俺、ハンター辞めて婚活したかった。 (ラスト・ダンサー)
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20代後半、若いのか否か

勢いで書いたネタ作品。
過度な期待はせずにご覧ください。


──突然だが、俺はハンターである。

 

ガキの時からハンターに憧れていた俺は、13歳の時に偶然住んでいた村を訪れたハンター──後の師匠に弟子入りし、2年かけてやっとこさ師匠に太鼓判を貰って正式にハンターとなった。

それから地道にランクを上げていき、3年後には上位ハンターに、その更に5年後にはG級ハンターにと、通常のハンターと比べると破竹の勢いで狩人の道を駆け抜けて行った。

あの頃はまだ見ぬ秘境や、未知のモンスター、大自然の神秘に俺は魅せられていた。

この世界の何もかもが輝いて見えていた。

人よりも遥かに巨大なモンスターとの戦いに熱く燃えたぎっていた。

そう──あの頃は。

 

 

 

今はハンターを続けることが苦痛になっていた。

 

 

 

切っ掛けは一通の手紙だった。

故郷の幼馴染みが嫁さんを貰って結婚するとのことで、是非お前も出席してくれと招待状が同封されていた。

ここしばらく故郷の村には帰っていなかったのもあって、結婚式に参加するついでにたまには親に顔を見せようと帰郷した。

 

ガキの頃に泥塗れになって遊んだ親友が花嫁衣装に身を包んだ美人の嫁さんと並んでいるのを見て、ふと思ったのだ。

青春時代など血と汗に満ちたハンターライフに捧げたのでまともに恋愛をしたこともなかった。

女に縁がないわけではなかったが、会うヤツは大体下手な男よりも漢らしい漢女(おとめ)しかいなかった。

ハンターになったことで普通に暮らしていれば手に入らないような大金を手にし、人々にはいつもありがとうと感謝され、確かに豊かな生活を送っていた。

だが、結婚とは無縁だった。

 

俺も今年で27歳。

四捨五入すれば30代、所謂オッサンと呼ばれる世代に突入してしまう────童貞のまま。

あと3年もすれば魔法使いになってしまうではないか。

トドメに親の「お前もいい人はいないのか?」や「孫の顔はいつ見れるんだろうねぇ」というはよ結婚しろやというお言葉を頂戴し、俺は若干実家に居辛くなり、予定を早めてそそくさと拠点のあるドンドルマへと逃げ帰るようにして戻ってきた。

それからはハンターとしての生活に魅力を感じられなくなり、何をしても満たされることがない虚ろな日々を過ごした。

 

このままではダメだと思った俺は寝食も忘れて三日三晩悩んだ末に、ある決意をする。

 

 

 

俺、ハンター辞めて婚活するわ。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「すいません、よく聞き取れなかったのでもう一度お願いできます?」

 

「イヤ、だからハンター辞めようと思うんだ俺」

 

「はああああああっ!?」

 

受付嬢がタダでさえ騒がしい集会所で叫ぶ。

突然騒ぎだした受付嬢に一瞬視線が集まるが、ここでは珍しいことではないので、各々自分達の自慢話やら愚痴に戻っていった。

 

「と、突然どうしたんですか!?何か未知の病にかかったとか、ハンター生命を絶たれるような怪我を負ったとかですか!?」

 

「何処からどう見ても健康体だろうが」

 

「じゃあなんで!?」

 

「いやぁ、なんかこう、もうハンター辞めようかなー、と思って」

 

言えない、魔法使いになる前に結婚して童貞卒業したいとか公衆の面前で絶対に言えない。

恥ずかし過ぎて死んでしまう。

 

「そんなふわっとした理由で辞めようとしてたんですか!?」

 

「まぁ、そんなことは置いといて、どうやったらハンター辞められんの?」

 

「ちょっ!?貴方自分がどれだけこのギルドに貢献してるのか分かってます!?人間最終兵器とか呼ばれてる貴方が辞めたらどれだけの損害が発生すると思ってるんですか!?」

 

「えっ、なにその痛いアダ名。初耳なんだけど」

 

「ともかく!!いきなり辞めるとかそういうのは無理です!!そもそも私では判断しかねます!!」

 

「あー、じゃあ大長老に直談判してくるわ。トップに聞けば分かるだろ。というわけで大老殿行ってくる」

 

「あ!ちょっと待って!?待ってくださーい!?」

 

そんなこんなで大老殿の階段を三段飛ばしでかけ登り、大長老とご対面。

事のあらましを大長老に伝えると……。

 

「それは勘弁してくれぬかのう」

 

「えぇー」

 

「オヌシは文字通り、ドンドルマを守る堅き盾にして最強の矛でもある。ただでさえ度重なる古龍の襲撃でドンドルマの復興費が嵩んどるというのに今オヌシに抜けられると非常に厳しい。防衛面でも財政面でも」

 

「別に他のハンターを雇えば良いんじゃねぇの?」

 

「オヌシクラスのハンターは皆他の町や村付きの専属ハンターになってしまっとるし、早々簡単に人員の補充を行うのは難しいのだ」

 

そんな諸々の大人の事情で、辞めるのは実質不可能だということが分かった。

ならせめてもの抵抗として、しばらくは緊急クエスト以外は受けないという条件を大長老に認めさせたので、ひとまずは婚活に集中させてもらおう。

さて、何処かに出来れば美人で気立ての良いお嫁さんは転がっていないものか。

まあ、そんな都合の良いことあるわけないか。

まずは地道に出会いを求めて旅でもしようか。

そう思って大老殿の階段を降りていくと、何やら守護兵が誰かと揉めている声が聞こえてきた。

守護兵のランスを押し退けようとしているのは……あれ受付嬢何でここに居んの?

 

「離してください!!あの人を追いかけないと!!」

 

「だからこの先は許可のない者を入れるわけにはいかんのだ!!」

守護兵と訳の判らない押し問答を繰り返す受付嬢に呆れながらも、止めないわけにはいかんだろうと声をかける。

 

「……なにやってんのお前」

 

「あ!どうだったんですか!?まさか本当に辞めちゃうんですか!?」

 

「いーや、辞めるのは勘弁してくれってさ。代わりにしばらくは緊急クエスト以外は受けないってことにしてもらった。半開店休業状態みたいなもんかな」

 

「よかったぁ……」

 

へなへな、と膝を折ってその場にへたり込む受付嬢。

そんなに俺に辞められるとマズイのか。

意外と俺って影響力あったんだなぁ、と今更ながら思う。

そういうのは全く関心がなかったからな。

早く仕事に戻れよー、と受付嬢に一声かけてその場を後にする。

 

「……アレ?でも緊急クエスト以外は受けないということはあの人と会う機会が減るってことじゃあ……」

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

まずは旅の準備のために色々と必要なものを市場で買い揃え、ドンドルマの住宅地の端にある自宅へと帰ってきたわけなんだが、家の前に誰かが居る。

明らかに初心者ですと言わんばかりのレザーシリーズ装備を着込んだヤツが、そわそわしながら家の前をうろうろして誰かを待っているような素振りを見せている。

家の前を待ち合わせ場所に使うなよ、と思いつつスルーして家に入ろうとすると──

 

「ちょっとすみません!」

 

──レザー装備のヤツに阻まれた。

 

「なんだよ」

 

「貴方がこのドンドルマ最強のハンター、エイト・ハウンズですか」

 

「その仰々しい称号は知らんが確かに俺はエイト・ハウンズだが?」

 

そういうとソイツは目の前で90度腰を曲げて頭を下げた。

 

「貴方の弟子にしてください!!」

 

「…………」

 

近所迷惑な程の大声で叫ばれ、何故か今日はよく叫ばれるなとどうでも良いことを考えながら、然り気無く家のドアを開けて家に入り、ドアを閉めようとするとそれに気づいたレザー装備がドアの間に足を挟んで閉めるのを阻止してきやがった。

 

「何で無視するんですか!?」

 

「あー、さっきのは嘘。俺はエイト・ハウンズじゃなくてドーテ・イデスだ。エイト何てヤツは知らん。だからその足を退けろ」

 

「見え透いた嘘をつかないでください!!あと退きません!!」

 

「仮に俺がエイトだとして、弟子入りしてどうする気だ」

 

「私にハンターの修業をつけてください!!」

 

「無理。疲れた。面倒だ。帰れ」

 

「貴方が弟子入りを認めてくれるまで帰りません!!」

 

「…………」(無言で扉に力を込める)

 

「ぎゃあああ痛い痛い足がペチャンコになるうう!!」

 

格闘すること5分。

そろそろご近所からの視線が冷たくなってきたので仕方なく、本ッ当に仕方なくレザー装備を話だけは聞いてやると家に招き入れた。

 

「で?まず誰よお前」

 

「はい!リサ・グリーンフィールドと言います」

 

「グリーンフィールド?」

 

それは確か師匠の苗字じゃなかったか?

もしや、師匠の親戚か何かか?

そう思って目の前のリサとやらの親戚関係について思いを馳せていると、リサが思い出したとばかりにポーチから紙切れを取り出した。

 

「あ、そういえば叔父さんから会ったら渡せって言われていたものがありました」

 

それを受け取って見ると、どうやら俺宛の手紙らしい。

取り敢えず開いて中身を確認してみると、それは師匠からの手紙だった。

 

元気かな?我が弟子よ。お前が私の元を巣立ってから早いもので十数年。ハンターとしてすっかり有名になったようで私もお前の師匠として鼻が高いよ。さて唐突ですまないが、これを読んでいるということは私の姪がお前の目の前にいるだろう。見ての通り、姪はかけだしハンターだ。しかしその子は才能はあるものの少しばかり間が抜けていてね。見ていて少々、いやかなり危なっかしい。私も出来るならば自分で修業をつけてやりたかったのだが、知っての通りこんな体だ。だから代わりに、信頼のおける自分の弟子に預けてみようかと思ってね。お前も自分の弟子を持ってみても良い頃合いだろうし、お前への推薦状も兼ねてこの手紙を書いた。どうか私の姪に修業をつけてやってはくれないだろうか。頼んだぞ

 

師匠ォォォォーーッ!?

貴方の差し金ですか!!

何と間の悪い。

弟子の婚活を邪魔しないでもらえますか!?

絶対にコレ俺が師匠に弟子入りしたときの意趣返しだよコレ!!

弟子にしてもらうまで1週間付きまとったのそんなに根に持ってたんですかそうですか!?

 

「うわぁ……14年前の俺うわぁ……マジでなにしてんの……」

 

「どうでした?何て書いてありました?」

 

「……ウチの姪っ子よろしくだとさ」

 

「!じゃあじゃあもしかして……」

 

「叔父さんに感謝するんだな。あの人が俺の師匠じゃなかったら絶対に弟子には取らなかったが、師匠の頼みだ。今回は特別だ」

 

「本当に!?やったー!!これからよろしくお願いします師匠!!」

 

わーい、とはしゃぎ回るリサを喧しいと叩きのめして静かにさせ、急に疲れがどっと出た俺は自室に引っ込みベベッドに飛び込んだ。

 

俺、本当に結婚出来るのか不安になってきた。



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初の弟子、彼女は狩人か否か

あれ、評価バーがいつの間にか真っ赤になってる?
何故か一部の反響がスゴいぞ……?
というかお前ら息合いスギィ!!

よろしい、ならば第2話だ。


一念発起してハンター廃業の覚悟(辞めてないけど)をしてまで婚活に勤しもうとした矢先、師匠の姪を名乗るリサ・グリーンフィールドに師匠の推薦状というジョーカーを切られてしまい、渋々弟子にしたわけだがどうしたものか。

 

東方の衣装入れだというタンスから麻のシャツとズボンを引っ張りだし、インナーの上に着る。

部屋を出ると今度は寝癖でボサボサになった頭と、目ヤニと涎の跡でとても見れたもんじゃない顔を水瓶の水でどうにか整え、若干伸びていた髭をじょりじょりと剃り、取り敢えず人前に出られる程度に身嗜みを整えた。

 

金はあるのに感性が庶民的な俺は広い家に住み慣れておらず、未だに狭い家に住んでいる。

狭い寝室に狭い居間、狭い炊事場と部屋数はあるのだが如何せんどこも狭い。

個人的にはやたらと仕切りだけが多い欠陥住宅だと思っている。

何度壁を力任せにぶち壊そうと思ったことやら。

そのためアイルーキッチンなる便利な施設を設置するスペースがないため、ウチではキッチンアイルーを雇っていない。

まぁ、別に集会所に行けば食えるので問題ないのだが。

ちなみにオトモアイルーも雇っていない。

かけだしの頃は己の力のみで何処までやれるのかと我ながら中二病だったせいで、自分1人で立ち回る戦闘スタイルを確立してしまったため、他のハンターなら大丈夫なのだが、オトモアイルーだと踏み潰してしまいそうになったり、モンスターごと薙ぎ払いかけたりしてアイルーに申し訳ないという理由でウチにはあの愛くるしい見た目の獣人族は1匹もいない。

色々と脱線したがまぁ、そういうわけで朝飯は毎日自分で用意しなければならない。

 

すたすたと居間を通り抜けて炊事場へ向かおうとすると、レザー装備をわざわざ外してインナー姿で眠りこける俺の弟子になったらしいリサの姿があった。

すっかり忘れてた。

やや緑がかった黒髪をソファーに広げ、成長しかけなのかそれとももう育たないのか分からない微乳が見て取れるが別にインナー姿ごときでは何とも思わない。

女ハンターどもは普通に人前でインナー姿になるし、それで本当に防御できるのか不安になるほど露出する防具を着ていたりするしな。

キリン装備の娘はエロい。

異論は認める。

 

そういえばコイツ勝手に人の家で爆睡してやがるが何処に住むつもりなんだろうなと思いながら、床下の食料保管庫から一応2人分のパンとチーズ、干し肉を取り出した。

調理?

今日は面倒だからしないよ。

何でわざわざ弟子(自称)に師匠(他称)が飯をつくってやらなければならんのだ。

普通逆だろ。

主食以外全部保存食という食事だが、パンはヘブンブレッドだしチーズはロイヤルチーズ、干し肉もこの辺じゃ珍しいポポノタンの燻製だ。

そのままで十分いけるだろ。

全くクッキングしてない朝飯を居間に運ぶと、ようやく起きたのかリサが寝惚け面で呆けている。

物凄いアホな子に見える。

師匠、大変面倒なヤツを送りつけてきやがりましたね。

会って2日目でもう不安しかないんですが、リコールしちゃダメですか。

 

「ふぁ…………ふぇ?…………ファッ!?」

 

しばらく朝食を食いながら残念生物を眺めていると急に意識が覚醒したのか、槍使いのバックステップに勝るとも劣らない俊敏な動きで後退った。

 

「え!?何!?ここどこ!?おはようございます!?」

 

「寝惚けてんじゃねぇぞ間抜け。わざわざ朝飯まで用意してやってんだ間抜け。さっさと支度して飯食え間抜け」

 

「あ、ハイ…………3回も間抜けって言われた……」

 

レザー装備一式を抱えてとぼとぼと身支度を整えに居間から退出したリサに俺は深い溜め息をつくのだった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「さて、ようやくお前が飯を食い終わったことだし本題に入ろうか」

 

「修業ですか!?」

 

「そうだよ、お待ちかねの修業ですよ。まずはお前がどの程度基礎力があるのか実際に狩場に行って確かめる」

 

「いきなり実戦訓練、これが師匠流のやり方なんですね!」

 

「いや、本来は色々と教えてかららしいんだが、単に準備するのが面倒だから最低限の装備を渡してぶっつけ本番でやってもらおうかと」

 

「……大丈夫なんですかそれ?」

 

「まあなんとかなるだろ。一応俺もついて行って助けてやるよ……(死にそうになったらな)

 

「え?最後なにか言いました?」

 

「気合いを入れろよと言ったんだ」

 

「が、頑張ります……!」

 

不安そうな表情をしながらもやる気を見せたリサはしばらくやるぞー!とうるさかったので朝っぱらからご近所に迷惑だろうがと拳骨を落として黙らせた。

俺もついていくと言ったからには武装しなければならないので、収納ボックスからハンターシリーズ装備を引っ張り出して身に付ける。

武器は大剣のアギト。

どちらも俺がかけだしの頃の装備だ。

年季は入ってるがしっかりと手入れしてあるためまだまだ使えるだろう。

後は調合書と肉焼きセットを取り出してそれをレザー装備一式とハンターナイフを装備していたリサに押し付ける。

 

「あの、これは?」

 

「後で使うから持っとけ」

 

そう言ってさっさと大剣を背負い、後を慌ててリサがついてきたのを確認しつつ集会所へ向かう。

 

集会所は朝だというのに相変わらず賑やかで、夜間のクエストから帰ってきた連中が日の出ている内から酒盛りを始めている。

ここは昼夜問わずに酒の香りと喧騒に包まれているな。

そんな連中にビビっているリサを放っておいて受付嬢のところへ行く。

 

「よう」

 

「あ、エイトさん、おはようございます。ご用件は何でしょうか?」

 

ニコニコと営業スマイルを浮かべている受付嬢、名前がテルス・アークライトとかいうやたらかっこいい名前の、何故か昨日大老殿に乗り込もうとした受付嬢である。

年は確か俺より2~3歳年下で俺がハンターデビューした頃から受付嬢を始めたらしく何だかんだと付き合いがある。

何故か俺が来ると受付嬢が必ずコイツに交代になるのだがそれは置いておこう。

 

「森丘の素材収集ツアーを受注で」

 

「かしこまりました。ところでそちらの方は?」

 

「この度師匠に弟子入りしましたリサ・グリーンフィールドです!よろしくお願いします!」

 

「ああ、お弟子さんですか……ってええええええ!?」

 

1度は何でもない風に視線を逸らした癖に、2度見したときのリアクションが喧しい。

何をそんなに焦っているんだコイツは。

俺がパーティー組むの対巨龍戦の時だけだと思ってる?

 

「おい、ソイツのことはどうでもいいから早くクエストを……」

 

「どうでも良い訳ないでしょうが!?」

 

……とうとう敬語やめて客に怒鳴り始めたんだけどこの受付嬢。

取り敢えず今年入ったばっかの若い子とかにチェンジ。

リサもポカーンと見てないで止めろよ!

 

「ねぇ何で!?いつもなら弟子入りとか相手にしないくせに何で急に弟子なんか取ったの!?しかも年下の女の子!?もしかして年下趣味だったの!?私も年下だけどダメなの!?」

 

ハンター装備の胸元を掴んで訳の分からないことを叫びながらガックンガックンとこちらをカウンター越しに揺さぶるテルス。

受付嬢とはいったい何だったのか……。

まあそんな真似をしていればいつの間にかテルスの背後にニッコリと笑みを浮かべた同僚の姿があり、分厚いクエストリストの角でテルスの後頭部を強打すると動かなくなったテルスを後輩たちに預け、受付嬢がチェンジされた。

テルスはバックヤードへと消えた。

 

「……あの、さっきの人は……?」

 

「ん?受付嬢なら最初から今座ってるお姉さんじゃないか」

 

「え、でも……」

 

「ここでは何もなかった。イイネ?」

 

「アッ、ハイ」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

アプトノスの竜車に揺られて目的地へ向かうこと数日。

着いたのは森丘エリア。

豊かな森と中央の洞窟が特徴的なエリアで、大怪鳥や雄火竜が現れることもあるが、それにさえ気を付けていれば初心者が訓練するのに申し分無い。

時期的にも繁殖期は外れているので大丈夫なはず。

まぁ、運悪くランポスの群れに囲まれたりファンゴに追い掛けられたりするかもしれんが……何事も経験だ。

苦労は買ってでもせよ若人よ。

こう言うと自分が若くないみたいに聞こえて地味に精神にダメージ。

婚活するつもりだったのにどうして俺はこんな所にいるんだろうか。

 

「あの、ところで何をすれば良いんでしょうか」

 

「ハンターたる者自給自足すべし。フィールドから素材をかき集めて回復薬グレートとこんがり肉、ランポスの鱗を日暮れまでに集めろ。それが1つ目の修業だ」

 

「……回復薬グレートって何から作るんですか?」

 

「さぁな?ハンターノートに材料の組合せなら書いてあるだろ?俺は本の読み方から教える気はない」

 

そんな無茶な、と呟くリサをベースキャンプから引きずり出し、通常エリアへシュート!

ケツを蹴られて泣く泣く探索に出掛けて行くリサを遠目に見守りつつ、師匠の姪の実力を見極めることにした。

 

「まずは、こんがり肉なら分かるからそこから始めよう」

 

そう言ってリサが目につけたのは野生のアプトノス。

成竜が2頭と幼竜が1頭、どうやら親子らしい3頭が仲睦まじくしている。

生肉を手に入れるためにはあれらの命を頂戴せねばならない。

アプトノスは雄の個体は反撃してくることもあるが、特に強いわけでもないので問題ないだろう。

だが体力は小型の鳥竜種よりあるので、息の根を止めるのに時間がかかると逃げられてしまうこともある。

俺のオススメは体力のない幼竜の個体を狙うことなのだが果たしてあの娘にそこまでの知能はあるのだろうか。

正直旅の途中も真面目なのは判るがどうにもアホの子っぽい雰囲気を感じたので非常に不安である。

 

そしてリサがハンターナイフを抜き放つと、彼女の目の色が変わった。

惚けたような雰囲気は消え失せ、ただ静かに殺気を募らせる狩人の姿があった。

なるほど、確かに才能はあるな。

リサは音もなく駆け出すとまず最初に成竜の個体に斬りかかった。

狙いは──首筋。

一撃目で首に大きな切れ込みを入れられたアプトノスの首から血が吹き出す。

その血を浴びる前にリサは跳躍し、首を飛び越えて反対側に回ると一閃。

すぐに次の獲物に飛び掛かった。

アプトノスは首を落とされて痙攣していた。

 

次に狙われたのは親が殺され戸惑う幼竜。

瞬く間に接近してきたリサにまともに反応することができず、ハンターナイフを下から上顎を貫くように突き上げられ、すぐに静かになった。

そして残っていた雄の個体は怒りのまま突進を仕掛けてくるが、リサはそれをひらりと回避するとアプトノスの足の辺りに刃を走らせた。

すると、アプトノスが体勢を崩して頭から地面に倒れ込んだ。

あれは足の腱を切断されたのだろう。

そして残りの腱も流れるように切断し、残ったのは動けなくなった哀れな獲物。

リサはゆっくりと相手に近づくとアプトノスの大動脈へハンターナイフを一突き。

 

気が付けば、のどかな川原の風景が紅い華が幾つか散った凄惨な光景に変わっていた。

 

「……師匠、本当にとんでもないヤツを送ってきやがったな?」

 

肉焼きセットで生肉を焼いてみるが生焼け肉や焦げ肉を量産しているリサを眺めながら、俺は独りそう呟いた。

というか何回か剥ぎ取り失敗してなかった?

 

俺、弟子を一人前に出来るのか不安になってきた。



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クエストクリア、それは安息か否か

18日の短編日刊ランキング1位になってました。
ありがとうございます!

最初は本当に1話だけ書いて終わりにしようと思ってたのにここまで期待されていると後には退けませんね。
というわけで短編から連載へと移行しました。
今後もよろしくお願いします。


「うぅ、全く上手く出来ない。コゲ肉美味しくない……」

 

「生焼け肉は焼き加減で言うとレアだから旨いんだがなぁ。コゲ肉っていうかそれもうほとんど炭じゃね?何?お前炭食べるの?」

 

まぁ、失敗作(コゲ肉)はまだあるし全部食えば多分スタミナは回復するだろう。

味を度外視すればな。

俺も始めは堪え性がなく、火から早く上げすぎて生肉のままだったり生焼け肉だったりしたなぁ。

今でこそ慣れで目で見て焼き加減が判るが、俺はどうやってこんがりと焼くためのタイミングを覚えたんだっけ……。

 

「お、そうだ。あれだよあれ!」

 

「どうかしたんですか?」

 

「お前みたいな初心者が上手く肉を焼くための唄があるんだよ」

 

「唄?」

 

「なんでも、歌い終わってから三拍子で肉を上げると、肉の焼き加減が丁度良くなるように計算されたものらしい」

 

「そんなのがあるんですか!?」

 

「ああ、確かハンターノートの最後の方に載ってた気がする」

 

「それを早く言って下さいよ!!」

 

「俺から言わせれば分からないなりに手持ちの書物で調べようとしないお前が悪い。何でもかんでも教えてもらえると思うなよ」

 

「はい……」

 

リサはしょんぼりしながらハンターノートを捲り、本当に最後の方にご丁寧に楽譜付きで載ってた肉焼きの唄を発見した。

後で知ったのだがこの唄、幾つかバリエーションがあるらしい。

男ver.とか女ver.とか猫ver.とか高速ver.とかよく分からなかったが。

 

「~♪」

 

リサが上機嫌で肉焼きの唄を歌いながらぐるぐると肉焼きセットの取手を回していく。

そして唄も終わり、真剣な表情で三拍子待った後、勢いよく腕を振り上げ、肉を天高くへと掲げたリサは感動からお決まりの台詞を叫んだ。

 

「上手に焼けました~♪」

 

「1個こんがり肉焼くのにどんだけ時間かかってんだよ。スタミナが切れたらこっちより足の速い大型モンスターなんか追ってられないぞ」

 

「……少しは誉めてくださいよ」

 

「出来て当たり前のことを誉める気はない。とっとと他のやつも集めて来い。もう太陽が西に傾き始めてるぞ」

 

「えっ!?もうそんなに経ってたんですか!?」

「そらそら急いだ急いだ、時間切れになったら追加で黄金魚釣らせるぞ」

 

その台詞を聞いてマズイと思ったリサはあたふたしながら肉焼きセットを片付けると、森の方へ走って行った。

ちらり、とリサがさっきまで肉を焼いていた場所のとなりに自生している薬草に視線を向ける。

ここでこれを採集しておけば目標達成の近道になったのにな。

 

「まぁ、森にも薬草は生えてるだろ」

 

俺もリサの後を追って森へと向かった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

森は生い茂った木々の葉で日光が遮られ、昼間でも薄暗い。

おまけにこの辺にはこちらに害をなすモンスターもちらほら出てくる。

目の前でリサが興味津々で観察しているモスは違うが。

苔を意味するその名の通り背中に苔を生やしている豚のようなモンスターだ。

フゴフゴと鼻を鳴らしながら地面の匂いを頻りに嗅いでいる。

コイツも回復薬グレートの素材に関係しているのだが、さてこのアホの子は気づくのか?

ハンターノートと調合書を見ながら、どうにか薬草とその薬草の効果を増幅する作用のあるアオキノコで回復薬を作れることには気がついたようだが。

 

「モスの好物はアオキノコ……つまりモスを追い掛けていけばアオキノコが見つかる?」

 

ようやく気が付いたらしい。

だが、残念なことに既に色々と手遅れだ。

 

「お前が調べてる間に目の前でアオキノコをガンガン食ってたぞ」

 

「全部食べないで!少しは残してぇぇッ!?」

 

まぁ、背中からアオキノコを生やしている個体もいることは黙っておこう。

食事を邪魔されて機嫌の悪くなったモスの頭突きをケツに食らって悲鳴を上げるリサを見ながら密かにそう思った。

その後、リサはケツを擦りながらアオキノコと自生していた薬草の採取に成功し、回復薬を回復薬グレートにするにはハチミツが必要なことがわかったらしい。

そうしてハチミツを探すために苔の生えた岩壁が両側にある一本道のエリアに着いた。

岩壁には大小の空洞があり、その中に蜂の巣がある。

そこからハチミツを採取するのは子供でもわかるだろうが、さてコイツはどうやって採る気なんだ?

普通は煙を吹き付けて蜂を大人しくさせてから採るんだが、まさかアオアシラみたいに蜂を物ともせずに無理矢理採るのか?

一応持ってきていた解毒薬を準備しつつ様子を見ていると、リサは剥ぎ取り用ナイフを手に巣に近寄って巣を壊すとそのまま普通に採取し始めた。

巣を壊された蜂は怒ってリサを毒針で刺すべく襲いかかるが、リサは剥ぎ取り用ナイフを片手で高速回転させて蜂を叩き落としながら、もう片方の手でハチミツを採取していた。

 

「えぇー……」

 

予想外の方法で来やがった。

というか、アイツ攻撃しようとした蜂を目で視認してから叩き落としてないか?

そんな非常識な光景を眺めているとしっかりとハチミツを確保できたらしいリサは「師匠ー!ハチミツゲットしましたー!」と笑顔で戻ってきた。

しかし、その背後から忍び寄り、リサのポーチから調合書を掠め取った不届き者の姿が見えたので、1歩踏み込んで距離を詰め、トーキック(つま先蹴り)で不届き者を蹴飛ばした。

 

「え?」

 

ハチミツゲットの余韻に浸っていたリサは突然数メートル離れた場所にいたはずの俺が真横に立っていることに理解が及ばず呆けている。

宙を舞っていた調合書をキャッチし、俺は視線を不届き者──メラルーに向け、岩壁に叩き付けられて気絶しているのを確認した。

 

「後方不注意な。調合書は高いんだから盗まれてたまるかよ。というかこれ俺のだし」

 

メラルーに調合書を盗まれる、ハンターあるあるのトップ10にランクインしてそうな案件だ。

対策としては盗まれないように気を付けるのがベストだが、盗られたくないものから気を逸らすためにマタタビを荷物に入れておくと奴等はマタタビを優先して盗む。

まぁ、俺の場合は今みたいに盗られた瞬間にカウンターを叩き込んで奪い返すが。

げしげしとメラルーを一通り足蹴にした後、調合書をリサに渡す。

 

「ほれ、今から使うだろ。どうせお前のことだ。調合書が無かったら成功するまでに燃えないゴミをいくつ量産するかわかったもんじゃない」

 

「……そんなことないですよ」

 

「目を逸らすな。ついでにコゲ肉量産したのは誰か自分の胸に聞いてみろ」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

師匠の言っていたことがこのクエストで大体理解できた。

リサの才能、それはもはや天性の才能というべき戦闘能力。

神憑り的な見切りに、恐ろしく鋭い反射神経。

そして対象の急所を的確に攻撃できる精密性。

その代わり、他の才能はなんかもう目も当てられないくらいに壊滅的だ。

剥ぎ取りは恐ろしくヘタクソだし、調合で失敗する確率が1%でもあれば燃えないゴミを作り出し、こんがり肉ができる確率は10%未満。

おまけにアホの子でオツムが足りないご様子。

何でもかんでも才能で決まるわけではないが、これは酷すぎる。

リサは才能のステータスをバランス度外視で戦闘方面にガン振りして生まれてきたに違いない。

これをどうにかしろとは……冗談がキツいぜ師匠。

どう考えても俺に問題を丸投げしたとしか思えない。

だが、もうちょっと物事を考えられるようになれば化けると思うんだが、それが難しいんだよなぁ……。

ランポス相手に無双したは良いものの、剥ぎ取りが全く上手くいってないリサを見て、他人のことなのに俺は将来に不安を覚えた。

 

夕陽が辺りを黄昏に染め上げる中、やけにげっそりとしたリサを伴ってベースキャンプに到着した。

リサが疲れている理由は、砥石を渡していなかったのでハンターナイフの切れ味がガタ落ちしてランポスの鱗すらまともに切り裂けなくなった状態でランポスを狩り続けたせいだ。

なんかもう後半は無理矢理欧殺してたからな。

片手剣なのに。

死ぬに死ねずにひたすら片手剣や盾で殴打されるランポスを見てたら哀れすぎて泣けてきたよ。

結果的にランポスの群れを壊滅状態に追い込んだせいで怒り狂ったドスランポスが現れたが、それはサクッと俺が殺っといた。

 

「20頭目あたりからどうにかコツを掴んだ気がしたんですけど……なんで出来ないんだろ……」

 

「そりゃあお前が致命的なまでに下手くそなのと経験不足が原因だろ。お前の場合、もはや条件反射で剥ぎ取りが出来るくらいになるまで繰り返し練習あるのみだ。殺すときは異様に上手く解体するくせになんで剥ぎ取りで失敗するのかねぇ?」

 

もはやここまで来ると呪いの域に入るんじゃないだろうか。

戦闘だけは新人ハンターにしては上出来なんだが、言ったら調子に乗りそうなので言わないでおく。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

そして、また数日かけてドンドルマへと帰ってきた。

出来るならば家へ直帰したいが、クエスト完了の届け出を出さないといけない。

このクエスト、ホストを俺名義で出しちゃったのは失敗だった。

リサにやらせとけば押し付けられたのに。

次からはそうしよう。

クエストカウンターへ向かうと、新人らしい受付嬢が俺の顔を見た途端バックヤードに引っ込み、すぐにテルスが出てきた。

この自動で受付嬢がテルスになるシステムどうにかしてくれませんかね。

たまには違う人でも良いのよ?

 

「お疲れ様です!クエスト完了の届け出ですね?」

 

「ほい」

 

俺から依頼状を受け取ったテルスは、手際よくクエストクリアの証であるデカいスタンプを依頼状に押す。

ズダンッ!という重みのあるスタンプの音が響き、綺麗に『QUEST CLEAR』の文字が依頼状に押印された。

綺麗にスタンプを押せるのも良い受付嬢の条件なんですよ、とこの前テルスが言っていたがその前にお前は最近乱れてきた接客態度を見直そうか。

現にほら──

 

「それで、貴女は一体どんな手を使ってあの人の弟子になったの?さあ吐きなさい!?」

 

「ひっ!?この人恐いです師匠……」

 

リサにイャンクックなら逃げ出しそうなガンを飛ばして半泣きにさせてるし。

あとリサも俺を盾にするな。

それを見たテルスが人を殺しそうな目をしながら「まさか体で……!?」とか言い始めた辺りで、同僚登場→殴打→後輩に回収される、のコンボでバックヤードに消えた。

なんかクエストより疲れた気がするぞ。

受付嬢ってのはクエストから帰ってきたハンターの心の癒しでなければならないと思うの。

疲労からか、背中に背負った大剣がやけに重く感じる。

とてもじゃないが酒場で一杯やる気分ではない。

もう今日は帰って飯食って水浴びしたら寝よう。

そんで明日は休みにして今度こそ婚活しよう。

知り合いにいい人いないか紹介してもらいに行こう。

そんな風に明日の予定を立てながら帰路へ着く。

そして自宅の扉に手を掛けたのだが背後が気配がある。

 

「…………」

 

「…………」

 

「ん?」

 

「はい?」

 

後ろを振り向くと何故かリサがおり、自分の後ろに何かあるのかと振り向き、何もないことを確認してからこちらを見て首を傾げている。

 

「なんでついて来てんの?」

 

「?どういうことでしょうか?」

 

「いや、お前も帰れよ」

 

「???帰ってますよ?」

 

「あ?どういうこと?」

 

「弟子は師匠の家に住むものではないんですか?」

 

「はあああああああァァァァッ!?」

 

何言ってんのこのアホ弟子!?

コイツが住む!?

俺の家に!?

 

「何をバカなことを言ってやがる!?誰がお前が家に住むことを了承した!?」

 

「え!?でも、最初に来た時だって……」

 

「あれはお前が勝手に居間に居座ってただけだろうが!?」

 

「じゃあ私は今夜何処に寝れば良いんですか!?」

 

「知るか!!どっかに宿をとって泊まれ!!」

 

「今12ゼニーしかないんですけど……」

 

「はぁ?お前の叔父さんがいくらか支度金を出してくれたんじゃないのか?」

 

「はい、ハンターナイフとレザー装備を揃えたら無くなっちゃいましたけど」

 

「……じゃあ野宿でもすれば?」

 

そう言って高速で扉を開けて体を滑り込ませ、すかさず扉を閉めようとするが、あと少しというところで足を挟んで阻止された──が同じ手は食わん。

げしっ、と足を蹴り出してやり、表で「痛ッ!?」という声が聞こえると同時に扉を閉め、鍵を掛ける。

ついでに裏口の戸にも鍵を掛ける。

 

『開けてくださいよー!!入れてくださいよー!!』

 

ドンドンと扉が叩かれるが無視して夕飯の仕度をする。

今日はシチューにしよう。

そうすれば明日の朝食作らなくても良いし。

 

『ねぇ聞いてますー!?開けてくださいよー!?』

 

無視無視。

 

『開けて……開けてくださいよぉ……』

 

…………。

 

『ぐすっ……お願い……開けてよぉ……』

 

扉を開けた。

涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げ、捨てられた犬みたいな目でこちらを見上げるリサと目が合った。

 

「さっさと入れ。変な噂が立ってご近所の皆様に誤解されたら困るからな」

 

「あ"り"がどう"ござい"ま"ず」

 

「まずはその汚い面をどうにかしてこい」

 

「ふぁい……」

 

よくわからない鳴き声で返事をして顔を洗いに行くリサの後ろ姿を見て、思う。

本当に手間のかかるヤツを弟子にしちまったなぁ、と。

 

俺、今後の不安で夜しか眠れなさそうです。



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休息日、休めるのか否か

なんかお気に入りが10倍近く増えてるし、沢山の人に評価されてるし、ランキング2位だと……!?

この数日で何があった!?

とりあえずみんなメラルー嫌い過ぎワロタ。


新しい朝が来た。

希望があるかどうかは未定だが。

昨日の残りのシチューとパンという朝食を食いながら、目下の不安の塊であるリサの住居の問題について思案する。

昨日は誠に遺憾ながら泣き落としに屈してしまったが、そのせいで中々厄介な問題を抱え込んでしまった。

1人で暮らしていてただでさえ狭いと感じる我が家に弟子を住まわせるのは中々厳しいものがある。

今はリサの荷物がアイツの装備一式と、発注ミスで2冊あったためそのままくれてやった調合書と、高級肉焼きセットがあるので処分ついでに押しつけた肉焼きセット、ついでに幾つかのランポス素材ぐらいだから良いものの、ハンターは職業柄様々な物を収集するので、最初は本当に無駄にデカいと思っていた収納ボックスが小さく感じるほどに物が増えていく。

今はまだ良いが、将来的には物の置き場所が無くなり、我が家が物で溢れかえるなんてことも十分に有り得る。

この問題は早急に対処せねばなるまい。

 

「ところで師匠。今日はどうするんですか?」

 

そんな未来を憂う俺の思考を断ち切るように、リサがキラキラした目でこちらを見てくる。

顔に修業したいって書いてあるように見えるほど分かりやすいヤツだ。

コイツは15歳らしいが、そのぐらいの俺もこんな感じだったのだろうか。

夢と希望に溢れたあの頃の少年は、今や三十路を目前に控え、結婚に飢える哀れな餓狼になってしまっている。

だからそんな目で見ないで。

過去との自分の変わりように泣けてくるから。

時間の流れは残酷だ……!

 

「あの、師匠?今日の修業は……」

 

「休み」

 

「はい?」

 

「休みだよやーすーみー。四六時中お前の修業に付き合ってやる気はねぇよ。今日は用事もあるし」

 

「えっ……じゃあ私は何をすれば……」

 

「なんか趣味ないの?読書とか散歩とか」

 

「えっと、えっと……特にないですはい」

 

「つまんねぇヤツだねぇ。じゃあほら、ドンドルマ見学でもしてきたら?俺は出掛ける」

 

「ちょっ」

 

大陸の中心にあるドンドルマには様々な物が集まってくるから見て回ってるだけでも楽しいだろ……たぶん。

家から1歩出て、そういえばリサがいると鍵を閉められないことに気づいてすぐに戻り、リサを家の外に引きずり出してから家に鍵を掛けて今度こそ出発。

夕方には戻ってくるけど、それまでに居なかったら締め出すからなとリサを脅しつつ、向かった先は鍛冶職人たちの工房の並ぶ区画。

あちこちにある炉から発生する熱と煙でこの辺り一帯は常に暑く、煙たい。

おまけに金槌と素材がぶつかり合う音と職人たちの声で非常にやかましい。

そんな暑苦しい区画をひたすら進み、武器や防具を揃えに来たハンターや職人達で溢れ帰る表通りから路地裏へと入っていったその奥に、ひっそりと佇む人気のない小さな鍛冶屋がある。

店先のカウンターは空で店主の姿が見えないが、ここはいつもそうなのでカウンター脇にある呼び鈴を鳴らす。

しばらくすると、トトトトッという子供が走り回るような足音が聞こえたかと思うと、ひょこっとカウンター下から小さな顔が飛び出してきた。

 

「どなた様ー?」

 

「俺だよ」

 

「あ、エイト久しぶりー!」

 

カウンターに背が届かないため、踏み台に乗ってようやく上半身が見えるくらい背の小さな、どう見ても店番のお手伝いをしている子供にしか見えないのが、この店の店主、フランチェスカ・フォルジュロン。

愛称はフラン。

竜人族の鍛冶職人だ。

 

「相変わらず閑古鳥が鳴いてんな。経営成り立ってんのこの店?」

 

「ご心配なくー!前の依頼の代金でまだまだ問題ないんだよね」

 

ちなみにコイツ、腕は確かに超一流で仕事も早いのだが法外な値段を客に要求する。

可愛い顔してとんでもない守銭奴なのである。

しかも現在進行形で武器や防具の定期メンテナンスで絞り取られているしな。

しかし、今までコイツが整備した武器や防具で不具合が起きたことは1度もなく、信頼性も高いので長年贔屓にさせてもらってる。

今はお得意様割引で3割引きにしてもらってるのだが、未だに適正価格より高い。

本人曰く技術料らしい。

知ったこっちゃないが。

昔は適正価格なんて知らなかったから、金をどうにかやりくりして武器を作ったものだが、今思えば良いカモだったと思う。

 

「小さいのに偉いねー。何歳?」

 

「何歳に見える?」

 

「えーっとねぇ、10歳くらい?」

 

「んん?」

 

ふと、横を見るといつの間にかリサがおり、フランの頭を撫でまわしていた。

目を擦ってみてもそれは消えない。

とうとう俺もストレスで弟子の幻覚を見るようになったか?

 

「おかしいな、何故かリサの幻覚が見える」

 

「幻覚じゃありませんよ!?」

 

「幻覚が幻覚じゃないって否定してくるなんて珍しい幻覚だな」

 

「だから幻覚じゃないですって!?」

 

……さて、良い大人が現実逃避していてもみっともないだけなんでそろそろ現実を認識しようか。

 

「何故ここにいる」

 

「えへへ、師匠がどこ行くのか気になって着いてきちゃいました」

 

「少し可愛く言ったら許されると思ったら大間違いだ」

 

「痛い痛い痛い頭が割れるうううう!?」

 

アイアンクローで額を掴んで持ち上げ、左右にゆらゆらと揺らしてやっているとフランが興味津々といった様子で質問を投げ掛けてくる。

 

「師匠?エイトは弟子なんか面倒だって断ってたよね?どういう風の吹き回し?それともコレ?歳の差カップル?」

 

そう言って小指を立てて見せるフラン。

 

「俺の師匠の頼みで仕方なく弟子にしてやったの!あと俺ロリコンじゃないから誤解しないでくれる!?」

 

何かとてつもない勘違いをされては困るので、リサを投げ出して即座に弁明しておく。

ロリコン疑惑なんか立ったら婚活に響くだろうが……ッ!!

 

「痛い……ところで随分と小さいですけど店番のお手伝いですか?」

 

「私がここの店主でーす!」

 

「あー、そうなんですかー」

 

フラフラと起き上がったリサはまたフランを撫で回しながらやたらとゆるい内容の会話を繰り広げている。

どうやら本当にフランが店主ということを信じていない様子なので、年長者ぶろうとするアホの子に現実を教えてやるとしよう。

決してリアクションが面白そうだとか、そんなことはないからマジでないから。

 

「良いことを教えてやろうバカ弟子。竜人族の外見年齢と実際の年齢は釣り合わないからな」

 

「どういうことですか?」

 

「ソイツ俺より歳上」

「え?」

 

ピタッ、と地面に埋まっているバサルモスみたいに動かなくなったリサは急に顔が青ざめていく。

 

「ついでに、お前の叔父さん──つまり俺の師匠もフランの世話になってるからな。歳上と辛うじてわかってるだけで本当の年齢は俺も知らん」

 

「すみませんでしたー!?」

 

見事な土下座が炸裂した。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「アッハハハハ!いやぁ、文字通り夫婦漫才みたいに息ぴったりだね。さすが師匠と弟子なだけあるね!」

 

「芸人の師匠じゃねえぞ俺は」

 

「まあまあ、ところでそこのお弟子さん……リサちゃんだっけ?その腰に下げてるハンターナイフ見せてごらん?」

 

「こ、このハンターナイフですか?まだ研いでなくてとてもお見せできるような代物ではないんですけど……」

 

歳上と分かった途端にフランを敬い始めたリサ。

その調子で俺の方も師匠として敬って欲しいものだが一向にその気配はない。

あれ、俺もしかして嘗められてる?

これは後で焼きを入れるべきか?

そう考えながら視線を向けると、例の殴殺ハンターナイフを渡している途中のリサが何かを感じたのか背筋を震わせていた。

無駄に鋭いやつめ。

 

「……コレ刃がほとんど潰れてるじゃない。何エイト、もしかして模擬刀でも渡してたの?」

 

「違う違う。ソイツ砥石持ってなくて切れ味がなくなってるのに、そのままランポスの群れが壊滅するくらい使ったからだよ」

 

「……なんだ。やっぱりそっくりじゃないか君ら」

 

「うるせえ」

 

「ともかく、これはもう研いだくらいじゃどうにもならないね。鍛冶職人としてこんなものを持たせたまま狩りには行かせられないよ」

 

「そんなっ!?」

 

「……ああでも、いっそ強化すれば使えるようになると思うよ?そう言えばランポス素材はあるんだよね?」

 

「はい。剥ぎ取りはほとんど失敗してしまったんですけど追加報酬でいくつか。何故か倒してないのにドスランポスの素材もあります」

 

それを聞いたフランはこちらに視線だけ向けてニヤニヤと笑う。

なんだろう、何か盛大に勘違いされてる気がする。

 

「じゃあその素材を使ってハンターナイフを強化してあげよう。初回だからリサはお金払わなくてもいいよ?」

 

「お前どうしたの?何か悪いものでも食った?それともどこかに頭を打ったか?」

 

全く信用できない。

恐らくあれだ、まずはこうして顧客をゲットしておいて、次に強化しようとすると初回分の金額が追加された値段だったりするに違いない。

リサが借金地獄に陥って俺に泣きついて来たら自己破産させるしかないな。

 

「じゃあ、ハンターナイフと素材は預かっておくよ。来週また今ぐらいの時間においで。それぐらいには出来てるから」

 

「ありがとうございます!……あ、でも私それしか武器を持ってないのでそれがないとクエストが受けられないんですけど……」

 

「じゃあほら師匠、代わりの武器買ってあげなよ」

 

「はぁ?何で俺が?」

 

俺があからさまに嫌そうな顔をして断ろうとすると、フランがずいっと顔を近づけ、小声で呟いた。

 

「……メンテナンス代、倍取るぞ」

 

「よーし、買えるやつなら買ってやるぞー!」

 

倍とか洒落にならん。

ただでさえ大きな出費を控えているんだ。

ここで無駄に金を使うくらいなら、最低限の出費で抑えるのが吉か。

おのれ、足元見やがって。

展示されている武器を眺めてどれにしようか悩んでいるリサを横目に溜め息をついていると、ちょいちょいと袖が引っ張られた。

見ればフランが何か書かれた紙切れを差し出してきていたのでそれを受けとると……。

 

「あ、あとこれあの子の武器強化の代金ね」

 

先程の武器強化の請求書だった。

どういうことだと目線で訴えると、フランはニコリと営業スマイルを浮かべると、こう宣った。

 

「リサは払わなくていいといったが、エイトには言ってない。それに、このぐらいエイトにとって端金だよね?可愛いお弟子さんのお祝いだと思って諦めなよ」

 

「フラン……!謀ったな、フラァァァァンッ!!」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

リサが小一時間悩んだ末に買ったのはボーンククリ。

俺としては大変安い出費で助かったのだが、選んだ理由を聞いたところ、切りつけた時にわざと骨に引っ掻けてダメージを与えられそうだし、投げやすそうな形状をしてる、とのこと。

……この子本当に頭は大丈夫かしら。

あと武器を投げようとするな。

本当に投げられたら怖いので帰りに雑貨屋でブーメランを買い与えておく。

というかフランに知り合い紹介してもらい損ねた。

クッ、業腹だが明日また行くしかないな。

今度はリサに留守番してろと言いつけてからにしよう。

 

そして次の日、リサがランポスを狩りまくって群れのパワーバランスが崩れたのか、森丘エリアで2つのランポスの群れが衝突を起こすという事態に発展していたことが判明し、ギルドから受注者指名で緊急クエストとしてこの群れのリーダーを双方ともに討伐せよ、という遠回しな「原因はお前らなんだから責任を取れよ」とのお達しが。

お願いだから婚活させてよォォォォッ!!

 

俺、ストレスで禿げたら婚活に響きそうで不安です。

 



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投擲、それは狩技か否か

マジで遅れてすみませんでした。
経営陣との昼食会とかいう心臓に悪いイベントとかに打ちのめされてました。
他県への転勤決まったので今後はこんなペースでの更新になりそうです。
出来るだけ早く書きたいんだけどなぁ……。

ちなみにタイトルは某Gガン並のド直球。


眼下に広がるのは広大な雲海。

かつては空を飛べる能力を持つものしか見ることのできなかったこの光景も、今は技術の発達により人の手の届くものとなった。

以前は古龍観測局の気球くらいしか人が飛ぶ手段を知らなかったが、ここ最近飛行船が普及するようになり、一般人でも空を飛ぶことができる。

 

吹き付ける風を頬に受けながら、飛行船の端に座り込んでもうどうにでもなーれ、と自棄になりつつ、遠くを眺める作業に徹することにした。

現在、俺はギルド所有の飛行船でまた森丘エリアへと向かっていた。

前回の移動はアプトノスの引く竜車でのんびりと向かったが、今回は緊急クエストという優先度の高いクエストのため、飛行船での移動となった。

地形をほぼ無視して移動できる飛行船でなら、今日中には現地に到着するだろう。

観測隊の調査報告によると、今のところ近隣の家畜や人への被害は出ていないようだが、縄張り争いが続けば被害が出るのもそう遠くないだろう。

その前にケリをつけなければなるまい。

 

……それにしても、まさか前回の素材採集ツアーのせいでこんなことになるとは。

1つの縄張りの群れが衰えると、他所の群れがやって来て縄張りを取られるというのはよくある話なのだが、今回は運悪く同時に2つの群れが同時に縄張りを我が物にしようとアリコルス地方に現れてしまったのが原因でこんなことになってしまったようだ。

こんなことは早々起こるものでもなく、本当に数年に1度とかの珍しい事態らしい。

……狙ったように起きた辺り、悪霊の加護でも発生してるんじゃないだろうか──現在進行形で。

 

「し、師匠ぉ……」

 

ガタガタガタガタ、と雪山でホットドリンクを飲み忘れたんじゃないかというくらいに震え、俺の片腕をホールドしたまま一向に手を離そうとしないリサ。

飛行船の離陸後、数分で判明したことなのだが、リサは断崖絶壁とか高いところは大丈夫だけど飛行船みたいな地面に足がついていないのは怖い、という局所的高所恐怖症だった。

 

「離せ。お前が震えると振動が伝わってきて鬱陶しい」

 

「無理、無理です!!離したら死んじゃいますよおおおお!!」

 

「その程度じゃ死なねぇから…………イヤ待てよ、ショック死ってのもあるっちゃあるか」

 

「ほらやっぱり死ぬんじゃないですか!?」

 

しまった、失言だったか。

手に加えて足でもホールドし始めた。

お前は操虫棍の虫か。

というか、後ろで黙々と飛行船を操縦してるテルスが怖い。

飛行船の操縦を大老殿勤めの竜人族のお姉さんに習ったらしく、今までも何回かこうして運んでもらったことはあるので腕前に関しては心配していないが、なんか雰囲気が怖い。

無表情だし眼に光が全くなくて沼みたいに濁ってるし、時折こっちをじーっと見てくるので物凄く怖い。

何なのだろうか。

もしかしてこれがいわゆる月のモノってヤツなのか。

下手に触れて薮蛇になったら目も当てられないし、ここは無言でスルーが無難な対応なのだろうが怖いものは怖い。

腕には引っ付いて離れない喧しい弟子。

後ろには無言で謎の威圧感と視線を送ってくる受付嬢兼操縦士。

ああ、早く目的地に着いてくれ。

でないと狩猟前にストレスでダウンしてしまいそうだ。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

非常にストレスフルな空の旅を終えて、ようやく森丘に到着した。

半日も乗ってなかったのに異様に長く感じられたぞ。

まだ腰が抜けてまともに立てないとか抜かすリサを引き摺ってベースキャンプ入りを果たし、支給品ボックスを漁ると前回は地図くらいしかなかった支給品がきっちり2人分用意されていた。

まず地図が2つ、応急薬が6個、携帯食料が4つ、ペイントボールが2つにシビレ罠1つ。

本来なら細々と通常弾やら空きビンや強撃ビンが入っていたりするが、ガンナーがいないのは分かっているため今回は入っていない。

受注者指名、つまりは名指しでのクエスト受注要請のせいだ。

 

「色々入ってますね」

 

「応急薬とか携帯食料は説明するまでもないが、ペイントボールが何か分かるか?」

 

「モンスターにぶつけると強烈な匂いのする派手な色の液体を付着させる追跡用のアイテムでしたっけ」

 

「そんな感じだ。間違っても俺に当てるなよ?もし当てたら飛行船から吊るす」

 

「な、何て恐ろしいことをする気なんですか……!?」

 

「当てなきゃいいんだ。当てなきゃ。シビレ罠は雷光虫を使った放電装置によって、相手に電流を流して筋肉を硬直させることにより動きを封じる罠だ。間違ってお前が罠にかかっても二次被害を防ぐために俺は助けに行かないからな」

 

「……他のアイテムは半分ずつ分けるとしてシビレ罠はどっちが持つんですか?」

 

「俺が持っておくに決まってるだろ。お前だと自分で仕掛けた罠に自分で嵌まりそうだからな」

 

そうやって1つ1つ支給品を確認してポーチに納めていく。

何処に何が入っているのか、それを把握しておくのも重要なことだ。

轟竜に追いかけられながらでもポーチから必要なものを目隠ししていても取り出せるくらいがベスト。

それのお陰で助かったというハンターの話も沢山あるしな。

 

「よし、じゃあ行くか」

 

「は、はい!」

 

ベースキャンプから出て、実際に自分の肌で感じてみてやはり今の森丘は様子がおかしいことが分かる。

見ただけでもわかる変化としては、いつもはベースキャンプ前の川にいるアプトノスの姿が見えない。

やはり森丘にランポスの群れが2つ居ることによって怯えているのだろう。

何にせよ、まずはドスランポスを見つけないことには始まらないのだが。

ドスランポスは縄張りを見回って常に移動しているので、狙って遭遇するには、地道に追い掛けるか、巡回ルートで待ち伏せするか、ランポスを虐めて呼んでもらうか、まあやり方は色々ある。

 

「どうするんですか?」

 

「中央の洞窟に行く。直接巣を叩けばもし居なくてもすぐに戻ってくるさ。シンプルイズベストってやつだ」

 

脳筋な思考だが、結局のところハンターが最も頼りにしてるのは道具でもなく情報でもなく、己の力である。

ハンターである時点でみんなもう脳筋みたいなものだし(偏見)

そもそもドスランポス自体が特に対策が必要ない、というよりは対策のしようがないモンスターだし。

ドスランポスもシンプルイズベストな奴なのだ。

で、途中ランポスを蹴散らしながら巣へと突き進んでみたのだが……。

 

「なぁにこれぇ……」

 

「はわっはわわわっ……」

 

取り巻きのランポス達がギャアギャアと鳴き声をあげ、サークルを作っており、その中央では小さめのイャンクックぐらいはある明らかな金冠サイズのドスランポスと、目が赤く、トサカや前足の爪が巨大化し、尻尾が異様に太い、恐らくは特異個体のドスランポスが取っ組み合って群れのリーダー同士での真剣勝負を繰り広げていた。

角竜の決闘は見たことあるが、鳥竜種でも決闘ってするのか!?

ハンター生活12年目にして始めて見たぞオイ。

一見すると体の大きい金冠サイズの方が有利そうだが、特異個体の方は逆にその体格差を利用して金冠サイズの懐に入り込むことで腹部へ攻撃を仕掛けている。

金冠サイズの方が特異個体に攻め負けている形だ。

その内、特異個体がダメージによろめいた金冠サイズの背中へ飛び乗り、首筋に噛み付きながら通常よりも鋭利な爪を食い込ませ、力任せに丈夫なはずの皮を易々と引き裂いていく。

金冠サイズの方もしばらくもがいていたが、徐々に抵抗が弱くなり、やがてドスンと巨大な体を地面に横たえると、そのまま息絶えた。

そして、体のあちこちを返り血で染めた特異個体のドスランポスは金冠サイズの首からその尖った嘴を放すと、ギロリ、とこちらをその赤い瞳で睨み付けてきた。

金冠サイズの群れのランポスが逃げていく中、特異個体の群れのランポスがじりじりとこちらを囲むように距離を詰めてきており、特異個体のドスランポスは足の爪をガリガリと地面に擦り付けながらこちらから一切視線を逸らそうとしない。

完全にターゲットとして認識されてしまったようだ。

俺はアギトの柄を掴んでそろそろと後退し、ボーンククリを今にも抜き放ちそうな程に握り締めてゆっくりとリサもそれに続く。

巣の中という閉鎖空間であの数と殺り合うのは少々ご遠慮したいところなので、群れを出来るだけ刺激しないように巣の外にある開けた場所へと後ろ歩きで向かう。

 

「さぁて、図らずも討伐目標同士が潰しあってくれたお陰で残りは1頭だ。や っ た ぜ 」

 

「というか、あのドスランポスなんか変じゃないですか!?なんか雰囲気が禍々しいんですけど!?」

 

「あのドスランポスは特異個体っていう珍しい個体なんだが滅茶苦茶強い。ドスランポスと嘗めて掛かるとこっちがやられるくらいには。そら、おっ始めるぞ」

 

「うぇぇぇッ!?」

 

ドン、と高台になっている巣の入り口からリサを蹴落としながら、ランポスの群れへ突撃する。

それを合図に取り巻きの1体が飛び掛かってきた。

それに合わせてアギトを抜刀、標的に刃を合わせる。

ランポスが飛び掛かる勢いの相乗効果でアギトの降り下ろしは凄まじい威力となり、飛び掛かってきたランポスを頭から両断し、血飛沫を撒き散らしながら残骸が後ろに吹っ飛んでいく。

そしてその勢いのまま前転し、群れの近くへ飛び込むと回転斬りで周囲のランポスを薙ぎ払う。

ぐしゃっという何か固いものを砕くような感触を感じながら大剣を構え直すと、そこへ特異個体のドスランポスが飛び掛かってきたので咄嗟に横へ跳ぶと、ズガッ!!という凄まじい衝撃を伴う踏みつけ攻撃に地面が揺れる。

通常のドスランポスでは有り得ない威力だ。

そのまま特異個体のドスランポスは着地の動作で踏み込んだまま、こちらへと突っ込むようにタックルを繰り出してくる。

 

「悪いが、相手は俺じゃなくて……」

 

その動きを勘で大体読んでいた俺はもはや避けられない間合いに捉えたタイミングでアギトを跳ね上げる。

アギトの腹で掬い上げる──と言うには勢いが有り過ぎるかち上げで特異個体のドスランポスをそのままリサを蹴落とした辺りに放り投げた。

 

「そこのアホだ」

 

「うぎゃあああこっちに飛んできたあああ!?」

 

「そのまま足止めしてろ。その間に取り巻きのランポスを片付ける」

 

「まさかのキラーパス!?」

 

そう言った割にはしっかりとボーンククリを構えるリサ。

本来なら間違ってもちょっと前にハンターになったリサには任せられないが、アイツならどうにかするだろう。

最初の採取ツアーの時に言ったはずだ、死にそうになったら助けてやるってな。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

睨み合いの中、最初に堰を切ったのはリサだ。

どうにも刃物を握っていると変なスイッチの入るらしいリサは、盾の影にボーンククリを隠して刃の軌道を読ませないようにしながらドスランポスへと向けて低姿勢で疾走する。

それに対してドスランポスは体を1回転させ、その異様に太くなった強靭な尻尾でリサを吹き飛ばそうとする。

リサはそれを跳ねて回避し、そのままドスランポスへと突っこみ、ほぼ全てを勘に頼りきった思考で横っ腹へとボーンククリを肋の隙間かつ、幾重もの戦いで硬質化した皮の比較的柔らかい部分を射抜くようにして突き刺した。

ボーンククリなどという市販されている凡百の武器で、激しく動き回る標的の狙った場所へ攻撃を寸分違わず当て貫く。

この技術は非常に固い甲殻を持つモンスターの弱点を突くために、熟練ハンター達が実戦の中で己の経験と技を合わせて自然と修得する技だ。

それを大して経験もない新米ハンターの身で、神憑り的な精度で行うリサは、やはり戦いに関しては100年に1人クラスの天才なのだろう。

リサは噴き出す血飛沫を浴びながら、ボーンククリをわざと肋に引っ掛けるようにして、傷口をズタズタに切り裂く。

ドスランポスは激しい怒りで痛みを無視して、鋭い前足の爪を自分へ傷を負わせた憎き相手へと降り下ろす。

しかし、リサはそれを分かっていたかのように盾で受け、あっさりとボーンククリから手を離してドスランポスから距離を取った。

そして腰に装備していたブーメランをドスランポスの顔へ向けて投擲。

しかし、それを馬鹿正直にドスランポスが受けるはずもなく、首を捻って易々と回避された。

だが、これも首を捻らせることでドスランポスの視界から自身を逸らさせるための布石であり、本命は脇に突き刺さったままのボーンククリ。

リサはドスランポスの視界から己が外れている隙に接近し、両手で体を捻るようにしてボーンククリを引き抜くと、回転して勢いをつけながらドスランポスの頭へとボーンククリを叩き付ける。

ゴシャッ、という鈍い音が響き、鮮やかな赤色をしたドスランポスの象徴とも言える頭のトサカが砕け散った。

加えて、トサカが破壊されたことで脳へ激しい衝撃を受けたドスランポスは視界が揺らぐが、持ち前の生命力で激しくタックルと回転攻撃を繰り返して暴れ、リサを寄せ付けない。

 

「ほい、シビレ罠」

 

そこへ、唐突に男──エイトが極自然体でリサとドスランポスの間に割って入るとカチッ、という音とともに円盤上の装置、シビレ罠を地面に設置した。

ビリッ、という電流が空気中に僅かに放電される音が鳴り、罠が正常に稼動し始めた。

暴れ回るドスランポスの移動方向をある種の確信とともに読み切ったエイトが、その進行方向上に設置したシビレ罠。

それに吸い込まれるようにドスランポスが足を踏み入れた。

その瞬間、ドスランポスは体を反らし悲鳴をあげ始め、雷光虫の発生させる電流を増幅させたものが筋肉を硬直させ、体の自由を奪う。

だが、ドスランポスは火竜ですら脱出に数秒を要するそれを僅か1秒半で打ち破ったが、その1秒半は致命的な隙となった。

ドスランポスが揺れる視界の中、最後に見たのは、己に飛来するボーンククリの姿だった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「武器投げんなって言ったよな俺。しかも俺が態々ブーメランを買ってやったのにな。あれか、お前の耳は飾りなのかそうなのか。怪鳥の耳カチューシャでもやろうか?」

 

「痛いっ!?耳が伸びるううう!?あ、でも怪鳥の耳カチューシャは欲しいかもって千切れるちゃうんでそろそろ勘弁してください!!」

 

耳を引き千切るくらいの勢いで引っ張っていたが、いい加減リサが喧しいので離してやる。

へにゃッ!という謎の鳴き声を発しつつ耳を押さえるリサを放置し、頭からボーンククリをトサカみたいに生やしているドスランポスへと目をやる。

リサは精々食い下がるのが限界だと思って足止めだけで良いって言ったんだが……こんな予想外な方法で倒してしまうとは。

しかも、これは最初からこうなるように狙ってやりやがったな?

スローイングで頭蓋骨を貫くのはぶっちゃけ無理なので普通は目を狙うのだが、リサの場合は事前に頭蓋骨に罅を入れておいて脆くなった部分を作り出しておいてから脳天を貫通させてる。

ハッキリ言って、反射神経やらが通常のドスランポスの倍近い特異個体でやる技じゃない。

おまけにそれをフリじゃねぇから散々武器を投げんなよって忠告して、あまつさえブーメランを買ってやったのにボーンククリを投げやがった。

何なの?

お前やっぱり芸人なの?

熱湯風呂か氷風呂に突き落としてやろうか?

押すなよ!!

絶対押すなよ!!

……押せよ!!

 

「いいか、ハンターが武器を手放すなんて自殺行為も良いところだ。今回は俺が露払いしてやっていたからドスランポスとタイマンだったが、ソロの場合周囲から何かしらの横槍が入らない方が珍しい。かく言う俺も新米ハンターの頃は力を溜めて斬りかかろうとしたらランポスに飛び掛かられたり、ファンゴに突進されたりしたしな。その時にハンターがモンスターと対等に渡り合うための武器がなければぶっちゃけどんなプロハンターでも太刀打ちできない。だから何があってもモンスターの前で武器を手放すようなことをするな。分かったか?」

 

「……すみませんでした。もう二度と武器を自分から手放すようなことはしません」

 

「だがまぁ俺の補助があったとはいえ、ドスランポスを倒したのは評価しておいてやる。オラとっとと立て。グズグズしてないでさっさと剥ぎ取って帰るぞ」

 

「は、はい師匠!…………あれ?今誉められた?」

 

なお、例のごとく上手く剥ぎ取れなかった模様。

 

俺、早く帰って寝たいです。

 




そういえばペイントボール使ってないやん。
まあ、実際慣れてくると行動パターンとか向かった方角から何処行ったのかなんとなく分かるしね。


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同族、それは憎むべきか哀れむべきか

引っ越しの準備でてんてこまいな毎日を送っている作者です。

途切れ途切れで書き溜めていたので話に統合性がなかったり、誤字脱字があるかもしれません。
もしあったら最近追加された誤字修正機能、もしくは感想等でお知らせください。


ドスランポス2頭の討伐の翌日、俺は久々に一人の朝を迎えていた。

昨日、ドンドルマへ帰還する際にリサがまた局所的高所恐怖症を発症し飛行船への搭乗を拒否したので、いくらか路銀を握らせてそのまま中継地のココット村へ置いてきたためだ。

まあ、数日も経てば勝手に戻ってくるだろうから別に問題ないだろ(適当)

何故か帰りの飛行船ではテルスが上機嫌であれやこれやと他愛のない雑談をしてたが、あの日は終わったんだろうか?

そんなわけで俺の婚活の足枷であるリサは排除され、自由な婚活を行うことが出来るというわけだ。

我ながらあの時リサを置いて行こうと思い付いたのは英断だったと思う。

さあ、張り切って婚活しに行こう。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「というわけで誰か知り合いにいい年頃の女性はいませんかね」

 

「唐突に何を言い出すんだ君は」

 

俺が真剣に頼んでるというのにフランは呆れたような視線をカウンター越しに浴びせかけてくる。

竜人族は長寿故にピンと来ないかもしれんが、お前らと違って人間は婚期が短いの!

 

「いいからさっさと知り合いを紹介してくださりやがれ」

 

「焦りすぎて敬語がおかしいよ?というよりアタシなんかよりギルドで主催してるお見合いパーティーにでも出てくればいいんじゃない?少し頼んだらギルドの方からエイトのために開いてくれるんじゃないの?」

 

「ダメだ。ギルド主催ということは来るのは大体が漢女(おとめ)ばっかりだ。ちょっとアイツらは生理的に無理」

 

「そう毛嫌いしてないでまずは顔だけ出してみたら?いい子もいるんじゃないの?」

 

「普段の反応からして俺の名前を出した時点で相手が引くか金目当ての奴等しか来ないし、繰り返すがそもそも来るのは大体漢女(おとめ)だからヤダ」

 

実際、初対面の奴に名前を明かすと引かれるし、ギルドカード見せないと偽者扱いされるし、俺が稼いだ報酬目当てに擦り寄ってくる奴に何度か遭遇したことあるし。

俺は俺を色眼鏡なしで見てくれる人が良いんだ!

あと出来れば美人で。

 

「だから頼む。お前の知り合いでいい感じの人を紹介してくれマジで」

 

「……ドンドルマ最強のハンターも地に堕ちたね。まさかそのために緊急クエスト以外の受諾を拒否してるの?」

 

「何を言ってるんだ当たり前だろう(真顔)」

 

「うわぁ、マジで言ってるよこの人」

 

「こっちは老後を寂しく迎えるかどうかで必死なんだよ!ボロい一軒家で、誰にも看取られず独り寂しくベットの上で孤独死して、異臭がするからとか近所に言われて確認しに来た役人にカッピカピのミイラみたいになってるところを発見されて、とりあえず共用墓地に放り込まれるみたいな最期は迎えたくないんだよッ!!」

 

「なにそのやけにリアルな想像……。にしてもアタシの知り合いね……竜人族以外で女の知り合いとなるとほとんど居ないんだよねー。居ても大体君の好みの年代じゃないしね。そもそも気になる子は居ないの?受付嬢とか弟子のリサとか」

 

「いないから来てんだろうが。そもそもリサは有り得ん。俺はロリコンじゃねぇ」

 

「ヘタに理想ばっか高くて周囲を見ようとしない……これだから童貞拗らせた男は面倒なんだよ」

 

「……童貞で悪かったな畜生め」

 

「あの、ネタに本気で悔しそうにするのやめてくれない?え?まさかマジで未だに童貞なの?もう三十路近いのに?」

 

フランの無慈悲な言葉の砲撃を受けてハートを木っ端微塵に吹き飛ばされたような感覚を覚えた俺は思わず崩れ落ち、悔しさのあまり力任せに地面を殴り付けると拳が地面に埋まった。

強く殴り過ぎたか。

……なんてことだ。

知り合いはいるがこうして本音を晒け出せる奴と言えばフランしかいない俺には他に婚活に使えそうなコネはほぼ無い。

あれ、よく考えると俺ってボッチ?

私的な付き合いがあるの地元の奴等とリサを除くとフランしかいないぞ。

狩りとフランだけが友達さ~♪(その他は仕事仲間程度)

……なんてことだ(2回目)

ナンパしても将来の嫁が見つかるとは思えないし(そもそも声をかけられない)、合コンなんてやるような年じゃないし(そもそも呼ばれない)一体どうすれば良いんだ……!?

 

「あれでしょ?君は恋愛結婚をしたい質でしょ?」

 

「まあ……そうなるな」

 

「夢見がちな童貞らしい意見をどうも。でもそうなると本当に後は地道に出会いを求めて旅にでも出るしかないんじゃないの?」

 

「そう思った矢先にリサが弟子入りしてきて出来なくなったんだよ。師匠の推薦がなかったら相手にすらしないでガン無視するところだ。あと童貞言うな」

 

「その割には甲斐甲斐しく面倒を見てやってるような気が……あっ(察し)」

 

「何だよ」

 

「男のツンデレは乙女思考の相手に好まれるから弟子のあの子には意味ないよ?」

 

「何を勘違いしてるんだお前は!?12歳差かつ未成年とか犯罪だろうが!?お前は俺をロリコンに仕立て上げてギルドナイトにしょっぴかせる気か!?」

 

いくら対モンスター戦のスペシャリストである俺でも、対人戦のスペシャリストである対ハンター用ハンターのギルドナイトを相手にしたくはない。

 

「……ちなみにハンターの結婚相手はどんな相手が多いか知ってる?」

 

「知らんが、それがどうした」

 

「多くは同業者、つまりはハンター同士や受付嬢、ギルド関係者との職場結婚が多いんだよ。他は地元の幼馴染みととかお見合い結婚とかだね。つまり何が言いたいのかというと君がハンターであるということは本来結婚をする時に有利に働く肩書きなんだけど、君は自分がハンターであるという利点を女性の好みという観点から放り投げていると言わざるを得ない。逆に聞くけど君からハンターの肩書きを取ったら何が残るの?逆に結婚が遠退いていくよ」

 

「なん……だと……!?」

 

ハンターであることの利点……盲点だった。

まさか自分で自分の首を絞めていたとは。

確かに女ハンターを毛嫌いしていたのは認めよう。

皆が皆漢女(おとめ)という訳ではないだろう。

近付いてくる連中が全員金目当てというほど世の中腐ってはいないだろう。

年齢=彼女いない歴のチェリーボーイの分際で、何を知ったかぶってモノを言っていたのだろうか。

全ては勝手な固定概念から自分が傷付くのを恐れ、アレコレ理由をつけて楽な方へと逃げていただけじゃないか。

 

「フラン……俺が間違ってたよ」

 

「おお、分かってくれたんだね」

 

「ああ、目が覚めた……欠点を挙げる前にまずは自分の好みをハッキリさせるべきだったんだ!!」

 

「……は?」

 

「そうだよ、あれは嫌だこれは嫌だと欠点を理由にしていたが好みに関しては出来れば美人でとかしか決めてないじゃないか俺!!もっと探し求める女性を明確にしなかったら婚活も上手くいくものかよ!!」

 

「おい」

 

「まずは自分の理想を決めてから妥協点を決めればいい……そうと決まればこうしちゃいられない。じゃあな!!」

 

「あ、ちょっと!?おーい!?……何しに来たんだアイツ……」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

全く、突然来たと思ったら結婚したいから知り合い紹介してくれとか言い出したときは何言ってんだコイツと思ったけど、あの狩猟馬鹿のエイトが婚活とは笑っちゃうね。

しかもあのクエストの受注拒否はそのためだと言い出すし。

反発凄かったんだよアレ。

老害共は職務怠慢なお高くとまったハンターなど排斥してしまえと喧しく喚くから大長老と共謀して老害共の不正の証拠をギルドナイツに提出して捩じ伏せるはめになったんだからね?

もう、あんまり無茶苦茶するから支援資金のために代金が更に割り増しになっちゃうかもしれないよ。

支援はエイトに何不自由なく狩りをしてもらうために善意でやってるとはいえある程度元手がないと何も出来ないしさ。

 

それにしても君が婚活とは……鈍感ここに極まれり、だね。

童貞拗らせたまま三十路が近づくと男ってああなっちゃうのかな。

よく周りを見れば結婚なんてすぐだよと諭そうと思ったら何故か自分の好みをハッキリさせてくるとか訳のわからないことをほざきながら帰っちゃうし。

まあ、なんにせよ君のやりたいようにやればいいさ。

アタシは応援してるよ……ずっとね。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

改めて目標を再確認した俺は、特に用事がないのに集会所の酒場の隅に陣取って物思いに耽っていた。

女性の好み。

人によってそれは違うだろう。

性格、顔、体つき、その他諸々の細かい好み。

まずはそれを再確認するために列挙していけば自ずと理想像が出来上がるはずだ。

見た目は美人に越したことはないが、美人といっても色々ある。

可愛い系、クール系等色々あるが……これが良い、あれが嫌だというのがない。

どれも美人には違いないからだ。

性格はとりあえず男勝りなのは却下。

女性らしいなら物静かなタイプでも活発なタイプでも良い。

体つきでは、よく耳にするのは女性として成熟した肉付きのいいタイプが好みという奴、青い果実のように未成熟な大人と子供の境目のようなボディが良いというそれロリコンじゃないのかという奴もいた。

他にも巨乳だの貧乳だの美乳だの微乳だのやたらと胸の大きさと形にこだわる奴も。

……正直言ってどの属性も一長一短がある気がするので個人的には体型は痩せ過ぎず太過ぎず、胸は大き過ぎず小さ過ぎずがいい。

まあ仮にそうでなくとも別に構わないが。

それらをまとめると、美人(タイプ問わず)の女性らしい性格(タイプ問わず)の(可能なら)普通の体型の(出来れば)並乳ということになる。

……ああ解ったぞ、俺自身まともな女性らしい女性を間近で見たことがないから比較対照が漢女(おとめ)しかいないんだ。

だからそもそも明確な好みすらないのだ。

まずは女性との触れ合いから始めなきゃ駄目なのかなぁと溜め息をついていると、いつも騒がしいはずの集会所が突然静まり返った。

何事かと背後に振り向くと、一人の人物がコツコツと踵を鳴らして入り口から入ってきたようだった。

周りが静まり返った理由はその人物の装い。

赤をベースに作られた、高貴さを感じさせながらも実用に耐えうる騎士服。

そして目元を隠すように深く被られた白の羽飾りが特徴的な赤いナイトハット。

間違いなくそれはギルドを守護し、ハンター達を統括するギルド直属組織ギルドナイツに所属するハンター、ギルドナイトの正装であったからである。

世にはレプリカが出回っているため、格好だけなら真似るのは難しくないがあれはレプリカ等ではなくまごうことなきホンモノだ。

フランとの会話でも触れたが、ギルドナイトはギルドの秩序と公正を守る、ハンターを狩るハンターと噂される存在で、王国の近衛兵団と単騎で渡り合える程の実力を有すると言われている。

そんなおっかない存在が集会所に現れれば、一瞬で酔いも醒めるというもの。

騒然とする集会所の雰囲気を他所にギルドナイトは周囲を見渡し始め、それを眺めていた俺はギルドナイトと目があってしまう。

ヤバイと目を逸らすも時既に遅し。

ギルドナイトはずんずんとこちらへ歩み寄ってくると俺の背後に立った。

 

「おい貴様」

 

聞こえてきたのは女のハスキーな声。

冷たい氷のような声音で明らかに俺に向かって話し掛けているような気もするが、きっと気のせいだろう。

さて、ギルドナイトに目をつけられたのは何処のどいつかなと辺りを見渡してみる。

 

「何処を見ている。貴様だよエイト・ハウンズ」

 

うわーいご丁寧にも名指しだぁ。

だ、大丈夫、まだ同姓同名の別人に話しかけたとか人違いという可能性も……!

 

「ひ、人違いじゃあないっすかねぇ」

 

「残念ながら用があるのは間違いなく貴様だよエイト・ハウンズ。話したいことがある」

 

─おい、エイト・ハウンズってあの……!

─単独で古龍を撃退した生きた伝説……!

─ドンドルマ最強の矛にして盾……!

─そんな奴が何でギルドナイトに……!

─やらないか

 

ざわ…ざわ…

 

ギルドナイト様が丁寧にフルネームで呼びつけてくれたお陰で周囲がざわつき始める。

あ、これ早くしないと面倒くさくなるパターンだ。

というかなんか変なの居たぞ今!?

 

「……ノエル、場所を移してからにしてくれないか」

 

「ふむ、構わんが……なぜそんなに焦っている?」

 

「お前がわざわざギルドナイトの正装でウロウロしてるから周囲の視線が痛いの!察しろ!」

 

「確かに他のギルドナイトは普段は自らがギルドナイトであることを周囲に知られないようにしているが、むしろ私はギルドナイトであることを誇りに思っている。だから隠す必要などないと思うのだが……」

 

「皆怖がるから常に正装はやめろ!せめてローブか何かで隠せ!」

 

ただでさえその職務柄暗い噂の絶えないギルドナイトは憧れよりもまず先に畏怖の念を持たれるということを理解してほしい。

ぐいぐいと背中を押して集会所から脱出すべく入り口の方へとギルドナイト──ノエル・ナイトレイを誘導する。

その途中でカウンターから目から上だけを覗かせたテルスと視線が交錯した。

 

(ギルドナイトに目をつけられるなんて一体何をやらかしたんですか!?)

 

(いや、俺にも身に覚えが……もしかしてアレか?それともあの一件か?もしくはあの時のヤツか……?)

 

(ちょっ、滅茶苦茶身に覚えがあるみたいなんですけど!?心当たりが有り過ぎるみたいなんですけど!?)

 

(違う、全部コイツとの個人的な問題だ。公的な問題は起こしたことがない。大丈夫だ、酷くてもせいぜい今晩(説教で)寝かせてもらえないくらいで済む)

 

(個人的な問題!?今晩寝かせてもらえない!?私としてはそっちの方が大丈夫じゃないんですけど!?)

 

視線と身振りのみで会話するという無駄に洗練された無駄の無い無駄な技術でテルスとのやり取りをしているうちに集会所から出た俺は、人の視線を避けるように裏路地へと駆け込むと、脳内で自宅までの最短ルートを算出しノエルを引きずるようにしてその場から逃げ出すのであった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

相変わらず狭っ苦しい我が家の一室。

テーブルを挟んで向き合うようにして座る2人。

片方は簡素な麻のシャツにズボンという地味な格好の、動作の端々に既にオッサンの兆候が見られるようになってきた俺。

もう片方は気品さの感じられるこの場に似つかわしくない程の衣装に、一々動作が優雅な女ギルドナイト。

とりあえず座らせて来客用に備えておいた紅茶を出してみたものの、重苦しい沈黙と時折茶をすする音のみが場を制している。

……気まずい、超気まずい。

何なの!?

何で黙ってんの!?

話があるって言ったのはお前だろうが!?

 

目の前で優雅にティータイムを楽しんでらっしゃるのが、ノエル・ナイトレイ。

見ての通りギルドナイトである。

ギルドナイトは密猟ハンターの暗殺等の任務をこなす性質上、普段はただのハンターや受付嬢として生活し、自らがギルドナイトであることを周囲に知られないようにする。

しかしコイツの担当は主に未知のモンスターや未開の土地の調査なのであんまり関係なかったりする。

だからといって常時ギルドナイトの正装でいるのは止めてもらいたい。

ノエルとは俺がギルドナイトに勧誘されたのを組織に束縛されるのが嫌なので断った際に、誇りあるギルドナイトになるのを拒むとは何事かと正面切って説教されたのを切っ掛けに知り合った。

それからなぜか事ある毎に仕事を共にこなすようになったいわば腐れ縁のような関係のヤツだ。

性格は超がつくほどの真面目な正義感の強いタイプ。

ギルドナイトであることに誇りを持ち、自分にも厳しく他人にも厳しくをモットーとしているので、何かある度に説教されている記憶しかない。

ちなみに年下らしいが年下に説教されている俺って一体……。

 

そうしていると、ノエルがカチャリとティーカップをソーサーに戻し、こちらに視線を向けた。

さあ、一体何を話し出すのやらと警戒しながら待っているとノエルはふぅ、と一息ついた後、ようやく口を開いた。

 

「茶葉は良いものだが、淹れ方が杜撰だな。少しは練習したらどうだ」

 

「全部飲んでおいて言うことがそれか!!」

 

何故か紅茶の淹れ方についてのお小言を戴いた。

まずい、もう一杯みたいなノリで言わないでくれますかねぇ……!

 

「紅茶に罪はない。ところで、私がなぜ貴様に会いに来たのかわかっているか?」

 

「さてなぁ、心当たりが有り過ぎて検討もつかんよ」

 

半ば不貞腐れて真面目に聞く気が失せたのでテーブルに肘を突いて顎を支えながら脱力する。

それを見たノエルが切れ長の眉をピクリとさせたが、知ったことではない。

 

「……貴様、最近ギルドからのクエストを緊急クエスト以外は受注拒否しているらしいな」

 

「あーそれかぁ。で?それがなにか問題でも?」

 

「問題……?あるに決まっているだろうが。立場に驕って怠けるのもいい加減にしろよ!この忙しいときに貴様が拒否したクエストの皺寄せがこちらに来ているのだぞ!」

 

「別にその分そっちが儲かるから良いじゃん。そもそもハンター辞めるつもりだったんだがそれは勘弁してくれって大長老に言われたから活動自粛に留めてんの。お前にどうこう言われる筋合いは無い」

 

「何故その才能を腐らせるような真似を……!それで人として恥ずかしくないのか貴様!?」

 

「……いや全然?本当に必要なら緊急クエストとして依頼来るし、来たらやるし」

 

「ぐっ……まぁいい、今回は勘弁してやる。ここからが本題だ」

 

「えっ、まだあるの?」

 

「休日を潰してまで話してやるんだ黙って聞け。最近各地で古龍が立て続けに目撃されているのは知っているか?信憑性は定かではないが西に霞龍、東には鋼龍、南には炎王龍、さらには幻獣が場所を問わず確認されている。幸いなことに目撃例があるのみで直接的に被害があったという訳でもないが、ここまで多くの古龍が同時に目撃されたのは異例の事態だ。古龍観測所では今大騒ぎになっている」

 

「なんだって?」

 

古龍種とは通常の生態系から逸脱した生物の総称だ。

龍といってもとても龍とは思えない見た目のモノも存在する。

共通点としてはどの個体も人間ではまともに太刀打ち出来ないような強大な力を持っており、災害と同視されるような規格外の存在。

その姿を目にするのは極々稀なことで、古龍を目にすることなく一生を終えるハンターがいるくらいだ。

そんな古龍が各地で同時に複数目撃されたという。

古龍観測所が大騒ぎになるのも頷ける異常事態だ。

 

「貴様が先日受けたドスランポスのクエストも元を辿れば古龍が関係しているやもしれん」

 

「怯えて群れごと逃げ出してきたとか?」

 

「恐らくな。そういった間接的被害の原因調査のために私も近々古龍観測所から依頼があるだろう。何かの前触れかもしれないと古龍観測所でも過去に似た文献や記録がないかと書物庫をひっくり返してるらしいからな。そしていよいよこの騒動の原因が古龍で間違いないとなったらお前の出番だ」

 

「是非ともお呼びが掛からないことを祈ってるよ。古龍撃退ツアーとか死ねる」

 

「ちなみにこれはギルド内でも秘匿性の高い情報だ。間違っても口外するなよ」

 

「だろうな。天変地異が起きるかもしれないなんて噂が広まったら各地で大混乱なんて洒落にならん事態になる。というかさらっと機密(ソレ)を漏らすお前もどうなんだ」

 

「貴様には有事に動いてもらう以上、知る義務がある。それだけだ」

 

「権利じゃなくて義務なのね……」

 

なんかもうフラグがバッチリ建った上に補強工事を済ませ、外壁で覆った後、厳戒態勢の兵士に守られてるくらい確実に、近い将来厄介なことになる気がする。

人が頑張って婚活に励みだした矢先に弟子が来るし変なフラグ建つし何か強大な流れが働いているのだろうか。

それこそ神の見えざる手に操られているみたいに。

 

「ではな、用事はこれだけだ」

 

そう言って文句を言った癖にしっかりとおかわりまでした紅茶を飲み干すと、やたらと優雅な動作で彼女は去っていった。

こちらが聞きたくもない話をしてそれが終わるやさっさと帰りやがった。

間違いなく言えることだが、彼女に私生活で友人など居るまい。

仕事が楽しくて仕方ない、まるで少し前までの俺のようだ。

経験則からして、きっとまともに恋愛したこともない年齢=彼氏いない歴の処女に違いない。

そして数年して友人の結婚式を見て自分が行き遅れつつあることに焦るといいさ…………盛大なブーメランだったな。

そう言えば、ふと気になったのだが……

 

「アイツ、何で休日なのにギルドナイトの正装だったんだ?」

 

まさかまともな私服を持ってなくてクローゼットにはギルドナイトの正装が何十着も並んでいたりするのでは……いやまさかな。

 

俺、女ギルドナイトがちゃんと私服持ってるのか気になって夜も眠れない。




~弟子の現在の様子~

「師匠に置いてかれた……早くドンドルマへ戻って修行しないと……ん?なんだろうあれ……どわっ!?雷!?何でこんなに急に雷が!?…………白くて光る青い角の大きなケルビ……?」




ここからはちょっとした裏設定を撒き散らすコーナー。
見るに耐えない中二設定やらご都合主義やらあるので興味の無い方は無視してね!

※エイト・ハウンズ(主人公)

作中でも語られているが若くして古龍と正面切ってタイマン張れるヘタなモンスターよりよっぽどモンスターなハンター。
ドンドルマ最強の矛にして盾(命名、大長老)の2つ名を持つ生ける伝説としてドンドルマで名を轟かせている。
しかし名前に反してその素顔はガチの狩猟時はフルフェイスの兜を被っているため一般にはあまり知られていない。
その実力はギルドナイツの目に留まり、一時はギルドナイトへの就任が打診されていたが本人のめんどくせぇという発言により泡と消えた。
さすがにギルドナイトクラスの実力者をフリーにしておくには勿体ないと特例としてギルド側から専属受付嬢がつけられ、ギルドから直接クエストの依頼が来るようになった。
非公式ながらそれを『ギルドハンター』と呼ぶ声もあるとかないとか。

※フランが割り増しした分の金の行き先

主にエイトの活動支援のために使われている。
他には町の復興費のために資金提供をエイト名義で行い、ギルド内でのイメージアップに努めるなど。
その事をエイトに話さないのは変に気負ってほしくないからだとか。


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幻獣、狩るは狩人か否か

とりま更新します。
これは外伝扱いなんでちょっと短いですハイ。


私は生まれつき運動神経が良く、とても勘の良い子供だった。

かけっこをすれば同年代の男の子を置き去りにし、かくれんぼのオニをやればどこに隠れていても必ず全員を見つけられた。

おまけにケンカになると泣かせられるのは大抵相手の方だった。

反対に花の冠を作ろうとすると謎の草花が絡み合ったオブジェを作り出し、絵を描くと謎のジャガイモから手足が生えたような物体が描かれた(父と母を描いたつもりだった)。

小さな頃はそれで何ともなかったのだけれど、8歳になる頃にはその差は埋まるどころか広まり、男の子達からはケンカになるとアイツに敵わないからと腕っぷしの強さを怖れられ、女の子達からは女の子らしくないからと仲間外れにされ、私は独りで過ごしていた。

 

つまらない。

毎日がつまらなくて堪らない。

退屈を紛らわせるために薪割りを手伝ってもすぐに割る薪がなくなっちゃうし、料理の手伝いをすると何故かお母さんは食材を切るのしか任せてくれなかった。

ああ、つまらない。

 

だが、私はあの光景に魅せられた。

鎧を身に纏い、武器を振るい、培われた技術と知識、鍛え上げられた己の肉体を駆使して、自分より巨大なモンスターと相対するその姿に。

ハンターという存在に。

その時にこう思ったんだ。

私もあんな風になりたいと。

その時から私は木剣で素振りをし、体に石をくくりつけて走り、ハンターになるための自主訓練を始めた。

 

そして数年後、ハンターを引退して故郷に戻ってきた叔父さんにハンターとして鍛えてもらおうとしたのだが……

 

「鍛えてあげたいのだがね。見ての通りこの体だ。知識はともかく実践は出来ないよ?」

 

叔父さんはモンスターに受けた傷が原因で激しい運動が出来ない体になり、杖を突いていた。

それでも、と頼み込んで師事してみること半年。

 

戦闘センスは素晴らしいが、その他は壊滅的だと叔父さんに太鼓判を押されてしまった。

いや押しちゃったんですか、と思った私は悪くない。

ハンターとして出来て当たり前の剥ぎ取りは何故かうまく剥ぎ取れず、ハンターとしての知識も中々頭に入らず、調合すれば燃えないゴミを作り出す。

戦うのはすぐに出来たのに、それ以外が出来ない。

私、ハンターに向いてないのかなぁ……。

母さんには「第三王女様が女性限定で腕が良ければ身分を問わずに騎士として採用するらしいわよ」と別の職を薦められたし。

諦めてわがままで有名なあの第三王女の騎士採用試験でも受けてこようかと思っていたが、叔父さんが突然「閃いたぞ」と呟くと手紙を書いて地図と一緒にそれを私に持たせた。

 

「ドンドルマにエイト・ハウンズという私の弟子が住んでいる。彼は私より優秀なハンターだからきっとお前を一人前に鍛えられるはずだ。その手紙を見せれば弟子にしてくれる」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

そうしてまあ色々あったが無事に師匠の弟子となり、初の大型モンスター討伐に成功し、さぁ帰ろうとなったところで帰りにもまた飛行船を使用することを告げられた私は震えが止まらなくなった。

高いところは大丈夫、むしろ小さい頃は高い木に登るのが好きだった。

だが飛行船は浮いている。

木や崖はあくまで地面と繋がっているから怖くはない。

だが飛行船は浮いている。

 

浮いてるんですよおおおおおお!!

大地とどこも繋がってないというだけでここまで変わるんです!!

無理無理無理無理!!

怖い怖い怖い怖い!!

お願いです帰りは竜車にしてください!!

 

結果、幾らかのお金を渡されて置いてかれた。

…………うん、泣いてない、私強い子だから泣いてなんかないよ?

それで実家に帰れじゃなくて自力で戻ってこいって言われただけまだよかったと思うから。

頑張れ私、これも師匠の修行の一部だと思えば寂しくなんかないです。

気を取り直してココット村からドンドルマへ向かう竜車を探してみるが、最後の竜車は半日ほど前に行ってしまい、ドンドルマ行きの竜車はあと数日は出ないらしい。

遅れれば遅れるほど食費が嵩んで竜車代がなくなるし、どうしよう。

しばらく考えた私は結論を出した。

 

──歩くしかないか、と。

 

幸い体力は有り余っているので、夜通し歩いて追い掛ければ中継地点で追い付ける。

思えば、そんな浅はかな考えで夜間行軍を実施したのが間違いだったのかもしれない。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

そして現在────

 

「何アレ……おっきいケルビ?」

 

唐突に、本当にいつの間にか雷雲と共に現れたソレ。

ケルビをそのまま大きくしたような骨格、闇の中で白く輝く幻想的な体、そして何よりも目を引くのは額から生えた蒼い一本の角。

その神々しい雰囲気の獣は、突然天に向けて角をかざしたかと思うと、その角に落雷が落ちた。

そして雷に打たれたにも関わらずその獣は平然としており、体にその雷を纏わせている。

そして、その深紅の瞳がこちらを捉えた瞬間。

アレはヤバイ、と嫌でもわかった。

 

逃げろ、今すぐ逃げろ、早く逃げろ、速く逃げろ、疾く逃げろ、さあ逃げろ、とにかく逃げろ、死に物狂いで逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!

 

全身が震え、頭は逃げろと警笛を鳴らしている。

アレは理解の及ばない何かだと、人のわからないモノを恐れるという本能があの獣を忌避していた。

しかし、相手は既に深紅の双眸をしっかりと向けてこちらを見据えている。

間抜けに背中を晒せばそれこそ一貫の終わりだとなんとなくだが勘で理解した。

 

「やるしかない……ですね……」

 

ボーンククリを抜いて、戦闘態勢に入る。

すると途端に思考は冷や水をかけられたかのように冷静になり、直感は研ぎ澄まされる。

まず言えることは、間違いなくこちらの攻撃はまともに通じずに弾かれる。

おまけに一撃貰えば、即死。

掠めても瀕死か重症が関の山だろう。

だから一撃たりとも攻撃を受けてはならない。

この盾すら意味は成さないだろう。

私が生き残るには、奴から逃げる隙を作らなくてはならない。

斬れない剣など鈍器とそう変わりない。

そして、盾も攻撃に使えば鈍器になる。

だから今回は防具ではなく武器として盾を扱う。

つまり剣(鈍器)と盾(鈍器)の双剣(鈍器)で相手の気絶を狙うことになる。

出来ないとは思わないでおく。

やれなければ黒焦げにされるだけだ。

 

「シッ!」

 

完全に守りを捨てて、相手へと突っ込む。

相手は悠然と4つの足で立ち尽くしている。

そして相手まであと僅かという距離にまで近寄った辺りで、獣は突然前足を振り上げ、鳴き声をあげながら立ち上がり、振るった蒼い角が帯電した。

 

「──────ッ!!」

 

「やばッ!?」

 

それを見た私は猛烈な悪寒に晒され、反射的に横へと飛び退いていた。

そして直後に私がほんの一瞬前にいた場所に雷が降り注いだ。

意図的に自然現象を起こせるなんて何の冗談ですかッ!?

私が相手にしているのはなんだ?

モンスターか?

それとも神か?

どちらにせよ目に見えて実体があるなら害することもできるはずだ。

やることに変わりはない。

双剣(鈍器)で殴って気絶させるッ!!

 

「────ッ!!」

 

獣が鋭く尖った蒼角をこちらに突き立てんと逆に低姿勢で突っ込んできた。

守ったら負ける。

守らなくても負ける。

なら避けながら攻めるしかない!

こちらも獣目掛けて突っ込んでいく。

相手の攻撃は角による刺突。

つまりは点攻撃だ。

当たれば致命的な一撃となるが、当たらなければどうということはない。

相手はバチバチと体に青白く光雷を纏っており、まともに触れれば小動物ならイチコロだろう。

相手への飛び乗っての取り付き攻撃は不可。

ならば狙うは────

 

「はあッ!」

 

「────ッ!?」

 

────その角だ。

 

オスのケルビの角は薬の原料となるらしく、その採取のためにオスを大量に狩ってしまえば生態系が崩れる。

では、どうすればオスを殺さずに角を手にいれるのか?

答えは気絶させてから角だけを剥ぎ取るのだ。

だが私は剥ぎ取るのが苦手なのでどうやってケルビの角を手にいれていたのかというと、単純に角をヘシ折っていた。

角は頭蓋骨と直結しているため、そこに強い振動が加わるとその振動は直接脳へと伝わり、相手は脳を揺さぶられたことによって気絶する。

まあ、角を手にいれるために気絶させるのではなく、角を手にいれたようとした結果気絶する。

手段と目的が逆転してしまっているがそこは気にしないでおく。

大事なのは角を殴れば相手が気絶するという点。

そう、角!

角をガンガン殴っていればいずれは気絶するだろう。

スレスレで角とすれ違うようにして突進を回避して、すれ違い様に角をボーンククリと盾で殴り付ける。

 

 

 

だが────それで倒れるような存在ではなかった。

 

「────ッ!!」

 

一瞬、目の前が真っ白に染まり、気が付けば地に伏していた。

何が起こったのか理解が及ばぬままとにかく立ち上がろうとしたが、体が言うことを聞かない。

ただ、意思とは関係なく痙攣を繰り返している。

 

「あっ……かっ、はぁっ……」

 

ボーンククリも落としてしまっており、手の届かないギリギリのなんとももどかしい場所に落ちている。

何とか動かせる首を前に向ければ、獣がすぐそばでこちらを見下ろしていた。

それを認識した瞬間に、あ、これはもうだめだと諦めがついてしまった。

短い人生だったなぁーとか思いながら15年分の走馬灯が脳内では早くも流れ始めていた。

悲しくもある、惜しむ気持ちもある。

だが、この獣を前にするとそれらを諦められる程の圧倒的な力の差を見せ付けられ、相手がこれなら負けてもしょうがないと思える。

さあ、殺すなら殺せよと自棄になりながら相手を見つめていると、獣は踵を返しこちらから離れていく。

 

見逃された、いや獣相手に情けをかけられたような気がした。

まるで、殺す価値もないと言わんばかりに。

それが分かった途端、急激に沸々と怒りが沸いてきた。

 

「ふざけるなああああああァァァァッ!!こっちを見ろ!!まだ、まだ終わってない!!」

 

思わず獣に向けて叫ぶと、目線だけこちらに向けるようにして一瞬だけこちらに一瞥をくれると、嘲笑うかのようにさっさと行ってしまう。

どうせ動けないんだろう、という幻聴が聞こえた気がした。

 

「覚えてろよ!!次にあったらその角ヘシ折ってやるからな!!」

 

喉が潰れかねないほどの叫びをただただあげ続けた。

次に合間見える時にはその命は私が貰い受けると。

次は必ず勝つ、と最後に呟いて意識を失った。

 




一方、その頃の師匠の様子。

「婚活パーティー行ってみたけど10歳近く歳上のオバサンしかいなかったお(´・ω・`)」


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新たなる変化、それは歓迎すべきか否か

投稿から2年も経ってるのに未だに続きを待ってくれている方がいるようなので、本当に今さらながら更新。

基本コメントは忙しいので返せないけど感想は目を通してます。待たせたな!

追記:なんか日刊ランキング3位(6/11 AM8:26時点)にいるんだけどこの作品(震え声)


行きつけの鍛冶屋の店主に諭され、とりあえず様子だけ見てみるかとギルド主催の合コンに顔を出したが、年齢層が自分より10歳くらい上の飢えた雌の集団に囲まれ、言葉にしたくないので省略するが結果的に若干トラウマを植え付けられつつ枕を涙で濡らした奴がいるらしい。

 

…………俺です(震え声)

 

虚しくなりながらも、のそのそとベットから起き上がると、姿見に映る自分の姿。魔法使い一歩手前の無精髭の生えつつある死んだ目の男が興味無さげにこちらを見ていた。凄まじい虚脱感に何もやりたくないとは思うものの、意識とは別に体が半自動的に溜まったゴミを焼却炉で燃やそうと動いていた。

 

独身生活の賜物か微妙に家事が出来るという無駄な女子力。巷では家事男子やら育児男子やらが一時期騒がれていたが微妙に女子力高い系男子ってどうなのだろうか。

普段はガサツだけどふとしたときに見せる心遣いのギャップを狙う的な。年齢=彼女いない歴の俺にはウケるかどうかもわからない。

 

深いため息をつきながら溜まったゴミを玄関脇の焼却炉に突っ込んで火をつけ、勢いよく燃えだしたことを確認してふとクソ狭い庭先に視線をやると、そこには煤けたレザー装備を身につけたまま力尽きた焼死体……ではなくリサの姿があった。

側にはネコタク業者がおり、話を聞くとなんか街の入り口あたりでくたばっていたのを拾ってきたらしい。

なんでソレ家に持ってくるかなぁ……。

そのまま診療所に放り出されない辺りこいつもハンターらしい耐久性を有しているらしい。

またご近所さんにあらぬ誤解を受けそうな絵面だったので、ネコタク業者のアイルーにチップとして偶然持っていたマタタビを渡し、仕方なくリサを家の中に引きずり込んだ。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「デカくて白いケルビって何?」

 

柄杓ですくった水をぶっかけて叩き起こしたリサの拙い説明を聞いた俺の感想だ。

しかも白いし蒼い一本の角が生えてたらしいし、雷を操ったりするらしい。

リサは呑気に、これケルビのドス個体ですかね!?と息巻いているが、正直に言おう。

 

……リサ、それドスケルビ違う、古龍種のキリンです。

見た目が明らかに龍じゃないって?古龍種は通常の生態系に属さない訳のわからない奴らを一纏めにした生物学に正面から喧嘩を売るような奴らだからね仕方ないね。

それにしても、よくもまぁあの程度で済んだものだ。

古龍種は生きた災害と言っても過言ではないくらい手に負えない連中なのだ。

そんな奴等と初心者用装備でやりあってよく生きていたものだと逆に感心してしまう。

 

「で?キリンがどうしたよ」

 

「キリンってどこに生息してるんですか!?」

 

「さぁ?強いていうならどこでも」

 

「どこでもって……いくらなんでもアバウト過ぎません?」

 

「古龍種ってのは1ヶ所に定住せずに各地を一定の周期で渡り歩くと言われている。理由は知らんがな。キリンはその中で特に出現予測の難しいヤツでな。火山だろうが雪山だろうが現れるし、見つからないときは本当に見つからない。それでついた二つ名が『幻獣』。文字通り幻みたいなヤツなんだよ」

 

「そ……そんなぁ……」

 

何故かガックリと膝を折りジメっとした陰鬱な雰囲気を纏いだしたリサ。

一体なんだというのだこの馬鹿弟子は。

 

「というか生息地を聞いてどうするつもりだったんだ?」

 

「いえ、あの……信じてもらえるかわからないんですけど、私そのドスケルビ「だからキリンな」に見逃されたんですよ。『お前程度殺すまでもない』って感じで。それが何故か異様に悔しくて悔しくて堪らないんです。だから、リベンジしたいなぁ……って」

 

あー、なるほど。確かに俺にも覚えがある。

古龍種全般に言えることだが、奴らは他のモンスターとは違って何か明確な意思のようなものを感じさせられるようなことは稀にある。例を挙げると、キリンに育てられた野生児がいたという記録もある。

それを差し置いても、その考えは現時点では危険だ。

 

「お前馬鹿なの?キリンに黒焦げにされて死ぬの?彼我(ひが)の力量差すら判らないの?」

 

「すごく酷いこと言われた!?」

 

「古龍種は文字通り別格の存在なんだよ。お前のそれは火山の噴火をバケツの水で止めようとするくらいの無謀だよ」

 

「……それって実質無理ってことですよね?」

 

()()な。頑張れば火山の噴火がちょっとした山火事程度に感じられるようになる。古龍種の中でもキリンは比較的弱めな方だからな」

 

「あれで弱め!?」

 

討伐例がそこそこあるので、弱点などが他の古龍より判明しているのである。

それと、キリンは他の古龍種より弱いと断言したが、もちろん理由はある。

生物の体力はその身体の大きさに比例し、大型の飛竜種がタフなのもこれに起因する。

この法則を平気で無視して無尽蔵と思えるほどの底なしの体力を持つ、色々生物としておかしいその他の古龍とは違い、キリンの体力はある程度底が見えているのでまだ楽な方だ。

噂だがとある牙獣種に角をへし折られて食われるらしいが、確証はないので言わないでおこう。

よくドンドルマを襲撃してくる古龍は基本的にこちらが防衛側なのも関係して撃退に追い込むのが限界である。

時間を掛けて徐々に傷を負わせ、弱らせ、逃げたのを追いかけ、それでどうにか討伐出来るかもしれない、そんな気も遠くなるようなタフさを誇る奴等なのだ。

 

まぁ、三行でまとめるとこうだ。

 

古龍

マジで

ヤバイ

 

「まあ、キリンの討伐なんぞ俺でも数年に1度有るか無いかだし。それまでの間に鍛えて置くんだな」

 

「……師匠のところに依頼が来ることがあるんですね?」

 

「本当に稀にな」

 

「もし、私が強くなった時にその機会があれば……」

 

「連れてけと?」

 

「はい」

 

リサの真っ直ぐな澄んだ視線がこちらを射る。

そんな目で見ないでくれ、と言いそうになる。

彼女の視線が、眩しすぎた。

社会の荒波に揉まれる中で誰もが無くしてしまう輝きがそこにはあった。

俺もこの間まではこの輝きを持っていた気がする。

知り合いの結婚式を引き金に魔法使い(童貞のまま三十路を迎える)という生物的な敗北を恐れるがために失われたが。

 

ああ、俺も嫌いで許せなかったあの大人達と同じようになっちまったんだなぁ(なお童貞の模様)

 

「機会が有れば、な……ん?」

 

「ん?」

 

師匠っぽくカッコよく返事をしようとしたところ、焦げ臭さと熱を感じた。

リサもおなじく焦げ臭さを感じたようで二人揃って後ろを見れば玄関付近は盛大に燃えていた。

 

「「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

数時間後、俺は手にしていた鉄塊を取り落としながら、元玄関で構わず膝を突いて天を仰いだ。

何があったかというと、小火が原因で家を失った。

一応早めに消し止められたのだが、我が家は全焼手前の半焼。いっそのこときれいに燃えてくれれば片付けも楽に終わるはずだったが中途半端に燃え残りやがった。

いろんな意味で不完全燃焼である。

だが、この狭苦しい家で過ごす日々はもう訪れないんだと思う度に、妙に物悲しく、寂しく感じるのだ。

無理して買ったこのクソ狭い自宅に、もう二度と帰ることはないのだ。

 

主武装ではないが昔に戯れで作ったウォーハンマーを持ち出してハンターシリーズを着込んでからハンター怒りの家屋粉砕を行っていたところなのだ。

脇から「師匠が壊れたああああ!?」となにやら喚く声が聞こえたが一心不乱に元家屋を叩き潰し、瓦礫は文字通り粉微塵に碎け散った。

瓦礫撤去に来ていた人にドン引きされていたが、もう色々とショックが大きすぎてそれどころではない。

そもそも武器やら素材やらはギルドから借り受けた場所で管理人アイルーつきで保管していたので特に被害はないが、やはり住み慣れた家を失うのは精神的にダメージが大きかった。

 

ふう、と乱れた息を整えウォーハンマーを支えにゆっくりと立ち上がり、意識を切り替える。

 

「さて、明日から何処で寝ようかね。ギルドの下等宿舎でも借りるかな」

 

「あ、師匠。正気に戻りました?」

 

妙に清々しい気分に浸りながら思案していると、一輪車を押しながら瓦礫撤去に勤しんでいたリサがで尋ねてきた。

 

「おれはしょうきにもどった!」

 

「本当に大丈夫なんですか!?それなんか土壇場で裏切りそうなんですけど!?」

 

「うるせぇ!俺は竜騎士でもランス使いでもねぇ!」

 

そもそもハンターのランスはモンスターの攻撃を受け止める為の盾とセットで運用されるため対人で用いられるような扱い方をしない。

 

話が大分逸れたが、今後の寝泊まりについてだ。

金なら無駄にあるが、二等宿舎にでも泊まろうと思う。

ここドンドルマでは大陸から数多のハンターがルーキーからベテランまで幅広くやって来るため、それらの宿泊施設として専用の宿舎が借りられるようになっている。

 

宿舎にはランクがあり、それぞれ二等、一等、特等と三つに分けられる。

まだマイハウス等を構える余裕がないハンター達が一緒くたに四人相部屋にぶちこまれる料金日払い制の二等宿舎(安宿)

ある程度の余裕があるハンターが長期的に借りることができる一般的にマイハウスと呼ばれる一等宿舎(賃貸住宅)

そしてギルドに対して何らかの貢献をし、それが評価される形で無償で貸与される特等宿舎(スウィートルーム)

大多数のハンター達がここに住んでおり、例外として自分で家を建ててそこに住むパターンもあり、俺も今日まではこれに該当していた。

 

さっき言った武器やら素材やらを預けているギルドから借り受けている場所というのが特等宿舎ではあるが、世話係がついたりするし部屋が広すぎるしで落ち着かないため倉庫としてしか使ってない。

なんか知らんけどハンターの住居のベットはだいたいデカイくて個人的に寝づらいのでシングルサイズのベットのある二等宿舎が落ち着くのだ。

 

「んじゃ、俺はギルドの宿舎に泊まるから」

 

「え、じゃあ私はどうすれば……」

 

「この間のクエストの報酬があるだろ。あれでどうにかしろ」

 

そう言うと、人差し指を突き合わせながらえーと、と言い淀むリサ。

そういえば何か装備が煤けたレザーシリーズからチェーンシリーズになってるな。

あれ、なんかデジャヴ。

 

「キリンに装備をダメにされてしまったので思い切ってチェーンシリーズに装備を買い換えたらもうお金が……」

 

「そうなのか大変だなじゃあ俺はこれで」

 

矢継ぎ早に告げ、即座に逃げ出そうとすると素早くリサがタックル気味に膝にしがみついた。

クソッ、無駄に速い反応速度だ。

 

「お願いします!お願いします!師匠なんだからすこしは弟子の面倒くらい見てくださいよ!」

 

「放せ!俺だって家が燃えたのになんで押し掛けてきた奴の面倒も見なきゃならん!自分でなんとかしろ!」

 

「うおおおおおわあああああ!!見捨てないでー!!」

 

とうとう女子というか人としての恥まで捨て去って人の足にしがみつきながら喚くリサ。

必死すぎるだろコイツ!

というか遠目にご近所さんがあらやだなに痴話喧嘩?とか噂してるんですけど!?

違います、違うんです、コイツの金銭管理が甘いのが原因なんですうううう!!

 

「ハウンズ君……?君らなにしてんの……?」

 

奇声をあげながらすったもんだしていると、見かねた誰かに声をかけられた。

二人揃って声のするほうを向けば、鉱石系の素材のみを用いたアロイシリーズのハイエンドモデルを装着している男の姿があった。

背中には中程で一度折り畳まれた武骨ながらも洗練されたデザインのヘビィボウガンが背負われている。

視界を阻害しないためか、頭部は何にも覆われておらず、その男は―――ハゲだった。

 

「ハゲ!ハゲじゃないか!久しぶりだなぁ!また髪減ったか?」

 

「また髪の話してる……」

 

「あの……そんなに連呼しては失礼では?」

 

「嗚呼、気にしないで。これは愛称だから。だいたい皆からは『ハゲさん』って呼ばれてるし」

 

冴えない風貌の中年が見せる哀愁の溢れる苦笑いにリサは何とも言えない気持ちになった。

もはや毛髪ネタでからかわれるのは慣れたものだと本人は言うが、気苦労が絶えないせいか不毛地帯が広がっているため現在進行形で徐々に悪化している模様。

 

「ところで『ホモ』はどうしたんだ?」

 

「ああ、彼なら道すがら小さい男の子を見かけて、『ちょっとショタッ子と戯れてくる!』って眩しい笑顔で何処かに走り去っていったけど」

 

「なんですかそのやたらと濃い性格の人は」

 

真顔でツッコミをいれるリサ。

 

実はドンドルマでも結構有名なのだがこのハゲと話に挙がったホモはパーティーを組んでおり、前衛の槍ホモと後衛の重弩ハゲというバランスのいいコンビなので、1つの指標となっているのだ。

ホモとハゲなのに。

 

「それで?話を戻すけど何をしてたの?」

 

ハゲにこれまでの経緯を話すと、だんだんかわいそうなものを見る目になっていくハゲ。

やめて、そんな目で俺を見ないで。

 

「……なら、ウチ来る?ちょっと嫁さんと娘達に聞いてみないとわかんないけど」

 

 

俺、初めてハゲの自宅に招かれたかもしれない。




本編に登場した野郎共の捕捉
……片方は登場してないけど。
ちなみにホモは過去のお話でチラッとやらないか発言してるのでよかったら探してみてね。

ハゲ
本名:不明 42歳 男
. 彡⌒ミ   
(´・ω・`)〈また髪の話してる……

髪が薄いことを気にしながらも自虐ネタに走るユーモラスな冴えない風貌の中年。下げられた眉尻から覗くつぶらな瞳がチャームポイント。ガンナーとして非常に優秀であり彼が弾を外すのは風圧から髪を庇った時くらいである(つまり、わりとある)。
妻子持ちで二人の娘がいるらしい。

ホモ
本名:不明 38歳 ♂
. 彡♂ミ   
(´・ω・`)〈ウホッいいショタッ子!

筋肉質なボディと短く刈り込んだ頭髪が特徴の笑顔の眩しいマッスルマン。普段は酒場で青少年に性的な視線を向けるヤバイ奴。YESショタ、NOタッチを掲げるショタコンでもあるが守備範囲が異様に広いためエイトも守備範囲内。お前のいうショタはいったい何歳までなんだ。



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ホットドリンク、マズ過ぎて凍えたほうがマシか否か

明けましておめでとうございます(震え声)

前の投稿から半年近くたったけどその前は2年空いたから早い方だな!(錯乱)

あと本編一万字越えだけど分割するの面倒だったからそのまま投下しました。


「いやはや、それにしてもキミがねぇ?『エイト・ハウンズは弟子を取らない』なんて言われるほど志願者を突っぱねてたのにねぇ……どんな心境の変化があったんだい?」

 

「師匠の姪っ子なんだよリサは。師匠の頼みを無下にするほど恩知らずになった覚えはないが、それ抜きでも戦闘技能極振りのヤベー奴だよ。代わりに他は壊滅的だがな。そろそろ極限環境下における体温管理を教えないと次に進めん」

 

「君とそっくりじゃないか。師匠が師匠なら弟子も弟子かな?」

 

「おうテメーそれは俺がヤベー奴だと言いたいのか?」

 

陽が傾き始め、辺りが茜色に染まり始めた頃。

リサの説明をしながら、もしかしたら泊めてもらえるかもしれないという事でドンドルマの住宅街にあるハゲの自宅前へとやって来ていた。

俺は二等宿舎に泊まるからリサだけ預かってもらえればそれでよかったんだが……ハゲ曰く、ハンター用の宿泊施設は身分証明のためにギルドカードを提出するのだが、その時にG級ハンターってことが一発でバレて宿泊拒否されるらしい。

G級ハンターがかけだしとか下位のハンターのための施設である二等宿舎に泊まるのは、ギルドの沽券に関わるためとのこと。要は大人の事情(面子の問題)ってやつだ。

 

「それじゃ、ちょっと聞いてみるから待ってて」

 

ハゲがただいまー、と玄関から自宅に入っていくのを見届ける俺とリサ。着の身着のまま……というわけでもなく、どうにか持ち出せた着替えと財布が詰め込まれた背嚢とギルドカード、ハンターノート、あとは大剣(アギト)、アイテムポーチが現在の持ち物。

ちなみに前回怒りの家屋粉砕に使ったウォーハンマーはここに来る途中に焼け残った私物の回収に来ていたギルドの業者に渡してあり、特等宿舎(倉庫)に届けられる予定。

 

しかし、あのハゲ結婚してたのか。

それに娘達が居るって言ってたなぁ。

上の子が思春期で態度が冷たくて、とか道中愚痴られたから十代後半くらいなのだろう。つまり、俺がハンターになる前には娘が生まれていたということになる。

 

…………とどのつまり生物の本能的な目標は生き残り次世代の子孫を残すこと。どんなに優秀で長生きして生き延びても子孫を残せなければ、結局のところ生物としては完全敗北も同然ということ…………なんか自分が惨めすぎて死にたくなってきた。誰にも構われずに静かに消え去りたい。どうせ俺なんか魔法使い予備軍の年齢=彼女いない歴の非モテ野郎だよ畜生!

 

「師匠!?なんかどんどん顔色悪くなってますけど!?」

 

「気にするな、もとからこんな色だったろ」

 

「いやいやいや!?明らかに土気色になってきてますよ!?悩み事があるなら私が相談に乗りますよ」

 

「なら今すぐに自分の宿くらい用意できるようになってくれない?」(全力の頬つねり)

 

「ああああああ!!ほほはほへふ(頬が取れる)ぅぅぅぅ!!」

 

リサの頬を引き伸ばして憂さ晴らしをしながらハゲを待っていると、気が付くと二人組のハンターがこちらを見ていた。

サザミシリーズ姿の気の強そうな少女と、ゲリョスシリーズ姿のおっとりした何処か不思議な雰囲気の少女だ。たぶんリサより少し年上くらいだろう。

少々装備に汚れが目立つが、狩りの帰りだろうか?

こちらに向ける視線はどこか訝しげなモノを見るようで、今にも衛兵に突き出されそうだ。

いや違うんです、これはあくまで弟子を可愛がって……ってなんかこの言い訳も謎の犯罪臭がする。

 

やっべどう誤魔化そうと近年まれに見るレベルで思考を回転させていると、とうとう「あのー」と二人組に話しかけられた。

 

「家の前で何やってるんですか?同業(ハンター)の方ですよね」

 

「おとーさんに用事ですかー?」

 

そういえば俺はハンターシリーズを身に付けているし、リサはチェーンシリーズ姿だ。

もしかしてハゲの娘さん?なんて聞きそうになったところで玄関が開き、ハゲが顔を出した。

 

「大丈夫だったよ…………って、トーカにフーカ。お帰り。早かったじゃないか。予定じゃ明日までかかるって聞いてたけど」

 

やはりハゲの娘達らしい。

親子揃ってハンターをやってるのか。

二人ともライトボウガンを背負っているので、少なからずガンナーであるハゲに影響を受けた様子だ。

しかしトーカと呼ばれたサザミシリーズの子はハゲを見るなり表情が険しくなった。

 

「……なに?早く帰ってきちゃダメだったの?」

 

「い、いいや?ここはお前達の家だ。帰ってくるのに文句なんか有るわけないだろう?」

 

それに対してトーカは「……あっそ」と一言残してさっさと家の中へと消えていった。入り口で冷や汗を流しながら固まっているハゲを「……邪魔なんだけど?」と視線で威圧してどかせるという家庭内のカーストが垣間見える一幕もあった。

 

「あれが例の反抗期の?」

 

「……前は違ったんだけどなぁ。いまや何を言ってもあんな調子なのさ……」

 

「おねーちゃん今気難しい年頃からね。今だけだよきっと」

 

哀愁を漂わせながら項垂れるハゲに対して、もう一人の娘であるフーカはどこか達観したような、開いているのかよく分からない細目を夕日の方へ向けながら頷いていた。

そしてさりげなくハゲの側頭部の毛を一本摘まむと勢いよく引き抜いた。プツンッという毛の悲鳴が聞こえてくるようだった。

 

「いったああああ!!残り少ない毛が逝ったあああああ!!えっ!?なんで!?なんで今自然に髪の毛を引きちぎったの!?」

 

「なんとなーく?」

 

なんとなく!?とこれ以上は髪を抜かれてたまるかと頭をガードしながらフーカを叱るハゲ。

これも一種の反抗期なのだろうか?

それにしてはそのアプローチが一部の男性に対して効果抜群なのでやめて差し上げろ。同じ男として戦慄を覚える。

 

それを眺めながら、まるで他人事のよう(実際そうなのだが)にリサはポツリと呟く。

 

「ほえー、私にもいつかあんな感じになる時がくるのかな」

 

「仮にだ。弟子入り中に俺に対してそんな反抗的な態度を取ってみろ。俺はお前をしこたましばき倒した後、気球に宙吊りにして大陸横断ツアーをしてやる」

 

「さりげなく恐ろしい構想を話すのやめてもらえます!?」

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

とても暖かみのある家庭料理をいただいた食後。

色々と今後の相談をすることになっていたのだが、何故かハゲは早々に部屋に戻りたそうにしているトーカを引き留め、席につかせたままである。フーカは面白そうだと感じたのか最初から居座る気だったらしい。

 

「あー、遅れたけどお客さんの紹介をしようか」

 

「どーせまたホモとか奇人変人の類いでしょ」

 

「おねーちゃんお客さんに失礼」

 

ああ、ハゲの知り合いといったらアイツ(ホモ)を筆頭にへんな奴が多いからなぁ…………。

レズ(熟女好き)ケモナー(アイルー専門)女装野郎(女になった自分が理想)とかその他色々…………見事に変態しかいないな。

おまけにハゲの奥さんですらハゲフェチだから手に負えない。

 

「というかまだ紹介してなかったのか?」

 

「いやほら、(ホモ)とかその他数人の件以来、仕事仲間つれてきたことなかったから…………」

 

いったい何をすればあのホモはこの一家にここまでのトラウマを植え付けられるのだろうか。

それ以前にハゲの知り合いにまともなのがいないのが原因ではないか?

 

「……オホン、改めて紹介するよ。彼はハンター仲間のエイト君に、その弟子のリサちゃん」

 

「どもー」

 

「よろしくお願いします」

 

「…………で?この人は何の異常性癖持ちなの?」

 

異常性癖持ちなの前提で話すのやめてくれる!?

俺は至ってノーマルだ!

むしろ性癖が決まってないまでもある。

だからその汚物を見るような目をやめろ。

俺そういう趣味はないの。

 

「おねーちゃん、エイトってもしかしてあのエイト・ハウンズじゃないの?」

 

「エイト・ハウンズって……あの古龍の襲撃から単独でドンドルマを守れるとか、撃退した古龍を単身追撃してそのまま討伐したとか、その逸話から人間最終兵器とか言われてるあの伝説の?」

 

個人的には色々と張り切りすぎて過去にやらかした話を列挙されるのはむちゃくちゃ恥ずかしい。

あと微妙に話が盛られているので訂正する。

まずドンドルマの防衛はさすがに一人だと無理です。

ドンドルマの衛兵を総動員して手厚い支援を受けてようやく防衛戦として成り立ちます。

街の被害を無視すれば追い返すぐらいは出来るが、それでは防衛戦として成り立たないですハイ。

ぶっちゃけ古龍一体でドンドルマの防衛戦力は限界ギリギリです。守るのって難しいことなのだ。

何かの拍子に同時襲撃されたら死ねる。お前らのことだよテオ夫妻。絶対に来るなよ!フリじゃねぇからな!

あと撃退した古龍を単身追撃した話は、あれ実は後から何人か途中で合流して最終的に四人パーティー組んでたので追いかけ始めたときだけ一人だったというのが真実。つまり、俺が勝手に先走っただけです。

 

あの頃の俺は、ちょっと頭おかしかったから。

『ヒャッハァー!モンスターだ!狩猟だ!』ってのがデフォだった。

そのイカれ具合を示す一例がこちら。

 

テルスがクエストを持って現地に来る。

それを受注し、受注書をテルスにもって帰らせる。

フランがやって来て、着ている装備を回収する。

フランに預けていた装備を受け取る。

該当するクエストエリアに移動する。

クエストを完了。

以下無限ループ。

 

回復薬などは現地で素材を調達し、装備フルセット2つをローテーションしながら延々と大型種連続討伐ツアーとか古龍追撃ツアーとかを続けて、半年ほどドンドルマに戻らずに野生化しかけるとかやってた。

 

噂を聞き付けたノエルが「いい加減にしろ貴様ァ!」と狩猟矢を振り回しながらベースキャンプを襲撃してきたので、連日深夜テンションだった俺も「()ンのかオラァ!」と応戦し、疲れ果てたところを二人揃ってネコタクに強制帰還させられ、大長老直々に説教されたりしました。

 

ホントにあの頃はどうかしてた。

 

俺が無表情で遠い目をしているのも露知らず、目の前の若きハンター達はというと、

 

「えっ!えっ!?マジどうしよう!?」

 

「とりあえずサインもらう?」

 

などとテンションを上げながらキャッキャッと楽しそうにしていた。

 

それを横目に、横から露骨に視線を感じたのでハゲの方を見ると、口パクとジェスチャーを交えて何やら話しているようなので読唇するとこんなことを言っていた。

 

「何かためになるような話とかアドバイスしてやって」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

案の定なんか喋ってという不自然極まりない話の持って行き方で凄まじい無茶振りをされたので、まだ真面目にハンターとして活動していた頃───具体的には友人の結婚式に呼ばれてやる気がなくなる前───の話をすることにした。

 

上位のクエストを受けるようになった一部のハンターなら知ってると思うが、守秘義務が発生するクエストというのが多々ある。

一定期間(1週間~半年ぐらいが多い)そのクエストに関する情報を黙ってればいいものや、墓場まで持っていく類の秘密まで様々だ。

前者はライバルの商人にバレないように流通ルート上のモンスターを排除してくれとか、住民に余計な不安を与えたくないから早めにモンスターをどうにかしてくれみたいなのが多い。

後者はクエストに失敗したのを知られて信用を落としたくないから代わりにモンスターを狩ってくれとか、王族(主に第三王女)とか軍とかの国家機密が関わってくることになるので色々と面倒臭い。

なので、一応守秘義務の遵守期間の終わっている話を選んで話すことにした。

 

「三ヶ月くらい前の話なんだが、その時は東方大陸のクエストをいくつか受けてたんだ」

 

「東方大陸?」

 

東方大陸に聞き覚えがないのか、首を傾げるリサ。

トーカ、フーカ姉妹もなんのことやらといった様子だ。

唯一ハゲのみが「あぁ~」と遠い目をしている。

東方大陸とは、この大陸の東に存在する文字通りの東方にある大陸である。

少々距離がある上に海を隔てた場所にあるため、あまり交流が多くはないが、ハンターの武器の1つ、『太刀』の発祥地であることで有名である。

他にも刀や薙刀、独特の形状の機動性を重視した鎧など独自の文化(ブシドー)が根付いており、そのいくつかが大陸にも伝わってきている。

 

「その東方大陸にある樹海の先に塔があるんだ。馬鹿みたいにデカイ塔でな、建築技術自体はそれほど高度というわけでもないんだが、なにしろサイズと高さが常識外れなことから、古代文明の産物というのが学者連中の見解らしい」

 

おまけにいつでも行けるというわけでもなく、周辺環境が安定しないため、現地の熟練案内人でもなかなかたどり着けないので、調査が遅々として進まないらしい。

さらには周辺は希少種や古龍などの目撃情報が後を絶たない超危険地帯でもある。

 

そこまでの説明を聞いて目を輝かせていたトーカは、ふと疑問に思ったのかポツリと呟いた。

 

「そんなところになんのクエストで行くことに?」

 

「依頼人は古代の衣装を纏った青年と少女のコンビだったんだが、彼ら曰く、『()るお方から管理を仰せつかっているある場所に不躾な下朗共が居座っていて困っている。なんとか追い出せないか』ってな」

 

しかし肝心の狩猟対象の情報は依頼人がやたらと遠回しな比喩表現を用いた説明でしか教えてくれなかったからなんか爆発することと見えにくくなることぐらいしか解らなかったが、報酬額が0が一桁多いんじゃないかと思うくらい破格だった。

さらに依頼人が現地まで直接道案内してくれたことで、本来なら環境が安定するまで前線拠点で待機するものなのだが待つ時間がほとんどなかったので、狩猟対象がハッキリしない点を除けば意外とサポートのしっかりしたクエストという評価だった。

……それもあの、クソデカ爆発轟音トカゲ(ティガレックス希少種)クソデカ透明暗殺トカゲ(ナルガクルガ希少種)が相手であったと判明した瞬間にクエストの評価はだだ下がりだったが。

 

余談だが、依頼人の青年は全体的に赤色の衣装、少女の方は青色の衣装だった。

お前ら絶対どっかで俺と会ったことあるよな?

初対面の筈なのにやたらと馴れ馴れしかったし。

 

「霧の出ている月夜に、辺りを舞う爆発性粉塵とティガレックスの超高速突進をやり過ごし、姿の見えないナルガクルガの斬擊と毒針を半ば勘で避け、もう何がなんだかわかんなくなりながら戦ってたよ。ソロでな

 

「うーん、相変わらず頭のおかしいことをやってるなぁ君は。まぁもう慣れたよ君が変なのは」

 

誰が変なのじゃい。

 

「それでッ!それからどうなったんですか!」

 

最初こそ素っ気なかったものの、途中から夢中になって聞いていたトーカが続きを催促してくる。だんだん前のめりになってたよキミ。

 

他の二人は、フーカは「ほえー、すごーい」と半分口が開いた状態で話を聞いており、リサはというと「さすが師匠、略してさすししょ」などと語呂の悪い謎の略語を作っては一人でにやついててキモい(直球)

 

「実はこの二体は縄張り争いをしていたようでな。二対一かと思ったら上手いこと実力が拮抗してた三竦み状態だったわけよ。だから途中から俺は攻撃を控えて回避に徹しながら避けた攻撃がモンスターに当たるように立ち回って、自分は体力を温存しながら他の二体が消耗するようにしたんだ。それで夜明けぐらいまでかかってようやく二体共仕留めた」

 

結局一晩中戦ってたんだよなぁ。

いやぁ、あのときはしんどかった。

決め手は月光がなくなったことによるナルガクルガ希少種の透明化が解除されたのとティガレックス希少種のスタミナ切れが同時に起こったことだろう。

今なら行けるという直感に従って斬りかからなければ、あのままどちらかに逃げられただろうしな。

 

「凄い……凄いけど凄過ぎて参考にならない……」

 

さっきまで目を輝かせていたが、トーカが徐々にテンションを下げるように声のトーンを落とした。

例として挙げると、モンスターの呼吸や動作の起こりを読んで攻撃するという俺の説明のその『呼吸や起こりを読む』のを具体的にどうやるのか聞きたかったのだろうが、如何せん俺の説明は感覚的な部分が大きくあまり参考にならなかったらしい。

そもそも俺は近接専門。ガンナーである彼女達が参考にするには不適格もいいところだ。そこのハゲに聞いた方がよっぽどためになるだろうが、絶賛反抗期のトーカにはそれは難しいだろう。

 

ハゲが俺に何か話とかアドバイスをなどと言ってきたのと、装備が汚れていた辺りから察するに、どうやらトーカ達は最近狩りの調子が思わしくないようだ。原因は恐らく大型モンスターの狩猟についてだろう。トーカやフーカぐらいの中堅ハンターはクック先生を相手にある程度の立ち回りを覚え、ゲリョスやダイミョウサザミなどの比較的危険度の低い大型モンスターを倒せるようになるまでは順調なのだが、ここから次へのステップアップで躓くことになる者は意外と多く、ガノトトスやリオレイアなどの強力な大型モンスターが中堅ハンター達の壁となっている。

巨大な竜を己の(技量)と鍛えた武器で打ち倒すという狩りが楽しくなってくる時期でもあるが、理想と現実との差をまざまざと見せつけられ、ここでドロップアウトする者が多数いるのも事実であるため、色々と難しい時期なのだ。

 

「あー、あれだろ君ら。今まで順調にやってこれたせいで突然の挫折ってのにどうして良いかわかんなくなったってところか?」

 

こういうのはあんまり回りくどい話し方をしていても埒が明かないので、荒治療だがストレートに問題点を指摘してやった方がいいと思う。特にトーカみたいな負けず嫌いには。

 

「ッ……!別に挫折したわけじゃないし……ちょっと調子が悪いだけだし……」

 

「まー、確かにここ最近はハンターランクの昇進に失敗してて芳しくないね」

 

「ちょっとフーカ!?」

 

「けど事実だしー?」

 

「で?何に躓いたんだ?ネルスキュラか?リオレイアか?」

 

そう問い詰めると、しばらく逡巡しながら「あー」だの「うー」だのと唸っていたが、決心がついたのかぼそりと呟くように現在の彼女の怨敵の名を告げた。

 

「…………ドドブランゴ」

 

「なるほど、雪獅子か。アイツは確かに厄介だな」

 

雪獅子の異名をもつ牙獣種、ドドブランゴ。

ブランゴという雪山などの寒冷地に棲息する牙獣種の所謂(いわゆる)ドス個体にあたる群れのボスである。

群れのブランゴを潜ませておいて奇襲かけたり、地形を利用した攻撃などを仕掛けてたり、鳥竜種のドス個体のように群れを率いた集団戦法を取るなど非常に知能が高いことが確認されている。

 

ドドブランゴは雪山という相手のホームグラウンドにこちらから出向かなければならないという関係上、不利な戦いを強いられる。おまけに雪山が吹雪くと視界が奪われた状態で部下のブランゴに囲まれたりと、対策をしっかりと練らないと手も足も出ないなんてこともザラにある強敵である。単純に強さで言えば先に挙げたリオレイアなんかの方が強いだろうが、面倒さならばドドブランゴの方が上だと感じるのではないだろうか。リオレイアは毒対策をしておけば、後は実力で捩じ伏せるというシンプルな対処法しかないと思う。

 

「気がついたら囲まれてるし、雪だるまにされるし、あのクソモンスターめぇぇぇ!!!」

 

「おねーちゃんキャラ崩れてる」

 

話す内に悔しさが込み上げてきたのか頭を振り乱して怒りをぶちまけるトーカ。ちなみに髪型は紳士諸君の予想通りツインテールなのででんでん太鼓のようになっている。

 

「で、親御さんとしてはどうなのよ。ぶっちゃけ俺に何をさせたいんだ?」

 

「ほら、リサちゃんにそろそろ極限環境下における体温管理を教えようかな、って言ってたじゃない?」

 

「言ったな」

 

「初心者に体温管理を教えるなら雪山が最適だからその内雪山に行くつもりだったでしょ?」

 

「確かにそのつもりだが」

 

「そのついでにウチの娘達の現地指導やってみない?」

 

「は?」

 

さてはオメー最初からこのつもりだったな?

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「んで、気がついたらこのザマだよ畜生め」

 

「何処に向かって話してるんですか?」

 

「黙れ気が散る」

 

「超絶理不尽!?」

 

吹き付ける粒の大きな雪。払っても払っても即座に頭には雪が降り積もり、前髪には氷柱が下がってゆらゆらと揺れている。見渡す限り一面の銀世界───などと詩的な表現をするにはいささか天候が悪過ぎた。吹雪により視界はホワイトアウト一歩手前といった有り様で、荷車を引いているポポの少し先が見える程度だ。

 

さっきも言ったが御者台には容赦なく雪が吹き付けており、背後の屋根付きの荷台に不詳の弟子とハゲに押し付けられた件の姉妹が乗っている。あの後、結局押しきられた上にギルドに行かされて『現地同行審査官』の申請をさせられた。

 

ハンターランク昇格の際、本人達からの自己申告と、討伐もしくは捕獲されたモンスターの状態から審査をするのだが、審査対象のハンターも昇格がかかっているため話が誇張されていたり、確認までの間にモンスターの死骸が他の生物に荒らされ、審査の判断基準として相応しくない状態になっていたりすると審査に時間がかかる。そのため、クエスト帰還後に即座に昇格が決定するというのは時間的に難しい。対策として古龍観測所の気球が暇なときに上空から監視してもらったり、ギルドから現地に派遣されるアイルーに証人になってもらったりなど、第三者からの評価が得られた場合は早めに昇格が決定したりするが、総じてハンターランク昇格の査定は時間がかかるものであるというのがギルド職員の認識であり、その他の業務に忙しいギルドでは緊急性が低いという理由から後回しにされがちである。

 

この状態を少しでも緩和するために、ギルドでは上位以上のハンターから有志で現地同行審査官を募っている。

現地同行審査官は文字通り昇格査定のために現地に同行し、自らの経験や知見を元に評価を行う。これに登録申請をすると、性格、知識、信頼性などがギルド側の要求する基準を満たし、問題がなければ認定される。その際に審査官の提出する情報信用度のランク付けが行われるのだが、俺はAランクらしい。どんな基準で格付けされたのかは全くもって不明だが。万年人手不足のギルドではこういう形で委託可能な業務をハンターや協力機関に委託し、業務の効率化を図っているらしい。登録申請をしに言ったら担当窓口の人が隈だらけの引き攣った表情で教えてくれた。

どんだけブラックなんだよギルド職員。

 

「お、晴れてきたな」

 

ギルド職員の就業体制はさておき、頭の雪を払い除けながら空模様を窺う。吹雪も多少は収まってきており、雲の合間から僅かに日が射している。ようやく天候が落ち着いてきたために視界が開け、雄大なフラヒヤ山脈が一望できる。その麓に位置するのが今回の目的地であるポッケ村だ。

 

一年を通して雪に覆われ、大マカライト鉱石をシンボルとするのどかな村で、一時期は鉱山村として栄えていたこともある。最近は古代の竜人族が振るったという老山龍を一刀両断できそうな大剣が村内の洞窟から発見され、それを観光資源として活用しだしたそうだ。

ハンターが雪山に挑む際の拠点として利用することが多く、交通網が発達したお陰で訪れる人数も劇的に増え、なかなか賑わっているようだ。

 

「うぅ……寒い。何度来てもこの寒さに慣れる気がしないわ」

 

「おねーちゃん着込み過ぎじゃない?ウルクススみたいだけど」

 

ウルクススと称されたトーカは一応移動中の警戒のため武装した状態だが、防具のインナーを重ね着して着膨れしている上に毛皮のマントを羽織っている。

 

雪山を主な狩場としているハンターなどは耐寒性能の高い装備で身を固めているが、ホットドリンクの耐寒作用で事足りるためそちらで済ませるハンターも多い。しかし、ホットドリンクの問題点をあげるならばお世辞にも旨いとは言えない代物だということだろうか。原材料がにが虫とトウガラシであることからだいたい察せるとおもうが、苦い辛いの二拍子揃った美味しくない飲み物の代表格だ。一応、店売りの品などはスープのような味付けをすることで多少はマシになっているが違和感は拭えず、そこはかとない『コレジャナイ感』を覚える。現地で素材から調合した場合は味など整えている暇がないため……察して(懇願)いや察しろ(憤怒)

 

我々も道中の寒波から身を守るためにホットドリンクを定期的に摂取しながら移動していたがトーカはホットドリンクが苦手なようで、あまり口にしていないようだ。

ドドブランゴに負けるのそのせいでは?

 

好き嫌いとは、感心しないな。

だが、分かるよ。

ホットドリンクは不味いものだ。

だからこそ(防寒のために)恐ろしい(味の)ホットドリンクが必要なのさ。

 

「私は全然平気ですが」

 

「お前は馬鹿だから寒さにも鈍いんだな。羨ましいよ」

 

「ナチュラルに酷い!」

 

さて馬鹿は放って置くとして、狩りの前に体調を崩されるのも面倒なので、御者台からトーカに包みを手渡した。

 

「何ですかこれ?」

 

「ホットドリンクに混ぜるといい。仮称はホットスープの素。試しに作ったんだがコストがかかるんで、目下コストダウンに挑戦中だ」

 

ホットスープの素は名前の通り、ホットドリンクの味をどうにかしようと香草やら調味料やらで試行錯誤を重ねた結果、奇跡的に誕生した趣味の一品。乾燥肉なども入っているので多少のスタミナ回復効果もある。

唯一の問題は使用する素材が結構値が張るので量を用意するのが難しいこと。レシピは別に秘密でも何でもないので、よりホットドリンクの味を安価に改善してくれるならと知り合いの料理人などに配布済みである。

 

トーカは半信半疑でホットスープの素をホットドリンクに投入し、恐る恐る口をつけた。しばらく舌にスープを馴染ませ味を確かめていたが、エグみも後味の悪さもなく、辛さも抑えられていることを確認すると、ホッとしたように残りのスープをぐい飲みし、あっという間に完食した。

 

「美味しい……」

 

「そりゃよかった。ちなみにそれ1つでホットドリンクが10本ぐらい買えるぞ」

 

「え"?」

 

「おねーちゃん婦女子が出しちゃいけない声が出てる」

 

「だって、これ下手したら店売り防具の兜とかと同じくらいする超高級品ってことじゃ……」

 

わりととんでもない値段だったことに戦慄するトーカ。

コイツ親父と似てからかうと滅茶苦茶面白い。リアクション芸人の血は争えないな。

余談だが、あくまで素材単価でホットドリンク10本分の値段なので実際に素材を仕入れて数を揃えようとすると人件費やら輸送費やらで倍以上の値段になるので、現状では流通させるのは不可能だ。そもそも需要が無い。

 

そうやって他愛もないことを話していたところ、突然リサがハッ、と進行方向のさきにある丘へと視線を向けた。

 

「!何だろう……殺気!?」

 

「しびれを切らしたらしい。奴さんかなり余裕がないみたいだぞ」

 

吹雪が晴れてきた直後から()()()()()()()()()()には気づいていたが、どうやら気配を隠す気がなくなったようでこちらの進路上にある岩場の辺りから隠しきれない殺気が滲み出ている。

リサはそれに気が付いたらしい。こちらへ殺気を向けた瞬間に気づいた辺り、まだ甘いがさすがに生まれてきたときに戦闘方面に才能ガン振りしてきただけあってそのセンスは凄まじい。

 

「リサ、手綱よろしく」

 

「え?ちょ、私そんなのやったことないんですけど?」

 

やり方わかんないんですけど!?と悲鳴をあげるリサに手綱を押し付け、荷台に立て掛けていた大剣、アギトを引っ付かんで御者台から飛び降りる。

 

「何か来るんですね?」

 

「襲撃ですかー?」

 

弾を籠め、ハンドルを引きながら訊ねてくるガンナー姉妹。表情は引き締まり、二人とも臨戦態勢だ。さすがに中堅ともなると切り替えが早い。

 

「とりあえずこっちで追っ払うが、万が一俺を無視して荷車に行くようなら足止めを──ってもう来るか!?」

 

直後、岩場から飛び上がり滑空しながらこちらに突っ込んできた巨体を逸らすようにアギトの側面を叩きつける形で振り上げる。

 

「うぉらぁっ!!」

 

ガゴンッ!という硬く重量のある物体がアギトの側面に接触。突っ込んできた影の着地点を少しずらすことに成功し、荷車の後方近くに雪を豪快に巻き上げながら着地。アギトごと大きく弾かれたが、弾かれた勢いを乗せたまま足を軸にアギトを水平に振り回すことで、衝撃を利用した追撃を行う。剣先がいくらか相手を切り裂くような感覚はあったが、浅い。素早くこちらから距離を取られたせいで表皮と鱗をいくらか傷つけた程度だろう。飛び退いた影は後ろへ滑っていき、荷車からだいぶ離れたところでようやく止まった。

 

巻き上げられた雪が収まると、その影の正体が露になる。巨体を動かすに相応しい筋肉から発せられる熱で表皮についた雪を溶かし、湯気をあげながら姿を現したのは、黄色地に青い縞模様という特徴的な模様と古い種の特徴を色濃く残した強靭な顎と発達した前肢を持つ飛竜。鼻息荒く、苛立ちから顎をガキン、ガキン、と噛み合わせながらこちらを見据えるのは、轟竜ティガレックス。至近距離で食らえば物理的に吹き飛ばされるという轟音の叫び声を放つ、非常に狂暴で危険な飛竜だ。

 

本来なら砂漠に生息する飛竜種でありながらポポの捕食のためにわざわざ雪山に飛来するという一時期騒ぎにもなった生態をもつのだが、なぜわざわざ一頭しかいないポポを襲うんだ?本来なら怯えて山頂付近に逃げるポポの群れを追うため、こんな麓には現れないハズなのだが。ポポの群れにガムートでも混ざってたのだろうか。

見たところそこまで身体が大きくなく、傷痕も少ないので若年個体だと思われる。成体のティガレックスは好戦的な性格と他の大型モンスターの縄張りに土足で入り込むという性質から大小かかわらず多くの傷痕が必ずついているものなのだ。

 

まあ、どうあれ荷車をやられては堪ったものではないのでお帰り願おうか。

 

背後からはどうやら俺が大型モンスター相手に戦うところが見られるかもしれないという期待混じりの視線が向けられているが、殺り合う気は全くない。古今東西モンスターを追い払う(・・・・)んだったらコイツしかないでしょ。ポーチから取り出したのはこやし玉。モンスターのフンを発酵させて作成した堆肥をぶちまけることで強烈な悪臭を辺りに撒き散らす、最狂の手投げ玉である。なお、これは通常のこやし玉ではなくお手製の改良品で、臭いが拡散せずに着弾した箇所に臭いが残留するのだ。

 

「そぉいッ!」

 

威嚇はしていたが反応の遅れたティガレックスの顔面にこやし玉(改)が着弾。モワッ、とおおよその効果範囲を判別するために仕込んである黄土色の粉末が舞った。直後、ティガレックスがあまりの臭さに仰け反り、そのままひっくり返った。どうしていいのかわからず雪に何度も頭を突っ込んだり、前足で頭を押さえて辺りを転げ回ったりと大惨事だ。

 

それを傍目にそそくさと御者台によじ登ってアギトを立て掛けると御者台で固まっているリサから手綱を奪い取ろうとするが、ガッチリと手綱を掴んだまま呆けているため面倒極まりない。

 

「何ボケッとしてんだとっとと逃げるぞ!」

 

「ハッ!?……あれ!?戦わないんですか!?」

 

「こんな荷車の至近距離で暴れられるワケねぇだろ馬鹿か!?馬鹿だったな!この馬鹿!!」

 

「なんか流れるように罵倒された!」

 

「いいから早く手綱を寄越せ!」

 

すったもんだしながらどうにか手綱を奪い取り、ポポに全力で走るように指示を出す。逃げたくてウズウズしていたらしく、ポポは急発進し、御者台に居たリサが反作用で荷台の方にすっとんで行った。

 

 

 

 

俺、雪山でも幸先が悪くて真剣に悪霊の加護がついていないか気になってしょうがない。

 




それじゃ俺は美遊を引くためにガチャを回す作業に戻ります(メンテ延長中)


軽率に呟いておいて今さらなんですが、作品と関係のない感想等は下記リンクにてお願いします。個人的には感想を書いてるけど関係ないことも書くのはグレーゾーンな気がするので、そちらも今後は下記リンクへよろしくお願いします。
私の活動報告からでも跳べるよ。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=206183&uid=31904


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