ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか Two Rabbits (朝灯)
しおりを挟む

冒険開始

最近小説を全巻まとめ買いして、はまってしまい投稿に至りました。
朝灯というものです。
新しいの書くぐらいなら他の小説の続き書けよ!と思った方は正解です!


 迷宮都市オラリオ。冒険者ならば誰もが一度は聞いたことがある名前だろう。

 その地下に広がるダンジョンにはモンスターが生み出され、俺たち冒険者は日夜戦いに身を投げ入れる。

 ある者は地位や名誉を求め、ある者は単純に強さを求め、またある者はスリルを求めてダンジョンへと足を運ぶ。

 

 そんな俺もある願いを持ってダンジョンへ潜る冒険者だ。

 父と母から聞かされた出会いの物語。

 お互いの背中を任せられるようなパートナーを見つけて、守り合う。

 そんな関係に憧れて、俺はそんなパートナーを見つけるべくオラリオにやってきた。

 

 紆余曲折の末、ダンジョンに潜る為に必要な物を装備を揃えて、何とかファミリアに所属することが出来た。

 この世界ではファミリアとは冒険者にとって必要不可欠なもの。

 すなわち神との契約によって恩恵を得て、様々な経験を得て成長をして初めて冒険者として認められることになる。

 恩恵によって与えられた力は冒険者の身体能力などに比例し、どんどん強くなっていくというわけだ。

 

 主神の恩恵を与えられていない状態でダンジョンに足を踏み入れてしまうと、恐らくは生存などを許してはもらえないだろう。

 なので、人知を越えるモンスターには人知を越える力を持って対抗するしかない。

 

 ファミリアに所属する者は戦いを経て、どんどん強くなれる。

 だから俺も仲間と一緒にダンジョンに潜っていたのだが......

 

「お~い!!ベル~!!どこだ~!?」

 

 見事にはぐれた。

 ベル......ベル・クラネルは俺と同じファミリアに所属している人種がヒューマンの男だ。

 髪は白、目は深紅と何とも兎を思わせる容姿をしている。

 一応俺と同じく駆け出しの冒険者。

 つい先ほどまで一緒にいたのに、後ろを振り向けば姿が掻き消えていた。

 

「...これ、やばくね?」

 

 いくら神の恩恵を受けている冒険者でも最初から強いわけではない。

 技術面では優れていても、どうしようもないものだってある。

 恩恵を受けた冒険者にはパラメーターというものが与えられる。

 戦えば戦うほど、経験値(エクセリア)が溜まり、それを神に更新してもらえることで俺たちはより一層強くなれる。

 具体的なパラメーターは基本アビリティ、発展アビリティ、魔法、スキル、そして自身のランクを示すレベルに分かれている。

 

 基本アビリティとは力、敏捷、耐久、器用、魔力からなる、いわば冒険者の基礎能力だ。

 一般的にはI~S、0~999の数字と等級によって示される。

 

 発展アビリティとは......何て説明すればいいのか、まあ特性だ。

 これはLvが上がるごとに発現するみたいだが、駆け出し冒険者でLv:1の俺にはよく分からん。

 

 次に魔法。これは字に書いて如く、読んでもそのままだ。

 圧倒的な力、超常現象的な力だ。

 

 スキルは固有能力らしい。

 特殊な効果を持つものをレアスキルって言うみたいだ。

 

 Lvとはランク。

 これも強さに関係していて、例えばLv:1で全ステイタスがオールIだとして、同じようにLv:2のステイタスがオールIだったとして勝つのは単純にLvが高い者、といったような感じだ。

 

 つまり、Lv:1の魔法も発現していない駆け出しの冒険者がソロでモンスターに囲まれたらやばい、というわけだ。

 今がその状況。

 背中を冷や汗が伝う。

 幸いモンスターは現れてはいないものの、今俺がいるのは第4階層。

 ぶっちゃけ冒険者を始めてまだ半月の冒険者が来ていい場所ではない。

 

 本来ならば、もっと浅い階層で経験を積み、成長してから下を目指さないといけないのだが、俺とベルは2人なら大丈夫だろうという何とも浅はかな考えでダンジョンの深くを目指してしまったのだ。

 

 地上に戻るべきなのだろうが、はぐれたままのベルをおいては行けない。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

「今の......ベル!?」

 

 モンスターの出現を警戒していた所に聞こえたきたのは仲間の叫び声。

 しかも、この遠さ......あいつもしかして5階層に降りたのか!?

 

 俺は急いで階層を下りるための階段へと向かう。......が

 

『グォッ!』

 

「こんな時にゴブリンかよ!!」

 

 もう少しでにたどり着きそうだった所に、緑色のモンスターが壁から這い出してきた。

 比喩ではなく、本当にモンスターはダンジョンから生まれる。

 天井や床、壁からも生まれ落ちるのだ。

 

 俺は自身の武器である、短刀を逆手に持ち、醜い面の怪物と対峙する。

 数は一匹だし、これぐらいなら俺1人でやれる......はず!

 

『シャッ!』

 

「っ!」

 

 短い叫びとと共にゴブリンが飛びかかってくるが、さすがにそんな直線的な動きには当たらない。

 落ち着いて横に回避し、傍を通過する瞬間に短刀で切りつける。

 

『ギャッ!』

 

「ふっ!!」

 

 着地し、怯んでいるところに拙い回し蹴りを繰り出し、モンスターを吹き飛ばす。

 壁に叩きつけられて弱っているところを狙い、短刀を振り下ろす。

 

「ふぅ......何とかなった」

 

 頭から血を噴き出して、ピクリともしなくなったゴブリンを見下ろして、俺は呟く。

 そのまま魔石回収に移ろうとした時に、先ほど聞こえたベルの叫び声を思い出し、ピタリと手が止まる。

 

「やべえ!急がないと!」

 

 俺は魔石を回収することも無く、急いで階段を下る。

 

「ベルッ!!どこだ!?」

 

 5階層に下った俺は、モンスターが寄ってくるかもしれないというのに大声を張り上げる。

 

『ヴモォォォォォォォォォォォォッ――!?』

 

「っ!?」

 

 断末魔が響き渡り、ズズゥンという衝撃がダンジョンを揺らす。

 ビクッとしていた体に喝を入れ、断末魔が聞こえた方向に急ぐ。

 

「あの......大丈夫、ですか?」

 

 そこには、尻餅をついて呆然としている血まみれの人物と血が滴るサーベルを持っている青い軽装に身を包んだ金髪の少女が立っていた。

 

 ...あれって確か......【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン!?

 

 冒険者の中でもトップクラスの剣の使い手。

 その見目麗しい容姿からファンも多かったはずだ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 呆然としていたその血まみれの人物が俺の方へと走ってくる。

 赤すぎて分からなかったが、声で誰か分かった。

 

「おいっ!?ベル!?」

 

 彼こそが俺が探していた人物、ベル・クラネルだった。

 しかし、パニック状態の少年は俺に気がつくことは無く、そのまま駆け抜けていった。

 そんな少年の背中を追う為に、俺はくるりと踵を返す......前にこちらを見ている金髪金眼の剣士に一礼して、走り出した。

 

 帰り道にはモンスターは湧かず、速度を落とさずにダンジョンを駆け抜けて出口に辿り着く。

 

 そのまま街中を走っている血まみれの少年とそれを追う少年の図が出来上がった。

 走っていく方向からするに多分ベルはギルドへと向かっているのだろう。

 ダンジョンを運営管理しているのがギルド。

 冒険者はダンジョンに潜る際、このギルドに登録を行わなければならない。

 

 ここでは魔石の換金なども行われている。

 モンスターを倒せば、その体内から魔石という結晶を取り出すことが出来る。

 大きさによって値段は変わり、腕の立つ冒険者なら1日にかなり稼ぐことが出来るというわけだ。

 

「エイナさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」

 

「あっ、ベルく.......きゃあああああああああああ!?」

 

 血まみれの少年はそのまま自らの担当アドバイザー、エイナ・チュールさんに向かって声を張り上げながら叫ぶ。

 当然、エイナさんは悲鳴を上げる。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインさんの情報を教えてくださぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」

 

「その前に!!!シャワーを浴びろ!!!」

 

 俺はベルに負けない大声を出しつつ、ベルの襟元を掴む。

 

「うわっ!そうだった!......ってシキ!?いつの間にいたの!?」

 

「お前がヴァレンシュタインさんに助けてもらった時からだよ!いいからシャワー浴びてこい!!」

 

 本来なら白い髪のはずの少年を送り出しつつ、俺はため息を吐く。

 

「...それで?どういうことか説明してくれるよね?シキ君」

 

「...俺も詳しいことは分からないんで......とりあえずベルが帰ってくるのを待ちませんか?」

 

 ニコリと微笑むエイナさんに俺は再び冷や汗を流すことになった。

 

Continue to next time――

 




はい、どうだったでしょうか?
初回ということで戦闘シーンも少なめで何とかやれたと思います。

キャラ紹介

シキ・アスティリア

職業:冒険者 性別:男 人種:ヒューマン ステイタスLv:1 
武器:《ギルド支給 初心者用短刀》二つ名無し 
所属:【ヘスティア・ファミリア】

本作の主人公。年齢は15歳。
父と母の出会いの話を聞き、自身もそんな出会いをしてみたいと思い、半月前にオラリオへとやってきた。
しかし、弱い自分などを入れてくれるファミリアが見つからずにとうとう資金も底をついて空腹で倒れていたところを偶々通りかかったベルに救われる形でヘスティアファミリアに所属することになる。
見た目は黒髪に黒眼と一般的だが、中性的な容姿のため、彼も周りから兎のようだと言われている。
身長はベルより少し高い。

こんな感じです。
次回もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

発現

1話を読んで下さった方々ありがとうございます!
見るに堪えなかったものだったかもしれませんが、ちゃんと改善はしていきたいとは思っているので改善点を指摘してもらえれば幸いです。



「それで?5階層まで下りた挙句......ミノタウロスに遭遇、そしてベル君がヴァレンシュタイン氏に助けられて今に至ると?」

 

「「...はい、ごめんなさい」」

 

 ベルがシャワーを浴びて帰ってきたら、今度はエイナさんからの説教を2人揃って浴びることになる。

 物腰は柔らかいが、美人が怒るとそれはもう尋常じゃなく怖い。

 エイナさんはハーフエルフ、ヒューマンとエルフのハーフだ。

 

「キミたちはどうして私の言いつけを守らないの!?パーティを組んでも今のキミたちが下層に潜ったところで何も出来ないんだよ!?冒険しちゃダメっていつも口を酸っぱくして言ってるでしょう!?」

 

「「は、はぃぃ!!ごめんなさい!!」」

 

 『冒険者は冒険しちゃいけない』これはエイナさんの口癖で一見矛盾しているように見えるが、常に保険をかけて安全を第一に、という意味らしい。

 俺たちみたいな駆け出しの時期が1番命を落としやすく、肝に銘じておかないといけないみたいだ。

 

「ベル君もシキ君も......ダンジョンに変な夢見てるからこういうことになるんじゃないの?」

 

 ダンジョンに潜る理由は人それぞれだが、俺たちみたいなやつはそうはいないだろう。

 ベルは異性との出会い、俺は両親のようになれるパートナーを見つける為、つまりは目的が一緒なのだ。

 

「...それで?どうしてアイズ・ヴァレンシュタイン氏の情報が必要なの?まさか君も惚れちゃった口?」

 

「えぇ......はぃ、そう......です」

 

 もう少しで瞳と同じぐらい赤くなるんじゃないか?

 それぐらい今のベルは真っ赤だった。

 髪の毛の白さが余計際立つ。

 

「...え?......まじで?」

 

「う、うん......」

 

 女性が男性に助けられて惚れるというのは聞いたことがあるが、逆パターンは全くもってレアケースなのではないだろうか?

 ベルみたいなタイプは引っ張ってくれるような......年上が好みなんだな。

 

「...教えられることって言っても、公開されている情報ぐらいだよ?」

 

 【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 【ロキ・ファミリア】所属のLv:5。

 その剣技はまさに最強と謳われても過言ではなく、俺みたいな新米冒険者でもその名前は知っている。

 1人でモンスターの大群を壊滅させ、その凄まじさから2つ名をもじって『戦姫』とも言われているらしい。

 

「...それで......付き合っている人とかは......」

 

「う~ん......そういう話は一切聞かないよ?彼女は有名人だから浮いた話があればすぐに耳にするはずだし......ってこれは仕事の話じゃないでしょ!?これ以上はダメ!!」

 

 まぁ、その情報だけでベルは十分舞い上がってるみたいだから......収穫はあったっぽいな。

 手放しにガッツポーズしているベルを苦笑しながら眺める。

 

「よし、今日はもう換金して帰ろうぜ」

 

「あ、うん!そうだね!」

 

 いつもより切り上げるのが早いが、それなりにモンスターは倒して魔石の回収を行っていた為、雀の涙ほどでも収入があるはずだ。

 換金所に魔石を差し出し、差し出された袋の中を2人で確認する。

 

「合わせて2700ヴァリスか......」

 

「いつもと比べて収入は低いけど......命あってのものだしね、仕方ないよ」

 

 本当に雀の涙ほどの収入を見て、2人でガックリと肩を落とす。

 ベルの言う通りではあるけど、どうにも割り切れない。

 

 そのままギルドの出入り口まで歩き、そこで見送りに来てくれたエイナさんがベルを励ますかのように口を開く。

 

「ファミリアが違う以上お近づきになるのは難しいとは思うけど......いつの世も女性は強い男性に魅力を感じるものだから......その、ベル君が頑張っていれば、ね?」

 

 チラリとベルを見る。

 ブツブツと何かを呟いていたと思えば、いきなりバッと顔を上げる。

 

「はいっ!頑張ります!」

 

 ベルは笑顔でそう言い、勢いよくギルドを飛び出していく。

 

「お、おい!ベル!待てって!!」

 

 雑踏の中を駆けていくベルは急にくるりと振り返る。

 そこでようやく背中に追い付いた。

 

「エイナさん、大好きーっ!!」

 

「......えぅっ!?」

 

「お前節操ないな......」

 

 奇妙な声を上げて真っ赤に染まるエイナさんを見て、また走り出したベルにツッコミを入れつつ俺は隣を並走する。

 この天然ジゴロめ......

 喉元まで言葉が出かかったが、きっと今のベルにはどんな皮肉も聞こえないだろうなぁと隣を走っている満面の笑みのヒューマンの少年を見て、俺はそう思った。

 

♦♦♦

 

 どんなファミリアにもホームというものが存在する。

 文字通り家だ。

 そんな俺の前にあるのは古ぼけて崩れかけたような教会。

 

 必要もないが一応辺りを確認してドアのない建物に入る。 

 中に入ると外見とは違い立派な内装が――

 

 ――というわけもなく、内装もボロボロの教会を見て、俺はどうにもため息を隠し切れない。

 無名ファミリアというのはどうしても資金面での苦労が出てきてしまうものだ。

 とは言ってもこれはもう少し何とかならなかったのだろうか?

 床のタイルが壊れた部分から伸びる雑草を見て、俺は再びため息を吐く。

 

 そんな俺たちが目指すのはかろうじて原型をとどめている祭壇の奥の小部屋だ。

 薄暗い部屋には本の入っていない本棚が並び、1番奥の棚の裏側には地下へと下りる階段が続いている。

 目的地はその階段の下にある部屋だ。

 

 中からは少しだけ光が漏れ、俺はその部屋の扉を間違って壊さないように慎重に開く。

 ギッと少々耳障りな音を立てて、扉が開く。

 部屋の内装はPみたいな形をした部屋にボロボロな机、古ぼけたベッド、そしてソファがありあとはいくつか本棚がある、といった感じだ。

 

「神様ーっ!今帰りましたーっ!ただいまー!!」

 

「ヘスティア様ー帰りましたー」

 

 そんな俺たちの声に反応して、ベッドに寝転がり仰向けに本を読んでいた人物がトテトテと俺たちの前にやってきた。

 容姿は幼女と少女の間を行き来しているような感じの女性。

 銀の鐘が付いた青いリボンで結われたツインテールと外見不相応の大きな胸。

 更にその大きな胸の下を何故か青い紐が通っている独特なファッション。

 

「やぁやぁお帰りー!2人とも今日は早かったんだね!」

 

 この人が俺たちが所属する【ヘスティア・ファミリア】の主神ヘスティア様だ。

 

「あはは......今日はちょっと死にかけちゃって......」

 

 まさか第5階層にLv:2に該当するミノタウロスが出るなんて誰も思わないだろ......

 あいつは確か少なくとも15階層から出現するモンスターのはずだぞ?

 

「おいおい、大丈夫かい?君たちに死なれたらボクはかなりショックだよ。柄にもなく悲しんでしまうかもしれない」

 

 ヘスティア様は俺たちの体をぺたぺたと触り怪我の有無を確かめてくる。

 そもそも死にかけたのはベル1人なんだけどな......

 俺もピンチといえばそうかもしれなかったけど、ベルに比べれば可愛いものだ。

 

「大丈夫です。神様を路頭に迷わせることはしませんから」

 

 ヘスティア様に体を触られて照れているのか、ベルは頬をほんのりと赤く染めて言う。

 こいつ今日はよく赤くなるな......

 

「それはもう手遅れじゃないか?既に俺たちは路頭に迷いかけてるし」

 

「もう、シキ君はいつも一言多いね......大丈夫!なんてったって君たちはこのボクが選んだ眷族なんだぜ?」

 

 大きな胸を更に強調するように胸を張るヘスティア様。

 拾ってくれて感謝はしているけど......その自信は一体どこから湧いて出るものなんだろうか?

 

「...それなら大船に乗った気でいてもらわないとですね。とりあえずこれが今日の稼ぎです」

 

 辛うじて空ではない小袋をヘスティア様に差し出す。

 これは今日の食事も侘しいものになりそうだ。

 

「おぉっ!いつもご苦労様!...悪いねぇ、ボクはあまり資金集めに貢献出来なくて......」

 

「そんなっ!?神様がアルバイトしてくれているから今こうして少ない収入でも暮らしていけてるんですよ!?僕たちもっと頑張りますから!!」

 

 神様がアルバイトしているご時世とはどんな世界なのだろうか?

 神と言っても下界に降りてきている以上は神の力というのは使わないのが暗黙のルールらしい。

 いくら人知を越えた神々であろうと食べなきゃ生きていけない。

 それが世界のルールってわけだ。

 

「君たちみたいないい子が眷族でボクは幸せだよ!!そんな君たちにボクからご褒美だ!!テーブルの上を見てくれよ!!」

 

 ベルの言葉に一転テンションが上がったヘスティア様は誇らしげにテーブルまで歩いていき、被せられていた布を取って、布の下にあった膨らみの正体を晒しだす。

 

「「こ......これは!?」」

 

「どうだい?すごいだろう!?」

 

「どうしたんですか!?この大量のジャガ丸くん!!」

 

 そこにあったのは庶民の味方ジャガ丸くん。

 1個30ヴァリスとお手頃な価格ながら、味は多種多様、もちろん美味しい。

 そんな俺たちのソウルフードだった。

 

「露店の売り上げに貢献したことでたくさん頂戴することが出来たんだ!!夕飯はパーティだ!今夜は君たちを寝かせないぜ?」

 

「ス、スパイシー風味は!?」

 

「もちろんあるよ!!」

 

「一生着いて行きますヘスティア様ぁ!!!」

 

 俺の人生はジャガ丸くんスパイシー風味によって決まった。 

 

♦♦♦

 

「それじゃそろそろ【ステイタス】を更新しておこうか」

 

「はい!」

 

「了解です」

 

 服を脱いでうつ伏せに寝転がる。

 神の恩恵(ファルナ)は比喩ではなく、本当に背中に文字として刻み込まれている。

 ファミリアに所属する者は皆、例外無くだ。

 

「それで?死にかけたって言ってたけど一体どうしたんだい?」

 

 ヘスティア様はまずベルの背中に跨って今日の体験談をベルから直接聞いている。

 アイズ・ヴァレシュタインさんの名前が出てきた瞬間ヘスティア様の眉がピクっと跳ね上がった。

 

「...【ロキ・ファミリア】所属してしまっている以上そのヴァレン何某とかいう女とは婚約出来ないし、諦めたらどうだい?」

 

 容赦のない神の言葉にベルはうぐっ!?と声を上げて、そのままソファに突っ伏して動かなくなる。

 ファミリアが違うもの同士で結婚し、子供を授かってしまうとその子供は一体どちらのファミリアになるのか?というややこしい事態が発生しかねないため、違うファミリアに所属している者同士では結婚は出来ないというわけだ。

 

「ほら、更新終わったよ!次はシキ君だ」

 

「はい、ほらベル。早く退いてくれ」

 

 今日も【ステイタス】の伸びはあまり期待出来そうにないな......

 こればっかりは地道にやるしかないわけだけど......

 

「ベル~、お前の【ステイタス】見せて~」

 

「はい」

 

 寝転がった状態のまま、俺はベルから渡された用紙を見る。

 

 ベル・クラネル

 Lv:1

 力:I77→I82

 耐久:I13

 器用:I93→I96

 敏捷:H148→H172

 魔力:I0

 

 《魔法》【】

 《スキル》【】

 

「敏捷伸びたな~......ミノタウロスに追い回された恩恵か?」

 

「そうみたいだね......」

 

 それで魔法もスキルもまだ未開化。

 ...でもこのスキル欄少し消されたあとがあるような?

 あとでヘスティア様に聞いてみよう。

 

「にしてもこの敏捷高くて耐久低いっていうのはまさにヒットアンドウェイ型のパラメーターだよな」

 

「極力攻撃には当たらないようにしてたからね、痛いし怖いし」

 

 ふと、俺の背中から微かな重みが消える。 

 どうやら俺の更新も終わったらしい。

 早速用紙を受け取り、中身を拝見する。

 

 シキ・アスティリア

 Lv:1

 力:I82→I85

 耐久:H120→H122

 器用:I83→I84

 敏捷:I88→I90

 魔力:I0

 

 《魔法》【】

 《スキル》【】

 

「シキはバランスいいよね......耐久もあるし.......」

 

「日頃の鍛錬の成果、なのか?俺もほとんど攻撃は受けていないはずだけど......」

 

 よくモンスターとのつばぜり合いとかギリギリの勝負してるからこういう感じになるのか?

 まぁ、耐久が高いのは俺にとってはありがたいことだけど。

 その分誰かを守れるし。

 

「でもやっぱり魔法やスキルが欲しいよな~」

 

「そうだよね、早く出ないかな~」

 

 魔法には個体の性質や種族に由来する先天性魔法と神の恩恵(ファルナ)に由来する後天性魔法があるらしく、俺とベルは紛れもなく後者らしい。

 

「知識の経験値(エクセリア)が関係しているらしいというのは聞いたことがあるけど......ベル君もシキ君も本なんて読まないからね」

 

「...偶には読んでみるかな」

 

「じゃあこの神話の本を――」

 

「――おやすみなさい!」

 

 ダメだ!文字がたくさん書いてあると思うだけで......持病の睡魔がっ!

 ヘスティア様の言葉を遮り、俺は床に敷かれたシーツに包まる。

 

「あ、そういえば神様。このスキル欄どうしたんですか?何か消された跡があるんですけど......」

 

「それ、俺も気になってました」

 

「あぁ、ちょっと手元が狂ってね。気にしなくていいよ」

 

 ふ~ん......?

 それならいいか。明日も早いし今日は本当に寝てしまおう。

 

「シキ君?寝る前にシャワーぐらい浴びたらどうなんだい?」

 

「嫌だ!あれはシャワーじゃない!!あれはただの滝だ!!」

 

 この教会にはシャワーなんて豪勢なものはない。

 いや、正確にはあるのだが......水なんて出ない。

 俺の知っているシャワーは暖かい水が出るはずなんだ!

 その為俺たちは近くにある滝にお世話になっているというわけだ。

 それなら明日ギルドで浴びるから!!!

 

「ベル君、シキ君を連れていってあげてくれ!」

 

「分かりました!ほら!シキ、行くよ!!」

 

「離してくれぇぇぇええええええ!!!」

 

 襟首を掴まれた俺に成す術は無く、俺はそのまま引きずられていった。

 

♦♦♦

 

「ベルッ!!後ろ!!」

 

 目の前にいるコボルドを相手にしながら、俺はベルに警告する。

 

「うわっ!!......っと!」

 

 背中から飛びかかってくるモンスターをいなし、ベルは武器のナイフを使い反撃を見舞う。

 そのまま流れるように前蹴りし、俺の方へとコボルドを蹴飛ばしてきた。

 

「俺まだこいつと戦ってるんだけど!?......しっ!!」

 

 逆手に持った短刀を振るい、自分の前にいるコボルドを怯ませてその間に後ろに回って飛んでくるコボルド目がけて蹴り飛ばす。

 

『グエッ!?』

 

『グッ!?』

 

 似たり寄ったりの悲鳴を上げて、2匹のコボルドは空中で激突する。

 そのまま、俺とベルはすれ違う形で入れ替わり、お互いに斬撃で確実に1体ずつ(ほふ)る。

 

「今のはいいコンビネーションだったんじゃないか?」

 

「うんっ!僕もそう思うよ!!」

 

 パンっと手の平を合わせてハイタッチし、魔石回収に取りかかる。

 今日の稼ぎは上々といったところ。

 朝早くからダンジョンに潜った甲斐があるというものだ。

 

「今日はこれぐらいにしとくか?」

 

 そろそろ時間も良い頃のはずだ。

 数時間潜っていた為、胃袋の中身が空になり腹の虫が抗議をし始めた。

 

「そうだね、まだ昼過ぎぐらいだと思うけど......今日はどれくらい潜ってたっけ?」

 

「ん~......大体6時間ってところじゃないか?」

 

 俺たちがダンジョンに潜ったのは恐らく朝の6時頃。

 そして今が昼ぐらいなら大まかに言って6時間というわけだ。

 

「これだけやれば【ステイタス】も期待出来そうだな」

 

「魔石も小さいのばかりだけど数なら結構集まったしね!」

 

 今俺たちがいるのは第2階層。

 地上へはすぐに戻れる位置だ。

 しかし、油断はしないようにして俺たちは地上へと抜け出した。

 

「これなら神様に美味しいものを食べさせてあげられるよ!!」

 

 メインストリートを歩きながら、ベルは喜びの声をあげる。

 

「今日は侘しい食事にならないですみそうだな。昨日のジャガ丸くんは例外もいいところだし......あーでも節約しないといけないのか......」

 

 なんてことを言い合いながら、そのまま歩いていたのだが......ふと、へばりつくような視線を感じた気がして立ち止まる。

 まるで俺の存在自体を見透かそうとするような......そんな気持ち悪い視線。

 隣を歩いていたベルも不思議そうな顔をしてきょろきょろと首を動かしていた。

 

「...ベルも何か感じたのか?」

 

「...ってことはシキも?」

 

 コクリと無言で頷き返す。

 俺が感じたのはほんの僅かな時間だったが、確かに誰かに視られていたような気がしたのだ。

 

「あの......落としましたよ?」

 

「ひゃい!?」

 

 さっきまで気味の悪い視線を感じて敏感になっているのか、俺は背後からかけられた声に少し飛び上がる。

 バクバクする左胸を右手で押さえて、振り返る。

 

「...?」

 

 年齢は俺より少しだけ上だろうか?

 薄鈍色の髪の毛で髪型はお団子とポニーテイルの融合体みたいな感じ。

 服装は白いブラウスに膝下まである若葉色のジャンパースカート。

 その上から長めのサロンエプロン。

 

「あっ!すいません!ちょっとぼうっとしていて!」

 

 どうやら小さな魔石が転がり落ちてしまっていたみたいだ。

 今日の収入が減るところだった......

 

「今帰ってるってことは朝早くからダンジョンに潜っていたんですか?」

 

「はい。実はそうなんです」

 

 俺が当たり障りの無い返事をすると横にいる白髪の少年からグゥっという情けない音が聞こえた。

 それに呼応するように俺の腹部がグゥっと鳴る。

 そして2人揃って真っ赤になる。

 初対面の人に聞かれたっ......

 

「うふふ、お腹空いていらっしゃるんですか?」

 

 俺は羞恥に耐えるようにコクリと頷く。

 ベルに至っては首を何度も小刻みに振っている。

 

「それなら私が働いている酒場で昼食を食べていかれませんか?」

 

 何とも魅力的な提案をされた。

 是非ともそうしたいところだが、まずは換金が先。

 そうしないと鍛えた敏捷のパラメーターを食い逃げに使う羽目になってしまう。

 

「えっと......今からは少し無理そうなので、夕食の時に......」

 

「そうですか!お待ちしてますね!」

 

 そう言ってにこっと華やかな笑顔を浮かべる......えっと......

 

「俺はシキ・アスティリアです」

 

 未だに赤くなっているベルを肘で小突き、自己紹介を促す。

 

「あっ!僕はベル・クラネルです!」

 

「私はシル・フローヴァと言います!」

 

 にこっと華やかな笑顔を浮かべるシルさんと約束を交わして、俺たちはホームへと急いだ。

 

♦♦♦

 

 ベル・クラネル

 Lv:1

 力:I82→H120

 耐久:I13→I42

 器用:I96→H139

 敏捷:H172→G225

 魔力:I0

 

 《魔法》【】

 《スキル》【】

 

「ふぁっ!?」

 

 【ステイタス】を先に更新し終えたベルはヘスティア様から渡された用紙を見るなり、形容しがたい声を上げる。

 

「何だよ?そんな驚くことがあったのか?」

 

 ベルは震える手でうつ伏せの俺の前に用紙を突き出してきた。

 いくら何でもあんな変な叫び声を上げることは......

 

「んがっ!?」

 

 俺の叫び声はベルと同等、それ以上のものだった。

 何だ!?この異常な伸び方!?

 力と器用はIからHまで上がり、敏捷はHからGに上がっている。

 

「か、か、神様!?これ写し間違えてません!?」

 

 ヘスティア様はブスッとした表情をしながら、本当に恨めしそうに口を開く。

 

「...君はボクが数字や文字が見えないように見えるのかい?」

 

「い、いえ!?でもこれは!?」

 

 ベルが騒ぎたくなる気持ちも良く分かる。

 

「...ベル君は多分成長期なんだろうねっ!」

 

 ぷいっとそっぽを向きながらヘスティア様は俺の背中から飛び降りる。

 

「【ステイタス】に成長期なんてあるんですか!?初耳ですけど!?」

 

「知るもんかっ!」

 

 成長期か......なら俺にも来ている可能性が!?

 期待して渡された用紙に目を落とす。

 

 シキ・アスティリア

 Lv:1

 力:I85→I90

 耐久:H122→H125

 器用:I84→I86

 敏捷:I90→I94

 魔力:I0

 

 《魔法》【】

 《スキル》【】

 

 ...うん、相応だな。

 成長期なんて微塵も感じさせないような平均的な上がり方。

 

 というかやっぱり何か腑に落ちない。

 そう思った俺は驚愕したままのベルから離れ、こっそりとヘスティア様に話を聞くことにした。

 でも一応念を入れておいたほうがいいかもしれない。

 

「おい、ベルお前先に行ってこれ換金してもらってくれ」

 

「へ?あ、うん。分かったよ」

 

 どうせ夕食は外で食べるなら先にホームで【ステイタス】を更新してから換金しに行った方がいいと判断した為持ち帰って来ていた魔石袋をベルに渡す。

 

「シキは?」

 

「俺は少し武器を手入れして行くから」

 

 少々無理のある言い訳だったかもしれないが、人を疑うことを知らないベルは素直に先に行った。

 そして、完全に足音が消えたこと確認してヘスティア様に向き直る。

 

「で?あれはどういうことですか?」

 

「...ベル君には絶対秘密だよ?あの子はとても物事を隠せるような子ではないからね」

 

 知ってる。

 あの白髪のヒューマン、ベル・クラネルは超がつくほどのお人好しで、呆れるぐらい素直な男だ。

 

「あれが他の神々に知られれば絶対にベル君は面白がってオモチャにされちゃうだろうからね......シキ君、これはベル君には絶対言わないと約束して欲しい」

 

「はい、神に誓って言いません」

 

 文字通り目の前の俺を拾ってくれた女神様に誓って嘘は吐かないと誓おう。

 

「...これを見てくれ」

 

 そう言ってヘスティア様が渡してきたのは1枚の用紙、ベルの【ステイタス】が表記されたものだった。

 だけど、さっき見たものとは1つ異なる。

 

「このスキルは......」

 

 消し跡のあったスキル欄に文字がある。

 

 《スキル》【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 ・早熟する。

 ・懸想(おもい)が続く限り効果持続。

 ・懸想の丈により効果向上。

 

 ベルの急成長の正体は、遥かなる高みへの憧れによるスキルの出現によるものだった。

 

Continue to next time――

 




いかがだったでしょうか?
前回投稿する前に感想をログインユーザーからしか受け付けないとしてしまっていましたがログインされていない方からも感想が頂けるように設定を直しました。
この小説についてのご指摘が頂ければ大いに助かります。

何分ファンタジーを書くのには慣れていないものですから......

次回もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

憤り

今回、ヒロインが登場します。
投稿遅れまして申し訳ございません。


「おーい、ベル~!」

 

「あっ!シキ......神様は?」

 

「あぁ、何かバイト先の打ち上げだってさ」

 

 ギルドに着くと換金を終えたベルが待っていた。

 先にシルさんの職場に行ってて良かったのに律儀なやつだな、本当に。

 

「じゃあ行くか」

 

「うん!」

 

 確かメインストリートの辺りだったよな?

 あとは酒場って言ってたっけ?

 

「...そうだ、ベル。ちょっと走ってみてくれよ」

 

「へ?どうしたの?急に」

 

「あれだけ【ステイタス】が伸びてたんだからどれだけ反映されるのかが気になってな」

 

 敏捷は53程伸びていたはずだ。

 2とか3なら効果は分かり辛いと思うけど、あそこまで急激に伸びたら体感出来るはずだ。

 

「そうだね。じゃあ走ってみる」

 

 グッと足に力を込めたベルは一気に加速する。

 試しに並走しようとして追いかけるが、距離が縮まるどころか離される始末。

 昨日まではまだ並走は出来たのに......これが神の恩恵(ファルナ)の力!?

 

「すごいよ!シキ!今までと全然違う!」

 

 急に立ち止まったベルは幼い子供のようにはしゃぐ。

 微かに頬を上気させ、深紅の瞳がキラキラと光っている。

 

「そりゃあれだけ数値伸びてるのに今までと変わらなかったら【ステイタス】なんて更新する意味が無くなるしな......」

 

 しかし、本当に差をつけられたな......

 追いつけるのはいつ頃になるだろうか?

 ...いや、あのスキルがある限り俺はきっと追い付けないだろう。

 誰かへの想いが具現化するほどのスキル、羨ましいし、嫉妬だってする。

 ...だけど、それ以上に......それほどまで強く想える相手が出来たってことがただ単純にスキルよりも羨ましい。

 

「シキ、ここじゃないかな?シルさんが働いているっていう酒場って」

 

 どうやら考え事をしている間も俺の足は動いてくれていたらしい。

 2階建てでやけに奥行きがある建物、多分この辺りの酒場で1番大きいんじゃないか?

 

「あぁ、多分ここだな。『豊饒の女主人』...か」

 

 うわぁ、すげえ名前。

 看板を見上げながら俺はそのまま視線を下ろして少しだけ中を覗いてみる。

 店内には活気が溢れ、店員さんが忙しなく動き回っている。

 

 ...あの恰幅の良さそうなドワーフの人は絶対女将だな、うん。

 あれって獣人キャットピープル......おいおい、エルフまでいるのか?

 全員が女性でしかもウエイトレス。

 

「シキ......僕たちには難易度が高すぎる気がするんだけど......」

 

「そうだな......俺も同感」

 

 さて、店を目の前にして帰るという選択肢が眼前に浮かぶがシルさんの笑顔が頭をよぎる。

 っていうかこのシルさんの笑顔何かすごいリアルだな......

 

「いらっしゃいませ!お二人とも来てくださったんですね!」

 

 ...あぁ、これ俺の想像とかじゃなくて本物か......道理でいい匂いまですると思った。

 そんな現実逃避すらも許されないのか、俺とベルはシルさんに背中を押され、店内に押しやられる。

 所々から乾杯の音と料理のいい匂いが立ち込める店内のカウンター席の隅へと腰を落ち着ける。

 

「ん?あぁ、アンタらがシルが言ってた冒険者かい?......中々可愛い顔つきをしてるじゃないか!」

 

 男にとって可愛いっていうのは褒め言葉じゃないんだよ......ぜひ覚えておいてくれ。

 そんなことを言ったら俺が料理されてしまいそうなので絶対に言わないが。

 

「何でも店の食料が空になるほどの大食漢らしいじゃないか!ジャンジャン腕を振るうからアンタらもジャンジャン金を使ってくれよぉ!」

 

 誰が大食漢だって?

 俺は恨みがましい視線をシルさんにブン投げる。

 ...速攻で目ぇ逸らしやがった!?

 

「ちょっと!?どちらかと言えば僕たち一般の人よりも食べないと思いますけど!?」

 

「...てへっ☆」

 

「可愛い!でもそうじゃない!!まずは誤解を解いて欲しいんだよ!!」

 

 ダンっと拳をカウンター席に打ちつけながら渾身の叫び声を上げる。

 

「ちょっとした冗談です!少し奮発してくれるだけで十分ですよ!」

 

 ヘスティア様、ごめんなさい。

 少しだけ財布の紐を緩めることをお許し下さい......

 女性の笑顔や頼みごとに滅法弱い、どうも俺です。

 

「とりあえず......パスタで。ベルは?」

 

「あ、うん。僕も同じのを」

 

 注文を手早く決める。

 もちろん値段は1番安いものにしておく。

 

「アンタら酒はどうする?」

 

 別に飲めないわけじゃないけど......余計な出費は抑えたい。

 

「遠慮しておきま「ほら!」」

 

 俺の返事を待つまでもなく、目の前にお酒がドンッと音を立てて置かれる。

 聞く意味ねえじゃねえか......

 

 ふと、店内の音が止まった気がして何気なく出入口の方をチラリと見やる。

 ちょうど団体が入ってきたところだった。

 しかし、オーラがある。

 特にあの金髪の剣士......ってあれアイズ・ヴァレンシュタインさんじゃん!!

 

 ってことは......あれが【ロキ・ファミリア】......

 第一級冒険者の集まり......

 入ってきた団体が【ロキ・ファミリア】だと認識された瞬間再び店内にざわめきが起こる。

 

「...ベルさ~ん?」

 

 シルさんの声が聞こえる。

 視線を戻してベルを見てみると完全に見惚れていた。

 憧れの相手が目の前にいるんだ......無理もない、のか?

 

「ダンジョン遠征みんなご苦労さん!!今日は宴や!!飲めぇ!!」

 

 その音頭を皮切りに【ロキ・ファミリア】の集団が騒ぎ始める。

 こうして見るとその姿は貫禄ある冒険者ではなく、俺たち駆け出しとなんら変わりのない姿だと思える。

 

「そういやアイズ!お前あの話してやれよ!」

 

「...あの話?」

 

 ピクッとベルの肩が動く。

 必死に憧れの人の声を聞こうと集中しているのが分かる。

 お前集中の使いどころ間違ってね?

 

「ほら!あれだよ!あの5階層で始末したミノタウロスの時の!全身に返り血浴びたトマト野郎の!!」

 

 再びベルの肩がピクッと動く。

 しかし、俯いているために表情は見えない。

 

「あぁ、あの17階層で襲ってきたミノタウロス?」

 

「そうそう!奇跡みたいにどんどん階層を上がって行ってさ!そしたら運悪く5階層にいかにも新米って感じの冒険者がいてよぉ!」

 

 ベルが小刻みに震え始める。

 恐らく怒りではない、他の感情で。

 

「そいつ兎みてぇにどんどん壁際に追い詰められていってよぉ!!......そのミノタウロスをアイズが切ったら血がドバッとかかって......そいつトマトみてえになってやんの!!笑えるだろ!?」

 

 まぁ、間違いなくベルのことだよな。

 あんな体験してるやつが他にいてたまるか。

 

「そしたらその冒険者が悲鳴を上げて逃げ出しやがって......助けたのに逃げられてやんの!!」

 

 失笑、苦笑、忍び笑い、爆笑......様々な笑いが今話をしている獣人を中心に巻き起こる。

 そんな中、ベルはただジッと俯いている。

 

「ったくよぉ!あんなに泣くんだったら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての!俺たちの格まで下がっちまうぜ!本当胸糞悪ぃ!」

 

 あぁ、胸糞悪いな。

 

「なぁアイズ?お前あんな冒険者と俺だったらどっちを選ぶ?」

 

「...ベートさんだけはごめんです」

 

 ここが俺が初めてちゃんと笑えそうなポイントだ。

 ざまぁみろ、振られてやんの。

 

「でもあんな雑魚じゃアイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ!何より、弱いことが大嫌いなお前が許さねぇ!!」

 

「っ!!」

 

「おい、ベル!?」

 

 ベルが椅子を蹴飛ばして店外へと走り去る。

 

「...あの子」

 

 ヴァレンシュタインさんが何かを呟いているが、今の俺には届かない。

 ベルが走り去ってしまったという事態と単純に怒り。

 

 ...この場面は事を大事にしないように切り抜けるべき、なんだけどな......

 仲間をバカにされて黙ってられるほど......俺はバカじゃない!!

 

 俺は獣人の方へと向き直り、震える膝に喝を入れる。

 

「さっきから黙って聞いてれば......アンタ何がしたいんだよ」

 

「あぁ?」

 

 ケンカになればケンカにすら発展しないだろう。

 だってアイツどう見ても強そうだし......絶対レベル高いし。

 

「元はと言えばアンタらがミノタウロスを討ち逃したのが事の始まりだろうが。それなのに自分たちのミスで死にかけた冒険者を笑うとか何様だ」

 

「おいおい、雑魚が何言ってんだぁ?ダンジョンでは何が起こるか分からないんだぜ?それなのに自分の力量も分からないカスが冒険者になる方が悪いだろうが!」

 

 どうやら俺の言葉は取るに足らないものだと判断されたらしい。

 嘲笑混じりに適当にいなそうとしている。

 

「...アンタの言う強者ってのは弱者のピンチを笑う為のもんなのか?随分と安い強さだな」

 

「...死にてえのか?」

 

 獣人がゆっくりと俺の方へと近づいてくる。

 正直言って超怖い。

 今すぐ逃げ出したい。

 

「それにこうも言うぜ?弱い犬ほどよく吠える......ってな!」

 

 店内の数名がプッと噴き出す。

 この獣人は狼人(ウェアウルフ)だ。

 彼の外見を皮肉に混ぜての挑発に【ロキ・ファミリア】の数名も笑いをこらえていた。

 

「俺は雑魚には絶対手は出さねぇ。雑魚をいたぶる強者なんてそいつこそ雑魚だ。......だが、テメェは別だ!俺を弱者呼ばわりしたテメェは殺してやるぜ!!」

 

 獣人の青年は腕を振り上げる。

 恐らく殴られて、俺は気を失うだろう。

 

 だけど後悔はない、俺は言いたいことは全部言った。

 それこそ胸を張って気絶してやるさ!

 

「遅れてすいま......ってベートさん!?何をしてるんですか!?」

 

 俺の顔の前でピタリと拳が止まる。

 今出入口からから聞こえてきた声が原因ではなく、彼の手を止めているヴァレンシュタインさんのおかげだ。

 

「...チッ!命拾いしたな」

 

 さしもの彼もヴァレンシュタインさん相手では分が悪いらしく、興醒めと言わんばかりに俺に背を向けて獣人の青年は元の席へ戻っていく。

 

「...助けていただいてありがとうございます。ヴァレンシュタインさん」

 

「ううん、先に失礼なことをしたのは私たちの方だから......ごめんなさい」

 

 わずかに沈んだ表情をしながらヴァレンシュタインさんが謝罪してきた。

 

「これってどういう状況なんですか?アイズさん」

 

 とアイズさんの後ろから声が聞こえる。

 さっき店に入ってきた少女だ。

 銀色の髪を持ち、瞳は薄い黄色。

 

「...エル。気にしなくていいよ」

 

 エル、それが彼女の名前みたいだ。

 ...可愛い。

 思わず見惚れてしまった。

 

「...あの子、ベルって言うの?」

 

「はい、ベル・クラネル......俺と同じ【ファミリア】に所属してます」

 

「...君は?」

 

「...シキ・アスティリアです」

 

 ゆっくりと頭を下げてお辞儀する。

 この人は尊敬に値する人だ。

 

「そう......あの子にも謝っておいて。嫌な思いと怖がらせてごめんなさいって......」

 

「...分かりました」

 

 別に怖がって逃げたわけじゃないんだけど......それを俺が言うのは野暮ってものだ。

 あいつが自分で言わなきゃいけないことだし。

 

「それじゃ俺はこれで、店内で騒いですいませんでした!これあいつの分の代金です!」

 

 ドワーフの女将さんにいつでも土下座に移行できる姿勢で謝罪する。

 

「...まぁ店内で殴り合いを始めたら摘み出すつもりだったし、この店で食い逃げとかいい度胸をしてるよあの子」

 

 よーし、土下座だ。

 頭上から降る怒りが滲んだような声に俺は膝を地面に着き始める。

 

「でも勘定はアンタから貰ったし、何も文句は言わないさ。また来な!それでチャラにしてやる!」

 

「ありがとうございます!」

 

 結局、感謝の意を表すのに俺は土下座をした。

 

「...あの、何があったかは分かりませんけど......ベートさんがすいませんでした」

 

 数秒ほどの土下座の後、俺は店から出た。

 すると、エルと呼ばれた少女が背後から声をかけてきた。

 

 何があったかは分からないけど謝ってくるなんて......なんていい子なんだ......

 

「いや、あれは俺がケンカを吹っ掛けたんですよ。悪いのは俺で......」

 

「それでも先に手を出そうとしたのベートさんですよね?......あっ、申し遅れました!私はエル・グラウスと言います!」

 

「あっ、俺は「アスティリアさんですよね!」」

 

 そうか、俺この人の前で名乗ったんだっけ?

 

「あぁ、シキでいいですよ......正直アスティリアって長くて言い辛いし......」

 

「分かりました、シキさん。それなら私のこともエルとお呼び下さい!それに敬語は必要ないですよ?恐らくですが私の方が年下ですし」

 

「...うん、それならエルも敬語じゃなくていいよ」

 

「私は誰に対してもこうですよ?お気になさらず」

 

 すっかりと暗くなり、月明かりと街灯が辺りを照らす。

 エルの銀髪に反射してかなり輝いて見える。

 

「じゃあ、俺はこれで......機会があったらまた会おう」

 

「はい!それでは!」

 

 既に見えなくなったベルの背中を見つけようと、俺はとりあえずヘスティア様が待っているであろうあのボロボロの教会がある方へ足を向けたのだった。

 

Continue to next time――

 




キャラ紹介
 
エル・グラウス

職業:冒険者 性別:女 人種:ヒューマン ステイタスLv:2
武器《小太刀:虎月》二つ名【銀獅子】
所属:【ロキ・ファミリア】

本作のヒロイン。年齢は14歳。
アイズに次ぐロキのお気に入りの秘蔵っ子。
肩甲骨の辺りまで伸びた銀髪の少女。
純粋無垢な少女で例え嘘でも信じやすい。
生来の芯の強さとアイズ直伝の剣の腕を合わせ持ち、更には生粋の努力家。
Lv:はまだまだ低く、駆け出しの域を出てはいない。
年齢も若いが、剣姫の跡継ぎとして囁かれているホープでもある。

こんな感じです。
次回もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。