救われる話 (高須)
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1話

初作品です。


俺は何を間違ってしまったのだろか。修学旅行の件は、俺の嘘告白で解決したはずなのに………。なのにどうしても、言われた言葉が頭に残る。

 

雪ノ下「あなたのやり方……嫌いだわ」

 

 

由比ヶ浜「もっと人の気持ちを考えてよ ………」

 

 

 

 

まるで、俺のやり方が間違っていると………。でも、他にやり方があったのか?あの状況で他に何ができたのか?考えても考えても、わからない。俺は自問自答を繰り返す。

 

 

 

 

 

 

修学旅行が終わって休日をはさんだ月曜日の朝。目覚めは最悪だった。気分を変えるために、のそのそと身体を起こし、顔を洗いに行く。

そこで気づいてしまった。

「……おいおい、ひどいな。」

鏡に映る自分の目がいつもより腐っていることを。

スゲー腐っている。うん、ほんと、マジでもう死んでるくらい腐っている。まぁ、いつもより腐っているくらいだから大丈夫だろう。あまり気にせずリビングに向かった。そこには朝食を食べている小町がいた。

「あ、お兄ちゃん~、おは……大丈夫?」

 

「どうしたんだ、小町?」

 

「だって、お兄ちゃんの目いつもより腐っているよ。何かあったの?」

 

「別に……なんもねえよ」

 

「……わかった。でも、何かあったらいつでも小町に相談してね。あ、今の小町的にポイント高い」

 

「はいはい、わかったよ。そん時は頼むわ」

 

「うん!」

 

俺は学校に行くため、自転車に乗って行く。学校につくと、クラスの自分の席に着く。いつもと変わらない。周りを見回すと、葉山グループがいた。修学旅行前と変わらない。ただ、何か違和感を感じてしまう。きっと、ただの気のせいなんだろう。

 

 

それから何もなく1日の授業が終わり、部室に向かう 。でもどうしても、すぐに行くことは出来なかった。だから、マッカンを飲んでから行こう。教室を出た時 、由比ヶ浜と目があった気がする。でもそれはただの勘違いだと思い、自販機を目指す。

 

 

15分ほどたち、俺は部室に向かう。部室前に到着したが、中に入ることに戸惑ってしまう。意を決してドアに手をかける。だが、聞こえてきた声に立ち止まってしまう。

 

 

「ヒッキーもう来ないのかな?ゆきのん?」

 

「えぇ、そうかもしれないわね。それに………」

 

「もう、来ないでほしいわ」

 

「………そっか。うん、そうだよね。もう来てほしくないもんね。」

 

 

その話を聞いた俺は、いつの間にか逃げ出してしまった。………信じていた。彼女達ならわかってくれると。結局変わらない。信じても、最後は裏切られる。わかっていたはずだ。今まで体験してきたはずだ。それなのに、どうして……………こんなにも悲しいのだろう。




この話はあまり長くしない予定です。なるべく速く投稿します。


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2話

2話目です。


俺は何も考えられず廊下を歩くと、曲がり角で人とぶつかってしまった。その人は何冊のものの本を持っていたようで、廊下に散らばっていた。

 

「すいません」

 

そう言って、俺はあわてて本を集める。そして、この本の持ち主に返す。この時 、俺は初めて本の持ち主を見た。本の持ち主は女子生徒だった。黒髪のセミロング。端正な顔立ち。清楚な佇まいさを感じさせる。

 

「その……大丈夫なのか?」

 

「はい、大丈夫です。それと、本を拾ってくれてありがとうございます」

 

ありがとうか………自分のやったことで感謝されるのはいつ以来だろう。感謝の言葉で戸惑っている俺に彼女は言う。

 

 

「あの……すみません。部室に本を持って行くのを、手伝ってくれませんか?やっぱり、1人で持って行くには多すぎてしまって………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます。二人で運べば楽ですね。あと、もう少しで着くので頑張って下さい」

 

二人で本を運ぶ。でも、どうして俺は彼女を助けるんだろう。彼女とは何の関わりもない。感謝の言葉を言われたから?いや 、違うな。そうじゃない。けれど、どうしてかわからない。その答えは、今の俺には到底わからない気がした。

 

「着きましたよ。ここが私の部室です」

 

考えているうちに着いてしまったようだ。教室を見回す。どこかあの場所に似ているような気がして、ドアの前に立ち止まってしまう。その時、彼女と目があった。彼女は教室に入らない俺を不思議に思うのだろう。だけど、彼女は優しく笑った。そして、俺の背中を押し前に進ませた。

 

「本はそこの机に置いて下さい。今お茶を出すので、てきとうな所に座ってくつろいでいて下さい」

 

「いや、もう帰るk……」

「ダメです」

 

「まだお礼もしていません。それに……今の貴方を帰したくありません。比企谷君……自分の顔わかりますか?今の貴方はとても悲しい顔をして………今にも消えてしまいそうです」

 

彼女の言葉に俺の身体に衝撃がはしる。今の俺はそんな顔になっているのか。鏡がないからわからない。けれど、彼女が嘘を言っているとは思えない。だが俺はある事に気付いた。

 

「どうして、俺の名前を知っているんだ?」

「………あの…覚えていませんか?」

 

「えぇと………すまん、覚えていない」

 

「……では、自己紹介をしましょう。私の名前は藤咲 礼美(ふじさき れみ)です。文化祭実行委員で貴方に会いました。そして、この文芸部のただ1人の部員であり、部長です。次は貴方の番ですね」

 

「…………比企谷 八幡だ」

 

「……それだけですか?まぁ、いいでしょう。はい、お茶です。熱いので、気を付けて下さい」

 

そして彼女はお茶を出し座った。出された物を残して帰るのは、罪悪感を感じてしまう。だから俺は帰ることが出来なくなってしまった。

 

「では、少し話をしましょう。相談したいこと、自分が好きなもの、何でもいいです。話したい事をどうぞ」

 

「………何で話さなければならないんだ。話したいようなこともない。それに、俺達は今あったようなものだぞ」

 

「それは……あったばかりだから客観的に聞くことが出来るんです。文化祭の件で、貴方は悪人です。でも私は、そうは思いません。だから、話を聞いて判断します。貴方がどういう人なのか。それに……辛いことはためない方がいいですよ。ためすぎたら、潰れてしまいます。だから、話をしましょう。些細なことでいいんです。自分の気持ちを話すことが大事なのです」

 

彼女の真っ直ぐな言葉に、俺は別の事を考える。裏に何かがあるんじゃないか?そして、耐えられなくなる。だから、また逃げ出す。お茶を飲まずに、帰るためドアに手をかける。

 

「私は放課後ここにいます。何か話したくなったら、いつでも来てください。待ってますよ。比企谷君」

 

俺は逃げ出すように出ていく。彼女は善意で言ったのだろう。だが今の俺には、素直に信じることはできない。だから、俺は変われない。

 




書くのは難しいですね。自分の思った通りに書けません。次は、三日後に投稿する予定です。


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3話

3話目です。


憂鬱な気分で家に帰る。玄関には小町の靴があった。どうやら、学校から帰ってきてたようだ。小町はいつものように、リビングにいるだろう。俺は、今は小町と会いたくないと思ってしまう。だから、自分の部屋に行く。そのままベッドで寝てしまう。そのまま何も考えず、ぼーっとする………

 

「お兄ちゃん~ご飯できたよ~」

 

その声で意識を覚醒させる。小町には心配させたくない。その気持ちで、いつも通りにする。リビングに向かう。イスに座る。美味しそうな食事が並んでいる。けれど、今は食べられる気がしない。

 

「「いただきます」」

 

「……………………………」モグモグ

 

「……………………………」モグモグ

 

俺達は食べ始める。しかし、何も会話がない。静かだ。そうしているうちに、小町が沈黙を破った。

 

「……ねぇ、学校で何があったの?」

 

「………何もねぇよ」

 

「嘘だよ!学校で何かあったのはわかるよ………雪乃さんと結衣さんと何かあったんでしょう?」

 

「……………………」ピク

 

「約束したでしょう!何かあったら、相談「うるさい!」……」

 

「お前には関係ない!もうきくな……」

 

「…………ばか」

 

そのまま自分の食器を片付け部屋に戻る。小町が何かを言ったが、聞こえなかった。ベッドに身体を預け考える………小町には酷いことをしてしまった。あれでは、ただのやつあたりだ。後で謝らないと……

 

風呂に入り、寝る。なかなか寝られない。だから、考えてしまう。……これから俺はどうすればいい?どうあの二人と接すればいい?結局はわからない。だけど、あんな辛いところにはもう行きたくない。………奉仕部を辞めよう。そう結論づけて俺は深い眠りにつく。

 

 

翌朝。リビングに行くと、もう小町はいない。先に学校に行ってしまった。だがテーブルには朝食がおいてあった。小町が作ってくれていたようだ。後で何かしてやろうと、思いつつ朝食を食べる。そして、学校に向かう。

 

学校につく。いつものように何事もなく、時間はたつ。そして、昼休み。今日は平塚先生に呼ばれているので、職員室に向かう。俺は覚悟を決める。今日奉仕部を辞める……

 

「やっと来たか。比企谷」

 

「はい。俺も話があるんで」

 

「なんだ言ってみろ」

 

「……俺は奉仕部を辞めます」

 

「駄目だ。それは認められない」

 

「……それは……どうして……ですか?」

 

「君の更正はまだ終わっていない。今の君では駄目だ。」

 

「………そうですか」

 

俺は俯いてしまう。俺は辞められないのか……覚悟を決めたのに。それに、今の俺では駄目……どうしてなのかわからない。

 

「比企谷、今日の部活は来い。来ないのは、私が許さない。これで話は終わりだ。帰りたまえ」

 

俺は職員室から出ていく。結局辞めれなかった。自分がこれからどうすればいいのかわからなくなってしまった…………

 

 

そして、放課後。俺は奉仕部のドアの前に立っている。二人が楽しく話している声が聞こえる。入りたくないが、入らなければならない。だから、いつものようにする。ドアを開けた瞬間、空気が凍ったように静かになった。俺は気にせず、自分の定位置に座る。そのあと、長い長い沈黙を雪ノ下が破った。

 

「………来たのね」

 

「そうだな……」

 

再び沈黙が訪れる。その沈黙を破ったのは、ドアから現れた平塚先生だった。

 

「全員いるな。今から話がある。そろそろ勝敗を決めたいと思っている」

 

「それって、どういう事?」

 

由比ヶ浜がたずねる。それは、俺が入部した時に出来たものだ。

 

「誰が一番奉仕できたのか、依頼を解決できたのかを勝負する。そして、勝った者は何でも言うことをきいてもらえる。」

 

「………どうして今になって言うんですか?」

 

「それは、今の君達が仲違いしているからだ。何があったのかは知らんが、今回はいい機会だと思っている。まぁ、今のところ私の独断により、まだ勝敗は決まっていない。よって今回の依頼、一色いろはの件で決めたいと思っている。」

 

「そうですか。わかりました」

 

俺達二人も頷く。

 

「では、そういうことで。あと比企谷、今回の依頼について二人に聞くといい。それでは、私は帰る」

 

そう言って、平塚先生は帰っていった。俺は今回の依頼について二人に聞いた。要約するとこんなもんだ。クラスメイトのせいで生徒会長に立候補させられた一色。本人はやる気はない。けれど、信任投票で落選するような、カッコ悪いのはしたくない。はっきりいって無理に近い。そう考えていると、雪ノ下が話し出す。

 

「今回の依頼は、貴方にはどうすることも出来ない。だから、邪魔しないで」

 

「………ゆきのん。そうだね。今回はヒッキーは居なくても、私達でできるよ。だから、ヒッキーは休んでていいよ」

 

「…………そうだな」

 

そう言って、俺は部室から出ていく。俺は今回どうしたらいいんだろう。俺ひとりでは、到底わからない。小町に相談してみるか。いや、出来ない。ケンカ中だからな。やはり、ひとりで考えるしかない。考えて……考えて……

 

 

 

「いつでも来てください。待ってますよ」

 

 

 

何故かあの時の言葉を思い出してしまう。今頼ることができるのは彼女しかいない。たった一度だけ。彼女に頼ってみることにする。そうすればきっと、何かが見つかるような気がしたから。そして俺は、文芸部のドアを開く。




予定してたより、投稿するのが遅くなってしまいました。次回からは、なるべく速く投稿していきたいです。


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4話

4話目です。


ドアを開けると彼女がいた。イスに座って本を読んでいる。こちらに気付き笑顔をみせる。

 

「来てくれて嬉しいです。比企谷君」

 

「……相談したいことがある。……聴いてくれるか?」

 

「えぇ、もちろん」

 

そして俺は奉仕部がおかしくなってしまった修学旅行の依頼から、今までのあった事を全て話した。彼女は真剣な顔で聞いてくれた。この話を聞いて、彼女はどう思ったのだろう。彼女の表情からはわからない。だけど今は、教えて欲しい。これからどうすればいいかを。

 

「……俺はどうすればいい?」

 

「……貴方はどうしたいんですか?」

 

「わからない。……だから、教えて欲しい」

 

「……では、貴方はどうしたかったんですか?」

 

「それは………」

 

……俺はどうしたかったのか………あの二人とどうなりたかったのか………奉仕部は俺にとってなんだったのか………考える。

 

奉仕部に入部してから色々あった。いろんな人と関わった。昔の俺では、人と関わることは嫌だった。でも、あの場所での出来事は楽しかった。あの二人と一緒にあの場所でいる時間が楽しかった。あぁ、俺は彼女達とずっといたかったんだろう。居心地の良いあの場所で……

 

答えは出た。奉仕部は俺にとっての初めてできた居場所で、思い出のある場所だった。そしてあの二人は俺にとって…………

 

「俺は欲しかったんだ。あの二人との本物の関係を。二人ならなってくれると思った。ずっと、ずっと欲しかったものを。でも、もう出来ない。俺が全て壊したから……」

 

そう、俺が壊した。結局は自分が欲しいものを、自分で捨てたんだ。

 

「………本物の関係ですか……貴方が考えているものは、きっと素敵なものなんでしょうね。では、貴方の問いを答えましょう。自分を変えてみたらどうですか?」

 

……変えるだと……まるで、今までのやり方が間違っていると……俺にはこんなやり方しか出来ないのに……彼女も俺を否定するのか………

 

「無理だな。俺は変われない」

 

「変われないですか……貴方は変わる気がないだけなんじゃないんですか?」

 

「違う…そんな訳がない」

 

「じゃあどうして、変わろうとしないのですか?今のやり方では、本物は出来なかったのでしょ。なら、やり方を変えないと」

 

「………………………」

 

「貴方は優しい人です。他の人のために、自分を傷付けて救う。でも、貴方は救われていない。だから、今からは自分のために動きましょう。貴方の欲する本物のために」

 

「じゃあ、どうすれば……」

 

「まずは、奉仕部と決別しましょう」

 

奉仕部と決別する。そんなことが出来るのか?俺には到底思いつかない。

 

「………できるのか?」

 

「はい、できますよ」

 

そう言って彼女は笑った。その笑顔を見ると、何故か彼女にはできると思ってしまった。

 

「俺は……俺は、決めた。もう後悔しない。自分のために行動する。俺が欲しい本物を得るために!けど、俺は変われない。俺ひとりではきっと変われない。だから、俺を助けてくれ。俺を変えてくれ」

 

「はい、もちろんです!」

 

 

 

 

あれから俺達は、これからのする事について話し合った。これが上手くいけば、俺は奉仕部を辞められるだろう。でも今は、しなければならないことがある。まずは、小町に謝らなければならない。そして、俺は覚悟を決めて家に帰った。




投稿遅れてすみません。次は三日後に投稿する予定です。


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5話

5話目です。


家に帰ると、玄関には小町の靴があった。小町はいつものように、リビングにいるだろう。そう思い、俺はリビングに入った。小町はソファーに座って、テレビを視ている。ドアの開く音に反応してこちらを見るが、すぐにテレビの方に目を向ける。そんな小町に俺は話しかける。

 

「小町、昨日は悪かった。ちょっとイライラしてて八つ当たりしてしまった。本当にすまなかった」

 

そう言って俺は頭を下げる。誠意をこめて。

 

「………まずは座って」

 

小町に言われたので、俺はソファーに座る。そうすると、小町は真剣な表情で話し出した。

 

「………ねぇ、お兄ちゃん。昨日のことは許してあげる。でも、その代わりに全部話して。何があったのか全部」

 

そして俺は、全てを話し出す。これは決めていた事だ。小町には全て話す事を。だって、小町には聞いて欲しいと思ったから。知っていて欲しいと思ったから。自分の気持ちを。

 

話が終わると、小町が口を開く。

 

「これからどうするの?」

 

「まずは、奉仕部を辞めるために動こうと思っている」

 

それを聞いた小町は、少し何かを考えると

 

「……お兄ちゃん…後悔はしない?」

 

どうやら、小町は俺を心配してくれているんだろう。だから、この解は間違えられない。

 

「あぁ、後悔はしない。もう後悔しないと決めたから」

 

「そっか…もうお兄ちゃんは大丈夫そうだね。それなら、小町はお兄ちゃんを応援するよ」

 

「……ありがとう」

 

これで俺達の仲は元通りになった。これで今やるべき事は終わった。

 

「じゃあ今日は気分がいいから、お兄ちゃんの好きな物を作ってあげる。あ、今の小町的にポイント高い!」

 

「はいはい、ポイント高い……」

 

いつものポイント制に俺はあきれながら、小町の優しさに感謝した。そして、俺達は楽しく食事をした。

 

 

 

 

 

それから時間は夜中。俺はベッドで今日一日について考える。その時、ドアの開く音がした。ドアの方を見ると、小町がいた。部屋は暗いため小町の顔は見えない。

 

「どうしたんだ小町?」

 

「……ちょっと…一緒に寝ていいかな?」

 

いつもと違う小町の様子に、不安を感じる。

 

「………わかった。こっちにこいよ」

 

「………ありがとう……お兄ちゃん…」

 

そう言って、小町はベッドの中に入ってきた。俺達は背中合わせで寝ている。背中から小町の体温を感じる。俺はそれに安心感を覚えてしまう。そして小町が口を開く。

 

「……ねぇ、お兄ちゃん。小町ね嬉しかったんだよ。お兄ちゃんが自分の事を話してくれて。だってお兄ちゃん、いつも自分の事を言わないから。小町不安になるの。お兄ちゃんが考えていることが、わからなくなるから。だからさ、もっと自分の気持ちを話してよ!もっと小町を頼ってよ!」

 

「………小町」

 

小町にそう思わせていたなんて知らなかった。確かに俺は自分の事は話さない。そして自分の中にしまってしまう。それは人に頼る事をしないから。ひとりでやろうとするから。だからそうなってしまうのだろう。だけどもう違う。もう変わると決めた。もう小町を心配させない。

そして俺は眠る。なんだか今日はぐっすり眠れそうだ。

 




予定より三日遅れの投稿ですみません。次は速く投稿できるように頑張ります。


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6話

6話目です。


翌朝起きると、隣には小町はいなかった。俺は顔を洗い、制服に着替えリビングに向かう。リビングに入ると、小町が朝食を食べていた。

 

「あ、お兄ちゃん、おはよう。もう朝食できてるから、速く食べてね」

 

「おお、おはよう。今から食べるわ」

 

そして食べ始める。何か視線を感じて見ると、小町がじっと俺の方を見ている。

 

「………なんだよ?」

 

「えぇとね、お兄ちゃんの目が、いつもと違うだよね。なんか目の腐りがなくなってきているような……」

 

「……そうかい」

 

もしかしたら、内面が変われば外面も変わるのか。そんなくだらないことを考えながら食べる。そして食べ終わり、俺は学校に向かった。

 

 

学校につくと、自分の席につく。そして考える。今日することを。上手くいくかはわからない。だからまずは行動するだけだ。考えをまとめていると

 

「八幡!」

 

誰かの呼ぶ声に気付いた。声のする方を見る。声の主は戸塚だった。

 

「おはよう、八幡。なんだか最近元気ないけど大丈夫?」

 

どうやら心配してくれているようだ。

 

「おう、おはよう。戸塚の顔みて元気になったから大丈夫だぞ」

 

「うん、そっか。ならよかった。あ、そろそろ時間だから戻るね」

 

そう言って戸塚は自分の席に戻って行った。そんな戸塚をみて嬉しいと思ってしまった。

 

 

 

あれから退屈な授業が終わり昼休み。いつもならベストプライスにいくところだが、今日は違う。ある人物に会わないといけない。今、俺はその人物のいる教室の前にいる。そこは一年C組。一色いろはがいるクラスだ。俺は入り口近くにいる生徒に声をかけた。

 

「ちょっといいか?」

 

「はい………」

 

「一色いろはを呼んでもらっていいか?」

 

「はい、わかりました」

 

そう言って、その生徒は一色を呼びに行った。声をかけられた一色と思われる生徒が、俺の方をみてくる。たぶん一色は、誰だこいつと思っているだろう。だけど、こちらの方に来てくれた。

 

「あの……貴方は誰ですか?」

 

まぁ、初対面だからそう質問するのだろう。だから、自己紹介を。

 

「二年の比企谷八幡だ。奉仕部の部員で、お前の依頼について話したい」

 

「そうですか……それって今ですか?」

 

一色は断りそうだな。だからここは

 

「あぁ、今頼む。大事な話なんだ」

 

そう言うと、一色は少し考えて答えた。

 

「はぁ……わかりました。ここではなんで、他の場所でいいですか?」

 

俺はその言葉に頷き了承した。それから、人があまり来ない図書館に移動した。最初に口を開いたのは一色だった。

 

「それで、大事な話って何ですか?」

 

俺は真剣な表情で提案する。俺が奉仕部を辞めるために必要なことを。

 

 

「生徒会長になってくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いろいろあって説得したが、結果は断られた。まぁ、仕方のないことだな。だが、今回一色いろはと話してみて、どういう人物かわかってきた。だから、まだ可能性はある。そう考えて、自分のクラスに戻った。

 

 

 

放課後になり、俺は気分を変えるために千葉に行った。そこでドーナツショップに入った。久しぶりに甘いものを甘いカフェオレでいただきたいと思ったからだ。商品を注文し、座る席を探すと、視界の端に知っている顔と目があった。

 

「あれ、比企谷君じゃん」

 

そこにいたのは、雪ノ下さんだった。俺はとりあえず軽く挨拶をすると、離れた席に座った。しかし、雪ノ下さんが隣に座ってきたので、意味がなくなった。

 

「こんなところで何してるの?」

 

「……暇潰しですよ」

 

「へぇ~そうなんだ………」

 

そう言うと雪ノ下さんは何かを考え始めるた。俺は気まずいなぁと思ってしまった。

 

「……比企谷君なんか変わったね」

 

突然そう言われた。確かに俺は変わったのかも知れない。ただ、奉仕部と決別するまで変わったとは思えない。そう考えていると

 

「雪乃ちゃんと何かあった?」

 

「………………………」

 

雪ノ下さんに問われが、俺は何も返せなかった。

 

「……そっか。雪乃ちゃんダメだったのかぁ~」

 

何がダメなのかは俺にはわからない。それに、この人はどこまで知っているんだ?まったく読めない人だ。

 

「じゃあ私はそろそろ帰るね。あと、比企谷君……君は私と似てきているね。ただ、私とは違い、気付いていないね……それじゃ、バイバイ」

 

そう言って、雪ノ下さんは帰って行った。残された俺には雪ノ下さんが言った意味がわからなかった。考えても仕方がない。俺は残ったドーナツを食べ、家に帰った。




今回は悩まずにすらすら書けました。次の投稿は三日後の予定です。


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7話

7話目です。


あれから数日がたったが、一色を説得できる決定打が思いつかない。このままではだめた。俺では思いつかない。彼女に頼るしかない。そう考えて俺は学校に向かう。

 

 

 

退屈な授業が終わり、時刻は昼休み。俺は昼食を食べるべく、ベストプレイスに向かう。しかし、教室を出る前に誰かから声をかけられた。

 

「ヒッキー待って」

 

声の主は由比ヶ浜だった。あの時から一切話していなかった相手だ。

 

「………なんだよ」

 

俺はぶっきらぼうにこたえてしまう。

 

「その……相談したいことがあるの。ゆきのんのことで……」

 

「………話せよ」

 

自分でも驚くぐらい低い声が出た。

 

「その……今回の件でゆきのん、生徒会長に立候補するんだって。自分が立候補すれば、いろはちゃんが生徒会長にならずにすむからって」

 

この話を聞いた俺は心底どうでもいいと思った。ただ、今回の依頼は俺が解決する。邪魔をしないでもらいたい。ただそれだけだった。

 

「……それだけか?」

 

「待って!…このままじゃ、奉仕部が壊れちゃうよ。ヒッキーだってわかるでしょう。もしゆきのんが生徒会長になったら、ひとりで頑張って奉仕部の方にこれなくなることを……」

 

………おかしいことを言うな。奉仕部が壊れる?何を言っているんだ。もう壊れているんだよ。

 

「ねぇ、ヒッキー、私はどうしたらいいの?」

 

「………知らねぇよ」

 

そう言って、俺は出ていく。こいつと話しているとイライラが止まらない。

 

 

 

ベストプレイスについた俺は、マッカンを飲んで心を落ち着かせた。そして、彼女にメールする。一色を説得するのを助けてもらうために。少し時間がたって、彼女からメールが返ってきた。

 

『放課後、一色さんを連れて部室に来てください。』

 

これをみて、彼女の優しさに胸が暖かくなるのを感じ、勇気付けられた。

 

 

 

時刻は放課後。俺は一色を連れて文芸部の部室にきている。

 

「先輩、ここはどこですか?」

 

「ここは文芸部の部室だ」

 

一色の問いに答え、ドアをノックする。

 

「どうぞ」

 

彼女の許可を得て、ドアを開け中に入る。

 

「どうぞ、開いてる席に座ってください」

 

俺達は椅子に座った。彼女はお茶を出し、話始めた。

 

「まずは自己紹介を。私はこの文芸部の部長をしています、藤咲礼美です。よろしくお願いしますね」

 

「えぇと、私は一色いろはです。よろしくお願いします、藤咲先輩」

 

一色は戸惑いながら返した。

 

「それで~その…何で私をここに呼んだんですか?」

 

「それは、お前の依頼のことだ」

 

「……はぁ、またですか。頼まれても私は生徒会長になりませんよ」

 

やはり一色は俺には説得出来なそうだ。俺は頼りの藤咲の方を見ると目があった。そして笑顔をみせた。

 

『後は私に任せてください』

 

そう言っているようだった。

 

「本当に生徒会長にやる気はありませんか?確かに仕組まれたことですが、この機会は貴方にとっていい方向につながると私は思っています」

 

「……………………」

 

「それに、仕組んだ相手にとってどっちでもいいんです。当選すれば生徒会長にさせることができるし、落選しても負け犬としてバカに出来ますから。だから、もう一度聞きます。貴方はどうしますか?」

 

本当にその通りだな。当選しても落選しても、結局は大変な目に遭う。さぁ、一色はどちらを選ぶ。

 

「私は………」

 

「後、雪ノ下さんが生徒会長に立候補したらしいですよ」

 

「雪ノ下先輩が………」

 

………このままでは一色は嫌々選ぶだろう。本当にそれでいいのか?俺は一色を利用しようとしている。けど何でこんなに胸が苦しいんだ?俺は罪悪感を感じているのか?

 

「もし、2つの選択肢があって、どちらも大変だとしましょう。しかし、貴方の選択する時の気持ちで変わります。自分で選ぶか、嫌々選ぶかで。貴方はどちらを選ぶのでしょうか。私はどちらを選んでも、責めません。ただ、後悔しないようにしてください」

 

……後悔しないように、俺はこんな気持ちでいたくない。だから言う。

 

「一色、俺はお前に謝らないといけない。それは、お前を利用しようとしていることだ」

 

「私を……利用……」

 

「あぁ、そうだ。俺は奉仕部を辞めるためにお前を利用した」

 

「………どうして、本当のことを言うですか?」

 

「後悔したくないから。俺は今変わろうとしている。だけど、お前みたいな人を利用してまで変わりたいと思えなかったから」

 

「……お人好しなんですね、先輩は。そして、優しい上にバカなんですね。……ねぇ、先輩はどうして変わりたいんですか?」

 

「それは、俺は本物が欲しいから」

 

「本物ですか……わかりました。私は決めました。生徒会長になります。自分で選んで決めました」

 

そう言って一色は笑った。その笑顔に俺は嬉しく感じた。

 

 

 

それから、一色と選挙のための話し合いをした。終わった後、一色は帰った。今、この部屋では藤咲と二人きりだ。沈黙ができてしまう。だが、その沈黙を破ったのは藤咲だった。

 

「やはり、比企谷君はすごいですね。結局、一色さんを説得したのは比企谷君ですから」

 

「……そんなことねぇよ。説得出来たのはお前のお陰だ」

 

「……そうですか。後ひとついいですか?」

 

「いいぞ」

 

「比企谷君、貴方は変わっても変わらなくても、その優しさは変わらないですね。それが今日知れて、私は嬉しいです。そして、その優しさを忘れないでくださいね」

 

そう言った彼女は笑顔でいた。俺はそれを見ているだけで、胸に何か暖かいものを感じた。これは一体何だろう?

 

 

 




今回は比企谷君が自分のために人を利用できるのか。そう言った部分を書きました。私の主観では、比企谷君は優しい人なので、出来ないということにしました。また、徐々に自分の内面とぶつかっていくように書いていこうと思っています。


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8話

8話目です。


次の日。今日は全てに決着をつける。奉仕部のあの二人と。そう決意し、俺は学校に向かう。

 

 

 

時刻は放課後。今日は時が過ぎるのが速く感じた。少し気分が高ぶったのかもしれない。俺は廊下を歩きながら、気分を落ち着かせる。今俺が向かっているところは奉仕部だ。全てを終わらせるために向かう。ドアの前につくと、スマホの着信がなった。藤咲からのメールだった。

 

『頑張って下さい。』

 

たったそれだけだった。だけどそれだけで、勇気付けられた。そして俺はドアを開く。

 

ドアを開けた先には二人がいた。一人は無表情で、もう一人は嬉しそうな表情で俺を見ている。

 

「……………………」

 

「来てくれたんだ、ヒッキー」

 

「あぁ、話があるからな」

 

今まで口を閉じていた雪ノ下が口を開いた。

 

「………何の話かしら?比企谷君」

 

「一色の件で話がある」

 

それを聞いた雪ノ下は顔を伏せた。肩を震わせている。その表情は見れない。もしかしたら、怒りを抑えているのかもしれない。

 

「……貴方はまた何かしたの?私は今回は何もしなくていいと言ったはずよ。それすら出来ないの?……それに一色さんの件は私が解決できるわ。私が生徒会長になることで……」

 

「それは無理だな」

 

「それはどうして?」

 

雪ノ下は鋭い瞳で俺を見る。

 

「何故なら一色が生徒会長になるからだ。本人がやる気になった。つまり、この依頼事態なくなったんだ」

 

言うと、二人は唖然とする。それから、由比ヶ浜が言った。

 

「……じゃあ、ゆきのんが生徒会長に立候補しなくてすむって言うことでいいんだよね?」

 

「あぁ、その通りだ。もう一色の依頼は解決した」

 

そう言うと、由比ヶ浜は嬉しそうにした。しかし、雪ノ下は無表情だった。

 

「そう……結局、貴方は……」

 

雪ノ下は最後まで言わなかった。何故なら、誰かがドアを開けたからだ。全員の視線がドアを開けた人物にいく。この部屋に入ってきたのは……

 

「待たせたな。今日は全員いるようでなによりだ」

 

平塚先生だった。俺がこの部室に来る前に呼んだんだ。平塚先生が来たので、俺は本題に移る。

 

「平塚先生、約束通り勝敗を決めてください。今回、一色のやる気を出させ生徒会長になってもらいました。このやり方をしたのは俺です。そして、これにより、この依頼は解決しました。」

 

「……それは本当か?」

 

平塚先生はそう聞いた。これは俺にではない。雪ノ下と由比ヶ浜に聞いている。

 

「………はい、その通りです」

 

答えたのは雪ノ下だった。それを聞いた平塚先生は考え始めた。そして、

 

「……そうだな。勝者は比企谷、お前だ。そして勝者は何でも叶えてもらえる。さぁ、比企谷、君の望みを言いたまえ」

 

あぁ、これだ。これを待っていた。俺が今から言うことは、もう後戻りは出来ない。だけど、それでいい。やっと踏み出せる。

 

「俺の…俺の望みは…奉仕部を辞めることです」

 

「……そうか。君は勝者だ。その望みは叶えられる。私は認めよう。君の奉仕部を辞めることを」

 

「………ありがとうございます」

 

そう言って俺は出ていこうとする。

 

「待って…待ってよ!そんなこと言わないでよ、ヒッキー。辞めないでよ!そんな……そんな……」

 

そう言った由比ヶ浜は泣いていた。でも、俺の心には響かなかった。そして俺はもう一人の部員を見る。無表情で何を考えているのかわからない。

 

「わかってくれると思っていたのね………」

 

「………わからねぇよ」

 

そして俺はドアに手をかける。この部室で辛いことがあった。楽しいことがあった。だけど、今日でもう終わりだ。だから最後に、ありがとう、そしてさよならだ。俺はその部屋から出ていく。

 

 

 

 

今回の件は自分を考えるいいきっかけになった。そこで気づいた。俺は変われない。一人では変われないと。誰かの協力がないと変われない。そう思う。これからの俺は誰かの助けを貰うのだろう。それは、人と関わらない昔の自分とは違う。そう俺は変わった。そして俺は、ある部活に入る。今度は本物を得るために。この暖かい気持ちと共に。そのドアを開ける。

 

 

「ようこそ、文芸部へ」

 

 




これにて私の考える第一章は終わりです。第一章では、藤咲と出会い、奉仕部と決別する話です。この話は第三章まであり、第二章で比企谷君が自分の気持ちについて考える話になっています。自分が考えているより長くなりそうですが、完結までいきたいと思います。


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9話

9話目です。


奉仕部を退部した俺は、文芸部に入部した。あれから俺は、あの二人とは一切話していなかった。そうして月日は流れ、12月の半ば。

俺は、文芸部の部室で過ごすようになった。部室では本を読んだり、藤咲と話したりしている。たまに、材木座がやって来る。何故、材木座が来るのか?答えは簡単だ。自分の原稿を見せに奉仕部に行ったが、奉仕部の空気が最悪で見せれなかったそうだ。あと、俺がいないこともそこで知ったらしい。それで、俺がいる文芸部に泣きついてきた。仕方なく原稿を見ると、相変わらずめちゃくちゃだった。だが、藤咲は丁寧に直す箇所を教えていた。相変わらず優しいやつだと思った。

 

ある日。いつものように文芸部の部室にいると、ドアがノックされた。

 

「どうぞ」

 

藤咲は声をかける。ドアが開いた。

 

「せんぱーい……」

 

来客はこの学校の生徒会長の一色だった。一色の登場に俺達は驚いた。

 

「どうしたんだ?」

 

「助けて下さい……」

 

「とりあえず、話を聞きます。どうぞ座ってください」

 

そう言って藤咲は一色に座るようにすすめる。一色は椅子に座ると口を開いた。

 

「それがですね……生徒会の仕事のことなんですけど……その仕事が大変なんですよ」

 

「どんな仕事何だ?」

 

「もうすぐクリスマスじゃないですか。それで、近くの高校と合同でクリスマスイベントをやろうと話になりまして、地域のためのイベントっぽいんですけど……」

 

「そうなんですか。初めての仕事で大変そうですね」

 

「そうなんですよ。だから手伝ってくれませんか?」

 

「それは生徒会の問題だろ。それに初めての仕事を最初から人に頼るのは違うだろ」

 

「そこをなんとかお願いしますよー」

 

そう言って一色は上目遣いで見てくる。俺は少し考える。そして、結論を出した。

 

「はぁ、仕方がねぇな。手伝ってやるよ。藤咲もそれでいいか?」

 

「はい、それで構いません」

 

「ありがとうございます、先輩方。今日も話し合いがあるのでお願いしますね。別に暇そうなんで大丈夫ですよね」

 

「そうだな………ちょっと待て!今日あるのか。その話し合い?」

 

「えぇと、何か用事があるんですか?」

 

今日、用事があったことを完全に忘れていた。俺はある人物から呼び出されているのを思い出した。

 

「そのすまねぇ。今日、ちょっと用事があったんだ」

 

「そうですか………」

 

一色は困った顔をした。俺は本当に申し訳がなく思った。

 

「大丈夫ですよ。私が行きますから」

 

そう言って藤咲は笑った。それを見ているだけで、胸が高鳴るのを感じた。

 

「じゃあ、藤咲先輩行きましょう。あと、先輩次は手伝ってくださいね」

 

「では、比企谷君また明日」

 

そして二人は出ていった。俺も用事を済ませないといけないな。そう思い、俺は目的の場所に向かった。

 

今、俺は前に来たドーナツショップに来ている。ここで会う約束をしている。中に入り、その人物を探す。そして、見つける。相手も気づいたようだ。声をかけてくる。

 

「久し振り、比企谷君」

 

その人物は雪ノ下さんだった。




今回は短めになってしまいました。次は長くなりそうです。また、諸事情により二週間くらい投稿できなくなるかもしれません。なるべく速く投稿出来るように頑張りたいと思います。


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10話

俺は注文したカフェオレを持って、雪ノ下さんの隣の席につくと、話を切り出す。

 

「それで、話ってなんですか?」

 

雪ノ下さんは俺の顔をじっくりと見る。まるで、品定めされているようで萎縮してしまう。そして口を開いた。

 

「う~ん。比企谷君ってさ、変わったよね」

 

前にあった時も同じことを言われた。あの時は、変わっていないと思っていた。だけど今なら、変わったと思える。

 

「俺は変わりましたよ」

 

「そっか……うん。そんなこと言えるようになったのも、変わった証拠だね。それに、目も腐れがとれているね。すごくかっこよくなったね」

 

まさか雪ノ下さんにかっこよくなったと言われるなんて思ってもみなかった。驚きで思考が停止してしまう。徐々に顔が赤くなるのを感じる。俺は誤魔化すように、カフェオレを飲む。

 

「あはは、照れちゃてる。可愛いね、比企谷君」

 

雪ノ下さんは笑っていた。恥ずかしくなった俺は、話題を変えるために切り出す。

 

「それで話はそれだけですか?」

 

「それだけじゃないよ。まったくせっかちだね~……じゃあ、本題に入るね」

 

そう雪ノ下さんは切り出す。雪ノ下さんの真剣な表情に変わる。俺は息をのんで身構える。

 

「ねぇ、何で奉仕部を辞めたの?」

 

やはり奉仕部のことだ。このタイミングで呼ばれたのは、これしかない。そう思って来た。ただ、疑問がある。何でこの人は俺が奉仕部を辞めたことを知っているんだ。雪ノ下から聞いたのか。嫌、違うだろう。二人は仲が悪いから話したりはしないはずだ。じゃあ、一体誰がこの人に話したんだ。それに、聞いたところで何が目的なんだ。

 

「……ねぇ、話してくれないの、比企谷君?お姉さん聞きたいなぁ~奉仕部を辞めた理由」

 

そう言って催促してくる。この人は俺が話すまで帰らないし、逃げることも許さない。例え、俺が嘘を話しても、追求し真実を話させるのだろう。ここは本当の事を話すべきだ。

 

「それは……あそこに本物がないとわかったからですよ。俺は……本物が欲しいんです。だから奉仕部を辞めました」

 

それを聞いた雪ノ下さんは笑みを浮かべる。その笑みの意味は俺にはわからない。

 

「本物ねぇ……やっぱり、自分のやり方が否定されたからそう思うの?だとしたら、君にとっての本物はすごく歪んだものだね」

 

雪ノ下さんの言葉に、衝撃が走った。

 

「……歪んだもの」

 

「だってそうでしょう。自分のやり方を否定されたからって、逃げたして、そんな人の本物なんてたかが知れているでしょう」

 

……俺は逃げているだけだと。そんな訳ではない。違う、違う、違う。

 

「それに、比企谷君は依存しているよね。あの……文芸部の子に。薄っぺらくなったね、隼人みたい」

 

……俺が藤咲に依存しているだと。それなら、俺が感じたあれは紛い物なのか?

 

「気づいていなかったんだ。………じゃあ、質問するね。比企谷君にとって本物って何?」

 

「…………………」

 

真剣な雪ノ下さんの目を見れなくなった俺は顔を伏せてしまう。答えられない。自分の中にあったものが、すべて喪失した気がした。結局、俺は何も言えなかった。

 

「はぁ……今の比企谷君はつまらないよ」

 

そう言って、雪ノ下さんは席を立つ。

 

「次会うときまでに、答えを用意しておいてね。じゃないと……私が君を……」

 

最後のセリフは聞こえなかった。そして、雪ノ下さんは帰って行った。残された俺は、何も考えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

あれから家に帰ると、小町に心配された。大丈夫だと言っておいた。何もする気に慣れず、食事も取らず、ベッドに横たわり考える。

 

 

「自分のやり方を否定されたからって、逃げたして」

 

そんなつもりはない。逃げ出した訳じゃない。どんな言葉を出しても、言い訳に聞こえてしまう。あの時に弁明出来なかった。それはつまり、認めてしまったと言うことだ。

 

「それに、比企谷君は依存しているよね。あの……文芸部の子に」

 

どこに依存しているのか。自分ではわからない。でも、認めたくはない。そんな関係を求めたくはない。俺は心の中にある藤咲に対しての想いを、依存だとは思いたくはない。

 

「比企谷君にとって本物って何?」

 

自分でもわからなくなってしまった。考えられなかった。でも、ない訳じゃない。あったはずだ。だから、求めたはずだ。

 

 

雪ノ下さんがタイムリットをもうけた。次会うときまでに、俺は見つけなきゃいけない。でも、見つけられるのかわからない。不安になる。けど、もう立ち止まらない。だから、必ず見つける。そう結論付けて、俺は眠る。




久し振りの投稿です。今回は陽乃からの指摘をされる回でした。これにより、比企谷君がどうなっていくか楽しみにしていてください。次回はある人物が出てきます。次回は週末に投稿する予定です。


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11話

まずは、自分の出来ることをする。だから、一色の手伝いをしないとな。それに、約束もしたし。そう考えて、学校に向かった。

 

 

午前の授業も終わり、いつものようにペストプレイスに向かおうとする。肩を誰かに捕まえられる。

 

「比企谷、話がある」

 

振り向いて見ると、そこにいた人物は葉山だった。表情はいつもと違い真剣だった。

 

「何だよ、話って?」

 

「ここでは言えない。だから、場所を移すぞ」

 

葉山はそう言って、勝手に移動し始める。俺はめんどくさいと、思いながらも従い、葉山についていく。ふと思う。いつもと違う違和感を。こんなときに、必ずどこかの腐女子が騒ぐのだが、一切聞こえず、静かだ。教室を出るときに見てみる。腐女子の海老名さんが申し訳がなさそうにこちらを見ていた。そして、海老名さんの隣にいる女子生徒、由比ヶ浜もこちらを見ていた。彼女の目に写っていたのは、何かに期待しているような目だった。

 

場所は変わり屋上。ここにいるのは、俺と葉山だけ。無理矢理連れ出された俺は、不機嫌そうな声で聞く。

 

「それで、話って何だよ?」

 

葉山は真剣な表情で話し出す。

 

「わかっているはずだ。話は奉仕部のことだ」

 

あぁ、なるほど。そういうことか。由比ヶ浜があんな目をしていたのは、こいつに期待したんだ。もう、葉山が言いたいことはわかる。それでも、確認のため聞く。

 

「それが何だよ」

 

「君は奉仕部にいるべき人間だ。もう一度、彼女達とやり直せ」

 

やっぱりだ。俺を奉仕部に戻そうとしている。だけど、それは無理だ。俺は戻るきはない。それにもう、元の関係には戻れない。戻れないところまで俺達は終わっている。

 

「俺は戻るきはない。それに、お前は部外者だ。この事にもう関わるな」

 

この話を終わらそうと言う。部外者にこれ以上、この話をしたくはなかった。それに、関わられたくはない。

 

「待て、確かに俺は部外者だ。でも、君達がそうなってしまったのは、修学旅行の件が関係しているのだろう。なら、俺も関係していることだ」

 

「あぁ、そうかよ」

 

こいつは駄目だ。何を言っても関わってくる。俺が奉仕部に戻るまで。別のことで諦めさせるしかない。

 

「1つ聞いていいか?」

 

「何だ」

 

「お前はあの二人に頼まれたから、俺を奉仕部に戻そうとしているのか?」

 

「………結衣には頼まれたよ。ただ雪ノ下さんとは話していない。でも、二人とも君に戻って欲しいと思っている。俺はその助けをしたい」

 

聞いていないことも話しやがって。でもわかった。頼んだのは、由比ヶ浜だけだと。まったく、イライラしてくる。こいつは俺のことを一切考えていない。俺が悪いと決めつけている。だから、話の本質がわからない。話にならない。もう話すことはない。そう思い、俺は立ち去ろうとする。

 

「待て!君は逃げるのか!」

 

その言葉を聞いて、立ち止まる。逃げるだと。今度は葉山に言われるとは。俺は絞り出すように言う。

 

「……俺はもう他の部に入っている」

 

「……それは聞いている。君が辞めればいい。一応、君のところの部長には許可をもらっている」

 

そんな…そんなわけがない。藤咲が認めるはずがない。俺の奉仕部の退部を応援してくれた。協力してくれた。そんな藤咲が言うはずがない。こいつは嘘をついている。もういい。くだらない。そして、俺は屋上を出ていく。葉山が何か言っていたが、もう聞こえない。俺には届かない。




今回は葉山と話す回でした。葉山のこの行動でどうなっていくか、藤咲が比企谷君の退部を許可した理由、そういったところを上手く書けるようにしたいです。次回はクリスマス会議に出るところです。


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12話

あれから午後の授業にのぞんだが、結局葉山に言われたことを考えてしまった。考えるのに夢中になっていると、いつの間にかに授業が終わり、放課後になっていた。俺は荷物をまとめると文芸部に向かった。

 

部室につくと、藤咲がいた。イスに座って本を読んでいる。たったそれだけで、絵になって見える気がした。綺麗だな。そう思うと、胸が高鳴るのを感じた。俺はそれに気づかれないように、何食わぬ顔でイスに座る。そして本を読みながら、一色が来るのを待った。

 

それから少したって文芸部のドアが開いた。その人物は一色だった。俺達は本を置いた。

 

「先輩。今日はちゃんと来れますよね?」

 

「あぁ、今日は何もないから大丈夫だ」

 

「それはよかったです。昨日は藤咲先輩が来れなくなって大変でしたよ~」

 

はぁ?藤咲はそんなことはしないだろう。藤咲は責任感がある人間だ。自分の言ったことをしないとは思えない。俺は藤咲の方を見た。確認してみる。

 

「そうなのか?」

 

「はい、そうです。昨日は葉山君に呼ばれて、行けなくなったんです。一色さんには申し訳がないです。行くと言っていて、結局行けなくなってしまって、本当にすみません」

 

そう言って、藤咲は一色に謝罪する。

 

「いえいえ、葉山先輩に呼ばれたのなら仕方がないですよ」

 

あぁ、そうか。あの時、葉山が言っていたのは本当かはわからない。けど、藤咲と話をしたことは本当なんだ。俺はそのことに気づいた。

 

「じゃあ、先輩方そろそろ行きましょう」

 

「わかりました。では行きましょう、比企谷君」

 

「……あぁ、わかった」

 

そして俺達は行く支度をして文芸部の部室を後にした。

 

 

 

 

俺達は会議がある場所、コミュニティセンターに到着した。ここは駅のすぐ近くで、人通りが多い場所だ。一色を先頭にコミュニティセンターを進んでいくと、講習室にたどり着いた。どうやらここで会議があるらしい。一色がドアをノックした。

 

「はい、どうぞ」

 

中から声がかかると、一色が先に入っていく。続いて俺達が入る。

 

「え~と、誰?」

 

海浜総合高校の生徒が一色にきく。

 

「うちのヘルプ要員です」

 

一色が雑な説明をした。それで向こうの生徒はこちらをみる。

 

「僕は玉縄。海浜総合の生徒会長をしている。よろしく」

 

自己紹介をされたので俺達もすることにする。

 

「ああ、俺は比企谷だ。よろしくな」

 

「私は藤咲といいます。よろしくお願いします」

 

「うん。お互いにパートナーシップを築いてシナジー効果を生んでいければ言いなって思ってさ」

 

俺達の自己紹介を聞いた玉縄が意味不明な言葉を喋ってくる。こいつ、自分が言っている意味をわかっているのか。

 

玉縄と会話が終わり、一色の近くの席に座る。ぼっーと辺りを見ていると、一人の女子生徒を見えた。その女子生徒は自分の中学の同級生だった。俺は忘れてはいなかった。何故ならば、俺の黒歴史の残っていたから。それは、昔告白して振られたこと。そしてその人物の名は、折本かおり。

どうやら、折本はこちらには気づいていない。こちらから、話すきはないのでこのままでいいだろう。

 

そして、会議が始まった。海浜総合の玉縄が会議を進めていく。

 

「前回と同じで、ブレインストーミングから始めよう」

 

玉縄のその言葉を聞いて衝撃が走る。え、なんだよ。他の奴はわかるのかよ、玉縄が言っていることを。俺は取り敢えず、話を聞いてみることにする。

 

「議題はイベントのコンセプトと内容面のアイデア出しを………」

 

玉縄が進めていくと、海浜総合の生徒から意見が出た。

 

「高校生の需要を考えると、若いマインド的な部分でイノベーションを起こしていかないと………」

 

「そうなると、当然俺達とコミュニティ側とのWIN-WINの関係を築くことを前提条件して考えなきゃいけないよね」

 

「それは戦略的思考でコストパフォーマンスを考える必要があるんじゃないかな。それでコンセンサスをとって…」

 

 

 

俺は絶句した。海浜総合から出た『イノベーション』『WIN-WIN の関係』『コンセンサス』等の意識高い発言により、まったくもって意味のわからない話し合いだった。これで会議をしているのか不思議に思う。俺は一色の方を見てみると、一色は苦笑いをしていた。俺以外の視点が欲しいため、藤咲の方を見る。藤咲は頭をいたそうにしていた。取り敢えず、二人とも俺と似たようなことは思っているとわかった。

 

「駄目だよ、みんな」

 

玉縄が声を出した。これでちゃんとした話し合いになるのか。

 

「もっとロジカルシンキングで考えるべきだよ」

 

それを聞いた俺は呆れた。これじゃ、いつまでたっても決まらない。結局同じことの繰り返しで会議は進む。俺は見ているだけでイライラしてくる。でも、それだけじゃない。もっと別の何かがある気がした。

 

結局、今日は何も決まらないまま終わってしまった。

 

 

 

あれから、帰る支度をしていると、藤咲が本を買いたいと言ったので本屋に立ち寄ることになった。本屋にたどり着くと、ある人物に見かける。

 

「雪ノ下……」

 

「……久しぶりね、比企谷君」

 

その人物は雪ノ下雪乃だった。




いつもより字数が多く書くことができました。今回はクリスマス会議でした。ここからいろいろと変わっていくので、楽しみにしていてください。


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13話

久し振りに雪ノ下と会った。俺が奉仕部を退部してから、一切会っていなかった。それが、本屋で会うことになるとは。

 

「雪ノ下も本を買いに来たのか?」

 

俺は当たり障りのない質問をする。

 

「えぇ、自分の欲しい本を買いに来たの………ところで、比企谷君。そちらの人は確か、藤咲さんだったかしら」

 

俺の質問に答えた雪ノ下は、藤咲の方に視線を向けてきく。その顔は無表情だった。何を思っているかはわからない。ただ、威圧されるような、そんなふうに感じる。

 

「はい、そうです」

 

雪ノ下の質問に藤咲が答える。答えた藤咲は、なんともないように見える。

お互い、一度会っているから初対面じゃない。それは、文化祭の時に実行委員として参加した時だ。まぁ、あの時は二人とも対して関わっていなかったが。

 

雪ノ下は藤咲に向けていた視線を、今度は俺の方に向ける。

 

「そう………ねぇ、比企谷君。少しいいかしら?」

 

そう言って、雪ノ下は儚げな表情を浮かべる。それは、今にも崩れて消えそうだった。だから、俺は……

 

「………わかった。少しだけだ」

 

そう言ってしまう。あまい自分に気付く。雪ノ下の表情に微かな明るさがやどったように見えた。そして、雪ノ下は口を開いた。

 

「……ありがとう」

 

微かな声を俺は聞き逃さなかった。

雪ノ下は深呼吸をしてから話し出す。

 

「もし…あの時…私達が違っていたら…貴方はその…奉仕部を辞めなかった?」

 

……考えたこともなかったな。あの時、違っていたら俺は奉仕部を辞めなかったのか?そうかもしれない。でも、違う。あれは単なるきっかけにすぎない。だとすれば、俺が答えるべきことは……

 

「わからないな。もし、あの時違っていたら、俺は奉仕部を辞めなかったのかもしれない。でも、いずれは辞めていたのかもな。それほど、俺達の関係は脆かったのだから……まぁ、終わってしまったことだから、気にしない方がいいのかもな」

 

俺が話している間、雪ノ下は静かに聞いていた。

 

「そう……そう思っていたのね」

 

雪ノ下はうつむき、声が小さくなっていく。いつもと違い、弱々しかった。

 

「私はもう帰るから、さようなら」

 

そう言って、雪ノ下は歩き出す。こんなのが雪ノ下だったのかと思ってしまう。

 

「待って下さい。雪ノ下さん」

 

藤咲が呼び止める。それを聞いた雪ノ下は、止まる。振り返ることはしない。

 

「何かしら」

 

「貴方は後悔しているんですか?」

 

「……そうかもしれないわ」

 

そう言った雪ノ下はまた歩き出す。今度は立ち止まらない。俺は雪ノ下が見えなくなるまで、ずっと見ていた。

俺にはわからない。彼女達の会話の意味を。きっと俺にはわからない、彼女達の共通する何かがあったのだろう。

 

そのあと、藤咲の希望通り本を買ったりした。外をみると辺りは暗くなっている。俺達は街灯のある道を歩いている。何も言わず、無言で歩く。

 

「ちょうどここまでですね」

 

十字路の別れ道。俺と藤咲の家の方向は違うので、ここでお別れだ。このままだと、俺は葉山の件について聞けなくなる。タイミングを逃してしまう。ここできかなければ……

 

「藤咲……聞きたいことがある」

 

「なんですか?」

 

「どうして俺の退部を認めたんだ?」

 

これを聞いておきたかった。葉山の話が本当か確かめるために。

藤咲は俺の方に視線を向ける。真剣な表情で話し出す。

 

「……葉山君に聞いたんですね。確かに私は認めました」

 

これで葉山が言っていたことが本当だとわかった。なぜか、凄く胸が痛くなってきた。俺はこの気持ちを知っている……またか…

 

「ですが、なにやら語弊があるようです。私が言ったのは、比企谷君が辞めたいのならそれを認めると言うことです。どうやら、葉山君には上手く伝わってないようですね」

 

それを聞いたら胸に感じていた痛みがなくなっていた。あぁ、俺は勘違いをしていただけ。藤咲は俺の意思を汲み取ると言っている。そう思うと、なぜか笑いそうになる。この気持ちはたぶん……嬉しいことなんだろう。

 

「質問に答えたところで、それでは比企谷君。また明日」

 

「あぁ、また明日」

 

こうして、俺達は別れ自分の家に向かっていく。俺の足取りは軽く、すぐに家に着いた気がした。

 

 

 

 

 

時刻は夜中。もう寝る時間だ。俺はベッドに横たわり考える。

クリスマス会議、何故あんなにもイライラしたのか。玉縄達の意味不明な話し合いだけじゃない。出来ているつもりで出来ていないあいつらに、自分をかさねていたから。

 

あぁ、わかっている。雪ノ下さんに言われた通り俺は逃げ出している。別に逃げることが悪いわけじゃない。けど俺は、逃げていけない時に逃げ出した。これが悪いんだろう。そして、藤咲の方に逃げた。居場所を求めて。でも、それだけじゃない。俺は自分の考えを押し付けた。藤咲ならわかってくれると考えて。これこそが依存って言う奴じゃないのか。 そして、安心していたいだけだった。 わからないことは、ひどく怖いことだから。 相手を知ることで、安らぎを得ていたいだけ……

 

だからこそ、俺が求めるものは……完全に理解しあえる関係。でも、それは独善的で独裁的で傲慢な考えだ。そんなことは絶対に出来ないことを知っている。けれど、もし、その関係になることが出来るのなら、それはきっと……本物と呼べるのではないか。

 




やっとここまできました。ここから比企谷君は大きく変わっていきます。


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14話

今日も俺達はコミュニティセンターに来ている。あの意味不明な会議をまたあると考えると、俺はだるいなと思ってしまう。でも、一色からの頼みだから頑張ってみるか、そう決めて俺は会議に参加する。

 

講習室には海浜高校と総武高校の面々が集まっている。皆が席に座り、視線が玉縄に集まる。

 

「じゃあ、始めようか」

 

玉縄の号令により、会議が始まる。

 

「じゃあ、まずは、昨日のブレストの続きからやっていこう」

 

俺はどういった流れになるか考えるために、会議に耳を傾けた。最初に意見を出したのは海浜高校側である。

 

「せっかくだし、もっと派手なことがしたいよね」

 

「あるある。やっぱり大きいことっていうか」

 

それを聞いていた玉縄が難しそうな顔で言った。

 

「……確かに、小さくなりすぎていたかもしれないな」

 

何を言っているんだ?俺はあきれてしまう。

今のところ決まっているのは、日程と場所、そして目的ぐらいだ。そして今決めるべきなのは、肝心の中身。これが決まらないと先に進まない。なのに、それを決めようとしない。

 

「それじゃあ、ちょっと規模感を上げようと思うんだけど、どうかな?」

 

「えぇと、そうですね……」

 

意見をきかれた一色は困った表情をみせる。まずい。このままではまた何も決まらない。ここで何かをしなければ。

 

「ちょっといいか」

 

俺は玉縄に話しかける。

 

「なんだい」

 

「規模を大きくするには時間と人手が足りないぞ」

 

この発言で規模を大きくする意見を、なくすことが出来ればいいが。

 

「ノーノー。そうじゃない。ブレインストーミングは、相手の意見を否定しないんだ。時間と人手をどうするかを話し合って、議論を発展させるんだよ。すぐに結論を出しちゃいけない。だから、君の意見はだめだよ」

 

やはりだめか。しかも、それだけじゃない。この発言で否定的な意見は出せなくなった。失敗したかな……

 

「待ってください!」

 

全員の視線が声がする方向に向く。声を出したのは藤咲だった。

 

「訊きたいことがあります。規模を大きくしたいとのことですが、規模を大きくして何がしたいんですか?」

 

一番最初に規模を上げたいと発言した生徒に視線が集まる。

 

「えーと…その……特にないです……」

 

その生徒は多くの視線により萎縮して答えた。

まぁ、当然の回答だろう。彼等は具体的にしたいものがない。ただ、こういうことがしたい等の曖昧なものでしかない。もし具体的なことがあるのなら、もう会議は終わって、準備が始まっている頃だ。でも、海浜高校の面々はそれがないから遅れている。

 

「そうですか……なら、規模を大きくしなくてもいいんじゃないんですか、玉縄君?」

 

今度は玉縄に質問を向ける。

 

「そ、そうだね。でも、規模を大きくすることで盛り上がると思うんだけど」

 

玉縄が慌てて答える。

まだ、玉縄は規模を大きくすることに執着している。

 

「無駄に大きくしても、薄ぺっらいものになると思います。だとしたら、小さくても中身のあるものにした方が、いいのではないでしょうか」

 

藤咲がそれに対して反論する。

 

「じゃあ、皆でどうするか話し合おう」

 

まだ玉縄は一人で決めれない。周りの意見を聞こうとしている。このままだと、また戻るだけだ。だが、藤咲によって流れができた。この流れを無駄に出来ない。だから俺は席を立ち発言する。

 

「提案したいことがある」

 




久し振りの投稿のうえ、短い文ですみません。次からは1週間に一回は出来るようにしていきます。


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15話

全員の視線が俺に向くのがわかる。ここは重要な場面だ。だからこそ、ここで決めてみせる。

 

「例えば小学生に演劇をしてもらったらどうだ?」

 

これが俺の提案の内容。小学生が参加することによって、規模を大きく出来る。これにより、海浜高校側の意見通りになる。

ただ、それだけじゃない。人手と予算がないなか、それを解決するにはぴったりだからだ。人手は小学生から借りれる。それに小学生の演劇は凝った内容にしなくてもいい。拙くても許される。だから低予算で準備できる。だが、デメリットもある。会場のキャパ問題だ。これはなんとかして解決するしかない。

俺はさらに畳み掛ける。

 

「このイベントの目的の対象となる園児やお年寄りに楽しんで観てもらえると思う。園児は演劇とか普通に好きそうだし、お年寄りは自分の孫に近い存在が見れるから嬉しいと思うぞ」

 

「それに、この案は、規模を大きくしたいという意見を入れての案だが、玉縄はどう思う?」

 

ここで俺はだめ押しとばかり玉縄に話を振る。海浜高校の連中は玉縄にかなりの信頼を寄せている。ならば、それを利用するだけだ。玉縄が賛同するだけで、この案は採用される。しかも、あまり難しくはなく、実現可能な範囲だ。さらに、自分等の意見を入れてあるから否定出来ない。

さぁ、玉縄、お前はどう答える。

 

「うん、それもひとつの案として考えていこう」

 

あっさり返される。やられた。俺の案は却下はされなかったが、後回しにされた。これで元通りになった。また、何も決まらない会議が続いてしまう。

もう時間がない。どうする。考えろ。まだ、何かあるはずだ。

 

 

 

 

 

「ちょっといいですかー」

 

 

突然声が聞こえる。俺は声の主、一色の方を見ると、目があった。一色は意味ありげに笑った。まるで、貸し1つですよと言っているようだった。そして、一色は玉縄の方に視線を向ける。

 

「私的に今の案がしたいなぁと思うですけど」

 

「うん、僕もいい案だと思うけど、他にいい案があるかもしれないから、だから別のがあるのか考えてみよう」

 

「じゃあ、何か出してくださいよ。具体的な案を」

 

一色は玉縄だけではなく、海浜高校の連中に向けて言った。周りが静かになる。当然の結果だ。彼等には明確なしたいことはない。だから、何も言えない。

だが、玉縄が慌てて答える。

 

「まずは、イメージを出してから考えていこう」

 

また、一色がそれに反論する。

 

「イメージばっかり言っているから、内容が決まらないんですよ。それに、もう時間がないんで、はっきりとした事を言ってくださいよ」

 

一色の反論を聞いた玉縄は黙ってしまう。他の海浜高校の連中は顔を伏せている。こいつらは、何もしない、出来ない、言い返さない。事実がその通りなのだから。

もし、このままいけば、総武高校が主導権を握り、このイベントは成功するだろう。けれど、両高校間での雰囲気は最悪になる。それどころが、海浜高校には何も出来ないとレッテルを貼られてしまうのだろう。まぁ、自業自得なのかもしれない。そう片付ければ、簡単なのかもしれない。

だけど、もし、俺が何かをして彼等を助けるとしよう。でもそれは間違っている事だと思う。

誰かに頼るのは簡単だ。だけど何も変わらない。変わるには、悩んで、考えて、努力して自分の問題に向き合って、そうやって得ていくもののはずだ。だからこそ、自分の問題は自分で解決しないといけない。

だから、俺は何もしない。

 

 

 

「それでは、こうしましょう」

 

 

全員の視線が発言者に向く。この雰囲気が悪いなか、藤咲は続ける。

 

「総武高校、海浜高校に別れてしませんか?」

 

いきなりの提案に周りがざわめく。それを気にすることなく続ける。

 

「お互いの主張が合わないのなら、別々にした方がお互いに納得出来るようになると思います」

 

ずっと黙っていた玉縄が反論する。

 

「二高合同にやることに意義があると思うんだよね。別々だとシナジー効果が薄れると思うんだけど」

 

「お互いの意見が合わないのに、無理矢理一緒にやって、相乗効果が生まれると思いますか?」

 

すぐさま藤咲が返す。玉縄の顔が歪む。

 

「だからこそ、二高別々にすることで効率化し、競い合う形にしましょう。そうすれば、より良いものになるでしょう」

 

藤咲の提案は両高にとっていいはずだ。総武高校は自分等の好きに出来るし、海浜高校は自分等だけでも出来ると証明することが出来る。デメリットもあるが、メリットの方が大きい。

 

「異議のある方はいますか?」

 

そして、この提案は承認され、二高別々にすることになった。

とりあえず行動方針が決まった。保育園とデイサービスに入場者数の確認をしてから、小学校に協力のお願いをすること。そして、俺達は行動に移した。

 

最終的に参加人数見込みができ、小学校の協力を得られることになった。これでなんとかうまくいきそうに思える。

 

 

 

 

 

そして、翌日の放課後。俺達はまた一色を文芸部の部室で待っている。待っていると、ドアがノックされる。

 

「どうぞ」

 

ドアから意外な人物が入ってくる。

 

「お邪魔するよ」

 

入ってきた人物は葉山だった。そして、その後ろには二人の女子生徒がいた。その人物は由比ヶ浜と雪ノ下だった。




今回は前回と比べ、文字数が増えました。このまま増えていけるように頑張りたいと思います。


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16話

俺は入ってきた人物の顔を見る。葉山は自信のある顔つきで、由比ヶ浜は不安な顔つきにみえる。ただ、雪ノ下は無表情で何を思っているかわからない。

めんどくさい予感がする。やっとイベントの準備を始めることが出来たんだ。ここで時間をとられてたまるか。

さっさと終わらせよう。俺は葉山に質問する。

 

「……何のようだ?」

 

「君と二人を仲直りさせたくてね」

 

まだ葉山は諦めていなかったようだ。だが、俺には関係ない。

 

「俺には何も話す気はない」

 

「うん、君は話し合う気がないみたいだから、俺が二人を連れてきたよ」

 

由比ヶ浜が前に出て話し出す。

 

「ねぇ、ヒッキーもう一度話し合おう……」

 

そう言った彼女は、いつものように明るい表情ではなかった。由比ヶ浜はまた戻れると思っているようだ。ただ、俺はそう思わない。何回話し合ったところで変わらない。なぜなら、俺にはもう別の居場所があるから。逃げている、そう言う言い訳に聞こえるかもしれない。それでも、ここが俺の新たな居場所なんだ。それを大切にしたい。

雪ノ下も由比ヶ浜同様に、そう思っているのか?戻りたいと。俺は雪ノ下を見る。雪ノ下は無表情のまま、俺達を見ながら佇んでいる。どうやら、雪ノ下は別の事を考えているようだ。

 

「そう言うことだから、藤咲さん、少し外してくれないか」

 

葉山が藤咲を追い出そうとする。葉山の考えはわかる。確かに、当事者同士の話し合いに部外者を入れるのは間違っている。けれど、ここは藤咲の部室なんだ。いきなりやって来て、出ていってくれなんて言う方が間違っている。

 

「それは何故ですか?」

 

藤咲もわかっているはずだ。それでもきいている。何をするきだ?

 

「そんなの当然の事だよ。これは奉仕部の問題だから、部外者である藤咲さんは席を外すべきだよ」

 

「それはわかります。でも貴方も部外者でしょう?」

 

葉山の顔が歪む。でもすぐにもとの表情に戻る。

 

「そうだよ。でも俺は仲介役として話し合いに参加するよ」

 

葉山は仲介役としての立場を使い、奉仕部の話し合いに参加しようとしている。俺はそんな役頼んでいないが。

 

「では、私も仲介役として参加します」

 

「それは……」

 

「何か問題でも?」

 

話し合いで一番怖いのは、数の暴力だ。少数の意見より多数の意見は正しいとされる。例えそれが間違っていても。だから、藤咲が話し合いに参加するのは、俺にとって安心できることだ。

 

「でも、仲介役は俺ひとりで出来るから、必要ないよ」

 

まだ葉山は諦めていない。

……と言うか、葉山は藤咲を参加させない事に固執しすぎているんじゃないか?藤咲に参加されると、嫌な理由でもあるのか?

 

「どうやら葉山君は奉仕部の二人よりの考えをお持ちのようですね。それだと、公平にならないと思います。だから、私が参加することで公平になるでしょう」

 

葉山の顔がまた歪む。痛いところをつかれたようだ。

 

「もういいよ!隼人君!」

 

突然の由比ヶ浜の声に辺りは静かになる。そして由比ヶ浜は俺を見てくる。

 

「ねぇ…ヒッキー…もう一度奉仕部に戻ろう。また三人で活動しよう」

 

甘い囁きだな。昔の俺ならその提案を受けていただろう。だが、違う。今の俺には受け入れられないものだ。

 

「……悪いが俺は戻る気はないぞ」

 

「そんな…嘘だよね。そんなわけがないよね。ねぇ、ヒッキー……」

 

壊れたように由比ヶ浜は同じことを言い続ける。

 

「いいかげんにしなさい!」

 

突然の声に由比ヶ浜が正常になる。周りの視線が雪ノ下に向く。今まで、何もせずたたずんでいた雪ノ下が動き出す。

 

「もうあの3人での部活には戻れないの。由比ヶ浜さん、貴方もわかっているでしょう」

 

「ゆきのん……」

 

雪ノ下はまるで自分に言い聞かすように話している。

例えもし、俺が奉仕部に戻ったとする。でもそれは、自分の気持ちを偽ることだ。自分の気持ち偽らないと成り立たない関係なんて欺瞞だ。偽りの関係を認めることは、俺には出来ない。

 

「待ってくれ!雪ノ下さん「黙りなさい」……」

 

葉山が口を出すが、雪ノ下が黙らせる。雪ノ下は真っ直ぐ由比ヶ浜を見つめる。

 

「いつまでも、こだわるのはやめなさい」

 

ぴっしゃりと言いはなつ。誰も口を挟めず、辺りは静かになる。

ぽつり、ぽつり、由比ヶ浜から聞こえる。

 

「……そんな……そんな……」

 

由比ヶ浜は泣いていた。頼りになるはずだった雪ノ下に拒絶され、かなりのダメージを受けている。味方の葉山は呆然と立ち尽くしていた。

由比ヶ浜はうつむき、歩き出した。ドアの方へ。見かねた、葉山が腕をつかみ、とどませようとする。

 

「まだ、話は終わっていないよ。俺がなんとかしてみるよ……」

 

「うるさい!」

 

そう吐き捨てると、葉山の腕を振りほどき、由比ヶ浜は出ていった。葉山は一度俺達を見たが、すぐに由比ヶ浜を追っていった。残された俺達はただ沈黙するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

沈黙を破ったのは藤咲だった。

 

「あれでよかったんですか?」

 

「えぇ、いいのよ。あれで」

 

雪ノ下はそう言った。これで俺達は終わった。すべてが終わった。

 

「ねぇ、比企谷君、私は今日謝りに来たの。聞いてくれる?」

 

雪ノ下もあれから変わった。そんな彼女の話を聞いてみたかった。

 

「あぁ、いいぞ」

 

俺は雪ノ下を見つめる。真剣に聞く。

 

「……ありがとう。あの時、私は解決法を貴方に任せると言った。なのに、私はそれを否定した。ごめんなさい」

 

俺はあの時のことを思い出してしまう。あの時、間違っていたのは……

 

「お前だけじゃない。俺も悪かった。あの時、勝手にお前達ならわかってくれると押し付けて、失望した。だけど、今ならわかる。あの時、誰もが正しくて間違っていたと。だから、謝るな」

 

今の俺に謝罪なんていらない。

 

「……わかったわ」

 

雪ノ下は笑顔を見せた。それは、今まで見たことのないものだった。

突然ドアが開き一色が現れた。走ってきたようで、髪が乱れていた。

 

「すいません、遅れました」

 

「それでは行きましょうか」

 

藤咲が支度をして言う。

 

「ちょっといいかしら?」

 

雪ノ下が藤咲にきく。

 

「何ですか?」

 

「比企谷君を借りれるかしら?」

 

いきなりの事で俺は驚く。二人の視線がぶつかりまくっているのがわかる。お互いに何かをよんでいるようだ。

 

「……わかりました。比企谷君、私達は先に行ってます。では、一色さん行きましょうか」

 

一色は頷いた。それから一色と藤咲は出ていった。

 

「で、話は何だ?」

 

雪ノ下は真剣な表情で俺を見てくる。そして、深呼吸して話す。

 

「私は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はコミュニティセンターに一色を探した。仕事を貰うために。一色からは小学生の手伝いをお願いされた為、小学生のいる場所に向かった。そこには、藤咲がいた。俺は近づくと藤咲はある小学生を見ていることに気づいた。その小学生は周りと比べて、落差があった。俺は知っている。夏休みの千葉村であった小学生、鶴見留美だった。

 

「昔の私のようですね……」

 

ぽつりとこぼされたものを、俺は聞き逃さなかった。俺にも暗い過去があるように、藤咲にもあると気づいた。

 

俺は鶴見に声をかけてみることにした。鶴見は俺を覚えていた。だが、鶴見の周りの人間関係があまりよくないとわかった。俺はなんとかしてやりたいと思う。だから、ここで何かをしようと決めた。

 

 

 

 

今日一日を振り替えると、かなり進んでいた。これなら、当日のクリスマスイベントに間に合うだろう。

だが、別の問題が出来てしまった。個人的なものだが、あの後、雪ノ下に言われたことが頭から離れない。それは難しい問題で、解決するには認めたくないものを認めるしかない。俺に出来るのか……不安になる気持ちのまま、今日一日終える。




今回で文字数が3000をこえました。これからも、どんどん増やしていきたいです。


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17話

今日は日曜日。

今、俺は駅前で藤咲を待っている。時刻は9時30分ぐらい。集合時間より30分ぐらい早い。小町に言われて早く来たが、どうやら早く来すぎてしまったようだ。待っていると、通りかかる人からの視線を感じる。特に高校生ぐらいの女子からの熱ぽっい視線を感じる。目立ちすぎているのか?今日の俺の服装は小町に頼んで選んでもらったものだ。小町いわくかっこよく出来たそうだ。

何も考えないようにするために、静かに目をつぶって待つ。しばらくすると、後ろから声をかけられる。

 

「すみません、お待たせしました」

 

目をあけ、後ろをふりかえると、藤咲がいた。いつもの学生服ではなく、私服だった。初めて私服を見ることになった。何だか新鮮な感じがする。

 

「たいして待っていないから大丈夫だ」

 

「それならよかったです」

 

そう言って藤咲は笑顔をみせる。俺はなぜか直視出来なく、目を背ける。胸の動悸がヤバイ。

その時、小町に言われたことを思い出した。女の子に出掛けるとき、まずは服装について言うこと。これが大事だと言うことだそうだ。恥ずかしい気がするが、言われた通りに頑張ってみるか。俺は話し出す。

 

「…なんだかいつもと違った服装で新鮮な感じがするな…そのかわいいと思うぞ」

 

勢いですごく恥ずかしいことを言ってしまった。穴があったら入りたい気分だ。

 

「その…ありがとうございます…」

 

そう言った藤咲は顔を赤く染めてうつむいている。

なんだか雰囲気が変になってしまった気がする。この空気をなんとかするべく、俺は慌てて促す。

 

「そ、それじゃ行くか?」

 

「はい」

 

俺達は改札口へと向かう。

今日の目的地は高校生がデートスポットによく使われると噂の、ららぽーとである。そこで俺達はデートをする。

なぜデートすることになったのか。それは、確認をしたかったためである。俺が藤咲に対してどう思っているのか。でも、それは考えてもわからなかった。ひとりではわからず、悩んでいると小町から話しかけられた。何でも話すと前に言ってしまった以上、話さないといけなかった。だが、それ以上に聞いてほしいと思った。だから、俺は小町に相談することにした。小町から返ってきた言葉は「もっと関わりあったら」だった。その通りなのかもしれない。まだ俺達は出会ってからそれほどたっていない。藤咲については何も知らない。だから、もっと関わりあうことで、わかるのかもしれない。新たに知ることになるかもしれない。

そして、小町のすすめでデートすることにした。

 

電車で揺られながら駅に着き、少し歩くと俺達は目的地にたどり着いた。休日なので人通りは多い。今日の日程を確認をする。映画館で映画を見た後、昼食を食べ、ショピングをする。普通の予定だ。まずは、映画館へと向かった。

今回みる映画は原作がある小説のものだ。俺も藤咲も読んだことのあるものだ。内容はある少年に突然ある力を手にする。その力は、タイムスリップ。主人公はその力を使いいろいろとするが、心は満たされなかった。そして、自分が一番後悔している過去に戻り、救えなかった少女を救う物語だ。シリアス要素あり、恋愛要素ありで人気の映画だ。

映画館に入り、券を買い、座席に座る。藤咲の方を見ると楽しみしているようだ。俺は話しかける。

 

「なんだか待ちきれないみたいだな」

 

「はい!私はこの作品が好きなんですよ。だから、今日は凄く楽しみにしていて……」

 

話の途中で、辺りは暗くなる。もう少しで、上映が開始される。藤咲はスクリーンに釘付けだ。俺もスクリーンに視線を戻し、思ってしまう。藤咲の好きなものを知ることが出来て嬉しい。そして、今日を楽しみにしていてくれてもっと嬉しいと。

 

 

 

上映が終わる。原作の小説と違ったところがあったが、なかなか面白かった。藤咲も満足そうな顔をしている。今日誘って本当によかった。

スマホを見る。時刻は12時を過ぎてるところだ。

 

「そろそろお昼だし、飯でも食いに行くか?」

 

「はい」

 

俺は藤咲を連れておしゃれなカフェへと向かった。

目的地に着くと、空いている席に座る。藤咲はキョロキョロと周りを見ている。どうやらこういったところは初めてのようだ。

 

「好きなもの頼んでいいぞ」

 

そう言ってメニュー表を渡す。藤咲はメニュー表を見て少し悩んだ後、パスタとデザートを頼んだ。俺はサンドイッチとコーヒーを頼んだ。

 

「ここは雰囲気がいいですね」

 

「そうだな」

 

突然の言葉に俺は同意する。のんびりとした空気が俺達を包む。それから少したって料理が出てくる。俺達は食べはじめた。

なんだか上品に食べるなぁ。サンドイッチを食べながら藤咲を見てそう思う。

 

「……その…食べますか?」

 

藤咲が手を止めきいてくる。どうやら長く見すぎて勘違いさせてしまった。

 

「いや大丈夫だから、気にせず食べてくれ」

 

「…サンドイッチだけでは足りないのでは?それに量が多いので食べてくれませんか?」

 

そう言って皿に視線を向ける。確かに、俺のサンドイッチも含めかなりのボリュームがある。藤咲ひとりで食べきれるのはちょっと難しい。

 

「じゃあ、貰おうかな」

 

「それでは、はいあ~ん」

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

藤咲がフォークにパスタを巻いて食べさせようとするのを、俺は止める。そんなことしたら、恥ずかしくて死にたくなってくる。

 

「別に食べさせようとしなくていいから。皿に取り分けてくれていいから」

 

「でも、取り分け皿はありませんよ?」

 

いたいところをつかれた。このままでは、間接なんとらが……

 

「でも、やっぱり藤咲だって気にするだろ?」

 

「私は気にしませんよ。だから、はいあ~ん…」

 

その後、恥ずかしさやらなんやらで何も考えられなかった。

 

 

 

 

食べ終わり会計に行こうとする。

 

「ここは俺に払わせてくれ」

 

俺は藤咲に言う。今日は付き合ってもらったんだから、それぐらいしたい。

 

「しかし……」

 

「大丈夫だから、ここは俺におごらせてくれ」

 

「…わかりました」

 

なんとか藤咲を説得したが、凄く申し訳がなさそうな顔をしていた。気にせず会計をすませた。

 

午後は予定通りにショピングをすることになった。そして、藤咲の希望により雑貨屋に行く。雑貨屋に着くと、別れて見回ることにした。

 

一回り見終えると俺は藤咲の方に戻った。藤咲は何かをみていた。

 

「それは、オルゴールか?」

 

「はい、そうです。私はこういうの好きでして…」

 

そう言って手に取る。俺は値段を見てみた。代々二千円ぐらいだ。これなら、買ってあげれるだろう。

 

「買ってやるよ」

 

藤咲に向かって言う。

 

「ダメですよ。昼食をおごってもらったうえ、いただくなんて……」

 

「いや、いいんだ。今日付き合ってもらったとして受け取ってくれ」

 

「ですが……」

 

「感謝の気持ちとして受け取ってくれ」

 

藤咲はしぶしぶとだが受け取ってくれた。

その後も、ショピングを続け楽しく過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夕暮れ。

俺達は千葉に戻り、家に帰っている途中だ。歩きながらも、今日一日あったことを振り替える。そして、思い出す。雪ノ下との会話を。

 

 

 

「私は……あの時……貴方が上辺だけの関係を守ろうとしたことを許せなかった。ただ、それだけじゃなかったの」

 

少しずつ、雪ノ下は感情を露にする。

 

「それは……貴方が嘘でも告白したことが許せなかったの……」

 

雪ノ下から発せられる想いに、俺は目を背けられない。

 

「だって…私は……」

 

そこから先はなんとなくわかってしまう……

 

「貴方のことが好きだから!貴方を否定した私がこんなこと言う資格はないかもしれない。間違っているのかもしれない。でも、自分の気持ちを整理したいから……」

 

雪ノ下の想いから自分の心に響いてくるのをを感じる。

 

「私と付き合ってください」

 

頭を下げ、誠意をみせてくる。

こんな美少女に告白されて、普通なら嬉しくて、OKの返事をするだろう。たが、俺の中に出てきたのは藤咲の顔だった。それは一切離れない。

 

「……悪いな、お前とは付き合えない」

 

出てきた言葉はそれだけだった。

 

「……そう…わかったわ。貴方にはもう別の誰かがいるみたい…」

 

雪ノ下から静かに涙が流れた。もう、ここにはいられない。

 

「じゃあ、俺は行くわ……」

 

俺はその場から立ち去ろうとする。

 

「……ありがとう」

 

小さな、小さな声だったが俺には届いた。ドアを閉めると、嗚咽がきこえてくる。だがもう、後戻りはできない。

 

 

 

 

 

俺達は立ち止まる。ここで、藤咲とはお別れだ。

 

「今日は誘ってもらったうえ、昼食やオルゴールを頂きありがとうございました。最後に言い思い出になりました」

 

そして、とびきりの笑顔をみせ帰っていく。

あぁ、もうわかっている。もう結論は出ている。藤咲に対する想いを。俺は認めたくなかった。それは、俺にとって黒歴史だから。もう、絶対しないと決めたものだから。そう、それは恋。

 

俺は藤咲のことが好きなんだ……




久し振りの投稿ですみません。最近忙しくなって、なかなか書く時間がありません。なるべく早くできるようにしますので、ご了承ください。
第二章が終わるまで、後1~2話あたりです。第二章完結まで頑張っていきます。


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18話

今日も俺はコミュニティーセンターで合同イベントの準備をしている。俺の担当は小学生と一緒に作業することだ。藤咲も俺と同じ担当だ。作業開始からしばらくすると、小学生たちがお喋りしたりふざけ合ったりし始める。そのなかで、ぽつんと一人でいる小学生が見える。その小学生は鶴見留美だった。一人でせっせと作業している。真面目さが災いして、他の子の仕事を押し付けられている。

さすがにあれを一人でやるのは大変だろう。それに、他の小学生が何もしていないのは駄目だろう。時間が無駄になるだけだ。

 

「藤咲、ちょっといいか?」

 

俺は横に居た藤咲に視線を向け、話しかける。

 

「はい、何ですか?」

 

藤咲も俺の方をみる。お互いに顔をみる形になる。藤咲の視線を受け、俺は徐々に恥ずかしい気持ちが出てくる。あのデートの日から、真っ直ぐ見れなくなってしまった。乙女かって、自分でも思ってしまう。けれど、藤咲に対する想いがそうさせているんだろう。一度理解すると、もう止まらない。

このままではいけない。思考を切り替えるために、仕事に集中する。藤咲と話す。

 

「あっちをお願い出来ないか?」

 

視線を小学生たちに向けながら言う。小学生を遊ばせてるほど時間はないしな。それに、一人で頑張っている奴がいるのに、押し付けて、遊んでいるのは許せない。

俺につられて、藤咲も小学生の方を見てから、留美の方を見る。そして、少ししてから視線を戻す。

 

「なるほど、わかりました」

 

そう言って藤咲は小学生の方に向かった。どうやら俺の意図を察してもらえたようだ。

さて、俺も動くか。俺は留美の方に近づく。作業用の道具に手を伸ばす。すると、その手を声が押し留める。

 

「いい、いらない。一人でできる」

 

留美は作業の手を止めず、こちらを見ないまま言った。

俺はちらっと材料を見る。はっきり言ってかなりの量がある。一人でできると言っても、かなりつらいはずだ。それでもやろうとしている。

 

「……そうか、一人でできる、か」

 

この子は本気だ。意地になっているだけかもしれない。結局間に合わなくて迷惑をかけるかもしれない。

それでも、一人で頑張ろうとする姿は気高い。

俺は似ている人物を思い出した。その彼女も一人で頑張ろうとしていた。けれど、無理をして体調を崩してしまった。その彼女と重ねてしまう。まぁ、仕事量は留美の方が少ないが、それでも俺はこの子が無理をしているのを見たくない。ならどうするか。答えは簡単だ。行動に移すのみだ。

 

「でもな、俺の方がもっと一人でできる」

 

そう言うと、留美はきょとんとしたが、不意に呆れ笑いを漏らした。

 

「……なにそれ、……ばっかみたい」

 

小さな笑顔をみせる。留美はもう俺が作業するのを止めなかった。

この子は一人でも強い。だから、一人でも生きていけるだろう。けれど、いつかは壁にぶつかる。そんな時は誰かに頼るしかない。俺と同じように。

なら俺にできることは、いつか誰かと歩いて生けるように、その予行練習になるように手助けをすることだ。

 

「……なぁ、お前、演劇出るか?」

 

俺は留美に問いかける。留美は作業の手を止め、こっちを見た。

 

「……お前じゃない」

 

「はぁ?」

 

なんだ、急に睨んで。

 

「留美」

 

不機嫌気味に言って、そっぽを向く。どうやら、そう呼べと言うことらしい。どうしようかと悩んでいると、留美は作業を進めていく。ガン無視ですか。はぁ…仕方ねぇな。

 

「留美……これでいいか」

 

呼ぶと、こくりと、小さく頷いた。

 

「それで演劇に出てみないか」

 

また、留美に問いかける。

 

「……八幡、何だか変わったね」

 

話題をそらさせる。そこまで嫌なのか?

 

「そんなに変わったか?」

 

「うん。前にあったときと比べて、目も腐ってないし、何だか雰囲気が違う」

 

自分じゃそこまで気づかない。そんなにも変わったのか?

そう思っている間、ふと、留美の視線が下がる。

 

「……やっぱり、変わらないといけないのかな?」

 

留美の悩みを少し、わかったかもしれない。留美も心のどこかで、今の自分では駄目だと思っているのだ。だから、どこか似ている俺を見て、変わってしまった俺を見て、さらに強く思ったのかもしれない。でも、変わると言うのは今の自分を否定することだ。それは、とても不安で怖くて、勇気が必要なことだ。

俺の意見で何が変わるかもしれない。そう考えると、真剣で言葉を選んで答えようと思える。

 

「別に変わらなくてもいいだろう。でも、それで自分の欲しいものが得られないのなら、変わらないと得られないのなら、変わるしかないだろう」

 

そう言って、留美の頭をそっと撫でてやる。

 

「まぁ、それは留美が決めることだ。だから、悩んでもいい。ただ、自分のしたいことをすればいい」

 

「……そっか…ありがとう」

 

頭を撫でるのをやめる。もう留美は前をみていた。

 

「八幡、私は決めた。演劇に出る」

 

留美はどうやら決意したようだ。何だか心配して損した気分だ。やはりこの子は強い。俺は小さく笑う。

 

「ありがとうな。ルミルミ」

 

「ルミルミ言うな、キモい」

 

おっと、精神的にダメージが来たぞ。まったく。

その後も俺達は作業を続けた。

 

 

作業に一段落して手を止め、休憩をとる。横目で藤咲の方を見てみると、小学生をまとめ、別の作業をしていた。これなら大丈夫だな、俺は安心して作業を続ける。

その後も俺達は淡々と作業をした。二人だけの作業だったが、早く終わることができた。他のところも今日のぶんの仕事が終わった。留美も含め小学生はもう帰った。残っているのは高校生だけだ。

俺はマッカン片手に休んでいると、藤咲は近づいてきた。隣に寄り添い、話しかけられる。

 

「このまま、順調にいけばいいんですけど……」

 

「そうだな……」

 

演劇については予定通りできるだろう。準備も間に合っているし。まぁ、一番の懸念材料と言えば、海浜高校だろう。こちら側には、行う内容は一切知らされていない。と言うか、決まってすらないんじゃないか?そう考えてしまうほど、何をやっているのかわからない。もし、まだ決まってないのなら呆れてしまうな。

 

「まぁ、俺達は自分のできることをしていけばいいと思うぞ」

 

「はい、その通りですね。それで…あの子はどうでしたか?」

 

あの子?あぁ、留美の事か。なるほど、藤咲も心配していたんだな。

 

「そうだな…留美は一人でいることは平気だ。だが、それを望んでいるわけではない。だから、俺は周りと馴染めるように、きっかけを作りたいと思う」

 

俺の言葉を聞いた藤咲は微かに笑った。それは、今まで見てきたものとは違ったものだった。何かを思い出すように……

 

「……やはり、貴方は優しいですね。その優しさは誰で救ってしまうのでしょうね。私の時のように……」

 

「なぁ、今のは……」

 

藤咲の最後の言葉を訊こうとするが、藤咲によって遮られる。

 

「もう、帰りましょう。私は用事があるのでお先に失礼します。」

 

そう言って、藤咲は帰ってしまった。俺は藤咲に声をかけることが出来なかった。

そして、今日一日が終わった。




久し振りの投稿ですみません。次はGWが終わるまでに投稿する予定です。
ちなみに、後、1話で第二章は終わります。


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19話

あれから合同イベントの準備は着々と進行していく。さぼっていた小学生たちも準備の手伝いをしている。留美もそのなかで一緒にしているが、他の子と仲が良くなったわけではなかった。まだわだかまりがあるようだ。

そして俺の方は、藤咲と上手く話せていなでいた。挨拶などはできるが、深いことは話せない。それに、あの時の会話から見えない壁の様なものができてしまったように思える。それは、俺の思い過ごしかもしれない。ただ、単純に俺の方が無駄に意識して話せていないだけかもしれない。

それでも、少しはわかっているつもりでいた。でも、わからなくなってしまった。藤咲が何を言いたいかを。何を思っているのかを。けれど、わからないのが当たり前なのかもしれない。それでも、俺は理解したい。じゃあ、俺はこれからどうしたらいい?

 

 

 

 

 

「………お兄ちゃん!」

 

小町に話しかけられる。どうやら夕食を食べた後、ボーッとしていたようだ。

 

「……それで何だ?」

 

「何だって、話し掛けているのに反応しないからでしょう。それで…今度は何を悩んでいるの?」

 

また、小町に心配させてしまったようだ。だけど、今回は余り話したくないな。話の内容はきっと恋愛事になってしまうから。そんなの言ってしまったらね根掘り葉掘り訊かれて、恥ずかしすぎる。

でも、こう言う恋愛事は小町の方が詳しい。ずっと一人でいた俺にはわからないものだ。それなら、相談した方がいいのかもしれない。

そう思った俺は小町に相談することに決めた。

 

「そうだな…恋愛事なんだか…」

 

「はぁ?」

 

小町は驚きの表情をみせる。

 

「ごめん、もう一度言ってくれる?」

 

まぁ、こうなるよな。今までこんな話題だしたことないしな。

 

「だから、恋愛事だ。好きな奴ができたんだが、どうしたらいいかわからないんだ。どうすればいいと思う?」

 

「へぇーそうなんだ。やっとお兄ちゃんの嫁候補が確定したんだ」

 

そう言って、嬉しそうな表情をみせる。嫁候補なんて、まだ気が早すぎるんじゃないか。

 

「それで、どうしたらいい?」

 

話が脱線しそうだったので戻す。そうすると、小町は真剣な表情になる。

 

「……お兄ちゃんはどうしたいの?」

 

はぁ?俺が訊きたいのに、まさか聞き返されるとは。問いに戸惑っていると小町から催促される。

 

「だから、どうしたいの。付き合いたいの?それとも、友達のままでもいいの?」

 

その言葉に思考が停止する。確かにどういった関係を望むのは、俺が決めることだ。なら、俺は何を望む?このままの関係?それとも、彼氏彼女の関係?

答えは決まっていた。俺は彼氏彼女の関係になりたいんだ。藤咲と付き合いたいんだ。そして、理解しあえる関係になりたいんだ。それがどんなにも醜いものでも。

だから、俺がすることは告白して自分の気持ちを伝えることだ。

 

「ありがとうな。自分がすることがわかった」

 

「うん。最後にアドバイスね」

 

アドバイスか、何を教えてもらえるんだ。

 

「お兄ちゃんはいつもひねくれているから、自分に素直になってね。それじぁ、頑張ってね」

 

そう言って、小町は自分の部屋に戻る。どうやら小町には俺がすることがわかったようだ。まったくうちの妹は、いつも頼れるな。俺は笑ってしまう。もうすることは決まった。後は勇気を出すだけだ。

俺は覚悟を決めその日を終える。

 

 

 

 

あれから準備はさらに進み、俺も普通に藤咲に話せるようになった。

 

そして当日。

クリスマスが今年もやってきた。といってもまだイブだが。

総武高校では一昨日が終業式で、最後の準備がしっかりできた。さらに、イベントは午後なので、リハーサルなどが十分にできた。

 

「比企谷君」

 

「どうしたんだ、藤咲」

 

声をかけてきたのは藤咲だった。

 

「今日は楽しい一日になるといいですね」

 

「そうだな」

 

意外に藤咲も楽しみにしていたようだ。

 

「まぁ、出だしは悪かったが、なんとか直せたから上手くいくだろう」

 

「そうですね。比企谷君も凄く頑張っていましたし」

 

そう言って、笑い合う。照れてしまうが、なんだかいい雰囲気だ。

 

「先輩、そろそろ始まるんで準備してください」

 

いい雰囲気のなか、一色に話しかけられる。もうそんな時間か。さて、仕事を始めるか。藤咲に声をかける。

 

「じゃあ、行くか」

 

「はい」

 

俺達は自分の持ち場に向かった。

 

 

 

そしてクリスマス合同イベントが始まった。

舞台袖から見ると、客入りは上々だ。そのなかには、小町に戸塚、何故か材木座や川なんとかさんがいた。さらに、別の場所には葉山グループがいた。そのなかには当然、由比ヶ浜がいた。別にいることには、俺はなにも感じない。他を見ていると雪ノ下がいた。多くの総武高校の生徒がいて、かなりの噂になっているとわかる。

今会場のホールでは海浜高校のプログラムが行われている。内容は海浜高校の生徒によるバンド、そしてクラシックの出張コンサートだった。バンドは余り練習していないのか、言葉にできないほど最悪だった。これなら、しない方がましだと思える。コンサートの方は、さすがプロだなと思える演奏だった。バンドはダメだったが、コンサートで挽回してお客の反応はよかった。

そして、総武高校のプログラムが始まる。留美たち小学生も頑張っている。俺はこの演劇で留美を主役にした。上手くいけば、他の子と仲良くなれるきっかけになればいいと思って。演劇の中盤で園児たちが現れる。園児たちはお年寄りの元にケーキを運んでいく。お年寄りは園児の可愛らしさに顔をほころばせていた。

そして、演劇は終わった。最後に今回の主役を務めた留美が出てくる。他の子と手を繋ぎ、大きく一礼をした。客席からはひときわ大きな拍手がとんでくる。そして、総武高校のプログラムが終了した。

 

俺達の残りの作業は後片付けだ。何故か海浜高校の連中が頑張ってやっている。まぁ、無理もないかもしれない。彼等のプログラムは別に誰でもできるものだった。だから、なにもできていないのを負い目に感じているのかもしれない。自業自得だ、これからはその考え方を改めろよ、そう思い片付けをする。片付けをしていると、留美たち小学生がみえる。笑いあっていた。そのなかには、留美も入っていた。それを見ているだけで良かったと思える。

 

それから、コミュニティセンターの片付けは終わった。イベントに使った道具やなんかを生徒会室に運ぶため、一度学校に戻った。そして、解散し俺と藤咲は部室に行った。

 

「少し疲れましたね」

 

「片付けも意外に量が多かったしな」

 

「それでも、今日は凄くよかったです。演劇もよかったですし、これも比企谷君のおかげてすね」

 

そう言って、藤咲は笑顔をみせる。

 

「やめてくれ、照れてしまう」

 

こうやって、たわいのない会話をする。それだけで、心が安らぐのを感じる。

 

「冬休みの間はお休みなので、次合うときは三学期ですね」

 

そうだ。次合うのに時間がある。それを待っているほど、俺は押さえきれない。だから、今日決める。

 

「それでは帰りますか」

 

そう言って、藤咲は帰る支度をする。

 

「なぁ、藤咲、話がある」

 

「はい、なんでしょう」

 

俺の真剣な表情に藤咲も佇まいを変える。お互いに見つめ合う状態になる。

ふと、あることを思い出す。もしかしたら、戸部もこんな気持ちだったのかもしれない。

そして、今から言うことは今の関係を壊してしまうことかもしれない。でも、もう止まらない。止められない。俺は先に進みたい。だから、真摯にこの気持ちを伝えよう。

 

 

「好きです。付き合ってください」

 




これにて、第二章が終わりました。
次の第三章では新しい人物が登場します。次回もよろしくお願いします。


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20話

いろいろあった一年が終え、新たな年が明けた。

新年明けましておめでとうございます。そんなことを言う相手は特にいない。しいていうとするのなら、家族ぐらいだろう。そんな俺に届いたのは藤咲からのメールだった。

 

『新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。』

 

家族以外の誰かから貰うのは、初めてな気がする。嬉しいと思うのが普通かもしれない。ただ、俺は喜べないでいた。素っ気ない文章に、もっと別のものを期待していた。まだ俺は諦めきれないでいた。

 

 

「お兄ちゃん、早く行くよ」

 

小町にせかされる。俺は無難にメールの返信し、小町と一緒に家を出掛けた。

 

 

 

 

俺は初詣のため、小町と一緒に浅間神社に来ている。この辺りでは一番大きい神社だから、人がかなり多い。俺達はひとごみのなかを歩いていく。歩いていくなか、小町はきょろきょろ辺りを見回す。どうやら参道の両脇に並び立つ出店に目移りしているようだ。

 

「お祭りみたいだねー」

 

「そうだな、先にお参りを済ませてからな」

 

「うん!」

 

人波の流れに乗って社の前までやってきた。お賽銭を投げ、がらがらと鈴を鳴らした。そして、二礼、二拍手。静かに目を閉じる。そして、思い出してしまう。あの時のことを。

 

 

 

 

 

あの日はクリスマスイブ。

合同イベントの帰り道。俺は藤咲に気持ちを伝えた。

 

「好きです。付き合ってください」

 

藤咲は驚き、それから顔を伏せてしまった。俺は今か今かと、藤咲の返事を待つ。

 

「……ごめんなさい。ごめんなさい」

 

うつむいていた藤咲からきこえてきたのは、そんな言葉だった。それだけではない。泣いていた。うつむいていても、はっきりとわかってしまった。

そんな顔をさせたい訳じゃない。だから、泣かないでくれ。そう思っても、何も変わらない。

 

「……私には、貴方と付き合う資格がないから。ごめんなさい」

 

そう言って、藤咲は走って帰ってしまった。俺はかける言葉がなく、そのまま立ち止まっていた。

そして、わかってしまう。俺は振られてしまったと……

 

 

 

 

 

静かに目を開ける。隣の小町をみると、必死に祈っていた。たぶん、受験合格を願っているのだろう。

もう一度、俺は静かに目を閉じる。俺の願い事は決して願ってはいけないこと。もう振られた俺が望んではいけないこと。わかっている。それでも、まだ諦めきれていない。未練がある。つらい。だから、これをお願いする。もう、好きな気持ちを忘れさせてくれ……

 

 

参拝が終わり小町は出店の列に並んでいる。俺は人通りの少ないところで待っていた。そうすると、目の前を若い男女が通る。男の方から何か落ちた。それは、財布だった。大事なものを簡単に落として、バカじゃないの?そう思いながら、財布を拾い声をかける。

 

「おい、お前、財布落としたぞ」

 

俺の声に気づいた男女は振り返る。男の方が近づいてくる。

 

「おう、ありがとうな、じゃあな比企谷」

 

そう言って、財布を受け取る。そして、女の所に戻っていく。女から凄く怒られながら、人ごみに消えていく。

俺はどこか見たことのある人物を、思いだそうする。見た目からして、高校生だろう。なら、総武高校の生徒だ。それで、俺の名前を間違えて覚えていない奴なんて、一体誰だ?

考えても思い出せない。しばらくすると、出店の賞品を抱えた小町がやってきた。

 

「じゃあ、食べようお兄ちゃん」

 

二人で仲良くたこ焼きやらなんやらを食べた。

そして、初詣を終えた。

 

 

 

 

 

 

迎えたのは三学期。

休み明けで体がダルいが、身体にムチを打って登校する。教室に行くと、ざわざわとした雰囲気に満ちている。クラスメイトたちはどこか浮き足たっていたが、ある一ヶ所だけが沈んでいた。それは、葉山グループだった。男子と女子に別れていた。何かあったな。まぁ、俺には関係ないよな。そう思い、机につっぷし、睡魔に身を任せる。

 

時刻は昼休み。

マッカンを買うために、自販機に向かう。お目当てのマッカン買い、ベストプレイスに向かった。のんびり過ごしていると、声をかけられる。

 

「おーい、比企谷」

 

振り返ると、初詣で財布を落とした男だった。

 

「誰だ、お前?」

 

疑問をぶつけてみる。

 

「橘綾斗だ。よろしくな」

 

思い出した。俺はこいつのことを知っている。というか、この学校ではかなりの有名人だ。葉山隼人に並び立つほどのイケメンで、野球部のエース。

 

「それで、なんのようだ?」

 

こんなイケメンが俺になんのようかわからない。

 

「そうだな…その…頼みがあるんだ」

 

頬をかき照れながら言う。普通の男子生徒がすればキモいとなるが、伊達にイケメンなので、そうはならない。

 

「それで、頼みたいことは一体なんだ?」

 

俺の言葉で顔付きが変わり、真剣なものになる。俺も合わせて佇まいを変える。

 

「俺には好きな奴がいるんだ。で、そいつに告白しようと思うんだ」

 

戸部の時みたいだな。ふと、思う。

 

「それで、比企谷には協力してもらいたいんだ」

 

あぁ、なんとなく話の流れがわかってしまう。もしも俺の予想通りなら、頼むから、やめてくれと思ってしまう。別の奴でいてくれ。少しの可能性にかけ、橘に問いかける。

 

「……そいつは誰なんだ?」

 

沈黙が流れる。それは、短いものだったが、俺には長く感じた。

 

「あぁ、まだ言ってなかったな。藤咲だ。比企谷が入っている部活の藤咲礼美、その人が、俺が好きな人だ」

 

思考が停止する。橘は俺を気にすることもなく、話を続ける。

 

「比企谷が同じ部活に入っているって聞いたから、協力してもらいたいなって思ってな」

 

駄目だ。このまま考えないでいるのはいけない。まずは事実を確認をしなくては。

まず、橘が藤咲のことを好きなのはわかった。そして、同じ部活に所属している俺に協力してもらいたいのは、わかった。でも、ひとつ疑問ができた。俺が藤咲と同じ部活になったは最近だ。普通なら知らない。知っているとしたら、俺の身近な人物だ。そうすると、一体誰なんだ。

 

「……誰が俺と藤咲が一緒の部活だと言ったんだ?」

 

疑問をぶつける。そうすると、橘はあっさり言った。

 

「葉山だよ。あいつが言ってくれたんだ。比企谷なら頼りになって、助けてくれるってね」

 

いつもあいつが厄介事を持ってくるな。

 

「それで、比企谷、協力してくれるか?」

 

「……少し考えさせてくれ」

 

「……わかった。じゃあ、またな」

 

そう言って、橘は立ち去っていく。

俺には橘に協力する義理はない。そして、邪魔することもできない。振られた俺には関係のないことだから。じゃあ、俺はどうしていけばいい。

なにもわからないまま、俺は教室に向かった。



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21話

午後の授業が終わり、放課後になった。俺は荷物をまとめ、教室を出る。

 

「ちょっといいかい」

 

誰かから呼び止められる。振り返ると、そこには葉山がいた。以前会話したときに比べ、なんだか雰囲気が変わったような気がする。凄く不気味に思える。

 

「……それで、なんだよ?」

 

ぶっきらぼうにこたえる。葉山はニヤニヤ笑いながら、話始める。

 

「ちょっとした確認だよ。それで、橘からの相談を受けるんだよな」

 

「……お前には言う必要はない」

 

「ははは、君はバカかい。俺が橘から相談を受けて、君に手伝ってもらうといいと言ったんだ。だから、知る必要がある」

 

人をバカにしたような笑い方をしてくる。むかつくな。

大体、こいつはなんでこんなにも突っ込んでくるんだ。こいつにとってなにか得になるのか?まさか、何か企んでいるのか?

 

「別に受けてもいいじゃないか。まさか、彼女のことが好きだから、手伝わないのか?」

 

思考が停止する。

図星を突かれたのがわかる。考えないようにしていた。でも、わかっていたんだ。どうして手伝う気になれないのか。それは、まだ藤咲のことが好きだから。まだ諦めきれないでいたから。未練があったから、受けることが出来なかった。

でも、もういいのかもしれない。ちょうどいい機会なのかもしれない。手伝うことで忘れられるかもしれない。諦めることが出来るかもしれない。辛くなくなるかもしれない。だから、受けよう。忘れよう。この気持ちを……

そして、俺は自分の心を偽ることに決めた。

 

「……わかった。橘の件は手伝うと決めた」

 

「それでいいよ。橘には俺から言っておくよ」

 

そう言って、葉山は立ち去った。俺は胸が凄く痛かったが、気にしないようにした。今日は部活がないため、すぐに家に帰った。

 

 

 

 

次の日の昼休み。屋上でマッカンを飲みながら、橘が来るのを待つ。ゆっくり飲みながら、待っていると橘がやってきた。

 

「よう、比企谷。悪いな、待たせちまって」

 

「大丈夫だ」

挨拶を交わし、話の本題に入る。

 

「本当にありがとうな。手伝ってくれて」

 

「別にいい。それで、俺は何をすればいい?」

 

「そうだな……」

 

橘は考えている。おい、具体的にしてもらいたいことを考えてなかったのか。

 

「あ、好きなタイプとかきいてくれないか」

 

今思い付いたな。本当に大丈夫なのか。俺は不安を覚える。

 

「それだけか?」

 

「今のところはそれぐらいだな」

 

「そうか、わかった」

 

まずすることがわかった。これは、簡単なものにみえるが、難しく思える。普通にみれば、振られた男が振った女に『好きなタイプは何ですか』なんて訊けるわけがないだろう。しかし、引き受けてしまった以上やるしかない。

 

「それじゃ、頼んだぜ」

 

「……まかせろ」

 

話がついたので、橘は帰っていった。残された俺は、残っていたマッカンを一気に飲み干し、教室に帰った。

 

 

 

 

放課後。

俺は部室に向かう。部室に向かう足取りは重い。藤咲と会うのは、あの時以来だ。そう考えると、怖いと思ってしまう。俺はどんな顔をして会えばいいのやら。そんなことを思っても仕方ない。結局俺が変えてしまったから。そう思い、部室のドアを開く。なかには、いつも通り藤咲がいる。なにも変わっていないようにみえる。

 

「……こんにちは」

 

「あぁ、こんにちは……」

 

藤咲は本から顔を上げず、挨拶をかわす。俺はいつものようにイスに座り、バックから本を取り出して読む。しかし、なかなか集中して読めない。それは、異常なほど空気が悪いから。凍てついている。前にあった暖かい空気はもうなかった。横目でチラリと藤咲の方を見る。藤咲はただ本を読んでいた。俺のことなど眼中にないと言った感じだ。

視線を本に戻す。まったく無理ゲーだ。今の状態で好きなタイプなんて訊けるわけがないだろう。それ以前に会話もない。日にちを改めよう。そう決めた俺は、本をバックに入れて帰る仕度をした。音に反応したのか、藤咲がチラリと俺の方をみたのがわかる。俺は気にしないようにした。

 

「悪いな、帰るわ……」

 

「……わかりました」

 

藤咲の態度は素っ気なかった。そして、俺は逃げるように部室を出た。

 

 

 

 

今、俺はドーナツショップにいる。学校から出た後、頭の中にモヤモヤとしたものがあるままで家に帰りたくないと思った。いつも通りに注文し、カウンターに座る。ゆっくりドーナツを頬張りながら、時間を潰す。どれくらいたっただろう。頭の中のモヤモヤとしたものはいっこうにはれない。

 

「はぁ……」

 

溜め息が出る。俺はカフェオレを飲み、気持ちを落ち着かせる。

 

「どうしたの?溜め息なんて吐いちゃって」

 

突然話しかけられる。俺は一瞬びっくと体を震わせる。

その人物は俺の隣の席に座る。聞き覚えのある声に、視線を向ける。そこにいたのは、雪ノ下さんだった。

 

「それで、どうして溜め息なんて吐いちゃってたの?」

 

「貴方には関係ありません」

 

俺は拒絶する。だが、雪ノ下さんは特に気にしなかった。

 

「まぁ、そうだよね~」

 

じゃあ、訊くなよ!俺は口にはしなかったが、心のなかで思った。

 

「今回は別のことで来たんだよね。そろそろ答えを聞こうかなって……」

 

自然と姿勢がただされていく。ついに来てしまった。ごくりと息を飲んでしまう。

 

「それで、聞かせてくれるよね」

 

もし、言わなかった場合、何をされるかわからない。非常に怖い。だから、言わないといけない。

あの時に聞かれたのは『比企谷君にとって本物って何?』だった。それに対しての答えはもうすでに出ている。

 

「俺が考えているのは、凄く傲慢なものです。それは、誰にも理解されないものかもしれません。それでも、俺は完全に理解し合える関係を望みます」

 

……言った。ついに言ってしまった。よく考えれば、この人にこんなことを言うなんて、恥ずかしいよな。

 

「ふ~ん。そっか。そうなんだ」

 

なにかに納得するように、雪ノ下さんはうなずく。

 

「それで、上手く出来たの?確か……藤咲ちゃんだっけ?」

 

どうして、この人が知っているんだ?また、あいつなのか。俺は雪ノ下さんに疑問をぶつけてみる。

 

「誰から聞いたんですか?」

 

「隼人だよ」

 

あぁ、やっぱりか。俺は顔を伏せる。怒りを抑えるため、雪ノ下さんに見られないように。その間にもふつふつと怒りが込み上げて来るのを感じる。いつもそうだ。あいつは中途半端に突っ込んできて、周りをぐちゃぐちゃにして逃げる。結局、なにもしてない。許せない。

 

「それで、上手くいってるの?」

 

「……振られました」

 

素直に言ってしまった。この人の前では、嘘をつけないと思ってしまったからだ。

 

「そっか……」

 

意外だな。この人の場合、笑ってバカにしたりするんだと思っていた。

 

「それで、これからどうするの?」

 

この質問に対して戸惑う。俺がすることは橘の応援だろう。だって、俺は振られてしまったのだから。そう、結論付けていた。

 

「……諦めちゃうんだ」

 

俺の考えを読んだのか、雪ノ下さんはそう言ってくる。つまり、諦めるなって、言いたいのか。でもそれは、絶対にあり得ないことだ。雪ノ下さんがそんなことを言うわけがない。じゃあ、何が言いたいんだ?

 

「……いいんじゃない。諦めちゃって」

 

気持ち悪いぐらい、肯定的だ。それに、簡単に言ってくる。

 

「だって、その程度の想いなんだから……」

 

呼吸が止まる。その程度だって……ふざけるなよ。貴女に何がわかるんだ。怒りが込み上げて来る。

しかし、雪ノ下は眼中にないようで、トレーを持ち、立ち上がる。そして、上から俺を見てくる。

 

「一応、雪乃ちゃんを変えてくれたから、何もしないけど、覚えておいて……なに甘ったれたことを言ってんの……だから、比企谷君には何も得られない。一生得られない」

 

雪ノ下さんの言葉がズカズカと刺さる。そして、立ち去っていく。しかし、途中で立ち止まる。振り替えることはしない。

 

「最後に私からの忠告ね……隼人には気を付けなさい。今の彼は何をするか予想出来ない……それじゃ、バイバイ」

 

話終えると、一度も振り返らず、帰っていった。

残された俺は、独りぽつんと残されていた。

 




いろいろと、急展開で物語は進んでいく予定です。
次回もよろしくお願いします。


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22話

深夜。

なかなか寝つけなく、喉が乾いた。水を飲もうとリビングに向かう。リビングからは光りが漏れていた。誰かいるみたいだ。ドアを開けると、ビールを飲んでいた親父がいた。

 

「おいおい、なんだよお前か。母ちゃんかと思ってびっくりしたぞ」

 

どうやら、母ちゃんにばれないように飲んでいたようだ。俺は親父を無視して、コップに水を注ぎ、一気に飲む。そして、自分の部屋に戻ろうとする。

 

「……なんかあったのか」

 

親父から言われて、足が止まる。俺は誤魔化すように言う。

 

「なんもねぇよ……」

 

「じゃあ、なんで辛気臭い顔をしてるんだ?」

 

いつも、親父はこんなに関わってくることはない。というか、うちは俺に関して放任主義だ。だから、今日はいつもと違うので、不思議に思う。

 

「あぁ、あれか、好きな子に振られたのか」

 

いきなりのことで体がびっくと動く。反応してしまった。親父にばれてしまう。

親父は頭をかき、バツが悪そうにする。

 

「……なんだよ、図星か」

 

親にそういった恋愛事がばれるなんて嫌だし、そのうえ振られたことを知られたなんて最悪だ。笑われる。そう思っていた。けど、親父は笑っていなかった。それどころか、顔つきが変わっていた。

 

「それで、お前は諦めるのか?」

 

「……………」

 

雪ノ下さんと同じ質問だが、俺は何も答えられなかった。

 

「……まぁ、お前の事だからまだ好きなんだろう」

 

極力体を動かさないようにしたが、反応してしまった。親父は些細な動きから俺の心を読む。

 

「また、当たったか……」

 

簡単に思考が読まれてしまう。

これ以上、ここにいたくない。そう思った俺は逃げるように出ていこうとする。

 

「……まだ好きなら、諦めなきゃいいだろう」

 

ドアノブに手をかけたところで静止する。

親父は簡単に言ってのけた。俺がそれで苦しい想いをしてるのに。何も知らないくせに。そう思ったら、怒りが込み上げて来る。

 

「……何もわかんねぇくせに、簡単に言うんじゃねぇ」

 

親父に怒りをぶつけてしまった。筋違いのものだとはわかっている。それでも、押さえることが出来なかった。

親父は軽く笑って、こう言ってきた。

 

「簡単に言うぜ。だって、俺の問題じゃねもん」

 

はぁ?ふざけるなよ!

喉まででかかった言葉を飲み込む。親父に言っても無駄だから。その代わりに、俺は親父を鋭く睨む。だが、親父は一切気にしなかった。

 

「そうだろう。これはお前の問題だ。なら、自分で解決してみせろ」

 

そんなことはわかっている。でも、自分でもどうしたらいいのかわからない。

 

「どうしたらいい……」

 

すがるように、親父にきく。

 

「自分のしたいことをすればいい。後悔しないように。真っ直ぐ正直にな」

 

すうっと、体に入ってくる。

それは、簡単に思えて難しい。俺が望んでいるのは凄く自分勝手なものだ。そのうえ、俺には資格がない。振られた俺には……

 

「……無理だな…俺には資格がない……」

 

俺の弱音を聞いた親父はドンと、手にしたビール缶でテーブルを叩いた。

 

「逃げるな!」

 

怒声が聞こえてくる。

いつになく親父の顔は怖かった。

 

「そうやって勝手に決めつけて、自分の逃げ道を作るな!」

 

頭を殴られるような強い衝撃を受ける。

……あぁ、その通りだな。俺は自分で作っていたんだ。資格がないって勝手に決めつけて、諦めようとしていた。でも、別に諦めなくても良いってことなんだろう……まだ、藤咲のことを想ってても良いってことなんだろう……

心がすうっと軽くなる。頭の中のモヤモヤが消えてくる。もっと別の答えが見えてくる。

 

「……ありがとう」

 

そうつぶやいて、出ていく。

まったく、俺らしくない言葉だったな。軽く笑ってしまう。だけど、もう一度頑張ろう。そう決意する。

 

 

 

 

 

翌日。

目覚めはスッキリとしていた。よく眠れたようだ。顔を洗い、小町と一緒に朝食を食べる。そして、学校に向かう。

 

学校につくと、雪ノ下に出会った。

 

「久し振りだな」

 

「えぇ、そうね」

 

いつ振りだろう。こうして向かい合って会うことは。

 

「……そう言えば、貴方に言っておかなければいけないことがあるわ」

 

言っておかなければいけないこと?

一体なんのことだ。俺に関係すること……考えてもわからないな。

 

「……由比ヶ浜さんが奉仕部を辞めたわ」

 

まさか、由比ヶ浜が辞めたなんて、驚きを隠せない。

 

「……理由はわかるのか?」

 

雪ノ下に疑問をぶつけてみる。雪ノ下は表情を変えた。それは、ひどく儚げであった。

 

「……わからないわ。私は平塚先生から聞いただけだから」

 

「そうか……」

 

あぁ、そういうことか。由比ヶ浜は平塚先生に退部届を出したんだ。つまり、雪ノ下に会わないまま辞めたということだ。

俺は何も言えなかった。

由比ヶ浜が抜けたことにより、雪ノ下はまたひとりぼっちになってしまった。彼女はこれからどうなっていくのだろう。

俺は知っている。雪ノ下雪乃は完璧に見えて、ひどく脆い。

 

「それで、お前はどうするんだ?」

 

彼女も奉仕部を辞めるのか。だとしたら、奉仕部は消えるのだろう。

雪ノ下は笑った。それは、決意を表しているようだった。

 

「私は最後まで続けるわ。いろいろあったけど、あそこは私にとって思い出の場所だから」

 

やはり、雪ノ下は強い。彼女ならひとりでもやっていける。

 

「それじゃ……」

 

「あぁ、じゃあな」

 

雪ノ下は踵を返し、歩いていく。俺も自分のクラスに向かう。

 

 

 

 

 

もっと素直になろう。理由をつけて逃げるのは、辞めよう。諦められないのなら、諦めなくていい。もう一度頑張ればいいだけだ。ただ、自分のしたいことをすればいい。

それに、まだ俺は聞いていない。藤咲の気持ちを聞いていない。『付き合う資格がない』そんな建前しか聞いていない。だから、もう一度聞こう。藤咲の気持ちを。

そして、俺は文芸部のドアを開く。




久し振りの投稿ですみません。
諸事情により、忙しく投稿できませんでした。次回は藤咲との話し合いです。ここで、八幡との関係がわかります。


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23話

いつものように藤咲はいた。椅子に座り、本を読んでいる。俺に気づいたようで、こちらをちらりとみたが、何事もなかったように視線を本に戻した。こんな反応されると、憂鬱になる。けど、もう立ち止まることはしたくない。だから、俺は決意する。

 

「……話があるんだ」

 

藤咲は机に本を置き、こちらの方を見てくる。まったくの無表情で。

 

「……なんでしょうか?」

 

そして、その声はひどく冷たかった。

それは、拒絶を表しているとわかる。俺は怯んでしまうが、なんとか話を進める。

 

「もう一度聞いてほしい事があるんだ……」

 

真摯に自分の気持ちを伝えよう。

もう一度、あの時のように。でも、今回は返事を聞くんじゃない。藤咲の気持ちを聞くんだ。

 

「……言ったでしょう。私にはそんな資格はないと」

 

藤咲に先回りされる。俺が言うことはわかっているようだ。

それでも、俺は伝えたい。

 

「……俺は藤咲の気持ちを聞きたい。資格がないなんてじゃなくて、建前なんかじゃなくて、本当の気持ちを知りたいんだ」

 

藤咲はうつむいてしまった。

もし、今の言葉が心に響いてくれたのなら、やっと進める。俺は藤咲の返答を待った。

 

「……少し別の話をしていいですか?」

 

藤咲が提案してくる。

話を変えられると思ったが、藤咲の表情をみたら、大事な話だとわかった。もしかしたら、これは藤咲の抱える問題のひとつだとしたら。これが、俺の告白に関係するとしたら、俺は聞かないといけない。だから、俺の返事は決まっている。

 

「頼む、話してくれ」

 

藤咲は顔を上げ、俺を見てくる。そして話始める。

 

 

 

 

 

「ある女の子がいました。その女の子は内気で弱虫でした。その上、友達は独りもいなく、いつもひとりぼっちでした。そんな女の子は、いじめっこからすれば格好の的でした。

最初は無視するだけでした。そんなおふざけでした。しかし、女の子はいつもひとりぼっちだったので、たいして変わりがなく平気でした。それを見ていたある人が悔しがりました。まったく効果がないと。そして、無視から別の事に変わりました。それは、悪口でした。最初はいじめっこしか言いませんでしたが、時間がたつにつれて周りも言うようになりました。女の子は最初は気にせず無視していましたが、徐々に心に傷をおいました。表面に出すといじめが更に加速すると思った女の子はじっと耐えます。家でも家族に迷惑をかけれないと思って、一人で抱え込みます。誰も助けてくれない。そういった状況の中、心が傷つき、折れそうになりました。

そして、ある時、ある男の子に会います。その男の子は自分と同じクラスメイトで、自分と同じようにひとりぼっちの子でした。そして、こう言われました。『大丈夫か』と。その気遣いの言葉に、自分を心配してくれる優しさの言葉に女の子の心は癒されました。

それから幾日かたつと、いじめがパタリと止みました。どうしてなのか、疑問に思いました。しかし、その理由はすぐに気づきました。いじめっこ達は標的を変えたのでした。その標的は、自分を気遣ってくれた男の子でした。男の子の悪口を言ういじめっこ達、それを一切気にしない男の子。女の子はただそれを見ていただけでした。自分を助けた男の子ように、今度は自分が助けると思っても何も出来ませんでした。何故なら、女の子は怖かったのです。また、自分が標的になることを。それでも、感謝の気持ちと謝りたい一心で男の子に話しかけようとしますが、話しかける勇気がなかったため、話しかけれないまま時間が過ぎてしまいました。

そして、ある出来事が起こりました。それは、親の転勤でした。当然、女の子は転校することになりました。女の子は男の子に伝えるまでは転校なんてしたくないと思っていました。しかし、女の子は最後まで伝えることが出来なく転校しました。

この事で、女の子は非常に後悔をしました。何よりも、伝えることが出来なかった自分を、嫌いになりました。だから、変わろうと思いました。内気で弱虫な自分を捨てようと。

そして、中学生になった時。彼女は昔の女の子ではありませんでした。容姿も美しくなりました。そして、男子生徒からよく告白されるようになりました。しかし、誰一人いい返事をしませんでした。何故ならば、自分の助けた男の子を思い出してしまうからです。その時、彼女は気づいたのです。自分はあの男の子が好きでいたと。もう叶わない恋だとしても、忘れることが出来ませんでした。

そして、高校生になりました。彼女はまた産まれた土地に戻ることになり、総武高校に入学しました。そして、二年生になった時の文化祭で、男の子に出会いました。男の子はすっかり変わっていましたが、彼女は忘れませんでした。彼女は一刻も速くあの時のことを話したかったのですが、彼の周りには自分よりも素敵な人がいたので、躊躇い近づくことをしませんでした。

廊下を歩きながら、もうこれでいい。あの時のことを保持繰り返さなくていい。そう決めた時、彼とぶつかりました。彼女は彼を見れて嬉しいと思いましたが、その気持ちはすぐに消えました。何故なら、彼が悲しそうにしていたからです。彼女は彼の話を聞き、彼を助ける事にしました。あの時、助けることが出来なかった代わりに……

 

 

 

 

 

これが、話の全てです」

 

息をのむのがわかる。まさか、こんなことがあるなんて知らなかった。いや、忘れていたのだろう。あの時の俺は周りの事が嫌いだったから、気にすることはしなかったのだろう。

 

「私はただ自己満足で貴方を助けました。ひどい女でしょう。そんな、私が貴方にはふさわしくはない。だから、やめてください」

 

俺はどうする?

もう、わかっている。こんな話を聞いても俺の気持ちは変わらない。もう答えは出ていた。

 

「俺は……」




あと少しで終わる予定です。それまで、頑張って行きますので次回もよろしくお願いします。


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24話

「俺はそれでも、藤咲の事が好きだ!」

 

嘘偽りのない言葉を告げる。

例え、藤咲が俺に対する負い目から助けてくれたとしても、俺の気持ちは変わらない。それに、全てが嘘だったとは思えない。たった少しの時間だったかもしれないが、一緒に過ごした時間は本物だ。

 

「……私にはそんな資格はありませんよ」

 

またしても、拒否される。

だけど、俺は気にしない。止まらない。

 

「資格なんて、誰が決めたんだよ!」

 

思わず大きな声で言ってしまった。藤咲も反応してびっくと動く。今の俺は怒っている表情なのかもしれない。自分ではわからない。それでも、構わず話を進める。

 

「俺はそんなことは気にしない。だから逃げないでくれ」

 

俺も勝手に決めつけていた。資格がないと。でも、それは、違っていた。最初からそんなものなどなかったんだ。ただ、自分で逃げ道を作っていただけ。だから、刹那に願う。そんな建前で逃げないでくれ、この想いを届いてくれと。

 

「俺はたった少しの間だったけど、藤咲と一緒に過ごせて楽しかった。藤咲はどうだった?」

 

俺は問いかける。

一色の生徒会選挙の件、合同イベントの件、そして部室で過ごした日々を思い出しながら。

 

「私は…私は…」

 

藤咲の表情が揺れる。端からみれば迷っているように見える。

今しかない。俺は真剣な表情に変える。

 

「……もう一度言うぜ」

 

藤咲を真っ直ぐ見つめる。

今度こそ聞くんだ。藤咲の気持ちを。だから、届いてくれ。

 

「好きです。付き合ってください」

 

俺の気持ちは届いてくれたのか。それは、わからない。藤咲はうつむいていて、表情からは何も見れない。

藤咲の返事を待つ。とても長く感じるが、ついに答えはやってくる。

 

「……もし、私が貴方と付き合ったとしても、貴方が望むものは得られませんよ」

 

藤咲の言う通りなのかもしれない。負い目からできた関係なんて脆いのかもしれない。なら、新しく作ればいいんだ。築けばいい。

 

「じゃあ、やめよう」

 

「えっ」

 

藤咲は顔を上げた。その表情は困惑していた。きっと、別の意味だと解釈している。俺は笑いながら、語りかける。

 

「もう、負い目で助けるのはやめよう。今の関係をやめよう。そして、新しく始めよう」

 

藤咲も俺の意図がわかったようだ。それでも、戸惑いを隠せていないでいた。

 

「……そんなことが可能とでも?」

 

一度できた関係をなくし、別のものに変えることは、難しい。けれど、不可能ではない。俺だって変わることができた。なら、出来る。必用なものは変わる努力。だから、言ってやる。

 

「可能だ。変わる気があるのなら」

 

「……そうですか」

 

藤咲が俺に視線を向ける。その表情は今にも泣きそうだ。

 

「……本当に私でいいんですか?私は貴方にふさわしくありませんよ」

 

その声はとても小さかった。だけど、そんなの決まっている。俺の答えは変わらない。

 

「俺は藤咲がいいんだ!ふさわしくないなんて関係ない」

 

「比企谷君……」

 

藤咲は俺に抱きついてくる。俺もぎゅうと抱きしめる。抱きしめると、女子特有の甘いにおいがする。すごくいいにおいだ。このまま、離したくない、そう思ってしまう。

 

「もう、私は逃げません。自分に正直になります」

 

この時を待っていた。

 

「私の気持ちを聞いてください」

 

待ってる。だから、教えてくれ。

 

「私も比企谷君の事が好きです!ずっと、ずっと前から好きです!私と付き合ってください!」

 

あぁ、やっと聞けた。藤咲の気持ちを。嘘偽りのない想いを。その事がとてつもなく嬉しい。

 

「あぁ、付き合おう」

 

俺は返事を返す。そして、お互いに見つめあう形になる。藤咲のとびっきりの笑顔が見れる。それを見ても、照れくさいといった恥ずかしさはなかった。ただ、嬉しさが込み上げてくるだけ。

そのまま、引き寄せあうように、お互いに顔を近づける。

そして、俺の恋は結ばれた。

 

 

 

 

 

 




やっとここまで来ました。これで、八幡と藤咲が結ばれました。
次回は葉山と直接対決します。


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25話

あれから幾日かたった。総武高校ではあるイベントが起こる。それは、マラソン大会である。そして、今日がその日だ。

風は多少あるものの、冬晴れだった。寒い、俺は体を震わせながらスタート地点にいる。走行距離は長い。だからと言って、俺個人としてやることは変わらない。

整列の号令がかかると、俺達はスタート地点に引かれた白線の後ろに並び始める。俺は人混みを掻き分けながら、葉山がいる最前線に並ぶ。

 

「よう、葉山」

 

「やぁ、比企谷」

 

俺達は軽い挨拶を交わす。そして、お互いに屈伸したり身体を伸ばして、軽く準備運動をする。そして、スタートの合図が来るのを待つ。

 

「比企谷、忘れてないよな?」

 

「あぁ、忘れてねぇよ。賭けのことだろ」

 

俺と葉山はある賭けをした。それは、マラソン大会での勝負。勝った方が負けた方に、一つだけ言うことを聞かせる。

はっきり言って無謀なことだ。運動部である葉山に、文化部である俺が勝つことは出来るわけがない。俺はその事を葉山に言ったが、葉山はニヤニヤと笑って条件を変えてきた。それは、葉山が1位以外を取ったときは葉山の負けと変えた。なめられたものだ。葉山は絶対に1位を取る自信があるらしい。俺はなんとか別のものにしようと交渉するが、葉山は頑なに認めなかった。

 

「俺は君には絶対に負けないよ」

 

「………………」

 

腹をくくるしかない。俺は大きく深呼吸して落ち着かせる。周りを見ると、観戦している女子が見られる。大抵は葉山の応援をしている。そこから少し距離をおいて、三浦達がいた。三浦はちらちらと葉山に視線を送るだけだった。珍しいな。三浦が葉山の応援をしないなんて。やっぱり、あの噂は本当のようだな。そう結論づけて、ある人物を探す。

見つけた。俺の彼女、藤咲がそこにいた。お互い見つめあう形になる。そして、藤咲が俺に向けて何か言ってきた。けれど、葉山の応援でかきけされて、聞こえなかった。それでも、俺には伝わった。身体に力がみなぎるのを感じる。よし、頑張れる。俺は更に身体を動かし、万端の準備を整える。

もう間もなくスタート開始だ。並んでいる男子生徒達も静かになり、スタートの合図を待つ。

そして、ピストルを片手に平塚先生が現れる。空に向かってピストルを構えた。

 

「位置について、よーい」

 

次の瞬間、引き金が引かれて銃声がなる。俺達は一斉に走り始めた。俺は葉山の後ろについて走る。それを見た葉山がペースを上げた。最初から飛ばしすぎだよな。それでも、俺は葉山にくらいついて走る。ある程度走ると、二人だけでトップ争いしていた。

 

 

 

身体が痛い。呼吸も荒く、もう投げ出したくなる。それでも、走る。葉山に負けたくない一心で。俺は葉山を見た。少し疲れているように見える。さすがに、あんなに速いペースだと疲れるよな。もう少しだな。俺は葉山の横に並ぶ。葉山は俺をちらりと見る。

 

「よくついてこれるな……」

 

バカにした言い方だな。少しイラッとくる。だが、今がチャンスだな。

 

「一つ聞いていいか?」

 

「なんだ、比企谷」

 

「どうして、そこまで、俺を奉仕部に戻させようとするんだ?」

 

一つの疑問をぶつけてみる。

葉山は賭けをしてまで俺を戻そうとしている。それまで、固執する理由とは、一体なんなのか。

 

「俺はただいつものように戻ってほしいんだ」

 

何かを誤魔化すように、葉山はペースを上げる。本当に戻したいと思っているだけかもしれない。けれど、俺には別の理由があると思ってしまう。

だから、俺もペースを上げる。

 

「嘘をつくな。それだけじゃないだろう」

 

それを聞いた葉山はペースを上げる。

どうやら図星だったようだ。だが、逃がさないぞ。考えろ。今、確実に葉山を止めることが出来る言葉を。どうして、葉山は俺を戻そうとしているか。

 

あぁ、そうか。わかってしまった。考えてみたら簡単にわかることだ。いつだってそうだった。

 

「そうか。お前は奉仕部を必用としているのか。自分の都合のいいようにするために。利用するために」

 

葉山は急に立ち止まった。俺もそれに合わせて止まる。葉山を見ると、その顔は歪んでいた。それは、疲れからなのか。それとも、図星を突かれてしまったからか。もしかしたら両方なのかもしれない。

俺は更に畳み掛ける。

 

「いつだってそうだった。お前は奉仕部をただの便利屋としか思ってなかったんだ」

 

「………………」

 

「結局、お前は自分のためになることしか出来ないんだ!」

 

「黙れーーー!」

 

怒り狂った葉山が俺の胸ぐらをつかんでくる。俺は一切動じない。

 

「君に何がわかるんだ!俺がどういう気持ちでいたか……」

 

「知らねぇーよ」

 

俺は葉山の腕を払いのける。そんなの当たり前だろ。俺は葉山隼人ではない。葉山の気持ちなんてわかるわけがないのだ。

 

「……俺は君に勝つよ」

 

葉山は宣言する。それは、自分に言い聞かせてるように思えた。

 

「……俺は勝って、自分が正しいことを証明するよ」

 

それがお前のやり方か。なら俺も自分のやり方を貫くだけだ。葉山に宣言をする。

 

「……お前には無理だよ」

 

「なぜだ!」

 

「それは……」

 

葉山の後ろから誰かがやってくる。葉山はまだ気づいていない。後ろから来たのは橘綾斗だ。そして、俺が葉山に勝つための切り札だ。

 

 

 

 

あの時、藤咲と結ばれたあと、俺は橘を呼び出した。そして、全てを話した。俺が藤咲のことが好きだと。そして、告白したことを。

殴られると思った。協力すると言っておきながら、告白して奪った。だから、俺は何を言われても受け入れるつもりだった。それなのに、橘はこう言ってきた。

 

「悪かったな、比企谷」

 

謝罪だった。俺にはどうしてそんな言葉が出るのかわからなかった。普通なら怒りをぶつけてくるだろう。けれど、それは一切なかった。

 

「どうして……」

 

返ってきた言葉は意外なものだった。

 

「だって、藤咲の事が本気で好きだったんだろう。なら、そんな比企谷に頼んだ俺が悪い」

 

橘は笑っていた。凄く真っ直ぐな男だ。そう思ってしまう。

 

「じゃあ、今から振られに行きますか」

 

突然のことで停止するが、すぐさまもとに戻る。俺は橘のすることがわかってしまった。決して実らないとわかっているのに、告白するのはある意味勇気が必用だ。改めて実感する。橘は強い人間だと。

 

「……行くのか?」

 

「あぁ、自分の気持ちに嘘はつきたくないからな。じゃあな、比企谷」

 

そう言って、出ていく。残された俺は強く決意する。

あの後、どうなったかは俺は知らない。聞かない。ただ、橘は部活に精を出しているようだ。今以上に部活を頑張っているらしい。だから、俺は頼んだ。今回の件を。葉山に勝つための切り札として。

 

 

 

 

 

走ってくる橘と目が合う。任せろと言っているようだ。橘は葉山を抜かした。

 

「しまった!」

 

橘に気づいた葉山が走り出す。すかさず俺が挑発する。

 

「おいおい。俺との話は終わってねぇだろう。逃げるのか?」

 

葉山は足を止めた。その顔は焦って見える。

 

「くっ、うるさい!」

 

そう吐き捨てて葉山は橘を追っていく。作戦通りだな。ニヤと笑いながら、俺も葉山を追っていく。

今回の作戦の内容とはこうだ。まず、俺と葉山でトップ争いをする。その間、俺は出来るだけ葉山を疲れさせる。頃合いを見て、挑発し、走るのをストップさせる。そこを、橘に抜いてもらうという作戦だ。

俺は最初から葉山と直接対決する気はさらさらなかった。要は葉山を1位にさせなければいいのだ。つまり、他の人を1位にさせればいい。その役として、橘に頼んだ。そして、結果は成功した。

未だに葉山は橘を抜かせないでいた。これは、俺が疲れさせたためであろう。自分のペースで走ってきた者と、ペースを速くしたり止まったりしてからだにダメージを与えた者。どちらが、勝つことが出来るか?それは前者だろう。だから、もう葉山は抜けない。俺の勝ちは決まってしまった。だけど、ふとよぎる。藤咲から言われたことを。

 

『頑張って下さい』

 

もう頑張る必用がない。それでも、葉山には負けたくないと思ってしまう。それに、藤咲に無様な姿は見せたくない。かっこいい姿を見せてやりたい。

身体に力がみなぎる。かなり疲れているが、まだ走れる。俺はペースを上げた。

 

 

息が荒い。かなり疲れている。それでも、葉山に負けたくない一心で走る。いつのまにか、ゴールが見える所まで来た。付近には女子生徒達がいた。そして、俺は葉山に追い付いた。俺も葉山もかなり疲れている。今だ。俺はもっとペースを上げる。そして、葉山を抜かした。

 

「君には絶対に負けない!」

 

葉山の怒声が聞こえる。それと同時に、背中を引っ張られる。俺は体制を崩した。まさか、こんなことをされるなんて、このままだと負ける。だが、ゴール付近である人物を見つける。藤咲だ。

 

「邪魔をするなぁぁぁぁ!」

 

足を前に力強く進める。そして、葉山の腕を払いのける。そのまま、ゴールに走った。もう、葉山は追いかけてこなかった。

そして、今回の勝負は俺の勝ちに決まった。

 

 

 

 

ゴールした後、藤咲からタオルとスポーツドリンクを手渡される。俺は受けとると、顔をタオルで拭いた。すると、いいにおいがする。

 

「おめでとうございます。すごかったですよ。まさか、葉山君を差し置いて2位を取るなんて……そんな貴方が私の彼氏なんて、誇りに思いますよ」

 

「それは言い過ぎだぞ……」

 

そこまで言われると照れてしまう。

 

「いえいえ、謙遜しないでください。それに……」

 

「それに?」

 

「とってもかっこよかったですよ!」

 

とびきりの笑顔で藤咲は言った。その笑顔を見ることが出来たのなら、頑張って良かったと思う。

 




なかなか投稿出来なくてすみません。今回は葉山との直接対決でしたが、見事勝ちました。しかし、葉山の悲劇は終わりません。それは、次回で。
次で最後になります。最後まで読んでいただければ幸いです。


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最終話

あれから季節は流れ、春になった。

高校受験で総武高校を目指していた小町は、藤咲から勉強を教わったおかげで、無事に入学することができた。

俺も三年生に進級した。進級しても大して変わることはない。変わるとしたら、クラスだ。三年生になると、大学受験のため理系と文系にクラスが別れる。もちろん、俺は文系だ。さらに、藤咲も文系を選んだ。そして、俺達は同じクラスになることができた。他にも、戸塚や川崎、葉山が同じクラスになった。今まで休み時間は机に突っ伏していただけだったが、藤咲と話すようになった。それから、戸塚や川崎とも話すようになり、休み時間は机に突っ伏して過ごすことがなくなった。その結果、クラスメイトから話しかけられたりする機会が増えた。今まで一度も誘われたことがないクラス会にまで誘われた。ちなみに、クラス会はカラオケだった。初めて大勢の前で歌うのは恥ずかしかったが、なんとか歌いきりことができた。その後に、ちょっとヤバイことがあった。隣に座っていたクラスメイトの女子にしつこくベタベタとしてくる。その時に、どこからか強い視線を感じた。そちらを見ると、藤咲がいた。顔はニコニコと笑っていたが、目が笑っていなかった。俺は急いで藤咲の隣に座って説明をしようとしたが、藤咲から腕をつねられた。予想以上に痛かった。必死に謝ると、今度は腕に抱きつかれた。甘い香りと柔らかい感触を感じる。藤咲の顔を見ると、顔を赤く染めていた。俺はあいている左手で、藤咲の頭を撫でた。一瞬、びくっと動いたが受け入れ気持ち良さそうにしている。結局、俺達は終わるまでずっと一緒にいた。

ぼっちであった俺が、ここまで人と関われるようになるなんて思ってもみなかった。これも、藤咲のお陰である。

そして、問題であった葉山に関しては、あれから一切関わっていない。というよりは、あの時の約束を守っているようだ。マラソン大会で俺が勝ったことで、葉山に命令する権利を得た。そこで、俺は『俺達に関わるな』と命令した。葉山は悔しそうにしていたが、約束だから了承した。だから、クラス会でも葉山は来なかった。

 

 

 

 

まどろみの中、誰からから身体を揺さぶれられる。

 

「………八幡、起きていますか?」

 

誰かから呼ばれる。気だるげだが、身体を起こす。

 

「……あぁ、今起きたぞ。礼美」

 

俺達はある時から名前で呼び合うようになった。それは、小町から言われたからだ。もう付き合ってるんだから、名前で呼びあったらと。最初はお互いに照れくさかったが、徐々になれてしまった。

返事を返すと、礼美はあきれた顔になった。

 

「もう、まったく……今は放課後ですよ」

 

時計を見ると、確かに放課後だ。辺りには俺達以外誰もいない。どうやら授業中に寝てから、今起こされる前まで寝ていたようだ。

 

「では、行きましょう。私たちの部室へ」

 

俺達は二人仲良く部室へと向かった。

 

 

 

 

廊下を歩いている途中に黒髪の男子生徒とぶつかりそうになる。俺は避けると、その生徒は顔をふせ、小走りで去っていった。

 

「……あいつもずいぶん変わったな」

 

「……そうですね」

 

黒髪の生徒。その名前は葉山隼人。金髪であった髪を黒に染めている。さらに、少し痩せて暗い感じになっている。なぜこうなってしまったのか。始まりはグループの崩壊だった。

マラソン大会が終わった後、葉山が卑怯なことしていたのを見ていた三浦が幻滅した。さらに、他の生徒も見ていた。そこから、葉山の悪い噂が広がった。もともと、葉山は人気があったため、噂はかなりのスピードで広がった。なんとか噂を消したかった葉山はいろいろとした。奉仕部にも頼ったようだが、雪ノ下に却下されたらしい。なんせ、噂は事実であったためだ。その事実を多くの女子が見ている。それなのに関わらず、噂を否定していたのが、余計に悪い噂が広げさせた。

そして、ついにあることが起こってしまった。それは、海老名さんが修学旅行のことをばらしてしまった。そのことで、自分達の問題を他人任せしたことに三浦は激怒した。さらに、戸部も激怒して葉山に絶交を宣言した。その流れに乗るように、モブ二人も絶交を宣言した。そこにいた由比ヶ浜はオロオロとしていたが、三浦と海老名さんが葉山のもとから去っていくの見て、二人についていった。残された葉山はもう一度やり直そうと説得を試みるが、誰も話を聞かなかった。ついには、葉山は諦めてしまった。リア充から一転、一人ぼっちになってしまった。さらに、悪い噂のせいで葉山に、誰も近づかなかった。

葉山は部活を辞めてしまった。悪い噂で居場所がなくなってしまったためだ。それからは、髪を黒にして静かに過ごしている。

 

「もしかしたら、俺もああなってたかもな……」

 

今は葉山の悪い噂が流れているが、前は俺の噂が流れていた。もしも、礼美と合う前に、人の悪意に耐えきれなくなって、人を信じなくなって、そしたら俺は葉山のようになっていたと思う。

 

「……大丈夫ですよ。例え、貴方が一人ぼっちになっても、私だけはずっと側にいますから」

 

面と向かって言われる。そういってくれるだけで、救われる。

 

「そうだな……俺には礼美がいてくれる」

 

そうだ。俺はもう一人ぼっちじゃない。葉山にはいないが俺にはいる。大切な人が。

 

「はい」

 

お互いに笑い合う。嬉しさを共有するように。俺達の間には暖かい空気が流れた。それは、凄く心地よいものだった。

 

 

 

部室につくと、俺達がすることは本を読むか勉強するかだ。今日は勉強するようだ。俺は苦手なところをしている。一人ではなかなか解くのに苦労するので、礼美に手伝ってもらってる。礼美の教え方はうまく、分かりやすい。そのため、少しづつだが解けるようになってきた。

 

「そろそろ時間ですね」

 

俺は時計を見る。集中していたおかげで、かなり時間がたっていた。

 

「じゃあ、終わりにするか」

 

「はい」

 

俺達は後片付けをして、部室を後にした。

今日は礼美の家で夕飯をごちそうになることになっていた。これで、3回目になる。俺は凄く待ち遠しく思う。なぜなら、礼美の料理が凄かったからだ。もともと、礼美の両親はとても忙しく料理を作ってやる暇などなかった。そこで、藤咲は両親に替わりに自分作るようになったらしい。最初は下手くそだったが、徐々に上手く作れるようになった。さらに、努力を重ねることでその腕はプロに匹敵するぐらいの腕になった。

俺達は夕飯の材料を買いにスーパーに向かう。二人仲良くならんで。

 

「……手、繋ぎましょうか」

 

礼美は顔を赤く染めて提案する。まだ、俺達は初なカップルのように過ごしている。当然、一線は越えていない。今の俺達にはキスだけで充分なのだ。

俺は礼美の手をつかむ。柔らかい感触が伝わってくる。

 

「……じゃあ、行くか」

 

礼美は軽く頷いた。

嬉しい。こうしてふれあえるだけで幸せだと感じる。今まで、こんなふうに思えたことはあっただろうか。嫌、なかった。俺は悪意に晒され続け、善意に触れたことがなかった。だからこそ、俺はこの手を絶対に離したくない。

 

 

ふと思う。俺が求めるものについて。今にしてみればバカだったのかもしれない。完全に理解しあえるなんてあり得なかった。たかが、数ヶ月の付き合いなんかでわかるわけがなかったんだ。もっと長い年月を必要とするのだ。その中で、お互いにぶつかり合って理解するのだ。だから、もしかしたらあの時、違う道があったのかもしれない。けれど、それは過去の話だ。今の俺が選んだのは礼美と歩む道だ。後悔などはしない。

 

 

「好きだよ。礼美」

 

今はこれだけでいい。自分の気持ちを伝えるだけで。

 

「私も好きです。八幡」

 

返ってくる返事。

俺達は笑い合う。お互いに幸せを感じて。きっと彼女となら、これから先も一緒いられるのだろう。そして、俺の本物になってくれる。そう、信じてる。




かなり遅れての投稿で、すみません。やっと一段落終わったので投稿出来ました。
これで、最終話になりますが、何か要望がありましたら特別話として出したいなと思います。
今までかなり遅い投稿でしたが、最後まで見ていただいてありがとうございました。


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