水面の魔女 (プロインパクト)
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1

嵐の前の静けさ、という言葉がある

大きな問題事が起きる前には、不気味な程の静寂が訪れる、という意味だ。

 

「ワルプルギスの夜が来るより先に、厄介な事が起こるかもしれない」

天候は曇天、今にも雨が降りだしそうだ。暁美ほむらは、他人事のように話を聞いて空を見上げていた。

どんよりとした空は、まだ夕方というのに夜のように真っ暗になっている。

 

そんなほむらの様子を見てか、目の前のテーブルにちょこんと座っていた白い小動物、キュゥべえは、そのあまり変化しない表情のまま話を続ける。

「この魔女は、完全な異常(イレギュラー)だ」

「貴方がそう言いきるなんて珍しいわね、キュウベエ」

 

自前の艶のある前髪を弄りながら、ほむらはそう返した。

魔法少女への仲介役であるキュゥべえは当然、魔女の情報、対処方にもある程度詳しい。

インキュベータである彼、キュゥべえの事について人一倍知っているほむらにとっても、キュゥべえのその話は意外なことであった。

 

「今まで、こんな事態は無かったからね。出来れば早急に解決したい事でもあるのさ」

 

「……異常(イレギュラー)と言ったわね。具体的な被害予想は出ているの?」

勢力が強大な魔女であれば、それは何らかの形となって現れる。[ワルプルギスの夜]であれば、それは巨大台風(スーパーセル)という自然災害で現れていた。

分かりやすい相手であれば、それに対する準備も出来ると、ほむらは言外でそう言っていた。

 

「それは言えないよ」

「何ですって……?」

返されたその言葉に、ほむらは無意識に拳を握り締めていた。そんなことを知ってか知らずか、キュゥべえは続ける。

 

「言っただろう? 今回の魔女は異常(イレギュラー)だって」

 

「観測者である僕たちでも、それがどんな魔女なのか、何処から発生した魔女なのかも分からない」

 

「それほどに、厄介な魔女なのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「イェーイ♪勝利のV!」

「今日もバッチリだったわね、美樹さん」

 

所変わって、こちらは都内某所。いつも通りに夜のパトロールに勤しんでいた美樹さやかと巴マミは、使い魔を発見して退治していた。

青を基調とした服に、白のマントを羽織った剣士を模した姿をしたさやかは、自らの武器であるサーベルをマントへと収納した。その隣にいる黄を基調とした

服を着たゴシックドレス風の姿を模したマミは、ソウルジェムを片手に探索をしていた。

 

「さっきので終わりですよね?」

「多分そうだと思うわ。待ってて、今探知を――あら?」

 

ソウルジェムで気配の探知を行ったマミが、探知した物へと視線を向けるのに釣られて、さやかも同じ方へと向いた。

視線の先には、自分と同じ美滝原中学の制服を身に纏った、鹿目まどかの姿があった。

 

「お疲れ様です。二人とも、怪我は無い?」

 

あどけない少女の様な笑みを浮かべるまどかに対して、さやかとマミの二人は数秒呆気に取られていた。

 

 

返事が中々返ってこないことに、まどかが内心焦り出すことと、二人のなかで何かがキレたのは、同じタイミングだった。

 

「え、えっと、二人とも――」

 

「鹿目さん、魔女の結界が展開されている間は、危ないから外出しないように言った筈よね?」

「それに、こんな人気の少ない場所で一人きりだなんて、なに考えてるの。変な奴に絡まれでもしたらどうするつもり?」

 

距離を詰めながら淡々と話してくる二人、そんな二人が怒っていることは、目を見ればすぐに分かった。

心の中であーだのこーだの、この場を安全に切り抜ける為の策を練るが、どれも通用しないことを感じ、まどかは潔く謝ることにした。

 

「ご、ごめんなさい。マミさん、さやかちゃん」

「許さないわよ♪」

「私も同じく♪」

 

許されなかった。御免で済むなら、警察は要らないのである。

越えてはいけないボーダーラインを踏み越えたまどかの両目に、徐々に涙が溜まりだしたのを見て、二人は軽いため息を吐いた。

 

「泣くくらいなら、最初からしなければ良いの!」

「そうだよ、まどかは後先考えなさすぎ」

 

自業自得だ、そう言いたげに自分を見つめるさやかとマミを見て、まどかは正直に言った。

 

 

「で、でも……。やっぱり不安だったから」

 

「……っ!」

「……。」

まどかのその言葉に、さやかは何かを言いたげにしたが、自分の前に立ちふさがるように出されたマミの腕を見て、マミに譲った。

大人しく引いたさやかを見て、安心したかのように微笑むマミ。ここは任せて、と顔が語っていた。

 

「鹿目さん、以前に魔女の結界内に取り込まれたこと、覚えてる?」

「は、はい」

 

そう言われて、まどかはその時の危機的状況を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、何処なの? ここぉ……」

 

どうしてこうなった。

その一言に尽きる状況に、鹿目まどかはパニックになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、僕の名前はキュゥべえ」

 

「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

 

 

それ-キュゥべえ―との出会いは、衝撃的だった。

偶々行った放課後のショッピングモール、頭の中に響いた声に従って進んでいくと、小さな可愛らしい小動物が居た。

 

叶えたい願いをたった一つ、どんな願いでも叶えるというキャッチコピーを引っ提げてやって来たそれは、まどかからすれば好奇心の的だったのだ。

 

 

「キュゥべえ、私と契約して」

 

あんな願いにしようか、こんな願いにしようかと、まどかがウンウン唸っている内に、結局はさやかが先に契約してしまった。

契約の証であるさやかのソウルジェムを見て、宝石のようで綺麗だ、と思ったのは今でも記憶に新しい。

「せっかく契約したんだからさ、魔女退治行ってみよー‼」

「ぉ、おー!」

 

契約をしたのだから、後は実践。

ソウルジェムを片手に意気揚々と進むさやかに、まどかは胸を期待で膨らませながら、ついていく。

 

 

 

 

それで現在。

「さやかちゃーん‼ 何処にいるのー‼」

 

二人で歩いていた路地裏の景色が少し歪んだかと思えば、見たこともない場所にいつの間にか立っていた。

目の前に居た筈のさやかも、何処かに行ってしまっている。

 

これはマズイ、とにかくマズイ。

普段鈍くさいと、家族や友人から言われているまどかでも、自分が置かれたこの状況には、全身から嫌な汗が止まらなかった。

今までの人生でも見たことのない奇妙な風景の中を、自分の直感を信じて進んでいく。

 

 

 

 

「――■■■■■■■■■■■‼」

「何言ってんのか分かんないのよー‼」

 

まどかとは別の場所では、さやかが一体の魔女と戦っていた。見た目は大雑把に言えば、弓道着の様な服をを着た女性だ。身の丈は3メートル程、その丈と同じ程の大きさの弓を構えている。

ギチギチと嫌な音を聞いて、さやかは魔女の持つ弓に注目する。弓が大きくしなり、弦が風を裂く音を出した瞬間、さやかはその場から右側に全力で飛び退いた。

 

「っぉ……?!」

「■■■■■■‼」

 

数瞬遅れて、自分が立っていた少し後ろの地面が抉り吹き飛ぶのを見て、さやかの背筋が凍った。あんなものをまともに受ければ只では済まないと思いつつ。

またもギチギチと音をたて出した弓を見て、さやかは魔法で生み出したサーベルを片手に前へと進んだ。

「(コースは直線、放った瞬間に避ければイケる!)」

 

戦って得た情報から、勝利への筋道を建てていく。

地面を踏みしめ、魔女へと接近するさやかへと、死の照準が向く。

 

「(来た……‼)」

 

成功するとは限らない、失敗した時のビジョンを浮かべる頭をブンブンと振り、魔女へと集中した。

魔女の持つ弓が、ギチギチと音をたてる。

 

「(もっと)」

 

彼我の距離はおよそ10メートル

 

「(もっと)」

 

ギチギチという音が止み

 

魔女がニタリと笑った

 

「ここだァ‼」

弓が発射でぶれた瞬間、さやかは魔力を使った高速移動で魔女のすぐ隣へと飛び込んだ。矢をかわされた魔女が視線を向けると、そこにはサーベルを構えたさやかが居た。

 

一瞬の静寂の後、胴体を上下に分けられた魔女が地面に倒れる。苦しそうに肩で呼吸をするさやかは、サーベルを放り出して地面に座り込んだ。

 

「倒した……倒したんだぁ……っ‼」

 

勝利した事を自覚するように、手を閉じたり開いたりする。次第にフルフルと体を奮わすと、歓喜の声を上げた。

 

「やったぁー‼魔女退治したぞー‼」

「お喜びの所申し訳ないんだけど、ちょっと良いかしら?」

 

ふと掛けられた声に振り向くのと、振り向いた顔のすぐ側を何かが通り過ぎるのは同時の事だった。

倒れた魔女の持っていた弓が破壊され、魔女の体が塵の様に崩れていく。その後には、黒いゴルフボール状のアクセサリーが残されていた。

 

「魔女の中には、武器そのものが本体である場合があるわ。倒した気で居ても、また復活するわよ」

黄色を基調とした、ゴシックドレス風の服装をしたその女性は、硝煙を上げているマスケット銃の銃口を上に向けて言った。

 

「初めまして、私は巴マミ。貴女と同じ魔法少女よ」

服に合う、透き通る様な金髪をした魔法少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




コメントなどは、気兼ねなくどんどんお書きください。
駄文を最後までよろしくお願いします。


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2

「こ、これ、夢だよね。あはは」

 

まどかは、ジリジリと迫りくる異形の者を見ながらそう呟いた。

 

 

なんでこんなことに?

 

誰か助けて

 

 

そんなことを思いながら、震えて動きにくい足に活を入れる。

なんとか体勢を立て直し、走って逃げようと動いた瞬間、足を何かに取られた。

 

見ると、足に異形の者がしがみついている。変形させた顔には、これまた肉を食いちぎるのに最適そうな牙が並んでいた。

 

ダラダラとヨダレを垂らすその様子に、まどかは全身から血の気が引いた。

 

「いや、嫌だよ!」

 

そんなまどかの叫びも虚しく、相手はこちらへとかぶりついてきた。

 

 

 

 

 

「何してんのよアンター!」

 

そんな怒鳴り声と共にやってきたのは、はぐれた筈のさやかだった。

隣には見たこともないゴシック調の少女がいる。

 

さやかは突っ込んで来た勢いをそのままに、異形の者へとサーベルを構えて突撃する。

異形の者、ここでは“魔女”と呼ばれる存在は、さやかへと噛みつこうとしたが、一歩遅く叩き斬られた。

 

魔女が消滅すると、空間がグニャグニャと歪み、見覚えのある町景色へと戻った。

 

「さ、さやかちゃん……」

 

「大丈夫?ごめんね、まどか。怪我はない?」

 

「ひゃあっ?!」

 

ペタペタと全身をまさぐるさやかに、まどかは驚きの声を上げて抗議する。

そんな光景を微笑ましく見ながら、もう一人の少女――マミはまどかへと言った。

 

「初めまして。私は巴マミ。貴女が、鹿目まどかさん?」

 

「は、はい」

 

「そう、間に合ってよかったわ。……、貴女は魔法少女じゃないの?」

 

魔法少女の持つ代表的な物、ソウルジェムの姿がないことを知り、マミが不思議そうに訊ねた。

が、さやかがまだ願いことを決めてないことを教えると、マミは納得が行ったように微笑む。

 

「ねぇ。良ければこれから、私の家に来ない?魔法少女のことについて知ってることを教えるわ」

 

夕飯も御馳走するわよ、と付け加えると、さやかは目を輝かせた。

 

「えっと、お邪魔じゃないなら」

「やりぃ♪お腹すいてたんだよねぇ」

 

「ふふ、なら行きましょうか」

 

マミの後ろをついて、二人は路地を進んで行った。

 

 

 

 

 

「――はい、覚えています」

 

あの時の恐怖も、嬉しさも、ドキドキも。その時感じたもの全て、今でも鮮明に思い出せる。

 

 

「そう、なら良かったわ。……鹿目さんが体験した恐怖は、魔女の結界に迷い混んだ全ての人が体験してるの、その迷い混んだ人を助けるのが、私達魔法少女の役目」

 

 

何も反応が無かったのか、ソウルジェムを指輪へと変型させると、マミはこちらへと向き直った。

 

二人とも、魔法少女の姿から普段の見滝原中学の制服へと戻っている。

 

 

 

「でも……」

 

「心配なのは分かるけどさ、魔法少女の私達と、今のまどかじゃ全然戦力が違うでしょ、だから」

 

「なら私、魔法少女に――」

 

 

 

 

「ちょっと良いかしら?」

 

 

そう言いながらその会話に割り込んだのは、見滝原の制服に身を包んだほむらだった。

 

魔力を使ったのか、頭上のビルの屋上から落下して、ふわりと着地する。

それを見て、さやかが「かっけー……」と呟いていた。

 

 

「何かしら、暁美さん」

 

「最近、この近辺で変な波長を感じたことはある?」

 

「それって、魔女の波長ってことよね。……ごめんなさい、分からないわ」

 

「そう。……近いうちに、得体の知れない能力を持った魔女がこの見滝原に来るらしいわ。用心して」

 

「ね、ねぇ。ほむら。得体の知れない能力って、何なの?」

 

さやかの言葉に、ほむらは少し考えて口を開いた。

 

「キュゥべえが警戒しろと言うほどの魔女らしいわ。……最悪、ワルプルギスの夜クラスの魔女」

 

「ワルプルギスの夜ですって?!」

 

 

ワルプルギスの夜

 

超巨大台風であるそれは、一度都市を襲えば、その被害人数は想像を絶する魔女。

そして、暁美ほむらにとって、一番因縁がある魔女ともいえる。

 

 

「――えぇ。だから、何か変な魔女、または使い魔を見たときは、下手に刺激せず連絡を取り合いましょう」

 

「分かったわ。……しばらくは、個人での行動は止めておきましょう、美樹さん」

 

「分かりました。ほむら、アンタも気を付けなさいよ」

 

「言われなくても分かっているわ。……鹿目さん。先ほど聞き間違いかと思う言葉が聞こえたのだけど、それは私の勘違いであってる?」

 

立ち去る直前、ほむらはまどかへとそう訊ねた。

その言葉にまどかがドキリと跳ねるのを見て、軽いため息をつく。

 

「で、でも、私。このままじゃダメだと思って」

 

「それは前にも聞いた。そしてその答えに、『貴女のような甘ちゃんでは出来ない』と、答えた筈よ?」

 

「そ、そんなの、やってみないと分からないよ」

 

「分かる。現に今、私との会話に尻すぼみしてるのが良い例よ」

 

ほむらの言葉が、ナイフのようにまどかへと突き刺さる。

予想していたとはいえ、ほむらには口論じゃ敵わないとまどかは感じた。

 

 

「魔法少女は、さやかの様な短絡的な人間がお似合い。貴女のように、小さなことでウジウジと考える人は、すぐに死ぬわ」

 

 

そう言い残して、ほむらはふわりと跳躍した。ビルの壁を数度蹴り上がると、屋上へと消えていく。

 

 

「えへへ。私、魔法少女に向いてるって言ってましたね。ほむらの奴、やっと私を認めたのかな」

 

「……そうね、美樹さんは向いてると思うわ。物事を簡単に見れるから」

 

後ろでそんなやり取りをしている二人の声が、まどかには遠い残響のように聞こえていた。

 

 

 

「……何だ、アイツ」

 

まどか達より少し離れた場所で、今夜のパトロールを行っていた佐倉杏子は、見慣れないものに目を細めた。

食べていた板チョコを懐に仕舞うと、ソウルジェムの探知を作動させる。

 

「チッ、逃げやがった。……鏡みたいな奴だったな。この反応は使い魔か」

 

舌打ち混じりに、もう今夜は獲物はないなと立ち上がる。

少々の食べたりなさを感じ、腹部を抑えると目を閉じて思案する。

 

「マミの所で、飯でも食うか」

 

思い立ったがなんとやら、魔力を足に込めると、マミの住むマンションに向かって跳躍した。



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3

「なんでアンタがこんなとこに居んのよ」

 

「それはこっちのだっての。ここはアタシのテリトリーだぞ」

 

「ここは私の家よ。佐倉さん」

 

 

その後、マミの家へと直行すると、我が物顔で侵入していた杏子と遭遇した。

マミの家にストックしているカップラーメンを啜って、杏子は言う。

 

「大体、お前らだって何しに来たんだよ、こんな時間に」

 

杏子の言葉に、調理器具を取り出していたマミが言った。

取り出している寸胴鍋からすると、パスタか何かを作るのだろうか。

 

「少し急務で話し合う事があったからね。佐倉さんが居たのは丁度良かったわ。……夕飯作るけど、食べる?」

 

「食べる。話ってのは何なのさ」

 

食べ終えたカップラーメンの器をテーブルに置いて、杏子は伸びをする。

 

「ほむらから、近いうちに得体の知れない魔女が現れるって聞いたのよ。だから、それの対策を考えようって」

 

「得体の知れない奴ぅ?はっ、魔女なんか全部そん――」

 

ピタリと急に動きを止め、真面目な顔をした杏子に、全員が視線を向けた。

 

 

「そういや、ここに来る前に変な奴を見たな」

 

 

杏子のその言葉に、全員に緊張が走った。

近くにいたさやかが詰め寄る。

 

「ど、何処で見たの?!」

 

「ちょっ、近い近い!確か、商店街の近くだったはずだ。探知をしたらすぐに逃げたよ」

 

「そうなんだ……」

 

肩を落とすさやかに、杏子が怪訝な目を向ける。

何かあったのか?と言いたげな杏子に、マミが言った。

 

「その例の魔女なんだけどね、ワルプルギスの夜と同格かもしれないらしいの」

 

「……へぇ」

 

「だから、佐倉さんの見たソレは、もしかしたらビンゴかもしれないわね」

 

杏子の目に、獲物を前にした獣の様な、暴力的な気配をまどかは感じ取った。

ピリピリとした雰囲気でいる杏子に、マミは言う。

 

「ヤル気満々なのは良いことだけれど、こちらの準備も手伝って貰えるかしら?」

 

「おっ、出来たのか。なら食うとするか!」

 

「えぇ……、アンタさっきカップラーメン食べてなかった?」

 

「それはソレ、これはコレだ。旨いものは美味しくいただくのが、アタシのポリシーだからな」

 

「それはただ食い意地張ってるだけでしょ」

 

 

そんなことを言いながら、各々皿やコップなど、必要なものを用意していく。

 

皿に盛り付けられたそれを見て、まどかが声を上げた。

 

「わぁ、カルボナーラですか?美味しそう……!」

 

「ふふ、ありがとう。ちょっと私流のアレンジを加えてるんだけど、お口に合うか心配だわ」

 

 

心配なんて微塵もしてない、とまどかは思う。

炊事洗濯、文武両道、全てにおいて高い能力をもつマミは、まどかからすれば尊敬に値する人物だった。

 

こんな風に、“時間を掛けずさらっと美味しい食事を用意できる”スキルは、まどかが会得しようと影ながら頑張っているスキルでもあるのだ。

 

「さぁて、さっさと食べようぜ。さっきから腹ペコだ」

 

「いや、アンタさっき――もういいや」

 

「量を作りすぎちゃったから、たくさん食べてくれるとありがたいわ」

 

「よーっし、任せろ!」

 

和気藹々と食べるその光景に、マミは自然と頬を緩ませていた。

 

次は、ケーキでも作ろうかしら。

そんなことを考えつつ、パスタにフォークを突っ込んだ。

 

 

〰〰〰

 

「君は混ざらないのかい?」

 

「私の後ろに立つとは良い度胸ね、キュゥべえ」

 

「凄腕スナイパーの後ろに立った覚えはないよ」

 

 

ビルの屋上、マミの家の様子が見れる場所にほむらは居た。

こちらから見える様子には、丁度まどかがパスタを食べているところだった。

 

「それで、奴は見つかったかい?」

 

「隠れんぼの上手な奴ね。さっきから使い魔が現れては消えてる……。誘っているのかしら」

 

「さてね。こちらとしても正体不明の存在だ。慎重に接触するのをオススメするよ」

 

特に用事は無かったのか、それだけ言うとさっさと消えてしまった。

まどかに近付かないように釘を刺すべきだったかと思っていると、先ほどから続けている探知に反応が出る。

 

「……そうよ、こっちに来なさい」

 

ほむらはそう呟いて、自らの武器である盾へと手を伸ばす。

そこにある収納ボックスから、拳銃を取り出した。

 

次第に近付いてくる存在に、イメージトレーニングをしながら待っていると、突然反応が消えた。

 

 

そして反応は、自身の背後に出た。

 

 

「――ッ?!」

 

 

突然のことに、驚いて反応が遅れる。体勢を立て直しながら振り向くと――

 

 

 

そこには自分が居た。

 

 

 

「……ぇ?」

 

 

ゴォーン、ゴォーン、と。

 

もう一人の自分の隣で、大きな姿見を構えた天使の様な使い魔が鐘を鳴らす。

 

その鐘の音に反応するように、もう一人の自分、暁美ほむらは起き上がった。

 

「何よ、コレ。まさか、この魔女は――」

 

「ハジメマショ、ワタシィ?」

 

その言葉と同時に、もう一人のホムラの盾が起動し、ほむらの意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 



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