東方SS 至福のひととき 表 (名無しの茨乃)
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霊夢と暑がり男の子

「暑い・・・」

 

 汗を流しがら○○は博麗神社に向かう。霊夢が○○を呼び出したのが始まりで、わざわざこのクソ暑い中、博麗神社に向かっていた。

 

「くそぉ、霊夢の奴、覚えてろよ・・・」

 

 グダグダ言っても仕方ない。既に神社に着いたのだから。神社は静かで、人が居る気配がなかった。霊夢が居ると思っていたのだが、呼び出した本人が居ないとなれば、帰れると思った○○だった。

 

「あ、来てたのね○○。さ、入って来て」

 

 しかし、霊夢が奥から出てきた。せっかく帰れると思ったのに・・・

 奥に入ると、小さな机の上にお茶と菓子が並んでいた。二人でパーティでもする気なのかと、○○は頭をかく。

 

「さ、座って」

 

「・・・霊夢、何をする気だ?」

 

「見てわからない?あなたと二人でお茶するの」

 

「・・・何で?」

 

「ほら、早く座りなさい」

 

 霊夢は○○の言葉をスルーし、無理矢理自分の前の座布団の上に座らせた。ただ、神社内は外よりかは涼しかった。

 

「・・・・・」

 

「・・・何だよ?」

 

「そのお菓子、食べなさい」

 

 今日の霊夢はいつになく上からだった。

 

「はぁ・・・いただきます」

 

 クッキーだろうか、凄く焦げたクッキーだった。口に含むと甘いというより苦かった。恐らく霊夢が作ったのだろう。

 

「・・・霊夢」

 

「何よ」

 

「このクッキー美味しいよ」

 

「・・・・・」

 

 思いっきり腹を殴られました。

 

「ってぇ!何すんだよ・・・」

 

「・・・馬鹿」

 

「はぁ?」

 

「全部食べたかったら食べてもいいから・・・」

 

 霊夢の頬が赤くなっていた。嬉しいのか恥ずかしいのかわからないが。

 

「じゃあ、全部食べるよ。ありがとな」

 

「・・・うん」

 

 時間はあっという間に経ち、外は暗くなっていた。妖怪も出やすくなり、○○みたいな真人間だと襲われやすいだろう。

 

「さて、帰るか」

 

「待って、もう夜だし今日はうちに泊まって行きなさい」

 

「いいのか?」

 

「ええ」

 

「じゃあ、遠慮なく」

 

 それを聞くと霊夢は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔が○○には可愛く見えた。

 

「そういえば霊夢、寝る場所どうする?俺は座って寝るけど、狭くないか?」 

 

「スペースは大丈夫よ」

 

「なら良かった」

 

 霊夢は布団を敷き、○○は柱にもたれ掛かって眠る。数分経った時、霊夢が○○に話しかけた。

 

「ねぇ、○○。寒いでしょ?」

 

「ん・・・まあ少し」

 

「一緒の布団で寝ない?」

 

「・・・何かやけに霊夢積極的だな」

 

「うるさい」

 

 ○○は霊夢と同じ布団に入ると布団の中は少し暖かかった。たまに目が合うのは少し恥ずかしいが。

 

「○○・・・まだ起きてる?」

 

「うん。どうした?」

 

「私の事好き?はいって言ったら喜んであげる」

 

「いきなりなんだよ、いやまあ好きだけど」

 

「・・・うん。それ聞けたから寝る。おやすみ」

 

「なんだよそれ・・・」

 

 二人は手を繋ぎながら眠りについた



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見習い魔法使いと一人の小悪魔

「よし、こんなもんかな。小悪魔、もう降りてきて良いぞー!」

 

  その言葉に反応した小悪魔は、ゆっくりと降下し、〇〇の前に降りる。

 

「今ので全部ですか?」

 

「ああ、まさか俺の見たかったのが全部あるとは思わなかったよ」

 

  この広い大図書館で目当ての本を見つけるのはかなり時間が掛かるものだ。

  つい最近パチュリーに読書を勧められて読み始めたがなかなか読書も良いものだった。普段から本等は読まないが、これはこれでなかなかハマる。

 

「ところで〇〇さん。例の件はどうなりました?」

 

「例の件?ああ、新しい魔導書の事?もうじき出来るよ」

 

「今度はどんな凄い魔法を見せてくれるんですか?」

 

  小悪魔はまるで幼い子供の様な笑顔で〇〇を見つめる。

 

「完成してからな?」

 

「えー……」

 

「完成したらあっと驚くものを見せてやるからさ」

 

「仕方ないですね」

 

  少し納得がいかない小悪魔は、ぷくりと頬を膨らませる。

 

「ほら、パチュリーに呼ばれる前に作業してしまいな」

 

「はーい……」

 

  小悪魔はトボトボとその場を離れた。正直、パチュリーに魔導書を書くことは勧められていなかった。

  時折、禁書等に手を出して心配をさせていたからだ。むしろそれで身体に異変がなかったのが不思議な位だった。

 

「さてさて、パチュリー。盗み聞きは趣味が悪いな」

 

「あら、バレてたのね?」

 

「そりゃあね……で、何の用だよ」

 

「貴方、私の大切にしてる魔導書を勝手に読んだでしょう?」

 

  パチュリーの大切にしている魔導書とは、パチュリーが一人の少年と結ばれるきっかけとなったものだった。

 

「貴方は何がしたいの?」

 

「んー……とりあえず今完成させたい魔導書には必要なんだよなぁ……」

 

「第一あの魔導書は……」

 

「わかってる。パチュリーとあの人の恋の……だろ?」

 

  その言葉を聞いたパチュリーは顔を真っ赤に染め、そっぽ向いた。

  つまり、パチュリーにとっては禁書という事だ。

 

「本当ずるいわね……あいつにそっくりなのがムカつくわ……」

 

「ま、パチュリーにとっては禁書なんだろうな」

 

「っ……!このっ……!」

 

  パチュリーが〇〇に殴り掛かろうとした瞬間、小悪魔の声でパチュリーを呼ぶ声が聞こえた。

 

「……はぁ。まあいいわ」

 

  そう言うとパチュリーは小悪魔の方に去っていった。

  〇〇は息を吐くと、また魔導書を書き始めた。

 

  日は暮れ、あれからかなり時間が経った。どれくらい経ったらだろうか。時間を忘れて書き続けていた気がする。後ろに気配を感じ、ぱっと後ろを振り向くと、小悪魔が立っていた。

 

「あ、あの、邪魔をするつもりではなかったんですが……」

 

  小悪魔を見て〇〇は柔らかい表情を見せて口を開いた。

 

「いいよ、こっち来て一緒に話そうか」

 

「あ、はい……」

 

  小悪魔は〇〇の隣に腰掛け、〇〇と目を合わせる。小悪魔の顔は真っ赤に染まっていた。

 

「えっと……魔導書は書けましたか?」

 

「うん、ばっちりだよ。後は実行するだけだな」

 

「あの……さっき聞こえてたんです。パチュリー様の魔導書の話。それって、つまり同じものを書こうとしてた訳ですよね?」

 

「うん、そうだよ。ではここで一つぱっと考えたお話を

 しますか。短いけどな」

 

「……?」

 

  その話は、一人の見習い魔法使いの少年が、一人の小悪魔と出会い、思い出を作り、最後はその小悪魔と結ばれるというベタな話だ。

 

「で、ここからだ。考えたのは俺だから、その後は幸せな時間を過ごす物語にも出来るし、片方が死んで悲しい物語にも出来る。そこでだ。」

 

  〇〇は先程と同じ笑顔で小悪魔の頭を撫でた。

 

「お前はどちらの道を選ぶ?()()

 

  その言葉に、小悪魔は俯きながら応えた。

 

「もちろん、二人が幸せな時間を過ごす事です……」

 

「じゃあ俺達でその先を作ってみようか二人の物語をさ……」

 

「……はい」

 

  〇〇の言葉に、小悪魔は小さく頷いた。



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むきゅむきゅパチュリー

 

 ここは紅魔館にある図書館。本を借りに来る妖怪は滅多に居ない。というか貸してくれない。まあ、霧雨 魔理沙は勝手に持ち出すのだが……

 

「むきゅう……」

 

 パチュリー・ノーレッジ。この図書館の主。

 動く図書館などと呼ばれている。その彼女が、唯一図書館の出入りを許可しているのが、〇〇だ。

 

「ん、またその口癖か?パチェ」

 

「うるさいわね、いいじゃない別に……」

 

 ムスッとした顔でパチュリーはそう言う。〇〇はこの様に、パチュリーをいじるのが好きなようで、一日に三回はしてるらしい。

 

「あはは、そうだな。で、見つかったのか?お目当ての本は」

 

「まだよ、だからあなたを呼んだのよ。あなたも一緒に見ないといけないもの」

 

「俺を呼んでまで見たい本ってなんだよ……てか何で俺がパチェと一緒に見ないと駄目なんだよ……」

 

「黙って探しなさい」

 

「はーい……はぁ……」

 

 〇〇は大きなため息をつく。ちなみにその本を探すのに今日で三日目だった。そろそろ体力に限界が来ていた〇〇であった。

 

「なあパチェ……帰っていい?」

 

「むきゅっ!?駄目よ、帰っちゃ駄目!最後まで探しなさい!」

 

「だってこれだけ探してもないならさ、もうここにはないんじゃ……」

 

「そんな筈は……」

 

 パチュリーは今にも泣きそうな顔でそう言う。それを見た〇〇は、少し悪い気がして、探すのを続けた。

 とはいっても、ここまで探しても無いとなると、本当に無いと〇〇は内心思っていた。

と、その時パチュリーが大きな声を上げた。

 

「あ、あったわ!これよ!」

 

「お、本当か!?良かったじゃないか!どれどれ……?」

 

 しかしその本の表紙には名は書かれておらず、それだけではどんな本かはわからなかった。

 

「パチェ……これはどんな本なんだ?」

 

「まあ、見てなさい」

 

 パチュリーが本を開くと、ページは一つしかなく、そのページには魔法陣が書かれているだけだった。

 

「じゃあ、〇〇。この魔法陣に左手の薬指を添えてみて?」

 

「ん、こうか?」

 

 魔法陣の中に薬指を添える。さらにそれと同時にパチュリーも薬指を添える。

 そうすると、魔法陣の中から赤い糸が出現し、二人の小指に巻き付けられた。

 その時、〇〇はある事に気付いた。

 

「パチェ、これってまさか……」

 

「ふふ……それは口に出して言わない事。それがこの本の使用条件よ」

 

 パチュリーは微笑み、〇〇の口に人差し指を添えた。

 そう、左手の薬指は結婚指輪をはめる指。さらに、小指に赤い糸ということは……

 

「パチェ、お前ずるい奴だな?知ってたのか?」

 

「知らなかったらなんの魔法かもわからないわよ」

 

「……やられた。じゃあ、パチェも言っちゃ駄目だな?」

 

 そう言って〇〇もパチュリーの口に人差し指を添える。

 二人は顔が真っ赤だった。と、そこで小悪魔が図書館に入ってきた。

 

「あの、パチュリー様……あ、お取り込み中でしたか……」

 

 小悪魔はそそくさと図書館を後にした。

 

「……取り敢えず魔法ストップしようか」

 

「そうね……」

 

 本を閉じ、その本を見える所に片付ける。二人は顔をしばらく黙ったままだった。

 

「……なあパチェ、人間の俺なんかを選んで良かったのか?」

 

「その質問には答えないわ……恥ずかしいもの……」

 

「これは、絶対噂になるよな……」

 

「そうね……」

 

 しかし、二人がこの魔法を使ったことがバレるのは時間の問題であった。

 それは勿論、小悪魔がバラしたからだ。そして、小悪魔がボロボロの状態で発見されるのは翌日の話。



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みょんと今年最後の夏

 

「星を見に行きましょう!」

 

 幽々子の前で妖夢が目を輝かせながら〇〇にそう言う。いきなり何だとは思ったが……そういうのには興味はないはないが、妖夢が行きたいのなら行く事にする。

 

「別にいいけど……」

 

「本当ですか!?嬉しいなぁ……!」

 

 妖夢は笑顔で朝食を運ぶ。隣で幽々子は〇〇を見てニヤニヤと悪戯な表情を浮かべる。

また要らない事でも考えてるんだろう。最近やっと幽々子の事がわかってきた。

 

「……また変な事考えてませんか?」

 

「あらあら、バレた?」

 

「もろバレですよ……で、何を考えてるんですか?」

 

「ふふ……それはね?〇〇が妖夢と星を見てる間に私が〇〇の背中を押して妖夢との熱いキスを……」

 

「わかりました。背中に気配感じたら刀で斬ります」

 

「わかったわぁ。気を付けて押すわねぇ」

 

 しまった……何をするか聞こうとしたのに自分の対応まで言ってしまったよ。

 時間が過ぎ、夜になる。隣で妖夢は鼻歌を歌いながら歩く。山と言えば妖怪の山位なので妖怪に気を配りながら歩く。星を眺める所を探し、やっとの思いで見つけた場所に腰をかける。

 

「わぁ……!綺麗ですね!」

 

「そうだな……」

 

 妖怪と幽々子に気を付けながら星を眺める。一方で幽々子は既に〇〇の後ろに立っていた。

 

「……(ふふ、バレてないバレてない……)」

 

「ところでさ、妖夢。夏と言えば何だと思う?」

 

「夏……ですか?そうですね……スイカ……とか?」

 

「じゃあ幽々子様に内緒で食べるか!」

 

 その言葉に反応したかのように幽々子が後ろから飛び出す。

 

「だめぇ!私にも分けてぇ!」

 

「はい、幽々子様の負け」

 

 幽々子は首を傾げたが、後から気付いた様に焦って木の影に隠れた。

 

「もう遅いですよ」

 

「え?ど……どういうことですか?」

 

 状況が掴めない妖夢に〇〇は幽々子が行おうとした事を話した。その話を聞いてる際、妖夢は顔を真っ赤にして聞いていた。

 

「……というわけだ……妖夢?」

 

「ふぁい!?あ……はい、そうですか……全く!幽々子様、次からそんな事考えないでくださいね!」

 

「はぁい……」

 

 幽々子はいじけて先に帰ってしまった。さっきの話をしたからか、妖夢と二人でいるのが気まずい。

 

「妖夢、帰ろうか?」

 

「そ、その前にいいですか?」

 

「ん?何だ、まだ居たいのか?」

 

「いえ、そういう訳じゃなくて……その……さっきの話なんですけど……」

 

「ああ、あれは幽々子様がしようとした事だから別に気にする必要はないぞ?」

 

「ち、違います!そうじゃなくて……その……」

 

 妖夢の顔が赤い理由がやっとわかった。だから鈍感って言われるんだろう。ならば期待に応えてあげようではないか。

 

「妖夢、こっち向いて」

 

「はい……?」

 

 妖夢が〇〇の方を向くと同時に〇〇は自分の唇を妖夢の唇に重ねた。ちなみにこの時〇〇自身も恥ずかしかった。

 

「はい、今年最後の夏のプレゼント」

 

「…………嬉しいプレゼントです」

 

 それから白玉楼に帰った後の二人の顔が赤くなっていたことを幽々子は深く問い詰めたとの事。さらにその時文が二人の現場を見ていた事を知るのは翌日の文々新聞の記事を見てからだとか……



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アリスと無愛想な青年

「ふふふ……出来た!〇〇、喜んでくれるかな……」

 

  外で雨が降る中、アリス・マーガトロイドはいつもの様に人形を作っていた。その人形は、毎回自分の人形劇を観に来る〇〇を模した人形だった。

  だが、ここ最近になって〇〇は観に来る事がなくなり、人形を土産ついでに〇〇宅へ行く事にしていた。

  家のドアを開け、傘をさして〇〇宅がある人里に向かう。だが、雨はかなり強く、今にも傘が壊れそうな勢いで風が吹いていた。

 

「ちょっとこれは厳しいかしら……明日にでも……いや、せっかく出たんだし行くしか……」

 

  だが、風は容赦なくアリスに襲いかかる。顔にかかる雨水を拭うにも、雨は直ぐに降り注ぐ。

  人里の前に着き、取り敢えずアリスは近くにあった茶屋で雨宿りをする事に。

  あの雨の中にも関わらず、幸い人形の方は無事だった。しかし、地面に跳ね返った泥水が靴や服を濡らしていた。

 

「はぁ……服汚れちゃったなぁ……人形汚れずに持っていけるかしら……」

 

  ハンカチで再度顔を拭い、再び歩く。ここからなら〇〇宅まではさほど遠くはない。これなら無事に届けられそうだった。

  数分程歩くと、やっとの思いで〇〇宅へ到着する。

  ドアをノックするが返事が無く、再度ノックをしても反応がない。出掛けているのだろうか。

  瞬間、後から声が聞こえた。聞き覚えのある声だった。ゆっくりと後ろを振り返る。

  そこには、〇〇の姿があった。

 

「そこで何をしている、アリス・マーガトロイド」

 

「あ……〇〇!?良かったぁ……しばらく見ないからどうしたのかなって、心配したのよ?」

 

「……取り敢えず入れ」

 

  〇〇はアリスを招き入れると、タオルを投げ渡し、珈琲を手渡す。

 

「それで、用件は?」

 

「あ、えっと……最近〇〇は人形劇に来てくれないから飽きちゃったのかなって思ってね。だから見て〇〇、貴方の為に作ったのよ!」

 

  アリスは満面の笑みで紙袋から人形を取り出す。幸い人形は濡れずに持ってくる事が出来た。急いでいた為、少し糸がほつれていたが原型は保っていた。

 

「お前が俺の為に……?何故だ」

 

  〇〇は人形を手渡され、驚いた。まさか無愛想な自分の為にアリスが人形を手渡してくるなど思いもしなかったからだ。

 

「あ……えっとね、私〇〇が人形劇を見てる時、凄く嬉しかったんだ。真剣な目で、無愛想だけど見てくれてたのが嬉しかったの。だけど、でも〇〇が来なくなってから私、〇〇は飽きちゃったのかなって思ったの……」

 

「まあ、飽きたのも一つの理由だ。だが、日が経つにつれて、劇をするお前が遠くなっていった。それが嫌だっただけだ。だからアリス・マーガトロイド……いや、アリス。そんな目をするな」

 

  〇〇はアリスの頭をそっと撫でた。

  その手は大きく、自分を安心させる様な優しい感覚。

 

「ところでアリス。服を着替えろ」

 

「……あ、うん」

 

  雨で濡れた服を脱ぎ、代わりの〇〇の服を着る。少し大きいが今はこれでいいだろう。

 

「それでどうかな?この人形、上手く出来たと思わない?」

 

「そうだな。ほつれた部分は抜いてだがな」

 

「そこはほっときなさい」

 

  アリスは持ち合わせの道具でほつれを綺麗に直し、再度〇〇に手渡す。とはいえ、なかなかの出来ではないだろうか。〇〇は嬉しそうに人形を見る。

  その日の夜は、綺麗な満月が見えた。



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アリスに告白されたお話

アリスさん回
今回はかなり短め


季節はすっかり冬。吐いた息もこの雪景色に溶けていく。去年の冬よりも積もったのではないだろうか。次第に寒くなり、帰宅しようとした時、背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。

 

「あら、○○じゃない」

 

振り返り正体を確認する。そこには、普段とは違うアリス・マーガトロイドの姿がそこにはあった。いつものワンピースにロングスカート、肩にはケープをを羽織った姿ではなく、いつもとは違った冬服の姿。

 

「まあ、冬だもんな」

 

「…何が?」

 

唐突な言葉にアリスは首を傾げる。○○は何でもないと一言。それよりも寒い中何をしていたのか気になる。○○は一つ、質問を投げる。

 

「こんな寒い中何してたんだ?」

 

「特に何もないわよ。単にこの雪景色を見たかっただけだもの」

 

「今まで以上に凄いよな。レティさん頑張ってんな」

 

「そうね、お陰で上海達も大喜びよ」

 

………………

 

割と寒くなってきたし、というか話す事もないので帰宅する事にする。

 

「じゃあ帰るわ、またな」

 

と、一言告げ帰ろうとした矢先、アリスが自分の服の裾を引っ張るのが見えた。

 

「待って、どうせ貴方暇でしょ?一緒に出掛けましょ」

 

かなり失礼な事を言われたが、気にせず頷く○○であった。なんせいつもの事なのだから。

出掛けるとは言っても、殆どはアリスの買い物で荷物持ちを任されただけ。荷物が重い。帰りたい。○○が休息を取ろうと人声掛けようとも次の店に行こうとするアリスが恐ろしい。

 

「はぁ……ふぅ……容赦ないな、お前は」

 

「それでも男なの?次で最後だから早くなさい」

 

人里から外れ、連れてこられたのは魔法の森。何も無い場所に何の用があるのか。疑問を抱き、アリスに声を掛ける。

 

「おい、こんな所で何すんだよ?寒いし早く帰ろうぜ」

 

アリスは質問に応答せず、○○に顔を向けた。普段とは違う、真剣な眼差しで。

 

「私が貴方と会ってからかなりの時間が経ったわけだけれど、言いたかった事が一つだけあったの」

 

「え、もしかしてアリスの大事にしてたマグカップを割ったからそれのことか?それとも……」

 

「それともって、あんた何やってくれてんのよ」

 

○○は頭を掻きながら苦笑いをする。やっちまったと言わんばかりに。アリスの怒号が飛び込むかと思いきや、今回は違った。

 

「……アリス?」

 

「長い間、貴方を見ていてずっと言いたかった事。私ね、○○の事が好きなんだと思う。嘘じゃない、ずっと傍に置いていて欲しいって……やっと思えた」

 

「ああ、俺も同じだよ。いつか俺から言おうと思ってたんだけど、先にアリスが言っちまったなー……だから、俺から言わせてくれ」

 

好きだ。ずっと傍にいてくれ。

 

その言葉にアリスは笑顔で頷いた。



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文とお祭り

 

 

 季節は夏。今夜は人里での祭りの日。

幻想郷の天狗のブン屋、射命丸 文に祭りに誘われたのだが、肝心の文はまだ着いてない様だった。俺自信も今来た所なのだが……

 

「文は……まだ来てないか……」

 

 既に祭りは始まっており、太鼓を叩くを音も聞こえる。小さい頃から祭りには興味を示した事がないから、こういう人が多い所は初めてだ。

 

「おーい!〇〇さーん!」

 

 背後から声が聞こえるので、振り返ると文が浴衣姿で手を振っていた。

 

「はぁ……はぁ……すみません、遅れてしまって」

 

「いや、俺も今来たばかりだから」

 

「そ、そうですか、良かった……本当は来てくれないんじゃないかって思ってて……」

 

「まさか、せっかく文が誘ってくれたんだ。行くに決まってる」

 

 それを聞くと、文は嬉しそうに笑う。それが俺にとっては一番嬉しい事だ。

 

「それでは、本題に入りますが、〇〇さん。今日はお祭りに来てくれてありがとうございます!今日はよろしくお願いします!」

 

「こちらこそ、誘ってくれてありがとな。俺、こういう所来るの初めてだからさ」

 

「あやや!?そうなんですか!?なら、私がちゃんと引っ張っていってあげますから、覚悟してくださいよ?」

 

「ああ、楽しみにしてるよ」

 

「ところで〇〇さん、その……何か物足りなくありませんか?」

 

「んー……そうだなぁ……」

 

 まあ、考える間もなく文が喋りかけてくるのだろう。

 

「ほら!た……例えば、手を繋いだり……とか?」

 

「ふむ……」

 

 文がそう言うのなら、いきなり手を繋いでやろうと、俺は悪戯な表情を浮かべる。

 

「え……ちょっと、〇〇さん?」

 

「手……繋ぎたいんだろ?だからこれで行かないか?」

 

「ありがとうございます」

 

 これは自分でやっておきながらかなり恥ずかしい。それでも、文と手を繋げるなら本望だ。

 

「あの、〇〇さん」

 

「どうした?」

 

「その……私達って、周りから見たらやっぱり、こ……恋人同士に見えるんですかね?」

 

「な、なんだよいきなり……」

 

「もし……そうだとしたら、良かったのになって思ったんです」

 

 確かに、俺と文が恋人同士だったら、俺はどれほど喜ぶだろうか。

 

「な、なーんて!変な事言ってすみませんね?さあ、まだまだ祭りの時間はありますよ!」

 

「……はぁ、そうだな。残りの時間も楽しむとするか!」

 

「だから……祭りが終わっても、家に帰るまでも、ずっと手を繋いでくれますか?」

 

 俺はその言葉に、勿論頷く。

 

 祭りが終わっても、俺は繋いだ文の手を帰るまで話す事は無い。

 

「〇〇さん……この手をずっと……離さないでくださいね?」

 

 文は笑顔で、俺の手を強く握った。

 



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華扇が団子屋で好きな子の為に団子を作るお話

 〇〇はいつも人里の団子屋で一服する。毎日のように行き、毎日のように団子を食べる。それが〇〇の好きな事だ。ちなみに今もその団子屋で団子を食べている。

 

「やっぱりおじさんのみたらし団子は最高だよ!」

 

「へへっ、そう言ってくれると嬉しいぜ兄ちゃん」

 

 店の主人も優しいし、味も美味しいのに何で人が来ないのかは〇〇には理解出来ない。まあ、主人がただ単に無愛想なだけかもしれないが。と、そこで客が一人入ってくる。茨木 華扇だ。

 彼女も〇〇と同じくこの団子屋を気に入っている。それと説教先でもある。

 

「あら、〇〇さんも来てたんですか」

 

「うん、ここの店の団子は格別美味しいからねぇ・・・」

 

「はぁ・・・〇〇さん!そんなに団子ばっかり食べてると体に良くないですよ!昨日も一昨日もここで団子食べてましたよね!?」

 

 そしてこれである。よく、〇〇は華扇に説教される。言ってる事が正しいので、言い返せない。最近は説教される事が多くなった。

 

「あはは、ごめんね。でも、飽きないんだよねぇ・・・」

 

「それはわかりますけど!ほら、今日はその一本で終わりです!」

 

「えぇ!そんなぁ・・・」

 

「ははは!今日はその辺にしときな兄ちゃん、また来りゃいいじゃねえか」

 

 主人に言われるともう頼めなくなる、まあ今ので十二本も食べていたらそうなるだろう。仕方なく会計を済ませとっとと外に出る。ちなみに華扇は食べていくらしい。

 

「・・・そんなに好きなのかしらねぇ」

 

「まあ、美味いって言ってくれるなら俺ぁそれでいいさ」

 

「ふぅん・・・」

 

 翌日、〇〇がまた団子屋に行くと華扇が既に来ていた。

 

「あ、華扇ちゃん・・・」

 

「座ってください、またみたらし団子ですか?」

 

「え・・・あ、うん」

 

 これには〇〇自身は驚いた。てっきり説教されると思っていた。〇〇はみたらし団子を頼むと、出てきたのはいつもの綺麗な丸の団子ではなく、少し形崩れした団子だった。

 

「あれ?主人、いつもとは形が雑だね?」

 

「仕方ないじゃないですか!初めてなんですから!」

 

「え、何で華扇ちゃんが怒るのさ?」

 

 主人が言うには、昨日〇〇が帰った後に華扇が団子の作り方を教えて欲しいと言ってきたらしい。にしては、形は丸めるだけなのにどうして崩れるのだろうか・・・〇〇は口には出さず、内心そう思っていた。

 

「そ、そうだったんだ。華扇ちゃんが僕の為に・・・ありがとう、華扇ちゃん」

 

「そりゃ、好きな人の為なら頑張りますよ・・・」

 

 華扇が小声でそう言う。しかし、〇〇は団子に夢中で聞こえていないようだった。

 

「ん、華扇ちゃん何か言った?」

 

「何でもないです。今日はいくらでも食べていいですからね?」

 

「ははは!熱いねぇお二人さん!」

 

「うるさいわね!一時間説教されたいの!?」

 

「おお、怖い怖い」

 

 ちなみにみたらし団子のあんが甘過ぎて、しばらく〇〇はみたらし団子を食べる気にはならなかったようです。

 



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海を見たい河童

  河童妖怪河城にとり、少女は海を見たい願望があった。勿論そんなこと実現する筈もなく、そもそも幻想郷に海は存在しない。というか存在してるのは逆に恐ろしい。

  幻想郷は日本の山奥に存在する結界で隔離された土地。当然、外の世界とも行き来は出来ず、山奥に位置する為か海は存在しない。そんな叶うはずの無い夢を追うにとりの姿に〇〇は呆れていた。

 

「にとり、いい加減に諦めろ。幻想郷に海は存在しないんだって…」

 

「うるさい、絶対に見つけ出してやるんだから!」

 

  それに、今の会話の通り話を聞こうともしない。事の発端としては、〇〇が人間であり外の世界から幻想入りした事だった。まあ、勿論人間では無くなり妖怪として生まれ変わった様なものなわけで。〇〇が何の妖怪かはさておき、にとりが〇〇に外の世界の話を持ち掛けた事が始まりで、海が存在する事を話せばもう、夢中になり数時間は海の話で正直ネタも無かった。だって海の事なんて話すことないし。

  幻想郷には陸地が占めているから海は生成されないと言っても聞かず、お得意の発明で幻想郷そこらを飛び回るも見つからず。まあ、存在している方がおかしいが。

  今では話すんじゃなかったと後悔してる。

 

「だったら塩水作っとけよ、それで海の完成だ」

 

「嫌だ、私は本物の海が見たい!」

 

「わがまま言うなよ、陸地しか存在しない幻想郷の何処に海があるってんだ。諦めろよ…」

 

「だったらついてこなくても結構、お前はどっか行ってろ!」

 

  いや、怒られてもね。ついて行けと周りがうるさいんだよ……

  こりゃ、やり出したら止まらないタイプだな。普通に外の世界に出られたら簡単な話なんだが、まあそんな事は許される訳もなく、話から数週間は経とうとしているが未だに探しているレベル。そろそろ諦めていただきたいものだ。

 

「じゃあにとり、こっそり幻想郷(ここ)から抜け出さないか?」

 

「はあ?抜け出せるわけないでしょ。馬鹿なの?」

 

「正面突破で!」

 

「ははっ……そうね」

 

  いや待ってその呆れた顔はかなり傷つくんだが。確かに馬鹿な考え方なのかもしれんが、一番されたくない顔をされたんだが。

 

「まあ、その馬鹿っぷりもいいんだけどねぇ…」

 

「いや、それ貶してるのか褒めてるのかはっきりしていただきたい」

 

「貶してるに決まってるでしょ」

 

  知ってた。どうせそう返ってくると思った。

  まあ、どんな理由でさえ外の世界には出してもらえないだろうが……正直言って、あれほど目を輝かせたにとりは初めて見た。

  少しでも喜ばせてやろうと霊夢に実は話をした翌日から頼んでいたのだが、まあ無理なわけで。毎日訪れても無理だそうで、おかげで霊夢には変態呼ばわりされるハメになり、テンションが落ちてるわけでして。個人的にもにとりには見せてやりたいと思ってる。

 

 

  翌日、もう一度博麗神社に伺うことに。鳥居の下で掃除をする霊夢の姿が見えた。相変わらず変態を見るような目で見られてるわけだが。

 

「また来たの、変態男」

 

「霊夢さん?それ言い過ぎなのでは…」

 

「はいはい、どうせまた外の世界に出せでしょ?」

 

「やっぱり駄目っすか」

 

「当たり前でしょうが、外の世界に出すって事は他の悪妖怪もそれに連られて出ていくって事も有り得るんだから」

 

  やっぱり駄目でした。

  仕方ない、にとりには意地でも諦めてもらうしかない。少し悔しい気もするが、外の世界に影響が出ては面倒だ。ここはきっぱり諦めよう。

  妖怪の山の川辺にはにとりが待っていたかのように釣りをしていた。

 

「おーす、隣来いよー〇〇!」

 

「ん、ああ…」

 

  言われるがままににとりの隣の岩に腰を掛ける。

 

「その顔、やっぱり駄目だったみたいだな?」

 

  むむ、顔に出やすいタイプだったか、悟られないようにしなければ。

 

「今更真顔になるなよ、良いよもう諦めたから」

 

「え、なんだよ急に。にとりが諦めるなんて」

 

「なーんか、もういい気がしたんだよ。〇〇が頑張ってくれたのはわかったからさ、私の為にありがとな」

 

  あれ、にとりってこんな笑顔が出来たのか。というか、初めから早くに諦めて欲しかったのだが……え、なにこれ頑張った意味無いじゃん。〇〇はため息をついた。

 

「おいおい、ため息つくなよー。〇〇の頑張りは充分伝わったからさ」

 

「へいへい。んで、なんか釣れたか?」

 

「なーんにも、収穫0だ」

 

  こっちの収穫も0だったがね。

  〇〇が立ち上がろうとした時、背後から巫女服の少女が現れた。

  出たな、巫女服モンスター。

 

「聞こえてんのよ変態男。んなことより、外の世界の外出許可が下りたわ。少しだけ時間をあげる」

 

「外出許可って…大丈夫なのかよ?」

 

「結界を強めで張りながらだから長くは出られないわよ。早くしなさい」

 

  まさか本当に許可が出るとは……にとりも嬉しそうで何よりだ。博麗神社に赴くと、八雲 紫の姿もあった。結界を張りながらだから当たり前か。

 

「時間もあるからね、そのままあんたらの見たかった海まで繋がってるから、とっとと行ってきて」

 

「霊夢…お前って奴は……」

 

「はいはい」

 

  結界を潜ると、そこには果まで続く青の海。あれ、海ってこんなのだったかな。長らく来てない外の世界。両親は今頃探してるんだろうか。

  にとりは目を輝かせ、砂浜を駆けた。

 

「見ろよ〇〇。海だ、海が見える!」

 

「あんまりはしゃぎすぎるなよー」

 

  妙に人気が無いと思えば、なるほど無人島か。

  よく考えてあるな。

  タイムリミットは過ぎ、また幻想郷に戻るのか…このままいてもいいが、何をされるかわからん。にとり、〇〇は再度結界を潜る。先にはいつもの光景が広がる。

 

「おかえり、楽しかったかしら?」

 

「ああ、ありがとう霊夢」

 

「そっ…二度とこんな事ないんだから、二度目は無いわよ」

 

「ああ…」

 

  霊夢、紫と別れ妖怪の山に戻る。

  なんというか、にとりと過ごすのも悪くないと思えた。

 

「今日はありがとう、〇〇。お前はやってくれると信じていたよ!」

 

「いや、開けてくれたの霊夢だけどな」

 

「〇〇の交渉があってこそだ、私は〇〇のそういう所は嫌いじゃないがな」

 

「所は…ですかい。褒め言葉として預かっておく事にするよ」

 

「またいつか……連れて行ってくれよ、盟友!」

 

  まあ、その後は言うまでもなく外の世界に出してもらえるわけがなく。おまけに勝手に抜け出そうとして紫の説教を長々と聞かされた。



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小さなその手で

たまにはキャラ同士のSSとか


触れた手は小さく、昔はもっと大きかった物だと。幼い頃からずっと一緒に居たような、そんな感覚だった。博麗の巫女は、小さな少女を目の前にして思案した。

とは言うものの幼少期にこの少女、ルーミアがそこに居たという記憶は無い。無いけど、今とは違う少女がルーミアがそこに居たよう気がする。まあ、この娘自体にそんな記憶は無いのだろうけど。と、霊夢はルーミアの手を取った。

 

「あんたの手って小さいわねー」

 

「そーなのかー?あんまり気にしたことないからわかんないや」

 

「そーなのよ」

 

頭を撫でると喜ぶ姿が微笑ましい。良く悪戯をしに神社に来るがそれはどんな厄介事でも何処か笑って許せる所がルーミアにはあった。

 

「あんたはいいわねぇ……悩み事が無さそうで」

 

「んー、確かに毎日が生きてて楽しいから、霊夢と居る時間が凄く楽しいから!」

 

胸を張る姿には笑ってしまう。呆れるよりもその微笑ましさがあるから。私もいつも笑っていられたら良いのに。霊夢はしゃがみ込み、再度ルーミアの頭を撫でた。霊夢の母親、先代の巫女は出来すぎた。霊夢は幼少期の頃から博麗の巫女という重荷を背負い、周りからは母親と比べられ、母親程完璧では無かった自分は鍛錬に尽くすことだけを目的とし、友達と呼べる者は魔理沙だけだった。だが、薄い記憶の中でルーミアが居て、共に食事を並べる家族の存在だったようなそうじゃないような曖昧な記憶が行き来する。

 

「霊夢、おーい。どしたの?」

 

「……何でもないわよ」

 

返答が雑過ぎたか、ルーミアは頬を膨らませる。

 

「むぅ、私には言えない事なの?」

 

「まぁね……」

 

「ほいっ!」

 

不意にルーミアの手が霊夢の頬に触れる。驚く程にその手は冷たく、指先の温度まで伝わってきた。

 

「冷たっ!?あんたねぇ……」

 

「霊夢のそんな顔見たくない、いつもの霊夢に戻ってよ」

 

意外と鋭いのか?相手が子どもだと思って甘く見るものじゃない。突っ込まれると面倒なので霊夢は笑顔を返す。

 

「はいはい、悪かったわね」

 

「適当だなぁ……なんか隠してる?」

 

こいつ……隠しきれない。鋭すぎないか。

 

「あんたには関係の無い事」

 

そう言ってルーミアの頬を引っ張る、意外と伸びるのなんの。必死に自分の手を解こうとする姿が可愛らしい。

 

「ま、あんたのそういうとこ嫌いじゃないわよ。心配してくれてありがとね、ルーミア」

 

「……よく分からないけど、元気になってくれたみたいだから、早速イタズラしてもいい?」

 

「はなからそれが狙いかこの野郎」

 

 

たまには、鍛錬に費やすよりも今この時間を、ルーミアと過ごしてみるのも悪くないかもしれない。

 



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うちのアリスの愛が重い

「おかえりなさい、遅かったのね」

 

帰宅した僕に対し、彼女、アリス・マーガトロイドが笑顔を見せた。美しい笑顔、誰が見てもそれが何の変哲もないお迎えの挨拶としか見えないだろう。だが、僕にはそれが狂気の表情にしか見えない。

外出して帰ってくればいつもこれだ。僕は震えた声で返答を返す。

 

「ひ、人に会ってたんだ、友人にな?」

 

「そう、そんな震えた声で返答しなくてもいいのに相手は誰、女?」

 

ここで女、と言えばまた拘束されてしまうので、古い友人と会っていたという設定で行こう、そうしよう。勿論、会ってもいないしそんな友人は居ない。最近出来た団子屋の店員の女性が可愛かったからその為に毎朝早起きして出掛けているなんて口が裂けても言えない。言ったら今度こそアリスの人形コレクションにされる。

 

「まあ、古くからの付き合いでな」

 

「古い友人さん?是非あって見たいものね」

 

もう一度言っておくがそんなやつ居ない。長年付き添ってきたが、深く入り込まれた事は無い、ならば大丈夫だ。知らんけど。

 

「いやぁ……それは無理かなぁ。忙しそうだったし」

 

「あら、店の店主でもやっていらっしゃるの?尚更お尋ねしないと……」

 

「いやぁ、でもなぁ……」

 

こんだけ汗ダラダラ流してたらバレそう。てか、バレてるのではないか?

 

「……ねぇ、〇〇。私、好きな人にされて嫌いな事があるの……」

 

んん?????

 

「嘘を付かれるのは大嫌いなの。怒らないから正直に話してみなさい?」

 

ああ、終わった。さらば人生マイライフ。これ怒られる上に監禁されるやつや……

 

「嘘じゃないよ、ホントだよ。なあ、信じてくれよマイハニー」

 

「だって見たもの、貴方が人里で最近出来た、団子屋の女性と仲良さそうに話している所。それも、運悪く抱き合っている所をね?」

 

OMG。そんな所まで見られていたとは。いやまあ、普通付き合っている女の子がいるのに抱きつくかって話なのだが、決してやましいことを考えていた訳では無い。あれはあの店流の挨拶なのだ。帰り際には抱き合うという謎の挨拶なのだ。決して、僕は、悪くは、ありません。

 

「ち、違う。誤解なんだ。話を聞いてくれ!」

 

「そんな子は、お仕置きが必要になりそうね。ダーリン?」

 

駄目だ、目が死んでる。これダメなやつだ。

 

「さよなら、マイライフ……フォーエバー……」

 

「なんて、冗談よ。恋人にお仕置きなんてしないわよ」

 

いや、それは嘘やろ。あんさん拘束やらなんやらしてきたやないか。という言葉がでかかったが直前で抑えれた。言ってたら半殺しじゃ済まない。

 

「いや、なんと言いますか。ごめんなさい」

 

「正直に言ってくれたらいいのよ。でも、もう誤解する様な事はしないって約束してくれる?」

 

「あ、ああ。約束する」

 

 

その後、また同じ事を繰り返す事を過去の僕は知らないのだろう。



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