嵐の前の静けさ、という言葉がある
大きな問題事が起きる前には、不気味な程の静寂が訪れる、という意味だ。
「ワルプルギスの夜が来るより先に、厄介な事が起こるかもしれない」
天候は曇天、今にも雨が降りだしそうだ。暁美ほむらは、他人事のように話を聞いて空を見上げていた。
どんよりとした空は、まだ夕方というのに夜のように真っ暗になっている。
そんなほむらの様子を見てか、目の前のテーブルにちょこんと座っていた白い小動物、キュゥべえは、そのあまり変化しない表情のまま話を続ける。
「この魔女は、完全な異常(イレギュラー)だ」
「貴方がそう言いきるなんて珍しいわね、キュウベエ」
自前の艶のある前髪を弄りながら、ほむらはそう返した。
魔法少女への仲介役であるキュゥべえは当然、魔女の情報、対処方にもある程度詳しい。
インキュベータである彼、キュゥべえの事について人一倍知っているほむらにとっても、キュゥべえのその話は意外なことであった。
「今まで、こんな事態は無かったからね。出来れば早急に解決したい事でもあるのさ」
「……異常(イレギュラー)と言ったわね。具体的な被害予想は出ているの?」
勢力が強大な魔女であれば、それは何らかの形となって現れる。[ワルプルギスの夜]であれば、それは巨大台風(スーパーセル)という自然災害で現れていた。
分かりやすい相手であれば、それに対する準備も出来ると、ほむらは言外でそう言っていた。
「それは言えないよ」
「何ですって……?」
返されたその言葉に、ほむらは無意識に拳を握り締めていた。そんなことを知ってか知らずか、キュゥべえは続ける。
「言っただろう? 今回の魔女は異常(イレギュラー)だって」
「観測者である僕たちでも、それがどんな魔女なのか、何処から発生した魔女なのかも分からない」
「それほどに、厄介な魔女なのさ」
◆
「イェーイ♪勝利のV!」
「今日もバッチリだったわね、美樹さん」
所変わって、こちらは都内某所。いつも通りに夜のパトロールに勤しんでいた美樹さやかと巴マミは、使い魔を発見して退治していた。
青を基調とした服に、白のマントを羽織った剣士を模した姿をしたさやかは、自らの武器であるサーベルをマントへと収納した。その隣にいる黄を基調とした
服を着たゴシックドレス風の姿を模したマミは、ソウルジェムを片手に探索をしていた。
「さっきので終わりですよね?」
「多分そうだと思うわ。待ってて、今探知を――あら?」
ソウルジェムで気配の探知を行ったマミが、探知した物へと視線を向けるのに釣られて、さやかも同じ方へと向いた。
視線の先には、自分と同じ美滝原中学の制服を身に纏った、鹿目まどかの姿があった。
「お疲れ様です。二人とも、怪我は無い?」
あどけない少女の様な笑みを浮かべるまどかに対して、さやかとマミの二人は数秒呆気に取られていた。
返事が中々返ってこないことに、まどかが内心焦り出すことと、二人のなかで何かがキレたのは、同じタイミングだった。
「え、えっと、二人とも――」
「鹿目さん、魔女の結界が展開されている間は、危ないから外出しないように言った筈よね?」
「それに、こんな人気の少ない場所で一人きりだなんて、なに考えてるの。変な奴に絡まれでもしたらどうするつもり?」
距離を詰めながら淡々と話してくる二人、そんな二人が怒っていることは、目を見ればすぐに分かった。
心の中であーだのこーだの、この場を安全に切り抜ける為の策を練るが、どれも通用しないことを感じ、まどかは潔く謝ることにした。
「ご、ごめんなさい。マミさん、さやかちゃん」
「許さないわよ♪」
「私も同じく♪」
許されなかった。御免で済むなら、警察は要らないのである。
越えてはいけないボーダーラインを踏み越えたまどかの両目に、徐々に涙が溜まりだしたのを見て、二人は軽いため息を吐いた。
「泣くくらいなら、最初からしなければ良いの!」
「そうだよ、まどかは後先考えなさすぎ」
自業自得だ、そう言いたげに自分を見つめるさやかとマミを見て、まどかは正直に言った。
「で、でも……。やっぱり不安だったから」
「……っ!」
「……。」
まどかのその言葉に、さやかは何かを言いたげにしたが、自分の前に立ちふさがるように出されたマミの腕を見て、マミに譲った。
大人しく引いたさやかを見て、安心したかのように微笑むマミ。ここは任せて、と顔が語っていた。
「鹿目さん、以前に魔女の結界内に取り込まれたこと、覚えてる?」
「は、はい」
そう言われて、まどかはその時の危機的状況を思い出した。
「ど、何処なの? ここぉ……」
どうしてこうなった。
その一言に尽きる状況に、鹿目まどかはパニックになっていた。
「初めまして、僕の名前はキュゥべえ」
「僕と契約して、魔法少女になってよ!」
それ-キュゥべえ―との出会いは、衝撃的だった。
偶々行った放課後のショッピングモール、頭の中に響いた声に従って進んでいくと、小さな可愛らしい小動物が居た。
叶えたい願いをたった一つ、どんな願いでも叶えるというキャッチコピーを引っ提げてやって来たそれは、まどかからすれば好奇心の的だったのだ。
「キュゥべえ、私と契約して」
あんな願いにしようか、こんな願いにしようかと、まどかがウンウン唸っている内に、結局はさやかが先に契約してしまった。
契約の証であるさやかのソウルジェムを見て、宝石のようで綺麗だ、と思ったのは今でも記憶に新しい。
「せっかく契約したんだからさ、魔女退治行ってみよー‼」
「ぉ、おー!」
契約をしたのだから、後は実践。
ソウルジェムを片手に意気揚々と進むさやかに、まどかは胸を期待で膨らませながら、ついていく。
それで現在。
「さやかちゃーん‼ 何処にいるのー‼」
二人で歩いていた路地裏の景色が少し歪んだかと思えば、見たこともない場所にいつの間にか立っていた。
目の前に居た筈のさやかも、何処かに行ってしまっている。
これはマズイ、とにかくマズイ。
普段鈍くさいと、家族や友人から言われているまどかでも、自分が置かれたこの状況には、全身から嫌な汗が止まらなかった。
今までの人生でも見たことのない奇妙な風景の中を、自分の直感を信じて進んでいく。
「――■■■■■■■■■■■‼」
「何言ってんのか分かんないのよー‼」
まどかとは別の場所では、さやかが一体の魔女と戦っていた。見た目は大雑把に言えば、弓道着の様な服をを着た女性だ。身の丈は3メートル程、その丈と同じ程の大きさの弓を構えている。
ギチギチと嫌な音を聞いて、さやかは魔女の持つ弓に注目する。弓が大きくしなり、弦が風を裂く音を出した瞬間、さやかはその場から右側に全力で飛び退いた。
「っぉ……?!」
「■■■■■■‼」
数瞬遅れて、自分が立っていた少し後ろの地面が抉り吹き飛ぶのを見て、さやかの背筋が凍った。あんなものをまともに受ければ只では済まないと思いつつ。
またもギチギチと音をたて出した弓を見て、さやかは魔法で生み出したサーベルを片手に前へと進んだ。
「(コースは直線、放った瞬間に避ければイケる!)」
戦って得た情報から、勝利への筋道を建てていく。
地面を踏みしめ、魔女へと接近するさやかへと、死の照準が向く。
「(来た……‼)」
成功するとは限らない、失敗した時のビジョンを浮かべる頭をブンブンと振り、魔女へと集中した。
魔女の持つ弓が、ギチギチと音をたてる。
「(もっと)」
彼我の距離はおよそ10メートル
「(もっと)」
ギチギチという音が止み
魔女がニタリと笑った
「ここだァ‼」
弓が発射でぶれた瞬間、さやかは魔力を使った高速移動で魔女のすぐ隣へと飛び込んだ。矢をかわされた魔女が視線を向けると、そこにはサーベルを構えたさやかが居た。
一瞬の静寂の後、胴体を上下に分けられた魔女が地面に倒れる。苦しそうに肩で呼吸をするさやかは、サーベルを放り出して地面に座り込んだ。
「倒した……倒したんだぁ……っ‼」
勝利した事を自覚するように、手を閉じたり開いたりする。次第にフルフルと体を奮わすと、歓喜の声を上げた。
「やったぁー‼魔女退治したぞー‼」
「お喜びの所申し訳ないんだけど、ちょっと良いかしら?」
ふと掛けられた声に振り向くのと、振り向いた顔のすぐ側を何かが通り過ぎるのは同時の事だった。
倒れた魔女の持っていた弓が破壊され、魔女の体が塵の様に崩れていく。その後には、黒いゴルフボール状のアクセサリーが残されていた。
「魔女の中には、武器そのものが本体である場合があるわ。倒した気で居ても、また復活するわよ」
黄色を基調とした、ゴシックドレス風の服装をしたその女性は、硝煙を上げているマスケット銃の銃口を上に向けて言った。
「初めまして、私は巴マミ。貴女と同じ魔法少女よ」
服に合う、透き通る様な金髪をした魔法少女だった。
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駄文を最後までよろしくお願いします。
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2
「こ、これ、夢だよね。あはは」
まどかは、ジリジリと迫りくる異形の者を見ながらそう呟いた。
なんでこんなことに?
誰か助けて
そんなことを思いながら、震えて動きにくい足に活を入れる。
なんとか体勢を立て直し、走って逃げようと動いた瞬間、足を何かに取られた。
見ると、足に異形の者がしがみついている。変形させた顔には、これまた肉を食いちぎるのに最適そうな牙が並んでいた。
ダラダラとヨダレを垂らすその様子に、まどかは全身から血の気が引いた。
「いや、嫌だよ!」
そんなまどかの叫びも虚しく、相手はこちらへとかぶりついてきた。
「何してんのよアンター!」
そんな怒鳴り声と共にやってきたのは、はぐれた筈のさやかだった。
隣には見たこともないゴシック調の少女がいる。
さやかは突っ込んで来た勢いをそのままに、異形の者へとサーベルを構えて突撃する。
異形の者、ここでは“魔女”と呼ばれる存在は、さやかへと噛みつこうとしたが、一歩遅く叩き斬られた。
魔女が消滅すると、空間がグニャグニャと歪み、見覚えのある町景色へと戻った。
「さ、さやかちゃん……」
「大丈夫?ごめんね、まどか。怪我はない?」
「ひゃあっ?!」
ペタペタと全身をまさぐるさやかに、まどかは驚きの声を上げて抗議する。
そんな光景を微笑ましく見ながら、もう一人の少女――マミはまどかへと言った。
「初めまして。私は巴マミ。貴女が、鹿目まどかさん?」
「は、はい」
「そう、間に合ってよかったわ。……、貴女は魔法少女じゃないの?」
魔法少女の持つ代表的な物、ソウルジェムの姿がないことを知り、マミが不思議そうに訊ねた。
が、さやかがまだ願いことを決めてないことを教えると、マミは納得が行ったように微笑む。
「ねぇ。良ければこれから、私の家に来ない?魔法少女のことについて知ってることを教えるわ」
夕飯も御馳走するわよ、と付け加えると、さやかは目を輝かせた。
「えっと、お邪魔じゃないなら」
「やりぃ♪お腹すいてたんだよねぇ」
「ふふ、なら行きましょうか」
マミの後ろをついて、二人は路地を進んで行った。
「――はい、覚えています」
あの時の恐怖も、嬉しさも、ドキドキも。その時感じたもの全て、今でも鮮明に思い出せる。
「そう、なら良かったわ。……鹿目さんが体験した恐怖は、魔女の結界に迷い混んだ全ての人が体験してるの、その迷い混んだ人を助けるのが、私達魔法少女の役目」
何も反応が無かったのか、ソウルジェムを指輪へと変型させると、マミはこちらへと向き直った。
二人とも、魔法少女の姿から普段の見滝原中学の制服へと戻っている。
「でも……」
「心配なのは分かるけどさ、魔法少女の私達と、今のまどかじゃ全然戦力が違うでしょ、だから」
「なら私、魔法少女に――」
「ちょっと良いかしら?」
そう言いながらその会話に割り込んだのは、見滝原の制服に身を包んだほむらだった。
魔力を使ったのか、頭上のビルの屋上から落下して、ふわりと着地する。
それを見て、さやかが「かっけー……」と呟いていた。
「何かしら、暁美さん」
「最近、この近辺で変な波長を感じたことはある?」
「それって、魔女の波長ってことよね。……ごめんなさい、分からないわ」
「そう。……近いうちに、得体の知れない能力を持った魔女がこの見滝原に来るらしいわ。用心して」
「ね、ねぇ。ほむら。得体の知れない能力って、何なの?」
さやかの言葉に、ほむらは少し考えて口を開いた。
「キュゥべえが警戒しろと言うほどの魔女らしいわ。……最悪、ワルプルギスの夜クラスの魔女」
「ワルプルギスの夜ですって?!」
ワルプルギスの夜
超巨大台風であるそれは、一度都市を襲えば、その被害人数は想像を絶する魔女。
そして、暁美ほむらにとって、一番因縁がある魔女ともいえる。
「――えぇ。だから、何か変な魔女、または使い魔を見たときは、下手に刺激せず連絡を取り合いましょう」
「分かったわ。……しばらくは、個人での行動は止めておきましょう、美樹さん」
「分かりました。ほむら、アンタも気を付けなさいよ」
「言われなくても分かっているわ。……鹿目さん。先ほど聞き間違いかと思う言葉が聞こえたのだけど、それは私の勘違いであってる?」
立ち去る直前、ほむらはまどかへとそう訊ねた。
その言葉にまどかがドキリと跳ねるのを見て、軽いため息をつく。
「で、でも、私。このままじゃダメだと思って」
「それは前にも聞いた。そしてその答えに、『貴女のような甘ちゃんでは出来ない』と、答えた筈よ?」
「そ、そんなの、やってみないと分からないよ」
「分かる。現に今、私との会話に尻すぼみしてるのが良い例よ」
ほむらの言葉が、ナイフのようにまどかへと突き刺さる。
予想していたとはいえ、ほむらには口論じゃ敵わないとまどかは感じた。
「魔法少女は、さやかの様な短絡的な人間がお似合い。貴女のように、小さなことでウジウジと考える人は、すぐに死ぬわ」
そう言い残して、ほむらはふわりと跳躍した。ビルの壁を数度蹴り上がると、屋上へと消えていく。
「えへへ。私、魔法少女に向いてるって言ってましたね。ほむらの奴、やっと私を認めたのかな」
「……そうね、美樹さんは向いてると思うわ。物事を簡単に見れるから」
後ろでそんなやり取りをしている二人の声が、まどかには遠い残響のように聞こえていた。
◆
「……何だ、アイツ」
まどか達より少し離れた場所で、今夜のパトロールを行っていた佐倉杏子は、見慣れないものに目を細めた。
食べていた板チョコを懐に仕舞うと、ソウルジェムの探知を作動させる。
「チッ、逃げやがった。……鏡みたいな奴だったな。この反応は使い魔か」
舌打ち混じりに、もう今夜は獲物はないなと立ち上がる。
少々の食べたりなさを感じ、腹部を抑えると目を閉じて思案する。
「マミの所で、飯でも食うか」
思い立ったがなんとやら、魔力を足に込めると、マミの住むマンションに向かって跳躍した。
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3
「なんでアンタがこんなとこに居んのよ」
「それはこっちのだっての。ここはアタシのテリトリーだぞ」
「ここは私の家よ。佐倉さん」
その後、マミの家へと直行すると、我が物顔で侵入していた杏子と遭遇した。
マミの家にストックしているカップラーメンを啜って、杏子は言う。
「大体、お前らだって何しに来たんだよ、こんな時間に」
杏子の言葉に、調理器具を取り出していたマミが言った。
取り出している寸胴鍋からすると、パスタか何かを作るのだろうか。
「少し急務で話し合う事があったからね。佐倉さんが居たのは丁度良かったわ。……夕飯作るけど、食べる?」
「食べる。話ってのは何なのさ」
食べ終えたカップラーメンの器をテーブルに置いて、杏子は伸びをする。
「ほむらから、近いうちに得体の知れない魔女が現れるって聞いたのよ。だから、それの対策を考えようって」
「得体の知れない奴ぅ?はっ、魔女なんか全部そん――」
ピタリと急に動きを止め、真面目な顔をした杏子に、全員が視線を向けた。
「そういや、ここに来る前に変な奴を見たな」
杏子のその言葉に、全員に緊張が走った。
近くにいたさやかが詰め寄る。
「ど、何処で見たの?!」
「ちょっ、近い近い!確か、商店街の近くだったはずだ。探知をしたらすぐに逃げたよ」
「そうなんだ……」
肩を落とすさやかに、杏子が怪訝な目を向ける。
何かあったのか?と言いたげな杏子に、マミが言った。
「その例の魔女なんだけどね、ワルプルギスの夜と同格かもしれないらしいの」
「……へぇ」
「だから、佐倉さんの見たソレは、もしかしたらビンゴかもしれないわね」
杏子の目に、獲物を前にした獣の様な、暴力的な気配をまどかは感じ取った。
ピリピリとした雰囲気でいる杏子に、マミは言う。
「ヤル気満々なのは良いことだけれど、こちらの準備も手伝って貰えるかしら?」
「おっ、出来たのか。なら食うとするか!」
「えぇ……、アンタさっきカップラーメン食べてなかった?」
「それはソレ、これはコレだ。旨いものは美味しくいただくのが、アタシのポリシーだからな」
「それはただ食い意地張ってるだけでしょ」
そんなことを言いながら、各々皿やコップなど、必要なものを用意していく。
皿に盛り付けられたそれを見て、まどかが声を上げた。
「わぁ、カルボナーラですか?美味しそう……!」
「ふふ、ありがとう。ちょっと私流のアレンジを加えてるんだけど、お口に合うか心配だわ」
心配なんて微塵もしてない、とまどかは思う。
炊事洗濯、文武両道、全てにおいて高い能力をもつマミは、まどかからすれば尊敬に値する人物だった。
こんな風に、“時間を掛けずさらっと美味しい食事を用意できる”スキルは、まどかが会得しようと影ながら頑張っているスキルでもあるのだ。
「さぁて、さっさと食べようぜ。さっきから腹ペコだ」
「いや、アンタさっき――もういいや」
「量を作りすぎちゃったから、たくさん食べてくれるとありがたいわ」
「よーっし、任せろ!」
和気藹々と食べるその光景に、マミは自然と頬を緩ませていた。
次は、ケーキでも作ろうかしら。
そんなことを考えつつ、パスタにフォークを突っ込んだ。
〰〰〰
「君は混ざらないのかい?」
「私の後ろに立つとは良い度胸ね、キュゥべえ」
「凄腕スナイパーの後ろに立った覚えはないよ」
ビルの屋上、マミの家の様子が見れる場所にほむらは居た。
こちらから見える様子には、丁度まどかがパスタを食べているところだった。
「それで、奴は見つかったかい?」
「隠れんぼの上手な奴ね。さっきから使い魔が現れては消えてる……。誘っているのかしら」
「さてね。こちらとしても正体不明の存在だ。慎重に接触するのをオススメするよ」
特に用事は無かったのか、それだけ言うとさっさと消えてしまった。
まどかに近付かないように釘を刺すべきだったかと思っていると、先ほどから続けている探知に反応が出る。
「……そうよ、こっちに来なさい」
ほむらはそう呟いて、自らの武器である盾へと手を伸ばす。
そこにある収納ボックスから、拳銃を取り出した。
次第に近付いてくる存在に、イメージトレーニングをしながら待っていると、突然反応が消えた。
そして反応は、自身の背後に出た。
「――ッ?!」
突然のことに、驚いて反応が遅れる。体勢を立て直しながら振り向くと――
そこには自分が居た。
「……ぇ?」
ゴォーン、ゴォーン、と。
もう一人の自分の隣で、大きな姿見を構えた天使の様な使い魔が鐘を鳴らす。
その鐘の音に反応するように、もう一人の自分、暁美ほむらは起き上がった。
「何よ、コレ。まさか、この魔女は――」
「ハジメマショ、ワタシィ?」
その言葉と同時に、もう一人のホムラの盾が起動し、ほむらの意識は闇に落ちた。
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