魔法科高校のエレメンツ (大川瞬)
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入学前夜

初小説?です。雫がヒロインでほそぼそと書けたらいいなと思っています。


入学式の前夜、主人の部屋に呼ばれた木闇(こぐれ)十夜(とうや)はいつものように挨拶をした。

「失礼します、お呼びでしょうか、旦那様」

「お前も相変わらずだな、私はお前も自分の子供のように思っているといつも言ってるだろうに」

 すこし残念そうに少年に声を返したのは北山潮。この屋敷の主人であり敏腕の実業家である。

「ありがたいお言葉ですが、使用人と雇用主との関係ははっきりさせる必要がありますので」

 答える真夜は身長175cmほど、顔はまだ少し幼さを残しているが凛々しく整っており、屋敷の制服を身につけ、背筋を伸ばして立つ姿は一人前の執事に見える。

「そんな事を言ってもお前は居候させているだけで別に雇用関係があるわけではないんだが・・・それに本当は君が忠誠を誓い依存しているのは雫にだろう?」

「そ それは・・・・その・・・」

 先ほどまでの態度とうって変わって年相応の顔を見せる少年を見て笑いながら潮は続ける。

「これも前から何回も言っているが、十夜、お前になら娘を任せても良いと私は思っているよ。もっとも課題は山積みにするがの」

「わ 私の事は置いておいて本来のご用件は何でしょう!?」

 このままではまずいと少し強引に話を変えようとする十夜。

「むう、まぁ時間も時間じゃし本題に入ろうかのう」

まだいじり足りないのか物足りなそうな顔をしながら潮は言った。

「話と言うのは明日からの雫の高校生活の事だ。お前には言うまでもない事だが雫は可愛い!そして私の娘だ。高校ともなれば悪い虫も寄って来よう、誘拐を試みる輩も増えることだろう。私は心配で心配で・・・」

 そんな輩は今までも吐いて捨てるほど居たが自分と貴方がありとあらゆる手段で排除してきたじゃないかと言いたい十夜だったがここでは口に出さないことにした。

「つまり雫様お嬢様の警護のLvをあげるという事でしょうか?」

 うなずきながら潮は告げる

「うむ。十夜、お前にかけていた制限を解除する」

「よろしいのですか?自分のプロテクトは一度解いてしまえばもう封じる事はできませんが」

「かまわんよ、それにお前が雫を裏切るなんてありえないだろう?」

「もちろんです」

 十夜は即答する。それは聞かれるまでも無いこと。木闇十夜は、木闇一族はそうできていると言っていい。

 

 

「ああ それとな」

 退室しようと扉から出た十夜に潮が声をかける。

「外では今まで通りに雫と幼馴染のように接しなさい。ボディーガードを付けてるなど周囲に思われないようにな。まかせたぞ」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 自室に戻った十夜は部屋の電気もつけずに鍵をかけ内ポケットから携帯端末形態の汎用型CADを出しよどみなく操作する。すぐに魔法は発動した。

 十夜が通常時に得意としているのは収束系魔法、今起動しているのは領域内に向かう光を反射させ暗闇の空間を作る魔法漆黒空間(ブラックアウトカーテン)

 十夜の周りが一瞬で暗闇に飲み込まれる。光のまったく届かない完全な漆黒、その闇の中で十夜は呪符を取り出し精霊の喚起を始めた。

自分にもっとも親しい者たち、闇の精霊、影の精霊。領域内に親しい精霊たちが満ちていくのを感じながら暗闇の中で眼を凝らす。十夜にとって闇の中で精霊を見ることなどできて当たり前のことなのだ。程なくして目当ての精霊は現れた。

 

「話すのは久しぶりだね、北山家に来て以来だから8年ぶりぐらいかな」

 精霊はしゃべらない。しかし十夜は精霊の思念を感じ会話を続ける。

「うん。お願いがあって来てもらったんだ」

「もう君に命じた人は居ないけど・・・・」

「そう。もういいんだ、僕も昔と違って強くなったから」

 精霊は嬉しそうに十夜の周りを飛び回る

「いままでありがとう。すぐ自分で君を呼び出せるようになって見せるよ。」

 

『またね』

 

 十夜が喚起魔法を止め、漆黒空間(ブラックアウトカーテン)の発動を解除すると同時に部屋の扉が控えめにノックされた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 扉を開けるとそこに立っていたのは雫だった。

「雫お嬢様!このような時間にどうなされましたか?」

「雫」

「しかし・・・「雫」・・・はぁ、それで雫どうしたのさ?」

「ん、魔法の発動を感じた」

 相変わらず感覚が鋭い!と思いながら

「少し練習していただけだよ」

 魔法を使っていたことは誤魔化せないにしても、本当にしていた事を教えるわけにもいかない。十夜は曖昧に答えた。

「うそ」

雫の答えは即答だった

「うそじゃないよ、精霊の喚起をしていたんだ」

 これは嘘じゃない。肝心な部分はぼかしているけれど。

「十夜が部屋の鍵を掛けるときは必ずなにか隠している」

「うっ」

 さらに雫は続けた。

「それにさっきから私の方を見ていない。なにか後ろめたい証拠」

 たしかにさっきから見てないけどさ・・・・

「あの、雫?今の君の格好は夜中に男の部屋に来たらまずい格好だって理解しているかい?」

「ん?」

 そうなのだ、雫の今の格好は寝間着姿。お嬢様らしく高級素材のファッション性重視のネグリジェ。夜中に男の部屋に来たら誘っていると取られてもおかしくない。

「私の魅力にくらくら?」

「せめてガウンくらい羽織って!」

「もってきてない」

「あーもう!」

 十夜はCADを取り出し一瞬で魔法を発動する。

 影が集まりガウンの様に雫を覆った。収束系魔法に振動系魔法を併用した漆黒衣装(ブラックコート)お手軽に保温までできる優れものである。

「4月といってもまだ夜は冷えるんだ。入学式を風邪で欠席なんて嫌だろ?」

「ありがと」

 雫は照れくさそうにお礼を言い続けた。

「ちょっと眠れなかったから十夜とお話したかったんだ」

「もう遅いから少しだけだよ?」

 雫の頼みを断ることなどできない十夜が雫を部屋に入れるのが日常なら、結局そのまま十夜のベットで雫が寝てしまうのもいつもの日常であった。



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入学式Ⅰ

入学式の日の朝~の話になります。

二話目になって宣言するのもあれですが「魔法科高校のエレメンツ」は雫とオリ主人公をひたすらいちゃいちゃさせる話となる予定です。
特定のカップリングが好きな方。繰り返しの展開があまり好きでない方にはつらい部分もあるかと思います。
またオリ主人公は作者の設定では雫と同程度の魔法力。美月と同じ程度の目。達也に少し劣るくらいの魔法知識と魔工技術。精霊魔法に関しては覚醒した幹比古くらい。体術は鋼くらいのだいぶチートキャラです。
いろいろと都合のいい主人公ではありますが、生暖かい目で見守って頂けると嬉しいです。


 窓から薄くさし込む光を感じ十夜は目を覚ます。

「朝か・・・ん~っ」

 十夜はくるまっていた毛布を取り大きく伸びをする。ベットの上では雫がまだ穏やかな寝息をたてていた。

もちろん十夜は一緒にベットで寝ていたわけではなくソファーの上である。

「まったく、気持ちよさそうに寝ちゃってさ」

軽く呟きながら雫の顔を覗き込む十夜の顔は嬉しそうに緩んでいる。雫が自分に見せてくれる信頼は十夜にとって何にも変えがたい物なのだ。

 時刻はまだ5時を少し過ぎたところ、普通の高校生が起きるには少し早い時間だ。雫が寝ているのを確認し十夜は手早く身支度を整えた。

「さて、ちゃちゃっと準備しますかね」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「おはようございます、黒沢さん」

 食堂の奥の調理場には既に朝食の準備をしている女性が立っていた。

「おはよう、十夜君。昨夜はお楽しみでしたね?」

「なっ!?」

 いきなりの問題発言を繰り出したのは北山家でハウスキーパーをしている黒沢女史だ。顔を真っ赤にして言葉が出ない十夜を前にさらに発言を続ける。

「まったく、入学式前夜と言うのにお嬢様を部屋に連れ込んで朝までとは・・・」

 ショックから覚めた十夜があわてて否定する。

「黒沢さん!誤解です!貴女も本当はわかっているのでしょう!」

 十夜の否定などお構い無しに黒沢さんは悲しそうに

「あぁ・・旦那様になんと説明すれば・・・よよよよよ」

 ここまで来ると十夜も落ち着いてきた。

「あの、黒沢さん?」

「なんでしょう?十夜君」

 途端にいつも通りの冷静さに戻り返事をする黒沢さん。

「はぁ・・もういいですよ。朝食の準備を手伝います。」

 疲れたように言う十夜に

「十夜君は優秀ですけどまだまだ甘いですね。こっちも鍛えないとお嬢様は任せられませんよ?」

「善処します・・・」

 北山家に来た幼い時から自分を知っているこの人は、いまだに十夜の顔が上がらない人の一人なのだ。

 

 

 ホーム・オートメーション・ロボット(HAR/ハル)が普及している現在でも北山家の食卓はほぼ黒沢さんの手による物だ。

さまざまな資格を持ち何事もそつなくこなす黒沢さんを十夜はこっそりと目標の一人としている。もっとも本人には絶対に言うつもりはないけれど。

「十夜君って本当にオムレツ上手ですよね」

 いつもの様に食べる人の嗜好に合わせて十夜が作ったオムレツを見ながら黒沢さんが話す。

「これだけですけどね」

 素っ気なく返す十夜だが顔色には少し喜色が混じっている。しかし続く言葉に

「お嬢様が朝のオムレツだけは十夜君が作った物を希望するのも分かるわね。これが愛ってやつなのかしら?」

「お嬢様を起こしてきます!」

 黒沢さんの目に嗜虐心を感じ慌てて十夜はその場を離れるのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 コン コン

自分の部屋にノックをするのも変な話だが部屋に戻った十夜は扉をノックする。もちろん返事は無い、相変わらず自分のお姫様は朝に弱いようだ。

「おはようございます、お嬢様」

 部屋に入りベットの隣まで行き耳元で声をかける。

「・・・・」

「お嬢様、今日から新学期でございます。ほのか様とお約束があったと思いますが?」

「・・・・・」

「お嬢様、誠に失礼ながら狸寝入りはよろしくないと存じます」

「・・・・・・・雫」

「・・・・・・・・」

「雫」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「わかったよ・・」

 結局先に根負けするのは常に十夜である

「ほら、起きてよ雫。オムレツ覚めちゃうよ」

 ガバッ!

「それを早く言って」

 そのまま食堂に行きそうな勢いの雫を慌てて十夜は止める

「雫!服!部屋に戻って着替えて!」

 もちろん着ているのは昨夜のままの寝間着だった。軽く首をかしげ雫が言う。

「私の魅力にくらくら?」

 目を逸らしながら十夜は疲れたように呟いた。

「いや、それもういいから・・・」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 もぐもぐ

もぐもぐ もぐもぐ

北山家では特別な用事が無い限り全員が同じ食卓を囲む。仕事の関係で潮夫妻は既に居ないが雫、弟の航、黒沢、十夜の四人がテーブルに着いている。

「おいしい」

 雫が満足そうに呟き

「十夜にーちゃんのオムレツ美味しいよね!」

 航が無邪気に言う。

「お粗末さまです」

 既に食べ終えていた十夜はHARの入れたコーヒーを飲みながら答えた。

「お嬢様の希望なら毎日お弁当も作りますよって十夜君が言ってましたよ」

 黒沢さんの発言に

「本当?」

 雫が問い返し

「ええ、もちろん」

 しれっと黒沢さんが返す。

「黒沢さん!」

 たまらず十夜が声を出すが

「お嬢様のお弁当を作りたくないのですか?」

 逆に聞き返され

「いえ、そういうわけでは・・」

「作りたくないのですか?」

 チラッ 意味ありげな視線を雫に送る黒沢さんに応え?

「作ってくれないの?」

 少し悲しそうな表情で問いかける雫

「作りたいです・・」

 二人に見つめられた十夜にできる返事は一つしかなかった。

 

 雫も食べ終わりしばらくは新しい第一高校の制服の話で盛り上がっていたのだが(ここでも十夜は黒沢さんに遊ばれていた)

「お嬢様、十夜君、そろそろお時間では?」

「ん」

 黒沢さんの言葉に雫は軽くうなずき

「そうですね」

 壁際の時計の時間と待ち合わせの時間を比べ十夜は席を立つ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 二人とも部屋に戻り準備した後ロビーに出る。

「お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「「いってきます」」

 黒沢さんに見送られ駅に向かう二人、駅までは5分ほどの道のり。中学校の頃から通い慣れた道を並んで歩く。

「だん・・小父さんが残念がってたよ、入学式に出れないなんてって」

 十夜がその時の顔を思い出したかの様に笑いながら言うと

「親ばか」

 そっけなく返す雫。表情をあまり変化させない雫だが十夜には照れている事がバレバレだ。

「うちの親父なんて最初から期待出来ないからなぁ」

「忙しくて全国飛び回ってるのだから仕方ない。それに週1で会える」

「会ってるのは雫でしょ。仕事で顔だしてるだけじゃないか」

 ぼやく十夜に

「いつも十夜の事気にしてるよ?それに毎回課題を置いていく」

「それはそうだけど・・」

 十夜の父親は『木闇樹』(こぐれたつき)現在この国で五指に入ると言われている有名魔工師だ。木闇家の一人娘と熱愛の末に婿養子としてきた樹。8年前に妻を亡くしてからは仕事と研究にのめり込む様になり今の名声を得るようになった。

「まぁ親父のおかげで僕もCADを弄れる様になったし、いろんな高等魔法の起動式を教えて貰えるんだから放任ってわけじゃないんだろうけど」

「もう少ししたら十夜に私のCADのメンテナンスを任せるって言ってた」

「あの親父・・自分が楽したいだけじゃないのか?」

「そんなことない。それに・・」

「ん?」

「私も十夜がCADをメンテナンスしてくれたら嬉しい」

「っ!」

 十夜を見つめながら話す雫に十夜は何も言えなくなるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「あ、いたいた、おはよ、雫、十夜君」

 第一高校最寄の駅で待ち合わせをしたほのかを待っていた雫と十夜

「おはよう、ほのか」

「おはよう、ほのかちゃん」

 駅の人混みの中で挨拶を交わす。家の中では「ほのか様」と口にしていたが屋敷をでれば小中学校時代の同級生である。それにほのかと十夜はある意味では特別な存在とお互いが思っている。

今現在、自分たちが知る限りで唯一の同じ世代の「エレメンツ」話す言葉も自然と親しくなる。

「制服、似合ってるよほのかちゃん」

「ありがと、十夜君もかっこいいよ」

 じー 

二人で会話している横から視線を感じ

「雫も似合ってるよ」

 十夜はもう何回も繰り返した台詞を口に出す。

「そう」

 相変わらずの口調だが付き合いの長い二人には嬉しそうな感情が伝わってくる。

「相変わらず雫と十夜君は仲がいいよね」

 少し羨ましそうにほのかが言うと

「ほのかでも十夜はあげない」

 雫が真剣な表情でほのかに告げる

「そんなつもりじゃないって、二人の関係が少し羨ましかっただけ」

 ほのかは実際に少し寂しそうに答える。

その悩みは普通の女子高生と同じ物、ただ十夜にはもっと奥深い物に聞えていた。

 

「そんな事言ってほのかだって入学試験の時に気になる人居たんでしょ?」

「そうなの?ほのかちゃん」

 沈みそうな空気を変えようとしたしずくの問いかけに十夜ものる

「そんな!その人が好きとかじゃなくて・・」

「その人の魔法が美しかった?」

「うん。とても綺麗だった、規模とか速度とかじゃなくて巧みに組み上げられた一切の無駄の無い起動式。計算されつくした精緻な魔法。私もあんな魔法が使いたいと思ったの」

「ほのかがそこまで言うのだからその人はきっと合格してるよ」

「一科生だろうし同じクラスになるかもね」

 雫の台詞に十夜が続ける。

「うん。知り合いになれたらいいなぁ」

 明るい声に戻った友人に安堵し

「ほら、そろそろ行かないと入学式が始まっちゃうよ」

 十夜の言葉を合図に三人は第一高校へ続く一本道を歩き始めた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「なんとか三人並んで座れたね」

「うん、間に合ってよかったね」

「ぎりぎり」

 駅で少し話し込んでいた三人が会場に着いたのは、もう入学式が始まる直前だった。会場の後ろの方はならすぐ座れたのだが、新入生の分布には規則性があった。前半分は一科生、後ろ半分は二科生。十夜にしてみれば正直どうでも良かったのだが雫とほのかも居る。わざわざ目立つ必要も無いかと、三人は急ぎ足で会場内を移動したのだった。

 ほどなくして式は始まった。学園関係者の挨拶を聞き流しながら十夜は登壇者、そして会場に視線を巡らしていた。十夜の目は普通ではない。一般的には「霊子放射光過敏症」と呼ばれているが、十夜のそれは次元が違う。木闇家では『神霊眼』(しんれいがん)と呼んでいる、神霊すら見ることのできる目。昨夜まではまだプロテクトがかかっていたので、普通の(それでも重度の)霊子放射光過敏症と言えたが、今はその目は神霊眼としての力を全て発揮している。通常であれば精神の均衡を崩してもおかしくない。しかし十夜は物心ついた時から霊子感受性のコントロールをする訓練をずっと続けてきた。それに8年前の未熟な子供の頃と違い、今は十夜の中には常に雫の存在がある。今の十夜は普通の魔法師が見ている何十倍もの想子光と、通常では見分けることなどできないさまざまな色の霊子光の中でも心を乱されず、オーラの表情から会場に危険な人物が居ないかを確認していたのだ。

「綺麗な人」

「才色兼備ってこういう人の事をいうのかな」

 会場に視線を向けていた十夜は二人の声に壇上に目を向ける。

「っ!?」

 危なく声を上げそうになった十夜

「十夜君、そんな驚かなくたって」

「十夜?」

 二人の言葉にも反応できずに壇上を見つめる十夜。壇上では新入生総代が答辞を述べていた。




なるべく早いうちに続きを投稿できたらと思います。


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入学式Ⅱ

早く投稿と言っておいて遅くなりました。



 壇上に立つ少女。新入生総代、司波深雪。たしかにその整った容姿と、洗練された態度は人の目を惹きつける魅力に溢れていた。しかし十夜が驚いたのは

 

『オーラが二種類? そんな事があり得るのか?』

 

 十夜が見ているオーラは霊子放射光-霊子の活動によって生じる非物理的な光だ。その時の精神状態によって変化はするが本来のベースとなる色は一種類。その色は誰もが共通ではなく、精霊と同じで誰もが違う色を持っている。しかしその少女がまとうオーラは一種類ではなかった。

 

『近い色だがあれは確実に性質が違う。どういうことだ?』

 

「「十夜」君」

 繰り返しかけられた声に我に返った十夜は

「あ、ごめん、凄い綺麗な人だね」

 内心の動揺を隠し、話題になっていた外見に関して言葉にした。

「ほんと、女の子から見ても目を奪われちゃうもん」

 十夜の態度を容姿に目を奪われていたんだなと解釈したほのかと

「む、ライバル?」

 なぜか対抗心を燃やす雫。二人の思考が自分から離れた事を感じ、十夜が再び壇上に目をやると既に少女は答辞を終え壇を下りた後だった。

 

『悪いオーラでは無かったし今はあまり気にしなくていいか』

 

 十夜はとりあえずそう結論づけると、会場への警戒を再開した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「「「せーの」」」

 三人同時にIDカードを見せあう

「「「A組」」」

「よかった二人と一緒のクラスで」

 ほのかが嬉しそうに言う

「うん」

 しずくも表情が明るい。

「一人だけ違うクラスになったらどうしようかと思ってた」

 十夜も同じように続けながら内心では

 

『僕は旦那様から聞いていたから知っていたけど二人には言えないしな』

 

 同じクラスになるのは小学校、中学校に続き三回目。

教育機関のクラス編成に軽く口を出すくらい潮にとって簡単な事なのだ。

「とりあえずホームルーム行ってみようか?」

 十夜が二人に聞く

「そうだね、どんな人がクラスメートかも知りたいし」

 ほのかが言うと

「ほのかが気にしてるのは試験の時の人」

「雫!」

 雫の発言にほのかが抗議の声を上げる。

「気にしているのは本当」

 そう続けA組の教室に向かって歩き出した雫を追いながら、抗議を続けるほのかをみて

 

『ほのかちゃんはもう少しこっちの耐性つけないとな』

 

 と自分の事は棚に上げて思う十夜だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 教室内は4~5人のグループが3つほどできていた。

「一クラス25人だから全員来てる訳ではないみたいだね」

 十夜が教室内を確認して言うと

「今日はもう授業も連絡事項も無いはず」

 雫が答える。

「それもそっか、ほのかちゃん?」

「うーん、さっきの子居ないね。」

 教室を見回していたほのかだが、A組だろうと思っていた先ほどの少女と、自分の目当ての人が居ない事を確認して二人の会話に混ざってきた。

「明日になれば全員揃うだろうし、まだ判らないよ」

 教室に入ったときに十夜は全員をその目で視ている。自分のセンサーに引っかかる様な人物が居ないのは確認済みだ。

「司波さんは今頃いろんな人に囲まれている」

 雫が断定的に新入生総代の現状を宣言する

「あーたしかにそうかも、十夜君も見惚れてたもんね」

「む」

 なにか言いたそうに自分をじっと見てくる雫を見ながら

「綺麗な人だったけど、綺麗過ぎて逆に近寄りがたいなぁ」

 十夜は正直な感想を述べた。 

なでなで

「雫?なんで僕の頭撫でてるの?」

「なんでもない」

 視線を逸らした雫の横で

「はいはい、ごちそうさまです」

 呆れた様な表情でほのかが呟いた。

 

 

「ほのかの目当ての人も居なかったし帰る?」

 それぞれの席を確認し終えた後、雫が二人に話しかける。

「し~ず~く~?」

「あはは、雫それくらいにしてあげて?少しお腹空いたしどこか寄って行こうよ」

「残念、でもその意見には賛成」

「ほのかちゃんも機嫌治して、デザートくらいなら奢るからさ」

「残念って・・・もー・・・」

 雫にはまだ何か言いたそうにしていたほのかだが

「ありがと十夜君、セットじゃないとやだからね?」

 十夜の気遣いが伝わったのか返事は冗談交じりの明るい声だった

「十夜、私は?」

「雫、そこは空気読もうよ・・」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 教室を出ようとしていた3人に

「ちょっと待ってくれないか?」

 入り口の近くに居たグループから声がかかった。立ち止まり振りかえると

「これから同じ一科生(・・・)同士で交流を深めようと思っているのだけど、君達も一緒に混ざらないかい?」

 最初に声をかけてきた男子が話しかけてきた

 

『プライドが高そうなやつだな、それにこのオーラどこかで見た気がする。めんどくさい事になりそうだ』

 

 内心でそんな事を考えながら、どうする?といった表情で十夜は二人に視線を送る。

 2人はお互いに顔を見交わした後

「「十夜」君?」

 

『逆に判断を任されてしまった・・・僕はいいけど2人の事を考えたら断るのは良くないな』

 

「じゃあよろしくお願いするよ」

「よろしく、僕は森崎駿。森崎家の者だ」

「森崎家ってボディーガード派遣の会社を経営してるクイック・ドロウの森崎家かい?」

 十夜は内心苦虫を噛み潰したような気分で聞く

 

『先日のホームパーティーで外の警備にいたボディーガードか、雫の事は気づいてないみたいだけど』

 

 森崎は驚いた表情をしながら

「詳しいんだね、たしかにその森崎家だ」

「それだけ有名だからね、僕は木闇十夜。呼び方は十夜でいいよ」

「光井ほのかです」

「北山雫」

 十夜に続けて2人が短く自己紹介をする、

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 続いている残りのメンバーの自己紹介を聞きながら十夜は

 

『森崎はそこそこやりそうだけど、他の子達はライバルにはならなそうだな。後は・・・』

 

 脳裏に浮かんだのは先ほどの新入生総代、司波深雪

 

『2種類のオーラもだが、あの量は規格外だ。数字付きでは無い様だが、特殊な血筋としか考えられない。エレメンツか?』

 

「十夜」

 

『司波・・・波・・・水?』

 

「十夜君」

 

『少し調べてみるか』

 

「「十夜」君!」

「うわっ」

 考え事をしてる間に話は進んでいたようだ。雫とほのかを残し残りのメンバーは移動を始めていた。

「みんなご飯食べに行くって、私達も行く?」

「十夜、なにか考え事?」

 問いかけてくる2人に

「今日は止めとこう。自己紹介はしたし、ほのかちゃんにデザートセット奢る約束だしね」

 ほのかにそう返事をし森崎に声をかける

「わるい、今日は僕達ご飯はパスで~。」

「了~解。じゃあまた明日なー」

「また明日ー」

「木闇君は両手に花がいいんだ?」

「えーじゃあ私もそっちいくー」

 ワイワイ喋りながら教室から出て行くクラスメートを見送りながら

「後で話すよ」

 十夜は雫に小さく囁いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「美味しいね」

「まあまあ」

「場所も丁度良い位置にあるし、これからお世話になりそうだね」

 3人が入ったのはフレンチのカフェテリア。デザートの種類が豊富で女子には人気そうなお店だった。返事はしているが十夜は正直それどころではなかった。

 

『オーラが2種類、そして色が同じ・・・・・か』

 

 そう3人が入ったカフェテリアには先客が居た。例の新入生総代、同じテーブルに女子生徒2人と男子生徒が1人ついている。十夜の視線を辿ったのか

「あそこに居るの司波さんだ」

 雫も気づいたようだ、小さい声で2人に教える

「え?あ、本当だ。お友達といっ・・・!」

「?」

「・・・・」

「ほのか?」

「なん・あの人・・・・なの・・・」

「ほのかちゃんどうしたの?」

 急に俯き呟き始めたほのか

「・んで・・・2科・・の」

「なんであの人が二科生なの・・・」

「あの男子がほのかの言ってたあの人なの?」

 ほのかに聞き返しながら

 

『たしかに司波さん以外二科生、だが男子はオーラを見る限り規格外だ・・・あの活発そうな子、あのオーラの色・・・師範代に近いな、妹がいるなんて聞いたこと無いが・・・そして・・・』

 

 3人目の瞳を視た瞬間の感覚。あれは自分と同じ眼だ・・・

 

『まさか神霊眼を持っている子がこんな近くに居るなんてね』




次回こそ早めに・・・


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入学式Ⅲ

入学式当日はこれで終わりになります。



 視線に気づいたのか、男子がこちらに意識を向けて来たのを感じ十夜は目を逸らす。

 

『気づかれたな。好奇の視線には慣れてそうだし気にしないでくれると良いのだけれど・・・あの子、眼鏡をかけているという事は、完全に眼をコントロールしている訳ではないみたいだな。どこまで視えているかは気になるが・・』

 

 十夜が考え事をしている間もほのかの呟きは続いていた。

「あの人の魔法は美しかった、他の誰よりも」

「二科生になっている以上、実技試験で劣っていたって事」

 雫が淡々と一般的な回答をする。

「でも!」

 感情的になっているほのかに雫は続けた。

「実技試験における魔法力の評価は、魔法を発動する速度、魔法式の規模、対象物の情報を書き換える強度で決まる。あの人の魔法は基準を満たしていたの?」

「たしかに速度も規模も威力も良かったとは言えない。けどあれだけ魔法を巧く使える人が二科生だなんて!」

「同じクラスになれなかったのは残念だけどさ、一科生、二科生ってほのかちゃんにとってそんなに重要?」

 納得できていないほのかに十夜は言う。

「え?」

「別に一科生と二科生が仲良くしちゃいけない訳じゃないんだし、そんなに気にすることなのかなって」

「あ・・・」

「そっか・・・そうだよね」

 少し落ち着いたのか、自分に言い聞かせているほのかを見て、一安心した十夜だったが、

「ほのかはクラスメートになって、キャッキャッウフフしたかった?」

「雫!」

 雫の言葉ですぐに逆戻りしてしまった。

「ほのかちゃん落ちついて」

「だって!」

「凄い言い辛いんだけどさ」

「?」

「注目浴びてるよ・・・・」

「!?」

 慌てて周囲を見回すほのか、目が合った人は気まずそうに目を逸らし、上手く視線を逸らした者は何事も無いかのように、それなりに客の入っていた店内の興味は明らかにこのテーブルに向けられている。

「うう・・恥ずかしいよう」

「ほのかが自爆しただけ」

 まだ続けている2人、司波さんのグループからも意識が向けられているのが分かり、十夜にはかなり居心地が悪い。

「そろそろいい時間だし出ようか?」

「そ、そうだね!」

 十夜が言うと、まだ顔を真っ赤にしていたほのかは慌てたように頷いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 駅でほのかと別れ二人乗りのキャビネットに乗り込んだ十夜と雫

「教室で何を考えていたの?」

 キャビネットが動き始めてすぐに雫が聞いてくる。

「ん、司波さんの事なんだけどね」

「浮気?」

「あのね・・・いまさら言わなくてもいい事なんだけどさ」

「うん」

「僕は雫の物だよ。たとえ何が起きても、雫が僕の事を嫌いになったとしても、僕の全ては雫の物だ」

 それは十夜の誓い。十夜の在り方。

「バカ」

 雫はそう呟くと十夜の肩に頭を預けて目を閉じた

「司波さんの家はたぶん特殊な家系だ」

 肩に心地よい重さを感じながら十夜は続ける。

「数字付きでそれを秘匿しているのかもしれないけど」

「第一校の新入生総代が一般人なわけが無い」

 雫の冷静なツッコミに苦笑しながら

「それはそうだけど・・もしかしたら僕やほのかちゃんと同じエレメンツの家系かもしれない」

「司波・・・水?」

「僕の知っている水のエレメンツの家系は、水無月(みなづき)水郷(すいごう)水波(みずなみ)、他の水のエレメンツの家系はもう残っていないはずだ。可能性としては水波家の傍流かな」

「気になるならお父さんに調べてもらおうか?」

「いや、いいよ。数字付きにしろエレメンツにしろ秘匿している情報を覗くのはリスクを伴う。北山家に僕の事情でリスクを負わせる訳にはいかない」

「そう」

「それに雫とほのかちゃんが仲良くなればそのうち本人に聞けるしね」

「私は彼女の実力が気になる」

「彼女は現時点で学年トップなのは確実だけど」

「新入生総代、でも負けたままではいない」

「うん、がんばれ」

「がんばる」

 

『雫が同年代にこんなに対抗心を抱くのはほのかちゃん以来だな。良いライバルになればいいのだけど』

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「失礼します」

 昨夜に続き、夕食の後に潮の部屋に呼ばれた十夜。

「それでどうだった?」

「今日視た限りでは問題はありません、道中も不審な気配はありませんでした」

 十夜はなにがとは聞き返さない

「クラスメートはどうだ?」

「数名と自己紹介を交わしました。今日は全員が揃ったわけではないので、確実にとは言えませんがクラスメートにも危険人物は居ないと思われます」

「そうか、私からは以上だ。明日からも任せたぞ」

「かしこまりました」

 退室する十夜、部屋に戻るとなぜか雫が待っていた

 

 

「で、なんで僕の部屋に雫が居るの?」

「十夜は私の物、十夜の物も私の物、十夜の部屋も私の部屋」

 

 この時一世紀前のアニメのキャラが十夜の脳裏を過ぎったかは定かではない。

 

「この部屋は北山家の部屋だし間違ってはいない気もするけどさ」

「ほのかも居るよ」

 テレビ電話が繋がっているようだ。

 

『僕も混ぜる為にこの部屋から掛けたのか』

 

「こんばんは十夜君」

「こんばんは、なにの話をしていたの?」

「えと・・」

「?」

 黙ってしまったほのか。

「今日の事」

 雫が短く答える。

「カフェの話かな」

「うん、ほのかが明日どんな顔で司波さんに会えばいいのかって」

「別に司波さんと何かあった訳じゃないし普通に会えばいいんじゃ?」

「あんなに注目浴びてたんだよ!?絶対変な子って思われたよ!」

「あはは、気にしすぎだって。それにクラス同じかだって分からないんだ」

「むー」

 まだ何か言いたそうなほのかを見て十夜は話題を変える事にした。

「それよりさ、あの4人どんな関係なんだろうね?」

「一科生と二科生3人、普通に考えたら以前からの関係者」

 雫が一番可能性の高い答えを言う。

「それが一番確立高いね。1人くらいは知り合ったばかりの友人かもしれないけど」

「司波さんがほのかのライバル」

「え?」

 雫の言葉に良くわかってないほのか

「男子1人に女子3人。あの人はもてもて」

 大変だねといった表情で言う雫

「だからそんなんじゃないって!」

「そうは見えない」

 雫が冷静に突っ込みと、ほのかの慌てた否定。2人いつもののやり取りを聞きながら

 

『あの2人は血縁として、残りの2人。神霊眼の子は実際に確認しておきたいな。もう1人は・・聞いたほうが早いか』

 

「2人ともちょっと席を外すよ」

 じゃれ合いを続けている雫とほのかに声を掛け、十夜は部屋の外に出た

 

 

 プルルルル  ガチャ

「もしもし」

「ご無沙汰してます、修次師匠」

 十夜の通信相手は数年前から指導を受けている剣術の師匠。千葉修次だった

「君からの通話なんて珍しいな十夜君」

「少し修次師匠に確認させて頂きたい事がありまして」

「本当に珍しいね、いってごらん?」

「はい、千葉家に高校一年になる親戚はいらっしゃいますか?今日、第一高校で師範代と近しいオーラを視たのですが」

「相変わらず君の眼は面白いね」

 修次は感心したように続けた

「たしかに第一高校に僕の妹が入学した、そういえば君は妹と会った事が無かったね」

「僕は千葉の道場に通ってるわけではないですから、妹さんが居たことも初耳です」

千葉家(うち)もいろいろあってね。だが身内贔屓ではないが、あの子は剣術と言う意味では君より強いよ」

「僕と千葉家の者を比べるのが間違いですよ・・・僕は平和主義なんです」

「そうかい?実戦なら良い勝負になると思うが」

「評価してもらえるのは嬉しいですけどね」

「なかなか難しい妹だが仲良くしてやってくれると嬉しい」

「機会があれば」

 その後、少し世間話をして通話を切った十夜。

 

『妹さん、なんで二科生なんだろうな?』

 

 

 部屋に戻るとほのかとの通話は切れていた。雫の意識も切れていた。

「雫?」

「・・・・」

「2日連続か・・・」

 諦めた様に慣れた手つきで雫をベットに運ぶ

「おやすみ」

 起こさないように布団を掛け、十夜はソファーの上で毛布に潜り込んだ




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少しリアルが忙しいため更新が遅れてしまうかもしれませんがよろしくお願いします。


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出会い

少し遅くなりました
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次回も少し遅くなるかもしれません


「なんかいつも私だけ仲間はずれみたい」

 少し浮ついた空気の朝の教室、雫と十夜の席の傍で3人は談笑していた。

「仕方ないよ、席順が五十音順なんだから」

 ぼやくほのかに十夜はいつもの様に答える。

「隣じゃなかった、残念」

 北山と木闇、同じ「か行」な所為か入学したての席は基本近い。今回、十夜の席は雫の一つ斜め後ろだった。

「どうせ実習とかは別なんだから気にしてもしょうがないだろ?それより選択科目どうしよう」

 十夜の問いに

「んと必修が基礎魔法学と魔法工学で、魔法幾何学、魔法薬学、魔法構造学から二科目、魔法史学、魔法系統学から一科目」

 携帯端末を操作しながらほのかが言うと、

「私は魔法幾何学と魔法構造学、あと魔法系統学にする予定」

 雫はもうすでに決めていたようで、すぐに自分の選択する予定の教科を答えた。

「僕も同じだ、魔法史学も少し興味があるけど、魔法系統学との選択なら魔法系統学だね」

 十夜が続ける。

「魔法幾何学と魔法薬学で悩んでたけど、2人が魔法幾何学なら私も魔法幾何学にしよ」

 少し悩んでいたほのかだったが、やはり同じ科目が良かったようだ。

「じゃあ登録済ませちゃおうか?」

 十夜が言うのと同時に教室に入って来た1人の生徒によって教室の空気が変わった

 

「おはようございます」

 たった一言の挨拶、それだけで教室中の視線、意識が全て入口に集まる。

本人はその視線を気にする事もなく、軽く携帯端末を確認すると真っ直ぐに十夜達の方へ進んできた。

 

『五十音順で席が近いとは予想はしてたけど・・・』

 

「ど、どうしよう」

 昨日の事を思い出したのか、ほのかが慌てたように2人に話しかける。

「どうしようって言われてもね・・・普通に挨拶すればいいんじゃないの?」

「ほのかは気にしすぎ」

 雫が答えた時には、司波さんはもうすぐ横まで来ていた。席はどうやら十夜の隣らしい。

「はじめまして、私は司波深雪と申します。お隣ですのでこれからよろしくお願いしますね」

 自分の席を確認すると隣にいた十夜達に声を掛けてきた。

「はじめまして、僕は小闇十夜、こちらこそよろしくね」

「み 光井ほのかです!よろしくおねひゃい!?」

 慌てたのだろう、舌を噛んだようで涙目になっているほのか

「北山雫です、よろしくお願いします」

 雫は何もなかったかのように挨拶を返す。ほのかを少し心配そうに見ていた深雪だったが、

「小闇君に光井さん、北山さんですね」

「僕の事は十夜でいいよ」

「私も雫でいい」

 まだ痛みが治まらないのか、ほのかは涙目のままだがうんうんと頷いている。

「わかりました、では私の事も深雪でかまいません。十夜君、ほのか、雫、改めてよろしくお願いしますね。」

「「「よろしく」ね」お願いします」

 挨拶を交わした後、深雪は3人の顔を見ながら何か言おうとしていたが、4人が挨拶を終えるのを待っていたかのようにクラスメートが集まってきた。

そして自分の席の近くだというのにどんどん押しのけられる3人。クラスメートの目的は司波さんとお近づきになる事らしい。

集団に囲まれながら、表情を崩さずに対応を続ける新入生総代。

「なんか追い出された事に文句を言う気も起きないね・・・」

 十夜が呆れたように呟く。

「人気がありすぎるっていうのも大変だよね」

「私だったら耐えれない」

 2人も同じ気分のようだ、集団を外から眺めている3人。深雪がたまにこちらに申し訳なさそうな視線を送って来ていたが、結局予鈴が鳴るまで司波さんが解放される事は無かった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「どうしてこうなった・・・・」

 放課後の校門内、十夜は頭を抱えたい気分になっていた。

目の前では二科生と言い合いをしている森崎ら一科生のクラスメート数名

「いい加減に諦めたらどうなんですか? 深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挟むことじゃないでしょう」

 

『まさか森崎達がここまで絡んでくるとは思わなかったな』

 

 始まりは昼食時の食堂だった。

朝の挨拶と席が近い事もあり、司波さんと名前で呼び合うようになった3人。4人は連れ立って食堂に来ていた。その後ろにはクラスメートが列を作っている。教室を出ようとした十夜に昨日、自己紹介を交わした森崎が声を掛けて来たのだ。

「十夜、僕らもご一緒していいかな?」

 後ろには数名、昨日顔をみたメンバーが揃っている。

 

『僕というよりは深雪さん目当てなんだろうな』

 

 朝、新入生総代を囲む集団に混ざっていたクラスメートを見ながら、十夜は一緒に食堂に行こうとしていた3人に確認の視線を送る。3人とも表面上は拒否はしていないが、十夜の眼にはありありと迷惑そうなオーラが映っていた。

 

『はぁ・・・やっぱりめんどくさい事になりそうだ』

 

「あぁ、相席できるかは混み具合次第だけど一緒に食堂へ行こうか」

 こんなところで波風は立てたくない十夜。森崎にそう答えると

「私たちもいいですか」

「じゃあ僕たちも」

 次々と声がかかる。結局、十夜達を先頭に、A組ほぼ全員が同時に食堂に来る事になったのである。

 

『こんな大人数で座れないしなぁ・・・』

 

 食堂を見回した十夜、あるグループで視線を止める

 

『あれは・・・』

 

 十夜が視線を止める前にすでに気づいていたようだ。

「お兄様」

 嬉しそうな表情でその机に向かう深雪。

「お兄様?」

 ほのかがその言葉を疑問形で呟く。

 

『やっぱり兄妹か・・』

 

 自分の予想通りの関係に今更十夜は驚きはしない。雫に視線を送ると雫も同じように十夜を見ていた。頷き合うと、3人は深雪の後を追いそのグループに近づいて行った。

そのテーブルは4人掛け、詰めれば女子ならば3人は掛けれる程度の長机だった。

着いているのは男子が2人と女子が2人、みな二科生で男子生徒の1人と嬉しそうな深雪が話をしている。興味はあったがどうせ座れないし、邪魔するのも悪いと深雪に声を掛けた。

「深雪さん、じゃあ僕らは別の席を探すよ。雫、ほのかちゃん行こう」

 男子生徒にちらちらと視線を向け、何か言いたそうにしていたほのかだったが

「邪魔しちゃ悪いもんね」

 さすがに今の深雪をみたら何も言えないようだ。

「あっちの席が空いてる」

 雫はすでに席を探していたようで、ちょうど食べ終わったグループが居たのか綺麗に空いたテーブルを指さす。

「3人ともすみません。また後ほど」

 少しの申し訳なさとそれに勝る喜色、

 

『深雪さんも感情がわかりやすいな』

 

 などと考えながらその場を離れた十夜だったが、後ろに付いてきたクラスメートは違ったようだ。十夜達と違いどうしても彼女と相席をしたかったらしい。

最初は狭いとか邪魔しちゃ悪いとかそれなりに柔らかい表現だったが、深雪の執着が意外と強い事が分かると、相応しくないだのけじめだの、果ては食べ終わっていた男子に席を空けろと言い出す者まで出る始末。

 

『まずいな・・・』

 

 テーブルに着いていた生徒の内2人のオーラが激しく動いているのが十夜には視えている。

 

『深雪さんには悪いけどこっちの席に来てもらうか』

 

 2人と目配せし声を掛けに行こうとした十夜だったが、席を立つより早く深雪の兄がもう1人の男子に声を掛け席を立つ。そのまま食堂を出ていく2人、深雪は席に残った女子生徒に目で謝罪すると軽く席を見回す。

3人と目が合うと少し安心したように近づいてきた。

「ごめんなさい、やっぱり相席させて頂けますか?」

「いらっしゃい」

「大変ですね」

「人気者は辛い」

 3人はそれぞれの言葉で深雪を迎える。後ろからまだ付いて来ていたA組の集団だったが、

さすがに近くの席で我慢する事にしたようだ。それぞれ空いている席に散らばっていった。

 

 

 

 次は午後の専門課程見学中の出来事。

深雪を含めた十夜達4人は、遠隔魔法用実習室で3年A組の実技を見学していた。

3年A組は生徒会長、七草真由美の所属するクラスだ。七草真由美、十師族の一角である七草の長女。彼女は、遠隔精密魔法の分野で十年に一人の英才と呼ばれる有名人だった。また昨日は入学式で本人を新入生全員が実際に見ている。その容姿ですでに新入生のファンを獲得しているらしい。実習室の前は新入生でごった返していた。

「痛い!」

「見えねーぞ!ちょっとずれろよ!」

「なんで最前列に二科生が居るんだよ!」

「おい、押すな」

 十夜は別に前に出なくても視えているし、わざわざ集団に入ろうとも思っていない。

今は3人の連れが押されたりしないようにガードしていた。

「最前列にいるの深雪のお兄さんじゃない?」

 雫が3人に声を掛ける。

「あはは、目立ってるね」

「4人以外周りが全部一科生だしね・・・」

「お兄様・・・」

 十夜にしてみれば早い者勝ちだと思うのだが、周りの一科生にしてみれば思うところがあるようだった。

 

 

 そして放課後、今現在進行中である。

教室から一緒に歩いて校門まできた十夜、雫、ほのか、深雪の4人。さらに付いてきていたA組のクラスメート達。ここまでは良かったのだが深雪が校門で待ち合わせしていた相手が二科生だった所からおかしな事になった。あきらかに一科生が難癖をつけた、主に森崎のグループが・・・

 

「別に深雪さんはあなたたちを邪魔者扱いなんかしてないじゃないですか!一緒に帰りたいなら、ついてくればいいんです。何の権利があって2人の仲を引き裂こうとするんですか!」

 

『なんか凄いこと言っているな・・・あっちはあっちであんなだし』

 

 司波兄妹の方を見れば深雪がなぜか慌てて兄に何かを話している

 

『森崎は頭に血が上りすぎだな・・・あれではボディーガードが勤まらないと思うんだが・・」

 

 十夜の中で森崎の評価が落ちていく

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しをするな!」

 

『おいおい・・この公衆の面前で禁止用語を言うのはどうなんだ?』

 

「同じ新入生じゃないですか!あなた達ブルームが、今の時点で一体どれだけ優れていると言うんですかっ?」

 

『正論だがまずいな・・・今あんな事を言ったら・・・』

 

 十夜の嫌な予想は的中する。

「・・・・どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ!」

「ハッ、おもしれえ!是非とも教えてもらおうじゃねえか!」

 森崎の威嚇的な声に、二科生の男子が挑戦的な声を返す。

「だったら教えてやる!」

「特化型!?」

 森崎家といえばクイックドロウ、CADを抜き出す手際、照準を定めるスピード、口先だけでなくその腕前は明らかに魔法師同士の戦闘に慣れている者の動きだった。

「やろう!」

 照準を合わせられた男子が動き出す。

「十夜!」

 雫の声を聞いた瞬間には十夜は動いていた。

 

『あんまり目立ちたくないんだけど雫のお願いだしな』

 

「なっ」

 森崎が驚愕し

「っと」

 男子生徒は踏みとどまり

「わぉ」

 女子生徒が珍しい物を見たような表情で十夜を見る。

そこには森崎の腕を右手で押さえ、二科生の二人の前に左手を伸ばしている十夜が居た。

「すまない、クラスメートが悪いことをした」

 左手を下ろし十夜が頭を下げる

「いや・・」

「そんな・・・ねぇ?」

 いきなり出てきた男子に謝られ2人もどうしていいかわからないようだ、なんとも言えない空気が流れる。

「一科生の癖に・・・・ふざけるな!」

 十夜が森崎を止めた事が気に食わなかったのだろう、森崎のグループの男子が魔法の起動式を展開し始めた。起動式の展開は十夜に視えていた、そして少し先で既に魔法が発動している事も、展開中の起動式はサイオンの弾丸に打ち抜かれ砕けて散っていった。なにが起きているか気づいていない森崎が自分を止めた十夜に食って掛かる。

「十夜!?なんのつもりだ!」

「なんのつもりだって?森崎、本気で言っているのか?」

 十夜はあきれたように告げる

「お前は入学2日目だというのに魔法の不正使用で退学になりたいのか?自衛以外の魔法による対人攻撃は校則以前に犯罪行為だぞ」

「うっ・・それは・・」

 十夜の言葉に青い顔をする森崎、

「全員動かないように」

 男子生徒の起動式をサイオン弾で打ち抜き、近づいてきたのは生徒会長、七草真由美。そしてもう1人、入学式の生徒会紹介によれば、風紀委員長、渡辺摩利。

「君達は1-Aと1-Eの生徒だな、事情を聞かせてもらう。ついてきなさ・・・ん?」

 

『こうなる・・・よなぁ・・』

 

「お久しぶりです、先輩」

「十夜か、お前なんで入学早々に問題を起こしているんだ?」

「色々と事情がありまして・・・」

 十夜は助けを求めて騒動の始まりである新入生総代に視線を送る。視線が合うと横に居た兄と一緒に深雪はこちらに近づいてきた。

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

 司波兄が摩利に話しかけた

「悪ふざけ?」

 その言葉に、摩利が軽く眉を顰める

「はい、森崎家のクイックドロウと言えば有名ですから、後学のために見せてもらおうと思ったのですが、あまりに真に迫っていたので、クラスメートの方に勘違いさせてしまいました」

「では後ろの男子生徒は?攻撃性の魔法を発動させようとしていたのではないか?」

「あれはただの閃光魔法です、威力も低いものです。クラスメートを止めようとしたのでしょう」

「ほう、どうやら君は起動式を読み取れるようだな、正直信じがたい話だ」

 摩利の疑問はもっともな話、十夜も同じ気持ちだ

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

 その言葉に、面白い物を見たような表情で摩利は返す

「・・・誤魔化すのも得意なようだ」

 会話が止まったところで深雪が前に出る

「本当に、ちょっとした行き違いだったんです。先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした。」

 深々と頭を下げる深雪。

「摩利、もういいんじゃない。達也君、本当にただの見学だったのよね?」

 いたずらっぽい視線で司波兄に問いかける生徒会長を見ながら

 

『達也君・・・ね、司波兄もいろいろと大変そうだな』

 

 矢面から抜け出し雫たちと合流した十夜はもう後は人事のように考えていた。

「・・・今回は不問としますが、以後このようなことの無いように」

 どうやらなんとか無事に済んだようだ、摩利も司波兄の名前を聞き、生徒会長と歩き出す。

 

『なんとかなったかな・・・』

 

 ほっとした十夜だったが、

「あぁ、十夜、明日の放課後に生徒会室に来い」

 後ろ向きのままの摩利に声をかけられそれが間違いだった事を思い知らされた。




原作とは少し変わっています。
既に深雪と3人が友人関係になっている事と十夜君の事情により、
魔法使用は名前も知らない男子に丸投げさせて頂きました。


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出会いⅡ

9巻買いました。雫が留学したとき十夜をどうするか悩んでます。
ついて行かせるのも難しいよなぁ・・・そこまでいってから考えるか。

お気に入り登録ありがとうございます



「・・・十夜、さっきは済まなかった・・・」

 2人の上級生が立ち去った後、森崎が声をかけてきた。

「僕はいいけど深雪さん達には謝っておけよ?」

「魔法を使った事は悪かったが、僕の気持ちは変わらない!」

 そう言うと森崎は深雪たちのグループに近づいていった。

 

「・・・借りだなんて思わないからな」

 

『いきなりそれかよ・・・・』

 

「僕はお前を認めないぞ、司馬達也。司波さんは、僕達と一緒にいるべきなんだ」

 結局、森崎は言いたい事を言うと、仲間を連れて立ち去った。

「なにあれ、感じ悪っ」

 明るい髪の色をした女子生徒が後ろ姿を見ながら言う。

「重ね重ねクラスメートが申し訳ない・・・」

 十夜が頭を下げると

「あ、ごめん・・・君に言っても仕方ないよね」

 少し申し訳なさそうにする女子生徒、少し気まずい空気が流れたのだが、

「私は千葉エリカ、君は深雪のクラスメートだよね?」

 気持ちを切り替えたように、明るい口調で十夜に話しかけてきた。

「うん、僕は木闇十夜。深雪さんとは席が隣なんだ」

 その言葉にエリカは意地悪い笑みを浮かべ振り返る

「聞きましたか?お兄様、入学2日目にして大事な妹を名前で呼ぶ男がでてきてますよ?」

「ちょっと!?」

「エリカ!」

 十夜と深雪が同時に声をあげる。

「ほう、兄としては看過できない問題だな」

 達也がそうなのか?といった表情で深雪を見る。

「違いますお兄様!十夜君は本当に席が隣りなだけで・・・」

 達也の胸に飛び込むような勢いで深雪が弁明するが、

「あらあら、既に名前を呼び合う関係だなんて・・・」

 エリカの口は止まらない。

「えっと千葉さん?」

 名前を呼ばれ振り返りながら言うエリカ

「あ、私の事はエリカでいいよ、私も十夜君って呼ばせてもらうから」

 

『これだけ呼び方で人をからかっておいて自分も名前で呼ばせるんだ・・・』

 

「わかったよエリカ、ただ弄るのもそれくらいにしておいてくれると嬉しい・・・主に僕が」

 十夜が本心からといった感じで言う、その腕を雫が抱きかかえている。

「ん?」

 頭の上に疑問符を浮かべるエリカ、十夜の腕を抱えエリカをじっと見つめてくる雫

「えーと?」

「北山雫です」

「あ、千葉エリカです」

「千葉さん、深雪のお兄さんも、十夜と深雪が深い関係になる事はありません」

 いきなりの発言、

「あの、北山さん?」

 さすがにこの展開にはエリカもついていけてないようだ。

「十夜は私のものだから」

 短い言葉だがその威力は強烈だった。

「な なんていうか凄いわね」

「そんな・・自分のものなんて・・・」

「・・・」

          (わ 私もお兄様のものです)

「深雪?」

「な なんでもありません!」

 何も言えないといった感じのエリカ、顔を真っ赤にしている眼鏡の女子生徒、お腹いっぱいといった表情のほのかと男子生徒、

何かを口走っている深雪、十夜は少し顔を赤くしながらも

「まぁそういう訳なんで深雪さんのお兄さんも安心してください」

 雫の言葉を否定しない

「なんていうか深雪と達也君も凄いと思ったけど、十夜君と北山さんも負けてないね」

 二組のカップル?にあてられたのかエリカは疲れたように呟いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「・・・ねぇ、十夜君に聞きたいことがあるんだけど」

 お互いに自己紹介を終え、折角なのでと駅まで一緒に帰る事になった8人、エリカが十夜に話しかけてきた。

「ん?」

「十夜君のさっきの動きが気になってね、なにか武術やってるよね?」

 面白そうな玩具を見つけたように瞳を向けてくるエリカ。

「個人的に少し教わっているだけだけどね」

「少し・・ね、さっきの動きはそんなLvじゃなかったと思うけど」

「そういうエリカだって、僕が止めなくても森崎を止めてただろう?さすがは千葉家だね」

「その千葉家より先に動いてる時点でって、私あの千葉家だなんて言ってなかった気がするんだけど?」

 エリカがそう思うのも当然だった、

「昨日ちょっと修次師匠と電話で話をしてね、妹さんが第一高校(ここ)に通う事になったのは知っていたんだ。こんなに早く知り合いになるとは思わなかったけど」

「修次兄貴に!?」

「ちょっと縁があってね、数年前から時間がある時に稽古してもらってるんだ」

「あの兄貴が個人的に稽古・・・?」

 なにか考え出すエリカ、隣では達也を中心に質問が集まっているようだ。

「・・・じゃあ、深雪さんのCADの調整は達也さんがしているんですか?」

 ほのかはちゃっかり気になっている達也の横をキープしたようだ、達也の反対側は当然のように深雪である。

「ええ、お兄様にお任せするのが一番安心ですから」

 驚いたようなほのかの質問に、深雪が当然と言ったように答える。

「少しアレンジしているだけなんだけどね。深雪は処理能力が高いから、CADのメンテナンスに手が掛からない」

「それだって、デバイスのOSを理解できるだけの知識が無いと出来ませんよね」

「CADの基礎システムにアクセスできるスキルもないとな。大したもんだ」

 周りの美月とレオもその事に称賛を贈る。

「それだけスキルがあるって事は、達也は魔工師になるのかい?」

 十夜は気になり質問をした、

 

『優秀な深雪さんが任せるという事は相当な腕前なんだろう。機会があったら見てみたいな』

 

「ああ、実技の方はこの通りだからね。魔工師を目指している」

 胸元を指さし少し自嘲気味に答える達也。隣では深雪が不満げな表情をしているが、

「僕も魔工師志望だ、よろしくお願いするよ」

 十夜が言うと、雫とほのかを除く全員が驚いたような顔をして十夜を見てきた。

「十夜君、魔工師志望だったんですか?」

 深雪が意外そうに聞き返す。

千葉家(うち)の兄貴の稽古を受けて魔工師?」

 エリカは少し不満そうな表情、

「父親が魔工師でね、僕が魔工師ってそんなに意外かな?」

「いえ、十夜君がと言うより、実技が優秀な方は実践魔法師になる事が多いので」

 深雪が言うと、同じ気持ちだったのかレオや美月もうなずいている。

「木闇・・・・十夜、もしかしてお父上の名前は小闇樹さんか?」

 達也の問いに十夜がうなずくと、

「うわ、超有名魔工師じゃん」

「もう顧客数が限界で新規では契約できないとか」

「「千葉家(うち)でも開発の方で協力して貰ってる」

 さすがに魔法師の卵、みな有名魔工師の名前を聞いた事があるようだった。

「父親がそうだってだけで、僕が凄いわけじゃないんだけどね」

 十夜にしてみれば本心だったが

「腕前は樹小父さんのお墨付き」

 先ほどの深雪に影響されたのか、それまで黙っていた雫が、我が事の様に得意げに言う。

「日本で5本の指に入ると言われる人のお墨付きとはね」

 達也も驚いている様だ。

「僕より実際に深雪さんのCADの調整をしている達也のほうが凄いさ」

 十夜は苦笑しながら答えた。

「達也さんも十夜さんも凄いんですね、うちの生徒ってみんなそうなのかな?」

 美月が2人に尊敬の眼差しを向けながら言う。

「魔法科高校の生徒が、普通の高校生と同じわけが無い」

「そりゃそうだ」

 雫にレオが続けると、話題の中心は先ほど見た会長や風紀委員長に移っていった。

 

『美月さんの眼も凄いんだけどね』

 

 会話を聞きながら、控えめの美月の態度を見て十夜は心の中で呟いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「で、なんで僕は正座させられているのかな・・・?」

 夜、日課のトレーニングを終え自室に戻ってきた十夜は、なぜか自分の部屋に居た雫に言われるまま部屋の真ん中で正座をしていた。

「明日の放課後」

 雫が短く口にする。

「あー ごめん・・・でもあれは先輩がいきなり・・・」

「約束」

 十夜と雫は明日の放課後、2人で部活見学の予定だった。部活勧誘の期間は明後日からだが、雫は既に部活を決めていた為、実際にその部の活動内容を観に行く事にしていたのだ。

「う・・・」

 

ジー

 

「埋め合わせは必ずするから・・・」

「なんでも?」

「できることなら」

「じゃあ私のCADのメンテナンスはこれから十夜にお願いする」

「え?」

 驚いている十夜をよそに、雫は部屋に備え付けのテレビ電話を手早く操作する。

「雫?そういう事はそんな簡単に決めていいものじゃ・・」

 

プルルルル ガチャ

 

「こんばんは、樹小父さん」

「おぉ、雫お嬢ちゃん・・・・・それに馬鹿息子か、こんな夜中にどうしたんだい?」

 電話に出たのは十夜をそのまま渋くしたような40代の男性、十夜の父親、木闇樹だった。

「次から十夜にCADを見てもらいたい」

「雫!本気なの!?」

「おい、馬鹿息子、久しぶりに見た父親は無視か」

「うるさい馬鹿親父」

「父親に向かってそんな口を利くように育てた覚えは無いぞ?」

「僕も親父に育てられた記憶はないよ」

「2人は仲良し」

「「どこが!!」」

「ほら、息がぴったり」

 顔を背けるところまでそっくりな2人だった。

 

「ふむ」

 雫と十夜を見ながらなにやら考えていた樹だったが、真剣な顔になると、

「雫お嬢ちゃん、十夜は親の贔屓目を抜きにして優秀だと思っている。君の望みならば潮さんも止めはしないだろう、だが私は潮さんに依頼され自身の全ての技術をかけて君のCADを調整しているんだ。間違いなく最高の調整をしていると誓える。それでも十夜の方がいいのかい?」

「うん、私は十夜がいい」

 雫の返事には迷いが無い。

「了解、潮さんには私から言っておこう」

「ありがとう」

「そんな顔で頼まれたらおじさんには断れない。ただし暫くは私も調整には立ち会わせてもらうよ?」

「うん」

 雫を実の娘を見るように優しい目でみる樹、黙っていた十夜のほうを向くと、

「十夜」

「・・・」

「私もできる限りの協力はしよう、だが雫お嬢ちゃんに応えなきゃいけないのはお前だ、精進しなさい」

「わかった」

 十夜は短く答える。

「さて、私は潮さんに雫お嬢ちゃんと息子の関係の進展を報告しなきゃいけないから切らせてもらうよ」

「なっ」

「十夜、同じ部屋で寝るのはかまわないがちゃんと責任取れよ?」

「!?」

 最後に笑いながら問題発言を残していく父親。

「あんのくそ親父・・・・」

 顔を真っ赤にして呟く十夜、雫が言うのは良くても他者にからかわれるのは耐えれないらしい、後ろを向くと既にベッドに潜り込もうとしている雫。

「雫?なに当たり前のように僕のベッドに入ってるの」

「親公認」

「・・・・・」

「もういいけどね・・・雫、CAD、深雪さんと達也に対抗してるのかい?」

「・・意識してないと言えば嘘になる」

「そっか」

「深雪はライバル」

 ここまでほのか以外に抱かなかった思いを口にする雫、

「そうだね、達也に負けないよう僕も頑張るよ」

「うん」

 雫は頷くと目を閉じた、ベッドに入ったからか既に眠気が来ているようだ。

もう一緒のベッドで寝てやろうかと一瞬考えた十夜だったが、自分が眠れないだろうと考え直すとソファーで寝る準備を始めるのだった。

「おやすみ」

 十夜が準備を終えるとベッドの上では雫の規則正しい寝息が聞えていた。




9巻の裏表紙の雫が可愛すぎて辛い今日この頃


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指名

少し遅くなりました


次回も遅くなります


「じゃあ呼び出しの理由を十夜君は聞いていないのですか?」

 

 隣を歩く深雪が不思議そうに聞いてくる、放課後の廊下、十夜と司波兄妹は並んで歩いていた。

 

「うん、今日の放課後に生徒会室に来いとだけしか聞いていないよ」

 

 三人は生徒会室に向かっていた、

 

「そういえば十夜、渡辺風紀委員長とは知り合いだったようだが?」

 

 思い出したように達也が言う、

 

「ちょっと師匠絡みでね、あの人も千葉門下だ」

 

「なるほど・・・なら呼ばれた理由も予想できているのだろう?」

 

「迷惑この上ないけどね」

 

 疲れた顔を浮かべる十夜と、ご愁傷様といった表情の達也

 

「お兄様?」

 

 深雪にはまだ思い当たらないようだ。不思議そうに達也と十夜を交互に見ている。

 

「ああ、どうやら渡辺風紀委員長は十夜を風紀委員にしようとしてるのだろう」

 

「十夜君もですか?」

 

「も?」

 

 深雪の発言の一部に疑問を感じ、深雪と達也を交互に見る十夜、

 

「俺も渡辺風紀委員長から風紀委員に推薦されてね・・・なぜか生徒会長も反対しなかった」

 

 先ほどの十夜と同じように疲れた表情を浮かべてみせる達也、

 

「お兄様!そんな覇気の無い事でどうしますか!

          本来であれば私ではなくお兄様が生徒会にだ「深雪」っ」

 

 短く名前を呼んだだけだが、深雪はシュンとした表情で口を閉じる。

 

(達也のオーラが一気に激しくなったな・・・それに深雪さんの口ぶりじゃあ達也のほうが実力は上なのか?わざと二科生になるメリットなんて無いはずだけど・・・)

 

「実技試験の結果は結果だ、深雪の気持ちは嬉しいが俺が二科生なのは変わらない」

 

「お兄様・・・」

 

 思考から戻った十夜の前では、達也の胸に顔を預け恍惚とした表情をする深雪とやさしく髪を撫でる達也の姿。

 

「あーうん・・・先に行ってようか?」

 

「いや、もう平気だ」

 

「!?」

 

 何も問題ないという態度の達也、後ろでは顔を真っ赤にした深雪が俯いている。

 

「りょーかい、僕はもうお腹いっぱいだからこれ以上は勘弁してくれよ?」

 

 十夜は苦笑しながら答える。

 

「ところでさ、深雪さんは新入生総代だし生徒会に選ばれると思っていたけど、達也が風紀委員に推薦されるとはね、それに七草生徒会長から名前で呼ばれていなかったか?」

 

「推薦理由は俺の解析力らしい、会長の方は・・正直なんで名前で呼ばれたかはわからない、会ったのも入学式の日が初めてだ」

 

(昨日の騒動の所為か、たしかにあの分析能力はおかしい。発動中の起動式を見て読み取れるなんてありえない、だが実際に読み取れるなら風紀委員にうってつけだな・・・)

 

「達也・・・こんな場所で聞くことではないが一つだけ質問をさせてくれ」

 

「答えられる事なら答えるよ」

 

 やや警戒色の強いオーラを見ながら

 

「君たちの家系は・・」

 

 達也と深雪の警戒色が一気に跳ね上がり、二人とも厳しい表情で十夜を見つめてくる

 

「十夜、血筋を詮索するのは「エレメンツか?」やめ・・・?」

 

 急激にしぼんでいく警戒色と変わりに浮かぶ安堵と疑問

 

「日本で最初に開発された魔法師の家系、僕は闇のエレメンツの家系だ、魔法力、在り方、達也、君たちは規格外だ、エレメンツの家系ではないのかい?」

 

 また警戒色が跳ね上がる

 

「残念ながら俺たちはエレメンツの家系ではない」

 

 警戒と覚悟、達也の纏うオーラは完全に魔法師のそれだ

 

「そっか、ごめんね、マナー違反の質問をして」

 

 否定の答えを聞き、すぐに二人に謝る十夜

 

「俺が言うのはなんだが嘘をついてるとか思わないのか?」

 

 あっさりと退いた十夜に達也が疑問を浮かべる

 

「嘘なのかい?」

 

「いや嘘ではないが」

 

「僕の眼はちょっと特殊でね、視ればわかる」

 

 2人に動揺が走るのを見ながら

 

「驚かすつもりは無かったんだけど・・エレメンツでは無いと分かったからもう詮索はしないよ、信じてもらうしかないけど・・んーマナー違反をしたのは僕だしお詫びって訳じゃないけど、答えられる質問なら今度は僕が答えるよ」

 

「その目、霊子放射光過敏症か?」

 

「世間一般で言う霊子放射光過敏症と僕の目は違う。流派によって違うけど僕らは神霊眼と呼んでいる」

 

「はじめて聞く名前だな」

 

「現代魔法ではなく古式魔法、それも精霊魔法の分野だからね」

 

「先ほど言っていた在り方とはどういう意味だ、なにが視えている」

 

 達也の視線が一層厳しいものに変わる

 

(警戒に引っかかっているのは血筋とこの部分か、やはり特殊な家系なのは間違いない。それに・・・近くで視るまで気づかなかったがこの2人はパスが繋がっている、そんな魔法なんて聞いたことが無いが・・・)

 

「在り方?ああ、あれは達也にたいする深雪さんの依存度合いさ」

 

 十夜はわざと表情を作りからかうように深雪を見る

 

「っ!」

 

「エレメンツに詳しくなければ知らないだろうけど、エレメンツの家系には依存癖が強く出てね、誰か特定の人、多くの場合は異性なんだけど、その人に徹底的に依存する傾向があるんだ」

 

 説明を聞くにつれどんどん顔を赤くしていく深雪、

 

「僕は単純に同世代のエレメンツの家系が身近に居るなら、話をしたかっただけさ、本当に深い意味なんて無いよ」

 

十夜の言葉にまだ納得できていなそうな2人だったが、

 

「っと、時間切れみたいだね」

 

 四階廊下の突き当たり。三人の目には生徒会室のプレートが見えていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 司波兄妹は既にIDカードを認証システムに登録が済んでいたので、3人はそのまま中に入った。

 

「「「失礼します」」」

 

 挨拶をし軽く室内を見回す十夜、室内には女子生徒四人、男子生徒一人。みな入学式の際に紹介のあった生徒会役員だ。生徒会役員というだけあり優秀な魔法師なのだろう、纏っているサイオンは一般生徒と比べはるかに強く、オーラの表情も穏やかだ。

 

(この人だけオーラが尖ってるな・・・)

 

 一人近づいてくる男子生徒、深雪の前まで来ると、 

 

「副会長の服部刑部です。司波深雪さん、生徒会へようこそ、それから君は?」

 

 深雪に歓迎の挨拶をした後、横にいる達也は無視し十夜に話しかけてきた。

 

「一年A組、木闇十夜です。昨日、渡辺風紀委員長に生徒会室に来るようにと」

 

「なるほど君が木闇君か、話は聞いている、期待しているよ」

 

「?」 

 

 そのまま達也には声をかける事無く席に戻る服部、

 

(精神的によくない)

 

 一瞬で収まったが深雪から吹き出たオーラに十夜はため息をついた。

 

「よ、来たな」

 

「いらっしゃい、深雪さん。達也君と十夜君もご苦労様」

 

 気安い挨拶、なぜか十夜まで名前で呼ばれている。

 

「さっそくだけど、あーちゃん、お願いね」

 

「あーちゃん?」

 

「・・・・・ハイ」

 

 思わず口にしてしまった十夜、あーちゃんと呼ばれた女子生徒は一瞬こちらを見た後、ぎこちない笑顔で深雪を端末に誘導する。

 

(初対面の後輩の前であーちゃんなんて呼ばれればな・・・)

 

 感情を物語っている少女のオーラを見ながら十夜は心の中で手を合わせた 

 

「じゃあ、あたしらも移動しようか」

 

 摩利が二人に声をかける

 

「どちらへ?」

 

「その前に説明を」

 

 前者は達也で後者は十夜である。

 

「風紀委員会本部だよ、それで十夜、なんの説明だい?」

 

「いまの言葉で確証が持てましたけど、僕が今日呼ばれた理由です」

 

「言ってなかったか?お前は部活連の推薦枠で風紀委員入りが内定している」

 

「初耳ですね、なんで僕なんです?」

 

「なんでと言ってもな・・・自分の成績に聞いてみるんだな。お前は入学試験、七教科平均、百点満点中九十一点、学年二位だ。さらには実技でも僅差の学年三位、総合で堂々の新入生次席なんだぞ?」

 

 深雪と達也からの驚愕の視線を感じながら

 

「試験結果は知りませんでした、ちなみに断れるんですか?」

 

 十夜の一言に今度は部屋中の視線が集まる。

 

「お前に拒否権は無い、っと言いたいところだが、どうしてもと言うなら辞退はできる、だがな」

 

「?」

 

 顔を近づけてくる摩利、十夜にだけに聞えるように耳元で

 

「お前が断ったら次の候補は北山だ」

 

 どうするんだ?といった表情の摩利

 

「十夜、何を言われたか知らんがあきらめろ」

 

 達也が悟ったような表情で十夜に告げる

 

「・・・引き受けさせて頂きます」

 

「よし、じゃあ移動しよう」

 

 仕切りなおし、風紀委員会本部へ移動しようとする摩利、

 

「渡辺先輩、待ってください」

 

 呼び止めたのは服部副会長だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 結局、服部と達也は生徒会承認の元に模擬戦をする事になった。

二科生の達也を見下す服部に深雪が爆発し、達也がそんな深雪を悪者にするわけなど無かったのだ。

流れで模擬戦を観戦する事になった十夜、演習室に入ってきた達也と深雪に声をかける

 

「達也、君は意外と好戦的だったんだな、それに深雪さんも重度のブラっ「ピキッ」・・・・」

 

 深雪の周りに十夜じゃなくても見えるLvでサイオンとブシオンが吹き荒れ、急激に温度が下がり始める。

 

「深雪、落ち着け」

 

 達也の一声で暴走は一瞬で収まった、

 

(近距離で視たら目がやられそうだ、干渉力もありえない、もう下手な事を言うのは止めておこう・・・)

 

「だ 大事なお兄さんだもんね」

 

 冷や汗を流しながらやっとの事で十夜は口に出す。

 

「それで、自信はあるのか?」

 

 摩利が近づきながら声をかけてきた。

 

「服部は当校でも五指に入る遣い手だ。どちらかと言えば集団戦向きだが、個人戦でもそうそうに勝てるやつは居ないぞ」

 

「深雪の目が曇っていない事は、服部副会長に証明できると思いますよ」

 

 達也が深雪に軽く視線をおくり答えると、一瞬呆気にとられた表情をした後、笑い出す摩利。

 

「あはは、本当に似たもの兄妹だな」

 

 笑ってる摩利を疲れたような目で見た後、達也は持ってきたCADを開ける。

ケースの中には拳銃形態のCADが二丁と数個のカートリッジが収められていた。

中から一丁を取り出しカートリッジを交換する達也。その様子を、深雪を除く全員が、興味深げに見ている。

 

(あれはフォア・リーブス・テクノロジーの『シルバー・ホーン』しかも限定モデルか)

 

 達也が取り出したCADを見ながら十夜は考える。

 

(あの限定モデルは販売数がかなり少なく、一般の高校生が手に入れれる物じゃないはずだ。それこそ北山家クラスの資産家かよほどのコネでもない限り・・・)

 

「・・・このルールに従わない場合は、その時点で負けとする。あたしが力づくで止めるから覚悟しておけ。以上だ」

 

 十夜が考え事をしている間に、ルールの説明は終わっていたようだ。五メートルほど離れ向かい合う服部と達也。十夜は二人に視線をあわせる。

 

(服部副会長は最初で勝負を決めるつもりだな、既にかなりのサイオンが活性化している。それに比べて達也はまったく変化無しか・・・)

 

 十夜の眼には闘志を燃やす服部のオーラと、いつも通りの達也のオーラ。対照的な二人が映っていた。

 

「始め!」

 

 摩利の開始の合図と同時に服部がCADを操作する。一瞬で起動式が展開し発動体制に入る。

 

(さすがに学校五指と言うだけあるっ!?)

 

 目標をロストし散ってゆく想子情報体、側面から三連続のサイオンの波に襲われ服部は崩れ落ちる。

 

「・・・勝者、司波達也」

 

(自己加速しないであの動きか・・・古流、それもかなりの修練を積んでいる。そして短時間での三連続の振動数を変えてのサイオン波、まさか『波の合成』をするとはね、しかしループキャストだけでは、必要な振動数の違う複数の波動を作り出すことはできないはずだが)

 

「今の動きは・・・自己加速術式を予め展開していたのか?」

 

 審判をしていた摩利が達也に問いかける。

 

「そんな事が無いのは、先輩が一番良くお分かりだと思いますが?」

 

 一番と言ったところで、達也は十夜に視線を送る。摩利からも視線を向けられ、十夜は苦笑しながら左右に首を振った。

 

「あれは体術です。兄は『九重八雲』先生の指導を受けているのです」

 

(またまた大物の名前が出てきたな、本当に君たちは何者なんだよ)

 

 十夜の中で司波兄妹は絶対に敵にしたくない対象に仲間入りが決定した

 

「忍術使い、九重八雲か!」

 

 摩利が息を呑む、摩利が納得した事で、それぞれに驚きの表情は隠せないものの、先ほどの動きが身体的技能だと言うことに納得したようだ。質問が服部を倒した魔法に移る。

 

「では、はんぞー君を倒した魔法も忍術ですか?私には、サイオンの波動そのものを放ったようにしか見えなかったのですが」

 

 魔法師としてマナー違反と分かりながらも、興味を押さえきれず質問をする真由美。

 

「忍術ではありませんが、サイオンの波動そのものという部分は正解です。振動の基礎単一系統魔法で作ったサイオン波をぶつけて酔わせたんですよ」

 

「えーと?」

 

「魔法師はサイオンを知覚できます。その副作用で、予期せぬサイオンの波動に曝された魔法師は、実際に自分の身体が揺さぶられたように錯覚するんですよ。今回は『揺さぶられた』という錯覚によって、激しい船酔いのようなものになったのです」

 

「魔法師が立っていられないほどのサイオン波なんて、そんな強い波動を一体どうやって・・・?」

 

 信じられないといった顔で達也を見ている真由美

 

「波の合成ですね、異なる振動数のサイオン波を三連続で作り出し合成して、三角波のような強い波動を作り出したのでしょう。よくそんな、精密な演算ができますね」

 

 鈴音の半分あきれたような声。十夜も同感だったが、それを初見で見抜いた鈴音と十夜も凄いと言える。

 

「あの短時間での振動魔法の三連続使用、あれだけの処理速度があるならば、実技の成績が低いとは思えないのですが」

 

 鈴音の疑問ももっともだ、達也は苦笑しながらCADを見る

 

「あの、司波くんのCADは『シルバー・ホーン』じゃありませんか?」

 

「シルバー・ホーン?シルバーってあの『トーラス・シルバー』のシルバー?」

 

 真由美の問いに、嬉々として語りだすあずさ、

 

「そうです!フォア・リーブス・テクノロジー専属・・・・奇跡の・・・・天才・・・・ループ・キャスト・システム・・・・特化した・・・」

 

(デ・・デバイスオタク)

 

 止まらないあずさを見ながら、おそらくみなの心情は一致した。

 

「そのCADが、ループ・キャストに特化した高性能CADだということは分かったけど、それでもさっきの魔法は説明できないわ」

 

 真由美が言うと

 

「そうですね、ループ・キャストでは、先ほどの振動数の異なる波動を連続で発動する事はできないはずです。振動数の定義を変更すれば・・・まさか座標・強度・持続時間に加えて、振動数まで変数化し、それを実行しているというのですか?」

 

 鈴音は自分の推測に、顔を驚愕に染める。

 

「多数変化は実技試験のどの項目でも評価外ですからね」

 

 もう話は終わったとCADを片付け始める達也。

あずさが残念そうにその様子を見つめている。本当はもっと見ていたいのだろう。

 

「・・・なるほど、実技の評価方法が適合していないというのはそう言う事か」

 

 ふらふらと立ち上がる服部、真由美が近寄りなにやら話していたが、落ち着いたのか、CADを片付けている達也と寄り添う深雪に近づいてきた。

 

「司波さん、さっきは、身贔屓などと失礼な事を言いました。目が曇っていたのは私のほうでした、許して欲しい」

 

 頭を下げながら言う服部、

 

「私のほうこそ、生意気を申しました。お許しください」

 

 深々と頭を下げる深雪、CADをケースに仕舞い立ち上がり振り返る達也。

服部は達也と目が合うと、一瞬何かを言いかけ、しかし思い直したのかそのまま踵を返した。

 

(服部副会長は達也にも一言くらい言ってくれればいいのに)

 

 深雪の不穏なオーラを見ながら十夜は心の中でぼやくのだった。

 




雫がまったく出てない・・・・・だと?


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