ドジっ娘*番外編 (ひばりの)
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*プロフィール
キャラクター紹介です。
今回のターゲットは、花内まりや、東山春奈、新垣燕太、花内蒼哉、花内馨子。
本編が進むに連れ設定を追加するかもしれません。
それでは、こんなキャラクターたちをこれからどうぞよろしくお願いします。
*
年齢:中学一年生の13歳
学年:一年A組
誕生日:3月19日
血液型:O型
身長:155cm
容姿:栗色の髪と瞳、セミロング。毎日頭に違うカチューシャをしている。
キャラクター:本作の主人公。自他共に認めるドジっ娘。天真爛漫なごく普通の並中生、だと信じたい。ナイーブすぎて結構残念なビビリキャラ。たまに見捨てたりもする。しかし温厚な一面もあって、結構涙もろい。よく周りに振り回されて散々な目に遭ってたりする。濃厚なキャラの面子にツッコミを入れることが多いが、たまに母親譲りの天然も発揮する。
家族構成:父、母、弟が1人と愛犬
愛犬の名前:ポチ
愛犬の犬種:茶色のポメラニアン
好き:可愛いもの、平和、子ども、小動物、スイーツ、バトミントン、
苦手:咬み殺されること、風紀委員、オカルト、雷、死ぬ気モードツナ
仲のいい原作キャラ:雲雀恭弥(?)、草壁哲矢、Dr.シャマル、笹川京子、三浦ハル、イーピン、ランボ、フゥ太
本人からの一言:「咬み殺さないでください!!(泣)」
*
年齢:中学一年生の13歳
学年:一年A組
誕生日:5月10日
血液型:B型
身長:152cm
容姿:クリーム色のボブヘアー。青空のように澄んだ水色の瞳。所謂、美少女である。
キャラクター:クラスメイトのE太君からの証言、「死骸やら死体やら目の当たりにして鼻鳴らして興奮しやがる、オカルト変人の究極系」となんとも残念な子である。根っからのボケ体質で周りを全然見ない。『雲雀恭弥の謎を捜索し隊』の設立者兼ね隊長。我が道だけを突っ走る暴走車として、本編では良くも悪くも活躍してくれることだろう。
家族構成:父、母の3人家族
好き:オカルト・ホラー・ミステリーなんでも来い、情報、報酬、秘密や弱みを握ること、ゲテモノ、ヴァイオリン(習っている)
苦手:細かい作業、運動、料理(本人苦手と自覚なし)、恋愛沙汰(それで他をいじるのは好き)、無駄にうるさい奴、無益・無価値
仲のいい原作キャラ:笹川京子
本人からの一言:「さぁ、諸君! 我が隊に入隊して共に雲雀恭弥の丸裸を目指そうじゃないか! ってなワケでさっさと私に跪きなさい!」
*
年齢:中学一年生の13歳
学年:一年A組
誕生日:8月1日
血液型:A型
身長:174cm
容姿:濃紺の髪に翠の瞳、それなりにモテる奴。サッカーをしているが、それにしては雰囲気が爽やかではない。
キャラクター:サッカー以外は特にやる気を持たない。実はある意味の問題児だったりする。根っからのツッコミ体質であり、周りには振り回されてばかりである。よく「不憫少年」の形容が用いられるくらい、ここでは苦労人のようだ。ドンマイである。
家族構成:父、母、3人の姉を持つ
好き:サッカー、睡眠、料理(得意)、醤油ラーメン
苦手:オカルト、雨、自分に好意を持つ異性(姉たちのせいで一時期重度の女嫌いだった)、山本武
仲のいい原作キャラ:山本武(ライバル?)
本人からの一言:「あ? ……別にねえよ、パス」
*花内
年齢:小学五年生の10歳
誕生日:1月8日
血液型:O型
身長:138cm
容姿:少し癖が残った栗色の髪、すみれ色の瞳。
キャラクター:まりやの弟。生意気盛りのやんちゃな少年。まりやや他人にもヘラッと生意気口を叩く。気ままな性格にしては芯は一心で、かなりの負けず嫌い。自分が信じる者にはまっすぐで忠実である。
好き:雲雀恭弥、ゲーム、機械操作、小動物、最強や一番
苦手:勉強、オカルト、辛いもの、ねーちゃん
仲のいい原作キャラ:雲雀恭弥(かなり一方的)
本人からの一言:「ねーちゃん、邪魔」
*花内
年齢:(よくあるシークレット。でも、30代半ば……… ゲフンゲフンッ)
職業:専業主婦
誕生日:9月4日
血液型:A型
身長:164cm
容姿:ゆるふわロングの明るい髪に、黄緑色の瞳。歳の割にはかなり若く見られる。
キャラクター:究極の天然系主婦。実家は名家の次女。何事にも動じず、全てを素直に受け入れてしまう。まりやの天然は8割方彼女からの遺伝である。かなりの乙女思考の持ち主。
好き:家族、世話焼き、家事、子ども、おしゃべり、恋愛沙汰、生花、茶道
苦手:G(黒い悪魔の方です)、雨や雷などの悪天候、機械系(未だに洗濯機の使い方が分からない)
仲のいい原作キャラ:沢田奈々
本人からの一言:「ふふっ、まりやちゃんたちをどうぞよろしくね」
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ドジっ娘生態一日観察記録
まりやの誕生日企画で書いたものです。
というのを前にも言ったような記憶が……w
使い回しで申し訳ないw
その日――雲雀は応接室のソファーに深く腰を置き、一人物思いに耽っていた。
雲雀は、とある女子生徒のことをふとした時に思い浮かべ、近頃は知らず識らず溜め息を吐く回数が多くなっていた。
雲雀を悩ます少女の名は、花内まりや。
今年新たに並盛中学校に入学を果たした極々平凡な草食動物……――かと思いきや、彼女には普通の草食動物にはないある
そして、少女のことを雲雀は『ドジっ娘』と呼ぶ。
他に類を見ない究極のドジ体質であることから、雲雀は彼女を一種の『珍獣』と見て、日々自身や並盛に危害がないかを心配していた。
そんな彼女のことを、雲雀はいつしか考えずにはいられなくなっていた。
気づけばこうして彼女のことを考え、思い悩む日々。
彼自身もそんな自分に飽き飽きしていた。
そして、ついに行動に出るのであった。
「わからないなら調べ上げるまでだ。彼女の生態を洗いざらい掴んで…… 咬み殺す」
腰を上げると雲雀は確固たる決意を胸に、机へと向かっていった。
********
翌日の早朝――雀の鳴く声が快晴の空に響き渡り、雲雀はいつものように学ランを肩にかけ物陰に身を潜めていた。
普段の彼ならこの時間にはまだ眠気が覚めず大欠伸の連発だが、昨日はこの日のために10時間の睡眠をたっぷりと取っていたので、今日の彼のコンディションは万全である。
切れ長の鋭い双眸で、彼は物陰からある民家の玄関をじっと眺めていた。
カチャリと、玄関のドアが開かれる音がする。
来た、と雲雀は固唾を飲んで、玄関のドアから出てきた人物を片時も目を離さず追った。
今日は黄色いリボンのカチューシャを頭に装着して登校するまりやの姿を視認し、雲雀は彼女の後を隠れてこっそり尾行するつもりだった。
所謂"ストーカー行為"だが、彼がそれに気づくことはない。
そんなものは彼の脳内辞書に載っていない項目の上、彼がそうすることを咎める者はここにはいない。
従って本人も気づいていない内にストーカー行為が始まってしまったのだが、開始早々問題が発生した。
「へぶぅッ!」
玄関を出た早々、道端に放置された犬の糞を豪快に踏んだ上に滑って自爆していた。
頭をもろにコンクリートの地面に強打したらしい。転けたままの態勢で悶えている彼女の姿を、雲雀は呆然とそこから眺めた。
雲雀はふと思った。
果たして自分のこの行為に、意味はあるのだろうかと。
********
気を取り直し、すでに授業が行われる1-Aの教室前に佇んでドア越しにこっそりと花内まりやの観察に入ってみた雲雀。
教室の後方のドアから気配を薄め覗いているので、授業を受ける生徒や黒板に向かう教師に感づかれる心配はないだろう。
監視カメラで彼女の生態を観察する気は毛頭ない。
画面越しに対象を観察するなど、もしもの時にすぐに手が出せないことから、少々の危険は顧みずに雲雀はこうして一種の犯罪行為を続行していた。
ちなみに、風紀委員会の仕事等は昨日のうちに全て片しておいてあるので、今日の彼は思う存分気になる彼女の生態を観察できるということで、機嫌はなかなかの上々であった。
しかし、今が授業中ということで、ターゲットの方は行動もなくクラスの草食動物たち同様普通に授業を受けている。
正直見ていてつまらない。
教室に集う草食動物の群れをただ眺めるなど、彼にとっては拷問とも呼べる。
咬み殺したい衝動はあるが、そうなれば本来の目的である"生態観察"ではなくなり、また相手にこの行為が感づかれる可能性もある。ここはぐっと堪え、おとなしく観察を続けた。
だがそこに、思いも寄らない事態が発生する。
一人の男子生徒が立ち上がると、教壇に立つ教師に告げる。
「先生ー、トイレ」
一瞬ワッと教室に笑いが起こったが、教師がひとつ咳をしてそれを許すと、その男子生徒は気だるげに、歩みを雲雀が潜む後方側のドアへと進める。
雲雀は焦った。自分がここにいるのは明らかにおかしい。
しかし、今ここを去れば生態観察に支障が生じる。一秒足りとも彼女のもとから離れその生態を見逃すわけにはいかなかった。
そして、雲雀は覚悟を決めた。
「うひゃああああッ!? ひひひ雲雀さんッ!?」
ドアを開けると男子生徒は、かの並中最恐風紀委員長の雲雀恭弥がそこにいたことに聞いて呆れる素っ頓狂な声を出すとヘナヘナと腰を抜かしていた。
見つかった雲雀は無言のまま、教室からの視線を集めた。その中には無論ターゲットである花内まりやの視線も含まれている。
彼女からの視線が居た堪れない気もしないが、雲雀の存在に慄く教師からの問いに彼はこう淡々と答えた。
「授業をサボる不届き者がいないか、新たに風紀委員会で考案された抜き打ち授業チェック。授業の風紀を乱す者は僕が許さない」
その場で思いついた適当な案をこの時誰もが信じ、そして全員の顔が一気に青ざめたのだった。
上手く騙せたと内心安堵する雲雀は、少し予定は狂ったが問題なく教室内で堂々と珍獣ターゲットの観察をすることにした。彼にとっては、思惑が漏れなければ問題ないのだ。
教師も生徒も黙り込んで静まり返った教室で、雲雀は生態観察をしつつ、授業をサボろうとする者は宣言通り咬み殺しておいた。
********
そして時間が過ぎ、お昼となる。
しかし、これと言ってまだ収穫はなかった。
蕁麻疹を堪えて態々群れの中(教室後方の窓際)にまで潜ったのに、見せられたのは開いていた窓から浸入した蜜蜂に体中を刺されていた憐れな光景だけだった。
物足りなさに手が出そうになったが、本来の目的を思い出し教室の隅でじっと蕁麻疹をさすり続けた。
お昼ということで、颯爽と教室を出てきて屋上へとやって来ていた。
昼休みにまで自分があそこにいるのはさすがに言い訳がつかない。
蕁麻疹のことも含め、一休みという名目を置いて彼は人気のない屋上に来ていた。
生態観察が途切れてしまったことには、彼はもう開き直っていた。
「本当に…… 君は厄介な標的だね、ドジっ娘」
蕁麻疹をさすりながら、ここにいない彼女に届かない言葉を呟いた。
********
それからもこれといった成果は得られず、そしてついに放課後となってしまった。
追い詰められてしまった雲雀は、下校途中の彼女を民家の屋根の上から眺めて思考に耽った。
少しでも相手の弱点や、咬み殺すヒントとなる何かを掴みたかったのだが、見せられたものが思考をぶっ飛ばす滑稽極まりないドジっぷりばかりで、また今日は一日中それを見せられ雲雀はとうに参っていた。
気だるげに雲雀は、ボロボロの姿で下校する彼女を見てふと思った。
今日一日中ドジをしまくって体力のない彼女なら、ここで咬み殺せるのではないか。
今更ながら雲雀はその考えに至る。
自身もかなり疲労しているが、彼女に比べればまだまだ動ける。
このチャンスを逃すまいと、雲雀は早速実行に移そうとした。
とりあえずは一定の距離を置き、そっと地に足を着く。その後をつけて咬み殺しの機会を窺う。
ターゲットの方は雲雀の存在に気づくこともなく、角を曲がろうとしているのを見て、雲雀はこの角を曲がった先で彼女を咬み殺そうと懐からトンファーを構えた。
一歩二歩と慎重に歩み寄り角を曲がろうとした雲雀だったが、突き当たりで同時に何かとぶつかり視界が揺らいだ。辛うじて頭を庇ったが、背中から倒れたのでもろに強打してしまった。
鈍い痛みに顔を歪める雲雀の耳に、その時すぐ近くから声がした。
「ひ、雲雀さん……!?」
自身に覆い被さるように目の前にある花内まりやの顔を見て、背中の痛みもそっちのけで心臓が音を立てた。
何が起きたかはわからないが、ターゲットである彼女が自身の上に跨ってこちらを不思議そうに見ていることに、内心ではこちらの魂胆がバレないか、動揺していた。
当然彼女の方からも、雲雀へ率直な質問が投げられる。
「あの…… 雲雀さんがどうしてここにいるんですか?」
「………………散歩」
「………………トンファー持って?」
「………………」
痛いところを突かれ口籠る雲雀を、花内まりやは今の自分たちの状態も忘れて不思議そうに見つめていた。
まさか今朝から彼に尾行されていたとは知るはずもない。
「………それで、いきなり引き返してどうかしたのかい」
多少無理矢理に話を逸らして、地味に軋む背中を庇いながら雲雀は起き上がった。
彼の問いにあまり深く考えなかった花内まりやは、事態を思い出してサーッと顔を青くさせる。
「そ、そうだ…… 私、さっき誤って近所で凶暴って噂の犬の尻尾を踏んで……」
「バウバウッ!」
「ひゃああああッ!」
その犬の鳴き声を聞いただけで震え上がり雲雀にしがみつくまりやを、雲雀はまた呆れたような、この事態に戸惑ったような複雑な心境の中で彼女を見下ろした。
一息を吐き、牙を奮い立てて襲いかかろうとする犬に、己も牙を突き立て殺気を放った。
雲雀の殺気を正面から受けたその犬は、雲雀を己より格段に強いことを、その殺気と彼の鋭く獰猛な眼付きで察し、すぐに方向転換すると走り去って行った。
「行ったよ。……もう放して」
「あ、ありがとうございます」
少し頬を赤くして礼を言ってくる彼女の姿を、雲雀は見て特に悪くは思わなかった。
「あの」
「何」
「…………腰抜けました」
「…………………」
さっきの言葉を訂正して、今すぐに彼女を咬み殺したいという衝動に駆られる雲雀だが、その気も体力ももうすでに残ってはいなかった。
今日は今まででも一番疲れた日だが、ある意味で楽しめた一日でもあったと、雲雀は内心で一息吐いた。
「次は……… しばらくは考えたくはないな」
「はい? 何がですか?」
「別に。君は明日応接室に来て、今日の報酬分働いてもらうから」
「えぇ……? そんなぁー!?」
ドジっ娘の生態観察。
それは風紀委員長でさえ、手を上げるほど厄介なものだ。
まだ当分は彼女を咬み殺せないことを、雲雀は今回の一連を通して理解したのであった。
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ドジっ娘生態一日観察記録 その後
雲雀さん誕生日企画です。今年もおめでとうございます!
あれから間もなく、雲雀は少女の生態観察を再開していた。
ちょっと待て。――前作の記憶がある読者の方々なら片隅にあるだろう。彼は、前回の濃厚たる経験から学び、しばらくは機会を伺うと自らそう判断している。なのに、これはなんなんだろう? そう思えるのも不思議ではない。
彼にも諸々の事情がある。それを説明させてほしい。そう、彼にも止むを得ない事情があったのだ。
発端は、花内まりやの身柄がひとまず保留となってから、恐らく3日もかからない。雲雀が委員会室として利用する応接室の戸を騒々しく開く音がし、同時に無数の請求書の束が雪崩れ込んだ。
その時、室内にて黙々と仕事に目を通していた雲雀には目を剥く光景だった。突如自身の前に憚る紙束の山岳、苛立ちの視線を含め男たちを睨めば、雲雀の脅威に触れしどろもどろながらも話した。
実は、業者から校舎の修理費の請求書がこれほど溜まり、最早自分たちでは手をつけられないと。
確認してみれば、滞納している額が予算をかなり上回っている。これを見て早々に雲雀に助けを求めてきたのだ。全く無能な部下に頭も悩ましいが、それ以上に眼前のこの課題は頭を抱えるものだ。
心当たりはある。一枚一枚を見通せば、案の定雲雀の予見通りであり現実逃避でもしてみたい。
請求書の概ねは、あの少女が持ち得る体質により過去に大破した校舎の位置と完全に一致した。他には顔見知りの草食動物の騒動やら、日頃の鬱憤を晴らすため雲雀本人がやらかしたものやら…… その辺は1割にも満たないのでまあいいだろう。
入学してから何かと風紀を乱すその少女は、一日に一度は委員会の世話になるほど大事を起こしている。過去には立て札を破壊したり、校内火災に巻き込まれたり、バナナで校舎破壊をしてのけたり、ここまで来れば雲雀さえ感心してしまう。
過去の経緯を思い返し、今日まで至る。
そう、風紀委員会経費は現在盛んな火の車であった。どこぞにいた核兵器並みのドジ体質の女子生徒がやらかしたことによって。
雲雀は黙り込んで内側のドス黒いものを呑み込んでしまわないよう理性を繋ぎ止めた。
本来なら、本人に請求書を送りつけてこの鬱憤を晴らし、ついでにここ最近の追われる雑務のイライラもぶつけたいところだった。しかし、それを『風紀委員長』という自らの看板が許さない。その肩書きは、学校の全責任を担っているに等しいのだ。一生徒にそれを丸投げするのは、彼自身が彼の自尊心を責任放棄したことを意味するのも相違ない。そんなこと、雲雀恭弥に限ってできるわけがない。
静かに彼の腹の底で少女への報復の芽が着実に育っていくが、今はそれどころではなくこの請求書の絶壁をどう処理するか頭の使い用である。
こんな眼が座った委員長見たことない!と風紀委員の間ではちょっとした話題として上がっていた。
それから間もなく、その日の放課後に今度は荷台に積まれた雪山が運ばれてきた。
業者から追加の請求書がこのタイミングに届いてしまったようだ。雲雀の中で何かがブチ壊れそうだ。
あの珍獣への殺意がふつふつと沸き起こる最中、グラウンドの方から盛大な衝撃音が聞こえ風紀委員の者が慌てて駆けつける。
駆けつければ、そこには気絶した例の少女と、隕石でも落ちたのかよと疑うようなクレーターが出来上がっていた。
ちょっと待て。これ以上請求書を持ってこられたら堪らん!!!
報告を聞き受け、雲雀はこれ以上の損壊を危惧したためにも再び動いた。
以前と目的は違えど、被害を未然に防ぐためにも、雲雀は重い足取りで標的の跡を追うのであった。
********
さて、それを決行する日となる早朝。偶然にもこの朝の並盛中学校では恒例行事となる風紀委員会の抜き打ち持ち物検査があるのだ。空港検査さながらに厳格なもので、過去持ち物検査を拒否した者が最終的に真っ裸にされたという事例もある。この件で生徒にはさらに恐怖を植えつけることに成功している。
実際には並中生にこれ以上ない
「ねぇ、どうなの? 風紀委員の持ち物検査と銘打ち合法的に女子生徒の私物を漁る内情って? あなた確か同じクラスの女子生徒の担当を毎回申し出ているんじゃなくて? 思春期男子の欲情の餌だなんて知られたら、その娘一体どんな反応するでしょうねえ……」
「ヒィィィ! もうやめてえぇぇ!!」
「春奈あぁ! それ以上はそいつのためにやめてやれぇ!!」
――と多々障害を乗り越え、今日も平常通りの公務を執行していた。
しかし時間が迫るのに一向に標的の姿が現れない。
「彼女の報告は?」
「それがまだありません。もしや体調不良で欠席となるやも……」
あと秒針も一周すれば違反者となり体罰対象となるが、彼女は来ないのか……。
早朝から正門で待ち構えていた雲雀は空振りだと肩を落としかけたが、そこにすると猛然とした雄叫びのような声が飛び込んだ。
「うわあああああん! ポチのばかあああああぁぁぁ!!」
――とめいいっぱい喚きながら正門へと疾走する人影…… 花内まりやだ。
これが休暇の待ち合わせに来た友人ならば全力で他人のふりをする。それほど関わりたくない空気が纏わりついている。
どうやらギリギリで登校してきて通学路を脇目も振らず疾走しているようだ。今朝から何事だとも思うが、当人は相当急いでいるらしく普段頭につけている髪飾りも忘れるほどの事態であったようだ。
「遅刻まであと5秒!!!」
ストップウォッチを手にカウントダウンを刻む風紀委員の声。
これなら間に合うまいと高を括り、この場の全員が雲雀の微笑みに恐怖に竦む。
「4、3、2、1……」
「あっ」
彼女の方からそんな声が上がる。その身体が少し浮き、もう一歩で遅刻のところに身体が正門の境目を飛び越える。
ズシャアアアアアアァァ!!!
「0…… せ、セーフ……」
「アウトだよ……」
「は、はいぃッ!」
すんでのところでスライディングセーフしてきた強敵を睨み、意地でも認めるかと雲雀は闘志を滾らせた。
さて、その雲雀から睨まれた蛙の方は、スライディングの格好からぴくりとも動かない。……気絶していた。
仕方なく病棟に運び、目を覚ますのを待ち構える。
しかし、ここに居座るオヤジが鬱陶しい。
「おいおい、朝から彼女の介抱かい? お熱いねぇ〜、ヒューヒュー」
「……そういえば、校門付近に先程絶世の美女が彷徨いていたな」
「なんだとォ!?」
真っ赤なデタラメをぼやけば、案の定馬鹿はすっ飛んでいった。あわよくば、そのままエジプトまで追いかけてしまえと本気で願う。
ベッドの傍らでじっと待つと、2度目のチャイムの後にそっと彼女が目を覚ました。
最初こそぼんやりと寝起きまなこで雲雀を見据え、おとなしい小動物のようなものだった。
「ぎいでぐだざいよ゛ぉぉ、ひばりざん゛んんっ! ぼぢがあ゛ぁぁ!!」
その後いきなり何のスイッチが入ったのか、泣きべそをかいて雲雀に押し迫る勢いに少し後退る。話を聞けば、犬と喧嘩したらしい。アホかと思った。
そんな目の前の人物が雲雀恭弥であることにお構いなく泣き喚く彼女に、雲雀も手を余し最早咬み殺すどころではなくなった。
********
そうして彼女から解放され、くたびれた雲雀だが、自分が彼女を見ていなくとも抜かりはない。
「それで、報告はどう?」
「はい。委員長。標的は現在、ご学友と教室で昼食を取っている模様……」
その頃、1-Aの教室では、朝から災難だった花内まりやが、級友である東山春奈と窓際の席で昼食を介して会話をしていた。
「あら、まりやちゃん。今日は頭に何もつけていないのね」
「うっ……」
その話題になると一気に押し黙るまりやを気にもとめず、すると春奈から急に至近距離まで顔を近づけられる。
「ところで、まりやちゃん。あなた今朝から何やらかしたの?」
「えっ? 何やらかしたって、遅刻して今まで保健室で寝ていたけど……」
さも普通のように答えるが、それであの風紀委員長の男に咬み殺されていないのが驚きだ。
しかし、今の話題はそこではないので、春奈は自ら話題をそちらへと移し彼女へと確認を取る。
「じゃあ、アレはまりやちゃんの件じゃないのかしら。なんかうちの教室にずっと風紀委員が張り付いて偵察しているようだけど」
シャッと箸で彼女が指す戸の付近には、厳つい顔の紛れもない風紀委員が教室内を何やら探っている。まるで生き地獄のような絵図である。
「ほら、うちのクラスの生徒もこの何が何だかわからない状況で完全に風紀委員の恐怖に竦んでるわよ」
「な、なんなんだろうね……」
それを全く知るところのない当人らは、また何事もなくその友人と昼食を過ごしたのだった。
********
その日も夕暮れに差し掛かり、並盛の河原を流れる景色を沈みかける夕陽の色が深く染め上げる。
「うわあ〜ん」
そこには河川敷で、たった一人少年が泣いていた。
「どうしたの?」
「ボールがぁ……」
泣きながら少年が指差す方に、水面に浮かぶ球体が確かにあった。
まりやは再び少年に優しい声音で尋ねた。
「落としちゃったの?」
「うんっ…… パパに買ってもらったボールなのにぃ……」
それはとても大事にしていたものだったんだと、その男の子の頬を流れる大粒の雫に自分の胸も悲しみを流した。
「そっか……」
水平線の向こうから差す光に視界を細め、まりやはその胸にあるものを掴んで少年にこう告げた。
「もう泣かないで、少しだけ待っててくれる?」
泣き続けていた男の子の頭をぽんと宥めて、彼女は突然駆け出すと制服の上着を脱ぎ捨て水の中へ。
しばらく波打つ川の音だけが辺りに流れ、河川敷でじっと待つ男の子の息を潜める声が漏れる。
反射する水面の上を彷徨うボールは、その時ふわりと空中で浮いた。
「ボール! 取ったよ〜!」
突き上げた腕にあるボールは、背景にある光を反射しながら輝いていた。
少年の歓声が響き渡る。そこにすぐさまボールを渡してあげようとした彼女の身体が、するとじわじわと沈み始める。
「あ…… れ……」
もがけばもがくほど身体は川底へ沈み、まるでそれに吸い込まれていく。次第に呼吸もままならなくなり、彼女の姿がボールと共に再び見えなくなる。
「おねえちゃーん!」
どうしていいかわからず、目尻に涙の粒を溜めた男の子はふと頭にのしかかる大きな温もりに、意識をそちらへと向ける。
少年の横をすり抜けていく影は、真っ赤な景色の中に一層深い印象を受けて、少年の視界には漆黒の羽を広げるヒーローのようにキラキラと映った。
薄っすら視界を開けると、真っ先に彼女の意識には心配する男の子の姿があった。
「あのね、真っ黒なおにいちゃんが助けてくれたんだよ」
彼はそうニコニコ笑って、彼女に教えてくれる。しかし、それをよくわかっていない彼女の方は、少年の背後にいる浮いた影を見て、自分と同じようにずぶ濡れの格好をしているからさらに目を剥いた。
「雲雀さん……?」
ぱちくりと何度と瞬きを繰り返して、雲雀の様子を窺う。彼は一度もこちらを振り向こうとはしない。しかしその滑稽な彼の格好を見れば、彼の考えるところは自分と全く同じだろう。
水中で足を攣ってしまった自分の代わりに、男の子の腕にあるボールを拾ってくれたんだ。彼ならたぶん風紀委員長として見過ごせないんだろう。そして自分はついでに助けられたのか…… と自嘲気味に笑っていた。
「おねえちゃん、ありがとう!」
「私は、結局何もしていないけど……。もう一人でこんな危ないところで遊ばないでね」
「うん! わかったよ!」
「よしっ。それじゃあおひさまが沈んじゃう前にお家に帰るんだよ。帰り道は大丈夫だよね」
元気にそう頷いて、何度も振り返ってバイバイをしていく男の子の姿を見送りながら、その姿が見えなくなるまで手を振り返した。
そうして彼女は間もなく次の問題に直面することとなる。
「ひ、雲雀さんじゃないですか〜。いやぁ、奇遇ですね〜。さすが水も滴るいい男ですよ〜」
心にもないことこの上だが、そんなこと今はどうでもいいかのように彼の目は鬼気迫るものが感じられる。
「どういうつもりだい?」
濡れた前髪の下から、冷ややかな眼差しが見据える。
「えーと、この前クラス目標が『破天荒至上』になったので、それを身を以て体現してみようかなと……」
逃げ場を探るように軽口を言ってみるが、なんかめちゃくちゃ不機嫌になっていられる。彼の扱いがまだわからない彼女であった。
「少し都会の川を舐めてました、ハハッ……」
よくわからないこの状況を切り抜けようと穏便な対応を見せるが、まるで効果がないどころか火に油を注いだように相手から反論を突きつけられる。
「ふざけないでよ。僕がいなければ、君は今頃死んでいたんだよ。なんでそうヘラヘラと笑っていられるんだよ」
あそこで死んでいたら、一体何のために――……。そういつしか語尾が荒げ、吐く息にも熱が籠っていた。
一瞬我を忘れていたようだが、彼はすぐに平静を取り繕う。ふと相手の剽軽な表情を捉え、雲雀は咄嗟に付け加えていた。
「……君が溺死体になれば、あくまで並盛の治安に関わるからだよ」
「あ…… ですよねぇ」
驚いた。まさかこの人から心配されるなんて思ってもいなかったから。しかしやはり彼が考慮するのは並盛だけのようだったが。
すっかり普段の調子でそっぽを向いた雲雀に、彼女もいつもの調子で平たく緩い反応を見せる。
「いやぁ、カチューシャ忘れたからいつもの力が半分も出ませんでしたけどね〜」
どこぞのあんぱんだよ、と内心彼がつっこんだのは誰も知らないところだ。
喚起後もヘラヘラとしている彼女の舐めた態度に痺れを切らし、雲雀は改めて今回のことに関して彼女に詰め寄った。
「なんでああいう無茶をしたの」
目の前でどんと構える彼の存在感はまさに風紀委員長の冠として相応しいが、問題の彼女には全く動揺もない。
そんな彼女は隣に雲雀がいることも忘れたように、河川敷からの景色を眺めながら言った。
「私なら、大切なものはずっとそばに持っていたいと思うから。たとえそれが壊れても、心の中でずっと守っていたい……。
それに子どもの頃の思い出は大切ですからね」
そう言って、夕陽の景色に溶け込んでしまうような眩しい微笑を浮かべた。
「じゃあ、帰りましょっか」
それが沈みゆく夕陽と共に地平線の向こうへ持ち去られていくのは、あまりにも無情なことだと痛みを覚えた。
水滴を散らし照らされた一瞬のその情景は、あの時雲雀の胸に確かに残っていた。
あれからはすっかり彼の周りには日常が戻りつつあった。
「委員長! 一年の花内まりやですが、またグラウンドの方で問題を起こし……」
その日常というのが、すでに彼女の影響を受けて少しずつ変化していくということは、今はまだ誰にも予想できないことだ。
「……後処理は任せたよ」
「ハッ! 了解しました!」
廊下の窓からは、例の彼女の姿が偶然にも見えた。
通常通りの滑稽な様で、だから彼女のことをただ見過ごせないのか……。
きっと、もう少し、彼女を見つめていればわかるような気がする。
それまでは、あと少しそばにいて見守ってやるのもいい。
*その直後
「キャー! 花内さんがいきなり校舎の窓に突っ込んでいきましたー!」「廊下を歩いていた誰かが巻き添えにー!」「なんかヅラが飛んで来たぞー」「きょ、教頭先生ー!」「わしのカツラがあぁぁ!」
風紀委員「委員長〜! 追加の請求書があぁぁ!」
雲雀「……やっぱり今すぐ咬み殺す」
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