真剣でオーガに恋しなさい! (EDF隊員)
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1.生

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の事であった。

 

川神市の端にある、小さくも大きくも無い産婦人科の一室で今、苦しげに痛みに耐えて喘ぐ女性が涙を流しながら女医の手を硬く握り絞めている所だ。

今まさに、新たな生命が誕生する。

 

「頑張ってください!!あと少しですよ!!」

 

女医は、自らの手に赤ん坊を掴み、出産の手伝いをしていたのだが自らの手が伝えてくる赤ん坊の感触は岩のようであった。

それを奇妙に思いながらも、今まで経験してきた出産の動きと何一つ変わりはないので、問題はないだろうと考え尚も女医は優しく引っ張り続ける。

すると、やはりと言うべきか何も問題は無く無事に赤ん坊は胎内から出てきて女医の手に収まった。

 

(やけに大きい赤ん坊……それに体も岩の様に硬い。でも小さいながらも泣いてはいるし、体の異常な硬さを除けば何も問題はないわね……ッ!?)

 

女医が手に抱えて、赤ん坊を触診していると、不意に赤ん坊の目がパッチリと開いたような気がした。

しかし、驚いて瞬きをしてからもう一度赤ん坊を見ると、普通の赤ん坊同様に目を閉じている。

疲れているのかしら?と一度大きく深呼吸をしてから、赤ん坊を母親へと引き渡した。

 

「これが私の赤ちゃん……先生、やけにこの子体が硬い気がするのですけど大丈夫なのでしょうか?」

 

「えぇ、私もここまで体が硬い赤ん坊は抱いた事が有りませんが、恐らく筋肉ですね。将来はスポーツ選手として名を馳せるのではないでしょうか?」

 

母親の心配そうな顔に、女医は安心させる意味を込めて冗談めかして片目を閉じてみせる。

それを見た母親も、安堵の表情を浮べて一つ息を吐く。

本当は、赤ん坊が不気味であると女医は心に押しとどめて笑顔で去っていく母親を見送り、母親とは違う類の安堵のため息を吐いてからゆっくりと次の患者のカルテへと目を通した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(何だ……?暖かい?)

 

自らの体を何か暖かい液体のようなもので、覆われている感覚に俺は目を覚ました。

しかし、死んだはずの自分に意識が戻っている事に今更ながら気が付き、辺りを見渡そうとして、目が開かない事に気が付く。

 

(これが死後の世界か……結構気持ちいいもんだ)

 

やけに居心地のいい死後の世界に、意識を傾けていると不意に頭を誰かに掴まれている感覚が俺を襲った。

この暖かい空間から引っ張り出そうとする、手のようなものは閻魔か何かなのだろうか?このまま、きっと閻魔の元に連れていかれて天国か地獄かに分別されるのだろう。

そう考えていると、意外と自分の意識に余裕がある事に気が付き、少し笑える。

 

(生前は色々喧嘩とかしたし、地獄だろうなぁ)

 

そんな事を考えていたら、遂に俺は暖かい空間から出されて、何かに抱きかかえられている状態に移行した。

今、俺を持ち上げているのが閻魔なのだろうか?

不意に興味が湧いてきて、頑張って目を空けようとすると、いとも簡単に目が開き情報を与えてきたのだが、俺の目に飛び込んできたのは驚いた顔をしている女性だった。

 

(ど、どういうことだ?)

 

驚いた女性の顔に俺もツラれて、思わず開いた眼を閉じてしまう。

すると、俺を抱きかかえている女性は安堵したかのようなため息を吐いたのでこれが正解だと信じている。

状況を把握しようと頭を働かせていると、俺の体は誰かに手渡されたようで、一瞬の浮遊感の後にまた違う匂いのする誰かの腕の中に収まった。

薄眼を開けて、自分の体を見てみるとまるで赤ん坊のようになってしまっている。

 

(輪廻転生……本当だったのか?それにしても前世の記憶を引き継いで転生するなんて、運がいいのか悪いのか)

 

不思議と、転生した事実はストンと心に落ちた。

 

何はともあれ、二度目の人生楽しもうじゃないか――

 

 

 

 

 

 

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二度目の人生楽しもうじゃないか、そんな事を考えている時期が俺にもありました……。

 

 

「化け物め……早く出て行ってくれッ!!」

 

現在、俺は中学三年生最後の夏真っ盛りだ。

そんな俺に罵声を浴びせているのは義父なのだが、正直母が死んでからというもの一緒に住んでいる家族全員から義父と同じような罵声を散々浴びているので特に問題は無い。

母は俺が小学校低学年の頃に亡くなり、義父は当時(・・)小さかった俺を何故だか引き取ってくれたので、俺は中学三年まで育つことが出来た。

しかし、どうやら俺の体は異常なようで小学校六年生の時点で身長は百七十センチを超え、今では百九十はある。

筋肉が付きやすい体質なのか、ボディビルダー顔負けの筋肉を既に手に入れて、身長もバカでかい……それはそれは義父達に恐怖を纏った眼差しで見られたことである。

俺の見た目は完全に生前愛読していた漫画に登場する、人類最強にして最強親父——『範馬勇次郎』を若くしたような見た目なのでそれは怖いだろう。

 

というか、完全に範馬勇次郎の体です本当にありがとうございました。

 

「私達に恩を感じているというのなら、早く出て行かんかッ!!」

 

自分の体が範馬勇次郎であることは嬉しかったが、ここまで怖がられると若干傷つく。

しかし、この家の人達に育てられたのも事実なので、やはり俺は恩を返すために出ていくのがベストだろう。

 

「世話になったなァ、いつか恩は返す」

 

「ヒィッ!!わ、私達を殺すのか!?」

 

そして、残念な事にこの体発する言葉まで勇次郎のようになってしまうのだ。

それは仕方がないので、取り敢えず最後ぐらい笑顔でお別れしようと、渾身の笑みで義父へ別れと恩を返すウマを伝えると、酷く怯えた様子で何処かへと走り去っていった。

何となく、義父は何かを取りにいったのかと待っていると、受話器を手に義父は戻ってきて、こう言い放つ。

 

「警察を呼んだッ!!こ、此処にもうすぐ警察がくるぞ?さぁ、早く何処かへ行ってくれ!!」

 

何で警察を呼んだのかは知らないけど、成程事情聴取とかめんどくさい事に巻き込まれる前に、家から逃がしてくれるのか。

お言葉に甘えて、俺は家を出て当てもなく歩き始めた。

というか、幾らこの形とはいえ中学生を追い出すかねぇ……まぁ、細かい事は気にしないタチだ。

先ずは家、もしくは屋根がある廃墟を探すとしよう。

 

学校とかどうするかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なぁ弟よ、知ってるか?」

 

「ん?何が?」

 

 

川神学院に通う生徒の大半が渡る橋、多馬大橋——通称、変態橋。

その上を仲良さげに、それこそ本当の姉弟のように渡っているのは、風間ファミリーの軍師である直江大和と武神と謳われる川神百代だ。

不意に、百代は大和へ向かって声を発した。

何時も通り、脈絡のない百代の問に大和は、これもまたいつも通り問いに問いへ返す。

百代との会話はこれでいいのだ、脈絡のない質問には質問で返すというのは風間ファミリーの中では常識レベルの事である。

 

「何やら最近、不良共の溜まり場がザワついているらしいぞ。何やら強い奴が現れた、とか何とか言ってた」

 

「ふぅん?それがどうかしたの?」

 

やけにギラついた眼で百代はそう言ったが、百代の言葉を聞いて大和は嫌な予感を抱いていた。

百代は少しでも、強い者が現れるとすぐに勝負を吹っ掛けて一方的に嬲る、というよりも実力差がありすぎて嬲るようになってしまうのだ。

そして、翌日つまらなそうな顔で若干不機嫌に学校へと登校してくる。

 

何十回、或いは何百回も見てきた百代のその顔と、自分ではどうする事も出来ない百代のある種、孤独の様な有様を大和は歯痒い思い出見てきた。

しかし、如何に頑張っても自分ではどうする事も出来ない。

最近の大和は、もういっそ百代に興味を持たれるような噂を立てる者が出てこなければいいのに、なんてことを考え始めていた。

しかし、恐らく今回も百代の目に止まる程には実力者なのだろう。

 

「姉さんは……その強い奴(・・・)に会いに行くの?……止めておいた方がいいよ、どうせ姉さんには勝てない——」

 

「まぁ、そうだろうな。いい勝負が出来ればいいや、程度にしか考えてないぞ私は」

 

大和はこの喜色を浮べた百代の表情に嫉妬する。

正確に言うと、百代に自分たちでは引き出せない本当の喜びを、一時でも抱かせる強者たちにだが。

百代は、戦いの為ならファミリーを疎かにすることも多い、そのせいでファミリーの面々も自分達が百代の相手を出来ればと何度も口にしていた。

 

「ま、どうせ今回の奴も————」

 

百代は哀愁漂う表情でそう呟くと、晴れ渡る空を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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いつの間にか、不良達のボスにされていた件。

 

現在、高校三年生かな?

義父に家を追い出されてから当てもなく歩き、時に危ないバイトで金を稼ぎ、時に紛争地帯で傭兵として戦って金を得て生きてきた。

紛争云々は、いつの間にかといった感じだったが……何はともあれ生きていることに感謝感謝だ。

まぁ、この勇次郎ボディのお陰っていうのが一番大きい。

だって銃弾受けても薄皮一枚擦り向ける程度なのだ。

ロケットランチャー取り出された時は死んだ、と思ったけど何だかんだで如何にかなった。

 

そうして、そんな生活を続けて、紛争地帯から生まれ育った川神市に帰ってくると早々に俺はマンションの一部屋を借りたのだが、これが格安でびっくりしたものだ。

不動産に理由を聞いてみると、どうやらマンション周辺の治安が川神市最悪らしい。

しかも、川神市は無駄に武術に精通している人が多く、不良達にしても危ない人達にしても無駄に強いから警察も取り締まれないのだとか何とか。

産まれてこの方、そういうトラブルに巻き込まれた事の無い俺としては是非も無く、そのマンションを借りたいというウマを話すと不動産も快諾してくれた。

 

「貴方なら大丈夫でしょうな」

 

なんて冗談をつけて。

見た目は勇次郎だけど、中身はチキンの俺だ。

身体能力も勇次郎なので、そこらの不良には負けない自信があるが、恐らく武術に精通している奴に襲われたら普通に負ける自信がある。

 

ということで、不動産に地図を書いて貰い件のマンションへ向かうと、廃墟の様な建物が目に入ってきた。

そして地図もその廃墟を示しているので、恐らくこれなのだろう。

まぁ、屋根は普通にあるし雨水防げればいいかぁ……と、自分の号室へ向かってみるとこれには流石に驚いた。

 

扉はバールのようなモノで穴を何カ所にも空けられており、鍵を通して中へ入ってみればガラスは割られて、浴槽は辛うじてお湯を貯められそうだが、中々に酷い有様だ。

壁には落書きが大量に書かれており、元々の壁の色が分からない程である。

 

「ふむ……」

 

自分の無駄にゴツイ指で顎を撫でて考えていたが、まぁこの荒れようも慣れれば大丈夫だと結論付ける。

 

そして、しばらくそのマンションからでずに傭兵生活で貯めた大金を浪費しつつ、暫く自宅ライフを楽しんでいた。

その間にも、何度か不良が来て俺に気付いては立ち去っていくので、恐らく実はここら辺の不良達は実はいい子なのだろう。家主がきたら途端に悪戯を止めるなんて、中々偉いものだ。

まぁ、何度か一旦立ち去った不良が凄い大きい奴を連れてきた時は焦ったけど、これもまたいい人で最初こそ殴りかかってきたけど少し反撃したら、俺が迷惑していることを察してくれたのか凄い勢いで謝罪して立ち去って行った。

 

 

そして、気が付けば不良達のボスとして警察に目を付けられているらしい。

この間、何度かマンション周辺で会う不良が教えてくれた。

凄いキラキラした目で見られたけど、正直嬉しくは無いし迷惑であるという事を、それとなく伝えてみると慌てた様子で何処かに行ってしまい、俺がその場に立ちすくんでいると戻ってきて開口一番

 

「俺等、勇次郎さんに着いていきます!奴等(けいさつ)、壊滅させちまいましょうぜ!!」

 

そう言った彼の後ろには、五十人程のバットや鉄パイプを持った不良達がズラリと並んでいた。

奴等って、何だ?抗争相手か何か?

うーむ、まぁ目の前に立つ彼等はもう友達と言っても差し支えない程に仲良くなったし手伝ってあげよう。

それに彼等だけじゃ、抗争相手を過度に殴って死なさせてしまいそうだし、ストッパー役としても一緒に行った方が良い。

 

「俺ァ、後ろで見てるぜ」

 

只、戦いたくはないので愛想笑いを浮べてからそう宣告した。

何やら彼らの顔が強張ったけど、やっぱり抗争は怖いものなのだろう。

 

『こ、こええ……あれってつまり、俺達でどうしようもない奴が出てきたら勇次郎さんが出るってことだろ?』

『どうやらそうらしいな……どっちにしても警察の奴等、終わったな』

『何だよあの笑み……ニタァって感じで、まるで鬼だぜ』

 

彼らは何やら囁きあっているが、多分「あの見た目でビビってんの?だっせぇw」って感じなのだろう。

いいんだ、俺は見かけ倒しなのだから————。

 

 

 

 

 

 

 




次の話で色々勘違い


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二.鬼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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竜兵side

 

ある日、突然現れた男――範馬勇次郎と名乗っていたか。

あの男は一目見た瞬間に俺、板垣竜兵じゃ敵わないと一瞬で理解した。

出会いは唐突で、舎弟の一人が俺の元へくると、こう言い放ったのだ。

 

『竜兵さん、あの廃墟マンションにやべえ奴が住み着いてやがる』

 

俺の目の届く範囲で調子に乗ってる奴は、何時もぶっ潰して川神から追い出すか、舎弟にするかしていたが今回はどうやら相当調子に乗ってる奴らしい。

あのマンションは俺のお気に入りで、部屋を自分の好みに改造(荒ら)して、わざわざ俺自ら度々メンテナンスをしに行っている程だ。

其処に住み着くって事は、この板垣竜兵に喧嘩を売っている事と同義。

それはこの歓楽街に住んでる奴等なら理解しているし、マンションへ俺の許可なしに立ち入る奴はいない。

どうやら、マンションへ勝手に入っていく男を見て、舎弟たちは追い払うために件の男へ接触したらしいが、”勝てる気がしない”らしく、俺に頼った。

 

「今から向かうぞ」

 

俺は部屋まで赴くと、確かにソイツを目にする。

まず驚いたのは、その巨体(サイズ)と太く丸太の様だが引き締まった腕の筋肉。

俺を目にしても全く驚いた様子も無く、ピンっと張った背筋で俺を見据える奴の眼光は鋭く、思わず俺は後ずさった。

 

(ありえねぇ……コイツ、何者だ?)

 

そう働かない頭で考えていると、不意に男は一歩前へ進み俺へと近づく。

余裕のない俺は、その一歩が戦いの合図だと勝手に認識し男へと殴りかかった。

特別な構えは必要としない、只振りかぶって殴る、それだけの事だが俺に勝てた奴はいない。

 

(ぶっ倒れろッッ!!!)

 

拳は、確かに男の鳩尾に直撃し、ドスンと鈍い音を発てて尋常じゃない痛みを俺に(・・)伝えてきた。

確かに、顔面を殴れば最悪此方の手が折れるほどには痛いが、俺が殴ったのは丁度骨も何もない鳩尾のど真ん中だぞ?

なのに殴った感触はまるで、鉄。

 

「てめぇ……腹に何か仕込んでやがるな?」

 

「エフッエフッ……自らの拳を疑う前に、俺を疑うか」

 

男は、不気味な声で含み笑うと俺の拳を見て、更に笑みを深める。

得体の知れないこの男に、背筋が粟立ったがそれは今はどうでも良い、というよりもどうしようもない。

今は、殴ったことにより生じたこの距離から離れないと、この男何をしてくるか分からないし、それが妙に恐ろしいのだ。

 

「チッ!!」

 

慌てて後ろへ、何が来ても対応出来るように摺り足で下がり、再び助走をつけて殴ってやろうかと考えていたが、俺のその考えは今思えば甘かった。

二メートル程距離を取り、男を正面に捉えた俺は何が起きても対応できるという絶対の自信を持って、次の攻撃への準備を瞬時に開始する。

 

「もうお帰りかァ?」

 

そんな男の声が聞こえた瞬間、まず隣にいた筈の舎弟が轟音と共に消えた。

次いで聞こえてきたのは、部屋に入る時逃げられない様にしっかりと閉めた扉が吹っ飛ぶ音。

そして、俺に襲い掛かるのは圧倒的な威圧感と釈迦堂のおっさんにも似た凶悪な闘気。

相対している男の髪がメリメリと俄かに立ち始めたかと思えば、マンションのコンクリート壁に罅が入り、何か黒いオーラの様なモノが辺りに立ちこみ始める。

 

恐らく、先ほどの轟音は、殴ったのではなく気を何らかの方法で見えない様に飛ばしたのだろう。

チラリと、吹き飛ばされた舎弟を見てみると目立った外傷は無いが気絶しているし、壁にめり込んでしまっている。

 

「アンタ……何者だ?」

 

意図せず、震えてしまう声を僅かに残ったプライドで必死に抑えつけ、聞きたいことを聞いた。

そもそもこんだけ強い奴が今まで、噂にならずに生きてきたことが可笑しい。

そして何故、今この川神に現れたのか。

あの有名な武神——川神百代は、強い奴がいるとすぐに会いに行くと聞くが、この男とは恐らく接触していないだろう。

 

「名は範馬勇次郎、それ以外はァ……拳で聞いてみるか?」

 

そう言って、男――範馬勇次郎はポケットに突っ込んでいた右腕を俺の眼前に突き出し、笑った。厳つい顔に皺を深く刻み付けて、純粋に笑ったのだ。

邪悪な鬼は消え、今は只々この雰囲気に似合わない爽やかな顔で笑みを浮かべて俺の返答を待つように拳を突き出している。

 

「範馬、勇次郎……さん」

 

「ただ、まァ」

 

 

————一発は一発だ

 

そう言って、俺が殴った時と同じ場所を、そのまま俺に返してきた。

軽く殴ったであろうそれは、恐らく内臓に傷をつけたと予想できるほどの衝撃を俺に与えて、意識を奪おうとしてくる。

 

だが、ここで無様にも気絶してみろ。

この人(範馬勇次郎)は絶対に、失望して何も話してくれないし、認めてもくれない。いや……或いは優しくしてくれるのかもな。

 

それじゃあ意味がない、俺はこの人に認められてぇんだ。

 

「はッはは!!こりゃ、いてぇわ」

 

いつの間にか、この人に認められたいという気持ちが芽生えていた自分に思わず笑いながらも、胸は痛いぐらいに昂ぶっていた。

あぁ……これは、恋だな。

 

「勇次郎さん(・・)、このマンションは勝手に使ってくれていい。悪かった!俺の完敗だ。もう二度とちょっかいは出さないし、出させない事を誓う」

 

「……用が済んだのなら、疾く消えろ」

 

そう言って、勇次郎さんは俺に背を向けて窓から外を眺め始めた。

その逞しくてデカい背中からは、気のせいかも知れないが優しさが滲み出ている気がする。

 

俺は、気絶している舎弟を背負ってその場を後にした————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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勇次郎side

 

 

「勇次郎さん、誰がリークしたのか分からないが警察の奴等俺らが攻めてくること知っていやがったッ!!」

 

 

お、おう。

俺がマンションの自室で、出番がない事を祈りながら炭酸水を飲んでいると、不良の一人が頭から血を流して駆け込んできた。

既に警察とドンパチしてるのだろうか……まさか流血するほど激しいとは思わなかったけど、まぁ警察が相手だ殺されはしない筈。

それに、幾ら不良(こちら)側の情報が漏れていたとは言っても、いい勝負してるんでしょ?俺の出番は必要ないんでしょ?そうなんだろ??

 

俺はその思いを乗せて、息を切らしながら青い顔で俺を見つめる不良を見た。

ますます顔が青くなった気がしたけど、恐らく出血量が見た目以上に酷いのだろう。

これは、俺も行かなきゃいけないだろうか……正直、俺が出ても何も変わらないと思うんだけどなぁ。

それを言葉に出すと

 

「俺が出て、一体何が変わる?」

 

「ッ!!……まだ、自分達でやれます。勇次郎さんは、此処でゆっくりしていてください!!」

 

俺の言葉を聞いて、一瞬驚いた顔をしたかと思えば、次いで決意を固めた顔で不良は走って、来た道を戻っていった。

あぁ、使えない奴だとか思われてるんだろうな……多分、『俺達で何とかしないと』って感じで決意して戻っていったんだと思う。

 

 

……様子ぐらい、見に行くか

 

 

 

 

 

 

 

 

**** **** **** ****

舎弟side

 

 

 

「お前達は、向こうの鉄パイプ持った餓鬼どもを鎮圧しろッ!!だが、只の餓鬼だと侮るなよ、ガキはガキでも戦えるガキだ!!」

 

「「「了解ッ!!!」」」

 

 

「おう、お前等!!勇次郎さんのお手を煩わせねぇように死ぬ気で戦えやッッ!!!」

 

「「「おうッ!!!!」」」

 

 

俺は、さっき竜兵さんの指示で勇次郎さんに助太刀を頼みに行ったが、死ぬかと思ったぜ……。

竜兵さんの情報だと、勇次郎さんは弱者が嫌いで弱くても最後まで戦い抜くような奴が好きだ、とか言っていたが本当なのかもしれない。

俺が、遠回しに助けてくださいと勇次郎さんに言った瞬間、勇次郎さんの表情が豹変した。

透明な何かを飲んで若干ゆったりしていた目が、ギョロリと俺に向いたかと思えば不機嫌そうな表情でこう言い放ったんだ。

 

『俺が出て、一体何が変わる?』

 

これは、俺達に対する言葉だ。

勇次郎さんが出て、警察を壊滅させたとしても、それは俺達の力では無い。

つまり、勇次郎さんは、自分(おれたち)の力で何かを成し遂げなければ意味がないと言いたいのだろう。

 

それを竜兵さんに伝えると、竜兵さんもそれで納得したのか深く頷き警察へ再び勢いよく向かっていった。

 

ただ、俺達は圧倒的に不利だ。

最初は、俺達が圧倒的に警察を追い込んでいたのに、奴等は追い込まれるのを分かっていたのか、特殊部隊まで登場して流石に俺達もドンドン数を減らされて気が付けば竜兵さんと、数人しかいない。

あの特殊部隊は一人一人が相当強いし、装備が硬く、おまけに催涙弾やらゴム弾やらを持ち出してくるので竜兵さんですら上手く動けないのだ。

 

「ぐッ!?」

 

そしてついに竜兵さんも、特殊部隊の奴等の連携した攻撃に突進を止められ、その隙にドロップキックで吹き飛ばされた。

後方で警察と戦っていた俺の方に竜兵さんの巨体が飛んできて、容態を確認する為に其方を見やると、体の至る所にゴム弾や殴られた青い痣が出来ている。

恐らく、もう竜兵さんは動けない……。

 

「ガキどもが……手こずらせやがって!」

 

特殊部隊の隊長と思わしき人物が、気絶した他の皆に手錠をかけた状態で真ん中へ集めて苛立った様子で殴り始めた。

ここは警察庁だし、周りにひかれたバリケードのせいで通行人からは何も見えない。それゆえの暴行なのだろう。

しかし、敗者にそれを咎める権利は無い。

それに俺達は警察に喧嘩を売ったのだ、本来ならもう社会に出る事も難しいという所なのだから。

 

暫く、特殊部隊隊長からの暴力に皆で耐えていると、不意に辺りの風が止んでいる事に気が付いた。

どうやら、特殊部隊の隊員達も気が付いた様でキョロキョロと辺りを見渡し始めている。

しかし、隊長の奴は興奮状態なのか全く気が付かずに未だに拳を奮い、脚で蹴り上げていた。

 

「ッ!!」

 

俺達の周りを囲っている、特殊部隊や警察の奴等の向こうから何か近づいてきているのを直感で感じる。

何というか、力を抑えつけて静かに歩いているといった風に、そうまるで火山が噴火する直前のような……。

 

「隊長……あ、アレ何ですかね?」

 

「あん?どれだ?」

 

不意に、特殊部隊隊員の一人が一カ所を指さし、青ざめた顔をして目を見開いた。

次いで、隊長の男もその方向へと目を向けて、動きを止めてしまう。

 

(一体何が……?)

 

隣で血を流して動かない竜兵さんの様子を見つつ、俺も其方へ目を向け思わず声を洩らしてしまった。

俺達の周りを囲む警察や特殊部隊の向こうに、二メートルはあろうかという人影が見える。

 

 

否、あれは最早人では無い————鬼だ

 

 

 

『随分と、世話になったみてぇだなァ?』

 

 

警察達の向こうにいたのは、範馬勇次郎さんその人であった。

しかし、その形相は最早人に非ず。

赤黒い髪は逆立ち、警察達を見渡している瞳は充血しきり真紅に染まっているのだ。

ポケットに突っ込む手や、犬歯を剥き出しにして凶悪な笑みを浮かべている表情には太い血管が幾重にも浮きだっており、全身から滲み出る闘気は空気を歪ませる。

鬼の様な形相で放った言葉は何故かエコーがかっているように聞こえ、間違いなく警察達の動きを止め、飛んでいた鳥や歩いていた猫達は例外なくこの街から出て行った。

 

この状況に、警察達も後ずさり腰に巻いたベルトから拳銃を迷わず取り出し、震える手で構える。

この状況、勇次郎に怯えているのは何も警察だけでは無い。

勇次郎さんを慕う俺達もまた、酷く怯えていた。

 

「や、やべえな……勇次郎さん、俺らが余りにも不甲斐ないからブチ切れだぜ」

 

竜兵さんが、勇次郎さんの形相に震える声でそう呟き、青い顔で俯くと汗をダラダラ流しながら動かなくなる。

恐らく、思考が止まってしまったのだろう。

 

「お、お前は不良達(コイツら)のボス……範馬とやらだなッ?!」

 

『あァ、ご名答』

 

警察隊長の問に、勇次郎さんは笑いながら手をパチパチと叩いて見せた。

その勇次郎さんの動きに、何かを仕掛けてくると思ったのか何人かの警察が悲鳴を挙げて一歩後ずさる。

そして、暫く勇次郎さんは拍手してから不意に動きを止めて、虚空を見つめはじめた。

それを見た警察の一人が、慌てた様子で懐から無線を取り出すと何処かへと電話をしてから勝ち誇った表情でこう口にする。

 

「おい、範馬とやら!!今、川神院へ救援要請をしたところだ。其処のお仲間達を置いてお前は消えろ!!」

 

警察は川神院と繋がっていたのか……。流石に、あそこの師範代レベルがきたら勇次郎さんでも危ない。

その門下生でも、複数くればとんでもない強さだ。

川神院は日本の最終防衛ラインとも呼ばれる程、猛者たちが集っているし、総代なんて軍隊でも勝てないんじゃないかと噂されるほどに強いらしい。

それは、幾ら強い勇次郎さんでも知っている筈……なのに、勇次郎さんは笑みを浮かべてその場から動こうとしないければ、むしろ楽しそうにしている。

 

『ふふふ……』

 

「な、なにがおかしいッ!!」

 

川神院へと無線をかけた警察が、勇次郎さんの余裕な表情と態度にイラつきながら声を荒げた。

しかし、幾ら有利な状況になっても勇次郎さんを恐れているのか声は震えているし、体も随分と震えている。

 

すると不意に勇次郎さんは、空を仰ぎ呟いた。

 

『成程なァ』

 

勇次郎さんの言葉の意味が分からず、その場の全員が訝しげにしているとすぐに言葉の正体が分かることとなる。

 

全員が勇次郎さんと同じように空を見上げて、其れに気が付いた。

 

 

ドカンッッ!!

 

 

空から降ってきた物体により、アスファルトが砕け散り辺りに巻き散っていく。

数秒遅れて風が砂と共に辺りに吹き荒れると、その中心にあったのは人間。

しかも黒髪の美少女だ。

 

しかし、その美少女は川神に住んでいれば……否、住んでいなくても誰しもが知っている人物。

武神と謳われるほどの強さを生まれ持った才能で得た怪物————川神百代が鋭い瞳を更に細めて、凶暴(・・)な笑みで勇次郎さんを見つめていた。

 

対する勇次郎さんは、浮べていた笑みを深めてその顔は更に鬼へと近づいていく。

逆立っていた赤髪は、意思を持ったように揺ら揺らと左右に揺れているし、空間を歪ませていた透明な闘気は強まって紅い色に変わっていた。

 

 

「会いたかったぞ、強敵」

 

 

『エフッエフッ……俺からすると逆だな』

 

 

 

瞬間川神百代の姿が消え、勇次郎さんの顔面へ拳を放った———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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川神院

 

 

「つまんないにゃぁ~。構えよ~大和ぉ」

 

「そう言われてもね。姉さん暇なら勉強しようか」

 

全く、姉さんにも困ったものだ。

暇だから遊びに来いと言われ、川神院に赴いてみたら黒のタンクトップを着て畳でゴロゴロしている女子力ゼロの姉さんを見た。

正直、俺は姉さんが好きだ————異性として。

 

理由は分からない、いつの間にか好きになっていたのだから。

口では姉さんに意地の悪い事を言うけれど、本当はもっとアピールできる様な事を言いたい。

それに、姉さんはつまらなそうにしているのが不甲斐ない思いにさせて、兎に角姉さんと話を繋げようと躍起になってしまうのだ。

普段の姉さんは、誰といても表面上は楽しそうにしているが何処か退屈そうな顔を見せる。それは風間ファミリーの皆でいるときも変わらない。

それが歯痒く、悔しかった。

 

「ん、電話か?」

 

不意にどこかから電話の音が聞こえてくるが、姉さんは動く気配を見せずに只ゴロゴロとしている。

それどころか、俺に代わりに対応してきてくれなんて言ってくる始末だ。

姉さんのだらけ切った様子にため息が洩れるが、姉さんのそういう所は別に嫌いなわけでは無いので顔は自動でニヤケてしまう。

 

一人でニヤニヤしつつ、電話に出て俺の笑みは消えた。

 

 

『警察のモノだが、川神院に繋がっているかッ?』

 

「えぇ、一応川神院ですがどうかしました?」

 

一瞬、川神院に住んでいる訳でもない俺が対応していいのか迷ったが、これは姉さんに聞かせて良い内容では無いと勘が警鐘をならすのだ。

気が付けば俺が対応する流れになっていた。

鉄心さんがいれば、すぐに変わるのだけど……。

 

『奴だ、奴が不良を束ねて攻めてきたんだッ!!至急、応援を頼む』

 

奴?

まさか、姉さんが言っていた例の……。

これは余計に姉さんに教える訳にはいかなくなった。が、姉さん以外の川神院の人に言わないと流石に不味い。

 

「分かりました。すぐに救援に向かいます」

 

そう言って、俺は相手の返答を待たずに電話を切った。

そして、どうするべきか考えつつ電話に背を向けると何か柔らかいモノに体が当たり、軽くよろけてしまう。

柔らかいモノの正体を探るために顔を正面に向けると、其処にいたのは真剣な顔で俺を見つめる姉さんだった。

 

「大和、今のは誰からの電話だったんだ?」

 

「いや、姉さんには関係の無いことだよ。他の川神院の人に伝えられればそれで大丈夫だから」

 

俺の言葉に、姉さんは苛立った様子でトントンと足で床を叩き俺を睨み付ける。

あの電話は聞かれていなかった筈……何故姉さんは此処までイラついているんだ?

 

「関係無い筈がないだろ?確かに聞こえたぞ、奴が攻めてきたから助けてほしいと。何故嘘を吐くんだ大和?」

 

っ!聞かれていたのか……これじゃあ何も言い返せない。

それに姉さんに睨み付けられると、怖いんだ。威圧とかそういう意味で怖いんじゃなくて、嫌われるのが怖い。

正直に話すしか、姉さんに嫌われない道は無いのだ。

 

「正直に言ったら、姉さんは行くんだろ……?」

 

「当たり前だ。私の助けを必要としているのだからな」

 

そう言った姉さんの顔は、やっぱり俺達に向ける笑みとは違う。

本当に楽しそうに、笑っていた。

獰猛にも見えるけれど、それは近しい者なら分かる純粋な笑みだ。

俺達は姉さんを真に楽しませることなんて出来ていなかったんだな、とこの笑顔を見るたびに実感する。

 

そして、戦いが終わり相手が姉さんに手も足も及ばずに負けて、姉さんはとても悲しそうな表情で学校へと現れる。それが日常。

きっと、今回もそうなのだろう。

 

「ん~、じゃあちょっと行ってくる。大和、留守番頼んだぞ!!」

 

「……うん、行ってらっしゃい姉さん」

 

 

俺のモヤモヤする心は晴れないままだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**** **** **** **** **** **** **** ****

百代side

 

 

「会いたかったぞ、強敵」

 

そう言った私の顔は酷く歪んでいるんだろうなぁ。

大和にも、私が戦う前の表情は余り好きじゃないと言われた事があるし、そんなに酷いのかと一時期止めようとしてみた……けど、やっぱり強い奴を目の前にするとどうしても抑えが利かないんだ。

昂ぶる心に同調して、自然と体が火照り顔が歪んでいく、此ればかりは止められない。

 

いつもそうだ。

そうして、世間では強いと言われる奴らと戦って、私が勝つ。

全力何てここ数年出していない、否出す必要が無い。

勝った後の、心にぽっかり穴が開いたような虚無感は、例えファミリーの皆や大和といても塞がらないし、心の奥底から楽しめないんだ。

強い男、いや女でもいい。私はきっと、真の強者に会った時ソイツに惚れる自信がある。

 

 

そして、今目の前にいる男。

少し前から急に、警察や川神院で噂が出てきてあっという間に、危険人物と言うレッテルを張られた。

不良達を束ねて、裏でコソコソ何かやっていると思ったら、こんな大掛かりで大胆な事をやってくるとは思いもしなかったぞ。

警察に囲まれた不良達も個人個人はそこそこ強いと見たが、目の前に立つ男――範馬は別次元だ。

溢れ出る闘気に底が見えないし、まだまだ余力がある。きっと。

 

『エフッエフッ……俺からすると逆だな』

 

闘気をふんだんに含んだ声は、低く重い。

あぁ……コイツは強い、強すぎる。きっと、私が男だったらこんな風になっているだろうな。

思わず、強烈な範馬の気に腰が砕けそうになるのを耐えて小手調べに一発殴ってみよう。話はそれからだ。

それに、範馬の言葉『俺からすると逆』というのは、私が強敵として見られていないという事なんだろう。

なめられたものだが、今はそれも心地いい。

 

「耐えろよ範馬ッッ!!!」

 

口ではそう言ったが、私はこの男が耐える事を確信していた。

腰を大きく捻り、大振に拳を突き出す。

強い奴なら、瞬時に避けられるか反撃を喰らうか……そのどちらかだが、さぁ範馬はどうする!?

 

今の攻撃は大振だが、そのぶん威力は高い。

普通に考えれば当たると言う選択肢はない、ないのに

 

「は、はははっ!!範馬、アナタは最高だな!!」

 

 

思わず笑ってしまう。

範馬は、私の一撃を顔面にモロで喰らったのに、耐えた!!

しかも、笑顔まで浮べているなんてな。

 

私は確信した。

範馬を越える男は存在しない、正しく最高の男だ!

きっと、笑顔を浮かべているのは私と同じ理由なのだろう。

強者故の孤独、それは本当に強い奴にしか分からないし、分かり合えないもの。

漸く、漸く分かり合える人が現れてくれたっ!

 

『貴様も、か』

 

やっぱりそうだ。

範馬は私と同じ考えをしている。

範馬も孤独だったんだなっ?

私がその孤独と虚無感を今すぐに、取り除いてやるぞ

 

範馬(アナタ)を理解してあげられるのは、百代(ワタシ)しかいない。

 

 

「さぁ、闘おうッ!!私達にはそれしかない、闘い(ソレ)でしか孤独は拭えないんだッッ!!」

 

 

もう私は範馬にゾッコンだぞ?

その言葉は言わない。きっと、範馬はそれを嫌がるだろう。

 

すると、私の言葉を聞いた範馬の表情は見る見るうちに変化していき、笑みは消えて驚いた様な表情を浮べた。

次いで、怒髪天を衝く勢いで顔が怒りに歪み強烈な殺気と共にこう言葉を放つ。

 

 

『孤独やら何やらと仲良しごっこかァッ?そんなモノは闘いに於いて、上等な料理にハチミツをぶちまけるがごとき思想だッッ!!!』

 

 

そう言って範馬は、近距離に居た私の腕を掴むと放り投げた。

私も多少は抗ったのだが、やはり範馬はとんでもない力を持っていていとも簡単に、私の体は空中を舞い、地面に叩きつけられる。

 

今は、それさえも心地よく心に空いていた虚無感は見る見るうちに塞がっていった。

掴まれていた腕がジンジンと痛い、痛いがその痛みも範馬が与えたものだと思えばジンワリと熱に変わる。

 

 

 

さぁ、範馬。

存分に愛し合おう(たたかおう)じゃないか―――—。

 




何か余りにも切り方が……。
次回は、オリ主側の勘違いと百代とのイチャイチャ(闘い)の二本です。


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