幻想郷物語 ~if be if story~ (竹馬の猫友)
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第1話 真紅・演技・心配

もう一つの幻想郷。
平行世界でのもう一人の自分。
永遠に交差することのない世界。
互いは干渉することなく自らの時を刻む。

※いきなりですがタイトルを変更いたしました。ちなみに「if be if story」の意味は「”もしも”であり、”もしも”で無い、世界」という意味です。英語力弱いのであっているか分からないですけど(汗


 人間と妖怪が共存して生きている外と隔絶された地。幻想郷。それを聞くと「まるで理想郷ではないか。素晴らしい!」と言うものや、「ばかげている。そんな世界ありえない」と嘲笑するものもいるだろう。ただそれは、あくまでその世界を知らないものが聞いたらの話。幻想郷に住んでいる者は少なくともここにそんなこと微塵も感じていないだろう。

 

 そんな世界にとある妖怪達が引越しをしてくる。元いた世界では生き辛くなってしまった為とある妖怪の協力を経て住んでいた屋敷ごとこちらに来る、というわけだ。場所はとある湖の畔。木々が生い茂り、妖精達がのんびり飛んでいる自然豊かな場所に突如、周りの景観にそぐわない真っ赤な―――もはや真紅というべきだろうか―――館が現れる。妖精達はその屋敷から溢れる強大な力に恐れ一目散に逃げた。

 そんな様子を遠くの木の上で観測している人物がいた。その真紅の館を一瞥し少し微笑んだと思うと踵を返して飛んでいった。

 

 

 

 場所は変わりとある神社。この神社は一人の巫女の手で管理されており、外の世界との境界に位置する神社である。その名も「博麗神社」。その神社の境内を掃除する人影が一つ。鼻歌を歌いながらせっせと箒で掃いている。黒い髪に目立つ赤い大きいリボンを付け、少し変わった巫女服を着ている。そんな彼女の元へゆったりとした速度で空から近づいてくる人物が一人。箒に跨り黒い三角帽子をかぶり、白と黒を基調とした服を着て金髪のウェーブヘアーをなびかせて飛ぶ姿はまるで魔女。その彼女が境内前の石畳にトンと着地する。

 

「あ、魔理沙じゃない!いらっしゃい!」

「お邪魔するね霊夢」

 

 霊夢と魔理沙と呼ばれた少女はお互いを確認すると笑顔で言葉を交わす。霊夢と呼ばれた少女は箒を片付けると境内の前で立っている少女、魔理沙を中へと迎え入れた。玄関でお互い靴を脱ぎ、魔理沙は先程の自分の乗っていた箒を玄関に置き、改めて魔理沙がもう一度「お邪魔します」と言って家の中へと上がる。廊下を歩き、お茶の間の前へと移動すると先に襖を開け入った霊夢の後に魔理沙が続いて入る。

 

「ちょっとお茶淹れてくるから待ってて!」

「うん。わかった。気をつけてね?あなたドジだし」

 

 それを聞いて「大丈夫だよ~」と言って歩きながら魔理沙の方へと顔を向ける。その時、ゴンッという鈍い音が部屋に鳴り響く。刹那霊夢から叫び声が上がる。

 

「いったぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ほら言わんこっちゃ無い」

 

 ゴンッという音の正体は霊夢が余所見をして歩いたために茶の間の入り口の柱に足の小指をぶつけた音。相当な痛みだったのか霊夢はその場にうずくまり小指を擦る。目には少し涙が滲んでいたがすぐさま立ち上がる。そしてさも何も無かったかのような足取りで台所へとお茶を淹れに行った。

 

「はぁ…博麗の巫女ともあろうものがあんなので大丈夫なのかな」

 

 ため息混じりに一人お茶の間に残された魔理沙は一人呟く。その言葉は純粋に友人…いや親友を心配するが故に自然と出てきたものだった。魔理沙が「やっぱり私が付いてないと駄目」と改めて心に刻んでいるとも露知らず、霊夢は暢気にまた鼻歌を歌いながらお茶を淹れていた。

 

「新しい住人さん達、すっごく強そうな妖力出してたなぁ。楽しみっ」

 

 お茶を淹れながら霊夢は、ずっと先程こちらに来たのを確認した真紅の館の住人のことを考えていた。大体の場合新しい住人はこちらの世界を我が物にしようとするものが多い。力を持っているものに限るが。先程霊夢が確認した住人は館から溢れんばかりの力を放っていた。それで霊夢は確信する。

 

「きっとあの住人さん達はあれ(・・)を起こしてくれる」

 

 と真紅の館の住人のことばかりを考えていて手元に意識がいっていなかったようで手にお湯を零してしまう。しかし霊夢は「あちっ」と小さく言うだけでそれ以上何も無かった。河童印の電気ポットの設定温度は90度。なのにも関わらずだ。零してしまったお湯を手元にあった手ぬぐいで拭く。そして急須を傾け茶飲みにお茶を淹れる。テキパキとそれをこなす姿を見るに、もう先程のように失敗はしまい、と思ったらしくちゃんと手元に意識がいっているようだ。そしてお盆の上に茶飲みを二つ乗せると魔理沙のまつお茶の間に戻った。

 

「お待たせ~」

 

 そういうと座っている魔理沙の前に茶飲みを置く。「ありがと」と一言だけ言い魔理沙はそれをふぅふぅと息を吹きかけ冷まし、啜るように飲んだ。霊夢も適当な場所に茶飲みを置き座る。茶飲みの位置を自分の元へと持ってくる。

 

「これお茶変えた?」

「あ、分かる?人里のおじいちゃんから貰ったんだー」

 

 にへーと笑う霊夢を見て魔理沙も自然と笑みが零れる。その様子を見るとまるで妹と姉のようだ、と思う人もいるだろう。それぐらいこの2人は仲がいい。とそんな風にまったり過ごしていると不意に霊夢が魔理沙へと問う。

 

「そういえば今日は何か用でもあったの?急に来たけど」

「ん、そうだった。あの湖わかる?」

「うん」

「そこに真っ赤ないかにも目に悪そうな館が行きなり出現したんだってさ」

 

 「へぇそうだったんだ」と霊夢はびっくりした様子で聞いていた。まるで魔理沙が言ったことを自分が知らなかったかのように(・・・・・・・・・・・・・・)

 それはあくまで魔理沙との距離を起きたくないが故の演技だった。霊夢はその見た目、その性格と反して戦いが好きだった。戦いと言ってもこちらの世界では”弾幕”と”スペルカード”を使って戦うもの。通称「弾幕ごっこ」。そのゲームのような戦いが霊夢は好きだった。その「弾幕ごっこ」という戦闘形式が確立されてから日は浅いが霊夢はそのゲームに一瞬で魅了された。弾幕ごっこは「いかに華麗で美しい弾幕を操り敵を倒すか」、と簡単に説明するとこういうものだ。色とりどりで人によって様々な姿を見せる弾幕。それに心躍った。だが、それはあくまで戦い。それが好きと言うのは年頃の少女からすると「戦いが好きなのは異常なのではないか」という不安があった。ましてやそれを親友の魔理沙に言ってしまうと「嫌われてしまうのではないか」という心配があり隠しているのだ。

 

「まぁそれだけなんだけどね」

「そっかー」

 

 そう。魔理沙は知らない。いや、知らなくていい。あの新しい住人が異変を起こしたら自分が解決しに行く。ここの博麗神社の巫女、博麗の巫女は神社の管理だけでなくそういった役割も担っている。異変と言うのは簡単に言うと事件だ。その事件を解決するためには元の世界のように見つけて逮捕、と言うわけではなく、異変の当事者を見つけ弾幕ごっこにて勝敗を付け解決するというものだ。つまり戦わなければならない。多少ではあるが危険も生じる。これは予想だが魔理沙がもし自分が戦わなければならない、と知ったらきっと「私も行く」と言うだろう。そうなると魔理沙に危険が及んでしまう。それに魔理沙は弾幕ごっこの経験が無い。だから内緒にしている。

 

「でもなんか嫌な感じがする」

「…嫌な感じ?」

「うん。なんていうか分からないけど………うーん、上手く言葉に出来ない」

「魔理沙は心配性だな~」

 

 そう言って霊夢は笑う。少し冷や汗を浮かべながらながら。「なんでこういうときだけ無駄に勘がいいのだろうか」と不思議に思いつつも口にはしなかった。と、悩んでいた魔理沙が残っているお茶をクイッと全部飲むと「そろそろお暇するかな」と言い席を立つ。神社に来て間もなかったため霊夢は少し渋る。

 

「えーもう帰っちゃうの?」

「ちょっとこの後用事があるからね」

「むーなら仕方ないけどさー」

 

 「ごめんね。また来るから」と魔理沙は言いお茶の間を後にする。見送りをするために霊夢も一緒に外に出る。玄関で靴を履き、箒を持った魔理沙と「バイバイ」と交わすと「お邪魔しました」と言って魔理沙は帰っていった。

 

「暇になっちゃった」

 

 そう呟き部屋へと戻る。先程の2人分の茶飲みを片付けこれから何をしようかと考える。また掃除を始めようにもほとんど終えてしまっているためにやる場所が無い。お昼は食べたし、夕ご飯の時間にはまだ早いため料理の準備はまだしなくていい。

 

「よし、人里に行ってみよ」

 

 もしかしたら何か困っている人がいるかもしれない。そう思った霊夢はすぐに行動に移った。




閲覧ありがとうございます。
初めての方は始めまして。竹馬の猫友と申します。
他の小説をご覧になってくださっている方はありがとうございます。
「もしかしたら既出かも?」と心配になり投稿しているしだいであります。
本当はきちんと調べてから書くべきなのでしょうが…(汗
そんな見切り発車の作品ですが宜しくお願いします。
また誤字脱字などありましたらご報告を下さるとありがたいです。

次回「第2話 人里・赤霧(せきむ)星弾(せいだん)

次回は金曜日の更新を予定しています。時間は未定です。

なんかハン○ー×ハ○ターのサブタイみたいになっちゃった。テヘペロ


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第2話 人里・赤霧・星弾

魔理沙と別れ人里へと向かおうとする霊夢。
用事があるといって帰った魔理沙。
2人はまた翌日も顔を合わせることになる。

前回金曜日に投稿するといいましたが予定をかなり早めて投稿します。

※第1話の前書きにも記載しましたがタイトルを変更いたしました。宜しくお願いします。


 魔理沙が帰ってしまいやることも無かったので人里へと向かう。その道中、里の人間と会った。どうやら神社に参拝しに行こうとしていたらしい。その道中で私と会ったというわけだ。人里から私の住んでいる神社は結構遠い位置に存在している。わざわざ参拝しに行こうとするくらいなのだ。何かよっぽどのことがあったのだろう。なので私はその人を神社へと招いた。

 

「あぁ、ありがとうございます。こんな私の些細な願いの為に付き添いまでしてくださるとは」

「いえ、そこまでのことはしていませんし、わざわざここまで参拝しに行こうとしていたということは何かお困りなのでしょう?なら、助けないわけには行きませんよ。ですから、どうか頭を上げてください」

 

 お茶の間に案内するとその男性は手を合わせ感謝の言葉を述べながらずっとこちらに頭を下げている。私はそこまで感謝されるようなことはしてない。なので頭を上げるように男性に頼む。男性は見たところあまり裕福な暮らしをしていないのだろうか、服はボロボロで履いている草履も擦れてしまいもう変えなければいけないほどに磨耗していたのを玄関で確認した。

 

「それで何かお困りですか?私でよければ力になりますが」

「………」

 

 男性は黙って頷くのだが内容を話そうとしない。きっと何かしらの出来事がこの男性を混乱させているのだろう。なので少しでも落ち着いてもらうためにお茶を淹れて男性に差し出す。幸い先程ポットや急須などをこちらの部屋に持ってきていたためにこの場を離れずに済んだ。その出されたお茶を男性は「ありがとうございます」と言い控えめに一口飲む。そうして何か決心したかの様に顔を上げた。

 

「…あれは、3日前のことでした」

 

 そう男性は話を切り出した。男性は結婚しており、妻が1人子供が2人、という至って普通の生活をしていた。しかし3日前とある事件が起きた。遊びに里の外の山に行っていた子供のうちの1人、末っ子の男の子が突如姿を消したのだ。その子の字が書いてある1枚の手紙を残して。内容は「おかあさんおとうさんぼくはにえになります。さがさないでください」というもの。まだ7歳になったばかりだというのにそんな手紙を残して消えてしまった息子を家族全員で血眼になって捜したが見つからなかったらしい。「にえ」というのは生贄のことだろう。…何のだろうか。その手紙が無ければ妖怪の気まぐれで遊んでいる最中に攫われた、と言う風に考えるのだが、今回は違う。この男の子が自分の意思で手紙を残して消えた。

 

「操られた…のでしょうか」

「………」

 

 男性は一通り説明した後に静かに涙を零していた。…なるほどボロボロの服装や擦り切れそうな草履はその所為か。むしろ子供2人を養えていたのだから至って普通の家族だったのだろう。だがその平穏な日々は崩れ去った。およそ妖怪の所為だろう。しかしその真意が分からない。…調べるしかないか。

 

「考えていても仕方ないですね。その事件私に任せてください」

「……!ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

 男性は畳にこすり付けるように頭を下げ礼を述べた。少しして男性を落ち着かせた後男性を人里のほうまで送り届けた。終始「ありがとうございます」とこちらにいってきていたため相当に息子が大切だと見える。…良い家族だ。男性を送り届け自分の神社まで帰る頃にはもう日が暮れ始めていた。男性には明日からすぐに調査を始める、と伝えてあるので今日は明日の準備に取り掛かる。

 

「妖怪相手となると…お札とか一応持っていったほうが良いね」

 

 そう言って自身の部屋の押入れからお札の束を取り出す。それに付け加え封魔針も持って行く。念には念を。用心に越したことは無い。…にしてもなぜ男の子を「贄」としたのだろうか。普通生贄と言うのは神様に捧げるものだ。しかし神様は自身から生贄を乞うことは無い。これはあくまで予想であるがおそらく何かしらの妖怪が男の子を唆しそのような手紙を書かせ攫ったのだろう。

 

「…手遅れだなんてやめてよね…」

 

 一つの未来が私の心を不安にさせる。その未来は決して誰も望まない悲しい未来。ただ、この世界には人間と妖怪がいる。その二つの種族は今まで良いバランスを保ってきた。人間は妖怪を退治しない。妖怪はむやみやたらに人間を襲わず人里を襲うことは許されない。といった条約のようなものが結ばれている。つまり、人里の外で行われた今回の事件は一概に妖怪の所為だけとは言えないのだ。そこが難しいところだ。今回の件で人間のほうばかりに肩入れをしてしまうと妖怪にとって不平等。またその逆も然り。

 

「一番良いのはその妖怪が知的で温厚だった場合なのだけれど…たぶん無いよね」

 

 知的かも知れないが温厚の可能性は低い。話し合いで解決出来れば一番良いのだけれど今回それは望めそうに無い。そうなると、

 

「正当防衛、か」

 

 襲われたから逆に倒した。そのようにするしかない。…不本意だが。もしくは他の食べ物をご馳走すれば許してくれるかもしれない。という淡い希望も考える。そう部屋の中で考える霊夢は気付いていなかった。

―――外が真っ赤な霧で覆われていると言うことに。

 

 あれから時間は過ぎ夕ご飯、お風呂などを済まし布団を敷いて就寝するための準備をする。明日、どこを回るかを考え頭の中でまとめる。少しとはいえ頭を使った所為か少しの睡魔が襲ってくる。それに逆らうことはせずに私は眠った。

 

 

 

ダンダンダンッ!

 

 朝、私は玄関の扉を叩く音で目を覚ました。随分と焦っているようなので、バッと布団から飛び起き、服装が寝巻きのままだがそのまま気にせずに玄関へと向かう。そして鍵を開け玄関の扉を開ける。

 そこには息を切らし汗を流したいつもの冷静とは思えない魔理沙の姿があった。

 

「ど、どうしたの魔理沙!?」

 

 焦って魔理沙に問いかける。魔理沙は手で「ちょっとまって」と合図し息を整える。と、その時気付く。周りの、空の異変に。

 

「なに、これ?」

「昨日の夜から発生したらしい」

 

 昨日の夜…。私が男の子を捜す為の準備をしている頃か!

 

「人里のほうに向かってみたけれどどうやら普通の人間には悪影響を与えてしまうみたい。私は一応魔法使いだから効かないし霊夢も博霊の巫女だから効かない。けれどこのままでは人里に甚大な被害をもたらしてしまう!」

「…っ!男の子!そうよ!一人の男の子が妖怪に攫われたかもしれないの!」

 

 人間に悪影響を与える赤い霧。男の子が無事かは分からないが、もし無事であったとしたら今度はこの霧の危険に犯される。最悪の場合は…、いやよそう。マイナスの考えはしない。

 

「…わかった。その男の子は私に任せて。霊夢は大変かもしれないけどこの赤い霧を調べて」

「でも、」

「でもじゃないの!あなたは博麗の巫女でしょ?だったらこの”異変”を解決しなくちゃいけないじゃない」

「っ!」

 

 今魔理沙は”異変”と言った。もしかしたら普通に言葉を使ったのかもしれないが魔理沙からはそれだけではないものを感じた。そう、全て知っている。そんな雰囲気を感じた。

 

「魔理沙、あなた…」

「細かいことは後にしよ。それより今は目先の異変と男の子探しでしょ?」

「…そうね。そうよ!ありがとう魔理沙。今度お茶菓子奢るわ!」

 

 「別に良いって」と頬を掻きながら少し恥ずかしそうに魔理沙が言う。その後で魔理沙に男性からあらかじめ聞いていた男の子の特徴と、人里近くでいなくなったということを言い伝え魔理沙と別れ、私は赤い霧の招待を探しに向かった。

 

 

 

 

 

<魔理沙side>

 

「霊夢、一人で何でも背負い込まないでよ」

 

 私の呟きは誰にも届くことなく消えていった。

 

「…よし。私も自分のすべきことを果たそう」

 

 そう言って箒に跨り空へと飛ぶ。霊夢の話では兄弟で人里近くの山で遊んでいたところ消えた、もしくは攫われたらしい。ならばまずはそこへと向かおう。もしかしたら痕跡が残っているかもしれない。

 そう考え箒のスピードを上げる。

 

「3日前…か」

 

 望みが少し薄い。最悪の場合も考える。その場合は何とかして男の子だと分かるものを持ち帰ろう。悲しいことではあるが仕方が無い。そう割り切る。

 人里が見えてきたため一旦地面に降りる。

 

「結構広い。けど…」

 

 「そんなもの関係ない」と呟き一つの道具をポケットから取り出す。取り出したのは私が作ったマジックアイテム。努力と時間を費やして作った私の道具。広範囲索敵装置。本来ならば半径3㎞圏内の敵などを探すために使う道具なのだが使い方一つで人探しの道具へと変わる。黒い金属のような六角形の箱を手のひらに乗せ魔力を供給する。すると2本の赤い線と一本の白い線が山のほうへと伸びる。伸びる、と言っても1mほど伸び過ぎると敵に感知されてしまう可能性があるためその程度にした。なのでここからはその装置を頼りに捜索をしよう。

 

「しかし赤い線が2本か…骨が折れるわ」

 

 白い線は人間のことを表し、赤い線は妖怪の意味する。つまり敵が2人もしくは2匹。なぜ「匹」と言ったのかと言うと妖怪でも人間のような姿をしているものもいる。また逆に虫のようなのもいる。そのためだ。そんなことを考えつつ黙々とその線が伸びるほうへと歩みを進める。若干地面がぬかるんでいて靴が汚れるが気にしない。気にしていられない。その時何かが言い争うような声が聞こえた。

 

「――ちゃ――め―って!」

「知―か!―が――えた―だ!」

 

 どうやらすぐそこに妖怪がいるらしい。声がだんだん大きく聞こえる。念のために先程の装置を仕舞って違う道具を取り出す。今度は八卦炉と呼ばれるもの。とある知り合いの男性に作ってもらったのだ。こういうとき(・・・・・・)の為に。もう気配すら感じれるほど近くに来たために茂みに隠れその様子を見る。

 小さく開けた場所には1人と1匹の妖怪がいた。”1人”と表現したほうは一見すると年端もいかない少女のような妖怪。もう片方はゴキブリとカマキリを足して2で割ったような妖怪。その妖怪達の足元に苦しそうにうずくまるゲッソリとした少年が横たわっていた。そこでその妖怪達は言い争っていた。

 

「だーかーらー!まだこんな小さい子を食べちゃダメなのっ!」

「それこそ俺の知ったこっちゃねーよ!それは俺の餌だ!…あと、そこ!いつまで隠れてんだ!さっさと出てこい!」

「…っ!?」

 

 ばれてる!?さっきの装置が原因でばれたのかは分からないがこのまま黙っていると攻撃されかねない。出ても攻撃される可能性はあるが大人しくここは出ておこう。

 

「餌が増えたなぁ」

 

 そう虫のような妖怪は私を舐めるような視線で見てくる。気持ち悪いと無意識に嫌悪感を感じる。その様子を少女の妖怪が見て私と虫の妖怪の間に割って入る。そして私を庇うような体勢を取る。

 

「この子は関係ないっ!」

「ちっ…いい加減………」

 

 虫の妖怪が鎌のような手を振り上げる。

 

「うっ………ぜぇんだよおおおぉぉぉぉっ!!」

 

 ブンッという風切り音と共に虫の妖怪の怒鳴り声が聞こえたかと思うと、目の前の少女の妖怪が横薙ぎにされた鎌の一振りを喰らい血を流しながら右のほうへと飛んでいく。一瞬何があったのか頭が付いていかなかったが、このまま突っ立っていると私も危険だと手に力をこめる。そして戦う姿勢を見せる。

 

「ほう、お前それ(・・)使えるのか。おもしれぇ」

「………」

 

 私の手のひらに魔力の塊が生まれる。これを”弾幕”と呼ぶらしい。所謂エネルギー弾のようなこの弾は当たると結構痛い。そしてこれを使い戦う”弾幕ごっこ”と呼ばれるものがある。と先日道士の服を着た金髪の女性に教わった。そしてその時霊夢の役割も聞いた。その時私は決意した。私も霊夢と戦おう、と。

 

「私は今日、霊夢と一緒に戦うための一歩をここで踏み出す。あなたにはそれの踏み台になってもらう」

「何を言ってるかわかんねーけど、つまり戦うってことで良いんだな?」

 

 私は言葉を返すことなく頷き返事をする。その瞬間目の前から一発のエネルギー弾が飛んでくる。虫の妖怪が不意打ちを仕掛けて弾幕を飛ばしてきたのだ。その弾幕を自分で作った星型の弾幕で相殺する。ヒュウという口笛が聞こえる。随分と余裕な様子だ。それを皮切りに私達は空へと飛び上がった。その場でやってしまうと男の子に被害が及んでしまうし何より狭かったので移動した。そしてどちらとも無く弾幕を発射し戦いが始まった。




閲覧ありがとうございます。
今回は少し長めにしてみました。
このお話での魔理沙は火力重視の魔法使いではありません。
ちなみに他のキャラクターでもそういった形で得意なことなどを変更している場合があります。

次回「第3話 戦闘・氷結・門番」

次回の更新日は出来るだけ早めにとだけ言っておきます。
また次回も宜しくお願いします。


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第3話 戦闘・氷結・門番

”もしも”はあくまでそういった仮定のこと。
しかしこの世界はその”もしも”が現実の世界。
こちらの世界の歴史は少し違う。


すいません風邪引いて寝込んでました。
本来ならもっと早めに投稿するはずだったのですが…。


 箒に跨り空を翔る。弾を避けながら。弾の発生源を見ると先ほどの虫の妖怪。さほど本気に戦っているわけでは無い様で弾幕は薄い。その為避けることは簡単だ。しかし、私にとって初の弾幕ごっこ。避けながら相手に向かって弾幕を放つということが出来ないでいた。

 

「おいおい、どうしたよ。さっきの威勢はどうしたぁ?」

「あなたのっ、力量を、確認してる、だけですっ!!」

 

 そういって虫の妖怪に虚勢を張る。妖怪は私の言葉が嘘だと分かっているようだったがその言葉に対して何も口にしなかった。おそらく自分が勝つと信じているのだろう。舐められてばかりじゃいられない。そういった感情で熱くなりそうになる頭を自制を効かせ抑える。

 

「(熱くなっちゃだめだ。…教えてもらった”スペルカード”というものがあるじゃないか。それだったら倒せるかもしれない。)」

 

 そう考え自分のウエストポーチに入っているカードに触る。今自分が触っているのは「恋符「マスタースパーク」」と呼ばれるスペルカードだ。ポケットの中に入っている八卦炉と呼ばれるマジックアイテムを使って大火力のレーザーを放つ、という簡単なものだ。おそらくそれを使えば簡単にこの勝負は付く。しかしそれでは私の為にならない。負けては元も子もないのだが、経験は重要だ。ならば今のうちに少しでも経験を積んでおくことが必要だと思う。

 だが本当にそれで良いのか?今私達の戦っている下には少年が弱り横たわっている。ぱっと見ただけだったので妖怪の仕業か、はたまた純粋に病気などで弱っているのかは分からないが、どちらにせよ早く処置しないと危ないだろう。だったら手段を選ばずに今スペルカードを使って倒してしまったほうが良いのではないだろうか。

 一瞬の思考。だがそれがあだになる。

 ドスンという衝撃と共に右肩に走る鈍い痛み。私は相手の妖怪の弾幕に被弾してしまった。その弾の痛みと衝撃に耐えながら箒を握り締める。

 

「ようやく当たったか。そういえばルールを決めてなかったな。被弾2回、スペルカードは1枚だ。」

 

 まだ被弾1回で負けと相手の妖怪がしなかったのが唯一の救いか。先程の妖怪の言葉に頷く。しかし被弾はもう許されない。それにスペルカードも1枚のみ。

 …腹を括れ、霧雨魔理沙。お前ならできる。そう考え体制を整えつつ鞄の中身を確認する。

 

「(よし。ある(・・)。)」

 

 私はその鞄の中にあった1つの球体を取り出し上着のポケットに入れる。この球で戦況を変える…!そう言う風に意気込み妖怪に視線を向ける。

 そんな私を見て虫の妖怪の雰囲気も変わった。そしておもむろに口を開く。

 

「お前…これが初戦か」

「えぇ」

 

 少し冷静になったらしい虫の妖怪の言葉に対して短く返事をする。そんな私の返事を聞いて虫の妖怪は納得したように頷く。おおよそ先程の私の動きからそう言う風に予想したのだろう。自分で言うのもあれだが先程の立ち回りは下手の一言に尽きる。避けるのに精一杯でこちらは全然攻撃できなかったのだから。

 

「先程は人間を食べられなくてイライラしていた腹いせに戦っていたが、ここに改めて勝負を申し込む」

 

 どういった風の吹き回しだろうか。というか、あんたキャラ変わりすぎじゃない?とそう心には思いつつも口には出さない。

 

「あなたがそれでいいのならその勝負受けて経つわ」

「あぁ。ルールはさっき言ったものでやろう」

「えぇ」

 

 同情なのだろうか。私に少しでも希望を見せようとしているのだろうか。妖怪の魂胆は分からない。もしかしたら気まぐれで再戦を要求したのかもしれない。妖怪の考えは人間には分からない。

 そして短い私の返事を聞いた後にお互い少し離れた位置で構える。

 

 

 

 一つの戦いが始まろうとしている中、別の場所でもう一つの戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

「ここは私の湖……領土侵犯をしてきたのはそっちでしょ?紅白巫女さん」

「領土侵犯って…私はただ通ろうとしただけだってば」

 

 現在氷の妖精にいちゃもんつけられてます。例の真紅の館に向かう途中湖の上を通れば近道だと思い通ったのが運の尽きだった。なにやら私が湖の上を通ったのを「この騒ぎに乗じて縄張りを奪おうとしている人間」という風に勘違いしたらしく絡まれてるのだ。しかも厄介なことにこの妖精知識は結構あるらしい。冷静に考えれば「人間がこんなところ奪うはずがない」と分かりそうなものだが、頭に血が上っているらしく話を一向に聞こうとしない。

 

「こそこそしないで弾幕ごっこで決着をつけましょう」

「こそこそなんてしてないんだけど…わかったわ。弾幕ごっこをしましょう。ルールは?」

「被弾2回スペルカードは2枚」

「了解」

 

 互いの了承の後にお互い少しの距離を置いて対峙する形になる。しかし本当にすごいものだ。スペルカードルールがこんなにも広まっているなんて。妖怪たちから相談を設けられたのにはびっくりしたけれど、私にとっては嬉しいことこの上ない。この場で踊りたくなりそうなほどにうきうきする心を押し殺しお札を取り出す。

 

「そうそう私は紅白巫女じゃなくて博麗霊夢。好きに呼んでいいわ。…さぁいつでも良いよ。かかってきなさい!」

「自己紹介どうもありがとう。私はチルノ。氷の妖精。…かかってくるのはそっちよ。さぁ、凍って凍てつき凍えなさい!」

 

 その言葉と同時に薄い青色をした弾幕がこちらに襲ってくる。その弾幕を紙一重でかわしながら私もお札に霊力を込め投げつける。パターンを、ペースを変えながら撃ってくる相手の弾を体を捻ったり逸らしたりすることで避ける。その間も攻撃を忘れない。しかし相手に届く前に弾幕同士が当たり砕け散る。

 

「中々やるじゃない」

「あなたこそ人間の癖に……そろそろいくわよ。氷符「アイシクルフォール」!」

 

 チルノがスペルカードを取り出し宣言する。その瞬間、チルノの左右から氷の結晶の形をした弾幕が激流のように襲ってくる。しかもその中に混じって私を狙ってくる大き目の弾もあるものだから避けにくい。しかも弾幕が濃い為に視界が悪くなる。と、体を捻り回避をした瞬間服の袖に弾幕が当たり、袖の一部が千切れる。体に当たってはいないので被弾判定にはならないが注意が必要だ。

 スペルカードには制限時間がある。その制限時間が来るとスペルカードは終了。そのスペルカードを攻略したことになる。その時間切れを狙い私は避け続ける。しかし先程のように攻撃も忘れない。だが、相手の弾幕の威力が強いのかまったく弾が通らない。しかし悪あがきのごとく攻撃を続けていると氷の激流が途切れる。どうやら時間制限がきたようだ。案外短く感じたのは恐らく集中していた為だろう。

 

「さて次は私の番ね。霊符「無双封印」!」

 

 そう言って私もスペルカードを取り出し発動する。強力なホーミング性能を持った七色に光る弾が次々とチルノに襲いかかる。チルノが私から距離を置き弾を回避しようとするがホーミングの性能には適わないらしく被弾する。瞬間チルノの表情が痛みで歪む。

 

「(…ちょっと加減しとけばよかったかな。)」

 

 チルノの表情を見てそう言う考えも出てくるがすぐにかき消す。そう、あくまでこれは異変解決の為に行っていること。仕方の無いことなのだ。そう自分に言い聞かせる。

 すると体勢を整えたチルノが両手を挙げる。

 

「なに?」

「…見ての通り降参。はぁ…」

 

 驚いた。先程まであんなにやる気だった妖精がいきなり両手を挙げ降参してきたのだ。どういった風の吹き回しなのだろう。しかしため息混じりなところを見ると本人との意思ではないらしいと推測できる。

 

「あんなのと戦わなければ良かった…」

 

 それだけ呟いてチルノはどこかへ行ってしまった。私まだは何も喋ってないのに。しかし”あんなの”とは何のことなのだろうか。それはその場にいなかった私に知る由は無い。

 しかし結果的にとはいえ勝つことが出来たので湖の上を進む。

 

「ふぅ~ん。あれが博霊の巫女、ねぇ」

 

 後ろの木の陰から霊夢を見る視線が一つ。しかし霊夢がそれに気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

「さて、とりあえず館の前に来たけどどうしよう」

 

 そう言って霊夢が見つめるのは真紅の館の門。それと門番らしき赤い髪の女性。服は緑色を基調とした見慣れない服。その女性を遠目から見て私は悩んでいた。遠目からでも感じるくらい警戒しているのが分かる。空気がピリピリと肌を刺激するような感じがする。

 それほどあの門番は強い。それにあの警戒のしようじゃ前から正攻法で行っても恐らく止められるだろう。なので少し策を練ってから行くことにしよう。

 そう思い私はその場で策を練り始めた。




こちらの世界では霊夢はルーミアとまだ戦いません。
スペルカードルールも最近になってから流行し出したということにしています。
”もしも”の世界はあくまで”もしも”です。
というわけで第3話でした。

次回「第4話 絢爛・舞踏・華人」

次回も宜しくです。


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第4話 絢爛・舞踏・華人

七色の華は美しく戦場に咲き誇る
赤橙黄緑青藍紫、様々な色の弾
鈴の音を響かせ門番は戦場を舞う


急いで書きましたので誤字脱字、おかしなところなどありましたらお手数ですがご報告お願い致します。

1/22 12:38 追記 若干の文章の修正をしました


~門番 side~

 

 私は門番。館への招かざる客を配慮するのが仕事。そして私の主様はこちらの世界に来てからの大仕事。こちらの世界で言う”異変”というものを起こしている。主様は吸血鬼だ。吸血鬼は太陽の日を浴びてしまうと大変危険だ。そのために館のパチュリー様が赤い霧、いわゆる”紅霧”というものをこの世界に蔓延させたのだ。

 

 そして今私は館の門の前に居るのだが少し遠くに強い霊力を持つものの気を感じる。おそらくこの霧を止めさせに来た者だろう。もし無理やりにでもこの館に入り込もうというのならば、私の力の全てを(もっ)て防がなければならない。しかし、動く気配が無い。

 

「戦う気が無いのだろうか。…それとも臆しているのだろうか」

 

 分からない。しかし、明確な敵意が感じられないということは相手には戦う気が無いのだろう。だとしたらどうするつもりなのだろう。まぁここは待ちの姿勢を貫くのがいいだろう。

 …しかし、お嬢様、いや、主様は本当にこの世界でやっていけるのだろうか。あの人は優しすぎる。パチュリー様や咲夜さん、私がいなければおそらく館に引き篭ったままだっただろう。それに元の世界からこちらに来るなんていう選択をしなかっただろう。妹様とは本当に正反対の性格をしている。

 

 ふと門の丁度直線上に位置する木のほうへ視線を向けると、その木の陰から紅白色の服を着た者が現れる。その者の気配は先程私が感じていた気配と同じ。そうか、やっと接触を図ってきたか。丸腰だが警戒は緩めないようにしないといけないな。そう思いつつ私は警戒の姿勢と体勢を変えることなくその人物を見据えた。

 

 そして私は紅白の巫女との初めての対面を果たした。

 

 

 

~side out~

 

 

 

~霊夢 side~

 

 館の門の前の木の陰から様子を見ているが門番らしい女性はまったく動こうとしない。まぁ門番なのだからその場から動くということは無いだろう。

 

「厄介だなぁ。出来れば何も争うことなく中に入れてもらえればありがたいんだけど。…あーでもあの人の弾幕も見てみたいな。そうなると…よし。まず敵意が無いことを示し接触。その後反応を見て戦闘に入るか交渉で館に入るか決めよう」

 

 そんなことを私は回りに聞こえないぐらいの声で呟く。しかし、交渉とは考えたけれどもまず無理だろう。普通ならば門番に交渉したところで、知らない人物を館の中へ招くという権限を門番は持ち合わせていないだろう。そうなるとやはり弾幕ごっこしかないのだろうか。

 

「さて、とりあえず話してみますか」

 

 私は武器となる札と針を仕舞って木の陰から体を出した。出来る限り相手に悟られないように敵意は消して門のほうへと向かう。先程私が隠れていた木と門の間には何もない為にお互いの視線が交差する。相手は依然警戒を解いていないらしくピリピリとした空気を感じる。気のせいなのかもしれないがそう言う風に感じる。静電気がずっと発生しているようなそんな感じ。だがそんなことを気にも留めずにその門番のほうへと歩く。そしていくらか歩きお互いの距離が適度に近づいたところで私から声を掛ける。

 

「こんにちわ。私は博麗霊夢。巫女をやってるわ」

「挨拶をされたなら返さねばなるまいな。私は紅美鈴(ホン・メイリン)。門番だ」

 

 とお互いに軽い自己紹介と挨拶を交わす。先程と比べて相手の警戒が少し緩んだのを若干ではあるが感じる。なので少し交渉を試してみることにする。早いかもしれないがここに時間を割く余裕はあまり無いのだ。

 

「私の記憶が正しければ数日前までここに館なんて無かったと思うのだけれど、いつごろここに来たの?」

「その記憶は正しいと言っておこう。私達がここに来たのは2日前だ」

 

 2日前か。こちらに来て間もないのに良くこんなことをするものだ。普通だったら少しこちらの世界の様子を見て、自分の力がどれほど通じるか確認すると思うのだが。もし自分より強い存在が来たらどうするつもりだったのだろうか。…来ても構わない、と思うほどにここの館の主は自分の力に自身があるのだろうか。

 しかしこの門番いきなりの質問にも関わらず簡単に答えてくれる。もう少し情報が引き出せるかもしれない。

 

「2日前ね。ちなみにあなた達はスペルカードルールって知ってる?」

「あぁそれならこちらに来る前に妖怪の賢者と言ったか。その者に聞いた」

 

 まぁあらかた予想はしてたけどやっぱりゆかりんが移動させたのか。と金髪ロングで紫色の道士の服を着た少し胡散臭い女性の姿を思い浮かべる。さて、そろそろ異変に関する質問をしたいところだ。いきなり聞いたら怪しまれてしまうだろか。…その時はその時だ。成り行きに任せよう。

 

「んじゃこの紅い霧。これはあなた達が発生させてるの?」

「…なぜそのようなことを聞く?あんたのような巫女には関係の無い話に思うが」

 

 あちゃーやっぱり駄目かー。完全に警戒心戻っちゃった。内心トホホという気持ちと相手の弾幕が見れるかもしれないという期待の気持ちで分かれていた。そしてここまで警戒心が戻ってしまったのだ。もう私の正体を明かしても良いだろう。

 

「私はただの巫女じゃなくて博麗の巫女。この世界の異変を解決してるものよ。あとバランサーの役割もしてるかな」

「………なるほどな。つまり主様の起こしている異変を排除しに来たというわけか」

「排除なんて物騒な言い方ね。私は一応平和的に解決しに来てるんだけれど」

 

 だがその言葉の半分は嘘だ。その主様と呼ばれている者とも戦ってみたい。見てみたい。しかし、それではいけない。話し合いで解決できるならそれに越したことは無い。私が戦うのはあくまで最終手段。

 と先程の私の言葉を聞いた門番は何かしらの武道の構えのようなものを取る。

 

「その言葉を信じろというほうが今の状態から見れば無理な話だ」

「まぁそうだね。…ってことはやっぱりやることになるのかな」

「それが早いだろう。もし私を倒せれば通るといい」

 

 そう会話を交わしルールを決める。被弾は3回スペルカードも3枚。それを決めた後で私は門番から距離を取る。門番はまだ先程の構えを取ったままだ。あの体勢からどのようにして弾幕を放つのだろうか。気になるところだ。と私は小銭を一枚取り出し「これが落ちたらゲーム開始」と伝えコイントスの要領で上に飛ばす。クルクルクルと回転しながら上昇していくお金。そのお金は綺麗な軌道を描き私と門番の間ぐらいに放物線を描き飛んでいく。その間に札と針を取り出す。

 

チャリン

 

 お金が落ちた音がした瞬間門番の姿は見えなくなった。正確に言うと早過ぎて目で捉えられなかったのだ。そして博麗の巫女としての勘が働く。上だ。と私に訴えかけてくる。その勘を信じ全力で後ろへ飛ぶ。刹那私のいた所には七色の弾幕が土砂降りの雨のように降ってきた。ガガガガッと音がし、地面は抉られるように削れる。下手をすれば勝負が決まるどころか命も危うかったかもしれない。チッという舌打ちが上から聞こえたと思ったら次は右から弾幕が飛んでくる。その後時間差で左からも飛んでくる。まるで反則級の速度だ。そもそもこの門番は何の妖怪なのだろうか。見た目は普通の女性。しかし纏っている妖力の量が半端じゃないほどに多い。そんな妖怪が門番をしているのだからきっと主はもっと強いのだろう。ツーと背中に冷や汗が流れる。しかし考え事をしている暇は無い。私は札を3枚前左右に投げる。もちろん当てるつもりは無い。ただの威嚇射撃代わりだ。瞬間視界の右のほうに門番を捕らえた私はすかさず札を全力でばら撒く。しかし避ける隙間が無いというほどの量ではない。そうでないと弾幕ごっこのルールに反してしまうからだ。あくまでこの弾幕ごっこは美しさを競う勝負。力押しの弾幕では美しくない。だからあえて相手が避けられるように調整するのだ。事実この門番も消して避けられない弾幕の濃さではなかった。だから私は今まで避けられていたのだ。

 

「さすが異変を解決しようとしているだけのことはある」

「でしょ?」

 

 そんな軽口を叩きながら私は七色の弾幕を避け札と針を投げつける。札には若干の追尾性能。針は純粋に速度が速い。その二種類を使い分け戦う。そして相手の弾幕がふと薄くなった瞬間を狙い門番に向かって霊力を乗せた針を飛ばす。

 

「まず一発…め…?」

 

 当たったと確信した瞬間相手の手元が光る。スペルカードだ。そして私は当たると確信していたために驚きから隙が出来てしまう。

 

「華符「芳華絢爛」!!」

 

 瞬間私の視界が花びらのような形で飛んできた弾幕で埋め尽くされる。どこからか鈴の音が鳴っているのが私の耳に入る。「綺麗」と素直に思った瞬間私は被弾した。




七色の華は巫女に襲い掛かる
硬く閉ざされた門
その門を巫女は破ることは出来るのか

次回 「第5話 油断・反撃・彩虹」

次回も宜しくです。


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第5話 油断・反撃・彩虹

遅くなってしまい申し訳ありません!
自身の納得のいく文が書けず一旦置いてしまってました!
半分リハビリのような感じなので今回はかなり短めです。ご容赦を。


 完全に油断していた。というより、誘い込まれたと言ったほうが良いのだろうか。相手が隙を見せたのだと思い、当たるだろうと慢心してしまった。その結果この様だ。

 

「早速一発被弾だな。存外この勝負早く終わるかもしれないな」

 

 膝を地面に着き座り込む私に門番が空から私に言葉をかける。しかしその言葉に答えている余裕は無い。先程被弾し、当たり所が悪かったのか少し呼吸が出来ないでいたのだ。だからと言って休んでいるわけには行かない。言うことを聞かない体に鞭を打ち半ば無理やり立たせる。綺麗な弾幕とは裏腹にダメージがでかい。ここからは気を締めていかないといけない。

 

「さっきの、あなたの言葉」

「ん?」

「現実になるかもね」

「はっ、諦めるのが随分と早…っ!」

 

 門番が肩を竦めやれやれといった様子で首を振った直後に、相手に目掛けて針と札を霊力を乗せ飛ばす。不意打ちを狙ったのにもかかわらず今の私の攻撃は相手の頬を掠る程度で終わった。

 しかし、それだけで私の攻撃は終わらない。思い切り相手のほうへ目掛けて思い切り地面を蹴る。霊力を乗せたかなり強い蹴りだ。その結果視界を塞ぐように砂埃が舞い起こる。そのタイミングを見計らって私は空へ飛ぶ。決して美しいとはいえないがこの際致し方ない。弾幕ごっこと言いつつ私のやっていることは普通の戦闘と大差が無いだろう。言ってしまえば外道だ。こんな戦い方をするのには理由がある。それは、先代巫女の教えの一つに「勝利は第一、評価は第二、見栄えは第三、敗北なぞ考えるべからず」という言葉がある。そして私はその考えの下育ってきた。最早外道は私にとって普通なのだ。

 と、内心美しくない自分の戦い方のことを考えテンションが下がりつつも空を飛ぶ。人間なのにも関わらず空を飛べるのは私の能力である、「空を飛ぶ程度の能力」のおかげだ。おそらく相手は妖怪だろう。きっと飛べるだろうから私を追ってくるはずだ。その予想通り砂煙を振り払いながら勢いよく門番が飛び出してきて、私と同じぐらいの高度で留まった。

 

「随分と実戦に近い戦い方をするのだな」

「えぇ、勝つこと優先に考えてるからね」

「随分と舞踏派な考え方をするのだな」

「少し違うよ。私は舞踏派じゃなくて…っ!」

 

 門番の言葉を訂正しようとしていたらいきなり目の前が色とりどりの弾幕で覆い尽くされる。それに反応できたのはある程度門番との距離が離れていたからだろう。

 

「不意打ちにしてはかなり力を入れるのね」

「出来るなら短期決戦のほうが良いからな」

 

 そう言葉を交わしつつ弾幕を避ける。避けるだけでは埒が明かないので私も応戦する。色とりどりの弾幕に私の針や札がぶつかり光の粒子を撒き散らし消える。まるで小さい花火のようだ。それを見て「あぁ綺麗だ」と思う私は些か戦闘に真剣ではないのだろうか。…いや違う。心の中ではそう思っていても巫女としての”異変を解決しなければならない”という考えは忘れていない。

 

「私は…勝たなきゃいけない!」

「私は守らなければならない!」

 

 ほぼ同時にお互いの考えを口にし弾幕を放つ…フリをして門番に一気に近づく。本来ならば自殺行為の行動なのだがお構い無しに懐に潜り込む。

 

「なっ!?」

「まずは一発!とびっきりのをお見舞いしてあげる!」

 

 そう言ってほぼ零距離で相手にかなりの力を込めた霊力の塊をぶつける。「ぐぁ」と小さく呻いたかと思ったら門番は地面に向かって落ちてゆく。頭から落ちて行ったのでさすがにまずいと思い落ちてゆく門番より先に地面へと向かう。そして落ちてきた門番を足に霊力を込め受け止める。どうやら先程の霊弾に力を入れすぎたようで門番は軽く気を失っているらしい。だがすぐに目を覚ます。

 

「…敵に助けてもらうとはな」

「さすがに目の前で傷つくのを黙ってみてるようじゃ巫女失格、というか人間的にどうかと思うけどね」

「…お前は、いや、霊夢は優しいのだな。……私の負けだ。通るといい」

「…いいの?」

「あぁ。だが、残りの者達が私と同レベルなどと考えるんじゃないぞ」

「うん!ありがと!」

 

 

 そう言って私は門を潜り抜ける。最初はどうなることかと思ったがあの門番…美鈴は優しい良い妖怪だった。そう考えつつ玄関と思われる扉のほうへ向かっていると不意に後ろから声がかかる。

 

「霊夢!もしこの異変が無事解決できたらお嬢様達と一緒にそちらへ遊びに行っても良いだろうか!?」

「…えぇ!もちろん!友人としてお出迎えさせてもらうわ!」

 

 たった数分。なのにここまで仲良くなれるとは思っていなかった。そんな一人の人間と一人の妖怪を見て微笑むものが一人。

 目玉のギョロつく裂け目の中で妖怪の賢者、八雲紫は微笑んでいた。

 

「こちらの世界は友好的な者が多くて素晴らしいわね。()()()の世界の霊夢もこんな感じなら参拝客も増えるだろうに…。でも逆に言えばあっちの霊夢はあの性格だから寧ろ人や妖怪を寄せ付けるのでしょうけど」

 

 スキマの妖怪はとある二つの似た世界を比べ、とある事を考える。

 

―――もし、この似たようで異なる世界の住人の内一人、入れ替えたならば、二つの世界とその住人の運命はどのように交じり合い、どのような化学変化を起こすのだろうか。

 

「少し考えただけでも面白そう…!…っとさすがにそれをやっちゃうと色々とまずいわね。惜しいけど自嘲しないと。私は今は傍観者。見て、観て、看なくちゃ」

 

 妖怪の賢者は頭を振り自身の考えを掻き消す。自身の欲望に従うことは簡単だが、もしそれで二つの世界が狂ってしまったら惜しい。

 だから彼女は見る。そして観る。 それ故に彼女は看るのだ。

 

そんなとある賢者の心の葛藤は誰も知る由も無い。




閲覧ありがとうございました。
紫おb…お姉さまの言っていた「見て、観て、看る」というのは、

見る:純粋に目で見るという意味。
観る:見るとは似ているが、こちらは観察という意味。
看る:こちらは子供の世話を看るというような意味で、もしお互いの世界の住人が危険な状態に陥ったとき等にサポートなどをするような意。

って言うような感じです。
というわけで第5話でした。次回もまたいつ更新するか分かりません。なので次回のタイトルはここでは未定としておきます。
出来るだけ早めの更新目指しますので今後とも宜しくお願いします!


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第6話 覚悟・妖虫・決意

ハーメルンのマイページを開きこの小説の最終更新日時を見る。
私は絶句した。
気付けば2ヶ月経とうとしていたのだ。


―――なにが原因だったのだろうか。

自分の頭の中に直接語りかけてくる声。

「サボろうとしてたんじゃないのか?」

―――……う。

その言葉一つ一つが心に深く深く落ちてゆく。

「楽しようとしてたんじゃないのか?」

―――ち…う。

だが、そう考えるのも不思議ではない。

「失踪しようと…」

―――違う!ただ、ただ…。

一番聞きたくない言葉を遮り私は叫ぶ。しかし、言葉が続いてこない。

「ほら、何も言えないじゃないか。」

―――…言える、わけ…ないだろ。

一瞬の静寂。




艦これに没頭してたなんて!!!

ほんとすんませんでした。


 魔女とは超自然的な力を使い人畜に害を及ぼすとされた存在である。

 

 たまに私のことを”魔女”と呼ぶものがいるが、それは違う。と声を大にして否定したい。あくまで私は”魔法使い”なのだ。魔女も魔法使いも元来は同じ意味だが、私は違うと私なりの自論を持っている。魔女は超能力のようなものを使うと考え、魔法使いはあくまでタネのある術、言うならば化学の力。それを使用し様々なことをするのだ。しかし、これはあくまで私の言い分。他のものからは「それはおかしい。」などの否定的な意見が飛んでくるだろう。

 

 だが、それでも私は自分の意見を曲げない。私は魔法使い、そう、”普通の魔法使い”なのだから。

 

 この勝負は”普通の魔法使い”としての始めての戦い。だから、

 

「私は勝たなければならない!」

 

 私は目の前の虫の妖怪に向かって鞄から取り出した小さい小瓶を二つ投げつける。相手も驚いたことだろう。威勢よく何か投げつけてきたと思ったら、中身はただの小麦粉と、酸素を詰めた瓶だなんて。

 

 投げた瓶は少しの時間差で投げている。ただ、時間差を置いて投げたわけではなく、後に投げた瓶のほうが若干力を込めて投げている。なぜか?相手にその瓶を当てる前に瓶同士でぶつけて相手の目の前で割る為だ。

 相手は不思議そうに瓶を眺めており、二つが目の前で割れた瞬間少しびっくりしたようだが、ただの小麦粉だと分かりやはり不思議そうに眺めていた。

(よし、そのまま不思議そうにしてて…!)

 私は心の中でそう呟く。相手はただ視界を妨害しただけだと判断したらしく動かない。それが敗因だと知るのはすぐだろう。

 鞄の中からまた一つ取り出す。今度は小さい細い棒。しかし、ただの棒ではない。棒の先端に頭薬をつけたもの。所謂マッチだ。しかも、燃焼性が上がるように頭薬は少し工夫してある。燃焼性が上がることにより、投げたりしても燃え続けるようにしたのだ。なぜそうしたか?無論投げる為だ。どこへ?その応えはすぐに分かる。

 

「(今だ!)」

 

 私はマッチに火を点け、目の前の小麦粉が舞い、空気中の酸素と混ざっている箇所へと火の付いたマッチを投げつける。そして、その瞬間後ろへ全力で飛び退く。もうすでに分かるだろうが、私は粉塵爆発を狙ったのだ。本来なら戦闘中に狙って出来るようなものでもないし、下には先程の少年と私を庇ってくれた少女の妖怪がいる。もし万が一があれば巻き込んでしまう。しかし、それはお互い空に飛び上がった為解消された。空へ出た為空気は多くあるし、小瓶に詰めた酸素でさらに空気中に酸素を増やした。これならいける。そう頭で考え実行したのだ。

 全力で遠のいた瞬間、虫の妖怪が何かを察したらしくこちらに向かってこようとしたが、それは悪手だ。こちらに向かってこようとした瞬間、マッチが小麦粉と酸素の混ざった箇所に到達。その瞬間、爆発音が周りを包む。しかし、小麦粉の量をあまり多くしなかった為に大規模とまではいかない程度の爆発に抑えられた。そしてその爆発した箇所から下へと何かが落ちてゆく。

 

「よかった…。これは使わなくて済んだ。」

 

 上着のポケットに潜めた球体に触れつつ落ちていく虫の妖怪を見る。受身を取ろうとしないところを見ると気絶したか、運悪く死んだか、だ。だが、相手は妖怪。油断はしない。こちらにはまだスペルカードもある。しかし、慢心はしない。次の策を練る。まだ鞄には材料はある。戦闘用に持っていたわけではないが、ダメージを与えられるものは多くある。しかし、どれも致死性は無い。それこそこの粉塵爆発が一番ダメージを期待できるものだったのだ。

 

「次点では”あれ”かな。」

 

 今度は液体が入った小瓶二つを手に取る。しかし、これは純粋に危険だ。下手をすれば私も危ない。それに妖怪に効果があるか分からない。しかし、やってみる価値はあるだろう。虫の妖怪が落ちらしい音を聞いた後にその二つの液体を混ぜ合わせる。混ぜたのは濃塩酸と濃硝酸。それを3:1で混ぜたのだ。手元の瓶に橙赤色の液体が出来上がる。これこそ、王の名を持つ水。

 

「出来た。王水…。」

 

 銀以外ほとんどの金属を溶かすという最強の性質を持った液体。もちろん人体にとっては害悪でしかない。劇薬だ。今回この液体の入った瓶は注意して取り扱わなければならない。この瓶は特別性。他の小瓶と違いガラスが薄いのだ。つまりは簡単に割れる。下手に力を加えようなら私の手が黒こげになってしまう。

 これを虫の妖怪に投げつければほぼ勝敗は決まったものだろう。

 

「…今更だけど私弾幕ごっこやってないな。」

 

 本当に今更である。しかし、相手は少年を食べようとした犯人。容赦をするわけにはいかない。そう思っているとゆったりとした速度で虫の妖怪がこちらに飛んできた。しかし、相手からは敵対心というか覇気というかそういったものが感じられない。

 

「…?」

 

 どうしたのだろうかと観察しているとその妖怪は器用に空中で土下座をしてきた。

 

「すんませんしたっっっ!」

「!?」

「姐さんのことマジで舐めてました!こんなに強いお方だとは思わず、俺はとんだ失礼を…。」

 

 いや、だからキャラ変わりすぎだろお前。てか姐さんてなにさ。そう突っ込みたい気持ちを抑え、なぜ今回のようなことをしたのか妖怪に聞く。

 聞いてみると、どうやら元々5人のグループのようなもので動いていたらしいのだが、些細なことが原因で喧嘩別れ、という生易しいものではなく、死人が出そうな争いの中、命からがら逃げ伸び、その腹いせに今回の事件をやったらしい。

 

「…すごいはた迷惑ね。」

「本当に反省してます。さっきの妖怪の子にも当たっちまったし…。」

 

 どうやら優しい心の持ち主ではあるようだ。本来疑うべきなのだろうがあまりにもこの妖怪が不憫に思えたのと、言っていることが嘘とは私は不思議と感じなかった。なら私から言うべきことは一つ。

 

「…いいわ。私は許してあげる。」

「良いんですか!?」

「ええ、”私”はね。さっきの妖怪の女の子に謝るのはもちろん、あなたが連れ去った男の子、その家族、里に謝りに行くの。」

「了解です!」

 

 やることが決まった虫の妖怪はそれからの行動が早かった。先程吹き飛ばしてしまった少女の妖怪。その子を探し、重症ではないことを確認し応急処置。少年には水を飲ませ、いつの間に狩ってきたのか熊の肉を食べさせ元気にさせた。

 

「(いきなり熊の肉って大丈夫なのかな?かなりお腹に堪えそうなんだけど。)」

 

 そんな私の心配は何のその。まだ十代前半らしき男の子には関係ないらしい。しかもなぜか虫の妖怪が謝ったあと意気投合。こんど遊ぼうなどと言っていた。先程食べられそうだったと言うのに暢気なものだ。妖怪の少女は気絶している為一旦私の家で看病しようと提案した。だが、その前に少年を里に帰し謝るのが先だ。

 

 

 

「本当に申し訳ありませんでした!」

 

 そう言って俺は里の皆さん、少年の家族に土下座をし謝罪する。心からの土下座、心からの謝罪。故に余計な言い訳などはしない。今回は全て自分が悪いのだ。どんな罵詈雑言でも受けるつもりだし、石を投げつけられたり棒なんかで叩かれてもそれも全て受けるつもりだ。

 頭を下げている時間が嫌に長く感じる。あたりは静寂に包まれている。素直に謝りに来た俺に困惑しているのだろうか。それとも、傷一つ負っていない少年が不思議なのか。はたまた、怒りから言葉が出ないのか。それは俺にはわからない。

 そんな静寂をザッという誰かが動く音が取り払う。次の瞬間、感じたのは軽い衝撃。どうやら石を投げられたらしい。しかし、痛みはさほど大きくは無い。あまり大きい石ではないからだろうか。それを皮切りに暴言、罵倒、それと同時に石やごみが投げつけられてきた。

 

「(そう…。これでいい。)」

 

 そうやって罰を受けようとしていたのだがピタリと物も言葉もこちらに飛んでこなくなった。何事かと思い顔を上げてみると里の者達は上を見上げていた。しかし、みな表情は血の気がなくなっている。自分もそれに習って上を見上げる。そこには2つの影。目を凝らしてみると見覚えのある妖怪が里の上空で飛んでいた。もともと俺とつるんでいたグループの2匹だ。

 

「よ、妖怪だー!」

「いやあああぁぁぁぁ!」

「早く逃げるんだ!食われるぞ!」

 

 もうその場は先程のような罰を与える場所ではなくなっていた。みなパニックになり、我先にと近くにあった家屋に逃げ込んでいた。ある者は周りのものを押しのけながら強引に進み、力の無いものは押しのけられた反動でしりもちをついたり、転んでしまったりしていた。妖怪はそんな状況を楽しんでいるのか上空で円を描くように飛んでいる。

 と、一匹が逃げている者達のほうへ急降下してきた。ついに仕掛けてきたのだ。そして不運なことに標的にされたのは俺が攫った少年。押しのけられた衝撃で転んでしまっていたのだ。危ない。そう思った瞬間、俺の体は自然と動いていた。

 

「…なにしてんだ?てめぇ。」

「見てからねぇのか?三下妖怪?」

「黙れ!」

「あぁ?能力も使えない。戦闘能力も俺より下。さらに戦いのセンスもないと来た。これが三下じゃなければ何なんだよ?この虫けら。」

 

 妖怪の手を掴んでいた俺の手が強引に外される。次の瞬間には顔に2発、両肩に3発ずつ、腹に5発殴られていた。しかし、驚きはしない。これがこいつの能力だと知っているからだ。近接戦闘ではかなり強い能力。”殴る速度を操る程度の能力”それがこいつの能力だ。以前教えてもらったことがある。合計10発の殴打をくらい視界が揺らぐ。立っていられなくなりその場に片膝を付く。ハッと嘲笑するような笑い声が聞こえた。しかし、それでも俺は立つ。

 

「はっ、まだ立つのかよ虫けら。大人しく休んでろよ。」

「…は、っ、休ま、ねーよ。」

 

 ちなみに里には姐さんは来ていない。故に増援は期待できない。俺一人で何とかしなければならない。

 

「………?」

 

 なぜそんな事を思うのだろうか。俺は妖怪。本来なら俺も人間を襲う立場の者だ。それなのに、なぜ。

 

『こんど俺の友達と一緒に遊ぼうぜ!』

『…いいわ。私は許してあげる。』

 

 先程2人の人間に言われた言葉を思い出す。酷いことをしてしまい、その上食べようとしていたのにも関わらず遊ぼうと笑顔で言ってきた少年。許されないだろうと思いつつも一つのケジメとして謝った結果、寛大な心で許してくれた魔法使いの少女。そういったことがあったからだろうか。俺は人間が好きになっていた。他の妖怪から見れば「なんてちょろいやつなんだ」なんて言われたり思われたりするかもしれない。だけど、一つ決意する。

 

「俺は、人間を守る妖怪になる!」

 

 

―――これが俺の……俺の、決意だ。




更新速度まばら過ぎてワロえない。
いや、自分の所為なんだけどさ。
ちなみに艦これやってたのは本当ですが、実際はネタが思い浮かばなかったと言うのが本音です。
てか、今回の話、虫の妖怪が主人公みたいになってるじゃん。
あ、ちなみにこの虫は準レギュラーの予定です。


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