ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』 (ドラ夫)
しおりを挟む

第1章─『闇の帝王』と秘密の部屋
01 新たな『闇の帝王』の誕生


地の文や自己解釈が多い作品です。
出来るだけ分かりやすく書いてはいるつもりですのでご容赦下さい







 車に挽かれ、空を舞いながら悟った、僕は死ぬ。 

 

 走馬燈ってやつなのかな?思い出されていくたくさんの思い出。といってもそこに友人や、恋人や、家族はいない。

 

 両親はいるし一緒に住んでもいる、でもそれだけ、一緒に住んでるだけの他人。それぞれ完全に独立して生きてる、もう何十年と同じ家に住んでるのに好きな食べ物さえ知らない。会話がないわけじゃない。でもそれは自分たちがイメージする『家族の会話』をしてるだけ。

 弁護士の父親と、私立の進学校で教鞭をとる母親。二人ともいろんな人に『先生』と呼ばれる職業についているけど、僕の記憶の限りじゃあの二人に何か教わったことはない。

 そう考えると、もしかすると僕と彼らの距離は『他人』よりも遠かったのかもしれない。

 

 友人にしたってそうだ。クラスのうちあげにはちゃんと行くし、一緒に遊ぶ人もある程度はいる。学校の催し物の際の班分けだってあぶれたことはない、というよりもよく誘われる側だ。

 けど心の底からの友達じゃない。友達の定義なんて知らないけど、彼らが友達か?って聞かれたら僕は少し迷う、きっとこの迷いが質問への答えなんだと思う。

 

 実は恋人もいた。彼女とはなんていうか、なりゆきで付き合った。

 LINEで学園祭の三日前に話していたら『なんか私たち気が合うよね、付き合っちゃおうか』というようなことを言われて次の日には付き合ったことになっていた。

 僕の彼女は学校でも人気者だったらしく、たくさんの周りの人に祝われた。僕もちゃんと『付き合って一か月記念』などのお祝いをしたし、彼女は泣いて喜んでいた。僕もそれを見て悪い気はしなかった。

 けど彼女に一生をかけて添い遂げるか?と聞かれれば答えはNO。人によっては学生時代の彼女にそこまで考えなくていいという人もいるだろう。というより、大多数の人がそうだと思う。

 

 けど僕には一生をかけていい、と思うものがあった。大事なものの価値なんて比べるものではないけれど、心の奥底で、どうしようもなく、彼女を心からは愛せない、と思っていたのも事実だ。

 僕はたぶん、周りから見て、所謂『良い人生』を送っていた。

 けど僕からすると『良い人生』なんてとんでもない。僕から言わせてもらえば、この世界に生まれてしまった時点でハズレもいいとこだ。

 僕はいつだって考えていた。

 

 

 

 なぜ僕は『魔法使いの世界』に生まれなかったんだろうって。

 

 

 

 きっと周りの人にこんなことを言えばあざけったり、嘲笑したり、子供だと馬鹿にするだろう。中には心配してくれる人や、同意してくれる人もいるかも知れない。

 けど、それは本気じゃない。いつも仲良くしてるから、友達には親切にするものだから、冗談半分で言ってるだけ、誰も同意してあげなかったら可哀想だから。そんな理由が大半だと思う。

 別に彼らを責めたりはしない。僕だって隣に座ってる奴が『将来はバットマンになるんだ』なんて言って来たら、間違いなく冗談かおちょくられていると思う。

 

 自分で言うのもおかしいが僕は優秀だ。高校から始めたバスケットボールだってすぐにレギュラーになって全国大会に出場したし、その間も全国模試で50以内はキープしてた。常識だって人並みにある

 でもそんな事は関係ない。スポーツの楽しさを知っても、物理学を深く理解しても、だれもが否定するってわかっていても『魔法使いの世界』への憧れは、少しも色あせることなく、むしろより深く、心に残り続けた。

 

 

 

 

『ハリー・ポッター』

 

 

 

 僕の憧れの『世界』。

 誰かに言われなくたってわかってる、それは所詮本の中の世界だってことくらい。作者がいて、wikiがネットに転がってる『魔法の世界』なんてない。

 それでも、そこまでわかっていても、どうしようもなく僕の心を動かすのだ。あの世界に行けるのなら、それこそ、一生をかけてもいいとさえ思えるほどに。

 

 

 

 『ハリー・ポッター』の最終巻を読んだその日、僕はどうしようもない喪失感に襲われていた。

 もうこれ以降本編が続かないというのももちろんある。だがそれよりも、大好きだったキャラクター、最早僕にとっては実在する人物よりも大事な人たち、が死んだのことのほうが大きかった。もちろん巻を戻して生きていたころを再び読むことできる。

 けど僕の中では彼らは『死んだ』のだ。昔の巻を読んでも、それはきっと、故人のアルバムを読むようなものだ。

 そんなことを考えていた僕は『僕の世界』のことなんてすっかり忘れていた。

 

 そうして僕は死んだ。

 

 思い出されるのは『ハリー・ポッター』のことばかりだ、まるであのキャラクター達と一緒に死んでいくかのようだ、こんな気分なら死ぬのも案外悪くない。そんな風に考えていると、「なんと、ここで人に会えるとはの」──老人の声が聞こえた。

 はっとして声の聞こえたほうを見ると、真っ白な髭をたくわえた、どこまでも澄んだ瞳を持つ、一人の老人がいた。そして気が付くと、僕は駅のホームに立っていた。

 

「ここに来た、ということはおぬしは選ぶ権利を持っておる」

 

 ホームにあるのは二つの列車。一つは見慣れた、普段学校に行くのに使うJR。そしてもう一つは、見るのは初めてのはずなのに、JR以上に慣れ親しんだ気さえする機関車。

 

「・・・アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア」

 

「おお、わしを知っているのかね、どこでじゃ」

 

「あなたを知るのにカエルチョコカード以外あるのですか?」

 

 僕がそう冗談をかえすと、ニッコリ笑って、

 

「嬉しいことを言ってくれるの」

 

 そのあとまじめな顔になり、

 

「おぬしが『こちら』を選んでくれたことは嬉しい。しかし、『こちら』には席がなくての、誰かをどかさなくてはならぬ」

 

「つまり、どういうことですか?」

 

「おぬしが『こちら』に来るには新しく生まれてくるのではなく、誰かの代わりになる、ということじゃ」

 

「なら僕は、僕の世界へと帰ります」

 

「もう二度とこんなチャンスは訪れない、それでもよいのかね?」

 

「かまいません、あなたに会えた、それだけで十分です」

 

「合格じゃ、合格じゃよ」

 

「それはどういう?」

 

「実はもうおぬしが成る人物は決まっておる。これはもう誰も逆らえないことなのじゃ。そしてすまなんだ、おぬしには魔法界で誰も成し遂げられないようなことをしてもらわなければならぬ」

 

 一息置いてから、

 

「おぬしが成るのは若かりし頃のヴォルデモート卿、つまり『トム・リドル』じゃ」

 

「それは・・・」

 

 なるほど、確かに若かりし頃のヴォルデモートが良い人間になれば、ルーピン教授やシリウスといった【不死鳥の騎士団】の面々はもちろんのこと、ポッター夫妻やロングボトム夫妻も助けられるかも知れない。

 しかしダンブルドア校長の口ぶりからすると、ある程度はもう『闇の帝王』となっているのだろう。そこから善人になるというのは苦労するかもしれない。

 

「おや、もう時間のようじゃの」

 

 機関車の汽笛が鳴った。

 

「お別れですか、残念です。でも、またすぐ会えますよね?」

 

 振り返ると、そこにはもう老人の姿はいなかった。

 急いで列車に乗ると、その瞬間に扉が閉まり、ゆっくりと霧の中を進みはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どのくらいの時間が経ったのだろうか?

 数分な気もするし、何カ月も経っているような気もした。

 気が付くと霧は晴れていて、いつのまにか、自分の体ではなくなっていた。

 周りをよく見ようと首を回そうとして、気が付いた。首がない。それどころか、体もない。

 

「そういうことか、なるほど、確かにこれは『若かりし頃のトム・リドル』そのものだ」

 

 気が付けば僕は、ヴォルデモートのホークラックスの1つ、『トム・リドルの日記』になっていた。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02 マルフォイ家

入学回です。いや、入学というより潜入?
よくあるオリ主がどこの寮に入るか?という一大イベンドが出来ないのは残念です。


 とてつもなく気持ち悪い。

 

 僕はここ最近、マルフォイ氏に持ち運ばれているのだが、何というか、他人の心というか思考が流れてくる。

 この感覚はかなり奇妙で、しかもマルフォイ氏の思考ははっきり言って気持ちの良いものではない。

 

 僕が誰かに持たれると感じるものは主に2つある。

 

 1つはその場その場の考えだ。

 例えば今日は何を食べようか、とかあれが欲しい、とかそういった、いわば表面的思考だ。

 

 もう1つは根本的な思考回路、人間性。

 説明するのは非常に難しいのだが、日記の持ち主が表面的思考をする際に、その理由というか、プロセスのようなものが感じられる。いってしまえば、その人の根元的な部分だ。

 

 マルフォイ氏の表面的思考は常に誰かを陥れよう、だとかあいつが不愉快だ、とかこれは金儲けに使える、といったものばかりだ。

 しかもその根底にある『純血主義』や、汚い自分本位な思考回路を僕はいつも感じなければならない。当たり前だが、つい最近まで魔法界に居なかった僕には、本で読んだ知識としてはあっても、『純血主義』はまったく身近でないものだ。

 自分が少しも理解できない思考回路を常に意識させられるというのは、中々にくるものがある。

 唯一の救いは家族と接触するときだ。

 マルフォイ氏は心から家族を大切にしているようで、表面的思考も根元的思考も非常に穏やか。どころか自分の無表情を気にしているようで、二人を不快にさせないか?なんて考える、心温まる一面も見せる。

 

 マルフォイ氏は僕の正体、というか使い道をわかっていないらしい。

 彼にしてみれば、僕は今は亡き『闇の帝王』から渡された謎の日記であり、向けられる感情は、捨てたいが『闇の帝王』が復活したときが怖い、何か呪文がかかっているのはわかるがよくはわからない、といった恐怖と猜疑心のみだ。

 間違ってもインクで僕に何か書くという事にはならないだろう。

 僕が誰かとコミュニケーションをとるには一度でも日記に何か書いて貰わなければならない。

 僕に何か書くとその際にインクだけでなく、魂も消費されていく。僕に魂を渡せば渡すほどコミュニケーション方法は多くなり、最初は文字を通してやり取りをする位だが、次第に夢の中に肉体を持って現れたり、幻聴として話しかけたりすることが出来るようになる。

 肝心の魂の消費具合はどれだけ僕を信頼しているか、書く内容がどれだけ自分のなかで強く、純粋か、で決まる。

 原作でのジニーは『トム・リドルの日記』を心の拠り所にしていたし、日記以外にハリーへの恋心を話せなかったために気持ちが強くなっていったのだろう。だからすぐに体を操られるまで魂を注ぎ込んでしまったのだと思う。

 ここまでが僕の中にあった元からの原作知識とこの日記になったことで得た知識によるものだ。

 

 ここからは仮説になる。

 屋敷しもべ妖精のドビーは確か『再び秘密の部屋が開かれようとしているのです』というようなことを言っていた。

 つまりマルフォイ氏はどこかのタイミングで、この日記が『秘密の部屋』を開くのに使えると知るのだろう。

 それを目の上のタンコブであるウィーズリー家に渡すことで、邪魔な日記を排除し、ウィーズリー家に嫌がらせをし、さらに秘密の部屋を開くことで、あわよくばダンブルドアを解雇しようとするのだろう。

 ここで問題となるのは、トム・リドルがマルフォイ氏にこの事件を起こすように命令したのか否かだ。

 

 僕の使命は『闇の帝王』の復活の阻止。今現在考えている方法は2つある。

 

 1つはシンプルに『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』で『闇の帝王』の復活を阻止すればいい。

 方法はたくさんある。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』でピーター・ペティグリューを殺すなり、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』でマッドアイ・ムーディーの正体を暴くなり、先に僕の墓に行って復活用の大鍋に穴を開けとくなりすれば良い。

 

 もう1つは僕が先に『闇の帝王』として復活することだ。

そうすれば誰ももう1人『闇の帝王』を復活させようとは思わないだろう。こちらの方法では僕の負担は増えるが、上手くやれば闇の陣営を全員アズカバン送りにできるかもしれない。

 

 しかしどちらに共通しているのが僕が実体を持たねば難しい、という点だ。

 原作でトムが復活しようとする際ジニーを殺すことで復活していた。勿論僕はジニーに限らず誰かを殺して復活する気はない。しかし肉体を得なければならないのも事実

ではどうするか?

 

 僕の出した結論は『恐らく人を殺さずとも復活できる』だ。

 

 順をおって説明しよう。

 まず注目したいのが、ジニーがトムが実体化するほどの魂を日記に注いだにも関わらず『トム・リドルの日記』は『ジニー・ウィーズリーのホークラックス』にならなかった、という点だ。

 もしジニーのホークラックスに日記がなっているとしたら、日記が破壊された際にジニーは沢山の魂を消されることになり、あんなに簡単に復帰する事は不可能だ。

 

 では、ジニーの魂はどこに行ってしまったのか?魂を使っていないのならなぜトム・リドルは実体化寸前まで行ったのか?

 

 ここで活躍するのが『守護霊の呪文』だ。

 ハリー・ポッターシリーズの中でも屈指の知名度を誇るあの呪文は『自身の中の幸福な記憶』を使うことでディメンターを打ち破る強力な呪文になる。つまり高度な呪文は魔法力だけでなく、思い出や魂といった力を何かに変換して使うことができるということだ。

 何が言いたいかというと、あの時『トム・リドルの日記』はジニーの魂を直接使ったのではなく、別のエネルギーに変換して使ったのではないか?ということだ。

 この仮説が本当ならば様々な人から少しずつ魂を貰ったり、自分で何かしらのエネルギーを得る術を開発すれば死人を出すことなく実体化できる。

 

 恐らくトムもこれを知っていたが、この方法では時間がかかることや協力者もある程度の人数必要とすることなどから、1人の人間を殺し、復活する事を選んだのだろう。

 そうすれば日記の事を知る人間は1人でいいし、その1人も死ぬことで誰からも知られることなく復活できる。

 はっきり言ってしまえば、僕はジニーを犠牲にすれば間違いなく実体化できる。要はある程度原作通りに進めて、最後に『秘密の部屋で待つ』という書き置きをして、『秘密の部屋』にバジリスクだけ置いておいて僕は禁断の森やかつて賢者の石があった部屋などに隠れていればいいのだ。

 

 そんな汚いやり方はしないが、仮にこの方法をとるにせよ、多くの人の魂を少しずつとるにせよ、新しい術を生み出すにせよ、ホグワーツには絶対に行かなければならない。

 様々な事件が起きる場所であり、魂を取れる多くの未熟な魔法使いがいる場所であり、新しい術を開発するための本が多くある場所だ。

 そして申し訳ないのだが、簡単に操れることがわかっている、ジニー・ウィーズリーの体を借りることも事を円滑に進めるためには必要不可欠だ。

 

 結局のところ、目下一番大事な事はいかにしてマルフォイ氏がジニー・ウィーズリーに僕を渡す決心をするのか、である。

 それ以降はジニーが僕を手に入れてくれれば、いや、最悪ホグワーツにさえ入ればどうにかなる。

 つまり、一番最初にして最も難しい問題がこのマルフォイ氏である。作中ではあまり触れられていないが、やはり一人前の英才教育を受けた純血の魔法使いだけあって、慎重であり、狡猾であり、魔法力も中々のものだ。

 

 そんな訳で、僕がうんうんと頭を悩ませていると(といっても頭はないのだが)マルフォイがインクを僕のところに倒してきた。彼がインクが染みない僕を不思議に思って、僕を手に持つと思考が流れてくる。

 

『父上にしては珍しく薄汚いものを持っておられるな。見た目に目を瞑ってまで持っておきたいものなのだろうか』

 

 というような感じである。

 彼は大層父上を信頼しているようで、マルフォイ氏が持っているものなら、絶対に自分に脅威はないと考えているようだ。

 僕に興味はあっても恐怖や疑いの心はない、つまりある程度心を開いている。僕が心に入り込める。なので僕は彼に少しばかり手伝ってもらうことにした。

 

 彼は僕が意思を持っている事を知ると、毎日嬉々として僕に話しかけてきた。

 僕は父上が君に渡そうとした新たな友人であり、サプライズで渡す予定だから、僕の存在に気づいたことはまだ秘密にしていた方が良い、というとすっかり信じていた。

 彼の心に入り込むのは実に簡単で、『純血主義』の深い理解や、ハリーが意味もなくちやほやされていることに同意しているだけでよかった。

 

 そして意外なことだが、マルフォイは家族や友人をかなり大切にしており、休みの間に送る友人へのプレゼントなども聞いてきた。

 僕の中にはトム・リドルとしての知識や、ある程度の思考回路もあったので、彼の特技の1つであった『人の好きな物を見極める』があったことや、僕が前世で人を喜ばせるのが得意であったことから的確なアドバイスができた。

 流石にただ利用して終わりでは悪い気がしたので、こういった悩みを解決できたのは嬉しいことだった。

 

 マルフォイをある程度操れるようになったところで、僕はマルフォイ氏あてに手紙を出させた。

 内容は『純血の敵に闇の帝王の日記を渡せ、さすれば秘密の部屋は再び開かれん』という感じだ。

 純血の敵といえばマグル生まれだが、闇の帝王の日記をマグル生まれに渡すのは躊躇われる。そこで純血でありながら、純血主義否定派のウィーズリー家に僕を渡すだろう。

 秘密の部屋についても臭わせておいた事でホグワーツに今年から行くジニーを選ぶ可能性は高い。しっかり『闇の印』も手紙に添えておいた。

 その後で少し名残惜しい気もしたが、マルフォイから僕に関する記憶を抜き取っておいた。これで問題なく原作通りに進むはずだ。

 

 そうして僕はジニー・ウィーズリーのお古の教科書とともに彼女のカバンに収まった。このときギルデロイ・ロックハートとハリー・ポッターに会える事の喜びで、彼女の心は溢れていた。

 

 

 

 





というわけで作者の独自解釈でした。
こいつ全然理解してねえな、というような箇所がありましたら、是非ともお教えください

『トム・リドルの日記』つまりホークラックスについては好きに解釈させていただきました



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03 ジニー・ウィーズリーとの日々

 僕の所有者がジニーになってから1週間ほどたったが、僕はまだジニーと話せずにいた。

 いや、これは正確ではない。正しくは魂を削る、つまり本音での会話ができない、だ。

 ジニー自体にはなんの問題もない。僕を最初に見つけたときも何の疑いもなく僕にインクを垂らしてきた。

 そして僕が会話できると知るや否や、自分の家に憧れのハリーがいることや、兄への不満(もっとも根源的思考ではまったく嫌っていないが)や、ホグワーツに通うことへの不安などを毎日語って、いや書いてきた。

 僕がジニーを操れる様になる為に必要な、本音での会話をする絶好のチャンスだった。

 でも僕はそれに対して曖昧な答えや先送りをした。いや、しなければならかった。

 

 何故ならジニーはこれならホグワーツ魔法魔術学校に入学する、すなわちあの組み分け帽子をかぶることになるのだ。

 恐らくあれは高度な開心術や何らかの魔法によって、いわば『身体検査』をおこなうと思われる。それによって判明するのは『家柄』や『能力』、『思考回路』だろう。

 これはまだいいが『魂』や『思い出』も覗くのであれば、僕の存在がバレる可能性があり、僕の存在を知れば組み分け帽子は間違いなくダンブルドアに報告をするだろう。

 もし僕の存在に気がつかなかったとしても、僕の存在がジニーの思考に何らかの変化をもたらすことで、グリフィンドールに入らないことも考えられる。

 

 ジニーは良い子だ、というか良い子すぎた。僕になんの疑いもなく心を開きすぎて、魂をどんどん送ってしまう。

 こうなった僕だからわかるが、ジニーの様な人間でない限り、たったの1年で魂を全て抜き取るというのはかの『闇の帝王』でさえ不可能だろう。

 そういう意味ではマルフォイ氏の人選は完璧と言えた。

 彼女の思い出は幸福に溢れており、世界中の人々は自分に悪意を抱いていないと無意識のうちに思っている。

 僕と最初に話した時も『脳みそがどこに有るかわからないものは危険』という父親からの忠告を『パスタを茹でる時は塩を入れたほうがいい』程度の軽い豆知識のように思っていた。

 ハッキリ言って『原作』の『ハリー・ポッターと秘密の部屋』はジニーにとって良い教訓だった。

 

 そんな彼女は僕に対して心を開きすぎる。デリカシーのない男兄弟と共に育った彼女にとって僕は礼儀正しく、親切な、初めての友達だった。

 更に、『この家で自分しか知らない』というのは彼女にとって中々の価値があるらしく、特にジョージとフレッドへの優越感はかなりのものだった。故に、僕にとって都合の良い事に、僕の存在を秘密にし、夜遅くにこっそりと質問をしてくれた。

 僕はジニーの心理状態を完璧に把握し、彼女が問いかけてくる質問への、最も欲しい答えを知っていた。

 だが、知った上であえて無難な答えをしていた。そうする事でなんとか一線を保っていた。そうしなければ、ジニーの魂が僕に沢山注ぎ込まれていたことだろう。

 

 最初の頃はハリーへの恋心からくる質問が多く、これは非常に困った。恋心や愛といった感情は最も多く魂が込めれていたし、また毒にも薬にもならない答えというのも難しかった

 ところが最近では、ホグワーツへの不安が勝ってきているみたいだった。こういった感情は魂があまり込められていない。

 多くの質問は『どうやって寮をわけるのか?グリフィンドールじゃなかったらどうしよう』だった。これについては『ホグワーツに着けば全てわかる』というような引き延しができたのもよかった。

 

 そうこうしているうちにホグワーツ入学の日になり、無事ジニーはグリフィンドールに入寮した。彼女は夜になるとその事をすぐに報告してきた。そこで僕は自分が考えた、僕の設定を彼女に教えた。

 

「聞いてトム!私グリフィンドールだったの!でも、酷いじゃない、あんな座ってるだけの試験だったのなら教えて欲しかったわ」

 

『おめでとうございます、ジニー。勇敢な貴方ならグリフィンドールだと信じていたから、何も言わなかったのです。そしてホグワーツに入学したからには、僕を本当の意味で使えますよ』

 

「本当の意味?お話のお相手以外に何かあるのかしら?」

 

『僕の正体は昔在学していた、とある優秀な生徒が残した『カンニングノート』なのです。僕に聞けばホグワーツで問われる全ての問題に答えを差し上げましょう』

 

「本当に?トム、凄いわ!」

 

『ありがとうございます。僕は歴代の優秀な生徒に引き継がれてきました。今代は貴方ですよ、ジニー・ウィーズリー』

 

 そんな言葉を投げかけると、これからの課題に対する不安が消えた安心や、兄達より優秀だと知った優越感が僕の中に入ってきた。

 そうすると、僕は益々ジニーの魂を取り込めた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「それでは羽を浮かせてもらいましょう、呪文は『ウィンガーディアム・レビオーサ 浮遊せよ』ですよ」

 

『ジニー、コツは手首のスナップをきかせることと、“レビオーサ”の部分の発音ですよ』

 

 そう言いながら、いや書きながら、日記に手首の動きの図と、発音の際の強弱記号と、口の形の図を記す。

 

「ん゛ん、『ウィンガーディアム・レビオーサ 浮遊せよ』」

 

「やりました!ミス・ウィーズリー、一回目でできる生徒はそうは居ませんよ。どうやらグリフィンドールはグレンジャーに続き優秀な生徒を確保したようですね。グリフィンドールに5点!」

 

 

 

 

「アスフォデルの根球の粉末にニガヨモギを煎じたものを混ぜたら何になる?ウィーズリー」

 

「生ける屍の水薬です」

 

「・・・ポリジュース薬の材料は?」

 

「クサカゲロウ、ヒル、満月草、ニワヤナギ、二角獣の角の粉末、毒ツルヘビの皮の千切り、それから変身したい人物の一部です」

 

「もし腕の骨が消えたら治す薬は!?」

 

「スケレ・グロ」

 

「ふん、教科書は読んでいるようだな。だが不遜な態度のためグリフィンドールから2点減点」

 

 

 

 

 

「みなさんノートはとり終わりましたね?それでは今からマッチ棒を配るのでハリに変えて下さい」

 

『変身術に必要なのはその元の物体が何でできているか、を理解して変えたい物体との相違点を把握することです。今回の場合でいったらマッチ棒は基本的には木で、先端は火薬、それだって元は植物だ。

 それを冷たい鉄に変える。命ある木が無機物の冷たい鉄に変わるイメージですよ。更に言えば形も丸みを帯びた形から段々と鋭く、薄くする事を意識すると高得点ですよ』

 

 そう言って、いや書いて僕は日記にマッチ棒を記して少しずつハリに変えていく。その光景を何度もみたジニーはイメージがしっかり出来たらしく、見事にマッチ棒をハリに、それもマッチ箱に入っていた全てのマッチ棒を変えて見せた。

 

「素晴らしいですよ!ウィーズリー。貴方の兄がほんの少しでもこれだけの才能を持っていたら… さあ、皆さんウィーズリーのハリをご覧なさい。幸いなことに沢山のハリを作ってくれましたからね。グリフィンドールに10点差し上げます」

 

 

 

 

 

 

『魔法薬学で取り扱うのはマンドレイクですか、特徴は大きな声です。今から教える呪文を覚えていれば心配はいりませんよ『シレンシオ 黙れ』その後に『デイフォディオ 掘れ』そしたら『デプリオ 沈め』この3つがあれば完璧です、さあ練習をしましょう』

 

「ええ、わかったわ」

 

 その日深夜遅くまで、ジニーは熱心に呪文の練習をした。僕が脳をほんの少し操作し、集中力を高めていることもあるが、それでも中々の上達ぶりだ。

 

「これほどマンドレイクの扱いを心得てる人は魔法界にもなかなか居ません!グリフィンドールに20点!後で私の部屋に来てください、ウィーズリーさん、是非薬草学について話し合いましょう」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「凄いわトム!私今、ホグワーツで1番得点している生徒よ!このペースはマクゴナガル先生が知る限りでは一人しか居ないって!」

 

『貴方の才能と努力なら当然ですよ、ジニー』

 

「そんなことないわ、貴方が居てくれたからよ。心から、ありがとう、トム」

 

 しまった、しまっちゃった。

 もうジニーの魂は5分の2位流れてきてしまっている。

 

 僕はもう何年も『ハリー・ポッター』を読み込んでいたから、原作に出てくる知識は完璧だ。

 それに加えて『トム・リドルの日記』にあった知識を全力で学んだものだから、学生どころか魔法界でもかなり上位にはいる実力だと思う。

 そんな僕の知識と、ジニーの元々の才能の組み合わせは当然のように学年1の天才となった。ダンブルドア教授の目もある以上、目立たないようにしなければならないのに……

 

 本音を言おう、楽しかったのだ。

 僕が憧れ続けた『ハリー・ポッターの世界』で今まで蓄えてきた知識が役立つことが目に見えて成果となる、その事が嬉しかった。今なら間違いなく最強の『守護霊』を呼び出せると確信するくらいには幸せだ。

 そしてジニーの性格も僕と相性が良く、彼女とのお話し、というか筆談だが、は本当に楽しい。

 彼女から流れてくる感情も、今までがマルフォイ氏だったからかもしれないが、心地の良いものだ。

 

 まあもうやってしまったものは仕方がない。ならば開き直ってジニーの体を、申し訳ないが、操ってやりたいことをやらせてもらおう。

 手始めに僕は『秘密の部屋』を開いた。もちろんマグル生まれどころかネコ1匹殺すつもりはない。これからの僕の計画に必要なのだ。

 これは推察、といってもほとんど確信しているが、ダンブルドア教授は『秘密の部屋』をわかっていながら、あえて放置していた。

 でなければあんなにスムーズにフォークスを送り込める訳がないし、武器として組み分け帽子、つまりグリフィンドールの剣を送り込んだことも不自然だ。

 ハッキリ言って相手が熟練の魔法使い(ヴォルデモート)だったら、剣を持った学生など相手にならない。

 相手がバジリスクであるとわかっていたから、バジリスクの毒を治せるフォークスとバジリスクの毒を吸収し、ホークラックスを壊せるグリフィンドールの剣を送ったと考えるのが自然だ。

 

 しかし、最初から全てわかっていたのだろうか?という疑問もある。

 いくらハリーの成長と、ホークラックスを壊せるグリフィンドールの剣を呼び出すためとはいえ、死人が出るかもしれない事件をギリギリまで放置するだろうか?

 仮に最初から全てをわかっていたとして、死者が出ないように配慮していたとしよう。

 だが石になってしまった生徒達は1年間周りの人間に遅れることになる。そんなことダンブルドア教授が許すだろうか?

 確かダンブルドア教授は勉強することで後天的に『パーセルマウス』になったはずだ。このことから予想するとパーセルタングを話せるは話せる、がしかし、ハリーのように些細な声を聞くことは出来なかったのではないだろうか?

 どういうことかというと、英語の勉強をした受験生がリスニングの試験などで今から英語が流れる、とわかっていると聞くことが出来ても、街中で誰かが適当に話している英語はわからない、ということだ。

 

 更に言ってしまうと、秘密の部屋を開く言葉をダンブルドア教授は知っていたのだろうか?

 もしかしたら秘密の部屋の場所は大まかにわかっていたのかもしれない。だけど開くための言葉がわからなくて、自身は行くことが出来なかったのかもしれない。

 パーセルタングの単語帳など聞いたことがないし、話せる人がまず少なく、いたとしてもスリザリン出身、つまりダンブルドア教授とは仲が良くないため教えてくれなかった。大いにあり得る話だろう。

 

 僕の結論としては、ダンブルドア教授は事件の何処かのタイミングで秘密の部屋の位置をある程度把握した。

 そしてその後で雄鶏が死んだことや、ヴォルデモートの力を少し受け継いでいるハリーがパーセルマウスだったことや、スリザリンに関係のあるものであることなどから『秘密の部屋の化け物』がバジリスクだと予想した。

 ここまで時間がかかってしまったのはダンブルドア教授が博識故だと思う。

 バジリスクと相対して生き残る、それも何人も、ということは普通はありえない。目を見るのが直接でなければ石になる、などバジリスクの個体が少ないことや実験が危険すぎることから世界の誰も知らなかった情報だろう。

 だからダンブルドア教授は石にする能力を持つ何かを探していたためにバジリスクを見過ごしてしまったのだと思う。

 恐らく彼がその事に気がついたタイミングは決闘クラブのあと、そしてハーマイオニーが気づく少し前だ。もしもっと前から気がついていたなら、何もかもが後手後手すぎるし、それより後ならばハリーは生きてはいない。

 

 僕はどうしたらいいのだろうか?

 この事件は恐ろしいほどの偶然に支えられている。いや、原作のトムがものすごく上手く立ち回ったのかもしれない。しかも僕の場合やらなければならないことは原作のトム以上に多い。

 ジニーを死に追いやることなく、しかし自然な形での僕の実体化。

 ダンブルドア教授とハリーに完璧なタイミングで事件の真相に気付かさせ、ハリーを成長させ、ダンブルドア教授に後片付けをしてもらう。

 なにより難しいことに、原作では『トム・リドルの日記』の残骸を見てダンブルドア教授はヴォルデモートのホークラックスの存在に気がつくわけだが、僕は死ぬ訳にはいかないので、『トム・リドルの日記』を見せずにホークラックスの存在を知らしめなければならない。

 これだけのことを、ジニーというたった一人の協力者──しかも夜にこっそりしか活動出来ない──だけで行うのは不可能に近い。

 

 しかし僕にはいくつかのアテがあった。恐らく、これで全てが上手くいく。

 そう思いながら僕は『秘密の部屋』を開いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

04 秘密の友達

主人公のたてた計画の発表です
自分では出来るだけ矛盾がないようにしているつもりなのですが……

もし何かございましたら、ご指摘下さい


 『秘密の部屋』に入ると1匹の巨大な蛇がいた。

 

「やあ」

 

『お前はトム・リドル…… 何故再びここにいる』

 

 今はジニーの体に乗り移って来てるんだけど、僕を見て一瞬で正体を見破ったみたいだ。野生の勘という奴だろうか。

 いや、彼はサラザール・スリザリンのペット?だから野生ではないか。兎に角、今は誤解を解かなくてはならない。

 

「昔来た『僕』と僕は違うんだよ、今は見ての通りに魂だけの存在さ」

 

『それで、私に何の用だ。また人殺しか?』

 

「そんなつまらないこと蛇の王にはさせないよ、『僕』と違ってね」

 

『では何の用だ闇の帝王よ』

 

「僕に力を貸して欲しいんだよ」

 

『ふん、どうせ私はスリザリンとの『破れぬ誓い』のせいで後継者には従わざるを得ない』

 

「そうなのかい?でも僕は君の嫌がる事を強要する気はないよ。嘘かどうかはこれから見ていけばいい」

 

『その言葉が本当かどうかは私にはどうでもよいことだ、我が主人よ。それで私は何をすればいい』

 

「我が主人なんて呼ばなくていいのに。とりあえず今日のところは『変身呪文』かけるから、ヘビ皮の栞になってくれる?僕がこの子の体を借りてられるのも後少しの間なんだ」

 

『よかろう、栞にでも財布にでもするがよい。我が主人よ』

 

「やれやれ、君も中々に強情だね」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「トム、この栞はなに?」

 

 バジリスクを栞に変えた物を(日記)に挟んでおいた。それを見たジニーは動けないはずの(日記)がどこからこれを?と疑問に思っている。

 

『それはあるひとがつくった特別な栞です、ジニー。貴方が本当に困ったときに力になってくれます』

 

「そうなの?まあでも、トムがそういうならそうなのね」

 

『ええ、ですから常に僕に挟んでおいて下さい』

 

 ジニーはいぶかんしていでいたが、結局は僕への信頼が勝ったみたいだ。素直に僕の言う通り、栞を本に挟んで置いてくれた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

『して、我が主人よ用とは何なのだ。まさか本当に本をどこまで読んだかわかるようにするために私を呼んだのではあるまいな』

 

「違うよ、蛇の王。うーん、いちいちこれでは呼びづらいな、何か名前はないのかい?バジリスク以外で」

 

『その昔にスリザリンがつけてくれたが、とうに忘れた。誰にも呼ばれなかったのでな』

 

「へえ、なら昔の『僕』はなんて呼んでいたんだい?」

 

『ただバジリスクと呼んだ』

 

「そうか…… なら、僕が新しい名前を君につけてもいいかい?」

 

『私はもう我が主人のものだ。好きにするがいい』

 

「そうだね、『ヨル』なんてどうだい?由来はヨルムンガンドからとったのと、僕は『(ヤミ)の帝王』なんて呼ばれていたからね。ヤミとヨル、仲間だろ?」

 

『……では私は今日よりヨルと名乗ろう』

 

「じゃあヨル、早速だけど頼みを聞いてくれ」

 

『なんなりと、我が主人よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の魂と君の魂、半分ずつ交換して欲しいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴォルデモートのホークラックスの1つであるナギニは2つの魂を体に有しながら、自我を失わずに、高い知性としっかりとした個を持っていた。

 しかも瀕死の状態にあったヴォルデモートはナギニから定期的に魂を貰っていたようだった。つまり、ナギニは魂をヴォルデモートに渡してもある程度の時間が経過すると魂が回復しているということだ。

 ならばナギニよりも強力で、高い知能を持つ蛇の王、バジリスクならばもっと魂を供給してくれるのではないだろうか?

 しかし、ヨルを僕のホークラックスにするには殺人をしなければならないので、それはできない。

 だから僕はお互いの魂を交換するというギリギリのラインをついた。分霊させるのではなく、降霊させる。

 やってみると実際ヨルの魂は大きく、僕とヨルは一心同体となることで1日に1時間程度なら僕は実体化できるほど力を得た。

 

『……我が主人よ、非礼を詫びよう。貴方は本当にかつての『闇の帝王』とは違うのだな」

 

「おや、信じていなかったのかい?」

 

 僕と魂を共有したことで、僕と『僕』が違う存在だということに気がついたみたいだ。同時に、僕の中にもヨルの思想がある程度流れ込んでくる。

 

『かの者は人の心に取り入るのが得意であった。警戒するのは当然だ』

 

「それもそうか。でも分かったと思うけど『僕』と僕は非常によく似た他人だよ」

 

『うむ、そのようだ。して我が主人よ、これよりどうするのだ。いつまでも魂のままというわけにはいくまい』

 

 ヨルが中々鋭い指摘をした。

 いつまでもジニーの体を使って活動していたのでは色々と限界があるし、ヨルにしたって体がバカでかいからそこまで自由には動けない。

 しかし、僕の体を実体化するより前にやらなくてはならないことがある。

 

「そうだね、とりあえず僕の杖を作らなければならないかな」

 

 杖がなければ、実体化したところで何も出来ない。

 

『杖を買うのではなく作るのか…… かつてのスリザリン達もそうしていた』

 

「そうなのかい?まあ確かに、昔は杖を売る店なんてなかったかもね」

 

『スリザリンは私の羽と暴れ柳の枝で杖を作っていた。そのときの暴れ柳はもうないが…… あの暴れ柳は野生だった。スネイプにしっかりと栄養管理されている校庭の暴れ柳の方がいきがいい。加えて私もあの頃より強くなっている。さらに私と魂でつながっている我が主人ならば、より強力なものができよう』

 

「暴れ柳もバジリスクもこの世界に10もない貴重な物だし、どちらも、特にバジリスクの羽はとるのも命がけだからこの世に2つとない杖ができるだろうね」

 

『それだけではない。忠誠を誓い、魂を共有している私の羽を芯に使うのであれば、何があろうとも杖が我が主人以外に忠誠を誓うことはない』

 

「僕のための一点物か。なんかいいね、こういうの。僕とヨルの友情の証みたいだ」

 

 僕達は早速暴れ柳の枝を失敬しに行った。蛇の王バジリスクの前では流石の暴れ柳も大人しく、僕が開心術で枝を一本貰えるか聞いみたところ、返事はなかったけど、素直に一本の枝を差し出してきた。

 その後、『必要の部屋』で杖作りに必要な物がそろった部屋を用意して、僕の知識とヨルの記憶を頼りに杖を作った。もっとも、1日に1時間しか作業出来ないから半月ほどかかったけどね。

 

 32cm、右利き用、芯にはバジリスクの羽、本体は暴れ柳の枝、気高く力強い。

 

 僕のために作られた、僕のための杖。できてから初めて振ってみると、周りにあった物が全て石化した後に石から黄金となった。

 その後にヨルと一緒に、何となく暴れ柳のところに行って2人で感謝の言葉と共に、スネイプ教授から失敬した高級な肥料を送っておいた。枝をブルンブルン降っていたから、多分喜んでくれたんだと思う。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「ヨル、悪いけど今からネコを襲ってもらいたい」

 

 

『今度は私をネコ退治に使うのか、我が主人よ。勿論構わないとも』

 

 僕の計画の第一歩を頼むと、ヨルは快く答えてくれた。蛇の王にこんな雑用みたいなことにさせて良いのか、と思ってたけど彼は気にしないみたいだ。

 

「使う、なんて言い方よしてくれ。僕と君は友人だ」

 

『何度も言うが、スリザリンの後継者に忠誠を尽くさなければ『破れぬ誓い』によって私は死ぬのだよ。私に死ねというのか』

 

「わかってはいるんだけどね、性分なんだよ。許してくれ」

 

『許すも何もない、私に命令すればよいのだ。それで襲うのはどのネコだ』

 

「それでも僕は命令じゃなくて、お願いという立場をとるよ。狙うのはミセス・ノリスという名前のネコだよ」

 

『我が主人は中々に強情だな。だがよかろう、そのミセス・ノリスとかいうネコの亡骸を我が主人に献上しよう』

 

「いやいや、殺さないでくれ。石化にとどめておいて欲しいんだ。今から水のベールで君の目を包む、その上から見れば死なずに石化するから」

 

『把握した、では行ってくる。栞から元に戻してくれ』

 

「わかった『フィニート 終われ』、それと『網膜水の呪い』、それから『プロテゴ・ホリビリス 恐ろしきものから守れ』、最後に『ポータス ポートキー作成』。これで君の目を見ても石化で止まるし、万が一誰かに見つかって攻撃されても盾の呪文が君を守ってくれる。危なくなったらポートキーで戻っておいで、ポートキーならホグワーツでも使えるからね」

 

『……我が主人よ、少しばかり過保護すぎだ。私はその辺のがらがら蛇ではないのだぞ』

 

「なに、僕もやることがあってね。何かきみに起きてもすぐに手助けできないからさ」

 

『ほう、では帰ったらお互いの成果の発表と行こう。と言っても私がやるのはネコの退治だがね』

 

「僕もそんなに変わらないさ。今から少しばかり厨房に行くだけだよ」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「やあ、働いてるかい?」

 

「はい、精一杯努めさせていただいてます。本日はどのようなご用件でしょうか、なんなりとお申し付け下さい」

 

「今日はちょっと君たちに教わりたいことがあってきたんだよ」

 

「私どもの知識でよいならいくらでも」

 

「ありがとう、君の名前は?」

 

「おお!感謝など私めにはもったいない!私の名前はサーラでございます。御坊ちゃま」

 

「それじゃあサーラ、君達の使う杖なしでの魔法を僕に教えてくれないかな?」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

『待っていだぞ、我が主人よ』

 

「ただいまヨル。今日のことを話す前に『変身呪文』かけちゃうね」

 

『むう、この栞姿には何度なっても慣れぬものだ…… それはそうと我が主人よ、ネコはしっかりと石にしておいたぞ』

 

「ありがとう、ヨル。今かけておいた呪文をとくね『フィニート・インターカーテム 呪文よ終われ』。ふぅ、流石に3つかけた呪文を一回で消すのは疲れるね」

 

『それで我が主人よ、成果のほどはあったのか』

 

「予想以上にね、これで全て上手くいくよ」

 

『それはなによりだ。早く我が主人には肉体を持ってもらいたいものだ』

 

「苦労をかけるね」

 

『……我が主人よ、何度も言うが私に礼を言う必要はないのだぞ』

 

「性分なんだよ」

 

『やれやれ、相変わらず我が主人は頑固な方だ』

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「ねえトム、貴方ミセス・ノリスが石になったことについてなにが知ってる?『秘密の部屋』ってなんなの?」

 

『どうやら昔にも同じ様なことがあった様ですよ』

 

「本当?その時はどうなったの」

 

『死人が1名出ましたが、犯人はアズカバン送りになった様ですね』

 

「そうなの… 犯人は誰で、どうやって『秘密の部屋』を開いたのかしら」

 

『それについては私にはなんとも言えませんね、私は所詮与えられた知識、基本的にはホグワーツの本の内容しか知りませんので』

 

「時々忘れそうになるけど、あなた生きてないのよね……」

 

『そうですよ、ジニー。私はあくまで『カンニングノート』です』

 

「それじゃあ早速だけど『魔法薬学』と『変身呪文』と『闇の魔術に対する防衛術』のレポート手伝ってくれる?カンニングノートさん」

 

『構いませんよ、ジニー。レポートで大切なのは内容もですが先生の性格を把握するのが何より大事なことです。レポートを提出させるということは、先生方は生徒に求める事があるというとです。そして大きく分けてそれは2つあり、1つはその箇所が非常に大事な場合。もう1つはその箇所は教科書では不十分であり、本や参考書で調べて欲しいという場合です。

 

 まず『変身呪文』の先生であるマクゴナガル教授は非常に有能であり、ベテランです。それ故に授業の形態がほぼ確立されているため、1年やそこらで大きく変わることはありません。なのでこの時期に過去の、特にレイブンクローの先輩方が借りていた本を参考にするとよいでしょう。

 

 次に『魔法薬学』のスネイプ教授は間違いなく過去のレポートと範囲が被ってくる箇所を選ばないでしょう。ですがこっそりとスリザリン生には有用な本や参考書を教えているはずです。最近のスリザリン生が借りている本を探しましょう。

 

 最後に『闇の魔術に対する防衛術』のロックハート教授は闇の魔術についてよりも彼について書いた方がいいでしょう。なので彼の本のみを参考にしましょう』

 

「ありがとう、トム」

 

『構いませんよ、ジニー。代わりと言ってはなんですが、よろしければ1つお願いを聞いていただけませんか?』

 

「いつもお世話になってるもの、私にできることなら何でも言ってちょうだい」

 

『私の存在する目的は知識を生徒に教えることです。ゆえにもっと知識を溜め込みたいのです。ロックハート教授に頼んで禁書の棚の閲覧許可をもらえませんか?』

 

「それはいいけど、どの本がいいの?」

 

「『吸魂鬼』についてです」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 それから、僕は『吸魂鬼』についての研究をし、ヨルは原作通りに生徒達を石にしていった。違う点といえば、僕がジニーを操っていないため、ジニーは体調を崩したり、自分の行動がわからなくなり悩む、という事がなかったことくらいだ。

 一度ハリーに拾われた時は、過去のハグリッドの映像を見せたが、僕が『トム・リドルの日記』であることは明かさなかった。あくまで、『とある生徒が作ったカンニングノート』とした。その後は自分でジニーの元に帰った。

 そして今、僕の計画は最終段階へと進んでいた。

 

 『妖精式武装解除』と『妖精式浮遊呪文』それと『妖精式姿くらまし』を覚えた僕はホグワーツ内でも好きに『姿くらまし』することができるし、魔法を使っても『妖精呪文』なら『臭い』や『直前呪文』をはじめとしたあらゆる検査魔法に引っかからない。

 そうして僕は、フラメル邸へと侵入して、そこでゴブレット2つ分『命の水』を失敬した。『賢者の石』ならともかく、これ位の盗みなら気がつかれる事はない。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「始めるよ、ヨル、覚悟は決まった?」

 

『いつでもよいぞ、我が主人』

 

「危険だと判断したら噛み砕いて破壊してくれ」

 

 今僕たちがいるのは『必要の部屋』、その中でも隠したいものを隠す部屋だ。目の前にあるのはヴォルデモートのホークラックスの1つ、レイブンクローの髪飾り。

 今から行うのは至難の技、ホークラックスを破壊するのではなく、僕の中に取り組む。

 

「『エクスペクト・ディメンタス 吸魂鬼よ来れ』!」

 

 これが僕が開発したオリジナル呪文。辛い思い出を糧とし、『吸魂鬼』の技である『吸魂鬼のキス』を擬似的に行う、魂吸引の魔法。

 

「「「「キャアアアアアアアァォァァアアアアア!!!!!」」」」

 

 髪飾りがこの世のものとは思えない色んな女性の声を上げながら、あらゆる呪文を放ってくる!

 

「ヨル!」

 

『任せよ、我が主人』

 

 飛んでくる呪文をヨルが間に割って入ることで妨害する。バジリスクの鱗はあらゆる呪文を通さない。

 魂を吸い込んでいくと少しずつ声が小さくなっていき、やがて消えた。

 

「意外とあっけなかったね」

 

『我が主人の常識外の魔法があればこそだ、誇るがよい』

 

「ヨルの鱗も大したものだよ、回復呪文をかけるまでもなさそうだね」

 

『あれだけ直前に保護呪文をかけていれば無傷なのも当然だ』

 

「何にせよ、これで僕の実体化はほぼ完了だ」

 

『後はあの小娘を『秘密の部屋』に招待すれば終わりか』

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「ジニー!」

 

「やあ、ハリー」

 

「君は『カンニングノート』の中で見たトム・リドル?助けてくれ!ジニーが死にそうなんだ」

 

「へえ」

 

「早くしないとバジリスクが来る、トム!……トム? 僕の杖を返してくれないか?」

 

「バジリスクは来ないよ、僕の命令がない限りはね」

 

「トム、まさか君が」

 

「『秘密の部屋』を開いたのは僕だよ。今も昔も、ね」

 

「何でそんなことを…」

 

「昔はただ単に興味本位で、かな。そして今は君だよ、ハリー・ポッター。幼い君がいかにして『闇の帝王』を打ち破ったのか興味がある」

 

「君はヴォルデモートよりも古い人間だろ?なんでそんなこと──」

 

「ああ、そのことなら今から僕が説明するよ。簡単なことさ」

 

 僕は杖を一振りして空中に文字をつくり出す。

 

Tom Marvolo Riddle

 

 そしてさっともう一振りして文字を並び替える。

 

I am Lord Voldemort

 

「生き残りの男の子と闇の帝王、どちらが優秀な学生か比べようじゃないか」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 その後はまあ原作通りに進んだ。違う点といえばバジリスクのヨルは一見死んだように見えるが、僕が擬似的なホークラックスの役割を果たしているために本当の意味では死んでいない点だ。

 飽くまで擬似的なホークラックスだから、この後とある処置を施さないと死んじゃうんだけど。

 

「バカな…バジリスクがやられるなんて……」

 

 僕が呆然とした顔をしていると、ハリーはハッと思いついたかのようにジニーの隣に落ちている髪飾り(・・・)をヨルの牙で貫いた。

 そして僕は思いっきり苦しむ演技をしながら『妖精式姿くらまし』でヨルと一緒に消えた。

 残るのは『ヴォルデモートのホークラックスの残骸』であるレイブンクローの髪飾りと、成長したハリー、バジリスクの毒を吸収したゴドリックグリフィンドールの剣。

 この件でダンブルドアはホークラックスの存在を確信し、それを破壊する武器を手に入れ、ハリーはヴォルデモートの存在を深く意識する。

 ジニーは僕があらかじめ用意しておいた『命の水』で魂を回復させておいたので一切の害はない。そしてこの一連事件の裏に僕がいたことは知らない。これからも『トム・リドルの日記』を大事にするだろう。

 

 『妖精式姿現し』でジニーの部屋に戻った僕はもう1つの『命の水』をヨルに飲ませた。しっかり回復させた後で、僕達はそれぞれ日記と栞に戻った。




というわけでオリ主の実体化が安定してきました

そして恒例イベントの杖とペットの選別もできましたね!

他の作品と違うところといえばオリバンダーの店に行ってないことやダイアゴン横丁で購入してないこと位ですね、些細なことです

レイブンクローの髪飾りにかけられていた防御魔法は完全にオリジナルです。書籍版ではクラップかゴイルに焼かれていて、映画だとハリーに簡単に壊されてますね

本当は『血統クラブ』でジニー(憑依状態)VSセドリックやジニーがハリーとロックハートの2人をすきになり、悩みを打ち明けるなどの話を入れたかったです。もしかしたら次回はジニー視点でもう一度『秘密の部屋』かもしれません


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 VSハッフルパフの天才

セドリックとの戦いとジニーの心情を少しだけ
時系列とか完全に無視です


 私は恐らくホグワーツで最も幸運な生徒だと思う。

 憧れていたハリーと兄が親友で、尊敬するロックハート先生の授業を受けれる。しかも『カンニングノート』のおかげで成績はトップ、今のところ最多得点者だ。

 残念ながら『カンニングノート』はロックハート先生の『闇の魔術に対する防衛術』ではなぜかほとんど役に立たないけど、私はロックハート先生の本は読み込んでいたので自力でどうにかなった。

 

 最近『秘密の部屋』が開かれたらしく、ミセス・ノリスと同期のコリン・クリービーが石になってしまった。

 トムに聞いてみたところ『秘密の部屋』を誰が開いて、何が隠されているのかはわからない。

 しかし目的はわかっていて、マグル生まれを消すことだと教えてくれた。私には危害はないし、もし万が一襲われてもヘビ革の栞を持っていれば大丈夫だと言われ、いや書かれた。トムがそう言うのだから、きっと間違いないだろう。これからもこの栞を大切にしようと思う。

 

 そういえば、ロックハート先生はトムでもわからない『秘密の部屋』についてほとんど解き明かしているらしい。だからもうすぐ事件は解決すると思う。

 でもロックハート先生は生徒達にも自衛の手段を持ってほしいらしくて『決闘クラブ』を開いてくれた。勿論私は嬉々として参加した。

 

「それではペアを組んで下さいね。おおジニー・ウィーズリーではないですか、どうぞこちらへ!みなさん、ご存知かも知れませんが彼女は非常に優秀な魔女であり、僕の本の愛読者でもあります。誰が彼女の相手に相応しいでしょうかねえ」

 

「吾輩が決めてもよろしいですかな、ロックハート教授」

 

「勿論構いませんよ、スネイプ先生!」

 

「ではディゴリー、相手をしてやれ」

 

「「「!?」」」

 

 その場にいたスネイプ以外のみんなが心底驚いた顔をした。私だって驚いたし、セドリックも驚いてる。

 当たり前だ、いかに私が良い成績をとってると言っても私は1年生でセドリックは4年生だ。

 しかもセドリックはハッフルパフ1の、いや、ホグワーツ1優秀な生徒との呼び声も高い。

 

「スネイプ先生、流石にそれは……」

 

「おや、貴方は不利な状況で年上の魔法使いを何人もくだしてきたのでは?であるならば、生徒にも同じ事を出来るようになって欲しいと思うのは、当然ではないですかな」

 

「そ、そうですね。……ではジニーとセドリックはお辞儀をしてください。魔法使いの決闘の作法は知っていますね?今回はあくまで杖を取り上げるだけです」

 

「よろしく、セドリック」

 

「ああ、こちらこそよろしく。ジニー」

 

「それではいきますよ3…2…1…始め!」

 

「行くよジニー!『エクスペリアームス 武器よされ』」

 

「『プロテゴ 守れ』 『エクスペリアームス 武器よされ』!」

 

 セドリックは私の呪文をその場でクルリと回ってかわすと──

 

「『エクスペリアームス 武器よされ』 ……これで僕の勝ちだね」

 

 思いっきり手加減された……

 セドリックは色んな魔法が使えるはずなのに『武装解除の呪文』だけしか使わなかった。しかも最後の一回は明らかに威力を抑えて私が怪我しないようにしてくれてた……

 

『ジニー、少しいいかな?』

 

「ごめんなさい、今あんまり話したくないのトム」

 

『勝ちたい?』

 

「……できるの?」

 

『少しの間僕に体を預けてくれる?君がそうしようと強く望めば一時的に僕が君の体を動かせる』

 

「私、私勝ちたいわ。今までの成績が私じゃなくて、トムのおかげってわかってる。それでも私、『あいつは結局成績がいいだけの一年生だな』って思われたくないの!私のワガママのために、力を貸して!」

 

 そういうと私の体に力が満ちた。そして体が、口が勝手に動き出す。意識はあるんだけど、体は自分の意思で動かせない。

 でもその事に恐怖はない。私のワガママのためにいつだって付き合ってくれたトムなのだ。今はトムとセドリックの決闘を見守ろう。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「流石はセドリック君ですね、見事だ!ジニーさんもよく頑張りましたよ、さあ皆さん2人にはくし──」

 

「お待ちください、先生」

 

 そう言いながら僕は杖を振るい、炎で空中に文字を浮かべる。

 

00(セドリック) ROUND─1 00(ジニー)

 

 と書いた後にもうひと振りして、

 

01(セドリック) ROUND─2 00(ジニー)

 

 と書き直した。

 

「3回勝負としませんか?」

 

 周りの生徒達がこの演出を見てものすごい盛り上がりをみせる。当然、派手好きのロックハートは喜んでのってきた。

 

「ジニー私が教えたチャレンジ精神をよく心得ていますね!いいでしょう、セドリックにもう少しだけ教わるのを許可します」

 

「ありがとうございます、ロックハート先生。というわけでもう一度よろしく、セドリック」

 

「あ、ああ、構わないよ」

 

 セドリックは僕の様子が急に変わったことに戸惑っているみたいだ。悪いけど、油断してるところを一気に決めさせてもらう。

 

「それでは3…2…1始め!」

 

「「『エクスペリアームス 武器よされ』!」」

 

 僕とセドリックが出した『武装解除』がまっすぐ飛んでいき、中央でぶつかり合う。が、手加減していたセドリックはあっという間に押し負けて、僕の『武装解除』をくらった。

 

「これで1勝1敗ですね、油断大敵ですよ」

 

 僕は杖を振るって炎を、

 

01(セドリック) FINAL─ROUND 01(ジニー)

 

 という形に変えた。

 

 さっきまで後輩の安全を気にかけていたセドリックの目つきが変わった。私を互角の力を持つ魔法使いと認め、戦う決意をした目だ。

 周りもシンッと空気が張り詰めていく、ロックハートでさえ緊張している顔だ。

 

「それでは、それではいきますよ3…2…1始め!」

 

「『エクスペリアームス 武器よされ』!」

 

 僕は『武装解除の呪文』をヒラリとかわすと、

 

「『エイビス 鳥よ』 『サーペンソーティア 蛇よ』 『アラーニア 蜘蛛よ』 『プロテゴ・インセンティ 耐火しろ』 『インセンディオ 燃えよ』」

 

 耐火の呪文をかけた動物達を燃やしながらセドリックに突撃させた。

 

「なっ! 『アグアメンディ 水よ』」

 

「甘い!『インパービアス 防水せよ』」

 

「なら『インパディメンタ 妨害せよ』 『グリセオ 滑れ』。いくよ、『インカーセラス 縛れ』!」

 

 ロープが僕の、いやジニーの体を縛ってくる。絵面的に大変よろしく無い。

 

「『ディフィンド 裂けよ』!女の子の体を縛るなんて、これでもくらいなさい!『オーキデスウス 花よ』 『エンゴーシオ 肥大せよ』 『モビリアーブス 木よ動け』」

 

「動物を燃やしながら突撃させる女の子に手加減なんてできないよ!『レデュシオ 縮め』『インセンディオ 燃えよ』」

 

 そのままセドリックの炎が、僕の植物を燃やしながら突っ込んでくる。

 

「ちゃんと『耐火の呪文』をかけてから燃やしたじゃない!『マキシマ・アグアメンディ 多くの水よ』」

 

 強化された水の呪文により、僕とセドリックを中心に水のドームが出来上がる。水のドームは僕とセドリックを飲み込んだが、セドリックも僕も『泡頭呪文』を施しているため窒息することはない。

 

「『デリトリウス 消えよ』。これで最後だ!『エクスペリアームス 武器よ去れ』!!!」

 

 セドリックの特大の『武装解除』に対して、僕は足元に『コンフリンゴ 爆発せよ』を無言呪文でかけて目くらましを作り、そして同じく無言呪文『ジェミニオ そっくり』で自分のダミーを作った。なんの抵抗もなく僕の分身が『武装解除』に当たると、

 

「よし!僕の勝ちだね」

 

 勝利を確信したセドリックがそう言い切らないうちに、

 

「『エクスペリアームス 武器よされ』」

 

 僕の『武装解除の呪文』が直撃したセドリックの杖がクルクルと空中を回って私の手の中に収まった。

 セドリックの本気の『武装解除』を打ち負かすには、まだジニーの魔力では足りない。それ故、少し収まりが悪いが奇襲でかたをつけさせてもらった。

 

「これで私の勝ちね、油断大敵よ」

 

 そういって杖を一振り、

 

『WINNER ジニー・ウィーズリー』

 

 と炎で作った文字を僕の上に作った。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 信じられない、1年生であんなに強いなんて……

 

 

 完敗だった。あんなに沢山の呪文を戦いの中で自然に使う、そんなこと1年生の頃どころか今の僕でさえ難しい。それを彼女はあの若さで、初めての決闘で、大勢の人から見られるプレッシャーのなかで、こなしてみせた。

 

 ……最近思い上がってたかもしれないな、また明日から、いや今日から頑張ろう。

 

 僕が成長できたら、そしたらまた決闘しよう、ジニー・ウィーズリー。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「トム、貴方って戦いもあんなにできたのね、貴方ならロックハート先生に並べるんじゃないかしら」

 

『それは違いますよ、ジニー。私の能力はあくまで体を借りた人の才能によるのです、つまり知識さえあればジニーでもあの戦いをする事ができるのですよ』

 

「私、できるかしら。……ホグワーツに来てからの賞賛は全て貴方のおかげ、私なんか必要ないんじゃないのかって思っていたの」

 

『ジニー……』

 

「でも、貴方の言うことはいつだって間違っていなかった。ならきっと私でも、あそこまで強くなれる…… なら私頑張るわ、トムに教えてもらうばかりじゃなく、助けてもらうばかりじゃない。お互い教え合って、助け合える、そんな魔女になるわ!」

 

『そのいきですよ、ジニー!僕も及ばずながら力になります』

 

 

 これでジニーの中にあった僕への劣等感が少しでもなくなるといいのだけど……

 

 ジニーは僕を使い始めた当初は周りから褒められることへの喜びしか感じていなかった。

 でも次第に僕への劣等感や、自分は要らないんじゃないか、という思いに悩まされるようになっていった。

 今回の決闘で同級生と戦って勝って欲しかった。本人は気がついていないが、1年生の中では僕の見た限り最も優秀な魔女だし、度胸もあるから負けるわけもなかった。

 しかしそれが面白くないスネイプの介入のせいでセドリックと戦うことになってしまった。流石に今のジニーではセドリックに勝てない。

 だから僕はジニーに勝たせて自信をつけることより、僕とセドリックがジニーの目標となることで向上心をたきつけることにした。どうやら上手くいったようでよかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章─『闇の帝王』とアズカバンの囚人
05 囚人との夏休み


『それで我が主人よ、まだ肉体は持てぬのか、魂の方は全快しかけておるのだろう』

 

「うーん、やろうと思えば今学期にできる、とは思うんだけどね。確実にダンブルドア校長に目をつけられるだろうね」

 

 実際のところ、僕の魂はもう本来の5分の3くらいには大きくなっている。ヨルとジニーから安定して、2人の無理のない程度に魂を供給してもらってるから、次にホグワーツが始まるくらいの時期には回復しきるだろう。

 しかし魂が全快しても肉体、つまり入れ物がない。これを作る方法は原作通りにハリーを墓に連れて行き、闇の印を持つ者の手とハリーの血と僕を大鍋に入れてコトコト煮込めばいい。

 しかもこれはやろうと思えばすぐ実行できる。闇の印を持つ者に関しては、『僕』に絶対の忠誠を誓うバーテミウス・クラウチjrがいるし、ハリーに関しても何処にいるかわかってる。2人とも『妖精式姿現し』で簡単に連れてこれるしね。

 

 ただ、僕はこれを実行する気はない。理由は2つある。

 

 1つはメリットとデメリットを天秤にかけた場合だ。

 今の僕は実体化するだけなら──この場合は魔法が使えず、マグルと変わらない状態──一日中実体化できる。

 それなりの力を持つ状態、つまり魔法を使える状態であれば4時間ほど実体となれる。

 これだけ戦えれば大抵の事はできる。そのうえ実体化しててもほとんどの力を日記に残していれば、致命傷を受けても死にはしない。尤も、回復に時間がかかるだろうが。

 この状態でいられなくなってしまう事は、大きなデメリットだ。

 もちろん肉体を持てばメリットもある。今の僕は自然回復できないのだ。つまり攻撃されて何らかのダメージを負うと、ジニーやヨルの魂をもらうことでしか回復できない。もし僕が致命傷を受けたとしたら、ジニーとヨルから大量の魂を供給してもらわなくてはならない。

 

 ここで僕の魂の回復の仕組みについて詳しく説明しておこうと思う。

 

 仮に僕の魂を1とし、ヨルの魂を9とする。

 僕たち2人の魂を足して10にした後で、それぞれ5ずつ分け合うとする。

 このあと僕は日々の生活で少しずつ魂を消費していって、1週間後には2になっている。

 一方ヨルは1週間後には元と同じ9になっているのだ。これは肉体の有無が関係している。

 どういうことかというと、肉体は魂の器であり、回復させる装置なのだ。肉体を持たない僕は魂をどういった形にしていいかわからないから無駄な消費が多いし、魂を自然回復させる手段もないから他から持ってくるしかない。

 つまり、肉体を持てば魂や傷が自然回復するようになるし、基礎的な力も増す。

 

 しかし、デメリットが大きすぎる。

 

 僕が復活すると闇の印によって『死喰い人』がその存在に気付き、再び暴れだすだろう。

 しかも闇の印はスネイプ教授も持っているからダンブルドア校長にも存在が気がつかれる。

 その上日記には戻れない(『変身呪文』ではなれるかもしれないが、魂の器として日記であるのとは天と地ほど差があるので確実にダンブルドア校長に感づかれる)からホグワーツに行けないとなり、もう一人の『僕』の復活を阻止し辛くなる。

 これが1つ目の理由だ。

 

 もう1つ理由は単純に、このまま日記でいる方がいいと僕が思っているからだ。

 ジニー以外の人間の心も少し覗いてみたりしたが、彼女ほど心地の良い心の持ち主は居なかった。そんなジニーの勉強を手伝いながら、ホグワーツに通うのは中々楽しい。

 もし僕が肉体を持てばホグワーツに通うのは間違いなく不可能だし、最悪ジニーと敵対することになる。それは嫌だ。

 魂の回復にしても、ヨルから貰ったり、『吸魂呪文』でその辺の動物や人間から少しずつ貰う方法を確立しつつあるし、しばらく困る事はない。

 ならば、僕はもうしばらくこのままでいようと思う。

 

 そんな訳で、僕の方針についてはある程度決まった。

 そして目下最大の悩みは、ピーター・ペティグリューだ。

 

 彼を捕まえることのメリットは驚くほど大きい。

 まずシリウスの無罪の証明となること。

 それからヴォルデモートの復活を一歩遠ざける事ができること。

 更にこれがうまくいけばルーピン先生は来年も『闇の魔術に対する防衛術』の先生を務めることになり、マッドアイ・ムーディーにばけたクラウチを入れることもなくなる。

 個人的な事を言うなら、僕が大切に思ってるジニーの家に色んな意味で小汚いあの男が居るのは不愉快だ。

 それに、ルーピン先生はかなり好きな登場人物だ。ホグワーツから去るシーンは辛かった。

 加えて、同時に魔法の勉強が大好きな僕にとって理想的な先生なので、ずっとホグワーツにいてほしい。

 

 何にせよピーター・ペティグリューなのだ。

 彼自身はたいしたことのない男なのだが、学生時代にポッターさんを始めとする素晴らしい友人に恵まれたり、闇の帝王が殺したがってるハリーの『秘密の守り人』に絶妙なタイミングでなったり、その罪が偶然にもシリウスに押し付けられたり、弱ったヴォルデモートにクラウチの情報をもたらしたりと、非常に運がいいのだ。

 

 故に僕は本気で対処した、少しの油断もなく。

 

 何が言いたいかというと、ネズミを捕まえるのは猫ではなく蛇なのだ。

 

「動くなよ、ペティグリュー。君が少しでも動けば『闇の帝王』とヨル、あー、君にあと少しで噛みつきそうなそこにいる『蛇の王』バジリスクを同時に相手にすることになる」

 

「さ、逆らうなど、め、めめ滅相もございません。私めはいつも貴方様の復活を願っておりました」

 

 物語のあらゆるターニングポイントが折角家にいるのだ。これで何もしないのはマーリンの髭ってやつだろ?

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 今現在ペティグリューはロンの部屋で僕に杖を向けられ、とぐろを巻いたヨルの真ん中に立っている。しかもヨルは大きく口を開けていて、ほんの少しアゴに力を入れればいつでもペティグリューの頭に噛み付ける体勢だ。

 ちなみに、ウィーズリー一家はそろってエジプトだ。

 ペティグリューには悪いけど『妖精式姿くらまし』で少しの間僕と家に帰ってもらった。

 

『我が主人よ、私は鼻がいいから臭いで死んでしまいそうだ。早くこの臭い男を始末しよう』

 

「あー、蛇語はわからなかったね、ペティグリュー。彼は今君を食べてもいいか聞いているんだよ、君はどう思う?」

 

「わ、わわ私は信じています。ご主人様はけっして忠実なる僕の事を裏切らないと。で、ですよね?──そうだ!私めはあのハリー・ポッターの友達のペットなのです!お望みとあらばポッターの奴を殺せます!」

 

「へえ、忠実なる僕、ねぇ。ペティグリュー、君は閉心術をかけて心の内を明かそうとしないね。でも僕はこの世でもっとも魂や心に詳しいんだよ」

 

「ご、ご主人様、仰ってる意味が……」

 

 そう言うや否やペティグリューはネズミに変わりながら逃げようとする。しかし、

 

「だから君がネズミに化けて逃げようとしてるのは分かっているから無駄だよ、と言いたかったんだよ。わかった?」

 

 この部屋は一見ロンの部屋だが、実はそうじゃない。僕が『双子の呪文』で作り出したそっくりの部屋だ。

 そしてこの部屋を一歩でればそこにあるのは無数の鏡。そこに写っているのはヨル、つまりはバジリスクの瞳。

 

「これで上手くペティグリューをネズミのまま石にできたね」

 

『その人間、今はネズミだが、生かしておく価値はあるのか。言動を鑑みるに、そいつは我が主人の足元にも及ばぬ心の持ち主だぞ』

 

「ありがとうヨル。でも僕は殺しはしないし、君にもさせない。こいつにはきっちり罪を告白させ、罪を償ってもらう」

 

『だが我が主人は人前に姿を見せれぬだろう、あの小娘にそのネズミを渡すのか』

 

「いいや、こいつを今一番欲してる人に渡すよ。こいつを研究してからね」

 

『そのネズミは研究する価値があるのか』

 

「『動物もどき(アニメーガス)』は色んな価値があるのさ、上手くいけば僕の……」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「やあ、元気?」

 

「……ヴォルデモート!何故ここに!?復活したのか!!?」

 

「僕は確かに『トム・リドル』だけど『ヴォルデモート』ではないんだよ。それで、今日は君にプレゼントを持ってきたよ」

 

「どういう意味だ? とにかく私は闇の陣営には力を貸さないぞ!貴様に首を垂れるくらいなら、ディメンターとディープキスをしてやる」

 

「君がキスをする位ディメンター好きだったとは意外だよ。アズカバンが長くて愛着が湧いた?それとプレゼントはこれだよ、お腹が空いてると思ってね」

 

「ネズミ?いや、これは…ピーター!ピーター・ペティグリュー!!!だが…石になっている?」

 

「この石化を解くにはダンブルドア、というよりボグワーツに行くのが早いよ」

 

「……何が目的だヴォルデモート」

 

「こいつにしかるべき罰を受けてもらいたいのさ。でも僕が魔法省にそいつを連れて行ったら、僕が捕まるだろ?魔法省に郵送してもいいけど、そいつの逃げ足だけはたいしたものだ。だから強力な魔法使いに監視してもらいたいんだよ」

 

「何故お前が私に味方する」

 

「君以外にいないからさ。君ほど強力であり、それでいて仲間がおらず、何処にいるかハッキリしてる人物はいない。それに君は檻の中だからね、逃げられずにゆっくり話せる」

 

「私を選ぶのはわかった。しかし何故ピーターを差し出す?」

 

「そいつは嫌いだ。強い者の側につく。合理的かもしれないが、僕は好かない」

 

「好き嫌いで仲間を切り捨てるか、『闇の帝王』らしい考えだな」

 

「それは違う、僕は友達は見捨てない。彼は友達でなかっただけだ。そしてシリウス、君とは友達になりたいな」

 

「私はお前に屈しない!ジェームズとリリーの仇、1日たりとも忘れたことはない!」

 

「僕は仇でもヴォルデモートでもないんだけどな…… とにかく、ここから出して、そのネズミをあげるよ。ただしその代わりに僕の存在を誰にも話さないでほしい」

 

「馬鹿な、そんなことができるわけ──」

 

「ハリー・ポッター」

 

「っ!?」

 

「彼の引き取り人はマグル、しかもひどい奴らでね。まともな食事をさせなかったり、外に遊びに行かせなかったりしてるみたいだよ」

 

「・・・」

 

「君がここからでて、無実を証明できれば君はハリーをひきとって家族にできる。そして今まで憎まれていたルーピンやハグリッドとまた抱きしめ会える」

 

「……わかった、おまえの条件をのもう。では『破れぬ誓い』をたてればいいのか?」

 

「いや、その必要はないよ。君は認めてくれないけど僕は君と友達になりたいのさ。でもそうだね、『破れぬ誓い』はたてなくていい、その代わりに別の誓いをたててくれるかい?」

 

「何をすればいい?」

 

「簡単だ、今ここで、君の誇りと亡きポッター夫妻の名に誓ってほしい。魔法的な効力は何も持たずに、ね」

 

「……私、シリウス・ブラックは我が誇りと今は亡き我が盟友、ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターにかけて誓う。汝の存在について一切の事を他言しない!これでいいか?」

 

「うん、それで充分だよ。あとこれを渡しておくよ」

 

「なんだこの紙は?」

 

「それに書き込めばいつでも僕と連絡を取れる。それから万が一ペティグリューが逃げたら『蛇となりネズミを追え』とか書き込めば蛇になって追いかけてくれるよ。それから杖がないと困るでしょ?ホグワーツの予備の杖だけど渡しておくよ、ボグワーツについたらこっそり返しておいてね」

 

「……礼は言わないぞ」

 

「今はそれでいいよ。さ、ここから出ようか。忘れ物はない?」

 

「ふん、ここには何もない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやーシリウスかっこよかったなあ〜。誓いを立てる所とか流石貴族の生まれだって感じだったよ。

 恨まれてるのは辛いけどこれから少しずつ仲良くなればいいし、今は満足しておこう。

 『トム・リドルの日記』の1ページを『動物もどき』にしたものも渡したし、これでいつでも会話できるからね。

 

 さ、後はジニーの宿題を手伝いながら夏休みをたのしもう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

06 大犬座と蛇遣い座





【必要の部屋】

 僕が夏休みの最中に度々ホグワーツにきて書いていた魔法陣、その真ん中に巨大な蛇、『蛇の王』バジリスクであるヨルが鎮座してる。

 

「それじゃあ始めるよ。何か危ないと思ったらすぐに言ってね」

 

『この魔法陣は我が主人が二ヶ月以上もかけたのであろう。ならば私は全幅の信頼をおこう』

 

「ありがとうヨル。それじゃあ魂比を僕が1ヨルが9にするよ」

 

『うむ』

 

「……よし、いい感じだ。魂の方は安定してる、かな?」

 

『そのようだな。それで次はこの薬を飲めば良いのだな』

 

「うんうん、それじゃあ次は──」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「・・・完璧だ」

 

 僕はおもわず感嘆の声を上げた。

 

「私の知る限りでは誰も成し遂げておらぬことだ。魔法界の歴史に新たな1ページを刻んだな」

 

「そんなことはどうでいいよ。僕は出世や名誉はどうでも──いや、カエルチョコのカードには乗りたいかな」

 

「カエルチョコのカード?あいにくと知らぬが……」

 

「そのうち教えてあげるよ。それより、そろそろジニーのところに戻ろう。もっと喜びを感じてたいけど、実体化するのがきつくなってきた」

 

「承知した、我が主人よ」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「トム、この新聞見て!あのシリウス・ブラックが無罪だって!真犯人は……ピーター・ペティグリュー?誰かしらこれ」

 

『昔にホグワーツに通っていた生徒ですね。確かシリウスさんやハリーのご両親と仲が良かったかと…… なんにせよ、よかったですね、ジニー。これでポッターさんの命の危険が減りました。よろしければ新聞を読ませていただきますか?』

 

「相変わらずホグワーツに関する事なら何でも知ってるわね。新聞なら、もちろんいいわよ。この新聞を栞とあなたに触れさせればいいのよね?」

 

『それで大丈夫です。ジニー、感謝します』

 

「それじゃあ、あなたが読んでいる間に私は宿題を済ませてくるわね。早くあなたに頼らなくてもいいくらい賢くならなきゃ」

 

『私に頼ってくれないのは少し寂しいですが、応援していますよ、ジニー』

 

「大丈夫よ、トム。頼りはしなくても、信頼はしてるもの」

 

 

 記事を見る限りでは、シリウスについては闇の陣営でなかった事や、本当は殺人を犯していなかった事が細々と書かれているだけだ……

 魔法省としては、自分達がかけてしまった冤罪をあんまり騒ぎたくないらしい。そのせいかシリウスについてはあまり書いていない。

 逆にペティグリューを捕まえたことは自分達の手柄としてアピールしたくてたまらない、という様子だ。

 その為に内容はもっぱらペティグリューについてで、最低の裏切り者なことや、非合法の『動物もどき』だったことがデカデカと書かれている。

 さらに、今回の件を解決したのはダンブルドアとシリウスと、加えて魔法省ということになっている手の込みようだ。

 当然というかなんというか、ポッター夫妻殺しに関与していたことは一切書かれていないか……

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 僕が渡した僕の1ページからはシリウスの視点と心情が伝わってくる。一応そのことはシリウスにはもう伝えていて、何か僕に伝えたくないことがあるときは『閉心術』を使うように言ってある。。

 シリウスの視点を覗いてみると、今は裁判の真っ最中だ。

 内容はペティグリューの事ではなく、今までの冤罪についてとハリーの親権問題だ。

 シリウスの主張は冤罪をかけた魔法省を許す代わりに、ハリーの親権の譲渡だ。

 ハッキリ言うと後見人であるシリウスにはその正当性があり、冤罪を免除するなんていう事をしなくても親権は貰える。

 

 が、裁判は難航していた

 

 なぜかというと、魔法省としては英雄であるハリーの後見人に冤罪をかけ、ハリーを劣悪な環境に閉じ込めておいた事を公にしたくないのだ。

 しかもこの件は前々から問題視されていたバーテミウス・クラウチ・シニアの行き過ぎた正義、つまりよく調べもせず判決を下していた件が絡んでいるためなおさらだ。

 しかもファッジはこの件での冤罪を大々的に認めることになれば、魔法省大臣の地位をダンブルドアに奪われると思っている始末だ。

 

 ダンブルドアも自分が出て行けば、ファッジがますます意固地になることがわかっているから手をこまねいているようだ。

 それをわかっているシリウスは、一人で必死に主張を続けている。しかし、裁判長を務めているのはあのドローレス・アンブリッジ(ガマガエル)だ。適当な理由をでっち上げて言い訳をする天才である彼女に苦労しているようだ。

 

『人間というのは愚かな者だな、我が主人よ』

 

「それは人間の一面に過ぎないよ。ヴォルデモートだって優しさを見せるときもあるし、ダンブルドア校長だって冷酷さを見せるときがある。一見愚かに見えても、ある分野では優秀なときもある」

 

 例えば『薬草学』で非凡な才能を見せたり、時にハリー以上の勇気を見せるネビル・ロングボトムのように。

 

「だから彼らも愚かに見えて実は役に立つこともあるのさ」

 

『ほお、ということは何か考えがあるのか』

 

「シリウスは今困っているだろ?何せ僕という怪しい人物に協力してまでハリーの親になろうとしたのに、思わぬところからの妨害を受けたんだ」

 

『それを解決する、ということか』

 

「そういうこと。そして僕がすることはチョイと手紙書くことだけでいい」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「私はハリーの後見人だぞ!私が親になることになんの問題がある!」

 

「あなた、アズカバンに収監されてたわよねぇ?ディメンターに幸福な思い出を吸われていた人は子供に幸福な思い出を作ることは難しいと思わない?」

 

「見てのとおり私は正気だ!それに私をあそこへ送ったのは魔法省だろ、その責任はそっちにある!」

 

「そんなに大声で叫ぶ人は正気と言うのは少し難しいわねえ。それに魔法省という言葉は適切じゃないわ、正確にはバーテミウス・クラウチ・シニアがあなたをアズカバンに送ったの、わかるかしら?」

 

「同じ会話をなんどもさせられれば叫びたくもなる。そのクラウチは魔法省の人間だろ!」

 

「そうねえ、確かにクラウチ氏は魔法省に勤めているわね。でも今、彼は魔法省国際協力部所属なの、そしてここは魔法省執行部、ちがいわかるかしら?」

 

「だからなんだ!魔法省が冤罪をかけたのは事実だ!」

 

「あなた一旦落ち着いたらどうかしら?紅茶でもいかが?」

 

「そんなものを飲んでる暇はない。私は一刻も早くハリーの元へ行きたいのだと言っているだろ!」

 

「そもそも、誰が貴方のような人を親に──」

 

「僕の父親はシリウスにしてくれ!」

 

「「「ハリー!?」」」

 

扉を開けて現れたのは大勢の記者を引き連れたハリー・ポッターその人だ。

 

「なぜポッターが…この裁判のことは誰にも知らせてないのに…… シリウス・ブラック、あなたねですね!無関係の人間を法廷に招く事はーー」

 

「僕の親のことだ!無関係なんかじゃない!」

 

「ハリー、なぜここに…?」

 

「はじめまして、シリウスおじさん。手紙が届いたんだよ。シリウスおじさんが父さんの親友だったことや、名付け親だってこと、僕の御見人だってこと、今ここで僕のために一人で戦ってくれてるってこと、それからこの裁判所への行き方。びっしり書いてあったんだ」

 

「手紙?誰から」

 

「シリウスおじさんのポケットの中の友達っていう人からだよ、知り合いじゃないの?」

 

「ポケット?まさか…」

 

 ポケットに入れていた紙を見てみると。

 

『応援してるよ ポケットの中の友達より』

 

 

 

 

 

 

 この後、ハリー本人が自分の今の環境やシリウスと一緒に暮らす事を希望する事が語られ、世論は完全にシリウスに味方をした。

 元々法律上では完全にシリウスが親権の主張をするのは全く問題がないこともあり、ハリーの親権は無事シリウスの物となった。

 

 一部の人間はファッジをはじめとした魔法省の面々にシリウスに冤罪をかけたことや、ハリーを劣悪な環境に置いたことの責任をとっての辞職を求めた。

 しかし、後日ダンブルドア校長が自分もシリウスを裏切り者だと思っていたこと、ハリーをダーズリー一家に預ける事に賛成したことを発表したために、世間は一応の落ち着きを見せた。

 ファッジはダンブルドアに感謝をし、魔法省とホグワーツの関係は強固なものとなった。

 シリウスはこの件で非常に僕に感謝してある程度は信用してくれたようになった。その後、僕はヴォルデモートの魂の一部が自我を持った存在で、ヴォルデモートとは全く違う思想を持っている。という事を時間をかけて説明した。

 今ではハリーに何を買ってあげたら喜ばれるかの相談をされるくらいだ。

 僕は今までのクリスマスプレゼントと誕生日プレゼントの分をまとめて、ということで『ファイアボルト』をプレゼントする事を提案してみたところ、ハリーがものすごく喜んでくれたと言って、いや書いていた。

 

 ジニーも新聞にてハリーのインタビューを読み、涙を流して喜んでいた。

 自分も何かハリーのために何かをしてあげたい、と考えたようで一層勉強に身が入ったようだった。まだ『臭い』がついているので魔法が使えない事が歯がゆいらしく、早くホグワーツに行きたがっていた。

 そんなジニーの葛藤も今日で終わりだ。今現在の僕たちの居場所はボグワーツ行きの列車の中。原作と違ってシリウスが脱走していないためディメンターはいない。

 この1年間はもしかしたら平和に暮らせるだろう。万全の環境の中、ジニーはこの1年間でメキメキと力をつけることになることを僕は確信してる。それから個人に的に一番の楽しみであるルーピン先生の授業について思いをはせていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピーター・ペティグリューが脱走した』

 

 最悪の報告がシリウスから上がってきた

 ……ヨルにはああ言ったけど、やっぱりどうしようもなく愚かな人間もいるかも知れないな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

07 バタフライエフェクト

 裁判が終わり、無事ハリーとシリウスはグリモール・プレイス12番地で暮らすこととなった。

 

 この件に関するメリットは非常に大きい。

 

 まず、万が一にヴォルデモートが復活した時、シリウスが『不死鳥の騎士団』の一員として大手を振って動けること。

 ハリーをあのダーズリー一家から引き離し、シリウスと同居することができたこと。

 シリウスの恩を得ることで、いずれダンブルドア校長に出会う時の足がかりができたこと。

 そして、僕にとって一番大事なのは、ハリーからリリーが施した『保護魔法』を引き剥がせた事だ。

 

 ヴォルデモートは復活するときにハリーのなかにある『保護魔法』の力を得ることで、ホークラックスがある限り『死の呪文』が効かないようになってしまう。それは避けたい。

 確かに『保護魔法』が無くなってしまうとデメリットは発生する。

 しかしそのデメリットは少ない。

 何故なら『保護魔法』の発動条件は非常に難しいため、発動する機会がほとんどないのだ。

 その条件とは、

 1つ、17歳までが有効期限であり、ダーズリー一家の家を『我が家』と認識していること。

 1つ、ハリーが逃げられる状況にも関わらず、逃げださずに立ち向かうこと。

 1つ、ヴォルデモート卿から『アバダケダブラ』の呪文を食らうこと、だ。

 この3つが揃わないと、『保護魔法』での呪文の反射はできない。この限定的すぎる条件は、『闇の帝王』の死の呪文の威力を考えると仕方がないことではあるのだけど……

 

 そして『保護魔法』の無くなったハリーの安全に関しては、シリウスが目を光らせている。

 その上住む場所のグリモール・プレイス12番地は『忠誠の術』により保護されているし、秘密の守り人はダンブルドア校長だから万全の体制だ。

 ヴォルデモートは『保護魔法』の発動条件を理解していなかったので絶対の守りと思い、警戒していた。だからハリーが家にいるときは手出ししてこなかった。だけど、実はできたことを考えると、むしろ今の方が安全といえる。

 

 以上の事からハリーをシリウスの元に送る決心をした。

 

 いや、結局、僕は本人達の意思を尊重したかったのだ。

 かつて孤独で、愛に飢えていたシリウスにジェームズが住む場所や愛を提供したように、ハリーとシリウスもそうなるべきだと僕は考える。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 万が一にヴォルデモートが復活した時の為に、僕自身の強化について考えた。

 

 さて、突然だがまずは『臭い』について考えてみよう。

 

 実はハリー・ポッターを読み返した時からずっと考えていたことなのだが、『臭い』というのはひどく欠点があると常々思っていた。

 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』においてドビーが魔法を使ったのにもかかわらず近くにいたハリーが『臭い』にひっかかっていた。

 つまり『臭い』は未成年が魔法を使ったことに反応するのではなく、魔法を使ったことに反応し、その後に未成年が使っていた場合は通報する、というシステムではないだろうか?

 そして魔法界に実際に来て、『臭い』を研究した結果この予想は大きく外れてはいなかった。

 『臭い』は魔法を使ったことに反応し、その座標を特定、魔法をおこなった地点からもっとも近くにいたものが未成年かどうかで判断している。というのが研究によってわかったことだった。

 原作の場合、『臭い』はドビーの魔法に反応。その後探知をした結果、当然屋敷しもべ妖精の事は検知できなかったので、魔法の発信地からもっとも近かったハリーが魔法を行使した、と判断したのだろう。

 

 さらに『臭い』には検知できる魔法とできない魔法がある事がさらなる研究でわかった。

 原作にしても、ハリーが初めて自分の杖に出会う時、杖を一振りすると明らかに魔法を使ったとみられる演出が起きていた。

 にも関わらずあのとき『臭い』は反応しなかった。

 他にもアーサー・ウィーズリーが、ハリーが自分の杖から勝手に魔法が放たれた事を相談した際に、自我のない子供はたまにとんでもない魔法を無意識に使うことがある、と言っていた。恐らくこの子供達も『臭い』に反応していない。

 では自我のほとんどない子供だけなのか、というと自我のあったハリーが最初の頃に動物園のヘビがいたガラスケースを消したり、自分の髪の毛を伸ばしたりした際も『臭い』は反応していない。

 更にトム・リドルも若い頃に孤児院で魔法を使っていた描写がされているが、『臭い』は同じく反応していない。

 

 つまり、『臭い』が反応できるのは『意識的に魔法を使った際』に限られるのではないか、ということだ。

 そしてこの結論は当たっていた。

 さらに『臭い』を消すためのこの研究は僕に新たな疑問点を与えた。

 子供の頃は杖なしでも魔法が使えていた人間でも大人になると杖なしでは呪文が使えない。これはかのダンブルドア校長でさえ例外ではない

 

 これはなんとも奇妙ではないだろうか?

 

 『杖を使うと魔法が強化される』というのならまだわかるのだが、まったく使えないというのはおかしい。屋敷しもべ妖精や子供が当たり前のようにしていることが、歴代の優秀な魔法使いの誰一人として本当に出来なかったのだろうか?

 そこで思い出されるのが『闇の帝王』の飛行魔法だ。あれは杖や箒を使わず、魔法を使っていた。

 しかし逆に言えば『闇の帝王』でさえ飛行魔法しか杖なし呪文を生み出せなかったのだ。たったの1つだけである。何故他の魔法は生み出せなかったのか?その方法は飛行魔法で確立しているはずだ。何故ほかの魔法に適応させないのか?

 

 ここで視点を変えてみよう。

 

 歴代の魔法使い達は杖なし呪文を生み出していた、しかしあえて使わなかったのではないだろうか。

 

 魔法というのは体内にある魂や気力、体力などを魔力に変え、杖から放つものだ。ここで魔力が杖を通るときに様々な形、つまり呪文になる。

 このときに魔力をどんな形にするのかは魔法を使う人の意思によって決まる。

 だから最初はハッキリ魔力の形を意識するために声に出して魔法を唱え、次第に無言でも魔法が使えるようになるのだ。魔法詠唱の発音は所詮『自分は正しく発音できてるから魔法を使える』という自信をつけるだけに過ぎず、結局大事なのは意思なのだ。

 

 では杖を使わずに呪文をおこない、その途中で意思がぶれたらどうなるか?

 

 答えは暴発である。

 

 本来、呪文を失敗しても杖があれば魔力は何らかの形をとるため不完全ではあるが、呪文となり一応発射されるのだ。

 例えば『変身呪文』でマッチ棒をハリに変える呪文を失敗した場合、途中までできた『変身呪文』が放たれ、マッチ棒を半分だけハリに変えたりする結果となる。

 しかし杖がない場合、失敗したその瞬間に『変身呪文のなりかけ』という形は崩れ、ただの魔力の塊となり爆発するのだ。

 子供や無意識下で魔法を使った際は少しも『疑いの意思』が混ざらないために杖なし呪文が使える。

 杖なし呪文を歴代の魔法使い達は使えないのではない、使わないのだ。何人もの人が杖なし呪文に失敗し、犠牲になった過去があるのだ

 

 ここからが本題となるのだが、屋敷しもべ妖精達は杖なし呪文をおこなえている、これは何故だろうか?

 

 その答えは、屋敷しもべ妖精達はそうせざるを得なかったのだ。

 過去、いや今も、魔法使い達にとって杖は誇りの象徴、人間以外(一部の人間にとっては純血以外)が杖を持つなどとんでもない事である。

 しかし屋敷しもべ妖精達は己に課された任務を遂行しなければならない。

 故におびただしい程の同僚の犠牲の上に『杖なし呪文』つまりは『妖精式呪文』を完成させたのだ。

 これは屋敷しもべ妖精達の、主人のために自分の命さえ投げ出してきた高貴なる誇りの賜物であり、人類には到底到達できないものである。

 そして元来人間の使う魔法と同じものだった屋敷しもべ妖精の魔法は本来なら人間も使えるのだ。

 ただ、やはり若干の危険があるために誰も使わない。

 

 しかし僕は違う。

 

 元々魂だけ、つまり体そのものの形が元々ない僕は他の人間に比べて格段に『魔力の形』を意識しやすい。

 今は5つしか『妖精式呪文』つまり『杖なし呪文』は使えないが、これからもっと色々な呪文を杖なしで使える事になる確信があった。

 そして『杖なし呪文』で覚えた呪文を、杖ありで唱えると格段に威力が増すのだ。これは杖を『呪文を放つため』に使っていたのを『呪文を強化するため』だけに使えるようになったからだ。

 前述した『臭い』の話と合わせてわかる通り、魔法には深く『意識』というものが関わっている。これが僕が出した結論であり、研究の成果だ。

 

 そしてこの結果はある事実を裏付けした。

 

 『守護霊の呪文』に代表させる特別な意識を必要とする魔法が何故強いのかという疑問に対し、『魔法を使う意識』に『特別な意識』が加わるから。という明確な答えを証明したのだ。

 あの『許されざる呪文』さえ『相手を殺す』という1つの意識しか出されていないのにあの威力である。

 

 

 

結局何が言いたいのかというと──もし、もし僕が『魔力』に『複数の意識』を呪文に込めることに成功すれば・・・

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「この中に入っているのは『モノマネ妖怪(ボガート)』だ。誰か説明できる人はいるかい? お、早速手を上げてきたね。君の優秀さはよく聞いているよ。それじゃあジニー説明してくれるかい」

 

「『モノマネ妖怪(ボガート)』は見た人の最も怖いものになります。なので本当の姿は誰にもわからない妖怪です」

 

「いいね!対処法はわかるかい?」

 

「はい。対処法は4つあります。

1つは複数の人で囲む事です。そうすれば何に変身して良いのかわからず、混乱します。

2つ目は笑顔や楽しい気持ちです。妖怪の類は基本的にそういったものを嫌います。

3つ目は呪文の『リディクラス 馬鹿馬鹿しい』です。自分のイメージを相手に押し付けて形を変えられます。

最後は『閉心術』です。相手の心が読めないので何に変身していいのかわからず、逃げていきます」

 

「驚いた… 君は熟練の闇祓いと同じくらい『モノマネ妖怪(ボガート)』に詳しいね。特に最後の2つは教科書にも載っていないことだ… 素晴らしい!グリフィンドールに20点あげよう」

 

「ありがとうございます、ルーピン先生」

 

 これは僕が力を貸したんじゃなく、ジニー本人の力だ。

 僕が勉強法を教えた彼女はメキメキと力を伸ばし、教科書レベルは完璧に理解した、というものについてだけ僕が補足説明をしたが、それでもそれを覚えたのは彼女の努力の賜物だ。

 

 この後の授業で僕はクラスメイトをみた『モノマネ妖怪(ボガート)』がどういった形になるのかワクワクしながら見ていたのだが、コリンの番になってボガートがバジリスクになって以来、バジリスクを見たクラス全員の(ジニーを除いて)もっとも怖いものがバジリスクになってしまったようだった。

 ジニーだけは僕とハリーに剣が突き刺さっている姿だった。もし一昨年に『モノマネ妖怪(ボガート)』に遭遇していたらここにロックハートが加わっていのだろうか?

 ちなみにジニーは僕とハリーの死体を大理石に変えて、『英雄の最後』という名前を彫り、像にしてしまった。流石にこれにはルーピン先生含め、クラス全員が苦笑いだった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「それでは、ネズミをゴブレットに変えてくださいね。生き物なので当然動きます、イメージをしっかり作らないと出来ませんよ」

 

 みんなが呪文を唱える中、マクゴナガル先生が生徒たちの間を縫うように歩き回った。どうやら、それぞれの呪文の出来を見ている様だ。

 

「コリン、貴方の家のゴブレットには尻尾と耳があるのですか?アドレー、随分毛深いゴブレットですね。メーガン、よく出来ました。ホッとしましたよ、私の思うゴブレットは貴方達の思っているものと違うのかと思いました」

 

 マクゴナガル先生があまりの出来の悪さに疲れていた。みんな夏休みの間にすっかり脳みそを溶かしてしまったみたいだ。

 でも、私は頑張った。セドリックやトムに近づきたかったから、ハリーの力になりたかったから。

 

「ジニー・ウィーズリー!これは今まで見ていきたどの生徒より素晴らしい!いえ、生徒に限らず大人の魔法使い含めても中々お目にかかれません。有意義な夏休みを過ごしたようですね。その勤勉さも加味して、グリフィンドールに25点差し上げます」

 

 私はネズミを金でできた、グリフィンドールの象徴であるライオンの装飾が施されたゴブレットを作った。しかもこのライオンは動き回るのだ。加えてライオンの目はルビーになっていてキラキラ輝いている。

 ついでに羊皮紙で銀のトレーも作った。こっちにはホグワーツの校章が施してある。

 周りの人達が驚きと尊敬の眼差しで見てくる。いつか私も、他の人の私にとってのトムやセドリックのような存在になりたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジニーの成長速度が怖い。

 原作のハーマイオニーを遥かに超えてるんだけど……

 

 ジニーはどの授業もこんな感じに完璧にこなす。僕の力はほとんど貸してない。たまにどうしても理解できない理論やイメージし辛い呪文を聞いてくるが、どれもこれも7年生、その中でも優秀な人のみが勉強するものばかりだ。

 こないだ聞いてきた『不死鳥の涙薬』の作り方は『魔法薬学』の中でも最高峰に複雑な薬だが、ジニーは自力で8割は理解していた。

 もう一度いうがこの薬は『魔法薬学』の中で最高峰だ。学生レベルで、ではなく『魔法薬学』の分野で最高峰なのだ。

 

 そしてさらに恐ろしいことに、ジニーに触発されたハーマイオニーとセドリックは猛勉強を重ね、今のジニーの二、三歩上をいっている。

 そしてジニー、ハーマイオニー、セドリックの三学年で主席を取られたレイブンクローとスリザリンは知恵でグリフィンドールとハッフルパフに負けるわけにはいかない!と異様な空気を発して勉強した。

 その結果ホグワーツの学力は大きく底上げされ、スネイプが意地悪問題を出しても何人かの生徒は答えられるほどになっていた。

 

 更にスポーツに関してもハリーの親となったシリウスが『ファイアボルト』を送ったことが新聞に載り、その取材にきた記者がスリザリンのチームが全員『二ンバス2001』を持っていることをミニコラムに乗っけた。すると意外なことにこれが大きな反響を呼んだ。

 世間が大きく『ファイアボルト』と『ニンバス2001』の戦いに注目すると、それに便乗しようとした多くの会社がレイブンクローとハッフルパフにもそれぞれ最新の箒を送ってきた。

そのために最早普通の大人のクィディッチと変わらない、スポンサーを呼び込んでの大会は当然大規模になった。

 当然のこととして選手たちや先生方、特にハリーとセドリックの居るグリフィンドールとハッフルパフはますますクィディッチに力を入れた。

 

 そしてホグワーツが勉強面でもスポーツ面でも原作を大きく超えた成長を見せたころ、ピーター・ペティグリューの脱走をついに魔法省は隠しきれなくなり公表した。

 その結果クディッチやハリーの事で連日新聞に載っていたホグワーツは世間から『保護されるべきだ』という声が上がり、『吸魂鬼』と闇祓いが配置されることとなった。そして闇祓いの中にはハリーの父親、つまりシリウス・ブラックも含まれていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

08 最強の個体

【必要の部屋】

「やっと全ての準備が整った。かれこれ1年と半年だよ」

 

『むう、やるなら早くしよう、我が主人よ。私はあまり“それ”は好かん』

 

「おいおい、これから長い付き合いになるんだ、ケンカはよしてくれ。それより、これから2週間、僕は全くの無防備だ。ないとは思うけど、侵入者が来たら全て石にしてくれ」

 

『承知した、我が主人よ。命にかけて貴方を守ろう』

 

「それと、僕が魔法の制御をしくじったら、すぐさま僕を石にしてくれ。でなければ最悪、死ぬことになる。キミも僕も」

 

『・・・我が主人がそこまでする価値が“それ”にあるのか』

 

「これは譲れないよ。僕が僕になったときから決めてたことなんだ」

 

『決心はかたいか… ならば私は私の役目を果たすとしよう』

 

「僕のワガママのためにありがとう、ヨル。それじゃあ僕の魂9ヨルの魂1にするよ」

 

『うむ』

 

「それじゃあ…行くよ!『妖精王の豪炎』よ、その力を示せ!」

 

 オリジナル魔法『妖精王の豪炎』は『悪霊の火』より強力だがより扱いの難しい魔法。『悪霊の火』は生者を憎む。その憎しみに心が囚われないように耐えることで操ることができる。

 一方『妖精王の豪炎』はイタズラをしたくなる欲に耐える。加えて『楽しい気持ち』を保ち続けなければならない

 これから2週間の間僕は“これ”に『妖精王の豪炎』をぶつけ続けなければならない。そのために僕の周りには僕が錬金した劣化版『命の水』や『吸魂呪文』で少しずつもらった魂が入った小瓶などの魂回復用マジックアイテム、それと2週間後に必要となる酒と血が所狭しと並んでいる。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「はあ、はあ……さ、流石にちょっと疲れたね」

 

『我が主人よ、2週間経ったぞ』

 

「ほ、本当かい?困ったな、もう魂回復用マジックアイテムはないんだけど……」

 

『……やはり理論が違ったのではないか』

 

「そんなはずはない……と言いたいんだけど、流石に不安になってきたね」

 

『その魔法をそれ以上続ければ死ぬぞ、我が主人よ』

 

「そうなんだけどね、1年半かかったんだ。 僕は諦めきれないんだよ」

 

『・・・1000年だ』

 

「え?」

 

『私はもう1000年以上貴方を待ったのだぞ。1年半位なんだというのだ』

 

「ヨル・・・ そうだね、僕がどうかしてたよ。命あっての──」

 

ピシッ

 

「ッ!?きた!きたよ、ヨル!やっぱり僕は間違ってなかった!」

 

『流石だな、我が主人よ。さて、ヒビが大きくなってきたな ……でてくるぞ、気をつけろ我が主人』

 

「もし敵対したなら、間違いなく今までで最強の敵だ。万が一があったら僕が時間を稼ぐ。その間に僕ごと石にするんだ、いいね?」

 

ピシッ…ピシピシピシッ……パリンッ!

 

 “それ”が完全に壊れる。否!壊れたのではない、割れたのだ!本体が出てくるために!

 

「…ウクライナ・アイアンベリー種」

 

 その正体はドラゴン!

 

 それもドラゴンの中でも最も巨大な種族である『ウクライナ・アイアンベリー種』しかも雄より強い雌である。その強さのほどは、目が見えない弱った状態でさえ、グリンゴッツの最深部を守れるほどだ。

 さらにこの個体は孵化のための火に現存する火の中で最も強力な『妖精王の豪炎』を用いた、紛れもなくこの地球上最強のドラゴンなのだ!

 

「とりあえず僕は『開心術』での対話を試みるから、ヨルは手筈通りにエサの用意をして」

 

『心得た』

 

『やあ、お誕生日おめでとう』

 

『・・・』

 

『あー、僕は今君を孵化させた人間なんだけど、卵の中にいた時の記憶とかあるかな?』

 

『・・・』

 

『その、とりあえず『エデンの白葡萄のブランデー』と『金の鶏の血』を用意したんだけど… ドラゴンは孵化したての時ブランデーと鶏の血を飲むって聞いたから』

 

『・・・』

 

『いや、あの、嫌ならいいんだけど』

 

『…む…わよ』

 

『え?』

 

『だから、飲むって言ってんのよ!』

 

『飲んでくれるかい!?よかったあ、何か間違えたかと思ったよ』

 

『・・・ありがと』

 

『え?何か言ったかい?』

 

『何にも言ってないわよ! ……あ、これ美味しい』

 

『それはよかった!孵化した直後に飲むものがその後の成長に大きく関わるって聞いたから、この世で最高級の物を用意したよ。お口に合ったようでなによりだ』

 

『・・・これ、手に入れるのに苦労したんじゃないの?』

 

『正直言うと少しね、でも君のためなら苦じゃないさ』

 

『そ、そうなの。ふーん、まあ、悪い気はしないわね』

 

『あ、そうそう。僕の友達を紹介するよ、『蛇の王』バジリスクのヨルだ』

 

『バジリスク!? あんた、なんで死なないの?』

 

『僕はシャイでね、人の目を見てお話ししないからさ』

 

『……あんた、冗談の才能ないわよ』

 

『そうかい?とにかく、ヨルは『開心術』がまだ使えないから会話するのはもう少し先になるね』

 

『“まだ”?バジリスクって魔法は使えないんじゃないの?』

 

『ヨルはただのバジリスクじゃないんだよ。言うより見た方が早いね』

 

「悪いんだけどヨル、人間になってくれるかい?」

 

『どんな会話の流れでそうなったのかはわからないが、お安い御用だ、我が主人よ』

 

 そう、ヨルは世界で唯一の蛇の『動物もどき』なのだ。

 

「ふむ、やはり人間の身体は慣れないな。足での移動はなんとも不便だ!」

 

「ありがとうヨル、ちょっと紹介したかっただけだからもう元の姿に戻ってくれていいよ」

 

『我が主人には悪いが、やはり私は人間より蛇の方が合っているよ』

 

『さ、これでわかった?ヨルは世にも珍しい人間に変身する『動物もどき』なんだよ』

 

『・・・』

 

『おーい?』

 

『……あなた、何者?』

 

『僕かい?そうだな……『闇の帝王』にして、『蛇の王の友達』そして今日から、『最強のドラゴンの友達』さ』

 

『ふん!そうやって丸め込もうったってそうはいかないわよ!』

 

『え、そんなつもりじゃないんだけどな、困ったな……』

 

『あ、ちょっと!そんな悲しい顔するんじゃないわよ……』

 

『そんな顔してたかい?それはごめんよ』

 

『あー……もう!友達でいいわよ!今日から私達友達ね、これでいいんでしょ!』

 

『本当かい!?今日はいい日だ!そうと決まればブランデーで乾杯しよう!さ、ヨルと──あー、しまったな。君の名前を考えてなかった』

 

『あきれた…… こんなに準備しておいてそんなことも忘れてたの?』

 

『ごめんごめん、それじゃあ、クロなんてどうだい?(ヤミ)(ヨル)(クロ)で3人揃って仲間だ!』

 

『クロ……クロかあ。お揃いかぁ、フフ。それでいいわ!私は今日からクロね!もう決まりよ』

 

『それじゃあグラス──は持てないからこの平皿になっちゃうけど。よし、3人、いや1人と2匹?ドラゴンてなんて数えるんだ? ま、まあいいや。1人と1匹と1頭の出会いを祝して、乾杯!』

 

「『乾杯!』」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「トム、このブックカバーはなに?」

 

『これはドラゴンの皮でできたブックカバーです。この本の持ち主以外がその本を読めなくしてくれます』

 

「へえ、便利ね」

 

『ええ、ですのでジニー。このブックカバーを常に僕に付けていてください』

 

「わかったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの小娘はなんなのよ!』

 

『うーん、難しいな。僕にとってはなくてはならない人かな』

 

『なっ!?』

 

『実は僕は誰かに魂を分けて貰わなくては生きていけない体なんだよ。だからジニー、さっきの娘ね。それからヨルに少しずつ魂を貰ってるのさ』

 

『・・・あげるわよ』

 

『え?』

 

『だから、私も魂を分けてあげるわよ!嬉しいでしょ!』

 

『本当かい?勿論嬉しいよ!ありがとうクロ』

 

『ふん!それから、『動物もどき』にもして貰えないかしら?』

 

『いいけど、少し時間がかかるよ』

 

『かまわないわ。でも、なるべく早くしてよね』

 

『僕にとっては勿論嬉しい事だけど、ドラゴンって誇りある種族だろ?いいのかい、人間になって』

 

『別に永遠に人間になるわけじゃないんでしょ?』

 

『まあね。でもドラゴンはずっとドラゴンでいたいのかと思ったよ』

 

『・・・だって、貴方は人間じゃない』

 

『え?』

 

『………なんでもないわよ、バカ』

 

『まあ、なんにせよ、『動物もどき』になるのはいいことだ。ヨルとも会話できるようになるしね!いや、僕と魂で繋がればドラゴンのままでもパーセルマウスになれるのか?』

 

『・・・ねえ、お腹空いた』

 

『む、もう30分たったか。一旦必要の部屋に行こうか』

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 それから二ヶ月ほどたち、クロは僕と魂で繋がった後、『動物もどき』となった。

 今はクロとヨルの2人で必要の部屋にて親睦を深めてもらってる。この後2人、いや、1匹と1頭には一緒にやって貰わなければならないことがあるからね。仲良くなってもらわないと。

 一方僕はというと『妖精王の豪炎』を使った際に受けたダメージが回復しきっていなかった。あの魔法は魔力と『特別な意識』両方を使うから、尋常じゃなく疲れるんだ。

 だから今は魂回復のために日記の状態でなければならない。その間に日記の状態の方がやりやすい事をしておこうと思う。

 

 まずは『忍びの地図』の強化版を作った。僕の日記の一部に書き込まれたそれは『忍びの地図』に『臭い』を混ぜたもので、その気になれば誰がどの魔法を使ったかを調べられる。

 それと誰が、どの呪文か、を設定すると、特定の人物の1日を記録できるし、設定された呪文が使われれば使用者が登録される。

 

 それともう1つは、コリン・クリービー、ジャスティン・フィンチ=フレッチリー、ペネロピー・クリアウォーター。つまり僕の指示で石化させた人の勉強を陰ながらサポートした。

 あの一件で勉強が遅れてしまったのは完全に僕に責任がある。その辺はキッチリとしなければならない。

 それからペティグリューが今どこで何をしているのかをシリウスと相談し合った。

 ダンブルドア校長はヴォルデモートのためにハリーを狙ってるとおっしゃってるらしいけど、ペティグリュー視点では僕、つまりヴォルデモートは復活してると思ってるし、命を狙われてるとも思ってるはずだ。

 僕の許しを得るためにハリーを狙ってる可能性もあるけど、シリウスとルーピン先生、ダンブルドア校長が目を光らせる中に飛び込んでくる勇気が彼にあるのだろうか。

 

 シリウスはあの臆病者のことだから、ただ逃げてるだけだと言っていた。しかし、僕はどうにも嫌な予感がしていた。あいつは運の良さと、強い人間の側につく才能はピカイチなのだ。

 しかしこちらから奴を見つけ出すのは中々難しい。というよりこの世界から1匹のネズミを見つけ出すなど不可能に近い。

 結局僕が日記の状態でできる事はそう多くはなかった。今は回復に専念するときだろう

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「トム、教えて欲しい呪文があるの」

 

『おや、久々に呪文の相談ですか。勿論構いませんよ。それが私の存在意義なのですから。それで何の呪文ですか?

 

「吸魂鬼を退治する魔法よ!ハリーの役にたてるチャンスなの。一年生の頃、禁書の棚から吸魂鬼についての本借りてきてたわよね?」

 

『よく覚えていましたね、ジニー。確かに私は吸魂鬼についての本を貴方に借りてきてもらいましたし、対処する呪文も知っています。でも、難しいですよ?』

 

「愚問ね、トム。私はもうちょっと難しい程度じゃ諦めないのよ。本当は1人で習得したかったくらいなんだから!でも我慢するわ。ハリーのクィディッチの試合が近いのよ」

 

『そういうことでしたか。ならば早く練習に取り掛かりましょう。まずイメージするのは──』



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

09 蛇の王と最強の竜と時々凡人達

この話はオリ主が08話で負ったダメージを回復してる間のそれぞれのお話です

これより下の前書きは本編とまったく関係ないただのお礼なので読み飛ばしても大丈夫です

ランキングで15位となっていました!いやあ驚きすぎて5回くらいF5を押してしまいました
ランキングにのれたのは読者の皆様やお気に入り登録してくださった方、評価をつけてくれた方のおかげです
そしてこの作品を書くモチベーションがあるのは感想を書いてくださる皆様のお陰です

※『誤字報告機能』と『一言付き評価』へのお礼は秘所性の問題から削除させていただきました


【必要の部屋】

「それでは魔法の練習をするぞ」

 

「なんでヨルが?魔法についてならあいつの方がいいんじゃないの?」

 

「我が主人はお前を孵化させるために『妖精王の豪炎』を2週間使い続けたのだ。その上お前の願いをきき、魔法耐性の高いドラゴンを無理矢理『動物もどき』に変えた。どうやっても再び実体化できるようになるまで二ヶ月はかかる」

 

「そっか、そうなの…… それじゃあ、仕方ないわね。それで、魔法を教えてくれんでしょ?それなら『妖精王の豪炎』がいいわ」

 

「あれは我が主人しか使えぬ呪文だ。今使ったとしても、自分が焼かれるのがオチだぞ。お前に教える呪文も、教え方も我が主人からすでに言われている」

 

「あいつが?ほんとマメねえ」

 

「お前に教えるのは『エクスペリアームス 武器よされ』と『プロテゴ 守れ』の2つだ。この2つの呪文は雷より遅く、炎より威力がなく、水よりも汎用性が乏しく、石よりも脆い。しかし多くの魔法使いが習い、闇祓いも頻繁に使う。何故だかわかるか?」

 

「人間のことなんて知らないわよ… でも、そうねえ。簡単に習得出来るからじゃないかしら?狙われ易いのは子供な訳だし、大人にしか使えない呪文なんて意味がないもの」

「確かにこの呪文は簡単だ。しかし最も重要なのは『特徴がない』ことだ」

 

「?それってどういう… あ、分かった!それってつまり『明確な弱点』が無いってことでしょ!」

 

「そのとおりだ、存外賢いな。この2つの呪文は雷のように誘電されず、炎より弱点がなく、水のように濁らず、石よりも柔軟だ。これといった長所はないが、これといった短所も無い」

 

「なるほどねえ、結構人間も考えてるのね。確かに動きながら呪文を唱えるのだったらとりあえず何にでも効くものがいいわよね」

 

「そうだ。人間は我々と違い魔法を一撃でも喰らえばそれまでだ。だから汎用性が高い魔法が洗練されていった」

 

「あー、確かに人間には鱗がないものね」

 

「魔法での戦い方は基本的に2つだ。1つは『守ってから攻撃』もう1つは『避けてから攻撃』だ。故に今から防御したり、避けた瞬間に『エクスペリアームス 武器よされ』を反射的に放てるように訓練する」

 

「流石にあいつが考えただけあって理にかなってるわね」

 

「それではまずは手首の動きと発音からだ。杖を持て」

 

「あ、ごめんなさい。血とブランデーを飲まなきゃいけない時間だわ」

 

「む、もう30分経ったのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、時間はかかったが大体魔法は即座に撃てるようになったな」

 

「……その、ヨル、ごめんなさい。色々付き合わせちゃって。私30分に一回、血とブランデーを飲まなきゃならないし、素直じゃないし。あいつの頼みとはいえ、ストレスになったでしょ?」

 

「・・・昔に我が主人が言っていたのだがな。人の、と言ってもお前はドラゴンだが、は様々な面を持っている。そして一見愚かに見えても、見方を変えれば優れていることもあるのだ」

 

「・・・」

 

「つまりお前の不器用さはただ短所なだけではないという事だ。そしてその事を私と我が主人は心得ている」

 

「・・・あんた達変わった人間と蛇よね」

 

「私が変わったのはここ最近だ。変なのは我が主人ただ1人だ」

 

「他人の言葉に影響される蛇なんて十分変よ」

 

「他の生物と仲良くしているドラゴンも相当変わっているがな。さ、おしゃべりはここまでだ。戦いの訓練を始めるぞ」

 

「そうしましょうか。お辞儀をすればいいのよね?決闘のルールなんだっけ」

 

「うむ、それではいくぞ!」

 

3…2…1

 

「「『エクスペリアームス 武器よされ』!」」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ホグワーツで『ウィーズリー』と言えば誰?と問いかけてみると、7割の人がジニー・ウィーズリーと答え、残りの3割はフレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリーと答えるだろう。

 理由はちゃんとある

 ジニー・ウィーズリーはホグワーツ始まって以来の天才と呼ばれる人気者だ。

 一年生にしてその年の『ホグワーツ最多得点者』となったのだ。純血でありながら『秘密の部屋』に連れてかれたのはスリザリンの後継者が彼女を恐れたため、という噂があったほどだ。

 さらにホグワーツ1の天才と言われたセドリックとの『決闘クラブ』での戦いは、ギルデロイ・ロックハートの唯一の功績と言われ、決闘を見た多くの生徒達がジニーとセドリックのファンになった。

 

 そしてもう一方の双子はもちろん、イタズラの天才という肩書きで有名である。

 しかし、最近では意外にも魔法使いとしての優秀さが認められているのだ。

 双子は幼い頃からジニーを特別可愛がってきた。しかしジニーはホグワーツに入学すると魔女としての才能を開花させ、セドリックに憧れるようになった。

 フレッドとジョージはジニーにとっての『憧れのお兄ちゃん』でいたかったのだ。だから2人は魔法使いとして自分達を磨く決心をしたのだ。

 元々成績優秀だった2人だが、柔軟な発想をイタズラから魔法の研究に向けた結果、2人はメキメキとその実力を伸ばした。

 追い風として、マクゴナガルをはじめとした双子に頭を悩ませていた教師達が喜んで手を貸した事もある。手のかかる生徒ほど可愛い、というやつだ。

 去年まで監督生だった主席卒業のパーシー・ウィーズリーの事もあり、今やホグワーツでの『ウィーズリー家』は貧乏一家ではなく、天才の称号だ。

 

 しかし、これをよく思わない者が2人いた。

 

 1人はジニーの兄であり、双子の弟でもある、ロン・ウィーズリー。彼は優等生ではないが、魔法薬学に目を瞑れば劣等生ではない。

 しかし、英雄のハリー・ポッターと学年主席のハーマイオニー・グレンジャーと共に3人でヴォルデモートから賢者の石を守り、マグル生まれを恐怖のどん底に陥れた『秘密の部屋』の怪物を倒すのに一役かってしまったのだ。

 そしてメキメキと頭角を現していく兄妹達。周囲の生徒達、いや教師達含め、彼に期待するのは自然の成り行きだった

 しかしロンが三年生になり、一月が経ったころ、彼が平凡である事が分かると一部の人が離れていった。また一月が経ち、さらに多くの人が離れ、三ヶ月経つ頃には誰も彼に期待しなくなっていた。

 彼の本当に素晴らしいところは単純な能力とは別のところにある事に気がつかないまま・・・

 

 そして反比例するように実力を発揮していく兄妹や親友達。ハーマイオニーは学年主席であり、ハリーは英雄にして最高のシーカーだ。劣等感を感じるのは当然だった。

 

 自分は必要な存在なのか?ハリー達の友達として相応しいのか?ウィーズリー家にいていいのか?

 

 悩む彼は気がつかない。周りの友達や家族は一切そんな事は気にしていない事に。

 

 

 

 

 

 劣等感と悩みを抱えたまま彼は、

 グリフィンドールVSスリザリン

 のクィディッチの試合場へと向かった。自分と違い、試合に出る親友と兄達を応援するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ウィーズリー家』について悩んでいたもう1人の人物はドラコ・マルフォイだ。

 自分が見下していた貧乏一家の人間は今やホグワーツ内で誰もが認める優秀な魔法使いになっていた。

 確かにウィーズリー家は純血だ。それは疑いようのない事実であり、古さという一点だけならマルフォイ家とも同格だ。

 しかし、尊敬する父上と対立する家であり、自分が所属するスリザリンと敵対するグリフィンドールに所属する者達だ。

 だがマルフォイの胸に浮かぶのはジニーとセドリックの決闘。

 自分とハリーとの戦いなどお遊びだというかのような戦いだった。

 マルフォイは優秀だ。だから分かってしまうのだ、彼等が本当に優れた魔法使いであり、自分の目標とするべき人物である、と。

 2人とも驕ることなくあれからも魔術の研鑽に励み、その影響はホグワーツ全体、自分達の寮であるスリザリンにさえ及んだ。

 そんな2人と対等であるマグル生まれのハーマイオニー・グレンジャー。

 そしてあの2人もマグル生まれを差別していない。

 本当に純血主義は素晴らしいのか?もし間違っていたら今までの自分は何なのか?尊敬する父上は正しいのか?様々な葛藤を抱えながらマルフォイは自分の価値観を考え直す。

 

 そんな思いを振り切りながら、

 スリザリンVSグリフィンドール

 のクィディッチの試合場へと向かう。自分の正しさをハリー・ポッターを倒すことで証明するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悩む2人の若者

だが、それでいいのだ

なぜならここはホグワーツ

 

救いを求める者には必ず与えられる場所

 




というわけでそろそろ話に原作主要キャラが関わってきます。
今のところハーマイオニーって名前しかでてない…


というかこの話本当はもっと早く投稿する予定だったんです。しかし、データが消えてしまい書き直しました

本当は4000字くらいあったんですが3300字となりました
700字どこに行ったんだろ…

内容思い出したら加筆するかもしれません。加筆した場合タイトルに(修正版)て付けときますね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10 見せかけの平穏

【必要の部屋】

 

「1匹と1頭──もう面倒くさいから2人でいい?2人の魔法使いの練度はホグワーツの学生だとヨルは大体四年生、クロは二年生レベルってところかな」

 

「あれだけやってその程度か…」

 

「二ヶ月だしこんなものだと思うよ?それに前半はとにかく『武装解除』と『盾呪文』を反射的に使えるようにしたんでしょ?」

 

「まあ、そうだけど…… ていうかあれ意味あったの?ドラゴンの姿の方があれっぽっちの魔法しか使えない人間の姿よりずっと強いんだけど」

 

「だろうね」

 

「はあ?あんたふざけてんの?」

 

「落ち着けクロ、我が主人は意味のない事はさせない」

 

「ヨルの中での僕ってそんな完璧な人間なの?困ったな…… 僕結構その場のノリで行動してるんだけど。まあでも、確かに今回の戦闘訓練と呪文の練習は意味があるよ」

 

「それを早く言いなさいよ!それだったら私も文句言わないのに」

 

「ごめんよ、クロ」

 

「いや、その、……私も少し言い過ぎたわ、ごめんなさいね」

 

「話が進んでおらんぞ、我が主人」

 

「ごめんごめん、それじゃあ説明するね!君たちに魔法の練習させた目的は──いや、ごめんやっぱり説明しない。今からヒントを出すから自分達で考えてみようか」

 

「へえ、いいじゃない。私結構こう言う謎解き?好きよ」

 

「あの小娘にものを教えている時のようだな……まあよかろう」

 

「それじゃあヒントは『エクスリペリアームス 武器よ去れ』と『プロテゴ 守れ』だ。その魔法が何故使われているか、がヒントだよ」

 

「・・・あ、わかった」

 

「ウソ!?僕ヒント4つ位用意してたんだけどな…」

 

「我が主人よ、信じられないことにクロはかなり頭がまわる」

 

「いや、今回は偶然よ。それに、多分ヨルより私の方が気づきやすいわ」

 

「そこまで気づくとは…… 本当に理解してるんだね。それじゃあ答えを言ってくれるかい?」

 

「答えは私達、つまりここではドラゴンとバジリスクの『短所を無くす』こと」

 

「・・・なるほど」

 

「ヨルには確かにこれといった弱点はないけど、私の場合『結膜炎の呪い』があるからすぐに気がついたのよ」

 

「確かに自分で『耐火魔法』をかけるドラゴンは恐ろしいな。いや、戦いの最中に急にサイズが変わったり攻撃方法が変わるだけで難敵か」

 

「僕が言いたいこと全部言われちゃったな。 正解だよ、ドラゴンやバジリスクの短所を人間で補うんだ。逆もまた然りだけど」

 

「その『短所を潰す』ってやり方は実に人間らしいわね」

 

「ドラゴンは思いっきり長所を伸ばしていく種族だからね」

 

「ふん!人間と違って種族への誇りがあるのよ」

 

「また話が脱線しているぞ、我が主人よ」

 

「ありがとうヨル。それで本題なんだけど、『動物もどき』としての訓練を積もうと思う。ドラゴンと戦ってたと思ったら急に魔法が飛んできたり、人間だと思って睨んでたら急にバジリスクになった、なんて面白いと思わない?」

 

「すぐにドラゴンから人間に、人間からドラゴンに、ってことね。確かに今だと変身に30秒くらいかかるし、戦いの最中や不意打ちされたら間違いなく変身出来ないわね」

 

「しかし我が主人はこの戦法をとれないのではないか?」

 

「確かにそうね。何であんたあんな雑魚の『動物もどき』になったわけ?しかも変身するのにえらい時間かかるわよね」

 

「将来僕が戦うことになるかもしれない相手に、恐らく有効なのさ。後、これは僕の研究が上手くいけば魔法界最強の生物になるかもしれない。それに……」

 

「それに?」

 

「ものすごく面白いと思わない?」

 

「……まあ、正直それは認めるわ。最初に見た時は度肝を抜かれたわ」

 

「確かにな。正直私にはそれほど悪い選択肢とは思えない」

 

「まあそんなわけで僕は僕なりに他の方法で強くなるよ」

 

「興味あるわね。教えなさいよ、その方法」

 

「ん、それだよ」

 

「それって、あんたがとりあえずって渡したこの杖のこと?こんなんあんたが持ってる杖に比べたらおもちゃじゃない」

 

「確か我が主人が開発した『主人を選ばぬ杖』だったか?」

 

「そうだよ。極東にある『匂いのない花』の木が本体で、芯に僕が魔力を込めた石を使った杖。誰でも使える代わりに、本来の6割くらいしか出力がでない。いわばお試し用の杖ってところかな」

 

「こんなもんが何の役に立つって言うのよ、まさかまた『短所が無い』とか言い出すんじゃないでしょうねえ」

 

「言い方が悪かったね、これは僕が使うんじゃないんだよ。プレゼントするのさ」

 

「また我が主人は私達のような生物を連れてくるのか?」

 

「いやいや、そうじゃないんだよ。ただ、僕の力になってくれる連中がこれを欲しがってるのさ。前に言った通り僕らから見たらゴミでも他方から見たら宝なのさ」

 

「…まさかあの連中と手を組むのか?」

 

「あの連中?」

 

「太古の昔からの嫌われもの、ある意味では私よりも魔法界では恐れられている」

 

「ヨル、そんな事は思っていても口に出すな。彼らには彼らの誇りがあるんだ」

 

「む、すまない、我が主人よ」

 

「いや、いいんだ。空気を悪くしたね。そうだ!君たち用の杖を用意しようか」

 

「それはいいけど、目処はついてるの?」

 

「ああ、確実に君たちに合う杖を作ってこよう。そうだな…… 3週間もあれば作れるよ」

 

「昔は一本作るのに半年ほどかかっていたというのにな。あの頃が懐かしい……」

 

「おいおい、1000年も生きてるのに1年前のことを懐かしむなよ。僕達はこれからもっと長い間一緒に過ごしていくんだよ?」

 

「・・・そうだな、我が主人よ」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「『エクスペクト・パトローナム 守護霊よ来れ』!」

 

 『原作』と違い、グリフィンドールVSスリザリンのクィディッチの試合最中にディメンターが乱入してきた。それに対して元々ディメンターを警戒していたジニーの行動は早く、的確だった。

 

 さて、突然なのだが『原作』のジニーのパトローナムは確か馬だ。その時点でかなり強そうじゃないだろうか?例えばルーナの出したパトローナムはウサギなのだが、それより若干強そうな気がしてこないだろうか?いや、これについては全く根拠のないイメージなのだが……

 何となく大きかったり、賢い動物な方が強そうではある。

 また突然話が変わるのだが、いつか語ったと思うが、魔法は込めた『魔力』の量と『魔法に対するイメージ』、『特別な意識』の強さで決まるといった事は覚えているだろうか?

 例えば『守護霊の魔法』は『幸福な思い出』が加わることでディメンターを追い払う強力な魔法となるのだ。

 

 さらに話が変わるのだが、ジニーは果たして今どういった状況だろうか?

 毎日寝る間も惜しんで勉強し、結果がついてくることで魔法に対する自信は相当ついている。

 そして今回使う『守護霊の魔法』は全幅の信頼を置いている相手、つまり僕に教わったことで『絶対に上手くいく』という強固なイメージが出来ている。

 しかも使い道は憧れのハリーのためだ。今、この瞬間にも彼女は『最も幸福な思い出』を更新しているだろう。

 

 

 何が言いたいかというと、ジニーの『守護霊の魔法』が強すぎた

 

 

 まず馬じゃなく『戦闘用馬車(チャリオット)』だ。馬が2匹、馬車を引いていてその上に男が座り槍を持っている。

 さらにセドリックハーマイオニーも同じくかなり強力なパトローナムを使役している。

 セドリックは巨大なクマだ。全長が5mちょっとあるクマを縦横無尽に動かしている。

 ハーマイオニーは『原作』通りのカワウソだ。ただし、何故か3匹もいる。3匹とも別々の動きをし、上手く連携している。

 

 そしてあの3人なら任せられる、そう考えたハリーが隙をついてス二ッチをつかんだ。その後試合は80:210でグリフィンドールが勝利。

 この事件は記者によりジニーとハーマイオニー、セドリックは『若き3人の守護者』と掲載され、ハリーは『鋼の意思をもつ戦人』と紹介された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時、僕は気がつくべきだったのだ。『原作』よりはるかに注目されているクィディッチの試合に何故簡単にディメンターが入ってこれたのか?

 この時の僕は愚かにも『原作』とタイミングがずれてディメンターが入り込んだのか。位にしか思えなかったのだ。

 

 そしてもう1つ、煌めくパトローナムと満面の笑みのハリーを暗い瞳と憂鬱な顔で見つめる人達が居たことも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、拍子抜けするほどに穏やかな日々が過ぎた。

 シリウスからの情報ではホグワーツを襲ってきた人間は居らず、時たまクィディッチ選手へのしつこい勧誘が来る位だと言っていた。

 僕も強化版『忍びの地図』にピーター・ペティグリューを始めとした、知りうる限りの『死喰い人』がホグワーツに入ったらすぐにわかるように設定しておいたが、ついぞ反応はなかった。

 1番の懸念であったルーピン先生は無事狼人間であることが発覚せず、来年もホグワーツで教鞭を振るうそうだ。というのも、シリウスがスネイプの代わりに満月の夜の発作を抑え込む薬を作っていたのだ。

 この事はもしかしたら僕が今のところしてきた事で最も良いことかも知れない。やはり親友同士の絆を見てるというのは心地よいものだ。

 

 生徒に限った話であれば今年の『最多得点者』は僅差でセドリック・ディゴリーが受賞した。

 そして得点数2位と3位がいるグリフィンドール寮は、クィディッチの優勝と寮優勝の二冠を達成した。

 

 僕の友達達に関して言えば、『動物もどき』を生かしたスイッチ戦法はかなりの練度となり3人で戦うと僕も危うい時があるほどだ。

 僕が渡した杖も無事に馴染み、魔法使いとしても、ヨルはホグワーツ6年生、クロは5年生レベルにはなったと思う

 ただ今だに僕は『動物もどき』として変身するのに2分をきることはなく、ちょっと悔しい思いもした。

 そんなこんなで穏やかに、されど確かな充実感を持って2年目のホグワーツを去ることになった。そして来年は『原作』でヴォルデモートが復活する年。一層きをひきしめなければならない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3章─『闇の帝王』と炎のゴブレット
11 『闇の帝王』とそれぞれの思惑


【???】

「誰だお前は……」

 

「私めはピーター・ペティグリューと申します。どうか貴方さまに私めの忠誠を捧げる事をお許しください」

 

「私はもう過去の人間だ。それに貴様は『闇の印』を持ってるな。なればすでに主君がいるはずだ」

 

「あいつは最早私めにとってどうでもいい存在になりました!どうか、どうか私めをお助け下さい!」

 

「ハハハハハ!自分のために主人を見捨てるか!しかし、私もかつて同じような事をした……いいだろう、私と共に来い」

 

「ありがとうございます、ありがとうございます!ご主人様!」

 

「早速かつてのお前の主人に引導を渡してやろう。と言いたいところだが私も老いた。少し力を蓄えねばなるまい」

 

「それでしたらいい案がございます!今年ホグワーツで『三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)』が開かれます!それを利用されてはどうでしょうか?」

 

「ホグワーツ──ダンブルドアか。それはいい案だ、ペティグリュー。褒めてやろう」

 

「ありがたき幸せです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ!これは僕でもどうしようもない」

 

 今、僕は『炎のゴブレット』が一体どういった基準で選手を選抜しているか調べていた。

 その理由はハリーが『三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)』に出場するのは困るからだ。なので炎のゴブレット自体に細工を施してハリーが選手に選ばれないようにしようとしたのだが……

 

「これはリリーがハリーに施した『保護呪文』にも匹敵する古の強い呪文が3つほど掛けられてるな。全く困ったよ」

 

 最初から嫌な予感はしていたのだ。『原作』でかのダンブルドアを含めた三大魔法学校の校長や先生が集まってるにも関わらず、ハリーを出場させざるをえなかったのだから。

 

「これをどうにかするには少なくともダンブルドア校長レベルの魔法使いが5人は居なきゃ無理だ」

 

 しかしバーテミウス・クラウチJr.はよくやった方だ。炎のゴブレットの選手選抜基準はいじる事が不可能だが、選べる人数は選択可能なのだ。

 その理由は選手選抜基準は炎のゴブレットの根幹にあり、このゴブレットが作られた時から少しも変わらないものだからだ。

 しかし選手の人数や出場校といったものは後から設定できるものであり、100年に一度だが炎のゴブレットに後付け設定ができる

 恐らくバーテミウス・クラウチJr.は炎のゴブレットに強力な『錯乱呪文』をかけて、後付け設定する年が来たと思わせたのだろう。

 

「もういっその事僕がダームストラングかボーバトンを襲って大会を開催出来なくするか?」

 

 そう言いながら、そんな事は欠片も思っていない。

 元々僕はこの魔法の世界を楽しみたいのだ。確かに目的はヴォルデモートの復活の阻止、とういうより原作以上のハッピーエンドだ。

 しかし、道中楽しみたい、という強い気持ちもある。

 そして『三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)』は魔法界でも中々お目にかかれない行事であり、これを開催させないなんてとんでもないことだ。

だからと言ってハリーに出場させるのは危険すぎるのだが……

 

「普通に考えたらセドリックとハーマイオニーかジニーが有力なんだけどなぁ」

 

 魔法力で考えればセドリック、ジニー、ハーマイオニーが間違いなくトップであり、対抗できて双子位だろう。

 しかし、炎のゴブレットが魔法力のみを基準に選手を選ぶのだとしたら、わざわざダンブルドア校長が年齢制限などしかずとも上級生が選ばれるはずだ。

 つまりダンブルドア校長を持ってしても選考基準が全くの未知数なのだ。

 

「しかし本当に困ったよ、コレは。ハリーに投票するなってジニーから言ってもらうのも無理だよなあ、あんな事があったんじゃ」

 

 そう、今回の『三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)』に関しては全く問題が起きないはずだったのだ。

 バーテミウス・クラウチJr.は僕の強化版『忍びの地図』に登録しているので、もしホグワーツに侵入してくれば一瞬でわかる。だからハリーは絶対に選手に選ばれる事はなかったのだが、状況が変わった。

 

 

 

 

 

 僕は基本的に自分の計画が全部が全部上手くいくと思ってない。どころか、精々自分の理想の4割でも叶えられたら御の字だと思ってる。

 これが相手と僕の一対一の戦いならまだしも、ヴォルデモートやダンブルドアと言った様々な人間が日々己の利益となるような結果にする事を考え、僕が予想できる範囲を超えた活動をしているのだ。加えて僕が存在も知らない様な人々もそれぞれの思惑があって動いている。

 例えば味方の陣営の一人が良かれと思って指揮官の予想外の行動をし、そこから全てが破綻するかもしれない。

 この場合行動を起こした人間は善意で動いていることが厄介だ。裏切りの場合何らかの証拠を残し、周りが気がつく事が出来るのだが、本人に全く自覚がないと気づきようがない。

 

 今回の件は正にこの場合だ。

 

 あれはクィディッチのナショナルリーグの試合を観に行った日の事である──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クィディッチの試合を観に来ていたのだが、僕はジニー達と別行動していた。というかさせられた。

 その理由は僕が日記であり、目がないから試合が見れないとジニーが判断してテントに置いていってしまったのだ。

 僕も、原作と違ってハリーにはシリウスが付いているし、実体化してヨルとクロと3人で観るのも悪くないかな、と思って別行動をとるのに反対しなかった。

 

 試合自体はかなり面白かった。

 僕は今のところ箒に乗った事がないから素人意見だけど、試合内容は流石プロ、といったところだった。使っている箒だけなら今のホグワーツはそう変わりないのだが、速さや状況判断、チームの連携といった物がホグワーツ生達と全然違うという事がひしひしと伝わってきた。

 そして隣では、ヨルはともかくクロは最初『どうせ本気で飛べば私の方が断然速い』と乗り気でなかった。だが試合が始まると『ちょっと!今のはファールでしょ!審判はトロールね!そうでなきゃ『結膜炎の呪い』をかけられてるに違いないわ!』と僕以上に盛り上がっていた。

 試合が終わった後僕に『ねえ、箒の訓練しなさいよ。今度、その、一緒に空を飛びましょう?』と言ってきたので今年度からは3人で飛行訓練をするのも良いかもしれない。僕としてもあんな風に空を飛ぶのは中々憧れるものがあった。

 

 問題はこの後だった。

 

 僕はバーテミウス・クラウチJr.がハリーの杖を使って『闇の印』を打ち上げるのを阻止しようと『不可視の呪文』を何重にも唱えて機を窺っていた。するとクラウチがハリーの杖を奪いある程度離れた森の方に走っていたので、ヨルの鼻を頼りに追っていった。

 そしていよいよクラウチを捕まえようとした瞬間に『私の息子の杖を返してもらおうか』と言いながらシリウスが現れたのだ。

 2人とも天才であり、それなりに場数も踏んでいる熟練の魔法使いだ。その後の戦いは熾烈を極めた。助けに入ろうかとも思ったのだが、出来れば姿を見られたくないのとクラウチが最初から弱っていることもあり、シリウスが優勢だったのでギリギリまで手を出さなかった。

 結果としてはシリウスが勝ち、クラウチを捕らえたものの、すんでのところで『闇の印』を打ち上げられてしまった。

そして『死喰い人』が集まってきてしまったのだが、これに最初に遭遇したのはシリウスを探しに来たハリー達だ。

 

 ここからが僕の予測を大きく覆したところなのだ。

正直『死喰い人』が集まってくるとわかった時点でハリーやジニー、セドリック、ハーマイオニー、ジョージ、フレッドの7人が戦うのはわかっていた

 しかし、意外な事にロンとマルフォイが真っ先に立ち向かって行ったのだ。実力的にも今までの行動から鑑みてもこれは異常な事だった。

 

 そして『死喰い人』のほとんどが捕まり、事件が落ち着いた頃に闇祓いの大人達がロンとマルフォイに問いかけた。『何故真っ先に向かって行ったのか』と。

 ハリー達は新聞に載るほど有能な魔法使いだが、お前達は違うだろうと言外に伝えていた

 それを理解した上で2人は答えた。

 

『僕の親友達と家族はみんな僕とは違って優秀だ。僕にはあんなに上手く箒には乗れないし、勉強だってできない。でもそれが何だって言うんだ?『生き残った男の子』じゃないと立ち向かえない?『最多得点者』でなければ戦えない?僕は『吸魂鬼』に立ち向かった親友と家族を見て決めたんだ。僕は僕なりに出来る事をするって!ハリーとハーマイオニーの対等な友人になる為に!家族に心配させない為に!僕だって“ヴォルデモート”に立ち向かえる人間になるんだ!』

 

『認めるよ、僕はマグル生まれのグレンジャーと貧乏一家のウィーズリーより劣ってる。けどそれは今の話だ。僕達はまだ学生で伸び代がある。僕は純血の誇り高き一族、『マルフォイ家』の長男で一人息子だ。あいつらに負けるわけにはいかない。本当に負けを認める時は僕が死ぬ気で努力して、それでも勝てなかった時だ。そして『死喰い人』程度に怖がってたんじゃあ『吸魂鬼』にさえ立ち向かっていったあいつらに一生かかっても追いつけない。そう思っただけさ』

 

 この2人の発言は新聞に大々的に報道され『平凡な勇者』として大きな反響を呼んだ。

 

その後、シリウスが捕らえたバーテミウス・クラウチJr.の発言により息子に『服従の呪文』をかけていた狂人としてバーテミウス・クラウチ・シニアは逮捕、その後はパーシーが後釜として『国際魔法協力部部長』に就任した

 

 そして記事を読み弟と妹の成長を喜んだパーシーは自分の地位を早速利用し、『魔法省ゲーム・スポーツ部部長』ルード・バグマンをはじめとした様々な権力者達に声をかけ、『三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)』の全学年の生徒参加を呼びかけた。

 ルード・バグマンはもちろんの事シリウスやキングズリーと言った面々もこれに賛成。また、意外な事に息子の成長を喜んだルシウスもパーシー達に力を貸した。

 ルシウスは『原作』と違い、未だホグワーツの理事1人であったため、理事会で他の理事達に協力を求めた結果、多くの味方を得ることに成功。

 ここまで来るとダンブルドア校長も無下にすることは出来なかった。

 しかし、ダンブルドア校長としても安全面から全ての意見を聞くわけにもいかず、折衷案として『上級生一名と下級生一名を各校選出してのタッグマッチ』とする事が決定された。

 

 全員が自分たちの愛する息子や家族のために善意で行動した結果、ハリー達を危険な状況に追い込んでしまったとは皮肉な事だ。

 

 そして僕は裏でこんな事になっているとは全く知らず、全てが決まってから、シリウスの『ハリーが三大魔法学校対抗試合に出れるかもしれない!』と言う報告によって知った。

 困った事に上級生で選ばれるのはセドリックでほぼ間違いはないのだが、下級生は誰が選ばれるのか全くわからない。

 いや、単純に能力面で選考されない以上、最早誰が選ばれてもおかしくない。それ位今のホグワーツの生徒達はやる気に満ちている。誰もが『平凡な勇者』を目指して日々努力するようになってしまったのだ。

 そして炎のゴブレットの選考基準に手を加えようとした結果が冒頭だ。

 

「最早『原作』通りの試練じゃないだろうし、僕がこっそり裏から手を回すのも難しい…」

 

『我が主人よ、終わったぞ。迎えに来てくれ』

 

「了解」

 

 今2人には僕の父、つまりトム・リドル・シニアの墓にある骨を砕いてヨルに食べてもらい、代わりにクロが捕まえてきた鹿の骨を置いてきてもらっていた。

 理由はもちろん、ヴォルデモート対策だ。

 

「やあ、お疲れ様。仕事は順調だったようだね」

 

「うむ、何の問題もない」

 

「ついでにお参りもしておいたわ。一応あんたの父親なんでしょ?」

 

「ありがとうヨル、クロ。しかしお参りかあ、その発想はなかったよ」

 

「しかし我が主人よ、ここまでやっておいてまだ警戒しているのか?」

 

「まあね、予感がするんだよ。僕と『僕』は相容れない。2人同時にこの世にいることは出来ないのさ」

 

「あんたがそう言うのならそうなんでしょ。それより早く帰りましょう、ここあんまり楽しい場所じゃないわ」

 

「わかった……ん?」

 

「久しぶりだな、若造」

 

「へえ、君はその男に着いたのかい、ペティグリュー。それから、久しぶりって言われても僕は『僕』じゃあないからはじめましてだよ」

 

「ほお…てお前は『闇の帝王』ではないと?」

 

「『闇の帝王』ではあるよ。ただ『ヴォルデモート』ではないよ」

 

「不思議な事を言うな、貴様」

 

「事実だからね、許してくれ。それで、君はどういった立場を取るんだい?」

 

「お前の敵であり、ダンブルドアの敵だ」

 

「へえ、それじゃあここで戦う気かい?」

 

「今日はただ挨拶に来ただけだ、若造」

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから色々と(・・・)世話になるぞ、トム・リドル」

 

「こちらこそ、ゲラート・グリンデルバルド」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12 蛇の王と最強の竜と時々凡人達02

【ホグワーツ】

 

「しかし、我が主人は世話焼きというか何というか…」

 

「あいつ私達が本来人間と敵対してる種族な事忘れてるんじゃないの?」

 

「無いとは言えんな…」

 

「全く、『他校の生徒に混じって学校生活を楽しんでこい』なんて、ほんっっっと、アホよねえ、まったく、しょうがない奴だわ」

 

「・・・ニヤけておるぞ、クロ。大方あの日の事でも思出しているのだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

【過去回想】

「僕は今からホグワーツをしばらく離れる」

 

「なんでよ?」

 

「『主人を選ばぬ杖』の取引さ。悪いけど君達は連れて行けない。正体がバレたら宣戦布告してるのと変わらないからね」

 

「良いのか、我が主人よ。あいつらはいつ襲ってくるか解らぬぞ」

 

「これでも交渉は得意な方なんだよ、きっと大丈夫さ。さて、僕がいない間なんだけど、君達には人間としての仕草を学んで欲しいんだ」

 

「どうやってよ。まさか教師でも呼ぶの?」

 

「いや、今この学校は3つの魔法学校が集まったばかりだ。だから見ず知らずの生徒が2人位混じってても気がつかれないさ」

 

「はあぁ!生徒として紛れ込めって事?」

 

「その通りだ!君達も学生気分を味わうといい。もし気に入ったらそのまま入学してもいいよ」

 

「我が主人よ、私達が貴方の側から離れる事はあり得ない。よって入学する事はない」

 

「おっと、これは嬉しい反撃だね。そうだとしてもホグワーツの立地を実際に見てもらいたいし、悪いけどこれは決定事項だ。それに、もし入学させたとしても僕が君達2人を手放すなんてあり得ないよ」

 

「な、何言ってるのよあんた!」

 

「本当のことさ、少なくとも君達が僕を嫌わない限り、ね」

 

「ふん!私もしょうがないから一緒に居てあげるわ。普通ドラゴンと一緒に居るなんて不可能なんだから、感謝しなさいよ」

 

「何言ってるんだい?僕はいつだって君達といれることに感謝してるさ」

 

「な、ななな、何をいっひぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

【現在】

「思い出してないわよ!しかしヨルってダームストラングの制服似合うわねえ。普段は分かんない筋肉が半端なく目立ってるわ」

 

「蛇は骨でなくほぼ筋肉で動くのでな、日々筋肉を鍛えているようなものなのだ。クロこそ、ボーバトンの制服、似合って居るぞ」

 

「そう?ありがと。でもちょっと胸のところがキツイわ、これ」

 

ドンッ!

 

「あら、ごめんなさい。立てるかしら?…ちょっと貴方、聞いてる?・・・ヨル、貴方この人間を石化させてないわよね?」

 

「・・・しえ・・さい」

 

「は?」

 

「名前を教えてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!

 

 痛ッ!角を曲がったら人とぶつかっちゃったよ、こんな力で押してくるなんて、どんなゴリラだ?全く顔を・・・見て・・

 

 果たして、そこに居たのは銀髪の美女

 

 目は暗赤色であり、その活発そうな性格とは裏腹に、所謂『ハイライトが行方不明』という目をしていた。そして長く、薄い銀のまつ毛も合わさり幻想的な印象を与える。

 そして身長は高く、また生地が厚いボーバトンの制服の上からでもハッキリ身体つきがわかるほど肉欲的な身体つきをしていた。

 肌は病的なまでに白く、1度も外に出てないのではないかと思うほどだ(実際、普段は皮膚が鱗で覆われているため本当に今まで日焼けしたことがないのだ)。

 しかし、何より目を惹くのは膝まで届きそうな銀髪だ。全ての髪が常に濡れほそばっているかのように輝いている。

 神秘的な赤い眼と銀の髪、白い肌が相まって儚げな印象を受ける。尤も、本人の性格は全く儚げとは言えないのだが……

 

「あら、ごめんなさい。立てるかしら?……ちょっと貴方、聞いてる?・・・ヨル、貴方この人間を石化させてないわよね?」

 

 こんな美しい人見た事がない、まるで人間じゃないみたいだ。ボーバトンと制服の青色は彼女の銀髪が映えるように作られたに違いないや。

 

 今、この娘に声をかけなかったら絶対に後悔する!

 

「・・・しえ・・さい」

 

「は?」

 

 ダメだ、緊張で声がうまく出ない

 

「名前を教えてください!」

 

「嫌よ。それじゃあ行きましょう、ヨル」

 

 ヨル?誰だ?そう思って隣を見てみると細身ながらも筋肉質、そして知的さを感じさせる男がいた。

 

 髪は黒と赤が混じった不思議なメッシュの様な色をオールバックにしていた。

 そして、少し厚すぎるくらいの眼鏡と、黒目の周りが黄色い眼が非常によく似合っていた。

 身体つきはシャキッとしたスポーツマンといった印象だが、纏う雰囲気は非常に落ち着いていて、深い叡智を感じさせた。まるで学生であるのにも関わらず、何百年も生きてきているかのようだ

 

「お前はこの娘と付き合ってるのか!?」

 

「恋仲という意味か?私とクロ、あー、この娘は兄妹の様なものだ」

 

「ちょっとヨル!さりげなく私の名前は言うんじゃないわよ」

 

「クロって言うのか!僕はロン!ロン・ウィーズリーだ」

 

「だからどうでもいいって……ちょっと待ちなさい、ウィーズリー?へえ、貴方あのウィーズリーなの、そう。いいわ、少しお話ししましょうか」

 

「君も新聞でウィーズリー家を知ったの?でも残念、僕は他の兄妹と違って優秀じゃあ──」

 

「そんな事はどうでいいわよ」

 

「え?」

 

「別に貴方の他の家族が優秀かどうかなんてどうでも良いわ」

 

「クロは僕が他の家族に劣っていても気にしないの?」

 

「なんで私が貴方の家族を気にしなきゃならないのよ」

 

「おったまげえ!そいつは嬉しいや!」

 

 ロンが歓喜する中、急に態度を変えたクロにヨルが『開心術』で話し掛けた。

 

『おいクロ、お前何をする気だ?』

 

『ウィーズリーって言ったらあいつが大事にしてるあの女の親族でしょ?こいつからあの女の事聞き出してやるわ!』

 

『我が主人にバレて怒られても知らんぞ』

 

『うぐっ!バ、バレなきゃいいのよ!バレなきゃ!』

 

『はぁ……私は止めたからな』

 

 クロは夜との会話を切り上げると、早速ロンに話し掛けた。

 

「あら、貴方の周りは家族の事ばかり話す人しか居ないのかしら?」

 

「本当に周りにいる人達は気にしないんだけど、ちょっとした知り合いの奴らは妹の話ばっかりするんだ。でも、いつか僕の事を見直させてやるけどね」

 

「そう、頑張ってね、応援してるわ。貴方の目標とする妹さんはそんなに凄いの?」

 

「ありがとう!クロって本当に良いやつだね!僕に寄ってくる妹目当ての人間に爪を煎じて飲ませてやりたいよ」

 

「私の爪を煎じるには特別な器具が必要よ。そんなに妹によってくる人間が居るのね、妹は八方美人なのかしら?」

 

「爪を煎じるのに、特別な器具が必要だって!?君ってばジョークの才能もあるんだね!よかったらこの後お茶でもどうだい?ジョークなら僕も自信あるんだ」

 

「・・・貴方、人の話を聞く気ある?」

 

「もちロン!君の声はずっと聞いてたいよ!」

 

「はあ……ヨル、行きましょう。全く、人間の基準があいつになっててダメね、他がゴミに見えるわ」

 

「我が主人は特殊だからな、他の人間に当てはめるのは少し酷だぞ。それではさらばだ、赤毛の少年」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 追いかけようしたらクロから『武装解除』が飛んできて僕の杖を吹き飛ばした

 

「私、弱い人に興味ないの」

 

 クロはスルスルと他の人を抜けていって、やがて姿が見えなくなってしまった……

 

 あんなに綺麗で僕の家族の事を気にしない上に、ジョークにも付き合ってくれたんだ!多分向こうも僕の事はそこまで嫌ってないはず!すぐにまた会えると良いなぁ。

 クロに気に入られる為にももっと強くならなきゃ!

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「あいつなんなのかしら?人間ってあんなに他人の話を聞かないもんなの?」

 

「全てがああな訳ではない。それに普段はあの少年はもう少し会話が出来ると思うぞ」

 

「なにそれ?私達を怖がってたってこと?」

 

「いや、そうではなくてだな。つまりあのしょうねーーー」

 

ドンッ! ドサドサドサ!!

 

「ああ、すまない。本が落ちてしまったな。『ブックアービス 本よ動け』それと、埃を『スコージファイ 清めよ』よし、これで良いな。邪魔したな」

 

「ち、ちょっと待って!今の『ブックアービス 本よ動け』って見たことない呪文ね!?貴方何年生?」

 

「私か?四年生だ」

 

「私とおなじじゃない!?」

 

「そうなのか?まあ、これから同じ教室になったらよろしく頼む。それでは」

 

「待って!貴方のその制服ダームストラングよね?ダームストラングの教科書とそれにボーバトンの教科書は全部読んだの。でも『ブックアービス 本よ動け』なんて呪文は1つも載っていなかったわ!他にも私、結構たくさんの本を読んでいるんだけどそんな呪文は載ってなかったの。つまりそれは、貴方のオリジナル呪文ってことよね?」

 

「この呪文は私ではなく、私に魔法を教えてくれた人が開発したものだ。なんでも自分の移動に便利なそうだ」

 

「その人も相当な読書家って事ね。確かに私も本が多くて苦労するもの。でもわざわざ新しい呪文を開発するなんて、面白い人ね。だってそうでしょう?本来なら『ウィンガーティアム・レビオーサ 浮遊せよ』を使えば一応は本を持たずに済むわ。でも常に杖を向けてなきゃいけないし、本が重ければ重いほど疲れるもの。でもその呪文があれば勝手に本が動いてくれるんですもの、便利よね。その為だけにオリジナル呪文を開発するなんて凄い魔法使いなのね。その呪文、よければ教えてくれないかしら?それから貴方に魔法を教えた人ってダームストラングの先生?その人の授業って私でも受けれるのかしら?」

 

「落ち着け、そう一気に捲し立てるな」

 

「あら、ごめんなさい。癖なの」

 

「うむ、まず言っておくがこの呪文を教える事も、私に呪文を教えた人も紹介する事は出来ぬ」

 

「貴方も三大魔法学校対抗試合を気にしてるの?いい、この大会の目的はお互いを高め合うとなの。それなのに──」

 

「待て、私が拒否した理由はそういった訳ではない。その理由は・・・我がある……いや、その魔法を教えてくれた人は、その……非常にシャイ!そう、シャイなのだ!それこそ、私と目を合わせられないほどに」

 

「そうなの?それは残念ね。そうだわ!貴方が私に呪文を教えてくれればいいじゃない!その代わりに私も何かあれば何でも言ってちょうだい!」

 

「ま、また次に会うことがあればな。さ、行くぞクロ」

 

「やっと終わった?」

 

「待って!貴方、名前は?」

 

「ヨルだ。それではな」

 

「私はハーマイオニーよ!ハーマイオニー・グレンジャーって言うの。また会いましょうね!」

 

 

    ◇◇◇◇◇

 

 

「聞いてくれよハリー、ハーマイオニー!今日僕ったら運命の出会いをしちまったんだ!」

 

「また新しい箒でもでたの?ロン」

 

「箒?そんなの掃除用具入れにでも突っ込んでおけよ!僕が出会ったのは女の人さ!クロって言うんだ。凄え綺麗なんだぜ!」

 

「こないだはフラーが可愛いとか言ってなかった?」

 

「フラーより綺麗なんだよ!それに少し話してみたけどボーバトンなのに全然お高くとまってないし、僕の事を個人として見てくれるんだ」

 

「よくそんな人と話せたわね」

 

「偶々廊下の角でぶつかったんだ!これって運命だと思わない?」

 

「廊下の角といえば、私も今日学校の角でぶつかったのよ!ダームストラングの生徒だったんだけど凄い魔法使いだったわ。三大魔法学校対抗試合はきっとあの人、たしか名前はヨルって言ったかしら。それとビクトール・クラムでしょうね」

 

「おいハーマイオニー、僕の話に割り込んでくるなよ、今はクロの話をしてるんだ。でも、きっとボーバトンの代表もクロに違いないや。目にも止まらぬ速さで『武装解除』を、しかも無言呪文で唱えたんだ!あの速度はハーマイオニーよりも速かったよ」

 

「そう、ということは貴方よりもずっと早いって事ね」

 

「なっ!?これから僕も強くなるんだよ!ハリー、行こう。今から特訓だ」

 

「はあ、わかったよロン。じゃあねハーマイオニー」

 

「ええ、また」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

【???】

「やあ、元気かい?」

 

「ほう、人間の癖に『ゴブリディグック語』を話せるのですかな?」

 

「まあね、今日はお願いがあってきたんだ。貴方の言語で話すのは礼儀だと思ってね」

 

「それは結構。それで何ようですかな?」

 

「君たちの特別な銀の加工方法を教えて欲しい」

 

「それは不可能です。お引取りを!」

 

「まあまあ、待ってよ。代わりにこっちもそれに見合う報酬を用意したよ。魔法使いの杖、欲しくない?」

 

「杖ですと?しかしあれは魔法省が他の生物に行かないように厳重な管理をしている筈では」

 

「それは正式に作られたやつだけだよ。僕が作ったこの『主人を選ばぬ杖』は非公式だし、魔法使いだろうと、小鬼だろうと誰でも使えるよ」

 

「むう・・・」

 

「それにもし魔法が使えるようになったらグリフィンドールがラグヌック1世から盗んだ剣を取り戻せるかもしれないよ?」

 

「それは!なんとも、しかし・・・いえ、わかりました。小鬼の銀の加工方法をお教えしましょう。ただし人間が使えるかどうかは別です」

 

「助かるよ!『主人を選ばぬ杖』は5本用意してある。とりあえず前報酬として2本渡しておくよ。教えてくれた後で残りの3本を渡す、いいね?それからもしそれ以上の働きをしたと僕が思ったら報酬を増してもいい」

 

「わかりました。早速今から取り掛かりますか?」

 

「そっちの都合がよければ僕は構わないよ」

 

「それではこちらへ──」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13 愚かな疑念

途中で非常に分かりづらいと思われる部分があるので後書き解説をに書きました。
ここ理解できねえ、と思ったら後書きを見てください


【必要の部屋】

「やあ、ただいま」

 

「久しぶりだな、我が主人よ。小鬼共に何かされなかったか?」

 

「『やあ、ただいま』じゃないわよ!私達を人間の中に放り込んどいて、帰ってくるのが遅いのよ、まったく」

 

「心配してくれてありがとう、ヨル。彼らと敵対することはなかったよ。愛想がいいとは言えないけどね。クロも、迷惑をかけたね。彼らの技は一朝一夕で身につくようなものじゃないんだよ」

 

 今、2人には言っていないが2人をホグワーツに潜り込ませたのには大きな理由があったのだ。

 もちろん、学校生活を楽しんだり、人間と親しくなって欲しいという思いもあったのだが。

 

「いつも私達の事を考えてくれている我が主人の事を考えるのは当然だ」

 

「まあいいわ。あんたが他の人間より少しはマシって事がわかったしね」

 

 うーん、2人がいい奴すぎて騙してるのが辛い

 

「さて、今日は『炎のゴブレット』が選手を選ぶ日だね。君達も生徒として紛れ込んで見てくるといい」

 

「あんたは来ないの?」

 

「さあ、どうかな?」

 

「また何か企んでいるのか?我が主人よ」

 

「ほんの少しね。今回は後手に回っちゃったから苦肉の策だけど」

 

 しかも上手くいくかは2人次第

 

「ふん!ここ最近、小鬼共以外の事でも随分熱心に何かしてたものね、私達に内緒で」

 

 これはちょっと良くない流れだな・・・そうだ!

 

「君たちの杖を作った事の反動が来ていてね。ちょっと『吸魂呪文』で魂を回復して回っていたのさ」

 

「本当かしら?あっ、杖といえばあんた、一体どこからこの杖の素材採ってきたのよ」

 

 彼女の杖の芯には『ウクライナ・アイアンベリー種』と『ハンガリー・ホーンテール種』の混血ドラゴンの心臓の琴線が使われてる。本体は『ファイアボルト』の一部をむしりとって使った。30cm、左利き用だ。

 

「まあ、偶然にね。部屋の掃除をしてたら出てきたのさ」

 

「あんた、相変わらずジョークのセンスがないわねえ」

 

「そういえば、感謝の言葉を告げていなかったな、我が主人よ。この杖を贈ってくれた事を感謝しよう」

 

「気にしなくていいよね、僕からのお礼さ。普段助けてもらってることへの、ね」

 

 ヨルの杖は芯には極東の、頭が8つある蛇の尻尾の一部を使った。本体には蛇を『地を這う者』にしてしまった理由である『知恵の木』、つまりリンゴの木、それも黄金のリンゴがなる木を使った。24cm、右利き用。

 

「ヨル、そろそろ時間よ。炎のゴブレットの抽選結果を見に行きましょう。ちょっとあんた!帰ってきたら何してたか全部話してもらうからね!」

 

「ああ、もちろんだよ。それじゃあ行ってらっしゃい」

 

 と言っても帰ってくる頃には全て理解してるんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダームストラング代表、上級生枠ビクトール・クラム!下級生枠ヨル・バジリース!」

 

「ボーバトン代表、上級生枠フラー・デラクール!下級生枠クロ・ライナ・アイベリー!」

 

「ホグワーツ代表、上級生枠セドリック・ディゴリー!下級生枠ハリー・ポッター!皆、拍手を!」

 

 あの2人は気がつかなかったみたいだけど、冷静に考えて、いくら3つの魔法学校が混じり合ってるからって先生の目を掻い潜って部外者が潜入できるわけないだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

【過去回想】

「これから色々と世話になるぞ、トム・リドル」

 

「こちらこそ、ゲラート・グリンデルバルド」

 

「さて、この辺で今日は帰るとしよう」

 

「逃すと思う?」

 

「・・・ほお」

 

「君もそこのネズミも今捕まえた方がいいと思わない?君は今老いてるし、杖も本来の『ニワトコの杖』じゃない。僕1人でも君たち2人、簡単に捕まえられる」

 

「なるほど、しかし悪いが『姿くらまし』させてもらおう」

 

「出来ないよ」

 

「なに?」

 

「当たり前だろ?ここは『僕』と僕にとって大事な場所だ。当然『姿くらまし』及び『姿あらわし』、それに『姿くらましキャビネット』の類も含めて僕以外は一切転移出来ないよ。だから君が居るのには本当に驚いたよ、ここまでどうやって来たの?箒?」

 

「・・・」

 

「まあいいや、もう一度聞くよ、今僕が君たち2人を捕まえた方が良くない?」

 

「情報を渡そう」

 

「何の?」

 

「ヴォルデモートの若造に関してだ」

 

「確かにそれは喉から手が出るほど欲しいね」

 

 彼が『原作』と違ってペティグリューを配下にしてない以上、どうやって生き延びてるかも、どこに居るかも全くわからないからね、でも・・・

 

「それはちょっと信用できないよ。僕だって『僕』に関してはこれでもかなり調べてるんだ。でも何の足取りも掴めない。それを出所したての老人が知ってるとは思えないな」

 

「私はあの若造がどこに居るか、何をしているか知っている。何なら『開心術』を使ってもいい」

 

 そう言うと彼は心のほんの一部を僕に見せてきた。驚くべき事に彼は嘘をついていない。

 そして奇妙な事に、僕の『開心術』は世界でも類をみないほど優れている為に、彼が開いていない心の一端を読めたのだが、彼は僕と敵対する意志が薄い?

 

「なるほど嘘はついていないみたいだね、でもそれは君を捕らえてからじっくり聞けばいいと思うんだ。最後に、もう一度聞くよ。今ここで僕が君たち2人を捕まえた方がいいと思わない?」

 

「そうだろうな・・・だが、時間だ」

 

「ん?どういう──ッ!?」

 

 現れたのは『不死鳥』!

 グリンデルバルドとペティグリューを掴むとあっという間に燃えて灰になってしまった。

 

「やられたよ、あれは一切の『移動不可呪文』が効かない『不死鳥の再誕の転移』だ。全く、ダンブルドアとお揃いのペットを飼っていたとはね」

 

『原作』でダンブルドアが魔法省から見事に逃げおおせたあれだ

 

「我が主人よ、強化版『忍びの地図』で追えないのか?」

 

「あれには『探知呪文』の類も効かないんだ。見てごらん、僕の本体(日記)の一部が燃えているだろう?『臭い』を付けようとして逆に一部燃やされてしまったよ」

 

「流石に私達と並ぶ伝説の生き物だけあるわね。あんたの力が及ばないなんて」

 

「やれやれだね。さて、もうここには用はないし、帰ろうか」

 

「切り替えが早いな、我が主人よ」

 

「色々と思うことがあってね、くよくよしていられなくなったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリンデルバルドは本当に『僕』についての情報を持っていた。つまり『僕』は今、何かしらの行動を起こしてグリンデルバルドに接触したんだ。

 『原作』通りに考えれば『炎のゴブレット』の最後に『僕』は復活する。でもここまでかなりの準備をしたし、ハリー達も強くなってるから大丈夫かな、と思ってた。

 

 しかし、最初グリンデルバルドは僕の事を『僕』と勘違いしてる演技をしていた。つまりあらかじめ僕が『僕』と限りなく近いが、別の存在である事を知った上で接触してきた事になる。それはつまりグリンデルバルドに僕の存在を教えた人がいる事になる。

 それは誰か?

 恐らく『僕』つまりヴォルデモートだ。というか僕の存在を『僕』と勘違いせず理解できるのは彼くらいしかいない。何かしらの『魂感知呪文』で僕の存在を知ったのだろうか?

 そして本当にグリンデルバルドと『僕』が繋がっているのだとしたらグリンデルバルドが『僕』の復活に関与してる可能性は非常に高い。となるといくら強くなったハリー達といえど、これは危険すぎる。

 だが、ハリーが出場するかどうかや、グリンデルバルドと『僕』がどういった手で接触してくるか皆目検討がつかない。

 それにハリーとセドリックのペアになった場合、誰とペアになるか知らないが、フラーとクラムじゃ逆立ちしたって勝てやしない。かといって『原作』通りならもっとも危険な『優勝杯(ポートキー)』をハリーに掴ませる訳にはいかない。

 

 だから本当は僕がこっそり忍び込んで先に『優勝杯(ポートキー)』をとって、代わりに『双子の呪文』で作った偽物を置こうかと思ったのだ。

 しかし、『炎のゴブレット』に選ばれてない選手が試合に直接関与するのは無理だった。かといってまさか『トム・リドル』が出場する訳にも、ハリーに『トム・リドルの日記』を持たせる訳にもいかない。

 

 そこで僕の代わりにヨルとクロに出場してもらう事を思いついた。

 ダームストラングの校長であるイゴール・カルカロフは僕がヴォルデモートだといい、少し脅したら簡単にヨルを編入させてくれた。

 ボーバトンの校長、オリーム・マキシームはクロの容姿を大変気に入った為に快く編入を許した。

 そして校長2人には入学手続きを全てしてもらった後に『錯乱の呪文』でヨルとクロは『全生徒に2人を紹介する必要はない』と思い込んでもらった。

 流石に校長2人に『この学校にヨルとクロが最初からいた』と思わさせるのは無理だったために、こんな回りくどい方法をとった。

 

 そんなこんなでヨルとクロはホグワーツに潜入しているつもりだっただろうが、普通に彼らは生徒扱いだったのだ。

 

 何故彼等に事情を全て説明しなかったかと言うと、結局彼等が『炎のゴブレット』に選手として選ばれるかどうかは僕でも手の出しようがなく、万が一にも彼等が選手として選ばれなかったとき、彼等を落ち込ませないためだ。

 というような事をシリウスにも協力してもらいながら行っていたのだ。

 ボーバトンとダームストラングのほとんどの生徒にヨルとクロが、『そこにいて当たり前だ』と思うように『錯乱の呪文』をかけるのは本当に疲れた。 内容は簡単なものでも、物量というのは本当に厄介だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

【現在】

 そして今、僕はシリウスを通して選手選抜結果を見ていた。無事にヨルとクロは選ばれたみたいで一安心、といきたいところなのだが、そうもいかないようだ。クロが猛烈に怒っているのが見える・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとあんた!聞いてないわよ!あんな事。私達生徒扱いになってるじゃない!」

 

「いやあ、それはサプライズで──」

 

「黙りなさい!あんたが何で私達に説明しなかった理由はわかってるわ!大方、選手に選ばれなかった時にプライドが傷つくと思ったからでしょ?なめんじゃないわよ、まったく」

 

「あー、その通りだ。ごめん」

 

「なにが?」

 

「君達の力を信用しなかった事と、勝手に心が弱いと思った事」

 

「ふん!わかってるじゃない。説教しがいのないやつね」

 

「クロ、そこまでにしておけ。我が主人が私達の事を気遣っての事だ」

 

「そんなことわかってるわよ!それでも、信用されてなかった事がムカつくのよ!ヨルは違うの?」

 

「む、確かにそれはある。しかし、我が主人の信用を勝ち取れなかったのか、と悔いる気持ちの方が大きい」

 

「クロ、ヨル・・・ほんっっっっとうにすまない!僕が出来る詫びなら何でもしよう。今すぐに許してくれとは言わない。挽回のチャンスだけでもくれないか?」

 

「ふん!そんな事しなくていいわ」

 

「そ、そうか。ごめん・・・僕の事はいい。だから、せめて今回の試合でハリーを守ってくれないか?」

 

「勘違いしてんじゃないわよ。挽回のチャンスどころか今すぐ許すって意味で言ったのよ。確かに悔しいけど、あんたがここ最近前にもまして慎重になってる事も、苦労してた事も知ってるもの」

 

「私も同じ気持ちだ、我が主人よ。それより頭を上げて、共にこれからの課題について考えよう。勝たなければならんのだろう?」

 

 僕は何てバカだったんだ・・・

 僕とは比べものにならない程にヨルとクロの心は綺麗じゃないか。この2人が『炎のゴブレット』に選ばれない訳がないのに。

 

「ありがとう、クロ、ヨル。自分で言うのも何だけど、クヨクヨするのは終わりだ!課題について考えよう。バグマンに何て言われたか説明してくれるかい?」

 

「やっと調子出てきたじゃない。さあ、サクッと優勝するわよ」

 

 ニヤリと笑いながらクロが言った

 

「それは聞き捨てならんな。優勝するのは私だ。だろう?我が主人よ」

 

 それが当然!という態度でヨルが問いかけてきた

 

「おいおい、セドリックとハリーを忘れるなよ、足元を掬われるかもしれないよ?」

 

 そう言いながらも、僕は2人のうちどちらかが優勝する事を信じて疑わなかった。




中盤のグリンデルバルドとヴォルデモートがグルである説明が分かりづらいと思います
作中で『オリ主』などの言葉を使う事は不可能なためにここでメタ発言を交えながら説明します













他の人間が今のオリ主を見た場合、ただの好青年です。
そしてヴォルデモートの若い頃、つまりトム・リドルを知る人間が見ればオリ主=ヴォルデモートです

しかしグリンデルバルドはオリ主=ヴォルデモートでない事を知っていました。
オリ主はこれをみてオリ主=ヴォルデモートでない事を知っているのはヨルとクロ、それからヴォルデモートだけだと思ったのでグリンデルバルドとヴォルデモートが裏で繋がっていると判断しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14 第一の課題

「ほら言ったろ、ハーマイオニー。クロは代表選手になったじゃないか」

 

「ええそうね、クロ()代表選手になったわね」

 

「何が言いたいんだよ」

 

「貴方、ここ最近クロの話ばっかりしてるけどハリーが心配じゃないの!?」

 

「もちロン心配してるに決まってるだろ!君こそヨルの話をしてたじゃないか」

 

「私は一回だけよ。貴方みたいに何度もベラベラ自慢していないわ。それに、貴方はクロと仲が良いヨルに嫉妬してるだけじゃない」

 

「何だと!わかった、表に出ろよ、ハーマイオニー!」

 

「今なんで談話室に居るか忘れたの?ハリーがもうすぐここに来るのよ」

 

「君をすぐに倒して戻ってくるさ」

 

「出来ると思う?『平凡な勇者』さん」

 

「ケンカはやめてくれよ、2人とも」

 

「「ハリー!」」

 

「それでハグリッドの用事って何だったんだ?まさかこの大事な時期にまた『尻尾爆発スクリュート』の新しい餌の相談じゃないよな」

 

「まだ『尻尾爆発スクリュート』の方がマシだよ。今回の課題は『M.O.M;XXXXX』の生物を複数相手にするんだ」

 

「おったまげえ。ついにダンブルドアはイカれたのか?」

 

「ふざけてる場合じゃないわ、ロン。これってとっても危険な事よ。『M.O.M;XXXXX』の生物ってつまり、バジリスクとかの事よ。学生どころか大人の闇祓いでさえ相手にするのは危険だわ」

 

「第一の試練は『M.O.M;XXXXX』の生き物を出し抜くんだ。ハグリッドはその輸入を任されてて、今日特別に見せてくれたんだ」

 

「まさかまたバジリスクじゃないよな?」

 

「もっと悪いよ。三頭のドラゴンにアラゴグとその家族。それから人間の顔をしててライオンかなんかの身体をしてるデカイ毒針みたいな尻尾を持ってる奴がいたよ」

 

「それってきっとマンティコアだわ。『怪物的な怪物の本』に載ってたの。えーっと、たしかバジリスクにも匹敵する毒を持ってて、とっても速く動くんですって。それと呪文がほとんど効かないの」

 

「ハリー安心しろよ。君は勇敢に戦ったって僕が語り継いでおくよ」

 

「ロン、冗談はやめて」

 

「冗談なもんか!ハリーの話が本当なら闇祓いが1ダースいたって勝てないよ。昔パパが言ってたんだ、暗黒時代に暴れたマンティコアやドラゴンに対処して闇祓いが何十人も死んだって。それで魔法省はダンブルドアに頭を下げて解決してもらったんだ」

 

「貴方何てこと言うのよ!ハリーは今からそいつらと戦うのよ?何でそんな死人が出たことなんて言うのよ、信じられない。貴方って本当にデリカシーがないわよね」

 

「ケンカはやめてくれ!本気で対策を考えないと本当に死んじゃうよ」

 

「ごめんなさい、ハリー。そういえばセドリックにこの事は話したの?」

 

「まだだよ、夜ももう遅いし。明日話そうと思う」

 

「それじゃあ明日セドリックを図書室に呼んでおいて貰えないかしら?みんなで対策をたてましょう」

 

「わかったよ。ロンもそれでいい?・・・ロン?」

 

「なあ、この事知ってるのはハリーだけなんだよな?」

 

「いや、クラムも知ってるよ。それがどうかした?」

 

「クロだよ!クロが死んじゃう」

 

「「はぁ…」」

 

「なんで溜息なんかつくのさ!ハーマイオニーも言ってただろ?『三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)』は各校の親睦を深める事も目的の1つだって!」

 

「あらそう、それじゃあ愛しの(・・・)クロに教えてくるといいわ。私はハリーの命の方が大切だから勉強するから。おやすみ、ハリー」

 

「おやすみ、ハーマイオニー」

 

「なんだよあいつ、不貞腐れちゃって。どう思う?ハリー」

 

「・・・ロン、僕ももう疲れてるから寝るよ。おやすみ、ロン」

 

「そう?僕はもう少し談話室に居るよ。おやすみ、ハリー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、その、本当?ハリー」

 

「嘘だと思うなら試合当日に確かめてみるといいよ。嘘かどうかわかるから」

 

「ああ、いや、そのごめん。疑ったわけじゃないんだ。ただ、その、現実味がなくて」

 

「僕の方こそごめん。ちょっとカリカリしてるんだ。頼りになる親友2人がケンカしっぱなしでね」

 

「そうみたいだね…」

 

「ちょっとロン!いい加減に不貞腐れるのやめてよ!クロがもう課題の内容知ってたからどうだってい言うの?そんなにお話ししたいのなら、どうぞご勝手に!誰も止めやしないわ」

 

「不貞腐れてるわけじゃないよ!ただ、どうやって課題の事知ったのか考えてただけじゃないか」

 

「あんな感じで朝からずっとなんだ。何でも、ロンが気になってる娘、ボーバトンの代表何だけど、課題の事を話そうとしたらもう知ってたみたいで機会を逃したみたいなんだ」

 

「あはは…」

 

「2人とも、仲良く(・・・)してるとこ悪いんだけど、こっちの話に戻ってもらっていい?2人からしたら大したことじゃないかもしれないけど、僕とセドリックにとって命は大事なんだ」

 

「ああ、ごめんなさい、ハリー。私そんなつもりじゃないの」

 

「いや、いいよ。それで3人とも、何か案はある?」

 

「その前にちょっといいか?ジニーとジョージとフレッドの3人も呼ばないか。ジニーは頭がキレるし、ジョージとフレッドは僕達にない発想をもってる」

 

「妹を巻き込むのか!?」

 

「落ち着けよロン。セドリックの言う通りだ。あの3人の力は借りたい」

 

「多分ハリーが声をかけたらすぐだと思うわよ?探しに行きましょうか」

 

「じゃあハーマイオニーがジニー、僕とロンでジョージとフレッドを探してくるからセドリックはここで待っててくれる?」

 

「わかった、その間にドラゴンとマンティコアとアクロマンチュラについての本を集めておくよ」

 

「アクロマンチュラ?」

 

「アラゴグの事よ、ロン。貴方自分が襲われたのに、次会った時のために調べたりしないの?」

 

「悪いけど、僕は君と違ってクモの図鑑を見る趣味はないんだ」

 

「2人ともケンカはやめてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで」「マンティコアと」「ドラゴンと」「アクロマンチュラを」「退治しないといけないわけだ」

 

「2人とも、ふざけないで!ハリーとセドリックの命が掛かってるのよ? はあい、ハリー、セドリック。災難ね」

 

「やあ、ジニー。僕の命を気にかけてくれるのは君だけだよ」

 

「心外だな、愛する妹よ。ふざけてるわけじゃないさ」「ただ、俺たちの英雄にかかれば『M.O.M;XXXXX』なんて『庭小人』みたいなものだと思ってるだけさ」

 

「それじゃあ『庭小人』に対する説明をそろそろ始めていいかしら?」

 

「待って、ハーマイオニー。ロンがいない」

 

「もう知らないわよ、あんな人!」

 

「おい!サボってたみたいに言うなよ。今マンティコアに関する本を持ってきてたんだぞ」

 

「そんなのとっくにセドリックが集めてるわよ!話が進まないからもう勝手に説明するわね」

 

「待って、ハーマイオニー」

 

「貴方までなに!?ジニー」

 

「もう1人紹介したい人、いや、本があるの」

 

「これは・・・昔見た『カンニングノート』!そうか、これに聞けば一発だ」

 

「「「「「『カンニングノート』?」」」」」

 

「ええ、これにはホグワーツでわかることは全て入ってるの。知りたいことがあれば書き込んむだけですぐ答えが返ってくるわ」

 

「僕、そんなの聞いてないぞ!」

 

「何でロンに話さなくちゃならないのよ」

 

「何でって、僕はお前の兄だぞ!」

 

「兄だからなに?ジョージとフレッドはそんなこと聞いてこないわ」

 

「確かに俺たちに妹のノートを盗み見る趣味はないな、妹よ」「弟よ、止める事はしないが妹の私生活を監視しようとするのは良くないぞ」

 

「それで、その『カンニングノート』に聞けばドラゴン達の対処法がわかるの?」

 

「ええ、セドリック。この本の中にその知識があれば、だけど。もっとも、今の所分からなかった事はないわ」

 

「なあジニー、お前の成績が良かったのってその『カンニングノート』のお陰か?」

 

「一年生の時はそうね。でも、彼には二年生以降ほとんど頼っていないわ」

 

「一年生って言ったら『最多得点者』になった時じゃないか!」

 

「兄妹喧嘩は後にしてくれないかしら?今大事なのはハリーとセドリックの命でしょう」

 

「ハーマイオニー、君は『カンニングノート』に対して何とも思わないのか?」

 

「だってそれ試験に持ち込めるわけじゃないじゃない。それに答えが分かるんでも、問題が分からなければ意味がないわ。つまり前もって試験の答えを知るのは不可能だわ。結局、成績が良いのはジニーが勉強したからじゃない」

 

「2人ともケンカはやめてくれ!」

 

「ごめん、ハリー」

 

「それじゃあ質問してくれる、ジニー」

 

「『ドラゴンとマンティコアとアクロマンチュラの対処法を教えてくれるかしら?』」

 

『中々面白い質問をしますね、ジニー。勿論構いませんよ。まずはドラゴンからで良いでしょうか?』

 

「大丈夫よ」

 

「おったまげえ!本当に本が会話してやがる」「ムーニーやパッドフットが作ったもんか?」

 

『ドラゴンには『結膜炎の呪い』が有効とされていますが、私はそうは思いません。何故なら『結膜炎の呪い』を浴びさせられたドラゴンは痛みのあまり酷く暴れるのです。なので逃げるだけなら兎も角、戦ったりする場合はお勧めできません。そこで、私がお勧めしたい戦法は2つあります

1つは単純に数で押す方法です。周りの石を人型に変えて全員で突撃させるのです。その土地の材質にもよりますが、土は火にそこそこの耐性があります。なので『プロテゴ・インセンティ 耐火しろ』を併用していれば基本的にはドラゴンに対して有効です

2つ目は機動力で翻弄することです。ドラゴンはトップスピードは速いですが、体に纏わりつくように飛べばその機動力を封じることができます。後は目や脇といった鱗が薄い部分に呪文を少しずつ打ち込んでいけばいいでしょう』

 

「すごいな… 本当に的確なアドバイスだ。僕とハリーなら箒で戦うのが良さそうだね」

 

「でも、箒の持ち込みは出来ないよ」

 

「あら、ハリー。『呼び寄せ呪文』で呼べばいいじゃない」

 

「冴えてるわね、ジニー!箒が来るまでの時間どうしようかしら?」

 

「俺たちのイタズラグッズをここにいる全員で強化すればいい」「それで『検知不可能拡大呪文』をポケットにかけて持ち込むってわけだ」

 

「『検知不可能拡大呪文』なら私が出来るわ、任せて」

 

「ありがとう、ジョージ、フレッド、ハーマイオニー」

 

「気にしなくていいぜ」「俺たちのイタズラグッズがドラゴンにも効くってアピール出来るからな」

 

「それじゃあ僕は念のために『耐火呪文』と『石人形の呪文』を習得しておくよ」

 

「じゃあハリーが『呼び寄せ呪文』を使えばいいね」

 

「ドラゴンは何とかなりそうだな、次に行こう。次の質問してくれジニー」

 

「仕切らないでよ、ロン『ドラゴンはもう大丈夫だからアクロマンチュラについて説明して貰えるかしら』」

 

『アクロマンチュラは個体としての強さは他の『M.O.M;XXXXX』の生物と比べて一歩劣ります。しかし、彼等は恐ろしい速度で子孫を増やし、全員で狡猾な罠を敷いてきます。対処法は『量には質』です。1匹1匹はそれ程ではないので、親玉の所まで一直線に強引にツッコミます。その後で『マキシマ・アラーニア・エグズメイ 蜘蛛よ滅せ』という呪文を当てて、すぐに逃げます。所謂ヒットandアウェイですね。中々に強力な毒を持っているので対策をとっておくと良いと思います。具体的には『不死鳥の涙薬』が良いと思います。ジニーならば造ることが可能です』

 

「ジニー、貴方『不死鳥の涙薬』を作れるの!?」

 

「ええ、ト…『カンニングノート』が教えてくれたのよ」

 

「後で私にも教えてくれるかしら?となると問題は『マキシマ・アラーニア・エグズメイ 蜘蛛よ滅せ』ね。誰か使えるかしら?」

 

「僕、その呪文なら使えるよ」

 

「本当かいロン!?」

 

「ああ、実はアラゴグに襲われた後で調べたんだ」

 

「・・・ロン、ごめんなさい。ちゃんと対策立ててたのね」

 

「いや、いいのさ。僕もさっきド忘れしてたからね」

 

「ロン…」

 

「あー、2人とも良い雰囲気のとこ悪いんだけど、話進めていい?」

 

「も、もちロンさ!」

 

「早く話の続きをしましゃ…しょう」

 

「ごほん、それじゃあドラゴンの時と同じ戦法でいいね?僕が『呼び寄せ呪文』で箒を呼ぶからセドリックが時間を稼ぐ、ポケットにはイタズラグッズに加えて『不死鳥の涙薬』を入れておく」

 

「アクロマンチュラもどうにかなりそうね、次はマンティコアについて調べましょうか」

 

「『マンティコアについての対処法を教えて』」

 

『マンティコアは顔が人間に見えますが知能は高くありません。どころか、常に血に飢えている獣そのものです。なので『双子の呪い』でダミーを複数作り、ダミー達を血で塗るといいでしょう。そして自分たちは『スコージファイ 清めよ』を使えば間違いなく狙ってきません。最初は尻尾の切断から始めることをお勧めします。バジリスクと違い本物の不死鳥の涙でなくとも、『不死鳥の涙薬』で傷を癒すことができます。しかし、毒の周りは早く、刺されてから20秒ほどで死に至ります』

 

「なあ、結局これってドラゴンに使った戦法でどうにかなるんじゃないか?」

 

「ドラゴンはこの世で最も強い種族よ。その対処法が他の生物にとっても有効だとしても、何の違和感もないわ」

 

「じゃあ早速準備を始めちまうか」「ジニー、手伝えよ」

 

「わかったわ。それじゃあ私達はイタズラグッズと『不死鳥の涙薬』の製作に取り掛かるわね」

 

「材料はどうするんだい?」

 

「新聞に載って以来、たくさん送られてくるから大丈夫よ」

 

「それじゃあ僕達は箒での実戦訓練をするよ」

 

「それじゃあ私とロンは計画を煮詰めるのと、予想外な事が起きた時のできる限りの対処法を考えるわね」

 

「それじゃあ、1週間毎にここで集まってそれぞれの報告をし合おう。ロン、ハーマイオニー、ジニー、フレッド、ジョージ。僕とセドリックのためにありがとう」

 

「僕からも、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

【試合当日】

「やあやあ、皆揃ってるね!それじゃあ早速競技の説明に入るよ。この袋の中にはある危険な生物のミニチュアが入ってる。それぞれ引いてもらった生物と戦いながら、『金の卵』をとってきてもらう。ここまでで何か質問がある人は?・・・よろしい、それでは早速ダームストラングから引いていって貰おうか」

 

「・・・クモだ」

 

「記念すべき1校目、ダームストラングの対戦相手はアクロマンチュラの群れに決定!続いてボーバトン。さ、引いてくれ」

 

「・・・ドラゴンね」

 

「素晴らしい!ボーバトン代表選手の対戦相手は三頭のチャイニーズ・ファイアボール種に決定!さ、最後はホグワーツだ」

 

「・・・マンティコア」

 

「ラストを飾るホグワーツ代表選手の対戦相手はいくつかの『保護呪文』がかけられているマンティコアに決定!これで各校の対戦相手が決まったね。まずはダームストラングからだ。試合会場に入場して、ダンブルドア校長の開会宣言を待ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

「みな、老人の言葉なんぞ興味ないじゃろうから早速開会宣言に移ろうかと思う。大砲が鳴ったらかいーーー」

 

ドンッ!

 

「はあ、フィルチ・・・まあよい、『三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)』開催じゃ!」

 

 




というわけで三大魔法学校対抗試合開催です。
殺意5割増しですね。

リーダ・スキーターが出てこないのはトムが一晩で何とかしました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15 それぞれの信頼

【必要の部屋】

「む、そろそろ第一試合が始まる頃か…… たまにはシリウスを通してじゃなくて、自分で応援しに行こうかな。二人に会いたいしね」

 

 小鬼達の製銀技術を教えてもらった後、僕は必要の部屋にずっと一人で篭っていた。

 本当は『三大魔法学校対抗試合』の第一の試練についてヨルとクロと予想し合ったり、二人の学校生活について聞いてみたりしたかった。しかし、今の僕には遣らねばならない事が3つあった。

 1つは小鬼の製銀技術を用いた銀の剣の製作。といってもこれはもうほとんど終わっている。

 1つは肉体を持つこと。単に僕が肉体を持つことで力が増すこともあるのだが、僕がいつまでも『僕』のホークラックスでいるといざという時に繋がりが出来てしまい、『僕』に手が出せない可能性がある。

 今までは魂でいる事の利便性を加味して肉体を持とうとしなかったが、グリンデルバルドの存在によってそう悠長な事も言ってられなくなった。

 そして最後の1つ、は僕の『動物もどき』としての力を磨く事。『動物もどき』としての力が完成すれば、復活の為にハリーの血を手に入れる事も、肉体を得る儀式も、何もかもが容易くなる。しかし、これが最も難航していた。集めた資料には苦手とするものや反対呪文についての表記は多くあったのだが、その生態などについての研究は驚くほどされていなかった。

 

 その一方で研究の間も一応『三大魔法学校対抗試合』については考えていた。

 シリウスの『M.O.M;XXXXX』の生き物をそれぞれ各校が用意する、という情報があったためにこの必要の部屋にながらある程度は第一の試練についての予想ができた。

 ホグワーツは間違いなくアラゴグ、つまりアクロマンチュラだと予想した。というのも『M.O.M;XXXXX』の生き物は手懐けるのも大変なのだが、元々の数が少なく、その希少性と危険性から魔法省に厳重に管理されているため、いかにダンブルドア校長といえど簡単には連れてこれないのだ。であるなら、わざわざすでに手懐けられているアラゴグを無視して他の『M.O.M;XXXXX』の生き物を取り寄せる必要はない。というのは当然の成り行きだった

 

 次にボーバトンなのだが、これも簡単だった。ボーバトン、というより校長のマダム・マクシームは美しい生き物、特に天馬が好きだ。しかし、天馬の中で最もM.O.Mが高い種類でもXXXXまでしかいない。だから造形が近く、誇り高い生物の代表であるドラゴンを選ぶのは容易に予想がついた。

 問題は種類だったが、これは『チャイニーズ・ファイアーボール種』か『ウクライナ・アイアンベリー種』のどちらかだろうと予想していた。

 理由は前者は元来気性の荒いドラゴンでは唯一、同時に三頭まで同種の存在を許すからだ。

 後者はドラゴンで最強の種族であり、一頭で『チャイニーズ・ファイアーボール種』三頭分くらいの強さはゆうにある。

 

 最後にダームストラングだが、彼等は闇の生き物を好む。

 よって『マンティコア』『キメラ』『バジリスク』が有力だったが、『キメラ』と『バジリスク』を生け捕りにするにはイゴール・カルカロフではちょっと実力的にも権力的にも実力不足だ。

 一応、他の『M.O.M;XXXXX』の生き物全ての対策も考えてあったが幸か不幸か杞憂に終わった。

 

 ここまで色々と考えたのはジニーのためもあるが、ヨルとクロのためだ。

 普通に考えれば『M.O.M;XXXXX』の生物の中でトップクラスの力を誇る二人が負けるはずはない。

 ヨルはバジリスクとしての力をほんの少しでも使えば、特にアラゴグには楽勝だろう。

 クロは単体最強種の中で最も強い個体であり、まだ幼いとはいえドラゴンは元来早熟である。クロはすでにその力の片鱗を既に見せているので、生物としての格の違いを思い知り他の生物は襲ってはこないだろう。

 いや、マンティコアだけは知性のない血に飢えた生き物だから襲ってくるかもしれないが……

 しかし、今回二人には完全に人間としての力だけで戦ってもらう。

 

 『動物もどき』は『生涯を通してその一種類だけ』という限定をかけることで、他の『変身呪文』と違って本質から細部まで、それこそ魂ごと変身することができる。

 故に全力で変身していれば、かのダンブルドア校長や組み分け帽子でさえ気がつく事は出来ない。しかし、裏を返せば全力でなければ欺けないのだ。

 公衆の面前で2人の正体を明かしてしまう事は出来れば避けたい。という訳で今日は2人の人間としての、魔法使いとしての技量が試されるのだ。

 二人にはハリーに勝ち、優勝してもらわねばならない。

 そんな二人の応援くらいは自分で直にしたい。

 

「ムムム〜魂の痕跡はっと……お、ヨルは今から試合か。じゃあクロと一緒に応援しようかな」

 

 そう言って僕は『妖精式姿くらまし』した。

 

 ・・・一人でいると独り言が増えるというのは案外本当かもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、久しぶり」

 

「ひゃあ! ちょっと、急に現れないでよ!ビックリするじゃない」

 

 久しぶりにクロと顔を合わせての会話だ。僕の一部を使った筆談ならしていたけど、やっぱりこうやって直接会って話すのとは訳が違う。

 

「ごめんごめん。ついさっきまで研究してたからね。時間的余裕がなかったんだよ」

 

「あんたも大変ねえ。成果のほどはどうなのよ?」

 

「ぼちぼちかな。『三大魔法学校対抗試合』の決勝戦に間に合うか間に合わないかは半々くらい」

 

「そっか…… じゃあまだ時間がかかるのね。まったく、面白くないわ。もっと頑張りなさいよ」

 

「おいおい、手厳しいな。僕が居なくてもヨルがいるだろ?それに、その分もっと学園生活を楽しむといいよ」

 

「バカ、そういうことじゃないわよ」

 

「そうなの?」

 

「そうよ」

 

「・・・そっか」

 

「「・・・」」

 

 何となく、久しぶりな事もあってか、お互い気恥ずかしくて黙ってしまう。でも何方かと言えば堪え性のないクロは、すぐに沈黙を破った

 

「……ねえ、あんた最近、ずっと一人じゃない。寂しくないの?」

 

「ん、ん〜どうだろ?寝ずにずっと研究してるからね。そんな事考える余裕がないかな。ただ……」

 

「ただ?」

 

「独り言は増えたかな」

 

「フフ、なにそれ」

 

「おいおい、笑う事ないだろ?」

 

「違うのよ、私もなの。私も独り言、多くなったなあって思ってたのよ」

 

「そうなの?」

 

「そうよ」

 

「・・・そっか」

 

「「・・・」」

 

 弱ったな、今日のクロは素直に僕の事を心配してくれたり、一緒に居たいって言ってきたり、どうも調子が狂う。

 

「…なんか喋りなさいよ」

 

「え、困ったなあ。小鬼の好物の話でもするかい?」

 

「あんた相変わらずジョークの才能がないわねえ」

 

「じゃあクロがなんか喋ってよ」

 

「え、困ったわねえ。ルームメイトのフラーの下着の趣味の話がいいかしら?」

 

「クロも人の事言えないよ……」

 

「ちょっと、失礼よ!」

 

「そ、そうかな」

 

「まったく、もう。やっぱりあんたって変だわ。他の人間と全然違うもの」

 

「まあ確かに僕は正確には人間とは言えないかもね」

 

「そういう意味じゃないわよ、バカ……」

 

 ? 偶にクロとはこうやって言葉のすれ違いが起こる。前に一回『じゃあどういう意味なの?』って聞いた事があるが、答えてはくれなかった。

 

「おっと、ヨルの試合が始まるよ。お喋りは一旦止めようか」

 

「そ、そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は特に語る事もなく終わった。ヨルは『悪霊の火』を見事に操りアクロマンチュラをまったく寄せ付けなかった。どころか、火で蛇やドラゴンを作って箒に乗らせたクラムと共にパレードをするほどだ。

 さらに、それに合わせて岩を楽器に変えて音楽をつける余裕さえ見せた。ダームストラングの特徴の一つである炎との荒々しい舞をよく表していると思う。

 本来ならもっと苦戦したのかもしれないが、アクロマンチュラの親玉であるアラゴグはヨルに何か感じ取ったみたいで手出ししてこなかったこともあった。

 

得点は

パーシー・ウィーズリー7点

ルード・バグマン10点

ダンブルドア校長9点

マダム・マクシーム8点

イゴール・カルカロフ10点

計44点となった

 

 

 

 

 

 

「さて、私の番ね」

 

「陰ながら応援してるよ」

 

「堂々と応援しなさいよ」

 

「頑張れ〜!!!」

 

 堂々としろ、というので声を張り上げて応援してみた。

 

「あんた大声で応援するの似合わないわね」

 

「そうかい?まあ、何にしても応援してるよ」

 

「ん」

 

 彼女はそう言って手をヒラヒラ振りながら気軽に歩いて行った。そして入れ替わりとなる形でヨルがこっちへ歩いて来た。

 

「久しぶりだな、我が主人よ」

 

「やあ、ヨル。元気にしてた?」

 

「ふむ、まあクロよりはな」

 

「そうかい?さっき見た限りじゃそんなに変わってなかったけど」

 

「それは今我が主人に会ったからだ」

 

「へえ、確かにそう言われてみると、僕もクロとヨルに会って元気になった気がするよ」

 

「・・・クロの試合が始まるぞ、我が主人よ」

 

 

 クロの試合も語る事は特にない。『天界の水』と言われる『悪霊の火』の水バージョンのような呪文(扱うには常に無垢な思いを抱かなければならない)を使ってあっと言うまにドラゴンを水牢の中に閉じ込めてしまった。

 流石に同じ種族なだけあって弱点、というか体の中の器官をよく把握しており、火を作る火蔵と呼ばれる臓器に直接水を送り込むというえげつない戦法を用いていた。

 最後にフラーが水を凍らせて自分達自身も氷のドレスに着飾るというボーバトンらしい優美なパフォーマンスも魅せた。

得点は

パーシー・ウィーズリー8点

ルード・バグマン10点

ダンブルドア校長9点

マダム・マクシーム10点

イゴール・カルカロフ6点

計43点となった

 

 

 

「お疲れクロ」

 

「よいパフォーマンスであっぞ」

 

「ちょっと、ヨルの所の校長どうなってるわけ?何で私が6点なのよ!」

 

「む、すまない。後で私から少し言っておこう」

 

「まあまあ、マダム・マクシームが10点くれたから良いじゃない。それより、次はハリー達だ。ちゃんと見てなきゃ」

 

 『原作』では第三の試練で『僕』が動き出したが、今となってはそれも怪しいのだ。全ての試練に命の危険が伴う以上、油断はできない。

 

「ふん!そんなにあの小僧が心配なわけ?」

 

「そりゃあね。といっても別に彼が特別な訳じゃないよ。今は偶々彼が最も危険な状態だから様子を見てるけど、基本的には全員を心配しているよ」

 

「我が主人よ、それは・・・」

 

 ヨルは危惧していた。

 何故なら、本当に彼の主人は全員の命を心配しているのだ。最低の裏切り者であるネズミの命さえ、奪おうとはしない。それは『生きていれば次に利用できるから』だとか『他人の命を奪うのは良くないことだから』とかそういった“ありきたりな理由”ではない。

 彼は人間には善と悪、両方の面があり、どちらか片方しか持っていない者はいないと思っている。なれば悪の方面に偏ってしまった者でも善になれることがある。

 そしてそれが実現するかどうかは人間が自分達で決めた法が判断する事であり、自分は関与しないべきだと考えている。

 勿論これはヨルの推測であり、直接語られたわけではない。だが、ヨルはこの推測が大きく外れているとは思っておらず、いつか主人が善の一面を欠片も持たない悪の人間に遭遇してしまった時どうすれば良いのかと考えていた。

 しかし、今はまだ、その事を話すべき時ではない

 

「どうしたんだい、ヨル」

 

「いや、大した事ではない、我が主人よ」

 

 彼はヨルが何か大事な事を言いかけた事に気がついていた。しかし、それを問い詰める事はしなかった。

クロそれは信頼によるものか、または質問の内容が分かっていて触れられたくなかったのか、はたまた全く別の何かか・・・

その答えを知るのは本人だけである。

 

「あ、ほら試合が始まったわよ」

 

「ああ、ごめんごめん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通の人間なら今、この場から逃げ出していたかもしれない。

 なぜなら世界的に注目される試合で、自分達以外の挑戦者は誰が見ても見事としか言いようがない結果を、当然のように出したのだ。

 それに比べて自分達が考えてきた作戦はパフォーマンスも複雑な呪文もない。泥臭い作戦と基本呪文の組み合わせだ。しかし、ハリーとセドリックの瞳には煌々とやる気の炎が満ち溢れていた

 

「セドリック、今からでもパフォーマンスを組み込む?」

 

 ハリーが笑っていった。

 それに対し、セドリックもまた笑みを浮かべた。

 

「そんなものはいらない、僕達はできる事をただやろう」

 

 二人は信じているのだ。

 自分の力を、仲間と練ってきた作戦を、そして何よりお互いを。

 

ビィーーーー!!!

 

 ホイッスル音と共にハリーとセドリックはそれぞれ別方向に駆け出した。

 

「『アクシオ ファイアボルト』!」

 

 ハリーは片手で『呼び寄せ呪文』を使い箒を呼びながらもう一方の手でポケットから『インスタント煙幕』と『ヒューヒュー飛行虫』を取り出して投げつけ、マンティコアの目と耳を遮る。

 

「『ジェミニオ そっくり』!」

 

 セドリックは自分とハリーの人形と『鼻血ヌルヌルヌガー』の模造品を作り、鼻血を常に噴出する囮を作り出す。視覚と聴覚が封じられているマンティコアは血の臭いを頼りに囮に襲いかかった。

 一方でハリー達は箒で上空にいる。マンティコアは地面に突っ立っている囮に夢中で少しも気がつく気配を見せない。

 二人が無言呪文で『プロテゴ・トタラム 万全の守り』を唱えた後、セドリックが金の卵目掛けて一直線に突っ込んでいったその瞬間──

 

「ッ!?」

 

 ハリーの前から突如としてセドリックが消えた。

 

  ハリーは驚愕する一方で、クィディッチの経験からか、冷静に状況を分析していた。そして下した決断は“このまま特攻”であった。

 理由は二つある。

 一つは、ここで引いてしまえば次にチャンスを作る事が難しく、タイムが落ちてしまい他の二校と大きく差がついてしまう事。

 もう一つは信頼。突如消えたセドリックは何らかの妨害にあった事は間違いない。しかし、“あの”セドリックが何の抵抗もなく吹き飛ばされたとは思えない。

 そこに見えずとも、セドリックはハリーのために道を作っている。その確信。

 何がセドリックを引き飛ばしたのかも、セドリックがどうやってハリーを守るのかも、何もわからない。しかしハリーは止まらなかった

 

もし、ハリーがセドリックを信頼していなければ

もし、もっと慎重に行動していれば

もし、マンティコアが今何をしているか確認していれば

もし、マンティコアにかけられた『保護呪文』についてその時考えていれば・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ハリーはこんなにも簡単に金の卵を獲得できなかっただろう

 

 この時、二人は知る由もないがマンティコアにかけられた『保護呪文』はその効果を発揮し、『インスタント煙幕』の効果を打ち消していた。またそれだけでなく、マンティコアは本物のセドリックとハリーがどれであるかもわかっていた。そしてマンティコアが攻撃する際に『不可視呪文』が発動し、透明になったマンティコアがセドリックを吹き飛ばしたのだ。

 攻撃された瞬間、それが不可視となったマンティコアだと気がついたセドリックは、とっさに自身で『鼻血ヌルヌルヌガー』を食べた。それに釣られたマンティコアはハリーに見向きもせず、セドリックに追撃をかけようとしたのだ。

 

 そしてセドリックの決死の陽動をハリーは見事に生かした。

 

得点は

パーシー・ウィーズリー10点

ルード・バグマン10点

ダンブルドア10点

マダム・マクシーム8点

イゴール・カルカロフ4点

計42点となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、新聞にデカデカと選手達の活躍が掲載される隅で、その活躍を打ち消すような悲報がひっそりと掲載されていた。

 もし、『三大魔法学校対抗試合』がなければ、これほどの好成績にならなければ、もっと注目されていただろうそれは、これから起こる不幸の先駆けであった

 

 

 

『ニコラス・フラメル死去 原因は不明』



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16 ダンブルドア校長

【ニコラス・フラメル邸】

 

 僕は今、フラメル邸へと来ていた。

 理由は勿論フラメルさんの死因の調査だ。いかに研究が忙しかろうと流石にこれほどの『原作』とのズレを見過ごすわけにはいかなかった。

 なおかつ、グリンデルバルドが『僕』の復活を手助けしている可能性が出てきたこのタイミングだ。フラメルさんの死は何か裏があるような気がしてならない。

 

 僕は魔法省から派遣されたと思われる気絶させた6人の闇祓いの記憶を抜き取って小瓶に入れた後『外部不可侵呪文』で僕以外の浸入を封じ、『検知不可呪文』で周りからは何の変哲も無い日常が行われているように見せてから家に入った。

 

「これは……酷いな」

 

 家の中は物理的には何も荒らされていないが、物理的でない所は酷い状態だ。

 魂の痕跡からはダミーではなく、ニコラス・フラメルさん本人が死んだ事とその際の心情がはっきり伝わってくる。

 死ぬ間際に最も強く感じている感情は非常に強い驚愕と恐怖。・・・僕はそんな死に方をしたフラメルさんに改めて黙祷を捧げた。

 

 その後調査した魔力の痕跡からは、恐らくダンブルドア校長が施したと思わしき強力な『保護呪文』が完膚なきまでに壊されている形跡が見つかった。

 こんなことが出来るということは、犯人は少なくともマッドアイ・ムーディークラスの魔法使い、あるいは魔女だ。

 そしてフラメルさんの死亡した現場に行くと相当強力な『死の呪文』が使われた形跡があった。恐らく死因はこれだ。

 『死の呪文』ほどの強力な呪文を使えば必ず小さくない痕跡を残す。しかし、フラメルさんを殺した犯人の技量は高く、かなり巧妙に痕跡を隠している。よって、いかに僕と言えどほんの少しのことしか分からない。

 それでも犯人と思わしき魔力の痕跡を辿っていく。そして、ふとある事に気がついた

 

 ──僕はついこの間この魔力を何処かで感じた事がある。

本体(日記)をめくり、記憶を掘り起こしていくと、ある人物が浮かび上がってきた。それは──

 

「シリウス……ブラック…?」

 

 そこまで考えて、一つの仮説が頭に降りてくる。そして、その仮説を裏付けするかのように過去の記憶がフラッシュバックしてくる。

 

ペティグリューの裏切り

シリウスの釈放

リリーの『保護魔法』

ダンブルドア校長の沈黙

バーテミウス・クラウチJr.と人喰い人の襲来

僕にしかない『原作』の知識

そして、グリンデルバルドが何故トムの墓にいたのか?

 

 ──ダンブルドア校長に合わなければならない。今すぐに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

【ホグワーツー大広間】

 普段の大広間も十分に豪華と言えるが、今日のそれはまったくの別格であった。

 世界最高の魔法使いと、少しイかれてるという声もあるが、名高いダンブルドアが施した装飾の数々は見事と言うほかない。

 その美しさに入ってきた生徒達が惚けて立ち止まってしまい、後ろの生徒が前の生徒の背中にぶつかるという現象がそこかしこで起こっていた。

 そんな生徒達は今、普段着るローブと違い煌びやかなドレスを身に纏い、ある者は恥ずかしそうにそわそわと、ある者は自分の美への自信に満ち溢れている。

 纏まりのない彼らだが、誰も彼もが皆、期待に胸を膨らませている事だけは共通していた。

 

今日はクリスマス・ダンスパーティー

いつも机を並べて共に勉強する級友達が優雅なパートナーへと変わる日。

 

 しかし、まだ誰も踊り始める人は居ない。待っているのだ。今日の主賓、メインである各校の代表生達を。

 やがて大広間が鎮まり返り、ドアを開けて代表生達が入ってきた。

 大きな拍手で迎えられるなか、代表生達は国際的なクィディッチ選手のクラムは勿論の事、他の面々も実に堂に入った姿である。男の子は堂々と女の子は優雅に入場した。

 炎のゴブレットの選考基準の1つなのかどうか分からないが、代表生は全員が平均以上の容姿をしている事もあって生徒達は、いや先生達も異様な盛り上がりを見せた。

 しかし、たった1人呆然と立ち尽くす者がいた。

 

 代表生の内の1組、銀の少女のパートナーを見てダンブルドアは驚愕した。その容姿が非常に整っているから、では無い。

 似ている、というよりもそのものなのだ。若き日の『闇の帝王』に。

 

「(トム!? ーーどういう事じゃ?何故、あの姿でここに居る。目的はなんじゃ・・・

 しかし、不味いの。非常に不味い。今ここで暴れられては生徒達が大勢犠牲になる。それは避けねばならん。恐らくじゃが、ミス・アイベリーはトムに着いておる。『闇の印』はつけていないようじゃが、間違いなかろう。それからミス・アイベリーと仲の良いミスター・バジリースも味方とは言いがたい)」

 

 ダンブルドアが考える中、トムと銀の少女はそんなダンブルドアとは裏腹に見事な踊りを披露した。

 全生徒が見惚れる中、踊りは終盤へと向かい、トムは実に自然な動作で杖を抜き銀の火で自身とパートナーを包んだ。

 普段であれば警戒する杖を抜くという行為も、踊りと一体化させる事で違和感なくおこなう事ができる。

 そして銀の火が消えると2人の姿はもうそこにはなかった。いや、実際は紛れもなくそこに居る。しかし、トムが銀の火と共に出した『検知不可呪文』が強力すぎるために、他の人間には見る事が出来ないのだ

 

 たった1人を除いて。

 

「やあ、ダンブルドア校長。ピンク色の良いドレスですね」

 

 にっこりと人の良さそうな笑みを浮かべながら、トムはダンブルドアの元へと歩を進めた。

 

「嬉しい事を言ってくれるのう、トム。久しぶりじゃの。お主こそ、深緑のドレスがよく似合っておる」

 

 対してダンブルドアは口では軽口を言いながらも、警戒の色が顔にありありと浮かんでいた。

 

「久しぶり? いえ、僕達は初対面ですよ。貴方の知る『僕』と僕は非常によく似た別の人物ですよ」

 

「それはどういう事じゃ」

 

「そう警戒しないで下さい。僕は貴方と敵対したくない」

 

「わしもじゃ、わしもじゃよ、トム。しかし、それにしてはこのやり方は認められたものではないの」

 

「……それについては申し訳なく思います。ですが、貴方と2人きりで邪魔させずに話すにはこれしかありませんでした」

 

 そう、ダンブルドアは彼に手が出せないのだ。

 トムとダンブルドアは魔法界で一、二を争う優れた魔法使いだ。こんな人が密集するパーティー会場で2人が戦えば周りの生徒、いや教師も含めてただではすまない。

 故にダンブルドアは、目の前に『闇の帝王』が居るにも関わらず、戦う事も逃げる事も出来ないのだ。

 トム・リドルしても生徒達を人質にするような事はしたくはなかった。

 しかし、ダンブルドアは普段彼でさえ侵入出来ない校長室に篭り、出てくる時も多くの先生に囲まれている。優秀なホグワーツの先生方とダンブルドアを同時に相手取る事はいかにトムといえど、出来なくはないが双方に少なくない損害を与えただろう。

 だから今、マクゴナガルでさえ浮れるクリスマス・ダンスパーティーの真っ最中に大勢の人が集まる大広間の中で2人きりとなったのだ。

 現に今、よく目を凝らせばマクゴナガルあたりであれば僅かな異変に気がつく事も出来たであろうが、生徒達の踊りに気を取られて少しも気がつく素振りを見せない

 

「実に、実に用意周到じゃ。して、何の用じゃ。まさかダンスパーティーに参加したくてこんな事をした訳じゃなかろう」

 

「僕は話をしに来たのです。恐らくですが、貴方と僕の目的は共通している。しかし、お互いがお互いの策を潰し合い、結果として最悪の結果を生み出そうとしています。僕はそれを止めたい」

 

「・・・お主はヴォルデモートではないのかの?」

 

「ええ、貴方の読みは大方当たっています。僕はヴォルデモートではありません。『トム・リドル』です。そして貴方の計画を、意図してはいませんでしたが、潰していたのは僕です」

 

「なるほどのお…… そしてお主の計画を潰したのはわしという事か」

 

「やはり貴方は聡明だ。僕の言いたい事を理解しておられる」

 

「買い被りじゃよ、トム。ワシは何の力もない老ぼれじゃ。ただ少し人より物を知っているだけじゃ。聡明などではない」

 

「……貴方の事については一旦置いておきましょう。ですが、僕は貴方を偉大な魔法使いだと思ってますよ。さて、本題です。貴方はグリンデルバルドと『僕』が手を組んだのを知っていますか?」

 

「グリンデルバルドが脱獄した事は知っておった。ファッジが教えてくれての。じゃが、ヴォルデモートと手を組んでる事は知らなんだ」

 

「しかし予想はしていた、と」

 

「その通りじゃ。次はワシから質問をしていいかの。お主はリリーの『愛』をハリーから取ろうとしたようじゃの」

 

「ええ、『愛』というより『保護呪文』ですが。しかし、貴方はそれを阻止した。あの『保護呪文』を調べましたがあれは何年も効果が続くような魔法じゃない。条件付きとはいえハリーが17歳となるまで『保護呪文』を維持できる様にしたのは貴方だ」

 

 冷静に考えてみれば当然のことだった。

 リリーさんは恐らくハリーを必死で『僕』から守ろうとした。

 その時に『ダーズリー一家を“我が家”と呼ぶ事』などという条件をつける必要と余裕があるだろうか?

 仮にリリーさんが用いた『保護呪文』が元々何らかの条件がなければ発動しなかったとして『叔母の家に住む事』が条件の古代魔法なんてあり得るだろうか?

 そして『ハリーが『アバダケダブラ』から逃げられる状況にも関わらず立ち向かう事』も条件だが、当時赤子であったハリーがこの条件を満たしているとは考えづらい。また、『ダーズリー一家の家を“我が家”と認識する』という条件も満たしているとは思えない。

 つまり、リリーさんがハリーに『保護呪文』を施したあの瞬間は何の条件も無く『保護呪文』を発動する事が出来たのだ。

 そして『僕』の復活を予期したダンブルドア校長が様々な条件を後付けする事で、『保護呪文』の発動期間を無理矢理引き伸ばした、と結論付けた。

 

「そして貴方はその条件をほんの一部変えた。その証拠に今でもハリーの『保護呪文』は残っている」

 

「そこが一番の食い違いじゃな。お主はヴォルデモートを復活させる事にハリーの血だけで無く『保護呪文』が必要な事を知っておった。じゃが、ワシはその事を知らず、むしろ何者かが、今となってはキミとわかるが、『保護呪文』を消そうとしてる事に気がついて逆に『保護呪文』を延長してしもうた」

 

「そして僕は『保護呪文』がまだ健在している事に気が付かず、『ブラック家』にハリーを預けてしまった」

 

「シリウスはハリーと共に嬉々として『ブラック家』を掃除したじゃろうな」

 

「そして自宅の金品を次々と売っていった。僕のアドバイス通り『ファイアボルト』をハリーにプレゼントする為に」

 

「その取引先が、哀れなマンダンガスじゃった、と」

 

「ええ、恐らく彼はホークラックス、つまりスリザリンのロケットも受け取ったのでしょう。そして取り込まれ、いわば第二のクィレルとなったと思われます」

 

「実に簡単じゃったろうな。マンダンガスがハリーの血を手に入れるのは」

 

「父親であるシリウスと仲良くしている取引相手だ。ハリーも簡単に信用したでしょう」

 

「・・・避けられんじゃろうな」

 

「あるいはもうすでに」

 

「もしクィレルに取り付いておった残留思念と、スリザリンのロケットが集まっていたらどうなると予想しておる?」

 

「推測ですが、僕と同じように実体化する位の力を持つでしょう。ですが肉体を持つのには何らかの道具や儀式が必要かと」

 

「早急に確かめねばならんの。ヴォルデモートが『命の水』を手に入れたのか」

 

「フラメルさんを殺したのは恐らくマンダンガスです。シリウスについていた魔力の形跡が同じでした。『命の水』が向こうの手にある可能性は高いかと」

 

「加えてゲラートが加担しておる。儀式の方も完璧じゃろう……」

 

 状況は極めて悪い。

 この2年間、トムはヴォルデモートが復活しない様に尽力してきた。

 一方ダンブルドアはヴォルデモートが復活した際に戦うための力を蓄えてきた。

 双方の微妙なズレは、今や決定的な溝となっていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17 第二の課題

サーラは序盤に『妖精式呪文』を教えてくれた屋敷しもべ妖精です


【必要の部屋】

『検知不可能拡大呪文』を施したバックに入れた研究道具よし

本体(日記)よし

杖よし

お供のサーラ(屋敷しもべ妖精)よし

荷物の確認はしっかりしないとね。

今から僕はホグワーツを離れてちょっとした旅行に出る

 

「これからの事頼んだよ。何かあったらダンブルドア校長を頼ってね」

 

 あの後、ダンブルドア校長と話し合った結果僕が『僕』やグリンデルバルドの跡を追い、ダンブルドア校長がホグワーツを守る事となった。

 僕はネームバリューが無いから隠密に向いてるし、魂や魔力の形跡の感知は誰よりも上手い自信がある。

 逆に防衛には僕の実力を知らない奴がチャンスと思って攻めてくるから向いてない。

 それに流石に校長であるダンブルドア校長が『三大魔法学校対抗試合』の最中に学校を抜け出す訳にもいかないからね。

 

「あんたが居なくても『三大魔法学校対抗試合』優勝くらい簡単よ。だから私達の事は気にしないで、さっさと終わらせてきちゃいなさい」

 

「危険なのはむしろ我が主人の方だ。何かあればすぐに帰ってくるのだぞ」

 

「勿論だよ。君達が優勝するって信じてるし、ピンチの時は遠慮なく頼らせてもらうよ。それじゃあね、2人とも」

 

「ご安心下さい、お嬢様方。リドル様にはこのサーラめが指一本触れさせません。身の回りのお世話も精一杯務めさせていただきます」

 

「ありがとう、サーラ。それじゃあ『姿くらまし』してくれる?」

 

 サーラに敵と戦わせる気は無いし、僕が『姿くらまし』したいんだけど、僕が自分で何かする提案を言うと屋敷しもべ妖精達はこの世の終わりみたいな顔するんだ。

 

「おお、かんしゃのお言葉などもったいです!それではお手を失礼します」

 

 そう言うとサーラが僕の手を右手で掴んで左手でパチンと指を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ハリーSIDE〜

 

 僕達は今、第一の試練の時に頼った『カンニングノート』が使えないかも知れないってジニーから知らせを受けて談話室に集まっていた。

 

「『カンニングノート』が使えないってどういうこと?」

 

「『申し訳ありません、これから少しの間療養に入ります』って文字が出てきた後、何も言わなくなっちゃったの」

 

「本の癖に療養するなんて、生意気だ!」

 

「ロン、怒鳴るのは止めて。どっちにしろ他の代表生達は自力で謎を解く訳だし、条件が一緒になっただけよ。それに、校長達が生徒に解けない問題をだすわけがないわ。頭を使えば絶対に解けるはずよ。みんなで意見を出し合いましょう」

 

 ハーマイオニーの言う通りだ。これは僕等の試練なんだ。僕達の力でやらなくちゃいけない。

 

「……ちょっといいか?」

 

「どうしたのセドリック」

 

「金の卵は今の所手詰まりだ。なら、それ以外の所からアプローチしないか?」

 

 確かにジニーやハーマイオニー、セドリックが金の卵について調べたけど無意味に終わった。

 あの叫び声を『耳栓呪文』で止めて中身を調べてみたり、何か呪文で隠されてるのかと『検知呪文』で調べてみたけどなんの成果もなかった。

 

「僕が思うに次の競技もこの学校の敷地内で行われる。あの卵のヒントはその場所についてか、もしくは何をするかのヒントだと思うんだ」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「凶暴な『M.O.M;XXXXX』の生物と戦う時にはヒントなんてなかったのに、今回はヒントがある。それってつまり単純な力じゃなくて、ヒントが無いと出来ない課題だと思うんだ。例えば空を飛ばなきゃいけなかったり、何かを見つける課題だったりしたら前準備が必要だ」

 

「確かにそうね。もし特殊な環境に対応する場合だったら、例えば空を飛ぶのなら金の卵は空で開けなきゃいけないんじゃ無いかしら?」

 

「何かを見つけるんだったらその近くで金の卵を開けるって事かな?」

 

「そうだと思う。金の卵に何の呪文も掛かってなかったし、金の卵に何かするんじゃなくて金の卵を特定の条件で開く事が正解だと思う」

 

 確かにそうかも知れない。

 ホグワーツで一番優秀なセドリック達が調べて何も無いって事は金の卵自体がヒントじゃなくて、何かのきっかけって事は十分あり得る気がしてきた。

 

「待って、前の試練は『力』だったわ。それなら今回の試練は『知』よ。過去の『三大魔法学校対抗試合』は全部そうだったの。だから私達が気がついて無いだけで、金の卵に何か隠されてるんだと思うの」

 

 ハーマイオニーがピシャリと言った。

 

「ちょっと待ってくれ。何も正攻法で行く必要はないんじゃないか?」「『忍びの地図』と『透明マント』があるんだ。仕掛けを作る先生達を尾行するってのはどうだ?」

 

「ダンブルドア先生がそんな事に気がついてないと思う? きっと徒労に終わるのがオチよ」

 

「……ヒントが、ヒントがどんな状態で示されてると思う?私達は今まで、何か起こしたら金の卵からヒントが浮かび上がったりすると思ってたわ、違う?」

 

 と、ジニー。

 

「それはきっと私のせい。みんな無意識の内に『カンニングノート』みたいにヒントが浮かびあがってくる物だと錯覚してたのよ」

 

「じゃあどういう風に示されてるって言うんだ?」

 

「声よ!私達は最初、あの声が卵を調べさせないための妨害だと思ってた。けど、簡単な『耳栓呪文』で防げるような妨害を1つだけ置いておく意味があるかしら?あの声自体がヒントなのよ!」

 

「特定の条件でしか聞こえない声、『マーミッシュ語』か!」

 

「ホグワーツの裏の湖には『水中人(マーピープル)』が居るわ!それに、ダンブルドア先生はマーミッシュ語が使えるって『魔法界の偉人』に載ってたわ!」

 

「それで、そのマーミッシュ語はどうやったら聞けるの?ポリジュース薬でマーピープルになればいいの?」

 

「違うのよ、ハリー。マーミッシュ語は水中で聞けばいいの」

 

「それじゃあ早速聞いてみようか。『アグアメンディ 水よ』『ウィンガーディアム・レビィオーサ 浮遊せよ』」

 

 セドリックは作り出した水を浮かばせて水のドームを作った。

 その中に金の卵を入れて、セドリックが『泡頭呪文』を使って水のドームに頭を突っ込むと、みんなも同じ様にして水のドームに顔を入れた。

 金の卵を開けてみるとあの叫び声じゃなくて美しい歌声聞こえてきた

 

『探せよ一時間

我らが捉えしもの』

 

 みんなが水のドームから顔を出した瞬間、活発な議論が始まった。

 

「つまり、一時間の間に何かを見つければいいの?」

 

「それを水中人が守ってるわけだ」

 

「それなら『マーミッシュ語』を使って交渉するのかな?」

 

「水中人だけが敵とは限らないよ。ヒュドラや巨大イカ、水龍が居るかもしれない」

 

「それでも『我らが捉えしもの』な訳だし、水中人が関わってるくるのは間違いないわ」

 

「水中では呪文の速度も落ちるし、『泡頭呪文』を使っても早くは動けないし一時間も泳ぎ続けるのは難しいわね」

 

「『我らが捉えしもの』が動き回ったり、巨大な物だった場合は間違いなく大変だね」

 

「捕まえたとして、その後どうすりゃあいいんだ?」「捕まえて終わりか、その後も謎解きか?」

 

「どうやっても一時間であの湖を調べきるのは無理だし水中人はむしろ味方なんじゃないかしら?」

 

「そりゃいい。それで水中人のお友達と一緒に手を繋ぎながら湖を泳ぐ訳だ。水中人が捉えた物を探しに」

 

「そんなに言うなら貴方には何かいい案があるんでしょうね。是非聞かせてもらえるかしら」

 

「2人ともケンカはやめてくれ!」

 

「やる事が多い。第一の課題の時みたいにやる事を分担しよう」

 

「とりあえず、何をすべきか書いていくわね」

 

・マーミッシュ語取得

・水中で機敏に動く方法

・水中でも有用な呪文の取得

・探す物が何か当てる

・探す物の発見方法を見つける

・探す物が生物だったり重い物だったときの対処法を考える

・水の中に住む強い生物を調べる

 

「こんなところかしら?それぞれ好きなものも選んでやりましょう」

 

「僕がマーミッシュ語を勉強するよ」

 

「なら私は水中の生物について調べるわね」

 

「私は水中での『探知呪文』について調べるわ」

 

「なら俺たちは水中での『捕縛呪文』と」「水中での『運搬呪文』を考えとくぜ」

 

「それじゃあ僕はロンと水中での戦闘訓練をするよ」

 

「任せとけよハリー」

 

 こうして、僕達は第二の課題に備えていった。

 

 

 

 

 

 

 

【第二の課題ー当日】

 

 意外なことに、各校代表生は全員水着ではなく、いつも通りのローブ姿で来た。

 ルード・バグマンは女性陣の肌を見れなかった事に少し落胆しながら、第二の試練の開始を告げるホイッスルを鳴らした。

 

 ハリーとセドリックの作戦は『呼び寄せ呪文』で呼び出した箒に跨り、全身を空気の膜で覆って水中を移動した。

 セドリックがマーミッシュ語で水中人に話を聞き、大まかな場所を聞き出すと、ハリーが『人探し呪文』の応用ですぐさまロンを見つけた。

 実はハリー達は『我らが捉えしもの』が人である事を分かっていたのだ。というのもハーマイオニーが物ならば“盗みしもの”と表記するはずであり、“捉えしもの”としたのは人であるとからでは、と考えたのだ。

 だからあらかじめ『人探し呪文』を覚えておいたのだ。

 もし、探すものが物だと思い『物探し呪文』を使っていたらこうも早く見つける事は不可能だったろう。

 2人はロンを救出し、すぐに空中へと飛び出し、そのままゴールした。開始から僅か30分程で課題をクリアしたのだ。

 自身の能力に慢心する事なく、よく課題を予想し、多くの対処法を練った結果だと言えよう。

 

しかし、得点は

パーシー・ウィーズリー10点

ルード・バグマン8点

ダンブルドア6点

マダム・マクシーム7点

イゴール・カルカロフ4点

計35点だった

 

 これは他の代表生達が優秀すぎたためだった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「おおっと、どうした事だ!ホグワーツ代表生達が飛び出していく中、ボーバトン代表生とダームストラング代表生全く動きません!」

 

 驚くべき事に、クロとヨルは湖に入るどころかテーブルと椅子を出し、紅茶を飲み始めたのだ。結局、二校の代表選手が動き出したのは競技開始から5分が経過した頃だった。

 

「む、見つけたぞ。お前の大事な人はミス・グレンジャーでいいのか?」

 

「はい、ヴォくの大事なイとはハーム・オウン・ニニーです」

 

「心得た『悪霊の火』よ。それと『ポータス ポートキー作成』」

 

 そう言ってヨルは『悪霊の火』で作り出した蛇にその辺の石で作ったポートキーを咥えさせ、湖に向かわせた。

 火の蛇は湖の水を蒸発させながら物凄い勢いでハーマイオニーの元へ行き、そのままポートキーでハーマイオニーごと転移してきた。そして火で服を乾かし、身だしなみを整えさせた。

開始から5分32秒、得点は

パーシー・ウィーズリー7点

ルード・バグマン10点

ダンブルドア10点

マダム・マクシーム8点

イゴール・カルカロフ10点

計45点であった

 

 

 

 

 

「貴方の大事な人は妹かしら?魂の波長が似てるわね」

 

「そうデース。きっとあの子、寒いと思いマアス。早く連れ出してあげて下さい」

 

「はいはい、少し待ってなさい『マキシマ・ディフィンド 全て裂けよ』」

 

 そう唱えると湖がパックリと裂け道ができた。その道の終着点にはフラーの妹、ガブリエールがいた。

 

「『フローシオ 凍れ』……さ、早く妹を取ってきなさい」

 

 両サイドの水を凍らせて作った道に水が入らないようにし、さらに地表から5メートルほどの所に氷でできた見事な空中歩道を作った。

 そして空中歩道をフラーが見事なモデル歩きで悠然と歩き、ガブリエールを抱きかかえ、戻ってきた

 

開始から7分20秒。得点は

パーシー・ウィーズリー8点

ルード・バグマン9点

ダンブルドア10点

マダム・マクシーム10点

イゴール・カルカロフ7点

計44点となった

 




ジェニーが持っている日記はトムが用意した偽物です
何を書いても『ただいま療養中』としか出ません


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18 第三の課題

 僕は今、この世界で生を受けた──正確には生き物ではないため生を受けたとは言わないが──場所であるマルフォイ邸にお邪魔していた。

 ここは政治的にも、面積的にも潜伏するには良い場所だ。主人も『死喰い人』だしね。

 最初にここに来たのは、ちょうど運良く僕はこういった金持ちの屋敷の秘密を暴く専門家を知っていた、というか捕らえたからだ。

 

「今から君を出すけど、逃げ出せば僕が君を殺すし、下手な事して見つかれば『死喰い人』が君を殺す。これからの身の振り方に気をつけてね、スキーター」

 

 そう言って僕がビンを開けてコガネムシを出すと、少しの間僕の周りを飛んだ後に屋敷の奥の方へと飛んでいった。

 本当は殺す気は無いし、殺されそうになったら助けてあげるけど脅しは効果抜群だったみたいだ。

 

「サーラ、僕は屋敷の主人の所に行ってくるから君はドビーって名前の屋敷しもべ妖精を連れてきてくれる?ハリー・ポッターの名前を出せば付いてきてくれると思う」

 

「かしこまりました」

 

 さて、僕もやるべき事をやるか。

 そういえば、あの2人は大丈夫かなあ。やりすぎてなきゃいいけど。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「お主達、やりすぎじゃ」

 

 珍しく、ダンブルドアは疲れた表情を浮かべていた。

 それもそのはずである。苦労して作った第二の試練をあっという間に壊された挙句、その後始末を今の今までやっていたのだ。

 

「すまない。今までは我が主人の作戦通りやっていたのでな。イマイチ加減がわからんのだ」

 

 そう、今まではトムがハリー達に確実に勝ち、なおかつやりすぎないギリギリのラインの作戦をたてていたのだ。

 もしそうしていなければ、第一の課題の時も接戦にならず、『M.O.M;XXXXX』の生物をすぐさま殺してダンブルドアに目をつけられていただろう。

 だが今はダンブルドアの目を誤魔化す必要がなければ、トムも居ない。

 

「まずの『ポートキー』の作成は国際魔法戦士条約違反じゃ。ルードやファッジは大笑いしておったが、パーシーは大層怒っておったぞ。それから湖の水が減ったと水中人が苦情を申しておる。わしが水を増やしておいたがの」

 

「ならいいじゃない。あいつの狙い通りハー、ハー……えっと、ハリー?だっけ、を大きく引き離して勝てたんだから」

 

「結果的にはの。あれは派手好きのルードと各校の校長が贔屓したからじゃ」

 

 言いはしないが、ダンブルドアがハリーとセドリックの贔屓をしない事も理由の1つであった。

 

「どっちにしろ、優勝するのは私達よ。あいつらも悪くはないけど、所詮学生の域を出ないわ。第一の課題で私達に肉薄できたのは、推測だけど、あいつが裏から手をまわしたからだと思うわ。ジニー(あの女)に作戦を教えてやってたのよ」

 

 クロの予想は正解だった。

 セドリックはともかく、地力に差のあるハリーのためにトムはハリー達のアピールできる箇所、例えば連携や勇気といった所を押し出せる作戦をたてていた。

 クロやヨルが目立ってしまう事は仕方がない。ならばハリー達も目立つ様な勝ち方をさせて緩和しようとしていたのだ。

 それがない今、確かに課題自体をクリア出来はするが、得点の伸びはイマイチとなってしまったのだ。

 これは仕方のない事でもある。普通、課題を突破するだけで精一杯であり、自分をアピールするなど学生には少し難しい事だった。

 一方でヨルやクロにはいざとなれば本来の姿に戻ればいい、という余裕があるために自身をアピールする余裕があるのだ。

 

「ふむ、そうかもしれんし、そうではないかもしれぬの。時に愛や勇気といったものは想像をはるかに超えた力を発揮する事があるのじゃ。油断せ──」

 

「あんた、なめてんの?」

 

 ダンブルドアのこの何気なく言った、彼自身の教訓から出た言葉に、今まで緩慢だった空気が凍った。

 クロはともかく、ヨルでさえもダンブルドアを睨みつけ、杖に手をかけた。

 

「あたし達の勇気や愛があのガキ共に劣ると思ってるのかしら?産まれた時から、いえ、卵の時から一緒にいる相手に託されてるのよ、負ける訳ないでしょ」

 

「クロ、止めておけ。結果は後からついてくる。今ここで私達が争っても仕方あるまい」

 

「随分信頼しておるようじゃの」

 

 表情こそ穏やかだが、内心ダンブルドアは驚いていた。

 トムから2人の事は仲間だと紹介されていたが、ここまでの信頼関係があるとは思っていなかったのだ。

 ドラゴンもバジリスクも、本来人どころか同種とも交わらない種族なのだ。

 バジリスクはスリザリンの継承者としての力で、ドラゴンは何らかの呪文で従えているのだと思っていた。しかし、蓋を開けてみれば何の拘束魔法もなく、どころか上下関係さえ(ヨルはトムの事を我が主人と呼んではいるが)ないのだ。

 

「ダンブルドアよ、貴様も言葉に気をつけろ。私達が手を組むのは我が主人がそう望むからだ。裏切る事はないが、仲睦まじくなる事もない」

 

「ふむ、わしとしてはお主達とは仲良くしたいものだがの」

 

 これは本心からの言葉だった。

ヨルとクロ、2人と仲良くしたいというのは打算なく感じていたことだ。しかし──

 

「それは無理ね。私、あなたが嫌いよ」

 

 これも本心から出た言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

【大広間】

 グリフィンドールの、いやホグワーツ全体がスリザリンも含めてどんよりとしていた。

 

井の中の蛙大海を知らず

 

 誰が言った言葉だったか、ともかく今この言葉をホグワーツ生が皆意識していた。

 新聞に掲載され、様々著名人が注目すると話題だったホグワーツ。そんなホグワーツ生達は『三大魔法学校対抗試合』が始まるまで自分達が勝つと、心の奥底では思っていた。

 しかし、井の中の蛙大海を知らず、それは自惚れだった。

 スリザリンの純血達よりも美しいフラー・デラクール。

世界最高のシーカーに思えたハリーやセドリックを超えるビクトール・クラム。

 『最高得点者』のセドリック達を歯牙にも掛けないヨルやクロ。期待が大きかっただけに、落胆も大きかった。

 ハリーやセドリックが悪い訳では無い、むしろ学生としては最高レベルだと言えた。それ故、誰もハリー達を責めなかった。責められなかった。しかし、心の奥底では不満を抱いている事も事実だった。

 不満を言いたいのにぶつける相手が居なかった結果、ホグワーツ全体の雰囲気をこれ以上ない程に悪くしていた。

 

 今は朝食の真っ最中なのだが、口を開いているホグワーツ生は少ない。

 ダームストラングが同席しているスリザリンとボーバドンが同席しているレイブンクローだけは賑わっているものの、表面上だけであり、他校の生徒の話に相槌をうっているにすぎない。

 一方、ハッフルパフとグリフィンドールの落ち込み様と言ったらなかった。

 それぞれの期待の星が惨敗したのである。特にハリーとセドリックのその落ち込み様と言ったら、誰もが、彼等の親友でさえも声をかけることが出来なかった。

 そんな中、一人の少年が件の少年の一人、ハリー・ポッターに近づいていった

 

「惨めだな、ポッター」

 

「・・・」

 

「おい、黙りか?いつもの威勢はどうした?」

 

「マルフォイ、どっかいってろよ。ハリーは今──」

 

「いいんだロン。その通りだ、僕は今、惨めだ」

 

「・・・お前は選ばれた」

 

「え?」

 

「僕でも、グレンジャーでも、ウィーズリーの末妹でもない。お前が選ばれた」

 

「・・・」

 

「選ばれた者には選ばれた者の義務がある。純血と同じだ、ポッター」

 

 そう言ってマルフォイは、返事も待たずにスリザリンの席へと戻っていった。さっきの話は全く話の筋が通っていない、彼らしくない言葉であった。

 しかし、それはハリーの胸に響いた。ハリーは心の奥底で自分が非難されることを望んでいたのだ。誰もが責めない、しかし自分に対して不満を抱いているのがわかるという環境はハリーにとって不快であった。

 友人達は、友人故にハリーが一番望んでる言葉をくれなかった。それをくれるのはライバルだけだ。

 

「行こうロン、僕らは他の代表生に劣ってる。彼等より努力しなくちゃ」

 

「・・・ああ」

 

 ハリーは前を向いている。

 だから気がつかない、横にいる友人の表情に。親友を元気付ける役目さえ奪われた彼の心情に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

【第三の課題ー当日】

「この指示、どう考えてもあいつ、最後の課題が迷路で先に優勝杯を見つけることだって分かってたわよね」

 

「我が主人の事だ、その位不思議ではない」

 

 ヨルとクロに残されていった紙には第三の課題での立ち回りが記されていた。

 そこにはハリー達が第三の課題の最中、襲われる可能性があるから2人を見守りながら優勝する事。といった内容の事が書かれていた

 

「迷路の中だったら周りから見れないし、本来の姿に戻ってヨルが2人を石化させちゃえば?」

 

「そのタイミングで敵が来たらどうする?今回の相手は我が主人に近しい力を持っている。石になった2人を守りながら戦うのは中々厳しい」

 

「それもそうね。グリンデルバルドが来たら私達が時間を稼いである間に自力で逃げて貰わなきゃならないものね・・・」

 

「クラムとフラーには頑張ってほしいな」

 

「そうね」

 

 クラムとフラーにはそれぞれポリジュース薬でハリーとセドリックになってもらう手筈だ。

 2人には『開心術』で納得させ、この日のために英語を流暢に話す訓練や、セドリックとハリーになりきる特訓に付き合った。

 本来なら、自分達がポリジュース薬を飲んで囮になろうと思っていた。しかし、人間でいる間は問題ないのだが、本来の姿に戻るとポリジュース薬が悪作用してしまうのだ。

 ポリジュース薬は繊細な薬であり、人間用のために他の人間以外の生物になろうとしたり、人間以外の生物が使う事は良くない結果をもたらす。

 グリンデルバルドが襲ってくるかもしれない状況で本来の姿の力を使えないのは大きな痛手である。

 そこで2人は自身のパートナーを囮として使うことを思いついた。ある程度の期間を共に過ごしたパートナーをあっさり囮にする辺り、やはり2人は根本的な所では人間とは異なる生物らしい。

 この作戦は確かに効率的だが、もしこの場にトムがいたらきっと許してはくれなかっただろう。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「紳士淑女のみなさん。第三の課題、そして、三大魔法学校対抗試合の課題がまもなく始まります! 現在の得点状況をもう一度お知らせしましょう。一位、得点88点──ヨル・バジリース君とビクトール・クラム君! ダームストラング専門学校!」

 

 盛大な拍手が鳴り響いた。

 

「二位、86点──クロ・ライナ・アイベリー嬢とフラー・デラクール嬢、ボーバ卜ン・アカデミー!」

 

 盛大な拍手が、特に男子生徒から鳴り響いた。

 

「そして、三位 、77点──ハリー・ポッター君とセドリック・ディゴリー君。ホグワーツ校!」

 

 そして三位のホグワーツの時に最も大きな拍手と歓声が鳴り響き、禁じられた森の鳥達が飛び去った。

 

「では……ホイッスルが鳴ったら、ヨルとクラム!」

 

 バグマンが言った。

 

「いちーーにーーさんっ!」

 

 バグマンが笛を鳴らした。

 ヨルとクラムはゆっくりと迷路に入っていった。

 

 続いてクロとフラーが優雅に入っていき、最後のハリーとセドリックは急いで迷路へと駆け込んだ。

 ハリー達が迷路の中を駆け回る事数分、何の障害もない事が返ってハリー達を不安にさせた。まるで誰かがハリー達のために、障害を取っ払ってくれているかのように錯覚する。

 そこから数十分後、ハリー達はいとも簡単に優勝杯を見つけた。

 

「セドリック、あれだ!」

 

「走るぞ、ハリー!」

 

 ここまで何の障害もなかったため、2人は体力が有り余っていた。

 元々クィディッチで鍛えられている事もあり、あっという間に優勝杯近くまで走って行った。しかし──

 

「ちょっと待ってくれるかしら?」

 

 優勝杯の隣の茂みからクロと何故かもう1人のセドリックが遮るように飛び出してきた。

 

「クロと、……セドリック?」

 

 ハリーは杖を抜きながら、隣のセドリックと対面しているセドリックとを見比べた

 

「ちょっと事情があるのよ。その優勝杯はポートキーになってて、転移先の奴は貴方を狙ってるの。だから私達が行ってくるから、そこで待っててくれる?」

 

「優勝杯は後でお前達に譲ってやる。今の所は私達に預けてもらおう」

 

 そう言いながらクロと反対方向から、今度はヨルとハリーが出てきた。話の真偽はともかく、4対2、しかも相手は自分達より格上だ。ハリー達は従うしかない

 

「私達が優勝杯を手にした瞬間、炎のゴブレットの強制力は消え、この迷路から逃げれるようになる。そしたらこれを使え。校長室に直通だ」

 

 そう言ってヨルが地面に放ったのは汚い靴の形をしたポートキー。

 

「それじゃあね」

 

 そう言ってクロとヨル、偽物のハリーとセドリックが優勝杯を掴もうとした瞬間──緑の閃光が走った。

 咄嗟にヨルが『盾呪文』で閃光を防ぎ、クロが閃光が来た方へと赤い閃光を放つと、10メートル程進んだところで何かに弾かれ霧散した。

 

「ハリー!騙されるな、そいつらは敵だ。優勝杯を掴め!」

 

 そう言って姿を現したのはシリウス・ブラック。

 ハリーへと説得の言葉を叫びながら、緑の閃光をクロとヨルに放っている。

 

「シリウス、何でここに!?」

 

「ダンブルドアの要請だ。そいつらは『死喰い人』だ。よく考えてみてくれ、学生であんな力を持ってると思うか?私を信じてくれ」

 

「騙されるな!私達こそダンブルドアの要請で動いている。選手ではない者がここにいるのは変だ!」

 

「選手ではないが親子だ!そうだろ、ハリー。優勝杯を取るんだ!」

 

 ハリーはシリウスを心から尊敬している。故に、ヨルとクロ、2人を相手に互角の戦いを見せる相手を本物のシリウスだと思い始めていた。

 

「貴方、本物のシリウスしか知らない質問を何かしなさい!」

 

 クロがシリウスの閃光を弾きながら叫んだ。

 

「シリウス、僕たちが夏休みにマンダンガスに売ったもので一番高かったのはなに!?」

 

 ニンマリとシリウスが笑い、答えた。

 

「スリザリンのロケット」

 

 それを聞くや否や、ハリーはシリウスの事を信じきり、優勝杯に向かって駆け出した。ハリーは気がついていなかったが、その行動の裏にはマルフォイの言葉もあった。

 『選ばれた者の義務』を全うしようと全力を尽くしていたハリーにとって、ヨルがハリーに上から目線で『優勝杯を譲ってやる』と言った事が、ハリーは気に食わなかったのだ。もし、ヨルとクロがもう少しでも人間に興味を持っていれば、結果は変わっていたかもしれない。

そしてハリーを追う形でお互い睨み合っていたセドリック、フラー、クラムが後に着についた。

 ハリーが優勝杯を掴もうとした瞬間、クロは自らの足をドラゴン化させ、尋常じゃない力でポートキーと化している靴をシリウスへと蹴った。

 蹴りの風圧でハリーがよろめき、セドリック、フラー、クラムがハリーに追いつく。そしてその場にいた代表選手6人全員が、同時に優勝杯を手にした。

 優勝杯を掴んだ6人と、靴が腹部に直撃したシリウスは、同時にその場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【???】

 6人が転移された場所は薄暗い館の大広間。

 大広間はかなり広く、ホグワーツの普通教室位はゆうにあった。そして彼らを囲む様に立つ18人の『死喰い人』。

 

「これって!そんな……だって、僕、シリウスが知ってたから!」

 

「どうやら正しかったのはクロ達の様だね」

 

 自分の失態に慌てふためくハリーに比べ、流石歳上と言うべきか、セドリックはいくらか落ち着いていた。

 

『やはり墓地には転移しなかったか……』

 

『でもここがどこかはわからないわね。少なくともイギリス国内みたいだけど、ホグワーツ近辺ではないわね』

 

 あの墓地の存在をこちらが知っている事を、グリンデルバルド達は知っている。故に墓地に転移する事はないとトムはふんでいた。

 ハリー達が付いてきてしまったことは誤算であったがそれ以外は概ね計画通り。しかし、ここからは完全に予想外であった

 

 

「ようこそ、ハリー・ポッターとそのお仲間達。お前達は手を出すな、俺様自ら相手してやる」

 

 上から声が響いた。見ると上階にオペラ座の様に観覧席が設けられていた。

 そこに座るのは、『闇の帝王』ヴォルデモート卿だった

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 クロとヨルの反応は早かった。

 クロはドラゴンとなり、ヴォルデモート達が居たところに火を放った。ヨルはバジリスクとなり、鼻と耳で屋敷の中の構造を把握しようした。

 しかし、クロの火は届かず、ヨルの探知も何らかの呪文に妨害された。

 

「お前達は邪魔だ!下賤なトカゲと古臭い蛇め!」

 

 ヴォルデモートが杖を振るうと、クロの火が空中で静止し、逆にクロ達の方へと向かってきた。これに対してクロは人間へと戻り『天界の水』を放ち相殺した。

 水と火がぶつかり合い、水蒸気となる。出来た水蒸気が空中で集まっていき、馬と馬に乗る霧の騎士となりハリー達を襲った。

 

「『レダクト 粉々』」

 

 セドリックの『粉砕呪文』か霧の騎士に向かうが、ただ通り過ぎて行ってしまう。

 

「どいてなさい!巻き添え喰らうわよ!」

 

 背中だけドラゴン状態のクロが翼を振るい、風で霧の騎士を吹き飛ばす。

 

「私達が防御する、お前達は攻撃しろ!」

 

「俺様の攻撃を防御するだと?面白い、やってみろ!」

 

 ヴォルデモートの杖から緑の閃光が走り、ヨルへと向かう。

 

「『オーキデウス 花よ』『エンゴージオ 肥大化せよ』」

 

 緑の閃光はヨルが生み出した花に当たり、花が一瞬で枯れていく。徐々に花が咲く速度を枯れていく速度が上回り、ヨルに緑の閃光が迫っていく!

 

「ヴォルデモート、お前の狙いは僕だろ!『エクスペリアームス 武器よ去れ』」

 

 ハリーに化けているクラムがヴォルデモートに攻撃し、セドリック達もそれに続いていく。

 

「ハリー・ポッターが2人?ポリジュース薬か。無駄な事を、皆殺しにすれば変わらんと分からないのか!『アバダケダブラ』」

 

 ハリー達4人の力が合わさった紅の閃光と、より大きな緑の閃光がぶつかる。紅と緑が拮抗しているところに、別方向からクロが紅の閃光をヴォルデモートに向かって放った。

 これに対してヴォルデモートは自ら生み出した『飛行魔法』で避け、そのままセドリックの方へと飛んで行く。それに対してヨルが『悪霊の火』を地面から生やし、ヴォルデモートとセドリックの合間に火の壁を作り出す。

 

「闇の帝王と闇の魔術で戦おうと言うのか!」

 

 ヴォルデモートはヨルよりも大きい『悪霊の火』を作り出し、ヨルの火を飲み込みハリー達全員に襲いかかった。

 

「ヨル!私の所にみんなを集めて!」

 

「心得た!『アクシオ 代表選手』!」

 

 ヨルががハリー達を集め、ドラゴンの身体になったクロがハリー達に覆いかぶさり、『悪霊の火』を防いだ。

 しかし、いくら火耐性の高いドラゴンといえど闇の帝王の火を食らってタダでは済まない。背中に大火傷を多いながら人間の姿に戻り、一旦下がる。

 

「クロ、大丈夫なの!?」

 

 セドリックの姿のフラーが叫んだ。クロは一瞬フラーの方を見た後、直ぐに正面に向き直った。その鋭い動きには、火傷による痛みを感じさせない。

 

「このくらい何とも無いわ!それより前!」

 

「人の心配をしてる場合か?『アバダケダブラ』!」

 

 これまでで一番大きな閃光がヴォルデモートの杖から走った。

 

「「「『エクスペリアームス 武器よ去れ』」」」

 

 緑の閃光と紅の閃光が中央で激突する!

 しかし、拮抗はしていない!

 

「ハハハハハハッ!やはり『闇の帝王』に敵うものなど居ない!ハリー・ポッターも、バジリスクもドラゴンも結局!この俺様の前では無力だったのだ!」

 

 そして、緑の閃光が6人を包みこまなかった(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

「やあ、大丈夫かい?」

 

 クロが目の前を見ると、緑の閃光の代わりに見知った一人の男がたっていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18 二人の『闇の帝王』

 クロが火傷の痛みを感じながらも、敵を倒すために前を向くと、右手に杖を、左手に銀とエメラルドの剣を持つ男がいた。

 

「やあ、大丈夫かい?」

 

 そこに居たのは私が一番見てきた顔。

 私がこの世に生を受けて初めてみた顔。

 私が何より信頼する彼の、いつもの顔だ。

 

「……あんた、来るのが遅いのよ」

 

「ごめんごめん。道に迷っちゃってね」

 

「相変わらずジョークが下手ね」

 

 きっと私を落ち着かせるためにしてくれた、いつものやり取り。彼の顔を見ていると、彼は私に微笑んだ。

 ・・・それだけで、背中の火傷の痛みが引いた気がしゃうんだから、自分でも単純すぎて呆れてしまう。

 

「ここから先は僕に任せて、ゆっくり休んで」

 

 命のやり取りではりつめていた緊張が簡単に解れた。彼は私達に嘘を言わないと誓ってくれた。その彼が任せてって言っている。任せない訳がない。信じない訳がない。

 彼の『任せて』の一言だけで、私はこうまで安心できる。

私は敵地のど真ん中で、まるで自分のベッドの中の様な安らぎを感じながら、あっさりと意識を手放した。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

クロどうやらクロは眠ってしまったみたいだ。4人の人間を守りながら『僕』と戦っていたんだ、疲労はピークに達していただろう。

 クロの頭を撫でようと手を伸ばすと──

 

「おっと!」

 

 ハリーから紅い閃光が飛んできた。

 

「トム・リドル!クロから離れろ!」

 

 当たり前のことだけど、彼からしてみれば僕は敵か……

 

「あー、僕は味方なんだけど」

 

「黙れ!もう騙されないぞ!もう一度言う、クロから離れろ!」

 

 よくわからないけど、ハリーは相当僕のことを警戒してる様だ。どうしたもんか……

 僕がそう考えていると、ヨルがハリーに紅い閃光をぶつけて気絶させた。容赦ないな……

 

「我が主人よ、私も共に戦おう。指示をくれ」

 

 ボロボロになりながら、それでも毅然として彼は言った。

 

「ありがとうヨル。でも大丈夫だよ、僕1人で」

 

「だが!……いや、我が主人よ、何も言うまい。貴方がそう言うのなら、大丈夫なのだろう」

 

 ここまで僕を信頼してくれているんだ。その期待に応えよう。

 

「君は、あの時の……」

 

「多分君の想像は大体あってるよ、ディゴリー君。でも、その話は帰ってからしようか」

 

 一拍置いてから、

 

「それじゃあ皆、僕の半径5メートル位に居てね。それより外に出ると命の保証はしかねるよ」

 

 さて、やりますか。

 

 

 

「やあ、初めまして『僕』と死喰い人のみんな」

 

「闇の帝王は全てを知っているぞ、『俺様』よ。お前の力の程もだ。俺様は力ある者には常に寛大だ。俺様と共に来い、そうすれば、後ろのトカゲとガラガラ蛇だけは助けてやろう」

 

「寛大さなら僕の方が上だね。君が大人しく捕まってくれたら、死喰い人は2人と言わず、全員助けてあげるよ」

 

「我が主を愚弄する気か!」

 

 僕がそう挑発すると、何人かの死喰い人が僕に向かって『死の呪文』を唱えてきた。それらを全て小鬼の製銀方法で作った剣で切り伏せる。これは持論だけど、魔法使いの戦いは熱くなったら負けだ。

 

「何人かここに相応しくない人が居るみたいだね『ボーンドエクター 骨よ消えよ』」

 

 杖を高く上げて、紅い閃光を19本放つ。その呪文は『骨消失呪文』。ギルデロイ・ロックハートが一瞬にしてハリーの腕から骨を消し去ったアレを参考にした。

 何人かは防げたけど、大半は当たったみたいだ。

 僕の呪文に当たった14人の魔法使いと魔女が『ぐちょ』という音と共にその場に倒れた、というか畳まれた?ともかく、両腕両足の骨を消したから当分は動けないはずだ。

 呪文を避けたのは『僕』、ベラトリックス、ルシウス、ドロホフ、ロウル。生き残った『僕』と死喰い人が憎しみの籠った瞳で僕を睨みつけてくる。

 ここからが本番だ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「「『アバダケダブラ』!」」

 

 ベラトリックスとルシウス、ドロホフが『死の呪文』をトムに放つ。トムは『死の呪文』の1つを剣で切り、2つを『盾呪文』で防いだ。

 それに加えてロウルが大体500程の剣を作り出し、ヴォルデモートが全ての剣に『悪霊の火』をエンチャントすると音速に近い速度でトムに向かって四方八方から飛ばした。

 後ろに人質がいる以上、トムは避けるわけにはいかない。トムは半透明の半球状のベールを作り出し、その上からもう一層水のベールを作り覆った。

 金色に燃え盛る剣が水のベールを通過すると火は消え、半透明のベールを通過すると粉となった。

 トムが杖を一振りすると粉が集まっていき、やがてドラゴンを形どると、ルシウスとドロホフがいる方へと羽ばたいた。ルシウスとドロホフが急いで逃げ出そうとするも、トムが地面に向かって閃光を放った。すると地面が大理石のまま、水の様にうねり、ヴォルデモートと死喰い人全員の足が沈んでいった。

 それに対し、ヴォルデモートだけが『飛行魔法』で抜け出す。

 

「我が君、お助けを!」

 

 ルシウスが必死に懇願するも、ヴォルデモートはそちらを見ることすらしない。

 

「まずは2人脱落だね」

 

 そのままルシウスとドロホフは粉のドラゴンに飲み込まれ、大理石の海へと沈んだ。

 

「黙りな!雑魚を倒した所で良い気になるんじゃないよ!」

 

 ベラトリックスが『磔の呪文』を放ってくる。拷問好きの彼女は、『死の呪文』よりもこちらの方が慣れている様だ。

 

「そしてこれでまた1人脱落だ」

 

 トムはベラトリックスから飛んでくる緑の閃光を剣で斬ると、目にも留まらぬ速さで杖から紅い閃光を放ち、ベラトリックスを気絶させた。すると──

 

「もう良い。これ以上俺様を失望させるな、僕達よ」

 

 ヴォルデモートがロウルに紅い閃光を放ち、気絶させた。

 

「いかに一部といえど、やはり俺様は俺様だ。他の人間では足元にも及ばない」

 

「そうかな?」

 

「そうだとも、『俺様』よ。闇の帝王は全てを知っている」

 

「知らないさ、大事な事は何1つね。今から僕がそれを証明してあげるよ」

 

「ならば俺様も一つ、証明してやろう。俺様を前にたてついたやつは一人もタダではすまない事を。貴様とハリー・ポッターを殺すことで!」

 

 そう言うや否や膨大な量の『悪霊の火』と『死霊の風』を飛ばした。火は風を食べる事で巨大な火の竜巻となり、トムを襲った。

 トムが杖から出したのはエメラルド色の炎、『妖精王の豪炎』。二つの火はトムとヴォルデモートの中心で激突し、熱風を引き起こす!

 

「君には幸福な記憶がある?無かったら終わりだ『エクスペクト・ディメンタス 吸魂鬼よ来たれ』!」

 

 込めるのは『辛い記憶』。

 ついに完成した、完全な吸魂鬼を呼び出す呪文。合計30程の吸魂鬼がトムの杖から飛び出してくる。

 

「闇の帝王は守護霊などに頼らない!『モーテーション 磁石に変質せよ』」

 

 15体の吸魂鬼をS極に、もう半分の吸魂鬼をN極に変質させる。当然、吸魂鬼はお互いで身動きが取れなくなる。

吸魂鬼の弱点は守護霊だが、他にも同族からは干渉されるのだ。

 そのままヴォルデモートはトムの周りの『空間』も変質させる。強力な磁場が発生し、空間が歪み出す。当然、その中心にいるトムもこのままではタダではすまない。

 トムは『妖精式姿くらまし』で15メートル程上空に逃げると杖から99本の雷撃を放つ。しかし、ヴォルデモートが杖を振るい黒いベールを作り出すとベールに触れた雷撃が石化し、先端から根元へと石化が侵食していった。

 トムは自分の杖から出ている雷撃の根元を剣で切り落とし、再び新たな雷撃を放つ。再び黒いベールに触れ石化していき、さっきの焼き増しとなるが徐々に黒いベールの色が薄くなっていく。

 五度目の雷撃で黒いベールが消え去ると、ヴォルデモートが『飛行魔法』で逃げ出す。一方トムは雷撃の数を増やし、撃ち落とそうとするが、ヴォルデモートも速度を上げていく。

 

「そうやってヒラヒラと逃げるのかい?」

 

「黙れ!『アバダケダブラ』!」

 

 トムの挑発にヴォルデモートが緑の閃光を返すも、トムは銀の剣で容易にそれを切り落とす。

 普通の人間ならヴォルデモートの呪文を切り落とす事は不可能に近いが、トムの非常に高い運動能力と『臭い』による呪文の先読みがそれを可能にする。

 剣による防御に雷撃による光速の攻撃。ヴォルデモートは徐々に追い詰められていった。

 

「があああああああ!!!」

 

 ついに雷撃がヴォルデモートに当たり、左腕を焦がす!

 

「貴様、俺様の腕を、腕を、腕をおおおおぉぉぉ!」

 

 ヴォルデモートが叫びながらあらゆる呪いをやたらめったら放つ。

 一見、ヴォルデモートは狂った様に見えるがこれは演技だ。怒りに身を任せて呪いを放っている様で、実に狡猾。ヴォルデモートの狙いはトムの後ろにいるハリー・ポッター。

 しかし、それを見抜けないトムではない

 

「僕との戦いだろ?他の人を巻き込むなよ。『マキシマ・プロテゴ・ホリビリス 恐ろしき者から万全の守りを』」

 

 トムが防御の為に雷撃をやめるとヴォルデモートも『飛行魔法』を止め、トムの10メートルほど前におりたった。

 

「認めよう、流石『俺様』だ。術の多彩さと使い方はあの老いぼれ以上であろう。しかし、やはり勝つのは俺様だ!」

 

「だろうね。僕は結構色々な呪文を開発したり、学んできたけど、君は『分霊箱』と『許されざる呪文』のみに特化してる。このままいけば君の『死の呪文』を剣で防げなくなって死ぬだろうね」

 

 そう、一見トムが優っている様でその実、ヴォルデモートが優位なのだ。術の多彩さで勝るトムが徐々にダメージを与えられるとはいえ、『死の呪文』はそれを一撃でひっくり返す。

 今は良い、剣での防御があるからだ。しかし、このままいけば体力が枯渇し、必ずミスが出てくる。一回でもミスをしたら、少しでも触れてしまったらそれで負けなのだ。理不尽極まりないが『死の呪文』とはそういう物なのだ。

 

「でもそれは今のままだったら(・・・・)の話。ここからが僕の本気だ」

 

 トムが杖を一振りし、空中に文字を作り出す。

 

I am Lord Voldemort

 

 そしてもう一振りする。

 

Tom Marvolo Riddle

 

「僕はトム・マールヴォロ・リドル。勝負だ“ヴォルデモート”」

 

 これは一種の決別だ。

 これからは『僕』、いや、ヴォルデモートと僕は完全に別々の道を行く。

 そして、それに応える様に、ヴォルデモートも、

 

I am Lord Voldemort

 

 という文字を作り出す。

 

「俺様はヴォルデモート卿、全ての魔法使いの頂点に君臨する王だ。“トム・マールヴォロ・リドル”、貴様を消し去ってやろう」

 

 そう言って、トムとヴォルデモートは仰々しくお辞儀をした。

 

 

 

 

 

 

「『アバダケダブラ』!!!」

 

 ヴォルデモートが放ったのは、この世で最強最悪の呪文である『死の呪文』。闇の帝王の二つ名に相応しく、闇の呪文を極めたヴォルデモートが放つそれは、この世のありとあらゆる物に死をもたらす。

 

 対してトムが放ったのはホグワーツ四年生レベル、しかも戦闘用呪文でも何でもない、『呼び寄せ呪文』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今までの戦いでトムは普通の呪文を使っていた。

 それでも十二分に強力なのだが、彼が生み出した『杖なし呪文』を杖ありで放つという、矛盾にも似た強力な呪文を使っていなかった。

 また、彼が鍛錬の末に会得した『感情の操作』による魔力への『特別な意識』を混入した呪文も、『エクスペクト・ディメンタス』以外使っていない。

 唯一使った『エクスペクト・ディメンタス』にしても込めた感情は一種類のみであり、既存の呪文とそれほど変わりはしなかった。

 普通に呪文を使用してもヴォルデモートやダンブルドアと互角に戦う彼が『杖なし呪文』を、トム限定でニワトコの杖にも匹敵する力を発揮する杖に使い、複数の『特別な意識』を込め呪文を放ったらどうなるか?

 

込めたのは3つの感情。

1つ、己の業を咎める『罪悪感』

1つ、全てを断罪する『正義感』

1つ、あらゆる物を呼び寄せる『好奇心』

 

 トム・リドルは思い出していく。

 この世界を自分の都合によって変革してしまったことへの『罪悪感』を。

 元の世界で『原作』を読んだ時に感じたキャラクターを助けたいという『正義感』を。

 この世界に来て、魔法に触れた時のあの『好奇心』を

 

 本来物質のみ呼び寄せるその呪文は、万物を呼び寄せる究極の呪文へと進化する。

 

 全ての想いを乗せて、トムは静かに、しかしハッキリと呪文を詠唱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『アクシオ 天罰よ来れ』」

 

 

 瞬間、白い雷が降り注いだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20 決着と新たな戦い

「轟音、何てものじゃないな……」

 

 呼び出した白雷があまりに強くて少し驚いてしまった。

 この呪文は文字通り“天罰”を呼び寄せる。

 本来、人が死に、神の御前で罪を全てさらけ出した時に受けるそれは、犯した罪が多ければ多いほど巨大でより白い雷となる。

 流石ヴォルデモートと言うべきか、大きさも白さも普通の人間の比じゃなかったな。

 

「終わったのか!?」

 

 僕が“天罰”を呼び寄せる前に作った、特別製の光と音を遮断するサングラスと耳当てをつけたセドリックが白雷の音に負けじと叫んで聞いてきた。

 その問いは答えるまでもないだろう。

 今、目の前で突如白雷が霧散した事がそのままその問いの答えだ

 

「流石だね。こんなに早く“天罰”の性質に気づいてその上対処法を編み出すなんて」

 

「ぬかせ!俺様を滅せる呪文など無い!」

 

 ヴォルデモートは右足が吹き飛び、腹部に拳ほどの大穴を開けながらも敵意も気力も全く衰えさせずに立ちあがってきた。

 右手に握られた杖の先端には半透明の“もや”がくっ付いてる。恐らくあれは今まで犯してきた罪の記憶だ。

 僕が呼び出した“天罰”は咎人の罪の大きさを対象の記憶で決める。だからヴォルデモートはそれを抜き取ったのだ。

 その結果“天罰”は彼を無罪とみなして霧散した、というところだろう。

 新しく見た呪文を正確に分析し、その対処を素早くする事が、嫌になる位ヴォルデモートの魔法使いとしての優秀さを示している。

 

 彼はその“もや”を小瓶に入れると杖を振るい銀の義足を作り、それからおもむろに自分の左腕を肩から切り落とした。

 

「これは……まずいね」

 

 切り落とされたヴォルデモートの左腕が黒と金、そして血の様な赤色をした火を発し始めている。

 残念ながらあの魔法を僕は知らないけど、闇の帝王が自分の腕を媒介に発動する魔法だ。きっと生易しいものではない。

 けど、ギリギリ僕の方も次に放つ呪文の準備が完了した。

 込める感情は3つ。

 敵対心、守る気持ち、平和への願い。敵と戦う、されど殺しはしない呪文。

 僕とヴォルデモートは同時に攻撃を放った。

 

「『悪霊の火を纏いし左腕槍(インギス・マーリ・スピリチュア)』俺様に楯突くものを焼き貫け!」

 

「『エクスペリアームス 武器よ永遠(とわ)に去れ』!」

 

 ヴォルデモートの火と僕の呪文が中央でぶつかり合って火花を散らす!

 見たところ威力は互角。けど不利なのは僕だ。

 無理に出力を上げすぎて杖がカタカタ揺れ始めてるし、杖から出る衝撃の余波で手から腕へと段々と皮膚が剥がれていってる。このままだと杖も僕の腕も持たない。

 それに比べてヴォルデモートは予め腕を切り離してるから、余波を受けない。

 この差は今は小さいが、杖腕へのダメージは後々響いてくる。

 膠着状態はこっちが不利。だから僕は、苦肉の策として、『臭い』でヴォルデモートの左腕の正確な位置を割り出して、おもいっきり左手で銀の剣を投げた。

 ヴォルデモートの左腕は銀の剣による横からの攻撃で吹き飛んだ。阻むものが無くなった僕の赤い閃光がヴォルデモートに飛んでいく。

 

「『アクシオ 俺様の下僕共』盾となれ!」

 

 驚いた事に、ヴォルデモートは『呼び寄せ呪文』で仲間である死喰い人を呼び出して盾にした。

 強化された僕の『武装解除』は当たると、その時持っていた武器は永遠に持てなくなる効果へと進化してる。それはつまり、自分の今までの相棒()に別れを告げるということだ

 

「仲間を盾にするなんて、『闇の帝王』は優秀な者には寛大になんじゃなかったのかい?」

 

「ああ、寛大だとも、俺様は優秀な者には常に寛大だ。だから最も優秀な存在である俺様を第一に守ったのだ。そう、やはり最も優秀なのは俺様なのだ!そして負けるのはお前だ!お前を守る剣は無くなったぞ、トム。防いでみろ!『アバダケダブラ』!!」

 

 やっぱり、仕方がなかったとはいえ剣を手放したのは痛手だ。防御にも強化呪文を使わなきゃいけない。

 再び杖に込めるのは3つの感情。

 向上心、生存本能、そして人間の三大要求の一つである食欲。

 本来花を咲かせる呪文は、あらゆるエネルギーを喰らい尽くし、無限に成長していく一本の“木”を作り出す呪文へと進化する

 

「『オーキデウス 世界樹よ』僕と友を守り、食欲のままに餌を食え!」

 

 僕とクロ達に纏わりつく様に巨大な木が成長していく。

ヴォルデモートの『死の呪文』が当たったところが黒く変色して枯れていくけど、それを上回る速度で枝を伸ばしいく。

 不死性という一点でこの世のあらゆる者に優るヴォルデモートをこの呪文で殺す事は出来ないが、時間稼ぎにはもってこいの呪文だ。

その間にどんな敵でも確実に滅する僕の最強の呪文を練っていけばいい

 

 込めるの感情は4つ。

 原始的であり最も強い感情。すなわち『喜怒哀楽』

 喜──ジニーとヨル、クロを始めとした色んな人と心を通わせた時の喜び。

 怒──ヨルとクロに馬鹿な思い違いをした僕への怒り。

 哀──『前世』での十数年、常に感じていた哀しみ。

 楽──『魔法の世界』にきてからずっと、今も感じているこの楽しさ。

 

 時間をかけてゆっくり、深く、杖に送っていく。

 

 たっぷり五分ほどかけて杖に感情を込め終わると、世界樹がちょうどヴォルデモートを捕らえていた。

 

「安心していいよ、殺しはしない。ただ、『闇の帝王』ではなくなる」

 

 ヴォルデモートが何か言おうとしているけど、世界樹で口を塞がれて何を言ってるかわからない。

 物凄く睨みつけてるから大体内容はわかるけどね。

 

「それじゃあいくよ、『エクスペクト・パトローナム 守護神よ来れ』」

 

 守護霊ではなく、より上位の存在である守護神を呼び出し、闇を退けるのではなく、滅するものへと進化した呪文。

 呪文を唱えると、僕の杖から小さな光の球がでてくる。

 光の球がそのままふわふわと20センチ程進むと光を強めていった。光は徐々にその存在感を増していって、やがて部屋中全てを眩い光で包み込んでいく。

 光を浴びた者全てが『吸魂鬼のキス』の正反対の効果を受ける呪文。

 すなわち、魂を奪うのではなく満たす。

 善の魂を持ってる人にはほとんど意味の無い呪文だけど、ヴォルデモートの様に魂が悪に染まりきってる人間にとっては最高の効果を発揮する呪文。

 

 バケツに入った濁った水に透明の水を入れ続けると段々と色が薄まって最後には透明な水になる。

 この呪文はそれを魂で行う様なものだ。

 ヴォルデモートはこのままいけば魂が洗い流されて無垢なる者、つまり赤ん坊のような状態になるはずだ。

 ヴォルデモートをその状態まで持っていけば『分霊箱』があっても関係無い。死を迎えるわけじゃ無いからね。

 

 しかし、流石ヴォルデモートだ。普通の人を浄化するなら10秒もあれば充分なんだけど、5分ほど経ってやっと光が収まってきた──

 

「ん?」

 

 奇妙な事に、そこにあったのはスリザリンのロケットのみ。肉体がどこにも無い。あの呪文は肉体には一切傷をつけないんだけど……

 

「つまり、これは……自殺したのか?」

 

 それ以外考えられない。

 僕の呪文で魂が完全に浄化しきる前に、自殺して逃げ出したんだ。

 まったく、プライドの高いヴォルデモートが自殺するとはね。

 

「おっと」

 

 体から力が抜けて崩れ落ちてしまった。これはまずい。

 僕は自分で回復する事が出来ない。

 体力の枯渇で、意思に反して倒れてしまったということは誰かの手を借りないと一生倒れたままだ。

 

「手を貸そう、我が主人よ」

 

ありがとうヨル

 

 体を抱き起こしてくれたヨルにそう言いたいけど、口が動かない。

 いよいよこれは本当にまずい。

 さっきも言ったが僕は自分で回復する事が出来ない。それはなにも、肉体的疲労に限った話じゃない。

 さっきの戦いで使った魔力や魂、感情もそうだ。

 強化呪文を約1時間の間に4つも使った。それはつまり、膨大な魔力と魂、加えて計13種類の感情を消費した事になる。

 このままだと魔力の枯渇で本体(日記)が塵になるか、魂と感情が無くなってセルフ『吸魂鬼のキス』状態になる。

 今回は使わなくて済んだけど『動物もどき(アニメーガス)』の力まで使ってたら、うっかり暴走してそのまま魔法界を滅ぼしてたかもしれないな。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「助けに来たくせにボロボロじゃない。ちょっと待ってなさい『エクスペクト・パトローナム 守護霊よ来れ』」

 

 僕の呪文で『悪霊の火』が浄化されて回復したクロが、僕に『守護霊の呪文』を通して魂を分けて与えてくれた。

 魂と一緒に流れ込んできたのは僕とクロが出会ってからの、何気ない日常。

 これがクロにとっての『最も幸福な記憶』なんだ。そう思うとなんだが嬉しくなった。

 あんな戦いの後だって言うのに、僕は心の底から安らいでしまった。

 恐怖の感情は消費してないはずなのに、その類の感情は全く湧かなかった。

 

「ありがとうヨル、クロ」

 

 今度は口が動いた。

 僕はそのまま二人を抱きしめて、意識を手放し……ちゃダメだ!

 ここから帰らなくちゃいけない!

 

「みんなはここがどこか把握してる?」

 

「しておらん。ヴォルデモートが居なくなっても探知の類も妨害されている」

 

 ヨルが、クロが作り出したベッドに、僕を寝かせながら言った。

 

「この『探知不可呪文』の類はヴォルデモートが施したんじゃないんだ。元々ここにある物なんだよ」

 

「……嫌な予感がするわ」

 

「その予感は正しいよ。ここは──」

 

 

 

 

 

 

「グリンゴッツ銀行の金庫の一つ、その中でも最深部に位置するマルフォイ家の金庫の中だ」

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 僕がここにヴォルデモート達とクロ達が居ることに気がつけたことは運が良かったとしか言いようがない。

 ダンブルドアと知り合ってなかったら、ホグワーツを開けて旅に出なかった。

 サーラと仲良くなってなかったら、ドビーの説得は出来ず、マルフォイ家の金庫についての情報を聞き出せなかった。

 小鬼達と契約を結んでなかったら、この金庫を開ける小鬼達の魔法を使えなかった。

 そう考えると、結局僕がした事って他人の力を借りただけだな……

 ま、まあいいか。今はここから帰ることに専念しよう

 

「ヨル、優勝杯(ポートキー)を取ってくれる?かかってる魔法を小鬼用に変えないとここから抜け出せないんだ」

 

「心得た。『アクシオ 優勝杯』受け取れ、我が主人よ」

 

「ありがとう。セドリック、こっちへ来て。いいかい、今から僕の言うと──」

 

「『ステューピファイ 麻痺せよ』!」

 

 紅い閃光が僕を襲った。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「『ステューピファイ 麻痺せよ』!」

 

 当たった!

 

 僕の心は歓喜していた。

 あの、あのヴォルデモートを倒したんだ!僕が!!

 

「大丈夫だった、セドリック!?」

 

 セドリックが驚愕した顔をしてる。

 あのヴォルデモートにあそこまで近寄られてたんだ。勇敢なセドリックでもこうなるのは当然だ。

 僕はなるべく、心を落ち着かせるように話しかけた

 

「大丈夫だよ、安心して。シリウスに『麻痺呪文』は沢山習ったんだ。3日は目を覚まさないよ」

 

「ハリー……君は、君は!」

 

 セドリックが何か口をパクパクさせて言おうとしてる。

?…… ああ、そういうことか

 

「気絶からすぐに立ち直ったこと?それもシリウスからコツを習ったんだ、ほら」

 

 そう言って僕は口を大きく開けて、血まみれの舌を見せた。

 気絶するときは舌を出しながら気絶して、痛みで目を覚ますように訓練したんだ。

 このためにシリウスに何回舌を治してもらったかわからないよ……

 

「このバカ!貴方ねえ、こいつに何てことしてくれてんのよ!殺すわよ!?」

 

「痛ァッ!なんひぇほとふるんはよ!」

 

 クロが僕のアゴをおもいっきり蹴り上げて来た!

 出してた舌をおもいっきり噛んじゃったじゃないか!

 

「おお、だいじょーぶですかあ?」

 

「はりはとう、ヘラー」

 

「ヴァターしは、フラーです」

 

 ただ1人、フラーが心配してくれた。

 ヴォルデモートを倒したのに1人しか心配してくれないなんて、まったく、どうかしてるよ!

 

「ポッター」

 

「はに、ヒョル」

 

「不愉快だ」

 

 僕がヨルの方を向いたら、紅い閃光が飛んできて、僕の意識はそこで途切れた。

 流石に三度も舌を噛む勇気は、僕にはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

【校長室】

 部屋に一人で佇んでいるのは今世紀最高の魔法使いと名高い、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアその人。

 彼の役目はここに転移してくるはずのハリー・ポッターとセドリック・ディゴリーの保護。しかし──

 

「……遅いの」

 

 そう、遅い。遅すぎるのだ。

 ダンブルドアが迷路の見取り図を見ながらクロとヨル、2人と一緒に考えたところでは10分ほどで迷路を攻略できる。と言うのが双方の見解であった。

 しかし、もう30分以上経っているのにも関わらず、何の音沙汰も、緊急時に上げる予定になっている花火さえないのだ。

 考えられる可能性はヨルとクロ、2人が花火さえ打ち上げられないほどに追い詰められている。

 これは、にわかには考えられないことだ。

 だがダンブルドアにはそれができる人物が3人、いや最近4人なっだが、思い当たりがあった。

 それは自分、ヴォルデモート、最近出会ったトム。そして自分のライバルであった──

 

バチンッ!

 

 ダンブルドアが思考の渦の中にいると、自分が作った(ポートキー)が使われた感触とその証拠の音が響いた。

 自分の心配が杞憂であった事にホッとしつつ、ハリーとセドリックを労おうとして。

 

 

 果たして、目の前に居たのはシリウスだった

 

「シリウス?なぜじゃ…いや、違う。お主は」

 

「久しぶりだな、ダンブルドア」

 

 シリウスが、いや、男がそう言うって瓶に入った薬を飲むと、顔がみるみるうちに変わっていった。

 その顔はダンブルドアがよく見た、もう二度と見る事がないと思っていた、かつての親友にして、最大の敵だった男。

 そして何より、取り返しのつかない、忌まわしき過去の象徴。

 

「ゲラート……」

 

「決着だ、決着をつけよう、ダンブルドア。私達の戦いに、アリアナに、過去に、全てに」

 

 

 ここにまた一つ。

 魔法界の歴史を変える戦いが起きようとしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21 別れ

 あの日、あの後、ヨルが『エネフベート 活きよ』であのトムって人を目覚めさせて、優勝杯(ポートキー)を小鬼仕様に変えてくれた。

 その後あの人は『呼び寄せ呪文』で僕達選手と優勝杯(ポートキー)を一ヶ所に呼び寄せて、何故か僕達だけを転移させた。

 

 転移された先で、僕達選手全員が優勝杯を掴んでた事に皆は一瞬驚いたけど、すぐにオーケストラ隊が音楽を流して、それに追従する様に歓声が響いた。

 その後直ぐに父さんやスプライト先生、各校の校長先生達が労いとお祝いの為に集まってきてくれた。

 けど僕は『三大魔法学校対抗試合』の事なんてもうどうでも良かった。

 

『あそこで起きた事を伝えなきゃいけない』

 

 そう思ったけど、何て言っていいか分からなかった。

 

『ヴォルデモートが復活した!けどトムって人が再び滅ぼしてくれた!でもすんでのところで自殺して逃げたから気をつけないと!』

 

 そんな訳の分からないこと、父さんでさえ信じてくれない自信があった。

 せめて、せめてトムが僕達と一緒に居てくれれば……

 そこまで考えて僕は天啓を得た。ダンブルドア校長だ。より正確に言うならダンブルドア校長の持つ『憂いの篩』だ!『ホグワーツの歴史』に書いてあったアレを使えば全てが説明できる。

 だから僕は叫んだんだ。

 

『ダンブルドア校長はどこですか!?』

 

 一番に反応したのはマクゴナガル先生だった。

 ダンブルドア校長なら真っ先に僕達を労おうとする筈なのに、一向に姿を見せてくれない。みんながその事に気付き始めた。

 直ぐにでも探しに行きたかったけど、僕達はインタビューを受けるために留まる様に言われて、スネイプ先生を始めとした何人かの人達がダンブルドア校長を探しに行った。

 でも、待てども待てどもダンブルドア校長は見つからなかった。

 最後にいた筈の校長室はもぬけの殻。争った形跡もなく、忽然と姿を消したらしい。

 その上間の悪い事に、僕達がインタビューを受けてる間にハリーが起きて、

 

『ヴォルデモートが復活した!』

 

 と叫んでしまった。

 その場にいた闇祓いの人達が急いでハリーに『シレンシオ 黙れ』をかけてひきづっていった。

 お祝いは一時中断になって、後日また優勝式典をする事になった。

 

 その時はみんなハリーの言葉を本気にしてなかった。

 だけど、後日ダンブルドア校長が失踪した事が闇祓いの中で知られると、段々信じ始める人が増えてきたって父さんが言ってた。

 それに、闇祓いに口止めされた筈のハリーはこっそりとヴォルデモートの復活をみんなに話してる様だった。

 その事でハーマイオニーと喧嘩して、泣かせているのを見てしまった。

 

 悪い事はこれだけじゃなかった。

 ヨルとクロも忽然と姿を消してしまったんだ。

 2人とはあまり話した事はなかった。でも、同じ課題に命懸けで挑んで、最後には一緒に『例のあの人』に立ち向かった彼らに、僕は親しみを感じてた。

 ダームストラングとボーバトンの校長に行方を聞いても、

 

『そんな生徒は知らない』

 

 の一点張りだった。

 しかも、その事を聞いた2日後に今度はカルカロフ校長が失踪した。

 ヨルとクロという2人のライバル。

 偉大な魔法使いであるカルカロフ校長とダンブルドア校長。

 『例のあの人』を退けて、僕らの命を助けてくれたトム。

あの日から3日も経たないうちに、僕は、魔法界は沢山の人を失った。

 『三大魔法学校対抗試合』の優勝は結局、ダームストラングとボーバドンのクラムとフラーが強く拒んだ事と、各校の選手の片割れが居なくなったという理由でホグワーツになった。

 ハリーの要望で懸賞金をハリーが、僕が優勝杯を受け取った。

 でも輝かしい優勝杯も、華かな優勝式典も、全てがくすんで見えてしょうがなかった。

 

 結局、終業式になってもダンブルドア校長は見つからなかった。

 代理でマクゴナガル先生が粛々と挨拶をして、終業式は終わった。

 来年度、マクゴナガル先生が校長代理になってホグワーツを開ける事を話した。表向きにはダンブルドア校長は魔術の研究のために一時イギリスをたった扱いにするみたいだ。

 それから、ルーピン先生が今年でホグワーツを去る事が知らされた。

 理由は明かしてくれなかったけど、どうしようもない事情があるらしい。

 結局、『例のあの人』がどうしてあそこにいたのか。あの後死喰い人やトム達はどうなったのか。何もわからないまま、僕の6年目のホグワーツは終わりを告げた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 綺麗な形とは言えないけど、ハリー達が優勝した。

 とっても喜ばしい事だと思う。

 私達みんなで考えた作戦で見事にボーバドンとダームストラングに勝った事はとっても嬉しい。

 でも、良い事ばかりじゃなかった。

 ダンブルドア校長とルーピン先生が退職なさる事がマクゴナガル先生から説明された。

 ホグワーツ生、特にグリフィンドールの人達はとっても残念がってた。

 それからボーバドンとダームストラングの人達とお別れをした。一部の仲良くなったボーバドン生の人達とハグをして、『煙突ネットワーク』のアドレスを交換した。

 でも、私はちょっと上の空だった

 

『申し訳ありません、ジニー。私は姿をくらまします。でも、心配しないで下さい。いずれすぐに会えます』

 

 だって、トムがそう書き残しを残して消えたから。

 奇妙な話だと思う。本が書き残しを残すなんて。それに、どうやって書いたんだろう?

 結局、トムは私に何も教えてくれなかった。

 トムがただの本じゃない事は、本当は『カンニングノート』じゃない事は気づいてた。

 勉強してきたから分かる。本の中にあんなに豊かな感情と知識を詰め込むなんて、普通じゃ出来ない。トムにはきっと、何かしらの大きな秘密があった。きっとあの栞やブックカバーもその一環。

 だから私は努力した。トムに並べば、そうすればトムは私に秘密を打ち明けてくれると信じてた。

 でも、もうその機会は無いかもしれない。

 

 私は、私はどうしようもなく、トムが恋しかった。

 私のホグワーツに来てから初めての友達で、一番の友達で、目標で、先生。

 

 

 

……早く会いたいよ、トム。

『いずれすぐに』っていつなの?

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 まったく、やれやれだ。本当に。

 折角ヴォルデモートを倒したのに、むしろやる事が増えてしまった。

 例えば、ヴォルデモートがいつ、どうやって復活したのかを調べる事。

 例えば、何人かのヴォルデモートが逃げる際に連れて行けなかった死喰い人達の処理。

 例えば、ヴォルデモートの新たな潜伏先の探索。

 そして何より……

 

 僕の目の前にあるのは一枚の手紙。その手紙の最後はこう締めくくられていた──

 

 

 

 

 

 

頼んだ

 

          愛を込めて、ダンブルドアより』

 

 

 準備が必要だ。多くの準備が。

 来年度、僕にとってはこれまでに無い程に大きな意味を持った年になる。

 大きな、とても大きな責任の伴う仕事、何百人という人達の将来に関わる仕事をする。ヨルとクロ、2人にとっても大事な事だ。

 そしてこれが良い結果になるか悪い結果になるか、すべては僕にかかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 ここは、とある島国。

 国土は小さく、資本が乏しいながらも、技術と勤勉さによって他の大国と渡り合ってきた黄金の国。

 

 そんな技術大国の中でも、最も技術が高い場所の1つ。すなわち、国立医大の大学病院。その一室で、一人の患者が眠っていた。

 彼が眠り始めてからもう何年もの月日が経った。

それでも、未だに彼の恋人や友人達は少なくない頻度で彼の病室を訪れていた。

 花瓶に新しい花を活けたり、病室のささいなレイアウトを変えたり、手を握って寄り添ったり、自分の生活を語って聞かせたり。

 身体的にはもう何の問題もないはずの彼を起こそうと、恋人や友人達は自分の時間やお小遣いを犠牲にして様々な事を試していた。

 彼の両親もまた、忙しさから病室には中々訪れないものの、大金を惜しげも無く払い、彼に最高の治療を施していた。

 

 それでも彼は、目を覚まさない……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4章─『闇の帝王』と不死鳥の騎士団
22 闇の魔術に対する防衛術


 ブラック家でシリウスと闇祓い達に守られているハリーが、ダドリーと共にマグノリア・クレセント通りとウィステリア・ウォークを結ぶ路地で吸魂鬼に襲われて魔法を使う、なんて事はなく、魔法界は表向き、穏やかな日々を送っていた。

 

 だが、魔法省内部では大荒れの議論が続いていた。議論の内容はダンブルドア失踪の謎についてだ。

 魔法省大臣ファッジ率いる静観派と、闇祓い局局長スクリムジョール率いる過激派の争いは、双方が魔法界の為を心から考えているためか、激化の一途をたどった。

 ファッジは、自分を救ってくれたダンブルドアの聡明さと強大さを心から信じており、下手に我々が手を出すべきではないと主張していた。彼が彼なりに自分の無能さと向き合った結果といえる。

 対してスクリムジョールや闇祓い達はダンブルドアを認めてはいるものの、やはり人間である以上失敗する可能性もある。だから我々がその補助を強引にでもすべきだ、という考えを持っていた。

 ダンブルドアを支持する人が多い中、民衆の為にダンブルドアを否定した彼は本当の意味での勇敢さを持っていると言える。

 

 そんな議論が続く中、アーサー・ウィーズリーをはじめとした中立派が動きを見せた。

 それはファッジを、つまり静観派を支持する事であった。加えて、闇祓い局で大きな力を持っていたキングズリー・シャックルボルト、期待の星ニンファドーラ・トンクス等が静観派についた事が決め手となり、魔法省の方針は静観となった。

 この裏には『不死鳥の騎士団』という暗黒時代に活躍した秘密組織が大きく関わっている。

 それを見抜けないスクリムジョールではなかったが、彼らの間でどのような取り決めがなされたのか、それはまだ分かっていなかった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 恒例となっている新一年生の組み分けが終わり、例年通り校長先生の開校の言葉が始まった。

 もっとも、話す人は例年通りではないのだが。

 

「一年生の皆さん、まずは入学おめでとうございます。ですが、どの寮に選ばれたのであれ、素晴らしい魔法使いになるためには努力しなくてはなりません、決して努力を怠らない事です。これは一年生だけの話ではありませんよ」

 

 マクゴナガルらしい厳しくも、生徒を思った言葉だ。

 

「幾つかお知らせする事があります。一年生の皆さん、禁断の森には入ってはなりません。それから、教室を移動する際、廊下での魔法は禁止です。それと在校生の皆さん、私は校長としての職務をするためグリフィンドール寮の寮監を辞めます」

 

 これには生徒達が、特にグリフィンドール生達が不満を告げた。特に普段から叱られているジョージとフレッドが一番声をあげて抗議していた。

 普段厳しい彼女だが、いや、厳しいからこそマクゴナガルは生徒達から人気なのだ。

 

「お静かに!」

 

 マクゴナガルは口では怒りながらも、生徒の言葉に内心非常に喜んでいた。

 それと同時に、改めて寮監を辞めることを強く残念がった。しかし彼女は今、ホグワーツ魔法魔術学校の校長なのだ。私情を優先するわけにはいかない。

 

「今から3人、紹介する人物がいます。2人は転校生、1人は新しい『闇の魔術に対する防衛術』の先生であり、これからのグリフィンドールの寮監です。いいですね、みなさん。それでは、入ってきて下さい」

 

 ホグワーツの荘厳な扉がその外見に相応しい壮大な音を立てて開いた。

 出てきた3人のうち、2人はホグワーツ生の中では知らぬ者が居ないほど有名な人間だ。すなわち、ヨル・バジリースとクロ・ライナ・アイベリー。

 当然、あの2人が転校してくる事は多くの生徒を驚かせた。しかし、ホグワーツ生がそれ以上に驚くことに、あの強大でプライドの高いヨルとクロが1人の男に追従していたのだ。

 2人の前を歩くのは、非常にハンサムな男。

 

「やあ、ホグワーツ魔法魔術学校の生徒さん達。これから『闇の魔術に対する防衛術』兼、グリフィンドールの寮監を勤めさせていただく、『トム・マールヴォロ・リドル』です」

 

 男は──トムは人を虜にする様な笑顔を浮かべて言った

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 大きな歓声と拍手で迎えられる中、『開心術』で生徒達の心を読んでみる。

 うーん、女生徒達には中々受けがいいけど、男子生徒にはあまり良い印象を持たれてないなあ。

 どうもロックハートと僕を重ねてるみたいだ。

 まあこれは後々改善していけばいいだろう。僕はこの日のためにかなり授業内容を練ってきた。生徒達を満足させる自信がある。

 

 それより、僕に特別な意識を向けている5人に注目するべきだ。

 

 まず1人目、ハリーは僕を相当警戒してる。

 一応、シリウスに僕の事に関して説明して貰ったんだけどな……

 ロン、ハーマイオニーの2人は僕を少しだけ警戒してる。ハリーから僕について話しを聞いてたみたいだ。でも、2人ともハリーほどの激情は持ってない。

 アーサーからも僕の事は聞いてて、ハリーとどっちの話を信じていいのか迷ってる感じだ。

 セドリックは僕が『カンニングノート』であり、『決闘クラブ』で戦った相手であり、命を救った相手である、と思ってる。基本的には尊敬と感謝かな?

 それから最後にジニー。

 僕に対して一際大きな感情を持ってる。でも、この感情を詳しく見てはダメだ。そんな気がする。

 

 僕はこれから教師になる。

 だから、これからは『開心術』を生徒に使わない様にしよう。

 

 それより今はヨルとクロの組み分けだ。2人ともグリフィンドールだと良いなあ。

 

 

 

 

 結局、クロは5分ほど組み分け帽子と喧嘩した後にグリフィンドールになり、

 ヨルは20分ほど組み分け帽子と談笑した後にグリフィンドールになった。2人は旧知の仲だったらしい。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 最初の授業はハリー達の学年だ。

 それもグリフィンドールとスリザリンの合同授業。

 最初から犬猿の仲の寮の合同授業なんて、僕以外だったら心が折れてるかもしれないな。

 

「やあ、グリフィンドール生とスリザリン生のみんな」

 

 生徒達がまばらに返事を返してくる。最初ならこんなものだろう。

 

「羊皮紙と羽ペンは置いていいよ。さて、今から『闇の魔術に対する防衛術』の授業をする訳だけど、ここでは絶対にケンカをしてはならない」

 

 形だけの返事をする生徒が数人いるくらいで、みんな全く従う気はない。けど、これは織り込み済みだ。

 

「といっても君たちはすぐには言うことを聞かないだろう。だから順を追って説明するね。まず、闇の魔術と普通の魔法の違いが分かる人はいるかな?」

 

 ヨルとクロ、ハーマイオニーを中心に10人ほどの手があげる。若干スリザリン生が多いかな。

 

「それじゃあグレンジャー、説明してくれるかな?」

 

 とりあえずハーマイオニーを当ててみた。少しヨルとクロが不満そうな顔をしてる。

 

「はい。闇の魔術とは魔法省が定めた呪文の総称であり、基本的には取り返しのつかない損傷を与えるものや、通常の精神では行えない呪文を指すものです」

 

「よく勉強してるね。けど、少し違う」

 

 ハーマイオニーが少しムッとした顔をして反論してきた。

 

「でも先生。教科書にそう書いてあります」

 

「その記述を正しいとするなら、いくつもの例外が出てきてしまうんだよ。グレンジャー、君は『呼び寄せ呪文』は闇の魔術だと思うかい?」

 

「いいえ、思いません」

 

 ハーマイオニーがぴしゃりと言った。

 それに対して僕は杖を取り出して、ハーマイオニーに向けた。

 

「それは可笑しいな。僕が今ここで君の心臓を呼び寄せたら、それは“取り返しのつかない損傷”にならない?」

 

 ハーマイオニーが、いや、全員が青い顔をした。

 

「いいかい、君達が普段、普通に使ってる呪文は使い方次第で簡単に“取り返しのつかない損傷”を与える呪文になるんだ」

 

「それじゃあ、先生。全ての呪文が闇の魔術と言えるって事ですか?」

 

「いいや違う。ヒントをあげるから自分達で考えてみてくれ。君達、『許されざる呪文』は知ってるね?」

 

 全員が無言で頷いた。今頃、『許されざる呪文』について必死に思い出してることだろう。

 

「その1つに『服従の呪文』という呪文があるね。魔法界の誰に聞いても闇の魔術だ、と答える呪文だ。けど、これは使い方次第で人を助ける呪文にもなる。例えば、病気で体が動かない人を動ける様にしたりだ。でも、この呪文は紛れもなく闇の魔術だ。これがヒントだよ」

 

 全員が僕の話に聞き入っていたみたいだ。僕の問いに対して真剣に考え込んでいる。

 少ししてからゆっくりクロが手を挙げた。

 

「クロ、答えがわかったのかい?」

 

「成り立ちでしょ」

 

 正解だ。でも、クロのぶっきらぼうな言い方だと、他の生徒は理解出来ないみたいだ。

 

「よく分かったね、グリフィンドールに2点あげよう。分からなかった人も居るようだから、もう少し分かりやすく言うね。答えは『初めから人を傷つけるために作られたか否かだ』」

 

 何人かの、特にマグル生まれの生徒達にはピンと来たようだ。

 そう、これはマグルの兵器にも言える事だ。

 例えばトンカチで頭を叩けば即死もあり得る、しかしトンカチは兵器じゃない。

 闇の魔術と普通の魔法の線引きも同じ様なものだ。

 

「『インセンディオ 燃えよ』は火をつける事が目的に作られた呪文だ。対して『悪霊の火』は人を焼くために作られた呪文だ。この違いが分かるかな?」

 

 今度は全員が理解した様だ。

 

「つまり、今から君達は人を傷つけるために生まれた呪文に関する勉強をする訳だ。それをうっかりと人に使ったらどうなるか、分かるね?」

 

 何人かの生徒がハッとした。僕の言わんとしてる事を理解してくれたみたいだ。

 

「だから最初にケンカをするな、と?」

 

「その通りだ、グレンジャー。記憶というのは薄れていくものだ。だからついカッとなった時に使う呪文は一番最後に習った物を使う事が多い。ここでケンカすれば、習ったばかりの、人を傷つけるために生まれた呪文を使う可能性が高いんだ。だからここではケンカは禁止だ。人を殺しかねない」

 

 最初と違って、今度は全員が大きな返事をしてくれた。

 

「いい返事だね。ご褒美に君達にこれをプレゼントしよう」

 

 僕が杖を一振りすると、僕が書いた教科書と、銀でできた一辺3センチ程のキューブが生徒達の机の上に現れる。

 

「その教科書には今僕が説明した事が詳しく書かれてる。それと、予習復習及び授業の効率的な受け方もだ。勿論、『闇の魔術に対する防衛術』についても書かれているよ」

 

 何人かの生徒が早速教科書をめくり始めた。

 

「確かにその教科書も面白いけど、こっちはもっと面白い」

 

 僕の杖を持ってない方の手に、生徒達に渡したキューブと同じものが出現する。

 

「いいかい、これは僕が銀で錬成した“生き物”なんだ。これを1週間、毎日1時間程握っててごらん。そうすると君達の心を映し出して、生き物になっていく。例えばこんな風に」

 

 僕の手のひらの上の四角形がミニチュアのライオンに成って勇ましく吠えた。

 その後グニャリ変消して蛇に成って魅惑的な踊りを、その後は人魚になって美しい歌を、次はドラゴンになって強烈な火をはいた。今は銀のスニジェットになって僕の周りをヒラヒラ飛んでいる。

 生徒達はもう半狂乱に近い状態で、必死に僕の話を聞いていた。

 

「僕と違って君達が作れる生物は一種類だけだ、毎日好きな生物を思い浮かべて握るといい。だけど、気をつける事だ。闇の魔術に浸透した者がやれば、こうなる」

 

 途端にヒラヒラ飛んでいた銀のスニジェットが黒く変色して、醜い獣になった。

 

「君達の一年間を通しての宿題だ。闇の魔術に陶酔する事なく、この銀の生き物を見事に育て上げる事だ。“通常の精神”を養うためにね。世話の仕方は今配った教科書に書いてある。といっても餌も要らないし、糞もしないから簡単だけど」

 

 ちなみに、これの正体は小鬼の製銀技術で剣を作る際に、切った物を学習する効果を応用した、魂を学習する銀だ。

 実際に生きてる訳じゃなくて、あくまで本人のイメージが具現化したものだ。

 

「ちょっと早いけど今日の授業はこれで終わりにしよう。早く図書館に行って自分の理想の生物を調べるといい」

 

 僕がそう言うとほとんどの生徒達が一目散に走って行った。唯一残ったのはハーマイオニーだった。

 

「ヨルが前に言っていた、ヨルに魔法を教えた人って貴方の事ですね?リドル先生」

 

 ハーマイオニーは口調こそ質問してるけど、確信を得てるな。

 

「ヨルはそんな事言ったのかい?まあ正解だけどね」

 

「やっぱり!ヨルとクロが尊敬するなんて、そうだと思いました!それに銀であんな物を錬成できるなんて、聞いた事もありません!お願いがあります、リドル先生。私にも色々な、教科書に載ってない呪文を教えて下さい!」

 

「うーん、それは少し難しいかな」

 

「どうしてですか!」

 

 ハーマイオニーはもうほとんど喋るというより叫んでる。

 

「意地悪じゃないんだ。ただ、僕も研究したい事が多いんだよ。時間がなくてね」

 

「それなら、それなら週に1回だけ教えて下さい。その時に7日分の課題をお願いします」

 

「それなら構わないよ。いつがいい?」

 

「それじゃあ、火曜日の放課後にお願いします」

 

「わかった」

 

「リドル先生、ありがとうございます!」

 

 よかった。ひとまず、ハーマイオニーの僕への警戒心は完全になくなったみたいだ。

 最初の授業としてはまあまあかな?

 ハリーは終始僕に敵対心を抱いていたけど、特に気にすることじゃない。今のところは、ね。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 僕はホグワーツで、昔賢者の石が隠されていた4階の部屋を使ってる。

 1つ目のフラッフィーが居た一番の上の部屋を、居住スペース兼『闇の魔術に対する防衛術』の研究に。

 2つ目の闇の植物が植えてあった部屋は、魔法生物と魔法植物の研究に。

 3つ目の羽根の生えた鍵が飛んでいた部屋は、錬金術の研究に。

 4つ目のチェスのあった部屋は、僕が苦手な変身術の研究に。

 5つ目のトロールが守っていた部屋は、実際に呪文を練習する部屋に。

 6つ目の薬の調合の試練があった部屋は、魔法薬学の研究に。

 そして最後に、7つ目の賢者の石があった部屋は、人が死にかねない魔法の研究にそれぞれ使った。

 勿論、各部屋1つ1つに僕が『防護呪文』をかけた。特に一番下の部屋には、複数の感情を使って強化された『防護呪文』がかかってる。

 ヴォルデモートやダンブルドアでさえ入れない自信がある。

 1つ目の部屋で僕とヨルとチェスを楽しんで、クロは読書をしてた。僕の横ではサーラが仕えてる。

 すると部屋のドアを叩く音が聞こえた。

 

「どうぞ、入って」

 

 ドアを開けて入ってきたのは、予想通りジニー・ウィーズリーだった。

 

「よく来たね、待ってたよ。ヨル、クロ悪いけどグリフィンドールの談話室に行っててくれるかな?」

 

「……わかったわ」

 

「駒の配置を変えるなよ、我が主人よ」

 

「勿論だよ」

 

 チェスは僕が劣勢だ。僕はこれでも結構チェスが弱い。

 

「サーラ、紅茶とお菓子を持ってきてくれるかな。さ、ジニー腰掛けて」

 

 そう言って僕は杖を振るって白いソファーと木のテーブルを作った。

 テーブルの上にサーラがカップと平皿を置いて、カップに紅茶を注いで平皿にスコーンを盛り付けた。

 

「・・・」

 

 ジニーは中々口を開かなかった。

 ただ、黙って紅茶を飲んで、スコーンを頬張っていた。

 だから僕も、彼女が話し始めるのをゆっくり待つ事にした。紅茶の湯気がたたなくなって、スコーンの熱が冷めた頃、ジニーはポツリポツリと話し始めた。

 

「先生は、『カンニングノート』の作者ですか?」

 

「違うよ」

 

「なら……先生は、『カンニングノート』…いえ、私の友達のトムですか?」

 

「そうだよ」

 

 ジニーは大きく目を見開いた。

 でも、ちょっとしてから微笑んだ。かと思いきや、すぐに怒りの表情へと変わった。

 

「なんで何も言わないでどっか行ったの!心配したじゃない!」

 

「でも、すぐに会えた。今度はちゃんと顔を見合わせて、だろ?」

 

「それは、そうかもしれないけど……」

 

「なら良いじゃないか。そうだ、僕の事についてある程度話しておくよ。気になってるんだろ?」

 

「いいの?」

 

「勿論だよ。そもそも僕はホークラックスというーー」

 

 僕はジニーにはなるべく誠実でいようと思う。彼女が僕にそうしてくれたように。今日は長い話しになる。サーラに紅茶とスコーンのお代わりをもらわないと。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ホグワーツは魔法の研究をするには最も適した場所だ。

 それは別に図書室に本が沢山あるって意味じゃない。本で学べる事はもう僕の中にほとんど全て入ってる。

 大事なのは実体験を通した、本にはない部分だ。こればかりは自分で体験するか、人に聞くしかない。

 

「なるほど、『スケレ・グロ』と『腫れ薬』を同時に使うと骨が成長しすぎてしまうんですね?」

 

「ええ、理由はわからないけどそうなります。それに『腫れ薬』はチーズと一緒に使うと効果的です」

 

「そんな事まで!理由が解明できたらすぐにお知らせしますね。原因が解れば他の薬にも応用できるかもしれません」

 

 僕が今話を聞いているのはマダム・ポンフリーだ。

 彼女はこの怪我の絶えないホグワーツで数えきれない程の患者を診てきた。彼女の経験は宝の山だ。

 併用してはいけない薬の種類、効果的な薬の飲ませ方、呪いの症状の見極め方。どれもこれも彼女しか知らないものばかりだ。彼女の医学知識を放っておくなんて、今までの魔法使い達は一体何をしてたんだ。彼女の持つ経験を学術的に研究して、その原因を突き止めれば魔法界への大きな貢献になるのに。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 僕は常々疑問に思っていたことがある。それは箒が何故飛ぶのか、だ。

 

「どうです、素晴らしいでしょう」

 

「素晴らしい、なんてものじゃありませんよ。貴女は最高だ!」

 

 マダム・フーチの箒のコレクションと彼女の箒についての考察が書かれた論文を見せてもらった。

 彼女の考察は主に箒の使い方や、早い箒の特徴についてで、何故箒が飛ぶのか、については書かれていない。でもこの論文とたくさんの箒は、僕の仮説の証明に役立ってくれた。

 詰まる所、箒はいわば『浮遊呪文』専用の杖なんだ。

 杖で例えるなら、箒の持つところ、一番太い部分を本体として、掃く部分を芯にしている。使える魔法を『浮遊呪文』に限定することで、どんな魔力でも込めさえすれば『浮遊呪文』が発動する様になっている。

 

 優れた箒の条件は、魔力の呪文への変換効率がいい事だ。

 例えば『ニンバス2000』の魔力変換効率は82%だ。この数字は一見すると低い様に見える。

 けど、杖と違って箒は一点ものじゃない、量産機だ。同じく量産機の僕が作った『主人を選ばぬ杖』の魔力変換効率が大体60%であることを考えれば、『浮遊呪文』限定とはいえ82%は中々の数字だ。

 

 結論。

 

 杖が然るべき主人に使われればその力を増すように、多分その親戚の箒にも同じ事が言える。

 僕がグリフィンドールの選手達それぞれにあった箒を作れば、優勝はいただきだ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 僕の魔法の研究に一番貢献してくれてるのは、何を隠そうフィルチさんだ。

 研究内容はすばり、魔法を使える人と使えない人の違いだ。魔力は精神や魂から作られるものだ。人間である以上、いや、生物である以上必ず魔力は作れるはずなんだ。なのに、呪文が失敗するならともかく、呪文が使えないというのはおかしい。

 フィルチさんに上手くいけば魔法を使えるようになるかもしれない、と言ってこっそりと研究を手伝ってもらった。

 その結果、驚くべき事がわかった。

 なんと、彼の体の中に魔力を分散させる遺伝子が組み込まれていたのだ。

 つまり、今まで魔法界で愚劣な遺伝子と考えられていたものは愚劣どころではない、魔力に対する防御として体が進化した遺伝子だったわけだ。

 そして、このすばらしい遺伝子は意外な所からも見つかった。

 ハグリッド、というより巨人族だ。彼らの皮膚が何故呪文を通さないのか、それはこの魔力を散らす遺伝子のおかげだったのだ。

 

 これは仮説だが、恐らくフィルチの祖先や、巨人族の祖先は同じ目にあったのだ。

 つまり、魔法による迫害だ。

 これによって遺伝子が進化して、魔力を防ぐ体になったと思われる。

 しかし、巨人族がその遺伝子を皮膚に、つまり外部に表したのに対して人間達は内部に、つまり臓器に表していた。

 この違いは何か?

 それは使われた呪文の種類によるものだ。

 力が強く、マトが大きくて丈夫な巨人族は主に『麻痺呪文』のような外的呪文の実験に使われていた。

 逆に体の大きさが人間と合わないから『毒呪文』の類は使われなかったのだ。

 一方マグル達は『麻痺呪文』でも当たりどころが悪ければすぐに死んでしまう。

 だから体の内部に関する呪文の研究材料にされたんだ。

 今まで純血達が『スクイブ』と呼んで馬鹿にしてきた人達は、魔法を使わずに魔法に対抗する術を得た進化した人類だったのだ。

 

 仮に、『変質呪文』などで相手の遺伝子をこの『魔力を散らす遺伝子』に変える事が出来ればヴォルデモートでさえ何も出来なくなる。

 しかし僕だけは例外だ。

 そもそも遺伝子どころか肉体が無い僕には通用しない。

 フィルチさん、貴方は今、魔法界の歴史を変えたかもしれませんよ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23 私生活とクラブ活動

 ホグワーツに来てから3週間、今僕の部屋は焼きたてのパンの匂いに包まれている。

 別にパンを焼くことにハマったわけじゃない。原因は生徒達が大量に贈ってくるお菓子にある。

 贈られてくるお菓子の大半に『愛の妙薬』が入っているのだ。『愛の妙薬』は人によって感じる匂いが変わるらしいけど、僕の場合は焼きたてのパンだったみたいだ。

 『闇の魔術に対する防衛術』の先生に一服盛ってみようとするその挑戦心は買うけど、これはいくら何でも多すぎる。

 7学年、4つの寮の多くの女生徒がそれぞれこの『愛の妙薬』入りお菓子を毎日、毎日嫌がらせの様に贈りつけてきているのだ。

 

 事の始まりは2週間前、とある女生徒が僕にマフィンをくれた。

 だから僕はお返しに、特技である『相手の好きなものを当てる』を使って彼女の好きなジンジャークッキーに彼女が作ったマフィンの良い所と彼女が最も褒めてもらいたいと思ってる事を褒める内容のメッセージカードを添えて贈った。

 すると今度は彼女と彼女の友達がクッキーを贈ってきた。

 だから僕は彼女と彼女の友達にも完璧なお返しをした。

 するとまた僕に贈り物をする人数が増えた。

 そこからは早かった。1人が2人に、2人が4人に、4人が16人に。気づけば僕の部屋には毎日100近いお菓子が贈られてくるようになっていた。

 

 その上、『ホグズミード』への外出があった日から何人かの生徒が、まったく、有難いことに『愛の妙薬』入りのお菓子を贈ってくれるようになった。

 しかも、それに目をつけたフレッドとジョージが『愛の妙薬』ブームを引き起こした。双子はハリーから得た資金を元手に作った『愛の妙薬』で荒稼ぎしてるみたいだ。

 その資金を使って双子はもっと強力で分かりづらい『愛の妙薬』を作る。

 これなら!と思った生徒達がもっと『愛の妙薬』を買う。

 もうホグワーツで『愛の妙薬』を手にした事がない生徒は居ないんじゃないか、と思うほど『愛の妙薬』は一般化してる。その膨大な量の『愛の妙薬』が最終的に、お菓子という形で全て僕の部屋に集まる訳だ。

 とりあえず僕は毎日大量のお菓子に『清め呪文』と『永久保存呪文』をかけて無毒化してから保存してる。それでも追いついてない。

 でも、生徒から貰ったものを捨てる訳にもいかないし、贈り物を他の人に渡す訳にもいかない。しかもお菓子の感想を書かなきゃいけないから放置する訳にもいかない。

 『愛の妙薬』入りとはいえ、全部手作りで、非常に手が込んでる事が伺える物ばかりだ。もらう事は勿論嬉しい。だけど嬉しくも、困った事態だ。

 

 それからクラブ活動の顧問になってくれ、という手紙も沢山もらってる、本当に沢山。

 『お料理クラブ』、『パーティーマナー講座』、『社交ダンス教室』、『詩の朗読会』、『マグルを魔法界に進出させる会』はては『魔女権利団体』なんてのもあった。男の僕に顧問をやらせてどうする!

 何だかんだで、この1週間の間に総勢32種類ものクラブ活動の嘆願書が届いてる。

 まあこれは仕方のない事かも知れない。今までクラブ活動の顧問になってくれそうな先生が少なかったからね。でもこれは少し多すぎるよ、流石に。

 

 それからハーマイオニーとジニー、レイブンクローとスリザリンの一部の生徒達が放課後に課外授業をもっとしてくれ、とせがんでくる。

 元々週に一回、火曜日の放課後に少しハーマイオニーとやるはずだった課外授業は、4つの寮を巻き込んで、土曜日の午前中を丸々使う立派なものにってしまった。

 僕との秘密の課外授業を“うっかり”自慢してしまったハーマイオニーに少しイラついたのは仕方がないことだと思う。

 

 それからトレローニー先生だ!

 僕が色々な先生方の元を訪ねている事をどっからか、本人は水晶からと言ってるけど、嗅ぎつけたトレローニー先生がいつ私のところに来るのか、と遠回しに聞いてくる。

 僕は占い学なんて物には、少なくとも彼女の占いには、全く興味がないのにだ!

 

コンコン

 

 僕が色々と頭を悩ませていると誰かが部屋を訪ねてきた。これも珍しい事じゃない、というより毎日誰かしらが訪ねて来る。

 

「どうぞ」

 

「失礼いたします、リドル先生」

 

「こんな遅い時間に何か用かな、グリーングラス」

 

 訪ねてきたのはスリザリン生のダフネ・グリーングラス。

 彼女は数少ない『愛の妙薬』入りお菓子じゃないお菓子を贈って来てくれる生徒で、僕のところによく悩みを相談しにくる。

 本来は嬉しい事なんだけど、その頻度が高すぎて少し困ってる。

 グリーングラスは今週だけでもう3回だ。

 毎回決まって僕の事を目を潤ませてみつめてくる。どうやったらそんなに目を潤ませる程悩みが出来るのか、甚だ疑問だ。

 

「相談に乗っていただきたくて来てしまいました。リドル先生しか頼れる方が居なくて……ご迷惑でしょうか?」

 

「そんな事はないよ。生徒に頼られて嬉しくない教師なんて居ない」

 

 僕とグリーングラスが話してる間にサーラが紅茶と彼女の好物である色とりどりのマカロンをそっと用意してくれる。

 

「ありがとう、サーラ」

 

 サーラは自分の、というより屋敷しもべ妖精の声は不愉快だから、という理由で来客、特にスリザリン生の時は声での返事をせずにうやうやしく一礼して消えていく。

 サーラはそう言ってたけど、本当は生徒たちの長い話を聞きたくないから逃げてるだけかも知れない。

 

「──それでですね、リドル先生。同級生の男の子達ったら本当に子供というか、幼稚なんです。私はもっと落ち着いた、大人の男性が好みなのですけれど、分かってくれなくて困ってしまいます」

 

 もう30分も話してるのに全く勢いが衰えない。

 僕はこういう時、ただ黙って紅茶とお菓子を勧めて話を促す。

 人の悩みを解決するにはまず相手に沢山喋らせた後、本当に求めてる言葉を少しだけあげる事だ。女性相手だと甘めの紅茶と匂いの強いお菓子があればなお良い。

 

「それに比べてリドル先生はこうやって落ち着いて話を聞いて下さっていただけて……尊敬いたします。寮監のスネイプ先生はこの様に相談するようなお人ではありませんから。私、この様に色々話せる方はリドル先生が初めてです。リドル先生には感謝、という言葉では足らない程大きな感情を持ってしまいます。もしよろしければ、私の感謝を受け取って下さいませんか?リドル先生、今度一緒に──」

 

コンコン

 

「おっと、新しい来客だ。話は一旦中止していいかな?グリーングラス」

 

「……リドル先生がお望みとあらば」

 

「ありがとう。入っていいよ」

 

「リドル先生、ここで何してるの?」

 

「それは僕のセリフだよ。僕の部屋に何か用かな?ラブグッド」

 

 入ってきたのは不思議ちゃんこと、ルーナ・ラブグッド。説明するまでも無いだろうが、レイブンクロー生だ。

 

「私のベッドが散歩に行っちゃったの。ここに来てない?」

 

 グリーングラスが怪訝な顔でルーナを見つめた。

 

「来てないね。『呼び寄せ呪文』は使った?」

 

「使ったよ。でも来てくれなかったんだ」

 

 彼女の呪文範囲圏外なのか、それとも『防護呪文』が掛けられてるのか、それとも閉じ込められているのか、流石に分からないな。

 僕が『呼び寄せ呪文』を使ってもいいけど、教室とかに閉じ込められて場合、扉をふっとばしてしまう。万が一近くに人が居たら怪我をさせてしまうし、ベッドもタダでは済まないかもしれない。

 

「なら僕が新しいベッドを用意しよう」

 

 最近マダム・マルキンに織物を習ったんだ。素材のストックはあるし、問題ないだろう。

 折角だから銀で柱と天井を作って天蓋付きのお姫様ベットを作ってあげよう。

 

「いいの?じゃあやってもらおうかな」

 

 礼儀を重んじる純血、その中でも『聖28一族』の長女で本人もきっちりした性格のグリーングラスは、ルーナの言い方が気に入らなかったみたいだ。

 

「“じゃあ”? 貴女、礼儀がなってないのではないのですか?リドル先生は貴女の為にベッドを作ってくださるのよ?敬語を使わなだけじゃなくて、“じゃあ”って言い方はないんじゃないかしら?」

 

 僕のためにありがとう、グリーングラス。

 でも、この場、この状況に限ってその言葉は悪手だ。

 

「うわあああああああん!」

 

「!?」

 

 ルーナは外聞もなく、突如泣き出してしまった。

 ルーナはいじめを受けている。普段は気にしてない風だけど、年頃の女の子が何も感じない訳がない。彼女はいじめに耐えきれなくなると、無意識か意識的かはわからないけど、僕のところにやってくる。

 そんな限界の状態で真正面から正論で叩き潰されたのだ、泣いてしまうのも無理はない。

 実を言うと、ルーナとの付き合いはジニーとハーマイオニー、セドリックの次に長い。

 彼女が僕のところに来た時は、僕はやっぱり黙って彼女の話を聞いた。その後で2週間ほど経ってから裏からそれとなく助けてあげていた。

 2週間待つ理由は彼女が僕に依存し過ぎない様にするためだ。悩みを相談したらすぐ解決、という感じにしてしまうと何でもかんでも僕に頼る様になってしまう。

 それにいくら僕といえどいじめを、しかも頭の良いレイブンクロー生の行うものを、誰にも気づかれない様に解決するのは準備が必要だった。

 賢いルーナは僕がした事にある程度気づいていたようだったけれど、彼女が僕にそのことについて尋ねてきた事はなかった。ルーナはそんな暗い話じゃなくて、楽しい話が好きだったからだ。

 話す事はいつも父親や『ザ・クィブラー』の事、彼女が見つけたがってる魔法生物に関してだ。学校生活の話はほとんど聞いた事がない。

 それでも、彼女の話はとても面白い。ユニークな発想と純真無垢な心、そして賢い頭脳を持った稀有な人間だと感じさせてくれた。

 そんな彼女をここまで傷つけた子達に、僕は珍しく怒っていた。

 

「ラブグッド、僕の手をとって。魔力の痕跡を調べたい。『ディスクミークライム 犯人を示せ』それから『ベーニ・ドミノウス 持ち主に帰れ』」

 

 僕が呪文を唱えると『愛の妙薬』入りお菓子が作り主の所まで飛んでいった。彼女達には少しの間、ナルシストになってもらう。

 

「何をしたの?」

 

「なに、持ち物を返しただけさ」

 

「……泣き止むのが早いのね」

 

 本気で心配しただけに、グリーングラスはルーナのあまりの切り替えの早さを見て嘘泣きだったのかと疑ってるみたいだ。

 

「早いよ。特技だもん」

 

 ルーナはその事に気付いてるのか気づいてないのか、よくわらない返事をしてる。まったく、面白い娘だ。

 グリーングラスもすっかり毒気を抜かれた様だ。案外ルーナとグリーングラスは相性が良いかもしれないな、少し話をさせてみたくなった。

 

「2人とも、今日はもう少しここで話をして行かない?」

 

「とっても魅力的な提案です。勿論そうしたいのですが、もうすぐ消灯の時間ですし…… 勘違いしないでください、本当にリドル先生ともう少し夜を楽しみたいんですよ?でも、その為に他のスリザリン生を裏切れません」

 

 彼女もまた賢い娘だ。

 僕と話をしたいし、ルーナにも興味を示してる。けどそれは迷惑になるから、と自制してる。子供である彼女にとって、夜に誰も知らないお茶会をする、というのはさぞ魅力的に映るはずなのに。

 もしかしたら僕の方がグリーングラスより子供かもしれない。僕はこのお茶会をもう少し楽しみたい気持ちの方が自制心に勝ってしまっている。

 

「安心していいよ、グリーングラス。僕はフィルチさんと仲が良くてね、少しだけ融通を効かせられるんだ」

 

 でもやっぱり僕は子供じゃない。自分の為に抜け穴を作ってしまうズルい大人だ。

 僕の実験の成果のおかげでフィルチさんはほんの少し、まだペンを机の上で転がす程度だけど、魔法を使える様になった。

 えらくそのことを喜んだフィルチさんは、僕の事をダンブルドアよりも偉大な、素晴らしい魔法使いだと思ってる。まあ要は、ほとんどのお願いは聞いてくれる。

 

「流石リドル先生です。あのフィルチを手懐けていらっしゃるなんて」

 

 グリーングラスが実にスリザリン生らしい、『スクイブ』を下に見た言葉を尊敬の念と共に送ってくる。

 ここで僕が『スクイブを下に見るな』というのは簡単だ。彼女は表向きその通りにするだろう。でもそれじゃあダメだ。それは逆にこれから先、注意する機会を失って、より根深い問題になってしまう。

 じゃあどうするか?

 勿論、もう1人のお茶会のメンバーに手伝ってもらう。

 

「ルーナ、君はフィルチさんをどう思う?」

 

「孤独な人だと思うよ。だって『グローリン』がたくさん集まってるもん」

 

「グローリン?」

 

「そう、グローリン。寂しい人の肩と鼻にとまるの」

 

「……リドル先生、グローリンを知っていますか?」

 

「残念ながら知らないね。ただ、フィルチさんが寂しい人って言うのは賛成だ」

 

「そうですか……」

 

 これでグリーングラスの中にフィルチさんへの関心が出来たはずだ。いきなり彼女の価値観を崩す事は出来ない。

 でも、グローリン?を見ようとしてフィルチさんを少しだけ気にするようになるだろう。

 その時、彼女の頭に『寂しい人』というフレーズが浮かべば、グローリンじゃなくてフィルチさんを気にする様になるだろう。

 そこから何を感じ取るかは彼女次第だ。

 

「ところでラブグッド、グローリンってどうやって見るんだい?」

 

 意外とルーナが言っている生物は実在してることが多い。

 当然、それらの生物は僕の好奇心を刺激する。

 

「ミルクの瓶の底を通して見るの。ピンク色の蝶々みたいな奴だよ」

 

「ミルクの瓶底を通してフィルチを見たのですか?」

 

「そうだよ」

 

「「・・・」」

 

  この後、ルーナの好物である甘くない本格的なココアとシナモン入りのマフィンを楽しみながら3人で夜を過ごした。

 結論として、ルーナの話は嘘か本当かよく分からなかった事をここに述べておこう。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「やあ、みんな。おはよう!」

 

「「「おはようございます、リドル先生」」」

 

 生徒全員が返事を返してくれた。

 ここに集まってるのは僕が張った【クィディッチに興味のある人集合】という張り紙をみて集まってくれたグリフィンドール生だ。

 クィディッチの選手を中心に、グリフィンドール生の6割位の人が居るかな?

 

「今からこれを君たちにプレゼントしよう」

 

 僕が杖をふるうと大量の箒が出てくる。

 どれもこれも1つとして同じものがない一点ものだ。その代わりというか、手作り故に形が歪だ。

 

「でも先生、その…私達には『ファイアボルト』と『ニンバス』があります」

 

 ジニーが心底申し訳なさそうに言ってくる。

 

「知ってるよ。でもこの箒はそれらを超える性能を持ってる」

 

 この歪な箒が?と生徒達が怪訝な顔をみせる。

 生徒達を納得させるには論より証拠だ。

 

「物は試しだ、ジニー。乗ってみて」

 

 僕が渡した箒はジニーの杖の本体と同じ材質が使われてる。1メートル32センチ、優しくて柔軟。

 ジニーが恐る恐ると言った感じで箒を手に取る。すると暖かい風が起こった後に、ジニーの足元の芝が伸び始めた。

 ジニーは少し驚いた後にニッコリ笑った。何かを感じ取ったみたいだ。

 

「それじゃあ早速飛んで──」

 

 僕が言い切らないうちに信じられない速度でジニーが飛び出した。そのまま空中で少しの間アクロバティックな動きをした後、地面に向かって垂直に、しかもトップスピードで降りてくる

 

「危ない!」

 

 ハーマイオニーがジニーが箒の制御を誤ったと思って助けようと杖を構えた。

 無言でハーマイオニーの手を握って下ろさせた。ハーマイオニーが驚愕の顔でこっちを見てくる。心配ない、そう目で合図した。

 真っ逆さまに落下してきたジニーは地面から5センチほどのところでトップスピードだった箒をピタッと止めた。素晴らしい技量だ。

 ジニーはそのまま杖に片足で乗りながら僕達の方に戻ってきた。

 

「『ファイアボルト』は掃除用具入れに入れておいて。私は今日からこの箒を使うわ」

 

 その後、生徒達はそれぞれの箒を我先にと取って行った。

 歪な形も、箒を気に入れば個性に見えてくる。それぞれ自分の箒の形がどれ位かっこいいか自慢しあってる。そうまでしてくれると製作者冥利につきるというものだ。

 中にはお金を払おうとした人もいたけど、お金より『闇の魔術に対する防衛術』の好成績が欲しいと言っていおいた。

 

「リドル先生の飛ぶところを見せて下さい!」

 

 生徒の1人でチェイサーのアリシア・スピネットがそう言ってきた。他の生徒も期待してるみたいだ。

 だけど──

 

「僕は箒に乗ったことがないんだ。一応、僕の箒も作ってはあるんだけどね」

 

 僕の発言にスピネットも含めた生徒達が全員驚いた。

 スピネットは驚いた顔をすぐに引っ込めてニッコリ笑って提案してきた。

 

「それなら私が練習を手伝います!一緒にクィディッチをしましょうよ!」

 

 正直言うとあまり気が乗らない。

 この箒達は杖の本体と同じ素材、つまり僕の箒は暴れ柳から作ってある。2メートル40センチ、乱暴で頑固。

 どうにも嫌な予感がするけど、生徒達の期待の眼差しが……

 

「それじゃあリドル先生、まずは箒に向かって『上がれ』と言って下さい」

 

 スピネットはもうすっかりその気だ。ここで断ることは出来ない。

 

「わかった『上がれ』。…いたあっ!」

 

 箒が物凄い勢いで僕の額に飛んできた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 スピネットが心配そうに顔を僕の額に近づけてくる。

 

「大丈夫、大丈夫。もう一回やってみよう。『上がれ』」

 

 今度は凄い勢いで箒が空に飛んで行った。

 

「あー、ちょっと待っててね」

 

 『呼び寄せ呪文』で呼び出してもいいけど、それじゃあなんだか負けた気がする。

 僕が直接あの箒を捕まえてやる。『飛行魔法』は習得済みだ。僕と箒、どっちが早く飛べるか勝負だ!

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ようやく箒を捕まえて地面に戻ってこれた。もう生徒達はそれぞれの箒を選び終えたみたいだ。

 

「リドル先生、今やった『飛行魔法』を教えて下さい」

 

 と、ハーマイオニー。他の生徒も興味津々だ。空を飛ぶというのは、魔法族非魔法族、男女、歳関係なくワクワクするものなのだろう。

 しかし残念なことに、『飛行魔法』を一から教えてたら、ホグワーツを卒業してしまう。そのくらい難しい呪文なのだ。

 

「今度ね。それより今は箒だ。みんな、自分の箒は選び終えたね?」

 

 生徒達は自分の箒を自慢するように掲げた。

 

「結構!それじゃあ仕上げだ」

 

 僕が杖をふるうと、箒にそれぞれ持ち主の名前と製造ナンバーが彫られた。これで本当の意味で一点ものになった。

 

「2週間に一回、僕の部屋の1つを箒で飛ぶように貸してあげよう。勿論、クィディッチ選手以外も歓迎だ」

 

 3つ目の部屋、つまり羽根の生えた鍵がいた部屋、今は錬金術の研究に使ってる部屋にミニチュアのクィディッチ試合会場を作ってある。生徒達に『収縮呪文』を使えば問題ないはずだ。

 生徒達は、特に男の子達は、僕の提案に随分乗り気みたいだ。

 

「ただし、『闇の魔術に対する防衛術』の成績が悪かった生徒は禁止だ、いいね?」

 

 これには少し不満そうな人がいたが、反論はしてこなかった。

 

 全員に箒に乗らせた結果、魔力変換効率は最低が92%最高が124%だった。

 この違いは何か?

 実はよくわからない。だからもっとデータを取って研究しなくてはならないな。そのために、生徒達には僕の部屋で沢山箒に乗ってもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕が少し離れたところから生徒達を見ていると

 

トントン

 

 と、誰かが僕の肩を叩いてきた

 

「どうしたんだい?」

 

「僕、シーカーになりたいんです。だから指導して下さい」

 

「へえ、それはつまり、ハリー・ポッターを倒すってことかい?」

 

 彼は無言で頷いた。

 

「いいよ、気に入った。来週のこの時間、僕の部屋においで」

 

 彼は頷くと生徒達が居る方に戻っていった。

 さて、これから彼の強化プランをねらないと。中々やりがいがありそうだ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 トロールが守っていた部屋、今では僕が呪文を練習する部屋では、数人の生徒に『決闘クラブ』を開いてる。

 土曜日に行う課外授業、名前を『探求クラブ』とした、では魔法全般、つまり様々な呪文や魔法理論。最近では純血思想についての論議などもしてる。

 それに希望すれば誰でも入会できる、色々と手広いクラブだ。

 

 それに比べてこの『決闘クラブ』は完全に戦うための作法と呪文しか習わない。

 それに一部の優秀な生徒のみが入ることができる秘密クラブだ。

 そもそもほとんどの生徒はこのクラブの存在さえ知らない。というか、このクラブの存在を自力で知ることがある種の入団テストになってる。

 

 メンバーは入会順に

セドリック・ディゴリー

ハーマイオニー・グレンジャー

ジニー・ウィーズリー

ネビル・ロングボトム

ヨル・バジリース

クロ・ライナ・アイベリー

ルーナ・ラブグッド

ダフネ・グリーングラス

 の8人だ。

 

 最初の4人が創設者で、後の4人がこのクラブを発見して入ってきた人達。といってもヨルとクロは自力で発見したけど、ルーナは親友のジニーに、ダフネは仲良くなったルーナに教えてもらったみたいだ。

 

「今日教えるのは『盾呪文』の遠隔操作とその使い方だ。ディゴリー、僕の前に来て。よし、今から僕と少し撃ち合いをしてもらう。グレンジャー合図を」

 

「わかりました」

 

 セドリックが杖を構える

 

「それじゃあ、3…2…1」

 

「「『ステューピファイ 麻痺せよ』」」

 

 僕とセドリックから同時に紅い閃光が放たれる。

僕がヒラリとかわしたのに対して、セドリックはその場から少しも動かず閃光に当たった。

 

「『リナベイト 活きよ』今、どうしてディゴリーが避けられなかったかわかった人はいる?」

 

 ウィーズリー、クロ、ヨル、グリーングラスの手が挙がる。

 ここは新人のグリーングラスの優秀さを教えるために彼女に答えてもらおう。

 

「それじゃあグリーングラス、答えてくれるかな?」

 

「今先生がなさったのは無言呪文による、『盾呪文』での密封です。ディゴリー先輩の体の関節部分に、気がつかないほど小さな『盾呪文』を設置していました」

 

「そこまで気がつくとは、流石だね。スリザリンに5点あげよう」

 

 他の生徒達もグリーングラスを優秀な魔女だと認めたみたいだ。まあ、ここにいる時点で優秀なのは確定してるんだけど。

 

「じゃあどうやって複数の『盾呪文』を遠くに設置したか分かる人は居るかな?」

 

 今度はグレンジャー、クロ、ラブグッドの手が挙がる。

 さっきと同じ理由で、今度はルーナに答えてもらう

 

「ラブグッド、説明してくれる?」

 

「リドル先生が作ったのは複数じゃなくて1つの『盾呪文』だよね。それを所々糸みたいにして繋げてた。勿論、必要な箇所は大きくして」

 

「正解だ、レイブンクローに5点あげよう。『盾呪文』を遠くに、素早く設置するのは難しい。だから糸状にして気づかれないように相手のところまで伸ばすんだ。それを相手の体に纏わせて、関節部分の箇所だけ大きくする。さ、やってみよう。いきなり糸にするのは難しいから、まずは『盾呪文』を犬の形にしてみて」

 

 みんな中々苦労してるみたいだ。

 そんな中、一番早く出来たのはセドリックでも、ハーマイオニーでもクロとヨルでもない、ネビルだった。

 

「リドル先生、僕、出来ました」

 

「素晴らしい、グリフィンドールに5点だ。次は犬を動かしてごらん」

 

 グリーングラスが驚いた顔をする。ネビルをよく知らないスリザリン生からすれば当然か。

 

「グリーングラス、どうしてロングボトムが先に出来たのか疑問に思ってるだろう?」

 

 答えないが、しっかり顔に出てる。

 

「ロングボトムはここにいる他の生徒と違って、授業で習う以上の事をしてない。でもその代わりに毎日毎日、つまらない基礎呪文をずっと練習してるんだ。だから呪文の多様性では負けてても、精密性や操作性では勝ってるんだ」

 

「なるほど……」

 

 こういった事はコツや才能だけではない、毎日の練習が肝要だ。

 彼女もそれを理解してる。彼女の中で、ネビルはただの愚鈍な生徒じゃなくなっただろう。

 人は、自分に出来ない事が出来る人間を認める生き物だ。

僕は生徒同士の人間関係に関して、いじめが起きたりすれば別だけど、口を出したりしない。

 けど、お互いの事を知るきっかけを作るくらいはやってもいいと思う。

 

「ロングボトムさん、貴方は毎日どの位の基礎練習をなさっているのですか?」

 

「え、あ、その、6時間くらい?」

 

「6時間もですか?流石このクラブの一員なだけありますね」

 

「そうだよ、ネビルは凄いもん」

 

「僕なんて、全然凄くないよ……みんなみたいに色んな呪文が出来ないから、基礎ばっかりやってるだけなんだ」

 

「あまり自分を卑下するな。基礎が大事だとわがあ…リドル先生も言っていた」

 

「その通りだ、ヨル。さ、みんな練習に戻って」

 

 

 

 

 この後、みんなで『盾呪文』と『麻痺呪文』のみの決闘をトーナメント形式でおこなった。

優勝はクロ

準優勝はセドリック

3位はヨル

そして、4位はネビル・ロングボトムだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24 赤い獅子座と純血の蛇遣い座

「ハリー、リドル先生は完全に白よ。騎士団もそう言ってたじゃない。もうこんな事止めましょう?」

 

「・・・」

 

ハーマイオニーの言ってる事は理解できる。でも、ヴォルデモートは狡猾だ、という気持ちの方がハリーの中では強かった

 

「そうだぜ、ハリー。見ろよこの箒。こんなもんくれるなんて、リドルの奴は最高だ」

 

「リドル“先生”よ、ロン」

 

 ハーマイオニーがぴしゃりと言った。

 

「真面目な話、3週間俺たちが散々調べたけど、あいつ本当に何もしてないぜ?」「それどころかあいつの人気のおかげで俺達は大儲けだ」

 

 フレッドとジョージは沢山のガリオン金貨が入った布袋をジャラジャラさせた。

 

「2人とも、トムでお金儲けをするのは止めて!」

 

 と言ったのはジニー。

 この中で一番ハリーに反対している。その理由はもちろん、彼女だけがトムの正体を知っているからだ。

 

「前にも言ったけど、トム、つまりリドル先生は『カンニングノート』を私達に残してくれた人なの。もしあれがなければ、ハリーとセドリックはマンティコアに殺されてたかもしれないのよ?」

 

「でも……僕を生かしておいて何かメリットがあったのかもしれないじゃないか!」

 

「ハリー、それは無茶苦茶よ!私、これ以上付き合えないわ。ネビルやルーナ、セドリックを騙すのもとっても辛いの」

 

「待てよハーマイオニー!」

 

 ハーマイオニーは寝室へと去って行ってしまった。

 この3週間、一番トムと過ごしたのは彼女だ。それだけに、親身にしてくれる彼を疑う事に、優しいハーマイオニーは耐えられなかった。

 そう、ハリー達はこの3週間、トムを監視し、試していた。ワザと自分達を襲える環境を作ったり、『忍びの地図』で怪しい動きはしていなか監視したり、そのためにネビルやルーナ、セドリックをも利用した。

 『愛の妙薬』を学校中で流行らせる事で、誰が毒を持ってもおかしくない状況を作ったり、【決闘クラブ】という不慮の事故が起きてもおかしくないクラブ活動を頼んだりしたのもそのためだ。

 実はハーマイオニー達がトムに接近する間、ハリーは『忍びの地図』や『透明マント』でずっと見張っていたのだ。

 

 この作戦は全員で考えたが、最初にトムを監視する事を提案したのはハリーだ。

 その理由は彼の実家にある。

 彼の家は夏休みから『不死鳥の騎士団』の活動拠点として使われている。当然ハリーは騎士団の活動に興味を示したが、終ぞその活動内容を知る事は出来なかった。

 ハリーが自分の家で行われる密会への鬱憤を溜める中、騎士団はある決定をした。

 それは居なくなったダンブルドアの代わりに、マッドアイ・ムーディをトップに据える事だ。

 『油断大敵!』を信念に掲げる彼の方針により、騎士団はますます情報を隠すようになった。

 そしてハリーが学校に行く前日、やっと説明があったかと思いきや『トム・リドルが学校に来る。奴は騎士団の仲間だ、信頼しろ』という説明がムーディからあったのみであった。

 

 何故そう言い切れるのか?ダンブルドアは何処に行ったのか?ハリーが聞きたい事は何1つとして教えてくれなかった。

頼みの綱であった父親のシリウスも、ルーピンと共に任務で常に家を空けていた。

 これはシリウスがハリーに秘密を漏らす可能性を懸念したムーディの仕業なのだが、それを知らないハリーにはシリウスが裏切ったように見えた。

 

 そして学校行きの列車の中、その事を話すとロンがパーシーやモリー、アーサーの様子がおかしい事を漏らした。

 これにジョージとフレッド、も同意した。

 そこでハーマイオニーが『服従の呪文』の可能性を示唆した。そこから議論は飛躍し、トム・リドルが『服従の呪文』で騎士団を操っている黒幕説が浮かび上がった。

 学校に着いてからその事をセドリックに話してみたところ、キッパリと否定された。

 それどころか、そこで第三の課題の日、自分の命を救ったのはトムだったこと、それから自分が攻撃したのは間違いだった事を知らされた。

 

 他の人間はある程度納得したが、ハリーには納得できなかった。自分の命を狙おうとしていた人間が、今度は命を救った。何の見返りもなしに。

 しかも、周りの人間は彼を信用しきっている。だけど騎士団から信用するに至った理由の説明はなし。そして今度はダンブルドアの居なくなった学校に来る。

 ハリーにしてみれば、だんだんと自分に近づくために外堀を埋めていっているように見えた。

 そして今度はハリーにって最高の娯楽であるクィディッチにまで手を出してきたのだ、他の人間が新しい箒に喜ぶ中、ハリーは何かある気がしてならなかった。

 

「ハリー、私もハーマイオニーに賛成よ」

 

 しかし、自分より頭の良いハーマイオニーやジニー、騎士団が信用している、という事も頭の隅にあった。

 そこで、ハリーは妥協案を出すことにした。

 

「……分かった、あと一月だけ手伝ってくれ。今度は僕が囮になる。それでダメだったら間違いを認めるよ」

 

「どうするつもり?」

 

「一ヶ月後にクィディッチの選手選抜がある。その時にリドルに来てもらう。何かするなら絶好のチャンスの筈だ」

 

 ハリーはトムにメラメラと闘志を燃やしていた。

 ハリーは前を向いている。

 だから気がつかない。

 自分の横で、自分とは違う類の闘志を目に宿した男に。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「やあ、みんな。おはよう!」

 

 返事がまばらにしか返ってこない。それだけ生徒達は集中してる。

 だけど、僕が今日来た理由は1つだ。それは僕が一月練習に付き合った彼の成長を見届けること。

 

「やあ、ポッター。今日は誘ってくれてありがとう」

 

「グリフィンドールの寮監なんですから、当然です。先生は“あの”位置で見ていてください」

 

 ハリーが見晴らしの良さそうな場所を指で示してきた

 

「それじゃあ、見物してようかな、色々と(・・・)

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 クィディッチの選手選抜は順調に進んでいった。

 選手を1から決めていく方針をとってはいたが、やはりと言うべきか、元々選手だった人が大半選手に選ばれた。

 今は最後のポジション、シーカーの立候補者を募っている所だ。

 

「それじゃあ、シーカーをやりたい人、手を挙げて!」

 

 誰も挙げようとしない、当然だ。

 ハリーが最高のシーカーである事はグリフィンドール生じゃなくても知っている。その彼とポジション争いをしようなんて奴はいないはずだった(・・・・・)

 

 

 

「僕が立候補する」

 

 

 

 そうやって手を挙げたのは、ハリーの技量を誰よりも知る男。

 

「……本気、ロン」

 

「ああ、本気さ。君よりも僕の方が優秀だって事、教えてやる」

 

 遂に、ウィーズリー家の末弟、眠れる赤毛の獅子が目を覚ました。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「僕、シーカーになりたいんです。だから、指導して下さい」

 

 僕はそうやって頭を下げた。

 

「へえ、それはつまり、ハリー・ポッターを倒すってことかい?」

 

 この人が、セドリックの言うとおり本当に“例のあの人”を倒した人なら、ハリーだって倒せるはずだ。

 ごめん、ハリー。君を裏切る。

 でも僕は君に勝ちたいんだ!

 僕は決心を目に宿らせて、無言で頷いてみせた。男が大事なことを頼むのに言葉は要らない。

 

「いいよ、気に入った。来週のこの時間、僕の部屋においで」

 

 待ってろよ、ハリー。

 僕がただの腰巾着じゃないって所を見せてやる

 

 

 

 

 

 それから一ヶ月、地獄の様な特訓が続いた。足腰がバラバラになるまで箒で飛んで、動けなくなったら呪文で回復してまた飛ぶ。

 眠ってる間も脳内でクィディッチができる様に呪文を掛けてもらった。

 授業の間もリドルに最初の授業で貰った“銀の生物”をスニディッチに変えて、捕まえる訓練をした。

 何もかも、この日の為に、ハリーに勝つためにやってきた。リドル曰く、僕の箒との魔力変換効率はハリーより高いらしい。十分に勝機はあるって言ってた。だけど油断はしない、一瞬で決めてやる。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「いい感じだ」

 

 ロンは元々変に気負ってしまう性格だったけど、これまでの劣等感のお陰かそれもない。

 シーカーとしてはハリーの方が長いけど、箒に触れてきた年月自体はロンが圧勝してる。

 それに、ハリーは天才だけど教師は居なかった。

 それに比べてロンは凡才だけど、僕が用意した最高の環境で最適な教育を受けた。

 才能を努力で越える。

 その助けをしない奴は教師じゃない。

 そこにワクワクしない奴は男じゃない。

 

「頑張れ、ロン・ウィーズリー」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 シーカーの選抜方法は実にシンプル。

 ハリーとロン、両方に目隠しをしてからスニッチを放ち、5分後に飛び立つ。スニッチを先に捕まえた方の勝ち。

 勝敗がハッキリ分かる。かつ、言い訳ができないやり方だ

 

 スニッチが競技場に放たれてから5分後、2人の目隠しが外された。

 ハリーは上空へと飛んでいき、持ち前の勘の良さとこれまでの経験でスニッチを探した。

 対してロンは理詰めでいった。

 吹く風の速度と方向、湿度による羽根の状態、効率いい競技場の見回し方。才能で劣るロンは、勘や運といった物を極力排除した戦い方を身につけた。

 果たして、スニッチを先に見つけたのはロンだった!

 だが、ロンは直ぐにはスニッチへと行かない。その理由は簡単、スニッチの位置がロンよりハリーに近いのだ。今ロンがスニッチに向かえばハリーもそれに気付き、ロンより先にスニッチを獲得してしまう。

 ハリーは勘に任せて飛んでいるだけだ、それでもスニッチに無意識の内に近いところにいる。

 なんたる才能、なんたる強運、なんたる理不尽!正しく、選ばれた男の子だ!

 だが、誰よりもハリーを見てきたロンはこの程度の事は想定済みだった。

 

 ロンは上空へと飛んだ。

 そしてあろうことか、そのままハリーへと急降下して突っ込んでいった。

 ハリーは驚き、動きが止まってしまった。いつもならこの様なミスはしなかった。だが今日は状況が違う。

 この時、ロンは知る由もないが、ハリーは遂にトムがロンに『服従の呪い』をかけて襲わせたのだと勘違いしたのだ。

 ハリーが面喰らう中、ロンはハリーの目の前で急停止をするとそのまま太陽の方へと飛んだ。

 ハリーはロンを目で追いかけ、太陽を直接見てしまい、一瞬だが、目が見えなくなった。

 そのままロンは急降下。スニッチへと一直線だった。

 ハリーは驚異的な速度で頭を切り替え、数瞬後にロンを追う。

 しかし、追いつけない。

 数瞬の差がうまらない。

 ハリーとロンが並行する先にいる金のスニッチはヒラヒラと動いている。

 いつもなら、対戦相手はこの動きに惑わされ、動きに無駄が出来ていき、徐々に追いつけた。

 だが、追いつけない。

 今日の相手はハリーと同じレベルで動きに無駄がない。

 前を行く赤毛に追いつけない。

 

 とうとうロンがスニッチに手をかけた瞬間、それは起きた

 

 それは、ロンが行ってきた練習の穴。

 トムが用意した室内での連取場には、風はあったが埃はなかった。

 クィディッチ選手なら誰でもしている、埃が目に入るのを防ぐ、特殊なまばたきのやり方をロンは学んでいなかった。

 ロンがスニッチを掴もうとした瞬間、突如として突風が吹いた。ロンの目に埃が入リ、ロンはスニッチを掴み損なった。

 ハリーは前を向いている。

 故にロンの状態には気づかず、後ろから追いつき、スニッチを掴んだ。

 

 グリフィンドールのシーカーは、今年もハリー・ポッターとなった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「リドル先生、これも貴方が?」

 

「確かに、僕は手助けした。でもそれは道を示しただけだ。歩いたのはロンの力だ」

 

 ハーマイオニーとジニーが目を赤くして僕のところに来た。

 2人ともあの戦いに、いや、その裏にあるロンの努力に感動したんだ。

 

「女の子がそんな目をしてはいけない『スコージファイ 清めよ』。さ、ウィーズリー兄とポッターのところへ行ってあげなさい」

 

「リドル先生、ロンの事ありがとうございました。……それから明日、大事なお話があります」

 

 ロンの成長ぶりを見て、僕の事をより信頼してくれたみたいだ。

 

「わかった。放課後に僕の部屋で構わないかな?」

 

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

 

 ハーマイオニーとジニーはロンとハリーの方へと走って行った。

 これで崩れかけていた彼等の絆は元に戻るだろう。

 明日の話の内容は僕の事を監視したり、試していた事の謝罪かな?彼等は僕に秘密にしてたみたいだけど、ヨルとクロがグリフィンドール寮にいる限り秘密には出来ない。

 それより、ハリーはロンにどうやってクィディッチの練習をしたか聞くはずだ。ロンは僕と2人で何度も練習した事を言うはずだ。

 そうすれば沢山のチャンスがありながら、僕がロンに何もしなかった事をハリーは知るだろう。

 きっとハリーは直ぐには自分の間違えを認められない。でも、少しずつ、確実に僕への疑念は消えていく事になるだろう。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 今日は毎週恒例の『探求クラブ』の日だ。

 探求クラブはまず、【純血とマグル】という議題について話し合う。

 その後前回自分達で決めた勉強内容を僕に教わりながら勉強する。

 最後に次勉強する事を決めて終わりだ。

 

「それでは【純血とマグル】についての議論を始めますね」

 

 僕は教師だ。

 だから特定の思想に肩入れする事は出来ない。だから思いきって全て生徒に任せてみる事にした。

 僕がしたのは『何を話すべきか』と『どうやって話すべきか』の2つを教えた事だけだ。

 生徒達は自分達で幾つかのルールを作った。

 ルールの1つで、僕が毎回ランダムで議長を決めていく。

 今議長を務めているのはレイブンクロー生のチョウ・チャンだ。といっても生徒達にはそれはわからない。

 ここでは全員が僕が作ったマダム・マルキン式のスーツを着て、銀のお面をつけている。お面には『検知不可呪文』と『音質変化呪文』をかけてあるから絶対に誰が誰だかわからない。

これは元々、ここでの議論を外に持ち出さないためにやったことだ。

 そして面白い事に、自分が誰か分からない、という条件だとスリザリン生がマグル生まれ擁護派に、グリフィンドール生が純血主義に度々つくという事態を引き起こした。

 ちなみに、純血主義の多くは『パーティーマナー講座』、マグル生まれ擁護派の多くは『マグル生まれを魔法界に進出させる会』のクラブ活動を申請してきた人達が中心になってる。

 

「今週は純血主義の方々が主張をなさる日です。まずは前週のマグル生まれ擁護派の主張に対しての反論をお願いします」

 

 これがルールの1つ、主張するのは1週間に1派閥のみ。

 その主張に対してもう片方の派閥がじっくり1週間かけて反論を考えて、次回にプレゼンテーションをする。これを繰り返していくわけだ。

 

「では、僕が考えた意見を聞いて下さい」

 

 そう話し始めたのはマルフォイだ。他の生徒にはわからないけど。

 

「前回、マグル生まれは魔法界に浸透している事が挙げられました。そこで完全な純血はもう魔法界の半分もいないという事がわかったわけです。だからマグル生まれは魔法界存続に必要、と言うのが前回なされた主張でした」

 

 これは前回、マグル生まれ擁護派が言ったことだ。

 口調が丁寧で中性的なのは秘匿性を上げるためだ。これもルールの1つ。

 

「そこで私が調べた所、こんな事がわかりました。リドル先生、お願いします」

 

 ルールで定められた事として、事前に申請して、僕が差別的でないと判断すれば資料を持ち込む事ができる。

 杖を振るって生徒達にグラフと図が書かれた羊皮紙を渡す

 

「純血は魔法界の半分を切りました。しかし、マグル生まれが増えたにも関わらず、今でも偉大な発見をしたり、要職についている人間は8割が純血です。また、マグル生まれで活躍した魔法使いの多くは魔術的な功績ではなく、マグルの人権や新しい法案などを確立した人が多い傾向にあります」

 

 その事が詳しく羊皮紙に纏められている。

 近年活躍した魔法使いの家系図や名を残した魔法使いの純血とマグル生まれの割合。

 純血とマグル生まれの功績の質の違い。

 

「確かに、マグル生まれは人口的に魔法界存続の為に必要です。しかし、やはり純血の方が優秀な者が多い事も確かです。魔法界はマグル生まれを無闇に取り込むのではなく、純血の人間をある程度尊重した上で取り込むべきだと思います」

 

 上手いやり方だ。

 前回のマグル生まれ擁護派の主張を一旦認めた上で、それを利用してる。

 

「また、この事に関する根拠もあります。グリフィンドールやスリザリンといった有名どころの直系は、ほとんどが優秀です。これは純血の力の優位を示す証拠だと思います」

 

 これも上手い。

 スリザリンやグリフィンドールの名を出す事で、純血が神聖なものだと思わせている。

 

「結論を言いますと、マグル生まれを受け入れる事自体には賛成です。しかし、あくまで純血の者たちが上に立ち、リードしていくべきだと思います。そして、それが行きすぎない様、支配になってしまわないようにする事が、真の純血主義だと考えます」

 

 マルフォイはそう結論付けて座った。この後は幾つかの質問と反論をする事が許されている。あくまで少しだけだが。

 

「純血の功績が良いのは純血が優秀だからでは無いと思います」

 

 最初に反論したのはレイブンクロー生のマリエッタ・マッジコム。

 『原作』では『DA』の存在を密告してしまう子だったかな。

 

「マグル生まれは魔法界に慣れる期間が必要です。その分遅れをとってしまうから、優れた結果に結び付きづらいのでは無いでしょうか?また、有名な家系であればあるほど優秀と主張していますが、それは財力があり、幼い頃から英才教育を受ける事が出来るからでは無いですか?」

 

 これに対して反論するのは、スリザリン生のミリセント・ブルストロード。『聖28一族』の1つブルストロード家の次女。

 

「優れた魔法使いは幼い頃よりその才覚を発揮します。教育を受けていない幼い子供が、考えつかないほど強力な魔法を使う事が多々確認されています。これはマグル生まれの方にも起こる現象ですが、その割合は圧倒的に純血、もしくは半純血の方に多く見られます。つまり、純血の方が内包する魔力量が多いのでは無いですか?」

 

「それは魔法を見てたから、無意識的に学習しただけでは?それに大人の魔法使いの魔力に当てられた可能性もある」

 

 これはハッフルパフ生のオーウェン・コールドウェル。

 

「皆さん、落ち着いてください。1時間が経ちました。これ以上の質疑応答は次回にお願いします。それでは次の方、主張をお願いします」

 

 議論が白熱し過ぎない内に、議長のチョウが止めた。

 

「では、私が意見を言わせてもらおう」

 

 そう言って出てきたのはグリフィンドール生のコーマック・マクラーゲン。

 この後、マクラーゲンはよく分からない理論、つまり自分自慢を展開して議論がしらけてしまった。

 折角マルフォイが素晴らしい議題を提示したのに……

 まあこの辺の青臭さというか、学生らしさも見てるぶんには面白いんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後は僕が『保温呪文』についての講義をして終わった。

『保温呪文』と『加熱呪文』を間違えて覚えている人が多くて困った。ホットチョコレートが固まらない様に保温する試験で、12人もの生徒がチョコレートを爆発させた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24 発足

 かつて賢者の石が隠されていた場所であり、現在ではトムが最も秘匿性が高い部屋として使っている6つ目の部屋に2つの大きな鏡が置いてあった。

 1つは『みぞの鏡』。

 いかなる『閉心術』を用いようとも誤魔化すことの出来ない魔法界最古の魔法逸品(マジックアイテム)の1つ。

 その歴史深さ、強力さは『組み分け帽子』や『炎のゴブレット』と並び、ヴォルデモートやダンブルドアでさえ心をさらけ出してしまう鏡。

 

 それからもう1つ、マクゴナガルが製作した『多面鏡』と命名された鏡が置かれている。

 『相互鏡』とは違い、複数人で同時に会話することが出来る通信用の鏡。

 現在『トムの部屋』、『校長室』、『ブラック家』、『隠れ穴』、それから『スネイプのみ知る秘密の場所』に設置されており、騎士団はこの鏡で会議を行っていた。

 

『このままでは我々は負けるぞ!もう騎士団員が5人も死んだ!何をもたもたしている。もたついてる間に死んだ者の名前を挙げてやろうか、え!?』

 

 鏡の1つ、『ブラック家』に映っているのは、身体中に呪いの傷を負ったマッドアイ。

 

『焦りに負け、事を不用意に運べばそれこそ我々の敗北を招く事になるでしょうな』

 

 もう1つの鏡にはスネイプ、背景は黒く覆われており、何処にいるのかはわからない。

 スネイプは身体こそ無事なものの、顔が青白く、みるからに衰弱していた。

 

『魔法省はもう待てません。ファッジさんは徐々に見離されてきてる。スクリムジョールが支持を得始めてます』

 

 『隠れ穴』の鏡からはパーシー・ウィズリー。

 目の下にはくっきりとクマがついている上に髪もボサボサだ。

 

「事を公にしてはダメだ。もっとキングズリーとマッドアイの2人で闇祓いを説得してくれ」

 

 そう言ったのはこの部屋の主。

 

『とっくにやっておる!お前こそポッター(小僧)の懐柔に随分と手間取っているようだな』

 

『アラスター、生徒に対して“懐柔”などという言葉を使ってはなりません!』

 

 と、少しやつれたマクゴナガルがダンブルドアなき『校長室』から言った。

 

「何度も言うように、ポッターはヴォルデモートと繋がっている。不用意に情報を渡せばたちまちヴォルデモートに知られてしまう。しかも僕はヴォルデモートに近い存在だ。うっかりポッターに手を出せば、『保護魔法』で滅されてしまうかもしれない。それこそ、僕や騎士団の負けを呼ぶ事になる。時間がかかるのは許してくれ。僕と騎士団の情報を一切説明せず、かつ魔法での接触もせずに信用してもらうのは難しいんだ」

 

『それはこちらも同じ事だ。その辺の闇祓いでは『真実薬』にも『服従の呪文』にも逆らえん。仲間を引き込んだと思ったら裏切り者でした、となっては笑えんからな!そりよりハグリッドの方はどうなっておる?マクゴナガル』

 

『ハグリッドはまだ帰ってません。巨人との交渉は難航しているようです。ルーピンはどうしました?』

 

『もっと悪い!シリウス共々狼人間の集会を追い出されそうになっておる』

 

『それに比べ、闇の帝王は吸血鬼と吸魂鬼を配下とする事に成功しましたぞ』

 

『それだけじゃありません。ルシウスが魔法省に毎日来ています。ドローレス・アンブリッジを始めとした反マグル派や純血の一族と手を組もうとしています』

 

「……おっと、やっと朗報だ。クロがドラゴンをこちらの陣営に引きれる事に成功した。それからヨルが蛇を仲間にする事に成功。小鬼達も僕に友好的な返事をくれた」

 

『ここ最近で良い知らせがこれだけとはな、まったく。だが、各員希望を捨ててはならん!油断大敵!』

 

プツン

 

 と鏡での通信が切れ、さっきまでの騎士団の姿はなくなり、自分の姿が映し出される。

 数秒自分の姿を見た後にトムが横を見ると、今度は『みぞの鏡』に映った自分が映し出されている。

 彼はその日、明け方まで『みぞの鏡』を眺めていた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 僕は今、魔法界の資格と職業についての勉強をしてる。理由は勿論、生徒達の就職のためだ。

 スリザリン生は主に魔法省。

 レイブンクロー生は主に司書や歴史家、研究家。

 ハッフルパフ生は主に何からの専門家や保護団体。

 そして僕が受け持つグリフィンドール生は『闇祓い』などの『祓い系』の職業が多い。

 例えば、『妖怪祓い』や『悪魔祓い』と言った『闇祓い』より権限のない、その代わりに就職に必要な資格や危険の少ない物を選ぶ生徒が非常に多い。

 それに加えて、ネビルの様に何らかの専門家になる生徒も少ないがある程度は居る。こういった専門職の資格は種類が多くて大変だ。

 例えば、パーバティ・パチルが希望している職業の『魔法アロマテラピスト』になるためには『魔法テラピー検定1級』、『魔法テラピー学校研修期間終了証明書』、『魔法薬学検定準2級以上』の3種類の資格。それから『MJAA(マジック・アロマ・コーディネーター)協会』に認めてもらわなくてはならない。

 こう言った職業ごとの必要資格と資格試験の試験日、試験申請の申込書の取り寄せ方法など、生徒の希望の分だけ調べなくてはならない。

 それでも、『祓い系』は大体同じ資格で良い事が救いだ。

 就職先がかなり別れるレイブンクローとハッフルパフを受け持つフリットウィック先生とスプラウト先生は本当に凄いと思う。

 

 今は生徒に貰ったマフィンを片手に『近年の妖怪祓いの主張』という本を読んでる。

 妖怪祓い達はもうここ何十年と自分たちの地位の向上を求めている様だ。彼らは『ものまね妖怪』を始めとした妖怪の数々が弱点を克服した場合、魔法省が認知しているよりどの生物よりも危険だと主張している。

 それに対して魔法省は妖怪である以上、どんな危険な性質を持っているとしても『笑顔』や『楽しい気持ち』を妖怪が克服する事はなく、故に危険ではない。と断言して要求を突っぱねてるようだ。

 さらに本を読み進めようとすると、

 

コンコン

 

 とドアをノックする音がした。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 入ってきたのはハーマイオニーを先頭に、ロン、ハリー、ジニー、フレッド、ジョージの6人。

 

「昨日言ってた大事な話についてかな?」

 

「まずは、ごめんなさい先生」

 

 ハーマイオニーがそう言うと、全員が頭を下げてきた。

 

「実は、その、この一ヶ月私達は先生を監視してたんです」

 

「何故監視を?」

 

「先生が“例のあの人”と繋がってると思ったんです」

 

「どうしてそう思ったんだい?」

 

「僕が二年生の時、お前そっくりの奴に殺されかけた!髪飾りに込められたヴォルデモートの昔の記憶、トム・リドルに!お前は何者なんだ!」

 

 ハリーがもう我慢出来ないと言わんばかりに話に割り込んできた。

 

「落ち着けよ、ハリー。この人が本当に“例のあの人”ならもう僕達死んでるぜ?それに、君の命を助けたじゃないか」

 

「……ありがとう、ロン。すみません先生、どうして先生はヴォルデモートの若い頃と同じ容姿をしてるんですか?」

 

 ここで僕の正体を全て話してしまえば、僕の事をヴォルデモートに知られてしまう。かと言って黙っていれば、僕達がハリーとヴォルデモートが繋がっている事に気づいていることに気づかれてしまう。

 ここはヴォルデモートが知らない、かつ知られても構わない情報を交えながら、僕が知ってる全てを教えるかの様に話す。

 そうすればヴォルデモートは僕がハリーに打ち明けた情報が僕達の知る全てだと、僕達がハリーとヴォルデモートにある繋がりを認知していないと、思わせられるかもしれない。

 

「僕そっくりなやつ?そいつは知らないけど、僕はヴォルデモートの一部だよ。元、だけどね。どうやったのかは分からないけど、ヴォルデモートは学生時代の記憶の一部を切り離したんだ、それが僕」

 

「記憶を?でも先生は“例のあの人”と全く性格が違います!」

 

「その通りだグレンジャー。僕とヴォルデモートは似ているけど、全く違うんだ。その理由は正確にはわからないけどね。一応、あいつが『闇の帝王』になるために切り離した“善”の記憶の部分が僕だとダンブルドア校長はお考えだ」

 

 これなら分霊箱には触れないし、筋が通っていそうでもある。

 

「それなら僕が壊した髪飾りにとりついていたヴォルデモートは何なんですか?」

 

「分からない。少なくとも僕にはね。ダンブルドア校長なら何か知ってるかもれないけど、生憎と僕は校長の行方も知らない」

 

「……分かりました。それでは、失礼しました」

 

「さよならポッター。ウィーズリー兄弟、忘れ物だ」

 

 双子がこっそり設置して帰ろうとした『聞き耳』を渡した。

 

「気づいてたんですか、先生?」

 

「偶然にね。グレンジャー、君は少し残っていきなさい。“例の”レポートの件で話がある」

 

 勿論、レポートなんてない。

 

「……分かりました」

 

 ハーマイオニーを残して他の面々は去っていった。

 僕の状況を察したジニーが後はフォローしてくれるはずだし、それで上手くいく。でも、そこにハーマイオニーがいれば別だ。

 ハーマイオニーはわずかな綻びを見抜き、真実に到達してしまう。実際『原作』でもそうだった。

 隠されている物が賢者の石である事を当て、秘密の部屋の怪物の正体を暴き、ルーピン先生が狼人間である事に辿り着いた。

 兎角、ハーマイオニーを敵に回してはならない。少なくとも、知略という面では。

 

「グレンジャー、君には全てを話そうと思う。でもそれは『閉心術』と『真実薬』に抵抗する術を身につけてからにしたいんだ」

 

 驚いた様子はない。

 さっきの話が嘘である事をある程度見抜いてたみたいだ。

 

「リドル先生、私、もうその2つを習得してます」

 

「本当かい?一体、どうやって」

 

「『閉心術』の方はジニーに手伝って貰いました。ジニーはリドル先生が作った『カンニングノート』で『閉心術』のやり方を学んでたので、それを教えてもらいました。『真実薬』の方は『必要の部屋』の性質を使いました。あの部屋の物は外に持ち出せません。なので、あの部屋にある材料で『真実薬』を飲んで、抗えなかったら部屋から出て、部屋に入ってまた飲んでを繰り返しました」

 

「グレンジャー、君に20点あげよう。まったく、驚きだ!君は本当に賢い娘だ」

 

 僕がそう言って褒めると、ハーマイオニーは心底嬉しそうに笑いながら、ガッツポーズをした。

 

「やっと先生を驚かせられました」

 

「僕は顔に出ないだけで、いつも君の優秀さに驚いてるよ」

 

「リドル先生、私今本当に嬉しいんです!水を差さないでください!」

 

 返事をする代わりに、僕は黙って両手を挙げた。

 

「……そろそろ話をしてもいいかな?」

 

「ああ、すみませんリドル先生」

 

「これから話す事は誰にも話してはいけないよ、いいね?」

 

 ハーマイオニーは黙って頷いた。

 

「まず、僕の本当の正体なんだけど──」

 

 ハーマイオニーには一晩かけて、ヴォルデモートが分霊箱というものを使って死から免れた事。僕がその分霊箱である事、ハリーと接触すると僕が危険な事、でも彼なくしてはこの戦いに勝てない事などを話した。

 そして、ヴォルデモートがまた戻ってくるだろうことも

 

 

   ◇◇◇◇

 

 

 翌日、ハーマイオニーが何やら興奮した様子で僕のところに来た。

 

「リドル先生はハリーに秘密を言う訳にも行かないし、接触する事も出来れば避けたい。けど、ハリーに協力はして欲しいし、強くもなって欲しい。そうですよね?」

 

「その通りだ」

 

「リドル先生のお役に立ちたくて、私、一晩じっくり考えたんです。それで、思いつきました。私達が自分達で強くなればいいと思うんです。なので、これを立ち上げようと思います!」

 

そう言って見せてきたのはバッジだ。中央に書かれている文字は──

 

「TA?」

 

「はい『TA(トム・アーミー)』です。先生が開かれている『決闘クラブ』で教わった基礎理論を、あくまで私やジニー、セドリックが考えた、というていで教えようと思うんです」

 

「いい案だと思うけど、『TA』って名前はちょっと……」

 

「大丈夫です。表向きには『TA(ティーンズ・アーミー)』にしますから」

 

 ハーマイオニーがぴしゃりと言った。

 

「そこまでしてその名前に拘らなくてもいいのに…… まあ、嬉しいけどね」

 

「それじゃあ、許していただけるんですね?」

 

「許すも何も、こっちからお願いしたいよ。ありがとう、グレンジャー」

 

 ハーマイオニーはニッコリと笑った。

 不覚にも、その魅力的な笑みに見惚れてしまったのは内緒だ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26 ハーマイオニー・グレンジャーとダフネ・グリーングラス

 ハーマイオニー・グレンジャーは努力する天才である特に勉強をせずとも学校で、いや、州で最も高い成績を取る事ができた。

 しかし彼女は、そんな自身の才能に慢心する事なく、むしろ日に16時間という猛勉強を幼い頃から毎日していた。

 他の人間から見れば拷問の様な生活。しかし、彼女はそれが幸せだった。

 自身の見聞が広がる事もそうだが、何より両親に褒められる事が嬉しかったのだ。

 歯科医という優秀な職業に就く両親が自分の賢さに驚き、褒めてくれる。彼女にとって、尊敬できる人物から褒められるというのはこの上なく嬉しい事だった。

 だが、その幸福は長くは続かなかった。段々と、両親に褒められる事の嬉しさが薄れていったのだ。

 勘違いしないでほしいのだが、ハーマイオニーが両親を嫌いになったとか、両親を愛さなくなったとか、そういったことでは無い。

 単純に、ハーマイオニーは両親を、学問という点においてのみだが、尊敬出来なくなっていたからだ。

 日々の生活全てを勉強に捧げる彼女と、毎日仕事に追われる両親。いつの間にかその差は縮まり、追い越していたのだ。

 その事に気が付いた彼女は新たに自分が尊敬できる、自分を褒めてくれる人物を探した。

 

 故に、そんな時に届いた魔法界からの、ホグワーツからの手紙は彼女にとって天からの遣いの様に思えた。

 全く知らない学問を一から学ぶ。それも1教科ではなく複数教科。普通の人なら嫌気がさす事でも、ハーマイオニーにとっては己の見聞を広める絶好のチャンスでしかなかった。

 また、予習として読んだ本でダンブルドア校長の存在を知った彼女は再び喜びの絶頂を迎えた。

 何故なら、彼女にとって喜びとは、尊敬できる雲の上の存在から褒められる事だからだ。

 ダンブルドア校長はその条件を見事に満たしていた。だから、彼女はレイブンクローではなく、ダンブルドア校長が在籍していたグリフィンドールに入る事を望んだ。

 しかし、ホグワーツでの生活は彼女の要求を完全には満たしてくれなかった。

 

 最も頭の良さを証明できる教科である『魔法薬学』は、彼女がグリフィンドールに入ったために差別にあい、誰も彼女を褒めてくれなかった。

 彼女の寮監であるマクゴナガルも、ハーマイオニーの優秀さを認めてはいたが、公正を重んじる性格から彼女を褒める事をあまりしてはくれなかった。

 極めつけとして、憧れていたダンブルドア校長は自分の友達であるハリーの事ばかりで、自分にあまり関心がない様だった。

 そのハリーにしたって友人のロン共々勉学に興味がなく、ハーマイオニーがいくら教えても一向に学問に励まず、彼女の学問についての好敵手にはなってくれなかった。

 確かに、トロールから自分を守ってくれた事や、賢者の石を共にヴォルデモートから守った事を通して3人の間には友情が芽生えていた。

 そして賢い彼女はその経験から学問だけではなく、勇気や友情といった物も大切だと学んだ。

 だが、彼女にとってやはり最も重要な事は学問であり、学問に置いて自分が真に尊敬できる人物から褒められる事が彼女にとっては最高の幸せだった。

 そしてそれは、魔法界に来ても満たされる事はなかった。

 ハーマイオニーはこうしてわずかな蟠りを胸に残したまま、ホグワーツでの最初の一年を終えた

 

 ハーマイオニーが二年生になった時、二つの転機が訪れた。

 1つは若き天才、ジニー・ウィーズリーの台頭である。

 ジニーは自身を越える才覚の持ち主であるともっぱらの噂だった。

 その存在はハーマイオニーを大いに焦らせた。ただでさえ自分がほしい評価を受けられない、褒めてもらえない環境の中で自分より優秀な人間がでたらどうなるか……

 そんな焦りから、ハーマイオニーは初めて望まない勉強をした。

 唯一とも言える娯楽であり、人生を費やしてきた学問が辛いものとなり、ハーマイオニーは生きる目標を失いかけた。

 だが、彼女にはもう1つ新たな生き甲斐ができた。

 それは、もう1つの転機であったギルデロイ・ロックハートの存在である。

 彼はハーマイオニーにとって伝説的な、尊敬に値する人物であり、自分をよく褒めてくれる理想の人物だった。彼女にとって、ロックハートは新たな支えとなった。

 だが、残念な事にロックハートは本の中通りの人ではなかった。勿論、優秀なハーマイオニーはその事にすぐに気が付いた。

 しかし、ハーマイオニーはそれを認める事ができなかった。新たな心の拠り所を失う事に耐えられなかったからだ。

 彼女が辛い勉強をしながら、自分の心に蓋をする事数ヶ月、事件は起こった。

 秘密の部屋の怪物によるマグル狩りである。その上、犯人の最有力候補は自分の親友であるハリー・ポッター。ハリーがそんな事をする人物ではないと知っていたが、自分の命に関わる事である。ほんの少しの猜疑心を持つ事は仕方のない事だった。

 後輩に追いつかれ、自分は褒めてもらえなくなるかもしれない、という焦りに追われる中での勉強。

 自分の命が狙われている。しかも、犯人は親友かもしれないという恐怖。

 自分の命の危機を救ってくれない、英雄のはずの先生。

 彼女のストレスはピークに達していた。

 そんな中、ハーマイオニーは僅かな手がかりをもとに秘密の部屋の怪物がバジリスクである事を突き止めた。

 

 彼女は歓喜した。

 50年前、ダンブルドア校長でさえ突き止められなかった怪物の正体を突き止めたのだ。

 今回こそは絶対に自分の功績が認められる、褒めてもらえる。彼女の心は満たされるはずだった(・・・・・)

 不幸にも、次のスリザリンの後継者の狙いはハーマイオニー自身だった。彼女はその功績を手に握りしめたまま、石になってしまった。

 自分が目覚めてみると、また褒められているのはハリー・ポッター。

 勿論、ハリーが無事だった事は嬉しかったし事件が解決した事も嬉しかった。だが、賢者の石を守った時より明らかに自分の功績は大きいのに、前の時よりさらに褒められてもらえなかった。

 それに比べてハリーとロンは200点と『ホグワーツ特別功労賞』。

 ハーマイオニーの胸の中で、学校への不満が燻っていた。

 こうして、彼女は二年目のホグワーツは終えた

 

 三年生となった彼女はさらに注目されない様になった。

 後輩であるジニー・ウィーズリーに追いつかれない様に『逆転時計』による無理な勉強を行い体を壊した。

 初めてのまともな『闇の魔術に対する防衛術』の先生であるルーピン先生はハリーの両親の友達であったため、またハリーの事ばかり気にかけた。

 自分がやっと習得した『守護霊の呪文』。だが、ジニーは自分よりも強力な守護霊を呼び出した。結局、ホグワーツ『最多得点者』はセドリック・ディゴリーだった。

 こうして、彼女は三年目のホグワーツを終えた。

 

 四年生の時、ついにハーマイオニーは蚊帳の外の存在になった。

 自分越える魔女、魔法使いであるクロやヨルのライバルとして戦う英雄、ハリー・ポッターを応援するただの友人。彼女は自分の事をそう捉えていた。

 そして、終ぞ彼女は活躍する機会を得なかった。

 こうして、彼女は四年目のホグワーツを終えた。

 

 彼女の中に不満が溜まりに溜まった状態で迎えた五年生。彼女はついに、トム・リドルに出会った。

 ヴォルデモートを退ける強力な魔法使いであり、あのヨルとクロを育てた優秀な教育者であり、他の教師と違って今でも魔術の研鑽を怠らない理想の人物。

 授業で教わる事は呪文も理論も自分の知らない事ばかり、教え方も上手い。そして何より、彼は自分の事を特別扱いしてくれた。

 自分のために、多くの生徒からクラブの顧問になってくれるようせがまれる中、『探求クラブ』と『決闘クラブ』という2つのクラブの顧問になってくれた。

 試しにみんながやっている様にお菓子を作って贈ってみると、自分の好みのお菓子がメッセージカード付きで返ってきた。

 メッセージカードにはハーマイオニーのお菓子作り独自のアレンジを細かく褒める内容と、自身が最近特に打ち込んでいる『拡大呪文』についての応援メッセージが書いてあった。

 ハーマイオニーは次の日から、お菓子を贈るのではなく、自分で持っていく様になった。

 トムには人を褒める事に関して、人が望む事をしてあげる事に関して天性の才能があった。

 周りの生徒のほとんどが慕う先生から、自分が憧れる魔法使いから、自分が褒めて欲しいと思うものを絶妙なタイミングで褒めてもらう。特別扱いしてもらう。

 何年も何年もそれを望んでいたハーマイオニーにとって、それは甘美な蜜だった。

 そして、その甘い毒の様な蜜は今、ハーマイオニーがトムと『分霊箱』という最大の秘密を共有するという“特別扱い”と、自身の努力によって彼から驚きを引き出し、最大限“褒められる”事で極上の物となった。

 人は、一度得た幸福を手放せない。

 ハーマイオニーは、自身やトムでさえ気が付かないうちに、トムに褒められる事に陶酔しきっていた。もうそれなしでは生きてはいけない、とさえ思わせるほどに・・・

 

 そして、トムもまた無意識の内にハーマイオニーが最も求めている言葉をおくっていた。それはハーマイオニーがハリーよりも優秀であると認める事。

 ホグワーツに来てからというもの、普段勉強を疎かにするハリーばかりが褒められる事に心の奥底で不満を持っていたハーマイオニーは、誰かに『君はハリーより優れた魔法使いだ』と言って欲しかったのだ。

 そしてトムは、ハーマイオニーにハリーの教師役を頼む事で、ハリーと対等ではなく、知恵を授ける上位の存在と扱うことでこの要求を満たした。

 最早、彼女の頭の中には『TA』の事しかなかった。詳しく言えば、『TA』で誰もが驚く程の業績を残し、トムに褒められることしか考えていなかった。

 もう一度言おう、ハーマイオニー・グレンジャーは努力する天才である。

 彼女が最高の動機と最大の目標を持った今、どんな結果になるかは火を見るよりも明らかだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダフネ・グリーングラスは最悪とも言える部類の差別主義者である。

 彼女はマグル生まれを『穢れた血』と差別するのは勿論の事、グリフィンドール生とハッフルパフ生の事も『煩わしいゴミ』と差別していた。

 いや、彼女は差別していたという意識すらない。心の底から、悪意なく、純粋にマグル生まれは穢れた存在で、グリフィンドール生とハッフルパフ生はゴミだと思っていた。

 

 彼女は幼い頃から『聖28一族』、その中でも美貌を司るグリーングラス家の長女として洗礼された“作法”の数々を身に付けてきた。

 それは食事のマナーであったり、社交界の流儀であったり、気に入らない同性を効率よくいじめの対象にするやり方だったり、異性を奴隷にする方法であったりと多岐にわたった。

 彼女は要領も、器量も良く、あっという間にそれらの技術を学んでいった。

 彼女はホグワーツに入学すると恐ろしい程の数の異性を虜にした。

 虜にした、と言っても身体を使っての誘惑といった下品な事をした訳ではない。

 磨かれた美貌、完璧で美しい作法と言葉遣い、彼女の自慢の蒼い瞳と濡れた黒髪、そして彼女の生来の女王の様な品位がどうしようもなく異性を、いや、同性であっても惹きつけた。

 彼女は一年生にして既に、狡猾で有名なスリザリンのあらゆる生徒を下し、女王となった。

 品位、財力、教養、美貌、権力、普通の人間ではどれか1つ得るのにも苦労する物を、彼女はその年で全て持っていた。

 

 そして全てを得た彼女は、今度は自分とそれ以外とを差別した。

 自分は唯一の存在であり、他は自分に従うべき奴隷。彼女はそう差別し、また実際そうなっていた。彼女は傲慢でプライドが高かった。そして周りもそれを受け入れていた。

 ここに、1つの形が完成していた。あの日までは……

 

 彼女が五年生になった時、1人の教師がやって来た。そう、トム・リドルだ。

 どんな奴か観てやろうと、彼女は手始めにダフネが認める容姿を持つ奴隷の1人に命じて、新任教師にお菓子とメッセージカードを贈らせた。

 女の奴隷に誘惑させて、新任教師がそのまま女奴隷に手を出すならそれを弱味に色々と使ってやろう、という腹だった

 すると3日後、奴隷は奴隷でなくなった。

 お菓子を贈らせた生徒はダフネの手を離れ、独立していった。それを追う様に1人、また1人と。1人が2人に、2人が4人に、4人が16人に、奴隷で無くなる人が増えていった。

 ダフネは激昂した。

 だが相手は教師。力では敵わない。だからダフネは新任教師を自ら誘惑し、奴隷にする事に決めた。

 彼女はお菓子を贈る所から始め、次に授業の後に質問に行くようになり、次第に毎日の様に彼の部屋に訪れる様になった。

 

 そして、女王はいなくなった。

 

 これだ、というきっかけがあった訳ではない。

 彼と談笑をしているうちに、蠱惑的な笑みから普通の少女の微笑みへと変わった。

 彼のためにお菓子を作っているうちに、万人受けするお菓子から彼の好みの物へと変わった。

 彼の友人達を見ているうちに、色々な人と関わるのを楽しむ人へと変わった。

 彼と一緒に居るうちに、純血主義からトム・リドル主義へと変わった。

 普通の人間ならば、これで物語はハッピーエンドを迎えた事だろう。

 もう一度言おう、ダフネ・グリーングラスは最悪とも言える部類の差別主義者である。

 

 今の彼女はトム・リドルに必要な物以外は全てゴミだと差別している。

 そのまま彼女は自分が彼にとって役に立たないのであれば、今度は自分もゴミだと差別する様になった。彼女は自分をゴミと差別しないために、彼に全てを捧げる決意をした。

 そして、彼女の持つ品位も財力も教養も権力も美貌も全て彼に使って欲しいと、心から、悪意なく、純粋にそうありたいと願う様になった。

 自分を道具の様に、女として産まれてきた尊厳全てを踏みにじられる様に使って貰う事がダフネの目標となった。

誇り高い品位を邪な心で歪めていただけたならどれだけ幸せか。

 自分の家族が私のために残してくれた財産を、欲望のまま食い荒らしていただけたならどれだけ幸せか。

 血のにじむ様な努力で手に入れた教養を、圧倒的な力で踏み潰していただけたならどれだけ幸せか。

 自分が手に入れたこの権力を一切無視して、奴隷の様に乱暴に扱っていただけたならどれだけ幸せか。

 今まで毎日手入れをしてきた肌や髪、頑張って維持してきた体を男の欲望のままに穢していただけたならどれだけ幸せか。

 ダフネ・グリーングラスはある種の狂気を持っている。自分が奴隷にしてきた数々の残虐な行為を、今度は彼の手で自分にして欲しいと願っている。

 だが彼女はそれをトムが望んでいない事も分かっている。トムは落ち着いた人間を好み、生徒に頼られる事に喜びを感じている。

 だからダフネは人格を作り変え、丁寧な、しかしさほど形式張っていない口調で話し、他の生徒と違う『愛の妙薬』入りでは無いお菓子を無邪気に贈り、女子生徒がよく抱えていそうな当たり障りの無い悩みを相談した。

 こうやって彼の欲望を満たしながら、ダフネは彼に自分の望み通りの狂暴な人間になって欲しいと願っている。その狂暴さを、自分にぶつけていただくために……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27 『TA』

 ハーマイオニーは苦悩していた。

 悩みの原因は勿論『TA』について。

 『必要の部屋』という練習場所と、自分とハリーという教師は用意した。

 問題は生徒。生徒が一向に集まらなかった。

 トムが行う『闇の魔術に対する防衛術』の授業にほとんどの生徒が満足していたため、放課後にまで戦い方を学ぼうと思う生徒が少なかったのだ。

 また、放課後も学ぼうとする数少ない生徒も、トムが開いている『探求クラブ』があったため、そちらの方に属してしまっていた。

 皮肉にも、生徒の事を考えて行ったトムのサポートが、裏目に出てしまっていた。

 それでもハーマイオニーは色々と勧誘を続けたが、元々人付き合いが得意とは言えない彼女の勧誘は中々上手く行かなかった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「リドル先生、今日もお話に付き合っていただけますか?」

 

 そう言って尋ねてきたのはダフネ・グリーングラス。彼女がこうやって尋ねて来ることは最早僕にとってもルーティーンになっている。

 他の生徒の一癖も二癖もある相談と違って、彼女の相談事は実に単純で、実に面白い。

 

「勿論、構わないよ」

 

「ありがとうございます、リドル先生」

 

 彼女はそう言って微笑みながら、いつもの席に座った。

 

「そういえばリドル先生、2週間ほど前にできた『TA』というクラブをご存知ですか?」

 

「……ああ、知ってるよ」

 

「なんでも、小規模ながら自分達で戦いの訓練をしているとか。なんだか私達の『決闘クラブ』や『探求クラブ』に似てますね」

 

 そこまで話して、一旦彼女はテーブルの上にある紅茶の入ったカップを、音を立てずにそっと持ち上げた。そのまま彼女は目を瞑り、紅茶の匂いを楽しんだ後に、静かにカップに口をつけた。

 その後唇をカップから離すと、カップを持ったままゆっくりと、ほんの少しだけ、すっと瞳を開いて何処か遠くを睨んだ。

 

「私からすると、先生の授業やクラブでは物足りない、と言われている様で少し気になってしまいます」

 

 彼女はカップをテーブルに、珍しく音を立てて置いた。

 

「リドル先生は『TA』についてはどの様にお考えで?」

 

「……そうだね、中々面白い試みだと思うよ。指導を自分達で行う分、大変で、効率が悪くて、より為になる」

 

「ではリドル先生は『TA』には賛成なのですか?」

 

「僕は生徒達が自主的に何かするのには賛成だ。自主性、というのは僕達教師では育ててあげられないからね。僕としては、あのクラブが成長する事は嬉しい事かな」

 

「……分かりました。それでリドル先生、今日の相談なのですが──」

 

 その後、ダフネはいつもの様に、実に女の子らしい、学生らしい悩みを相談してきた。

 彼女の悩み相談をされていると、僕は教師としての充実感を得る事が出来る。この関係は彼女にとっても僕にとっても、良いものだと思う。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「リドル先生、『TA』の報告書です!」

 

 まだ日も昇りきらない早朝に、ハーマイオニーが僕の部屋を訪ねて来た。

 

「……へえ、驚いたな。いや、本当に凄い!」

 

 ハーマイオニーが『TA』を発足すると言ってから一月。

 最初の2週間は上手くいって無い様だったから、どうなる事かと思ってたけど、流石ハーマイオニーだ。

 報告書によると、メンバーはグリフィンドール生とハッフルパフ生を中心に、一部の極めて優秀なレイブンクロー生と比較的差別意識の低いスリザリン生で構成されてるみたいだ。

 僕から見ても、これ以上無いくらいのメンバーがバランス良く集まってる様に思える。

 

 それに学習内容も実に充実してる。

 基礎的な杖の振り方からじっくりと教えている様で、今更生徒達が授業で聞きづらい所を見事にカバーしている。

 勉強熱心な彼女らしい、生徒の立場に立った良いやり方だ。基礎部分をヴォルデモートの学生時代の記憶から学んでる僕では中々手が回らない所を上手くフォローしてくれてる。

 ハリーも教師という立場が気に入ってるらしく、かなり『TA』にのめり込んでるみたいだ。

 このままいけば、ハリーは順調に強くなっていく事だろう。

 

「それでグレンジャー、当面の目標は何にしてるのかな?」

 

 人は、目標があった方が格段に成長する。

 僕も授業で長期的な目標として、“銀の生き物”を育て上げる事を課してるし、短期的な目標も三授業毎に立てることにしてる。

 ハーマイオニーも当然それを理解してるはずだ。

 その証拠に、待ってました!と言わんばかりに胸を張って答えてくれた。

 

「一月毎にトーナメントを開催することにしました。優勝すると次のホグズミードで『TA』メンバー全員に何かを奢って貰えます。そうすれば、みんなが優勝を目指して頑張るだけじゃなくて、優勝した時の景品を豪華にするために、『TA』のメンバーがそれぞれ、色んな人を勧誘してくれると思ったので。

それと、ハリーを倒せた人は特別な賞が貰えます。これは何の魔法効力も持たないただの賞ですが、“生き残った男の子”を倒したというのは大きな名誉になります。

これだとハリーには賞品はありませんが、負けず嫌いなので誰にも負けない様に沢山訓練すると思います」

 

「なるほど……。グレンジャー、君は教師に向いてるかもしれないね」

 

「本当ですか?なら、いつか先生の同僚になりたいです!」

 

「本当だとも。マクゴナガル校長は『変身術』の教諭と校長としての業務の両立で忙しい。君にその気があるのなら、僕から話をしておこうか?」

 

「いいえ、リドル先生。自分でマクゴナガル校長に話しに行きます。自分の事ですから」

 

 ハーマイオニーの自立は嬉しい反面、少し悲しい。

 どうやら僕は、頼られることに喜びを見出すタイプの人間だったみたいだ。

 

「君が『変身術』の先生になったら、僕が教えてもらおうかな。実を言うと、僕は『変身術』の類が苦手でね」

 

「そうなんですか!?」

 

 これは本当の事だ。

 僕は肉体がない魂だけの存在だ。だから他の人より魂や魔力の方を強く意識してしまってる。

 故に、形を変える『変身術』は苦手だ。逆に得意なのは『召喚呪文』だ。

 僕の特性上、『守護霊の呪文』や『花咲呪文』といった無から形を想像して、物を創り上げる呪文はやりやすかった

 

「でも、それならますますホグワーツの先生になりたくなりました。先生に何かを教えるなんて、とっても面白そう!」

 

 生徒が教師だった人に物を教える様になる。ハーマイオニーの場合、やろうと思えば確実に出来るようになるだろう。

 やっぱり生徒の自立は辛い事だ……

 キラキラと笑う彼女に、僕は黙って肩を竦めた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ハリーの機嫌はここ最近、少し前の頃と打って変わって最高だった。ハリー自身、四年生になった当初は、ここまで楽しい学校生活を送れるとは思ってもみなかった。

 入学当初。監督生になってしまったロン、ハーマイオニーと疎遠になりがちだった。

 しかも、2人は最初の『闇の魔術に対する防衛術』の授業以来、ヴォルデモートと関係があるかもしれないトム・リドルと親しくしてる。

 その上、みんなの反対を押し切って、リドルの秘密を暴こうとして悉く失敗した。いや、ただ失敗しただけじゃない。秘密を暴く任務のために、ロンはクィディッチの弟子入りをして、ハーマイオニーは『探求クラブ』に入った。

 そしてそのまま任務が終わった後も、2人はリドルの元に通うようになってしまった。

 ハリーはなんだが、無性にそれが気に入らなかった。

 しかも、ヴォルデモートが復活したのに、再び倒されたが、何の情報も入ってこない。

 自分はあの場所に居たのに!

 ハリーの不満は爆発寸前だった

 

 だが、ここ最近は違う。

 その理由は、自分が教師をしている『TA』の存在だ。

 総勢32人の生徒達がハリーを慕って集まってくれている。全員ハリーの話を熱心に聞いてくれるし、ハリーが教えた事を『TA』活動外も本当に必死になって復習してくれる。

 自分を慕ってくれる仲間と共に強くなる事は、リドルの力に追いつける様な、ヴォルデモートに近づいてる様な気にしてくれた。

 

「先輩、今日は何を教えてくれるんですか!?」

 

 そうハリーに聞きながら、ニッコリ満面の笑みを浮かべて腕を絡めて、体を密着させてくるのは後輩のアステリア・グリーングラス。

 ハリーから見て、スリザリン生にしては珍しく、純血主義に染まっていない生徒だった。

 誰もが気にかけてしまう、面倒を見たくなってしまう様な理想的な後輩である。

 

「あー、えっと……何だっけ?ハーマイオニー」

 

「ハリー、昨日言ったでしょ?今日は『無言呪文』のやり方よ。それと、羊皮紙に教え方を纏めておいたから、見ておいて」

 

「ありがとう、ハーマイオニー」

 

 ハーマイオニーもここ最近、ハリーと同じくらい『TA』に尽くしてくれていた。少し前まで、口を開けば『探求クラブ』の事ばかりだったのが嘘の様だった。

 

「ハリーは忙しいのよ、忘れちゃうのも無理ないわ。それに、予習なんてしなくても、ハリーはここにいる誰よりも優秀よ」

 

 そう言ってハリーの肩を持つのは、ハリーより1つ年上のレイブンクロー生、チョウ・チャン。

 アステリアとほぼ同時期に『TA』に加入した生徒で、ハリーをよく褒めてくれた。誰もが頼りたくなってしまう、面倒を見て欲しくなる様な理想的な先輩。

 

「そんな事ないよ、チョウ。僕だっていっつもギリギリさ。だって……ほら、チョウは優秀だから、追い抜かれない様に」

 

「ハリー、そんな、優秀だなんて!私なんて、ハリーに比べたら全然なのに」

 

 チョウがうっとりした顔でハリーを見つめた。

 ハリーの胸は幸せでいっぱいだった。

 

「はぁい、ハリー、チョウ、ハーマイオニー、アステリア。アステリア、お姉ちゃん元気?」

 

「やあ、ルーナ」

 

「「はぁい、ルーナ」」

 

「おはようございます!お姉様なら元気ですよ、また先生の部屋でお茶会をしながら話をしたい、て言ってました!」

 

 彼女はルーナ・ラブグッド。

 ハリーの1つ年下のレイブンクロー生で、いつの間にか『TA』に加入していた。ジニーと、アステリアのお姉さんの親友らしい。

 ルーナはリドルと仲が良いらしく、ハリーは最初、ルーナがリドルのスパイなんじゃないかと疑っていた。

 尤も、すぐに疑う事が馬鹿らしくなったが。

 

「それじゃあ、みんなこっちを向いて!今日の『TA』を始めよう!」

 

 ハリーがそう声を掛けると、今まで談笑していた生徒達は話をやめて素早く整列した。ハリーはその見事に統一された動きをする生徒達を見て、満足気に頷いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28 クリスマス

 誰もが迫るクリスマスに胸を躍らせる中、トムは仕事をしていた。

 仕事の内容はマグルの家に産まれた、しかし魔力を扱う事のできる人間の選定。すなわち、マグル産まれのホグワーツ新入生の勧誘準備である。

 その選定方法は極めて地味、かつ手間のかかる作業だ。

 今、彼の机の上には魔法省から寄せられた、恐らく魔法が使われたと思わしきマグルの世界の事件の資料が山の様に積まれていた。

 この資料から、本当に魔法が関わっていたのかどうかを見極めなければならない。

 例えば、赤ちゃんが爆発を起こした事件があったとする。

 それを周りの被害状態、事件後の赤ちゃんの疲労具合、周りのマグルに見えていたか、などを、時に現地に行ってまで、詳しく調べる事で魔法なのか、科学のイタズラなのかを判断する訳だ。

 ホグワーツの教師陣が嫌がるこの仕事をトムは喜んで引き受けていた。

 何故なら、この仕事を通して、自分の仮説が正しかった事が証明できると思ったからだ。果たして、結果は──

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 今日は冬休み前の『闇の魔術に対する防衛術』最後の授業だ。それもハリー達の学年のスリザリンとグリフィンドールの合同授業。

 

「先生、おはようございます」

 

「おはよう、ロングボトム」

 

「今日は何をするんですか?」

 

「残念ながら、今日は秘密だ。ちょっとしたテストをやろうと思ってね」

 

 質問してきたのはネビル・ロングボトム。

 何故こうして気軽に質問できるのかというと、まだ授業が始まっていないからだ。

 授業に来る生徒達には三種類のグループがある。

 1つは、今日のネビルの様にかなり早く来る生徒達のグループ。

 1つ前のコマに授業が無く、教室が開くまで外で待って、開くと同時に直ぐに入ってくる生徒達だ。

 もう1つは早く来る、が1つ前のコマに授業があったために、最初に来るグループより少し遅れてしまう生徒達で、ハーマイオニーの様に沢山授業を取っている生徒は大体このグループに属している。

 最後のグループは、授業が始まる直前になって駆け込んでくる生徒達だ。このグループは数が少ないが、毎回決まったメンツがきっちり駆け込んで来る。

 

 僕が何人かの生徒と談笑していると、チャイムが鳴るのと同時に、教室に来ていない残りの生徒達が狙っていたかの様に駆け込んで来た。

 

「やあ、生徒の諸君。それじゃあ、授業を始めようか」

 

 僕がそう言うとハーマイオニーが手を挙げてきた。

 

「リドル先生、机と椅子がありません」

 

「今日は少しテストをしようと思ってね」

 

 そう言って僕は杖を振るって、生徒達の人数のちょうど倍の数の机と椅子を並べた。

 

「この机と椅子には『驚かせ妖怪(スペクタリペンテ)』が混じってる。驚かされない様に座るのがテストだ」

 

 僕がそう言うと、ハーマイオニーやダフネ、マルフォイといった生徒達が直ぐに着席した。

 他の大半の生徒達は慎重に机を吟味した後、恐る恐るといった感じで座った。

 

「みんな座れた様だね。それじゃあ改めて授業を始めようか」

 

 僕が笑ってそう言うと、何人かの生徒達がホッとした表情を作った。その瞬間、安心してしまった生徒達の絶叫が教室に響いた。

 理由は簡単、『驚かせ妖怪(スペクタリペンテ)』が驚かせたからだ。生徒達が最も驚くものに変身して、生徒達を驚かせている。

 

「何人か驚かされてしまった様だね。実は、この教室に置かれてる全ての机と椅子が『驚かせ妖怪(スペクタリペンテ)』だ。この妖怪がどうして今になって、特定の人に対して変身したのか、分かる人は居るかな?」

 

 生徒の大半の手が挙がる。

 この妖怪を授業で扱った事はない。つまり、みんな自主的に勉強してくれた訳だ。

 

「それじゃあ、ロングボトム。説明してくれるかな?」

 

「はい。えーと、『驚かせ妖怪(スペクタリペンテ)』は人が安心した瞬間に姿を変えます。だから、座った時はみんな警戒してたけど、何人かの人は途中で気が紛れてしまったから、今姿を変えた、のだと、思い…ます」

 

「正解だ、ロングボトム。グリフィンドールに5点あげよう」

 

 ネビルが嬉しそうに着席した。

 

「この事から驚くべき事が分かる。それがなんだか分かる人は居る?」

 

 今度は1人しか手が挙がらない。

 

「アイベリー、君の意見を聞かせてくれるかな?」

 

「『驚かせ妖怪(スペクタリペンテ)』、というより妖怪全般は言語を理解してないわ。知能もそこまで高くない。なのに人の心読んで、そこから心情を理解するって事はどういう事かしら?恐らく、妖怪は人間と全く違う『開心術』を用いてる事が分かる」

 

「正解だ。グリフィンドールに10点あげよう。妖怪は極めて優れた『開心術』を持ってる。例えば『ものまね妖怪(ボガード)』の場合、対象となる人物の“最も恐ろしい物”を瞬時に当てる訳だけど、人間の使う『開心術』だとそうはいかない。対象の人物の人生を一から見ていって、一番恐怖を感じた瞬間を探さないといけない」

 

 これは本当に驚くべき事だ。

 人間がこの技術を真似ようと思ったら、『みぞの鏡』や『組み分け帽子』級のマジックアイテムを持って来なければならない。

 

「でも、それが弱点にもなってしまっている。『開心術』が優れてるあまり、弱点である“楽しい気持ち”も開いてしまうし、強力すぎて複数人いると同時に開心させてしまう。

 だが考えてみてほしい。もし、そんな妖怪達が知恵を持ったらどうなるかな?対象の人間の最も恐ろしい物になり、弱点である“楽しい気持ち”を開かない分別を持ち、複数人に対して『開心術』を用いない自制心のある妖怪が居たら、とても恐ろしいと思わない?」

 

 多くの生徒が頷いている。

 これは良い流れだ。

 

「この事はずっと前から『妖怪祓い』達が魔法省に訴えてる。今回は、その辺りの主張が多く載っている本を用意しておいた。妖怪への対策も詳しく書いてあるから、みんな冬休み中に読んでおくように。僕からの宿題だ」

 

 そう言って杖を一振りして、生徒達に本を渡す。

 この本はここ最近で僕が集めた『妖怪祓い』の本の中で最も『閉心術』の有用性を説いてる本だ。加えて、『閉心術』のやり方も詳しく載ってる。

 これでハリーが『閉心術』を学んでくれれば、僕の計画はまた一歩進む。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 僕の元にドッサリと手紙が届いてる。

 内容は、マルフォイ家やグリーングラス家と言った裕福なスリザリン生を中心に、様々な家からの冬休み中のパーティーの招待状だ。

 魔法界のパーティーには是非とも行ってみたい。行ってみたいが、この全てに行く事は不可能。そうなると、誰か特定の生徒のパーティーだけに行く訳にもいかないし、断るしかなかった。

 だが、僕が行ける可能性のあるパーティー2つだけがあった。

 それは、ホグズミードで開催されるパーティーだ。これは多くの人が参加するみたいだし、僕が行っても大丈夫だろう。

 それからもう1つは、勿論ホグワーツで開催されるパーティーだ。

 だけど僕は教師、つまり運営側の人間だ。ホグワーツの方のパーティーは楽しめそうもない。

 『変身呪文』の苦手な僕は、当日何もしなくて良い飾り付け担当じゃなくて、当日忙しい食事の用意や給仕、後片付けを任されてる。

 屋敷しもべ妖精に任せてもいいんだけど、彼らに任せておくと過労死するまで働いてしまう。だから、きちんとシフトを組んでおかねばならない。それでも彼等はシフトを無視して働いてしまうから、結局は現場で指揮しなくてはならない。

 しかも本当の主人であるダンブルドア校長が居ないから、言うことをイマイチ聞いてくれない。彼の居ない弊害がこんな所に出てくるとは……

 

 クリスマスパーティーの後はヨルとクロと3人で過ごそうと思う。その事を考えれば、大変なクリスマスパーティーの裏方も何とか乗り越えられそうだ。

 ヨルとクロとパーティーの相談をしようと思って、強化版『忍びの地図』を見てみると、クロはいつも通りグリフィンドールの談話室にいた。

 きっといつも通り、ソファーに踏ん反り返って読書をしていることだろう。

 ヨルは大広間に、ダフネと2人でいる様だ。あの2人がどんな会話をしてるのか、少し興味があるな……

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「これで、チェックメイトだな」

 

「参りました」

 

 三時間に及ぶ激闘の末、今回の戦いはヨルに軍配が上がった。

 

「ヨルは本当にチェスが上手ですね。誰に指導を受けたのですか?」

 

「独学だ。グリーングラスは誰かの手解きを受けたのか?」

 

「独学ですか……。教師は居なくとも、練習相手ぐらいは居たのでは?そうですね、私は少しだけ、昔に習いました。私の家は少々裕福ですから、こういった遊戯を嗜む様に、と言われて」

 

「確か、グリーングラス家は『聖28一族』だったか?

練習相手にはよくリドル先生が付き合ってくれた、のだが。あの人は少々チェスに関しては……他の事は大体出来るのだがな」

 

「家柄なんて、何の意味もありませんよ。最近、それを強く理解できました。ヨルさんはリドル先生と仲がよろしいんですね」

 

 この時、ダフネは自分の仮説が正しかった事を確信した。それは、ヨルとリドルが以前から付き合いがあった事。

 ヨルのチェスの腕前はどう考えても一朝一夕で身につくものではない。教師も居らず、練習相手であるリドルの腕前がそれほど高くないのであれば、なおのこと時間がかかる。つまり、ヨルはリドルとかなり長い時間チェスをしてきたという事だ。

 そしてそれは、ヨルと同時期に転校してきた、ヨルとリドルと仲の良いクロもまたリドルと昔からの付き合いがある事を、ダフネに確信させた。

 

「おっと、そろそろリドル先生との待ち合わせの時間だ。すまんがそろそろ行かなくては」

 

「まあ、それは大変です。リドル先生を待たせてはいけません。私が片付けをしておきますから、行ってください」

 

「恩にきる。今度ホグズミードで何かおごらせて貰おう」

 

「お気になさらず。と言いたいところですが、楽しみにしておきますね」

 

 そう言って、ダフネとヨルは笑みを浮かべながら別れた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 生徒達がメニューから食べたい料理を選んで料理名を呟くと、金の皿にその料理が現れる。

 この素晴らしい仕掛けに生徒達は大盛り上がりだが、この仕掛けを用意する側の僕達は、生徒が楽しめば楽しむほど大変だ。

 まず、『ガンプの元素変容の法則』にある様に、料理を作り出す事はできないから1つ1つ作らないと行けない。

 屋敷しもべ妖精達を、料理を運ぶ班、料理を作る班に分けて沢山働いたもらっているけど、ペースを保つだけで精一杯だ。しかも、生徒の中にはクラップやゴイルみたいに発音が悪い生徒がいる。彼等が望んだ料理が一体どの料理なのか、中々判断が難しい所だ。

 それと、パチル姉妹の様に海外から来た生徒達が、英語以外の言語で注文しても料理が出てくるかどうか試してる。

 生徒達から見れば軽い気持ちでやっている、何てことない事だろうけど、僕からしてみれば『死喰い人』を相手にするより厄介だ。

 それからデザートばかり頼む生徒も多い。おかげで僕の手や髪はベトベトだ。ラベンダーの為に『魔法パティシエ』に関する本を読んでいなかったら、僕は今頃動く飴に襲われて死んでいたかもしれない。

 

 そんな地獄の様なクリスマスパーティーを何とか乗り切ったのがついさっきの事。

 後片付けは実に簡単だった。

 『消失呪文』で食べ残しを消して、『清め呪文』で皿を磨いて終わりだ。ついでに僕の服と屋敷しもべ妖精達の枕カバーも清めておいた。

 

「お疲れ、みんな。まったく、よく頑張ったよ」

 

「「「お疲れ様です、リドル様」」」

 

 僕の労いに、それぞれの班のリーダーを務めていた屋敷しもべ妖精達が代表して僕に返事をしてしてくれた。

 大変な仕事だったけど、その分屋敷しもべ妖精達との絆は深まった気がする。もう一度やりたいか、と言われたら首を横に振るけど。

 まあとにかく、キッチンという戦場で、僕達は戦友になった

 

「君たちにこれをあげよう。僕から君たちへのクリスマスプレゼントだ」

 

 僕が用意したのは銀のバッチだ。それぞれの屋敷しもべ妖精の名前が彫ってある。

 サーラに聞いた所、バッチは衣装扱いにならないらしいから、解雇扱いにはならない。

 バッチはそれぞれ、デコレーションした小箱に入ってる。

小箱が乗ったトレーを、代表して調理班の班長だったルロイが恭しく受け取った。

 

「ああ、リドル様、私達屋敷しもべ妖精ごときには勿体無い品物でございます。ですが、この素晴らしいバッチを受け取る事を拒むのを、貴方様は望まないでしょう。

 ルロイめは貴方様が望まぬ事は決していたしません。ですので、有り難く頂戴いたします。そしてルロイめは貴方様が喜ばれる事をいたします。そして幸運にも、ルロイめは貴方様が喜ばれる事を知っています」

 

 そう言って、何人かの屋敷しもべ妖精達が、クリスマスのご馳走を持って奥の方から出てきた。

 

「私達で作りました。どうぞこれを持って行かれて、大切な方々と素敵な夜をお楽しみ下さい」

 

「ありがとう、みんな。みんなも良いクリスマスを!それと、食料をみんなで、命を無駄にしない形で片付けておいて。言っておくけど、僕が次に来た時にまだ食材が残ってたら怒るからね?もう片付けはうんざりなんだ」

 

「それは大変だ!みんな、リドル様に怒られぬ様に急いで片付けるんだ!」

 

 屋敷しもべ妖精達は慌てて、だけど嬉しそうに食料を調理し始めた。

 屋敷しもべ妖精達がこうしてある程度柔軟な動きをする様になったのには訳がある。

 それは、屋敷しもべ妖精達が知恵を得たからだ。

 僕はホグワーツに来てから、屋敷しもべ妖精達にずっと教育をしてきた。

 

 違和感に気が付いたのは、僕がサーラを雇ってから2週間ほどが経ってからだった。

 サーラは足し算や引き算、割り算や掛け算はミスなく、素早く出来るのに、それ以外の算数は一切出来なかった。

 他にも、楕円形の部屋を効率よく掃除する動き、つまり楕円形の縦と横の長さの違いを把握して、その誤差を緩和する動きをしていたが、三角形の面積を求める事は出来なかった。

 他にも言語に関して言えば、丁寧な言葉を話すのに、謙譲語と尊敬語の違いがわかっていなかったりと、随分チグハグだった。

 つまり、屋敷しもべ妖精達は自分達に必要な学問を、自分達で独自に学んできた、という事だ。

 掃除や料理のために数学を、ご主人様に怒られない様に言語を学んでる。当然、それ以外には一切学んでいない。

 そこで、ハーマイオニーの『S.A.P.E.W(屋敷しもべ妖精福祉振興協会)』が上手くいかなかった時の事を思い出した。

 いや、正確に言うと上手くいかなかった例、つまりウィンキーと上手くいった例、つまりドビーの違いを思い出した。

 ウィンキーとドビーの違い、それは、生来の性格もあるが、教養のレベルが違っている事だ。

 ドビーは優秀なマルフォイ家に仕えていた為かは分からないが、魔法界でもあまり知られていない『鰓昆布』を知っていたりと、案外賢い一面を見せた。

 それに対してウィンキーは、優秀な家系であるクラウチ家に仕えていたが、『服従の呪い』にかけられているバーテミウス・クラウチ・ジュニアの介護が主な仕事で、周りに知識ある人間が、学習する機会がなかった。

 つまり、屋敷しもべ妖精も過去の人間の奴隷と同じく、教養がないせいでハーマイオニーの誘いを断っただけで、別に本能からしもべでいるわけではないのではないか、という事だ。

 しもべとして仕える事が幸福なわけでは無く、あくまでそれが当たり前だっただけ。

 

 人間の場合、奴隷達は肉体労働、つまり炭鉱の掘削などが主であったため、多くの人間が必要であり、密集していた。

 その為、1人でも教養のある人間が居れば、その周囲にすぐに広まった。

 だが、屋敷しもべ妖精達は一部の純血達の世話をするだけ、しかも魔法があるから大体の事は1人で出来る。だから密集する必要も、可能性もなかった。

 だから過去、ドビーの様な解放されたがっている屋敷しもべ妖精が現れても、そういった思想は広がらなかった。そこで、僕は実験も兼ねて、屋敷しもべ妖精達に教育を施してみた。

 

 結果として、しもべである事を辞めようとする屋敷しもべ妖精は出てきていないものの、僕の本当の望みを考えてプレゼントを受け取ったり、僕の幸せを考えて、僕に内緒で自分達からプレゼントを用意したりと、確実に先を見る様になってきている。

 さっき食料を片付けておけ、といった僕の言葉を額面通りじゃなくて、ちゃんと言葉の真意を理解して従う辺り、柔軟な思考も出来るようになって来てる。

 このまま屋敷しもべ妖精達が更に賢くなり、より柔軟な思考を持つようになれば、自分達の『杖なし魔法』の使い方をもっと発展させていくだろう。

 そうなれば、屋敷しもべ妖精達が反乱を起こす日は、そう遠くはない未来にやってくるかもしれない。

 

 僕が厨房を出ながら振り返って見ると、みんなが手を振って送り出してくれた。

 そしてそのまま、自然に椅子と机を出して、机の上に出来立ての料理とナイフとフォーク、スプーンを並べた。

 僕はテーブルマナーは教えていない。

 だが、屋敷しもべ妖精達は完璧にそれらを習得している。

 彼等は、人間達がフォークやナイフを使う様を見て学習したんだ。

 誰にも教わらず魔法を習得し、今度は人間の動きを学んできている。

 現在屋敷しもべ妖精を飼っている名門の純血達の祖先、歴史に名を残してきた偉大な過去の魔法使い達が、彼等に『屋敷しもべ妖精』などと言う不名誉な名をつけて、自分達の制御下に置いてきた理由の一端が垣間見えた気がした。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「やあ、メリークリスマス!ヨルとクロ!」

 

 僕が部屋に行くと、もう2人は部屋に居て、僕を待ってくれていた。

 

「メリークリスマス、我が主人よ」

 

 ヨルが椅子に深く座りながら、微笑みを返してくれた。

 いつも落ち着いてるヨルだけど、流石に今夜は笑みを隠せないみたいだ。

 

「メリィークリスマァス!」

 

 クロは椅子に座らないで、その辺を行ったり来たりしながら、とびきりの笑顔と大きな声で僕を出迎えてくれた。

 

「クロ、随分とご機嫌だね」

 

 彼女は急に、思い出したかの様に真剣な表情を作った。

 

「機嫌がいいですって?」

 

「……僕にはそう見えたけど」

 

「私はここ最近、午前中はホグワーツで馬鹿な学生達と授業を受けて、午後は世界中を飛び待って頑固なドラゴン達を説得してたのよ?」

 

 クロは腕を組んで、シミジミと昔を思い出す様に語っている。

 

「まったく、それが急にクリスマスパーティーなんて、機嫌が良い訳ないでしょ!」

 

 左手を腰に添えて、少し前かがみになりながら『ビシッ!』という音が聞こえてきそな勢いで、クロが僕を右手で指差した。

 

「……何てね。正直、浮かれてるわね。自分でも分かるくらい。あんた、最近忙しくしてたから、私達とクリスマスを過ごすって言ってくれて、嬉しかった」

 

 さっきまでの勢いのある雰囲気を消して、どこか憂いを帯びた表情を浮かべた。

 正直、僕はクロのこういった表情に、色々な意味で弱い。

 

「……乾杯、しようか」

 

「……そうね」

 

「では、私が注がせてもらおう」

 

 そう言ってヨルは、3人分のブランデーをグラスに注いだ。昔3人で飲んだ『エデンの白葡萄のブランデー』だ。

 

「乾杯の音頭、あんたがとんなさい」

 

 ヨルが目で同意してくる。当然、拒む理由はない。

 

「それじゃあ失礼して。……昔、これを飲んだ時とは色々な物が変わった。それは環境だったり、人間関係だったり、僕達が一緒に過ごす時間だったり。昔より沢山の人と触れ合う事が出来る様になった。でも、その代わりに三人で過ごせる時間は減ってしまった。それでも、僕達はこうして特別な夜に集まった。結局、目に見えない物は何1つ変わっていなかった。三人の関係を祝して、乾杯!」

 

「「乾杯!」」

 

 三人でグイッと、度の強いブランデーを一気飲みした。

 喉と胃が焼ける様に熱かったけど、胸の奥はもっと熱かった。なんだかんだで、三人で過ごす事を一番楽しみにしていたのは僕みたいだ。

 

 この後、ヨルとクロの学校生活を聞いたり、三人でクリスマス用のコスプレをしてみたりして盛り上がった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29 戦いの始まり

 『ガタンッ!』という音と共に僕の背後にある扉から両親が部屋に入って来る。

 何故だか2人とも、とっても驚いている。母さんは泣きながら手で口を抑えているし、父さんは全てを諦めた顔で膝から崩れ落ちてる。

 いつも落ち着いて微笑みを浮かべている2人らしくない。僕が少し驚いていると、母さんが僕の方へ駆け寄って、僕を抱きしめてくれた。

 いつもの母さんのいい匂いがする。でも、抱かれ心地がいつもと全然違う。

 母さんの体が濡れているのか、ぬちょぬちょしてて、ちょっと不快だ。

 

 

──違う、濡れてるのは僕だ

 僕が真っ赤に濡れている

 

 

 あぁ、そうか、これは僕が心を、魂を失った日だ。

 僕が人を殺してしまった日。

 僕が何をするにも無気力になってしまった日。

 この日から、僕の両親は僕に対して気を使う様になってしまった。気を使うあまり、本心からじゃなくて、“家族らしい会話”をする様になってしまった。

 この日から、僕は人を生き返らせる物語が沢山ある“魔法の世界”に憧れた。

 そして、この数年後にハリー・ポッターの世界に、さらにその数年後に死を克服する『分霊箱』に、そしていつしか不死身のヴォルデモートに、強い憧れを抱く様になったんだ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 クリスマス・パーティーの次の日、ブランデーを飲みすぎた影響で頭をグワングワンさせながら目を覚ますと、恐ろしい光景が広がっていた。

 サンタとトナカイの格好をしたドラゴンとバジリスクが僕を取り囲んでいる。

 こんな体験をするのは後にも先にも僕だけだろう。

 早くこの恐ろしい者達から逃げ出したいけど、お酒のせいで意識がハッキリしない。これじゃあ魔法は使えないし、足元もおぼつかない。

 

「サーラ、居る?」

 

 返事はない。

 屋敷しもべ妖精達はアルコールに弱い。

 屋敷しもべ妖精達がキッチンで行ってるクリスマス・パーティーに参加して、そのまま酔い潰れてしまったんだろう。

 頼みの綱のサーラも居ないとなると、仕方がない。最近出来たばかりのアレを使おう。

 

 僕が机の中から取り出したのは銀の杖。

 小鬼製の銀が自分にとって有益な物を吸収する性質を『主人を選ばぬ杖』に組み合わせた杖で、呪文を吸収させて取って置ける。

 今のところは1つの杖につき、1種類の魔法しか込められないけど、誰でも杖に込められてる魔法を使う事が出来る。

 この杖に込められているのは『正常化呪文』だ。

 使い方はいたって簡単。

 杖を持って、込められている呪文を使おうと思うだけ。

 

 僕が念を込めると、銀の杖が光って僕の服と胃と頭をいつも通りにしてくれた。

 

「『ウィンガーディアム・レビオーサ・マキシマ 全て浮遊せよ』『エンゴージオ 肥大せよ』」

 

 ヨルとクロの巨体を持ち上げて、ヨルを大きくしたソファに、クロを大きくしたベットに、起こさない様に慎重に寝かせた。

 2人が起きるのを待つ間に、クリスマスプレゼントを開封しておこう。

 

「『アクシオ クリスマスプレゼントよ来れ』」

 

 サーラが誰から来たのか分かるようにタグ付けをしておいてくれたクリスマスプレゼントが飛んでくる。

 クリスマスプレゼントを誰が何を贈ってくれたのか、後で生徒達に感想を聞かれたとき用に覚えていきながら、生徒達から贈られてきた箱を1つ1つ丁寧に開けていく。

 グリフィンドール生やハッフルパフ生は贔屓のクィディッチチームのグッズなど、純粋に自分が貰って嬉しい物を贈ってきてくれる。

 レイブンクロー生は踏むと靴を綺麗にしてくれるカーペットなどの、あると便利だけど自分で買おうとは思わない実用品を贈ってきてくれる。

 スリザリン生は装飾品や他国の珍しいお酒など、嫌味にならない程度に高価な品物を贈ってきてくれた。

 グリフィンドール生とハッフルパフ生は実に学生らしくて、レイブンクロー生は何処か主婦っぽい。スリザリン生は貴族らしいというか、贈り物慣れしてる。

 贈り物1つとっても寮の特徴が見れて面白い。

 ちなみに、ハリーからは『お菓子の詰め合わせ』に『これからもよろしくお願いします』というメッセージカード付きで。

 ロンからは『チャドリー・キャノンズが勝つには』という本を『いつか僕が勝たせる!これからも練習よろしくお願いします』というメッセージカード付きで。

 ハーマイオニーからは『ハーマイオニー厳選のマグル界の本詰め合わせ』が『いつも魔法を教えて下さっているので、今度は私の世界を知って下さい』というメッセージカード付きで。

 ネビルからは『高山地の魔法植物』という本が『今年もよろしくお願いします。おばあちゃんが是非会いたいって言ってました』というメッセージカード付きで。

 ジニーからは『思い出し玉』が、『たまには昔の様に付きっ切りで魔法を教えてね』というメッセージカード付きで。

 クロからはドラゴン皮の膝まである黒色のローブが『採れたての皮を使ったわ』というメッセージカード付きで。

 ヨルからは『ナイスにナイトでチェックメイトするやり方』という本が『私にこれ以上貴方の王を取らせないでくれ』というメッセージカード付きで。

 セドリックからは『自動速記羽ペンQQQ』が『手書きの教科書ありがとうございます』というメッセージカード付きで。

 ルーナからは僕も知らない何かの木で出来た『グニャグニャしたオブジェクト』が『肩こりに効くと思うよ』というメッセージカード付きで。

 ドラコからは『金糸で蛇の刺繍がしてあるハンカチ』が『洗う必要の無いハンカチです。今度是非我が家にいらして下さい。父上と母上も交えて議論を交わしていただきたい』というメッセージカード付きで。

 ダフネからは『闇の魔法使い達の恐ろしい所業』という分厚い本が『色々と役立てて貰えれば嬉しく思います』というメッセージカード付きで。

 それぞれ贈られてきた。

 

 それから小鬼達や屋敷しもべ妖精、騎士団のみんなやホグズミードの人達からもいくつか贈られてきてるので、それぞれ開封していく。

 すると困った事に、僕がプレゼントを贈っていない何人かの人達からもプレゼントが届いている事に気がついた。

 一応言っておくと、僕は今まで少しでも関わった人全員にクリスマスプレゼントを贈っている。

 小鬼達以外にはそれぞれ銀細工を贈ったし、小鬼達には昔小鬼が作ったとされる骨董品を探して贈っておいた。

 つまり、この何人かのプレゼントを贈ってきた人たちは、僕と関わった事のない、僕が全く知らない人達だ。

 基本的には、ホグワーツの新しい『闇の魔術に対する防衛術』の教師になった僕と知り合いになろうとする魔法省の役人の人達だ。

 だけど何人か、見過ごせない名前もある。

 特にこの人、バチルダ・バグショットさん。

 この人は『原作』ではヴォルデモートに殺されて、ナギニに入れ替わられた人だ。

 そんな彼女から贈られてきたクリスマスプレゼントには、ゴドリックの谷で開催されるクリスマス・パーティーの招待状も梱包されてる。

 バチルダさんがもう死んでいるのかどうか分からない。でも、このタイミングで、全く接点のなかった僕にクリスマスプレゼントを贈ってくるなんて、普通ではない。会いに行かないと、ダメだろうな。

 この誘いが罠であれ何であれ、何かあるには間違いないのだから。今は少しでも情報が欲しい。

 

 残念ながら、ホグズミードでのクリスマス・パーティーには行けそうにない。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 トムがクリスマスプレゼントを開けているのと同時刻、ハリーのイライラは最高潮に達していた。

 

 ハリーは冬休み中、ホグワーツに残っていると仲間達と『TA』が出来ると思っていた。。だが、『TA』の主力メンバーのハーマイオニーやアステリアやチョウは、ハリーが引き留めたが、実家に帰ってしまった。

 ハリーは仲間達が『TA』を軽く扱っている様で少しイラついたがアステリアが、自分の家は名家で、クリスマスに帰る事は仕方がないことだ、と涙ながらに謝ってきた事で許した。

 そしてチョウに家族との絆の大切さを優しく説かれると、ハリーの機嫌はスッカリ良くなって、家に帰る事を決めた。

 だが家に帰ってみると、シリウスやルーピンは快く出迎えてくれたものの、結局騎士団はハリーに徹底して情報を与えてはくれなかった。

 それがハリーには不快だった。

 ここ最近、『TA』の幹部として運営側の人間だったハリーは、前にも増して自分が蚊帳の外でいる事が我慢ならなかった。

 更にハリーは『妖怪祓い』の本で『閉心術』を学び、『TA』で実力がついた事もあって、自分が騎士団に認められない事に益々イライラしていた。

 自分の成長を無視されている気がしたのだ。

 更に、ハリーの家は特別な守りが施されているため、フクロウ便が届かない。つまり、アステリアやチョウと手紙のやり取りが出来ない。ましてや、クリスマスパーティーに招待するなんて、ムーディーが許すはずがなかった。

虐待されないだけで、これではダーズリー一家に居た時と同じだ!

 とハリーが思うのも無理からぬ事だった。

 

 この時、ハリーは知る由もないのだが、騎士団は闇の陣営との命を賭けた戦いをしながら、無能なファッジを何とかスクリムジョールに負けないように、政治的な戦いも同時に行っていた。

 常に明るいトンクスでさえ口数が少なくなるほど、騎士団は疲弊しきっていた。

 そこに度々ハリーが情報を公開するよう押しかけてきたり、こっそり盗聴しようとしてくるのだ。

 誰の為に情報を与えず、誰の為に我々が戦っているのか。もっと理解してほしい!と騎士団員が、誰も口には出さないが、考えてしまうのも仕方のない事だった。

 こうした悪循環に落ち入り、ハリーは家と騎士団への不信感を強めた。そしてそれに反比例する様に、学校と『TA』への思い入れを強くしていった。

 

 そしてその日の夜、遂に事件は起きた。

 ファッジ及びスクリムジョールの死亡。つまり、魔法省は陥落したのだ。

 

 魔法省が陥落したほぼ同時刻、魔法省にてベラトリックス・レストレンジを初めとした何人もの『死喰い人』か暴れているとの情報が、パーシーから騎士団に入ってきた。

 ヴォルデモートこそ居ないものの、総戦力に近い数の『死喰い人』達の襲撃。

 当然、騎士団のメンバーを総動員しての戦いへと赴いた。この時、騎士団はハリーが連れて行け、とせがむ事を予期してハリーに何も言わずに、こっそりと飛び発った。

 魔法省にて『死喰い人』が騎士団と闇祓い局の連合軍と激闘を繰り広げる中、ハリーは夢を見てた。

 それは、ホグワーツにてアステリアが拷問される夢。

 ハリーは飛び起きて、この事を知らせようとすると、ブラック家には誰もいなかった。ハリーが不審に思い、家を探索してみるも、やはり誰もいない。

 ハリーが、ハーマイオニーが作った『TA』の連絡用の羊皮紙で『TA』全体に呼びかけてみるも、アステリアからの応答や発見報告はない。

 また、ホグワーツに残っている『TA』のメンバーから、マクゴナガルやスネイプ、リドルといった教師達が姿を消した、との情報が入ってきた。

 この事を知ったハーマイオニーは、事態を重く受け止めた。リドルや騎士団が一斉に姿を消すなど、普通ではない。

 そしてハーマイオニーは、リドルから緊急用に、と習った『ポートキー作製呪文』でハリーを初めとした『決闘クラブ』及び『TA』のメンバーの、ハーマイオニーが知っている限りの家を回った。

 集まったメンバーはハリー、ロン、ハーマイオニー、ネビル、ジニー、フレッド、ジョージ、セドリック、ルーナの九人。

 ホグズミードに転移し、フレッドとジョージが発見した抜け道からホグワーツ内部に侵入すると、そこに居たのは──

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ハリー達がホグワーツへの侵入を果たした同時刻、トムもまたゴドリックの谷に到着していた。

 そして、そこでバチルダの魔力を感知しようとして、驚愕した。

 

「馬鹿な……僕と同じ、いや、それ以上の魔力!」

 

 かつて退治したヴォルデモートよりも、自身よりも大きい魔力を持つ人間。

 それも、一人ではない。

 このゴドリックの谷には、彼を上回る魔力を持つ人間が、二人いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30 求める者

申し訳ありませんが、ネタバレ防止のため、少しの間感想返しを控えます。


 深夜の誰もいないはずの大広間。本来、校長が座るべきそこに、その男はいた。

 

「ヴォルデモート……」

 

 そこにいたのは『闇の帝王』。

 

「やあ、ハリー・ポッターとそのお仲間達」

 

 ヴォルデモートはわざとらしいほど、深々と頭を下げた。

 

「どうしてホグワーツに!ここにはいくつもの守りがあるはずよ!」

 

「それは簡単な事だ、小娘。実に簡単な事だ。俺様の力が、ホグワーツを守っているダンブルドアとリドルの力を上回ったのだ。それもただ上回ったのではない!あの二人では決して辿り着く事のできない場所に、俺様は到達したのだ」

 

 ハーマイオニーを初めとした何人かは、その言葉がにわかには信じられなかった。だが、ヴォルデモートがここにいる。それが何よりの証拠だった。

 

「あの日、俺様は確かにトム・リドルに敗北した。そして再び弱くなった。屈辱だった、大きな屈辱だった。だが!あれこそ俺様の覇道の始まりだったのだ」

 

 ヴォルデモートは心底嬉しそうに語り続ける。

 

「俺様は知った。俺様の一部が意思を持ち、時に反旗を翻す事を。故に、俺様は他の俺様の一部を確認しに行った。そして、見つけたのだ!」

 

 そう言って、ヴォルデモートが取り出したのは小さな黒い石。

 

「死の秘宝、というのは知っているかな?」

 

 ヴォルデモートが問いかける。

 そこにいた数人は答えを知っていた。

 知っているからこそ、その恐ろしい可能性に行き当たり、答える事が出来なかった。

 

「誰も知らないのか?非常に残念だ。リドルの奴はお前達にキチンとした教育を与えなかったらしい。だが『闇の帝王』は常に寛大だ。代わりに、俺様が教えてやろう。ホグワーツでは、求める者にはそれが与えられる、だったか?」

 

 そして、ヴォルデモートは語りだす。

 死の秘宝の物語。

 『死』が与えた、『死』を克服する事が出来る三つの秘宝の物語。

 そして語り終えた後、我慢出来ずにヴォルデモートは破顔した。

 

「ハハハハハッ!告白しよう、幸運だった。実に幸運だったのだ。俺様でさえ知らなかった事だが、俺様の一部を込めていた指輪。その指輪が死の秘宝の一つ『蘇りの石』だったのだ!俺様はこの石を使い、蘇った!蘇った当初は確かに、俺様はこの世に馴染む事ができなかった!しかし、俺様は克服したのだ!『死』を!『生』を!今はこの世が実に馴染む!特別に見せてやろう、『死の秘宝』の力の一端を!」

 

 そう言ってヴォルデモートは、自らのこめかみに杖を向けた。

 

「『アバダケダブラ』!」

 

 杖から緑色の閃光が走り、ヴォルデモートの体がガクンと揺れた。

 そしてそのまま力なく、椅子にもたれかかった。

 誰もが、そこにいる誰もが『そのまま死んでしまえ』と願った。だが、ヴォルデモートの手から一人でに『蘇りの石』が宙に舞い、空中で三回回ると、ヴォルデモートはいとも容易く蘇った。

 そう、彼は死を克服したのだ!

 それは即ち、自らの体を犠牲にする事で放つ強力な魔法の数々を、無限に放つ事が出来るという事!

 トムの強化された『武装解除』との互角の戦いをした『悪霊の火を纏いし左腕槍』を無限に、ノーリスクで放てるという事!

 

「これが『死の秘宝』の力だ!俺様はこの世の生物の頂点に君臨する力を手にしたのだ!そして、この力を使い、ハリーお前を直ぐにでも殺したかった。だが、俺様の復活を予見したリドルの奴がこの一年間、常にお前を見張っていた。あらゆる保護を施し、自身も常にお前に張り付いていた。俺様といえど容易に近付けなかった」

 

 ヴォルデモートはたった今蘇った後、直ぐにこの世に馴染んだ。

 最早『蘇りの石』の力を完全に使いこなしていた。

 

 

「そこで俺様は考えた。奴がホグワーツから出てこざるを得ない状況を作り出すことを。そしてその目論見通り、今頃奴は魔法省で大忙しだろう。『吸魂鬼』、『吸血鬼』、『亡者』、『死喰い人』さらに『服従の呪文』で寝返らせた雑魚共!この一年間で俺様が集めた全戦力が、今この時も魔法省を襲撃している。間違いなく、トムが出てこなければ皆殺しになる。そして、あいつはそれを分かっている。いかに奴といえどあと三十分は戻ってこれない。そしてさらに幸運な事に、お前はあの『忠誠の術』が張り巡らされているブラック家からノコノコと、自分から出てきてくれた。馬鹿な猜疑心と、自身の拙い『閉心術』を信じて。騎士団が単なる意地悪でお前を締め出したと、覚えて二週間かそこらの『閉心術』で俺様を心から締め出せると、本気でそう思ったのか?賢いなあ、ハリー・ポッター!」

 

 そして、ついにヴォルデモートが椅子から立ち上がった。

 

「俺様はお前に礼を言わねばならん。お前のおかげだ、ハリー。俺様の目論見通りに動いてくれた。そのお陰でお前を守ってくれる人間も、保護呪文もここにはない。つまり、お前達の生き死には俺様の自由、という事だ!『アバダケダブラ』!!!」

 

「「「『プロテゴ・マキシマ 最強の守りよ』!!!」」」

 

 ハリー、ハーマイオニー、ロンの三人以外が即座に『盾呪文』を張った。

 ヴォルデモートの閃光を、ヒビが入るものの、見事に防いでいる。

 

「黙れヴォルデモート!『エクスペリアームス 武器よ去れ』!!!」

 

 ハリーはすかさず横に駆け出し、無防備な側面から『武装解除』を放った。しかし、ヴォルデモートの左腕が簡単に閃光を握りつぶした。

 

「怒りに負けないで、ハリー!憎しみでヴォルデモートと戦っちゃダメ!友情や愛を信じるの!『エクスペクト・パトローナム 守護霊よ来れ』」

 

 ハーマイオニーは4つの『守護霊』を呼び出した。

 各寮に『守護霊』を飛ばし、仲間の元へと走らせた。

 ここ最近経験した幸せの絶頂がなければ、4体もの『守護霊』を呼び出す事は不可能だっただろう。

 

「ハリー落ち着け!まずは距離を取るんだ!『アクシオ 箒よ来い』」

 

 ロンはこのまま正面から戦うのは不利と判断し、全員分の箒を呼び出した。

 トムが全員分の箒を用意し、訓練をさせていた事が幸いした

 

「無駄だ!無駄無駄無駄ァッ!怒りも愛も距離も!俺様の前では等しく無力ッッッッ!」

 

 ヴォルデモートから一際強い閃光が走る!

 ホグワーツの窓はすべて割れ、壁にはヒビが入り、地面が揺れる!

 セドリック達の『盾呪文』のヒビが大きくなり、大きく揺らいでいく。

 だが、その瞬間、ヴォルデモートの背後の壁が壊れ、巨大な蛇がヴォルデモートに襲いかかった!

 その正体は、異変を察知し、パイプを通って来たヨル!

 

「来たな裏切り者の蛇が!」

 

 ヴォルデモートはハリー達への攻撃を中止し、素早く宙に浮いた。

 そこからヨルに向けて『死の呪い』を放つ。しかし、そこにヨルは居ない。いや、正確には縮んだのだ。

 蛇から人間へと、ヴォルデモートが呪文を放つよりも早く変化したのだ。

 そして、宙に浮かんだヴォルデモートの後ろには、今にも火を吐かんとするドラゴンの顔!

 

「『妖精王の豪炎』よ、その力を示せ!」

 

 この世の魔法の中で最も強力な炎とわ最強のドラゴンが放つ炎がヴォルデモートを挟み撃ちにした!

 しかし、エメラルド色の炎と黄金の炎が舞う中、その中に黒い炎が混じりだす!

 

「リドルは教えてくれなかったのか?地獄には、炎を焼く炎があるのだ!」

 

 それは、一度呼び出してしまえば使用者をも燃やし尽くしてしまう地獄の炎。だが、今のヴォルデモートは燃やされようと関係がない。

 『蘇りの石』を三回回し、直ぐに自身の炎に燃やされた体を復元していく。

 そのまま黒い炎がヨルとクロの炎を飲み込み、二人に襲いかかる。

 

「『アクシオ ヨル』!」

 

「『アクシオ クロ』!」

 

 ルーナがヨルを、ロンがクロを呼び寄せる。

 二人はギリギリのところで炎を回避した。

 

「みんな下がって!『アクシオ 天罰よ来れ!』」

 

 セドリックが『天罰』を呼び寄せる!

 いかにヴォルデモートといえど、『天罰』の直撃に体を硬直させた。

 そこにヨルとクロの炎、ハリー達の『武装解除』が飛んでいく。流石の『闇の帝王』も、これにはダメージを受ける。

 

「ぁぁぁああああああああ!!!」

 

 ヴォルデモートが悲痛な叫び声と共に、黒いオーラを飛ばす。ハリー達を呪文もろとも吹き飛ばし、壁に激突させた。

 クロとヨル以外の人間が痛みで身動きが取れなくなる中、ロンの『呼び寄せ呪文』で呼び出した箒に乗って、グリーングラス姉妹、チョウが飛んでくる。

 そして、一早く立ち直ったネビルが叫んだ。

 

「君達はハリー達を回復させて!その間、僕がヴォルデモートを止める!」

 

「止める?俺様を?貴様、誰に向かって言っているのか分かっているのか!『アバダケダブラ』!」

 

「分かっているさ!赤ん坊のハリーに負けた負け犬だろ?『プロテゴ 守れ』!」

 

 ヴォルデモートの『死の呪い』がネビルの『盾呪文』に当たる。

 ヴォルデモートが、いや、そこにいた全員がネビルの死を確信する中、予想に反して、逆にヴォルデモートの『死の呪い』が弾け飛んだ!

 何十万回という鍛錬の末、ネビルの『盾呪文』はホグワーツの生徒で最も強力な物へと高まっていた。

 更にネビルは『盾呪文』の形を操り、三角錐に変化させ、ピンポイン卜で先端を『死の呪い』に当てるとことで、ヴォルデモートの『死の呪い』にすら勝ったのだ。

 そして弾け飛んだ『死の呪い』の破片を糸形にした『盾呪文』で導き、逆にヴォルデモートへと誘導した!

 

「図にのるな!『アバダケダブラ』ァァアアア!」

 

 先程よりも大きな閃光が、ネビルが誘導した先ほどの『死の呪文』を飲み込み、ネビルに迫る!

 だが、ネビルは『盾呪文』を少しだけ曲がった筒状に変形させ、ヴォルデモートの最強の『死の呪い』すらも逸らした

 

「僕が図にのる?それどころか、僕はずっと我慢してきた!みんなを守るために!『プロテゴ 守れ』!」

 

 ヴォルデモートの周りを、球針体となった『盾呪文』が覆う。

 

「雑魚の分際で俺様を閉じ込めておく気か!『エバネスコ 消えよ』!」

 

 ヴォルデモートが『盾呪文』を消す。

 だが、消された端からネビルが再び『盾呪文』をかけていく。

 そして、ヴォルデモートが放つ強力無比な『死の呪い』と、ネビルが張る複雑な『盾呪文』の応酬が繰り広げられた。

 この時、間違いなくネビルは『闇の帝王』と互角に渡り合っていた。だが、無限の魔力を持つヴォルデモートと、元々の才能は無いネビルでは、持久力に差がでてしまう。

 

「死ね!『アバダケダブラ』!!!」

 

 ついに、ネビルの『盾呪文』を貫通し、ヴォルデモートの閃光がネビルに襲いかかった!

 だが、ヴォルデモートは遅過ぎた。

 ハリー達の反撃の用意は、充分に出来ていた。

 ロンが箒で駆けつけ、ネビルを捕まえて飛び上がり、『死の呪い』を回避した。そして、ヴォルデモートの背後からグリーングラス姉妹が『磔の呪文』を放った。

 右側からはセドリックとチョウ、左側からはハーマイオニーとルーナが、正面からはハリーとジニーが一斉に『武装解除』を放つ。

 ヴォルデモートを倒す事は不可能。

 だが、痛みは感じる。

 故に『磔の呪い』で集中を途切れさせ、『武装解除』で杖を奪う作戦に出た。

 ヴォルデモートが呪文の嵐にさらされる中、フレッドとジョージが大広間の外から叫んだ。

 

「準備完了だ!」「合図があればすぐ出来る!」

 

 二人が叫んだ瞬間、沢山の紅い閃光を一身に受けているヴォルデモートから死の暴風が吹き荒れた。

 ヴォルデモート自身の体もろとも全てを切り裂いていく死の風。それがハリー達へと襲いかかった。

 

「『アクシオ 生徒達』!」

 

 大広間の門の先から、クロがその場にいた生徒達を呼び寄せる。

 そして、門から出て行く生徒達と入れ替わるようにフレッドとジョージが用意したありったけの『バンバン花火』と『嚙みつきフリスビー』、『インスタント煙幕』がヴォルデモート目掛けて飛んでいった。

 ハリー達全員が大広間から脱出すると、ヨルが大広間の門を石化させた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 14人は箒に乗り、猛烈な速度でヴォルデモートから逃げていた。

 

「何処に逃げる?!」

 

 そう叫んだのはロン。

 

「トムの部屋よ!あそこなら、ヴォルデモートも迂闊には近寄れないはず!」

 

 ロンの問いかけに答えたのはジニー。

 

「でも、僕達も近寄れなかったらどうする!?いっそのこと外に逃げよう!」

 

「ダメよハリー!私達が外に逃げたら、ヴォルデモートは他の生徒達を人質に取るだけよ!」

 

「トムの部屋はダメ!私達では入れない!私に考えがあるから、貴方達、付いてきなさい!」

 

 この中で最もトムについて知り、かつ頭の良いクロがこう言うのだ。逆らう道理はない。そう言ってクロが向かったのは8階。つまり、必要の部屋。

 

「『ヴォルデモートから隠れられる部屋』『ヴォルデモートから隠れられる部屋』『ヴォルデモートから隠れられる部屋』」

 

 そう言いながらクロが三回歩き回ると、『ヴォルデモートから隠れられる部屋』が出現する。

 全員が、言葉を交わさずともクロの意図に気づいた。

 入ると、そこは壁と床が鏡でてきた、ハリー達14人にそっくりの人形が並べられている部屋だった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「必要の部屋か……。俺様から隠れる部屋を作ったか」

 

 ヴォルデモートが悪戯グッズを大広間ごと吹っ飛ばし、大広間から出た後に魔力の痕跡を追い、ハリー達が必要の部屋に逃げ込んだ事に気が付いた。

 

「『レジリメンス 開心せよ』『ヴォルデモートから隠れられる部屋』『ヴォルデモートから隠れられる部屋』『ヴォルデモートから隠れられる部屋』」

 

 ヴォルデモートは自身の心を操り、心から『ヴォルデモートから隠れる部屋』を必要とした。

 ヴォルデモートが三回歩き回ると、『ヴォルデモートから隠れられる部屋』が出現した。同時に、ヴォルデモートの心が正常に戻る。

 そのままヴォルデモートはドアを吹き飛ばし、部屋の中に入っていった。

 

 部屋に入ってヴォルデモートを待ち構えていたのは、夥しい数の人形。そのどれもが本人そっくりの魔力と魂を持っている。

 

「『アクシオ ハリー・ポッター』」

 

 ヴォルデモートが『呼び寄せ呪文』を放つも、呪文が鏡で乱反射し、上手く機能しない。同じく、ハリーとの繋がりも上手く意識出来ない。

 それに対し、ヴォルデモートの胸に浮かんできた感情は不快、ではなかった

 

「見事な物だ……」

 

 それは尊敬の念。

 この世で数人といない強い力を持つ自分からでさえ、生徒を隠すことが出来る部屋を作る事が出来る学校。

 それを作り出した過去の偉大な魔法使い達への尊敬の念。

 

「だが、やはり俺様には敵わない」

 

 そして、それを越えた力を得た愉悦。

 

「『アバダケダブラ』!!!」

 

 ヴォルデモートから緑の閃光が炸裂する!

 そして、『必要の部屋』が、ホグワーツが『死』を迎えた。

 階段は動かなくなり、部屋の機能は停止し、必要の部屋は普通の小部屋へと戻る。

 そして、姿を表すハリー・ポッター。

 

「見事だったぞ、ハリーとそのお仲間達。この俺様から10分も逃げきったのだ。存分に誇るが良い。あの世でな!『アバダケダブラ』」

 

「ハリーはやらせない!『エクスペリアームス 武器よ永遠に去れ』」

 

 ジニーの強化された『武装解除』とヴォルデモートの『死の呪い』が激突する!

 それを皮切りに、全員が『武装解除』をヴォルデモートに放つ。紅い閃光と緑の閃光が拮抗する!

 しかし、ヴォルデモートが杖を待たないもう片方の手で『蘇りの石』を回すと、ヴォルデモートの魔力が全回復し、容易く拮抗は崩れた!

 

「終わりだ!」

 

「いいや、終わるのはお主の方じゃよ」

 

 ヴォルデモートからの閃光が、ハリーに触れる直前、それは起きた。

 そこにいた生徒全員のポケットから“銀の生き物”が出てくる。

 それは集まり、銀のアーチを形作った。

 アーチから出て来たのは、ヴォルデモートがこの世で唯一恐れた人。

 

「ダンブルドア校長!」

 

「ここに来たのは失敗じゃったな、ヴォルデモート」

 

「黙れ老いぼれが!俺様の力はとうにお前を越えているわ!お前が来たところで死体が一人増えるだけの事!」

 

「やれやれ、若造になめられるとは、老いたなダンブルドア」

 

「老いたのはお主もじゃろう、ゲラート」

 

 続いてゲートから出て来たのは、ゲラート・グリンデルバルド。

 ヴォルデモートと並び立つ、闇の魔法使いの代名詞。

 

「やあ、みんな大丈夫かい?」

 

 そして、もう一人の『闇の帝王』。

 ホグワーツでは、求める者にはそれが与えられる。




ゴドリックの谷にいたのはダンブルドアとゲラートです。
なぜあそこに居たのかは、後ほど


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31 『闇の帝王』の破滅

「やあ、大丈夫かい?」

 

 助けに来たのは良いけど、思ったより生徒の人数が多いな……。

 これだと僕の魔法が全員に及ぶかどうか

 

「余裕よ。なんなら、後5分くらいお茶してきても良いわよ」

 

「クロ、何だかんだで君もジョークの才能がないね」

 

「余計なお世話よ」

 

 クロが腕を組みながら笑った。

 つられて僕も笑っていると、

 

「『アバダケダブラ』!」

 

 すかさず緑の閃光が飛んできた。

 

「おっと、危ない!ダンブルドア校長、ゲラートさん!」

 

「おお、すまなんだ」

 

「そのくらい何てことないだろ」

 

 2人ともまったく悪びれていない!

 

「まったく、またこれだ!せっかく助けに来てるんだから、たまには邪魔しないでくれよ!」

 

 前回もこんな感じで再会を邪魔された。

 

「邪魔だと?お前が俺様の邪魔をしたのだ!お前さえ居なければ!『アバダケダブラ』!」

 

「「『エクスペリアームス 武器よ去れ』」」

 

 ヴォルデモートの緑の閃光が、ダンブルドア校長とゲラートさんの2人が出した紅い閃光にぶつかって、あっという間に競り負けた。

 そのまま紅い閃光がヴォルデモートの胸に風穴を開けたけど、すぐに治ってしまった。彼は本当に死を克服したみたいだ。

 

「リドル先生、蘇りの石です!ヴォルデモートは蘇りの石の力を使っています!」

 

「ありがとう、グレンジャー。グリフィンドールに10点あげよう」

 

 こんな時でも、ハーマイオニーは褒められた事に嬉しそうだ。

 

「僕達はどうすれば良いですか?」

 

 セドリックが落ち着いて、僕の指示を仰いでくる。流石年長者なだけはある。僕は杖を振るって、アーチになっていた銀の生き物達を呼び寄せる。

 そして、そのまま銀の生き物は分解していき、銀の文字となり、魔法陣を創り上げる。完成した魔法陣は光を発して、ハリー達を包み込んだ。

 この魔法は僕が知る中で、失われた古代の魔法も含めて、最強の守りを授けてくれる魔法だ。

 少し発動条件が厳しいけど、発動してしまえばヴォルデモートでさえ指一本触れる事は出来ない。

 

「その魔法陣の中から絶対に出ちゃダメだ。指一本でもそこから出たら、命の保証はしかねるよ」

 

 僕がそう言うと、僕達の戦いを見ようと魔法陣の淵に立っていたロンが慌てて魔法陣の中央へと戻っていった。

 

「ダンブルドア校長、ゲラートさん。2分持たせて下さい。そうすれば、僕が何とかします」

 

「2分で良いのかね?」

 

「気前よく、2日でもいいぞ」

 

 この2人の場合、出来そうだから怖い。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「すごい……」

 

 ジニーが感嘆の声をあげた。

 誰も返事を返さなかったが、その場にいた全員が心の中で同意していた。

 それは1つの芸術だった。

 アルバスとゲラート、旧魔法界の光と闇の代名詞だった2人の共闘。

 そんな2人の戦いに、命の危険に晒され、極限の状態だった学生達でさえ惹きつけられた。

 当然、アルバスとゲラートのそれぞれの個人的な力も高い所にある。だが、それ以上に注目すべきは、2人の一糸乱れぬコンビネーションだ。

 アルバスが防ぐ時はゲラートが攻撃し、ゲラートが防ぐ時はアルバスが攻撃する。声を出さずとも、パートナーのして欲しい事を理解し、目で見ずとも、パートナーの動きを把握していた。

2人は老人とは思えない様な軽やかな体捌きと、その圧倒的なコンビネーションでヴォルデモートをまったく寄せ付けなかった。

 決して、ヴォルデモートが弱い訳ではない。

 むしろ、一対一であれば、アルバスとゲラートに勝ち目はないと言ってもいい。それはニワトコの杖を加味してもだ。

 ヴォルデモートは今現在不死だ。

 つまり、自身の体を生贄に使う事でのみ放つ事ができる禁術を、好き放題使う事ができ、体力に衰えがなく、傷を負ってもすぐに回復できる。

 タダでさえ、全盛期程の体力がない2人であれば、あっという間に競り負けていただろう。

 だが、2分という制約と、信頼できるなパートナーの存在により、その優位性は覆った。

 そして、1000に近い呪文の応酬が行われた今、ついに2分が経過した。

 2分、それはすなわちトム・リドルが『動物もどき(アニメーガス)』として変身するのに必要な時間。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 突然だが、トム・リドルの6つ目の部屋には2つの鏡が置いてある。

 1つは『多面鏡』。

 騎士団が離れた場所から会議を行うための鏡である。

 もう1つは『みぞの鏡』。

 見た人間の最も強い願望を映し出す鏡。誰も心を閉ざす事の出来ない、魔法界最古の魔法逸品(マジックアイテム)の1つ。

 

 トムの1つ目の部屋には、夥しい量の『闇の魔術に対する防衛術』に関する本がある。

 その分野に関してだけなら、ホグワーツの図書館でさえ上回る程の量の本。

 当然、トムはその一冊一冊に目を通し、よく研究していた。

 

 

 

 

 今、ヴォルデモートの目の前には『死』がいた。

 それは、童話である『三人兄弟の物語』に出てくる、『死の秘宝』を授けたあの『死』だ。

 ヴォルデモートが“この世で最も恐れる者”である『死』。

 

 

 そう、トム・リドルの『動物もどき(アニメーガス)』の正体、それは『ものまね妖怪(ボガード)』だ。

 

 

 自身の世界最高の『開心術』と、世界最高のマジックアイテムの1つである『みぞの鏡』の研究により、誰も逆らう事の出来ない『開心術』を行うことを可能にした。

 さらに、『妖怪祓い』達が発見した妖怪のありとあらゆる弱点を克服した。

 普通の『ものまね妖怪(ボガード)』では変身した者の力を一部しか使えないが、トム・リドルはその膨大な魔力により、変身した者の力を完璧に使いこなすことが出来る。

 相手の一番怖い者に変身する。

 それはすなわち、その者が絶対に敵わない者に変身するという事だ。これほど怖い能力はない。

 そして、力を持つ者であればある程、恐れる者もまた強力な者となる。

 ヴォルデモートは現在不死だ。

 すなわち、最も恐れる者は自身の不死を消す存在。

 ヴォルデモートの前に立つ『死』は恭しく一礼した。

 そのまま指を鳴らすと──

 

 

 

──『ニワトコの杖』『蘇りの石』『透明マント』を破壊した

 

 

 

 何千年という月日の末、ついに『死の秘宝』の物語は結末を迎えた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「貴様、貴様ァ!自分が何をしたのか分かっているのか!」

 

「分かっているよ。あるべき物をあるべき姿に戻したんだ。『死の秘宝』は『死』を呼び寄せる。歴史がそれを証明している。そんな物、あってはいけない」

 

 僕はものの数秒で変身を解いた。それでも、もう正直クタクタだ。

 『死』でいると消費する魔力量が多すぎる。その上、この世で最も高い魔力を秘めている『死の秘宝』を同時に、全て壊したんだ。僕の魔力はすっからかんだ。

 タダでさえ、自力で魔力を回復できない僕は、持続性という点では老人であるダンブルドア校長やゲラートさんをも下回ってしまう。

 それに、『死』の攻撃方法は『死』しかない。

 僕は殺す事はしないから、『死』のままだと単純に戦い辛い。

 かといって、もう魔力が底を尽きかけているからこのまま戦ってしまえば、間違いなく僕が負けるけど。

 

「殺してやる!貴様は確実に殺してやる!」

 

 ヴォルデモートが僕に杖を向けるけど、ダンブルドア校長が間に入ってくれた。

 

「させると思うてかの?」

 

「黙れ!この老いぼれがああぁぁぁ!!!」

 

 ヴォルデモートの憤怒が炸裂した。

 機能が死んで、守りが無くなったホグワーツごと、あたり一面を消し飛ばした。

 まったく、ホグワーツの1割くらいが消えてしまった。

 

「箒を習っといて良かったよ」

 

 もう『飛行魔法』も使えない僕はギリギリの所で、ハリー達が持っていた箒に乗って、破壊を免れた。

 当然、ハリー達は僕の魔法陣の中にいるから安全だ。

 ダンブルドア校長とゲラートさんは強力な『盾呪文』で破壊を防いでいた。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

「ヴォルデモートよ、お前そんなに馬鹿だったか?滅茶苦茶な魔法を撃って……。もう魔力が枯渇するぞ。お前まだ、『蘇りの石』が有ると思ってるのか?」

 

 ゲラートさんが呆れた口調で話す。

 

「もう終わりじゃよ、ヴォルデモート。ここでは『姿くらまし』の類は出来ぬ。飛んで逃げたとしても、我々にはフォークス達がおる」

 

 ダンブルドア校長がそうおっしゃると、2匹の美しい不死鳥が空から降りてきて、ダンブルドア校長とゲラートさんの腕に止まった。

 

「お主を今ここで倒し、残された『分霊箱』は後から壊す。魔法省で暴れておった『死喰い人』は全て捕らえた。もうお主の復活を手助けする者もおらんじゃろう」

 

「お前には『ヌルメンガード』に入ってもらう。そこで私とアルバスが一生を通して世話をしてやる」

 

 そう言って、ダンブルドア校長とゲラートさんが杖を構える。

 それに対して、ヴォルデモートが浮かべたのは、笑みだった

 

「フハハ、ハハハハハ!滑稽だ、実に滑稽だ!何をいい気になっている?貴様ら、チラリとでも思いつかなかったのか?そこにいるトム・リドルと俺様は、よく似た思考回路を持っている。そいつが奥の手(アニメーガス)を用意しているのに、俺様が何の奥の手も無しにここに来たと、そう思うのか?!」

 

 再び、枯渇したはずのヴォルデモートのドス黒い魔力が高まり始めてる。

 

「確かに、俺様の二度目の復活には『蘇りの石』を使った。『ペベレルの指輪』を媒介に、蘇りの石で肉付けをした!だが、一回目の復活はどうだ?『スリザリンのロケット』を媒介に、ハリー・ポッターの血で肉付けをした。だが、それだけでは足りん!父親の骨を、そこの男が消し去ってしまったからな。そこで俺様は考えた!そして、思いつき!完成させたのだ!」

 

 そう言って、ヴォルデモートが自身の左胸に手を突っ込んだ。

 そして、心臓の代わりに、石を取り出した。

 

「見ろ、これを!ニコラス・フラメルを拷問し、作り方を吐かせ、俺様自ら作り上げた『賢者の石』だ!俺様の肉体と完全に同化している!」

 

 そして、そのまま『賢者の石』を握りつぶした!

 

「1つ壊したくらいでそう慌てるな。安心しろ、俺様の体にいくつ『賢者の石』が入っていると思う?1つや2つ壊したところで、俺様には何の影響もない」

 

 そして、握りつぶした賢者の石の破片が形を変えていき、ヴォルデモートとなる。

 合計50体程のヴォルデモートが出来上がった。

 

「こいつらは『賢者の石』で作った俺様の『亡者』だ。魂こそないが、肉体は俺様そのもの。そこらの魔法使いよりは使える」

 

 ヴォルデモートが杖をふるうと、ヴォルデモートの『亡者』がゆっくりと動き出した。

 

「さて、さっき面白い事を言っておったな?もう終わりだとか、俺様を監獄に入れるとかなんとか。どうやって俺様を終わらせ、監獄に入れるのか……。教えていただけるかな、賢いホグワーツの校長とそのお友達の諸君!」

 

 そう言うと、ヴォルデモートの亡者が黒い霧を纏いながら僕達の方に飛んできた。

 まったく、困ったものだ。マジで!

 

「ヨル!僕の剣を呼び寄せて!」

 

「心得た!『アクシオ 我が主人の剣』!」

 

 僕が飛びながらヨルに向かって叫んだ。

 バジリスクであるヨルは耳が良い。こんな離れた距離から、高速で移動しながらでもちゃんと言葉が伝わる。

 数秒たって、ヨルの元に届いた僕の剣をヨルが僕の方に飛ばしてくれた。

 もう魔力は残っていないが、体力の方はまだある。

 今は箒に乗った僕と不死鳥につかまってるゲラートさんが空中でヴォルデモートの亡者と戦い、地上ではダンブルドア校長がヴォルデモート本体と戦ってる。

 

「若造、さっきの様に『死』に変身出来ないのか?!」

 

「時間も魔力も無いから無理です!」

 

「使えん奴め!」

 

「じゃあゲラートさんがどうにかしてください!」

 

「若いくせに老人に頼るな!」

 

 僕の剣とゲラートさんの炎が亡者をどんどん消していくけど、それを超える勢いで亡者が作られていく。

 このままだと僕達は負ける

 

「アルバス、早くヴォルデモートを倒せ!」

 

「分かっておる!」

 

 地上ではダンブルドア校長が作った守護霊の不死鳥と、ヴォルデモートが作った悪霊の火の蛇がお互いを食らいあっていた。

 その一方でダンブルドア校長の黄金の兵隊が、ヴォルデモート本体を捕らえようとしている。けど、ヴォルデモートは低空を黒い霧を纏いながら飛んで、逆に黄金の兵隊を少しずつ壊して行っている。このままだとヴォルデモートがいずれ兵隊を全て壊してしまうだろう。

 

「仕方が無い、『転移不可呪文』を一旦解きましょう!魔法省にいる騎士団を呼ぶしかありません!」

 

「ヴォルデモートを逃してしまうが、仕方あるまい!アルバス!」

 

「解いたぞ!」

 

「チョウ、ジョージ、フレッド!『姿くらまし』して魔法省に行くんだ!そこで増援を呼んできてくれ!」

 

 僕がそう言うや否や3人はその場から消えた。

 そしてほぼ入れ替わりで、騎士団がやってきた

 

「随分と早かったの、アラスター」

 

「油断大敵!いつ攻め込まれてもいい様に準備していたからな!逆に攻め込む準備にもなってた訳だ!」

 

「雑魚共が!この戦いに割り込む気か!」

 

「雑魚かどうかは今から試してみればいい」

 

 そう言ったのはルーピンだ。

 

「私の息子によくも手を出してくれたな、ヴォルデモート!」

 

「まったくだ、シリウス。私の娘と息子によくもこんな真似を!」

 

「ウィーズリーにブラック!血を裏切った者どもめ!今ここで根絶やしにしてやる!」

 

 そう言って、ヴォルデモートが杖を構える。

 それに呼応する様に、騎士団も杖を構えた。

 

「……と、言いたいところだが、興が削がれた。感謝するが良い、今日はもう大人しく撤退してやろう」

 

 意外な事に、先に杖を下ろしたのはヴォルデモートだった。

 

「どういうつもりじゃ、ヴォルデモート」

 

「俺様の目的は達成出来た。気づいた時には、もう遅い」

 

「どういう意味──」

 

「『アバダケダブラ』!」

 

 その緑の閃光は、ヴォルデモートから放たれたのではなかった(・・・・・・・)

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 トム達がヴォルデモートと激闘を繰り広げる最中、ハリーは夢を見ていた。

 だが、それは夢では無いと直感でわかった。

 これは過去、実際にあったことだ

 夢の内容は『TA』について。

 自分が作り上げてきたと信じていた、自分の宝物は、全て他人によって出来た物だった。

 集まったメンバーは自分を慕って集まったのではなく、ダフネ・グリーングラスによって集められたものだった。

 ハーマイオニーはハリーのためではなく、リドルに褒められるために『TA』に尽くしていた。

 そして、なによりアステリアとチョウは、本当はハリーが好きな訳ではなかった。

 アステリアが好きだったのは実の姉であるダフネだ。アステリアは姉のダフネの為に、ハリーに近づいていた。

 チョウが好きなのはセドリックだった。そして、セドリックはダフネに頼まれて、チョウに『TA』に参加するよう頼んでいた。

 ダフネが生徒達を洗脳し、『TA』に加える。

 ハーマイオニーがリドルの事を考えながら『TA』の教科書を徹夜で作る。

 アステリアが姉の事を考えながらハリーに話しかける。

 チョウがセドリックにいつ『TA』を辞めて良いのか聞く。その場面が、ハリーの頭の中にひっきりなしに映しだされた。

 強い絶望が、ハリーを襲った。

 その時、甘い声が聞こえてきた。

 

『ハリー、お前がこんな惨めな気持ちを味わうことはない』

 

『お前にこんな苦痛を味合わせた奴は誰だ?』

 

『そいつさえ消してしまえば、お前はまたみんなの中心に戻れる』

 

「……トム・リドル?」

 

『そうだ。あいつは周りの人間を騙し、お前に苦痛を味合わせた。騙されている人間を助けてやらねば』

 

『呪文は知っているだろう』

 

『さあ、殺せ!』

 

「『アバダケダブラ』!」

 

 緑の閃光が、トム・リドルを貫いた。

 ハリー達を覆っていた魔法陣は一瞬強く輝き、消え去った。

 それと同じ様に、トム・リドルの瞳の光も、一瞬の輝きと共に、消え去っていった 。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32 『闇の帝王』の遺産

「『アバダケダブラ』!」

 

 ハリーの杖から放たれた緑の閃光がトム・リドルを貫いた時、クロとヨルは自分の中にあるトムの魂が急速に萎んでいくのを感じた。

 トムの体が力なく崩れ、膝を着く頃には先程までハッキリと感じていたトムの魂は、もう僅かな残り香のみとなっていた。

 この時クロとヨル、特に生まれた瞬間から魂を分かち合っていてたクロは、自身が死んだかの様にさえ感じていた。

 故に、トムが『死の呪い』を受け、体が完全に地面に横たわるまでの僅かな時間に、その様な精神状態の中で“それ”を思いついたのは、彼女の類い稀なる頭脳を持ってしても奇跡と言えるだろう。

 彼女の胸に残った僅かな魂を依代に、自身をトム・リドルのホークラックスとする。

 それがクロが思いついた、トム救出の手立てだった。

 だがホークラックスの作成のためには、誰かを殺さなくてはならない。それもトム・リドルが完全に旅立ってしまう前に。

 一体誰を殺そうか?

 答えはすぐに出た。

 トム・リドルを殺した憎くき人間であり、物理的にも実力的にも自分の手が届く範囲にいる人間。

 すなわち、ハリー・ポッター。

 クロは、ハリーを殺す事を決めた。

 

 クロがハリーを殺す結論を下した時、全く同じ結論を下した人間が居た。

 誰であろう、それはヴォルデモートだ。

 元々、ハリー・ポッターには誰かを、憎しみで殺させるつもりだった。そうする事で、リリーが施した“愛”が消えるからだ。

 『原作』ではベラトリックス・レストレンジを殺させる事で実現しようとしたそれは、トム・リドルの殺害という最高の形で成就した。

 故に、最早ヴォルデモートからハリーを守る物はない。

 ヴォルデモートは初めから、ハリーがトム・リドルを殺害した瞬間にハリーを殺す気でいた。

 

「『アバダケダブラ』!」

 

 誰もが、ダンブルドアでさえ、動揺によって動きが止まる中、やはり一番最初に動いたのは初めから用意していたヴォルデモートだった。

 『姿くらまし』によって至近距離へと移動し、『死の呪い』をハリーに向けて放った。

 

「ッ!『妖精王の豪炎』よ、その力を示せ!」

 

 次に、誰よりも動揺しているはずのクロが動いた。

 即座にハリーを殺す決断をし、『妖精王の豪炎』をヴォルデモートの攻撃とほぼ同時に放つ事が出来たのは、彼女のトムを助けようとする決死の思いが起こした奇跡だった。

 

 そして、ハリーは緑の閃光とエメラルドの炎に包み込まれた。どちらか片方だけでも容易く人を殺す超級魔法。それが両者ともハリーに直撃した。

 だが、死を迎えたのはハリーではなく、ヴォルデモートとトム・リドルだった。

 ヴォルデモートとハリー・ポッターに繋がりがある様に、実はトム・リドルとハリー・ポッターの間にも繋がりがあったのだ。

 ヴォルデモートの『死の呪い』がヴォルデモートとハリーの繋がりを。

 クロの『妖精王の豪炎』がトム・リドルとハリーの繋がりのみを破壊した。

 

 自身の魂が砕かれる喪失感の中で、ヴォルデモートは悟った。

 ハリーが自分のホークラックスだった事を。自分とハリーの繋がりの正体を。自分でホークラックスを破壊してしまったことを。

 そして、同時に大きな疑問が去来した。

『リリーの“愛”は消えた筈。

ならば何故ハリーだけが守られ、自身の魂のみが破壊されたのか?』

 大きな疑問と痛み、それと最大の好敵手であり、自らが歩んでいたかもしれない未来の一つであったトムへの僅かな敬意を胸に、ヴォルデモートは『姿くらまし』で何処かへ消えた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ヴォルデモートが去り、トム・リドルの死体だけが残ったホグワーツの一角を、沈黙が支配していた。

 トム・リドルが死んだ喪失感と、ハリーへの言いようのない感情が混じり合い、全員の口を閉ざした。

 ハリーが自分の意思でトム・リドルを殺した訳ではない事は、全員が理解していた。だが、理解しているからといって、納得出来るかと言えばそうではない。

 いかに闇の帝王といえど全く殺意の無い人間に、強い感情を使わなければならない『死の呪い』を使わせる事は出来ない。それはつまり、ハリーが多かれ少なかれトム・リドルに殺意を持っていた事を証明していた。

 故に、ハリーを責めるべきか否か、1000を越える時を生きたヨルや、賢者と謳われたダンブルドアでさえ、自分の感情に答えを出せなかった。

 そして、沈黙を破ったのは、トム・リドル本人だった。

 いや、それは正確では無い。

 正確にはトム・リドルの形をした守護霊だ。

 彼が生前に作っておいた、呪文を取っておいておける『銀の杖』から、彼を形取った守護霊が呼び出された。

 誰もが守護霊に注目する中、彼は恭しく一礼した。誰もが、特にハリーが、口にせずとも彼の生存を期待した。

 彼はこの呪文を前もって用意していた。つまり、彼はこの状況を予見していた事になるからだ。それならば、彼が何らかの方法で死を免れている可能性は高い。

 だが、全員のそんな期待に反して、出てきた言葉は残酷な事実を告げるものだった。

 

『これは私、トム・マールヴォロ・リドルの遺言である』

 

 この言葉が、嫌が応にも彼の死を証明した。

 

『この遺言は私のこれまでの人生を語る事様な物ではない。私が持つ財産の相続についてである』

 

 いつもの彼とは違う口調で、淡々と遺言を残していく。

 

『ヨル・バジリース。君に僕の剣を遺贈する。この剣が君の夜を払う事を願っている』

 

 トムの左手から剣が離れ、ヨルの目の前に突き刺さった。

 

『クロ・ライナ・アイベリー。君に僕の杖を遺贈する。この杖が君の新たな相棒となる事を願っている』

 

 トムの右手から杖がフワリと離れ、クロの目の前で停止した。

 

『ジネブラ・モリー・ウィーズリー。君に僕の日記を遺贈する。この日記を見て私を思い出してくれる事を願っている』

 

 トムの遺体が崩れ、一つの日記となった。

 

『ロナルド・ウィーズリー。君に僕の箒を遺贈する。君がこの箒で輝かしい未来へと羽ばたく事を願っている』

 

 先程までトムが跨っていた箒が、ロンへと羽ばたいた。

 

『ハーマイオニー・ジーン・グレンジャー。君に僕の部屋の全てを遺贈する。君の好奇心が満たされる事を願っている』

 

 トムのローブのポケットから、羽の生えた鍵がフワフワと飛んできた。

 

『セドリック・ディゴリー。君に僕のローブを遺贈する。君がこのローブを上手に着こなす事を願っている』

 

 トムの遺体がなくなった事で、直に地面に置かれてたローブを、セドリックが丁寧に拾い上げた。

 

『ルーナ・ラブグッド。君に僕の“銀の生物”を遺贈する。君の心がいつまでも純粋である事を願っている』

 

 授業で生徒達に配ったものとは比べ物にならない程の、大きな銀の塊が空中から出てくる。

 

『ダフネ・グリーングラス。君に『みぞの鏡』を遺贈する。君がこの鏡で自分の本当の姿を見る事を願っている』

 

 その瞬間、トムが7つ目の部屋に仕掛けた保護魔法の解除方法がダフネの頭に流れ込んだ。

 

『ネビル・ロングボトム。君にこの銀の杖を遺贈する。君が原点に立ち返った時、この杖が役に立つ事を願っている』

 

 そう言って、守護霊は居なくなった。

 

『そして、ハリー・ジェームズ・ポッター。君には──』

 

 言い切るまえに、トムの守護霊は霧散した。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「ミス・アイベリー、止めるのじゃ」

 

「何の事かしら?」

 

「誤魔化しは通用せん。殺すつもりじゃろう」

 

「当たり前じゃない」

 

 私がそう言うと、あいつを殺した人間がビクリとした。

 怯えるだけで、未だに謝罪の言葉もない。益々殺意が湧いてくる!

 こいつにだけじゃない、他の人間にもだ!

 こいつら人間は本当に馬鹿ばっかりだ、イライラする!

 

「もう貴方達人間じゃ、私を止める事は出来ないわよ」

 

 私の力は、今までにないほど高まってる。

 これは、まったく嬉しくないけど、あいつが死んだおかげだ。

今まで、あいつの為に魂を供給し続けてきた。その事は私にとって当たり前だったし、誇りだった。私が尊敬できる唯一の人間であるあいつに、私が力を貸せる数少ない事だった。

 だから特に気にしなかったけど、どうやら私は今まで半分程度の力しか使えていなかったらしい。

 でも、あいつは死んだ。

 私はこれから、私の為だけに私の魂を使う。

 もう、あいつの為に魂を使う事は出来ない。

 でも、私のこれからの人生をあいつの為に使う事は出来る。

 

「トムは、それを望んではおらんじゃろう。ハリーを殺す事も、お主が誰かを殺す事も」

 

「お前があいつを語るな!」

 

 私が怒りを爆発させると、それだけでその場にいた人間が吹き飛んだ。なるほど、今ので私の力の程が大体わかった。

 それに、どうやら私は二つの性質を持ってるらしい。

 怒りっぽいドラゴンと、冷静な人間。

 だから、こうして激怒しながらも、冷静に物事を考えられる。考えて答えを導き出して、その答えに怒りながら、それでも更に考えを掘り進めていける。

 

「貴方達人間は本当に醜い!そしてダンブルドア、貴方はその中でも最も醜い人間だ。自分の掲げる正義とやらの為に、あいつの死を利用しようとしている!」

 

「お主は……」

 

「気がつかれないとでも思ったのかしら?醜い上に、滑稽ね」

 

「どういう事なの?」

 

 髪がボサボサの人間。確かこいつは……はー、はー、ハーマイオニー・グレンジャー?が間抜けな顔で間抜けな質問をしてきた。

 

「『どういう事なの?』ですって?少しは自分で考えてみようとは思わないのかしら。でもまあ、教えてあげるわ」

 

 本当はまったく気がのらない。

 でも、あいつは求める者には与えるべきだって言ってたから。

 

「あいつを殺した人間は英雄なの。ヴォルデモートを過去に打ち破った人間、世間はそう認知しているわ。再び蘇ったヴォルデモートは今、紛れもなくこの世で一番強力な人間になった。それに立ち向かうには、希望が必要なの。人間は希望がなければ立ち向かえない。そうでしょ?

 でも、その希望が『許されざる呪文』を使った罪でアズカバン送りになったら世間はどう思うかしら?それも、その中で最も罪の重い『死の呪い』。その上使った相手は自分の学校の教師!」

 

 そこまで言って、やっと何人かが気がついた。

 あいつは人間に何かを教えるのを楽しんでいたけど、こんな察しの悪い馬鹿共に教えて何が楽しかったんだろう。

 

「そう、そこにいるダンブルドアは、あいつの死を誤魔化そうとしてるのよ!あいつはそこの人間ではなく、ヴォルデモートに殺された、とね。それに、あいつには人望があった。それを利用して、ヴォルデモートへの敵対心を煽ろうともしてる!あいつの死をこれほど冒涜する事はない!」

 

「確かに、それは冒涜かもしれん。じゃが、ヴォルデモートに勝つには必要な事なのじゃ。ヴォルデモートを倒す事はトムが望んでいた事でもあったじゃろう?」

 

「その発想がいかにも人間的で、醜いわね。そうやって自分ではどうしようもできない壁を見ると、すぐに他の人間の力を頼ろうとする。貴方達人間はそれを“絆”や“愛”なんて言うけれど、それはただの理想の押し付けよ」

 

「それは……そうかもしれん。じゃが、今ハリーを殺させる訳にはいかなんだ」

 

「そう、私と敵対するって事でいいのね?」

 

「……ワシの敵はヴォルデモートだけじゃよ」

 

「次に私と会う時、そんなぬるい事を言ってたら死ぬわよ?今から私と貴方は、いえ、私達と人間は敵になる」

 

 この言葉は脅しじゃない。

 冷静に私とダンブルドアの力を比較して導き出した、事実だ。

 

「よく聞きなさい、人間共。私は今から宣戦布告する!この馬鹿げた醜い人間界を潰し、虐げられてきた人間以外の種族が全員、大手を振って歩ける世界を作る事をここに宣言する!」

 

 あいつが集めた人間達の歴史書を読んだ事がある。

 その時、人間が馬鹿なのは最早普遍の真理である事を知った。妖精である屋敷しもべ妖精を奴隷のように扱い、あまつさえ同族ですら虐げる。

 元々、あいつ以外の人間は好きじゃない。それならば、私が人間の世界を壊し、それ以外が支配する世界を作ろう。

 その上で、あいつの意思を継げばいい。

 

「ヨル、貴方はどうするのかしら?」

 

「……私はお前と共に行こう。お前は我が主人の考えを最も深く理解してる。それ故か、所々に面影を見る。私はそれを見ていたい。それに、私達は友だ。友には力を貸すものだ」

 

「ありがとう、ヨル。……サーラ!」

 

 バチンッ!という音と共にサーラが現れる。

 

「あいつは死んだ。貴方の主人はいない。そこで、提案するわ。新たな主人として、私に仕えなさい」

 

「元々、リドル様よりそう承っておりました。リドル様がお亡くなりになった時はお嬢様にお仕えしろ、と」

 

「話が早くて助かるわ。早速だけど、今から貴方が知っている屋敷しもべ妖精全員にあいつの死と、その理由を伝えてくれるかしら?」

 

「かしこまりました、アイベリー様」

 

「他に、私についてくる者はいるかしら?」

 

「……私達狼人間は長い間差別されてきた」

 

「リーマス!?」

 

「今回、ほとんどの狼人間がヴォルデモートに手を貸した事で、より私達は差別されるだろう。それなら……」

 

「リーマス、それなら私もついていく!」

 

「ダメだニンファドーラ!君は──」

 

「私は貴方がいればそれでいいの!だから連れて行って!」

 

「くだらない言い争いは止めてくれるかしら?別に、今すぐ答えを出せとは言わないわ。そうね、来年度のホグワーツが始まる頃まで待つ。それでどうかしら?……いいようね。それじゃあ、さようなら」

 

「待つのじゃ!」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「待つのじゃ!」

 

 ワシの言葉を聞かず、行ってしもうたか……

 

「アルバス、奴は一体何者だ」

 

「彼女はクロ・ライナ・アイベリー。人間ではなく、トムが育てたドラゴンじゃ。人間の『動物もどき』だがの」

 

「それであの魔力量か……魔法を使うドラゴンか。脅威だな」

 

 確かに、その魔力も脅威じゃ。

 じゃが、彼女の本当の恐ろしさはそこではない。

 

「それだけではないのじゃ、ゲラート。彼女はまだ、産まれてまもない。まだ2歳と半年じゃ。だというのに、魔法のほとんどを理解し、高い知能を持っておる。彼女の学習速度は恐ろしい。『動物もどき』にものの数時間で慣れたそうじゃ」

 

「そんな!ダンブルドア先生、それは本当なんですか?」

 

「左様、ミス・グレンジャー」

 

「あの、『動物もどき』に慣れるってどういう事ですか?」

 

 ミスター・ウィーズリーの素朴な疑問には、ミス・グレンジャーが答えてくれるようじゃの。

 

「いい、ロン。貴方、急に自分が犬になったらどうかしら?上手く四足歩行で歩けるかしら?他にも、人間とは頭の位置も違うから、呼吸の仕方も変わってくるの。だから、『動物もどき』になる人は普通、何年も『変身呪文』でなりたい動物になって、上手く動く練習をするの」

 

「相変わらず賢いの、ミス・グレンジャー。その通りじゃ。天才であったマクゴナガル先生でさえ、一年を要した。じゃが、ミス・アイベリーはたった数時間でそれをこなしたのじゃ。しかも、二足歩行は他の歩き方と比べて格段に難しい。それを瞬時に習得したのじゃ。それだけではない。言語を教わらずとも理解し、すぐに話せる様になったとも聞く」

 

「そのクロが、人類の敵に?」

 

「分からん。彼女の考えは、ワシにも分からんのじゃ。賢さと幼さ、彼女は二つの面を持っておる。故に、考えが読めんのじゃ。じゃが、恐らく、トムの遺言の意味を理解したのじゃろう。何故トムがそれらの品物を君たちに遺贈したのか、彼女だけが理解したのじゃろう」

 

「……先生、リドルは、どうしてリドルは僕の呪文を避けなかったのですか?」

 

「リドル“先生”じゃよ、ハリー。その答えはの、推測じゃが、彼がそれを望んだからじゃ。彼の正体はヴォルデモートのホークラックスなのじゃ。そしてハリー、君もじゃ。そして今夜、君達は『死』を迎えた。もう君達の間に繋がりはのうなった」

 

 そして、恐らく『予言』も効力を失ってしもうた。

 一方が生きる限り、他方が生きられぬ。

 『闇の帝王』は死んだ。最早ハリーは『選ばれし者』ではなくなったじゃろう。

 

「備えねばならん。ヴォルデモートにミス・アイベリーに」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33 獣と人

 ドラゴン、ヘビ、狼人間、吸血鬼、吸魂鬼、巨人、水中人、ケンタウロス、屋敷しもべ妖精、小鬼、ありとあらゆる生物が集ってた。

 彼らには共通点があった。

 それは、人間に虐げられてきたこと。

 高い知能を持ち、それぞれの文化を持っていた。だが、人間が勝手に決めた法によって縛られてきて者たちだ。

 魔法使い達はマグルから魔法界を、魔法生物を隠そうとした。だが、人間以外の生物からしてみれば、そんな事はどうでも良いことだ。

 彼等は自由に生きたかった。

 故に、人間が持ちかけてきた法に反発し、虐殺された。

 中には人間の奴隷にされた者もいた。

 力で敵わない事を知った彼等は、我慢してきた。いや、我慢などという言葉では表せないほどの怒りを、屈辱を、堪えてきた。

 

 ドラゴンの血は様々な効能があった。

 故に、人間の生活を豊かにするために乱獲されてきた。時には生け捕りにされ、競技にさえ使われた。

 

 ヘビは勝手に闇の魔法使いの象徴とされた。

 闇の魔法使い達は好んでヘビを使役し、やりたくもない殺しをさせられた。

 他の魔法使いからは忌み嫌われ、虐殺された。

 

 狼人間はほとんど人間と変わらなかった。

 だが、自分達の誰かが少しでも他人を傷つければ、彼等は人間ではなく、危険な狼扱いだった。

 人間の方が明らかに人を殺してきているのに、だ。

 

 吸血鬼は夜を追われた。

 過去、恐怖の象徴だった彼等は、異常な程の虐殺にあった。結果として、人間にへりくだり生きていくか、暗い洞窟の奥底で、蝙蝠として生きていくかを無理矢理選ばされた。

 

 吸魂鬼は人間に協力関係を提案された。

 彼等の食料である魂を供給する代わりに、アズカバンを守ってほしい、と。

 だが、蓋を開けてみればそれは不当な労働だった。夜も朝もなく、彼等は働かせられた。休もうとすれば『守護霊』を容赦無くけしかけられた。

 

 巨人は山に閉じ込められた。

 心優しい彼等は好んで人を傷つけない。だが、その大きさ故に人を傷つけてしまう事がある。それを理由に、彼等は闇の生物に認定された。

 そして、体の大きさを利用して、魔法使いの練習用の的にされた。

 

 水中人は清らかな湖に住んでいた。

 だが、人間がそれを汚し、汚染した。その上彼等は外来種を持ち込み、水中人達の住処を脅かした。

 抗議をした水中人の言葉を、人間は陸地にいたまま聞かなかった。

 

 ケンタウロスは賢かった。

 人よりも多くの物事を知っていた。それは科学や魔法といった事ではなく、森の美しさや生命の営みといったものだ。科学や魔法よりもずっと価値がなく、ずっと素晴らしい物を彼等は知っていた。

 だが、人間は彼等の言葉に耳を傾けず、醜い半獣と罵った。

 

 屋敷しもべ妖精は美しい妖精だった。

 他の妖精と同じく、自然に生きていた。だが、その優秀さから人間に捕獲され、しもべとされた。彼等から文化を、自由を、美しさを奪っていった。

 

 小鬼は人間が嫌いだった。

 だが、小鬼の力に関心を寄せた人間が協力関係を持ちかけてきた。それに小鬼は、渋々応じた。小鬼と人間、双方の発展を信じたからだ。

 小鬼達は人間に力を貸した。だが、人間は終ぞ魔法を小鬼達に授けなかった。

 

 そんな彼等の忌まわしき歴史は終わりを迎えようとしていた。

 本来、協力関係を結ぶことなどしない彼等は、団結し、人間を滅ぼす事を決めた。

 彼等は希望を見たのだ。人間を上回る頭脳と力を持つ、一匹の美しい獣に。

 獣の頂点に立つ、白銀の女王に。

 

「クロ様、この人間でよろしかったでしょうか?」

 

「ありがとう、ルロイ」

 

 そんな彼女の目の前に居るのは、かつてホグワーツに仕えていたルロイ。

 彼等屋敷しもべ妖精達はホグワーツを裏切った。

 ダンブルドアではなく、かつて、教育を施し、戦友として接してくれたトム・リドルの後を継ぐ、クロに仕えることを選んだ。

 当然、ダンブルドアからは解雇に必要な衣服を貰っていない。だが、彼等は自分達で考え、自分達で仕える主人を選んだ。

 そして、ホグワーツを離れる際、一人の女を連れてきた。

 連れられてきた女の名前はシビル・トレローニー。

 かつてハリー・ポッターとヴォルデモートに関する予言をした、ダンブルドアの切り札ともいうべき預言者。

 

「ん、んんん!」

 

 彼女は目隠しをつけ、猿轡を咬まされ、体を拘束されていた。

 クロが杖を振るうと、彼女の身は自由となった。

 シビルがクロを見ると、彼女の身に膨大な魔力が集まり、雰囲気が変わっていく。

 彼女の目と口はありえないほど開き、女性とは思えないほどの野太い声で話し始めた。かつて、ハリー・ポッターに予言を授けた時のように。

 

『汝は──』

 

「そういうの、いいから」

 

 そして、シビルが予言を言い切る前に、クロはシビルを殺した。

 

「これで、新たな予言が生まれる事はない」

 

 クロは、ダンブルドアの狡猾さをそれなりに評価していた。

 故に、無能なシビルを、新たに『占い学』という教科を作ってまで雇ったことに疑問を持っていた。

 そして、僅かなヒントを元に真実に辿り着いた。普段は無能なシビルが、稀に非凡な力を発揮する事を知った。

 クロは、トムと違って不殺を誓ってはいない。真実に辿り着いた彼女が下した結論は、当然殺害であった。

 

「今から全員に魔法を授ける。人間が私達にひた隠しにしていた魔法を」

 

 彼女が取り出したのは『主人を選ばぬ杖』。

 トムが作ったそれを、彼女は作り出すことに成功していた。

 ただ作ったのではない。トムが作り出したそれは、魔力変換効率が6割程度だったが、クロは魔力変換を8割まで引き上げることに成功していた。

 今、屋敷しもべ妖精達がこの『主人を選ばぬ杖』を大量生産している。

 

「それから、人間をはじめとした、いくつかの『動物もどき』になってもらう」

 

 そして、彼女は自分が『動物もどき』になった時の儀式を正確に覚えていた。

 その儀式を頭の中でシュミレートし、改良する事で、複数の『動物もどき』になる算段をつけていた

 

 現在、そんな彼女の頭に浮かんでいるのはトムが死んだ夜のこと。

 彼女は、あの夜トムとヴォルデモート、ダンブルドア、ゲラートが使った魔法をほぼ全て学習していた。

 例外はトムが変身した『死』と、ヴォルデモートが作った『賢者の石』。もっとも、その二つもいずれ物にするつもりではいたが。

 クロは、魔法使い達が長い歴史の中で培ってきた魔法の全てを理解しつつあった。そして、到達してしまえば、後は追い越すだけだ。

 二年半で人類の最高峰に達した彼女が、ドラゴンの途方もない寿命を全て使い切る頃には、一体どれほどの領域に立っているのか、それは誰にも分からない。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ホグワーツは、最早学校として機能していなかった。

 ヴォルデモートの『死の呪い』により、階段は動かなくなり、大広間の星空はただの天井になり、肖像画はただの絵になった。

 その結果、寮を守護していた、太った淑女などの肖像画が機能しなくなり、他寮に入り放題となってしまった。

 その上、掃除や食事の用意をする屋敷しもべ妖精達が居なくなったことで学校は荒れ、食事をする事も出来なくなった。

 必要の部屋や秘密の部屋はただの部屋に戻り、誰にでも開かれる様になった。

 勿論、絶対の守りが施されていたはずの校長室もだ。

 唯一の例外として、トムが最強の保護を施した【7つ目の部屋】のみが、今も侵入者を拒んでいた。

 そんな誰もいないはずの【7つ目の部屋】に、一人の美しい女性が立っていた。

 彼女の名はダフネ・グリーングラス。

 この部屋の新しい主人だ。

 そして、彼女の足元にはいくつもの小瓶が置かれていた。いずれの小瓶にも、白い靄の様な物が入っている。

 彼女は『みぞの鏡』を暫く見た後、杖をシミひとつない美しいこめかみに当て、新しく白い靄を取り出した。

 そのまま白い靄を小瓶に入れ、足元にある小瓶の群れに追加した。

 トムがいなくなったあの日から、彼女はずっとここでこの作業を行っていた。

 何度も何度も、小瓶でこの部屋の床が埋まるまで。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ダフネが『みぞの鏡』を見つめている時、その上の階でハーマイオニーは泣いていた。

 彼女の周りには、ハーマイオニーの姿を隠してしまうほどの沢山の本が積まれていた。その本の著者はこの部屋の旧主人。つまり、トム・リドルだ。

 魔術についての論文、物語り集、教科書、果ては料理の本など、トムは実に多くのジャンルの本を書いていた。

 当然、本の中にはトム・リドルは出てこない。だが、どことなく彼を思い出させるのだ。文字の1つ1つが、彼だった。

 ハーマイオニーは本を読み進めるたびに、彼と話している様な気分になれた。そして、彼との本を通しての対話に没頭して後に、本を読み終わると、彼の死を思い出して泣いた。

 そして、その悲しみを紛らわせる為に、再び新たな本を手に取った。

 だが、彼女の胸の奥にはずっとある考えが浮んでいた。

 

『怒りに負けないで、ハリー!憎しみでヴォルデモートと戦っちゃダメ!友情や愛を信じるの!』

 

 あの時、ハリーが私の言葉をもう少し聞いてくれていたら、そう考えずにはいられなかった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ハーマイオニーが本に埋もれる中、ネビル・ロングボトムも本の山に埋もれていた。

 彼は強くなる為に、図書室で様々な本を読んでいた。

 彼は自分の頭がそれほど優れていない事を理解してた。故に、ハリーとトムについて考える事を止めた。とにかく、力を蓄える事にした。

 ヴォルデモートの『死の呪い』により、閲覧禁止の棚にあった、呪いがかかった本の数々が読める様になっていた。 ネビルはそれらの本を、熱心に読んでいた。

 様々な言語で書かれているため、その本を読むためにも別の本が必要だった。

 また、技術書特有の難しい言い回しや、古い故の文字の欠落もネビルを大いに苦しめた。

 元々要領が良い方ではないネビルは、一冊読むのにも恐ろしい程の時間と、多大な労力を要した。

 だが、ネビルは諦めなかった。

 普段謙虚な彼は、自身が強くなる事に、誰よりも貪欲だった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 本を読んでいたのは彼等だけではない。

 ジニー・ウィーズリーもまた本を、いや、日記を読んでいた。

 いや、それは正確ではない。

 正確には日記を読んでいたのではなく、眺めていた。

 日記には、何も書かれていなかったのだ。試しにインクを垂らしてみたが、ただインクが滲むだけで、かつての様に返事はない。

 本当に、ただの日記だ。

 なんの魔法的効力もない、ただの日記。

 だが、何かがジニーを惹きつけた。

 何も書かれていなくても、ジニーはいつまでも日記を眺めていられた。

 それが思い出の品だからか、彼の魂が僅かでも残っているのか、果たして全く別の何かなのか。兎角、ジニーはずっと日記を眺めていた。

 不思議な事に、日記を眺めている間は、心が落ち着いた。

 ハリーに対する激情に蓋をする事が出来た。

 ジニーはハリーが好きだった。異性としてか、友達としてか、家族としてか、それは分からなかったが、ハリーの事は憎からず思っていた。

 だが、それ以上にトムのことも好いていた。

 異性としても、友達としても、家族としても、好きだった。気を紛らわせてないと、ハリーへの憎しみが溢れてきてしまいそうだった。

 トムは常に“愛”や“絆”の大切さを説いていた。ジニーはその事を思い出し、必死に自分の心を抑えていた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 セドリック・ディゴリーは極めて冷静だった。

 あの遺言とこの遺品。何かあるのは間違いない。そして、それは恐らく、ヴォルデモートに関する事だ。

 ならば、絶対に謎は解けるはず。そうセドリックは結論付けた。

 セドリックは最初、遺贈されたローブをくまなく研究した。

 その結果、ローブはマダム・マルキンが考案した織り方が使われている事が分かった。だが、それだけだった。どの様な効力があり、何の繊維でできているか、などは全く分からなかった。

 そこでセドリックは攻め方を変えた。

 トムの考えをトレースする事にした。

 彼は、解けない問題は出さない。つまり、ヒントはもう出揃っているはずなのだ。

 彼はどの様な形でヒントを出しているのか。

 彼が過去に出したテストを研究する事で、傾向を見出そうとした。

 残念ながら、まだ成果は出ていないが。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 遺贈された品物の事で、最も頭を悩ませているのはロン・ウィーズリーだろう。

 なにせ、ロンに遺贈された箒は飛ばないのだ。

 どんなにロンが『上がれ』と命じても、魔力を込めても、うんともすんとも言わない。しかも、うんともすんとも言わないのは箒だけではなかった。件の親友である、ハリー・ポッターもまた、沈黙を続けていた。

 いや、それどころか姿さえ見せなかった。

 あの後すぐに、ハリーはダンブルドアとグリンデルバルドに連れられて、何処かへ行ってしまった。

 あの場にいた全員、ハリーを問い詰めたかった。

 だが、それは許されなかった。

 そんな理不尽に、ロンの怒りは爆発寸前だった

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「それで、報告してくれるかの、ハグリッド」

 

 校長室の中にはハグリッド、スネイプ、ダンブルドア、グリンデルバルド、ムーディー、ハリーがいた。

 

「へえ先生。禁じられた森の中にはだあーれも居りませんです。仲の良かったケンタウロスの連中も、手懐けておいたセストラルも、面倒みちょったヒッポグリフなんかも、みーんなです。それに、生徒たちが飼っとったフクロウもみーんな居なくなっちまいました」

 

「やはり、全ての動物達はミス・アイベリーの元へと行ってしもうたか……」

 

 そう、イギリス中のありとあらゆる生物が、あの夜を境に全て消えてしまったのだ。

 手紙を運んでくれるフクロウも、馬車を引いてくれる馬も、ホグワーツの生徒が飼っていたペットも、全て居なくなってしまった。

 唯一の例外は、ダンブルドアとグリンデルバルドの不死鳥だけだ。

 

「これでは警告も出来なんだ」

 

 ヴォルデモートの復活と、魔法省の陥落。

 あの時、ヴォルデモートはホグワーツから離れた後、魔法省へと赴いた。そこで『賢者の石』の力を使い、トムとダンブルドア、グリンデルバルドの3人が施した保護魔法を全て打ち破り、魔法省を乗っ取った。

 魔法省の職員の大半は殺され、生き残った者は闇の陣営に与した者達だ。

 当然、捕縛されていた『死喰い人』たちは解放された。だが、フクロウが居なくなってしまった今、警告する事は出来ない。肖像画も同様に機能しない。

 

「校長、アイベリーの事も結構ですが、そろそろ貴方の事も聞かせてもらいたいですな。吾輩達が命をかけて使命を成し遂げる中、貴方は一体何をしてらっしゃったのですかな?」

 

 スネイプの目の前には、割れたカップと巨大な蛇の頭が並んでいた。

 ハッフルパフのカップは騎士団が、ナギニはスネイプが、それぞれ命がけで破壊した物だ。

 

「ワシらは、ワシらは過去へ行っておったのじゃ」

 

 そう言って、ダンブルドアが取り出したのは『逆転時計』。それも、日単位ではなく、年単位の強力な物。彼等は過去へと行っていたのだ。

 そこで、長年決着のつかなかった事に、どちらがアリアナを殺したのか、という疑問に決着をつけたのだ。

 

「ワシらは長年話し合った。どちらが悪かったのか、どこで間違えたのか、ワシらが輝いていた若者から、萎びた老人になるまでの長い間、話し合ったおったのじゃ」

 

「それでは校長、貴方は議論に夢中で、ハリー・ポッターの危機に気がつかなかったと、そう仰るのですか!?」

 

 スネイプは激怒した。

 過去、自分が闇の帝王を裏切り、全てをダンブルドアに差し出す事で、闇の帝王からリリーを保護して貰おうとした。

 だが、それは失敗した。

 そして再び、その息子で同じ誤ちを繰り返そうとしている。それは許されざる事だ。

 

「その通りじゃ。ワシは信頼しておったのじゃ。トムがいる限り、ハリーに危害はないと、信じておったのじゃ」

 

「ですが、彼は死んでしまった!ポッターを守って!貴方と違い、命を賭して使命を成し遂げた、そうではありませんか?!」

 

「その通りじゃ。ワシらはそれを継がねばなるまい」

 

「いいえ校長、継いでいるのは貴方ではない!アイベリーです!」

 

「セブルス、お主……お主はミス・アイベリーの元へと下る気か?」

 

「校長、吾輩がそうするのではありません。貴方がそうさせたのです」

 

 そう言って、スネイプは校長室を出て行った。

 

「ダンブルドア、スネイプだけじゃない。我々の中からも脱落者が出始めている!手をこまねいていれば、我々は負けるぞ!」

 

「アラスター、分かっておる。次の手はもう打った。今は傍観の時じゃ。ワシが蒔いた種が、芽吹くその時を待つのじゃ」

 

「ふん、あちらの方は早々に花を咲かせたようだがな!」

 

 ムーディーが懐から日刊預言者新聞を取り出し、『バシンッ!』と机に叩きつけた。

 

『新たに魔法省大臣に就任したルシウス・マルフォイ氏は早速、学生達の為に尽力しているようだ。

 ホグワーツ魔法魔術学校理事でもある彼は、優秀な『闇の魔術に対する防衛術』の教師であったトム・マールヴォロ・リドル氏の殺害を重く受け止め、優秀な魔法省の役人であるドローレス・アンブリッジ女史を新たな『闇の魔術に対する防衛術』の教師に就任する事を提案した。

魔法省の役人や、ホグワーツ理事達はこれをすぐさま承認。

 この決定に対し、ルシウス氏は『アンブリッジ女史ならば、生徒達を任せるのに適任でしょうな。また、彼女の存在が抑止力となり、痛ましい事件を防ぐ事を私は確信しています』と心強いコメントを残した』

 

「『闇の帝王』は名実共に魔法界に君臨した!もう我々の喉元に手が掛かっている!幸い、フクロウ共がいなくなったおかげでこの新聞はそれほど出回っとらん。だが、そう長くは持つまい。アンブリッジの侵入を防ぐには今しかないぞ!」

 

「アラスター、今は傍観の時じゃ」

 

 ダンブルドアのエメラルド色の瞳と、ムーディーの狂った様に動く瞳がぶつかり合う事しばし、先に口を開いたのはムーディーだった。

 

「お前の事だ、何か考えがあるのだろう。今は大人しくしといてやる。だが、忘れるな、油断大敵!」

 

 ムーディーは足を引きずりながら、校長室を去っていった。

 

「さて、ハリー。君はどう思っておる?恐らく、君の友人達は君の事を良く思っとらんじゃろう。最悪と言っても良い。他にも、他の生徒には言わぬ様口止めをしておるが、リドル先生の死と君に何らかの関係がある事を皆が察しておる。君はこれから、辛い学校生活を送ることになるじゃろう」

 

「先生、僕は──」

 

 ハリーはゆっくりと口を開いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5章─『半獣血のプリンセス』
34 開校と開合


 私がこっそり彼の部屋に入ると、彼はいつもの席でご熱心に本をお読みになっていた。

 どれだけ私が静かに入っても、何時も彼には気がついてしまう。でも、今日は違った。完全に本に熱中していらっしゃるようで、私にお気づきになっておられないご様子だ。

 私はほくそ笑みながら、彼の後ろにそ〜っと回り込んだ。

 今日は椅子にお座わりになっているし、身長の高い彼に普段出来ない事をさせていただこう。

 前から一度、彼に後ろから抱きついてみたかったのだ

 

『リドル先生!』

 

『おっと!……グリーングラスか』

 

 私が後ろから抱きつくと、そこで漸く彼は私の存在にお気付きになられた。

 彼の首に胸を押し付けらながら、腕を前に回して、指でスゥーッと彼の胸を撫でさせていただく。

 同級生と比べて、私は背も高いし胸も大きい。腕と指も細くて白い方だと思う。でも、彼は大人だし、魅力的だ。

 きっと大人の女性と関係を持った事がある。

 果たして私の体でご満足していただけるだろうか?

 私は言葉や仕草で人を虜にしてきた。

 体を密着させるどころか、肌を見せた事もないし、また必要もなかった。だから、こういった体での誘惑は初めてだ。

 彼にご満足していただくために、毎日イメージトレーニングはしてるけど、所詮イメージはイメージ。

 実際にやるのとは違ったようだ。

 自分で抱きついたのに、心臓がバクバクする。

 いつもよく回る口が渇いて、上手く次の言葉がでない。

 抱きつく以上の事なんて、妄想では沢山してるのに。

 ……どうしよう、とっても緊張する

 

『リドル先生、どうかダフネ、とお呼び下さい』

 

 でも、そのまま彼の耳元でそっと囁いた。

 緊張もするけど、もっと彼に甘えてみたい。

 出来るだけ艶っぽい、甘えた声を出してみたけど、効果はあるだろうか?

 

『ダフネ。これでいいかい?』

 

『ひゃぁ!』

 

 何とも情け無い声を出してしまった!

 でも、リドル先生が悪いんです!いきなり耳元で囁くんですもの!

 先に、囁いたのは私だけど……

 そ、それでも急過ぎます!

 ──まあ、嬉しいですけど

 

『り、リドル先生、今日はその…素直と言うか。まさか本当に呼んでいただけるとは……』

 

『嫌かな?』

 

『いいえ!決して、決して嫌ではありません。少し驚いてしまっただけです』

 

『驚く?この程度で?それじゃあこの先耐えられないかもね』

 

『それはどういう──きゃあ!』

 

 リドル先生は胸を撫でていた私の手をとっても強く握って、私を強引に引き寄せた。

 そして、ゆっくり振り返って、熱い吐息を吹きかけながら、私の首を強く噛んだ。

 痛みで反射的に動きそうになる私の体を、彼が力強く私の腕を抑える事で止めた。

 噛まれた所がとても熱い。掴まれている所がとても熱い。いや、他の箇所もだ。私の全身が、燃えるように熱い。

 彼は掴んでいた私の腕を離して、首元からゆっくり口を離した。そのまま私の顔を正面から、間近で見つめた。

 掴まれていた箇所に痣ができている。

 抑える力が強かったせいか、骨までジンジンと痛む。

 彼に力で征服されているみたいで、腕の痣が奴隷の証みたいで、私の体は熱くなった。

 彼の唇から真っ赤な私の血が滴ってる。彼はそれを舌で舐めとった。

 私の一部が彼の体の一部になってる事を考えると、さらに体が熱くなった。

 そして、私の血よりもさらに赤い瞳が、少しずつ近づいてくる。この瞳はダメだ。蠱惑的で、魅力的で、性的で、私の体の自由を奪ってしまう。

 体が焼かれて、灼熱の様になっているのに、私から動く事を許してくれない。

 彼の唇が私に触れるまでの僅かな時間が、永遠の様に感じる。これ以上焦らされたら、私の体は熱で焼かれてまう。

 早く、早く早く早く早く早く早く早く──

 

「『アバダケダブラ』!」

 

 一瞬の緑の閃光が、彼を包んだ。

 彼のあの瞳は閉じられてしまった。

 もう、私を見てくれない。

 体の熱が急速に冷めていく。

 閃光を放った先に居るのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああ!!!」

 

「ダフネ様!?どうなされました!」

 

「あ、あ、あぁぁ……。はぁ、はぁ、はあ。いえ、何でも、何でもありません。少し夢を見ていただけです。喉が渇いたので、ベル・エポック ブラン・ド・ブランを。付け合わせは任せます」

 

「かしこまりました」

 

 どうやら、私はまたリドル先生の夢を見てしまった様だ。

 夏休みに入ってからというもの、リドル先生の夢ばかり見ている。そして、叫ぶ私を屋敷しもべ妖精のマッチが心配して飛んでくる、という目覚めを毎日繰り返している。

 見るのはいつも、細部は違えど、私がリドル先生と二人で過ごす夢の様な夢だ。でも、最後には、必ずリドル先生は死んでしまう。

 そう、あいつの手によって──

 

「ダフネ様、お持たせいたしました。付け合わせはキャビアとクラッカーでよろしかったでしょうか?」

 

「え、ええ。構いません」

 

「それから、ホグワーツでお使いになる新しい教科書のご用意も済ませておきました」

 

「ありがとう、マッチ。もう下がって構いません」

 

 マッチは静かに頭を下げて、去っていった。

 彼は、この辺りの家で残ってくれた数少ない屋敷しもべ妖精の一人だ。

 元々は私専属の屋敷しもべ妖精の一人だったが、私の専属以外の他の屋敷しもべ妖精が全て居なくなってしまった今、彼等だけで屋敷の事を全てこなさなければならなくなった。

 大半の屋敷しもべ妖精達は、仕えていた家に保管されていた食料と強力なマジック・アイテムを持って消えた。恐らく、アイベリーに献上したのだろう。

 幸い、魔法を使えばいくらでも新たな食材は手に入る。けれど、調理の方はそう上手くいかない。

 屋敷しもべ妖精にその辺りを一任していた魔法使い達は辛酸を舐めさせられた。ほとんどの家が満足の行く食事を出来ていない。

 その上、アイベリーのせいで手紙も満足に届けられない。

 名家である私の家には、直接人が来て手紙を届けてくれるけれど、大半の家には手紙や新聞が行き届かなくなった。今や手紙の一通ですら貴重なものとなってしまった。

 そんな状況を作り出したアイベリーのこの後の行動は大体読める。もっとも、ただ読めるだけで、止める事は出来ない。だけど、出来る事が何も無い訳じゃない。

 私は私なりに、彼の意思を継ぐ。

 

 私はクラッカーを頬張り、グイッとお酒を飲み干して、眠気を覚ました。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 そこには、不思議な光景が広がっていた。

 醜いはずのトロールが、キチンと服を着こなし、身嗜みを整えていた。

 その隣では水中人が水掻きで器用にチェスをしていた。

 そして、そこにフクロウがスゥーッと降りてきた。地面に降り立つと、次の瞬間にはフクロウは人間になっていた。

 その人間を、料理を持った屋敷しもべ妖精が出迎えた。調理器具や食器には、小鬼が作った物が使われている

 

「アイベリー様、全フクロウに指示が行き渡りました」

 

「ご苦労様、流石に仕事が早いわね」

 

「しかし、何故私達を人間の元に帰すのです?」

 

「それは──」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「警告、じゃろうな」

 

 ダンブルドアは突如戻ってきたフクロウ達を見て、声を漏らした。

 

「警告?どういう事ですか?」

 

 疑問を投げかけたのはハリー・ポッター。

 彼は五年生の終盤から夏休みまで、校長室で過ごしていた。双方冷静になって話せるようになるまで時間を置くという、ダンブルドアからの提案があったのだ。

 無論、授業で教わる事はダンブルドアが代わりに教えていた。

 

「フクロウ達は間違いなく、アイベリーの手の者じゃろう。ワシだけでなく、ヴォルデモートもそれをわかっておる。じゃが、一度なくなった物が戻って来た時、人はそれを手放す事が出来なんだ。ワシらがいくら言ったところで、みなフクロウ達を二度と手放そうとせんじゃろう」

 

「それじゃあ、敵が僕達の側に居るのを見過ごすしかないって事ですか!?」

 

「そうじゃとも、ハリー。じゃが敵というのは、時として友となる。近づくのじゃ、ハリー。逆に、我々の陣営に引き込むのじゃ」

 

 ダンブルドアの頼みに、ハリーは力強く頷いた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「──と、人間達は考える。貴方達はそれにノリなさい。そして、最も重要なタイミングで裏切るの。いいわね?」

 

「かしこまりました、アイベリー様」

 

 そう言って、人間は再びフクロウになり、空へと羽ばたいていった。

 それを見上げる人間が三人。

 ルーナ・ラブグッドとセブルス・スネイプ、ヨル・バジリースだ。

 

「いつ見ても『動物もどき』が変身するところって面白いね」

 

「私は散々『動物もどき』の変身を見てきたせいか、そうは思わない。が、やはり大人の魔法使いから見ても珍しい物なのか?」

 

「左様。吾輩が知る限りでは正式な『動物もどき』は7人しか居ない。最も、非合法の『動物もどき』を数人知ってはいるがな」

 

 スネイプは苦々しげにそう言った。

 

「私も『動物もどき』を知ってるよ。きっと、ネビルはカエルの『動物もどき』だと思う。私、夢で見たもん」

 

「……そうか」

 

 意外と、彼らの陣営はのんびりと過ごしていた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 かつてトム・リドルが定めた基準によって集められた生徒達が、希望を胸にホグワーツを目指していた。

 この少女、セシリア・ゴーントもその一人だった。

 彼女は幼い頃より両親がおらず、孤児院で暮らしていた。

 そんなセシリアには、幼い頃から不思議な力があった。

 セシリアに嫌がらせをした子供を痛い目に合わせたり、動物に言う事を聞かせる事ができた。

 そんな彼女にとって、孤児院は退屈で窮屈な場所だった。故に、ホグワーツからの入学証が届き、自身が魔女である事を知った彼女は歓喜した。

 自身の同族を、自身の居場所を見つけと思ったからだ。

 手紙を読んだ彼女はすぐに孤児院を飛び出した。

 そして、驚くべき事に、彼女は自分で『漏れ鍋』を見つけたのだ。彼女はホグワーツが始まるまでの約二ヶ月をそこで過ごした。当然、彼女は頼れる人間やお金など持っていなかった。しかし、彼女は紛れもなく、そこで二ヶ月を過ごしたのだ。

 そこでの生活の中、彼女は理解した。

 自分が魔法界でも特別な事を。

 彼女にとって、今の所魔法界は少しだけ大きくなった孤児院だった。だが、彼女は失望しなかった。

 この世界にはヴォルデモートとダンブルドアという、偉大な人間がいる事を知ったからだ。しかも、自身の杖にはヴォルデモートと同じ不死鳥の尾羽が使われているらしい。

 その上、その不死鳥を飼っているのはダンブルドアだとか。運命を感じずにはいられなかった。そして、幸運な事に、ダンブルドアは今から自分が通うホグワーツに居るのだ。

 そんな訳で、セシリア・ゴーントは胸を高鳴らせながらホグワーツ行きの機関車に乗った。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「……分かっていたが、どいつもこいつも子供だな」

 

 さっきまでの胸の高鳴りが嘘のように冷めてしまった。

 魔法使いの子供と言っても所詮子供は子供。騒がしいのは仕方ない、としてもこれはちょっと肩透かしだ。せめて、人が少なくて大人しそうな奴がいるコンパートメントを選ぼう。

 私が列車内を歩いていると、一人で東洋人が編み物をしていた。東洋人というのは大人しいらしいし、中々の美形だ。こいつのコンパートメントに入ってやろう

 

「このコンパートメントを使わせて貰うぞ」

 

「ん?いいよ、歓迎しよう。僕はユウ・サクマ。今年からホグワーツに入ったんだ。よろしくね」

 

 サクマは手を動かしながらそう言った。

 視線でサクマの正面にある席を促している。座っても良い、ということだろう。

 

「ほお、東洋人にしては中々英語が上手いな。その歳で、大したものだ。私はセシリア・ゴーント。私も1年生だ」

 

「そうかい?有難う」

 

「うむ。ところで、さっきから何を編んでいるのだ?」

 

「これかい?これはホグワーツの制服だよ」

 

「自分で編んでいるのか?というか、そんな事が出来るのか?」

 

「僕はつい最近まで意識不明だったんだ。交通事故でね。だから、制服を買う暇がなかったんだ。それでしょうがなく編んでいるんだよ。編み方は独学さ」

 

「意識不明だった奴を学校に招待したのか!どうやら、あの招待状を送ってきてる奴はとんだ間抜けらしいな」

 

 私がそう言うと、サクマはゲラゲラ笑いだした。

 何がそんなに可笑しいんだ、こいつ。

 

「確かに、間抜けだね!是非ともその間抜けに会ってみたいものだ!」

 

 そう言うと、サクマはまた楽しそうに笑いだした。それにつられて、今度は私まで大笑いしてしまった。

 何というか、こいつは人を惹きつける何かがある。

 

「いやぁ、笑った笑った!笑わせてくれたお礼に、何か編んで君に贈るよ」

 

「何、気にするな。私も楽しませてもらった。その礼はとっておけ」

 

「そういう訳にはいかない。感情はなまものだ。すぐに使わないと、腐ってしまう」

 

「そうか?それなら、受け取っておこう」

 

そういえば、人に善意で何か贈られるなんて、初めてかもしれないな。

 なんせ、孤独だったからな。ずっと……

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「ゴーント・セシリア!」

 

 大広間中の生徒が黙り、彼女を凝視した。

 ゴーント家といえば、『聖28一族』の1つだ。故に、当然注目を集めた。だが、それ以上に注目を集める要因があった。

それは彼女の容姿だ。

 長い金髪に大きな金の瞳を持つ、黄金の少女。彼女は美しかった。その事も多いに周囲の注目を集めた。だが、それ以上に、似ているのだ。

 美しく、不遜で、他人を寄せ付けなかった、あの白銀に。

 彼女はゆっくりと無音の大広間を歩き、席に座った。

 誰もが注目する中、帽子が被せられていく。ほとんどの人間が、彼女の組み分けは長引くだろうと予測した。

 

「スリザリン!」

 

 だが、そんな予想を裏切って、黄金の少女はあっさりとスリザリンに入った。

 そしてその陰で、これまたあっさりと、ユウ・サクマはグリフィンドールに入寮した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

35 セシリア・ゴーントの異能

 マルフォイ家の巨大な屋敷の中にはいくつもの部屋がある。その中でも、特に大きな一室。そこでは明かりもつけずに、多くの人間が集まっていた。

 彼等はみな『死喰い人』と呼ばれる『闇の帝王』の僕達だ。だが、その中でただ一人、例外として杖作りの老人が招かれていた。

 

「それで、オリバンダー。あの者に俺様の杖をしっかり渡したのだな?」

 

「も、勿論です、闇の帝王様。イチイの木、不死鳥の尾羽、34cm。傲慢で気高い。しかと、お渡ししました」

 

「そうかそうか!して、あの者は何と?」

 

 ヴォルデモートはオリバンダーの言葉に非常に満足し、続きを促した。

 

「ひ、非常に満足しておりました。よく馴染むと、そう申しておりました。わ、私の目から見ても、これ以上ないほどよく馴染んでおいででした」

 

「よくやったオリバンダー。お前のおかげで、あの老いぼれはもう終わりだ」

 

 ヴォルデモートの声に同調して、周りの『死喰い人』達が愉快そうに笑った。

 ヴォルデモートは満足気に僕達を見回した後、机に拳を叩きつけながら怒鳴った。

 

「だが!あのトカゲ!奴をどうにかしなければならん!」

 

 この言葉に、先程まで愉快そうにしてい『死喰い人』達は一転して、怒りに震えた。純血の名家が多い『死喰い人』達は屋敷しもべ妖精を取られた者が多く、クロへの怒りを抱えている者が多い。

 

「お前達の中に、あのトカゲをどうにかする手立てを思いつく者はいるか?」

 

 『死喰い人』はみな、顔を背けた。

 

「俺様があの老いぼれを殺す素晴らしい方法を思いつく中、お前達はそれを眺めるだけで、何も考えていなかった訳だ」

 

 ヴォルデモートは椅子から立ち上がり、ゆっくりと『死喰い人』達の後ろを歩き始めた。

 

「失望した。告白しよう、俺様は大いに失望した。まさか、俺様の部下が獣に劣る頭脳しか持っていなかったとはな」

 

 ヴォルデモートが、時に肩に手を置きながら、『死喰い人』達の後ろを歩いて回る。

 

「これを見ろ」

 

 そう言ってヴォルデモートが取り出したのは、銀のナイフ。

 『死喰い人』達はそのナイフを知っていた。あれはベラトリックスがグリンゴッツに預けていたナイフであり、古の強い魔法がかけられていた物だ、と。

 

「偽物だ。偽物にすり替えられている。非常に精巧だが、俺様の目は誤魔化せない。グリンゴッツの中身がすり替えられ始めている」

 

 それを聞いた『死喰い人』の何人かが慌て始める。

 彼等の金庫には、莫大な財産が眠っている。

 自分達の財産を確かめねば、と慌てているのだ。

 

「もう遅い!お前達の金庫の差し替えは終わっている!俺様が老いぼれを殺す為に、僅かに目を離した隙に、お前達の目と鼻の先で、差し替えられた!」

 

 ヴォルデモートは激昂しながら、銀のナイフをワームテールの方に向かって投げた。

 恐ろしい速度で投げ出されたナイフは、ワームテールの耳を僅かに切り裂き、彼の背後にいたネズミに突き刺さった。

 

「そして、今度はスパイまで招き入れている始末だ!お前達は一体、どれだけ俺様を失望させる?」

 

 ヴォルデモートは大袈裟に肩をすくめながら、席に着いた。

 

「やはり、俺様にはお前しかいない」

 

 ヴォルデモートの目の前には水晶が置いてあった。さっきまでの態度とは一変し、愛おしそうに水晶を覗き込んだ。

 そこにはホグワーツの大広間が写っていた。今は丁度、組み分けが終わった頃の様だ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「さて、諸君に辛い知らせをせねばならん。悲しい事に、魔法薬学の先生であり、スリザリンの寮監じゃったスネイプ先生は一時この学校を離れねばならなくなった」

 

 悲しい事にって、スリザリン生以外誰も悲しがってないぞ。

 どれだけ嫌な先生だったんだ、そいつ。

 

「加えて、闇の魔術に対する防衛術の先生であり、グリフィンドールの寮監であったリドル先生が亡くなったという話は本当じゃ。実に、実に痛ましい事じゃ。みな、黙祷を」

 

 今度は大半の生徒が明らかに悲しがっている。

 黙祷の最中だからか、よりすすり泣く声が鮮明に聞こえる。中には本格的に号泣している者までいるな。さっきの教員と比べて、大した慕われ様だ。

 かくゆう私も、実はこのリドルという男を知っている。ダイアゴン横丁には奴の知り合いも多かったしな。そのお陰で、奴の事についてはそれなりに把握しているつもりだ。

 しかし、そうかあいつはグリフィンドールの寮監だったのか。ならば私も、グリフィンドールに入るべきだったのかもしれんな。

 

・・・?

 

 グリフィンドールに二人ほど、奴の死を悼んでいない奴がいるな。

 一人は確か……ハリー・ポッター。魔法界の英雄だったか。

 こいつは明らかに浮いている。寮監が死んだ事に周りの人間が泣いてる中、一人だけ何も考えていない。考えようとしていない。

 私は、こういう人間をよく知っている。触れられたくない過去を突き付けられた時、人間はああなる。

 ポッターはもう限界に近い所にいる。後少しでも突っつかれれば破滅を迎える、という所までな。

 周りの人間によっぽど知られたくない何かを隠しているのだろう。恐らく、リドルの奴に関係のある事だろうな。

 

 もう一人は、ユウ・サクマ。

 サクマはつい最近まで意識不明だった上に、東洋の出だ。リドルを知らないのは仕方がない。だが、あいつはこういった黙祷などはしっかりやるタイプの人間だと思っていた。だが、あいつは……

 

「みな、美しい黙祷じゃった。近くからワシらを見守ってくれておるリドル先生も喜んでくれた事じゃろう」

 

 ダンブルドアのこの言葉に、ついに何人かの女生徒達が過呼吸を起こして倒れてしまった。

 

「悲しい事は続くものじゃ。ヨル・バジリース、クロ・ライナ・アイベリー、ルーナ・ラブグッドの三名が事情により休学する事となった」

 

 今度はアイベリーとかいう奴が居なくなったことに男子生徒が落胆している。

 やはり、魔法使いといえど男子高校生は男子高校生か。というか、脱落者多すぎるだろ、ホグワーツ。

 

「じゃが、去る者だけではない。新しく来る者もおる。新しくスリザリンの寮監になる、ホラス・スラグホーン先生じゃ。担当教科は魔法薬学じゃ。みな、拍手を!」

 

 教員の見た目についてどうこう言う気はない。言う気はないが、この男は少し不安になる容貌をしている。

 スラグホーンと言えば、私と同じ『聖28一族』の1つだ。だというのに、この男は少しみすぼらしいというか、小物感がある。端的に言って、カリスマがない。

 今も生徒の拍手に、照れ笑いの様な顔を浮かべてヘラヘラしている。

 癖の強そうなスリザリンの寮監を勤められるのか、少し不安になるのも仕方がないというものだ。

 

「それから、グリフィンドールの寮監はマクゴナガル先生がなさる。そして、リドル先生に変わって今年から闇の魔術に対する防衛術を担当して下さるのはドローレス・アンブリッジ先生じゃ。みな、拍手を!」

 

 再三言うが、私は教員の見た目についてどうこう言う気はない。だが、こいつの服は流石に景観に合ってなさすぎるだろう。

 全身ショッキングピンクのコーディネートは、センスを疑うとかそういう次元じゃない。人間性を疑うレベルだ。文句の一つでも言いたくなる。

 ハッキリ言って、この城でなくともあまり褒められる物ではない服装だ。それをこの荘厳な城で着ているのだぞ?

 もし百味ビーンズにあのピンク色があったら、私は間違いなくそれを食べないだろう。

 しかもこいつの顔というか仕草というか体型というか、ガマガエルそっくりだ。ピンク色のガマガエルなんて、何という気色の悪さ。魔法界の恐ろしさを今理解したよ、私は。

 先代達がホグワーツに持ち込んで良いペットにガマガエルを入れたのは失敗だな。それがなければ、ガマガエル(アンブリッジ)の侵入を許す事もなかったのに。

 もしこいつの顔の形をしたカエルチョコレートがあったら、私は間違えなくそれを食べないだろう。

 とにかく、この城にもお菓子にも向かないな、こいつは。

 

「それと管理人のフィルチさんからの要請で、これが四百六十三回目となるそうじゃが、全生徒に伝えて欲しいとのことじゃ。授業と授業の間に廊下で魔法をあまり使わんで欲しいとのことじゃ。ある程度は良いが、危険な魔法は使わんでもらいたい。その他もろもろ、幾つかの禁止事例についてはフィルチさんの事務所のドアに張り出しておるそうじゃ。確かめておいて欲しい」

 

 フィルチ、というのはあのさっきからずっと泣いてるやつか。

 他の女生徒に負けず劣らず、リドルの名前を言いながら泣いている。正直、あまり見てて気持ちの良いものではない。痛ましいという事ではなく、気色悪いという意味で。

 というか四百六十三回目って、多すぎるだろ。オリンピックより歴史が深いぞ

 

「それでは──」

 

「ェヘン、ェヘン」

 

「宴を──」

 

「ェヘン、ェヘン!」

 

 どうやら、あの女は人間関係にも向いてないらしい 。

 空気を読まずに、ダンブルドアの言葉を遮った。生徒は勿論、教員連中も不快な顔をしている。

 

「何か仰りたい事があるのかの?アンブリッジ先生」

 

「あら、そう聞こえまして?わたくし、そういったつもりはなかったのですが、折角ですし、一言二言話させていただきますわね」

 

「俺、一言二言で済まない方に五ガリオン」

 

「なら、私は直ぐ終わる方に二十ガリオンかけるわね」

 

 私の右隣に隣に座っている、ジェームズ・プリンダーガストとその奥にいるソフィー・プルエットがそんな事を言っている。

 この短い間に、随分と多くの生徒達がアンブリッジの人柄を理解した様だ。もっとも、理解しない方がおかしいが。

 

「まずは校長先生、歓迎のお言葉恐れ入ります」

 

 こいつは声も不快だな。

 それに比べて、ガマガエルは美しい声をしている。つまりこいつは、ガマガエル以下だな。

 

「ェヘン、ェヘン──さて、ホグワーツに戻ってこられて、本当に嬉しいですわ!」

 

 その気色の悪い咳払いは、ダンブルドアの話を中断させるためにワザと不快にやってたんじゃないのか?

 本当にあの『ェヘン、ェヘン』という咳払いを普段からしているのか?

 

「そして、みなさんの幸せそうなかわいい顔がわたくしを見上げているのは素敵ですわ!」

 

 何ということだ、こいつは目も悪いらしい、ら

 

「みなさんとお知り合いになれるのを、とても楽しみにしております。きっとよいお友達になれますわよ!」

 

「ハハハハハハハハハハ!」

 

 全員が五歳児のような扱いされた事に呆れたり憤ってる中で、一人だけ死ぬほど楽しそうな奴がいた。

 

「何がそんなに可笑しいのです、ミスター・あー、誰です?」

 

「サクマです。サクマ・ユウです。アンブリッジ先生」

 

 ……あの馬鹿は何をしてるんだ?

 

「それで、ミスター・サクマ。何故そんなに笑っているのですか?わたくしのお話に、何か可笑しな事があって?」

 

 可笑しな所が何処かって?それはもう、何もかもだろう。

 

「何もかもです、アンブリッジ先生」

 

 だからって素直に言う奴がいるか。

 

「……点数を引きたい所ですが、未だ各寮に点数は一点もありません。なので、罰則を課します!これから一ヶ月、毎週金曜の夜にわたくしの部屋に来るように!」

 

「ですが、アンブリッジ先生。僕はピンク色のカーディガンを持ってません」

 

 サクマが心底申し訳なさそうに言った。

 

「ピンク色のカーディガンは必要ありません!」

 

「必要ない!?それでは何故アンブリッジ先生は“そんな”服装をしているのですか?魔術的な意味ではないのですか!?」

 

 サクマのその言葉に、アンブリッジの顔がピンクを通り越して真っ赤になった。

 しかしこいつ、ジョークのセンスが無いな。微妙に面白く無い。

 

「二ヶ月にします!」

 

 アンブリッジのその言葉に、サクマの奴は満足そうな顔をしている。あいつは一体、何を考えているんだ?

 まさか、アンブリッジが好きなのか?アンブリッジと二人きりになれて嬉しいのか?

 東洋人はみな幼い女が好きだと聞いていたが……

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「それではみなさん、黒板は写し終わりましたね?では、実際に呪文を唱えてみましょう。ビューン ヒョイ、ですよ!」

 

 私は頭が良い。

 自惚れでも何でもなく、客観的な事実だ。

 その証拠に、他の人間はただ黒板を書き写しただけだろうが、私は全ての理論を暗記し、理解した。

 とどのつまり、浮遊呪文といっても、所詮は物体と杖とを魔力で繋げて操るだけだ。マリオネットの様な物、と言ったら分かりやすいか?

 繋ぐ魔力線が多ければより複雑な動きをさせる事が出来る。だが、今日行う浮かせるだけの呪文では、魔力線は一本でいい。実に簡単だ。

 人形を巧みに操るのは難しいが、紐でくくって吊るすだけなら簡単だろう?そんな感じだ。

 だが周りの生徒を見る限り、羽と杖とを繋げる魔力線が弱かったり、そもそも魔力線が羽にくっついていなかったりと、お粗末な物だ。

 隣に座っているジェームズ・プリンダーガストなんて、一つ前の席に座っているソフィー・プルエットの後頭部に魔力線をくっつけている。

 それに気づいていないのか、杖をブンブン振ってプリエットの頭をガクガク揺らしている。可哀想に、後少しで吐くぞ。

 まあ今日は記念すべき、初めての授業だ。

 どれ、私の力を見せつける意味でも、手本を見せてやろう!

 

「『ウィンガーディアム・レビオーサ 浮遊せよ』!」

 

「痛あああ!足が、足がぁ!何だ、何だよコレ!ちくしょう、マーリンの髭!」

 

「……少し、失敗してしまった様だな」

 

「少し?これが?君の羽、ファイアボルトも真っ青な速さで天井を突き破って行ったぜ?しかも、上の階にいた誰かに当たっちまったらしい。ほら、君が開けた穴から血が滴ってきてる」

 

「そう大袈裟にするな、プリンダーガスト。きっとかすり傷だ」

 

「大丈夫、ウォンウォン!?ああ、大変!骨が剥き出しになってる!」

 

「……どうやら、かすり傷じゃないみたいだね」

 

「……その様だな。だが、この学校の養護教諭は優秀と聞く。きっと直ぐに治るだろう」

 

「でも、死者は無理だと思うぜ?」

 

「当たったのは足だ。死にはしない」

 

「先生、ウォンウォンが息してないんです!」

 

「何故だ!当たったのは足だろう!?さっきそう言ってただろ!何故息が止まる!」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「それでは皆さん。今からこのマッチを針に変えてもらいます。と言っても、変身術は大変難しい分野です。皆さんの中から一人でも成功する者が出れば万々歳でしょう」

 

 確かに、変身呪文はかなり高度な分野だ。

 その上、イメージの強さが大きく関係するこの教科では費やしてきた年期とセンスが物を言う。

 魔法を覚えて一朝一夕の学生が成功させるのは難しいだろう。

 しかし、私は違う!

 変身術の理論は完璧に理解している。

 その上、孤児院で孤独だった私はずっと想像で遊んできた。

 そんな私に死角はない!

 先程の呪文学では少し失敗してしまったが、今度は上手くいくだろう。

 そもそも、呪文学でも別に失敗した訳ではない。一応、浮遊はしていた。少しばかり浮く速度が速すぎただけだ。

 隣の席でマッチではなく、一つ前の席に座っているソフィー・プルエットの髪の毛を針に変えてしまっているジェームズ・プリンダーガストとは違うのだ。

 それを今度こそ教えてやろう!

 

「『ムタレアクス 針に変われ』!」

 

「ッ!みんな逃げろ!セシリア、君もだ!」

 

「離せプリンダーガスト!自分で逃げれる!」

 

「意地を張ってる場合じゃないだろう!」

 

 そうこうしているうちに、私の針が爆発した。

 どうやら、変身した針に中途半端にマッチの性質が残ってしまった様だ。尻に火のついた針が四方八方に飛んで行っている。

 

「一応、針には変身しただろ?」

 

「ああ、見ればわかるよ。他の生徒の皮膚に深々と突き刺さってるあれは、間違いなく針だよ」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「やあ、ゴーント。元気かい?今日の授業では大分派手にやったらしいね」

 

「ふん!お前の方こそ、噂になっているぞ。初日で40点も得点したそうだな」

 

 夕食の時間、サクマが気さくに話しかけてきた。

 わざわざグリフィンドール生がスリザリンのテーブルまで来て話しかけてくるとはな。あまり、双方に良い印象を与えないだろうに。

 その証拠に、プリンダーガストはサクマを睨んでいるし、サクマの隣に引っ付いている女生徒は私を睨んでいる。

 だというのに、こいつは全く気にした素振りを見せない。

 

「まあ、偶然にね。それより、少し魔法を見せてくれよ」

 

「いいだろう」

 

 昼間、確かに私は失敗した。

 だが思うに、あれは強要された魔法だったからじゃないだろうか?

 どういう事かというと、魔法というのは精神状態が大きく関わっている。これをやれアレをやれと命令されて呪文を使うのは、私に向いていなかったのだろう。

 思えば、浮遊呪文も変身呪文も一応成功はしている。私に才能があるのは間違いない。

 あの時のあれは、不幸な事故というか、いわば改善されない現代教育論が直接的な被害をもたらしてしまった稀有な事例だ。そう考えると、私は加害者ではなく被害者だな。

 つまり何が言いたいかというと、私が私の意志で私のやりたい呪文を使う今、失敗はありえない、という事だ!

 

「兎の眼、ハープの音色、この水をラム酒に変えよ!」

 

 ゴブレットの中の水がみるみるとラム酒に変わっていく。

 よし、成功だ!

 

「みんな、下がって!」

 

 ラム酒が勢いよく増えて、等身大のドラゴンになっていなければ。

 

「『インセンディオ 燃えよ!』」

 

 私のラム酒をサクマが火で蒸発させた。

 

「流石サクマ!」

 

 サクマに引っ付いてきた女子生徒がウットリした顔でサクマを見つめる。だが、当のサクマは、

 

「まだ終わってない」

 

 まだ真剣な顔だ。

 蒸発したラム酒の霧が集まって行き、巨大なヘビになった。

 そのままサクマに向かって牙を繰り出す。

 

「おっと!『プロテゴ 盾よ』!」

 

 サクマが盾呪文で球体を作りって、霧のヘビを閉じ込めた。そのまま盾は凝縮していき、霧のヘビはどんどん小さくなっていく。

 やがて、盾呪文はゴブレットの形になった。霧のヘビは圧縮されたおかげで、液体に戻った。

 

「まあ、これで一応、ラム酒として飲める様になった訳だ」

 

 今回も成功、と言えなくは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのラム酒は、明らかに僕を狙っていた。

やはり彼女は──



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36 魔法薬学と課外授業

後半部分の課外授業なのですが、原作そのままを使うのは違反なので大分省いています。
もし不可解なところがありましたら
『ハリー・ポッターと謎のプリンス(上)』の第10章ーゴーント家をお読み下さい


 ハリーはあの日以来、ロンと口を聞いていなかった。いや、正確にはあの夜あの場にいた全員と、口を聞いていなかった。口を聞かせて貰えなかった。

 あの日、ハリーは親友や愛した者達の真実を知り、深く傷ついた。だが、それを乗り越え、新たな関係を築きたいと考えた。

 しかし、そのチャンスは巡ってこなかった。

 唯一、ハーマイオニーが『あの夜から今日まで、何処にいたの?』と聞いてきたが、ダンブルドアとの約束で答える事が出来なかった。それ以来、ハーマイオニーとも話さなくなってしまった。

 ハリーはより一層傷ついた。

 その上、ハリーが傷心の状態で迎えた新学期、事態はより深刻な物になってしまった。

 ダンブルドアの言葉で目の当たりにしてしまったのだ。

 自分が殺したリドルが、どれほど愛されていたかを。

 彼の死を告げられた生徒達や教員達は、年齢も寮も関係なく、彼の死を惜しんだ。いや惜しんだ、などというレベルではなかった。

 ハリーが四年生の時、ダンス・パーティーで共に踊ったパーバティ・パチルは美しい少女だった。髪や肌の手入れを怠る事なく、美を磨き続けていた。

 そんな彼女は、自らへの自信で常に輝いていた。

 だが今日、ハリーの前に座っている彼女は美しさの欠片もなかった。

 艶やかだった髪は汚れきり、艶やかだった肌は荒れ果てていた。そして何より自らへの自信が、輝きが消えていた。今の彼女の頭の中には、彼が死んだ事への悲しみしかない。自分の事を考える余裕がないのだ。

 

 聞けばパーバティは『魔法アロマテラピスト』を目指していたらしい。

 そんな彼女の夢をリドルは熱心に聞き、出来る限りのサポートをしていた。

 リドルは彼女の為に『魔法アロマテラピスト』になるために必要な資格、その取得方法などの諸々を全て調べた。そこから独自に効率の良い勉強の仕方を考案し、彼女に教えた。

 リドル自身も『魔法アロマテラピスト』への勉強を、時にパーバティと共に、続けた。

 パーバティへの質問にリドルが答え、リドルの質問にパーバティが答える。そんな二人の関係は、共に『魔法アロマテラピスト』を目指す仲の良い級友の様だった。

 リドルは彼女の努力へのご褒美として、パーバティが憧れていた有名な『魔法アロマテラピスト』に夏休みに会える様こっそりアポイントメントを取っていた。

 この様なサポートを受けていたのは彼女だけではない。

 リドルはグリフィンドール生の、時に相談に来た他の寮生も、夢を叶えるために日夜努めていた。

 生徒達も、そんな彼の期待に応えようと努力していた。

 

 だが、彼は死んだ。

 

 パーバティと共に勉強してくれる人間は居なくなった。夢を最も応援してくれていた人間は居なくなった。

 普通、自分の担当教科以外の、それも専門職に就職できる様になるレベルの勉強に付き合ってくれる先生は居ない。また、彼の紹介がなくなった事で憧れていた『魔法アロマテラピスト』に会えなくなった。

 どうやらパーバティーが憧れていた『魔法アロマテラピスト』は元々、リドルに会う事が目的だった様だ。彼が居ない今、一介の学生であるパーティーに会う理由はない。

 他の生徒も同様に、憧れの職業に就く事が困難になった。

 パーバティが勉強に付き合ってくれていたリドル先生へのお礼にと、こっそりと用意していた彼女なりのアロマテラピーのフルコースは、彼女の初の仕事となる筈だったそれは、最早一生果たされる事はない。

 

 ハリーは恐ろしくなった。

 自分がこの学校にいる数多くの生徒の夢を摘み取ってしまった事に、大きな恐怖を覚えた。

 自分がリドルを殺してしまった事が発覚したら、どの様な目にあうか?この事を考えると、ハリーは震えが止まらなかった。

 彼は、もうリドルの死について考えたくなかった。

 とにかく、ただ弁明がしたかった。

 確かに、僕はトム・リドルを殺した。

 だけどその時ヴォルデモートに操られたし、操られる原因を作ったのはリドルだ。

 その上あの日、僕は生きがいだった『TA』と親友だと思ってたハーマイオニー、好きだったアステリアとチョウの真実を一遍に知らされて、まともな精神じゃなかった。

 その事を、知ってもらいたかった。

 特にあの夜の真実を知り、なおかつリドルを特別好いていた彼等には知って欲しかった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ハリーとロンは魔法薬学を取っていなかった。正確には取れなかった。スネイプの時は()以上の生徒しか授業を受けられなかったからだ。

 だが担当教師がスラグホーンになり、()の生徒も魔法薬学を取れる様になった。

 闇祓いを目指しているハリーはマクゴナガルに魔法薬学を取る様に助言された。その事をハリーはロンに伝えろとも言われた。ハリーは、ロンと二人で話す良い機会だと思った。

 

 しかし、邪魔された。

 

 ハリーが聞いたところによると、セシリア・ゴーントの攻撃によって、ロンは足に大穴を開けてしまったらしい。

 ロンは医務室で絶対安静となってしまった。当然、面会は出来ない。

 ハリーは元々あの少女が好きではなかった。ゴーントという姓にあの態度、好きになる要素がなかった。今回の事で益々彼女の事を嫌いになった。いや、憎む様にさえなっていた。

 もしかしたら、僕とロンの仲を引き裂こうとしているのかもしれない。

 ハリーの頭は、セシリア・ゴーントへの憎しみで溢れていた。

 周囲への懺悔と恐怖。相談できる親友も居ない。

 極限の精神状態の中、セシリアへの憎しみが溢れてしまう事はある種、仕方がない事でもあった。しかし、これこそが、この思考こそが、真の破滅への第一歩だった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「さて、さて、さーてと。みんな、秤を出して。魔法薬キットもだよ。それに『上級魔法薬』の──」

 

「先生?」

 

 ハリーが手を挙げた。

 

「ハリー、どうしたのかね?」

 

「僕は本も秤も持っていません。僕はN・E・W・Tが取れるとは思わなかったものですから、あの──」

 

「ああ、そうそう。マクゴナガル先生がたしかにそうおっしゃっていた……心配には及ばんよ、ハリー、まったく心配はない。今日は彫像棚にある材料を使うといい。秤も問題なく貸してあげられるし、教科書も古いのが何冊か残ってる。フローリシュ・アンド・ブロッツに手紙で注文するまでは、それで間に合うだろう」

 

 スラグホーンが秤と材料を取りに彫像棚へと、ズンズンと歩いて行った。

 そして、スラグホーンがハリーを横目で見た後、隅の戸棚をチラリと見ると、戸棚が開いた。中には、いくつかの教科書が入っている。

 取れ、という事だろう。

ハリーが近づいて戸棚の中を見てみると、二冊の『上級魔法薬』があった。

 一つは比較的新しく、ほとんど新品と言ってもよかった。もう一つは相当年季の入った骨董品とも呼べる代物。

 ハリーは一瞬、自分と同じく教科書を持っていないであろうロンの事を考えたが、結局比較的新しい方の教科書を選んだ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「みんなに見せようと思って、いくつかの魔法薬を煎じておいた。ちょっとおもしろいと思ったのでね。N・E・W・Tを終えたときには、こういうものを煎じることができる様になっている筈だ。まだ調合したことがなくとも、名前ぐらいは聞いたことがあるはずだ。これが何か、解る者はおるかね?」

 

 スラグホーンは、スリザリンのテーブルに一番近い大鍋をさした。

 ハリーが椅子から腰をちょっと浮かして見ると、単純に湯が沸いている様に見えた。

 だが、ハリーは何か言い知れぬ恐怖を、その湯に感じた。

 ハリーが恐れ慄いている間に、いつものごとく、ハーマイオニーが手を挙げていた様で答えていた。

 

「『真実薬(ペリタセラム)』です。無色無臭で、飲んだ者に無理矢理真実を吐かせます」

 

 ハーマイオニーがハキハキと答えた。

 

「大変よろしい、大変よろしい!」

 

 スラグホーンの嬉しそうな様子とは裏腹に、ハリーはそれを聞いて、恐ろしくなった。

 もし、もし誰かが自分に『真実薬(ペリタセラム)』を盛ったら?リドルの死について聞かれたら?

 ハリーは生きた心地がしなかった。

 

「さて」

 

 今度はスラグホーンがレイブンクローのテーブルに近い大鍋を指差した。

 

「ここにあるこれは、かなりよく知られている……最近、魔法省のパンフレットにも特記されていた……誰か?」

 

 またしてもハーマイオニーだけが──かと思いきや、今度はハリーも手を挙げた。

 ハリーが手を挙げているのを見たスラグホーンは、ハーマイオニーの事など見えていないかの様にハリーを当てた。

 

「それは、ポリジュース薬です。変身したい者の一部を入れる事で、その者に変身出来ます。ですが、動物になる事は出来ません」

 

 スラグホーンは出っ張った腹をグラグラと揺らしながら喜んだ。

 

「素晴らしい!動物に変身出来ない事は、魔法省のパンフレットにも載っていなかった!お見事!グリフィンドールは早速10点獲得だ!」

 

 ハリーにしてみれば、二年生の頃実際に煎じて、使った事もある薬だ。

 使用上の注意など、知っていて当然だった。

 

「よろしい、よろしい!さて、こっちだが、……おやおや?」

 

 その薬を見た瞬間、まずハーマイオニーが泣き崩れた。

そしてその数瞬後に、他の女子生徒達も泣き崩れた。

 スラグホーンは理解出来ないという様子だったが、ハリーにはわかった。

 あれは、『魅惑万能薬』。

 去年こぞって女生徒達がトム・リドルに盛った、ホグワーツで一番使われた薬だ。

「そ、その薬はアルモテンシア、魅惑万能薬です」

 

 ハーマイオニーが嗚咽しながら、辛そうに答えを言った。

 

「正解だが、みんな、どうしたのかね?」

 

 誰も、何も答えなかった。

 ただ、嗚咽のみが響いた

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 全員がやっと落ち着いてきた頃、スラグホーンは続きを話し始めた。どうやら、何かを察したらしい。『魅惑万能薬』については何も言及しなかった。

 

「さて、紳士淑女諸君!この薬が何の薬か知っているかね?」

 

スラグホーンは生徒を元気付けようと、精一杯明るい声を出した

 

「これはね、フェリックス・フェリシスと言う。きっと」

 

 スラグホーンは微笑みながら、ハッと声を上げて息を呑んだダフネ・グリーングラスを見た。

 

「君は、フェリックス・フェリシスが何かを知っているのかね?ミス・グリーングラス」

 

「幸運の液体……。人に幸運をもたらす…全ての企てを成功させる薬です」

 

 ダフネは、スラグホーンに答えるというより、自分に言い聞かせる様に言った。

 

「そのとおり。スリザリンに10点あげよう。君はグリーングラス家の子だね?すぐに分かったよ。母親に似て、何とも美しい!」

 

 ダフネはその言葉をまったく聞いていなかった。

 彼女の興味は、スラグホーンが持つ小瓶にのみそそがれていた。

 

「さて、この魔法薬はちょっとおもしろい。フェリックス・フェリシスはね」

 

 スラグホーンが言った。

 

「調合が恐ろしく面倒で、間違えると惨憺たる結果になる。しかし、正しく煎じれば、ここにあるのがそうだが、ミス・グリーングラスの言う通りに全ての企てが成功に傾いていくのがわかるだろう……少なくとも薬効が切れるまでは」

 

 その時、ダフネ・グリーングラスの瞳が怪しく光った。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「困った、実に困った」

 

 スラグホーンは口でそう言いながらも、全く困った素振りを見せていなかった。

 それどころか、非常に喜んでいる様だった

 

「まさか『生ける屍の水薬』を完璧に調合する生徒が二人も居るとは……いやはや、何とも困った!しかし、しかしだ!本当にこれは素晴らしい!これほどの魔法薬の名人は今まで一人しか見た事がない!それが二人も、一遍に現れたわけだ!」

 

 スラグホーンはそう言って、ハーマイオニーとダフネをみんなの前へと引っ張った。

 誇らしげにするハーマイオニーに対し、ダフネは妖艶に微笑んでいるだけだった。

 

「しかし、魔法薬の名人が現れた事は嬉しいが、フェリックス・フェリシスは一つしかない。どうしかものか……」

 

 スラグホーンは何とも楽しそうに悩んだ。

 優秀な生徒を集めるのが好きな彼のこと、『生ける屍の水薬』を完璧に調合した天才、しかも片方は『聖28一族』の一人、が二人も現れた事が嬉しくて仕方がない様子だった。

 

「スラグホーン教授、ちょっと」

 

 頭を抱えるスラグホーンを、ダフネは教室の外へと連れ出した。

 生徒達が待つ事約2分、満足気なスラグホーンとそれ以上に満足気なダフネが戻ってきた。

 ダフネが何らかの交渉でフェリックス・フェリシスを手にしたと思ったハーマイオニーが抗議しようとした瞬間──

 

「フェリックス・フェリシス、『幸運の液体』は君の物だ、ミス・グレンジャー。上手に使いなさい」

 

 スラグホーンは、全員に見せつける様にフェリックス・フェリシスをハーマイオニーに渡した。

 ハーマイオニーが嬉しそうにそれを受け取る横で、ダフネはただ微笑んでいた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ハリーはダンブルドアに呼び出され、課外授業を受けていた。課外授業と言っても、新しい呪文を覚えたり、戦う訓練をしたりだとか、そう言った事ではない。

 ダンブルドアと共に、ヴォルデモートに関する古い記憶を見るものだった。

 

 ハリーとダンブルドアが憂いの篩の中に、記憶の中に入るとボブ・オグデンという男が待ち構えていた。

 彼は魔法省から来た、魔法警察部隊の部隊隊長であり、マグルを傷つけたモーフィンという男を取り締まりに来た様だった。

 だが、モーフィンとその父親、ゴーントは全くオグデンの話に耳を傾けなかった。

 どころか、全く関係のない血筋の話を持ち出すばかりで、ハリーからしてみれば耳を傾ける以前に言葉が理解出来ているかどうかさえ怪しかった。

 そしてついに、オグデンとゴーントの話は佳境を迎えた

 

「この件は、何もしないのに丸腰の者に攻撃を──」

 

「ふん、最初におまえを見たときからマグル好きな奴だと睨んでいたわ」

 

 ゴーントはせせら笑って、床に唾を吐いた。

 

「話し合っても埒が明きませんな」

 

 オグデンはきっぱりと言った。

 

「息子さんの態度からして、自分の行為になんら後悔のない事は明らかです」

 

 オグデンは、もう一度羊皮紙の巻紙に目を通した。

 

「モーフィンは九月十四日、口頭尋問に出頭し、マグルの面前で魔法を使ったこと、さらに当該マグルを傷害し、精神的苦痛を与えたことにつき尋問を受──」

 

 オグデンは急に言葉を切った。蹄の音、鈴の音、そして高らかに笑う声が、開け放した窓から流れ込んできた。

 

「おやまあ、何て目障り何でしょう!」

 

 若い女性の声が、まるで同じ部屋の中で、すぐそばに立って喋っているかのようにハッキリと、開けた窓から響いてきた。

 

「ねえ、トム、あなたのお父さま、あんな掘っ建小屋、片付けてくださらないかしら?」

 

「僕たちのじゃないんだよ」

 

 若い男の声が言った。

 

「谷の反対側は全部僕達の物だけど、この小屋は、ゴーントという碌でなしのじいさんと子供たちの物なんだ。息子は相当おかしくてね、村でどんな噂があるのか聞いてごらんよ──」

 

 若い女性が笑った。

 パカパカという蹄の音、シャンシャンという鈴の音がだんだんと大きくなった。

 モーフィンが肘掛け椅子から立ち上がりかけた。

 

「座ってろ」

 

 父親が蛇語で、警告する様に言った。

 

「ねえ、トム」

 

 また若い女の声だ。

 

「あたくしの勘違いかもしれないけど──あのドアに蛇が釘付けになっていない?」

 

「何ということだ!君の言うとおりだ!」

 

 男の声が言った。

 

「息子の仕業だな。頭がおかしいって、言っただろう?セシリア、ねえダーリン、見ちゃダメだよ」

 

 蹄の音も鈴の音も、今度はだんだん弱くなっていった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「先生!トムに、セシリア!あの人達は一体──」

 

 ハリーは記憶から戻ってくると、ダンブルドアを問い詰めた。

 

「落ち着くのじゃ、ハリー」

 

「すみません、先生。でも──」

 

「落ち着くのじゃ!君の疑問はこうじゃろう?あの場にいたセシリアと呼ばれたトムの恋人と、新入生のセシリア・ゴーントとに何か関係があるのか、じゃろう」

 

 ハリーは頷いた。

 

「わからん、わからんのじゃ。彼女の経歴、家系を調べてみようとしたが、全てが綺麗さっぱり消されておった」

 

「そんな!」

 

「そこで質問じゃ、何もかが消されたセシリア・ゴーントをどうやって見つけ、誰がホグワーツに招待したと思う?」

 

「それは、魔法省とか、校長先生じゃないんですか?」

 

「例年ならの。じゃが、今年の新入生はちと事情が違うのじゃ。今年の新入生の選抜は、ある先生が行っておったのじゃ」

 

「まさか!」

 

「そう、トム・リドルじゃよ。恐らく、セシリア・ゴーントにまつわる情報の全てを消したのは彼じゃ。また、セシリア・ゴーントを孤児院に迎えに行ったのも彼じゃ。その時、何かしらを感じ取り、彼女についての情報を消した、とわしは推測しておる」

 

 ハリーの中で、やはりリドルは闇の陣営に与していたのでは、という思いがメラメラと湧き上がった。

 そして同時に、セシリア・ゴーントへの不信感も高まった

 

「彼女に近づくのじゃ、ハリー。恐らく、彼女とトム・リドルとの間に何かがあった。それこそがわしらが求めている物じゃ。もし、それが手に入らなければ──わしらは敗北する事になるやもしれん」

 

 ハリーは、力強く頷いた。




多分、ほとんどの人が原作にセシリアなんていたっけ?と思われると思うので、ここで解説しておきます。
セシリアはヴォルデモートの父親、つまりトム・リドル・シニアの本当の恋人でした。
ですが、ヴォルデモートの母親であるメローピー・ゴーントが愛の妙薬を使ってトム・リドル・シニアの心を惹きつけ、セシリアの事を忘れさせました。
そして一年が経ち、メローピーとトムの間にヴォルデモートが産まれました。メローピーは子供が出来た事により、トムは自分を捨てないと思ったので愛の妙薬を盛るのを止めました。
その結果、トムはメローピーを捨て、出て行きました。
その後セシリアの所に戻ったかは不明。
そんな感じの、悲劇の人です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37 一年生の決闘

「ああ、あ、あああ!なんて、なんて恐ろしい運命なんでしょう!未だに十代の身でこんな!わたくしにはとても、とても!」

 

 トレローニーが髪をガリガリと掻きあげながら、大袈裟に教室中を歩き回った。

 今年に入ってトレローニーの授業は幾らかマシな物になったのだが、ハリーの死を予言するのは相変わらずだった

 

「はあ、はあ、はあ、少し失礼。──ごくっ、んく、ぷはぁ」

 

 それとこれ。

 今年に入ってから、トレローニーはやたらと水分補給をするようになった。いつも愛用の小瓶も持ち歩き、所構わず飲む。

 生徒達の間では、アレの中にはラム酒が入っている、というのが通説だった。

 その証拠に、最近のトレローニーは常に甘い匂いを纏っていた。

 それと酔っているからなのか仕草が妙に艶かしいのだ。しかし顔はやはりトレローニー。他の女性なら蠱惑的な仕草と甘い匂いで、さぞかし男を惹きつけたのだろうが、彼女がやるとむしろ男を引かせた。

 それでも、稀にトレローニーを好く男子生徒が出るようになったというのだから驚きだ。

 

「それでは……今何の話をしてらしたっけ?まあ、いいわ。今日の授業はこれで終わりにいたします。ああ、ポッター貴方は少し残っていきなさい」

 

「でも、先生…分かりました」

 

 ハリーは渋々ながら了承した。

 もしトレローニーの誘いを断ったら、次の授業でより一層標的にされると思ったからだ。

 ディーンやシェーマスがハリーに同情の眼差しを向けながら教室を去っていき、やがて最後にはハリーだけが残った。

 

「まあ座りなさいな」

 

 トレローニーが震えながら紅茶をカップに注いだ。しかし、カップから紅茶は溢れない。トレローニーは続いてお茶うけとしていくつかのスコーンを持ってきた。

 紅茶同様熱く、焼きたてのようだ。

 ハリーは一応受け取ったが、飲む気も食べる気もなかった。とかく、一刻も早くここから出て行きたかった。

 

「貴方、何か隠してらっしゃるでしょう?ああ、答えなくて構いません。わたくしには全て分かっています」

 

 ハリーは一瞬、リドルを殺した事がばれてしまったのではないかと思ったが、いつものトレローニーの発作(・・)だと思い直した。

 

「それを悔い改めるのなら、それを正直に言いなさい。そうすれば──そうすれば、そうすれば、そうすればそうすればそうすれば、いえそうしなければ!」

 

 ガタンッ!という音共に、トレローニーが立ち上がった。机が揺れるが、やはり紅茶は溢れない。

 トレローニーは虚空を見つめたまま立ち尽くした。首も目を全く動かない。はっきり言って、かなり不気味だ

 やがて、思い出したかのようにハリーを見つめると、見つめたまま椅子に座り直した。

 

「話はこれで終わりです。もう戻って構いません」

 

 急に冷淡な,口調でそう言うと、トレローニーは小瓶をグイッと飲んだ。

 

「そ、それでは失礼します」

 

 ハリーはそんなトレローニーに言い知れぬ恐怖を感じ、足早に部屋を去った。

 トレローニーはハリーが去った後、ハリーが出て行った扉をジッとみつめていた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「『闇の魔術に対する防衛術』かぁ……。かなり面白そうな科目だけど、アンブリッジ先生の授業は控え目に言ってトロールの糞だってマルフォイ先輩が言ってたし、期待しない方が良いよな?」

 

 ホグワーツの動かなくなった階段を下りながら、ジェームズ・プリンダーガストがウィルバード・スリングハード著『防衛術の理論』の表紙をマジマジと見つめながら言った。

 

「去年度の先生はホグワーツで最高の先生だったってみんな言ってるし、その先生と比べて糞って事じゃないかしら?」

 

 その隣から、ソフィー・プリエットが杖を振りながら言った。彼女はまだ『浮遊呪文』が使えず、こうして移動中も練習していた。

 

「ああ、リドル先生な。そりゃあいい先生だったらしいぜ。誰に聞いても、褒め言葉しか返ってこない『彼は私の最高の理解者だった』ってな具合でな」

 

「あいつはそんな奴じゃないぞ?ただ、他の人間と比べて他人の欲しい物や褒めて貰いたい所がわかって、それを与える事が出来ただけだ」

 

 そしてもう一人、今まで『防衛術の理論』を無言で読んでいたセシリア・ゴーントがジェームズの言葉に反応して本から顔を上げた。

 

「セシリアはリドル先生に会った事があるのか?」

 

 ジェームズは興味津々といった様子で、セシリアを見つめた。

 

「ない」

 

 セシリアはぴしゃりと言った。

 

「何だよ、隠すなよ。リドル先生の事教えてくれよ。先輩方に聞いても、あの人とどれだけ親密だったかの自慢ばっかで、どんな人か結局よく分からないんだよ」

 

「ほら、もう教室についたぞ。授業の時間だ」

 

「誤魔化すなよ!後で絶対、お前とリドル先生について聞かせて貰うからな!」

 

ジェームズのその言葉に、セシリアは手をヒラヒラと振るだけだった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 教室に入ると、アンブリッジは昨日のふわふわのピンクのカーディガンを着て、頭のてっぺんに黒いビロードのリボンを結んでいた。

 セシリアには、ピンク色のガマガエルの上に黒い蝿が止まっているように見えた。

 

「さあ、こんにちは!スリザリンとグリフィンドールの可愛らしい一年生の皆さん!」

 

 何人かのグリフィンドール生がボソボソと返事をし、スリザリン生は完全に無視だった。

 

「チッチッ。それではいけませんねえ。みなさん、どうぞ、こんな風に『こんにちは、アンブリッジ先生』。もう一度いきますよ、はい、こんにちは、みなさん!」

 

「「「こんにちは、アンブリッジ先生」」」

 

 今度はクラスの全員が、といってもセシリアはしていないが、返事をした様だった。

 

「そう、そう。難しくないでしょう?杖をしまって、羽ペンを出してくださいね」

 

 一年生達は言われた通りに杖をしまった。

 彼等にしてみれば、杖を使わない授業は未体験。一体何が始まるのか、と少しだけワクワクした。

 アンブリッジはこれまたピンク色のハンドバックを取り出し、異様に短い杖を取り出した。アンブリッジが杖で黒板を叩くと、たちまち文字が現れた。

 

闇の魔術に対する防衛術

1─防衛術の基礎となる原理を理解すること

2─防衛術が合法的に行使される状況認識を学習すること

3─防衛術の行使を、実践的な枠組みに当てはめること

 

「さて、みなさんは幸運です。みなさんの先輩方がこれまで受けていた授業はかなり乱れてバラバラでした。先生はしょっちゅう変わって、しかも、その先生の多くが魔法省指導要領に従っていなかったようです。その不幸な結果として、みなさんの先輩方は、魔法省がOWLやNEWTに期待するレベルを遥かに下回っています」

 

 アンブリッジはやれやれと、嘆かわしそうに言った。

 

「しかし、貴方達は違います。こうした問題はこれからは是正されます。今年は、慎重に構築された理論中心の魔法書指導要領通りの防衛術を学んでまいります。安心して、私について来てください。では早速、黒板に書かれた物を書き写してください。これがみなさんの学校での目標となります」

 

 数分間、教室は羽ペンを走らせる音で一杯になった。

 先程までワクワクしていた一年生は、一人もいなくなった。代わりに、つまらなさそうに黒板を見つめる生徒でいっぱいになった。

 全員が写し終わり、羽ペンの音が止むと、アンブリッジが質問をした。

 

「みなさん、ウィルバード・スリングハートの『防衛術の理論』を持っていますか?」

 

 持っています、と言う声がボソボソと聞こえてきた。

 

「もう一度やりましょうね。わたくしが質問したら、お答えはこうですよ『はい、アンブリッジ先生』または『いいえ、アンブリッジ先生』。では、みなさん、ウィルバード・スリングハートの『防衛術の理論』を持っていますか?」

 

「「「はい、アンブリッジ先生」」」

 

「よろしい。では、五ページを開いてください。『第一章、初心者の基礎』。おしゃべりはしないこと」

 

「いいえ、アンブリッジ先生」

 

 クラス全員が本を読もうとした瞬間、声が上がった。

 アンブリッジは声を上げた生徒を二、三度見た後、顔をピンク色にして生徒に声をかけた。

 

「何か?ミスター・サクマ」

 

「はい、アンブリッジ先生」

 

「それで何の質問があって?」

 

「はい、アンブリッジ先生」

 

「意見をおっしゃっていただけるかしら?」

 

「はい、アンブリッジ先生」

 

「……それ以外の言葉で答えることを許可します」

 

「それでは──この本の目的がよくわかりません。防衛呪文を使うことに関して、何も書かれていません」

 

「防衛術を、使う?」

 

 アンブリッジはその事が、驚天動地!といった様子で聞き返した。

 

「まあ、まあ、ミスター・サクマ。このクラスで、貴方が防衛呪文を使う必要がある様な状況が起ころうとは、考えられませんけど?まさか、授業中に襲われるなんて思ってはいないでしょうね?」

 

「この魔法省が“慎重に構築した”教科書では先生が黒板に書いた『防衛術の行使を、実践的な枠組みに当てはめること』が達成されないと言ってるんです。一体誰がいつ、この授業中に襲われるなんて言ったんですか?」

 

「わたくしに生意気な口を聞くことは許しません!この本は貴方よりも遥かに賢い魔法使いが構築した物です!貴方には分からないでしょうが、この本を読めば全て出来るようになるのです」

 

「その本は全て読みました」

 

 サクマがあっけらかんと言った。

 

「その上で質問しています。この本は何の役に──」

 

「わたくしに質問したい時には手を挙げてください」

 

 サクマが手を挙げたが、アンブリッジは違う方向を向いてそっちを見なかった。そして、新たに向いた先で別の生徒が手を挙げているのを見た。

 アンブリッジはその生徒を当てるかどうか数瞬迷ったが、結局当てることにした。

 

「貴女は?」

 

「ゴーントです。セシリア・ゴーント」

 

「それで、何か?」

 

「私もその教科書を全て読みました。しかし、その教科書が何の為に書かれたのか分かりません」

 

「それは貴女の能力の問題です。この教科書を真に理解出来ていないだけです」

 

「私はこの教科書を全て暗記しています。ここまでして理解出来ない教科書を魔法省は“慎重に構築した”のですか?」

 

「……何が仰りたいのかしら?」

 

「こんな物、何の役にも立たない、と。そう言ってるんだ。理解出来たか?私は魔法を学びに来てるんだ。それを邪魔される事は不愉快極まりない」

 

「なるほど、分かりました、分かりましたとも。でしたら役に立たないかどうか、その身で試してご覧なさい!『ディフィンド・マキシマ 全て裂けよ』」

 

 全てを切り裂く魔力刃が空気を切る音を立てながら、セシリアへと迫る。

 セシリアが魔法を上手く使えないのは周知の事実だ。ジェームズが杖を構え、セシリアを守ろうとした。しかし、横から紅い閃光が飛来し、ジェームズの役目を奪った。

 セシリアは閃光が飛来した方向、サクマを睨んだ。

 

「何のつもりだ。私があの程度の呪文、防げないとでも?」

 

「まさか。ただ、友達が傷つけられようとしたら守る、普通のことだろう?」

 

「いつから私達は友達になった?」

 

「コンパートメントで相席した時からだと思ってたけど、違うのかい?」

 

「違う。私達が交わる事などあり得ない。気がつかないと思ったのか?最近になってようやく理解した。貴様はト──」

 

「もう沢山です!『レダクト・マキシマ 全粉々』!」

 

 セシリアの言葉を遮り、再びアンブリッジから呪文が放たれた。

 セシリアはそちらを見向きもせずに、『盾呪文』によって攻撃を防いだ。普段の彼女らしく無い、見事な『盾呪文』だ。

 

「子供はわたくしの言葉にただ従ってれば──」

 

「貴様、死にたいのか?」

 

「ヒッ!」

 

 『死!』否が応でもそれを意識させる程の、ドス黒く夥しい魔力がセシリアから湧き出ている。

 それと同時に、金の瞳が緋く染まってゆく。

 辺りが、まるで大量の吸魂鬼がいるかのように冷えて行く。勿論、吸魂鬼など一匹たりともいない。

 彼女、セシリア・ゴーントのあまりに禍々しい魔力がそう錯覚させるのだ。

 普段の彼女からは考えられないほどの禍々しさ。そう、まるで別人になったかの様な──

 セシリアが杖をアンブリッジに向かって構えた。

 

「おっと、それをさせる訳にはいかないよ」

 

 生徒達が、いやアンブリッジまでもがセシリアの強大な圧力に動けなくなる中、サクマだけが余裕の態度を崩さない。

 彼が杖を振るうと、生徒達が座っている椅子が壁際まで下がってい行く。

 それを一瞥すると、彼もまた体から膨大な量の魔力を迸らす。

 双方一年生の、否、学生の域を悠々と超えている。

 セシリアの瞳が完全に緋に染まりきった瞬間、戦いが始まった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 セシリアが杖を振るうと、生徒達の羽ペンが全て空中に飛び、剣へと変わった。

 剣の数、それは即ち生徒の数に比例する。今教室にいるのはグリフィンドール生とスリザリン生の二寮分。つまり、約70本の剣がサクマに飛来した。

 

「『エクスペクト・ピクシス 妖精よ来れ』」

 

 サクマの杖から大量のピクシー妖精達が召喚される。

 彼等は飛んでくる剣を一本一本掴み、逆にセシリアの方へと切り掛かった。

 

「『ペスキピクシペステルノミ ピクシーよ去れ』」

 

 瞬く間にピクシー妖精達は砂になり、剣はその場に落ちた。

 

「「『エクスペリアームス 武器よ去れ』」」

 

 二人の杖から極大の紅い閃光が放たれる。

 閃光は空中でバチバチと轟音を立てて衝突した!

 その余波で先程までピクシー妖精達が持っていた剣が壁際にいる生徒達まで吹き飛んで行く!

 

「おっと、これは不味い!」

 

 サクマが杖を持っていない方の腕、つまり左腕を振るうと、生徒達に当たりそうだった剣が逸れて、壁に刺さった。

 サクマがそうしている間に、セシリアは剣を杖を持っていない方の腕へと呼び寄せ、サクマに向かって投げた。

 サクマは一旦閃光を放つのを止め、横に飛んで剣を避ける。

 

「ッ!ホーミングか!『エクスペリアームス 武器よ去れ』」

 

 しかし、サクマが飛んだ先に紅い閃光がカーブし、追撃をかける。サクマはその閃光に向かって再び自身の閃光を放つが──

 

「『マジック・ディフィンド 魔法よ裂けろ』」

 

「『プロテゴ 守れ』!『アクシオ 剣よ』」

 

 セシリアの紅い閃光が五本に分かれ、サクマの閃光をかわす。

 サクマはとっさに『盾呪文』を出すが、三本までしか閃光を食い止めることが出来ない。だが盾が壊れるその瞬間、壁に刺さっていた剣の内の一振りがサクマの手に収まった。

 右手に持っていた杖を振るうと閃光の内の一本が軌道を変え地面に当たり、もう一本の閃光を剣で切り落とした。

 サクマがやや安堵したその瞬間、少女特有の華やかな香りがサクマの鼻腔をくすぐった。

 つられて背後を見ると、そこには──煌めく黄金

 

「ぐああああぁぁぁぁ!!!」

 

 セシリアが放った衝撃波が、サクマを吹き飛ばした。

 サクマは教室を三つブチ抜き、四つめの教室の壁に当たってようやく止まった。

 サクマが朦朧とした意識の中、正面を見据えるも砂埃が立ち込めて何も見えない。

 目でダメならと耳を澄ますとコツ、コツ、コツと、砂埃の中から足音が聞こえてくる。

 それは死を宣告しようとする、黄金のお告げ。

 

「はあ、仕方がない……。『アクシオ 天罰よ来れ』!」

 

 だが、黄金のお告げよりも先に、サクマが天からのお告げを飛来させた。

 天から白い雷撃が降り注ぎ、セシリアへと直撃するはずだった(・・・・・)

 セシリアが鬱陶しそうに杖を振るうと、それだけでたちまち白雷は消え去った。後には何も残らない。

 

「な、馬鹿な!」

 

 ここまで余裕を崩さなかったサクマが初めて驚きの表情を見せた。だが、それも一瞬。次の瞬間には、いつもの表情に戻っている。

 対して、セシリアは常に無表情。ただ淡々と、サクマを追い詰めて行く。

 

「『ウィンガーディアム・レビオーサ 浮遊せよ』!」

 

「『プロテゴ 盾よ』」

 

 サクマが辺りに散りばめられた瓦礫をセシリアに向かって音速に近い速度で飛ばす。

 セシリアは『盾呪文』で直撃を防ぐが、衝撃までは消す事が出来ず元いた教室まで吹き飛ばされていく。しかし、自身に『妨害呪文』を掛けることで勢いを殺し、ダメージはない。

 サクマは飛ばした瓦礫の一つに乗り、追撃をかけんと追いかけて行った。

 しかし数瞬後、彼は追いかけた事を後悔した。

 

「『ドラコ・クエイドス ドラゴンに組み変われ』」

 

 セシリアがそう唱えると、教室にあった机や棚、ありとあらゆる物がバラバラに分解されてゆく。

 そして、それらが集まると、やがて巨大なドラゴンの形へと変貌した。

 その数──三体!

 

「『インセンディオ 燃えよ』……おっと、耐火呪文か!」

 

 セシリアが作り出したドラゴンは基本的には机の木で出来ている。しかし、サクマが火をぶつけても僅かな焦げ目が付くだけで燃えはしない。

 耐火の呪文が、いや様々な耐魔呪文が掛けられた三体のドラゴンがそれぞれ、サクマに襲い掛かった。

 

「『モーテーション・フラジェム 鞭へ変われ』『コラフィルマンダス・マキシマ 最強の肉体よ』!」

 

 サクマは杖を鞭へと変化させ、左のドラゴンの足へと振るった。サクマは強化された腕でおもいっきりドラゴンの足を引っ張る。

 見事に左のドラゴンは足を取られ、中央のドラゴンの足元へと転んでしまう。結果、中央のドラゴンも転び、二匹のドラゴンが縺れ合う。

 無効化されてない最後の一体が、サクマに近づきブレスを吐いた。本来、ドラゴンは火のブレスを吐くのだが、この木製のドラゴンは鋭く尖った木の破片を勢いよく吐いた。

 サクマが杖を円形に振るうと、丸い半透明のベールが浮かび上がる。ベールを通った木片は、細くなりほとんど粉となった。

 そのまま木の粉はサクマを襲うものの、多少咳き込ませる程度でダメージはない。

 

「『モーテーション・パルス 沼に変われ』」

 

 サクマがそう地面に向かって唱えると、地面がうねりをあげ始めた。

 まず最初に縺れ合っていた二匹のドラゴンが地面に沈み、残っていた三匹目のドラゴンも下半身がドップリと地面に沈んだ。

 ドラゴンは無効化した。

 だが、サクマの表情は冴えない。

 サクマが三匹目のドラゴンを相手している間に、セシリアが目の前で魔力を貯めていたからだ。

 セシリアの杖の先端に、眩いほどの光が集まっている。

 それに対し、サクマが仕掛けたのは速攻。

 

「『エクスペリアームス 武器よ去れ』……あれ?」

 

 しかし、紅い閃光は放たれず、代わりに紅い煙が上がっただけだった。

 サクマは杖の先端をしげしげと見つめると、一言。

 

「しまった、魔力が尽きた」

 

「ちょ──」

 

 サクマの言葉にアンブリッジが悲鳴を上げた瞬間、セシリアの杖に留められていた光が解放された。

 

「『エクス・ボンバーダ・マキシマ 大いなる爆発よ』」

 

「『プロテゴ・ホリビリス・マキシマ 恐ろしき者から最強の守りを』。どうやら、間に合ったようじゃの」

 

 果たして、セシリアから放たれた光は急遽駆けつけたダンブルドアの『盾呪文』によって防がれた。

 セシリアの『爆発呪文』は半径2センチ程の小さな球状へと圧縮され、眩い輝きを放つ球へとなっている。

 ダンブルドアはその光輝く球を手に取り、しげしげと見つめた。

 

「なんとも、なんとも恐ろしい呪文じゃ。これ程の魔力を一つの呪文に込めるとはの。これが正しく使われたのであれば、スリザリンに30点は上げたのじゃが、いやはや何とも……」

 

 そう言って、ダンブルドアは球状になったセシリアの『爆発呪文』をポケットへ入れた

 

「まだやるかね?」

 

 セシリアはその言葉に返事を返さなかった。

 しかし、瞳が緋から金へと戻り、魔力から禍々しさが消えた。

 サクマの方は両手を挙げて降参している。

 ダンブルドアはそれを見て、満足そうに微笑んだ

 

「此度の授業は終わりにした方が良いじゃろう、アンブリッジ先生」

 

「そ、そうですわね」

 

「ミスター・サクマ、ミス・ゴーントは保健室に行った後でわしの所へ来るように」

 

 そう言って、ダンブルドアはすぐに教室を出て行った。

 

「アンブリッジ教授の言う通り、授業で杖は使わない方が良さそうだ」

 

 サクマは破壊され尽くした教室を見て、ポツリとそう言った。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 誰もいなくなった教室で、アンブリッジが空に向かって跪いていた。

 

「我が君、如何だったでしょうか?」

 

 アンブリッジが誰も居ないはずの空間にそう言うと、そこから声が返ってきた

 

『満足だ。俺様は非常に満足している。お前の働きを高く評価しよう』

 

「ありがたきお言葉ですわ」

 

『これからも、あやつの力を測るのだ。そして、あの老いぼれが背後に俺様がいる事を悟るのを、俺様は望まない。わかるな?』

 

「勿論です、我が君」

 

 その言葉に空からの声は満足し、通信を切った。

 この通信を聞いていたのはアンブリッジ、だけではなかった。

 ひっそりと、一人の少年が教室の隅に佇んでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38 復活の女帝

「しかし、お前あんなに強かったんだな」

 

 ジェームズ・プリンダーガストが感心したように言った。

 

「学年一の天才君をコテンパンにしちまうなんてよ」

 

「コテンパンって言うか、殺すところだったけどね」

 

 ソフィー・プリエットは感心半分、呆れ半分といった様子だ。

 

「あの程度、当然だ。私は天才だからな」

 

 セシリアが薄い胸をふんぞり返らせながら言った。

 あの戦い、もとい『闇の魔術に対する防衛術』の後セシリアは保健室には行かず、普通に大広間で過ごしていた。

 今現在はジェームズとソフィーと共に雑談しながら、魔術の研究日誌を書いている。

 意外な事に、スリザリン生はあんな戦いをしたセシリアを恐れるどころか、グリフィンドールの点を稼ぎまくるサクマに対抗できる人間として持て囃した。

 これまではスリザリン寮が優勝し続けていたが、ハリー達の代からグリフィンドール寮が連続で優勝してきた。その上、寮監にトム・リドルが付いていた。

 いい加減、スリザリンはグリフィンドールに目に物見せてやろうと思っていた。

 しかし最も優秀な新入生、つまりサクマはグリフィンドールが取ってしまった。スリザリンは益々辛酸を舐めさせらた。その対抗馬になりえる学生がやっと出て来たのだ。多少恐ろしかろうと、持て囃してしまうのも仕方ないという物だ。

 

「しかし、何で普段の授業ではポンコツなんだ?」

 

「それは私の事を言っているのか?」

 

 セシリアが睨みをきかせた。

 隣にいるソフィーがそれに震えるが、ジェームズはあっけらかんとしている。

 

「当たり前だろ。見ろよこれ、お前が使った『防音呪文』で受けた傷だぜ?」

 

 そう言ってジェームズは左腕を見せた。

 そこには、拳大の焼け跡が付いていた。一体どう『防音呪文』を使ったらそうなるのか。

 

「流石『スリザリンの暴帝』だぜ」

 

「何だそれは?」

 

「俺が今作った。すぐ暴走するからな。お前自身と、主に魔術が」

 

「確かに、セシリアって暴帝って感じするわよね〜。でもスリザリンの帝っていったらグリーングラス先輩が居るから、その渾名はダメでしょう?」

 

「グリーングラス先輩はもう帝でも何でもないだろ。あの人、ほとんど人前に姿を見せなくなったじゃん」

 

「傷心の身なのよ、リドル先生が死んで」

 

「なに?」

 

 それまで興味無さげにしていたセシリアが、ダフネに関する話に食いついた。

 

「グリーングラスというのは、あのダフネ・グリーングラスか?」

 

「そうだけど、知り合いなの?」

 

「いや、知り合いではない。だがどんな人間かは知っている」

 

「あれか、『聖28一族』同士の繋がりか?」

 

「違う。私はついこの間までマグルの孤児院にいた」

 

「え、じゃあ魔法をおぼえたてなのか?嘘だろ?」

 

「本当よ。私も『聖28一族』の一人だけどセシリア、というよりゴーント家の話は聞いたことないわ。もし魔法界にいれば、『聖28一族』の話は絶対に耳に入ってくる。それがなかったってことは、そういう事よ」

 

 そういうものか、とジェームズは納得した。

 ジェームズはスリザリンにしては珍しく、血筋というものに興味がない。

 

「くくく!しかし、そうかそうか。ダフネ・グリーングラスは傷心か!」

 

「お前『くくく』って笑うんだな。やっぱお前は暴帝だぜ。だって、『くくく』なんて笑い方する奴はそうに違いない」

 

 ジェームズが挑発するような軽口を叩くが、セシリアは怒らない。どころか、非常に愉快そうにしている。

 そしてセシリアが笑う中、一人の男がスリザリンのテーブルに近づいたきた。

 

「やあ、ちょっといいかな?」

 

「てめえ、何の用だ?」

 

 朗らかに話しかけてきたのはユウ・サクマだった。

 それに対して、真っ先に反応したのはジェームズ。ジェームズはあまりサクマの事を良く思っていない様だった。

 

「僕もセシリアも校長室に呼ばれてるんだ。一緒に行こうと思って、誘いに来たんだ」

 

「貴様、正気か?」

 

 セシリアは先程までの愉快そうな表情を引っ込めた。

 命を賭しての戦いの後、戦いの相手と共に行動したがる奴はそうはいない。それが敗者となれば尚更だ。

 それを微塵も感じさせないサクマの態度に、流石のセシリアも少しだけ驚いた表情を見せた。

 

「……魔力が枯渇したというのに、随分と回復が早いな、サクマ」

 

「僕は少し特別だからね。それより、君は全然疲れてなさそうだね」

 

「私と貴様では格が違う」

 

 サクマはその上からの発言に肩を竦めた。

 

「プリンダーガスト、プリエット私は少し出掛けてくる」

 

「それじゃあね、二人とも」

 

 セシリアが席を立ち、サクマがそれに追従する形でついて行った。セシリアはサクマについて来る許可を出さなかったが、咎めることもしなかった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 かつて、合言葉を知らなければ絶対に入る事が出来なかった校長室だが、今現在は校長が招けば普通に入る事が出来る。

 セシリアとサクマが階段を上がり、校長室の前に立つと一人でにドアが開いた。

 校長室の中には、三人の人間がいた。

 

「ほお、随分と早く仲直りしたようじゃの。結構、結構」

 

 サクマとセシリアが一緒に、と言っても全く仲は良さそうではないが、校長室に入ると待ち受けていたダンブルドアが満足そうに出迎えた。

 

「いやあ、元々喧嘩なんてしてませんよ。ただちょっとじゃれただけです」

 

 無言のセシリアに対し、サクマは笑顔を浮かべた。

 

「じゃれた?あなた達はあれがじゃれだと言うんですか?なんて、なんて子供達なのでしょう!?」

 

 自分の授業が妨害され、教室に多大な被害を受けたアンブリッジが怒りからか恐れからか、ヒステリックな声を出した。

 それに対して、サクマはただニッコリと笑みを返した。

 一方セシリアは元から話を聞いていなかった。今は校長室に置いてある無数の本と、不死鳥のフォークスを興味深げに見つめていた。

 

「子供達と言うのは実に不思議なものじゃ。時として、わしらが思いもつかぬ様な事を、当然の様にやってのける事がある。彼等の戦いがじゃれただけなのかどうか、わしら大人には判断出来ぬじゃろうて」

 

 ダンブルドアの弁護に対し、意見を唱えたのは現魔法省大臣。つまり、ルシウス・マルフォイだ。

 

「じゃれただけなのかどうかはさて置き、アンブリッジ教授と彼女の教室に多大な被害をもたらし、他の真面目な生徒達の授業を妨害したのは事実。これをどうお考えで?」

 

「然るべき罰を与えるべきじゃろう。“然るべき”の」

 

 ダンブルドアのエメラルド色の瞳がルシウスを見据えた。

 

「……まあ何はともあれ、魔法省はこの件を重く見据えています。生徒間のじゃれ合いで、前任の教授に起きた様な痛ましい事件が再び起きるのは、誰も望まぬ事でしょうから。そこで彼女、ドローレス・アンブリッジ女史に従来よりも強く生徒達を罰する権利を与え、治安を守って貰う決定を下しました。魔法省の役人、及びホグワーツの理事全員の署名がありますが、ご覧になりますかな?」

 

 ルシウスは懐から書類の束が入った封筒を取り出した。

 

「おお、それには及ばんよ。わしはお主を信じておる。書類を誤魔化すような真似はせんじゃろうとな」

 

「左様で。なればこの件、私がもう関わる必要は無さそうですな。それでは、失礼」

 

 ルシウスはチラリとセシリアとサクマを見た後、足早に去っていった。

 

「それでは、わたくしも失礼させていただきますわね、校長。これから“色々”と忙しくなりそうなので」

 

 アンブリッジが後を追う様に去っていった。

 それを見届けたダンブルドアは、二人の方へと向き直った。

 

「ミス・ゴーント、その本が気になるかね?」

 

「ええ、面白そうです。何冊か借りても?」

 

セシリアは本棚にある本を幾つか指差した

 

「勿論構わぬとも。本は好きかね?」

 

 ダンブルドアが本を手招きすると、セシリアが指名した本の数々がゆっくりと飛んできた。

 セシリアはそれらを全て手で受け取り、愛おしそうに表紙をなぞった。

 

「人並みには」

 

「ではあの魔法の数々も本から学んだのかね?」

 

 人並みには、と彼女は答えたが彼女の読書量は一般のそれを遥かに超えている。

 そしてそれは、ダンブルドアもだ。故に、ダンブルドアは不思議に思っていた。

 ダンブルドアは学校の図書室の中にある全ての本を読んでいる。だが彼女が使った呪文の中にはそれ以外の知識が使われていた。

 必要の部屋で新たに本を生成するという事が出来ない以上、一体彼女が何処からそれらの知識を手にしたのか?

 

「自らの魔法の源を他人に話すのは三流だと、私は考えます」

 

「なるほどのお……。ミスター・サクマお主はどうじゃ」

 

 そしてそれは、サクマにも同様の事が言えた。

 

「同意見です。僕も本は好きですが、魔法の知識を他人にひけらかすのもあまり良いとは思いません」

 

 これはある程度名の知れた魔法使いであれば当然の事だ。

 現に、ダンブルドアも他人にはほとんど自分の事を話さない。他人に自分の事を話す事、それは弱点になるからだ。だが、それは飽くまである程度名の知れた魔法使いの話。普通、学生というのは自分の力を誇示したくなる。

 かつて、学生時代のダンブルドアは特にそれが顕著だった。しかしこの二人は、セシリアは少々傲慢だが、魔法についての知識をあまりひけらかさなかった。

 その魔法使いとしては正しく、学生としては正しくない様子はダンブルドアの疑念をやや大きくした。

 

「ふむ、確かに魔法使いである以上、秘密というのは付き物じゃろう。じゃがの、君達は飽くまで学生じゃ。わし等教師の保護下にある。それは分かるかの?」

 

 二人は黙って賛成の意を示した。

 

「そしてわし等教師は生徒の安全を守らねばならぬ。ミス・ゴーント、君が最後に使った『爆発呪文』、と言うてもほぼ別の呪文と化してるこの呪文に関しては、説明して貰わねばなるまい」

 

 ダンブルドアが机の棚を開け、セシリアが戦いの最後に使い、一時的にダンブルドアが封じた『爆発呪文』を取り出した。

 

「わしの見立てじゃと、これを無差別に放てば、少なくとも周囲200メートルにおった生物はみな焼死しとったじゃろう。流石にこれ程の呪文の出所を明かさないままにしておく事は出来なんだ」

 

 つまり、これ程の呪文が他の生徒に使われては堪ったものではない。悪用されない為にどうにかするから、出所を明かせ、という事だ。

 尤も、それは表向きの理由であり、真の目的はセシリアの力の一端を探る事だ。

 セシリアもそれには気付いている。というより、自分が放った呪文をダンブルドアが持ち帰った時点で、その様な質問が来る事を予想していた。

 

「それでしたら、私が自力で作りました。これがその研究日誌です」

 

「見せてもらっても良いかね?」

 

「勿論です。その為に持ってきましたので」

 

 セシリアが取り出したのは、今さっきセシリアが大広間で急遽書き上げた魔術の研究日誌。

 苦難に当たりながら、それでも一歩一歩研究を進めた努力の日々が綴ってある。勿論、つい数時間前に適当にでっち上げた物だが。しかしダンブルドアは知る由も無い。

 それ見たダンブルドアは、出来すぎている、と感じた。

 日誌の内容が、ではない。セシリアの対応がだ。

 セシリアが予め用意していたこれが本当の事であれ、適当にでっち上げた物であれ、セシリアの知られて不味い物が書いてあるはずがない。それはダンブルドアにとって良くない事だ。

 しかし、表向きの理由が生徒の安全の為である以上、これ以上の言及は出来ない。

 

「それでは、私はもう宜しいですか?校長」

 

 セシリアのそんな言葉を遮ったのは、ダンブルドアではなくサクマだった。

 

「ちょっと待って!僕の話が終わるの待っててよ。そしたら、一緒に戻ろうよ」

 

「断る」

 

 セシリアはそう言い残すと、スタスタと校長室を去っていった。

 

「いつもこれなんですよ。僕は彼女と仲良くしたいと思っているんですが」

 

 サクマはセシリアが去った扉を残念そうに見つめながらそう言った。

 

「人と人との繋がりと言うのは不可解なものじゃ。思わぬ事で破綻し、思わぬ事で強まる。それを制御する事は叶わぬ。しかし関わろうと思わねば始まりもせぬ。そこが面白くも、厄介なとこじゃの」

 

「ええ、僕も同意見です。そして、僕はセシリアとだけじゃなく、貴方との関係を始めたいとも思ってます」

 

「それは良い提案じゃの、ミスター・サクマ!ここにちょうど良く、スラグホーン先生から貰ったオーク樽成熟蜂蜜酒がある、一杯どうじゃ?」

 

「是非」

 

 こうして、二人の夜はゆっくりと過ぎて行った。

 次の日、アンブリッジはホグワーツ高等尋問官に就任。

 また、その一週間後に高等尋問官親衛隊を結成。

 そして高等尋問官親衛隊に真っ先に加入したのは、ダフネ・グリーングラスだった。

 それは即ち、スリザリンの女帝の復活を意味していた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 二羽のカラスが森の上空を飛んでいた。

 カラスは並走したまま森の中に入ると、手頃な地面へと並んで降り立った。

 カラスが地面に降り立った次の瞬間、カラスは居なくなり、その代わりに二人の美しい男女が立っていた。

 二人はそのまま暫く歩くと、何もない所で立ち止まり、杖を取り出した。

 二人の杖からポッと淡い光が放たれ、フワフワと進むと、2メートル程行った所で何かに当たって消えた。するとさっきまで何もなかったはずの空間から、数多くの獣達が現れた。

 否、現れたのではない。

 元々そこにいたのだ。

 ただ、保護魔法により検知することが出来なかったのだ。

 二人が結界の中に入っていくと、再び結界は閉じ、また全員の姿を隠した。

 二人がそのまま奥へと進んでいくと、一人の金髪の少女と全身黒づくめの男が木のテーブルでチェスをしていた。二人はそのままテーブルまで進み、何も言わずに席に座った。

 

「今年のホグワーツはどうだった?」

 

 勝負の最中に勝手に同席されたというのに、少女は──ルーナは気にした様子もなく問いかけた。

 

「最悪ね。あいつの後任の女が特に。ただ、貴方の後任はまあまあだったわね。生徒に媚び売ってるのが気にくわないけど」

 

 今来たばかりの白銀の少女、クロがそう答えた。

 

「スラグホーン教授か。過去、吾輩も指導を受けていた。彼が特定の生徒を贔屓するのは彼なりの処世術だ。あれで案外、上手く世を渡っている」

 

 ルーナのチェスの相手──スネイプはそう言いながら、チェスを一手進めた

 

「個人的には、スラグホーン教授は嫌いではない。というより、アンブリッジと比べれば誰だって好きになる」

 

 クロと共に席に着いた男──ヨルはしみじみとそう言った。

 スネイプはアンブリッジ。の名を聞くと、不機嫌そうな顔をより一層不機嫌そうにした

 

「私はそのアンブリッジ先生って人に興味あるな。名前が素敵だもん。ドローレス・アンブリッジ!ほら、素敵でしょ?」

 

「ラブグッドよ、あまりそう言ったよくわからない価値観で人を判断するな。恐らく、アンブリッジと貴様は相性が悪い」

 

 ルーナのアンブリッジへの謎の高評価を、スネイプがたしなめた。するとルーナはそれを素直に聞き入れた。

 案外、この二人の相性は良いらしい

 

「それにしても、あいつも貴方もよく教師なんてやってたわね。まったく、面倒でしょうがないわ」

 

 クロがポンポンと自分の肩を叩きながら言った。

 

「お前の教科なぞ、誰かが死ぬ予言でもしていれば良いのだろう?」

 

「それが大変なのよ!貴方も一度、やってみるといいわ。大袈裟に誰かの死を予言するのって、案外ストレス溜まるものよ」

 

 スネイプが両手を挙げて、降参の意を示した。

 彼が占い学の教授をするなど、一体誰が得をするのだろうか?

 四人が会話していると、一人のケンタウロスが近づいてきた。

 

「アイベリー様、今月の予言です」

 

「ありがとう、フィレンツェ」

 

 フィレンツェと呼ばれたケンタウロスは、自分達の種族が予言した予言と、その方法を書き留めた羊皮紙をクロに差し出した。

 

「これで生徒達が喜ぶわね」

 

 クロが面倒くさそうに羊皮紙を捲った。

 

「私は生徒として潜入して良かった」

 

 その様子を見たヨルがしみじみと言った。

 クロは一瞬反論しかけたが、自分でこの役割分担になる原因を作ってしまったことを思い出して黙った。

 

「はあ、そろそろ行く時間ね。今月分のアレを貰えるかしら?」

 

「これで良いな?」

 

 スネイプはトランクを二つ取り出し、中を見せた。

 中には幾つもの小瓶が入っていた。小瓶の中身は、少なくともかぼちゃジュースではなさそうだ。

 

「ありがとう、スネイプ。それじゃあ、行きましょうか」

 

「うむ、いつもすまんな。それでは失礼する」

 

 二人はそう言うと、再びカラスになり飛んで行った。

 スネイプは二人が飛び去った後を暫く見つめた後、ルーナの方に向き直った。

 

「随分と静かだったではないか」

 

 ルーナは基本、おしゃべりな方だ。

 それが久々に会う相手となれば尚更。

 だが今日は静かにしていた彼女の様子を見て、スネイプがほんの少しだけ心配そうに問いかけた。

 

「うん!だって、こっちが忙しかったんだもん。でも、これで終わりだと思うな。ほら、チェックメイト」

 

 スネイプは本日二度目、両手を挙げて降参の意を示した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39 半獣血のプリンセスと不死鳥

 グリモールド・プレイス12番地にあるブラック家の巨大な屋敷。そこは『不死鳥の騎士団』の本拠地として使われていた。

 だが本拠地といっても、普段ここにいる人物はそう多くない。

 その理由は、彼等が任務に就いているからだ。

 キングズリー等の闇祓いは闇祓い局の任務に就き、シリウス等の面々はハリーの警護、及びダンブルドアの補佐の為にホグワーツにいる。

 しかし今現在、ここには多くの騎士団員が集まっている

 

「ダンブルドアは何を考えているんだ!何故アンブリッジの好きにさせておく!?」

 

 『ダンッ!』という音と共にシリウスが新聞を机に叩きつけた。彼が握り潰していた為、くしゃくしゃになってしまった新聞にはこう書かれている。

 

『ドローレス・アンブリッジ女史、ホグワーツ高等尋問官就任。アンブリッジ高等尋問官は早速、ホグワーツの警備体制にメスを入れた。というのも、驚くべき事に、渡来のホグワーツの警備はダンブルドア校長が独自に採用した、何の資格も無い魔法使い又は魔女が務めていたのだ。アンブリッジ高等尋問官はそんな現状を重く受け止め、魔法省が慎重に定めた基準を満たした、熟練の魔法使い又は魔女を新規に採用した。また生徒の自主性を育てる為、生徒達が自分達で自分達を取り締まる組織、高等尋問官親衛隊を組織した。彼女は経営者としてだけでなく、教育者としても優秀な様だ。もう高齢なダンブルドア校長に代わり、アンブリッジ高等尋問官が校長になるべきだ、という声も少なくない』

 

「落ち着け!ダンブルドアには何かお考えが有る。今大事なのは、彼を信じる事だ」

 

 反論したのはリーマス・ルーピン。

 彼は結局、クロの陣営には下らなかった。

 確かに、彼の社会的地位は低い。最早狼人間は完全に駆除の対象だ。

 だがトンクスへの愛が、トンクスからの愛が、彼の足を止めた。こんなに愛してる人を、こんなに愛してくれる人を人間の世界から引き離してはいけない。

 他人に話した事は無いが、リーマスはそう考え、決心した。

 余談だが、彼等は婚約した。

 今、トンクスのお腹の中には新たな生命が宿っている。

 

「そのダンブルドアを信じたトムはどうなった?私が無実の罪で捕まってた時、助けてくれたのはあいつだった!ダンブルドアではなく!なあリーマス、今度は私の息子かもしれないんだぞ?」

 

「ハリーの心配をしてるのはお前だけじゃない。私も、いやここにいる全員が心配してる」

 

 リーマスがゆっくりと静かに、しかし威厳を込めて言った。その言葉にシリウスも冷静になり、気まずい沈黙が降り立った。

 

「……リドル先生は、授業でいつも言ってました。闇の魔術に対抗するには、団結するべきだって。僕の知る限り、最も偉大な魔法使いであるリドル先生とダンブルドア校長が揃ってそう言うんです。だから、僕達はもっとお互いを信頼し合うべきです」

 

 沈黙を破ったのは、セドリックだった。

 彼は学校を卒業した後、不死鳥の騎士団に仲間入りした。

 セドリックの言葉に、騎士団の多くが同意する中、一人の女性の声が聞こえた。だがその声は騎士団の者の声ではない。さらに言うなら、屋敷の中の者でもない。

 その声は、屋敷の外から聞こえてきた。

 

『セドリック・ディゴリーと話がしたい。素直にディゴリーを出せば、一切の危害は加えない。しかし、抵抗する場合は──皆殺しにする』

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 時は遡り30分前。

 学校に潜入しているクロは、トム・リドルの遺産を狙っていた。

 だが学校ではダンブルドアの目が光っている。

 ダンブルドアに力で劣っている、とは思っていなかった。しかし、ダンブルドアを侮ってもいなかった。恐らく、自分とダンブルドアが戦えばかなりの高確率で自分が勝つ。しかし、遺産を持った生徒達が逃げてしまう。ダンブルドアを殺すのに、その位の時間はかかる。というのがクロの推測だった。

 故に、クロは中々手が出せないでいた。

 しかしそんな折、遺産を持つ一人、すなわちセドリック・ディゴリーの居場所を知る人間、セブルス・スネイプがクロの下についた。

 スネイプは『破れぬ誓い』により、グリモールド・プレイス12番地及びブラック家の場所を明かす事は出来なかった。だがセドリックが不死鳥の騎士団に所属した事、その本拠地に彼は居るであろう事を話した。

 クロはその場所をありとあらゆる方法で探し、ついに発見した。

 それが二日前の事。

 しかし、ブラック家は『忠誠の術』で護られていた。

 『忠誠の術』の突破方法を考える事二日間、ついにクロはその方法を編み出した。

 そして今、クロとヨルはグリモールド・プレイス12番地に降り立った。

 

「『忠誠の術』は秘密の守り人が教えない限り、ありとあらゆる者から対象を隠す。言葉を隠せば誰にも伝わらないし、物体を隠せば誰も干渉できなくなる。──でも本当にそうかしら?」

 

 クロが家と家の間、ブラック家があるであろう場所を凝視した。

 

「人間の体内や体表面には様々な微生物がいる。それが無ければ人間は生きていけない。でも彼等は秘密の守り人にこの場所を知らされてる?答えはNO。彼等は立派な生物。でも『忠誠の術』に弾かれない。つまり、『忠誠の術』は何かしらの基準を満たした者は通すのよ」

 

 クロがブラック家があるであろう場所に手を伸ばす。当然、空を切るだけだ。

 

「まあ結局、その基準には干渉できないから、このままだと入れないんだけどね」

 

「では、どうするのだ?」

 

 ヨルの質問に、クロは待ってました!と言わんばかりの勢いで答えた。

 

「基準には干渉できない。でも、私達がその基準を満たす事は出来る」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 不死鳥の騎士団が気づかぬ間に、煙突ネットワークは封じられ、姿くらましの類も出来ない様になっていた。

 助けは絶望的。つまり、彼等が自分でどうにかしなくてはならない

 

「何故、アイベリーが此処を?」

 

 まず、キングズリーが疑問を呈した。

 

「クソッタレのスネイプがこの場所を漏らしたのか?」

 

 シリウスが無いと思いつつも、一応可能性として考えられる事を述べる。

 

「それはありえん!奴はダンブルドアと『破れぬ誓い』を結んだ。わしが保証人になったんだ。ちゃあんとこの眼で見ておったが、間違いなく奴は『破れぬ誓い』を結んだ!」

 

 と、ムーディーがギョロギョロと動く目を指差しながら怒鳴った。

 

「みんな、まず落ち着こう。アイベリーがこの場所をどうやって突き止めたかは後だ。今は、どうやって彼女を追い返すかだ」

 

 ルーピンが全員を落ち着かせた。

 そんな彼の姿に、トンクスがウットリしながら尋ねた。

 

「一体、彼女は何の用があるのかしら?」

 

「……遺産だ。リドル先生の遺産。クロの行動は基本的に、リドル先生を中心にしてる。きっと、このローブが目当てだ」

 

 

 セドリックが自分の着ているローブを指差した。

 

「『双子の呪文』で複製を作って渡したりは出来ないのか?」

 

「出来ない。このローブに魔法の類は効かないんだ」

 

 セドリックの検証の結果、ローブの素材、秘められた魔術等は結局分からなかった。

 だがこのローブはどんな呪文でも劣化せず、破壊されない。また複製したり、新たに魔法を込める事等も出来ない事が分かった。

 

「彼女がローブを渡した後で、貴方を殺すと思う?」

 

「断言は出来ないけど、多分殺さないと思う。彼女は基本的に嘘を吐かない」

 

 その言葉で、シリウスはさっきのクロの発言を思い出した。彼女は言った、抵抗すれば皆殺しにすると。

 

「つまり、渡さなければ本当に私達を皆殺しにするのか?『忠誠の術』に守られている私達を?」

 

「リドル先生なら、『忠誠の術』を打ち破る方法を作ってても可笑しくはない。それにクロはプライドが高い、下手な嘘は言わないはずだ」

 

 セドリックはそう告げた。

 確かに、魔術の研究に余念がなかったリドルなら何かしらの方法を作ってそうだ、と全員が押し黙る中、シリウスが口を開いた。

 

「分かった。ならいっそのこと、奴を逆に倒してやろう」

 

 楽しそうにニヤけるシリウスを見て、ルーピンは思った。

 学生時代、シリウスがジェームズと悪巧みを思い付いた時の顔だ、と。

 

 

   ♢♢♢♢♢

 

 

 シリウスとジェームズ、リーマス、ペティグリューが学生だった頃、シリウスとジェームズは問題児の筆頭だった。

 問題児といえばウィーズリー家の双子、ジョージとフレッドだが、双子の教師を務めた事があるリーマスから見れば、シリウスとジェームズの方が一歩上をいっていた。

 四人でホグワーツにある抜け道を調べ書き記し、あらゆる呪文を施して作った『忍びの地図』。

 ジェームズの透明マントを使って深夜に学校中を散策し、閲覧禁止の棚を読み漁った。

 狼人間のリーマスの為に、全員で動物もどきになった。

 学校の規則どころか、幾つもの法律を破った。

 だが、そのどれもが明るみに出る事はなかった。彼等は学生でありながら、幾つもの偉業を誰にも気づかれる事なくやり遂げたのだ。

 

 時は流れ、四人はバラバラになった。

 ジェームズは死に、ルーピンは教師となり、シリウスは捕まり、ペティグリューは寝返った。

 だがシリウスの冤罪は晴れ、再びルーピンとシリウスは友となった。

 ルーピンはシリウスを信じる事が出来なかった事を非常に悔いていた。ルーピンは涙ながらにシリウスに謝った

 

『学生時代、何度も助けてもらった。それを考えれば、この程度何てことない。むしろ、また友となれた事を嬉しく思う』

 

 シリウスは笑って許した。

 その時、ルーピンは決心した。かつてジェームズがそうしたように、今度はルーピンとシリウスが、命をかけて誰かを守る番だ。そして、ジェームズの様に一人ではなく、自分とシリウス二人ならば、ハリーだけじゃなくより多くの人を守れると考えていた。

 

 

   ♢♢♢♢♢

 

 

「……来たわね」

 

 何もない空間から、セドリックが出現した。トムのローブは着ていない。

 急に目の前に人間が現れたにも関わらず、クロとヨルは少しも驚かなかった。

 

「何の用かな?」

 

「あいつから遺贈されたローブ、あれを渡してくれるかしら。勿論、タダでとは言わないわ。情報をあげる。ヴォルデモートに関する情報を。今居る場所、力の源、勢力の大きさ、色々とね」

 

「その情報は喉から手が出る程欲しい、けどあのローブは僕が遺贈された物だ。渡すわけにはいかない」

 

「何を言ってるのかしら?遺贈されたのは貴方じゃなくて、ディゴリーよ」

 

 その言葉にセドリックは、いやセドリックの姿をした男はギクリとした。

 しかしカマをかけられている可能性を考え、それを表には出さなかった。

 

「ポリジュース薬。見た目だけじゃなく、体の中身や体臭をも変える最高の変身薬。でも、臭うのよ」

 

 クロは真っ赤な舌をペロンっと出し、指で指した。

 

「貴方が飲んだポリジュース薬の臭い。私もつい最近使ったばかりなのよ。だから、間違えようが──」

 

 その瞬間、クロの言葉を遮り、七本の紅い閃光が何もない空間から放たれた。

 『忠誠の術』で護られている屋敷の敷地内から、騎士団が放ったものだ。しかしその閃光はクロに届く事なく、全て空中で霧散した。

 その理由は、クロが前もって施しておいた『保護呪文』だ。セドリックを呼び出す際、何かあった時のために用意していた。

 尤も、そんな事をせずとも負けるとは思っていない。念には念を、という奴だ。

 

 閃光が全て霧散した事に、セドリックの姿をした男がギョッとし、急いで敷地内に戻ろうと走り出した。しかし、数歩走ったところで壁に激突し、額に怪我を負った。

 その正体は巨大な『盾呪文』。偽セドリックがクロに気を取られている間に、ヨルが張ったものだ。

 偽セドリックは最早逃げる事は叶わないと悟ったのか、二人の方へと向き直った。

 そして目にとまらぬ速さで、一際巨大な閃光を繰り出した。

 だが、クロが手の中でトムから遺贈された杖をクルリと回すと、それだけで彼の閃光は消えた。いや閃光だけではない。偽セドリックの腕が、杖ごとかき消えた。

 痛みに気を取られたのも束の間、偽セドリックは更に驚愕する事になる。

 自身の消えた腕の断面、そこからあり得ない量の血が出ているからだ。最早出血、などというレベルではない。血が洪水の様に湧き出ている。

 偽セドリックはドンドンと干からびていき、やがてミイラの様になった。

 血は空中で集まり、二つの球体となった。

 

 『忠誠の術』の基準、それは秘密を知る人間の一部であるかどうか、だ。

 どういう事かというと、体の中にある微生物は最早人間の一部、臓器や血と言った物と同系列に扱われている、という事だ。

 クロは過去、自分で『忠誠の術』を掛け、そこに切り落とした自分の腕を投げ入れて見たところ、見事に『忠誠の術』に弾かれずに中に入れた事を実験で証明していた。

 そこで疑問となるのが、何処から何処までがその者の一部となるのか、という所だ。

 クロは試しに自分の腕をミンチにし、他の生き物に食べさせた。しかし、『忠誠の術』を突破する事は出来なかった。

 つまり、その者の体の一部を取り込んだ所で、その者の一部と見なされることはない、という事だ。

 だがそれは少量の話。

 さらなる研究の末、体の半分以上を対象の肉体にすれば、『忠誠の術』に弾かれない事を、対象の肉体の一部だと認識される事を突き止めた

 

「ヨル、これ飲んで」

 

 クロは偽セドリックの血で出来た球体を圧縮し、直径1cm程にするとヨルに渡した。

 人体の体の60%以上は水分、つまり血でできている。

 クロとヨルは予め自分の血を極限まで抜いておいた。代わりに、今採取した偽セドリックの血を増幅させ、飲み込んだ。

 その瞬間、彼等は『忠誠の術』に偽セドリックの体の一部だと認識された。

 先程まで見えなかった屋敷と騎士団員達が、二人の前に姿を現した。

 

「雑魚は私が相手をしておこう」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 ヨルが杖を構えながら言った。

 目の前にはシリウス、ルーピン、モリー、アーサー、ムーディー、トンクス。

 セドリックの姿はない。

 クロはセドリックを探しに、屋敷の中へと悠々と歩いて行った。当然、黙ってそれを見過ごす騎士団員ではないが、その攻撃の全てが、悉くヨルに撃ち落とされた。

 

「キングズリーの仇!」

 

 全員がクロを阻止しようとする中、偽セドリックの正体、つまりキングズリーと仲が良かったルーピンだけがヨルに攻撃した。

 ヨルは杖を持っていない方の腕を蛇の尻尾に戻し、ルーピンを呪文ごと攻撃した。

 ルーピンは内臓を潰されたカエルの様な声を出しながら吹き飛んで行った。杖を持っていた腕はグチャグチャに折れ、肋骨が砕けた

 

「リーマス!……お前かあああ!!!」

 

 その音に、クロを気にかけていた騎士団員の何人かがヨルへと向き直った。

 中でもトンクスは激昂し、禁じられた呪文である悪霊の火をヨルに放った。

 悪霊の火は狼の形となり、主人の憎しみのままヨルを喰い殺そうとした。

 

「『妖精王の豪炎』よ」

 

 しかし、ヨルが生み出したエメラルド色の炎で出来た大蛇に逆に喰い殺された。

 そのまま大蛇はトンクスの足に噛み付き、足を消し飛ばした。

 

 その光景を見た師匠であるムーディーが、その大きい杖から幾つもの閃光を背後から放った。

 その閃光の全てがヨルに直撃する。

 だが、傷はない。

 ヨルは本来の姿、バジリスクに戻り強靭な鱗で呪文を防いだ。ヨルがムーディーを一睨みすると、ムーディーはビクリと一瞬動いた後、地面に倒れ、それきり動かなくなった。

 

 アーサーが芝を無数の蔓に変え、ヨルの巨体を縛ろうとする。それに対しヨルは姿を人間に変え、悠々と抜けた。

 だがそれは誘い。

 その瞬間を狙っていたモリーが巨大な閃光をヨルに放った。

 しかし、そこにもうヨルはいない。二人が辺りを見回すも、やはりヨルは周囲にいない。

 

「上だ!」

 

 少し離れた位置にいたシリウスが叫んだ。

 二人が上空を見上げると、一羽のカラスが飛んでいた。カラスが咥えている杖から閃光が走り、二人は動かなくなった

 

 シリウスがカラスに向かって閃光を飛ばすが、カラスはそれを全て避け、優雅に地面に降り立った。

 カラスは人間へと戻ると、杖を一振りした。

 するとシリウスの背後から剣が現れ、シリウスを突き刺した。

 シリウスの目は一瞬大きく見開かれ、その後ゆっくりと眼を閉じた

 

 

   ♢♢♢♢♢

 

 

「……見つけた」

 

 クロは魔力線を屋敷中に張り巡らせ、セドリックを探索した。その結果、彼はリビングのど真ん中に一人で立っていた。コツコツと足音を立て、リビングに向かうが、セドリックは逃げる素振りを見せない。

 罠を警戒したが、魔力線には何もひっかからない。リビングの扉を開けると、やはりセドリックが堂々と立っていた。

 それを見たクロは、今までの彼とは違う、と感じた。

 セドリックは元々優秀だった。だがその優しさからか、同学年にライバルが居なかったせいか、何処か勝負弱い所があった。

 しかし『決闘クラブ』でのジニーへの敗北。

 ヨルやクロ、ハーマイオニー、双子などの手強いライバル。

 今はまだ弱くとも、ネビルやハリー、ルーナといった自分を脅かす勢いで成長する後輩達。

 そして、優秀な指導者だったリドルとの出会いと別れ。

 彼は自分の弱さと甘さを知った。

 優しさと、甘さの違いを知った。

 彼は卒業後、ムーディーに弟子入りした。そこで、一切の甘さを捨てた。

 今の彼は強い。

 それは、世界的に見ても、だ。

 

「クロ・ライナ・アイベリー。君に決闘を挑む!賭けるのはリドル先生の遺産だ」

 

「いいわよ」

 

 セドリックが自分のローブと、クロの杖を目で指した。

 その言葉には、決意が秘められていた。それに対し、クロはあっけらかんといった。

 クロが杖をふるい、火でカウントを取った

 

3…2…1…始め!

 

「『エクスペリアームス 武器よ永遠に去れ』!」

 

 聞こえてきたのは一人分の声だった。

 セドリックが放った極大の紅い閃光。

 そこには幾つもの想いが込められていた。

 ライバルや後輩達への尊敬。

 恋人であるチョウへの愛。

 恩師であったリドルへの敬意。

 そして、彼の死への悲しみと、自分の無力さへの激しい怒り。

 数々の思い出と多彩な感情は、強い煌めきとなって、クロへと放たれた。

 

 対して、クロは無言呪文で『武装解除』を放った

 

 勝負は一瞬だった。

 クロの閃光がセドリックの閃光を砕き、セドリック自身をも貫いた。

 そのまま閃光は留まることなく、ブラック家の壁を貫通していった。

 何故ここまでの差が出たのか?

 単純な話、セドリックよりも、クロが込めた感情の方が強いからだ。

 彼の多彩な感情と数々の人間との思い出よりも、クロのトムへの愛と、彼の死への悲しみ、そして彼一人との思い出の方が、強かったからだ。

 クロはそのまま動かなくなったセドリックへと歩み寄り、ローブを手にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40 ドラコ・マルフォイの戦い

ここから先、鬱展開があります。
苦手な方は注意して下さい


 ホグワーツ魔法魔術学校。

 今ここで、最も権力があるのは誰か?

 そう聞かれれば、大抵の魔法使いはこう答えるだろう。

 校長であり、今世紀最高の魔法使いであるアルバス・ダンブルドアだ。

 魔法省の人間はこう答えるだろう。

 ホグワーツ高等尋問官であるドローレス・アンブリッジだ。

 しかし、当のホグワーツにいる生徒達は口を揃えてこう答えるだろう。

 ダフネ・グリーングラスだ、と。

 

 

 

 アンブリッジはホグワーツ高等尋問官に就任してからの最初の一週間の間に、様々な規則を新たに定めた。

 廊下での呪文の使用を徹底的に禁止し、言論の自由を奪い、異性間の付き合いを禁じた。

 破った者には例外なく『書き取りの罰』が課せられた。

 勿論、使うのは普通の羽根ペンでは無い。インクを使わない、おぞましい羽根ペンだ。

 生徒達の腕や額に、痛ましい血の文字が刻まれた。

 そんなアンブリッジの独裁体制の中、生徒達の自由は少しずつ奪われ、教員達も立場を追われていった。

 そして意外にも、そこで活躍したのは、生徒を助けたのはフィルチだった。

 彼はアンブリッジに味方をするふりをして、こっそりと生徒達を助けた。

 懲罰用の羽根ペンをこっそりと普通の羽根ペンに変えたり、廊下での呪文の使用を見逃したり、果ては異性間の交友まで見逃した。

 彼は魔法を使う喜びや、人との繋がる事の大切さをトムから学んだ。

 そんな彼は、他人に対して優しくなっていた。

 

 フィルチは一転して、生徒に好かれる様になった。そしてフィルチも、それを大いに喜んだ。

 休み時間、誰も来なかった彼の事務室には数人の生徒が入り浸り、魔法の研鑽や談笑を楽しんだ。

 彼の事務室の壁を覆っていたホグワーツの規則は全て剥がされ、彼と生徒の手紙のやり取りをする掲示板となった。

 事務室に来た生徒達にフィルチは、トムから教わったやり方で、拙いながらも紅茶とお菓子を振る舞った。

 そして生徒達は、トムにやったやり方で、愛の妙薬入りのお菓子を贈って返した。

 当然、トムと違いフィルチは愛の妙薬に気づかずお菓子を食べてしまい、生徒にメロメロになってしまう事が良くあった。だがフィルチはそれを笑って許した。

 何故なら、生徒達はフィルチが憎くて薬を仕込んだのではなく、じゃれ合いとしてのイタズラだったからだ。

 そんな事が出来るくらい、フィルチと生徒達の仲は縮まっていた。

 だがフィルチは今はもう居ない。

 ホグワーツに、ではない(・・・・)

 この世に、もう居ない 。

 フィルチだけではない。

 ミネルバ・マクゴナガル。

 ポモーナ・スプラウト。

 フィリウス・ウィットフリック。

 計四名。ダフネ・グリーングラスが高等尋問官親衛隊に着任したその日に、忽然と姿を消した。

 

 

 

これが、地獄の始まりだった。

 

 

 

 この時、教師を任命する権利はまだダンブルドアにあった。だが、ダンブルドアはその権利を渡す様求められると、あっさりと権利をアンブリッジに献上。その結果、死喰い人達が新たに教師に就任した。

 授業の殆どは、闇の魔術と純血主義を学ぶ場と化した。

 加えてダフネがアンブリッジに進言し、新たに定めさせた規則の数々は隙がなく、ほんの少しの自由も許されなかった。

 イタズラグッズを持ち込んで云々、などというレベルではない。言動の一つ一つが精密に制限された。

 規則を例えほんの少しでも破った生徒は、容赦なく懲罰を受けた。そしてダフネが行う懲罰は、いや、拷問は尋常ではなかった。

 その余りの悲痛さに、『他の死喰い人の『磔の呪い』の方にしてくれ!』と生徒達が涙ながらに懇願する程だ。

 

 

 

 大広間のド真ん中、ガラスで出来た一辺3m程の立方体が置かれている。

 その中には、全裸になった生徒がいた。

 彼の名前はコリン・クリービー。

 マグル産まれで、両親に動く写真を送るために、よく写真を撮っていた彼だ。

 しかし、そこにいるコリン・クリービーは彼であって彼でない。今、彼は此処が何処かも、自分が何者かも分かっていないだろう。

 ダフネが行う拷問、それは何も与えない事。

 目、耳、鼻、舌を焼き、触覚を遮断させ、五感を封じる。そして彼が何も感じられなくなった所で、薬を飲ませる。それは『超人薬』と呼ばれる薬で、その名の通り、超人になれる。

どんな事があっても発狂しない精神、何も食べずとも生きていける肉体、そして何より体感時間が圧縮される。

 その圧縮倍率、実に50倍。

 つまり、1秒が50秒になり、1分が50分になり、1時間が50時間になり、1日が50日へと変わる。

 コリンがガラスの檻に入れられた期間は3日間。つまり彼の中では150日の月日が経過している事になる。

 

 

 

 彼が檻に入れられてから1時間、それまで大人しかった彼が突然暴れだした。やたらめったら暴れ周り、それから1時間後、今度は自分を殴りつける様になった。

 恐らく彼は、何らかの外的衝撃が欲しかったのだろう。

 だが当然、幾ら自分を痛め付けた所で彼は何も感じない。感じる事が出来ない。

 そして最初の1日が経つ頃、彼は言語を失った。

 獣の様な唸り声や、ゾンビの様な『あー』とか『うー』という音を交互に出すばかりで、意味のある言葉を発しなくなった。

 その頃にはもう人間としての営みを完全に忘れていた。四足歩行で歩き、糞尿を辺り構わず撒き散らした。

 そして2日が経つと、彼は何度も何度も自傷行為を行った。

 自ら舌を噛み切り、腹を捌き、内蔵を食いちぎり、手足をすり潰した。

 外部からの刺激を求めて、ではない。彼は遂に、自殺する事を選んだ。

 だが『超人薬』が死を許さない。彼が傷つく端から、瞬時に回復させてゆく。

 彼は痛みを感じない為、自分の体が果たして傷いているのかさえも分からない。故に、彼は永遠に自分の体を傷つけ続ける。

 死という形でしか、自分の体を確認出来ないからだ。

 しかし、そのゴールが訪れる事は永遠に無い。

 そして3日目、彼は肉になった。

 生物ではなく、肉。

 ピクピクとその場で痙攣するだけで、少しの動きも見せない。いや、稀に狂った様にその場で、陸に上げられた魚の様な動きを見せた。

 口と鼻からは空気と粘液が常に漏れ出て、異様なほど目が飛び出ている。

 人から獣へ、獣から肉へ。

 その過程を、生徒達はマザマザと見せつけられた。

 彼等は食事のために大広間に集まる訳だが、その度にコリン・クリービーを見る事になる。彼を見ながら、食事をする事になる。

 最初は笑っていたスリザリン生ですら、こらえきれない吐き気を催した。

 当然、大広間に集まるのを拒否する事、食事を摂らない事は懲罰対象となる。規則を破れば、今度は自分がコリンの様になる。

 懲罰への恐怖を盾にコリンを見る。そしてコリンを見てより懲罰への恐怖を募らせる。負の悪循環を、ダフネは巧妙に作り出した。

 

 

 

 勿論、反抗する生徒が居なかったわけではない。

 ネビル・ロングボトムがその筆頭だった(・・・)。彼はグリフィンドール寮に相応しい勇敢さを見せ、ダフネに決闘を申し込んだ。

 そして今現在、ネビルは聖マンゴに居る両親の隣のベッドに横たわっている。

 他にジョージ、フレッド、リー、チョウなど、グリフィンドール生を中心に多くの生徒達が挑んでいった。

 そして、全ての生徒が聖マンゴ送りになった。

 彼等はみなダフネに敗れ、心と魂に深刻な傷を負った。聖マンゴの癒者曰く、二度と彼等が自分を取り戻す事はないそうだ。

 そして、反抗する生徒は全て居なくなった、と思われた。

 しかし居たのだ。その寮の名に相応しく、狡猾にダフネ・グリーングラスを討ち取らんとする者が。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 『原作』と違い、失態を犯さなかったルシウスは、闇の帝王の機嫌を損ねなかった。どころか、新魔法省大臣として素晴らしい手腕を見せた。

 マグル産まれの処刑や騎士団に力を貸す者の検挙、その他諸々闇の陣営にとって有利な法案を次々と可決させていった。

故に、息子であるドラコ・マルフォイがダンブルドア殺害の任務を課せられる事もなかった。

 

 

 マルフォイは悩んでいた。

 自分の父が昔死喰い人であった事は、何となく理解していた。

 だが頭で理解するのと、実際に目の当たりにするのとでは訳が違う。

 闇の帝王の復活後、家の中で行われる拷問、殺人、強姦の数々。地下牢から響き渡る悲鳴と死臭。

 そしてそれを行う死喰い人達の愉悦に満ちた笑い声。

 また屋敷しもべ妖精が居なくなった事で、それら(・・・)を片付けるのはマルフォイの役目となった。

 勿論、手で片付けるのではなく、魔法を使って処理する。だが幾ら自分の手を汚さずとも、その作業は彼の精神に多大な影響を与えた。

 そんな劣悪な環境の中、やっとの事で夏休みを終えた。そうして戻ってきたホグワーツでは、また新たな地獄が待っていた。

 そしてマルフォイは気づいた。その根底にあるのは純血主義だ、と。

 自分が信じていた物が、自分を苦しめている。

 自分の中で、価値観が揺らいでいるのを感じた。故に、彼は誰かに相談したかった。

 だがリドルの死によって、議論の場であった探求クラブは無くなってしまった。

 そしてダフネが定めた規則により、新たにクラブを作る事も自由に議論する事も禁止されている。

 彼が誰にも言えない苦悩を抱える中、事件は起きた。

 ネビルを筆頭としてた一部の生徒の反乱。

 そしてそれに関与した生徒達は、全て聖マンゴへと送られた。

 それを聞いたマルフォイは、自分でも正体が分からない、謎の怒りを感じた。

 

 そしてマルフォイは悟った。力でダフネには敵わない、と。

ならば力で戦わなければ良い。自分はスリザリン生らしく狡猾に、知でダフネを倒す。

 マルフォイは、遂にダフネを倒す決心をした。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 様々なクラブや集まりが禁止され、廃止された。だがスラグホーンの食事会、通称『スラグ・クラブ』だけは残っている。

 ヴォルデモートを始めとした、何人もの死喰い人達があのクラブに所属していたからだそうだ。

 グリーングラスを倒すには、仲間がいる。

 『スラグ・クラブ』加入の条件は良い家系の産まれか、スラグホーンが気に入るか、それかとびきり優秀かだ。

 人材を探すのに、これ以上の場所は無い。

 ──今は無き探求クラブを除いて、だが。

 

「やあやあ、遅れてしまってすまないね。それじゃあ、今日のディナーを始めようか」

 

 スラグホーンが巨大なお腹を揺らしながら席に着いた。杖を一振りさせて、食事を用意する。

 食事の内容は僕の家で出るものと比べれば貧しい物だが、大広間で食事をしなくて良いというだけでご馳走だ

 

「乾杯の音頭は──ユウ!君に頼もうかね!」

 

「それは光栄です、スラグホーン先生」

 

 ユウ・サクマ。

 僕が最も引き込みたい人物の一人。

 彼は初日、アンブリッジに喧嘩を売り、そして見事に懲罰を受けた。にも関わらず、彼は前と変わらず普通に過ごしている。

 それから、成績が優秀なのもあるけど、何より注目したいのは彼の人望の厚さだ。

 どの寮にも友人が多いし、彼を好いている女子生徒は学年問わずいる。彼を引き込めれば、必然的に多くの生徒が引き込めるはずだ。

 

「ですが、僕以上に適任がいますよ」

 

「ほお、誰かね?」

 

「セシリアです」

 

「なるほどなるほど。レディーファーストという訳かね!いやはや、私とした事が女性への配慮を忘れているとは。セシリア、音頭を頼めるかね?」

 

「……スラグホーン教授に」

 

 ゴーントの不愛想な音頭に合わせて、ゴブレットを掲げる。

 セシリア・ゴーントは謎の多い生徒だ。

 頭はかなり良い。筆記では、グレンジャーやサクマを上回る程らしい。だけど実技はからっきし。前に一度、アンブリッジの授業でダンブルドアがでなければならない程の大失敗をしたらしい。

 だというのに、サクマを始めとした数多くの、優秀な人間に好かれている。

 それから死喰い人やグリーングラスも、何故か彼女には手を出さない。

 一年生の中ではサクマと並んで、注目されている人物だ。けど彼女は謎が多い。誘わない方が無難かもしれないな。

 

 その後、たわいも無い話が続いた。

 その中で、純血主義に染まっているか、グリーングラスの味方かを判断していく。

 それと、正義感が強すぎる人間もダメだ。

 例え愛する人間が傷つけられても、冷静にじっと機会を待てる人間でなくてはならない。でなければ、ロングボトム達の様になってしまう。

 しかしそういった狡猾な人間はやはりと言うべきか、スリザリンに多い。そしてスリザリン生の大半は、純血主義に傾倒してる。

 だが希望が無いわけじゃ無い、グリーングラスに反感を持っているスリザリン生もいる。

 僕の読みでは、ソフィー・プリエットとジェームズ・プリンダーガスト、あの二人は今のホグワーツを良く思っていない。そして、馬鹿じゃない。

 けど問題もある。彼等は、ゴーントと親しい。彼等を引き込むのであれば、必ずゴーントに話が伝わってしまうだろう。

 やはり、そう都合の良い人物は見つからない。

 

 

 

 

 

「おお、もうこんな時間か!今日のディナーはそろそろお開きの様だ。実に名残惜しいがね」

 

 今日の『スラグ・クラブ』が終わった。

 今日わかった事だが、やはりグリフィンドール生のほとんどにはもう反乱の意思は無い。

 人気者だったウィーズリーの双子がああなったせいか、クリービーへの懲罰を見たせいか、兎に角グリフィンドール生はもう諦めてしまってる。

 そしてハッフルパフ生もそれは同様。

 レイブンクロー生は、恐らく裏切る。彼等は賢い。それが故に、強い者につく。

 そしてスリザリン生もそれは同じだ。けど、全員が全員そうじゃないはずだ。何故なら、僕がそうじゃないから。

 まだ希望を胸に抱いている人間はいる。

 だからまずは、踏み出してみようと思う。

 新たな僕としての、第一歩を。

 

「グレンジャー、頼む。僕に力を貸してくれ」

 

 この日僕は、純血主義を、今までの僕を捨てた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

41 希望

「グレンジャー、頼む。力を貸してくれ」

 

「……それは、ダフネに関しての事かしら?」

 

「そうだ。僕は、彼女をどうにかしたい。だけどもう、僕だけじゃどうにもならない。頼む、力を貸してくれ」

 

僕は深々と頭を下げた。それを見たグレンジャーは大きく目を見開いた後、何かを考え込んだ。

……もし、グレンジャーが僕の事をグリーングラスに密告すれば、僕の人生はここで終わりかもしれない。

だけどこの件に関して、グレンジャーの力を得るには僕の人生を賭ける位のリスクを犯さなければならない。

何故なら、彼女はマグル産まれで、女性だ。

彼女が死喰い人に反抗している事が発覚すれば、凌辱の限りを尽くされるだろう

 

「『開心術』を掛けさせて貰っていいかしら?」

 

「構わない」

 

「ごめんなさいね。『レジリメンス 開心せよ』……いいわ、付いてきて」

 

優れた開心術師は、心に入ったことを相手に悟らせず、一瞬で何十年分という過去を覗くという。

グレンジャーもその域に達してるのだろう。

僕が気がつかない間に、僕の過去を見終わった様だ。

どうやら信頼して貰えた様で、何処かへ僕を案内してくれた

 

「貴方、探求クラブに居たのね」

 

道すがら、グレンジャーが話しかけて来た。

心を覗いた時に、探求クラブでの僕も見たのだろう

 

「という事は、君も?」

 

「ええ、貴方にいつも反論してたのは私よ」

 

正直言うと、それは少し分かってた。

マグル産まれ擁護派で、一番賢い人物と言えば彼女だ。それに気も強い。

いつも反論してくるのはグレンジャーではないか、という可能性に行き着くのに、そう時間はかからなかった

 

僕達が探求クラブの思い出話に花がを咲かせていると、グレンジャーの歩みが止まった。

ここはーー

 

「リドル先生の部屋?」

 

「そうよ。開けてみて」

 

言われるまま、ドアを開けてみる。

中には何もない、埃っぽい部屋だ。ここ何ヶ月も人が入ってない事が一目で分かる

 

「あれだけ賑わっていたのにな」

 

思い出の場所がここまで寂れてしまうのは、何とも言えない気持ちになる。

きっと、同じ気持ちだろうとグレンジャーの方を見ると、何故か慌てていた

 

「ごめんなさい、そうじゃないのよ。此処はリドル先生の部屋であって、リドル先生の部屋じゃないの」

 

グレンジャーはローブのポケットから、鍵を取り出した。

? 鍵は掛かっていなかったが?

グレンジャーが鍵を持ったままドアを開けると、先程までの部屋じゃない、僕の記憶のままの部屋が僕を迎えてくれた

 

「ようこそ、『TA』へ!」

 

僕が思っていたよりずっと、ホグワーツには希望が残っていた様だ

 

 

 

❇︎❇︎❇︎

 

 

 

マルフォイが決心を固める一週間前。

それよりも早く、決心を固めた者たちがいた。

それは、ロンとハーマイオニーの二人だ

 

「……ロン」

 

「ハーマイオニー……」

 

フレッドとジョージが居なくなってしまった直後、ハーマイオニーはロンに何て声をかけて良いか分からなかった。

ただ、何かを言わなければならない気がした。

結局口から出たのは名前だけ。

だがそれで、充分だった

 

「僕は、僕は仇を討つよ。君はどうする?」

 

「私もよ、ロン」

 

こうして、二人の戦いが始まった

 

 

 

❇︎❇︎❇︎

 

 

グリフィンドールの談話室で、ロンとハーマイオニーが向かい合って座っていた。

傍目には、彼等は羊皮紙と本を広げながら真面目に勉強しているただの学生だ。

しかし実際には、彼等は『開心術』によって打倒ダフネ・グリーングラスの会議をしている

 

『必要なのは、信頼できる仲間とグリーングラスに邪魔されない拠点だな』

 

ロンが『薬草学』のレポートを適当に書きながら言った

 

『もう拠点の方ならあるわ。リドル先生の部屋よ』

 

『君、正気か?グリーングラスはリドル先生の【6つ目の部屋】を遺贈されてるんだぞ。ラスボスが住んでる部屋の真上が拠点なんて、そりゃあ安全だろうな』

 

『その心配ならないわ』

 

ハーマイオニーがぴしゃりと言った

 

『【6つ目の部屋】はそこに在るけど、ないの』

 

ロンは一瞬、遂にハーマイオニーが勉強のやり過ぎで可笑しくなったのかと思った

 

『【6つ目の部屋】は空間ごと断絶されてるの。つまり、他の部屋からあの部屋には干渉できないの。逆もまた然りよ』

 

要は【6つ目の部屋】から【5つ目の部屋】には入れないし、逆に【5つ目の部屋】から【6つ目の部屋】に入る事も不可能。

それどころか、物音1つ聞く事も出来ない、という事らしい

 

『それじゃあ、どうやってグリーングラスは【6つ目の部屋】に行ってるんだ?』

 

『恐らくだけど、『姿あらわし』の類を使ってるんだと思うわ。リドル先生はホグワーツ内でも『姿あらわし』が出来たし、グリーングラスもそうしてるんじゃないかしら?』

 

ホグワーツの機能のほとんどは死んでしまっているが、新たにダンブルドアがかけ直した物もある。

『転移不可呪文』はそのうちの1つだ。

しかしどうやら、ダフネは『姿くらまし』する事が出来る様だった

 

『それじゃあ、グリーングラスが他のリドル先生の部屋に『姿あらわし』するかもしれないじゃないか』

 

『出来るでしょうね』

 

ハーマイオニーは勿体ぶってそう言った。

それに対し、ロンは少しムッとしながら続きを促した

 

『ただしそれは、別のリドル先生の部屋に、でしょうけど。私がリドル先生に遺贈された鍵、あれがないと、どんな方法であの部屋に入っても本当の意味では入れないの』

 

その瞬間、『開心術』を通してロンの頭の中に映像が流れ込んでくる。

ハーマイオニーが鍵を持っている状態で部屋のドアを開けると、昔と何も変わらないトムの部屋が待ち構えていた。

再び扉を閉め、ハーマイオニーが『浮遊呪文』で鍵を浮かした状態でドアを開けると、今度は見すぼらしい物置が出てきた

 

『多分、『双子の呪い』の応用だと思うけど、詳しくは分からない。それから、他にも色々と機能があったみたいだけど、ほとんどが死んでしまってるわ』

 

そうは言ったが、ハーマイオニーには部屋の機能を復活させる算段があった。

部屋に残った魔力痕から、掛けられていた魔法を特定し、自分で再び掛け直す。トムの部屋には彼が書いた『防衛呪文』についての本もある。それを使えば、不可能ではない。ハーマイオニーはそう考えていた。

そして事実、彼女はこの後、部屋の幾つかの機能の復元を成し遂げる

 

『まあ、分かったよ。場所はそれでいいよ、贅沢言ってられないしな。でも、メンバーはどうする?いくら君が居るって言っても、アンブリッジと死喰い人、それからグリーングラスを一遍に相手するんだぜ?』

 

実際の所、アンブリッジと死喰い人はそれほど脅威にならない。

事実、ネビル達が反乱を起こした際も、アンブリッジと死喰い人達は倒していた。

しかしダフネ・グリーングラスの登場で、戦況が一変した

 

『それだけど、ジニーにきょーー』

 

「ダメだ!」

 

ロンは『開心術』での会話も忘れ、思わず立ち上がって怒鳴った。

幸い、近くに死喰い人は居なかったようで、数人のグリフィンドール生の注目を集めるだけで済んだ

 

『ロン、落ち着いて』

 

『落ち着いて居られるか!フレッドとジョージがああ(・・)なって、今度は妹までなったら!』

 

『貴方の言いたい事は分かるわ。でも、ここで彼女を止めないと、ホグワーツにいる全員がああ(・・)なるの。ジニーは、こと決闘に関しては私よりも強いわ。それに、信頼できる。彼女の力は絶対に借りなきゃ』

 

ハーマイオニーのその言葉に、ロンは散々悩んだ。

しかし結局は、渋々ながら同意した

 

『僕の方からも何人か勧誘しておく。ちょうどもうすぐ食事係だし』

 

屋敷しもべ妖精が居なくなったホグワーツ。

そこで食事を作っているのは、生徒達自身だ。

何班かに別れ、ローテーションを組んで食事を作っている。班は月毎にランダムで作られる。

そこでなら、普段話さないような人間と話しても不思議ではない

 

『それなら私は、彼女に対抗出来るように自分達を鍛える為の方法を考えておくわね。前にもやっていたから、すぐに出来るでしょうけど』

 

『ああ、分かった。……勝つぞ』

 

『ええ、勿論』

 

それから二週間、二人は魔術の研鑽を積み、人を集めた。

元々『TA』にいたメンバーはダフネの息がかかっている可能性が高く、勧誘出来なかった為、1からのスタートとなった。

しかし、少数ながらも新生『TA』は機能している。

恐らく、ダフネを除いた死喰い人やアンブリッジになら勝てるだろう位の戦力は集まっていた

 

 

 

❇︎❇︎❇︎

 

 

 

「ーーという事が有ったのよ」

 

それを聞いたマルフォイは、ただただ感動した。

何故なら、彼等は同じ寮生や家族をあんな(・・・)状態にされたにも関わらず、自分よりもずっと早く立ち直り、戦いに備えていたからだ。

だが尊敬している、それ故に、とある点が酷く気になった

 

「何故、ポッターが居ないんだ?」

 

マルフォイから見て、ハーマイオニーとロン、それからハリーは仲の良い三人組だった。

過去、ドラゴンを逃したり、賢者の石を守ったり、スリザリンの後継者と戦ったりと、三人で困難に立ち向かっていったはずだ。

それがどうして、ポッターが居ないのか

 

「まさか、ポッターは負けたのか?」

 

ポッターが決闘を挑み、グリーングラスに負けてああ(・・)なる。

それは充分にあり得ることの様な気がした

 

「違うのよ、ただ……」

 

ハーマイオニーはロンとジニーをチラリと見た。

二人とも、無言を返した。

ハーマイオニーに任せる、という事だろう。

マルフォイの記憶を覗いて、マルフォイが彼を慕っていた事を知ったハーマイオニーは、彼にもトムの死の真相を知らせるべきだと思った

 

「リドル先生を殺したのは、ハリーなの……」

 

ハーマイオニーはマルフォイに説明した。

あの夜の事、そしてその結末を。

それを聞いたマルフォイは、しばし考え込んだ。

トムの死の真相による衝撃は、ひとまず心の奥底にしまい込んだ。

今は、それよりも為すべき事があるからだ

 

「それならなおさら、ポッターを仲間に加えるべきだ」

 

「正気か?」

 

「もうバレてると思うから言うが、僕の父上は死喰い人だ。三大魔法学校対抗試合の際、リドル先生と戦った一人だったらしい」

 

そこまで言ってマルフォイは、父上が他の死喰い人に話していたのを盗み聞きしただけだが、と前置きした

 

「死喰い人達が例のあーーヴォルデモートとリドル先生が戦ったり、話してる最中に、どれだけ不意をつこうとしても無理だったらしい。父上やベラトリックスでさえもだ。そしてそのまま、複数を相手しながらヴォルデモートに勝ったそうだ」

 

「つまり君は、ハリーが不意打ちの達人だから仲間に引き入れようって、そう言うのか?」

 

「そうだ!例え不意打ちでも、あの人を倒せる自信のある奴はいるか?」

 

全員が押し黙った。

マルフォイはそれを、満足気に見回した

 

「決まりだな」

 

「でも、どうやってハリーを仲間に引き入れるの?今の彼、ハッキリ言って、腑抜けてるわよ?まあ、私達の所為もあるけど」

 

ジニーの問いかけに、マルフォイはニヤリと笑った

 

「余裕だ。僕が一体何年、ポッターを挑発してきたと思ってるんだ?」

 

全員、その言葉を否定するには思い当たりがあり過ぎた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

マルフォイ達が結託しているちょうどその時、真下にある(正確に言うと無いが)【6つ目の部屋】にダフネ・グリーングラスは居た。

部屋には多くの棚が置いてあり、『神秘部』にある予言の間の様になっていた。そしてその棚の全てにびっしりと小瓶が置かれている。すべての小瓶の中は白い(もや)で満たされている。

この部屋の中に、棚と小瓶の他には一つの鏡しかない。

そしてその唯一の鏡ーー『みぞの鏡』の前にダフネは居た。

ダフネはその白く長い指で、愛おしそうに鏡を撫でた

 

「やっと、貴方様の願いを成就出来ます」

 

当然、この部屋にはダフネ以外の人物は居ない。

だがダフネは、そこに誰かがいるかの様に話してかけている

 

「しかし、滑稽ですね。結局、誰も貴方様のお心を理解出来て居なかったのですから。そう、あのアイベリーでさえも」

 

ダフネはクスクスと笑った。

その笑みは妖艶な女であり、淫靡な魔女であり、穢れなき聖女であり、無垢な少女そのものだった。

ここに人が居れば、きっと誰もがこの少女に堕ちた事だろう

 

「嗚呼、申し訳ありません。アイベリーを乏してる訳ではないんです。ただ、私だけが貴方様を理解しているというのが嬉しくて。女と言うのは、そういう事に悦びを感じる生き物なんです」

 

彼女はイタズラっぽく笑ってローブのポケットからネビルの銀の杖を取り出した

 

「ですがご不快にさせてしまった事は私の罪です。どうぞ私を罰して下さい」

 

そしてそのまま、ダフネは銀の杖を美しい蒼の眼球に突き刺した。

『ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ』

ダフネが自分の眼球をえぐる音が暫く響いた

 

「ええ、勿論です。今お拭きさせていただきます」

 

彼女はたった今まで自分の眼球をえぐっていた杖を、今度は口で深々と飲み込んだ。喉の奥を突き刺し、流石の彼女もえずいたが、それでも吐かずに杖の汚れを舐めとった。

そして杖を引き抜くと、付着した自分の体液を丹念に髪で拭き取った。

彼女は杖が綺麗になった事を確認すると、再び何事も無かったかの様に続きを話し始めた

 

「そういえば、もうすぐ他の貴方様が私を殺しに来るそうですよ」

 

ダフネは自分の真上を指差した

 

「こう言う言い方は変ですが、『分霊体質』が無くなったのは一度お亡くなりになったお陰ですね。これで一応、私を殺しても心配要りませんもの」

 

ダフネはまた、クスクスと笑った。

『分霊体質』ーーそれは、トムの特殊すぎる魂の構造から発生した物だ。簡単に言えば、すぐに魂が分霊してしまう体質を指す。

ハリーはヴォルデモートとのホークラックスになり、魂を自分の体の中に同居させた。

だがヴォルデモートの記憶や知識を得る事は無かった。

しかし、同じくヴォルデモートのホークラックスになったトム・リドルはヴォルデモートの記憶と知識を有した。

それは何故か?

ハリーには体が有った。

体という器の中で、ヴォルデモートとハリーの二つの魂が同居していたに過ぎない。

だから『パーセルマウス』などの身体的特徴だけを受け継いだ。

しかしトムの場合、体、つまり入れ物が無かった。

故に魂と魂は密接に絡み合い、一つの魂となった。

身体的特徴だけでなく、記憶や知識、能力を共有した。

だがその魂は酷く不安定だった。

そう、誰かをうっかりとでも殺してしまえば直ぐに分霊し、『分霊箱』を作ってしまう位に

 

「あら、もうこんな時間……。そろそろ就寝の時間ですね。それでは、失礼いたします。また明日、会いにきますね」

 

ダフネは心底名残惜しそうに、もう一度鏡を撫でた。

そして素早く自分の眼球を治し、部屋から『姿くらまし』して自分の部屋へ『姿あらわし』した。

部屋にあるベットの上では、妹のアステリア・グリーングラスが待っていた。

ダフネは特に何も言わずに着替え、ネグリジェ姿になった。

アステリアは姉が着替えている最中、その淡い肌が露出する様を食い入る様に見ていた。

ダフネは着替え終わるとそのままアステリアを抱きしめ、ベットに入った。

まずアステリアが眠り、続いてダフネが意識を手放した。

かつて悪夢にうなされていたダフネだが、もうそんな心配は要らない。彼女は翌朝まで、心地良さそうに眠っていた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

42 帰還

校長室でダンブルドアとの課外授業ーースラグホーンと分霊箱についての記憶を見た後、ハリーが帰路についているとマルフォイに出会った

 

「よお、ポッター。今日も校長から特別扱いか?」

 

「黙れマルフォイ」

 

久々のマルフォイのちょっかいに、ハリーは無性にイライラした

 

「聞いたぞ、ポッター。殺したのはお前らしいな」

 

誰を、とは言わなかったが、ハリーにはそれが誰のことを指しているのか分かった。

一瞬カマをかけているのかとも思ったが、それなら『殺し』なんて限定的すぎる単語は出てこないだろうと思い、マルフォイは真相を知っていると結論付けた。

マルフォイが知れば、彼はその事を全生徒に広める。そして自分は魔法省大臣である彼の父親に罰せられる。

ハリーはそこまで考えて、『やっとこの時が来た』と思った

 

「そうだ、僕が殺した。あの日、あの夜、確かに僕が殺した!僕が殺したんだ!この事態を引き起こしたのは、僕だ!」

 

ハリーはいい加減、まいっていた。

自分がトムを殺したせいで狂気に堕ちたダフネ。そしてそのダフネが引き起こした残虐の数々。

フレッドやジョージ、ネビルが敗北した日から、全ての責任は自分にあると彼は思う様になった。

そして自分の弱さから犯した過ちを、彼は心から悔いていた。

だがその贖罪を果たす事を、ダンブルドアが許してくれなかった。

彼は一人、罪悪感に苛まれていた

 

「……そうか」

 

「みんなは、ダンブルドア先生は僕の事を『選ばれし者』何て言うけど、全然僕なんて、たいした奴じゃないんだ」

 

「だけどお前は、一年生の頃ヴォルデモートから賢者の石を守った。二年生の頃はスリザリンの継承者からウィーズリーの妹を助け出しただろ?」

 

「あれは僕のお陰じゃない!ただ、そう!運が良くて、友達に恵まれただけだ」

 

「本当にそう思うか?」

 

「・・・どういう事?」

 

「少なくとも僕がお前だったら、賢者の石はダンブルドアに任せてたし、スリザリンの継承者にウィーズリーの妹を引き渡してた。きっと、グレンジャーやウィーズリーもお前がいなかったらそうしてた。大事なのは優秀かどうかじゃない。立ち向かうかどうかだ」

 

「そんな事ない!ロンとハーマイオニーなら、僕なしでも戦ってた」

 

ハリーはそこまで言って、その可能性に気づいた

 

「まさか、あの二人は…戦おうとしてる?」

 

マルフォイは無言で肯定した

 

「ダメだ!止めなきゃ!」

 

「どうしてだ?このままじゃいずれ、暗黒の時代が来る。そうなれば血を裏切る者のウィーズリーとマグル生まれのグレンジャーは死ぬぞ。そうなる前に、グリーングラスを倒すしか道はない」

 

「けど、負けたらネビル達みたいになるかもしれない。最悪、死ぬ事だってある!何もしなければ、少なくとも今は無事だ!」

 

「無理だ!お前ももう分かってるだろ!暗黒の時代は直ぐそこだ!二人を死なせたくないなら、お前がどうにかするしかない!お前が過去、あの二人に助けられたというなら、今度はお前が助けろ、ポッター!」

 

「・・・大事なのは、立ち向かうかどうか」

 

「そうだ!前にした様に、今度も立ち向かうんだ!」

 

ハリーは思い出した。

自分が過去、どんな気持ちを胸に抱き、戦ってきたのか。

そして自分が少々規則を破る傾向にある生徒だった事も。

ダンブルドアが止めた?

それが、何だ

 

「分かった。僕は立ち向かうよ。ただ、その前に一つだけ聞かせてくれ」

 

「何だ、ポッター」

 

「君、本当にマルフォイ?」

 

「最近自分でも、ちょっとそれを疑ってる」

 

マルフォイとハリーはお互い笑い合った

 

 

 

❇︎❇︎❇︎

 

 

 

「みんなごめん!今まで僕は逃げて来た。でももう逃げない。この戦いが終わったら、僕は杖を折って、魔法省に出頭しようと思う。だけど今は一緒に戦わせて欲しい!」

 

マルフォイに連れられて、『TA』の本部である【1つ目の部屋】に入ると、いきなりハリーは頭を下げた。

そこには決意があった。

誰もが感じた。今までの彼じゃない。昔の、勇敢だった彼が帰ってきた、と。

ロンやハーマイオニー、ジニーはハリーを許した。

元々、彼等には許す用意があった。ハリーが自分から罪を告白すれば、それで許そうと思っていた。

皮肉な事に、ダフネの狂気が彼等を再び団結させた。

兄弟や友達をああいう(・・・・)状態にされた怒りと、非道の数々が日常的に行われる極限の状況が、仲間意識を高めた

 

 

❇︎❇︎❇︎

 

 

ハーマイオニーとロン、ジニーと仲直りを済まし、元々面識のあったユウとマルフォイと軽く挨拶を済ませた後、ハリーは知り合いじゃなかった人と自己紹介をした。

まず、マルフォイの恋人のパンジー・パーキンソンと自己紹介をした。

だが彼女はまるっきりマルフォイの事しか頭になく、ハリーの名前を覚えてるかどうかさえ怪しかった

 

「これからよろしくお願いします、ポッター先輩」

 

そして最後のメンバー、ジェームズ・プリンダーガストがハリーと握手を交わした。

彼は『TA』最初期のメンバーであるユウ・サクマがセシリア・ゴーントを勧誘しようとした所、『セシリアを危険な目に合わせられるか!俺が代わりにグリーングラス先輩を倒す!』と言って代わりに加入したそうだ。

何でも彼は、武術の達人らしい。肉体一つでセシリアの暴走する魔術をかいくぐってきた猛者だとか。

魔術一遍頼りの魔法使いなら、不意を突いて一瞬で気絶させられると彼は言った。

ハリーとしても、危険な匂いのするセシリアよりは、この少年のほうが信用出来ると思った。

兎に角これで、『TA』にいる全員と顔合わせが済んだ事になる

 

「それじゃあ、作戦の最終確認をするわね」

 

リーダーであるハーマイオニーがチョークを浮かし、黒板に文字と図を書いた

 

「我々の目標であるダフネ・グリーングラスは基本的に【6つ目の部屋】におり、干渉できません。ですが、高等尋問官親衛隊の任務の際のみ、『闇の魔術に対する防衛術』の教室に居ます。我々はその時を狙います」

 

黒板に書いてあるホグワーツの見取り図。

そこにある『闇の魔術に対する防衛術』の教室に矢印が書かれた

 

「どうして廊下とか、大広間にいる時を狙わないの?」

 

ハリーが疑問を投げかけた。

高等尋問官親衛隊の任務をしている最中は、当然死喰い人やアンブリッジ、他の親衛隊も周りにいる。

どう考えても、廊下や大広間で無防備にしているところを狙ったほうが簡単だ

 

「それも考えたわ。けれど、彼女はそういった時は何の罪もない他の生徒を魅了して近くに置いてるの。彼等を巻き込まずに、彼女のみを倒すのは不可能だわ」

 

「嫌らしいけど、効果的なやり方ね」

 

ハーマイオニーの説明に、ジニーは悔し気に納得した。

しかし、彼女はポジティブだった

 

「でもどうせアンブリッジや死喰い人も倒さなきゃならないし、纏まっていてくれた方が都合が良いのかも」

 

その言葉を聞いたロンは、逞しすぎる成長をしたジニーに複雑そうな表情を見せた

 

「確かに、ジニーの言う通りかもしれないわね。一度にケリをつけたほうが、こっちとしては助かるわ」

 

ハーマイオニーはそう言いながら、ポケットから小瓶を取り出した

 

「『フェリックス・フェリシス』ーー幸運の液体よ。これを全員で分けて飲んで、その効果のある内にダフネを倒す」

 

メンバーは八人。

フェリックス・フェリシスの小瓶一本で半日の効果という事は、均等に分ければ1時間半続く計算だ

 

「まず、ロンが『マフリアート 耳塞ぎ』を使って相手の部屋の外にいる死喰い人を静かに倒す」

 

「任せとけ」

 

ロンがボロボロになった『上級魔法薬学』の本をヒラヒラさせた

 

「そこで私が、リドル先生が考案した『転移不可呪文』を使います。これで『不死鳥の再誕の転移』以外では如何なる転移も出来なくなります。つまり、【6つ目の部屋】に逃げられなくなります。そこで私達が死喰い人を相手してる間にアンブリッジの部屋にハリーとジニー、ユウが突撃する。良いわね?」

 

全員が頷いた

 

「それじゃあ、各自作戦決行予定時刻まで好きにしてて良いわ」

 

そう言うと、足早にハーマイオニーは下の部屋へと降りていった

 

 

 

❇︎❇︎❇︎

 

 

 

「ポッター先輩、糖蜜パイでも如何です?」

 

ユウが人懐っこい笑みを浮かべて、パイを持ってきた。

いつ淹れたのか、紅茶まで持ってる

 

「ありがとう。僕、糖蜜パイ(これ)が好物なんだ」

 

「それは良かった!」

 

糖蜜パイが僕の好物だった事がそんなに嬉しいのか、不思議な位彼は楽しそうだ

 

「こっちの紅茶もどうぞ。恐らく、好みの味のはずです」

 

彼は紅茶が入ったポットを高く持ち上げ、コップへと注いだ。

良い匂いが部屋に広がった

 

「こうやって淹れると、酸素が多く入って美味しくなるんですよ。さぁ、どうぞ」

 

「それじゃあ」

 

普通の紅茶と比べて匂いと甘味が強めだ。後にもしっかり余韻が残る。

確かにこれは、僕の好みだ

 

「君は一体、何処からこう言った情報を仕入れてくるんだい?」

 

「おっと、それは秘密です」

 

ユウはそう言って、イタズラっぽい笑みを見せた。

ハリーはその笑みに、既視感を感じた

 

 

 

❇︎❇︎❇︎

 

 

 

作戦決行の時が来た。

僕とジニー、ユウはそれぞれ『目くらまし呪文』を掛けた箒に乗って突撃する。

アンブリッジの部屋に入ったら、ユウが中から扉に向かって『妨害呪文』を掛ける。恐らくそれで、邪魔が入る事はない

 

「ダフネはアンブリッジの部屋にいるわね」

 

ハーマイオニーが『忍びの地図』で最後の確認を取った

 

「それじゃあ、フェリックス・フェリシスを……持ったわね?みんな、幸運を祈るわ」

 

全員でフェリックス・フェリシスを飲んだ。

幸福感に浸ってる暇はない。効果のある最中に事を成し遂げなければならない

 

「『マフリアート 耳塞ぎ』」

 

ロンが呪文を唱えたのを合図に、箒に跨った。

『目くらまし呪文』で見えないけど、ジニーとユウもそうしたはずだ。

ハーマイオニーとロンが『闇の魔術に対する防衛術』の教室を吹き飛ばして、中に入っていった。マルフォイ達もそれに続く。

中はすぐさま乱戦になった。

僕達箒組は僕の合図で突撃する事になってる

 

「ーー今だ!」

 

ロンが死喰い人の一人を吹き飛ばした瞬間、合図をして僕は地面を蹴った。

見えないけど、他の二人もそうしたはずだ

 

「ッ!」

 

緑色の光線の流れ弾が飛んできた。

間一髪の所でかわせた。でも、その一瞬気を取られた隙にーー

 

「匂いでバレバレだ!」

 

ーー狼人間!!

 

「おい、お前の相手は俺だ」

 

噛まれるその直前、ジェームズが狼人間を横から殴り飛ばした。

狼人間は壁に打ち付けられて、地面に伏した。そのままジェームズは容赦なく、倒れた狼人間の後頭部に踵落としを入れた

 

「『フィニート・インカンターテム 呪文よ終われ』!」

 

死喰い人の一人、アミカス・カローの呪文で僕達の『目くらまし呪文』が解けた。

前を見ると、先頭にジニーそのほぼ真後ろにユウ。そしてちょっと離れて僕だ

 

「『アバダケーー』」

 

「『ステューピファイ 麻痺せよ』!行って、ハリー!」

 

アミカスの妹、アレクト・カローが僕に向かって『死の呪文』を唱えようとした所をハーマイオニーがやっつけてくれた!

ジニーとユウはもうアンブリッジの部屋に入った。

後、少しだ!

 

「そこまでだ、ポッティーちゃん!」

 

「ベラトリックス・レストレンジ!」

 

どうして!?

こいつはホグワーツには居ないはずなのに!

 

「『悪霊の火』よ!」

 

ベラトリックスが杖から大量の火を放った。

一旦、アンブリッジの部屋から遠ざかる

 

「くそっ!」

 

ベラトリックスがアンブリッジの部屋への入り口の周りに火をつけた。

距離も遠い。どうすればーー

 

「ベラトリックス!」

 

「おやドラコ?何故ここーー」

 

「『悪霊の火』よ!早く行け、ポッーーハリー!『ステューピファイ 麻痺せよ』!」

 

マルフォイのーードラコの火がベラトリックスの火を食い止めてる。

ベラトリックス自身もドラコが相手をしている

 

「ありがとう、ドラコ!」

 

ドラコとベラトリックスの閃光の応酬を掻い潜って進む。

アンブリッジの部屋に入る直前、ドラコの火が負けた

 

「『プロテゴ 盾よ』!」

 

ギリギリの所で防いだけど、箒が燃えてしまった!

僕がアンブリッジの部屋に勢いよく放り出されると、扉は再び火に包まれた。

悲しむ暇はない。友達達が僕の箒みたいにならない様、早くダフネを倒さなければならない

 

 

❇︎❇︎❇︎

 

 

部屋に入ると、ジニーとアステリアが戦っていた。

アンブリッジもその前に戦ってたみたいだけど、もうのびていてた。

アンブリッジの部屋は『検知不可能拡大呪文』が掛けられているみたいで、途方もない広さだ

 

「お姉様の所には行かせません!」

 

アステリアの杖から水、いや、液体状の溶けたアメが洪水の様に流れ出来てきた。

そのアメが僕に届くよりも早く、ジニーが全てを凍らせた

 

「ここは私が食い止めるから、ハリーは先へーーダフネの所へ行って!ユウはもう向かってる。けどきっと、一人じゃ勝てない!」

 

ジニーが部屋の先を指差した。

そこには、『忍びの地図』にも載っていない扉があった。

あの先に、ダフネがいる

 

「『ステューピファイ 麻痺せよ』!」

 

「『プロテゴ 守れ』!『エイビス 鳥よ』『エンゴージオ 肥大せよ』!!!」

 

アステリアの閃光をジニーが防いで、そのまま大きな鷲を数羽呼び出した。

しかも、その鷲を『肥大呪文』で更に大きくした。

だけど、アステリアも負けてない。

何十匹もの火で出来た狼を呼び出した。

火狼は空へと駆けて行き、大鷲と食い合ってる

 

「『エクスペクト・パトローナム 守護霊よ来れ』!乗って、ハリー!」

 

ジニーの守護霊、チャリオットが現れた。

けど、いつもの槍を持ってる男が今日はいない。

僕はそのチャリオットに乗ると、一人でに馬が走り出した

 

「させません!『エクスペクト・パトローナム 守護霊よ来れ』!」

 

アステリアの杖から人魚が放たれた。

人魚と言っても、可愛らしいものじゃない。10m近くある鮫の人魚だ

 

「『エクスペクト・パトローナム 守護霊よ来れ』!」

 

僕も守護霊を呼び出して応戦する。

僕の鹿とアステリアの人魚がぶつかり合うのも束の間、ジニーが新たに雷撃を放ち、アステリアが周りの机を避雷針に変えて逸らした。

雷撃でアステリアの目がくらむ中、僕は最後の扉を開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

❇︎❇︎❇︎

 

 

 

「『エクスペクト・ディメンタス 吸魂鬼よ来れ』」

 

「ユウ?…一体何して」

 

ハリーが部屋に入ると、部屋の中は戦場の様に荒れていた。

いや先程までここは本当に戦場だったのだろう。

だがその戦いは終わった様だった。

そして勝者はーーユウ・サクマ

 

「全く、この女ときたら、僕の邪魔ばっかりして。ここまで来るのにこんなに時間がかかってしまったよ」

 

サクマはダフネの魂を全て吸い上げると、ゴミの様に投げ捨てた。

ダフネは受け身も取らず、無抵抗に地面に叩きつけられた。そう、彼女は廃人になってしまった

 

「自由に出歩くのを禁止されたせいで、君と二人きりになる事も出来なかった。その上グレンジャーの奴に『幸運の液体』まで渡しやがって、紅茶に混ぜても無味無臭の中和剤を作るのには苦労したよ」

 

「君は、何を言って……」

 

「察しが悪いな、ポッター。僕の正体は最高の魔法使いにして『闇の帝王』。そう、ヴォルデモート卿だよ」

 

「なっ!」

 

ハリーはその瞬間、あの既視感の正体を悟った。

あれは、幼い頃のヴォルデモート卿だ。

スラグホーン先生に見せた、人を虜にする笑みだ、と。

彼はやろうと思えば、いくらでも魅力的になれた

 

「いや、それは正確じゃないな。ヴォルデモート卿を八割、トム・リドルを二割ずつ混ぜた存在、と言えば良いのかな?どうせ他の人間はここに来れないし、僕の正体をゆっくりと説明してあげるよ。全てが始まったのは、君がトム・リドルを殺した、あの日の夜だ」

 

サクマは、心底愉快そうに笑った

 

「ヴォルデモート卿はあの夜、トム・リドルを殺した時、こう思った『惜しい』とね。彼の能力は素晴らしかったし、有能な人間を数多く魅了していた。ヴォルデモート卿自身も彼の事は中々好いていた。そこで、彼を復活させようとした。勿論、自分の部下としてね。けど彼はそうなる事を見越してたみたいでね、徹底的に不殺を守ってたんだ」

 

殺人を犯せば、魂を多かれ少なかれそこに残す。

ヴォルデモートはその僅かな魂を掬い、賢者の石での蘇生を試みようとした。

しかし、トム・リドルは一切の殺人、いや、他の生物であっても殺さず、魂を一切残していなかった

 

「でも、彼が開発した呪文。感情と想い出を載せる呪文が有るだろ?君が四年生の時、ヴォルデモート卿はそれを受けた。『守護神召喚』の呪文をね。『直前呪文』の応用でそれを復元させて、賢者の石に取り込ませた。そしてその賢者の石をヴォルデモートの新たなホークラックスにした。記憶や想い出はトム・リドル。魂はヴォルデモート。体は賢者の石。それが僕だ。理解出来たかな?」

 

ハリーからの返事はない

 

「……理解出来たようだしそれじゃあ早速ーー死のうか?」

 

次の瞬間、サクマから膨大な殺気と魔力が放たれた

 

「『ステューピファイ 麻痺せよ』!」

 

流石というべきか、ハリーはサクマの話に多大な心的ダメージを受けていたにも関わらず、咄嗟に極大の『麻痺呪文』を放った。

サクマはそれを見て、口を三日月にした

 

 

サクマは先の説明で、意図的に省略した部分があった。

それは、サクマの力が非常に不完全である事。

そしてトム・リドルの『前世』の記憶を、『ユウ・サクマ』を一部受け継いだ事。

幾度無く分霊したヴォルデモートの魂は少なく、トム・リドルの力もほとんど受け継いでいない彼は、魔力量が非常に少ない。

賢者の石の力で回復こそ速いものの、魔力が直ぐに枯渇してしまう。故に、彼の戦闘能力は実の所、ハリーよりも低い。

だが、彼はその解決策を知ってた。

それは、トム・リドルの『原作』の知識の中にあった

 

 

 

 

『麻痺呪文』でも状況によっては死に至る事がある。

例えば、強すぎる『麻痺呪文』を無防備に受け止めたりだ。

腕を広げハリーの閃光を受け止めようとするサクマに彼の、いや、ヴォルデモートの杖が主人を守らんと一人でに呪文を放った。

そして、二人の間に繋がりが出来た。

そう、まるで『原作』の『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』でヴォルデモートとハリーが対決した時のように。

だがあの時とは違い、ハリーが殺そうとしている側だ。

ハリーの杖が兄弟杖を、サクマを殺す事を拒否し、過去にハリーが殺した事のある人間の魂を吐き出した。

ハリーが過去に殺した人間は一人しか居ない。そう即ちーー

 

「ついに、ついに捕らえたぞ、トム・リドル!これで僕はお前とヴォルデモート卿、二人の『闇の帝王』の力を手に出来る!」

 

『やれやれ、見つかっちゃったか』

 

ーートム・リドルを呼び戻した



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネタバラシィ!

セブンでオニギリを二つ買ったらホグワーツ印の赤いマフラーが貰えたので、嬉しくて書きました。


細かい伏線は全て無視してます。あくまで大筋と結末だけです。


本来の原作終了後、ハリーはニワトコの杖をダンブルドアに返します。この話はそこから始まります。

ダンブルドアはヴォルデモートの成れの果てと二人きりのプラットホームで、ニワトコの杖に願います。

誰か助けて欲しい、と。

ニワトコの杖はそれを叶えます。ただし、あくまでニワトコの杖は『死』が作った杖なので、そこには悪意が混じります。

 

ダンブルドアがいた世界から、少しズレた世界。

そこにいた主人公は幼少期、ニワトコの杖に服従の呪いを掛けられ、妹を殺します(この時分霊)。

その後、主人公はニワトコの杖に操られるまま、ダンブルドアとヴォルデモート、その他諸々を助ける為に、ハリー・ポッターシリーズに関する知識を勉強させられます。

元々、主人公に優れた能力はありません。頭がいいはずなのにチェスが苦手だったり、その気になればいくらでも魅力的になれるはずなのにジョークが下手だったり、運動神経がいいはずなのに箒に上手くのれないのは、その辺りが関係しています。

 

その後、成長しきった主人公はニワトコの杖に体を操られ、道に飛び出し、トラックに轢かれて死にます。そして分霊箱の力によって曖昧な存在になった主人公は、ニワトコの杖の力でハリー・ポッターの世界に転生します。

 

そこで原作終了後、プラットホームにずっといたダンブルドアに出会います。ここから1話開始です。

1話で主人公がダンブルドアを見失いますよね? 実はこの時、ダンブルドアは主人公と共に列車に乗っています。

そして列車は原作のハリーが出発した方向とは逆、つまり過去に向かって行きます。

 

プラットホームでは人がごった返しています。人が降りるスペースはありません。質量保存の法則。世界には決まった「総量」があります。そこでニワトコの杖は、手近にいた少女を代わりに電車に乗せ、代わりに主人公をプラットホームに送ります。

すると奥の方から、老婆がやって来ます。老婆は言いました。

片方が生きる限り、他方は生きられない。

しかし、ダンブルドアの願いは両方を救う事。そこでニワトコの杖は、主人公に他方になってもらう事にしました。

この時主人公の転生先は「トム・リドルの日記」に決まりました。

 

制作秘話的な話をするtl、実は日記に転生させるか、ロケットに転生させるか迷っていました。日記だとジニールート、ロケットだとシリウスルートです。

シリウスルートだと原作介入があまりに遅いので、日記ルートとなりました。途中日記の切れ端を渡す事で、シリウスがパートナーっぽくなったりするのは、この時の名残だったりします。

 

閑話休題。

 

その後、主人公は本来死ぬはずだった命を救う事に腐心します。

この時、主人公及びダンブルドアはニワトコの杖の呪縛により、プラットホームでの記憶を失っています。

しかし、みぞの鏡により、主人公は妹の事を思い出します。そこから色々と試行錯誤を繰り返し、自らの記憶を取り戻します。しかし思い出した事により、新たな問題が発生します。

プラットホームで入れ替わりに電車に突っ込んだ少女です。彼の目的は「全てを救う事」その少女も含まれます。この世界の「枠」を空ける為、死ななければなりません。

 

「他方」である主人公はいつかは死ななければならない。それならどのタイミングで、どうやって死ぬのが最高か。

そこで主人公は思いつきます。リリー・ポッターの様にハリーに守りを授けて死ぬのが良い、と。

そしてもう一つ、絶対の守りを授けたハリーを囮にする事を考え付きます。ヴォルデモートはハリーにばかりかまけ、他を疎かにする。それなら他にヴォルデモートを倒す手段を与えればいい、という考えです。

 

その考えをダンブルドアに告げた後、自分は念のため必要最低限のことのみを覚え、後は頭の中から取り出し、みぞの鏡の中に封印します。

そして主人公死亡。同時に死の秘宝破壊、ダンブルドア記憶を取り戻す。

ダンブルドアがハリーにスパイしろスパイしろと言って危険に晒すのは、ハリーは絶対死なないと分かってるからです。一方で友達達と仲違いさせたままにしたり、スナイプを怒らせてハリーから離れさせたのは「あれ、今ならハリー殺せるんじゃね?」と思わせるため。

 

ここから、主人公の計画が狂い出します。

先ず、ニワトコの杖により主人公は「ハリー・ポッターシリーズ」を盲信していました。なので、ハリーやロン、ハーマイオニーが仲違いする、という事が読めなかったのです(ダンブルドアはこの仲違いも主人公の計画のうちだと勘違い)。

また、自分の計画を伝える意味でダフネにみぞの鏡を託したのですが(ダフネならみぞの鏡から自分の記憶を取り出せると考えて)予想以上にダフネの脳内は煩悩に塗れ、邪な気持ちが入ってみぞの鏡から記憶を取り出す事に手間取りました。

その解決法として、ダフネはひたすら自分の煩悩を取り出し続けます。

 

一方、クロはヒント無しで主人公の目的を全て読みきっていました。遺産の使い方もです。

しかし彼女──あるいは彼雌──は人間とは価値観が違い「手段や過程はどうでもいい、結果が重要」と考えました。要は原作で死ぬキャラクター(ムーディーとかシリウス)の手足をバッキバキに折、戦争に巻き込まれない様閉じ込め、全てが終わった後で開放すれば良い。後遺症なぞ知らん、生きてればいいだろ。

そもそも遺産も託された奴が使う必要はない、私が全部一人でやる。という感じです。

ただ、トレローニーだけは、主人公が死ぬキッカケになった予言をした女だったので、怒りのあまり殺してしまいます。新たな予言をされても堪らないですし。

 

その後、やっとダフネは煩悩を取り出し終わり、主人公の記憶を手に入れます。

ダフネは過程を重視するタイプだったので、自分が悪として立ち、ハリー達の団結を促します。

ここでもう一つ、主人公が予期していなかった自体が発生します。

自分の身代わりとして電車に突っ込んだ少女、彼女はあのまま列車に乗り、過去へと進んでいきました。そして彼女はそこで自分の祖先達の血の歴史を見ます。そして帰ってきた彼女は、純血達の恨みや憎しみ、魔法の知識を授かっていました。これがセシリアです。

ちなみに産まれはヴォルデモートの妹です。ただ魔法の才能はなく、孤児院で普通に暮らしてました。

 

これを見ていたクロは、セシリアを殺せば「枠」が空いて主人公が帰ってくるのでは?と考えます。

このタイミングでヴォルデモートも参戦。戦いが始まります。

 

クロはセシリアに敗北、死亡します。

プラットホームで主人公の近くにいた=主人公に近しい存在=この世界での主人公ということに気づいて、すんでのところで攻撃出来なくなったからです。

 

ヴォルデモートはハリーを殺そうとしている間(ハリーは主人公の防御魔法により、絶対に死なない)に遺産が集まり、敗北します。

箒は浮遊魔法ではなく、封印魔法に特化巨大な杖です。その魔法を使い、ヴォルデモートを「器」つまりは日記の中に閉じ込めます。呪文は主人公が昔使っていた部屋に隠してありました。呪文はローブで隠れながら打ったため必中です。

その後、日記をみぞの鏡の中へ。最後に剣でみぞの鏡と外界との繋がりを断ち切って終わりです。ヴォルデモートが改心し、邪な気持ちなく出たいと思った時のみ出る事が出来ます。

 

死亡したクロ、ここでトレローニーを殺した時に発動した分霊箱(ルーナに遺贈した“銀の生き物”)が作動、曖昧な形になって現世に留まります。

その後、ダンブルドアが主人公の杖を使い、昔の様に、曖昧な形になった主人公とクロを、主人公が元いた世界に送ります。

本来クロの「枠」はありませんが、ニワトコの杖が運命を捻じ曲げ殺した主人公の妹の「枠」に収まります。

ここで主人公とクロの話は終わり。その後二人は向こうの世界で会えたのか、どうやって暮らしているのか、記憶はどうなっているのか、などは不明。

私の中では明確な正解があり、また辿り着ける様伏線も張ってる(つもり)ですが、その辺りはボカした方がいいかな、と。

 

最後にネビルに渡しておいた杖に込められた「守護神の呪文」により魂が満たされ、魂を失っていたダフネ、及びネビルの両親が蘇生します(この辺りもニワトコの杖の縛りの一部)。

 

ありがちな感じで、それから10年後。

みたいにやる予定でしたが、10年後の設定を全て忘れました。

ただ、残ったメモの一部にはヨルとルーナ結婚(フラグを立てとく事)と書いてありました。なんだこれ。

昔の私によると、ルーナはバジリスクの毒の研究で魔法動物学者として有名になるらしいです。それだけ。

あ、後今思い出したんですが、マルフォイが魔法省大臣になってた気がします。それでハリーが闇祓い局長で、二人して魔法省を引っ張っていく、みたいなノリだった気が……



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。