オーバーロード。ナザリックの民達。 (ムトゥー座)
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ナザリックの民

オーバーロードの二次創作です。
作者は二次創作はおろかワードで文章を書いたことは2回くらいしかないバカです。
でも小説は好きです、オーバーロードはもっと好きです。(にわか)
それでも、良ければぜひ暇つぶしに。
似たようなものがあれば言ってください。すぐ消します。



00:00

「終わったな・・・」

モモンガはため息を吐いた。

すべての栄光はくだらんプログラムのデリートで儚く消えていった。

 

彼-モモンガはユグドラシルが好きだった。

とは言ったものの彼にはこのぐらいの趣味しかないのだが、それでも熱中していたものが消えていくのが悲しかった。

 

しかし-

 

「うん?」

とたんに奇妙な感覚におおわれた。

まるで、なにか憑依したような感覚に。

しかし、感覚は鋭敏に反応できる。

「サーバーダウンが延期になったのか?・・・どうなっている!」

モモンガは激高した。最後の最後でこのような事態は許されない。

彼は勢いよく立ちあがった。そして見た、守護者アルベドの顔を、本来データ容量的にありえない困惑した顔を。

「モモンガ様!いかがなさいましたか!?」

アルベドは驚いた顔をモモンガに向けた。

彼女は困惑していた。いつもの冷静かつ絶対的な君主が狼狽するのを。

しかし、それ以上に狼狽したのはモモンガだった。

(NPCが会話をした!?)

何がどうなっているのかモモンガにはわからなかった。

しかし、解明しなくてはならないしかも迅速に!

 

 

 

「で?そのあとは?アインズ様はなにを?」

ハリスは目の前の男、ニックに言った。

彼は丸卓のテーブルの上で腕を組みながら話した。

「何を?だと決まっているだろうが、冷静かつ迅速に守護者様を招集。周辺地域の把握に勤しみなされた。」

男はさも当然ように言った。

「至高の41人のまとめ役にして最後まで残った下さった慈悲深~い方だぞ。守護者様の忠義を確認したには謀反や叛意の確認だろうがな、まあありえないが。」

茶を少し啜り舌を湿らせながらニック・ヤーマはうんうんと頷いた。

「さすアイ。至高の方は頭の出来が違うなー。」

とハリス・アンコールは能天気に言った。

「ば!?なんてことを!略すな!ちゃんと言え!」

どこに耳があるかわからないんだぞ!憲兵に聞かれたら殺されるぞ!

なんて友の言葉をういういとハリスは面倒くさそうに手でぴらぴらと振った。

「俺はこんな感じに創られてんだ。つまりは至高の方々の掌の上。つまり無問題。」

ぐぐぐ。とうなるように引っ込んだ友に彼は笑いかけた。

 

そこへポポポーンポポポーンとけたましいくもどこか拍子抜けしそうな音がなる。

アラームベルだ。

「はい。ハリスです。」

(私だ。ヴォランギーグだ。)

「これは・・・本日はお日柄もよく・・・。」

(すぐにカルネに来い。ゴブリンどもとこれから狩りだ。)

「かしこまりました。」

(カイナンとその他もろもろも来ている。いいか!わが師の顔に泥を塗るようなら

貴様の町もろとも消し炭してくれるわ!)

 

ぶつん!切れた。また捨てセリフ吐きやがって・・・。とハリスは辟易した。

「まーたあのお方は・・・師匠のために張り切っちゃってまあ・・・」

「仕方ないだろう。あのお方はアインズ様のご創造なされた新しい僕にして我らの指揮官だ。」

そうねぇ。とハリスはため息を吐いた。そして防具や武器を装備し始める。

「いくぞ。」

「うぃ。」

彼らはがシャリと音を立てながら兵舎からでた。

「アテンション!アーテンション!」

ニックはのどを震わせながら兵舎の前に訓練中の兵士達に号令をかけた。

「カルネに向かう!ついてこい!」

応!と勢いよく兵たちが言う。

ギラギラ青びかりするチェストプレートに簡素ながらよく見るとほのかに光る剣。

槍は装飾は一切なくだがよく手入れされピカピカだ。

「ナザリック民兵軍出陣!」

ニックをはじめとする兵どもは規律よく出陣した。

 

 

「またカイジャリの尻拭いか?」

「いや、そこはエンリちゃんじゃないの?」

「今回で何度目だっけ?」

「10からさきは数えてない」

「俺たちはナザリックを守るために生まれたんだが・・・。」

「まあまあ。アインズ様はあの村を気にいってる。」

「いざという時のため捨石か・・・。」

 

兵士たちは進む地上へカルネ村へ。少し世間話をしながら。

 

 

 

 

アインズウールゴウンは異形のためのギルド。

それは、ギルド創立の理念だった。

しかし、ここに歯車は狂った。ナザリックの8から9の階層の間に人間の町が存在する。

支配者は至高の41人たちその王者。名はモモンガ現アインズウールゴウン。

そして人間たちは・・・奴隷、元王族、貴族、町民、商人ETC・・・。

見放され捨てられた人々。数多のNPC達。多くの種族。

その最後の砦。希望。

 

この町は明らかに神が加担していた。

 

名はハクロボウ

 

異形の国に今日も家畜どもの和気藹々の声が木霊する。




やっちゃたぜ。


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異形のギルドの人たち

はじまりはただの超位魔法の媒介にすぎなかった。

 

新アップデート「ヴァルキュリアの失墜」で味方NPC(人間種限定)を犠牲に発動できる

魔法。失楽園。そのためのハクロボウだった。

この魔法は同じ人間種アバターをダメージを倍加する力があった。

 

しかし、問題があった。

 

NPCのレベルが低ければ大量のNPCが必要になるからだ。

そうこの魔法はレベルによって変化する魔法だった。しかも3の倍数でさらに強くなるという謎使用だった。

多くのギルドはあまりというかほとんど使用しなかった。

1レベルでもギルドの運営に圧迫するものだった。

ギルドのダンジョンには適正なバランスが必要だし、費用も掛かった。

 

自分が手塩にかけて育てたNPCが犠牲になるのはだれでもいやだった。

 

だが、アインズウールゴウンは違った。

 

 

 

 

モモンガは守護者たち忠義と自分の魔法の確認すると甲斐甲斐しく世話をするプレアデスたちに供は許さぬと言うと転移でハクロボウに向かった。

 

(あの町はウルベルトさん曰く人間爆弾牧場だからなぁ・・・。)

この町は1000人のプレーヤーども迎え撃った荒野と溶岩の階層の間に在り、プレーヤーどもに損害を与えた。

満面の笑みを浮かべて特攻していくNPC達。

その姿にアインズウールゴウンは本物の悪魔であり魔王の集団と恐れられた。

それだけ苛烈さ極めたハクロボウの攻撃は凄まじかった。

 

モモンガが転移すると最初に感じたのはほかほかの日差しと水の音だった。

(おお・・・。)

この光景は何度みてもすごい。町が水の上に浮かんでいる。かつて地球に存在した水上都市をモチーフにした美しい街並みがそこにあった。

 

あきらかに場違いな服装でモモンガは町の南門から入った。そこへ。

 

「うわ!」

仰天の声が響いた。第一町人発見。

「あああああ、あい、あいああ、アインズしゃま!?ナンデ!?」

「ご苦労。諸君、すまないが・・・。」

「おおーいみんな至高の方が町に来たぞー!」

 

「うそ!」

「うわ本物だ!」

多くのNPCたちが民家から出てきた。こじんまりとした家にこんなにいたとは。

そして、当然の如く平服しはじめた。

「至高神のモモンガ様!ほほほ、本日はお日柄もよく・・・。」

「よ、よいそんなに固くなるな。」

(失敗した!失敗した!あの姿で来ればよかった!)

モモンガはむずむずする感覚にさいなまれた。もとは一般人だ。彼らと同じく。

「ごほん!今回は少し見に来ただけだ。また来る。」

「そんな、せめて茶の一杯だけでも!」

人間達はギャーギャーと騒ぎ始めた。

なに出せばいいの!?血かな?魂かも!よし俺今すぐ死ぬわ!私も!

「さっわぐな!神の御前だぞ!」

モモンガは人間達を見つめてこう思った。

(うわー・・・すごい忠誠心。狂信的だー。)

守護者たちに負けず劣らずの忠誠心にモモンガは満足した。

「うむ、お前たち。お前たちとって私とはどのような存在だ?」

同じ質問投げかける。守護者たち違う反応を期待して。

 

 

人間達は平服しこう言った。

 

 

 

「神です。それ以外なにがありましょうや。」

(はい。狂信者確定。)

モモンガはうれしくもやっぱりという感じにうむと頷いた。

「そうか、わが子らよ有志を募り、ナザリックの外の偵察に行くものを募集している。」

「募集ですか?そんなことせずともご命じなされればよいものを!」

「よい、お前たちの意思を尊重したいのだ。わかるな?」

「「「「「・・・・は!」」」」」

 

「ふう・・・。」

モモンガは疲れを知らない体になったのに疲れを感じていた。

 

あとのことはまるでお祭り騒ぎだった。

当然だ。神と仰ぐ人が現れたのだモモンガは歓待を受け、そして、こいつらは使えると確信した。

守護者はじめ多くの異形達は人間を蔑視している。

軟弱なごみくずどもと忌避している。

 

それではいけない。

まだまだ情報不足なのだ。人間達の基本レベルがわからない今では危険すぎる。

 

「さて、遠隔視の鏡で周辺を確認してみようか。」

「はい。モモンガ様。」

 



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カルネ村襲撃者撃退戦

ごぼごぼと相手の胸から血が滝のように流れた。

二人目はもう首がない。近くにないということはぽーんと飛んでったか。

「おい、終わったか?」

「ああ、あっけないな。」

モモンガは困っていた。遠隔視の鏡で周辺を確認した所、村が襲われていた場面に遭遇。ゲートで移動した。

二人の人間種NPC。確かハリスとニックだったか、そのほか30名のナザリック民兵を連れ地上に来た。そして。二人の女が殺されそうになった所に登場した。

 

「下等生物風情がモモンガ様、いえアインズ様のお手を煩わすとは。」

アルベドが吐き捨てるように言った。

「弱いな。着ていた鎧も魔法がかかっている割には柔い。」

まさか、一合と合わずに一撃で屠られるとはこの世界のレベル基準を下方修正せねばならないか。

 

「おい、もう大丈夫だぞ。」

「これ飲め死ぬぞ。」

エンリはアインズ以上に困惑していた。骨の化け物が来たと思ったら普通の人間が後からきて兵士を一瞬で倒してしまったのだから。

「の、飲みます!だから妹は!」

「別にとって喰いは・・・しないよな?」

「さあ・・・あ!エントマ様の土産にどうかな!きっと喜びなさるだろう。」

エンリは油汗が止まらかった。エントマ?みやげ?どっちしろ碌なことにはならないような気がした。

 

「おまえたち、行くぞ。」

「「は!申し訳ございません!」」

やはりこのおそらくリッチが親玉に違いないなとエンリは思った。

「おい、そこの娘。襲撃者の中に魔法詠唱者はいたか?」

「い、いえ・・・たぶん。」

必死に逃げたのだ。確実性は低かった。

「たぶんだぁ~?てめぇもう少し頭使って記憶をほじくり返せ!魔法でひねり出してやろうかぁ!」

「ひぃ!」

「よ、よせ!杖をおろせ!」

「かしこまりました。」

「おまえたちは村に向かえ。村人を助け、その後情報を入手するのだ。」

「・・・恐れながら、別段助けなくともアンデッドにして聞き出せばよろしいのは?」

村娘は視界のはじからわかるくらいびくついていた。小さいほうは今にも失神しそうだ。

それも考えたがこの世界はまだまだ分からないことだらけだ友好関係は築けるうち築けておくことがいいに決まっている。おそらく次はないと思われた。

「不服か?」

ちょっと強めに言っておこう。

「申し訳ございません!」

ハリスは地面に頭をこすりつけた。

「そうか。ではゆけおまえたち!これが初戦だ気を引き締めよ!」

「「「「「は!必ずや至高の神に敵の血を捧げて見せます!」」」」」

 

 

「ロンデスさん!変な連中がばぁ!」

デズンの体にぽっかりと大穴が空いた。穴の向こう側にいる人間のにたにたした顔が

はっきりと映るぐらい。

「何者だ貴様!」

「うるさい。」

今度はモーレットの首がポーンとまるで毬のように飛んだ。杖で殴られたのにその頭はつぶれることなく飛んでいった。

「なんだこんだけしかいないのか?楽しめるのはせいぜい数分か。」

杖に付いた肉片をとんとん落としながら面倒臭そうにハリスは言った。

向こうでは29名の同胞が騎兵を片付けている。逃げられると面倒だ。

「うおおお!」

兵士は剣を振り上げるとカン!と簡単に止められた。

「魔法詠唱者なのになんだこの力は!」

「ふん!」

目の前の男が力を込めると兵士の肩に杖がめり込んだ。もんどりうって倒れた。

痙攣して動かなくなった。

「柔いな。明らかなレベル不足だね。」

「おい。いつまで遊んでるつもりだ!ごみくずどもを掃除しろ!」

ニックが怒鳴る。右手には哀れな兵士の首をもっている。

「親玉は?」

「こいつだよ。こいつ。」

ニックはプラプラともっている首を振った。

「へえ。強かったか?」

「いや。命乞いして金をやる言ったからどんだけ持ってる?て言ったら今は持っていない!でも見逃してくれたら!ていうお決まりさ。」

「的にもならね。」

 

「撤退だ!総員撤退しろ!合図の角笛を鳴らせ。」

ロンデスはこの状況下で唯一まとも指示を飛ばせる人間だった。

仲間たちは武器を捨て逃げている。盾を捨てないのは少しでも生き延びたいという可能性に縋りたいのからか。

 

だが無意味だった。なにもかも、矜持も鍛えた技も。

「うげぇ!」

盾ごと矢で射ぬかれ。

「たのむ!たのべぇ!」

慈悲はなく。

「ぐあ!いたい!やめてぇええええ。」

わざと痛めつけられ。

「うで・・・俺のうでは・・・。」

敵のファイヤーボールで飛ばされた腕を探し。

「かみさま・・・が!」

後ろから刺され。

たとえ抵抗しても。

「はあああ!」

「おいおい。へっぴり腰。もっと腰に力いれろよ!」

腰から切られ上半身がまるで木の葉ように舞い。

「俺の剣が・・・。」

「手入れ不足。失格。」

首を飛ばされ。

「おい!どうしたんだ!兄貴!俺だよ!ルンベルだよ!」

「しかたがないだろう・・・友達の頼みだし・・・なぁ?」

「うげげげげげ。いいねえええ!最高だぜ。」

チャームかをかけられ同士討ちさせられた。

「くそ!なんでスケルトンが!」

「これただスケルトンじゃない!ぐ・・・」

「よしよし。アインズ様ために働いてくださいね・・・。」

仲間をアンデッドさせられた。

「ぐえ!ばは!うが!」

何本も槍で刺された。とうに息絶えているのに。

 

こいつら遊んでやがる!・・・。

逃げないとこいつらはまともじゃない。

「おーい。そこの君。」

!?

「君だよ君。君良いね状況わかっているねえ。逃げた方がいいこと。」

「おまえたちは何者だ。王国の騎士?か?」

「いいや違うよ。」

さも当然のように目の前のローブの着た男は言った。

「・・・取引をしないか?望むものを用意する!必ず!」

「では情報を。」

「どんな情報だ!ほ・・・帝国のか!」

「その前にじっとしてくれるかな。もうそろそろ終わるしね・・・。」

気づけば戦闘は終わっていた。仲間の死体が水死体のように静かに横たわっていた。

ロンデスは耳が痛くなるくらいの静けさを味わっていた。

 

 

 

 

 

 

 



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カルネ村救出結果報告

「おい。大丈夫か?」

ニックはできるだけやさしく話しかけた。

あの血みどろを見れば誰でも萎縮してしまう。そう思った。

「あ、あなた方は?・・・。」

最初に声をあげたのが村長と知ったのはずいぶん後だった。

「近くを通りかかった者です。」

「冒険者ですか?」

「冒険者?なんですかそれ?」

「ちがうのですか?」

「違いますよ・・・我々は・・・。」

ローブの男、カイナン・トゥールマンが答えた。

第三位階相当の魔法を扱うネクロマンサーだ。相変わらずぽソぽソしゃべる内気な男だ。

「村人の諸君無事かな?」

アインズ様だ。

「あなたは?」

「たまたま近くを通りかかった者でね。助けに来た。」

村人たちは顔見合わせている。助けにきた?こんな辺境に?

そんな言葉が聞こえる。

「おうおう!てめぇら礼も言えねぇのか!」

ハリスに無言で肘鉄を入れた。

「・・・ふん。だがただではない。報酬をもらいたいのだが?」

村人たちの顔に安心感のようなものが現れた。

 

 

 

 

その後の事はつまらない話だ。村人のけがをハリスや連れてきた神官のやつに治癒をませて、残りは兵士の死体はアンデッドにして、村人の死体は葬った。

あの村娘エンリとネムの家族はだめだった。

 

 

「ところで、人間達をどう思う?」

アインズはアルベドに問うた。答え明白だが。

「下等な種族。きれいにできたらせいぜいします。」

「ニック。おまえは?」

「わ、私ですか!?」

話を振られ私は戸惑った。正直答えればいいのか、それとも・・・。

私は咄嗟にアルベド様を見た。あの方ただ私を見ていた。

「・・・哀れに思いまする。」

「なぜ?同じ人間だぞ?」

「彼らがもしナザリックの民ならばこうはならなかったからです。」

そうだ。彼らがもし同胞ならばただでは殺されない。あの戦争の時と同じだ。

みんな至高の方のために喜んで死んだ。多くの敵を犠牲にして。

ならば、少なくとも無駄ではない。

 

意義ある行為。意義ある死だ。

 

「故に哀れに思うと?」

「はい、それに彼らの中に武器をもって戦っていた者はいませんでした。死ぬべくして死んだのです。」

自業自得。誰もいなかったのか?危機感を持つ者は?いれば少しは抵抗できたものを。

いや、むしろよかったのかも。

抵抗すれば攻撃は苛烈さを増す。そうすれば間に合わなかったかもしれない。

故に、死すべくして死す。

村はずれの小さな丘。その小さな墓地にあの娘の泣く姿が妙に目に焼き付いていた。

 

(おい、ニック。妙なやつらが来ているぜ。)

ハリスの楽しそうな伝言がそれをかき消した。

 



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カルネ村防衛戦開始前

「誰だおまえは?」

ふーん。なかなかの腕前を持ってそうじゃねか。

ハリスは漠然とそう思った。

まず、目が違う。こいつの目は例え無理でも最後まで足掻く男の目だ。

「私はリ・エスティーゼ王国戦士長のガゼフ・ストロノーフだ」

「知らんなぁ。で?」

ハリスはもうイライラしていた。雑魚の始末がまた増える。いや少しは楽しめるかも。

「貴殿の名前を聞く前に聞きたい。あのアンデッドは?帝国兵の恰好しているようだが・・・」

「ああ・・・あれは私のしもべですよ・・・。」

「魔法詠唱者か?」

「はい・・・しがない・・・ね・・・。」

ガゼフはこの集団を見て首を捻らざるを得なかった。

 

まず、武装の統一感が全くない。まるで冒険者のようだ。

目の前の男は木の棒しかもっていないがそれだけではなさそうだった。

それよりもローブの男だ。魔法の事は詳しくは知らないが並の魔法使いではない。

 

そうこうしている奥の方から豪奢なローブを身に纏った大男が現れた。

「ふむ・・・。あなたたちは?」

ガゼフはふたたび名乗った。

 

 

 

ガゼフは感謝の念に堪えなかった。同時に憤慨した。己自身に。

我々は間に合わず、彼らは間に合った。しかたない。だがそう思えなかった。

 

「戦士長殿は恨まれておいでなのですね。」

「まさか、スレイン法国までとはな・・・。」

村は現在、陽光聖典なる集団に包囲されていた。

敵の数は凡そ30弱。だが、やつらの頭の上には炎の羽を羽ばたかせた天使がいた。

戦力は圧倒的に不利。だが。

「ゴウン殿良ければ雇われないか?」

「お断り致します。」

「王国の強制徴収ではいかが?」

部下が剣に手をかける。だが迂闊だった。

ガゼフの背中に何か尖った物が押し当てられた。

(!?)

ガゼフは思わず振り返るとそこには短刀を持った覆面の男がいた。

明らかな軽装で、全身真っ黒だったが目だけは燦々と赤く光っていた。

「不敬。死すべし。」

しかし、死は訪れない。アインズが手をすう・・・と上げていたからだ。

覆面の男は音もなく消えた。冷や汗が頬を伝うのがわかる。

確実にやられていた。ガゼフは戦慄にさえおぼえた。

覆面の男の手腕とそれを束ねる謎の男アインズ・ウール・ゴウンに。

「怖いな・・・。やつらと戦う前に全滅しそうだ。」

「部下たちが粗相をしました。私のためにとやったことです。平にご容赦を・・・。」

「いやいや・・・。」

なんて腰の低い御仁なのだろうか。最初に印象は傲慢な魔法詠唱者だったが己の非があれば部下の代わりに頭を下げる。

王国の貴族はけっしてしないだろう。

「アインズ様畏れながら・・・。」

ニック・ヤーマという指揮官風の男がアインズになにやら耳打ちした。

(あの男使えます。)

(ああ、わかっている。あの男の力をやつらに対する試金石とするのだろう?)

(無論、それもありますが恩は売っておくべきかと。あやつには恩を売り、今後何かしらの援助か足がかりも作れます。)

(ふむ・・・。信用に能うるか?)

(戦士として腕は二流ですが、人間はできているかと・・・。)

アインズは正直の所、ガゼフという男は嫌いではない。犬や猫の小動物程度の愛着は湧く程度の感情しかないが、先ほどは部下の目の前で頭を下げられる器量を持ち合わせているようだったし、無礼も許してくれた。

しかし、戦士的な所はレベルなどの細かな線引きはできなかった。

だが、ニック・ヤーマも同じ戦士職。ソードウォーリアーとコマンダーの職を持つ彼はガゼフにステータス以外の何かを感じているようだった。

アインズの中で消えゆく人間性。だが、鈴木悟として残滓が彼に賭けようと囁いていた。

それに件の陽光聖典なる者どもはそこらの雑魚ではない。

ならば、ナザリックの民兵の力試しとなるだろう。

 

彼らのレベルは30から35レベル。さっき兵士どもでは虐殺レベルの戦いだったため試すこともできなかった。

確かハリス・アンコールはこう言っていたな。

ただの動く肉の塊だと。ではスレイン法国の特殊部隊はなんの塊か俄然興味ある。

 

 

 

 

 

「ガゼフの部隊か。」

「いや・・・情報にはありません。それにあの装備・・・冒険者の類か傭兵かと。」

陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーインは殲滅対象の村に蔓延る異形の者どもに目を凝らしていた。

装備は統一感なし。いや、一部ありか。杖もち・・・魔法詠唱者風が幾人かいる。弓兵に・・・弩兵までいる。大盾の重装甲兵に皮鎧の軽装兵・・・なんと馬鎧まで装備した重装甲騎兵までおるではないか。王国の糞貴族めが!謀りやがった!ガゼフの武装は剥いだが雑魚の武装も剥いでくれればよかったのに!傭兵を雇うとは!

「正体は不明だが、事ここに至っては些末なことよ・・・。ガゼフごと叩っきれ。」

「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」

「スレイン法国の勇者諸君。汝らの信仰を神に捧げよ!先が見えぬ愚か者どもに神の陽光!喰らわせてやれ!」

「天使召喚準備!殲滅開始!」

「「「「「「「「「応!」」」」」」」」」」

 

 

「各員傾聴。」

総指揮官ニック・ヤーマ始め、中距離型魔法戦士ハリス・アンコール。魔法隊のカイナン・トゥールマン。狙撃弩兵隊のクリス・マッコイ。弓兵隊のエス・ド・サドゥン。重装甲兵隊のガイル・ニーラル。軽装歩兵隊のハッシバ。騎兵及び重装甲騎兵隊のロベール・シュペール。

ナザリック民兵30名が村の一角。広場に集まっていた。アインズはいない。村に防御魔法を展開している。

「至高の方からの下知である。」

一同は今日このときは待っていた。ゴミ屑どもにアインズ・ウール・ゴウンの牙の味を味あわせるのを。

「命令は単純明快。不届き者を殺せ。味あわせろ。地べたの砂利の味を。恐怖に凍える血の味を。但し。指揮官と幾人か残せ。情報管のペインキル様に提供する供物だ。」

応!応!応!応!と声を弾ませる。獣の如く。

「アインズ様はこう仰られた。格の違いを見せつけよ!と!」

おぉーーーーーー!!!!!!突如としてまるで村が震えたようだった。

「アインズ様はナザリックに最後まで残られた慈悲深い君!あのかたは我々にまでその慈悲深さをお示しあそばされた!」

 

 

 

 

 

 

「生きよ!将兵よ!誰一人死すこと許さじ!生きてナザリックの門潜るべし!」

 

 

 

 

 

 

後の歴史家は語る。

この取るに足らぬ村の防衛線こそかの魔道公軍アインズ・ウール・ゴウンの初戦であったと。

敵は悪逆の輩スレイン法国陽光聖典。38名。

対して味方はアインズ・ウール・ゴウンの同輩にして盟友。ガゼフ・ストロノーフ戦士団。

数40名。

対してナザリック民兵30名。数こそ勝るが敵は外道ながら手練れの衆。

どうやって勝利したか。どうやれば村の損害零。戦士団の損害ゼロ。民兵損害0の大勝をなしたかこれから語られないといけない。かの魔道公の采配を。

 

 

 

老人は言った。

「さあ。聞きたおぼえの者よ。口よ閉じよ。そして再び感々足らしめよ。

さあ。まだ聞いたことなき者よ。目を閉じわが声に耳を傾けよ。母子よ父子よ。幼子を抱いてよく聞け。閉じし目の前に広がるは王国の一騎当千の兵たちだぞ。下を見よ悪逆の徒が屍が朽ちてゆく様を。耳を開け。鬨の声が森の木々を揺らすのを。」

老人は歳の割によく通る声で言った。

僕は妹の手を握って目を閉じた。

 

 



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