ポッターを取ったぞ (混沌とン)
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賢者の石
始まり


最初からヘビ語全開です!




「何でこんな!!!」

夏の夜のプリベット通りを細身の子供が駆け出していく

 

 

ーーー

 

 

少年は階段下の物置で自分の悲運を呪っていた。

細長い指に視線を下ろし、ため息をつく。

隅の方からシューッと、かすかに音がした。

少年は顔をあげ「またなんだ。」と呟く代わりに暗闇に同じような音を返しうつむく。

この奇妙なやり取りは〝3年前〟の出来事から

当たり前になっている。

『奇妙』というのもどうやらこの少年、

家主のダーズリーさん曰く『ま、と、も』でないらしい。

〝3年前〟この少年ハリーポッターは7才であった。

両親はまだハリーが赤ん坊だったときに交通事故で亡くなったらしい。

ろくでもない親だったそうだ。

そういうわけで、このダーズリーさんの家に『押しつけ』られたハリーはこの歳にして、まるでお手伝いさんのように〝3年前〟のこの日も働いていた。

 

 

 

「おい小僧!起きろ!そこで寝るな!起きろ!」ダーズリー氏の叫ぶ声で目を覚まされた。

 

「あっ」とハリー。完全に油断していた。

 

昨日ダーズリー達が二階の寝室に上がり寝静まってから、

こっそりと階段下の物置から抜け出したハリーは

普段はまともに見ることも許されないテレビを見ていたのだ。

ふかふかのソファーに横たわってテレビを見ているうちに、いつの間にか寝てしまっていたらしい。

 

「来い!」首根っこを捕まれて廊下に放り出されたハリーは、しばらく茫然としていた。

 

ハリーが何も言葉を発っしないようなのでダーズリー氏が口を開いた。

 

「ぬぁ~にをしとったんだ小僧」一瞬間が空いて「何も。」ハリーはむすっとした顔で答える。

 

「なっ...!」いつも反抗的な態度をとらせないようにしていたダーズリー氏は少し面食らったようだ。

 

「では、学校があるので。」そそくさとリビングへ出て荷物を持ったハリーはパジャマのまま庭から外へ出ていってしまった。

 

ハリーは相当イライラしていた。「いい夢だったのに...空飛ぶオートバイ...なんで僕は普通に暮らせないんだ」家に帰ったときにこの分のツケを払わせられるのは分かっているが、それ以上にこれから行く学校のほうが憂鬱だ。

 

 

パジャマのままで登校してきたことでダドリーの取り巻き達からは笑われたが別に気にならなかった。

隣の席のジュリアが「ねえ、大丈夫?」と話しかけてきた。「全然。」「何でパジャマなん?」「いろいろとね。」

 

 

昼休み、運動場でダドリーズに囲まれた。いつもの遊び、ハリー狩りをやりにきたのだ。ハリーはダドリー氏の言う『ネズミの食事』というような量の食事しかとらせてもらえてなかったのであばら骨が少し浮き出るくらい細い。その為よくいじめの標的にされるのだ。今日はいじめっ子のボスであるダドリーが算数の補習らしいのでまだましであろうが...。

 

ピアーズが「おいポッター。お前調子に乗るなよ!」と声をかけてくる。

 

「ほっといてよ。」と声をかけるも「こっち来いや!」「いい気になるなよ!」と胸ぐらを掴んできた。何かが違う気がする...

 

「お前ジュリアに心配されてニヤニヤしてただろ」とゴードン。

 

ピアーズの顔が少し怒りに歪んだ気がした。なるほど、そういうことか。合点が言ったハリーは思わずニヤついてしまう。

 

ピアーズが「おい!なに笑っとんじゃ!」怒声をあげて蹴りをいれた。

 

と、そこへ「おもしろいもん見っけたぞ~」と言いながらマルコムが鉄パイプを引きずってきた。ハリー狩りはいつもはボールをぶつけられたり、足で散々蹴られて終わるのだが、これでしばかれたら軽くではあってもアザはできそうだ...。

 

「おい。お前。これで思いっきり殴られんのとクラスの女子の前でパンイチになるのとどっちがいい?」

 

「ぶぁっはっはっはっはっ」

 

ゲラゲラ笑いに包まれる中、

朝の一件の次はこれか...

体中の血がふつふつと熱くなるのを感じた。心臓が早鐘を打っている...

 

「ピアーズ。ジュリアさんが好きなんだろう」挑戦的にそして見下すようにハリーは言い放った。

 

やってしまった ...

ピアーズ以外の連中は互いにキョロキョロ見回した。誰も知っていても言わなかったことをコイツ...。

 

「それは..お前だろポッター!お...お前が今日!お前は!お前がわざとパジャマなんかで来て!おま「いつもそうやってジロジロ見てたんだろうね気持ち悪い」ハリーは冷たく言い放つ。「なっ...!!」明らかにピアーズは動揺している。

 

「貸せ!!」「あ...」マルコムから鉄パイプを奪い取ったピアーズが思いっきり振りかぶった。ぎゅっと身を固くして衝撃を覚悟した..何かが体から発散されたような感覚が稲妻のように体中を駆け巡る。

顔を庇っていた腕を下ろし恐る恐る閉ざしていた視界を広げた...

ーーー

 

ダーズリーさんは昼間から学校に呼び出され不機嫌そうに廊下を歩いている。へまをした部下を2、3人怒り損ねたといったところだろう。「あの小僧め何をやらかしをったんだ...。」微かに不安がよぎる...

 

 

結果的にハリーはあの状況で無傷だった。

肘を打ったゴードンも

頭を打ち血を流していたマルコムも

背中を打ったピアーズも軽傷で済んだ。

ピアーズ達の証言ではハリーが何か光爆弾のようなものを持っていて3メートルも吹っ飛ばされたという。

さすがに先生方はこの証言をあてにはしなかったがハリーが友達を鉄パイプで押し倒したものと見てダーズリー氏を呼び出したのだ。

 

 

ハリーの弁解は聞き入れられなかった。

「待たんか小僧!!」

ダーズリー氏が物置部屋に閉じ込めようとしたとき、

ついにハリーは家とは呼べない家を飛び出した。

ずっと前からこうしたかったのかもしれない。

 

 

 

「何でこんな!!!」

夏の夜のプリベット通りはそんな心境とは逆に心地の良いものだった。

綺麗好きな住人の咎めるような視線を感じなくてもいいし、自分を指差してコソコソしゃべるローブの変人達もいない。

涼しい空気が肺を満たし心まで弾んできたようだ。

これからのことなんてどうでもいい。

行きたいところへ行こう。

 

 

 

明かりを避けて歩くうちにみすぼらしい公園に着いた。

すべり台には使用禁止のテープがぐるぐるに貼られている。

錆び付いたブランコに腰を掛ける。

一度こぐとギィィとすごい音がして止めた。

夜にこんな音を立てるのは......なんで僕は気をつかっているんだろう?

なぜか可笑しくなってきてもう一度こいでみた。

意外と音は大きくならなかったがそれでも響く音だ。

 

「なんだってんだこんな夜に!シュシュシュ」ブランコを止める。

 

今すぐそこで声がした...?気のせいか..

 

「あーやっと止めやがったか!噛みついてやろうかと思ったぜ!シュシュシュ」

 

やはりすぐそこで聞こえるようだ、と、目の前の地面をヘビが通っていく。

 

「ったく人間ってジロジロ見てくるなあ~」

 

ヘビが..しゃべっている..

 

「歩いてるだけだってのに。あ~俺っち足ねえか~アハハ」

 

「あの~」

 

「ん?」

 

「しゃべれるのですか?」自分で言っておかしいと思った。

だってこのヘビは確実にしゃべっているのだから...

 

「え!?あんたしゃべれんのかい!シュー」

 

逆に返された。

 

「いや...だって君「いや~まさか生きてるうちにヘビ語使いに会えるとはね~シュシュシュ」

周りを見渡す。誰もいない。

 

「生きてるとき以外どこで会うんやってなアハハハシュシュシュ。おいお~い、あんたさん聞いとんのか~?」

 

「君はヘビなの?」

 

「おいおいからかっとんのかいな~?わいは強いで~猛毒やで~シュシュシュ」

 

「何でしゃべれるの?」

 

「ほんまに猛毒なんやで~?アフリカ生まれのウェールズ育ちっつったらこのワイなんやで~?シュシュシュ」

 

「ねえ、君はヘビなの?」ハリーは少し語気を強めた。

 

「いったいヘビ以外なんやねんな~。悪そなヘビはだいたい友達やで~シュシュシュ」

 

「どうしてしゃべれるの?」

 

「あ~そうか~知らんのやな~?シュシュシュ」

 

何を知らないのだろうか?ハリーは首をかしげる。

 

「アンタさんが今しゃべっち~のはヘビ語やからな~アンタさんがしゃべっち~方がおかしいんでよ~」

 

これは夢なのだろうか、と頬をつねってみたけれど夢ではないようだ..

 

「あんさんばっか質問しよるから~こっちも質問させてもらうで~。あんさん見たところ子供やけどこんな時間に一人でなにしよんさ~?」

 

それからハリーはさらにヘビ語とはなんなのかを聞いたあと、辛い家の中での生活、普段いじめられていること、今日あったことを話した。

 

人に相談をしたことがなかったハリーにとって、ヘビとはいえとても真摯に聞いてくれるヘビにすっかり心を許していた。

 

「こんな風に打ち明けれたのは君だけだよ。」

 

「そらワイやからな~。でもハリーはん、なかなかよう生きてこれたわな~」

 

「ところで君の名前は?」

 

「ワイはヘビオタクに飼われとったからな~。何十とヘビがおったからね~名前はつけられとらんな~。」

 

「抜け出してきたの!?」

 

「そやで~するする~とまるでヘビのようにな~シュシュシュ」

 

「大丈夫なの?」

 

「言うとくけどな~戻る気はゼ~ロ~やで。連れ戻すなんて言うたら噛みつくで~シュシュシュ」

 

「まあ、このままさまよってても捕まっちゃうからな~ハリーはんについてくで~シュシュシュ」

 

「いや、でも、食事もあれだし...僕物置だし...」

 

「物置なんてご褒美やで~暗いとこ大好きやっつ~ねん、食いもんなんて物置で蜘蛛でも食うとくわな~シュシュシュ」

 

「まあハリーはんが嫌ならいいけどな~シュシュシュ」

 

遠くの方で車のカパッという音がして振り返るとパトカーから警察が降りてきていた。

「どうするんねや~シュシュシュ」

 

「パジャマの下に入って!」

 

「何でそんなブカブカなん着とんや~」

 

「後で!」服の下にヘビを入れて立ち上がった。

 

「あっあと言い忘れよったけ~どハリーはん魔」

 

「黙って!!」

 

それからハリーは警官に向き直った。

 

 

 

 

 

 

ハリーはこのヘビをグリンと名付けた。

単に緑色だからである。

あの一件から3度の物置監禁1週間をくらったがハリーはグリンと一緒であるからかあまり苦には思わなかった。これにはハリー自身が驚いたぐらいである。

一1度目の監禁の原因は、もちろんあの一件のこと。

ー2度目の監禁の原因は、ダドリーと取り巻き達が、

『聖なる罰』と称して復讐しに来たときである。

このときハリーは、なぜか、「息ができない!!」と涙目で訴えるマルコムや、ハリーを殴った..かに見えた従兄弟のダドリーがなぜか吹っ飛ぶところや、なぜか宙に浮かんでバタバタするピアーズを茫然と眺めていた。何かの策略かと思ったが、ハリーにはダドリーズがそんなことを考えつく脳みそを持っているとは到底思えなかった。

ー3度目の監禁の原因は、マージおばさんからの贈り物のケーキをダドリーが食べているときに、

ケーキなんて吹っ飛んじゃえと思っていたらなんとケーキが、

べチャリとシミひとつない天井にくっついたことである。

 

こうしたことをグリンに説明すると彼は決まって「だから言ってるやろ~ハリーはん魔法使いなんやから~」と言うのだ。

 

「何で僕はまともじゃないんだろう...」

 

「ハリーはん魔法使いなんやで~。

親から聞いてんけど

イギリスには有名な学校っちゅんがあるらしいで~♪シュシュシュ

ワイも早う行きたいもんや~」

 

「ハイハイ...」(また言ってるよ...)

 

「ま、ハリーはんにも来るときが来たら分かるはずやて~シュシュシュ」

 

 

 

でもまあ、調子に乗るから言いたくないけどグリンが来てからほんの少し未来が明るくなった気がした。

 

 

 







次回は、ハリーの内面的な話です。


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心の琴線

〝3年前〟の一件から、

バーノンダーズリー氏の十八番である

1週間物置監禁の刑がグリンと一緒にいることで

それほど辛いものではなくなったとはいえ、

まだ10歳の少年がそう何度も食べ物を抜かれる訳にはいかない。

しかし...

 

「ふぁ~あ、どした~?」

隅の方からグリンが声をかける。

「またなんだ。」

自身の痩せ細った長い指を見つめてため息をつく。

ハリーは度々『ま、と、も』ではない力を

自身の意思に反して使ってしまうのだ。

「相棒よ~蜘蛛でも食べるんくぁ~い?」あくび混じりにグリンが尋ねる。

「蜘蛛男になれるかもね...」

「アハハ、スパイダーマンか~相棒~?アハハ

眠気覚めちまったじゃねぇ~かよ~

物置でひっそりと1週間!これがホントのスパイだぁ~マぁンなんっつって~アハハ」

「あのさぁ...」「ん~?シュッシュッシュッ」まだ笑いの余韻が残っているグリンが声だけは真剣に尋ねる。

(何がそんなに面白いのだろうか)

「この力って制御することとかってできないのかなあ...」今までは自分はまともではないからと言い聞かせてきたが、力をどうこうするというのを考えついたのはついさっきだ。

一瞬で思いつき即座に諦めてはいたのだが半分ひとり言のように呟くことでなんとか気を紛らわそうとしたのだ。

半ば投げやりなこの質問にこんな素敵な返事がくるとは思ってもみなかった...

 

「できるよ~シュシュシュ」

 

 

 

ーーー

 

 

学校の昼休み。あの一件...いや、二件以来、

ダドリーズはハリー狩りおよびいじめをやめていたので平和な昼休みを過ごしていた。

これはハリーにとってとてもありがたく、

図書室で1人読書にいそしんだり、

1人で、校舎と校舎の間にある仲良し広場で

花や生き物たちを観察することができた。

そう、ダドリーズにいじめられていたハリーには事務的な会話をする人はいても友達はいなかった。

しかし、あと2年もすればプライマリースクールを卒業しセカンダリーに行くこととなる。

つまり新しい環境、新しい人達である。

まあ友達ができるかは分からないが。

どちらにしろ孤独に慣れているハリーにはむしろ人の群れから離れられるのは癒しの時間でもあった。

しかも、今日は絶対に1人でないといけない理由がある。

「よし!ここにしよう!」

(ここならそんなに目立たないしただの花を見てる人にしか見えないだろう)

ハリーは目の前で不規則に風で揺れている一輪の花に意識を集中させた。(1...2..浮かべ!!)...何も起こらない...それから何度かいろんな集中の仕方で繰り返し挑戦し、さあ14回目..「あのー...」と声をかけられた。

ハリーは内心舌打ちした。

(何で今日に...今に限って...)振り返ると

「この花、好きなんですか?」オカッパヘアーの茶髪の女の子だ。

「え、あー、うん。」(何の用だろ...)

「あのー、えっと、これってパ、パンディー...」と言って赤くなる。だんだんと声が尻すぼみになって聞こえにくかったが

「え?」(今パンディーって言ったのかな、それとも...もしかしてパンティー!?)

「あのっパンジーっていう花ですよね?」色白の肌はまだピンクのままだ。

言い直すのを聞いて今度はハリーが赤くなる番だった。ハリーも色白のために分かりやすい。

「え、あーそうなんですか?」知らなくて恥ずかしいのではなく、パンティーだと一瞬でも思ったのが恥ずかしかったのだが、女の子は誤解して「わ、私も最近知ったので詳しくはないんです!」と言ってくれた。フォローを入れてくれるあたりいい子なんだろうな。

 

 

 

算数のテスト、ハリーは他の子よりもいち早く終えていたため昼間のリベンジを決行した。答案用紙を集中して眺めているふりをして(横に動け!!)答案の上の消しゴムに意識を集中していた。しかし、見回りに先生が生徒の間を動き回るのであまり集中はできなかった。

結局、この日はろくに挑戦できずに進歩もないまま終わった。

 

 

 

帰宅途中、グリンの言葉が身にしみる。

(「それもっと早くに教えてよ!!」

「そやかて~そんな簡単にできることちゃうと思うんや~。ワイも親から聞いた話やさかいに~あんまし自信ないんねや~。」

「とにかく意識を集中させて、力を放出できるようになったら力の制御もできるんだね??」

「それどころかある程度なら杖なしでいろいろできるらしいで~んシュシュシュ」

「杖?というかどんな話を聞いたの?」

「ワイのひいじっちゃんが~、アラブの魔法使いに飼われてんて~。んで、その人がすんごい人だったらしくてな~、なんか8歳にして魔法を使いこなしたとか~、一目置かれた人だったとか~なんとか~かんとか~しかじか~」

「それ...子供に聞かせる冗談じゃないの...?」

「これはホントのホントのホントやで~たぶんな~。でも魔法使いはホンマにおるねんで~。てかハリーはんやがな~アハハハハハ」

「とにかくまともじゃない僕でも制御できる可能性があるんだね...??」

「やから~魔法使いやって~。信じてくれへんな~まあえわえわ~元気出してくれてよかったわ~いシュシュシュ」

「まともじゃない人はどのくらいかかるかな?」

「とにかく~そん人は家族が魔法使いやからな~5歳からのな~3年て~」

「そんな...今からじゃあもうセカンダリーになっちゃうよ!しかも僕は魔法使いなんかじゃなくて...まともじゃなくて...どのくらいかかるか...もしかしたらできないかもしれない...」

「まともじゃない人は1月でひょ~いだとよ~アハハ」

「グリン!こっちは真剣なんだからね!」

「わり~わり~ごみんって~」

「ていうかこの話じたい嘘じゃないよね??」

「ワイが本気で話してたん分かっとるやろ~。こんだけなんげ~えことおったら」

「ごめんごめん分かってたよ。ただちょっと...不安だったんだ。嬉しくて。安心した。」

「きっと上手くいくと思うで~神様はちゃんと見とるって~」

「うん・・・ありがとう」

「シュシュシュ~もう寝よ~や~泣き顔見られる前にな~アハハ」

「泣いて..ないよ...爬虫類は..泣けないんだろ」

「どうやろな~おやすみ~シュシュシュ」

「おやすみ」)

 

 

1週間前のことを考えてるともう家の前に着いていた。(今日は嫌みの1つでもグリンに言ってやろう。全然できなかったぞー!って言ったらアイツは何て言うかな「せやから簡単にできひん言いましたや~んシュシュシュ」なんてなハハハ)

 

 

 

夕食を食べ終わり食器を洗い、食卓を拭いて、洗濯物をたたみ終えたハリーはいつもよりドッと疲れが押し寄せてくるのを感じた。昼間の練習の成果は多少はあったのかな。少し明るい気分になってリビングを出て階段下の物置部屋へ行...ハリーの足が止まった。

物置部屋のドアが開いているのが目に入った。

ドクドクドク心臓が急にピッチをあげ始める...

背中に嫌な汗がじとーっと広がっていくのを感じた。

頭が真っ白になった。嘘だろ...いや...何が嘘なんだ...そんなはずないだろう...そうだ...そんなはずはない...。

ふと外の、おそらく車庫の方からバーノンの声が聞こえてきた。何を言っているのかはハリーの耳には入らない。最悪の予感が確信に迫っていた。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ...バーノンの声が段々と近づいてくる。ガチャリッドアが開いた。「ん?小僧、なんでそんなところで立っとるんだ?」理性を限界まで使い心を落ち着けて精一杯の力を振り絞り「いえ、」とだけ震える声で呟いた。聞いてはいけない。2つの意味で聞いてはいけない。聞けばバーノンおじさんに怒られてしまう。いや、そんなことは気にしていない...じゃあなんだ...聞けば最悪の予感が的中してしまうかもしれない...

気づけばハリーは「何をしていたのですか?」震える声で聞いてしまっていた。普段質問を許していないバーノン氏の眉間にシワが寄る。が、どうやらこれは聞いても良いたぐいの質問だったらしい。

「明日はダドリーの自転車レースの日だからな。それの点検だ。」と上機嫌に答えた。「小僧、お前を連れて行こうなんてことには決してならんぞ!分かったらこれをお前と一緒に物置にしまって失せろ!」ハリーはホッとした。それが顔に出たようだ。おそらくバーノンおじさんはハリーが行きたがって残念な顔をするのを期待していたのだろう。それが面白くなかったのかバーノンは「そうだそうだ、あの物置はヘビが出るぞー!つまみ出して殺してやったがまだもう一匹ぐらいおるかもしれんなあ!ヘビはつがいでおるからなあワッハッハッ」

落ち着いていたハリーは一言一句聞き取れてしまう。最悪の予感が当たってしまった...

いや...もっと悪い...

つまみ出すくらいだろうと思っていたハリーの心にグサリと深く深く突き刺さる...

殺してしまっただと...!?

ハリーの絶望的な顔に満足したのかバーノン氏はドアを閉めてリビングへ行ってしまった。

しばらく1人で立ちつくし...ボーッとしていた...

やめろ...理解するな...理解すれば耐えられない...

ゆっくりと物置に向かう...

ハリーは外に出て確認する気になれなかった。

戸を閉めて名前を呼ぶ..

「グリン...グリン...」返事はない

「グリ...グ...うっう...う...「そろそろ出てきたるわ~アハハ」

「グリン!!!」ハリーは渾身の力で抱き締めた。

「グエッハリーはんに殺されてまうわ~シュシュシュシュ」

「なん...で?」

「実はな~あのオッサンはな~ワイの脱皮した殻を外にポーイしただけやねんな~アハハ」「うぅ...」

「ごめんな~心配かけちゃって~シュシュシュ」

「こ...」

「ん~?」

「ぼ..く...」

「はいよ~」

「怖かったんだ...友達を失うのが...親友を失うのが...」

「ほえ~ハリーはんだいぶ変わった人やな~動物をしもべ~とかペッツ~とかやなくて~フレンドってな~シュシュシュ」

 

 

 

 

 

 

次の日の昼休み、今度は邪魔されないように、

図書室の角で、誰にも見られないところで

本を読んでいた...のように見えるだろうが実は僕は本の上に消しゴムを乗せて意識を集中させていた。

(横に動け!!)スーッと消しゴムがスライド...した...!!

思いっきりガッツポーズをしたい気持ちを押し殺して僕はもう一度試してみる...完璧だ!!その他も跳ねさせてみたりくるくる回してみたり...

どうやら昨日、グリンを失うかもしれないと思ったことが僕を精神的に強くしてくれたらしい!

僕はこのまともじゃない力を扱うことができるようになっていた!!

ふと図書室の窓から仲良し広場を見てみると昨日の子が昨日の場所でパンジーを見ていた。

僕は力の使用を練習したいはずなのになぜだかあの場所に行かないといけない気がした。

まだ半分も頭が決めかねているのに足が勝手に図書室を出て階段を降りている?いや、僕が行きたいのかもしれない。いやいや、『かも』ではなく行きたいのだろう...

あの子の後ろ姿が見える。

近づいてきて名前を呼ぼうとしたが...そうだ、名前すら聞いてないじゃないか。

「久しぶり。」僕から同い年に冗談を言うなんて何年ぶりかなとふと思う。

クスッと笑って「久しぶり!」と向こうもこちらを見る。

「パンジー見てたの?」

「うん。綺麗だから。」

彼女はユリアと言うらしい。

「やっぽー何してるん?」ユリアの友達らしき子がユリアに手をふって近づいてくる。

彼女らはどうやらフラワークラブというのに入っていて、仲良し広場の花壇の世話はもちろん校内の花壇に水やりをしているらしい。

こんな言い方は変だろうけど、どうやら僕は人間の友達もできたようだ!

 

 

 

けどやっぱり良いことばかりは続かないもんだ...

 





次も少し駆け足になりますが...


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憎み憎まれ

力を扱えるようになったハリー


 

 

今日はどんよりと灰色の厚い雲が空を覆っている。

何か不吉なことでも起こりそうだが、ここイギリスでは至極当前のことである。また、こんな天気でもこの少年の幸福感は害せないようだ。

「もう車くらいならたぶん浮かせられるよ!」

さっきまで捨てられた競技用自転車を浮かせていたハリーが、楽しそうにしゃべる。

「せやな~ハリーはん半端ないって~10歳でここまでの魔法使用なんてできひんやん普通~シュシュシュ」

街のはずれの寂れた公園にハリーはいた。

秋が終わりを告げようとしていて肌寒い風が吹く。

そのためもあってかより一層みすぼらしく感じられるこの公園は今日も閑散としていた。

ここはハリーとグリンが初めて出会った場所。

 

 

 

ハリーは最近調子が良い。何で?と聞かれれば少し迷うだろう。

同級生の友達ができたこと?

『ま、と、も』になれたこと?

今日もダドリーが分数の補習で放課後居残りだったこと?

ピアーズが体育のサッカーのテストでシュートを撃つときに『な、ぜ、か』後ろに引っ張られて盛大に転んで空振りしたこと?

マルコムがハリーの弁当にこっそり辛子を入れてダドリーズとクスクス笑って上機嫌に弁当を食べていると『な、ぜ、か』三三七拍子のリズムで2分間もむせたこと?

全部だもの!

「ハリーは~ん、気をつけんとダメでっせ~アハハ、でもおもろいな~シュシュシュ」

今日1日の報告を聞いたグリンが笑いながら言う。

「君が言うのなら分かったよ。」ハリーもニヤッと笑ってうなずく。

「いや、でもマルコメっちゅ~ヤツは自業自得でっせ~シュシュシュ」

「まあね。」クスクス笑ってハリーは続ける。

「だいぶ器用に使えるようになってきたよ。あれから制御できなくなるようなことはないし、バーノンおじさんなんか逆に怪しんでるぐらいだよ。」

「いや~ほんにほんに凄いでんな~

とにかく三三七拍子でむせさすなんて~

その発想に敬礼ですわ~シュシュシュ」

 

 

 

 

 

寒い冬がやってきた。校庭には雪が積もっている。

「やっぽー!」ユリアの友達で僕の友達でもあるフローナだ。

「うん。」

「はいそこ同じくやっぽーで返すとこー!やり直しー!」

このやり取りももう日常になっている。

「キャラじゃないよ...。」

「そのギャップがおもろいのにー。はい言うてー!」

「やっぽー...?」

「フッ...!!!アハハハハハハハハ」フローナが笑い声を上げる。

「自分が楽しいだけじゃないか..」まだ笑っているフローナを見て自分もおかしくなって笑う。

なんでもないことだけど僕は今幸せだ。

「おはよー」ユリアも到着した。朝、いつも僕らは仲良し広場に集まってチャイムギリギリまで話しているのだがこの日は集まるのが少し遅かった。

「遅かったじゃーん」

「うん。寝坊しちゃって。」

「ねえ、2人とももうチャイムが鳴るよ!」時計を見上げたハリーが言う。

教室まで階段ダッシュでかけあがるのも

なぜだか楽しく感じる。

 

 

 

 

いじめというのは、対象がいなくなればまた新しい人を見つけるらしい。ダドリーズの連中は、今では遠くからコソコソ悪口を言ってくるか、時々ハリーに軽いイタズラを仕掛けるのがやっとで、落ち着いていたのだが、しばらくすると今度はポルキスという同じクラスの少年が、いじめられ始めた。彼は気弱ではないのだが、少し気取ったところがあるらしく、それがダドリーズのお気に召さなかったらしい。もちろん、いじめを受けていた僕にとって、これは放っておけなかったので間に入って止めていたのだが...

 

 

 

「くそ、何なんだよアイツ...ヒーロー気取りやがって...」

 

 

 

 

「寒いねー」フローナが口癖のように呟く。

「それ何回目ー!」クスクス笑いながらツッコミを入れるユリア。

「寒いのに外にいる僕らって一体...」笑いながら何気なしに校舎を見たハリーが口を止める。

今誰かこっちを見てた...?気のせいか。

誰かがこっちを見ていてハリーと目が合うと奥へ移動していった気がしたのだ。考えすぎか。

 

 

 

ポルキスは階段を降りながら憎しみに包まれていた「くそが...女子に良い顔するために俺を利用しやがって...あんなやつ...ダドリーのデカブツが従兄弟だからってやられないだけなのに...」

 

 

 

 

「ピ、ピアーズ君...?」

「あ?なんだポルキス?」

 

 

 

 

 

 

誰かが僕に地味な嫌がらせをするようになった。

正直、ダドリーズよりもタチが悪い。

消しゴムがない...隣のジュリアさんに借してもらっていると次の時間、丁寧に机の上に戻ってきていた。

この時は、落としていただけなのかな...と思ったが...。

机や椅子に見覚えのない傷、落書き...机の上にはチ●コとでっかく書かれている...(誰なんだろう...こんな程度の低いイタズラ...)皆目見当がつかなかった。

掃除から戻るとただでさえボロボロな僕の手提げカバンが無惨な姿に変わっていた...ペチュニアおばさんは新しい物はくれない。犯人への恨みよりも、

これからどうしようかという気持ちが強かった。

ハリーはもうすぐ閉まってしまう家庭科室へ走った。家庭科室が開いているのは3時までだ。

ダドリーのお下がり腕時計を見る。あと五分...

ハリーはなんとか布をもらうことができた。

裁縫は得意だからなんとかなんとかなるけど...

「今日は徹夜か...」

それにしても誰なんだろう?ダドリーズの面々でさえもここまで陰湿なことはしなかったのに・・・

まさか逆恨みでこんなことを・・・?

 

 

 

 

 

 

教室に戻ってみるとなにやら騒がしい、見たところ僕の机の近くで集まっているようだ。

いや、僕の机だ。

僕に気づいた連中が「おい!ポッター!これなんだよ!」ピアーズがニヤニヤしながら雑誌をヒラヒラとふっている。なんだろう...え...これは...

「ポッターの机の中からこれがでてきたんだぜ!」ポルキスが隅で固まっている女子にも聞こえるように声を張り上げた。

ハレンチな表紙から察するにこれはエ●本だろう...

「何事だ?」先生がやってきた。

「ポッター君がこんなものを持ってきていました。」ニヤニヤを抑えきれないポルキスがピアーズの持っているものへ指を差す。

「...Mr.ポッター..来なさい。」

「僕じゃありま「来なさい。」

弁解の余地も与えられなかった。

先生お得意の、同じことを何度も何度も繰り返す説教をくらう。ホントに耳にタコができちゃうよ。

もっと悪いことに明日、

金曜日の放課後に親を交えての三者面談だそうだ。時間はバーノン氏の『貴重なご都合』があるため、

8時にダーズリー家でするそうだ。

 

 

 

 

 

 

この騒動は1日のうちに学校中に広がったようで、

次の日ハリーが通るたびにコソコソ指をさされて話されたり、おおっぴらに変態野郎呼ばわりされたりした。

あの2人も噂を信じるのかな。もし噂を信じたとして、周りの視線がある中それでも今まで通り仲良くしてくれるのかな。確かめるのも嫌だったので僕は2人を遠くに発見すると遭遇しないようにした。

帰り道、「ハリーーー!!」遠くから2人がやってくる。心の中でもしかしたら2人は...と期待が沸き上がった。

「どうして私たちを避けるの?」フローナが怒ったように言う。

「僕の言うこと信じてくれる?」

「本当は何があったの?」心配そうにユリアが尋ねてくる。ことの顛末を話すと2人は犯人をののしった。

「根性の曲がったクソ野郎だよ!」

「こんなことひどすぎるわ!」

が、ハリーは犯人のことなどどうでもよくなっていた。2人がこんな風に自分を気づかってくれているということだけでハリーは胸がいっぱいだった。

(冬がこんなに暖かいなんて)

「まあ、もし持ってても私はなーんも変わんないよ!てか本当はもってんじゃない?」ニヤニヤしながらフローナが聞く。

「僕はまず買うお金すら持ってないんだよ?」

呆れたように返すと

「お金があったら買うんでしょ?」ユリアもニヤニヤしながら聞いてくる。

「ハイハイあるだけ買うよ。じゃなきゃエ●本強盗だ。」

 

 

 

 

 

2人の優しさで気持ちが和らいだのも束の間、

8時からの三者面談...犯人への怒りが今、遅れてじわじわとやってきた...。

家でいることは耐えられなかったためいつもの公園でいつも以上に『ま、と、も』でない力を発散する。ブランコを2つとも全力で動かし、街灯をつけたり消したりした、冬の5時はうす暗い。

グリンを首に巻いて犯人へ毒を吐いていると...

「何を!!何をしてるんだぁ!!」

驚いて横を見るとポルキスとピアーズが道を疾走して遠ざかって行くところだった。

 

 

 

 

 

三者面談まであと1時間...気が重くなる。

バーノン氏が帰ってきた...。

プルルルル プルルルル電話が鳴る。

キャンセルの電話だといいなあ。

ペチュニアおばさんが出た。おばさんは電話の時にいやに高い声を出す...「はぁい!ダドちゃんね!ちょっと待ってね!ダッダー!」ダドリーがずれたズボンを上げながら歩いてくる。キャンセルの電話ではなさそうだ...「おう。おう。おう。アイツが?おう。おう。首に?おう。おう。よくやった。」ガチャリ

(はあ...低学年の子の首に傷でもつけたのか...)

「お父さん、アイツ、ヘビ巻いてる」ダドリーが僕を指差してしゃべる。今グリンは物置部屋にいる。一瞬意味が分からなかったがハッとした。バーノンおじさんはまだ理解してないようだ。「ダッダーや?どうゆうことだい?」「アイツが緑のヘビを巻いてたって。ピアーズが見たって、ヘビ。お父さん、アイツ、ヘビ、飼ってる。」

ハリーは駆け出した。物置に向かう。「グリン!!行くよ!!」「ん~フゴフゴ」

「待たんかい小僧!!」バーノンおじさんが怒声をあげる、襟を捕まれた!「あの抜け殻はそやつのだったのか!!よくもワシの家でそんな――」バーノンおじさんの手がするりと滑った。

ハリーは外へ飛び出した。捕まってはいけない。

がむしゃらに走る。

冷たい空気で肺が痛い。耳が悲鳴をあげている。

顔の筋肉が固まったようだ。

どれほど走ったのだろう。

気づけば山のふもとにまで来ていた。

 

 

 

 

 

「見失ったじゃと..」

「はい...私もハリーが家を飛び出したのが見えましたので後をおったのですが...信じられないかもしれませんが...ダンブルドア...あの子は自分の周りに何か保護呪文のようなものをかけて走っていたんですよ...ような、といいますのも完全ではなかったものなので。」

「10歳で魔法の統制...」

「ダンブルドア...あの子の環境は酷いものです...それに...あの子はもう十分なくらい辛い目にあってるんです...ですからもう「今はまだダメじゃディーダラス」

 

 

 

 

 

 

 

ハリーとグリンは眠っていた。あれからだいぶさまよった2人は小屋を見つけて、そこで暖をとって眠っていた。「まさかハリーはん火の呪文まで使えるとはね~シュシュシュ」

「ありゃ、もう寝てる~睡眠秒読み~てか~おやすみ~シュシュシュ」

 

 

 

 

 

 

 

ハリーは気弱そうな男を見上げていた...

「ご、ご、ご主人様、そ、それでは、わ、私にた、魂をす、す、す、捨てろと...?」

蚊の鳴くような声で嘆いている...

俺様とて本望ではないというのに...

「捨てろとは言うとらん。お前の魂の一部だけだ。魂の一部を俺様の魂と入れ換えるのだ。」

しばらくうじうじしていたがようやく決したようだ...

「ハリーはん!!ハリーはん!!」

額の傷跡が痛い...ハリーはグリンの声で目を覚ました。体に悪寒が走る。「ずっとうなされててんで~!」

「もう大丈夫だよグリン...ありがとう...」

暖炉に目をやるともう火は消えている。

 

 

 

 

 

この家出騒動以来いよいよハリーは外出が禁止になった。まあ出ようと思えばいつでも出れるのだが...

それに今は学校に行きたくなかった。

ダドリーがユリアとフローナも僕のあの姿を見たということを親切にも教えてくれた。

これは嘘ではないだろう。

なぜならピアーズとポルキスを怪しいと踏んだ2人はピアーズとポルキスをつけていたらしい...

こんな話ダドリーの脳みそでは作れない。

そんなことよりもグリンを飼う事が認められたのが何よりもの救いだった。バーノンおじさんは認めたくないといったような表情だったが「あの輩が...」とか「こやつめを飼うのを認め...わしは絶対に反対だが...しかし...」などとぶつぶつ言っていたが何のことだろう。

 

 

 

 

 

卒業式も終わり(もちろん僕は学校に行っていない)夏休みに入った。

セカンダリーからは学校に通えるのだが、行きたいとは思わない。自分は普通とは違いすぎるのだ。

 

 

 

 

 

 

今日も変わらぬ日常...郵便を取りに行く...水道料金の封筒(これを破いて捨ててしまったらどのくらい怒られるかなあ)ともう1つ分厚い封筒だけだ。変わった封筒だなあ。ハリーは凍りついた。目がおかしくなったのかな2度3度4度読み返す...確かにこう書いてあった。

 

 

 

 

~階段下の物置部屋

ハリー・ポッター様~

 

 

 

 

 




だいぶ急ぎ足のつもりだったのですが...


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ホグホグワツワツ?

やっと本編に入れました!


まず、階段下の物置部屋に向かう。

慎重にドアを開けて分厚い封筒を投げ入れた。

「おい小僧!遅いぞ!」

リビングからおじさんの声がする。

不安を抱きつつ何もない風を装って水道料金の封筒を渡す。

少ない朝食をかきこみ、ダーズリーの面々が食べ終わるのを待つ。

食器を洗い、テーブルを拭き、洗濯機をかければ朝の仕事は終わりだ。

結局、物置部屋に戻ったのは9時過ぎだった。

「これ良いのか~い渡さなくてさ~シュシュシュ」

(そうか、グリンはアルファベットが読めないんだな)

「これ、僕宛なんだ。間違いでもないはずだよ。だって、階段下の物置って場所まで書いてあるんだもの。」

「ハリーはん宛に?」「そうみたい。」

「ユリアちゃんとフローナちゃんはハリーはんと やっぱり話した~いって思うとんちゃうけ~?シュシュシュ」

「うーん...。」

「ワイも気になるで~開けて~な~開けて~な~!」

丁寧に破き中を見る...

立ち上がった獅子と蛇、鷲、熊に囲まれて大きくHの紋章?のようなものが目に入る。

そして...

 

~ポッター殿~

~この度ホグワーツへの入学を許可されました~

 

なんだ...これは...

さらに

 

・1年生は競技用箒の持ち込みは禁止です。

・持ち込めるペット(フクロウ、猫、ヒキガエル、鼠)

・ローブ(最低2着)

・大鍋は厚さ......

...............

 

 

なんだこれは...?

「な~な~おせえてや~シュシュシュ-マークみたいなんついてるけどなんてなんて~?」

「入学許可証だって...」

「ほえ~これがね~じゃあユリアちゃん達のじゃなかったんね~ふ~ん。てことわ~ハリーはんついに学校デビューってやつやねんな~シュシュシュ」

「これグリンがよく話してるやつなのかな?」

「まさしくそれやろ~ね~」

「僕ってホントに魔法使いだったんだ...」

 

下には必要な教科書リストが載っている...

「教科書がいろいろあるみたい」

「な~んかワクワクするでんな~」

「えぇ...なんか薬の材料がいるらしいけど...」

「どしたん~?」

「河童の爪垢?とか涙草草?とか本当にあるの...?

からかってるようにしか思えないんだけど...」

「書いとるからにはあるんやないの~?とにかく河童の爪垢は存在するしな~シュシュシュ」

「え...河童ってたしか日本のモンスターだよね?

ダドリーの持ってた『世界のイカれた奴ら』っていう本で見たことあるけど...でもあれ創作もんだよ?」

「ワイ会ったことあるで~!あれ~話したことなかった~?」

「へぇ...そうなんだ...」

「あ!信じてへ~ねんな~?ほな話したるでえ!

あれはワイがま~だアフリカおったときでな~

昼間あっついけ~川に水浴びに行っちったら先客がおって~そこでガラガラっちと河童が話しょ~て~

まあそれがガラガラっちとの初対面な~

ガラガラっちの話しはしたん覚えと~やろ~?」

「うん。たしか一緒に売人に捕まっちゃったガラガラヘビのお友達だよね?」

「そ~そ~ほんでな~そいつカッパのくせに蛇語話しよって~話し聞いとるとな~なんか日本からオイル船?って~のに乗ってきて~中東っつ~の?に来て~なんかいろいろあって~スズメ運河?とかゆうとこ泳いで~アフリカ着いたとか言うてて~ってことがあったんな~」

「スエズ運河だね...いるんだ...河童...」

いろいろと情報が入ってきて混乱しそうだ...

いるのか...河童...

あらためて紙に目を下ろす...

これ...箒なんて誰も好き好んで持って行かないだろう...

競技用って...お掃除大会でもあるのだろうか...

「ハリーはんもちろん行くんねやろ~?」

「うーん...」

手紙のふざけたような内容に、疑心が拭えない・・・

自分は果たして行っていいのだろうか...

あまりにも分からない事が多すぎる...

「他にどんなこと書いてるか聞かせて~な~」

ハリーは最初から、書いてある文を全て読み聞かせた。

「ペットにヘビはダメなんか~ま、ワイもそろそろ自立せんとな~」

「君はペットじゃないよ。それに向こうで僕に友達ができなかったらどうするのさ?」

「ハリーはん、み~んなここに行く子はハリーはんと同じなんやで~友達できるで~」

「まあそれはいいとして...こんなのどこに売ってるんだろう...あっ!」

ハリーはある箇所に目を止めた。

 

・ローブ(最低2着)

 

「ん~?どしたんな~?シュシュシュ」

「ローブって書いてある!ほら!家の近くによくローブ着てる変な人がいたでしょ?」

「ワイは公園以外いっつもハリーはんの服の下に隠されと~き~な~外は見てへんよ~」

「そうだった...あのね!今日だってペチュニアおばさんが窓から外を見て『あのみょうちきりんな人達またいるわ』って言ってたし...でもあの人達......うん!間違いないよ!きっとあの人達、魔法使いなんだ!」

 

 

 

 

 

 

ハリーは脱出の機会を伺っていた。

自ら庭のベンチを拭いたり、

庭の散水ホースの蛇口を磨く仕事をかってでた。

庭からならすぐに外へ出られる。

今日は火曜日なのでバーノンおじさんは仕事で出掛けている。

ダドリーは取り巻き達と遊びに行っている。

問題はペチュニアおばさんだ。

チャンスはおばさんが2階の掃除をしているときと、買い物に出掛けた時だ。

最初のチャンスがやってきた!2階から掃除機の音が聞こえてくる。

ダッシュで庭から家の前に出た。

さっそく少し遠くにローブ姿の人を見つけた。

腕時計を見ながら、つま先をトントンしている。

ローブ姿の人物がこちらを見た。

ハリーは早足で近付いていく。

どうやら女性のようだ。

(えっとまず「こんにちは。魔法使いの方ですか?」だ、よーし...)

が、3メートルくらいの距離になった瞬間に困惑した表情を見せバシッという音とともに消えてしまった...。

驚かせてしまったのかな...?

 

 

 

 

 

ヘスチア・ジョーンズは先ほどのことを

目の前のヒゲの長い老人に話していた。

「気付かれてしまったかもしれません...すみません」

「かまわんよヘスチア。

ハリーにはもう手紙を送ってあるしのう。

護衛ももう必要ないじゃろう。」

 

 

 

 

 

勝手に外へ出ていた事がバレてハリーは、

トイレ掃除をさせられていた。

(そういえば僕...教科書を買うお金も持ってないや...)

「ちゃんとやってるの?それが終わったら次は洗面所を磨きなさい。分かったの?」

「はい...」

トイレ掃除を終えて、洗面所を磨いていると...

(おばさんは神経質すぎるんだよ全く...これ以上どこを...)「ひやゃあああぁぁ!!」(...ん?)

おばさんの悲鳴の原因はフクロウだった。

様子を見に行くとおばさんが震える手で手紙を開けている。

ガチャッ「ただいま、今帰ったよペチュニアや」

「あなた!大変よ!これを読んで!」「ん~?」

手紙を読み、おじさんの顔が赤から紫に...そして青白くなった...

 

 

 

 

 

「連中の思うようにはならんぞ!!」バーノンおじさんは落ち着きをなくしてウロウロ歩き回り何度も立ち上がったり座ったりを繰り返している。

「小僧!物置に入っとれ!!」

ついに自分は物置待機となった。何があったんだろう?気になる。

「学校のことかな?」「それしかないわな~シュシュシュ」

 

 

 

ーーー

 

 

 

ここに来るのは二度目だ。一度目は赤ん坊が置いていかれるのを見届けたのだが、今回はその赤ん坊をこちらの世界へ連れてくるように説得しにきたのだ。

一筋縄ではいかないだろう...

なんせゴテゴテのマグルだ...

深呼吸をしてベルを鳴らす。

 

 

 

ーーー

 

 

リビングではミネルバ・マクゴナガルとバーノン・ダーズリーが舌戦を繰り広げていた。

「あの子はイカれてなんかいません!あなた方からどんなに酷い扱いを受けようとここまで耐え抜いてきました!」

「あんたらが押し付けておいて何を言うとるんだ!ここまで育ててやったことにあやつは感謝するべきだぞ!イカれた問題児のコワッパめをいまだにここに住まわせてやっとんだからなぁ!!」

「そこまで厄介者だと思うのなら尚更あの子をこちらで!来年の夏までホグワーツで預けることに異論はないでしょう!」

「これ以上イカレポンチのお前らみたいな連中を増やしてたまるか!!」

両者は無言でにらみ会う...

 

ハリーは聞き耳を立てずとも十分に会話を聞き取ることができた。

(なんかすごい言いあらそってるなあ...)

 

 

ーーー

 

 

 

コンコン。

しばしの静寂の後、ノックする音が聞こえてドアが開いた。

「はじめまして。わたくしはミネルバ・マクゴナガルと申します。あなたがホグワーツ魔法魔術学校で学びたいかどうかでこの方は納得していただけるそうです。」

(こんな場所に入れられてかわいそうに...)

「!!」

物置から明るい場所に出てきたハリーを見てマクゴナガルは言葉を失った。

頬がこけて痩せ細っている。

(まさか食事まで...)

気を取り直して問いかける

「どうしますか?」

ハリーはポケットから紙を取り出す

「これのことですよね?」

バーノンの目が衝撃に見開かれる...

「小僧!...どこでそれを...!」

「今はそんなことどうでもいいでしょう。

さあポッター、どうしますか?」

正直、ハリーは迷っていた。

この学校をまだ完全に信用できている訳ではない...

しかし...このままセカンダリースクールに行って普通の男の子として一生を暮らすか、それとも勇気を出してこの学校にするか...

チラリとバーノンおじさんを見てからマクゴナガルに視線を戻す。

 

「僕、ホグワーツに行きたい。」

 

 

 

 

 

 

次の朝、マクゴナガル教授が迎えにきてロンドンへと向かった。

「僕、あの、えっと、ホグワーツで、えっと、その、ちゃんとやっていけますか?」

「あなたは魔法を制御できますね?」

「はい...少し...。」

「その年でそれは十分すぎるくらいすごいことですよ。」

まだ不安気な表情を浮かべているハリーを見てか、マクゴナガルは腕を伸ばした。

「なら適性を試してみますか?」

「はい!」自分の力を試すことは嫌いじゃない。

「わたくしの腕を掴んでください。」

「それではいきますよ...3...2...1」

へその裏から引っ張られるような感覚がしたかと思うとどこかのバーに到着していた。

「この付き添い姿あらわしは子供は魔法への耐性のなさから普通魔法酔いするものですよ。」

「マクゴナガル先生様、こっちですだ」

ひげもじゃの大男が手を振っている。

「ここからは、ハグリットが案内してくれますよ。

ハグリット、では、この子をお願いします。」

「えっと、おはようございます。よろしくお願いいたします。」

「おうハリー!わしゃハグリットだ!おめぇさんに会ったときはまだほんのちいせぇ赤ん坊だったんだがな!成長しちょるな!」

「僕と会ったことがあったんですか?」

「ああ!おめぇさんはまだ赤ん坊だったんだ!おめぇさん目はリリーの目だな!顔はどっちにも似てねぇなぁうん。まあどっちかっちゅうとリリーよりかもしれんなぁ。」

 

 

 

 

 

僕はハグリットからいろんなことを聞いた。

両親が死んだのは交通事故ではなかったこと。

両親が莫大な遺産を残してくれていたこと。

ホグワーツのこと。

僕と同じように魔法のことを知らないで育った子もいて、その子達でもちゃんとやっていけるということ。

そして、闇の魔法使いヴォルデモート卿が両親を殺し、その後僕を殺そうとしてなぜか消え失せたこと。

 

 

 

 

ダイアゴン横丁という魔法界の商店街のようなところで、学用品の買い物をするべく、いろいろな店を回った。

魔法薬の材料を売っている店では

「おいおい!人面犬の睾丸が12シックルだー?ちとボッタクリすぎじゃねえのか?」

金髪の男が叫んでいる。

 

結局、ハリーは、

見た目の10倍も中が広い仕組みになっているトランクを、ハグリットから誕生日祝いとして買ってもらい、

(ハリーにとって初めての誕生日プレゼントだった。)

魔法薬の材料、杖、大鍋、ローブ、教科書とその他使えそうな本(大量)を買って買い物を終えた。

帰り道、ウィーズリー家の方達と出会った。

「アーサー!買い物か?ほれ、こっちはハリーだ!」

「おおハグリット!こんにちはハリー」

「こんにちは」

同い年のロンと出会った。

彼も今年からホグワーツらしい。

 

 

 

 

家に着いた僕はひたすら勉強を始めた。

元々、ペーパーテストだけはみすぼらしい格好のハリーにも先生はちゃんとした点数をつけてくれていた

ので勉強が好きで得意だった。

「頑張らなきゃ」

きたるべきホグワーツでの授業に向けて...

 

 

 

 

次の朝、4羽のフクロウからかなり重そうな荷物が届いた。

「フクロウめ!!今度来たらぶっ叩くぞ!!」

物置に入って中を見てみると...

『ナイスガイのナイスな食事』

『太れる野草100選〝転がりすぎ注意〟』

『初級少年の変身術魔法理論だビローン』

の本だった...

差出人の手紙を読むと

 

『少年よ、大食漢願望を抱け。

追伸 ホグホグワツワツな食事が君を待っとるよ。

この本は謝罪の気持ちじゃよ byワシ』

とだけ書いてある...

 

 

 

 

 

今からでもセカンダリーに変えれるかな...

 

 

 

 




次回投稿は4月以降です。


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ポッターを取ったぞ!

分けます。分けます。帽子ですから。


バーノンおじさんに送ってもらい

「ダドの学校説明会がなかったらお前なんぞ送っとらんからな!感謝しろイカレポンチめ!」

キングズクロス駅に到着したハリーは大きな失敗に気づいた。

「9と4分の3番線がない...」

あと30分で出発だが...

場所を間違えたのだろうか...

何度もチケットを見直す。

確かにここはロンドンのキングズクロス駅である。

ハグリットに行き方を聞いてなかった...

ふと、ハグリットとダイアゴン横丁に入っていったときのことを思い出した。

ポケットから杖を取り出す。

ハグリットはこうやってたっけ

杖で壁をトントンと叩く。

「おい」後ろから襟首を捕まれてどんどん引っ張られていく。

なんとか後ろを見ると長身のおじさんが壁にめりこんでいくところだった。

そのまま引っ張られハリーも壁を通り抜けた。

赤色の汽車が白い煙を吐き出している。

少し遠くで5歳ぐらいの男の子が「紅だあああああ!」と叫んでいる。

褐色の長身のおじさんがようやくハリーを解放し向き直る。

「君、何をしてたんだ?」

「えっと、あ!ここは9と4分の3番線ですか?」

「そうだが......それより君は何をしていたんだ?」

「えっと、ここに来る方法が分からなかったので...」

「そうか君は初めてなのか......どちらにしてもあんな大勢のマグルの前で杖なんか出して怪しまれるとは思わんのかね?」

「すみません...」

「わたしは魔法省に勤めているのだがね、マグルへの隠蔽工作で迷惑をこうむるのはこっちなんだ。

まあ、わたしは魔法生物管理部だがね。

友人が迷惑をこうむるんだ。

たかが忘却呪文をかけるだけで済むと思っているのかも知れないが」

横から同じく長身の青年が

「父さんもういいじゃないか。」

と言った。

「しかしな、こういう意識の欠如が「エイモス!!」

ウィーズリーおじさんだ。少し怪訝な表情を浮かべている。

「おうアーサー!」

「なにをしているんだ?君があんな目立つ形で

壁を通り抜けたからマグル数人が霊を目撃したと驚いていたよ。おかげでこっちに来るタイミングをかなり待つことになってね。

なんと!引きずっていたのはハリーだったのか!

やあハリー」

「こんにちは。」

ハリーも挨拶を帰した。

「いや、この子がマグルの前で杖を出して...ハリーと言ったかね?」

「ああ。この子はハリーポッターだよ。」

「ほっほー!この子が!今年からホグワーツとは聞いていたが...わたしはエイモス・ディゴリーだ。よろしくな。しかし君、いくら有名だからといって軽率な行動はいかんよ。」

そう、どうやら僕は魔法使いの世界では有名らしい。

当時、最強だった闇の魔法使いヴォルデモート卿が両親を殺し、そして、まだ赤ん坊だった僕を殺そうとしたときになぜか殺せずに、ヴォルデモート卿は消えてしまったそうだ。

「よろしくハリー!僕はセドリック・ディゴリー。

セドリックでいいよ!」

「うん!よろしくセドリック!」

「アーサー、子供はどうした?」

「うん...

モリーがフレッドとジョージに説教中だよ...

ポキポキ関節クッキーなる物を売ろうとしていてね...

そろそろ時間だ。呼んでこないと。」

 

 

 

 

 

 

 

汽車に乗って場所を探す。

コンパートメントはほとんど満席だ。

「君、そのトランクはリバプール・マジックのブランド物だろう?僕のと同じだよ。ま、僕のはSランクだけどね。」

プラチナブロンドの髪の少年が話しかけてきた。

「うん、買って貰ったんだ。」

このトランクはハグリットから

誕生日プレゼント兼入学祝いとして買って貰った物だ。

相当高いらしい。

僕は遠慮したのだが、ハグリットが気にするなと買ってくれた。

デザインも性能もとても気に入っている。

「へぇ。どこも空いてないんだろう?

僕のところに来るといい。クラッブとゴイルがいるけど1人分は空いてる。あの2人は食べるばかりで僕の話し相手にならないのでね。」

「本当?ありがとう」

かなり苦手なタイプの子だが、このまま空きを探し続ける訳にもいかないのでありがたく入らせてもらうことにした。

「君はそこそこ良い家柄なんだろ?」

「うーん...分かんない...」

「ふーん。君は今年からホグワーツか?」

「うん、君は?」

「同じだ。僕はドラコ。ドラコ・マルフォイだ。ドラコでいい。そっちは?」

「僕はハリー・ポッター。」

「本当か?そうか。なるほど。」

ドラコが額の傷を見て納得する。

「ハハハ。やっぱり僕は見る目があるようだ。

君を見たとき他の凡人達とは何か違うと思っていたよ。」

「でも、僕、魔法界のこと何も知らないんだ...」

ガチャッ ドアが空いてガタイの良い角刈りの男の子が入ってきた。

「クラッブ、ゴイル、こっちはハリーポッターだ。

ハリー、こっちがクラッブでこっちがゴイルだ。」

「よろしく!クラッブ、ゴイル」

「「よォろしく」」

野太い声を出す2人だ。

「お前らどこに行ってたんだ?」

「トォイレ探してた。そしたら行きたくなくなった。」

「オォレまたトォイレ行きたくなってきた。」

「オォレも。」

また出て行っちゃった...

ドラコは気にしていないようだ...

いつもあんな感じなのだろう...

「ハリー、魔法界には家柄の良いのと悪いのとがいる。

そこらへんは僕が教えてあげるよ。」

ドラコが手を差し伸べてきた。

気乗りはしなかったが...

「...うん。よろしく。」

数秒握手を交わした。

それからは、しばらくドラコの質問タイムが続いた。

「君は闇の帝王に襲われた時のことを覚えているのかい?」

「ヴォルデモート卿のこと?」

ドラコがビクッとした。

「正気か!?」

「ご、ごめん!僕、前にも同じことあったんだけど、えっと、うっかりしちゃって...」

「うっかりって...」

ダイアゴン横丁でも杖選びの時に同じようなことがあった。

ヴォルデモート卿という闇の魔法使いは死してなお恐れられていて、魔法界では未だにこの名を口にする人はいない。

「ごめん...えっと...とにかく緑の光がいっぱいの嫌な感じの夢はよく見るけどそれがその時のかは分からないし覚えてないかな...」

「ほお、それで合ってると思うよ。

アバダケダブラの呪文光は緑色だと

父上がおっしゃっていたよ。」

「アバダケダブラ?」

「死の呪文だ。」

汽笛が鳴り、列車が徐々に動き出した。

ハリーは自分が今から魔法界に行くんだということを自覚した。

もう止められない。全く知らない世界。

期待と不安で少し胸が苦しくなる。

運命の歯車は回りはじめている...

 

 

 

 

 

「ハリー、ペットは何を持ってきているんだ?」

さすがにトランクの中の爬虫類ケースにヘビを入れているとは言えない。

「なにも持ってきてないよ。もし、だけど指定の動物以外を持ってきている人がいてバレたらどうなると思う?」

できるだけ気にしていない風に尋ねる。

「さあね。退学じゃないか?」

「ホントに!?」

持ち物検査とかないかな・・・

「というか、さすがにそんなことするヤツいないだろう。

おっと、穢れた血のマヌケ野郎ならやりかねないかもな。」

「穢れた地?」

「ああハリー、これは君に教えておかないとね。いいかい?魔法使いには僕みたいに由緒正しい魔法族の家で生まれた純血とマグルから生まれた連中がいるんだ。勿論その間の混血もね。マグルの家から生まれた魔法使い、つまりマグル生まれを穢れた血と呼ぶんだ。マグル生まれにはあまり関わらない方がいい。」

「どうして?」

「どうしてって、ハリー、連中はマグルから生まれてるんだぞ?マグルの血が流れてる。想像するだけで寒気がするよ。マグルは魔法使いを迫害したんだ。力もないくせに。それに、スリザリンは純血だけをホグワーツに入学させるべきだと主張していた。もし僕にマグルの血が流れているなら首を吊るね。

でも僕は違う。マルフォイ家は先祖代々魔法使いで繋がれてきた名家だ。

全く、いけしゃあしゃあと穢れた血が歩いているのを見ると吐き気がするよ。あいつら、マグルに育てられて手紙が来るまでホグワーツのことも知らなかったんだぜ?」

「うーん...僕もダーズリーおじさんおばさんに育てられたからマグル育ちなんだ。

それに...手紙が来るまで僕もホグワーツなんて知らなかった...今でも知らないことばかりだ。」

「君は特別だ。それに君はマグル生まれじゃない。

君だってマグルに育てられたかった訳じゃないだろう?」

「そうだけど...」

ガラッ クラッブ、ゴイルが帰ってきた。

「ずいぶんと遅かったじゃないか。」

「「おォかし買ってきた。」」

 

 

 

 

 

 

 

「イッチ年生はこっちだー!イッチ年生はこっちだー!」

(どの世界もそんな甘かないんだ。

むしろこっちの世界の方が厳しいのかもしれない。)

木のボートに揺られながらハリーは思う。

「あたま~下げろ~!」

ボートが城の中の船着き場に入った。

陸に上がる。

「ご苦労様ハグリット。では、1年生はわたくしに着いて来てください。私語は慎みなさい。」

マクゴナガル教授だ。

大理石の階段をだいぶ上がると3メートルぐらいの高さのあるドアのある空間に出た。

「今から入るのは大広間です。そこで組分けをします。ではわたくしに続いてお入りなさい。」

大広間に入ると天井が...ない!!!

星が見えている!

「空が見えてるよ!」

感動して横にいた栗色の髪の毛の女の子に話しかける。

「魔法で天井がないように見えているのよ!

ホグワーツの歴史という本に書いてあったわ!」

「そうなんだ!よく知って「私のパンツはクソ色なのよ~ホグワーツの歴史という本に書いてあったわ~」

スッと横から来たロンがその子の声色に似せて言った。

女の子はフンと怒って先に歩いて行ってしまった...

「やあハリー!汽車の中でも少し探したんだけどどこら辺にいたの?」

と、そのとき後ろに腕を引っ張られた。

「気をつけろ!そいつは血を裏切る者だ!」

ドラコだ。

ロンが怒って口を開こうとしたとき、

マクゴナガル教授の話が始まった為、

ロンは一度と睨んで前を向いた。

「この帽子を今から皆さんにはかぶってもらいます。」

『ヘイヘイヘーイ、千年の歴史ラララー!

組分けせよ!組分けせよ!組分けせよ!

昨日は母ちゃん組分けだー!

明日は父ちゃん分けてやるー!

グリフィンドールなら君は♪

とってもとっても勇敢よー勇猛果敢なのよ君は♪

ハッフルパフなら君は♪

優しくてー誠実なのよそうなのよ♪

レイブンクローなら君は♪

賢くてー知識の海が溢れちゃう♪

スリザリンなら君は♪

狡猾でー野望を持ってるあら素敵♪

いや~久々に歌ったな~。それでは2曲目はフゴッ!!!!』

マクゴナガル教授が帽子を持ち上げた。

「では、今から組分けをします。アルファベット順に名前を呼ぶので名前を呼ばれた生徒は前に出てこの椅子に座りなさい。それではまず、アボット・ハンナ!」

組分けが始まった。

ドラコの方が先に組分けされた。

彼の願いは帽子が頭に触れた瞬間に叶った。

『スリザリン!!』

どんどんと自分の番が近づいてくる。

そして...

「ポッター・ハリー!」

ざわざわ...

「あのハリーポッターか?」「おいどけって見えないぞ!」「ハリーポッターって言った?」「あの黒髪の子だ!」「傷は見えるか?」

椅子までがいやに遠く感じる...

椅子に座ると帽子の裏側で視界が真っ暗になった。

『う~む。これは難しい。はてどうしたものか...』

(どこの寮の素質もないのかな...)

ハリーは不安に思った。

『そうではない。むしろその逆だ。どの寮の素質も重ね揃えておる...う~む。

君は優しい心を持っておる。敵でさえ場合によっては容赦をするほどの...ほう...優しさ故の厳しさも...しかし優しさではない厳しさもあるな...ハッフルパフというよりはむしろ...レイブンクローか...?...君は学ぶ楽しさを知っておる...頭も良い...知識と知恵を大事にしておる...いや、しかし知識を蓄えることよりもむしろその使い方に比重が向いておる...おもしろい...やはり精神的にはグリフィンドールか...正義感を持っておる...決断するときの勇気には子供とは思えないものがある...しかし...それならばむしろ...う~む...スリザリンはどうかね?』

(えっと...おまかせします。)

『君はスリザリンに入れば間違いなく偉大になれる。どうかね?』

(それはどっちでもいいです...)

『ふ~む...少し考えさせておくれ...』

それから10分くらいがたった。

ざわざわがだいぶ大きくなる。

「どうかしたのですか?」

痺れをきらしたマクゴナガル教授の声だ。

『いや、先生殿。あと少しで決まります......』

(どこになるんだろう...)

『スリザリン!!!!』

ようやく帽子は叫んだ。

一瞬の沈黙...そして

「ポッターを取った!!」「スリザリンがポッターを取った!」「イエエエエエエエイ!!」「スリザリンにハリーポッターだ!」

「ポッターを取ったぞ!」

 

 

 

 

 

 

それから食事を終え、監督生の案内で寮の談話室に着いた。

組分けをしたのがだいぶ前のことのようだ...かなり眠い。

監督生のアーノルド・トルーガがこちらを向いた。

「1年!とりあえずそこに一列で並べ。」

早く寝たいなあ...

「右から自己紹介しろ。」

「え、えっと、リカード・デイビットです。よ、よろしくお願いします。」

緊張気味に金髪の少年が答える。

「聞いたことあるぞ。確か...」

「あ、えっと・・・親が元死喰い人です。」

「あぁそうだったな。思い出した。」

「祖父が亡くなってからはマグルの孤児院に預けられてました。」

顔に少し憎しみを浮かべてリカードは言った。

「そうか。次は...やあマルサス!」

「久しぶりです!」

ニコッと笑って育ちのよさそうな黒髪の丸顔の少年が答える。

「みんな、こいつはマルサス・トーマスだ。

知ってるヤツもけっこういるだろう?」

その後もどんどん自己紹介が進んでいくがどうやら親の繋がりでここに来る前から知り合っている人がほとんどだ。

「やあドラコ。最近会ったばっかりだったな。」

「父上主催の8月末のパーティー以来だから確かにそうだな。」

「ルシウスさんにまたよろしく言っといてくれよ。」

「分かった。」

ドラコはどうやらかなり親密な関係のようだ。

「そして、あぁ、我が寮の期待の新人ハリーポッターだ!」

「よろしくお願いします。」

 

 

 

 

やっと寝室に着いたハリーはとんでもないことに気づいた。

なんと4人部屋だ...グリンと話すことができない...

トランクを空けて囁く「ごめん、まだ外に出せない...」

「全然かまへんよ~ヘビのエサクッキーもまだあるからさ~おやすみ~シュシュ」

パジャマに着替え寝る準備を済ます。

「ハリー、さっき見て分かっただろうけど、ここではトルーガ家よりも良い家はこの僕のマルフォイ家しかない。」

「すごい家なんだね」

 

 

 

 

 

「そう。だからスリザリンでは...ホグワーツでは僕が一番だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これからは飛ばさずにじっくり書きます。
ちなみにハリーは裸眼です。
メンバー紹介させてくれ!


リカード・デイヴィッド
ο金髪キツネ目。
両親はデスイーターでアズカバンに投獄されている。
祖父が他界した以降は頼る親戚もいなかったため、
マグルの孤児院に預けられた。


マルサス・トーマス
ο黒髪オカッパの丸顔
父親が『魔法族人口論』の著者で有名。
この本はマグルの人口抑制を説いている。


アーノルド・トルーガ
ο監督生。純血の名家。





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初日

職員会議バンザイ
やっとやっと授業です...


朝、ハリーは誰よりも早く目が覚めた。

自分が最初どこにいるのか分からず一瞬だけ混乱した。

緊張からか目が冴えている。

音をたてないようにカーテンを開けた。

部屋はランプで薄暗い。

天涯つきのベッドから降りて、さっきまで自分の寝ていた場所を見つめる。

未だにこんなふかふかなベッドで寝たことのないハリーはまだ半分信じられなかった。

小窓を見るとまだ外は真っ暗だ。

泡がぷかぷかと上に上がる。

そうか、ここは湖の中あたりの高さにあるのか。

小窓をなでると手先にひんやりと気持ちの良い感覚が伝わってくる。

どこからかハリーの顔を涼しい風がわずかに通り抜ける。

台の上に置いていたダトリーのお下がり腕時計を見ると時刻はまだ5時すぎだ。

パジャマからローブに着替える。

ふと、部屋全体を眺めてみた。

ハリーは一番奥のベッドなので簡単に見渡せるのだ。

地下の石で作りだされるこの閉鎖的な雰囲気が階段下の物置部屋と似ていて心地良い。

まだ他のみんなは睡眠を貪っているようだ。

微かに寝息が聞こえる。

同室には金髪でキツネ目のリカード・デイヴィッドと

親が有名な本の著者のマルサス・トーマス、

そしてドラコだ。

これから机を並べる仲間達はみんな幼い頃から魔法教育を受けてきた者達ばかりだ。

かなりできるのかもしれないけど、僕だって負ける気はない。

少しの闘志を芽生えさせながらハリーは談話室に降りていった。

緑がかったランプにはもう火がついている。

一日中ついているのだろうか。

細長い談話室を抜けて入り口のドアを開ける。

寮を出てホグワーツの魔法階段を上がった。

こんなに広いのに誰もいないと少し気味が悪い。

大広間に行くともうすでに朝食ができている。

すごいなあ...

昨日、ハリーは自分の胃袋が思っていたよりも大きいことに気づいた。

骨付きチキンをこれでもかとたいらげたのである。

ダーズリー家ではあんなにいっぱい食べさせてくれたことがない。

しかし、今は好きなものを取って食べれるのだ。

突然与えられた自由に少し違和感を覚えながらも、

ハムとキャベツをトーストに挟んで自分なりにアレンジして食べてみる。

大広間全体を見渡すと教職員テーブルには小人みたいな先生とマクゴナガル先生、それにダンブルドア校長だ。

生徒はレイブンクローに数人のおそらく上級生と

ハッフルパフのテーブルには誰もいない。

え!?...いや、ハッフルパフのテーブルの下でタンクトップのゴリゴリが腕立て伏せをしている...

クラッブ、ゴイルより余裕でゴツい...

うん...僕は疲れているんだ...うん...

「またこんな朝から筋トレですかミスタータイソン。」

マクゴナガル先生が呆れながら話しかける。

どうやら幻覚ではないようだ...。

「はい!今日はバッチリ超回復してるんで怠ることなくレッツマッスルです!」

顔をあげて恐ろしいほどスマイルで答える。

「まったく...。それくらい授業の方も日々鍛練して欲しいものです。」

「はい...」

あ、少し元気なくした。

グリフィンドールの席には昨日の栗色の髪の毛の子が着いたようだ。

昨日の謝罪をしとこうかな...僕が悪い訳じゃないけど一応ね...

歩いて行って隣に腰かけた。

「昨日はごめんね。」

「あら、別にいいわ。あなたのせいじゃないもの。」

少しツンとした言い方だ。

まだ少し怒ってるのかな...?

「それで?」

「え?」

「それで?他にも用があるの?」

「えっと、ロンは別に悪いやつじゃないんだ。

けっこうおもしろいやつでダイアゴン横丁で会ったときなんかいろいろ話聞いたんだけど7人も兄弟がいるんだよ。」

「...」

彼女は無言だ。

「えっと、だから別にロンも悪気があった訳じゃないんだよ。冗談のつもりだったんだ。」

「で?」

「え?」

「それだけ?」

「えっと、とにかく昨日のは誤解なんだ。」

「分かったわ。」

いや...絶対分かってないと思いながらも次の話題を考えていると

「他に何かあるの?」

「え?別にないけど?」

「だったらなんでそこにいるの?」

「え、いや...」

「ここはグリフィンドールの席よ。スリザリン生の席じゃないわ。」

「でも他に人いないし...」

「あなた規則を破るつもりなの?」

「校則にはオッケーて書いてたよ!」

ハリーはとっさに嘘をついた。

もしかしたらダメかも...『他寮の席に座るべからず』とか...

「そう...。」

本当に書いてあるものと信用したのか納得してくれたようだ。

「君はどの学科に興味がある?」

「全部よ。」

「え?」

「全部。どれも楽しみだわ。教科書は全部暗記したし魔法も一通り試して全部できたわ。」

「へぇー!すごい!君も小さい頃から英才教育みたいなのを受けてたの?」

「私の両親はマグルよ。魔法の勉強は手紙が来てから。まあ、普通の勉強は確かに幼い頃から頑張っていたわ。」

「へえ!実は僕も手紙が来るまで自分が魔法使いって知らなかったんだ!」

「知ってるわ、あなたハリーポッターでしょ。

昨日の組分け何分待たされたと思ってるの?

それにあなたのことは本に書いてあるわ。

マグルの親戚に預けられたって。」

「本があるの!?僕の!?」

「正しくは例のあの人について書かれた本だけどね。

私があなたなら絶対調べるけど。」

「今度読んでみるよ...」

「そうした方がいいわ」

「君の名前は?」

「ハーマイオニーグレンジャーよ」

「ハーマイオニーって呼んでいい?」

「どうぞご勝手に。」

「呼び寄せ呪文がまだ僕よくできないんだけどハーマイオニーは?」

「呼び寄せ呪文?そんなの教科書にあった?」

「あ、なんでもない。」

そうだ。これは教科書じゃない本のだった...

「やってみてよ。」

「まだできないんだけどね...

アクシオ!コップよ来い!」

3席離れたコップに向かって唱えるとスーッとゆっくり机の上を移動して来たかと思うとまたUターンして戻ってしまった。

こんなに上手くいったのは初めてなので危うくガッツポーズしてしまいかけた。

「なかなかやるじゃない。」

「まだまだだよ...

まあ魔法使いの両親を持ってる子達は小さい頃から魔法の勉強してるけどお互い負けないように頑張ろうね!」

「私は負けないわ。」

食べていたスクランブルエッグを飲み込んでハーマイオニーが自信満々に言った。

「ああ君とは良いライバルになれそうだよ!」

「どうかしら。」

 

 

 

 

 

少し離れた教職員テーブルではフリットウィックとマクゴナガル、ダンブルドアがたった今目撃したことについて議論していた。

「あの歳で呼び寄せ呪文を完璧でないにしてもあそこまでやるなんて信じられない!」

キーキー声で小人のような背のフリットウィックが言う。

「わたくしもホグワーツで勤めて以来あそこまでの腕の生徒は...」

「ふぉっふぉっふぉっ美男美女といった感じじゃのう。ワシもナンパの腕を磨いてリア充せんとな。」

「「校長!」」

 

 

 

 

 

 

 

今日の最初の時間割は魔法史だ。

「どうも。わたくしがカスバート・ビンズです。」

ゼイゼイ声で先生が挨拶した。

ビンズ先生はゴーストだった。

ある日、授業に行くと体を職員室へ置き忘れていたらしい。

科目の説明があり、さっそく授業が始まった。

魔法史は...苦手だ...。暗記は得意なのだが...。

単調な一本調子の声で抑揚のない音を聞き続けるのはなんとまあ辛い。

「当時の魔法省大臣だったチャールズは、1639年のスコットランドのゴブリンの反乱により1640年に議会を開き............近年では名前を言ってはいけない例のあの人がゴブリンの名家であったヨーク家とその他諸々を惨殺しその血が湖を真っ赤に染め.........」

血生臭いゴブリンとのいざこざの話もこんなにおもしろくなくできるなんて...

隣を見るとドラコはもう夢の中だ...

 

 

 

次はレイブンクローと合同の薬草学の時間だ。

「はいはいみんな温室に入って。

私はポモーナスプラウトです。

みなさんには実習と教室での授業を受けてもらいますが今日はいきなり実習をしてもらいましょう。

これが何の植物か分かる人?」

先生が茎の先端から四方に葉の生えた植物を持っている。

ああ...あれは涙草々だ...ないと思っていてあったやつだ...

少ししてレイブンクローの生徒数人とスリザリンではマルサスが手を挙げた。

「では、ミスターえー...」

レイブンクローの生徒が当てられた。

「ブートです。それは涙草々です。それの粉が魔法薬学の材料に指定されてました。」

「そうです。これをすりつぶして乾燥させたものを材料として魔法薬に使います。

レイブンクローに5点。」

そのときブートが仲間にしたり顔を見せた。

マルサスはそれを見てイライラしているようだ。

「涙草々はそれ以外の用途もあるのですが誰か分かる人?」

今度は誰も手を挙げない。

廊下で指を差されたりヒソヒソ話されるのにうんざりしていたので目立つのは嫌なのだが...

ハリーは手を挙げた。

「はい、ミスターポッター」

「はい。涙草々はくすぐると葉の先から液を流します。それはミステリアス・ティアーと呼ばれてます。その液を飲むと痛覚を鈍らせ痛みを5分前後和らげてくれます。」

スプラウト先生は少し感心した表情を見せた。

やった

「では服用後の副作用は分かりますか?」

「えっと、一時的に意識を失います。」

「スリザリンに10点」

それから黙々と涙草々の液をボトルに入れる作業が続いた。

終業のチャイムが鳴り、暑かったのでいち早く温室を出るとリカードが話しかけてきた。

「やるなハリー!さすがスリザリンの新星!」

マルサスも「よく勉強してるんだなハリー。」と感心したように言う。

ドラコ達を外で待っていると、テリー・ブートと数人が出てきた。

ハリー達を見ながらひそひそと話しながら歩いて行く。

するとリカードが続々と出てくるレイブンクローの生徒の集団にも聞こえるように「テリー・ブートのあの顔見たか?猿でも分かるようなことでも自慢しないと他に何もないからなあ!」と言って笑い声をあげた。

テリー・ブートも言い返そうとしていたが、そのときちょうどスプラウト先生が出てきたので睨んで去っていった。

ハリーは居心地の悪さを感じながらみんなと少し後ろを歩いて行った。

 

 

 

 

 

次の時間は2限続きの変身術だ。

「変身術は極めて危険です。

わたくしの授業ではいいかげんな態度で授業を受ける生徒には即刻退出してもらうことになります。」

みんなの背筋がピンと伸びる。

1人に1つずつマッチ棒が配られた。

「手首を柔らかく使うイメージで杖をマッチ棒に向けて振ってください。

スワップ・チャーム!(マッチ棒が針になった)

このように今からこのマッチ棒を針に変えてもらいます。

焦らずに根気強くやりなさ――」

ハリーは一刻も早く杖を使った授業がやりたかったので話の途中でもう小声で呪文を唱えていた。

「スワップチャーム」

マッチ棒が針に変わった。

「――い。今日は全ての寮の授業を見てきましたが、

成功したのはグリフィンドールの1人だけです。

また、その1人も授業終わりのギリギリでした。

初日の授業で成功するなんて数年に1人か2人しかいないものですから皆さんも、できなかったからといって落ち込む必要はございません。焦らず丁寧にを心がけていれば1ヶ月もすればだいたいの人ができるようになります。」

まずい...

「スワップチャーム」

戻らない...

「はい。ミスターマルフォイ」

「先生。その1人って誰ですか?」

「ハーマイオニーグレンジャーです。」

ハリーは左手で針を隠し右手で挙手した。

「はい。ミスターポッター」

「針からマッチ棒にしたいときはどうやってするのですか?」

「もうマッチ棒を針に変えたのですか!?」

「違います!えっと、確か金属から木材に変化させるのは難しいのですよね?」

「よく教科書を読んでますね。そうです。やっていることは似ているようでも、この逆は3年生の内容です。」

ただでさえヴォルデモートを倒したって言われて特異な目線に晒されるのに...

さっきの薬草学でもう目立ってしまっている...

これ以上はまずい...

「では、始めてください。

今からそれぞれまわっていきます。」

みんな一斉に初めて騒がしくなった。

とりあえずこれをどうにかしないと...

「エリミネイト!消失せよ」

...って消してどうするんだよおおお...

やってしまった...

ついにマクゴナガル先生は2つ前の席のゴイルのところまで来てしまった。

「ミスターゴイル。杖の持ち方がそもそも違いますよ。」

「先生。」

「できましたか?」

クラス中の視線を感じる。

「違います。えっと、無くしてしまいました。」

「消失させたのですか!?」

マクゴナガル先生の表情が信じられないという顔になっている。

消失呪文はけっこう高度な技なのだ。

「いや、えっと、落としました。」

明らかにマクゴナガル先生は疑っているようだ...

「どのあたりに?」

バレる...顔を少し下に伏せると、

ちょうどクラッブの足元にマッチ棒が見えた。

「あ、そこです!」

危なかった...でも誰のマッチ棒だろう...

そのまましばらくわざと針にせずにできないように演じた。

できないふりは意外とキツいし辛い。

しばらくするとクラッブが

「先生。マッチ棒がないです。

たぶんオォレ間違って食べちゃいました。」

 

 

 

 

次はグリフィンドールと合同の魔法薬学だ。

この授業の担当は寮監であるスネイプ先生だ。

「我輩の授業では杖をバカみたいに振り回すようなことはせん。

吾が輩は魔法薬学の教師であるからにして君達には理解し難いであろう大鍋の神秘を教えるのだがこの中の全員がそれを理解するとは期待しておらん。」

スネイプ先生が汚いものを見るように少し目を細めて僕を見た。

「ポッター。アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じた物を加えると何になる?」

いきなり質問!?

「え、えっと、眠り薬です。」

「モンクスフードとウルフスベーンの違いは?」

え!?同じものだったぞあれは...

「同じものです。えっと、トリカブトのことです。」

「ベゾアール石を見つけようと思ったらどこを探す?」

「えっと、山羊の胃です。」

「なんの解毒剤だ?」

「大抵の薬の解毒剤になります。」

ほんの一瞬だけ驚いた表情が見えた気がした。

スリザリンのみんなもよくやったという風に

目で合図した。

「甘いなポッター。アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じた物を加えると確かに眠り薬になる。だがただの眠り薬ではない。非常に強力で飲んだ者は然るべき手段を講じなければ目を覚ますことはない。これを別名生ける屍の水薬というのだ。ここまで分かっていないと正解とは言えない。」

分かっていたけどそこまで聞かれていないだろう...

「モンクスフードとウルフスベーンは同じものでトリカブトのこと別名アコナイトとも言う。こんなことも知らんのか。」

これも知っているが...そうか!

これからレベルの高い授業が行われるということを暗示しているのかこの先生は...!

「ポッター。おそらく君は英雄だからという思い込みでこれらの知識を完璧に身につけるということはしなくていいと考えたのだろう。スリザリン3点減点。」

えぇ...

 

授業の内容は簡単だった。

ハリーとドラコとハーマイオニーは完璧な爪伸ばし薬を調合した。

 

 

 

 

闇の魔術に対する防衛術の教室に向かうまでの間、

ドラコに純血主義について教えられた。

「父上に手紙を書いてもいいかい?

ハリーに純血主義について説いたことは父上も喜ぶだろう。というか君がスリザリンになったこともお伝えしないとね。」

正直ハリーは純血主義に賛同する気にはなれない。

 

 

 

 

今日最後の授業はこの闇の魔術に対する防衛術だ。

「み、み、みなさん。は、は、は、はじめまして。

ク、クィリナス・ク、クィレルです。」

なんだろう...なんか見たことあるような...

「わ、わ、わたしはや、や、闇の魔術にた、対する術をお、お、お教えします。」

それにしてもビクビクしすぎだろう...

あれ...さっきから頭が痛い...

ゴイルが後ろでコッソリ...のつもりだろうがお菓子を食べ始めた...マジか...

「こ、こら!だ、だ、だ、ダメですよ!そ、それは、わ、わ、私があ、預かっておきましょう。」

クィレル先生が近づいてきた瞬間

頭痛がピークに達した。

「う...先生、医務室に行ってきます。」

 

 

 

 

 

ハリーは医務室のベッドにいた。

まさか授業開始初日に医務室に行くことになるなんて...

でもあれは普通の頭痛じゃなかった...

いやいや

こんなことじゃダメだ!しっかりしろハリー!

マダムポンフリーさんが薬を持ってきた。

「心配しなくてもあなたみたいな子はいっぱいいるわ。これを飲みなさい。」

「これを飲んだら寮に戻ってもいいですか?」

「ダメです。このホームシック薬は肉体を疲労させて熟睡させることで精神を安定させ回復するものなので肉体が疲労した状態でうろうろするのは危険です。」

「肉体を疲労させるって大丈夫なんですか!?」

「睡眠がピークになれば戻りますし安全に疲労させるものなので大丈夫ですよ。安心して飲みなさい。」

本当だろうか...

ハリーはグイッと飲み干した。

 

 

 

 

 

目の前が真っ暗だ。ハリーは後ろ向きに歩いている。

「あ、良いところにクィレル先生。」

後ろからビンズ先生の声がした。

「な、なんでしょうビ、ビン、ビン、ビンズ先生。」

ハリーは後頭部から声を発している...

「ゴブリンのヨーク家惨殺事件の資料を運ぶのを手伝ってもらえないでしょうか?」

「も、もちろんですビン、ビンズ先生。」

ヨーク家...懐かしい...あの忌々しいやつらめ...

ハリーは懐かしい記憶を思い出していた...

とてつもない怒り...

悲鳴が聞こえる...耳障りだ...

『バイオレイティ!八つ裂きにせよ!』

コイツらはタダで殺す訳にはいかない...

なぶりなぶって...

血しぶきが飛び散る...

ハリーは手当たり次第に呪文を飛ばす...

『クルーシオ!』『バイオレイティ!』『クルーシオ』

足元にまだ動いている飛び出した心臓...

ハリーはゆっくりと感触を味わって踏み潰した...

甲高い笑い声をあげる...ゆかいだ...

ゆかいでたまらない...

俺様を怒らせ...「ハリー!ハリー!おい!しっかりしろ!」

ドラコだ。怯えた顔をしている。

まだ動悸が激しい。

「どうしたのですか!」

慌ただしくマダムポンフリーが駆けつけてきた。

「ハリーが!...どうしたんだハリー?」

映像を思い出して横の洗面器に吐いた。

マダムポンフリーが背中をさすってくれている。

だいぶ落ち着いたきた。

「ごめん。大丈夫。ちょっと悪い夢を見てて...」

あれはなんだったんだろう...

 

 

 

 

 

 




次は最低でも3月ですね。


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2日目

今回は特に何も事件はないです。
文字も少なめ


マダムポンフリーが夕食を運んできた。

そういえば、ドラコがお見舞いに来て、帰ってから数時間がたっている。

みんなはちょうど大広間で夕食を食べている頃か... 少し虚しい気持ちになった。

そんな気持ちを察してか 「まだホグワーツでの生活も始まったばかりですから、 これからいくらでも時間はあるのですよ。」 と、優しく声をかけてくれる。

「無理して食べなくてもいいですからね。 食べきれなかったらそのまま残しておきなさい。」

ホグワーツの料理はなんてったっておいしい。

量もたくさんある。

ハリーはまず、ソーセージを2本皿によそって食べた。 焼き加減が最高だ。

黙々と胃袋に詰め込む。

満腹感を得ると急にまぶたが重くなってきた。

マダムポンフリーが皿を片付けにやってくる。

「あの、僕、明日はもう朝から戻ってもいいのですよ ね?」 グリンのことが心配だ。

少し哀れんだ笑みを浮かべて 「昼からになさい。気負いすぎはよくありませんよ。」

と、マダムポンフリーが返す。

「気負ってはいません。僕、本当に大丈夫で...」

起き上がろうとすると急に肩からじわーっと 疲労感が伝わっていく。

ダメだ...もう疲れた...眠い... ハリーは眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

翌朝、ハリーはこの日も早朝に目が覚めた。

薬の効果も切れてなんだか快調だ。

時間はまだ5時

こっそり医務室から出ようとすると...

「どこへ行くのですか?」

あちゃー...マダムポンフリーだ。

「僕、もう元気です。」

「では、熱を測りなさい。赤になったらこちらへかしな さい。」

青いボールの形をした温度計を手渡される。

ハリーがそれを握ると3秒ほどで赤になった。

マダムポンフリーへ手渡す。

「36度5分....。いいでしょう...行きなさい。」

まだ少し不満気だが、マダムポンフリーは渋々といった感じで了承した。

 

 

 

 

 

 

音を立てないように寝室のドアを開けるとまだみんな寝ていた。

トランクをベッドの上に持ち上げ、自分もベッドに上がりカーテンを閉める。

トランクを開けると

「ふぁ~ハリーはんか~?久しぶりやな~シュシュシュ」

「ごめんよグリン。遅くなって。」

「大丈夫やで~食べ物まだあるしな~シュシュシュ」

それからハリーは学校のことをいろいろとグリンに教えたり、久々の会話を楽しんだ。

気づけばもう6時半だ。

「僕、ご飯食べてくるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食に降りていくと、下の方から口論が聞こえてくる。

大広間の門のかんぬきのところで誰かがぶら下がっている。

「いいからそこからおりんかあああ!!!」

管理人のフィルチさんの声だ。

何があったのか気になるハリーは早足で階段を降りる。

「ここがダメならどこで懸垂をすれば良いのですか!」

この声は...

「そ!こ!は!ぶらさがるところではない!!!」

大広間の前につくと、ぶら下がっている人の顔が見えた。

昨日のハッフルパフの上級生だ。

「なんです こんな朝から。」

マクゴナガル先生が来た。

「先生。僕はただ懸垂をしているだけなんです。」

「降りなさいミスタータイソン。ハッフルパフは1点減点です。あなたはもう少し魔法使いらしい鍛練の仕方をなさい。」

半分諦めたようにマクゴナガル先生が言った。

「おや、ちょうどいいところにミスターポッター。

あなたには話があります。きなさい。」

僕を見つけたマクゴナガル先生からさっそくお呼び出しだ...

なんだろう...何か悪いことしたかな...

初日から医務室へいったことかな...でもそれなら僕以外にもいたし...別にそんなことでいちいち呼ばないだろう...じゃあなんで...

医務室とは逆側の階段を登っていきマクゴナガル教授の部屋へと案内された。

「入りなさい。」

怒られるのを覚悟した。

「そんな不安な顔をしなくてもよろしい。

単刀直入に言います。あなたはできるのにできないふりをしているでしょう?」

「はい...」

バレてた...

「注目を浴びたくない気持ちも分かりますがかえってあなたの為になりませんよ。

変な癖をつけてしまえばせっかくの才能も然るべき時に出せなくなります。

当たり前のことですが、次からはどの授業も真面目に受けなさい。」

「はい...」

少し暗い気持ちで部屋をあとにしたが、

大広間につくにつれ、だんだんと明るい気持ちに変わっていった。

僕は魔法を学ぶためにここへ来たんだ。

遠慮なんかしててもしょうがないじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

一限目はフリットウィック先生の妖精の魔法の授業だ。

この授業の担当はフリットウィック先生でレイブンクローの寮監でもある。

とても背の低い先生は甲高いキーキー声で出席を取り始めた。

ハリーの名前の番まで来ると明らかにテンションが違っていた。

妖精の魔法の授業を終えると次は闇の魔術に対する防衛術の時間だ。

前回は体調不良で休んでしまった分今回はしっかりと受けないといけない。

クィレル先生が教科書を読みながらみんなの席の間を通っていきハリーの方に来るにつれ、額がチクリと痛むのを感じた。

先生が近づくにつれ痛みが大きくなっていく。(またか・・・このままではまずい。)

額を抑えて痛みをこらえる。声を我慢できず、「うっ」と声を出してしまった。静かな教室に声が通る。「ど、どうしましたかポ、ポッター君。」急に痛みがスーッと引いていくのを感じた。「いえ、なんでもありません。」あの痛みは何だったんだろう。

天文学では授業の終わりに先生から驚きの発言があった。

「惑星の動きに関して一人ずつとても簡単な質問をしていくので答えてもらいます。教科書の5ページまでで出すので今から10分間で覚えてください。答えれなければ一人につき3点減点をします。では始め。」

3ページっと・・・よし、大丈夫だ。

結局、クラッブとゴイルで3点ずつひかれた。

 

 

 

 

 

 

今日は授業が4時間だけだった。

談話室でドラコ達と楽しく会話する。

「マルサスの父さんはだいぶ儲けたんだろう?」

リカードが足をぱたぱたさせて尋ねる。

「うん。『魔法族人口論』一冊だけで一生食べるのに苦労はしないと言っていたよ。まあこんな世の中だから純血が軽く扱われるけど今だに父さんの信者は多いね。」

この手の話は僕は苦手だ...

「僕...図書室に行ってくるよ。魔法薬学のレポートを書かないと。」

「ハリー!あれは来週の月曜日までだぜ?いちにーさんよん...まだ5日もあるじゃないか!行っかせないぞ!」

リカードが手を引っ張る。

「いや早めにしたいんだ。」

「もういいだろリカード。ハリーはスネイプ先生に良く思われていない。レポートの内容で減点されたくないんだろうハリー?」

「うん...」

「完成度の高いものを出せばきっとスネイプ先生も君を気に入ってくれるさ。放せよリカード。」

「ちぇ~早く戻ってこいよ~!」

「あ...ありがとうドラコ!」

カバンを持って談話室を出た

ハリーは図書室へと向かった。

階段を登りながら純血主義のことを考えていた。

いつまでもこんな風に逃げていてばかりじゃダメだ...

 

 

 

 

 

 

 

 

茶色い髪の毛の子が自習をしている横に座る。

「ハーマイオニー?」

「ん、ハリー?」

「うん。グリフィンドールも授業がないの?」

「そうよ。スリザリンもなのね。」

「そうだよ。あ、そういえば君だけらしいね。

マッチ棒を針に変えられたの。」

「ええ、理論をしっかりと分かっていればあんなの簡単だったわ。あなたはまだできないの?」

ハリーはできると言いたかった。

ここまでさらっと女の子に言われてできないと言うとバカにされそうだ...でもそれを示す証拠がないしここではできない...

「えっと、次の授業にはできそうだよ!」

「へぇ。」

絶対に信用していない...

ハーマイオニーは興味を無くしたようにまた、自習をはじめた。少し斜めになった眉毛がもう話しかけるなと言っているようだ...

できることを証明できないのがもどかしい...

ハリーは次からは全力で授業に当たろうと決心した。

 

 

 

 

 

 

 

それからの1週間は魔法史以外でハリーは優等生ぶりを発揮した。

魔法薬学のスネイプでさえもハリーのことを認めざるを得なくなった。

普段包丁などを手に持って使うことのない魔法族の子供達に比べ材料の刻み方などは、

家庭科の得意なハリーは

教科書に書いてあるよりもいい方法を見つけてしまうのだ。

「.........スリザリンに1点...」ボソッ

 

 

 

 

 

 

 




次回からハラハラドキドキです


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不和

土曜日になり、ホグワーツに来て以来、

初の休日がやってきた。

前日に徹夜ですべてのレポートを

終わらせていたハリー はこの日、

昼近くまで睡眠をむさぼっていた。

起きて、ベッドのカーテンを開けると

他のベッドはどれも空だ。

みんなはもう談話室へおりていっているようだ。

トランクをベッドに持ち上げて、カーテンを閉める。 「グリンおはよ。」

「おはよ~さ~ん。よ~寝たなハリーはん!」

「たまにはいいじゃないか。グリンお腹空いてない?」

「大丈夫やで~シュシュシュ」

「じゃあちょっと談話室におりてくるね」

ハリーはパジャマのまま談話室へとおりていった。

同室のドラコとマルサスとリカード、

それにパンジー・パーキンソンが談話室のド真ん中でお茶会をしているようだ。

他にも隅っこなどで同級生や上級生が数人で固まって紅茶を飲んでいる。

最初こそ上級生は怖かったが、身内にはフレンドリーで良い人達ばかりなので1年生の僕らもすっかり景色に溶け込んでいる。

僕に気づいた4人に声をかける。

「おはよ。今さっき起きたんだ。ちょっと今からシャワーに...」 「やあハリー。今起きたのか?まだ眠そうだな。」 アーノルドことアルドだ。アルドは純血の名家トルーガ家の長男だ。

「昨日ちょっと夜更かししててね...今からシャワーに行ってくるよ...」

「もう昼だぞハリー、やれやれだぜ。

ポォッター1点減点。」 リカードが声を低くしてスネイプ先生の声を真似る。 少し似ていたので、僕もみんなも笑った。

 

 

 

シャワーから戻ったハリーは、ゴブストーンの試合を観戦していた。 ゴブストーンとは、宙を飛び回るビー玉の魔法を使った遊びで、ハリーも何度かやらせてもらったがとてもおもしろい。 ドラコに手取り足取り教えてもらったおかげで1回だけ勝つこともできた。 ドラコの純金のみごとなゴブストーンセットで行われる 試合は、たびたび上級生も観戦しにきていた。

 

 

 

夕方になってハリーは図書室に来ていた。 西日がさす図書室は不思議な気持ちにさせてくれる。 ハーマイオニーを探すとすぐに見つかった。 近づいて見ると魔法薬学の予習をしているようだ。 「やあハーマイオニー。」 横に腰かける。 「こんにちはハリー。」 一瞬手を止めて、また羊皮紙に書き出している。

「耳腫れ薬の要点かい?」

「ええ、次はあなたに負ける訳にはいかないもの。」 はて、どうゆうことだろう。

「君が調合に失敗したことなんてないと思うけど。 僕が君にいつ勝てたっていうのさ?」

「とぼけないでちょうだい。この前の透明爪伸ばし薬のときに、私よりも5分も早くに完成させていたじゃない。」

「あー...スピードは関係ないと思うけど... というか、それをいうなら最初の普通の爪伸ばし薬の ときは君がぶっちぎりで1番早かったじゃないか。」

「ええ、そうね。でも私あなたに少しでも負けたくない の。」 とてつもない対抗心だ...

「嬉しいような悲しいような...」

「それに聞いたわ。宣言通りにマッチ棒を針に変えられ たらしいじゃない。でも並んだ気にならないでちょうだい。追いつかれたら突き放すまでよ。」

急に誉められてびっくりした。

とりあえず嬉しさが顔に出ないように最大限努力して 「僕も頑張るよ!」と返した。

「あなたは一体どんな本を持っているの?」

「う~ん、授業の教科書と後は『初級少年の変身術魔法理論だビローン』とか『ユニーク逸脱呪文集』とか..」ハリーは思いついた本を4つほど話した。

「へぇ、なかなか読んでるのね。見直したわ。」

「あ、ありがとう。君はどんなのを読んでいるの?」

ハーマイオニーの口から弾丸のように出てくる本の数々から自分はまだまだだということを思い知らされた。「後は...『トルーガ家の財宝』とかね。たしかスリザリンにご子息がいるでしょう?」

「アルドだね。アーノルド・トルーガ。でも財宝って?」

「知らないの?トルーガ家は昔、ゴブリンとの戦争の際に...」

「ハリー!」

話の途中で誰かの声が入った。

黒髪の丸顔の少年が歩いてくる。

マルサスだ。

「ハリー、ここに居たのか。そろそろご飯だ。大広間に行こう。」ハーマイオニーをいぶかしげに見ながらマルサスが聞く。

と、襟首を誰かに後ろからグイと掴まれた。

結局、僕らは図書室の秘書マダム・ピンスに追い出されてしまった。

「ハリー。あまりあいつとは仲良くしない方がいい。あいつはグリフィンドールだ。」

もうここではっきりしておかないといけない。

「そうだよ。でもハーマイオニーは友達だ。僕にとってはグリフィンドールでもいい人はいい人なんだ。」

「おいおい...あんまり言いたくはないけど...ドラコ達が知ったらあまり良くは思わない。最悪外されるぞ?」

「うん...そうなることも覚悟してる...」

「いいか?ドラコ達に外されるってことはスリザリン全員から避けられるんだぞ?分かってるのか?」

「充分わかっているよ...」

「いいや分かってない!グリフィンドールと俺達の敵対関係はそんなぬるいもんじゃない!そもそもグリフィンドールだって俺達を敵視してるんだぞ?どこの寮よりも俺達を嫌ってるんだ!なんでそこまでしてお仲間に入るなんてまねをするんだ?」

「ハーマイオニーもロンも僕の友達だよ。ただそれだけのこと...」

「お前たち、何をしてるんだ?」

アルドだ。

 

 

 

 

 

 




次回からはまた、長めの文に戻ります


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亀裂

「僕は、ハーマイオニーともロンとも縁を切るつもりは一切ないよ。」

ハリーは強い意志を示した。

「うん...何も縁を切れとは言うつもりはないんだけどさ...あまり関わらない方がいい。特にドラコたちの目があるところではね。でもコソコソ関わっていてもいつかボロが出るとは思わないか?」

核心をつかれた。

この状況はまさにそのボロだ。

「確かに今まで僕はみんなに知られないようにハーマイオニーと図書館で会っていた。でも...うん。今決めた。これからは隠すことをやめる。」

「ハリー。君に後悔してほしくないんだ。キツイ言葉を言うようだけど君は優柔不断すぎるよ。グリフィンドールの奴と仲良くしてるのがドラコたちに知れたらどうなるか。たぶん...みんなは甘くない。」

マルサスは真剣な表情だ。

今、僕らは空き教室で話をしている。

図書室の外でアルドに声をかけられたときマルサスはハーマイオニーとのことは話さずにただの軽い口喧嘩だとごまかしてくれた。

「分かってる。分かってるんだ。でも僕はやっぱり納得できないよ。」

「君はスリザリンに選ばれたんだ。そして僕もだ。君を大切な仲間だと思ってる。君はどうなんだい?」

「僕だってそうだよ。」

「ならなんで分かってくれないんだ?君はあんなやつらとつるんだって悲しい思いをするだけじゃないか。」

マルサスは懇願するように話す。正直心が痛い。スリザリンのみんなもやっとできた友達だ。マルサスの気持ちも分かる。けど僕は・・・。

「君はハーマイオニーやロンのことを誤解してる。確かに他のグリフィンドールの人たちのことはよく知らないけど二人は大丈夫だとはっきりと分かるんだ。」

「ロン?君は他のグリフィンドールのやつとも・・・。ハリー。二人と大勢どっちを取るんだ?」

「どっちも取るよ。結果として大勢を失うことになったとしてもね。」

「君は・・・でも覚悟ができてる訳じゃないだろう?なあ・・・頼むよ。」

マルサスは辛そうな顔でハリーを見る。言葉を後悔しているように唇を噛んだ。

痛いところをつかれた。マルサスがアルドにうまくごまかしてくれたとき、正直ホッとしている自分がいたからだ。結局どちらも失いたくないから今まではっきりと言えずここまできているのだ。マルサスはスリザリンのみんなを大切に思うハリーの気持ちも分かっているはずだ。自分の言葉がハリーの決断を早めてしまうことになると思ったのだろう。

「覚悟は・・・近いうちに・・・。」

「よく考えてくれ・・・。」

マルサスは暗い表情を浮かべながら教室を後にした。

ハリーは一人教室に取り残された。

僕は弱い。

夕闇の教室でしばらく思考がストップした。

コツコツコツ。フクロウが窓ガラスをつついている。窓を開けると紙がくくられた足をつきだしてきた。ほどいて読んでみると汚い字で『ハリー。暇だったら明日お茶でもしませんか?ハグリット』と書いてある。

正直迷った。こんなことがあったあとで明るくふるまえるだろうか?

まあ無理に明るくふるまう必要もないか

そうだハグリットに相談でもしてみよう。

ハリーはすぐに紙の裏にOKと走り書きをしてフクロウの足にくくりつけた。

 

 

 

 

 

ハグリットの小屋に向かう途中ロンに会った。ロンは友達と向こうから歩いて来る。ハリーは声をかけた。

「やあ。調子はどう?」するとロンの隣にいた少年は怯えたようにそそくさと歩いて行き、ロンは申し訳ないというよな顔でハリーを見ると少年を早歩きで追いかけ僕を無視して去っていった。

ハリーはショックでその場でしばらく立ちつくした。

 

 

 

 

ハグリットの小屋ではファングの手荒な歓迎にあった。

「まあスリザリンとグリフィンドールの溝は深いからなあ。おまえさんが無視されるのも仕方がないっちゃあ仕方がない。」

「でもロンとは組み分け前まで普通に話していたのに酷いじゃないか。」

「まあな。おまえさんが言っとることはもっともだ。」

「もういっそのこと孤立してしまった方がいいのかな。」

「バカを言うんじゃねえ。それじゃおまえさんが辛いだけだ。せっかくのホグワーツでの生活が。」

「でもスリザリンのみんなに嘘をつくのももう耐えられないよ。」

「よし!分かった!少しなら俺がなんとかしてやる!」

「なんとかって?嬉しいけどこれは僕の問題だ。僕が自分自身でなんとかしないと。」

「まあまあそういうな。そのロンとかいうやつの兄貴を俺は知っている。なんせあの二人を禁じられた森から追っ払うのに俺は城が建てれるぐれえの労力を使っているようなもんだ。」

二人?ダイアゴン横丁では妹のジニーとパーシーしか見ていない。

「監督生の?パーシーがそんなことするの?」

「フレッドとジョージを知らんか?」

「うん。」

「そういやフレッドとジョージはおまえさんと買い物に行ったときにおらんかったな。有名なやつらだがおまえさんが自分たちのことを知らんのを知ったら大広間を爆発するだろうよ。」

「相当な問題児そうだね・・・」

「まあたいそうな異名もつくぐらいにな。聞いたことないか?」

「うん。なんて呼ばれてるの?」

 

 

 

「グリフィンドールの天災双子だ。」

 

 

 




文字数バリ少ないです。すみません汗

間が空いてしまったのでできるだけ早く投稿したかったのですが・・・


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とある噂

死喰い人が書きたかったので書いてみました。
そのため今回の話は番外編みたいになってしまいました。
たぶんこの話が伏線になるようなことはありません(汗)


※聖28一族とは、原作にある言葉で確実に純血であるとされる名家のことです。


ホグワーツの近くにホグズミードという村がある。

ここはイギリスで唯一の魔法族だけの村だ。

様々な魔法使いの専門店が立ち並んでいる。

その中でも『ホッグズヘッド』という静かで胡散臭いバーがあるのだが、今、二人の男が四人掛けのテーブルで話しをしていた。

 

「なあ、マクネア。どう思う?」

イカツイ顔をした男が尋ねる。

 

マクネアと呼ばれた図体のデカい男は前かがみに頬杖をつきながら

「さあな。どちらにしろ今はどうしようもねえだろ。」

と、気だるそうに答えた。

 

イカツイ顔をした男の方は少し熱を込めて返す。

「もし、一番最初に集結したとするならば俺たち2人の地位は確固たるものとなるだろう。」

 

マクネアは興味なさげに「そうだろうな。」と返した。

 

「接触の機会を伺おう。噂の真偽が分かる。難しいのは分かってる。策を練るんだ。特急かマグルの家にいるときがチャンスだろう。」

イカツイ顔をした男は周りを気にしながら話した。

 

マクネアは「噂が本当だったとして地位なんてくれてやるよ。時がくれば分かるだろうに。ジジイの庭でそんな危険なマネをするのはごめんだ。」と、これまた興味なさげに答える。

 

「マクネア。お前は魔法省でぬくぬくと生きすぎたようだな。髄まで腐りやがって。いいか?俺たち2人で時代の先を読むんだ。誇りを思い出せ。」

イカツイ顔をした男は低く語気を強めた。

 

マクネアはゆっくりと身を起こし、グラスを持った。

「何を焦っているヤックスリー。」

それからグイッと一杯飲み、片方の口角を少しつり上げ

「聖28一族も長年の逃亡生活がたたってリスク計算もできなくなったか?」

と嫌味たっぷりに返した。

机に肘を立てグラスを軽く左右に揺らして続ける。

「だいたいあのジジイを出し抜けると思うのか?冷静になれヤックスリー。」

 

ヤックスリーと呼ばれた男は、マクネアのグラスを睨みつけ何かを言おうとしたが、

一度目を閉じてため息をついた。

「まあ・・・そうだな・・・。」

 

「そんなシケた面すんなよ。今日は俺のおごりなんだしよ。ハリーポッターはスリザリンに選ばれた。これは事実だ。その先のこと、つまり新しい闇の帝王の誕生かどうかについては、俺たちはただ祈り信じるだけさ。さあ、もう一度乾杯だ。」マクネアがグラスを掲げる。

 

「そうだな。今は待つことにする。俺もお前に合わせよう。まあ、しばらく会えそうもないし、今日ぐらいパーッとやるか。」ヤックスリーもグラスを掲げる。

 

「おうよ。声は小さくな。」マクネアが周りを見ながら言う。

 

「当り前だ。用心は欠かせない。」ヤックスリーも周囲に細かく神経をすまし答えた。

 

2人は小声でつぶやいた。

「「新しき闇の帝王、ハリーポッターに乾杯」」

静かなホッグズヘッドにグラスの音が響いた。

 

 

 

 




次回投稿早めにできたらいいんですがおそらく来月になるかと思われます。


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天災双子

「俺はフレッド。こっちがジョージ。それで、あのハリー・ポッターが俺たちになんの用かな?」

本当に顔がそっくりだ。見分けがつかない。

「えっと...」

ハリーは口をつぐんだ。何と言えばいいだろう...。

ハグリットの強引な計らいで、放課後に湖のそばで、ロンの兄である双子にこうして質問をする機会が与えられたのだが...ロンがなぜ無視をするのか?とストレートに質問をするのは少し違うだろう...。

「おっと、発熱ガムの発売はまだまだだぜ。成分の調整が難しくてな。1度上げるのに2000噛みもいるんだ。熱が上がる頃には夕食の時間になってるだろうな。」

フレッドがあごを触りながら思い出すように言う。

「全くだ。それで成分を強めにすると今度はひと噛みで40度ときた。先生に保健室へ行くと言う前に気絶してしまう。」

気絶をするようなアクションをしてジョージが言った。

「えっと...ロンのことなんですが...。」

ハリーが尋ねると、わざとらしくビックリした表情でフレッドが

「このモジモジは間違いない。恋する乙女のそれだ。まさか、あの鼻たれロニー坊やにモテ期が来るとはな。」

と言う。するとジョージが

「しかも薔薇色のホグワーツライフときた。俺たちに恋のキューピッドをやれっていうのは無理な話だぜ。」

と続けた。

「キューピッドならできる。だが、思い人は君からの贈り物であるはずのラブレターとガムでほんの少しだけ熱が上がりすぎるかも知れねえぜ。」

フレッドがデコをおさえながらおちゃらけて言った。

バカにされているのに少しイラッとしたハリーは、語気を強める。

「ロンが話しかけても無視するからあなた方の弟は実家に耳を忘れてないかと聞こうとしたんですよ。でも、どうやらあなた達兄弟は、ほんの少し脳ミソも置いてきたようですね。」

ハリーは、親指と人差し指で目一杯サイズを作って見せた。

しかし、双子はハリーの挑発には乗らず、いたって冷静だ。

「我々は君が困っているとハグリットに聞いてわざわざ来たんだけどなあ。発言に気をつけないと回れ右をして体ごと寮のベッドに置いてくることになる。」

わざとらしく首をかしげてフレッドが言う。

「フレッド。それなら発熱ガムのサンプルになってもらった方が有意義だ。心配するな少年。意識が朦朧として俺たちのことなんて告げ口する頃には忘れてる。」

ジョージはローブの中をごそごそしだした。

半分本気なのではないかとハリーは思った。

「あの...ごめんなさい。」

「名案だジョージ。成分11%のやつでいくぞ。」

「保留だフレッド。一応謝ってるんだ。もういいだろう。俺たちもレタス食い虫の駆除で泥まみれになるのはもう勘弁だぜ。」

どうやら、ハグリットに罰則と引き換えで相談に乗ってほしいという取り引きだったらしい。

ことの顛末を手短に話し、なぜロンがハリーを無視するのかを尋ねた。

「そら、新・闇の帝王に話し掛けられたら大概の子羊はビビって逃げる。違うかい?」

フレッドがそういうもんだという風にしゃべった。

「待って、新・闇の帝王ってどういうこと?僕のことを言ってるの?」

「知らなかったのか?うちの庭小人よりも鈍感だなこりゃ。君がスリザリンに組分けられてからレタス食い虫もビビッてる。」

ジョージが少し驚いて返す。

「だって、そんなのって...バカげてるよ!僕は違う!闇の帝王なんかじゃない!」

ハリーは声を荒げた。

「あぁ全くもってバカげてる。闇の帝王を倒したハリー・ポッターがスリザリンに入ったんだ。ニュー闇の帝王なわけがないね。」

ニヤリとしてフレッドが言った。

「嘘だろ...そんなのって...」

ハリーは体の芯を直撃した衝撃が離れない。

全くもってバカげている。だって僕は闇の帝王じゃない。

けどこうして聞いていると確かにそう思われても仕方がないのか...?

でもそんなのこじつけだ。いつ僕が人を襲った?

いつ僕が人を傷つけた?

「君とこうして話していると分かるよ。でも噂による疑念はなかなか払拭されるもんじゃない。」

ジョージが穏やかに言う。

ジョージの声に少し慰めの色が見えた。

「まあ鼻たれロニー坊やにはキツく言っておこう。俺たちの消費者をあまり困らせるなとな。ニュー俺たちのお客ハリー・ポッター、これはおまけだ。」

フレッドはハリーに発熱ガムを押しつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

フラフラと校庭を歩き城に入った。

寮に戻るまでの間に気づいたことがある。

それは、ハリーが歩いているとき、今までただコソコソと指を指したり話していると思っている人のほとんどは、ハリーが見ると微妙に顔がひきつっている。

ほとんどが恐怖心残りは好奇心?といったところだろうか。

自分が何かおぞましいものに思えてきた。

これほどまで自虐的になったことはない。

階段を降りていき、談話室に入った。

ラッキーなことに、皆ちょうど夕食を食べに行っているようで、誰もいなかった。

ソファーに座り込む。何か体の真ん中が空洞になったような気分だ。

ハリーは立ちあがり、ポケットから発熱ガムを取り出した。

前歯だけでガムを軽く挟むとすぐにガムを取りゴミ箱に捨てた。

しばらくガムを見つめたあと、膝がカクンとなりそうな軽い体を崩れないようにベッドへと運んだ。

とうとう発熱がなかったことを、暗い部屋で後悔しながら無理矢理に眠りについた。

「もう何も考えまい。」

 

 

 

 

 

 





文字数少なくなってしまいました...


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決別

 眠りに落ちたハリーが目覚めたのは、みんながまだ部屋に帰る前だった。ベッドのカーテンを開けてみても、まだ誰も帰ってきた形跡がない。何時間も暗闇の中に入ったような気がしたが、意外にも時間がたっていなかったらしい。

 

「グリン。ごめんね。閉じ込めるみたいになっちゃって。君に外の世界を見せてあげる。」

 

ハリーはトランクからグリンを出し、カーテンを閉め語りかけた。

 

「ハリーはん・・・それはだめや・・・。」

 

グリンなら「ホントに!?」と喜ぶと思っていたので、この反応は予想外だ。

 

「あの家にいたときみたいにさ、ポケットの中なら君とだっていられる。」

 

「ハリーはん。ワイは望んでここにいるんやで?もし、あのとき拾われてなくて、今ここにいなかったら捕まっとるかもしれんのに。」

 

申し訳なさそうにしゃべるグリンに、ハリーは少し違和感を覚える。

 

「ちょっとぐらい大丈夫さ。君がそんな心配性だったなんて全く意外だよ。」

 

「ハリーはん。危ないパイプは通るべからずやで。」

 

「う~ん・・・。休日くらいならいいでしょ?」

 

グリンが探るようにハリーを見る。

 

「ハリーはん。何があったんや?」

 

「やっぱり君は騙せないね。」

 

苦笑いしてことの顛末を説明する。

 

「ひどい話や・・・。」

 

「グリン。君も何か隠してないかい?」

 

「隠そうにも隠せるものがないでハリーはん。」

 

「ふ~ん。・・・で、休日くらいなら大丈夫だろ?」

 

グリンは縦長の瞳孔を横にそらして

 

「う~ん・・・ま、考えとくわ。」

 

と、自らトランクの中へと帰っていった。

 

ハリーは、相棒の嘘を追及しないことにした。

 

ドラコが帰ってきた。

 

「ハリー?寝ていたのか?大広間にいなかったからどこに行ったのかと思っていたよ。」

 

後ろから、金髪キツネ目のリカードだ。

 

「これからゴブストーンのトーナメントやるんだけど、ハリーもやるでしょ?」

 

「ごめん。もうひと眠りするよ。おやすみ。」

 

「そうか・・・おやすみ。」

 

「まじかよ~。ま、しっかり疲れ取れよ!おやすみ!」

 

ドラコたちは、ゴブストーンのセットを取ると、談話室へと戻っていった。

 

このまま自分の考えを突き通せば、このスリザリンの仲間を失うことになるだろう。

 

でも、心に残る罪悪感と嫌悪感はぬぐえない。マグル差別はハリーが今までダドリー達にやられてきことと変わりないからだ。

 

両親がいないというだけで、影でいろいろ言われ、のけものにされ、少しぶつかっただけでバイ菌であるかのように、過剰に反応される。

 

ドラコ達がマグル生まれの子に触れた時の嫌そうな反応がそれだ。

 

家とも呼びたくない家の中では、バーノンおじさんやペチュニアおばさんに時々、汚らわしいものでも見るかのような視線をぶつけられた。

 

ドラコ達がマグル生まれの子を見るときの目がそれだ。

 

僕が失うのはスリザリンの仲間だけではないかもしれない。

 

僕が友達だと思っているロンや、友達になりたいと思っている人たちは、僕のことをヴォルデモート2世だと思っている。マグル生まれの子も例外ではないはずだ。ハリーは手で顔を覆う。

 

「フフッ」

 

思わず笑い声が漏れた。僕が闇の帝王?勝手に決めつけて勝手に怖がって・・・全くバカバカしい。無意識にハリーは額の傷跡を撫でた。心の底ではそう思われても仕方がないと思ってるんじゃないのか・・・?ヴォルデモートは両親を殺した。ただそばにいたから僕を殺そうとしたのか・・・?たまたま僕を殺し損ねたのか・・・?実は初めから僕狙いだったのか・・・?なぜ・・・?本当の僕は一体・・・?

 

ベッドに仰向けになり

 

「リディクラス」と自嘲気味に唱えた。

 

ハーマイオニーだけは唯一噂を信じていないのだろう。まあ、そういう話に興味なさそうだもんな・・・。もしハリーと一緒にいるところを見られたらハーマイオニーも避けられるのだろうか・・・?

 

ハリーはハッとした。僕は・・・。プライマリースクールの低学年の頃を思い出す。みんなの輪に入れないハリーに優しく話しかけてくれた子は、次の日ダドリーズと他の取り巻きのターゲットにされた。

思い出したことを後悔しながら唇を噛む。

僕のせいで・・・。自暴自棄な気持ちに襲われる。

何もないベッドの天井を見上げながらゆっくりと決断した。

 

横に寝返りを打ちトランクを見る。「グリン。君がいてくれてよかったよ。」ハリーポッターは空腹を誤魔化すように固く目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝食どき、事件は起きた。ドラコ達と大広間に向かったハリーは、

 

「落ちこぼれのロングボトムのところに珍しくフクロウ便がきてるぞ。」

 

ドラコのこの言葉に緊張が増す。

 

「ドラコ。かまうなよ。」

 

できるだけ平静を装って発した声は少し震えている気がした。ネビル・ロングボトムは魔法薬学の出来が悪く、常にスネイプ先生の標的にされる。そのためよくドラコ達のイタズラにあう。その度にハリーはよくないと言うのだが、ドラコ達は「分かったよ。」と言ってまた同じことをする。

 

少しドラコは迷ったようだが・・・。

 

「まあ来いよハリー。ちょっと見てくるだけさ。」

 

「ふぁ~。お腹空いたから先に席行っとくね。」

 

あくびをし、キツネ目をさらに細くしながらリカードはスリザリンの席へと歩く。

 

「僕も。」続けてマルサスもリカードに続いた。

 

ドラコは怪訝な顔で二人を見て

 

「ノリが悪いやつらだ。来るだろハリー?」

 

「う~ん。」

 

乗り気でないが、ドラコの好奇心は止めれそうにない。

 

「「オォレも行く。」」

 

先に朝食を食べ終えていたクラッブとゴイルも合流した。

 

ネビルの席が近くになるにつれ、胃がキリキリし始める。

 

「『思い出し玉』だあ!僕、うっかりしてるからばあちゃんが送ってくれたんだ!ギュッと握って赤くなったら何かを忘れてるんだけど・・・見てて。こういう風にギュッと握ってっと・・・あれえぇ・・・。」

 

思い出し玉が真っ赤に光りだした。

 

「・・・なんだろう・・・何を忘れてるんだろう・・・あっ!」

 

通りかかりざまにドラコが思い出し玉をひったくった。

 

はじけるように横にいたロンともう一人のグリフィンドール生が立ち上がった。(確かシェーマス・フィネガンだったかな)

 

パシッ!

 

今度はハリーがドラコから思い出し玉をひったくる。

 

ハリーに気づくと、ネビル・ロングボトムは委縮した。

 

と、ここでマクゴナガル先生がスッと現れた。問題ごとに対するアンテナが一番鋭いのがこのマクゴナガル先生だ。

 

「どうしたんですか?」

 

ドラコは苦々しげに、「見てただけですよ。」と言ってクラッブとゴイルを従えて戻っていく。

 

ハリーは思い出し玉をネビル・ロングボトムのテーブルに置き、先生に一礼してドラコに続いた。

 

思い出し玉は赤く光っていた。

 

前からハーマイオニーが、グリフィンドールの席に向かって歩いてきている。

 

「おはよ。ハーマイオニー。」

 

ハーマイオニーは訝しげに、ドラコ達といるハリーを見ながら、「おはよ。」と返す。

 

「また後で飛行訓練のときにね。」

 

ハーマイオニーは「ええ。」と少しぶっきらぼうに言って通り過ぎていった。

 

ドラコがびっくりしたように振り返ってハリーを見る。

 

ドラコは周囲を気にして声のトーンを落として

 

「連中とあまり仲良くしない方がいい。」と言った。

 

努めてニッコリとして

 

「ハーマイオニーは僕の友達さ。」と返す。ハリーは自分の顔が引きつっているように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行訓練は、初めての授業だ。グリフィンドール生と合同だ。

 

みな箒の前にきっちり並び、担当のフーチ先生の指示を仰ぐ。

 

「箒の上に手をかざして!」

 

「そして『上がれ!』と言って」

 

みんな一斉に「上がれ」と叫んだ。

 

ハリーの箒はスパッと手に収まったが、飛び上がった箒は少なかった。

 

それから箒にまたがり、フーチ先生が順番に柄の持ち方や、またがり方を指導していった。

 

「それでは2メートルぐらい浮上して飛行の姿勢を保ったらすぐに降りてきてください。笛を吹いてからですよ。1・・・2の・・・」

 

「うわああああああああああ!!!」

 

ネビルが笛を待たず急浮上した。

 

「戻ってきなさい!!!!!」

 

先生の怒鳴り声もネビルの耳には届かない。

 

「コラ!早く!」

 

先生の大声むなしく、ネビルはフラフラ揺れながらどんどん上昇していき・・・そして・・・

 

ネビルが恐怖心からガッチリ掴んでいた手を振り払うかのように、箒が上下に激しくゆすり始めた。

 

「ッ!!!!!!!!!!!!」

 

ネビルが箒から落ちてくる。ドスン!!!ポキッ!!!

 

箒はユラユラと禁じられた森の方へと消えていった。

 

「手首が折れてるわ。」

 

フーチ先生はつぶやいた。

 

「私はこの子を医務室へと連れていきます。その間誰も動かないように。箒に触れるなんてもってのほかですよ。さもないクディッチをする前にこのホグワーツを去ってもらいますから。」

 

ネビルは号泣し嗚咽を漏らしながら、先生に肩を支えられながら、歩いて行った。

 

先生が去ったあとドラコは大笑いし始めた。

 

「あいつの顔見たか?ビービー泣いてやがった」

 

他のスリザリン生もはやし立てた。

 

マルサスは雰囲気に合わせながらもハリーを危惧し、目をはずさない。

 

ハリーは自然とスリザリン生を観察していた。

 

リカードは珍しく無表情だ。

 

「やめてよ、マルフォイ」グリフィンドールのパーバティ・パチルがとがめた。

 

「へー、ロングボトムを擁護するの?あいつが授業をめちゃめちゃにしたのに?」

 

ドラコはおやおやという風に言った。

 

「パーバティ。まさかあなたが、チビデブどんくさ泣き虫に気があるなんてね♪」

 

パンジー・パーキンソンが冷やかす。

 

「これを見ろよ!」

 

ドラコは少し背の高い草むらの中から何かを取り出した。

 

「あいつのばあさんが送ってきたバカ玉だ」

 

それを高々とみんなにアピールする。太陽に反射してキラリと輝いた。

 

「それを渡して。」

 

みな、お喋りを止め二人に注目した。ハリーはドラコへとゆっくりと近づいていく。ドラコは嬉々とした表情で玉を渡そうとする。

 

「ハリー!」

 

マルサスはハリーの進路を阻むように向かい合うが、マルサスが制止しようとするのを落ち着いて押しのけて、ハリーは歩を進める。ハリーは手を伸ばして、静かに言葉を続ける。

 

「それは君のじゃない。」

 

ドラコの目が衝撃に見開かれた。ハリーの意図をようやく理解したようだ。困惑の表情を浮かべている。

 

「ハリー?」

 

「それを渡して。」

 

「君がこんな玉に興味があったなんてね。意外だよ。それとも、まさかとは思うけど僕に文句があるのかい?」

 

スリザリン生がざわざわとし始める。

 

しばらくの沈黙。そして真っすぐにドラコの目を見据えたままハリーは言い放った。

 

「ドラコ。君は僕の友達だ。だけど君のそういうところが大嫌いだ。君は間違ってる。」

 

何人かがハッと息をのむ声が聞こえた気がした。ドラコの表情が固まる。が、ドラコの顔から力がスッと抜け

 

「へえ。僕も君のそのヒーロー面が嫌いだ。ハリー。」

 

いつもの調子で毒づいた。ドラコの嫌悪のベクトルがグググッとこちらを向くのを感じた。

 

 

 

 



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歯車の狂い

場は一気に緊張に包まれた。誰も一歩も動けない。

 

グリフィンドールの何人かは顔を見合わせ、他の生徒は目の前の出来事にのみ注意力を注ぎ込んでいた。

 

「渡して」

 

短く、強い声音でドラコを真っすぐと見据える。

 

「ハリー。君はいつもそうだ。君は何か勘違いしている。」

 

ドラコがせせら笑った。

 

「・・・何を?」

 

意外な返しにも表情を崩さずハリーは尋ねた。

 

「君は正義の戦士でもなんでもない。英雄だからなんて考えはやめろ。誰もが君の言うことに全て従うわけじゃない。君は別に特別なんかじゃない。」

 

「特別なんて思ったこと一度もない!僕は」

 

ハリーは反論するが、ドラコはハリーの話を遮り続ける。

 

「生まれがなんだ?傷跡が何だ?確かに君は優れている。でも君が優秀なのは、君が人よりも頑張ったからだ。君が英雄だからじゃない。勤勉だからだ。仲間はみんな君の頑張りを見てきた。君の努力を知っている。みんな君を認めてる。ある程度は君の言うことを聞いてきた。でもそれは君が特別だからじゃない。」

 

「分かってないのは君さドラコ。僕はそんな自意識は持っていない。自分達の行動を顧みてそれなら、バカにもほどがあるね。今君がしていることは、君たちの言うマグルとおんなじさ。僕の従兄弟と変わらない。」

 

「英雄ごっこはそろそろやめにしたらどうだ?」

 

マグルと比べられてか、今までおちょくるような態度だったドラコが、イライラを隠せないでいる。

 

「君の答えは全く的を射ていない。もういい。さあ、それを渡してもらおうか?」」

 

ドラコはサッと箒を手に取ると、すぐに跨り飛び上がった。なるほど、普段クディッチとかいう魔法界の、箒にまたがって行う競技について、いろいろと語っていただけはあるな。飛ぶのが上手そうだ。

 

「心配するなハリー。ロングボトムが取れるところにでも置いておくよ。ああ、あの木の上なんて良いと思わないか?」

 

「早く渡せって!」

 

ハリーは声を荒げる。

 

「ここまで取りに来いよハリー。口だけの君には無理だろうけど。」

 

ハリーは箒を掴む。

 

「ダメよハリー!退学になるわ!」

 

ハーマイオニーの声もハリーには響かなかった。

 

血が熱い・・・。心臓がバクバクとハリーに緊張を知らせる。

 

箒にまたがるとハリーは、地面を強く蹴った。急上昇する中、ハリーは歓喜に包まれた。風を切るこの感じが心地いい。

 

まるでずっと前から飛び方を知っていたみたいだ。クルッと旋回してドラコに向き直る。・・・と、ハリーが歓喜に包まれる中、意識を半分残したまま目の前が真っ暗になり、別の思考が入り込んできた。

 

「この先に・・・俺様の望むものがある・・・焦りは禁物だ・・・」

 

ハリーはグイッと現実世界に意識を引っ張ってくると、ドラコを観察する。

 

(今のはドラコがやったのか・・・?)

 

しかし、ドラコはハリーが飛べることに対して驚いてか、茫然としている。とても何かしたようには見えない。第一杖を持っていないのだから、おそらく先ほどのはドラコではないだろう。

 

「早くこっちへ渡して。落とされたくなかったら。」

 

「へえ、どうかな?」

 

ドラコはニヤッと笑おうとしたのだろうが、顔が引きつっているのがよく分かった。

 

ハリーはなぜか、飛び方が分かっていた。姿勢を低くし、箒を両手でがっちり掴む。箒は矢のようにドラコめがけて飛び出した。ドラコはなんとかかわしたが、本当にギリギリだった。

 

「さあ、どうする?次はないぞ。」

 

ドラコもそう思ったらしい。

 

「取れるものなら取ってみろ!」

 

ブンッと腕を振り、ドラコは空中高く玉を放り投げた。そのまま地上へと一目散に逃げていく。

 

ハリーは頂点に上がった玉が落ちてくるのを見て、取れるという確証を持った。

 

ハリーは急降下し、落下する玉を追いかける。どんどんスピードを上げる。風が耳元でビュービュー鳴っている。

 

箒にムチ打ち・・・風に交じり悲鳴が聞こえる・・・そして・・・

 

パシッ!箒から身を乗り出し、地面スレスレで玉を掴むと箒を上にグイッと上げ、なんとかスピードを落とすと芝生にクルンと転がり着地した。

 

「ハリー・ポッター!!!!!」

 

マクゴナガル先生が校舎の入り口から走ってやってくる。

 

高揚していた気持ちは急速にしぼんでいった。震えながら立ち上がる。

 

「こんなことは今まで一度も・・・」

 

マクゴナガル先生は目の前の出来事に言葉も出ない。

 

「なんてことを・・・首を折ったかもしれないのに・・・」

 

「先生、ポッターは悪くありません。」

 

なんとグリフィンドールのシェーマス・フィネガンが抗議の声を上げた。

 

「そういう問題ではありません。ミスター・フィネガン。」

 

「でもマルフォイが」

 

続いてなんとロンだ。

 

「くどいですよ。ミスター・ウィーズリー。ポッター、来なさい」

 

マクゴナガル先生に続いて、ハリーはトボトボと城へと歩き出した。

 

チラリと横目にみんなの同情した顔が目に入る。ああ、そうか・・・僕は退学になるんだ・・・。

 

今日の午後にはもうあの家に帰ることになるのだろうか・・・。

 

じわじわゆっくりと退学の恐怖が、ハリーの心臓から広がっていく。帰りたくない・・・。

 

ついに、ハリーは城の大理石を踏みしめた。

 

校舎へと去っていく同室の仲間を、ドラコは生気のない目で見つめていた。

 

自責の念に包まれていたドラコの瞳を、ハリーが知ることはない。

 

よろよろと歩くうちに、いつの間にか正面階段を上がり、長い廊下に出た。

 

荷物を抱えた僕を見てあの連中はなんというだろう。

 

ふと、ハリーはある映像を思い出した。教室に入った時に、ダドリーに理由もなく殴られたときのことだ。

 

「なに入ってきてんだよ」後ろに腰を抜かしたハリーはゲラゲラ笑いに包まれていた。

 

教室のドアが、ダーズリー家のドアとリンクする。

 

今日の午後には、あの憎たらしい顔を嫌でも見ることになる・・・。ハグリットのように働かせてはくれないだろうか・・・?

 

ダメだ期待するなハリー・・・いつも期待は裏切られる。

 

退学の恐怖と今しがた思い出したダドリーとの一件の憎悪で胃がよじれそうな感覚に陥る・・・。

 

吐き気が込み上げてきた・・・。ダドリー・ダーズリー・・・この世で一番嫌悪する・・・生き物・・・。

 

「ウッ・・・」

 

「どうしましたポッター?」

 

ハリーは視界がぼやけていくのを必死に制した。胃がのたうちまわっている。たまらずハリーは膝をついた。

 

この後に及んで、下手な悪あがきをするような卑怯な人間に思われたくない。

 

「だ・・・」

 

大丈夫です、と言おうとして口を手で覆った。目をギュッとつぶり視界を閉ざし、おう吐をこらえる。

 

真っ暗な視界・・・ハリーは後ろ向きに歩いていた・・・「アロホモーラ」ガチャッ。ドアの開く音がする・・・。

 

ハリーは生臭い匂いが広がる部屋へと進んでいった・・・「で、ではいきます我が君。」クィレルが生唾を飲み込んだ。

 

グルルルル・・・獣の野太い低いうなり声・・・クィレルがターバンをほどいた。閉ざされていた視界が開けた。

 

体の内側で、血の気の引いていくような感覚・・・あれを手に入れるためには仕方のないこと・・・我慢せねばなるまい・・・。

 

「ルーモス・マキシマ!」グアアアア。

 

獣がひるむ鳴き声が聞こえる。そうだ・・・時間を稼げ・・・。

 

獣がひるんだのも束の間、ひずめがブンっと振られる音とともに、グンッとクィレルの体は上へ引っ張られた。

 

しかし、それは攻撃が命中したからではなかった。「我が君。準備はできました。」クィレルは自らの牙を撫でた。

 

全く・・・この俺様が、半獣の体に憑かねばならないとは・・・

 

天井に引っ付いたクィレルはビュンッと飛び、壁に張り付いた。後ろから衝撃音がする。獣はまたしても攻撃を外した。

 

「クィレル。撤退するぞ。」

 

「しかし我が君、まだ何も」

 

グワアアアアア!咆哮とともに衝撃音。ビュンッとまたしても瞬時に移動し、攻撃をかわす。

 

「このまま逃げ回っていても何にも分かるまい。焦りは禁物だ。」

 

「・・・御意」

 

そうだ・・・まだ焦ることはない・・・何か策を考えねば・・・慎重にことを運ぶべきだ・・・俺様は必ず復活する・・・復活した暁にはあの小僧を・・・ハリー・ポッターを・・・

 

「ポッター!ポッターーー!」

 

ハリーは意識を取り戻した。「はぁ・・・はぁ・・・」何十メートルもダッシュしてきたかのように、息切れが激しかった。

 

「保健室へ行きましょう。」

 

「いえ、・・・はぁ・・・大丈夫です・・・はぁ・・・はぁ」

 

マクゴナガル先生は無言で杖を振り、ハリーの体を浮上させ、運ぼうとしたが、ハリーは反対呪文を唱え、本当に大丈夫だという旨を伝えた。

 

「そうですか」

 

まだ納得していないという顔をしながらも先生は案内を続けた。

 

最後くらい堂々と辞めてやる。体調不良のふりをして、退学を延期にしただなんて皆の耳に届きでもしたら、それこそお笑い草だ。

 

結局一か月ももたなかったな・・・。最後のあの感じだと、グリフィンドールの何人かには認められたのかな・・・。

 

スリザリンの皆には嫌われたかな・・・。

 

「お入りなさい。」

 

そこは、空き教室だった。

 

ポルターガイストのピーブズが汚い言葉を黒板に書きなぐっていた。

 

ピーブズは生徒にイタズラをしたりする、やっかいなゴーストもどきだ。

 

マクゴナガル先生に一喝されると、ピーブズはあっかんべーをして出て行った。

 

「今回の処分は、私はスリザリンの寮監ではないのでスネイプ先生にお任せすることにしましょう。ポッター、箒に乗ったのは初めてなのですか?」

 

「はい。」

 

「あの高さから急降下して玉を掴んで、さらに傷一つ負わないなんて、あんなものは初めて見ました。来年はクディッチの選手に志願するとよいでしょう。一年生の規則を曲げれば今年からクディッチ杯にも出れるでしょうが、おそらくセブルスはそうしないでしょう。」

 

「えっと・・・退学しなくてもいいんですか?」

 

「おそらく、退学にはならないでしょう。」

 

ハリーは体にふつふつと生気が宿っていくのを感じた。

 

「ただし、今回の件はことがことですから厳正なる処罰になることを覚悟なさい。」

 

ハリーは生唾を飲み込んだ。けど、ホグワーツに残れるんだ。ここに残れるのならなんだっていい。発熱ガムだって噛み切ってやる。

 

「グリフィンドールの連続優勝も今年までかもしれませんね。」

 

マクゴナガル先生は微笑みながら言う。

 

「あなたのお父さまも素晴らしい選手でした。」

 

「スネイプ先生には私から連絡しておきますから。」

 

 

 

 

 

 

スネイプ先生の研究室に向かう道は全く苦ではなかった。

 

あれだけ絶望に打ちひしがれていたハリーは、今は真逆の心境だ。

 

ホグワーツに残れる・・・それに、お父さんは確かにこの学び舎で過ごしていたんだという実感が、温かくハリーを包んでいた。

 

嫌味をたっぷりと浴びせられたハリーだったが、結局いつも授業で使っている魔法薬学の教室の掃除と、謎の薬草をひたすら均等に切って袋に詰めるという作業だった。

 

スネイプ先生の狙いはおそらく、夕食を食べれないようにすることだろう。そしてその願いは叶った。

 

「おっと、作業が遅すぎてもう寝る時間だポッター。さっさと寮に戻り、反省でもしておくことだ。次からはこんなに罰則は甘くないぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

寮に戻ると、ソファーにドラコが珍しく一人で座っていた。突如ハリーの中に怒りが沸き起こる。気づかない風に通り過ぎようとするが・・・

 

「ハリー・・・」

 

「どうしたんだい?」

 

ドラコには一切目を合わさず、明後日の方を見て返す。

 

「えっと・・・何してたんだ?」

 

「はっ、何をか。誰かのおかげで罰則を受けてたんだよ。」

 

「退学にはならなかったのか?」

 

ドラコは嬉しそうな声をあげるが、それが逆になぜかハリーの癪に障った。

 

「残念だったね。」

 

ドラコが残念がっていないことぐらい分かってはいたが、ハリーは冷たく吐き捨て部屋へと歩き出した。

 

「ち、違うんだ!・・・えっと・・・良かった!・・・えっと・・・それで・・・君を許す!」

 

ハリーは真っすぐにドラコを直視したが、なぜか全体がぼんやりと見えた。

 

「うせろよ」

 

ハリーの声はひどく震えていた。ハリーが今まで一度も使ったことのないような言葉だ。あふれる涙を悟られぬよう踵を返し、寝室への階段を上っていく。

 

胸が締め付けられるのを感じながら、罪悪感に押しつぶされる前にベッドに辿り着こうと必死だった。

 

残されたドラコはその場に立ち尽くして、友人が去っていくのを見つめていた。

 

真っ赤に腫れた目、自責の念でいっぱいの表情を、ハリーは読み解く余裕がなかった。

 

布団にくるまり何も考えまいとしたハリーだったが、ついに、眠りにつくまでに寝室のドアの開く音は聞こえなかった。

 

 



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