セプテントリオン教育譚 (アスプルンド)
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プロローグ
(北極)星に願いを


初投稿、処女作であります。
読者様には気軽にご意見を出していただきたいと思っております。
お暇であれば感想、ご要望をお聞かせください。

第一話から最終決戦です。


天の視点

 

「ぅヒュー……ヒュー………あぁ…」

「う……ぁぁ…あ……ゥ」

「くぅ……………がァ」

「えぅ…………く…」

 

 そこには13人の人間が息も絶え絶えに倒れていた。いや、倒れているのは4人だけであり、残りの9人の男女は大人子供を問わず、すでに息絶えていた。

 その中で一人だけ異質な人間がいた。ほかのものは深く傷つき、血を大量に流し、物言わぬヒトガタになっているものがほとんどである。それにもかかわらず、そのものだけは五体満足で立っている。よく見ればすり傷や小さなやけど痕はあるがそのものは13人のヒトガタの前で一人だけの生者であった。

 

『ほう…一人だけではあるが……認めざるを得ないな。』

 

 生者の前には大仏の体だけを固めたような形状の物体が浮かんでいた。頭はなく、本来腕がある場所には薄いが硬質感のある翼のようなものが浮かんでいる。

 生者の目の前にいるモノは決まった名を持たない。このモノは言ってしまえば人類の敵である。人間が飽和状態になったのを見計らい、セプテントリオンという7つの剣を人類に向けて7日間をかけて人類を淘汰し続けてきたモノである。

 

曰く「アカシックレコードの所有者」

曰く「座の保持者」

曰く「北極星(ポラリス)

曰く「神」

 

 様々な呼び名を持つが…まぁこの場における絶対者であることは確かである。

 

「ポラリス様、この場合はどうなるんですか?」

 

『どう…とは?』

 

 その絶対者に対し敬称を付け、敬語でありながら敬意を感じさせない声で生者は問う。

 

「いえ、私一人でもこの場にいる全員の願いを叶えられるのかな?と思いまして。」

 

 生者とヒトガタたちは淘汰される人類の中でそれぞれの可能性を開花させて7日間を生き延びた。その際に使った道具…ニカイアという携帯アプリがあり、仲魔という人間に従う悪魔とともに成長していった。

 そしてここに来る過程でニカイアを作った製作者を礎にこの場に来た。皆、それぞれの願い(セカイ)があり、その願い(セカイ)を実現するためにこの場に来たのだ。

 

弱肉強食が全人類に適応された実力主義の世界

弱者を見捨てず人が皆、助け合える平等主義の世界

絶対者を倒し、人が世界の利権をすべて握る自由な世界

飽和状態ではあったが、それぞれの幸せと不確かな人生があった破壊される前の世界

 

 平時であれば何を馬鹿なと一蹴するような荒唐無稽な話ではあるが、7日間を生き残ったヒトガタたちは本気で願いをかなえようとしていた。そして全員が一つに意思を決め「種の意思」を絶対者に告げることで願いはかなう。

 しかし自分の願い(セカイ)を持っていた者―――叶えたい願い(セカイ)を持っていたリーダー格たち―――はすでに息絶えている。

 ただ感傷に浸っているだけとポラリスは判断し、質問に答えることにした。

 

『貴様の仲間たちがかなえようとしたことを代わりに願おうとするなら――』

 

「あー、違う違う違います。」

 

 自らの口上をさえぎられ少しばかり不機嫌になったが先ほどと変わらない口調で問いかける。

 

『いったい何が違うというのだ。貴様の仲間はほとんど息絶えた。意思亡き者に「種の意思」は告げることはできない。生きている者も口を満足に動かせず「種の意思」を伝えるには不十分。貴様だけが「種の意思」を伝える権利がある。これは決定事項であるが?』

 

「あ、それはそれでいいんです。」

 

この人間の望むことが本格的にわからなくなってきた。だんだん腹立たしくなってきたが「種の意思」を正確に聞くためにはこの人間と会話をしなくてはならない。絶対者は少しだけ、ほんの少しだけ憂鬱になった。

 

『では、いったい何が望みだ?貴様の願う「種の意思」はなんだ?』

 

「いやですね。先ほど聞いたばかりではないですか。」

 

………同意を求められても困る。しかし、考えなくてはならない先ほどこの人間は何と言っていた?「自分一人でもこの場にいる全員の願い(・・・・・)を叶えられるか?」だったか。

 

………全員の願いだと?

 

 願いが告げられるのは原則一人であり、種の意思を統合した一人であるはずだ。では…こいつの言う全員とは誰だ?

 

「ん~、言い方が悪かったみたいですね。」

 

 目の前の人間はこちらをかわいそうなものを見るような目でもう一度自らの意向を告げた。…スーパーノヴァでも放とうかと絶対者は思ったが発言は最後まで聞かねばならないと思い取りやめた。

 

「この場にいるまだ生きている全員の願いが私の言う種の意思に従ってくれた場合、ほかの人が言ったことも多少はかなうのかなと思いまして。」

 

『…………………………………』

 

 そういわれてポラリスは考える。確かに一つにまとめた「種の意思」と言っても全員が全く同じ世界を望んでいるわけではない。

 

実力主義といっても知力か腕力か霊力かそれぞれが重きを置くものは違う。

平等主義といっても福祉に重きを置くか、子どもの教育に重きを置くかで全く違った世界になる。

自由な世界と言っても自由の在り方は個体それぞれが違い、飽和した世界でもささやかな自分の幸せを願うだろう。

 

 ヒトガタたちがかなえようとしていた世界はそれぞれの思い描く世界の上澄みをくみ取って世界に反映させた世界だ。

 ゆえに答えは―――

 

『可能だ。しかしそこに転がっている者たちが意思を伝えられるとは思わないが?』

 

「シッ」

 

何やらこぶしを握り、わきを締めたポーズをとっている。確かガッツポーズというのだったか。

 

「では、少しばかり時間をば頂戴いたします。リリスゥ~」

 

間延びした声で自らの仲魔を呼んだ。…何をするつもりだ?

 

「『原初の誘惑』」

 

自らの仲間に自分の仲魔の技を当てた…。いやいやちょっと待て。

 

『人間よ、まさか魅了状態の人間の言う意思を反映させろというのか?』

 

「だって、本人たちの意思を伝える方法はこれしかないんですよ。仕方ないじゃないですか。」

 

そんなわけがない。転がっている者たちに回復魔法をかけるなり、献身をうけさせるなり手はあるはずだ。

 

『そんなものは「種の意思」として認められないぞ』

 

「では頭の中のぞいて、言ってることと意思が同じか確かめてみては?」

 

そういわれて絶対者はうわごとをつぶやく者たちの思考を読み取る。…確かに言っていることと思考は同じだ。

しかしこのようなものは認められない。なぜなら―――

 

「『自らの意思を曲げられた者の意思など「種の意思」足りえない』とお思いなのかもしれませんが、間違いですよ?それは。」

 

――――――――――は?

今この人間は何をした?私の思考を覗いたのか?

―――いや、ない。普通に誰しもが思うことだ。思考を予想したものがたまたま当たっただけだろう。そうに違いない。それよりも先ほどまで虫の息だったモノを回復させているこの者に問わねばならぬ。

 

『間違いとは、どういうことだ?私の意向に、私の意思に間違いなどあるわけがない』

 

絶対者は目の前の人間にまくしたてるようにそう論じ、生者を攻撃しようとした。

しかし、生者は「抑えてください」と一言だけ言い反論する。

 

「間違いですよ。たとえばですが、正常な思考を持った人間がいます。彼はずっと平和主義平和主義と信仰をまき散らすみたいに謡っていましたが、一日の敗北で自分の考えを変えて実力主義万歳と言いますか?逆もまたしかりですよ。」

 

 それは…まずありえないだろう。絶対者は攻撃を一時取りやめ、思考にふける。

 願いとは叶えたい志向であり、人間にとっての指針だ。数日、数か月、数年をかけても別の願いを許容する程度だろう。中には人の願いを全て肯定する輩もいるがそれらの人間は見てきた限り、自分の願いを持てなかった人種が多かった。それだけに願いとは重いものなのだ。しかし目の前のヒトガタたちはなぜか心の奥底に願いを隠し、リーダーのような役割の少年の願いに魅かれついて行きた。アルコルが言っていた輝くもの…だったか?

 あの人間に全員が酔っているかのように私に戦いを挑み、その少年を殺すと途端に全員が体勢を崩し始め、分裂したのだ。それ以降は乱戦である。ある者たちは少年の死体の前に膝を屈し、ある者たちは別の少年に指示を仰ぎ私と戦い、ある青年たちはその少年に向かい何かを叫んでいた。全員の芯にあるものが崩れたのだと確信した。

自分の目の前にいる生者以外は。

つまりそれは―――

この生者が言いたいことは―――

 

『全員がすでに人間一人に対し魅了に近しい状態であったから、今現在の魅了状態も変わらないというのか』

 

「はい。その通りです。」

 

―――なるほど、稚拙な仮説ではあるが無視はできないか。あの少年が願おうとこの生者が願おうと状況はさほど変わらないということならば致し方ない。もはや確かめるすべはないが転がっていた者は乱戦中、間違いなく自分の願いが表層に出かかっていた。それを別の魅了という形で場を整えたのであれば試練の数を生者自ら減らしたということになる。その力量、いやこの場合は欲か?だが人間とは欲深い生き物。この者が特別欲しがりというわけでもないだろう。それに免じてこの場を収めるのも私の裁量一つというわけだ。

――――フフフ、そう考えるとこの生者は、いやこの小物(・・)は慣れないながらに敬語を使い、私に判断を仰いでいるということか。

 いいぞ、実に人間らしい。

 

『いいだろう、貴様の要求を呑んでやろうではないか』

 

その言葉に目の前の生者は笑みを深くした。

 

「では私が望む世界をポラリスに奉る。」

 

慣れない敬語を用いて話す様をほほえましく聞いてその後の言葉を待つと…なんというか予想の範囲外の言葉が続いた。

 

「セプテントリオンたちに私を親として扱わせ、最初から育て直させてください」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

主人公Side

 

 まったくこの7日間ひどい目にあいました。

 いきなり中国地方から東京のパチモンみたいな都市に飛ばされたと思ったら地震に会って倒れました。そしたらなんか携帯から骸骨顔の鳥が一匹出てきて、とっさに掌底かましたら勝ってしまってサバイバル強要されるとか何ですか。

 混乱しながらも目の前の障害何とか排除していたらジプスっていう組織に目ェつけられて協力せいとまたもや強要。そのころには「あ、ここメガテンかと思ったらデビサバ2の世界だ」ってわかって諦めもつきましたよホントに。

 そしてジプスに収容されたら自分より年下の主人公君に何度か救われて感謝したら仲間認定されて一日おきにセプテントリオン倒すのをまた強要されるし、心が痛むわ。

 

 なんであんな可愛らしい子たちを痛めつけなきゃならんのか?

 

 そればかりが頭の中リフレインしっぱなしでしたよ全く。途中から周囲の悪魔の梅雨払いばかりやってました。それでもセプテントリオンたちが倒されるときは心が痛んだ。あの人たちにやめろと言ったら頭の中心配されるのは目に見えてますしね。アルコルに相談してみたら「それもまた可能性だね」って達観したようなこと言いよるし、人間好きはもとからやろうけどお前自分の意見はないんかって喧嘩別れみたいになるし。…まぁほかの子らに使えそうな有意義な話もできましたから、そこは感謝してますよ。

 あとは攻撃受けるの嫌ですからとにかく無効化、反射、吸収を中心に継承してスキル全部取っとったらほかの連中は何必死になっとるん言うて笑うし。死んでからやと遅いんやで?わかっとんかいなほんまに!

 そんで7日目に「ポラリス悪い、ポラリスひどい」みたいな空気になって倒そーって一致団結してさ。勝手にせえやって思ったね。反対しとった奴らも一回負けて主人公君が説得言ったら手のひら返したみたいに全員仲良しこよし始めるし自分の意思はないんかいおどれら(お前ら)

 …コホン、アルコル倒していく際にもあの人私のほうを見て「君の可能性は…」って意味深なこと言って消えていくしどうしろっていうんですか?どうせこのままポラリス倒して終了でしょと思っていたら、主人公がいつの間にか戦闘不能になって一致団結していたやつらが独断専行という名のカミカゼアタックしまくるし、気づいたら自分一人だけ残っていますし。ポラリスからは『認めざるを得ないな』って言われますしで願いがかなうか聞いたら返答は

 

『YES』

 

 これはもうあの子たちの死の運命を変えるしかないと思って育てたいと進言したらなんか渋り始めるし。何がいけないのか聞くことにしました。

 

「ポラリス様、何か不都合でも?」

 

『いや…不都合というか…不都合しかないというべきか…』

 

 はっきりしないことを言いよるなこの神は。ほかの方々の願いをばっちり聞けばちったぁ重そうなケツ上げますかね?

 

「私は…この者が…セプテントリオンと…ともに生きる…ことを…願います」

「ジュンゴ…この人が…セプ・テントリオ、ンの…教育係りとし、て、ポラリス・の力、一部の…支援を受ける…願う」

「わ、わいは…こい、つが…セプテン、ト、リオンの…教育・場所を…整える力を……得ること…ヲ願う。で」

「俺は、こ、イつが教育、のために…悪魔ショ喚アプ、リを持ち続・けるこ…とを願いま・す」

 

「いかがでしょうか?疑う余地もなく「種の意思」は私がセプテントリオンを育むことを願っていますが?」

 

『ふむ…。』

 

 まだ弱いかな?一人くらい生き返らせて別のこと願わせたほうがいいのかな?

 

『確認するがセプテントリオンの教育にともない、貴様の存在を世界を無に帰すさらに前にとばす。これでよいのだな?』

 

「はい、問題ありません」

 

あら?となるとこの時代や起こったことも、私からしたらやり直しになるのかな?

―――なんか嫌な予感がしますね。

 

『では条件がある。それらをのんでほしい』 

 

「チッ…わかりました。」

 

 ここまで来て条件ありかよ!ふっざけんな!と言いたいところですがここは冷静に…。どうやら舌打ちも気づかれなかったようですし。剣呑剣呑。…使い方あってますっけ?

 

 

『貴様はあくまでも人間のままにセプテントリオンたちのそばにいること』

 

「誓います」

 

それは当然だろう。人外になっても趣味趣向が異なっても困るし。

 

『寿命、老化による死はないが自殺、殺害による死は許容せよ』

 

「誓います」

 

なるほど、まぁポラリスにとっていつ邪魔になるかわかんないわけだしねこれも当然の保険のようなものだろう。

 

『これが最後になるが私がセプテントリオンを必要とした際は即刻、貴様の任を解き私の駒に戻すこと』

 

「…………………。」

 

くそ、くそっ!この野郎!一番目的から乖離していることを!

この条件をのむとあの子たちがまた一方的に虐殺を受けてれてしまう!

 

『どうした?誓えないなら』

 

ギリッ!

……唇少し切ったか…。

 

「…誓います」

 

『よろしい』

 

後で覚えてやがれよ…!確実にその鼻あかしてやる!

 

『では育てやすい格好にした後、貴様の教育場とやらに送ってやろう』

 

…ん?

 

「すいません、それはどういう…」

 

『では必要とするまでさらばだ。ああ、たとえセプテントリオンたちを取り立てても貴様の教育の場は消さないでおいてやろう』

 

「いえ、質問に…」

 

『さらばだ』

 

答えやがれぇぇぇ!!

 

という言葉は届かなかった。

 

 

 

 

 

 

…なんだろうか体中に重みを感じる…。

気が付くと木造らしき天井と――――――――

 

「я―…」

「…£」

「Θ!」

「Ψ?」

「@!@!」

「Ω?Δ?」

「$₤€。」

 

…全長30センチ台ほどの6体(・・)のセプテントリオンたちがいた。

 

 

やべエ…天国じゃねえか……!

 

 

周囲からの音と鼻から流れる熱を意識しながら私は意識を手放した。

 

 

 




種の意思やポラリスの性格などは捏造と独自解釈です。

主人公のプロフィールなどはご要望があれば投稿させていただきます。

ポラリス戦においてのレベルは
オリ主lv99
デビサバ2登場人物lv60程度
となっております。

負けた理由ですか?デビサバ2主人公たちの慢心です。
かろうじて生きている人は上から

迫 真琴
鳥居 純吾
和久井 啓太
志島 大地

となっております。
ファンの皆様に不快感を与えてしまった場合はここで謝罪いたします。
申し負けありません。

リリスが敵専用スキルを使っておりますが理由は後の話で追記します。
主人公の特別な力とかではありません。



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お父さんといっしょ

前回の半分ほどの内容であまり話が進みません。

焦らずのんびり行きたいと思っています。


目を覚ましてから今いる場所の確認をしていなかったことに気づき探索すると、どこか見覚えのある風景であることに気づいた。前の世界で小学生のころに通っていた施設そのもの…ところどころ記憶とは違う場所もあるが、大体記憶通りの「学校」であった。

 

今からあの子たちを教育する場所という意味ではなるほどと思えるが疑問も生じる。

なぜ小学校?

 

数年前まで大学生で高等学校の公民の教員免許は持っている。中学校は大学在学中に取り壊しが決定した際に訪問した。しかし小学校とはほとんど接点はない。

まあ、今のあの子たちは本来の大きさから小さくなってデジタルなモンスターでいうところの幼年期のような見た目だ。そういった認識が施設に影響しているのかもしれないとあたりを付けてあの子たちがいた教室に戻る。

 

 

 

さて、ひとしきり自分のパラダイスを堪能し夢かどうかを確認した後、目の前で好きに浮遊し騒いでいるようなセプテントリオンたちの数を確認する。

 

体色は青紫色で、金魚のしっぽを付け根から切り落としたような形状をしているセプテントリオン。

巨門星(こもんせい)をつかさどっているメラク。

 

金色のリングの外周にグリーンの水晶と桃色の水晶が合わさるように生えているセプテントリオン。

禄存星(ろくぞんせい)をつかさどっているフェクダ。

 

体色は橙色であり、ボールのところどころにとげを付けたような形状のセプテントリオン。

文曲星(もんごくせい)をつかさどっているメグレズ。

 

ミノムシのような形状に、頭にあたる部分が紫色で目と口と思われる穴が開いている全身が白いセプテントリオン。

廉貞星(れんちょうせい)をつかさどっているアリオトのコア。

 

大部分が紫だが、地面に接している部分がてらてらと光っている。形状は大きな球に小さな玉を連結したような腕をくっつけた形状をしているセプテントリオン。

武曲星(むごくせい)をつかさどっているミザール。

 

円錐の底面を上にして、とがった部分や角ばった部分を削って全体的になめらかな形状になっているクリーム色をしたセプテントリオン。

破軍星(はぐんせい)をつかさどっているベネトナシュ。

 

計六体………あれ?

 

セプテントリオンとはラテン語で『北斗()星』を指す言葉だ。

 

足りない……。一体足りない。

 

様々な色の短冊を縦に束ねてアイスクリーム・コーンを作り、アイスが乗る部分にショッキングピンクでかろうじて半円形に見える物体が煮立っている、そんな見た目のセプテントリオン。

貧狼星(どんろうせい)をつかさどっているドゥベ。その子がいない…。

 

「嘘…でしょう?」

 

全身から力が抜けていくのがわかった。セプテントリオン全員の教育を願ったはずなのに…。

なんだこの仕打ちは…。

ポラリス、恨むからね!

 

しばらく目の前の現実に打ちひしがれているとベネトナシュが目の前まで来て独楽のような動きを緩慢にし続けた。ほかのセプテントリオンたちも私の様子に気づいたのかどんどんと自分の周りに集まってくる。意味のない動きのはずなのに自分には彼らが自分を慰めているように感じた。

 

そうだよね。君たちには私しかいないんだからこんなところで打ちひしがれてネガティブになっている場合じゃないよね。…よし!

 

「ありがとうね。」

 

私の目的はこの子たちを強くして、一方的な虐殺を回避すること。そのためにもぱっぱと教育しなきゃね。でもその前に…。

 

「ごめんね。ポラリスのとこから引き離して」

 

ポラリスは言ってしまえばこの子たちの親だ。その親元から引き離したのなら私の願いが原因なのだから謝るのが筋というものだろう。でも、

 

「君たちを一方的に殺させはしないから」

 

せめてそれだけは約束しよう。自分の身勝手な願いでもそれだけはさせないとこの子たちに誓おう。

 

一応、身勝手な願いの贖罪は済んだし教育に入りますか。

 

「じゃぁ…メラク、ちょっとこっちに来てくれるかな?」

 

全員が私に向かって勢いよく体当たりをし始めた。

 

「ちょ、ちょっと待って。順番に順番に。えっと、メラクだけこっちに来てくれるかな?」

 

そういうとセプテントリオンたちは顔を見合わせるような動きをした。

 

「えっと…もしかして、名前が、ない?」

 

ポラリス、コノヤローーーー!!

 

自分の子供には名前をちゃんと付けろよ全く!

はぁ、仕方ないなメラクをそばに寄せてっと

 

「今日から君はメラクだからね」

 

「ΨΩΨ%%!?」

 

ん?なんかすっごい驚いているみたいだけどまぁいいか。ほかの子たちにも同じように名づけを行ってから教育に入ろう。名前はないとすっごい不便だからね。

全員に名前を付けていたらだいぶ遅い時間になってしまった。しまった、気絶とか落ち込んだりとか自分のことに時間を割きすぎた。教育は明日に回すとしましょうか。

 

「これから君たちは全員が兄弟、姉妹で私が父親だよ。みんな仲良くしようね」

 

そんな言葉を最後にセプテントリオンたちとの最初のふれあい1日目は終了した。

 

 

 

 

 

 

天の視点 神の剣

私たちはセプテントリオンという神の剣である。誕生と同時に創造主とは別の場所に転移させられた。

 

なぜだ?

 

いや私たちは剣として創造されたのだ。常に創造主のおそばにいないといけないわけではない。必要な時に使ってくださればよいのだ。いや、そもそもただの武器がこんなことを考えるのはおかしなことだ。ゆえこの仕打ちも甘んじて受け入れよう。力が弱くなっても仕方ない。体が小さくなっても仕方ない。父のもとに送られても…………父?

 

私たちに父はいないはずだが?しかし目の前にいるヒトは父に違いないと本能的に知っている。

であればこのヒトは私たちの父で間違いないのだろう。眠っていた父は少しの間私たちを見た後再び気絶するかのように眠ってしまった。

 

…私たちは父にとって歯牙にもかけない存在なのだろうか?それほどまでに私たちは弱く、期待のできない存在に堕ちてしまったのか?

いや違う。そんなことは思ってはいけない。創造主が私たちを貶めたなどそんなことはない…はずだ。

 

 

再び父が目を覚ました。しばらくの間、自分たちの前から姿をお隠しになった。見限られたのだろうかと心配になったが戻ってきてくださった。そして私たちを見てくれた。こちらを見てくれたとき体が熱くなり動きが雑になってしまった。私たちはここにいます、私たちを見てください。全員共通した思いが動きにでてしまった。そんな私たちに再び失望したのだろうか、立っていた父は膝から崩れ落ち、手を床につき涙を流していた。崩れ落ちる前に私たちは確かに聞いた。

 

「足りない」と

「嘘でしょう」と

 

浮遊していた何体かが地に落ちた。

ああ、私たちにはやはり力が足りないのですか?

虚像のほうが私たちよりもまだましなのですか?

父が、創造主がお求めになるほどの剣ではなかったのですか。ならばなぜ捨ててくださらなかったのか。創造主はわざわざ父にまで私たちの体たらくをさらしたかったのか?少し創造主の仕打ちを恨めしく思った。

 

父に事の真偽を問いたくなって私たちのうちの一体が父のそばに寄った。ほかの者たちも徐々にだが父のそばに集まってきた。すると父は泣き止み、たたずまいを正した。とうとうお答えをくださるのですね。全個体が身構えた。

 

「ありがとう」

 

…………え?

思考が飛んだ。なぜ、という疑問が浮かんだ。なぜ父は私たちに礼など言うのかが全く分からなかった。そのあとも父は私たちに謝罪をしてくださった。創造主のもとから離してすまないと。さらに私たちの命を心配してくださった。その2つの言葉で確信ができた。父が私たちを必要としてくださったのだと。父に見捨てられたのではないのだと。父の慈悲深さに体が熱くなった。この方は私たちを必要としてくれている。そのことが体の熱に拍車をかけた。

 

「こっちに来てくれるかな?」

 

救いを求める信者のように全個体で父のそばに走った。 

ちょっと待てといわれたので待った。父はどうやら私たちの中で一個体をそばに置きたいようだ。少しの間全員の顔色をうかがっていると、父がその中の一個体を自らの手で選びそばに寄せた。選ばれなかった個体は気落ちしていたが次の瞬間再び思考が飛んだ。

 

その個体に名前を付けたのだ。

 

ただの剣である私たちの一個体、いや一人にまるでヒトのように接してくれている。父がまぶしく思えると同時にその一人に嫉妬した。一人だけ父の寵愛を受け続けるのだろう。それとも一人以外は選ぶまでもない個体だったのかと創造主に対してさらに恨みを持った。だが、父はそれぞれの個体に名前を付けて私たち全員を一人のヒトとして扱ってくださった。

 

「これから君たちは全員が兄弟、姉妹で私が父親だよ。みんな仲良くしようね」

 

そういって父は再び眠りについた。

激動の一日だった。創造主の考えはわからないが父には従っていこうと思えるそんな一日だった。

 

 

「これから君たちは全員が兄弟、姉妹で私が父親だよ。」

はい、私たちは皆、父に名を与えていただいたヒトであり兄弟、姉妹です。

ああ、父よ。本当にありがとうございます。私たちを必要としてくださって。見限らずにいてくれて。

私たちは兄弟全員で父の期待に応えていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ですので、どうか創造主のように私たちを見捨てないでくださいね。

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

無理やり感が半端ないです。

2016/2/21 施設について消えていたため追記しました。




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お仲魔でいっぱい

気が付けば一か月も…。
投稿が遅れてしまい申し訳ありません。



はい、セプテン兄弟は出ません。

仲魔と主人公の関係性の説明回です。

これで口調合ってるか不安ですが、違和感があれば修正いたします。


主人公視点

 

「そういえば…」

 

自分の仲魔たちを丸一日放置していたことに気づき、子どもたちを体育館に移動させてから3機(・・)の携帯から何体か出現させる。

 

「いやいやごめんね、みんな」

 

『全くだホー!退屈だったホー!!』

 

『そうだホー!』

 

『ヒーホッホー!!』

 

『今回ばかりはオイラも賛成するホー』

 

うるさく叫んでいるのは雪だるまに青いブーツと長い2本角の付属物を後ろに垂らした形状の青いヘルメットを身に着けているジャックフロストたちだ。その後ろでジャックフロストを集合させ体積を十倍以上に増やした体に真っ赤なマントとステッキ、金髪のカール髪に王冠をしているいかにも王サマな容姿のキングフロストが下々であるジャックフロストに賛同している。

 

「いや、本当に申し訳ない。かなりうれしいことがあってね」

 

『………………………………………』

 

静かに自分のそばにたたずんでいるモノの見た目は鳥の体に爬虫類を彷彿とさせる長い尾、なのに頭はしゃれこうべといったものでキメラを思わせる。私の最初のパートナーであるイツマデである。

 

「イツマデも何かあれば言ってくれていいんだよ?」

 

『いえ、何も』

 

前々から思っていたけど口下手な子だな。少しづつ改善されていけばいいんだけど…事務的な会話しかしないからかな?とりあえず周りを静かにしないとね。仲間全員に謝罪をしてからお願いするとしよう。

 

「今日君たちを呼んだのはお願いがあるからなんだ」

 

スッと仲魔たちの雰囲気が引き締まる。みんないい子だということを再認識できるね。

 

『何でしょうか?我々にできることであれば何なりとお申し付けください』

 

イツマデは恭しく礼をするように頭を垂れる。

 

「君は相変わらずいい子だね」

 

『もったいないお言葉です』

 

「じゃ、発表しますかね。君たちにはね私の子どもたちの教育に一役かってほしいんだ」

 

 

 

 

……なんか空気が固まったけど気のせいだよね。

 

『ご主人ご主人』

 

「何かな?キジムナー」

 

質問してきたのは緑色で表面がぶつぶつした果実に短い赤ちゃんの手足と黄色い瞳のような部位を持つ悪魔、キジムナーである。

 

『ご主人はこの二日の間に嫁見つけて、ゴールインして、子供何人も産ませたの?それとも連れ子?』

 

「相変わらずストレートだね」

 

ちなみに子どものような性格ゆえのストレートさと知識があるがゆえの言動がギャップのある萌えキャラの一人だ。

 

「いやいや、お嫁さんはまだだよ。でも子どもたちはいるんだ」

 

キジムナーは訳が分からないのか首(?)をかしげる。というより大体の仲魔たちが同じように首をかしげている。

 

「ジャア、ドウイウコトダ?」

 

白いゴリラのような見た目にシカの角を頭にくっつけた容姿の悪魔、ウェンディゴ疑問を口にする。

すぐに疑問を口にしてくるから話が進む。こういった場では重宝する子だね。

 

「子どもたちは君たちも知っている子たちだから仲良く…いやー、仲良、くは、なれ、ない…かな?」

 

何度か殺されかけているしね。

 

『どういうことでしょうか主殿。それと愚考しますが我々の容姿では人の子を怖がらせてしまい教育も何もないのではないでしょうか?』

 

「いやいやいや、大丈夫あの子たちの戦闘能力を引き出してもらうことと力をつけることに一役買ってほしいだけだから。情緒面の教育は私やあの子たち自身が育むものだしね」

 

『……は、はあ………』

 

悩んでる悩んでる♪

相変わらず見ごたえのある光景だね。人よりも長く生きていて、伝承として語り継がれている彼らが悩む姿っていうのは。

でも話が進まないから説明をしないとね。

 

「説明するとね、セプテントリオンたちの父親になったんだよね。それで――」

 

『待ってくれホー!』

 

「はい、何かな?」

 

ジャックフロストが待ったをかけるけどイツマデがそれを制して王サマに話に加わるように言ってる。

疑問があるならとことん答えるんだけどな?

少ししてイツマデが続きを促してきた。

 

『………いえ、最後まで聞いてから判断いたします』

 

「あら、そう?それじゃ続きを話すとね、あの子たちを君たちと戦った時よりも強くしてほしいんだよね。もちろん戦いの中でね」

 

『えーと、それはオイラたちに死ねと言っているのかホー?』

 

「結果的にはそうなるかもね。でも今のところは死ぬことはないと思うよ?もっとも悪魔全書に君たちのことは記録してあるから死んでもまた召喚…いや、黄泉がえりができる。それにあの子たちは今、縮んで人間でいう赤ちゃんに近い状態…なのかな?君らに危害が加えられるかは怪しいと私はみているんだ。それについては自分たちの目で確かめてね。」

 

『…了解いたしました』

 

うん。ほかの子たちもうなずいてくれているし大体の了承を得られたかな。

 

「ん、あとは例によってできないと思ったら辞退するのもありだよ?

…誰もしないの?それじゃあ行こうか」

 

私は仲魔をつれてあの子たちが待っている体育館に行くことにした。

 

 

 

 

悪魔の視点 イツマデ

 

『イツマデ、さすがに今回の案件はオイラたちにはキャパオーバーではないかホー?』

 

体育館に向かう道中、キングフロストが少し不安そうに聞いてくるが確信をもって伝える。

 

『大丈夫だ。主殿は決して我々に無理難題を吹っかけはしない』

 

『でもあいつらとまた戦うなんて冗談じゃないホー!!オイラまだ死にたくないホー!!』

 

一体のジャックフロストが声を荒げる。やはり不安なのだろう。雪だるまが震えるというどこか矛盾した光景を演出している。

 

『大丈夫だよー』

 

するとキジムナーが慰めるようにジャックフロストの背中をなでる。

 

『ご主人は良くも悪くもはっきりしてるヒトの子。ボクらが死ななきゃいけない時は容赦なく「死ね」っていうはずだよ。今回のお願いは「一役かってほしい」だから死ぬような目には合わないんじゃないかな』

 

ジャックフロストはまだ不安なのだろう、自身の王に助けを求めるように視線を向ける。しかしキジムナーの言葉に思うところがあったのか覚悟が決まったのか定かではないが王は前を向いておりジャックフロストの視線に気づいてない。

 

しょうがない、後で主殿に一声かけてもらうとしよう

 

『そろそろ目的地に着きます。いい加減シャキッとしなさい。ジャックフロスト、ついてから主殿にその不安を隠さずぶつけておきなさい。そうすれば多少は気がまぎれる』

 

『ヒーホー……。』

 

「さ、着いたよ。それじゃみんなに紹介するとしよう。私の子どもたちだよ」

 

中途半端に広い空間にいたのはキジムナーより少し大きいかなと思えるサイズのセプテントリオンたちだった。

 

それを見てジャックフロストは「な、なんだホ?」と戸惑いを口にした後、もじもじしながら主殿のそばに行き不安を口にする。

 

『ヒー…ホー…』

 

「ん、どうかしたかなジャック?」

 

『オ、オイラたちは大丈夫なのかホー?』

 

「それはどういったことでかな?命?概念?存在?」

 

『ぜ、全部になるホー…』

 

「それなら大丈夫。今回は死ぬような訓練ではないし、死ぬような場合もその可能性が少ない人に頼むから。…後、やっぱり怖いかい?」

 

『ヒッ、ヒホッ………』

 

先ほどまでは不安を口にしていたのに途端に口ごもる。

…無理もない。もしこのことで使いものにならないと判断されれば悪魔全書で長い待機か延々と合体の材料にされるかのどちらかであろう。乱舞系のスキルや魔力無効のスキルを持っていた堕天使勢は元気にしているだろうか?

 

『こ、怖いデスホ』

 

震えながらもはっきりとした声で主殿の目を見てジャックフロストが答えた。

いいぞ。その対応は主殿好みの返答の仕方だ。

 

「そっか………………よしよし」

 

主殿は子どもをあやすように屈んで目を合わせてから頭をなでた。

ほほえましい光景だ。ほかの悪魔たちはあまり関心を持っていないようだが。

ジャックフロストはよほど怖かったのだろうぐずっている。

 

「それなら君には別の仕事を回すようにするよ。それも受けるかどうかは自由だけどね」

 

主殿は立ち上がり、仲魔全員に向かって伝える

 

「みんなも自分には無理だーと思ったらジャックのように言ってくれていいからね。今はサバイバルをしなきゃいけない前みたいな状況じゃない。君らのプライベートにまで口を出さないよ」

 

『…了解いたしました』

 

仲魔たちの反応は泣いて喜ぶもの、無表情ながらこぶしを握り締めるもの、いまさらなにをと怒気を強めるもの、その場から逃げ出すように動くもの、様々だったが一部の者は全く反応を示していない。自分たちが必要とされなくなったと虚無感に襲われている者だろう。自分がそう考えられるのは私もその内の一人だからだ。かろうじて一声、了解の旨は伝えることができたがこれからどうすればと延々考える自分を認識できる。

 

「あ、君らが必要じゃなくなったとかそういうわけじゃないからね。そこは勘違いしないでね。」

 

…フフ、主殿は本当に我々の欲しい答えをすぐさま用意してくれる。それ故に離れがたい御仁なのだが。

主殿は言葉通り先ほどのジャックフロストとは別のジャックフロストを召喚して訓練に加わるように伝えた。

 

準備は整ったようだ。

さて、久しぶりの仕事だ。期待にこたえねば!

 




設定説明

3機の携帯
一番のネックになる設定
おいおい書いていきます。

ぐずっていたジャックフロスト
独自設定でキングフロストの下にいるジャックフロストに喋ってもらいました。
なのである意味キングフロストの不安の代弁者です。
後に召喚したジャックフロストは正規のジャックフロストになります。

一枚岩でない仲魔
3機の携帯に追随する設定です。


仲魔の容姿の説明は初見の方のために書いています。
わかりにくい場合は報告してくれれば訂正します。


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嫉妬、死とsh○t

また、一月以上かかってしまった…。
遅筆な自分をうらめしく感じる今日この頃です。

1日1アクセスはあるようでUAが500件越えてました。
またお気に入り登録してくださった方、まことにありがとうございます!

また、遅くなるかもですが必ず続けて書いていきます!

では本編です。


天の視点 巨門星(メラク)

 

一番最初に名づけされてから一晩が経った。名づけの時からあたしがメラクという存在だと認識できるようになった。ほかの個体たちもそうだろうと思う。それとお父さんが眠った後、人間という種族の情報が刷り込まれた。この情報からお父さんのことが理解できたような気がしてどこか心地よい気分であたしは目が覚めた。

 

それにしても、まだ体のほてりが収まらないよー!

 

それほどに衝撃的な一日だった。見捨てられたのかと思ったら、6体の中からあたしを最初に選んで名づけてくれた。もしかしたらお父さんにとってあたしが特別、見込みのある個体だったのかも!?それどころかあたしが6個体中誰よりも父に好かれているという証明にならないだろうか?

そうだ、きっとそうに違いない!で、あればあたしがお父さんのそばにいていいのは明らか!ほかの個体の事情などはお構いなしにお父さんのそばにいれる。

これは…かなりうれしい!お父さんを独り占めできる!!それどころかこの関係性は人間の情報に基づくともはや『妻』と言っても差し支えないのではないか!?そしてゆくゆくは―――

 

うふ…うふふ…うふふふふふ。

 

あーっ!!!妄想が収まらない!いーっぱい甘えてしまおっと!

 

おっとそんなことをしているとお父さんが起きたみたいだ。さっそく甘えてしまおうかなぁ…と意気込んでいたらお父さんは自分の食事の用意をし始めた。

…うん、仕方ないよね。ちゃんと食事をとらなくちゃいくらお父さんでも死んでしまうもの。そうして朝食をたべた後、あたしたち全員に向き合って体育館に行くようにと指示を下さった。やっぱり指示をしてくださるのはいいなぁ。頼られている、必要とされているという実感がわいてくる。ほかの個体たちもうれしそうだ。でも一番好かれているのはあたしだからね!

 

 

しばらく待っているとたくさんの見たことのないモノを連れたお父さんが来た。なんだろう、誰なんだろう?む~、お父さんの周りにばらばらといるから近づけないよ~。あたしは早くお父さんのそばに行きたいに!

 

そうして待ってると青いヘルメットに真っ白い体をしたヤツがお父さんにすり寄ってきた。そのポジションはあたしのなのに!それから少し話をするとお父さんに頭をなでてもらっていた!!さらにお父さんが周りにやめてもいいという旨を伝えると囲っていたヤツらが嬉しそうに逃げて行った!

 

ぐぐぐ…なによ。なによ!なんなのよ!あいつらは!!あんなになれなれしくお父さんにすり寄って!なでてもらって!それで逃げるように去っていくなんて!!発言を考えるにあいつらはお父さんの部下なんだろう。でもこれからは従わなくっていいってなによ!いままでお父さんの役に立っておきながらやめていいと言われて何をそんなに嬉しそうにしているのよ!お父さんはなんであいつらになんにも言わないの!!

お父さんに文句を言おうとしたら…顔を両手で覆っていた。手塩にかけた子がひどく反発したような、長年飼っているペットがいなくなったような…泣いているような、そんな反応。

 

許せない…。許せない。許せない許せない許せない!!お父さんを悲しませるなんて!!お父さんの期待を裏切るなんて!!許せるもんか!!今すぐ全員八つ裂きにしてやる!!お父さんなでるのをやめて!!そいつらの前に立たないで!!お父さんに攻撃が当たっちゃう!悲しませたヤツらを逃がしちゃう!

そうして攻撃しようとしてると――

 

 

お父さんに名前を呼ばれた。

 

 

フー、フー、危ない危ない。お父さんに呼んでもらったおかげでちょっと冷静になれた。そうだ、私たちは今日お父さんにやってほしいことがあるからと頼まれてここまで来たんだった。自分勝手に動いちゃだめだ。お父さんに怒られちゃう。というよりあたしたちがいるからあいつらは要らなくなったのかも。だとしたら検討違いな怒りをぶつけるとこだった。でもいつか逃げた全員に制裁を加えてやる。

でも、今はお父さんがしてほしいことを聞いて、実行しよう。まずはやるべきことをやらないと!

するとお父さんから指示が出された。連れてきた連中も参加するみたいだ。

 

「君たちには今から模擬戦をしてもらいます。場所というか範囲は体育館中央部にある円の中です。審判は私が勤めるから、さじ加減がわからない場合は私に聞いてね。でも子どもたちには全力を出してもらうよ。今の実力も知りたいし、知らなきゃカリキュラムも組めないからね。」

 

つまり合法的にさっきの連中の誰かをぼこぼこにできるってことだね…。お父さんはやっぱりすごい。あたしがやりたいことをすぐにやらせてくれるんだ…!ん。俄然やる気が出てきた!お父さんにいいところを見せて、おそばにおいてもらって、なでなでしてもらうんだ~!全力で撃てば(・ ・ ・)すぐに終わるだろうし。あとは最初に呼んでもらえればほかの個体が戦っている最中はお父さんを独り占めするっていう最初の目的が叶うわ!あ~っ!さっきのイライラが吹き飛んで爽快な気分だわ!!

 

「それじゃ一回戦。メラクとジャックフロストにやりあってもらおうか。」

 

やった!最初に呼んでもらえた!目的が叶うまであと少しね!でもジャックフロスト?さっきの連中の誰かよね。誰なのかしら?

そんなことを考えながら円の中に入っていくと青いヘルメットをした白いヤツ(・・・・・・・・・・・・・・)があたしの正面…というか円の中に入ってきた。

 

うふ…うふふ…うふふふふふふふ。

 

お父さんにすり寄って、なでてもらって、逃げたヤツとうり二つだね。なでてもらってたヤツはさっき逃げるのを確認したけど…。さっき少し冷静になったけどやっぱり駄目だ。八つ当たりっていうんだろうけど、お父さんを悲しませたこととあたしのイライラの解消に役立ってもらう。

 

「ではお互い、準備はいいかな」

 

うん。お父さん。任せて、いつでも撃てるよ。

 

「それじゃあ…始め!」

 

あたしは全力で目の前の白いヤツに砲撃(・・)した。

それに直撃したヤツは…平然と立っていた。

 

は?

 

白いヤツは傷ひとつついてない。間違いなく直撃したのになんで凍ってないの!?あたしの≪周極の巨砲≫は並みの相手ならすぐ凍らせるのに!それに今日得た情報なら人間だって一瞬で…

と思考をはしらしていたらあいつが目の前にいた!

 

ガン!と自分の体が殴られて円の端まで追いやられた。クッソ!自分の武器は≪周極の巨砲≫と≪体当たり(Attack)≫ぐらいしかないのに!さっきの攻撃で予想がつくけど自分の≪体当たり(Attack)≫より相手の攻撃のほうが速い!距離をとっていれば攻撃は喰らわないだろうけどこっちは攻撃が効かない!

思考をはしらせていると体の一部が急に冷える。その部位の確認をすると少量の氷が自分の体に引っ付いていた。まさかあいつも≪周極の巨砲≫みたいな遠距離攻撃を持っている!?理不尽だ!こっちの攻撃は効かないし当たらないのにあいつは攻撃し放題なんて!

 

いや!

それよりも!

お父さんの目の前で!

あたしに!

恥をかかせた!

ぜぇ~ったいに許さない!

 

あたしは眼前の敵を見据えて体当たりをした。それが避けられてまた体を殴られそうになったけど今度はそうはいかない!自分の側面から棒(・・・・・)を出して床に当てて軸にして…

 

体当たり!(Attack)

 

ドカッ!という音がして白いヤツが吹き飛んだ。

 

ざまぁみろ!とか考えてたらもう白いヤツは目の前にいてまた殴られた。

 

そこからは一方的な展開だった。砲撃しても無効化されて体当たり(Attack)は、かわされて逆に攻撃を受ける

お父さんに見られているのに…。

失望されたりしてないかな…。

体力もなくなってきてフラフラになってもう少しで死んじゃうと思ったところでお父さんが助けてくれた…。

 

良かった…。見捨てられないってことは失望された訳じゃないんだ…。そこであたしは意識を手放した。

 

 

そのあとで意識を取り戻すと白いアイツとお父さんがいた。不甲斐ない姿をさらしたことを謝ろうとしたら手で止められて白いアイツがそばによってきた。

 

『今日からオイラがお前のタントウキョウカンになるジャックフロストだホー!コンゴトモヨロシクだホー!』

 

…………………………ん?

 

混乱するあたしを尻目にお父さんは「他の子とも仲良くねー。」って言って部屋を出ていってしまわれた…。

 

 

 

 

えーと……。

どうしてこうなったの?

 

 




用語説明
周極の巨砲
氷結属性、射程は縦、無限×横3マスのMAP兵器
氷結耐性によってその個体のダメージ量が変わります。

メラクの棒
本来は別の用途がありますが現段階では習得していません。

なんか、ありきたりな展開な気がしますが満足いただけたら幸いです。


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保護者相談と新しい家族

はい。2か月も遅れてしまいました・・・。

誠に申し訳ありません!
いろいろと環境が変わって不慣れになっていますが確実に続きは書きます!

新しくお気に入り登録してくださった方にはこの場で感謝を!
ありがとうございます!

新しい家族?誰でしょうねぇ?


はぁ…

 

朝からため息をついている。この行為はすでに3度目であり相当滅入っているようだ。いまだにドゥベがいないことを気にしているのであるとか、朝食の卵焼きを焦がしたとか、そういったことで悩んでいるのではない。教育期間に入り、そろそろ一か月経つか経たないかというここ数日の間に判明したことで悩んでいるのだ。

 

 

数週間前に行った模擬戦は素晴らしいものだった。

勝利した子も手も足も出なかった子もいたが、それぞれ自分が知っている知識と体験よりも強化された状態でここに送られたようだった。

 

メラクについてはもともとの攻撃手段は側面から出てくる棒から生成される自走爆弾(子機)を使った誘導と、射程範囲内に入った敵を≪周極の巨砲≫という氷結属性のMAP兵器でまとめて撃つといったものだった。しかし≪周極の巨砲≫は撃つ前に体側の棒をすべて出すといった予備動作があり、あの動きがあっては「今から撃つぞ」と敵に知らせるものになる。また予備動作中はその場から動けないのかその間はノーガードで攻撃を受け続けることになる。それらに気づかれるとあの子は敵にとって格好の的でしかない。

なぜここまで想像できるかというと実際にその現場を見たからだ。主人公君たちに協力してのメラク討伐の際、私がほかの悪魔の梅雨払いをしている間にそれらがばれて予備動作中に射程範囲から逃げられ一方的になぶられるという非道い仕打ちを受けていた。

 

しかし、私の子どもになったメラクは≪周極の巨砲≫の予備動作が一切なく連射が可能になっていた。最初は「始め」の合図と同時に撃ったため確認ができなかったが、その後の戦闘において予備動作なしで連続して撃っているのを確認できた。何のモーションもなくバカスカ撃っているのを見て敵を制圧する情景が浮かび、かなり興奮した。さらに体側の棒を支柱にして急な方向転換をして体当たりをかますといった応用を見た時には素直に賞賛したくてつい拍手をしてしまった。それ以外の子たちについても特定の攻撃に対する予備動作がなくなっていたり、攻撃範囲が広くなっていたりとある程度の強化が施されていた。

まあそれでもたいていの子は対戦相手にかなわなかったけど実力を知ることができた。

 

それと模擬戦後の子どもたちの姿勢もまた素晴らしい。

負けた者は、対戦相手になった悪魔に対して毎日のように挑んで自分で考えたであろう対策が有効かどうかを実戦形式で試してリベンジを続けている。それ以外にも私の技を見て新しい攻撃方法、防御方法を模索している者がいれば完全に技を模倣しようと努力をしているような子もいる。

勝ったにしろ負けたにしろ努力を惜しまず次の勝利を目指して前進する。そういった姿勢が全員に見られるため、こちらの教育にも力が入るといった良いサイクルができている。

 

強化はほぼ確実にポラリスの仕業だろう。育てやすい格好にするとは言っていたけど…同じ轍は踏まないってことなのかね?思わぬ収穫であった。ここまでであれば普通の教育を進められていたのだが、各々の姿勢のことを考えていくと違和感に気づいた。思い返してみるとなぜもっと早く気付かなかったのかと自分を責めた。

 

気づくきっかけとなった思考は

――――あの子たちの姿勢は、各々の意識が高いのかもしれない。

というものだった。

 

…………そう、かもしれない…だ。

私にはあの子たちが発している言語、セプテントリオンの言葉を完全に理解できていない。そのため意思、思考の確認ができていないのだ。

指示を出して自分の使えるスキルを実際に見せて回っていたが、あの子たちが言っていることは「я」や「Б」という音で了解の意として私に伝わる。しかし、それが「はい」という言語なのか「かしこまりました」と言っているのかは判別できないのだ。

 

さらにブリーフィングと称してあの子たちに意見交換を求めたこともあったが、あの子たちも互いの言葉がわかっていない様子だった。

 

これは由々しき事態である。もともとの教育方針ではそれぞれの(スキル)を共有したり、(スキル)の応用を考えさせることが目的だったのだ。

 

教育内容の大幅変更をしなくては!

 

と思ったがそのまえに母親(・・)に確認することができた。もともと持っていた自分の携帯から『北極星』と書かれた電話帳を開きダイヤルをする。

 

本来あるはずのプルルという音が鳴らずに、目的の相手が出た。

 

『順調かね?』

…第一声がそれかよ…。

「ええ、まぁ。それなりにではありますが。」

 

『それは重畳だ。そのまま続けたまえ。』

そう言って通話を切りそうな雰囲気が出ていたので慌てて引き留める。

「ちょ、ちょちょっとお待ちください!」

 

『なんだ?』

 

「質問をしてもよろしいでしょうか?」

 

『…構わないが…』

すっごい嫌そうですねぇ…ですが切らないでいてくれたのはよかった。さっさと質問をして切るとしますかね。

「あの子たちの…セプテントリオンたち言語をあなたは理解していますか?」

 

『…どういう意味でだ?』

「そのままの意味ですよ。あの子たちが発しているのは言語…というよりも音に近い。あのままでも言葉を解し、会話をすることができるのでしょうか?」

『不可能だ』

 

………………やっぱりねぇ

「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

『知れたこと。質問してくる以上はお前にもわかっているのではないか?』

それを認めたくないから質問したんですがね。

 

ですが、ああ、やっぱり…

「そうですか」

『ふん。私の前であれだけの啖呵を切って自分のモノにしたのだ。今更できませんでしたでは済まされんぞ』

「ご安心ください。確実に以前よりも強くなっていますよ。あなたがした以外の面でも強くして見せます。」

それを言うと電話はブツッと嫌な音を立てて切れた。

 

またため息が出てくる。悩みの種が増えるとは思えなかった。まさか全く母親としての自覚がないとは…。いや、この予想はセプテントリオンを譲り受ける際の質問でしていたが。実感するとこれが意外にも重い。毎度毎度、身に降りかかってからでなければそれが実感できないとは自分の鈍感さにも嫌気が出ますね。

 

ちっくしょう。

廊下で話していたためか、声が大きかったのかはわからないが子どもたちが何人か寄ってきていた。心配ないことを伝えるために一人ずつ撫でていく。

 

悟られてはならない。

君たちの母親は、

君たちのことを、

子どもとしてではなく、

便利な道具としてしか見ていないなど。

 

そして紫の体を撫でたとたんに()のことを思い出した。

そうだ。ドゥベ以外にもまだお迎えしていない家族がいたね。()は今頃何をしているんだろうか?

今頃は地上に降り立っていろんなものの布教中かな?それともどんな効果が表れるかを見学しているところかな?

とりあえずどうやって探すかだよね。と言っても取れる手段は実に少ない。一応子ども達に彼の呼びかけを頼んだけどそんな簡単に捕まるのかね?私もお願いしておくかね。一番関係の深そうなミザールを膝の上に置いて「おいでおいで」と念じておく。効果があるかどうかわわからない。あったとしても雀の涙程度かもしれないし、全くないかもしれない。それでもやるしかないんだよねぇ。手がかりが全くと言ってもいいほどにないんだもの。

 

以外にもそれから一週間後くらいに効果も目的の()も現れてくれた。

 

「いったい誰…!? なぜこんなところに空間が…それにここは建造物の中か!?」

 

現れたのは黒いチノパン(?)に胸元と手首にファーのついた赤と黒のV模様が交互に入った服を着た白髪の青年。

結構盛大に驚いてくれている。これは予期せぬサプライズだ。何度か会話をしたこともあるけど…あの時とは関係性がかなり変わってしまったし、受け入れてもらえるかな。さてサプライズもそこそこに盛大に歓迎してあげないとね。おっと、こちらに気付いたようだ。子どもたちが私の周りにいることが信じられないのか目を見開いている。

 

「それに……君は?」

「お久しぶり。そして歓迎するよ!新しい家族である………」

ここでためにためて相手の名前を言う!

 

 

「ウレタン!」

 

 

……………あれ?なんか違うか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対者は思考にふける。教育係がなぜあのような電話をよこしてきたのかがわからなかった。

『あ奴らはお前のモノであると同時に私の所有物だ。私が行うことにいちいち疑問をはさんだり、勝手に思考して動かれてはこちらにとっては迷惑でしかない。』

それゆえに言葉なぞは必要がない

そんなことはだいぶ前に言っていたように思うが、冗談か何かだとでも思ったのだろうか?

だとすれば愚かだ。私はヒトの尺度では測れるようなものではない。嘘や遊びをはさむ必要性など全くないのだ。ただやりたいといっていたからやらせているだけなのに何を生意気を言っているのだろうか?あのヒトは。

それにしてもと、もう一つの疑問についても同時に考える。

『私が行ったことなど育てやすくするために背格好を縮めたくらいなのだがな』

 

絶対者の疑問は晴れることなく思考は続く。しかし答えは見つからない。自分のみが真実であるがゆえに。自分が行ったことが絶対であるがゆえに。ヒトの可能性に目を向けないために。

 




はい!新しい家族は憂う者ことウレタンでした。

ドゥベだと思った方には申し訳ありません。

さて、ポラリスに対してヘイトがたまる主人公。
アルコルに何させるつもりなんでしょうか?

口調おかしいなどあればご指摘お願いします。

次か次の話あたりから原作に入ります。
投げる石の準備をお願いします(ガクガクブルブル


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本編です
破裂の日曜日Ⅰ



プロローグのようなもので話はあまり進みません。

評価していただいた方、お気に入り登録してくださったからには感謝で、頭が上がりません。

では本編です。


 

「いいかい、私の言葉ではなく私の前にそれを言ったヒトがいる。それを考えながら聞いてね。」

 

「――、――――――」

 

「戦争というのは相手の嫌がることをしたものが勝つ、最初にやるべきは通信網や交通の閉鎖だよ。そのあとで兵糧、要は食べ物を立てばいいんだ。難しい子はいきなり食べていた食事を引かれたら悲しいくらいに今は考えていてね。」

 

「―――――――――」

 

「はいはい、―――ほめてくれるのはうれしいけどいきなり浮遊しないでね」

 

 ザッ――――ザザッ――――――――

 

「相手が何かしてくる前に無効化する、一番の理想的な形はこれだね。これを行えればこっちの損害はゼロ。次の行動を即座に行える。」

 

「そうしたら早く父さんのとこに帰れる」

 

「ん~~、ま、まぁ確かに合ってるけどそれだけを念頭に置いて動いたりはしないでね。きっと足元救われちゃうから。」

 

「――――――」

 

「そればかり考えてると、というか一つのことだけ考えて動くと視野が狭くなってしまうからね。全てをとは言わないけど視野を可能な限り広く持つことを心がけよう。」

 

 ザッ――ザッ――――ザザッ――――ジ――――

 

「需要と供給のバランスも大事だね。要は欲しがる人と与える人がどちらも納得することだけど、どちらかのみが得をしている状況、利益を独占する行為は今の世界観で良く映ることはない。」

 

「お父さん――――――――――――」

 

「確かに前はそう言ったね。でもそれは私たちのような家族や信頼関係が結べている人の間だけなんだ。悲しいことにね。でも君たちが行う戦いでは必ずそういったことをするやからが出てくる。」

 

「―――――――――――――――」

 

「ほっておいていいよ。後は勝手に向こうが自滅してくれる。あ、脅威は払わなきゃだめだから、その時だけ彼らに協力してあげなさい。」

 

 ザザザッ――――――ザ――――ザッ―――――ブツッ…

 

 

 

 

 

 

 

  ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン

 

 ポップコーンが破裂するような音が空洞に響いている。

 

 形は習っていたことを思い出していた。父さんの声と「父」という音は耳に心地よい。そんなことを考えながら。

 願わくば自分一人にその声をすべて向けてほしいが、できるかどうかを心配しているのを認識する。しかし、いや大丈夫と自分を奮い立たせる。わたしがすべて終わらせてしまえばいいのだと。習ったことをやっていればいいのだと。

 父さんは足りないとか、だめっていうかもしれないけど父さんが教えてくれたことなのだ。だから抜かりはないと思考をはしらせる。早く帰って父さんによくできましたと言ってほしい。ぜんぶできたら自分一人に父さんは声をかけてくれる。

 生みの親が何か言ってたけどどうでもいい。父さんがわたしを同行者として選んでくれたのだから。わたしは父さんのお願いを聞いて行動しているんだ、とそこまで考え頭を冷やす。いまはお仕事の時間だ。思考にふけってばかりではいけない。もっともっと吸い取って数を増やしてお仕事を効率よく進めないと。

 

 ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン

 

 空洞の音が再開する。音の中心にはカラーコーンを逆さまにした形状でカラフルな姿の異形。周囲にはタイヤのような形状の赤い異形に少数ながら音源と同じような姿の異形が佇んでいる。違いは明確であり音源には煮えた粘液の塊のようなものがあるが、周囲の異形にはない。

 

 周囲の異形は全員が身を震わせている。その姿はイベントに対して待ちきれないと興奮を抑えられない子どものようだった。

 

 もう待てない、早くして、まだ待つの?

 

 そう言っているのが聞こえるようだった。

 

 こんなものかな?中心の異形がそう思考すると周囲の異形がピタリと動くのをやめた。

 

 じゃあみんな好きに動いて。私はここでもう少し数を増やすから。

 

 その思考をはしらせると同時に周囲の異形は出口に向かって一斉に動き始める。密集して動いているためか一個の生き物のようにも見えた。

 

 異形が全員出ていき、一度嘆息して音が再開する。

 これが終わったらじゅようときょうきゅうか。父さんは何が好きなんだろ?

 

 そんな余裕のある考えをしながら音は続く。

 

 ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン

 ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン、ポコンパコン

 

 …………

 

 

 

 

 

「はぁ、まだ着かないのか…」

 

「まだだな…おい、警戒怠んなよ」

 

「わーかってるって」

 

 ジープに乗って2人の男がある場所に向かっていた。

 日本一の霊峰、富士山。

 その場所は国内のみならず海外にも知られる日本の名所のひとつであり、パワースポットとしても有名な場所である。しかしこの2人の認識上では富士山は名所でもパワースポットでもない。日本の霊的結界を支える楔の一つが埋め込まれている重要拠点といった認識である。

 

 なぜそのような認識になるのかというとこの二人が所属するJ'ps(ジプス)という組織に起因する。

 

 J'ps(ジプス)は気象庁・指定磁気調査部といった組織であり、は日本において自衛隊とは別に作られた国防を担っている機関である。その活動内容は局地災害霊障といったものに対処する、いわゆる現代の祓い屋のようなことを国の組織単位で行っている。そしてこの二人は現代における祓い屋の実行部隊である。しかしこれから行おうとしていることは普通の調査員の真似事だ。

 

 …局長も敏感というか神経質すぎんだよなぁ

 

 一人の職員は口には出さないが内心で愚痴をこぼしていた。

 そもそも富士山は由緒正しき霊峰であり、古くから何十にも結界を張っている。それゆえに邪気や妖魔の類が自然発生することはおろか周辺1キロに近づくことさえできはしない。地震や噴火など周辺の環境が急激に変化しない限りは結界にほころびが出ることはない。

 

 確かに龍脈の楔やターミナルといった重要施設はある。それらの施設に異常が確認されたというならすぐさま小隊編成をし技術班や補給班を伴って事態の収束にかかる。

 だが、今回の件は施設の異常ではなく運用している龍脈がわずかに外に漏れたかもしれないといった不確かな情報に基づいた調査である。

 

 一見大事に思えるかもしれないが龍脈の管理・確認は専任の班で24時間体勢で実行しており、今回の問題の計測は一瞬。かつ漏れ出たとしても周囲に影響はなく、竜脈誤差の範囲でしかないといった詳細を伝えられれば確認の必要性を問いたくなる。

 

 しかし局長の指示は「行け」の一点張り、かつ周辺の大まかな調査だけで詳細な調査は後日別の班が行うと言われれてしまえば今回の調査がただの小間使いであるといやでもわかってしまいやる気がそがれる。

 

 そんな心持で今回の調査に赴いているわけだが、やはりというか結界内に入っても何も起こらない。異常らしきものも見つからないで完全にだれてきているのだ。そんな中で視界の端に何かが映った。

 

「おい、今のは何だ」

 

「なんだ?異常か?」

 

 一人が確認したその場所を凝視する。念のために車を止め周囲の確認を行うが特にこれといった異常は確認できなかった。

 

「なにもない…か?」

 

「気のせいじゃないはずだ」

 

 もう一度周囲を警戒して見るが特に変わったところはない。

 

「…お前、何を見たんだよ」

 

「…よくわからないが、色だ。

 森の中で見ることはない、真っ赤な色だ。」

 

 異常が確認できなかったため二人は車のエンジンを起動し目的地に向かう。

 

 その後ろ、二人が立ち去った後の道では赤の異形とカラフルな異形が様子を窺うようにたたずんでいたが、二人が気づかないことに満足したのか再び動き始めた。

 

 しかしその行動は先の洞窟の中のように一点を目指すものではなく、だんだんと四方に拡散していく。異形が立ち去った後、後方の道の先では爆発音が響いていた。

 

 

 

目的地に着いた異形たちは静かに待つ。

 

自分の役目を果たすのを。

 

その日、ポラリスの攻撃がはじまり、それと同時に赤の異形も、カラフルな異形も、それぞれの目的地で

 

 弾けて消えた。

 





あの世界での富士山には重要施設がそろってますが、これだけなんですかね?

楔抜くとき竜脈の源流みたいなこと言ってましたけど、ならほかにもいろいろできそうなもんですが。


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破裂の日曜日Ⅱ


昨年はいろいろとありました。
…本当にいろいろと。

しかし、エタりはしませんとも、ええ
少しキャラ崩壊かもしれないですが、
ヤマトファンの方には申し訳ありません。


「はーい。みんな注目~!」

 

「―――――」

 

「今から皆には手紙を書いてもらいます‼」

 

「――――?」

 

「内容としては感謝の気持ちを表現してね。あくまでも正式な取引ではなく、いただけるものをいただくだけだからね。」

 

「―――――――――」

 

「私も書くけど、私の文章は真似したらだめだよ」

 

「―――――――」

 

「わからない漢字なんかは自分で調べること!それでは始め!」

 

 

――――――?

 

空洞に響く音はなりを潜め、異形は思考を走らせていた。仕事自体はすでに終わっているが成果が上がったか確認する必要があったからだ。

異形としては早く帰りたかったが、仕事を途中放棄するわけにもいかない。別にそうする必要はないが、ほかの異形を生み出していたところから動いていなかった。異形自身動く必要を感じなかったからだ。そしてすることが無くなったため思い出に浸っている最中、思考ににつかえがかかった。

 

ああそうだ、アレ(・・)を置いていかなきゃダメなんだ!

………ついでにアレ(・・)の確認もしよう。

 

 

一つは父に言われたこと。確実に行ってみせる。

二つめは父に言われたことではない。自分で決めたことだから動かなくてもよい(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)が、これも仕事であると割り切り、異形は動くことを決める。

それと同時に支えを失ったようにその体が地面に向かい倒れていく。完全に地面に横たわった瞬間、

 

異形は空洞から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…頭が痛くなるな。

先ほど迫が連れてきた一般人のこともあるが、それが原因ではない。

 

「…状況を報告しろ」

 

「大地震後、ジプス基地内の電気系統、移動手段、食品類に異常はありません」

 

「しかし、自衛隊の食糧庫、卸しを行っている会社の倉庫やスーパーの冷蔵庫といった備蓄庫からの供給は芳しくありません。医療器具や武器類についても同様です」

 

「運搬が滞っている理由ですが、大地震の影響で封印にほころびができており、何体かの悪魔により人的被害が出ています。その鎮圧に人員が割かれ、運搬班に影響が出ていることが挙げられます。」

 

「それだけではなく、緊急連絡先に指定していた箇所が軒並み大地震の影響で倒壊しており、通信すら滞っています!現状把握に勤めることができず、統率に影響が出ております!」

 

何なのだこの現状は…

試練が起こるのは分かっていた。ジプスの長として、日本を守護する峰津院家当主として、試練に対する対策は行ってきた。

 

施設内の設備は整えていたため問題はないことを頭の中で整理する。

 

食料品…レーション、インスタント食品などを大量に保管してある。ジプス隊員だけならば3カ月は問題ない。

 

電力…各基地内に電力施設を設置している。予備電源を使っても一年間は持つだろう。

 

移動手段…空路、陸路、海路、地下にそれぞれの施設を用意し、目的地に瞬間移動を可能とする施設も用意してある。

 

大まかなものはこれでいい。

 

しかしだ、外部からの支援、情報が全くと言っていいほどない。民間のTV、ラジオについては大地震後沈黙したままであり、何が起こっているかが全く掴めていない。さらに食糧庫としていたものも含めシェルター化していたはずの外部の建築物がいくつか倒壊しており、先に考えた食糧自給の期間については大幅に減るだろうことは明確だ。そして悪魔鎮圧に行ったものと通信ができない。ジプスの専用回線はあるが、戦闘と並行して使えないため情報もまばらで安定しない。今のところセプテントリオンの情報や痕跡はないようだが…。

 

「局長!新たな情報です!」

 

「…どうした?」

 

「倒壊した施設跡地複数から、同系統の手紙らしきものが発見されました!」

 

「…関連性が見えないが?」

 

「それが…差出人にあたるところにすべて同じ名称が…」

 

「フム…。差出人は誰だ?」

 

「セプテントリオンと書かれております!」

 

「は?」

 

その言葉に現状への対策案を練っていた思考が停止し、呆気にとられかけるが、フッと息を吐き持ち直す。

 

「内容についても全て同様か?手紙の枚数は?全部でいくつ確認された?確かにセプテントリオンと書かれているのか?」

 

いや、やはり持ち直せていない。動揺が口調に現れ早口にまくし立てる様に隊員が目を丸くしている。

 

「い、いえ内容については同様のものはなく、枚数については16枚ほどになります。手紙は手書きで書かれており、封筒のあて名にはすべてセプテントリオンと書かれておりました!」

 

「そうか…。」

 

いったい何が目的だ?いやそもそも試練以外に目的などあるのか?

()が言っていたセプテントリオンは神の剣…すなわち武器だ。

()のように思考し、自ら動くのならばこの行動に対しての理由もいくらかは予想ができる。

 

こちらの混乱を狙ってあえて情報を与えた。

宣戦布告のため自らの存在を明らかにした。

ジプスの情報操作より先に情報を与え、民衆を誘導するため…

 

などと候補は次々上がっていくがそのような思考は無駄なのだ。

 

そもそも武器が自ら思考して動いてしまっては試練たり得ない。あくまでも武器をふるっているのはポラリスなのだ。勝手に動く武器を重宝するとは思えん。

 

セプテントリオンを騙る別組織か?

だとしても、奴等のことを知っているのだ。ただ者ではないだろう。少なくとも()と接触していることになる。出来ることならこの手紙を書いた者は捕らえて話を聞いておきたい。

 

「内容は?なんと書いてある?」

 

「すぐ表示します!」

 

さて、この内容はこちらに揺さぶりをかけるものか、それとも脅迫か。どちらにしても交渉の余地はある。

()のお眼鏡にかかった者がどんなモノか見せてもらおう…。

そして部下の言葉通りにすぐ一枚目が表示された。

 

 

『おいしくいただきました☆

      せぷてんとりおん』

 

 

 

…………どうやら盗人が施設に紛れ込みその後で爆破解体を行ったようだ。

 

そう結論着け、部下に指示を出そうとした…。

その時、警報が鳴り響いた。

 

「何事だ!」

 

「外壁です!地下の外壁を破られました!」

 

外壁を破るということは少なくとも人間ではない!

さらに、ジプスの施設を狙う、恨みを持っている相手とすれば悪魔か⁉

 

「どこの悪魔だ!確認を急げ‼」

 

「この反応は…、未確認の反応です!

データベースに該当する反応がありません‼」

 

「すぐにレーダーからモニターに切り替えろ!」

 

「はい!」

 

そしてモニターに映ったのは赤いタイヤのようなもの。

しかし、映ったのは一瞬だった。

 

「何事だ!何が起こっている⁉」

 

「カメラに異常有り!断線と推測!」

 

「チッ‼こんな時にか!すぐに別のカメラで確認しろ!」

 

「駄目です!付近の別カメラについても沈黙しています!」

 

どういう事だ!?

何故こうも次々に不測事態が起こる!?

民間のものならばまだしもジプス基地内の映像危機がことごとく沈黙するなどあってはならない事態だ!

 

「外壁を破壊されたのはどのブロックだ!」

 

「第3ブロックです!すでに基地付近にいた部隊と連絡をとり呼び戻しています‼」

 

「間に合わん!私が出る!数名私の後に続き、他の者についてはモニターの回復、確認に勤めろ!」

 

「局長自らですか!?

しかし…いえ、了解いたしました!後武運を!」

 

言われるまでもない‼

これ以上の基地の破壊は捨て置けん!

なにより竜脈を汲み上げる施設が破壊されれば人類の滅亡が濃厚になる!

ケルベロスを召喚し、すぐさま現場に向かう!

 

しかし、大きく壁に空いた穴以外の異常が確認できない。ツーマンセルを組ませていた後続についても同様のようだ。

すぐさま後続には電気設備の確認に向かわせ、私は備蓄庫の確認に向かった。だが、穴が空いているわけでもなく内部についても特に不審なところはなかった。

襲撃者がまだ潜伏していると警戒しながらの確認作業だったが此方に対しての奇襲もなかった。

 

なんだというのだ?

ただ壁に穴を開けにきただけか?

もう一度、現場に戻ってきたがやはり穴以外に目立つものはなかった。

穴を近くで確認するべく近づくと

 

クシャリ

 

と紙を踏むような音がした。足元を確認するとやはり紙があった。便箋のようである。

慎重に脚をどけ、人差し指のみで触れてみる。

紙以外の感触はしなかった。手に取ってみても特に異常はなく、重さも普通だ。しかし、宛名のところには

 

『峰津院大和様』

 

と書かれており、目を見張った。

案の定、差出人のところには"セプテントリオン"の文字。

用心のために本来の開け口とは逆の便箋の底を破り中身を確認する。

 

 

 

『良いリアクション、

 ありがとうございま~す

 

セプテントリオン』

 

 

 

…………………………………………………。

 

 

 

モニタールームへ戻ってきた峰津院局長の表情は普段の薄笑いを浮かべたものではなく、先ほどまで浮かべていた緊迫したものでもなく、こめかみに青筋を浮かべ歯ぎしりをしている、誰から見ても怒っていると分かる表情を浮かべていたという。

 

 

 





煽って終了です。
局長、御愁傷様です。

施設については独自設定となります。
次話も遅れそうです。
申し訳ありません!


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破裂の日曜日Ⅲ



長かった……。
だが、書けたらすぐさま投稿する。
このスタンスは崩さないよう努力したいですね。
本作では原作主人公の名前はアニメの久世響希を採用します。
マンガとパチンコでの名前もいいんですが
ダイスの女神がそうしろと……


 

 タンプルウィードというものを知っているだろうか?

アフリカとユーラシアに分布していて、乾燥地や塩性地に生えることが多いヒユ科の植物だ。直訳すると「回転草」になり、西部劇の対決の場面で対面する二人の横を通りすぎていくのが印象的かな?

 

 さて、何故いきなりその植物の話をするのかというと、

 

 そのタンプルウィードたち(?)に追われているからだ。

 

「ヒビキ!急げ!」

 

「待って!新田さんが、まだ!」

 

「大、丈夫だから……早く……」

 

「さあ、頑張れ少年。もう、ちょいだ!」

 

 大丈夫と言いながらも片脚を引きずる女の子を成人男性と一緒に肩を貸して進んでいく。その後ろには真っ赤なタンプルウィード。

 

 今日も普通だったはずだ。

 ただ、模試を受けて、友人と話して、帰って勉強して、次の日の準備をする。

 それだけの日曜日だったはずなのに……。

 

 自分が死ぬとアプリで予言されてから一気に日常が崩れた。

 

 死にかけて、戦って、勝って、何も情報は得られなくて。目的地を定めて向かっていたらあのタンプルウィード。

 近くにいた集団をタンプルウィードが横切ったらそばの建物が崩れて、その余波で散り散りになって逃げて、戦って治療してもらって、施設から逃げて、タンプルウィードから逃げる。

 そんな異常が現状だった。

 

大きめの階段が見える、あと少し!

 

「ヒビキ!」

 

 新田さんの肩をダイチに貸して自分も上がる。

 しばらくの間タンプルウィードは一番下の段差に軽くコツコツと当たり続けてからそれぞれ別々の場所に転がっていった。

 

 緊張で、呼吸が止まっていたのか息を吸うとそのまま意識が遠退きそうだった。

 しばらく階段の踊り場で身動きがとれなかったがダイチが叫びだす。

 

「なんだよ……なんなんだよ一体!

 意味分かんねーよ!地震とか悪魔とか監禁とかあの丸いのとか!

どうなってんだよ!!」

 

「し、シジマ君。おち、落ち着いて……。」

 

「新田さんも気になるでしょ!なんで、なんだったってこんな――」

 

「はーい。少年。深呼吸してから、周りを見ようか」

 

「ハァ!?何言ってんだよオッサン!たち――」

 

「ダイチ、落ち着こう」

 

 ダイチの肩をつかんで正面から静かに諭す。

 最初、少し乱暴に身をよじってたけどだんだん目に理性を含み始めた。

 

「わ、悪い。ヒビキ、新田さん。あと、オッサン……」

 

「んー。一応、秋江譲(アキエユズル)って名前があるんだけどねー」

 

「あっ、えっとじゃあ、アキエさん」

 

「あ、ジョーって読んで」

 

「ん?えっと……ハイ分かりました」

 

 適当な人なのかも知れない。そうあたりをつけるが先ほどすごい剣幕で逃げろ!と怒鳴っていたから見た目通りの人では無いだろう。

 

「あの……ジョー、さん?」

 

「お、いいね。すぐにノれる子、オレは好きよ。」

 

「えっと……あの」

 

「ジョーサン?」

 

「おっと、怖い顔しないでよ。しょうじきに言っただけなんだからさ。少年」

 

「さっきから少年、少年って。

俺には志島大地(シジマダイチ)って名前があんの!」

 

「ん?おっと、悪い悪い。そおいや名前聞いてなかったね」

 

「久世響希(クゼヒビキ)です」

 

「新田維緒(ニッタイオ)です……」

 

「ん。りょーかい」

 

 そう言ってウンウンと首を縦にふる。

 やっぱり適当な人なのかも。

 

「ジョーさん。そろそろ説明してもらえませんか?」

 

「んー?何をー?」

 

「あのタンプルウィードから逃げろって言った理由です」

 

「タンプルウィード?あっ、赤タイヤのことね。

君、切り替えはっやいねー」

 

「あの、お願いします」

 

「新田シャン⁉わざわざ頭下げなくても」

 

「まあまあ、教えるからさぁ。あまりそーいうのはなしね。カタっ苦しいの好きじゃないし」

 

 腕ごと手を目の前で振り、どっこいしょと親父臭い発言をして胡座をかく。それにならって自分たちも座る。

 

「逃げてた理由だっけ?簡単だよ。危険だからさ」

 

「それはは知ってます。危険というのは建物を壊すからですか?」

 

「建物ぉ?ちがうちがう。アイツらがやるのはもっとえげつないコト。というかその建物壊すってのは初耳なんだけど」

 

「え…違うんですか?

それにもっとえげつないって…」

 

「うん。アイツら、恐らくだけど人の連絡手段を壊してるみたいなんだ」

 

「ちょ!?ちょっと待てよ!一気に話が飛んだぞ!?」

 

 まあ落ち着きなって元気いいなぁと言いながらハンチングを被り直すジョー。

 ふぅと一息ついて真剣な表情で再び話始めた。

 

「八王子のほうだったかな?自衛隊がいたでしょ。

話聞こうと思って近くに行ったらさ、いたんだよね。

通信機背負ってる人間のすぐそばに赤タイヤが。

最初はなんだあれくらいの疑問しかわかなかったけどさ、赤タイヤが通信手でいいのかな?まあその側を通りすぎたわけ。そしたら急に通信手が焦りはじめてさ、言ったんだよね。故障ですって」

 

 一息で話して間を空けるジョーに注目する。

見れば新田さんも、ダイチも同じ様子だ。

 

「んで、話聞けそうにないなと思って離れたんだけど近くで女子高生も騒いでてさ。ブラックアウトとかありえなーい!みたいなこと言ってたんだよね。そしたらまわりの人たち次々同じようなコト言い始めたんだよね。

やれ携帯が使えない、電源がつかないってさ」

 

 その話を聞いて自分は体温が一気に下がった気がした。

 自分たちが今生き残っているのは携帯の『悪魔召喚アプリ』のおかげだ。あくまでも携帯アプリのため充電が切れたりしたらアプリも使えなくなる。そもそも携帯が壊れたりしたらこの状況だ。まず直せない。現状での、携帯電話の有用性が改めて認識できた。携帯電話は誰であろうと、軽々しく渡せない。

 

「あのージョーさん?危険ってのは分かったけど、オレたちを連れて逃げた理由は?」

 

「危険だからもモチロン理由だけど、雷門のまえで携帯前に出してなんかよく分からないもの出して変なの倒してたじゃん?

今の状況的に君らの近くは安全かなーってのと、携帯電話が要っぽかったからかな?」

 

 やっぱりこの人ただ間が抜けてる訳じゃない。冷静に状況を判断して自分たちに恩を売ろうとしている!

もしかしたら国会議事堂に入って行くところを見ていたかもしれない!

 でも、自分の身を守るので精一杯なのにジョーさんもというのは……うん、無理だ。ここは断るのが正解だけど、どうやって断ろう……。あ、新田さんも心なし渋い顔してる。ダイチは逃げようとしてる!逃がさないよという意味も込めて制服の裾を掴んでおく。

 

離してくれヒビキ!オレは逃げる!

こうなったら一蓮托生だよダイチ!

ヤメロ!巻き込まれたくナイ!!

 

などとアイコンタクトで話していると……

 

『見 ツ ケ タ ゾ !』

 

 大声でこちらに吠えている二足歩行の犬がいた。

どこをどう駆けずり回ったのか着ている鎧は傷だらけで毛並みも薄汚れている。後ろに数体の悪魔がついてるが、同じように薄汚れているかフラフラと疲弊しているようだった。

 

『ウロウロ、ウロウロ、シヤガッテ!

契約解除シタケリャ、チャント戦エ!』

 

と言ってから膝を着きそうになるも持ちこたえる犬。

大分疲れているみたいだ。

 

「ね、ねぇジョーさん?ひょっとしてお知り合いですか?」

 

「いや?急に携帯から出て来て戦えとか言ってきたから君らに会うまで逃げてたんだよね。」

 

「え?でも、さっき私たちを雷門で見たって」

 

「逃げてる道中で雷門近くで君らっぽい三人を見かけたからここまで引っ張って来たわけ」

 

「根拠は…」

 

「ないよ?でも、違ってたらまた探せばいいしね」

 

「ジョーさん、死に顔サイトに登録は…?」

 

「あー、そういえばやったかも。ニカイアだっけ?」

 

………………結論。

やっぱ、適当な人だこの人!

 

「て、撤退!」

「逃げよう!新田さん!」

「え!久世くん!!?」

「少年。そこはお姫様抱っこでしょう。

おんぶなんてうぶだねー♪」

 

やかましい!と叫びながら自分たちはその場から逃げだした。

 

『戦エエエエエェェェ!!』

 

結局、袋小路に追い込まれ自分たちが悪魔と戦うことになった。悪魔たちは疲れていたのだろう。動きが鈍くすぐに倒せた。

 

「よし!ボクも戦えるようになったしレインボー行ってみよー」

 

「ち、ちょっとや、休ませてください……。」

「ヒビキ?ヒビキィイイイイイイイ!!」

 

暗くなる視界の中、遠くでダイチの叫び声と新田さんのごめんなさいがよく聞こえた。

 

 

……揺られている。

誰かに背負われているようだ。

それにしても随分熱いな……。

目を開けると

「おっと少年。目が覚めた?

悪いけど今は動かないでいてくれると助かる……!」

 

タンプルウィードを連れた、白い女の子が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

情報が集まり始めた。しかし一向に状況は好転しない。

というより具体的な解決策がないのだ。

確認された赤い物体がセプテントリオン関係の尖兵なのは間違いない。目的は情報網の形成を防ぐこと、糧食を潰すことだと推測する。悪魔の力であれば あの物体を破壊出来ることは分かった。しかしながら、数が多すぎる。現場に出ている隊員では雀の涙にしかならず、既に本部要員も駆り出しているが、足りていない。更に、まともに相手をしようとしないのだ。糧食を乗せたトラックや、施設に突っ込む特性は把握できた。その特性を利用しての囮作戦も決行している。しかし糧食に突っ込む姿勢は攻撃を受けても衰えず、一体に対して隊員三人で対応している現状では囲まれてしまえば簡単に無力化されてしまう。

 要は人海戦術に対して手数が圧倒的に少ない。単純故に厄介な事態に陥っていた。

そんな時だった。あの赤い物体が此方にも、糧食にも目もくれず一ヶ所に集まり始めた。何をしたいのか分からないがこれは好機だと現場隊員、全員に通達。場所は青山霊園のほうだ。私自身も同行し、現場に急行するとあの赤い物体たちはぐじゅぐじゅと不快な音をさせながら混ざり合わさっていた。攻撃を仕掛けようとする隊員を止める。迂闊に手を出す訳にはいかない。まだ此方に向かっている物体もあるのだ。可能な限り集め、一網打尽にするのが好ましい。そうして集結が終わったのを見計らって、一斉に攻撃を開始した。

 集結し、大きくなった体積を削り、抉り、凍らせ砕く。

 少しずつだが、小さくなっていく物体は事態の終結を予感させた。あと数撃で、この作業も終わると気を緩めた途端、

 

轟音が場を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦名、置き手紙、ショート、追いかけっこ、囲め囲め、上げて落とす。

 

 無事に完遂。これより現地人の掃討に移行。

 残存する子機は一部を除き、溶けてマーキング、あるいは竜脈(・・)に戻ること。

 置き手紙は確認した。

 自身はもうひとつの、確認行動に移る。

 不測事態は全員に共有。

 合言葉は『父さん、大好き』以上。

 

 





書いてて少し「うわぁ……」ってなりましたけどまあ、これくらいやりそうかなってうちのセプテントリオンは。

教育を受けた御披露目ですからね。
そりゃ張り切ります。


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