」

 

「めぼしいのはありやせんぜ」

 

レイブンはドローンを飛ばして捜索範囲を広げるかと考えていた時、ジローが何かを見つけピンセットで掴む。

 

「ん?」

 

「どうしたジロー?」

 

「…肉片だ」

 

「肉片?獣のか?」

 

ジローがその肉片を解析する。一分にも満たない間に解析を終えてレイヴンに報告する。

 

「いや…精巧に作られているがこれは人工的に作られている」

 

「何?という事は…」

 

「レイヴン様…例の…」

 

「可能性は高いな…ん?」

 

その後レイブンはドローンを幾つか飛ばし違う場所に探索に向かう、しかし探索している途中に倒れている人間がいるのを見つける。

 

「おい、大丈夫か?」

 

ジュドがその人物に駆け寄る。見た所服装は神官の様な格好をしており冒険者かと思ったが、冒険者を示すプレートが見当たらない。

 

「う…ウゥ…」

 

「…こりゃ酷いな、ポーションを」

 

レイブンの指示でジナがポーションを渡し、レイブンはそれを飲ませた。

神官はある程度回復したのか途切れ途切れになりながら喋る。

 

「ぐ!、ハァ…はぁ…貴方達は?」

 

「冒険者チームの『黒鋼』だ、神官みたいな格好してるけどあんた誰だ?」

 

「私は「フォーサイト」というワーカーのチームに所属しているロバーデイクというものです。助けていただきありがとうございます…」

 

「(冒険者のプレートが無いから薄々感じていたが当たりか)ワーカー?何でこんな所に?」

 

「多分…あなた方と同じ目的かと思います、ここら辺で不可解な事が起こってるのでその調査に…」

 

通常ワーカーはあまり信用されないが、そんな彼らにまで依頼をしたという事は王国と同じような事態になったからだろうとマシンナーは考えた。

 

「(やれやれ…人材不足はどの世界でも必定なんだな…)他の奴らは?生き残ってるのはアンタだけか?」

 

「いえ仲間が3人、やられてはいないと思いますが…」

 

「…取り合えず森の麓まで連れて行く、もしも仲間を見つけたらアンタの事話しておくよ」

 

「ありがとう…ございます、どうか…仲間を…」

 

そう言うと気を失う。レイブンは内心面倒事が増えたと溜息を付くが放ってもおけず抱えて麓まで連れていく事にした。

 

「……とっとと連れて行くか」

 

 

 

 

その後レイブン&マグノリア、ジナ&イアイ&ジローに分けて探索をする事にした。

森の中を探索するレイブンとマグノリアだが今の所反応はない。

 

「さてと…シズ、何か反応あるか?」

 

「…反応…無し…」

 

「フム…」

 

それから暫く歩いてると、マグノリアが立ち止まり、レイブンに報告する。

 

「生…命…反応…あり」

 

「何?」

 

マグノリアが指示した方角に歩いてみると、そこにワーカーと思われる2人がおりエルフと思われる女性が男を介抱していた。

 

「(さっきのワーカーの仲間か?)おい、そこのエルフの姉ちゃん。何してる?」

 

「!?」

 

すると声を聞き、驚いたのか振り返り弓を構える。

レイブンは両手を上げて敵意が無い事を示す。

 

「あ~待った待った!敵じゃねぇ、冒険者だ!ほらプレートあるだろ?」

 

「…アダマンタイト級!?」

 

「プレートが無いけど、フォーサイトっていうワーカーか?」

 

「なんで知って…」

 

警戒する様にレイブン達を見るがレイブンは警戒を解くために理由を話す。

 

「ロバーデイクって奴を偶々見つけてな、治療して麓まで送った。ポーション渡すから相棒にそれ飲ませて下りろ、ここは危険だ」

 

理由を聞いて仲間が無事なのを確認した安堵する。

レイブンはポーションを渡して2人に森から出るように伝えたが拒否される。

 

「ま、待って!もう一人…アルシェがいるのよ!なんとか見つけないと…」

 

「もう一人?ったく…救助で来た訳じゃねぇってのに…」

 

厄介事が増えて頭を掻いてるとマグノリアがレイブンに話しかける。

 

「レイブン…」

 

「どうした?」

 

「何かが接近してる…」

 

「何…?」

 

そう言うと大きな地響き共に木々をなぎ倒しながらそれは現れた…。

 

「なんだありゃあ…?」

 

15mはあるであろう巨体、灰色の皮膚に筋肉質で強靭な四肢、顔には口や鬼の角の様に隆起している部分があるが目と呼べる部分は無い。しかしレイブン達を認識したのか大きく雄叫びを上げた。

 

「…雄おおオオオオおおおお!!」

 

「気持ち……悪…い…」

 

「同感だ」

 

先陣を切るようにマグノリアがクロスボウから爆破能力のある矢を巨人の顔に向けて射出するが巨人は防御する事もなく顔に矢が刺さり爆発する。

 

「ん?」

 

しかし煙が晴れると爆破した部分に金属の光沢が見えていた。さらに爆破した箇所の皮膚が徐々に再生していき完治していく。

 

「皮膚の下に金属だと?まさかあの化け物…」

 

そう言ってる最中に巨人はその剛腕をレイブン達に振り下ろす。

 

「ちっ!兎に角ぶちのめすしかねぇか!!」

 

剛腕を躱しレイブンは斬艦刀を抜いて巨人にその刃を叩き込む。

 

 

 

 

一方、レイブン達と別行動で探索しているジナイーダ達…。

 

「何も見つからないねぇ…」

 

「ああ…」

 

「ふぅ~…ん?」

 

イアイが立ち上がり、臭いを嗅ぎながら周囲を見渡す。

そして近くに人間がいる事を伝えた。

 

「どうしたの?」

 

「人間の臭いがする、血の匂いや」

 

「何?」

 

「イアイ、案内頼むよ」

 

「あいあい」

 

そう言うとイアイは臭いのする方角に進みだす。

暫く歩いてると血を流しながら倒れている少女の姿があった。

 

「アレは…」

 

ジローはその少女を見て驚く、それは昨日街でぶつかった少女だった。

ジローはすぐに駆け寄る。

 

「おい、しっかりしろ!!」

 

ジローの声を聞いて少女はうっすらと目を開ける。

 

「貴方…昨日の…」

 

「あん?知り合いかよ?」

 

「昨日初めて会った。ポーションだ、気分がよくなる…」

 

ジローは少女にポーションを飲ませようとしたが、少女はそれを制し警告する。

 

「駄目…逃げて…彼奴等が来る…」

 

「彼奴等?」

 

するとイアイガ立ち上がり威嚇する様に唸り声を上げる。

 

「兄ぃ、この前の奴と同じ匂いの奴が結構な数で来とる…」

 

イアイの言うとおり、茂みの奥から複数の足音が聞こえてきていた。

恐らく、この少女に危害を加えた者達だろう。

 

「ヤレヤレ…ジロー」

 

「わかった…」

 

ジナイーダの言葉を聞いたジローは少女を守るように立ち、拳を構える。

ジナイーダは太刀を構え、イアイは両腕を大きく広げた。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

そして黒衣を来た者たちが10人現れ、それぞれ武器を構えている。

 

「来たな…」

 

「10人位はいそうだね」

 

「合体する前にねじ伏せるとしましょうや…」

 

そして黒衣の者達が一斉に襲い掛かる…。

 

 



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第65話 謎の兵器

お待たせして申し訳ございません。リアルで色々と忙しく更新できませんでした(;´Д`)
あまり良い内容ではございませんがどうかお目通しいただければ幸いです。


巨人はその剛腕をレイヴンに向けて勢いよく振り下ろす

 

「あぶな!うらぁ!!」

 

レイブンはそれを回避して後方に下がって巨人を解析し始める。

 

「…!!これは…」

 

生々しい外見をした巨人の内部には人工筋肉と配線、電子機器が内蔵されてるのを確認するレイブンはこの間の改造人間と同じような存在だと確信した。

 

(体内に動力炉!!この配列…まさか…!!)

 

巨人は足を上げてレイヴンを踏み潰そうとする

 

「(考えるのは後か)やれやれでっけぇなクソ!」

 

脚による踏み付けを回避して右足首に斬艦刀で切りかかる。

 

 

「マグノリア、ワーカーの二人を避難させとけ!!」

 

「…了…解…」

 

指示を聞いたシズは二人を抱えて森の奥に入って行く。

巨人は左足で蹴り上げようとする

 

「さてと…ぶった切るとしますか…」

 

「GRAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

レイブンは回避をして右ひざに向けて先程よりも勢いのある剣戟を叩き込む。

 

「チェストぉ!!」

 

そのまま右膝から下を断ち切り巨人は転倒する。

倒れた巨人は切られた自分の脚を持ち切られた個所にくっつけると、徐々に修復していき完全に繋がった。

 

「!!」

 

「マジか…」

 

巨人は力任せに腕を豪快に振るいレイヴンに叩きつけ大きく吹っ飛ばす。

木々を壊しながら吹っ飛ばされたレイヴンは立ち上がり巨人に向かって走り出す。

 

「いってぇ…」

 

「たく…しょうがねぇちょっと力入れますか!!光熱化!!」

 

 

 

『!?』

 

「焼き潰しちまえば問題ねぇだろ?」

 

『GRAAAAAAAAAAAA!!』

 

「うォオオおお!!」

 

『GOAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

「じゃあ…そこで…隠れて…て……」

 

「わ、わかったわ…」

 

「…ん」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

「ん…?」

 

「助けてくれてありがとう…」

 

「……ん」

 

マグノリアはそのままレイヴンの所に向かう。

レイブンの元に向かうとクロスボウの矢を爆発のスキルを付与した矢を装填し狙いを定め発射する。

 

「目標捕捉…発射」

 

「ん?」

 

シズの放った矢は頭部に命中し爆発するが巨人の表皮を吹き飛ばし金属の骨格が露出していた。

 

『GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

表皮を再生させながら今度はシズに拳を振り下ろすが難なく回避される。マグノリアはそのままレイヴンの元に向かう。

 

「シズ…」

 

「状…況……」

 

「巨体とパワーは厄介だがそれだけ…」

 

『GAAA…』

 

「what?」

 

「…!!」

 

巨人の両肩から粒子砲と思わしき砲塔がせり出しチャージし始めそしてそのまま二人に向かって蓄積されたエネルギーを発射する。レイヴン達は回避するが着弾した地点は木々を大きく吹っ飛ばしクレーターを作っていた。

 

「MPを利用して放つ攻撃じゃねぇ…陽電子砲かよ…」

 

(やはりこれはジュドの親父さんの技術を利用した物か?鹵獲しようにも恐らく自爆装置は付いてるだろうし…)

 

レイヴンはマグノリア…シズに狙撃の指示を出す。指示を聞いたシズはクロスボウからいつも使用している魔銃に変えすぐさま狙撃ポイントを探しに行動を始める

 

「…シズ、動力部を狙撃できるか?」

 

「……やって…み…る…」

 

「時間を稼ぐ、頼むぞ。アレを何とかして鹵獲したい」

 

「了…解…」

 

 

 

 

一方改造人間の部隊に遭遇したジナイーダもといアルティマ達も戦闘を繰り広げていた。

アルシェはジュドが抱えて回避した時に麻酔を撃ち込んだため眠っている。一体の改造人間がアルティマに襲い掛かる。

 

「よっと!」

 

それを軽々とかわし、太刀を抜いて改造人間の動力部を刺し貫く。刺し貫かれた改造人間は少々震えた後がくりと崩れ落ちた。

 

「動力部を付いたのか…」

 

「まあね、これなら爆発しないでしょ?」

 

「ああ…」

 

イアイも改造人間の身体を力で圧壊させたり胴体を嚙み潰したりして破壊していく。

 

「だぁりゃあ!!」

 

「新しく修得した武技見せたるわい!!」

 

突っ込んでくる改造人間達に身体を捩じる様に構えて迎え撃つ。そして体をドリルの如く回転させながら突っ込み改造人間達の身体をバラバラに粉砕していった。

 

「〈旋風〉!!」

 

着地して意気揚々としてるイアイ、イアイの武技を見たジュドはその姿に感嘆する。

 

(魔獣でも武技を覚えられるんだな…)

 

仲間が撃破されるのを見た残りの改造人間達は目を一斉に光らせる。

 

「……これ以上は作戦に支障きたす」

 

「合体を推奨…」

 

そしてスクラムを組むように集まりガチャガチャと合体していき巨大な合体形態となった…

 

「「「合体」」」

 

「またか!?」

 

「ッ…!」

 

「面倒なのが来た…」

 

アルティマが毒づいてると合体改造人間は左腕を変形させて巨大なガトリング砲にして狙いを定める。

 

『……左腕部展開』

 

「全員回避!!」

 

アルティマの言葉の後に左腕のガトリングが高速で回転し錐状の弾丸が連続発射される。

全員が急いで(ジュドはアルシェを抱えて)散開しながら距離を取っていく。

 

「ひぃええええええええええええええ!!」

 

「!!」

 

「やれやれ…当たってもそんなに問題ないけど鬱陶しいなぁ…」

 

木の裏に隠れながらどう排除しようかとアルティマが考えているとジュドがアルシェを木の麓に置き立ち上がって合体改造人間の前に出る。

 

「…」

 

「ジロー?」

 

「俺に任せろ」

 

「何か策があるんか?」

 

「じゃないと言わん、〈メタルクラスタ〉起動…」

 

すると周囲から無数の金属の飛蝗の様な物体がジュドの周囲に飛び回り始まる。その数は徐々に多くなって行きさしずめ蝗害の様だった。

 

「……」

 

「な、なんじゃいありゃ…」

 

「…行け」

 

そしてジュドが指示を出すと金属の飛蝗の群は合体改造人間の巨体に群がって行き纏わり始める。

すると合体改造人間からガリガリと齧るような音が聞えてきた。

 

『………!!……!?』

 

合体改造人間は次第にもがき苦しみ、のたうち回り始める。

イアイはその光景に唖然としアルティマは解析を始めた。

 

「何が起こってるんだ…」

 

(機体の内部からさっきの金属が侵食している?しかも動力源や内部の制御系だけをピンポイントに破壊しつくしてる…!!)

 

「出ろ」

 

ジュドの指示の後金属の飛蝗達は合体改造人間の腹を食い破って一斉に出てくる。

合体改造人間は僅かに痙攣した後動かなくなった。

 

『‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼』

 

「マジか…」

 

「…それが君の能力?」

 

「ああ、ナノマシンを様々な用途に使える、父さんがこの能力を搭載してくれた」

 

「それで100年以上君の身体が維持されてた理由って訳か…」

 

「その通りだ…さて、コイツを調べるか」

 

ジュド達は合体改造人間に近づき、合体改造人間を解体、解剖し始めた。

 

 

 

「オラぁ!!」

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

斬艦刀で右腕の指を切り飛ばすが切り飛ばされた巨人はそれをものともせず背部からミサイルの様な飛翔体を射出する。レイヴンは斬艦刀を盾代わりにしてそれを防ぎ斬艦刀を持って切りかかる

 

「どうした来いよ、ノロマ!!」

 

「GROOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「とぉ!!」

 

「GUUUUUUU!!」

 

巨人の頭に斬艦刀を叩き込むが頭部は一際頑丈なのか頭部に刃が少しめり込むだけだった。

 

「たく…リミッターかけてるとは言え頑丈だな」

 

力任せに斬艦刀を引き抜き地上に着地し再び斬艦刀を構えるレイブン。

 

(こいつはどんな技術使ってんだ?やっぱり何としてでも鹵獲しねぇと…)

 

この世界の独自の改造人間に興味を持つマシンナーにとって目の前の相手は興味深い相手だった。

そこにシズの<伝言>が届く。そしてレイヴンに狙撃準備が完了したことを伝えた。

 

『マシンナー…様…』

 

「シズか…!」

 

『狙撃地点に…付い…た…』

 

「わかった、頼む!!」

 

『了…解……』

 

シズはクロスボウから対物ライフル型の武器に持ち替え。スコープを覗き巨人に狙いを定める。

 

「……発射」

 

そしてトリガーを引き、巨人の頭部に狙撃をする。

 

「!!」

 

弾は命中しシズは続けざまにもう一射する。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

すると巨人は頭部を抑えて苦しみだし頭を抑えて暫く暴れまわるが、不意に前のめりに倒れる

 

「おっと…」

 

「……」

 

「EMP弾で動力部を機能停止させてるな?よし切り開くか…」

 

斬艦刀を突き刺し、腹を徐々に引き裂いていく。そのまま腹を開く。中を覗いてみるとマシンナーの予想していた通り、CPUや電子機器等の部品が確認できた

 

「でけぇ動力源だな後でどんな構造になってるんだ?おっと…今は配線を切らねぇと…」

 

「構造は思ってたよりシンプルだな…まあ簡単な方が手っ取り早いから良いが…」

 

「マシンナー…様……」

 

「シズか、ご苦労だったな」

 

「ん…」

 

「さてとこいつは後で回収しねぇとな。アルティマ達にも伝えねぇと…」

 

その頃アルティマ達は無力化した合体改造人間を調べていた。アルティマが腹部を切り開きジュドが手をいれ、改造人間の部品を幾つか取り出し凝視する。暫く経ってジュドは喋り始めた。

 

 

「何かわかった?」

 

「ああ、やっぱりこれは父さんの技術が使われている。だが研究所にある素材では外にはないものがあるから恐らく似たような物で代用したんだろうな…それにしても何で最初から完全な機械じゃなくて改造させてあるんだ?そっちの方が生産性が良いだろうに…」

 

「何らかの理由があるんじゃない?それより脳味噌があるって事は中に遠隔操作用の仕掛けがあるの?」

 

「ああ、これだな」

 

そういうとジュドは改造人間の脳髄に指を突っ込み少々指で弄った後指を引き抜くと小型のチップが指に挟まれていた。

 

「ウェぇ…よく手ぇ突っ込めるのぉ?」

 

「簡易的な制御チップだな、恐らく命令を与えて動かす事しかできない」

 

「只の動く木偶人形って事か…指令とかわかる?」

 

ジュドは腕にそのチップを入れ、情報の解析を始める。そしてチップに組み込まれた指令を解析し終えアルティマ達に伝えた。

 

「ちょっと待て…『目標の捕獲、目標死の機械』…死の機械?知ってるか?」

 

「いや、わからないな。何かのコードネーム?」

 

「この森を探してたという事はそれがある、もしくは手がかりがあるのだろうな…」

 

「とりあえずマシンナー様に報告して…」

 

「…ん?」

 

唐突にイアイが立ち上がり周囲の臭いを嗅ぎ始める。何かあったのか察したのかアルティマはイアイに話しかける。

 

「どうしたのイアイ?」

 

「いや…なんか僅かにこっち来るような振動と油の様な臭いが…」

 

「何?」

 

すると奥で一瞬閃光がでて何かが射出されるような音と煙が上がり何か複数の物体が上空に上がる。

 

「何だ…!?」

 

アルティマが上空の飛翔体を解析するとそれを見て驚愕する。

 

「!?ミサイル!?」

 

複数飛んできたミサイルを即座にアルティマ達は回避行動をとる。ミサイルは地面に着弾し周囲に煙が上がる。

 

「うォ!!」

 

「…!!」

 

そして煙が晴れると同時にミサイルの発射した主がアルティマ達の目の前に勢いよく降下した。

 

「なんだ!?…!?」

 

目の前に現れたのは1体の機械系異形種…巨大な黒いボディに所々赤いラインが入っており、そのボディには数多くの銃火器が装備されていた。下半身は八本の脚部で動いておりズシン、ズシンとアルティマ達に近づきアームが射出されイアイを拘束する。

 

「ぐおお!…なんやコイツビクともせぇへん!!化け物か!!」

 

拘束を強引に振りほどこうとしたが、アームの拘束がイアイの力を超えているのかビクともしていない

そして黒い機械系異形種はアームの射出口から棘付きのローラーがせり出す。

 

『Lv30の魔獣…捕食可能、エネルギー変換開始』

 

「ハァ!?」

 

「マズいイアイが食べられる!!」

 

「何?彼奴は機械だろう?」

 

「アレは生物的エネルギーで稼働するんだよ!!」

 

「何!?」

 

「離しやがれぇ!!《鎌居太刀》!!」

 

得意の武技である《鎌居太刀》を射出口に叩き込む。《鎌居太刀》の威力に怯み僅かに拘束の力が弱まるとイアイは急いで脱出をした。

 

『……!?』

 

「いてて…クソったれ。驚かせただけ…!?」

 

イアイが良い終える前に黒い機械系異形種は機関銃をイアイ達に発射する

 

「やべぇ!!」

 

それをイアイ達は回避して戦闘態勢に入った。

 

 

 

 

 

一方のマシンナーとシズの前にも同様の相手が現れ対峙していた。

 

《……》

 

「マジかよ…死の歩行機械だと?」

 

(あれは確かイベント専用のモンスターだったよな?何でここに…)

 

驚くマシンナーが目の前の相手を観察してると死の歩行機械はマシンナー達が無力化した大型の改造人間に近づく

 

《…》

 

「何やってんだ?…待てよ、確か彼奴の設定でエネルギーは確か生体…」

 

すると死の歩行機械は上半身から巨大な口の様な物を展開して改造人間を捕食しはじめる。10mあろう改造人間をガツガツと咀嚼しながら呑み込み始める。

 

「捕食しやがった!まだ詳しく調べてねぇんだぞ!!」

 

そして捕食し終えるとマシンナー達の方を向き武装を展開し攻撃対象に設定し始める。

 

《エネルギー補給完了、これより敵対者を破壊する》

 

「チっ!!さっきのよりも厄介なのが来やがった!!」

 

再び数発のミサイルをマシンナー達に発射する。マシンナーも《シュバルツカノーネ》を出してミサイルを迎撃する

 

「シズ、コイツを手早く片づけるぞ!ジャガーノートの使用を許可する!!」

 

「了…解…」

 

マシンナーの命令に頷き、すぐさまジャガーノートを起動させて装備する。死の歩行機械はそのまま二人に襲い掛かった

 

 

 

 




・謎の機械系異形種

改造人間達が探していた機械系異形種。全身を武器で固めており攻撃力が高く重装甲により防御力も高い。機械系異形種では珍しく動物性たんぱく質や自然物をエネルギー源にしている


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第66話 鋼の魔神

1年以上も更新お待たせして申し訳ありません!!拙い箇所もある駄文ですがどうぞよろしくお願いいたします!!


『破壊…破壊…』

 

「チっ、見境なしか!!」

 

全身の機銃や滑空砲を滅茶苦茶に撃ちながらマシンナーとシズに突っ込んで行く。

堅牢な装甲で固められた重厚な外見に反して意外な俊敏さを見せていた。

 

「……」

 

「…意外と…速…い……!」

 

「そいつは見かけの割に速い、動きを封じて止めるぞ…!」

 

「了…解…」

 

 

 

 

「イアイ、その娘を連れて遠くへ逃げて!!」

 

「えぇ!?けどよぉ!?」

 

「この中で一番君がLvが低い!真っ先にやられる、無駄死になんてしたくないでしょ?」

 

渋るイアイにキツイ言葉を浴びせながらも避難を促すアルティマにイアイは渋々承知してアルシェを加えて急いで逃げていく。

 

「ッ…!!わかったわい…」

 

「逃げたか…だがこれで憂いなくやれる!!」

 

「うん、じゃあとっとと潰そう!!」

 

そう言ってる間にも《死の歩行機械(デスウォーカー)》は攻撃を叩き込んでくる、ジュドはナノマシンで壁を作りアルティマに攻撃する様に指示を出す

 

「チっ!おい防いでやるから突っ込め!!」

 

「言われなくても!」

 

上空に飛び上がり《死の歩行機械》に取りつき武装を破壊していき、巨大なに解体道具の様に変形させた右腕を赤熱化させて《死の歩行機械》に叩き込む。

 

炎斬爪(ブレイズスラッシュクロウ)!!」

 

『!?』

 

爪が装甲にめり込み、赤熱化させて装甲を溶解させながら貫こうとするが《死の歩行機械》は小型のサブアームを展開してアルティマを握りつぶそうとする。

 

「このままメインAIを貫いて…!!」

 

『……』

 

死の歩行機械(デスウォーカー)》は残った機銃をアルティマに向けて発射しようと動くのを見てアルティマは《死の歩行機械(デスウォーカー)》から飛び降りた。

 

「おっと!!」

 

「クソ…硬いなコイツ!!」

 

「……おい、お前たちの世界の機械かあれは?」

 

「ちょっと待って…あった『死の歩行機械』」

 

「……通常の機械系異形種で結構特殊な奴だって事はわかった」

 

「倒せるのか?」

 

「体力と耐久力が厄介だけど問題ないよ。倒せるけど武器の多さが面倒だね」

 

「なら俺のメタルクラスタで封じよう、タイミングを合わせろよ?」

 

「言われなくても!!」

ジュドはメタルクラスタを起動させアルティマが接近する。

 

 

 

 

ジャガーノートMK-Ⅱの両腕から機銃を展開し《死の歩行機械》に発射するが、機銃の弾丸の雨を喰らっても《死の歩行機械》はものともせずロケット弾を発射する。

 

「耐久力…予想……以上…」

 

シズはジャガーノートMk-Ⅱからシールドを装備したサブアームを展開してロケット弾を防ぐ、マシンナーはシズに指示を出す。

 

「こいつらは耐久力だけならそのlv以上だ、比較的脆い部分に攻撃をしかけるぞ…」

 

「了…解…」

 

マシンナーは銃撃や砲撃等を受けながら猛然と接近し斬艦刀で一本の前脚を切り飛ばす。

 

「目標捕捉……発…射…!」

 

それを援護する様にシズはジャガーノートMK-Ⅱから大型対物ライフルを取り出し、《死の歩行機械》の砲塔の一つを狙撃して砲塔を暴発させる

 

『……!!』

 

「利いてる…」

 

「いや、まだだ」

 

『損傷…危険域…コード37564…虐殺モードに切り替え…標的を排除…』

 

そして《死の歩行機械》は全身から銃器を展開して当たり構わず銃火器を乱射し始める。

 

「あれは…?」

 

「虐殺モードって言う彼奴の特殊形態だ、結構面倒くせぇ…」

 

「成…程……」

 

(只破壊するなら簡単だが、アレには知りたいことがある。どうにか上半身だけは極力無傷で済ませたい…)

 

「シズ、ジャガーノートの主砲で脚部を破壊してくれ。その後奴を横に真っ二つにする」

 

「了…解…」

シズはジャガーノートの砲塔に選択した砲弾を装填させ、狙撃用のバイザーを下ろし昇順の補正を始める。

 

「……弾種、徹甲弾装填…目標捕捉…発射!!」

 

勢いよく発射された徹甲弾は〈死の歩行機械〉の脚部の半分を消し飛ばし〈死の歩行機械を〉転倒させる、マシンナーはそれを見逃さずに格闘形態に変形し始める。

 

『脚部、半数以上の破壊…戦闘に支障あり…』

 

「よくやった!後は任せろ!!モードアスラ!!」

 

近接格闘用の形態に変形したマシンナーは両腕を合わせ光の剣を形成し《死の歩行機械》の上半身と下半身を接続してる軸を切り裂く

 

「《炎神・阿修羅斬(エンジン・アスラスラッシュ)》!!」

 

「これで終わりだ…!!」

 

『……損…9…%……戦…………能』

 

そしてズシンと《死の歩行機械(デスウォーカー)》は崩れ落ちた。

 

「機…能の……停止を…確認…」

 

「あぁ…じゃあこいつの中枢を調べるか、知りたいことがある」

 

 

 

 

「行け!!」

 

メタルクラスタを起動させ全身から銀色の飛蝗を出現させ《死の歩行機械》の全身に食らいつき始める。

始めは全身の火器で迎撃し始めたが徐々に小さい亀裂から侵入し始める

 

『内部異常発生…損傷…拡…大…』

 

「今だ!!」

 

ジュドの言葉の後にアルティマが《死の歩行機械》に取りつき巨大化した右手をかざし自身の兵装を展開し、《死の歩行機械》に叩き込む。

 

「!!弾けろ!!屑鉄め!!」

 

内部に展開した輻射波動装置により徐々に機体が膨張し始めついには爆発した。

 

『!!?』

 

「……砕けたか」

 

ジュドとアルティマが会話をしているとアルティマへマシンナーからの《メッセージ》が入りマシンナーの下にも《死の歩行機械》が現れたことを知る。

 

「まぁね…それにしてもやっちゃったな…データ回収できそうにないなこれ…マシンナー様?」

 

《アルティマ、ちょっと来てくれないか?ちょっと見てもらいたいのがあるんだが…》

 

「実はこちらもなんです、死の歩行機械が現れて…」

 

「何?そっちにもか?」

 

「そっちにもって…まさか」

 

「あぁ…こっちにも現れた」

 

「ッ…マシンナー様、これから如何いたしますか?」

 

「一度集まった方が良いが残骸を回収せねばならんな…」

 

「了解しましたではその後に落ちあいましょうか?」

 

「ああ、その方が良い…回収した後指定した座標に落ち合うぞ」

 

「了解しました」

 

「さて…ここら辺は誰もいないとは言え、早く済ませないとね…」

 

アルティマは手早く残骸を回収しマシンナーが送ってきた座標に向かっていった。

 

 

 

 

暫く経った後、マシンナーとシズ達の前にアルティマたちが現れ合流を果たす。

マシンナーはイアイが咥えていた少女を見やり質問をする。

 

「マシ…レイヴンさん!!」

 

「おお、来たか…ってなんだそいつ?」

 

「うぃ…何か森を散策してたら見つけまして…」

 

「そういえば、さっき助けた奴らも仲間を探してるって聞いたな、もしかしてそいつかもな…そう言えばお前等本来の力で戦ったらしいが見られてないだろうな?」

 

「はい、この娘も気絶してましたしその後イアイに運ばせました」

 

「そうか…」

 

マシンナーは少し考えこんだ後、アルティマたちに指示を出す。マシンナーの指示を聞いた後アルティマは改造人間のAIを回収したことをマシンナーに伝える。

 

「取り合えずそいつをさっき助けた連中に届けるか。その後ギルドに戻ってナザリックに帰還だ」

 

「その方が良いですね」

 

「ん…」

 

「あ、それと例の改造人間達のメインAIを回収しました、あまり高性能な物では無いですが…」

 

「何?本当か?」

 

「ああ、これだ」

 

「成程…簡易的だがこの世界の文明レベルを考えると充分オーパーツだよくやった、後で解析しよう。じゃあこの娘を彼らに渡すか」

 

 

 

 

 

 

その後森を抜けアルシェと呼ばれた娘を抱えながら先程出会ったフォーサイトの面々に渡す。

 

「アルシェ!?」

 

「ああ、良かった…!!」

 

「仲間を助けて下さり本当にありがとうございます!!」

 

その後フォーサイトを麓の町まで送り届けた後マシンナー達はナザリックに帰還をした。

 

 

 

 

「で?持って帰って来たのが…」

 

「ええ、コイツです…」

 

円卓の前に並べた死の歩行機械のパーツを見てアインズは顎に手を添えてすぐにこのパーツが何なのかを見抜いた。

 

「《死の歩行機械(デスウォーカー)》…確かこいつは」

 

「えぇ…期間限定のイベントでしか出なかった奴です」

 

「そうなると…こいつらの親玉は…」

 

それを聞いたマシンナーは少し顔を顰めてその相手を言う…

 

「《鋼の魔神(フルメタル・マシンロード)》…!!」

 

「最悪だ!!まさかボスまで転移してるなんて…!!」

 

アインズはそれを聞いて頭を抱える。《鋼の魔神》は期間限定のイベントに登場した最終ボスであり当時このボスには手を焼かされた記憶があったのだ。

 

「…ですがまだ休眠状態らしいんです、調べてみるとこいつらが受けてた指令はエネルギーの確保でした」

 

「完全復活はしてないという事か、ですが時間の問題でしょうね。こちらから探知できますか?」

 

「今死の歩行機械のAIを解析しています、それで連中の指令の発信源を突き止めます…」

 

マシンナーの意見を聞いてアインズはる程度持ち直したのか顔を上げてマシンナーに対策をどうするのか質問をする。

 

「わかりました、しかしどうやって破壊します?魔法等は使ってきませんがあの耐久力は凄まじいですよ?」

 

「あの防御力を下げて削り切るしかないですね、幸いゲームと違って人数制限はないわけですし…」

 

「確かに…作戦をしっかり立てれば充分勝てますね、しかしあの連中も狙ってたとは…」

 

「恐ろしい事考えますよね…制御できるかもわからないのに…」

 

「制御か…ん?待てよ…?」

 

「?どうしたんですか?」

 

会話の途中にアインズが何か思いついたような顔をしたのでマシンナーが話しかける。

 

「ああ、いえ思い付いたんですがこの前法国から奪って来た『傾城傾国』ありましたよね?」

 

「えぇ、問答無用で支配下に置くって言う恐ろしい…ってモモンガさん、まさかとは思うすけど…」

 

「…効きますかね?ワールドエネミーに?」

 

アインズの提案を聞いて思わずマシンナーは目を見開きがアインズに問いかける。

 

「…本気で言ってんですか?」

 

「いやその…思いつきぐらいですけど…」

 

マシンナーは腕を組んで一人考え込む。確かに敵の脅威に確実に対処するにはあの世界級アイテムを使えば最低限の損害で済む確率はかなり高かったからだ。

 

「う~ん…イケますかね?」

 

「少なくとも…短時間は効くとは思います、根拠はないですが」

 

「その間に奴の中に入り込んで中枢回路を破壊する事が出来れば…」

 

「あくまでも思い付きです…他に方法を考えましょう」

 

「そうっすね、ここには俺達より頭良いの多いですし…」

 

その後今後についての打ち合わせを終えた後マシンナーは自室に戻って行った。

 

 

 

 

「とはいっても不安だ…」

 

自室に戻り、机に突っ伏し弱音を吐く…。

 

「《鋼の魔神(フルメタル・マシンロード)》がどれ位の強さなのかわからねぇけど現状の戦力でイケるか…」

 

他のギルドのメンバーがいるならまだ安心できるが今いるメンバーは自分とアインズだけなのだ、今のナザリックの戦力でも充分対処可能だが大きい不安があった。

 

(倒せるにしてもその分の犠牲は大きい…下手すりゃもっとひどい事になる…)

 

メンバー達や自分が創造したNPC、そしてシズの事が不意に頭によぎ、マシンナーは頭を振って無理やり忘れてようとする。

 

「あぁ!!駄目だ!一旦風呂にでも入ってすっきりしよう!!」

 

椅子から立ち上がり大浴場に向かった。

 

 

 

 

かぽーーん…と音が響く大浴場にマシンナーは一人風呂に浸かっていた…(因みに防錆対策はばっちりしてるのである)

 

「あぁ~五臓六腑に染み渡るぜ…嫌、内臓は無いけど…」

 

自虐を込めながらマシンナーは今までの整理を始める。

 

「はぁ~…連中が何探してたのか分かったがよりにもよって<鋼の魔神>とは彼奴等自殺志願者かよ全く…」

 

ユグドラシル時代に自分たちが手を焼いた限定ボスがこの世界に存在してる可能性が大きく出て謎の改造人間集団はそれを制御下に置こうとしようとしてるのだ、何が起こるかわからない状況に頭を抱えたくなる。

 

「しかも彼奴等他の改造人間も使っていた、アレは恐らくオーガの肉体をベースにしてるな…もしかしたら獣人や亜人をベースにした改造人間を作るかもな…全くまるでショッカーだぜ…そうなると余計侮れねぇな、死の歩行機械を操る術持ってたらかなりヤバい…」

 

「はぁ…」と溜息をつきマシンナーはなんとなく大浴場に置いてあるガーゴイルに視線を移す。

 

「こんな時どうすりゃいいかな?ガーゴイル君?」

 

「……」

 

しかしガーゴイルは話さない、大浴場の鉄の掟を無視した者を攻撃する時以外は動かないのだ。

 

「はぁ…」

 

 

 

 

「えっと…これはこうして…」

 

大浴場から出た後気分転換に書類整理を始める。マキナの優秀な面々が送られてくる書類の8割以上をやってくれるのでそこまで少なくない。

 

「よし、書類もひと段落終わったな…」

 

「……」

 

そういって俺は背もたれにもたれかかり天井を見上げる。そしてシズがこちらを見てる事に気付きシズに話しかける。

 

「どうした?」

 

「…疲れてる様に……見え…る…」

 

それを聞いて俺は「顔に出てたか…」と思い少し目を見開かせて頭を抑える。

 

「…敵わんなシズには」

 

それから少し考えた後俺はシズにあることを頼んだ。

 

「……少し独り言言って良いか?」

 

「ん……」

 

本当はこういうところ見せてはいけないのだけれど最近出来た問題の解決案の思案に少し疲れていたんだろう、気付いたらシズにそれらの事をペラペラと話してしまっていた。

 

「…悪いつまんねぇ話聞かせたな」

 

「…いいえ」

 

愚痴に付き合ってくれたシズに対する申し訳なさと愚痴をこぼしてしまった自分に自己嫌悪する…。

するとシズがそっと俺の手の甲に手を添える。

 

「ん?」

 

「マシン…ナー…様…私は…貴方よ…り…強く……無い…でも…話……位な…ら…何時でも…聞け…る…」

 

シズは俺の目を見ながら静かにだがはっきりと答えた。

 

「シズ…」

 

「だから…抱え……込まない…で……?」

 

そう話すシズの表情はどこか悲し気な表情をしているのを見て俺は立ち上がり肩に手を添えてシズに謝る。

 

「…悪い、この頃予想外の出来事あり過ぎて色々溜まってたんだろうな…」

 

少し俯いてしまった俺の顔にシズが手を添え、一瞬ドキリとしてしまった自分に軽く自己嫌悪に陥ってしまったがシズのエメラルドグリーン色の目を見る。

 

「私や…隊長達……イアイは……貴方の…味方……だから…背負いこまない…で……?」

 

「あぁ…」

 

俺は顔に添えられた手を優しく握り少し笑う、だがそれで気を思わず緩ませてしまったのだろう、俺はとんでもないことを言ってしまった。

 

「……ありがとう、やっぱりシズは俺の女神だ…」

 

「え?」

 

アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!ついとんでもない事を言っちゃったよ!?つい気が緩んじまって油断してしまった!この距離で言い逃れなんてできるわけもない!ヤバイどうしよう…!!

 

「ああああちが!!いや違くないけど!!じゃかったすまん!!変な意味で言ったんじゃないんだ!!気を悪くしたなら謝る!!」

 

焦りながら身振り手振り必死でなんとか弁明しようとする俺を見ながらシズはこう言った。

 

「…嫌じゃない…嘘でも…嬉…しい」

 

少し顔を赤くさせながらシズは目を逸らしてマフラーを口元にくいっと上げて答える。それを見た俺は理性がちょっと壊れてしまったのだろう、思わず好反応してしまった。

 

「嘘なんかじゃない!シズは可愛いしクールな所もあるし前に見た笑顔は女神と言っても良い可愛さって…あ!!」

 

しまった、やってしまったと俺は内心思いながらシズの方を見る。シズは視線を下げて俯いていた。

 

「…」

 

不味い…完全に怒らせたか!?

 

「あ、えっとシズ…?」

 

恐る恐る俺はシズに話しかけるが反応はない。その時俺は気付いてしまった、シズの頭から湯気が出ていたことを…。それを見た俺はシズがどういう状態か気づいた。

 

「アアアアアアアアアア!!シズをオーバーヒートさせちまった!!俺の馬鹿ぁ!!」

 

急いで俺は修理道具一式を持ってオーバーヒートの状態異常を回復させる、正常に戻ったシズはオーバーヒートの後遺症のせいか一連の出来事を忘れていた。俺は嬉しいやら悲しいやらな複雑な思いをしてしまったがシズが正常に戻った事にとりあえず安堵した。

 

 

 

 

「…」

 

マシンナーの執務室を出たシズは移動しながら物思いに浸る。

実は先程のやり取りをシズは覚えていた。

 

「…」

 

マシンナーのあの言葉を思い出し少し頬を紅くさせる。誰かに気づかれないようにマフラーを少し上に上げた。

 

(もしかして…マシンナー様は…)

 

「私を…?」と一瞬思ったがすぐに考えを改める。早合点はダメだ、自分が射止める相手はそう簡単には陥落できない要塞の様な御方なのだからと考えるが実際は木綿豆腐並みの耐久力しかない御方なのをシズは知らない。シズは少し止まって意を決した顔になる(一見いつものポーカーフェイスだが)

 

「…アルベド様の所に行こう」

 

そう言ったシズは迷惑をかけないように事前にアルベドに連絡を送りアルティマの下に向かう。

…それが後のちょっとした出来事の発端に繋がるのはまだ誰も知らない

 

 

 




次の更新は来月中にできるようになりたい!!


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番外編
ぷれぷれぷれあです! 第1話


『完全なる狂騒』・・・使用すればアンデッドのみに精神系魔法が効くようになるというアイテム。これは耐性のあるアンデッドは愚か世界級(ワールド)アイテム所有者すら無力化してしまう凄まじいアイテムなのだが効果はそれだけの為、ユグドラシルではもっぱら宴会向けの代物。

勿論ナザリックにも大量に秘蔵されてある。

 

アインズは頭を抱えていた。その様子も普段の冷静な彼らしくない程震えている。

 

『待て!待て待て待て待て!!待てよ、もっと冷静に思い出すんだ!』

 

『きっかけは宝物殿で見つけたこのアイテムがきっかけ、アンデッドには元々精神系魔法が効かなくなるという種族特性がある。そんな特性を無効化するのがこの完全なる狂騒…!けどアンデッドにしか効かないわ、そもそも使い道が無いわで俺も使っていなかったんだけど……』

 

手に持っているその『完全なる狂騒』に視線を移す。パーティー用のクラッカーの様な形状にふざけた顔をした金色の像が出ていた。この像が出ているのはアイテムが発動したという意味である。

 

つまり……。

 

『まさかよりによって自分に使ってしまうなんて!何時もなら強制的に安定する精神がそのまま!?久しぶりにテンパってるこの感覚!この感覚が普通なんだよぉ!!?』

 

そうアインズは誤って使ってしまったのだ。そのおかげでアインズとしての精神ではなく、元の鈴木悟の精神に戻っているのだ。

 

『いきなり異世界に飛ばされて"まずは状況を把握だ(キリッ)"とか!俺、冷静!冷静すぎ!!まさかこんなにテンパっちゃうものだとは……!』

 

そしてアインズは何を思ったのか傍らに会った手鏡を持って自分の顔を写す。すると……。

 

『のわあぁ!怖い!!この骸骨怖い!!!自分だとわかっていても怖すぎる……!!!!』

 

自分の顔なのに大きく絶叫するアインズ。そこに扉をノックする音が鳴った後、マシンナーの声が聞こえた。

 

「アインズ、来たぞ?」

 

『ま、マシンナーさん!どうしよう、せめてマシンナーさんには言った方が良いよな……』

 

アイテムの事をマシンナーに打ち明けようかと悩んでいると、アインズの返事が無いため不思議に思いながらマシンナーはドアノブを握る。

 

「……アインズ?入るぞ?」

 

「あ、ちょっと待てマシンナー…うわ厳つ!!」

 

「そんなに驚いてどうしたんすか一体?なんかいつもと様子がおかしいですけど?ん?」

 

アインズの制止の言葉を出す前にマシンナーが中に入る。

長年の付き合いからかアインズの様子がいつもと少し違うのを感じたマシンナーは丁度アインズの真下に落ちてある完全なる狂騒を見つける。

 

「あれ完全なる狂騒じゃんか、なんでこんなところに?しかももう使われてる……」

 

既に使用状態である完全なる狂騒と今のアインズを見てマシンナーはまさかと思いながらアインズに話しかける。

 

「え?モモンガさんもしかして……」

 

「あー……その」

 

アインズは先程の経緯をマシンナーに打ち明ける。

説明を終えるとすぐにマシンナーから強烈なツッコミが入った。

 

『何やってんのアンタ!!?』

 

「うわ!声デカ!」

 

思わずアインズに怒号を上げるマシンナー。

ユグドラシルならまだしも何が起こるかわからない異世界でアドバンテージの一つである精神系魔法の耐性が制限時間付きとはいえ無くなってしまったのである。

マシンナーが叫ぶのも無理はない。

 

「この状況で不味いですよモモンガさん!今のモモンガさんの状態でヤバい精神系の魔法使われたら滅茶苦茶不味いですよ!」

 

「それぐらいわかってますよ!ああ、まさか自分に使う事になってしまうなんて…」

 

「幸い時間制ですからじきに効果は消えるでしょうが、その間に何が起こるかもわかりませんからね…」

 

「ええ、自分の顔でも見たら驚いてしまいますし…」

 

「え?自分の顔でしょ?ほら」

 

マシンナーはアインズに手鏡で顔を写すとアインズは自分で見た時と同じ反応をした。

 

「きゃああぁ!!?」

 

「まじっすか…!まさか宴会用のアイテムがある意味世界級(ワールド)アイテムに匹敵するヤバいものに変貌するとは……」

 

「いや、よくよく考えるとそうなる可能性は充分ありますよ、現に今俺はこの有様だし…!」

 

この出来事に思わず頭を抱える2人、その時、外で部屋の扉に近づく者がいた。

 

「どうかなさいましたかアインズ様?」

 

アインズ達の様子を心配したのか扉の外からのアルベドの声に頭を抱えていた状態から我に返る2人。

 

『こ、この声は!』

 

『不味い、アルベドだ!』

 

『ヤバいっすよ、いきなり一番警戒しなきゃいけない人来ましたよ!』

 

『わかってますよ、主としてこの様な失態見せるわけにはいきませんよ…!でもどうしよう、アイテムの事素直に言うべきか…』

 

『逆に事態がヤバくなる可能性が高確率出てるので止めた方が良いですよ!』

 

『た、確かに…!"ついうっかりアイテムを使って落ち着きが無くなってますぅ~(テヘペロ)"ってそんな主どうなのよって話ですよね…』

 

『いやなんすかテヘペロって…』

 

『とにかく何か思惑あるように上手く騙さなくっちゃ…!!』

 

伝言(メッセージ)でアルベドへの対応を考えていると、扉の外にいるアルベドは何時まで経ってもアインズ達の返事が無いことに不審に思い始めた。

 

「御返事がない?……もしやアインズ様達の身に何か!?」

 

そういうとアルベドは扉を豪快に爆破しながら部屋に突入して来た。

 

「何かございましたか!!?」

 

「うぉっほう!」

 

(え~…何もいきなり扉爆破する~?)

 

そんな登場に思わず声を上げるアインズと心の中でツッコミを入れるマシンナーという対照的な反応する2人。

 

「うぉっほう?」

 

「あ、いや上の方と言ったのだ、上の方の状況はどうなってるかと思ってな…な?マシンナー?」

 

「ん?、ああ、そうだな、何が起こってもおかしくはないしな(今実際起こってるんだけどね)」

 

「何時も私たちの事をお考えに…!このアルベド改めて心服いたしました…!」

 

そういうと各階層の守護者達の事を話すアルベドとその話を聞くマシンナーだったがアインズは一人違う事を考えていた。

 

(ご、ごまかせたかな?アルベドの他の守護者達の中でも断トツだ。まあそれは俺がアルベドのビッチ設定を俺を愛してる設定に変えたからなんだけど…普通の感覚で見てみると……美人すぎだろ!可愛くて美人でしかもビッチだなんて…!俺がアンデッドじゃなかったら即堕ちちゃうよ、難しい感じの方ね!)

 

(ちなみに俺はもうシズに即堕ちですけどね)

 

「?大丈夫ですか?アインズ様?」

 

「いや、こうして見ると『美人』だなって…」

 

「ちょっー!?」

 

アインズの思わぬ言葉に叫ぶマシンナーとそれを聞いて稲妻が走るアルベド。

 

「…!今!なんとおっしゃいましたか……!」

 

(モモンガさーん!?)

 

「あ!やば!別に何も…」

 

思わず言ってしまった言葉をすぐに訂正しようとするが時すでに遅し。

 

「いえ!わたくし耳はかな~り良いほうで!今確かに美人だなって…キャー!!!」

 

狂喜乱舞するアルベドを尻目にマシンナーはアインズの方を向き、ツッコミをぶちかました。

 

〈何自分から特大の墓穴掘ってんの!?そんなに死にたいんですか!?〉

 

〈 つ、ついうっかり…!って俺もう死んでるんですけど…〉

 

漫才をしている最中にいまだ暴走しているアルベドを落ち着かせようと2人はアルベドに声をかける。

 

「お、落ち着くのだアルベドよ!」

 

「そ、そうだ落ち着くのだアルベド!」

 

「はいアインズ様!式の準備ですか?それとも子作り?わたくし何時でも準備は出来ております!!あ、マシンナー様!マシンナー様がよろしければ是非私たちの式の仲人を…!ああ遂にこの時が……!」

 

『駄目だー!!?』

 

『自分から墓穴掘って全力でダイブするってスタイルですねわかります』




アルベド「タイトルは『アイアイアインズ様♥』」
アインズ「違うぞ?」
マシンナー「だが語呂は良いな」
アインズ「おい!」


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ぷれぷれぷれあです! 第2話

マジックアイテム、「完全なる狂騒」をうっかり使ってしまったアインズはちょっとしたことで動揺してしまう状態に!自らを慕う部下の手前、何とか取り繕うアインズは果たして隠しきれるのか―――!?

マシンナー「フラグ作成乙」

フラグとか言わないで!!


「で?アルベド、私たちへの用とは?」

 

アインズはアルベドがこちらに来た要件を尋ねる。

先ほどまでアインズに「美人」と言われて狂喜乱舞していたアルベドはハッと我に返り、自身の目的をアインズ達に話す。

 

「そうでした、戦闘メイド達プレアデスの事なのですが…」

 

アルベドの用件はどうやらプレアデスたちがアインズ達に謁見を求めているらしいい。

しかしアインズは名前は全員知っているが、詳しい設定等はあまりよく知らない。

 

(プレアデス、メイド達の中で唯一戦闘力を持つメイドチームなんだけど俺よく知らないんだよな…)

 

(俺はシズの事をもっと知りたいです…)

 

(少し変態入ってませんマシンナーさん?)

 

「よい、気にするな。共にこのナザリックを守る者たちだ。私たちが時間を割くことになんの異議がある」

 

「俺もアインズと同じ思いだ…」

 

「アインズ様…!マシンナー様…!」

 

しかし抑制を一時的に失っているアインズにとって今謁見するのは不味い。下手をすればプレアデスの信頼を失いかねないのだ。

 

「ただ…ちょっと体調が悪いから今日は…」

 

「それでは副リーダーのユリ・アルファに申し付けてきます、失礼致しますアインズ様!」

 

それでなんとか断ろうとしたアインズだが、アルベドはそれを聞く前に部屋から出て行ってしまった。

 

「え…」

 

「自分で耳かなりいい方って言ってたのに…」

 

一瞬惚けるアインズだがすぐに我に返り、頭を抱えた。

 

「困った、超困った!い、いや落ち着くんだ俺!」

 

「そうですよ落ち着いてくださいモモンガさん!何時も通りやれば怪しまれませんよ……多分」

 

「でもこれからどうすれば…」

 

マシンナーはそう言うが、内心とても不安だ。

互いに打開策を考えていると、扉からノックする音が聞こえた。

 

「げぇ!もう来た!?」

 

予想よりも早い来訪の知らせに思わず狼狽するアインズ、しかし扉の外から聞こえたのは予想外の人物だった。

 

『失礼いたします!『マキナ』総隊長のアルティマです!』

 

それはマシンナーが創り出したシモベの一人であるアルティマだった。

アルティマの来訪に不思議に思いながらもアインズは入室を許可する。

 

「え?アルティマ?」

 

「(どうしたんだ一体?)入っていいぞ」

 

アインズの言葉の後にアルティマは扉を開けて入り、アインズとマシンナーに跪く。

 

「アルティマ・レイ・フォース、御身の前に…」

 

「うむ、どうしたアルティマ?」

 

「は、我々マキナ七大隊長、アインズ様、マシンナー様に謁見を申し上げたいのですがよろしいでしょうか?」

 

アルティマもプレアデス達と同じ内容の願いを聞きアインズは本来出ない冷や汗が大量に出る感覚に襲われる。

 

(不味い、プレアデス以上にマキナの事はよく知らないぞ!)

 

(さらっと酷い事言わないでくれます?どうしますか?断るわけにもいきませんし……)

 

アインズは再び頭を抱えると、ある案を思いつく。

 

(う、うむ…そうだなぁ……そうだ!)

 

「うむ、わかったアルティマよ、七大隊長の謁見を許可する、お前達はマシンナーの子同然、無下にすることはできん」

 

「ありがとうございますアインズ様、それでは今から呼んでまいります失礼いたします」

 

「モモンガさん、何か思いついたんですか?」

 

「マシンナーさん…俺決めました」

 

「え?」

 

「いっそのこと思い切って…」

 

アインズはマシンナーにある事を伝える。

それを聞いたマシンナーは驚愕した。

 

「え?えええええ!?」

 

 

 

 

暫く時間がたった後、ユリ率いるプレアデスとアルティマ率いるマキナの七大隊長が揃う。

そしてそれぞれのまとめ役であるユリとアルティマがアインズとマシンナーの御前に跪く。

 

「マキナ、アルティマ・レイ・フォース、御身の前に」

 

「同じくプレアデスがユリ・アルファ……御身の前に」

 

跪く二人にアインズは制止をかけてる。

 

「うむ、少し待て、私から一つ提案があるマキナ七大隊長も聞いてくれ」

 

「提案などなさらずに御命令してくれれば如何様にも…!」

 

「うん、いや、うむ…!」

 

(おい)

 

一瞬素になってしまったのをマシンナーに突っ込まれた後、アインズは自分が思いついた考えを皆に発表する。

 

「お前たちは戦闘メイドとして私やマシンナーのそばに居ることが多いだろ?」

 

「そして七大隊長も護衛としてそばに居ることが多い…」

 

「私は御命令があればアインズ様の御傍にひと時も離れずにお守りいたしますのに…!」

 

アインズはアルベドを華麗にスルーしつつ、言葉を続ける。

 

「今後ナーベラルやシズ、そしてアルティマの様に行動を共にすることがあるかもしれん、そこでマシンナーと考えたのだが仰々しい物言いをすれば時と場合によっては作戦が失敗することがあるかもしれん」

 

「はい」

 

「仰る通りでございます」

 

「試しにそうだなぁ…少し砕けた感じで私達にプレアデス同士で会話をするように接してくれないか?」

 

思いもよらない提案に驚くアルベドとアルティマとユリ。絶対の主である二人にそのような口を聞くとはシモベとして考えたことすら無かったのだから仕方がないと言えばそうなのだが……。

 

「え!?」

 

「あ、アインズ様とマシンナー様にそのような口を聞くなど…!」

 

「そ、そうです!とてもそのような…!」

 

慌てる二人にアインズは「落ち着け」と言い、アルベド達に自分の提案の内容を話す。

 

「物は試しだ、私たちが砕けた感じで話すからお前たちも接するように試してみよう」

 

「かしこまりました、それが造物主様の御意思であれば」

 

「同じく七大隊長も承知いたしました…」

 

(よしいけた!これはいけたな!)

 

アインズは自分の提案が通った事に思わずガッツポーズをする。

その後、アルベドにもそのように接するように命令する。

 

「アインズ?」

 

「おっとすまない、アルベドも構わぬな?」

 

「承知いたしました」

 

アルベドは少々不服そうだったが渋々承知する。

そしてアインズはユリとアルティマに最初の命令を出す。

 

「それではプレアデスたちよ砕けた感じで私たちに跪くがよい」

 

その命令にユリは若干戸惑いながらもなんとかくだけようと思いながら跪いた。

 

「ゆ、ユリ・アルファ…御身の前に」

 

(普通だな)

 

(普通ですな)

 

いつもとあまり変わらない感じで跪くユリ、あまり砕けてないが真面目な彼女ならこうなるのも仕方ないだろう。

 

「ルプスレギナ・ベータ、御身の前っすー!!」

 

(メッチャ砕けてる…)

 

(跪いては無いですけどね)

 

跪いていないが元気いっぱいなルプスレギナらしさが出ており、十分砕けていた。

 

「ナーベラル・ガンマ、御身の前に…」

 

どこから出したテーブルの上にティーセットを出して紅茶を飲みながら挨拶をするナーベラル。

 

(その机どこから出した!)

 

(そのティーセットはどこから出した!!)

 

本当にどこから出したんだろう?四次元ポケットでも持っているんだろうか?

 

「シズ・デルタ…いる…」

 

なぜか柱の影に隠れながら言うシズ。

 

(なんでそこで言うの?)

 

(可愛い(可愛い))

 

アインズはツッコミ、シズ大好きなマシンナーは一人萌えていた。

 

「ソリュシャン・イプシロン、御身の前におりますわ」

 

プレアデスの中でグラマーなソリュシャンはそれを十分に活かした感じにだ。

 

(セクシー路線で来た!?)

 

(一番グラマーっすからね)

 

「エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ、御前ですわぁ~」

 

(砕けてるというかだらけてる!?)

 

(寝そべりから自己紹介するのか…)

 

何故か寝そべりながら挨拶をするエントマ、アインズの言う通りもの凄くだらけている。

 

(でもこれはこれで新鮮ですね!)

 

(シズ可愛い!!)

 

プレアデスが終わるのを確認したアルティマは一度隊長達を集合させ話し合いを始める。

 

(どうしよう、まさかこうなるなんて…)

 

(だがやるしかあるまい…)

 

(しかしプレアデスのインパクトに勝つのは難しいぞ?)

 

(諦メレバソコデシアイ終了ダゾ!?)

 

(当たって砕けろだ!)

 

(後は野となれ山となれという言葉もある!)

 

(やってみる価値はありますぞ!!)

 

「よし、次はマキナだ…」

 

アインズの言葉と同時に話し合いを終え、アルティマ達は何故か特撮の戦隊モノのヒーローのようなポーズを決める。

 

「は、はい!」

 

「アルティマ!」

 

「バレット・ローグ!」

 

「ゴルドソウル!」

 

「ドランザー!」

 

「ソニック・スレイヤー!」

 

「ディアヴォルス!」

 

「アンヘル!」

 

「「「「「「「マキナ七大隊長定刻守って只今見参!!!!!!!」」」」」」」

 

ポーズを決めた後何故か「ドガアァァァァァアン!!?」と大爆発が起こり、アインズとマシンナーは心の中で絶叫する。

 

(砕けているというよりなんか戦隊ヒーローみたいになってますけど!!!?)

 

(その爆発はどうやって起こった!)

 

マキナやプレアデスのを見て何故か闘争心を燃やすアルベド。

 

「ま、負けてられないわ!!」

 

「アルベド…」

 

「はいアインズ様!」

 

「ちょっと黙ってて?」

 

「うあぁぁぁあん!」




ルプスレギナ「ユリ姉の普通だったっす!」
ユリ「なっ!?」

アルティマ「次の機会にはこのギニュー特戦隊をモデルにしようかな?」
バレット・ローグ「待てアルティマ、一つ問題があるこのギニュー特戦隊は…」
ゴルドソウル「5人しかいない…だと!クソったれえぇぇぇえ!!」


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クリスマスの二人

今年最後の投稿です。来年もよろしくお願いします。

追伸
この話の時系列はは本編より少し先の未来です。そこまで問題ありませんが少しネタバレがあります。


白い雪が一面に広がる景色。しかしその景色に似つかわしくない轟音と悲鳴が周りに木霊していた。

その発生源から二つの軍団が相対していた。

一つはマシンナーの直属の軍団<マキナ>、もう一つは元リ・エスティーゼ王国の貴族派の残党、スレイン法国のタカ派や魔導国に反感を持ったもの達が集まった<反魔導国同盟>……なのだが先日行われた掃討作戦で全体の八割が粛清を受けており、その残党がこの極寒の地まで避難していた。

 

「まだかかるか?」

 

「はい、マシンナー様、連中の抵抗が予想より激しいようで」

 

「全くクリスマス位静かにやってくれもんかねぇ…」

 

そこの丘の上で、マシンナーとアルティマが見物しており周りには護衛のラフトクランズが周りで待機している。

マシンナーとしては用事があるので若干面倒に思っていたが、連中を全滅させるには絶好の機会だったので渋々軍を動かしたのだ。

アルティマは「メッセージ」を前線にいるバレット・ローグに送る。

「メッセージ」を受け取ったバレット・ローグは持っていたライフルを発砲しながらメッセージに出る。

 

<ローグ、そっちの状況は?>

 

<まだこちらの損害は出てないが、数だけは多い。威力の高いのを使おうにも崩落などの危険もあるから使うに使えん>

 

初めすぐに終わるのではないかと予想していたが、残党が予想以上に抵抗しており少々長引いていた。

アルティマは戦況を打破しようとマシンナーに進言をする。

 

「マシンナー様、特機兵団と機獣兵団に突撃命令を出しましょうか?」

 

主の答えをジッと待っていたアルティマだったが、マシンナーから予想外の返答を返される。

 

「いや、生憎今日は時間はかけられん、兵を下がらせろ」

 

その答えがどういう意味かを一瞬で悟り顔を上げる。

 

「え?もしや?」

 

アルティマの疑問に一言で答え、マシンナーは立ち上がった。

 

「俺が出る」

 

「はっ!」

 

アルティマは無線で「マキナ」全体に指令を出す。

その口調は少し焦りが入っていた。

 

『総員退避!マシンナー様が出陣する!繰り返すマシンナー様が出陣する、死にたくなかったら早く退け!』

 

その命令を受けた他の隊長達は、それがどう意味かわかりすぐに各軍団に撤退命令を出す。

兵団は一目散に撤退し始めた。

 

「マジか…」

 

「仕方あるまい今日はナザリックでアインズ魔導王閣下のクリスマス会があるからな、時間をかけるわけには行かん」

 

「ヤレヤレ、奴ラモ運ガ悪イ、大人シクヤラレテオレバ…」

 

「テメェら聞いたな!?退避するぞ!」

 

「空中隊、陸上部隊、撤収だ!」

 

撤退を開始したマキナを見た同盟は困惑する者、命が助かって安堵する者、マキナが逃走したと勘違いして歓喜するもの等様々な反応を示していた。

 

「お、おい、奴ら退いていくぞ?」

 

「やったぞ!今こそ我々の大義を…」

 

同盟の一人がそう言いかけた時、何かがミサイルを発射しながら急降下して着地し煙が巻き上がり、徐々に煙が晴れて行く。同盟の兵士たちが恐る恐る視線を向けると…。

 

「だ…だ…」

 

「大元帥!!?」

 

ナザリック魔導国でのマシンナーの肩書を叫びながら、魔法をマシンナーに向けて放つがマシンナーの装甲によって全て無効化される。

 

「フィンファンネル」

 

背中から何本かの飛翔体を射出し展開させ、兵士たちに向かって発射をした。

 

「な、何か飛んで…ぐわぁ!」

 

「狼狽えるな!迎え撃て!」

 

兵士たちは矢や魔法で撃ち落とそうとするがそれを嘲笑うかの如く回避をし、報復とばかりに兵を射殺する。

その後マシンナーは他の種類の物も射出する。

 

「ファング、リフレクタービット、ソードビット、シザースビット、ファンネルミサイル…行け」

 

射出されたファンネルたちは一斉に襲い掛かり、兵士たちを切り裂き、打ち抜き、寸断し、破裂させた。

連合は一旦拠点に避難を開始するが、マシンナーの指示で拠点の各入口に侵入し惨劇を繰り返させる。

そしてフィンファンネルで拠点一体に結解を張り、完全に閉じ込める。

 

「さて、止めといくか…」

 

マシンナーは再び空中に上がり、静止すると胸の放熱板にエネルギーをチャージさせ、一気に放出した。

 

「ファイヤアァァァ……ブラスターアァァァァァァ!」

 

発射されたマシンナーの上半身が見えなくなるくらいに放出された超高熱の熱線は渦を巻くように拠点に襲い掛かる。そしてすさまじい爆炎と轟音を発しながら辺り一面を吹き飛ばす。

拠点があった周辺は巨大なクレーターとかしており、湯気が立ち昇っている。マシンナーはファンネルを収納しながら地上に着地する。

 

「お疲れ様です!」

 

「逃走したものは?」

 

「今の所確認されておりません、仮にあの拠点を抜け出せてもこの猛吹雪と包囲網は抜けられないものかと…」

 

駆け寄ってきたアルティマが敵の生存率の有無の報告を行う。最も、先程のマシンナーの結界と攻撃で完全に殲滅されている可能性が高いが。僅かなミスで大失態に繋がるのが世の常である事をマシンナーは充分理解している。

捜索する指示を出す。

 

「念の為索敵用のドローンと捕獲用、攻撃用のドローンを散布させておけ、それ以外の残りの者は撤収の準備、ある程度の捜索を終えたらドローンも撤収させろ」

 

「は!」

 

指示を受けたアルティマが他の隊長達にドローン散布の指示と撤収作業の指示を出す。

暫くの時間がたった後、回収部隊が到着し、ナザリックへ帰路を向けた。

 

 

 

 

ナザリックに到着した後、俺はモモンガさんの居る執務室に向かい、扉をノックしてモモンガさんの「入れ」と言う言葉の後扉を開けて入室した。

 

「戻りましたアインズさん」

 

「あ、お帰りなさいマシンナーさんお疲れ様です。で、連中は?」

 

「はい、一人も残さず殲滅しました。事後処理も終えています、敵側の生存者ですが今の所発見したという報告はまだ上がっていません」

 

それを聞いたモモンガさんは満足したように笑って(?)「それは良かった」と言った。

まあ、あの状況で生きててもあの猛吹雪じゃまず助からないだろうが…。

 

「そうですか、ありがとうございます。すみませんね、クリスマスだというのに…」

 

「いえいえ、なにかあったらまた報告します。後今からちょっと出かけてきます。何かあったらご連絡を」

 

「…シズとデートですか?」

 

「Yes」

 

「爆発しろ!!!!!!(楽しんできてください)」

 

アインズさんの答えに俺はサムズアップしながら答えると、アインズさんは何か言ってたが俺は何も気にせず執務室を出て行った。

 

「…いいなぁ」

 

 

 

 

俺は自室の扉の前に到着し扉を開ける。中にはシズが一人俺の部屋に置いてあるクリスマスツリーの飾りを弄っていた。

 

「ただいまシズ、遅くなってすまない」

 

俺の声を聴いてシズはゆっくりと俺の方向に振り向き、小走りで歩きながら俺に抱き着いてくる。

顔を上げて俺の方を見ながら「お帰りなさい」と言うシズに「只今」と返事をしながら頭を撫でた。

 

「…お帰り…お勤め…ご苦労……様……待ってた…よ……?」

 

「遅れてすまないな、それじゃ行こうか?」

 

「ん…」

 

俺はシズを連れてナザリック外に行く。

俺は空中で飛びながら雪が積もった木々が生い茂っていたが結構開けた場所に降り立った。

 

「雪…沢山……積もって…る…」

 

「この前からかなり降っていたからな、カルネ村は除雪作業を朝からしているらしい」

 

さっきアルティマの報告で余りにも積もっていたので除雪作業の手伝いとしてカルネ村を始め除雪車型の機械系異業種の集団を機動兵団から派遣したらしい。

 

「…村総出で雪合戦やってるってルプスレギナ…言ってた……」

 

「村人にゴブリン、古代の機械、守備隊でか?そりゃあ派手な雪合戦だな」

 

興奮のあまり死人が出ないと良いな、割と本気で。

「……」

 

「ん?なんだ?」

 

ジーっとコチラを見てくるシズに気づき、声を掛けるとシズはゆっくりと喋りだし、こう言った。

 

「雪…合戦…やり……たい」

 

「え?」

 

「…駄…目?」

 

俺は断る理由がないため、すぐに承諾する。

 

「良いぜ。どこでやる?」

 

「…ここ」

 

そう言うとシズは至近距離で俺の顔面に雪玉を投げつける。

ダメージなんて負わないが不覚にも不意を突かれてしまった。

 

「ぶっ!」

 

顔に着いた雪を手で拭い、辺りを確認するがシズの姿は見当たらない。

 

「…どこ行った?」

 

「…」

 

レーダーでも使って確認しようと考えたが流石にそれはなんか卑怯なのでそれは使わ…。

 

「うぉ!?」

 

次は後頭部に雪を喰らい、俺は赤外線のセンサーを作動させ周囲を見渡す。

 

(赤外線に切り替えて…)

 

そして森林を見渡しているとシズ位の身長の人型が写ったのを発見した。

俺に気づいたのかそそくさと移動していく。

 

(そうか、木々に溶け込みながら、神出鬼没のゲリラ戦法で来たって事か!)

 

シズの戦法が分かったが、逆転の考えを思いつかなければ今の状況を打開できない。

また新しい雪玉が飛んできたのですぐに回避する。

 

「ぬぅ!くそ…このままジリ貧だぞオイ…」

 

しかし人影が見えたので思い切り投げつける。

 

「りゃぁ!」

 

雪玉はしっかりと命中し倒れたので、俺は小さく拳を握った。

 

「良し!……え?」

 

しかし、次の瞬間間抜けな音と共に空気が抜けていき何故か萎んでいく。よく見るとシズによく似た風船のダミーバルーンだった。

 

「デコイは反則だろ…」

 

そうぼやいた後、センサーに反応が見つかりその方角に視線を向けるとシズが今まさに雪玉を投げようとしていたのを見つける。

 

「…あ」

 

「見つけた!」

 

俺はシズに向けて雪玉を投げ、その雪玉はシズの顔に当たる。

 

「…!?」

 

「良し今度こそ…」

 

追い打ちを考えて次の雪玉を構えるが、シズが一向に立ち上がらない。

 

「…シズ?」

 

力強すぎたか…?一応容赦はしたつもりなんだが…。

俺はシズの方へゆっくりと歩み寄る。

シズの元へたどり着くと俺は倒れているシズを揺さぶった。

 

「おいシズ?……シズ?」

 

「……」

 

あれ?本当に何も反応がしないぞ?まさか当たり所が悪かったのか…!

 

「おい、シz…ゔっ!」

 

俺が言いかけた時、頬に何かが当たる感触がした。

何が起こったのか目を開けると先程まで眠っていたシズはぱっちりと目を開け俺の両頬を掴んでいる。

…どうやら一杯食わされたようだ。

 

「…お返し」

 

俺を見てシズはふ、と笑いながらそう言う。

 

「…それは反則だぞお前」

 

「……勝てば…良かろう……なのだ~…」

 

お前はどこの究極生命体だと突っ込み、シズを抱きかかえる(お姫様抱っこで)。

 

「全く…どうする?まだ続けるか?」

 

「……満足…した」

 

「そうか、俺も久しぶりにやったよ。覚えてる限りじゃあ子供以来かな…?」

 

その時俺はあることを思いついた。そうだ、雪合戦もやったんだから雪だるまも作ろうじゃないかと。

 

「記念に雪だるまでも作るか?まあ晴れたらすぐ解けるが…」

 

「ん…」

 

シズもコクリと頷いたので、早速取り掛かろう。

 

「なら作ろう。材料も大量にあるからな」

 

 

 

 

「やれやれ、我を忘れてこんなデカいの作ってしまうとは…」

 

つい勢いに乗ってしまい、小さな小屋位の大きさの雪だるまが立っていた。

 

「……」

 

まあ、だがシズの指示もあったというのもあるが、我ながら上手くできたと考えている。

しかし、俺は雪だるまを見てあることに気が付いた。

 

(あれ?、シズの言う通り作ったが、これキンカンじゃね?)

 

そう、その雪だるまの見た目は前にパンドラが猫に変身し、シズがその猫の状態のパンドラに着けた名前がキンカンだ。中身パンドラだけど…気に入ってたからなシズ。

 

「…マシンナー」

 

「ん?どうした?」

 

「ちょっと…来て…」

 

「ん?」

 

急にシズが話しかけてきたので俺は視線をシズの方にむけるとシズは俺の腕を掴んで何処か連れて行こうと引っ張る。どこに行くのだろうか?

 

「結構歩いたがどこまで行くんだ?」

 

「もうすぐ着く…多分…」

 

俺はシズに手を引かれながら歩いていると、古い教会がポツンと建っていた。

よほど古いのか苔とか花が生えている。

 

「教会?」

 

「さっき見つけた」

 

俺は赤外線センサーを起動させ、教会内を調べると生命体等は確認されない。

おそらく誰も住んでいないのだろう。

 

「…見たところ誰もいないようだな」

 

「生命反応無し…」

 

「入るか?」

 

「……ん」

 

教会の中に入ると蜘蛛の巣が少し張っていたり、天井に大小の穴が空いていたが意外と綺麗な状態で保っていた。

そして奥には神父さんがよく立つ場所と十字架がある。

 

「へぇ、思ったより広いな…ん?」

 

「……」

 

シズが俺を向いていることに気づいて俺はシズの方を向く。

何かあったのだろうか?

 

「どうした?」

 

「…結……婚…する時…ここで…夫婦になるって…誓うって……聞い…た」

 

「ッ!、うん、まあ、うんそうだな……うん」

 

……まだ色々解決すべき問題はあるが勿論いずれプロポーズするつもりだ。

 

「……」

 

「…」

 

なんだろう、物凄く気まずい雰囲気だ…。

 

「マシン…ナー…」

 

「うぉ!、な、なんだ?」

 

「……練習…しよ?」

 

「え?」

 

「結婚…式…」

 

予想だにしていなかった頼みに、一瞬素っ頓狂な声が出て驚いてしまう。

 

「!?」

 

若干照れくささもあったが俺はその頼みを承諾した。

俺とシズは腕を組んで神父さんがよく立つあの場所に立つ。

 

『汝はこの者を妻にすることを誓いますか?』

 

「誓います」

 

『汝はこの者を夫にすることを誓いますか?』

 

「…誓い…ま…す」

 

少しの間を置いた後俺はシズに接吻する。

そして十数秒経過した後、互いに離れるが俺は照れ隠しにフェイスガードを下ろし、シズはマフラーで口元を隠す。

 

「……(何度かしたが、やっぱり照れちまうなぁ…)」

 

「……(やっぱり…ドキドキ……する)」

 

気恥ずかしさの中で俺はある事を思い出す。

今日シズをデートに誘った理由を。

 

「なぁシズ」

 

「…何?」

 

「これ」

 

「…?」

 

俺はシズに包みを一つ渡す。

シズに開けるよう言うとシズは丁寧に開ける。

中には銃弾型のペンダントが入っていた。

 

「こ…れ…は?」

 

「クリスマスプレゼントだ、今日渡そうと思ってな」

 

「…!」

 

「ありが…と…う…」

 

「いや、喜んでもらえてなによ「私も…ある…」え?」

 

「は…い…」

 

そう言うとシズも懐から包みを出す。開けてみると、シズと同じ迷彩柄の大き目のマフラーが中に入っていた。

俺はそのマフラーを首に巻きシズに礼を言った。

 

「ありがとな…シズ…」

 

「…うん」

 

お礼の言葉ににっこりと笑ったシズはこの雪景色よりも綺麗に見えた。

 

 



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