青き炎と巫女と化身使いと【コラボ小説】 (ゆきまるる)
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第1話

座右の銘さんに書いて頂きました。


8時28分。その日は、いつもよりのんびりとした朝だった。しかし、この双子はそうはいかない。

 

「わぁぁあ遅刻だあぁああ‼︎!」

「くっそ‼︎ 紅葉はともかく、何で俺まで!」

 

蹴球神社巫女一族の双子の兄妹・於野楓と紅葉だ。2人は今日もーーいや、楓は珍しくーー遅刻ギリギリだった。トップスピードで飛ばしているが、このままでは確実に間に合わない。

 

「あぅう。怒られてサッカーできなくなったらボクは死ぬ‼︎」

「バカヤロー‼︎ とにかく走れっ‼︎!」

 

さらにスピードを上げて走っていると、不意に段差に(つまず)いた。しかも2人同時に。

 

「「あっ」」

 

ドテン‼︎

 

「あうっ‼︎」

「ぐあっ! ってぇ〜」

 

見事に前転しながら着地した2人はぶつけた頭を押さえながら起き上がる。

見上げると、見たことのある商店街が広がっていた。学校付近にある商店街だ。

 

「……ん? 何かおかしくない? 楓」

「あぁ……」

 

勘が鋭いところは、流石巫女一族と言ったところか。そう。紅葉たちが生きている時代の商店街よりも、新しい感じがしたのだ。

 

「ーーあら、大丈夫かい?」

 

背後から声をかけてきたおばさんにも、紅葉たちは敏感に反応した。この人は、紅葉たちの時代にもいる。だが、若い。

 

「ぁ……だ、大丈夫です。ありがとうございます」

 

楓が丁寧に礼を述べると、おばさんは「気をつけなさいよ」と言って、店の中へ消えていった。

もう、紅葉たちの頭の中で、一つの答えが出ていた。

 

「……まさか、ここ」

「昔の稲妻町〜〜⁉︎」

 

8時30分。遠くで、中学校のチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、雷門中学校に1人の少女が、クラスメートの前で名前を書いていた。彼女は今日、雷門中学校に転校してきたのだ。

 

赤司初音(あかししおん)だ。|帝光中から来た。よろしく」

 

初音は挨拶もほどほどに、さっさと自分の席に着く。

転校生。新しい仲間に、クラスメートの興味は全て初音に注がれる。彼女は居心地の悪さに、1人眉を寄せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょうど同じ頃。2年生のクラスで、青木穂乃緒が窓の外を眺めていた。

今日、3年生のクラスに転校生が来る。ただそれだけの話に、クラスが盛り上がっていた。

 

「転校生か〜。どんな奴なんだろう? 一緒に、サッカーやってみたいぜ!」

「おいおい。転校生が必ずしもサッカーをやってるとは限らないだろ。それに、この時期は3年生はピリピリしてると思うぜ? なんてったって受験生なんだからな」

「あ、そっか。そうだよな〜。……あぁ……イヤだなぁ、受験……」

 

いつも一緒に喋っているバンダナと女顔の会話を、もちろん青木は聞き止めもしなかった。

青木は、転校生に興味はない。なのに、いつもサボる学校を何故か来てしまった。何かが起きるような気がして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー6時50分。

 

「ホントにどうしよう、楓……。もしかしたら、このままずっとここにいることになるの⁉︎ そんなのヤダよ‼︎」

「わかってるって! 俺だってイヤだよ。でも、元に戻る方法がわかんないんじゃ、どうしようもねー」

「ぅぅ……そんなぁ……」

 

落胆する紅葉を、慰める楓。彼らはずっと商店街付近にいた。幸い、楓が金を持ってきていたため、昼食は適当にとることができた。

しかし、元の時代に戻る方法がまったく掴めない。一体どうしたものか。

何か行動を起こそうと、彼らが向かったのは河川敷だった。

 

 

 

 

居心地の悪い学校が終わり、河川敷を1人歩いていた初音は、前方から歩いてくる男女ーー於野兄妹を見た。

何か2人で話しながらこちらへ歩いてくる。2人は笑っていた。ふと、初音の胸に鈍い痛みが走った。

 

「っ……⁉︎」

 

紅葉たちを見ている初音の目に、自然と幼い頃の兄と自分が重なった。初音は思わず片手で顔を隠す。

 

「うーん……あっ! ねぇ、楓。あのお姉さんに聞いてみようよ!」

「あのな、タイムスリップしました〜☆なんて、誰が信じる……」

「すみませーん‼︎」

「って、おい‼︎ 人の話は最後まで聞けッ‼︎」

 

ふと、紅葉が初音に向かって駆け寄ってくる。赤髪のサイドテールを揺らして、とてとてと走る姿は愛嬌があった。

 

「お姉さん、ちょっと聞きたいんだけど……いいかい?」

「……あ、あぁ。構わない。何だ?」

「あのね……」

「おい、紅葉!」

 

楓も、初音の元へ駆け寄ってきた。そして2人で、何か話し出す。

 

「バカ! やめろっつっただろ⁉︎」

「だって、このまま帰れないよりはいいでしょ⁉︎」

「信じてもらえるもんか! タイムスリップしたなんて!」

「は? タイムスリップ?」

「「……あ」」

 

紅葉たちはしまった、とでも言うような顔で初音を見る。楓が、少し気まずそうに話し始めた。

 

「あの……信じてもらえないと思うんだけど。実は俺たち、タイムスリップしたみたいなんだ。それで、元の時代に戻る方法を探してるんだ。……ごめんな、なんか。急に変なこと言って」

「…………」

 

初音は黙って、彼らを見下ろす。しばらく聞いていた初音は、盛大な溜息をついた。それに、楓が反応する。

 

「なんだよ」

「いや?謝るなら、何故話しかけてきたのかまったく理解できなくてな。反応に困っていたところだ」

「なっ……⁉︎」

 

明らかにカチンときた楓に、紅葉が楓にしがみついて、ダメだと制止する。しかし、楓は初音に噛み付いて叫ぶ。

 

「なんだよてめえ! その言い方は!」

「いちいち突っかかる奴だな。めんどくさい」

「っ……‼︎ こいつっ‼︎」

「わわっ! 楓! ダメだってば!」

「邪魔するな、紅葉! こいつを1発殴らねえと気がすまねえ!」

「あーっ‼︎ やめろバカっ‼︎」

 

紅葉の制止を振り切り、初音に掴みかかる楓。と、ここで紅葉がバランスを崩して、河川敷へ落ちてしまった。

 

「わああっ‼︎」

「あっ! 紅葉‼︎」

「あーあ……」

 

楓が手を伸ばし、初音が自身を見下ろすのを見ながら、紅葉は落ちていった。ぎゅっと目を閉じて衝撃を待ったが、それは起きなかった。

 

「……ぇ?」

「………………」

 

目を開けると、河川敷の坂で寝転んでいた青木が、落ちてきていた紅葉を抱きとめたのだ。自然とお姫様抱っこの形になった紅葉の体は、落ちてきた勢いがまだ抜けきっておらず、さしもの青木もバランスを崩してしまった。

 

「ひゃあぁっ‼︎」

「っ……」

 

足でブレーキをかけながら河川敷へ降りていくが、スピードはなかなか落ちない。やっと河川敷へ足がついた青木は、勢いのあまり数歩駆け出した。そして、何かにドンとぶつかった。

 

「わ、あ……」

「……ふう。あの…………大丈夫ですか?」

「うん! ありがとう、お姉さん!」

 

笑顔で応えた紅葉を見た青木は、黙って紅葉を降ろした。これで一件落着……かと思いきや。

 

「……ってえなぁ。てめえ……」

「ひえっ⁉︎」

「?」

 

ギロッと、紅葉たちよりも高いところから睨んできたのは、4人のガラの悪い男たち。見たところ、高校生のようだ。1人の男の足元には、サッカーボールがあった。

紅葉はサッと青木の背中に隠れ、青木は静かに男たちを見上げる。

 

「なんだぁ? てめえら……。なんだ、カワイイじゃねーかよ。クククッ」

「おいてめえら紅葉に触れるなぶっ潰すぞ」

 

すかさず2人と男たちの間に割って入ったのは、もちろん楓だ。彼は当然のごとく、紅葉を守るために入ったのだが。

それが面白くなかったのか、男たちは楓を睨みつける。下手なチンピラよりも鋭い目付きだ。もちろん、楓の視線もそれに負けていない。

紅葉はこの睨み合いの状況に、不安を覚えた。何か平和的に解決できないものかと、うーんうーん。1人悩んでいた。ふと、視界にサッカーボールが映った。

 

「お、お兄さんたち! サッカーやろう! サッカーでボクらが勝ったら、許しておくれ!」

「サッカー? はぁ? 何でそんなもので決めなきゃいけねーんだよ」

「あれぇ? もしかして自信がないのかい? お兄さんたち、見たところサッカー部の人みたいだし。そっか、得意分野のサッカーで負けたら恥ずかしいもんね!」

「……なんだと?」

 

男は紅葉の言葉に、鋭く反応する。体格や時間帯からして、サッカー部の人間だろうと薄々察していた。サッカーなら、自分と楓は負けるはずがない。これは紅葉なりの、挑発だった。

男たちはお互い顔を見て、頷いた。

 

「いいだろう。お前らが勝ったら、許してやる。ただし負けたら、それなりのことはしてもらうからな」

「……それなりのことって?」

「もちろん、カラダに決まってんだろ。安心しろ。男がOKの奴がいるから」

「ヒィッ‼︎」

 

珍しく、楓が悲鳴をあげる。これは勝たなくては、と於野兄妹は心に誓った。

……ん? 今こいつら、"お前ら"って言った? ってことは……。

7時40分。青木と初音の背中を、イヤーな汗が伝った。

 

 

 

 

 

 

7時50分。

 

「おい。何故私まで巻き込んだ」

「ホント、迷惑極まりない話ですね。頭数に入れられるなんて」

「あぅう……ご、ごめんよお姉さんたち……」

 

頭を下げる紅葉を腕組みして見下ろしながら、青木と初音は溜息をついた。

あぁ、めんどくさいことに巻き込まれた……。しかも負けたら負けたで同様、めんどくさい……。

 

「……まあ、過ぎたことです。諦めましょう」

「本当にごめんなさい……でも、ありがとうお姉さん!」

「ですが、私は一度もサッカーをしたことはありませんよ?」

「えぇえ⁉︎」

「あ、私も。バスケならやってるけど」

「えぇえ⁉︎」

 

紅葉の驚きの声が2度響く。なんと、2人はサッカーをしたことがないと言うのだ。どうしよう〜とおろおろする紅葉の隣で、楓が冷静に言う。

「まあでも、2人とも運動神経は良さそうだ。きっとサッカーの動きもすぐマスターできるだろう」

「ムリヤリ押し付けといてかなり上から目線だな」

「ああ?」

「もう! 楓ってば!」

 

ベシッと楓の頭を紅葉が叩く。何故こうも楓と初音は仲が悪いのか。紅葉は転がるサッカーボールに足をかけ、ボールを足で持ち上げてキャッチする。

 

「取り敢えず、まずリフティングをしてみよう。ほら、こうやって!」

 

紅葉は軽くトントンと足や太腿でボールを上げる。紅葉は青木に向かって蹴った。

青木は少し戸惑いつつも、ボールを落とさないように軽く蹴り上げた。そのボールは初音の元に渡り、初音も爪先で軽く蹴り上げ、楓に戻した。

紅葉は笑顔で、こくこく頷く。

 

「うんうん! 流石お姉さんたち! とっても上手だよ‼︎」

 

初音は紅葉の輝かんばかりの笑顔に、少し嫌悪感を露わにした。

 

「何? お前。たったこれだけで上手いと? バカらしい。この程度、誰だってできる」

「そんなことないよ」

 

初音の吐き捨てるような台詞に、紅葉は真っ直ぐ返す。

 

「ボールはね、好きになる相手を選ぶのさ。お姉さんたちを、ボールは嫌わなかった。だから、きっと大丈夫! ボクらは勝てる!」

 

紅葉は初音と青木の手を握り、微笑んだ。初音は紅葉から、何か温かいものを感じていた。青木も、今まで感じたことのない優しい感覚に、胸が温かくなるのを実感した。

楓は、そんな紅葉を見て流石だ、と笑った。彼女はいつもそうだ。誰かと何かをやり遂げることの喜びを、知っているからこその言葉と行動。そんな紅葉の言葉に、楓自身も何度も救われた。

 

「ーーおい、いつまで待たせるんだ? 怖気ついたか?」

「……そんなわけあるかよ」

 

初音が男たちを睨み据える。口元には歪んだ笑みを浮かべていた。青木も、口を真一文字に結んで、挑戦的な視線を送る。

 

「上等。叩き潰して差し上げますよ」

「お兄さんたちには、絶対に負けないもんねっ‼︎」

「さて、行こうか」

 

楓が、拳を手のひらに打ち付ける。

8時。彼らの目に、敗北の2文字はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームは、1点先取した方が勝ち。紅葉たちは4人、相手の男たちは6人だ。しかも、キーパーまでいる。

キックオフは、紅葉たちからだ。

 

「行くぞ」

「ああ」

 

楓の声かけに、初音が頷く。2人に、あの険悪な雰囲気はなかった。

初音がボールを転がし、楓が足元でキープすると初音、紅葉、青木が一斉に走り出した。3人が動く中、楓はまったく動かない。

 

「オラオラ、ボールもらっちまうぞ‼︎」

 

楓に向かって、男たちがスライディングを仕掛けた。しかし、楓は至極冷静にジャンプして、男たちをかわす。

 

「「なっ⁉︎」」

「あ? 何だよ……まさか、この程度なのか?」

 

楓が人の悪い笑みを浮かべ、クククッと笑う。見事楓の挑発に乗った男たちは、激昂してさらに楓にチャージやらタックルやらを仕掛けてくる。もちろん、楓はその程度でボールをみすみす渡すつもりはなかった。

楓は待っていた。自分に、男たち全員が食い付いてくることを。全員が来るまで、楓は男たちをかわし続けた。

 

「えぇい‼︎ こうなったら全員で取りに行くぞ‼︎」

「「「おお‼︎」」」

 

リーダーらしき男が声をあげると、全員がそれに呼応して駆け寄ってきた。もちろん、GKはゴール前だ。

かかった。俺たちの勝ちだ!

 

「いっけぇぇえ‼︎」

 

突如、楓はボールを強く蹴り上げた。なかなか高いセンタリングだ。

その落下地点を確認しながら、前線に上がっていた初音、紅葉、青木が走り込む。彼らの意図を察したリーダーが叫ぶ。

 

「まさかっ……フリー状態でシュートに持ち込むつもりか‼︎」

「もう遅いよ!」

 

紅葉は、一気にオーラを解き放つ。必ず点を取る。その気持ちで、化身を発動した!

 

「はぁあああぁあ‼︎ 金剛尾神キュウビ‼︎」

「うわぁぁあ‼︎ 何だアレは‼︎」

 

この時代に、自分以外に化身を発動させられる人間はいないと思っていた初音は、少し驚きの表情を見せた。しかし、それはすぐに不敵な笑顔に変わる。

 

「やるな。なら私も行こう。来い‼︎ 天狐イナリ‼︎」

 

紅葉と初音、2人の声が重なる。

 

「「アームド‼︎」」

 

2人の化身が光の鎧と化し、彼女らの体にまとった。アームドの完成だ。

紅葉はアームドした初音を見て、驚いていた。まさか、自分以外にアームドができる人間がいるなんて。しかしそれも、すぐに不敵な笑顔に変わった。

青木は2人をただただ見ていた。彼女らはできた。なら、私だって……!

 

「はぁあぁああっ……‼︎ 青炎魔サタン‼︎ アームドッ‼︎」

 

なんと、青木が化身を発動し、さらにはアームドまでこなした。紅葉たちの活躍に発奮してのことだが、ここまで力を発揮させるとは。

 

「行くよっ、お姉さんたち!」

「はい!」

「おおっ!」

「「「たぁあぁああぁあッッッ‼︎‼︎‼︎」」」

 

ドッカァアン‼︎

 

3人のアームド状態でのシュートは、並のシュートよりも威力が桁違いな強さだ。キーパーは指先がボールに触れることすら叶わず、吹っ飛ばされてしまった。

8時25分。紅葉たちの勝利となった。

 

「やったーー‼︎」

「俺たちは無事だぁあ‼︎」

 

歓喜のあまり、お互いを抱きしめ合う紅葉と楓。アームドを解いて、この勝利に満足する初音。胸の奥から沸き立つ感情に、心地よくなる青木。

そんな彼らに、男たちは恐怖を覚えた。何故だ。奴らは急造メンバーのはず。しかも、サッカー初心者もいた。なのに、何故負けた。こいつら、一体何者だ。

男たちの恐怖など気にも留めない様子で、紅葉が駆け寄ってきた。

 

「約束だ! 許してくれるかい? お兄さんたち!」

「わ、わ、わかった! おい、行くぞ」

 

男たちは尻尾を巻いて、すたこら逃げていった。

紅葉はそれを見届け、初音と青木を振り返った。

 

「ありがとう、お姉さんたち! あと、巻き込んで本当にごめんよ。でも、お姉さんたちとサッカーできて、ホントに楽しかった! また、一緒にサッカーやろうね‼︎」

 

紅葉がにっこりと笑いかける。と、次の瞬間、紅葉と楓の姿が消えていた。

 

「「⁉︎」」

 

2人が驚き、目を向く。彼らが確かに立っていた場所には、何も残っていない。

 

「……一体、何者だったのかしら。あの人たち」

 

青木がボソリと呟く。青木はまだ、彼らの正体を知らなかった。

初音は空を見上げる。空にはいつの間にか星が煌めいていた。不思議な出会いだった。しかし、その出会いは一瞬で、すぐに別れの時が来てしまった。まだ、言いたいことがあったのに。

 

「久しぶりに、こんなに熱くなった。ありがとう」

 

8時31分。星空の下、初音は伝え損ねたことを小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻。紅葉たちは、元の時代に戻っていた。

 

「8時31分……。俺たちがタイムスリップした1分後だ。ということは、ちょうど12時間で戻る仕組みになっていたのか……。はぁ……一時はどうなるかと思った……」

 

楓が溜息と共に、蹴球神社の鳥居の下に座り込む。紅葉も楓の隣に座り、星空を見上げた。

 

「……素敵な出会いだったね」

「え?」

「また……あのお姉さんたちに、会いたいなぁ……」

「会えるさ。きっと」

 

楓は、紅葉の頭を撫でる。そして2人で、星空を見ていた。

 

 

 

 

 

 

10年前の7時40分、河川敷。本来出会うことのなかった4人が、何故か巡り会った。果たしてこれは、運命の悪戯か。それともーーーー?

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話

翌日、8:31分。紅葉と楓は、今度こそ校門前にいた。

 

 

「昨日みたいにならないよな...」

 

「なんないでしょ」

 

 

・・・

 

 

「なぁ、ここ雷門だけど雷門じゃないよな」

 

「...うん、円堂監督のアルバムにあった」

 

 

「「また過去かよぉぉおぉぉぉぉおぉっ!!!」」

 

 

「何なの?!何なの?!神様、ボク達悪いことしましたか?!」

 

「もう2度とないと思ってたのにィ!!タイムスリップとか一度はやってみたいとか思うけど、思うけど!!2度もいらねェだろォ!!」

 

 

「またタイムスリップか、お前達」

 

 

後ろから声がしたので振り返ると、山吹初音と青木穂乃緒がそこにいた。

 

 

「何をしているんですか、全く」

 

「私は、今度は巻き込まれたくないよ」

 

「同感です、悔しいけど」

 

「へぇ、それはどういうことかな?青木穂乃緒」

 

「そのままの意味ですよ、ツンデレ大王様」

 

 

バチバチッ

 

 

「やめろ!低レベルだぞ」

 

「誰に向かって口を利いている、中途半端に頭が高いよ」

 

「うるせぇ!!」

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「「あ...」」

 

 

過去組の2人は、完全に遅刻である。

 

 

「授業遅刻か、チンピラに巻き込まれたと言い訳をしておくか」

 

「私は、元々あまり学校に来ないから良いです」

 

「ヤンキーかよ...」

 

「あら、何か言いましたか?」

 

「イエ、何モ」

 

 

穂乃緒に威嚇されると、楓は目を逸らした。

 

 

「つーか、今日は金持ってねェぞ」

 

「えー!ご飯とかどうするのさ?!」

 

「大変そうだな...」

 

「貴方は、そろそろ授業に戻った方が良いんじゃないですか?」

 

「転校してきたから皆勤はないし、授業など受けなくともテストは満点だよ。これは決まっていることだ」

 

「決まっているって...、頭良いのか?」

 

「自分で頭が良いと言う奴がいたら、相当のナルシストだろうな」

 

 

実際、初音はとても頭が良い。高校生の問題なんて楽勝、位には。テストは満点以外とったことがない。

 

 

「それと、お前達は何年生だ?」

 

「中2だけど...」

 

「私は中3だ、敬意を示せとまでは言わないが敬語位使ってもらわなければ困るな」

 

「えぇ?!あ!すみません!!」

 

「こりゃ驚いた、俺達と同い年位かと...。背高いと思ったら...」

 

「私のどこをどう見て中2だと...」

 

「いや、何と無く。全員中2だから。青木は中2、だよな?」

 

「そうですよ」

 

「「良かったぁ...」」

 

 

まとめると、初音が3年で穂乃緒と紅葉と楓が2年ということになる。

 

 

ぎゅるるるぅ

 

 

「私は、昼を食べに家に帰る。お前達も行くか?青木穂乃緒も含めて。一人暮らしだから、迷惑にはならないよ」

 

「「はい!」」

 

「2人共、良い返事だ。青木穂乃緒は、もう少し素直になれればな」

 

「う、うるさいです!」

 

「ツンデレ女王様か」




も、文字数少ねェェェェエ!!次回は5000目指します!座右の銘さんすみません。


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第3話

座右の銘さんに書いて頂きました。


昼食をとるため、初音の家に招かれた青木、於野兄妹は通されたダイニングで昼食を待っていた。

 

「お腹減ったね〜」

「だな〜」

「お待たせ。出来たよ」

 

初音は両手に皿を持って、紅葉たちの目の前にひとつずつ置いた。

 

「おお〜っ‼︎」

「わぁぁあ! チャーハンだぁ!」

 

紅葉と楓の目がキラキラと輝く。皿に盛られたパラパラのご飯から、ほんのりと食欲をそそるニンニクの香りがする。

初音は子供のように目を輝かせている2人を横目で見て、青木にも同じものを出す。

 

「はい。味は保証しないけど」

「「いただきますっ‼︎」」

「……いただきます」

 

手を合わせたのを皮切りにしたように、チャーハンにがっつく紅葉と楓。

 

「「美味しいっっ‼︎」」

 

一方青木は、スプーンで一口すくってから、恐る恐る口に運ぶ。

その様子に気付いた初音が彼女に声をかけた。

 

「どうしたんだ?」

「いえ……あまり、こういうのを食べたことがないので……」

「ふーん」

「え⁉︎ お姉さん食べたことないの⁉︎ もったいないよ! 人生5割損してるよ!」

「……てことは、私は人生の半分を損しているんですね」

 

紅葉の勢いのいい発言に、青木は冷静なツッコミを返す。

それから青木はゆっくりとチャーハンを口に含んだ。

 

「! ……美味しい」

「でしょ? よかったぁ!」

「作ったのは私だけどな」

「まあまあ、細かいことはいいじゃあないか! ふふっ、こうやって一つの食卓を囲むって、こんなに楽しいんだねぇ」

 

紅葉はふわりと優しい笑みを浮かべ、再びチャーハンを口にする。

青木は彼女を横目に見ながら、チャーハンを再び口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ごちそうさまでしたー‼︎」」

「……ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」

 

あの後、紅葉と楓は5回ほどおかわりをし、青木の分もつまみ食いする始末だった。

青木も青木でたい焼き以外の食べ物に慣れていないらしく、ほんの少ししか食べなかった。

食器を片付けながら、初音は紅葉たちに問いかける。

 

「で、これからどうするんだ?」

「ん?」

「だから、どうやって元の時代に帰るんだって聞いてるんだよ」

「あー……そうだな。忘れてた」

「美味しいご飯食べたら忘れちゃってたね!」

 

ハッハッハッ! と豪快に笑う於野兄妹に、青木と初音は冷たい視線を送る。

そして、同時に心の中でツッコんだ。

こいつらバカか、と。

 

「まあ、昨日みたいに12時間後に帰れるんじゃね?」

「それで帰れなかったらどーすんだよ」

「その時はその時だよ! ね、楓」

「ああ」

 

なんてテキトーな兄妹なんだ……。青木と初音は、再び心の中で同時にツッコんだ。二人の心がシンクロした瞬間だった。

呆れた青木が、立ち上がる。

 

「貴方方がどうなろうが、私の知ったことではありません。失礼させていただきます」

「何? アンタ帰るの?」

「たい焼きを買いに行きます。日課なんです」

 

青木は初音の問いに振り返ることなく答え、ドアノブを回してさっさと出ていった。



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第4話

シオン宅を出た青木は、鯛焼きを買いに商店街へ来ていた。

 

 

「すみません、小豆鯛焼き1個下さい」

 

「あら穂乃緒ちゃん、昨日は珍しく来てなかったから心配したのよ。...はい!小豆鯛焼き1個」

 

 

他愛ない会話をして勘定を済ませ、暖簾をくぐると、そこには見知った顔があった。

 

 

「やぁ」

 

「何故貴方方がここにおられるのですか...」

 

「何って、俺達いつ戻れるか分からないから、こいつの家に泊めてもらうから、買出しに」

 

 

遭遇したのは、於野兄妹とシオン。

夕飯の買出しに商店街に来ていたという彼等は、偶々鯛焼きのことで穂乃緒のことを思い出し寄ってみようという話になったらしい。

 

 

「すみません、クリーム鯛焼き1個下さいな」

 

「あら、あなた赤司さんのところの。転校して一人暮らしを始めたようだけれど、大丈夫?」

 

「えぇ、思いの外不自由なく過ごせています」

 

 

やはり中3は違うなぁとまじまじとシオンを見ている於野兄妹に、鯛焼き屋のおばちゃんはとうとう吹き出した。

 

 

「何やってるんですか、貴方達」

 

「だって...」

 

「そんなにまじまじと見られては、お店の方が困ってしまうでしょう」

 

 

青木が諭すと、彼等は慌ててお店の人に謝った。

お店の人は、可愛いもの見させてもらったよと笑っていた。

 

暫くして店を出ると、彼等は雷門の近くを通り練習しているサッカー部を見つけた。

ここには生徒である青木とシオンがいるため、親戚の子だから見せてくれと頼み込み、まだ弱小のサッカー部を少し見ていくことになった。

 

 

「3年の赤司だ、少し良いか?」

 

「さ、3年?!あ!サッカー部入ってくれるのか?!」

 

「いや、他校の親戚が見学したいと言っていてね。少し、練習を見せてくれないか?校庭なら借りられるように交渉してみよう」

 

「え?!良いのか?!」

 

「あぁ」

 

 

外へ出てコートを使っているテニス部に、於野兄妹と青木も含め交渉に行くと、彼等は驚くべき事実を目にする。

 

 

「綺麗な人...」

 

「隣にいる人は、赤司様?!」

 

 

一気に囲まれた青木は、慣れなさそうにしながらも交渉しているところを見ると、どうやら根は優しいらしい。

一方シオンは、慣れたように対応しそれとなく交渉しているところを見ると、こういうことはよくあるらしい。

 

 

「大丈夫だそうだ」

 

 

暫くして戻ってきたシオンは先と寸分も変わらない表情でいて、青木はぐったりとしていた。

 

 

「青木さん、大丈夫ですか?」

 

「えぇ、それにしても彼女只者じゃないわ」

 

「あんたも十分只者じゃない、因みに俺は只者だ」

 

 

於野兄妹が青木を労っている時、サッカー部一同も心の中で青木に合掌した。



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第5話

座右の銘さんに書いていただきました。


シオンのおかげで、無事校庭を借りられた雷門イレブンーーと言っても今居るのは円堂だけだがーーは、彼女に感謝を述べていた。

 

「本当にありがとな! えっと、名前……」

「構わん。私はこいつらが練習を見たいとせがんだから、せめてちゃんとグラウンドが使えてるサッカー部を見せたかっただけだ」

 

シオンは目線でチラリと於野兄妹を見る。

当の二人は、円堂たちを見てヒソヒソと話していた。

 

「この頃って、まだ円堂監督たちは弱かった頃だっけ?」

「あの様子じゃまだ帝国とやり合う前だろうな」

 

2人は、元の時代で円堂から聞いていた当時の話を思い出しながら、練習を見ていた。

弱小だった彼らは、円堂以外誰もグラウンドに来ていなかった。恐らく、いつものようにグラウンドが借りれず、今日も練習が出来ないと思っているのだろう。

紅葉が、円堂を見上げて尋ねる。

 

「ねぇ、他の人たちは? サッカーって、11人居ないと出来ないでしょ?」

「あ、あー……実は、俺たちまだ部員が7人しか居なくてさ。あ! なら、サッカー部に入らないか⁉︎ あ……でも君は女の子だから、マネージャーになるかな」

 

円堂の言葉に、紅葉は不服そうにぷくっと頬を膨らませる。

 

「むー。これでもフィールドプレイヤーやってます」

「えっ⁉︎ でも、小学生のチームだからだろ? ほら、中学校の大会は男子だけだから……」

「ボクはこう見えても中学二年生です‼︎ ちっちゃいからってバカにしないでおくれよ‼︎」

「えっ……⁉︎ そ、そうなの……?」

 

円堂は、目の前にいる小学生だと勘違いしていた同い年の少女に、ただただ驚いていた。

対して年下扱いされた紅葉は、プンスカと怒っている。

 

「もーっ‼︎ 人を見た目で判断したら、痛い目見るんだからね‼︎」

「ハイハイ、そう怒るな紅葉」

 

楓は、円堂を押し潰すような勢いで迫っていた紅葉の首根っこを掴み、引き離した。

そして、円堂に提案する。

 

「実は俺たちもサッカーをしていてさ。そうだ。君たちさえ良ければ、一緒に練習してもいいかな?」

「ホントか⁉︎ もちろんだ! 一緒に練習しようぜ!」

 

円堂はキラキラと目を輝かせ、楓と紅葉の手を順番に握ると、「早速みんな呼んでくる!」と言って部室へ走っていった。

円堂の後ろ姿を見つめた2人は、思わずクスリと笑った。

 

「嬉しそうだな、円堂監督」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の青木は、3人から離れて一人陸上部へ向かっていた。理由はもちろん、宮坂に会うためだ。

階段に座って、休憩中の彼の背後から声をかける。

 

「了」

「うわぁあっ‼︎ び、びっくりしたぁ……青木さんか……」

「そんなに驚かないで。少し傷付くわ」

「ゔっ……す、すみません……」

「まあいいわ。今休憩中?」

「はい」

「暇。構ってちょうだい」

「えっ⁉︎ で、でも、俺まだ練習が……」

「何よ。休憩中だけでいいから。構ってちょうだい」

「えぇえ……」

 

宮坂は少し困ったような顔をして、狼狽える。それを見ただけでも青木は満足だった。

唸る宮坂の前に、ふと第三者の影が現れる。

 

「宮坂、そろそろ休憩終わりだぞ」

「は、はいっ! 風丸先輩! あ、じゃあ青木さん、俺これから練習なんで! 失礼します!」

 

宮坂は風丸の登場に、そそくさとグラウンドへ走っていった。

ちっ。あいつ、絶対助かったと思ってるな。

青木は憎々しそうに宮坂を見送った。

 

「ごめんな、何か話してたのか?」

 

眉をひそめた彼女に、風丸が申し訳なさそうに声をかける。青木はちらりと彼を見上げ、立ち上がった。そして、そこからトンッと段を軽く蹴って跳躍した。

スタッと小さな音を立てて着地した青木は、風丸の問いなどまるでなかったかのように歩き出した。

一方風丸は、去り行く彼女の後ろ姿を見て、ぽつりと呟いた。

 

「……格好いい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、マジかよ!」

「信じられないでヤンス! グラウンドを使って練習出来るなんて!」

 

染岡と栗松が、驚いて誰もいないだだっ広いグラウンドを見る。他のメンバーも、口を開けたまま呆然としていた。

驚愕したままの秋が、円堂に問う。

 

「でも、何で急にグラウンドを貸してくれたの?」

「ああ、あいつが頼んでくれたんだ」

 

そう言いながら、円堂は遠くにある木の幹に寄りかかるシオンを見やる。彼女を一目見て、秋が円堂に耳打ちする。

 

「円堂くん、本当に赤司さんが?」

「ああ。あいつの親戚が、俺達とサッカーしたいって」

 

円堂が手招きしたのを見て、紅葉は楓の腕を引っ張った。

 

「円堂監督が呼んでるよ。行こっ!」

「ああ」

 

サッカーができる。たったそれだけのことに喜びを感じられる。とても幸せだと楓は妹を見て思った。

2人が雷門イレブン(まだ7人しかいない)の前に立ち、自己紹介をする。

 

「初めまして! ボクは於野紅葉っていいます。ポジションはDFです。よろしくお願いします!」

「俺は於野楓。紅葉の双子の兄だ。ポジションはFWをやってる。よろしくな」

 

にこっと笑いかけた紅葉に、雷門メンバーは少なからず癒しを感じた。

紅葉は基本常に、癒しオーラを放っている。ほんわかした彼女は加えてドジな面もあるので、アロマセラピー並みの癒し効果があるのだという。

そして、それが本人無自覚のままに行われているのだから、恐ろしい。

 

ワイワイと話す於野兄妹を遠くから眺めるシオンの隣に、戻ってきた青木が立つ。彼女を一瞥し、その顔を見ることなく話しかける。

 

「お前は参加しないのか?」

「興味ありません」

「そうか」

 

お互いの顔を合わせないまま、会話は終わる。彼女らの瞳は、何を見ていたのだろうか。

とはいえ、彼女らを見ていた生徒達から、美女2人が木に寄りかかっていると、写真や悲鳴の嵐が湧き上がったことだけはここに記しておく。



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6話

 

 

 

 

 

「私も、入れてくれないか?」

 

「赤司先輩!全然良いぜ!」

 

「ほら、お前も来い」

 

「命令しないで下さい」

 

 

自分を追い抜きスタスタとグラウンドへ歩く穂乃緒に、シオンは苦笑しながらも後を追った。

太陽の光が差すグラウンドは、天然のフライパンのように熱く、何を思ったのかシオンは地面を触る。

 

 

「水分補給はしたのか?」

 

「あー、忘れてた!」

 

「貴方達、熱中症になって倒れても放っておきますよ」

 

 

紅葉の言葉に穂乃緒も呆れ、マネージャーの秋はビデオを撮りながら練習に見入っていたのか急いでドリンクの用意を始めた。

 

 

「ごめんね!マネージャーの仕事なのに...」

 

「構いません」

 

「マネージャーが1人だと大変だろう?あの男連中が、女性に対しての気遣いが足りないんだ。マネージャーが2人でもいれば、役割分担もできるだろうに」

 

 

そう言ってシオンが溜息をつくと、穂乃緒は、普通の人なら気が付かないような表情の変化ではあったものの、2人共目を丸くしていた。

 

 

「何だ?」

 

「いえ、貴方も溜息を吐くんですね」

 

「お前達は私のことを何だと...」

 

「独裁政権の、完璧主義の王様でしょう?自分1人いれば何でも出来るなんて、馬鹿げた話です。人は、1人では生きていけないのに」

 

「...私も、助けられて生きている。それは、理解しているつもりだ。だが、有難うな」

 

 

ドリンクの準備を終え立ち上がると、シオンは穂乃緒の頭にポンと手を置いて、半分ドリンクを持ってグラウンドに向かった。

穂乃緒も、もう半分のドリンクを持って立ち上がる。

残された秋は、差し込む光の中に入り、熱に包まれる2人の後ろ姿を、微笑ましそうに眺めてから追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!有難うな!」

 

「ごめん、言ってくれれば手伝ったのに」

 

 

ドリンクを持って歩く2人に気が付いた、円堂のお礼と半田の気遣いを素直に受け取りドリンクを渡す。

 

 

「うわっ、お前等こんなの持って歩いてたのか」

 

「えぇ」

 

「女子よりも男子の方が貧者では、話にならないぞ」

 

 

さも当然のように流す穂乃緒と、呆れながら返すシオン。

円堂と半田が青ざめるのを見て待っていると、2人の方から申し出があった。

 

 

「少し、手伝って下さい...」

 

 

シオンは、満足したのか口に弧を描き頷く。

 

 

「笑ったか?」

 

 

少し穂乃緒の口が笑った気がしてそう尋ねると、無言で首を横に振った。

 

そうかと返し、シオンは近くにいた方、半田の腕から2つに分かれたボトル入れの1つを取り出す。

穂乃緒も、円堂の腕から半分ボトルを預かった。

 

 

「早くしないと、皆待ってるぜ」

 

「あぁ」

 

 

水の滴るボトルは、いつもよりキラキラと輝いて見えた。



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