牙狼-紫月の救済- (ドンじゃらほい)
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始-first contact

今までずっと書きたいと思ってたけどなんか書き始められなかったのを意を決して書き始めた所存。
今回出てくる騎士はちゃんと原作に出てた人です。さぁ誰か予想してみてね


それは油断だった。

全てが終わったと思って、周りも見ずに動きを止めてしまった。

友の無事に安心しきって、吹いた風に髪が傷むことに気が行ってしまった。

だから……

 

だから私は、海に沈んで行っている。

 

気が付くのが遅かった。

撃墜しきれていない敵機が、最後の力を振り絞って爆弾を落とすのを。

風の音に紛れて降ってきたそれに気付いたのは、それが私の眼前に来た時で。

何も出来ないまま、私は海の底に向かっている。

私たちが戦ってきた者達の名と同じ、『深海(うみ)』へ。

 

薄れゆく意識の中、私は、大事な、大好きな友の顔を思い浮かべる。

不思議と悲しいとか、そんな感情は出てこなかった。

ただ。

 

ただ、とても身勝手だけど。

 

どうか、せめて。

 

 

 

(ーー如月のこと、忘れないでねーー)

 

 

 

ただそれだけが頭の中に浮かんで。

 

 

そうして、私は目を閉じた。

 

 

最後の瞬間、今までの温かくも冷たい水に包まれる感じが、消えたことに気付くこともなく。

 

 

 

 

 

※※※※※

 

その男がそこを通ったのは、単なる偶然であった。

とある用事を済ませてからの帰り道、ほんのわずか、聞きなれない「音」が聞こえた気がした為に、わざわざ遠回りになりそうな道を選んで進んでいく。

耳に届く「音」は進めば進むほど大きく、強くなっていく。

しかし大きくなったことで、その「音」が、「波」の音と言うことに気付けた。

ここは陸地、海なんてかなり遠くに行かないと無いはずなのに。

そう思いながら、音の強くなる方へどんどん進んでいく。

 

ーーそうしてたどり着いたそこには。

 

妙なものを背負った、傷だらけの少女が倒れていた。

 

 

 

「大丈夫か!?」

 

男はすぐさま少女の近くに走り寄り、少女に声をかける。

少女からの反応は無い。だが大きく破け、下着が見えている胸元は微かに上下しており、少なくとも生きていることは判別出来た。

 

「……息はしているか、でもこの傷……」

 

そう言って改めて少女の腕の傷を見る。

裂傷のような傷ではなく、火傷や擦過傷のような傷だ。

何故こんな傷をこんな年端もいかない少女が受けているのだろうか。

 

「虐待か……?」

 

『ーーいや、虐待で出来るほどこの傷は軽くは無い。こりゃ爆風を近くで受けたような傷だぞ』

 

「爆風を……?」

 

どこからともなく聞こえた声に、しかし男は驚くことなく返し、傷を見る。

言われてみれば確かに……と思えなくも無い。

だがならば尚更何故という疑問が沸き起こる。

よくわからないものを背負っているし、右手には砲台によく似た銃もーー

 

「……って、銃?この子の物か?」

 

『状況からしてそのようだな』

 

「どうしてこんな子供がそんなものを……」

 

『とにかくわからないことだらけだ。が、お前がこれ以上関係するべきことでは無いかもしれんぞ?』

 

声は暗に、放っておいた方がいい、と言ってくる。

そんなのは、理屈としてはわかっている。

事実、放っておかなかったせいで苦しい思いをしたことがあるのだから、尚更だ。

 

それでも。

 

「……放ってなんかおけないよ」

 

少女の傷に配慮しながら、背負う物の重さに顔をしかめつつ少女を背負う。

 

『やれやれ、まだまだ甘ちゃんだなお前は』

 

「うるさいよ、ザルバ」

 

『それがお前らしいといえばお前らしいがな』

 

「で、見るなよ?」

 

『手の位置をどうにかしなければ無理だ。最も、俺様はこんな小娘の身体や服に興味はない』

 

「目を瞑ってろよ。お前が興味なくても駄目だ」

 

男は自分の『左手』に向かって声を投げかけながら、黒いコートを翻した。

 

 

 

 

 

二つの、重なり合うことは無い世界。

 

何の因果か、はたまた陰謀か、僅かに重なり合う時。

 

 

 

黄金の狼と、如の月が、邂逅する。

 

 

 

 

牙狼-紫月(しげつ)の救済- 前編:金色ノ章




ほの暗い水底、冷たい深海。

浮かび上がるは、見知らぬ世界。

次回、「覚-awake」

少女は目覚める、この世界で。



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感想、評価、批評、その他諸々なんでもお待ちしております。ただし荒らしと誹謗中傷は魔戒騎士の手でスッパリです(おい


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覚-awake

お待たせしました。上がらないモチベを総動員。
登場人物の話し方が思ってた以上にその人っぽくならないように思います。こんな感じじゃない、って思われるかもしれませんがその際はご一報ください。


ーーでね、それでね!

 

一番聞き慣れた、高い声。

 

ーーもー、聞いてよ如月ちゃん!昨日ねー!

 

常に元気で、小言を言うような時もどこか楽しく嬉しそうで。

 

ーーあ、あのね、如月ちゃん。

 

最後に見たあの、照れたような恥ずかしがっている笑顔。

 

ーーねーねー、吹雪ちゃん、夕立ちゃん!

 

 

 

ーーだけど。

 

 

 

ーー今日はどうしよっか!間宮さん行く?

 

今目の前に見える笑顔は、違う。

その笑顔は、今まで見てきた笑顔とは、全く。

 

ーーえ、如月ちゃん?

 

やめて。お願い、言わないで。

縛られて欲しくはない。だけど、嫌だ、それだけは。

許されないとはわかっていても、そんな仕打ちは酷すぎるから。

だから。

 

だから、どうか。

 

 

如月のこと、忘れないで。

 

 

ーー如月ちゃんって、居たっけ?

 

 

 

【覚-awake】

 

 

 

「睦月ちゃ……!」

 

叫びながら上体を跳ね起こす。

そして初めて、今の睦月が夢の中の存在であったことに気付く。

如月はその事に安心し、荒い息を整えつつあった。

 

「……あら?」

 

如月は落ち着いたことで、今の自分の状況をじっくり把握することが出来た。出来たからこそ、新たに今の状況に混乱している。

 

「私……轟沈したはずじゃ……」

 

如月の記憶に残る最後の光景は、自ら目掛けて降ってくる一個の爆弾と、どんどんと遠のく水面の光であったはず。

だが、今目の前に広がる光景は、一体何があったらこうなるのか、というようなもの。

明るい茶色の木目の壁、壁より濃い茶色のタンスが二つ。右手側には、最後に見たのと同じ陽の光が差し込む窓。自分にかけられているのは清潔そうな掛け布団だし、よく見れば着ている服もいつも着ている彼女の服ではなく、半袖の白いワンピースであった。

一体どういうことだろうか。如月が不思議そうにしていると、窓より少し先のドアがギィ、と開いた。

すぐに視線を向けると、そこにはーー

 

「あら、目が覚めたのね」

 

そこに居たのは、栗色の髪をポニーテールに纏めた、ウェスタン風な服を着た女性だった。

その容貌は美人揃いだった鎮守府の人達と比べても劣らない程のものであった。

 

「どう?気分はいいかしら?」

 

女性は部屋に入るとベッドの横に置いてある椅子に座り、如月に向かい合う。

如月も身体ごと顔を女性に向けた。

 

「初めまして。私の名前は莉杏(りあん)。貴女のお名前は?」

 

「……如月、です」

 

「如月ちゃんね」

 

莉杏と名乗った女性は如月の名前を聞くと、不意にマッチを取り出し火を付ける。

どういうわけかその火の色は緑色で、何故火をつけたのか、その色はなどと聞く前に莉杏はその火を消してしまった。

 

「……もうちょっとだけ待っててね、今貴女を拾ってきた人を連れてくるから」

 

「え、あ……はい」

 

莉杏が席を立ち、再び部屋の外に出て行く。

莉杏が出て行ったことで再びやることをなくした如月は、ふと自分の身体に違和感が無いことに気が付く。

そしてそのことに違和感を感じた。

 

(……身体、痛くない)

 

記憶が正しければ、敵艦載機の爆撃を受けたのだから、身体は傷まみれのはず。なら身体中痛みやらなんやらが残っているはずなのに、如月の身体はそう言った傷の痛みなどを殆ど訴えていなかった。

腕を改めて見てみれば、包帯やらガーゼやらは貼られているものの、まるで形だけそうしてるようにしか思えないほど痛みが無い。

 

(どうしてかしら……)

 

疑問は尽きない。そしてふと腕を見ていた時、今まで失念していたことを思い出した。

 

「……そういえば、私の艤装は!?」

 

艤装。彼女達「艦娘」が戦うための力。

それがなければ彼女らの敵と戦うことが出来なくなる、文字通り彼女ら艦娘の「もう一つの命」。

それは今どこにあるのだろう。

探さなければ、とベッドから降りようとしたその時だった。

 

ーーガチャ

 

「入るよ」

 

声と同時に男が部屋に入ってくる。

茶色の髪に黒いコートを着た容姿端麗ーーどちらかと言うと子供っぽさを感じさせるものだがーーな男性。

少なくとも提督よりイケメンの部類である。最も提督の顔しか男の顔を知らないのだが。

男性は如月を見ると柔和な微笑みを浮かべて、先程まで莉杏の座っていた椅子の近くまで歩み寄る。

莉杏は、と思ったら男性の後ろから現れて、再び椅子に座った。

男性はその隣で腰を落とし、床に膝を着く形で如月と視線を合わせた。

 

「気分はどう?」

 

莉杏と同じ問いを投げかけてくる男性。

如月が問題無い、と答えると男性は安堵したように笑った。

 

「良かった。君を見つけた時かなり酷い怪我だったから」

 

「……あの、私を見つけてくださったのは、あなたなのですよね」

 

「そうだよ。あ、名乗ってなかったね。俺は道外流牙(どうがいりゅうが)。君は……如月ちゃん、だったよね」

 

男性は自分の事を流牙と名乗った。

如月の名前を知っているのはさっき莉杏が呼びに行った時に聞いたからだろう。

 

「はい……あの、ここは」

 

流牙の名前がわかったところで如月はずっと抱いていた疑問を投げかけた。

 

「ここは……俺たちの泊まってる宿屋だよ。ちょっと用事で出ている時の帰り道で倒れてる君を見つけたんだ。君ーー如月ちゃんこそ、あの怪我は一体……」

 

今度は流牙から質問される。如月は一瞬言うべきか考えるが、すぐに本当のことを話そうと口を開いた。

 

「あれは敵の艦載機の爆撃で……あの、それで私、轟沈したはずなのですけれど……何故私はここに」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

如月が再び疑問を投げかけようとしたところで今度は莉杏が如月を止める。

 

そして、如月にとって思いも掛けない言葉が返ってきた。

 

 

 

「轟沈に敵の艦載機って……なんのことなの?」

 

 

 

「……え?」

 

驚愕に驚愕で返す。

 

わからなかった。

"何故そんなことがわからないのか"、が。

 

"艦娘が敵艦載機の爆撃で轟沈する"ということなど、艦娘の名前を知らなくても、彼女にとっては誰もが知っている、疑問に思うことでは無いはずだから。

 

そこまで思って一つ思い出した。

そう言えば二人に自分が艦娘だということを言っていなかったことを。

如月の名前を知らなければ、如月が艦娘だと気付くことは不可能だろう。

 

そう、勘違いしながら。

 

「だって、私は睦月型駆逐艦二番艦の如月ですもの。爆撃で轟沈なんておかしいことでは」

 

「待って」

 

今度は流牙が話を遮る。

 

そして、如月に一つ、確信を持たせることを言った。

 

 

 

「……君は、何を言っているんだ?」

 

 

 

如月が得た確信。

 

 

 

それは、彼らが、艦娘を知らないということ、だった。

 

 

 

 

 

******

 

「……もしかして、艦娘を、ご存知無い、のですか?」

 

如月の問いに、流牙と莉杏は顔を見合わせる。

 

「……聞いたことあるか?」

 

「少なくとも符礼法師(ぶらいほうし)からは一度も。閑岱(かんたい)やボルシティでも聞いたことが無いし、今まで読んできた文献にも一切載って無かったわ。流牙は?」

 

「俺も無い。ここの図書館で読んだ本にも艦娘なんて無かったよ」

 

「……どういうこと?」

 

二人の会話に如月も更に疑問を覚えた。

 

(……艦娘の情報が無い?)

 

彼女達艦娘のことは事細かに、とまではいかなくとも、そこそこの情報は一般にも公開されている。

それが、図書館の本にも一切記載されていないのは不自然だ。

如月が全く聞いたことの無い地名が飛び交ったこともあって、如月はふとある仮説に辿り着く。

荒唐無稽な、普通あり得ない仮説。

 

「……嘘やデタラメを言っているとは思えない。如月ちゃんが身につけていた機械のこともある。考えられるとするならば……」

 

 

 

「「……異世界?」」

 

 

 

如月と莉杏の声が被る。

莉杏も同じ結論に至っていたようだ。思わず顔を見合わせる。

 

「でもそんな……異世界なんて……」

 

「無くは無い、ってことか……他に何かあるかもしれないけど、その線が一番手っ取り早いな」

 

そんな馬鹿な、と思うようなことをしかし流牙は可能性の一つとしてすんなりと受け入れた。

莉杏も同様であった。

 

「い、いいのですか?そんな荒唐無稽なことを……」

 

如月は思わず不安になって流牙達に問いかけるが。

 

「あくまで可能性の一つだからね」

 

と、軽く受け流された。

 

(……可能性の一つとして、だとしても普通はそのような発想が思い浮かばないはず。それをさも当然のように……この人達、一体何者なのかしら?)

 

二人に対して疑念を抱き始める如月。

だが助けてもらった恩と、ここまでの僅かな時間でこの二人が少なくとも悪い人ではないと感じた為、湧き上がった疑念を如月は振り払った。

その時、ふと流牙の言ったことを思い出す。

 

「……そう言えば流牙さん。さっき、私が身につけてた、と仰いましたよね?」

 

「ん?うん。なんかよくわからないものを背負ってて、手には……」

 

間違いない。私の"艤装"だ。

一応は軍事機密の塊だ。命の恩人と言えど下手に手をつけられたらマズイだろう。

直感的にそう判断した如月は、それを自分の元に戻そうと考え、行動しようとした。

 

「あの、それを私に見せ--」

 

 

 

が。

 

 

 

ーーくぅぅ。きゅるるるる……

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「……えーっと、そう言えばお昼だし、ご飯、食べよっか」

 

「……ハイ」

 

真っ赤にした顔を俯かせながら、如月は小さく呟いた。

 

 

 

 

 

「お待たせっ」

 

如月の腹が自己主張をして十数分後、部屋を出ていた莉杏がお盆を持って部屋に入って来た。ちなみに部屋の扉は流牙が開けた。

お盆の上にはほかほかと湯気をたてているパン粥とサンドイッチ。

流牙が椅子とテーブルを用意している様子から、二人もここで食事を取ろうと考えているのだろう。

実際一人で食べるのは少し淋しいものがあったので如月としては歓迎であった。

 

「作りたてだから熱いわよ、気を付けてね」

 

「はい。このお粥は莉杏さんが……?」

 

「ええ。ここって結構珍しい宿で、宿って言うより貸し部屋みたいな感じなのよ。料理とかお風呂とかも全部部屋に備え付けなの」

 

成る程、道理で出来るのが早いし米の粥ではなくパンの粥なのか、と納得した。

 

「だからお米炊いてなくてパン粥になっちゃったわ。ごめんね?」

 

「いいえ、気にしませんわ。むしろ私の分を作ってくださってありがとうございます」

 

礼を言い、流牙と莉杏が椅子に座ってから一緒に食べ始める。

流牙と莉杏はサンドイッチを頬張っている。

 

「うん、美味いよ」

 

「当たり前よ」

 

さも当然のように言う莉杏に小さく苦笑を浮かべながら、如月は莉杏お手製のパン粥を一口。

甘めのコーンポタージュで作っているため、コーンの甘さがパンに染みていて、とても美味しかった。

二口、三口と食べ続ける。

甘くて、暖かくて、美味しい。

 

その粥の美味しさが。

粥に籠められた莉杏の真心が伝わってくるようで、如月はここにきて初めての安心を覚えた。

 

そして。

 

安心と共に、「生きている」実感を、感じる。

 

その実感が、思い出させる。

轟沈させられた時の痛み、ほとんど感じてなかったはずの恐怖、約束を破ったことへの罪悪感。

 

ーーなによりも。

 

「……如月ちゃん?」

 

流牙の声にハッ、と意識がはっきりする。

そして、お盆に雫が何滴も落ちているのに気が付いた。

 

「……あ、れ」

 

「だ、大丈夫如月ちゃん!?もしかして味が気に入らなかったかしら……?」

 

莉杏が慌てふためくのを、如月は大丈夫だと言おうとして声が出せなかった。

声を出そうとすれば、嗚咽が漏れそうで。

 

「だ、じょ……ぐすっ、ですか、ら」

 

なんとか振り絞った声も、二人には心配の材料にしかならなかった。

そうこうしているうちにも如月はその瞳から涙を零し続けてしまう。

 

「ーー!」

 

不意に、暖かい感触に頭が包まれる。

目の前に広がる、茶色い世界。すぐに莉杏の服の色だと気付き、莉杏に抱き締められたのだと理解する。

頭の上から莉杏の声がした。

 

「ごめんなさいね……なにか、気に食わないことをしてしまったみたいで」

 

違う、違う。

言おうとしても嗚咽しかこぼれない。

その時、手に触れられる。

見なくてもわかった。流牙だ。

莉杏に抱き締められている今、流牙が何をしているかわからないが、如月の手を包むその暖かさは心地よいものであった。

 

「……如月ちゃんを呼ぶ声がする」

 

唐突に、流牙が口を開いた。

 

「如月ちゃん、如月ちゃん、って。凄く大事そうに、凄くーー愛おしそうに」

 

流牙の少し震えた声が、誰のことを言っているのか理解して。

今この涙が止まらない理由を、しっかりと認識した。

 

恐怖でも、痛みでも、罪悪感でもなく。

 

 

 

「むつ、き、ちゃ……!会い、たい、よぉ……!」

 

 

 

ただただ、一番大事な人と会えないことへの、寂しさだった。

 

 

 

 

 

******

 

「……泣き疲れて寝ちゃったわね」

 

眠る如月に布団を優しくかけてやる莉杏。

如月の髪を優しく梳いて、立ち上がる。

 

「……どうするの?」

 

小さく問う莉杏に、流牙は少し押し黙って考えていた。

 

「……少なくともホラーじゃ無いなら、斬ることは無いよ。それに……」

 

一度言葉を区切って、如月を見つめる。

 

「……あんなに、一人の人のことを思って泣ける子を、放ってはおけない」

 

「それは同じ思いよ。だけど……」

 

「……」

 

『そんなに悩むなら最初から連れてこなければ良かったんじゃないか?俺様はそう言ったはずだぜ?』

 

流牙の「左手」から声が発せられる。

 

「悩んでなんかいない」

 

『そうかい。なら一つ教えてやる。その娘ーー』

 

 

 

『なにか、人とは違うものを感じるぞ』

 

 

 

その言葉を受けて、再び如月を見つめる流牙と莉杏。

自らを艦娘と名乗った少女。この子は一体……?

そんな思いが、二人の中に生まれていた。




いつの時代も、人の集う地は賑やかなもの。

傷心の人も、その賑やかさに救われるものがあるかもしれない。

次回、町-walk

賑やかな裏に、蔓延る闇。



*****
と言うことで前回からすでにばれているとは思いますが、今回登場するのは流牙と莉杏コンビでございます。
チョイス理由はこのコンビが一番好きなこと、このコンビが一番如月のことで葛藤してくれそうなこと、戦う女性繋がりなどなどであります。まぁ台詞が二人っぽくないように感じてしまうのなんとかしないといけないわけですが。

ちょっとだけ艦これの話(一応艦これとのクロスですし)
冬イベお疲れ様でした(超今更
当鎮守府はグラーフ堀りのためにE3だけ乙、後は甲で挑んで無事クリアしました。
グラーフもメンテ前日の夜になんとか着任してくれました。やったね。でも朝霜と瑞穂今回も着任してくれなかったよ。畜生。
あと雲龍も居ないんですそろそろ建造にですね(((
そして昨日ノリで大型したら武蔵引きました。初大和型やったぜ。

また次の話もだいぶ先になるかもしれません(とりあえず17から名古屋に旅行行ってしまいますの)
長くお待たせしてしまうと思います。ごめんなさい、少しでも早く次の話を投稿します。


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町-walk

「わぁ……!」

 

広がる光景は、圧巻だった。

だいぶ夜が更けたにも関わらず賑わっている人々、町中に設置された電灯によって何不自由なく活動出来る明るさ、蔓延する様々な美味しそうな匂い。

見たこともない景色に如月は普段の大人びた様子とは似ても似つかぬほどに気分が昂ぶっていた。

 

「ここが私達の今いる町、アスピナシティの一番賑やかな場所、グリント通りよ」

 

莉杏が説明する。

 

「ちょっと古い感じの町なんだけど、ここはいつでも明るくて一日中営業してるお店もあるわ。あとなんでもあるの。お洋服に日用品に、美味しいご飯も、ね」

 

そう言いながら莉杏は如月と手をつないだ。

 

「さ、行きましょうか。美味しい晩御飯を食べに」

 

 

 

【町-walk】

 

時は少し遡る。

 

「……失礼しました」

 

「いいのよ、気にしてないから」

 

真っ赤に染めた顔を俯かせて謝る如月の頭を莉杏が撫でる。

 

「でもせっかくのご飯を残してしまいましたし……」

 

「いいから、気にしなくて大丈夫よ」

 

「うぅ……」

 

なおも俯いている如月の頭を撫でる莉杏。

その様子を見た流牙は、まるで歳の離れた姉妹だな、などと思った。

 

結局あの後如月は三時間近く眠ってしまい、起きたら外は夕焼け色に染まっていた。

莉杏と流牙はすぐ近くに居たので如月が起きたのにはすぐ気付いたが、状況を把握した如月の慌てようと言ったら、それはそれは可愛らしいものであったという。

 

 

 

「……落ち着いた?」

 

「えぇ、なんとか……まだ顔から火が出そうですけど……」

 

まだ顔は赤くなっているが話をするだけの余裕は戻った如月を見てから、流牙は窓から外の様子を見る。

如月が起きた頃は街が夕焼けに染まっていたのだが、今はだいぶ夜の闇が街を包んでいる。

もう数十分もしたら日が完全に沈むだろう。

となれば待っているものは。

 

「夕飯、食べに行こうか」

 

「え?」

 

窓から再び如月に視線を戻す。

 

「もうそろそろいい時間だし、ちょうどいいからご飯食べに行こう。あ、まだ身体が痛いとか怠いとかあれば買ってくるよ」

 

流牙が体調を言及してきたことで、今の自分が病み上がりだと言うことを思い出す。

早速軽く腕を回したりして体調を確認してみる。

 

(……うん、大丈夫だわ)

 

起きてから時間も経っているので眠気による怠さなどもない。とても轟沈して(体感では)数時間とは思えないくらい調子がいい。

これならそう遠くもなければ出かけることが出来るだろう。

 

「大丈夫そうですわ」

 

「よし、じゃ……ごめんね、ちょっと待って」

 

如月がベッドから降りようとした時、流牙は如月をおいて部屋を出る。

どうしたのだろうか、と疑問に思いつつ流牙を待つと、流牙は真っ黒なコートを着て部屋に戻って来た。

 

「莉杏、如月を頼む」

 

「……わかったわ」

 

「え、と、流牙さん?どうかなさいましたか?」

 

会話の流れが読めなくて、如月は問いかける。

流牙は今までと同じ笑みを浮かべて答えた。

 

「ごめんね、急に用事が入っちゃって。夕飯は莉杏と先に行ってきて。俺は用事終わってから適当に済ますから」

 

とだけ言って部屋を出て行ってしまった。

如月が止める間も無く言ってしまった流牙に仕方ないわね、とボヤいて莉杏が立ち上がる。

 

「じゃ、あのバカは放っておいといて、女二人で女子会しましょうか」

 

「……大丈夫なのですか?」

 

心配そうに呟く如月に、莉杏は目線を合わせる。

 

「大丈夫よ」

 

莉杏のその言葉は、不思議と信頼度が高かった。

それは、莉杏自身が、流牙を相当信頼してるからなのだろうな、と。

如月はなんとなくだが、そう思った。

 

 

 

「全くこのタイミングでかよ」

 

『諦めるんだな。魔戒騎士の宿命だ』

 

「飯一つで宿命、ね」

 

『……確かに気配を感じるな。幸いあの小娘達が向かう方とは逆側だ。見られる心配も狙われる心配も無い』

 

「俺がトチらなければ……な!」

 

『そういうことだ』

 

「相変わらず口の減らないやつだな」

 

『性分でな」

 

「……いくぞ」

 

 

 

そして時は現在。

グリント通りに着いた如月と莉杏は気になった食事処を探して通りを散策した。

多種多様な食事処がありどれも美味しそうで目移りする如月を見て、大人びていてもやっぱり子供だなぁ、と莉杏は思う。

となるとやはり気になるのは如月の素性。

艦娘、という存在の秘密。

この子はいったい、何を背負っていたのだろうか。

この、小さな、小さな背中に。

 

(……いけないいけない、今は考える時じゃ無いわね)

 

小さく頭を振って、余計な考えを追い払う。

そうして如月をもう一度一瞥すれば、如月は変わらず色んな店を興味深そうに覗いていた。

 

「あぁどうしましょう、どれも気になりすぎて選べないわ……」

 

「そうねぇ、じゃあ今回は私イチオシのお店に行く?」

 

「莉杏さんイチオシですか?はいっ、行きましょう!」

 

そう言って莉杏と如月は少し歩く。

辿り着いたその店は洋食屋で、中はかなりの人が入っている人気の店のようだ。だが幸いなことに待ち人数は一組か二組程で、十分待てる。

よし、と顔を見合わせた。

店は決まりだ。

 

 

 

 

 

その頃。

人通りがほとんどない、暗い暗い裏路地。

人っ子一人いないその細く狭い道を、一人の若い女性が走っていた。

その表情は恐怖と焦りに染まっていて、時折後ろを見ながら体力の限界まで走り続ける。

そうして少し明るい路地が見えてきたところで女性は壁にもたれかかり、息を整える。

今まで自分が走って来た方向を見ても、彼女が逃げてきた原因はいない。

良かった、と歩き出そうとした。

 

「やぁ」

 

「ひっ……!!」

 

だが、彼女の向かう先には、彼女が逃げてきた原因がーー黒い長髪の、痩身長躯な男が、立っていた。

 

「そんなに逃げなくていいじゃないか。僕はただ君にちょーっとだけ、来て欲しいだけなんだから」

 

そう言いながら、男は女性に歩み寄る。

女性はもはや立つこともできず、抜かした腰を地面に擦らせながら少しでも逃げようと腕だけで後ずさる。

だが明らかに速度が違う。男が女性にもうあと一歩まで、近寄った。

 

その時。

 

「そこまでだ」

 

男と女性が、声のした方を見る。

 

そこには、二人に向かって緑色の炎を灯すライターをかざした流牙が立っていた。

 

『男の方だ』

 

「あぁ、わかってる」

 

ライターを仕舞い、流牙は男に駆け寄ると男を全力で蹴り飛ばした。

 

「がふっ!」

 

無様に吹き飛んだ男を睨みつけながら、ガタガタと震える女性に声を掛ける。

 

「逃げろ!」

 

「ひっ……ひぃぃぃぃ!!」

 

流牙の怒声に抜けていた腰が戻ったのか、何度か転びながらも女性は表路地に逃げて行った。

ちょうどその時、蹴り飛ばされた男が起き上がり、流牙を睨みつける。

 

「貴様ぁ……邪魔をするな!」

 

「残念だけど、それは無理だ」

 

そう言って、構える流牙。

 

「何故なら……」

 

男が唸りながら流牙に駆け寄ってくる。

その男に向かって、言い放った。

 

「貴様らを狩るのが、俺の使命だからな!」

 

 

 

 

「「ご馳走様でした」」

 

同時に食事を終わらせてナイフとフォークを置く。

莉杏は椅子の背もたれに体を預けると、幸せそうに息を吐いた。

 

「あ〜、美味しかったぁ。やっぱりここのカルボナーラは絶品ね」

 

「えぇ、とても美味しかったです。また食べに来たいくらい」

 

如月もナフキンで口を拭って落ち着く。

昼をロクに食べられなかったこともあって、ちょっと多めのパスタも問題なく完食できた。

 

「それだけ食べられるならもう体は大丈夫そうね。そうしたら明日は服を見に行きましょうか」

 

「そんな……悪いです、私のためにそんなに」

 

「別に大丈夫よ、お金も十分あるから」

 

一体どれだけお金を持っているのだろう。そんな疑問が如月の中に生まれる。

思えばこの人達は謎に包まれ過ぎなのだ。名前以外の情報が乏しすぎる。

 

(……ダメね、助けてもらった人達にこんなこと思っちゃ)

 

そう思って、心の中に生まれた邪念を振り払う。

その時、ふとここに居ないもう一人のことが頭をよぎる。

彼は気にせず晩御飯を食べてきていい、と言っていたし、何か適当に買って食べるとも言っていた。だがーー

 

「……如月ちゃん?」

 

「あっ、はいっ」

 

「どうしたの?」

 

一瞬、わがままを言ってしまうような感じがして口を開くのを躊躇ってしまう。

だが、莉杏ならーーそう思った如月は、意を決して伝える。

 

「実はーー」

 

 

 

 

 

ぎぃ、と部屋のドアを開けて静かに部屋に入る流牙。

部屋では莉杏が椅子に座りながら何かを解体していた。

正確には、解体ではなく、整備。

それは、拳銃であった。

 

「……おい、そこで整備してるなよ」

 

「別に大丈夫よ、如月ちゃんはもう寝てるわ」

 

「……」

 

特に相槌も挨拶も返さずに、流牙は莉杏に対面するように椅子に座った。

莉杏は流牙に目を向けることなく喋り始める。

 

「どうだったの?」

 

「何の問題もなく終わったよ。襲われてた人が居たけど逃がせたし、きちんと斬った」

 

「そ。まぁ流牙が下手なドジ踏んでないかだけが気になってたから無いならいいわ」

 

「ったく、莉杏は俺の母さんかよ」

 

「波奏さんの後は継ぐつもりだけど流牙のお母さんになるつもりはないからね?……あ、そうだ」

 

軽い会話を続けるなか、莉杏が唐突に何かを思い出したかのような声を上げて席を立つ。

流牙が視線だけ莉杏に向けると、莉杏はキッチンへ向かった。

そしてキッチンから小さな紙箱を持ってくる。

ケーキなどを容れる用の形をしたその箱の側面には何かの店のマークが小さく書かれていた。

莉杏がテーブルの上に置いたので、その箱を開けて中身を確認する。

 

「……これって」

 

「如月ちゃんがね、流牙に、って」

 

箱の中には少し大きめのサンドイッチが入っていた。

バンズはフランスパンのようなパンで、具は見た感じレタスとベーコンに特製ソースがかかっている、シンプルなもの。

それが、二つ。

 

「如月ちゃんがね、ご飯食べた後に、流牙に何か買いたいって言ったの」

 

 

 

『ーー流牙に晩御飯を買って帰りたい?』

 

『はい……』

 

如月の言ったことに莉杏は首を傾げながら疑問をぶつけた。

 

『でも流牙は自分で適当に買うって言ってたから大丈夫だと思うわよ?』

 

『それは、そうなのですけど……』

 

もじもじとしながらも、如月は理由を話し始めた。

 

『その……せっかく美味しいご飯を、流牙さんだけ頂けなかったのが、なんだか、なんでしょう……もやもやするんです。だから、せめて何かお持ち帰り出来るものがあれば……と思って……』

 

『……』

 

『あの……駄目、でしょうか……?』

 

上目遣いでおずおずと聞いてくる如月に、莉杏はクスッと微笑んで言った。

 

『ーー駄目な理由なんて無いわ。さ、何を買って帰るか考えましょう?』

 

 

 

 

 

「そっか……如月ちゃんがそんな……」

 

「ええ……とても優しい子よ、あの子」

 

優しく微笑みながら如月が寝ている部屋のドアを見つめる2人。

流牙は如月と莉杏が選び、自分のために買ってきてくれたそのサンドイッチを一つ取り、頬張る。

 

「ーーうん、美味い」

 

その美味さは、ただ料理の美味さだけではないように、流牙は感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

×××××

 

「そうですか。魔戒騎士が」

 

[バリ。ロサゼゲ《ザデム》バワマメ、レノオイバイゼマメムチナク]

 

人間には理解出来ない言語を話す何かと、それと会話をする男の声。

両者は暗闇に覆われ、わずか燭台の小さな火が一つだけしか光源のない部屋に居た。

 

「それは困りましたね。前の魔戒騎士は既に『弾切れ』ですし、残りのストックも少ない。今のももうすぐ『弾切れ』になってしまいますし」

 

[リサザアタメナツ?]

 

「そうですね……仕方がありません、ローテーションにない人を組み込むことにしましょう。《ゲジャデムェ》や《アスパイン》などを組み込んでください」

 

[ジョリ]

 

そう言って不可解な言語を話していた何者かの気配は消え去る。

もう一人の男はため息を零すと、恨めしそうに呟いた。

 

「これだから迷惑なのですよ……魔戒騎士と言う奴らは」

 

その呟きが終わると同時、男の気配も部屋から消えた。

残されたのは、未だ火を灯し続ける燭台だけだった。




秘密があれば、秘密を知りたくなる。

秘密の数だけ、魅力が増える。

次回、話-fleet girl

だから全ては、明かさない。明かせない。



こちらの近況などをごちゃごちゃ書くのは活動報告とかで良さげだなと最近思いました。
お待たせしました。次もまた遅くなると思いますがご了承下さい。

作中の魔戒語はネット上にあった魔戒語翻訳のページを使わさせていただいております。
魔戒語の法則調べようと思ったら出てきました。あるんですねそういうの。居るんですね、作った人


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話-fleet girl

大変遅くなりました申し訳ございません(待ってる人がいるとは言っていない)


牙狼 DIVINE FLAME はいいぞ(いいぞ


【話-fleet girl】

 

「おはようございます」

 

「おはよう、如月ちゃん」

 

「あら、早いのね?」

 

「元々朝は6時起きが義務でしたから」

 

如月がこの世界で目覚めた日の翌朝。今度はいつも通りの時間に起きた如月は、自身の使っている部屋から出て流牙と莉杏に挨拶をした。

 

「朝ごはんもうすぐ出来るから待っててね」

 

キッチンに立つ莉杏はそう言って調理に戻る。

手伝おうかとも思ったが手伝うほどもやることがなさそうだったので素直に従い、席についた。

流牙は如月に挨拶を返してからは、外で買ってきたのであろう新聞を広げている。

 

「……」

 

新聞を読む目は真剣だ。ここまで真剣に新聞を読む人もいないだろうと思い、流牙に話しかけるでもなく見える部分の記事を読んでいた。

と言ってもテレビ番組の一覧となんということのない記事しか載っていないのだが。

 

「こういうある意味独立した街だと一面記事になるようなことってほとんどないの。だから一面記事になることは街のPRかいいニュースばかりだわ」

 

コトン、とテーブルに皿が置かれる音が2人の視線をそれに向ける。

 

「……赤城さんが食べてた量みたい……」

 

「?」

 

その皿に盛られた山盛りも山盛りのサラダを見て、如月はそう思わざるを得なかった。

なおそのサラダの6割は流牙の腹に収まったというのは余談である。

 

 

 

 

 

「さて……なんだかんだできちんと話せてなかったから、そろそろ色々とお話しましょうか」

 

朝食を終え、莉杏が「それ」をテーブルの上に置いて話し始める。

 

「……」

 

如月はテーブルに置かれた「それ」を手に取った。

ほんの数日前までその手に持ち、彼女と彼女の仲間を守り、敵を撃ち沈めていた武器。

12cm単装砲。破損しているし弾もないが、紛れもなく如月が使っていたものであった。

 

「……艦娘、と言ったな。俺達の世界にそんな存在は無い。だから説明して欲しい。艦娘って、一体なんなんだ?」

 

流牙の質問に、やはりここは自分の居た世界とは違うのだなと思い知らされた如月は、破損した単装砲を撫でるように触りながら語り始めた。

 

「……私は睦月型駆逐艦二番艦如月。深海棲艦と戦う存在です」

 

 

艦娘。

それはかつて人間同士の戦争に用いられた海上戦闘用兵器、俗に言う『軍艦』だの『戦艦』だのと言った兵器の力をその身に宿した少女達のことである。

軍艦のような装備ーー艤装をその身に纏い、軍艦のように水上を駆け、大砲を撃ち、魚雷を放ち、戦闘機を飛ばし。

軍艦と同じ力を持ちながら、その姿は少女である艦娘達は、彼女達のいる世界において、全ての海を支配する未知の敵勢力ーー深海棲艦と戦いを続けている。

 

 

 

「……そして私はある出撃の時に、敵の艦載機の奇襲を受けて轟沈してしまったのです。帰ったら伝えたいことがある、って言ってくれた人を残して……」

 

そこまで話して俯いてしまう如月を、流牙と莉杏はとても辛そうな表情をして見つめ続けた。

しばらくの間沈黙が続く。その沈黙を破ったのは全てを語った如月自身だった。

 

「……ごめんなさい、辛気臭くしてしまって……」

 

「……ううん、いいのよ、いいのよ……!」

 

莉杏の声が鼻声になっているのに気付いて、如月は再び鼻の奥に熱を感じた。

こんなにも自分のために感極まってくれる人の存在が、嬉しくて。

必死に目に浮かぼうとするものを抑えていると、流牙も辛そうな表情を浮かべながら口を開いた。

 

「つまり君達艦娘は……『軍艦の力を使える人間』ってことなんだな……」

 

「……ッ!」

 

流牙の言葉に、一瞬息をのむ。それを悟られないようにすぐに頭を巡らせる。

 

「……えぇ、そういうことに、なるのかと……」

 

「そっか……」

 

なんと続ければいいのか悩んでいる様子の流牙は、如月の境遇に憐憫の情を抱き悲しんでいる莉杏は、気付かない。

 

一瞬、如月の様子が変であったことに。

 

その如月は、先程までの悲しみにくれた表情を「作っていた」。

 

 

 

自身の本当の正体を、悟られないために。

 

 

 

 

 

 

 

******

 

「調査員……ですか?」

 

如月の告白から十数分、今度は如月が流牙と莉杏のことについて聞いていた。

流牙はうん、と頷き、話を続ける。

 

「俺達はある組織の調査員として、世界各地を回って様々な不思議な現象や事件を調べているんだ」

 

「だからこのアスピナシティにもその調査で来たの。それで調査をしてる時に、偶然流牙が倒れている貴女を見つけた、ってわけ」

 

「そうだったのですね……じゃあ私がその調査の手がかりだとお思いになられて……?」

 

如月の少し意地悪な疑問に流牙は苦笑しながら答えた。

 

「そんなんじゃないって。確かに最初はその事件に巻き込まれたのかって思ったけど、君はそうではなかったし、そうであろうとなかろうと怪我をしている君を放ってはおけなかった、それだけだ」

 

流牙の真剣さがその瞳の真っ直ぐさから伝わって、如月はほんのりと顔を赤らめて視線を逸らした。

 

「あら、じゃあ流牙さんは私のことを心から心配してくださったのですね……?ふふっ、照れてしまいますわ」

 

「そんなに照れることかな?」

 

「……」

 

ゲシッ!

 

「痛って!何するんだよ莉杏!」

 

「流牙の足に虫が止まってたから」

 

「だからってそんなに勢いよく蹴るなよ!」

 

「しょうがないじゃない手元が狂ったんだもの!」

 

そのまま口喧嘩に発展する流牙と莉杏を見て、如月は口を出すことなく苦笑いを浮かべてその様子を見続けていた。

ただどうしても、これだけは言っておきたいと莉杏に声を掛ける。

 

「莉杏さん、足で蹴ったのに手元と言うと変ですよ?」

 

「………………」

 

「……ふっ」

 

「今鼻で笑ったでしょう!?あったまきた、今日は流牙の晩御飯作りませんからね!」

 

「な、おいそれはないだろ!」

 

「……ふふふっ」

 

さらに激化する二人の喧嘩のようなじゃれあいに、如月は笑いをこらえることができなかった。

結局このじゃれあいは軽く一時間ほど続いたという。

 

 

 

 

 

その夜、如月が寝つき、莉杏もまた自室に戻った頃。

流牙は街をブラブラと歩いていた。特に目的はなく、夜風に当たりたかった程度の理由でだが。

 

『いいのか?あの小娘をいつまでも近くに置いておいて』

 

流牙の左手から声が聞こえる。流牙は左手を眼前に持ってくると、中指に嵌めた髑髏を模した指輪に向かって話し始めた。

 

「前も言ったろ。今は放っておく訳にはいかないって。何かしらの目処がついたらそうするさ」

 

『それまでに本業に巻き込まれるかもしれないぞ?』

 

「……その時は守るだけだ」

 

話は終わりだ、と言わんばかりに左手を下ろし、再び街を歩き始める流牙だが、頭の中で先程の言葉が繰り返される。

 

(それでも、今放り出したらあの子はこの世界で完全な孤独だ)

 

浮かび上がる様々な疑念を、流牙は強靭な心をもって打ち払う。

たとえ何が起きようと守ればいい。いつものように、と。

 

「……帰るか」

 

そうして流牙は莉杏と如月が待つ家に帰るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

#####

 

「ふむ、なんとか間に合いましたか」

 

「ひ、いや、いやぁ!助けて!家に返してください!」

 

どこかの昏い部屋。男の声と、窓から差し込む月光に照らされた裸身の女性。

女性は体を鎖で巻かれており満足に身動きが取れない。

怯え、泣き、姿の見えない男に命乞いをする女性。

 

「そういうわけにはいかない。君は本来昨日ここに来るはずだったのだからね」

 

そう、今鎖に巻かれた女性は昨日流牙が裏路地で助けた女性その人だったのだ。

 

「とはいえスマートでは無い連れ方をしてしまったのは申し訳ない。まさか君が入浴中に押し込むとは思わなかったよ。あぁ安心してくれ、私は君の体を見ていないからね。落ち着いてみればわかるだろうが、大事な部分は鎖に隠れているから」

 

「そんな、いいから家に返して下さい!こんな、こんなことして許されると思ってるんですか!?」

 

女性が必死に叫ぶが、男は何を言っているんだと言わんばかりに女性に語り返す。

 

「人の法では許されないだろうがそれは人に限った話だろう?人間は自らが喰らう牛をその牛の家族の元から引き離し殺し喰うじゃないか。それも犯罪かい?違うだろう?そんなこと言ったら人間は肉を食べられないじゃないか。それと同じだよ」

 

コツ、コツという足音が部屋に響く。

女性は悟った。声の主が近づいているのだと。涙を流しながら必死に全身を使って離れようとする。だがそんなものは無意味で、すぐに男は女性の傍に立つ。

その顔はまだ暗闇に隠れていて誰か判断出来ない。

 

「君は僕にとっての牛さんさ。乳という甘露を絞りとられ、肉という絶品のメインディッシュを戴かれ、魂という最高のデザートを堪能されるだけの、ね」

 

「……ぃ、いや、いやいやいやいやいやぁぁぁぁ!!」

 

その時、女性は火事場の馬鹿力というものを発揮したのだろう。物凄い勢いと距離を体だけで跳躍してみせた。それでもせいぜい数十センチと言ったところではあるが。

だがその数十センチの跳躍が、女性にその男の顔を確認させるという奇跡を起こした。

 

 

時として、奇跡は人に希望をもたらす。

 

だが、必ずしも希望だけをもたらすわけではないのだ。

 

 

 

「……!?そ、そん、な、あな、たは」

 

「……見てしまったか。なら尚更生かしては返せないね」

 

「な、なん、どうしてこんな、なんであなたがこんなことを!?答えてくださいち」

 

女はそこまでしか話せなかった。そこで、彼女の頭部に巨大な針が刺さり、そのまま絶命したからだ。

 

「……急ぎ長期保存処理を施さねば。とはいえこれでは三日保つかといったところですね……すぐに次のを見つけなければ」

 

男がそう呟いた時、彼の足元に写真がひらりと舞う。

誰が撮ったか、誰が渡したかわかりもしない写真を拾い上げ、そこに写る「少女」を見る男。

 

[トオソヌツネ、ニョルアイロリヨサユヂナチカザ、コケノルナトルガコロノリナチカ]

 

「……なるほど。しかも見たことがない子だ。これは……」

 

ニヤリ、と口元を歪める男。

 

「……少し準備が必要ですが、明後日には捕えましょう。楽しみだ」

 

そう言いながら写真に写る少女を舐めるように見る。

 

赤紫に近い紫の長髪に、髪よりも紫色な瞳、未だ幼ささえ感じさせるその少女は。

 

紛れもなく、如月本人だった。




夜の前には朝がくる。騒乱の前には静寂がある。

何かが起こる前には必ず逆のことがある。

次回、休-daily

つかの間の休息が来たら、その次には。




DIVINE FLAMEの完成披露試写会に行ってました。浪川さんとか見ました。佐咲紗花さんも拝見させてもらいました(流石に話すとかは無理ですが)
本当に素晴らしい作品でした。さぁまだ見に行っていない人すぐにでも見に行くのだ(興奮


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休-daily

魔戒の迷宮やってます(なおフリック追いつけない老害
牙神 玖牙なんてのがいたらフレンド飛ばしてみるといいかもね(露骨なフレ募集


【休-daily】

 

あくる日の朝、如月は流牙と莉杏に連れられ、二度目のグリント通りにやってきていた。

前回の、夜のグリント通りとは違う、朝のグリント通りは、また違う雰囲気と賑やかさを見せていた。

 

「相変わらずここはすごいなぁ」

 

「この街でここで手に入らないものはない、って話よ。そうしたらまずは服屋を探しましょうか」

 

「はいっ」

 

今日グリント通りに来た理由は、如月の日用品や服などを買うためである。

今まではなんとか騙し騙しやってきたものの、いつまでこの世界に居るのか、いつ元の世界に戻れるのかわからない以上、きちんとそう言った物は揃える必要があるのは明白であった。

 

「とりあえず動きやすい服と可愛い服と寝巻きと……」

 

「……俺別の店見てていい?」

 

早速女性の買い物に飽きた流牙に、呆れて溜息を吐きながら金を渡す莉杏だった。

 

「ならせめて別の買い物してきてよね!」

 

「わかってるよ……うっさいなぁ……」

 

ぶつくさ言いながら別の店に向かっていく流牙を見送り、如月と莉杏は再び服屋の中に入っていく。

いくつか目ぼしい服を見つけては試着し、組み合わせてはあーでもないこーでもないと悩む。

結局流牙が他の買い物を済ませて戻ってきてもまだ悩んでいるのであった。なお流牙は長いとキレた。

 

 

 

「髪は女の、私の命です」

 

「ハイ」

 

結局服屋で更に30分ほど悩み、選んだ服を買った次の店で、如月は服の時よりも真剣に整髪料を選んでいた。

 

「確かに凄くよく手入れされていたけど……そこまで執着は無かったわね……」

 

莉杏も感心する。確かに髪は大事なものであるためきちんと手入れはしてきたが、ここまで本気で髪を手入れしたことは無い。

流牙も口を出せずにいると、如月は思いの外早く商品を選んで戻ってきた。

ちなみにだが、このアスピナシティは英語も使われているが、日本語も使われているため、異世界からきた如月でも文字を読むことが出来る。日本語の形は変わらないようだ。

 

「お待たせしました」

 

「服屋の時より待ってないからいいよ」

 

「悪うございましたね」

 

「なんでもいいから、次行こうよ。俺もう腹減ったよ」

 

「朝にサンドイッチ10切れ近く食べてましたよね……」

 

談笑しながら店を出て、また別の店に向かおうとする3人。

だが歩いている最中、如月はふと視界に入った露天商の店に目を奪われる。

 

「……?如月ちゃん、どうしたの?」

 

それに気付いた流牙が如月に呼びかけると、如月はハッと気が付いたかのように視線をこちらに向ける。

 

「あ、あぁ、ごめんなさい、なんでもございません」

 

作り笑いを浮かべて近寄ってくる如月が見ていた店を見ると、その店にはいくつかの髪飾りが並べて置かれていた。

 

「あの店見てたの?」

 

「う……はい、あのピンクの花の髪飾り、あれと良く似たものを付けてたのですけれど……」

 

如月が指さしたピンク色の花びらの髪飾りは、確かに如月に良く似合うだろうと直感した。

だがなぜ今その髪飾りをつけていないのか、その答えは如月の話を思い出すことで簡単に導き出せた。

 

「……その、轟沈した時に、か……」

 

「……はい。睦月ちゃん--姉の元に届いていると、いいのですけれど、それも……」

 

悲しそうな表情を浮かべる如月を見て、流牙はその露天商の元へ向かう。

露天商は痩せぎすで禿げた老人で、こんな奴がこんな髪飾りを売っていることに驚き、店を間違えたかと思いそうになったが、気を取り直してすぐに声をかける。

 

「なぁ、これらの髪飾りいくらだ?」

 

「流牙さん!?」

 

如月が驚いて声を上げるが気にせずに老人を見据える。

老人は流牙を見上げるとまるで値踏みするように見つめ、しわがれた声で値段を言った。

 

「5000」

 

「なっ……高すぎよ!いくらなんでもそんなの暴利だわ!」

 

叩きつけられた値段に莉杏が抗議するが、流牙は莉杏の名前を呼んで静止すると自身の財布から金を取り出し老人に差し出す。

 

「好きに持って来な」

 

金を受け取った老人はあろうことか商品から目を外し、新聞を読み始めたではないか。

莉杏と如月が驚いている中、流牙は如月の言った髪飾りと、他に2.3個の髪飾りを手に取り、挨拶もなしに店を後にした。

そのまま莉杏と如月の元に来て、髪飾りを如月に渡した。

 

「はい。ついでだから予備とかもと思って多めに買っちゃった」

 

「は、はい……」

 

キョトンとしながら受け取る如月に対し、莉杏はどういうことか流牙に問いただす。

 

「これはどういうこと?一体なんだったのさっきのは」

 

そんな莉杏の問いに、流牙は歩きながら答え始める。

 

「別の店で聞いたんだけど、あの店主は観察眼が凄いらしくてね。こっちの身なりや連れ添い、何のために買うのかとかを瞬時に判断して、売る個数と値段をその場で決めるんだってさ。そりゃ少しは盛られるだろうけど、買う人にとっては十分適正な値段に感じられる。だからいいんだよ」

 

「へぇ……凄いのね」

 

流牙の話に莉杏は老人に対して感心する。

あの数秒でそんなことまで考えていたのかと思うと、老人の能力は凄まじいものだとわかる。

 

一方如月は押し黙り、髪飾りを見つめていた。

 

(……こんなにたくさん、いいのかしら……)

 

計4つの髪飾りを手に、器用に人を避けながら歩く。

いつも付けていた髪飾りを付ければいいのだろうし、流牙も予備と言っていたのだから全部無理につける必要はないのだが、どうにも悩んでしまっていた。

どれもが可愛らしい飾りであるのもそうだ。流牙の見立ては実際素晴らしく、どれもが如月に似合うし、如月の髪色を映えさせるだろう。

だからこそ悩んでしまう。

そしてそれ以上に、せっかく貰ったものを使わないでいるのが、本当に嫌だった。

元の世界にいた頃はここまで悩むことはなかった。そもそも物を貰うという経験が少なかったのもあるが。

だがここにきて余るほど物を貰う経験をして、どうしたらいいのかわからない。

それが、如月に悩ませる最大の原因となっていた。

 

「お昼何食べようか。この辺じゃあのカレー屋が美味しいらしいけど」

 

「いいんじゃないかしら。でも流牙、カレー跳ねさせないでよね」

 

「そんなことしないよ、子供じゃないんだから」

 

「下手な子供より子供っぽいところあるじゃないあなた。如月ちゃんの方が大人っぽいわよ」

 

「……反論出来ないのが悔しいな」

 

そうこうしながらも歩み進む流牙と莉杏に、一旦悩むのをやめて早足でついていく。

 

 

そしてそのカレー屋で食事をしている時、如月は一つの答えを見るのだった。

 

 

 

 

[ヂュユピサユミョルチナチカ]

 

「わかりました。今晩決行してください。調べた結果ターゲットの近くに居るのは旅行者達……男は消しても構いませんが女は残しておきなさい」

 

[ジョリ]

 

 

 

 

夜、部屋に帰宅した3人は順に風呂に入っていた。

風呂まで備え付けなあたり本当に凄い部屋である。

今は如月が入っていた。とは言っても入ったのが1時間前で、髪の手入れもそろそろ終わるだろうと踏んでいる莉杏は次に入る準備をしていた。なお流牙は一番最初に10分で出ている。

 

「……なんか、今日は楽しかったな」

 

唐突に、流牙が莉杏に話し始めた。

 

「何よ急に。まぁ、確かに楽しかったけど」

 

「『こっち』を知らない如月ちゃんが居るってだけで、違うもんだね」

 

「……ねえ、どうするの?」

 

莉杏が問いかける。その問いの意味を、流牙はキチンと理解していた。

 

「ここまで関わりあっちゃったけど、もう数日こっちでやれることをやったら警察にでも連れて行くつもりだよ。俺たちと一緒にいるより、遥かに安全だ」

 

笑みを消して、流牙が答える。

そこに迷いは無い。

 

「だったら最初からそうすればよかったんじゃない?今更突き放されても、あの子が苦しむだけよ」

 

「それは悪かったと思うけどさ、あの時持ってた艤装なんかを警察が見たら警戒するだろうし、それにやっぱ、被害者だと思ったからさ」

 

「……『イェルネ』の?」

 

「あぁ。やつがこの街のどこかにいるのは確実だから、奴に襲われて辛くも逃げ切ったのかと思ってさ」

 

「……如月ちゃんのことは一旦置いておきましょう。『イェルネ』はいったいどこにいるのかしら」

 

「全くわからない。ここまで情報が無いと逆にここにいるってのはわかるけどどこに隠れてるのか、さっぱりだ」

 

真剣な表情で会話を続ける二人だったが、浴室に続くドアが開いたことで纏っていた雰囲気を緩めた。

すぐに風呂から上がった如月が現れる。

 

「お待たせしました」

 

「全然。そしたら私が入ってこようかな」

 

「あ、莉杏さん」

 

「ん?なぁに?」

 

そのまま風呂へ向かおうとする莉杏を呼び止める如月が手を差し出す。

その手には、オレンジ色の花の髪飾りが握られていた。

 

「これって……」

 

「せっかく流牙さんが買ってくださったものを取っておくというのももったいないですし、かといって毎日変える……というのも節操なく思ってしまって。だから莉杏さんにもつけてもらいたく思って……」

 

如月が莉杏の目を見ながら話す。

 

それは昼食を取っている時だった。

カレーに舌鼓を打っていた時、ふと少し離れた席が目に入った。

そこに座っていた家族は、父親が子供にわざわざ3人分頼んだデザートを、更に自分の分まで子供にあげていた。

その姿を見て、如月は髪飾りを莉杏にあげることを思いついたのである。

 

「こんなことしたら流牙さんに失礼かもしれません。でも、こうしたいなって思って、だから……ごめんなさい、流牙さん」

 

一旦莉杏に伸ばしていた腕を下げ、流牙に頭をさげる如月に、流牙は笑みを浮かべて、如月の肩に手を置いた。

 

「そんなに気にしないでいいよ。俺が買ったとしても、如月ちゃんにあげた時点で君のものだ。だから君の好きにしていいんだよ」

 

「流牙さん……」

 

流牙の言葉に、如月は微笑む。

そして再び、莉杏に手を伸ばした。

 

「この色が莉杏さんに似合うと思いました。もし良ければ、受け取ってもらえますか……?」

 

心配そうに莉杏を見上げる如月。

莉杏は嬉しそうに微笑んで、その髪飾りを受け取った。

 

「ありがとう、如月ちゃん。大切につけさせていただくわね」

 

そう言って、これから入浴するにも関わらず、髪に飾りをつけていく。

頭の右側、如月と対象になるようにつけられたオレンジ色の髪飾りは、莉杏の美貌をより強調していた。

 

「……うん、よく似合ってるよ」

 

普段そういった服飾などに口を出さない流牙も褒める。

如月も満足そうに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

その瞬間は、確かに幸せだった。

 

だが。

 

 

 

 

--ドンドンドン!

 

 

 

 

 

 

彼らに『普通の幸せ』は、与えてもらえない。




彼女は知った 自分が闇に見染められたと

彼女は抗った 迫り来る闇を

次回 戦-wolf

そして彼女は見た 黄金の輝きを




お待たせしました。おそらく次回、本格的な戦闘&ガロ登場です。
ただかなり長くなる可能性あります。まとめられないってつらいね!
あと激しいアクションを表現出来るか、挑戦になります。全然伝わらない場合はホラーに才能求めてきま(((


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戦-wolf

往年の牙狼ファンなら魔戒烈伝最終話「金字塔」と牙狼-阿修羅は見るべきそうするべき

今回長めです。


【戦-wolf】

 

それは、突然であった。

 

--ドンドンドン!

 

突如、ドアが激しくノックされる。

流牙と莉杏は一気に気を引き締め、流牙はドアに、莉杏は如月の手を引き、別室へ向かう。

流牙は2人が別室に入ったのを確認してからドアを開けた。

そこにはサングラスをかけ、黒いスーツを着た黒髪短髪の男を筆頭とした、10数名の男たちがいた。

 

「-……何用だ?」

 

声低く、威圧するように聞く。

流牙のドスの効いた声に何人かはビクッ!と怯えるが、筆頭の黒服の男は動じることなく流牙に話しかける。

 

「ここを借りてる道外流牙だな」

 

「そうだ」

 

「早速だがこれを見て欲しい」

 

そう言って男が懐から出したものは、写真。

写っていたのは、如月だった。

 

「この小娘が貴様らと行動を共にしていると聞いた。貴様らは2人でこの部屋を借りているはずだ、この小娘と行動を共にし、この部屋に小娘を住まわせる理由は無いはずだが」

 

「……確かにこの子と行動はしてたけど、それはこの子がここを借りた後に裏路地で倒れてるのを見つけたからだ。怪我もしてたから、その怪我がきちんと治り次第警察に預けるつもりだ」

 

「最初から警察ないし病院に連れていけばよかったのではないか?」

 

男の言うことに言葉を詰まらせる。

確かに今の台詞は正論で、普通ならそうするべきだろう。

ここで下手に言い訳してもいいことはないだろう、そう判断した流牙は論点をずらすことにした。

 

「……それに関してはあんたが正しいよ。で、こんな夜にいったい何の用だ?」

 

流牙の問いに、男は後ろにいる男たちから紙を受け取り、それを流牙に見せた。

 

「……逮捕状!?」

 

それは逮捕状。しかも逮捕される対象は流牙でも莉杏でもない。

 

「その小娘はこの街に正規の手続きをせずに住んでいる。よって不法侵入で逮捕することが決まった。ここにいるのはわかっている、差しだせ」

 

それは、如月への逮捕状。

その理由も決して変なところがない、基本は至極真っ当な逮捕状に見える。

男も当然と言わんばかりに威圧してきた。

 

「庇えば貴様らも拘束させてもらう。さっさと不法侵入者如月を差しだせ」

 

だが、流牙にそんな脅しは通用しない。

それどころか、男に対して反撃し始める。

 

「……なぁ、なんでその逮捕状にはあの子の名前がないんだ?容疑者の名前がない逮捕状なんて効力持たないと思うんだけど」

 

「何?」

 

「それなのにあんたらさっきあの子の名前を『如月』と呼んだ。逮捕状には名前が書かれていないのに。あんたはあの子の名前を知っているのに、なんでだ?」

 

背後にいる男たちが騒めく。

そう、この逮捕状には如月の名前が書かれていなかったのだ。

名称不明、不法侵入者が、本来名前を載せられるべき場所に書かれているが、そんな逮捕状があるものだろうか。

そして何より、目の前の男は名称不明であるはずの如月のことをキチンと「如月」と呼んだのだ。

 

「……」

 

男は押し黙った。

そして流牙は、決定打を決めうちに行く。

 

「とりあえずそんなサングラスしながら話しかけるのはマナー悪くないか?外せよ」

 

流牙に言われ、渋々サングラスを外す男。

サングラスを外し、再び流牙を見た時、その視界には緑色の炎が映っていた。

 

「な、なにしてやがる!?」

 

背後にいる男たちのうちの1人が声を上げる。

更に5.6人が怪訝そうに声を上げた。

 

 

 

だが、火を向けられた男は、動じなかった。

 

 

 

何故なら。

 

 

 

「……やっぱりな。匂ってたんだよ」

 

「……よもや貴様が、そうだったとはな……ならば、死ね」

 

 

 

炎を向けられた意味を、知っているから。

 

 

 

 

 

そして男の拳が、流牙に振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

バキン!!と、大きな音が隣の部屋で聞こえた。

その音に如月は、隣の部屋に行こうとする。

あの部屋で誰かと応対している流牙が心配だったからだ。

 

「駄目よ如月ちゃん!あの音は何かが壊れた音……戦闘になってるはずよ!危険だわ!」

 

莉杏が如月を呼び止める。その莉杏は机から何かを取り出していた。

 

「でも、流牙さんが!」

 

「流牙なら大丈夫」

 

流牙を心配する如月に対して、莉杏は心配する素振りを見せずにいた。

その様子に、如月は疑問と怒りを感じてしまう。

 

「何故ですか!?いくら流牙さんが男性だからって、あの人数は……それに私は艦娘です!戦闘訓練も積んでますから、戦えます!」

 

「いくら貴女がきちんとした戦闘訓練を積んでいたとしても駄目。貴女が艦娘であるないの前に、貴女は女の子なんだから、腕力でねじ伏せられる可能性がある。それに……」

 

莉杏が諭すように如月に語りかけていた時、突如部屋の扉が粉砕され、男が吹き飛んでくる。

すぐに部屋の中に吹き飛んできた男の顔を見ると、全く見たことのない顔だった。

すぐに莉杏が叫ぶ。

 

「ちょっと流牙!ドア壊さないでよ!! 」

 

「そっちですか!?」

 

驚く如月だったが、ドアの残骸の向こうに見える光景に更に驚かされた。

なんと床に既に3人伸びているのだ。流牙と男達の戦闘が始まってわずか1分も経たないうちに、3人が。

そしてそれを成したのは、男達の敵である、流牙しかいない。

流牙の圧倒的強さに、如月は言葉を失っていた。

 

「ドアは後だ莉杏!」

 

流牙の怒号に莉杏は何故か懐から取り出したマッチを擦る。

灯された火は、如月がこの世界に来て初めて見せられたものと同じ、緑色の火。その火を莉杏は、どこからか取り出した筆で、男達に向かって振るった。

不思議なことに火は筆に燃え移ることは無く、しかも空中を漂ってまだ立っている男達の視界に映るまで消えなかった。

全ての起きている男達がその火を見る。

 

 

 

その内の5人と、筆頭の男。

 

 

 

 

その瞳に、謎の文字が浮かび上がった。

 

 

 

莉杏は如月の手を引き、あえて部屋を出て流牙の後ろに立つ。

そして流牙に、赤い紙を渡した。

お札のような文字の書かれた赤い紙だ。

流牙はそれを受け取ると、男達に向かって歩み寄った。

そこまで広くない部屋だ、四歩程度で男達のすぐ前に着く。

唐突に歩み寄られた男達は驚きながらも、仲間を攻撃されたことで流牙が危険だと判断し、それぞれ殴りかかる。

それをスラリスラリと回避し、何人かの額に莉杏から渡された赤い紙を貼り付けた。

すると貼り付けられた男はすぐに倒れる。

 

「な……!?」

 

「安心して、寝てるだけだから」

 

驚く男の額に笑みを浮かべながら紙を貼り付ける。

そしてその男が倒れるのと同時、首を右に倒して、後ろから振るわれた拳を回避する。

拳を振るったスーツの男は驚愕するが、流牙はそんな事御構い無しにその腕を掴み、力任せに投げ床に叩きつける。

そして一旦下がり、莉杏と如月の元に戻った。

 

「俺が隙を作る、その間に如月を連れて逃げろ。奴らの狙いは如月だ」

 

低いトーンで莉杏に告げる。

莉杏は頷くと、如月の手をしっかりと握った。

 

「おのれ……!」

 

スーツの男が立ち上がる。残った男達はドアから出られないようにドアの前に陣取っていた。

そこで如月は気付く。残っている男達の共通点に。

 

(……さっき瞳に何かが浮かんだ人達だけ……?)

 

その現象が起こったのはわずか数秒だけだったが、その数秒で見ることができた何人かは残って立っているのだ。

2人ほど如月は確認できなかったのが立っているが、恐らく同じだろう。

 

(という事はあのスーツの男も……)

 

などと考えていた瞬間。

 

「グォォォォ!」

 

突如隣の部屋から男が飛びかかってきた。

それは流牙に吹き飛ばされた男で、どうやら気を失っておらず、機をうかがっていたようだ。

流牙達が隙を見せたと判断し、飛びかかってきたのだろう。

だが。

 

「はっ!」

 

「やっ!」

 

流牙と莉杏には通用しなかった。

2人の息のあった蹴りが男に直撃し、男は再び隣の部屋に吹き飛ばされるのであった。

 

「行け、莉杏!」

 

流牙が叫ぶと同時、男達に突っ込む。

スーツの男の迎撃をいなし、逆にドア前に陣取る男達に向かって蹴り飛ばした。

男達も吹き飛ぶが、ドアの前を塞いでいる事実は変わらない。

 

「なんとかどいてもらわないと出られない……!」

 

如月は顔を顰めて言う。

が、突如体を襲った浮遊感に一瞬思考が硬直した。

 

「……え?」

 

「いい?舌噛まないように気をつけてね?」

 

さっきより近い莉杏の顔。

すぐに、莉杏に抱えられていることに気付いた。

 

「り、莉杏さん!?」

 

「行くわよ!」

 

「え、え!?」

 

そう言って莉杏は、如月を抱えたまま何故か隣の部屋に入る。

流牙と莉杏に蹴り飛ばされた男はそれに気付いて体を起こそうとするが、莉杏が部屋に入った瞬間蹴ったゴミ箱が顔面に直撃し変な声をあげて再び倒れた。

そんな様子を確認することなく、窓を開け、桟に足をかけた。

 

「ま、待って下さい莉杏さん!?そう言えばここ3階ですよ!?まさか!?」

 

「そのまさかよ?」

 

にっこり笑う莉杏。

そしてすぐに、窓から飛び降りた。

 

「きゃああああああああ!?」

 

勿論、抱えられたままの如月も一緒に。

死んだ。

如月はそう思ったが、なんと莉杏は何事もなかったかのように着地し、そのまま裏路地を駆けだす。

 

(……3階の高さから私を抱えて飛び降りて無傷どころかすぐに走り出せるって……流牙さんも何人も相手に勝っちゃうし……)

 

莉杏に抱えられてる間に少し落ち着いたのか、如月は流牙と莉杏の異常さに疑問を浮かべる余裕を持ったらしい。

 

(……この人たち、何者なのかしら……?)

 

息も切らさずに走り続ける莉杏にまた驚きながら、如月は抱え続けられるのであった。

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

正拳突きが炸裂し、男が吹き飛ぶ。

 

「ふっ!」

 

腹部に蹴りを入れられ、別の男が崩れ落ちる。

 

「おぉぉ!」

 

飛び上がり相手の首を足で挟む。

そのまま体を捻り倒すことで、更に別の男が首を明後日の方向に曲げた。

 

「おのれぇ……!おい!こいつを足止めしろ!」

 

スーツの男はそう言って部屋から出て行く。

 

「待て!」

 

流牙はそれを追いかけようとしたが、吹き飛ばされる倒されたはずの男達が流牙の前を遮った。

男達は息を荒げていたが、自らを鼓舞するかのように叫ぶ。

 

「キシャァァァァ!」

「グォォォォォォ!」

 

その叫び声は人のそれではなく、男達の口元は大きく裂け、無数の歯を見せつけるものであったが。

しかし流牙はその光景に驚くこともせずに、どこからか取り出した赤い鞘の剣を抜く。

白銀の刃を構え、そして振るう。

 

一振り目で1人を袈裟斬りにし。

 

二振り目で切り上げ。

 

三振り目で大きく回転しながら纏めて複数の胴を上下に分かれさせる。

 

たったの三振りで、そこにいた男達は全滅した。

 

「ば、ばか、な……」

 

最初に袈裟斬りにされた男が苦悶の表情を浮かべ、流牙を睨む。

そしてその赤鞘の剣を見て、今度は驚愕の表情を浮かべた。

 

「そ、その赤い鞘……まさか、お前は……」

 

その先の言葉を紡ぐことなく。

 

 

 

男達は、消滅した。

 

 

 

『流牙!』

 

突如流牙の左手から声が響く。

すぐに隣の部屋を見れば、莉杏にゴミ箱をぶつけられた男が、その姿を変えていた。

 

灰黒の肉体。

白く濁った瞳孔の無い瞳。

そびえる二本の角。

右の黒い小さな羽と、左の白い小さな羽。

 

「キシャァァァァ!!」

 

誰がどう見ても、化け物であるその姿になった男は、羽を肥大化させ、窓から空へ飛び立つ。

窓に駆け寄り外を見ると、その化け物がどこかに飛んでいくのが見えた。

 

『奴の飛ぶ先からも、「ホラー」の気配を感じるぞ!』

 

再び左手から声をかけられ、流牙もまた窓から飛ぶ。

莉杏とは違い、窓から隣の家の屋根へと、だが。

そして屋根を伝い、飛んでいく化け物を追う。

 

やがて化け物は急に降下した。

十数秒遅れてそこに辿り着くと、莉杏と如月が、化け物達に囲まれているのが見えた。

 

「待てぇ!!」

 

そして流牙は、屋根から飛び降りた。

 

 

 

 

時は少しだけ遡る。

路地を走っていた莉杏は、突如自分の前を塞ぐように立った男のせいで立ちどらざるを得なくなっていた。

横を避けようにもその後ろに2人。避けたところで捕まるだろう。

とはいえ追っ手とは違い、ただのゴロツキかもしれないと考えた莉杏は、気圧されないように声を張った。

 

「今急いでるの、どいてもらえるかしら!」

 

一般人が聞けば、それこそそこいらのチンピラですら尻込みするような、威圧感を感じる声。

しかし男達は尻込むどころか笑みを浮かべ、退くことはしなかった。

 

「莉杏さん……」

 

「降ろすわね」

 

抱えていた如月を降ろし、再びマッチを擦って男達の視線に映るように掲げる。

やはりその瞳には、何かが浮かび上がった。

 

「おい!」

 

真ん中に立つ男が声を上げると、莉杏らの後ろから更に3人、どこからともなく現れた。

手には鉄パイプを持っている。それはもはや捕まえる意思など全く無いと言ってるのと同じなように感じられた。

 

「どっちも殺すなよ。特にその小娘は、だ。魔戒法師は……死なねえ程度に痛めつけろ」

 

そう言った瞬間、後ろにいた男の1人が鉄パイプを莉杏に振り下ろす。

が、それに気付いていた莉杏はほとんど振り向くことなく男の腹部を蹴り飛ばした。

次いで懐から独自の装飾が施された拳銃を取り出す。

 

--バァン!バァン!

 

躊躇いなく引き金を引く。放たれた弾丸は的確に前にいた左右の男の頭に直撃し、2人の体は大きく揺れた。

更に後ろの男達にも弾丸をぶち込む。

銃弾を何発も食らった男達は地に倒れた。

 

そして、少し苦しみながらもすぐに立ち上がる。

 

「何が……何がどうなってるの……!?」

 

如月はこの一連の出来事に、混乱し頭がパンクする寸前になってしまっていた。

無理も無い。突如自分を追う者が現れ、流牙と莉杏の尋常では無い肉体能力を見せられ、躊躇なく信頼していた人が人を殺そうとし、しかし即死するはずの者がなぜか生きている。

 

挙げ句の果てには。

 

「ギシャアァァァァァ!」

 

「シィィィィィ!!」

 

全ての男達が、黒い化物の姿になったのだから。

 

「な、なんなの、これ……」

 

「如月ちゃん、私の後ろに隠れて!」

 

莉杏が如月の前に、如月を壁と挟むように立つ。

6体の化け物に対して怯えすくむ如月を連れた莉杏だけという図は、いくら莉杏が強いとわかっていても無謀だとしか思えなかった。

更に。

 

「よく足止めした!逃げやがって……!」

 

部屋に来たスーツの男まで追いついてくる。

ここで初めて莉杏が表情に苦いものを見せた。算段が狂ったことか、この男が別格の強さを持つからだからか。

銃と、新たに取り出した筆とを構え、迎え撃とうとする。

 

その時。

 

「--待てぇ!!」

 

怒号と同時、莉杏の前に流牙が着地する。

そのまま振り向きざまに剣を一閃、近寄ろうとしていた化け物達が引く。

流牙の登場に一瞬隙を見せた、逃げようとした方にいた化け物に銃口を向ける莉杏。

その銃口の先に筆の穂先を置いて引き金を引くと、どういうわけか銃弾は威力を増して放たれ、化け物の胸に穴を作った。

 

「ギィィィィィ」

 

胸に穴を開けられた3体は地面に倒れ、霧散した。

 

「ぐっ……貴様ぁ!!」

 

ついに堪忍袋の尾が切れたのか、スーツの男が裂帛の気合いを込めて吼える。

するとその姿は人のそれから、牛のような化け物に変わる。

頭部から生える曲がりくねった2本の角に、筋骨隆々の肉体、鋼のような光沢を得た爪の伸びた左手と、その豪快さからは想像できない甲高い声。

 

「ピシャァァァァァァ!!」

 

スーツの男だった牛の化け物が吼える。

周りの黒い化け物達も便乗して吠えた。

恐怖に怯える如月だったが、莉杏と流牙は全く怯える様子が無い。

 

『奴はホラー・アスパイン。強固な爪とパワーが面倒な奴だが、代わりに鈍いぞ』

 

「……え?」

 

突如流牙の左手から声がして、如月は流牙の左手を見る。

そこにはいつも流牙がしている髑髏を模した指輪しか無く、その時の如月に声の出処は分からずじまいだった。

 

だがそんなことは、どうでもよくなる。

 

「一気に片付ける。莉杏は如月を」

 

流牙に言われ莉杏に身体を支えられながら少し離れる。

そして、流牙は天に向かって剣を掲げた。

そこに円を描くと、その軌跡が残る。

瞬間、その円の中の空間が割れ、眩い光があたりを包んだ。

あまりの眩しさに目を瞑ってしまうが、瞼を閉じていても感じた光が収まったように感じたので、目を開いて、その姿を見る。

 

 

 

そこには、「黄金」が、いた。

 

全身を黄金に包んだ、鎧の騎士。

 

右手に持つ剣も、大きく変化している。

 

[そ、その鎧……その金色……まさか!?]

 

アスパイン、と呼ばれた牛の化け物が驚愕と、恐怖の声を上げる。

 

 

 

アスパインの目に映ったのは、黄金の狼。

 

これまた全身黄金に身を包んだ、アスパインらにとっての、最悪の存在。

 

この輝き、この金色、あの三角の紋章。

 

正面から相対する邪悪には、自らを射殺す威圧を備えた阿修羅のように。

 

背後に立ち守られる者には、自らを必ず守護すると言われるかのような安心感を。

 

 

 

その姿は。

 

 

 

[黄金……騎士!?]

 

 

 

その存在は。

 

 

 

[馬鹿な……黄金騎士は、輝きを失った、消えた筈だ!なのに何故……まさか、貴様偽物か!]

 

 

 

 

 

その名は。

 

 

 

《偽物なんかじゃ無い……俺は、この鎧は!》

 

 

 

 

 

《黄金騎士、牙狼(ガロ)だ!!》

 

 

 

 

咆哮、そして突撃。

牙狼の姿に完全に気圧された黒い化け物らはなすすべ無くその剣に斬り捨てられる。

アスパインは黒い化け物を盾にして牙狼から距離を取ろうとするが、牙狼の突き進むスピードは全く変わらず、一瞬の内にその間合いに入る。

そのまま上段からその剣を--牙狼剣を大きく振り下ろすが、アスパインはその爪で防いだ。

アスパインが腕を振るうとその圧倒的なパワーで牙狼は弾き飛ばされるが、飛ばされた勢いを利用し、空中で姿勢を直す。

そして下がっていた莉杏が筆を振るい、光の球を牙狼に向かって撃ち放った。

その光の球は光の壁に変化し、牙狼の足場となった。

 

[アイ!?]

 

《オォォォォォォォ!!》

 

足場を物凄い膂力で蹴り、アスパインへ弾丸の如く突き進む。

その早すぎる速度にアスパインは完全には追いつけなかった。

 

--ザンッ!

 

[ギシャアァァァァァ!!]

 

《チッ!》

 

超高速で突き出された牙狼剣はアスパインを捉えたかのように思えたが、僅かに反応されたために左腕を切り落とすに終わってしまった。

それでもアスパインの武器である強固な爪は無くなった。

絶好の機会だ、と莉杏がアスパインの両目に向かって銃撃をする。

莉杏の高い射撃スキルをもって放たれた弾丸は、的確にアスパインの両目に直撃した。

 

[ギャァァァァァァ!?]

 

目を押さえるアスパインの隙を、牙狼は見落とすはずがなかった。

 

《オォォォォォォォ……》

 

牙狼剣を左腕に添わせて鎧を引っ掻くように引く。

流牙の、構える時によくとるポーズだ。

張り詰めた集中力が極限に達した瞬間、前に向かって跳躍。

 

《ヤァァァァァ!!》

 

そして、今度こそ確実に、アスパインの胸部に牙狼剣を、突き刺した。

 

[ギ、ギィィィィ……!]

 

断末魔の声を上げて、アスパインは消滅する。

牙狼は剣を振り、牙狼剣を鞘に収める。

キチンと収まると同時に、牙狼の鎧が上から順に外れ、消えていった。

そして、流牙の姿に戻るのだった。

 

「如月は大丈夫か?」

 

「ええ、怪我は無いはずよ。だけど……」

 

ちら、と如月を見る。

如月は完全に混乱しきっており、地面にへたり込んでしまっていた。

だが戦いが終わったのだと悟ったのだろう、顔を上げて流牙と莉杏を見る。

 

「……あれは、いったい」

 

「……帰ってから説明するよ。今は、帰ろう」

 

流牙が務めて優しく言うと、如月は緊張が解け安心したのだろう、糸が切れたかのように眠ってしまった。

そんな如月を優しく抱き上げ、流牙と莉杏は一度借り部屋に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

******

 

「そう、ですか。アスパインらが……」

 

深くため息をつく。そして手に持っていたグラスを一度傾けた。

 

「……それにしてもまさかあの部屋を借りていた者が魔戒騎士--それも、失われたと噂された牙狼だったとは。面倒になりましたね……」

 

そう言って、思案する。

数分考えてたどり着いた答えは。

 

 

 

「……真っ向に殴り合っても勝てないでしょう。ならば。

 

 

 

 

 

『人の法』で、裁くしかありませんね」

 

 

 

そう呟いて、ニヤリ、と笑った。




その真実は、世界が知る必要は無い。

だって知ってしまったら、世界が終わってしまうから。

次回、真-horror

暴かれる真実に、彼女は耐えられるのか。




ちょいと本元のネタバレ注意


鋼牙のことを待っていたんだよ!!
カオルが冴島性でテロップ載ってるんだよ!!
ついにキチンとカオルの子が雷牙だって描写されたんだよ!!
これは金字塔と阿修羅見るしか無いよな!!(うるさい
そして初代のHDリマスターですよ。やったぜ。
この機会に牙狼を広めましょう←


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真-horror

気胸になって暫く安静にさせられてました(((


太古の昔、それはもう誰も知る由のない果てしなく遠い過去。

いつから始まったのか、唐突だったのか、前兆はあったのか。

そんなこともわからない。ただ一つわかること、それは。

 

 

 

この戦いは、終わることがない、ということ。

 

 

 

【真-horror】

 

 

 

目を覚ますと、そこは既に見慣れた天井だった。

最初はぼんやりとしていたが、すぐに、先程まで起こっていた悪夢のような出来事を、思い出す。

部屋に押し入る男達。窓から飛び降りて無傷の莉杏。迫り来る黒い化け物。剣を振るい、銃を撃つ二人。そして。

 

(黄金の……狼……)

 

流牙が身に纏った、狼を模した、金色の鎧。

確か、ガロ、と名乗っていた。

あの神々しい鎧は、あの黒い禍々しい化け物は、あの二人が隠しているものは。

わからないことが多すぎて、起きたばかりだというのにまたパンクしそうになる。

体を起こし、視線を上げれば、粉々になったドアの向こうに流牙の黒いコートが見えた。

ドアの弁償とかどうするのだろう、とか考えながら部屋を出ると、流牙は振り向き、莉杏はキッチンからカップを持ってくる。

 

「起きた?」

 

流牙の口から出る声は、今までずっと聞いてきた、優しい声。

何の変わりもないその声に、如月は落ち着くと同時、得も言われぬ不信感を、抱いてしまう。

その身も蓋もない不信感を抱いたことに、如月は拳を強く握りしめ、自戒した。

たとえこの人たちが何かを隠していても、わずか数日で、この人達に受けた恩は一生忘れられないものであるはずなのに。

それを察してか、莉杏は空いた席にカップを置き、自身はその隣に座る。声をかけようとして、でもかけていいのか迷ったが上の、行動だった。

それが逆に、ありがたかった。今声をかけられ、肩に触れられたら、跳ね除けてしまいそうだったから。

自分の器量の狭さに尚更苛立ちながら、如月はカップを置かれた席に座る。

カップに注がれた、茶色い液体--暖かなココアを一口飲むと、不思議と心が晴れやかになった気がした。

ふう、と一息、そして、流牙の目を見て、意を決する。

 

「……流牙さん」

 

「さっきのこと、だよね」

 

「……はい」

 

すっ、と。

身に纏う気配が、如月にもわかるほどに、張り詰められた。

 

「話す前に、言っておかなきゃいけないことがある」

 

「何ですか?」

 

「本来なら俺達は、あの出来事の記憶を忘れさせなくちゃいけない。今回のことがなければ、数日後には君をここの警察に引き渡すつもりだったから、尚更だ」

 

記憶を忘れさせる。

そんなことができるのだろうか。いや、できるのだろう。莉杏が摩訶不思議な魔法を使っていたのだから、それくらいできるはずだ。

 

「でも状況が変わった。今君の記憶を消して警察に引き渡したら、最悪、君が死ぬ。だけどこれから話すことは、とても君に受け止められるものじゃないかもしれない。だから、記憶を消すだけ消して、俺たちと一緒に、何も知らないままでいいから一緒にいるって選択肢もある。俺は」

 

「それは嫌です!」

 

初めて、ここに来て初めて、いやもしかしたら元の世界でもなかったかもしれない。

初めて如月は、声を荒げた。

 

「そんなの嫌です、それじゃ私は、流牙さんや莉杏さんが危険な目に遭っているのに一人安全なところで、何も知らないままで居なきゃいけないじゃないですか!そんなの、嫌です!それに、私は、流牙さん達のことを、忘れたくない!」

 

数日前に沈んだ時、彼女は最後に、自分の事を忘れないでほしい、と願った。

朧げにしかない、自らが物言わぬ艦であった時の記憶が、そうさせたのだろうか。

ともかく、如月は、忘れること、忘れられることを、極度に拒んでいた。

だから。

 

「忘れたくない、忘れちゃいけないんです。あなた達が戦っていることを、あなた達が、私を護ってくれたことを!」

 

だから、必死に訴える。

忘れさせないでほしい、と。

 

仲間であってくれ、と。

 

「……わかった。でもいいんだな?もう、戻れないぞ」

 

「大丈夫です。こう見えても私、砲雷飛び交う戦場に居たんですよ?」

 

にっこりと笑ってやれば、流牙と莉杏は安堵したかのように息を吐いて、話し始めた。

 

「じゃあ話すよ。俺達の……魔戒騎士のことを」

 

 

 

 

 

どれほど昔のことかはわからない。

だが古より、人間の邪心--陰我より現れる、魔獣がいた。

その名は、ホラー。

ホラーは人の陰我をゲートとして、魔界より現れる。そして時にはそのまま、時には人に憑依し、人に紛れて、人を喰らう。

だが人は、ただ喰われるだけを良しとしなかった。

いつの日にか、ホラーを倒し、払う力を持つ者達が現れた。

特殊な術を使い、ホラーを払う者。

それを、魔戒法師と呼んだ。

魔戒法師達は術と、ホラーの腕と溶岩が固まってできた特殊な物質をもって、ホラーと戦った。

だが、それだけではどうしても力不足だったのだ。

そこで、ホラーを確実に倒しうる力を得るため、血を吐くような特訓を積み、ホラーの嫌う物質--ソウルメタルで作られた武具を持ってホラーを狩る男達が現れた。

 

それが、魔戒騎士。

 

そして、その魔戒騎士の頂点に立つという騎士にのみ纏い、名乗ることが許された称号と鎧。

 

 

 

それが、黄金騎士 牙狼 である。

 

 

 

 

流牙と莉杏は、これらのこと、そしてここに至るまでの経緯を簡単に説明した。

半年以上前、ボルシティと呼ばれる街で、その街に巣食うホラーを討滅し、その後特定の場所に留まらずホラーを狩り続けてきたこと。

今回この街に来たのは、巣食うホラーを狩る指令を受けたためであること。

そして、そのホラーを探す最中で、如月が見つかったこと。

 

「では私は、そのホラーから狙われたからそんな怪我をして倒れていた、と思ったのですね……」

 

「うん。その後に如月ちゃんが艦娘、とかいう説明受けたからそれは無い、って思ったんだけど……」

 

「それがさっきの襲撃で、ちょっと変わったのよね」

 

少し困った顔をしながら、莉杏がぼやく。

 

「変わった……?」

 

「さっきも言った通り、如月ちゃんはもう数日もしないうちにここの警察に預けようと思ってたの。私達の仕事に巻き込むわけにはいかないから。だけど……」

 

「如月ちゃんのことを狙って奴らは来た。しかもただホラーが単体で来たのとは違う。滅茶苦茶なものだったとはいえ、逮捕状を用意してきた」

 

流牙がテーブルにその逮捕状を置く。

確かに、如月の名前は無い。しかし。

 

「……ホラーが群れで、しかもこんな手段までとって如月ちゃんを狙ってきた。こんなこと、ただのホラーには出来ない。ましてや逮捕状なんて、その知識がなければ尚更だ。ならば考えられるのは」

 

「警察関係者が、ホラー……?」

 

その仮定に、如月は目を見開いた。

話に聞く限り、ホラーは人を喰らう、人の法などでは裁けない化け物であるはず。

そんな化け物が、警察関係者であることが、驚愕でしかなかった。

だが莉杏は、それよりも更に最悪の展開を--最悪の仮定を、口にする。

 

「ただここは、国とは違う。独立都市なの。だからここの警察は、警察というより町長……街の代表と言ったほうがいいのかしら、その代表の私兵と言ってもおかしくない。だから……」

 

 

 

 

「町長こそが、ホラーの可能性が高い」

 

 

 

 

 

 

*****

 

「そろそろ向こうも、私の存在に勘付く頃合でしょうかね」

 

その男は、机に肘をつきながら、何枚かの書類を見る。

そこには、流牙、莉杏が今住まう部屋を借りた時に書いた、偽りの情報が書かれていた。

もちろんそれが偽の情報だと言うことはわかっている。なにせ相手は魔戒騎士に魔戒法師だ。真実を書くことは無い。

 

「名前を隠さなかったのは少し驚きでしたが……却ってやりやすいですね」

 

そう言うと、書類を机の上にばさり、と放り、席を立つ。

 

初めて、その男の顔が、明るみに晒される。

 

金の髪をオールバックにし、整った顔立ちには右目に単眼鏡。外見年齢は三十前半と言ったところだろうか。

 

 

 

その顔は、この街に住まう者なら、誰もが知っている。

 

 

 

「では、始めましょうか。逃げられると思わないでくださいね--私の、庭から」

 

 

 

 

 

なぜならその男は、この街の代表--町長、と呼ばれる男だったから。




答えを知らない私たちは、幾つもの仮定をたてる

その仮定をたてる時に、ヒントの一つは欲しいもの

次回 輪-Zaruba

あら、そう言えばまだ出てなかったわね








本当は今回出すつもりだったんですが書いてるうちに出しにくくなったので次回に持ち越しです。
次回次々回あたりから話はさらに動いていく……はず(無計画

前書きにも載せましたが、気胸になっちまいました。
幸いだいぶ軽度のものだったらしく、今は6〜7割治ってると思います。
遅れた言い訳……ですはいごめんなさい(((


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輪-Zaruba

遅くなりました。理由などはまた後書きにて。

タイトルはザルバなのにメインは如月、すまないザルバ
今回は短めなのもすまないザルバ


【輪-Zaruba】

 

「町長が……ホラー……!?」

 

流牙と莉杏の言葉に、如月は驚くしか出来なかった。

なにせ、さっき聞いたホラーの話を鑑みれば、ホラーになるのは邪な陰我を持つ人だけのはず。それがこの街の長であるような人が陰我を持つなど、如月には想像もつかなかった。

 

「権力争いってね、如月ちゃんが思う以上に黒く、暗く、深い闇を持ってるものなのよ……」

 

「それに、俺達は前の街--ボルシティで同じような状況を経験してる。ボルシティとアスピナシティは、かなり似てるしね」

 

流牙達が以前居た街--ボルシティと、今居る街--アスピナシティは、独立都市、警備組織が長の直下の部隊であることの他にも、税が低い、福祉が良いと言った点も似通っている。

それらは即ち、人をこの地に留めておくための、策。

そう考えれば、町長がホラーだと言うのも、可能性の一つとして、考えることができる。

 

「そうだとしたら、もしかして『イェルネ』は……」

 

「多分な。『ザルバ』の探知にも引っかからない理由にもなる」

 

流牙と莉杏は更に話を進めるが、そこに聞き覚えの無い単語が二つ。

 

「『イェルネ』?『ザルバ』?」

 

如月の疑問に、莉杏が答える。

 

「『イェルネ』……今私達が追っているホラーのことよ。あ、ちょうどいいからザルバからイェルネのこと聞いたらいいんじゃないかしら」

 

莉杏の提案に、如月は戸惑う。

 

「え……でも、ザルバさん?ってどこに……」

 

『ここだぜ、お嬢ちゃん』

 

突如どこからか渋く、格好良い声が聞こえ、如月はビクッ、と身体を震わせた後、部屋中をきょろきょろと見回した。必死になって探す様子に、流牙は笑いを必死に堪え、でも我慢し切れずに口を右手で覆い横を向いて笑ってるのを誤魔化そうとしながら、如月に向かって左手を差し出す。

その中指に嵌められている髑髏の指輪、いつもファッションでつけているのだと思っていたその指輪をじっと見つめると--

 

『おいおい、そんなにジロジロ見るんじゃない』

 

「きゃあっ!?」

 

突如指輪が動き、カチカチ言いながら話し始めたではないか。

これには如月も可愛い悲鳴をあげる他なかった。

 

「ゆ、ゆゆゆゆゆ、指輪が喋った!?」

 

『喋っちゃ悪いか?』

 

「普通の指輪は喋らないよ、ザルバ」

 

『俺様はただの指輪じゃない。魔導輪だ』

 

「……魔導輪?」

 

恐る恐る、莉杏がザルバ、と呼んだ指輪に人差し指を近付けながら如月が聞く。

ちなみにその人差し指はザルバが口を開くと物凄い勢いで離れていった。

 

「魔導輪ってのは、簡単に言えばソウルメタルの入れ物に入れられたホラー、って感じかな」

 

「……ホラーなんですか!?」

 

聞こえてきた単語に驚きを隠しきれない。

ホラーであるならば、人を喰らい、人を見下す存在だと聞いたのに、ザルバがホラーであるならばその理論が間違ってしまうことになる。

 

「まぁホラーと言っても、人との共存を考えてたり、単純に人を捕食対象に見てなかったり、とにかく色々あって俺達に協力してくれるホラーなんだよ」

 

そう。ホラーはそのほとんどが人を喰らう存在だが、中には人間と共存を図ろう、人界と魔界のバランスを取ろうというホラーも居るには居る。

そういったホラーは魔戒法師の手によって、意識だけをソウルメタル製の装身具に移すのである。

 

そうして生まれるものが、魔導輪である。

 

「魔導輪はホラーの気配を探ったりホラーの情報を教えてくれたりする。大事な仲間だ」

 

「ホラーが……大事な仲間……」

 

『そんなに俺様をホラーホラー言うな』

 

「あ……ごめんなさい」

 

如月は一応謝る。だが何か納得できていないのは3人の目から見ても明らかだった。

それが何故なのか、"如月の世界"を完全に理解しているわけでは無い3人には、わからなかったが。

 

『で、イェルネだったな』

 

落ち着いたところでザルバがイェルネについて語りだす。

 

『イェルネは戦闘力自体は低いが、とかく人界の知識が豊富だ。その知識を利用して、この街を作り上げたんだろうな』

 

「……この街を作り上げた?イェルネってそんなに昔から居るんですか!?」

 

驚愕の事実に如月は再度驚くことになる。

だが流牙や莉杏は驚く素振りを全く見せないでいた。

 

「流石にここまではちょっと珍しいけど、かなりの昔からこっちにいるホラーもいないわけじゃ無いからね」

 

「イェルネは特に自分から姿を現わすことはほとんど無いの。だから余計に発見が遅れるのよ……言い訳にしか過ぎないのだけども、ね」

 

『腹立たしいが、気配を隠すのがうまいからな、奴は』

 

ザルバが憎らしげに呟く。

少しの会話で結構性格が掴めてきたが、その能力は確かなのだろう。そのザルバが気配を察知できないというのであれば、それは相手のが上手ということになる。

 

「それでもここまで来た。奴の居所も予想出来たし、とりあえず話はこんなところで良いかな」

 

そう言うと、流牙と莉杏は立ち上がり、荷物を纏め始めた。

 

「如月ちゃんも、必要なもの持っていってね」

 

「え、あの、これは一体」

 

状況を飲み込めない如月が聞くと、流牙は当然とばかりに答える。

 

「ここを出るんだよ?奴らにここと、俺達のことがバレた今、これ以上ここに留まってても良いこと無いし」

 

「あ、如月ちゃんの……艤装、だったかしら。それはもう仕舞ってあるからそれ以外でお願いね」

 

「あ、は、はい!」

 

莉杏に言われて、慌てて荷物を纏めようとこの数日使っていた寝室に向かうが、思えば荷物など艤装以外はあの時着ていた制服と、流牙から貰った髪飾り、後は厳選したシャンプーなどの日用品だけしかなかったことを思い出す。

 

(……私物を持つほど、ここに居なかったものね)

 

内心ひとりごちながら、結局は未だボロボロの制服と幾つかの日用品だけを纏める。

5分もかけずに荷を纏め、部屋を出る。

流牙と莉杏は既に準備を終えており、テーブルの上に紙と金--恐らく部屋を借りてたことに関するものだろう--を置く。

そして如月の準備が完了したのを確認して、静かにその部屋を出るのであった。

 

 

 

「でも、思ったより落ち着いてるわね」

 

「え?」

 

部屋を出てすぐ、人通りの少ない裏路地を歩いていると莉杏が如月に言った。

声をかけられた如月は振り向き、莉杏の顔を見る。

 

「だっていきなりこの世界にはホラーって化け物がいて、それが人になりすましてるなんて言われたら、普通はそんなに落ち着いていられないと思うわよ?」

 

『そうだな。信じないか、こいつらもホラーじゃないかと騒ぐか、狂うかだと思ってたぜ』

 

「あはは……確かに、普通だったらそうだと思います」

 

でも、と苦笑しながら続ける。

 

「私はこれでも戦場にいましたから。見た目よりも、心は強いですよ?」

 

そう言って、今度は苦笑ではなくしっかりとした笑みを向けてくる如月に、流牙はそうかと思いながらも、何か引っかかりを感じていた。

その引っかかりが何か、流牙は気付いていない。

 

 

 

(……そう。心を強く、不安を表に出さないように、しなくちゃ)

 

表情はそのままに、心の中だけで、そう思う。

 

悟られてはいけない。違和感を。

 

そして、不安と、不安を呼び起こす仮定とを。

 

 

 

 

 

深海棲艦とホラー、そして艦娘は、その本質が同じであろうということを。




住みやすき街は、自らを排し苛む街へ。

優しき人は、自らを怯え拒む人へ。

悲しき現実は、彼らをそこに歩ませる。

次回、守-wall

立ち塞がるは、昏き恐怖の壁




前回更新の際に気胸になったと言いましたが、あの後1週間で悪化して7月終わり間近まで入院しておりました。
その後なんやかんやで今日まで延びてしまいました。申し訳ありません。
自然治癒なのでこの先再発する可能性も高いですので、またなった時は活動報告の方でお知らせします。

なんか思ってた以上に早く進み過ぎてしまいそうになってます。いくらなんでも早くし過ぎたかなと反省。


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守-wall

遅くなり申し訳ありません。
主に騎空士家業と大学の特別講座が原因ですすみません。
いつものタイトル次回予告詐欺。

11/28 活動報告更新しました、映画艦これのネタバレあるので絶対とは言いませんが、構わないという方は見て頂きたく思います。


【守-wall】

 

『……続きまして速報です。昨日夜中、貸アパート『フラジール荘』及びその近隣地域にて男が刃物を振るっていたとの情報が入っております。男の名前は道外流牙、街の外より来入したもので、同行者に道外莉杏、及び女児1名を連れている模様です。なお女児は不法滞在の容疑がかかっており--』

 

「……なんか、ちょっと前もこうなってたよな」

 

「そうね。何ヶ月前だったかしら。街全体から指名手配されちゃってねえ」

 

「流牙さん、莉杏さん、笑えないです……」

 

テレビから聞こえてくる音声に軽口を叩く流牙と莉杏の呑気さに、如月は呆れてため息をこぼす。

そのまま手に持ったカップからたつ湯気を見て、どうしてこうなったのか今一度思い返していた。

 

 

 

襲撃を受けた後、借り部屋を出た如月たちは人に見つからないように裏路地をしばらく進んでいた。

そして空も白み始めてきた頃合いで、ザルバが唐突に声をかけてきたのだ。

曰く、この付近にホラーの気配の痕跡がある、と。

流牙はそれを確認する必要があるとして、ザルバの案内で気配の痕跡がある家に辿り着いた。

そこには誰も住んでおらず、しかし何日か前までは誰かが住んでいた痕跡がしっかり残っていたことから、ホラーに襲われ、そして喰われたのだろうと判断。

ホラーの気配の残滓から新たにホラーが現れないように邪気を祓い、少しだけ足を休めるために家を使わせてもらうことにしたのである。

 

 

 

そして今、すっかり朝日が昇った頃、テレビでは流牙ら3人がものの見事に指名手配されているのであった。

 

『しかし、懲りないなお前たちは。少し前にこうなったばかりだというのに』

 

「別になりたくてなってるわけじゃないっての」

 

「前とは違って、イェルネさえ斬ればそれでおしまいなんだし、いいじゃない別に」

 

「……いいんですか?」

 

如月の疑問に、莉杏が少し寂しそうな表情を浮かべてから答えた。

 

「いいのよ。私たち魔戒に連なる者……守りし者は、影に生きる存在なんだから」

 

「下手に色々とバレるとその人にも危険が迫るし、最悪は、死んでしまう。それなら、嫌われて、逃げられた方がいい」

 

そういう流牙の瞳には、後悔が見えた、そんな気がした。

きっと、そんな経験があるのかもしれない。

そう考え、如月は口を閉ざす。

 

「……昼に表に出て移動するのは連中に見つかる危険性がある。ここの住人は1人で、もうホラーの手にかかってるだろうから戻ってくる可能性は限りなく低い。だから、この部屋を一旦借りよう。借りて、夜まで待つ」

 

流牙の提案に、莉杏も如月も首を縦に振った。

少々罪悪感のようなものを部屋の主に抱くが、それはそれ、である。

一応夜まで借りたということで、多少の金を置いていくことにした。受取手が戻ってくる可能性は、限りなく低いが。

 

 

 

そして、日が完全に沈みきり、出歩く人もほとんどが居なくなった頃、3人は静かに借りていた部屋を出ていた。

夜闇に乗じて町長--イェルネと思われている者の住む家へ向かうためである。

元々このような遅い時間に行動することがほとんどである上、数日は徹夜しても戦えるような強靭な肉体をしている流牙や莉杏は如月がこんな時間に動けるか不安であったが、艦娘であり、夜戦や日を跨いだ遠征の経験がある如月には造作も無い事であった。

問題なさげにしている如月に関心しながら歩みを止めず進んでいって、およそ2時間程経った頃だろうか。

さすがに少し疲れを覚えはじめた時、流牙が口を開いた。

 

「あそこだ」

 

物陰に隠れて様子を伺ってみると、そこには豪勢な邸宅の二階か三階と思しき部分と、豪邸を取り囲むように建てられた黒い塀が見えた。

今流牙達がいるところから見て右側に

塀の周りに人はおらず、塀からの進入は楽そうに見える。

だがそんな如月の早計を咎めるように、ザルバが口を開いた。

 

『あの塀からドーム状に結界が張られているようだな。あの塀の中から全く気配が感じられないぞ』

 

「……人の気配も?」

 

『ああ。ホラーの気配だけならいざ知らず、人の気配すら全く読み取れないのは異常だぜ』

 

「窓からは明かりが見えるのに、か……当たりだな」

 

確かに流牙の言う通り、塀に遮られていない階の一部の窓からは光が漏れており、誰か居るようにみえる。

ましてや普通の人間の住む家なら結界など張られる事などあるはずが無い。確実に何かがいる、という証拠だろう。

 

「……でもホラーが結界を張る、って事はあるのですか?」

 

如月の質問に、莉杏とザルバが答えた。

 

「そうね、ないわけではないわね」

 

『特にイェルネはこの町を作るくらい以前から人界にいるんだ。幾度となく他のホラーを利用して騎士や法師達を退けたんだろう。そこから知識を得た可能性はある』

 

「この街には今、俺たち以外の騎士や法師はいないらしいからな。尚更ザルバの言う通りかも……」

 

『ともかく、あの結界はホラーの気配を隠すだけ、では無いだろうな。さて……む?』

 

ザルバが何かを言おうとしてすぐに言い淀む。

 

「どうしたザルバ」

 

『……ホラーの気配だ!急に現れたぞ!』

 

「何!?どこだザルバ!」

 

ホラーの気配を探知したザルバに、流牙は聞く。

しかしてザルバが答えたホラーの位置は--

 

 

 

『--真上だ!!』

 

 

 

瞬間、3人は宙に舞った。

 

いや、正確には舞ったのではない。

 

「尻尾」に、巻き取られたのだ。

 

 

 

「何!?」

 

「なっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

3人がそれぞれ声をあげて自身を巻き上げている存在を視認するため振り返る、というより見上げる。

そこには虫のものに似た羽を生やし、その尾で三人を絡め取っている黄土色の体色をしたホラーがいた。

人でいう鎖骨のあたりから天に向かって大きな棘が生え、肘にも小さな突起がある。極めつけにその顔は右半分がグズグズに溶けているかのようになっており、より醜悪な姿になっている。

そのホラーは屋敷とは反対方向--より人通りの多い方へ向かって進路を進め始めた。

既に真夜中ではあるが、それでも活気あるこの街では、今なお幾つかの居酒屋などが開いており、どんちゃん騒ぎをしている人もいる。

もしそこに流牙達が空から降ってきたとしたら、まず間違いなく通報されるだろう。

それでなくともこのホラーに見つかった時点で、既に警察組織に連絡が行っていると考えてもいい。

そういった判断を瞬時に行った流牙は、牙狼剣を取り出した。

 

「莉杏!」

 

呼ばれた莉杏は、どうにか腕を動かして魔導筆や魔導銃を取り出そうとする動作をやめて流牙を見る。

そして流牙の考えを察知し、即座に行動に移した。

 

 

 

ソウルメタル。

魔戒騎士となる者にとって、切っても切れない関係にある鉱石。

ソウルメタルを加工したことで作られる剣と鎧が、魔戒剣と魔戒騎士の鎧になるのである。

その性質として、持つ者の心の在り方でその重量が変わる点にある。

魔戒騎士であれば羽毛のように軽く。

一般人や特訓の足りない者には鋼よりもなお重く。

そして、魔戒剣と加工されたソウルメタルは、ただのソウルメタルよりも気難しい物となり、女性が持つと問答無用で超重量になるのである。

 

では今、ホラーに掴み上げられ、空中にいる状態で、流牙が牙狼剣を手放し、それを莉杏が掴んだら、果たしてどうなるだろうか。

 

 

 

答えは簡単。

 

[ギッ!?]

 

「くっ!」

 

「きゃあぁぁぁ!?」

 

「く、うぅぅ!」

 

突如として増した重量に、ホラーが墜落する、である。

その重量はホラーの膂力を持ってしても支えるどころか維持することもできない程の重量で、剣に引っ張られるように地面に向かって落下していく。

そこまで高高度を飛んでいたわけでもないため、数秒もすれば地面だろう。

しかし尻尾から落ちるということは、ホラーが地面に激突するよりも前に流牙達が激突してしまう。

だからその数秒の間に、再び剣を流牙の手に戻し、鞘を自然に落下させる。そうやって抜き身にした刃を、地面まであと1秒となるようなタイミングで真横に来た建物に突き刺し、無理矢理制動をかけた。

その結果、剣は異常な程にしなり、しかし落下の速度が一気に減少した。

 

そしてその衝撃に遂にホラーはその拘束を僅かに緩めてしまったのである。

その隙を逃さず、莉杏は魔導筆を取り出すと逆手に持ち、その穂先を尻尾に突き刺すように押し付ける。

 

[ギシャァァァァ!!]

 

瞬間、穂先が白熱し、ホラーは叫び声を上げて、ついにその拘束を緩める。

そして莉杏と如月はそのまま落下していった。

 

「きゃ、あ!」

 

「はっ!」

 

莉杏は如月を抱きかかえて着地する。

自分の意志での落下では無いものの、せいぜいが2.3階からの落下など鍛え上げられた魔戒法師には何の問題もない。

足首を挫くこともなく綺麗に着地し、ホラーから距離をとる。

一方の流牙は、建物に剣を突き刺していた都合上、落下もしなければ尻尾の拘束からもちゃんと抜け出せていなかった。

それでも拘束が緩んだ隙に剣を抜き、右腕を自由にする事には成功する。

やがてホラーが再び拘束を強くし、今度は連れ去るのを諦めたのか締め上げ始めた。

 

「ぐぅぅ!--うぉぉぉぉ!」

 

一回は締め上げられた苦痛に声を上げるが、すぐに剣を振るい、尻尾の付け根を正確に突き刺す。

そして、そのまま力任せに剣を薙ぎ、その尻尾を斬り落とした。

 

[ギギャァァァァァ!?]

 

ホラーは絶叫し、痛みのせいか飛翔できずに落下し、無様に地面に叩きつけられた。

流牙は華麗に着地すると、すぐに剣を構える。

 

『ようやく落ち着いたな』

 

「あぁ、なんとか拘束から逃れられた」

 

『奴はホラー・ディビルシア、名前や見た目はそこそこ厳ついが、実際は素体ホラーに毛が生えた程度の奴だ。奇襲に失敗した今、お前なら問題なく倒せる筈だぞ』

 

「そうだな、この騒ぎで人が来るかもしれないし、速攻で決める!」

 

そう言って流牙は剣を天に突きつける。

が、なんとか起き上がり落ち着きを取り戻したディビルシアはその姿を見て、すぐに飛んだ。

 

「逃がすか!」

 

すると流牙は、天に突きつけていた剣を、円を描くように腕を振るいながらディビルシアの進行方向に投げた。

その剣先の軌跡が虚空に召喚の陣を描く。

すぐにその陣の内の空間が割れ、バラバラの金色の鎧がディビルシアに次々と直撃する。

鎧に押し返されるように落下するディビルシアをよそに、流牙は召喚した牙狼の鎧をその身に纏っていく。

そして牙狼の鎧を、牙狼の面を装着しきったところで大きく跳躍。

同時に念じる事で、牙狼剣を呼び寄せ、しっかりとその右手に握る。

1度右腕を引いて、力を溜めて。

 

《ダァァァァァァァァ!!》

 

[ギィギャァァァァァ……]

 

ディビルシアとすれ違う瞬間、その身を斬り裂いた。

ディビルシアはそのまま消滅し、牙狼はしばらく跳躍の影響で空を飛んでいたが、跳躍のエネルギーが無くなったことで数秒後には落下した。

そして牙狼剣を鞘に収め、鎧を返還する。

 

「流牙さん!」

 

それを見届けて、莉杏より先に如月が駆け寄ってくる。

流牙は穏和な笑みを浮かべるが、如月は気にもせず流牙の手を取り、走り出した。

 

「え、ちょ!?」

 

「今の騒ぎでもう警察が来てます!早く逃げますよ!」

 

「早いな!?」

 

『お前にやられるのを想定していたのかもな、奴さんは』

 

「なるほど……」

 

「お喋りしてないで下さい〜!?」

 

呑気な流牙とザルバに如月はツッコミをいれざるを得なかった。

そしてなんとか2人は莉杏とも合流し、警察の手から逃れるのであった。




罠と言うものは、一度かかれば二度は通用しない

策と言うものは、一度使われれば警戒される

次回、潜-explosion

ならやる事は、裏をかくこと


今回の話は急に突っ込んだ話なのでだいぶ展開があれです(((


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