富幸神社縁起 (水城忍)
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第零話設定資料集

こちらは『艦隊これくしょん~艦これ』の二次創作です。
オリジナル提督、およびオリジナル艦娘が登場しますので、それらが苦手な方はスルー推奨です。



【舞台】

 富幸神社とよばれる神社が鎮守府。そのため、普段は神社のお仕事がメイン。

 

【提督】

*NINJA提督

人物像

 変提(変態提督)を公言する数少ない?提督。もっとも、根は割と奥手なのか、扶桑姉様と相対するとアタフタすることも多い。ラバウル基地所属。最近は変提としては鳴りを潜めているが……? 因みに「NINJA提督」は通称。忍者としての名もあるのだが、それを知るのはごく一部の鎮守府メンバーのみ。さらに本名となると扶桑姉様・山城姫様・吹雪・千歳お姉・高千穂・薩摩の6人しか知らない。

 重度の大艦巨乳主義者である。

 

【NINJA提督の愉快な?仲間たち】

*主な艦娘

・吹雪

 初代秘書艦兼NINJA鎮守府駆逐艦筆頭総代。艦娘としての付き合いは一番長いため、NINJAの変装も一発で見抜ける。真面目で、頼まれると何だかんだで世話を焼くのは特型駆逐艦長女ゆえか初代秘書艦ゆえか。NINJAへのツッコミ役。最近では茶処のお手伝いの仕事も多くなった。健気。たまに声帯の妖精さんの影響を受けるせいか、小火器の扱いにもたけている。

・千歳お姉

 NINJA鎮守府軽空母総代。世話焼きで、いろいろと気にかけてくれる。個性の強すぎる面々を上手く取りまとめてくれる縁の下の力持ち。彼女がいるからNINJA鎮守府がやっていけると言われている。ただし、酒量は尋常ではないので、財政を傾けている張本人でもあったりする。

・足柄

 NINJA鎮守府重巡総代。実は筆者が『艦これ』を始めるきっかけになった娘。なのに、千歳お姉に扶桑姉妹に吹雪にと、出番を食われまくって、漸く参上。しかし、登場がまさかのトンデモ回。何事にも一生懸命なのだが、それで肩に力が入り過ぎてしまい、失敗することも多々。

・あきつ丸

割と最近、鎮守府にやってきた陸軍所属艦娘。最初はカ号を変提活動に使うことに本気で嫌がっていたが、最近は慣れたのか諦めたのか、はたまた変提活動が減ったからかあまり何も言わなくなった。最近はせっかくのカ号をNINJAが返してくれないのが悩みの種。

・時雨

 NINJAの鎮守府に5番目に来た娘。「呉の雪風、佐世保の時雨」ということで大切に育てていたらいつの間にか非ケッコン駆逐艦の中でも最高レベルに達していた。その高レベルゆえに扶桑姉様・山城姫様と出撃することも多い。ここでは、山城姫様のセーブ役として骨を折る羽目に。

・阿賀野

 比較的最近やってきた軽巡娘。やたらに姉萌えネタを振ってくる。

・青葉

 週刊青葉の記者として何処ともなく現れる。密かに忍法を習っているのかもしれない。

・たっきゅん

 戦艦タ級……なのだが、何故か富幸神社に居ついてしまった深海棲艦。もともと、相方のるっきゅん(戦艦ル級)とちょこちょこと顔を出していたのだが。基本、無害で能天気。

・山城姫様

いうまでもなく扶桑姉様の妹君。NINJA鎮守府艦娘総代代理。「姉様への愛情はだれにも負けない」と、NINJAの姉様へのアプローチを全力で阻止してくる。NINJAの変装に本気で気づいていないので、天然なのかもしれない。酔うと陽気になり、艦橋芸や声帯の妖精さんネタを披露する。

・扶桑姉様

 NINJAの鎮守府ヒロイン。NINJA鎮守府艦娘総代。扶桑姉様についてグダグダ語るのは野暮ってもんよ。

 

*オリジナル艦娘

・高千穂(真名・小扶桑)

NINJA提督と扶桑姉様とで行われた結縁(けちえん)の儀で生まれた艦娘。本名(真名)は小扶桑なのだが、「それでは呼びにくい」と、薩摩が高千穂の名を与える。そのため、普段は高千穂と名乗っている。見た目は、扶桑姉様を思いっきり、幼くした感じ。NINJA提督の大艦巨乳主義まで引き継いだかどうかは不明……なわけがなく、しっかり引き継いでおり、姉様の頭痛の種。

・アイオワ

米国最後の戦艦のネームシップであり、アイオワ姉妹の長女。とある事情からNINJA提督が保護し、鎮守府の一員となる。レズではあるが、これまでの経緯もあって、NINJA提督にも心を寄せている模様。しかし、詳細は不明。やや(愛すべき)おバカなところも。

・薩摩

日本初の国産戦艦。世界最大の戦艦になるはずが……ドレットノートの登場で進水前に旧式戦艦になってしまう。その生い立ちにめげず、懸命に生きてきた。そのためか、何かと扶桑姉妹の相談に乗ることが多い。妖艶な雰囲気を漂わせるが、案外面倒見は良い。一人称は「儂」で、古風な口調。実はNINJAの里の長老くノ一。戦艦薩摩の船霊を下して艦娘になった。何歳生きているのかはわからない(本人曰く「面倒じゃから歳を数えるのはやめてしもうたわ」)。だから、相当な年齢だが、年寄り扱いされるのを非常に嫌う。BBAなどといったら命の危機に陥るとかなんとか。



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第一話 富幸神社のお正月

 富幸神社が開かれてから初めてのお正月。

 艦娘たちは新年の行事のための準備にてんてこ舞いだった。

 

 扶桑姉妹は間宮・伊良湖の給糧艦コンビと共に正月料理の準備中だ。NINJA鎮守府も160人以上の艦娘を抱える大所帯となっていた。もちろん、神饌の用意も別に必要。そのため、決して広いとは言えない厨(くりや)はまさしく戦場さながらの修羅場だった。

 間宮・伊良湖は焼き物を、扶桑姉妹が煮物を担当していたが、焼き物は後でもいいため、まずは全員で野菜などを切っている。野菜の皮をむくシュリシュリという音と、大根・人参・芋を切るトントンという音がリズミカルに響いている。

 トントントン。

 サクサクサクサク。

 しゅりしゅりしゅり。

 とにかく大量の食材を、四人は無言で捌いていく。その甲斐あってか、思いの外、早く野菜の下ごしらえが終わる。肉魚は搬入時に大方、処理が終わっているため、一つの山場を終えたという感じだ。そのせいで、余裕も出てきたのだろう。四人は備え付けの汗拭き用タオルで額を拭く。食品の劣化を防ぐために厨に暖房はない。だから、かなり冷え込む。しかし、集中していたためか、汗がうっすらと滲んでいたのだ。

 「間宮さんも伊良湖さんも、いつもこれだけの料理をしているのね……」

 扶桑が呟く。扶桑も料理をするが、大抵は数人分だ。これだけの量をこなす経験はあまりない。

 「お正月料理は手間がかかるから、やっぱりいつもとは違いますよ」

 「ですから、扶桑さんと山城さんに手伝ってもらって、本当に助かります。私は艦娘として着任して、はじめてのお正月ですし」

 間宮と伊良湖が礼を言う。

 「そ、そんなことないわよ」

 山城が少し顔を赤らめて否定する。この娘、照れ屋なのである。

 「さ、野菜も切ったから、煮物を作り始めましょうか……」

 扶桑が大鍋に火を入れる。まだ、灰汁取りや焦げ付かないように加減をする必要はあるが、かなり余裕も出てきた。そのためか、間宮が思わぬことを言う。

 「そうそう。扶桑さんに山城さん、お正月は数の子、たくさん召し上がった方がいいんじゃないんですか?」

 伊良湖も追撃してくる。

 「高千穂ちゃんだけだと、寂しいんじゃないんですか? 里芋も多めによそおっておきますよ? 雷鳥さんとMagoさんに負けていられませんよね?」

 給糧艦たちが意味深にニヤリと笑う。扶桑姉妹は調理の手を止め、ただ、赤面するだけだった。厨での調理はまだまだ終わりそうにない。

 

 雪風・瑞鶴たち幸運艦は、鳳翔の指導の下、神社で販売する「厄除けSD艦娘人形」制作の真っ最中だった。もちろん、最高級はSD扶桑。次に山城、翔鶴などなど。これらは人形の艤装部分が厄を引き受けるようにできている。いわゆる「身代わり人形(ひとがた)」だ。厄を受けるたびに砲塔や甲板部分が少しずつ壊れるということになっている。

 「お裁縫って、結構難しいのよねー」

 「でも、こうして、お人形を作るなんて、雪風、新鮮ですっ!」

 「まぁ、深海棲艦と戦うだけじゃ、女の子スキルも上がらないしね」

 「瑞鶴さん、雪風の『おんなのこスキル』これで、上がるんですか!?」

 適当なことを言った瑞鶴が、雪風の思わぬ食いつきに一寸困惑するが、直ぐに笑って「そうね」と答える。

 「さ、甘味処からアイス最中を買ってきましたよ。お茶にしましょうか」

 鳳翔がお茶とアイス最中を持ってくる。

 「わーい! 雪風、感激でっす!」

 「火鉢に当たりながらのアイスって、美味しいのよね」

 「うふふ。そうですよね。北国では暖房を効かせて冷たいものを食べるのが贅沢だと言いますしね」

 厄除け人形担当の艦娘たちが次々とアイスとお茶に手を伸ばす。パクリと一口噛むと、疲れた体に上品な甘みの間宮&伊良湖アイスがしみわたる。そこにアツアツの緑茶を一口。仄かな渋みとアイスの甘みが混じりあって、最高の味わいとなる。

 「さ、皆さん、もう少しですよ。仕上げは私も手伝いますから、頑張りましょう」

 そう言うと、鳳翔も「厄除けSD艦娘人形」の一つに手を伸ばす。手慣れた様子で、仕上げ加工を始めた。

 「流石鳳翔さん、手早い」

 「鳳翔さんの『おんなのこスキル』凄いです!」

 「あらあら。雪風ちゃん、嬉しいこと、言ってくれるのね」

 雪風はまだ「女の子スキル」に拘っているようだ。鳳翔が照れ笑いする。しばらく、雪風の中ではこの言葉が反復されるんだろうなと思った瑞鶴であった。

 

 吹雪をはじめとした駆逐艦娘と高千穂は巫女装束に着替えていた。参拝客の相手や境内の掃除・お守りなどの販売と、とにかく忙しいところに人海戦術として駆逐艦娘が投入されているのだ。

 着替えの最中、ひときわ目を引いたのが潮、浜風、浦風。「お前のような駆逐艦がいるか」と言われるほどの胸部装甲の持ち主である。夕立もそれなりに立派な装甲を持っている。普段の服とは違う巫女装束が、彼女たちの容姿をひときわ目立たせていた。

 NINJA提督と扶桑の娘・高千穂はおもわず、駆逐艦たちの胸部装甲をみる。一回り小さい高千穂は自分の胸をペタペタと触る。

 「私も、扶桑型戦艦ですから……成長すれば、きっと、おっきくなるはず」

 「高千穂ちゃん……一緒に頑張ろうね……」

 吹雪が力なく笑う。

 「はい……吹雪姉様」

 「そろそろ準備ができたか?」

 NINJA提督が扉を開ける。そこにはまだ着替え中の艦娘たちが。まだ、艦娘たちは下着のまま。

 「……」「……」

 双方、暫し絶句。そして。

 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 艦娘たちの悲鳴が響き渡る。

 がこーーーーーーんんんんんん……

 NINJA提督の顔面に招き猫と高崎だるまがぶつけられた。

 「年明けを前に……眼福……」

 NINJA提督が幸せそうな表情で倒れる。そこに「ソロモンの悪夢」状態の夕立が蹴りを入れて、彼は部屋からたたき出されるのであった。

 

 大晦日の夜。神宮寺である、富幸寺で除夜の鐘を鳴らし始める。艦娘たちが一鐘ずつ突いていく。

 ごーん……ごーん……ごーん……

 最後の、108回目を扶桑が突く。

 ごぅぅぅぅぅぅぅんんんんん……

 深夜の神社と寺にひときわ大きな鐘が鳴る。日付が変わった。と、同時に近所の住人達が初詣にやってきた。建立から間もないのだが、艦娘たちが働いているということで、話題性は十分だったのだろう。相当数の参拝客がやってきた。

 扶桑姉妹は舞殿で夜神楽を舞っていた。その華やかな舞が参拝客の目を引く。一指舞うと、今度は金剛四姉妹の絢爛な舞にうつる。扶桑姉妹の「静」を基調とした艶やかな舞とは対照的に、「動」をベースにしながらも優雅さは失われていない。艦娘たちの珍しいパフォーマンスに参拝客は思わず見とれていた。間宮・伊良湖・鳳翔・一部の駆逐艦が舞殿に集まった人々に無料で暖かい甘酒を配る。寒空の中でありながら、舞と甘酒のせいで、参拝客はすっかり寒さを忘れていた。

 幸運艦お手製のお守りにSD厄除け人形も中々の売れ行きだ。

 NINJA提督の(怪しい)お祓いも、何だかんだで上手くいっているようだった。

 

 怒涛の「払暁戦闘」から引き続き、昼の「会戦」をあっという間に超えて、元日の夜。参拝客は昼過ぎまでひっきりなしだったが、夕方から先になると客足も落ち着き、すっかり暗くなるころには参拝客は数えるほどになっていた。艦娘たちもようやく一息つけるようになった。社務所では任務を解かれた艦娘たちが特製の正月料理に舌鼓を撃っていた。

 そして、社務所の一角、指令室ではNINJA提督と扶桑姉妹が集まっていた。

 「姉様、姫様、正月からお疲れ様」

 「提督こそ、お疲れ様でした……」

 「神社のお正月も大変だったけど、結構、面白かったかな?」

 三人がお屠蘇代わりの純米酒で乾杯する。

 「今年も、いい年にしたいですね……」

 「いろいろあったけど、それも、思い出になるのよね。姉様、今年もいい思い出を作りましょうね!」

 「山城、提督を忘れちゃダメでしょ?」

 扶桑が笑って妹をたしなめる。

 「うっ……その……提督も……今年も、一緒に……。で、今年は、そのぅ……」

 山城の最後の方はよく聞き取れなかった。

 「ん? 姫様、最後の方は何を……?」

 「山城、最後までちゃんと言わないとダメ……よ?」

 「うー……つまり、こういうことよ!」

 山城がNINJA提督の後頭部を強引につかむと、顔と顔とを突き合わせる。つまりは。

 「よくできました……」

 扶桑がにっこり笑う。

 「でも、山城だけじゃ……ね……。私も」

 姉も、妹と同じように提督と軽く唇を交す。と、そのとき。執務室のドアが勢いよく開いた。

 「あー、てーいーとーくー、扶桑さん達とちゅーしてるぅ~。わたひともちゅーしよー」

 「え!? 何で吹雪、酔っぱらっているんだ!?」

 思わず、三人が赤面して、飛び退く。そこにいたのは顔を真っ赤にした吹雪だった。呂律がまわっていない。

 「ひょんなこと、ろーでもいいぢゃないですかぁ~。ね~、ふぶきともちゅー……」

 「吹雪姉様が、間違えて黒糖焼酎のコーラ割を飲んでしまったんです……。あ、母上、山城姉様、父上、私のほっぺたにも……その……ちゅーを……」

 吹雪の後ろからひょこっと、高千穂が顔を出す。

 さらに、銘酒『森伊蔵』を片手に千歳と薩摩が殴り込んでくる。

 「てぇーとーくー、私を忘れるなんて、ひどいですよ~」

 「ひょっひょっひょっ。千歳。儂と飲み比べとは100年早いわ! おう! 主らも呑め!」

 「Hey、一家団欒のところ、悪いけど、私も混ぜてよね!」

 NINJA鎮守府にすっかりなじんだアイオワもいた。

 

 これまで長くいたところを離れることになった一同。しかし、どこまで行っても、この絆は変わらないのだろう。富幸神社の新しい一年がこうして始まろうとしていた。

(第一話・了)



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第二話 高千穂誕生 

 富幸神社の一角で若い女性が幼い娘と相対して素読の指南をしていた。

 「子曰く、我十有五にして学を志す……」

 指南しているのは艦娘の薩摩。一見若いが、その中身は何歳生きているのか分からない、謎の多い人物である。何しろNINJA提督の師匠であり、里の長老なのだから。

 幼い娘は高千穂。本当の名は小扶桑なのだが、普段は高千穂を名乗っている。この鎮守府の長官・NINJA提督と航空戦艦・扶桑の間での「共同建設」で生まれた娘である。なぜ、高千穂と名乗っているのか、そして、「共同建設」とは何かについては後で述べる。

 薩摩はふと、この幼子の顔を見ているうちに、この子が生まれた日のことを思い出していた。

 かつて、ある島にいたときの話である。

 

 まず、一つ補足しておく必要があるだろう。どうして艦娘になるのかという問題である。それにはいくつかのパターンがある。

 第一に、人間を依代にして船霊を下すというもの。NINJA鎮守府のメインメンバーは大抵これである。人間としての記憶や経験、能力といったものと船霊の「記憶」と能力が組み合わされ、増幅される。割と手っ取り早く、また、依代との相性次第だが船霊が暴走しにくく、安全である。ただ、艦娘としての力を生かすためにも艤装の調達が必要となる。

 第二に船霊そのものの具現化。つまり、魂(こん)たる船霊に肉体の元となる魄(ぱく)を付け加え、艦娘にするという方法である。最初からその船霊にあった艤装もついていて、資源の消費はゼロである。が、船霊だけでは不安定になりやすいのか、船に宿っていた怒り・嘆き・怨念などの特にネガティブな感情が暴走し、深海棲艦になってしまうことも珍しくない。こんな場合は、艦娘たちによる戦いで、魂を鎮めることが必要となる。

 これが主な艦娘誕生の仕組みなのだが、実を言えば他の方法もある。それが「結縁(けちえん)」とよばれる方法である。これは船霊を具現化する際に提督とケッコンカッコカリした一人の艦娘の魂魄の一部を取り混ぜるものだが、やり方は鎮守府ごとにいろいろとあるようだ。依代がいらないのに提督と艦娘の魂魄が混ざるせいか、安定度はバツグン。そして、新たに生まれた娘は、提督と艦娘との間に「魂の親子」とでも呼べる関係を取り結ぶことになる。

 さて、話を戻す。「魂の親子」とでも呼ぶべき艦娘を生み出す「結縁」。NINJA提督を含めて一同、興味は深々だった。しかし、AL/MI作戦をはじめとしていろいろとあったせいか、しばらくは落ち着いていた。が、それらも一段落。そうなると、誰が「結縁」の対象となるのか。みんなが落ち着かなくなるのも当然だったのかもしれない。

 

 このときのNINJA鎮守府一行はどうしていたかというと……。

 まずは扶桑。

 (やっぱり、最初は私なのかしら……。別にいかがわしいことじゃないのに、なんだろ。やっぱり恥ずかしいわ……)

 と、最初のお相手の予感にただただ恥ずかしそうにしていた。で、妹はというと。

  (ううう……きっと、最初の共同建造は姉様よね……。姉様が遠くなりそう……。共同建造は何とか引き伸ばさないと。あ、でも、これじゃダメか。兄さんとの共同建設、絶対に阻止しなきゃ……。でも、そしたら今度は私? それも困るわ……。あああ……。神様、私はどうしたらいいの!?)

 と、まあ、こんな様子。一番悶々としていたのが山城だったのかもしれない。

 最年少の吹雪はこんな感じ。

 (私、まだ先よね……。はぁ……。私も共同建造したいなぁ)

 最初からあきらめモード。この鎮守府では、致し方ないことだろう。同じような心境だったのが千歳であった。

 (まぁ、最初は扶桑・山城に譲るとして……。これは仕方ないからね。)

 艦これ本編にはまだ登場していない、アイオワはというと。

 (私も早く実装してくれないかしら……。ナイスバディで悩殺確定なんだけどなぁ……)

 そわそわ悶々ガッカリと、何とも落ち着かない様子の一行に大ボスの薩摩は面白半分・呆れ半分で見ているのであった。

 (全く、こやつらは……。ま、年頃の娘じゃから当然と言えば当然じゃな。こやつらの騒動、『森伊蔵』でも飲みながら楽しませてもらうかの。)

 さて。面倒くさい……もとい、厄介なのは扶桑姉様・山城姫様とNINJA提督の微妙すぎる関係である。

 山城とNINJA提督の「姉様Love」だけなら、まだしも、最早「ケンカップル」と評されるほどのドツキ漫才……ではなく、扶桑姉様を巡る闘争(という名のじゃれ合い)を繰り広げる山城とNINJA提督。よくあるラブコメ的展開に、筆者も「あれ、どっちとケッコンカッコカリしたっけ?(A.両方)」と、時折自問自答することがある。

 

 こんなじれったい状況に、先に手を打ったのは、NINJA提督の方だった。扶桑姉様を連れて、富幸神社本殿に入ると、さっさと封印。外部からの侵入を阻止したのであった。

「あのう……姉様……」

「は、はいっ!?」

「まどろっこしいことは抜きにして。共同建造、お願いいたす!!」

「……はい。喜んで……」

 扶桑姉様がはにかむ。

 

 一方その頃。山城は姉がどこかに行ってしまったことにようやく気付いた。

「姉様……。姉様! どこですか?……しまった!! 提督に先を越されたわ!!」

 おっとり刀で、手には大村正を持って富幸神社の境内を走る山城。そこにNINJA提督の指令を受けて、山城の行動を阻止するために派遣された下忍と指揮を執る中忍たちが立ちはだかる。

「山城様、お引きくだされ。これは提督殿の指令でございまする」

「あなたたちこそ、黙りなさい! これは姉様と私と兄さんの問題よ! あなたたちがしゃしゃり出ることじゃないわ!」

「……山城様、どうしても退いては下さりませんか」

「当然。というか、あなたたちの方こそ下がりなさい!!」

「……致し方あるまい。山城様には暫く、寝ていただくことにいたそう」

「私が、今、艤装をつけていないからって、侮っているわね……」

「いえ。侮ってはおりませぬ。拙者らも山城様のお力は十分承知。我ら全員でかかっても足止めになるか分かりませぬ。しかし、これも任務なれば……! 皆、かかれ!! 山城様のお体に傷をつけぬよう、お引き取り願え!!」

 中忍の指示を受けて、下忍たちが山城を捕縛、または麻痺させるための道具を手に襲い掛かる。が……

「大村正……この人たちも別に恨みがあるわけじゃないから、怪我をさせちゃだめよ」

 大村正が山城の言葉に反応するように鈍く光る。

「山城、参る!!」

 山城が大村正をふるう。下忍たちに直接切りかかったわけではない。が、大村正から放たれた強烈な気が、襲い掛かった者たちを一撃でノックアウトしてしまった。

下忍たちがあっさりノックアウトされると、今度は中忍たちが指揮を執るのをやめて山城に飛びかかる。

「あなたたち……邪魔!」

 中忍達の攻撃を紙一重でかわしつつ、山城は大村正の峰で一人一人を確実に叩きのめしていく。やがて、山城を阻止しようとする下忍・中忍は全員、地の上でのびていた。忍びたちが全員気絶したのを確認すると、山城は再び本殿へと駆けていった。

 だが、山城は妙なことに気が付いた。艦娘たちが手を出してこないのだ。本気で山城の動きを阻止しようとするなら、大和・武蔵に一航戦・二航戦を武装させればいい。あるいは、薩摩が出てくれば山城にはどうすることもできなかっただろう。前者なら艦娘としての能力で、後者なら素の身体能力でかなわない。なのに、先ほどの忍群以外に誰一人、出てこないのである。

「ああ……そういうことか……」

 山城の表情に諦めの色が浮かぶ。しかし、だまって、認めるわけにはいかない。これが山城の意地であった。

 山城は本殿の階段を駆け上がり、本殿奥の扉の前に立った。手を添えて開けようとする。が、呪術で封印された扉は開かない。山城は扉から一歩引いて、大村正を振りかざす。そして、渾身の気を込めて扉を十文字に切り裂く。扉にかけられた封印の術は大したものではなかったらしく、大村正の一閃であっさりと破られた。

「や、山城!」

 崩壊する神殿の扉に驚く扶桑姉様。一方のNINJA提督はこの展開を読んでいたようだった。佩刀の村正の柄に早くも手をやる。

「ふっ……姫様。やっぱり来たな」

「当然! 姉様との共同建造……阻止しに来たわ!」

 山城が大村正を構える。それに合わせるようにNINJA提督も柄に手をかけた村正を鞘から抜く。

「山城、やめなさいっ! 提督も山城に手を出しちゃダメっ!!」

 扶桑姉様が珍しく声を荒げて妹と提督を止めようとする。

「姉様……。ごめんなさい……。それはできないわ」

「姉様、すまない。拙者もそれはできないな」

 二人は抜身の佩刀を構えつつジリジリと互いの距離を読み合う。そして、ほぼ同時に両者が互いの間合いに入った。刹那。村正と大村正が振りぬかれる。

「いやぁぁぁぁぁ! やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 かきぃぃぃぃぃぃん!

 NINJA提督の村正と山城の大村正が激しくぶつかる。その瞬間、刃と刃が重なり合ったところから激しい光が放たれる。余りに強い光に扶桑は思わず目を閉じた。そして、扶桑が目を開けると、一瞬、己の目を疑った。二人が手にしていた村正と大村正両方が砕け、その欠片があたりに散らばっていたのだった。

「大村正が、砕けちゃったわね……提督。こうなったら、拳で勝負よ!」

「のぞむところ!」

 二人が刀の柄を床に投げ捨てる。そして、山城の右手が提督の頬を、NINJA提督の右手が山城の腹部を狙って繰り出される。

 どごぉっっっっっ!!!!

 いち早く、ターゲットを捉えたのは山城の拳の方だった。左の頬を全力で殴られたNINJA提督は床に投げ出され、倒れこむ。山城はすかさずマウントポジションを取ると、提督の両頬を交互に全力で殴った。

「提督の、兄さんの、ばっきゃろーーーーーーー!!」

 山城は何時しか泣いていた。泣きながら、何度も、何度もNINJA提督の顔を殴りつけた。

「うわぁぁぁぁぁん!」

 山城の殴る手はいつしか止まり、只々提督の体の上で号泣するだけになった。

「山城……もうそんなに泣かないで……」

 扶桑は山城をそっと後ろから抱きしめる。扶桑もここで、全てを理解した。山城とNINJA提督との間の複雑な感情を払拭するために山城にひとしきり暴れさせる……。後腐れなく、最初の共同建造を進めるための「儀式」だったのだ。

「姉様……ねえさまぁ……」

 山城の号泣はやがて、嗚咽に変わっていった。 山城はまだしばらく嗚咽していた。しかし、涙を袖で拭くと、提督の体から離れた。扶桑が提督を助け起こす。

「提督、姉様との共同建造……必ず成功させなさいよ……」

 山城はそうつぶやくと、くるりと踵を返し、神社本殿の奥から出ていった。

「あいたたた……姫様、全力で殴りすぎでござるよ」

 扶桑が冷水でぬらしたタオルでNINJA提督の頬を冷やした。

「姉様、有難う」

「こちらこそ……。山城の気持ちを晴らすためにわざとこんなに殴られたんですから……」「はて? 何のことでござるかな。単に拙者が修行不足だった。ただそれだけでござるよ」

「ふふふ。そういうことにしてあげますね……。さ、共同建造、始めましょうか……。あんまり遅くなると、薩摩様が寝落ちしちゃいますよ……」

「左様でござるな……。薩摩様、そろそろおいで下され!」

 どんでん返しの扉が回転する。そこには巫女装束の薩摩が立っていた。

「全く、お主ら三人、難儀な奴らじゃな。まぁ、よい。始めるぞえ」

 扶桑とNINJA提督が互いの手を取り合う。二人の横で、薩摩が祝詞奏上を行う。そして。祝詞が終わるとともにNINJA提督と扶桑の体が光に包まれる。二人を包んだ光はやがて、離れていき、あっという間に建造ドックへと飛び込んでいった。すぐさま、建造ドックのタイマーが作動する。そこに表示された時間は……

4:20:00

 

 ドックに待機していた明石から、建造タイマーが作動したことが神社にいた三人に知らされる。

「ふう。儂も共同建造の呪なぞ初めてじゃったから、上手くいくかヒヤヒヤしたぞえ。とまれ、後は朝を迎えるだけじゃな。主らも偶には山城に邪魔されず、二人仲良く休むといいぞえ」

 薩摩がニヤリと笑う。NINJA提督と扶桑はただ赤面するしかなかった。

 夜が明けた。建造ドックの前ではNINJA提督と扶桑、吹雪、千歳、薩摩が集まっていた(そして、やや離れて、こっそりと山城もついてきた)。

 

0:00:00

 建造タイマーが0になり、NINJA提督がドック開門ボタンを押す。重々しくドックの扉が開いた。そして、その奥から、髪の長い、幼い少女――その娘は扶桑をそのまま幼くしたようだった――が現れた。

「初めまして……父上、母上、おばあ様、姉様方。私、扶桑型戦艦・小扶桑です。」

 小扶桑と名乗った艦娘が一礼する。

「小扶桑……よく来てくれたわね」

 扶桑が微笑して、新たに生まれた魂の娘を抱き上げる。

「よくぞ……参った」

 NINJA提督が小扶桑の頭を撫でる。

「ほんに、扶桑の幼いころによう似ておるわ」

「そうそう! 扶桑の小っちゃい頃って、こんな感じでしたよね」

千歳も同意する。

「へえー、扶桑さんも小さい頃はこんな感じだったんですね! 可愛いー」

 薩摩が少し思案する。

「ふむ。小扶桑という名も良いが、少々言いにくいのう。どうじゃ。普段は『高千穂』と名乗ってみぬか」

「高千穂……良い名ですね。おばあ様、有難うございます。これからはその名を名乗らせていただきます」

「そうかそうか。よいぞよいぞ。……ああ、それと、儂は『おばあ様』というのがのう……」

「わかりました。では、私も姉様方のように薩摩様と呼ばせていただきます」

「うむ。そう呼ぶがよいぞ」

「さて、まだ朝が早いゆえ、提督方へのご挨拶は後ほどでよかろう。小扶桑……いや、高千穂よ。しばらくはゆるりとするがよかろう」

「父上、かしこまりました。」

「あ……母上、まだ、ご挨拶していない方が……」

「そうね……高千穂、山城のところに行ってあげて」

 扶桑が高千穂を地面に降ろす。高千穂は一行の後ろに隠れていた山城のもとにトテトテと駆けよる。そして、一礼。

「山城姉様。初めまして。高千穂です」

「……た、高千穂ー!!」

 山城も扶桑と同じように高千穂を抱きかかえると、一点の曇りもない、満面の笑顔で高千穂に頬すりをした。

「高千穂、これから、よろしくね!」

「はい! 山城姉様!」

 高千穂も魂の両親たちに向けたのと同じ笑顔で返答する。

 境内には秋風が吹いていた。その風は爽やかで、天高く舞い上がるようだった。新たに生まれた命により一層の幸福が訪れてほしい。NINJA提督たちは風にその願いを乗せるのであった。

 

 「薩摩様?」高千穂が声をかける。「為政編、読み終わりました」

 薩摩はハッとすると、ややあって苦笑する。

 「いかんいかん……年を取ると、ボーっとしてしまうことが多いからのう」

 「薩摩様、ご自分で『年を取った』なんて言っては……」

 「ははははは。そうじゃな。さて、高千穂よ。もうしばし、素読をつつけるぞえ。次は里仁編にいくかの」

 「はい」

 次の共同建造に好い吉日も近づいていた。薩摩は次はどんな騒ぎが起こることやらと、年甲斐もなく期待している。

 今度の相手となる艦娘は、案外に初心である。少々、危なっかしいほど。多分、平穏無事に終わるということは無かろう。そしたら……と何やら考えている薩摩であった。

(第二話・了)



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第三話 薩摩様のお祓い

 ようやく梅雨の長雨が終わろうとし、夏本番らしい暑さと陽射し、青空が富幸神社の境内にもやってきた。

 久々に顔を出した太陽がまもなく西に沈もうとする時分、NINJA提督は悩んでいた。

 どうも最近、ツキに恵まれないのである。先日のリランカ島攻略戦では道中の空母や戦艦に易々と扶桑姉妹や大鳳が大破させられ、何とか港湾棲姫の所にたどり着いても妖怪12足りないが出たり、夜戦メンバーだけがこぞって中大破させられたりと、大苦戦を強いられた。カスガダマでも火力不足で戦術的敗北を喫するわ、猫が出るわと三度も挑戦する有様。さらに礼号作戦でも、いつもは一度の出撃で終わるのが、4度出撃して4度とも大破撤退。新しく深海棲艦の存在が確認された中部海域へ水上機母艦・千代田たちを航空偵察に出撃させても肝心の敵旗艦を撃破できずにいる。暁たちの新任務は言うまでもない。軽空母に大破させられる、輪形陣の重巡の連撃で大破する、羅針盤はいつまでたっても南を指さないと、20回出撃して1度も主力艦隊に遭遇していないのである。

 社務所内の指令室で、扶桑と吹雪を前にここの所の戦果報告書一覧と資源収支表を見て頭を抱えるNINJA提督であった。

「うーん……この大苦戦ぶりは何だろうな……。おかげで、資源も高速修復材の増加ペースもかなり鈍っているしな……」

「ごめんなさい、提督……。油断したわけじゃないんだけど……」

 艦娘筆頭総代でもある扶桑が申し訳なさそうに言う。

「駆逐艦のみんなの戦意高揚もしているんですが……」

 礼号作戦の旗艦を務める吹雪もばつが悪そうだ。

「いや、姉様や吹雪のせいじゃないさ。しかしなぁ……これから大本営から大規模作戦の要綱が届くだろう。そっちにも備えないとならないから、ここで足止めを食らっているわけにもいかんしなぁ」

 NINJA提督が、頬杖を突き、右手の人差し指で机をこつこつと叩き、つぶやく。扶桑・吹雪もどうしたものかと思案顔でいると、扉がバァンと大きな音を立てて開く。

「ふっ……ここは儂が一肌脱がねばなるまいて」

「さ、薩摩様!?」

 戸の口にもたれかかり、秋雲顔負けのドヤ顔で立っていたのは薩摩だった。

「ここまでロクなことがないというのは、何かの祟りか呪いじゃろう。儂が気合! 入れて! 厄払いをして進ぜようぞ」

「薩摩様が厄払い……ですか?」

扶桑が小首をかしげる。

「うむ。占術や祓いは自分で自分にやっても効果はないからのう。代わりに儂がやってやろうというわけじゃ」

「……薩摩様が気合を入れて厄払いなぞした日には、妖気と霊力と精気をすっかり消耗して座敷童の干物に……ぶけらっ!?」

 

 薩摩は座っていたNINJA提督の頭をむんずと鷲掴みにして、強引に起立させると、拳を提督のみぞおちに勢いよく食い込ませた。

「失礼な奴じゃ。折角、不肖の弟子と可愛い扶桑たちのために力を貸してやろうというに」

 薩摩の強烈な一撃で床へ倒れこみ、死にかけたエビのように、くの字に折れ曲がってぴくぴくとしているNINJA提督を横目に薩摩がわざとらしく嘆息する。

「私の巫女服装甲も何度も破かされました……改二装甲で強化されているのに……」

「そういえば、この前のリランカ島沖じゃ、凄い格好になっていましたよね。無傷のはずの山城さんが血塗れになっていたのは不思議でしたけど」

「山城のは、鼻血よ。いつもの……」

「ああ……。やっぱり。あの時の扶桑さん、ほぼ裸でしたね……」

「……あんなことが続くと恥ずかしいわ。やっぱりお祓いしてもらった方がいいわね。薩摩様、お手を煩わせますけど、お願いします……」

「ですね。このまま、悪運にまとわりつかれると夏の大規模作戦にも支障が出るでしょうし。薩摩様、よろしくお願いします!」

 二人の言葉に薩摩が莞爾と笑む。

「そうかそうか。好いぞ、二人とも。では、儂は祭礼の準備に取り掛かろうかの」

 そういうと、薩摩はささっと、本殿の方に向かった。一方、みぞおちに鋭い一撃を食らった提督はというと、水揚げされた鯖のように口をパクパクさせてつぶやいた。

「い、嫌な予感しかしない……。ふ、不幸だ……」

「提督、山城の台詞を取っちゃダメですよ……」

「そういう話じゃないと思う……がくっ」

 

「あのう……薩摩様……そのお姿は……?」

 扶桑が問いかける。

 ここは富幸神社本殿。お祓いのためにNINJA提督をはじめ、富幸神社の主要メンバーが集められた。そして、祭壇の前に立っているのが、巫女服に着替えた薩摩。しかし、いつもと様子が異なる。顔の上半分が隠れるような面をかぶり、鎧の一部を巫女服の上に装着している。面は般若であり、非常におどろおどろしい。加えて、般若面は五徳にくっついている。頭に五徳をかぶるというのは、鬼になるということでもあり、本来なら丑の刻参りのように呪うときのスタイルである。厄払いにするようなものではない。本来は巫女である扶桑が強い違和感を持つのも当然だ。

「ふむ。此度は強い力を持った悪鬼が鎮守府全体に憑りついておるようでのう。普通の姿では払えぬゆえ、悪鬼をも上回る姿にせねばならぬのじゃ」

「はぁ……(そんなのどこから持ってきたのかしら)」と扶桑。

「(何だか背中がぞわぞわするわ……悪いことが起きなきゃいいけど)」と山城。

「(そのお姿怖すぎです、薩摩様。かえって変なものを呼び込むんじゃ……)」と吹雪。

「(薩摩様のお祓いって、あんまりいいことが起きたためしがないのよね)」と千歳。

「(あー……これはますます嫌な予感しかしない)」とNINJA提督。

「(オババ様……皆さん、不安そうな顔しかしていませんよ……まさか、騒動になることを楽しいでいるわけじゃないですよね)」と高千穂。

 要するに、薩摩の妙な気合の入り方に嫁艦一同並びにNINJA提督・高千穂そろって、ロクなことにならなそうな予感がしているのである。そんな一同の不安をよそに薩摩が儀式を始める。

「では、厄払いの儀を始める……。はりゃ!」

 奇声を上げて御幣を振る。

「天にましますが我らが父よ。願わくは御名をあがめさせたまえ、御国を来らせたまえ……」

「それ、主の祈り……。神社の祈祷文じゃない……」

 一応、宮司のNINJA提督が小声で突っ込む。

「あー! ほー! やーーー!! ズンガリガリガリズンガリガーリ……」

 黄色い和服のオジサンがよくやる雨乞いの祈祷に、なぜか頭の中で反芻される、学校で習った謎の歌まで混ざって、最早何なのかわからない。だが。薩摩の妙な祈祷に何かが呼応し始めた。 本殿に祀られた鏡が鈍く光り出す。

 

 だが、鏡が突然、毒々しい青紫色に変色したかと思うと、禍々しい暗色が渦を巻き始める。そして、渦の中心から金色の衣をまとった、ウェーブのかかったロングヘアの女がゲートから飛び出してきた。

「カツヨ! カツヲアゲルノヨ!!」

 雄たけびを上げる女。

 さらに渦からはフライやカツのコロモに覆われた駆逐イ・ロ・ハ級らしきものまでわらわらと現れはじめた。

「トンカツガ! エビカツガ! ワタシヲヨンデイルワ!!」

 そう叫びながら、女は神社内の供物を手当たり次第に揚げ物に変えていく。魚介類はアツアツのフライになってもいいのだが、リンゴや大根までフライにするのはいただけない。

「な、何なんだこれは……」

 NINJA提督が呆然として、呟く。敵か味方か、はたまた、タダのはた迷惑な変人か。

「アナタタチモアツイアツイアブラノウミヘシズムノヨ!!」

 一通り、供物を揚げ物に変えた女が、その血走った眼を富幸神社の艦娘たちに向ける。

「うっ! これは!」と千歳。

「知っているの、千歳」とは扶桑。

「これは……伝説の姫クラス――火津棲姫よ!」

~火津棲姫~

 金色の衣をまとう姫クラスの深海棲艦。深海棲艦は怨念や執念などが凝り固まったものと言われるが、火津棲姫は揚げ物への執着によるとされる。

 サクサクで香ばしい衣による強靭な装甲によって、魚雷も三式弾も通用しない最強クラスの棲姫。だが、水気に非常に弱く、特に出汁と卵とタマネギにさらされると体を守る衣がしなしなになってしまい、急に弱体化して、食べごろ(意味深?)になるという研究報告がなされている。だが、地方によっては、ウスターソースもしくはデミグラスソースで弱体化するという報告もあり、更なる検証が待たれている。

出典:『深海棲艦の生態研究――その生成と進化についての最新見地』(2015年 民明書房 尾宮好子著)p.80

 

「そして……取り巻きは、friedshipのようね」

~friedship~

 駆逐イ・ロ・ハ級flagshipが更なる進化を遂げた姿とされる。

 新鮮な駆逐イ・ロ・ハ級をさっと油にくぐらせるとflagship以上の金色の輝きを持ち、さらにサクサクの衣が防御力を一層増すという。そのため、夜戦火力最大の雷巡の連撃でも仕留めきれないことが多い。

 しかし、火津棲姫と似て、タルタルソースやサルサソースなどに弱いという報告が多数寄せられており、今後の観察に注目が集まっている。

出典:前掲書p.46

 

「このまま、火津棲姫を放っておくと、世界は油の海に沈み、全て揚げ物になってしまうわ!」

「な、なんだってーーーーーー!!」

 千歳の言に某MMRばりの驚き方をする富幸神社一同。千歳がタブレット端末を取り出して説明を続ける。

「現に、中破して_(:3」∠)_になった天城さんが、火津棲姫の手で油に……」

「なんて恐ろしい……」「あ、油の中に入れられるの……不幸だわ……」

 千歳が指し示したツイッターを見て、怯える艦娘たち。筆者的には、深海棲艦が登場しているのによくそんな余裕があるな、とツッコみたいところであるが。

 そうこうしているうちに、魔界のゲートと化した(?)鏡からは次々と駆逐イ級friedshipがぴちぴちと出てきて、フライになった供物をもしゃもしゃと食べていく。

「このまま、放っておくわけにはいかないわね……」

「せ、世界を油まみれてするなんて、深海棲艦が許しても、この吹雪が許しませんっ!!」

いつの間にか艤装を身につけた扶桑姉様と吹雪が鏡に砲を向ける。

「主砲、副砲……撃てっ!!」

「こらーーーっ!! 神社内で発砲するな!!」

 一応、宮司のNINJA提督が慌てて制止する。

「でも、このままにしていたら、扶桑さんも山城さんも、みんなカツになってしまうんですよ!? 天城さんの悲劇を繰り返すわけにはいかないんですっ!!」

「というか、何で艦娘がカツになるんだよ?」

 吹雪よ。間違いなく、提督のツッコミの方が正しいぞ。しかし、そんなことにはお構いなしに砲撃を開始する一同。千歳も友長隊に江草隊を発艦させる。

 度重なる砲撃と空爆によって、鏡などひとたまりもなく破壊される……はずだった。しかし、鏡は見えない力で全ての攻撃をはじいていた。

「そ、そんな……」

 艦娘たちの攻撃にびくともしない鏡。『艦これ』主人公の吹雪と富幸神社シリーズのメインヒロイン・扶桑姉様ががっくりと膝をつく。

「このままじゃ……山城も、高千穂も油の中に……」

 絶望にかられる一同。そんな彼女らを尻目に色々な揚げ物を作り出していく火津棲姫。だが、声高らかに皆を叱咤する艦娘が一人。薩摩だ。

「諦めるでないぞ!!」

「薩摩様……」

「鏡を狙うのではない! 火津棲姫を狙うのじゃ! さすれば、ゲートなどたやすく破壊できようぞ!」

扶桑がハッとする。

「そうか……! 私たちは目の前の鏡に気を取られ過ぎていたのね……」

「さすが、薩摩様です!!」

 吹雪が素直に感嘆する。

「ふっ……『艦娘これくしょん』アニメの最終回がヒントになったのじゃよ」

 もっとも、NINJA提督は、この騒ぎのきっかけはそもそも薩摩の怪しいお祓い(のようなもの)だろと、虚ろで諦めの色しかない目で見ていたのだが。

「そういうわけで、吹雪よ! 火津棲姫に一撃を食らわせるのじゃ!」

「はいっ!!」

 吹雪が火津棲姫にむけて、両の太ももに装着されたありったけの酸素魚雷を放つ。海面じゃないのにどうして魚雷が打てるんだというツッコミは野暮なので止めておく。魚雷は狙い過たず、棲姫に向かい、すべて命中し、大爆発する。火津棲姫がまとう金色の衣にヒビが入った。

 そこから数条の赤い光がほとばしる。そして。

「ウオーーーーーーーン……」

 断末魔の悲鳴が上がる。火津棲姫の身体は崩れ、板敷きの中に沈もうとしていた。

「今じゃ!! 戦艦は鏡に一斉射撃を!!」

「砲撃戦用意……てーーーーーーーー!!」

 扶桑の号令にしたがって、本殿に集まっていた全ての戦艦が鏡に巨砲の照準を向け、発砲する。それまで、何をしても再生し続けていた鏡はあっさりとヒビが入る。そして、ヒビからは火津棲姫の身体から放たれていたのと同じ赤い光が放たれる。真紅の光はますます増え、神社の本殿内を照らす。その眩しさと禍々しさに、一同が目を覆う。

 どぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんんん

 光の大爆発。目を閉じていても、まぶた越しに光を感じる。だが、それも一瞬のことで、あっという間に薄暗い本殿に戻る。

 光の消えた本殿の床には、只一枚のトンカツが所在なさそうに置かれているだけだt

 

「ちょっと、勝手に殺さないでよ!」

 大破状態で半裸となり、セクシーな肩が特に色っぽい、艦娘が抗議の声を上げる。足柄だ。

「足柄さん!? 何でこんなことに……」

 扶桑が近寄る。

「提督は、見ちゃダメですぅ!」と吹雪。早くも視線が足柄のセクシーすぎる肩と胸元に行っているNINJA提督の目を手で覆う。

「ううん。何かね、厨でトンカツを揚げていたら、変な声がして。で、何だろって思って声のする方に近づいたのよ。そしたら、なんでもカツにしてもいいみたいで、色々揚げて行ったら楽しくなっちゃって……」

「その声ってなんだったのかしら」と、千歳が怪訝な顔で聞く。

「それがね。『私の可愛い狼よ、目覚めよ。今がその時。筆者が富幸神社シリーズの続きを書く気になった今、レギュラーメンバーに入るには一騒動おこすのが一番。どっかんどっかん、やらかして、場を沸かせば、一気に富幸神社シリーズの仲間入りを果たせよう……』って声だったわね」

「……」

 嫁艦一同並びに、薩摩・アイオワ・高千穂がもくもくと神社の片づけを始めた。

 神社を夜の闇が覆っている。久々の晴れ間のおかげで、夜になっても蒸し暑い。今夜は熱帯夜になりそうだ。なのに、この寒さは何だろう。真冬にパンイチで立たされたようだ。

 闇夜に一羽のカラスが「あほー」と鳴いて、何処とも知れずに飛び立っていった。

(第三話 了)



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