キングは1匹! このコイだ!! (d.c.2隊長)
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コイキングでもハイドロポンプくらい撃てるよね
この世界にはポケットモンスター……縮めて、ポケモンと呼ばれる存在がいる。その種類、生態は詳しく解明されておらず、未だに謎が多く残り、多くの研究者達が日夜探求の日々を過ごしている。その一方で、一部の人間は“モンスターボール”と呼ばれる特殊なボール状の機械を使い、ポケモンを捕獲し、育て、戦わせるスポーツのようなことを行っていた。
通称、ポケモンバトル。ポケモン同士を戦わせるというこの行為は世界に深く浸透しており、今ではポケモントレーナー……ポケモンを捕獲して戦わせる者達の中で最強を決める大会、ポケモンリーグが開かれる程。トレーナー達はそのリーグに参加する為に1つの地方につき8つあるポケモンジム……それぞれにポケモンのタイプごとのエキスパートのトレーナーが存在し、そのジムの中で最強のジムリーダーを倒すことで貰える“ジムバッチ”を集め、日夜己と己のポケモンの鍛練を欠かさない。
……さて、ここまで説明したが、この物語は主人公が仲間達と友情を育み、日々の努力を惜しまず、それらの末に勝利する……なんて物語では断じてない。有り得ない。友情も努力もその辺のゴミ箱に投げ棄て、なんだかんだ勝利する。後、いろいろ理不尽なことをしたりやりたいことやったり自重を無くしたり世界の法則を無視したり割りと外道だったりする……その他もろもろあるお話。
その地方の名を、カントーと呼んだ。決して関東ではない。そしてその地方の中に存在する、アニメとか漫画とかの主人公のスタート地点である町、マサラタウン……この小説の主人公もまた例に漏れず、この町をスタート地点として……いる訳ではない。主人公の物語は、ニビシティから始まる。
カントー地方にもポケモンジムが8つ存在し、地面タイプのトキワジム、岩タイプのニビジム、水タイプのハナダジム、電気タイプのクチバジム、草タイプのタマムシジム、毒タイプのセキチクジム、エスパータイプのヤマブキジム、炎タイプのグレンジムとそれぞれのタイプのエキスパートのジムリーダーがいる。尚、トキワジムを最初に紹介しているが、他の7つのジムのバッチを集めなければ戦えない。理由を知りたいならゲームをしよう。
さて、ここで主人公を紹介しよう。彼の名はレッド。ゲームと違って御三家と呼ばれるポケモンの前に進化済みのポケモンを持ち、伝説のポケモンに知らずに挑んであっさりと敗北するが、いずれ世界を救うほどにまで成長する、言わずと知れたトレーナーである……というのがポケットモンスターspecialという漫画の最初の主人公である。この作品には一切存在しないし、漫画のような事件など微塵も起きないので安心して欲しい。
さて、次は本当に主人公の紹介をしようと思う。主人公の名前はアンバーと言い、年は19。特徴として名前と同じ琥珀色の瞳と首までの長さの髪を持ち、身長は180となかなかに高身長。服装は至ってシンプルであり、細かい説明は面倒なので省略。顔の造形は美形と言って差し支えないだろう。
そんなアンバーだが彼は今、ニビシティにあるニビジムの門を潜り、ジムリーダーの前にやってきていた。理由は当然、ニビジムのジムリーダー……タケシを倒すことで手に入るバッチ、グレーバッチを手に入れる為だ。
「はじめまして、ジムリーダー。俺はアンバー……あんたに挑戦しにきたぜ」
「ようこそチャレンジャー。俺がジムリーダーのタケシだ……その挑戦、受けよう。知っているかも知れないが、このジムは岩タイプのポケモンを扱う。その名の通り、岩のごとき固い防御……そう簡単に貫けると思うなよ?」
「当然、対策はしてあるさ」
「その意気やよし……こちらは2体のポケモンを使う。そして最初のポケモンは……こいつだ。いけ、イシツブテ!」
タケシが繰り出したのは、2本の石の腕が石の顔にくっついているような見た目のポケモン、イシツブテ。そのイシツブテを見て、アンバーはくつくつと小バカにするように笑った。
「本当に岩タイプだけなんだな」
「当然だ。それよりもそんな風に嗤ってないで、早くお前のポケモンを出せ」
流石に嗤い方が気に入らなかったのだろう、タケシの口調がキツくなる。そんなタケシの姿に更に笑みを深くし、アンバーはベルトに取り付けられているモンスターボールを手に取った。
「岩タイプの弱点は草に地面、格闘、鋼……そして水。出てこい!」
「……っ!? ま、まさか……そのポケモンは!!」
「そう、このポケモンこそが俺の唯一無二のパートナー! ニドキング、キングドラ、キングラー……それらと同じく“キング”の名を持つポケモン! いいや、キングの中のキング! そう!」
アンバーがモンスターボールを上空へと投げ、開かれたボールの中から1匹のポケモンが姿を現す。
小さくも圧倒的な存在感を醸し出している真っ赤な体。それが木材なら完璧とまで言える正方形に開いた口。その上にある長く立派な金色のひげ。極めつけは王冠を想像させる輝かしい光を放つ“背びれ”。
そう、このポケモンこそがアンバーのパートナーであり、タケシを驚愕させたポケモン。
「キングは1匹! このコイだ!!」
コイの中のコイ。コイの王様。コイキングである。
「……バカにしているのか?」
タケシが震え声でそう聞く。脅えている訳では決してない。これはバカにされていると感じた為に沸き上がった怒りのせいである。
コイキング。ぶっちゃけて言えば全ポケモンの中でワースト1、2位を争う程に“弱い”ポケモンである。縛りプレイでもなければ主要メンバーに入れることはないだろう。仮に入れるとしても進化させるのが目当てだろう。そんなポケモンを自信満々に出されたのだ、バカにされたと感じても不思議ではない。
「まあそう怒るなタケミ君」
「タケシだ」
「このコイキングがただのコイキングと思うのは早計と言う奴だ。俺がこいつをゲットした過程を聞けば、侮ったことを後悔するぜ?」
「む……」
アンバーの言葉を聞き、タケシは己の浅慮と短気を恥じる。何せ世の中には何のためにそんなことをするのか? という行為やそんなポケモンで大丈夫か? というようなポケモンを使い、大丈夫だ問題ないとばかりにジムを、四天王を、チャンピオンすらも下したという事実が存在する。ならば、目の前のアンバーとコイキングもまたそういった者達のような存在なのかも知れないと思ったからだ。
「話せば長くなるが、こいつとの出逢いはポケセンだった。うっかり財布を落とした俺は食うものに困ってな……非常時の金である500円玉しか持っていなかった。そしてポケセンで500円で売られていたこいつを買ったのさ……晩 飯 の 為 に !」
「話が短いし大した過程でもなかったじゃないか! というかポケモンを食おうとしたのか!?」
「因みに15分程前の話だ。こいつ体が無駄に固くて食えねーし、お陰で今も腹ペコだ。なんか食わしてくれ」
「ついさっきじゃないか!! しかも図々しいなお前!? 終わったら後で残ってるシチュー食わせてやるから真面目に戦え!」
ツッコミをしながらも食事をさせてくれるらしい。タケシ君はとても優しかった。
「ならば真面目に戦うぞ。コイキング、先手必勝だ!」
「しま……イシツブテ! “た……”」
「おせえ! “はねる”!」
「ココココココココココココッ!!」
ぴちぴち。ぴちぴちぴちぴち。ぴちぴちぴちぴちぴちぴち。ぴちぴちぴちぴちぴちぴちぴちぴち。
「……」
「……」
し か し な に も お こ ら な い 。
「“たいあたり”」
「コッ!?」
「ああっ、コイキング!」
まるで道端の塵を見るかのような冷めた眼で(糸目なので分からないが)コイキングとアンバーを見ながら冷徹に命令を下すタケシ。その命令を受けたイシツブテは特に鳴き声を発することもなく石の固さと重量を伴った体当たりを実行し、コイキングをふっ飛ばした。ふっ飛ばされたコイキングはアンバーの近くの地面に叩き付けられ、アンバーはコイキングの元に駆け寄り……。
「真面目にやれえ!!」
「コッ!?」
「お前は何をしているんだ!?」
情け容赦手加減なくコイキングを蹴り飛ばした。
「……っ!?」
「い、イシツブテ!?」
しかも蹴り飛ばされたコイキングはイシツブテに直撃。余程(蹴りの)威力が高かったのか、それとも当たり所が悪かったのか……イシツブテの石の体に亀裂が入り、瀕死判定が下る。まさかのいちげきひっさつであった。
アンバーは跳ね返ってきたコイキングの元に歩み寄り……優しく抱き上げる。それはもう元々が美形である顔にまるで聖母のような笑みを浮かべて。
「ナイスファイトコイキング……見事な“たいあたり”だったよ」
「いやまて! あれは技ですらなかったぞ!? どちらかと言うとお前の“業”だっただろう! 主に行い的な意味で!」
「あれほどすばらしい“たいあたり”は見たことがない。最早神業とも言えるレベルだよ。むしろお前が神だよ。いや、王だよ王」
「今の一連の流れのどこに高評価を得るところが!? それに神から王ってランクが下がっているんじゃ……ああもうこれ以上付き合いきれん! いけ、イワーク!」
「イワァァァァク!!」
遂にタケシはツッコミを放棄し、自身の最後にして最強のポケモンである幾つもの岩が数珠のように連なって蛇のような形になっているポケモン、イワークを繰り出す。その巨体はジムの天井に届かんばかりで、その巨体と体重のお陰でただの体当たりすら致命傷になりかねない。
「さあチャレンジャー。お前はこのイワークを倒すことが……」
「コイキング、ご褒美の“おいしいみず”だ。たんと飲め」
「コッ……♪」
「きけえ!!」
タケシとイワークを無視しておいしいみずをコイキングに飲ませて体力を回復させるアンバーと美味しそうにかつ嬉しそうに飲むコイキング。話を聞かない彼にタケシもいい加減堪忍袋の緒が切れそうになるが、流石にポケモンを抱いているトレーナーに向けてイワークを突撃させたりはしない。心情的には物凄くしたいが。
「さあコイキング。あのイワークをよーく見て……」
「コ……?」
「おら、飲んだ水を吐き出せやコラァッ!!」
「コボボボボッ!?」
「お前マジで何やってんの!?」
「イワァァァァッ!!」
「ああっ、イワーク!?」
まさかのアンバー、コイキングに全力ボディブロー。折角回復した体力はまた減り、コイキングが飲んだおいしいみずは全て吐き出される。まさかの凶行にタケシのキャラが崩れ、吐き出されたおいしいみずはハイドロポンプの勢いでイワークに直撃し、イワークが苦しみの声を上げた。
あまりに非常識。しかし、その非常識にタケシは追い詰められていた。ニドラン♂や♀の“にどげり”で蹴られたことはあろう。マンキーの“けたぐり”や“からてチョップ”を受けたこともあろう。バタフリーの“ねんりき”やゼニガメの“みずてっぽう”、フシギダネの“つるのむち”、ヒトカゲの“メタルクロー”など、様々な方法で負けたことはあろう。
しかし、コイキングである。はねる、たいあたり、じたばた、とびはねる、わるあがきしか使えないポケモンである。そんなポケモンとポケモンに暴力を振るうトレーナーに今、タケシは負けそうになっている。それが何よりも信じがたく、許せなかった。
「さあコイキング、止めの“たいあたり”だ!」
「しまっ……」
そうして悩んでしまったことで動きが送れ、イワークへの命令を出せなかったタケシ。イワークは“おいしいみずハイドロポンプ”のダメージが大きいのか動けない。こんな敗北の仕方をするなんて……と泣きたくなった。が、アンバーの命令を受けたハズのコイキングは何も行動を起こさない。アンバーとタケシの2人が不思議に思い、コイキングの方を見てみると……。
「コ……コ……」
「……」
「……」
未だアンバーに抱き抱えられたままの、ビクビクと痙攣して瀕死にしか見えないコイキングの哀れな姿があった。
「休んでんじゃねえ!!」
「コッ!?」
「やめてやれよ!?」
アンバーはコイキングの尾ビレの付け根を掴んで地面に叩き付けた! タケシは止めるように言った! しかし相手にされない!
タケシはコイキングの扱いに涙ぐむ。なぜ晩飯として買われて食われそうになった挙げ句にこんな拷問紛いのことを受けなければならないのかと。この勝負が終わり次第ジュンサーさんにポケモン虐待を届け出ようと心に決め、タケシは何とか動けるようになったイワークに命令を下す。コイキングが早く楽になれるように。
「イワーク……“たたきつける”!」
「イワァァァァク!!」
ほとんど瀕死のコイキングと近くにアンバーがいることに対してまさかの技選択だった。間違いなく物理的に命を散らす形で楽にさせにきている。ジムリーダーの業は深かった。
しかし、アンバーは慌てずに叩き付けたコイキングの尾ビレの付け根を掴んで持ち上げ……イワークの尻尾によるたたきつけるに対して真っ向から挑んだ。
「さあ、逝け! コイキング!!」
「コッ!?」
「“とびはねる”!!」
「ゴッ!?」
「イワァァァァクッ!?」
「イワーク!?」
尾ビレから手を離したことによって落ちるコイキングをアンバーは思い切り、一切の躊躇なく、一片の後悔もなく蹴りあげる。そうして蹴りあげられたコイキングはイワークの尻尾にぶつかり、突き破り、イワークの顔にぶち当たり……イワーク、戦闘不能。有り得ないハズのコイキングの勝利だった。
イワークを倒した(?)コイキングはアンバーの元に跳ね返り、アンバーは落ちてきたコイキングを抱き止める。そして凶悪な笑みを浮かべ……こう呟いた。
「俺のコイキングに不可能はない」
「そのコイキング、白目剥いて痙攣してるぞ」
こうして、アンバーとコイキングのポケモンマスターへの道は始まった。それは長く辛い、苦難も困難もある道のりだろう。しかし、アンバーは行く。己と相棒を信じ、愚直なまでに突き進んでいくのだ。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは一匹! このコイだ!!
「この後滅茶苦茶シチュー食べさせてもらった。そして俺を捕まえにきたジュンサーさんと熱い夜を過ごした」
「!?」
こんな感じでジム戦を行っていきます。ヒロインとかは決まってませんし出るかも謎です。
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コイキングだからロケットずつきだって出来るさ
ニビシティからしばらく進むとおつきみ山という山があり、その山を越えた先にハナダシティという町がある。そこにはニビシティ同様にポケモンジム……ハナダジムが存在し、水タイプのエキスパートであるジムリーダーがチャレンジャーを待っている。
とある日、そのハナダジムの門が開かれて1人の青年が入ってきた。青年の前に広がるのは、水タイプのポケモンが全力を出せるように作られたジムの中の過半数を占める程の巨大かつ広大なプール……青年はプールサイドを歩き、迷いなく1人の女性……まだ少女と言っても過言ではない見た目のジムリーダーの前にやってきた。
「あんたがジムリーダーかい?」
「ええ、そうよ。私がジムリーダーのカスミ。そういう貴方はチャレンジャーでいいのかしら?」
「そうだ。俺はアンバー……あんたのバッチを頂きにきたぜ」
ニヤァと凶悪な笑みを浮かべ、不遜な態度で告げた青年……アンバーをジムリーダーのカスミは面白そうに見ていた。カスミは少女である故に見た目で侮られることは少なくない。そういった者達に限って身の程を知らずに返り討ちに会うのは世界の真理である。事実、カスミはそういった者達を1人残らず返り討ちにしている。
しかし、だ。目の前の青年は笑みこそ凶悪だが、それは決してカスミを侮っている訳ではない。相手はジムリーダー。だから倒す。言ってしまえばそれだけであり、性別だとか年齢だとかは無視している。カスミとしてはこういった分かりやすい男の方が好感が持てた。
かくして2人はプールを間に挟んでそれぞれの位置に立つ。ここから先は誰にも間に入ることは許されず、勝敗を決するまでジムから出られない。
「私の手持ちは2匹……それを倒しきれば貴方の勝ちよ。ところで、貴方はポリシーはある?」
「ポリシーか……どんな時でもパートナーを信じ、パートナーで勝利する……かな」
「いいポリシーね。私のポリシーは水タイプのポケモンで攻めて、攻めて、攻めまくること。貴方のポリシーと私のポリシー……どっちが強いか勝負といきましょ。さあ行くわよ! マーイステディ!!」
「ヘアッ!!」
カスミが投げたモンスターボールが開かれ、中から現れたのは星、或いはヒトデの形をした、中心にコアと呼ばれる球体があるポケモン、ヒトデマン。別にどこかの地球上で3分しか活動できない光の戦士の親戚ではない。
「さぁ、刮目しな! これが俺のパートナーにして王の中の王! そう!」
アンバーはボールを上に投げ、中からポケモンが出ると同時に戻ってきたボールをキャッチし、右手を人差し指を伸ばしながら天に向ける。自然、かなりの距離があるにも関わらずに見えているカスミは釣られて天を仰ぐ……が、そこには見慣れた天井しかない。
「キングは1匹! このコイだ!!」
カスミはその声を聞いて慌てて視線を正面に戻し、いつのまにか下ろされていたアンバーの指が指し示す場所を見る。
「ココココ!! ココココココココ!!」
「……」
「……」
そこには、必死にヒレを動かしてバシャバシャと水飛沫を撒き散らしている、溺れているようにしか見えないコイの姿があった。
「てめえそれでも魚類かあ!!」
「コッ!?」
「あんた何してんのよ!?」
アンバーは近くにあったビート盤をコイキングに投げ付けた! 急所にあたった! カスミはツッコんだ! しかし無視された!
「泳げないコイなんざ只の非常食だ! そうなりたくなけりゃ泳いでこっちこい!」
「泳げないと分かったポケモンに何無理難題吹っ掛けてんのよ!」
「ココココ!」
「ほら、コイキングも怒って……」
あまりにあんまりなアンバーの言葉に先程感じていた好意的な意識など消え去り、怒って鳴き声を上げたんだとコイキングの方を見てみるカスミ。しかし、カスミが見たのは……右のヒレをビート盤に乗せ、左のヒレを器用に動かしてアンバーの元に健気に泳いで近付いているコイキングの姿だった。その健気な姿に、カスミは思わず目頭が熱くなった。
「コイキング……」
「コ……」
そんな姿にアンバーも感動したのか、優しさを滲ませる声でコイキングを呼んで片膝を付きながらコイキングをプールから抱き上げ、お互いに目を合わせる。
「出来るなら最初からやれえ!!」
「コッ!?」
「血も涙もないわねあんた!?」
「ヘアッ!?」
「ひ、ヒトデマーン!!」
コイキングを床に置いたまま立ち上がり、容赦なく蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたコイキングはプールの水の上を縦に回転しながら突き進み、どこかの岩タイプジムの焼き増しのようにプールにぷかぷかしていたヒトデマンを電動ノコギリの如くギャリギャリ言いながらぶつかり、撥ね飛ばした。
撥ね飛ばされたヒトデマンはカスミの元に落ち、カスミは慌てて駆け寄る。固い背ビレのせいかヒトデマンの体に縦一閃の裂傷があり、コアがゆっくりとしたテンポの点滅を繰り返している。誰がどう見ても瀕死である……ん? デジャヴを感じる? 尺の問題です。また1つ大人になったね。
「くっ……無茶苦茶ねあんた!」
「ありがとう!!」
「褒めてないわよ!! あーもう! 戻ってヒトデマン! 行って、スターミー!」
「フーッ!」
カスミの言葉に対し、アンバーは満面の笑みで返す。その笑顔が無駄にキラキラと輝いているイケメンスマイルだからか、カスミの顔が思わず赤くなる……ところで、アニメのカスミよりもゲームのカスミの方が可愛いと思うのだがどうだろうか?
それはさておき、カスミは顔が赤いままヒトデマンをボールに戻し、最後の1匹であるポケモン……ヒトデマンにもう1匹ヒトデマンをくっ付けて紫色に塗装したような姿をしたスターミーを繰り出す。ヒトデマンに水の石というアイテムを使うとこの姿になる為、別に2匹のヒトデマンがジョグレス進化したという訳ではない。
「さあ、あんたも次のポケモンを出しなさい」
「何を勘違いしてやがる」
「にゃ?」
「まだ俺のコイキングは瀕死になっちゃいねえぜ!」
「まさか!?」
アンバーの自信満々な言葉に、カスミはそんなバカなという気持ちでコイキングの姿を探す。あれだけのダメージ(全てアンバーによるもの)を受けてまだ動けるのか……そう思いつつ視線を動かし続け……そして、見つけた。
「……(ピクピク)」
「……」
「……」
ヒトデマンを轢いても尚突き進んだのであろう、カスミの足下のプールの壁にめり込んでピクピクしているコイキングの姿を。
「スターミー……“サイコキネシス”であいつにぶつけて」
「フーッ!」
とても2番目に戦うことになるジムで使うようなモノではない技……エスパータイプの中で1、2を争う技を使わせ、カスミはコイキングをスターミーの超能力によって壁から引き抜き、アンバーに向かって飛ばす。
時速160km程の速度で主人であるアンバーに自分の意思とは関係なく突っ込むコイキング……そんなコイキングの姿を見て、アンバーは右の拳を握り締め……。
「そぅら絶好球!!」
「コッ!?」
「本っ当に容赦も躊躇いもないわね!?」
拳を振るうことなく右足で蹴りあげた。コイキングは直角に蹴りあげられた結果、天井に突き刺さる。その後重力と自重によってスポッと天井から抜け落ち、アンバーの手の中に落ちる。満足そうな顔でボロボロのコイキングを抱き抱えるアンバー……そんな彼の姿に、とうとうカスミがキレた。
「いい加減にしなさい!! そのコイキングはあんたのパートナーでしょ!? なんでそんな風に暴力を振るったり酷いことしたり出来るのよ! さっきの“どんな時でもパートナーを信じ、パートナーで勝利する”っていうポリシーは嘘なの!?」
「そんなことはない。俺のポリシーはその2つだし……そして、俺がこうしてコイキングを扱ってるのは理由がある」
「理由……?」
それは、ニビジムでのジム戦を終わらせ、タケシの通報を受けてアンバーを捕まえにきたジュンサーさんとねっとりしっぽりと熱い夜を過ごした日の翌日。
アンバーは次のジム戦の為にハナダシティに向かうつもりだった。だが、ニビシティとハナダシティの間にはおつきみ山が存在しており、そこを越えなければならない。勿論アンバーも越えてきた訳だが、その越え方が問題だった。
「いいかコイキング……俺は今からお前を投げる。そして投げたお前の上に乗り、そのままハナダシティに向かう……いいな?」
「コッ!」
今の説明で分からない人達は“タオパイパイ”という名前を調べてみよう。因みに、コイキングはアンバーの言葉に頷いている……縦に。
有言実行、アンバーはコイキングの顔を鷲掴みして全力で空に向かって投げ、投げたコイキングにジャンプして追い付くという人外っぷりを周囲の人間に披露した。
「うおおおおっ!!」
「ココココー!!」
空中にいるコイキング。その少し上に並行に跳ぶアンバーの姿がある。タイミングも位置取りも完璧。そして、アンバーの脚がコイキングの体に触れ……。
「投げる方角間違えたああああ!!」
「コッ!?」
恥ずかしかったのか、それとも悔しかったのか……顔を赤くして泣きながらコイキングを蹴り抜いた。
地面に墜落してクレーターを作り出したコイキングと、特に問題なく着地するアンバー。彼はクレーターに近付き、ヤ無茶しやがってと言いたくなる状態のコイキングを見る。そして気付いた……元から赤い体をしているコイキングが、更に顔を赤くしてハァハァと荒く息をしていることを。
「ま……まさか……」
「そうだ……そのまさかだ」
カスミは顔を青ざめさせ、アンバーに抱き抱えられたコイキングを見る。散々アンバーの理不尽かつ意味不明な暴力に晒されておきながら、その姿に怯えは含まれていない。故に理解した……理解して、しまった。
「コ……♪」
━ このコイキングは……ド M で あ る と ━
「さあ、誤解を解いたところでバトルを再開しようか……さあ行けコイキング!」
「っ! スターミー、“みずのはどう”!」
アンバーはコイキングをプールに投げ入れ、カスミは直ぐ様反応してコイキングが通るであろうルートを予測し、そこに向かってスターミーに技を使うように指示する。その指示にスターミーは応え、みずのはどう……振動している水を体から放った。
そしてそれは……コイキングに当たることはなかった。予測した場所にいなかったことにカスミは驚愕する……が、コイキングの姿を発見したことで、その理由を理解した。
「ココココ! ココココココココ!」
こ の コ イ キ ン グ は 泳 げ な い 。
「スターミー……“こうそくスピン”」
「フーッ!!」
「コッ!」
疲れたように指示するカスミ。スターミーはそれに応えて体を高速で回転させ、溺れているコイキングに突撃する。こうそくスピン……ゲームでは決して威力の高い技ではないが、現実ではポケモンの重量と突撃する速度、更には高速回転とどう考えても殺す気しかない技である。コイキングは泣いていい。
そして溺れているコイキングが避けられるハズもなく直撃し、幸か不幸かアンバーの足下に叩き付けられた。ボロボロの姿は正に瀕死。そんな姿を見て、アンバーは憤怒の表情を浮かべた。
「俺のパートナーをよくも……許さねえぞタツミぃ!!」
「あんたが言うな! それから私はカスミよ! 終わらせるわよスターミー! もう1回“こうそくスピン”!!」
「フーッ!!」
筋違いというかどうしようもないというかそんな感じの怒りを言葉にするアンバー。それに対し、カスミは名前を間違えられた挙げ句納得いかない怒りを向けられ、もう付き合っていられないとばかりにトドメを刺しにかかる。
「ハッ! お前のポケモンが“スター”だっつうんなら……」
「ココココ!?」
スターミーが高速回転しながら向かってくる中、アンバーはコイキングの立派なヒゲを両手で掴んで左右に引っ張り、片足で後方へ押し込む……さながらパチンコのように。そして痛みのせいか泣いているコイキングを無視して限界以上に押し込み……解き放つ。
「こっちは“ロケット”で突っ込んでやらぁ!!」
「ゴッ!?」
「フッ!?」
「スターミー!?」
瞬間、コイキングはさながら“ロケットずつき”のように勢い良く飛んでいき……スターミーの高速回転をモノともせずに真っ向から打ち破った。
その結果としてスターミーは戦闘不能となり、カスミは嫌々、不承不承、仕方なく、ジムバッチであるブルーバッチをアンバーに渡したのだった。
「どうだ。ポリシー通り、パートナー“で”勝利してだろ?」
「パートナーで勝利するってそういうこと!?」
こうしてアンバーとコイキングの第2の戦いは終わった。この後も幾度となく彼らは戦い、その身に傷を負いながらも勝利することを諦めないだろう。負けそうになり、逃げ出したくなることもある……だが、彼らはそれでも尚勝利するのだ。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは1匹! このコイだ!!
「この後、ジムの壁を突き破ってポケセンに突っ込んだコイキングを抱えて文句を言いに来たジョーイさんとジムの修繕費を要求してきたカスミの2人を言葉巧みに言いくるめ、ジュンサーさんが満足した技術を使って初めての多人数による寝かさない夜を過ごした」
「い、言うなバカァ!!」
壁を殴っても……いいのよ?(ゲス顔
はい、中編のつもりですので戦闘はさっくりです。基本的にアンバーが(コイキングで)ダメージを与えます。コイキングはドMなのでアンバーの理不尽は御褒美です←
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コイキングであるが故にいわなだれだって起こせる
今回は3番目のジム戦! あの人の口調がどこぞの高速戦艦っぽくなりました。ご免なさい。
ハナダジムを勝利した者達が次に目指す街……それがクチバシティという名の港町である。クチバシティにはニビシティの近くに繋がる“ディグダのあな”が存在し、他に“ポケモン大好き倶楽部”というポケモン好きが集まる倶楽部の集会所だか会長の自宅だかが存在するが、まあそんなことはどうだっていい。でもディグダのあなでゲット出来るダグトリオにはお世話になりました。
トレーナー達の目的は、当然クチバジム。このジムにいる電気タイプのエキスパートであるジムリーダー……その名を“マチス”という。アメリカンな彼は軍人であり、ポケモンを軍事的に使ったことを仄めかす発言もしている。それはつまり、ニビジムとハナダジムに比べて戦いというモノを熟知しているということだ。
そんな彼がジムリーダーを勤めるクチバジムには、先の2つのジムと違い、ジムリーダーに挑戦する者をふるいにかける為のギミックが存在する。彼の前には視覚出来る程の電気が壁を作っており、それを解除する為にはジム内にある大量のゴミ箱の中にある2つのスイッチを順番に、かつ連続で探し出さなければならない。もし連続で見つけられなければ、またスイッチを探さなければならない……根気とある程度の運がいるのだ。
更に、そのギミックを越えた先には厳つい見た目の軍人が待ち構えている。並のトレーナーなら心を折られ、まともに指示を出すことなど出来はしないだろう。
(トゥデイのチャレンジャーはどんな相手なのか……ん?)
いつものようにジムの最奥に待ち構えるマチス。その目の先にある電気の壁のその向こう側に、マチスのいる場所に向かってくる人影があった。その人影は電気の壁など目に入らないとばかりに向かってくる速度を上げ……。
「電気の壁がなんぼのもんじゃああああい!!」
「ホワッツ!?」
電気の壁をぶち破り、マチスの前に転がってきた。流石にこの状況は予想外だったのか、軍人にあるまじき驚愕の表情をマチスは浮かべる。いや、その行動だけならまだなんとか平静を保てたかも知れない……が、その人物の立ち上がった姿が問題だった。
黒だ。上から下まで黒だ。丸い穴から出ている顔以外は全て真っ黒。ぴっちりとした全身タイツを身に纏い、股間を膨らませている姿はまごうことなき変態。しかもその小脇に抱えられている黒焦げのコイキングが余計に意味不明な空気を作り出していた。
「……ヘイユー。そのコイキング、大丈夫デスカ?」
「コイキング!? 誰がこんな酷いこと!?」
「ユーのアクションを思い返してみてクダサーイ。後、着替えてクダサーイ……」
「しゃーねーな……」
マチスは疲れたように溜め息を吐く。こんなに疲れたチャレンジャーの登場が今までにあっただろうか? いや、ない。そもそも電気の壁を変態チックな格好でぶち破ってくる時点で非常識である。しかもコイキングを小脇に抱えながら。なぜモンスターボールにいれなかったのだろうか。
目の前の人物はふてくされたように呟いてコイキングを投げ捨て、着ていた全身タイツを脱いでいく。その下から現れたのは、シンプルな服装の青年だって……分かりきっていることではあるが、主人公アンバーである。全身タイツは絶縁体で編まれた特注スーツであり、漫画のレッドさんのグローブと同じモノだと考えてほしい。
「これでよし。さて、チャレンジャーアンバー……ジムバッチを貰いに来たぜ」
「オーケイミスターアンバー。マイネームイズマチス……そのチャレンジ、受けマース。ミーが使用するポケモンは1匹のみ……ゴー! ライチュウ!」
「ラーイ!!」
先程までのことをなかったことにしたのか、真面目な態度でマチスはボールを投げる。その中から現れたのは、ポケモンの中でもダントツの知名度を誇るピカチュウ、その進化した姿であるライチュウ。ピカチュウよりも高い攻撃力を誇り、ネズミのような見た目に相応しい素早さもある。更に厄介なのは、その特性と技だ。
ポケモンには“とくせい”と呼ばれる、文字通り特性をポケモンごとに持っている。体力が低くなると特定のタイプの技の威力が上がるもの、決して怯まなくなるもの、たまに怠けるもの、どこからともなく道具を拾ってくるものなど、本当に様々だ。
そんなライチュウのとくせいは“せいでんき”と呼ばれるものだ。このとくせいは“たいあたり”や“とっしん”のような肉体的接触をする技を受けた時、稀にその相手を麻痺状態にする。麻痺になったポケモンは体が痺れ、たまに身動きが出来なくなる。更に電気タイプの技は当たった相手を麻痺にすることがあるモノが多い……厄介なタイプであると言えるだろう。
「さあ、ミスターアンバー。ユーのポケモンはなんでスカ?」
「決まってんだろ……こいつだ!!」
アンバーが地面にあった何かを拾い、上に向かって放り投げる。放り投げられたそれはある程度上がったところで重力に従い、べちゃっと音をたてて地面に落ちた。
「コ……コ……」
「……」
「……」
「……ライ?」
それは、パチパチと音をたてて時折びくんっと跳ねる、焼き魚のような匂いのする黒焦げのコイキングだった。
「こ、コイキング! マチスてめえ! 開始の合図もなしに攻撃するなんて卑怯な真似しやがって!」
「いや、それはユーのせいデス……ってさっきも似たようなことがあったようナ?」
「ラーイライ?」
激怒するアンバーと頭を抑えるマチス、大丈夫かー? とコイキングを尻尾で突っつくライチュウ。それを見たアンバーはニヤリと悪どい笑みを浮かべ、直ぐ様瀕死にしか見えないコイキングに向かって指示を出す。
「“じたばた”しやがれ!!」
「っ!? ライチュウ、ジャンプ!」
「コ……ココココー!!」
「ライ!」
アンバーの奇襲に寸でのところで気付いたマチスは素早く指示を出し、ライチュウも直ぐに従うことでコイキングの“じたばた”を回避する。やはり軍人と言うべきか、奇襲に気付く直感も持ち合わせているようだ。
「そっから“とびはねる”!」
「ココッ!」
「ライチュウ“たたきつける”!」
「ラーイ!!」
「コッ!?」
アンバーは直ぐ様上空にいるライチュウ目掛けて“とびはねる”ように指示するが、それもまたマチスは返す。ライチュウは尻尾を振るうことで遠心力を加えた一撃を放ち、コイキングの攻撃が当たる前に尻尾を“たたきつける”。結果、コイキングは再び地面に向かって落ちる……その先には、アンバーの姿があった。
「コイキングー!」
「コ……」
「誰が落ちてこいっつったんだ!!」
「コッ!?」
「ユーはナニしてるんデスカ!?」
そして、落ちてきたコイキングを蹴り上げた。
「ゴッ!?」
「ライブフッ!?」
「ノー! ライチュウ!?」
今度こそコイキングはライチュウに、それも腹部にめり込むレベルで直撃した。流石のマチスとライチュウも自分のポケモンを蹴り上げるという常識はずれの行動に的確な返しが出来なかったらしい。
当然、空を飛ぶことの出来ない2匹はそのまま落ちる。しかもコイキングが当たったことで体勢が入れ替わり、ライチュウは背中から、コイキングはその上に落ちた。コイキングの体重が決して重い訳ではないが、これは流石に効いたらしくライチュウは腹を抑えて蹲っている。こんなチャンスを、アンバーが見逃すハズがない。
「コイキング! “たいあたり”!」
「シット! ライチュウ!!」
アンバーの声に悪態をつきつつ、マチスはライチュウを見る。例え相手がコイキングだとしてもあの無茶苦茶やる非常識な人間のポケモンだ、何が起きても不思議ではない。そう思ってライチュウに指示しようとするマチスだったが、肝心のライチュウは腹部のダメージが大きかったのか蹲ったまま動けずにいた。
万事休す……思わず冷や汗をかくマチスだったが、いつまでたってもコイキングの“たいあたり”が行われない。不思議に思ったマチスは、先程コイキングがいた場所を見てみる。
その前に、ちょっとした勉強をしておこう。ポケモンはその生態こそ詳しいことは分かっていないが、基本的に行動は動植物と変わらない。鳥ポケモンは虫ポケモンを食べるし、炎タイプは水を飲んでも水辺に入ろうとは殆どしない。食物連鎖があり、タイプの相性もその生態に深く関わっている。つまりだ。
「ココッ! ココココーッ!!」
「……」
「……」
魚型のポケモンであるコイキングは、水のないところでは殆ど動けない。
「水中でも地上でも殆ど動けねえとかやる気あんのかてめえ!!」
「コッ!?」
「オー、バイオレンス&クレイジー……最早ビックリするのにも疲れマシタ」
アンバーは回復を兼ねてきずぐすりを投げ付けた! コイキングは中身を浴びなかったのでダメージだけを受けた! マチスは遠くを見ている!
しかしマチスは軍人。直ぐに意識を切り替えてアンバーと瀕死にしか見えないがまだぴくぴく動くコイキングを見る。滅茶苦茶だし非常識だし外道だし鬼畜ではあるが、アンバーという青年は過去に例を見ない(特殊過ぎるという意味で)強者であるとマチスは認識している。たかがコイキング、初見では変態としか評価できないトレーナーと正直見下していたが、ライチュウは無視できないダメージを負っている。
(これ以上、彼のペースでバトルを進めるのはバッド……最早手加減等無用。相手が手段を選ばないなら……ミーも出し惜しみは無しデース)
コイキングだから直ぐに終わる……そう思っていたがと、マチスは思考をジムリーダーのそれから軍人のモノへと変える。最早容赦はしないと、ライチュウに目を向ける。今だ蹲っているライチュウだったが、雰囲気が変わったマチスに見られた瞬間直ぐに体を真っ直ぐに伸ばした。
「ライチュウ! “10万ボルトォ”!!」
「ラーイ、チュウウウウッ!!」
「ココココココココココココココココココココココココココココッ!?」
「コイキング!!」
ライチュウが頬にある電気袋から放電し、文字通り“10万ボルト”の電気をコイキングに向けて放ち、直撃させた。この技は電気タイプの中でも高威力を誇り、ましてや相手は効果抜群の水タイプであるコイキング……常識的に考えれば、コイキングはもう動けないだろう。
しかしそこは常日頃からアンバーの不条理に耐え抜き、むしろご褒美ですと人の言葉が話せれば声高々に叫ぶであろうコイキング。パチパチと電気が体から出ているが、まだ瀕死になりきれていないらしい。すさまじい耐久力である。レベル5パもかくやというレベルだ。
「そのタフネスはワンダフルデスガ……これでフィニッシュ。ライチュウ!! “10万ボルト”!!」
「ライララーイ!!」
「あぶねえコイキング!!」
「コッ!?」
「……もう言葉も出まセーン」
2度目の10万ボルト。これを受ければ流石のコイキングも動けなくなるという確信がマチスにはあった。しかしそこは我らが主人公アンバー……非常識かついつも通りの方法……いつの間に着たのか先程の絶縁スーツを着てコイキングに近付き、思いっきり蹴り上げる。そこに瀕死に限りなく近いコイキングへの配慮は一切含まれていない。マチスも完全にツッコむ気力を失ったようだ。
だが、そんな回避が出来るのも1回限り。空中という飛べなければ無防備になる場所ならば、今度こそ逃げ場ない。そう思って蹴り上げられたコイキングを目で追いかけ……天井にコイキングが突き刺さったことでマチスとライチュウは顔を真っ青にした。
「さて……コイキング」
アンバーは親指を立てた右腕を突きだし、そのまま親指を下に向ける。それと同時に、蹴り上げられたことによって天井に突き刺さったコイキングの周囲……というか天井全体に広がっていた“ヒビ”が更に広がり、パラパラと破片がこぼれ落ち……。
「瓦礫と共に落ちてこいや」
「ノオオオオ!!」
「ラ、ラアアアアイ!!」
遂には天井が崩れ、数多の瓦礫とコイキングが落ちてきた。即席の“いわなだれ”はライチュウとマチス、更にはアンバー自身をも巻き込み……結果、立っていたのは瓦礫を絶縁スーツを着たまま避けきったアンバーと、地味に回収されていたコイキングだけだった。
こうしてマチスは全治6ヶ月の大怪我を負うこととなり、更にはジムの修繕費すらもアンバーが口の巧さで逃れたために実費で払うこととなり、散々な目に遭って嫌でも生き方が変わりながらもオレンジバッチを渡すのだった。
「卑怯な手段を使うトレーナーなんかにゃ負けはしない」
「……もうなんとでもシテクダサイ……」
こうしてアンバーの第3の戦いは終わった。戦いとは決して正道王道だけではなく、今回のような邪道外道とも呼べる行為に出る輩も現れることだろう。しかしアンバーはそんな輩にも真っ向から対峙し、打ち砕き、勝利していくのだ。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは1匹! このコイだ!!
「この後ニビシティとは違うジュンサーさんに事情聴取を受けたが巧くやり過ごし、なんやかんやあってオールナイトでフィーバーして黄色い太陽を拝んだ」
「……(ツッコミがない。心が完全に折れたようだ)」
艦これに比べて軽く考えているからかサクサク書けるという。レベル5パはマジ勘弁。連続技とか持たせてないの。尚私だけポケモンはXYで止まってます。お気に入りはグレイシアです←
さて、この作品にはヒロインは居ません。チョロイン(R18)ばかりです……ヒロイン、いります?
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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コイキングだってかえんほうしゃくらい吹ける
誰か私に式セイバーを下さい。お願いします何でもしますから!!
クチバジムを攻略したアンバーが次に目指すことになるジムは、ハナダシティからしばらく歩いた所にあるイワヤマトンネルを抜け、シオンタウンという街に出た後にそこから更に歩き、地下通路を抜けた先にある街、タマムシシティのタマムシジム。しかし、所々に障害となるモノがある。
ひでんわざ、という特別なわざがある。ひでんマシンという特殊なわざマシンを使うことで覚えられるひでんわざは、持っているジムバッチによって使用出来るか否かが決められている。そして、そのひでんわざを使うことで障害物を攻略していかなければならない。
問題なのは、コイキングというポケモンはわざマシン、ひでんマシンでは一切わざを覚えられないというところだ。故にアンバーは、ひでんわざを覚えることが出来るポケモンをゲットする……。
「ハッハー!! 木ごときが俺の道を阻んでんじゃねえ!!」
「コッ!?」
なんてことはする訳もなく、いつものようにコイキング“を”使って非常識にも道を塞ぐ木を斬り倒し。
「ちっ、暗いな……火ぃ着けるぞ」
「ココココ!?」
コイキングの髭に火を着けて松明代わりにしたりして障害をクリアしていった。
場所は変わり、ここはタマムシジム。そこはカントーのジムの中で最も女性トレーナーの数が多く、同時に女性しかいないジムで有名である。また、常にジムの外の壁にスケベジジィがいることでも有名である。なぜ捕まらないのだろうか。
「でさ、ちょっと抱き付いただけで顔真っ赤にしちゃってさー」
「可愛いねーその子。あはは……ん?」
チャレンジャーが現れることもなく、暇潰しにお喋りをしているミニスカートの少女達……その内の1人が、ふとジムの天井付近の壁にある窓を見る。そして、その次の瞬間のことだった。
「ダイナミックお邪魔します!!」
【きゃああああっ!?】
窓を蹴り破り、1人の男がジムの中に入り込んできたのは。しかも着地したのは、ジムの最奥……そこにある大きな木の根元に、1人の黄色い着物を着た少女がいた。その少女の名はエリカ……草タイプポケモンのエキスパートであるタマムシジムのジムリーダーである。
「突然の訪問失礼」
【訪問っていうか浸入じゃ……?】
「チャレンジャーアンバー……ジムバッチを貰いに来たぜ」
いつものように傲岸不遜、唯我独尊、威風堂々と腕を組み、所謂ガイナ立ちをしながら宣言するアンバー……しかし、エリカの返答はない。そのことを疑問に思ったのか、アンバーは首を傾げた後にエリカに近付く……そして、気付いた。
「すやすや……」
「……」
【……】
エリカはぐうぐう眠っている。
「ビンタは流石に可哀想なので“めざましチョップ”!!」
「きゃんっ!?」
【ああっ! エリカ様!?】
アンバーはエリカに“めざましチョップ”をした! こうかはばつぐんだ! エリカは目を覚ました! エリカは訳も分からずキョロキョロしている!
頭を抑えながらキョロキョロしていたエリカだったが、まず手をチョップの形にしているアンバーが目に入り、自分を心配そうに見ているジムトレーナーとアンバーに敵意を向けているジムトレーナーが目に入り、最後にジムの割れた窓ガラスを確認し、再びアンバーに目を向けた。
「挑戦者の方ですね?」
「合ってるんだが、アンタ頭のネジが2、3本緩んでんの?」
「ネジ? いいえ、これはカチューシャですし緩んでませ……あ、折れちゃいました」
「うん? 俺のチョップのせいか……そりゃすまん。後で弁償しにタマムシデパートに行くか?」
「まあ! いいんですか?」
「ああ。そんじゃ、このジム戦が終わったら行くか」
「ふふ、では早速始めましょう」
2人の間でトントン拍子に話が進んでいるが、その裏ではエリカが問い掛けた段階で何人かのジムトレーナーがずっこけ、アンバーの暴言に敵意を向けていたジムトレーナーが物理的に襲いかかろうとし、それをエリカがカチューシャをブーメランのように投げて撃退し、戻ってきたカチューシャが割れれば先の行動を見ていた筈のアンバーが何事もなかったかのように謝罪し……この時、カチューシャの前にもっと弁償しないといけない物(窓ガラス)があるだろうとジムトレーナー達はツッコみたくなった……いつのまにかへぇ? デートかよと言いたくなるような状況が出来上がっていた。ありのままに起こった事を話したぜ。
「私の使用するポケモンは4体で、その全てが草タイプ……では、参ります」
「おう、胸を貸してやる」
((((それはエリカ様の台詞でしょう!?))))
それぞれジムリーダーとチャレンジャーの立つ場所に立ち、御互いにモンスターボールを手に取る。ジムトレーナー達はツッコみたかったが、自分達の後ろで目を抑えながら倒れて呻いている者達と同じようになりたくなかったので口を開くことをやめた。人は学習する生き物なのである。
「さあ、出てきな! コイキング!」
「ココココー!!」
「おいでませ、モンジャラ!」
アンバーが繰り出したのは最早お馴染みの真っ赤なサンドバッグ……もとい、コイキング。今日もゴージャスな背ビレが眩しく煌めいている。対するエリカは名状し難きモノである触手の塊のような姿のポケモン、モンジャラ。見た目はアレだが、ちゃんとした草タイプのポケモンである。
今更な話だが、水タイプのコイキングでは草タイプのタマムシジムは電気タイプのクチバジムと同様に非常相性が悪い。更にアンバーがコイキング1匹なのに対してエリカは4匹の草タイプポケモンがいる。間違いなく過去最大の難関と言えるだろう。
「先手必勝です! “つるのムチ”!!」
「コイキング! 俺に向かって“はねて”こい!!」
モンジャラが体を覆う触手……もとい、蔓をムチのように伸ばして打ち付けようとするが、コイキングはアンバーに向かって“はねる”ことでムチを回避する。
「お約束のコイキーック!!」
「コッ!?」
【自分のポケモンを蹴った!?】
「ッ!?」
「モンジャラ!?」
そしてコイキングをオーバーヘッドキックで蹴り飛ばすアンバー。この流れは完全にお約束となり、あらゆるポケモン達が犠牲になること間違いなしである。
そんなことは知らないジムトレーナー達はまさかの凶行に驚愕し、モンジャラは飛んできたコイキングを避けることが出来ずに直撃して吹き飛び、エリカの後方にある壁にめり込んだ。いちげきひっさつ。
エリカは倒されたモンジャラを直ぐ様ボールに戻し、視線をアンバーへと移す。その目には自分のポケモンを蹴り飛ばすという理不尽な行動をし、己をポケモンを倒されたという怒り……ではなく、やたらキラキラと輝く好奇心があった。それは、どこかヒーローショーに目を輝かせる少年のように……見える人もいるんじゃないかな。
「なんて乱暴な殿方でしょう♪」
「なんで嬉しそうなんだ」
「私の周りには今まで見なかったタイプですから……私、貴方様に俄然興味が湧いてきました!」
(やべえ……俺の周りには居なかったタイプだ)
どこか似通った思考をする2人だった。それはさておき、エリカが次に繰り出したのはクサイハナと呼ばれる頭に真っ赤な植物を乗せ、なんだか眠そうな顔をしているポケモン。
アンバーは直ぐにコイキングの位置を確認する……すると、モンジャラに当たってから今の今までそうだったのであろう背ビレが地面に刺さって逆さまになっている哀れなコイの姿があった。
「クサイハナ、“あばれる”!」
「おしとやかな見た目の割にアグレッシブな技使わせんのな!?」
「ゴゴゴゴッ!? ゴボッ!!」
主人公アンバー、まさかのツッコまされる。そんな事をしている間にも当然コイキングは“あばれて”いるクサイハナの餌食になっているのだが。クサイハナは動けずサンドバッグと化しているコイキングをひたすら殴る蹴る殴る蹴る。右ストレート左回し蹴り右踵落とし左フック強烈な右アッパーでフィニーッシュ!! フルボッコだドン!!
アッパーを受けたコイキングは背ビレが地面から抜け、上空を舞う。それは綺麗なアーチを描き……ポテッ、とアンバーの頭の上に落ちた。アンバーはそのコイキングの尾ビレの根元をガッシリと右手で掴み……。
「生臭いわっ!!」
「コッ!?」
「まあまあ……たくましいですね♪」
【正気に戻ってエリカ様!】
その場に叩き付けた。エリカはそんなアンバーの姿を見て両手を頬に当て、妙に嬉しそうに笑いながら言ってのけた。こんなエリカを見たことがないジムトレーナーは涙目である。
さて、とすっきりした表情でアンバーはエリカのクサイハナを見る。すると、クサイハナは疲れたように息を荒く吐いていた。“あばれる”という技はその場で力の限り、文字通り暴れる技だが、その後は疲れ果ててしまい、更には混乱までしてしまうリスキーな技なのである。なぜ疲れると混乱するのだろうか。
しかし、疲れて混乱しているとなれば大きなチャンスであると言える。アンバーは今しがた叩き付けたコイキングを掴み上げて投擲する体勢を取り……この後はしばらく、音声のみでお楽しみ下さい。
「おらあ!! (コイキングを)“なげつける”!!」
「あっ、ああ! クサイハナ!」
「見たか? これがコイキングの力だ」
「貴方もコイキングもスゴいですね……色々と。ですが、私にはまだ2匹のポケモンがいますよ?」
「何匹でも来な……返り討ちだ」
「では遠慮なく……いって、ウツボット!」
「コイキング! “たいあたり”だ!」
「ウツボット、“しめつける”!」
「くっ、なんつー締め付けだ……(コイキングを見ながら)」
「ふふ、逃げられませんよ? これで何人ものトレーナー(のポケモン)を締め付けてきたんですから」
「はっ。俺だって現状(ポケモンバトルで)百戦錬磨だ。この程度の締め付けで(コイキングが)ダウンする訳がないだろう! そら、(コイキングに向かって)動けや!」
「くう!? そ、そんな……私の(ウツボットの)締め付けが……」
「“じたばた”してこっちこい!」
「あっ! そ、そんなに暴れたら……(コイキングが“しめつける”から)抜けちゃいました……」
「そしていつも通りのシューッ!!」
「ゃん! (ウツボットを越えて衝撃が)お、お腹にまでくるぅ……」
「むほっ、むほほっ! あのエリカちゃんがあんな声で……ゴクリ」
その日、タマムシジムの外で声を聞いていたジジイは眠れない夜を過ごした。
「さあ、最後のポケモンを出しな」
「ふふ、せっかちな殿方は嫌われますわよ?」
「嫌いなタイプか?」
「いえ、私は気にしません。それでは……出でよ、キレイハナ!」
「ハナハナー♪」
倒れたウツボットをボールに戻し、簡単な会話の後にエリカが出したのは、まるでフラダンスを踊る際の衣装を着ているような姿をしているポケモン、キレイハナ。
突然だが、ポケモンが進化をする方法は幾つか種類がある。一定のレベルに達すること、これ以上ないほどになついた状態でレベルを上げること、ポケモンとポケモンを交換する“通信交換”を行うこと……そして、進化の石と呼ばれる特殊な石を使うことだ。
クサイハナは“リーフのいし”と呼ばれる石を使うことでラフレシアというポケモンに進化する。が、“リーフのいし”ではなく“たいようのいし”を使うことでこのキレイハナに進化するのだ。
「キレイハナ、“マジカルリーフ”!」
「ハナー!」
「コッ!!」
「ちっ、厄介な技を……」
キレイハナはくるんっとその場で踊るようにターンし、下半身を覆う葉っぱの部分から虹色に輝く木の葉を数枚飛ばす。するとその木の葉はまるで意思を持つかのように飛び、曲がり、コイキングの体を傷付けた。
“マジカルリーフ”。ノーマル技の“スピードスター”や電気タイプの“でんげきは”のような技と同じ草タイプの必中技である。つまり、避けることはほぼ不可能なのだ。ましてや水辺では溺れ、陸上では“はねる”位しか出来ない上に効果抜群であるコイキングでは、このまま切り刻まれて終わるだろう。正にまな板の上のコイである。
しかし、どんなダメージも耐え抜く尋常じゃねえ耐久性を持つコイキングと、ルールだ相性だ危機だ常識だをンなもん知るかで蹴散らしていくのが我らが主人公アンバーである。
「コイキング、俺に向かって“はねて”こい!」
「コッ!」
(また蹴るつもりでしょうか……いえ、あれは……)
コイキングはアンバーの指示通りに跳ね、アンバーは跳ねてきたコイキングをキャッチしてあるモノを取り出す。そのモノが何であるかを、エリカはポケモントレーナー特有の超視力で確認する。
それは瓶のようにも筒のようにも見える、何かの容器だった。それを見て、エリカはアンバーがコイキングをきずぐすりか何かで回復させようとしているのだと考えた。そうはさせない……と言えたらいいのだが、アンバーはコイキングを抱えている為、アンバーを傷つける可能性が高くキレイハナに技を出させることが出来ない。そしてアンバーは手のモノをコイキングに……飲ませた。
「必殺、“コブラチリソースかえんほうしゃ”!!」
「ゴバアアアアッ!?」
「ハナアアアアッ!?」
「キレイハナーっ!?」
瞬間、コイキングが白目を向きながら火を吹いた。アンバーは文字通り“かえんほうしゃ”機となったコイキングをしっかり持ち、その炎をキレイハナにぶち当てる。当然、草タイプであるキレイハナに炎は効果抜群である。因みに、コブラチリソースとはタバスコのおよそ1000倍、有名な激辛ソースのデスソースの150倍の辛さを誇る激辛ソースの名前。なぜアンバーがこんなモノを持っているかは誰にも解けない謎である。
これによりキレイハナは戦闘不能に陥り、アンバー(だけ)は無事にエリカからレインボーバッチを手に入れることが出来たのだった。尚、このコブラチリソースはアンバーが忘れていった為、ジムトレーナー達によってジムの外にいるジジイの折檻用に幾度となく使用されることとなった。
「まさかあんな方法で勝つなんて……なんでしょう、体が火照ってきてしまいました」
「何意味深な発言してんだアンタは……股座がいきり立つじゃねえか」
【嗚呼、あの純粋なエリカ様はどこに……】
こうして、アンバーの第4の戦いは終わった。今回も強敵を相手に運良く勝ちを拾えたアンバーだが、今後彼女よりも強大で数も要るジムリーダーが出てくることだろう。しかし、それでもアンバーは戦い、勝ち続けるのだ。例えその身を削り、ボロボロになってでも。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは1匹! このコイだ!!
「この後、何故かエリカの自宅で夕飯を頂いた上に泊まることとなり、親御さんと妙に意気投合し、入浴中にエリカが乱入してきて“ゆうわく”されて“したでなめる”をしてきた後に“からではさんで”きたので俺は“みだれづき”と“トライアタック”で戦ったものの“みちづれ”され、その後何度かエリカとバトルした後、婿養子に入ることとなった……な、何を(略」
「因みに、いちげきひっさつだったそうですよ……お、と、う、さ、ん♪」
「!?」
私は何を書いているんだ(特に最後らへん)。
はい、ギャグでは珍しくもない“辛いものを口にして火を吹く”がトドメです。因みに私は子供舌で甘いものが大好きです。辛いものなんて食べたら舌が可笑しくなります。コブラチリソースなんて口にした日にはショック死するんじゃないでしょうか←
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コイキングだぞ! じわれくらい起こせなくてどうする!
キングは1匹このお値段、感想で見て爆笑しました。3DSで初期ポケモンが出来るようになりましたし、皆さんお月見山前のポケセンでコイキング買いましょうね(にっこり
レインボーバッジとお嫁さんをゲットしたアンバーが次に目指すのは、セキチクシティという町だ。この町の有名所と言えば、やはりサファリパーク。入場者は決められたルール、道具で中を散策し、ポケモンをゲットしていく。ゲットしたポケモンは自分のモノに出来るという。勿論コイキングも釣れる。でもガルーラ出てきて下さい。
セキチクシティに辿り着く為のルートは3つ。シオンタウンから数多のトレーナーを薙ぎ倒しながら橋沿いに進むか、タマムシシティからサイクリングロードを下るか、グレンタウンから泳いでくるかだ。
アンバーが選んだのは、サイクリングロードを下る道。道中で寝そべっている巨体のカビゴン相手に頑張っている白い帽子を被った女の子のトレーナーをスルーしてサイクリングロードにやってきたアンバーは警備員の目を盗んで通り過ぎ、バイクを走らせている暴走族達を前にこう言った。
「君達には、今から俺とポケモンバトルをしてもらいます」
【は?】
「はーっはっはっ!! (コイキングを)“投げ付ける”“投げ付ける”“投げ付ける”“投げ付ける”ぅぅぅ!! 格闘タイプには“迷刀鯉王(めいとうコイキング)”で俺が直接“つばめがえし”ぃぃぃぃ!! 敗者はバイク献上じゃゴラァ!!」
「コッ!? ゴッ!? ゴフッ!?」
【ギャアアアア!? こいつ血も涙もねえ!?】
こうしてアンバーはバイクを手にし、暴走族のチームは壊滅した。尚、被害者である暴走族達はタマムシシティのタマムシジムの用心棒として雇われることになり、真面目に働いているという。何人かはタマムシジムのジムトレーナーと付き合うことになったとか。
セキチクジムには、毒タイプ使いのジムリーダーがいる。その名はキョウ……由緒正しき忍者の家系であり、服装も忍者ルック。毒タイプ使いである為か、それとも忍者の為か、直接的な戦闘よりも状態異常や素早い動きで相手を翻弄する搦め手を好む。
ジムの中心にて、キョウは正座をしながら挑戦者を待つ。そうしているとジムの扉が開かれ、1人の青年が入ってきた。無論、その青年とはアンバーのことだ。
キョウはゆっくりと閉じていた目を開き、挑戦者の顔を見る。忍者としての高い身体能力はしっかりとアンバーの姿を捉える……ゆっくりとした足取りでキョウへと向かう、その姿を。しかし、まっすぐ歩いていたアンバーは、まるで何かにぶつかったかのように止まった。
(ファファファ……どうやらこのセキチクジムのからくりを知らぬと見える)
額をさするアンバーを見て、キョウは内心で笑う。このセキチクジムは一見ただの広々とした道場のような見た目をしている。しかしその実、渦を描くように見えない透明の壁が張り巡らされているのだ。アンバーがぶつかったのは、その透明な壁である。
壁伝いに歩いていけば、そこにはジムトレーナー達の姿。そうして連戦させて疲弊させる……立派な戦略である。勿論ゲームでは途中でポケセンで回復してから挑めるのでご安心を。
しかし、そこは我らが主人公アンバー。彼が大人しく壁伝いに歩く訳がない。今、アンバーの目には1つの質問が出ている。
Q.目の前に壁があります。どうしますか?
「壁ごときが俺の道を阻んでんじゃねえ!!」
「コッ!?」
「なにぃっ!?」
A.コイキングで壊す。
アンバーの“コイキングでかわらわり”!! こうかはばつぐんだ!! 壁が壊れた!! キョウはおどろいている!!
驚愕に目を見開いていたキョウを無視し、アンバーは悠々とした足取りで彼の前に立つ……血塗れのコイキングを肩に担ぎながら。
「チャレンジャーアンバー……あんたのバッジを貰いに来たぜ」
「……ファ……ファファファ。よくぞ参られた。拙者の名はキョウ……お主をチャレンジャーとして認めよう」
アンバーの登場の仕方と肩のコイキングにドン引きしつつも、キョウは体裁を整えて余裕の表情を浮かべる。隠せてないじゃん、どもってるじゃん等とは言ってはいけない。大人は大変なのだ。
キョウが使うポケモンはエリカの時と同様の4体。対するアンバーは当然のようにコイキング1匹(流血中)。まさかのコイキング1匹だというアンバーに失笑しつつ、キョウは最初のポケモンを繰り出す。
「行け、ゴルバット!」
現れたのは青い体の殆どが大きく開いた口で占められているコウモリのようなポケモン、ゴルバット。その素早さは中々に高く、進化すると全ポケモンでも随一の素早さを誇るクロバットとなる。
「コイキングを、ゴールみたいな相手の大口にシューッ!!」
「コブッ!?」
「オゴェッ!?」
「ご、ゴルバット!?」
開幕ぶっぱ、いつもの、これがなきゃ始まらない、超! エキサイティンッ!! と叫ばれかねないようなアンバーのコイキングシュート。大口に綺麗に決まり、喉奥でも直撃したのだろうゴルバットは苦しそうな声を出した後にコイキングを口に入れたまま墜落し、目を回す。これぞ約束された勝利のコイキング。
まさか一撃で落ちるとは思っていなかったのだろう、キョウの目に焦りがあった。が、それも直ぐに収まり、忍者としての冷徹な顔を出す。キョウは決して卑怯や不意打ちのような邪道を非難も否定もしない。自分とて忍者、外道邪道には理解があるし有用性も理解しているのだから。
「戻れゴルバット。そして行け、モルフォン!」
「フォーン!」
ゴルバットを戻して新たにキョウが繰り出したのは蛾と蝶を合わせて2で割ったようなポケモン、モルフォン。毒・虫タイプと見た目を裏切らない2つのタイプを持ち合わせ、様々な状態異常を引き起こすことが出来るポケモンである。
そしてもう1つ、モルフォンにはある特技がある。
「コイキング、俺に向かって“はねて”こい!」
「させん! モルフォン、“ねんりき”!」
「ココッ!?」
「フォーン……!」
アンバーの指示に従って“はねた”コイキングの身体が空中で停止する。これがモルフォンの特技である“ねんりき”。アニメにおいては相手の意思に関係なく身体の自由を奪い、投げ飛ばしたり叩き付けたりと正しくやりたい放題出来るあのエスパータイプの技である。勿論、本作にも適応されます。こんなんチートや! でもエスパーってそういうもんだと思うんだ。
では、そのチートのようなエスパー技を切り抜けるにはどうすればいいのだろうか? 見も蓋もなく悪タイプを使う? “10まんボルト”のような放出する技で迎撃する? 同じエスパー技を使う? なるほど、全て正しい。では、それら全てに当てはめられないコイキングはどうすればいいのだろうか?
「俺が来いっつったら来い!! たらたらしてんじゃねえ!!」
「コッ!?」
「フォーン!?」
「むう!? な、なんという気迫!」
結論、トレーナーが頑張る。やったことはいいキズぐすりの吹き掛ける部分を取り外してコイキングに投げ付け、中身をぶっかけただけだが。どうやら“ねんりき”の対象に衝撃が加わったからか、それともアンバーの妙な気迫に負けたのか“ねんりき”は解けたらしい。しかもダメージを負って直ぐに回復したコイキング。3歩進んで2歩下がるとはこのことだろう。
「あ、容器取りに行っていい?」
「む? あ、ああ……」
さらりとキョウに確認を取り、投げた容器を拾いに行くアンバー。キョウもまあジムにゴミが落ちているのも……なんて呑気に考えていたせいで戦闘中なのにも関わらず了承する。普段のキョウならば絶対にしないだろうが、彼も彼で常軌を逸しているアンバーに混乱しているらしい。
そんなこんなで空の容器とコイキングを持って元の位置に戻るアンバー。さあ仕切り直しだと気持ちを切り替えるキョウだったが、何か違和感を感じて目の前のフィールドを良く観察してみる……とそこで気付いた。モルフォンの前に居たハズのコイキングがいつの間にかいなくなっていることに。
「ば、馬鹿な! コイキングはどこに……」
「探しモノはコイツか?」
「な……いつのまに!?」
驚愕するキョウに、アンバーはコイキングの尾びれを掴んで剣のように持ちながら見せ付ける。あれだけ酷い目にあったにも関わらず、コイキングはピンと立っていた。実に活きがいい。そして答え合わせとばかりに、アンバーはポツリと呟いた。
「容器拾いに行ったとき」
「盲点だったぁっ!!」
「隙ありぃっ!!」
「コッ!?」
「フォブッ!?」
「しまった! モルフォン!!」
キョウががっくりと思わず膝をついた瞬間、それはもう悪い顔をしたアンバーがコイキングをモルフォンに槍投げのように投げ付ける。コイキングはさながら弾丸のように横に回転を加えられ、突き破るんじゃないかと言わんばかりにモルフォン腹にめり込んだ。モルフォンが血を吐いたように見えたが気のせいだろう。
当然、モルフォンは戦闘不能。これでキョウのポケモンは残り2体となった……が、切り札と呼ぶポケモンはまだ残っていた。しかもそのポケモンは物理攻撃に滅法強い。いや、それよりも次のポケモンで終わらせることも出来るだろうと考えていた。
「……正直申して、コイキング1匹にここまでやられるとは思っていなかった」
「ハッ、見た目で侮ったらケガするって教訓になったじゃないか」
「そうだな……故に、もう出し惜しみも手段も選ばん。行け、マタドガス!」
キリッと表情を真剣なモノに変えたキョウはモルフォンを戻し、マタドガスを繰り出す。まるでドガースという球状の体のポケモンが2匹と同じような球状のモノが1つくっついたようなマタドガス……その体は、現れた瞬間から光輝き始めた。
「っ! コイキング! 限界まで“とびはねろ”!!」
「もう気付いたか! だが僅かに遅い!!」
何かに気付き、今までに無いほど慌てて指示を出すアンバー。その指示を出す速さに驚くキョウだが、直ぐに笑みを浮かべ……瞬間、マタドガスが盛大に爆発した。
“じばく”。文字通りポケモン自身が自爆するわざで、己が瀕死となる代わりに周りにも特大のダメージを与えるわざだ。その威力は凄まじく、防御力の低いポケモンならば即座に戦闘不能となるだろう。それがコイキングのようにステータスが低いポケモンならば尚更である。
「いくらお主のコイキングであっても、流石に“じばく”は耐えられまい」
「そいつはどうかな?」
「なに……? っ!? ば……バカな!!」
アンバーが意味深に笑いながら言った言葉にキョウは訝しげな顔をするが、次の瞬間には今日何度目かの驚愕の表情を浮かべた。それもそのはず……何故なら彼の目線の先には、“とびはねる”が間に合わず“じばく”を受けて瀕死になったと思っていたコイキングがアンバーの足下で体が深く凹んでおり、ぴくぴくと痙攣しながら横たわっていたからだ。決して瀕死にはなっていない。
「まさか、“じばく”が当たらなかったというのか!? あのタイミングで!?」
「その答えはアンタの足下と後ろの壁にある」
「拙者の足下……?」
アンバーに言われた通りに足下を見るキョウ。そこには、先程アンバーが回収した筈の空の容器。そして後ろを見れば、そこはまるで空間そのものにヒビが入っているように見える……が、実際は見えない壁にヒビが入っているだけ。当然、先程まではそんなモノはなかった。
回収した筈の空の容器、後ろの見えない壁のヒビ、そして体が凹んでいるコイキング……そこまで考えて、キョウはハッとした。
「お主……まさか」
「ようやく気付いたか……そうさ、俺はマタドガスの“じばく”が決まる瞬間……」
「コイキングに空の容器の投げ付けて弾き飛ばすことで“じばく”から逃がした。そして容器に当たったコイキングは見えない壁にぶち当たり、俺の足下に跳ね返ってきたって訳だ」
「空の容器を当てて頑丈な壁にヒビ入れるってどんな腕力しとるんだお主」
因みに、ルール的にはアンバーは“自分のポケモンに道具を使った”という扱いの為、何の問題もない。コイキングを道具のように投げ付けるのは何の問題もないのか? 知らん、そんなものは私の管轄外だ。
「ならば真っ向から倒すのみ! 出よ、ベトベトン!!」
「ベ~ト~」
キョウが繰り出す最後のポケモンは紫色の毒々しいヘドロの体を持つベトベトン。流動体と呼べるその体は、物理攻撃に対して非常に強い。物理攻撃しか出来ないコイキングには苦しい相手だろう。ヘドロの体に突っ込みでもすれば抜け出せなくなってしまうのだから。
かといって今までのような“おいしいみずハイドロポンプ”や“ギャグでありがちな辛いもの口にしてかえんほうしゃ”なんかも相性が悪い。そもそもベトベトンは耐久力が高いポケモンなのだ。それこそ弱点となるエスパーわざや地面わざを使わなければまともにダメージを与えられない程に。
「はっ! ベトベトンねえ……そんな奴ぁ俺のコイキングの敵じゃねぇな」
「なに……?」
余裕綽々……キョウの最強の僕(しもべ)であり、今のアンバーにとって最も相性が悪い筈のポケモンに対して、アンバーは鼻で笑い飛ばす。そしておもむろに足下にいるコイキングをまるで野球のボールのように掴み上げ、天高く掲げる。それはまるでコイキングが仰ぎ見る王のようで、キョウとベトベトンは自然とコイキングを見上げる。そして気付いた……コイキングがまるで、今から起きることを楽しみにしているかのようにわくわくしている雰囲気を出していることに。
それが意味することをキョウは知らない。そして、それこそが致命的だった。今まで散々見てきたアンバーによるコイキングへの暴行……それでも尚、キョウは思い至らない。コイキングがドMであることに、アンバーが今から行おうとしていることに。故に……気付いた時には全てが遅い。
「コイキングの分際で高いところから見下してんじゃねえ!!」
「コッ!?」
「ちょっとお前理不尽過ぎるぞ!?」
「ベ、ベトー!?」
「ベトベトオオオオン!?」
怒りを込めて、アンバーはコイキングを力一杯地面に叩き付ける。すると叩き付けられた地面を基点に地面が裂けて“じわれ”を作り出し、ベトベトンはそのまままっ逆さまに落ちていった……いちげきひっさつ。キョウのキャラは強制的に破壊され、忍者っぽさなどどこかへ行ってしまった。
ベトベトンが倒れた(というか落ちた)為、キョウの敗北が決定し、アンバーは無事にピンクバッジを手に入れた。その間にキョウは身一つでベトベトンの救出に向かい、戻ってきた頃にはアンバーは既に出ていった後。キョウはジムの修繕費とアンバーの行動に頭を抱え、しばらくジムリーダー業に支障を来したそうな。
こうして、アンバー第5の戦いは終わった。敵は忍者らしい素早さとトリッキーな戦術で翻弄してきたが、アンバーは辛くも勝利を納める。しかし、敵はどんどん強力になっていっている。だが、アンバーもコイキングもそれよりも強くなるのだ。何故ならば、王に負けは許されないのだから。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは1匹! このコイだ!!
「この後、ポケセンの宿泊施設にいた俺に“父上の仇!!”と叫びながらくの一っぽい服装のアンズと名乗った少女が襲い掛かって来たが返り討ちにして“お仕置き”をしたところ、即落ち2コマばりの速度で従順になり、なんか殿とか呼んできたのでエリカの護衛にすることにした」
『ジムトレーナー以外の同性のお友達ができました♪』
『父上……拙者、一生を身も心も捧げられる殿を見つけました……(ぽっ』
「信じて送り出した愛娘が……」
連戦だとネタがなくなる……これサカキ戦とか四天王とかどうなるのか。
今回はじわれを使いました。本格的に人間やめてるアンバーと耐久力がおかしいコイキングです……今更か←
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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コイキングとは即ち、ジャイロボールとなることだ!
アストルフォも子ギルも出ませんでした……今回の呼府でアヴェンジャー引けるかしら? 天草四郎? 誰それ美味しいの?
私という存在は、箱庭の中で生きることを運命付けられていると思っていた。他人は私のいずれ強くなる“力”に怯え、私から離れていく。唯一の身内すら、私のことを見ようとはしない。故に、私はいつも1人だった。
けれど、私の運命はある1人の男性によって変わった。その人は私を箱庭の中から連れ出し、私に広い世界を教えてくれたのだ。その人は力強く、高く固い壁も壊して進み、その意思は決して曲がることはない。そんな彼に私が惹かれるのは……当然のことだった。
今日も彼は戦うのだろう。そして、その手に勝利を納めるのだろう。私は彼の行く末が見たい。その為なら、私は何だってしてあげる。彼の行いは全て私の喜び。彼の言葉は全て私の福音。そうして今日もまた……私は彼に“付き従う”。
「今すぐ俺をジムリーダーの所に案内しねえとコイキングでワープ床をぶっ壊すぞ!!」
「ココココココココッ! (ばっちコイですご主人様!)」
「案内しますからそれだけは止めて!?」
可愛いヒロインかと思った? 残念、コイキング(♀)でした!
少し時間は遡る。セキチクシティでピンクバッジを手にいれたアンバーが次に向かったのは、ヤマブキジムがあるヤマブキシティ。町にはリニアレールなるものがあり、更にはエスパー親父なる人物も存在する。更に更にシルフカンパニーという会社も存在し、何やら中が騒がしいが気にしないでおこう。どうせどこかの赤帽子か茶髪か白い帽子の女の子が頑張っている。
さて、今回の戦いの舞台となるヤマブキジムはエスパータイプのポケモンを扱う女性ジムリーダー、更に超能力者でもあるナツメがいる。そんな彼女は今、ジムの奥でチャレンジャーを待っていた。
(……今日、私の人生に少しの変化が訪れるらしいけれど……)
そんな中、ナツメは目を閉じながら考える。先程も言った通り、ナツメは超能力者だ。その使える超能力には未来を夢で見る“予知夢”というものがある。その予知夢で見たのは、今日この日にやってくるチャレンジャーによって己の人生に僅かな変化が訪れるらしいというモノ。超能力者として強い力を持つナツメだったが、知り得る予知が曖昧なままに終わるというのはあまりない経験だった。
そうして考えている内に、ナツメの予知夢通りにチャレンジャーが現れる。その姿を透視と千里眼のような超能力で捉えると、予知夢で見た姿そのままであると確信した。しかし分かるのはそこまでで、どう変わるのかは分からない。
さて、突然だがここでヤマブキジムのギミックについて説明しよう。ヤマブキジムは出入り口を含めた9つの部屋があり、全てが壁で仕切られている。移動する為にはワープ床と言う床を踏むことで決められた床へとワープする謎技術の床を使わねばならない。初めて入った者達は混乱してしまうだろう。
しかし、そこは我らが主人公アンバー。そんな面倒くせえことはやってらんねえとテキトーなジムトレーナーを捕まえ、脅し、ジムリーダーの部屋まで案内させるという思い付いてもやらないようなことを実行に移し、難なくナツメの前までやってきた。
「よう。はじめましてジムリーダー。俺は」
「貴方のことは知っているわ……チャレンジャーのアンバー君」
「知ってるなら話ははええな……あんたのバッジ、貰いに来たぜ」
「ええ、それも分かってる。それに、私も貴方を待っていたのよ」
そう、ナツメは分かってる。滅茶苦茶なチャレンジャーアンバーの名はジムリーダーの間で出回っているし、ナツメは超能力で目の前の人間の思考を読むことだって出来る。その力をもってすれば、相手の手持ちも使える技も、ひいては好む戦術や指示しようとしていることまで筒抜けである。
(貴方の手持ちはコイキング1匹、やろうとしているのは私がポケモンを出した瞬間にコイキングを蹴り飛ばしての奇襲……ジムリーダーは挑戦される側である以上ポケモンの後出しは出来ない。だから奇襲はほぼ成功する。だけど、知ってさえいれば……)
「ゆけっ、ユンゲラー!」
「行ってこいコイキング! そして御約束のシューッ!!」
「コッ!?」
「対応は簡単。ユンゲラー、“サイコキネシス”!!」
「ユンッ!」
ナツメがスプーンを手にした人に近い姿のポケモン、ユンゲラーを繰り出した後にアンバーはコイキングを繰り出し、ナツメが読んだ通りに蹴り飛ばしてきた。予め知っていた彼女は慌てることなくユンゲラーに指示する。
“サイコキネシス”。エスパー技の中で非常に高い威力を誇るその技は、キョウのモルフォンが使った“ねんりき”とは比べ物にならない威力がある。そしてユンゲラーはその技で、飛んでくるコイキングを捉えようとし……。
「あ、ちょ、はや」
「ユンッ!?」
「コフッ!?」
思ったよりもコイキングの速度が速かったらしく、捉えきれずに腹にコイキングが突き刺さることになった。予想出来ても対応出来なければ意味がないのである。因みに、蹴り飛ばされたコイキングの速度は時速300kmを越えているらしい。当然、ユンゲラーは戦闘不能である。死なないのが凄い。
ナツメはアンバーの滅茶苦茶っぷりを甘く見ていたと自分を叱咤する。そしてなるほど、とも思う。目の前の存在は今まで自分が出会ってきた存在とは何もかもが違う。これなら予知夢の通り、自分の人生に変化があると確信できる。しかし、だからと言ってポケモンバトルに負けるのはジムリーダーとしてのプライドが許さない。
「戻りなさいユンゲラー。行って、バリヤード!」
「バリバリー!」
ユンゲラーを戻してナツメが新たに繰り出したのは、まるでパントマイムのような動きをしている人型のポケモン、バリヤード。名前の通り“バリヤー”を作り出すことを得意とし、“リフレクター”や“ひかりのかべ”等も得意とするポケモンである。
「コイキング、“たいあたり”!」
「バリヤード、“リフレクター”!」
「ココココッ! ゴッ!?」
「バーリバーリ」
出てきて即攻撃を指示するアンバーに従い、尾びれを使って跳ねながら“たいあたり”を仕掛けるコイキングだったが、バリヤードがパントマイムのような動きをして“リフレクター”という壁を作り出したことでその壁に激突し、攻撃は失敗に終わる。が、激突した衝撃でコイキングの軽い体はアンバーの元にまで跳ね返った。バカにしたように笑うバリヤードが非常に鬱陶しい。
ニヤリ、と笑みを浮かべたアンバーはコイキングの尾びれを掴み、さながら野球のピッチャーのように振りかぶる。
「もう一回行ってこい!!」
「コッ!?」
「無駄よ!」
「バリバリ!」
案の定コイキングを投げ付けるアンバーだったが、意外にもリフレクターを壊すことは出来なかった。物理的な攻撃に対して強い耐性を誇るリフレクターの面目躍如と言ったところだろう。
「だったら壊れるまで何度でも行くぜ俺はチャレンジャー!!」
「コッ!? ゴッ!? コブッ!?」
「やめてあげてよ!?」
しかし、そこは我らが主人公アンバー。彼は再び跳ね返ってきたコイキングを蹴り飛ばしてリフレクターにぶつけ、壊せずに跳ね返ってきたらまた蹴り飛ばしてぶつけを繰り返す。流石にこの行動は読めても信じがたかったのだろう、ナツメは思わず声を上げた。
その直後、ピシィッ! という音が聞こえた。まさか、と思いつつナツメは音の方を見てみると……リフレクターにヒビが入っていた。しかもコイキングがぶつかる度にヒビは大きくなっていっている。
「ば、バリヤード! “サイコキネシス”でコイキングを止めて!」
「ば、バリバリ!」
このままでは破られる。そう考えたナツメは今度こそコイキングを止めようと指示をする。1度“サイコキネシス”で捕まえてしまえば、後は幾らでも料理できるのだから。
「あ、これ上とかはガラ空きじゃね?」
「ゴッ!?」
「しまったあ!?」
「バリブッ!?」
「ああっ、バリヤード!」
アンバーはふと気付いたように呟き、コイキングを天井めがけて蹴り上げた。正面から受け止めるつもりでいたバリヤードは“サイコキネシス”を外し、天井にぶつかって跳ね返ったコイキングを頭にぶつけられる。バリヤードは壁を作る際にパントマイムをするという工程を踏む以上、自身と同じ大きさでしか壁を作れないという弱点を突いた見事な一撃だった。勿論、バリヤードはこの一撃で目を回して倒れた。貧弱貧弱ぅ! 等とは言ってはいけない。全てはアンバーって奴の仕業なんだ。
瞬く間に手持ちの半分を倒されてしまったナツメは冷や汗をかく。思考を読んでいるハズなのに、対応もしているハズなのに、それらが悉く破られている。目の前の人間は無茶苦茶なことばかりしているが、まさか自身の超能力がまるで意味を成さない人間がいるとは思わなかった。後、ちょいちょい蹴られているコイキングから悦んでいる思念を感じるがそれはスルーした。
「仕方ないわね……あんまり好きじゃないんだけど、力で捩じ伏せることにするわ。行って、エーフィ!」
「フィー!」
キリッと目を鋭くしてバリヤードを戻したナツメが新たに繰り出したのは、薄紫の鮮やかな体の4足歩行型のポケモン、エーフィ。様々なポケモンに進化できるしんかポケモンという種類のポケモン、イーブイが最高になついている状態で朝から昼間にレベルを上げることで進化できるポケモンの1体である。
「エーフィ、“サイコキネシス”!!」
「フィー……イイイイッ!!」
「ちっ、コイキング!」
「コ……ココ……!?」
「そのまま叩きつけて……倒れるまでね」
「フィー!!」
「ゴッ!?」
3度目の正直と言うことだろうか、ついに“サイコキネシス”がコイキングを捉えた。エーフィは捉えたコイキングを宙に浮かせ、ナツメの指示通りに床に強く叩き付ける。叩きつけた床が蜘蛛の巣状にひび割れていることから、その威力が伺い知れるだろう。
今までのジム戦から分かるかと思うが、コイキングが相手のポケモンを倒す時には殆どアンバーから何かしらの理不尽な暴力や道具を使う。つまり、アンバーが起点となる……しかし、こうして拘束された場合、じわじわとなぶり殺しにされてしまうのだ。
「今までのような無茶苦茶を出来ないまま、倒れなさい!」
勝利を確信し、ナツメはニヤリと笑う。アンバー。思考を読んでも、そこには何も対策も現状を打破する方法も浮かんでいない。自分はこの理不尽の権化に勝ったのだと、妙な達成感を感じて……。
「コイキング、蹴られた(御褒美が欲し)ければそこから抜け出せ」
「ココココココココオオオオッ!! (御主人様の御褒美いいいいっ!!)」
「フィ、フィー!?」
「……もう何がなんだか……」
アンバーが妙なルビを振ったような台詞を呟いた瞬間、コイキングが今まで見たことないレベルでピチピチピチピチビチビチビチビチと“サイコキネシス”の拘束を破って体を動かし、アンバーの元へと跳ねていった。達成感を感じた後に凄まじい脱力感を感じ、ナツメは頭を抱える。彼のバトルに常識などないのだ。
「よく抜け出したな。これは御褒美だ、とっておきなぁ!!」
「コッ!?」
「フィぶえ!?」
「ごめんなさいエーフィ……無力な私を許して……」
そして宣言通りにコイキングを蹴り飛ばしたアンバー。いつも蹴り飛ばしてばかりだなと思ったそこのあなた、今回は違う。なんと今回はサッカーボールのように蹴り飛ばすのではなく、地面を削りながら進むように蹴ったのだ。結果、コイキングは体の下半分に凄まじい摩擦熱を感じながらエーフィがぶち当たることになる。エーフィファンの皆様ごめんなさい。でも私はグレイシアの方が好きなんだ、すまんな。
ここまで来て、ナツメの心が完全に折れた。まだポケモンは1匹、それも手持ち最強がいるが……この理不尽の権化に勝てるビジョンがまるで浮かばない。超能力で思考を読み、未来を予知できるというのに、ここまで訳の分からない相手と対峙したことがないナツメは、アンバーの理不尽に耐えきれなかったのだ。
「おいおい、諦めんのかよ」
「……」
「黙ってねえで何とか言えよジムリーダー。途中で諦めるなんざジムリーダーがやるようなことじゃねえだろ」
「……それは、そうだけど」
「だったら最後までやれ。俺が倒したいのは腑抜けたジムリーダーなんかじゃない。俺が倒したいのは! チャレンジャーに対して全力で叩き潰そうとしてくる! ジムリーダーに相応しいナツメなんだよ!!」
突然始まったアンバーの説教。そしてアンバーの叫び。無茶苦茶で理不尽な人間が何か熱いことを言っている……と驚くか呆れるべきなのだろうが、どうやらナツメは何か思うところがあったらしくその目に戦う意思が戻る。彼女は意外と単純なのかも知れない。因みにこの時、コイキングは跳ねながらアンバーの元に戻っている。あっ(察し
「……そうね。私はジムリーダーの超能力少女ナツメ……ジムリーダーとして最後まで、全力でお相手するわ!! 行け……フーディン!!」
「フー……ディン!」
(怒られるなんて何時以来かしら……ちょっと嬉しいな)
力強く宣言しつつ怒られたことを嬉しく思ったナツメが繰り出したのは、最初に出したユンゲラーの進化系であるポケモン、フーディン。進化の石やレベルアップではなく、違うトレーナーと“通信交換”をすることで進化する珍しいポケモンであるが……それが意味することが分かるだろうか? 簡単に言おう。ぼっちトレーナーには進化させられないということである。おい、涙をふけよ。
その姿を見て、アンバーはニィ……と笑みを浮かべ、コイキングを掴み上げる。この時点でナツメはアンバーが何をするつもりか理解し、フーディンに指示しようとする。が、アンバーが大きく振りかぶる方が早く……。
「俺も全力でいかせてもらうぞ! という訳で、これが俺の全力だああああっ!!」
「コオオオオッ!?」
「フーディン、“サイコ”」
「フーウオゲブッ!?」
「“キネ……”ってフーディィィィン!?」
縦回転ではなく横回転……そう、それは“ジャイロボール”と呼ばれるモノ。それと化したコイキングはフーディンの顔を貫かんと突き刺さり、ぶっ飛ばすのではなく凄まじい勢いでフーディンの腰を折って後頭部を床にぶつけ、めり込ませた。ポケモンでなければ即死だった。
即死ではないにしても即ひんしにはなった為、この瞬間アンバーの勝利が決定し、彼はナツメの手から直接ゴールドバッジを受け取った。尚、フーディンはしばらくの間腰痛に悩まされることになった。
「超能力だろうが何だろうが、俺を止めることなんて出来やしねえ」
「本当にね……」
こうして、アンバーの第6の戦いは終わった。相手は文字通りの超能力を使って圧倒してきたが、アンバーはコイキングとの強い絆とその強い心でそれを打ち破る。世界にはまだまだ超常の力が溢れていることだろう……だが、彼らの絆に越えられないモノなどないのだ。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは1匹! このコイだ!!
「この後、俺はナツメが“貴方なら私を変えてくれる”と言ってきたので取り合えず“少女”から“大人”に変えることにし、素質でもあったのか何故かMに目覚めたナツメに“教育”をして過ごした」
『まあまあ、そのようなことが……私にも“教育”して下さいね? 旦那様♪』
「痛いけど……凄く気持ちいいの。やっぱり貴方は、私に変化をくれたわ……御主人様(ぽっ」
「ココココッ!! (私とキャラが被るっ!!」
序盤で可愛いヒロインかと思ったおバカさんは正直に名乗りでなさい(悪人面
いい加減ネタがないですね……開幕ぶっぱ一撃必殺は除けませんが、間と最後らへんが厳しい。ギャグって難しいです。しかも次はハゲ……難産になりそうですね。
あ、私はポケモンではグレイシアが一番好きです。可愛すぎんよ。
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コイキングのばくれつパンチは世界を狙える
ところで、私の垢にはアヴェンジャーが搭載されていなかったみたいなんですが誰か出ました? 後、スパさんとか育ててないんですが←
グレンタウン。それはナツメを(色々な意味で)降したアンバーが向かうべきジムがある町……というより島。火山が存在するその島は、その火山に相応しい炎タイプの使い手であるジムリーダー、カツラがいる。坊主頭と白い髭が素敵なそのカツラは、噂では本当はふさふさの髪があるがハゲのカツラを被っているとか、付け髭だとか。
それはさておき、グレンタウンに向かうには空路、又は海路を行くしかない。しかしアンバーの手持ちはコイキングのみであり、“そらをとぶ”も“なみのり”も使えない。今度こそ、新しいポケモンをゲットするしかない。
「おら必死こいて漕げ。じゃなきゃ沈めるぞ……こいつみたいにな」
【へい! アンバーのアニキ!!】
「ゴボボボボッ!? (ああっ、御主人様の愛が苦しい! でもそれがイイッ!!)」
しかしそこは我等が主人公アンバー。彼はいつかの暴走族を数人呼び出し、ゴムボートを漕がせることでグレンタウンへと向かっていた。意地でもコイキング以外のポケモンは使わないつもりらしい。尚、コイキングは見せしめの為かアンバーによって海に沈められていた。魚の癖に泳げない上に苦しさすら感じるらしい。
そんなこんなでグレンタウンに辿り着いたアンバーは暴走族達に幾らかのお金を持たせ、ポケセンに待機するように言ってグレンジムへと向かうのだった。
冒頭でも説明したが、グレンタウンに存在するジム、グレンジムのジムリーダー……名をカツラ。彼はジムリーダーであると同時に研究者でもあり、その研究者としての頭脳がグレンジムのギミックに使われている。
グレンジムのギミック……それは、単純なクイズだ。ジム内は幾つかの壁によって仕切られ、チャレンジャーはポケモントレーナーならば常識である内容をクイズとして出題され、クリアすれば壁が開く。外せばジムトレーナーと戦うことになり、勝てば扉が開くというモノ。そして、全ての壁を越えた先にいるカツラはチャレンジャーを待っていた。
(さて、今日のチャレンジャーは……こいつか)
そしてチャレンジャーは現れる。ジム内の監視カメラに映るその姿は、勿論アンバー。その姿を見た瞬間、カツラは面白いものを見たように笑みを浮かべた。
前回の話でも触れたが、あまりに無茶苦茶なチャレンジャーアンバーの存在はジムリーダーの間で知られている。出回っている情報はどれもこれもぶっ飛んだモノだが、どれもこれも肉体的なモノばかりだった。
(さあ青年……お前の知識はどうなんだ?)
「楽勝だったな。つまんねえ」
「ココココ……(御主人様……おいたわしや……)」
「速っ!?」
カツラがそう考えた数秒後、目の前の最後の扉が開いてアンバーが入ってきた。どうやら彼は一切ボケも暴力も理不尽もなく普通に問題を解いてきたらしい。文武両道の男、それが我等が主人公アンバーなのである。しかも容姿端麗、可愛いお嫁さんもいる。誰だこんな主人公考えた奴……私ですすみません。
「まあいいや……チャレンジャーアンバー、あんたのジムバッジを貰いにきたぜ」
「……う……うおおおーす!! よく来たチャレンジャー!! 俺はグレンジムのジムリーダーカツラ!! お前の挑戦、受けてたつ!!」
(うるせえ……)
アンバーの言葉に燃え上がる何かがあったのか、突然カツラは大声で彼の挑戦を受け入れた。その大声に顔をしかめているアンバーの姿は見えていないに違いない。
カツラの使用するポケモンの数は4匹。その全てが炎タイプの為、相性だけを考えるならアンバーに分がある。勿論、コイキングではタイプの相性など一切生かすことが出来ないが。
「行け、ポニータ!」
「ヒヒーン!」
カツラが繰り出したのは、炎の鬣(たてがみ)を持つ馬の姿をしたポケモン、ポニータ。その炎は主人と認めた者を焼くことは決してないという。つぶらな瞳が可愛いポケモンである。
「ヅラごと吹っ飛べええええっ!!」
「コッ!?」
「ヅラじゃない! カツラだ!!」
「ヒヒーブッ!?」
「ちょ、こっちくんぐへぇ!?」
最早語るまでもないだろうが、お約束の一撃必殺コイキックである。手順も何時も通り、コイキングを持って現れる→相手がポケモンを出す→コイキングから手を離して落とす→相手のポケモン目掛けて蹴り飛ばす→いちげきひっさつ!!! ここまでがテンプレです。ここ、テストに出ますので覚えておきましょう。
そうして何時ものように蹴り飛ばされたコイキングはポニータにぶち当たり、吹っ飛んだポニータはカツラを巻き込んで壁にぶつかる。カツラは壁とポニータのサンドイッチ状態である。因みに、コイキングはアンバーのところまで跳ね返っている。
「う……おおおーす!! いきなりやってくれるなチャレンジャー!!」
「生きてる……だと?」
「俺がこの程度で死ぬハズがないだろう! 次はこいつだ! 行け! キュウコン!!」
「コーン!」
意外にもカツラは自分の上で気絶しているポニータをボールに戻しつつ、何でもないように立ち上がった。が、その脚は産まれたての小鹿の如く震えている……まあ固い壁とかなりの重量があるポニータに挟まれたのだから仕方ないのだが。
そんなカツラが続いて繰り出したのは、9本の尾と煌めく黄金の毛並みが美しいポケモン、キュウコン。その姿を見た瞬間にアンバーがコイキングを投げる姿勢になるが、ジムリーダーは同じような手が2度通じる相手ではない。
「もう1回いってこい!!」
「ココココーッ!! (御主人様の為ならばーっ!!)」
「キュウコン! “ほのおのうず”!!」
「コーン!」
「コッ!?」
アンバーに力の限り投げられたコイキング。しかし、キュウコンの吐いた“ほのおのうず”によって防がれた挙げ句、コイキングは渦の中に閉じ込められてしまった。
「“にほんばれ”!」
「コン!」
更にカツラは動く。キュウコンが自分の尻尾の先に炎を灯し、天井高くに飛ばして1つにすることでまるで小さな太陽のようなモノを作り出した。“にほんばれ”……真夏の太陽のような強い日差しを作り出し、その間炎タイプの技の威力を上げるサポート技である。そしてこの“にほんばれ”には、こういう使い方もある。
「キュウコン! “ソーラービーム”!!」
「コン……コオオオオン!!」
「コッ!?」
「こ、コイキングー!?」
草タイプの中でも高い威力を誇る技、“ソーラービーム”。本来チャージ時間が存在するこの技は、日差しが強い場合に限りノータイムで発射することが出来る。水タイプが苦手な炎タイプのキュウコンが覚えられる、数少ない草タイプ技である。
そしてその“ソーラービーム”は“ほのおのうず”に閉じ込められているコイキングを渦ごと撃ち抜き……その光は天井を貫いた。
「コイキング! 大丈夫か!?」
「コ……コ……」
渦の炎に焼かれ、熱線で撃たれたコイキング……その姿は痛々しい程に傷だらけだった。あちこち体が焦げており、香ばしい匂いが漂っている。
「コイキング……お前……」
「コ……」
「滅茶苦茶美味そうになったな……いただきます」
「コ……♪ (召し上がれ……♪)」
「お前いきなり何いってんの!?」
「コン!?」
バトル中であるにも関わらず、アンバーは焼けたコイキングを持って思いっきり食べようとする。その発言に思わずツッコむカツラだが、当然アンバーは聞いていない。忘れがちだがこのアンバー、最初はコイキングを食べるつもりで買っている。500円で。それはさておき、ついにアンバーの口がコイキングの体に食い付いた。
しかしこのコイキングというポケモン……ほとんど骨と皮と鱗だけで食べられない。しかもアンバーのコイキングは彼の理不尽かつ人外レベルの暴力を受け、耐え抜き、悦ぶようなポケモンである。
「……硬くて食えねえんだよ!!」
「コッ!?」
「食えねえのかよ!」
「コン"ッ!?」
「キュウコン!?」
その体は鋼の如し。ガキッ!! という音が鳴るほどに噛みついたアンバーだが、その身を食らうことは出来なかった。怒りのままにコイキングを投げつけ、投げられたコイキングはキュウコンの顔に直撃する。キュウコンの首から何やら嫌な音が聞こえたような気がするが、恐らく気のせいだろう。ビクビクと痙攣しているキュウコンの姿など見えない。イイネ?
「本っ当に無茶苦茶な奴だなお前は!!」
「ありがとう、最高の誉め言葉だ」
「誉めとらん!! ええい行け!! ギャロップ!!」
「ブルル……ヒヒーン!!」
叫んだカツラにどこかのマイスターのように物凄く誇らしげに返すアンバー。そんな彼に苛立ちを隠しきれないカツラはキュウコンを戻し、ポニータの進化した姿であるギャロップを繰り出す。円らだった瞳はキリッとしたモノに成長し、頭には鋭い角が生えている。そしてカツラは直ぐ様、キュウコンに当たって跳ね返ってそのまま部屋の真ん中にいるコイキングを指差して命令を下す。
「ギャロップ、“ふみつけ”!!」
「ヒヒン!!」
「ゴッ!?」
「コイキング!」
カツラの命令に従い、容赦なく全体重と勢いをつけて前足を振り下ろし、コイキングを“ふみつけ”るギャロップ。その小さな体躯にかかる重量は想像を絶する。
「もう一度“ふみつけ”!!」
「させるか! “とびはねろ”!!」
「コッ!」
「ヒヒーン!!」
再度“ふみつけ”を行うギャロップだったが、当たる前にコイキングが跳ねた事でそれは失敗に終わり、床を踏み砕いてしまう。回避したコイキングは天井に当たる程に“とびはねて”おり、器用にも尾びれを天井に当て、更に跳ねる姿勢になっていた。
「そのまま全力でギャロップ目掛けて“たいあたり”!!」
「コッ!」
「舐めるな!! ギャロップ、蹴り飛ばしてやれ!!」
「ヒヒン!!」
「コッ!?」
尾びれを使って反動をつけ、ギャロップへと突撃するコイキング。だが、ギャロップはその突撃にタイミングを合わせて後ろを向き、後ろ足で蹴り飛ばした……というところで、カツラは己の失策に気付いたようにしまった、という顔をした。その理由は……コイキングがアンバーの方へと向かって飛ばされたからだ。あっ(察し
「よく来てくれたなコイキング。こいつはサービスだ、とっておきなあ!!」
「コッ! (御主人様のサービスううううっ!)」
「ヒヒン!?」
「ギャローップ!?」
ギャロップに蹴られた勢いを微塵も感じさせずにコイキングを蹴り返すアンバー。うん、またなんだ。すまない。仏の顔もって言うしね……許してもらおうとは思わない。でも、この一連の行動を見て、君達はきっと言葉に出すまでもない“ああまたか……”という諦めのような感情を抱いたと思う。このワンパターンなギャグと理不尽な作品を読むときには、そういう気持ちを忘れないでほしい。
そんなこんなで後ろ足で蹴った姿勢のままコイキングを後頭部に受けたギャロップはその長い顔を床にめり込ませて窒息死寸前になり、戦闘不能判定が出た為にカツラは戻した。尚、コイキングはペチャッと情けない音と共に床に落ちている。これで一対一となるが、彼にはまだ最強の手持ちが残っている。
「話に違わん奴だ……しかし、お前の快進撃もここまでだ!! いでよ、ウィンディ!!」
「グルアアアアッ!!」
カツラが繰り出したのは獅子のような姿をした白い鬣が勇ましい四足ポケモン、ウィンディ。でんせつポケモンと分類されるその溢れんばかりの力強さはその身に違わない。
「ウィンディ、“しんそく”!!」
「ガアアアアッ!!」
「コッ!?」
「コイキング!?」
“しんそく”。“でんこうせっか”や“こおりのつぶて”のような先手を取れる技の中で最高峰の威力を誇る技である。その速度は正しく神速……目で追うことなど叶わない。しかもその速度でウィンディのような巨体がぶつかってくるとなれば、数値以上のダメージが出るだろう。
アンバーの前に飛んできてぴくぴくとしているコイキング……その姿は瀕死にしか見えないが、まだ戦闘不能判定は出ていなかった。どれだけ頑丈でタフなんだと呆れたくなるカツラだったが、直ぐに思考を切り替える。まだ瀕死ではないというのなら、瀕死になるまで攻撃あるのみだと。
しかし、カツラがウィンディに命令する前にアンバーがコイキングを手に持つ。また投げるのか、それとも蹴り飛ばすのかと出方を待つカツラだったが、アンバーの口から出たのは意外……でもない言葉だった。
「来な……返り討ちにしてやる」
「……後悔するなよ。ウィンディ、“しんそく”!!」
「ガアアアアッ!!」
コイキングを肩に置いて挑発するアンバーに対して、カツラは一切の躊躇なく、微塵の後悔もなく命令を下す。ウィンディもまた人間がいることを気にせずに命令を遂行する。“しんそく”は正しく神速……勝ったと、カツラもウィンディも確信していた。しかし、ウィンディは見た。全てを置き去りにする神速の世界で、己の前に現れたコイキングの姿を。
「コイキング……」
そして、遅れて聞こえてきたアンバーの声を。
「“ばくれつパンチ”!!」
「ゴボエェッ!?」
「グルブギュッ!?」
「……はい?」
神速の突撃に対して、アンバーはコイキングをウィンディと挟むように拳を突き出した。一応ヒレが当たっているのでパンチにはなっているような気がする。これでもコイキングは死なない。それどころか嬉しそうにしていた。駄目だこの主従早くなんとかしないと。
己の速度と点による一撃であるコイキングの“ばくれつパンチ(?)”を顔に受けたウィンディは急所に当たったどころじゃねえダメージを貰い、意識を飛ばした為に戦闘不能判定が出た。こうしてアンバーは勝利し、グレンジムのバッジであるクリムゾンバッジを手に入れるのであった……尚、ウィンディはしばらくの間、顔が“*”のようにめり込んだまま元に戻らなかったという。
「コイキングのパンチ力、甘く見るんじゃねえ」
「……は?」
こうして、アンバー第7の戦いは終わった。相手はその膨大な知識と炎にも負けない情熱をもってアンバーを追い詰めたが、彼はその身に宿るコイキングへの信頼とポケモンマスターになるという夢への熱意で打ち破り、勝利を納めた。だが、最後のジムリーダーは今までのジムリーダー達を越える強さを持っているだろう。その相手に勝つ為にも、アンバーはもっと強くならねばならない。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは1匹! このコイだ!!
「この後、俺は暴走族共と一緒にタマムシに行くことになり、久々にエリカの家で過ごした。それはもう色々な意味で過ごした。後、いつのまにか親同士の話し合いの元、俺の婿入りが法的にも決まっていた……」
「あ……は……♪ もう、こんなに沢山……♪」
「と、殿ぉ……拙者にもぉ……」
「ココココ……(御主人様……私にも御慈悲を……)」
『何!? 俺と戦ったなら、俺がヤられるのではないのか!?』
アンバーが法的に人生の墓場に突っ込みました←
次回は某悪の組織のボスですね……そして手持ちには、奴がいる。そう、キングの名を持つポケモンが……ワンパターンにならないように頑張らないと(使命感
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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コイキングたるもの、だましうちの1つも覚えねばならない
サカキ(cv小山 力也)
前回のグレンジムの戦いに勝利したアンバー。彼が持つバッジの数は7つとなり、残すは1つとなった。その1つを手に入れればカントーのジムは全て制覇したことになり、ポケモンリーグへの挑戦権を得ることになる。
しかし、最後のジムリーダーこそが正真正銘最後の難関と言っても過言ではない。最後のジム……トキワジムのジムリーダーは地面タイプの使い手である。その名を、サカキ。彼はジムリーダーであると同時に、ロケット団……所謂悪の組織のボスでもあるのだ。
「邪魔する奴はコイキング1匹でダウンさー!!」
「コッ!! (御主人様に使われるなら、私は本望でございますっ!!)」
【ぎゃああああっ!?】
そんなことを知ってか知らずか、アンバーはタマムシからヤマブキを通ってクチバに向かい、ディグダの穴と呼ばれる洞窟を通ってニビシティの近くに出た後、コイキングで道を塞ぐ細い木と野生のポケモンと挑んでくるトレーナー達ををばったばったと薙ぎ倒しながらトキワシティへとやってきたアンバー。向かう先は当然、トキワジムである。
そして辿り着いたトキワジム。このジムのギミックは、分かりやすく言うなら“上に乗った存在を矢印の方向へ強制的に移動させる床”と言ったところだろうか。しかも何故か乗った存在が回転するというおまけ付きである。酔わないのだろうか。さしものアンバーとて、強制的に移動させられてはどうにもならない……。
「回れまーわれメリーゴーラン!! もう決して止まらぬように!!」
「ココココッ!?」
【ぎゃああああっ!! こいつ滅茶苦茶過ぎる!?】
そんな訳がない(知ってた)。アンバーは床に乗った瞬間にコイキングを持ち、ジャイアントスイングしながら移動した……するとなんという事でしょう。チャレンジャーを待ち構えていたジムトレーナー達が次々と上げてとコイキングにぶつかって吹き飛ばされていくではありませんか。圧倒間にジムトレーナーの視線が気にならない、開放的な空間に仕上がりました。
そんな風に物理的にジムトレーナー達を薙ぎ倒したアンバーは、少ししてサカキの前に辿り着く。サカキが冷や汗をかいているような、口元がひきつっているような気がするが気のせいだろう。
「うっぷ……あ、あんたが……うぶっ……ジムリーダー、か?」
「……そうだ。トキワジムジムリーダー、サカキと言う。そういう君はアンバーだろう? 話は聞いている」
「だっ、だったら話は早っぐ……おぶっ……!」
「……誰か袋を持って来てやれ」
━ 少々お待ちください ━
「チャレンジャーアンバー、あんたのジムバッジを貰いに来たぜ」
「いいだろう。君の挑戦、受けてたつ。行け、サイホーン!」
「ホーン!」
気持ちを入れ換えた2人は、先程の出来事などなかったかのように相対する。サカキの手持ちは今までのジムリーダーの中で最多の5体。最初に繰り出したのはサイホーン……鈍色の体は見た目通りの頑丈さを誇り、その力強さもまた見た目相応だ。
「お約束のコイキック!!」
「コッ!?」
「ホ……ンンンッ!!」
「なん……だと……?」
そしていつもの如くコイキングを蹴り飛ばすアンバー。相も変わらず情け容赦躊躇後悔の全てが存在しない行動だが、蹴られている本ポケが悦んでいるので何の問題もない……が、別の問題が起きた。
今まで何体ものポケモンを一撃の下に下してきたコイキックを、サイホーンは壁際まで押し込まれつつも耐え抜いた。耐えられたことが予想外だったのかアンバーは目を見開き、跳ね返ってきたコイキングを掴みつつニヤついているサカキを睨み付ける。
「……“がんじょう”か」
「そうだ。サイホーンのとくせい、がんじょう……一撃で全ての体力を削られる場合に限り、1度だけ耐え抜く。“じわれ”のような一撃必殺も効かん」
サカキの言った通り、サイホーンには“がんじょう”というとくせいがある。ゲームにおいては体力が満タンの場合に一撃で瀕死に至る攻撃を受けた場合に体力を1残して持ちこたえ、一撃必殺が効かないというとくせいである。サカキのサイホーンもとくせいがそのがんじょうであり、本来なら瀕死となるところを持ちこたえた、ということである。
「じゃあもう一撃当てたら耐えられねえじゃん」
「コッ!?」
「まあ……その通りだ」
「ホンッ!?」
そう言って再びコイキングを蹴り飛ばすアンバー。蹴られたコイキングは真っ直ぐサイホーンに向かい、ガツンッと音をたてて直撃し、サイホーンは目を回して倒れた。サカキはこの結果を分かっていたのか、どこか哀愁を感じさせる笑みを浮かべてサイホーンをボールへと戻す。
「さて、では次々といこうか。行け、ダグトリオ」
「ダグダグダグ!」
続いてサカキが繰り出したのは、ディグダというポケモンが3匹いるかのような姿のポケモン、ダグトリオ。別に地面の中にマッチョな肉体があったりはしない……多分。初代グリーンバージョンではマチス戦で本当にお世話になりました。
「ダグトリオ、“あなをほる”」
「コイキング、“とびはねる”!」
お互いのポケモンが命令に従い、地面へ空中へと動く……しかし、コイキングは攻撃の為ではなくアンバーの元に戻るためだ。そうして空から帰ってきたコイキングをアンバーは……受け止めることなく、その場から後ろへと跳んだ。
「コッ!?」
「ダグー!!」
コイキングが“なぜ!?”と思ったのも束の間。アンバーがいた床がひび割れ、その下からダグトリオが飛び出してきた。当然コイキングはダグトリオのヘディングを避ける術などなく、再び宙を舞った後にべちゃっと床の上に落ちた。
「……随分と汚ぇ真似するんだな。ジムリーダーさんよ」
「なに、コイキングの着地を狙った攻撃の先が偶然君の足下だった……それだけのことだ」
いけしゃあしゃあと……と内心で毒づくアンバーだが、サカキの言うことは別に間違ってはいない。だからと言って許せるかどうかは別問題であるが。勿論、アンバーが許すハズなどある訳がない。
「コイキング、“とびはねる”だ!!」
「無駄なことを……ダグトリオ、“あなをほる”」
怒りで声が大きくなるアンバーに所詮は子供かと失望するサカキ。ロケット団のトップである彼は傍若無人でポケモンに容易く暴力を振るえ、人外染みている身体能力を誇るアンバーを高く評価し、あわよくばロケット団に勧誘する心算だった。
しかし、こうも怒りやすく感情を制御出来ないようでは、仮に入ったとしても何かの拍子で裏切られるかも知れない。他の雑魚団員ならいざ知らず、アンバーのような人間に裏切られると多大な被害が出るだろう。
(悪いな青年……君は、私にとって邪魔な存在なのだ)
黒い笑みを浮かべ、サカキはアンバーの殺害、そうでなくともトレーナー生命が失われる程の重症を負わせる決意をする。ここから先は、先程のダグトリオのようにアンバーを事故に見せ掛けて攻撃を加える……と考え、再びアンバーがコイキングを手に取ろうとした時だった。
「ワーニワニパーニーック!!」
「コココッ!?」
「ダベベベッ!?」
「なにぃっ!?」
その場で跳んでコイキングを手にしたアンバーは足下から出てきたダグトリオを回避し、ダグトリオの3つある頭をコイキングで一瞬の内に同時に叩いた。なんかダグトリオの目玉が飛び出る程に伸びたり鼻水が凄い勢いで噴き出したりしたような気がするが気のせいだろう……因みに、アンバーは別にスバメを切り裂こうとしたりオオスバメを切り裂こうとしたりしたことはない。勿論燕もない。
「おっとわりぃ慌てて手を振り回したら偶然ダグトリオに当たっちまったいやー事故って怖いなー」
「そんな一息に棒読みで言って納得する人間はいないだろう。それにしても……」
コイキングを肩に担ぐようにしながらニヤニヤとした笑みを浮かべて棒読みでそんなことを宣うアンバー。その足下には3つの頭にそれぞれタンコブを作ったダグトリオが倒れている。サカキの額に青筋が浮かぶが、自分とてルール無用の悪の組織のボス。違反だなんだと言うことはない。
しかし、彼の意識を変えるには充分だった。最早スポーツのようなバトル中での事故を装って……みたいなまどろっこしいことはしない。幸いにもアンバーのジャイアントスイングの被害で自分達以外に意識がある人間はいない……今のうちに息の根を止めれば、目撃者もいない。冷酷な犯罪者としての顔を、サカキは覗かせた。
「私は、まだ君のことを舐めていたようだ……ここからは文字通り、殺す気で行かせてもらおう。行け、サイドン!」
「サイッドン!!」
ダグトリオを戻してサカキが繰り出したのは、最初に出したサイホーンの進化した姿であるサイドン。四足歩行から二足歩行になり、ドリルのように回転する角を持つポケモンだ。固い岩盤を容易く砕くその角は、人間の体などあっという間にひき肉か蜂の巣になるだろう。
「サイドン……“つのドリル”!!」
「ドォォォォン!!」
コイキングを手に持つアンバー目掛けて、サイドンは角を回転させながら突撃する。使用するポケモンのレベルと同じ、或いは下のポケモンにしか通じない……が、当たればどんなポケモンであっても一撃の元に地に伏す技が存在する。それこそが“いちげきひっさつ!!!”。その1つが“つのドリル”。その死神の鎌と呼ぶべき突撃を前に、アンバーは……。
「コイキングガード!!」
「コオオオオッ!?」
「サイ、ドン!?」
「な……にぃっ!?」
あろうことかコイキングを横向きに前に出し、何の躊躇いもなく盾にした。ギャリギャリという音と火花が散りまくっているが、アンバーは1歩も引かずに留まる……コイキングを盾にして。
サカキは驚愕する。ポケモンの突撃を受けて1歩も引かないアンバーもそうだが、何よりもサイドンの“つのドリル”を受けて瀕死にならず、しかも貫通すらもしないコイキングのあまりの強固さに。その状況が示すのは、たった1つのシンプルな答え。
(あ、あんな雑魚ポケモンが……私のサイドンよりもレベルが高い、だと!?)
直撃している、なのに倒れない。ならば答えは1つ……サイドンのレベルよりもコイキングのレベルの方が高い、只それだけのことだった。
「ギャリギャリうるせええええっ!!」
「コッ!?」
「ドンッ!?」
「本当に……無茶苦茶だな」
盾にしたコイキングを振るってサイドンを弾き、まるでハリセンで頭を叩くかのようにサイドンの頭をコイキングで叩いてその顔を床が砕ける程にめり込ませるアンバー。なんか角が欠けたような気がするがこれも多分気のせいだろう。
サイドンをボールに戻すサカキの顔に苦笑が浮かぶ。まさかある種、これ以上ない程の理不尽(レベル差)によって最強の一撃が無意味なモノになるとは露程も思っていなかっただろう。ましてや悪人である己の殺意を込めた一撃、それをこんなギャグ漫画のような展開で返り討ちに合ったのだ、苦笑いもしたくなる。
「戻れサイドン。ニドクイン、行け!」
「ニドーッ!」
サカキがサイドンを戻して新たに繰り出したのは、青い体と短くも毒を持つトゲと角を持つポケモン、ニドクイン。正直に言って、サカキはこのポケモンでコイキングを倒せるとは考えていない。それだけコイキングのタフさは桁違いで、アンバーは何をしてくるのか本当に全く全然何一つ理解不能なのだから。
しかし、ある程度予想が出来ることがあった……というよりも、今までのアンバーの情報を見る限りはほぼ行われる行動があった。
(アンバー。君は手元に、或いは近くにコイキングが入れば、相手がポケモンを出した時点で奇襲をかけてくる。だから1つ、手を打たせてもらった)
「クイーンなんざ敵じゃねえな。つーことで行ってこいコイキング!!」
「コッ!?」
「ニドクイン!!」
「ニドグフッ!?」
かくしてサカキの予想は当たり、アンバーはニドクイン目掛けてコイキングを投げ付けてきた。心なしか今までで一番速く力のある投擲だったような気がする。
サカキは叫ぶ。彼は悪人である。しかし地面タイプのエキスパートとしてジムリーダーを任され、トレーナーとして研磨し、ポケモンを育て上げた。ポケモンもまた、主であるサカキと共に過ごしてきた。
故に、サカキは信じた。己の修練を、己のポケモンを。そしてニドクインは応えた。己の主の為に。己の主と費やした時間を嘘にしない為に。
「“カウンター”!!」
「ニッドオオオオッ!!」
「ゴフッ!?」
“カウンター”。相手の直接的な攻撃を受けた後に倍にして返すという文字通りのカウンター技。人外級のアンバーに蹴られたコイキングを受け、耐えたニドクインはそのダメージを倍にしてコイキングへと叩き付け、床に沈めた。
勝った……サカキはそう確信する。何せ今の“カウンター”はニドクインが体力ギリギリまで耐えたダメージを倍にして返したのだ、如何にアンバーのコイキングが非常識なまでのタフネスを誇るとしても、とても耐えきれるモノではない……しかし、サカキは1つ計算ミスを犯していた。
「俺のご褒美を倍にして受けられるたぁ、コイキングも幸せな奴だなぁ……おら、喜んで“じたばた”しろや」
「ココッ!! ココココッ!! (そう、今のダメージは倍になった御主人のごほーび!! ならばこのコイキング、後10年は戦えます!!)」
「ニ、ニドォ……」
「しまった、あのコイキング……情報ではドMだった……っ!」
このコイキングはドMである(アンバーからの攻撃に限る)。そしてアンバーの言葉ならそれを信じる。例え相手の攻撃によってのダメージだとしても、アンバーが自分の暴力(ご褒美)を2倍受けたと言えばそれはコイキングにとって悦びでしかないのだ。思い込みってスゴいよね。
そしてその悦びを“じたばた”で目一杯表現したコイキング。体力ギリギリだったニドクインはその“じたばた”を受け、ぱたりと倒れた。これでサカキの手持ちは残り1匹。故に彼は、その1匹に全てを託す。
「すまない、ニドクイン……アンバー君。今から出すポケモンは、君との戦いに終止符を討つに相応しいポケモンになるだろう」
「そうかい……なら早く出せよ。返り討ちにしてやる」
「言われなくとも。行け!! ニドキング!!」
「ニドオオオオッ!!」
現れたのはニドラン達の王、ニドキング。ニドクインとは違って毒々しい紫色の体と鋭く長い角、一目で力強いと分かる体躯は、ニドラン達の王に相応しいだろう。
「……キング……だぁ?」
それが、アンバーの逆鱗に触れた。
「気に入らねえ……気に入らねえぞ!! ニドキング! ヤドキング! ケッキング! キングドラにキングラー!! どいつもこいつも“キング”を名乗りやがって気に入らねえ!!」
(え、なんでいきなり怒ったの。最近の子供って怖いな)
「いいか! 耳の穴かっぽじってよーく聞け!!」
激昂したアンバーにサカキが内心で怯えるが、そんな事はおくびにも出さない悪のリーダー。やはり年季が違うということだろう。
それはさておき、アンバーは右手の人差し指を伸ばして天を指すように掲げ、降り下ろした後にコイキングを指差す。自信満々に、傲岸不遜に、威風堂々と叫ぶ。
「キングは1匹! このコイだ!!」
「コホー……コホー……」
「……」
「……」
指差したコイは、“じたばた”で疲れていたのだろう……ピクリともせずに呼吸することに専念していた。
「かっこよく決めさせろや!!」
「コッ!?」
憤怒の形相で道具を投げつけてコイキングにツッコミを入れるアンバー。投げたアイテムが“かいふくのくすり”であり、蓋が開いていたので中身がぶちまけられ、その中身を浴びさせてちゃっかり回復させていたのは流石と言うべきか。
「……コホン。君のそのキングへの謎の拘りは……うむ。ニドキング、“じしん”!!」
「ニドオオオオッ!!」
「コッ!?」
何とかアンバーに言葉を返そうと大人の対応をしようとしたサカキだったが結局何も出なかったので誤魔化すように技を指示する。ニドキングはその指示に従って跳び上がり、全体重を使って“じしん”を引き起こした。その揺れはコイキングを打ち上げ、地面タイプ最高峰の威力からなるダメージをその身に与えた。
しかし、ここでサカキは自分の技の選択が誤りであったことを悟る。なぜなら、コイキングが“アンバーの方へと”打ち上げてしまい、アンバーがニヤリと笑みを浮かべ……飛んでくるコイキングを蹴るために足を後ろへと下げてていたから。
「コイキング!!」
「コッ?」
「蹴る……と見せかけて殴る!!」
「コッ!?」
「しまった! 騙された!!」
「ニドグフェア!!」
「ニドキーング!?」
すっかりアンバーをコイキングを蹴るモノだと思い込んでいたサカキは虚を突かれ、ニドキングへの指示が遅れてしまう。見事なまでの“だましうち(トレーナーにも効く)”の攻撃としてコイキングはニドキングの顔にめり込み、その角と牙と顔の骨を折りながら壁まで吹き飛ばした。
勿論ニドキングは戦闘不能。それどころかポケセンで緊急治療が行われる程の重症である。この後サカキは自分に勝利した証であるグリーンバッジを引き吊った笑みを浮かべつつアンバーに渡し、ニドキングの治療もあってしばらく悪事を働くことなく大人しくする羽目になったという。
「あの程度でキングとは笑わせてくれる。やっぱりコイキングがナンバーワン」
「頼むから2度と私の前に現れないでくれ……」
こうして、アンバー第8の戦いは幕を閉じた。敵は巨悪の権化として立ちはだかり、強大な大地の力でアンバーを苦しめてきたが、彼はパートナーと協力して紙一重で勝利を掴み、カントーのジム全てを制覇することが出来た。しかし、これで物語が終わった訳ではない。物語はジム戦からポケモンリーグへと移り、新たな戦いの火蓋が切って落とされることになるのだ。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは1匹! このコイだ!!
「この後、Rの文字がプリントされた黒服の集団に“ボスの仇!!”と襲われたがコイキックで残らず返り討ちにし、男は裸で吊るして女は“おしおき”しておいた」
【だめぇ……こんなの知ったら……もうロケット団に戻れないのぉ……♪】
『旦那様が無事で良かった……ポケモンリーグに行く前に是非我が家に“帰ってきて”下さいね? お祝いしますから♪』
『殿! おめでとうございます!!』
「随分と女性団員が減ったような……?」
なぜギャグを書いているのにシリアスが混じるのか←
それはさておき、次回からは四天王戦となります……今回が最後のにゃんにゃん回かもしれませんねぇ。四人で終わるか、初代よろしく5人目も入れるか悩みますが……ラストを赤帽子か孫か女の子にするか悩みます。
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コイキング自身がアイスボールとなることだ!
フェイトは10連1回引いたところ、ジャンヌこそ出ませんでしたがヴラドさん来てくれたんでまあいいかなという感じです。強化が面倒ですがね……。
前回の勝利で全てのバッジを集めたアンバー。戦いの傷を数日かけてエリカの実家で癒し、再び彼はトキワの地を踏む。目的地はトキワシティから少し歩いた先にあるセキエイこうげん……その先のチャンピオンロードを越えたところにあるポケモンリーグ。
セキエイこうげんとチャンピオンロードの間には8人の警備員が存在し、彼等にそれぞれ8つのバッジを見せることで、チャンピオンロードに初めて入ることが出来る。アンバーもその手順を践むため、セキエイこうげんへと足を踏み入れた。
「これはグレーバッジの分! 次にブルーバッジの分! オレンジバッジ! 愛してるエリカから受け取ったレインボーバッジ! ピンクバッジ! ゴールドバッジ! なんでレッドじゃなくてクリムゾンバッジ!? 最後にグリーンバッジの分だああああ!!」
【ぎゃああああっ!!】
「殴られた記憶は消させてもらうでござる」
「良い子だアンズ……ちょっとあの草むらまで行くぞ」
「と、殿……こんな時間に外で……♪」
なぜか警備員と出会ってバッジを提示するように言われるとバッジを持って殴り付けていくアンバーと警備員達の殴られた記憶を忍術的な何かで消していくアンズ。やってることは犯罪である。ヤってることは別に犯罪ではない。アンバーに殺意を抱いたそこの君は歓迎しよう、盛大にな!! 感想には味方が一杯いるよ!
途中にある水辺は“出した左足が沈む前に右足を出してその右足が沈む前に左足を”理論で走り抜け、“たきのぼり”が必要となる滝は隣の崖をクライムするという力業で乗り越え、アンバーはついにチャンピオンロードへと進んだ。
「邪魔なトレーナーはコイキックよー!!」
「コオオオオッ!! (やったああああっ!!)」
【そんなああああ!?】
トレーナー達? 彼らは犠牲となったのだよ……コイキックの犠牲にな。PPを使わない、初手必殺、使う度になつき度アップ(既に限界突破)、などなどお得な効果が満載のコイキック、あなたも使えるようになってみませんか? やりたくなった方は是非、目の前の画面にダイブ! 尚、アンズは入口手前の安全な場所で荒い息を吐いて座り込んでいます。
そんなこんなでアンバーが辿り着いたのはポケモンリーグ。その中には四天王と呼ばれるジムリーダーを越える実力を持つ4人のトレーナーと、チャンピオンと呼ばれる四天王の長がいる。チャンピオンに挑む為には四天王を1人ずつ、連続して戦い、勝ち抜かなければならない。
そのポケモンリーグに足を踏み入れ、迷うことなく四天王とチャンピオンに続く通路を歩くアンバー。長い階段を上り、辿り着いたのは寒々強い氷の部屋。その部屋の奥にある扉の前にいるのは、眼鏡をかけた1人の女性。
名を、カンナ。四天王の最初の1人にしてカントーにおいて並ぶ者はいないであろう氷タイプの使い手である。そしてメガネ美人です。ここ重要。
「ようこそ、ポケモンリーグへ。私は四天王の最初の1人、カンナよ」
「ポケモントレーナーでチャレンジャーのアンバーだ。チャンピオンになるためにはあんたみたいな四天王を倒していけばいいんだろう?」
「ええ……倒せるものなら」
「俺好みの答えだ」
カンナは氷タイプ使いに相応しい冷笑を浮かべ、アンバーは逆に戦意をみなぎらせた獰猛な笑みを浮かべた。同時に、カンナは腰のモンスターボールに手をかけ、アンバーはコイキングの尾びれをつかんで吊るすように手を前に伸ばした。このアンバーの行動が自然と受け入れられているそこのあなた、すっかりこの作品に毒されてますよ。
四天王とチャンピオンもまた、ジムリーダーと同じく挑戦者よりも先にポケモンを出さなければならない。カンナの所持ポケモンは5体……その最初の1体は。
「言って、ジュゴン!」
「ゴーン!」
真っ白な体が美しいポケモン、ジュゴン。パウワウと呼ばれるポケモンの進化した姿であり、小さくも鋭い角と円らな瞳が特徴のポケモン。
「ドストレートに言って死ねええええ!!」
「コッ!?」
「死ね!? 初対面なのになんでいきなり死ね!?」
「ジュゴッ!?」
「ジュ、ジュゴーン!?」
四天王だろうが関係ねえとばかりにコイキングを蹴り飛ばし、安定のいちげきひっさつ!!! を決めるアンバー。無茶苦茶なチャレンジャーアンバーの情報は四天王達までは出回っていないらしく、カンナは驚愕の表情を浮かべた。尚、いつものごとくコイキングは跳ね返ってアンバーの足下にいる。
「あ、あなた! ポケモンを蹴り飛ばすなんて、なんて非常識な!」
「ルールにはなんら引っ掛かっていない。現に俺はこのやり方でジムを制覇した」
「ポケモン協会に後で抗議してやるわ!! 行きなさい、パルシェン!」
「パ、パルゥ……」
アンバーに対して怒鳴りながら、カンナは新たにトゲのついた殻の中に黒真珠があるようなポケモン、パルシェンを繰り出す。出てきたパルシェンはヒステリックなカンナを見て怯えているようだ。美人が怒ると恐いよね。尚、パルシェンはシェルダーという貝のようやポケモンに“みずのいし”を使うと深海するぞ。
「パルシェン! “とげキャノン”!! トレーナーなんて気にせずにやりなさい!!」
「パル!? パル……シェン!」
カンナが怒りの余りにアンバーもろともコイキングを倒すべく指示した技は“とげキャノン”。名前の通り、ポケモンの持つトゲを砲撃のように飛ばす技である。トゲが鋭かったり固かったりすれば、数値以上のダメージが期待できるだろう。
対象のポケモンの近くにトレーナーがいるというのに出された指示に驚愕するパルシェンだったが、そこは四天王のポケモンということか直ぐ様命令を遂行し、殻に付いている2本のトゲをコイキング目掛けて飛ばした。
「絶!! 好!! 球!!」
「コッ!? ゴッ!?」
「打ち返し……!? “からにこもる”!」
「パ、パルゥ!」
アンバーはコイキングをバットのように掴み上げ、迫り来る2本のトゲをコイキングの真芯(多分お腹辺り)で捉え、ジャストミイイイイト!! ピッチャーライナー!! しかしパルシェンは殻に籠ることで事なきを得る。引きこもりの壁は厚いのである。
「引きこもってんじゃねえっ!!」
「ゴギュッ!?」
「パルブッ!?」
「パルシェーン!?」
そのまま間髪入れずにバット……もとい、コイキングを全力投球するアンバー。投げられたボール(コイキング)は見事にパルシェンのバット(殻)を砕き、ストライクゾーン(中身)に叩き込まれた。見事なストライク(野球用語)である。
「何なのよ貴方!? 無茶苦茶じゃない!」
「ありがとう、最高の」
「誉めてない! 行きなさい、ルージュラ!」
「ジュラルー」
癇癪を起こすカンナを煽る(無意識)アンバー。無意識なら仕方ないよね。それはさておき、戦闘不能となったパルシェンをボールに戻したカンナが繰り出したのは、女性的なシルエットと金髪、ぷっくりとした唇がセクスィ(笑)なポケモン、ルージュラ。得意技は、その唇でキスすることで相手を眠らせる“あくまのキッス”だ!
「ルージュラ! “あくまのキッス”!」
「……ジュラ、ルー」
「コッ!? ココココ! ココココ!! (キッス!? 冗談じゃない! 私の唇は、ご主人様だけのものなのぉ!!)」
カンナの指示に嫌そうな顔をしながらも床に転がっているコイキングを両手で挟むようにして持ち上げるルージュラ。そして己の身に起きることを理解したコイキングは涙目で必死に暴れた。それはもう暴れた。
しかしそんなことではルージュラは止まらない。徐々に近付く唇と唇……そしてそれらが重なる、正にその瞬間。
「眠ってる場合じゃねえぞコイキング!」
「コッ!?」
「ジュラッ!?」
「あーもう次から次へと無茶苦茶を!」
眠ってる(眠ってない)コイキングを起こすべく、アンバーは目覚まし時計のような形をしている“ねむけざまし”という道具を投げつけた。投げつけた“ねむけざまし”は見事にルージュラに持ち上げられていたコイキングに当たり、両手から抜け出してお互いに頭を打ち付けるという結果になった。尚、コイキングは床に落ちて直ぐにアンバーの元に跳ねている。カンナは泣きそうになっている。
「そしてコイキック!!」
「コッ!?」
「ルージュラ! “れいとうパンチ”で迎撃!」
「ルー、ジュラアアアアブヘェッ!?」
「ルージュラアアアアッ!?」
そして再びコイキングを蹴り飛ばすアンバー。ルージュラは命令通り“れいとうパンチ”で迫り来るコイキングを迎撃しようとするが、そんなパンチ程度で止められるようなモノではない。1秒たりとも拮抗出来ずにコイキングはルージュラの顔に突き刺さった……背ビレから、それはもうザックリと。魚のヒレは意外に鋭いので気を付けましょう。
無論、一撃必殺に定評のあるコイキックを受けたルージュラは戦闘不能。なんか金髪部分だけを残して他が全て消失したような気がするが気のせいだろう。バナナの皮とか言った人は素直に出てきなさい。
「くっ……なら、行って! ヤドラン!」
「ヤァ……ン?」
ルージュラを回収したカンナは4匹目のポケモンとして尻尾に巨大な貝が噛みついているようなポケモン、ヤドランを繰り出す。まぬけポケモンというバカにされているとしか思えないポケモン、ヤドンの進化系。一説では釣り竿の代わりをしているヤドンの尻尾にシェルダーが噛みつくことで進化したとされる。
「ヤドラン……だと?」
「ええ、ヤドランよ」
「……ヤァ」
「あんた、何の四天王だっけ?」
「氷タイプよ」
「氷タイプ使えや!!」
「コッ!?」
「ヤァ~……」
「ごめんなさい」
ご覧ください、珍しいアンバー君のツッコミです。アンバー君は本当はツッコミとして頭をはたくくらいのことはしたいのでしょうが、手近な所に誰もいない為、足下に転がっていた氷の欠片をおもいっきり蹴り飛ばしました。勿論、欠片は粉微塵です。
その時、不思議な事が起こった。アンバーが欠片をおもいっきり蹴り飛ばしたことで何故か凄まじい突風が発生し、遠くのコイキングとヤドランを天井まで吹き飛ばしたのだ! この時、幸か不幸かアンバーのツッコミに思うところがあったのか頭を下げて謝っていたカンナは一連の出来事を見ていなかった。
吹き飛ばされた2匹は天井に叩き付けられて床に落下したのだが、その音は“ぺちっ。ゴシャアッ”という体重差がよく分かるものだった。尚、ヤドランは頭から落ちている。白目を剥いて痙攣しているが、きっと大丈夫だろう。コイキング? 彼女は落下した地点でピクピクしてるよ。
「……ってヤドラン!? くっ、このまま終われるもんですか! 行って、ラプラス!!」
「クォーン!」
(本人的には)いつの間にかやられていたヤドランを見て驚くカンナだったが、悔しげに吐き捨てた後にヤドランをボールに戻し、新たにラプラスを繰り出す。見た目は……説明しにくいので省略する。
「コイキング! 俺に向かって“はねろ”!」
「させないわ! ラプラス! “れいとうビーム”!!」
「クォォォォン!!」
「コッ!? コオオオオ……」
直ぐ様コイキングに命令するアンバーだったが、相手は四天王とそのポケモン……コイキングが跳ねた瞬間、ラプラスの口から放たれた“れいとうビーム”は見事にコイキングに直撃し、アンバーにとって運の悪いことにコイキングはまるで氷の球体に閉じ込められたかのような状態……氷付けになってしまった。
氷付け……つまり、状態異常。毒、麻痺、混乱等の状態異常があるが、氷付けはそれらの中でも質が悪い。何しろ氷付けになったポケモンは炎タイプでもない限り動けなくなり、今のコイキングのように全身を氷に閉じ込められてしまえば呼吸が出来ず、最悪死に至る。
「コイキング……」
「ふふふ……こうなってしまえば、後はこちらのものね」
「鮮度がいいまま冷凍保存されて良かったなぁ……」
「余裕綽々か!!」
「クォン!? (私のボール!?)」
まるで危機感を感じていないようなアンバーの台詞に思わずカンナはラプラスの入っていたボールを床に叩き付ける。ラプラスは涙目になった。ラプラス可愛いよラプラス。
カンナがボールを叩き付けた瞬間、アンバーの目がキラリと光る。そしていつものコイキックの体勢に入り……足下に転がっていた氷付けのコイキング目掛けて足を動かした。
「必殺! コイキング入り“アイスボール”!!」
「クボゲハァッ!?」
「ラプラアアアアス!?」
アンバーによって蹴り飛ばされたコイキング(アイスボール)は氷という大きさによっては充分に凶器となる強度と重量を加えて威力を跳ね上がり、ラプラスの顔面にグシャアッという嫌な音を立てて直撃し、更には長い首の真ん中辺りからボキッという音が鳴り、追加で自身の甲羅のトゲに後頭部をぶつけるという悲惨なことになった。
結果、ラプラスは戦闘不能となり、アンバーは最初の四天王に勝利した。尚、カンナは四天王を一時休業してラプラスの治療とリハビリに専念することになる。
「まずは1勝、ってところだな」
「お願いだから一生私の前に現れないで……」
こうして、ポケモンリーグでのアンバーの最初の戦いは幕を閉じた。敵である四天王は今まで戦ってきたジムリーダー達とは比べ物にならない強さでアンバーを苦しめた……が、その胸にある強敵達との友情の証であるバッジに誓い、彼は決して負けることはないのだ。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは1匹! このコイだ!!
「この後、俺は氷付けになったコイキングを体温を使って解凍し、冷えた体をカンナで暖めてもらった」
「コ…… (御主人様の温もり……ハァハァ)」
「あは……あったかぁい……♪」
「やっと追い付きましたよ殿! せ、拙者にもどうかお情けを……」
今回はにゃんにゃんが2回ありましたね。おら、喜べよ←
初代のカンナさんがヤドラン出してきた時、マジで“おい、氷使えよ”ってツッコミましたw
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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コイキングこそゴーストダイブを使うに相応しい
FGOでガチャ30連回したのにイスカンダル来てくれなかった……来てくれたのはナーサリーライムでした(ついでに百の蓊ハサンが3枚←)。
ま た キ ャ ス タ ー か 。これはアーツパ作らざるを得ない。ヴラドと玉藻を最終再臨したんで禁断の頁が足りないですけどね。誰か200枚くらい下さい←
苦戦しながらも最初の四天王に勝利したアンバーは、カンナの背後に存在した扉をくぐり、第2の四天王の元へと続く階段を登る。その後ろからアンズと何故かカンナまで付いてきているが、まあそれは気にしないでおこう。
そうして辿り着いた部屋の中には、1人の屈強な肉体の上半身裸の男がいた。彼こそが第2の四天王……名を、シバ。格闘タイプの使い手であり、自身も格闘家としての一面を持つ。ホウエン地方には格闘家としてもトレーナーとしてもライバルであるジムリーダーがいるとかいないとか。
「カンナを倒したか……」
「だからこそ、俺はあんたの前に立っている。チャレンジャーアンバー……四天王であるあんたを倒す男だ」
「四天王のシバだ。俺と共に鍛えに鍛えた格闘ポケモン達……そのスーパーパワーを受けてみるがいい!!」
「上等だ! ならあんたは俺のコイキングのキングパワーを受けるんだな!!」
屈強な男と青年は似たような好戦的な笑みを浮かべ、バチバチと火花を散らす。アンバーはいつものようにコイキングを手に持ち、シバはモンスターボールを掴む。そしてボールが投げられるという瞬間……その体勢で止まったシバは、アンバーの後ろにいるカンナにその線のような目を向けた。
「……カンナ」
「何よシバ」
「声は抑えた方がいい。丸聞こえだったぞ」
「早く始めなさいよ!!」
真顔のままさらりと言ってのけたシバに、カンナは顔を真っ赤にしながら怒鳴る。いったい何の声が聞こえてたんですかねぇ……そして長い階段の先にある部屋まで聞こえる程のカンナさんの声。彼女は乱れる(意味深)と凄い(確信
「では始めよう。行け、カポエラー!!」
「カポォ!!」
シバが最初に繰り出したのは、カントーでも非常に珍しい格闘ポケモン、カポエラー。頭から生えた鋭く長い角を機転に回転しながら蹴るという、さながら格闘技のカポエラのような動きを得意とするポケモンであり、バルキーというポケモンから進化する。その進化方法は中々難しく、攻撃と防御の数値が同じ状態で規定のレベルに達しなければならない。
「出番だコイキング!」
「ココココッ! (お任せあれ!)」
「そしてお約束ぅっ!!」
「コッ!! (はい悦んでーっ!!)」
「カボッ!?」
「なにぃっ!?」
コイキングを手放す、蹴り飛ばす、カポエラーに直撃、一撃必殺、アンバーの凶行にシバが驚く。最早飽きてしまったであろうこの展開は、今後も続いていく。誰もが呆れようと、誰もが飽きようと、誰もが“またか”と溜め息を吐こうと……この流れは変わらない。
「っ……カポエラーが一撃、か。見事な一撃だ」
「鍛えに鍛えた格闘ポケモン、ねえ。まだまだ精進が足りねえな」
「返す言葉もないな……だが、まだ終わらん! 行け、エビワラー!」
「エビッ!!」
意外にもアンバーの行動に好意的(?)なシバ。アンバーの挑発のような言葉にも苦笑を返すだけに終わり、カポエラーを戻して新たにボクサーのようなポケモン、エビワラーを繰り出す。このポケモンもまた、カポエラーと同じくバルキーから進化する。その条件は自分で確認してみよう。
「エビワラー、“かみなりパンチ”!!」
「コイキング! “とびはねて”かわせ!!」
「エービーッ!!」
「コッ!」
エビワラーはその拳に電気を纏わせ、カポエラーにぶつかってから床に落ちていたコイキング目掛けて振り下ろす。だが、コイキングはそれよりも先に真上に跳び跳ねることで回避した。その跳躍力は凄まじく、天井に届くほどである……前からか。
「天井を“とびはねて”突っ込め!!」
「コオオオオッ!!」
「“メガトンパンチ”で迎撃しろ!!」
「エエエエビイイイイッ!!」
「コッ!?」
「コイキング!」
アンバーの指示通りにコイキングは天井を地面に見立て、尾びれの力でエビワラー目掛けて突撃する。が、そんな一直線の突撃などシバのポケモンであるエビワラーの動体視力をもってすれば止まって見える。結果、見事なカウンターパンチがコイキングの横顔に叩き込まれた。人間なら殴られた顔が醜く変形して歯が吹っ飛んでいるだろう。そうしてコイキングはアンバーの方へと吹っ飛ばされ……。
「なに勝手に戻ってきてんだ!!」
「コッ!?」
「容赦なしか!?」
エビワラーと同じようにアンバーに横顔に拳を叩き込まれ、コイキングはエビワラーの方へと吹っ飛ばされた。流石にシバもこれには驚愕以外の感情が出なかった。
「だが、こちらも容赦なしだ! エビワラー、突っ込んでもう一度“メガトンパンチ”!!」
「エエエエビイイイイッ!!」
「コッ!?」
そしてまた叩き込まれるエビワラーの拳。そのせいで再びコイキングがアンバーへと吹っ飛ばされるのだが、今回は少し違う。何が違うのかと言えば、エビワラーが突っ込んだことで距離が縮まり、コイキングがアンバーに到達する時間が短くなっている。
「お返しだ!!」
「コッ!?」
「こちらもだ!!」
「エビッ!!」
「コッ!?」
また殴り飛ばされるコイキング。また距離を縮めて殴り返すエビワラー。また殴り返すアンバー。また距離を縮めて……と数回この動きが続いた結果、アンバーとエビワラーの距離は1メートルもなくなり……。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
「エビエビエビエビエビエビエビエビエビエビ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
「ワラワラワラワラワラワラワラワラワラワラ!!」
「コガギグゴゲゴゴゴガグゴゴグガギギゴゴッ!?」
体の左側をアンバーに、右側をエビワラーに連続で殴られるコイキング。息もつかせぬ“れんぞくパンチ”の応酬は数分もの間続き、その結果……コイキングの左側は艶々と光沢すら生まれ、右側はぼこぼこで腫れ上がってしまった。このコイキングどうなってんの。
「オラァッ!!」
「ワ……ラァブフェッ!?」
「ゴボッ!?」
「くっ……よくやったエビワラー……ナイスファイトだ」
ポケモンvs人間……勝利したのは人間、アンバーだった。エビワラーはとうとう腕が上がらなくなり、コイキングの腫れ上がった体による“たいあたり(という名のアンバーの右ストレート)”を顔に受け、マウスピースが飛ぶ姿を幻視する程に顔を歪めた後に壁まで殴り飛ばされ、ズルズルとずり落ちながら力なく、満足そうな表情で座り込んだ。その姿は、燃えたよ……燃え尽きた……と言わんばかりである。帰れるんだ、これで只のポケモンに。帰れるんだ、これで……帰れるんだ。ライラライ。
「仇を討て、サワムラー!」
「ムラッ!!」
エビワラーをボールに戻したシバが新たに繰り出したのは、首の無い人間のような姿にスプリングのような手足をしたポケモン、サワムラー。このポケモンもまた、バルキーの進化系であり、エビワラーとは対照的に蹴り技を得意としている。そう、バルキーは3体の格闘ポケモンに進化するのだ。
筋肉、プロテイン、ドーピングアイテムをいっぱい。全部混ぜ合わせるとカッコいい格闘ポケモンになる……ハズだった。だけど四天王のシバは間違って余計なモノを入れなかったのでそのままバルキーは進化した。そして生まれた超強力3体ポケモン。すんごいパワーでチャレンジャーをやっつけるエビワラー、サワムラー、カポエラー。強くてカッコいい格闘ポケモン。皆のアイドル(♂)、格闘ポケモンボーイズ!! リーダー(個人的見解)のエビワラー。キュート(人による)なサワムラー。そしてタフ(多分)だぜ? カポエラー!!
「サワムラー、“とびげり”!!」
「コイキング! “はねて”避けろ!」
サワムラーはシバの指示を受けて跳び、コイキング目掛けて足を突き出す。コイキングもアンバーの指示を受けて跳ねようとする……のだが。
「コーッ……コーッ……!」
「……」
「……」
「……ムラッ」
「ゴベッ!?」
どれだけ頑張っても腫れ上がった右側のせいで上手く“はねる”ことが出来ず、シバに不憫なモノを見るような目で見られ、同じような目をしたサワムラーに踏まれるように蹴られた。おめでとうコイキング、蹴られた反動でボールみたいに跳ねたよ。
「しっかり跳ねろよ」
「ココッ! ココココッ!! (きずぐすりが! きずぐすりがしみるううううっ!!)」
コロコロとアンバーの元に転がってきたコイキング。腫れ上がった部分が上に向いて止まった為、アンバーは“かいふくのくすり”をその部分にドバッとかける。あっという間に腫れは引いたものの、コイキングは涙目だった。でも恍惚とした表情も浮かべていた……ダメだこの鯉、手に負えねえ。
時に、アンバーの足元にコイキングが横たわっているというこの構図、見覚えはないだろうか? そう、君達は何度も何度も見た覚えがあるだろう。そして、この後訪れる展開も予想できるだろう。それでは皆さんご一緒に。
「そのまま必殺のコイキック!!」
「ンコオオオオッ!! (ンギモヂイイイイッ!!)」
「“とびひざげり”だ!!」
「サワッ……ムラアアアアッ!!」
アンバーの人外染みた脚力によって蹴り飛ばされたコイキングとサワムラーの“とびひざけり”がゴギャアッ!! という音と共にぶつかり合う。何の力が働いているのか分からないが、2匹は空中で勢いを落とすことなくぶつかり続けている。
「ム……ムラアアアアッ!?」
「サワムラー!?」
結果、打ち負けたのはサワムラーだった。正確には、サワムラーの膝の上をコイキングが滑ってしまい、腹部に突き刺さったのだが。壁までコイキングこと吹き飛んだサワムラーは背中から壁にめり込み、腹部にはコイキングをめり込ませ……目を回した。分かりやすい戦闘不能である。格闘ポケモンボーイズ、ここに全滅。
「ここまでやるとは……戻れサワムラー! 行け、イワーク!!」
「イワアアアアクッ!!」
サワムラーをボールに戻し、シバは新たに第1話のニビシティ以来の登場となるポケモン、イワークを繰り出す。そう、格闘使いのシバには似つかわしくない岩タイプのポケモンを……あっ(察し
「イワークだあ……?」
「……あっ(察し」
「……コイキング……戻れ」
カンナも何かに気付いた様子。そんな彼女に訝しげな視線を向ける(糸目で分からないが)シバ。そんな2人を気にすることもなくアンバーはコイキングにこっちに跳ねてくるように命令し……。
━ まあ、なんやかんやありまして(笑) ━
「イ……ワ……」
ズズゥン……と音をたてて地に沈むイワーク。身体中がひび割れたその姿は健闘した証であり、最後の最後まで諦めなかったことが伺い知れる。更には広い部屋そのものにも砕かれた床やひび割れた天井と壁が彼らの激闘を物語っている。
イワークのトレーナーであるシバもまたボロボロであり、アンバーの足下にいるコイキングもまたしかり。唯一無傷なアンバーだけが、息1つ乱さずに佇んでいる。
「くっ……強いな、アンバー……行くぞ! これが四天王シバの最後のポケモンだ!!」
「来いよシバ。ケリをつけてやる」
「流石は殿、四天王相手にここまで……」
「あ……ありのままに起こったことを話すわ。私はシバがイワークを出した時に眼鏡を外してレンズを拭いて、掛け直すと既に勝負は終わっていた。な……何を言ってるのか分からないと思うけれど私も何が起きたかよくわかっていないわ……もう本当に頭がどうにかなりそうよ」
カンナが状態異常“ポルナレ○”になっている間にも戦いは続く。尚、状態異常“ポル○レフ”とは毒や眠りと重複し、交換しても消えない上に治るまで行動がスキップされる状態異常である。な、何を言ってるのか(ry
「ウー! ハー!! 行け、カイリキー!!」
「リキッ!!」
シバの最後のポケモンはカイリキー。4本の腕を持つ人型のポケモンであり、その4本の腕から繰り出される技とパワーは上手く、強い。格闘使いのシバに相応しいポケモンと呼べるだろう。
「コイキング、行ってこい!!」
「コッ!?」
「カイリキー!! “メガトンパンチ”!!」
「リーキキキキッ!!」
「ゴボバビゴッ!?」
見敵必殺と言わんばかりのアンバーのコイキックを、驚くことにカイリキーはメガトンパンチで迎撃する。それも一撃ではなく、4本の腕で一撃ずつの計4撃。3撃をもって勢いを殺しきり、最後の一撃がコイキングをアンバーの元まで吹き飛ばす。無論、4発分のダメージがきっちり入っている。鍛え抜かれたポケモンの繰り出す“メガトンパンチ”3発でようやく勢いを殺せるコイキックが凄いのか、それとも殺しきったカイリキーが凄いのか……。
勝てる、そうシバは拳を握りながら確信する。カイリキーの強みはこの4連撃。本来2本の腕が倍の4本というのはそれだけで出来ることが多くなる。ましてやこのカイリキーは四天王のシバが鍛えに鍛えた手持ち最強。今の“メガトンパンチ”のような溜めや反動のある技を4本の腕からそれぞれ出すことが出来るように修行した。やろうと思えば、各タイプのパンチを同時に放つことすら可能だ。さあ、どうするアンバー……シバはそう心の中で呟いた。
「勝ったつもりになるのは早いぜシバ」
そう言ってアンバーは足下に転がったコイキングを掴み上げ、野球のピッチャー宜しく大きく足を振り上げ、コイキングを振りかぶる。その姿を見てシバも悟る……アンバーはこの一撃で決めるつもりであると。シバはカイリキーに目だけで指示を下す。即ち、集中して対応しろと。そしてアンバーは……足を地面がひび割れる程に踏み締め、コイキングを掴んだ手を降り下ろす。
「……なんだ? 飛んでこない?」
「リ、リキ? リキッ!?」
「ぐっ!? この風は……腕を振っただけでか!? なんという腕力だ……」
しかしコイキングが飛んでくることはなく、代わりに飛んできたのは暴風とも呼べる風だけ。その風はアンバーが腕を振った際に出たモノ……その強い風に、シバとカイリキーは思わず顔を手で覆う。それが命取りとなった。
「見えない一撃……“ゴーストダイブ”ってな」
「ゴッ!?」
「リギッ!? リギガベベベベ……」
「か……カイリキイイイイッ!!」
見えない一撃っつーか見えなくして一撃放ったというか……最初の降り下ろしで風を起こして相手の視界を塞ぎ、その間にもう1度アンバーの投げたコイキングはカイリキー?下半身、パンツのようなモノの股間にめり込んだ。これは痛い。ポケモンにソレがあるのかはともかく見てるだけで痛い。思わずシバも前屈みである。
無論、カイリキーは戦闘不能。多分今後も色々と不能。アンバーはシバに勝利し、シバはカイリキーを担いでポケモンセンターへと急いで向かうのだった。尚、カイリキーは今後暫くの間、どこか女性っぽい仕草をするようになったという。
「真剣勝負に情けも容赦も無用だ」
「せめて男の急所に攻撃するなら躊躇はしてくれ……」
こうして、アンバーのポケモンリーグの第2の戦いは終わった。相手は格闘タイプを用いたパワフルな戦法でアンバーを追い詰めてきたが、彼は辛くもこれを撃破する。これで四天王を半分倒したことになるが、彼はポケモンリーグの恐ろしさをまだ半分も味わっていないのだ。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは1匹! このコイだ!!
「因みに、この後寂しさの余りにジムを放置してこの場にやってきた私は旦那様と一緒に行動することになりました……(ぽっ」
「やれやれ、エリカは悪い子だな……これは念入りにお仕置きしないと」
「やんっ♪」
「ひ、人目を憚らずに……常識では計れないわね」
「と、殿ぉ……アンズにもお慈悲を……」
『カイリキー! 傷は浅いぞ! カイリキイイイイッ!!』
FGOの他にクリプトラクトもやってます←
消える魔球(ゴーストダイブ)。シャドーダイブと悩みましたが、あったはギラティナ専用なのでこちらに。シバもゲームと漫画で割りと差違があるキャラですよね。当時は格闘タイプが少なかったんですよねえ……なんでオコリザルとかニョロボン使わなかったのにイワーク2匹も入れてたんだろうか。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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コイキングよ、今こそサイコブーストを使う時!
それはさておき、遅れて申し訳ありません。ようやっと更新です。そして残り数話で終わる予定です。
今回はお婆さんが登場(ネタバレ)。そして……(意味深
激闘の果てに見事第2の四天王シバを降したアンバー。彼はお供としてアンズと何故か着いてきているカンナに寂しくてタマムシシティから飛んできたエリカを加え、部屋の奥にある扉に入って中にある階段を登っていく。尚、“何故か”足腰が立たないエリカはアンバーにお姫様抱っこされている。エリカファンの皆様は悔しいでしょうねえ。
かくして階段を登りきった一行はその先にあった扉を開き、中へと入る。カンナ、シバの時と同じような四角く広い部屋……その奥にある扉の前に、1人の老婆の姿があった。その老婆こそが第3の四天王……名を、キクコ。カントーでは珍しいゴーストタイプの使い手である。
「フェッフェッフェッ……よく来たね、ぼうや達。あたしゃキクコ。四天王の1人さ」
「俺はアンバー、チャレンジャーだ。3人目の四天王……挑ませてもらうぜ? 婆さん」
「元気のいいぼうやだ、あたし好みだよ」
「50年おせーよ」
「それじゃぼうやが生まれていないじゃないか」
「ちげぇねえ」
まるで仲の良い友人のように軽口を言い合ってはくつくつと笑う2人。そんな2人を見てエリカがどこか面白くなさそうにムスッとした表情をしているが、それに気づいたのはアンバーの対面のキクコだけである。
エリカを地面に下ろした後、アンバーはチャレンジャーの立つべき場所を示す白線で描かれた箱の中に入る。それを見てキクコもモンスターボールを取り出し、バトルの準備をする。因みに、ここまで一切触れられていないが、コイキングはずっと外に出ている。詳しく説明するなら、ヒゲをベルトとズボンの間に挟まれてぶら下がっていた。そんなコイキングの顔を何時ものように鷲掴み、アンバーに持ち上げられる。ヒゲが引っ張られたが、千切れてはいなかった。チッ。
「まずはこの子だよ。行っておいで、ゲンガー!」
「ゲンッガー!」
キクコが最初に繰り出したのはピッピを紫色に染めて凶悪な顔にしたようなポケモン、ゲンガー。カントーにおいては非常に珍しいゴーストタイプを持つポケモンであり、タイプと同じ名前であるゴーストが呼ばれるポケモンが通信交換された際に進化する。しかもゲンガーには“ふゆう”という特性があり、地面タイプの技が効かない。厄介なポケモンである。
「おら、早速行ってこい!!」
「コッ!?」
「おやおや、無駄なことをするねぇ」
アンバーのいきなりコイキングを蹴り飛ばすという凶行を見ても、キクコは動じずに楽しげに笑うだけ。余裕なように見えるが、事実キクコは余裕を持っていた。
ゴーストタイプ。幽霊の名を持つそのタイプには、ノーマルと格闘タイプの技は効果がない。イマイチではなく、全く効かない。幽霊に物理的な干渉は出来ないということなのだろう……その割には飛行タイプも岩タイプも普通に受け付けるが。
「俺のコイキックはタイプを超越する」
「ゲン"ッ!?」
「そんなバカな!?」
キクコの余裕を嘲笑うかのように、コイキングはゲンガーの体に突き刺さった。思いっきり物理的干渉をしているが、まあポケモンは不思議な不思議な生き物なのでこういうことだってあるだろう。そもそもコイキックなんて技は存在しないのだ、タイプ等分かるわけがない。というか、分類されても悪タイプだろう。所業的に。
「全く、とんでもないぼうやだね……戻りな、ゲンガー。次はこの子だよ。行きな、ゴルバット!」
「バット!!」
現れたのはズバットの進化系であるゴルバット。大きな口と小さな目が特長のコウモリのようなポケモンであり、タイプは毒と飛行。
ゴルバットが出た瞬間、カンナはあっと声を出す。氷使いなのに水とエスパーのヤドランを出した時、格闘使いなのに岩と地面のイワークを出した時のアンバーの反応と対応はそれはもう記憶に残っている。キクコもその餌食となるのだろう。
「クロバットじゃないのか」
「鍛えてた時、臆病なこの子にゃちょいとスパルタが過ぎたようでねぇ……進化にゃ後1歩足りてないのさ」
「そりゃ意外だな。四天王でも心までは鍛えきれねえらしいな」
「耳が痛いね」
「なんで私とシバの時とはそこまで反応が違うのよ!!」
「お年寄りは大事にしなきゃいかんだろ」
「正論過ぎて逆に腹立つわ!!」
カンナが癇癪を起こしてエリカとアンズに落ち着くように嗜められている間にも時間は進む。ゴルバットは例え最終進化出なくとも四天王キクコのポケモン、決して侮れるような相手ではない。しかもコイキングはアンバーの足下には居らず、ゲンガーに直撃した床の上でぴちぴちしている。
「ゴルバット、“あやしいひかり”!」
「ルバット!」
「目を瞑りながら俺に向かって“はねろ”!!」
「コッ!」
ゴルバットは口の中から名前の通り、妖しげな光をコイキング目掛けて放つ。しかし技を出す前にアンバーが指示したことにより、コイキングは素早く目を瞑っていたので光を見ることはなかった。更にアンバーに向かって跳ねたことにより、光に当たることもなかった……ハズなのだが、コイキングはアンバーの足下に着地した後に直ぐに別の方向へと跳ねる。その後も無駄に跳ね続ける姿を見て、アンバーは悟る。
「混乱してる!? 光を見なかったし当たってもいないってのに……」
「フェッフェッフェッ……あたしのゴルバットの“あやしいひかり”は相手の瞼も透過してしまうらしくてねぇ……顔が光の方に向いてるだけでも混乱しちまうのさ」
キクコの説明に苦虫を噛み潰したような顔になるアンバー。彼女の説明が正しければ、絶対に光を前にしてはいけないということになる……それはつまり常に後ろを向いていなければならず、そのまま戦い続けなければならないということを意味する。更に光に当たってもダメなのだから厄介なことこの上ない。
しかし、そこは常識では計れないポケモントレーナーアンバー。彼に対して“厄介”程度の行動はさして問題とはなり得ない。そしてコイキングにも、眠っていようが麻痺してようが毒になっていようが混乱していようが、最悪瀕死となっていてさえ動き出す“魔法の言葉”がある。
「ご褒美が欲し(蹴られた)ければこっちに来い」
「ココココッ!! (はい喜こんでー!!)」
「バット!?」
「言葉だけで混乱が治った!? とんでもないのはぼうやだけじゃないってことかい……」
「俺からのご褒美だ、受けとれコイキング!!」
「コココココオオオオッ!! (サイコオオオオッ!!)」
「ゴルバチョフッ!?」
「ゴルバット!」
アンバーはことばをはっした! コイキングのこんらんがとけた! ゴルバットはひるんでいる! ゴルバットがけりとばされたコイキングがあたった! いちげきひっさつ!!!
流れはこんな感じである。憐れゴルバット、その類い稀な能力を活かせることもなくトラックが猛スピードで壁に激突したような音と共に壁まで吹き飛び、剥がれ落ちないレベルでめり込んだ。
「流石にここまで来たってだけのことはあるね……でもあたしも最年長四天王としてのプライドってものがあるさね。行っておいで、ゴースト!」
「ストッ!」
ゴルバットをボールに戻し、気合いを入れ直したキクコが繰り出したのはゲンガーの進化前であるゴースト。ポケモン界のデスタムー○最終形態、もしくは○ンドルフ様である。黒いテ○サでも可。
「状態異常にしたところで意味ないってんなら、攻撃あるのみだよ! “シャドーボール”!」
「ゴー……ストッ!!」
“シャドーボール”……ゴーストタイプの技でも高い威力を誇り、使い勝手のいい技だ。ゴーストが浮いている両手の間に黒いエネルギーの玉を作り出し、床の上でぴちぴち跳ねているコイキング目掛けて撃ち出す。
「“とびはねて”かわせ!」
「コッ!」
しかし所詮はストレートボール、軌道上に居なければ簡単に避ける事ができる。コイキングは真上に跳び跳ねることでシャドーボールを避けることに成功した……が、これで終わる四天王ではない。
「“シャドーパンチ”!」
「ス……トオオオオッ!!」
「コッ!?」
「……スト……」
「痛かったのかい? どんな身体してんだい……ほらほら泣くんじゃないよ、よしよし」
浮いているゴーストの腕が、さながらロケットパンチの如く上空のコイキング目掛けてすっ飛び、無防備な体に突き刺さる……カキンッ、という高い音を出して。殴った方のゴーストに逆にダメージが入り、涙目になっている。そんなゴーストの手を、キクコが優しくを撫でていた。
説明しよう! 日頃からアンバーの理不尽に晒されているコイキングの身体は、薄い鉄のようなしなやかさと鋼のような強度を誇るのである! しかし固いだけでしっかりとアンバーのご褒美以外のダメージは普通に入る不可思議なぼでーなのだ!
「物理はダメだね……だったら、“シャドーボール”!」
「ストッ!」
「コイキング! 寝てないでこっちに“はねろ”!」
「ココッ!」
“シャドーパンチ”によって落とされていたコイキングは、シャドーボールの直撃を受ける前に指示に従ってアンバーの元へと跳ねる。ここまで来れば、最早怖いモノはない。
「また蹴り飛ばす気かい!? ゴースト、全力で“シャドーボール”!!」
「ゴー……ストオオオオッ!!」
「よっと」
「コ……?」
ゴーストの全力の“シャドーボール”がコイキングに向かって放たれる。そしてアンバーはコイキングを蹴り飛ばす……ことはなく、足の甲に乗せてふんわりと優しく浮かす。浮いたコイキングは不思議そうな顔と声の後にゆっくりと落下し、このままでは“シャドーボール”にぶつかってしまう正にその瞬間。
「返すぜ! コイキングという利子付きでなあ!!」
「コギョッ!? (新しいパターンっ!?)」
「コイキングごと“シャドーボール”を蹴り返した!?」
「ゴストベッ!?」
「ゴースト!?」
アンバーはコイキングというクッションを挟んで“シャドーボール”をサッカーボールの如く蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた“シャドーボール”+コイキングは真っ直ぐゴーストへと飛び、直撃する。基本的に耐久力のないゴーストタイプかつ進化前であるゴーストでは耐えきれるハズもなくゴルバットと同じく壁まで吹っ飛び、めり込む。当然、戦闘不能である。
「やれやれ、どうしたら倒れるってんだい……戻りなゴースト。そして行っておいで、アーボック!」
「シャーボック!」
キクコはゴーストを戻し、新たに紫色の毒々しい、腹部に顔のような模様のある大蛇のポケモン、アーボックを繰り出す。尚、何の話だと思うかもしれないが……先程のゴルバットは白目ではないし、アーボックの腹部の模様は変わらない。
「動けなきゃ跳ねることも出来んだろう? “へびにらみ”!」
「シャーッ!!」
「コッ!? ココ、ココココ……!?」
「ちっ、麻痺か……」
アーボックが睨み付けると、コイキングはいきなりぴくぴくと体を痙攣させ始めた。“へびにらみ”……極一部のポケモンのみが扱える、睨み付けた相手をまひ状態にするわざである。正に蛇に睨まれた蛙……否、鯉。
「“まきつく”! 逃がすんじゃないよ!」
「シャアアアアッ!!」
「ココココゴゴゴゴォォォォ……」
「……流石に不味いか」
痺れて動けないでいるコイキングに、アーボックはその長い体を巻き付ける。これではアイテムを使ったところでコイキングには届かないだろうし、ご褒美と言葉を投げ掛けても麻痺した体では流石に逃げ出せないだろう。コイキングも大概可笑しいが、アンバー程ではないのだ。
そして、ポケモン界では一部のポケモンを除いて麻痺は自然回復しない。麻痺によって体が動かなくなること確率は高めであり、コイキングは巻き付かれている為に身動きそのものを封じられている。このまま締め上げられ、体力が削られるのを待つしかないのだろうか。
しかしそこは我らが主人公アンバー、彼に常識は通じないのは最早共通の認識であるだろう。彼なら何をさても可笑しくないと思ってしまえば、それはもう汚染されている。少なくとも、この場にいるトレーナーは全て汚染されている。
「コイ!! キン!! グウウウウッ!!」
「コッ!?」
「シャボッ!?」
「っ!? なんつー声を……いやはや、本当に常識で計れない子だねぇ……っ」
かくしてアンバーが行ったのは……コイキングの名を呼んだだけ。しかし、“だけ”と呼ぶにはその声は凄まじかった。何故ならその声はコイキングの麻痺を解き、アーボックの巻き付きを弛め、動きを止めさせたのだから。
つまり、アンバーは声だけでコイキングに“きつけ”をし、アーボックの体を“かなしばり”にしたのである。もうどうにでもなーれ(AA略
「“とびはねろ”!!」
「コッ!!」
「シャボッグッ!?」
指示通りに“とびはねる”コイキング。その軌道上にはアーボックの頭があり、その顎の部分に勢いよくぶつかる。アーボックの体はさながらアッパーを受けたように仰け反り、頭から床に倒れる。この時点では、まだ戦闘不能ではない。
「止めをさせ!!」
「コッ!!」
「シャッ!? ボ……」
「……やれやれ、とうとう追い詰められちまったねぇ……」
倒れたアーボックの腹部めがけ、天井まで跳んでいたコイキングは尾びれを叩き付けて加速して突撃する。防御や回避はおろか頭が揺れたからか身動き1つ出来なかったアーボックの腹部にめり込むコイキング……アーボックが白目を向いて泡を吹いていたが、死んでいないのでよし。
アーボックは戦闘不能となり、これでキクコのポケモンは残り1匹。彼女もコイキング1匹に追い詰められるとは本音では思っていなかっただろう……それはカントーのジムリーダーとカンナ、シバの2人の四天王が通った道である。
「だけどまあ……負けるつもりはないさね。行っておいで、ゲンガー!!」
「ンガー!!」
アーボックがボールに戻った後に現れたのは、2匹目のゲンガー。但し、こちらの方が鍛えられている。キクコの手持ち最強のポケモンである。
「“サイコキネシス”!!」
「ンガガガッ!」
「コッ!?」
ゲンガーが両手を翳すと体を青い光が包み、コイキングも同様の光に包まれて空中に浮き上がる。ヤマブキジムのナツメにも使われたエスパー技ではあるが、何もエスパータイプだけが使える訳ではないのだ。
「あたしゃ四天王キクコ……あたしを舐めんじゃないよ!!」
「ゲンッガー!!」
「コッ!? ゴッ!? ゴコゴッ!?」
四天王キクコの見た目にそぐわない、しかし年季の入った一喝。その力強い声に触発されたように、ゲンガーはコイキングを天井に、壁に、床にと叩き付ける。その箇所に決して浅くはないクレーターが出来ていることから、その威力の高さが分かるだろう。
次第に、叩き付ける速度が上がっていく。それこそ目で追えない程に、速く。速度が上がれば叩き付ける威力も上がる。だが……上がりすぎれば、技を使っている本人にも手に負えなくなる。故に、その失敗……コイキングを動かした先にアンバーがいたのは必然だったのだろう。キクコがしまったと口にするよりも早く、コイキングはアンバーへと向かい……。
「“サイコキネシス”の力を借りて今必殺の!! “サイコ……ブースト”ッ!!」
「コッ!?」
「ゲンッガッ!?」
「……もう何も言えないねぇ……」
ゲンガーのサイコパワー(?)を纏ったコイキングを蹴り飛ばすアンバー。とんでもなく威力の上がっていたコイキックはサイコパワー(多分)のお陰かエスパー技の“サイコブースト”へと昇華し(大嘘)、ゲンガーの体をバラバラにしかねない勢いでぶつかる。
幸いにもバラバラにはならなかったが、ゲンガーは戦闘不能。アンバーは3人目の四天王を倒したことになった。尚、キクコのポケモン達はしばらくサッカーと魚が大嫌いになったそうな。
こうして、アンバーのポケモンリーグの第3の戦いは終わった。敵は珍しいゴーストタイプと毒タイプのポケモンを駆使し、その年季の入った戦いで圧倒してきた。だが、彼はそれとは逆の若さ溢れる戦い方で勝利する。残りの四天王は後1人、それを倒せば……チャンピオンへと手が届く。負ける訳にはいかないのだ。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは一匹! このコイだ!!
「この後エリカ達と滅茶苦茶合体した(直球」
「若いねえ。あたしも若い頃はそりゃあじいさんと朝から晩まであれこれヤッたもんさね……どれ、お嬢ちゃん達に手解きでも……これこれこうこう」
「えっ!? そ、そんなことまで……で、でも旦那様の為なら……♪」
「せ、拙者も殿の為なら……♪」
「ちょ、なんで私まで!? 私は別に……でも話は聞かせて」
『アンバー。たまにはヤマブキにもきていいのよ……?』
(ナツメ、頭の中に直接……!?)
流石にアンバー君でも老婆はハードルが高かった。というか私が無理でした←
残りは最後の四天王とチャンピオンくらいですね……終わりが近付いて参りました。ジョウトやホウエン等は考えていません……誰か書いてもいいのよ?← アンバー君も描いてくれていいんですよ?(ちらっ
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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コイキング……それはりゅうせいぐんを呼ぶ名前
オーバーウォッチ、面白いですね。シンメトラがとても楽しいです……楽しいだけで中々勝てませんがね。
fgoで酒呑童子が来てくれました。四人目の☆5、☆5の中では初の全体攻撃宝具持ちなので滅茶苦茶嬉しいw
見事に3人目の四天王、キクコを下したアンバー……彼は今、最後の四天王がいる部屋に足を踏み入れていた。目の前にいるのは、マントをはためかせながら腕組みをしている男性……彼こそが最後にして最強の四天王。その名は……。
「ようこそチャレンジャー……よくここまで辿り着いたね」
「まぁな……あんたが最後の四天王だな?」
「その通り。俺こそが最後の四天王……ドラゴン使いのワタルだ」
「ドラコン使い?」
「それはゴルフじゃないか。ドラゴンだ、ドラゴン」
アンバーのボケに苦笑を浮かべるワタル。ドラゴン……伝説上やファンタジーの存在であるその種族は、ポケモンの中にも存在し、ゴーストタイプ同様に希少なタイプでもある。また、伝説上の名に相応しく力も強い……腕力や防御力等もそうだが、何よりも種族として強い。
ワタルがモンスターボールを持って臨戦態勢に入り、アンバーも同じようにずっと持っていたコイキングを前に出す。ここまでの戦闘を見ていないワタルだが、アンバーの行動に対してなんらアクションを起こさない……彼自身、人間相手にポケモンの技の中でも随一の威力を誇る“はかいこうせん”を命令するような人間なのでどこか似通っている部分があるのかもしれない。
因みに、エリカ達は先程戦っていたキクコの部屋で彼女から色々と教わっているところなのでこの場にはいない。
「行け、ハクリュー!」
「リュー!」
ワタルが最初に繰り出したのは、ドラゴンタイプのハクリュー。蛇のような長く美しい青い体に円らな瞳の羽のような耳、鋭い角を持つドラゴンタイプである。
「これをしなきゃ始まらねえ!!」
「コッ!?」
「ポケモンを蹴り飛ばした!?」
「ハグリュッ!?」
「ハクリュー!?」
最早説明すら不要だろう。アンバーがコイキングを蹴り飛ばしてハクリューに当てたらハクリューが戦闘不能になった……いつものことだと思ったそこのあなた、感覚が麻痺してますよ。早くマトモなポケモン作品を見に行くんだ。
それはさておき、アンバーの行動とハクリューの一撃死に驚いた表情を見せたワタルだったが、内心はそれほどでもない。確かに驚きこそあったものの、相手は四天王3人を、それもコイキングを持って勝ち抜いた猛者である。“多少”奇抜な行動を見せたとしても、ワタルとしてはむしろそれくらいはやってもらわねばという気持ちが強い。
「君がコイキングなら、こちらはその進化系でいかせてもらおう。行け、ギャラドス!!」
「ギャオオオオッ!!」
ワタルがハクリューを戻して新たに繰り出したのは我らが、そう! 我らが! アイドル相棒主人公マスコットキングサポーターファンヒーローヒロインライバル新郎新婦に入刀されるケーキラブリーチャーミーな敵役その他諸々形容し難く名状し難いナニかキングのコイキングの進化系、ギャラドスである。
ギャラドスと言えば、怖い、デカイ、青いというイメージが強いだろう。事実、その青い巨体と形相に見合った狂暴性と攻撃力を誇るポケモンである。因みに、ドラゴンに見えなくもないかもしれないがドラゴンタイプではない。水、飛行タイプである。青ではなく赤いイメージが強いそこの貴方、これはカントーの話だ、ジョウトに帰りなさい。
「ギャラドス! “ハイドロポンプ”!!」
「ギャオオオオ!!」
「コッ!?」
「コイキング! うおおおおっ!?」
ギャラドスの大きな口から決壊したダムよろしく放たれる凄まじい勢いの大量の水。それはハクリューをぶっ飛ばした後に床の上にいたコイキングに直撃し、その勢いは止まるところを知らずにコイキングの後方にいるアンバーにまで被害が及んだ。
アンバーに被害が行くのは当然のことだろう。何しろ“ハイドロポンプ”は水タイプの技の中でも最強に近い威力を誇る、大量の水を勢いよく吐き出す技だ。それがギャラドス程の巨体ともなれば吐き出す水の量も桁違い、滝の水が飛んでくるようなモノだ。ポケモンの後方にトレーナーが居れば、水は勢いが止まることなく襲い掛かるのは仕方ないことだ。
「……コ」
「っ!?」
「ギャオ!?」
ゾクリと、ワタルとギャラドスに悪寒が走った。その原因であるモノ……“ハイドロポンプ”によって出来たクレーターの中心に横たわるコイキングに、1人と1匹は目を向ける。そして直ぐに気付いた……コイキングが怒りのオーラを纏っていることに。
アンバーのコイキングはドがつくMである。アンバーからの暴力暴行暴言理不尽は全て彼女にとって御褒美となり、なつき度を数値的と現せばメーターが振り切れる……それほどにアンバーのことが大好きである。そんな大好きなアンバーに、相手は被害を出した……ワタル達は正しく、コイキングの逆鱗に触れたのだ。
「コ……ココココッ!!」
「これは……まさか、進化の光!?」
瞬間、コイキングの体が光に包まれる。それはワタルが言うように、ポケモンが進化する際に生まれる光であった。つまり今、コイキングは進化しようとしているよだ……怒りと暴虐の化身であるギャラドスに。
「dddddddddddddddddddddddd!!」
「ココココココココココココココココココココココココ!?」
「お前なにしてんの!?」
ふと気が付けば、大量の水に流されていたハズのアンバーがずぶ濡れの状態でコイキングのところに居て壊れたラジオのごとく“ディー”と連呼しながらコイキングを連続で踏みつけていた。それはもうどこぞの名人のような高速連打(踏みつけ)である。進化寸前だったコイキングの光が消えてしまう程の威力である。
「見てわからねえか? 進化キャンセルだ。その時に“ディー”と連呼するのは様式美だろ?」
「キャンセルの後に(物理)がつくわ!! 後、進化キャンセルの時は“ディー”じゃなくて“ビー”! ディーだと別のモンスターになるから!」
ワタル、怒濤のツッコミ。ところで、パ○ルドラモンってかっこいいよね。でも必殺技があんまり強くなさそうだよね。
「ったく……何勝手に進化しようとしてやがんだ」
「……コ……」
「ギャラドスになったらキングじゃなくなるだろが」
「え、そこ?」
またもやワタルがツッコむが、アンバーはガン無視。尚、この間ずっとコイキングはアンバーに踏まれてぐりぐりと擦り付けられている。一時は元気のない声を出したが、今では真っ赤な体を更に赤くして嬉しそうにしている。救いようがねえ。
因みに、コイキングを踏んでいるということはアンバーはフィールドの中に入っているということになるのだが、原則としてトレーナーがフィールドに入ることは認められていない。が、今回は進化キャンセルの為の行動として特別に不問になった。良いトレーナーはちゃんと図鑑かBボタンを使おう。
「つー訳で仕置きだ、受けとれえ!!」
「コッ!?」
「ギャオッブ!?」
「ギャラドス!?」
踏んでいたコイキングを蹴り飛ばし、ギャラドスにぶつけるアンバー。ずぶ濡れにされた怒りだろうか、普段よりも威力が増している。どれくらいかと言うと、巨体のギャラドスが完全にU字に折れ曲がり、天井を砕く程の威力である。今更だが、なぜ彼は“ハイドロポンプ”を受けたのにピンピンしているのだろうか。
当然、ギャラドスは戦闘不能。進化系が進化前に負けるというジャイアントキリングは快挙であるハズなのだが、割りと前からやっていたことなのでそうでもない気がする。
「ぐっ……君のようなトレーナーは見たことがない……後、フィールドから出なさい」
「おっと、悪い悪い」
「……戻れ、ギャラドス。行け、プテラ!!」
「ギャオ!」
アンバーが最初の位置に戻ったことを確認してから新しくワタルが繰り出したのは、古代のポケモンとされる翼竜のような姿をしたポケモン、プテラ。しかし、ドラゴンタイプではなく岩、飛行タイプである。ドラゴン使い(笑)ワタル、と呼ばれる日も近い。
「プテラ! “げんしのちから”!!」
「ギャオオオオッ!!」
「ゴッ!? ゴゴゴゴッ!?」
「コイキング!!」
プテラが吼えると同時にフィールドに亀裂が走り、瓦礫となって浮き上がる。その浮き上がった瓦礫はコイキング目掛け、高速で向かっていった。エスパー技ではない。岩タイプの技である。
ギャラドスを倒してからそのままフィールドにあるクレーターの中心に落ちていたコイキングは避けることなど出来ず、瓦礫が身体に当たり、アンバーの方向へと吹き飛んでいく。普通に考えれば死ぬが流石コイキング、なんともないぜ。
「“いわなだれ”!!」
「ギャ……オオオオッ!!」
容赦ないワタルの指示を受けたプテラは先程のように吼えて瓦礫を浮かし、コイキングの真上まで動かしてから落とす。因みに、プテラはエスパータイプではなく岩、飛行タイプである。別に超能力が使える訳ではなく、今回のは……アレだよ、アレ。なんかアレな感じの奴だよ、多分。
「ぬるい……ぬるいなぁ……コイキング、“はねる”!」
「コ!」
「そして貫けええええっ!!」
「ゴッホ!?」
「ギャフンッ!?」
「蹴り飛ばされたコイキングが瓦礫を貫いてプテラに突き刺さったーっ!?」
跳ねたコイキングをいつものように蹴り飛ばすアンバー。蹴り飛ばされたコイキングはワタルが言うように降ってくる瓦礫を紙のように貫き、その衝撃で他の瓦礫を周囲の壁まで吹き飛ばし、プテラの身体に突き刺さる。割りとマジで体の半分くらいまで突き刺さる……もとい、めり込んでいる。プテラは泡吹いて気絶し、そのまま頭から落下した……どうみても戦闘不能です、本当に(略。
「ぐ……なんでだ、なんで倒せない! いけ、ハクリュー!」
「リュー……」
理不尽なまでのコイキングの耐久力と次々と倒れる手持ちの姿に焦りと苛立ちを感じつつ、ワタルはプテラを戻して2匹目のハクリューを繰り出す。が、ハクリューはボールの中から今までの戦いを見ていたのだろう……どこか声に力が無い。それに気づいたワタルが顔をしかめるが、何かを言うことはなかった。ワタル自身、最初に比べて戦意が無くなってきているからだ。
だが、だからといって戦いを投げ出すことなんて出来はしない。その身は四天王……それも最後の、だ。更にワタルはかつてチャンピオンを務めていたこともある……“元”が付くとしても、彼は最強だったのだ。
まだ最終進化同士や進化しなくとも強いポケモンとの戦いで追い詰められたなら納得も出来ただろう。しかしアンバーはコイキング1匹しか出しておらず、その破天荒な戦いで次々とワタル自慢のポケモン達を撃破している……彼のプライドが、今まで築いてきた自身が粉々に砕け散ったかのような感覚に襲われているのだ。
「ハクリュー! “たたきつける”!!」
「リュー!!」
「コッ!?」
ハクリューはその細長い体を鞭のようにしならせ、遠心力も加えて尻尾の先にある水晶のような部分をコイキングに“たたきつける”。ワタルによって鍛え上げられたハクリューによる一撃は、元々の威力に加えてコイキングのような体の小さなポケモンならばそのダメージは跳ね上がる。一撃で沈んでもおかしくない。
「こっちに向かって“はねろ”!」
「コッ!」
「まだ……倒れないのか!?」
なのに、倒れない。それどころかピンピンしている。本当に当たったのか、本当にダメージが入っているのか怪しい程に。そして最初のハクリューの焼き増しのようにアンバーに蹴り飛ばされたコイキングがハクリューの体に突き刺さり、一撃で戦闘不能にされる。最早ワタルの手持ちは1匹しか存在しない。
ブルブルと震える手で、ワタルは最後の1匹のボールを持つ。この時点でワタルは、戦意をほぼ完全に失っていた。最後のポケモンは彼自身が最も信を置くポケモンである……が、それでも勝利できるとは思えなかった。己の最強を、信じられなかった。
「……」
「どうした? まだ4匹だ。後1匹か2匹いるだろ」
「……くっ……」
「……チッ……てめえ、それでも四天王か!! 俺と戦ってきた奴は全員最後まで全力でぶつかってきたぞ!? なんでそれが最後の四天王であるてめえが出来ねえ!!」
アンバーの言葉が、ワタルの胸に突き刺さる。最後まで全力でぶつかる……それは、四天王だろうがジムリーダーだろうが変わらない、ポケモントレーナーなら誰もが持つポケモンバトルの誰も口にはしない暗黙のルール。口にするまでもない、ポケモントレーナーとしての礼儀。例え勝ち負けが決まっていたとしても、最後の最後まで諦めずに戦う者達の意思。
不意に、ワタルの腰にあるボールがカタカタと揺れる。それは、ワタルの最後にして最強のポケモンの入ったボールだった。そのボールから伝わるのは、そのポケモンの意思。言葉を交わさずとも、目と目を合わさなくとも分かる……最も付き合いの長い相棒の、意思。
「……ああ、そうだな。今こそ俺は初心に帰るべきなんだろう。まだ勝敗は決していないんだ……なら、最後まで諦めずに、全力で挑ませてもらおう!!」
「ハッ! いい顔になったじゃねえか……来な、四天王ワタル!!」
「行け……カイリュー!!」
「カイ!! リュー!!」
そして現れたのは黄土の体に白い腹を持つ竜、カイリュー。ハクリューの進化系であるが、その見た目はまるで違う。ハクリューを東洋の竜とするならば、カイリューは西洋の竜。どちらにしても言えることは1つ……強いということだ。
「全力だ!! “はかいこうせん”!!」
「カイ……リュウウウウッ!!」
背を反らしたカイリューの口の前に集まる強大なエネルギー。それが限界まで貯まったところで、カイリューは反らしていた体を前に突き出す反動を加えてエネルギーを吐き出す。
“はかいこうせん”……名前の通りの見た目と威力を誇る、ノーマルタイプ最強クラスの技。使った後は一定時間動けなくなるという代償こそあれ、その威力は他の技と比べても高い。
「おら、行ってこい!!」
「コッ!? ココココオオオオッ!?」
そんな技に向かって情け容赦躊躇遠慮その他諸々無くコイキングを蹴り飛ばすアンバー。蹴り飛ばされたコイキングは成す術なく“はかいこうせん”にぶち当たり、拮抗する……なんだいつものことか。
数秒間の拮抗……その勝者はどちらでもなかった。るぶつかりあっていた双方の衝撃で地面はひび割れていき、“はかいこうせん”とコイキングは少しずつ上へ上へと昇っていく。そして最後には天井にぶつかり、蜘蛛の巣状のヒビを入れた。有り得ない現象と思うだろうか? 残念なかまら、常識などこの世界には存在しないのだ。
「くっ……“はかいこうせん”でもダメか!?」
「リュー……リューッ……」
悔しそうに叫ぶワタルと“はかいこうせん”の反動で息を切らし、満足に動けないカイリュー。カイリューの持つ技の中で最強の破壊力を持つ技だっただけにショックは大きかったらしい。
ならば、次はどうするべきか……そう考えていた時、ワタルははっきりと見た。天井にぶつかったことで落ちてくるコイキング……その後ろで、アンバーが今にも蹴り飛ばそうとしているのを。そして、それは訪れる。
「お前が流星になれ!! オゾンより下なら問題ない!!」
「コオオオオッ!?」
「なにいいいいっ!?」
「リュウウウウッ!?」
「カイリュウウウウッ!?」
上空にてカイリュー目掛けて蹴り飛ばされたコイキングは、パラパラも落ちていた天井の小さな破片達と共に真っ赤になりながら襲いかかった……それはまさに“りゅうせいぐん”の如し。破片は燃え尽きた為、当たったのはコイキングだけだが。
当然カイリューは戦闘不能。この後、ワタル達は一から鍛え直す為に一度ポケモンリーグを去り、故郷へと戻っていった。そして再びポケモンリーグに戻った時、彼は前髪が爆発した少年と戦うことになるのであった。
「ドラゴンだろうが何だろうが、このキングの前には無力だ」
「無力な俺を許してくれ……」
こうして、アンバーのポケモンリーグ第4の戦いは終わった。敵は伝説上の生き物であるドラゴンを使い、その異名に相応しい力を見せ付けてきた。しかし、ここまで来たアンバーに負けは許されないと奮起し、辛くも勝利することが出来た。残りはチャンピオンただ1人……その頂は、すぐそこまで来ている。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは1匹! このコイだ!!
「この後、後からやってきたエリカ達と滅茶苦茶(ry」
「さ、流石は旦那様……キクコ様から伝授して頂いた技を使う隙もなく……♪」
「殿ぉ……とのぉ……♪」
「な、なんで私まで……でも、感じちゃ……♪」
「フェッフェッフェッ……若いねえ」
(キクコさんに目を塞がれ、カイリューが苦しそうにしながらも耳を塞いでいて聞こえないし見えない……急にどうしたんだろうか)
これで四天王は終了しました……残りはチャンピオンのみですね。シロガネ山はちょっと悩んでたり……チャンピオンで終わるか、シロガネ山で終わるか、終わった後にキャラ番外編でも書くか……悩みどころです。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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コイキング。それは、至高にして究極
初の技の名前が無いタイトル。その理由は、本編にて。
『すまないが、これより先は極一部の関係者とチャレンジャー以外は立ち入り禁止だ』
ついに全ての四天王を降したアンバー。彼はワタルの言葉を受けて涙目になりながら見送るエリカ達の視線を背に受け、チャンピオンの待つ部屋に続く通路を歩く。その脳裏には、これまでの戦いの様子が思い返されていた。
初めはニビジムだった。そしてジュンサーさんだった。次はハナダジム。そしてカスミとジョーイさん。クチバジム。ジュンサーさん。タマムシジム。エリカ、しかも妻になった。セキチクジム。なぜかジムリーダーの娘のアンズが従者のようになった。ヤマブキジムはナツメだった。グレンジム。エリカとアンズ。トキワジム。やっぱりエリカとアンズだった。
8つのジムでの戦いを終えたアンバーの戦いはポケモンリーグの四天王戦へと移る。最初はカンナ。そしてカンナとついてきたアンズだった。次はシバ。カンナと、なぜかやってきたエリカとアンズ。次にキクコ。そしてキクコからあれこれ教わったエリカ達。最後にワタルで、これまたエリカ達。
そんな真っ赤な戦いと桃色のあはんうふんを思い返し終えた頃、ようやくその扉が見えた。この先にいるのはポケモンリーグチャンピオン……正真正銘、カントー地方最強のトレーナーがいる。
「んじゃま、いつも通り行くか。なあ? コイキング」
「ココッ! (はいっ!)」
アンバーはいつものように不敵な笑みを浮かべ、コイキングの尻尾の付け根を握る。そして扉へと近づくと、扉は独りでに開き……ゆっくりと足を踏み入れた。公式バトル用のフィールドがあるその部屋の奥には、人影が1つ。チャレンジャーが立つ場所に立ちながら、アンバーはその人影を注視する。
白い大きな帽子に、ノースリーブの水色のトップスに真っ赤なミニスカート。そして、肩から下げられたバッグ。意外にも、チャンピオンは年端もいかない少女の姿をしていた。これにはアンバーも意外そうな顔をした。
「……あーっ! 貴方は、私がカビゴン相手に四苦八苦してる時に無視して脇道を通ったお兄さん!!」
「あ? なんだいきなり」
その少女はアンバーを見るや否や、指を指して声をあげる……さて、読者の皆さんは覚えているだろうか? 実は彼女、白い帽子の少女はアンバーと1度擦れ違っている。そう、タマムシシティとサイクリングロードの間の道のカビゴンの相手をしていた少女だ。
「まさかあのお兄さんが初めてのチャレンジャーだなんて……お名前はなんですか?」
「人に名前を訪ねる時はまず自分からだろ。俺はアンバー、チャレンジャーだ」
「あ、先に名乗ってはくれるんですね……私はリーフ! 3日前になったばかりの新米チャンピオンです!」
リーフ……少女は元気よくそう名乗る。出身はマサラタウン。ポケモンという生物を研究する科学者の中でも最大のネームバリューを持つオーキド博士の孫とはライバルである。そして本人の言うように新米チャンピオンである。
見た目は中学生くらい……つまり、アンバーよりも年下。そんな彼女がチャンピオンである以上、見た目以上の強さを誇るだろう。それこそ、四天王達よりも強い。故に全力で挑まねばならない。
「そいつはすげぇな……だがまあ、その肩書きはこの場で俺が貰うがな!」
「そうはいきません! チャンピオンになって初めての相手、負けるつもりはないですよ!」
思わず(意味深)と付けたくなるような台詞だが深い意味はない。お互いに今から始まるバトルが楽しみで仕方ないとばかりに笑みを浮かべ、2人の間に見えない火花が散る。アンバーはいつものようにコイキングを持ち、リーフはその姿に首を傾げつつもボールを手に持つ。
「お願い、ドードリオ!!」
「「「キュルアアアアッ!!」」」
リーフが繰り出したのは、丸い胴体に細長い三つ首の頭を持つポケモン、ドードリオ。三つの頭はそれぞれに知能を持つという。翼はないが“そらをとぶ”を覚えることが出来る……多分、空中を蹴ったり出来るんだと思う。
「言葉は不要!!」
「コッ!?」
「ポケモンを蹴飛ばした!? 何その非道な行為!?」
「「「キュルアッ!?」」」
「ドードリオ!?」
アンバーがコイキングを蹴り飛ばす。相手は(瀕)死ぬ。今回で13回目となる行動だが、今回も問題なくトレーナーに驚愕を、ポケモンには瀕死の一撃を与えた。今後も彼はことあるごとに先行1ターンキル(1匹)を決めていくことだろう。
「ポケモンを蹴り飛ばすなんて……貴方それでもポケモントレーナーですか!?」
「アンバーだ!!」
「名前を聞いてるんじゃないです!! あーもう絶対負かす! 戻ってドードリオ! そして行って、カビゴン!!」
「カァビィ……」
ポケモンが大好きなのだろう、アンバーの凶行を許せないとばかりに怒りを露にするリーフ。そんな彼女が繰り出したのは、先の話にも出たカビゴン。どうやらあの後にゲットしたらしい。
「“のしかかり”!!」
「カァビィ!」
「お前も中々容赦ないな……“はねて”かわせ!」
「コッ!」
小さな体のコイキング目掛け、その巨体からは想像できない程の跳躍をするカビゴン。流石にそのフライングボディプレスは喰らう訳にはいかないと判断したのか、アンバーはリーフの容赦ない技の選択に呆れつつも指示を出す。結果、アンバーの方へと“はねた”コイキングはカビゴンの“のしかかり”を回避した。
「そして2回目えっ!!」
「コッ!?」
「さっきのドードリオはともかく、分厚い脂肪のカビゴンなら……」
「カ……ビ……ゴーンッ!?」
「うそぉっ!?」
再び蹴り飛ばされるコイキング。真っ直ぐにカビゴンへと飛んだコイキングはその分厚い脂肪の体にめり込む。カビゴンなら問題ないというリーフだったが、その期待は裏切られる……カビゴンが完全に浮き上がり、壁まですっ飛ぶという形で。中々にぶっ飛んだ光景に思わずリーフも目が飛び出さんばかりに驚いていた。
無論、カビゴンは戦闘不能。しかもコイキングがめり込んだ部分が元に戻っていない。この戦いが終わった後、カビゴンはポケモンセンターに搬送されることになるのであった。
「っ……まだ、まだまだ! ポケモンに暴力を振るうような人に、私は負けたくない!! お願い、オムスター!!」
「シューッ!!」
リーフが新たに繰り出したのは、オウム貝のような姿をしたポケモン、オムスター。かいのかせきという化石からグレンタウンにある研究所の技術を使って再生したポケモン、オムナイトの進化した姿である。
「“ハイドロポンプ”!!」
「シューッ!!」
「ゴボボボボッ!?」
「コイキング!」
カビゴンが居た場所に落ちていたコイキングにオムスターの“ハイドロポンプ”が直撃する。同じタイプである以上ダメージは低めだが、その威力は凄まじい。更にオムスターは、壁に向かうように技を繰り出している……つまりコイキングは今、勢い良く吐き出されている水と壁に挟まれていた。
ここまで見ているあなたならもういい加減理解出来ているだろうが、コイキングはアンバーの理不尽な暴力(コイキング的にはご褒美)によって吹き飛ばされ、ぶつかって倒している。前にも言ったかも知れないが、それがなければただのコイキングである。要するに、今のコイキングではオムスターに勝てる可能性は万に1つもない。
「そこから逆転すれば、お前の言うことを何でも1つ聞いてやろう」
「ココココココココココココッ!! (目指せ御主人様とのアバンチュールッ!!)」
「“ハイドロポンプ”の水を物凄い速度で泳いできた!?」
「シュー……ガフッ!?」
「オムスター!?」
しかし億に1つの可能性はあったらしい。コイキングは目をハートにしたかと思えば、オムスターの“ハイドロポンプ”の流れに逆らい、さながらジェットスキーのような速度で泳ぎきり、そのままオムスターに“たいあたり”をかました。しかもアンバーに対する想いでブーストでもされたのか、オムスターの口元の牙を折り、貝にはヒビをいれている。やっぱこいつらマトモじゃねえ。当然、オムスターは戦闘不能である。
「トレーナーもトレーナーなら、ポケモンもポケモンってことですか……非常識ですよ!?」
「そう褒めるな」
「褒めてません! ハァハァ……戻ってオムスター! あなたの出番よ、サンダース!!」
「ダース!!」
少し疲れた様子を見せるリーフがオムスターを戻し、新たに繰り出したのはサンダース。しんかポケモンであるイーブイというポケモンにかみなりのいしを使うことで進化する。尚、イーブイはサンダースを含め、実に8種類ものポケモンに進化する。グレイシアああああっ!!
「今度こそ倒す! サンダース、“でんげきは”!!」
「サン……ダース!!」
「ココココッ!?」
「ちっ、必中か……っ!」
サンダースが全身に電気が纏い、その電気が高速でコイキングに襲い掛かり、命中する。“でんげきは”……以前エリカのポケモンが使った“マジカルリーフ”と同じ、ほぼ確実に命中する必中(必ず中るとは言ってない)技である。電気タイプの技である為、当然コイキングには効果抜群だ。
しかしそこは我らがアイドルのコイキング(♀)、その尋常じゃねえ耐久力をもってすれば、“でんげきは”の一撃など余裕で耐えきれる。ここで“それはおかしい”と思わなくなってきたあなた、既にこちら側です。もう抜け出せません。
「よく耐えたコイキング! さあ、俺の胸に飛び込んでこい!」
「ココココッ♪」
「なんで……なんで倒れないの!? こんなの絶対おかしいよ!!」
両手を広げてコイキングを向かい入れようとするアンバーと、腕の中に飛び込もうとするコイキング。効果抜群を直撃したハズなのに、まるで無傷のように振る舞う2人に、新米チャンピオンリーフの心は折れそうになっていた。世界が世界なら魔法少女から魔女になってそうな勢いである。
「焦げ臭えんだよナマモノ!!」
「ゴッ!?」
「もうこの人やだーっ!!」
「ンダスッ!?」
飛び込んできたコイキングを容赦なく蹴り飛ばすアンバー……この場面を我々は何度見たことだろうか。こんな奴がチャンピオン手前まで来ているのだ……そんな状況についにリーフは泣き出してしまう。ついでにサンダースもコイキングにぶつかって戦闘不能になってしまった。やはりこんな奴がポケモントレーナーなのは間違っている。
「ぐすっ……負け、ないもん! 私、負けないもん! 力を貸して……フリーザー!!」
「キュルルルルッ!!」
「なにぃっ!?」
涙ながらにリーフが繰り出したのは、まさかまさかの伝説とされるポケモン……サンダー、ファイヤーと並んで知られる鳥ポケモン、フリーザー。その雄々しくも美しき蒼き姿は見るものを魅了し、その身から発する冷気は多くの氷タイプのポケモンを凌駕する。
「伝説の力、見せつけてあげる! “れいとうビーム”!!」
「キュルオオオオッ!!」
「コ……」
「一瞬でコイキングが氷付けに!?」
フリーザーの口から吐かれる“れいとうビーム”に当たった瞬間、コイキングの体が一瞬にして氷漬けにされる。それどころか、着弾した周囲の地面までも氷漬けとなり、まるで巨大な氷柱が生えているように見える……伝説の名に、偽りはない。
ポケモンバトルは、例え最後の1匹が“こおり”や“ねむり”と言った身動きできない状態になっても終わることはない。全てが戦闘不能となるまで戦いは続く……つまり、コイキングが氷漬けになったところで、フリーザーが攻撃の手を休めることはないのだ。
「これで終わりよ!! “ぜったいれいど”!!」
「キュルルルル……キュルオオオオッ!!」
伝説の氷の化身が放つは、その名の通り絶対零度の冷気。直撃すればどんな相手でも一撃の元に倒れ伏す必殺技。それが、氷漬けとなって身動きできないコイキングに無慈悲に襲いかかった。
(勝った! 身動きできないところに一撃必殺……避けることも防ぐことも出来なかった! 私は……勝った!!)
着弾した際に噴き出す、まるでドライアイスを水に浸けた時のような白い霧。その霧によってアンバー達を視認することは出来ないが、リーフは技が当たった瞬間を見ていた。どれほどタフであろうとも一撃必殺の前には無力……つまり、リーフの勝利。それを確信した時、彼女の心にはチャンピオンになった時以上の達成感を感じていた。
「勝った……そう思ったな?」
「えっ?」
「いいぜ……お前が今の攻撃で勝ちを確信したってんなら、まずはその幻想をぶち壊す!!」
「コッ!?」
「ギュルブッフ!?」
「え? ちょ、え!?」
アンバーの声が聞こえた後、フィールドを覆っていた霧の中からフリーザーが飛び出し、リーフの背後にある壁にめり込み、目を回す。驚愕しながら彼女が振り返ると、そこにいたのは明らかに戦闘不能となっているフリーザー……そして、その腹部に突き刺さっているコイキングの姿。
「な……なんで!? 凍っていたのに! “ぜったいれいど”は当たったのに!!」
「なぁに……至って単純、シンプルな答えだ」
「シンプルな答え……?」
「こおりなおしを使った。“ぜったいれいど”が効かなかったのは、俺のコイキングのレベルがお前のフリーザーよりも高かっただけだ」
「道具は盲点だった! ていうかどんだけレベル高いのそのコイキング!?」
こおり状態にはこおりなおし、当然のことである。そして伝説であれポケモンである以上、技の性能そのものは変わらない。一撃必殺技は、自分よりもレベルが高いポケモンには効果がないのだ。アンバーはこおりなおしを使ってコイキング?こおり状態が治し、“ぜったいれいど”は効果がないまま終わり、声を出してコイキングに居場所を知らせてこちらに向かわせ、向かってきたところを蹴り飛ばしてフリーザーにぶつけたということだ。因みに、霧の中でフリーザーを狙えた理由だが……まあ、アンバーだからで納得してもらおう。
さて、ここまでリーフが出したポケモンはドードリオ、カビゴン、オムスター、サンダース、フリーザーの5匹。トレーナーが持てる最大数は6匹……今までのジムリーダー、四天王達は最大でも5匹だったが……チャンピオンであるリーフは当然、6匹持ち歩いている。つまり、彼女がフリーザーを戻した後に取り出したモンスターボールの中には最後の1匹が入っているのだ。
「負けたくない……負けたく、ない! お願い……フシギバナ!!」
「バーナーッ!!」
「……戻ってこい、コイキング」
「コッ!」
祈りを込めるようにボールを両手で包んだ後に投げると、現れたのはリーフの最初に手にしたポケモン、フシギダネの最終進化であるフシギバナ。巨大な花を背に咲かせる4足の怪獣のような出で立ちのこのポケモンが、リーフ最後にして最強のポケモンである。
アンバーは目を細め、コイキングに指示を出す。直ぐにコイキングは従い、彼の足下に向かって跳ねた。これでアンバー達の準備は万端と言えるだろう……それだけフシギバナを警戒しているのだろう。
「チャンピオンになって直ぐに向かったナナシマ……そこで修得した私達の究極技、見せてあげる!!」
「バー……ナー……」
リーフの声の後、フシギバナの全身が緑色の光に包まれる。それは、リーフの言う究極技の準備を行っている証。それに対して、アンバーは特に行動を起こすことなく、その時が来るのを待った。彼は滅茶苦茶ではあるが、決して卑怯者ではない。そして……割と力と力のぶつかり合いが好きな男である。
そして、その時はやってきた。
「“ハードプラント”!!」
「バアアアアナアアアアッ!!」
フシギバナの咆哮と共にフシギバナの体を包んでいた光が地面に染み込むように消え、フシギバナの周辺から地面を突き破って巨大な樹木が数本現れる。草タイプの究極技“ハードプラント”……その技は、その巨大な樹木をただただ力任せに相手に叩き付けるというシンプルなモノだ。だが、巨大故の重量を鞭のように叩き付けるその威力は、正に究極技に相応しい。
「見せてやるよ……俺とコイキングの全力って奴をな!! コイキング!!」
「コッ!!」
「全力で蹴り飛ばす!! これがバリバリ最強ナンバーワン!!」
「ゴフェッ!?」
ガオンッ!! という明らかに蹴った側も蹴られた側も出してはいけない音を立て、コイキングは飛ぶ。それはいつもアンバーが行う“コイキック”……しかし、その速度と勢い、音、その他諸々共に正に全力。それこそがアンバーとコイキングにのみ許された究極技。究極対究極。やがて魚と樹木、その2つがぶつかり合い……。
「ゴベベベベッ!?」
「そ、そんな……“ハードプラント”が……」
「バナッブ!?」
「フシギバナーっ!!」
僅かな時間も拮抗することなくコイキングが樹木を全て真っ向から打ち砕き、威力を殆ど損なうことなくフシギバナの顔に突き刺さり、更に壁まで吹き飛ばす……その間もコイキングの勢いは止まることなく、壁をフシギバナごと1メートル近く凹ませた辺りで漸く止まった。人外、ここに極まれり。
当然ながらフシギバナは戦闘不能……というか、シャレにならないレベルで瀕死。リーフに至ってはトレーナー人生が危ぶまれる程に心にダメージを負いかけた。しばらくは赤いモノを見るだけで震い上がることになったという。ここに、アンバーの勝利は確定した。
「俺達に、蹴り開けぬモノ無し」
「コッ!」
「折角チャンピオンになったのに3日しかもたなかったよ……」
こうして、アンバーのポケモンリーグでの戦い……彼の冒険は終わった。しかし、冒険の終わりが彼の終着点という訳ではない。チャンピオンとなった後も彼だけの道は続いていくのだ。1つの冒険が終われば、それは新たな冒険への始まり。彼の冒険は、アンバーの戦いは、きっと……これからも続いていくのだ。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!
キングは1匹! このコイだ!!
「この後、情緒不安定になったリーフを慰めた(意味深)」
「ふ……うぅん……お、にいさぁん……♪」
『流石は旦那様! チャンピオンおめでとうございます! 帰ったらお祝いですね。その後は勿論……ぽっ』
『流石は殿でござる! あっ、奥方様……拙者も是非……ぽっ』
『……わ、私は別に……』
『フェッフェッフェッ……カンナや、素直になりんさい』
という訳で、チャンピオンはライバルかと思いきや女主人公ちゃんでした。因みに、私はポケモンの女主人公の中ではトウコちゃんが一番好みです(知らねえ
中編予定の為、本編はここで一応の終わりとなります。このままあっさりとした終わりとなるか、とりあえずもう1、2話番外編を書いて終わるかはまだ分かりません。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
またお会いしましょう(*・ω・)ノシ
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されどコイキングの旅は続いた(エピローグ)
文字数はエピローグの為、非常に少ない上に内容は蛇足のようなモノです。カントーを制覇したアンバー、その後のお話を少しだけ。
さて、語ることも語ったこの1匹のコイキングと1体の人外……もとい、1人のトレーナーアンバーの物語。8つのジムを制覇し、四天王を下し、チャンピオンをも打倒した彼等は、カントー地方で頂点に立った。そこでこの物語は終わっている。故に今から……その後の彼等の軌跡。チャンピオンとなった彼等がどうなったのか、それを簡単に語るとしよう。
アンバーはチャンピオンとなったその翌日、戦闘方法とポケモンに対する行動が論理的に問題となった為にポケモン協会からチャンピオンの称号を剥奪された。当然と言えば当然である。どこの世界にポケモンに暴力を振るっているチャンピオンがいるというのだろうか。あ、ここに居たわ。
このポケモン協会の行動にアンバーの周りの女性陣が猛抗議を仕掛けたが、肝心のアンバー自身が気にしていない、むしろ旅をするのに邪魔な称号だったので有り難いと笑う始末である。その為、女性陣も渋々ながら結果を受け入れた。因みに、チャンピオンにはアンバーが倒したリーフ、その幼なじみかつ元チャンピオンであるシゲルが再びその座に就くことになった。
チャンピオンでなくなったアンバーは、まずエリカと結婚式を挙げた。アンバーの両親は既に他界しているという新事実に周りの者達は衝撃を受けたもののやはり本人がそれほど気にしていない為、結婚式は割と平和に終わった。因みにアンバーとエリカ、出逢ってから1ヶ月も経っていない。有り得ない速度でのスピード婚だった。
結婚式を挙げたアンバーとエリカは、新婚旅行がてら様々な地方に行くことにした。尚、エリカ不在の間はリーフが臨時のジムリーダーとなる。チャンピオンだった上にフシギバナという草タイプも使っていた為、タマムシジムの臨時ジムリーダーとしては問題ないと判断されたのだ。アンズは2人のお供である。
そして3人は、カントーの地を去った。
彼等が最初に寄ったのは、カントーの隣であるジョウト。目的はあくまでも新婚旅行なのでジムバトルは控えようとしていたらしいアンバーだったが、どうせならカントー以外のジムも制覇してみてはどうかという妻とお供の言葉を聞き、ならやってみるかとジム制覇を新婚旅行の目的に加える。この瞬間から、全ての地方のジムリーダーと四天王、チャンピオンの常識とか貞操とか精神とか肉体とかその他諸々のライフがゼロになる未来が決定しました。救いはないです。
「おら逝けえ!!」
「コッ!?」
「ピジョッ!?」
「ピジョーンッ!?」
時に飛ぶ鳥をコイキングで“うちおとす”アンバー。
「落ちろカトンボ!!」
「コッ!?」
「ストライッ!?」
「ストライクーッ!?」
時に鎌を振るう虫にコイキングを“とっしん”させるアンバー。
「モーモーミルクは好物です!!」
「コッ!?」
「ミルッ!?」
「み、ミルたーん!?」
時に転がってくる乳牛にコイキングをバレーボールの如く“はたきおとす”アンバー。
「あ、かん……こんなん、初めてや……ぅん」
勿論その後にジムリーダーを美味しく(意味深)頂かアンバー。
「悪霊を倒すには精神力が必要だ!!」
「コッ!?」
「ゲンッ!?」
「……悪い夢でも見てるのか? 俺は……」
時に1頭身幽霊にコイキングを殴って無理矢理だした“しねんのずつき”を喰らわせるアンバー。
「ここにでんきだまがあるだろ? これをこう(コイキングの口の中へ)して、こう(蹴り飛ばす)だ!!」
「ゴバベブグボバッ!?」
「ニョロボッ!?」
「な、なんと無茶苦茶な……まだまだ鍛練が足らんか……」
時に筋肉おたまじゃくしにでんきだまを口に突っ込んだコイキングを“ボルテッカー”的な状態でぶち当てるアンバー。
「燃えろよ燃えろ、炎“で”燃えろおおおおっ!!」
「ココココッ!?」
「ネルッ!?」
「ハガネールッ!?」
時に鋼の蛇に地面に激しく擦り付けて発火させたコイキングの“かえんぐるま”をぶつけるアンバー。
「あっ……こんなの、ダメ……なのにぃ……♪」
そのままジムリーダーにも火を付けた(意味深)アンバー。
「気合いがあればなんでも出来る! 行くぞオラアアアアッ!!」
「ココココッ!! ココココッ!! ココココッ!! (気合いだっ!! 気合いだっ!! 気合いだっ!!)」
「イノムッ!?」
「……君は本当に人間かい?」
時に毛むくじゃらの猪に気合い的な何かの力で包み込んだコイキングを“きあいだま”として落とすアンバー。
「キングドラ? キング? ふざけんじゃねえ!! キングは1匹!! このコイだ!!」
「ココココッ!!」
「グドラッ!?」
「う、うそ、今コイキングの尻尾が延びたような……これがワタル兄様を降した実力……嘘だと思ってたのに……」
時になんかものすごいタツノオトシゴを遠心力的ななにかでコイキングの尻尾を伸ばし、まるで“ドラゴンテール”のようになったのでそれでひっぱたいて壁に埋め込んだアンバー。
「あふ……か、は……ぁん……♪」
竜の里秘伝のクスリ(意味深)か何かを使って(長から貰った)トロットロに溶かしたり(理性的な意味で)するアンバー。
「1度チャンピオンとなり、称号を剥奪された為、カントー地方でのポケモンリーグに参加することはできません」
「なん……だと……?」
ポケモンリーグ警備員から事実上のポケモンリーグ出禁を喰らったアンバー。
「旦那様……今日もその……」
「勿論だ……たっぷり愛してやる」
「はい……♪」
実は毎日どこかしらで夫婦の愛を確かめあったりしていたアンバー&エリカ。
この後も、アンバーとエリカの新婚旅行という名の旅は続き、幾度となく事件に巻き込まれては片手間に解決し、ジムに挑み、出禁になってないポケモンリーグに挑んでチャンピオンになり、女性トレーナーを墜とし、コイキングを蹴り飛ばし、また出禁を喰らい、旅を再会し、毎日愛し合った。
深くは語らない。彼の物語は一応の終わりを見せているのだから。ここで書いたのは、その物語が続いた場合のif……その、本の一部だけ。
だが、ここで終わったとしても彼の物語は終わらない。いずれ第2第3の作者が現れ、どこかで物語の続きを記すだろう。既に後に引けないところまで汚染されている諸君、その時を震えながら待つといい。では、いつものあの言葉で終わるとしようか。
頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ諸君! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて彼と共に叫べ!
キングは1匹! このコイだ!!
「この後俺はエリカと幸せに暮らした」
「私も旦那様と幸せに暮らしました」
【……NTRワンチャン……っ】
というアンバーの物語後日談ダイジェスト風味ジョウト全ジムリーダー載せでした。そりゃポケモンに暴力振るってるんだからチャンピオン剥奪されるよね。大好きクラブとか善良なトレーナー達から苦情がわんさか来ると思います。彼は非常識ですが世界は常識的なのです。
さて、これで本作は本当に完結となります。ここまでの後愛読、誠にありがとうございました。現状続編を出す予定はありませんが、気が向けば書くかもしれません。6vメタモンを野生で運だけで引き当てるくらいの気持ちで気長にお待ち下さい。もしもポケモン二次を書く予定がある方がいらしたら、アンバーをモブで出してくれてもいいのよ←
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*) 後愛読、本当にありがとうございました。宜しければ本作以外の作品もよろしくお願いいたします(*・ω・)
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