転生デューマンの賢者ろーぷれ! (4E/あかいひと)
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セーブデータその1『ゲームの世界とか、ハハッワロス(白目)』

どうも、ろーぷれ・わーるどを読み返して思わず衝動に従ったレッドゾーンです。ただの性格改変ものだったのに、いつの間にか戦闘狂が顔を出してきてワロス。


 

もしもゲームの世界に入ったなら、君はどうするかって?

そりゃ、その時次第だろ。

 

───────宮本 翔

 

 

[(´・_・`)]

 

 

俺の名前は宮本翔。アルビノと見紛う程の白い肌、片目だけ真っ赤っかーなオッドアイ、今にも幽霊に化けて出てきそうな貧弱オーラを放つこと以外は、至って普通な高校生。

 

そりゃ、前世の記憶があったり、隠れたところで喧嘩番長してたり、見た目に反して戦闘意欲バリバリな面もあるけれど、それらに関して言えばぶっちゃけ言わなければ属性にすらならないから気にしちゃダメだと思う、うん。

 

そんな俺は、今軽く途方に暮れていた。というのも、である。

 

「…………はへ?」

 

思わずマヌケな声を漏らしながら、俺は立ち上がる。

 

辺り一面、青々と生い茂る草原。照りつける太陽は、春先の筈なのに夏の様に元気。

 

先に言っておくが、前世の記憶とかオッドアイとか、厨二的要素満載の俺だが、妄想と現実の区別ぐらいはつく。で、俺は先程まで、家の居間でテレビに向かってゲームをしていた。親友に誘われて行った東京ゲームショウにて、エンパイア社のブースにてテストプレイヤー募集に応募、当選したことで手に入った、満点堂のハード、ZII用のβ版『ギャスパルクの復活』というゲームだ。ゲーマーと呼ばれる程、ゲームに打ち込むことはなかった俺だが、このゲームに関して言えば、その作り込みの尋常じゃなさに、趣味の運動(・・)の時間を削ってしまうほどで、先程も着替える時間を惜しんで、学ランのままコントローラーを握っていたわけだが。

 

(いつの間にか、ここにいたわけか)

 

なるほど、分からん。分からんが…………。

 

「まず、生命維持のために…………っと」

 

かなり日差しが照っている。水分を取らなければ熱中症の危険あり。まずしなければならないことは、水の確保か。幸いと言うべきか、目の前の遠くの方に、建物らしきものが見えるので、其処を目指し、観察。物騒なところでなければ入っていき、対話で、通じなければボディーランゲージで水と食料を手に入れよう。英語はある程度できるからなるとかなる…………と思いたい。最悪、盗むことも視野に入れよう。

 

と、思考をサバイバルのソレに切り替えて、立ち上がり、気合を入れてもう一度周囲を見渡すと…………

 

「ユ、ユーゴ?」

 

俺と同じく、そのゲームにのめり込んでいたであろう、イケメンで性格良し、頭も良しと、テメェ何処の主人公だと言いたくなる様な男、唯一の欠点と見えなくもない点がゲーマーである俺の親友、厳島勇吾が突如現れたのだった。

 

「…………ショウ?」

 

俺と同じく、マヌケな顔を晒していたのを、一気に引き締めて、ユーゴは確信と共に俺の名を呼ぶ。ああ間違いない、学ラン着ているコイツはユーゴだ。

 

「ああ良かった。いや、良くないんだが、流石に1人は心細かったところだ。会えて嬉しいぞ親友」

「そりゃこっちのセリフだ」

 

いつもの様に、軽く拳をぶつけ合いながら、互いに安堵の笑みを溢す。いやまあむしろ状況は悪化してるんだが、精神的には救われたのだからな。

 

「ところでユーゴ、これは一体どういうことなんだ? 俺は『ギャスパルクの復活』でレベル上げに邁進していただけなんだが」

「そんなの、俺だってそうだよ…………なんでゲームしてたら、急にこんなところに」

「だよ、なぁ…………全く、なんでこんな───────」

 

俺の発言は、とある物を見て止まってしまった。それもそのはず、ユーゴの頭上に、『ユーゴ』の文字と、HPMPのバーが浮いていて、それがユーゴの頭の動きと同期していたのだから。

 

「…………おいユーゴ。俺の頭上に、名前とバーが浮いていないか?」

「へ? 何言ってんだよおま…………え?」

 

ユーゴの目が、驚愕と共に思いっきり開かれる。どうやら、そういうことか。

 

「お前の頭の上に、名前とHPMPバーが浮かんでいる。そして、お前の反応を見る限り、俺の頭上にもあるんだろう?」

「あ、ああ…………まるで、ゲームみたいだ」

 

親友のその言葉に、俺の思考は一気に加速した。

 

このHPMPバーを、ここのところ良く目にしていた。現実ではなくて、ゲームで。

そして、この草原。来たことはないが…………見覚えはあった。もしやここは…………

 

「…………なぁ。凄く変なことを聞いてもいいか?」

「あ、ああ」

「ユーゴ、お前『ギャスパルクの復活』で、『ユーゴ』のキャラクターでのスタート地点って、何処だった?」

「え、えっと…………アルダ村だったよう、な…………あっ!」

 

そこでユーゴも、俺と同じことを思いついたらしい。

 

「…………なあショウ。俺も今から凄く変なこと言うぞ? もしトチ狂ったこと言ってると思ったら、容赦なく右ストレートで沈めてくれ」

「おうとも」

「もしかしてここは、『ギャスパルクの復活』の中で、この草原は、アルダ村近くの草原なのか?」

 

……………………。

 

「奇遇だなユーゴ。俺も今同じことを思っていたところだ」

 

前世では、色々なことがあった。それこそ、世界を救う一助になったりもした。

だから今世では、なるたけ平和に暮らしたいという願望があった。まあ、刺激がないと退屈だとも思っていたが。

 

でも流石に、ゲームの中に入れられるなんて、刺激が強いでは済まされない。

 

 

[( ゚д゚)]

 

 

ゲーム『ギャスパルクの復活』は、剣と魔法のファンタジー世界:エターナルを舞台にしたRPGだ。

 

この手のゲームは王道故に、在り来たりな部分が多々有り、少しずつ飽きられてきているゲームジャンル…………だとユーゴに教えてもらったのだが、そもそもがゲームに積極的に触れない俺にとっては、その設定すらも新鮮だった。

 

モンスターが徘徊? 人間以外にも種族がいる? 大魔王が復活しようとして、それを食い止めるべくプレイヤーは旅に出る? ちょっと共感を覚える設定だよな、今考えれば。

 

在り来たりな設定だと説明していた割には、ゲーマーの鑑であるユーゴがハマっていたところを見るに、それを払拭できるだけの魅力がこのゲームには詰まっていたらしい。本物そっくりの3D世界、最強の物理エンジンウンタラカンタラでゲーム内の物理現象も現実のソレと遜色ないほど、どんなNPC(ゲーム内のプレイヤーじゃないキャラ)にも人工知能が搭載されてまるで本物の人間の様な応対、NPCもクエストも自動で生成されていくのでいい意味でゲームに終わりがない、ヒーロープレイもヒールプレイも思いのまま、などなど、凄く熱く語っていた。そこの辺りに興味は無かったが、まあ既存のゲームとは比べ物にならない気合の入れようだということは分かった。そりゃゲームに興味なくてもどハマりするわけだ。

 

ちなみにこのゲームで何より気に入ったのが、プレイヤーの自由度が高すぎるという点。

別に勇者にも悪役にもなるつもりは無かった俺は、傭兵に成り切ってプレイした。

前世では卓越した剣と銃器での近接戦闘をウリに傭兵をしていたので、そっちの方が性に合ったのだ。ただ、せっかく他のキャラにロールプレイをするのだから、前世ではあまり縁の無かったテクニック…………じゃなかった、魔法をメインウェポンとしてやってみた。

 

結果、傭兵を主な生業とする魔法戦闘集団のトップになってしまったのだが…………改めて考えると、異様な自由度だな。

 

まあそれはともかく、そのあまりにもな出来の良さに、冗談交じりでこんなことを言った気がする。

 

『ユーゴって前衛職だよな』

『ショウは後衛だったか』

『じゃ、俺らエターナルでコンビ組んだら完璧じゃね?』

『言えてる!』

 

なによりの『ギャスパルクの復活』の欠点は、通信プレイや同時プレイのできない1人用ゲームだったということ。ユーゴも俺も、β版の感想と意見でエンパイア社にそのことについて原稿用紙8枚分で書いて送る予定である。

 

『時々、想像してしまうよ…………ゲームの世界に入れたらって』

『まあ、だからって良いことばかりじゃないとは思うが、こういったゲームなら、一生暮らしても良いと思えてしまうな』

 

そう、『ゲームの中に入りたい』というニュアンスの発言を、俺らはかましてしまったのである。

 

口は災いの元と言うが、まさか口にしたことが現実になるなんて…………。

 

 

[((((;゚Д゚)))))))]

 

 

回想終了。現実逃避とも言うが、致し方あるまい。

 

「思ったんだが、いざゲーマー垂涎のシチュエーションに遭遇しても、リアルに体験すると先に恐怖の方が勝ってくるな」

「同感だ…………というか、どうすれば良いんだ? どうやったら元の世界に帰れるんだ?」

 

焦燥を滲ませて、ユーゴが口にしたセリフは、俺も考えて、不可能だと考えた内容だった。

 

「恐らくだが…………帰れないだろう」

「な、なんで言い切れるんだ!?」

「むしろ、こういうのはお前の領分だろう? こうやって、異世界から連れてこられた。つまりは大魔王を倒すなりなんなり…………召喚者の目的を達成するまでは帰れない、というのがテンプレだろう?」

 

俺のその言葉に、ユーゴは顔を青ざめさせる。言われてみれば、ということなんだろう。

 

「もしここがゲーム上のエターナルと同一と仮定した上で、俺たちが呼ばれて…………と考えると、間違いなくギャスパルクは倒さないとダメ、ということになる」

「マ、マジかよ…………」

 

シャレにならない事態に、言ってる俺もパニックだ。なにこれ帰りたい。

 

「せめて、ステータスが最後にセーブしたものと同じなら希望はあるが…………おっと」

 

そんなことを言ってると、目の前にステータスが現れた。

 

────────────────

 

ショウ

LV:64

HP:563/563

MP:1273/1273

 

Class:ウォーザード

Race:デューマン

 

────────────────

 

途中まで見たステータス。非常に突っ込みたいところはあるが…………最悪の事態は回避できたということは分かった。

 

「最悪の事態の中では、最良の状態だ。ユーゴ、ステータスと頭で念じてみろ」

「お、おう」

 

ユーゴも胸の前辺りにステータスを出現させて、自分のスペックを確認していく。…………というかお前、LV78でゴーデスナイトって、やり込みすぎだ。

 

「こ、これなら!」

「ああ。お前が前衛で俺が後衛。回復魔法だけでなく魔法全般を満遍なく行使できるから、一緒に戦うこともできるし、補助回復、召喚魔法もなんでもこざれ。水も魔法で生み出せる」

「やたら水に拘るよな…………気持ちは分かるけど」

 

装備していた防具、武器、あとお金も無くなってるが、ここまで高ステータスならば少なくともアルダ村までなら無双できる。

 

っと、そうだ。試しに魔法を放ってみよう。

 

「ウォーターボール」

 

手のひらを適当な方向に向けて、初級呪文を唱えると、水の球が勢い良く前に飛び出していく。ステータスのMPバーも、MPを消費したことが分かるよう、減少している。

 

「同じように、火魔法があれば肉も焼けるし、肉調達もユーゴのステータスなら簡単…………おいおい、マジで俺らが組めば完璧じゃねぇか!」

「本当にな! 一緒に喚び出されたのがお前とで良かった!」

「それじゃあいつものノリで!」

「やりますか!」

 

先程のように、拳を付き合わせる。ただ、込めた力は先程とは比べ物にならないくらいのソレ。

 

「目標、ギャスパルク!」

「目標、地球に帰還!」

「「よし、やるぞ相棒!」」

 

気合を入れて、俺たちは最初の村、アルダ村へと歩を進め始めるのだった。

 

…………これが、のちにエターナルを救う正統派勇者と近接戦闘を好む邪道賢者の、始まりであった。

 

 

 

 

 

「あ、ちょっとタンマ。ユーゴの力強すぎて指の骨折れた」

「うぉおおい!!?」

 

 

 

 

 




おい、他の作品はどうした!?
→申し訳ありません。AW以外はスランプ中です。

どうしてろーぷれ・わーるど?
→ゼロ魔の近くにあったから。

近接戦闘賢者って…………(ドン引き)
→言うな、わかってる(悟り)


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セーブデータその2『テンプレ怖い』

一晩明けて思った。

『ああ、いつもの赤域か』

頭飛んでるね!


友達は、何ものにも代え難い財産だ。

窮地に陥った時、それを嫌というほど思い知った。

 

───────厳島 勇吾

 

 

[(=´∀`)人(´∀`=)]

 

 

俺、厳島勇吾は自他共に認めるゲーマー…………だということは置いておいて。

俺たちは、大まかな方針を固めて、とりあえず最初の村の一つであるアルダ村を目指して歩いていた。

 

「ほれ、そろそろ喉も渇いただろ? 水だ」

 

そう言ってコップに入った水を寄越すのは、俺の親友にして相棒である宮本翔。

 

「っておい。そのコップどこから出した!?」

 

身につけていた服装と道具以外、何もなかった筈だ。だから、ガラスのコップが存在するのはおかしい。

 

「大丈夫だ。何もどこぞの猫型ロボの様に4次元なポケットを持っているわけではない。単に、氷を生み出す魔法で拳大の氷を作って、それを十得ナイフで削っただけだ」

「あ、言われてみれば解け始めてるな」

 

ショウがいつも身につけている十得ナイフは、このエターナルでは攻撃力6の武器。ぶっちゃけ、武器としてはあってもなくても変わらないものであるが、極限を生き抜く状況下における道具として見るなら、これ程便利なものはない。そんなサバイバルにおける秘密道具を、予備を含めて持っていたコイツには、頭が上がらない。

 

「別に、ウォーター玉を直でぶつけてもいいんだぞ?」

「冗談でも止めてくれ」

 

悪戯めいた笑顔を浮かべながらシシシ! と笑うショウに呆れつつも、そのいつも通りの調子でいてくれることに、内心感謝した。

 

 

[(^_^;)]

 

 

俺が初めて宮本翔と話したのは、中学1年の、6月のことだった。

同じクラスだったのに、6月になるまで一言も会話を交わしたことが無かったのは、偏にあいつが『白い悪魔』だなんてどこかのロボとパイロット見たいな悪名を轟かせてる不良だったから。

 

曰く、肌のことをからかって来た奴を片っ端からぶっ飛ばした。

曰く、不良グループを単身で潰す化物。

曰く、骨が折れても戦い続ける戦闘狂。

 

物騒な噂話を信じ込み(実際は、半分ぐらい本当のことだったらしいが)、誰もあいつを怖がって話しかけず、俺もその空気にあてられて、話しかけることができなかった。

 

でも、そんな不良と話す機会が。俺の親父が経営しているゲームショップに、ショウが来たのだ。丁度、俺が顔を出していたタイミングで。

 

その時のショウの顔は、今でも忘れなれない。鳩が豆鉄砲を食ったようというのは、ああいうのを指すのだと初めて知った。

 

「い、厳島…………だっけか?」

「あ、ああ」

 

おっかなびっくり、という表現が似合う声音で、名前を尋ねるあいつを見て、名前を知られてることに恐怖を抱くよりも先に、あの噂の不良がこんな風に縮こまっている姿が、失礼な話だが、少し面白く感じた。

 

「き、奇遇だな。まさかクラスメイトとこんなところで鉢合わせるなんてよ」

「そりゃあ、ここ俺の親父が経営してる店だからな」

「マジで!?」

「おわっ!? なんだいきなり!!」

 

弾かれた様に俺に急接近し肩を掴むショウに、焦りつつも引き剥がそうとすると。

 

「じゃあお前、ゲームとかに詳しいよな多分!!」

「あ、ああそうだよ! 自他共に認めるゲーマーだ!」

 

次に発せられた言葉を、俺は生涯忘れることはないだろう。

 

 

 

 

 

「じゃあ、友達を作るのに話の種になりそうなゲームを見繕ってくれ!! 一生のお願いだ!!」

 

 

 

 

 

端正で、肌が白く、不気味な美しさを放つ、とでも言うべきその顔を、悲痛な程に歪ませて、あいつはそう叫んだんだ。

 

びっくりした、というのと同時に、少し自分が不甲斐なく感じた。

この様子を見る限り、彼は噂されてる様な悪人ではないのだろう。なのに、誰も彼もが…………俺も、その噂を鵜呑みにして遠ざけていたのだから。

 

「…………分かったから落ち着け。『友達』にアドバイスぐらい、一生のお願いをされなくてもしてやるよ」

 

少しクサいかな、と思いつつも、そう言ったことを、今となっては後悔していない。そりゃ、色々なことに巻き込まれたし、いろんなことに巻き込んでしまったけど、今ではあいつと俺は、立派な親友なんだから…………。

 

 

[d( ̄  ̄)]

 

 

と、昔のことを思い返していると、前方から悲鳴があがった。俺とショウは、少し緩んでいた目を尖らせて、声のした方向を目指して走り出す。

 

「赤毛の女の子が巨大アリに襲われてる! アレ多分ジャイアントアントの上位種のガードアントだ!」

「うっひゃあ、マジでテンプレじゃねえかクソッタレ! ユーゴ、先行して女の子の盾になりつつ近い方の1体を殺れ! 俺はその後ろの方を殺る!」

「分かった!」

 

悪態を吐きつつも出される指示に従い、全速力で駆け抜けて、赤毛の女の子…………バーの上を見れば、『イシュラ』と名前のある彼女の前に立ち塞がる。

 

「キィィィィイイイイイイッ!」

「ッ!!」

 

巨大化したアリ、と言うだけでかなりおぞましくて怖い。コレが、ファンタジーだということか。

 

だが、

 

「フレイムランス!」

 

背後から飛んでくる、火の槍。その槍は後ろの方のアリの頭部を貫き、焼き殺した。

 

「露払いはやったぞ、後は決めろ!」

 

そうだ、俺の後ろには相棒がいる。なら、もう大丈夫。何も怖くない、とはいかないが、安心して戦える。

 

「ウ、ラァァアアアッッッ!!!」

 

手に持つ十得ナイフを、渾身の力を込めて突き出した。

 

ブチュリ、という嫌な音と感触。粘液が右腕に纏わりつく。

動かなくなった巨大アリから腕を抜き、バーを確認する。…………ちゃんと、というのは少しおかしいのかもしれないが、赤色で表示されているHPバーが全て真っ白になり、アリは死んだということを教えてくれた。

 

「ふぅ…………えっと、無事かな?」

 

振り向き、後ろにいた女の子に声をかける。

その女の子は、へたり込み、俺を呆然と見上げていた。命の危機にあったのだろうから、状況の整理が追いついてないに違いない。

 

「おーっすお疲れユーゴ。でも彼処は突きじゃなくて殴り飛ばす方が良かったな」

 

で、そんな女の子とは正反対に、泰然自若に見えるショウが、今の攻撃についての採点を勝手にしていた。

 

「うっせ。人の命状況でそんなこと考えられるわけがないだろ」

「人の命がかかっているからこそ、だ。アレがHPを削り切れる雑魚だったから良かったものの、もし削り切れなかったらお前、後ろの女の子守れてないからな? 体格差は伊達じゃねぇんだよ。せめてアリの攻撃線上から退かすか、逸らすぐらいはしろ」

「ウグッ」

 

こと、戦闘に関しては、ショウの言うことに間違いはない。それは、コイツ曰く『前世での仕事の賜物』とのことだが。軽く聞いただけでも、戦闘を生業にする人ってのは、その心構えからして一般人とは違うんだなぁ…………ということを思い知らされた。

 

「…………分かった。また後で、練習に付き合ってくれ」

「おうともさ」

 

あの地獄のような日々をもう一度繰り返すのかと思うと、今から遠い目で空を見上げたくなるな、ハハハ…………。

 

「それでおじょーさん、怪我の方は本当にございませんか? HPバーを見る限りほんの少しですが削れていますし、バッドステータスなどもありますからね。必要なら、回復魔法も使いますが」

 

そんな俺を尻目に、ショウはふざけた様な、その実真剣な声音で女の子の安否を確認していた。

 

「だ、大丈夫です。あの、危ないところを助けていただいてありがとうございました!」

 

ようやく整理が付いて落ち着いたのか、女の子は勢いよく立ち上がり、頭を下げてきた。

 

「ああいえ、俺は大したことはしてませんよ。実際に貴女の盾になったのはこちらのユーゴですから」

 

そしてさりげに、ショウが全ての手柄を俺に押し付けようとしてきた。普通なら謙遜という名の美徳なんだが、コイツがやれば話は別。ただ単に面と向かって感謝されるのが苦手なショウは、何かにつけて俺になすり付けようとしてくる。

 

「いや、お前後ろのアリを倒してくれただろ?」

「所詮駄アリだ。俺のSTRでも殺せる時点で労力なんざ払ってないに等しいんだよ。そうなると、女の子を守るっていう素晴らしい行為をしたユーゴが、感謝を受けるべきだ!」

「それはそうかもしれないけど…………というか、その指示したのお前だろ?」

「記憶にございませんね」

「政治家みたいな答弁すんな!」

 

そして、こうしていつもはぐらかされてしまうのだ。地味に悔しい。

 

「と、とりあえず自己紹介でもしましょう!」

 

とにかくここは、話の流れを強引に変えないと。ショウ程ではないが、実際に俺が努力して身につけたわけではない借り物の力を使っている身としては、どうにも感謝されると困ってしまう。

 

「まあ、名前は上を見れば分かるけど、俺はユーゴ。で、こっちが」

「魔法使い志望の不気味系人間のショウです。よろしくね」

「ユーゴさんに、ショウさんですね。あたしは、イシュラ・アローネといいます。アルダの村長にして神官、オランドゥの娘です」

 

っ! つまりは…………。

 

「(道案内ゲットぉ……へへっ)」

 

女の子に見せない様に嗤う親友は放置にしても、これで最初の村に着く算段をつけられたのは大きい。

 

「じゃあ、イシュラさん」

「はい! あ、イシュラで結構ですよ」

「じゃあイシュラ。実は俺たち、ちょっとトラブルに巻き込まれて、G(エターナルの通貨)も食料も武器も靴も取られちゃったんだ。だから、1番近い村で、最低限の態勢を整えたいんだけど」

「そういうことなら、アルダ村に来てください! 改めてお礼もしたいですし!」

「じゃあ、よろしくお願いするよ」

 

こうして俺たちは、ようやっとゲームで言うところのプロローグを終えたのだった。

 

 

 

 

 

「ところでイシュラちゃん、その剣の攻撃力は?」

「えっと、たったの5なんですよ…………」

「ブッ!! 十得ナイフに負ける剣ェwwww」

「草生やすな!!」

 

 

 

 

 




原作のユーゴハーレムはどうなるの?
→崩れると思う?

実際のところ、十得ナイフが出来損ないとはいえ剣に負けるとは思わないんだけど…………
→高価な短剣と粗悪な大剣。強そうなのは大剣だけど、ゲーム的な攻撃力は短剣の方が強い。そんな感じで。

結局、近接戦闘賢者ってなにやるの?
→予定ですが、回復魔法をかけながら攻撃することで相手の身体を変形させたり喉とか目とか潰して再起不能にしたり、魔法を腕に纏わせながらフィンガー的な何かとか、いろいろ考えてます。とりあえず、まともな賢者はそこにいない(断言)


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セーブデータその3『オウフ……ステータスがめっさマゾい』

紙耐久高火力は正義だと思ってる俺は、どこかおかしいのでしょうか?


おいおい、確かに俺は『デューマン』だぜ? でも、こりゃあんまりだぜステータス的に!!

 

───────宮本翔

 

 

[(~_~;)]

 

 

アルダ村を目指し、旅を続けるユーゴ達…………というポケ○ンアニメの入りを模してやってみたが、違和感バリバリなので今回だけにしよう。

 

「ところで、お二人共お強いんですね! 失礼かもしれませんが、ステータスウィンドウを見せてもらっても良いですか?」

 

道中の森の中での休憩中、イシュラちゃんがそんなことを言った。

まあ、道中も出てくるモンスを一撃の下葬り去ってる俺らだから、おそらく低いレベルであろうイシュラちゃんも気になってしまうのだろう。

 

ユーゴが苦笑しながら「いいよ」とウィンドウをイシュラちゃんの方に向けると…………おうおう、えらい驚いてーら。…………ん? システムウィンドウ的に言うなら『イシュラ の しせん が かわった!』とでも言うべきなのだろうか。さっきユーゴがフラグ建てて、その上でおとぎ話的スペックを見せつけられたら、そうなるわな。あいつの職業『ゴーデスナイト』だし、バリバリ勇者だよね。

 

「す、凄すぎる!! ユーゴさんって、いったい何者なんですか!?」

「な、何者って言われても…………ただの旅人としか」

「ただの旅人がレベル78もあるわけないですよ!?」

 

ごもっとも、である。

 

いやーしかし、ユーゴが生贄になってくれたお陰で俺はウィンドウ晒さなくて済む。そのことに安堵を覚えながら、コソリコソリとその場を去ろうとすると。

 

「ついでに、ショウさんのも気になるんですけど、見せてもらってもいいですか?」

 

ついでってなんだついでって! いやまあ年下っぽそうな女の子に一々目くじらは立てんけどよ。でもそりゃ流石に露骨だよ。

 

「…………まあいいですけど。ほら」

 

見せながら、俺は自分のステータスについて考える。

 

レベル、HP、MPに変動は見られない。見られない…………のだが。

 

(明らか、ステータスがゲーム時よりも変動している…………)

 

STR(腕力)、DEX(器用さ)、AGI(素早さ)が魔法職にあるまじき値にまで跳ね上がってる。並の戦士職とも渡り合えるレベルだ。INT(知力)も、ウォーザードの宿命として言う程高くなかった筈なのに、めっさ跳ね上がってる。

 

対して、VIT(体力)、WIS(精神力)、LUK(幸運度)が軒並み落ち込んでいる。WISに関しては、まだ魔法職故に400を割ることはなかったが、VITはまさかの154、LUKに関しては43と、ビックリするぐらいだ。

 

ああ、理由は分かっている。この前世から引き継いでしまった厨二万歳な種族の所為だ腹立たしい。

 

「ショウさん!」

「おわっ!? 急に大声出さないでくださいよビックリだなぁ」

「さっきから何回も呼んでるのに返事しないからじゃないですか!」

 

ありゃ、思った以上に思考に没頭していたようだ。あ、なんかコレ賢者っぽい。

 

「それよりもどういうことですか!? ショウさんは魔法職なのに、どうして道中近接戦闘(・・・・)でモンスターを倒してたんですか!?」

 

あ、ああそんなこと。

確かに、魔法職だから魔法使ったほうが火力は出るんだよな、うん。

 

「でもこの辺りのモンスターは、俺の物理ステータスからしても雑魚だから、MP温存、時間短縮も兼ねて近接戦闘も織り交ぜているんですよ」

 

実際、ゲームでも魔法をメイン火力に、殴る蹴るの暴行を挟みながらモンスターを倒してたし。ちゃんと操作すれば敵の攻撃は案外避けられるし。あと、多少ダメ喰らってもセルフ回復できるから意外とタンクプレイができんだよなぁ。

 

「あ、あのユーゴさん。もしかして、魔法職の人にとってアレは普通の───」

「誤解しないでくれ、イシュラ。コレはショウがおかしいだけなんだ」

 

なんだろう、非常に解せぬ。

 

 

[(-_-)]

 

 

森の中を、イシュラちゃんの知る近道を通り抜けた先にある、アルダ村の門。そこでイシュラちゃんのお父さんがいてイシュラちゃんが怒られるという、ホームドラマ的な何かが展開されたあと、イシュラちゃんのお父さん、オランドゥさんにお礼を言われ、その後軽く自己紹介を交わした。

 

「兎にも角にも、娘を救ってくださって、ありがとうございました」

「「いえ、それ程でも」」

 

流石に真摯に真剣にお礼を言われた場合は擦りつけは寧ろ失礼なので、受け取らざるをえない…………のは置いといて。

 

「しかし、この辺りでは見ない服装ですね。お二人は旅をしているので?」

「まあ、そんなところですね」

「でも、旅というには装備も何もかもないように見受けられますが」

 

あ、やっぱり聞かれた。まぁ、旅してるって言っといて食料も何もなかったら、怪しさ満点以外の何物でもねーわな。

 

「それがですね、無くなっちゃったんですよ…………元々俺たちは同郷の親友ってだけで、旅自体は別々だったんですが、その旅の途中に謎の魔法陣に飛ばされてしまいましてね。気がつけば、武器も食料も靴も、服以外のほとんどを失った状態で、草原に放り込まれてしまって。なぁユーゴ?」

「あ、ああ。そうなんです」

 

よし、嘘は言ってない。

俺とユーゴは日本という同じ国出身で、1人プレイゲームだったから別々で冒険してたし、謎の魔法陣と言えなくもない『ギャスパルクの復活』のソフトによって飛ばされたのだから。

 

「それはまた…………災難でしたね」

「ええ本当に。ですので、靴やカバンの融通、保存の効く食料、鍛冶場の使用許可などをいただけると、非常に助かるのです。勿論、それ相応の対価、労働は厭いません」

 

始まりの村程度の頼み事(クエスト)程度なら、並列してこなすことだって可能だ。最悪、モンスターを狩ってG集めに専念してもいいわけだし。

 

「いえ、娘の恩人にそんなことをさせられません! むしろこちらで手配しておきましょう。ともかく、何もない田舎なもので、さしたるおもてなしもできませんが、精一杯のことをさせていただきます」

「ああ、それは本当に助かります! これも星霊のお導きなのですね!」

 

思わず感極まって、両手を組んで跪く。その様子をユーゴから訝しげに見られ、ハッとした。

 

(しまった、星霊っつーかグラール教は文字通りグラールの宗教だということを忘れてた)

 

長年染み付いた習慣というのは、中々取れないものなのだなぁ。

 

 

[(・_・;]

 

 

神殿…………と言われると、俺はまず寺社仏閣みたいなのを思い浮かべる。第一、第二の故郷それぞれ、そういう形をしたモノだったからということであるからして。

 

「ふぇ…………これまた立派な神殿。絵でしか見たことはないんですが、此処があのファドラの神殿なんですね」

 

そんなこんなで案内された先に、ディスプレイでしか見たことのない建物があって、ちょっと新鮮さを感じながら驚いてみたり。

 

「おや、ご存知でしたか」

「ええ勿論ですとも。此処でしか転職できない職業もあるということで、色々と調べたのです」

 

魔法職、という方向で進めるにあたって、ゲーム内で情報を集めつつ、どんな職に就こうかと調べたのだ。え、Wiki? そんなモン使うの邪道だろ。

 

で、まあ神の名を冠した職があって、それぞれの神殿でなんやかんやしたらまあ転職の条件を満たすことができるのだ。確かこのファドラの神殿では、『ファドラプリースト』だったか? 僧侶(プリースト)って柄じゃなかったから早々に候補から飛んだけど。

 

「ですがそれを抜きにしても、実物を見れて良かったです。できれば、こういうトラブルに巻き込まれて、でなければさらに良かったのに…………と思わずにはいられません」

「おお…………! 嬉しいことを言っていただけて、ファドラも喜んでいることでしょう。何もない村ではありますが、この神殿だけは自慢の種なのです!」

 

あーそれちょーわかるー! と、若者言葉で話しに行けないのがつらたん。

 

しっかし後ろ! 早速フラグ建てよったユーゴに、イシュラちゃんがべっとりでまんがな! いや、後押ししまくったの俺だけどね!!

 

「昔、まだサルドルバ王国があったころ、初代獅子王陛下が村に立ち寄られてこの神殿を築いたのです。この様な辺境の地にも、風神ファドラの信仰が行き渡る様にと。もう、二百年も前のことです。以来、私どもアローネ家のものが、神官職を務めてまいりました」

 

おお、見ろよこの誇らしげな貌! 腐敗聖職者に見せてやりたいね! いや、実際に腐った聖職者を見たことはないんだけど。

 

まあそれはともかく、だ。

 

(神殿の中は、あまり気にしたことは無かったが…………)

 

神殿の祭壇に聳え立つ、8メートルはあろうかと思われる風神ファドラの像。優しげに微笑む中性的な顔立ちの神…………なのだが。

 

(…………見られてる?)

 

ヤケに、視線を感じてならない。もしや、他の神ならぬ他の宗教を信仰しているから、睨まれてる? いや、悪感情的な視線じゃない。というか、他の神を信仰していてこうなるのであれば、ユーゴなんかガンガンに突き刺さってないとおかしい筈だ。だって『ゴーデス』ナイトだし。でも、ユーゴは俺と同じように祭壇の像を見上げるのみで、そんな雰囲気を感じさせない。

 

(それとも、異物だからか?)

 

俺の種族である『デューマン』の所為かもしれん。ユーゴは知っていたから突っ込みこそしなかったが、一瞬目を丸くしてたし。言うなればあれは、『前世の記憶があるとか別の種族なんだとかほざく厨二病の友達が、実は本当に別の種族だったんだけど!?』みたいな視線だった。いや、ユーゴのことだからまるきり信じてないことは無かっただろうが、流石に眉唾物だったのだろう。

 

で、そのデューマンの種族の背景を鑑みるなら…………警戒されてもおかしくはない。何せ、暗黒神(ダークファルスの糞野郎)の因子が作用した結果の種族だからな。

 

「…………? ショウさん、どうかなされましたか?」

「いえ、少し嫌なことを思い出しただけです」

 

もし、この世界ががっつりファンタジーで、神に祈りを捧げて言葉をくれるのであれば…………

 

「(…………許可をいただけるなら、少し祈っていきたいな)」

「…………?」

 

ボソッと呟いた声は、風の中へと消えた。

 

 

 

 

(まさか! 警戒するなんてとんでもありませんよ、異界の英雄)

 

 

 

 




デューマンってなに?
→詳しく説明するのはアレなので要点だけ言うと、ラスボスの因子を埋め込まれてる高火力紙耐久の上級者向け種族。雑魚敵の一撃で致命傷になるから、ドキドキ感が堪らない。

ユーゴからの突っ込みが無かったのは?
→一応その話はしていた為。でもまあ完全には信じてなかった。

主人公はグラール教の信者なの?
→ガチの信者ではありませんが、某社長並みには信仰していた模様。

あれ、普通ここでイシュラ辺りの視点が入る筈じゃ?
→レッドゾーンに女の子は書けない!

以上、感想などありましたら遠慮なくどぞー。


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セーブデータその4『うげぇ…………嫌われちった』

戦闘中の親友は、びっくりするほど手慣れたように、モンスターを狩っていた。コレが、前世でのショウなのか?

 

 

[(u_u)]

 

 

「シッ!!」

 

手刀一閃。ジャイアントアントの首元を、腕だけで刎ね飛ばすショウは、こびり付いた体液を振り払ってこんなことを言った。

 

「あーあー…………全盛期に比べて、どうにも鈍ってるなぁ…………」

 

『鈍ってる』。その言葉は、俺とイシュラを戦慄させるのに十分だった。

 

「お、おいおい。丁寧に首を掻き切ってるように見えるんだが?」

「コレで鈍ってる…………というかやっぱりあたし、ショウさんがウォーザードだなんて信じられませんよ!?」

 

そんな風に喚く俺たちを一瞥して、ショウは更に一言。

 

「全盛期なら、手刀でも切断面は綺麗だった。見ろよコレ、ガタガタだ」

 

促されて、ジャイアントアントの飛ばされた首元を見るが…………確かに、引き千切られた様にガタガタだ。寧ろこっちの方が怖いんだけどな。

 

「それに甘いぜイシュラちゃんよ。魔法使いだからこそ、近接は大事なんだ」

「え、だって、魔法使いって敵に近付かなくても攻撃できるじゃないですか」

「そうだな、確かにそうなんだ。じゃあ、近付かれたら?」

「それも、魔法を使えばいいんじゃ?」

 

何を馬鹿なことを、と言わんばかりのイシュラ。だが、相棒だからこそ次にショウの言うことが分かってしまう俺は、先に口を開くことにした。

 

「じゃあイシュラ、剣士が剣を振るうのと、魔法使いが呪文を唱えるのと、どっちが速いと思う?」

「えっ……と、同じくらい、ですか?」

「ショウ」

「あいよー」

 

俺とショウが、一斉に構えを取る。

そして、

 

「シッ!!」

 

俺は、十得ナイフで素振りする。

そして、俺が振り始めたタイミングで詠唱なされていたファイアーボールが、遅れて前に飛び出て行く。

 

「さってとーイシュラちゃん。どっちが速い?」

「……剣を振るう方が速かったです。でも、それってユーゴさん程凄いからそうなったんじゃないんですか?」

「そうかも知んない。確かにユーゴはレベル78のゴーデスナイト。力強さも速さも超一流。でも、ぶっちゃけ他の戦士職の人の剣を振るスピードと比べたら詠唱する方が遅いしね。なんならイシュラちゃんにも負けるかもよ?」

 

そう言い終えると、ショウは構えを取る。イシュラもそれを察して剣を構える。そして、

 

「ていっ!」

 

威勢良く、鉄の剣が振り下ろされる。そしてそれから一拍遅れて、ファイアーボールが放たれる。

 

「ね?」

「そうです、ね……」

「更に言うと、魔法職は詠唱中隙だらけになる。その間に攻撃を喰らうとマズイし、詠唱も中断されかねない。そもそもが、近寄られなければいいと思うかもしれないが、どれだけ気をつけても、不測の事態というのは起こり得ることだ。そこで、」

 

ビュッ!! と、風を切る音と共に、ショウの左腕からストレートが放たれた。

 

「コレだ。確かに、戦士職のそれと比べたら、非常に見劣りするし、威力も出ないし、こっちの腕が逆に潰れかねない。でも、コレで相手の隙を作ることができれば、それは魔法職にとっての勝機になり得るし、最悪の『死』という事象を回避できる」

「へぇ〜…………」

「もしイシュラちゃんがこの先魔法使いになることがあれば、よぉく覚えておくといい。戦闘は、なんでも使わないといずれ死ぬ」

 

そんな風にイシュラに講義をするショウは、歴戦の戦士の風格を漂わせていた。

 

 

 

 

 

「でも、魔法使いって王都とかそういう大きな学校に行かないとなれないって…………」

「それは魔法の知識がそういうところに固まってるからだ。もしなりたいなら、魔法書ぐらい書くけど?」

「え、書けるのかショウ!?」

「スキルの欄見てたらそんなことが書いてた。テメーも技術書書けんでねーの?」

「いや、書けないけど…………」

 

 

 

 

 

[( ゚д゚)]

 

 

そんなやり取りをした道中をへて、アルダ村に辿り着き、村長件神官のオランドゥさんと言葉を交わし、案内された先は神殿と、その神殿を抜けた先にある、小洒落たログハウスのような建物だった。

 

「さ、こちらへ。お茶にでもしましょう」

 

と、オランドゥさんが手招きし、戸口に立った。

 

「レヴィア、開けてくれ。お客様だ」

「はーい」

 

彼の呼びかけに、鈴を転がしたような声が中から響き、扉が開くと。

 

「〜♪ こりゃまたすっげぇテンプレ。美人姉妹とか、ハーレムルート直行じゃねぇか」

 

口笛を吹く親友の戯言は放置にしても、目が醒めるほどの美人が出てきた。イシュラとは対照的な、落ち着いた雰囲気の少女だった。

 

「長女のレヴィアです」

 

紹介をされなくても、上を見れば分かる…………けど、そこを突っ込むのはヤボと言うものか。

 

「お父様、この方々は?」

「姉様、この人たちはね、おとぎ話に出てくるような勇者様たちなのっ!」

 

そんな風に紹介されると、少し胸が苦しい。前世でそういった経験があるショウならいざ知らず、俺は借り物の力を持ってるだけの、ただのゲーマーだというのに。

 

だがしかし、自己紹介をしないのは失礼なのだろうな。

 

「どうも。少しトラブルに巻き込まれて草原に放り出された、ユーゴといいます」

「同じく、ショウです」

 

ここは流れでステータスウィンドウを見せておいた方がいいのかな? 詐欺師と思われる可能性もあるし、実際レヴィアさんの視線が疑わしいものを見るそれになってるし。

 

「まあおとぎ話の勇者様かどうかは知らないけど、そこそこの高レベルっスよ。ほら」

 

なんか吹っ切れたような雰囲気を纏いながら、いつの間にかショウがウィンドウを開いて見せていた。

 

「ウォーザード……魔法使い?」

 

しかしレヴィアさん、今度は露骨に眉を潜めて嫌悪感を滲ませた視線をショウにぶつけた。

 

「えっと、あのね。魔法使いといっても、ショウさんはすっごい良い人だよ。だから、誤解しないでほしいな」

 

事情を知っているらしいイシュラは、困ったようにフォローを入れた。

 

「お父様、どういうことですか。魔法使いを家に連れてくるなんて!」

 

しかし、聞く耳持たないと言った風のレヴィアさんは、噛み付くようにオランドゥさんに怒鳴り………

 

「(…………ここでもか)」

 

ぼそり、とショウが呟いた。

 

「分かりました。俺がここにいるのはマズそうなので、森にて野営することにします」

「あ、ああそんなこと! こらレヴィア! 無礼な口をきくんじゃない! この方達はモンスターに襲われていたイシュラを助けてくださったんだ。そうだなイシュラ?」

「うん、そうなの。ユーゴさんも、ショウさんもすっごい良い人なんだから!」

「……………………」

 

それでも、レヴィアさんの視線は変わらず。

 

「すみません。娘は魔法使いと少々揉め事になった過去がありまして」

「謝るこたねーです。俺がこの場を去れば良い」

「ちょ、ショウ!!」

 

無表情で、でも目にハッキリと傷付いた色を浮かべながら、ショウは音も無くその場から消えた。

 

「…………レヴィアさん、と言ったか?」

 

コレは、少々勘弁ならない。

 

「君に何があったのかを知らないから、無責任なことを言うけど。あいつは俺の相棒で親友で、ビックリするほどいい奴だ。だから魔法使いと言うだけで邪険にされるのは…………不愉快だ」

 

そう言って俺は、その場から消えたショウを追っかけることにした。おそらく姿が消えたのはインビジブルという魔法で、足跡を辿れば見つけられるはずだから。

 

 

[(♯`∧´)]

 

 

「マジで野営してやがる…………」

「お、ユーゴかいっらっしゃーい」

 

足跡を辿り、森の入り口まで来てみれば、木と枝と葉で立派なテントを作り、焚き木でキノコを焼いて食っているショウがいた。

 

心配して損した、とは思わないが、あんな感じで出て行った割にはかなり明るいな、オイ。

 

「いやだってサァ…………俺のこと嫌ってる女の子のいる家に居るのって気まずいったらありゃしねぇよ。嫌われるのは慣れっこだから別にいいけど」

「いいことないだろ! お前いっつも誤解を解かないから嫌われたまんまなんだろうが!」

 

その見た目と、その噂と、その行動で、非常に敵を作りやすい質のショウは、その誤解を解こうともせず、進んで嫌われ役を買って出るきらいがある。

確かにそのお陰で、物事は円滑に進むのだが…………みんなは知らない。それが、こいつの犠牲の上に成り立ってることを。

 

「それにホラ、理由の無い悪意よかマシじゃん! それであのレヴィアってこの精神衛生が守れるなら、男冥利に尽きるってもんさ!」

「うそつきめ」

「ああそうさ」

 

ケラケラと笑いながら、ショウは言う。

 

 

「ショウ・ウォーカー(・・・・・)はうそつきだ」

 

 

前世の名を持ち出してきた、ということは、一切退かないという意思表示なのかどうなのか。

 

「だからお前は戻れ。俺はここにいるから、何かあればこっちに来て教えてくれ」

 

無理矢理背中を蹴飛ばされて、俺は村の方に向かわされる。

 

「心配せずとも、信じてくれる親友が1人いれば十分さ。あんま過保護になってくれるな、ユーゴ」

「…………チッ」

 

頑固が過ぎるというのも、考えものだ。

 

 

[(¬_¬)]

 

 

結局、スゴスゴと戻らされて、オランドゥさんとイシュラからは心配されるし、レヴィアさんはなんか非常に申し訳なさそうにしていて。

 

「あの馬鹿野郎は、森の入り口で野宿する気満々でした。多分何かないと戻ってこないと思うので、しばらく放置でいいでしょう」

「で、でもユーゴさん!」

「あいつ、頑固なんだよ…………戻ってもいいって言っても、テコでも動かないと思う」

 

ハァ、と溜息をつくと、いつの間にかレヴィアさんがいなくなっていることに気がつく。

 

「…………あれ、レヴィアさんは?」

「あーっと、多分その…………」

「あー…………そういうことか」

 

おそらく、ショウの現在地が判明した時点でそっちに向かったのだろう。俺に謝る、というのは筋違いだし、本人に謝りたいと思うのは自然なことか。

 

「姉様は、悪い人じゃないんです。だから…………」

「ああ分かってる。心配せずとも、だ」

 

俺の側から、第一印象で決めにかかったら、彼女に言ったことがブーメランになっちまう。反省もしていたみたいだしね。

 

「じゃ、レヴィアさんとショウが戻ってくるまで待ってるか」

「え? テコでも動かないって…………」

 

確かに、テコでも動かない。

 

「だが、あいつは女の子に弱いから」

 

さてと、どうなることやら?

 

 




うへぇ…………今回は後書きネタが出ねぇ。

というわけで、次回もよろしくお願いします!


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セーブデータその5『ヘーイ! レッツキャンピーン!』

近接賢者のお悩み相談室…………流行るかな?


魔法使いに、こんな人がいるなんて!

 

─────レヴィア・アローネ

 

 

[(;゜0゜)]

 

 

魔法使いなんて人間は、10人に8人位は嫌な人間。そう決め付けたのは、2年前のことだったか…………。

 

当時、コヴォルトが森に現れたことがあり、モンスターとしては小物だけれど、放置しておくには危険が過ぎ、この近辺では大きな、メルダの町にて依頼を出したのです。

その依頼を受けてやってきたのは、戦士3人、魔法使い1人、リーダーがその魔法使いというパーティー…………だったのですが、この魔法使いの男が、汚い言い方をすれば、嫌な奴だったのです。

 

レベル20という高レベルで、それを鼻にかけて威張り散らすなど、どう言い繕っても良い人物、とは言い難い人間でした。

 

それだけなら、良かったのでしょうが、そのパーティーを持て成し、滞在する場所を提供するのは村長の家…………つまり、私達の家でもてなすことになったのです。

 

その魔法使いの男は、しつこく私に言い寄って来ました。自分はここが凄いだの、こんなことも知っているだの、自慢しながら、だから私の番になれと言わんばかりの態度でした。

でも、コヴォルトを倒してもらうまでは、ご機嫌を取らなくてはならず、損ねてしまうようなことがあれば、コヴォルトによる被害が拡大してしまう…………。

 

だから私は、耐えるしかなかった。村長の、神官の後継、アローネ家の長女として、その責務を全うせねばなりませんでした。最終的に、その様子を見兼ねた村の青年団の団長であるジャッコーさんが、私を引き取ってくれて事なきを得ましたが…………あのまま家に居たらどうなっていたのか、今でも思い出すと身震いが止まりません。

 

その時からでしょう、村長と神官を継がなくてもいい自由な妹が羨ましくおもい、自由になりたいと願い…………魔法使いを憎むことになったのは。

 

 

[(-_-)]

 

 

そんな中、我が家にやってきたのは奇抜な服を着た2人組。イシュラが言うには、おとぎ話の勇者様のように強い、との事ですが。

 

「まあおとぎ話の勇者様かどうかは知らないけど、そこそこの高レベルっスよ。ほら」

 

軽薄そうな方が、自分のステータスを見せてきました。

 

成る程、確かに驚愕です。人間離れをしていると言い換えましょう。だって、レベル64だなんて、それこそイシュラの言う通りおとぎ話の住人です。

 

ですが、

 

「ウォーザード……魔法使い?」

 

伝説級の魔法職『ウォーザード』。高いMPを持ち、様々な分野の魔法を修める、賢者とも言うべき存在。

ですが私にとって、伝説級だろうと何だろうと、魔法使いという存在は、唾棄すべきものでありました。

 

「えっと、あのね。魔法使いといっても、ショウさんはすっごい良い人だよ。だから、誤解しないでほしいな」

 

事情を知っているイシュラが、フォローを入れても。私はお父様にこう言わずには入られませんでした。

 

「お父様、どういうことですか。魔法使いを家に連れてくるなんて!」

 

その魔法使いの男は、ハッキリとその顔を悲しみで歪めていましたが…………その時は、それが演技にしか思えず、嫌悪を込めた視線を向けるのをやめる事ができませんでした。

 

ですが、

 

「レヴィアさん、と言ったか? 君に何があったのかを知らないから、無責任なことを言うけど。あいつは俺の相棒で親友で、ビックリするほどいい奴だ。だから魔法使いと言うだけで邪険にされるのは…………不愉快だ」

 

私のそれと比べ物にならない位の嫌悪感が込められた視線を、魔法使いの隣にいた男性に向けられ、思わず立ち竦んでしまいました。

 

その後、その男性はすぐに駆け出して消えた魔法使いを追いかけて行ったのですが…………私はどうにも、釈然としない気持ちを胸に抱えたまま、お父様にお叱りの言葉を受けるのでした。

 

 

[(・_・;]

 

 

「姉様、少しいい?」

 

家に戻った後、妹のイシュラが私に声をかけてきました。

 

「どうしたの、イシュラ。貴女もお父様と同じ様に私に怒る気?」

「ううん。あたしは、姉様の気持ちも分かるから…………」

 

何を知った風に…………! と思わず声が出そうになりますが…………流石に大人気ないので、気持ちを無理矢理押さえつけて、先を促しました。

 

「あのね、本当にショウさんは悪い人じゃなくて、いい人なの。あたしがモンスターに襲われた時も、ユーゴさんと一緒に助けてくれたし、HPがほんの少し減ってるからって、魔法をかけてくれようともしたんだ」

 

でも、その位なら下心、で片付けられるではないか。

そう思っていたら、

 

「それにね、少しだけだけど、戦い方を教えてくれたし、何なら魔法書も書いてあげるなんて言われたの。あたしね、姉様に言い寄る男共を見てたから分かるけど、下心無し、まるきりの善意だった」

「…………!」

 

思わず、目を見開きました。

 

魔法書を書く、と言うのは並大抵の事ではありません。例え低級魔法であれども、その値段は高いのです。それもそのはず、読むだけで魔法が使える様になるのですから。

話の流れからして、あの魔法使いはおそらくタダで書くつもりだったのでしょう。

 

「あとね、確かに魔法はちょっと使うけど、近接戦闘ばっかりで、全然魔法使いらしくないの! 本人はMPの消費を抑えるためにー、なんて言ってたけど、多分あたしっていう護衛対象がいたから、壁になってたんじゃないかな?」

 

話を聞く度に、私の中の魔法使い像が崩れていきます。

2年前に来たあの魔法使いは、魔法を使うことに固執して、その守りを戦士たちに固めてもらい、まるで高みの見物を決め込む様な戦い方をしていた様に、記憶しています。

 

「いくらレベルが高くて、いくらあたしよりも防御力が高くても、ダメージを受けるのは怖いと思うんだ。でも、ユーゴさんもショウさんも、それを恐れずにあたしの前に立って…………姉様が、魔法使い嫌いなのは良く分かってるけど、ショウさんに関しては、その認識を外してもらいたいかな…………」

 

…………確かに、命の恩人を貶されて良い気はしないでしょう。それに、イシュラにここまで言わせるあの魔法使いが、俗に言う嫌な奴、であるはずがなく。

 

(…………あ)

 

その時不意に思い出した、あのハッキリと傷付いた顔。

 

「わ、私は…………」

 

あの人を、傷付けた。

 

 

[!(◎_◎;)]

 

 

戻ってきた、魔法使いではない方のユーゴさんから、そのショウさんの居場所が漏れた瞬間、私は走り出していました。

 

村の門を出て、少しした所に…………

 

「ハァ……ハァ……ここ?」

 

森の入り口辺りで野宿するつもり、と聞いてやってきたのですが…………。

 

「えっと、家?」

 

なぜかそこには、立派な木造の小さな家が建っていました。

 

ど、どういうことなんでしょう。最早これは野宿ですらなく…………というかいつの間に家を…………などといった疑問が、頭の中でグルグルと巡るうちに。

 

「ふんふふーん♪ あ、」

 

その家から出てきたショウさんが、私を見つけて、困った様な顔で笑いました。

 

「えっと、もしかして叱られて謝ってこいって言われたのですか?」

「い、いえ…………」

 

真っ先に出た言葉がこれ…………余程私は、嫌悪感丸出しだったのでしょうね…………。

 

「別に、誰に言われたわけでもありません。ただ、妹の恩人に対する対応ではなかったことを、どうしても謝りたくて…………本当に、ごめんなさい」

「い、いやぁいいですよそんな。それにメインで彼女を助けたのはユーゴですし、命の恩人って程じゃあありませんよ」

「ですが…………」

 

更に困った様にアセアセとしながら、ショウさんは右手で頭の後ろを掻きはじめました。…………なんというか、本当に魔法使いらしくないです。

 

「本当、嫌われるのとかマジで慣れっこなんで。それよりも、レヴィアさんが嫌な気持ちになってないかちーっと不安なわけです」

 

だから、放っておいてくれと言わんばかりに、ショウさんは家の中に戻ろうとして…………私は、そんな彼を見続けることしかできなくて…………。

 

「……………………」

「……………………」

 

ピタリ、とショウさんの動きが止まり、後ろを振り返りました。何故か、凄く居心地が悪そうです。

 

「…………ん”ん”。別に謝罪はいいけど、ここまで足を運ばせてしまったし、お茶でもどーぞ」

 

そう言い残して、ショウさんは扉を開けたまま、家に入って行きました。

 

…………あれ、何かがおかしい気がしてなりません。

 

 

[( ? _ ? )]

 

 

「…………んで、木材を切り分けてパーツごとに組んでいけば、こんな感じで簡単に家が作れるというわけです」

「へ、へぇ…………」

 

招かれた家の中は、一部屋しかない質素なものでしたが、あの一瞬で作られたことを考えると、ビックリせざるを得ず。そのことについて質問をしながら、私は出されたお茶を呼ばれていました。

 

そのお茶にしても、ウォーターボールとファイアーボールをぶつけた中に、お茶の葉を投げ入れ、氷で作られた大きなポットにそれを落として淹れられたものという、常人では考えつかない様な業のそれだったのですが。

 

「ですが、木を伐るには魔法は向いていないのでは?」

「一応ウォーターカッターってのがあるですけど、まあ面倒だったんでその辺の大きめの石を砕いて石斧を作ってそれで伐りました(いやー、流石に素手とかは言えねー)」

「な、なるほど…………」

 

聞けば聞くほど、魔法使いらしくないお方です。特に威張ったところもなく、知識をひけらかすでもなく…………話も面白いですし。

 

「ショウさんは、旅人なんですよね? 私はアルダ村から出たことがあまりないので、外のことをあまり知らないのですが、やはり楽しいものなのですか?」

「あー、ええ。凄く楽しいですよ。でも、同じくらい辛いこともあったし、悲しいこともありました」

 

ふと気になって訊ねた質問に、ショウさんはどこか遠い所…………まるで、別の世界を夢見る様な目をしながら、そう言いました。

そしてその目は、この今の生活から抜け出したいと思っている私の目にそっくりであり…………。

 

「時折今でも思い出すんです。あの頃に戻れたら…………まあ、今も今でとても幸せですけどね」

 

同時に、現状を受け入れてあるがままの幸せを享受しているかの様な、正反対の目も、していました。

 

もしかしたら…………この人なら、私が長年胸の内で溜めてきた思いを、理解してくれるのかもしれない。

そう思って、口を開こうとしますが…………勇気が出ませんでした。

あって間もない人に、それも私が傷付けた人に、こんなことを話するなんて、到底できそうにありませんでした。

 

「ふぅん…………? レヴィアさんは、何か悩み事があるんですね?」

「…………ッ」

 

直後、見透かされたかの様な目を向けながらそう言われた時、私は思わず震えました。

 

「あ、ああ別に無理に聞き出そうとかそういうつもりはありませんよ。でも、もし話したいのなら、不愉快にさせた分は付き合いますよ。深刻な悩みって、偶に家族には話せなかったりするものですし、たまたま会っただけの風来坊に話するだけでも、変わったりすることもありますしね」

 

そう言ったショウさんは、氷のポットを持ち上げて、木製カップにお代わりを注ぎ、

 

「まあなんにせよ、一旦落ち着くことですねぇ…………俺も、貴方も」

 

ケラケラと笑いながら、そう言いました。

 

 

 

 

「…………でしたらショウさん」

「はいさ」

「お詫びも兼ねて、ウチに来てください」

「…………え、いやちょ、いやァァァアアアアアッッッ!!!?」

 

 

 

 




おうおう、ハーレム崩れそうやんけ
→(めそらしー)

更新早いね!?
→ノリに乗った結果。

以上、感想などよろしくお願いします!


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セーブデータその6『武器作りはゲームの華』

ぶっちゃけ、西洋剣作るところを見ても作者の頭じゃ完全には理解できなかったよ…………だってその動画、イギリスのだったもん。


武器がないのきちーな。せめて刃物があれば…………!

 

─────宮本翔

 

 

[(-_-)]

 

 

半ば無理矢理アローネ家に連れられてしまった俺。ユーゴがなんか納得って顔してるのが気にくわない。

 

とりあえず、オランドゥさんが誤ってくるのをお気になさらず、と言いつつも何故か張り詰めた雰囲気に疑問が浮かぶ。

 

「それよりも、顔が青ざめてる様に見えるのですが…………何かありました?」

「ああ、そうでした! ガードアントが出没したということで、近くにクイーンアントの巣が作られてることが判明したのです! 今すぐ対策を取らねば…………!」

 

お、おおお?

これはまさか…………!?

 

と思ってユーゴを見ると、あいつも力強く頷いていた。

 

「オランドゥさん。そういうことなら是非、俺たちに任せてください」

「そーですよ! タダでカバンなどを融通してもらうのも心苦しかったところです!」

 

序盤ステージにしては、ヤケにハードなステージだったが、今のレベルからすれば片手間同然。なんなら低レベルの誰かを連れて行っても問題ないレベルである。

 

「え………それは…………ですが、それではあまりにも対価が釣り合いません」

「そんなことありません。寧ろ、クイーンアントはとある武器をドロップするモンスターです。俺達の武器のためにも、是非行かせてください」

 

そうっ! ここで自分達のためにと言っておけば、相手は引き退るのだ! 例え本心が諸々見え見えでも、建前でもそう言っておけば、口を挟むのを躊躇うものなのだからね! ユーゴ分かってるゥ!

 

「こうしてこのタイミングで俺たちがトラブルに巻き込まれたのも、何かの縁です適材適所とも言いますし、任せちゃってください」

「本当によろしいのですか?」

「ああ、確かに話が上手すぎると思うでしょうが、こうなったら勿論対価はしっかりといただきますよ! 多少の食料に靴、あと鍛冶施設の一時貸与! 寝床は…………まあこっちゃでも用意してるんでいいですが、先程もお願いした内容をなんとかしていただけると約束していただけるなら、です」

 

悪い話じゃ、ないでしょう?

 

「そういうことでしたら、ぜひお願いします。お二方がこの村の近くに現れたこと、感謝いたします」

 

そう言って、オランドゥさんはニカリと笑って御礼を。

 

「よーし、そうと決まればレッツゴー鍛冶屋さんだ! 流石に武器が欲しいので!」

 

この時俺は、非常に浮き足立っていた。

久々に、チリチリと命を削る様なあの戦いの舞台に舞い戻ることができるのだと。

 

…………だからまさか、翌日になって、イシュラちゃんとレヴィアさんが参加するなんて、聞いてなかったんだ。

 

 

[(・_・;]

 

 

武器専門でない鍛冶屋。と聞いていたけれど、成る程確かにその通りで。

 

「爺さん、ここはこうやってこう! で、こう流し込んでちょいと放置!」

「お、おう!」

 

でも、炉は田舎の鍛冶屋にしてはそこそこ高温の出るものだったので、軽く教えたら…………

 

「ほいでけた! あとは研いで形を整えたら完成ね!」

「お、おおお…………!!!」

 

そこそこ整ったロングソードの刃の出来に、この鍛冶工房の主であるゴーダさんが、感嘆の声を漏らす。

 

「ありがとうございます賢者殿! お陰でワシもそこそこの剣を造れそうじゃ…………!!」

「あーあー、そんな感極まった声出さないでくださいよ照れるなぁ…………それに、賢者なんて柄じゃないですし」

 

実際、柄じゃないしね! 本職はバリバリ近接だもの!

 

「では、この炉を貸していただいても?」

「勿論ですじゃ!」

「ありがとうございます!」

 

さてさて、どんなものを作ってやろうか…………! 我が身は鍛冶師に在らねど、まごう事なき魔法師也! この世界が完全にゲームのシステムのそれと同じでなければ、新たなマジックアイテムを作ることだって…………!!

 

「まずは、異世界ファンタジーでのど定番からだな!」

 

使ってもいいと言われた鉄鉱石を掴み、俺は火を起こし始めた。

 

→3時間後→

 

「で、でけた…………!!」

 

その長く、光を受けて先端が鈍く光を反射するそれは、俺の創作意欲を満足させるに足るものだった。

 

「シッ、ハッ、セイッ!」

 

構える、振る、突く。単純なこの動作が出来るだけで、この武器は近接戦闘もこなせるということが分かる。

 

「二つ目作って、二刀流も面白そうだな…………まあ次はちゃんとユーゴの武器を作らなきゃだが」

 

炉を暖めながら、どんな武器がいいだろうかと考え、最終的に幅広長さ1メートル程度の剣でいいか。ゴーデスナイト固有必殺に耐え切れればそれでいいわけだし。

 

うぼぁー…………夢が広がりんぐ。ここにフォトンがあれば、もっと色々できたのだが…………まあ無い物ねだりしても仕方がない。

 

「じゃ、材料に魔力を練り練り♪」

 

創作モノだと、勇者のサポートはパーティーの魔法使いがするものと、相場が決まっている。だから、ちょっぴりこの定番ポジションに収まってすっごい楽しいのである!

 

 

 

 

 

「…………賢者殿、凄く楽しそうじゃのう」

 

 

 

 

 

[♪───O(≧∇≦)O────♪]

 

 

真っ暗になって、いざアローネ宅に戻ってみれば既に夕食の準備が整っており、是非と言われたので御相伴に預かることにし、日本じゃ滅多に食べない、とても美味しい欧風家庭料理に舌鼓を打っている最中。

 

「……………………は?」

 

思わず俺は、マジトーンで声を漏らし、食卓を凍りつかせてしまった。

 

それもそのはず。

なんとイシュラちゃんとレヴィアさんが、明日のクイーンアント討伐戦に着いてくると言うのだ。

 

思わず口を滑らせてしまったのだろうイシュラちゃんは、露骨にしまった! という顔を晒し、ユーゴとレヴィアさんはあーあ……と言わんばかりに頭を抱えていた。

 

「お、おいおいおい…………ユーゴ、お前それを認めたのか?」

「…………条件付きでな」

 

ユーゴの定めたその条件。

 

・ガードアント、またはそれ級のモンスは俺とユーゴ持ち

・ジャイアントアント級以下なら、2人に任せる

・必ず俺のエンチャントを受ける

・体力が1/4減ったら、迷わず後ろに下がり、回復するまで前線にでない

 

…………まあ、コレだけ固めれば問題はないだろうがそれよりも。

 

「らしくねぇなユーゴ。テメーこういった場に女の子なんか連れて行きそうにねーだろうが」

「普段なら、そりゃ俺もしないさ。でも、この世界はモンスターが跋扈する世界だぞ?」

 

…………言わんとしてることは、分かるが。

 

「以後こんなことがあっても、村の中で対応できるように経験してもらうことがメインだ。だから明日は2人だけじゃなくて、村の方々も討伐戦に加わるそうだ」

「むー…………」

 

なんというか、腑に落ちねー。

いや、ユーゴの言ってることは分かる。分かるんだが…………その、なんて言うか。

 

「…………危なくない?」

 

有り体に言えば、超絶不安なのだ。いや、命に代えても守る覚悟はあるが、不測の事態が起きかねない、人の命が簡単に失われそうなこの世界でそれは、少々楽観視しすぎじゃね? と思うわけだ。

 

「過保護が過ぎるぞショウ。流石にそれは、自動車に轢かれるから外に出せませんって言ってるのと同じだ」

「で、でもだな!」

「お願いしますショウさん!」

「お、お願いします!」

 

うっ…………女の子2人の視線がキラキラしてて痛い…………!? クソ、どうなってもこう転ぶことが分かってやがったから、大して慌ててなかったんだなあんにゃろう!

 

「…………へーへー分かった。民主主義的に、多数決で決まったと思って飲み込んでやんよ」

「やったあっ!」

 

俺の諦めの言葉に、イシュラちゃんが飛び跳ねながら喜び。

 

「こら、はしたないわよイシュラ」

 

叱りつつも、その顔に安堵を滲ませるレヴィアさん。

 

「本当、お転婆な娘達で申し訳ありません」

 

苦笑しながらオランドゥさんが暖かい目をし。

 

「というわけで明日は頑張るぞ、相棒」

 

ユーゴが、一本取ったと言わんばかりに笑った。

 

「ハァ…………しゃあねーな!」

 

結局、俺もその空気にあてられ、笑顔を浮かべる。

 

笑顔で囲む食卓は、何よりも幸せな空間だ。そのことを再認識させてくれたこの家は、間違いなくいい家族なのだろうなぁ。

 

 

 

 

「うむうむ…………やっぱご飯食べてると、作りたくなるな」

「え、ショウさんも料理が作れるんですか?」

「ええ、男が作る乱雑そのものな料理ですが、味の程はまぁまぁですよ?」

「何言ってんだ、お前の料理食って何人の女の子が膝をついたのか覚えてないのかよ?」

「…………しらなーい♪」

「け、賢者殿はなんでもできるのですね…………」

「「……………………」」

 

 

 

 




近接戦闘『も』できる長物武器ってまさか!?
→分かったあなたは凄い。

ショウさんオールマイティ過ぎィ!
→すまんな、前世が前世なだけに色々スペックはカンスト状態さ。

たしかこの世界のレベルって、魂の強さだよね? でも、異世界英雄のショウが、元一般人のユーゴに魂の強さで負けてるとは思えないんだけど。
→…………ノーコメ! いずれそのことについてはやる!

というわけで、次回もよろしくお願いします!


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セーブデータその7『ステンバーイ……ステンバーイ……』

 

正統派の勇者さまに、かなり変わった賢者さま。雲の上の人に見えるけど、その実親しみやすくて…………。この2人に会えたのは、このあたしイシュラ・アローネにとって、最高の幸運に違いない!

 

─────イシュラ・アローネ

 

 

[(((o(*゚▽゚*)o)))]

 

 

あたし、イシュラ・アローネは、ちっちゃい頃からとにかくやんちゃだった。女の子がするような遊び…………例えばおままごとなんか、一つもやったことがなくって、代わりに男の子に交じって駆け回ったり、虫取りをしたり、戦争ごっこしたり…………あれ、今思えばあたしって、相当おかしい?

 

でもあたしは、そんなことを気にしたりはしなかった。例え、お父様に姉様とは大違いと言われようと、あたしはあたし、姉様は姉様と割り切っていた。

 

だから、そんな男勝りなあたしが、大人に黙ってモンスターを倒そうとするのも、そんなにおかしくないことだったし…………

 

「キィィィィイイイイイイッ!」

「あ、ああ…………!?」

 

その向こう見ずな行動の罰を受け取ることになるのは、自然な流れだった。

 

目の前で、大きく振り被るのは、『ガードアント』というモンスター。私が倒したことのあるジャイアントアントよりも大きいその体と、分厚そうなその甲殻は、あたしの攻撃じゃどうにもならないことを、悟らせてしまった。

 

逃げようと走り回るも、ガードアントの方が足が速くて、

 

「に、2体目!?」

 

さらにもう一匹が、騒ぎを聞きつけたのか、あたしを追いかけ回し始めた。

 

人間の、それもレベルがたったの5しかないあたしじゃ、逃げ切れるわけがなくて。

 

「あうっ!?」

 

足がもつれて前のめりにこけてしまった。

ああ、怖い怖い怖い! 足音で分かる、もうすぐそこまでガードアントが追いかけてきている!

 

(父様、姉様、ごめんなさい…………あたし、命の無駄遣いしちゃった。母様のところへ、一足先に…………)

 

音も聞こえず、次回も白く染まり、あたしはどこか諦めながら、その時を待っていた。

 

 

 

…………でも、覚悟した死は、訪れなかった。

 

 

 

恐る恐る前を見る。

すると、姉様ぐらいの歳の男の人が、腕をガードアントに突き刺していた。

 

ガードアントのHPバーは、全て真っ白になっていて…………それは、ガードアントが倒されたということを示していた。

 

「ふぅ…………えっと、無事かな?」

 

そう言って、ちょっと戸惑うように振り返る、男の人。

その姿が、あまりにもカッコよくて…………。

 

(ゆ、勇者さまみたい…………)

 

あたしにも、女の子らしい部分があったんだ。

 

あたしの前に颯爽と現れたその勇者さまに、一目惚れしてしまった。

 

 

[σ^_^;]

 

 

そんな、運命的な出会いをした翌日。今日はあたしを助けてくれたユーゴさんと、意識が朦朧としていたせいでちゃんと思い出せないんだけど、2体目の方のガードアントを倒してくれた、魔法使いなんだけど、全然魔法使いらしくないショウさんと一緒に、クイーンアント達を倒しに行くのだ!

 

そのことに浮き足立って、思わず早起きなんてしちゃって、昨日のユーゴさんやショウさんの動きを思い出しながら、自分の剣で素振りなんかしちゃったり。

 

「えっと、とうっ! 違うなぁ…………てやっ! しっくり来ないなぁ…………」

 

ユーゴさんもショウさんも(ショウさんは魔法使い)、使っていたのはゴテゴテしたナイフだったものの、その剣閃は歴戦の戦士のそれ(何度も言うけど、ショウさんは魔法使い)。多分、見ただけでどうにかなる動きじゃないのは分かってるんだけど…………でも、真似できるのならしてみたかった。

 

「へぇ、素振りかぁ。感心感心!」

「ふぇっ!?」

 

背後から声がして、変な声を出しながら振り返ると、そこにはショウさんがいた。

 

「も、もう! 脅かさないでください!」

「あはは、悪い悪い。イシュラちゃんが、一生懸命素振りしてるもんだから、思わず、ね」

 

そこでショウさんは、なぜか持っている、あたしの剣と同じくらいの大きさの剣を構えて。

 

「シッ、ハッ、フンッ!!」

 

まるで、踊るように剣を振り始めました。その一振り一振りが、大ダメージを生むことは、簡単に想像できた。

 

「ま、戦士職じゃないからこんなもんかな?」

「いやいや!? 前にこの村に来た戦士職の冒険者でも、ショウさん程剣を振れてませんでしたよ!?」

 

本当に、この人は魔法使いなのだろうか…………いや、ステータスウィンドウがそう映していたから、本当にそうなんだろうけど…………。

 

「でも、こんなモンだよ。多分今の俺じゃ、ユーゴ程は振れない」

 

でも、ショウさんは納得がいってないのか、仕切りに剣を振り回しながら、首を捻りつつ、その目を尖らせていった。

 

「あ、そだそだ。イシュラちゃんイシュラちゃん」

「あ、はい」

 

目で追うことができなくなるんじゃないだろうか…………という速さまで達した時に、ショウさんはその動きをピタリと止め、あたしの方を向いた。

 

「慣れない内は、あまり大きく振り被るのは、止めといた方がいいと思う」

「え、どうしてですか!?」

 

大きく振りかぶった方が、ダメージが大きい。その辺のイノシシを相手に戦った時に分かったことだ。

だというのに、ショウさんはそれを止めろと言う。

 

「だって、あまりにも隙が大き過ぎて…………」

 

む、それはちょっと聞き捨てならない。

確かに、ユーゴさんやショウに比べたら、あたしの剣技なんて、勇者ごっこしてる男の子の真似事なのかもしれないけど、そこそこ振り慣れているのだ。

 

だから、大丈夫なことを証明するために、大きく振りかぶって、

 

「てやっ!!」

 

振り下ろしてみた。

で、隙ができないように剣を引こうとするが。

 

「遅いよん?」

「ッ!!」

 

首筋に、手があてられていた。

 

「振り被っての一撃は確かに強力。ちゃんと決めきれる時なら、必殺になり得るけれどね。でも、その振り切った体勢は隙だらけそのもの。ジャイアントアントなら無理でも、ガードアントならその隙は突けると思う」

 

ショウさんのアドバイスに、あたしは一々納得させられてしまいます。

確かに振り切った後の体勢は、横がガラ空きで、攻撃してくれと言わんばかりだ。

 

「扱いに慣れてくると、自然とその対処法も身につくんだよね。でも教えてどうこうなるものでもないから、修練あるのみ! とにかく今日は、それを意識して攻撃してみたら、どうかな?」

 

そう言って、ショウさんは家の中に入っていった。

 

…………うん、そのアドバイスはとても助かるし、嬉しいんだけど。

 

「…………なんでウォーザードやってるんだろうあの人」

 

それとも、賢者はなんでも知っている、ということなのかな?

 

 

 

 

「(羨ましい…………)」

「(…………はっ!? 嫉妬の視線!?)」

 

 

 

 

[(・_・;]

 

 

そんなこんなで朝食を済ませ、集合場所の村の門に向かうことになり、既にそこには、村の青年団のみんなが顔を揃えていた。

 

「おいおい村長。ひょっとして凄腕の旅人ってのはそいつらのことか?」

 

青年団の団長のジャッコーさんが、疑わしそうにユーゴさんとショウさんを見る。確かに、見た目だけなら間違いなくジャッコーさんの方が強そうなんだよねー。大きいし、腕も足も丸太みたいに太いし。あの腕で殴られたら、ショウさん辺りはボッキリ骨が折れそうだよね!

 

「ま、普通そうだよな」

「うんうん、そうなると思って…………ゴーダ爺!」

 

でも、2人には予測済みだったようで、ショウさんが村唯一の鍛冶職人であるゴーダお爺さんの名前を呼ぶと。

 

「ほいさ! まかしとくれ賢者殿!」

 

その場にいた、おそらくみんなの武器を用意しに来てたんだろうゴーダお爺さんが、ユーゴさんとショウさんに、それぞれ鉄の塊を投げつけました。…………って、

 

「あ─────」

 

危ない! と言おうとしたその時既に。

 

「セイッ!!!」

「バーン!」

 

昨日、ショウさんが作ったらしい武器を持った2人が、それぞれに行動を始めていました。

 

まずユーゴさんは、刀身が赤くとても長い剣で、鉄の塊を一振りでたくさん斬り刻んでいました。

あの一瞬でどうやって!? なんて疑問が起こりますが、それよりも先に思うことは、『流石ユーゴさん、カッコいい!』という感想だった。

 

一方ショウさんは、先っぽに小さな剣のついた、鉄の筒から火の槍を放って、鉄の塊を撃ち落としていました。おそらくあれは、フレイムランス。でも、記憶にあるそれよりも遥かに速いし、赤い。多分、あの謎の武器のお陰なんだろうけど…………それよりも思ったのは、『ああ、なんかようやっと魔法使いらしいことしましたね、ショウさん』という感想だった。

 

「ふんふん、『魔剣ファイア』の調子はいかがかね?」

「攻撃力は低いけど、まあ扱いやすい。それよりもお前、銃はないだろ銃は!」

「ばっかお前、昨今の魔法少女モノだと銃なんてありきたりじゃねえか!」

 

そんな、一般人には到底できないことを、息するようにやってのけた2人は、まるでいつものことのように世間話を始めました。…………お2人共、凄すぎます。

 

でも、直に2人の戦いを見ていたあたしはまだマシな方で、父様や姉様、そして青年団のみんなは口をあんぐりと開けて、驚いていました。

 

「な、成る程。凄腕ってのはこれ以上ないくらい理解した。ところで、もしよかったらステータスを見せてくれないだろうか?」

 

さっきの不機嫌そうな顔が嘘のような、びっくりしたままの顔で2人にそうたずねるジャッコーさん。別に、あたしのことじゃないのに、2人が凄いということを知ってもらえて、なんだか嬉しかった。

 

その後、2人がステータスウィンドウをみんなに見せることで、さらに騒ぎが大きくなって、出発が少し遅れたのは余談。

 

 

[(^.^)]

 

 

森を抜けた先、あたしがおそわれ、ユーゴさん達と出会った葉擦れの草原にたどり着くと。

 

「あれを見ろ、ガードアントだ!」

 

ジャッコーさんが、声を張り上げて皆に知らせた。

指が向けられた方向を見ると…………うわぁ、本当にいたよ。昨日襲われたばかりで、いくらユーゴさんとショウさんがいるとしても、怖いものは怖い。

 

「とりま、バン?」

 

でも、その恐怖の象徴とも言えるガードアントは、ショウさんの気まぐれに放ったように見えるフレイムランスによって、そのHPを燃やし尽くされていた。

 

その光景に、予想はしていたけど追いつけないみんなに、ユーゴさんが言いました。

 

「ここから先は危険だ。パーティーを組んでいく。それ以外の人は、引き返した方がいい」

「俺も賛成。その場の味方全員にかかる様な特殊エンチャントは流石に持ってないし」

 

流石凄腕の旅人って感じ。2人の声音は、反論を許さないそれだった。

 

「うむ、それではメンバーを選抜するとしよう。ユーゴさん、ショウさん、レヴィア、イシュラ、それに…………」

「わしが行こう。無駄に歳ばかり食っているが、それなりには戦える」

 

ジャッコーさんが、名乗りを上げた。確かに樵として斧を振るうジャッコーさんは、アルダ村の中では強い方だ。

 

「あ、じゃあ俺もいく」

 

雑貨屋のエドも名乗りを上げた。今回の討伐のためにヒールスクロールを持ってきてくれたエドは、やっぱり村で1番気の利く男だなって感じ。

 

「俺もいくぞぉ!」

 

最後に名乗りを上げたのは、村1番の力持ち、牛飼いのディギー。太ってはいるけど、その見た目は伊達じゃない。

 

「うん、7人。まあ縁起もいいし、人数的にも丁度いいか」

 

そう言って、ショウさんは腕を天に突き上げて…………

 

「エナジーシールド、フレイムウェポン、ライフフォース、ビーストスピリッツ、更にダメ押しでゴッドブレスだ!」

 

何ごとか、呪文を唱えた。

すると、あたし達の持っていた武器が赤く光り、更に力が漲ってきた!

思わずステータスを確認すると、

 

「す、凄い…………!」

 

STRやHPが跳ね上がってる! 防御力も、ちゃんとした装備をしたみたいになってるし!

 

「ふふん! なんか俺のことを全然魔法使いって信じてくれないから本気出してみたぜ!」

 

そういうショウさんの顔は、非常に得意気で、普段の大人びた感じが薄れた、まるであたしと一緒に遊ぶ様な男の子と同じ顔をしていて。

 

(やっぱり、変わった人だなぁ…………)

 

そう思わずにはいられなかった。

 

「じゃあ、行ってきます! 道中お気をつけて!」

「良い報告ができるよう頑張ってきますからね!」

 

何はともあれ、ようやっと、あたし達の冒険が始まるんだ…………!

怖いけど、楽しみで楽しみで仕方がないっ!

 

 




おいおい、銃はあかんやろ…………
→いや、こうでもしないと魔法使いらしいことしなかったし。

実際、ユーゴとショウが戦えばどっちが勝つのん?
→条件によりけり。なんでもありなら、ショウの方がやや有利。

というわけで、慣れない女の子視点を通り過ぎたからあとはヒャッハーな戦闘シーンだ!←戦闘シーン苦手なやつ


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セーブデータその8『悩め若人! 俺も17だけどな!』

 

この感覚…………やはり戦闘は、最高だ。

 

─────宮本翔

 

 

[(^.^)]

 

 

地面を蹴り、標的を目指して駆け抜ける。

 

「キィィイイイッ!」

 

わめき声と共に酸弾が、口元から放たれるのを、体勢を低くして回避。そしてそのままその巨体の下から───────

 

「…………ッ」

 

発砲と共に刺突。胸部を貫かれ、大きくのけぞった標的は、そのHPを完全に減らして後ろに倒れる。

 

しかしこれでは終わらない。さらに横から襲撃してくる標的をバックステップで避け、

 

「シッ!!」

「キギャッ!!?」

 

回転をつけて銃剣を振るい、首を跳ねる。

 

そして、背後から分不相応にも襲ってくる標的に対しては、

 

「Bang」

 

視線どころか、そちらへ向くことすらなく、銃口を後ろに向けて発砲。

見なくてもわかる、標的を撃ち抜いた感触。

 

「フゥッ…………」

 

銃剣による、遠近織り交ぜた戦闘は初めてだったが、感触は良好。あとは優秀な鍛冶師に造ってもらう上で、この『魔銃』という概念を理解してもらうための資料作りとデータ集めか。

 

こう言ってはなんだが、標的……ガードアントはサンドバックに丁度いい。許せガードアント、君らの犠牲は無駄にはしない。

 

「ほぇえ…………流石、師匠の師匠」

 

いつの間にか、ユーゴのことを師匠と呼ぶイシュラちゃん。交代交代して、ガードアントの群れを討伐しているのだが、ユーゴの剣技に惚れ込んだようで。まああの剣技を1日で仕込んだの俺だし、師匠の師匠って表現は間違いではない。

 

「そうだ、ショウさんは大師匠ですね!」

「待て、どうしてそうなる?」

 

別にショウでいいじゃないか!?

つか、俺如きが大師匠とか…………前世の師匠にどやされる!!

 

「えっと…………大師匠?」

「待って下さいレヴィアさん。貴女にまでそう言われる覚えはありませんよ!?」

「ふふっ、冗談です」

「うぐぅ…………」

 

そ、そんな風に笑いかけられると、魔法使い(意味深)な俺の精神にダメージがァ…………!!!

 

なんて、ことはないんだけど。

 

でも、やっぱり美人に微笑みかけられて嫌な気はしないだろう、男の性として。

 

「それにしても…………」

 

というユーゴの声で一気に現実に引き戻され、周囲を見渡す。

 

「ポップ数が尋常じゃない、巣が近いのか、それとも」

「巣が複数、はないにしても、その規模が大きかったりしてな」

 

あたりに散らばるガードアントやジャイアントアントの残骸。切り刻まれたもの、燃やし尽くされたもの、無残にも引き千切られたもの。ガードアントに関しては俺ら。ジャイアントアントに関しては、経験値を積ませることを理由に他の皆に任せている。

 

村のみんなの動きに関して、特に口を出すようなことはなかった。唯一口を出しそうになったのは、レヴィアさんだけ。魔法を覚えてないのに杖装備…………? なんて思ったけど、殴れるし、いっかなーと放置している。

 

「しっかし、アイテムドロップは無くてGだけか…………」

「ん? ジャイアントアントとガードアントってなんか落としたか?」

「んにゃ、この世界…………エターナルは、『ギャスパルクの復活』の仕様と違うから、そういうことを期待しただけ」

 

仕様と違う、というのは魔法の細かな数値と、本来存在しえない武器種『魔銃』が現れたことによる判断だ。

 

ちなみに俺の使っているこの銃だが。

 

【フレイムシューター:魔攻撃力23】

【特殊能力:引金を弾くと、無詠唱で『フレイムランス』を銃口から放つ】

【追加武装→銃剣:攻撃力27】

 

武器の攻撃力としては、序盤では中々いい数値をしていて、基本的には杖と同じ魔法職装備の種子島型、追加武装扱いの先端に付いた銃剣。

 

というか、銃剣に関しても『銃』の武器種が存在していなかったため、これまた異世界エターナルと『ギャスパルクの復活』の仕様が違う裏付けになるよな、うん。

 

「だから、ちょーっと期待してたんだよな…………ほら、パチンコとか鉤爪ロープとかフックショットとか」

「ゼ○ダの伝説に毒され過ぎだ」

「残念、俺がやったことがあるのは時の○カリナだけだ」

 

まあ、今挙げたブツに関しては冗談にしても、そういうものがあってもいい。と思っていたところにコレだ。そもそもがアリ如きがアイテムなんざドロップするか! と言われたらそれで終いなんだけど。

 

まあそんな感じで雑談を挟みつつも、意識を全方向に向けつつ、ガードアント駆除とサポートに徹すること30分。

 

「あ、見てください、アレ!」

 

レヴィアさんが、声をあげてある方向に指をさした。

 

その方向には…………

 

「ほぉ、でっけぇ穴だこと」

「少なくともジャイアントアントとガードアントは簡単に出入りできる程度には、な」

 

一面の草原の中に、唯一禿げている上に、大穴。コレは、もはや疑いようがない。

 

「じゃあ、俺が先行する」

 

ユーゴが、降りても大丈夫かどうかを確認するために、先に降りた。

 

「おーいユーゴ。大丈夫かー?」

「おー! あと10秒待ってくれー!」

 

あと、10秒?

その言葉に疑問を抱いていると、穴の中から金属が何かにぶつかる甲高い音と、グシャリブチュリという、虫を潰したような音(・・・・・・・・・)が聞こえてきて…………。

 

「もうオーケーだ! 入口はそこまで深くない!」

 

…………俺が先行すればよかった。

 

 

[(T_T)]

 

 

出番というか、実戦の機会を失い、割とショゲてしまった俺は、でもそんなことを表に出すわけにもいかんので、顔だけは普通にして、内心呪詛をこれでもかとユーゴに送りながら、降りた洞窟の中に降り立った。

 

「結構暗いな…………ライト!」

 

光の差し込まないダンジョンには欠かせない魔法の一つ、明かりを灯すライトの魔法。そうして見えてきた光景は…………

 

「おぇ…………覚悟しててもコレはグロい」

「言うな、俺まで気持ち悪くなってくる」

 

ユーゴによって切り刻まれた、ガードアントよりもゴツい甲殻しているアリ…………ソルジャーアント達だった。

 

俺の後に入ってきた面々も、その光景に息を飲んだ。

 

「す、げぇ…………流石ですね、騎士殿」

「え、いやぁ…………この程度なら」

 

斧使いのジャッコーさんが、皆を代表して、感嘆の声を漏らし、それを受けてユーゴはいつになく困ったように頭を掻き始める。

…………まあ、本人的には自分の本当の力じゃないって認識なのかな。だからあんなに自信がないのかもしれない。

 

だから、俺がするのは息抜きも兼ねた激励だ。

 

「そりゃあそうですよ! 何せユーゴは俺の見込んだ男なんですから!」

「うおっ!?」

 

背後から忍び寄って、不意打ち気味に肩を組む。

 

「(確かに、今のお前のステータスはゲームで育てただけの借り物かもしんねぇ。単純にそうだとは思わねーけどな。でも、そのスペックを十全に活かすだけの技術は、他でもないお前が、昨日の夜中の訓練で覚えた、努力の証だろう?)」

 

不自然にならないように、腹話術でこそこそと耳打ちという、無駄な行動技能を駆使して言葉を投げかける。

 

「(誇れ、今のお前は少なくとも立派な戦士だ)」

 

そも、ただの一般人が、いくら力があると分かっても誰かの盾になるのは躊躇うはずなんだ。でも、こいつはやった。

ならば、素養は十分。

 

「(それでも不安になるのなら仕方ねぇ。不安にならねぇ位に稽古はつけてやる)」

 

言うだけ言い切って組んでた肩を離し、気合いを入れるように背中をバン! と叩く。

 

「ショ、ショウ…………」

「だからそんな情けねー顔すんな。大師匠の顔くらい立てやがれ!」

 

戯けただけはあって、ユーゴの顔の曇りも、悩みも、少しは晴れたみたいだった。

 

全く、世話の焼ける弟子だこと!

 

 

[( T_T)\(^-^ )]

 

 

数々の戦闘をこなし、そこそこ巣の探索も進んできたところで、イシュラちゃんのレベルが上がったので、キリがいいのでそこでお昼休憩。何気に現実に近い使用だった『ギャスパルクの復活』同様、このエターナルにも満腹度を示すFOODの数値があり、その数値が低いとステータスに悪い補正がかかるのだ。

 

見張りを買って出た俺は、手頃な岩に腰掛けてる。

 

敵自体は大したことないが、それでも気の抜けないこの空間は、前世で馴れ親しんだ戦いの空気に似ていて、逆に俺を落ち着かせてくれる。

 

「戻ったら、部活に入るか…………」

 

こういう戦いの空気は、何も命のやり取りだけで得られるものではない。ルールの中でとは言え、スポーツだって真剣に競い合う行為には違いない。

俺が動くと騒つくから、遠慮していたけど、やっぱ一度思い出せば禁断症状が出かねん。喧嘩よりも健全だし、絶対戻ったらどっかの運動部に入ろう。

 

と、そんな決意を定めていると、レヴィアさんがこっちに向かってくる気配が。

 

「あの…………ショウさん?」

「ん、レヴィアさんですか。サボらず見張りはちゃんとやってますのでご心配なく」

「いえ、そこは全く心配してませんが…………」

 

むぅ、じゃあなんでこんなみんなから離れた場所に…………と、疑問に思ってたら、レヴィアさんが何かの包みを渡してきた。

 

「お昼休憩なのに、まだ何も口にされてないと思って…………その、迷惑でしたか?」

「とんでもない!」

 

最悪、歩きながら俺の分を食べようかと思っていたところだ。実のところ買って出た手前、弁当を取りに戻るのは気恥ずかしかったのだ。

 

「いやぁ、ありがとうございます。見栄張って取りに戻るのを諦めてたところなんですよ」

「見栄……ですか?」

「だって、『見張りは俺がやります!』って、有無を言わさず引き受けといて、『お腹すいたからお昼を…………』なんて戻ったら、ちょっと恥ずかしいじゃないですか。俺もまだ17のガキ。見栄だって張りたいものです」

「そう、ですか…………」

 

まあ、精神年齢的にはゴニョゴニョだけど。身体の年齢に引き摺られてる部分もあるし、別にいいか。

 

「幻滅、しちゃいました?」

「っ! い、いえ別に」

「大丈夫ですよ。俺、あんまり胸を張れるような人間じゃありませんもの」

 

どう言い繕ったって、俺は戦いが大好きな野蛮人で、それが事実かどうかも分からない、前世の記憶があるなんて吹聴する奇人で。

 

「世間に指を指されるようなこともしました。法に裁かれかねない悪行を重ねたこともあります」

 

(それが事実なら)前世でも、今世でも…………まあ規模は違うけど。

 

「でも、それが俺なんだから仕方がないってことです」

 

ちょっと喋りすぎたか、と笑って誤魔化しながらそう言う。

 

すると、

 

「ショウさんは…………」

「ん?」

「ショウさんは、悩んだことはないんですか? そういう、自分の暗い部分を」

「……………………ふむ」

 

何か、悩み事を抱えていると言うのは分かっていたけど、そういうことか。

 

レヴィアさんは確か、村長と神官の後継として育てられてきたとのこと。で、妹であるイシュラちゃんへ向ける眼差し。

 

多分、定められたレールに乗せられてる現状が気に食わないのだろう。でも、根が良い人だから、そんなことを考えてる自分に対して嫌悪感を抱き、悩んでいる、という感じかな?

 

「うーむ、現在進行形で悩んでますしねぇ…………」

「で、でも。私には吹っ切れたように」

「吹っ切れているように見えるのは、ある程度割り切ってるからですよ。自分はこういう人間である、と」

 

そうしないと、やっていけないこともあるし。

 

「それに、悩んでいるから、より良い自分を形作ろうと努力できるんだと、俺は思います」

「悩んでいるから…………」

「すみませんね、何にも力になれなくて」

「い、いえ! 別にそんなことは!」

 

慌てたように首を振るレヴィアさんに、少しクスリと笑いながら、ふと思い出した言葉を口にする。

 

「『後悔の少ない選択を』」

「…………え?」

「俺の師匠が、常々言っていました。生きていれば、何度も何度も選ぶことを躊躇うような選択を迫られると。どちらを選んでも、悔いが残るようなね。でもギリギリまで、どちらの方が後悔しないで済むかを考えて動けば、残った後悔によって過度に苛まれることなく、自分の選択に胸を張れるようになる、と。万事が万事、それで片付けられるとは思いませんが、その通りだと、俺も思ってます」

「胸を…………張れる」

「少しは参考になりましたかね? じゃ、お昼いただきまーす!」

 

何故か、家出少女の背中を蹴飛ばした気分になったけど…………まあこれは彼女だけの問題じゃ無いし、皆で悩むが良い! ウケケケ!

 




ちなみに、ショウさんの精神年齢は?
→さぁてね? 少なくとも、転生システムがあるグラールは、身体を何回かリセットできるという点を込めると、もしかしたらン百歳を超え[ここから先は切り取られました]

ショウさんの今世でも法に触れかけたの!?
→ほら、戦闘意欲を満たすためにちょっとね(実は詳しいことは考えてない)

次回もよろしくお願いします!


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セーブデータその9『Nice to meet you,Hero.(はじめまして、ヒーロー)

二年放置が目前に迫っていた中、更新を待ってくださっていた方に感謝を。ありがとうございます。


 

最初の一歩だ、『勇吾』が『ユーゴ』になるための。

 

────────厳島 勇吾

 

 

[(゜゜;)]

 

 

「発動『サムライスピリット』ォ!」

 

そう雄叫びをあげながら自分にエンチャントをかけ、二挺構えた銃剣付きの魔法銃を振り回すショウ。我先にと先陣を切る姿は正に戦士職といった様相だが、一応魔法職の筈である…………多分。いや、ちょっと自信ない。

 

なお、エンチャント魔法『サムライスピリット』は、クリティカルヒット率を大幅に上げ、受けるダメージを少量とはいえカットしてくれる特殊エンチャントである。職業の方のサムライの習得できるスキルを、デチューン版とは言え再現できるこれは、習得条件がとても厳しいことで攻略サイト内では有名だった。…………一応戦士職が使うタイプのエンチャントの筈なんだがなぁ。

 

「ッシャアッ!」

 

そして、そんなの関係ねぇ! と言わんばかりに、ショウは群れる蟻を刈り、抉り、穿つ。思った以上に周囲に体液が飛び散ってないのは、銃剣を突き刺すと同時に放つ『フレイムランス』で傷口を焼いているからか。…………リアルな世界のお陰で行動(コマンド)の幅が広がってることを認識できたことを喜びたいが…………。

 

「チィ、雑魚のクセに数だけは一丁前だな…………ハッ、墜ちろ蚊トンボォ!」

 

敵は蟻である。

 

「俺が! 俺達が! ガン○ムだ!」

 

ロボになった覚えはない。

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える!」

 

実際に燃やしてどうするんだ、炭化するぞ。

 

「俺は撃ち続けるからよ、魔力が切れねぇ限り、その先にフレイムランスはある! だから、」

 

魔力切れたところでお前が止まるはずがないし、むしろそこからが本番そうだし、お前の名前はオ○ガじゃないし、さっきからガ○ダムネタが多すぎる。

 

っと、そんなツッコミはともかく。あまりにもな敵の多さに、若干バーサーカーの入ってるショウも痺れを切らしたらしい。弾幕を張るように何発ものフレイムランスを展開し、射出。哀れソルジャーアント、爆発四散。アイテムとお金を遺し、灰となって消えていく。

 

「…………あの、師匠。ショウさんって、ウォーザードなんですよね?」

 

「……その、筈。うん、その筈」

 

イシュラの疑問も尤もである。というか、自分が一番疑問に思ってる。あの親友は、何を考えて魔法職に就いたんだろうか…………?

 

「「「……………………」」」

 

そしてイシュラはまだマシな方であり、レヴィアを始めとした他の村人達は、ショウの賢者とは思えないダーティな戦い方に度肝を抜かれていた。

 

…………嫌な予感はしてたんだ。休憩の後、ショウが『暫くは俺にやらせろ、ちょっと本気だす』って言ってた時点で。それでも、ショウのちょっと据わった目と周りの『賢者様の戦いも見てみたい』的な視線に押しきられて仕方なく。その結果がこれだ。

 

「…………あ、今後ろから襲いかかったソルジャーアントが急に燃えましたけれど」

 

「ああ、多分気配読んでソルジャーアントの真下に魔法陣作ってフレイムランスを放ったんだろうな」

 

「……あの、この間詠唱の隙について語ってましたよねショウさん。よくよく考えたら呪文唱えてないし、魔法で先手取れてますよね?」

 

「ああ、あれな。魔法に関しては分からない、いつの間にか詠唱破棄してるな。先手に関しては…………前に殴り合いで似たことをやってたな。相手の動きを予測して、その位置に攻撃を置いているらしいぞ?」

 

「何語ですか、『攻撃を置く』って!?」

 

俺も最初は何を言ってるのか分からなかった。分からなかった、んだが…………教えてもらうと案外理解できてしまうのが悔しい。

 

「簡単に言うと、先読みで攻撃を避ける…………の、発展系だよ。攻撃をただ避けるんじゃなくて、こちらも攻撃することで迎撃、反撃するってことだ。例えば、」

 

丁度視界の端でショウの撃ち洩らしたソルジャーアントの一体が妙な動きをしていたので、刀を納刀するように後ろに突き出してみる。

すると、硬い殻を突き破るような感触が剣から伝わってきた。

 

「敵の動きを予測したり、勘を極めたらこんな風に仕留められる」

 

「…………できる師匠も流石ですけど、本当大師匠って何者なんですか?」

 

本当、何なんだろうなぁ。断片的にしか聞いた覚えはないけど、自称最強の傭兵だったらしい。本当に自称なだけだったんだろうか?

 

「ふぅ、準備運動程度にはなったかな」

 

「じゅ、準備運動ですか!? あれが!?」

 

ショウが戦闘を終え、それでようやっと意識が戻ってきたらしいレヴィアが、若干悲鳴混じりで目を剥いていた。

 

「や、だって別に殺意マシマシの人工モンスターがたくさん詰まったモンスターハウスに投げ込まれた訳でもなけりゃ、即死魔法乱射してくるモンスターでもないんですよ? 騙して悪いがって言わんばかりに騙してくる依頼者がいるわけでも、高レベルのドラゴンがいるわけでもないんですよ? ましてや故郷を凪ぎ払うが如く隕石を降らせて来るような暗黒神がいるわけでも、全人類乗っ取り計画を企てる太陽王がいるわけでもないんですよ? ヌルゲーとは言いませんが、伊達に修羅場は潜って無いってことっすよ!」

 

「え、えっ………?」

 

なんだろう、途中からエターナルから別の話になってないか? そして目からハイライト消えてないか? 大丈夫かお前? あとごめんレヴィア、こっち見られても困る。

 

「…………や、本年言うと全然大丈夫じゃないんだ。思考速度に身体が追い付いてない。ほら、さっきの俺かなり遅かったろ? …………ここまで鈍ったら、流石に引退かなぁ」

 

「寝言は寝てから言おうな?」

 

俺の言葉に、その場の皆が同意したことは言うまでもない。

 

 

[(・・;)]

 

 

「……エンカウント率増えてきたな」

 

先程のショウの大暴れから皆が立ち直り、歩くこと一時間程。量はともかく蟻との遭遇回数が増えてきた。

 

「ついでに生々しい腐臭がすんな。巣が近いってことだ、助かる」

 

そう言ってショウは、疲労困憊といった様子の他の皆を見て肩を竦めた。一番最初に他の人間を連れていくことを渋ったヤツとは思えない、ビックリするほどのスパルタで皆に指示を飛ばし、時に軽い稽古をつけていた。

 

「これを期に、村周辺に生息するモンスター位は狩れるようになってもらおうと思ったんだが、これ以上は難しいな」

 

それでもこの短時間での訓練擬きは効果を出したらしく、全員のレベルが平均して5程上昇。スリーマンセルならば、ショウの指示がなくてもソルジャーアントを倒せるまでになった。攻撃スキルがなく、武器も質の良いものとは言い難い中、ソルジャーアントを倒せるのは素直に凄いことだと思う。『ギャスパルクの復活』に置き換えて考えてみると無理とは言わないが、厳しいものがあるからだ。

 

かなり厳しいことも言っていた。が、レベルアップや討伐という明確に解る形で成果が出ているためか、パーティーのショウを見る目は尊敬の眼差しだ。息も絶え絶えだけど。

 

「そういえば、ショウはクイーンアントのモーションを覚えてるか? 俺は正直、最初の方のことで思い出せないんだけど」

 

「…………クイーンアントのコマンドは5つ、通常攻撃、防御、兵隊蟻召集、スキル:酸の雨、スキル:強酸弾。兵隊蟻召集に関しては、その場にいるようなモンだから無いものと思っていいだろう。気を付けるべき攻撃は2つだ」

 

「酸の雨と強酸弾か?」

 

「ああ、酸の雨はパーティー全体攻撃。かなり強力なスキルで、皆のレベル位だとHPが一気に半分持ってかれるな」

 

そうか…………つまり、酸の雨は鬼門。使われる前に仕留める必要があると。

 

「次に、強酸弾は単体特殊攻撃。対象の最大HP1/4ダメージだ」

 

げっ、それは…………俺らにとってはキツいな。痛みもヤバいんだろうか?

 

「強酸弾を実際に喰らったことはないがなんとも言えないが…………酸をひっかぶると死ぬほど痛いぞ」

 

「あ、なら大丈夫だな。痛みが感じられる程度なんだろう?」

 

「まあな、行きすぎると痛み感じなくなるからそっちの方がヤバい」

 

しかし何故だろう、周りの視線が最初は『博識だな』だったのに途中から『正気かこいつ』って視線に変わって来たんだが。

 

「し、しかしたまげたなぁ…………賢者殿は、何処かの軍で、教官でもやられていたので?」

 

そしてそんな空気を変えるためか、息も絶え絶えな中では比較的マシらしいジャッコーさんが、ショウにそんなことを聞いた。

 

「いえ、俺の師匠がとある軍の教導官を務めてましたが、俺自身は風来坊ですね。都勤めは性に合わんので、各地を巡りながら傭兵をしていました」

 

…………よくもまあ、そんなサラサラと嘘を吐けるな。いや、もしかしたら実際にゲームでそんなプレイをしていたのかもしれないし、もっと言うと前世での話かもしれないけどな。

 

「傭兵…………雇われ、ですかい」

 

「ええ、傭兵。金を貰って殺しをするロクデナシとも言いましょう」

 

傭兵という単語に思うところがあったのか、ジャッコーさんの顔が曇る。そしてショウはそれを分かった上で笑顔で、しかし自虐的な言葉を放つ。

 

そして、続く次の言葉…………

 

…………そもそも、復讐の為に剣を取った俺はその時点でロクデナシでしょうが

 

「…………え?」

 

今、なんかとんでもないことを聞いた気がした。

 

思わずジャッコーさんと顔を見合わせて、もう一度ショウの方を見る。

 

「ん、どうかした二人とも?」

 

「え、いや、うん」

 

「な、なんでもありませんぜ賢者殿」

 

…………俺は、宮本翔のことは良く知っている。少し喧嘩っ早いが、優しくて少し不器用な男だ。しかし、『ショウ・ウォーカー』のことは良くは知らない。いくら本人が『妄想の産物かもしれんからなぁ』と言い渋ったとしても、深く聞かなかったことをちょっと後悔した。

 

「「…………ッ、止まれ!」」

 

しかし、そんな感傷に浸ることを状況が赦さなかった。ほぼ同時に俺とショウはパーティーに制止をかけ、洞窟の壁面に寄れと促す。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「あれを見ろ、巣の最奥まで来たみたいだ」

 

イシュラの質問に、現物を見てもらうことで答える。

 

通路の先の、広い空間。壁面に隙間なく張り付く青白く光る苔、ジャイアントアントやガードアント、ソルジャーアントの大群、奥の方には沢山の卵と思わしき白い物体。そして空間の中心に鎮座する、巨大な蟻…………。

 

「今からの動きを説明します、聞いてください」

 

落ち着いた口調でショウが話し始める。

 

「今からユーゴと俺であのデカブツ、クイーンアントを殺ります。その後統率個体を失った奴らは混乱状態に陥り、まともな行動を取れなくなります。つまり、経験値の稼ぎ時ということです」

 

倒せる前提だが、その心配はない。俺達は高レベルプレイヤーだし、それ以上に俺達で基本やってやれないことはない。

 

「クイーンアントを討伐終了次第、合図を出します。存分にやっちゃってください」

 

強敵を前に不適な笑顔を見せるショウ。そのお陰で明らかに萎縮していた皆もある程度緊張が解れたらしい、残ったのは程よい緊張と闘争心だ。

 

「ユーゴ、一撃」

 

「分かった、道は頼む」

 

「了解、開いて足場作る」

 

そして俺とショウで、最低限のやり取りを行う。やることも、考えてることも大体分かるから、これで充分だ。

 

「フォースシールド、シャイニングウェポン、ライフフォース、ドラゴンスピリッツ、ゴッドブレス。対ボス仕様だ、余裕だろ?」

 

かけ直しと同時に、より強い仕様のエンチャントに換えてくれたらしい。武器が真紅のオーラを纏う。

 

「サンキュ、じゃあ行ってくる」

 

そう言って、駆け出そうとする直前。イシュラが俺に声を掛けてきた。

 

「あの、師匠…………ご無事で」

 

…………いくら借り物の力を奮う偽物とはいえ、彼女達にとってはこのレベルは真実であり、正に勇者なんだ。そして、

 

「…………フン」

 

あの親友が、2度も言わせるなと鼻で嗤った。じゃあ、俺は本気で駆け抜けるだけだ。

 

「分かった、安心してくれ。俺は、」

 

強いからなッ!

 

 

[ε=ε=┏(・_・)┛]

 

 

「キテる、今正統派魔法使いの流れがキテる! 乗るしかない、このビックウェーブ!」

 

そうおどけた台詞を叫びながら、先に飛び出したのはショウ。その腕を前に構え、何事かを唱え始めた。

 

「起動『マルチキャスト』、セット数10! はぜ散れ、『マジックミサイル』!!」

 

そしてその前を躍り出る形で前に出る。剣を構えながら、しかし後ろの親友を信じて走ることに集中する。

 

後ろから幾重もの雷光が追い越し、眼前のジャイアントアントの大群を貫き、女王までの道を切り開いた。

 

それを確認したと同時に、俺は自分のステータスに物を言わせて勢い良く前に跳躍。

 

「『ウィンドファルコン』! 行けェ、ユーゴォ!」

 

そして地に付いていない脚が、風に乗る。風というには荒々しいが、この場ではそれが最適解だ。

 

「ウォォォォオオオオオオオッ!」

 

踏み締めた暴風の勢いを利用して、さらに跳躍。剣を横に構え、クイーンアントの首を目掛けて飛び上がった。

 

「その首、落とせェェェェエエエエエッ!」

 

刃が、クイーンアントの甲殻に触れた。抵抗は一瞬、凹むより速くバターの様に刃が沈み、首が胴体から跳ねた。

 

勢いを圧し殺しながら着地。振り返り、クイーンアントのHP表記を見る。そのHPバーは、全てを白に染め上げ、クイーンアントが息絶えたことを示していた。

 

…………結局、攻撃を貰うことは無かったなと思いつつ、

 

「お疲れ相棒、いい一撃だった」

 

「おう、ありがとな相棒」

 

まだまだ程遠くはあるけれど、最初の一歩を踏み出せた…………そんな気がした。

 

 




おう、どんだけ待たせるつもりやねんワレ?
→本当に済みませんでした、ケータイが殺られて執筆のモチベーション取り戻すのに時間を掛けすぎました。

なんかオリジナルの単語出てきたような…………?
→原作で出てきた魔法が全てではないと思いますので、多目に見ていただけると…………。

遅くなって申し訳ありませんでした。


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セーブデータその10『君の悩みを解体(バラ)してみようか』

あ、あはは…………ツッコミは無しだとうれしいカナー?

…………ほんっと、すみませんした。


 

なら私は、どうすれば良かったのですか。

 

 

────────レヴィア・アローネ

 

[(。>д<)]

 

 

「殲滅終了! みなさんお疲れ様でした!」

 

「「「ウォォォォオオオオオオオッ!」」」

「「おおー!」」

 

ショウさんの掛け声で、ジャッコーさん達が雄叫びをあげ、イシュラと…………その、恥ずかしながら私も、声をあげました。

 

ショウさんの言った通り、ユーゴさんがクイーンアントを倒した後のジャイアントアント達は、正しく烏合の衆と言った様相で、私達の格好の的でした。…………少し恥ずかしいですが、私の日常からは到底あり得ない非現実的な出来事を前に、少々興奮してしまい、その…………ええ、かなりはしたなく、ジャイアントアント達に杖を何度も振り下ろしてしまいました。その分レベルが一気に上がったので、悪いことばかりではないのですが。

 

しかし、それにしても…………

 

「ふー、なんか久々に全力で戦った気がするな! そういう意味では、ここに来れて良かったのかもな!」

 

「肌を艶々させ過ぎだバカ。ったく、これだから戦闘狂は」

 

やはりあの二人は、文字通りレベルが違うのだと感じさせられました。

 

道中のモンスターを、鎧袖一触と言った様相で切り刻み、あの巨大なクイーンアントを一撃の下葬り去ったユーゴさん。

 

ウォーザードとは戦士職だったのかと勘違いするほどに、ユーゴさん以上に前に出て、刃を振るいモンスターを屠るショウさん。

 

二人とも、私とそう大差の無い年頃の筈です。それが、一体どんな人生を送れば、あんな超高レベルになれるんでしょうか?

 

(…………でも、)

 

私は知りました。物語の登場人物みたいに…………いえ、もしかしたらそれ以上に強いショウさんでも、やはり普通の人と同じ様に、悩みを抱えているものだと。そしておそらく、時折自信なさげで困ったような顔をしていたユーゴさんもまた…………。

 

「それにしても、さっきの俺メチャクチャ魔法使いしてなかった? してたよな? 過去最高に魔法使いしてたよな?」

 

「道中を全て無視するんならな…………皆ドン引きしてたぞ?」

 

しかし、今の二人からはそれを感じることはできません。ショウさんの言葉を借りるのなら、『後悔の少ない選択』をし、『より良い自分を形作ろうと努力している』からなのでしょう。…………後悔を、後ろめたさを、疑問を抱えながら生きている私には、少し眩しく映りました。

 

「……………………」

 

それにしても、イシュラの言っていた通り…………本当に魔法使いらしくない戦い方をするんですね、ショウさん。おそらく、何処かの国の騎士様よりも勇猛果敢な戦いっぷりでした。自覚しているのか、必死に『魔法使いらしかったよな?』と皆に同意を求めていますが…………ユーゴさんを除き、誰も目を合わせようとしません。

 

「…………ま、魔法使いだって、前線立ったっていいじゃんか」

 

拗ねるように、そっぽを向きながらそう呟くショウさんに、思わずくすりと笑ってしまいます。外見年齢と乖離した落ち着きを纏う彼ですが(戦ってるときは別)、こうしてみると確かに『見栄を張りたいお年頃』なのでしょう。

 

「……ちっ、そんなにおかしいですかレヴィアさん?」

 

「ふふ、おかしいと思います。でも私は嫌いじゃないですよ、魔法使いらしくなくて」

 

「褒められてないでしょうそれ!?」

 

「そんなことはありませんよ、本当です」

 

本当に…………魔法使いが皆、ショウさんみたいな人なら良かったのに。そうすれば、私はあのとき嫌な思いをしなくて済んだのではないか…………。

 

なんて、もしものことは考えても栓のないことですね。

 

 

[(..)]

 

 

ドロップアイテムやお金を回収し、ショウさんの脱出魔法で巣穴から出てきた時には既に陽の光は空になく、無数の星が瞬いてました。

 

「…ライト付けなくても良いくらい明るいな、星の光ってのは」

 

「え? 空を覆うような森の中ならともかく、そういうものなのでは?」

 

「あ、いや、そうか…………普通はそういうものか」

 

空を見上げ、思わず溢したショウさんの言葉に疑問を覚えます。旅人にとって、一部の星は方角を示す大事な道標です。そうすると、嫌が応にも他の星を見ることにもなるのですが…………まるで、今初めて見たと言ったような台詞でした。

 

「俺も、ユーゴも、星の光が満足に見えない場所から来てるんですよ。街は夜も眠ることなく明かりを灯し、空まで照らしてしまう。そのせいで、夜にちゃんと見える星なんてそう多くはないんです。だから、ちょっと驚いてしまって」

 

「空まで照らす、明かり…………」

 

その光景を、見てみたい気もしますが…………空に星が少ないのを想像すると、少し寂しい気がします。

 

「それにしても…………牛飼い座、乙女座、獅子座。アルクトゥルス、スピカ、デネボラ。繋いで春の大三角。…………天体は、地球と同じなのか? だというのに、割とこういうのでメジャーな星占術士はエターナルには存在しない、少なくとも『ギャスパルクの復活』には無かったし…………概念がないのか、あるいはドマイナーなのか(ブツブツブツブツ)」

 

「あ、あのショウさん?」

 

急に考え込む様に空で何かを探し、見つけたと同時にまた考え込み、ブツブツと何事かを唱え始めました。端から見ていると…………その、病人と見間違う程の真っ白な肌と紅い左目とが相俟って、凄く危ない人に見えます。

 

「っ? あ、ああごめんなさい。気になることがあると考え込むのは、俺の悪い癖ですね」

 

「は、はぁ…………」

 

そう言って恥ずかしそうに頭の後ろを掻くショウさんに、私は生返事を返すしかできません。

 

…………あれ? 今更ながらショウさんの容姿を、ちゃんと確認できたような気がします。なんというか、それまでの印象があやふやで、よく思い出せません。本当に、同じ年の頃の男性としか…………。

 

「ショウさん、その肌と、その眼は…………」

 

「…………ん? ああ、切れたのか。まあこの見た目がバレたところで困ることはないんだけど」

 

そう言って、ショウさんの右の黒目が紅に染まり…………

 

「まあ、俺のちょっとした秘密です。隠してる訳でも無いんですが、積極的にばらすつもりもないんで、ちょっと幻影魔法で認識阻害をちょちょいのちょいと」

 

なんと、形容していいのか…………。それなりに整った顔立ち、死人の如き肌の白さ、妖しく光る紅の双眸…………浮世離れした、何処か現実味のない容貌で…………。例えるなら、幽霊(ゴースト)の様な…………。

 

「あ、あの…………し、しし、死んでる、というわけでは、ないですよ、ね…………?」

 

「あははははは! レヴィアさんってば、面白いことを言いますね。死んでたら、上のバー無いでしょうに」

 

「あ、それもそうですね……あは、あははは…………」

 

…………何故だか、どっと疲れました。で、でも、世の中には元は人間だった不死者(アンデッド)というタイプのモンスターもいると聞きます。疑ってしまうのも仕方ないと思います…………ええ。

 

しかし、これだけ特徴的な見た目をしているということは、もしかしたらショウさんは人間ではなく、エルフやドワーフといった別の種族の方なのかもしれませんね。…………昨日ステータスを見せて戴いたときには、ウォーザードの文字しか目に入ってこなくて見逃してしまいましたが。

 

「あ、あの……ショウさんは人間ではなくて、その……」

 

「ええ、もう人間じゃなくなりました。元、と付きますね」

 

「元、ですか?」

 

それは…………おかしいはずです。種族は、生まれた時に決まるものです。まるで後天的に変わった様に言っていますが…………

 

「率直に言うと呪われたんですよねぇ、邪神の類いに。それまで積み上げてきたものを台無しにされた気分でした」

 

「…………!」

 

その言葉と、それまでのショウさんの言動が、妙に噛み合った様な気がしました。つまり、ショウさんは元は戦士職の方であり、何らかの要因で邪神から種族すら変えられる程の呪いを受け、そのせいで戦士を続けることができず、否応なしに魔法使いとしての道を歩むしかなくなった…………。単なる想像ですが、なんだかしっくり来ます。そうでなければ、あのように我先にと剣を振るような魔法使いが生まれるわけがありません。

 

「…………余程、苦労されたのですね(魔法使いとしてのやり直すために)」

 

「んー、確かに苦労はしましたね(あまりにもな虚弱体質に)」

 

…………あれ、何故でしょう? 意志疎通に失敗してすれ違った様な気がしてなりません。

 

 

[(・・;)]

 

 

「……………………あ」

 

…………皆も寝静まる真夜中。

 

村に戻れば、村を挙げてのお祭り。村の広場の中心で火を焚き、それを囲んで飲んで食べて、勇者を称え、神に感謝。

 

あの二人を中心に盛り上がる皆を、私は外れたところでそれを、どこか遠くのことのように眺め…………気が付けば、何もなかったように、終わっていたのでした。

 

今日は、とても楽しかった。これまでの人生の中で…………もしかしたら、村長として神官として生きることを定められているこれから先の人生の中でも、一番の出来事なのかもしれません。

 

だからこそ、皆の和の中に混じることが出来なかった。これで最後にしたくない、という溢れてはならない感情が、何度も何度も私の耳に『これでいいのか』と囁くのです。そのせいで上手く笑えない私があの輪の中に入っても、異物になるだけ…………。

 

そもそも私は本当に、200年続いたアローネ家の長女として、神官の跡取りとして、次期村長として、相応しいのでしょうか? 以前、あの魔法使いから嫌がらせを受け、『自由になりたい』と自分の定められた人生に疑問を抱く様な私に。

 

逃げ出してしまえ、と本能が叫ぶ。本心を押し殺し、凍りつかせるのは何よりも辛いことなのだと言う。

早まるな、と理性が嗜める。迷いを抱え、それでも正しく生きようとする意思が貴いのだと言う。

 

迷う私の疑問に、誰も答えてはくれない、聞くこともできない。疾く全てを知る風の神、アローネ家が代々神官を務めてきたファドラも、祈っても何も答えてはくれません。

 

(…………『後悔の少ない選択を』『より良い自分を形作る為の努力を』)

 

でも、魔法使いらしくなく、しかしあらゆる出来事を経て生きてきた様な、妙な落ち着きを持つ賢者の言葉が、この迷いに光を差し込んでくれたのです。

 

…………おそらくこれからしようとすることは、より良いとは言い難い、寧ろ、悪の道でしょう。でも、私はそもそも『生きて』いない。自分の人生に、自分の意思がないのです。誰かの引いた線の上を歩く努力はしても、そもそも自分のための努力をしていないのです。このまま燻らせていたなら私は…………一生を後悔に苛まれます。

 

(…………今しか、ない。村を出るのなら、今しか、ない!)

 

以前にも、同じ事をしようとして…………その時は理性が打ち勝ち、また状況もあってか実行に移すことはありませんでした。

ですが今は、本能を止められず、村が寝静まる真夜中という状況もあって…………まるで運命が、私の旅立ちを後押しするかのようでした。

 

準備をしましょう、幸い以前の準備が…………最低限の旅の装備と、お金を詰めたバッグ、そして用意して使うことの無かった書き置きが、家の、私の部屋に隠してあります。

 

音を立てないように、慎重に…………慣れ親しんだ村が、まるでダンジョンの様に思えます。

 

民家の間を歩き、神殿の戸を開き、そして…………

 

 

 

 

 

 

 

Bonsoir mademoiselle.(こんばんわ、御嬢さん)

 

 

 

 

 

 

意味のない音の羅列…………その筈なのに、私には確かに『こんばんわ、御嬢さん』と言ったように聞こえました。

ですが、問題はそこではなく。

 

「そんな浮かない顔をして…………はいないですね。んー、折角の『賢者(サヴァン)』だからやって見たかったんですが…………上手くはいかないものですね」

 

「ど、どうしてショウさんが…………この神殿に?」

 

明かりのない神殿の隅でショウさんが、不敵に笑って佇んでいたのです。

 

「どうしてもこうしても……レヴィアさんがあの宴会に混じってなかったから、ですかね?」

 

「…………ふ、ふふふ。そう、ですか。全く、皮肉なものですね」

 

貴方の言葉で、背中を押されたのに…………他ならぬ貴方が、私を止めようとするなんて…………。

 

「ん? んんん? ああ、そう言う風にも取れるのかこの場合。想定外だ」

 

「…………どういうことですか?」

 

「説明するより、見せる方が早いですね。とりあえずこれどーぞ」

 

そう言ってショウさんは、私に麻袋を手渡して来ました。手に乗せられた瞬間、ジャリという金属の擦れる音が、その中身を教えてくれました。

 

「あ、あの…………これ、は?」

 

「4000G、どこ行くにしても先立つものは必要でしょう? ああ、先に行っておきますけど、その気になれば簡単に稼げる額なので、気にしないでくださいね? こんなの、爺が孫にお小遣いをやるようなモンです」

 

「どうして、ですか? 私は今から……」

 

「分かってますよ、家出予定少女。何せ、背中を蹴飛ばしたの俺でしょう?」

 

…………全て、お見通しというわけですか。

 

「何が、目的なのでしょう?」

 

ここまで来ると、逆に疑いの方が深くなります。ショウさんは、この男は何を企んで、私を家出させようとしているのか。今からその立場を捨てようとする私が言うのもおかしいですが、利用価値はあるのですから。

 

しかしこの男はそれすらもお見通しなのか、くつくつと愉快げに笑うだけ…………。

 

「くくっ…………少しは安心しました。それぐらいの危機感がないと、すぐに不幸に見舞われてしまいますからね。外の世界は、君が思う以上に危険だ。この村で、蝶よ花よと大事に育てられてきた君では、想像もつかない位の悪意に満ちている」

 

無論、そればかりではないが…………と言って、笑みの浮かんでいた顔を、鋭い物に変えました。

 

「家出少女、先に行っておくが後悔するぞ。俺は君でないからその胸中は分からん。が、このまま自分を押し殺す方が後悔すると踏んで、今に至るってのは想像できる。だが、故郷を捨てることで後悔する可能性を、ちゃんと考え抜いたのか?」

 

「……………………」

 

何を知ったように、という言葉と、旅をしている貴方が言うのか、という言葉が浮かび…………しかし沈みました。彼の真剣な表情は、いかなる反論も許さないと言っている様でした。

 

「自分のやりたいようにやって、自分の因果、自分の不幸で自分を殺す。成る程これなら諦めもつくし、納得の終わりだろう。だが、自分の因果、自分の行動で、誰かを不本意に不幸にさせたとき、君は後悔しないのか?」

 

「それ、は…………」

 

「この村のことは良く分からんが、君が居なくなることで不幸になるのは予言の必要もない位に確定的だ。まず君の父上は悲しむだろう、君の妹も悲しむだろう、村の皆も悲しむだろう。塞ぎ混んで、重い病気にかからないといいがな。そればかりか、君を探しに村を出る者もいるだろう。そこで不幸な事故に遭わないとも限らない。世の中、何が起こるか解らないんだからな。君の妹には君が担う筈だった役割を押し付けることになるだろうし、もし旅先で君が死んだ場合、君の父上はもしかしたら後を追うかもしれない。…………これは起こり得るだろう予想の触りだが、ここまで考えたか? もし考えたとして、その覚悟で踏み切ったのか? 答えろ、家出少女」

 

…………分かっていました。頭のどこかで、そういう確信はありました。でも、それを考え始めると辛くなって、気が付かないふりをして。

 

でも、なら、私は。

 

「なら…………私はどうすれば良かったのですかッ! どうしようもなく身勝手だと! どうしようもなく悪いことなのは分かってます! でも…………私だってどうしようもないんですよッ! このままだと、後悔しかない! 何がしたいんですか、何がしたいんですか貴方はッ! 肯定するようなことを言っては、否定するように諭してくる! 私を、迷わせたいのですかッ!」

 

「うん、迷わせたかった」

 

「何故ですか!? 私が悩む姿を見て、楽しみたかったとでも!?」

 

息を切らして叫ぶ。涙も、溢れてきました。何も知らない癖に、私の心を引っ掻き回すこの男が、心底憎く思えたのです。

 

「……後悔して欲しくないからね」

 

「…………え?」

 

「後悔して欲しくないから。だから、しっかりと考えて貰う為にも、迷わなくちゃいけないと思ったんだ。見て見ぬふりをした現実も直視した上でね」

 

そう言ってショウさんは、苦虫を噛み潰した様な顔で語り始めました。

 

◆◆◆

 

馬鹿なガキの話をしよう。

 

そのガキは、故郷を災害で失った孤児でね、その災害が人為的なものだと分かると、すぐさま復讐に奔った。

 

そして復讐に奔走する中、後にガキが師匠と慕う女に拾われた。

 

最初は冷えきった関係だったが、徐々に仲は深まる。寝食を供にし、時には稽古を付けてもらい、四六時中一緒にいたんだ、余程問題がなければ自然な流れだった。

 

ガキはその女を師匠とは呼ぶも、自分の親代わりだと、母親の様だと感じるようになる。それは女の方も同じだった。

 

が、コレがガキの心を悩ませることになる。

 

ガキはある時気が付いた、復讐の念がある程度治まってしまったことに。故郷のほぼ唯一の生き残りであるガキは、そのことに申し訳がなくなった。自分一人だけが生き残り、細やかな幸せを享受しているこの状況が、赦せなかった。

 

だがしかし、それで女を捨てて姿を眩ませようとするには、過ごした時間が長過ぎた。情が移るなんてモンじゃない、間違いなくその女はガキにとっての母親になってたんだ。

 

だから、ガキは考えることをやめて、女を捨てた。あれこれ理由を付けて自分を正当化してな。

 

考えることをやめて、復讐に取り憑かれて走る。しかし後悔だけは足元を泥濘の様にし、風の噂で伝え聞く母の様子に心を痛め動きを鈍らせ…………。

 

結局ガキは復讐も果たせず、死んだ。最後に、自分が捨てた母親に懺悔しながらな。

 

◆◆◆

 

「不様過ぎて、一周まわって笑えなくなるくらい、馬鹿なクソガキだったよアレは。というわけで盛大に笑ってくれ、アッハッハ!」

 

笑えるわけがなかった。笑えなかった。それは、この先の私の未来を暗示するかの如き内容だからという訳でなく…………なんとなく、その『ガキ』というのが誰のことなのかを、朧気に察してしまったからでした。

 

「まあ、だから、うん。この話で何を思うかは知らないけどサ。よくよく悩んだ方がいいと思うナー」

 

そう言って彼は神殿を後にしようとして、ふと立ち止まり、ああそうそう言い忘れてた、と振り返り、口を開きました。

 

「君の問題は君だけの問題じゃない。こうやって俺が口出ししたけど、これって親しい人が気が付いてもいいと思うんだよ。君は身勝手だ、でも同じくらいに優しい。だからね、子供のように怒ってもいいと思う、というか君はまだ子供なんだし。さっきみたいに泣きわめくのもいいし…………ほんのちょっと家出して、戻ってくるでもいいし?」

 

「あ…………」

 

「最終的に、どんな着地になるかは神ならざる俺には分からないけれど。自分も、周りもこの問題を考えさせる様な状況を作るのは、悪くないと思うんだ。じゃ、おやすみなさい。家出少女、悩んで悩んで悩みまくるがいい」

 

…………まるで、嵐の様でした。言いたいことだけを言って、そして唐突にいなくなる。でも、私の心に掛かっていた靄も、吹き飛ばされた様でした。

 

「……………………よし」

 

…………村を出ていくのは、とりあえず保留にしておきましょう。務めを放棄するにしても、なるべくしこりは残したくありませんから。

 

ですが、それとこれとは話は別。少しぐらいは…………我が儘をしてみたいと思います。

 

私は、心持ち軽くなった足取りで自分の部屋に向かい、支度を始めるのでした。

 

(…………やっぱり、変な人。でも、)

 

ありがとうございます、賢者さま。

 

 

◆◆◆

 

お父様、イシュラへ。

 

少し家出します、一週間程で戻ってくるので安心してください。

 

レヴィア・アローネ

 

◆◆◆

 



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セーブデータその11『嫌われる勇気!』

原作で無人島(そうではなかったけど)に遭難したさい、ユーゴくんは蒸気機関を作ろうとしていました。

…………つまり、知識と材料があれば、作れるんだな?(ニヤリ)


謝らんぞ、謝ってたまるか。

 

 

────────宮本翔

 

 

[( ̄^ ̄)]

 

 

翌朝のことである。

レヴィアさんが家出した。書き置きに『一週間で帰ってくる』と書き残したそうな。

 

まあそれだけなら、なにも問題は無かった。いや、問題はあるが、それは俺の問題じゃないし、村の皆で片付けていく課題だろう。

 

問題は、昨日レヴィアさんが泣きわめいていた声を、夜中に目を覚ましたイシュラちゃんに聞かれてしまったということだ!

 

流石にただの家出教唆扱いされるのは勘弁なので、かくかくしかじかと説明。いや、家出教唆したのは確かだし、もうちょいやりようはあったと思うから、そこに関しては悪く思う。

 

「ですが、レヴィアさんに家出教唆したことは絶ッ対謝りませんから」

 

「なんでですかショウさん! これ絶対ショウさんが悪いですよね!?」

 

そして、この神経を逆撫でするような発言に反発したのはイシュラちゃんだけという。オランドゥさんは妙な顔をしてるし、騒ぎを聞き付けた村の人たちも表情は優れないが、俺にかける言葉はない、といった感じだ。

 

「まあ確かにね、余計なことした自覚はあるよ。考え無しと罵ってもいいさ。それは俺の落ち度だし、仕方ない。でもね、じゃあ聞くがイシュラちゃん、君はレヴィアさんが家出どころか、この村を捨てて出ていこうと思う程に追い詰められていたの、知ってたか? 昨日、君が聴いていたんだろう? レヴィアさんが泣くほどに取り乱したこと」

 

「うっ…………そ、それは」

 

「まあそれは、君に嫌な思いをさせまいとする、あの娘の愛だとは思うけどサ。それでも、思い詰めた様な顔をしてる場面はいくらでもあったろうよ。少なくとも、風来坊の俺が気が付くレベルだ、家族の君が気が付かないわけがない」

 

「……………………」

 

「勿論、だからと言って何も言えなかったあの娘に問題はある。ついでに言うと恵まれた環境なのに我が儘だなとも思う。だけどね、それを押さえ込もうと思う程度にはあの娘は優しいし、その優しさで押さえ込めなくなるまで追い詰められてたのを気が付けなかった、もしくは分かっていたけれど放置してしまった君や、村の皆にも責任がある様に、俺は思うがね」

 

白い目で見渡す。ちょっと自覚があるのか、この場の皆が面白いように目をそらした。

 

「…………でも、ショウ。そのことがお前の行為を正当化する理由にはならないぞ」

 

「分かってる、分かってるともユーゴ。正当化した覚えはない、寧ろ拗らせた分彼らより罪は重いのかもしれん。だか悪いとは思ってるが謝らないだけだ」

 

「余計最低だな!?」

 

誰も口が開けなくなったので、ユーゴが助け船を出すが、開き直ってる俺には悪手の一言だ。

 

「それに拗らせたとはいえ、村に別れを告げて蒸発されるよりは、余程穏便にことを済ませた自負はあるんだけど? や、その事で恩着せがましくするつもりはないし、どう考えても俺やらかしてるけど」

 

「じゃあ……じゃあ、どうして…………」

 

少し声を震わせて、イシュラちゃんが俺に問う。どうして、悪いことだと分かっていてそうしたのか、かな?

 

「悪手だと分かっていても、そうすることでしか俺はあの娘の心を救ってやれなかったからだ。これ以上あの娘の心を軋ませるのを見逃すわけにはいかないと思ったからだ。例え不幸な事故に遭おうとも、心が死ぬよりはマシだと、俺は思ってるからだ」

 

「姉様の、心を…………」

 

「…………まあ、なんだ。それでも危険地帯に送り出したのはその通りだから、もしこれで何かあったとしたら、俺を恨んでくれていい。俺のせいだ。謝らんけど」

 

何かあった場合、村の誰かのせいにするわけにはいかないからね…………これでヘイトを集めておけば、村の皆は自分を責めなくて済むだろう。唆したの俺だし、俺のせいにするって方向で精神の安寧を計れる。んんー、我ながら策士じゃないか!?

…………あ、ユーゴにバレてる? ごめんて、いつも通りで嫌われようとしてるワケじゃないんだって。だからその震えてる握りこぶしを下ろしてくれないカナー?

 

「それに、万が一の対策もしてあるし、余程のことはねーでしょう。…………っと、誰かこの辺りの地図もってないですか?」

 

そういうと、昨日も蟻の巣駆除についてきてくれた雑貨屋のエドさんが、一枚の紙の地図を持ってきてくれた。

 

「ありがとうございます。では失礼して…………『サーチ』」

 

そう言うと、地図の上で赤い点が『ここにいるよ!』と主張せんとばかりに現れ、光った。

 

「ショウ、これは?」

 

「特殊魔法『マーキング&サーチ』。本来は世界各地を飛び回る、戦闘からも逃げるようなモンスターにマーキングして、それを地図で位置を確認するためのものなんだ。人間にはマーキングを付けられないんだけど、持ち物には使えるっていうことが判明したからね、先立つものが必要だろうと渡した4000Gを詰めた麻袋にマーキングしておいたんだよ…………これ使えば、誰かがそれとなーく監視して、何かあれば対応できるだろう? 正直ストーカーみたいで好かんがね」

 

そして地図を見る限りだと、レヴィアさんはこの村の隣にあるメルダの街を目指して歩いてるらしい。隣、と言っても結構距離が離れているみたいだから…………走ったり乗り物使えば十分に追い付けるな。

 

「そしてこの魔法の性質上、俺がこの地図を持っていなければいけない。だからもし、皆がレヴィアさんの様子を見に行くというのなら、喜んで同行しよう」

 

そう言うと、皆が何処かホッとしたような顔をした。

 

「だが、仮にレヴィアさんを連れ戻そうとするのにこの地図を使うというのなら、俺はそれを邪魔しよう。なんなら、マーキングをすぐにでも消す。俺が唆した結果だが、これは貴方達への叫びだ、辛かったんだというあの娘からのメッセージだ。それを台無しにさせるわけには、いかんな。…………若造が、何を偉そうに、余所者の癖に、と思われても仕方のないことだとは思うし、自覚もある。だけど、その余所者が動くしかないと思う程度には危険だったんだということは、覚えておいてほしい。以上、俺は俺の方で出発する準備を整えておくから、どうするか相談しておいてくれ」

 

凍りついた空気に大満足すると同時に、こりゃ決定的に嫌われたかなという確信。ふぅ、全く。嫌われものも楽じゃないね。

 

 

[┐(´~`;)┌]

 

 

さて、そんなこんなであの場に、あの村に居辛かったので、逃げてきた先は例の俺が組み立てた木造ハウス。特殊な加工を忘れていたのでジミーに土台が腐食しているような…………まあ所詮小学生の図画工作レベルだし、是非もないよネ!

 

さて準備をすると言った手前、本当に準備はしなくてはならない。

 

「と、いうわけで、レッツ『異世界舐めんなファンタジー』たーいむ!」

 

…………はっちゃけた俺の声が、すこしやまびこのように響いた。うん、テンションあげようと思ったんだが、思った以上に辛いなこれ!

 

そして、異世界舐めんなファンタジータイムとは言ったが、参照する知識は地球だけじゃなくて、俺の前世知識も含めてである。正直前世は地球からしてみるとスペースファンタジーだから、正直異世界舐めんなファンタジーとは言い難い。

 

まあそれはともかくだよ。

 

乗り物と聞いて、普通の人は何を思い浮かべるだろうか? まあ、普通に考えたら車とか、飛行機だよね。

 

というわけで、車を作ってみようと思う。速度的には飛行機の方が速いが、ドラゴンとか、翼を持ったモンスターでもないのに空を飛んでたら目立つ、めっちゃ目立つ。それは宜しくない。車なら、作り方次第で最悪馬車に偽装できるしね。

 

まず、エンジンを作るための金属が必要である。あ、燃料? そんなもの、爆発させりゃいいんだから魔力でどーとでもなる。というかこの辺りはグラールのフォトンリアクター技術を代用しよう。

 

で、金属。残念なことに、この辺りで鉱山はないし、俺の職業は錬金術師というわけでもないので、多少の錬金はできるものの、金属を生成するとなるとちょっと厳しい。

 

でもひとつだけ、簡単に金属を、それでいて頑丈な物を生産できる魔法があるのだ!

 

『メタルストライク』

 

無属性魔法。大体10メートルの金ダライを集団の頭上に落とし、無属性魔法ダメージと確率でスタンを与える、ネタ色の強い魔法だ。しかしその割にMPの消費が控えめということもあり、『ギャスパルクの復活』では重宝した魔法である。

 

で、ここで大事なのが…………この金ダライ、当たったあとはどうなるのか。

 

「ふぅ…………『メタルストライク』!」

 

ドシン! と音をたててタライが家の前に落下。漫画よろしく、家と俺が衝撃で上にびょん! と跳んだ。

 

そして…………タライは消えない! 金属として、ここに在る!

 

「っし! 材料には困らんな!」

 

この魔法が、リアルエターナルでどういう仕様なのか不安だったが、消えない仕様で良かったぜ。

ん? 車作るのは仕様的に問題ないのか? 問題ないに決まってるだろう、銃作れたし。それになんでもかんでも魔法で作ってるってわけでもないみたいだし、こうやって技術を駆使して物作りができないわけがない。ゲームの様なリアル最高。

 

「ふっふっふっ…………大体の魔法を修得できるウォーザードを舐めるなよ…………!」

 

心底楽しくなってきた俺は右手で炎魔法を待機させながら、どんな車にしてやろうかとニコニコするのだった。

 

 

[(* ̄ー ̄)]

 

 

「おーい、ショーウ。こっちは準備できた…………ぜ…………え?」

 

「おーユーゴかー。見て見てー、車ー!」

 

一時間経っただろうか。もうその頃にはエンジンを完成させ、その辺の木で適当に外装を組み上げつつ試運転。するとかなり揺れることが判明したので車輪にサスペンションをつけ、樹からとった樹脂を魔法を使って加工し、なんちゃってゴムをつくり、木製の車輪にわからないよーにコーティングし、大分マシになった。外枠は最初の予定通り馬車に見せかけたもの。中でハンドルやブレーキ等と言ったものがゴテゴテと設置してあるが…………そうそう中を見られることもないし、最悪幻影魔法で騙すからいいよね? ね?

 

ちなみに塗装も完璧である。ゲームではイベント以外であまり使いどころの無かった特殊魔法『ペイント』を使えばそれっぽく仕上げてくれた。なんとなーく、ゲームで使えていたものはゲームの仕様に沿った形だけど、ほとんど使えなかったものは、リアルに沿った形に合わせてあるんだな。…………ん? どっちなんだろう? なんとなーくゲームよりこっちのリアルエターナルの方が先な様な気もするが…………今気にすることじゃないな、うん!

 

ちなみにこの試作機、アイテム扱いらしい。名前を『馬車型試作魔導自動車』。まんまかよ、と突っ込んではならない。

 

「…………ショウ、それ、なんだ?」

 

「え、車だけど?」

 

 

この直後、俺は二次創作にありがちな知識チートの問題点を交えて10分ほど説教されることとなった…………解せぬ。

 

 

 




…………毎度のことながら、本当にすみませんした!


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