インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ (S-MIST)
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序章:オリ主がIS学園に入学するまで
第01話 イレギュラー


 背部にある大型ブースター、正式名称『OVERED BOOST』、通称『OB』を巡航モードで吹かし大空を駆けながら、俺はこの世界に来てからの事を思い出していた。

 全ての始まりは1ヵ月前、元の世界で、『ARMORED CORE for Answer』で遊んでいた時の事だ。

 今思い出しても訳が分からない。

 自宅で、自分の部屋で、遊んでいたらいきなり停電。

 数秒して電気がついたと思ったら、何故かいるのは自分の部屋じゃなくて全く見知らぬ場所。

 使用方法の分からない機械が幾つも無造作に置かれた研究室らしき場所。

 目の前に立つ、空色のワンピースにエプロン。ついでにウサミミヘアバンドという出で立ちの美女。

 

「・・・・・アンタ、誰だ?」

「そういう君こそ誰かな? ここのセキュリティは完璧だと自負しているんだけどね」

 

 目の前の美女は細い腰に両手を当てて、そんな言葉を返してきた。

 これが、この世界で初めて他人と交わした言葉。

 

「・・・・・と、とりあえず、自己紹介でもするべきか? 俺の名前は薙原晶(なぎはら しょう)。アンタは?」

「いきなり現れたにしては随分と日常的な対応だね。私の名前は篠ノ之束(しののの たばね)。それで君は何の用があってここに来たのかな?」

「いや、俺も用事があった訳じゃなくて、むしろ気がついたら何故かこんな場所っていう状況で・・・・・・・・」

「要領を得ないね? つまりアレかい? 気がついたら何故かここにいたっていうファンタジーな話かい?」

「そうだって言ったら信じてくれるのか?」

「信じるに足る根拠があればね。ちょっと待ってて――――――」

 

 そういうと、束と名乗った女性は手元のウィンドウパネルを手早く操作し、何かのデータを呼び出し始めた。

 待つこと数秒。

 

「ふーーーーーん。極限定空間に大量の重力子と空間湾曲現象? 極至近距離にいた私に全く影響を及ぼさずに? それによる人間の転送現象? 可能性としてありえない話じゃないけど・・・・・・・ちょーーーーとすぐには信じられないかな」

「いや、信じられないのは分かるんだが、こうして俺がここにいる以上信じてもらうしか」

「まぁいいわ。私も科学者。こうして『結果』がここにある以上信じてあげるけど、もう一度聞くわ。あなた何者?」

「何者って言われてもな・・・・・」

 

 名前以上の事を聞かれているのは分かる。

 が、何て答えれば良いのかが分からない。

 返答に困った俺は、―――部屋でゲームをしていた体勢―――胡坐をかき直そうとして、視界に入った自分の身体を見て硬直する。

 正確には自分の格好を見て。

 

(何だ? この格好は?)

 

 改めて見てみると、黒を基調としたパイロットスーツ・・・・・のようなものを着ていた。

 当然、部屋でこんなコスプレをしている訳が無い。

 

(何だコレは!?)

 

 思考が一気に混乱する。

 停電して、電気がついたら見知らぬ場所。そして覚えの無い格好。

 

「す、すまない。鏡は、鏡はないか」

「鏡? それなら君の後ろに――――――」

 

 相手が喋り終わるのを待たずに後ろを振り向く。

 丁度良くあったのは、全身を映し出せるスタンドミラー。

 そこに映る自分の姿を見て言葉を失う。

 

(何が、一体何が起こっているんだ!?)

 

 映し出されたのは慣れ親しんだ自分の姿では無く、見知らぬ男。

 首筋程度まである黒髪。ややツリ目気味の黒目。それなりに整った容姿とスタイル。

 これで眼鏡でもかけて、手帳やノートPCでも片手に持っていればさぞかし参謀役が似合いそうだ。

 

「どうしたのかな? 自分の姿に何か違和感でもあるのかな?」

「・・・・・は、はは・・・・・そ、そうだ・・・・・って言ったら・・・・信じてくれるか? 正直、訳が分からない・・・・・何が、どうなってるんだ」

 

 余りに突然の事態に、取り繕っていた冷静さが剥がれ落ちていく。

 理性では理解していても、感情が止められない。

 幸いだったのは、現状を表す言葉が見つからなかった事だろうか?

 もしも、今の状況を表す言葉があれば、それを、恥も外聞も無く叫んでいたかもしれない。

 結果として鏡を見たまま硬直してしまった俺に、しばらくすると背後から声がかかった。

 

「どうやら、自分でも何が起きたのか把握出来ていないようだね? もし良かったら、今の君の身体がどうなっているのかを検査してあげるよ」

「・・・・・頼む」

 

 喉の奥から搾り出すように返事をした俺は、その後、徹底的な精密検査を受けた。

 結果分かった事は全くの健康体だったという以外に、

 

 ・機械信号を脳内で処理出来る特殊な脳内ネットワーク。

 ・全神経組織の超高速化。及びそれに伴う反射速度の向上と認識力強化。

 ・身体機能増強による代謝機能と対G耐性の強化。

 

 というものがあった。

 これが何を意味するのかは、ACを旧作からのやっている人間ならイヤでも分かる。

 強化人間。そして最強の戦闘兵器“ネクスト”を操縦する為のAMS適正。

 だがそれも、“ネクスト”が無いこの世界じゃ意味が無い。

 何でそんな事が分かるのかって?

 精密検査を受けている間にようやく少し落ち着いた。

 篠ノ之束(しののの たばね)といえば、俺の好きなラノベ、IS(インフィニット・ストラトス)の主役メカ、ISを作り出した天才科学者。

 だがISは女性しか起動出来ないという欠陥兵器。

 そんな世界じゃ、AMS適正も宝の持ち腐れだ。

 が、検査結果の最後に付け足された言葉に俺は言葉を失う。

 

「しかし、IS起動適正EX-S。理論上の限界値とはね」

「どういう事だ?」

「言葉通りの意味だよ。私が開発したISというものがあるんだけど、それは万人が扱えるものじゃない。ある一定の才能を操縦者に要求する。君はその要求される才能が、理論上の限界値まであるというだけの話だ。ところで話は変わるが――――――」

 

 束博士が、ずいっと俺に顔を近づけてくる。

 

「君の世界の兵器は凄いな。そして君自身も」

「なに?」

「君が着ていたパイロットスーツにあったメモリーを覗かせてもらったよ。凄いな。全長数キロにも及ぶ巨大兵器。そして、それを単機で沈められるネクストと、その搭乗者リンクス」

 

 束博士の視線が俺を射抜く。

 背筋に嫌な汗が流れた。

 彼女の言葉は更に続く。

 

「人類の明日を切り開く為に、数千万、数億の犠牲を許容するその精神」

「な、何を・・・・・」

「隠さなくても良い。最後のORCA」

 

 全く記憶に無い話が彼女の口から語られていく。

 だが同時に、酷く聞きなれた話。

 そう、彼女が俺の事として語っているのは、ACFAのORCAルートの話。

 彼女はどういう訳か、俺を“最後のORCA”として見ている。

 数瞬の思考。

 どうする?

 全く身に覚えの無い話だと正直に言うか?

 いや、そんな事を話してどうする。何の特技も無い一般人ですと言うのか?

 そんな馬鹿な。

 何故、こんな話を持ち出してきたのかを考えてみろ。

 恐らく、何か意図があるはずだ。

 ならそれを聞き出す為にも、それらしく演じてやろうじゃないか。

 覚悟を決める。

 ウソだとばれたなら、その時はその時だ!!

 

「・・・・・見たのか」

「かなり強固なプロテクトだったけど、メモリーは全て解析させてもらったよ。勿論、君が乗っていた愛機の情報も全て」

「確かに俺はリンクスさ。只の1人で、単機で戦場を蹂躙するネクスト傭兵。だが、それも全てはネクストがあっての話。商売道具が無ければ一般人とそう大差無い」

「ここまで自分の身体を弄っておいて良く言うよ。まぁそれはともかく、私ならISで君の機体を再現できる。もう一度傭兵をやる気は無いかな? 私の専属傭兵として」

「飼い犬になれと?」

「無茶な事を言う気は無いし、メモリーから君がどういう人間かもある程度は分かっているつもりだ。変な仕事をさせるつもりはないよ」

「・・・・・受けるかどうかは、出来上がった愛機を見てからだ」

 

 受けなければ確実に、色々な意味で詰んでしまうが、向こうがこちらを“凄腕の傭兵”としてみているのなら、この程度の悪あがきは許されるだろう。

 

「まかせなさい。誰であろうこの篠ノ之束がつくる機体よ。生半可なものなど出さないと約束しよう。期待して待っているといい」

 

 そうして彼女の研究室で過ごす事2週間。

 案内された格納庫に、俺がレギュ1.15で使っていた愛機が佇んでいた。

 アセンブルは、

 ―――ASSEMBLE

    →HEAD:063AN02

    →CORE:EKHAZAR-CORE

    →ARMS:AM-LANCEL

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS

    

    →R ARM UNIT  :07-MOONLIGHT(レーザーブレード)

    →L ARM UNIT  :ACACIA(アサルトライフル)

    →R BACK UNIT  :RDF-O700(レーダー)

    →L BACK UNIT  :HLC02-SIRIUS(ハイレーザーキャノン)

    →SHOULDER UNIT :051ANAM(フレア)

    →R HANGER UNIT :-

    →L HANGER UNIT :-

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01

    

 くすんだ黒を基調とした配色。各所に走る白いライン。蒼いカメラアイ。

 全てパーフェクトだ。

 が、やはり1つ気になる事がある。

 

「質問だが、ネクストの動力源はコジマ粒子だ。コレには?」

「あんな危険物質使うはずないでしょう。でも性能的には同等よ」

「動かしてみても?」

「勿論良いわ」

 

 ゲームの中にしか無かったはずの、自分の愛機に近づき身に纏う。

 戸惑う事は無かった。

 ISが、自分の愛機が、装着方法を教えてくれる。

 その後、思い通りに動く事を確認した俺は彼女専属の傭兵に、いわゆる首輪付きになり仕事を請け負う事になった。

 傭兵に、自分が命のやり取りをする類の人間になる事に、恐れを感じなかった訳じゃない。

 だが、その迷いは押し殺した。

 この2週間散々考えたさ。

 この世界で頼れる相手のいない俺が、人並みに生きていこうとするなら、恐らくこれが最善。

 そして苦戦なんて論外だ。

 何せ、束博士が再現した俺の愛機はレギュ1.15環境下のもの。

 それは必然的に、メモリーに記録されていたであろうネクスト戦闘も、音速など余裕でブッちぎる超音速戦闘である事が容易く想像できる。

 そんな世界で戦いぬいた“凄腕の傭兵”と、束博士は勘違いをしているのだ。

 従って、求められる戦果は“完璧”の二文字以外は無いだろう。

 元一般人相手になんてハードルの高い。

 だがやらなければ・・・・・。

 

 ―――ミサイル接近中。数6。弾速、形状特性から高速ミサイルと推定。

 

 AIからの無機質なメッセージが脳内を流れ、俺を現実に引き戻す。

 今は束博士から受けた依頼に集中するとしよう。

 強化人間になった影響か、自分でも不思議なほど落ち着いてそう思う。

 作戦内容は秘密組織の秘密基地殲滅。

 ネクスト向きの作戦だ。

 ISにコマンド。

 OBを巡航モードから戦闘モードに移行。

 

 ―――エネルギーシールドが減衰します。Y/N

 

 Yesを選択。

 束博士は、どうやらシステム系もしっかりと再現してくれたらしかった。

 オーバードブースター(OB)アサルトアーマー(AA)等の、原作でプライマルアーマー(PA)を消費するシステムは、ISのエネルギーシールドを消費するようになっていた。

 まぁ、時間と共に回復するあたりも再現されていたから、使いどころを考えれば問題ない。

 

 ―――オーバードブースト戦闘モードへ移行。エネルギーシールド減衰開始。

 

 脳内を流れる無機質なメッセージと共に、俺の身体は一瞬にして音速を突破。

 相対速度の差からミサイルは目標(=俺)を見失いあらぬ方向に飛び去っていく。

 

 ―――ミサイル第二波接近中。数24。弾速、形状特性からVTF(近接信管)ミサイルと推定。

 

 チッ。軽く舌打し、左腕装備のACACIA(アサルトライフル)をスタンバイ。

 進路を塞ぐミサイルを迎撃。

 だが警告は更に続く。

 

 ―――IS確認。数1。デュノア社製ラファール・リヴァイヴ。以後α1と呼称。

 

「来たか」

 

 小さく一言呟き、アサルトライフルを握り直す。

 

 ―――α1、射撃用レーダー作動。発砲確認。

 

 反射的にクイックブースト(QB)

 一瞬前までいた場所をレーザーが貫いていく。

 

 ―――α1を敵性ターゲットに変更。

 

 AIが無機質に、α1を『敵』と認定する。

 降伏勧告はしない。

 警告無しでのミサイル攻撃と発砲。

 十分に交戦の意志ありと判断できる。

 

「行くぞ!!」

 

 機体を軽く左右に振り、続く攻撃を回避。

 と同時にメインブースター最大出力。

 刹那の間に超音速領域に到達。距離という盾を一瞬で踏み潰し、格闘戦へ。

 敵ISが回避機動に入るが、もう遅い。

 振るわれるのは右腕装備の07-MOONLIGHT。

 ACユーザーお馴染みの最強のレーザーブレードは、敵ISのエネルギーシールドを一撃で切り裂き、エネルギーを大量消費させる絶対防御を強制的に発動させる。

 そしてブレードを振り抜いた俺は、すれ違い様にOBをカット。QBで高速反転。

 背後からアサルトライフルを接射。

 後、バックブーストと同時に右背部装備のHLC02-SIRIUS(ハイレーザーキャノン)をアクティブ。ファイア!!

 回避もまま成らない敵ISの背部推進機関を狙い撃つ。

 

 ―――敵IS、主推進機関に致命的損傷。サブスラスターによる浮遊落下開始。

 

(今なら絶対防御も発動出来ないだろう。撃てば確実に殺れるが・・・・・)

 

 そんな事を思い銃口を向けるが、結局引き金は引かなかった。

 戦闘能力は既に奪った。基地破壊後、まだ転がっているようだったら回収して尋問でもすれば良い。

 今は依頼の達成を優先する。

 そう考えた俺は、再度OBを起動し目標に向かう事にした。

 この数分後、某国監視衛星が黒煙を上げる未登録の施設を発見。

 驚異的な速さで調査部隊が編成され送り込まれたが、大規模戦闘でもあったかのような徹底的な破壊により、有力な情報は何一つ得られなかったという。

 

 

 

 第2話に続く

 

 

 

 



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第02話 捕虜

 

 ザァァァァァ――――――

 

 シャワーを浴びながら、ついさっき遂行した依頼の事を思い出す。

 秘密基地の殲滅。

 ちゃんとこなせただろうか?

 束博士が想像しているような“凄腕の傭兵”っぽく出来ているだろうか?

 戦場ではうろたえていなかったか? 冷静でいられたか? 無駄弾は撃っていなかったか?

 何度も何度も振り返る。

 大丈夫なはずだ。

 敵ISとの戦闘でも無様は姿は晒さなかった。

 相手を殺さなくて良かったのだろうか?

 いや、問題無いはずだ。

 無闇に殺るより、生かして情報を引き出した方が玄人っぽく見えるはずだ。

 そんな考えが何度も何度も頭の中で繰り返され、ふと思考が別方面に飛ぶ。

 俺がこの世界に放り込まれた時になぜか着ていたパイロットスーツ。

 それについていたというメモリー。

 記録されていたという覚えの無い過去。

 何なんだコレは。

 以前、返して欲しいと頼んでみたが、

 

「危ないデータも入っているみたいだからね。他に漏れないように、私がしっかり保存しておいてあげるよ」

 

 という一点ばり。

 恐らく、返す気は無いんだろう。

 クソッ!!

 覚えが無い自分の過去。他人が知っている自分の過去。なんてやりずらい。

 無理矢理メモリーを取り返すか?

 一瞬、ふとそんな思考が脳裏を過ぎる。

 あの細腕相手なら、大した苦労も無く出来そうな気がする。

 が、1秒とかからずその案は破棄した。

 相手は束博士だぞ?

 あの天才が、いきなり研究室に現れたような怪しさ満点の俺を傍に置くにあたって、何の対策もしていないはずが無いだろう。

 

「・・・・・結局、首輪は外れないか」

 

 1人そう呟きシャワーを終え、用意された黒いGパンと白いTシャツに身を包んで、私物が(当然だが)何も無い部屋に戻ろうとしたところで、束博士に後ろから声をかけられた。

 

「薙原。ちょっーーーーーといい?」

「?」

 

 振り向くと、空色のワンピースにエプロン。ついでにウサミミヘアバンドという初めて会った時と変わらぬ出で立ち。

 これでスレンダーな体形なら『不思議の国のアリス』のもどきで可愛いと言えるんだろうが、ゆったりとした服装の上からでも分かる女性的な曲線を見ると、イヤでもそこに視線が吸い寄せられてしまう。

 

「何処を見ているのかな?」

「豊かな母性の象徴?」

「ジョークを言える程度には、精神的に安定したみたいだね。出撃前の君は何となく不安定に見えたけど、今はとても安定して見える。やっぱり傭兵っていう人種は、戦いの中にあってこそなのかな」

 

 実戦なんて初めてで不安定に見えたのは当然です。

 という心の叫びを押し殺して、俺はなんでもないかのように答える。

 

「まぁ、来た直後に比べれば大分落ち着いた」

「それは良かった。じゃぁ、ちょっと一緒に来て」

 

 言われるままに彼女の後ろをついていくと、部屋の一面がガラス張りの部屋に通された。

 ガラスの向こうにはセミロングの綺麗な紫色の髪の女性が1人、粗末なイスに座らされている。

 俯いていて表情は分からないが、まぁ多分美人なんだろう。

 服装はIS操縦者が着るインナースーツ。つまり身体の線がくっきりはっきり。

 正直エロイ。

 が、今はそんな事よりも、

 

「さっき俺が撃墜したISの操縦者だな?」

「そう。彼女をこれからどうしようかと思ったんだけど、傭兵が捕虜を取った場合ってどうするのか興味があってね」

「俺が持っていたメモリーは見たんだろう? 破壊と汚染を撒き散らすネクスト傭兵が、捕虜なんて取ると思うか? 依頼のほとんどが撃破か殲滅。稀に護衛ってのがあるくらいだ。そんな人間に捕虜の扱いなんて聞くなよ」

「でもそういう世界にいたのなら、知らないっていう訳でもないんでしょう? 私は科学者で、正直こういう相手はどう扱って良いのか分からなくてね」

 

 博士の言葉は100%嘘だろうと思うが、こう言っている以上、俺に処遇を決めさせたいんだろう。

 考えられる可能性は何だ?

 博士の事だから面白半分という可能性も無くは無いだろうが・・・・・処遇を通して俺という人間を図る気か?

 そんな事を考えてしまうが、結局幾ら考えても無駄(=どう答えようと博士の中で何らかの評価が下る)だろうと思い、好き勝手に言ってみる事にした。

 

「相手の態度次第だな。もう尋問はしたのか?」

「本当の事を話しているかどうかは分からないけど、聞きたい事は聞いたよ」

「嫌々話している感じだった? それとも協力的?」

「協力的なのかな? 『全部話すから家族を助けて』って言ってたね」

「これはまた古典的な。ISは貴重なんだろう? ならその操縦者と家族位は護衛が付いていると思うんだが」

「本人だけならまだしも、全部をガードするのは物理的に不可能だと思うな」

「それもそうか」

 

 ここでしばし考える。

 助けた場合のメリットとデメリットを。

 メリットは、上手くすれば味方を1人作れる事だろう。

 使い方は色々あるだろうが、基本的にいて悪いものじゃない。

 逆にデメリットは?

 俺に対しては特に無い。もし嘘だったなら、それなりの対応をすれば良いだけの話だ。

 だが博士にとっては?

 助けたとしても一緒に行動するなど論外だろう。

 世界中の国家や企業の目から逃れ続けている博士からしてみれば、面倒な荷物を抱え込むのと変わりない。

 という事を考えれば、

 

「なら使っていたISをメンテした後に放り出そう」

「その心は」

「家族を人質に取られていたんだ。ISつきで『自由にしていい』と言われて解放されたら、一番初めにする事は決まっているだろう? 家族を救出に向かったなら、それはそのまま組織と敵対する事になるから十分こちらのメリットになる。まぁ、話が嘘でもう一回敵対するようなら、今度は潰すさ」

「中々ドライな考えだね。でも、その後はどうするのかな? 仮に助けられたとしても、行く当てが無ければ遠からず組織の手が伸びると思うな」

「そこは貴女の出番だ。この類の事で信用できる人間の1人や2人はいるんだろう? 新しい戸籍でも用意してやれば良い」

「簡単に言ってくれるけど、私がそこまで彼女に肩入れする理由は無いよ」

「都合の良いIS操縦者が1人手に入ると思えば安いと思うけどな。恩っていうのは、相手にもよるが下手な脅しよりもよっぽど相手を縛り付ける。家族を大事にするような人間なら、さぞかし貴女の為に働いてくれるようになると思うが?」

「ふぅん。その理論で行くなら君が助けてあげれば、君の為に働いてくれる人間が1人出来る訳だけど、そうはしないのかい?」

「俺は傭兵だよ。何でも出来る正義の味方じゃない」

「なるほどね。じゃぁ、後はやっておくから戻ってていいよ」

 

 そこで博士は一度言葉を区切るが、手元に現れたウィンドウパネルを操作しながら思い出したかのように言葉を続けた。

 

「――――――ああそうだ。君のISに、家族が囚われている場所のデータと、彼女のISのスペックデータを送っておいたから。どう扱うかは君が決めるといい」

「・・・・・何が『こういう相手はどう扱って良いのか分からない』だ。しっかりやる気だったんじゃないか」

「分からなくても分からないなりに出来る事はあるし、傭兵がこういう時にどういう対応をするのか興味があったからね」

「捕虜への対応なんて人それぞれさ。中には鬼畜外道もいる。性欲の捌け口とかな」

「君がそういう人間じゃないと分かっていたからこそ話を振ったんだよ。何せORCA最後の仕事は故人からの依頼。それを律儀に完遂したくらいだからね」

 

 何か言葉を返そうと思ったが、過去については迂闊に口を開かない方が良いと思い、とりあえず俺は問題に対処する事にした。

 

「救出させるなら早い方が良い。そして事情の説明は博士からやってくれ。男の俺より、恐らく貴女がやった方が向こうもすんなり受け入れてくれるだろう」

「そうだね。君は出ないのかい?」

「初めから出す気なんだろう?」

「要請くらいはするつもりだったけど、本人の意志は尊重するよ」

「実質的な出撃依頼だろう。それ」

 

 そう言いながら俺は待機状態のIS(=左手にある黒い腕輪)から、送られてきたデータを呼び出す。

 すると眼前に幾つかのウィンドウが展開され、彼女が使うISのスペックデータと要救助者のプロフィール(=歳の近い妹)及び現在位置が表示された。

 彼女が使うISはラファール・リヴァイヴ。

 武装は両肩に固定している大型シールド(裏側にハードポイントあり)以外は、状況に応じて装備変更を行う汎用性に富む第二世代機。

 第三世代が各国で未だ実験機の域を出ていない以上、安定した戦力と言えるだろう。

 現在の装備は、

 

 ―――ASSEMBLE

    →R ARM UNIT  :ロングレンジスナイパーライフル(両手持ち)

    →L ARM UNIT  :―――

    →R BACK UNIT  :高速ミサイル

    →L BACK UNIT  :VTF(近接信管)ミサイル

    →SHOULDER UNIT :大型シールド

 

 となっているのだが、救出作戦でこのアセンは頂けない。

 こんな明らかに遠距離戦を主眼においた装備で、接敵機会が格段に多くなる救出作戦を行うなんて馬鹿げている。

 相手が普通の人間だけならまだしも、最悪を想定=ISがいた場合、いきなり不利な状態から戦闘開始だ。

 そんなリスクを犯す必要は無い。

 

「ところで博士。マシンガンかアサルトライフルは――――――」

「無いよ。材料というか資材はそこそこストックしてあったんだけど、君のISを作る時に結構使っちゃってね」

「いや、既製品ので良いんだが」

「んーーーーー。ここに置いてある武器ってどれも強力なのは間違いないんだけど、基本的に高負荷なものばかりだから第二世代程度じゃ厳しいと思うな。ちなみに君のISなら問題無く装備できるけどね」

「なぁ、俺のISって第何世代相当なんだ?」

「設計思想的には第二世代だけど、AMS適性だったっけ? アレの使用を前提とした超高精度制御能力と、内装系のエネルギー出力や変換効率は数世代先かな? 同じ科学者として、アレに使われている理論を確立した科学者は純粋に凄いと思うよ。まぁ、使用者を選び過ぎるという欠点はあるけどね」

「良いのか? そんな強力な兵器を見知らぬ他人の俺に与えて」

 

 博士はニヤリと笑った。

 

「解析して、ISに転用したのは私だよ?」

「・・・・・ああ、そうだったな。買ったものを俺に与えたんじゃなくて、自分で作ったものを与えたんだもんな」

「その通り」

 

 それが意味するところは、つまり博士は俺に対する対抗手段をちゃんと有しているという事。

 なるほど。気兼ねなく与えられる訳だ。

 

「話が反れたな。装備変更が出来ないなら仕方が無い」

「仕方が無いから、どうするの?」

 

 実のところ、俺は“自分で救出する”という考えは余り持っていなかった。

 あくまで彼女に救出させるつもりだった。

 何故かと問われれば怖かったからだ。

 戦う事が、じゃない。

 いや、全く怖くない訳じゃないが、大きな理由は救出失敗の時の事を考えてしまうからだ。

 自分の不手際で自分がくたばるのは、まだ納得がいく。

 だが自分の不手際で他人が死ぬのは怖い。

 だから尤もらしい理由をつけて彼女自身に救出させるつもりだったのだが・・・・・こんな明らかな遠距離戦用装備で行かせたとあっては、俺の(本当はありはしないが)実力が疑われる。

 それは今後の事を考えるとマズイ。

 なので、

 

「もし彼女がやる気なら、俺が前衛を勤めよう」

 

 作戦変更だ。

 

「正義の味方じゃなかったんじゃないのかな?」

「人質を取っているなら、それ相応の護衛がいると考えるべきだろう。通常戦力だけなら問題無いだろうが、万一ISが居た場合、流石にこの装備だと厳しい事になる」

「ふ~~~~ん」

 

 何となく疑わしげな博士の視線を意識的に無視する。

 甘い判断だったか? 傭兵らしくないと見られたか?

 ポーカーフェイスを保ったまま、幾つかの考えが脳裏を過ぎるが、今更どうしようもない。

 ここで考えを変えれば、「自分の意見をコロコロ変える」=信用ならない奴と思われてしまう。

 そんな不安を押し隠すように、俺は言葉を続けた。

 

「でもまぁ、人質にそんな過剰な戦力を貼り付けているはずがないから、念のためだな。後は救出時に、変な処置がされていないかを確認すれば大丈夫だろう」

「変な処置って?」

 

 一瞬、頭の中に相当外道な手段が幾つか浮かんだが、俺の口は至って常識的な手段を口にしていた。

 

「追跡用の発信機とかだよ。――――――ところで、彼女のISのメンテは何時頃終わるのかな」

「推進系以外は無事だったから2時間もあれば終わるけど、さっき君が言った事は2日くらいかかるかな。弄るのがコンピューターだけなら、今すぐにでも出来るんだけどね」

「そうか。なら彼女に話をして、出るようなら教えてくれ」

 

 そう言って俺は部屋から出ようとするが、背後から声がかけられた。

 

「会わないのかい? 一時とはいえチームになるなら、顔合わせくらいはした方がいいんじゃないかな?」

「必要無い。こっちから話すような事も無いし、長くチームを組む訳じゃない。単に、こちらの都合で救出するだけの関係だ。それに、顔は余り晒したくない」

「用心深いんだね」

 

 博士は一瞬驚いたような表情を浮かべ、そんな言葉をかけてきたが、俺としては当然の判断だ。

 この世界で唯一ISを使える男は織斑一夏のみ。

 その情報が持つ意味を、アドバンテージを、こんな所で手放すなんて馬鹿げている。

 

「傭兵は恨みを買う事も多いからな」

 

 そのまま部屋を出た俺は、歩きながら救出対象がいる場所のMAPをオープン。

 目前にウィンドウが展開され、建物の見取り図が表示される。

 更にもう1つ同じウィンドウを開き、こちらはMAPを縮小し周辺の地形データを表示。

 

「・・・・・海岸の断崖絶壁に建てられた古城。見晴らしは極めて良好。速度に任せた強襲作戦は使いづらいか」

 

 気象データを呼び出す。

 残念ながら快晴。

 雨でも降っていてくれれば近づきやすかったんだが・・・・・。

 となれば考えられる作戦は2つ。

 人の集中力が最も落ちるという明け方に空から強襲。整備が2時間後に終わるというなら、時間的にも丁度良い。或いは海岸に面した断崖絶壁という条件を生かして、海中からの隠密潜行。

 このどちらかだ。

 ネクストISならどちらの作戦も実行出来るが、どっちが安全だろうか?

 しばしの熟考。

 やはり、ここは海中からの接近が良いだろう。

 ネクストISは完全密閉型の全身装甲。

 エネルギーシールドを完全に切っても海中で行動可能=敵に探知される可能性を大幅に下げられる。

 となれば、作戦は俺が海中から接近。古城直下でISを戦闘起動。敵が行動を起こす前に人質を救出して離脱。

 そして適当な場所でラファール・リヴァイヴを使う彼女に、救助した人質を渡し、俺は追っ手の足止め。

 よし、基本はコレで行くか。

 あとは・・・・・。

 こうして作戦を煮詰め始めて2時間後、俺は再び博士に呼び出されたのだった。

 

 

 

 第3話に続く

 

 

 

 



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第03話 救出

 

 ドクン。ドクン。ドクン。

 

 目的地に近付くに従って、心臓が高鳴っていくのが分かる。

 これから俺は、俺以外の人間の命を背負う行動=救出作戦を行おうとしている。

 自分の不始末で自分がくたばるのは許せるが、他人の命が関わると、こんなにも緊張するものか。

 だが弱音を吐ける相手などいない。

 ふと、俺が放り込まれたこの世界、インフィニット・ストラトスの原作で、篠ノ之束博士が言っていた言葉を思い出した。

 

『世界が平等であったことなど一度もない』

 

 確かにその通りだ。

 どういう訳か、この世界に放り出された瞬間から俺には、“ネクスト傭兵だった男”、“最後のORCA”、“IS起動適性EX-S”というレッテルが貼られていた。

 どうしてかは分からない。

 だがこの世界で、俺は博士にそういう人間だと認識された。

 レギュ1.15で使っていた愛機を模したISまで作ってもらいながら、今更「こんな怖い事は出来ません」等と言えるはずがない。

 もし捨てられでもしたら、行く場所が無い。

 だから俺は恐怖を飲み込む。我慢をする。傭兵という役割を演じる。

 

「自己診断プログラム。ロード」

 

 自身を落ち着かせるかのように、小声で呟く。

 

 ―――SYSTEM CHECK START

    →HEAD:063AN02 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE:EKHAZAR-CORE・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →ARMS:AM-LANCEL ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    

    →R ARM UNIT  :07-MOONLIGHT(レーザーブレード)・・・・・・・・OK

    →L ARM UNIT  :ACACIA(アサルトライフル) ・・・・・・・・・・・OK

    →R BACK UNIT  :RDF-O700(レーダー)・・・・・・・・・・・・・・OK

    →L BACK UNIT  :HLC02-SIRIUS(ハイレーザーキャノン) ・・・・・・OK

    →SHOULDER UNIT :051ANAM(フレア) ・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →R HANGER UNIT :ワイヤーガン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →L HANGER UNIT :有線式小型カメラ ・・・・・・・・・・・・・・・・OK

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

 

 ―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR

 

 無機質なメッセージが脳内を流れていった後、俺は右隣を飛ぶIS=ラファール・リヴァイヴを纏う紫色の髪の美女に声をかける。

 無論、男であるとばれないようにマシンボイスでだ。

 

「ここから先は、ミッションプランの通りに」

「本当に、信じて良いの?」

「お前の装備では万一の事態に対応出来ない。それだけの話だ」

 

 努めて事務的に答えるが、彼女が聞きたかったのはそういう事じゃなかったらしい。

 

「そうじゃない。何で助けてくれるの? 妹を助け、新しい戸籍を与え、でも私に何も求めない。これで勘繰るなという方が無理な話よ」

 

 何も求めなかった?

 博士に話したのは、要約してしまえば『恩を押し付けて手駒にする』だ。

 それを認めたからこそ、今回の救出作戦だと思ったんだが・・・・・まぁ、俺には関係の無い話か。

 飼い主が求めていないというなら、でしゃばる必要も無い。

 

「博士は君に、平穏な人生を歩んで欲しかったんだよ。ISを取り上げなかったのは、君が理不尽な暴力を知っているからだ。家族を理不尽に奪われていた君なら、力の使いどころを間違えたりしないだろう」

「篠ノ之博士・・・・・」

 

 今まで、随分辛かったのだろう。

 彼女の表情が歪む。

 が、俺は気付かない振りをして続けた。

 

「次のコンタクトは1時間後だ。抜かるなよ」

「そっちこそ、妹を頼むわよ。もし失敗なんてしたら、分かってるんでしょうね?」

 

 目元を拭いながら答える彼女=本作戦における呼称<アロー1>に、俺は海中潜行をしながら右手を上げて答える。

 ここから先、目標救出までは単独行動だ。

 作戦自体は至って簡単。

 救出目標がいる断崖絶壁の古城まで、海中から接近。近付いたところでISを戦闘起動。

 相手に対応する時間を与えず救出して離脱開始。と同時に<アロー1>が作戦区域に突入、離脱を援護。

 そして合流したら救出目標を<アロー1>に渡し、役割交代。俺が追っ手の足止め or 撃破。

 <アロー1>はそのまま離脱。恐らく、もう会う事もないだろう。

 そんな事を考えながら、被発見率を下げる為に各種システムを停止・切断していく。

 

 ―――エネルギーシールド停止。

 

 ―――アクティブセンサー停止。

 

 ―――コアネットワーク切断。

 

 ―――衛星リンク切断。

 

 ―――07-MOONLIGHT:EN供給停止。

 

 ―――ACACIA:EN供給停止。

 

 ―――RDF-O700:EN供給停止。

 

 ―――HLC02-SIRIUS:EN供給停止。

 

 ―――051ANAM:EN供給停止。

 

 ―――アクティブステルス・・・・・063ANEM未装備につき使用不可。

 

 欲を言えばアクティブステルスが欲しいところだが、専用装備である063ANEMは現在、束博士が製作中だ。

 全く、こんなところまで再現しなくても・・・・・と思わなくも無い。

 確かアクティブステルスは、ISでは標準装備だったはずだ。

 が、このネクストISでは専用装備が必要。その分本体性能は高いから良いのだが、ちょっと羨ましくもある。

 まぁ、無いものねだりをしても仕方が無いし、海中からの接近なら、陸地と違って視認される危険性は低い。

 多分、アクティブセンサーを使わなければそうそう発見されたりはしないだろう。

 そうして、深く静かに潜水艦のように、目標へ近付いていく。

 (ちなみに余談だが、ノーマルISでエネルギーシールドを停止させて海中に潜ろうものなら操縦者が溺れてしまう)

 そうして進むこと50分。無事古城の真下まで到着するが、まだ海中からは出ない。

 非合法組織がこういう古城を使っているんだ。当然、侵入が予想される崖下なんかは、センサートラップがあるだろう。

 ハンガーから有線式の小型カメラを取り出し(ISの量子変換機能は使っていない)、そっと海面へと浮かべ崖の様子を伺う。

 小型故にISの高性能なセンサーには及ばないが、トラップの有無を判断するだけなら、スターライトスコープ(月や星の光を増幅して視界を得る)とサーマルビジョン(物体から放出される赤外線を可視化)機能しかないコレだけでも十分だろう。

 すると案の定、

 

「・・・・・熱源数17か」

 

 カメラが捕らえた映像を、即座にISが分析。解析結果が脳内に流れてくる。

 

 ―――形状特性より赤外線センサー12。監視カメラ5。

 

 ―――効果範囲を視覚化。

 

 更に、俺の視界内に赤く染まった空間が表示される。あの範囲に入ると、センサーに引っかかるという事か。

 しかもセンサーは可動式らしく、赤く染まった空間は常に動いている。

 が、動いているという事は当然隙間も出来る訳で。

 

「タイミングは・・・・・1、2、3、1、2、1、2、3、4、か。よし」

 

 ここまで来たならネクストISを戦闘起動して、ブースターで上がってしまっても良いのだろうが、アクティブステルスが使えない以上、やれば確実に気付かれる。気付かれていない今、そんなリスクを背負う必要は無い。

 俺はハンガーから取り出したワイヤーガンで崖を登り、古城の壁面に取り付く。

 

「・・・・・ふぅ、ようやくここまで来たか」

 

 時計を確認すれば、<アロー1>との合流まで5分を切っていた。

 だが焦りは禁物だ。

 今度は音響センサーを使って、古城内部の音を拾っていく。

 まさか城全体に防音処置を施しているはずも無いだろう。予想に違わず、中の会話が聞こえてきた。

 

『ったく、いつまでこんなところにいれば良いんだ?』

『ぼやくなよ。基地1つ完全に潰されたおかげで実戦部隊が緊急招集されているんだ』

『ハッ、レプリカコアとは言えISが5機か? 戦争が出来る戦力だな』

『違いない。しかし、この嬢ちゃんも不憫だな。姉がIS操縦者だったばかりに』

『もう用済みなんだろ?』

『ああ』

『だったら、少し楽しんでも問題無いよな?』

『や・・・・・やめ・・・・・・て』

 

 迷っている時間は無かった。

 思考トリガー。

 

 ―――エネルギーシールド起動。

 

 ―――アクティブセンサー起動。

 

 ―――コアネットワーク接続。

 

 ―――衛星リンク接続。

 

 ―――07-MOONLIGHT:EN供給開始→起動完了。

 

 ―――ACACIA:EN供給開始→起動完了。

 

 ―――RDF-O700:EN供給開始→起動完了。

 

 ―――HLC02-SIRIUS:EN供給開始→起動完了。

 

 ―――051ANAM:EN供給開始→起動完了。

 

 脳内を流れる無機質なメッセージ。瞬時に立ち上がっていくシステム群。

 それを支えるのはネクスト技術が応用され、通常のISコアとは比べ物にならないEN出力と反応速度を誇るネクストISコア。

 圧倒的で莫大なエネルギーが瞬時に伝達され、刹那の間に戦闘起動を完了。

 ここから先は、時間との勝負だ。

 レーザーブレードで外壁を切り裂き、内部へ突入。

 アクティブセンサーによって得られた内部MAPと、先の音響センサーで得られた位置情報を重ね合わせ場所を特定。

 

「運が良かった!!」

 

 幸い、救出目標がいる場所はすぐそこだった。

 壁を2枚もぶち抜けば辿り着ける。

 更にカメラアイのサーマルビジョンを起動。

 壁越しに、3人分の熱源を捕らえる。

 1人は体形的に女性。2人の男が迫りながら手を伸ばしている。

 

「間に合え!!」

 

 全身装甲というネクストISの特性を生かし、自身を弾丸として突撃。

 壁をブチ抜いて男達と女の間に割って入る。

 間合いは既にクロスレンジ。

 声を上げる間も、反応する時間も、与えてなんてやらない。

 問答無用でレーザーブレードを一閃。圧倒的熱量で文字通り消し炭になる男達。

 初めて人の命を奪った罪悪感を、“戸惑えば、待っているのは自分の死”と言い聞かせ飲み込む。

 突然の事態に、驚きの表情を隠せない女。

 顔を確認。間違い無い。救出対象だ。

 説明する時間も惜しかった俺は彼女を抱き抱え、自身が空けた穴から古城の外へ脱出し<アロー1>へ連絡。

 

「<ネクスト>より<アロー1>へ。要救助者確保。これより脱出する」

「こちら<アロー1>。確認したわ。良く助けて―――」

「喜ぶのは後だ。チッ、流石に早い!!」

 

 センサーがIS起動時特有のエネルギー波形を感知。数は5。

 急速接近中。

 

 ―――敵IS全機、射撃用レーダー作動。

 

 無機質なメッセージが脳内を駆けていく。

 マズイ。

 一瞬、両手で抱えている彼女に視線を落とす。

 幾らPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー=慣性制御)範囲を拡大しているとは言っても、本格的な戦闘機動をしようものなら命は無いだろう。

 どうする? 瞬間、刹那の閃き。

 

(待てよ。PICを一方向のみに限定して集中制御すれば、生身でもネクストISの加速に耐えられるか?)

 

 ISにシミュレートをコマンド。

 即座に結論が返ってくる。

 

 ―――対象スキャンデータより予想値算出。

 

 ―――仮定条件。PIC単一方向集中制御。

 

 ―――OB(オーバードブースト)+メインブースターの最大出力に耐えられる推定最大時間は20秒。

 

 ―――それ以上で身体機能に致命的な損傷が発生する可能性大。

 

 ―――対象の安全を考慮するのであれば15秒。

 

 ―――サイドへのクイックブースト(QB)使用時、対象の死亡率99.98%

 

 上等だ!!

 思考トリガー。

 

 ―――PIC制御範囲拡大。及び制御方向を前方に固定。

 

 ―――空気抵抗低減の為、エネルギーシールドを前方へ伸びるコーン状へ変形。

 

 ―――OB起動。メインブースター最大出力。

 

 ネクストISの背部装甲版が展開。普段は使用されない大型ブースターが露出。

 そこへ光が収束していき、直後、地上に彗星が出現する。

 音速を超えた衝撃で海が割れ、更に超音速領域に突入。

 僅か1秒弱で時速3000kmに迫り、音を遥か彼方に置き去りにして突き進む。

 が、安心は出来ない。

 敵ISの性能は未知数だし、そもそもこちらは長時間この状態を維持出来ない。

 

 ―――安全リミットまで5、4、3、・・・・・。

 

 脳内に流れる無機質で無慈悲なカウントダウン。

 何とか距離を稼げてはいるが、減速が始まればすぐに追いつかれるだろう。

 どうする。

 危険を承知で加速を続けるか?

 

 ―――2、・・・・・

 

 レーダーに<アロー1>の機影が移るが、まだ遠い。

 

 ―――1、・・・・・

 

 抱き抱えている彼女に再度視線を落とす。

 キュッと目を閉じ、恐怖に震えている。

 当たり前だ。

 突然こんな状況に放り込まれたら、誰でもこうなる。

 

 ―――0

 

 駄目だ。もし無理をして何かあれば、この作戦そのものの意味が無くなる。

 減速開始。

 敵機及び<アロー1>との距離がみるみる近付いてくる。

 だがこの速さなら、僅かに先んじて<アロー1>と合流出来る。

 そして、

 

「リア!!」

「姉さん!!」

 

 互いの無事を喜び抱き合う姉妹。

 出来るならこのままそっとしておいてやりたいが、状況がそれを許してくれない。

 

「・・・・・早く行け。もう会う事も無いだろうが、達者でな」

 

 そう言って俺は2人に背を向け、迫る敵機に向き直る。

 

「ちょっと待って。5対1よ。勝てるの?」

 

 勝てる訳が無い。言外にそんな意味が込められた言葉。

 正直、俺もそう思う。

 こちらの実戦経験は今回で2度目。相手は豊富。

 本心を言ってしまえば怖いの一言だ。

 全てを放り出して逃げてしまいたい。

 だけど、俺は知っている。

 特別な事じゃない。

 世の中大体のものは金で買えるが、信用は買えないんだ。

 ここでもし2人を裏切り、そして束博士を裏切れば、絶対これから先ロクな人生にならない。

 だからそんな事はやらない。

 無理? 無茶? 無謀?

 クソ食らえだ。

 負けたら死ぬ。それだけの話だ。

 だったら勝利の可能性を1%でもあげる為に、思考する。演技をする。俺は傭兵だと自分自身に信じ込ませる。

 

「ふん。たかが5機程度に勝てない奴が、あの人の下にいられると思うか? 余計な心配はしないで早くいけ。家族が大事なんだろう? 死なせたくないんだろう? なら振り返るな。行け!!」

「ありがとう。死なないで」

 

 レーダーの、背後にあった光点が遠ざかっていく。

 そして代わりに近付いてくる5つの光点。

 ここに至って、言葉に意味は無かった。

 ロックオン警報。と同時に放たれる弾丸。

 警告すら無い明確な殺意。

 俺はサイドクイックブースト(QB)で弾丸を回避、そのまま戦闘機動に突入。

 こうして俺の、2度目の対IS戦闘の幕は切って落とされたのだった。

 

 

 

 第4話に続く

 

 

 

 



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第04話 出会い

 

 ―――フランス。アルプス山脈付近。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・・」

 

 背を近くの木に預け、その場にへたり込む。

 流れ出る血と、降りしきる雨が、容赦無く体温を奪っていく。

 マズイ。

 このままだと死んでしまう。

 そんな思考が脳裏を過ぎるが、身体が動かない。

 似合わない事をするから、5対1で戦ったりするからこんな事になると思ったが、後悔はしていない。

 俺は、薙原晶(なぎはら しょう)は、自分を裏切らなかった。

 それで良い。

 敵ISが5機。もしアレが裏切りの結果だったのなら、それを見抜けなかった自分が間抜けだっただけの話だ。

 

『騙して悪いが・・・・・』

 

 何て良くある話さ。

 しかし、マズイ。

 身体が切実に休息を訴えているが、この状態で雨に打たれながら寝たりしたら、かなりの高確率で次の目覚めはあの世になってしまう。

 

「誰か・・・いるんですか?」

「!?」

 

 全く知覚していなかった他者の存在。

 振り返り、仮に敵であっても良いように体勢を整えようとするが、俺の意志に反して身体はほとんどいう事をきいてくれない。

 出来たのは、ただゆっくりと振り向く事だけ。

 だが目がかすみ、相手の姿がはっきりと分からない。

 辛うじて金髪の若い女性と分かっただけだった。

 更に自分の喉から出てきた言葉は、情けなくなる程に力ない。

 

「だ・・・れ・・・・だ?」

 

 相手が近付いてくる。

 すぐ傍に立ったようだ。

 

「酷い傷!? 早く救急車を――――――」

 

 ぼやけた視界の中、ポケットから携帯を取り出す彼女を見た俺は自分でも驚く程の早さで、女性の(恐らく)足を掴んでいた。

 

「たの・・・・・む。俺が、ここにいる事は・・・・・・誰にも・・・・・いわ・・・・ないで・・・・くれ」

「何を言ってるんですか!! 早く手当てしないと死んでしまいます!!」

「いま・・・・・の、・・・・・・状態を・・・・・・知られ・・・・る方が、マズ・・・イんだ。・・・・分かって・・・くれ」

 

 今の状態を他人に知られるのは確実に命取りになる。

 俺の身体は普通の身体じゃない。どういう訳かは分からないが、この世界に来た時から“強化人間”となっていた。

 AC世界の強化人間。多分、この世界じゃオーバーテクノロジーの塊だろう。

 何せ、身体機能増強による代謝機能と対G耐性の強化のみならず、人の身体で最も繊細でデリケートな神経系全般まで強化されているんだ。科学者が見たら泣いて喜ぶだろうよ。

 だからこそ、他人に俺の身体を調べられる訳にはいかない。

 しかし、そんな事情を知るはずも無い彼女は、

 

「駄目だよ。すぐに手当てしないと」

 

 と言ってきかない。

 埒があかないと思った俺は、腰裏にさしていた護身用の銃(=ベレッタM92)を取り出した。

 情けないほどゆっくりな動きだったが、彼女は動かなかった。

 心配してくれる人に対して、最低の行動をしているというのは分かっていた。

 でも、他人を呼ばれないようにする方法が、コレ以外に思い当たらなかった。

 

「たの・・・・む。放って・・・・・おいて・・・・・俺のこと・・・・を、・・・・・忘れて・・・・くれるだけで・・・・いい」

 

 銃を持つ手が安定しない。

 いや、持っているのすら辛くなってきた。

 

「・・・・・分かったよ。人は呼ばない。でも手当てはする」

 

 数瞬の沈黙の後、そんな事を言った彼女はその場に跪き、

 ビリィィ。

 (目が良く見えなかったが恐らく)スカートを引き裂き、出血の激しい上腕や大腿部に巻き始めてくれた。

 

「あり・・・・が・・・とう」

「こんなに傷ついて、こんなに血を流して、それでも他人を頼れないなんて、君は――――――」

 

 何か言葉が聞こえてくる。

 だが、ここが限界だった。

 視界が急速に暗くなっていき、抗う間も無く、俺の意識は途絶えてしまった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 雨の中散歩に出かけたのは、ほんの気まぐれからだった。

 自分を道具としてしか扱わない父。

 近々、性別すらも偽らなければならなくなる現実。

 思い出の中にしかいない優しかった母。

 昔を思い出して、今を考えて、未来を思って、希望を持てるものが見つからない。

 せっかく久しぶりに母との思い出が詰まっている実家に帰ってきているのに、これではいけない。

 そう思ったシャルロットは、雨の中だったが、母と歩いた森の中を歩く事にした。

 そうすれば、少しでも気分が晴れると思って。

 だけどそこで、

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・・」

 

 誰かの声が聞こえた。

 周囲を振り返るが、うっそうとした木々が立ち並んでいるばかりで、誰の姿も見えない。

 

「誰か・・・いるんですか?」

 

 意を決して尋ねてみる。

 専用機持ちに対する襲撃という万一の自体を考えて、即座にISを展開出来るようにしながら。

 しかし、返ってきたのは、ガサッという音だった。

 音のした方に近付いてみれば、木に背を預けるように、血だらけの男が座り込んでいた。道からは茂みに隠れて丁度見えない場所だ。

 

 「だ・・・れ・・・・だ?」

 

 まだ若い、黒髪黒眼の男が力無くゆっくりと振り返り、そんな事を言う。

 だがシャルロットは男の問いに答えず、

 

「酷い傷!? 早く救急車を――――――」

 

 呼ぼうとして、足を掴まれた。

 

「たの・・・・・む。俺が、ここにいる事は・・・・・・誰にも・・・・・いわ・・・・ないで・・・・くれ」

「何を言ってるんですか!! 早く手当てしないと死んでしまいます!!」

 

 男の状態は素人が見ても、一目で危険だと分かる程だ。

 雨の中、大地が紅く染まる程の血を流せばどうなるかなんて、子供でも分かる。

 しかしここでシャルロットは、ある事実に気付いた。

 男が人を呼ばないでと言った理由に。

 彼が着ているものは――――――ISスーツ。

 本来、女性しか動かせないはずのIS。現状唯一の例外は極東に出現した特異体のみの。

 しかし、目の前の男が着ているのは間違い無くISスーツ。男性用にカスタムされているが、見間違うはずがない。

 そこへ男の声。

 

「いま・・・・・の、・・・・・・状態を・・・・・・知られ・・・・る方が、マズ・・・イんだ。・・・・分かって・・・くれ」

「駄目だよ。すぐに手当てしないと」

 

 とっさに出た言葉に、男は銃を取り出した。

 だがその動きは酷くゆっくりとしたもので、取り押さえようと思えばいつでも出来るくらいに酷いものだった。

 

「たの・・・・む。放って・・・・・おいて・・・・・俺のこと・・・・を、・・・・・忘れて・・・・くれるだけで・・・・いい」

 

 銃を持つ手がカタカタ震えている。

 いや、銃は意外と重い。もう持っているだけの力も無いのだろう。

 そう思いながらシャルロットは、

 

「・・・・・分かったよ。人は呼ばない。でも手当てはする」

 

 と言い、男の傍らに跪きスカートの裾を引き裂き、出血の酷い上腕や大腿部に包帯のように巻いていく。

 

「あり・・・・が・・・とう」

「こんなに傷ついて、こんなに血を流して、それでも他人を頼れないなんて、君は・・・・君はどれだけ孤独なの?」

 

 言い終える前に、男の身体から力が抜け、ズルリと地面に倒れ――――――る前にシャルロットが支える。

 何故か、この男が他人とは思えなかった。

 自分を道具としてしか見ない父。恐らく同じなんだろう。

 いや、男でISが使えるというなら、その価値は計り知れない。

 どこかの研究所から、命懸けで逃げ出してきたのだろうか?

 そんな嫌な考えが脳裏に浮かぶ。

 普段なら、「何を馬鹿な」と笑い飛ばせたかもしれない。だがそれには、腕の中にいる男の傷は余りにも生々し過ぎた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 次に俺が目覚めたのは、暖かくて清潔なベットの上だった。

 はっきりしない意識の中、周囲を見渡す。

 見えるのは、すぐ傍にある窓から見える外。暗い森に降りしきる雨。

 反対側に視線を移せば、随分と使い込まれた、本当の薪を燃やす暖炉があり、火がついている。

 そして上を見ると、同じく年代を感じさせる電球。

 眩しいな。

 何となくそんな事を思った時、ベット正面にあった扉が開いた。

 入ってきたのは金髪の・・・・・美少年とも言えるし、美少女とも言える。どっちだろうか?

 服装は黒と白を基調としてオレンジのラインが入ったジャージという動きやすい格好。

 

「目が覚めたの? 大丈夫? 痛いところは無い?」

 

 視線が合うと、ベットサイドまで駆け寄ってきて矢継ぎ早な質問をされた。

 正直、まだ頭がはっきりしな――――――。

 

 急速に蘇る記憶。

 

 そうだ、俺は森の中で死にそうになっていたところを誰かに・・・・・・・・・。

 いけない。早くここから去らないと。きっと迷惑をかけてしまう。

 何故かって?

 それはあの5対1での戦いにある。結論から言えば、相手は全て撃墜した。

 が、そんな事はどうでも良い。

 問題は、あの戦いで俺はAA(アサルトアーマー)を使ってしまったって事だ。

 本来のネクストが使うAAは、直撃でさえなければ無傷とまではいかないが核兵器すら凌ぐPA(プライマルアーマー)を攻性転換、全方位への飽和攻撃を行う代物だ。

 束博士は、ネクストISでもそれを忠実に再現した。

 つまり逆説的に言えば、AAの使用は核兵器級のエネルギー反応が検出されるはずなのだ。

 そんな巨大なエネルギー反応がいきなり出現したら、近くの国・・・・・いや、軍はどう動くだろうか?

 確実にデフコン(防衛準備態勢の事。1が最高で5が最低を示す)レベルが跳ね上がるだろう。

 元の世界での冷戦時、米国の大陸間弾道ミサイル部隊はほぼ常時デフコン4だったらしい。又、キューバ危機(米ソ間の冷戦で核戦争寸前まで達した危機的な状況)の際はデフコン2だった事を考えれば、恐らくデフコンは3ないし2。

 流石に1(完全な戦争準備態勢)は無いと思いたい。

 どちらにしろ言える事は、巨大なエネルギー反応の原因を探しているだろうという事だ。

 そんな事を考えていると、不意に両肩を掴まれた。

 

「ねぇ、本当に大丈夫?」

 

 黙り込んでしまった俺を、アメジスト色の瞳が心配そうに覗き込んでいる。

 

「あ、ああ。もう大丈夫だ。休ませてくれてありがとう。すぐに出て行くから――――――」

 

 正直に言えば身体は重いが、ここにいたら迷惑をかけてしまう。

 だから出て行こうと身体を起し――――――やんわりと押し止められた。

 

「ダメだよ起きちゃ。まだじっとしていないと」

「いや、しかし」

「そんな傷で、そんなガタガタの身体でどうしようっていうのさ。君の希望通り誰も呼んでいないから安心して」

「・・・・・何で、助けてくれるんだ? 俺を助けて君に何のメリットが?」

 

 俺は自分が善人じゃないと自覚している。

 まして、森の中で血だらけで倒れていた人間なんて怪しさ満点だ。

 故に出てきた疑問だが、

 

「困っている人を助けるのに理由なんていらないじゃないか」

 

 とあっさり返された。

 が、俺は食い下がる。

 

「俺が逃亡中の凶悪犯とかだったらどうするつもりだ?」

「本当の凶悪犯なら、そんな事は言わないよ」

 

 と、これもあっさり返された。

 

「いや、しかし・・・・」

「ダメ。君が何を心配しているのかは知らないけど、ここに君を傷つける人はいないから安心して良いよ」

 

 そんな言葉と魅力的な笑顔を向けられては、振り払って出て行く気力も萎えていく。

 が、万一の事態を考えれば、甘えてしまう訳にはいかない

 

「気持ちだけ、受け取っておく。ありがとう」

 

 そう言って、やんわりと俺を押さえつけている手をどけ、身体を起こした。

 直後、

 

「ッッッッ!!!!!」

 

 悲鳴すらあげられないような激痛が、全身を駆け巡る。

 出来たのは、両手で自分の身体を抱き抱えるようにする事だけ。

 みっともなく、奥歯がカタカタと噛み合わない。

 そんな中、脳裏に無機質なメッセージが流れた。

 

 ―――AMSダメージリポート

    →神経組織、特に感覚・運動神経系にダメージ。

    →戦闘行動に深刻な支障あり。

    →現在再生中。終了までは安静を推奨。

    →痛覚遮断プログラムを使用しての行動は推奨されません。再生速度に悪影響があります。

    

 ―――ネクストISダメージリポート

    →ダメージレベルD-(起動すら危うく、生命維持すら極めて困難なレベル)

    →現在再生中。

    →詳細は以下。

     ・HEAD:063AN02・・・・・・・・・・損壊率82%

     ・CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・・損壊率78%

     ・ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・損壊率92%

     ・LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・・・損壊率85%

     

 ほぼ全損ともいえる深刻なダメージに愕然とする。

 いや、5対1で生き残れたのを考えれば、まだ良い方だろうか?

 頭の片隅、僅かに残っている理性的な部分でそんな事を考えるが、すぐに消し飛ぶ。

 

「痛い」

 

 只その一言すら言えない痛み。

 嫌な汗が全身から流れていく。生気の無い顔をしているのが自分でも分かる。

 が、取り繕う事すら出来ない。

 

「ちょっと、大丈夫!? 早く横になって、起きるなんてまだ無理だよ!!」

 

 有無を言わさずベットに押し倒され、横になるとスッと痛みが引いていった。

 

「す、すまない・・・・・」

「いいんだよ。無理しないで、ゆっくり休んでいて」

 

 見る者を安心させる穏やかな笑顔を向けられた俺の意識は、それで安心してしまったのか再び眠りに、抗う間もなく落ちていってしまった。

 

 

 

 第5話に続く

 

 

 

 



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第05話 シャルロット

 

 俺(=薙原晶)が次に目覚めたのは、翌日の昼過ぎだった。

 窓から外を眺めれば、未だに雨がしとしとと降り続いている。

 身体も、多少動ける程度には回復しているが、完全回復には程遠い。

 

「・・・・・これから、どうするかな」

 

 思わずそんな事を呟いた時、コンコンと部屋の扉がノックされた。

 

「どうぞ。起きてますよ」

 

 入ってきたのは、黒と白を基調としてオレンジのラインが入ったジャージという動きやすい格好をした外人。

 昨日目覚めたときは意識がはっきりしていなかったせいか分からなかったが、長く綺麗な金髪とアメジスト色の瞳は、素直に何処かのお姫様を連想させた。

 

「気がついたんだね。大丈夫?」

「ああ。ゆっくり休ませてもらったおかげで随分楽になった。――――――ありがとう」

 

 ゆっくりと上半身を起し、頭を下げる。

 と、何故か顔を真っ赤にして横を向かれてしまった。

 何か気分を害するような事でも言ってしまっただろうか?

 そんな思考が脳裏を過ぎるが直後、その理由を理解し、確認の為シーツの中を覗き込み・・・・・・・・・・俺も思わず赤面してしまう。

 服を着ていないのだ。

 いや、着ていない理由は理解できる。

 俺は森の中で血だらけだった。

 手当ての為に、ISスーツを脱がして手当てしてくれたんだろう。

 他人を呼んで欲しくないといった言葉を律儀に守って。

 だから恥ずかしがる必要なんて無い。無いのだが・・・・・・理性と感情は別物らしい。

 いや、考え方を変えよう。

 ここで俺まで恥ずかしがったら、手当てをしてくれた相手に失礼だ。

 何でもないかのように自己紹介でもして、話を変えよう。

 

「そ、そういえば自己紹介がまだだったな? 俺の名前は薙原晶。君は?」

「え、あ、うん。ぼ、僕の名前はシャルロット」

 

 沈黙。

 見事に会話が続かない。

 焦る俺。

 

「あ―――、と、とりあえず傷の手当と、人を呼ばないでいてくれてありがとう」

「ううん。そのくらい何でもないよ。でも良かった。顔色も随分良くなっている」

「そんなに酷かったのか?」

「酷いなんてものじゃなかったよ。見つけたのが手当てが出来る僕じゃなかったら死んでたよ」

 

 再び沈黙。

 今度は気まずい。

 どうしようか?

 本当の事なんて話せるはずもない。が、それなりの事を話さなければ、助けてくれた相手に失礼だろう。いやいや、変な事を話せばそれこそどんな厄介事に巻き込んでしまうか分かったものじゃない。

 悩む俺。

 丁度その時、盛大に腹の虫が鳴った。

 そういえば、最後に食べたのは作戦前の栄養ドリンク1本だけだったな・・・・・。

 

「何を悩んでいるかは知らないけど、まずはご飯にしようか? お腹が膨れれば、きっと良い考えも浮かんでくるよ。後、ISスーツも洗濯してあるから持ってくるね」

 

 そう言って部屋から出て行くシャルロットの後姿を眺めていると、今更ながらにふと思った。

 シャルロットって、ISの原作に出てくるあのシャルロットか? まさか・・・・・な。

 確認しようと思えば方法は幾らでもあるんだが・・・・・数瞬迷い結局しない事にした。

 相手がこっちの事情を聞いてこないのに、こっちが相手の事を探ってどうする。

 今は、助けてくれた人がシャルロットという人だった。それで良いだろう。

 そう思って視線を窓の外に向けようとした時、サイドテーブルの上に置いてあるものが目に入った。

 

「・・・・・おいおい。幾らなんでも無用心過ぎるだろう」

 

 思わず呟いてしまう。

 置いてあったのは、俺が護身用に持っていた銃(=ベレッタM92)だった。

 本当に、俺が逃亡中の凶悪犯とかだったらどうするんだ?

 いや、シャルロットがISの原作に出てくるあのシャルロットなら、専用機持ちだから問題無いか。

 何ていう事を考えていると、シャルロットが戻ってきた。

 両手で持っているトレイの上にはパンとシチュー。左脇には、綺麗に畳まれたISスーツを挟んでいる。

 

「お待たせ」

「ありがとう。――――――と言いたいところだが、ソレは無用心じゃないかな?」

 

 サイドテーブルに置いてある銃を指差す。

 

「君はその銃を僕に向けるの?」

「恩人に理由も無く武器を向けるほど、腐ってはいないつもりだ」

「なら何も問題無いじゃないか。――――――はいスーツ。本当ならちゃんとした服の方が良いんだろうけど、合いそうなものが無くて」

「そこまで気を使ってくれなくても大丈夫。とりあえずスーツがあれば・・・・・」

 

 トレイをサイドテーブルに置いたシャルロットから、ISスーツを受け取ろうとして言葉を失う。

 手に握力が殆ど入らず、受け取った物が手の中から滑り落ちてしまった。

 

「す、すまない。まだ本調子じゃないみたいだ」

 

 慌てて落ちた物を拾おうと身体を動かしたのが良くなかった。

 力が上手く入らないおかげで、傾く身体をコントロール出来ない。

 結果、ベットサイドに立つシャルロットに倒れ掛かってしまった。

 幸い受け止めてくれたおかげでベット下に転落する事はなかったが・・・・・この格好は恥ずかしい。

 いや、胸元の柔らかい感触が気持ち良いんだが。

 そんな邪な事を考えてしまう俺に、

 

「無理しなくて良いよ。怪我人なんだから」

 

 と優しい言葉。

 自分が物凄い悪人に思える罪悪感。

 が、そんな罪悪感も次の一言で吹き飛んでしまった。

 

「その様子じゃ、着るのも食べるのも1人じゃ無理そうだね」

 

 俺を胸元に抱き抱えたまま、彼女はそんな事を言う。

 一瞬、脳が理解を拒否した。

 が、否応無く理解させられる。

 

「ご飯は服を着てからにしようか。大丈夫、ちゃんと着せて食べさせてあげるから」

「い、いや大丈夫だ。今のは偶々バランスを崩しただけで」

「なら自分でちゃんと身体を起してみて」

 

 俺を抱きとめていた腕の力が緩められる。

 このままでは、中々に恥ずかしい経験をする事になると思った俺は、火事場のクソ力とでも言うのだろうか、辛うじて身体を起し、ISスーツを自分で着る事ができた。(彼女は親切に後ろを向いていてくれた)

 が、限界を超えた力もそこまで。

 無理をしたおかげで腕は余計に動かなくなるし、身体の節々も少し痛い。

 プライド(?)を守った代償は大きかった。

 なので、

 

「自分で食べれないんじゃ、仕方ないよね?」

 

 と言って着替え終わった俺に、小さく千切ったパンを差し出してきた。

 腕が動かない以上仕方ないとは分かっているのだが、何となく恥ずかしい。

 しかし空腹には勝てない。

 一口目を食べてしまえば、まともな食事は久しぶりという事もあって、後はあっという間だった。

 (束博士のところにあったのは、栄養バランスしか考えられていないようなレーションやら栄養ドリンクやらばかり。そして俺は、今時の主人公のように料理なんて出来なかった)

 

「ごちそうさま。――――――こんなまともな食事を食べたのは久しぶりだ」

「どういたしまして。あんなに美味しそうに食べてくれるなんて、作った甲斐があったよ」

「今のを不味いという奴がいたら見てみたいな。俺なんて料理はさっぱりでさ」

「動けるようになったら教えてあげようか?」

「それもいいな。今度教えてくれ」

 

 たあいの無い会話。

 出来ればこんな気楽な話をずっと続けていたいが、そうもいかない。

 今の俺は、間違い無く厄介事を抱えているのだから。

 

「――――――話しておきたい事がある。聞いてもらって良いかな」

 

 落ち着いた、それでいて真剣な表情で頷くシャルロットに、ぽつりぽつりと語り始める。

 無論、全てを語れる訳は無い。

 別世界から訳も分からずISの世界に放り込まれて、挙句気付いたら強化人間になっていましたなんて言えるはずがない。

 だが、俺が男のIS操縦者である事。とある人質救出ミッションで敵ISと戦闘になり、敵は撃墜したもののこちらも撃破されそうになった事。ここに来るまでの経緯を話していった。

 

「――――――これが、俺があの森で倒れていた理由さ。荒唐無稽な話だろ? 信じてくれとは言わない。俺だって他人からこんな話を聞いても、すぐには信じられないからな」

 

 重くなりかけた雰囲気が嫌で、最後は努めて軽く言う。

 が、シャルロットは、

 

「信じるよ。だって僕もIS関係者だから」

 

 と、予想外の返事が返ってきた。

 更に、ジャージの胸元を僅かに開け、取り出したのはオレンジ色のネックレス・トップ。

 

「改めて自己紹介をするね。僕の名前はシャルロット・デュノア。専用機はラファール・リヴァイヴ・カスタムII」

「なら、俺ももう一度だな。俺の名前は薙原晶。専用機は――――――」

 

 言いかけてふと思う。

 言ってしまって良いのだろうか?

 束博士が作り上げた新型の事を。

 いや、今更か。

 俺がIS操縦者である事はもう話しているんだし、細かい性能を話す訳じゃない。

 

「――――――“NEXT”。次世代の名を付けられた新型だよ」

「新型? 第三世代機?」

「細かい事は話せないけど、兵器として見るなら武器の後付型。第二世代になるかな?」

「第二世代なのに次世代?」

 

 首をかしげるシャルロット。

 尤もな疑問だが、それに答える為にはネクスト技術について話す必要が出てくるから、「どうしてこんな名前を付けたのかは分からない」と濁しておく。

 

「でもシャルロットも専用機持ちだったのか。どうりで、こんな怪しげな男の言う事を聞いてくれる訳だ」

「人を呼んだ方が良かったのかな?」

「いや、呼ばなかった事には感謝している。――――――でも良いのか? 専用機持ち。デュノアという姓を見れば、フランス最大のISメーカーと無関係では無いんだろう? 目の前にぶら下がっている新型を、黙って見過ごす手はないんじゃないかな?」

「売って欲しいならそうするよ?」

 

 少し不愉快な表情。

 

「すまない。善意で助けてくれた相手に言う言葉じゃなかったな」

「いいんだよ。表に出ていない男のIS操縦者。色々と・・・・・色々とあるんでしょう? だから、ここにいる間はゆっくりしていくと良いよ。1人暮らしをしているとね、たまに話し相手が欲しくなるんだ」

「ありがとう」

 

 疑おうと思えば幾らでも疑える。

 だが俺は素直に信じた。

 身体がこの状態では、どうする事も出来ないというのもあるが、シャルロットは血だらけの俺の「誰も呼んで欲しくない」という言葉通りにしてくれた。そんな相手を信じなくてどうする。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 この時シャルロットは、目の前の青年にある種の憧れのようなものを抱いていた。

 初めは自分と同じように、道具として扱われているのかと思った。

 でも話を聞けば、男のIS操縦者でありながら既に実戦経験者。

 しかもIS操縦者として、ある程度の軍事知識を叩き込まれているシャルロットには分かる。

 救出作戦とは、本来精鋭部隊をもって行われるデリケートな作戦。

 それを行い、挙句味方と救出対象を逃がす為に、IS戦闘で数的不利という圧倒的不利な状況下で戦い生き延びる。

 デュノア社で非公式ながらテストパイロットをしていたから、その凄さが良く分かる。

 そんな事は極一握りのエース級でなければ不可能だ。

 自分とは違う必要とされている人間。

 現実は違うのだが、この時シャルロットはそう思った。

 だから、

 

「いいんだよ。表に出ていない男のIS操縦者。きっと色々と・・・・・色々とあるんだよね? だから、ここにいる間はゆっくりしていくと良いよ。1人暮らしをしているとね、たまに話し相手が欲しくなるんだ」

 

 と言って、本心を隠しながら彼を引き止めた。

 父も、会社の人間も、IS開発に支障をきたさない限り、男と同棲していても煩くは言わないだろう。

 あの人たちにとって自分は、只の道具なのだから。

 分かってはいても、改めて意識してしまうと気が重くなる。

 そこに聞こえてきた

 

「ありがとう」

 

 という真摯な言葉。

 昔、母が言っていた。

 素直にお礼が言える人になりなさいと。相手に感謝出来ない人は、自分も決して感謝されないのだと。

 多分素直にお礼が言える彼は、沢山の人に感謝されているんだろう。

 それに比べて自分は・・・・・少し、気分がネガティブになる。

 だけど、怪我人に心配をかける訳にはいかない。

 笑顔を取り繕う。

 

「こんなの何でもないよ。怪我人を気遣うなんて当然じゃないか」

「それでも、ここまでしてくれる人は、そういない。助けてくれたのが、君で本当に良かった」

「やだな。そんなに持ち上げても何にも出ないよ?」

「出るさ。暖かくて美味しいご飯が」

「次からつめた~い物を出してあげようか?」

「う・・・・最近、レーションとか栄養ドリンクで過ごしていた身としては、美味しい料理は魅力的なんだが・・・・・」

 

 思わず笑みがこぼれる。

 

「心配しなくても、美味しいのを作ってあげるよ。1人の食事っていうのは味気ないからね」

「ならせいぜい宿主に放り出されないように、面白い話でもするか。余り話し上手じゃないけどな」

「期待してるよ」

 

 お互い見合わせ、何故か苦笑。

 こんな普通の会話は何時以来だろうか?

 母が死んでからは、こんな普通の会話すら無かった気がする。

 だからついつい話し込んでしまった。

 気付けば既に夕方。

 今日買い物に行く予定だったから、冷蔵庫にはほとんど食べ物も残っていない。

 それを彼に伝えると、

 

「う・・・・・うそ」

 

 と随分落ち込んでいた。

 そんなに残念がられると、作るほうの気分としては悪くない。

 明日は、腕によりをかけて作ってあげよう。

 そんな事を考えながら、残り物でご飯を作るシャルロットだった。

 

 

 

 第6話に続く

 

 

 

 



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第06話 ひと時の休息

 

 あれから、戦闘でボロボロになった俺(=薙原晶)が原作ヒロインの1人、シャルロット・デュノアの家に運び込まれてから3日。

 不調を訴えていた身体も大分回復し、ネクストISの方も順調に自己再生が進んでいる。

 恐らく今日の夜中。どんなに遅くても明日の朝には完全に回復するだろう。

 そうなれば、ここにいる理由はもう無い。

 彼女に礼の一言でも言って、出て行けば良いだろう。

 雲に隠れた薄暗い月の光で、未だ振り続ける雨を窓辺で眺めながら、俺がそんな事を考えていると、

 

「ただいま」

 

 と、シャルロットが帰ってきた。

 手には、外出する時には持っていなかった紙袋がある。

 

「おかえり。雨の中ご苦労様」

「ホントにだよ。何もこんな雨の中で、合同演習なんてしなくても良いのにさ」

 

 差していた傘を傘立てに入れ、肩についた僅かな雨を払い入ってくるシャルロット。

 彼女が外出していた理由。

 それは父の会社からの呼び出しだったらしい。

 何でも、フランス軍の演習に呼び出されたらしかった。

 時期的に見て、俺自身の事を無関係と思うのは余りにも楽観的過ぎる。

 となれば明確な目的があると考えるのが妥当だろう。

 理由は幾つか考えられるが・・・・その予想はシャルロットの言葉によって修正に迫られた。

 

「でも今回の演習は凄かったな。フランス、イギリス、ドイツの3国合同演習。遠くからチラッとしか見えなかったけど、イギリスとドイツの第三世代機の姿もあったな」

 

 驚きの表情が出そうになるのを辛うじて抑える。

 ちょっと待て。イギリスとドイツの第三世代機って事は、ブルー・ティアーズとシュヴァルツェア・レーゲンか!?

 シャルロットがIS学園に行ってないって事は原作開始前だと思うが、その段階ならトライアル中のはず。にも関わらず引っ張りだしてIS戦力を揃えただと? 最新技術の塊である第三世代機を合同軍事演習の場で晒しただと?

 内心で流れる冷や汗。

 これは・・・・・想像以上にマズイ事になっている気がする。

 楽観的に見るのは簡単だが、自分の命がかかっている以上そんな事は出来ない。

 

「ところで今回随分急な話だったみたいだけど、色々と大変じゃなかった?」

「本当、大変だったよ。軍事演習自体は元々予定されていたみたいだけど、どういう訳か最高司令部が計画を前倒しするって言い出したみたいで。本当、何を考えてるんだろうね?」

 

 これは・・・・・絶対ヤバイ。最高司令部が動いているってどういう事だよ。

 あの戦闘は、そんなに軍を刺激してしまったか?

 

「お、お偉いさんってのは何時でも気まぐれだからな。ところで、合同演習って何機くらい出てたんだ?」

 

 内心の動揺を表に出さないよう答えながら会話を続ける。

 今は、少しでも情報が欲しい。

 

「ん~、1、2・・・・・確認できただけで11機かな。フランス、ドイツ、イギリスの正規軍から2機ずつに、企業傘下の機体が3機。それに空母とその護衛艦を含む通常戦力」

 

 まて、ちょっと待て。何だその大戦力での演習は!?

 確か原作じゃドイツ国内のIS総数は10機だから、単純計算すれば、一国のほぼ総戦力に匹敵する戦力が演習に投入されている事になる。それに空母とその護衛艦を含む通常戦力も投入しているだと? 単純な打撃力だけで見ればIS部隊に及ばないそれらが投入された理由・・・・・IS部隊では出来ない事・・・・・対電子戦や索敵能力か?

 

「は、はは。それはまた何とも豪勢な演習だな。でもそこまでしたって事は、大規模戦闘を念頭においた演習だろう? 欧州ってそんなに緊迫した情勢じゃなかったと思うが?」

「うん。でもね、つい先日フランス・イギリス・ドイツのIS部隊にスクランブルがかかっていたって話を聞いたから、多分それと無関係じゃないと思うんだ」

「まぁ・・・・・無関係じゃないだろうな」

 

 しばしの沈黙。

 そして彼女が口を開く。

 

「その傷って、IS戦闘で負ったんだよね?」

「そうだ」

「戦ったのって何処だったの?」

「戦闘情報に関する事は喋れない」

「なら、これは僕の独り言。――――――詳しい事は分からないけど、つい先日、北海で所属不明の未確認機が、恐らくISと思われるものの戦闘が確認されているんだ」

「それで?」

 

 何が目的だろうか?

 言葉少なく先を促す。

 

「でもその日各国の、少なくとも欧州で出撃したISは無かった。どこかの国が嘘をついている可能性もあるけど、IS部隊の動向は各国目を光らせているから、嘘ならすぐに分かると思う」

「まぁ、当然だな。相手のだした情報を鵜呑みに出来るなら、諜報機関なんていらないしな」

「うん。そして君も知っていると思うけど、ISコアの総数は決まっている」

 

 俺が沈黙を守っていると、彼女は話を続けた。

 

「だから、仮にその戦闘でISが撃墜されたとするなら、数が合わなくなる。それが軍部を焦らせた。製造出来ないはずのISコアの製造に成功した組織があると。そして、それはそのまま軍事バランスの崩壊を意味するから。今回の演習は、その組織に対する牽制と、焦りの裏返し」

 

 ここで俺は言葉を挟んだ。

 

「悪くない考えだが、そう考えた理由は?」

「君が、それを聞くかな? 傷だらけの姿で現れた、表に出ていない男のIS操縦者。姿は見ていないけど、“NEXT”と名付けられた新型。そして今回の演習。考えられる要素は幾つもあるよ」

「・・・・・仮に、それが事実だとしてどうするつもりだ?」

 

 この時、俺は最悪の選択肢をも行動予定に含めていた。

 

「何もしないよ。初めに言った通り、困っている人を助けるのに理由なんていらないじゃないか」

「理由になってないだろう!? 俺の存在が、君に迷惑をかけるかもしれないんだぞ!!」

 

 思わず声を荒げてしまう。

 が、彼女は何でもないことのように切り返してきた。

 

「自分の事しか考えられない酷い人は、そんな風に他人を気遣ったりしないよ」

「馬鹿だよ・・・・君は」

「命の恩人に対して、酷い言い方だなぁ。じゃぁ、悪い男に騙された馬鹿な女からの贈り物。何時までもISスーツしか着る物が無いのは困るでしょ」

 

 そう言って彼女は持っていた紙袋を差し出してきた。

 受け取って中身を見れば、下着と黒いGパンとジャケットに白いTシャツ。至って普通のカジュアルな服装。

 

「・・・・・すまないな。何から何まで。世話になりっぱなしだ」

「僕がやりたくてやっているんだから良いんだよ」

「それでもだよ。―――隣の部屋を使わせてもらっても良いかな? 折角買ってきてくれたんだ。着替えたい」

 

 シャルロットが快くOKを出してくれたので、早速隣の部屋で着替える。

 が、その前にナノセコンドだけ、ほんの一瞬だけネクストISのセンサーを起動。

 盗聴器の類をチェックしておく。

 彼女を信用していない訳じゃないが、自分の身を守れるのは、結局のところ自分しかいない。

 こういう事で手を抜いて、良い事なんて何一つ無いからな。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 隣の部屋で着替える彼を待っている間、シャルロットは「これで良かったのだろうか?」と自問していた。

 話している最中は全く迷っているそぶりを見せなかったが、それほど迷いが無かった訳じゃない。

 むしろ大いに迷っていた。

 状況を見れば、彼が未確認ISの操縦者である事は間違いないだろう。

 世間一般で言う“正しい判断”をするなら、すぐにしかるべき場所に連絡を取るのが正解だ。

 だけど、それをするのはどうしても躊躇われた。

 何故だろうか?

 しばらく考えてみて思う。

 恐らく、自分と同じように道具として扱われる人間を増やしたく無かったんだろう。

 何せ彼は、世界で2人目の男のIS操縦者。

 いや、実戦経験や新型を持っているのを考えれば、極東に出現した特異体よりも欲しいと思う組織は幾らでもあるだろう。

 自国フランスだって例外じゃない。

 むしろ、IS開発で隣国に遅れをとっている分、新型機は喉から手が出るほど欲しいはずだ。どんな手段を使ってでも。

 その時、大多数の利益の為に彼の意志は欠片も考慮されず、ただの道具として扱われる。

 それが嫌だったんだと、シャルロットは思った。

 自分の行動で、他者の人生を決定的に捻じ曲げる事に、“自分と同じ、道具のような人生”を与えてしまう事が耐えられなかったんだと、今更ながらに理解していた。

 つまり彼が心配なのではなくて、自分の身が可愛かっただけ。

 

「・・・・・最低だな僕は。父の事を言えないじゃないか」

 

 誰にも聞こえない程の小さな呟きが漏れる。

 丁度その時、

 

「待たせた。おかしいところは無いかな?」

 

 隣の部屋で着替えていたショウが出てきた。

 

「え? あ、うん。とても似合ってるよ」

 

 不意をつかれた問いかけだったが、答えは本心からだった。

 長過ぎず短過ぎない、クセの無いサラサラの黒髪。切れ長な黒い瞳。整った容姿。

 そして黒を基本とした服装は、自分でコーディネイトしたとは言え、ファッション雑誌の男性モデルのようだった。

 

「そうか? あんまり服装に拘ったことってなくてな。でも動きやすくて良いな」

 

 彼は腕や肩を動かしながらそんな事を言う。

 

「服を選ぶ基準は動きやすさなの?」

「勿論。ゴチャゴチャアクセサリーをつけるのは好きじゃない。大体、面倒臭くないか?」

「ゴチャゴチャアクセサリーを付けるのが好きじゃないってところは僕も同じだけど、面倒臭いっていうのは頂けないな。君は元が良いんだから、もう少しオシャレにも気を使おうよ」

 

 すると彼は、

 

「あ~~、面倒だな。正装でも無いのに鏡の前に立って、延々と髪とか服装のチェックかい? 考えただけでも気が滅入るな」

「何もそこまでしようだなんて言ってないよ。ただちょっとだけ、自分を良く見せる努力をしようっていう話。人間、初対面の印象は大事だよ」

「まぁ、確かにその通りなんだが」

 

 彼は心底面倒臭そうにそんな事を言う。

 あれ? 普通の男の子って、自分を格好良く見せたいって思うものじゃないのかな?

 同年代に見えるのに、同年代とは違う感じ。

 実戦経験のせい? ううん。多分違う。性格? これも違う気がする。じゃぁ何だろう?

 違和感が気になって、彼をじっと見つめる。

 

「な、なぁ、そんなにじっと見られると対応に困るんだが・・・・・」

 

 彼が微妙に視線を逸らし、赤面しながらそんな事を言う。

 

「え? あ、ああ。うん。ごめんなさい。他にはどんな服が似合いそうかなぁって考えちゃって」

 

 とっさに出た嘘。

 でも少しだけ本当の事。

 

「そんな。これ以上買ってもらうなんて悪いよ」

「誰も買ってあげるなんて言ってないよ。頭の中で色々な服を着せ替えてみただけ」

「ちなみにどんな服を?」

 

 私はちょっとだけ考えるそぶりを見せてから、目の前にウィンドウを表示。ファッション雑誌のデータをコール。

 まず呼び出したのは――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 彼女と話す時間はあっという間だった。

 気付けば、夕食の時間はとうに過ぎ去り、2人して腹の虫が鳴ってようやく時間に気付く始末。

 

「ちょっと待っててね。今はご飯を作るから」

 

 そう言って彼女ははにかみながらエプロンをつけ、キッチンに入って行く。

 時計を見れば、丁度21時。

 

「何か手伝うことないかな? 流石に作ってもらってばかりは悪い」

「じゃぁお皿出してもらっていい? そこと、そこのお皿。出したら皮剥き。料理は出来なくても、それくらいは出来るでしょ?」

「まぁ、そのくらいならな」

 

 言われるままに食器棚から皿を出し、ジャガイモの皮を剥いていく。

 昨日は上手く動かなかった指を使って。

 

「手、動くようになったんだね」

 

 隣に立つシャルロットがそんな事を言う。

 

「ああ。ゆっくり休ませてもらったおかげで、身体の調子も随分良くなった。君には、幾ら感謝しても足りないくらいだ」

「そんな事ないよ」

「そんな事あるさ。君が誰も呼ばないでいてくれたおかげで、そして手当てしてくれたおかげで、こうして生きていられる」

「・・・・・1つ、聞いても良いかな?」

「答えられる事なら」

「大丈夫。秘密な事は聞かないから。―――聞きたいのは、どうしてあんなになるまで戦えたの? 痛かったでしょ? 怖かったでしょ? なのに何で戦えたの? 絶対防御のあるISであそこまでなるなんて、普通じゃない。普通はあんなになるまで戦えないよ」

「そうだな・・・・・」

 

 数瞬思案する。

 話して、理解してくれるだろうか?

 別に大した理由じゃないんだ。

 どこぞのテンプレの主人公のように、過去に重たい話がある訳じゃない。

 ただ裏切った時に、失敗した時に帰る場所が無かっただけ。

 後は、

 

「世の中ね。大体の物は金で買える。でもね、信用や信頼の類は金じゃ買えないんだ。そして暴力を扱う者にとって、それらを失う事は、時として自分の命に関わる。だから命懸けで果たした。それが理由の1つ」

「1つ?」

 

 シャルロットは手を動かしながら聞き返してくる。

 

「そう。1つ。もう1つは馬鹿げた理由さ。後悔したくなかった。それだけさ。あの時、明らかに数的不利な状況で、負けも死もすぐそこにあった。降伏して命乞いをすれば助けてくれるかな? そんな考えもよぎった。でもしなかったのは、多分やったら絶対に後悔すると思ったから。怖くても無様でも虚勢を張り続けた。それだけだよ」

 

 返ってこない言葉。沈黙の時間。

 幻滅されただろうか?

 

「・・・・・やっぱり、思った通り」

「何がだ?」

 

 彼女は包丁を動かしていた手を止めて、こちらを見上げながら答えた。

 

「君は良い人だよ。悪人は自分をそんな風には言わない。自分を良く大きく見せようとする。でも君は違った」

「そんな事は無い」

「ううん。コレばっかりは違うって断言してあげる」

「君に断言されてもな」

「僕の父がデュノア社の社長なのは知っているよね。その関係でね、人を見る目には少し自信があるんだ。だからもう一回言うよ。コレばっかりは違うって断言してあげる」

「よく言う。まだ女の色気も無い歳のクセに。でもまぁ、そう言われて悪い気はしない。ありがとう」

 

 俺の言葉に、皮の剥かれたジャガイモを手元の包丁でリズミカルに切り始めていた彼女は、

 

「お礼を言われて悪い気はしないね。もっと言おうか? そして訂正してよ。女の色気も無いだなんて。コレでも、それなりに出るところは出てるんだよ」

「止めてくれ。言葉の価値というか重みが無くなる。そして訂正はしない。俺はもうちょっとメリハリがついている方が好みだ」

「恩人に対して酷い言い草だね。もうちょっと女性を持ち上げる事を覚えるべきだよ」

 

 そんな話をしながら作られていく食事。

 料理人が良いせいか、美味しそうな匂いが漂う。

 いや、事実美味しいのだろう。

 だがそれが味わえるのも、そして楽しい会話も、これが最後だった。

 無機質なメッセージが脳内を流れていく。

 

 ―――AMSダメージリポート

    →神経組織の再生完了。

    →戦闘行動に問題無し。

    

 ―――ネクストISダメージリポート

    →全パーツ再生完了。

    →戦闘行動に問題無し。

 

 此処に、これ以上いる理由はもう無い。

 長居は必ず迷惑をかけてしまうだろう。

 だからこれが最後。

 最後の食卓を楽しんで、楽しませて、助けてくれた礼を言って、そして出て行こう。

 そんな事を思いながら、俺は最後のひと時を過ごしていった。

 

 

 

 第7話に続く

 

 

 

 



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第07話 帰還。そして再び戦場へ

 

「やーやーやーやー、久しぶり。随分ボロボロになってたみたいだけど、大丈夫だった?」

 

 数日ぶりに秘密基地に戻った俺を出迎えたのは、束博士のそんな言葉だった。

 戦闘に入った後はコアネットワークを再接続していたから、そこから情報を拾っていたんだろう。

 

「確かに少々マズイ状況にはなっていたが、問題無い。仕事があるなら、すぐにでも出られるぞ」

 

 ISに解除コマンド。

 全身を覆っていた装甲が量子の光となり、直後には何も無かったかのように消えうせる。

 着込んでいたISスーツも、シャルロットが買ってくれた黒いGパンにジャケット。そして白いTシャツというシンプルな服装へと変わっていた。

 

「おや、服装が変わっているね? 何処で手にいれたのかな?」

「ん? ああ、コレか? ISの自己再生が終了するまで、とある民家に匿ってもらっていてな。そこの家主にもらったんだよ。心配しなくても盗聴器や発信機の類はチェックしてあるから大丈夫だ」

「ふぅ~ん」

「何だよ」

「いや、出撃前に比べて随分良い顔をしているから、何か“良い事”でもあったのかなぁ~ってさ」

「何も無いよ。――――――ところで早速で悪いんだが、追加装備は出来ているのかな?」

「勿論。君の世界の装備はインスピレーションを刺激される物が多いね。中でもこの、アクアビットとトーラスは別格だ。設計図を見ただけで分かるよ。間違い無く私と同類の人間だよ。コレを作った人達は。果て無き愛情と執念が感じられるね。会ってみたいな。話してみたいな。そしたらもっと良い考えが浮かぶかもしれない」

 

 ちょっと待て。よりによって魅力を感じたのがソコか?

 変態企業の代名詞じゃないか。

 まぁ、あからさまに否定するのもアレなので、適当に話しを合わせておく。

 

「ああ、そこの企業は技術力だけなら随一。最先端を突き進む(突き進み過ぎる)ところだから、話も合っただろうな」

「そうだよね。でも他の企業も捨て難いな。汎用性の高い、秀才君的な設計のローゼンタール。真っ当な天才君みたいなオーメル。あくまで実戦重視のアルゼブラ。神経質なまでに精密さを求めるBFF。ロマンたっぷりの有澤。レーザー分野に強くて曲線ラインが綺麗なインテリオル。ミリタリーチックで頑丈でダンボールなGA。色々な方向性があって面白いね。それに比べて今のIS企業ときたら、何処も彼処も同じような考えに設計。全然、全くつまらないんだよね」

「そう言うな。向こうは年がら年中経済戦争でドンパチしているんだ。他と同じような事をやってちゃ売り上げが伸びない。必然的に色々な方向に得意分野が伸びていったんだよ。――――――で、話が逸れたな。武器は?」

「出来ているのはER-R500(レーザーライフル)EB-R500(レーザーブレード)SULTAN(プラズマキャノン)063ANEM(ECM)の4つ。この内、EB-R500はシールド、ER-R500は実体剣としても使えるようにしておいたから、使い易くなっているはずだよ」

「流石天才。助かるよ」

「というよりあそこまで作り込んでおいて、何でその機能を付けなかったのかが不思議。弄った箇所って、レーザー発振システムと銃身制御プログラムだけだよ」

「後からアップデートする気だったんじゃないか? 器だけ作って、後から機能を付け足すなんて軍事企業に限らずどこでもやってるだろ?」

「ハード的には弄っていないし、プログラム変更だけで出来たって事は多分そうなんだろうね」

 

 まさかゲームシステム上出来なかったとは言えないよなぁ・・・・・。

 内心でそんな事を思っていると、

 

「後、本当に早速で悪いんだけど、仕事を頼みたいんだ」

「ん?」

「そんなに難しい話じゃないよ。とある施設に侵入し、中枢システムにアクセスして欲しいんだ」

「それは構わないが、侵入してアクセスって事はハック不可能な独立型か?」

「ううん。回線自体は繋がっているみたいだけど、どうにもシステム構成自体がトラップっぽくてね。時間をかければ幾らでも攻略できるんだけど、そんなものに時間を掛けたくないんだ。だから君に侵入してもらってIS経由で、コアネットワークを使って直接アクセスする。そうすれば、相手がどんなシステムを構築していようが、破るファイアウォールはその中枢システムのだけで良いからね」

「分かった。詳しい話を聞かせてくれ」

 

 そう言って束博士共々別の部屋、壁一面を巨大モニターが専有する部屋に移ると、彼女が口を開いた。

 

「今回君に侵入してもらいたいのは、表向き南極観測基地として使われている施設。場所は――――――」

 

 壁面モニターにスイッチが入り、コジマエネルギースフィアのような、巨大で丸い外見をした基地情報が表示される。

 公式発表されている自家発電能力と実際の消費電力。基地の人員数と、補充物資として補給された食事量。恐らく疑いを持って見なければ疑われないような誤差の数々。

 

「・・・・・へぇ。手の込んだ事をする」

「ん? 何か分かったのなら言ってみて良いよ」

 

 思わずもらした俺の呟きに、博士は説明を止め先を促してきた。

 

「いや、大した事じゃない。必要物資の量を少しずつ水増しして、“存在しないはずのものを動かす”なんてのは使い古された常套手段だけど、初めから疑っていないと発見が難しいし、それをやるにはある程度の組織力が・・・・・って、こんなのは言うまでも無いか」

「他に分かった事はある?」

 

 出来の良い生徒をみるような視線で問いかけてくる博士。

 

「・・・・・余り考えたくないが、南極なんていう開発に不便な場所に施設を作ったからには、それ相応の自衛手段を用意しているはずだ。そっちの情報は何かないか?」

「あるよ。無人ISっていう不細工なシロモノが。でも君の敵じゃないと思うな。君が持っていたメモリーにあったけど、無人ネクスト002-Bに比べれば、ソフトもハードも完成度がまるで違う。それに勝った君なら、楽勝でしょう?」

 

 俺の問いに博士は答えながら画面を切り替える。

 表示されたのは原作知識にある、IS学園を襲撃した無人IS。

 凹凸の無い黒いボディとフルフェイス。極太で長い手足。間違い無い。

 

「装備と配備数は?」

「射撃は腕部装備のビームキャノン。格闘は物理打撃のみ。でも無人機だけあって対電子戦能力は高めだね。後、確認できたのは1機だけど、多分もう1、2機くらいはあるんじゃないかな?」

 

 博士の説明。そしてモニターに表示されたその他各種データを見て俺は考える。

 侵入目標が見晴らしの良い雪原にあるという事を考えると、例え063ANEM(ECM)を使っても、天候次第では近付く前に発見されてしまうだろう。

 あの装備は電子的な目は潰せるが、光学観測を潰せる訳じゃないからな。

 ならどうするべきだろうか?

 簡単だ。作らせればいい。幸い、目の前に天才がいる事だしな。

 

「作戦の為に2つ装備を作って欲しい。――――――1つは、中枢システムにアクセスする為の端末。これはアクセス中、俺が動けなくなるのを防ぐ為に、端末への設置型にして欲しい。もう1つは光学迷彩。例え063ANEMを使っても、目視されたら意味がないからな。形状は、出来ればハードポイントを潰さないようにローブみたいにして欲しい」

「うん。どっちも簡単に出来るから良いよ。そうだね。5時間もあれば出来るかな? 出来たらすぐに出てもらうから、それまでは休んでて」

「了解した」

 

 そう言って部屋を出て行こうとした俺だが、背後から声がかかった。

 

「ああそうだ。その前に、この前の戦闘データを取らせてくれる? 新しいシステムがどういう風に動いているのか気になるからね」

「分かった」

 

 博士の持って来た携帯端末から伸びる直接結線用のケーブルを、左腕にある腕輪(=待機状態のネクストIS)に接続し、脳内でデータ転送をコマンド。

 コンマ1秒以下の時間で転送が完了する。

 

「きたきた。じゃぁもう行っていいよ」

 

 ヒラヒラと手を振る博士を背後に、俺は今度こそ部屋を出て行く。

 そしてこの時は思いもしなかった。

 このミッションが、俺と束博士が表に出る切っ掛けになろうとは・・・・・。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「――――――どうやら餌に食いついたようだな」

 

 とある秘密基地のオペレータールーム。

 そこの統括オペレーターが傍らに立つ部下に声をかけた。

 眼下に見下ろす階段状の席では、電子戦における最精鋭の部下達が、電子の海から様々な情報を拾い上げている姿が見える。

 

「はい。こちらが残していたVTシステムに関する情報にアクセスした痕跡がありました。――――――しかし、知ってはいましたが、束博士は化け物ですな。あの情報、ウィザード級ハッカーですらそう簡単にアクセス出来るようなものでは無いのに」

「悔しいが、あれは真性の天才だよ。だがそれだけのものを破って掴んだ情報が事実なら、必ず次の手を打ってくる」

「そこを逆手に取るという作戦は理解していますが、大丈夫でしょうか?」

「その為の南極基地だ。あそこの強固さは知っているだろう?」

「3台のスーパーコンピューターによる相互監視システム。そして外部への通信は、必ず組織が保有する通信衛星を介さなければならない。つまりアクセス経路は1つしか存在せず、そのアクセス経路もこちらが用意したもの。“普通なら”まずハックされるような事はないはずです」

「そうだ。あそこを攻略する為には、3台全ての情報を同時に書き換える必要がある。1台でもメガロポリス級の都市(=100万人規模)の情報管理が出来るそれを、3台同時にだ。1台でも残れば、そこから情報が復元されるからな」

「しかし、“情報を持ち帰らせる”という作戦上第一層のファイアウォールを破らせましたが、かかった時間は予想の10分の1以下。更に言えば、もう少し長時間アクセスしていてくれればリアルでの位置を特定出来たのに、その前に引き上げる勘の良さ。こんなものを見れば心配にもなります」

「あの化け物を相手にして心配しない方がおかしいが、心配のし過ぎは判断を誤るぞ。こちらは十分な準備を整えている。直接侵攻でシステムに直接アクセスされない限り、こちらの勝ちは揺るがない。だが、不確定要素が1つあったな。そちらはどうだ?」

「いいえ。有力な情報は何も。ですが性能から見るに、束博士と無関係では無いでしょう。表でも裏でも、あれほどのISが作れるなら、情報が流れないはずがありません」

「だろうな。では直接侵攻の可能性も考慮して、南極基地から人員を全て退避。及び無人ISを全て戦闘状態で立ち上げておけ。――――――ああ、全ての人員とは言っても、こちら側の人間だけだぞ。表の人間まで退避させたら怪しまれるからな」

「了解しました。では、南極基地に残しておくデータはどの程度のレベルにしますか?」

「足がつきそうな決定的なデータに関しては現段階を持って削除。そしてそうだな・・・・・他のデータに関しては、向こうが行動を起こしてから削除だ」

「どのような意図ででしょうか?」

 

 副官は、上官のリスキーな命令が理解出来ず質問を返す。

 束博士が仕掛けてきてからのデータ削除など、下手をすれば削除が完了する前にデータを引き抜かれる可能性があるというのに。

 

「演出だよ。あまりに事前準備を整え過ぎていれば、向こうも疑うだろう。だが、こちらが慌ててデータを消し始めれば、向こうもそうは思わないだろう? 更に言えば、彼女の手腕を持ってすれば、消され始めたデータですら手に入れられるだろう。そうして欲を出せば良い。2分40秒時間を稼げれば、奴が地球上のどこにいようと場所を特定できる。そうすれば、こちらの勝ちだ」

「なるほど。了解しました」

 

 危険な賭けである事に変わりはないが、副官は肯定の意を返した。

 そもそも、あの化け物相手に完全に安全な策などあるはずも無いし、情報流出という点で考えても、こちらの研究データなど、あの天才にとっては道端に落ちている小石と変わらないだろう。

 更に言えば、例え未確認ISの襲撃があったとしても、無人ISが暴れていれば、世間は未確認ISと無人ISをワンセットで見るだろう。

 いや見なくても、そう見えるように情報操作をして、こちらが被害者という事にしてしまえば損害は軽微なもので済む。

 つまり、致命的なものさえ消しておけば後はどうとでもできる。

 こうして万全の準備が整えられていく中、天才らしい鮮やかな先手を示す報告が入ってきた。

 未確認IS、南極基地の至近距離に出現・・・・・と。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ここまで近付けば!!」

 

 3機の無人ISが動き出したのを確認した俺は、ネクストISの上からまとっていた、光学迷彩が施されたローブを脱ぎ捨てオーバードブースター(OB)を起動。

 エネルギーシールドの減衰と引き換えに、瞬く間に超音速領域に突入。南極基地に突撃を開始。

 と同時に、背部装備のSULTAN(プラズマキャノン)をアクティブ。

 

「分かっているとは思うけど、敵機を撃破するよりもまずはアクセス用端末の取り付けを優先して」

「分かってる。戦っている間にデータを消されたりしたら、此処まで来た意味が無いからな」

 

 今回はオペレーターとして参加している束博士の言葉に、俺は頷きながら答える。

 直後、無人ISから放たれたビームが、至近距離に次々と着弾。

 反射的に回避機動をとりそうになるが、恐怖を飲み込み進路を維持する。

 博士が事前に入手したMAPが正しいなら、このまま直進し、そこの壁をぶち抜くのが中枢システムへの最短ルートなのだから。

 無機質なメッセージが脳内を流れる。

 

 ―――侵入ポイントを確認。プラズマキャノンの有効射程内。

 

 思考トリガー。

 の前に、AIが無機質に追加のメッセージを送ってくる。

 

 ―――侵入ポイント周辺に多数の生命反応を確認。

 

「チッ!!」

 

 思わず舌打してしまう。

 幾つかの別ルートを考えるが、いずれも却下。気付かれている以上、時間をかけて良い事なんて何一つ無い。

 なら!!

 プラズマキャノンを折り畳み、右腕装備のEB-R500(レーザーブレード)をアクティブ。

 更にOBカットと同時にバックブースト(BB)で、超音速を一瞬で静止状態へ持っていく。

 眼前には南極基地の外壁。

 レーザーブレードを一閃。

 薙ぎ払われた外壁の向こうには、研究員と思われる数人が、こちらを見て驚いている。

 が、俺は構わず先に進む。

 

「意外と優しいんだね」

 

 束博士から通信が入った。

 

「何がだ?」

「プラズマキャノンを撃っちゃえば、態々止まる必要も無かったんじゃないの?」

「・・・・・アンタは、殺すだけの狂犬が欲しいのか?」

 

 強気の言葉とは裏腹に、内心は冷や汗ものだった。

 プラズマキャノンを撃たなかったのは、純粋に無抵抗の人間を殺るのが怖かったからだ。

 相手がこちらを殺そうとしている時なら、どうとでも折り合いは付けられる。

 だが、無抵抗の人間が相手だと・・・・・。

 これはやっぱり俺が弱いからだろうか?

 一瞬そんな風に悩みそうになるが、今は戦闘中だと精神を切り替える。

 生きて帰れば、存分に悩める。だが死んだらそれまでなんだから。

 

「いいや。そんな狂犬は要らないよ」

「なら、一々口を出すな」

 

 一応、不機嫌そうな演技をしておく。

 戦いは俺の領分だと言わんばかりに。

 これから先、こんな風に口を出されないように。

 どこまで効果があるかは疑わしいが。

 

「結果を出してくれれば、何も言わないよ」

「なら、愚問だな」

 

 そんな話をしている間に、本来存在しないはずの地下施設へ通じるエレベータシャフトに到達。

 レーザーブレードでドアを破壊して飛び込むと、既にエレベーターシャフト内の隔壁が閉じ始めていた。

 

「対応が早いなぁ!!」

 

 姿勢制御。

 ISを地面と水平になるような体勢にし、プラズマキャノンをアクティブ。

 今度は迷わずトリガー。

 放たれた一撃は隔壁を紙のように突き破り侵入口を確保。

 下まで降りたところで、束博士から通信が入った。

 

「無人機が基地内部まで追って来た。急いで!! 道は突き当たりまで進んでT字路になっているところを右。左に進んだら発電機」

「分かった」

 

 ブーストを吹かし、狭く細い通路を突き進むと、視線の先に桁違いに頑丈そうな隔壁が見えてきた。

 

「開けられるか?」

「無理。システム的に独立している」

「了解した」

 

 俺はレーザーブレードをアクティブにて隔壁を円形状にくり抜き、真ん中を蹴り飛ばす。

 開いた穴から部屋に入ると、目の前には、灰色の2m四方ほどの正方形の物体が3つと、それぞれにアクセス用の端末がある。

 中枢システムであろうそれは、稼動している事を示すかのように、所々から淡く青い光を放っていた。

 

「コレか?」

「そうだよ。取り付け急いで、もうすぐそこまで来てる」

「分かった」

 

 ハンガーから束博士お手製の、ノートPC状の携帯端末を取り出し、一番近くにあったアクセス用端末にセット。

 すると両サイドからロボットアームが出てきて、様々なケーブルをアクセス用端末に突き刺し始めた。

 

「オッケー。こっちの準備は整ったよ。後は、ハックが完了するまでシステムを守り抜いて。流石に箱ごと壊されたらどうしようもないからね」

「了解した」

 

 返事と共に俺は背後に向き直り、EB-R500(レーザーブレード)を構え、入ってきた入り口に向かって突撃。

 部屋に侵入しようとしていた無人ISをシールドバッシュで10m程弾き飛ばす。

 相手は即座に体勢を立て直すが、こちらの方が速い。

 左腕装備のER-R500(レーザーライフル)を撃ちつつ再度接近。

 今度はレーザーブレードを展開し一閃。

 エネルギーシールドごと本体を、人間で言えば腹部にあたる辺りを大きく切り裂く。

 が、止めには至らない。

 

「チッ」

 

 俺は舌打し、前蹴りで強引に距離を空けさせレーザーライフルで追撃。

 蹴り飛ばされた衝撃で上半身と下半身が分断された無人ISに、放たれた光弾が次々と命中していく。

 原作では確か、それなりに壊れていても再起動したはず。だから、念入りに壊させてもらう。

 だがそれを阻むように、基地上空に強力なエネルギー反応を感知。

 

「!? そうきたか!!」

 

 敵が機密保持を優先するなら、こういう選択は十分に考えられる。

 俺はQB(クイックブースト)を使い、考えうる限りの速さで中枢システムまで戻り、天井とシステムの間に身体を滑り込ませる。

 と同時にEB-R500を構え、最速の思考でモード変更をAIへコマンド。

 

 ―――EB-R500使用モードをブレードからシールドへ変更。

 

 刹那の間に返ってくる無機質な返答。

 EB-R500から扇状にENが放出され、身の丈よりも遥かに大きなENシールドを形成。

 直後、天井をブチ抜いて中枢システムを狙う光の本流がENシールドに激突。

 膨大なエネルギーのせめぎ合いの中、思わず悪態をつく。

 

「やっぱりな。物理的にデータを消しにきやがった。博士、完了までの時間は?」

「後90秒。それだけ守って」

「分かった」

 

 光の本流が途切れると同時に俺は、穿たれた穴から外へ。

 こうして作戦は次の段階を迎える。

 それが、相手の仕組んだトラップとも知らずに。

 

 

 

 第8話に続く。

 

 

 



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第08話 トラップ!!

 

 とある秘密基地のオペレータールーム。

 そこでは南極基地にハックを仕掛けてきた束博士に対して、必死の防衛戦が行われていた。

 

「侵食率20% 速すぎます!! 第一防壁。一、二、三号機全て解体されました。第一層データ領域の削除間に合いません!!」

「第一層は現時点を持って破棄。第一層オペレーターは第二防壁の強化に入れ」

 

 統括オペレーターが手早く指示を出していくが、十分に冷房の効いた部屋であるにも関わらず額に浮かぶ汗が、相手の強さを表していた。

 

「当たって欲しくない予想ほど良く当たる。まさか本当に直接乗り込んでくるとはな」

 

 まだハックを仕掛けられてから20秒程しか経っていない。

 なのに全五層の防壁のうち、第一層が博士の手に落ちている。

 知ってはいたが、恐るべき手腕だった。

 しかも向こうは、普通ならば必ず使わなければならないはずのトラップだらけのアクセス経路を、ISを経由して直接アクセスすることでパスしている。

 これでは元々用意していた作戦が使えない。

 だが、統括オペレーターは“IS経由の直接アクセス”というところに勝機を見出していた。

 

「おい。先程撃破された無人IS 1号機、アレはまだ動くか?」

「胴体と右腕しか残っていませんが、辛うじて動きます」

「なら這いつくばってでもいい、さっき奴が設置した端末の元まで行かせろ。――――――既存のシステムを使わず、IS経由で直接アクセスしているというなら、使っているのは恐らくコアネットワーク。システム的には未確認ISが中継器の役割をして、先程設置した端末を使ってのアクセスだろう。なら設置した端末には、送信先の情報が、すなわち束博士の位置情報があるはず。勿論無い可能性もあるが、反撃の切っ掛けくらいは掴めるはずだ」

「了解しました。すぐに」

 

 副官が端末にコマンドを打ち込むと、遠く離れた南極基地で腕と胴体だけになった無人ISがゆっくりと這いずりながら端末に近付いていく。

 そして、その上空では未確認ISと無人IS 2機が戦闘を繰り広げていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「クソッ!! やりずらい!!」

 

 俺は悪態をつくが、敵機の動きは変わらない。

 片方を撃墜しようとすれば、残った1機が即座にシステムを狙う。

 こちらの目的がハックである以上、システムを守らざるえない。

 敵は無人機だが、背後には明らかに人の意志が見える狡猾な動きだった。

 更に言えば、今こちらには遠距離用装備が無い。

 “ラピッド・スイッチ”を使って装備変更をしようとそれは変わらない。

 レーザーライフル、ハイレーザーキャノン、プラズマキャノン、アサルトライフル。

 いずれも近~中距離用装備だ。遠距離戦に徹されると打つ手が無い。

 生きて帰れたら、次は必ずスナイパー装備とミサイラー装備を作ってもらおう。

 そう考えるが、それも無事に帰れたらの話。

 今は!!

 QB(クイックブースト)で放たれた砲撃を回避。レーザーライフルで反撃するが、距離が離れすぎていて容易く回避される。

 どうする? このままじゃジリ貧だ。

 考えろ。どうすれば懐まで入れる?

 ネクストの機動力ならほんの数秒で事足りる。

 その数秒をどうすれば作り出せる?

 今の俺の装備は、

 

 ―――ASSEMBLE

    →HEAD:063AN02

    →CORE:EKHAZAR-CORE

    →ARMS:AM-LANCEL

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS

    

    →R ARM UNIT  :EB-R500(レーザーブレード)

    →L ARM UNIT  :ER-R500(レーザーライフル)

    →R BACK UNIT  :RDF-O700(レーダー)

    →L BACK UNIT  :SULTAN(プラズマキャノン)

    →SHOULDER UNIT :063ANEM(ECM)

    →R HANGER UNIT :-

    →L HANGER UNIT :-

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01

 

 この装備で、どうすれば切り抜けられる?

 思考の最中、閃き。

 ここは南極。下は当然雪原。つまりは水分の塊。

 迷っている時間は無い。

 プラズマキャノンをアクティブにし、地面に向けてブーストダイブ。

 敵が無人機だっていうなら!! コレでどうだ。

 十分に地面に近付いたところでプラズマキャノン発射。

 超高温の弾体が雪原と接触した瞬間、水蒸気爆発で光学カメラがブラックアウト。

 だがそれは敵も同じはず。そして着地と同時に063ANEMを起動。

 プラズマキャノンで発生したECMと合わせて、光学観測及びレーダーから完全に姿を消す。

 ここでOB(オーバードブースト)起動。

 かん高い起動音も、起動の初期モーションも、爆発に紛れて敵からは見えない。

 爆発に紛れ、刹那の間に時速3000kmに迫る超加速。

 音を遥か彼方置き去りにして無人ISに迫る。

 反応すら許さずブレード一閃。エネルギーシールドと共に本体をも切り裂くが、両断するには至らない。

 が、折込済みだ。

 左腕装備のER-R500(レーザーライフル)の銃身を剣としてボディに突き刺す。

 そのまま、QB(クイックブースト)で高速旋回。

 遠心力で引き裂きながら、残った1機に向き直り、勢いのままに突撃。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「・・・・・ここまでだな」

 

 とある秘密基地にいる統括オペレーターは、南極基地上空で無人ISが撃墜されたのを見て、そんな言葉を漏らした。

 傍らに立つ副官が答える。

 

「では、次の段階に?」

「ああ。もう十分だ」

「了解しました。――――――丁度、無人ISが端末に取り付いたようです」

 

 統括オペレーターが、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「束博士本人のところならまだしも、端末の防壁如きでこちらのハックを止められると思うなよ。ここのシステムは?」

「リソースの58%を確保しています。理論上、南極基地のシステムと同等の処理速度です」

「気取られる前に終わらせるぞ。確保した全リソースを投入して端末の防壁を解体。第一班もこの作業にかかれ」

「了解しました。――――――総員聞いたな。ここが正念場だ。かかれ!!」

 

 階段状になっているオペレータールームに副官の声が響く。

 そして始まるのは、結果が見えている勝負。

 束博士は天才であり、真っ当な勝負どころか、相当のハンデをつけてもこちらの負けは覆せない。

 それは、悔しいがこの場にいる者全ての共通認識だった。

 だが、今回に限りそれが覆る。

 何故なら、使っているハードウェアに直接細工を出来るという反則が使えるのだから。

 更に言えば、端末に取り付いた無人ISは、無人機という特性上、対電子戦用装備が充実している。

 機能の大半を喪失しているとは言え、それのら装備はまだ、機能を失っていなかった。

 束博士お手製とは言え、ただの端末如きに防げるようなものでは無い。

 そして放たれる起死回生の一手。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「え? まさか!?」

 

 束博士が気付いた時は、全てが手遅れだった。

 自分が今使っているシステムが、直接ハックされている!?

 つまりそれは、居場所が特定されたという事に他ならない。

 

「うそ、ウソ、嘘!? どうやって? コアネットワークを使ってハックしてるんだよ? ISじゃなきゃ使えないネットワークに繋いでるココをハックするなんて、どうやって?」

 

 しかしすぐに気付く。

 今回のハックの弱点を。

 

「まさか、端末から情報を引き抜いて場所を特定したの! どうやって? 人の手で直接? いや、そんな人の手でどうこう出来るような柔い作りにはしなかった。――――――まさか、まさかまさかあの無人機。あれだけやられても機能停止していなかった?」

 

 即座に正解まで辿り着いたのは天才故か。

 だが分かったところで、居場所を知られたという事実が覆る訳ではない。

 ここから先は時間との勝負だった。

 よって、手製のアタックプログラムの中でも、相当に凶悪なものを幾つか起動。

 一瞬で端末の制御権を奪い返し、完全攻略間近だった南極基地の中枢システム、その基幹プログラムに自己増殖型ウィルスを送り込んで暫く使い物にならなくした後、端末に自壊命令を送り今後利用されないようにしておく。

 直後、アジトを守る広域センサー群から、敵が先手を打っていたのを示すような情報が送られてきた。

 

「軍隊? そういえばどこかの国が大規模演習をしてるって話が・・・・・」

 

 船体を確認すれば、フランス・イギリス・ドイツのものだと分かる。

 しかも一隻や二隻じゃない。

 空母を中心とした大規模艦艇群。幾つかの艦には、展開済みのIS反応もある。その数11機。

 冗談抜きで一国の総戦力に匹敵する戦力がこのアジトを、北海にある他に誰も住んでいないこの無人島を、包囲しようと展開を始めていた。

 

「まさか。私をダシにして軍隊を動かしたの?」

 

 その通りであった。

 各国の思惑がどうであれ、一致していたのは、身柄を確保してしまえば後はどうとでも出来るという事。

 そんな決断をさせるほどに、ISという分野において束博士は最先端を突き進んでいた。

 

「どうしよう・・・・・」

 

 親友である織斑千冬ですら滅多に見た事が無いような、困った表情。

 だが、浮かぶ表情は絶望のソレでは無い。

 

「やろうと思えば抜け出せるけど・・・・・」

 

 こうして考えている間にも、包囲網は狭まっていくが、考えるのは別の事だった。

 アレを使うか否か。

 天才科学者の常として、“こんな事もあろうかと”切り札は用意してある。

 異世界の傭兵。最後のORCA。あの青年が、正確に言えば持っていたメモリーに記録されていたネクスト技術と、各種AF(アームズフォート)の情報。

 特に、“最新にして最強の魔剣”AFアンサラーとネクスト技術が応用されたアレを使えば、あの程度の数を蹴散らすのに数秒とかからないだろう。

 しかし、一度使ってしまえば世界の知るところになる。

 そしてアレを万人が見たとき、下手をすれば、いや下手をしなくても世界の敵と言われかねない。

 当たり前だ。

 比喩でなく冗談でなく、一国の総戦力を数秒で殲滅出来るような兵器を個人が持つなど世界が許すはずがない。

 そして何より親友に迷惑がかかる。

 それは望むところじゃない。だから考える。この場面を切り抜ける方法を。

 得意のハッキングは・・・・・ダメ。

 こちらに向かってくる以上、それなりの対応策を用意しているだろう。

 特に、稼働中のISに対してハッキングなんて不可能だ。

 自身がそう作ったのだから、確実に不可能だと言える。

 

「・・・・・・・・・・」

 

 手札が無かった。

 使うしか無いのだろうか?

 そんな考えが脳裏をよぎり、どんどんと大きくなっていく。

 が、ふとあの青年の事を思い出す。

 傭兵なんて信用できる人種じゃないが・・・・・ダメで元々。

 話をしてみる位はしても良いだろう。

 99%、何かしら理由をつけて見捨ててくるだろうと思いながら、通信を繋いだ。

 

「どうした?」

 

 こちらが何かを言う前に、通信を繋いだ事自体が意外という表情と言葉が返ってきた。

 

「勿論。用があるから呼んだんだよ。実はちょっとマズイ事になっててね」

「貴女がマズイという位だ。相当マズイんだろうな」

「うん実は――――――」

 

 そうして切り札以外の事は、現状を包み隠さず話している間、彼は黙って聞いていた。

 そして聞き終わった後に一言。

 

「つまり、助けに行けばいいんだな?」

 

 と事も無げに言い放った。

 

「ちょっ!? 話を聞いていたの? 5対1で死にかけた人間が、11対1をしようっていうの!! しかも相手は援護を受けられるのに、そっちは一切の援護無しなんだよ。勝率なんて0%じゃないか」

 

 思いもよらぬ返答に慌ててしまう。

 束の頭脳をもってしても、勝てる可能性が見当たらないのに。

 常人がこの戦力差で勝てると思っているのだろうか?

 そんな事を思っていると、予想外の言葉を叩きつけられた。

 ありありと不満を見て取れる表情で。

 

「そっちこそ、俺を舐めているのか? この世界の誰も知らない。でも貴女だけは知っている。リンクスがどういう存在なのか。俺が誰なのか。何をしていたのかを。――――――さぁ、言ってみろ。篠ノ之束。俺が、誰なのかを」

 

 束を背筋を、ゾクリと何かが走り抜ける。

 そうだ。この男は、

 

「最悪の反動勢力ORCA旅団最後の生き残り。宇宙への道を切り開く為、億人の人間を清浄な空から、汚染された大地に引きずりおろした大罪人にして救済者」

「そうだよ。俺はそんなエゴの塊のような人間さ。それに貴女は、この世界で生きる手段を与えてくれた恩人。その人の危機に駆けつけないで、何時その恩を返すと言うんだ? 待っていてくれ。南極からソコまでだとちょっと遠いが、邪魔するものは全て粉砕してでも駆けつける」

 

 本気だ。間違い無く本気で彼はやる気だ。

 故に束は、彼を間に合わせる為に、本来言う気は無かったとある事実を教える事にした。

 

「・・・・・君のISには、1つリミッターがかけられている」

「ん?」

「それを作る時に私が言った言葉を覚えているかい?」

「あ、ああ。確か『君の機体を再現できる』だったな」

「そうだよ。そして、それはもう1つ意味があるんだ。再現しかしていないという意味のね」

「なに?」

「君の元々の愛機に使われていたコジマ技術。その慣性制御能力はISに使われているPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー=慣性制御)に比べて酷く限定的なものなんだよ。まぁ、その限定的な能力で10m級の機体を制御しているんだから、ネクスト技術は凄いんだけど。何が言いたいかと言うと、君のISは、IS本来の慣性制御能力を殆ど使っていない。あくまで、ネクストを再現しているだけなんだ」

「つまり、それは・・・・・」

「PIC制御を、コジマ粒子エミュレートモードからノーマルモードに切り替えれば、機動性が桁違いにあがる。でも注意して、その場合、QBだけで時速3000kmを越えて、OB起動の巡航速度は4000kmオーバー。メインブースターも最大出力にしたら、瞬間最高速5000kmを越える。そして空気抵抗の無い宇宙空間なら28400km、第一宇宙速度を叩き出すモンスターマシンになる。人が操れる次元じゃないよ」

 

 だが彼から返ってきたのは、ニヤリとした笑みと自信に満ちた言葉。

 

「何だ。それならソブレロに追加ブースター装備と同じくらいか。ありがとう。それなら、思っていたよりも早く助けに行けそうだ」

 

 通信が切れると同時に、画面に表示していたMAP上の光点が、凄まじい速度で移動を始める。

 上、つまり空に向かって。

 

「まさか・・・・・」

 

 思わず束は呟く。

 確かに今、『空気抵抗の無い宇宙なら』とは話した。

 だがそれをやれば、嫌でも世界中から注目される。

 傭兵家業を営んできた人間にとって、それは望ましくないはずだ。

 そこまでさせなくても、ここの防衛設備なら十分に時間が稼げる。止めさせるべきだ。

 束の理性はそう判断する。

 しかし感情は、別の判断を下した。

 そこまでして自分を助けに来てくれるというのが、何故だか嬉しかった。

 恩を返す為と本人は言っているが、それでも、その為に文字通り命と人生をかけてくれる人が、世の中にどれだけいるのだろうか?

 そう思うと、思わず目元が緩んでしまう。

 

「・・・・・馬鹿だよ君は。でも、こういう馬鹿は嫌いじゃないよ」

 

 博士の言葉が他に誰も居ない部屋に消え、彼女はハッピーエンドを迎える為の下準備に動き始めた。

 

 

 

 第9話に続く

 

 

 

 



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第09話 NEXT

 

 俺(=薙原晶)は今、南極上空にいた。

 それも眼下に地球を見下ろせる程の高度。つまり宇宙にだ。

 少し、さっきの束博士との会話を思い出す。

 自信満々に助けに行くなんて言ったが、そこに居るのは11機のISと空母を中心とする艦隊。怖く無いはずが無い。

 だけど・・・・・あの一言は本心からだ。

 あの人は、この世界で俺に生きる術をくれた。

 その恩を今返さずに、何時返すと言うんだ。

 だから行く。

 自分でも馬鹿をやってるっていう自覚はあるさ。

 5対1でも死に掛けたのに、11対1に飛び込むなんて自殺行為もいいとこだ。

 だけど、ここまで来て今更止められるか。

 むしろ止めてどうする。

 俺には何も残らない。

 いや、恩人を見捨てたという事実だけが残る。

 そんなのは御免だ。

 なら選ぶ道は1つ。

 助ければ良い。単純明快な理論だ。

 俺の思考を感知したAIが、未知の領域である超速度に突入する前に、自己診断プログラムをロードする。

 

 ―――SYSTEM CHECK START

    →HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    

    →R ARM UNIT  :EB-R500(レーザーブレード) ・・・ ・・・・・・・・OK

    →L ARM UNIT  :ER-R500(レーザーライフル) ・・・・・・・・・・・OK

    →R BACK UNIT  :RDF-O700(レーダー) ・・・・・・・・・・・・・・OK

    →L BACK UNIT  :SULTAN(プラズマキャノン)・・・・・・ ・・・・・・OK

    →SHOULDER UNIT :063ANEM(ECM) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →R HANGER UNIT :-

    →L HANGER UNIT :-

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

 

 ―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR

 

 エネルギーシールドを前方に鋭く長く尖った円錐状に、馬上槍のように形成。万一のデブリとの激突と大気圏への再突入に備える。

 多分、回避なんてとてもじゃないが出来ない。認識した瞬間には恐らく激突しているだろう。

 

「さぁ・・・・・行くぞ」

 

 フルフェイスの下で、チロリと唇を舐めるとAIがカウントスタート。

 

 ―――5、4、3、2、1、MB(メインブースター)点火。

 

 ネクスト技術の産物である超高出力ブースターに光が灯り、ゆっくりとその出力を上げていく。

 待機(アイドリング)から巡航(クルーズ)へ。そして戦闘(コンバット)へと変わり、最大(マックス)出力へ順次シフトアップ。

 視界の片隅に表示される速度計が、現時点で既に、視認出来ない程の速さで上昇していく。

 だが、まだ先がある。

 

 ―――初期加速完了。

 

 ―――OB起動カウントスタート。

 

 ―――5、4、3、2、1、OB(オーバードブースト)起動。

 

 背部装甲版が展開。内側から現れた大口径ブースターに光が灯り、ここにネクスト技術とIS技術の融合した結果が示される。

 速度計の上昇速度が更に跳ね上がり、本来のネクスト強襲用装備であるVOB無しで時速28000kmオーバー。

 既存ISの数世代先を行く超絶の加速性能。

 強化人間の対G能力を持ってしても意識が持っていかれそうになるが、この速度下で意識を失う事の恐怖が、辛うじて意識を繋ぎとめていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 南極上空で彼(=薙原晶)が加速状態に入ったその頃、束博士は相手がどんな名目で艦隊をココに集めたのかを調べていた。

 結果分かったのは、束博士が何者かに軟禁されており、その場所が分かったので救出せよという命令だった。

 正面モニターを見ながら1人呟く。

 

「ふぅ~ん。こんな名目で集めたんだ」

 

 なら、分かり易いストーリーを用意してあげよう。それでこの演目は仕舞い。

 クスリと笑う。

 本当なら白馬の王子様的な役は、大好きな親友にして欲しいところだけど我侭は言えない。

 それにまぁ、彼にならそういう役を割り振ってもいいかなと思う。

 恩返しという理由があるにせよ、私は恩を売ったつもりは毛頭無かったのだけど、命懸けで助けに来てくれるのだ。

 その位の役得があっても良いだろう。

 右側にある別モニターに視線を移せば、MAP上を狂気とも言える恐ろしい速度で進んでいる光点がある。彼のISだ。

 このままなら、到着は1時間後くらいだろう。

 ECMは使っていないみたいだから、地上からは丸見え。

 コレを観測している人達はどんな顔をしているだろうか?

 今頃慌てふためいているだろう。

 左側のモニターに視線を移せば、島の概略図とその周囲に展開している艦隊が、光点として表示されている。

 一際大きい光点が空母。その他の小さいのが護衛艦。

 反応を見れば、ISはまだ出てきていないみたいだ。

 結構結構。そのまま慎重に行動していて欲しいね。

 あまり早く動かれるとやりづらいから。

 そんな事を思いながら席を立った私は、研究用の機材が置いてある部屋を周り、最低限の物を残して量子化。専用の拡張領域に格納していく。

 勿論残す機材のデータは全て削除。いや、当たり障りの無いものを少し残しておこう。

 頑張って解析すれば、“第三世代機が作れそうな程度”のものを。

 データの流出経路や関わった人員を調べれば、何処が奴らと関わっているのか、その手がかり位は掴めるかもしれない。

 後は、

 

「ん?」

 

 別の思考に入り始めたところで、放置していた端末からコール音。

 と同時に眼前に展開されるウィンドウ。

 どうやら動きがあったみたい。

 表示されたMAP上を恐ろしい速度で突き進む光点。彼のISに向かって動く100以上もある小さな光点。

 数からしてISじゃない。高高度迎撃用のパトリオットかな?

 まぁ、当たる訳がないんだけどね。

 作った本人だからこそ分かる絶対の確信。

 既存のISの数世代先を行く、文字通り次世代の名を冠するに相応しい機体。

 それが私の為に態々南極から、世界中にその性能を見せつけながら駆けつけてくれると思うと、自然と笑みがこぼれる。

 こんなに楽しい気持ちは、白騎士の時以来だろうか?

 結果が分かっているものに興味は無い。どうせ全弾振り切られて終わり。

 ウィンドウを消し、片付けながら先の続きを考える。

 軟禁されていたように見せるには、どんな服が良いだろうか?

 汚れた服を着るのはイヤだけど、それなりにヨレヨレの服を着て、それなりの演出をしないとダメダメな舞台になってしまう。

 珍しく長考。

 立てかけてあった鏡で自分を見てみれば、しばらくアイロンもかけていなかったからヨレヨレになっている白衣。その下に来ている空色のワンピースも、着替えもせずにベットで寝たからしわくちゃ。

 結論、このままでいいや。

 再度、端末からのコール音と共に眼前に展開されるウィンドウ。

 今度表示されているのは、島の概略図と周囲に展開している艦隊の光点。

 どうやら、こちらも動いたみたい。

 多分、彼の到着前に私の身柄を押さえる気なのかな?

 私はアジト内各所に設置していた隔壁―――IS学園のアリーナにも使用されている特殊装甲とエネルギーシールドを組み合せた一品―――を閉鎖して侵入に備える。

 

「これを彼の到着までに破れたら、君達の勝ちだよ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 フランス・イギリス・ドイツ合同練習艦隊は、突然の命令に戸惑いながらもその大任を遂行しようとしていた。

 なにせ世界に名だたる束博士の保護だ。

 万一の間違いもあってはいけない。

 だが、そこへ入ってくる敵性存在の報告。

 一番初め、その報告を受けた司令官は己の耳を疑った。

 

「間違いではないのか?」

「はい。再三確認しましたが、間違いありません。南極からISと思われる機体がこちらに向かっています。しかも単独で大気圏を突破。自力で宇宙に出た後、時速28000kmオーバーという信じられない速度で」

「高高度迎撃用パトリオットは?」

「速力だけで振り切られました。後、狙えるとしたら大気圏突入中くらいですが、相手がISだとしたら望み薄ですね」

「・・・・・先日の、北海で観測された未確認ISか、あるいは同型機か」

「例の、核兵器と同等クラスのエネルギー反応を示した奴ですか? あんなものが何機もあるとしたら、我々にとっては悪夢ですよ」

「1機だけでも悪夢だがな。それが敵なら尚更だ。――――――全艦、及び全ISに第一種戦闘配置。使える兵装は全て立ち上げておけ。衛星リンクは確保しているな?」

「勿論です。動きがあれば最優先で分かるようにしてあります」

「よろしい。では作戦開始時刻を繰り上げ、現時刻を持って束博士の救出作戦を開始する。―――いいか。未知の敵が接近中だからと言って焦るなよ。奴が此処に来るまでにはまだ時間がかかる。つまり、物理法則を越えるような化け物じゃないって事だ。総員が、日頃の訓練の成果を存分に発揮してくれる事を期待する。以上、作戦開始!!」

 

 司令官の言葉を受けて、軍という組織が有機的に動き出す。

 そしてその中には、3国合同演習に借り出されていたシャルロット・デュノアの姿もあった。

 

『――――――繰り返す。これは演習では無い。繰り返す。これは演習では無い。総員。第一種戦闘配置。総員。第一種戦闘配置』

 

 ブリーフィングルームに流れるオペレーターの声は演習の時と同じ物。

 しかし含まれる雰囲気は、明らかに演習のソレでは無かった。

 更に、

 

「全員。揃っているな。これよりブリーフィングを開始する」

 

 そんな言葉と共に部屋に入ってきたのは、今回の演習におけるIS部隊の指揮官。

 ドイツ軍最強のIS部隊副隊長。クラリッサ・ハルフォーフ大尉。(隊長はISがオーバーホール中で、今回の演習の参加は見送られたらしかった)

 しかも、いつもの軍服姿じゃない。

 IS操縦用の、灰色のアンダースーツに着替えている。

 つまり、指揮官クラスの参戦がもう予定されているという事。

 出るところが出てて、引っ込むところが引っ込んでいて羨ましいと思ったのは、多分この場にいる全員が思ったと思う。

 

「束博士救出ミッションについては、既に説明しているので割愛する。今回の戦闘配置は、それを邪魔する敵性存在に対するものだ」

 

 この場にいる全員が息を呑んだ。

 今この演習艦隊に配備されているISは全11機。その全てが戦闘配置についたという事は、国家総戦力と同等以上の戦力が戦闘態勢に入ったということ。それほどまでに危険な相手なのだろうか?

 だがそんな疑問は、クラリッサ大尉の次の言葉で吹き飛んだ。

 

「目標を以後α1と呼称するが、南極上空で観測されたα1は、自力で大気圏を突破、その後、時速28000kmオーバーでココを目指している」

 

 ブリーフィングルームの空気が凍りつく。

 何かの冗談だろうか?

 しかしクラリッサ大尉の表情は真剣そのもの。

 

「あ、あの大尉。それは冗談では・・・・・」

 

 別のIS操縦者が信じられないと問い返すが、

 

「生憎冗談でも何でもない。私も冗談ならどれだけ良かったかと思い再三確認をとったが、残念ながら事実だ。更に言えば、高高度迎撃用パトリオットも速力だけで振り切られ、大気圏突入中の迎撃も望み薄との報告が入っている。かなりの高確率で、無傷のままここに到着するだろう。そして司令部はこのα1を、先の北海で観測された未確認ISと同じか、或いはその同型機と判断した。よって今回はISの全ての武器使用制限が解除される。及び本国からの増援も予定されている」

 

 更なる衝撃がブリーフィングルームを襲う。

 ISの全武装使用制限解除という事は、広域破壊兵器の使用も許可されているという事。

 攻撃を当てられないのなら面制圧という考えからだろうが、ISが11機もいてそれほどの対応をしなければならないとは、正直信じられる話じゃない。

 冷や汗が背中を流れる。

 だがそんなシャルロットを、更なる2つの衝撃が襲う。

 1つは、

 

「ん? 追加の情報が入った」

 

 全員の前に立つクラリッサ大尉の眼前にウィンドウが展開され、それにザッと目を通した大尉が再び口を開く。

 

「情報部もたまには良い仕事をする。――――――α1を、以後“NEXT”と再呼称。そして武装データだ。各自確認しておけ」

 

 束博士と、それに敵対する組織が、それぞれの意図を持って流した情報が、IS操縦者全員の前に表示される。

 次世代。それ以外に相応しい言葉が見つからない性能だった。

 只のアサルトライフルですら、第三世代ISの主砲と同等以上の威力。

 レーザーライフルならその3倍以上。

 レーザーブレードに至っては艦船を一撃で両断出来るレベルで、プラズマキャノンやハイレーザーキャノンに至っては、殆ど地上に固定しなければ使えないような大口径砲と同じレベル。それが、あの超高速機動下で放たれる。悪夢以外の何者でも無かった。

 そして2つ目は、

 

(NEXTって・・・・・まさか!?)

 

 つい先日、自宅の近くで助けた、血塗れで倒れていた青年。薙原晶。

 彼のISの名前が、ソレでは無かっただろうか?

 大尉の話に耳を傾けながら、器用に彼との話を思い出す。

 彼は何と言っていた?

 

『――――――“NEXT”。次世代の名を付けられた新型だよ』

『新型? 第三世代機?』

『細かい事は話せないけど、兵器として見るなら武器の後付型。第二世代になるかな?』

『第二世代なのに次世代?』

 

 そうだ。確かこんな話をしていた。

 頭の中で、カチリとピースが嵌る。

 次世代の名を冠するに相応しい圧倒的な性能と、武器の後付型という特性。

 間違いと思う方が難しかった。

 思考が更に進む。

 彼は、何故血塗れで倒れていた?

 

『とある人質の救出ミッション』

 

 そう言っていなかっただろうか?

 救出には成功したと言っていたけど、助けた時の状況を考えれば、再度奪還されたとしてもおかしくない。

 シャルロットの中で仮説が組み立てられていく。

 実際には違うのだが、彼女にそれを確かめる術は無い。

 そして、その仮説がシャルロットに、この場での発言をさせた。

 

「大尉。よろしいでしょうか?」

「何だシャルロット」

「確証がある訳ではありませんが、ある推測。仮説を述べてもよろしいでしょうか?」

 

 ここで、クラリッサがガチガチの軍人だったのなら、発言を許さなかっただろう。

 だが彼女は未知の強大な敵を相手にするのに、そういう(この場限りだが)仲間を萎縮させるような真似はするべきでは無いと考えた。

 発言を許し、ある程度納得させた上で参加させた方が作戦成功率も僅かだが上がるかもしれない。

 そして仮にも専用機保持者。

 この場で士気を落とすような発言もしないだろう。

 故に許した。

 

「ありがとうございます。このNEXTですが、性能的に見て束博士と無関係であるとは思えません。表でも裏でも、これ程の性能のものが作られたなら、必ず噂で流れるはずです。にも関わらずこのISについて、我々は知らなかった。大尉、開示できるレベルで構いません。ドイツ軍はこのISについて、北海での一件以前に情報を掴んでいましたか?」

「いいや。アレ以前に情報は掴んでいない」

 

 即答。

 

「なら、あのISの製造には束博士が関わっていると考えるのが妥当ではないでしょうか? 自力でIS理論を確立して実機を作り、世界中の監視と追っ手を撒いて潜伏を続けられた博士なら、完全な情報封鎖下でも新型を作れるでしょう。ですが、束博士はあくまで個人です」

「何が言いたい?」

 

 この時点でクラリッサは、シャルロットの評価を1段階引き上げていた。

 命令に従うのは兵士として必要な事だが、士官は与えられた情報すらも疑い最善を尽くさねばならない。

 そういう意味では及第点を与えられた。

 

「博士を狙う組織が多いのは皆さんご存知と思います。祖国フランスも、ドイツも、イギリスも狙っていないとは言わせません。ここで皆さんに質問です。その狙われている博士が、自身の身を守る術を用意していないと思いますか?」

「ある訳が無いな」

 

 クラリッサが答えを言い、先を促す。

 

「はい。そんな訳がありません。では狙う組織が、束博士を得る為にはどうすれば良いか? 当然、まずは邪魔な守護者を片付ける必要がある。そこで我々が利用されるとしたら? 人を仲違いさせる方法なんて、幾らでもあるでしょう?」

「なるほど。貴様の言いたい事はつまり、今回の一件は何者かに仕組まれた茶番であるという事だな?」

「はい。よって今回、決定的な対立を生む先制攻撃は避けるべきかと」

「・・・・・貴様の言い分は理解できなくも無い。だが、指揮官として認める訳にはいかん。アレほどの敵に先手を許せば、比喩でも冗談でも誇張でもなく、ここにいるIS部隊を含めて、艦隊全滅という可能性がある」

 

 こう言われては、シャルロットは下がらざる得ない。

 むしろ正規の軍人でも無いのにここまで発言を許した事自体が稀なのだ。

 

「が、貴様の言い分にも一理ある。交戦可能距離に入る前に、一応呼びかけはしてみよう」

「ありがとうございます」

 

 この時クラリッサは、ここに来る前に話していた上官を思い出していた。

 実のところ上層部はアレを完全に敵と判断しており、無警告で攻撃するような命令(実際にはそう思わせるような巧妙な言い回し)をされていたのだ。

 だが今の話で、それが巧妙に誘導されたものであると気付く。

 

(・・・・・発言を許して正解だったな。下手をすれば、全ての責任を負わされかねなかった)

 

 内心でシャルロットの評価をもう一段上げたクラリッサは、そんな事を思いながらブリーフィングを続けていくのだった。

 

 

 

 第10話に続く。

 

 

 

 



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第10話 茶番の終幕

 

 大気を切り裂き空気摩擦で赤熱化する、円錐状に展開されたエネルギーシールド。

 その遥か先に見えるのは美しく青い海。

 

「・・・・・こんな状況で無ければ、もう少し景色を楽しめたんだろうけどな」

 

 ミサイルアラート。

 眼下から迫る数十のミサイルが、大気摩擦で減速した俺(=薙原晶)を墜とそうと迫る。

 

「チッ」

 

 舌打ち。

 肩部装備063ANEM(ECM)を起動。

 ミサイル誘導用電波を根こそぎ無力化。

 目標をロストしたミサイル群はあらぬ方向に飛んでいく。

 

「高高度迎撃用パトリオットに、大気圏突入中のミサイル迎撃。そこまでして俺を博士の元に行かせたくないか。――――――博士、無事か?」

 

 通常無線と違いコアネットワークを使った通信なら、大気圏突入中であってもクリアな通信が可能だ。

 

「うん。まだ無事だよ。でも、アジト内の防衛システムがもう幾つか破られている。ちょっと急いでくれないと厳しいかな? まさか盾殺し(シールド・ピアース)なんてレアな装備を持っているなんて」

「残っている隔壁は?」

「後4つ。いや、今3つになった」

 

 通信に、何かが破壊された音が混じる。

 アジトに突入されてからの時間と、破られた隔壁の枚数及び到達時間を計算。

 微妙な時間だが、恐らく間に合うだろう。

 問題は、如何にして博士を安全に脱出させるかだ。

 さっきから考えているが、良い手段が思いつかない。

 このまま戦闘に入れば、下手をすれば泥沼の殲滅戦だ。

 どうする?

 正規軍相手にそんな事をすれば、仮に、万一勝てたとしても一生日陰者だ。

 盛大に啖呵は切ったが、出来ればそれは御免被りたい。

 何か方法は無いか?

 脳裏に渦巻く思考。閃きが走る。

 待てよ。正規軍が動いているなら、それを可能とするだけのお題目があるはずだ。

 

「博士。質問がある」

「なにかな?」

「正規軍が動いている理由は分かるか? 裏側からのプッシュがあったとは言え、表の、それも正規軍をこれほど大々的に動かすなら、それ相応のお題目があるはずだ」

「うん。さっき調べたよ。呆れる位単純な理由だった。どうやら私が、誰かに軟禁されてここに閉じ込められているから助け出すって理由みたい。その為に、近くで演習していた艦隊を丸々動かしたみたいだね」

「なるほど。万人受けしやすい内容だな」

「やっぱりそう思う?」

「思うとも」

 

 Sound Onlyで話しているが、何となく博士がニヤッと笑った気がした。

 

「ならやる事は単純明快よね」

「ああ。方法は幾つかあるけど、どんなシチュエーションがお好みかな?」

「やっぱりこういう時は、誰が見ても分かるシチュエーションじゃないと。囚われのお姫様を助けにくる騎士様じゃないの?」

「自分の事をお姫様とか言うなよ。言って欲しけりゃもう少し服装に気を使え」

「君がそれを言う? 民家に隠れている間の台詞は聞かせてもらったんだよ?」

「なっ!? おい、送ったのは戦闘データだけだったはずだぞ?」

「戦闘データだけだよ。ああ、君は勘違いをしている。ISにとって戦闘とは、敵と戦っている時だけを指すんじゃないんだ。重大なダメージを受けてからの再生も、広義の意味では戦闘に含まれる。生存競争という戦闘にね。つまり自己修復中の君の行動も、ばっちり見せてもらったよ。中々可愛い子だったね。ああいうのが好み?」

「・・・・・助けに行くの止めようか?」

「ああ、ゴメン。ウソ。冗談だから。そしてこういう事を起さない為には、ちゃんとコアを教育してあげなきゃダメだよ」

「ご忠告どうも。今後はじゅーーーーーぶんに気をつける」

「捻くれない捻くれない。見ていて中々好感の持てる態度だったよ」

「帰ったら覚えてろよ」

「楽しみに待ってるよ。まずは、ここから助けだしてね」

「必ずな。言いたい小言が山のように増えた」

 

 通信終了。

 悪友の同士で交わす悪巧みような―――いやこんなやり取りをしている時点でそうだろう―――楽しい会話。

 思わずニヤリと笑みを浮かべてしまう。

 そして、もう少しで到着というところで、オープン回線で通信が入った。

 

「こちらはドイツ・フランス・イギリスの3国合同IS部隊隊長。クラリッサ・ハルフォーフ大尉だ。こちらに接近中の未確認IS。応答願う」

 

 性別を知られる訳にはいかないのでマシンボイスON。

 Sound Onlyで応じる。

 

「・・・・・何の用だ?」

「素直に返事をしてくれて嬉しいよ。率直に聞こう。そちらが、こちらに向かっている理由を尋ねたい」

 

 数瞬の思考。

 逆に尋ね返す。

 

「そっちこそ、何故ソコにいる? その海域に、そんな大部隊が展開する理由など無いはずだが?」

「・・・・・」

「答えられないのなら、それで構わない。無理に聞く必要も無い。只、邪魔をするな。そっちが武器を向けなければ、こちらも攻撃するつもりは無い」

「いや、答えよう。匿名で、この海域にある無人島に、ISの生みの親である束博士が軟禁されているという情報があった。よって救出の為、近くで演習中だった3国合同艦隊に出撃命令が下った次第だ」

「ほぅ」

「こちらの質問にも答えて欲しい。君が此処に向かっているのは、博士の救出の為か?」

「そうだ」

「なら我々が争う理由は無い。共に――――――」

 

 俺は言葉を被せる。

 

「共に、というのであれば信じるに足るものを見せて欲しい。正直なところ、こちらはそちらを信用していない」

「それは、こちらも同じだと思うが?」

「こちらは博士と直接コンタクトが取れる。これ以上の説明が必要か?」

 

 一瞬、無線の向こうで、息を呑んだのが分かった。

 

「それは、本当か?」

「嘘だと思うなら、証拠を見せよう。――――――博士。貴女を助ける為に正規軍が動いていたらしい。映像を出して良いかな?」

「いいよ。折角助けに――――――」

 

 直後に響く爆発音と破砕音。

 響く悲鳴。

 途切れる映像。

 秘密裏に送られてきたアジトのステータスはレッド。

 複数用意されていた電源系統は非常用の1つを残して全滅。

 侵入防止用の警備システムも7割ほど無力化されている。ISが相手なら仕方が無いとも言えるが。

 だが問題なのは、特殊装甲とエネルギーシールドを組み合せた隔壁が既に5枚破られ、博士のいる部屋まで残す隔壁は後2枚のみという事。

 これはマズかった。

 万一先に博士の身を押さえられたりしたら、話の主導権を向こうに握られてしまう。

 

「共に、ね」

「待て、今の爆発は違う。救出部隊が内部でガードメカと戦闘をしている。決して博士を害そうとしている訳じゃない」

 

 数瞬の思考。

 ここで裏切られたと言い敵対するのは簡単だが、それは余りにも短慮だろう。

 話してみた感じ、向こうの指揮官は理性的な人物のようだ。

 なら、交渉次第ではこちらの要求を呑んでくれるかもしれない。

 まぁ、呑まないなら呑まないで方法はあるんだが。呑んでくれた方が楽なのは間違いない。

 

「そちらに敵対する意志が無いというなら、道を空けてくれ。武装解除の要求はしない。そしてもう1つ、呑んで欲しい話がある」

「理性的な判断に感謝する。そして呑める話であるなら呑もう」

「突入している人員を下がらせてくれ。仮に、そちらが博士を共に救出する仲間だったとしても、こちらの火力ではフレンドリーファイアをやりかねない」

「その火力を、博士に向けないという保障は?」

「1人だけ同行を許そう。それで見張れば良い」

 

 さてどう出る?

 1対1における戦力差は向こうも認識しているだろうから、数の優位を捨てたくないのが本音だろう。

 だが、こちらも時間をかけてはいられない。

 相手が自分達の手での博士確保に拘るようなら、ここで交渉を打ち切るつもりだが・・・・・。

 

「・・・・・いいだろう。突入部隊は一旦外まで撤退。別命あるまで待機。そして私が同行しよう」

 

 乗ってきた!!

 交渉が決裂した場合のリスクを考えたか?

 まぁとにかく、これ以上の隔壁破壊を心配しなくて良くなったか。

 後の問題は、博士と接触した後の事だな。

 アジトへの突入に備え、武装の一部変更をAIにコマンド。

 

  ―――ASSEMBLE

    →L ARM UNIT  :ER-R500(レーザーライフル)ACACIA(アサルトライフル)

    →SHOULDER UNIT :063ANEM(ECM)051ANAM(フレア)

 

 両肩と左手に鮮やかな緑色の光が集まると、装備が分解されるように消えていき、拡張領域に格納される。

 代わりに、同じように光の中で装備が形作られていき、光が消え去ると同時に使用可能状態へ。

 更に前進する事のみを考慮して、大気を切り裂く為に前方に鋭く尖った円錐状に展開していたエネルギーシールドを、従来の球形状に戻していく。

 すると空気抵抗に押されて急激に速度が下がっていくが、それでも速度計は時速4000kmオーバー。

 これでは速過ぎる。

 更に速度を時速1000kmまで落とすと、1機の黒いISが流れるような綺麗な機動で接近、平行軌道に入る。

 

「こうして直接顔を合わせるのは初めてだな。改めて自己紹介をしておこう。3国合同IS部隊隊長。クラリッサ・ハルフォーフ大尉だ。所属はドイツ軍IS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ」

 

 緊張しているのだろう。やや硬質な声でだが挨拶をしてきた。

 

「・・・・・マシンボイスのままで失礼する。残念ながらこちらには名乗るべき名前も階級も無い。只、束博士の護衛とだけ覚えていてくれれば良い」

「だが、名が無いというのは不便だな。それでは緊急時の意志疎通に問題が生じてしまう」

「なら、NEXTとでも呼んでくれ」

 

 そんな会話をしながら、俺達はアジトに突入していく。

 すれ違い様に、突入していたIS部隊が出て行くのを確認しながら。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 NEXTと名乗った、自称束博士の護衛と共に軟禁場所に突入した私(=クラリッサ・ハルフォーフ)は、驚きの表情を隠せなかった。

 

「・・・・・報告は聞いていたが、これほどとは」

 

 破壊された通路。無数に穿たれた弾痕。

 散乱する、物言わぬ鉄屑となったガードメカの数々。

 突入部隊からガードメカと戦闘になっているという報告はあったが、なるほど、時間が掛かった訳だ。

 このIS本来の機動力を生かせない場所で、数に任せた面制圧攻撃。

 そして各所に降ろされていた特殊装甲とエネルギーシールドが組み合わされた隔壁。

 

「人間1人閉じ込めるのにここまでするのか。外道というのは何処にでもいるのだな」

「・・・・・」

 

 隣に立つ黒い全身装甲型のIS。コードネーム“NEXT”は何も答えず歩いていく。

 歩いて?

 ISの移動はフロートが基本だが、このISは違うのだろうか?

 いや、フロートに必要なPICを搭載していないはずがない。無ければあの速度は絶対に実現出来ないはずだ。

 そんな事を考えていると、人間味を感じさせないマシンボイスで声をかけられた。

 

「ここまでの警備システムは全滅しているようだな」

「突入部隊が頑張ってくれたようですから。それよりも問題は――――――」

 

 視線を、眼前にある隔壁に向ける。

 そしてクラリッサの愛機、シュヴァルツェア・ツヴァイク(黒い枝)のハイパーセンサーは隔壁の向こうにいる無数のガードメカを既に捕捉していた。

 

「――――――コレをどうやって破るのかという事と、破った直後に放たれるであろうガードメカの攻撃をどうするかです」

「問題にする必要も無いだろう。こちらの火力はある程度把握していると思うが?」

「そちらからの開示があるならまだしも、それほど情報は集められていませんよ」

 

 情報部から既に情報は得ていたが、正直に言う必要は無い。

 向こうもそんな事は、とっくに承知しているだろう。

 事実NEXTは、

 

「そうか」

 

 と素っ気無く答えると隔壁に向き直り、右背部に装備していた、折り畳まれていたキャノンを展開する。

 

「ところで1つ確認しておくが、ECM対策は万全か?」

「仮にも第三世代機だ。そのへんのポンコツと一緒にしてもらっては困る」

「そうか。なら良い」

 

 直後に放たれる閃光。

 私は自分の返答を、すぐに後悔する事になった。

 

(何だ!? このECM濃度は!!)

 

 シュヴァルツェア・ツヴァイクが高レベルのECM攻撃があったと判断し、オートでセンサー系を閉鎖・保護するが、明らかに稼動効率が落ちていた。

 

「貴様!! 今何をした!!」

「何と言われても困る。プラズマキャノンで隔壁を破壊し、発生した電磁波でガードメカの内部回路を焼いて、稼動不能にしただけだが?」

 

 事も無げに言うNEXTだが、この返答にクラリッサは言葉を失う。

 隔壁を一撃で破壊した火力については、情報部から既に話があったから、それほど驚いてはいない。

 だが、第三世代機レベルの対ECM防御を突破するようなアレは何だ?

 しかもキャノンの形をしている以上、本来は純粋に敵を攻撃する為のものだろう。

 あの高威力と相対しながら、センサーを封じられるなど、どんな悪夢だ。

 内心の心配が表情に出てしまったのか、

 

「軍人として仮想敵機の事を考えるのは分かるが、そちらが裏切らない限り今は味方だ」

 

 NEXTはそれだけを言うと、先に進んでいく。

 

「ま、待て!!」

 

 慌てて追いかけ隣に並び、しばらく互いに無言のまま進んでいく。

 すると、

 

「ところで1つ確認したいんだが、博士を確保した後どうするつもりだ?」

「それは・・・・・」

 

 私は答えられなかった。

 いや、政治家がよく使うような「しかるべき手順を踏んで、しかるべき場所で働いてもらう」というのは簡単だが、この守護者が望んでいる答えでは無いだろう。

 むしろ迂闊な事を言えばコレが敵に回る可能性すらある以上、即答できる話では無かった。

 

「・・・・・まぁ、現場の指揮官が知らされる話でもないか」

「むしろ、そっちはどうする気なの? 既存のISを遥かに凌駕するソレを、個人が持つなんて許される話ではないわよ」

「博士はISの生みの親。その能力を世界中の組織が狙っている。そんな人間に、自衛手段すら持つなと?」

「そうは言ってない。なら何処かに保護してもらえば」

「仮にそれで、ドイツに保護してもらったりしたら、世界は何ていうかな? ――――――分かるだろう? 結局のところ、博士は自分の身は自分で守らない限り籠の鳥と変わらなくなる」

 

 反論出来ないままに、次の隔壁の前に到着する。

 ハイパーセンサーは、隔壁の向こうで座り込んでいる人影を捕らえていた。

 隣に立つNEXTも同じ情報を得ているのだろう。

 右腕に装備している盾状のパーツが展開されたと思ったら、展開された部分からレーザーブレードが形成され、隔壁を焼き切り始めた。

 そして隔壁が焼き切られ、博士とこちらの視線が交わる。

 直後、

 

「薙原!!」

 

 駆け出した博士が、隣に立つNEXTに抱きついていた。

 それを優しく迎えるNEXT。誰がどう見て知り合い同士だった。それも強固な信頼で結ばれた。

 何せ身内以外をロクに認識しないという事で有名な束博士が、無邪気に抱きついているのだから・・・・・。

 

 

 

 第11話に続く

 

 

 

 



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第11話 IS学園へ

 

「――――――は?」

 

 俺(=薙原晶)は、束博士が発した言葉が信じられず、思わずそんな気の抜けたような声を出してしまった。

 ここはフランス・イギリス・ドイツ3国合同演習艦隊旗艦、空母シャルル・ド・ゴール。その艦内格納庫。

 周囲には、ISの登場によって無用の兵器となったと思われている戦闘機やヘリ、及びその整備員やパイロットの姿が見える。

 だが今はどうでも良い事だ。

 問題は、周囲を完全武装のIS11機に囲まれているにも関わらず博士が言った言葉。

 

「薙原、聞こえなかった? ISを解除しても良いって言ったんだよ」

「護衛として、それは出来ない」

「大丈夫だよ。向こうがこちらを害する気なら、ここに来た時点でもう決着はついている」

「言い分は理解出来るが・・・・・」

 

 言葉を濁し、返答に困っているフリをしながら、コアネットワークを使って博士にコンタクト。

 

(博士。何を考えている?)

(色々。君の安全についてもだよ)

(何?)

(こういう事態になった以上、君が男であるというのはいずれ、必ずばれる。事実もうNEXTの正体に勘付いている人がいるんじゃないかな?)

 

 尤もらしい博士の言葉を裏付けるのは、ハイパーセンサーが拾い上げた周囲の情報。

 殆どの人間が俺と束博士の2人に注目している中、明らかに俺にしか注意を向けていない人間が1人。シャルロットだ。

 沈黙する俺に対して、博士はさらに言葉を続ける。

 

(だから今のうちに、君というカードを切っておく。そして日の光の下を歩けるようにする。これはささやかなお礼だよ)

(お礼?)

(君はアジトが包囲されたと知った時、迷う事無く駆けつけてくれた)

(借りを、いや恩返しをしようとしただけだ。貴女はこの世界で俺に生きる術をくれた)

(それでも、だよ。後は私に任せてくれないか。決して悪いようにはしない。それにこれは――――――)

 

 一瞬言いよどむ博士。

 だが、すぐに続く言葉が放たれた。

 

(――――――私の親友を守る為の布石でもあるんだ。君という人間を見込んで依頼したい)

(・・・・・卑怯者め。そんな言い方をされたら断れないだろう)

(存外甘いんだな。君は。異性には気をつけないと、小悪魔に引っかかるぞ)

(もう引っかかってる気がするのは気のせいか?)

 

 お互い表情には出さず苦笑。

 リアルでの会話に戻る。

 

「いや、分かった。貴女の決定に従おう」

 

 脳内でISに解除コマンド。

 全身を覆う装甲が緑色の量子の光に包まれ、分解されるように消えていくと、中にいた俺の姿が顕になっていく。

 そして光が消え去ると、静寂が格納庫を包む。

 

「ま、まさか・・・・・・男」

 

 という誰かの声に博士が、

 

「そうだよ。世界で2人目の男のIS操縦者。薙原晶」

 

 と答え、場所を譲るように一歩右にずれた。

 余程IS操縦者が男であるというのが衝撃的だったのか、沈黙が続いている中、俺は譲られた場所に立つ。

 ちなみに服装は、以前シャルロットに貰った黒いGパンにジャケット。白いTシャツという簡素なもの。

 

「故あって、束博士の護衛をしている薙原晶だ。見ての通り男だが、IS操縦者でもある。――――――そして、この場を借りて礼を言っておきたい。今回、そちらが理性的な対応をしてくれたおかげで、泥沼の状況にならなくて済んだ。ありがとう」

 

 こんな感じだろうか?

 人前で挨拶なんてそんなにした事が無いから、おかしくはなかっただろうか?

 そんな不安に駆られるが、

 

「こちらこそ、そちらの冷静な対応のおかげで無益な損害を出さずに済んだ。礼を言うのはむしろこちらの方だ」

 

 前に出てきて答えたのは、クラリッサ・ハルフォーフ大尉。

 原作では間違った知識をラウラに教え込む困ったさんだが、こうして話していると出来る軍人にしか見えないから不思議だ。

 いや、時と場所が違えば人の見え方も違うのは当然か。

 

「さて、それじゃぁ偉い人のところに案内してもらおうかな。―――っとその前に」

 

 博士が前に出した足を止め、コアネットワークでコンタクトしてきた。

 

(ねぇねぇ。シャルロットって子は大事?)

(いきなり何だ?)

(ちーちゃんや箒ちゃん程じゃないにしても、それなりに可愛い子だよね)

(だから一体何が言いたい)

(だから、彼女が不幸になるような事があるとしたら、それをそのまま放って置くかって事)

 

 実のところ、この時点で原作知識から、男装してIS学園へ転入する事だと当たりは付けられるが、何故博士がそれを気にするのかが分からなかった。

 事情については俺と関係した時点で調べたんだろうが、確かこの人、身内以外はどうでも良いと思っている人じゃなかっただろうか?

 だがそれを口に出す訳にもいかないので、

 

(助けられる範囲でなら助けようと思う。流石に命懸けでとなれば、その時になってみないと分からない)

(うんうん。助ける意志はありと)

 

 何となく嫌な予感がするが、止めるよりも博士が口を開くほうが早かった。

 

「ああ、いたいた。えーと、そこにいるのはシャルロット・デュノア君だね」

「え? あ、はい!!」

 

 声をかけられるとは全く思っていなかったのだろう。

 裏返った声で返事をしている。

 が、そんな彼女の様子を気にする事もなく博士は近付いていく。

 

「君の事は薙原から聞いているよ。彼を助けてくれてありがとう。君の助けが無ければ、彼はここに来れず。私もまた、笑顔でこうしてここに立つ事は出来なかったと思う」

 

 シャルロットの手を両手で優しく包み込み、そんな事を話す博士の姿はとても絵になるのだが、内心を知る者としては違和感たっぷりだった。

 

(ここでそんな事を言っていいのか?)

(本気で聞いてるの?)

(一応目的は理解してるさ。彼女の不幸の原因が何であれ、この場であんな風に言ってしまえば、世界最高の頭脳とそれをガードする俺と知り合いって事になる。手を出そうって馬鹿はそうそういなくなるだろう)

(そういう事。それに今後、君とは長い付き合いになると思うからね)

(なに?)

(続きは後で話すよ)

 

 そうして二言、三言とシャルロットと話した博士は、近くにいたクラリッサ大尉に、

 

「そろそろ偉い人の所に案内してもらっても良いかな?」

 

 と話しかける。

 相手も待っていたのだろう。

 すぐに、

 

「ではこちらに」

 

 と答え歩みだす。

 俺は護衛っぽく、博士の右後方45度付近にポジション。

 強化人間の機能(脳内レーダー等)をフルに使い周囲を探るが、特に怪しい動きは見られなかった。

 そうしてそこから先、お偉いさんに対する説明は博士の独壇場だった。

 拉致された状況の説明から始まり、その後、すぐに途切れそうな細い回線を必死に確保して俺に出した依頼。奪われ、悪用されそうな研究を潰してもらっていた事。自身の救出を一番最後にしてもらっていた事等々。

 一部真実を混ぜてはいるが、作り話であるはずのそれらが、圧倒的な現実感をもって語られていく。

 正直、博士に加担していなければ、只の第三者だったなら疑いもせずに信じただろう。

 いや、それは正しくない。

 疑った結果、信じざる得ないような壮大な作り話だ。

 

「――――――なるほど。よく分かりました。こちらでも確認を取りますが、状況的に見て嘘では無いでしょう。では、幾つか質問してもよろしいですか? 博士」

「いいですよ」

 

 お偉いさんが幾つか質問してくるが、そんな事でボロが出るはずがない無い。

 が、次の質問で博士が固まった。

 否、悲痛な表情でこちらを見た。

 

「彼は、何者ですか? 既存ISを遥かに上回る超高性能機を自在に操る彼は? 薙原晶という名前について調べましたが、何処の国のデータベースにもそんな人間は存在していません」

 

 刹那の間に、コアネットワークを使い博士と相談。

 

(どうするんだよ)

(君の生まれを語ってくれればいいよ。メモリーには入っていなかったからね。でも正直に話したら、多分研究所行きだよ?)

(随分難易度の高い話を振ってくれたな。オイ)

(私が迂闊な事を言う訳にもいかないだろう? 何せ君自身に関わる事だ)

(やれやれ。俺は博士ほど口が上手くないんだがな)

(十分上手いと思うけど? マズくなったらフォローするから)

(頑張ってみるよ)

 

 内心の愚痴はおろか、あらゆる感情を出来るだけ表に出さないようにして博士の隣に並び立つ。

 まさか、こんなテンプレ設定を真面目な顔で語る日がくるとは思ってもいなかった。

 テンプレは物語で見るから楽しいんであって、本人になったら地獄だろう。

 

「―――当然だよ。この名前は名無しの俺に、博士がくれたもの。実験体になったその日に言われたよ。『お前の過去はもう存在しない』って、ついでに言えば、その後脳味噌を弄られてね。研究所に連れて行かれる前の記憶が無いんだ」

 

 俺の言葉に、この場にいる全員が凍りつく。

 万一の時、俺を取り押さえる為にいる11人のIS操縦者も含めて、意味が理解出来ない者など誰もいない

 

「でもその後の事なら覚えている。博士との出会いは、そう・・・・・あの時だ。NEXT計画最終段階。限界性能を調べる為、全てのリミッターが外された時を狙い、研究所を潰して逃げ延びた後の事だった。もうボロボロだったんだ。俺自身も限界。ISの生命維持機能も限界。もうすぐ死ぬって時に、世界中の組織から逃げ続けていた博士に出会って、助けられた」

「じ、実験体。研究って・・・・」

 

 誰かの言葉に答える。

 

「単純に言えば、人を強化する研究だ。毎回毎回、ご丁寧に研究員が説明してくれたよ。これから俺の身体に何をするのかを。と言っても、これじゃ何をしていたのか分からないか。少し具体的に話そう。俺に施されたのは、単純に薬物や暗示で人体を強化するようなものじゃない。もっと根本的な部分で人そのものを強化するものだ。内容は様々。機械信号を脳内で直接処理出来る特殊な脳内ネットワークの形成。全神経組織の超高速化。及びそれに伴う反射速度の向上と認識力強化。身体機能増強による代謝機能と対G耐性の強化。どこの軍隊でも一度は計画された事がありそうな話だろう?」

 

 ここで博士から、ネットワークでコンタクトがあった。

 

(喋り過ぎだよ。それじゃぁ君が――――――)

(ここである程度話をしておかないと、必ず貴女にNEXTを作れという話が行くだろう。その時貴女は断れるか? 断れば貴女は、世界に対する野心ありと思われるだろう。秘密は時に、いらぬ不安を煽るからな。そして貴女にその気がなくても、周囲にそう思わせるだけの力がアレにはある。違うか?)

(違わないけど・・・・・)

(それを防ぐ為には、あれが操縦者に何を要求する代物なのか、そして何より機体だけを作っても意味が無い事を理解させなきゃいけない)

(代わりに君が危険に晒されるよ)

(今更だよ。ついでに言えば全てを貴女に任せたとしても、関係者である以上、俺に飛び火するのは確実なんだ。ならこちらで主導権を握れるようにしておいた方が遥かに良い)

(・・・・・分かった。任せるよ)

 

 沈黙が続く中、俺は言葉を続ける。

 

「――――――話を続けよう。博士に助けられた俺だけど、残念な事に、もう戻る日常ってのが無かったんだ。分かってくれるかな? 個人データは無い。記憶も無い。過去も無い。無い無い尽くし。だから博士に護衛として雇ってもらったんだ。幸い、NEXT計画はそれだけの力を俺に与えてくれたみたいだからね。その後暫くして博士が連れ去られた後は、君たちが知る通りだ」

 

 周囲を見てみれば、涙ぐんでいるのが何人かいる。

 シャルロットはまぁ予想出来たが、クラリッサ大尉が涙ぐんでいるのが予想外だった。

 実験というあたりでラウラの事を思い出したのだろうか?

 しかし、こういう光景を目の当たりにすると良心が痛む。

 100%作り話だからな。

 だがここで気を抜く訳にはいかない。

 肝心のNEXTについて話ておかなければ。

 

「そして、君たちが一番気にしているだろうNEXTについて話しておこう」

 

 一度言葉を区切り、全員の意識がこちらに向いたのを確認してから話を続ける。

 

「アレは、NEXTは、マシンマキシマム構想。つまり操縦者の事を全く考えず、機体の限界性能のみを追求して作られたものだ。当然、普通の人間には扱えない代物だ。だから研究者達は考えた。人で扱えないのなら、人以上のものに操縦させれば良いと。その結果が、俺に施された実験の数々だ」

「つまりアレは・・・・・」

 

 再び誰かが漏らした言葉に、俺は答える。

 

「そう。アレを使えるのは強化処置が施された俺のみ。そして、その強化人間を作る為の施設とノウハウを持つ者は、既にこの世にいない。博士は俺を助けた関係上、ある程度は知っているが、これに関しては決して口外しないで欲しいと言ってある。理由が分からない者は、この場にはいないと信じたい。だが、人が善意だけの生き物じゃないのは良く知っているからな。あえてここで宣言しておく。――――――俺の身に起こった事を繰り返そうとする輩がいたなら、俺はあらゆる手段を使って潰しにいく。組織も国境も国も関係無い。立ち塞がるものは全て粉砕してだ」

 

 静寂。誰も言葉を発しない。

 そんな中、一番先に口を開いたのは束博士だった。

 

「彼については、これで皆理解してくれたと思う。被害者なんだ。そこで私から提案なんだけど、彼の奪われた日常を、どうにかして返せないかな? 勿論、貴重な2人目の男のIS操縦者であり、単機最強戦力の一角たる彼の国籍は大きな問題なんだけど、幸い今は、それを先送りに出来る場所が、IS学園がある」

 

 周囲が一斉にざわつきだす。

 オイ待て。まさか親友を守る為の布石ってそういう事か!!

 気付くのが遅過ぎた。

 口を挟もうにも、既にそんな雰囲気では無く。

 ここで博士の言葉を否定するのは、色々な意味でダメージが大き過ぎる。

 何となく出し抜かれた感じがして悔しいが、受け入れるしかない状況だった。

 しかしそんな感情は横に置いといて、良く考えてみれば、これは俺にとってプラスではないだろうか?

 なにせ原作を知っている=原作にある事しか知らないだ。

 現実世界と似たような世界とは言っても、違う点は幾らでもあるだろう。

 それを知るのに丁度良い機会かもしれない。

 単純な武力だけで出来る事なんて、たかが知れている。

 なら学生の間に、他に出来る事を、武力以外に取れる選択肢を増やしておくのもいいかもしれない。

 こうして前向きに考えた俺は、IS学園へ通う話を受ける事にした。

 何回も読み直していたライトノベル『インフィニット・ストラトス』の舞台であるIS学園へ。

 

 

 

 序章終了。本章へ続く。

 

 

 

 



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本章:IS学園
第12話 学生


 

 IS学園でたった2人の男。そして世界でたった2人の男のIS操縦者。

 よっぽどの事が無い限り、仲良くやっていきたいと思うのは当然だろう?

 

「初めまして、世界初の男のIS操縦者。世界で2人目の男のIS操縦者の薙原晶(なぎはら しょう)だ。これからよろしく頼む」

 

 そう自己紹介して右手を差し出す。

 ここはIS学園1年1組の教室。

 HR(ホームルーム)前のちょっとだけ空いている時間。

 そんな時間に俺は、『インフィニット・ストラトス』の主人公、織斑一夏が座る席に向かい自己紹介をした。

 

「あ、ああ。こちらこそ宜しく頼む!! 世界で2人目の男のIS操縦者。俺の名前は織斑一夏だ。一夏って呼んでくれ。そっちは何て呼べばいい?」

「薙原でも、晶でも、呼びやすい方で構わない」

「なら、これからは晶って呼ばせてもらうよ」

 

 握手に答えながら嬉しそうに答える一夏。

 多分、よっぽど精神的にキてたんだろう。

 そんな呑気な事を考えていると、

 

「でも晶って凄いよな。たった一人で博士を守り続けて、連れ去られても助け出して、誰にでも出来る事じゃないよ」

「俺だけの力じゃないよ」

 

 表裏の無い純粋な賛辞が良心を抉る。

 こんな言葉を向けられるようになった切っ掛けは、アジトを包囲されていた束博士を救出した後の事。

 捏造した俺の過去を聞いたお偉いさんが、「そんなドス黒い話を公開出来る訳ないだろう」と一蹴。

 別のカバーストーリーが用意されたからだ。

 しかも博士が悪乗りして同調。

 散々美化して広報担当に話をしてくれたおかげで、マスコミに流れた俺のイメージは、まるでどこかのヒーローや白馬の王子様だ。

 正直、とても困る。

 勿論その話がされた時、俺もその場に居たさ!!

 居たけどな。悔しい事に博士の奴、嘘は言ってないんだ。だから違うとも言えないでいる間に、あれよあれよと決まって行って・・・・・ちくしょうめ。

 そんな内心を知らずに一夏は話を続け、最後にこれから先の、モロモロのフラグをぶち壊すような事を言い出した。

 

「――――――まだISについて素人なんだ。だからさ、良かったら俺を鍛えてくれないか?」

 

 多分、同性という気安さからだろう。

 だが原作を知る身としては、受けるべきかどうか非常に悩むところだ。

 何せこれから彼は、彼女達(ヒロイン達)との関りを通して強くなっていくんだ。

 その最初期のフラグをぶち壊したら、後がどうなるかまるで分からなくなる。

 しかし今後の人間関係を考えると、ここで断るのはマズイ。

 少し悩んでいると、

 

「何の話をしているの? 僕も混ぜてよ」

 

 と原作とは違い、初めから女の子として入学してきたシャルロットが混じってきた。

 

「ん? ああ、シャルロットか。いやなに、ISの素人だから鍛えてくれと言われたんだが、他人に教えた事なんてなくてな」

「あんまり気にしなくて良いんじゃないかな? 基本は先生達が教えてくれるはずだから、純粋に彼の練習相手になってあげればいいと思うけど」

 

 それもそうかと考えた俺は、ついでにシャルロットも誘う事にした。

 原作でとても教えるのが上手かった彼女だ。こっちも色々と学べる事があるだろう。

 

「ぼ、ボクも? 良いの?」

「ああ。こういうのは楽しくやった方が良い。相手がいた方が一夏も張り合いが出るだろ?」

「俺は素人なんだから、手加減してくれよ」

 

 意図的にニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。

 

「さぁ~て、どうするかな? 他は素人だからと待ってはくれないぞ」

「うぐっ!!」

 

 彼も思うところがあるんだろう。

 両肩を落として溜息を1つついた後、主人公らしく言い切って見せた。

 

「分かってるよ。同じ男同士、離されっぱなしってのは嫌だからな。頑張るさ」

「言い切ったな。後悔するなよ?」

「勿論だ。これからよろしくな!!」

 

 丁度チャイムが鳴り、一夏とシャルロットが席に戻ると、副担任の山田真耶(やまだ まや)が教室に入ってきた。

 原作通り、眼鏡・童顔・巨乳・スタイル良し。ついつい視線が特定の場所に行きそうになるが、そこはグッと我慢する。

 そうして恒例の自己紹介タイム。

 原作を知る身としては鉄拳制裁される一夏を期待していたのだが、残念な事にさっきの話で固さが取れてしまったようだ。

 無難な自己紹介で切り抜けていた。つまらん。

 と思っていたのも束の間、俺は自分の自己紹介で質問攻めにあっていた。

 

「しつもーーーん。博士とはどういう関係なんですか? ラブな関係ですか?」

「2人っきりの時は何をしてるんですか?」

「博士を助けたときお姫様だっこしてたっていうのは本当ですか?」

 

 等々。いや、どう答えろと・・・・・。

 博士とはビジネスライクな、いや悪友っぽい関係だが、そんな事を話せる訳が無い。

 かと言ってカバーストーリーのまま話すというのは、正直恥ずかし過ぎる。

 自分を少女漫画の主人公並に美化して他人に語る。という状況を想像してもらえれば、分かってもらえるだろうか?

 返答に困っていると、山田先生から助け舟があった。

 

「はいはい皆さんそこまで。薙原君が困ってます。IS学園の生徒として、人様のプライバシーに土足で踏み込むような質問は関心しませんよ」

「はぁ~い」

 

 元気な返事があり質問がピタリと止まる。

 おお!! 流石原作と実物は違う。ちゃんと仕切ってくれたか。

 なんて安堵していると、しっかり爆弾を放り込んでくれた。

 

「薙原君と博士はとても固い信頼で結ばれたパートナーと聞いてます。そんな質問はするだけ野暮でしょう」

「固い信頼にパートナーですか? 先生」

 

 誰かの言葉に、うっとりとした表情で山田先生が答える。

 

「そうですよ皆さん。奪われた博士の研究を悪用されないようにする為に世界中を周り、そして最後は連れ去られた博士自身をも救出する。並大抵の信頼で出来ることではないでしょう。出来れば皆さんも、そういうパートナーを見つけて下さいね」

 

 本人は綺麗に纏めたつもりかもしれないが、こっちとしては対応に困る。

 何せ今の言葉、先の質問を(遠まわしにだが)全肯定しているようなものだ。

 他の生徒達にどんな妄想をされているか分かったものじゃない。

 まぁ、一々気にしても仕方が無いか。

 そう思った俺は、小さく溜息をついて自己紹介を終えるのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 (セシリア・オルコット)はとても複雑な気分でした。

 両親の遺産を守る為に必死で努力し、IS代表候補生というエリート中のエリートという座を手にし、しかも専用機を得ての首席入学。

 同性でも、同年代でなら抜きん出た実力があるという自負が有りましたわ。男なんて論外。そう考えていましたの。

 でも、世界で2人目の男のIS操縦者、薙原晶。

 彼の存在が私を複雑な気分にさせる。

 女性を卑屈な目でしか見れないはずの男のクセに、聞き及ぶ彼の振る舞いは古き良き騎士そのもの。

 奪われた博士の研究を悪用されない為に世界中をまわり、最後には連れ去られた博士自身をも救出する。

 私に同じことが出来るだろうかと、どうしても考えてしまう。

 出来ないとは言いたくない。同じ歳なのだから、出来ないはずは無い。

 でも、自信をもって出来るとも言えない。

 プロフィールや過去の戦歴など、多くが機密指定されていて知りえた情報は少なかったのですけれども、先日、運良く本国のIS代表と話すことが出来、その際に言われましたわ。

 

「決して、決して敵に回すな。詳しくは機密で話せないが、本当に勝つつもりなら文字通り総力戦になる。そして、それでも勝てるかどうか分からない」

 

 と念を押すように強く。

 ここまで言われては、逆に興味を持ってしまいますわ。

 男のクセに、尊敬する現代表にここまで言わせるほどの力。確かめてみたくなるのは当然でしょう。

 むしろそこまで言わせる程の相手に勝てたのなら、私の評価は更に高いものになるでしょう。

 そう考えた私は、HRが終わり先生が出て行ったのを見計らって席を立つ。

 

「ちょっとよろしくて」

「ん、何か用か?」

「いいえ。それほどの用件ではありませんわ。噂に名高い束博士のガーディアンが、どれほどの実力かを見てみたいというだけで」

 

 余計な話をする必要は無いでしょう。

 単刀直入に用件のみを告げる。

 さぁ、どんな返答が返ってくるのかしら?

 出来れば噂通りの、古き良き騎士のような返答を期待しますわ。

 しかし返ってきたのは予想外の、それも即答の答えでしたわ。

 

「断る。完全実戦装備の俺と、“試作”第三世代機。しかも1対1で遠距離戦仕様機との戦いじゃ、初めから勝負が見えてる」

「なっ!? 言うに事欠いて!! 何て失礼な!!」

「純粋に戦術上の話だ。前衛機のいない遠距離戦仕様機なんて、踏み込まれたら終わりだぞ。まぁ中には決して距離を詰めさせない。自分の距離を完璧に維持してのけるプロもいるが、お前にそこまでの技量を期待して良いのか? こっちが装備を変更して練習に付き合うってのもありだけど、お前が望んでいるのは違うだろう?」

 

 沈黙する私を他所に、彼は更に続けました。

 

BT(ブルーティアーズ)のスペックデータについては目を通してある。純粋な後衛戦力として考えるなら頼もしい限りだが、前衛機無しの状態でスナイパーライフルとビット兵器のみだと厳しいぞ。踏み込まれた時の近距離戦、その高速機動下でもビット兵器を自在に操れるというならまだしも」

 

 戦ってもいない相手からの指摘。確かに戦術上はその通りですが、それはBT(ブルーティアーズ)が作られた当初から言われていた事。

 故にそれを運用する私は、そんな欠点など取るに足らないものである事を証明する義務がある。

 

「戦ってもいないのに、良く回る口ですこと。負けるのが怖いんですか?」

「そこまで言うなら仕方が無い。じゃぁ、こっちの出す条件を呑んでくれたらいいだろう」

「あら、条件とは何ですか?」

「一週間後、そこにいるもう1人の男のIS操縦者に勝ったら相手をしてやる」

「え?」

 

 すぐ近くにいた織斑一夏が驚いた表情をしています。

 彼も今言われたのでしょう。

 しかしそれよりも、私の胸に沸いた感情は怒り。

 

「この私を!! 素人の当て馬にするとおっしゃいますの!!」

「代表候補生なら素人に勝って当たり前。むしろ素人にISの手ほどきをしてやる位は言えないのか? 名門貴族っていうのは、意外と器量が狭いんだな」

 

 ここまで、ここまで言われて引き下がるなんて有り得ません。

 

「良いでしょう。その話、受けましたわ!!」

 

 完璧に、完璧に勝利して必ず引きずり出して差し上げますわ!!

 

 

 

 ◇

 

 

 

 (織斑一夏)は、唯一の同性が突然宣言した言葉に唖然としていた。

 

「――――――と、言う訳だ。良かったな。トレーニングの目標が出来たじゃないか」

「良かったな。じゃねぇ!! いきなりあんな事言うなんてどういうつもりだよ。お前が戦えば良いじゃないか」

 

 何でも無い事のようにサラリと言った晶の言葉を聞いて、ようやく脳みそが再起動。

 確かに鍛えてくれとは言ったけど、これはあんまりだ。

 いきなり代表候補生とだなんて。

 だけどふと、千冬姉との話を思い出した。

 束博士と晶のニュースが世界中を駆け巡ったあの日、家に帰ってきた千冬姉とした話を。

 

『お前はこれから先、望むと望まざると、ずっとコイツと比べられる事になる』

『やだなぁ千冬姉。コイツはコイツ。俺は俺だよ』

『馬鹿者。世界でたった2人の男のIS操縦者だぞ。お前はそう思ってなくても、他人は必ずコイツとお前を比べる。その時負けるのは確実にお前だ。だから今からでも良い。鍛錬を怠るな。努力は必ず身を結ぶ。そしてコイツから学び取れ。昔お前が言っていた誰かを護りたいというのを、本当に実践してのけた奴だ。お前がその気なら、色々と学べるだろう』

 

 そうだ。だから俺は、コイツに鍛えてもらおうと思ったんだ。

 でもその後、千冬姉は何て言った?

 確か、そうだ。

 

『いいか。お前がこれから先、どんな道を歩むのかは分からない。だがISと無関係ではいられないだろう。だから覚えておいてくれ。ISが出る場面というのは、もう決して負けが許されない場面だという事を。負けた時に失われるのは自分だけじゃない。お前が護りたいと思った何かも失われるという事を。今は理解出来なくても良い。だが、決して忘れるな』

 

 そうだ。

 ISに関わる以上、素人だから、準備不足だから出来ません何て言い訳は通用しないんだ。

 相手が誰であっても勝たなきゃいけない。

 むしろ晶は、一週間の時間をくれたんだ。

 ならその間に、どうにか出来るようにしなきゃいけない。

 なるほど、これはテストなんだな。

 そう思えば、セシリアへの挑発も納得がいく。

 

「いや、やっぱり俺が戦うよ。鍛えてもらうにも、目標があった方がやりがいがあるからな。勿論勝つつもりだから、頼むぜ先生」

「任された。早速今日の放課後からだ。練習用ISの申請はしておくから、授業が終わったらすぐに第三アリーナな」

「ああ!! ――――――っとそうだ。でも、今更だけどいいのか?」

 

 俺はちょっと気になった事を聞いておく事にした。

 

「何がだ?」

「いや、束博士の護衛って大丈夫なのか? 放課後まで時間使わせちゃったらマズイかな?」

「ああ、その事か。今は安全が確保出来ているから心配無い。出来ていなかったら、ここにはいないよ」

「そっか。なら俺も安心して頼めるな」

 

 そんな話をしていると、晶が教科書を出し始めた。

 あれ? もうそんな時間か?

 時計を見ればチャイムまで後1分。

 確か次は山田先生の授業か。

 一応千冬姉に言われて予習はしておいたけど、流石にあの分厚い教科書全部はカバー出来ないよ。

 分かり易い授業に期待だなぁ・・・・・。

 と思ってたら、山田先生の授業はスッゲェ分かり分かり易かった。

 予習してたってのもあるけど、あれは教えるのが上手いんだな。うん。

 

「――――――ではここまでで、何か質問のある人はいませんか?」

 

 特に無かったから教科書をペラペラと捲っていたら、分からないと勘違いされたのか先生が近付いてきた。

 

「織斑君、何か分からないところはありませんか?」

「いえ、ありません。分かり易い授業でした」

「なら織斑、98ページにある拡張領域(バススロット)について説明してみろ」

 

 今まで授業に口を出さず立っているだけだった千冬姉が口を挟んできた。

 だけど甘いぜ。そこはもうやってあるからな。

 

「拡張領域は、簡単に言えばIS用装備を量子化して格納しておく場所の事で、基本的にここが大きければ大きいほど沢山の装備が積める。後は・・・・・あれ、何だっけ」

「勉強不足だな。・・・・・が、まぁいいだろう。ISに関り始めたばかりならそんなものか。――――――オルコット。続きを説明しろ」

「分かりましたわ」

 

 セシリアが立つと俺の説明を引き継いでいった。

 

「この拡張領域の特性自体は、普通のコンピューターに使われているメモリーと大差ありませんわ。大きなものを格納すれば沢山消費され、小さなものなら小さな消費ですむ。ですが注意しなければなりませんのは、小さくても高機能である場合は、その高機能さに比例するように大量の拡張領域を消費してしまいますので、格納するものの性能をしっかりと把握しておかなくてはなりませんわ」

「その通りだ。座っていいぞ。オルコット」

 

 なるほど。そんな特性があったのか。

 でもそんな説明何処に書いてあったんだ?

 教科書をペラペラ捲ってみるが、書いている場所が見当たらない。

 すると山田先生が、

 

「織斑君。今のセシリアさんの説明は98ページから少しとんで、102ページの右下。注意書きの部分も含んでいるんですよ。後で見ておいて下さいね」

 

 と教えてくれた。

 見てみると確かにあったけど、何もこんな隅っこに書かなくてもいいだろう。

 後ですぐに読み返せるように、教科書の端っこを折って目印にしておく。

 何事も積み重ねが大事だからな。

 そんな事を思っているとチャイムが鳴り授業終了。

 どうにか無事に乗り切ったぁ~。次の授業も分かり易い先生だと良いな。

 何て気を抜いたのが不味かったのか、

 

「織斑。只でさえスタートで出遅れているんだ。しばらくこの授業のレポートを提出しろ。今回のは明日までだ」

 

 と我が姉はどこまでも厳しい事を言ってくれた。

 まずい。それは困る。とても困る。放課後の特訓時間がつぶれるじゃないか。

 

「ちょっ!? ちふ・・「織斑先生と呼べ」 織斑先生。一週間待ってもらえませんか」

「ほう? 期限を指定するとはどういうつもりだ?」

「一週間後にアイツと戦う。勝つ為に、特訓する時間が必要なんだ」

 

 立ち上がって、後ろ手にセシリアを指差しながら答える。

 これで俺とアイツが戦うのは全員が知るところだ。もう後戻りは出来ない。する気も無い。

 

「勝つ? 何の話だ?」

 

 千冬姉が首をかしげていると、後ろの方の席に座っていたセシリアが立ち上がった。

 

「私が説明致しますわ。つい先程ですが私、そこにいる薙原さんに模擬戦を申し込みましたの。そしたら彼は、一週間後、織斑さんに勝ったら戦ってやると傲慢にも言ったのですわ。だから一週間後、そこにいる素人と戦う事になりましたの」

「・・・・・なるほど。事情は理解した。教師としては、生徒の自主性を尊重しない訳にもいかんか。いいだろう。とりあえずレポートは一週間出さなくて良い。その代わり、無様な姿を晒したら只ではおかんぞ」

「ああ。分かってる」

「分かっているなら良い。山田先生、行こうか」

 

 そう言って教室を出て行く千冬姉の背中を見ながら思う。

 これは本当に負けられないな、と。

 

 

 

 第13話に続く。

 

 

 



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第13話 夜、1日の終わりに

 

「・・・・・つ、疲れた」

 

 掛け値無しの本音だった。やっとの思いで部屋に帰ってきて、そのままベットに倒れ込む。

 授業が終わった後に第三アリーナで始めた特訓は、千冬姉のシゴキに勝るとも劣らなかった。

 でもそれを受けるだけの価値があった。手応えがあった。

 出来なかった事が少しずつ出来るようになっていく確かな感覚が。

 

「・・・・・全く、何が他人に教えたことなんて無いだよ。バッチリじゃないか」

 

 晶は山田先生みたいに優しくは無かった。

 動きが止まろうものなら容赦無く攻撃してきたし、酷い時なんて、アリーナ外壁まで蹴り飛ばしやがった。

 でも、こっちがやろうとしている限りは根気良く付き合ってくれた。

 相手が遠距離戦タイプだからと、態々セシリアのIS、BT(ブルーティアーズ)と同じようにスナイパー装備までして付き合ってくれたんだ。

 それに晶が声をかけたあの子。シャルロットって言ったっけ?

 あの子も教えるのが上手かったな。

 晶の説明が分からなくて悩んでいたら、分からないところを噛み砕いて教えてくれるんだ。

 この時は、こう。身体はこう動かす。注意するところ。事細かに。

 ベット上で仰向けになり、何となく天井に向かって手を伸ばし、拳を握る。

 

「・・・・・誰かを護れるようになりたい」

 

 言葉に出して、やっぱりそうだと思う。

 いつだって千冬姉に護られてきた。負担ばかりかけてきた。

 もうそろそろ、そんな関係を終わりにしたい。

 

「その為の手段が、方法が目の前にあるんだ。頑張らなきゃな」

 

 よっと言って身体を起す。

 まずはシャワーでも浴びて気分をスッキリさせよう。

 特訓があるからって、座学をおざなりにして良い訳じゃない。

 レポートを止めてもらってる分、しっかりやらないと後がツライからな。

 文武両道。昔の人は良い事を言ったよ。

 制服を脱ぎ散らかして・・・・・はやらない。男同士の相部屋とは言っても、マナーは必要だ。

 ハンガーにかけてから浴室に入り、熱めのお湯で身体を洗っていく。

 本当ならゆっくり湯船に浸かりたいところだけど、それだと時間が無くなるからシャワーだけだ。

 そうしてそろそろ出ようかと思ってたら、部屋の方でガサガサする音が聞こえた。

 晶の奴、帰ってきたのか?

 ちょっと用事があるって言ってたけど。

 バスタオルで適当に髪と身体を拭いて、ハーフパンツとTシャツに着替えて洗面所から出て行く。

 

「晶か、戻って・・・・・え?」

 

 視界に入ったのは、IS学園の白を基調とした制服。

 でも男物のものじゃない。スカートだ。

 そしてポニーテールにして尚、腰まで届く長い黒髪。

 

「ほ、箒? なんでここに? ここ、俺の部屋だよな? もしかして俺、部屋間違ったか?」

「ば、馬鹿者。そんな訳あるか。お前の同室、薙原さんに食事を持って行くように頼まれただけだ。『俺は少し用事があるし、あいつ夕食も食べてないから、出来れば持って行ってくれないか』とな。それよりも大丈夫なのか?」

「何が?」

「全部だ。いきなり代表候補生と戦うのも、特訓するのも。ISに関わって日が浅いお前でも、代表候補生がどれほどの実力者かは知っているだろう。それをたった一週間で越えるなんて無茶もいいところだ」

「無理でも無茶でも無謀でもやるしか無いんだよ。箒。この前な、千冬姉に言われたんだ。ISが出るっていうのは、もう負けが許されない場面で、負けた時に失われるのは自分だけじゃなくて、護ろうとした何かも失われるってね。だから素人だからって、準備不足だからなんて逃げる訳にはいかない。それに特訓中、晶にも言われたよ。『これから先、戦いに関わるかどうかは別にして、強くなければ選ぶ事すら出来ない』ってね。その通りだと思う。だからやるんだ」

「一夏・・・・・」

 

 箒が、何故か心配そうな顔でこっちを見てくる。

 だけど顔が少し赤い。もしかして熱でもあるのか?

 

「大丈夫か? 顔、赤いぞ」

 

 額に手をあててみるけど、うーん。平熱みたいだ。気のせいか。

 

「い、いきなり何をする!!」

「いや、顔が赤かったから熱でもあるのかと思ってさ。お前って昔から風邪とかひいても、『こんなものすぐに治る』って無理するところあったろ」

「無理ではない。休む程体調が悪くなかっただけだ」

「で、結局寝込んで俺に看病されたんだよな」

「む、昔の事を持ち出すな!! 男子たる者の態度ではないぞ」

「悪い悪い。でも俺の事はもう良いから、お前も部屋に帰って休めよ」

「言われなくてもそうする。届け物はしたからな。使った食器は、洗って朝食堂に返せばいいそうだ」

「分かった。ありがとな、箒」

「この位は何でもない。これから先長いんだ。余り無理はするなよ」

 

 そう言いながらドアを開けて出て行く箒が、とても嬉しそうな表情をしていた事に、後ろにいる一夏が気付くはずも無かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ――――――IS学園某所、篠ノ之束邸。

 

 表舞台に引きずり出された束博士の処遇については、各国が揉めに揉めた。

 何せ彼女を獲得出来れば、IS分野において圧倒的な優位に立てるのは間違いない。

 だがそんな揉め事も博士の、

 

「何だか面倒臭いね。2人でまた雲隠れでもしようか?」

 

 という一言で見事に収束した。

 どこも、また隠れられるよりは良いと思ったんだろう。

 だがここで何かが狂った。

 いや違うな。あの一言で、(薙原晶)が博士に意見出来る人間だと思われたようだった。

 その後色々な人から、どうにかして雲隠れだけは止めてくれと泣いて頼まれる始末。

 鬱陶しい事この上なかったが、逆にこれは博士の安全を確保するチャンスかと思い直した。

 なぜなら博士の安全は、何処まで行っても綱渡りで危険なものだからだ。

 どこかの国に行くというのは論外。

 一度国家のベールに覆われてしまえば、抵抗手段を一枚ずつ剥ぎ取られて、最後は籠の鳥だろう。

 人に言う事を聞かせる方法なんて幾らでもあるし、何より博士は只の科学者だ。

 手段と道具があれば並大抵の事は出来そうだが、無ければ何も出来ない。

 となれば雲隠れするしか道は無さそうだが、束博士の事を考えるとそれもやりづらい。

 本人は言わないが、親友(織斑千冬)(篠ノ之箒)にいつでも会える場所には居たいだろう。

 そうして考えた結果がIS学園に居を構える事。

 一種治外法権下とも言える学園なら、とりあえず国籍の帰属問題は回避できる。更に言えば、色々な意味で監視が厳しい。

 どこかの組織が出し抜こうとすれば、敵対組織の横槍が期待できる。勿論、期待し過ぎるのは危険だが。

 こんな考えを2人きりになった時に話すと、大いに乗り気になってしまい手が付けられなくなった。

 屋敷の設計図を自分で書き上げ、どこからか資材を調達し、お手製の建築ロボットであっという間に家を建てていた。

 ちなみに、俺は重機の代わりにこき使われた。

 まぁそれはセキュリティ上の問題を考えれば仕方ないんだが、結果、お偉いさんに変な風に認識されてしまった。

 どんな風にかと言えば、

 

「これから博士の事は、まず君に相談させてもらおう。頼むよ」

 

 とイイ笑顔で言われるくらいだ。勘弁してくれ。

 そんな思い出がぎっしり詰まった博士の家で、俺と家主は何かの設計図が散乱している簡素なテーブルを挟んで向かい合い、これまた簡素なイスに腰を下ろして話をしていた。

 

「――――――という訳で、1日目は無事終了。一夏の奴、今頃部屋で寝てるんじゃないか?」

「アリーナでの特訓はカメラで見ていたけど、やり過ぎじゃないの? 幾らPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー=慣性制御)をコジマ粒子による擬似慣性制御エミュレートモードにして、機動力を落としていると言っても、第三世代機を越えているんだよ。仮想敵機にしてはレベルが高過ぎると思うな。それにいっくんが使っているのは訓練用ISの打鉄だよ」

「今の速度に慣らしておけば、BT(ブルーティアーズ)戦で戸惑う事も無いだろう。それに本人自身がやる気だからな」

「幾らやる気があるって言っても怪我はさせないでね。ちーちゃんはあれで心配性なんだから」

「シールドエネルギーは常にモニターしてあるから大丈夫。アリーナの設備を使えばすぐにエネルギーの補給が出来るから、うっかり攻撃し過ぎて絶対防御発動。生命維持モードにまでなるなんて事は無いよ」

「なら良いんだけど」

 

 博士が一息ついて紅茶を飲むのを見てふと思った。

 この紅茶、誰が入れたんだ?

 余りに自然に出されたから気にしないで飲んでたけど。

 

「なぁ、この紅茶って誰が入れたんだ?」

「この家には私しかいないんだよ。私以外の誰が入れるのかな?」

「いや、博士がこういうのを入れる姿が想像出来なくて」

「酷いな。何事にも気分転換は必要だよ。1人分入れるのも2人分入れるのも同じさ。でもティーパックを考えた人は偉大な発明をしたね。お湯を入れるだけでお茶が飲めるなんて便利だよ」

「言われてみれば確かにそうだな。ああ、それを言うならカップラーメンとかレトルト食品とかもだな」

 

 自分でも物凄くどうでもいい話をしているとは思うが、博士が楽しそうに話しているんで、ついつい話し込んでしまう。

 軍用レーションは不味いのが定番だと言えば、最近は多少、味も考慮されるようになっているとか。

 多分軍事分野にも、女性の社会進出が進んでいるせいだろう。

 そして気付けば、既に22時を回りそうになっていた。

 

「もうこんな時間か。そろそろ戻るかな」

「泊まっていってもいいんだよ」

「魅力的な提案だけど、何かあるとしたら向こうの方が狙われ易い」

 

 すると博士はとても分かり易くワザとらしく、ヨヨヨと泣き崩れて、

 

「薙原は私を見捨てるんだね」

 

 と遊んでいる。

 

「言ってろ。GA製AF(アームズフォート)、グレートウォールの装甲技術を流用しているこの家以上に、安全な場所なんて無いだろう」

「うん。家を建てる時にちょっとだけデータを公開したけど、みんな驚いてたね」

「ネクスト級兵器、その最大火力ですら突破不可能な装甲だ。それをどうにかしようとするなら、博士が敵を招き入れるか、博士自身が外に出るかのどちらかしかないんだから」

「うん。だから、ちーちゃんと箒ちゃん。あといっくんの事、よろしくね」

「任された。じゃぁお休み」

 

 そう言って俺は博士の家を後にしたんだが、部屋に戻る前に、第二アリーナ前で意外な人物と出会った。

 

「セシリア・オルコット?」

「薙原晶、何故ここにいますの?」

「野暮用の帰りだ。そっちこそ、何故ここに?」

「アリーナから出てきた人間に、かける言葉ではありませんわね」

「それもそうか。トレーニングご苦労様」

 

 特に話す事も無いので、そのまま離れようとする。

 が、

 

「随分余裕ですこと。私は貴方に模擬戦を申し込んだのですよ」

「一夏に勝ったら受けると答えたはずだが?」

「素人に、この私が負けるはずないでしょう!! 完璧な形で勝利して貴方を引きずり出して差し上げますわ」

「そうか。楽しみにしている」

 

 そうして離れようとするが、また声をかけられた。

 

「お待ちなさい」

「何だよ」

「1つ、質問に答えてくれませんか」

「ものによる」

「大丈夫です。今回の事についてですから。――――――なぜ、素人を私にぶつけたのですか? あれから随分と考えましたが、その理由が分かりません。代表候補生たる私と、ISに触れ始めたばかりの素人。誰がどう考えても実力差は歴然としています。貴方が、両者の実力を比較出来ない無能とも思えません。故に分からないのです。何故ですか?」

 

 原作で一夏が戦った相手だからと言うのは論外として、どう答えようか?

 しばし思考する。

 まぁ、本当の事を話す必要も無い。

 相手が納得出来そうな理由を話せばいいか。

 完全に嘘という訳でも無いし。

 

「立ち話もなんだ。歩きながら話そうか」

 

 そう言って、2人で寮に向かいながら俺は話し出した。

 

「お前なら分かってくれると思うけど、ISが出る局面というのは、大体の場合において最終局面。すなわち、絶対に負けてはいけないという場面が殆どだ。プレッシャーにならないはずが無い。敗北は自分だけの問題じゃないんだからな」

 

 頷くセシリアを見て、更に続ける。

 

「俺がお前に求めたのは難しい事じゃない。強力な敵である事。それだけだ。これから先、あいつが自分より強い敵と戦った時に今回の事を思い出して、『あの時に比べれば大した事無い』そう奮い立てるくらいに強力な敵としてあってくれれば良い」

「・・・・・貴方では、駄目なんですか?」

「駄目な訳じゃないんだけどな。先に、あいつに鍛えて欲しいと言われたから、今は先生役なんだ。だからだよ」

 

 言い終えると、セシリアはプイと横を向いてしまった。

 気分を悪くさせてしまったか?

 

「そ、そのような期待のされ方なら悪くはありませんわね。―――ええ、分かりましたわ。私は織斑一夏に対する強力な敵として立ち塞がりましょう。そして、全身全霊全力で持ってお相手しますわ」

「分かってくれて嬉しいよ」

 

 どうやら上手くいったみたいだ。

 内心で安堵していると、予想外の言葉が。

 

「でも、友達思いなのですね」

「ん?」

「だってそうじゃありませんか。自分で特訓相手を務めるだけでなく、先の事を考えて敵まで用意しておくなんて、友達思いじゃなきゃ出来ませんわ。初めて話した時は噂話など信用ならないと思いましたが、そうでも無いのですね」

 

 真顔でそんな事を言われると、少々気恥ずかしいものがある。

 だが折角の言葉だ。素直に受け取っておこう。

 そうして話終えて寮へ戻った俺達2人だったが、意外な事に最後の難敵が待ち構えていた。

 

「「お、織斑先生」」

 

 2人の声がハモる。

 しまった。

 織斑千冬って、確か一年の寮長じゃなかったか?

 すっかり忘れてた。

 

「そういえば言ってなかったな。私は一年の寮長も兼任している。しかし前代未聞だな。入学初日で門限破りとは。しかも2人揃って正面から堂々と帰ってくるとは。何か言う事はあるか」

 

 すると隣のセシリアが、堂々と言い始めた。

 

「一週間後の模擬戦に向けて第二アリーナで特訓していましたの。で、帰ろうとしたところで薙原さんと会ったので、一緒に帰ってきたところですわ」

「では薙原は何をしていたんだ?」

「博士のところで色々と話を。その後はセシリアさんの言った通り」

 

 嘘をつく理由も無いのでありのままを話すと、はぁ、と溜息をつかれた。

 

「お前達が色々と熱心なのは分かった。本来なら十分な説教の後に厳罰のところだが、今回はその熱心さに免じて許してやる。いいか。今回だけだぞ。以後、時間には十分に気をつけるように」

 

 意外と温情のある対応に内心驚いていると、それを見透かしたかのように織斑先生は続けた。

 

「教師として、生徒のやる気を汲んでの事だ。嘘の1つでもついてくれれば厳罰にしたんだが、アリーナ管理部門、保安部門それぞれから聞いていた話と矛盾が無かったからな。だがもう一度言っておく。二度目は無いぞ」

 

 どう考えても門限の事を忘れていたこちらが悪いので素直に謝っておく。

 セシリアも同じように謝って、2人揃って寮内へ。

 

「いきなりやっちゃったな」

「ええ。全くですわ。訓練に熱中し過ぎて時間を忘れるなんて」

「頑張れよ」

「必ず引きずり出して差し上げますわ」

 

 そう言ってお互い笑顔で分かれる。

 こうして、俺の学園生活初日は終わるのだった。

 

 

 

 第14話に続く

 

 

 



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第14話 一夏VSセシリア

 

 ――――――IS学園第三アリーナ観客席

 

「ここ、いいかな?」

「あ、ショウ。いいよ」

 

 (薙原晶)は授業が終わった後、第三アリーナに足を運んでいた。

 そこでシャルロットを見かけたので、隣に腰を下ろす。

 今日は一夏とセシリアの模擬戦が行われる日。

 周囲を見渡せば、どうやら今日のイベントの事は、一年生全体に広がっていたみたいだ。

 埋まっている観客席の数が、明らかに1組の人数よりも多い。

 

「どう見る?」

「本人の筋も良いし、出来るだけ教え込んだけど、やっぱり厳しいと思うな。何よりセシリアは本気だよ。一体何を言ったのさ」

「特に何も。ただ侮辱の意味で一夏をぶつけたんじゃなくて、目的があってぶつけたって話したら納得してくれたくらいかな」

「ちなみに目的って?」

「これから先あいつが強敵と戦った時、『あの時に比べれば大した事無い』そう思えるくらいに強力な敵であって欲しいと言っただけだ」

「・・・・・ねぇショウ」

「ん?」

「煽ったね? まだ同じクラスになって一週間しか経ってないけど、セシリアの性格でそんな言葉をかけられたら絶対やる気だすよ」

「だろうな。でも一夏にとってもその方が良いんじゃないかな。慢心した相手と戦うよりも、相手が全力で戦ってくれた方が、得るものは多い」

「それは確かにそうだし、君とボクとの訓練を耐え抜いた今なら瞬殺される事はないだろうけど、でもそれだけだよ。勝てる訳じゃない。何より性能の差が絶望的過ぎる。第三世代と訓練用ISじゃ」

「ギリギリで専用機の白式が間に合った。性能差はある程度何とかなるだろう」

 

 ちなみに白式の方に、俺は一切タッチしていない。

 完全に原作通りの性能だ。

 

「それでも厳しいと思うよ。ショウも一緒に訓練していたから分かるでしょ。一夏の適性は完全にクロスからショートレンジ。対してセシリアはミドルからロングレンジ。下手したら一方的に撃たれて終わりだよ」

「逆に言えば、踏み込んでしまえば一方的にやれる訳だ。そろそろ始まるな」

 

 視線をアリーナに向ければ、丁度一夏が灰色のIS、白式を纏って出てきたところだった。

 やはりフォーマットとフィッティングは終わってないか。

 そうして始まる模擬戦。

 ここで俺は、セシリアの本気の意味を知る。

 

「ビットと機体の同時制御だと!?」

 

 そう。原作で一夏につかれた弱点。

 ビット制御時に機動が止まるという弱点が見当たらない。

 クロスレンジでも同じように出来るかどうかまでは分からないが、少なくともミドル、ロングレンジでは完璧にやってのけている。

 これは厳しいぞ。

 あえてこの弱点を一夏に教えていなくて良かった。

 下手に教えていたら、本当に瞬殺されかねなかった。

 それほどの猛攻。

 あえて敵の視界内に数機のビットを配置。注意を引き寄せ、残りのビットを死角に配置して攻撃。

 これだけでも厄介なのに、更にスナイパーライフルで狙撃なんて。

 彼女は俺に宣言した通り、自身の弱点をこの短い期間で克服し、全身全霊全力でもって倒しにきた。

 だが一夏も負けていない。

 ビット攻撃の雨を紙一重で避け、本当に当たってはいけない本命の攻撃は、ブレードで防ぐ。弾く。エネルギーシールドを削らせない。

 予想以上の攻防に、アリーナがヒートアップしていく。

 だがこのままでは勝てないぞ。

 

「問題は、どこで仕掛けるかだね。このままだとジリ貧だよ」

 

 隣に座るシャルロットも同じ事を思ったようだった。

 

「ああ。どこで瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って踏み込むか、だな。いや、セシリアの奴、もしかしたら誘っているのか?」

 

 ビットの配置が微妙に変化している。

 ランダム配置のパターンの1つと言われてしまえばそれまでだが、さっきまでは一夏との間にビットを配置し、一直線に行けないようにしていた。

 それが今は、

 

「・・・・・本当だ。少しだけ道を空けている」

 

 シャルロットも気付いたようだ。

 この少しだけというのが厄介だ。

 完全に空けてしまえば誘いだと感づかれる。完全に閉じてしまえば相手はそれをこじ開けようと、油断無く慢心無く攻略を考える。

 だが、少しだけなら。

 もしかしたらという思考が、相手の無茶を誘発する。

 

「・・・・・セシリアって意外と良い奴だな」

「どうしたの、急に」

「俺が言った事を、本当にやろうとしてくれている」

「『あの時に比べれば大した事無い』っていうくらい、強力な敵になってくれっていう話のこと?」

「ああ。懐に誘い込んで、勝ったと思わせた瞬間に叩く気だろうよ。遠距離型に、白兵型が最も得意とするクロスレンジで負ける。こんな心が折れる負け方はそうない」

 

 話している間に一夏が動いた。

 誘いに――――――乗った。勝負に出たか!!

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)の煌きが、白式を瞬く間にトップスピードへ。

 途中にあったビットをすれ違い様に両断。爆発の輝きを背に突き進む。

 ここから先は、俺の予想を楽に越えていた。

 セシリア、スナイパーライフルを上空に放り投げ一言。

 

「インターセプター!!」

 

 右手に集まる量子の輝き。顕現するのはショートブレード。

 ブレードを防いで一夏の動きを止めた瞬間、直上に展開していたビットの斉射。

 文字通り降り注ぐレーザーの雨。

 しかし一夏は、瞬時加速でもう一回加速。最小限の被弾で攻撃範囲を離脱。

 ここで、まるで映像を巻き戻したかのようにショートブレードが手の中から消え、放り投げられていたスナイパーライフルが手の中に戻ってくる。

 

「終わりですわ!!」

 

 放たれる閃光。

 全力で離脱し、体勢を崩している一夏に避ける術は無い。

 着弾。更に直上に展開していたビットによる追い討ち。温存していたであろうミサイルもここで発射。

 BT(ブルーティアーズ)の全火力が容赦無く叩き込まれる。

 静まり返るアリーナ。

 誰もが終わったと思った中、セシリアは未だ戦闘態勢を解いていない。

 

「まさか煙に紛れて不意打ちなど、紳士にあるまじき行いはいたしませんわよね?」

「戦いの最中、終わる前に油断する方が悪いって教わったからね。隙があれば行く気だったよ」

「この私が、そのような無様を晒すとお思いですか?」

「いいや。流石代表候補生だと思ってたところだ」

 

 一夏を包んでいた煙が晴れていく。

 そこにはフォーマットとフィッティングを終えて純白の白となり、本来の性能を発揮出来るようになった白式をまとう一夏の姿が。

 

「まさか・・・・・第一形態(ファーストシフト)!? 貴方今まで、初期設定だけの機体で戦っていたっていうの!?」

「ああ」

 

 言葉少なく構えられたブレード(雪片弐型)

 その切っ先がセシリアに向けられる。

 

「俺は――――――勝つ!!」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 初期状態とは比べるべくもない圧倒的な突進力でもって、セシリアの領域を侵し切り裂いていく。

 

「くっ!!」

 

 初めて見せる焦りの表情。

 緊急展開されるビット。だが白式の突進力はそれを上回る。

 ライフルは間に合わないと判断したのか、放り投げられ、

 

「イ、インターセプ――――――」

「遅い!!」

 

 完全展開する前にブレード(雪片弐型)で手元から弾き飛ばされ、量子の光となって消えるショートブレード。

 ニノ太刀で大上段に構える一夏。避わせないと諦めたのか、恐怖に負けたのかは分からないが、目を閉じてしまったセシリア。

 観客の誰もが振り下ろす姿を想像し――――――裏切られた。

 

「負けを認めてくれ。決着はついた」

 

 喉元にブレード(雪片弐型)の切っ先を突きつけ降伏勧告。

 おいおい、格好良過ぎだろう。

 沈黙がアリーナを包み、負けを認めると同時に湧き上がる大歓声。

 ここで俺は席を立った。

 

「どうしたの?」

「約束通り全身全霊で戦ってくれた相手に礼を言いにいく。正直、想像以上だった」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ―――第三アリーナ、セシリア・オルコット控え室

 

 涙が止まらなかった。

 まさか、まさか負けるなんて!!

 自身の情けなさに、幾ら拭っても涙が滲んでくる。

 油断したつもりは無かったし、慢心したつもりも無い。

 でも結果は・・・・・敗北。

 あれだけ素人と罵った相手に、敗北。

 本当に、あまりの情けなさに涙が止まらない。

 そんな時に聞こえた、控え目なノック。

 今は誰の顔も見たくなかった。見せたくもなかった。

 淑女にあるまじき行いとは分かっていても無視した。

 でも、相手はそれを許してくれなかった。

 

「薙原だ。今回の件で礼を言いに来た」

 

 馬鹿にして!!

 扉を怒りに任せて開け放つ。

 

「礼!? 素人と罵った相手に負けた私を、笑いにきたのでしょう!!」

 

 廊下に声が響いても、情けないと分かっていても口は動き、醜い言葉を吐き続ける。

 

「強力な敵であって欲しいと貴方は言った。でも私は負けた!! 挙句、最後は降伏勧告までされて!! ISに触れ始めたばかりの素人に!! 笑いたければ笑えばいいわ!!」

「そんなつもりは毛頭無いし、誰にも言わせない」

「嘘だわ。内心では笑っているんでしょう?」

 

 俯く。顔を上げていられない。

 涙が落ちるのを止められない。

 すると彼は、背を向けてから口を開いた。

 

「・・・・・敵の事は、当然戦う前に調べ上げた。ビット制御と機体制御を同時に出来ない事。クロスレンジでの戦闘に不安がある事。圧倒的な狙撃技能のおかげで表面化しなかった弱点。覚えがあるだろう?」

 

 私は何も言わない。

 でも彼は勝手に続けていく。

 

「あいつの為にならないから、それらの弱点は教えなかった。でも始まってみればどうだ? それらの弱点が綺麗に消えてるじゃないか。それだけで、お前がこの一週間どれだけ努力したのかは見て取れる。俺の言葉通りに強力な敵であろうとしてくれた相手に、感謝こそすれ侮辱なんて出来るはずがない。だから、礼を言いに来た。ありがとう」

「・・・・・ずるい人。そんな風に言われたら、怒れませんわ」

 

 勝利以外で、こんな風に言われたのは初めてだと思う。

 

「まぁ、俺が言いたかったのはこれだけだ。疲れてるとこ悪かったな」

「お、お待ちなさい!!」

 

 片手を上げて、振り向きもせずに去って行こうとする彼を、反射的に呼び止めてしまう。

 そして、やっぱり彼は振り返らない。

 

「何かな?」

「そ、その――――――」

 

 用があって呼び止めた訳じゃないから、話なんてある訳が無い。

 でも何かを言おうとして必死に言葉を探して、閃く。

 

「そ、その、放課後のトレーニングというのはこれからも続けるのですか?」

「一夏がやる気の限りは続ける予定だ」

「なら私も参加して良いですか?」

 

 いつの間にか、涙は止まっていた。

 そしてようやく彼は振り返った。

 

「構わないが、急にどうしたんだ?」

「素人を一週間であれほどまでに鍛え上げたのです。それほどの指導が出来るなら、私にも得るものがあると思いますわ」

「俺だけの力じゃない。シャルロットが居たからこそ出来たんだ」

「フランスの代表候補生ですわね。御二人を見ていて思いましたけど、知り合いだったんですか?」

「ここに来る前に、ちょっと世話になった」

「ちょっと、ですか?」

「そう。ちょっとだ」

 

 それこそ嘘でしょう。口にこそ出さなかったが、セシリアは素直にそう思った。

 詳しい情報は機密のベールに包まれているが、ここに来る前に関わっていたなら、ちょっとであるはずが無い。

 少なくとも、仲良くなる程度の時間は一緒に過ごしたはずだ。

 何せ学園生活初日から、普通に話していたのだから。

 だけど彼は、私のそんな内心に気付きもせず、今度こそ立ち去って行く。

 しばらくその方向を何となしに眺めていると、後ろから声をかけられた。

 

「大丈夫か? オルコット」

 

 振り向くと、そこにいたのは織斑先生。

 何故ここに?

 

「何、気分転換の方法でも伝授しようと思って来たんだが、思ったほど落ち込んでいないな」

「ええ。挑発した相手に励まされてしまいました」

「ほう。姿が見えないと思ったら、そんな事をしていたのか。ちなみに、どんな風に励まされたんだ?」

「特別な事は何も。ただ、全力で戦ってくれてありがとうと、それだけですわ」

「・・・・・やる事にソツが無いな。そういうのは、そう出来るものじゃない」

「私も、そう思いますわ」

 

 もう一度、彼が去って行った方を見ていると、

 

「ああ、これだけは言っておこう」

 

 と織斑先生は私を振り向かせ、続く言葉を口にした。

 

「ビットと機体の同時制御。近接戦闘での対応。見事だった。しいて言えば初心者用の音声コールを使ったくらいだが、勝ちに拘った結果なら悪くは無い。今後は音声コールを使わないでも呼び出せるようにな」

 

 厳しい事で有名な先生からの、掛け値無しの褒め言葉。

 嬉しくないはずが無かった。

 

「は、はい!! ありがとうございます!!」

 

 こうして、私のIS学園での初の模擬戦は終わりました。

 黒星スタートというのは残念ですけれども、獲るものの多い一戦でしたわ。

 

 

 

 第15話に続く。

 

 

 



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第15話 緊急ミッション-1(前編)

 

 IS学園1年1組のクラス代表を決めるその日、(薙原晶)は学園に居なかった。

 事の発端は朝、丁度制服に着替えた時にかかってきた一本の電話にまで遡る。

 

「――――――薙原か? すぐに第三アリーナの管制室まで来て欲しい」

「織斑先生? 何ですか? 急に」

「用があるのは生徒のお前にじゃない。至急来てくれ」

 

 只ならぬ気配を感じた俺は、同じように準備していた一夏に、先に行っていて欲しいと告げ第三アリーナに急ぎ向かう。

 何だ? 何が起こっている?

 あの織斑千冬が生徒じゃない俺に用事?

 つまりネクスト戦力を必要としている?

 何が起きているんだ?

 まるで状況が分からないまま管制室に到着。

 中に入ると、そこにいるのは織斑先生だけでなく、明らかに学園とは関係無いと思われる男。

 年配だがスーツを綺麗に着こなしている姿は、古き良き紳士を連想させる。

 知らない相手なので、軽く目礼だけして、呼び出した本人と向かい合う。

 

「用件は何ですか?」

 

 目的が分からず警戒心が出てしまったのか、言葉が少し冷たくなってしまった。

 だがそれを咎める事もなく、別の言葉が返ってきた。

 

「薙原、極超音速下でのIS操縦の経験は?」

「あります」

 

 言葉少なく答えると、織斑先生は諦めたかのように言葉を続けた。

 

「・・・・・とりあえず、聞いて欲しい事がある。思うところはあるかもしれないが、まずは最後まで聞いて欲しい」

 

 管制室の大型モニターに、一機の飛行機が映し出された。

 

「これは現在、パリ-リオデジャネイロ間に就航している新型の超音速旅客機(SST)、コンコルドMKⅡ。これが今から1時間前、突如として操縦不能に陥った。幸い、通信系は生きているから状況を確認したところ、エンジンは最大出力で固定されたまま減速不可。オートパイロットからマニュアルへの切り替えも受け付けない。そしてオートパイロットの目的地はフランス首都、パリ」

 

 とりあえず頷く俺を見て、更に言葉が続く。

 

「仮に首都への直撃を許せば、甚大な被害が発生するのが確実な以上、撃墜もやむを得ないという事で、フランス軍は迎撃態勢を整えている」

 

 非常に嫌な予感。いや確信がするが、最後まで聞かない事には始まらない。先を促す。

 

「だが、出来る事なら乗客を助けたいそうだ」

「それで、何故俺を?」

 

 一応尋ねておく。

 他の誰かに出来そうな事なら、俺がやる必要なんて無い。

 

「助ける為には、お前の力が必要なんだ。救出作戦は立ててあるが、それにはどうあっても接触する必要がある。だが、コンコルドMKⅡの最大速度は時速2300km。フランスに配備されているラファール・リヴァイヴで出せる速度じゃない。仮に全エネルギーを推力に振り分け、後の事を一切考えなくても出せない速度なんだ」

 

 確かにそうだろう。

 原作にあった第三世代IS“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”。異様な高性能を誇ったあれですら最高速度は時速2450km程度。

 第二世代でしかないラファールに出せる速度じゃない。

 

「だが、お前のISは違うそうだな。入学時に専用機のデータは提出されているが、それすらもリミッターがかかったものだというじゃないか」

「・・・・・」

 

 俺が沈黙していると、今まで黙っていた年配の男が口を開いた。

 

「貴方が危惧しているのは、束博士の事ですね」

「あなたは?」

「申し送れました。私、在日フランス大使のオーランド・リッカーと申します」

 

 紳士らしく一礼した彼は、そのまま言葉を続ける。

 

「博士のガーディアンを勤める貴方がここを離れるというのが、どれほどの意味を持つのかは重々承知しているつもりです。ですがどうか、罪の無い一般人を助ける為にその力を振るっては頂けませんか」

 

 さて・・・・・どうする?

 世間一般の道理で言うなら助けるのが普通だろう。

 だが、罠の可能性をどうしても否定出来ない。単純な暴力の類のものならそのまま粉砕してやればいいが、謀略の類ならそうはいかない。やり手の奴なら、こちらが動いた時点で詰みの状況を作り出す事も出来るだろう。

 しかしここで動かなかった場合、助ける手段があったにも関わらず見捨てたという事になる。

 その事実を公表されて困るのは俺だけじゃない。博士にも迷惑がかかる。自分だけならまだしも、それは避けたい。

 更に考える。

 博士の方は、自宅にいる限りは安全だろう。

 GA製AF、グレートウォールの装甲技術が流用されているあの家を、物理的に破壊するのは至難の業だし、セキュリティシステムは束博士のお手製。事実上要塞と変わらない。

 例え地球の裏側にいたとしても、駆けつけるまでの時間は十二分に稼いでくれるだろう。

 

「分かった。が、幾つか言っておく事がある」

「薙原?」

 

 何を言うんだ? という表情の織斑先生。

 過激な事を言うつもりは無い。

 だがこういうのは、言葉にしておく必要があるだろう。

 俺にとっても、相手にとっても、お互いを知る指針になる。

 

「まず1つめ。俺は博士の安全を最優先する。2つめ。俺が出ている最中に、博士に対する何らかの敵対行動を発見した場合、すぐに知らせて欲しい。3つ目。ただ働きはしない。――――――以上だ」

「ふむ。君の立場からすれば、至極当然の話だね。分かった。本国にもそのように伝えよう。ただ、報酬をどれほど用意すればよいのかは、私では判断しかねる」

「3つめは、金そのものが目的じゃない。無闇にこういう話を持ち込まれると困るからだ」

「困っている誰かを助けられるのは、とても素晴らしい事だと思うのだがね」

「俺もそう思うが、世の中には他人の善意を踏みにじり、己の利益だけを追求する人間も多い」

「嫌な世の中だな。正しい事をするのにも、他人を疑わねばならんとは。――――――これ以上は時間が惜しい。ミス・織斑。彼に救出作戦の説明を」

 

 大使は俺との話を打ち切り、説明の邪魔にならないよう後ろに下がった。

 すると織斑先生が手元のコンソールを操作。

 大型モニターに表示されていたコンコルドMKⅡの映像が、設計図のものに切り替わり、両翼に埋め込まれるように設置されているエンジン部がズームアップされる。

 

「救出作戦は、内容自体は至ってシンプルだ。第一段階がエンジンの停止。第二段階がオートパイロットの物理的な隔離と、マニュアル操作の復活。第三段階で空港へ着陸。このうち薙原が関わるのは第一段階のエンジン停止のみ。第二、第三段階は中のパイロットにやってもらう」

 

 無言で頷き、先を促す。

 

「第一段階のエンジン停止だが、コクピットからの操作を受け付けないのなら、直接止めてしまえば良い。という訳で、ここ―――」

 

 大型モニターにズームアップされているエンジン部。その横側が小さく点滅する。

 

「エンジン横にある整備用パネルを直接操作して止める。これはエンジンと直接繋がっている部分だから、操作を受け付けないという事は無いはずだ。次にオートパイロットの物理的隔離だが、これは回線そのものを切断し、操縦系統に介入出来ないようにする事で行う。そして設計上は、これでマニュアル操作が行えるようになるが、同時に以後、一切電子制御の恩恵を受けられなくなる」

 

 今度はコクピット部がズームアップされ、操縦席の足元にある回線が点滅する。

 

「そして最後の着陸だが、一切電子制御の恩恵を受けられないフルマニュアル制御での着陸だ。最悪の事態は十分に考えられる。すぐに救出活動を行えるように、スタンバイしていて欲しい」

「了解した。が、気になる点が1つある」

「なんだ」

「設計図を見るに、両翼のエンジンを停止させるには、それぞれの整備用パネルを操作する必要があるように見える。最大加速状態の超音速旅客機(SST)、そのエンジンを片方ずつ止めた場合、推力バランスが崩れて機体に悪影響が出たりしないのか?」

「パイロットからの情報では、推力同調システムは生きているそうだ。それは最大加速状態で飛べているという現状から考えても間違いない。その辺りの制御が死んでいたら、真っ直ぐ飛ぶなど不可能だからな。よって片方を止めれば、もう片方も止まるはずだ」

 

 なるほど。そこは大丈夫か。

 となれば、やはり問題は着陸時。どうすれば安全に着陸出来る?

 電子制御が使えない以上、エンジンも使えない。仮に動かせたとしても、一度暴走したエンジンなんて危なくて使えない。

 つまり着陸チャンスは一回のみ。

 どうすれば良い? 何か安全に着陸出来る方法は無いか? せめて2人いれば両サイドから支えて・・・・・ん?

 ふと、閃く。

 なぜ1人でやらなきゃいけないんだ?

 呼ばれたのは俺1人だが、2人でやっちゃいけないとは言われていない。

 そんな機密作戦でもない。

 頭の中で急速に作戦が組み上がっていく。

 必要なのは2つ。

 一緒に来てくれる仲間と、通常ISを時速2300km以上にまで加速させ、同行させる手段。

 行くのが俺だけなら何も問題は無い。

 OB(オーバード・ブースター)起動時の巡航速度は4000kmオーバー。すぐに追いつけるだろう。

 が、僚機が一緒となると事情が変わってくる。

 別々に飛んだら絶対についてこれないし、OB(オーバード・ブースター)を使う以上、背中に背負うのも不可能。両腕で抱えたり、手を繋いでの加速も論外だ。

 抱えてしまえば、抱えたISが持つ本来の加速性能をこちらが妨げてしまう上に、こっちにとっても加速の邪魔にしかならない。手を繋ぐのも、元々の加速性能が違いすぎて負担にしかならない。

 だがあの装備があれば。

 コアネットワークを使い、博士にコンタクト。

 

(博士。突然すまないが、いいかな?)

(本当に突然だね。どうしたの?)

(ヴァンガード・オーバード・ブースター(VOB)という言葉に聞き覚えはあるかな?)

(メモリーにあったね。ネクスト用強襲装備の大型ブースターでしょう? ちょっと単純な作りで面白くなかったけど、君の最大加速限界を調べる為に必要だったから、一応作ってあるよ)

(流石だ博士!! すぐに用意して欲しい)

(どうしたの?)

 

 首をかしげるような博士の返事に、俺は持ち込まれた話を手短に説明した。

 

(ふぅ~ん。なるほどね。分かったよ。準備しておくから、用意が出来たら来てね)

(分かった)

 

 後は一緒に来てくれる仲間だが、悩むまでも無い。

 こういう事態だ。

 最強の人を選べば良い。

 

「織斑先生。作戦について提案が」

「何だ」

「第三段階での安全を確保する為に僚機を連れていきたい。着陸時、俺と僚機で両サイドから支えて機体の安定を図る」

「僚機を連れて行くのは構わないが、連れて行く手段が無いぞ。更に言えば、それには相当の腕が必要だ」

「連れて行く手段はこちらで用意する。そして僚機だが、お――――――」

 

 織斑先生と言おうとして、ふと束博士の事を思い出した。

 あの人は何故、俺をここに送り込んだ?

 この人を危険に晒さない為じゃないか。それなのに危険な場所に連れて行くなんて本末転倒もいいとこだろう。

 なら誰が良い?

 最高の実力者(織斑千冬)を連れていけないなら、誰を代わりに・・・・・そうだ!!

 

「――――――1つ確認したい。山田先生の実力は、信用に足りますか?」

「山田君か? 勿論だとも。普段の様子からでは信じられないかもしれないが、仮に私が僚機を選べと言われたら、真っ先に指名する」

「なら、山田先生を連れて行きたい。仕事があるとは思うが、事態が事態なだけに許可して欲しい」

「勿論だ。人命がかかっているなら否は無い。――――――ああ、私だ。至急第三アリーナIS格納庫に向かってくれ。いつも使っている教員用ラファールを立ち上げておく。授業? 今日のは全て中止だ。自習でもさせておけ。いや、後から私が連絡する。一刻も早く来て欲しい」

 

 織斑先生は快く返事をしてくれた後、山田先生を呼び出しながら手元のコンソールを操作。

 IS格納庫にある教員用のラファール・リヴァイヴを起動させていく。

 

「ではこちらも準備に入るので、山田先生への説明を頼みたい」

「分かった」

 

 俺は踵を返し、急ぎ管制室を後にする。

 時間が無いというのもあるが、本心はこれ以上の演技が辛かったからだ。

 何でこんな話が俺のところに来る!!

 最大加速状態の超音速旅客機(SST)に接触してエンジンを止める? 何の冗談だ!!

 何でも無いことのように話していたけど、それがどれだけ危険だと思っているんだ。

 速度調整に失敗して少しでも超音速旅客機(SST)を傷つけたら、傷つけた部分に発生した空気抵抗や衝撃波が機体をあっという間に破壊してしまう。

 自分がミスをすれば、一瞬で乗客全員が死んでしまう。

 それが途轍もなく怖い。足が震えそうになる。

 だが、俺が手を出さなくても乗客は全員死ぬ。でも、やれば助けられるかもしれない。

 思わず歯軋りをしてしまう。

 チクショウ!! こんな話、他の誰かが出来るなら、他の誰かにやらせるのに。

 状況的に俺にしか出来ない。それが分かるだけに性質が悪い。

 なら、やらざる得ないし、やるしかないだろう。断っても、何も良い事なんてないんだから。

 恐怖に震える心を、そうやって無理矢理押し殺し、俺は装備を取りに束博士の元へ向かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 (山田真耶)が第三アリーナIS格納庫に着くと、織斑先生にいきなりIS用アンダースーツを渡されました。

 

「急にどうしたんですか?」

「まずは着替えてくれ。そして時間が無いから、着替えながら聞いて欲しい」

 

 そうして着替えながら聞かされた話は、正直信じられないものでした。

 束博士の護衛を勤めるはずの薙原君と、操縦不可能となった超音速旅客機(SST)の救出作戦。

 

「・・・・・冗談、ではないんですね」

「ああ。救出作戦も、薙原が君を僚機に指名したのも」

「何故、私なんでしょうか? 私より上手い人は幾らでも・・・・・。それに私、代表候補生止まりだったんですよ」

「そう自分を卑下するな。君が他人を傷つけるのが苦手な事は良く知っている。だが今回は救出だ。傷つける訳じゃない。だから候補生にして、代表を凌ぐとまで言われたその操縦技術を存分に見せつけてこい。昔、何時だったか言っていたな。平和の為にISを使いたいと。今がその時だ」

「織斑先生・・・・」

 

 心が軽くなるのを感じる。やっぱりこの人は凄い。

 同じ教師だけど、この人の言葉は、何て言うのか重みが違う。

 どれだけ弱気になっていても、力強く引き上げてくれる強さがある。

 

「作戦情報を転送する――――――詳細を確認してくれ」

 

 濃い緑で塗装されたラファールを装着した私の脳内に、作戦情報が展開されていく。

 ハイパーセンサーに代表されるこの一連の思考制御システムは、こういう時に便利です。

 本当なら長々と説明を受けなければならないものを、一瞬で理解させてくれますから。

 

「――――――確認しました。あれ? 装備が指定されていますね。工作用の特殊装備? ああ、特殊鋼製のロープとかネットとかありましたね。確かに今回は使えそうです。後は・・・・・移動手段が不明ですね。この機体じゃ、予定速度まで出せませんよ」

「手段は用意すると言っていた。しかし本当に規格外。いや次世代か」

「入学時に提出されたデータ。あれすらもリミッターがかかったものだなんて、正直信じられません。だって、あれですら第三世代のスペックを軽く凌駕しているんですよ。それだけでも凄いのに、他の機体を抱えて超音速旅客機(SST)に追いつく手段があるなんて」

「・・・・・そうだな」

 

 織斑先生は浮かない顔をしています。

 どうしたんでしょうか? らしくない態度です。

 作戦に不安があるならハッキリ言うと思いますし、別に気になる事があるんでしょうか?

 

「あいつは、これからどうなるんだろうな」

 

 問いかけではないみたいですが、そのまま聞いています。

 この人がこういう事を言うのは、珍しいですから。

 

「あいつは束の護衛だ。だから気付いていないのかもしれない。いや、気付いていたとしてもどうにも出来ない。今狙われるとしたら、束よりもあいつなんだ。・・・・・わりと有名な話だが、束は身内以外は殆ど気にかけない。なのにあいつの事は気にかけている。知っているか? 束の帰属問題が出て、IS学園に住む事になって以降、あいつへの面会申し込み件数が恐ろしい事になっているんだ」

「どうしてですか?」

「雲隠れしようとした束を、あいつが説得してしまったからだよ。以来、あいつと接触しようという馬鹿が多い。全て学園側で止めているがな。今回の一件だって、あいつ以外に解決出来る方法があるなら、話を通す気はなかった」

 

 確かに最近、事務さんが随分と疲れた顔をしていました。

 一日中電話が鳴って大変だって。そういう事だったんですね。

 

「だからな、山田君。作戦の成功・失敗に関わらず、終了後はすぐに奴を連れて戻って来て欲しい。あいつが束の傍を離れているというだけで、余計な事を考える輩が必ず出てくる。そいつらが行動を起す前に」

「分かりました。任せて下さい」

 

 丁度その時、薙原君から通信が入りました。

 準備が出来たので、アリーナ上空にまで上がってきて欲しいと。

 

 

 

 第16話 緊急ミッション-1(後編)に続く。

 

 

 



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第16話 緊急ミッション-1(後編)

 

 ―――SYSTEM CHECK START

    →HEAD:063AN02・・・・・・・・OK

    →CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・OK

    →ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・OK

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK

    

    →R ARM UNIT  :-

    →L ARM UNIT  :-

    →R BACK UNIT  :050ANR(レーダー)・・・・OK

    →L BACK UNIT  :050ANR(レーダー)・・・・OK

    →SHOULDER UNIT :EUPHORIA(シールド強化装置)・・・OK

    →R HANGER UNIT :EB-O600(レーザーブレード)・・・・OK

    →L HANGER UNIT :PG02-DENEB(パルスガン)・・・OK

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA・・・・・OK

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・OK

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・OK

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

 

 ―――VANGUARD OVERED BOOST

    →MAIN BOOST-1・・・・OK

    →MAIN BOOST-2・・・・OK

    →MAIN BOOST-3・・・・OK

    →MAIN BOOST-4・・・・OK

    →MAIN BOOST-5・・・・OK

    →SUB BOOST-1 ・・・・OK

    →SUB BOOST-2 ・・・・OK

    →SUB BOOST-3 ・・・・OK

    →SUB BOOST-4 ・・・・OK

    →SUB BOOST-5 ・・・・OK

    →SUB BOOST-6 ・・・・OK

    →SUB BOOST-7 ・・・・OK

    →SUB BOOST-8 ・・・・OK

 

 ―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR

 

 (薙原晶)の脳内に、自己診断プログラムの結果が流れていく。

 流石は束博士。

 一度もマッチングをしていないのに、完璧な調整が施されている。

 ここは博士の自宅。その研究室の一角。

 台座の上に固定されている大型外付けブースター(VOB)に、背中からドッキングしている俺に、博士が声をかけてきた。

 

「薙原、いい。このブースターはちゃんと動くけど、拡張領域(パススロット)へ格納する際のアルゴリズムが最適化されていないんだ。だからパージしたら、そのまま自壊するようにセットしてある。パージタイミングに気をつけて」

「分かった。行ってくる」

「無理しちゃ駄目だよ。貴重な話し相手がいなくなるのは困るからね」

「貴重な?」

「常識過ぎる発想に囚われないって意味」

「常識人のつもりなんだけどな?」

「本当にそうなら、世の中もっと面白いんだけどね」

 

 そう言って博士が手元のスイッチを押すと、天井の隔壁が一枚づつ開いていく。

 と同時に俺が立っている台座がリフトアップ。

 隔壁が開き、良く晴れた空が見えるシャフトを昇っていく。

 その最中、VOBに起動コマンド。

 

 ―――VOB待機(アイドリング)モードへ移行。

 

 程よいレスポンスで脳裏にメッセージが返ってくると、低い起動音と僅かな振動が、背中から伝わってくる。

 更にコマンドを送り、PICをコジマ粒子による擬似慣性制御エミュレートモードから、IS本来の慣性制御モードに切り替え。

 リフトアップが完了し、外に出た俺の両足が大地から離れる。

 だが、まだVOBは待機(アイドリング)モードのまま。

 ゆっくりと大地を離れ、ネクストともISとも思えないような、ノロノロとした速度で第三アリーナ上空へ向かう。

 先に連絡しておいたので、濃い緑色のラファールに身を包んだ山田先生は、既に待機していた。

 

「それが、私を連れて行く手段ですか?」

 

 あまりに巨大なブースターを背負い、ノロノロと進む姿に不安を覚えたのだろうか。

 少し疑わしそうな目をしている。

 まぁこんな大げさな、全長4mもあるようなデカイものを背負っていれば、そう思うか。

 VOBの形は、ACFAと殆ど変わらない。中央に一際大きな大口径ブースター。それを取り囲むように配置された4つの中口径ブースター。

 そして各所に配置された8つの小口径ブースター。唯一違うのは、上面に捕まる為の取っ手と、足を乗せる為の台座、そして身体を固定する為の器具が追加されているくらいだ。

 

「ああ。これが手段だ。とりあえず上に乗ってくれ」

「え、ええ」

 

 そう言われた山田先生はVOB上面に乗り、うつ伏せになった。

 

「作戦情報で確認していると思いますが、“本当に”しっかりと固定して下さい。万一振り落とされたらラファールじゃ追いつけないし、こっちも回収するのに時間がかかりますから」

「大丈夫。しっかりと固定してますから」

 

 センサーで後ろを確認すると、確かにしっかりと固定していた。

 うん。これなら大丈夫だろう。

 思わず視線が押し潰されている2つの丸くて大きいものに吸い寄せられそうになるが、今は我慢。

 こんな状況じゃなければ、じっくり見たんだけどなぁ。残念。

 これから先は、流石にそんな余裕は無い。

 宇宙で出した速度よりは遅くなるが、大気っていう邪魔物がある中での加速だ。気が抜けないだろう。

 

「そうか。じゃぁ、行くぞ」

 

 機体本体のブースターを使い、IS学園から離れつつ高度2万mまで上昇。

 ここまで上がれば、地上の心配はしなくていい。

 

「あの、随分ゆっくりしてますけど、大丈夫なんですか?」

「大丈夫。――――――最後に確認しておきたい。問題は?」

「システムオールクリア。固定も万全。問題無し」

「じゃぁ・・・・・始めるか」

 

 エネルギーシールドを前方に鋭く長く尖った円錐状に、馬上槍のように形成。大気を切り裂く刃とする。

 更にPICの制御範囲を、後ろにいる山田先生も含めるように再設定。これから出す速度は、ラファールの性能限界を突破しているから、万一の事態にそなえての安全策だ。

 そして最後に、VOBにシフトアップをコマンド。

 

 ―――VOB巡航(クルーズ)モードへ移行。

 

 無機質なメッセージが脳内を流れると、背後から甲高い機械音が聞こえてきた。

 背中に圧倒的な推力を感じさせる、力強い圧力がかかり始め、通常のISではありえない加速力を持って進み始める。

 速度計の数値が一気に跳ね上がり、僅か数秒で時速5000kmを突破。

 

「こ、これは!! 凄いですね」

 

 後ろから声が聞こえる。

 だが、まだ先がある。

 更にシフトアップをコマンド。

 

 ―――VOB戦闘(コンバット)モードへ移行。

 

 加速は更に続き、数秒後には時速6000kmに突入。

 全てが一瞬のうちに遥か彼方後方へ流れ、遠くに見える雲すらも、瞬きする間に目の前に迫る。

 まるで世界の中で、自分だけが動いているような感覚。

 そして、最後のシフトアップをコマンド。

 

 ―――VOB最大出力(マックス)モードへ移行。

 

 前方に円錐状に展開しているエネルギーシールドが、大気摩擦により、飛行開始から僅か十数秒しか経っていないにも関わらず、赤熱化を始める。

 その様は、文字通り一筋の閃光。あらゆるものを置き去りし空を駆ける。

 作戦目標である超音速旅客機(SST)を目指して。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「見えました!!」

「ああ。ようやく捉えた」

 

 (薙原晶)の背中に装着されている大型の外付けブースターに捕まること、約1時間15分。

 北アフリカ西北端の国モロッコから、北大西洋へと抜けた洋上で、目的の超音速旅客機(SST)を発見しました。

 

「一度超音速旅客機(SST)の前に出てから減速。速度を合わせる」

「分かりました」

 

 ここからパリまでは約2050km。超音速旅客機(SST)なら一時間とかからない距離です。

 その間にエンジンを止めて、内部で回路を切断してもらい、着陸可能な速度にまで減速してもらう。

 トラブルが無ければ間に合うと思いますけど・・・・・この嫌な感じは一体?

 いえ、気にしても仕方ありません。まずは仕事に取り掛かりましょう。

 生徒の前で無様な姿は見せられませんから。

 彼が見事な旋回機動で超音速旅客機(SST)との並行軌道に入り、そのまま一度前に出た後に減速を開始する間、私は超音速旅客機(SST)のパイロットに連絡。これからの手順を確認しておきます。

 そうして確認が終わったところで、彼はピタリと右翼中央に設置されているエンジン部、しかも私の手が整備用パネルに届く位置という絶好の位置にポジショニング。

 凄い。この速度で完璧に合わせてくるなんて。

 私も負けていられない。

 そう自分を奮い立たせて、機体を傷つけないように細心の注意を払いながら整備用パネルをオープン。

 

「え?」

 

 一瞬、自分の目を疑ってしまいました。

 でも何度瞬きしても、ハイパーセンサーで確認しても、間違いありません。

 

「どうした?」

「パネルが、パネルが壊れてるんです!!」

「なっ!!!! なら反対側だ」

 

 すぐに彼は軌道修正。左翼エンジン部にポジション。

 でも、

 

「こっ、こっちもです」

「チッ、一度離れる」

 

 彼は接触を避ける為、すぐに超音速旅客機(SST)から離れました。

 これでは最悪の可能性が。何か、何か方法は・・・・そうです!!

 

「薙原君。もう一度左翼にアプローチして下さい。燃料タンクを手動で開けて燃料を放出。エンジンを自然停止させます」

「なるほど!!」

 

 見事なアプローチのおかげで左、そして右側のタンクもすぐに開けられました。

 でも、これだけでは足りません。

 燃料が全て放出されてエンジンが停止するまでの時間と減速時間、そして回路の切断と空港への進入経路の調整。

 全部含めて考えたら、多分間に合わない。

 すると、

 

「なぁ先生。オートパイロットってのは、自動的に目的地に行く為の機能だよな?」

「え、ええ」

 

 こんな状況で何を?

 質問の意図が分かりません。

 

「なら進路が狂えば、当然オートで進路調整はするよな」

「ええ」

「エンジン停止までの時間と減速時間を考えたら間に合わないよな」

「ええ」

「ならちょっと・・・・・いや大分危険だけどやりたい事がある」

「この際、助ける手段があるなら手を尽くすべきでしょう」

 

 そうして彼が語った手段は、確かに危険極まりない事でした。

 意図的に超音速旅客機(SST)と接触して進路を狂わせる。

 そうして暴走したオートパイロットに進路調整を繰り返させ、燃料を浪費させる。

 イメージとしては並走している車同士の接触でしょうか。

 でも難易度は桁違いです。

 下手に傷つけたら、そのまま空中分解しかねない。

 

「どうする? 俺にはこれ以上の方法が見つからない」

「・・・・・やりましょう。私にも、それ以上の方法が見つかりません」

 

 本当は物凄く怖いです。帰りたいです。でもやらなければ、助けられません。

 そして他に助けられる人はいないんです。

 

「・・・・・」

「どうしたんですか?」

「意外だ。一応話したが、断られると思ってた」

「仮に断っていたら、どうしました?」

「代案が無いなら、振り落として1人でやった」

 

 ・・・・・薙原君は、どうやら酷い生徒みたいです。

 優等生のふりをして安心させて、いざとなったらポイですか。こんな海の真ん中で。

 帰ったら授業でレポート倍増に、私のお手伝いの刑です。

 放課後のトレーニング? 知りません。教師に向かって堂々とポイ捨て宣言なんて許しません。

 でもそれは、全ては帰ってからです。

 今は助ける事だけを考えましょう。

 

「考えているアプローチ方法は?」

「機体右側に並走、コクピット横で左に90度ロール。頭を機体側に向けて先生に押してもらう」

「私が、機体と薙原君の間でクッションの役割をすればいいんですね」

「そうだ。それで大西洋側に進路変更させる」

「分かりました。頑張りましょうね」

「勿論だ」

 

 アプローチする間に、またパイロットに連絡。

 多分機体が揺れるだろうから、乗客にもしっかりと対ショック姿勢をとってもらうように話す。

 

「じゃぁ、行くぞ」

「ええ!!」

 

 私は身体の固定を緩めて、ある程度身体が動くようにします。

 そして90度ロール。接触。

 慎重に。慎重に機体を押します。進路を僅かでもずらせれば、それだけ燃料を多く浪費させられる。

 でも焦ってはいけない。汗が止まらなくても、口の中がカラカラになっても、力加減を間違ってはいけない。

 機体を傷つけたら、全てが終わってしまう。

 そうしてどれほど時間が経ったでしょうか?

 

「先生!! この辺で大丈夫だ!! 離れるぞ」

 

 視界に表示されているMAPを確認すると、当初の予定コースから大幅にずれています。

 この速度で超音速旅客機(SST)がパリへ向かうなら、大幅な遠回りになるから、燃料が空になるのは間違いない。

 やりました!!

 

「どうにかなったか」

「ええ。やりましたね。後は―――」

「ああ、後は着陸だけだ」

 

 この後、超音速旅客機(SST)が十分に減速したところで私は単独飛行を開始。

 彼はそれと同時に、外付けの大型ブースターをパージ。

 予め打ち合わせておいた両サイドにそれぞれ移動し、着陸に備えました。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ―――フランス。ナント・アトランティック国際空港

 

 滑走路には万一の事態に備え、多くの消防車や救急車が既に待機していた。

 そしてレスキュー隊員や居合わせた旅行客達は、こちらを、固唾を呑んで見守っている。

 (薙原晶)はそんな光景を遠くに見ながら、コンコルドMKⅡを挟んで、反対側にいる山田先生に通信を開いた。

 

「なぁ先生」

「なんですか?」

 

 思っていた通り声が硬い。

 本当は多分、逆なんだろうな。そんな事を思いながら言葉を続ける。

 

「物凄くどうでも良い事だけどさ。今日授業に出ていない分の単位ってどうなるのかな?」

「え?」

「いや。だから単位。ほら、俺一応今学生だしさ。休んだ分はどうなるのかなと思って」

「え、ああ。そうですね。やっぱり補習になってしまうと思います。疎かにして良い授業っていうのはありませんから」

「そこ、何とかならないかな? 今回のは仕方無い事態だと思うんだ。なら、何か思いやりのある対応をしてくれても良いと思うんだけど」

「そうですね。今日の動きを見ていれば、実技の単位はあげても良いと思うんですけど・・・・・流石に座学まではあげられません。幸い今日休んだ分の授業は、私と織斑先生の担当ですから、補習はすぐにしてあげられると思いますよ」

「残念。座学もくれたらよかったのに」

 

 しかし、考えてみれば美人教師と2人きりで補習っていうのは美味しいな。うん。

 そう思った俺だったが、さっきの『ポイ捨て』宣言のおかげでレポートが倍増され、そんなシチュエーションを楽しむ余裕なんて欠片も無くなるとは、この時は思ってもいなかった。

 

「世の中、そんなに甘くありませんよ」

「甘くないから、たまに甘いのが欲しくなるんだよ」

「それを教師に求めるのは間違いです。教師は辛いのやすっぱいのしかあげません」

「どんなスパルタだよそれは。たまには甘いのもくれ」

 

 そんな馬鹿話をしていると、山田先生の声が柔らかくなってきた。

 緊張も少しは解れたかな?

 遠くに見えていた滑走路が近付いてくると、コンコルドMKⅡのパイロットから通信が入った。

 

『これからアプローチに入る。よろしく頼む』

『任された。安心して行ってくれ』

『はい。安心して降りて下さい』

 

 コンコルドMKⅡのランディングギアが降り、空気抵抗で更に減速を開始。

 もう後戻りは出来ない。

 天候は無風・快晴で視界良好という最高のもの。

 徐々に高度が下がり、滑走路が近付いてくる。

 タッチダウンまで残り5m・・・4m・・・3m・・・2m・・・。

 行けるか? そう思った時、風が吹いた。

 

「向かい風!?」

 

 突如として、突風とも言える向かい風が吹き、コンコルドMKⅡの巨体がフワリと浮く。

 俺と山田先生は即座に機体を両側から掴み安定させ、パイロットは突然の事態にも冷静に機体をコントロール。

 全てが奇跡的に上手く噛み合い、無事にタッチダウン。

 だが、機体が浮いて前進した分、今度は滑走路の長さが足りなくなった。このままだとオーバーラン。最悪で横転だ。

 

「ったく、次から次へと!!」

「本当にですね!!」

 

 俺と山田先生はコンコルドMKⅡの正面へ出て、2人揃って前から押してブレーキをかける。

 ここまでやったんだ。死人も怪我人も、1人だって出してたまるか!!

 だが、徐々に滑走路の終端が迫る。

 しかも力加減が難しくてブースターを全開に出来ない。

 止めるだけなら出力を全開にすれば良いが、ただの飛行機でしかないコンコルドMKⅡが、どこまで正面からの加重に耐えられるのかが分からない。もし加重限界を越えて機体を破壊してしまったら、それこそ悪夢だ。

 更に近付いてくる終端。募るもどかしさ。

 そんな中、刹那の閃きが脳内を走る。

 正面から押すのが駄目なら、後ろに引っ張ったら?

 ドラッグレースやスペースシャトルは、後ろに減速用パラシュートがついている。

 アレみたいにやったら? 後ろに引っ張るなら、小難しい事は考えなくて良い。

 機体のフレームが引きちぎれない限り、乗客は安全なはずだ。よし!!

 

「山田先生。確か工作用の装備には、特殊鋼製のロープがあったはずですね」

「あるけど、この状況じゃ――――――」

「使えます。ロープで後ろから引っ張るんですよ」

「え?」

「前から押したら、力加減が難しくて“NEXT”の全力を出せない。でも後ろに引っ張るなら、気兼ねなく全力でやれる」

「分かりました」

 

 2人同時にコンコルドMKⅡの正面から離れて後ろに回る。

 そして山田先生は、ラファールの固定兵装兼ハードポイントでもある盾。その裏側に装備されているアンカーロープを、コンコルドMKⅡの後部へと打ち込んだ。

 

「よし、ちゃんと機体フレームに食いつきました。これでちょっとやそっとじゃ外れません」

「流石先生だ!!」

 

 すかさず俺はロープを掴み、ブースター出力をシフトアップ。

 滑走路の終端が、すぐそこまで迫ってきている。

 だが、もうオーバーランなど有り得ない。

 ネクストISの圧倒的推力が、超音速旅客機(SST)という巨体を減速させていく。

 自分でも現実離れした光景だと思うが、多分見ている人達はもっとそう思っているだろう。

 脳裏の片隅で、不謹慎にもそんな事を思っている間に、コンコルドMKⅡは更にその速度を減じ、無事に停止する。

 こうして(薙原晶)は、山田先生の協力もあって、無事に依頼を遂行する事ができた。

 でもこれが、今後どういう影響を及ぼすのかは、正直考えたくなかった。

 とりあえず。今はゆっくり休みたい・・・・・疲れたよ。

 

 

 

 第17話に続く。

 

 

 



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第17話 帰還

 

 超音速旅客機(SST)救出作戦の翌日、(薙原晶)はIS学園に戻ってきていた。

 正直、相当な引き止めがあると思っていたんだが、山田先生が頑張ってくれたお蔭で、何事も無く無事に帰ってくる事ができた。

 何せ俺が疲れたと言って休んでいる間に、帰る為のモロモロの手配やマスコミへの対応まで、全部やってくれたんだ。本人も疲れていたはずなのに、随分と面倒臭い事を押し付けてしまった。

 一応礼は言っておいたが、今度、菓子でも包んで持っていこう。

 そんな事を思いながら学校に向かっていると、同じように登校していた他の生徒達が俺に気付いたようだった。

 

「あ、薙原くん。戻ってきたんだ。おかえり」

「テレビ見たよ。凄かったね!!」

「怖くなかった? 緊張しなかった?」

 

 次々と浴びせられる言葉に答えながら、皆でゾロゾロと教室に向かう。

 その途中、誰かがこんな事を言った。

 

「あ~、でも残念だね。薙原君がクラス代表になってれば、間違いなく全戦全勝だったのに」

「いや、元々辞退する気だったから気にしてないよ。それにほら、今回みたいな事があると、場合によってはクラス代表の仕事を放り出さなきゃならなくなる。他に迷惑かけそうだから、別の人にして正解だよ。ところで、誰がなったのかな?」

「一夏さんだよ。セシリアさんとシャルロットさんを押す声もあったんだけど、セシリアさんは『1対1で負けましたから』って言って、シャルロットさんは『せっかく男の人がいるんだし』って言って、譲っちゃったんだよね」

 

 予想通りの流れだった。

 そのまま皆に囲まれながら教室まで行くと、一夏を挟んで箒とセシリアが話をしていた。

 おっと。イキナリ修羅場か?

 と期待したのも束の間、一夏がこちらに気付いて来てしまったので、続きを見れなかった。残念。

 そして安堵の表情が見えるあたり、丁度良く来た俺をダシにして逃げてきたな。

 送り返すのも面白そうだけど、流石にそれは可哀想だろう。

 

「おはよう一夏。聞いたよ。クラス代表決定おめでとう」

「ありがとう。でも本当ならお前が良いって言ったんだけどな。千冬姉がお前以外の誰かにしろって言い出してさ」

「妥当な判断だよ。俺がなると多分、色々な問題が出てくると思うから」

 

 本当は『思うから』では無く、確実に出てくるから、辞退する気だったんだ。

 何せクラス代表になってしまえば、色々な事をやる必要があるが、それだと原作キャラの成長機会を奪いかねない。それは、俺の望むところじゃないんだ。

 

「そっか。なら恥ずかしく無いように頑張らなきゃな。放課後、また頼むな」

「ああ、任さ――――――」

 

 続く言葉は、背後からの声に遮られた。

 

「薙原は昨日休んだ分の補習が入っている。人命救助だったので免除してやりたいところだが、一応ここは学校だからな」

 

 振り向けば、そこにいたのはいつも通りの黒いスーツを着た織斑先生。

 

「さあ、SHRを始めるぞ。みんな早く座れ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 放課後のトレーニングを終えた(シャルロット)とセシリア、そして一夏の3人で、日も沈みかけた夕暮れの中を歩いていると、校舎からショウが出てきたんだ。

 

「あ、ショウ。今終わったの?」

「あれ? お前達も今帰りか? こんな時間までやってたんだな」

「うん。少し熱がはいっちゃってね。そっちこそ、こんな時間まで補習だなんて大変だったね」

「まだ終わった訳じゃないんだ。これからレポートを書かなきゃいけない。織斑先生も山田先生も頑張り過ぎだろう」

「それはご愁傷様。大変だね。良い事をしてきたのに補習だなんて」

「全くだ。悪いな、トレーニングに付き合えなくて」

 

 何となく疲れたように答える姿が、いつものキリッとした雰囲気と違って、本人には悪いけど少しおかしかった。

 だって、世間一般で言われている彼のイメージは、本当にヒーローそのもの。

 特に昨日の超音速旅客機(SST)救出作戦の後、フランスでは凄かったみたいだ。

 そんな人が、自分達にこういう姿を見せてくれると思うと、信用されているみたいで嬉しくなる。

 でも入学してから思ったけど、ショウって友達とかには甘いところがあると思う。

 単純に優しいっていうだけじゃなくて、例えば一夏のトレーニング。

 本人は「頼まれたから」なんて言ってるけど、セシリア戦の前なんて、まだ一度も公開していないNEXT用のスナイパー装備まで使っていたんだ。

 只トレーニングに付き合うだけなら、ここまでする必要なんて無い。

 本人は「口外しないで欲しい」って言っていたけど、装備を使ったこと自体に意味がある。

 世界中が注目するNEXT。その装備データにどれほどの価値があるかを、彼が理解していないはずないんだから。

 そんな事を思っていると一夏が、

 

「なぁ晶、聞いてくれよ。この2人酷いんだぜ。2対1でよってたかって」

「あら、常に1対1で戦えるとは限らないでしょう? それに近接格闘戦しか選択肢のない貴方は、常に囲まれる事を意識しなければなりませんもの。今日のトレーニングは理に適ったものですわ」

「つまり、シャルロットが前衛。セシリア後衛VS一夏か?」

「そうだよ。厳し過ぎるって」

 

 トレーニング中は、こっちも思わず熱が入っちゃうくらい真剣にやっていたから、本気で言ってる訳じゃないと思う。

 一夏がワザとらしい困った表情をしながら肩をすくめると、ショウはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべた。

 

「なるほど。同じ理論なら、シャルロット・一夏コンビVSセシリアってのもありだな。遠距離型なら、近距離戦に持ち込まれた時の対応もやっておかないとな?」

「え!? ちょっとそれは、その・・・・・またの機会に」

 

 セシリアが面白いくらいにうろたえているところに、更に止めの言葉が。

 

「またの機会って事はやる気があるんだな? じゃぁ早い方がいい。明日の放課後やろう」

「そ、そんな。酷過ぎますわ。紳士のする事ではありませんわよ」

「敵が紳士とは限らないだろう?」

 

 ニヤニヤしながら答えるショウ。訂正。甘いだけじゃなくて、意外と意地悪だ。

 なんて事を思っていると、セシリアと視線が合う。嫌な予感。

 

「な、なら、私と一夏さんVSシャルロット戦というのもありですわよね?」

 

 ぼ、僕を巻き込む気!?

 

「なるほど。それも確かにありだな。特化型コンビVS万能型か。面白そうだ」

「ちょっと、ショウ? 本気?」

「本気も本気。明日は今の組み合わせで模擬戦でもやろうか」

 

 幾ら僕が高速切替(ラピッド・スイッチ)で、近距離から遠距離まで対応出来ると言ってもそれは厳しいよ。

 ビット兵器に囲まれた中で近接戦闘なんて、考えただけでも目眩がしそうだ。

 なんて思っていると、もう一回セシリアと視線が合った。

 

 ―――1人だけ楽はさせませんわよ。

 

 ―――こっちこそ。明日は覚えていてね。

 

 アイコンタクト終了。

 とっても心が通じ合った気がしたけど、何か残念な気がしたのは多分気のせいじゃないと思う。

 こういうのは、出来ればもっと感動的なシチュエーションがいいな。

 ふと頭に浮かんだのは、ショウが束博士と一緒に、合同演習艦隊の前に姿を表した時の事。

 NEXTの両腕に抱き抱えられた博士の、あの安心しきった表情。何も言わなくても、通じ合ってるという雰囲気があった。

 出来れば僕も、あんな風に・・・・・。

 頭の中で束博士を自分に置き換えていると、急にコアネットワークのプライベートチャンネルで声をかけられた。

 

(シャルロットさん。顔が緩んでますわよ。何を考えていらっしゃるのかしら?)

(え? ええ!? そ、そんなにおかしな顔してた? 変じゃなかった?)

(それはもう緩みきった、だらしの無い顔をしていましたわ。幸い、男連中は別の話をしていて気付かなかったようですけれども)

(よ、良かった。ありがとうセシリア)

(どういたしまして。で、何を考えていましたの?)

(えっと・・・・・)

 

 本当の事を言うのは恥ずかし過ぎる。でも、嘘を言うのも酷い気がする。

 だから自分の妄想だけを言わないで、後は正直に、ショウが合同演習艦隊の前に現れた時の事を思い出していたって話したんだ。

 そしたら、

 

(――――――なるほど。頭の中で束博士を自分に置き換えていましたのね)

 

 なんてピンポイントで言ってきたんだ。

 

(そ、そんな事無いよ。ある訳無いじゃないか)

(あら、無理されなくても宜しいですわ。あの緩みきった顔と、話の内容を考えれば容易く想像できますもの。大方、本当の事を言うのは恥ずかしいけど、嘘はつきたくない。そんな考えからでしょう?)

 

 余りにも鋭すぎる指摘に何も言えないでいると、セシリアは「ハァ」と小さく溜息をついて更に続けた。

 

(そんな妄想が出来るくらいですから、さぞかしロマンチックな出会いだったんでしょうね。私も経験してみたいですわ)

(ロマンチックだなんて、そんな事無いよ)

(まさか、本当にそう思っていますの? 傷ついた騎士とそれを助ける乙女。誰しもあこがれるような話ですわ。――――――ここに来るまでは、どうせ都合良く誇張された話だろうと思っていましたけど、どうやら全くの誇張という訳でもなさそうですし)

 

 一瞬、セシリアの視線がショウに向けられた時、思わずチャンスって思っちゃったのは、決して僕が意地悪だからじゃないと思う。

 だってね。自分の事だけ言われるのは悔しいじゃないか。

 それにプライドの高いセシリアが自分から「全くの誇張という訳でもなさそう」なんて言ったんだ。

 何かあったと思うのが普通だよね?

 そんな自己弁護をしながら聞き返してみる。

 

(ふぅ~ん。全くの誇張という訳でもない、ね。何があったのかな? そういえばセシリアが放課後のトレーニングに加わったのって、一夏に負けてからだよね? 確かあの時ショウはセシリアの所に行っていたなぁ)

(きゅ、急に何を言い出すのですか?)

(確かショウは、「全身全霊で戦ってくれた相手に礼を言いにいく」って言ってたんだ。何か嬉しい事でも言われたのかな? とっても興味あるな、僕)

(た、大した事は言われていませんわ。ただ、その・・・・・)

 

 口ごもるセシリアの顔がどんどん赤くなっていく。

 あれ? もしかして本当に何かあったの?

 

(そ、その・・・・・努力を認めてもらっただけですわ。ええ、それだけですとも。挑戦者である私の事を調べ上げたら、対戦時には弱点が消えていたから、お前が努力した事は誰よりも俺が認めていると。そう言われただけですわ。ええ、それ以外は何もありませんでしたとも)

(本当にそれだけ?)

(・・・・・も、勿論ですわ)

 

 何となく視線を逸らすセシリア。

 駄目だよそんな事したら。何かあるって言ってるようなものじゃないか。

 

(本当の本当に?)

(あ、後は・・・・・・・・・・悔しくて泣いていた時の涙を見ないでくれた事だけ。本当にこれだけですわ)

(・・・・・えっと、見ないでって。どうやって?)

(その、背中を向けてですわ。でも私の言葉はちゃんと聞いてくれて)

 

 いつの間にか、一歩前に進んで仲良く話をしている男組み。

 その片方に改めて視線を向けながら、聞いた状況をイメージしてみると・・・・・。

 

(・・・・・ねぇセシリア。十分にロマンチックな、なんていうか映画みたいな状況じゃないかな。それ)

(ま、まぁ否定はしませんわ。優しい言葉だけなら幾らでも吐ける優男はいますけど、ああいう行動を取れる殿方は中々、ね)

 

 三度、視線がぶつかる。

 

 ―――これから、頑張ろうね。

 

 ―――そうですわね。

 

 アイコンタクト終了。

 こういうのって、良いよね。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 部屋に戻った(織斑一夏)は、今更だけど気になった事を、机に向かっていた晶に尋ねてみた。

 

「なぁ、1つ聞いていいかな」

「ん?」

「いや、今更だけどさ。何で俺のトレーニングを引き受けてくれたんだ? お前なら他に、やりたい事もやれる事もあるんだろう?」

 

 肩越しに振り返っていた晶は、「ああ、その事か」って言いながら身体ごと向き直って答えてくれた。

 

「初めは単純に頼まれたからだな。俺の方が他人に教えた事なんて無かったから、断ろうかとも思ったけど、教えるのも良い経験になると思って受けたんだ。それが当初の理由」

「当初って事は今は違うのか」

「ああ。嫌な予測というか、推測が当たりそうなんでな」

 

 晶は手元にあったジュースを一口飲んでから続けた。

 

「実を言うと、超音速旅客機(SST)の一件。俺は動きたくなかったんだ」

「え!? 本気で言ってるのか?」

 

 予想外の言葉に、思わず聞き返してしまう。

 動きたくなかった? 見捨てる気だったのか!?

 

「ああ。本気も本気。他の誰かが出来る事なら、俺が動く必要なんて無い。そう考えていた。まぁ、結局俺にしか出来ない状況だったから動いたが」

「誰かを助けられるなら、それは良い事じゃないか。何でそんな風に考えるんだよ」

 

 晶の考えが信じられなくて、胸の中がグツグツと熱くなっていく。

 だけど、

 

「俺は博士の護衛だよ。動いている間に博士を狙われたらどうするんだ? 幾らNEXTが強くても万能じゃないんだ。離れている時に狙われたらどうしようもない」

「それは・・・・・確かにそうだけど」

 

 理由は分かったけど、納得は出来ない。

 あんなに強いのに、誰かを護れるだけの力があるのに。

 自然と、厳しい顔になってしまうのが自分でも分かった。

 

「そんなに怖い顔をするな。ここで理由の話に戻るが、俺がお前のトレーニングに付き合う理由は、離れている間ここを任せられるようにしたいと思ったからさ。勿論、1人でだなんては言わない。仲間と協力してさ」

「え?」

 

 また予想外の言葉。

 脳みそが、言葉を上手く飲み込んでくれない。

 

「一番即応性があるのは間違いなく専用機持ち。そいつが信用できてちゃんと戦える人間なら、少しは安心して離れられる」

「それって・・・・・」

「勿論、非常事態の際は先生方も動いてくれるだろう。だが、仮に俺が策謀を仕掛ける側なら、間違いなく博士の関係者である織斑先生や箒さんをターゲットにする。その時、一番近くにいるのは多分お前だ」

「俺に、人を護れって事か」

「そうだ。お前にとっては迷惑な話かもしれないが、俺がトレーニングに付き合うのはそういう理由からだ」

 

 かけられた余りの期待の大きさに、思わず足が震えそうになる。

 俺が、護る? 千冬姉や箒を? クラスメイトを? 他の人達を? 護れるのか?

 でも、こんな嬉しい事は無い。

 千冬姉には今まで迷惑をかけっ放しだったし、幼馴染を守れるなんて男名利に尽きる。

 そして他の人達も護れるようになる。

 昔夢見たものが、すぐそこにある。

 

「まさか!! そういう理由なら大歓迎だ。これからもビシビシ頼むぜ!!」

「ああ。俺が安心して離れられるようになってくれ」

 

 こんな風に言われて、奮い立たない奴は男じゃない。

 頑張るとも!!

 

 

 

 第18話に続く。

 

 

 



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第18話 蠢く悪意と姉の善意

 

 月の無い夜よりも尚暗い部屋の中、無機質な光沢を放つ円卓と、周囲に浮かぶ6つのモノリス。

 1から6までのナンバーが刻まれたモノリスの内、2と4のナンバーがほのかに光を放ち、存在感を示していた。

 

「――――――天才様にも困ったものだな。そっちの被害はどれくらいだ?」

「散々たる有様だ。被害は恐らく2億ドルを越える。そっちは?」

「更に酷い。研究用メインフレーム(コンピューター)に、通信用静止衛星。だが何より痛いのが、VTシステム関連が根こそぎやられた事だ。施設もデータも念入りに破壊してくれたよ」

「技術者が無事なら、どうにかならないか?」

「出来なくはないが、基礎データから念入りにやってくれたおかげで、再生産するならプロトタイプからデータを抜き出す必要がある」

「それは面倒だな。アレはもうドイツ機に組み込んでしまったんだろう? 今更抜き出すとなると手間だぞ」

「ああ。しかし、あんな直接的手段に出てくるとは、読み誤ったか」

「NEXTか?」

「幾つかのデータには目を通したが、化け物だな。流石天才自らが“次世代”と名付けただけはある」

 

 円卓中央の開いている空間に、大小様々なウィンドウが現れ、今まで計測された各種データが表示される。

 そのどれもが、既存ISを歯牙にもかけない圧倒的な数値を示していた。

 

「自らが、か? どこかで作られたという話らしいが?」

「まさか、そんな与太話を信じているのか? 世界への武力供給は全て我々が握っている。あんなものを作っていたなら、我々が気付かないはずが無い。それこそあの天才級の化け物でもない限り、隠し通すなど不可能だ」

「この席に座るもので、あんな話を信じているものなど誰もいないさ。アレは、間違いなく博士のオリジナルだろう。――――――ところで、超音速旅客機(SST)の一件は誰が仕組んだんだ?」

 

 声には、「お前だろう?」という確信に満ちた響きがあった。

 と同時に、ナンバー3のモノリスが存在感を現す。

 

「誰かしらね? まぁ、中々面白い見世物だったわ」

「そうだな。確かに中々面白い見世物だった。まさか大気圏内で時速7000kmオーバー叩き出すとはな」

「NEXT本体のデータは無理でも、あの大型外付けブースターのデータ位は手に入らないの? 海上でパージしていたから、残骸からデータが取れると思うけど?」

「やってないと思うか? 技術部の者が言っていたが、『ここまで芸術的な自壊処置は初めて見た』だそうだ。アレから拾えるデータは何も無い」

「本当? 何か隠してるんじゃないの?」

「なら後で貴様の所に送ってやる。残骸処理をしておいてくれ」

「お断りするわ。自分の所で処理して。――――――で、ソレを扱う当人については何か分かったの?」

 

 ナンバー5のモノリスが存在感を現す。

 

「・・・・・恐ろしい程何も分からなかった。初めてその活動が確認されるまで、何一つ痕跡が残されていない。コレが情報操作の結果だとしたら、恐ろしい手腕だな」

「全くか?」

「そう、全くだ」

 

 普通なら、それは無能と言われてもおかしくはない。

 だが、ここにいるメンバーにそれは当てはまらない。

 多くの超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)を牛耳るこのメンバーが調べられないという事は、“存在しない”と同義なのだ。

 つまり、彼の過去は本当に存在していないという事になる。

 

「へぇ、ならあの天才様は、自分好みの男でも作ったのかしら?」

「なるほど。それは面白い。クローニングか遺伝子改造かは知らないが、自分好みの男を作って護衛させてると? 流石天才。やる事が違う。好みの男がいないのなら、作ってしまえと。しかし調整が過ぎたんじゃないのか? 聞こえてくるヤツの姿は、ヒーロー過ぎる。女が好むような、『自分だけを見ている』ってタイプじゃないぞ」

「擬態だろう」

 

 ナンバー6のモノリスが存在感を現す。

 

「先日、フランス大使が奴と接触したが、その時はっきり言ったそうだ。博士を最優先すると。少なくとも、全てを自分でどうにか出来ると考えるような、愚か者では無さそうだ」

「ほう。まともに落ちれば相当な大惨事になったはずだが、それでもいざという時は切り捨てる気だったか。他には?」

「ただ働きはしない。そして、こういう話を無闇に持ち込まれるのは困ると言って、報酬を要求した。金額までは提示しなかったそうだが、それは相手が、命にどの程度の値段を付けるか見る為だろう」

「ただのヒーロー気取りでは無さそうだな」

「だが、ヒーロー気取りでないだけで、まだまだ甘い。超音速旅客機(SST)の一件では、結局出てきたからな」

「出てこなかったら?」

「そんなもの決まってるだろう。手段が有ったにも関わらず見捨てた。というところを最大限に使わせてもらったさ」

 

 そこで残っていた最後の1つ。

 ナンバー1のモノリスが存在感を現した。

 

「全員、揃っているな」

 

 たった一言。

 それだけで、円卓とモノリスしか存在しないはずの空間に、刃に触れているかのような緊張感が満ちる。

 

「既に色々と話していたようだが、今後の方針を決めよう。最高の頭脳(篠ノ之束)を手に入れる為にどうするかを」

 

 まず、鉄壁の要塞とも言える自宅への直接的な威力行使は、非現実的であると言えた。

 一部公開されているデータだけを見ても、突破には大規模破壊兵器級の破壊力が必要になる。

 IS学園という場所を考えれば取れる手段では無い。

 更に言えば、時間をかけてしまえば間違いなく、邪魔な存在(NEXT)が出てくる。

 短時間で自宅のセキュリティを突破し、既存ISをあらゆる点で上回る邪魔な存在(NEXT)の防衛及び追撃を振り切るなど、現実的な手段ではない。

 となれば超音速旅客機(SST)の一件にように、NEXTが動かざる得ない状況を作り上げると同時に、博士が自宅から出てくるように仕向けるしかない。

 問題はその為の方法だが・・・・・。

 

「まずは情報収集でどうかしら? 現状だと、私達の利益になる形で攻略出来ないわ」

「なら、どういった形で行う?」

「確か、二次調整が終了している無人ISが何機かあったわね。それを送り込んで様子を見てみましょう。その時の行動を分析すれば、博士の方はともかく、薙原と言ったかしら? そいつが周囲の人間にどの程度の価値を認めているかが分かるわ。それなりに価値を認めているなら、今後は私達が使ってあげればいい。認めていなくても、舞台を整える為の舞台装置くらいには使えるでしょう」

「お前らしい手段だ」

「褒め言葉だわ。――――――議長、如何ですか?」

 

 数瞬の沈黙が流れる。

 そして沈黙は、肯定の証。

 

「――――――特に否定する理由は見当たらない。やりたまえ。詳細は任せる」

 

 そう声が響くと、モノリスの光が次々と消えていき、最後にナンバー3だけが残った。

 

「さて、どの駒をどうやって利用させてもらおうかしら」

 

 そんな言葉を最後に、部屋は暗闇に閉ざされていった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 放課後、いつものトレーニングを終えた(薙原晶)が博士の自宅に向かうと、随分珍しい光景が見られた。

 

「んーーーー。どれにしよう? 箒ちゃん何が好きなのかな?」

 

 割と必死な感じで空中投影ディスプレイを凝視している。

 妹への贈り物でも選んでるのだろうか?

 そう思った俺は、こっそり後ろから覗いてみた。

 勿論、博士の事だからどんなキワモノを選んでいるのか気になったからだが、意外な事に結構マトモなものをチョイスしていた。

 帯、着物、茶器、日本刀等々。

 一部物騒なものもあるが、基本的に和風が好みの妹に合わせたラインナップだ。

 何でこんな普通のものを選んでいるのに、原作ではISが贈り物になったんだ? 流石に飛躍し過ぎだろう。

 そんな事を思っていると、

 

「ん~~~~~分かんないや。箒ちゃんなら何着ても何やっても似合いそうだけど・・・・・・喜んでくれるかな?」

 

 間違いなく似合うだろうし、喜んでくれると思うが、やっぱり博士も人の子だな。こういう事には不安になるか。

 そろそろ声をかけようとしたところで、パンッと博士が両手を合わせた。

 

「そうだ!! 私からの贈り物なんだからやっぱり――――――」

 

 キーボードに幾つかのコマンドが打ち込まれると、ディスプレイに設計図らしきものが表示された。

 多くの部分に空白があるが、概略図は原作知識にある紅椿にそっくりだ。

 

「――――――これなら箒ちゃんも喜んでくれるはず!! さっすが私、あったまいぃ~」

「いや、マズイだろ。ソレは」

「ぃひゃぁぁ!!」

 

 つい突っ込んでしまうと、かなりレアな光景が見られた。

 変な叫び声をあげて飛び上がって、挙句に足をぶつけて痛がって涙目の姿なんて、滅多に見られるものじゃない。

 笑いを抑え切れなくて、「クックック」と小さく笑ってしまっても仕方ないだろう。

 

「な、薙原。何時の間に?」

「ついさっき。随分と熱中していたから声を掛け辛くてな」

「お、驚かさないでよ!! 痛かったじゃないか」

「そんなつもりは全く無かったんだが、贈り物のチョイスが余りにも飛躍し過ぎていて、ついな」

「ISを贈る事の何処が飛躍し過ぎなのさ? 世界中の誰でもない。この篠ノ之束が唯一の妹への贈り物だよ。世界最高のものを贈りたいと思うのは当然じゃないか」

「その熱意は素晴らしいと思うが、どうせ博士が作るものだから規格外な代物だろう?」

「勿論!! 元々第三世代なんて通り越してたけど、箒ちゃんに贈る物ならネクスト技術も使っ――――――」

 

 最後まで話を聞く前に、思わず言葉を被せてしまった。

 

「ちょっと待て!! AMS適性の無い人間にネクスト技術を使ったら死ぬぞ」

 

 冗談でも何でもなく。本当の事だ。

 仮にAMS(=Allegory Manipulate System:脊髄や延髄を経て脳とACの統合制御体が直接データをやりとりをするマシン・生体制御システム)適性を持たない人間が、リンクスと同じことをしようとすれば即廃人だ。

 が、博士は「違う違う」と手を横に振って、

 

「使うのは、効率化されたエネルギー伝達系技術だけ。君にはインテリオル系の技術と言った方が分かり易いかな」

「ああ、なるほど。その辺の技術か」

「うん。流石に他の技術はAMSの使用を前提にしているだけあって、求められる基本的な精度が桁違いなんだ。下手にコンピューターで代用させようものなら、稼働中にフリーズなんて最悪な事になっちゃう」

 

 それでも、と内心で思う。

 改善される程度にもよるが、かなり凶悪な仕上がりになるのではないだろうか?

 

「インテリオル系の技術か。どれ位改善出来そうなんだ?」

「まだ基本データも出してないから分からないけど、多分3~4割くらい」

「・・・・・こいつの詳しいスペックは知らないが、仮に元の燃費が白式と同じだとしても。それだけ燃費が変われば随分違うぞ」

「この私が、箒ちゃんにプレゼントする機体だからね。どこに出しても恥ずかしくない物に仕上げて見せるよ」

 

 どうやら、もう完全にやる気のようだ。

 だが、先に作って欲しいものがあるので少し待ってもらおう。

 今日はこの為に来たんだからな。

 

「博士。テンションが上がってるところ悪いんだが、篠ノ之箒の為に作って欲しいものがある」

「その名前を出すって事は急ぎだね。何かな?」

「多分博士にしか作れないと思うんだが、ISのエネルギーシールドシステム。あれだけを独立させて腕輪とか指輪とかネックレスとか、そういうアクセサリーにする事は出来ないかな?」

「出来るけど、なんで? それだけを独立させたら、エネルギーはバッテリータイプになって使用制限が厳しくなるし、なにより危険があるならISを使えばいいじゃないか」

 

 本当に理由が分からないのか、首をかしげる博士。

 まぁ、多分科学者には分からない考えだよな。

 

「貴女が大事にしている人達が、貴女の手による強力な装備を持っているなんて、狙う側からすれば容易く想像できる事だ。だから、万一の時の為の保険が必要なんだよ」

「ISがあれば問題無いと思うけど? 防御力・機動力・攻撃力のどれをとっても世界最高のものなんだ。万一なんて――――――」

「あるんだよ」

 

 俺は博士の言葉を遮って続ける。

 

「強力な装備なら使わせなければ良い。例えばISの使用そのものを躊躇させるような状況を作り上げてしまえば、それだけで世界最高の性能は意味を成さなくなる」

「え?」

 

 驚きの言葉を他所に、更に話を続ける。

 正直、こんな話はある意味純粋な博士にはしたくはないんだが、保険を作れるのが本人しかいない以上は仕方が無い。

 

「例えば、一番安直な手段は人質だな。無関係の一般市民でも良いし、仲の良い友人でも良い。そういう人達を盾にISの解除を迫られた時、彼女は断れるかな?」

「それは・・・・・」

「迷ったって事が既に答えさ。そして、そんな時に確実に身を守れる手段が1つあるだけでも状況は随分と変わる。これが博士に頼んだ理由だよ。後は――――――」

 

 言葉にしようとして、ふと思い止まる。

 これ以上言う必要は無いだろう。

 

「――――――いや、何でもない。そういう訳で、身を守る手段が1つでも確保出来ていると、こっちとしても安心出来るんだ」

「それは分かったけど、今何を言おうとしたの?」

「いや、大した事じゃないんだ」

 

 本当のところは言いたくないので、何とか話を逸らそうとするが、どうやっても博士は「―――で、何を言おうとしたの?」と離れてくれない。

 事が彼女に関わるだけに、諦めるつもりは無いようだ。

 なので観念した俺は、

 

「さっき言ってた箒さんへの贈り物の話だが、いきなりワンオフのISを贈られても困るだろう。だからまずはアクセサリーみたいな小物でも贈って、久しぶりに話すところから始めたらどうかなと思っただけだ。それに――――――」

 

 一度言葉を区切ると、博士は「何?」と首をかしげる。

 

「――――――いきなりISなんて贈ったら、次は何を贈るつもりだ? 一番初めのインパクトが強すぎて、後の贈り物の有難味がなくなるじゃないか」

 

 と最もらしい言葉を吐いておく。

 いや、これも本心ではあるが、ISを先にプレゼントされたくない理由は別にあった。

 今しばらく、篠ノ之箒には只の生徒でいて貰わなくては困るのだ。

 なぜなら束博士オリジナルのワンオフ機。そんな専用機を持ってしまえば、どこの組織だって、表裏あらゆる手段を使っての性能調査や引き込み工作。或いは強奪を考えるに決まっている。

 そして専用機を相手にする気なら当然、無人ISの使用も含め、相応に入念な準備をしてくるだろう。

 困るんだ。そんな入念な準備をされては。

 だから侮ってもらう。篠ノ之箒は専用機を持たない只の生徒だと。

 それなら相手の警戒は、篠ノ之箒を襲った際の救出者は誰かという点に向く。

 こっちとしては、そう考えてもらった方が遥かにやり易い。

 更に言えば、専用機持ちは荒事があった際に真っ先に駆り出される。

 狙う側とすれば、只の生徒よりもずっと狙い易いだろう。

 一度戦場に引きずり出してさえしまえば、小娘1人どうとでも料理出来るからな。

 つまり下手に力を持たれるより、只の生徒でいてもらった方が安全なんだ。

 そして只の生徒でいられる間に、専用機持ちに相応しい実力をつけてもらう。

 いや、つけさせる。

 いつも通りの表情の下で、そんな事を考えていると博士は、

 

「ふぅ~ん。ねぇ薙原」

 

 スッ、と無造作に一歩踏み込んできて、いつも通りの笑顔で俺を下から見つめてくる。

 だが、目が笑っていない。

 

「箒ちゃんの安全に関わる事で、隠し事は許さないよ。確かに君の言った理由は理解できる。でも、そのアイテムを先にする理由にはならない。圧倒的な力が有効な防御手段足りえるのは、君が証明しているんだ。順番が逆なら、私も疑わなかったんだけどね」

 

 ・・・・・流石天才。いや、これは俺の交渉術が未熟なだけか。

 素直に観念して、本当の理由を話す事にした。

 箒さんを可愛がる博士にしてみれば酷い対応だろうから、逆鱗に触れそうな気がしてならない。

 何せこの方法は、IS操縦者にとって最高のステータスである専用機持ちに(限定的な期間とは言え)、させないと言ってるんだ。

 だが、話さなければ多分俺の命が危ない。

 そんな危機感を感じながら本当の理由を話していく。

 しかし、最後まで聞いた博士の対応は意外なものだった。

 

「――――――なるほど。あえてあげない事で護り易くして、護り易い間に実力をつけてもらって安全を図るんだね。その考えは無かったなぁ」

「・・・・・理解してくれて何よりだ」

 

 本当に、心の底からそう思っていると、

 

「でも薙原。何で初めからそう言ってくれなかったの? 君の言葉なんて丸っきり聞く耳持たないと思われたなら、私は悲しいよ」

「そんな事は無い。ただ・・・・・」

 

 最高のステータス(専用機)を、こっちの都合であげないというのは、博士(依頼主)に対する裏切りだっただろうか? 一言くらい相談しても良かったのでは?

 今更ながらに思うが、もう遅い。

 博士の言葉と気まずさに耐えられず顔を背けていると、柔らかい両手が頬に添えられ、さして強くないが、抗い難い強制力を持って前を向かされた。

 視界に入るのは、吐息が感じられる程に近い博士の顔。

 

「薙原。君が私の事をちゃんと考えてくれているのは知っている。私が包囲された時も、ここに住む事になった時も、君は私にはもったいないくらいの誠実さで答えてくれた。逃げるっていう手段しか無かった私に、大事な人達の傍にいられる道を示してくれた。それには感謝している。――――――そして今回も、箒ちゃんの事をちゃんと考えた上で、という事も分かってる。でも、箒ちゃんやちーちゃんの事を決める時は、私にも相談して欲しいんだ。気付かないうちに全てが終わっていたなんて、私はヤダよ」

「分かった。約束しよう」

 

 紛れも無い本心であろう言葉に、俺は彼女の片手に自分の手を合わせながらそう答える。

 そして、暫くそのまま見つめてしまっていた自分に気付くと、急に気恥ずかしくなってしまった。

 何をしているんだ俺は?

 美人にこんな事をされて見つめ返すなんて、どこぞのドラマじゃあるまいし。

 柔らかい手を少し名残惜しく思いながらも、一歩離れる。

 だが、見つめた時の表情と手の感触が妙に頭の中に残ってしまい、前を向けない。

 でも気になって、顔を背けながらもチラリとだけ視線を向けると、博士も少し頬を赤くして同じような事をしていた。

 そうして視線が合うと、お互い慌てて目を逸らす。

 結果、言葉に動揺が現れる。

 

「――――――は、話を戻そうか」

「う、うん。そうだね」

 

 しかし、悪い気はしない。

 

「箒さんへの贈り物はどうしようか?」

「ISの方は少しかかるから、君の言ってたエネルギーシールドを先にしよう。そっちなら予備パーツが幾つかあるから、そんなに時間はかからないと思う」

「そうか。なら、それで頼む」

 

 それっきり、お互い沈黙。何故かいつものように会話が続かない。

 何か、何か話す事はないだろうか?

 無意味に強化人間のスペックをフル活用して会話を探すが、何故かこういう時に限って良い話が見つからない。

 すると、

 

「な、薙原。最近、色々あって疲れたでしょう? 今日はもう帰ってゆっくりすると良いよ。それにほら、わ、私はこれから贈り物を作るから、ここにいてもする事ないしさ。ね」

「あ、ああ。そうだな。頼みごとをしたのに、邪魔しちゃ悪いもんな」

 

 多分、傍らから見たら奇妙な光景だったと思う。

 お互い顔を合わせようとしないのに、チラリチラリと相手の方を見ては、視線が合えばまた逸らす。

 その繰り返し。

 

「お・・・・・お休み!! たまにはゆっくり休むと良いよ」

「そ、そうだな。そっちもゆっくり休むと良い。お休み」

 

 まだ夕方だというのに、そして何の脈絡も無いおかしな会話。

 でもこの時、俺達はそんな事にすら気付けなかった。

 そして後日の話だが、2人だけの時の距離が以前よりも少し近くなっていたのは、多分気のせいじゃないと思う。

 

 

 

 第19話に続く

 

 

 



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第19話 進む準備

 

 束博士に小型エネルギーシールドの作成を依頼してから一週間後、出来たものを織斑先生経由で箒さんに渡すべく、(薙原晶)は盗聴対策が施されている面談室にいた。

 機密を扱う事もあるこの学園では、こういう対策が施された部屋にはこと欠かない。

 勿論入った際に、自分でも盗聴器の類が無いかはチェック済みだ。

 

「――――――と言う訳でこれと、博士からの手紙を箒さんに渡してもらえませんか。俺が直接渡すと、色々と変な噂が流れかねないので」

「分かった。有名人は大変だな。物1つ渡すのにも、気を配らないといけないだなんて」

「全くです」

 

 面談用の質素なテーブルを挟んで反対側のイスに座る織斑先生が、小さな箱を受け取りながら言った言葉に、肩を竦めながら答える。

 本当にヤレヤレな話だ。

 いつもメディアに出ている人達は、こんな面倒な思いをしてまで、どうして有名でいたいんだろうか?

 そんなどうでも良い事を考えながら時計を見れば、SHRまでもう少し時間があった。

 だがここでする事も無いので教室に戻ろうと席を立つと、「ちょっと待て」と引き止められ、再び席に座らされた。

 

「何ですか?」

「いや何、束の友人として聞きたい事があってな」

 

 ニヤリとした、ある意味で肉食獣のような笑みに、凄まじく嫌な予感を覚える。

 この時、すぐに逃げ出せば良かったと後から後悔する事になるが、もう遅かった。

 

「お前、束に何を言った? この前電話で話したが、まさかあいつからノロケ話を聞かされるとは、夢にも思わなかったぞ」

 

 直後、思わず表情が固まってしまった。

 は、博士。まさかあの時の事を話したのか?

 フラッシュバックする記憶。

 拙い。顔が赤くなっていくのが自分でもよく分かる。

 

「い・・・・・いや、別に何も・・・・・」

「ほう? 何も言っていないのに、あいつは私に一晩中ノロケ話を聞かせてくれた訳か? じゃぁ、束がピンチに陥った時『邪魔するものは全て粉砕してでも駆けつける』と言ったとか、家を建てる時も文句の1つも言わずに働いてくれたとか、自分の事だけじゃなくて箒の事もちゃんと考えてくれているとか、色々言ってたのは全部あいつの妄想か」

 

 ・・・・・織斑先生。俺に聞くまでも無く、殆ど聞いているんじゃないですか?

 そんな事を思いながら、頭の中の冷静な部分が、今の話には確認しておかなければならない点があるのを告げていた。

 まさか、カバーストーリーから外れるような事は話してないよな?

 だがそんな不安を、織斑先生は見透かしたかのように、

 

「安心しろ。細かいところは何も聞いていないし、言わせていないよ」

 

 と言ってきた。

 流石あの人の親友。その辺は弁えてくれているか。

 だが追撃の手は緩めてくれなかった。

 

「――――――で、他には何を言ったんだ? あいつがこんな事を言うなんて今まで無かったからな。親友としては是非とも聞いておきたい」

「黙秘権を行使させてもらう」

「認めん。洗いざらいキリキリ話せ。迷惑とまでは言わないが、今まであいつには随分苦労させられたからな。少し弄るネタくらいは提供しろ」

「俺が言うと思いますか?」

 

 織斑先生。今度は意地悪い笑み。

 

「薙原。交渉というのは、相手が言うのを待つんじゃなくて、言わせるように仕向けるのが基本だぞ」

「本当に基本ですね。でもそれは交渉材料があっての話でしょう」

「おや? 私が持っていないと思うか? お前との付き合いは短いが、あいつとの付き合いは子供の頃からだ。近くにいる人間としては、聞きたい話もあるんじゃないかな?」

 

 マズイ。手札の数が違いすぎる。

 これは、苦戦は免れないか?

 そんな事を考えている俺に、織斑先生、必殺の一撃(悪魔の誘惑)

 

「―――あいつの好きな物とか、知りたくないか?」

 

 ・・・・・普通ならここで折れるんだろうが、その時の勝ち誇った笑みに逆に反骨心を刺激されてしまった。

 いいだろう。

 こっちの話は出さないで、そっちの持つ情報だけ引き出してやる。

 使命感にも似た闘争心で、強敵(織斑千冬)を打倒するべく思考を巡らせる。

 

 ・・・・・しかしなんで朝から、こんな交渉人(ネゴシエーター)みたいな真似してるんだろう?

 

 そんなささやかな疑問は、とりあえず胸の奥底の深海にコンクリートで固めて沈めて置く事にした。

 気にしたら負けだよな。うん。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 面談室での舌戦をどうにか時間切れで逃げ切った(薙原晶)は、その後のSHRを聞き流しながら、ある考え事をしていた。

 篠ノ之箒の事だ。

 彼女を専用機持ちに相応しい実力者とするには、どうしたら良いだろうか?

 放課後のトレーニングに加えるというのは真っ先に考えたが、これだと聡い奴は何かあると勘繰るだろう。

 それにクラス内での立場もある。

 今のところ放課後のトレーニングを行っているのは専用機持ちだけ。そこに専用機持ちでない箒さんを加えてしまえば、他のクラスメイトは当然、「何故彼女だけ?」と思うだろう。そうなったら、下手をすればクラス内で孤立させてしまう。

 周囲に怪しまれずに鍛える方法か・・・・・何か無いだろうか?

 そんな事を考えている間に織斑先生が、

 

「――――――私からは以上だ。何かこの場で言う事のある者はいるか? いなければ――――――」

「先生」

 

 手を上げたのは出席番号1番、相川清香(あいかわ きよか)

 趣味がスポーツ観戦にジョギングという活動的なタイプで、ショートカットが似合う子だ。

 

「どうした?」

「練習用ISの打鉄(うちがね)は、何時になったら使えますか?」

「実習で基本的な事を教えてからだから、まだ少し先だな」

「そんなぁ~。もう少し早く使えるようになりませんか。先生」

「心配しなくても後からしっかり―――――――――なるほど、そういう事か」

 

 先生は腕を組んで数瞬考えた後、

 

「おい専用機持ちども。お前達がやっている放課後のトレーニングだが、人数が増えても問題無いか?」

 

 一夏、シャルロット、セシリアだけでなく、クラス全員の視線が俺に集まる。

 専用機持ちのレベルアップという点だけを見れば、他の面子を入れるのは大きなマイナスだろう。

 しかし、コミュニケーションや連携などを考えれば大きなプラスだ。

 そして何より、これを受け入れれば、篠ノ之箒を怪しまれる事なく鍛えられる。

 渡りに船とはまさにこの事か。

 

「――――――ええ。そろそろ次のステップに進もうかと考えていたので、丁度良かった。ただクラス全員でISを使ってしまうと、他のクラスに迷惑をかけてしまうので、チーム形式でやろうかと」

「ほう? どんなのを考えている?」

 

 だが、1つ確認しておかなければならない事があった。

 

「その前に――――――シャルロット、セシリア、一夏、他人に教えるのは大丈夫か?」

 

 この3人が他人に教えられないと、どうしようもない。

 まぁ正直、シャルロットについては全く心配していない。だが、セシリアと一夏については少し不安があった。

 なぜならセシリアは天才型であると同時に理論型。普通、いや大体の人間は小難しい理論を聞いたらそれを噛み砕いて理解しようとするが、セシリアは小難しい理論のままで理解出来てしまう。だから説明する時もやたらと難しい言葉が沢山出てくる。

 本職の技術者が相手なら、相手も理解出来るから悪くないんだが、初心者相手にその説明は厳しい。

 そして一夏。こっちはもっと単純で、放課後のトレーニングで一気に仕込んだ状態だから、他人に教えられるほど理解出来ているか分からないというだけの話だ。他人に教えるとなると、普段はフィーリングでやっている部分もちゃんと説明しないといけないからな。

 

「大丈夫だよ。ショウ」

「勿論、大丈夫ですわ」

「た、多分大丈夫かな」

 

 シャルロット、セシリア、一夏が順に答えてくれる。

 一夏はとても素直だ。大丈夫とは言っているが、少し不安があるんだろう。それが顔にも言葉にも出ていた。

 対しセシリアは自信満々。・・・・・不安だ。

 そんな事を考えながら、話を進める。

 

「―――では教える際の説明内容については、内容に過不足が無いか一度先生に見てもらうとして。基本動作を教えた後は、何人かでチームを組んでもらい、その中の1人がISに搭乗。何か競技種目を設定しておくので、それで試合をしてもらおうかと。複数回の試合を予定していますので、操縦者は毎回交代する事。そして勝ち抜いたチームには、専用機持ちと戦える又は競技できる権利を。細かい所は後で決めますが、大まかにはこんな感じでどうですか?」

 

 権利という部分で、クラスがざわつき始めた。

 

「なるほど。それは面白そうだな。権利を得たければ、競技内容にもよるが戦術も戦略も相手の分析も必要になってくる。ところで、戦う専用機持ちは選べるのか?」

「一番勝ち数の多いところは自由に。2位以下は予め専用機側で順番を決めてしまうという形にしようかと。その辺りは専用機組で相談です」

「中々面白そうじゃないか。薙原、後で詳しいプランを提出しろ」

「了解。なるべく早く持って行きます」

 

 こうして篠ノ之箒強化計画は、1年1組強化計画へと変貌。

 必然的に取り纏め役になった俺は、教育プランの策定から競技種目の設定まで色々やる事が増えて大変だったが、専用機組3人の協力もあって、どうにか人様に見せられそうなものを仕上げる事が出来た。

 本当。助かったよ。それっぽく振舞ってはいたが、こんな事やるのは初めてだからな。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 IS学園で1年1組強化計画が進んでいる頃、太平洋の海中深くを進む巨大な影があった。

 全長200m、全幅40mを越えるそれは、一般的には潜水艦と呼ばれるものだが、他のそれには無い幾つかの機能を有していた。

 その内の1つが、無人ISの運用母艦としての機能。

 故にその巨体の中にある整備用ハンガーには、凹凸の無い黒いボディとフルフェイス。極太で長い手足という、南極でNEXTと戦ったものと同タイプの機体がズラリと並んでいた。その数12。だが同じなのは外見のみで、新規パーツの導入により出力・反応速度・稼動時間などのあらゆる面において、初期生産型を上回るアップグレードモデルだった。

 

「――――――しかし、今回投入許可が下りたのは4機だったか?」

「はい。情報収集という目的のみを考えれば1機でも良いのでしょうが、それだとNEXTが動いた場合、情報収集を行う前に撃破される可能性が非常に高いという事で、複数機の投入となりました」

「妥当な判断だが、4機投入とは上も随分奮発したな」

「逆を言えば、それだけアレについての情報を集めたいのでしょう。ここで上手くやれば、良い事があるかもしれませんね」

「そうだな」

 

 それなりに付き合いの長い副官の言葉に短く答えた男は、ハンガーに並ぶ無人ISを眺めながら思う。

 

(上手く・・・・・か)

 

 正直なところ、作戦を決めかねていた。

 受けた命令は『薙原晶の非常時における行動情報の収集』。

 単純に、命令を遂行するだけなら簡単なのだ。

 1機をフルステルスで後方配置にし、情報収集に専念。残り3機を突入させて暴れさせれば良いが、まともに戦う必要なんて無い。

 AIの基本行動パターンを、常に人の多い場所に移動するようにセットしてやれば良い。

 それだけで、NEXTが持つ圧倒的な火力や機動力を封じられる。

 何せアレに装備されている数々の兵器は、いずれも既存ISを遥かに上回る性能を示している。

 余波だけで人体など紙屑のように容易く引き裂くだろうし、超高速機動時に放たれるソニックウェーブはそれ自体が凶器だ。

 他の人間を大事と思うなら迷いを見せるだろうし、そうでないなら、それも情報の1つだ。

 だがこれには、幾つか見過ごせない欠点があった。

 それはオープンスペースを使うという関係上、他学年の専用機持ち或いは教師IS部隊の介入を招きかねないという事と、遮るものが無いので狙撃され易いという事。

 関係のある専用機持ちなら、情報収集の一環として相手をしても良いのだが・・・・・。

 しばらく考えていると、副官の声で現実に引き戻された。

 

「―――大尉。そういえば、そろそろIS学園ではクラスリーグマッチの時期ですね。来賓が色々と来ますが、そちらへの対応は如何致しますか?」

「工作部門が勝手に動くだろうから何もする必要は無い。一応作戦日だけ伝えて――――――」

 

 ふと、男の脳裏に閃きが走る。

 クラスリーグマッチ?

 開催場所は、対IS用防備が施されたアリーナ。

 来賓はVIPルームに。生徒の大半は観客席に。IS操縦者は学年別に、時間毎に控え室に入ったはず。

 そしてあそこは、シールドとセキュリティレベルを上げれば完全な閉鎖空間を形成する。

 後は仕掛けるその瞬間に、薙原がアリーナにさえ居なければ良い。

 それさえ出来れば、現状望みうる最高の条件が満たせる。

 逃げられない生徒達。戦力となりうるのは、殆どが対象に近い関係の専用機持ちだけ。他の者が介入する気なら、対IS用装甲隔壁(特殊複合装甲)と大出力エネルギーシールドを突破しなければならない。

 無論NEXTなら破れるだろうし、その場に到着さえ出来れば、無人ISなどものの数秒で片付けられるだろう。到着さえ出来れば。

 無数の情報が繋がっていき、考えが纏まっていく。

 

「――――――いや、工作部門にも動いてもらおう。作戦当日、薙原がIS学園の外にいるように仕向けてもらう」

「可能ですか? 彼の行動基準の最優先は紛れも無く博士でしょう。ましてイベントの最中、自分だけ外に出るとは考えづらいのですが」

「それは間違い無いだろうが、条件は『NEXTの機動力をもってすればすぐに戻れる場所』に呼び出す事だ。今回必要なのは長い時間じゃない。周囲の人間に危機が迫った時に、どんな行動を起こすのか。それを調べられれば目標達成なんだ」

「なるほど、盲点ですね。すぐに戻れると思えば本人も、それほど警戒無く動くでしょう。となれば条件を満たすのは――――――」

 

 副官が手元に、空間投影型コンソールを呼び出し幾つかの条件を入力。

 すると同じように呼び出されたディスプレイに、幾つか並行して進められている案件が表示された。

 

「――――――これらになりますが、どれを使いますか?」

「そうだな・・・・・」

 

 大尉はディスプレイを覗き込みながら思案する。

 対象を怪しまれずにIS学園から引き離すには・・・・・。

 

「これでいこう」

 

 指差したのは、先日暴走した超音速旅客機(SST)を所有していた、航空会社の社長来日。

 本来なら社長が学園まで出向いて礼を言うのがスジだが、クラスリーグマッチで多くの来賓を迎えている学園側は、たかが一航空会社社長程度の面会など断るだろう。

 まして面会対象が現最重要人物の1人となれば、確実に「アポイントメントを取った後、お越しください」と言われるのがオチだ。

 最もそのアポイントメントが取れないから、当日そうなるように仕向けるのだが。

 来日する日時についても問題無い。

 あれだけの不祥事を起したんだ。

 訴訟団をちょっと突っついて、前後に対応しなければならない問題を色々入れてやれば、来日する日はこちらでコントロール出来る。

 1日しか空けられないとなれば、どうあっても面会しようとするだろう。

 問題は学園内部で面会しようという動きが出た場合だが、これは工作部門に頑張ってもらうか。

 内部に何人か協力者がいるようだから・・・・・そうだな「予定外の人物を学園内に入れる警備上の問題と、本人の実力の高さ。及び送迎を学園側の人間が行うなら問題とはならない」という屁理屈でも使わせて、外に出るようように仕向けさせるか。

 そんな考えを話すと、副官はすぐに必要な準備を行う為、傍らを離れていった。

 後はもう、細かい指示を出さなくても大丈夫だろう。

 作戦の目処が立ち一安心したのか、無性にタバコが欲しくなった大尉は、懐から愛用の品を取り出し火を付け、ゆっくりと一息つく。

 そうして、物言わぬ無人IS達を見上げると、ふとした疑問が脳裏を過ぎった。

 

「――――――しかし、コアは博士しか作れないと聞いていたが、それならこいつらは何なんだろうね? 量産が出来るなら、とっくに売り出していると思うが・・・・・」

 

 しばし無言のまま黒い人形達を見上げるが、「やめた」と言って男は視線を外した。

 世の中、知らない方が良い事もあるのだ。

 知らされていないという事は、知る必要が無いという事。

 この世界。知りたがりは長生き出来ないのだ。

 そうして携帯灰皿で火を消した大尉は、一度だけ振り返ってから格納庫を後にした。

 残されたのは、人の命令には絶対服従の人形達。

 命令無くして動くはずの無い存在。

 故に誰も気付かない。

 その中の1機。小指がピクリと動いたのを。

 

 

 

 第20話に続く

 

 

 



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第20話 凰 鈴音

 

 とある日のSHR前、クラスで「2組に転校生が来た」という話を聞いた(薙原晶)は、もうそんな時期かと、今更ながらに原作の事を思い出していた。

 つまり今の今まで忘れていた。

 が、俺はとても気楽に考えていた。

 

(まぁ一夏のセカンド幼馴染だし、何か口を出さなきゃならない相手でも無い。お約束的に勝負を挑まれそうな気がしないでもないが、その時はクラス代表様に全部押し付けて逃げさせてもらおう)

 

 本人が聞いたら絶対に、「止めてくれ!!」と言いそうな事を考えていると一夏が、

 

「どんな奴だろう。強いのかな? 晶はどう思う?」

 

 なんて話を振ってきた。

 正直を言えば、凰鈴音(ファン・リンイン)が原作通りの実力なら、今の一夏なら勝てるだろう。

 だがセシリアのように、何か切っ掛けがあって大化けしている可能性も捨てきれない。

 なので俺は、当たり障りの無い返事をしておいた。

 

「そうだな。此処に途中編入出来るくらいだから、それなりの実力はあると判断しても良いんじゃないかな。確か何処かで聞いた話だと、途中編入の場合は、一般入試の時より合格ラインが引き上げられているって聞いた覚えがある」

「それなりとは、言ってくれるじゃない。2人目のイレギュラー」

 

 声のした方を振り返れば、教室の入り口に立つ小柄な少女の姿。

 その勝気な瞳と視線が合うと、長いツインテールを静かに揺らしながら、真っ直ぐ俺のところに歩いてきた。

 

「中国代表候補生の凰鈴音(ファン・リンイン)よ。ところでさっきの“それなり”ってどういう意味?」

「言葉通りの意味だ。君の事を詳しく知っている訳じゃないから、今のところ此処に途中編入出来るくらいの腕がある、としか判断出来ない」

「ふぅん。そう。ならすぐに、“それなり”から“できる”に評価を改めさせてあげる」

「楽しみにしている。実力が見られるのは何時になるかな?」

「私が2組のクラス代表になったから、クラス対抗戦の時よ。1組からは当然アンタが出るんでしょ?」

 

 鈴の確信めいた言葉に首を横に振ると、彼女は首をかしげた。

 

「何で? 誰がどう見たって最強はアンタじゃない」

「色々と理由があってね。だからクラス対抗戦では、1人目のイレギュラー相手に頑張ってくれ」

 

 そう言いながら指差した方に、鈴が振り向くと――――――。

 

「久しぶり。元気にしてたか?」

 

 なんて嬉しそうに一夏が声をかけていた。

 いや、事実嬉しいんだろう。

 何せ数年ぶりに再開したセカンド幼馴染だ。

 

「そっちこそ元気にしてた? ニュースを見た時はびっくりしたわよ」

「勿論元気にしてたさ。色々と大変だったけどな」

「世界初、男のIS操縦者だもんね。しかも今じゃ専用機持ち」

「実力じゃなくて、情報収集が目的って初めに言われたけどな。まだまだヒヨッ子さ」

「なら、アタシがトレーニングしてあげようか? これでも第三世代の専用機持ち。そのへんの奴らよりは出来ると思うよ」

 

 鈴からの突然の誘いだったが、一夏は迷う事無くはっきりと断っていた。

 

「悪いな鈴。折角の話だけど、もうトレーニング相手はいるんだ」

「誰よ? もしかして千冬さん? だったら少しは姉離れしないと――――――」

「違うよ。そこにいる晶と、隣にいるシャルロット。最近はセシリアも一緒にやるようになったんだ」

 

 順に3人を紹介される度に、少しずつ鈴の表情が引きつっていく。

 

「は、話には聞いていたけど、本当の事だったの!?」

「何が?」

「NEXTがトレーニング相手って事。ついで言えば他の専用機も!!」

「あ、ああ。本当の事だけど。そうだ。どうせならお前も一緒に――――――」

 

 ここで、俺は言葉を挟んだ。

 

「少なくともクラス対抗戦が終わるまでは待ってくれ。凰鈴音(ファン・リンイン)の実力が見たいというのもあるが、一夏が初見の奴相手にどれだけ戦えるかも見てみたい。それに一緒にトレーニングなんてしたら、お互いの手の内を知ってしまって、対抗戦が面白くなくなるだろう?」

「それもそうね。確かに実力を見せるなら、何も知らない状態で見せた方がインパクトがあるわね」

「分かってくれて何よりだ」

「でもアンタの口ぶりからすると、一夏に相当自信があるように聞こえたんだけど」

 

 返答の前に、ニヤリと口元に笑みを浮かべる。

 そうして、彼女を奮起させるであろう爆弾を放り込んだ。

 

「正直、お前が一夏に勝てるとは思ってないよ」

「・・・・・さっき、「詳しく知っている訳じゃない」って言わなかった?」

「その通りさ。でも、一緒にトレーニングしているシャルロットとセシリアの実力は知っている。彼女達2人を同時に相手にして、勝てないまでもそれなり戦えるんだ。1対1でやれないはずがない」

 

 こちらに振り向いた鈴の後ろで固まっている一夏を尻目に、俺は迷い無く言い切る。

 さっきは当たり障りの無い言葉で濁したが、こういう状況なら言い切ってしまっても良いだろう。

 

「へぇ・・・・・言ってくれるじゃない。2対1でそれなりの勝負になるなんて、そっちの2人がヘボなんじゃないの?」

 

 すかさず言い返してくるが、ヘボと言われた2人は涼しい顔をしていた。

 だけでなく、

 

「色々と言いたい事はあるけど、君が一夏と戦った後に何ていうか楽しみだよ。ねぇセシリア」

「そうですわね。今の内に言いたい事を言わせておけばいいですわ。結果なんて分かりきってますもの」

 

 と全く意に介してしなかった。

 

「随分余裕じゃない。いいわ。クラス対抗戦の後に同じ台詞が言えるかどうか、楽しみだわ」

 

 これ以上の言葉は不要とばかりに教室から出て行こうとする鈴。

 それを一夏が引き止めた。

 

「なぁ鈴。俺の事ならどう言ってもかまわないけど、2人をヘボっていうのは訂正してくれないか」

「何で? 接近戦しか出来ない素人相手に、2人がかりで挑んで手間取るんでしょう? それの何処がヘボじゃないのよ」

「だから――――――」

 

 食い下がる一夏に、俺は「やめておけ」と制止をかけた。

 

「なんでだよ!!」

「戦う者なら、幾ら言っても無意味さ。只、実力をもって示せばいい。勝って、2人の実力が確かなものだと認めさせてやれば良い。だろう? 凰鈴音(ファン・リンイン)

「よく分かってるじゃない。クラス対抗戦が楽しみだわ」

 

 そんな言葉を残して彼女はクラスから出て行き、入れ替わりに入ってきた織斑先生がSHRが始めた。

 すると先生は開口一番、

 

「お前達、先日提出された放課後のトレーニングプランだが、学園側から正式に許可が下りた。確保出来たISは5機。5人編成チームで2人余る計算になるから、6人チームが2つ出来る。早速今日の放課後から可能だが、やるのか?」

 

 向けられた視線に、俺は「勿論」と即答する。

 

「分かった。なら私と山田先生の時間も空けておこう。お前達がどんな風にやるのか楽しみだ」

「そんなに期待されても困ります。あくまで自主トレーニングですよ」

「計画的に幾つか甘いところはあったが、それでもそれなりに考えられた計画だった。教師として楽しみにするなという方が無理な話さ」

「やるのは初めてなんですから、後で落胆しても知りませんよ」

「その時は私自ら色々とレクチャーしてやるから安心しろ。何せこれが軌道に乗れば、私も大分楽になるからな」

「本音はソレですか?」

「最近、随分と仕事が増えたからな。少しは楽がしたいのさ」

 

 そんな織斑先生の言葉に、色々と増やしてしまった覚えがある俺は、

 

「負担を減らせるように頑張りましょう」

 

 と迂闊にも答えてしまった。

 何で迂闊にもかって?

 後日、1年1組全体の自主トレーニングが軌道に乗った後の話だが・・・・・クラス全員分のIS操縦技能に関するレポート提出を要求されたんだ。

 勿論断ろうとしたさ。それは教師の仕事だろうって。

 しかし、

 

「自主トレーニングのまとめ役はお前だろう? なら、一番詳しいのはお前じゃないのか?」

「いや、確かに全員分の稼動データには目を通しているが、そもそもこのレポートは何の目的で?」

「教師には、生徒を評価するという仕事があるんだが、毎年これが中々面倒でな。今年は使えそうなのがいるから、参考資料でも作ってもらおうと思ってな」

 

 織斑先生は、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべ更に続けた。

 

「幸い、「負担を減らせるように頑張りましょう」と言ってくれる優しい優しい生徒もいるしな」

「なっ!?」

「まさか、男に二言は無いよな?」

 

 と言ってそのまま押し切られたんだ。

 その後、3人が手伝ってくれなかったらどうなっていた事か・・・・・。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その日の昼休み、(薙原晶)は篠ノ之箒に、校舎の屋上に呼び出されていた。

 多分すぐに戻れる話じゃないだろうから、購買で買った焼きそばパンと野菜ジュースを持参して。

 

「――――――で、何の用なんだ?」

「・・・・・まずはプレゼントの事で、姉さんにお礼を言っておいて下さい。正直、こういう物が貰えるとは思ってもいなかった」

「そう言ってもらえるなら、博士も悩んだ甲斐があったってところだな」

「悩んでいた? 姉さんが?」

 

 心底意外そうな顔をする箒さん。

 

「ああ、随分悩んでいた。俺が見た時は、帯、着物、茶器、日本刀と基本的に和風のものをリストアップしていたな。和風の物が好きなのか?」

「そうですね。洋と和のどちらが好きかと言えば、圧倒的に和ですね。あの機能美と芸術美が融合した姿は本当に綺麗だと思う」

「確かに。それに和風の文化には、主張し過ぎない美しさもあるな。調和っていうのかな?」

「まさか同年代から、そんな言葉が聞けるとは思わなかった。そっちの方にも詳しいんですか?」

「いいや。詳しい芸術文化なんて知らないから、思った事を言っただけだ」

「そう感じられる心が大事なんです。それを最近の人達は分かっていない。そもそも――――――」

 

 もしかして、IS学園に来てからこの類の話をする相手がいなかったのだろうか?

 そう思ってしまう位に箒さんは目を輝かせていた。

 しかし残念ながら、こっちにも話しておきたい事がある。

 こんなに楽しそうにしている相手を止めるのは気が引けるんだが・・・・・仕方が無い。

 

「箒さん。少し、真面目な話をしてもいいかな」

「何ですか?」

 

 俺の雰囲気が変わったのを察したんだろう。

 箒さんが姿勢を正した。

 スラリと伸びた四肢に綺麗な髪。整った容姿。

 着物を着たらさぞかし似合うだろう。

 そんな場違いな思いを抱きながら、恐らく彼女が嫌がるであろう現実を口にする。

 

「時期までは言えないが、今、博士が君の専用機を作っている」

「お断りします。別の誰かにあげて下さい」

 

 即答だった。

 だが、それは困るんだ。

 

「理由を聞いても?」

「姉から聞いてはいませんか?」

「本人の口から聞かせて欲しい」

 

 先程とは一転して、硬く冷たい言葉のキャッチボール。

 

「・・・・・姉がISを作ったおかげで家族はバラバラ。私が此処にいるのも、姉さんのせいなんですよ。これから先、なりたいものになる権利すら私には無い。これ以上の理由はいりますか?」

 

 原作知識で2人の仲が冷えているというか、箒さんが博士に良い感情を持っていないのは知っていたが、コレは予想以上だった。

 視線が相当に冷たい。

 何と言うべきか悩んでいると、続く言葉が放たれた。

 

「姉さんは良いですね。私から家族も幼馴染も友達も全部奪ってバラバラにしておいて、なのに本人は貴方のような人を見つけてよろしくやってるんですから」

 

 この言葉に、俺は自分の心が急激に冷えていくのを感じた。

 そうかそうか。悲劇のヒロイン気取りか。

 ふざけるなよ。どれだけ愛されているかも知らないクセに。何一つ失ってないクセに。会おうと思えば会えるクセに。どれにも二度と会えない俺の前で、それを言うか!!

 普段、必死に心の奥底に閉じ込めている元の世界の事が思い出される。

 理性が八つ当たりはするな。怒るなと告げているが、圧倒的な感情の前に、そんなものは何の役にも立たなかった。

 

「随分偉いんだなお前は。何様のつもりだ?」

「え?」

「全部奪って? バラバラにして? 全員生きてるだろう。確かに博士の発明のおかげで引き離されたんだろうが、不幸があった訳じゃないだろう。会おうと思えば会えるだろう!! なりたいものになる権利すら無い? ああそうだな。お前には一生、篠ノ之束の妹というレッテルがついて回る。普通の生活なんて送れない。ああ、同情するよ。してやるよ。でもな、大事な人達に迷惑をかけない為に姿を消した。そんな事すら分からないような小娘が、知ったような口を利くな!! そして博士がいなきゃ俺は死んでたんだ!! 右も左も分からない世界で野垂れ死んでたんだよ!! それをお前は――――――」

 

 更なる言葉を口にしようとして、彼女が怯えている事に気付いた。

 しまった。ああ、情けない。こんな事で感情を乱すなんて。

 

「――――――すまない。言い過ぎた」

 

 冷や水をかけられたかのように、怒りが収まっていく。

 しばし2人の間に沈黙が流れた後、箒さんは恐る恐る口を開いた。

 

「もし、もしよければ・・・・・姉さんの事を話してもらえませんか?」

「構わないが、どうして急に?」

「怒った理由を知りたいのと、私の知っている姉さんの姿が、今出てきた言葉と余りにも違うから」

「わ、分かった。そうだな、まずは――――――」

 

 八つ当たりしてしまった気まずさから、上手く話せたかどうかは分からないが、彼女は静かに聴いていてくれた。

 途中、姉妹とは言っても知らない事もあったみたいで、箒さんは驚いたり笑ったり、メタメタにけなしたり。

 見ているこっちが楽しかったくらいで、次第に気まずさも消えていった。

 そうして休み時間が終わる間際、

 

「1つ、頼みごとをしても良いですか?」

「出来る事なら」

「後で手紙を書きますから、姉さんに渡して下さい」

「まずは手紙からか。そのくらいなら全く問題無い」

 

 こうして、極々近い距離なのに姉と妹の間で文通という、奇妙な状況が出来上がった。

 手間と言えば手間な方法だが、離れていた姉妹が仲良くなる為には、このくらいの方が良いのかもしれない。

 そんな事を思いながら俺は、箒さんと一緒に教室に戻るのだった。

 

 

 

 第21話に続く

 

 

 



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第21話 クラス対抗戦(前編)

 

 クラス対抗戦当日の朝、(薙原晶)は織斑先生から職員室に呼び出されていた。

 

「――――――で、何の用ですか先生」

「アポイントメントは無いんだが、お前に客が来ている。本当なら断るところなんだが、先方が今日しか空いていないらしくてな」

「誰かは知りませんが、こっちには関係無い話です。そのまま帰って貰って下さい」

「そう言うだろうと思ったが、来客は先日止めた超音速旅客機(SST)を所有している航空会社の社長だ。ぜひとも直接会って礼を言いたいそうだ。それに報酬の件もな」

「報酬は大使に言ったので、政府から出ると思っていたんですが?」

「本当はそうだったらしいが、「民間企業の失態を政府が尻拭いするのか」と非難の的にされたらしい」

「なるほど。分かりました。何処に通したんですか?」

「それがな――――――」

 

 織斑先生は手元にあったコーヒーを一口飲んでから、言いずらそうに続けた。

 

「――――――今日はクラス対抗戦だろう。来賓も多くて人手がギリギリなので、学園内では面会して欲しくないと警備部門が言ってきてな」

「・・・・・なに?」

「つまり警備部門は、不確定要素は入れたくないと言ってきたのさ」

「でもこうして話を持ってきたという事は、先生は会った方が良い。そう思っている訳ですよね」

「経験上、この手の話を長引かせても、良い事は何も無いからな」

「確かに」

 

 ここで少し考えてみる。

 正直、襲撃があると分かっている俺にとって、学園の外に出るというのは非常に抵抗がある。

 しかし、ここで警備部門に無理を言って内部で面会したとしよう。

 その社長が、或いは秘書が、こちらにとって不利な工作を行う可能性は無いのか?

 いや、仮にそうだとしても、監視をつければ封じ込めるだろう。が、確実にその分他が手薄になる。

 

「――――――先生。警備部門の人手は本当にギリギリなんですか?」

「それは本当だ。来賓の中にはVIPも多いからな。そちらに人手が割かれている。事前に連絡でもあれば、また違った対応が取れたんだが、当日の警備体制変更など、狙って下さいと言ってるようなものだ」

 

 なるほど。そういう状況なら無理は言えないな。

 となれば取れる選択肢は2つ。会わないか、学園の外で会うか。

 会わない場合のメリットは何だろうか?

 対抗戦時にあるであろう襲撃を、万全の態勢で迎え撃てる事だ。純粋に博士からの依頼のみを考えるなら、迷う事無くこっちなんだが・・・・・これには個人的に無視出来ないデメリットがある。それは他から、報酬を軽視したと思われる事。この場合は超音速旅客機(SST)救出作戦の成功報酬だ。1度報酬を要求した以上、何があろうと取り立てる。それを内外にしっかり示しておかないと、今後舐められる可能性がある。それは頂けない。

 では学園の外で会った場合のメリットは何だろうか?

 警備部門の言う通り不確定要素が減るから、何か問題があった際も最小限の被害で済むだろう。

 それに博士には言えないが、一夏達の実力を図る良い機会でもある。

 何処かで実戦を考えないといけないなら、せめてサポートが可能なうちに体験しておいた方が良いだろう。

 と、そうだ。1つ確認しておかないと。

 

「――――――先生。外で会う場合の場所は?」

「ホテル『テレシア』」

「・・・・・ああ、あの有名な」

 

 周辺MAPを思い出してみれば、NEXTならすぐに戻って来られる場所だ。

 確か、国際的にも有名なホテルだったな。

 ではデメリットは?

 考えるまでも無く、襲撃があったその瞬間に、その場所にいられない事だ。

 下手をすれば、戻るまでの間に万が一というのがありえる。

 だがそんな事を言ってしまえば、これから先、ずっとあいつらは護られたままの存在になってしまう。

 どうする?

 1度考えをリセットして、今までのトレーニングを思い出してみた。

 あいつらは、そんな護られたままになるような存在だったか?

 

(・・・・・・・・・・否だ。断じて否だ。それはあいつらに対する冒涜だ)

 

 強く。そう思った。

 なら答えは1つだ。

 

「分かりました。外で会いましょう。時間は?」

「先方は10時と言ってきた」

 

 時計を見れば、もう余り時間が無い。

 

「全く、急な話ですね」

「本当にな。――――――ああ、そうだ。山田先生も一緒に行くからな」

「何でまた・・・・・って変な話でもないか。当事者の1人ですもんね」

「それもあるが、お前と部外者だけで会わせるなど、色々な面で問題が有り過ぎる」

「面倒臭い立場になったな」

「学園にいる間なら、フォローくらいはしてやるから諦めろ」

「期待してますよ」

「し過ぎるなよ」

 

 そんな厳しくも優しい言葉を貰った後、俺は山田先生と合流。

 一夏に「頑張れ」、と伝えてからホテル『テレシア』へ向かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 (織斑一夏)が一番初めに感じたのは、プレッシャーの無さだった。

 アリーナ中央上空で待っていた鈴。その前に立った時、何故だか“小さく”見えたんだ。

 胸が、じゃない。―――言ったら本人に殺される―――

 トレーニングの時に晶から、セシリアから、シャルロットから感じたプレッシャーを感じない。

 だからだろう。何の気負いもなく鈴からの言葉に答えられた。

 

「ねぇ、一夏ってさ。ISに触れてからそんなに経ってなかったよね?」

「ああ。それがどうしたんだ?」

「ちょっと言い方は悪いんだけどさ。そんな素人相手に、2対1で良い勝負になるあの2人が、どうしてヘボじゃないの?」

 

 一瞬、トレーニングの時の話を事細かに話してやろうかと思ったけど、それは止めておいた。

 ここで長々と話しても、多分アレは、やられた本人じゃないと分からないだろう。

 だから、アイツの言葉を借りる事にした。

 

「・・・・・・・・・・晶の奴の受け売りなんだけどさ。戦いの場で言葉は不要。語りたいのなら実力を持って語れってさ」

 

 言いながら、雪片弐型を正眼に構える。

 すると鈴も、大型の青龍刀を両手に呼び出し、言い放った。

 

「へぇ、良い事言うじゃない。そういう考えは――――――」

 

 開始のアナウンスが流れる。

 

「――――――大好きだわ!!」

 

 互いが互いに向けて、同時にダッシュ。

 武器をぶつけ合う。

 直後、鈴は脚部ブースターとPICの慣性制御で高速旋回。

 円運動で雪片弐型を弾きながら、逆の手に持つ青龍刀を叩きつけてくる。

 連続攻撃で主導権を握ろうっていうのか?

 だとしたら甘いよ、鈴。

 俺は高速旋回する鈴に向かい、躊躇無く踏み込む。

 無論そこは、青龍刀の斬撃軌道。だけどもう一歩踏み込めば、無防備な懐だ。

 そして接触するような超至近距離。この距離じゃ武器は役に立たない。

 でも、腕を伸ばしているお前と、元々殴る気だった俺とじゃ、やれる事が違う。

 白式のパワーアシストを全開にしたボディブロー。

 鈴の身体がくの字に折れ曲がり、旋回が止まる。

 だけどまだ、武器を振るえる程の空間は無い。

 なら!!

 躊躇無く同じ場所に蹴りを叩き込んで、吹き飛ばすと同時に、雪片弐型を振るえるだけの空間を作り出す。

 

「どうした? これで終わる気か?」

「こっ、このぉぉぉ!!」

 

 ハイパーセンサーが甲龍(鈴のIS)の両肩。非固定浮遊部位(アンロックユニット)へのエネルギー供給を感知。

 何だ? でもこの状況で使う? 面制圧兵器か!?

 刹那の間に、トレーニングであった似たような状況を、晶がやってくれたスラッグガンとショットガンのコンボを思い出す。

 マ、マズイ!!

 追撃を打ち切り全速で離脱すると、一瞬前まで居た空間を、見えない何かが通り過ぎていった。

 背後で起こる爆発。

 

「っつぅ。随分、本気で殴ってくれたわね」

「戦いの場での手加減は最大の侮辱だろ? それに、お前だって嫌だろう?」

「あったりまえじゃない。――――――でも、よく避わしたわね。龍咆は砲身も砲弾も見えないのに」

「砲身も砲弾も見えなくても、発射前のエネルギー変動は感知できた。正直発射までのタイムラグが無い分、レーザー兵器の方が避わしずらいかな」

「言うじゃない!!」

 

 ハイパーセンサーに反応。

 即座に鈴を中心とした円周軌道に入り、龍咆の掃射を避わす。

 

「まぐれじゃないのね!!」

「言ったろ。エネルギー変動は感知出来るって」

「でもここまで避わせる人なんて、本国にもいなかったわよ」

「そりゃどうも!!」

 

 軽口を叩きながら、龍咆の特性を分析する。

 一番怖かったのは、見えない面制圧をされる事だったけど、着弾箇所の爆発は全て時間差があった。

 つまり面制圧じゃない。不可視の弾丸を連続で射出しているだけ。

 そして攻撃の発生場所は常に、両肩の非固定浮遊部位(アンロックユニット)・・・・・ようするに不可視のマシンガンか。

 なるほど。これだけ分かれば十分。

 後は、どうやって踏み込むか、だ。

 流石に格闘戦に入る瞬間を狙われると辛い。

 俺に射撃武器があれば、また違うんだろうが、生憎とコレ(雪片弐型)しかないからな。

 どうする?

 ふと、晶の言葉が脳裏をよぎった。

 

『お前の切り札は、当たれば一撃必殺。ニの太刀なんて必要無い。だからこそ、最高の囮にもなる。徹底的に意識させるんだ。お前に踏み込まれる事は、敗北に直結すると意識させてやれ。そうしてプレッシャーをかけて、敵の動きをコントロールするんだ。格闘戦機に、いや、お前に張り付かれるのがどういう事か、理解させてやるんだ』

 

 あの時はよく理解出来なかったけど、今なら理解出来る。

 一撃必殺にして最高の囮は、相手の行動を縛るんだ。

 その為には、まずは知ってもらわないとな。

 

「なぁ鈴。龍咆を見せてくれた礼に、俺も教えてやるよ」

「何をよ?」

「白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)さ」

「いいの? そんなの言っちゃて」

「いいんだよ。どうせ一回使えば知られる能力だ」

「随分自信満々に言うじゃない。何よ?」

「名を零落白夜。効果はエネルギー無効化。気をつけろよ? コレの前じゃ、エネルギーシールドも絶対防御も紙切れだからな!!」

 

 言い放つと同時に、鈴を中心とした円周軌道から内側に踏み込む。

 当然の如く龍咆での迎撃。しかも下がりながら。

 思った通りだ。今、懐に入られるのを嫌ったな? つまり意識したんだな? 零落白夜を。

 確信した俺は、高速で接近と離脱を繰り返す。

 その度に放たれる龍咆。

 傍からみれば、攻めあぐねているように見えるかもしれない。

 でも良いんだ。誰も気付くな。鈴が優勢だと思っていろ。

 さぁ、後どれくらい撃てる?

 砲身も砲弾も見えないって事は、どこかでその分余計にエネルギーを消費しているはずなんだ。

 つまり燃費が良いはずが無いんだ。

 そうして徐々に、鈴の顔に焦りが見えたところで、俺は――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 アリーナでの試合が始まる前、(薙原晶)は、ホテル『テレシア』最上階にあるレストランにいた。

 本当なら正装が必要な店だが、学生の正装は制服だという正論で押し通した。

 全く。何だってこんな面倒なところで・・・・・まぁ、正直なところを話せば正装を持っていなかったのと、面会が急過ぎて用意出来なかっただけだけどな。

 ちなみに山田先生は、ホテルが女性だけに貸し出しているドレスに身を包んでいた。

 淡い緑色のロングドレスで、おとなしめのデザイン。それは彼女の性格を良く現していると思う。

 サイズの関係上、どうしてもある一部分が強調されてしまうので、本人はとても恥ずかしそうにしているが・・・・・眼福なので助け舟は出さない。断じて出さない。むしろ選んだ店員良くやった。

 そんな事を思っていると、テーブルを挟んで対面に座る男。超音速旅客機(SST)を所有していた航空会社の社長が口を開いた。

 とても善人で人当たりの良さそう顔だが、そんなもの、幾らでも取り繕えるのはこの世の常識だろう?

 

「まずはお礼申し上げたい。先日は超音速旅客機(SST)の撃墜を未然に防いで頂き、ありがとうございました」

 

 年下の小僧とも言える俺に対して、社長が深々と頭を下げる。すると社長の右隣に座っていた、白いスーツを綺麗に着こなした女性秘書も、同じように頭を下げていた。ちなみに全くの余談だが、この女性秘書、一番初めに山田先生を見た後に自分の胸元を見て、もう一度山田先生を見て、妙に悔しそうな表情をしていた。

 

「頭を上げて下さい。私は依頼を果たしたに過ぎません」

 

 あえて、依頼の部分を強調してみる。

 つまり払う物をとっとと払えと暗に言ってみた。

 すると、

 

「その事なのですが、私共はどれほどお支払いすれば良いのでしょうか? 如何せんこのような事は前代未聞でして、どれほどの額が適正か、社内でも紛糾しておりまして・・・・・」

「そうだな・・・・・昨年の売り上げ、純利益は?」

「10億ドル少々ですが、それが何か?」

「なら、1億ドル貰おう」

 

 特に深い考えがあって言った額じゃなかった。

 それなりの額を払って貰わないと今後便利屋扱いされかねないから、それなりにむしる気だったけど、どの程度が適当かなんて俺にも分からない。

 だから単純に、十分の一くらいにしてみたんだ。

 が、何だ? 社長が固まっているぞ?

 ちょっと暗算してみるか。

 えーと、1ドル80.90円とすると・・・・・・・・・・は、80億9千万円!?

 少しやり過ぎたかもしれん。

 そんな事を思っていると、社長よりも先に秘書が再起動した。

 

「なっ!! そんな法外な!!」

「何を持って法外というのかな?」

 

 内心では同意してあげたいんだが、ここで引き下げたら、今後必ず舐められる。

 だから外見だけは平静を装う。それが当然という態度を貫く。

 

「何を持ってですって? 一個人に、しかも一回の仕事に、そんな高額報酬が許されるはず無いでしょう」

「なるほど。じゃぁ貴女のいう適正な報酬額を今ここで言ってみてくれ。本来、助かるはずが無かった命を助けた報酬が、どれくらいなら正しいと言えるのか。ここで示してくれ」

「そ、それは・・・・・・・・・・」

「言えないのなら、邪魔だから黙っていてくれ。それに君が言ったところで、社長の承認が必要だろう? ――――――で、社長の判断は?」

 

 視線を、再起動した社長に戻しながら問いかけると、意外な事に即答だった。

 

「言い値で払いましょう。支払いはキャッシュと振込みのどちらが良いですか?」

「後ほど、キャッシュで学園に運んでくれ。しかし意外だな。もう少し渋ると思ったが」

「確かに予想以上の額ですが、あの時、超音速旅客機(SST)が撃墜されていたらと考えれば安いものです。――――――そしてついでに、1つ頼み事をしたいのですが、良いですか?」

「依頼を受ける気はないぞ」

「そんなに警戒しないで下さい。依頼でも何でもなくて、むしろお願いと言うべき事です」

 

 社長は言葉を区切り、こちらの様子を伺っている。

 へぇ。そのまま言ってしまえば良いものを、こちらに聞く・聞かないの判断を預けたのか?

 律儀な奴だな。いや、これも交渉術の一環か? だとしても、好感の持てる態度だ。

 

「・・・・・聞くだけなら」

「大した事ではないんです。只、今後海外に行かれる際は、是非とも我が社の便をお使い下さい。安全・安心・快適な空の旅をお約束致します」

「暴走したのにか?」

「アレはプロの仕業です。ハード・ソフトの両面から細工するなど、素人に出来るはずがない」

「だからと言って、やられて良い訳じゃない」

「勿論です。なのであの一件以来、社内のセキュリティを全面的に見直しました。二度と同じような真似はさせません」

「それが有効かどうかは、今後証明されていくだろう」

 

 レストラン内にある時計をチラリと見れば、多分試合の真っ最中であろう時間。

 来るとしたら、そろそろか?

 そんな事を思っていると、山田先生の持つ教師用の携帯からバイヴ音。

 先生が、「失礼」と言いながら取る。

 

「はい山田です。―――――――――え!? 分かりました。今、代わります」

 

 緊張した面持ちで携帯が差し出され、受け取った俺の耳に飛び込んできたのは――――――。

 

 

 

 第22話に続く

 

 

 



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第22話 クラス対抗戦(中編)

 

 さぁ、後どれくらい撃てる?

 砲身も砲弾も見えないって事は、どこかでその分余計にエネルギーを消費しているはずなんだ。

 つまり燃費が良いはずが無いんだ。

 龍咆の掃射を避わしながら、(織斑一夏)はそんな事を思う。

 するとエネルギーが無くなってきたのか、それとも当てられない事に焦れてきたのか、鈴の顔に焦りが見え始めた。

 そろそろか? それとも誘いか?

 でも奇妙な確信があった。

 今の鈴は本気で焦っている。

 なら、行くぞ!!

 

 ―――瞬時加速(イグニッション・ブースト)!!

 

 龍咆の掃射を避わして側面を取った瞬間、背部非固定浮遊部位(アンロックユニット)のウイングブースターを展開。

 溜め込んでいたエネルギーを一気に放出。一瞬でトップスピードに。

 

「これでっっ!!」

「っっ!!!」

 

 完全にがら空きの体勢の鈴。

 決まった。

 そう思った瞬間、ハイパーセンサーが高エネルギー反応を感知。更にロックオン警報。

 上!?

 考えるよりも先に、身体が動いていた。

 反射的な回避機動。

 1秒前までいた空間を貫く光の奔流。

 地面への着弾。起こる大爆発。

 吹き荒れる爆炎と爆風が、一回だけ晶が見せてくれたNEXT用グレネードを思い出させた。

 

「な・・・・・なんなんだ、今の?」

 

 突然の事態に戸惑い、思わず、その場に止まりそうになる。

 だけど続けて放たれた第二射が、それは拙いと教えてくれた。

 そしてハイパーセンサーが第三射を感知する。が、俺にロックオン警報は無い。

 

「――――――鈴!!! よけろぉぉぉぉ!!」

 

 気付けば、叫んでいた。叫ぶしか出来なかった。

 第三射が撃ち下ろされると同時に、アリーナに侵入してきた2機の見慣れないIS。それが観客席に極太の両腕を向けると、ハイパーセンサーがまた高エネルギー反応を感知。

 

「さ、させるかぁぁぁ!!」

 

 残りのエネルギーを気にする余裕なんて無かった。

 考えてる余裕なんて無かった。

 何もかもが無かった。

 そんな中で、俺が出した答え。

 

 ――― 一撃必殺。

 

 時間が掛けられないなら、掛けなければいい!!

 後から思い出せば無茶苦茶だと思ったけど、この時は、これ以上の方法は考えられなかった。

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)の起動と同時に、雪片弐型へのエネルギー供給開始。零落白夜起動!!

 加速する視界の中で、凹凸の無い黒いボディとフルフェイス。極太で長い手足という、見慣れないISの姿があっと言う間に大きくなる。

 そして、求めた攻撃は最速。故に刺突。

 俺自身が一本の矢になって突き刺さる。

 零落白夜が発動した雪片弐型は、振り向いた黒いISのエネルギーシールドも絶対防御も紙切れのように貫通し、狙い違わず胸元に突き刺さる。

 だが、まだ敵は動いていた。そしてもう一機いた。止まっている暇は無い。ニノ太刀を振るう時間も引き抜く時間も惜しい。

 ならどうする?

 コレ(雪片弐型)を手放して、俺だけで体当たりをするか?

 駄目だ。コイツはまだ動いてるんだ。下手に隙を見せたら後ろから撃たれて終わりだ。

 なら!!

 無理でも無茶でも無謀でも、このまま行くしか無いだろう!!!

 残っているブーストエネルギーを全て叩き込み再加速。

 オーバーロードでブースト関連のステータスが軒並みレッドになるが全て無視。

 今、この瞬間に間に合わなきゃいけないんだ!!

 頑張ってくれ白式!!

 俺の声が届いたのかどうかは分からない。

 だけど白式は、黒いISというデッドウェイトがあるにも関わらず、普段と同じ、いや、それ以上の加速力を叩き出してくれた。

 結果、ビームを放つ直前で体当たりに成功。

 観客席への直撃だけは防げた。

 けど、無茶の代償は大きかった。

 貫いたけど、何故かまだ動いている黒いIS。そして体勢を崩す事しか出来なかったもう一機。ああ、上に無傷のがもう一機いたな。

 対して俺の方は、ブーストエネルギー0。零落白夜のおかげでエネルギーシールドも残り僅か。

 こんな状態で囲まれたら、

 

「一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 鈴の叫び声が聞こえる。

 振り向けば、装甲は半壊しているけど、無事な鈴の姿と、ピットから飛び出してきた蒼とオレンジ色のIS。

 良かった。あの2人が出てきたなら大丈夫だ。

 そう思った直後、全身に感じた強い衝撃で、俺の意識はプッツリと途絶えた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ホテル『テレシア』で航空会社社長と面会している最中、山田先生から携帯を渡された(薙原晶)は、聞こえてきた言葉に声を失った。

 

「すぐに戻ってくれ!! 未確認ISが3機、アリーナに侵入。一夏のお蔭で観客への被害は無いが、無いが!!」

 

 あの、気丈な織斑先生が取り乱している。

 それが既に信じられなかった。同時に、事態の深刻さを現していた。

 

「すぐに戻る。――――――社長。悪いが面会はこれで終わりだ。急な用事が入った」

 

 返事を聞く前に席から立ちあがり、踵を返して屋上に向かう。

 途中、織斑先生から聞いた話は、かなり拙いものだった。

 観客を護る為に無理をした一夏は、敵のど真ん中でブーストエネルギー使い果たし立ち往生。

 更に零落白夜のおかげで、シールドエネルギーが殆ど残っていなかった状態で攻撃をもらい意識不明。

 確実に絶対防御を抜けてダメージが入ったんだろう。それもかなり拙いレベルの。

 そして鈴の方は敵の初撃、大出力ビーム砲を受けて装甲が半壊。

 辛うじて直撃は避けたらしいが、動けるというだけで戦闘能力は絶望的。

 唯一の救いは、すぐにシャルロットとセシリアがアリーナに入って、敵を引き付けてくれた事か。

 しかし3対2だ。急がないと。

 山田先生に携帯を返して別れた後、屋上へと続く階段でNEXTとなった俺は、鍵のかかった扉を蹴り飛ばし外へ。

 平行してデータリンク確立。IS学園で起きている現状の詳細情報を受け取る。

 こいつは!?

 即座に織斑先生に、以前戦った無人ISのデータを送信。但し無人機なので、バージョンアップされている可能性があると付け加えて。

 そうして上昇しながらOB(オーバード・ブースト)起動。

 周囲に騒音被害を撒き散らしながらIS学園へと進路を取る。

 

(クソッ!! まさかこんな事になるなんて!!!)

 

 幾ら後悔しても遅いが、思わずにはいられない。

 戦いの場に絶対は無いなんて分かりきっていたけど、こうなると、もっと別の手段は無かったのかと考えてしまう。

 

(いや、何を今更!! 後悔する位なら、仕掛けてきた相手を100倍後悔させてやる方法を考えろ!! 俺に、俺の周囲に手を出す事がどういう事か、骨の髄まで分からせてやるんだ)

 

 そう思い、思考を切り替える。

 こと戦うという一点において他の追随を許さない、強化人間の戦闘思考が走り始める。

 襲撃の目的は何だ?

 今日呼び出されたのは偶然か?

 博士に関係があるのか?

 状況報告では3機。予備戦力はあるのか?

 様々な疑問が脳内でリストアップされ、マルチタスクで推論が構築されていく。

 襲撃の目的は?

 高確率で情報収集だろう。なら対象は? 俺がいるIS学園を襲撃する位だ。明確な対象がいるだろう。まさか俺? それこそまさかだ。多少バージョンアップされていたとしても、3機程度の無人ISならすぐに片付けられる。以前戦った時以上の情報を、敵が得られるとは思えない。無人機の仕上がりを見る為? 無くは無いだろうが、何も学園でやる必要性は低いだろう。博士に関わる事か?

 コアネットワークで博士をコール。

 

(博士)

(どうしたの? 今大変な事になっているけど)

(学園の事なら知っている。ところで1つ確認したい)

(何?)

(今博士に対して何らかのアクションは発生しているのか?)

(ううん。なぁ~んにも)

(分かった)

 

 接続を切ろうとしたところで、博士が釘を刺してきた。

 

(薙原。いっくんに何かあったら箒ちゃんが悲しむ。分かってるよね?)

(言われるまでも無い)

 

 博士絡みじゃない?

 という事は、やはり対象は俺も含めた専用機持ち組みか? 襲撃時間と場所を考えれば、それ以外の可能性は低いだろう。

 何の為に?

 そこまで考えた時、脳裏を閃きが走った。

 待てよ? 敵から俺を見た場合、単純な力押しで勝てない相手と戦う場合、致命的に抜けている情報があるだろう!!

 それは人格や性格といった精神的なもの。

 物の好き嫌いに始まり、非常時には何を優先する傾向にあるのか。

 純粋に力押しが出来ない場合、この辺りの情報は無視出来ない。

 逆にこの辺りの情報を上手く使えば、例え敵側であったとしても、自分達の利益となるように動かせる。

 相手の動きをコントロール出来るんだ。

 なるほど。そう考えれば、今日呼び出されたのも、アリーナがこのタイミングで襲撃されたのも、全てが繋がる。

 目的は、俺が非常時にどう動くかを知る事か。

 勿論普通なら、こんな大袈裟な事はしないだろう。

 この世界で生まれた人間なら、生い立ちを調べれば大まかな事は分かるはずだから。

 でも俺は違う。

 博士と行動を共にする以前の情報は、世界中の何処にも無いんだ。

 つまり敵にとっては、『強力な力を持っている謎の存在』という事になる。

 これらを踏まえて考えれば、IS学園を襲撃したのが3機だけと考えるのはおかしい。

 情報を持ち帰る為の偵察機がいるはずだ。

 しかし分かったところでどうする?

 一夏と鈴の状況を考えれば、悠長に探している時間は無い。

 悠長に?

 何も“今”探し出す必要は無いじゃないか。

 結果として情報を持ち帰られなければ良いんだ。

 そしてIS学園には、その手のプロが居たじゃないか!!

 俺は織斑先生に通信を繋ぐ。

 

「先生。大至急呼び出して欲しい人がいる」

「誰だ?」

「IS学園生徒会長、更識 楯無(さらしき たてなし)。すぐに頼みたい事がある」

「分かった。少し待て――――――」

 

 そうして呼び出した彼女に、手短に用件を伝える。

 すると、

 

「噂の薙原君は人使いが荒いんだね。会った事も無い相手に、そんな事を頼むなんて」

「失礼なのは承知している。が、他に頼めそうな相手がいない。それにもしかしたら、何も無い可能性もあるんだ」

「いいや、君の考えは正しいと思うな。多分、私も同じ事を考えると思うよ」

「そう言ってくれると助かる」

「じゃぁ偵察機は任せて。君は1年生の方を。後ついでに、ご褒美も期待しているよ」

「分かった」

 

 交信を終了した俺は、迫ってきたIS学園のアリーナ突入に備え、武装の呼び出しと最終チェックをコマンド。

 各部ハードポイントに量子の光に集まっていき、その中で武器が形を成していく。

 

 ―――SYSTEM CHECK START

    →HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・OK

    →ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・OK

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK

    

    →R ARM UNIT  :04-MARVE(アサルトライフル)・・・OK

    →L ARM UNIT  :063ANAR(アサルトライフル)・・・・OK

    →R BACK UNIT  :EC-O307AB(レーザーキャノン)・・OK

    →L BACK UNIT  :EC-O307AB(レーザーキャノン)・・OK

    →SHOULDER UNIT :-

    →R HANGER UNIT :-

    →L HANGER UNIT :-

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・OK

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    

 ―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その少し前、アリーナでは――――――。

 

「鈴さん!! ピット戻って!! 敵は(シャルロット)とセシリアで抑える!! 急いで!!」

「い、一夏は・・・・・」

「僕とセシリアで何とかするから!!」

 

 叫びながら、両手に持つアサルトライフルをトリガー。

 と同時に、同じようにピットから飛び出してきたセシリアがビットを展開。

 一夏を囲む3機に、同時に撃ち込む

 

(時間は掛けられない。なら!!)

 

 ブーストを全開にして、3機の黒いISに向かい突撃。

 まずは一夏を助け出さないと!!

 するとビットの軌道が変化。

 便宜上付けた識別コード、無傷のα1にビットが集中し、同様に無傷のα2にはスナイパーライフルが撃ち込まれる。

 いずれもシールドに阻まれているけど、動きを止められれば十分!!

 そして残るは、一夏が傷つけたα3。

 トレーニングのおかげか、この辺りの呼吸は、今更確認するまでも無かった。

 そうしてショートレンジまで踏み込んだ瞬間、高速切替(ラピッド・スイッチ)でアサルトライフルを、衝撃力が桁外れのショットガンと散弾バズーカに変更。

 落ち着いて、それぞれワントリガー。

 命中。仰け反って固まるα3の懐に潜り込む――――――ように見せかけて横を通り抜け一夏の元に。抱き抱えて即座に離脱。

 

「30秒、稼げる?」

「愚問ですわ。さっさと運んで差し上げなさい!!」

「ありがとう!!」

 

 頼もしい言葉に、僕は振り返る事なくピットを目指す。

 セシリア、頑張って!!

 

 

 

 ◇

 

 

 

 シャルロットを行かせた直後、織斑先生からの通信。

 一体何ですの?

 

「アレのデータが手に入ったので今転送した。どうやら薙原の奴、アレと交戦経験があったらしい。転送データには推定予想値も含まれているが、無人機だからバージョンアップされている可能性もあると言っていた。――――――後、今こちらに向かっている。もうすぐ到着するはずだ」

「分かりましたわ。でも、到着する前に倒してしまっても良いのでしょう?」

 

 自分でも強がりを言っていると思う。

 だけれど、頼り切るのはプライドが許さなかった。

 それに、ISに触れてからそれほど経っていない一夏さんが、あそこまで頑張ったんですもの。

 代表候補生たる私が、ここで踏ん張れなくては名折れもいい所ですわ。

 

「そうだな。代表候補生の実力、見せてくれ」

「勿論ですわ。 ――――――さぁ!! 踊りなさい!! ブルーティアーズ!!」

 

 号令の元、一斉にビットが行動を開始。ミサイルビットも展開。

 切り札を隠したまま、乗り切れる状況ではありませんわ。

 そうして常に思考の一部をビットコントロールに割いたまま、自身も戦闘機動を開始。

 スナイパーライフルで敵を狙い撃つ。

 だけど敵も、只の人形ではありませんでした。

 明確な役割分担を持って対応してきたのです。

 α1は直接、私を狙い。α2はビット迎撃に専念し、α3は壁際にポジショニング。アリーナ全体を見渡せる位置から固定砲台となって攻撃してくる。

 本当に無人機ですの!?

 機械とは思えない柔軟なコンビネーションに驚きを隠せない。

 でも、負けるとは思いませんでしたわ。だって今の私は、1人ではありませんもの。

 

「あちらは、連携戦がお望みのようですわね」

「いいね。受けて立とうじゃないか」

 

 今にも私を攻撃しようとしていたα1が、横合いから撃ち込まれたバズーカで吹き飛ばされる。

 と同時に、一瞬フリーとなったこの隙に、α3をスナイパーライフルで照準。トリガー。

 エネルギーシールドで弾かれるが、予想通り回避するそぶりすら見せなかった。

 やっぱりあれは、一夏さんの攻撃で相当なダメージを負っている。もう戦闘機動を行うだけの余裕も無いんだ。

 そうしてシャルロットが、私と背中合わせになるように合流。

 と同時に、ビットの斉射でα2を牽制した後、回収してエネルギーチャージを開始。――――――完了

 

「――――――狙うなら、α3からですわね」

「そうだね。落とせるところから落としていこう」

 

 会話はそれだけでしたけど、これ以上は不要でしたわ。

 自然と私はα1を照準。α2へ向けてビット展開。シャルロットがα3へ向けて突撃。

 

 ・・・・・後から思えば、私達はもっと注意を払うべきでした。

 

 人の形をしていても、相手は無人機であるという事に。

 

 

 

 第23話に続く

 

 

 



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第23話 クラス対抗戦(後編)

 

「行くよ!!」

 

 セシリアが2機の無人IS(α1とα2)を抑えている間に、(シャルロット)が手負いの1機(α3)を落とす。

 ごく自然に、そんな役割分担。

 識別コードα3は一夏が入れたダメージで、もう殆ど移動出来ない。代わりにアリーナ外周にポジショニングして固定砲台化。おかげで射撃精度が高い。

 

(本当なら、機動力で撹乱しながら削るところだけど――――――)

 

 ハイパーセンサーが、2対1にも関わらず敵を封じ込めている、セシリアの姿を捉える。

 

(――――――あんな無茶が長く続くはずが無い。やるなら、速攻で決めないと)

 

 高速切替(ラピッド・スイッチ)で右手にガトリング砲、左手にバズーカを呼び出す。

 この際、少々の被弾は仕方が無い。

 時間を掛ければ掛けるほど、こっちが不利になってしまう。

 なら最短の時間で終わらせる。

 両手のトリガーを引き絞り、弾幕を張りながらブーストダッシュ。

 この時僕が考えていたのは、α3を接近して撃破。と同時に距離を取ったα1と2に対して、ラファールの遠距離戦における要の一つ。多弾頭多連装ミサイルを撃ち込むというもの。

 近距離戦じゃ使いづらい兵器だけど、この状況なら!!

 近付く程に濃密になるα3の迎撃。

 だけど湧き上がる恐怖心は、トレーニングを思い出せば耐えられた。

 

「ショウの攻撃は、もっと怖かったよ!!」

 

 右にワンステップ。

 コンマ1秒前まで居た空間を、腕部ビーム砲が貫いてくいく。

 今度は左に。肩部ビームマシンガンがエネルギーシールドを掠めていく。

 もう一歩左に。避わし切れなかった腕部ビーム砲が、エネルギーシールドを削っていく。

 ゲージがイエロー表示に。

 でも、ここまで踏み込めば!!

 前方に向かってジャンプ。近付いたα3に対してトップアタックを――――――すると見せかけてPIC制御。勢い良く跳び上がった慣性をキャンセルして垂直降下。

 この瞬間、フェイントに引っかかったα3の上体は完全に開いていた。

 両腕も、顔も、僕が本来居たであろう位置に向けられている。

 やるなら、今!!

 

 ―――瞬時加速(イグニッション・ブースト)!!

 

 本当なら隠しておく気だった切り札。

 一瞬でトップスピードに到達。左手のバズーカをリリースしながら腕を引き絞る。

 そうして懐に潜り込んだ瞬間。

 

「コレは、一夏のみたいにキレイに切れる訳じゃないからね」

 

 盾殺し(シールド・ピアース)

 人間で言うところのわき腹から心臓に向かう角度で放った鉄杭が、エネルギーシールドを貫き、無人ISに根元まで突き刺さる。

 やった!!

 

 ――――――この時、シャルロットの選択は決して間違っていなかった。

 本人が知る由も無い事だが、この一撃でα3は機能の大半を喪失。

 戦闘能力など、もう“ほとんど”残ってはいなかった。

 だが彼女にとって不幸だったのは、残った部分に再起動システムが含まれていた事。

 損傷がボディに集中していた為に、ビーム砲のあるアームユニットが無事だった事の2つ。

 そんな無人ISを前にして、彼女がとった行動は――――――

 

 僕は突き刺した盾殺し(シールド・ピアース)を、その場で引き抜き180度旋回。

 と同時に崩れ落ちるα3。

 両手に持つ武器をリリース。

 次に使う武器を拡張領域(パススロット)から呼び出す。

 出現するのは、デュノア社の傑作兵器の一つ。

 手持ち型の多弾頭多連装ミサイル。

 外見はロケットランチャー(M202 FLASH)のように、長方形の箱にグリップ用アームと照準用センサーが付いているだけの無骨な代物だけど、その性能は折り紙付きだ。

 1発につき、6発の小型ミサイルに分裂。それが片方だけで4発。つまり24発。それを両手に持っているから計48発のミサイル攻撃。

 ロック――――――オン!!

 

「セシリア!!」

 

 トリガー。と同時にBT(ブルーティアーズ)が離脱。

 放たれたミサイルが、それぞれ分裂。

 α1と2が迎撃を始めるけど、もう遅い。

 そのミサイルは、ランダム回避を繰り返しながら目標に迫るっていう、凶悪な代物だよ。

 

 ―――システム再起動。

 

 ―――自己診断プログラム開始・・・・・終了。

 

 ―――エネルギー回路バイパス。

 

 ―――10秒の限定起動時間確保。

 

 ―――ターゲット。ラファール・リヴァイヴ・カスタムII

 

 僕は全弾発射後、すぐに手持ちミサイルをリリース。

 次に呼び出すのは、120mmアンチマテリアルキャノン。

 全長3mを越える取り回しの悪さに加え、ISの性能を持ってしても、両手を使わなければ押さえ込めないという強烈な反動。

 使い辛い事この上ない兵器だけど、そんなものが専用機に組み込まれている理由はたった一つ。

 

「コレは、痛いじゃすまないよ」

 

 腰だめに構え、ミサイルに追い立てられて機動が単調になったα1を照準。

 FCSがロックオンの完了を告げる。

 この時、僕はもっと注意するべきだった。

 今までは盾殺し(シールド・ピアース)の一撃が入る事は、勝利と同義だった。

 だから今回もそうだと、心のどこかで思ってしまっていたんだ。

 その油断がα3の再起動を、その初動を見落す事に繋がってしまった。

 

 ―――形状特性から120mmアンチマテリアルキャノンを確認。

 

 ―――攻撃有効箇所検索・・・・・終了。

 

 ―――弾倉部を確認。

 

 ―――射線クリア。

 

 ―――照準。

 

 ―――右腕ビーム砲エネルギーチャージ。

 

 ―――充填率36%

 

 ―――発射。

 

 気付いたのは、ビームが放たれた瞬間だった。

 咄嗟にキャノンを手放したけど、出来たのはそこまで。

 120mm弾頭が最大装填されている弾倉が爆発。

 そこで、僕の意識は途切れたんだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 多弾頭多連装ミサイルに追い立てられる無人機を見た(セシリア)は、勝利を確信していました。

 この後、敵が反撃するチャンスなんてもうありませんもの。

 私の多角同時攻撃と、彼女(シャルロット)の砲撃でThe End。

 (薙原さん)が来る前に片付けられる。

 そう思っていました。

 直後に聞こえた、予想外の爆発音。

 振り返れば、吹き飛ぶ彼女の姿。

 

「え?」

 

 思わずそんな言葉が漏れてしまう程、その光景が理解出来ませんでした。

 何故、吹き飛んでいますの?

 盾殺し(シールド・ピアース)が突き刺さったのは、ハイパーセンサーで確認していました。無人機が崩れ落ちたのも確認していましたわ。なのに、何故?

 1秒にも満たない思考の空白。

 でも2対1という状況において、それは致命的でした。

 ましてBT(ブルーティアーズ)という、常に思考制御を要求するものを扱う私にとっては。

 

「!? しまっ――――――」

 

 制御下を離れ、停滞したビットが無人機に撃ち落される。

 1、2、3機も!?

 慌てて再制御。それ以上の被害を防ぐ。でも純粋に火力が減ってしまった今、敵の行動を抑制出来ない。

 距離を取ろうにも、アリーナという閉鎖空間に加えて2対1という数的不利。

 どうにかして自分の距離を、距離さえ取れれば――――――。

 でも敵が、それを許してくれるはずもありませんでした。

 数の利を生かし、1機は頭を抑え、もう1機が私を追い詰める。

 高度が徐々に奪われ、逃げる空間を潰され、残っていたビットも撃墜され、最後はスナイパーライフルにも被弾。

 武器を失い、気付けば吹き飛んで倒れている彼女(シャルロット)の所にまで、追い詰められていました。

 すると無人機は、憎たらしいほど機械的で冷徹で合理的な判断。

 射撃武器を持たない私に対して両腕を向け、エネルギーチャージ。

 避わせば、倒れている彼女に直撃。避わさなければ、当然私に直撃。

 そして反撃手段は有りません。

 でも友人を見捨てるなど、オルコット家の人間がする事ではありませんわ。

 なら、取るべき行動は一つ。

 そう覚悟を決めた時でした。

 ハイパーセンサーが、桁違いのエネルギー反応を感知したのは。

 上?

 私が見上げると同時に、無人機達は攻撃を中断して回避機動。

 直後、アリーナに突き刺さる6本の光の柱。

 放たれた圧倒的なエネルギーの奔流は、一番初め、無人ISが上空の大出力エネルギーシールドを貫いたのとは、比較にならない大爆発を引き起こす。

 余りに衝撃に、アリーナ全体が震えるのが分かりました。

 そんな爆炎と爆風が吹き荒れる中、ゆっくりと降下してくるNEXT。

 背中に見える新しい武装が、どうしようもなく天使という言葉を連想させる。

 それも只の天使ではなく、暴力を持って敵を駆逐する黒色の破壊天使。

 

「――――――セシリア。良く持たせてくれた。後は俺に任せて、シャルロットを頼む」

 

 オープン回線で聞こえてきた彼の声に頷いた私は、彼女を抱き抱えてピットに下がりました。

 この至近距離ですら、リアルタイムで捕捉出来ないNEXTをレーダーに見ながら。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「――――――セシリア。良く持たせてくれた。後は俺に任せて、シャルロットを頼む」

 

 振り返らずに、努めていつもと変わらない口調で言った(薙原晶)は、内心で安堵と、そして歓喜していた。

 安堵は、言うまでも無い。

 仲間が無事だったから。

 データリンクでシャルロットのバイタルデータが乱れた時、そしてセシリアが追い詰められていると分かった時、速いはずのNEXTの移動速度が、どれだけ遅く感じた事か。

 そして歓喜は、この黒い感情をぶつける相手が、まだ生き残ってくれていた事に対してだ。

 誰にだってあるだろう?

 ストレートに暴力をぶつけたくなる事が。

 そして敵に、反撃を許す気は無かった。

 つまりここから先は戦闘じゃない。

 只の蹂躙戦だ。

 OB(オーバード・ブースト)の起動と同時にQB(クイック・ブースト)、狭いアリーナの中で超音速領域に突入。

 しかし壁面にぶつかるような事は無い。

 強化人間の反応速度とAMSの制御能力があれば、例え超音速領域だろうとミリ単位で機体をコントロール出来る。

 そして視界の先では、無人機共が回避機動に入ろうとしていた。が、遅過ぎる。

 04-MARVE(アサルトライフル)063ANAR(アサルトライフル)のダブルトリガーで、α1を照準。

 シールドの上から容赦無く弾丸を叩き付け、引きちぎり、本体に風穴を開けながら接近。

 辛うじて四肢が繋がった状態のα1の懐に飛び込み、設計時から近接打撃が考慮されている04-MARVEの銃身を突き刺す。ここでOBを停止し、前進しようとする慣性をQT(クイックターン)で遠心力に転化。

 敵を地面に向かって叩き落とし、再びダブルトリガー。弾丸の豪雨が、今度こそα1を蜂の巣にする。

 そうして1機目を粉砕したところで、α2は腕部ビーム砲を、セシリアが入って行ったピットへと向けた。

 普通ならここは、「何て卑怯な」と怒るところかもしれない。

 でも俺みたいな捻くれた人間にとって、その手の行動は分かり易過ぎる。むしろ戦闘中に弱っている敵を狙うなんて常識だ。

 だから怒りもしないし卑下もしない。

 むしろ無人ISの戦闘プログラムを組んだ人間は良く分かっている。

 でも、それが届く事は無い。

 読めてるという事は、先手が取れるという事なんだから。

 先んじて俺は、両手の武器をリリース。高速切替(ラピッド・スイッチ)で呼び出すのは、全武装中最高の弾速を誇る武器。

 

 ―――RG01-PITONE(レールガン)

 

 ロックオン。トリガー。そして着弾までがほぼ同時に行われ、α2は攻撃を放つ事無く、衝撃で体勢を崩される。

 ここで俺は、再び手持ち武器をリリース。と同時に再度OB(オーバード・ブースト)起動。

 よろけたα2の懐に潜り込む。

 そうして次に呼び出したのは、KB-O004。

 束博士曰く、「真っ当な天才集団(オーメル)の中にも、こういう“素敵な”ものを作れる人がいるんだね」と大絶賛でお気に入りの一品。

 引き絞った腕を全力で打ち込むと、圧縮によって杭という形を成していたエネルギーの塊が、敵本体の中で拡散。瞬く間に脆弱な内部機構を焼き尽くし、余りの高熱に全身が赤熱化。ついには内部爆発を引き起こして、跡形も無く消滅する。

 この間、僅か1秒弱。

 当たれば、まさに必殺と言える威力だった。

 一瞬KB-O004でこれなら、本家本元最強のパイル(KIKU)なら、どうなるんだろうかと思ってしまった。

 が、それを考えるのは後で良いだろう。

 今は――――――と思考を切り替えようとしたところで、更識から通信が入った。

 

「依頼は片付けたよ。ところで一つお願いがあるんだけど、良いかな?」

「内容による」

「そんなに難しい事じゃないよ。単に、今私が鹵獲した無人機の解析を、篠ノ之束博士に依頼したいんだ。取次ぎを、お願い出来ないかな?」

「鹵獲? よく出来たな」

「空にいたとは言っても海の上。引きずり込めばどうとでも出来るよ」

「怖い話だ。敵には回したくないな」

「君にそう言ってもらえるとは光栄だね。で、取次ぎはしてくれるの?」

「無人機のデータは俺も欲しいからな。取次ぎはしてみる。しかし博士が受けるかどうかは――――――」

 

 分からない。

 と答えようとしたところで、博士から通信が入った。

 

「いいよ薙原。私も興味があるから、その話受けようじゃないか」

「聞いていたのか?」

「勿論。状況は全て把握しているよ」

「分かった。ならすぐに鹵獲機を運ぼう」

「うん。よろしく。――――――と、そうだ。えーと、さらしき、サラシキ、更識? に、ちょっと繋いでくれる」

 

 他人にコンタクトを取るなんて珍しいと思いながら、言われた通りに通信を繋いでみる。

 すると博士は、予想もしていなかったような事を言いだした。

 

「ご褒美は、お金以外はあげないからね。彼を使って何かしようとするのは、許さないよ」

 

 ・・・・・これは、俺はどう反応すれば良いのだろうか?

 少し固まっていると、更識からの返答。

 

「あははははは。了解了解。博士の愛しい愛しいガーディアンに手を出すような真似はしませんよ。でも――――――」

 

 彼女は1度言葉を区切り、分かり易くゆっくりと言葉を続けた。

 

「――――――お仕事で近付く分には、仕方ないですよね? 束博士」

 

 ちょっ!? そこで何挑発しているんですか!?

 原作の更識 楯無(さらしき たてなし)を知っている俺からすれば、遊んでるって分かるけど、人付き合いそのものが殆ど無い博士が、「人たらし」とまで言われる彼女の言葉に振り回されずに済むだろうか?

 多分・・・・・無理だろうなぁ。

 何故だか一難去ってまた一難な気がしてならないのは、気のせいだろうか?

 いや、気のせいだと思いたい。ぜひともそう思いたい。

 2人とも大人だから、困った事にはならないはずだ。

 そんな希望的過ぎる考えで問題を先送りにしながら、俺は鹵獲機の回収に向かうのだった。

 通信機から聞こえてくる声は、聞こえないフリをしながら・・・・・

 

 

 

 第24話に続く

 

 

 

 



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第24話 思い、色々

 

 鹵獲した無人機を博士の自宅兼研究所、その鉄壁の安全対策が施された部屋に運び込んだ後、(薙原晶)は気になっていた事を尋ねてみた。

 更識にはセキュリティ上の問題から、既に帰ってもらっている。

 だからここにいるのは2人だけ。盗聴器の類の心配もない。

 

「そういえば、今回動かなかった理由を聞いても良いかな?」

 

 聞いた話だと襲撃の際、アリーナのシステムコントロールがハックされ、救出部隊が突入出来なかったという。

 ある意味原作通りの展開だが、今学園には博士がいる。

 彼女が手を出せば、恐らくすぐにでもコントロールは取り返せただろう。

 だが、そうはならなかった。

 大方の理由は推測出来るんだが・・・・・。

 

「良いけど、何でだと思う?」

 

 解析データが次々と表示されていくモニターから視線を逸らさないまま、博士は言葉を返してきた。

 

「情報・・・・・というか防衛手段の隠匿と、相手の出方を探る為だと踏んでいるんだが、他に理由があるかな?」

「ご名答。流石は元傭兵。良く分かっているじゃないか。――――――ついでに言えば、確かに私が動けばアリーナのシステムコントロールなんて、すぐに取り返せたんだけどね。その時、必ずこちらのシステム構成も探られる。敵だけじゃなくて、学園側にもね」

「面倒臭い限りだ。でも俺は、博士の考えを支持する。一番の安全対策は知られない事だからな」

「そんな事言って良いの? 私は、君の友人を見捨てたんだよ?」

 

 博士が赤の他人を気遣うなんて少し意外だったが、それを言うなら、襲撃がある事を知りながら離れたのは俺だ。

 なのに謝罪を求めるなんて論外だろう。

 

「普通の感性の持ち主ならここは、『なんで助けられたのに助けなかったんだ』と言うところなんだろうが・・・・・」

 

 何と言うべきか迷い一度言葉を区切ると、博士はくるりと身体ごと向き直り、

 

「なんだろうが?」

 

 と、とても続きが楽しみといった感じで先を促してきた。

 

「・・・・・もし動いていたら、今後のデメリットが大き過ぎた。確かに、博士お手製の防衛システム群の出来は完璧だろう。でも未来永劫攻略不可能という訳でも無いだろう。どんなに完璧に見えても、理論(ロジック)である以上は攻略出来ないはずが無いんだ。その手掛かりを、他人に与えてやる必要なんて無い。何より今回動けば、学園に手を出せば貴女が動くというメッセージを内外に出す事になった。そうすれば、結果的に学園そのものを危険に晒す事になる。だから、動かなくて正解だったと思うわけだ」

 

 言い終えると、彼女は満面の笑みで近付いてきた。

 

「やっぱり思っていた通りだ。君なら、そう判断すると思っていたよ。――――――いるんだよね。自分は何もしないクセに、“天才だから”と言って何でも押し付けてくるヤツが」

「確かに出来る事は多いだろうが、決して万能じゃないんだ。その辺の事を、そういう奴らは分かっていない」

「本当、無理解な人間が多くて困るよ。その点、君は合格だ。話をしていてストレスを感じない」

「それは嬉しいな。だが――――――」

 

 再び少し迷って、結局言う事にした。

 

「―――――― 一つ、謝っておく事がある。一夏のこ・・・・・」

 

 最後まで言う前に、柔らかい人差し指で口元を押さえられた。

 

「仮にあの時、あの場所に君が居たとしても、あのタイミングでは絶対に間に合わなかった。何より、ああいう状況で生き残れるようにする為に、日々トレーニングをしていたんでしょう? そして、いっくんはちゃんと生き残った。過程はどうあれね。だから、それについて責める気は無いよ」

「そう言ってくれると、助かる」

 

 自分で決めた事の結果だ。

 後悔はしていないが、気にしていない訳じゃない。

 だからこういう言葉を貰えると、本当に、少し気が楽になる。

 内心でそんな事を思っていると、

 

「ところで、さ――――――」

 

 博士が更に近付いてきた。

 もう殆ど抱き合えそうな距離で、手を後ろにまわして下から見上げるその体勢は、深い胸の谷間が良く見えてしまう。

 

「な、何だ? 急に?」

 

 思わずどもって、一歩引いてしまう。

 すると更に一歩詰められ、嫌でも視界内に入る豊かな双丘が自己主張した。

 

あの女(更識楯無)には、気をつけないと駄目だよ。君って、女の人に甘いから」

「そ、そんな事は無いと思うが」

 

 このままだと母性の象徴を凝視してしまいそうだったので、名残惜しいけど多大な労力を払って視線を横にずらす。

 が、博士はそんな労力を簡単に台無しにしてくれた。

 柔らかい両手が頬に添えられ、優しくも強制的に正面を向かされる。

 

「目を逸らすっていう事は、自覚があるんだね?」

「自覚も何も、敵を作らないように行動してたら、そうなっただけだ」

「ものは言いようだね。でもそれだけじゃ説明出来ない事、沢山してるよ? 私の時、箒ちゃんの時、フランスとイギリスの専用機持ちの時、色々とね」

「そんなつもりは――――――」

 

 無い。

 と言おうとして、

 

「あるよ。君に自覚が無いだけ」

 

 と断言されてしまった。

 そんなに甘く見えるだろうか?

 最近良くいる軟派な奴のように、「何があっても護るから」とか、そんな台詞は一切言っていないはずだが・・・・・。

 何となく納得がいかないでいると、何故かこれ見よがしに溜息をつかれてしまった。

 

「はぁ・・・・・ちーちゃんの言ってた通りだ」

「ちょっと待て。それはどう――――――」

 

 最後まで、喋らせてはくれなかった。

 

「とにかく、私が心配しているのは君が女の人に甘いって事。そして調べた限りだとあの(更識楯無)は、そういうのを利用するのが上手いから、気をつけてって事。分かった?」

「あ、ああ」

 

 とりあえず返事をしておく。

 が、博士はまだ手を離してくれない。

 

「ねぇ、さっきから随分目が泳いでいるけど、本当にどうしたの?」

「その、だな・・・・・」

 

 言った方が良いだろうか?

 少し悩む。が、結局言う事にした。

 理由は簡単。

 もしもだが、他人が同じ光景を見れると思うと、無性に腹がたったからだ。

 

「こう、俺の高さから見ると、大きくて柔らかそうなものが2つ。とても良い感じに見えてだな」

「・・・・・え?」

 

 博士の視線が、ゆっくりと下に。そしてもう一度に上がって。再び下に。

 次に顔が茹で上がったニンジンみたいに真っ赤になっていって、慌てて両手で胸元を押さえる。

 

「な、な、な、な、な、何で教えてくれなかったの!?」

「せっかく視線を外したのに、正面向かせたのはお前だろう」

「教えてよ」

「いや、雰囲気的に言い辛くて」

「そんな事言って、見たかっただけじゃないの?」

「俺も男だ。否定はしない。むしろ見たかった」

 

 何だか勢いに任せて、つい堂々と開き直ってしまった。

 すると恥ずかしそうにモジモジしながら、ボソリと一言。

 

「・・・・・薙原の、スケベ」

「し、仕方ないだろ。俺だって男なんだから。大体、博士みたいな美人を前にして何も思わない方が男としておかしい」

「び、美人って・・・・・本当にそう思ってるの?」

「当たり前だ。――――――でもまぁ、不愉快な思いをしたなら謝る。悪かった」

 

 気恥ずかしくて、少しばかりぶっきら棒な言い方になってしまった。

 だが博士は気にした様子もなく、

 

「そっか。当たり前か。いいよ。そう思ってるなら、許してあげる。特別だよ」

 

 と、とても上機嫌だった。

 この時の博士の笑顔が眩しくて、ついつい見とれてしまったのは、ここだけの秘密だ。

 そして正直を言えばもう少し見ていたかったけど、そうもいかない。

 今回頑張ったあいつらの見舞いにも行かないと。

 なので、予定だけ聞いておく事にした。

 

「――――――ところで博士。無人機の解析、どれくらいで終わりそうかな?」

「そうだね。ソフト面だけなら、もうツールを走らせているからそう時間は掛からないと思うけど、ハード面まで含めるとそれなりにかかるかな。今回はキッチリ解析させてもらう気だからね」

「分かった。終わったら連絡してくれ」

「うん」

 

 そうして踵を返すと、背後から声を掛けられた。

 

「気をつけてね。あの女(更識楯無)に気を許しちゃ駄目だよ」

「分かってる。せっかく忠告してくれたんだ。気をつけるよ」

 

 しかし後日、俺は原作一夏の気分を存分に味わう事になる。

 が、今そんな事が分かるはずも無かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 アリーナから脱出した後、ピットで気を失った(セシリア)が、次に目覚めたのはベッドの上でした。

 直撃は受けていなかったはずですが・・・・・・・実戦とは、こうも消耗するものなのですね。

 ボーッとする意識で、そんな事を思ってしまう。

 でも何か、忘れて・・・・・そうだ。シャルロットは!? 一夏さんは?

 彼女が吹き飛ばされたあの瞬間と、一夏さんが倒れた瞬間を思い出してしまい、意識が一気に覚醒。身体を起す。

 すると、

 

「大丈夫か、セシリア」

「薙原さん?」

 

 ベッドサイドに、円イスに座った彼が居ました。

 

「医者から心配無いとは聞いているが、どこか痛むところはないか?」

「え、ええ。大丈夫ですわ。それよりも、シャルロットは? 一夏さんは?」

 

 指差された彼の後ろのベッドには、穏やかな寝息を立てている彼女の姿が。

 

「命に別状は無いから、もうじき目覚めるそうだ。一夏の方も同じで、別室で今、箒さんがついている」

「そうでしたか」

 

 失わずに済んだ。

 そう安堵していると、いきなり彼は「ありがとう」と言って頭を下げてきました。

 何故? 私は勝てなかったのに?

 

「戦闘ログを見た。あの時、お前が粘ってくれなかったら、俺は間に合わなかった。本当に良く粘ってくれた。最後はもう武器も無かったのに」

「本当は粘るでは無く、貴方が来る前に片付けるつもりでしたのよ」

「戦場に不測の事態は付き物だ。むしろあの状況で、観客に被害を出さなかった。それは凄い事だと思う」

「それは、一夏さんが頑張ったおかげですわ。一番初めの、あの瞬間。ブーストエネルギーの全てと引き換えに無人機を押しのけたあの判断。同じ立場にいたとしても、私に出来たかどうか」

「後で言ってやると良い。そう言って貰えるなら、あいつも喜ぶだろう。それよりも、本当に大丈夫か? 2対1で随分無茶したみたいじゃないか」

「意外と心配性ですのね。確かに身体は少し重いですけど。こんなのは只の疲労ですわ」

「そうか。いや、それなら良いんだ」

 

 あからさまに安堵する彼を見て、ふと思ってしまいました。

 多分この人は、失う事を酷く恐れている。

 只、立場上言えないだけでは?

 私の、ただ一個人が持つ財産ですら利用しようと沢山の人が近寄ってきた。

 それがもし、世界最強の単機戦力だとしたら?

 それがもし、情の深い人間だったら?

 利用される。本人だけじゃなく、その周囲も。

 だから彼は、そう振舞わなくてはいけない?

 全く確証の無い思いつきでしたけど、只の思いつきと切り捨てる事も出来なかった私は、思わず口を開いていました。

 

「一つ、聞いても良いですか?」

「何だ?」

「貴方は、私達の事をどう思っているのですか?」

「・・・・・これはまた、唐突な質問だな」

 

 肩を竦める彼に、もう一言付け足す。

 

「答え辛いなら、それでも構いませんわ」

「これで答えなかったら、卑怯者みたいじゃないか。――――――まぁ、隠すような話でも無い。気分を悪くしないで欲しいんだが・・・・・」

「自分から聞いて、怒るような真似は致しませんわ」

「・・・・・分かった。正直に言おう。――――――“今は”只の友人で仲間。でも将来は、色々なものを任せられる存在になって欲しい。そう思ってる」

 

 十分以上の答えでした。

 

「分かりましたわ。なって見せようじゃありませんか。いつまでも同じと思われるのは、悔しいですもの。いずれ、私達無しではいられなくして差し上げますわ」

「楽しみにしている。それじゃぁ、長居して悪かったな。後は、ゆっくり休んでくれ」

「ええ」

 

 こうして彼が出て行った後、

 

「・・・・・だ、そうよ。まだまだ先は長いですわね」

「うん。そうだ。一つだけ」

「何ですの?」

「私“達”って言ってくれて、ありがとう」

「・・・・・何の事ですか? 私も休みますから、貴女もお休みなさい」

「うん。お休み」

 

 そうして横になると、直ぐに眠りに落ちてしまいました。

 私でこれなら、絶対防御が発動した彼女はもっと・・・・・。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 (薙原晶)が一夏の病室を訪れた時、あいつはまだ目覚めていなかった。

 まぁ、仕方が無い。

 エネルギーシールドが殆ど残っていない状態で、無人機の攻撃をもらったんだ。

 その分、強く絶対防御が発動している。目覚めるまで、もう少しかかるだろう。

 そんな事を思いながら見舞いの品をサイドテーブルに置くと、先客(篠ノ之箒)がおもむろに口を開いた。

 

「・・・・・一夏は、強かったですね。観客席が狙われたあの瞬間、迷う事無く行動を起こしていた」

「ああ。誰にでも出来る事じゃない。多分、強く思っている事があるんだろうな」

「何か、知っているんですか?」

「いいや。でも戦闘ログを見れば分かる。他人をどうでも良いと思っている人間に、あんな行動は絶対に取れない」

「そう・・・・・ですよね」

 

 暫く口を閉じていると、箒さんがまた喋り始めた。

 

「・・・・・もし、私が専用機を持っていたとして、同じ状況だったらどうしていたか、考えてみました」

「ほう?」

「でも、駄目なんです。どうしても一夏と同じ行動が取れない。あの時、あの瞬間、一夏は沢山の人を護ったのに、私は頭の中ですら同じ行動が取れなかった。怖かった」

 

 どうして急にこんな事を言い出したのか、彼女の心境に何があったのか、推測する事しかできないが、彼女の反応は至極当然のものだろう。一夏は普段のトレーニングがあったから行動出来ただけ。俺はそれをストレートに伝える事にした。

 

「・・・・・別に、恥じる必要は無いと思う。むしろ、同じ行動が出来る方がおかしい」

「何故? 一夏はあんなに勇敢に」

「一夏が何の努力も無く、あれだけの行動を取れたと思っているなら、それはコイツに対する侮辱だよ。日頃の積み重ねがあってこそだ。決して、偶然でも何でもない。成したのは、コイツ自身が積み重ねた結果だ。そこは間違わないで欲しい」

「・・・・・私にも、出来ますか?」

「さぁな。こればっかりは本人次第だ」

 

 似合わない事をしている。

 自身の言葉にそう思うが、ここじゃ俺は、強者の仮面を被り続けないといけない。

 そう思った時だった。

 

「う・・・・・ん・・・・・・ここ、は?」

「一夏!? 大丈夫か? 痛い所はないか?」

「ほう、き?」

「ああ、私だ。分かるか?」

「あ、ああ」

 

 まだ意識がはっきりしていないんだろう。

 少し虚ろな視線で天井を見上げている。

 だが少し待っていると、視線がはっきりと定まってきた。

 

「落ち着いたか?」

「ああ。ところで、あの後どうなったんだ?」

 

 心配そうな表情をする一夏に、俺は大丈夫だと言って結果を伝えた。

 

「お前が初撃を防いでくれたお蔭で、観客への被害は0。シャルロットが負傷してはいるが、命に別状は無いから数日中には退院できる。セシリアの方も、ISにそれなりのダメージは負っているが本人は無事。凰鈴音も同様だ。よくあの瞬間、あの決断をしてくれた」

「必死だっただけだよ」

「それでもだ。本当に、よくやってくれた」

「何だか照れるな」

 

 と、ここで終われば美しい物語なんだが、それだと何だかつまらないので、少し火種を放り込んでから帰る事にした。

 

「そういえば一夏、退院したら大変だな」

「え?」

「いやな、ここに来る途中あちこちで、『一夏君格好良かったよね~』って言葉が沢山聞こえてな。多分退院したら、色々と押し寄せてくるんじゃないか」

 

 ここで誰が、とハッキリ言わないのがミソである。

 ある程度ぼかして、相手の想像力を刺激してやれば後は――――――。

 

「い、一夏!!」

「な、何だ箒?」

「まさか男子たるもの、不埒な事は考えていまいな?」

「何だよ不埒な事って!!」

 

 そして、火種そのニ。

 

「ああ、そういえば。『出てきたらアタックしちゃおうかな~』なんて言葉もちらほらと」

 

 ここまで言えば一夏も、意図的に火種を放り込んでると分かったんだろう。

 アイコンタクト開始。

 

 ―――なに考えてるんだよ!!

 

 ―――いや、事実をありのままに伝えただけだが?

 

 ―――何で今なんだよ!!

 

 ―――面白そうだからに決まってるじゃないか。

 

 ―――ちょっ!? 言うに事かいてソレかい!!

 

 アイコンタクト終了。

 そうして、そそくさと部屋の外へ向かうと、

 

「ちょっと晶。待て――――――、あ、アレ」

 

 俺を追いかけようと、急に動いた一夏は立ち眩み。

 支えようとした箒さんと一緒に倒れてしまい、原作主人公らしいラッキースケベで、右手は柔らかい膨らみの上に。

 いや、ここまで期待通りに動いてくれると、次もやりたくなっちゃうじゃないか。

 そんな事を思いながら、病室から出て行ったのだが、この時俺は失念していた。

 この一夏は、原作とは違い色々な意味で逞しくなっている事に・・・・・。

 

 

 

 第25話に続く

 

 

 



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第25話 お金の使い道

 

 クラス対抗戦の翌日、皆が登校してくるよりも少し早い時間、(薙原晶)は盗聴対策が施された面談室にいた。

 本当、こういう部屋があると助かるよ。

 何せ話が話だ。余り他人に知られたくない。

 いや、正確に言えば俺が守銭奴と思われるのは良いが、あの時のパートナーの平穏を考えるなら、知られない方が良いという話だ。

 お金って、容易く人も人生も変えてしまうからな。

 そんな事を考えながら、面談用の質素なテーブルを挟んで、反対側のイスに座る山田先生を見ると――――――。

 

「そ、そんな大金受け取れません!!」

 

 と、大いにうろたえていた。

 まぁ、一般的な反応かもしれない。

 超音速旅客機(SST)の一件でむしりとった報酬は、約80億9千万円。

 2人で分けても、40億4千5百万円。

 うん。一般人からみたら確実に桁が一つか二つくらいは、ずれていると思う。

 俺も、要求した後でそう思った。

 しかし、だ。考えてみて欲しい。

 一般の航空路線で運用されている飛行機は、1機あたり約150~200億程度。

 勿論、もっと安いのも高いのもあるが、その程度の値段はするんだ。

 その撃墜を防いだんだから、この位は貰っても良いと思わないか?

 俺は思う。

 もし撃墜されていたら、この値段+各種損害賠償+全航空機の総点検(オーバーホール)+信用失墜で大変な事になっていたんだから。

 でもそんな事、この善人な人には関係無いらしい。

 

「そもそもです。あの時はあえて何も言いませんでしたが、人の命に値段を付けるなんて、本当はいけない事なんですよ。ISに関わる私達は――――――」

「先生、ストップ。教師に向かって言う言葉じゃないが、建前だけじゃ世の中渡っていけないのは理解してくれ。他の誰でも無い。俺が動くなら、それ相応の理由が必要だったんだ。善意だけで動く戦力なんて、他人からしてみれば危な過ぎる。俺が動く為の、動かされる為のルールを示さないと危険だったんだ。その為に、一番分かりやすいのが金だった。それだけの事なんだ」

「それは・・・・・まぁ、分かりますけど。でも、そんな大金受け取れません」

「そう言わずに受け取って欲しい。あの仕事は、先生というパートナーがいてこそ成功したんだ。そのパートナーに報酬を渡さないなんて、誰が許しても俺が許せない」

 

 すると山田先生は、「はぁ」と溜息をついて、

 

「“そこは”立派な考えですけど、薙原君。私のお仕事、分かってます?」

「え? 先生、でしょ?」

「そうです。先生です。公務員です。アルバイト禁止です。副業も禁止です。そんなお金受け取ったらクビなんです」

「あっ!?」

 

 しまったな。

 これじゃ渡せない。

 学園に寄付なんてしたら、本来は山田先生の懐に入るはずのお金が、見知らぬ他人に使われる事になって嫌だし・・・・・どうするかな?

 そんな事を考えていると、やっぱり善人らしい言葉が出てきた。

 

「なら、学園に寄付でも――――――」

「絶対に嫌だ。本来先生の懐に入るはずの物を、何故赤の他人に使わせないといけないんだ」

「薙原君。少し、他人を信用する事を覚えましょう」

「信用している人間も、信頼している人間もいるが、ソレとコレとは別の問題だ。俺が嫌なのは、貴女が直接報酬を受け取れない。使い道を決められないってところなんだ」

「困りましたね。そういうところは人として好感が持てるんですけど・・・・・そうです!!」

 

 先生はポンッと両手を叩いて、

 

「使い道を、私が決めれば良いんですね?」

 

 頷くと、

 

「ならこうしましょう。私の分の報酬は、私が使い道を決めますから、そういう使い道をして欲しいと言って学園に寄付して下さい」

「具体的には?」

「色々ありますよ。授業で使う教材。セキュリティシステムの更新。食堂のご飯も美味しくしたいですし、IS用装備は・・・・・買ったら全部無くなっちゃいますからコレは置いといて、他には――――――」

 

 話を聞いていると、確かに全部学園の為にはなるのだが・・・・・。

 

「先生は、自分が欲しい物とかは無いんですか?」

「あるにはあるんですけどね、そういうのは自分で買います。人間、身の丈に合った生活をしないとね」

 

 非常に耳の痛い話だった。流石は教師。

 でもやっぱり、山田先生が何も受け取れないというのは納得がいかない。

 いや、公務員だから仕方ないんだが、こういう善人だからこそ受け取って欲しいと思う。

 なので、

 

「分かりました。先生の分の報酬については、それで納得しておきます。代わりに、何かプレゼントさせて下さい。誰かからのプレゼントという形でなら、受け取れますよね?」

「常識的な範疇でなら、ギリギリですよ。一応、私は教師で貴方は生徒なんですから」

「分かっています。何か希望の品はありますか?」

「せっかくなので、薙原君のセンスに任せてみましょう。勿論、変なものだったら受け取りませんからね」

「これはまた、難易度の高い話だ」

 

 思わず天井を仰ぎ見てしまう。

 常識的な範疇で、あの仕事に見合うもの?

 何が良いんだ?

 

「無理しなくて良いんですよ。薙原君が、パートナーを気遣う人間だと分かっただけでも十分ですから」

 

 魅力的な笑顔でニッコリと笑いながら、そんな事を言う。

 教師の鏡みたいな人だ。素直にそう思った。

 だからこそ、正しく報酬を受け取って欲しいと思う。

 

「・・・・・無理なんてしません。ちょっとすぐに良い案が出てきませんけど、必ず渡します」

「常識的な範疇で、ですからね」

「分かってますよ。――――――と、そろそろ時間か。では、また教室で」

 

 もうすぐSHRの時間だったので席を立った俺は、ふと、思いついたように尋ねてみた。

 

「そういえば、先生は1人暮らしですか?」

「そうですよ」

「分かりました。なら1人暮らしに役立ちそうな、実用的な物を考えてみますよ」

「ここで洋服とかを選ばないあたり、性格が分かりますね」

「そっちの方が良いなら、そうしますよ?」

「いいえ。任せると言ったんですから、任せます」

「任されました。―――では」

 

 そうして教室に向かう途中、俺はどんなものにするかを考え始めた。

 方向性は決まったから、後はどんな形にするかなんだが・・・・・。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 昼休み、(薙原晶)は図書室に来ていた。

 基本的に書物は電子化されているから教室でも良かったんだが、あそこで調べ物をすると色々と煩い。

 なので静かなこっちに来たんだが・・・・・。

 

「何故、お前(更識楯無)がここにいる?」

「昼休みにどこにいようが私の勝手。ついでに言えば、一日中生徒会室にいる訳でも無いのよ」

「一日中いるものだと思っていた」

「そんな事無いわ。――――――ところで、何を調べているの?」

 

 生徒会長はそう言いながら、隣の席に腰を下ろした。

 ついでに足組み。

 短めのスカートから見える脚線美が中々際どい。

 が、明らかに地雷と分かっている人間だ。

 目の保養程度に止めておくのが良いだろう。

 

「別に大した事じゃない。少し気になった事があったから調べているだけだ」

 

 答えになっていない答えを返すと、更識はディスプレイを覗き込んできた。

 

「――――――『家庭用ロボットのアレコレ』? 何か作る気なの?」

「ノーコメントだ」

 

 下手な事を言うと何に利用されるか分からないから、自然と口も堅くなる。

 なので努めてそっけない返事。

 すると更識、

 

「そんなに警戒されると、おねーさんは悲しいな」

 

 と明らかな演技でヨヨヨと泣き崩れる。

 

「そういうのがやりたいなら、役者としてデビューしたらどうだ? 顔は良いから、多分すぐに売れっ子だ」

「つまらない反応ね。女を泣かせたんだから、もう少しうろたえてよ」

「女の涙ほど信用出来ないものは無い」

「貴方今、世界の半分は敵に回したわよ」

「それは困ったな。なら、騙されるのは男の甲斐性とでも言っておこう」

「すっっっっごい棒読み。欠片も思って無いでしょ?」

「どうだろうな?」

 

 下らない話で煙に巻きつつ、教室に戻ろうと席を立つ。

 俺の交渉スキルで、コイツとやりあうのは危険過ぎる。

 だが、

 

「大方、山田先生への報酬で悩んでいるんでしょう?」

 

 とピンポイントで言い当ててきた。

 何故分かったんだ? タイトル以外の情報は何も与えていないはずだ。

 更識の方にチラリと視線を向けると、既に彼女は勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 

「やっぱり貴方、こっちの方は素人ね。本当に隠す気があるなら、視線すら向けずに立ち去るのが正解よ」

 

 俺は再びイスに腰を下ろした。

 多分、ここでこのまま立ち去っても良い事は無いだろう。

 それにいずれ話をしなければならない相手だ。人となりを知っておくのも悪く無い。

 こちらを探られる可能性の方が高いが・・・・・まぁ世の中、ノーリスクで得られるものなんて、ほんの僅かだ。。

 

「どうして、そういう答えに行き着いたんだ?」

「簡単な事よ。今までの貴方の行動を見ていれば、それなりに律儀な性格だと分かるわ。そんな人間が朝早くきて、わざわざ盗聴対策が施された面談室で話をした。つまり他人に聞かれたくないという事。そして山田先生と貴方との接点は、先生と生徒という以外は、あの仕事の一件しかない。――――――だから報酬絡みというのは、容易く想像がつくわ。ついでに言えば山田先生の性格的に、公務員という立場から逸脱するとも思えない。どう?」

「・・・・・正解だ」

 

 まさか行動だけでそこまで読まれるなんて、やっぱりプロは違うって事か。

 俺は内心で驚きながも、言葉を続けた。

 

「―――で、それを言う為だけに来た訳じゃないだろう? 用件は何だ」

「別に大した事じゃないわ。今後ともよろしくって、挨拶に来ただけ。それと、これ私への直通アドレス」

 

 差し出されたのは、折りたたまれたメモ帳の切れ端。

 ここで出されるのが、普通のアドレスのはずも無い。恐らく仕事用のアドレスだろう。

 だが受け取ろうと手を伸ばすと、サッと下げられてしまった。

 

「どういうつもりだ?」

「貴方と、直接連絡がつくアドレスが欲しいなぁ~って」

 

 更識は、魅惑的な笑みを浮かべながらそんな事を言う。

 目的はそれか。

 少し、アドレスを渡した場合のメリットとデメリットについて考えてみる。

 まずメリットは?

 言うまでも無く、様々な方面にコネクションを持つ更識楯無との間にパイプが出来る事。

 しかも強力なIS操縦者という点も見過ごせない。

 友好を深めておけば、今後色々と役に立つだろう。

 では、デメリットは?

 知らない内に厄介事を抱え込んでしまう可能性が高い事。

 何せ更識の本職を考えれば、NEXTと直接連絡が取れるというのは、この上ない強みだろう。

 例え使う気が無いカードだとしても、そう言えるだけで、強力なカードとなるのは間違い無い。

 そして第三者がそれを見れば、まず間違いなく協力関係にあると見るだろう。

 つまり更識と敵対している者から見れば、俺も排除対象になる訳だ。

 どうする?

 しばらく考えていると、

 

「――――――まぁ、無理にとは言わないよ。でもこれから先、今回と同じような幸運が続くかな? 博士の事だけを考えるなら、必要無いかもしれないけどね」

「・・・・・」

 

 仮に、ここで断ったとしよう。

 次に今回(クラス対抗戦)と同じような状況に陥った時、動いてくれるだろうか?

 恐らく、報酬を支払う限りは動いてくれるだろう。

 だが一度こういう話を断った後だと、足元を見られかねない。

 ピンチの時なら尚更だ。

 ならここは、少々のデメリットを呑んででも関係を結んでおくべきだろう。

 そう考えてアドレスを交換すると更識は、

 

「改めて、これからよろしくね」

 

 とニッコリと笑いながら手を差し出してきた。

 彼女的には、目的達成というところか。

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 こちらも手を差し出し、営業用スマイルで握手。

 そして思う。

 原作では良い人っぽいが、完全に良い人という訳でも無いだろう。

 下手をすれば、いつの間にか手駒にされていてもおかしくない。

 そうならない為には、どうしたら良いだろうか?

 今の俺には、武力しか無い。

 なんて事を考えていると、

 

「―――心配性ね。そんなに警戒しなくても良いのに」

「ここで全く無警戒というのも、問題あると思うが?」

「しすぎは逆効果よ。相手に要らぬ警戒心を抱かせるだけ。本当に、こっちの方面は素人さんなのね」

「・・・・・」

「そこで黙り込むのも減点。素人ですって、教えているようなものよ」

「更識にかかれば、誰でもアマチュアだろう」

「それほどでも無いわ。――――――でも、そんなに買ってくれているなら、交渉のイロハを色々と教えてあげましょうか?」

 

 少し考える。が、結論はあっさりと出た。

 

「いいや。遠慮しておこう。何も俺が万能である必要は無い。付け焼刃は危険だよ。それに――――――」

「それに?」

 

 続く言葉を期待するような眼差し。

 

「俺の存在価値は、単機における最強戦力。そして博士のガーディアンというところにある。勿論、交渉事が出来るに越したことはないが、何も俺である必要は無い。そういうのに強い仲間がいれば良い」

「・・・・・意外ね。てっきり全部自分でやりたがると思っていたけど」

「人一人が出来る事なんて、たかが知れているよ。役割分担出来るところはしないと、何処かで破綻する」

「嫌味なくらい正論ね。――――――まぁ、今日はこれで失礼するわ。中々、楽しい時間だったわよ」

 

 そう言いながら更識は席を立ち、図書室から出て行った。

 対し、見送った俺は、

 

(あれが、本当のプロか・・・・・)

 

 そんな事を思いながらイスの背もたれに寄りかかり、深く一息ついてから、教室に戻る事にした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 誰もいない生徒会室。

 夕日の差し込むその部屋に戻ってきた(更識楯無)は、湧き上がる笑みを抑えきれないでいた。

 何てアンバランスで、何て面白そうな人。

 勿論、ある程度の下調べはしてから接触したけど、正直信じられないでいた。

 あれだけの力の持ち主、そして入手した過去。それらを考えれば、どこか歪んでいてもおかしくないのに、それが見当たらない。

 言ってしまえば、どこにでもいる一般人。

 だけど、入手した戦闘情報がそれを否定する。

 あの桁外れの性能を自在に使って、そして武器を使い分け、状況を利用し、目的を達成している。

 間違っても素人の動きじゃない。

 玄人の巧みさと、敵の弱点を本能的に嗅ぎつける獣の動き。

 なのに、交渉事に関してはどうだろう?

 頭は回るようだけど、それだけだ。

 経験値が絶対的に足りていない。

 入手した過去を考えれば、そっちの方面でも、それなりに経験は積んでいるはずなのに。

 だからアンバランス。

 でもそれが面白い。

 そして何よりポイントが高かったのは、1人で何でもやろうとしなかったところだ。

 何でもやりたがる英雄願望でもあれば、色々と手取り足取り教えてあげる最中に骨抜きにしてあげたんだけど、彼は仲間やチームの重要性を知っていた。

 

『人一人が出来る事なんて、たかが知れている』

 

 この言葉が良い証拠ね。

 多分、博士と2人きりという超少数精鋭で動いていたおかげで、人手の足りなさに泣いた事があるんでしょう。

 だから信用出来る仲間を欲した、というところかしら?

 なら彼を楯無に、いえ、私の元に引き入れる為には、まずはソコからね。

 これから困る事も多いでしょうから、協力していけば難しくないでしょうけど・・・・・問題は博士よね。

 あのからかった時の態度を見るに、博士は相当、彼に御執着のよう。

 下手に引き抜けば、世界最高の頭脳を敵にまわす事になる。

 それは避けたい。

 でも引き抜きたい。

 しかし私は警戒されているだろう。

 ならどうする?

 頭の中に色々な案が浮かんでは消えていく。

 穏便にやるなら、金も女も権力も駄目。

 身内以外は殆ど認識しない博士だけど、記号や物事に関わるファクターとしてなら必ず気付く。

 じゃないと世界中の組織から単独で逃げおおせるなんて不可能だ。

 なら結局、取れる手段というのは、

 

「王道的に仲良くなるところから、かなぁ・・・・・」

 

 そんな事を呟きながら、私は『生徒会長』というネームが立てられた自分の席に腰を下ろす。

 すると机にある端末がオートで起動。

 パスワードを打ち込み、仕事用の画面を呼び出す。

 

「・・・・・さて、お近づきになる為には、何を(どんな情報を)渡せば良いかしらね」

 

 この日、生徒会長室の電気は夜遅くまでついていたという。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 放課後、(薙原晶)は夕日が差し込む病室にいた。

 シャルロットとセシリアを見舞いに来たんだが、セシリアは既に退院した後だった。

 なので、今ここにいるのは俺とシャルロットだけ。

 

「良かった。大分元気になったみたいだな」

「うん。先生も明日には退院出来るって。本当は今日でも良いらしいんだけど、無理しないで1日ゆっくり休んだ方が良いって言われてね」

 

 ベッド上で身体を起している彼女が、はにかみながら答えてくれる。

 無理をしている様子は無いから、言葉通りの意味だろう。

 

「その方が良い。シャルロットはいつも頑張り過ぎだ」

「君がそれを言う? 何のかんの言って、僕に仕事を割り振るくせに。クラストレーニングの話とか」

「うっ・・・・・それは、まぁ、すまないとは思っているんだ。俺1人だと手が足りないし、一夏はその手の書類仕事とか計画立案とかをやる事自体が初めてだったし、セシリアは形式美に拘るし・・・・・いや、2人が悪い訳じゃないんだ。むしろ手伝ってくれて助かったのも本当なんだ。只、シャルロットが手がけると綺麗に分かり易くまとまるから、ついな・・・・・」

 

 いかん。

 こうして思い出すと、日頃如何に頼っているかが良く分かる。

 

「まぁ、頼られて悪い気はしないから良いよ」

 

 だけど、彼女は嫌な顔一つせずにこう言ってくれる。

 本心かどうかは分からない。

 いつもなら、他の人が相手なら、この言葉の裏を探るんだが、探りたくないと思っている自分がいる。

 だから心の赴くままに探らなかった。

 

「そうか。じゃぁ、これからも色々頼むとしよう」

「酷い。ここは労わってくれるところじゃないの?」

「ここで労わると俺が大変だから、感謝は別のところで表そうと思ってね」

「別のところ?」

 

 シャルロットが首を傾げる。

 彼女は、喜んでくれるだろうか?

 

超音速旅客機(SST)の一件で報酬が入るから、今度一緒に何処かに行かないか? 日頃の感謝も込めて、何かプレゼントしたい」

「え?」

 

 キョトンとした表情の彼女。

 ・・・・・しまった。

 いきなりこんな風に誘うのは拙かったか?

 やっぱり、もっと手順を踏んだ方が良かっただろうか?

 内心で少し、いや大分焦っていると、

 

「いいの!? 本当? 嘘じゃないよね?」

 

 と、ズイッと顔を近づけられた。

 

「あ、ああ」

 

 予想外の強烈な反応に、思わずたじろいでしまう。

 でも良かった。

 これで、「アンタとなんかじゃイヤ」何て言われたら流石に凹む。

 

「そっか。それなら許してあげる。でもプレゼントか。何でも良いの? 今更ダメなんて言わないよね?」

「勿論だ。一つと言わず何個でも」

「ありがとう。あっ、でも・・・・・」

 

 喜んでくれたのも束の間、何か気になる事があったのか、せっかくの笑顔が曇ってしまった。

 

「どうしたんだ?」

「確か、超音速旅客機(SST)の報酬って言ったよね?」

「そうだが?」

「なら、一つだけにしようかな」

「どうして?」

 

 俺が首を傾げると、彼女は人差し指を立てて、

 

「お金の使い道は考えないと、後で要らない苦労をするって事」

「それは分かるが、それとこれと何の関係が?」

「僕にプレゼントを沢山買ってくれるのは嬉しいけど、それを他人が見たら、報酬を女に貢ぐ君だよ。そういう話が流れるのは良くないでしょう?」

「・・・・・確かに、な。悪いな。気を使わせて」

「ううん。いいよ。それだけ大事にされているって思えるから」

 

 面と向かって言われると何だか気恥ずかしいが、彼女の笑顔が見れるなら悪く無い。

 むしろ今後も誘おうかと考えてしまった。

 少しだけ、女に貢いで破産する奴の気持ちが分かった気がする。

 その後しばらく話し込んでしまい、気付けば寮の門限時間ギリギリだった。

 

「――――――ヤバッ!?」

「ショウ。急いで!! 織斑先生って容赦無いから」

「分かってる。じゃぁ、また明日な」

 

 急いで出て行く俺を、シャルロットは「頑張ってねぇ~」と言って送り出してくれた。

 そして帰りの道中、走りながら思う。

 彼女と話していると、随分と気が楽になっている事がある。

 今もそうだ。

 更識と話して気疲れしていたのに、こんなに気が楽だ。

 こういう相手は、大事にしたいと思う。

 そんな事を考えながら俺は、寮の前で秒読みを始めた織斑先生の横を、駆け抜けるのだった。

 

 

 

 第26話に続く

 

 

 



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第26話 獣を縛るは人の情

 

 最近、(篠ノ之束)の機嫌はとっっっっっても良くて、少ーーーーーしだけ悪かった。

 良い理由は単純明快で至ってシンプル。

 ちーちゃん(織斑千冬)とはすぐに話せるし、愛しの(箒ちゃん)とも、手紙というアナログな手段ではあるけどやりとり出来る。逃亡生活を続けていた時と違って、存分に研究に打ち込める。外の有象無象のどうでも良い連中が持ち込む面倒事は、薙原が処理してくれる。

 つまり好きな事を好きなだけしてられる。

 これで機嫌が悪い訳が無い。

 更に言えば、薙原が私の考えを理解できるのも大きいかな?

 彼は私の意志や意図、そういったものを実に上手く読み取ってくれる。

 “天才だから”と言って何でも押し付けてくる凡人どもとは大違い。

 でも、それも当然かと思ってしまう。

 何せ彼は“最後のORCA”。

 ここでは無い別の世界で、億人の人間を清浄な空から汚染された大地に引きずり降ろし、数多の犠牲と引き換えに宇宙(ソラ)への道を切り開いた大罪人にして救済者。

 凡人と同じはずが無い。

 私と同類の天才では無いけど、こと戦うという一点において、彼の思考は他の追随を許さない。

 それが強化された結果なのか、本人が元々持っていた資質なのかは分からないけど。

 だからかな?

 彼は私の考えを理解して受け入れてくれる。

 理解者がいるというのが、こんなに気分の良いものだとは思わなかった。

 多分、ちーちゃん以外にそんな人、人生の最後まで現れないと思っていたから、尚更かな?

 だけど・・・・・機嫌の良い理由が薙原なら、悪い理由も薙原だ。

 彼は女に甘過ぎる。

 いや、分かってはいるつもりだったよ。

 メモリーを解析した時に、女性リンクスの僚機が随分多かったからね。

 

 オペレーターのセレン・ヘイズ。

 BFFのリリウム・ウォルコット。

 GAのメイ・グリンフィールド。

 インテリオルのウィン・D・ファンションとエイ・プール。

 ORCAのジュリアス・エメリー。

 

 等々。

 どいつもこいつもタイプの違う美人さんばかり。

 まぁ、それはいいや。

 どうせいない人達だし。

 問題は最近、周囲にチラつくようになった有象無象の凡人共。

 特に、あの女(更識楯無)

 まだ全ての情報を洗った訳じゃないけど、それでも油断出来ない相手というのは十分に分かった。

 伊達に、あの年齢で更識の当主を務めていない。

 そんな人間が、(薙原)に興味を持って近付いてきた。

 自分が興味で動く人間だという自覚があるだけに、それがどれだけ厄介な事か理解できてしまう。

 何故ならある一定レベル以上の天才は、興味の有る無しが、結果に多大な影響を及ぼすから。

 それでいて、他のどうでも良い事は片手間で―――それでいて平均より遥かに高いレベルで―――処理できてしまう。

 そんな人間が興味を持って本気で取り組んだらどうなるかなんて、1+1=2以上に簡単な事。

 しかも厄介な事にあの女は、特化型の私と違い全てのレベルが平均的に高い。

 正直、色々な意味で相手にしたく無かった。

 勿論負ける気は無いけど・・・・・。

 でも、迂闊にここ(自宅兼研究所)から出られない私と違い、あの女(更識楯無)は日中接触し放題。

 暗部の人間なら、当然色仕掛けも・・・・・。

 

(・・・・・やめよう。こんな事、考えるだけリソースの無駄。彼が、色仕掛け程度で惑わされるはずが無い)

 

 とは思うものの、以前なら下らないと切り捨てられたはずの思考が止められない。

 大人2人が入ってもまだ余りある浴槽に入りながら、ふと自分の身体に視線を落す。

 彼は、どんなスタイルが好みなんだろう?

 自分としては悪く無いスタイルだと思う。

 彼もこの前見とれていたから、全くの外れでも無いと思う。

 今度一度迫ってみようか?

 何となくそんな事を考えてしまうが、それだと自分を安売りしているみたいで気が乗らない。

 なら、どうしよう?

 私は、何に対する「どうしよう」なのかすら分からないまま、しばらくの間、浴槽に浸かり続けた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ・・・・・後から思えば、「やっちまった」っていう言葉しか出てこないんだけどさ。

 気づけよ。と言われればそれまでなんだけどさ。

 原作主人公の事笑えないね。と言われれば返す言葉も無いんだけどさ。

 何も“今”じゃなくても良いだろう。

 (薙原晶)は、心底そう思ったよ。

 事の発端は束博士の自宅。そのリビングでソファに座って雑誌を読んでいた時の事だった。

 

「あれ? 薙原、来てたの」

「ああ、たまにはこっちで過ごそ――――――」

 

 振り向いて、博士の姿を視界に納めた瞬間、思わず息を呑んでしまった。

 風呂上りなんだろう。

 トレードマークとも言えるウサミミを外し、上気した頬と滑らかそうな生地で出来た、白く薄いバスローブに身を包んだ姿は、正直破壊力があり過ぎた。

 でもここで、あからさまにうろたえるのは良くない。

 最後のORCAがこの程度でうろたえていたら、幻滅されてしまう。

 なので努めて冷静に言い直す。

 

「――――――たまには、こっちで過ごそうと思ってね。迷惑だったか?」

「ううん。ここは広いからね。一人くらい同居人がいた方が、丁度良いよ。でも寮の門限は良いの? ちーちゃんだったら、君が相手でも容赦しないと思うよ」

「外泊届けは出してきたから問題無い。ここに来ると言ったら、すぐにOKを出してくれた」

「そうなんだ。―――髪、乾かしてくるから、少し待っててね」

「急ぎの用事がある訳でも無いから、急がなくて良いよ」

 

 そう言ってリビングから出て行く博士を見送った俺は、読んでいた雑誌を顔の上に乗せ、「ふぅ」と一息ついてしまった。

 何だアレ。破壊力あり過ぎだろう!!

 上気した頬とか、ちょっと開いた胸元とか、ウェストのラインはほっそりしていて綺麗だったし、いかん。何考えてるんだ俺。

 

 ―――同じ時、隣の部屋で博士がドキドキしている事を、薙原が知るはずも無い。―――

 

 そうしてきっかり20分後、戻ってきた博士が隣に腰を下ろした。

 

「ところで、何見てるの?」

「大したものじゃない。家庭用ロボットの一覧だよ」

「珍しいもの見てるね。必要なら作ってあげるよ。態々この程度のもの買わなくても」

「いや、それがな――――――」

 

 俺は事情を話す事にした。

 以前受けた超音速旅客機(SST)の一件で報酬が入ったは良いが、山田先生が公務員という立場にあるおかげで、その報酬を受け取れない事。本来受け取れるはずの報酬は、学園に寄付される事。それだと山田先生がタダ働きした事になるので、俺から“常識的な金額の範囲内で”プレゼントをする事にした等々。

 

「ふぅ~~~~ん。プレゼント、ねぇ」

 

 何となく声が冷たく感じるのは気のせいだろうか?

 いや、気のせいだろう。

 口説く為に送る訳でも無いし、立場上、表立って報酬を受け取れないからプレゼントという形で渡すだけなんだ。

 やましいところは何も無い。

 

「ところで、どんな物を考えているの?」

「1人暮らしらしいから、何か生活が楽になるような、お手伝いロボットでもあればと思ったんだけど、良いのが無くてな」

「なら、作ってあげようか? こんな低機能な奴じゃ、幾ら渡してもあの仕事には釣り合わないでしょ」

「そうなんだが、本人から“常識的な範囲内で”と釘を刺されているからな」

「“手作り”なら、常識的な範囲内でしょ」

 

 ―――ちなみこれは100%博士の善意。のはずが無かった。この瞬間、山田真耶は薙原を取り囲む有象無象の一人から、注意対象に格上げ。よって合法的(?)に監視する為に、お手伝いロボットに色々と機能を増設して送り込む気だった。まぁ、役に立つ限りは、警備機能も働かせてあげる気だったが・・・・・そんな黒い考え、薙原が気付くはずも無い。いや、博士が他人に興味を向けるということ事態が、既に想像の範囲外だった。―――

 

「そうか。悪いな、俺の我侭なのに」

「別に良いよ。たまにはそういう“遊び心”があるのを造るのも悪く無いから。外見の希望はある?」

 

 思いの他乗り気の博士に、ついつい俺も遊び心を出してしまった。

 

「そうだな・・・・・ペンとメモ用紙、ある?」

「はいコレ」

 

 パチンと指が鳴らされると、量子化されていたペンとメモ用紙が、淡い緑色の光と共に実体化。

 まるで魔法使いみたいだ。

 それはさておき、

 

「外見は―――――――」

 

 ペンを走らせ書いたのは、ACユーザーならほぼ100%見た事があるはずのヘッドパーツ。

 型式番号、H07-CRICKET。

 と言っても分からない人は(ある意味)最も有名なレイヴン、ジャック・Oの愛機フォックス・アイのヘッドパーツだと言えば分かってくれるだろうか?

 それに、『ドラ○もん』のような手足を付けてみた。『ド○えもん』のような手足を。大事な事なので二度言いました。

 

「―――――こんな感じで」

「・・・・・バケツに手足?」

「まぁ、確かにバケツ頭とは呼ばれていたな」

「ふふ、ああははははは。いいね。このデザイン。手作りっぽさ満点。手抜き感がたまらない」

 

 お腹をかかえて笑う博士。

 どうやらツボに入ったらしい。

 

「手を抜いた訳じゃないぞ。ちょっと好きなパーツだったから、つい遊び心でってやつだ」

「え? 好きなパーツ? これって元々兵器のパーツなの?」

「ネクストACの前身。ハイエンドノーマルって言われているタイプのACパーツだよ」

「へぇ、詳しく聞かせて」

「幾らでも」

 

 意外な興味を示した博士に、俺は歴戦のレイヴン達が愛用した、数々のACについて話していった。

 その中でフォックス・アイについても(機体イラスト付きで)話したんだが・・・・・それがまさか、あんなところで役に立つとは思わなかった。

 が、それはまだ先の話。

 修羅場は、話を終えた直後に来た。

 

 ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ。

 

 俺の携帯の着信音。

 誰かと思い名前を確認。

 

 ―――更識楯無。

 

 即効でコールを切って電源OFF。

 にしようとして、横から伸びてきた綺麗な手がそれを押し止めた。

 

「ねぇ、今へんな名前が見えたんだけど、気のせいだよね?」

 

 隣に座る博士が、携帯に手を伸ばしたおかげで身体が密着。

 柔らかい感触がなんとも・・・・・と感じられる余裕は無かった。

 気のせいか、いや気のせいじゃなく、物凄く声が冷たい。

 何故だか怖くて横を向けない。

 

「あ、ああ。気のせいじゃないか」

 

 と言いながら、努めて自然に携帯をポケットに仕舞おうとするが、博士が手放してくれない。

 

「ちょっと、見せてもらっても良い?」

 

 言葉は丁寧で多分笑顔(怖くて振り向けない)だが、見せたらヤバイのは間違い無い。

 背筋に冷や汗をダラダラ流しながら、表面上は努めて冷静に返事をする。

 

「俺の携帯なんて見ても楽しいものじゃない。それよりも――――――」

 

 続く言葉を口にしようとしたその時、再び着信音。

 音源は勿論、俺の携帯。

 隠す間もなく、博士の視線が発信者名を捉えた。

 

「・・・・・更識楯無。ねぇ、ちょっと貸して」

 

 返事をする間もなく携帯を奪われる。

 そして、

 

「もしもし泥棒猫さん。何でこのアドレスを知ってるのかな?」

「あれ? 薙原君に連絡したつもりだったんだけど、何で兎さんに繋がるのかな?」

 

 いきなり喧嘩腰だった。

 

「私は何で知ってるのって聞いたんだけど?」

「勿論、本人に教えてもらったからよ。私のアドレスと交換でね。ちなみにちゃんと合意の上よ」

「へぇ、合意の上なんだ。本当に? どうせ断れない状況に持ち込んだんでしょ」

「あら、100%合意の上よ。下手な小細工なんて一切してないわ」

「暗部に関わる人間の、そんな言葉を信じると思う?」

「信じる信じないは兎さんの勝手だけど、仮にこのアドレスを変えても、彼はまた、私に教えてくれるでしょうね。理由は――――――聡明な博士なら、お分かりですよね?」

 

 携帯が、メキッと悲鳴を上げた。

 

「・・・・・・・・・・」

「お分かりになりませんか? それとも認めたくありませんか? ――――――確かに、貴女を護るだけなら私の協力なんて必要無いでしょうが、その他大勢は護れない。如何にNEXTと言えども、手の届かない場所の事はどうしようもない。だから、至って理性的な判断に元づいて、彼はアドレスを教えてくれたんですよ。そこに、博士が干渉する理由は――――――」

 

 ここで俺は、博士から携帯を奪い取った。

 

「余り、俺の大事な人を困らせるな」

「大事な――――――まぁ、薙原君と兎さんがそういう関係なのは、今更よね」

「で、用件は何だ?」

「大した話じゃ無いんだけど、生徒会への参加要請」

「メリットが見当たらないな」

 

 とりあえず断ってみる。

 本当に誘う気があるなら、言わなくても色々と説明してくれるはずだ。

 

「あら? 大事な博士を苛められて判断力が鈍ったかしら? メリットが無いなんて、そんなはず無いわよ。メリットもデメリットも、もう薙原君の頭の中には出ているんでしょう? そして、今後を考えればメリットの方が遥かに大きい事も」

 

 ・・・・・やり辛い。

 だが確かにメリットはあるだろう。

 何せ、ここ(IS学園)の生徒会だ。

 普通の学校とは手がけるモノもケタも違う。

 色々と学べる事も多いはず。

 そして関わる人間も多いから、コネクションも作れるだろう。

 ならデメリットは?

 表だっては無いだろうが、気付けば更識の協力者と周囲に認識されていた・・・・・なんて事になりかねない。

 一緒に生徒会活動なんてしていたら、尚更だろう。

 

「・・・・・素人さん。警戒心丸出しっていうのが、電話越しでもよく分かるわよ」

「お前みたいなの相手に、警戒するなという方が無理だろうに」

「でも貴方は乗るしか無い。博士以外の全てがどうでも良いと言うなら違うけど、貴方はそうじゃない。『人一人が出来る事なんて、たかが知れている』と言う貴方なら、他者との協力が不可欠なのが分からないはずが無い。違うかしら?」

「・・・・・全て、そっちの手の平か。分かった。だが生徒会には入らない。あくまで手伝うだけだ」

「あら、ボランティア? おねーさん嬉しいわ」

「言ってろ。これで報酬なんて要求したら、その後が怖い」

「よく分かってるじゃない。じゃぁ、これからよろしくね」

 

 そうして電話が切れる直前、更識が笑った気がした。

 勿論、気持ちの良いさわやかな笑みじゃなくて、黒幕が目的を達成した時のような勝利の笑みだ。

 クソッ。本当に手の平で踊らされている。

 これがプロか。

 完璧にやり込められている自分に腹を立てていると、博士が寄りかかってきた。

 

「薙原・・・・・そんなに他人が大事?」

「有象無象のどうでも良い連中は沢山いる。でも、大事にしたいと思う奴らもいる」

「・・・・・私よりも?」

 

 何て答えるべきだろうか?

 一瞬考え――――――るまでもなく、口が動いていた。

 

「一番は博士だ。でも二番以下が無い訳じゃない」

「なら、今度から束って呼んで。いつまでも博士は、他人行儀だよ」

「分かった。―――た、束」

「うん。よろしい」

 

 ・・・・・と、これで終われば(ある意味)ハッピーだったんだが、最悪のタイミングで以前投げ込んだ火種が返ってきた。

 それこそ、レギュ1.30バージョンのロケット砲並みの超火力で。

 

 ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ。

 

 再び、俺の携帯に着信音。

 発信者は、

 

 ―――織斑一夏。

 

 更識に渡したのとは別のアドレス。

 お友達用アドレスの方だ。

 これなら安心。

 そう思って電話を取ると、あの野郎、いきなりとんでもない発言をかましてくれやがった。

 

「あっ、晶か?」

「ああ、そうだけど、どうした?」

「いや、一つ聞きたいんだけどさ。シャルロットに何か言った?」

 

 隣で、束がピクリと動いた。

 

「え?」

「いや、だからさ、シャルロットに何か言ったのか? 教室にいる時から少し変だったけど、さっき会ったら物凄いニヤけててさ。何言っても聞いても上の空だし、時々身体クネクネしてるし、セシリアに聞いても分からないって言うし。別に心配しなくても良いのかもしれないけど、お前なら何か知ってるんじゃないかなと思ってさ」

 

 ちょっ!?

 今・・・・・今このタイミングその話ですか!?

 あの話を、束がいるここでしろと!?

 リアルに身の危険を感じた俺は、内心で一夏に謝りながら嘘をつく。

 

「・・・・・さぁ、と、特に覚えは無いな?」

「そうか。――――――あっシャルロットだ。おーーい」

「まっ、待て!! 後で話すから、ちょっと」

「あ、見間違いだった」

 

 してやったりという声の一夏。

 もしかして、ハメられた?

 

「そんだけ焦るって事は、やっぱり何か言ったんだな? 返事まで少~し間があったから、おかしいと思ったんだ。何言ったんだよ。もしかしてデートの約束とかか? 数少ない男仲間なんだ。隠すなよ」

 

 聞こえてくる陽気な声とは裏腹に、隣からは、心底凍えそうなオーラを感じるのは気のせいだろうか?

 いや、気のせいだろう。

 オーラで人が凍えるなんてあるもんか。

 幽霊がプラズマっていうくらい有り得ない現象だ。

 そう、今凍えているのは、冷や汗のせいだ。そうに違いない。

 

「あ、あのな一夏。後で―――「いっくん。薙原は、今私とお話中だから、後でね」―――え?」

 

 隣から伸びてきた手が俺から携帯を奪い取り、妙に優しい声でそう告げると、そのまま電源OFF。

 そしてポイッと捨てられる。

 

「ねぇ薙原。今、いっくんに嘘をつこうとしたよね? どうしてかな?」

「そ、それはだな・・・・・」

 

 な、何て言えば切り抜けられる。

 必死に考えるが、言い訳を思いつく前に先手を打たれてしまった。

 

「いや、私はね、いっくんに嘘をつこうとした事に怒ってるんじゃないよ? ただ、その理由を知りたいなぁ~って。ホラ、私って科学者だから知りたがり屋さんなんだ。私の知的好奇心、満たしてくれるよね?」

 

 俺に、しな垂れるように寄りかかりながらそんな事を言う。

 女性特有の柔らかい感触が良い感じなんだが、笑顔だけど笑っていないってのが恐ろし過ぎる。

 

「・・・・・いや、それは・・・・・だな」

 

 まて、やましい事は何もしていないはずだ。

 なら堂々と言えば良いはずじゃないか。

 だけど、今言ったら色々とアウトな気がする。

 堂々巡りで暴走しかけた(していたかもしれない)思考の中、俺がとった行動は―――――――――。

 

 ちなみに翌日の朝。

 束の御機嫌絶好調。ついでにお肌がツヤツヤだった。

 とだけ付け加えておこうと思う。

 

 

 

 第27話に続く

 

 

 



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第27話 お邪魔が入るは世の常さ。でも最後は?

 

「♪~♪♪~♪~~」

 

 今日、(シャルロット)はとても機嫌が良かった。

 何せ(ショウ)からデートのお誘いだ。

 本人は「日頃の感謝も込めて」なんて言ってたけど、それって誰が聞いてもデートのお誘いだよね?

 照れ屋さんなんだから。

 部屋に備え付けられているクローゼットから、服を出してはスタンドミラーの前で合わせていく。

 どれが良いかな?

 コレも良いけど、アレも良い。

 いつもだったら服なんてすぐに決まるのに、今日は決まらない。

 新作の服。買っておけば良かったかな?

 そんな事を思っていると、扉がノックされた。

 

「は~い」

「私です。セシリアですわ」

「!? ど、どうしたの? こんな時間に?」

 

 時計を見れば、まだ朝の8時過ぎ。

 何となくで尋ねて来るには、早過ぎる時間だ。

 

「いえ、少し用事がありまして。入って良いかしら?」

「え? ・・・・・ちょっ、ちょっと待って。今着替えてるから」

 

 慌てて普段着に着替えて、出していた服をクローゼットに押し込める。

 何でそんな事するのかって?

 勿論、今日の事を知ったら絶っっっ対ついてくるって言いそうだから。

 友達同士でも、女の子はそのへんシビアなんだよ。

 

「い、いいよ」

 

 扉を開けてセシリアが入ってくる。

 あれ? 服が普段着じゃない?

 な~んか、嫌な予感。

 

「あれ? まだ着替えてないんですの?」

 

 何故か、少し勝ち誇ったような顔をされた。

 ますます嫌な予感。

 

「セシリアこそどうしたの? そんな余所行きの服着ちゃって」

「あら、貴女がそれを言いますの?」

 

 もしかして、バレてる?

 おかしいな?

 今日の事は誰にも言って無いはずだし、“細心の”注意を払ったはずなんだけどな?

 

 ――― 一夏に心配されるくらいニヤけてればバレて当然である―――

 

「な、何の事かな?」

「ふぅ~ん。そう。なら折角ですから、今日一緒に買い物にでも行きませんこと。色々と買いたい物があるんですけど、1人で行ってもつまりませんし」

「え? いや、今日は、ちょっと・・・・・」

 

 何て言って切り抜けようか迷っていると、両頬をギュッとつねられた。

 

「い、いひゃい」

「観念なさいな。ネタはもう割れていますのよ」

 

 セシリア。ニッコリ。

 

「ひゃ、ひゃんのこと?」

「あら、あくまでシラを切り通す気ですの? でも無駄ですわよ。今日の待ち合わせ場所から時間まで、全部知ってますもの」

 

 な、何で知ってるのぉぉぉぉ!!

 そんな内心の叫びに、彼女は親切に答えてくれた。

 

「親切な方が、色々と教えてくれましたのよ。誰、とまでは申しませんけど」

 

 誰かは知らないけど・・・・・顔も知らない誰かさんに、心の中で盾殺し(シールド・ピアース)を打ち込んでおく。

 勿論、リボルバーワンセット纏めて。

 ついでに、120mmアンチマテリアルキャノンも撃ち込んでおこう。

 

「―――分かったよセシリア。降参」

 

 離された頬をさすりながら白旗を上げる。

 うう。折角のデートが・・・・・。

 

「大丈夫ですわ。私と貴女で左右をガッチリ固めておけば、もう余計な虫がとりつく場所はありませんから」

 

 そういう問題じゃな~~い。

 絶対セシリアの時も邪魔してやる~。

 なんて事を思っていると、ニッコリと一言。

 

「させませんわよ」

「絶対する」

「楽しみにしてますわ。――――――それはそうと、もうそろそろ服を選ばなくてよろしいのかしら。時間が近付いてますわよ」

「え?」

 

 時計を見れば、本当だ。

 服を選んで、髪をセットして、ギリギリじゃないか!!

 

 

 

 ◇

 

 

 

 駅前のショッピングモール『レゾナンス』。

 原作じゃ、たしかやたら便利な場所って書かれてたけど、確かにこれは便利だな。

 『レゾナンス』中央の噴水前でシャルロットを待ちながら、(薙原晶)はそんな事を思っていた。

 何せ交通網の中心だから、電車に地下鉄にバスにタクシーと何でもござれ。食べ物は洋・中・和を完備。衣服も量販店から海外の一流ブランドまで網羅。各種レジャーにも抜かりなく、子供からお年寄りまで幅広く対応可能という万能さ。

 本当に、よっぽどレアなものでも買おうと思わなければ、ここだけで大体の用事は済んでしまうだろう。

 そんな場所に、俺は随分と落ち着かない気持ちでいた。

 何故かって?

 今更ながらに不安になったからさ。

 何に対してかって?

 色々さ。

 一つは今日の買い物の事。俺も男だから、可愛い子を上手くエスコートしたいって気持ちはある。

 でも残念ながら、そういう経験はあまり無い。もしも“つまらなかった”なんて言われたら流石に凹む。

 一つは今回、特定の人間と一緒に出かけるという事。それが周囲に与える・・・・・いや、より正確に言えば、彼女の立ち位置に与える影響。

 フランス代表候補生はNEXTと近い。

 周囲にそう認識された時、彼女が良からぬ事に巻き込まれなければ良いが・・・・・と考えたところで、今更だと思ってしまった。

 入学前の一件もあるし、入学してから今まで、気付けば隣に彼女がいた。

 俺も彼女を隣に置き続けた。

 原作一夏並みに鈍感な人間でも無い限り、近い関係だなんて誰でも分かる。

 間違いなく、色々と悪巧みが大好きな連中にとって、シャルロットは目標の一つに入っているだろう。

 だから、今更の話だ。

 そこまで考えたところで、当人が姿を見せ――――――2人?

 1人は勿論シャルロット。

 ミニスカートに春物のセーターという活動的な装い。

 文句無く似合っているし、脚線美がとても綺麗だ。

 次に現れたのがセシリア。

 白いブラウスに青いロングスカートと同色のベスト。

 シンプルな装いが実に似合っている。

 が、少し意外だった。

 本人が聞いたら怒るかもしれないが、もっと豪華な服を好むと思っていたから。

 

「もう来てたんだね、ショウ。まだ時間前なのに」

「こっちから声をかけたんだ。なのに遅れてくるなんて、良くないだろう」

「立派な心がけだね。――――――と、そうだ。さっきそこでセシリアと会ったんだけど、今日は1人だって言うから一緒に良いかな?」

「構わないさ。そこで会ったのも何かの縁。皆で楽しく行こう」

 

 そこから先は、不安になっていたのが馬鹿馬鹿しくなるような、楽しい時間だった。

 定番のウィンドウショッピングに始まり、手当たり次第店に入っていく。

 偶然安くて良いものが揃っている隠れた名店を見つける事もあれば、反対に高いクセに碌な物が揃っていないダメダメな店を見つけたりもした。

 皆であそこが良い。こっちは駄目。でも店員が良かった。etcetc。

 色々騒ぎならあっちにフラフラこっちにフラフラ。

 気分に任せて流れるままに。

 途中、こんな美人を2人も連れているから、チンピラに絡まれるような定番イベントでも起こるかと思ったけど、そんなもの無く平穏そのもの。

 途中であった事と言えば、

 

「あれ? 薙原君?」

 

 丁度2人が服を選ぶのに離れている最中、買い物途中の山田先生と、バッタリ出くわしたくらいだ。

 

「あ、奇遇ですね。先生も買い物ですか?」

「ええ。色々と欲しいものがあったので、そっちは?」

「こっちも買い物ですよ」

「そうですか。でもこのお店って、レディースの品揃えが良いので有名なんですよ。正直、男性が1人で来る場所じゃないですね。相手は誰ですか?」

「シャルロットとセシリアですよ」

「二股は感心しませんね」

 

 とても先生らしい言葉に、苦笑しながら一応反論しておく。

 

「元々はシャルロットとだけの予定だったんですけど、2人が途中で会ったから、一緒に行かないかって話になって」

「ふぅぅぅぅ~ん。そうですか」

 

 全く納得してないような声。

 おかしいな、俺ってそんなに軟派な奴に見えるかな?

 だが先生はそれ以上突っ込まず、あからさまな話題転換。

 

「――――――あ、そうだ。この前もらった『ジャック君』、あれ凄いですね。お掃除・洗濯・戸締りと何でもござれ。おまけに目覚まし時計の代わりに起してくれるなんて、先生堕落しちゃいそうですよ」

「喜んで貰えたなら、送った甲斐があったってものです。ちなみに学習機能がありますから、何でも丸投げにすると、ストライキ起して本人にやらせようとしますよ」

「ず、随分と高性能ですね」

「それは勿論。先生の為だけに作ったハンドメイドですから」

 

 すると僅かな沈黙。

 アレ? もしかして余り喜ばれてない?

 一瞬そんな事を思ってしまった直後、再び先生の口が開かれた。

 

「それは嬉しいんですけど、本当に良いんですか?」

「何がです?」

「どう見たってアレ、高性能過ぎます。もしかして、束博士の手を――――――」

「ストップ。アレは、只の報酬の代わり。それ以上でもそれ以下でもない。という事にしておいてくれませんか。実際、片手間で作っていたから労力という訳でも無いんです。むしろ乗り気だったくらいで」

「・・・・・分かりました。せっかくの贈り物をどうこう言うなんて良くないですね。忘れて下さい」

「いいや。先生が善人だって、改めて分かったから忘れない」

「こういう時は、『忘れる』っていうのがマナーじゃないですか?」

「そんなマナーはドブに捨ててきた」

「教師の言う事は聞くものですよ」

「残念ながら今はプライベート」

 

 そのまま少し他愛の無いやり取りをした後、山田先生は離れていった。

 何でも、掃除で汚れる『ジャック君』を拭く為の布巾を買いに行くそうだ。

 愛されてるなぁ~。

 なんて思っていると、2人が戻ってきた。

 何となく、目が据わっているのは気のせいだろうか?

 

 

 

 ◇

 

 

 

「はぁ~~~~~~~」

 

 デート、というには程遠い買い物から帰ってきた(シャルロット)は、部屋で深ぁ~~~~~い溜息を吐いていた。

 幸い同室になる予定の人は、まだお国の事情で来てないから、他には誰もいない。

 だから尚の事、溜息がでちゃう。

 今日はせっかく2人きりだと思っていたのに、セシリアはついてきちゃうし、僕がいない間に、山田先生とは楽しげに話しているし。

 大体、何処から話が漏れたんだろう? 誰にも言って無いのに。

 だけど考えようによっては、知られたのがセシリアで良かったのかな?

 他の人達に知られていたら、もっと大変な事になっていたかもしれないし。

 でも、山田先生とは何を話していたんだろう?

 はっきりとは聞き取れなかったけど、「もらった」とか、「贈り物」とか言ってたよね。

 何だろう?

 そういう関係なのかな?

 先生はほんわかしてるけど、あれで凄いスタイル良いし。性格も良いし。

 何より(ショウ)とは一緒に仕事をした仲だ。

 それも只の仕事じゃなくて、沢山の命がかかった高難度ミッション。

 僕も頑張れば、隣に立てるかな?

 そんな事を取り止めも無く考えていると、携帯がコールされた。

 誰だろう? 消灯時間も過ぎているのに?

 発信者名を見ても非通知。本当に、誰?

 

『もしもし?』

 

 少し緊張して電話を取ると、随分と聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

『あ、シャルロットか? 俺だよ。薙原だよ』

『こんな時間にどうしたの? それも非通知なんて』

『携帯からじゃないんでね。今、部屋に誰もいない?』

『うん』

『風呂上りでセクシーな格好してるとかも無い?』

『無いよ。何を期待してるのさ?』

『期待じゃなくて安全確認。お邪魔した時に悲鳴を上げられちゃたまらないからな』

『お邪魔した時? もう消灯時間は過ぎてるよ』

『はっはっは。規則は破る為にあるんだよ。――――――ってな訳で、窓を開けてくれないかな。全開で』

『ちょっと、ここは1階じゃないんだよ。それに寮の警備システムって優秀だよ。それこそ本物の特殊部隊でも無いと突破なんて出来ないって』

『大丈夫。ものは試しに開けてみてくれ』

 

 余りにも自信たっぷりに言うから、とりあえず開けてみる事にした。

 無理だと思うんだけどなぁ。

 と思ったのも束の間。

 

「な、な、な、何してるのさ!?」

「何って? 見たまんま」

「ISの無断展開なんて規則違反!!」

「流石に生身で警備システムを突破するのは無理そうだったからさ」

「いや、そういう問題じゃなくて」

 

 窓の外にいたのはNEXT。

 それも熱光学迷彩のローブ(?)、のようなものを被っているから、首だけが浮いているように見える。

 不気味な事この上ない。

 しかも良く見てみれば、ブースター炎とPIC反応を隠す為か、ロープで上からぶら下がっているという念の入れよう。

 見つかったらマズイって!!

 

「とりあえず中に入れて欲しいかな」

「う、うん。早く入って!!」

 

 その場を退くと、「よっと」と言いながら身軽に入って、ロープを回収するショウ。

 僕はすぐに窓とカーテンを閉める。

 

「本当に、何しているのさ!?」

「いや、今日はセシリアが来ちゃって、誘った目的を果たせなかったからさ」

「え?」

「とりあえず手を出してもらって良い?」

「う、うん」

 

 ショウが何をしたいのか分からず、戸惑いながら手を差し出すと、NEXTのセンサーアイがブゥンって光ったんだ。

 

「なるほど。腕のサイズは――――――ありがと。少し待ってて」

「何をするの気なの?」

「まぁ見ててくれ」

 

 するとショウは、小型の工作用機械をコール(拡張領域から呼び出し)

 そして、同時にコールした頑丈そうなケースから、オレンジ色の小さなインゴットを取り出したんだ。何だろう?

 とりあえず黙って見ていると、器用に工作用機械を使い始めた。

 何を作る気なのかな?

 ワクワクしながら、しばらく無言で眺めていると、徐々に形が出来上がってきた。

 ネックレス? いや違う、ブレスレットかな?

 

「――――――後は、イニシャルを彫って・・・・・はい完成!! 初めてにしては上手く出来たかな?」

「初めて?」

「うん。この手の工作機械を使った事はあるけど、女の子が身に着けるアクセサリーを作ったのは流石に初めてだ」

 

 ショウは出来た物を色々な角度から眺めながら、何度もセンサーアイを明滅させながら、そんな事を言ってくれた。

 初めての手作りを、僕に?

 嬉しい。

 アレ? でも山田先生へ送ったっていうのは?

 

「嘘ばっかり。女の人にはみんなそんな事言ってるんでしょ? 山田先生とか?」

「ショックだな。俺ってそんなに信用ないのか? 確かに山田先生には、少々別の理由があって贈り物はしたが、完全なハンドメイドは間違いなくこれが初だよ」

 

 NEXTがガックリと肩を落しながら答える姿は、どことなく面白かった。

 世界最強の単体戦力とは思えない姿だ。

 そんな姿を自分だけが知っていると思うと、何だかとても嬉しくなる。

 あの傷ついた姿もそうだ。

 ショウは僕の前では、僕の前だけでは、そういう姿を晒してくれる。

 そう思えば、今日1日の残念な事も、全部吹き飛んでしまった。

 

「大丈夫。本当にそんな事を思ってる訳じゃないから、そんなに落ち込まないで」

「落ち込みもするさ。最近、誰かさんに脇が甘いと言われてな」

 

 誰が言ったのかはとても気になるけど、それは違うんじゃないかと僕は思った。

 これで寄ってきた女の子に、色々しちゃっているというなら話は変わるけど、彼はそんな事一切してない。

 むしろそれを言った人は、ショウ自身に人を近づけさせないようにして、孤立させるのが目的なんじゃないだろうか?

 そんな穿った考えをしてしまう。

 だから、

 

「僕は今のままで良いと思うな。その誰かさんがどういう気で言ったのかは知らないけど、僕から見れば、ショウは十分に気をつけてるよ。だってその証拠にクラスの子と話す時だって、一般的に紳士と言われている以上の行動は、決して取らないじゃないか。それを『脇が甘い』というなら、言葉以上の悪意を僕は感じるけどね」

「そう言ってくれると助かる」

 

 あからさまに安堵したような声。

 ・・・・・駄目だよショウ。

 そんな安心しきった姿を見せられたら、欲が出ちゃうじゃないか。

 でも、これくらいなら良いよね?

 愛称で呼んで貰うくらいなら、良いよね?

 仲が良い友達同士なら、普通の事だよね?

 心の中で、自分の行動を必死に正当化する。

 

「ねぇ、ショウ」

「何だ?」

「シャルロットって、長くて呼び辛いでしょ? だからもし・・・・・もしショウさえ良ければ、今度からシャルって呼んでも良いよ」

「え? いいのか?」

「うん」

「そうか。じゃぁ、今度からシャルって呼ばせてもらうよ。――――――って、そろそろ戻らないとヤバイな。織斑先生って、偶に、気まぐれ的に巡回するからな。余り長居してばれたら事だ」

「帰り、見つからないようにね」

「そんなヘマしないよ。また明日な、シャル」

「うん!!」

 

 ショウが窓を開けて出て行った直後、微かな着地音。

 多分すぐ近くにいるはずだけど、暗闇とローブのおかげで、もう姿は見えない。

 しばらく外を眺めていた僕は、窓とカーテンを閉めて、彼の残していったものを腕に付けてみた。

 サイズはピッタリ。

 しかもサイズ変更が出来る様に作られているから、手首だけじゃなく、色々な所に付けられるという作りの良さ。

 こんな良いものを僕の為に。

 しかも初めての品。

 これで嬉しくないはずが無い。

 こぼれる笑みが止まらない。

 だから次の日、嬉しさの余り寝れなくて、寝坊したのは仕方が無いと思うんだ。

 織斑先生の出席簿、痛かったなぁ・・・・・。

 

 

 

 第28話に続く

 

 

 



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第28話 強襲ミッション-1(前編)

 

「無人機の解析が完了した」

 

 そう言って(薙原晶)を呼び出した束は、明かにイラついていた。

 

「・・・・・とりあえず説明するよ」

 

 いつもならあるはずの、おちゃらけた雰囲気が全く無い。

 大きく空間投影されたウインドウに、無人機が表示され、それに解析データが重ねられていく。

 各パーツの耐久力から反応速度、限界積載量、最大エネルギー出力など、兵器にとっては機密と言える全てのデータが丸裸にされていく。

 この短い期間でそこまで調べ上げたのは、流石としか言いようがない。

 その中に、予想外と言えば予想外だが、予想通りと言えば予想通りのデータが1つあった。

 人型兵器とくれば、お馴染みの考えの1つだ。

 

「・・・・・なるほど、未完成の戦闘用AIの代わりに、人の脳を使ったか。確かに人型兵器のコントロールユニットとしては、極めつけに優秀だからな」

 

 これが無人機という、使い勝手の良い兵器が表に出てこない理由だろう。

 こんなものを出せるはずが無い。

 そんな事を思っていると彼女は、ウインドウを見ながら淡々と言葉を紡ぎ始めた。

 

「彼等はね、汚したんだ。私が作ったISを。こんな不出来な代物で。ちょっと出来の悪いAIを搭載している位なら、まぁ多少手心を加えてあげようとも思ったけど、コレは許せない。こんな不出来で不細工で不完全な代物を、ISだなんて認めない。存在そのものを許さない」

 

 一度言葉を区切った束の、極低温の凍てついた視線が俺を見据えた。

 

「だから完全に、完璧に破壊してきて。コントロールユニットの生産場所はもう押さえてあるから、後は晶が頷いてさえくれれば、すぐにでも始められる」

 

 ・・・・・なるほど。根底にあるのは、自分の作品を汚された事に対する怒りか。

 しかも犠牲者に対しては一言も無いあたり、他人から見たらろくでなしだろう。

 だが俺にとって、そんな事はどうでもよかった。

 今ここで犠牲者の事を持ち出してどうする?

 どうにもならないさ。

 むしろ少しでも酷いと感じたなら、冷静に、冷徹に、二度と同じ物を作る気が起きないように、全力で叩き潰してやるべきだろう。

 だから、

 

「断るはずが無いだろう。場所は?」

「ドイツ南部にあるツークシュピッツェ山。そこの地下施設」

 

 新しく展開された空間投影ウインドウに、マップデータが表示される。

 周囲に人里は無く、広大な自然が広がっている。

 何も事情を知らなければ、さぞかし爽快で楽しめる光景だっただろう。

 だがそんな中に、侵入用経路はあった。

 人目につき辛く、大型車両が通れる程度には大きい洞窟。

 そこが、施設への入り口。

 奥に複合装甲の多重隔壁があるようだが、NEXTの火力なら関係無い。

 

「―――なるほど。こういう場所か。なら次は移動手段だが、VOBは?」

「勿論準備してあるよ。後、拡張領域(パススロット)への格納アルゴリズムも最適化してあるから、もう使い捨てにしなくて大丈夫」

「それは良いな。目標は施設の完全破壊だが、データを抜き出す必要は?」

「破壊前に、施設内にあるはずのデータベースを見つけて欲しい。存在は確認したんだけど、独立回線で手が出せない。多分そこに、今まで何体の無人機が作られたか、管理用データが残っているはずなんだ。そのデータが欲しい」

「了解した。では、俺の出撃をどうやって誤魔化す? 流石に他国への無断侵入がバレると、後が厄介だ」

サテライト(監視衛星群)も含めて、こっちで対処する。目標到達まで、一切邪魔はさせない。勿論帰りも」

「それは心強い」

 

 この後、幾つかの点を煮詰めた俺はハンガーに移動。

 VOBとのドッキングと、装備の最終確認を行っていた。

 

 ―――SYSTEM CHECK START

    →HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・OK

    →ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・OK

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK

    

    →R ARM UNIT  :03-MOTORCOBRA(マシンガン)・・・OK

    →L ARM UNIT  :SAMSARA(プラズマライフル)・・・・・・・・・・・OK

    →R BACK UNIT  :CP-49(ロケット)・・・・・・・・・・・・・・OK

    →L BACK UNIT  :061ANR(レーダー)・・・・・・・・・・・・・OK

    →SHOULDER UNIT :051ANEM(ECM) ・・・・・・・・・OK

    →R HANGER UNIT :外部アクセス用端末

    →L HANGER UNIT :熱光学迷彩ローブ

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・OK

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    

 ―――VANGUARD OVERED BOOST

    →MAIN BOOST-1・・・・OK

    →MAIN BOOST-2・・・・OK

    →MAIN BOOST-3・・・・OK

    →MAIN BOOST-4・・・・OK

    →MAIN BOOST-5・・・・OK

    →SUB BOOST-1 ・・・・OK

    →SUB BOOST-2 ・・・・OK

    →SUB BOOST-3 ・・・・OK

    →SUB BOOST-4 ・・・・OK

    →SUB BOOST-5 ・・・・OK

    →SUB BOOST-6 ・・・・OK

    →SUB BOOST-7 ・・・・OK

    →SUB BOOST-8 ・・・・OK

    

 ―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR

 

 そうして、束からの通信が入った。

 

『――――――準備は良い?』

『全システムオールクリア。問題無し』

『じゃぁ、始めるよ』

『ああ』

 

 全長4m程もあるVOB。

 それを固定しているアームが動き、水平状態から、打ち上げロケットのような垂直状態へ移行。

 先端にドッキングしている俺は持ち上げられ、天井と向かい合う形になった。

 続いて、天井部の隔壁が順次開放され始める。

 と同時に束が、IS学園上空を監視するサテライト(監視衛星群)、及び此処を監視する全ての電子機器を掌握。

 全ての障害が取り除かれる。

 

『――――――NEXT、出るぞ』

 

 こうして俺は、一路目的地へ向けて飛びだって行った。

 だがこの時、“運命のいたずら”とすら言えるような、どうしようもないところで、既に作戦が綻んでいるなど俺達には知る由も無かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ドイツ軍IS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ基地。

 その整備用ハンガーで、(クラリッサ)はラウラ隊長とシュヴァルツェア・レーゲン(隊長の愛機)の仕上がりについて話していた。

 

「――――――隊長。仕上がり具合は如何ですか?」

「機体側については問題無い。要求通りに仕上がっている。が、レールガンはもう少し調整が必要だな。破壊力があるのは良いが、これではリロードが遅過ぎる」

「しかし以前のパーツに戻しますと、今度はリロードが早くとも威力が出ません」

「整備班の方でカスタム出来ないか?」

「我が部隊の整備班は優秀ですが、既にカスタムでどうにか出来る部分は残っていないと、先程泣き付かれました」

「そうか。ならメーカー側の新パーツ待ちか。いつ搬入予定だ?」

「予定では3日後ですが、急がせますか?」

「急がせろ。向こう(IS学園)に行くまでには仕上げたい」

 

 ここ最近、隊長の熱の入れようは凄まじいものがあった。

 以前は向こう(IS学園)に行くのは時間の無駄だと言って憚らなかったのに、今では楽しみにしている節すらある。

 だがそれも、無理の無い事かもしれない。

 何せあそこには、世界最強の単体戦力たるNEXTがいる。

 更に織斑教官もおられるとなれば、楽しみにされるのも仕方が無いというもの。

 などと思っていると、

 

「そういえば、お前は以前NEXTに直接会っていたな。私見で構わん。印象を言ってみろ」

「そうですね――――――」

 

 適切な言葉を探すこと数瞬。

 出てきたのは、

 

「戦士、でしょうか。それも理性的に暴力を振るえる、戦場で最も相対したくないタイプの」

「・・・・・お前にそこまで言わせるか」

「あくまで私の印象ですから、間違っている可能性もあります。ですが、そう外れていないとも思っています」

「根拠は?」

「NEXTが初めて我々の前に姿を現した時の戦力比は、ISに限定しても11対1。しかもISという前衛がいるなら、艦船はその火力を最大限に生かせます。そんな状況で私と彼は話ましたが、声に一切の迷いがありませんでした。まぁ、声だけでしたらマシンボイスで誤魔化されたという可能性もありますが、機体制御にも一切のブレが見られなかったとなれば話は別です。アレは恐らく、交渉が決裂した瞬間に始める気でした」

「11対1でか? 普通なら自殺行為だな」

「ええ、普通でしたら」

「だが、そこで要求を呑んだお前の判断は正しかった。戦っていたら、本当に全滅の可能性すらあっただろう。先のIS学園襲撃事件。アレが、お前の判断の正しさを裏付けた。何だあの化け物は。情報部のレポート以上ではないか」

 

 言葉とは裏腹に、隊長は実にイイ表情を浮かべていた。

 最も“良い”ではではなく、“イイ”であるあたり、何を考えているのかは分からないが。

 それにしても、今回投入された新武装の数々。何だアレは?

 桁外れの破壊力を持つアサルトライフル。

 ISの反応速度を持ってしても、反応出来るかどうか分からない超弾速のレールガン。

 文字通り一撃で敵機を葬り去った近接武装。

 そして最大レベルで固定されていたというアリーナの遮断シールドを、紙を貫くように容易く貫通した三連装レーザーキャノン。

 だが何より恐るべきは、

 

「イギリスとフランスの代表候補生が戻っていったピット、そこを狙われた時の反応。明らかに読んでいましたね」

「ああ。それが恐ろしいところだ。隔絶した性能に振り回されること無く、戦場を見回している。本職の軍人以上に戦いに長けている。なるほど、確かにお前の言う通りに戦士だな。――――――それはそうとクラリッサ、お前のISは既に調整が完了していたな?」

「はい。先日完了しております」

「ならば少し模擬戦に付き合え。話している間に、このレールガンでも戦えそうな戦術を思いついた。形にしておきたい」

「了解しました。お手伝いさせて頂きます」

 

 私はインカムのスイッチを入れ、オペレーターをコール。

 

ハーゼ02(クラリッサ)より00(オペレーター)へ。これよりハーゼ01(ラウラ隊長)と共に模擬戦を行う。空いている場所はあるか?』

『00より02へ。予定外演習ですので、演習地が些か基地から遠くなります。01の権限を使えば近くを使えますが、如何致しますか?』

 

 通信を聞いていたのか、隊長は首を横に振る。

 

『予定外である事はこちらも承知している。よってそれには及ばない。使える場所は何処だ?』

『第三演習場(ツークシュピッツェ山北部にあるヴァルヒェン湖付近)になります。オペレートは必要ですか?』

『いらん。01と私だぞ』

『失礼しました。では最後に演習目的をどうぞ。手続きはこちらでしておきます』

『機動演習とでも申請しておいてくれ』

『了解しました。では、お気をつけて』

 

 この時、私は思ってもいなかった。

 ドイツ国内で、しかもこの模擬戦が原因で、再びNEXTと出会う事になろうとは――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 出撃した(薙原晶)は目視によって発見される確率を下げる為、ユーラシア大陸を横断する直線ルートではなく、一度北側へ大きく迂回するルートを取っていた。

 具体的には、オホーツク海から(人口密度の低い=発見される確率が下がる)ロシア連邦を縦断する形で東シベリア海へ抜け、そこからは大きく北極側に膨らむ楕円軌道で北極海を横断。グリーンランド海へ向かい、ここでようやく南下。

 グリーンランド海、ノルウェー海、北海と順に抜け、ドイツには北部から侵入。

 束のバックアップもあり、ここまでは何ら問題無くこられた。

 だが、ここで問題が発生した。

 

『そんな、こんな急にだなんて』

『どうした?』

『ドイツのIS配備特殊部隊が、予定進路上で演習を始めたんだ。事前情報は全く無かったのに』

『何事にもイレギュラーは付き物さ。仕方が無い。まだ知られた様子は無いな?』

『それは大丈夫だけど、流石に目視されるとどうしようも無いよ』

『あちらさんの高度は?』

『今は低いね。100m。でも機動演習をしているみたいだから、下手をしたらすぐに上がってくるよ』

『・・・・・上がってこない事を祈るか。――――――こっちは高度20000mまで上昇して、地下施設の直上まで侵攻。そこでVOBをリリース(拡張領域へ戻し)、フリーフォールで侵入口まで行く』

『分かった。熱光学迷彩を持っていって正解だったね。落下中の姿はそれで隠せる』

『全くだ』

『でも減速タイミングはシビアだよ。PICを使えばエネルギー反応でバレるから、極短時間のエネルギー反応しか示さないQB(クイック・ブースト)で、着地可能速度まで減速しなきゃいけない。それもブースター炎を隠すなら、本当に地上ギリギリ。木々の高さよりも尚下になる。そしてそれでも、相手の目を誤魔化せるとは限らない』

『嫌になるほど分の悪い賭けだな。が、ここまで来て作戦中止なんてのは無しだ。もう一度ここまで来れるチャンスがあるとも限らないし、叩けるものは、叩ける時に叩いておきたい』

『同感だね』

『なら、作戦続行だ』

『うん』

 

 そうして高度を上げた俺は、演習領域に差し掛かった。

 アクティブセンサーは働かせていないので正確な情報は分からないが、サテライト(監視衛星群)を掌握している束からのデータリンクによれば、演習している2機は高度100~500mあたりを、鋭角的な機動で飛行している。

 模擬戦でもしているのだろう。

 だがこのままなら、気付かれずに済みそうだ。

 と思ったが、世の中そう甘くは無かった。

 2機のISが、戦闘機動を行いながら徐々に南下を始めたのだ。

 つまり、俺の進行方向と同じ方向に。

 

 ―――この時、薙原も束も知る由も無い事だが、2機のIS(=ラウラとクラリッサ)は、演習に熱が入り始めていた。それもヴォーダン・オージェを使ってしまう程に―――

 

『・・・・・拙いな。そろそろ直上だ。運任せってのは嫌いなんだがな』

『私もだよ』

『だが今回ばかりは仕方が無い。行くぞ!!』

 

 VOBをリリース(拡張領域へ戻し)、本体のブースターも停止。

 そしてハンガーから熱光学迷彩ローブを取り出し装着。

 姿を空に溶け込ませ、高度20000mからのフリーフォール開始。

 大地が徐々に近付いてくる。

 いや、実際は相当な速さで近付いているのだが、超音速戦闘をするNEXTにとって、この程度の速さはどうって事無い。

 近くの2機に、存在をバレないようにするという条件さえ無ければ、着地にも問題は無い。

 だがその条件が、着地の難易度を大幅に引き上げていた。

 なにせ減速タイミングが僅かでも早ければ、ブースター炎で位置がばれる。

 かと言って遅ければ、着地時の衝撃音で気付かれる。

 しかもPIC制御は無しときた。

 迫る大地に焦る心を抑え、慎重に、慎重にタイミングを図る。

 

 ―――まだ、まだだ。

 

 更に大地が迫る。普通のパラシュートなら、もう開かないと間に合わない。

 

 ―――まだだ!!

 

 手の端に、木の葉が触れた。

 

 ―――今!!

 

 QB(クイック・ブースト)による大減速。

 PIC制御をしていない今、Gがダイレクトに俺を襲う。

 だが強化されている肉体は、意識を手放す事なく次の動作を実行。

 僅かに残った慣性を、両膝で吸収する。

 

『着地成功。これより、地下施設に侵入する』

『気をつけて。――――――そして悪いニュースだよ。ブースター炎を見られたみたい。演習をしていた2機が怪しんでいる。通信を聞いている限り、まだ特定はされていないみたいだけど、多分時間の問題』

『チッ』

 

 思わず舌打ちしてしまう。

 どうする?

 一度身を隠してやり過ごすか?

 しかし隠れてどうする?

 熱光学迷彩は装備しているが、所詮姿を隠しているだけ、ハイパーセンサーで念入りに探られたら誤魔化しきれないだろう。

 しかも今のQBで、ローブの一部焦げてしまっているから、見つかる可能性は更に高くなっている。

 ならECMは?

 もっと駄目だろう。

 下手に使おうものなら、「ここが怪しい場所です」と大声で叫んでいるのと変わらない。

 つまり隠れるのは愚策か。

 なら、ここから先はスピード勝負!!

 そう考えた俺は即座に洞窟へ入り、視認される恐れが無くなったところで、熱光学迷彩ローブをパージ。

 自壊機能が働いて消し炭になったソレを確認しつつ、全兵装を立ち上げて奥へ、地下施設入り口へと向かう。

 こうしてミッションは、新たな局面に突入した。

 発生したイレギュラーが、ロクでも無い事を呼び込まなければ良いんだが・・・・・そんな事を思いながら。

 

 

 

 第29話に続く

 

 

 



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第29話 強襲ミッション-1(中編)

 

 模擬戦の最中、不審な光を見た(ラウラ)は、02(クラリッサ)に一時中断の命を下した。

 

「隊長、どうされましたか?」

「今、不審な光を捉えた。一瞬の光だったから何かの反射光だと思うが、それにしては随分強い光だった。一度確認する。もし犯罪者の類だったら事だしな」

「了解しました」

 

 02はそれ以上何も言わず、万一の奇襲に備え全周警戒。

 私は遠距離戦用の精密観測用センサーを起動。

 

「・・・・・動体反応無し。不審な姿は見られないな。が、熱分布がおかしい。少なくとも自然環境下ではありえない」

 

 データリンクで情報を確認したのか、部下も小さく頷いていた。

 オペレーターをコール。

 

ハーゼ01(ラウラ)から00(オペレーター)へ。演習領域にて不審な熱分布を発見した。これより調査に向かう』

『こちら00。了解しました。お気をつけて』

 

 2機連携(ツーマンセル)で慎重に、それでいて速やかに不審な場所に接近。

 そこで見つけたのは、

 

「足跡? チッ、地面がもう少し柔らかければ形が特定出来――――――!!」

 

 私と02、共に反射的な回避機動。

 その場を飛びのく。

 

「何だ、このエネルギー反応は!?」

 

 センサーが捉えたのは、莫大なエネルギー反応。

 しかも高度位置がマイナス。動いている? 地下?

 ライブラリー照合。

 ヒット件数1。

 これは、まさか・・・・・NEXT!!

 即座にオペレーターをコール。

 

『こちらハーゼ01から00へ、緊急コール。NEXTらしきエネルギー反応を感知。視認はしていないが、ライブラリー照合では一致している。――――――今、データを送った。司令部にも連絡を』

『こちら00。データ転送――――――確認しました。司令部へ連絡します』

 

 会うのは向こう(IS学園)に行ってからだと思っていたが、まさか国内でとはな。

 そんな事を思いながら、思わず口にした独白、

 

「・・・・・NEXT。何を考えている?」

 

 という言葉に、02(クラリッサ)が反応を示した。

 

「まさか・・・・・いや、しかし国内にそんなものが、あるはずが・・・・・」

「どうした。気になる事があるなら言ってみろ」

 

 02は、「確証がある話ではありませんが」と前置きしてから口を開き始めた。

 

「隊長は、NEXTの身の上は知っておられましたね?」

「ああ。確か非合法の実験体だったな」

「そのせいでしょう。束博士救出作戦後に顔を合わせた時、彼はこう言いました。『俺の身に起こった事を繰り返そうとする輩がいたなら、俺はあらゆる手段を使って潰しにいく。組織も国境も国も関係無い。立ち塞がるものは全て粉砕してだ』と」

「まさか。国内に・・・・・」

 

 文字通り最悪の考えが脳裏を過ぎり、言葉を失う。

 そして直後に聞こえた、大地を揺るがす程の轟音。

 

「なんだっ!? 近い!?」

 

 シュヴァルツェア・レーゲン(私の愛機)が、オートで分析を実行。

 解析された音源が、マップデータ上に表示される。

 示されたのは近くの洞窟。その最奥。

 更に入る通信。

 

『――――――00(オペレーター)からハーゼ01へ。司令部より待機中の全IS部隊へ出撃命令(スクランブル)が下りました。指揮権は01に。集合地点は現地。数分以内に終結予定。そしてオーダーはたった一つです』

『1つだと?』

『はい。“手段は問わない。国益となる形で終結させよ”です』

『了解した。“国益となる形で”終結させる』

 

 どうすれば良い?

 NEXTが敵性存在だった場合の事を考えれば、他のIS部隊の集結を待つべきなのは間違いない。

 しかし、だ。

 他の部隊が揃ったところで勝てるとは限らないし、02の懸念が正しかった場合、ドイツはアレに相当な弱みを握られる事になる。

 ましてNEXTの後ろには、“あの”篠ノ之束がいる。

 知られたが最後、完全な隠蔽など不可能だろう。

 ならば、どうする?

 ヤツらがドイツにとって何か拙い情報を出してくるようなら、情報工作で捻じ曲げるのが次善の策だろうが、それにはここに何があり、NEXTが何をしていたのかを抑えておかなければ、有効な手を打てないだろう。

 だがその為には、急いで後を追う必要がある。

 遅れれば遅れるほど、ヤツだけが知っている情報が増えていく。

 それはドイツにとって好ましくない。

 しかし追った場合、最悪の事態として、NEXTとの戦闘を考えずにはいられない。

 下手をすれば、あの火力と正面から撃ち合う事になる。

 実弾だけならAICで多少どうにか出来るが、エネルギー兵器は止められない。

 どうする?

 そうして様々な可能性を検討し、出した結論は・・・・・。

 

「02。先行偵察を頼む。幸い足跡もあるし、中では派手に動いているようだから、追うのは楽だろう」

 

 洞窟へと続く足跡を指差しながら命令を下す。

 苦肉の策だった。

 情報は欲しい。しかし集結を待ってから動いたのでは手遅れになる可能性が高い。

 故に下した命令だが、決して良い命令とは言えないだろう。

 下手をすれば1対1で、しかも閉鎖空間でNEXTとやりあう羽目になるのだから。

 だが私は02の“NEXTは理性的に暴力を振るえる”という分析にかけた。

 手持ちの情報から判断する限り、いきなりトリガーを引くような相手ではないはずだ。

 そんな不確定要素の多い命令だったが、02は素直に従ってくれた。

 それどころか――――――

 

「了解しました。せっかく隊長が織斑教官の元に行かれるのですから、デカイ勲章の1つでもプレゼントするのが、部下の務めでしょう」

 

 思わず表情が崩れそうになるが、部下の前だ。

 いつも通りに振舞う。

 

「ふん。期待してるぞ。02」

「では、先行します」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時間は少しだけ遡る。

 洞窟の奥へと進んだ(薙原晶)は、右背部装備のロケット砲(CP-49)で、施設内部へと続く複合装甲の多重隔壁を破壊。

 内部へと侵入した。

 そして今の爆発は、外にも聞こえたはずだ。

 つまり何らかの決断を下すだろう。

 突入か、待機か、それとも1機だけ先行させての情報収集かは分からないが。

 だからここから先はスピード勝負。

 

「行くぞ!!」

 

 ブースターON。

 サイレンが鳴り響き、レッドランプが点滅する地下施設通路を、亜音速で突き進む。

 束の下調べによれば、ここの施設は全4層。

 第1層の素体管理ブロック、第2層の素体処置ブロック、第3層のコントロールユニット調整ブロック、そして最下層の中央制御ルームと発電施設という作りだ。

 そして束のハックから逃れたという事実から考えるに、目的のデータは、各階層ごとに独立管理されているタイプのものだろう。

 となれば、俺が目指すべきは何処だ?

 何処に行けば、コントロールユニットの生産数が分かる?

 数瞬の思考。

 無人機の行動を制御するユニットである以上、搭載前にテストはするだろう。

 何処で?

 各ブロックの名前から判断するに、第3層の線が濃厚だろう。

 データベースはそこか?

 なら、アクセス可能な端末は何処にある?

 一番可能性が高そうなのは、テストを行う場所だろう。

 そこなら、今まで何個のユニットがテストをクリアしたのか、そういう履歴が見られるはずだ。

 そうあたりをつけた俺は、下層へと通じるエレベーターのドアを、ロケット砲(CP-49)で攻撃。

 過剰な攻撃力で跡形も無くドアを吹き飛ばしたところで、シャフトへ飛び込み降下。

 途中、もう一度ロケット砲を発射。

 第3層へ通じるドアを消し飛ばし、QB(クイック・ブースト)を駆使した鋭角的な機動で侵入。

 着地で勢いを減じる事無く、俺は束が下調べしてくれたマップを脳内に思い浮かべながら、そのまま駆けていく。

 途中、逃げ遅れたのか、白衣を着た男の集団がいた。

 仕方が無いか。

 まだ侵入から20秒程しか経っていない。

 即座に行動を起こしたとしても、出来る事なんてタカが知れている。

 だが、見逃す気は無い。

 ロケット砲(CP-49)という人に向けるには過剰過ぎる攻撃力を持って、肉片1つ残さず消しておく。

 罪悪感?

 無い訳じゃないが、ここでの躊躇は俺自身を、そして何より束を危険に晒す。

 だから思い悩むのも、苦しむのも、全ては帰ってからだ。

 そう思い、湧き上がる感情に蓋をする。

 しかしその蓋は目的地についた瞬間、蓋をした入れ物ごと、別の感情によって粉微塵に粉砕された。

 

(・・・・・分かってはいたさ。想像通りさ。何せ脳をパッケージングして、部品として扱うんだからな!!)

 

 人の理性を蝕む光景だった。

 想像してみて欲しい。

 白い壁に覆われた、窓の無い、教室程の広さがある空間。

 各種ケーブルの繋がれた台座。上に固定された半透明のケース。納められた人の脳髄。

 そんなものが、十数個も並んでいる光景を。

 たった今、白衣の男達を葬った俺が、憤りを覚えるのはおかしいのかもしれない。

 命を奪ったという行動に変わりは無いのだから。

 でも、この光景は・・・・・余りにも・・・・・様々な感情がゴチャゴチャになり、終いには爆発しそうになる。が、どうにか押さえ込んだ俺は、ハンガーから外部アクセス用端末を取り出し、部屋の一番奥にあった備え付けの端末にセット。

 束に通信を繋ぐ。

 

『・・・頼む』

『うん。―――――――――ビンゴ!! このデータだ。間違いないよ!!』

『・・・・・そうか。後、どれくらいで抜き出せる?』

『これなら後30秒もあれば終わるよ』

『・・・・・・・そうか』

『声が変な感じだけど、どうしたの? 何か気になる事でもあるの?』

 

 どうしたの、か。

 他人には無関心の束らしい言葉だ。

 もっとも俺も人の事は言えないし、善人で無い自覚もある。

 だが本当の“最後のORCA”では無い俺にとって、この光景はキツ過ぎた。

 湧き上がるドロドロとした黒い感情が止められない。

 既に己の手を汚しているというのに、何て身勝手なんだろう。

 この光景を作り出した奴らを、今すぐ、どうにかしてやりたいと強く思ってしまう。

 だけど急速に研ぎ澄まされ、冷えていく思考が、それを押し止めた。

 殺るのなら、1人残らずだ。

 

『・・・・・・・・・束、幾つか仕事を頼みたい』

『い、いいけど、急にどうしたの?』

 

 返ってくる声に、一瞬だが驚きの感情が混じっていた。

 何を驚いているんだろうか?

 俺はいつも通りじゃないか。

 

『何、簡単な話だ。1つ目は――――――』

 

 そうして話を始めた俺の心の中に、手加減という言葉は存在しなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 再び、時間は少し遡る。

 洞窟に入って行った(クラリッサ)は、まず奥に存在していた物に驚いていた。

 

「何故、こんな物がここに!?」

 

 眼前にあるのは、複合装甲の多重隔壁。

 しかし本来なら侵入者を拒むはずのソレは、既にその役目を果たさないガラクタに成り果てていた。

 何せ真ん中に大穴を開けられ、続く通路が丸見えになっている状態だ。

 シュヴァルツェア・レーゲン(隊長の愛機)が装備している試作強化型レールガンでも、こんな事は出来ないだろう。

 凄まじい攻撃力だ。が、恐れてばかりもいられない。

 慎重に奥へと進んでいく。

 そうして施設内へ進んで行くと、奇妙な異変が起き始めた。

 サイレンが鳴り響き、レッドランプが点滅している。

 これは良い。

 侵入者を迎える正常な反応だろう。

 だが奇妙なのは、隔壁の閉じ方だ。

 十字路に差し掛かった私の、正面と左の通路の物は降り始めている。

 しかし右側は降りていない。

 センサーを働かせてサーチしてみるが、特に損傷は見られないし、トラップや待ち伏せがあるようにも見えない。

 私を誘導するつもりか?

 どうする?

 ISの火力なら、施設内の隔壁程度なら破れるが・・・・・この対応、本来のものではないな。

 まさか先行したNEXTが、既に施設のセキュリティを掌握した? この短時間でか?

 いや、しかしヤツの背後には“あの”篠ノ之束がいる。

 一度内部からのアクセスを許してしまえば、時間の問題だろう。

 ならば掌握されているとして、どうする?

 罠に嵌めるとは考えずらい。

 排除する気なら、向こうはどうとでも出来るはずだ。

 なのにしないと言う事は・・・・・見せたいものがあるのか?

 いいだろう。

 乾く唇を舌で濡らし、警戒しながら通路を右に進んでいく。

 だが幾ら警戒しても、人1人、トラップ1つ、ガードメカ1台出てこない。

 それどころか次の十字路も、その次のT字路も、開いているのは一方向のみで、他の方向は全て隔壁が降りている。

 これは間違いないだろう。

 私に何を見せようとしている?

 そうして暫く進んだところで、センサーが人の声を拾った。

 

『ねぇ、ドア、開いてる』

『ほ、本当?』

『うん。ほら』

 

 ガチャガチャと、ドアを動かす音が聞こえる。

 

『本当だ。ねぇみんな。出られるよ。ここから出られるよ!!』

 

 複数の人間・・・・・10人程だろうか?

 ざわつき、喜び合う声が聞こえてくる。

 NEXT、お前の意図は分かった。

 助けさせる気なんだな。

 だがその裏で何を考えている?

 単純に助けるだけなら、お前が直接助けても良かったはずだ。

 なのに、追っ手である我々に委ねた。

 つまり救出よりも優先する事があるということ。

 それが何かは分からないが・・・・・なるほど、邪魔者(我々)を穏便に排除するには有効な手段だ。

 一度救助者を見つけてしまえば、軍人として助けない訳にはいかない。

 仮に無視しようものなら、“助けるべき無力な一般人を救助しなかった軍人”という、ドイツ軍への格好のバッシング材料が監視カメラに記録されてしまう。

 篠ノ之束がセキュリティを掌握しているであろう場所で、そんな危険な真似は出来なかった。

 よって私はNEXTの思惑に踊らされていると理解しつつ、センサーが特定した場所に向かう。

 するとそこにいたのは、声から予想できた通り、10人程の若い年頃の女の子達。

 まずは、自己紹介からするとしよう。

 救助を待つ人というのは、“救助の為にISが動いている”という事実を知るだけで、落ち着く事が多いからな。

 先の話を聞いている限り、パニックになっているものは居ないようだが、不安要素は少しでも減らしておきたい。

 なので意図的に一呼吸置き、注目を集めてから名乗る。

 

「――――――私はドイツ軍IS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ所属の、クラリッサ・ハルフォーフ大尉だ。貴女達は、何故こんなところに?」

「あ、IS。助けに来てくれたんですか!?」

 

 集団の中央にいた、大人しそうな子が前に出てきた。

 多分ハイスクールでも、余り目立たない存在だっただろう。

 が、位置関係をみれば精神的主柱なのは一目瞭然。

 恐らく、化けるな。

 少しだけそんな事を思いながら言葉を返した。

 

「ええ、そうです。後、何か知っている事があれば教えてくれませんか」

「は、はい」

 

 そうして語られた話は、正直耳を塞ぎたくなるようなものだった。

 ここにいる者は全員例外無く、非合法な手段で集められていた。

 誘拐されたもの、借金の形にされたもの、巻き込まれたもの、色々だ。

 更に言えば当初、人数はもっと多かったというが、1人減り、2人減り・・・・・今の人数になったという。

 正直、嫌な予感しかしない。

 だがそれを表に出す訳にはいかない。

 この子達を怖がらせてしまうから。

 

「――――――良く分かりました。ありがとう」

 

 なるべく安心出来るように優しく微笑むと、話していた子もニッコリと笑ってくれた。

 怖いはずなのに、強い子だ。

 

『――――――隊長。一度要救助者を連れて上がりたいのですが、よろしいですか?』

 

 データリンクで女の子の話を流していた隊長に、一度指示を仰ぐ。

 

『そうだな。一度戻ってこい。怪我人はいるか?』

『いえ、全員センサーでスキャンしましたが、外傷無し。行動に問題はありません』

『良し。なら戻ってこい。こちらも集結したIS部隊を進め、施設内で合流。要救助者を全員外に出した後、施設へ再突入する』

『了解しました』

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ドイツ軍IS部隊が、ここに連れてこられた素体候補を救出している時、(薙原晶)は第4層にある中央制御ルームで、冷え切った視線でモニターを眺めていた。

 映し出されているのは、赤。

 束に頼んだ仕事は4つ。

 1つ目は隔壁コントロール。これによって、素体候補と施設職員を隔離。

 2つ目はガードメカの制御権奪取。

 3つ目はガードメカの、施設職員に対する安全装置の解除。

 4つ目は施設職員を閉じ込めた場所に、安全装置が外されたガードメカを送り込む。

 その結果が、眼前の赤一色に染まったモニターの数々。

 今もまた1つ、モニターが赤に染まった。

 ナースホルン(※1)やファイヤフライ(※2)に良く似たメカが、機械らしい残酷さで掃射している。

 

 ※1 ナースホルン :クモのようなボディを持つ四脚メカ。ガトリング砲装備。

 ※2 ファイアフライ:空中に浮かぶ赤い花びらのようなメカ。マシンガン装備。

 

 何の装備も無い只の職員に、逃れる術は無い。

 更に言えば、施設職員が頼りにしていた無人機は、既にガラクタだ。

 そして手元に視線を移せば、外部アクセス用端末が、ここのデータベースから猛烈な勢いでデータを吸い上げていた。

 本当は予定に無かったんだが、ここで素体達がどういう風に扱われていたかという情報を抑えておけば、後に予想されるドイツとの交渉で優位に立てるだろう。

 なにせ今回は、発見されてしまったからな・・・・・。

 転送率95%。もう少しで抜き出し完了だ。

 そんな時、束から通信が入った。

 

『集結したIS部隊が再突入してきたよ。どうするの?』

 

 冷たい雰囲気が表に出ないように、少し意識して返事を返す。

 

『第2層に、処置される直前の人間が何人かいたな。そこまで隔壁を開けて誘導、連れ出してもらおう』

『分かったよ。――――――ところで、施設の破壊と脱出はどうするの? もう一番初めの作戦は使えなくなっちゃったけど』

『そうだな。ならまずは――――――』

 

 こうしてミッションは、脱出という新たな局面に突入した。

 だが仮に、無事脱出出来たとしても、面倒な事態は避けられないだろう。

 俺はそんな事を思いながら、束に考えを話し始めた。

 

 

 

 第30話に続く

 

 

 



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第30話 強襲ミッション-1(後編)

 

 ハプニングはいつだって突然だ。

 発見された事により、変更せざるをえなくなった脱出方法。

 だが特殊部隊に発見された程度なら、まだやりようはあった。

 何故なら、第二次世界大戦における負の遺産。

 ナチスの虐殺というトラウマを抱えるドイツにとって、人の脳をパーツとして加工するような、非人道的な施設が国内にあるというのは、相当に拙いはずだから。

 それを上手く使えば、俺の活動が表に出るのは防げるはずだった。

 交渉する為の材料も手中にあった。

 しかし事態は思わぬ横槍により、そんな思惑を軽々と越えて動き出す。

 事の発端は、束と脱出についての打ち合わせが終了した直後。

 NEXTのセンサーが感知した高エネルギー反応だった。

 

『――――――これは、まさか・・・・・』

 

 最悪の想像が脳裏を過ぎる。

 嘘であって欲しいと思ったが、データリンクで情報を確認した束の、悲鳴のような言葉が、嫌でも現実を認識させてくれた。

 

『晶!! 逃げて!! 施設の自爆装置が起動している!!』

 

 だが必死な言葉とは裏腹に、俺の脚は動かなかった。

 何故なら、もう真っ当な方法での脱出が、不可能だと分かっているから。

 今回の強襲ミッション。目的は施設の破壊。

 当然、その手段である自爆装置についての情報は、頭の中に叩き込んであった。

 クリーン(※1)かつ強力無比な核融合。

 

 ※1:汚染が発生するのは核分裂。

 

 万一巻き込まれでもしたら、NEXTとて無事ではすまない。

 そしてセンサーが示す数値は、既に自爆シークエンスが最終段階にあるという事を示していた。

 残り20秒ってところだろう。

 施設入り口から第3層到達まで、ほとんど障害物が無い状態で約20秒。

 対し現在いる場所は第4層。更に言えば全ての隔壁を降ろしている

 間に合うはずが無かった。

 子供でも分かる話だ。

 だけど、諦めたのかと問われれば、断じて否だ。

 ソレは、一番最後で良い。

 それに極論だが、真っ当な方法で出れないなら、真っ当じゃ無い方法で出れば良いじゃないか。

 いや、もっと単純な話だ。

 道が無いなら、作れば良い。

 障害物があるなら退かせれば良い。

 この際だ。目立ってしまうのは仕方が無い。

 そう考えた俺は、全武装をリリース(拡張領域へ戻し)し、新たな武装をコール(拡張領域から呼び出し)する。

 

 ―――ASSEMBLE

    →R ARM UNIT  :ARSENIC(コジマライフル)

    →L ARM UNIT  :ARSENIC(コジマライフル)

    →R BACK UNIT  :ARSENIKON(コジマキャノン)

    →L BACK UNIT  :ARSENIKON(コジマキャノン)

 

 砲身展開。エネルギーチャージ開始。

 変態ども(アクアビット)が作り上げた技術を、更なる変態ども(トーラス)が昇華させ、それに輪をかけた変・・・・・異次元の天才(篠ノ之束)が強化した禁断の兵器。

 故に威力過多なのは分かりきっているが、細かい出力調整をしている余裕は無い。

 とりあえず最大出力でぶっぱなせば、第1層までの道は出来るだろう。

 照準は、施設入り口付近にセット。

 そしてチャージが完了するまでの間に、上の階層にいるIS達に、コアネットワークで一方的に退避勧告を送っておく。

 説明している時間は無い。

 下手に通信を繋ごうものなら、話している間にタイムオーバーだ。

 

 ―――残り10秒。

 

 チャージ率53.6%

 束とのデータリンクで上の動きを確認してみれば、指揮官の判断が早かったおかげか、退避も順調に進んでいる。

 だが第3層間近まで侵入していた1機の戻りが遅い。

 間に合うか?

 

 ―――残り5秒。

 

 チャージ率87.1%

 計算上は間に合う。

 だが分かってはいても、焦らずにはいられない。

 最後の1機が、施設から飛び出していった。

 

 ―――残り3秒。

 

 チャージ率100%

 即座にトリガー。

 只1門ですらケタ外れの超攻撃力が、4門同時に放たれる。

 すると射線上のあらゆるものが、抗う事すら許されずに消滅していった。

 まさに圧倒的という以外に無い常識外れの光景。

 だが、本当の常識外れはここからだった。

 施設最下層から最上層までブチ貫いたのは良い。

 その為に撃ったんだから。

 しかし問題はそこから先、緑の光は全く衰える事を知らないかのように、地下施設の上にあった分厚い岩盤すらも貫通。

 ドイツの空を光の柱が貫いていく。

 

 ―――残り2秒。

 

 OB(オーバード・ブースト)起動。

 背部装甲版が展開され、現れた大口径ブースターに光が収束していく。

 

 ―――残り1秒。

 

 撃ち終えると同時に、全武装をリリース(拡張領域へ戻し)

 機体重量を少しでも軽くすると同時に、QB(クイックブースト)ダブルアクセルで初期加速。

 PIC制御も使い、完全静止状態からコンマ1秒で音速領域に突入。

 

 ―――残り0.5秒。

 

 OB(オーバード・ブースト)発動。

 初期加速と合わさった圧倒的な突進力でもって、ブチ貫いた通路を突き進む。

 

 ―――残り0秒。

 

 自爆装置起動。

 核融合により生みだされた莫大なエネルギーが破壊力に転化され、荒れ狂うプラズマと爆炎と衝撃が、全ての物的証拠を跡形も無く消しさっていく。

 そんな中、俺は辛うじて脱出に成功。大空の下に飛び出していた。

 が、ここで再び予定外の事態が発生する。

 出撃前のシミュレーションでは、自爆装置の破壊エネルギーは分厚い岩盤により閉じ込められ、施設内部のみを破壊。

 周囲への被害は一切出ないはずだった。

 何せ束が、「凡人にしてはそれなりの出来だね」と吐き捨てたくらいだ。

 実際には相当高度な設計だろう。

 だが、俺が岩盤をブチ貫いた為に結果が変わってしまったらしい。

 脆くなった岩盤は、衝撃に耐え切れず崩壊。

 広範囲に渡って地滑りを起こし、大量の土砂と岩石が瞬く間に斜面を下り始めた。

 そして、その先には救助された12人と、安全確保の為に残っていたであろうISの姿が1機。

 他のIS達は、まだ脱出したばかりで集結していない。

 これから駆けつけても、全員助けられるかどうかは微妙なところだ。

 つまり助かるのは、残っているISが抱き抱えられる人数のみという事。

 一瞬の思考。

 助けるべきか否か。

 離脱の手間を考えれば、見捨てるべきだろう。

 今この瞬間なら、俺に構っている余裕なんて無いはず。

 何より作戦目標は、既に達成しているんだ。

 下手に接触するべきじゃない。

 だが、俺はその考えを振り払った。

 既に視認されている現在、色々と不都合が発生するのは確実だ。

 なら考えるべきは、発生する不都合にどう対処するかだが、そこは単純に、敵では無い事をアピールする路線で行こう。

 具体的には迫り来る土砂から、救助された人達を助ける、IS部隊をフォローするという形で。

 勿論その程度で、全てが丸く収まるはずなんて無いが、何もしないよりはマシだろう。

 そう判断した俺は、新たな武装をコール(拡張領域から呼び出し)

 

 ―――ASSEMBLE

    →R ARM UNIT  :EB-R500(レーザーブレード)

    →L ARM UNIT  :XMG-A030(マシンガン)

    →R BACK UNIT  :SAPLA(グレネード)

    →L BACK UNIT  :SAPLA(グレネード)

    →SHOULDER UNIT :051ANAM(フレア)

 

 両背部のグレネードをアクティブ。

 照準は迫り来る土砂の先端に。

 NEXT用グレネードの破壊力なら、一瞬だが土砂の流れを押し止められる。

 ISの機動力なら、その一瞬で十分なはずだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 NEXTがグレネードを放った瞬間、(ラウラ)はその意図を理解した。

 

『全機、救助急げ!!』

 

 コンピューターより高速な思考が可能となるハイパーセンサーの恩恵により、全員が一瞬のタイムラグもなく行動開始。

 まず初めに、救助者の一番近くにいたISが、両腕に1人ずつかかえて飛翔。

 次いで、施設から脱出してきた我々が救助者の元に到達。

 それぞれ手近にいた救助者を抱き抱え、初めの1機と同じように飛翔。

 直後、足元を大量の土砂が流れていく。

 まさに間一髪。

 だが私には、安堵する余裕など無かった。

 何せ最後の大仕事が残っているのだから。

 すなわち、今回の一件をどういう形で終わらせるか、だ。

 命令を、脳裏でもう一度復唱する。

 

 “手段は問わない。国益となる形で終結させよ”

 

 難しい事を言ってくれる。

 だが同時に、あらゆる手段が肯定されているという点で、やり易いとも言えた。

 私は抱き抱えていた救助者を友軍に預け、数瞬の緊張の後、通信を繋いだ。

 

『――――――私はドイツ軍のIS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ。応答求む』

『・・・・・NEXT』

 

 返答があったという事は、少なくとも交渉は可能という事か?

 慎重に、続く言葉を口にする。

 

『何故、ドイツに?』

『施設の中では何も見なかったのか?』

『救助者はいた。だがそれ以外には何も。“何故か”隔壁が降りていたのでね』

『ISの火力なら、どうとでも出来ただろうに』

『調べようとした矢先に感知した高エネルギー反応と退避勧告だ。おかげで具体的なものは、何も得られていない』

『・・・・・そうか。通信ポートを開けてくれ。面白いものを見せてやろう。他の奴らにもな』

 

 そうして送られてきた幾つかのデータは、正気を疑うようなものだった。

 部下の何人かが、余りの凄惨さに顔を背けている。

 正直、私とてこんなものを直視したいとは思わない。

 

『これは・・・・・こんな事が、本当にここで?』

『信じる信じないはそちらの勝手だが、ソコに生き証人がいるだろう』

 

 NEXTが指差すのは、先程助けた人達。

 確かに施設内の、特に第2層の状況を見るに、送られてきたデータが嘘である可能性は低い。

 だが、こいつは決定的な情報を出していない。

 最終的に何を目的として行われていたのか、それを特定出来るデータが1つも無い。

 何を隠している?

 

『生き証人なのは確かだが、限定的な情報しか得られていない。よって、情報提供を求めたいのだが?』

『・・・・・情報提供、ね。断ると言ったら?』

『それは無いと思っている。もしその気が無いのなら、既にここには居ないはずだ。違うかな?』

『なるほど。――――――良いだろう』

 

 思っていた以上に、アッサリとNEXTは頷いた。

 もう少し渋ると思っていたが、何か考えがあるのか?

 まぁいい。聞いて損な話ではあるまい。

 そう判断した私は、そのまま耳を傾けた。

 

『先日、IS学園が襲撃されたのは知っているな?』

『勿論だ。何処の物かは分からないが、新型だったな』

『ああ、新型さ。それもとびっきりの』

『お前を前にすると、虚しい言葉だな』

『続きを聞けば、そんな事は言えなくなるさ。何せアレは無人機だからな』

 

 予想だにしなかった言葉に、一瞬思考が停止する。

 

『・・・・・な、に? 馬鹿な!! 完全な自律行動を可能とするAIなど、まだ何処も開発には成功していないはずだ!!』

 

 思わず叫んでしまっていた。

 だが、NEXTの言葉は止まらない。

 

『ああ。何処も開発には成功していないさ。だけど、成功する必要があるのか?』

『どういう意味だ?』

『そのままの意味さ。新しく作ろうとするから難しいんだ。同じような機能を持つものがあるなら、それで代用すれば良いと考える科学者がいても、おかしくは無いと思わないか? 最もそんな真似をする奴、生かしておくつもりは無いが』

 

 これ以上無い程、明確な宣言。

 つまりNEXTは、初めて我々の前に姿を現した時の、あの言葉を実行に移したのか。

 これは拙い。

 しかも確実に、先程送ってきたデータ以上に厄介なものを、まだ握っているだろう。

 そんな物が世に出ようものなら、ドイツの威信は地に落ちる。

 どうにかして防がなければ。

 だがどうすれば良い?

 ここでNEXTを排除する?

 無理だな。詳細までは分からないが、この状況でしている装備が、生半可なものだとは思えない。

 勝てたとしても、最低半数以上の撃墜は覚悟しなければならないだろう。

 更に言えば、奴の背後には“あの”篠ノ之束がいる。

 仮にここでNEXTを葬れたとしても、完全な情報隠蔽は不可能だろう。

 ならばどうする?

 どう終わらせれば、ドイツにとっての利益となる?

 少なくない時間を思考に費やした私は、一世一代の大賭けに出る事にした。

 こんなの、柄じゃないのは理解している。

 しかし真っ当な方法では、幾ら考えても不利益しか出てこない。

 情報が表に出てしまった時点でアウトだ。

 なら、表に出ても大丈夫なようにしてしまえば良い。

 NEXTが動いたという事実、最大限に使わせてもらうぞ。

 

『・・・・・なるほど。しかし事前に連絡してくれれば、もう少し効率的に物事を進められたと思うが?』

『あの規模の施設を建造出来ている時点で、相当の組織力を持っていると判断出来た。従って、正規の手続きを踏んだところで引き延ばし工作をされたあげく、証拠を隠滅されるだけだとも予想出来た』

『そこはもう少し信用して欲しいものだな。他の部隊ならいざ知らず、IS部隊にそんなものが入り込む余地は無い』

『仮にそうだとしても手続きの間に、そこにいる救助者が何人減ったかな?』

 

 脳裏で組み立てていた通りに会話が進む。順調だ。

 だが問題は次だ。

 これに乗ってくるかどうかで全てが変わる。

 

『減らぬよ。元々、今日にも強行突入する予定だったんだ。何せ前々から疑っていたからな。――――――しかし、司令部も随分な真似をしてくれる。まさかNEXTに先行偵察を依頼していたとは。依頼したのは少将あたりか?』

 

 大嘘も嘘。真っ赤な嘘。三流以下の猿芝居だが、私には乗ってくるという確信があった。

 断言しても良い。

 こいつは穏便に済ませたがっている。

 そう考えれば、我々に囚われの人を救助させたのも、退避勧告を出したのも、土砂崩れの際に手を出してきたのも、全ての行動に説明が付く。

 こいつの目的は、あくまであの施設に関わる事であって、その他と敵対するつもりは無い。

 そう読んだからこそ、穏便に済ませる為の条件を提示したんだ。

 乗ってこなければ、分かるな?

 国対個人の殴り合いだ。

 

『・・・・・・・・・・』

 

 どうした。何故答えない。

 迷うような場面では無いだろう。

 

『・・・・・・・・・・』

 

 NEXTは微動だにせず、私をじっと見ている。

 何を考えている?

 

『・・・・・・・・・・』

 

 長い沈黙。

 まさか、読み違えたのか?

 焦りが心の中に、徐々に広がっていく。

 そんな中、

 

『・・・・・・・・・・依頼主についての一切は明かせない』

 

 とようやく答えが返ってきた。

 焦らせるなNEXT!!

 内心でそんな悪態を吐きながらも、ほんの少しだけ安堵する。

 これで、最初にして最大の難関は越えられた。

 後は折り合いをつけるだけだ。

 油断は出来ないが、相手にその気があるのなら、それほど難しくは無いだろう

 

『そうか。残念だが、まぁ仕方が無い。依頼主をペラペラ喋るようでは信用出来ないからな』

『そういう事だ』

『では仕事の話だ、先行偵察で得た情報を渡して欲しい』

『・・・・・良いだろう』

 

 この情報でNEXTが、どの程度協力的なのかが分かるだろう。

 そして送られてきたのは、この施設で行われていた数々の動かぬ証拠。

 だがやはり、全てを明かす気は無いようだった。

 ざっと目を通しただけだが、脳の処置に関わる部分は概要のみで、技術的な記載は無い。

 専門家が見れば違うのかもしれないが、後ろに束博士がいる以上、望み薄だろう。

 及びこれは・・・・・設計図? レールガン?

 

『最後のデータは何だ?』

『・・・・・とある人から、ドイツ軍にいる試験管ベイビーに渡してくれと頼まれたんだが、生憎ドイツ軍に知り合いなどいないからな。“誠実そうな”お前に預けておく。少佐の権限を使えば、それなりに調べられるだろう』

 

 なるほど。貸し借り無しという訳か。

 だが悪く無い取引だ。

 とある人の設計図なら、不良品という事はあるまい。

 

 ―――ラウラが知る由も無い事だが、これは“WB14RG-LADON”という、異世界の兵器を再現する過程で書かれた設計図。故に完全なものではなく、所々穴あきでスペックダウンもしているが、それでも第三世代機の主兵装とするには十分な代物だった。―――

 

『ああ。任せてもらおう。“必ず”渡しておく』

『では任せた。これで――――――』

『まぁ待て』

 

 私はNEXTの言葉を遮った。

 そちらの仕事は終わったかもしれないが、こちらの仕事はまだなのだ。

 もう少し付き合ってもらうぞ。

 勿論、嫌とは言わせん。

 

ハーゼ01(ラウラ)から00(オペレーター)へ。NEXTが帰還するのでチケットの手配を頼む。私の分もな』

『こちら00。了解――――――え? 隊長の分もですか?』

『丁度良い機会なので予定を繰り上げる。“後は”02(クラリッサ)に任せておけば問題あるまい』

『え、ちょっ、隊長!? そんな無茶な!! 事前調整も無しに』

 

 今このタイミングで一緒に行かないと、効果的な情報工作が出来ないのだよ。

 よって私は慌てるオペレーターに、軍組織という縦社会の理不尽を突きつけた。

 

『やれ。以上だ』

『え・・・・あ・・・・りょ、了解しました・・・・・』

 

 発生する作業量を思えば、多少00(オペレーター)に同情しなくも無いが、そこは諦めてもらおう。

 そんな事を思っていると、

 

『何を考えている?』

 

 NEXTからの通信。

 

『一緒に日本に行けば分かるさ。まさか、断ったりはしないだろう?』

 

 断るはずが無い。

 私と一緒に帰るのが、一番穏便に帰れる方法なのだから。

 もしかしたら、何か秘密裏に帰れる手段を有しているかもしれないが、こんな状況で使うとは思えない。

 何せもう、秘密裏に帰る意味は無いのだから。

 

 

 

 第31話に続く

 

 

 



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第31話 情報工作

 

 用意された旅客機でラウラと一緒に日本に帰った(薙原晶)は、発見されたのを呪わずにはいられなかった。

 まぁ、何かやるとは思っていたさ。

 だが正直、ここまでやるとは思っていなかった。

 何をやったのかって?

 この野郎。いや、男じゃないが野郎で十分だ。ちくしょうめ。

 自分の入国と、俺の帰還をマスコミにリークしやがった。

 ドイツにとって、極めて都合の良い情報を付け加えて。

 どんなものかって? こんなのだよ。

 

 ・NEXTは依頼を受けて、ドイツ軍特殊部隊と行動を共にした。

 ・高い練度が要求される特殊任務だった。

 ・NEXTと隊長機(ラウラ)の息はピッタリだった。

 ・十数人の救助者がいた。

 ・相当数の兵器を所有するテロリストが相手だった“らしい”。

 ・規模からして何処かのバックアップを受けていた“と思われる”。

 ・作戦後意気投合して一緒に日本に行く事になった。

 

 暇人ども(マスコミ)が大喜びしそうな話だろう?

 おかげで空港のロビーに出た瞬間、人・人・人・人・人の群れ。

 こいつ、何故こちらが穏便に収めようとしたのか、理解してないな。

 あの時点で騒ぎを大きくしたら、施設を作った奴らの利にしか、ならないからなのに。

 そんな内心の少なくない苛立ちを抑えながら思考を続ける。

 だが、俺と束にとって不都合な情報が流されていないという処から見るに、こちらを貶める気は無いと見て良いだろう。

 となれば目的は、俺達の引き込み。その為の外堀を埋める段階か・・・・・。

 面倒な事をしてくれる。

 このままだと、いや既に、NEXTとドイツ軍は近しい仲だと周囲に認識されているだろう。

 あんな情報が流れれば当然の話だ。

 更に言えば、こちらが公の場でそれを否定したら、色々と台無しになってしまう。

 本当はしてやりたいが、やればそれこそ施設を作った奴らの利になってしまう。何より束に迷惑がかかる。

 故に口を閉じれば、隣を歩く憎たらしい奴(ラウラ)が、勝手に事実を創作していく。

 悪循環だ。

 しかし、それも今だけだ。せいぜい調子に乗っていろ。

 脳裏を過ぎる逆転の手段。

 原作という、この世界の誰も知らない未来を知っている強み。

 俺というイレギュラーな存在が色々と狂わせてはいるが、向こうに干渉したのは今回が初めて。

 なら搭載されているはずだ。

 国際条約で禁止されているはずのV(Valkyrie)T(Trase)システムが。

 問題はどうやって怪しまれずにやるかだが・・・・・それは後でゆっくり考えて煮詰めよう。

 やや黒い感情で、しかし外面で怪しまれないように純度100%作り物の笑顔でいると、前の方が随分と騒がしくなり始めた。

 何が起きている?

 悲鳴は聞こえないから、テロリストの類では無さそうだが・・・・・。

 そんな事を思っていると、周囲の言葉が耳に入ってきた。

 

『おい、アレ、まさか?』

『おいおい。嘘だろう?』

『こりゃ大スクープじゃないか!?』

『自らお出迎えとは・・・・・』

 

 ま、まさか!?

 俺達を取り囲んでいた人の壁。

 その前方がサッと左右に分かれて作られた道の先にいたのは――――――。

 

「束!? 何故ここに?」

 

 意外過ぎる出現に驚いていると、彼女は真っ直ぐ歩いて来て、

 

「勿論君を迎えに来たんじゃないか。それ以外で私が動く理由なんて何一つ無いよ」

 

 と言いながら腕を絡ませてきた。

 瞬間、フラッシュの嵐。

 

「それは嬉しいんだが、大丈夫なのか?」

「一応、これでも身を守る術は持っているんだよ。もっとも、君の傍ら以上に安全な場所なんて無いんだけどね」

 

 そんな恥ずかしい台詞をサラッと言ってくれた束は、俺の腕を引っ張って歩き出した。

 勿論逆らう理由なんて無いので、腕に当たる柔らかい感触を楽しみながら一緒に歩いていくのだが、ふと気になる事があった。

 ラウラだ。

 さっきまで得意げに話していたのに、急に一歩後ろに下がって何も言わなくなってしまった。

 束が来たから遠慮したのか?

 そんな性格でも無いと思うが・・・・・まぁ、良い事だ。

 創作を事実にされちゃたまらないからな。

 しばらくそのまま黙っててくれ。

 そう思いながら、俺は束と一緒に歩いていった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 屈辱。

 今の(ラウラ)の感情は、その一言で説明できた。

 ドイツから日本に来るまで、全ては順調だった。

 本国の情報部は上手くやってくれたようで、NEXTとドイツ軍は共に作戦行動を行える程に近しい関係だと、周囲にアピールする事も出来た。

 奴の戦闘能力、及び入手した設計図の事を考えれば、命令は十分に達成したと言えるだろう。

 だが日本に来てからが、予想外だった。

 まさか篠ノ之束本人が迎えに来るとは。

 しかしこの時、私は愚かにも嬉しい誤算だと思ってしまった。

 ここで何らかのコネクションを作れれば、軍での評価も――――――そんな、後から思えば甘過ぎる考えを抱いた時、コアネットワークで通信が入った。

 こんな時に誰からだ?

 一瞬02(クラリッサ)かと思ったが、識別コードを確認すると・・・・・TABANE? 束?

 まさか? わざわざコアネットワークを使って? 一体何の目的で?

 内心の緊張で、表面上の笑顔を絶やさぬよう注意しながら、通信をONにする。

 すると、何の前置きも無く強烈な敵意が叩き付けられた。

 

(晶から離れろ。人形)

(なっ!? 束博――――――)

(名前で呼ぶ事を許した覚えは無いよ。よくもまぁ、こんな小賢しい真似をしてくれたね)

 

 本人の方に視線を向ければ、丁度NEXT(薙原晶)に腕を絡ませているところだった。

 その表情は、以前02(クラリッサ)が熱心に見ていたサブカルチャーに出てきた、恋する乙女そのもの。

 しかし表情とは裏腹の、冷たい言葉は更に続いた。

 

(何であんな三文芝居にワザワザ乗ってあげたのか、そしてレールガンの設計図をあげたのか、意味が理解出来なかったみたいだね。――――――まぁ、言われた通りにしか動けない、お人形さんじゃ仕方ないか)

 

 これ以上無い程の侮蔑に、怒りがこみ上げてくる。

 だがそれを形にする前に、黙らざる得ない言葉を聞かされてしまった。

 

(いいかい。良く聞くといい。私は別に、穏便に済ませなくても良かったんだ)

(な・・・・・に?)

(だってそうでしょう? 穏便に済ませる必要が何処にあったんだい? あの程度の数相手に、晶が負けるなどありえないし、表沙汰になって拙いのはドイツなんだ。こちらが下手に出る必要なんて、何一つないんだよ。なのに乗ってあげたのは、どうしてだと思う?)

 

 博士が穏便に済ませなくても良いと思っていたのに、穏便に済ませた理由?

 何だそれは?

 NEXTは博士の命令で動いて――――――まさか!?

 思い至った結論は、篠ノ之束という人間を少しでも知っているなら、信じられないものだった。

 だが、本人がその答えを肯定する。

 

(彼がね、「ここでの不仲は施設を作った奴らを利するだけ」と言うから仕方なく乗ってあげたんだ。それを、自分達の目先のメリットだけに囚われて、こんな真似をして。分かるかい? 君は本当だったらあそこで死んでいたんだ。ここに居られるのは、彼の言葉があったからに過ぎない。なのに君は、彼を点数稼ぎに利用した)

 

 “あの”篠ノ之束が他人の言葉を優先した!?

 衝撃的過ぎる事実に言葉が出ない。

 博士は、更に続けた。

 

(レールガンにしてもそう。渡す時に彼は、「“誠実そうな”お前に預けておく」と言ったよね? この対応の何処が誠実なのかな? アレを渡された意味が分からなかったのかい? いや、分からなかったんだよね? 分かってたら、こんな真似はしない。試しに言ってごらん。アレをどういう意味で渡されたと思ったんだい?)

 

 言える訳が無かった。

 この状況で貸し借り無しだと思ったなんて言ったら、確実に終わる。

 

(・・・・・言える訳が無いよね。言えるなら、こんな真似はしない。アレはね、君達がちゃんと穏便に済ませると思ったから渡したんだ。つまり、面倒事を回避する為の代金代わり。なのに・・・・・これだ)

 

 拙い、拙い、拙い、拙い拙い拙い拙い拙い!!

 私は、最も怒らせてはいけない人間を怒らせたのか!?

 “あの”篠ノ之束を!!

 どんな手段で挽回すれば良い?

 必死に打開策を考える。

 だが、間に合うはずが無かった。

 

(まぁ、今更騒いでも仕方が無いから、これ以上は言わないでおくよ。でも、君みたいなのが彼の隣を歩かないで欲しいな。人形は人形らしく、下僕のように従者のように、一歩下がるといい)

 

 断るという選択肢を、選べるはずがなかった。

 

(うん。やっぱり、その位置がお似合いだよ)

 

 前方でNEXT(薙原晶)の腕を引きながら、一瞬だけチラリとこちらを見た博士は、とても満足そうだった。

 しかし今の私に、口答えは許されない。

 やれば恐らくこの女は、ドイツが最大限被害を被る形でアクションを起すに違いない。

 躊躇するとも思えない。

 それを思えば口を閉じる以外、出来る事は無かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 IS学園に着いて、2人(NEXTと博士)から解放された(ラウラ)は、消耗しきっていた。

 何せあの状況下で、空港から此処(IS学園)までずっと一緒だったのだ。

 下手な拷問よりも余程キた。

 精神がヤスリで削られるというのは、ああいう状況を言うのだろう。

 しかし解放されたと言っても、まだ安心は出来ない。

 2人揃って博士の自宅に向かったから、何か対応を練るのかもしれない。

 そして博士の影響力を考えれば、何があっても不思議じゃない。

 ドイツに何か不利益があれば、また出来損ないと呼ばれるかもしれない。

 もしかしたら、ISを降ろされるかもしれない。

 全て“かもしれない”だが、一度考え出してしまうと止まらなかった。

 悪い想像ばかりが膨らんでいく。

 だが、どうしたら良いのかは分からない。

 周囲には誰も居ない。私1人だ。

 だから何となく立ち止まって、沈んでいく夕日を眺めた。

 立派になった私を、教官に見て欲しかったのだが・・・・・この様では。

 少し、視界が歪む。

 

「――――――やれやれ。そんなお前の姿を見るのは久しぶりだな。何があった?」

 

 突如、背後から声をかけられた。

 馬鹿な!? 周囲には誰も。

 慌てて振り向けば、其処にいたのは、

 

「教官!?」

「私の声も分からなかったとは、重症だな」

 

 軍服ではなく黒いスーツだったが、それ以外は記憶と寸分違わぬ姿。

 スラリとした長身。整ったスタイル。凛とした表情。

 私を出来損ないから最強へと戻してくれた、唯一敬愛する教官。

 

「い、いえ、そんな事はありません。こうして此処にいる以上、何も問題はありません」

「ほう、口が随分達者になったな? だがそう言うなら、少なくとも目元は拭いてからにしろ」

「え? あっ、これは、その、目にゴミが入って」

「そういう事にしておこう。――――――で、どうしたんだ? 特殊部隊の隊長としてやれていたお前が、あんなところで肩を落すくらいだ。何も無いとは思えんよ」

「それは・・・・・その」

 

 本心を言えば、話してしまいたい。

 しかし今回の一件はれっきとした作戦行動。

 教官とは言え今は部外者の人間に、話せる事じゃなかった。

 

「・・・・・ふむ。軍規、或いは機密絡みか。まぁ、想像はつくがな」

「え?」

「あれだけ大々的にやっておいて、想像できない方がおかしいだろう。――――――丁度良い、少し散歩に付き合え。話し相手が欲しかったところだ」

 

 そんな理由で私を同行させた教官は、しばらく無言で歩いてから口を開いた。

 

「これは私の勝手な独り言だが、どこかの軍人は間違っていなかったと思うぞ」

「え?」

「大体あの馬鹿()は、昔から加減というものを知らん。ついでに言えば人の頼り方もな。まぁ、最近は頼りになる奴が近くにいるようだから、少しは変わったと思ったんだが・・・・・そう簡単には変わらんか」

「え、え?」

 

 独り言についていけない私を他所に、教官の言葉は更に続く。

 

「大体、アイツ(薙原)もアイツだ。リスクの判断が出来なかった訳でも無いだろうに。いや、案外あの馬鹿()の色香に惑わされたのか? いや、あの馬鹿()が色仕掛けなんて高等テクニックを使えるはずが・・・・・」

「あ、あの、教官?」

「兎に角だ。どこかの軍人は、あの馬鹿共(束と晶)に全てを2人でやる事の限界を教えてやったんだから、何も落ち込む必要は無い。むしろ私は感謝してるよ。これで、あの馬鹿()は1つ学べたんだ。――――――他人に教えてもらう事なんて、何も無かったあいつが」

「教官・・・・・」

「という訳でどこかの馬鹿()には一言言っておくから、どこかの軍人には、心配しなくて良いと伝えておいてくれ」

「分かりました。必ず伝えます」

 

 教官のこれ以上無い気遣いに、思わず敬礼をもって返してしまう。

 

「ここは軍では無いぞ。敬礼は要らん。―――ところで、寮の部屋は分かっているのか?」

「部屋番号のみで、まだ場所までは確認していません」

「そうか、ならついて来ると良い。戻るついでに案内してやろう」

「教官自らですか!?」

「ここでは一介の教師だよ。寮長も兼ねているがな」

 

 そうして夕暮れの中歩き出した教官と、一緒に歩き出した私は、ふと気になった事を尋ねてみた。

 元々要注意人物で、既に情報部がある程度調べてはいたが、教官の目から見ればどうなのだろう?

 そんな疑問からだ。

 

「ところで教官、1つ聞いても宜しいでしょうか?」

「改まって何だ」

「いえ、大した事では。同室のシャルロット・デュノアはどんな人物ですか?」

 

 教官は「そうだな・・・・・」と、細く綺麗な指を顎先に当て、しばし思案してから答えてくれた。

 

「一言で言えば優等生。元々スジは良かったんだろうが、慢心する事無く努力を重ねている。このまま行けば、良い操縦者になるだろう」

「高評価ですね」

「性格的にも問題あるまい。軍育ちのお前を上手くフォローしてくれるはずだ」

「フォローですか? そんな不手際は――――――」

「軍というのは割と特殊な環境だ。そこしか知らないと、普通の生活で苦労するぞ」

 

 教官の言葉がイマイチ飲み込めない私に、教官は穏やかに笑いながら続けた。

 

「状況は違うが、一般常識という点であの馬鹿()には、随分苦労させられたからな」

「参考までに、それはどのような?」

「流石に本人に悪いから言わないでおくが、“相当苦労した”とだけ言っておこう」

 

 “あの”教官が苦労という言葉を口にする。

 それだけで、どれだけの苦労か分かろうというものだ。

 “天災”の2つ名は伊達ではないか。

 そんな事を思いながら歩いていると、通りかかったアリーナから男が1人出てきた。

 織斑一夏だ。

 

「あれ、ちふ―――織斑先生。こんな時間に、どうしてここに?」

 

 向こうもこちらに気付いたようで、緊張感の欠片も無い間抜けな顔で近付いてきた。

 コイツのおかげで、教官はモンド・グロッソ2連覇を逃したのか!!

 敬愛する教官に汚点をつけた張本人を前に、怒りがこみ上げてくる。

 だが一方で、クラス対抗戦時の“命懸けで観客席を護った”という行動を見れば、それなりの気概は持っているようにも見える。

 なので試してみる事にした。

 教官の前なので少々気は引けるが、隠れてコソコソやるようなものでも無い。

 やれば必ず耳に入ってしまうからな。

 

「転入生の案内だ」

「へぇ、あ、もしかしてニュースでやってたドイツの代表候補生? 俺、織斑一夏。よろしくな。君は?」

「私はラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ代表候補せ――――――」

 

 無邪気に握手を求められたので、極普通に自己紹介をしながら―――――― 一歩踏み込んだ。

 選択した方法は掌底。狙うは顎先。

 最小限、そして最短・最速の動作で意識を刈り取る。

 防げたのなら、認めてやる!!

 そして直後の出来事を、私はどう言葉にして良いのか分からなかった。

 端的に言えば、気付けば大地に四肢を投げ出し、空を眺めている状態だった。

 今、何をされた? 投げられたのか? あのタイミングで? 避わしただけでなく?

 状況が理解できなくて、パニックになっている私に、上から優しい声がかけられた。

 

「あ~、大丈夫かな? とりあえず痛くないようにはしたんだけど・・・・・」

 

 視線を動かせば、申し訳なさそうな顔の織斑弟。

 

「だ、大丈夫だが、それよりも何故、こうも完璧に反応出来た?」

「先生の教えでね。“初対面の人間と会う時は、必ず奇襲される事を考えろ”ってね」

 

 すると教官が、

 

「何だ。あいつはそんな事まで教えたのか?」

「分かってたから、止めなかったのかと思ったよ」

「それらしい事は聞いたが、実際どの程度までかは知らなかったからな」

「じゃぁ感想は?」

「40点」

「辛口だなぁ。それなりに上手く行ったと思ったんだけど」

「体捌き自体は荒削りも良いところだが、とりあえずの形にはなっていると言ってやろう。だが、本当の上級者を目指すなら、そもそも打ち込ませるな」

「何時もながら厳しいな」

「接近戦しか出来ないお前が、その間合いで好きに打ち込まれてどうする? 自身の間合いで敵を好きにさせるな」

「千冬姉もアイツと同じ事言うんだな」

「ほほう。それは面白そうだ。今度トレーニングに顔を出してみよう」

「止めてくれ。マジで死ねるから。――――――ところで、立てる?」

 

 織斑弟が手を差し出してきた。

 いきなり手を出したのに、何て良い奴なんだ。

 そう思いながら、手を掴んで立ち上がろうとすると、弟はサッと手を引っ込めてしまった。

 当然、バランスを崩した私は尻餅をついてしまう。

 

「お、お前!!」

「いきなりやってきたんだ。この位は許して欲しいな。で、どうしてこんな事を?」

「お前が教官の弟だからだ! お前さえいなければ、教官はモンド・グロッソ2連覇を!!」

 

 すると弟は私を正面から見つめ、真剣な表情と言葉で応えてくれた。

 

「・・・・・そっか。それは、俺も済まないと思ってる。何度昔の俺を殴り飛ばしたいと思ったか分からない。だけど幾ら思っても、過去は変えられない。だから俺は千冬姉みたいに、誰かを助けられる人間になって証明したいと思う。そうすれば、助けた人達が千冬姉の勲章だ。優勝メダルよりも価値があると思わないか?」

 

 何かを心に秘めたような力強い瞳に、思わず見入ってしまった。

 

「ま、まぁ、そこまで言うなら認めてやら無くもない。せいぜい教官の顔に泥を塗らぬよう励め」

「勿論だ」

 

 一切迷いを見せる事なく応えた弟の姿が眩しくて、顔を背けた先には咳払いをする教官の姿が。

 

「まったくお前という奴は、そういう台詞を恥ずかしげもなく。――――――まぁいい。2人とも、そろそろ寮に戻るぞ」

 

 そう言って、教官は振り返る事なく先に行ってしまった。

 何となく顔が赤く見えたのは、恐らく夕日のせいだろう。

 そう思って教官の一歩後ろを、私は織斑一夏と一緒に歩いていった。

 

 

 第32話に続く

 

 

 



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第32話 仲間? 部下? それとも・・・・・

 

 束の自宅兼研究所に戻り、随分な長時間シャワーを浴びてから始めたデブリーフィング。

 その中で(薙原晶)は、ずっと考えていた事を口にした。

 

「――――――今回の一件、ドイツへの対応は更識にやらせようと思う」

「理由は? 私が生半可な理由で賛成しないのは、分かってるでしょ」

 

 思っていた通り、束の表情が厳しくなる。

 しかし予想通りなので、構わず話し続けた。

 

「更識にやらせる理由なんて1つしかない。奴が交渉・裏工作のプロだからだよ」

「この後に及んで交渉事だけで済ませる気? 奴らを調子に乗らせるだけじゃないの?」

 

 ああ、なるほど。思わず納得してしまった。

 やっぱり彼女は科学者であって、権謀術数の人じゃない。

 交渉事が余り得意じゃない俺だが、それでも、その怖さは良く知っている。

 いや、得意じゃないからこそと言うべきか。

 

「相手を痛めつけるのに、武力が常に最善の方法とは限らない。もっと悪辣に、搾り取れるだけ搾り取ってやる。その為に、俺達には無いスキルを持っているアイツが必要だ」

「・・・・・どういう風に動かす気なの?」

「特別な事は何も。ただ今回得た情報を少し渡して、ドイツが痛がるものを毟り取れ、とだけ言うつもりだ。ついでに言えば、報酬は別途ドイツから毟り取れ、ともね」

「そんなんじゃ駄目じゃないか。もしあの泥棒猫(更識楯無)がちゃんと動かなかったら、裏切ったりしたらどうするつもりなの?」

 

 俺は何も気負う事無く、自然に答えていた。

 

「裏切りには“死”ってのが鉄則だけど、こっちは違うのか?」

「幾ら君の言う事でも信用出来ない。君って女性に甘いから、本当に出来るの?」

「なるほど。心配事はソコか。なら、それさえクリア出来れば賛成してくれる訳だな?」

「それなりの態度を見せてくれればね」

「なら簡単だ。更識の居場所を調べてくれ。後ついでに、学園内のセキュリティも掌握して欲しい」

「何をする気なの?」

「子猫の教育。通信は繋いでおくから、後はそれを聞いて判断してくれ」

 

 そう言いながら席を立ち、外へ向かおうとすると、背後から声をかけられた。

 

「ちょっと、晶? 本当に何をする気なの?」

「それなりの態度って言っただろう? だから、見せてやる」

 

 極々自然に、それこそ冗談でも言うかのような気軽さでISを起動。

 

 ―――SYSTEM CHECK START

    →HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・OK

    →ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・OK

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK

    

    →R ARM UNIT  :EB-R500(レーザーブレード)・・・・・・・・・・・・OK

    →L ARM UNIT  :XMG-A030(マシンガン)・・・・・・・・・・・OK

    →R BACK UNIT  :049ANSC(スナイパーキャノン)・・・・・・・・・・・OK

    →L BACK UNIT  :047ANR(レーダー)・・・・・・・・・・・・・OK

    →SHOULDER UNIT :051ANEM(ECM) ・・・・・・・・・OK

    →R HANGER UNIT :-

    →L HANGER UNIT :-

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・OK

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    

 ―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR

 

 そうして外へ出た俺に、束から通信が入った。

 

『見つけたよ。生徒会長室に1人でいるみたい』

 

 時間を見れば、既に20時を回っている。

 ご苦労な事だ。

 もっとも、これからもっと苦労してもらうが。

 

『じゃぁ、後は見ててくれ』

 

 更識のアドレスをコール。

 

『――――――もしもし? 珍しいね、君からかけてくるなんて。私の事が恋しくなったのかな? それとも兎さんに飽きた? 君なら何時でも優しく迎えてあげるよ』

 

 相変わらずの口調。

 以前なら少なからず反応してしまったかもしれないが、目的が決まっている今、全く俺の心は動かなかった。

 だから余裕も出てくる。

 

『飽きるなんて事は無いが、稀に別のものが欲しくなる事はあるな』

『あれ、ちょっと意外な反応だね』

『そうか? 前からこんな感じだと思ったが? ――――――まぁいい。本題に入ろう。仕事を1つ依頼したい』

『このタイミングって事はドイツ絡みだと思うけど、君に、私を動かせるだけの依頼料が払えるのかな? この前の分もまだ貰ってないし』

『前の分は明日、直接届けに行く。安全を考えて回線には乗せたくない。そして今回の分だが――――――』

 

 実を言うと、一円足りとも払う気は無かった。

 自分で稼いでくれ。

 

『――――――報酬は成功報酬。どれだけ得られるのかは、お前の実力次第だ』

『へぇ、私に“実力次第”だなんて、言うじゃない。良いわ。内容だけ聞いてあげる』

『なに、至って簡単な話さ。何も難しくない。今回メディアに流れた俺とドイツ軍の共同作戦。その真相を教えてやるから、ドイツがこの上なく痛がる事をして欲しいというだけの話さ。そしてお前への報酬は、それ以外の全て。教えた情報を元に金を要求するも良し、何かを貰うのも良し、人脈を作るも良し、より取り見取りだろう? ―――ああ、そうだ。1つだけ注意点があって、ラウラ・ボーデヴィッヒには影響が無いようにして欲しい』

 

 更識みたいな人種にとって、こちらの方が単純な金よりも、余程魅力的な報酬だろう。

 もっとも、すぐに食いつくような真似は絶対にしないだろうがな。

 

『・・・・・ふぅ~ん。危なそうな匂いがプンプンするわね。遠慮しとこうかしら?』

『なら別に構わない。無理にとは言わないさ。誰だって自分の身が一番大事。危険な事には手を出さずに楽をしたい。そうだろ?』

『ええ、そうね』

 

 同意してくれたところで俺は、次の段階に話を進めた。

 

『でもそんな人間なら、NEXTの傍に置いておく意味なんて、無いと思わないか?』

『え?』

『だってそうだろう? この俺と束が関わる事に、危険じゃ無い事なんて無いんだ。この程度で尻込みするようなら、近くにいるだけ危険なんだ。なら遠ざけておくのが、人情ってものじゃないか。まぁ遠くにいる分、少し疎遠になるかもしれないけどな』

『ちょっと――――――』

 

 何かを言おうとする更識だが、言わせない。

 構わず話を続ける。

 

『ああ、勘違いしないで欲しいのは、何も“受けろ”と強制してる訳じゃないんだ。プロの判断さ。尊重するよ。ただ、安全を考える人間には、安全な場所に居てもらおうというだけの話。普通の話だろう?』

 

 ギリッ!!

 通信越しに歯軋りの音が聞こえた。

 怒っているのだろうか?

 だが関係無い。

 こちらが望む結果さえ出してくれれば。

 

『・・・・・1つ、前払いで欲しいものがあるのだけど』

『何だ?』

 

 しばしの沈黙。

 後、彼女は答えた。

 幾つか予想していた選択肢から、外れる事無く。

 

『・・・・・パートナー。いえ、後ろ盾になってちょうだい。この私の後ろには、地上最強の単体戦力たる貴方がいると、更識本家で言っても良いなら、その話受けるわ』

『条件がある』

『何かしら?』

『束と俺に迷惑を掛けない事は勿論、織斑千冬、織斑一夏、篠ノ之箒とその友人達の安全。それが呑めるなら良いだろう』

『もし出来なかったら?』

『こうなる――――――』

 

 

 

 ◇

 

 

 

 生徒会長室の窓際で携帯を片手に、暗くなった外を眺めながら話していた(更識楯無)は、何時もと違う(薙原晶)の雰囲気に戸惑っていた。

 何と言うか、妙に落ち着いていてやり辛いのだ。

 そしていつの間にか、この上なく不利な判断を迫られていた。

 

『ああ、勘違いしないで欲しいのは、何も“受けろ”と強制してる訳じゃないんだ。プロの判断さ。尊重するよ。ただ、安全を考える人間には、安全な場所に居てもらおうというだけの話。普通の話だろう?』

 

 ギリッ!!

 思わず歯軋りしてしまう。

 抵抗する間も無く、突きつけられた不可避の選択。

 雰囲気で分かる。

 彼はここで、味方になるか否かを選ばせる気だ。

 もし断れば、後は程々のお付き合い。

 もし受ければ、世界最強の単体戦力と世界最高の頭脳とのパイプを保持出来る。

 普通なら、考えるまでも無い。

 しかし相手の巨大さを思えば、考えざるを得なかった。

 でもこれが、交渉は苦手と言っていた男なの?

 

 “男子三日会わざれば刮目して見よ”

 

 とは言うけど、変わり過ぎでしょう!!

 この私が、ロクにものを言えず押し込まれるなんて!!

 だけど同時に、これはチャンスだと思っている自分がいた。

 こういう話を持って来たという事は、2人での活動に限界を感じたという証拠。

 今なら最高の頭脳と武力に、一番近いポジションを確保出来る。

 過去最高とも言える思考速度で、受けた場合のメリットとデメリットの計算を済ませた私は、その美味しいポジションを確実なものとするべく、1つだけ前払いでの報酬を求めた。

 それが手に入るなら、受ける価値は十分にある。

 

『・・・・・1つ、前払いで欲しいものがあるのだけど』

『何だ?』

 

 さぁ、貴方は何て答えてくれるのかしら?

 

『・・・・・パートナー。いえ、後ろ盾になってちょうだい。この私の後ろには、地上最強の単体戦力たる貴方がいると、更識本家で言っても良いなら、その話受けるわ』

『条件がある』

『何かしら?』

『束と俺に迷惑を掛けない事は勿論、織斑千冬、織斑一夏、篠ノ之箒とその友人達の安全。それが呑めるなら良いだろう』

『もし出来なかったら?』

『こうなる――――――』

 

 極自然に紡がれた(薙原晶)の言葉に、私の全身は総毛立った。

 どちらが先だったのかは分からない。

 直感に従いISを緊急展開したのか、それともロックオンを感知したISがオートで緊急展開したのか。

 しかし、出来たのはそこまでだった。

 直後、対IS用兵器ですら1~2発は耐えれる強化ガラスが木っ端微塵に砕け、突破してきた弾丸がエネルギーシールドを食い破り、絶対防御が発動。

 更に味わった事の無い桁外れの衝撃が身体を浮かせ、バランスコントロールをする間も無く、部屋の反対側へ弾き飛ばされる。

 

「グハッ!! な、何を・・・・・」

 

 痛みと驚きと衝撃で、言葉が続かない。

 撃ってきた!? 学園内で!? 何を考えているの!?

 そんな混乱の中、通信が入った。

 

『――――――俺はね、裏切りに対して労力を惜しむ気は無いんだ。でも自分の為に動いてくれる人間を、無下に扱う気も無い。分かり易いルールだろう?』

 

 重々しさを感じさせない軽い口調。

 こんな状況でも無ければ、トリガーを引いた人間とは思えないだろう。

 

『そうね。でも、撃つ必要は、無かったんじゃない?』

 

 ダメージの残る身体に、どうにかして言葉を搾り出させる。

 

『それは悪いと思っているけど、多分言葉で幾ら言っても信じなかっただろう? だから1発撃たせてもらった。そうすれば長々と語るより、すぐに理解してくれると思ったから』

 

 こいつ、絶対に悪いなんて思って無い。

 でもこれで分かった。

 彼は掛け値なしに本気だ。

 冗談でこんな事、出来るはずが無い。

 

『ええ、理解したわ。そしてちゃんと返答しておくわね。何処かで盗み聞きしている兎に、都合の良いように解釈されたくないから』

 

 一度目を閉じて深呼吸。

 何となくだけど、確信に近い予感があった。

 この契約は、私を更なる高みへ飛翔させてくれる。

 そんな予感が。

 

『薙原晶。その依頼、受託させてもらうわ。だから今後、貴方は私の後ろ盾となる。間違い無いわね?』

『ああ、間違い無い。これで契約成立だ』

『じゃぁ、これから宜しくね、薙原君。――――――ところで、1つ良いかしら?』

 

 こんな痛い思いをさせたのだから、少しくらいは弄らせてもらうわよ。

 

『何だ急に?』

『さっきのダメージが中々抜けなくて、起き上がれないの。部屋まで運んでくれないかしら?』

『ちょっと!! 何図々しい事言ってるのさ!!』

 

 思っていた通り、兎が割り込んできた。

 でもね、もう図々しい事じゃないのよ。

 

『あら、さっき彼はこう言ったわ。「自分の為に動いてくれる人間を、無下に扱う気も無い」って。これから“彼の為に”働こうとしている私が動けないと言っているのよ。それくらいの役と・・・・・フォローはあっても良いんじゃないかしら? 理解させる為に撃ったのは薙原君なんだし』

『晶!! こんな泥棒猫、放っておこうよ!!』

 

 束博士。分かり易い性格してるわね。

 取られたくないって言ってるのが丸分かりよ。

 そんな事を思っていると、薙原君から通信が返ってきた。

 

『・・・・あのな、部屋まで行ったらそのまま押し倒すぞ? 嫌なら自分で帰れ』

『あら、おねーさんは何時でもいいのよ』

 

 ふふん。こう言えば、免疫の無い男は大抵怯むのよね。

 私はそんなに安くないわよ。

 と思っていると、怯むどころか極自然に突っ込んできた。

 

『そうか。ルームメイトに見られながらのプレイが好みか。ハードだな』

『『え!?』』

 

 兎と私の声が重なる。

 

『これからゆっくりとそっちに行くから、着いた時にまだ居たらお持ち帰りな』

『『ちょっ、ちょっと!?』』

 

 また声が重なった。

 ほ、本気なの?

 

 ―――しかし送信されてきたNEXTの位置情報は、本当に近付いていた。

 

 えっと、本気の本気?

 

 ―――その歩みは遅い。

 

 本当にお持ち帰りする気?

 

 ―――でも確実に近付いて来る。

 

 ど、どうしよう?

 

 ――― 気付けば、もう道半ばまで近付かれていた。

 

 初めてをルームメイトに見られながら?

 そう思った瞬間、余りにもリアルに“その事”を想像してしまい、自分でも顔が真っ赤になるのが分かった。

 い、嫌よ!! 初めては、もっとこう・・・・・優しく!!

 私は慌てて通信を入れた。

 

『な、薙原君!! ちょっと待った!! 今動けるようになったから!! もう大丈夫。来なくてもいいから!!』

『ククッ、そうか。それは残念だ』

 

 堪えきれない笑いを含んだ、全く残念そうじゃない軽い口調。

 アレ? もしかして・・・・・踊らされた?

 この私が!?

 そして彼の言葉が、それを裏付ける。

 

『いや、面白いものを見せてもらった。意外とウブなんだな』

 

 コ、コイツーーーーーーーーー!!

 何時か絶対恥ずかしい目に遭わせてやるーーーーー!!

 こうしてこの日、(更識楯無)は契約により後ろ盾を得た。

 最強の剣(NEXT)という後ろ盾を。

 

 

 

  ちなみに全くの余談だがその夜、ドラム缶型作業用ロボ(テックボット)をラジコン操作して、生徒会長室を直しているNEXTの姿が在ったとか無かったとか・・・・・。

 

 

 

 第33話に続く

 

 

 



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第33話 未知への一歩

 

 惰弱な人間の集まり。

 (ラウラ)は此処に来るまで、IS学園をそう評していた。

 無論、中には例外もいるだろうが、大多数の人間がそうである事は疑っていなかった。

 ISをファッションと勘違いしているような人間の集まりだと。

 しかし転入当日の放課後、いきなりその認識が覆された。

 

鷹月(たかつき)さん。機体負荷限界間近です。下がって!! 箒さん、相川さん、フォロー!!」

 

 ここはIS学園アリーナのオペレーションルーム。

 既に知っている事ばかりの退屈な授業が終わった後、寮で同室となったシャルロット・デュノアから声を掛けられた。

 もし良かったらクラスの自主練習を見に来ないか、と

 

「由紀は鷹月(たかつき)機の追撃!! 補給させないで!! 聖華、優は箒機と相川機を抑えて!!」

 

 正面の大型ディスプレイに映し出されるのは、量産型IS“打鉄”と“ラファール”を用いた3on3バトル。

 ルールは至って簡単で、敵チームのISを全機行動不能にすれば勝利というもの。

 だが加えられた2つの要素が、通常とは異なる戦術をチームに要求する。

 1つは、アリーナ内に2箇所設置されている補給ポイント。

 これがある限り減ったシールドエネルギーの回復が可能となるから、ここの確保と敵が確保しているポイントを、如何に破壊するかが鍵となってくる。

 そしてもう1つはオペレーターの存在。

 相手の武装とフォーメーションの解析を専門とする後方担当が1人いるだけで、前線メンバーがどれだけ楽になるかなど、言うまでも無い。

 勿論、実戦部隊に所属していた私から見れば、所詮学生の動き。

 まだまだ穴だらけだ。

 正直、問題点を指摘しようと思えば、幾らでも出来るだろう。

 だがISに触れ始めて日が浅い連中。動きが荒くて当たり前。

 

「箒さん。聖華機、優機とエンゲージ。足止め――――――駄目!! 優機に抜けられた!! 相川さん、お願い!!」

 

 だから見るべきはソコじゃない。

 このゲームそのものだ。

 シャルロットから受けた説明では、このゲームの目的は“生徒のIS操縦技術向上”だ。

 だが、それなら補給とオペレーターという要素は必要無い。

 単純な3on3で十分だ。

 なのに余計な要素が入っているのは、別の目的があるから。

 それは何か?

 考えるまでも無い。

 戦術上の重要な要素の1つである補給タイミングと、地味で目立たないが欠かせない存在であるオペレーターの価値を認識させる事。

 この2つだろう。

 今アリーナを駆け巡っている本人達に、自覚は無いのかもしれない。

 しかしこんなゲームを繰り返していれば、嫌でも気付く。

 

鷹月(たかつき)機、補給に――――――入らない!! スルー!? しまった!! 由紀、下がって!! 囮よ!!」

 

 大型ディスプレイには打鉄を追撃し、補給ポイントのすぐ傍を通るラファールの姿が映し出されていた。

 直後、補給ポイントに弾丸が撃ち込まれ誘爆。

 巻き込まれたラファールのシールド残量が0に。

 そんな映像を見ながら、私はこのゲームを提案したという張本人(薙原晶)を、横目でチラリと見ながら思う。

 こちらに対して、何もアクションを起さないのだろうか?

 先日の反応を見れば、ドイツでの一件を快く思っていないのは明白。

 なのに何らアクションが無い。

 それどころか、今こうして同じオペレーションルームにいても、気にしている様子が無い。

 全くの自然体。

 意図的に無視している様子でもあれば、また違うのだが・・・・・。

 焦燥、苛立ち、不安。様々な感情が心を乱していく中、突然掛けられた声で、私は現実に引き戻された。

 

「自主練習の様子はどうかな?」

 

 シャルロットだ。

 いつの間にか、人が安心しそうな人懐っこい表情で隣に立っている。

 

「・・・・・悪くは無い。だが、動きに無駄が多いな」

「まだ始めて、そんなに経ってないからね。でも1年生のこの時期で、ここまで動けるなら凄いと思うよ。私だって、同じだけの搭乗時間の時に、ここまで動けたかどうか」

 

 自分の身に置き換えてみれば、確かに頷ける話ではあった。

 

「そうだな。ところでこの訓練に補給とオペレーターという要素を加えたのは、やっぱりあの男(薙原)なのか?」

「うーん。確かに晶の意見ではあったけど、正確に言うなら“試行錯誤している間にこの形になった”が正しいかな」

「試行錯誤?」

「うん。この訓練、初めからこの形だった訳じゃないんだ。雛形を作ったのは彼だけど、どうしたらもっと良く出来るかって皆で話し合って、色々形を変えて、そしてこの形になったんだ。だから全部彼が決めた訳じゃないんだよ」

「そうだったのか」

 

 何となくだが、全て自分で決めていたイメージがあったので、少々意外な発見だった。

 そして同時に思う。

 やはり武力のみの男では無かったか、と。

 新兵(ルーキー)への教育というのは難しい。

 ISをファッションと勘違いしているような連中が相手なら尚更だろう。

 だが奴は雛形を与え、後は自分達で考え・実行させる事で、全体の底上げと効率化を図ったのか。

 やるな。

 だが待てよ。

 この場合、クラスメイトが自主的に動こうと思うだけの、何かが必要だと思うのだが・・・・・。

 

「1つ聞いていいか」

「何かな?」

「この訓練。勝った方には何かあるのか?」

「月~木までの勝ち星を計算して、上位4チームは金曜に専用機持ちと戦えるんだけど・・・・・多分みんなが頑張る目的はそっちじゃないんだよね」

 

 どういう事だ?

 最新技術を詰め込んだ専用機と戦える以上の、何かがあると言うのか?

 私は何も言わず、シャルロットの次の言葉を待った。

 

「上位4チームは戦った後、その日限定で専用機持ちが専属コーチとして付く事になってるんだ」

 

 なるほど。

 戦った後のアフターフォローも完璧という事か。

 抜け目無いな。

 

「戦う専用機はどういう風に決めてるんだ?」

「自由に相手を選べるのは勝ち星が1番多いチームだけ。2位以下は、専用機組みがジャンケンで順番を決めてるからランダム。ちなみにこれの面白いところは、4位のチームでもNEXTと当たる可能性があるって事」

「ほぉ、面白いシステムだな」

「でしょう? 流石に晶も、この時は手加減してくれるみたいだしね」

「この時は?」

「うん。“この時は”」

 

 そう強調した彼女は眼前に空間ウィンドウを展開し、専用機が映る映像を見せてくれた。

 

「これは?」

「僕達専用機持ちとNEXTとの訓練映像。晶って、かなり容赦無いよ。僕達の事を思ってだっていうのは、分かってるんだけどね」

 

 その映像は、驚愕の一言に尽きた。

 本来それなりの実力を持つはずの専用機持ち達が、恥も外聞も無く必死に機体を振り回し、ロックオンを外そうとしている。

 だがNEXT相手に、生半可な機動が通じるはずも無い。

 次々と撃ち込まれる実弾と光学兵器群。

 削られるエネルギーシールドと物理装甲。発動する絶対防御。

 

「訓練で、ここまでやるのか!?」

「初めはIS操縦で出遅れていた一夏を、スパルタで鍛える為に始めたやつだったんだけどね。いつの間にか随分強くなっちゃって油断出来なくなってきたから、今は僕達もこの形。――――――だから、毎回毎回気が抜けないんだ。何せ下手をしたら本当に一瞬、一撃で撃墜判定。嫌でもあらゆる事に気を配るようになるよ。それこそ味方の位置、連携タイミング、フィールドにある障害物まで全部」

 

 言葉が出ないとは、まさにこの事だった。

 確かに、あの化け物(NEXT)を相手にしてれば、嫌でも磨かれていくだろう。

 そして同時に戦慄する。

 こんな事を卒業まで繰り返せば、この専用機持ち共は、どれだけの実力に達しているのだろうか、と。

 私はそんな事を思いながら、自主練習を眺め続けた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 V(Valkyrie)T(Trase)システムのイベントどうしようか?

 放課後のクラストレーニングが終わった後、束の自宅でシャワーを浴びながら、(薙原晶)はそんな事を考えていた。

 ドイツの一件での仕返しという意味もあるから、キッチリやっておきたいんだが、俺から行動を起こすとしたら切っ掛けが必要だ。

 知らない振りをして、NEXTとシュヴァルツェア・レーゲン(ラウラの愛機)で模擬戦。そのままぶっ壊すという事も出来なくはないが、外聞が悪過ぎる。

 基本戦闘能力が違い過ぎて、弱いもの苛めにしかならない。

 いや待てよ。考え方を変えよう。

 極端な話、VTシステムの存在さえ表に出せれば、ドイツに痛い目を見させるという、こっちの目的は達成出来るんだ。

 なら多少残念ではあるが、原作通り一夏にやらせるか?

 いや駄目だ。

 俺が原作に介入してるおかげで、タッグマッチそのものがおかしな事になっている。

 今日クラスのHRで織斑先生が、専用機持ち同士のコンビは禁止と言ってきた。

 理由を尋ねてみれば、専用機持ち同士は既に、連携訓練をしているからだそうだ。

 まぁ確かに、頷ける話ではある。

 クラス対抗戦時の戦闘を見る限り、連携はそれなりに機能していると見れるだろう。

 なら教育者としては、他の人間にも、そういう事を学んで欲しいと思うのが自然だろう。

 しかしこれは原作には無かった流れだ。

 当然これだと、一夏&シャルロットVSラウラ&箒というカードが成立しない。

 どうする?

 そんな思考を巡らせながらシャワーを終え、私服に着替えてダイニングのソファでくつろいでいると、ひっっっじょうに機嫌の悪そうな束が入ってきた。

 これは・・・・・何かあったな。

 思い当たるところとしては、ドイツから持ち帰ったデータだが、分析で何か分かったのか?

 無言で近付いてきた束が、俺の隣に“私不機嫌です”と言わんばかりにボスッと腰を降ろした。

 

「・・・・・どうした?」

「晶。とりあえずラウラっていう小娘のISを壊してきて」

「いきなりだな。事情を説明してくれ」

「コレ」

 

 細く綺麗な指がパチンと弾かれ、目の前に展開される空間ウィンドウ。

 表示された情報は―――――――――V(Valkyrie)T(Trase)システム!!

 そうかそうか。束の方で情報を掴んでくれたか。

 これで動ける。

 だが油断は禁物だ。

 このVTシステムが、原作通りの物とは限らないのだから。

 故に、説明してもらう事にした。

 

「Valkyrie Traseシステム。通称VT。過去モンド・グロッソの部門優勝者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、現在条約でどんな企業も組織も国も、研究も開発も使用も認められていない代物。でも私にとって、そんな事はどうでも良い。問題なのは、あんな不出来なシステムに、ちーちゃんのデータが使われている事。ちーちゃんのデータが悪用されそうな事。それだけでこの世から抹消する理由になる」

 

 相変わらず傍若無人で素適な理由だが、1つ気になる事があった。

 

「そういうシステムが搭載されているって事は、それを作る施設があるって事だろう? そっちは良いのか?」

「それについては大丈夫。以前、施設も基礎研究データも根こそぎ破壊しておいたから。そしてドイツから回収したデータを分析した限り、動いているのは、あの小娘のISに搭載されているプロトタイプだけ。――――――だから、壊して」

「了解した。精々派手にぶっ壊そう。俺もちょっと、仕返しはしてやりたいと思っていたしな。しかし全損させるとなると・・・・・・・・・・」

 

 どうすれば、弱いもの苛めに見えないようにやれるだろうか?

 そんな事を改めて考えると、ふと閃くものがあった。

 何も1対1に拘る必要は無くないか?

 NEXTとノーマルISとの戦力差は歴然。

 1対1なら弱いもの苛めでも、5対1ならハンデとして成立する。

 確か、まだ使っていない装備があったな。

 考えが徐々に纏まっていく。

 

「・・・・・なぁ束」

「なに?」

「白式なら、装甲パーツが全損しても修理してくれるか?」

「突然だね。いっくんの白式なら良いけど、どうして?」

「なに、1対1でやったら今後外での活動に、影響が出そうなくらいの弱いもの苛めになるから、1年生の専用機持ち全員を集めた5対1で模擬戦。その中でやろうと思ってね。ただ1人だけ集中的に狙うと色々勘繰られるから、他の奴も同じようにやる。集める名目はそうだな・・・・・NEXT新武装のテスト相手。これでいこう」

「新武装って、確かまだ使ってないのは・・・・・」

「幾つかあるけど、ミサイルを使おうと思っている」

 

 俺の言葉に、珍しく束の表情が変わる。

 

「ノーマルISのミサイルとは物が違うよ。アリーナなんかで使ったら、下手をしなくても観客席ごと吹き飛んじゃう」

「だから場所は、太平洋のど真ん中。許可を取るのが面倒臭そうだが、俺がやると言えば頷かないところは無いさ。そして、そこでVTシステムの存在が明かされれば、色々と面白い事になると思わないか?」

「なるほど。良いね。でも1つだけ、いっくんにやり過ぎたら駄目だよ」

「やり過ぎる気は無いが、それなりにはやらせてもらう。――――――アイツは強く成りたいって言ってるんだ。下手な手加減なんてしたら、アイツに対して失礼だ」

「むぅ。男ってこれだから・・・・・」

 

 “私不満です”とばかりに、少しだけ頬を膨らませる束。

 しかし決して怒っている訳では無い可愛らしい表情は、間近で見ていた俺にとって、ちょっとばかり破壊力があり過ぎた。

 本心を言う口とは裏腹に、手が別行動を始める。

 

「そう言わないでくれ。本人から鍛えて欲しいって言われているのもあるが、ああいう真っ直ぐな人間を見ていると、つい応援したくなる」

「分かったよ。・・・・・ところで、動いているこの手は何かな?」

「何だろうな? すぐに分かると思うけど」

「ふふ。そうだね。すぐに分かる事だったね」

 

 そうして部屋の照明が徐々に落ちてゆき、俺達2人は・・・・・。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日。朝のHRには随分と早い時間。

 (薙原晶)は織斑先生を訪ね、職員室に来ていた。

 特に聞かれて拙い話でも無いので、盗聴対策が施された面談室は使っていない。

 なので周囲には、朝早くから出勤している先生方がちらほらと。

 そして本人はいないが、山田先生の机の上にジャック君の手作り人形が置かれているあたり、大分気に入ってくれたようだ。

 

「で、こんな朝早くから何の用だ?」

「少しお願いがありまして」

「ほぉ、お前がか? 場所は変えなくて良いのか?」

「隠すような事でもありませんから、ここで良いです」

「何だ。こんな時間に来るから、それなりの話かと思ったぞ」

 

 俺はニヤッと笑みを浮かべ一言。

 

「いいえ。話の内容は、それなりどころか極上ですよ」

「お前の口からそういう言葉を聞くと、不吉な予感がしてならないんだが、何を考えている? まさか、要らん騒ぎを起す気ではないだろうな?」

 

 何かを感じ取ったのか、織斑先生の表情が少し厳しいものになっていく。

 

「そんなに怖い顔をしないで下さい。只、学園外での演習を許可して欲しいだけです。ちょっと新装備のテストをしたいんですが、アリーナだと手狭なので」

 

 ザワッ。

 周囲にいた先生方の視線が一斉にこちらを向いた。

 

「・・・・・どこが、隠すような話でも無いだ。その一言で動き出す組織なんて腐る程あるだろうが」

「そうかもしれませんね。――――――ああ、そうだ。仮想敵機は1年の専用機持ち、全員にやってもらおうと思ってるんですよ」

「そっちにリミッターは付くんだろうな? NEXTの戦闘速度なら、5対1でもハンデにすらならん」

「ある程度は。でも、それを聞いてくるって事は、承諾と受け取って構いませんね」

「私の一存で決められる話ではないので、後で会議にかける。が、IS学園の存在理由を考えれば断られる事は無いだろう。後、場所は何処を考えているんだ?」

「確実に被害が出なさそうな場所。太平洋のど真ん中を考えてます。なので学園側には、各国への交渉をお願いしたい」

「・・・・・やれやれ。本当に、極上に面倒な話を持ってきたな」

「苦労をかけて申し訳無いとは、思ってるんですけどね」

「お前、実際は1mm足りとも思っていないだろう」

 

 今俺は自分でも、とても“イイ”笑顔をしていると思った。

 “良い”ではなく“イイ”笑顔だ。

 

「勿論じゃないですか。先生は使う為にいるんですから」

「お前・・・・・やっぱりあの馬鹿()と同類だ。私に苦労ばかりかける」

 

 と言いながらも、先生が心底嫌がっているようには見えなかった。

 どちらかと言えば、手の掛かる子供に頼られて喜ぶ姉御みたいな、そんな感じがした。

 なのでつい、言ってしまった。

 

「束と同じですか? 最高の褒め言葉です」

「やめろ。あいつが2人なんて、私を過労で病院送りにする気か? ――――――ちょっと待て、今“束”と呼び捨てにしたのか? 前は“博士”と呼んでいたと思ったが?」

「そうでしたか?」

「いや、間違いない」

 

 織斑先生。どうやら何か勘付いたらしい。

 こちらを探るように、更に続けてきた。

 

「そう言えばお前、最近よく束の家に行っているな。何をしているんだ?」

「色々ですよ」

 

 肩を竦めながら答えて、お茶を濁しておく。

 別に話しても良いが、流石に職員室でするような話でも無いだろう。

 しかし、追撃は思いの他しつこかった。

 

「昨日の夜電話で話したんだが、声が妙に艶っぽくてな。お前、何時に帰ってきたんだ?」

「予想がついてるなら、それ以上言わないで下さい。流石に、話のネタにされるのは面白くない」

「弄り甲斐の無い奴め。だが・・・・・そうか。あいつの事、頼むぞ」

「言われるまでもありません」

 

 この後職員室を後にした俺は、登校してきた専用機持ち全員を説得。

 原作には存在しない、イレギュラーなイベントへの参加を取り付ける事が出来た。

 そうして、その3日後。

 驚愕の一報が世界中を駆け巡る。

 

 ―――NEXT VS 1年生代表候補生チーム。

 

 ―――1対5の変則バトル。

 

 ―――目的、NEXT武装のテスト

 

 ―――日時、IS学園主催タッグマッチの3日後。正午開始。

 

 ―――場所、北緯33度、東経179度。(太平洋のほぼ中央)

 

 こうして俺は、明確な意図をもって原作を無視した。

 恐らくこれ以降、原作知識の精度は底無しに下がっていくだろう。

 だがそれも仕方が無い。

 俺というイレギュラーが存在する以上、原作と同じはずが無いんだから・・・・・。

 

 

 

 第34話に続く

 

 

 



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第34話 悪夢の布陣

 

 NEXT VS 一年生代表候補生チームの事が発表されてから数日。

 (薙原晶)は、よく生徒会室に来るようになっていた。

 と言っても、別に大袈裟な理由がある訳じゃない。

 至って普通の、イベント当日についての打ち合わせだ。

 

「――――――なるほど。私は水中にて待機。演習領域に侵入してくる“UNKNOWN”を全て沈めれば良いのね」

「ああ。当日、演習領域に当事者以外はいない事になっているからな。警告は必要無い。全て沈めてくれ」

「でもいいの? “迷い込んだフリをしている一般船”とか撃沈したら、後で難癖つけられるわよ」

「演習領域の指定はしてあるし、実弾を使用するのも話してある。そして“とても”危険だという事も話してある。これで迷い込んだなんて甘い話を許したら、次はもっと調子にのってくる。――――――だから、全て沈める。俺が危険だと言ったなら、本当に危険だという事を理解させる。その為にもやってくれ」

 

 俺が迷い無く言い切ると、彼女(更識)は肩をすくめた。

 

「でも人って、危ないものに近付きたがるのよね。それに価値があると分かっているなら尚更。だって、5機の専用機とNEXTの実働データよ。私だって今の立ち位置じゃなかったら部下を派遣したわ」

「でも今は違うだろう?」

「勿論。こんな特等席を他人に譲る気なんて無いわ。任せて。水中という領域で、私に敵うやつなんていない。不審な影は全て沈めてあげる。――――――ところで、空はどうするの?」

 

 彼女は組んでいた腕の片方、右手の人差し指を頭上に向けた。

 

「そっちは束が抑える。これで事実上、観測手段は精度の期待出来ない超々遠距離からのみ。細かいデータが取られる事は無いだろう」

「そうね。でも考えてみたらコレ、データを取ろうとしている連中にとっては悪夢の布陣よね。海は私、空は小うるさい兎。突破出来たら勲章ものよ」

「突破出来たら、な。――――――ところで、ドイツの方はどうなってる?」

「この前少し突っついたら、随分面白い反応が返ってきたわ。もう少し時間をかければ、かなり面白い話を聞かせられると思う」

「そうか。期待してる」

「期待してて頂戴。引きこもりの兎なんかには負けないんだから」

 

 相変わらず束に対して棘のある言い方だが、これはアレか?

 好敵手(ライバル)と書いて友と呼ぶとか、そういう関係なのか?

 それとも、単にそりが合わないだけなのか?

 思考の片隅でそんな事を思っていると、

 

「・・・・・今何か、随分失礼な事を考えなかった?」

 

 見事に察知された。

 恐るべき女の勘。

 だが素直に話す必要は何処にも無い。

 

「いや何も」

「そう? ――――――ところで、私の方からも良いかしら?」

「何だ?」

「例の後ろ盾の件なんだけど、近いうちに本家の方に一緒に来てもらえないかしら。大事な仕事を任せている連中の何人かが、『それが本当なら、“これから仲良くやる為にも”挨拶に来るのが筋じゃないのか』って言う奴がいてね」

「断る」

 

 考えるまでも無い答えだった。

 俺は更識楯無の後ろ盾になったのであって、更識家の後ろ盾になった訳じゃない。

 あくまで彼女個人が対象だ。

 それを、“仲良くやる為にも”だと?

 

「随分勘違いしている奴がいるみたいだな」

「そうよね。何処にでもいるわよね。そういう奴は」

「ん? 断ったのに残念そうじゃないな?」

「元々受けるなんて思って無かったもの。受けてくれたらラッキーっていう程度の話よ」

「そうか。で、その勘違いしてる奴は?」

 

 こういう奴が後から足を引っ張るというのは、良くある話なので一応聞いておいた。

 すると、

 

「さぁ? 今頃、考えを改めてる頃じゃないかしら?」

 

 と如何にも曖昧、かつどうにでも取れそうな答えが返ってきた。

 だが、浮かべているのが冷たい微笑みってところを見ると、対処済みって事だろう。

 全く、素直に言えば良いものを。

 そんな事を思いながら時計を見ると――――――。

 

「・・・・・あっ、もうこんな時間か」

「何か予定があるの?」

「大した用事じゃない。イベントの時、撃墜した専用機組みの回収を山田先生に頼むってだけだ」

「ふぅん。“また”山田先生?」

「また?」

「そう、またよ。超音速旅客機(SST)の時も山田先生だったでしょう。何度も同じ人に頼むと、その人も目を付けられちゃうわよ」

 

 確かに、そういう考えもある。

 仮に俺が狙う側なら、同じように考えるだろう。

 だが、その為の更識だ。

 

「何処かの猫さんには期待しているからな」

「その猫さん、美味しい餌が無いと稀にストライキを起こすかもね」

「美味しい餌ばっかりだと太っちゃうだろう? だから適度に運動させるべきだと思うんだ」

「人も猫も、美味しいものは別腹なのよ」

「人も猫も、そう言って後でダイエットに苦しむのは世の真理だな」

「ふふん。私のカロリー計算は完璧。そんなものとは無縁だわ」

 

 どう?

 とばかりに胸を反らし、自身のスタイルを強調する更識。

 だがそういう事をされると、弄りたくなるのが人の常。

 NEXTのメモリーからIS展開時の彼女の姿をダウンロード。

 強化人間の演算能力を120%駆使して、脳内で詳細スキャン開始。

 ISって身体のラインがハッキリ出てるから、こういう時に便利だよぁ。

 しかし結果は、

 

「――――――チッ、言葉に偽り無しか」

「でしょう。ところで今、どうやって判断したの?」

 

 何か勘付いたのか、疑わしさ100%の視線を向けられる。

 が、気にしたら負けだろう。

 オブラートに包むっていうのは、世の中を渡っていく大事な処世術だ。

 いや待てよ。

 ここはあえて突っ込んでみるのも面白いかもしれない。

 

「勿論目測で。こんな美人が目の前にいるんだから、見ないと損だろう」

「あら、随分素直ね」

 

 意外そうな顔をする更識だが、褒められて嬉しいのか表情がほころんでいる。

 しかし、本番はここから。

 

「なに、お友達に見られながらのハードなプレイがお好みの生徒会長にとって、他人の視線なんて大した事ないだろう? だから、じっくりと見させてもらった」

「ちょっ!? 何て事言うのよ!!」

「いやいや、謙遜する必要は無いよ。何せ動けないから部屋まで運んでと、夜中に言うくらいだ」

「ちょっ、ちょっと!!」

 

 手の平で踊らされた恥ずかしい思いを思い出したのか、顔を真っ赤にする更識。

 そこで俺は、如何にもワザとらしく時計を見る。

 

「おっと、もうこんな時間か。早く行かないと。じゃぁな」

「あ、待ちなさい!!」

 

 そう言われて待つ奴はいない。

 という訳で、撤退!!

 恥ずかしがる更識というレアなものを見れた俺は、満足げに生徒会室を後にしたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 (篠ノ之箒)は今、複雑な気分だった。

 姉からの好意(専用機)を断っておきながら、一夏と一緒にいられる他の専用機持ちが羨ましいと思ってしまう。

 何て我が侭で未熟なんだろう。情けない。

 でもどれだけ自分を戒めても、専用機同士で訓練する姿を見てしまうと、そう思ってしまう自分がいる。

 嫌になる。

 だけど視線を離そうとしても、目が自然と、一夏の機動を追ってしまう。

 入学当初の情けない機動じゃない。

 NEXTの直弟子とすら言われているアイツの機動は、もう他の専用機持ちに引けを取っていない。

 むしろ、

 

『鈴!! 遅い。もう少し早く』

『無茶言わないで!! これ以上早くなんて』

『NEXTなら、この瞬間にもう撃墜してる。合わせるなら完璧に合わせないと、即撃破されるぞ!!』

『っっっ!! 分かったわよ。もう一回!!』

 

 アリーナ内にランダムに現れるターゲットをNEXTに見立てての戦闘訓練。

 この時期の学生がやるようなものじゃない。

 でも、やっている。

 目標を遥かな先に見据えた一夏は、わき目も振らずに努力を続けている。

 今じゃ誰も“素人”だなんて呼ばない。

 その徴候は前からあったけど、決定的だったのはクラス対抗戦の時に、身を挺して観客席を護った事だった。

 以来、一夏の人気は鰻登り(うなぎのぼり)

 大体、クラスの皆も皆だ。

 薙原(NEXT)には姉さん(束博士)がいるから何て理由で、揃いも揃って一夏を追いかける。

 何かにつけて話を持っていって近付こうとする。

 優良物件が欲しいなら、薙原の方に行けば良い。

 一夏に近付くな。

 だけど幾らそう思っても、今の私はその他大勢の1人。

 嫌だ。

 そんな背景には成りたくない。

 アイツの、一夏の隣に立ちたい。

 その為の、専用機が欲しい。

 どれだけ考えを変えても、最後には“ソコ”に行き着いてしまう。

 自分が嫌いになりそうな思考のループが止められない。

 

「――――――本当。どれだけ未熟なんだ。私は」

 

 タッグマッチ訓練の休憩中。

 専用機組みの訓練を見ていた私が思わず呟いてしまった時、近くを通りかかった人達の声が聞こえた。

 

『狙うなら断然一夏君だよね~。だって薙原君には、もう博士がいるでしょ。ちょっと強敵過ぎよね』

『そうよね。それにクラスの中じゃ、シャルロットさんとセシリアさんが両サイドがっちり固めてるし』

『あ、そう言えば聞いた? 最近、生徒会長とか山田先生とも近いみたいだよ』

『ウソ!?』

『本当』

『うわぁ~。それは無理。勝てる気しないよ』

『それに比べて一夏君は完全フリー。しかも話によると手料理が上手とか』

『料理の出来る彼氏か。ポイント高いね』

『でしょう!!』

 

 お前達に一夏の何が分かる。

 アイツを、景品みたいに言うな。

 心の底からそう叫びたかったけど、今の自分はあいつ等とどれだけ違うのだろうか?

 そう思うと、何も言えなかった。

 遠くから見ているだけの自分が、歯がゆくて仕方が無かった。

 一夏が・・・・・遠い。

 専用機があれば、近くにいける。隣に立てる。

 あれほど嫌っていたはずのISが、酷く魅力的なものに思えてきた。

 

「・・・・・専用機、欲しいな」

 

 思わず呟いてしまった言葉が、心の中にスーッと染み込んでいく。

 もう、要らないと思う事は出来なかった。

 しかしこの時、私はまるで理解していなかった。

 理解出来ている“つもり”でしかなかった。

 姉さん(天才)が作り上げたワンオフの専用機。

 それが、どれほどの意味を持つのか。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 学校が終わった後、(薙原晶)は束に呼び出されていた。

 

「面白いものを見せてあげるから、研究室に来て」

 

 そう言われて。

 声がとても弾んでいたから、悪い事では無いだろう。

 しかし何だろうか?

 そんな事を思いながら研究室に入った俺は、予想だにしていなかった存在を前に、言葉を失った。

 

「どう? 前、レイヴンの話をしてくれた時に出てきたIBIS。 それを再現してみたんだけど」

 

 してやったり。

 という束の表情と言葉に、俺は辛うじて再起動。

 何とか返事を返す事ができた。

 

「これ、本当に・・・・・」

「うん。でも再現したのは外側だけ。中身は別物だよ」

「というと?」

「簡単に言っちゃうと幾つかのネクスト技術を投入しているから、第三世代程度なら楽に捻れるよ。第四まで行くと、多対1だと流石に厳しいかな。でも第四世代は今私が作っている紅椿だけだから、実質問題無し」

「それは凄い。ところで、ステルス性能は?」

「勿論、熱光学迷彩もアクティブステルスも標準装備。――――――模擬戦当日、空から演習領域に侵入しようとするヤツは、全部この子に墜とさせるから、外の事は何一つ気にしなくていいよ」

「ネクスト技術が投入されたIBISか。敵にとっては悪夢だな。とりあえず、スペックデータを見せてくれないか」

「はいコレ」

 

 そうして見せられたデータは、確かに束の言う通り、第三世代程度なら楽に捻れるものだった。

 射程、威力、弾速の全てが高い次元で纏まっている上、モード変更で数十キロ単位での狙撃にも対応可能なレーザーライフル。

 並みのISなら一撃で絶対防御が発動するような、高威力を誇るロングレンジレーザーブレード。

 そして、単機による多角同時攻撃を可能とするオービット兵器。

 正直に言えば、確実に来るであろう邪魔者(偵察要員)が気の毒に思う程だ。

 

「凄いな。よくここまで」

「君の世界の基礎データがあったから、そんなに苦労した訳じゃないんだけどね」

「それでも、誰にでも出来る事じゃないだろう」

「勿論、私だからこそ出来たっていう自負はあるよ。ところで、1つ聞いて良い?」

「何だ?」

「IBISの事を話した時、もう2つワンオフの超高性能機があるみたいな事を言ってたけど、それってどんなヤツなの?」

「ああ、アレの事か・・・・・」

 

 流石に、少し考える。

 “紅の熾天使”と“蒼き粉砕者”は、もし完全再現されたなら、冗談でも誇張でも何でもなく、本当に人類滅亡の引き金となりかねない凶悪な代物だ。

 そして束には、それが可能なだけの技術力があると俺は思っている。

 仮に今は出来ないとしても、彼女が本気で作ろうと思い研究を重ねれば、そう遠くないうちに創り上げるだろう。

 何せ自己進化能力という、最も難しい点を既にクリアしているのだから。

 勿論ノーマルISが持つそれと、あの2機が持つが持つそれは、隔絶の差があるだろう。

 だが突き詰めれば同じ事をしているはず。

 なので慎重にもなるのだが・・・・・コジマ粒子やネクスト技術の事を知っている彼女に対し、何を今更という気もする。

 どうする?

 そうして判断に迷った俺だが、少なくない長考の末、結局教える事にした。

 何でかって?

 例えここで言わなかったとしても、彼女ならいずれ自力で辿り着くからさ。

 何せ、最も難しい点は既にクリアしているんだ。

 なら後は、どんな形になるにせよ、いずれは同じような物を創り上げただろう。

 そう判断しての事だった。

 

 

 

 第35話に続く

 

 

 



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第35話 NEXT VS 一年生専用機チーム(前編)

 

 北緯33度、東経179度。高度50m。太平洋のほぼ中央。

 雲1つ無い晴れた空の下。見渡す限りの青い海。

 そこに、(薙原晶)はいた。

 

 ―――SYSTEM CHECK START

    →HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・OK

    →ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・OK

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK

    

    →R ARM UNIT  :04-MARVE (アサルトライフル) ・・・・・・・・・・・・OK

    →L ARM UNIT  :03-MOTORCOBRA(マシンガン) ・・・・・・・・・OK

    →R BACK UNIT  :WHEELING01(16連ミサイル) ・・・・・・・・・・OK

    →L BACK UNIT  :WHEELING01(16連ミサイル) ・・・・・・・・・・OK

    →SHOULDER UNIT :MUSKINGUM02(32連連動ミサイル)・・・・・・・OK

    →R HANGER UNIT :-

    →L HANGER UNIT :-

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・OK

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    

 ―――PIC(慣性制御)

    →コジマ粒子による擬似慣性制御エミュレートモード

    

 ―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR

 

 全てのチェックを終えたところで、束と更識から通信が入った。

 

『こちら束。IBISは配置についたよ』

『こちら更識。ポジションについたわ』

『・・・・・そうか』

『緊張してるの?』

 

 言葉少なく答えた俺に、束がそんな事を問いかけてきた。

 緊張? 俺が?

 ああ、そうか。言葉少なく答えたから、そう聞こえたのか。

 

『確かに、ISに慣れる前は死にかけた。お前()が危惧するのも当然か。でも今は違う。・・・・・アリーナは狭かった。無人機は弱かった。ちょっと小突けばすぐに壊れた。物足りなかった』

 

 気付けば、そんな言葉が漏れ出ていた。

 この広い場所で、リミッター付きとは言え、存分にやれる事が嬉しくてたまらなかった。

 だからだろうか?

 自分でも気付かないうちに溜め込んでいた感情が、止められなかった。

 

『ああ、狭かった。窮屈だった。人目を気にしながら力を振るうのが煩わしくて仕方が無かった。――――――束、お前の剣がどういう存在か、記録じゃなく実演で見せよう。そして更識も、お前の後ろ盾がどういう存在か、良く見ておくと良い。ああ、楽しみだ』

 

 俺の高揚した精神に、NEXTが反応。

 無機質なメッセージが脳内を流れていく。

 

 ―――AMS接続。最大深度。

 

 ―――フルリンクモード。

 

 波の音や日の光に加え、人の身では決して感じられない各種センサー系の情報全てが、今まで以上にクリアに、ダイレクトに、鮮明に伝わってくる。

 これが・・・・・これが本当のリンクスが視る光景。

 周囲の全てが手に取るように分かる。

 そんな感動を感じている最中、俺の感覚器となったセンサー系が、近付く5機の専用機を捉えた。

 今まで以上に早く、正確に、鮮明に。

 

『・・・・・来たか。じゃぁ、後は手筈通りに』

『分かったよ。交信終――――――泥棒猫、足を引っ張らないでね。交信終了』

『引きこもり兎こそ、下手を打たないでね。交信終了』

 

 あいつら、仲が良いんだか悪いんだか。

 さて、と。

 こちらも始めるか。

 近付いてきた専用機チームに通信を繋ぐ。

 その距離。525.15m。

 

『逃げ出さずに良く来たな』

『誘ったのはそっちだし、こんなチャンス逃せる訳ないだろ』

 

 真っ先に答えたのは一夏だ。

 

『やる気があって何よりだ。只、先に言っておくぞ。今回はちょっとばかり厳しめに、より実戦に近い形でやるからな。気を抜いたら、一瞬で逝けるぞ』

『それこそ今更だろう? むしろそれをやらないお前だったら、偽者かと疑うよ』

『良い返事だ一夏。他の皆も、その覚悟があると思っていいな?』

 

 皆それぞれから、肯定の返事が返ってきた。

 

『オーケーだ。なら、早速始めようか』

 

 すると専用機持ちは、各々が能力を最大限に生かせるポジションに散って行った。

 白式(一夏)甲龍()が前衛。

 ラファール(シャル)とシュヴァルツェア・レーゲン(ラウラ)が中衛。

 ブルーティアーズ(セシリア)が後衛。

 まぁ、性能的に見て妥当なフォーメーションだろう。

 そうして、演習開始のカウントダウンが始まった。

 

 ―――3。

 

 専用機組みの表情が引き締まり、戦意を込められた視線と共に銃口が向けられる。

 

 ―――2。

 

 対する俺は、焦るでもなく気負うでもなく自然体。

 戦うという一点において、他の追随を許さない戦闘思考が走り始める。

 

 ―――1。

 

 03-MOTORCOBRA(マシンガン)04-MARVE (アサルトライフル)のトリガーに指を掛ける。

 ミサイルは、まだだ。

 さぁ、始まるぞ。

 

 ―――0。

 

 戦闘開始(コンバット・オープン)!!

 

 

 

 ◇

 

 

 

 衝撃的。

 その光景は、その一言につきた。

 必殺の意志を持って仕掛けた先制攻撃。

 白式と甲龍による前後からのクロスラインアタック。

 同時に、シュヴァルツェア・レーゲン()とラファールによる偏差射撃で、予想される回避軌道を塞ぎ、残った僅かな隙間すらも、ブルーティアーズのスナイパーライフルとビットで塞ぐ。

 例え各国のエース級といえども撃墜必至の必殺の布陣。

 それをこいつ(NEXT)は、囮だと分かっていたとしても、一撃必殺故に決して無視出来ないはずの正面から迫る零落白夜を、ミリ単位という狂気じみた精度のバックブーストで回避。

 と同時に90度ターン。右腕装備の銃身の尖ったライフルを遠心力で加速。白式の横っ腹に突き刺しワントリガー。

 左側から迫ってくる形になった甲龍に対しては、振り下ろそうとしている刀身に、無造作に左腕を向けトリガー。

 発射された弾丸が刀身に命中。

 VTRが巻き戻されるかのように刀身が弾き上げられ、続く弾丸がエネルギーシールドを削り取っていく。

 結果、データリンクで示されている両機のシールドエネルギーがいきなり半減。

 こちら側の、“相手を動かさせる"という思惑がいきなり頓挫。

 更に、死角から放たれたはずのビット攻撃すらも、背後に目がついているかの如く、理想的な回避機動で回避されていく。

 

「なんて、なんて出鱈目なっ!!」

 

 思わず叫んでしまったが、この程度は、これから始まる事のほんの序章に過ぎなかった。

 全機に通信が入る。

 

『じゃぁ、始めようか。頼むから、アッサリ墜ちてくれるなよ』

 

 只の的を相手にしているかのような、何処までも上から見た物言い。

 正直、何様のつもりだと言いたかった。

 しかしNEXTの攻撃を見て、私は言葉を失う。

 怒涛の如く垂れ流されるミサイル。

 愛機が、オートでカウントしていく。

 1、2、3・・・16・・・32・・・・・・64・・・・128・・・・256・・・・・・512・・・・・・。

 瞬く間にレーダーが、いや視界そのものがミサイルで埋め尽くされていくのを見て、完全回避は不可能と判断。

 よってレールガンで迎撃開始。

 遠距離用兵器を持つ他の機体も、同じように迎撃を始めた。

 しかし、

 

『何ですの、コレは!?』

 

 全くの同意見だった。

 艦隊戦をしているんじゃ無いんだぞ!!

 IS4機の全力迎撃で押されているとは、どういう火力をしているんだ!?

 迎撃によってレーダーから消えるミサイルの光点座標が、徐々に近付いてくる。

 更に、

 

『みんな気をつけて!! 弾道の違うやつがありますわ!!』

 

 最後方で全体を見渡していたイギリス代表候補生が叫ぶと、同時にデータリンクで情報が送られてきた。

 両翼から回り込み、我々を挟み込むような軌道で迫るミサイル。

 数は少ないが、放っておけるものでは無い。

 

『右は私がやる。左は―――』

『私がやる!!』

 

 言い終える前に、中国の代表候補生が左翼に展開。

 見えない弾丸、龍咆で迎撃を開始。

 私も同様に始めるが、この瞬間、正面からの攻撃を支えるのはラファールとブルーティアーズのみ。

 4機ですら支えられなかった攻撃が、2機で支えられるはずが無い。

 ほんの数秒に間に、瞬く間に押し込まれていく。

 しかも、ここにきてビット兵器の弱点が露呈した。

 

『クッ、申し訳ありません。ビットのエネルギーが危険域ですわ。戻します!!』

 

 独立兵器であるが故の稼働時間の短さ。

 しかも大量のミサイルを迎撃する為、後先を考えない全力稼動。

 長く持つはずがなかった。

 更にそこへ、

 

『高エネルギー反応5!! 大物がいますわ!!』

 

 再び、イギリス代表候補生からの通信。

 あからさまに目立つように放たれた、緑色の光を放ちながら垂直上昇していく5発のミサイル。

 だが、そちらを迎撃しようとすれば他のミサイルに対して手薄になってしまう!!

 そんな中、NEXTは更なる追撃を放ってきた。

 迎撃により乱れ咲く爆光の中を突き抜け、姿を現した数発の大型ミサイル。

 いや、違う。分裂した? 多弾頭(クラスター)か!!

 既に迎撃の限界に来ていた我々は、選択の余地なく回避機動に入る。

 だが、分裂したミサイル群の性能は、異常という一言につきた。

 

『何なのコレ!!』

『なんですの!? この追尾性は!!』

『これがNEXTの新兵器。振り切れない!!』

『クソッ、どうすれば!!』

 

 どれだけ逃げようとも、猟犬の如く追いかけてくる。

 厄介な!!

 だが幾ら追ってこようと、動きを止めてしまえば。

 そう思い、停止結界(AIC)を発動させようとして――――――。

 

『ダメだラウラ!!』

 

 近くにいた白式が軌道変更。

 足を止めた私を力強く抱き抱え、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で即座に離脱。

 

『き、貴様ッ!! 何をする!!』

『それはこっちの台詞だ。いきなり墜とされる気かよ!!』

『何を―――』

 

 続く言葉を、私は口にする事が出来なかった。

 視界に映る直前まで居た場所。

 そこに、いつの間にか左右から迫っていたミサイルが牙を向いていた。

 更にワンテンポ遅れて、正面から叩き込まれる分裂ミサイル。

 背筋に冷たいものが走っていった。

 もしもあそこでAICを使っていたら、左右からのミサイルでダメージを貰い、AICが消えたところで正面からミサイルの直撃という悪夢のようなコンボ。

 

『す、すまない。助かった』

『仲間だろ。気にするなよ。それよりも突っ込むから援護を頼む。このまま撃たせ続けたらジリ貧だ』

『援護は良いが、他の奴らはどうする。追われているぞ』

 

 この時私は、織斑一夏は多少なりとも悩むと思っていた。

 だが返って答えは、

 

『放っておく。遠距離用兵器を持たない俺に出来る事は、追撃を撃たせない事。それだけだ。後は、あいつらを信じるしかない』

 

 思わずニヤリとしてしまうくらい、とても良いものだった。

 

『分かった。良いだろう。――――――道は私が作る。お前は、ただあいつ(NEXT)を目指せ』

 

 白式から離れた私は、迫ってきたミサイルをワイヤーブレードとプラズマ手刀で切り裂きながら言い放った。

 

『ああ。分かった!!』

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ほう? 意外だな。

 一夏とラウラの連携機動を見て、俺は素直にそう思った。

 何が意外かって、ラウラが素直に連携を組んでいる事もそうだが、あのラウラが、一夏に迫るミサイルの露払いに徹しているところだ。

 勿論、白兵戦機を張り付かせて、ミサイルの発射を妨害しようという戦術上の意図はあるだろうが、それを差し引いても、あのラウラが完全にサポートに徹しているというのが、俺としては意外だった。

 鈴もその動きに同調。こちら迫ってきている。

 だが悪いな。

 ヒーロー(一夏)ヒロイン(ラウラ)の出番は一番最後だ。

 幼馴染()は・・・・・まぁ、最後を盛り上げる為のスパイスになってもらおうか。

 だから先に、いつも世話になっている2人に墜ちてもらおう。

 丁度良くかたまっている事だし。

 日頃の感謝も込めて、これから先の糧になるように。盛大にな。

 俺は通信を繋いだ。

 

『シャル。セシリア。お前達がどれほど努力を重ねたのかは、見せてもらった。だからこちらも見せよう』

 

 NEXTが俺の意志に従い、背部装甲版を展開。

 現れた大口径ブースターに光が収束していく。

 

『これから先、もしも多対一という状況に陥った時に、必ず役に立つはずだ』

 

 ―――ASSEMBLE

    →R BACK UNIT  :WB26O-HARPY(オービット)(※1)

    →L BACK UNIT  :WB26O-HARPY(オービット)(※1)

    →SHOULDER UNIT :ASB-O710(追加ブースター)

 

  ※1:LR登場兵器。目標を自動的に追尾・攻撃する小型兵器を射出する兵器。

 

 淡い緑の光が各部ハードポイントを包み込み、新たな武装がセットされると同時に、光の収束も終わる。

 瞬間、俺の身体は前方へと強力に押し出され、QB(クイック・ブースト)という初期加速も合わさり、瞬時に時速2700kmを突破。

 03-MOTORCOBRA(マシンガン)04-MARVE (アサルトライフル)のトリガーを引き絞りながら突撃開始。

 更にオービット射出。

 6機の小型兵器が先行し、2人の頭上を押さえる。

 当然、向こうは回避機動に入るが、そんな事はさせない。

 OBの加速力そのままに、左サイドへのQB(クイック・ブースト)WA(ダブルアクセル)

 追加ブースターの推力も上乗せされたソレは、一瞬とは言えNEXT本来の速度を俺に与え、2人の反応速度を遥かに凌駕。

 がら空きの側面へとポジショニング。

 そこで再び、QB(クイック・ブースト)WA(ダブルアクセル)

 今度は彼女達の背後へ回り込み、最後にもう一度QB(クイック・ブースト)WA(ダブルアクセル)

 残る側面へとポジショニング。

 勿論この間、03-MOTORCOBRA(マシンガン)04-MARVE (アサルトライフル)のトリガーは引きっぱなしだ。

 結果、出来上がるのは単機による包囲十字砲火。

 頭上からはオービット兵器によるレーザーの雨。

 周囲360度からは、マシンガンとアサルトライフルによる弾丸の嵐。

 逃れられるはずが無い。

 瞬く間にラファールとブルーティアーズの装甲が砕け散り、成す術も無く墜ちていく。

 最後に、通信が入った。

 

『こういう時に容赦が無いのは分かってたけど、女の子の肌を傷物にした罪は重いんだよ。後で埋め合わせを要求したいな』

『私もですわ』

 

 元気そうな声に聞こえるが、絶対防御が発動していたのは確実だ。

 なのにこういう風に言ってくれるのは、「この程度は大丈夫」という意思表示だろうか?

 痛い目をみたのだから、恨み言の1つも言っていい筈なのに。

 何て良い女だろう。

 こういう気遣いは、無下にしちゃいけない。

 

『分かったよ。色々と一段落した後にな』

 

 一瞬、背筋にゾクッと寒気が走ったのは、多分気のせいだろう。

 そうに違いない。違いないったらない。

 

『やったぁ』

『約束・・・・ですわよ』

 

 一応、墜ちていく2人をセンサーで確認しておく。

 顔は狙わなかったから大丈夫だと思うが・・・・・上腕と大腿部にアザか。

 もしかしたらスーツの下にも出来ているかもしれないが、謝る気は無い。

 目的の為、必要だからやったんだ。

 それにこういう場面で手を抜く事こそ、彼女達に対する侮辱だからな。

 海に落ちる前に、2人が山田先生に回収されたのを確認した俺が3人に向き直ると、丁度コジマミサイル(ZINC)が全弾迎撃されたところだった。

 一際大きな爆光。綺麗な緑色の光が、青い海を鮮やかに染め上げている。

 さて、ようやくここまで来たか。

 そんな事を考えながら、俺は残った3人をロックオン。

 残りの仕事に取り掛かるのだった。

 

 

 

 第36話に続く

 

 

 



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第36話 NEXT VS 一年生専用機チーム(後編)

 

 海上でNEXTと一年生専用機チームの戦闘(と言う名の蹂躙戦)が繰り広げられている頃、その情報収集命令を受けていた空母“ジョージ・H・W・ブッシュ”のオペレーションルームは、混乱の最中にあった。

 

「まだ敵の位置は特定できんのか!!!!」

「駄目です。無人偵察機(UAV)をどの方向から突入させても、演習領域に入った瞬間に撃ち落とされます」

 

 上官の苛立ちは、オペレーターにも十分に理解出来た。

 立場が逆なら、自分も怒鳴りつけただろう。

 容易くそう思える程、現実は理不尽だった。

 何せ複数投入している無人偵察機(UAV)が、自身を撃墜しているはずの敵機を全く補足出来ていないのだ。あげく、ある一定のラインを超えた瞬間、例外なく全て撃墜されている。

 こちらの索敵能力を上回るステルス性を持っているのは確実だった。

 しかも攻撃の瞬間すら悟らせないような、極めて高度な。

 

「チッ。これ以上の損害は流石に許容できん」

 

 上官が、舌打ちと共にそんな言葉を吐き捨てた時だった。

 総司令部から、潜水艦の投入命令が下ったのは。

 

「――――――本気ですか? 空にこれほど鉄壁の防衛網を敷いている奴が、海をそのままにしておくはずが無い。止めるべきです」

「君の懸念は理解出来るが、今行われている戦闘情報には、それだけの価値があると上は判断している。よって命令は覆らない」

「・・・・・どうしても、覆りませんか?」

「無理だな。上の決定だ」

「・・・・・了解しました。以後の偵察行動はそちらに任せ、こちらは現状位置で待機します」

「そうしてくれ」

 

 今の会話に、オペレーターは奇妙な違和感を感じた。

 軍組織の最上部、総司令部にいる人間が“上”という言葉を使うだろうか?

 彼らこそが、上の人間だろう。

 そんな事を思っていると、上官が新たな命令を下してきた。

 

「救助チームの準備をさせておけ」

「潜水艦のですね。やはり撃沈されると?」

「ここまで徹底して無人偵察機(UAV)を撃墜しているんだ。やらないはずが無い。但し武器と偵察機材・・・・いや、記録を残せるもの全ての所持を禁じる。厳命だ」

「見逃してくれますか?」

「分からん。だが友軍を見捨てる訳にもいかないし、向こうも明らかな遭難者を殺ったとなれば、付け入られる隙になる事は分かっているはず。だから、“救助だけ”なら大丈夫だと思うが・・・・・結局は向こうの考え次第だ」

「了解しました。何時でも出られるようにしておきます」

 

 そう言ってオペレーターは、各部への通達を始めた。

 だが、結局この救助チームが動かされる事は無かった。

 10分後、“ジョージ・H・W・ブッシュ”の優秀な海中観測班が、演習領域外縁部の海中で、自然では決してありえない衝撃音と何かがひしゃげていく音を探知。

 以後、命令が下された潜水艦と、二度と連絡が付く事は無かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ほう? 戦意は衰えていないか。

 (薙原)は残っている専用機組みの行動を見て、そんな事を思った。

 仕掛けてきたのはトライアングルフォーメーション。

 左右斜め前方から、白式(一夏)とシュヴァルツェア・レーゲン(ラウラ)が、後方からは甲龍()が迫る。

 斬撃タイミングも完璧だ。

 よくぞここまで。

 嬉しいね。

 NEXTと戦う為に、そこまで訓練してくれたのか。

 なら、こちらもそれ相応の姿を見せないとな。

 俺は一夏の方に一歩踏み込んで、左手に装備しているモーターコブラ(マシンガン)で雪片弐型を受け止めた。

 元々近接打撃を考慮され、分厚い鉄塊で補強されている銃身は揺るぎもしない。

 そこで、QBによる高速旋回。

 遠心力で一夏を弾き飛ばしながら、左手のモーターコブラを背後の鈴に、右手のマーヴをラウラに向けてトリガー。

 マシンガンが甲龍のシールドを削り、装甲版を砕いていくが、辛うじてまだ墜ちてはいない。

 そしてシュヴァルツェア・レーゲンへと向けられた弾丸は、停止結界(AIC)により阻まれていた。狙い通りに。

 何で狙い通りかと言えば、足が止まるからさ!!

 この瞬間、俺はPIC制御で真下に降下すると同時に武装変更。

 

 ―――ASSEMBLE

    →R BACK UNIT  :ZINK(コジマミサイル)

    →L BACK UNIT  :ZINK(コジマミサイル)

    →SHOULDER UNIT :NEMAHA01(垂直連動ミサイル)

 

 発射管オープン。

 ロックオンせず、即座に発射。

 普通なら、こんな撃ち方はNGだ。当たるはずが無い。

 だが、今回はこれで良い。

 ギリギリで生き残ってもらわないと困るから、直撃じゃ駄目なんだ。

 ミサイルが専用機組みと同高度に達したところで、自爆命令をコマンド。

 海上に、全てを飲み込む新緑色の太陽が出現。

 連鎖して、連動ミサイルも爆発。

 鮮やかな光が、周囲の存在全てを―――――――――いや、違う!!

 一機逃れた? 一夏か!?

 NEXTのセンサーは爆発の瞬間、白式が瞬時加速(イグニッション・ブースト)で急加速。

 ギリギリのところで爆発半径から逃れている姿を捉えていた。

 それどころか、

 

『これ以上は、やらせねぇぇぇ!!』

 

 恐るべき思い切りの良さで、再び瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 新緑の光の中を突っ切り、近接戦闘を挑んできた。

 やる!! 流石原作主人公!!

 右手のマーヴで雪片弐型を弾き、左手のモーターコブラを照準。

 瞬間、一夏は再び瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 弾丸が発射される前に、タックルで懐に潜り込もうとしてくる。

 悪く無い判断だ。ここで離れたらジリ貧だからな。

 だが、強化人間の反応速度は常人の遥か彼方上を行く。

 そしてNEXTの制御系は、AMSによる直接操作。

 タイムラグなど存在しない。

 つまり、例えこの距離であろうと不意打ちは成立しない。

 迫る一夏に対しカウンターで膝をぶち込むと、ボディが「く」の字に折れ曲がった。

 

「グハッッッッッッッ!!!!」

 

 聞こえてくる苦悶の声。

 そうして動きが止まったところで武装変更。

 

 ―――ASSEMBLE

    →R ARM UNIT:GAN01-SS-WD(ドーザー)

    →L ARM UNIT:GAN01-SS-WD(ドーザー)

 

 堅い。ただひたすらに堅い。

 それだけが取り得の武装。

 束曰く、

 

「これ作る必要あるの?」

 

 と不満タラタラだったのを、どうにかなだめて作ってもらった一品。

 趣味だなんて言ったら絶対作ってくれなかっただろうから、「今回どうしても必要」って言ってゴリ押ししたんだ。

 だから悪いな一夏。

 ちょっと痛いだろうけど使わせてくれ。

 使わなかったら、束に嘘をついた事になってしまう。

 そんなこの上なく身勝手な事を思いながら俺は、「く」の字に折れ曲がったおかげで下がった頭部を、掬い上げるように右で一撃。

 いわゆるアッパーだ。

 次いで、上体を跳ね上げられ、がら空きになったボディ目掛けてリバーブロー。

 一夏の表情が歪み、動きが止まったところでバックブーストと同時に武装変更。

 

 ―――ASSEMBLE

    →R ARM UNIT  :SG-O700 (ショットガン)

    →L ARM UNIT  :GAN02-NSS-WBS(散弾バズーカ)

    →R BACK UNIT  :MP-O200(散布ミサイル)

    →L BACK UNIT  :CP-48(ロケット)

    →SHOULDER UNIT :MUSSELSHELL(連動ミサイル)

 

 トリガー ――――――の前にロックオン警報。

 QBでその場を離脱すると、一筋の閃光がその場を貫いていき、更に空間湾曲反応を感知。

 不可視の弾丸が次々と撃ち込まれてくるが、素直に当たってやるつもりは無い。

 鈴の偏差射撃を、QB(クイックブースト)QB(クイックブースト)WA(ダブルアクセル)を織り交ぜた回避機動で潜り抜け、一度距離を取る。

 そこで専用機達の姿を確認してみれば、みんな良い感じにボロボロだった。

 まず白式は小破。

 装甲板が所々壊れている以外は、機体は大丈夫そうだ。

 もっとも、シールドエネルギーはそう残って無いだろうし、頭と腹にGAN01-SS-WD(ドーザー)を叩き込まれているんだ。

 身体の方はキツイだろう。

 次に甲龍は大破寸前。

 マシンガンを至近距離で食らったのと、ミサイル爆発に巻き込まれたおかげで外装はボロボロ。

 所々内装が見えてしまっている。

 いや、見えているだけじゃない。

 検出されているエネルギー反応も不安定だから、内部もガタガタだろう。

 そして最後に、シュヴァルツェア・レーゲン。

 正直、自分でやっといてこんな事を思うのもアレだが、良く動いている。

 何せ停止結界(AIC)の使用で足を止めたところに、ZINK(コジマミサイル)の爆発だ。

 直撃で無いとは言え、ほぼ爆心地。

 前面の装甲が見るも無残に溶解している。

 絶対防御という優れた防御システムが無ければ、確実にあの世行きだっただろう。

 更に言えばレールガンの砲身は捻じ曲がっているし、各部装甲が溶解しているから、プラズマ手刀もワイヤーブレードも使えないだろう。

 

(・・・・・頃合だな)

 

 専用機組みのダメージを確認した俺は、内心でそう思った。

 これだけやっておけば、後は“願望が最も強く出る状況”に追い込んでやれば、VTシステムが発動するだろう。

 そしてこいつの願望は分かっている。

 織斑千冬になる事だ。

 その強さに、揺ぎ無さに憧れた。

 なら極限まで追い込めば、必ず望むはずだ。

 それが、ドイツを追い込む事になるとも知らずに。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 内心で(ラウラ)は恐怖していた。

 

(これが、これがNEXTか!!)

 

 侮っているつもりは無かった。

 だが専用機5機という、“文字通り”戦争が出来るだけの戦力があれば、多少は勝負になるとも思っていた。

 それがどうだ。

 連携も奇襲も死角からの攻撃も、その全てが尽く回避され、あげく反撃は出鱈目な飽和攻撃。

 最新鋭であるはずの専用機が、全力で迎撃してなお押し切られるという過剰な火力。

 しかも、その一発一発がとてつもなく重い。

 正直、勝てるとは思えなかった。

 そしてこれならば頷けた。

 束博士救出作戦の時、こいつが迷い無く艦隊に突っ込んできた理由が。

 何てことは無い。

 勝てるからだ。

 単機で11機のISと、空母を中心として編成された艦隊を相手にして、尚勝てる確信があったからだ。

 化け物め!!

 そんな事を思っていると、一夏から通信が入った。

 

『ボロボロだけど、大丈夫か?』

『・・・・・新兵(ルーキー)に心配されるとはな』

新兵(ルーキー)古参兵(ベテラン)の心配しちゃ悪いかよ』

 

 恐怖を隠す為に、つい言ってしまった皮肉をすんなりと受け止められてしまった。

 これでは、どっちが新兵(ルーキー)か分からないではないか。

 

『見た目通りだ。全力稼動ならもって60秒。ついでに言えば、武装は停止結界(AIC)以外は全滅だ。それも後一回が限度。満身創痍だよ』

『そうか。鈴、そっちは?』

『こっちも、もうギリギリ。全力稼動なら90秒。龍咆も、6発が限度かな。一夏の方はどうなのよ』

『機体自体は小破だけど、ブーストエネルギーが拙い。後先考えないで、最大出力で吹かしたからな』

『って言っても、アンタのダメージが一番少ないわね。やるじゃない』

『やめろよ。ミサイル迎撃の時は何も役に立てなかったんだ』

『何言ってんのよ。アンタが役立つ場所はそこじゃないでしょ。ついでに言えば、しっかりとラウラを助けてたじゃない』

『偶然だよ』

『下手な謙遜は止めなさいよ。アレ相手に、偶然なんて期待できると思ってるの? ねぇ、そうでしょ?』

 

 そう言って凰鈴音が顔を向けた先には、静かに佇んでいるNEXTの姿が。

 

『そうだな。あの時は殺ったと思ったんだが、見事な判断だった』

『で、そうやってこっちのお喋りに付き合ってくれてるのは、余裕の表れ?』

『まさか、タイミングを見計らっていたのさ。――――――“こちらにとって”最も都合の良いタイミングをな』

 

 この時、(ラウラ)の背筋を冷たいものが走り抜けた。

 そして、後に知る事になる。

 この男を利用しようとした代償が、どれほど高くついたのかを。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 NEXT VS 一年生専用機チームの演習が、クライマックスを向かえる丁度その頃。

 更識家交渉人(ネゴシエーター)皇女流(おうめる)麗香(れいか)は、ドイツ本国で当主より一任された交渉の最中にあった。

 

「――――――ですのでこちらとしましては、ドイツが持つ衛星群への最優先アクセスコードを頂ければと思いまして。ああ、誤解の無いように言っておけば、気象衛星、通信衛星、偵察衛星を含む全てですよ」

 

 さも当然の事であるかのように言い放った皇女流(おうめる)に対して、ドイツの男性交渉人は呆れ顔で返答してきた。

 

「一度ハイスクールからやり直してくると良い。常識的に考えて、渡せるはずが無いと分からないのか? どれも現代社会を維持する為に、そして国防に必要不可欠なものだ。それを一個人の手に委ねるなど出来るはずが無い。第一君の言い方では、国内にあったあの施設を、我々が知っていて見逃したみたいではないか。そんな事、あるはずが無いだろう」

「あら、そうだったんですか? あれほど巨大な施設。稼動させるだけでも、各所に足が付きそうなものですが」

「国内にあのような施設の建造を許したのは痛恨の極みだが、我が国(ドイツ)は決して、あのような物の存在を許さない。君も歴史を少しでも学んでいるのなら分かるだろう。我がドイツの汚点を」

「ええ、存じていますわ。ナチスドイツの数々の行いは。人がどれほど残酷になれるかという良い見本ですわね」

「そういう汚点を持つ我が国だからこそ、あのような行いは決して許さない。日本という国が、核に対してアレルギーを持っているのと同じように」

 

 そう言ってドイツの交渉人は、「これで終わり」とばかりに席を立とうとする。

 だが皇女流(おうめる)は引き止めない。

 まるで帰るなら帰れ。

 そんな能無しに用は無いとばかりに、酷薄の笑みを浮かべるのみ。

 本人が持つ鋭利な美貌と相まって、発せられる無言の圧力は自然と相手の足を止めさせ、口を開かせた。

 

「・・・・・何か、言いたそうだな」

「言いたい事があるのはそちらでは? お帰りなりたいのでしたら、こちらは引き止めませんのでご自由に」

 

 数瞬の沈黙。

 後、ドイツの交渉人は再び腰を下ろした。

 

「そういえば、1つ聞いて――――――」

 

 ブゥゥゥゥゥン。

 

 相手の言葉を遮るバイヴ音。

 音源は、皇女流(おうめる)の携帯端末。

 

「失礼。――――――はい、私です」

 

 そうして受けた内容は、待ち望んでいたものだった。

 これで確実に、相手の首を縦に振らせられる。

 勝利を確信した彼女は、最高のタイミングで飛び込んできた、最高のカードを切るのだった。

 

「何か仰りたい事があるようですが、まずはこちらの映像をご覧下さい。ライヴ映像です」

 

 そう言って皇女流(おうめる)が、自身の前に展開した空間ウィンドウを相手の眼前に移動させる。

 映し出された映像は、NEXTとボロボロの専用機達。

 

「これが、どうかしたのかね?」

 

 平静を装った言葉とは裏腹に、男の内心は嵐のように乱れていた。

 何故なら男は知っているからだ。

 シュヴァルツェア・レーゲンに、何が搭載されているのかを。

 そして、その起動条件も。

 

(拙い、マズイ、まずい!! こいつ、初めから知っていたのか!! 待てよ。ならもしかして、今回の新武装テストは、もしかして!!)

 

 男の焦りを肯定するかのように、女の笑みは深くなる。

 人を安心させる笑みではなく、勝者が敗者を見下す笑み。

 ウィンドウの中で、シュヴァルツェア・レーゲンの姿が変化していく。

 そこで皇女流(おうめる)は口を開いた。

 

「おやおや、非常事態ですね」

「そ、そうだな。なら、すぐに中止するべきだろう。NEXTは問題無いかもしれないが、他国の代表候補生を傷つけてしまっては事だ」

「おや、何故ですか? NEXTがいるんですよ。アレが、どの程度の力を持っているかは知りませんが、撃墜して終わりじゃありませんか。――――――まぁ最も、初見の相手に有効な手加減が出来るとも限りませんから、操縦者は言うに及ばず、もしかしたらコアごと破壊してしまうかもしれませんが」

「!?」

 

 男の表情が歪む。拙い!!

 コアは、篠ノ之束博士しか作れない。

 よって万一コアが破壊された場合、彼女が新たに作る以外、補充方法が無い。

 

「――――――さて、ここで一番初めの用件に戻りますが、渡してくれませんか。ドイツが保有する衛星群への、最優先アクセスコードを」

「そ、それと現状に何の関係がある」

「いえ、実は私の雇い主、NEXTととても親しくしているようで、この前「アドレスを交換した」と言っていたんですよ。なのでもし、一言言うだけの時間があれば、無事に戻ってくるかもしれませんね」

 

 ウィンドウに映し出されるシュヴァルツェア・レーゲンの姿は、既に元のソレとはかけ離れていた。

 泥をこねて作ったかのようにぼやけた輪郭だが、その姿はまさに第一回モンド・グロッソ優勝者、織斑千冬のコピーだった。

 そして、その刃が、一番近くにいた白式に振り下ろされる。

 辛うじてガード。

 だがそんなものは関係無いとばかりに、そのコピーは人外の膂力を持って刃を振り抜き、白式を海面に叩き落す。

 それを見た皇女流(おうめる)は、更に言葉を続けた。

 

「困った事になりましたね。違法なシステムを搭載したISが、世界唯一・・・・・では無いにしても、貴重な男性操縦者を傷つけた。中々面白そうなスキャンダルです」

「し、しかし、それは・・・・・」

 

 男が迷っている間にも、事態は進行していく。

 コピーの刃が、今度は満身創痍の甲龍に迫る。

 辛うじてガードに成功するが、人外の膂力に耐えるような力は、既に残されていなかった。

 受け止めきれず、無残に弾き飛ばされる。

 

「さて、どうしますか? これで万一、代表候補生に死者が出るような事でもあれば、ドイツの信頼は地に落ちますね」

 

 男は必死に打開策を考える。

 何せここで、自身の判断ミスでISコアを喪失したなんて事になったら、キャリアに傷がつくどころの話じゃない。

 下手をすれば、いや下手をしなくても破滅だ。

 だからどうにかして――――――。

 そんな保身が手に取るように読めた皇女流(おうめる)は、最後の仕上げに取り掛かる事にした。

 破滅が見えた後の希望に抗える人間なんて、そうはいない。

 

「何を迷っておられるのかは分かりませんが、これは好機なんですよ」

「な・・・に?」

「考えてもみて下さい。そのアクセスコードと引き換えにドイツは、衛星の維持・管理という名目で、束博士やNEXTとコンタクトが取れる立場に立てるんですよ。世界中のあらゆる企業や国家が、望んでも得られなかったその位置に。どうですか? ――――――そちらにとっても、悪い話では無いと思いますが」

 

 それが、止めだった。

 男は縋り付くように皇女流(おうめる)を見つめた後、「分かった」と一言。

 

「では、後日また来ますので、準備しておいて下さいね」

 

 そう言って席を立ち、出口に向かった彼女は、最後に思い出したかのように付け加えた。

 

「――――――ああ、そうだ。まさかとは思いますが、口先だけという事の無いように。契約不履行がどんな事態を招くかは、説明せずともお分かりですよね?」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 交渉成立。

 その報告は聞いた(薙原)は、VTシステムに乗っ取られたシュヴァルツェア・レーゲンを取り押さえるべく、動こうと思ったのだが・・・・・少し予想外の事態に陥っていた。

 いや、これは俺が忘れていたことか。

 原作をちゃんと覚えていれば、予想できたかもしれない。

 それは何かと言えば、

 

「晶、頼む!! こいつは、こいつは俺にやらせてくれ!!」

 

 海から上がってきた一夏が、VTシステムを自分で撃破したいと言い出したんだ。

 ああ。今になって思い出すとは何たる不覚。

 確かに原作じゃ、織斑千冬のコピーを見て逆上してたな。

 どうする? 任せるか?

 一瞬の思考。結論。

 本人がやる気なんだ。やらせるべきだろう。

 それに、手負いの一年生如きにシステムが負けたとなれば、再開発もされ辛くなるだろうしな。

 なので任せる事にした。

 俺は万一の事態に備えて、見守っているだけで良い。

 とは言っても、流石は原作主人公。

 決めるべきところは決めてくれる。

 一瞬の攻防でコピーを切り裂き、ラウラを救出。

 

 ・・・・・あれ?

 

 そういえばコレって、ラウラが一夏に惚れ込むフラグじゃなかっただろうか?

 場所こそ違うが、シチュエーションはそのまま一緒だ。

 ふと、そんな事を思い出した。

 という事は、だ。

 フルフェイスの中で、思わず邪悪な笑みを浮かべてしまう。

 土日あたり、部屋に戻らなければ面白い光景が見られるんじゃないだろうか?

 

 

 

 第37話に続く

 

 

 



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第37話 進む関係。新たな関係。

 

「――――――ところで、さ」

「何だ?」

「晶って、Sだよね」

 

 NEXT VS 一年生専用機チームという大芝居をしてまでドイツを嵌めた日の夜。

 束の寝室。そのベッドの中で、いきなりそんな事を言われた。

 

「いきなり、どうしたんだ?」

「何となく、VTシステムを発動させる時の行動を見ていて思ったの。だってあの小娘(ラウラ)の立場からしたら、君の『俺を利用しようとした代価を支払ってもらおうか』なんて台詞は、死刑宣告と同じよ。なのに言ってる時、楽しそうにノリノリだったもの」

「そんなにノッてたか?」

「うん。聞いているこっちがゾクッてくるくらいの名演技だった。特に接触回線で一方的に言い放った後の、容赦の無い攻め方は、見ていたこっちがハラハラするくらい。俳優に成れるんじゃないかな?」

「興味無いな。それに俳優になんかなったら、お前と一緒にいれなくなる」

 

 隣で横になる束の髪を撫でながらそんな事を言うと、彼女は微笑みながら、柔らかい四肢を絡みつかせてきた。

 互いの身体が密着し、女性特有の柔らかさが感じられる。

 

「ふふ。ありがとう。――――――ところで、あの小娘(ラウラ)のISはどうしようか?」

「データの吸い出しとVTシステムは?」

「完璧。本人が意識を失っている間に、全データを抜かせてもらった。予備パーツも含めてね。VTの方も、完全に消去したから問題無いよ」

「流石だ。なら――――――」

 

 数瞬の思考。

 どうしようか?

 束の手にかかれば、ドイツが望んで止まないであろうセカンドシフトの為に必要な、戦闘経験の初期化すら可能だろう。

 が、そこまでする必要があるだろうか?

 既に衛星への最優先アクセスコードという手痛い出費をさせている以上、今回の目標は達成しているんだ。

 更に言えばトライアル中の最新鋭機、その詳細な設計データも入手している。

 何かあれば、これを仮想敵国に渡してやれば良い。弱点のレポート付きで。

 加えて今初期化しても、目に見えるダメージが無い。

 つまりインパクトが弱い。

 なら初期化という罰は、もっと別の機会の為にとっておくべきだろう。

 そう考えた俺は、

 

「――――――修理も何もしないで、そのままドイツに引き渡してやれば良い」

「あれ、意外だね。てっきり何か考えてると思ったけど」

「考えた結果さ。今回の目標は達成している。これ以上何かしても、インパクトが弱い」

「なるほどね。分かったよ。――――――ところで、もう1ついいかな?」

 

 束は妙に妖艶な笑みを浮かべながら、そんな事を言ってきた。

 

「何だ?」

「埋め合わせって、何を考えてるのかな?」

「え?」

「だ・か・ら、フランスとイギリス代表候補生に『埋め合わせをする』って言ってたよね? どんな埋め合わせをするのかなぁ~って気になって」

 

 ヤ、ヤバイ。

 いや、拙くは無い!! 断じて拙くは無い!!

 日頃世話になっているし、少しとは言え、女の子の肌にアザを作ってしまったんだ。

 円滑な人間関係の為にも、こういうフォロー欠かせないだろう。

 と必死に弁明すると、

 

「ふぅぅぅ~~~ん。そうか、晶は女の子の肌にアザを作ったら、そういうフォローは必要だって考えるんだ。――――――私にも、いっぱい作ったクセに。ダメって言ったのに、獣みたいに」

 

 そんな事を言いながら、何処か拗ねたような、それでいて受け入れてくれるような、魅惑的な笑みを浮かべる束。

 思わず見とれていると、彼女の言葉は更に続いた。

 

「で、どうするのかな?」

「そ、その・・・・・だな・・・・・」

 

 どう言えば良いだろうか?

 数瞬考えてしまったが、結局のところどう言葉を取り繕うと、所謂デートになってしまう。

 なので、ストレートに言う事にした。

 嘘はつきたくない。

 

「いや・・・・・デート・・・になるのかな」

「この状態で、他の女とデートだなんて、良く言えたね」

 

 四肢の絡みつきが強くなり、片側の手足ががっちりホールドされてしまう。

 感触は天国だが、笑顔が怖い。

 しかしここで負けては男が廃る!!

 

「何言ってるんだ。外で上手くやる為に、ある程度のコミュニケーションは必要だろう?」

「私が問題にしてるのは、そのコミュニケーションのレベル。大体――――――んんっ!!」

 

 長くなりそうだったので、つい唇を塞いでしまった。

 勿論、俺の唇で。

 

「んんっ、んっ。こ、こら。今日はそんな事で誤魔化されないからね」

「誤魔化して無いよ。お前が一番なのは変わりない」

 

 もう一度、唇を塞ぐ。

 さっきよりも強く、長く、交わるように。

 そうして暫くすると、互いの顔が自然と離れた。

 すると彼女は小さな声で囁く。

 頷いた俺は、部屋の照明をゆっくりと落としていった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 NEXT VS 一年生専用機チームという一大イベントの翌日早朝。

 (楯無)は交渉結果を報告する為、(薙原)のアドレスをコールしていた。

 勿論成功という話事態は既に伝えてあるけど、その詳細を皇女流(おうめる)は、「遠距離通信だと盗聴の可能性が排除出来ない」という事で帰国するまで上げてこなかったから、こんな時間になってしまった。

 普通なら警戒し過ぎと笑われるかもしれないが、そこで笑う奴は素人だ。

 情報なんて、何処から漏れるか分からないんだから。

 そんな事を思いながら待っていると、ようやく繋がった。

 

『あ、晶? 交渉の成果なんだけど――――――』

『何で泥棒猫が、彼を名前で呼んでるのかな?』

 

 良かった機嫌が、底辺まで下がるような声が聞こえてきた。

 

『・・・・・なんで引きこもり兎が出るのよ』

『彼は今お休み中。仕事の話なんでしょ。私が伝えておくわ』

『いいえ。掛けなおすわ。大事な話だから、間に人を挟みたくないの』

『ふぅん。そう。じゃぁ、そうすると良いわ。私は、もう少し彼と一緒に休んでるから』

 

 あからさまに見せ付けるかのような物言いに、ついカチンと来てしまった。

 

『不安なのが見え見えよ、兎さん』

『何が?』

『そんなに彼が“私のもの”って自己主張するのは、取られるのが心配だからなんでしょう』

『当たり前じゃない。何を言ってるの?』

 

 少しでも揺らいでくれればそこを突破口にするつもりだったけど、まさか小揺るぎもせずに、正面から肯定されるとは思わなかった。

 そして兎の言葉は更に続く。

 

『彼は私のもの。誰にも渡さない』

『身体で繋ぎとめるなんて、前時代的ね。まるで愛人みたい』

『フフ、アハハハハッッ!! 所詮小娘ね、貴女』

 

 人の神経を逆撫でする勝ち誇ったような声。

 

『何ですって』

『だってそうでしょう? 肉体関係があるだけで、“繋ぎとめる”だなんて、まるで純情(ウブ)な少女みたい。あ、貴女はまだそうだったわね』

 

 どこまでも上から見下ろす物言いに、グツグツと怒りがこみ上げてくる。

 言わせておけば!!

 

『あれ? 怒ってるのかな? まさか、そんなはず無いよね。“愛人みたい”だなんて言う人が、こんな事で怒ったりしないよね? でもそうすると大丈夫かな? 暗部名門に相応しい人で、そんなに身奇麗な人っているのかな? ああ、でも泥棒猫には相応しいかもね。――――――君の好みに合うかどうかは、別として』

 

 感情を爆発させたい衝動に駆られるが、やってしまえば引きこもり兎の思うツボ。

 そう思い、辛うじて自制する。

 

『ふん。男なんて移り気なんだから、せいぜい必死になって繋ぎとめておきなさい。私は、その必死さを見て笑ってあげるわ』

『ハハッ、負け犬。いや、負け猫かな? その時点でもう勘違いしてるよ。繋ぎとめてるんじゃない。私が自分で隣に立ってるんだ。この程度の違いは理解出来るかな? 乙女の生徒会長さん』

『あ、当たり前じゃない!! 馬鹿にしないで!!』

『そう? 潔癖な乙女には難しいと思ったんだけど』

『お、乙女は関係無いでしょ。乙女は。そっちこそ、恋人がいるからって調子に乗らないでよね。私に言い寄る男なんて、掃いて捨てる程いるんだから』

『でも全員凡人でしょ。貴女っていうブランドが欲しくてすり寄ってくる低能ども。大変よね。同情するわ。そんなものを相手にしないといけないなんて。でも仕方無いわよね。更識家の為には、そんな中からでも選ばないといけないんだもんね』

 

 内心で喜んでいるのが見え見えの、言葉だけの薄っぺらい同情。

 本当にこの引きこもり兎は、人の神経を逆撫でしてくれる!!!!!!!!

 だから決めた。

 初めては、絶対アイツにする。

 そしてこの引きこもりを、死ぬほど悔しがらせる。

 決めた。絶対そうする!!

 

『・・・・・ねぇ、今良からぬこと考えなかった?』

『さぁ? 知らないわ。気のせいじゃない。貴女に恨みを抱いている人間なんて腐るほどいるだろうから、何か噂でもされているんじゃないの』

『私の勘は、良く当たるんだけどね』

『なら、今回はハズレたのね』

『ふぅぅぅ~~~~ん。そう』

『ええ、そうよ。じゃぁ、また後で掛けなおすわ』

 

 内心の感情を押し隠し、何とか平静を装って最後の一言を言い終えた私は、

 

「あの引きこもり!!!!!」

 

 通話を終えた瞬間、思わず携帯をブン投げてしまった。

 壁に当たって壊れるが、そんな事はどうでもいい。

 問題はどうやってアイツを――――――そこで、ふと気付く。

 今、私は何を考えた?

 初めてを、アイツと?

 誰が? 私が?

 相手は? アイツ?

 な、何を考えてるの私は。

 そんな事ある訳ないじゃない。

 一時の気の迷いよ。

 余りにも自然に色々な事を想像してしまい、顔が熱くなっていく。

 駄目、と思う程に止められなかった。

 そして比べてしまう。

 私にすり寄ってくる男共と、アイツを。

 

 ・・・・・勝負になんてならなかった。

 

 金のある奴もいる。権力のある奴もいる。頭の良い奴もいる。顔の良い奴もいる。

 普通に考えればより取り見取りだ。

 でも、全員駄目。

 言葉巧みに私を持ち上げるけど、結局のところ欲しているのは、更識家そのもの。

 私を思っての事じゃない。

 それに比べてアイツはどうだろう?

 博士を助ける為に11機のISが待ち構える艦隊の中に、躊躇無く飛び込んでいった。

 戦争どころか、一国を焦土に変えられるだけの戦力に正面から喧嘩を売った。

 たった1人を助ける為に。

 羨ましくないはずが無い。

 私もそれほど思われてみたいけど、すり寄ってくる男共に、そんな奴はいない。

 だから、

 

「――――――いいなぁ」

 

 と思わず、誰もいないはずの生徒会長室で呟いてしまった。

 誰もいない“はず”の生徒会長室で。

 

「何が良いんですか。お嬢様」

「・・・・・え?」

 

 気付けば、目の前に布仏 虚(のほとけ うつほ)がいた。

 代々更識家に仕えてきた布仏家が、今代輩出した私の側近。

 眼鏡に三つ編みという如何にもお堅い外見を裏切らず、仕事は万事手堅くこなしてくれる得がたい人材。

 そして生徒会会計を預かる身だから、何かの報告で生徒会長室に来るのは何も不思議では無いけど、私が入室に気付かなかった?

 

「・・・・・ねぇ、何時の間に入ってきたの?」

「つい先程です。お嬢様。ところで、何が良いんですか?」

「い、いえ。何でもないわ。ところで、手に持っている分厚いファイルは何かしら?」

 

 私はどうにか表情を取り繕って、極々自然に見えるように話題を切り替えた。

 

「昨日から今日までで、学園に届いた公開要請書です」

「何の、とは聞くまでもないわね」

 

 ずっしりと重いファイルを受け取って、とりあえず開いてみる。

 中身は小難しい文章で色々書かれているが、要約してしまえばたった一つ。

 昨日の演習内容を公開しろ。それだけだった。

 にしても、今時紙で寄越すなんて、何て前時代的。

 一切非公開にした事に対する嫌がらせかしら?

 

「ところでコレ、何で私のところに来たの? こういうのは、職員の方で処理すべきものだと思うけど」

「それがどうやら、職員の間で変な意見が出たようで」

「何かしら?」

「どうやら、『最近、薙原と更識は仲が良いようだから、更識に説得させれば頷くのでは?』という趣旨の発言をした職員がいたみたいで」

「何よそれ。その程度で、あの男が頷くはず無いでしょう」

「という意見も出たようなんですけど、駄目で元々、という事で回されてきたみたいです。恐らくフランスとイギリスの代表候補生のところにも、それとなく話が行くでしょう」

「馬鹿な奴らね。あの男がそんな事で頷くはず無いのに・・・・・放っておいても良いけど、契約の件もあるから、こっちで潰しておきなさい」

「そう言われると思い、既に手は打っておきました」

「流石ね、虚。ところで、他に何か用事はある?」

「いいえ。今はこれだけです」

「なら少し1人にしてくれないかしら、考え事がしたいの」

「分かりました。では午前中の予定は全てキャンセルにしておきます。ごゆっくりどうぞ」

「ありがとう」

 

 すると虚は一礼して、部屋から出て行った。

 壁に当たって壊れた携帯をそのままにして。

 いつもの彼女なら、気付かないはずが無い。

 つまり初めから気付いていたのに、気付かなかったフリをしてくれたんだろう。

 恥ずかしいなぁ、もう。

 そんな事を思いながら、私はこれからの事を考え始めた。

 アイツの事も含めて。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 NEXT VS 一年生専用機チームという一大イベントの翌日、その昼過ぎ。

 (一夏)はラウラの病室にいた。

 本当ならもっと早く見舞いに来たかったんだけど、昨日は検査やら何やらで面会出来なかったし、今日は先に千冬姉が来ていた。

 だからこんな時間になっちゃったんだが・・・・・何でこんなに機嫌が良いんだ?

 あんな事があったんだから、落ち込んでると思ったんだけど。

 もしかして千冬姉が立ち直らせたのかな?

 そんな事を思いながら、俺はベッド横のパイプイスに腰を下ろした。

 

「元気そうだな」

「ああ、御蔭様でな」

 

 何時もの厳しい表情が嘘みたいな、穏やかな表情。

 こいつ、こんな顔も出来たんだ。

 

「まいったな。落ち込んでると思って色々考えてきたのに、全部パァだ」

「ふふ、すまないな。あの人の言葉は、相変わらず良く効く。私の悩みなんて、一発で吹き飛ばされてしまった」

「あの人? 千冬姉か」

「ああ」

「納得。あの人に言われちゃ、どうしようも無い。人を立ち直らせるのも世界最強か。敵わないなぁ」

 

 がっくりと肩を落とす俺にラウラは、

 

「私を励ましに来たお前が落ち込んでどうする」

「凄過ぎる姉を持つと、出来の悪い弟は苦労するって話」

「馬鹿を言うな。演習の時のお前の動きは、見事な・・・・・新兵(ルーキー)にしては、それなりに見れたものだった。新兵(ルーキー)としては、だ。勘違いするなよ」

「分かってるよ。本職の軍人さんからしたら、まだまだ穴だらけなんだろう。だから、これからよろしく頼むよ」

 

 そう言って手を差し出すと、ラウラはしっかりと握り返してくれた。

 細くて綺麗な手。

 だけど手の平には、幾つも血豆の痕があった。

 

新兵(ルーキー)にしては、殊勝な心がけだな」

「周りが凄いからな。慢心してる暇なんて無いんだよ。それにアイツ()、本っっっ当に容赦無いから。今回だって、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で最大加速したところにカウンターで膝だぞ。身体がバラバラになるかと思ったよ」

「容赦が無いとは聞いていたが、本当に容赦が無いんだな。ところで、1つ聞いていいか?」

 

 今までの穏やかな表情から一転。

 ラウラは真面目な顔で問いかけてきた。

 

「俺で答えられるなら」

「私が異変を起した時、どうして私とNEXTとの間に割って入れた? こう言っては何だが、何か確信が無ければ、新兵(ルーキー)ではとても割り込めなかっただろう」

 

 何かもっと凄い事を聞かれると思っていた俺にとって、少し拍子抜けする質問だった。

 

「ああ、そんな事か」

「そんな事?」

「ああ、そんな事。1つ目の理由は、異変を起した時に千冬姉の剣術が使われていた事。あれで千冬姉が汚された気がして、頭に血が上って、自分の手で何とかしたかった。2つ目、晶が俺の言葉に耳を傾けた事」

「1つ目は良く分かるが、2つ目はどういう意味だ?」

「あいつが本当にやる気だったなら、こっちが口を挿む前に終わらせているはずだ。なのにしなかった。それに異変を起す前、随分苛烈に攻め立てていただろ? あれを見ておかしいと思ったんだ」

「何がおかしいんだ? 敵を苛烈に攻めるのは当然だろう」

「当然だけど、アイツは良くも悪くも戦闘で手は抜かない。終わらせる気なら、速やかに終わらせる。そういう奴だ。実際、セシリアもシャルロットも一瞬だっただろう。なのにお前の時は長々とだ。だから絶対何か考えてると思ったんだ」

「お・・・・お前!! あんなプレッシャーを受けている中で、そんな事考えてたのか!? 私ですら殺されると思ったのに!!」

 

 信じられないとばかりに訴えるラウラ。

 

「そう思わせる気だったんだよ。きっと。じゃないとどう考えたっておかしいぜ。だってさっきも言ったけど、アイツ戦闘じゃ手を抜かないんだ。いや手加減はしてるんだろうけど、こっちを弄ぶような手の抜き方はしない。なのに長々と苛烈に攻めるなんて、普段のアイツなら絶対やらない。つまり何か目的がある。そういう確信があったから割り込めたんだよ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一夏の話を聞いた(ラウラ)は、なるほど、と思ってしまった。

 新兵器テスト以外の目的があったとするなら、NEXTの行動にも納得がいく。

 ではその目的とは?

 恐らく、以前私がやった事への仕返しだろう。

 しかも状況的に、VTシステムの事を掴んでいたに違いない。

 それを利用して、こちら(ドイツ)に最大限のダメージが入るようにする為、新兵器テストなんていう舞台を整えたんだろう。

 何て奴だ。

 そこでふと気になった。

 NEXTの背後にいるもう1人は、世界最高の専門家。

 VTシステムなんてものを放っておくだろうか?

 ゾクっとしたものが背筋を走り抜けた私は、大急ぎでシュヴァルツェア・レーゲン(愛機)の自己診断プログラムをロード。

 システムチェック!!

 すると外装系パーツの殆どが消失という、オーバーホール必須の大ダメージ。

 いや、それは良い。

 問題は、基本OS周りが明らかに軽くなっているという事。

 外装パーツが無くて処理が軽くなっているというのもあるだろうが、それにしても、明らかに軽い。

 まるで重しが外れたようだ。

 そんな風に驚いていると、最後にシステム外のメッセージが出てきた。

 

『一定時間内に本人がシステムチェックをした場合に限り、流れるコレを見ているって事は気付いたんだね』

 

 まさか? 束博士!?

 

『長々と喋る気は無いから、端的に言ってあげる。君がやってくれた一件に対しては、コレで終わり』

 

 本当か?

 

『信じる信じないはそっちの勝手だけど、やるなら、もう容赦しない。今回はちーちゃんに免じて、“君は”これで許してあげたけど、余り手を煩わせるようなら、分かるね?』

 

 私はまた、あの人に救われたのか。

 

『そして勿論、このメッセージの証拠なんて残らない。前回とは違って、賢明な判断を期待するよ。凡人の相手は疲れるんだ』

 

 そうしてメッセージが終わると、いつの間にか一夏が、私の顔を覗き込んでいた。

 

「急に黙り込んで、大丈夫か? 何処かまだ痛いところでもあるのか?」

「だ、大丈夫だ。驚かせるな!!」

 

 あまりの近さに驚いて、つい声を荒げてしまう。

 しかしこうやって心配されるのは、悪く無い気がした。

 

「悪い。急に黙り込んだから、どうしたのかと思ってさ」

「少し愛機のシステムチェックをしていただけで、心配されるような事じゃない」

「そうか。でもボロボロだろ」

「問題無い。来る時に、予備パーツ一式も持ち込んである」

「あれ? もしかしてコンテナに入ってたヤツ?」

「そうだが、何故知ってる?」

「アリーナの保管庫にあったヤツだろ。それ昨日、晶の奴が持っていったぞ。『システム汚染の可能性があるから全検査する』って」

「なっ!?」

 

 一瞬、顔が引きつってしまったのは仕方ない事だと思う。

 あ、あの男!!!!!

 こっちが強く言えないのを良い事に、やりたい放題!!

 仮にも軍事技術の塊だぞ!!

 

「何かまずかったのか? 当然っていう感じで持っていってたから、話はついていると思ったんだけど」

「え、ああ。いや、話はついてるんだ。ただ、仕事が早いと思っただけで」

 

 かなり苦しい言い訳だったので、私は早々に話題を変える事にした。

 

「――――――と、ところで、この学校の事。クラスの事。色々聞かせてくれないか? 正直、こういう教育機関には余り縁がなくてな」

「いいぜ。と言っても、俺も余り詳しい訳じゃないけどな」

 

 そう言うと一夏は、色々な事を話してくれた。

 学校の事やクラスの事に始まり、脱線して織斑教官のプライベートまで。

 途中で私が、「そんな事が!?」と驚くと、「いや実はだな」と更なる秘話が。

 とても楽しかった。

 織斑教官がとても身近に感じられたし、何より上官と部下という固いやりとりではなく、もっと別の何かが感じられた。

 これが友人というやつだろうか?

 そんな事を思いながら、私は話を聞き続けた。

 

 ちなみに後日、色々喋ったのがバレた織斑一夏は、打鉄装備の織斑千冬+NEXTという、地獄の訓練を受ける事になる。

 

 

 

 第38話に続く

 

 

 



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第38話 成り行きで

 

 その日、寮で過ごしていた(薙原晶)は、ある事に困っていた。

 それは空腹。

 強化人間なので、無視しようと思えば幾らでも無視出来るが、今その理由は無い。

 なので何か食べようと思い冷蔵庫を開けてみたが、何も入っていない。

 同室の一夏はアリーナでトレーニング中。

 

 キューーーーっと腹が鳴る。

 

 しかし部屋から出るのも面倒臭い。

 仕方ない。寝て過ごすか。

 幸い強化人間には感覚遮断機能が・・・・・とダメ人間まっしぐらな思考で再びベッドへ向かおうとしたところで、携帯からコール音。

 表示されている名前はシャルロット。

 

「――――――もしもし」

「あ、ショウ。今大丈夫?」

「大丈夫だが、どうした?」

「昨日の織斑先生の宿題なんだけど、終わった?」

「ああ、もう終わってる」

「良かった。少し教えて欲しいところがあるんだけど、良いかな?」

「いいぞ」

 

 と答えたところで、ふと閃く。

 

「――――――但し代金前払い。済まないが何か飯を買ってきてくれ」

「珍しいね。どうしたの?」

「腹が減ったが、部屋から出るのも面倒だ。一夏がいたらアイツに頼むんだが、今アリーナに行ってていないし」

「お安い御用。でももし良かったら、昨日作ったシチューがあるけど食べる?」

「貰う」

 

 コンビニ弁当とシャルの手作り。

 考えるまでも無く即答だった。

 

「分かった。持っていくね」

「助かる。さっきから腹の虫が鳴って仕方が無いんだ」

「味は保証しないからね」

「シャルの手作りだろ。心配してないよ」

「お世辞?」

「まさか。本心だよ。あの時食べたシチューは本当に美味しかった」

「あ、ありがとう。嬉しいよ。じゃぁ、すぐに行くね」

「ああ、待ってる」

 

 そうして電話を切った俺は、寝巻きから私服に着替え、机に備え付けられている端末から宿題のデータを呼び出した。

 タイトルは、『局地領域でのIS戦闘』。

 小難しそうなタイトルだが、内容はそんなに難しくない。

 都市、海、砂漠、森林等の各領域において、どうったら上手く戦えるかという事を書いた初歩的なレポートだ。

 攻略本で言うなら、始めの方に書かれている基礎的な操作方法ってところ。

 正直、シャルが聞きに来る程のものじゃ無いと思うんだが・・・・・あ、待てよ。

 都市、海、森林はフランスにあるけど、砂漠は無いな。

 なるほど。生真面目なシャルらしい。

 適当に書けば良いのに、手を抜けなかったんだな。

 え? そんなので教えられるのかって?

 勿論じゃないか。

 レポートは学園の外に流れる可能性があったから、余り実のある内容は書かなかったけど、題材自体は大好きなんだ。

 地形を利用して相手が全力を出せないようにしたり、アウトレンジから一方的に攻撃出来る状況を作ったり、相手の補給線を断ったり、ついでに言えば、それで相手が悔しがるのを見られれば言う事無しだ。

 まぁ、元の世界の友達には性格悪いって言われたけど、少ない労力で勝てるに越した事は無いだろう。

 そんな他愛の無い事を思い出しながら、俺はシャルが来るのを待った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方その頃アリーナでは、

 

(チッ!!! 本当に新兵(ルーキー)か!! この男!!)

 

 一夏 VS ラウラ&セシリアという変則バトルが行われていた。

 事の発端は一夏とセシリアが模擬戦をしていたところへ、ラウラがシュヴァルツェア・レーゲン再調整の為に、アリーナを訪れた事だった。

 ラウラとしては軽く流す程度で、こんな変則バトルを行う気は毛頭無かった。

 が、一夏は何を思ったのか、2対1での模擬戦を申し出る。

 中距離万能型&遠距離型 VS 近接特化型。

 誰がどう見ても封殺されるのが目に見えている。

 当然、ラウラもセシリアもそう説得したが、一夏はそれに対しこう答えた。

 

「近接特化って分かってる相手に、近接戦闘を挑む奴なんていない。だから俺は、誰よりも距離を潰すのに長けてなきゃいけないんだ」

 

 こんな事を言われれば、2人としても受けざるをえない。

 そして即席コンビとは言え、2人とも代表候補生。

 近接特化型1機を封殺するなど問題無い・・・・・と思っていた。

 しかし、

 

(何だこの直感の鋭さは!! 勝負どころに対する嗅覚が尋常じゃない!!)

 

 (ラウラ)はポーカーフェイスを取り繕うのに必死だった。

 別に負けているという訳じゃない。

 模擬戦は極めて優勢のうちに進んでいる。

 前衛が私、後衛が遠距離型のブルーティアーズ(BT)

 この布陣で近接特化に負けるはずが無い。

 事実、白式はボロボロ。

 純白の装甲はヒビ割れ、欠けているのに対して、こちらは一発も被弾を許していない。

 完全なワンサイドゲーム。

 だがこちらが本命とした攻撃だけは、どれほど無様にでも避け・受け・切り払う。

 まして、

 

(一度として右腕と推進系への被弾は許していない。全ては一撃必殺、零落白夜の為か)

 

 だから、全く気が抜けない。

 確かに外見はボロボロだが、推進系が無事な白式の突進力は距離という盾を容易く踏み潰し、零落白夜の一撃は今までの全てを帳消しに出来る必殺。

 だが何より気が抜けない原因、それは一夏の目だ。

 もう殆どシールド残量も残っていないはずなのに、目が勝負を捨てていない。

 

(模擬戦でこんな緊張を味わうとはな・・・・・)

 

 いつの間にか乾いていた唇。

 それを悟られないように、後衛のセシリアに通信を繋ぎながら、舌で湿らせる。

 

新兵(ルーキー)とは言え、流石NEXTの直弟子だな』

『まだ戦いは終わっていませんことよ』

 

 ハイパーセンサーが捉えている背後のブルーティアーズは、狙撃態勢を崩していない。

 これも奴の影響か?

 事前情報では高飛車で調子に乗りやすく、ちょっとした挑発ですぐに我を失う小娘という話だったんだが・・・・・狩りに全力を尽くす獅子ではないか。

 

『分かっている。このまま封殺するぞ』

『勿論ですわ。一夏さんの近接戦闘での爆発力は、身を持って知っていますから』

『戦闘記録は見させて貰った。確かにアレは侮れない。行くぞ!!』

 

 そうして私はレールガンを撃ちつつ戦闘機動を――――――直後、白式の瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 レールガンの弾道をなぞる様に迫る白。

 放たれた小さな弾丸(レールガン)は、僅かにずらされた半身分の隙間を貫いたのみ。

 文字通り、一呼吸で懐に潜り込まれる。

 

「チィッ!!!!」

 

 停止結界(AIC)は――――――間に合わない!!

 即座に、両腕部にプラズマ手刀を形成。

 迫る雪片弐型を受け止めようとした刹那、更に加速する白。

 

「ダ、ダブル・イグニッション(ニ連瞬時加速)!?」

 

 私を素通りするその瞬間、置き土産とばかりに振るわれた雪片がレールガンを両断。

 爆発前にパージ。

 ここで本来なら、レールガンの爆発から逃れる為に、私自身も離脱するのが正しい行動だろう。

 だが一夏の目的が、私に回避行動を取らせ、その間に前衛を突破するというのである以上、素直に乗ってやるのは癪だ。

 なので、

 

「させんっ!!」

 

 レールガンの爆発でシールドを削られるが、その場で旋回。遠ざかる白式の背中に向けて、ブレードワイヤ射出。

 と同時にブルーティアーズ(BT)のビットとスナイパーライフルが火を吹く。

 対し白式は、左腕や肩部装甲を盾代わりに、最短距離を直進。

 迎撃網を力ずくで突破。

 装甲が砕けるのと引き換えに、ブルーティアーズの懐まで潜り込む。

 

「なっ!?」

 

 驚愕するセシリア。斬撃態勢の一夏。

 振るわれた雪片は、盾代わりに使われたスナイパーライフルを両断。

 続くニノ太刀で、刀身に集まるエネルギー。

 一撃必殺。零落白夜。

 だがセシリアが一夏に使わせた、一太刀分の時間。

 それが命運を分けた。

 射出したブレードワイヤが、白式のウイングブースターを直撃。

 更に発動していた零落白夜がシールドエネルギーを食いつくし、アリーナに模擬戦終了のアナウンスが流れた。

 本来ならここで両者は動きを止め、互いに離れるのが模擬戦のマナーだ。

 が生憎と彼はダブル・イグニッション(ニ連瞬時加速)の最中だった。

 ついでに言えば、背後から受けたブレードワイヤのお蔭で態勢を崩していた。

 つまりどうなったのかと言うと、新兵(ルーキー)にありがちな事故だ。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 狙ったとしか思えないほど見事なダイビングヘッド。

 衝撃で倒れる2人。

 次いで、揃ってゴロゴロと転がっている最中に、ビリィィィィという何かが破ける音。

 何か起きたのだろうか?

 セシリアが下、一夏が上で、2人は重なるように倒れている。

 だが模擬戦という事で共有しているバイタルデータに、問題は出ていない。

 しかし私は念の為、シュヴァルツェア・レーゲンに記録されている視覚情報を再生してみた。

 すると転がっている最中に、白式のひび割れてささくれ立っていた装甲が、セシリアのISスーツに引っ掛かっていた。

 そのままスロー再生を進めていくと、ビリィィィィという音通りに、胸元から下腹部付近までISスーツが大きく裂けてしまっていた。

 つまり今一夏の下にいるセシリアは、前が丸見えな訳だ。

 と、私が事実確認を終えたところで、2人が動き出した。

 

「イタたたたた・・・・・だ、大丈夫か? セシリア」

 

 狙っているのかどうかは分からないが、起した身体を支える一夏の左手は、何も覆う物の無いセシリアの右胸にあった。

 こんな時でも雪片を手放していないのは、褒めてやっても良いかもしれないが・・・・・。

 

「え、ええ。大丈夫――――――って、い、一夏さん。一体、何を・・・・・していますの?」

「何をって・・・・・え?」

 

 2人ともようやく現状を認識したのか、一夏の顔には冷や汗がダラダラ、セシリアの顔がトマトみたいに真っ赤になっていく。

 

「こ、これはだな、不可抗力ってヤツで――――――」

「その割りには、手を退けてくれませんのね」

「ゴ、ゴメン!! 決して柔らかくて気持ち良かったとか、そ、そういう訳じゃないんだ」

 

 飛びのく一夏。セシリアは拡張領域に登録されていたISスーツをコール。服装を整えてから起き上がる。

 

「言い訳なんて、紳士のする事ではありませんわよ」

 

 ビットが、一夏の周囲を取り囲むようにゆっくりと展開してく。

 

「ま、待てセシリア!! 模擬戦はもう終わってるんだ。この後は――――――」

「この後は、第二ラウンドですわよね? ねぇ、ラウラさん」

 

 セシリアの剣幕に釣られて、私もつい悪乗りしてしまった。

 

「そうだな。『もう限界だ』と思ってからが本当の訓練だと言うしな。何、NEXTのシゴキに比べれば温いだろう?」

 

 こうしてこの日、3人は日が沈むまでアリーナにいた。

 だがこの時、一夏は最後まで気づかなかった。

 観客席から見つめる人影に、箒の姿に・・・・・。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一夏がアリーナでシバキ倒されているその頃、(薙原)はシャルの手作りシチューを食べていた。

 本人は昨日の残りで、味の保証はしないって言ってたけど、これをマズイなんて言えるヤツは、よっぽど舌が肥えてるんだろうな。

 

「――――――ご馳走様。美味かったよ。ようやく腹が落ち着いた」

「どういたしまして。でも何か悪いね」

「何がだ?」

「このレポート、良いの? 僕に見せても?」

 

 内容を思い出してみるが、書いてあるのはいずれも、極々初歩的な内容だ。

 あの程度、どこの教本にだって書いてあるだろう。

 だがこの時、俺は大きな勘違いをしていた。

 それはISという兵器の若さ。

 他の通常兵器群は、長い年月や戦争を経て磨き上げられてきたが、ISにはそれが無い。

 更に言えば、通常兵器とは隔絶した性能差を持つが故に、実働経験そのものが不足していた。

 ネクストもそういう意味では似たようなところを持つが、その土台となったアーマード・コア(AC)は違う。

 幾多のレイヴンが命懸けで、戦術とアセンブルを磨き上げ、その対応策も幾多のレイヴンが命懸けで練り上げたもの。

 限られた人間しか使えないISとでは、経験値の絶対量が違う。

 ましてレイヴンは、依頼さえあればあらゆる環境下で戦う傭兵。

 その状況は様々だ。

 侵攻戦、迎撃戦、防衛戦、市街戦、山岳戦、隠密戦、空中戦、多対一、対軽量級、対中量級、対重量級、対巨大兵器等々、およそ人の想像力の及ぶ限りの、全てが戦場。

 それに慣れていた俺は、ISという兵器の若さを見落としていた。

 俺にとっての当然は、ISにとっての新発見だという事を。

 

「大した事は書いてないから、別に構わない。その程度、基礎だろう?」

「えっ?」

「んっ? 何か変な事言ったか?」

「う、ううん。何もっ!!」

「そうか。ところでさ、1つ教えて欲しい事があるんだけど、良いかな?」

「珍しいね。どうしたの?」

 

 首を傾げるシャル。

 

「いや、そんなに大した事じゃないんだが・・・・・・・・・・」

 

 何となく気恥ずかしくて、つい言い淀んでしまう。

 が、俺の食生活がかかっているので思い切って言ってしまった。

 

「・・・・・簡単なヤツで良いから、料理を教えて欲しい」

「え?」

「いや、だから料理。食堂の料理ばっかりだと飽きるし、コンビニ弁当には飽きたし、レーションにも飽きた。でも美味しいご飯は食べたいから自炊しようと思ったんだけど・・・・・料理って殆ど作った事なくてな」

「改まって言うから何かと思ったら、そんな事? 良いよ。幾らでも教えてあげる。――――――あ、でも束博士は作ってくれないの?」

「あいつも料理下手なんだよ」

「うわ、2人で居る時って、ご飯どうしてるの?」

「それがな、あいつ料理は下手でも、料理を作るロボットは作れるんだ。だから向こうに行けば、普通にご飯は食べれる。だがその機械、備え付けでな・・・・・こっちには持ち込めないんだ」

「なるほどね。じゃぁ何からにしようか? あ、そもそも包丁使える? サバイバルナイフは使えるけど、包丁は使えないなんてオチは無いよね?」

 

 顔を背ける俺。

 気まずい沈黙。

 

「・・・・・えーーーーと、ホッ、ほら、人間得手不得手ってあるからさ。気にする事無いよ。僕も一番初めは全然ダメだったし」

「そう言ってくれると助かる」

「フフ、でもショウにも全然ダメな事ってあるんだね。いつも涼しい顔してるから、何でも出来ると思ってた」

「何処のスーパーマンだよ、それ」

「多分、他の皆も思ってるんじゃないかな? でも嬉しいな、僕を頼ってくれるんだ」

「初めて会ったあの時に、いつか教えて貰うって約束もしてたしな」

「覚えててくれたんだ」

「勿論だ。忘れられるはずがない」

 

 そう答えるとシャルは腕を絡ませてきて、

 

「ならこれから材料を買いに行って、一緒に晩御飯作らない?」

 

 と、とても魅力的な提案をしてくれた。

 幸い今日は何も予定を入れていなかったので、断る理由は無い。

 

「いいな。そうするか」

 

 こうして俺はこの日、シャルと一緒に出かけ、一緒に料理を作りながら色々教えて貰ったお蔭で、初心者料理は何とか作れるようになった。

 だけど彼女にしてみれば、色々とまだまだ、だったらしい。

 

「手付きが危ないから、また今度教えるね」

 

 と最後に言われてしまった。

 勿論、ここで断るなんて選択肢は無しだ。

 こんな可愛い子と仲良く出来る機会をふいにするなんて、勿体無いじゃないか。

 

「ああ、楽しみにしてる」

「うん。楽しみにしてて。じゃぁね」

 

 そう言って小さく手を振りながら、笑顔で去っていくシャル。

 

 ・・・・・ここで終われば、今日はハッピーエンドだった。ここで終われば。

 

 問題は、この後だった。

 見送った俺が部屋に戻り、何となく窓を開けて外を見た時、強化人間でなければ絶対に見えないであろう遠距離から、こちらを伺う物と視線が合った。

 者ではなく、物と。

 それが何かと言えば、IBISだ。

 直後、携帯にコール音。

 表示される名前は勿論、篠ノ之束。

 

「もしもし、晶」

「ど、どうしたんだ?」

「分かりやすいリアクションをありがとう。じゃぁ一言だけ。――――――来なさい。今すぐ」

 

 そしてプツッと電話が途切れる。

 

「・・・・・・・・・・ヤバイかも」

 

 そして翌日、薙原晶は学校を欠席。

 織斑先生には束博士から直接、欠席すると伝えられたらしいが、先生は詳しい事情を(他の教師にも)一切口外しなかったという。

 

 

 

 第39話に続く

 

 

 



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第39話 紅椿

 

 ――――――紅椿(あかつばき)

 

 世界各国が第三世代ISの開発に躍起になっている中、束が開発した第四世代IS。

 その性能は、彼女自らが手懸けたというだけあって、破格という以外に無い。

 何せ基本性能だけでも現行機を遥かに凌駕しているのに、即時万能対応という机上の空論を実現する全身の展開装甲。

 無段階移行(シームレス・シフト)という、経験値の蓄積によって行われる、性能強化やパーツ単位での自己開発。

 恐らくこのシステムは、紅椿の実働データを得て、より洗練された形で“蒼”に組み込まれるだろう。

 更に言えば、これだけでも十分強いというのに、彼女は一部インテリオル系技術も導入したと言っていた。

 結果、エネルギー効率が30%程上昇したともな。

 つまりNEXTというイレギュラーを除けば、間違い無く最強と呼ばれるに相応しい機体だ。

 だから、機体側には何の不安も持っていない。

 俺が不安なのは、今箒さんにコレを渡して大丈夫か、という事だ。

 別に一人間として、彼女が嫌いとか、そういう事じゃない。

 専用機持ち達ほど深い付き合いじゃないが、それでも一本スジの通った人間というのは分かる。

 正義感も持ち合わせているようだし、本人が努力家なのも認める。

 多少素直になれないところもあるようだが、その程度は誰にでもある事だろう。

 なので表面上は問題無いように見えるのだが・・・・・俺の悩みの発端は、この前束に送られてきた手紙。

 妹の相談に、狂喜乱舞した束が見せてくれた手紙だ。

 それには、こう書かれていた。

 

 『――――――最近、一夏が遠いんだ。姉さん。どうしたら良いだろう?』

 

 何時の間に、こんな事を相談するようになったのか。

 原作の、木刀で容赦無く姉を殴っていた箒さんを知る身としては、信じられない思いだ。

 で、妹LOVEの姉がこんな手紙を受け取ればどうなるかは、誰でも分かるだろう。

 専用機があれば一夏と一緒に居られると思った束は、それはもう素晴らしい勢いで紅椿(あかつばき)を組み上げ、直接持って行こうとしたくらいだ。

 だが俺は、すぐに渡すのは箒さんの為にならないと言って、どうにか1週間だけ待って貰った。

 理由? 簡単さ。

 彼女が専用機持ちという重圧に、負けないという確信が持てなかったからだ。

 繰り返すが、別に彼女が嫌いとか、そういう訳じゃない。

 むしろあの真っ直ぐさは好感が持てる。

 だけど専用機を持つというのは、それとは別次元の話だ。

 この世界にいきなり放り込まれて、偶然NEXTという力を手にした俺が、言えた話ではないと思う。

 自分の事を棚にあげて、何を偉そうにと言われれば、返す言葉も無い。

 でもこれだけは言える。

 “力”は、色々なものを容易く捻じ曲げる。

 自分の意志も他人の意志も、善意も悪意も、人間関係も全て。

 今の彼女は、それに耐えられるだろうか?

 

『一夏が遠い』

 

 意訳してしまえば、一夏の傍にいたい。

 ただそれだけの為に専用機を持ってしまえば、遠からず彼女を破滅させてしまわないだろうか?

 そんな考えが、頭からこびり付いて離れない。

 何せ原作では、対銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)戦で――――――と、そこまで考えた時にふと思う。

 俺がここまで気にする必要があるだろうか?

 束が渡したいと言っているのだから、そのまま渡してしまえば良いのではないだろうか?

 だが、すぐにその考えを振り払う。

 箒さんに万一何かあれば、束が悲しむ。

 あいつの悲しむ顔が見たく無いなら、手を尽くすべきだろう。

 ならどうする?

 正直なところ、箒さんの精神面をすぐにどうにか出来るとは思わない。

 幾つか言う事はあるが、それも効果があるかは本人の心掛け次第。

 だから今考えるべきは、箒さんが専用機を手に入れても、周囲が納得するような状況を作り上げる事。

 

「・・・・・・・・・・どんな無理ゲーだよ、それ」

 

 余りの難易度の高さに、1人呟いてしまう。

 そんな状況が簡単に作れるなら苦労は―――――――――ん?

 ふと、閃く。

 確か原作で銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が暴走したのって、束が手を回したからじゃなかっただろうか?

 いや、確定情報じゃなく織斑先生の推測という形だったが、そんな風に書かれていたよな。

 

「・・・・・・・・・・」

 

 考えが、少しずつ形になっていく。

 何も正攻法に拘る必要は無いだろう。

 結果、箒さんが紅椿を使っても文句の無い状況になれば良い訳で、こっちから依頼をしなくても、悪役を買って出てくれそうな輩は世の中にごまんといる。

 

「・・・・・・・・・・」

 

 しかし幾つかの案は浮かぶが、どれもこれも厄介な問題が付き纏う。

 なし崩し的な状況を作りやすい輸送・護衛系ミッションは、下手をしたら人を撃たせる事になる。

 今の彼女に、護る為とはいえ人を撃つ覚悟があるだろうか?

 いや、仮に引き金を引けたとしても、下手したらトラウマを作って束を悲しませる。

 そして何より、第四世代機を投入しなければならないような輸送・護衛系ミッションなんて、今の箒さんにはクリア出来ないだろう。

 よって却下。

 ならどうする?

 救出系ミッションなら・・・・・駄目だ。

 そもそもISを投入しなきゃ救出出来ないようなミッションなんて、レベルが高過ぎる。

 

「・・・・・・・・・・」

 

 思考が行き詰まる。

 どうしようか?

 待てよ? 何で俺はこんな陰謀前提でものを考えているんだ?

 もっとシンプルにいこう。

 テストパイロットというのはどうだろうか?

 何せ世界初の第四世代IS。

 データ取りは誰が見ても、どう考えたって必要だろう。

 そして束の知られている性格。身内以外はどうでも良いという性格を押し出せば、いきなり何の理由も無く専用機持ちにするよりも、ずっと風当たりは良いはず。

 そうして経験を積ませたところで、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を撃破させる。

 『最重要軍事機密』に指定されるアレの撃破に貢献出来たなら、表立って彼女を批判する人間は、相当少なくなるだろう。

 こんなところ・・・・・か。

 もう一度大筋を考えてみるが、どう考えてもこれ以上の方法が思いつかない。

 更識あたりなら上手い方法を思いつくかもしれないが、流石にこの一件で彼女を頼るのは自殺行為だろう。

 だからもう一度、いやニ度、頭の中で計画に致命的な穴が無いかを見直して、そして束の元に向かう。

 実現の為にはどうあっても、彼女の力が必要だからな。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 束と数日に渡って計画の細部を詰めた後、俺は学校の屋上で箒さんと会っていた。

 

「それで、話とは何ですか?」

 

 夕日に照らされた彼女の凛とした表情が、否応無く剣士、或いは武士といったものを連想させる。

 でもそれでいて女性らしい佇まいを忘れていない辺り、本当に古き良き和風美人だと思う。

 

「単刀直入に言おう。第四世代ISのテストパイロットをやってもらいたい」

「何故、と聞いても良いですか?」

「束がお前を選んだ理由は、お前が身内だからだが、俺がお前を選んだ理由は違う。それはな、コレだ」

 

 彼女の前に空間ウィンドウを展開。

 クラスで行われていた自主練習の、全員分のデータを表示させる。

 当然、彼女のデータも表示される。

 取り立てて、特徴の無い平均的なデータ。可も無く不可も無く。勝率も5割程度。

 正直、表面的なデータだけを見るなら、箒さんより上は何人もいる。

 だがある一点において、彼女の成績は突き抜けていた。

 それは近接戦闘。

 対専用機戦を除けば、彼女は近接戦闘で無敗。

 クラス内の自主練習で負けたのも、殆どは相手チームが彼女の近接戦闘を、徹底的に押さえ込んだからだ。

 しかしそんな中でも、彼女は勝率5割を維持した。

 自分の得意とする戦闘距離を、徹底的に封じられて避けられて、尚5割だ。

 

「――――――これが、お前を選んだ理由だ。そしてはっきり言っておくぞ。『姉の七光りで選ばれた』なんて心配をしているなら、それこそ余計な心配だ。お前の実力は、お前自身が証明して見せた。だからこの話を持ってきたんだ」

「し、しかし、その第四世代機が、私と合う保証なんて」

「おいおい、機体性能に合わない人間をテストパイロットに選ぶはず無いだろう。束が作り上げた第四世代IS紅椿(あかつばき)は、近接戦闘を主眼においた万能型。基本的に戦闘距離は選ばないが、それでも性能を100%使い切るなら、パイロットが近接戦闘に強いのは絶対条件。だから、お前なんだよ」

「・・・・・その、本当に?」

 

 箒さんが、「信じられない」という顔をしている。

 まぁ無理も無いか。

 第三世代を飛び越えて、いきなり第四世代のテストパイロットなんて言われれば、誰でも驚くよな。

 だけど、どれだけ信じられなくても悩んでも驚いても、絶対に受けるさ。

 何せ専用機持ちになれば、一夏と一緒にいられる。姉に相談したくらいだ。その位は折込済みだろう?

 そんな腹黒い事を考えつつ、風で緩やかになびく箒さんの黒髪を眺めていると、

 

「分かりました。その話、受けさせて下さい」

 

 と返事が返ってきた。

 よし、これでまずは第一段階クリアだ。

 

「受けてくれて嬉しいよ。それじゃぁ早速、束の研究室(ラボ)でフィッティング作業に入るから付いて来てくれ」

「え? すぐにですか?」

「勿論。情報ってのは何処から漏れるか分からない。箒さんの安全を確保する意味でも、すぐに渡しておきたい」

「わ、分かりました」

 

 やっぱり、緊張しているのかな? いや、させちゃったのかな?

 箒さんの固い態度を見て、そう思ってしまう。

 だが無理も無い。

 いきなり姉の作った最新鋭機(第四世代IS)のテストパイロットになって欲しいと言われ、しかも言ってきたのが俺だ。

 世間一般でNEXTがどう思われているのかを考えれば、仕方の無い反応だろう。

 と思いながら歩き始めると、意外な事に箒さんから話し掛けてきた。

 

「その、姉さんは普段何をしてるんですか?」

「ん? 何か色々研究してるが、詳しい事までは知らないな」

「2人でいる時も研究してるんですか?」

「その時次第かな。何もしないで一緒にいるだけの事もあれば、馬鹿話をしてる事もあるし」

「・・・・・姉さんが? 意外です」

「そうか? あいつ割と話せるクチだぞ。こう、ノリが良いというか何と言うか」

「よっぽど姉さんは、貴方の事が気に入ってるみたいですね」

「俺に言わせれば、他人の足を引っ張って自己満足する奴らが、多過ぎるって話なんだけどな」

「え?」

「――――――いや、忘れてくれ。早いトコ行こうか」

 

 こうして俺は箒さんと一緒に、束の研究室(ラボ)に向かって行った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「やぁやぁ箒ちゃん久しぶり!! おっきくなったねぇ~」

 

 箒さんを研究室(ラボ)に案内すると、束はそう言いながら、“普通に”彼女を抱きしめた。

 

「姉さん」

 

 愛しい妹を迎える、至極真っ当な対応。

 彼女も姉の抱擁に応える。

 だが、“あの”篠ノ之束が、本当に真っ当な抱擁だけで済ませるだろうか?

 妹LOVEの姉が? 原作じゃいきなり揉もうとしたのに?

 答えは、当然否だ。

 

「――――――特に、このオッパイが」

 

 しかし束の奴、賢くなったな。

 普通に抱擁して、逃げられないようにしてから揉みにいったか。

 あれなら原作みたいに木刀で殴られる心配も――――――あっ、待てよ?

 箒さんって確か剣道やってたよな。

 剣道に、得物が無い場合の・・・・・極至近距離の対応方法ってあるんだろうか?

 そこまで考えた時、

 

「いったぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!! 箒ちゃん何するのさ」

 

 束が足を、いわゆる弁慶の泣き所を押さえながら飛び跳ねた。

 

「それはこっちの台詞です姉さん!! 男の人がいる前でこんな」

「いなかったら良いの?」

 

 涙目が訴えるが、妹にはまるで効果無し。

 それどころか、

 

「大体、薙原さん!!」

「お、おう?」

「いつも一緒にいるなら、この愚姉の手綱をしっかり握ってて下さい!!」

 

 矛先がこっちにも向いてきた。

 

「い、いや待て、今のは姉妹のスキンシップだろう? そこに男の俺が口を出すのはどうかと思うんだ」

 

 決して眼福だった等とは言えない。

 言ったら色々な意味でマズイ気がした。

 

「そうだよ箒ちゃん。久しぶりにこうして会えたのが嬉しくて。だから怒らないで、ね」

「時と場所を弁えて下さい!!」

「弁えれば良いの?」

「姉さんはまず一般常識を学んで下さい!!」

「えーーーー。だって、この溢れる愛を表現する為には、ああするのが一番――――――」

「ね・え・さ・ん!!」

 

 姉の言葉を遮る妹。

 迫力あるなぁ。

 他人事のように眺める俺。

 

「はーーーーい」

 

 あっ、束が折れた。

 でも棒読みの返事って事は、絶対次を狙ってるな。

 

「全く。姉さんったら・・・・・」

 

 何となく、怒っていそうで嬉しそうな、複雑な表情の箒さん。

 原作とは随分違う雰囲気だ。

 内容は知らないが、やっぱり手紙のやり取りをしていたのが、効いているんだろうか?

 仮にそうだとしたら、俺としては嬉しい限りだ。

 そんな事を思っていると束から、「専用のISスーツに着替えてもらうから、少しだけ部屋から出て欲しい」と言われた。

 なので了解しつつ、

 

「――――――2人きりになった途端襲うなよ?」

 

 と冗談を返してみた。

 そしたら、「大丈夫。安心して」と、どちらとも取れる返事が返ってきた。

 さてはて、この場合の大丈夫は、どっちの大丈夫なんだか。

 部屋から出た俺は、別の部屋のメンテナンスハンガーに寝かされているIBISをじっくりと観賞。少し長めに時間を潰してから戻って行った。

 すると、箒さんの顔が赤かった。

 しかも俺の顔を見るなり、顔を背ける始末。

 

「?」

 

 首を捻った俺は、束にコアネットワークで通信。

 

(おい。もしかして本当に襲ったのか?)

(人聞きの悪い事言わないでよ。ちょっと私と君との事を聞きたいって言うから、話してあげただけ)

 

 何となく嫌な予感。

 

(ちなみに、どんな話をしたんだ?)

(箒ちゃんの態度から、何となく分からない?)

(何となく分かるが、現実を認めたく無い)

(現実逃避? 逃げちゃダメだよ。ちなみに聞かれた事の1つは、「2人でいる時は何をしてるの?」っていうこと)

 

 何となく嫌な予感が、凄まじく嫌な予感へレベルアップ。

 

(・・・・・おい、まさか)

(うん。色々言っちゃった。あの時の、晶のちょっと不器用だけど優しい言葉とか態度とか)

(おい、この場合の“あの時”は、どの“あの時”だ?)

(さぁ、どの“あの時”だろうね?)

(いや、仮にどの“あの時”だとしても、箒さんが顔を赤くするような事まで言わなくても――――――)

 

 だが俺の言葉は、途中で遮られた。

 

(良いじゃない。自慢したかったんだから)

(えっ?)

 

 思わぬ不意打ちに言葉が詰まったところへ、更なる追い討ち。

 

(自慢したかったの!! 私を護ってくれる人は、私のものだって自慢したかったの。悪い!!)

 

 こうまで言われては、何も言えない。

 というか言える奴がいたら見てみたい。

 そして止めの一撃。

 

「ね、姉さん。何もこんな時まで以心伝心、目で話をしなくても、フィッティングが終わったらすぐに出て行きますから」

 

 と顔を背けながら箒さん。

 

「・・・・・あーーーーまぁ、その何だ。とりあえず、フィッティング始めようか」

 

 このまま続けたら泥沼に(はま)りそうな気がした俺は、こんな何とも締まらない台詞で、束と箒さんにフィッティング作業を始めさせたのだった。

 そしてこの日、公式発表では無かったが、第四世代ISプロトタイプ完成の報が、世界中を駆け巡る。

 勿論、既に実戦投入可能なレベルに仕上がっている紅椿(あかつばき)を、態々プロトタイプとしたのは、箒さんをテストパイロットとする為の方便。

 後はテストパイロットとして扱える間に、どれだけ経験を積ませられるか・・・・・だ。

 

 

 

 第40話に続く

 

 

 



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第40話 専用機持ちの実力

 

 箒さんと紅椿(あかつばき)のフィッティング作業が終わった日の翌日。

 授業が終わった後の放課後、(薙原)は専用機持ち全員をアリーナに集めていた。

 

「――――――と言う訳で、今後専用機持ちのトレーニングには箒も加わる」

「せ、専用機持ちになったばかりで至らないところもあると思いますが、よろしくお願いします」

 

 隣に立つ箒さんが、前に立つ専用機持ち5人に向かい挨拶をする。

 少々固い挨拶だが、まぁ・・・・・そんな固さはすぐに消し飛ぶさ。

 

「じゃぁ早速トレーニングと行きたいところだが、まずは箒の今の実力を見ておきたい。―――――― 一夏」

「俺?」

「ああ、この中じゃ一番経験が浅いから、同じく経験の浅い箒の相手には丁度良いだろう」

「分かった。でも実力を見るって言っても、どうすれば良いんだ? 普通に戦えば良いのか?」

 

 白式を展開しながらそう聞き返してきた一夏に、俺は自分でも分かるくらい、とてもイイ笑顔で答えた。

 

「ああ、全力で叩きのめせ」

「えっ!? ちょっ・・・・マジで」

「大マジもマジ。至って本気だぞ。なに、絶対防御があるから死にはしないし、ISの方は束が直すから、“少々”壊れてもかまわない。何よりテストパイロットは機体の問題点を洗い出す為にいるんだ。限界性能を振り絞ってもらわないと困る」

 

 他の面々から「うわぁ・・・・」とか「ご愁傷様」という声が聞こえてくるが、とりあえず無視。

 

「言ってる事は正論だけどさ、もう少し、慣らしとか入れた方が・・・・・」

 

 一夏の言ってる事も正論だが、あえて俺は一蹴する。

 

「何言ってる。お前の時より遥かに恵まれているだろう? ついでに言えば、早々にある程度の実力を付けて貰わないと危険なんだ。何せ世界唯一の第四世代機。どれだけの人間が狙っていると思う? 雛鳥と変わらない今の状態なら、紅椿を奪取する方法なんて幾らでもある。だから――――――」

 

 

 俺は一度言葉を区切り、箒さんに向き直った。

 

「――――――この場にいる限り、訓練という考えは捨ててもらう。いいな」

「は、はい!!」

 

 と返事が聞こえた瞬間、俺はNEXTを展開。

 

 ―――ASSEMBLE

    →HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・OK

    →ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・OK

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK

    

    →R ARM UNIT  :EB-R500(レーザーブレード)・・・・・・・・・・・・OK

    →L ARM UNIT  :XMG-A030(マシンガン)・・・・・・・・・・・OK

    →R BACK UNIT  :049ANSC(スナイパーキャノン)・・・・・・・・・・・OK

    →L BACK UNIT  :047ANR(レーダー)・・・・・・・・・・・・・OK

    →SHOULDER UNIT :051ANEM(ECM) ・・・・・・・・・OK

    →R HANGER UNIT :-

    →L HANGER UNIT :-

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・OK

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    

 ―――PIC(慣性制御)

    →コジマ粒子による擬似慣性制御エミュレートモード

    

 左手のマシンガンを箒さんに向け、“わざわざ”ロックオン。

 

「え? なっ、何を?」

 

 戸惑う箒さんを他所に、ロックオンを感知した紅椿(あかつばき)が緊急展開。

 俺は躊躇い無くワントリガー。人が食らえばミンチ確実の弾丸が発射されるが、世界最高性能のシールドがそれを阻む。

 が、衝撃までは吸収しきれず、数メートルも吹き飛ばされた。

 

「くぅぅぅぅっっっっ!! な、何を、何をするんですか!?」

 

 訳が分からないと言った表情でこちらを見る彼女に、俺は言い放った。

 

「言ったはずだぞ。“訓練という考えは捨ててもらう”と。そして一番大事な事を一番初めに教えておく。周囲に気を配れ。常に“攻撃されるかもしれない”という意識を、頭の片隅に置いておけ。戦う相手が、常に正々堂々挑んでくるとは限らない。決して負けられない戦いになれば、人はどこまでも悪辣になれる。それが卑怯だと思うのも、自分がやらないと思うのも、お前の自由だ。だが、敵はお前の事情なんか一切考慮しない。勝つ為に、全力でお前の弱点を狙ってくる。そして更に言えば、それでも尚負けられないのが専用機持ちだ。いいか、専用機持ちが出る局面というのは、既に絶対に負けられない局面なんだ。それを頭に入れておけ」

 

 反論を許さずそこまで言い切った俺は、大きくバックジャンプ。そのままピットに入った。

 他の面子も専用機を展開。同様に離れてピットに入ると、残ったのは白と紅。

 一夏に通信を繋ぐ。

 

『手加減はあいつの為にならない。専用機持ちの実力を理解させろ。これから先、あいつが敵に襲われても生き延びられるように。俺がお前にやったように』

『ホンッッッとスパルタだな、お前』

『良く言われるが、温い訓練はあいつの為にならない』

『束さん、怒らないよな?』

『何かあったら言われるのは俺だ。気にしなくて良い』

『分かった。じゃぁ、やらせてもらう!!』

 

 そうして雪片弐型が構えられたところで、箒さんも紅椿の基本武装である二本の日本刀。雨月(あまづき)空裂(からわれ)を展開。

 互いに最も得意とする近距離で向かい合い、数秒の沈黙。

 そして雨月(あまづき)の先端が、ユラリと揺れた刹那――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「・・・・・相変わらず、出鱈目な踏み込みの速さですわね」

 

 ピットで2人の戦いを見ていたセシリアの言葉だ。

 何せ第一戦は、決着まで僅か10秒。

 雨月(あまづき)の先端が揺れた瞬間に踏み込んだ一夏が、一撃で箒さんの手から剣を弾き飛ばし、速度を緩める事なくもう一歩踏み込んでボディブロー。身体を『く』の字にへし折ったところで、雪片を逆手に持ち替えて首筋にピタリ。

 これで終わり。

 余りにもあっけない幕切れだ。

 

「それに、逆手に持ち替えて首筋に当てるまでの手際、中々だったな」

 

 ラウラが褒めるとは意外だったので、少し質問してみた。

 

「本職から見てもか?」

「まさか、新兵(ルーキー)にしてはという意味だ。純粋なCQCという意味では、まだまだだな」

「なるほど。じゃぁ、箒はどう見る?」

新兵(ルーキー)以前の訓練生(トレイニー)だな」

「手厳しい」

「温い評価が聞きたかったのか?」

「まさか。そこそこなんて評価されたら、どうしようかと思ったよ」

 

 そんな話をしていると、画面に映る2人は離れ、また近距離で向き合った。

 だが結果は変わらない。ほぼ瞬殺。

 無造作に繰り出された刺突を、隙と判断した箒さんが攻撃しようとしたところで、一夏はPIC制御。

 慣性を打ち消し、ありえない早さで態勢を立て直すと、打ち込まれた刃を受け流す。

 後に残るのは、攻撃を受け流されて隙だらけの箒さん。

 第二戦は、8秒で決着が着いた。

 

「うわぁ・・・・・一夏容赦無いなぁ」

 

 これは鈴。

 

「あの程度は序の口だ。というか、本当に限界までやって貰わないと困る」

「アンタの限界って、本当にギリギリの限界なのよね。初日からそんなに飛ばして大丈夫?」

「『もっと経験の浅い一夏でも耐えた』とでも言えば、あの一本気な性格だ。頑張るだろうよ」

「アンタ鬼だわ」

「褒め言葉だな」

 

 そんな話をしている間に第三戦目。

 今度は距離を取ったか。

 だが、

 

「あの中途半端な距離の取り方じゃ、駄目だよね」

 

 と厳しい一言のシャル。

 

「そうだな。あの距離は、まだ白式の射程距離だ」

 

 直後、一瞬で距離を踏み潰された紅椿に迫る雪片。

 辛うじて受けれたようだが、一夏の剣は基本的に一撃必殺の剛剣。

 防御ごと吹き飛ばされ、態勢を崩されたところに追撃。

 数合と打ち合う事なく、喉元に刃が突きつけられる。

 

『どうした箒。もう終わりか?』

『クッ、まだまだっ!!』

 

 バックジャンプで大きく距離を取る箒さん。

 しかし白式は近接特化。その加速力は伊達じゃない。

 雨月(あまづき)空裂(からわれ)が構えられた時、既に一夏は、懐に踏み込んでいた。

 

『は、はやっ・・・・・』

 

 成す術も無く、第四戦目も敗れる箒さん。

 まぁ、無理も無い。

 何せ量産機しか乗った事の無い人間が、世界最高性能のマシンに乗ってるんだ。

 慣れない感覚に戸惑って当然だろう。

 しかしだからと言って、手加減する理由にはならない。

 むしろ今ここで専用機持ちのトレーニングが、一切気の抜けないものだと叩き込んでおいた方が、後でやり易い。

 そう思っている間に、第五戦、第六戦、第七戦と続いていく。

 いずれも一夏は近接特化の名に恥じない強さで圧勝していくが、二十戦を越えたあたりから、徐々に変化が起き始めた。

 少しずつ、戦闘時間が延び始めたのだ。

 10秒が15秒に、15秒が20秒に、少しずつ、少しずつ。

 勿論逃げ回っている訳じゃない。

 一夏と打ち合い、鍔迫り合い、徐々に勝負と言えるものになってきている。

 

「・・・・・へぇ、やるじゃない」

 

 鈴の言葉に、他の面々も無言で頷く。

 だが凄いという意味では無い。単に瞬殺されなくなった。それだけの事だ。

 更に言えば、今回一夏にはある種リミッターが課せられているのと同じだ。

 さぞやり辛いだろう。

 

「でもあれで、少しでも“やれてる”と思われるのも癪よね」

「随分棘のある言葉だな」

「アンタ分かってて言ってるでしょ。一夏の攻撃は、零落白夜を前提とした一撃必殺。本来、あんなに打ち合う事自体が自殺行為よ。しかも今回は限界性能を引き出すってのが目的だから、零落白夜を“使えない”。私に例えれば、衝撃砲が使えないのと一緒。凄くやり辛いでしょうね」

「だろうな。でも今回はそれで良い。一番経験の浅い一夏が、あそこまで戦えると分かれば、他の面子の実力も想像が付くだろう」

「付かなかったら?」

「想像出来るようにするだけさ。でもまぁ、そこは心配していない。仮にも剣道をやっていた身だ。そのあたりの事は分かっているだろう」

「ふぅ~ん」

 

 そんな生返事を返す鈴に、というか、他の面子に伝え忘れていた事を思い出した。

 

「ああ、そうだ皆。今日は全員、箒と戦ってもらうからそのつもりで」

「アレを相手にか? 正直、まともな訓練になるとは思えないが?」

 

 とはラウラの言だが、俺の返事は本人が聞けば、「鬼」という言葉以外は出てこないようなものだった。

 

「構わない。今日は専用機持ちを相手にするという事が、どういう事かを分からせてやれ。こういうのは言葉で長々と言うよりも、直接体験してもらった方が早いからな」

「・・・・・その容赦の無さ。本国の連中にも見習わせたいところだな。一度来る気はないか?」

「お前も懲りないな」

「過去の事を悔やんでも仕方がない。物事は建設的に考えた方が利口だろう?」

「全くだが、面倒事が多過ぎるからパスだな」

「それは残念」

 

 こうして俺は箒さんを戦わせ続け、全員が一通り戦ったところで、今日は解散とした。

 ちなみにこの日、NEXTで模擬戦はしなかった。

 何故かって?

 勿論、後にとっておいた方が面白そうだったからさ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「はぁ、はぁ・・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・くっ、はぁ・・・」

 

 上がった息が戻らない。手足が重い。

 既に日は落ちて、星空が良く見えるアリーナで紅椿を解除した()は、1人大の字になったまま起き上がれずにいた。

 

「あれが、あれが・・・・・・専用機持ち」

 

 倒れたまま、今日の訓練を振り返ってみる。

 一番経験が浅いはずの一夏相手ですら、かすり傷1つ負わせられない。

 他の面々も同じ。

 スペック上では勝っているはずの紅椿を使いながら、全く勝てる気がしなかった。

 それどころか最後の方は、何をやっても“読まれてる”気がしてきて、思い出すのも嫌になるような有様だった。

 情けない、と思う。

 でも一夏はこれ以上を乗り越えて、あの場に立っている。

 なら私にだって・・・・・そう思った時だった。

 

「お疲れさん箒。どうだった?」

 

 声のした方――――――頭の上に視線を向けてみれば、一夏が立っていた。

 

「ふ、ふん。見ていた・・・・・だろう。ボロボロだ。・・・・・薙原さんの訓練は・・・・いつもこんな、感じなのか?」

 

 息も絶え絶えに聞き返してみれば、返って来た答えは想像の斜め上を行っていた。

 

「いや、今日のは流したって感じかな? あいつ酷いんだぜ。『戦場で1対1の、平等な状態からのスタートなんてありえない』って言って、よく苦手な距離、俺なら遠距離戦だな。そんな状態からスタートさせたり、多対一の取り囲まれた状態から開始とか、ザラだからな」

「なっ、何だ。それは!!」

 

 厳しい訓練だとは聞いていたけど、まさか、それ程だなんて。

 でも続く一夏の言葉は、もっと凄かった。

 

「で、特にいつって決まってる訳じゃないけど時々、専用機組み VS NEXT で模擬戦。一瞬でも気を抜いたら即撃墜判定。凄いぜ、あの時のみんなの緊張具合って言ったら」

「あの、専用機組みが・・・・・緊張?」

 

 正直、信じられない思いだった。

 自分を完膚無きまでに打ちのめし、圧倒的実力差を見せ付けた専用機持ちが、緊張?

 信じられないという視線を向けると、一夏は隣に腰を下ろして答えてくれた。

 

「多分色々言うより、コレを見てもらった方が早いかな」

 

 すると眼前に空間ウィンドウが展開され、映し出されたのはNEXTと私以外の専用機持ち達。

 

「5対1? そんな無茶な!?」

「まぁ見てなって」

 

 そして続く映像に、言葉を失う。

 私を圧倒的な実力差で叩きのめした専用機持ちが、私の時よりも遥かに洗練された機動で、遥かに苛烈な攻撃をしているにも関わらず、尽く撃墜されていく。

 しかも5対1の、多角同時攻撃が捌かれるという信じられない光景。

 

「これが・・・・・姉さんの守護者」

「ああ、しかもこれで手加減してるってんだから、本当凄いよ」

「これでかっ!?」

「映像でさ、晶の奴一回も武器変えてないだろ? だけどあいつ、本当は高速切替(ラピッド・スイッチ)が使えるんだぜ」

 

 言葉が出ないとは、まさにこの事だった。

 そして、急に自分が恥ずかしくなった。

 他の人達は、本当に強くなろうとして、強くなる為にここにいる。

 だけど私に、“それ”はあっただろうか?

 姉さんに相談の手紙を書いたら、すぐに専用機の話が来た。

 直接『専用機が欲しい』とは書かなかったけど、心のどこかに、そういう希望は無かっただろうか?

 いや、あった。間違い無くあった。

 だから姉さんに手紙を出した。

 一夏との距離を縮めたいだけなら、私から話しかければ良いだけなのに。

 何て、浅ましい。

 

「箒?」

 

 気づけば、一夏が私を覗き込んでいた。

 

「い、いや、何でもない」

 

 純粋に配してくれている一夏がとても眩しくて、自分がとても薄汚く感じられて、顔を背けてしまう。

 でも一夏は、私が負けて落ち込んでいると思ったらしい。

 

「打ちのめされた事なら気にするなよ。俺の時なんてもっと酷かった。延々とNEXTと1on1。起き上がる度に、色々な方法でブチのめされた。それこそ近距離から遠距離まで、こっちの戦えない距離なんてお構いなしに」

「何だそれは。そんなの、訓練じゃ――――――」

 

 続く言葉は、静かだけど強い言葉にかき消された。

 

「俺が頼んだんだよ。鍛えてくれって。あいつは、それに応えてくれただけだ」

「しかしだからと言って、初心者だったお前にそんなやり方なんて」

「だけどそのおかげで、強敵と向かい合うってのが、どういう事かを教えてくれたお蔭で、俺はクラス対抗戦の時に皆を助けられた。初心者だった俺がだぜ。だから箒も頑張れよ。今は苦しいかもしれないけど、頑張れば、ちゃんと出来るようになるって、な。俺も協力するからさ」

 

 立ち上がった一夏は、倒れている私に右手を差し出してきた。

 掴んで立ち上がろうとすると、思いの他、力強く引っ張られてバランスを崩してしまう。

 

「うわっ」

「っと悪い。引っ張り過ぎた」

 

 疲れ果てていた私は態勢を立て直せず、そのまま一夏の腕の中へ。

 い、意外と逞しいんだな。

 

「顔が赤いけど、大丈夫か?」

「な、何でもない!! ないったらない!!」

 

 慌てて一歩離れる。

 逞しい胸板の感触が名残惜しいだなんて、思ってない!! 思ってないったら思ってない!!

 

「そうか。じゃぁ、明日の事もあるし、早いとこ戻ろうぜ」

「あ、ああ。そうだな」

 

 そうして一夏と一緒にアリーナを後にした私は、寮がもう少しだけ、遠くにあればと思ってしまった。

 何て、浅ましいんだろう。

 ちなみにこの時、監視カメラが2人をじーーーーーーーーーーーっと見つめていた。

 勿論犯人は――――――。

 

 

 

 第41話に続く

 

 

 



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第41話 ジャック君の大冒険(前編)

 

 とある日の夜。

 その筋の関係者が聞いたら、思わず卒倒しかねないような事件が人知れず起きた。

 IS学園教師、山田真耶の消息が突如として途絶えたのだ。

 この報告に更識楯無は、

 

「――――――何としても、かすり傷1つ付けられる前に見つけ出しなさい!!」