それでも俺はじゃが丸くんを売る (ドラ夫)
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様々なオラリオの人々

何も始まらない話があってもいいじゃないかというノリ


【常連1】

俺はここ、【迷宮都市オラリオ】でじゃが丸くんを売る1人の商人だ。

俺の朝1日はジャガイモも茹でて、こすところから始まる。最早習慣になってること作業の速さは実は結構自慢だったりする。その後の調理方法は…企業上の秘密ってやつだ。

長年この店をやってきた俺だが、最近困ってることがある。それは、新しく来たバイトが『神』であることだ。神がバイトって…。

「おはよう店長!」

「おはようございます。神ヘスティア」

「むう、いつも言ってるけど、いいんだよ?敬語じゃなくて」

「いつも言ってますが、それは出来ません。さ、売り子をしてくださいね」

害はないってわかっちゃいるんだが、神はやっぱり少し怖い。神を身近に感じる冒険者達はそうでもないようだが、やっぱり俺たち一般人なんかからすると神ってのは畏怖の対象だ。

 

神ヘスティアは愛嬌があって優秀な売り子なんだが、問題がひとつだけある。それは…

「また出たな、ヴァレン何某!」

ウチの常連さんの1人と仲が悪いことだ

「…じゃが丸くん下さい」

「毎度ありがとうございます、常連さん。これ、サービスね」

「ありがとうございます」

「冒険、頑張ってくださいね」

 

 

 

「うー!」

「神ヘスティア、そう警戒しないで下さいよ。あの子はウチの常連ですよ?」

「わかってる!わかってるんだけど、僕のベルくんをたぶらかすんだよ、あいつは」

「まあまあ、今日も売れ残り持って帰っていいですから、そのベルくんと一緒に食べて下さいよ」

「いいのかい、店長!恩にきるよ」

「もう今日は上がっていいですから」

「そうかい、それじゃあまた明日!」

「はい、さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【勧誘】

ウチのじゃが丸くんは軽食なため、夜はほとんど売れないから俺でも1人でこなせる。

「よう、繁盛してるか?」

「神ロキ、こんばんは。おかげさまで繁盛させていただいてます」

「またそんなかたい挨拶しよってからに。ガキの頃から長年の付き合いやろ、うちら?いい加減喋り方昔みたいにしいや」

「一介の商人の私には畏れ多いことです。今日はなんのごようで?」

「・・・まあ今回はええわ。今日は勧誘に来たんや、うちのファミリア専属にならへんか?」

「良いお話ですが、お断りさせていただきます」

「なんでや?」

「オラリア最大の【ロキ・ファミリア】が1つの店を贔屓にしたら多くの人が良い印象をもたれないでしょう」

「・・・そんな細かいこと言う奴はウチが潰したる」

「それこそ、悪い噂が出ますよ。私なんかのために【ロキ・ファミリア】の優秀な冒険者達に迷惑をかけてはなりません」

「相変わらず細かいことまでよう考えるなぁ。まあええわ、そんなら今日のところは帰るわ。気が変わったらいつでも来てや」

「お待ちください」

「なんや?」

「ウチは飲食店です。こんなに長々話しといて何も買わずに帰る気ですか?」

「・・・やっぱりお前は根っからの商人やなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【常連2】

「ひとついただけるだろうか?」

「塩味でよろしいですか?」

「かまわない」

このフードをすっぽり被ってるお客さんは、常連さんの1人の【ロキ・ファミリア】所属リヴェリア・リヨス・アールヴさん。なんでも『王族エルフ』である彼女はじゃが丸くんを愛食してることが恥ずかしいらしく、いつもこっそり買いに来る。【九魔姫(ナイン・ヘル)】とかいう2つ名が付いていて、オラリオではかなり恐れられているらしい。でも、こっそりじゃが丸くんを買いに来る、俺よりはるかに年上のはずのこの人はなんだが可愛らしい。

「いつもお越しいただいて、ありがとうございます」

「む、なんだその、ここの料理は美味しいから、な?」

「ありがとうございます」

「それでは」

「またのお越しをお待ちしています」

いつかフードを被ってない姿で買いに来て欲しいもんだ。その為にも『王族エルフ』が買いに来ても恥ずかしくないくらいの店にしなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【常連3】

この人は他の常連さんと比べると来る頻度はひくいのだが、その知名度と購入量が印象的すぎて物凄く記憶に残る。

「いつものを3ダース貰えるか?」

「かしこまりました。少々お待ちを」

このいつもダース単位で購入していかれるお客様は【猛者】オッタルさん。比較的小さいじゃが丸くんは彼の胃袋を満たすのには小さいらしく、いつも途方もない量を買っていく。いつもと比べると今日はまだ少ない方だ。

「全部で1080ヴァリスになります。…ちょうどのおあずかりですね。またのお越しをお待ちしております」

「・・・フレイヤ様もここの料理は美味しいと気に入っておられた」

「感謝の極みです」

口数の少ない彼だが、なんだか俺は彼を嫌いになれない。大きい手で小さいじゃが丸くんを持つその姿はなんだか、【猛者】なんて2つ名を忘れさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【バイト】

「店長すまない、今月でバイトを辞めなきゃならない」

「おや、給金が少なかったですか?」

「そんなことはない!ただ、ベルくんの為に借金をしてしまって、その為に別のところで働くなきゃ行けなくなったんだ」

「なるほど、本当にベルくんを大切にしてらっしゃるのですね。…そういうことなら分かりました、今日はもう店仕舞いにしましょう」

「…店長?」

「ベルくんを呼んできて、何かご馳走しましょう。今日は私のおごりです」

「本当かい、店長!?ありがとう」

「今まで神ヘスティアにはお世話になりましたので、当然の事です」

「店長、君ってやつは…。何か困ったことがあればなんでも言ってくれ!いつでも力になるよ」

「ありがとうございます。神ヘスティア」

「じゃあ、早速ベルくんを呼んでくるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【常連4】

「おや、今日はあの売り子はいないのかい?」

「彼女なら辞めてしまいましたよ」

「おやまあ、そいつは寂しくなるねえ」

「いえ、案外そうでありませんよ。だって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「店長!今日も買いに来たよ!」

「待って下さいよ!神様ぁ〜」

「リリのことも置いてかないで下さいよ」

「へえ、ここが噂の店か」

「いらっしゃいませ、【ヘスティア・ファミリア】の皆様」

「いつも言ってるけど、敬語を使わなくていいんだよ?」

「いつも言ってますが、そんなことは畏れ多いです」

新たな常連さんが増えたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

ここ、【迷宮都市オラリオ】では様々な人がいて、色んなことが毎日目まぐるしく変わっていく。それでも俺は変わらずにじゃが丸くんを今日も売る。

 

 




こんな何もない話を読んでいただきありがとうございます。


たまにはこんな話もあっていいですかね?よくないか。
それではまた何処かで


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商人は、相手がいなければ商人たりえない

ベートはツンデレなノリ


今回も何も始まらない彼の常連さん達との話。
オチなし山なし

思いついたら書いてるので時系列が少し前後しています。ご注意下さい。


【新たな常連さん】

…またこのお客様か。

名前は確か、ベートさん、って言ったかな?この人も【ロキ・ファミリア】の一員で一流の冒険者らしい。つまりお金は持ってるって事だ。なのに、この人はいつも買わずに店の前を行ったり来たりしてる。お客様にこんな事は言いたくないけど、正直、人相が悪くて人が寄り付かなくなってしまうんだよな。

「お客様、当店に何かご用でしょうか?」

「あ゛ん?」

「いえ、なにもないのなら良いのですが、何か迷ってらっしゃるようでしたのでお声がけしたのです。ご迷惑だったでしょうか?」

「いや、別に迷惑じゃねえよ。ただ俺は…その、ア、アイ…が…」

「申し訳ありませんお客様。もう少し大きな声でご注文なさって下さいますか?」

「たがら!アイズが普段なに買ってるか…」

「私に何か用?ベート」

「ウオッ! ア、アイズ!?なんでここにいんだ?!」

「ここの店、私の行きつけだから」

「いつもご贔屓にしてくださってありがとうございます」

「いつもの下さい」

「・・・お2人ご一緒に購入という事でしたらサービスさせていただきます」

「ほんと?ベート、私と一緒に食べてくれる?」

「お、おういいぜ。しょうがなくだからな!」

「ありがとうベート」

 

 

「マ、マスター。その、ありがとよ」

「なんの事でしょうか」

「・・・いや、何でもねえ。また来る」

これで常連さんお一人様追加だな。今日はいい日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【常識5】

「聞いてください店長さん!」

「何でしょうかエイナ様?」

「また一人、私の元を冒険者が離れていったの!生き残る確率を少しでもあげたい一心で、私も心を鬼にして勉強会を開いているのよ?なのにみーんな俺には合ってない、とかそんな事より実際に戦った方がよくわかる。とか言うんですよ!どう思います?」

「エイナ様はとてもよく冒険者様方の事を考えてらっしゃるのですね」

「当たり前じゃない!」

「その『当たり前の事』を出来なかったり、理解できない方がこの世界には多いのですよ。エイナ様はその年でよく物事を考えられていますね」

「て、店長さん、ありがとうございます。やっぱり話すと楽になりますね!」

「私でよければいくらでもお相手しますよ」

「そんな、悪いですよ。あ、そうだ!ギルドの仲間に差し入れをしたいので、いくつか包んでもらえますか」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

彼女はこうやってよくギルドの仲間達にお土産を買っていく。冒険者に対する姿勢などをみるにとても世話焼きなのだろう。少し行きすぎてるその世話焼きがいつか実を結ぶのを願わずにはいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【調理器具】

む、蒸篭(せいろ)が壊れてしまった。仕方がない、久々に調理器具器具一式直してもらいに行こうか。

 

 

「椿様はいらっしゃいますか?」

「店長殿久方ぶりだな、大事ないか?」

「おかげさまで楽しく商売させていただいてます。今日は調理器具の修理をしてもらいたいのですが、かまいませんか?」

「いつも言っているが手前は武器が専門なのだがな。どれ、見せてくれ」

「こちらです」

「うむ、これならば半日もかからんよ」

「ありがとうございます、こちらが報酬です。本来なら当店自慢のじゃが丸くんもつけるのですが、何分ここに来る時はじゃが丸くんが作れない時なので」

「ならば、次は手前が行くとしよう。・・・なあ店長殿、1つ話を聞いては貰えぬか?」

「私で務まるのであらば、いくらでも」

「手前はいくつもの武器を見てきた。雑に扱われてる武器、逆に丁寧に扱われてすぎてる武器、愛着のある武器。いつしか手前は『一流』と言われる冒険者達が使う武器が一目でわかるようになった。不思議なことにこの調理器具達からはそれと同じ物を感じる…。何も変わらないのだな、冒険者も鍛冶屋も商人も」

「・・・ありがとうございます椿様。次は是非お店にいらしてその調理器具達が使われてる姿をじゃが丸くん片手にご覧下さい」

「・・・やはり店長殿は根っからの商人だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【常識さん達との絆】

怪物祭(モンスターフィリア)】ーー俺は正直このイベントが好きではない。観光客がごった返すこのイベントは店の売り上げに大きく貢献する。とはいえ、モンスターとはいえ『命』の奪い合いが近くでおこなわれ、そのおこぼれで儲けるというのはどうにも性に合わない。ーーーたかがモンスターと割り切れない俺は商人に向いていないのかも知れないな。

 

「店長殿、繁盛してるというのに、浮かない顔だな」

「フードの常連さん、申し訳ございません。不快な顔をお見せしてしまって」

「いや、職業柄気になってしまっただけで、不快ではない。それで何故そんな顔を?」

「商人失格と笑ってください。モンスターとはいえ、『命』の取り合いで儲けるのはどうも私の性に合わないのです」

「・・・『命』の重さか」

「つまらない話でしたね、忘れてください」

「いや、そんな事はない。私の方こそ礼を言おう。大切な事を忘れていたのかも知れない」

「私のつまらないお話がお役に立てたようで何よりです」

「・・・店長殿、あなたは少し自分を過小評価し過ぎだ。あなたはこのオラリオで…」

キャーーーー!!!

 

「!? 何かあったようですね」

「む、私は失礼する。今日も美味だった」

「またのご来店をお待ちしております」

 

「店長さん、無事?」

「アイズ様、この店は無事です。見に来ていただきありがとうございます。このじゃが丸くんはサービスです。どうぞ他の箇所をお守り下さい」

 

「店長殿、大事ないか?」

「オッタル様、この店にはモンスターは近づいていません。このじゃが丸くんはサービスです。どうぞ他の箇所をお守り下さい」

 

「マスター、奇遇だな。たまたま歩いてたら着いたぜ」

「・・・ベート様、この店は無事ですので他の箇所をお守り下さい。それと、このじゃが丸くんはたまたま(・・・・)売れ残った物です。どうぞお受け取りください」

 

「なんで自分普通に商売してんねん?モンスター逃げ出しとんのやぞ」

「こんにちは神ロキ。どうやらこの辺は優秀な冒険者が多いようで、あっとういまにこの辺にでたモンスターは全滅しましたよ。ご一緒にじゃが丸くんはどうです?お1つ30ヴァリスです」

 

 

ーーやはり、俺には祭り事で儲けるよりも、常連さん達と話しながらの方が向いてるようだ。つくづく商人に向いてない。

 

さて、どうやって冒険者の方々が俺の付近に抜け出したモンスターが居るのを知ったのか。

その答えを知ってるであろうリヴェリア様とエイナ様には今度サービスさせていただかなくてはなりませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は変わらず今日もじゃが丸くんを売る。

それを支えるのはたくさんのお客様達である




前回が思いの外好評だったので調子に乗って続き書いてしまいました。蛇足だったでしょうか?


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ホウレンソウは大切に

本当に疲れました。
活動報告にも書きましたが1度話を完成させた後にデータが全て消えてしまったのです。

話の大筋は覚えていたのですが細部やキャラのやり取りをほとんど覚えておらず、ほとんど一から話を作り直しました。

データもろくに保存できない私が悪いのですが、執筆意欲というものが本当になくなりました。多分感想の方で応援して下さる方達がいなかったらこの話は2話で終わってました。




「店長いつもーーーあれ?」

夕方、私がいつものようにお店に行くと店閉まっていた。今まで調理道具の修理でいないことがたまにあるけど、それはいつも早朝で、夕方、この時間にいないことは初めてだった。

一応配達に行ってる可能性も考えて30分ほど待っていると

 

「おっアイズたん、奇遇やな」

「ロキも食べに?」

「いや、勧誘や」

「勧誘?店長を?」

「せや、うちのファミリアの専属として雇おうとな。今日は居らへんみたいやしまた明日にでもーー」

「私達のファミリアに入団してくれるの?私が探してくるから少し待ってて」

「へ? あっ、ちょ、まちや! ・・・行ってもうた。いつも勧誘に失敗しとるから入ってくれない可能性の方が高いんやけどな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

うーん、ロキに探してくるって言っちゃったけど、どこに行けばいいんだろう?店長さんの私生活ってほとんど分からないし・・・

とりあえずギルドに行ってみよう。冒険者はまずギルドに行くもんだってフィンも言ってたし

 

 

 

 

 

「あの…」

「これはヴァレンシュタイン様、本日はどういったごようで?」

「店長さんを探してるの」

「店長?」

「じゃが丸くんのお店の店長さん」

「お店なら大通りにございますが…」

「居なかったの、どこにいるか調べられない?」

「ご自宅の場所ということですか?」

「ううん、今居る場所」

「なるほど、行方不明の捜索ということですか」

「え?」

「え?」

「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

…困った、あの【剣姫】が『じゃが丸くんのお店の店長がいなくてギルドに調査依頼を出した』なんて言えるわけがない。【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者は冒険者にとって、憧れであり、高嶺の花なのだ、こんな事が知れ渡ればイメージがおち、冒険者志望が減ってしまう。それはギルドにとって何としても避けなければならない事だ。

 

かといって断る事はできない。

第一級冒険者は優遇されなければならない。でないと他の冒険者が高レベルを、英雄を目指さなくなってしまうのだ。さらにはヴァレンシュタイン氏は神ロキのお気に入りだ。神ロキはギルドに良い印象を持っておらず、ヴァレンシュタイン氏自らの依頼を断ったと知られたらと思うと空恐ろしいものがある

 

この件はヴァレンシュタイン様や【ロキ・ファミリア】の名前を出さずに、だが最優先事項として処理しなければならない

 

 

 

 

 

「エイナさん」

「はい、どうかしたんですか?」

「とある極秘の依頼について相談したいことがありまして」

「極秘…ですか?」

「はい、名前を明かす事のできないとある権力者の方から、大通りにあるじゃが丸くんのお店の店長さんを探して欲しいとのご依頼がきたのです。確かエイナさんはあのお店によく通ってらっしゃいましたよね、何か心当たりありませんか?」

「え!?店長さんが? すいません、あの人の私生活はほとんど知りません」

「そうですか、ありがとうございます」

「確か知り合いに昔働いていた人がいたので何か知らないか聞いておきますね」

「助かります」

 

 

 

「店長が街の権力者に狙われてる!?」

「ええ、その上、今行方不明だとギルドの方に連絡がありました」

「そういえば店長はたびたびヘファイストスのところに調理器具を修理しに行ってたよ!よし、店長にはお世話になってるし、僕が何か知らないか聞きに行ってくるよ」

「ありがとうございます」

「ヘファイストスとは神友だし気にしないでよ」

 

 

 

「ヘファイストス、店長来ているかい?」

「店長って椿のお得意さんの?さあ、分からないわね。どうかしたの?」

「なんでも街の権力者に追われているらしいんだ。しかも行方不明でギルドでさえ居場所を特定できていないんだ」

「そう、それは大変ね。椿もあの人とは仲良くしてるみたいだし、何か心当たりないかきいておくわね」

 

 

 

「ねえ椿、今日あなたのところに店長さんきたかしら?」

「店長殿?今日は来ていないな、2週間ほど前には来ていたが… 何かあったのか?」

「なんでも街の権力者に追われてて、どこかに姿をくらませているらしいのよ」

「それは本当か、主神様!?」

「ええ、しかもギルドまで追っているって話よ」

「…主神様、手前に休暇をくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

とりあえず街を色々と歩いてみたけど何処にもいない。すれ違いの可能性もあるし一旦街へ戻ろうか、と考えていたところ…

「あ、ベート、こんにちは」

「お、おう、アイズ。こんなところで何してんだ?」

 

そういえばベートもよくあのお店に行ってたっけ

 

「店長さんを探してるの」

「マスターを?店に居ねえのか」

「うん、今ロキと私とギルドとで探してるんだけど見つからないの」

「ロキとギルドが関わってんのか!? チッ、俺も手伝ってやるよ」

「いいの?ありがと、ベート」

「俺もマスターには世話になってるからな。フィンにはもう相談したか?」

「フィンに?してないけど…」

「悔しいがフィンの奴は頭が良いしこの街の闇にも詳しい。事情を説明して話を聞いてもらったほうがいいぜ」

 

? 店長さんがこの街の闇となんの関係があるんだろう?フィンに聞いてみよう

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィン、今いい?」

アイズが珍しく話しかけてきたな… 何の用だろうか

「構わないよ」

「店長さんが何処にいるか知らない?」

「!?」

「店長さん?」

「私達のファミリアに加わってくれる人なの」

 

この遠征前の微妙な時期にロキが勧誘?ロキはいつも適当なようで僕たちのことを第一に考えてる。そのロキが新しい冒険者を入れることで遠征隊の連結が揺らぐ事を考慮しないわけがない。それでも勧誘する程の冒険者なのか?

 

「ついにあの人が首をタテにふったのか!?」

「リヴェリアも知り合いなの?でも、今何処に行ったか分からないの」

「どういうことだいアイズ、詳しく説明してくれるかな?」

「うん、ロキと私が会いにいったらいつもの場所にいなかったの、それで今とロキとベートで探してるんだけど見つからないの」

「なん…だと?何処の誰だか知らないが、あの人に手を出したことを後悔させてやる!」

 

アイズとベートとリヴェリアの共通な知り合いが行方不明?しかも様子を見る限りアイズとリヴェリアに相当慕われているようだ。そんな人はなかなかいない

 

「落ち着いて、リヴェリア。それでどうして僕のところへ?」

「ベートがフィンはこの街の闇に詳しいから何か知ってるんじゃないかって」

「なっ、それは…」

 

ベートがそんなことを言うってことは僕達のファミリアに所属する予定の人を闇派閥の人間が攫ったってことだ。僕達と敵対する可能性を犯してまでその冒険者を潰したかったって事か…

 

「このことをしてってる人は他にいるかい?」

「あ、そういえばギルドの人達も今探してくれてる」

 

ギルドまで!?闇派閥とギルドが一人の人物を同時に追ってるなんて今までで初めてだ。しかもベートまで素直に気にかけてるなんて

 

「…わかった、僕が探しに行ってくるよ」

「私も行こう」

「ありがと二人とも」

「アイズ、とりあえずその人が普段拠点にしてる場所まで案内してくれないか」

「拠点?ああ、お店の事か。わかった、私もよく行くし、ここから近いよ」

 

お店?あお、特定の酒場を拠点にしてるのか…

アイズがプライベートでよく会う人か、こんな状況で悪いけど早く会ってみたいね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

「【勇者】に【九魔姫】それと【剣姫】か」

「【猛者】・・・」

「お前達もこの店に通っていたのか」

「ここは私のお気に入り」

「ほお、好きな味は何だ」

「塩、あなたは?」

「俺はショーユバターだ」

 

アイズに案内してもらうとなんとあのオッタルがいた…

彼がこんな時間にここにいることは滅多にない。なぜならフレイヤの警護があるからだ。その彼がここにいる、つまり【フレイヤ・ファミリア】まで関わっている?一体この街で何が起きているんだ…

 

「む、そなたらも彼を探しに来たのか」

「君は【単眼の巨匠】、何故ここに…」

「店長殿が権力者に追われていると聞いてな、あの人なら無事だと信じているが、それでもいてもたってもいられなくてな」

「店長殿が権力者に追われている?どういうことだ」

「手前も詳しくはわからん。が、主神様からの情報だ。確かだろう」

「・・・フレイヤ様から休暇のお許しを頂くか」

 

もうなにがなんだか分からない。オラリオ最高の冒険者だけじゃなくオラリオ最高の鍛冶屋まで集まっている。しかも二人とも滅多に人前に出てこない人物だ。その二人がこれだけ気にかける冒険者なんてオラリオの歴史のどこを探してもいないだろう

 

「おいおい、なんだこの顔ぶれは戦争でも始めんのか?」

「なんや、楽しそうやなあ」

「ベート、ロキ、店長さん見つかった?」

「まだや、しかしアイズたん、フィンとリヴェリアに協力してもらったんか」

 

きっと今この光景を見た人は腰を抜かすだろう。何せオラリオで最も有名なファミリアが全て揃っているのだ。その上【ロキ・ファミリア】にいたってはその主神本人、いや本神?まできているのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

彼は慣れ親しんだ自分の店の前で腰を抜かしていてた。

 

えーっと、これはどういうことだろうか?新メニューを考案した、初めて取り扱う材料なために新しい輸入先と契約した、早速作ろうと店に戻った、ここまでは大丈夫、なんの問題もない。

店の前には神ロキ、オッタル様、リヴェリア様、アイズ様、ベート様、椿様、それと初対面ですが確かフィン様だったと思うーーーが勢揃いしていた。

 

今から60階層にでも行くんだろうか?そう思いながら呆然としていると

 

「「「「店長!?」」」」

 

流石は第一級冒険者だ。こんなにすぐ見つかるなんて、しかし何なのだろうかこれは?

全員が全員全く違う顔で俺を見てらっしゃる。

 

神ロキは普通に「今までどこいってたん?」というような顔をしてらっしゃる

 

オッタル様は全くいつもとお変わりない様子。ここまでは問題ない

 

アイズ様は何故か期待に満ちた顔

 

ベート様も何故か安心しきってる顔。ここまではギリギリ許容範囲

 

リヴェリア様にいたっては涙目で「よかった…」とか仰っている

 

椿様は「私は信じていたぞ」と清々しい顔をして肩を叩いてくる

 

最大の謎として初対面のフィン様には尊敬の眼差しを向けられている…

 

何がどうなればこんな状況になるんだろうか?とりあえず今は…

 

「新メニューがあるのですが、皆様お揃いのようですし試食会にいたしませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなあ〜」

「ええ、【ロキ・ファミリア】の皆さんが遠征に行かれると仰っていたので日数が経過しても温かいままの物を、と思いまして」

「それで新メニューをなあ、几帳面というかサービス精神旺盛というか」

「そんなことはございません。いつも私なんかを気にかけて下さっている皆様の事を考えるのは当然の事かと」

「まあええわ、それにしてもこれちょっとピリ辛で美味いなあ」

「ええ、詳しい事は企業秘密ですが、その辛さが保温の秘訣となっています」

「上手いことやりおるなあ」

「私なんぞはまだまだ未熟な身です」

「またお前はそんな風に自分を言いおってからに… まあええわ、今日はめでたい日やからな。ファミリアの垣根を越えて子供達があんな楽しそうにしてるのはええもんや」

「・・・ええ、そうですね」

 

本来なら俺は新メニューをお渡しして帰って頂くべきだろうな。第一級冒険者である皆様を1つの店に留まらせておくことは双方のためにならない、ならないのだが…

 

常連さん達が美味しいに自分の新メニューを食べながら笑っているのを見ていたい。そんな理由で止めない俺は、やはり商人に向いていない

 

 

 

 

「ところで神ロキ、こちらが請求書です」

「・・・タダじゃないんか」

「私は商人ですよ?」

「お前はホンマに、根っからの商人やなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

【とあるさかば】

「聞いたか、あの噂」

「【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】が同盟を組んだって話か?嘘に決まってるだろ」

「それがなんでもそれぞれの代表者と幹部が一緒に笑いながら食事をしてたって見たやつが言ってるんだよ」

「それこそありえないだろ?フィン様はともかく椿様とオッタル様はほとんど表に出ない上にあの3人が仲良くし一緒に食事をしてる姿が全く想像出来ない」

「まあ確かにな」

「いや、そうでもないぜ」

「どういうことだ?」

「食事をした場所はあの【第一級冒険者の門】らしいぞ」

「それは本当か!?」

 

【第一級冒険者の門】ほとんど全ての第一級冒険者が通うと言われる店でありながら誰もその店を知らない。

 

見つからないのは

 

あまりに美味なために独り占めしたくなってしまい、誰も紹介したがらないから、とも

 

あまりに高級店なために普通の人間では入ることができないから、とも

 

あまりに強力な魔法で隠されていて高レベルにならなければ見つけられないから、とも

 

あまりに普通すぎて誰も気がつかないだけ、とも言われている

 

 

 

全ての話に共通するのは、その店を見つけられたのなら、冒険者として最高の未来が待っている。

 

と言われるこの街で冒険者達の間で語られる都市伝説の1つ

 

「それなら本当なのかも知れねえなあ」

「しかし、それなら目撃者が居るってのは変じゃねえか?」

「目撃者も第一級冒険者なんじゃないか?」

「どっちにしろ、俺たちみたいなのには関係ない話だ」

「それもそうだ。なあこの後じゃが丸くん食いに行かねえか?」

「いいな!あの店長さんにも最近会ってねえしよ」

「なんでも新メニューができたらしいぜ」

「それは今から楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

またのお越しをお待ちしております。




オッタルと椿ってお互いのことなんて呼ぶねんどんな会話の仕方すんねん
多分この二人が会話したのはこの作品だけじゃないだろうか?割と検索しましたが出てきませんでした。あったら参考に見てみたいです




ほぼ考えていた話は出尽くしました。
あとはロキメインの話が少しだけあったりするだけです。
書く気はあるんですがアイデアがありません。
こんな話読みたいな〜 っていうリクエストがあればどんどん送ってきてください。そしたら頑張って続編書いてみます。自分からポンポンアイデアが出て来ればいいんですが、私には無理そうです。


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お客様から学ぶ事


この話を書くときに何が一番大変かってサブタイトルを考える事です。
話の起伏が無いので大変です


かつてこの街には2つのファミリアがあった。そのうちの一つを【ゼウス・ファミリア】と言った。

かつてこのファミリアはこの街で最も栄えたファミリアだった(・・・)

それも今は昔の話。今となってはその栄華は見る影もない。

ファミリアに所属していたものたちは主神共々この街を追われ、今は1人も残ってはいない

 

たった1人の例外を除いて

 

かつてその名を知らぬものは居らず、知性を持たぬ獣でさえもその名に畏怖したと言われる伝説の男。

【ゼウス・ファミリア】の元団長にして英雄の中の英雄。

かつての大戦の最中、戦友達が1人、また1人と倒れていき、ついに1人となりながらも戦い続けた鬼。

最初、神達は楽観視していた。いかに強かろうと所詮は1人の人間。全員で押し込めば、そのうちすぐに倒れるだろうと。

しかし、一週間が経ち、一ヶ月が経ち、一年が経った頃になってようやく神達は悟ったのだ、彼を倒すことは不可能だと。

たった1人の人間の為に自由気ままな神達は自分の意思を曲げ、条件付きの終戦を持ちかけた。

神達は彼が戦いを止め、自分達の監視下に入ることを条件に、彼の仲間の安全を保障した。

そうして彼は今、かつての憎っくき敵『狂神』の監視下の元、この街でひとかどの商人として暮らしているーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ていう話をしたらアイズたんすっかり信じてな『商人……それって!?』って言っとったで!」

 

体の一部、何処がとは言わないが、が少年の様に幼い彼女ーーロキはそう言ってゲラゲラ笑いながら地面を転がった

 

「はあ、神ロキ、何故その様な不毛な嘘をつくのですか。アイズ様の誤解を、こと剣術に関するものを解くのは大変でしたよ。それと、女性がその様に転げまわるのはあまり良くないと思いますよ」

 

「なんや、私の事女だと認識してたんか? まあ、それはそうとすまんかったな。ただ、子供達をからかうんは生き甲斐なんや」

 

「そんな事を生き甲斐にしないで下さい…… 『狂神』の名が泣きますよ?」

 

「そんな二つ名いくらでも泣かしとったらええねん!」

 

事の始まりは3日前。

いつもの様に彼が商売をしていると、いつもの様にアイズが店を訪れ、いつもの様にじゃが丸くんを注文した。

しかし、ここからはいつもと違った。

なんとアイズは彼に剣術の手ほどきをしてほしいと言ってきたのだ。

これには困った。

なんせ彼はただの商人。今まで包丁以外の刃物など数える程しか持った事はない。

当然、一流冒険者に教えられる事など一つもない。

彼はすぐに原因(ロキ)を思いつき、説得を試みるもアイズは剣術に関して、延いては強くなる事に関しては中々耳を貸してくれなかった。

やっとの思いで誤解を解いた時にはもう店仕舞いの時間。残ったのは大量の売れ残り。

普段温厚な彼といえど怒りを覚えるのは仕方のないことであった

 

「神ロキはこの店に立ち入る事を2週間禁止にします」

 

「すまんて!そ、そうや最近えらい繁盛してるなあこの店」

 

勿論、彼はそんな事をする気は毛頭無い。そしてロキもそれを理解してのっている。

普段の彼を知る人から見れば意外かもしれないが、彼はロキと話すときだけは結構ジョークを言うのだ

 

「ええ、光栄な事に繁盛させていただいています。光栄な事に……」

 

「寂しいんやろ?」

 

「・・・貴方に隠し事は出来ませんね。他のお客様が多く来られてしまうと、普段ご贔屓にして下さっているほとんどの方達は中々姿をお見せになってくれません」

 

普段ロキは夕暮れ時に来る。というのもじゃが丸くんが売れるのは大体お昼時であり、その時間帯になると客の姿はほとんど居らず、店長にちょっかいを出すのが目的のロキには都合が良かった。

しかし今日ロキが来たのは夜の帳が完全に降りてきた、店仕舞いの時間帯だ。

その理由はここ最近、店が非常に繁盛してまっているからだ。

誰もが注目する【ロキ・ファミリア】の遠征に使われた『じゃが丸くんーHot』は数日間の保温機能があり味も良いため、数日間ダンジョンに潜る二流以上の冒険者に非常に好評なのだ。

そしてそれ以外の人にとっても、憧れの冒険者達がこぞって買う物が自分達にも手が届く値段で売っているのだ。話題にならないはずがなかった

 

「ぎょうさん列ができたもんなあ」

 

「はい。『じゃが丸くんーHot』は作るのが中々大変でして、私の未熟な腕ですとすぐには作れないのです」

 

「粉の量が大変なんやったっけ?」

 

「ええ、多すぎると辛くなってしまいますし、少なすぎると保温効果が弱いのです」

 

「力になってやりたいんやけど、料理はしたこと無いしなあ」

 

「神ロキといえどお客様の手を煩わせるわけには……」

 

「遠慮せんでええのに。そや、ウチに少し作り方教えてくれや」

 

「他にお客様も居ませんし、構いませんよ。この粉を振りかけて作るのです。少し摘んで…指が汚れてしまいますね。では、こちらのスプー、ン…を……」

 

「どないしたんや?」

 

「申し訳ありません、神ロキ。今日の所はお引き取りを。新商品のアイディアを閃きました」

 

「ホンマか!ウチのお陰か?なら名前はウチに決めさせてや!」

 

「わかりました。出来たらすぐにお知らせしますので、ファミリアの皆さんで来てください」

 

「わかった、ほんなら今日は帰るわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、店長の店には新商品が出来た。

店の隣に備え付けのワゴンがあり、中には粉とスプーンが入っている。

このスプーンはひと匙でちょうど良い塩梅となるように設計されており、自分で粉を取ってじゃが丸くんが入った袋に粉を入れてシェイクして味をつけるのだ。

また、10ヴァリスにつき一回粉をもう一度掬う事ができ、冒険者の間で何処まで辛くしたものをたべれるか、という下らない争いが起きた。

新商品の名前は『しゃかしゃか♪じゃが丸くん』

この日から店長の店の周りでは紙袋を持った人達がしゃかしゃか♪するという珍事起き、話題となった

 

余談だが、そのネーミングから頼むのが恥ずかしく、店の前をウロウロするハイエルフと狼とボアズの姿があったとか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【常連6】

 

俺は彼女、リュー・リオン様の事をほとんど知らない。

そして彼女もまた、俺の事をほとんど知らないだろう

 

「店長、じゃが丸くんの塩味を6つ貰えますか?」

 

「かしこまりました。180ヴァリスになります」

 

「はい」

 

「ちょうどのお預かりですね……これは?」

 

「アップルパイです。いつもご贔屓にさせて貰っているので、偶にはお返しを、と思いまして。ご迷惑でしたか?」

 

「迷惑だなんてとんでもございません。ただ、非常に美味しそうなので私なんかには勿体無いと、恐縮してしまいました」

 

「店長、これは私が貴方の為に焼いたものです。その謙虚さは美徳ですが、欠点でもあります。今回は私の感謝の気持ちを受け取ってください」

 

「・・・そうですね。失礼いたしました。有難く頂戴させて頂きます」

 

次は俺の方から何か贈ろう。

感謝の気持ちを感じているのは何も彼女だけじゃ無い

 

「今、お返しの品の事を考えていますね?」

 

「そんな事はございません」

 

「はあ、貴方はいつもそうやってサービスばかりして…… 偶には私にサービスさせて下さい。是非、今度『豊饒の女主人』にいらしてください」

 

「ええ、楽しみにしています」

 

「ところで、その、新商品がでたそうですね?」

 

「『しゃかしゃか♪じゃが丸くん』の事ですね。お1つどうです?味は保障しますよ」

 

「で、では頂きます。それでは、行きます!」

 

彼女は物凄い気合を入れて、おっかなびっくりしゃかしゃか♪しだした。

最初はぎこちなかったものの段々と慣れ、笑顔が溢れ始めた。

今では満面の笑みを浮かべて両手でしっかり紙袋を握ってしゃかしゃか♪している

 

ーー誰か、誰か俺にリュー様に『もうしゃかしゃか♪する必要はございませんよ』と言う勇気をくれ!

 

 

 

 

 

この商売は色々な事を教えてくれる。

例えばーー人を大切にするのに、誰かと心を通わせるのに、お互いの事を深く知る必要なんかないって事とか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【常連2ー2】

頭が痛え。

関節節々も痛えな…

……何だか、さっきから昔の事ばっかり思い出すな。

 

おっと、お客さんか。

接客しなきゃな

 

「店長殿、しゃ、しゃかしゃ…新商品を一つ頼む」

 

「わかった、いくつ?」

 

「3つだ」

 

「ん、150ヴァリスもらおうか」

 

「ああ、わかっ…店長殿?」

 

「なんだ?」

 

「その、口調というか、雰囲気というか…今日はどうしたのだ」

 

「変か?」

 

「あ、ああ、少し。……顔が赤いぞ、まさか熱か?」

 

「わからん。ウチには鏡も体温計もないもんでな」

 

「よく見ると汗も大量に出てるではないか!」

 

「汗ぐれーかくっての。ジャガイモ常に蒸してるからな」

 

「そういう事ではない! というか口調が明らかに可笑しいではないか!」

 

「落ち着けよリヴェリア」

 

「な、名前呼び…だと…? いつも『フードのお客様』と呼んでいたのに…… 悪いが店長殿、私についてきて貰おう」

 

「それはちょっと、店があるーー」

 

そこまで言って店長はリヴェリアの手刀で気絶させられた。

いかに魔法特化といえど彼女は一流冒険者、何の力もない一般人を気絶させる事など造作もない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、もう一度言ってくれる、ベート」

 

リヴェリアが買いものに出掛けたまま帰ってこなかった。

これを心配したフィンはファミリアの面々に聞いたところ、ベートが店長の店に(しゃかしゃか♪じゃが丸くんを買うために)こっそり行ったところ、店長とリヴェリアがいたのを見たというのだ

 

「だから、店長がリヴェリアの事呼び捨てにして、その上砕けた口調で喋ってたんだよ!そしたらリヴェリアが慌てて店長を連れ去ってったんだよ」

 

「はあ、リヴェリア。君は一体何をしてるんだい?」

 

この日、【ロキ・ファミリア】でリヴェリアが店長と駆け落ちしたという噂が広まった





通常のじゃが丸くん=1つ30ヴァリス
しゃかしゃか♪じゃが丸くん=1つ50ヴァリスです


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