無口な黒き鎧兵 (斬刄)
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魔物と魔女

時の神殿

1つの魔物が神殿の中で棒立ちしながら勇者を待ち構えていた。主君であるガノンドロフの妨げになる障害を潰そうと待っている。障害とは緑の勇者であるリンク、幾多ものガノンドロフが配下にしてきた魔物を倒し、ここにも訪れようとしている。

 

「…」

 

神殿内には魔物、タートナックがリンクを待ち構えている。鎧を着て、兜を付けており大剣と盾を装着していた。

このタートナックにも何種類がいる。メイスを武器にしたものや、マントを着ていたり、よく喋ったりしてチャラい性格などの内面的な部分が違うのもいる。

彼は黙ったまま、この神殿をずっと待ち構えて守っていた。いままで苦難を乗り越えてきた勇者リンクを倒すために。ガノンドロフの指示によって戦い、撃破する。

 

 

「甲冑…こんなものまで⁉︎」

 

勇者であるリンクがタートナックの部屋に訪れて、入ってくる。騎士のような格好をした魔物を見てリンクは驚いているものの、タートナックは容赦しない。互いに武器を構え、タートナックはまずは重い一撃を食らわせようと、振り下ろした大剣がリンクの頭上めがけて襲う。

「⁉︎」

 

リンクがそれを盾で防ごうとした瞬間、地面が異様なものへと変貌して魔物は渦に飲み込まれてゆく。いくらもがき続けても渦の中に入り、重い武装が邪魔をして疲れてゆくだけ。

 

渦が沼となって、魔物の身体から放そうとはしない。

微動だにせず、がっしりと固められている。

タートナックはこれ以上ないくらいの異様なほどの大量な汗と、悪寒が身体全体から放出している。

今魔物が抱いている感情は恐怖しかない。

自分のいた場所がいきなり泥沼みたいに変貌し、強引に引っ張られて飲み込まれてゆくのは魔物以外でも恐ろしいと恐怖するもの。

リンクを閉じ込めていた檻も空いてしまっている。リンクはただ、渦に飲まれてゆくタートナックを眺めることしかできず、何もせずに勝ってしまった。

 

 

リンクは飲み込まれた地面を確認するが、元どおりになっている。渦は消えたと同時にタートナックもまた飲み込まれて消えさっていた。

 

 

 

*****

 

 

この世界には魔女と使い魔、魔法少女が存在している。

タートナックは足元から黒い渦のような泥沼に飲まれ、どこかへと引っ張られてゆく。

 

「…」

渦に飲まれ、目の前が真っ暗になったタートナックはその世界の魔女による召喚魔法にて召喚されてしまった。

 

目を開けるとそこは神殿ではない、気が付いて起きたのが図書館のようなものにいた。

タートナックの目の前にいるのは形が歪な杖を持ち、帽子をかぶった顔のない化け物。召喚の類として出てきたものの辺りを見渡せば自分と同じような化け物の類だがとても奇妙なものだった。

 

「…⁉︎」

 

召喚され、慌てていたタートナックは状況認識が把握しきれずに、全員敵だと辺りを見渡して武器を取って構えている。見たことのない化け物が囲まれていて敵認識してもおかしくない。

が、タートナックの行動に目をそらし、無視されて誰も襲ってこない。使い魔と魔女は召喚した魔物を仲間意識としていた。

彼らは大人しい状態だった。

 

タートナックは誰も襲わず無視されているために、周囲を見渡していた。

同じ化け物であるからか、タートナックは魔女の結界を探索する。

 

 

小さい使い魔が何をしているのか。

魔女はどんなことをしているのか。

 

タートナックを召喚して以来、魔女と使い魔は市民にあまり危害を加えることなく。平凡に暮らしている。

 

魔女は鼻歌で編み物と可愛いお人形を作っており、使い魔達は食物を盗んで魔女の元に持って行ったりしている。

 

 

タートナックは魔女に呼び出された。

召喚された魔物は結界の門番と見回りのようなことをするようになり、使い魔がズル休みをしていないかの確認をし、時間ごとに報告をするようになっていった。

 

 

*****

 

そんなことを何日間も見学しているうちに、いつの間にか黒い霧のようなものが剣や大剣、盾と鎧にまとわりつき、吸収している。

 

(?)

 

その霧を受ければ受けるほど自分も強くなっていった。重かった大剣も軽々と降ることができ、鎧がさらに頑丈になっている。

 

ある時は霧が消えないこともあり、魔女に頼み込んで欲しいと頼んだものの外部からの干渉は受け付けなかった。

それどころか鎧は霧と同化したと同時に、魔女や使い魔から見えなくなっている。

 

タートナックは霧と同化した状態をなんとかして解こうとすると、転げ落ちてしまう。それを見た使い魔と魔女に笑われていた。

 

タートナックは痛い部分を抑えながらも魔女の部屋から出て、一度落ち着いた場所で鎧を脱いで、大剣と盾を適当に置く。

どうして力が湧いており、霧と同化したのか。

霧と同化すると高速で動けるようになりすぐに移動できる。1時間ぐらい一人で黙り込んで考え、導き出した答えが

 

○負のエネルギーと穢れを鎧と剣、盾が吸収する

○負のエネルギーで霧を作り出し、自分の姿を隠すことや外部からのジャミングを防ぐことができる

 

というのがタートナックが出した結論だった。周囲にある穢れや負のエネルギーを吸収して彼は強くなってゆく。

まず自分が悪の存在であること。

ガノンドルフの配下であったタートナックは闇の存在。そして、タートナックが魔物であるが故に成せるものだった。

 

どうしてそんな力を持っているのかがわからないが、自分の身の回りに穢れや負が武器にかかればかかるほどより強くなってゆく。

 

魔女と使い魔の負担が軽くなった理由がそれだった。このまま何事もない平凡な日々を暮らしていき、タートナックはこの生活に適応していっていると。

 

 

 

もう、あそこには帰ることができないと覚悟していた。

 

 

 

ガノンドルフの元に戻ることも、彼の配下として働くことも、あの世界に戻る手段がないのなら諦めることを良しとした。

 

*****

 

次の日の朝。

タートナックはいつものように早起きして、鎧と大剣、盾を持って警備に向かう。

 

 

「⁉︎」

 

しかし、何者かが結界内を奇襲して、全体がボロボロの状態だった。使い魔は全滅の状態、息絶えている。

燃え焼けた跡がチラホラ残っている。

 

タートナックは魔女達のおかげで生きていられるからその恩として、ここを守りたいと、無事であって欲しいと魔女の元に辿り着こうと走る。

 

しかし、時すでに遅かった。

 

 

魔女は腕を切断されて、杖は折れている。見つけて助けに行こうとしても魔女は既に焔に包まれ、少女に斬り殺された。斬られた魔女からはなにか小さい物体がころりと落ちてゆく。

 

倒したのは炎を使っている着物を着た大人の女性と、長い剣を持ってる白い髪をした小さな女の子。魔女が張っていた結界が崩れて、二人と魔物は公共施設の図書館にいた。

 

 

タートナックはこのことにかなり落ち込む。

魔女に無理矢理転移されたとはいえ、衣食住を与えられ、使い魔や魔女が自分に危害を加えなかったこと。そのことに感謝していたのにもう魔女に貰った恩を返す機会がなくなってしまったからだ。

 

 

まだ大きな恩を1つも返していないのに灰になって消えさられていった。

 

「⁉︎誰ですか!」

 

彼女達の背後にいた正体不明の鎧騎士に顔を向く。

大人の女性が炎の魔法を構えて、叫んでいる。魔女にトドメを刺していたもう一人の子は彼女の背後に引っ込んで怯えている。

 

 

白い髪をした少女と手に持っているのは魔女の血で汚れている大きな赤白いカッターナイフ

天乃鈴音

赤い着物と日本刀、炎の魔法を使う

美琴椿

 

これがタートナックと魔法少女の出会いの始まりだった。

 



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魔物と魔法少女

公共施設の図書館内で二人は鎧を纏っている何者かに警戒していた。さっきの魔女を倒したとしても、彼女らの目の前にいる正体不明の存在が敵か味方かわからない。

 

日がよく照らされ、天気は良好。

窓からの日差しが激しく、鎧に反射している。その鎧が魔女の使い魔なのだとしても当の既に魔女を倒したから、消えさられている。魔女の使い魔でないのならあの鎧の戦士は魔女の空間にいても全然平気のままでいたこと。そのことについて椿は不可解であった。

 

「…」

(一体何者なの…?)

 

 

タートナックは魔女を殺した二人の敵討ちをする気にもならなかった。余りにも突然なことでどっと疲れている。魔女はもういなくなり、一人でしか生き延びるしかない。

 

そもそも人間以前に誰かと話したこともなく、後ろへ退いて、この場からひたすらに逃げるという選択肢しかなかった。戦っても構わなかったが、タートナックにとって今はそんな気分にはなれない。

 

「⁉︎ま、待って!」

 

霧を吹き出し、同化してさっさと逃げて行く。

一人にしてくれと言わんばかりに二人から逃げていった。

*****

 

 

タートナックは逃げている間にあの時見かけた二人以外の他の少女達が使い魔を倒している。タートナックは一度足を止めて隠れながら見ていると彼女らの手には結晶体のようなものを持っており、黒く濁っている。

 

魔女を撃破して落としたものをその結晶体に当てると、黒く濁ったものが元の綺麗な状態へと変わってゆく。

 

「はいこれ、もうグリーフシード濁ってるから」

「分かったよ」

彼女らのそばには白い生物がいた。

彼女が渡したのは魔女から落ちていくものをグリーフシードと言い、グリーフシードをキュウベェの体内に入れている。しかし白い生物は一匹だけではなくチラホラと何匹か、町中に見かけている。

「あの…なんでしょうか?」

「僕と契約して魔法少女になってよ!」

 

別の白い生物は少女達を勧誘し、契約の話をしていた。その生物は彼女達のことを魔法少女と呼んでいる。

その生物達が大量に出現している。

契約すれば言葉通り魔法を用いた少女ということになる。

 

二人以外にも魔法少女がいていつかは討伐されるんじゃないかと身を震わせながらも安全な場所を探していた。

 

*****

 

タートナックは逃げ続け、自分にとって安全な場所をどこにすれば良いか迷ったが末に森の中へと逃げた。ここまで来れば見つからないと甘い考えで鎧や武器を側に置いて寝ていたが、それが仇となった。

 

「ようやく見つけたわ」

 

次の朝、タートナックが起きると、網か何かで捕縛されている。白い子の少女が能力を使ってタートナックを動けないようにしていた。昨日に出会った美琴椿が見つけ出し、逃げ隠れしているタートナックを発見していた。

 

「待ちなさい!貴方には色々と聞きたいことがあります」

 

すぐに拘束を解いて逃げようとするともう一人の魔法少女と炎で周囲を遮られてしまい、逃げ道がなくなってしまう。タートナックは諦めて、すぐに御用となってしまった。

 

「ひとまず…ここじゃあ話し辛いから…でも」

 

二人は余りにもタートナックの鎧姿の格好が派手で、目につきやすいから困っている。このまま他の魔法少女に見つけられると厄介なことになる。

タートナックは仕方なしに霧を作り出して同化した。

 

「⁉︎貴方…ありがとう」

 

霧へと変貌してそのまま停止した。

タートナックは彼女の後ろをついて行き、後を追う。鈴音は霧に変貌したタートナックを見て若干怯えて、椿にひっついている。

「襲ってこないかな…」

「大丈夫よ、スズネ」

 

椿の家へと向かって帰る。このまま霧を空へと飛んで逃げても、タートナックにとっては良かった。が、すぐに椿に気付かれてしまうために潔く彼女の家に行くこととなる。

 

家にたどり着くと、元の姿へと戻る。

タートナックが霧から鎧に変わったのを二人が目を丸くして間近で見ていた。

 

「西洋の騎士みたい…」

「触って良い?」

 

鎧を纏った姿に二人は興味津々に玄関近くで武器や盾、鎧をところどころ触り続けてくる。武器を置いて、別に触られても構わないと身体を動かないようにしていた。

鈴音はコンコンと鎧を軽く叩く。

 

「ありがとう、もう良いわ」

 

奥へと進み、リビングに入ってゆく。タートナックは鎧と武装を霧と同化させて、外した。

 

「私は美琴椿です」

「あっ、あの…天乃鈴音って言います」

 

少女である鈴音はタートナックに頭を下げて丁寧にお辞儀をする。

「早速だけど貴方のお名前は?何者なの?」

質問を聞いたタートナックは突然立ち上がり、リビングの周囲を見渡すと側にあった紙と鉛筆を見つける。

 

「…喋れないの?」

 

紙と鉛筆を手にとり、タートナックは何かを書いている。魔物である身であり日本語ではなくカタカナの方がタートナックにとって伝えやすいものだった。

〔ナハ、タートナック。

シャベレルトイエバ、アマリシカシャベラナイ。

ナニモノカトイエバ、マモノ〕

「ま、魔物⁉︎」

 

魔物であるから嫌悪されるんじゃないかと。が、二人はタートナックのことを不快な目で見ておらずもっと知りたいと質問を何度もしていた。

 

「ねぇ、なんで喋れないの?」

〔イツモヒトリデタタカッテイルカラ、ダレカトハナスキカイガナイ〕

「そうなの…」

 

このタートナックは一人で戦うことだけに特化しており、いつも口を閉じていた。ゴブリンのように強欲で下衆な考えや、忠誠を尽くして主人の邪魔をする輩は問答無用に力ずくで叩きのめす魔物もいる。

 

〔マジョトイウソンザイニヨビダサレテ、キヅイタラココニ〕

本来魔物は人々にとって害悪なもの。

市民や村人などの幸せな人達を脅かす魔物、魔女、魔王を退治するために勇者などの希望が存在して、それらを伝説の剣や盾などを所持して立ち向かう。

 

この魔物はコミュニケーションの少ない魔物だった。集団の群れに入ることなく、黙々と一人で目的を遂行していくことが好きだった。

 

前まではずっと【ぼっち】ではあった。自分が騎士ではなく魔物であることを話し、魔女に呼び出されていたことを話す。

二人はタートナックの話を信じた。

 

「それじゃあ今度は私達からね。

私達は魔女を倒す魔法少女なの」

 

人々を危険に晒そうとする魔女を倒すために魔法少女が存在する。1つの願いを叶える代わりに魔法少女に変身して命がけの戦いをする。

生き残る為に。

 

人々の命を脅かす魔女や使い魔を倒すために懸命に必死になって戦う少女や、縄張りを張っている魔法少女達もおり、魔法少女同士との争いとなって戦闘もある。

 

 

「そして、もう1つ紹介したいのが」

「椿!正体不明の鎧騎士を見かけたって聞いたけどこの人?」

 

椿が話をしている最中に白い生物が部屋に入ってくる。赤い2つの丸い目と長い耳、四足歩行をして机の上に座っている。

「ちょうど良かったわ、この子がキュウべぇ。私達のような魔法少女になるには契約しなきゃいけないのよ?」

 

キュウべぇという白い生物だった。

タートナックのことについてキュウベェに話し、タートナックの方は彼女達以外にも他の場所にチラホラと見かけていたと書いた。キュウべぇが複数もいることを書く。

 

キュウベェがそのことについて話すと、二人とも何も知らない為に驚いて叱っていた。

 

タートナックはキュウべぇのことを不審にしか思えない。

この生物は少女達とずっと一緒にいるのに隠していることが余りにも多すぎると感じていた。

「ねぇキュウべぇ。何かわかることがある?」

「うん、少しずつだけど肉体から彼女達の穢れを吸い取っている。こんなこと初めてだ」

タートナックはお腹を空いておらず疲れていない理由は負のエネルギーと穢れを少しずつ吸い取っている。

キュウベェはタートナックのことを異質な存在だと言っており、魔女や使い魔でなく人に害を加えないのなら何も問題はないも言っている。

魔物でも無闇に暴れたりしないのならばキュウべぇからすると放っておいても構わなかった。

「ねぇ、タートナック…協力してほしいことがあるのだけど良いかしら?もちろんここに住んでもらって構わないわ」

 

椿が鈴音の為にタートナックにも魔女の撃破に協力して欲しいと頼んでいる。魔法少女に初めてなった鈴音は、まだ未成熟であり、椿がその子を支えなければならなかった。

 

人手が増えるのは椿にとっても嬉しいことであり、タートナックもまた住む場所があるならという理由で軽々しい気持ちで協力することとなった。

 

*****

 

「ツバキ〜。タートナックー。帰ろ!」

 

タートナック、天乃鈴音と美琴椿の3人が魔女退治を何日かやっていくうちに自然に仲良くなっている。

タートナックは前線でいつも戦っており、敵の攻撃を盾で防いでいる。後方では椿が炎の魔法で援護し、トドメは鈴音がやっていた。

 

椿は炎の魔法を使っているが、鈴音は倒した魔女の力を吸収して保持することができる。

キュウべぇは上書きする時は慎重に選んだ方がいいと言っているものの鈴音は魔女を倒した後にどんな力が宿っているかという喜びを感じている。

 

「ねぇ、タートナック?昨日のように乗せてもらっても良い?」

魔女退治が無い時は、たまにタートナックは鈴音の相手をして模擬戦をしたり、下になって鈴音を乗せて肩車をしていることもある。

「高いたかーい♪」

(♪)

タートナックも機嫌が良く、鈴音を喜ばせていた。

二人は楽しくしており、鈴音はいつも助けてくれるタートナックに笑いかけていた。

 

*****

 

タートナックは魔女の戦闘でクタクタになって別の部屋でぐっすりと寝ていた。

 

リビングで、椿はお世話になった人が死んで、その人の名前を紙に書き出し、お守りにしまっている。忘れることなく一緒にいられるおまじないをしていた。

 

「何しているの?」

鈴音は椿が何をしているのかと、顔を出している。

 

 

彼女の作っているおまじないの意味は死んだ人の名前を書いて忘れずに一緒にいること。

 

鈴音はそのおまじないを見てもしも自分やタートナックが死んでしまったら名前を書いて忘れないように一緒にいられると言っているが、椿はそんなことをしなくてもずっと一緒にいますと抱き締めた。

 

 

 

*****

 

ある日の深夜のこと、椿がタートナックを呼んで、話がしたいと鈴音が眠っているうちに話しをしようとしていた。

 

「少し話があるのですが、いいですか?」

 

 

彼女は鈴音との出会いからまず話を始めた。それはまだ鈴音が魔法少女になる前の、その少女と出会った話。

 

椿は魔女を倒しに行こうとするが鈴音とその両親が魔女の結界に入ってしまい、魔女に殺されたことを話した。

助けに行った時には鈴音しか生きておらず、椿はそれ以降、鈴音に尽くすこととなった。

 

「もし私に、何かあったら…あの子のことをよろしく頼みます。無茶なことなのはわかってます。でもこれはずっと一緒にいてくれた貴方にしか頼めないの」

 

自分が死んだ時のために、一人ぼっちの鈴音のことをタートナックに頼んでた。しかし、タートナックは鈴音と二人だけで一緒にいるということに苦難していた。

(デモ、ソレハ…)

 

鈴音にとって椿もいなければならない。しかも魔物に少女を育めというのは、タートナックにとって余りにも重荷である。頭を頷いて承諾することも、横に振って断るのも心苦しいものだった。

 

(…ナンデアンナコトヲ)

 

椿の状態が危険だというのなら、タートナックが彼女よりも頑張れる。タートナックが鈴音の手本になって身体を休めればいいだけの話だ。しかし、椿が頼んだ本当の理由をタートナックはこの時は何も知らなかった。

 

 

魔法少女の本当の真実を知るまでは

 

 



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痛むココロ

『あの子のことをよろしく頼みます』

 

椿が言った言葉はタートナックの心にズキリと刺さっている。魔物である身なのにそんな重大事を頼まれても困るしかない。魔物が少女の世話をするということがどれだけ無理難題なものなのか。

 

ズキリと自分の胸に変な痛みを感じ、手を当てる。

彼女の話を聞いて、まだズキリと傷みが続いている。

 

こうなったら椿を何があっても死なせない為に、魔女の手から全力で守ると頑張るしかなかった。

彼女を死なせて鈴音を悲しませないためにも。

椿を死なせてはいけないんだと、考えていた。

 

しかし、彼女の頼みをタートナックが本当の意味で理解することはできなかった。

ソウルジェムが濁れば魔女になる(魔法少女の真実)を知らないのだから。

*****

 

「どう、して…」

 

椿が抱え込んでいたものは、タートナックが全力で椿を守る以前の問題だった。ツバキのソウルジェムの負荷が耐えきれなくなって魔女化してしまったことが原因で、椿は魔女になっている。

 

 

彼女は二人に向かって最期にこう言った。

『鈴音、一緒にいるって言ったのにこんなことになってごめんなさい…タートナック、鈴音のことをよろしく頼みます』

 

魔女化する寸前に二人に笑って泣いていた。彼女のソウルジェムが穢れを満たし、こうして魔女となって二人に襲っている。鈴音は絶望して足が動けずにおり、タートナックが盾で炎を防いでいた。

 

「なんで、何で…」

「それは椿が君をかばいつつ、グリーフシードも君の為に使っていたからね」

 

 

今までキュウべぇはこのことについてずっと黙って見守っていた。分かった上で何も言わなかった。

キュウべえは知ってても止めようとする気は全くなかった。

 

椿のソウルジェムの穢れが限界にきて、こうして魔女となり呪いを振りまいている。

 

「元に戻せないの⁉︎」

「無理だ、魔法少女が魔女に変異できても、魔女から魔法少女に戻すことはできない」

 

いくらタートナックが穢れを少しずつ吸い取っても、椿の方は今までグリーフシードを使わないで穢れを多く貯めていた。

 

「魔法少女が辿る結末は、魔女を生んで自らを滅ぼす。どんなことをしていてもね」

 

キュウべぇがやっていることは鈴音とタートナックだけではなく何も知らされていない魔法少女を騙していたのと一緒であった。

 

「君が今まで吸い取っていたのは魔女じゃなくて魔法少女の力を奪っていた。

 

ここで魔女になったツバキを殺して手に入れる能力は…ツバキの力ということさ」

 

魔女の攻撃は激しく、鈴音は何度も呼びかけても応えてこない。

「わたし、わたしは…」

キュウべぇは魔女になった椿を始末するか、逃げるかという選択を強いらせる。もしも逃げきれなかった時、殺らなければ、逆に殺されてしまう。

 

防戦一方になっている間、タートナックは持ってきたメモ帳を書いて、鈴音に見せた。

〔カンガエ、アル〕

タートナックはあることを閃き、思いついた。その方法はとても危険なものだが、唯一椿を助けられるかもしれないことだった。

 

*****

いつもの通り、前線にタートナックが出て、魔女に注目を向ける。魔女は炎の魔法を使い、タートナックは盾で防いでまっすぐに前進する。

 

タートナックの背後には鈴音が待ち構えて機会を待っている。椿の戦いを知っている二人は魔女がどんなことをするか大体は分かっていた。

 

タートナックは強行突破して魔女の懐に飛び込む。

「ハァァァッ!」

 

 

 

鈴音はタートナックの後ろから突然飛び出して斬りこむ。魔女は倒れ伏せ、近くにいたタートナックは走り、魔女ごと彼女の魂を同時に体内へと吸収した。

負や穢れを吸収することはできるものの負から生まれた魔女を吸収するという行為自体は自殺行為と等しい。

 

(ウグッ⁉︎)

 

ソウルジェムが穢れすぎて魔女になるのならば、逆に魔女から人に還元することは可能。魔物の体内でマイナスである魔女をゼロにさせる。

 

タートナックはこの吸収で、穢れてしまった魔女を彼の源として癒し、時間を立てて元の人間へと変えて仕舞えばいい。魔女が負で生まれるのだとするのなら、吸収するのは例外ではない。

この行為は魔物であるタートナックも危険な賭けだった。が、結果的には成功した。

 

タートナックは生きており、立つことができる。あとはタートナックの中で魔女ではなく彼女の魂を復元し、人として復活させる。

鈴音は魔女を倒したことにより能力が上書きされている。

 

「ど、どうなったの!教えて!教えてよ!」

 

魔女になった椿からはグリーフシードは落ちていない。タートナックは持っているメモに書き綴って、そのメモを鈴音に渡した。

鈴音はメモを口に出して読む。

「ツバキは、生きている。自分の身体にの中に残して、溜め込んだ絶望を取り除くために…あとは自分と彼女が身体から引き剥がされ、人として戻ることができる…本当なの⁉︎」

タートナックは頷いた。

彼女はタートナックの体内にまだ生きている。魔女を倒し、消えそうな魂をタートナックが奪取してしまい込んでいた。

〔マダ、ソノトキジャナイ〕

 

椿が人に戻るのは何日間もかかり、いきなり魔女から人間に戻すことはできない。

すまないと、頭を下げていた。

 

「ううん、良いよ。まだ生きているんだね…」

 

こうして二人だけとなってしまった。もう椿がいないために、鈴音は顔を赤くしてタートナックに抱きついている。

「あのね、一緒にいて…」

 

*****

 

「ずっと一緒にいて。一人にしないで、絶対に離さない。椿がまた戻ってくるのなら、タートナックのことと一緒にいたいの」

 

そんな言葉を聞いていくうちに椿の頼み事を思い出してしまう。

『あの子のことをよろしく頼みます』

タートナックは心揺さぶられて、苦しんでいた。

鈴音はタートナックに惚れて、愛している。一緒にいて欲しいと。鈴音は椿のことが好きでもあり、タートナックのことも好きになっていた。

 

しかし、一緒にいるという言葉に返答できない。タートナックは心を鬼にして頼みを断り、一緒に行くことを拒否して首を横に振った。

 

「⁉︎どうして、どうしてなの!タートナックの中にはツバキの魂も入っている!タートナックも、ツバキもずっと一緒にいられるのに!」

 

タートナックは離れようとしない鈴音を振り払って、一人で去って行く。

「行かないでぇ…行かないで」

鈴音は泣きじゃくりがなら、しつこくひっついている。

 

ーーひとりぼっちはいやだよ…

 

そう言いながら好きな人とこれからも一緒にいたいとせがまれる。タートナックにとって心苦しいものだった。既に身体は震えており、一度は気を許そうとするも少女を背負うことを強いれない。

 

「ま、待ってぇ!」

 

それでも泣きながらしつこく追ってくる鈴音にタートナックは強行手段をとった。

勢いよく振り払い、

 

 

「タートナック、な、んで?」

 

タートナックは大剣を待ち、鈴音を当てずに振り下ろして鈴音を脅す。

今まで黙って優しそうだったタートナックが拒絶している。

鈴音は漠然としている。剣を突き立てて、依存している鈴音を振り払った。

 

「どうして、どうしてぇ…」

 

タートナックは鈴音を置いて、霧を纏いながら同化して全力で逃げていく。

それを鈴音は泣きながら後ろ姿を見ることしかできない。

 

たとえタートナックはどんなに強い魔物であろうと、心は臆病なまま。彼女から託された責任を投げ捨て、頼みは聞き入れることができなかった。

 

人と魔物はどう考えても一緒にいてはいけない。最終的にはその子にも巻き込まれて侮蔑されてしまうからだ。

 

自分がどんなに醜い存在か。

 

*****

 

 

霧と同化してあの場から逃げる。

涙を流すことができず、胸の痛みが全く止まらない。逃げたくて仕方なかった。鎧が解けてゆき、武器を落として頭を抱える。前に隠れていた場所に向かい、山の森の中でひたすら暴れ、木々殴りつけて自分の身体を傷つける。

 

魔物はたった一人で叫んだ。

 

タートナックはどこかへ誰もいない暗い場所で密かに、口を開いて悲しみながら叫ぶ。母親代わりの彼女の魂をタートナックの中に塞いで、彼女は助けることはできた。あとは自分が生きてさえいれば彼女は肉体を取り戻して復活する。

 

椿を元に戻すことは時間がとてもかかるために簡単ではないが、復活することは確実。しかし、その間に彼女の側にいることはできない。

 

 

自分は魔物、彼女は魔法少女であって人間でもある。哀れな魔物が鈴音を幸せにするなんて無理な話だった。魔物である身なのにあの子を幸せにできるわけがない。

タートナックには自信がなかった。

 

鎧を纏っているがそれは騎士でも、戦士でもなんでもない。所詮は人から嫌われた化け物、魔物である。

いくら優しい心と善意を持っていても外見を見た時点で戒められ、迫害される。

 

できればずっと一緒にいたい。

鈴音という少女の望みと椿からの頼みを受け入れたいと願った。

しかし、魔物は躊躇った。自分のせいで鈴音を不幸にさせるんじゃないかと。

いつか鈴音を傷つけ、危険に晒すことになるんじゃないかと恐怖していた。

 

矛盾した気持ちがタートナックを戒めて、気が動乱している。この世界では異質なものが現れたら、化け物だと大騒ぎになって拒絶する。

もしあの子も魔女になってしまえば自分と同じように市民からの恐怖の対象となるだろう。他の魔法少女も自分を敵とみなして襲ってくる。

もしも彼女が魔女になってしまったら必ず助けるために向かう。

これ以上は一緒にはいられない。もしも幸せになれるのならこんな自分と長くいてはいけない。

なぜなら邪魔者であり、魔物だからだ。

 

鈴音とタートナックだけではなく、そこに椿もいなければならなかった。タートナックは雨の中誰もいない場所で、いつも無口な魔物は悲しみに、苦しみに、ただひたすらに狂い、頭を抱えて悩み苦しみながら叫んでいた。

 

自分を痛めつけた拳は、手の皮膚が裂けて紫色の血が流れる。

言えようのない心の痛みが鎧兵を悩ませ、苦しめていた。

 

*****

 

キュウベェは遠くで離れて、タートナックが助けるために行ったことの全貌を見られている。

「やれやれ…驚いた。魔女になった魔法少女は元に戻れない。それなのにまさか、あんな方法で破るなんてね。

魔物だと聞いてどんなものなのか様子を見ていたけど、穢れを吸収するといい…魔女化した彼女を倒した後に、魂を奪う。しかも魂さえあれば身体を復元させることもできる」

 

以外だったのは魔物が魔女を吸い取ったことだった。しかもその魔女の穢れを体内で取り除いて、人間の身体を取り戻すというとんでもない力を持っていた。

 

しかし、キュウべぇはその力をこちらの営業に使えると思っていた。あの魔物も利用すればエネルギーが大量に確保できる。

 

タートナックが魔女を救済して、少女になった元魔法少女とまた再契約すればいい。キュウべぇの目的が何かというのは魔物は知らないために、営業を促進される可能性はある。

タートナックの存在が魔物という化け物であることが何よりの救いだった。人の身でない以上他の魔法少女達やこれからなろうとする少女が魔物のことを信用できるわけがない。

 

「あの能力(チカラ)があれば魔法少女達を何度も魔女化させて、エネルギーを繰り返し手に入れれる。

いつかはあの魔物を僕達の実験台になって利用させてもらうよ」

 

そう言ってキュウべぇはこの場から立ち去った。

この地に存在する鎧を纏った魔物を手篭めにしたいがために。

 




というわけで全く喋れないタートナックさんタイトルでしたが…無言ではなく無口となっています。
この作品のタートナックはあまり喋れない性格です。
喋る時は喋れます。
魔女化した美琴椿を救済。
しかし、タートナックは魔物なので一緒に行動するうちに他の魔法少女が襲ってきたりなど巻き込みたくないという理由と、人と魔物は相容れないという事実に苦しんで責任から逃げだという形となりました。

追記
キュウべぇにとって厄介な存在ではなく、人に戻してまた再契約させることができる都合のいい魔物という形としました。


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月日が経つ

鈴音に出会う前の話、美琴椿には鈴音以外にも二人の少女を養っている。妻を亡くした1つの家族。

その家族の父親が椿に頼んで二人の姉妹の世話をしていました。

 

目の見えない妹、日向茉莉。

しっかりものの姉、日向カガリ。

 

椿は二人に魔女の物語の絵本を読ませたり、母親のように優しくしていました。仕事だとしても二人と一緒にいる時間は彼女にとってとても幸せなものでした。

 

ある日のこと、椿は一人きりの鈴音を育てるために仕事をやめて、鈴音の養育をしようと考えていました。

この時点で椿は鈴音と出会っている。

魔女に両親を殺された鈴音を椿が養おうとしていた。

姉妹の父親は塞ぎこんでいた二人を変えてくれた椿に残って欲しいと頼むものの、椿は身寄りのない鈴音を面倒する方を選んだ。父親は椿が面倒をする子をこちらで預かっても構わないと親切にしていたが、椿は迷惑をかけられないと断った。

 

☆☆☆

 

仕事がまだ入っている日に椿が来ない日々が繰り返し、父親は困っていました。

 

明日また来ますと言っていたのに来れなかった。養育してくれる姉妹の二人は椿が帰ってくると信じて待っていても、全然帰ってこないことに心配し、妹は椿が帰ってこないこと不安が増してゆく。対してカガリは椿のことを信じ続けていた。

 

 

「ツバキが私達を置いていくわけないもん!」

 

カガリは不自然だと感じていた。

警察が近くで近所の人に事情聴取をしていたり、突然来なくなってしまったことに。

 

そこでカガリは椿を探そうと思い、外に出ようと思っていた。椿に会いに行くために探すことにした。

茉莉も会いたいがために一緒に行くと言うが、目の見えない妹を行かせるわけにはいかないと拒否した。

 

 

「何か、困ってるみたいだね?」

 

そんな二人の前にキュウべぇが現れる。二人に契約を持ちかけ、茉莉を魔法少女にし、願いで目を治した。

 

目が見えなかった茉莉にとって外の世界は驚くものばかりで目が輝いている。

茉莉は治してくれたことで色んなものが見れて満足していたが、カガリはいきなり出てきたキュウべぇに疑っていた。

 

 

キュウべぇの方は契約として見返りを与え、二人にはとても素晴らしい才能があるから契約してほしいと頼んでいる。

 

探している間にも夕暮れとなり、そろそろ帰らないと父親に叱られることとなった。

茉莉を先に帰らせてカガリが自分で探そうとしたその時に、ツバキがいつも持っていた鈴の音が聞こえている。

 

「ツバキの音!」

(ツバキ…!やっぱり)

 

音の方に向かい、笑いながら向かう。

椿がそこにいるんじゃないかと走っていた。

 

(会いたかっ…え、何で)

 

しかし、見つけたのは椿ではなく暗い表情をしていた別の子であり、カガリが驚いていたのは、白髪の少女が椿のお守りを身につけていたことだった。

カガリにはなぜ椿のお守りをあの白い少女に付けられていたのか、理解できない。

 

そのことをカガリはキュウべぇに話すと、椿のことについて全て話した。

 

「あの子が…ツバキを殺したの?」

「魔法少女はいずれ魔女になり、魔法少女の役目として魔女を倒す。スズネはその役目をしたに過ぎない」

 

 

椿は白い少女を選び、面倒を見るために仕事を辞めるつもりだった。

鈴音と同じように前の頃、魔女によって孤独の身となっていた。

一度だけ力を使い他人を傷つけた。鈴音に自分と同じことをさせないように、茉莉やカガリを巻き込ませたくないがために選択した。

椿は二人のために思った行動だった。

 

しかし、カガリからすると椿が結局、自分達ではなく鈴音を選んだということと思っている。椿がもうこの世にはいないことにショックを受けていた。

 

椿は二人を置いて、魔女化して死んでいったからだ。

 

 

次の日、カガリはキュウべぇに契約を申し込んだ。

キュウべぇは契約をすれば何でも願いが叶うと言っていた。

 

「あの子に…復讐したい」

 

そしてカガリはキュウべぇにとある取引をしていた。

 

*****

 

カガリはツバキが味わった苦しみを与えて、もっと苦しんで魔女にさせたいと願った。

キュウべぇは鈴音を魔女化させたいのかと思っており、放っておいても魔女になる可能性があるから願う必要性はないと言った。

 

側にいてくれた椿とタートナックを失い、心を閉ざしており、自ら死を選ぶこともある。

鈴音は2人と離れ離れになって以来、ずっと閉じこもっていた。

カガリはそんな生温いものでは済まないように鈴音の意識と記憶の改竄で暗殺者へと変貌させる。

それが彼女の願いだった。

しかし、キュウべぇの目的はエネルギーを回収すること。魔法少女を魔女になる前に殺すようなことになってしまえば、魔女になって得るエネルギーが得られなくなってしまう。

それを、キュウべぇ達が黙ってられるわけがない。

 

「じゃぁ…黙っててくれたら魔女になってあげる。邪魔したらなってあげない…って言ったら?」

「交換条件か」

 

ツバキやスズネは普通の少女達よりも優れており、その二人からエネルギーを回収できないのは大きな損失となる。

 

ただし、鈴音が殺した魔法少女達のエネルギーの総計が茉莉とカガリから得られるエネルギーを上回っている間だけ願いを聞き入れることとなる。

 

利益が得られないのらキュウべぇ側も対応をさせてもらうこととなっている。キュウべぇは鈴音と一緒にいたあの鎧の魔物のことについては一切話していない。魔物のことについてはまだ理解できない部分があるために魔法少女と戦わせて観察対象とするだけだった。

 

 

キュウべぇはエネルギー回収の利益の為に願いについては判断を下すこととなる。

 

こうして契約は成立し、キュウべぇは鈴音の意識と記憶を改竄した。鈴音の頭の中にある鎧の魔物の記憶は抹消され、偽りの記憶として鈴音を暗殺者にさせられることとなった。

 

 

*****

 

「私がこの力で…ツバキからもらった力で止めてやる!」

 

鈴音は魔法少女から生み出てくる魔女を殺す。ツバキから貰った力を用いて魔法少女を殺すと誓った。

 

そこにタートナックがいたという魔物の記憶は抹消されている。

思い出も、名前も、姿も、その魔物に対する愛情も思い出せないように。

その魔物が椿を救ったという事実も、鈴音が魔女になった椿を殺したという事実へと変換されてゆく。

彼女の決意は、他の魔法少女を狩る暗殺者として目覚めたものだった。

 

*****

 

鈴音と別れて1ヶ月もの間、タートナックは山の森でずっと引きこもっていた。悲しみをいつまでも抱いて、一人きりで暗闇を彷徨っていた。

あんなに愛してくれた少女を強く突き放し、一人にさせてしまったことを悔やんだ。

何がしたかったのかと暴走して、疲れ果てて呆然と日々を過ごしていた。

 

 

暗雲で憂鬱な状態からようやく復帰し、身体を動かして久しぶりに山から下る。

そろそろ、鈴音に会いに行こうと考えている。

 

霧は制御しており、今は霧を自在に操って透明人間のような状態になることができる。これで街に安心して出ることも可能であり鈴音を探すこともできる。

タートナックは山の中で自分の力を扱い慣らし、自在に扱えるようになった。

 

 

1ヶ月前に回収していた美琴椿のグリーフシードから普通の人間へと転換が近づいている。

彼女をタートナックの身体からエネルギーを用いて引き剥がし、元の人間へと戻す。

蛹を破るように、外に出ると衣服類は流石に用意できないため裸にはなるが、彼女が生きているだけまだいい方だった。

残った脱け殻である負と穢れのエネルギーをタートナックの力と還元して。

 

過去に関わるなと言っておいて、自分から会いに行こうとしてどう思っているのか恐怖していた。

が、あの時みたいに3人で一緒に暮らそうとまた鈴音に出会い、和解を試みた。

成長した鈴音に会って、拒絶したことを謝る。そう考えるうちに気分が楽になり、夜の街へと向かってゆく。

 

 

*****

 

タートナックが1ヶ月ものんびりしている間にとある事件が起きていた。狙われていたのは十代の女子を狙った通り魔事件。

『切りさきさん』

その被害者であるカナミという魔法少女が3人目として散っていった。

主に中学生女子が狙われている。

鈴の音が特徴で、名を聞かれた後に殺されてしまう。

というのが学校中の女子中学生で噂となっていた。

そんな噂全く知らないタートナックは鈴音を探そうとするも、四人の魔法少女が夜の街を巡回しており、なかなか見つけられなかった。

 

(ナゼ、コンナニモマホウショウジョガイルノダロウカ)

 

できれば事を起こさずに鈴音に会いに行きたいと隠れている。霧となって路地裏を徘徊していくうちにお守りをつけていた魔法少女をようやく見つけた。

が、再開していた時には鈴音が四人と一緒にいた銃使いの魔法少女を殺そうとする姿だった。

鈴音は武器を構えて後ろから刺し殺そうとする。

 

タートナックは他の魔法少女を殺そうとする鈴音を止めるために後ろから走って近づく。走る音に気付かれたせいか鈴音は炎を使って、見えない敵に向かって攻撃する。

 

タートナックは霧を解いて、盾で炎を防ぐ。

「なっ、使い魔⁉︎」

殺されそうになった青い魔法少女はただ眺めることしかできない。

青い魔法少女は振り向くと、鎧をとった巨大な化け物がいる。

 

 

鈴音の攻撃を受けながらも口に出して言う。過去に見せたことのあるメモを鈴音に見せた。が、彼女は敵意をしてメモを斬り裂いた。

「ス、ズネッ…」

タートナックは鈴音があのことについて相当恨んでいるんじゃないかと思っていたが、

 

「…何者なの?なんで私の名前を知ってるの?」

 

 

鈴音の記憶にはタートナックと一緒に過ごしていた思い出が消え去られていた。鈴音の目は魔法少女を殺すことに執着している。

久しぶりに会っても、記憶のない鈴音には会ったことがないために容赦なくタートナックに襲ってきた。

今の鈴音にはタートナックとは初見であり魔物であることを知らず、ただの使い魔だと思っていた。

 



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四人の魔法少女

これは、タートナックが山から下りて来る前のお話

 

 

とある女子中学生3人が学校に登校していました。1人は楽しそうな表情をし、2人は退屈そうにしている。もう1人は退屈そうな1人を叱っている。

 

「みんなには会えるし、学校が楽しいよ?」

 

日向茉莉

緑色で、編んだ髪とお団子のような髪型。彼女は学校でみんなと会うことを楽しんでおり、いつも楽しく行っている。前向きな性格。

 

「あのねぇ…私達、来年は受験生になるんだから」

 

詩音千里

青い髪とポニーテールをして、髪を整えている。

とても真面目な性格だった。

 

「えーっ、だってさー」

 

成見亜利沙

ピンク色の髪をしたツインテール、勝気な性格をしており、愚痴をこぼすたびに千里にいつも怒られていた。

学校に行きながら千里は亜利沙に朝から説教が続いてり、亜利沙は耳を押さえてならない。

「学校に行きたくても行けない子供だっているのよ?」

「あーもう!分かったわよ」

「わかればよろしい」

説教が終わった途中で、学校近くで生徒会の人達が、挨拶運動をしていた。

「おはよー」

「おはよう」

奏遥香

彼女はその生徒会の1人であり、魔法少女ではリーダーとして仕切き、生徒会長をしているロングヘアの金髪の少女だった。自分が率先し、挨拶できてない生徒のために提案した。遅刻のチェックも怠ってない。

彼女は楽しげに3人と話している。

 

 

「こんなことしている間に遅れるんじゃない?」

「それじゃあお先に失礼します」

 

彼女らは同じ学校を通っている。

二人はのんびり教室へと向かっているが、茉莉は1時間目である体育を思い出して走っている。焦った時に鞄についていたウサギのストラップが切れ、廊下に落ちてしまった。

「あっ、ありがとう!スズネちゃん!」

「どういたしまして」

そして、天野鈴音。

前は椿と共に魔女を退治していたが。

今の彼女は学校に行く前の早朝から新聞配達のアルバイトをし、その新聞配達屋で一人暮らしをしている。

 

転校生として学校に入り、1年生として学校生活を過ごしている。

アルバイトの仕事を頼んでいる人は彼女の働きを見て賞賛しており、根性もある。続けてやっているのが何よりの証拠だった。

 

 

表では学校での生活、裏では暗殺者。椿との記憶は残っていても、魔物である鎧兵のことについての記憶は抹消されたままだった。

 

*****

 

放課後

 

鈴音は帰ろうとしていたところを茉莉に話しかけられ、鈴音と茉莉とは同じクラスで一緒に帰っている。

 

「スズネちゃんって新聞屋さんに住んでるの?」

「えぇ」

「今度遊びに行ってもいい?」

 

茉莉が鈴音に積極的に話してくるからなんで構うのと聞くと、同じクラスメイトで友達は沢山の方がいいと思っているからと茉莉は鈴音のことを友達になりたいと思っていた。

「仲良くなりたいの?私と友達に?」

「うん!」

その途中で、茉莉は遥香から念話をしているのに気付かずに、大声を出されてびっくりしてしまう。

〔わっ⁉︎どうしたのハルカ?〕

〔突然悪いわね、今忙しい?〕

〔いえ、いいですけど。どうしたのですか?〕

 

遥香は今連絡している茉莉にだけではなく、亜利沙と千里にも念話で連絡して集まるように指示した。

〔話があるの。屋上に来てもらえないかしら?私と亜利沙、千里も来てるから〕

〔えー、今から?むー〕

 

茉莉はもう少し話したかったものの、集合するのが大事であるために鈴音に用事があるといい、3人の元に向かうこととなった。

 

 

*****

 

「全員集まったようね」

 

念話で呼び出された3人は屋上にいる。

 

「話ってなんですか?」

「まさか、キリサキさんのこと?」

「そんなまさか…」

 

3人は遥香からは何も内容のことは聞かされておらず、噂になっていることで話があるんじゃないかと亜利沙は言った。その噂が魔法少女達である自分達に関与してるわけがないと千里が否定する。

 

しかし、

「よ、よく分かったわね…アリサ。その為にここに呼び出したのだから」

「えええっホントに⁉︎マジなの⁉︎」

「どういうことですか⁉︎」

 

噂は魔法少女に関与していた。

 

『キリサキさん』

一体そう名付けられた噂を誰が広めたのかはわからないが、学校中でその話を他の生徒達はしている。

鈴の音、コートを着た女。彼女から名前を聴き出されて、刃物で殺される。

 

夜一人で歩いている女子中学生が狙われていた。

 

まず、この街で1ヶ月もの間に起きている連続殺人事件のことを遥香は最初に話した。

 

「その事件はニュースで見たよ」

「まさかキリサキさんって…」

 

噂とその連続殺人事件との関連性はある。遥香が気がかりになっているのは父親の知人の記者からの情報で包丁やナイフよりも大きいモノで切られた痕が残っていたこと。そして、被害者が十代の女子であることだった。

 

 

遥香はその噂について実は魔女なんじゃないかと千里は思ったものの、魔女なのか人間なのか結局わからない。

 

「気をつけるに越したことはないわ」

 

 

四人は話を終えて、四人は魔女を倒すためのパトロールへと向かう。

 

*****

 

「いつも通りにやりゃいいんでしょ?」

「そうね、でも例の件もあるから油断しないこと」

四人はソウルジェムで変身し、散策に向かう。

亜利沙は大鎌、千里は拳銃、遥香はダブルセイバー、茉莉はグローブを持っている。彼女らは魔法少女に変身し、夜の街を駆け巡っていた。

 

魔女がいるかどうかを。

たとえ連続殺人事件の殺人鬼にあっても魔法少女ならば返り討ちにして討伐することができる。彼女らは一人一人に分かれて、街の散策をする。

 

〔異常なし、そっちはどう?〕

〔私の方も大丈夫〕

 

千里は周囲を見渡しながらも歩いて確認している。区画の1つ1つを探して、念話をしながら四人と連絡を取り合っている。その念話の最中に

「⁉︎誰!」

千里は鈴の音がしたことについて後ろを振り向くと誰もいない。気のせいかと思い誰もいないことに安堵したが、千里の後ろから既に武器を構えている暗殺者がいた。

 

(チサト!チサト!何があったの⁉︎ハルカ、マツリ!聞こえる!)

(聞こえてるよ!どうしたの?)

(チサトからの返事がこないのよ!)

 

亜利沙がいくら千里に念話しても呼びかけてこない。とにかく千里の身に何かあったのは違いなかった。

(マツリは私と合流してから向かうわ)

(うん!)

遥香は茉莉と合流して亜利沙の千里の元に向かっている。

亜利沙は何度呼びかけようとしても念話が取れず、先に千里を探していた。

 

「千里っ!」

「あ、亜利沙…」

辿り着いた時には千里はまだ生きており無事だったことに亜利沙は安心した。が、

 

 

 

「…何者なの?なんで私の名前を知ってるの?」

「ナゼ、ナゼ…ダ」

 

亜利沙の目には千里の他にも甲冑を着ている人型の化け物と、鈴がついている魔法少女が戦っていた。

鎧の方は、その魔法少女に敵意を向けられている事に酷く同様していた。

 

「な、なに…これ」

 

話の通り、包丁やナイフよりも大きな刃物で切り裂かれた凶器を白い少女が所持している。しかし、その少女と戦っている鎧は何者なのか分からない。

動いている鎧が使い魔なのか。

ちゃんと喋っているのも聞こえ、その白い少女と会話を通じている。

(本当に使い魔なの?…っていうか、なんで話せれるの⁉︎)

言語を喋り、通じ合える使い魔のようなものの登場で、割って入ってきた亜利沙にとって理解できない状況だった。

 

*****

 

〔…一旦引くよ、みんなにも伝えて〕

〔ちょっとこれ千里、どうなってんのよ⁉︎〕

千里は後ろへと下がって、亜利沙と逃げようと試みる。ここで混戦に混じって戦っても暗殺者に返り討ちにされるだけ。

 

 

〔私にも分からない…でもあの鎧は私を助けてくれた〕

 

鎧を纏った何者かは目の前にいる暗殺者と同等に戦っている。

 

「スズネ…スズネ」

 

至近距離で炎を食らうが、焔を浴びながらもそれでもタートナックは立ち上がった。

鎧は焔を遮断し、鈴音の両肩を掴んで何度でも彼女の名前を叫ぶ。

 

「しつこいっ…!」

 

 

鈴音は燃やしても斬っても倒れない敵に苛立ち、タートナックは鈴音が思い出すまで何度でも立ち上がる。

長い間、攻撃を受け続けているのに勢いはまだ止まらない。

「嘘っ…あんなのくらっても平気なの⁉︎」

 

亜利沙と千里はその光景を見ていて動けないままになっている。

「ど、どうなってるの?」

「チッ…」

 

 

彼らが戦っているうちに、茉莉と遥香が到着する。鈴音はこのまま鎧の敵と四人を相手にするのは厳しい。

タートナックの方はまた捕縛されて根掘り葉掘り聞かされてしまう。

 

 

「なっ⁉︎貴方達待ちなさい!」

「チサト、アリサ!大丈夫⁉︎」

鈴音は魔法で撹乱して逃げ、鎧兵は黒い霧に紛れて消えていった。

 

千里と亜利沙は呆然としており、遥香は止まれと叫んだものの深追いはしておらず、茉莉は二人が無事なのか心配していた。

 

 

 

*****

 

安全な場所に撤退すると、四人は状況を整理している。まず、千里が暗殺者に襲われ、あの鎧に救われた。千里はその場から身を引いて、鈴音は鎧に攻撃する。しかし鎧は全く攻撃しておらず盾で防いでいたこと。

 

亜利沙が駆けつけた時には千里は無事だったものの結界と炎で包まれており、長い間その鎧兵は傷だらけになっている。遥香と茉莉の二人が合流し、駆けつけた時には二人を見てすぐに立ち去った。

 

アリサと千里は生きており、茉莉と遥香は二人に何があったか説明するよう話してもらった。

 

「考えなければならないことが多いわね…灰色の魔法少女のことといい、鎧のことも」

「その魔法少女のことなんだけど…実は」

 

茉莉は鈴音が自分のクラスメイトであり、魔法少女であったことを、遥香に話した。魔法少女達を殺そうとした魔法少女がクラスメイトだったこと。

転校してきており、茉莉とは話し合っていた仲だった。

 

「彼女が現れたようだね」

 

 

その話に割って、キュウべぇが遅れて出てきた。今まで姿を見せておらず、どこにいるのか四人には分からない。

 

「今までどこに行ってたの⁉︎」

「すまない、鈴音は気配を消すことができるから気付くのが遅れてしまったんだ。こうなってしまう前に教えるつもりだったんだけど」

 

鎧についてや、鈴音のことについて。

キュウべぇからも話したものの、鈴音が何故あんなことをしているのは分からず、鎧のことも不明。

 

「彼女はいまや君達の天敵、暗殺者だ」

「でも、私達を守っていたあの鎧の使い魔は」

「そうよ!なんなのあの鎧は!」

 

鎧はあの暗殺者と戦っていたものの、どんな攻撃を受けても倒れなかった。使い魔かと亜利沙は思っていたが、あの猛攻を耐えられるわけがない。

「それが使い魔じゃないんだ。もしも使い魔だったら、鈴音が使っている炎に耐えきれずに焼き尽くされている。どうしてあんなものが出てきたのが…唯一分かっているのが魔女が使い魔を呼び出した時に召喚されたんだ」

「じゃあ、あの鎧は何者なの?」

「少なくともあの鎧のことは魔物、そう呼ばれている。助けた理由はわからない」

 

魔女が使い魔を召喚する時にそんな前例はない。突然変異したものだろうとキュウべぇ正体不明の鎧のことについては魔物と、そう言うしかない。

 

「魔女に召喚されたって…そんなことがあるの?だいたい、魔女って召喚されるのは使い魔のはず」

「うん、呼び出されたその魔物は魔女や使い魔に攻撃していなかったから倒されていなかったんだね」

魔法少女の4人はこれからどうすればいいかこの場で話をしていた。暗殺者の件もあるが、魔物についてもある。

 

魔物ならば人を襲うことがあるから討伐したほうがいいと遥香は提案する。しかし、千里は魔物のことについて調べようと前向きになっていた。

 

「ま、マジで言ってんの?」

「うん。本気」

「危険すぎるわ!あの魔物と対話なんて」

亜利沙は千里の言葉に驚いており、それを聞いた遥香は危険すぎると千里に警告したものの、

「私は…さっきの魔物が私達や人々を襲うとは思わない。あの鎧はこう言ったの…『スズネ』って。

あの魔物は確かに喋っていた。

それを私はちゃんと聞いている。

さっきあった鎧の魔物はあの暗殺者と何か事情があったかもしれない」

「「「⁉︎」」」

 

千里はあの魔物のことを探す気でいた。魔物は喋ることができ、人と話すことができる。もしかしたら暗殺者のことについてや彼らは関与しているんじゃないかと。

「私も…私もスズネちゃんがどうしてあんなことしていたのか知りたい。スズネちゃんと知り合っているのなら…!何か知ってるかもしれない!」

茉莉はその魔物が優しいのなら鈴音のことについてどうして魔法少女を襲っているのか、その動機を知りたかった。

 

茉莉とは鈴音は友達であるために、どうしてあんなことをしているのかを知りたいと、千里と茉莉は魔物の退治には反対した。

「助けられなかったらあの子に刺されて死んでた。それに、あの鎧の魔物がスズネって子と加担してたら私達はとっくに全滅していた」

亜利沙は千里の言い分を聞いて、亜利沙も賛成はしているもののまだ半信半疑であった。

「私も信じる…けど、やっぱり遥香の言う通り一人で行くのは危ないんじゃないのかな。私も一緒に…」

「私は、あの魔物を信じたい。会って、あの子と何があったかとことん話し合いたい。そうすればなんであんなことをしたのか分かるから」

遥香は3人の言い分を聞いて、魔物が害のない存在であることが分かった。

これ以上言っても3人は魔物との説得を諦める気は無かった。

 

 

「じゃあ討伐は今の所無しね。でも話すって言ってもどうやって探すの?」

「そ、それは…」

「僕の方も魔物を探してはいるものの、見つからないんだ」

その魔物はインキュベーターでさえも見つけることが困難な存在である。また見つけられたとしても鎧の魔物は四人の中の一人でも見られただけだすぐに逃げられるだけ。

 

霧と同化して捕らえるのも困難であり、茉莉の魔法をアテにしなければ分散して探しても無駄だった。

 

「色々あったけどとにかくもう帰りましょ。話の続きは学校で」

 

遥香はこれ以上話をしてもキリがなく、深夜にまでかかってしまう。四人は話を終えて家へと帰って行った。

 

 

(もしあの魔物以外にも別の存在がまた新たに出現したら)

インキュベーターであるキュウべぇはあの鎧を纏った魔物だかではなく、他にも出現するイレギュラーの存在を危機として予感していた。

そして、その予感は見事に当たった。

それも同時多発的に

 

「ピチュ、ピーチュ!」

ある時は電気を纏う鼠

「そなたが余のマスターか?」

ある時はローマ帝国の第五代帝国の皇帝

「余の、振る舞いは…運命…である」

ある時はローマ帝国の第三代帝国の皇帝

「ここは、どこなのでしょうか?」

ある時はハンマーを持っている大王様の配下、大量の軍勢の中の一匹。

7人の魔法少女の元に新たなイレギュラーが出現する。

 

「…小娘、お前がマスターでいいんだな」

そして、ある時は黒魔道士

 

介入されたイレギュラー達の存在がどのような結果を生み出すか。

それは、神のみぞ知る。




誤字脱字があれば感想にて。
アンケート以外にも入れたいキャラも入っています。
どんなキャラなのかはお楽しみに。


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亜利沙とワドルディ

イレギュラーその1です


魔法少女になる前の亜利沙はいじめられていた。机には悪口が書かれ、その中にはゴミが大量に入っていた。イジメてくる生徒に面倒なことを押し付けられ、心の奥底では苦しんでいた。

 

(イジメられたくない。なんでこんな目にあうの?)

 

暗い表情をしつつも、ゴミ掃除の処理を一人でしている。イジメられる理由は弱いから、そう思っていた時にキュウべぇが現れた。

彼女はぬいぐるみかと思っていたが、喋ることができ、名前を言ってもないのに知っている。

 

「君は何か問題を抱えてるようだね。僕ならその問題を解決できる」

 

キュウべぇは悩みを抱えている亜利沙に近づいて勧誘する。

 

「望みはなんだい?」

いじめた連中に見返しをしたいと、彼女はキュウべぇに願った。

たとえ魔法少女になって魔女と戦うこととなっても。

彼女は力を望んだ。

「分かった、契約成立だ」

 

次の日、イジメてくるクラスメイトに反抗しようとするも、今度は暴力してくる。もう願いを叶えてくれたおかげでいじめられないと反抗した。

 

「嫌です、もう…もうイジメるのはやめて下さ「聞けねぇてのか、ぶっ飛ばすぞあぁ!」」

 

自分の身を守ろうとするが、殴ってきた拳の骨を握るだけで折ることができた。

「この力、すごい」

 

その願いを手に入れた亜利沙は変わっていった。

 

まず最初に不良グループを潰して、自分がどれだけ恐ろしいかみんなに知らしめた。次に不登校による無断欠席に校内の飲食、逆らう連中や気に入らない人に暴力をする。彼女は手に入れた願いをいいことに自分のやりたいことを周りに構わずやっていた。

 

「待ちなさい」

しかし、その行為に見逃せなかった同じ一年生の生徒が一人いた。

それが、千里との出会いだった。

 

「ケンカ売ってんの?」

「力の使い方はよく考えて欲しいわ」

 

魔法少女に変身してぶちのめそうとするものの、返り討ちにされてしまう。

能力を扱い慣れてない差で千里が勝っていた。

しかし、撃ち殺そうとはしない。

 

「殺せばいいじゃん、なのになんで撃たないの…力を持ったっていつも一人で、何も変わらなかった」

「ハァ…あのねぇ。力がどうとかと言うより、自分自身の問題でしょ。どんなに力があっても一人じゃどうにもできないことだってある。分かった?」

千里は銃をしまい、亜利沙に近づく。

 

「この町には私やあなた以外にも魔法少女がいる。一緒にいればもっと強くなれる」

「一緒に、でも…今更そんなの。それに人付き合い苦手だし」

 

亜利沙のやったことは人を拒絶してばかりだった。

周囲に気を配ることなく、ルールを守らずにやりたい放題なことを今までしてきた。

 

「大丈夫。ちゃんと向き合えばわかってくれる。今からでも遅くはない、立てる?」

「…ありがとう」

 

しかし、千里はそんな亜利沙を許し、笑って手を差し伸ばす。

それを見た亜利沙は涙を流して彼女に救われた。

 

*****

 

暗殺者の正体がまさか自分達の学校の生徒で被害者と同じ女子中学生で、同じ魔法少女であること。

 

そしてもう1つは突然現れた鎧の魔物。甲冑、盾、大剣とレイピア。それらを身に纏い、戦場で戦うような格好をしている。

西洋の歴史から生み出された戦人に似た魔物。武士ではなく、重たそうな防御服を全身にまとって戦っていた。

 

その魔物は親友を救ってくれたとはいえ、わからない存在だったためか釈然とはしない。

『私は、あの魔物を信じたい。会って、あの子と何があったかとことん話し合いたい。そうすればなんであんなことをしたのか分かるから』

(千里は信じるって言ったけど…)

 

彼女は複雑な心境だった。

突然現れた喋ることができる魔物、しかもその魔物が暗殺者の知り合いであること。

ただし、本当に知り合いかどうかなんて分からず。山積みになった話の件については学校で話すしかない。

 

(あーもっ!)

一人で考えてるうちにもう訳が分からなくなり、諦めた。もしもその魔物が暗殺者と共犯者ならば千里を襲うこともありえたが、その線はかなり薄い。暗殺者の方は全力でその鎧を殺しにかかってきたからだ。

 

だから事情を知っている鎧兵のことと話したいという気持ちも分からなくもなかった。

 

「ただいま〜」

 

魔法少女の仕事を終えて、亜利沙は家へ帰宅する。これ以上考えても何も浮かばない。

 

「おかえりー。アリサ、あんた部屋のベットにいつの間にあんななぬいぐるみあったけど買ったの?」

「は?ぬいぐるみ?」

 

亜利沙は学校の荷物を部屋に置いて見渡していると、ベットにぬいぐるみは置かれていない。元々ぬいぐるみなど部屋に置くことがなかった。

彼女は気にせず、学生服を脱いで私服へと着替えようとしていた。が、

 

「…なんか視線を感じるんだけど」

 

 

亜利沙は下着姿のままそのぬいぐるみに近づく。ベッドの下には母親の言ったとおり、ぬいぐるみがあった。

(こんなものあたし置いてあったっけ?)

「ご飯できたわよー」

「気のせい…か。はーい、今行くよ」

 

亜利沙は部屋を出ようとすると、ベットがガタガタと震えている。その震えはだんだん大きくなり、ベッドが揺れていた。

 

「やっぱり気のせいなんかじゃない…⁉︎」

亜利沙はもう一度、ベッドの下を覗くとぬいぐるみがジタバタしている。

 

「こ、こんの覗き魔!身を隠そうたって!」

 

そのぬいぐるみは身を隠そうとしているわけではなく、抜け出せなかった。

閉じ込められてしまったと思い、焦っている。

 

亜利沙はヘッドを持ち上げて、そのぬいぐるみを捕まえて顔をみせた。

捕らえた時の感触が生き物でありぬいぐるみではない。目が回っており赤くて丸い生物がフラフラして倒れていた。

 

(か、可愛い…って違う!)

「お、起きなさいよ!」

そう叫ぶと目が回っていた生物はやっと目を覚ました。

「ふぅ、やっと抜け出せた。ありがとうございます」

「ど、どういたしまして…ってキヤァァァァァッ⁉︎シャベッタィァァァ‼︎」

ベットにいたぬいぐるみがいきなり喋ったことに亜利沙は驚く。キュウべぇ以外の生物も存在し、喋れるとは思わなかったから思わず大きな声で叫んでしまった。

 

「亜利沙?どうしたの急に?」

「ハハッ…ち、ちょっとね。まさか喋るぬいぐるみだと思わなかったからビックリして」

「あらそう?もうご飯だから来なさいね」

母親はそう言って部屋を出て、夕食の皿や水を用意しに戻る。亜利沙はその生物のことについては一応後回しにしてこう言った。

 

「部屋で待ってなさい…貴方のことについて色々聞くのは食べてからにするから」

「あ、あの…お腹空いたので何か食べ物を」

亜利沙は仕方なく、部屋にある菓子をとってそれをワドルディに渡した。

 

*****

 

亜利沙は夕食を食べ終えると部屋に戻る。正座で待っていたその生物に、おにぎりを作って部屋に持っていって餌付けしていた。

「ほら…さっさと食べなさい」

「あ、ありがとうございます」

 

置いたおにぎりを、生物は姿勢を崩してさっさと食べる。このことについて親にも話すわけにはいかず、その生物を自分の部屋に留まらせている。

「あのさ…あんた何者なの?とゆうよりなんで隠れてたの?」

「あっすみません、驚かせてしまって。自己紹介が遅れてました。

名前の方はワドルディと言います」

 

どこから来たのかはさっぱり分からず、ここに来る前に何かあったかはよく覚えていた。自分が元いた世界はプププランドという世界であり、その世界の大王の下で働いていた。

 

あの世界にやってきたカービィを倒せという命令を受けて大王はカービィを倒そうと命じる。しかし、カービィは多彩なコピー能力で配下達は次から次へと倒されてゆく。

その倒される中の一人がワドルディだった。

「あんた…男なの、女なの?」

「生物的には男です」

「こ、殺す!絶対に殺す!」

「おおお落ち着いてください⁉︎」

 

魔法少女に変身して、襲いかかる。彼女は下着姿を見られているから怒っていた。ワドルディは振り回す鎌を見事にかわして飛びついてしまう。

 

「つったぁぁっ…何すんのよ」

「ご、ごめんなさい」

鎌を持って降ろうとしても、この部屋で暴れて散らかるのはまずいために武器を収めた。

 

「ハァ…で?結局のところどういう存在なの?」

「長くなりますが良いのですか?」

 

ワドルディはここにたどり着く前までのことを話していた。プププランドに生まれたワドルディは彼以外にもワドルディという存在は大量にいた。デデデ大王様のために機械的に働き、与えられた指示に従うことを懸命にした。しかし、ただ従うことを忠実にやるだけではダメだという意思をいくつかのワドルディ達は自らの意思で自主的に動いていた。

 

ある時は

武術を極めて戦うワドルディ。

城以外にも他の建物を建築するワドルディ。

料理をするワドルディ。

色んなワドルディがいました。

 

 

戦場に出向くワドルディがカービィと戦った場合、どうなるのか。それは一回でも攻撃を受ければ弾け飛んで消えるのです。弾け飛んで、役目を終えたワドルディはまた新たなワドルディに引き継がれる。消されてしまったワドルディはこの世界に復活することとなった。

 

自分達は元は大量に存在するワドルディの中の一人だと言った。

 

「あんたは、その、要するにその大王様の命令のままに従ってたってことでしょ?…あんたはその辛くは無かったの?だってその大王、あんた達の気持ちなんて無視してこき使うだけ使って」

「別に怒ってないです。確かに横暴な指示ばかりして…クビにされるわ、食物は酷いものばかり押し付けるわ。

やることは暴君でしたけど…でも、好きでした。プププランドは僕にとっての大事な故郷で、城は故郷なのです。そして僕達はあんな大王様でも放っておけないのです。その世界に戻れないのは名残惜しいですけど」

 

デデデ大王が危険な目となれば配下である自分達は忠誠を尽くして最後には戻ってきた。あまりの横暴さに反乱も起こすことも、人身売買されて言うことに耳を貸さないこともある。

 

それでも、あの故郷のことは忘れられない。

配下にした大王様のことも見捨てられなかった。

「そういうことがあったんだ」

「ベットに隠れてた理由は、僕の姿に驚いて批難されてしまうからです。僕の方は住む場所がないからここに泊まらせてもらっても…」

 

ワドルディ自身もプププランドではない別の世界に目を覚ましているから、焦っても仕方なかった。

 

「仕方ないわね、外にほうり出して事件沙汰にされるのも困るし。いいわ…ただし如何わしいことしないでよ」

「あの、名前は」

「成美亜利沙、アリサってよんで」

亜利沙はワドルディを住むことを良しとして、話を終えると明日の予定を準備して寝ることとなった。

 

「あのアリサさん、寝床は」

「アリサでいいわよ…タンスの中に掛け布団があるから、それでなんとかして。おやすみ」

 

こうして、亜利沙はベットに入って寝た。

これ以上今の状態で根掘り葉掘り聞いても頭に入ってこない。今確信していることはこの生物を外に出すのは危険すぎること。住ませてもらっているワドルディは亜利沙の下で新たな人生を歩むこととなった。

 

(可愛かったなぁ…いや、何考えてんの私)

ワルドディの健気で可愛い姿に亜利沙は眠れずに気が散っていた。

(ちょっとだけよ)

ワドルディを抱き締めたいという気持ちもあり、ひっそりと寝ているワドルディを持ち上げて、ベッドに一緒に寝る。

(あれ…なんか心地いいかも。なんか眠たくなってきた)

モフモフとし、枕を抱いているような感触があって落ち着く。亜利沙はそのまま、ワドルディをベッドに入れたまま抱き枕にして一緒に寝入ってしまった。

 




ワドルディは可愛い、ワドルドゥも可愛いよ。


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遥香と戯れるピチュー

今回はかなり短いです。


 

山積みになっている問題を抱えて家に帰ってきた遥香は部屋に戻って整理することとなった。生徒会とリーダーとして仕切る二つの仕事を任せられている彼女の疲労は重い。

 

魔法少女である暗殺者、鎧の魔物

 

二つの存在が何を意味するのか分からないが、繋がりはある。

千里の言うように魔物と会話しなければ、暗殺者である彼女がどうして魔法少女を殺しているのかという理由が分からない。

暗殺者は自分達の学校の転校生であり、初めて会い、千里を助けてもらった鎧の魔物とは接点があるという情報は驚くものだった。

しかも魔物については会話することができる。

 

(私達の中の一人が、暗殺して殺されなくて良かったわ…)

 

唯一救いだったのは誰も死んでいなかったこと。もしも鎧の魔物に助けられなかったら千里が襲われて、後ろから斬り殺されている。

 

そしたら、彼女はもう生きていない。

だから千里の言うとおり会話ができるのなら会って話したいというのは一理あった。

 

今後は4人全員で集まって街のパトロールもしつつ、千里の提案には休日の時に魔物を探そうと考えていた。

時間は前よりはかかるがその方が、暗殺者の襲撃に対応できるから。

 

「ただいま…疲れたわ」

「お帰りなさい」

 

 

責任は彼女の身体に重くのしかかる。

周囲からは完璧だと言われ、仕事を両立している。遥香は部屋に行こうとすると巨大な黄色のネズミの生物が彼女のベッドで遊んでいた。

 

「ピチュ、ピーチュ!」

「…は?」

 

遥香は遊んでいるのを眺め、頭では混乱している。目の前には変な生物が遊んでいる。

まず、一目で見た第一印象は

(か、可愛い‼︎)

つぶらな瞳と、鳴き声。ピチューは人が入って見つけられてしまったためにベッドに潜り込んで逃げる。

「って違う!貴方誰なの!」

一瞬見惚れてしまい、我に戻った遥香はその生物がどこから来たのか何者なのか怒鳴る。

しかし、

「ピッチュゥ…」

上目遣い&泣きそうな目をして甘えた。

 

彼女の心がキュンキュンとなって、責めるのに戸惑い、その生物を可愛いと抱き締めたいと思いながらも、それでも追い出そうとする。

 

しかし、黄色い鼠は部屋から出ようとはしない。反抗して電撃を放とうとしている。

(こうなったらっ…!)

それに対して遥香は魔法少女の姿に変身してその鼠を倒そうと考えた。

しかし鼠も反抗して電気を放出しようとしている。

(なっ、なにこの生き物)

 

電気を発する生物なんて電気ウナギくらいしか知らない。電気を発するネズミなんて聞いたことない。

このまま大暴れしても親にバレてしまえば大事になってしまう。遥香はひとまず落ち着いて、自分は敵じゃないことを示した。

 

遥香は嫌な予感がして、魔法少女の変身を解く。

 

「分かったわ。貴方を倒そうとは思ってないから…キャッ⁉︎」

 

彼女が諦めるとピチューは首元に飛びついてきた。

ピチューはもう電気を帯びてない。

「もぅっ…ごめんなさい」

ピチューはそっぽを向いたものの、何分かするうちに飛びつく。

遥香はそっと抱きしめたものの、ピチューは息が出来ずに胸の中でもがいている。

「く、苦しいよ!」

「ご、ごめんなさい、って…えっ?」

 

その生物を抱き締めている間に念話のようなものを遥香は確かに聞き取っていた。

 

 

「し、喋れるの⁉︎」

「あれ?そ、そうみたい」

「そうみたいって貴方…」

 

会話できること自体、ピチュー本人は自覚していなかった。

 

*****

 

遥香が夕食を食べた後に菓子をピチューに与える。ピチューはそれを食べ終えた後に念話で自分の存在のことについて長々と説明する。

 

この世界で生まれて育った生物ではなく、イッシュ地方などの町中の所々にポケモン達が住み着いている。

 

少年少女は親元から離れてポケモンマスターになるために三種類のポケモンをどちらか一つ選んで旅を始める。

彼らポケモントレーナーは森や川、草むらにいる野生のポケモンをモンスターボールで捕獲して捕まえる。

 

 

本来ポケモンは念話することも人と同じように言語を話すことができない。

しかし、今いるピチューの場合は言語を交わし、話すことができる。

 

遥香の目の前にいるのはピチューという名のポケモンである。

 

「じゃあ、今はちゃんと話れるね」

「うん」

 

ピチューはここに入る前の記憶が曖昧であり、気づいたときにはいつの間にかここにいた。いつもならこのポケモンはピチュとしか言えなかったはずが、普通に言語を交わすことができる。

 

 

なお、遥香はピチューを住ませても構わなかった。

 

「いざという時は戦うよ?」

 

ピチューは住ませてもらって、危険な目にあっている遥香を

 

しかし、遥香はピチューに戦う必要はないと言っている。彼女はピチューを魔女退治に巻き込ませて欲しくなかった。

 

「貴方は戦わなくていい。もしもあなたの存在がこの町に住んでいる人に知れてしまえば大変なことになる」

 

遥香の言っていることは一理あった。

その生物が突然街に出現したら警察も呼び出され、捕獲されて報道に乗せられてしまう。

遥香は一人でやれると言っているもののピチューは彼女が無理に笑っているのを不安げな顔をしていた。

 

*****

 

夜、彼女はとても落ち込んでいた。

魔法少女の暗殺者、鎧の魔物だけではない。ピチューには代わりの布団に入れさせている。

 

「明日あのポケモンについてもみんなに相談しようかしら…」

 

部屋にいつの間にか出現した鼠。

黄色くて、電気を放出する見たことのない生物。

 

「まさか私以外にも、いやそんなまさか…」

 

遥香は自分以外にも亜利沙や千里、茉莉の3人にも部屋に誰かが呼び出されるんじゃないかと思ったものの甘く考えて、明日に備えて早めに寝ることになった。

 

 



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千里と花京院典明

彼女は鎧の魔物に救われなかったら、今頃は死んでいた。助けられた彼女は魔物の討伐に反対し、会って事情を話すことを持ちかけたものの

 

 

「ただいま…」

「あぁ、おかえり」

それでも、不安というものがあった。

 

助けられてもらったとはいえ、魔物の方は千里を助けたかったから助けたというわけではない。もう一度会って、その魔物が凶悪なのだとするのなら果たして対話に乗じてくれるのだろうかと。

 

「ご飯はできてるから」

「ありがとう、父さん」

 

彼女には父親はいるが母親がいない。

魔法少女になる前はなに不自由の無い暮らしをしていた。父親は絵本作家の仕事をしており、作った本は独特で注目を集められるために好評だった。しかし、人々の興味が薄れていき、絵本はだんだん売れなくなる。とうとう出版してくれるところは無くなってしまった。

 

仕事をなくしたお酒を飲んで、当たり散らした。母親の方は父親のことを信じて必死に働いたものの、体を壊して死に、今度は娘である千里に八つ当たりをする。

母親が死んでから父はもっと酷くなった。

千里は母親と同じように我慢したものの耐えられなくなり、その時にきゅうべぇが現れた。

 

そんな彼女が魔法少女として願ったのは『父親の更生』

 

 

その願いによって父親を変えてしまい、千里には今でも父のことで罪悪感がまだ残っている。

 

「「いただきます」」

 

自分の願いを教えたのはアリサだけ。

友達であるアリサはその願いを聞いて、自分のことを分かってくれたことに安堵した。部屋に戻って、自分の荷物を片付けた後にリビングに向かい、ご飯を食べている。

 

「ごちそうさまでした。食器は片付けるから」

 

千里は食事を終えて、食べた皿を片付ける。部屋に帰るといるはずも無い人が誰かがなぜか倒れていた。

 

(えっ、なんで私の部屋に人が⁉︎)

最初に部屋にいた時は、自分以外誰もいなかったのに学生の服をした男が倒れているなんて。千里は焦らずにその人の心拍音を聞こうと心臓部の方に耳を当てて傾ける。

「心臓が動いてない⁉︎脈の方は…」

首筋の脈を確認するが、それも動かない。千里はすぐに人工呼吸を行って、彼を助けようとする。

まだ瞳を閉じていたままだった。

*****

 

花京院典明

幼い頃の彼には友達がおらず、いじめられているのかというわけでもない。

 

一人になっている理由は、彼以外の他の人にはスタンドという存在が見えなかったから。彼には今まで友達と呼べる人物がいなかったことだった。彼は家族と旅行でエジプトに向かった。

 

が、その旅先でDIOに自分の弱みをつけ入れられ、取り込められたと同時に肉の芽を植え付けられ、承太郎という男の殺害を命じられた。

 

ハイエロファントグリーン(法皇の緑)という彼のスタンドを用いて、承太郎を殺そうとした。

 

 

『悪』とは敗者のこと

『正義』とは勝者のこと

『過程が問題ではない』

 

 

だが、自分の放つ言葉は『承太郎に敗北した』という形で自分に返ってきた。

敗北した後、肉の芽を抜かれた彼は正気を戻し、承太郎の仲間に加わった。

承太郎達と旅に同行することとなった。

その旅ではDIOが配下にした数々のスタンド使いが立ち塞がり、【タワーオブグレー】や【デス13】というスタンドの危機を彼の活躍で承太郎達を助けた。

 

両目を負傷し、入院したものの両目をちゃんと完治してサングラスを身につけ、DIOの恐怖を乗り越えて立ち上がる。DIOの決戦の前に、共に戦ってくれた仲間であるイギー、アブドゥルはDIOに忠誠を尽くしていたヴァニラ・アイスに殺され、ポルナレフが終止符を打った。

(アブドゥルとイギーのことを考えると…背中に鳥肌が立つのはなぜだろう。それは目的が一致した。初めての仲間だったからだ)

花京院は仲間の死に後ろめたさもあったが、それでもDIOを倒すために承太郎達と共に前へ進む。

 

そして、最終決戦にて。

DIOとの戦いにて、暗い夜のエジプトの街で決着をつけることとなってしまった。花京院とジョセフ、承太郎とポルナレフの二手に分かれてDIOを挟み撃ちにする。

 

半径20mのハイエロハントの結界を張り巡らせて花京院はディオを追い詰める。DIOのスタンドを燻り出すために。全方位からエメラルドスプラッシュの雨を全弾命中させようとするものの。

 

 

彼は何をされたのかもわからず、腹を貫かれて吹き飛ばされた。

 

「花京院!」

「次は貴様だ!ジョセフ・ジョースター‼︎」

止まった時の中で止めを刺されて、吹き飛ばされてしまった。ハイエロハントの結界は全て数秒持もたずに壊され、死にゆく間にDIOのスタンドを見抜いた。

 

時間を止めるスタンド。

 

まだ生き残っているジョセフ・ジョースターに最後の力を振り絞って最後のエメラルド・スプラッシュを時計塔に向かって放ち、伝えた。そして彼は瞳を閉じて、この世を去った。

 

 

*****

 

確かに、そのはずだった。彼の目が見開くと知らない天井が見える。彼の感覚が段々と戻っていくと同時に心臓に圧迫感を感じ、咳詰まってしまう。

 

「ゲホッげほっ⁉︎」

「…目は覚めた?」

 

花京院は周囲を見渡し、どうなっているのかを見渡す。今度は自分の身体の至る部分を触り続けた。

(DIOにやられた傷跡が、無い⁉︎)

彼の腹部には貫かれた跡もなく、全くの無傷になっている。殺されたはずなのに、生きているという感覚だけでも彼の頭が混乱している。

 

「落ち着いて。貴方が起きる前まで心臓が止まってたの」

花京院は冷静になって、落ち着くようにした。

「ここは、どこなんだ?」

「私の部屋。それじゃあこっちの質問…なんでここにいたの?貴方は誰なの?」

「それが、気付いたらここに。名前は、花京院典明だ…って待ってくれ!もしかしてこの家に僕は」

「うん、不法侵入しているね。でも」

花京院は知らない人の家にいることに驚いて、急いでこの家から出ようとする。

しかし、千里に彼の衣服を掴まれて止められてしまった。

「…これ以上君に迷惑をかけるわけにはいかない、今すぐにでも」

「はぁ…あのねぇ。出て行ったところで住むあてがあるの?」

「それはっ…ない」

起きたばかりの彼には住むあてが全くない。この世界にいきなり放り込まれ、外に出て辺りをくまなく探したところで住ませてもらえる場所やアテなどないからだ。

「それに不法侵入って言っても私の部屋は密室になってるし、心臓が止まっていた貴方は何もできなかった。

貴方の状態からして、多分…いつの間にかここにいたって解釈してもいい?」

「すまない…」

千里は見知らぬ男が突然部屋にいることと、面倒事が増えたことに、ため息をついた。

(どうしてこんなことに…あれ?なにこれ?)

それだけではなく、千里の手の甲には赤く三つ葉のクローバーの形をしたものがあった。

花京院は自分が何者であったのかを話し、千里はこの街のことについて話した。

「ねぇ、お腹は空いてる?」

「不思議なことにお腹は空いてないんだ。あ、そうだった…君の名前を聞いていない」

「詩音千里。千里でいいから。お腹が空いたらちゃんと言ってね」

「あぁ、分かったよ」

(随分と、しっかりとした子だ…)

花京院は壁に横たわって、考えていた。

(僕は、どうなっていいるんだ。スタンドまで…この子にはまだ明かすわけにはいかないな。

明かすのはお互いが落ち着いてからにしよう)

前までDIOのザ・ワールドによって貫かれていた痛みは消えて、気がついたら女子の部屋にいたことだ。

それだけではなく、スタンドであるハイエロファントグリーン(法皇の緑)も健在している。

スタンド能力が残っていたことに彼は驚いていた。

「…君のベッドで寝るわけにはいかないし」

「今日は何も用意できなかったから、休みまで待って。冬用の掛け布団を敷き布団代わりにして。

私、学校があるから。貴方のことについては後回しにする…明日は部屋でずっと残ってて。

それじゃあおやすみなさい」

「あぁっ…おやすみ」

 

二人は一緒の部屋で寝ることとなった。

*****

 

不自然な点があれば感想にて




残り・・・後3人


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黒き鎧兵と月に魅了された皇帝

魔物は山に逃げ帰って以降、木のそばに座ったまま愕然として動けなかった。身体がずっしりと重く感じ、思うように動けない。

 

 

前までは椿を助け、鈴音を拒絶してしまった。タートナックは何ヶ月も会わずにそろそろ気持ちを切り替えて、山を降りた。が、

 

ーーー誰なの?なんで私の名前を知っているの?

 

その一言で、魔物はショックを受けた。

 

鈴音にあんなにも愛されていた筈なのにタートナックのことをすっかり忘れ去られた。魔物はそのことで、悲しんでいる。自分は彼女にとって忘れ去られてもいい存在だったんだなとガックリしていた。

 

 

山に戻り、またひきこもっている。椿と鈴音の二人以外と関与することに恐怖を感じ、逃げた。関われば、無力な自分のせいでまた誰かを酷い目に合わせてしまうと。

 

 

しかし、本当にどうでもいいと彼女は感じていたのだろうか。椿を助け、恩人となった魔物は鈴音にとっては最早大事な存在だと認識されている。それなのに、容赦なく斬りかかってくる。

 

 

『スズネ』

 

それとも、今までの思い出を抹消してなかったことにされたのだろうか。魔物の体内にある椿は、もう少し時間を立てなければ外には出すことはできない。しかし、たとえ身体がボロボロになっても彼女が復活することを伝えたかった。

 

 

魔物は夜空を眺めて、悩み考えている。自分がここに来る前までの頃は、敵が来るまでいつまでもぼーっとしていた。しかし、魔物にとってここまで思いつめていたと言うのは初めてのことだった。

 

 

善行をしたところで戒められるのは分かっている。手を差し伸べたところで鈴音に斬られてしまうだろう。

 

ーーーそれでも魔物は自分のことを鈴音が思い出してくれると信じて、分かってくれるまで争う。

 

*****

森の中、地面が発光し、そこから人が出現した。タートナックは、後ろから誰かがいると察知した。突然光の中から出てきた人は殺意が背中からじわじわと感じている。動いたその瞬間、後ろから飛びかかって襲ってきた男は頭を狙って殴ってきた。

 

タートナックは霧と同化し、反撃よりも逃げることを優先した。あの緑の勇者とは何かが違う。魔物よりも邪悪で禍々しく、猛獣のように周囲を破壊しつつ追いかけまわしている。

 

すぐに追いつかれてしまいそうになるも霧で敵を欺き、目を眩ませる。男が殴った地面は亀裂が入り、ボロボロと崩れていく。

タートナックはこのまま巻こうと逃げ続けたが、そう何度も霧を使えるというわけではない。

鈴音との戦闘で体力が消耗していたからだ。

 

『⁉︎』

 

消耗すれば霧と同化できなくなり、元の姿へと戻り、転んでしまう。男は大きな音が聞こえ、その方向に頭を向く。タートナックが転び落ちているのを発見した男は叫びながら追いかけ、強力な一撃が鎧を貫通する。大量の穢れと負を纏わせた鎧が崩れ、タートナックは身軽になる。自分の身を守るために今度は左腕にある盾を用いて猛攻を防ぐが、ヒビが入る。

(ナカニイル…ツバキヲマモル)

盾もいつ壊れてもおかしくない。腰にある剣を抜いて、反撃する。男は頬を剣で擦られ、血が流れているもののそれでも勢いは止まらない。

 

大きな木に投げ飛ばされ、止めを刺そうとする。が、彼の拳はタートナックの顔の直前までで止まっていた。

 

「汝の…体内に、いる」

 

自分を召喚したマスターをここで殺せば自分自身が消えてしまう。彼はようやく気づいた。自分を召喚したマスターがこの魔物の体内におり、同時にトドメを刺せばどうなるか。

 

この鎧の魔物の身体には自分のマスターがいるということは、このまま魔物ごと拳を貫ければ、自分を維持してくれているマスターごと殺すこととなるだろう。

 

どうしてあそこまで暴走して襲ってきたのに、ギリギリの直前で理性を取り戻したのかいるのかというのは。

 

「身体が解放されてゆく…」

それはカリギュラの穢れと負を、タートナックが吸収していたからだ。

 

『ナゼ、コンナ』

 

タートナックはそう一言尋ねた。彼がなぜこちらを襲ってきたのか意図がわからない。

「…分からない」

その意図を聞いても、狂っていたから分からないという理由しか返事が返ってこなかった。魔物が憎いからというわけではなく、少なくとも目の前にいる存在は敵だと認識して襲いかかったかもしれなかったが、今の彼はどうして襲ったかも忘れている。

 

もうタートナックのことは敵だと思っていない。彼は空を見上げた。

 

 

「月が…美しい」

 

彼は夜を照らしている月を見て、泣いていた。瀕死になりかけのタートナックにはわからなかったが、彼にはそれほど月のことで何かあったというのは伝わっている。

 

タートナックは立ち上がろうとしても身体がよろめいて、フラフラな状態になっている。足をくじいて、落ちていってしまいそうになるが、男はタートナックを掴んで助けようとした。

 

『⁉︎』

「おまえは、人ではない…が、似ている。ネロに」

そう言ってタートナックを引っ張り上げて、助けた。彼にとって似ているというのは『優しさ』だった。

 

 

『アリガトウ』

「すま…ない」

タートナックはありがとうと先に言ったものの、対して男は頭を下げた。

 

召喚したマスターを取り込んでいる魔物を敵視し、事情も知らずに襲った。

マスターのためであろうがなかろうが、殺しに向かったことは変わらない。

『モウ、キニシテナイ』

 

こうして二人は初対面ではあるがいろいろと語った。タートナックはこの世界の者ではないのと、魔女と魔法少女。この世界で出会った素敵な二人の話をし、そして二人が何者なのかを熱く語った。

カリギュラは魔物に自分の昔のことを話した。

 

ローマの物語。

自分のことを、月を愛した理由。

月の女神ディアーナ、そしてカリギュラが愛している娘のネロのことを。

 

聞いていたタートナックにとってとても新鮮だった。ローマなどという国は聞いたことがなく魔物がいた場所は神殿という狭い場所にいることしかできなかったからだ。

 

 

カリギュラはまだ狂化が無いわけではないが、タートナックは彼がとても悪い人には到底思えない。月に魅入られ暴君となったとしても、彼は娘思いの父親であったことを。

 

『テヲ…カシテホシイ』

長い時間多くのことを語り合って、握手をした。タートナックは人と接触することを恐れ、逃げてばかりだったが彼の出会いに感謝するしかない。

今まであまり喋ることをしなかったからだ。

 

カリギュラは目の前に敵を殲滅し、殺しに襲う。魔物を襲ったもののその魔物に敵意がなく、しかも魔物の身体の中にマスターがいるのならカリギュラはタートナックの言い分を受け入れた。

 

『ソレガ、スズネトツバキノタメナンダ』

「余は、従う…お前との戦いに」

 

 

こうして彼らは共に動く。

魔物は椿の身体を守り、召使は魔物と主人を守ることとなった。

 

 



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茉莉と民と芸術を愛する赤き皇帝

 

帰り道、茉莉は疲れ気味だった。

 

「はぁ、びっくりしたなぁ…」

 

中学校で最初に知り合った転校生がまさか連続殺人の暗殺者『キリサキさん』であり、魔法少女を狩る暗殺者をやっていたこととは思わない。魔法少女が魔法少女を狩ることも考えてはおらず、殺人事件のことで自分達が標的にされて襲れそうになったが、友達が殺されそうになっても茉莉自身彼女に対する憎しみはなかった。

 

理由は、快楽で殺そうとする人ではなく、むしろ鈴音はその行動に躊躇していかのようで気になっていた。好きで殺人をしているというわけではない。何か理由があるから、千里を襲ったから許せないという強い憎しみはなかった。

 

千里の言うように、あの少女と関係のある鎧の魔物と対話をすることには先に賛成した。その鎧は鈴音のことを知っているのなら、どんな関係なのか知る必要がある。

 

しかし、問題はその魔物の居場所と出会った時の対応をどうするかだった。敵視して襲われてしまうのではないかと、心のどこかで不安もあった。

 

「ただいま。あっ、そういえばスズネちゃんに課題を貸しているから早めに終わらせないといけないんだっけ…」

 

仮に居場所を掴めたとしてももし鎧の魔物が臆病だった場合すぐ霧を出現させて同化し、どこかへ逃げて行く。まるで自分達や他人と接触するのを避けるかのように。

むしろ魔物は人と接するのを極端に避けているために逃げてしまうだろう。

 

茉莉は魔物を見て、人を襲うような敵ではないと思っている。攻撃的な魔物なら一人になっているところを不意打ちするか、漁夫の利を狙われてすぐに襲われている。

 

それなのに鈴音に呼びかつつ、炎に焼かれても全く諦めようとはしなかった。助けた千里を見向きもせずに全力で攻撃を受けている。

 

茉莉は食事を終えて部屋に帰ると、突然床から魔法陣が出現する。

「⁉︎なっ、何⁉︎」

その魔法陣は突然光り出して、赤いドレスを纏った金髪の美少女が出現した。

「答えよ。そなたが、余の奏者か?」

 

人が突然床から出てきた。開いた口がふさがらず、目を丸くしている。茉莉は立ったままネロを眺めていた。しかし、それに気づかない赤の英霊は部屋を見渡す。

 

そして目の前にいる少女の手の甲を確認して、マスターだと認識する。

 

「うむ!どうやらそなたが奏者でいいのだな?実に可愛らしいマスターだ。気に入ったぞ!…む、どうしたのだ奏者」

漠然と見て、まったく返事が返ってこない茉莉は倒れ込む。そして、

「ううううっ…」

「目を回して…気絶しておる」

彼女の目が回っていた。何もない場所から光が放たれて、そこから人が出てきたのだから気が動転して当たり前だった。

 

ネロは茉莉が寝転んでいる間に頬をつついていた。

 

*****

 

茉莉が倒れこんで30分後

 

「起きたか、奏者よ」

「夢じゃなかった…あの、貴方は一体誰でしょうか?」

 

 

茉莉の方はネロの事について夢だと思いたかったが、実際こうして目をさましており、目の前にいるために現実であることを認めざるおえなかった。詳しい話をする前に課題や明日の支度をしなければならないためにネロの話を聞くのはまた後からになった。

 

午後の10時頃にようやくネロの話を聞くことになる。

一体何者なのか?どうしてここに出現したのかも。

ネロは英霊召喚によって呼び出されるはずだったが異例なことに召喚に必要な触媒も陣も記されておらず何もない状態でネロを召喚したということだった。本来、聖杯戦争によって呼び出されるはずだが、この世界には聖杯戦争が起きていない。

 

英霊の機能はあり、霊体化して消えることもできる。聖杯戦争は7つのクラスで戦うことになるが、彼女のクラスはセイバーという形で呼ばれることとなっていた。

ネロの魔力は茉莉から貰っている。

「これが、令呪?」

「そうだ。令呪というのは奏者がサーヴァントに三つの絶対命令権を下すことができる。だが、令呪というものは無闇に使用せず丁重に扱う必要がある。

いざという時のためのもの」

「えっと、例えば?」

「うむ。奏者の命が危険な時に使ったりする危機的状況や余が今まで以上の力で敵を倒せと命じられるとその力をこれまで以上に発揮して敵を倒すというのも可能。

 

令呪というのは膨大な魔力を秘めておる」

 

聖杯戦争がない以上、ネロは茉莉に自分の真の名前は言っている。ネロは真名や歩んだ歴史のことについて教えたとしても茉莉にとって混乱している。

 

「えーっと、つまりローマの国に住んでいた偉人ってこと?それでいいのかな?」

「うむ、まぁそう解釈してもらっても構わぬ」

それでも、歴史上の人物が突然現れたことに茉莉は戸惑っている。まだ中学生の身であるため、色々なことを1日で教えられて理解できるわけがなかった。

 

「ごめんなさい。ちょっといろいろとありすぎて分からない。まだ、混乱してる…」

「少しずつ理解すれば良い。余は奏者のサーヴァントであるからどんな頼みでも手を貸そう。何かあった時は余を呼んでほしい」

「おやすみ、ネロ」

ネロは霊体化して消え、茉莉は寝る支度をする。

「英霊かぁ…」

茉莉は自分以外の三人にも英霊が召喚されたんじゃないかと思っていたが、英霊ではなく別の存在が出現したことは明日に学校で会う時に分かることだった。

 

ネロ以外にも色んな異端者が介入したことに。

 



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邂逅

山の森の中

 

魔物は夢を見ていた。時の神殿には自分がいて、勇者と戦っている光景を眺めている。魔女に召喚されなかったら、今頃勇者との対決が行っていた。

 

だが、勇者(リンク)は必ず(タートナック)に勝つ。鎧が全て剥がれ、レイピアを構えて突進してもリンクの前では敵わなわない。力尽きて地に伏し、タートナックは武器を落として消え去られた。

 

敗北した理由は彼が勇者だからか、タートナックが魔物だからか。

 

 

否、もうそれは終わったことだ。

これが結果だ。

正義は必ず悪に勝つ。

 

 

タートナックはあの場にいてもリンクに敗れて消え去られる。リンクは神殿にまでやってきたのだからどんな困難なことでも勝ち進んできた。タートナックとの一騎打ちもその一つに過ぎない。

 

だが、どんな結果であろうとタートナックは何も感じてない。

 

 

目の前にいる自分は勇者の歩みを阻み、敗北して倒されていたというのは戦いの中でよく分かった。力の差は五分五分だったが、リンクが押し勝って勝敗を決した。

 

 

「…」

 

 

自分の敗北を見たが、後悔はない。やれるだけのことをした、それだけのことだった。

悔しかったと意地にならない。

あの勇者には揺るぎない強さを持っており、タートナックはガノンドロフの指示に従って民を襲い、神殿に入ってくる輩を倒す。そして、その生命に終わりが迎えただけのことだ。

 

 

 

夢から覚めて上を見上げると、こうして生きていることを実感するうちにタートナックは不思議な感覚になっていた。魔女に召喚され、魔法少女に会い、自由に生きていることがありえないことだったからだ。

 

前はこれからどうすれば良いか、動けずにいた。しかし、

 

『ダイジョウブ』

 

そう言って自分を奮い立たせた。

もう怯えている様子もなくこれからのことを考えている。

 

 

*****

 

 

四人の魔法少女達は昨日の夜のことを屋上で話し合っている。四人の手についてある令呪の方は魔法で誤魔化し、学校に通学した。昨夜の鎧兵のことと家に帰った異変について。千里は若い男性がなんか住み着いたため、まだ家から出してない。

「何かあった時に呼ぶようにって言われてるわ…」

集まったのは四人だけではなく茉莉は彼女のサーヴァントである皇帝ネロを連れてきている。

 

「私のは家にいるわ…電気を纏った黄色いネズミ…ピチューって言ってちゃんと言語が話せれるの。でも、まだ親には話してない」

「私の方は登校前にずっと探してたんだけど呼びかけなくて」

 

亜里沙は朝からずっとワドルディを探してたものの、これ以上探しても遅刻するために探す前にさっさと学校へ行っていた。しかし、彼女の制服の胸部あたりがガサガサと音が鳴り、彼女の襟から小さくなったワドルディが出てきた。

「ふぅ、やっとでれた…」

「な、なななっ!どっ、どこに紛れ込んでんのよォォッ‼︎」

「な、なんでぇぇぇっ⁉︎」

 

ワドルディはいつの間にか小さくなってることも分からず、しかも探している際に彼女の衣服に入ってしまった。

 

亜里沙が捕まえようと追いかけて、ワドルディは逃げていく。千里の方は花京院のことについて三人に説明した。

 

これで四人とも夜のことについては説明した。謎なのは、突然出てきた彼らはなぜこの世界に現れでてきたのかも不明で本人もわかってない。

 

茉莉は逃げているワルドディを怒りながら追っている愛里紗にあることを頼んだ。

 

「アリサちゃん、そのワドルディを…貸してもらって良いかな?」

「まさか…あの鎧兵を追うつもり?」

「鈴音ちゃんのことについて何か知っているのなら、私は知りたい」

 

ワドルディはまた逃げようとするものの今度こそ愛里紗に捕まえられて、茉莉に手渡す。

 

「き、急用を思い出し「どうせアンタ何もないから暇でしょうが!」ハイ、ワカリマシタ…」

「茉莉、もしも何かあったら念話してね…私もあの鎧兵に助けられた恩があるから貴方の言い分は賛成する。探す際に襲われることだってあるのだから」

こうして、茉莉とネロ、ワドルディの三人で鎧兵のことについて夕方に森の中に入って探すことにした。しかし、鎧兵のことを探す前にまだやることがあった。

 

*****

 

 

鈴音が帰ると、茉莉が彼女の帰りを待っていた。

 

「何の用?」

 

鈴音は要件を聞き、茉莉は用意してなかったことに慌てて鞄の中に入っていたプリントを手渡す。鈴音が途中で帰ってしまったから次に忘れると先生に怒られてしまうと思い、茉莉がわざわざ鈴音のいる家にまで来た。

 

(何かあったら、余が守るぞ)

(ありがとう。でも、その時は私を守るだけでいいから…鈴音ちゃんには攻撃はしないでね?)

ネロは鈴音の殺気と魔力に気づき、マスターである茉莉の側に近づいて、被害が及ばないように前へと出る。

(うむ。茉莉が攻撃された時は余が前に出てくるが良いな?)

(うん)

近くではネロが霊体化して鈴音の側に立っている。

ネロにはワドルディのことについては説明しており、探索に協力するようになった。

(そいつが変なことしたら絶対私に言って!)

(わ、分かった…)

「では、先に調べ物に向かいますので…」

鈴音の家に行く前に、愛里紗の方はワドルディにセクハラまがいのことをしてしまっているために茉莉にもそんなことにならないように注意していた。

「なんで私に親切なの…貴方の仲間を殺そうとしたのよ」

「上手くは言えないけど、鈴音ちゃんが好きで人を殺してるわけじゃないと思う。

 

それに、あの鎧兵に呼びかけてるのを聞いて…貴方の名前をずっと呼んでた。何があったのか私には分からない。鈴音ちゃんの方も鎧のことについて知らないのならそれでいい。

でも、少なくも何が事情があるんじゃないのかなって…」

 

鈴音は魔法の準備する。茉莉が自分を騙して襲われる前に始末しようと考え、鈴音は殺そうとする前に鈴音に質問した。

 

「今ここで私が貴方を殺すかもしれないとは考えないの?」

「なんとなくだけど、鈴音ちゃんのことだから今ここでしないと思う。それに、その気があったらわざわざ聞いたりしないでしょ?」

 

鈴音は茉莉が戦いたくないという言葉を信じて手にあった魔法を解いた。

「私、鈴音ちゃんとは戦いたくない」

「…帰って。次、会った時は…命はないわ」

「茉莉も、鈴音ちゃんがもしまた誰かを狙うんだったら、私が全力で止める」

 

鈴音は茉莉にそう突き放して言うと、その通りに茉莉は鈴音の家から出て帰る。

 

「あれが、鈴音とやらか」

「貸してもらったんだ、学校の課題を。それじゃあ調べに「見つけましたよ〜‼︎」わ、ワドルディ⁉︎」

 

鈴音との要件も終えて、ネロと茉莉、ワドルディで鎧兵が逃げた場所をバラバラになって探すはずだったが、先に探していたワドルディだけでその一つとして市街地の周りを探索して多くの情報を手に入れた。

茉莉達が終わった頃には終わっており、結果を報告していた。

「住んでいる気配が森ですね。しかもホントわかりやすい場所にいてくれて、もしかしたら苦労せずに早く終わりますよ。ともかく、ついてきてください」

「本当⁉︎」

ワドルディは鎧兵のいる場所に案内し、森に近づく。が、

(奏者よ、あの先に魔力の気配がする…)

霊体化しているネロが茉莉に警告し、森の奥へと入って行く。茉莉はかなり遠くまで歩いて苦労したが、ワドルディは疲れを知らずに難なく登って行く。

「着きましたよって、あれ?」

「誰もいないけど」

ワドルディの方はタートナックの住処まで見つけることはできたものの、既に誰もいなくなっていた。隠れていたカリキュラはサーヴァントが近づいてきたことにより突如襲ってくるが、

 

「何奴だっ…⁉︎」

 

霊体化していたネロが実体化して出現し、茉莉を守っている。攻撃してきた英霊の正体を見て驚いた。

 

「オオオ…ネロ…ォォォォォォォォオッ!ネロォォオッ‼︎」

「お、叔父上っ…⁉︎」

 

カリギュラの目がネロの姿を見て見開いて、喜びを上げて叫んだ。金髪の少女に赤の衣装と声、緑色の瞳と右手に持っている原初の火(アエストゥス・エストゥス)。紛れもなくカリギュラの娘である。叔父上の目の前に自分の娘がいたことを喜んだ。

 

 

 



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相談

朝からずっとタートナックは霧になっていたまま鈴音を家に帰るまで見守っていた。誰かに襲われないかと心配になりながらも彼女の無事を見て安心し、住処へと戻っていくと

 

「あ。あのっ…お邪魔してます」

「そなたが、タートナックとやらか」

 

緑の魔法少女であった茉莉と金髪の赤ドレスの少女の二人、赤くて丸い生物が帰りを待っていた。椿のサーヴァントであるカリギュラは彼らを襲っておらず、自分達の敵でないことが分かる。カリギュラの方は、娘のネロに会ったことで狂化していたのがこうして落ち着いている。

カリギュラの表情に笑みがあった。

 

敵ではないというのは分かったもののタートナックが彼らに向かって指をさし、顔をカリギュラに向けて首を傾げている。

誰?という反応をしていた。

「我が、娘…ネロ。マツリ、ワドルディ…二人と、一匹」

 

カリギュラは片言ながら知っていることは話している。タートナックは纏っていた鎧を消し、用意した軽い丸太を持ってきて椅子代わりにして座った。

 

「あのね、まず昨夜のことなんだけど…千里を助けてくれてありがとう」

 

茉莉は話を聞く前に仲間を助けたことに感謝をした。鎧兵が何者なのかわからないが、敵対して襲ってこなかったことに安堵していた。しかし、鈴音との経緯についてはタートナックしか知らないので話していない。

茉莉がここに来た理由は鈴音のことについて聞きたいことがたくさんあったからだ。なぜ魔法少女を殺していたのかや、鈴音との関係。

ここからが本題だった。

 

「貴方は鈴音のことをずっと呼んでいたけど…貴方は鈴音ちゃんのこと、何か知ってるの?」

 

タートナックは砂場を利用して、文字を描いている。

 

〔シッテイル〕

「あれ…喋れないの?」

「我と、最初に会ったときも、そうだった」

 

タートナックは横に振っているものの、ちゃんと聞いてはいるのに口に出して言ってないことに茉莉は困惑していた。そこで察したワドルディがタートナックに近づき、何か話している。

 

同じ異生物同士でちゃんと話すことができていた。

 

「ちゃんと貴方の話を聞いてはいますよ。ただ、鈴音と椿っていう二人以外と誰かと話すのがぎこちないっていうのが理由だそうです」

「鈴音と椿って、二人も魔法少女だったの?」

タートナックは茉莉達に鈴音と出会った経緯を説明した。二人の魔法少女に確保され、3人で魔女を退治していた。

一緒にいることで鈴音に懐かれ、幸せに暮らしていた。椿がいなくなったことと、自分が魔物だという理由で一人きりの鈴音を置いて逃げ出したことも。

 

いなくなったと言っても椿が魔女になり、彼女を助けるために今でも自分の体内に入っているまでのことは言えなかった。

 

「つまり、前は椿って人と一緒に暮らしてたの?鈴音を任されたけど、自分が魔物だから…別れたの?」

「それでも、独り身である彼女の心の支えになっていたのはお主だったはずだぞ?」

 

タートナックはコクリと頷いた。本当は鈴音といたかったが、このまま一緒にいたら他の魔法少女につけ狙われたり、迷惑がかかってしまうことを恐れて逃げた。

 

「…それは難しいところですよ。横から入って守ろうとしても、他の魔法少女に変な噂を流されれば…」

「そんな…」

 

少し時間はかかったものの会いに向かおうと決意したが、今の鈴音はタートナックと会ったとしてもなにも覚えてないため、魔女の使い魔だと思い、魔法を使って消そうと襲っていた。

 

「イッショニイタラ…」

「あっ、やっと喋ってくれた」

「…ア」

 

結局、鈴音が人殺しをする理由がわからなかった。一応、茉莉は関係があると思って聞いてきたが、どうしてあそこまでおかしくなったのかはタートナックにも分からない。

 

「ともかく敵ではないことが分かったことですし、一旦戻りましょう」

「それじゃあ、またね?会えて良かった」

 

茉莉達は森から出る。茉莉は魔法少女に変身し、ワドルディは彼女にしがみつき、ネロは霊体化して茉莉の後をついて行く。しかし、

「妙だ…魔力が5つある」

魔法少女と自分以外にも魔力を持っていたものがいたことにネロは不審に思ったものの、集合地点には3人の魔法少女と男子高校生がいた。

 

「お待たせ!ってあれ…この男の人は?」

「初めまして…千里の英霊をしている花京院典明です。貴方達のことについては千里から話は聞きました。よろしくお願いします」

「え、英霊?」

「そうなの。貴方以外にも私達の手にこんなものがついたのよ?」

 

変わったこととすれば、茉莉だけではなく四人とも手に令呪が付いていたことだった。花京院典明はアーチャーのクラスの英霊になっており、ワドルディのクラスがランサーだった。ワドルディの魔力が探知できなかったのは、魔力を節約していたからだ。魔力がなくても実体があるため動けることができる。

「では、余を含めてアーチャー、ランサーの三騎士がここに集っているということだな?どうりで5つも魔力が」

「そうなりますね」

「ワドルディとネロって人はまだしも、あんたは力を使えるの?」

亜里沙は花京院に質問したが、それを聞いた花京院は笑って期待に応える。

 

「ありますよ。僕にも…法皇の緑(ハイエロファントグリーン)!」

 

スタンド能力、かつて自分が持っていたスタンドをここで見せた。が、スタンドはスタンド使いにしか見えない。

それは花京院も分かっているため、実戦で功績を見せようと考えていたが、

 

「僕の力はスタンド能力と言うんだけど…普通の人には見えないようになって「あの…私達にも見えるんだけど…」なっ、スタンドが見えるだとっ⁉︎」

「そなたの背後からニュルッと出てきたぞ⁉︎」

「なんか…メロンみたいですね」

花京院がいた世界とは違い、スタンドのルールとは異なって普通に見えるようになっている。しかし見えても、触れようとすれば通り抜けてしまう。

(僕のいた世界はスタンド使いにしか見えなかったけど、この世界でスタンド使いが僕しかいないからなのかっ⁉︎)

「まぁいい、僕の能力は超遠距離の攻撃を得意とするものだ。身体を紐状にすることができるから人の体内に潜り込めたり、糸の結界を作って罠を作ることもできる。

 

僕の方は接近戦は不得意かもしれなけど、君達の援護は任せてほしい」

 

こうして花京院典明は霊体化が出来るために千里の魔力で実体化し、ネロ・クラウディウス、ワドルディと出会い、協力することとなる。

 

「で、貴方は鎧兵を探していたって言ってたけど何か出た?」

「うん!ワドルディのおかげで会えたよ‼︎」

 

茉莉がタートナックと会ってなにを話したのかを報告する。タートナックがどんな魔物なのかや、鈴音の関係について、ネロの叔父上がいたことも話した。

それを聞いて3人は

「なんか…随分と変わったやつね…」

「でも、そんなに悪かったわけじゃなかったよ」

「あの鎧兵が敵じゃないのは分かったけど…結局なにが目的で鈴音っていう少女が殺人をやっているのかが分からなかったわね」

 

話しづらい上に、わざわざ文字で表そうとしていた鎧兵に違和感があったものの、茉莉の様子からなにも問題はないことが分かった。

しかし、花京院が手を挙げた。

「ただ、気になる点が一つ。鈴音を僕たちが殺そうとした場合…最悪敵対してしまう形になってしまうことです」

「そうよね…話を聞いたところでもしも私達が鈴音を殺そうとしたらタートナックやカリギュラっていう英霊と戦うことになるし」

 

タートナックの目的は鈴音の記憶を元に戻すことと、少なくともまたもう一度一緒にいることだ。それが自分達の手で潰すことを知ってしまったら、錯乱して襲ってくる可能性だってある。

 

「鈴音ちゃんの方はタートナックが見守るようにしてるって!」

「なら私達の対策としては単独行動はマズイです。一度それで殺されかけたのでしたら、バラバラにならずに全員で魔女を探していくしかないですね。

今までやったことよりは非効率ですが仕方ありません。

 

今の所我々が鈴音を殺そうとしたら、タートナックとガリキュラという二人の敵を作るだけです。

 

会った時はすぐさま撒いて逃げることだけを考える…それでよろしいでしょうか?」

「ええっ、いいわよ」

リーダーである遥香は花京院の提案を聞いて、それを受け入れるしかない。

鈴音が殺そうと襲い、返り討ちにしてこっちが殺そうとすれば、今度はタートナック達が自分達を殺しにくることも考えられる。

今回は魔女もおらず、昨日のように自分達が襲われることはなかった。

 

*****

 

 

次の日

 

遥香は、鈴音のことをまだ許せないでいた。もしもあの鎧兵という存在がいなかったら千里は既に死んでいる。

 

リーダーであるのに千里のピンチに助けることができなかったことを悔しく思っていた。あの時死んでしまったらどうなったことか。鎧兵とは茉莉と出会い、危害を加えなかったことと仲間である千里の命の恩人であるためあの存在については信用してもいいが、鈴音本人は鎧兵なんか関係なしにまた魔法少女を殺し続ける。今度会うときにまた自分達を襲ってくるのは間違いない。

 

廊下にいる鈴音に話をかける。

 

「待ちなさいよ」

「…なに?」

 

鈴音の肩を掴み、逃さないようにする。この地域で魔法少女の殺人を起こしかつ、殺人の正体が魔法少女ならこの事件の近くの学校にいることは違いない。

 

 

「まさか、私達が貴方に何もしないとでも思っているの?仲間を殺されそうになって…縄張りを巡った争いが目的なら殺す必要はあるの⁉︎一体なにが目的なわけ?」

 

しかし、鈴音は目的を言わずにただ一言だけ言って反論した。

 

「知らない方が幸せなことだってある」

「…そんなことで、納得出来るわけないでしょ」

 

鈴音の目的がわからず、なにが目的で魔法少女を殺しているのか分からなかった。だからと言ってこのまま見過ごすわけにはいかなかったが、彼女が人を殺したという証拠もない。

そもそも大人に事実を言ったところで言ったところで聞いている側からしたらそれはただの妄言に過ぎない。

 

「私は正しいことをしている。人を殺すことが…」

「ふざけないでっ‼︎そんなことがあっていいわけが」

「貴方にだって一度くらいはあるんじゃないの。誰かを殺したいと憎んだことが」

遥香はとうとう肩を掴んでいた手を離してしまった。仲間を殺そうとした彼女を許せなかったものの、遥香の過去を思い返してしまった。

 

かつて、姉を憎んで消してしまったことを。

 

「私は…」

「答えられないのなら止める資格はない。邪魔しないで」

 

彼女の言葉に動揺した。自分達の仲間を殺そうとした鈴音を憎む気持ちはあったが、千里を救うことができない自分も許せなかった。

 

リーダーだから、完璧だから。だから、グループの指揮系統をしてまとめている。

 

最近は生徒会の仕事で予算の計算をを教えるときにミスをしてしまい後輩からは先輩らしくないと言われ、自分に自信をなくしてしまった。それだけではなく大事な会議にまで行かなかった。

 

 

遥香が幼い頃、魔法少女になる前にキュウべぇに叶えてもらった願いが、どれほど恐ろしいものだったのか。それを、思い返してしまったせいでらしくないことをしてしまった。

 

 

「どうしたの?」

 

そのまま家に帰り、ベッドに寝転んで落ち込んでいた遥香をピチューが近づいて聞く。遥香は右手で心配しているピチューの頭を優しく撫でていた。

 

「貴方は戦わなくていいからね?」

(遥香、どうしたんだろ…)

 

遥香は笑っていたが、ピチューは笑ってても苦しそうな顔をしていたことが気になっている。

 

「貴方のおやつを買いにちょっと出かけてくるね。すぐに帰るから。それと、何があっても家から出たらダメだからね?」

 

遥香はベットから起き上がり、ピチュー用のおやつを買いに、学生服から私服へと着替え、自衛用にソウルジェムを持って外に出かけた。

 

(⁉︎あの首筋は、早く知らせないと!)

 

遥香の後ろ髪で隠れていた首筋に何かの口づけがつけられていたことに驚く。ピチューは遥香を引き留めようとするが、

 

(あっ…そんなっ、どうしよう)

 

ピチューは遥香に警告するよりも先に出かけており、出入り口のドアは鍵で閉められてしまった。

 



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遥香の過去、幼き勇敢な鼠

【貴方は戦わなくていいからね】

 

ピチューは遥香のことがとても心配でならなかった。今の彼女は変な口づけが首の後ろに付けられている。彼女には家に出るのはダメだと言われたものの、ピチューは彼女の命を助けるために

 

(…ごめんなさい、やっぱり!)

 

この家から出てどうすれば良いかと考える。玄関のドアは既に遥香が鍵を閉めており、ピチューの身体では届かない。

 

窓も飛べばなんとかなるが、窓のそばに置いてある物が多すぎて上手く着地できずに落ちてしまい。ピチューは家中をくまなく探し回って、一階のリビングの窓の鍵が開いていたのを見つけた。

 

(やった!これで遥香を‼︎)

 

助かったのは遥香の家がマンションではなかったこと。マンションだったら窓やリビングから出ても高い所から飛び降りることはできなかった。

 

ピチューはリビングから出て、家から外に出ても一般市民に気づかれないように遥香の元へと探しに向かった。

 

「今行くからね!」

 

ピチューはポケモンであるため、遥香の匂いを覚えながら進んで行った。

 

*****

 

遥香の首筋に魔女の口づけがつけられている。本来、魔女の口づけは一般人につけられるもので、魔法少女に対してつけることはあまりない。

 

彼女は誘われるかのように魔女の住まう場所へと向かい、眼が覚めると既に魔女の結界が張られて戦っていた。

「⁉︎…ここは」

使い魔が遥香の周囲を囲み、襲って来た。

 

 

「どうやら戦うしかなさそうねっ…‼︎」

 

遥香は魔法少女に変身し、両手剣を構える。

 

魔女の方は遠くにおり、近づこうとしても使い魔が道を塞いで阻まれてしまう。遥香一人だけで倒してはいるものの一向に減る様子はない。

 

 

自分の身を守るだけで精一杯だった。

「しまっ…」

魔女の方に顔を向けると、黒い液体が放出され、彼女の身体に付着する。その液体の香りによって、彼女の意識が遠のいていった。

 

その香りは彼女の内にある記憶を呼び覚ました。

*****

 

遥香が魔法少女になる前の頃の記憶

 

幼い頃の遥香は、父と母に褒めてもらいたかった。自分で何事にも頑張って褒めてもらおうとするが、いつも姉が優位に立っていた。

 

両親が期待を寄せていたのは姉だけで、自分の成功を喜ぶよりも、姉の方が多く喜んでいることに落ち込んでいる。

優秀な姉の存在に嫌悪感があった。

 

(私に期待なんかしてないんだ…)

「やっぱりそこにいたのね?お父様とお母様が心配しているから帰りましょ」

夕方ごろ、遥香が公園にいた時に姉が遥香を探していた。父親も母親も心配しているから帰ろうと言うものの、反抗的な態度をとっている。

「どうしたの?そんなにご機嫌ナナメで…お姉ちゃんが聞いてあげるから言ってごらん?」

ずっと落ち込んでいた遥香に気にかけており、何かあったを聞いてくる。姉はいつもの笑みで遥香に聞いてくる。なんでも相談に乗る姉に対して鬱陶しく思った遥香は

 

『お姉ちゃんに、私の気持ちが分かるわけがない…大っ嫌い!』

 

それを聞いた姉はとても悲しそうな顔をしていた。これ以降は姉に対する仲は悪くなり、遥香は姉と顔を合わせるだけでも不愉快な気持ちになってしまった。

 

それから数ヶ月後、まだ姉に不満を抱いていた時にキュウべぇと出会った。

その生物は望みを一つだけ叶えると言うが、本当に願いが叶うのかという疑惑があったが、姉に対する嫉妬の方が上回っていた。

 

遥香にとって両親や、姉、みんなが愛してくれると思い。だから、姉に対して少し不満をぶつけても良いと考えた。

その生物に向かって、彼女は願いを言った。

 

「お姉ちゃんを消してほしい」

 

そのわがままな望みで姉は消し去られてしまった。その願いの代償を遥香が後から知ったのは、それが叶った後のことだった。

 

その願いによって、姉は産まれてないことにされていた。

 

(私は、余りにも子供だった)

 

自分の願いによって姉を消したことを、酷く後悔した。

その願いの結果で運命が書き換えられ、遥香以外の全員が姉に関する記憶を無くしている。願いを言った遥香本人は自分の姉のことをしっかりとよく覚えていた。

 

*****

 

その魔女は、体液を敵に付着させ、トラウマの記憶を掘り下げて魔法少女の精神を抉る能力を持っている。使い魔は襲うことなく、弱って倒れている遥香を囲っている。

 

まだ傷つけたりされていないが、過去の記憶に懺悔すればするほど彼女の身体が衰弱していく。

 

(私は他人のことなんて何も考えてなかった。魔女を倒すのだって誰かの為に思ってやってきたわけじゃない)

 

遥香は失くした姉の記憶を見つつも、ヨロヨロになりそうな身体で両手剣を杖代わりにして立ち上がろうとする。

 

委員会の責任を務め、優秀だから頼りにされている。けれど、完璧を装ったものは一点の綻びによって脆く崩れていく。

 

(何が完璧でリーダーなの…私は他人の事なんて何も考えてなかったんだ…魔女を倒すのだって誰かのためにやっていたわけじゃない。

犯した罪の重さに耐えるしかない私は、そうしないと心が保てなかった。

 

最低な人間よ…)

 

あの鎧兵の存在がいなかったら自分がもっとしっかりしていなかったら千里は死んでいたかもしれない。魔女の腕からは七つの刃を展開され、弱った魔法少女を殺そうと近づく。

 

 

(あぁ…死ぬんだ。私がお姉ちゃんを消してしまった罰なんだ)

 

遥香は死を覚悟した。たとえ千里や亜里沙、茉莉の三人が遥香を探して助けに来ても間に合わない。

もうダメだと実感したその時、

 

ーーーーピチュゥゥゥッ‼︎

 

 

駆けつけた小さな黄色のネズミが高く飛び、叫んだ。ポケモンの技『かみなり』が魔女の頭上に炸裂し、魔女はグリーフシードへと変わっていく。

 

使い魔と結界は魔女が倒されたことで消えてしまった。

 

*****

 

一匹の黄色いネズミが遥香の元へ駆けつけてくれた。遥香は生きており、腰が抜けてその場に座り込んでしまう。ピチューのことを呆然として見ているだけしかできなかった。

 

「大丈夫?」

「…⁉︎そ、外に出ちゃダメだってあれほど言ったのに」

「あの、遥香のことが心配だったから。だからその、ごめんなさい」

遥香はピチューに家から出るなと言ったとに注意を無視して助けに向かったことに驚いていた。

 

「全く、無茶して…でも、嬉しかった」

 

遥香はピチューの元に向かい、強く抱きしめて頭を撫でる。彼女の過去の罪がなくなったというわけではないが、今の彼女には誰かと一緒にいてほしい気持ちで一杯だった。

「こうしてもらっていい?」

(苦しい苦しい‼︎)

抱かれていたピチューの方は遥香の大きい胸で息苦しくなって暴れている。喜んでいるというわけではなく、呼吸ができないという理由で遥香の腕から逃れた。

「苦しいってば‼︎」

「ごっ、ごめんなさいっ!優しくするからね?」

 

遥香は顔を赤くしている。あまりに遥香が抱き枕みたいに加減をしていなかったせいでピチューは拗ねている。

「心配かけて…ごめんなさい」

「一体、どうしたの?」

「私ね。過去のことでずっと悩んでいたの」

 

遥香はピチューに全てを話した。

魔法少女になる前の姉のことや、魔法少女になって不安になっていたこと、自分の判断ミスのせいで仲間を殺しかねなかったことや、完璧だと思っていた自分に情けなかったことも。

 

「誰も助けに来てくれないって思っていた。ここが死に場所なんだって…でも、貴方が助けに来てくれた」

「それは僕も遥香のことが大事だからだよ。完璧なんて誰にも分からないし、失敗は誰にだってあると思う…でもその失敗は絶対に無駄なんかじゃないよ。お姉さんのことだって小さい頃だったから自分だけが何もかも悪いわけじゃないと思う。それに良い面も、悪い面も含めて遥香は遥香なんだから…そんなところもあっても良いと思うんだ」

「ありがとね…それじゃあ一緒に帰ろうか」

 

遥香の方は全てを話すと心が安心し、さっきまで泣いていた顔がスッキリしていた。遥香はピチューを人に見られないように隠れつつ、家に連れて帰ろうとするが

 

「やれやれ、こんなことになるとは思わなかったよ」

「キュウべぇ⁉︎」

 

キュウべぇはピチューの方をじっと見つめながら出てくる。声をかけられるまでは遥香達は全然気づいてなかった。

(あれが、遥香を‼︎)

ピチューはキュウべぇは遥香の過去の話から知っている。遥香をあんな風に苦しめたのは、キュウべぇだったからだ。

「君の方はどうやら落雷や電気を出す動物のようだね?」

「君の方って…⁉︎」

「驚いてるよ。君たちの側にいる魔法少女のグループには赤色のドレスを着た人や、高校生の格好をした男の人も僕らの知らない能力を持っている。

 

これらが魔法少女全員に影響しているのかと思っていたけど、そうじゃないみたいだね。この現象が起きているのは君達だけのようだ」

キュウべぇは彼女ら四人の様子を遠くから伺っていたために、ネロや花京院の存在も知っている。キュウべぇは呼ばれてない間、接触せずに遥香達を観察して眺めていた。

「それと、君のソウルジェムはもう限界まで穢れきっているよ」

「えっ…?」

遥香がソウルジェムを取り出すと、前までの輝きが失っており、ほとんど黒く染まっていた。

「そうだ、グリーフシード‼︎あれっ、無い…なんで、なんで無いの⁉︎」

「ちゃんと確認しないとダメじゃないか」

遥香とピチューはグリーフシードを必死に探そうとするものの見つからない。魔女を倒したはずなのに転がっていたグリーフシードがいつの間にかなくなっている。

焦って探している遥香に変わって、ピチューがキュウべぇに話しかけた。

「遥香のソウルジェムが黒くなったら、一体どうなるのっ…⁉︎」

 

その点について、ずっとピチューは気掛かりになっていた。遥香からは体調が悪くなったりというようなものだったが、それだけでは済まないと悪い予感がした。

 

 

 

「そのままソウルジェムが穢れを溜め込みすぎると、最期は魔女になるんだ」

「えっ…?」

 

 

キュウべぇから告げたものは、信じられない内容だった。

ピチューの方は遥香が魔法少女になっているのだから知っているんだと思っていたが、当の本人は知らない様子になっている。

 

ソウルジェムによってあの禍々しい魔女へと変貌するこどに恐怖している。

「うそ、でしょ…私、そんな話聞いてない‼︎」

「本当のことだよ。魔法少女のシステムを提案しているのは僕だからね」

 

自分の身の危険を感じた遥香は絶望し、ソウルジェムの黒化は加速していく。このままいくと、遥香が消えてソウルジェムから魔女が生み出されてしまう。

 

遥香が魔女になるのは時間の問題だった。

「…私を置いて逃げて。このままだと、貴方まで巻き込んでしまう。

 

私は、もうダメなのかもしれない。

 

貴方が亜里沙達に会ったら伝えて…今までありがとうって」

「そんな!そんなの‼︎」

「助けてもらったのに、ごめんねっ…」

 

遥香が涙を流して、謝った。

彼女の身体を黒いものが蝕み、覆いつくそうとしている。ピチューはなんとかしようとするものの、どうにかなるすべがない。

(どうするっ…どうすれば良いんだ‼︎)

 

そんな時に、遥香達の周囲に黒い霧が漂う。近くにいたきゅうベェは遥香が魔女になって、その結界に巻き込まれる前に立ち去っていく。

 

黒い霧からは鎧兵が出現した。

 

「…⁉︎誰っ‼︎」

ピチューは既に身体に雷を放電して、戦う準備をしている。魔女に落雷を落としても、まだ元気が有り余っていた。

 

ピチューにとって鎧兵を見たのは初めてであり、敵なのかと勘違いをしている。

 

(まさかそれで、魔女化しそうな遥香を殺すつもりなのかっ⁉︎)

 

鎧兵が魔女になりかけている遥香を持っている剣で殺そうとするつもりなのかと、ピチューは絶対に近づけさせまいとした。

『…』

タートナックはその生物に警戒されたことに気づき、すぐに武装を消し、右手を差し出しながらこう言った。

 

『ソウルジェム…』

「えっ…」

『ジカン…ナイ。スグニ』

 

遥顔とピチューは不振になりながらも、鎧兵の言葉を藁にすがってても信じるしかなかった。遥香はすぐさま汚れきったソウルジェムを差し出すと、大量に溜まっていたソウルジェムの穢れがタートナックに全て吸い取られていく。

 

魔女になりかけの状態になっていたはずのソウルジェムが、数秒で一気に綺麗になっていた。

 

「嘘っ…穢れがこんなに減って。綺麗に」

 

普通は倒した魔女が落とすグリーフシードを使って汚れたソウルジェムを回復するのが魔法少女だったが、こんなことになるとは思わなかった。

 

 

「待って!貴方は…なんでこんなことするの。その…千里や私のことも助けてたのは、ありがとう。でも、貴方は…なんで私達にどうしてこんなことをするの?」

〔…サヨナラ〕

「あっ、待って⁉︎」

 

それをいった時には、既にタートナックは黒い霧に同化して消えていった。

 

「まさか、鈴音が襲ってきているから私達のために」

 

 

鎧兵を聞いて、最初は魔女の使い魔の召喚から呼び出されたから敵なんじゃないのかと不審に思っていたが、遥香自身や仲間である千里を助けたり、ソウルジェムの穢れを吸収してくれているのを見て段々と悪い存在であるとは思えなくなった。

 

「僕達、救われたんだ…あの鎧兵に」

 

遥香は魔女になりかけになっていたところを、駆けつけた鎧兵に救われたから。

 

 

 

 

*****

 

『あーあ、台無しだよ』

 

ソウルジェムの穢れを吸収していた鎧兵の光景をずっと見ていた少女は鎧兵というイレギュラーに許せなかった。すずねの記憶を改変させて、キリサキさんという暗殺者を出すことで、他の魔法少女を殺害させ、真相を見せることですずねは殺した罪悪感によって地獄に叩き落とされるはずだった。

 

少女の手には、遥香達が倒した魔女のグリーフシードを気づかれる前に取っている。

 

が、鎧兵の介入によって茉莉達が死ぬことがなかった。更に、花京院典明やネロなどのよく分からない人物達までいつの間にか加担している。

このままだと、すずねを絶望に落とす前にあの鎧兵に邪魔されてキュウべぇとの取引が崩れる。

 

『…やっぱりあいつ邪魔だね。良いところで横に入って救おうとする。このままだと計画が崩れちゃうよ。

 

すずねが千里を暗殺しようとしていた時だってそう。今回は魔女になりかけだったのに…もう、今夜中にすぐに始末しようか。この人数で始末できるでしょ?』

「承知した」

 

しかし、他に介入しているイレギュラーはその少女の方にもいた。彼女の側には、緑の杖に黒肌のした男の黒魔道士と4体のシャドーファイターがいる。

『待っててね、スズネちゃん。

 

 

貴方を絶望に落とす前に、貴方の大事な魔物を私の手で始末するから。記憶が戻ったら、どんな反応するんだろうなぁ』

 

そのシャドーファイターの中には、かつて緑の勇者であるリンクがそこに含まれていた。

 



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挫けない思い

遥香はピチューを連れ、三人と合流してキュウべぇを問い詰めていた。ソウルジェムが黒くなると魔法少女から魔女となるというのは聞いていないから何も知らない三人は驚いている。

亜里沙は酷く睨んでおり、茉莉と千里は話を聞いてもまだ釈然としていなかった。ワドルディ、花京院とネロはマスターを危機に瀕しようとしたために強く敵意を持っている。

 

 

遥香の方も最初知った時は冷静でいられず、真実を知ったことでソウルジェムが黒くなっていることに恐怖を感じた。誰にも助けを求めることはできず、絶望に飲まれそうになっていた。もしも鎧兵がその場に出て来て、助けてくれなかったら今頃魔女となって暴れており、何も知らない三人はそのかつて遥香だった魔女を倒すこととなる。

 

「一体何が目的なの…あなた達の言うシステムって一体何?もう知らないって言って隠すことも誤魔化すことはできないわよ」

「僕は別に隠すつもりもないし、教える必要もなかったからね。全てはこの宇宙の維持のためなんだ」

 

そこから先はインキュベーターの説明が始まった。宇宙の寿命を伸ばすために、宇宙人として地球に降り、小中くらいの小さい女子に契約をする。契約の際に効率よくエネルギーをもらうために、人から出る感情を利用し、特に女性から取り入れられるエネルギーがより多くのものを手に入れる事ができる。そのエネルギーの中にはエンドロピーというもので、宇宙の寿命をより伸ばす事も可能となった。

 

「茉莉…何を言っているのかわからないよ」

「だから言ったじゃないか、こんなことを説明したところで分からない人もいるからね」

 

歳が若い彼女らがその説明を聞いても理解ができず、困惑することしかできない。花京院やネロ側の方は説明を理解した上で怒っている。

「言っても分からないから無駄だとでも…貴様っ…」

唯一分かったことは人の心を利用してエネルギーだのと言いい、何とも思わない生物だったこと。

「だったら何…要は結局、あんた達にとって私達は消耗品扱いかよッ‼︎」

「落ち着いてっ亜里沙」

 

キュウべぇにいくら当たっても自分達の身を都合よく変えることなんてできるわけがない。もう既に契約をしてしまったのだからその契約を破棄することも無理なのだ。

 

亜里沙が手を出す前に、

 

「…心配いりません。僕が仕留めました」

 

彼女らが手を出す前に、花京院のエメラルドスプラッシュでキュウべぇの頭を弾いた。

「花京院…」

「人の命を弄ぶ外道を許すわけにはいかない。しかしこれでもう「勿体無いじゃないか、代わりはいくらでもいるけど無駄に潰されても困るんだ」なにっ…⁉︎」

 

粉々になった肉体を別のキュウべぇが食べている。至る所の少女に魔法少女の勧誘しているのだから、単一ではなく複数で動いている。だから、少数のインキュベーターを潰したところで擦り傷程度ほどのものにはならなかった。

「後はもう説明通りの意味さ、僕の目的はそのエネルギーで宇宙の寿命を引き伸ばさなくてはいけない。それに君達には契約する前に願いを1つ叶えてあげたじゃないか?それに君達に真実を伝えたとしても関係に亀裂が出るのなら教える必要もないからね」

 

願いという言葉にだんまりをするしかなかった。千里と茉莉は家庭と肉体的な面で仕方なかった部分もあったが、亜里沙と遥香は自分の私利私欲の為に願いを告げてしまった。

 

キュウべぇの目的は話したもののまだ、不自然な点が残っている。

「ちょっと待って⁉︎じゃあすずねちゃんが魔法少女を殺しているのもそれが関係あるの⁉︎」

「関係あるね、彼女が魔法少女から魔女になるって知っていたから」

まだ茉莉達は『キリサキさん』のことについてあまり知っていない。正体とその知人がいただけで、目的は頑に喋ろうとはしなかった。知人のタートナックと接触しても、彼女とは知り合ってはいたもののどうしてあそこまで豹変したのか全く知らなかった。

「スズネはかつて椿って人と一緒にいて魔女退治をしていたんだ。椿はスズネの面倒を見て、しかも自分の穢れをグリーフシードまで譲渡した。その途中で魔物であるタートナックと遭遇したんだ。

 

魔女退治に協力し、一緒に暮らすこととなって幸せな生活をしていたけれどそんなに長くは続かなかった。

なにせスズネのソウルジェムを浄化していたのだから案の定椿は魔女に変身し、スズネが倒すこととなってしまったんだ。このことを知らなかったタートナックは椿を守れなかったその罪悪感で逃げ出し、一人きりとなったスズネは泣きながらも椿のもらった力で魔女を止めることだ」

キュウべぇはスズネの過去を語り出した。

彼女がなぜ魔法少女を殺していたのかを。

スズネがなぜあんなことをしていたのか分からないと言っていたのは理由を知ったところで理解はされなかった。

彼女を放置しておいた方が効率よくエネルギーを得ることが大事だった。

「誰かが彼女を倒してくれるかもしれないしね」

「てめぇ!それなら千里や遥香がこのまま死ぬことも分かって「そんなのありえない…」え?茉莉?どういうこと?」」

「奏者よ、こやつの矛盾に気づいたか」

なぜなら茉莉にとってタートナックから聞いた内容とキュウべぇの言っている内容が違いすぎていた。

「タートナックは、逃げてなんかない。椿って人を助けることもできたけど、その魔物は自分の立場に悩んでた。でも、ずっとスズネと一緒にいてあげられなかったことを悔やんで離れ離れになったんだ。でも…帰ってきたと思ったらいつの間にかスズネちゃんが記憶をなくして、敵だど認識されて」

「まさか、タートナックと接触したのかい?」

茉莉がタートナックと接触していたことに、キュウべぇは知らなかった。ネロのおかげでカリギュラに敵とみなされることなく、こうして対話することができたのだから。

「なんでタートナックにカリギュラが付き添っているのが分かる?」

「…何が言いたいのか僕にはわからないんだけどな」

サーヴァントのシステムはネロが説明している為、茉莉はその説明から椿の死に疑問思った。

「タートナックの手には私のような呪令がつけられていなかった。それに、この呪令がスズネちゃんを持っている様子もない。もしスズネが令呪をつけているのならカリギュラはタートナックを発見して倒そうと襲ってくる。

 

カリギュラにはネロと同じようにマスターと令呪を持つ必要がある。タートナックの体内に入る人が椿っていう人であり、彼女がマスターだから…絶対に死んでなんかいない。スズネちゃんのことを見ていたなら、生きているのをその目で確認している」

「…初耳だよ。君がそんな情報を持っていたなんて」

今度もキュウべぇは椿が死んでいたという嘘を彼女達に伝えてしまった。タートナックと接触して話を聞いたことで、つちづまが全く合わないことを。

「何よそれ…あんたまた私達を騙そうとしたわけ⁉︎」

「何度も言うけど、言う必要がなかったから言わなかっただけなんだ。それに僕自身も君が知っていたなんて思わなからね」

「なら、なんでスズネの真実を隠すようなことをしたのですか?」

「…」

ワドルディの質問にキュウべぇは黙ることしかできなかった。キュウべぇは自分の利益(エネルギー)のためにずっと動いてきたのだから、タートナックを利用すればエントロピーを凌駕できる少女の感情を何度も使って生まれ出てきた魔女をその魔物が吸い込み、後から人に変えて契約を繰り返すことで効率よくエネルギーを利用することができる。

 

「まさか裏に誰かいるのか…?スズネの記憶を消した奴と何か取引をして」

 

 

茉莉達が段々と真実に迫っていく。カガリと取引をしていたことにまで踏みいれようとしている。もしも椿が生きており、カガリを騙していたなんてことが知られたら計画は確実に頓挫する。

スズネの真実を隠した理由だけでも話した時点で危険すぎる。話してしまえば、絶対に茉莉達はタートナックを近付けさせまいと動くに違いなかったからだ。せっかく宇宙のエネルギーを大量に得ることができるものがこの世に存在しているのだからそれを利用しない手はない。タートナックをインキュベーターが手放すわけにはいかなかった。

 

 

不穏な空気が漂い、みんながキュウべぇに疑惑の目を向けている時、遠くにある森の付近で爆発が起きた。

「今度は何⁉︎」

 

魔女の気配はないはずだが、誰かが戦っていることでみんなが爆発のある方へと移動した。

 

*****

 

 

スズネは魔法少女に変身して、他の魔法少女の探索を行う。彼女は四人組の魔法少女が最近散らばらずに全員で行動することになっているために不信感を思っている。

 

タートナックは隠れながらも彼女を見て安全かどうか確認した。

 

彼女は不審に思いながらも四人を見ていただけですぐに戻っただけだった。タートナックは安心して帰ろうと後ろを振り向くと腰にはカーテン、胸には星の形をした紋章をつけているガイコツが浮いている。ガイコツがそのカーテンの中を開くと、黒魔道士が緑の杖をタートナックに向けて出現し、魔導弾が至近距離で炸裂した。

 

 

タートナックは攻撃される前に武装を遥香のソウルジェムで手にした負の力で防御を強化し、一命をとりとめた。強化された鎧と盾はすぐに崩れ、身軽にはなったものの魔導師は逃がそうとしない。

 

「オォォォッ‼︎」

 

魔導師が杖で魔弾を溜める前にカリギュラが横に入って、鎧兵を助けた。

 

ーーー魔導師のほかにも何人かが自分を追って来ているかもしれない。

 

魔導師が動いたと同時に、タートナックの周囲から不穏な動きをしているのが四体もいる。魔導師の方はカリギュラに任せて、鎧兵は出来るだけ遠くに離れるために霧となって移動する。このまま街中で戦えば、余計戦いにくくなるため、森へ誘導することで鎧兵にとって有利な状況が作れる。ずっと森に滞在したのだからどういう地形なのかをタートナックは理解している。

 

しかし、追っ手の一人が実体化していたところを後ろから襲われ、鎧兵は地面に叩きつけられた。無事に生きており、廃止された建物と森の近くまで移動することができた。

 

「⁉︎」

「ス、ズネ…ニゲ」

そんな時にスズネが膨大な魔力を感じ、また魔法少女に変身してすぐに駆けつけてきた。タートナックはスズネがこの場所は危険だと思い、二人と一緒に逃げるために手を差し伸べた。

が、

 

「…炎舞」

 

タートナックの思いは届かなかった。記憶が消えてしまった彼女にいくら呼びかけても敵だと認識して魔法を使って炎をぶつけ、そして斬りつけてくる。タートナックは傷つけることができないから腰にある剣を抜き、守ることしかしていない。彼女から見て、タートナックには使い魔がまだ生き残っていたのかと思っているだけだ。

 

(なんでこんなにしぶといのっ…それに)

 

それでもタートナックは諦めずに炎を何度も食らってもまだ立ち上がろうとしている。彼女の攻撃を耐え凌ぎ、かつ決して反撃をしようとはしなかった。

 

 

(手が、震えているっ…⁉︎)

 

攻撃をするうちにスズネはこの鎧兵を相手に手加減をしてしまった。最初は殺すつもりで襲ったが、何故か手が勝手に緩めてしまう。それは強大な敵に対する恐怖というものでもなく、ましてや疲れなどの身体的な面の問題ではない。彼女の心のどこかで鎧兵を痛めつけたり傷つける事に躊躇していた。

彼女は手が震えているのを見続けていると頭痛が生じた。あまりの激痛に持っていた剣を落としてしまい、両手で頭を抱える。

 

(頭がっ…なにこれっ、‼︎)

 

タートナックとスズネが動けない間、シャドウファイターこと緑の勇者リンクが鎧兵の元に到着し、剣と盾を構えていた。前のように喋ることはなく何も言わないまま機械的に弱っているタートナックを躊躇なく殺そうと近づく。彼は勇者としてではなく、単なる邪魔者を排除するために動いていた。

 

 

リンクは必死に防ごうとしているタートナックの剣を振り払い、弾かれて壁に突き刺さる。もうタートナックには武器も防具も何もない状態になってしまった。

 

リンクは伏せていたタートナックにトドメを刺す。その横から

 

「待たせたなっ、友よっ‼︎」

 

 

茉莉のサーヴァントであるネロ・クラウディウスがリンクのマスターソードを薙ぎ払った。友というのはカリギュラこと叔父上と仲が良いためにこうして鎧兵を守っている。

 

 

頭上から仮面をつけ、悪魔の羽をした小さなナイトがネロの背後からドリルのように回転して襲ってくる。その横からハイエロファントの結界が発動し、エメラルドスプラッシュが横から飛んでくる。

 

 

飛んでいる方は当たったものの、リンクは盾でエメラルドスプラッシュを防ぎつつ、地面に突き刺さったマスターソードを拾った。

「め、メタナイト…」

「あんたの知り合い?」

「はい、彼はデデデ大王様の部下としてプププランドに一緒に暮らしてました…」

ワドルディは空で飛んでいるのを見てそう呟いた。襲ってきたのがカービィと酷似しており、宝剣ギャラクシアとマント、仮面という三つの特徴を見た時点でカービィとは違うとすぐに理解した。相手がカービィではないのが何よりも救いだったが、メタナイトとなればまた別の意味で厄介な相手だった。空を飛んで浮くことは両方ともできるが、彼の場合は羽で滑空を利用し、空から奇襲することもできる。

 

 

(殺気が感じられない…この人達、感情とか関係なしに標的を襲ってきている)

 

メタナイトとリンクに似た偽物達は殺す気で襲ってきているのならそれなりに感情の内にある殺意を持っている。恐れや対抗があるものの彼らにはそんなものがなく、形は本人とは似ているものの表面的な色に関しては全く別のものとなっている。自分で考えるような能動的ではなく、誰かの指示に従って機械的に動かされているかのようだった。

 

現に彼らは鎧兵を標的にして襲ってきた。遥香達はバラバラで動かずに全員で動いているため、複数を相手にどうにか対処することができた。

 

「叔父上はどうしたのだっ…⁉︎」

「タタ、カッテ、ル」

 

タートナックと彼女達の後ろでカリギュラが落とされた。相手していたのは宙に浮いている黒い魔導師一体だけではなく、二体のシャドウファイターが囲んでいる。

 

「無様だな」

 

カリギュラは魔導師との戦闘中にディンの炎を食らい、身体中が燃えている。メタナイト、リンクの二体だけではないが、その二人も見覚えのある人達だった。ゼルダとガノンドルフの二体が魔導師を支援し、カリギュラを追い詰めた。

 

千本(サウザンド)ナイフ‼︎」

 

黒魔道士は魔法で空には数え切れないほどのナイフが空間に出現させ、カリギュラに向かって飛ばす。手負いになっているカリギュラを守る為にネロが動くものの。

 

「邪魔をするなっ‼︎」

「ピチューゥゥッ‼︎」

ガノンドルフがネロの足を止める。代わりにカリギュラをピチューの落雷によって飛んでくる大量のナイフが崩れていく。ゼルダは今度はネロとピチューにまたディンの炎を使うが、千里の銃で攻撃できないようにする。

 

「危ないっ‼︎」

 

茉莉が千里を庇ったのはゼルダがディンの炎を使ったのではなく飛び道具を反射させるバリアを張って、危うく千里に跳ね返るところだった。

 

「あの時の借りをここで返すわよ‼︎」

「千里や遥香を助けたんなら、あんたのことを守ってあげるし信用するわ!」

 

リンクとメタナイトがまたタートナックを襲うところをピチューとワドルディ、遥香と亜里沙が助ける。親友である千里を守り、魔女化になりそうだった遥香を助けてくれた。その恩人として今度は、タートナックを守る。

 

 

しかし、囲まれている状況の中で黒魔導師は杖に黒い魔導弾を込め、膨大な魔力を注入する。

 

「⁉︎みんな逃げてぇぇっ‼︎」

 

それに気づいた遥香は全員に呼びかけようとするものの、もうすでに遅い。

 

ーーー黒・魔・導(ブラック・マジック)

 

黒い魔導波によって建物が崩れ、爆発と共にタートナックと遥香達全員がそれぞれ離れ離れとなってしまった。

 

 



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負けられない戦い

一年以上経ってしまいましたが、お待たせしました。
まだ投稿が早くなるのか遅くなるのかが不安定になるのでそこはご理解してくれると幸いです。



魔物は勇者には勝てない。

サブがエースには勝てない。

敵キャラは主人公に勝てない。

勝つこと自体の展開はごく稀なのだ。

過程では追い込むが、最終的にボコボコに負かされて、倒れることが必ずしもある。

しかし、こうも考えるべきだろう。

ただそういう試練だから主人公が乗り越えなければならない展開であるため、そういう定めだったから?

なぜ負けてしまうのか?

努力を怠ったからか?

彼らがヒーローだから勝てたのか?

主人公または主人公補正があったから勝てたのか?

正義は必ず勝つと言う法則があるから?

 

その称号だけで巨大な敵を退くことができたのか?

【否】

 

彼らにも彼らなりのそれなりの覚悟があった。

 

リンクが戦えたのは強靭な勇敢さと手にした道具を使いこなしたからだ。もしも普通のひ弱な人がいきなり勇者という責任を強いられたら、多数の魔物に殺されることに恐怖しながらも冒険をすれば、我が身大事に愚かな背中を見せて逃げ出すこともある。それは勇敢ではなく、臆病となってしまう。

今までの冒険の中で手にした道具と、様々な出会いや努力は、彼自身の支えとなり伝説の剣で魔王を討ち取ったのだ。

 

カービィは誰も憎んだり恨んだりしない。大食らいであるのは確かではあるが、そんな宇宙から来た生物にも感情を豊かにしている。怒ったことは小なりはあったものの、それでも悪の心ではなく純粋な心を持ちあわせている。

 

カービィの敵として立ち塞がったデデデの幹部のメタナイトにも誇りがある。

 

彼らはたった一人で逃げもせずに立ち向かってきた。

 

 

だから、たとえ悪者役だとしてもといって諦めない。偽りの主役達、心なしの形だけの者に負けるわけにはいかない。

 

 

なぜなら、タートナック達には空っぽの偽者にはない『決意』というものがあるからだ。

 

 

*****

 

黒魔道士の魔導波で茉莉達は吹き飛ばされ、ここが何処なのかわからない状態になっている。

魔法少女の三人は身体能力で、花京院はスタンド自身で守り、ピチューとワドルディはハイエロファントの結界で守っていたために被害が小さかった。

「いっつ…どうなってんのよ?」

「大丈夫ですか?」

一命はとりとめたものの、爆発で生じた煙のせいでさっきまでいたシャドウファイターの姿が見えない。

 

「あれ?茉莉達は‼︎」

「それだけじゃない…さっきまでいた鈴音や鎧兵まで」

 

見渡すと鈴音と一緒にいた魔物の鎧兵もいなかった。黒魔道士の攻撃で、こちらが遠くにまで飛ばされてしまったか、それとも4人が飛ばされているのか。それはわからないままだが、見失った彼らが無事であることを祈ることしかできなかった。

 

 

「ともかく、さっきの攻撃ではぐれてしまったのでしょう…彼らのことも心配ですし、探したい気持ちもわかりますが…」

 

既に黒魔道士が結界が張り、戦いの場を用意している。周囲に人の気配はなく、空から敵がドリルみたいに飛来して突っ込んでくる。メタナイトが先行して、千里を頭上から斬りつけるがスタンドで動きを止める。

 

「そんな余裕を彼らが与えてくれると思いますか?」

「あるわけないよねっ…くそっ‼︎一体なのこいつら!」

「分からないわ。でも、私達の敵であることは違いないわね」

 

花京院は空を縦横無尽に飛んでいるメタナイトにエメラルドスプラッシュを3人に向かって撃つ。しかし、

 

「なっ、吸い込んだだとっ⁉︎馬鹿なっ!」

 

カービィは飛ばしたエメラルドスプラッシュの結晶を口を大きく開いて吸い込み、全ての結晶を食べてしまった。ゼルダはバリアで跳ね返し、メタナイトは高速で剣を振り回して弾き飛ばしつつ向かってくる。メタナイトとカービィが集中的にワドルディを狙おうとするが、亜利沙が魔法で自分の身体を強化させて庇う。

 

「ブーストッ‼︎」

「亜里沙は飛んでいるのを!私はあの丸いのをどうにかするっ‼︎注目(アテンション)‼︎」

 

ワドルディはビルの中へと逃げ込み、遥香はカービィに魅了の魔法をつけてそれぞれ別の場所へと移動させる。

 

「うぉぉぉぉっ‼︎」

 

亜里沙は強化させたままの状態でメタナイトとの一騎打ちを仕掛けた。

 

メタナイトには速さがあるが、亜里沙には魔力強化による力押しで進んでいく。

 

自分の脚の部分を強化させて、建物の屋上へと飛んで逃げようとする。メタナイトは翼を広げ、空を飛んで亜里沙を殺そうと剣を突き立てる。

 

空中に逃げれば、どうあがいても滑空能力を持っているメタナイトの方が圧倒的に有利。メタナイトは翼を広げ、殺そうと追ってくる。亜里沙は建物に移ると、身体を向けて笑みを見せた。

 

「そう来ると思ってたわよ…」

「ピチュゥゥゥゥ‼︎」

 

ピチューが遠回りして真下に移動し、かみなりを出す。リーダーの遥香が念話をしてピチューと亜里沙に指示を送っていたのだ。亜里沙を追って飛んでいたメタナイトは真下にいるピチューが見えなかったため、攻撃を防ぐことも避けることもできないまま空から落ちていった。

 

遥香の方は魅了の魔法で引きつけているが、身軽なカービィの方が早く動くことができる。

 

(まるで動きが予測できない!これじゃあ防御するだけで…)

 

右に蹴ってくると思ったら、左が脚を狙ってくる。ピチューを亜里沙達に向かわせて、メタナイトを倒すように指示したが、戻ってくるまでの間に何とか持ちこたえねければならない。反撃をしようとすれば、カービィはハンマーで遥香を吹き飛ばされたのだ。何とか急所は狙われていなかった為に立ち上がる力はあるものの、こうして防戦一方になっている。

 

「遥香っ!」

 

千里が背後から銃撃し、それに気づいたカービィは攻撃をやめて避けていく。

 

解除(リリース)

 

カービィはゼルダに近づき、彼女を飲み込んだ。

 

コピーし、ピチューの電撃をバリアで守った。電撃を反射したが、それを返されても電気をいつも使っているピチューに効果はない。

 

「その人のバリアが…魔法でよかったわ…」

 

 

自分の身を守るバリアは崩れ、銃撃を食らったカービィは変身が解かれる。

そのまま倒れてしまった。遥香と亜里沙、千里の3人が手を組んで、メタナイトとカービィを同時に撃破した。

 

 

*****

花京院はゼルダと戦っており、何とかして勝負を決めようとする。しかし、両者とも遠〜中距離に特化した能力を持っているために勝負が長引いている。

「私一人で何とかするとは言ったが…」

 

千里の魔法は魔法効果を解除することができる。しかし、あのバリアが果たして魔法なのかどうかも怪しく、花京院は千里を春香達の元に行かせてあげた。

相手はバリアで飛び道具を跳ね返し、遠くに行きすぎても炎を遠くまで飛ばして爆発させる力まで持っている。

 

 

(体内に取り込んでくれ…⁉︎)

 

ハイエロファントに飛び込むよう指示したが、魔法のベールで阻まれてしまう。別の建物に転移し、さっきのように炎を遠くに飛ばそうとする。お互い距離をとって戦うスタイルをとっており、花京院が逃げていく。

 

逃げながらも敵の動き方を確認し、どうやって倒すかを考えていく。ゼルダの視界から花京院が見えなくなると、さっきのベールを使って転移し、高い建物に移動する。

 

「掛かったな」

 

敵が罠にかかったのを見過ごさなかった。複数もの設置されたハイエロファントの触手が、ゼルダを縛り付けにする。ハイエロファントを体内に潜入してくれないのであれば、ベールの使用後に生まれる敵の隙を利用して、誘い込んでしまえばいい。

 

しかも、防ぎ切れない状況を用意して。

 

「僕はただ逃げたわけじゃない!逃げている時間の間に、ハイエロファントの結界を張っておいた‼︎

もう、貴様に逃げる術はない‼︎

今度こそ食らえ、ゼロ距離のエメラルドスプラッシュっ‼︎」

 

ハイエロファントの触手のせいで身動きの取れないゼルダはバリアを張ることができない。飛ばされる緑色の結晶をゼロ距離で狙われ、落ちていった。

 

*****

魔導弾の爆発によってネロと茉莉、鈴音とタートナックが取り残されていた。彼らの前にはカガリと褐色の肌をした黒魔道士、シャドウファイターのリンクの3人がいる。

 

「誰…?」

「つれないなぁ?私は一度も忘れたことないのに。そこの鎧兵とかも椿と一緒にいてた頃は仲良くしてたって聞いたけど」

 

紫色の魔法少女がさっきから何を言ってるのか鈴音達や茉莉達も分からなかった。

 

「忘れたとも何も、貴方と会ったことさえないわ。あの魔物ともね」

「私も…」

「ふーん…でも鈴音は椿のことをちゃんと覚えてるのに?」

 

鈴音は椿という言葉に反応した。タートナックも鈴音と同じようにカガリのことは全く知らない。タートナックも鈴音とカガリの二人があった機会を見てもないのだから。

「それじゃあ二人とも明かそうか?真実を」

「何を、言ってっ…」

カガリがある魔法を解除すると、鈴音は青ざめた顔で身震いしていた。彼女はタートナックの方を向いて泣きそうになっている。茉莉もまた、鈴音と同じように何かを思い出したような顔をしている。

「そんな、嘘だ…私は、こんなこと」

「そこの鎧兵も含めてインキュベーターのいっていた異端者達のせいで私の立てていた計画が散々になるところだったんだよ?まぁ、私側の方もこんなにいたし、あの魔術師のおかげで邪魔者が入ってこなくて助かったよ。でも私は、正直こんなに早く計画を終わらせるつもりはなかったけどね」

ずっと記憶を奪われていたままの鈴音は思い出してしまったのだ。椿を手にかけたわけじゃなく、タートナックが必死で助けた。そこで彼女は、椿のいない間にずっと一緒にいてほしいと頼んでも拒否され、鎧兵が何も言わずに去っていったこと。

 

そして、久しぶりに会いに行こうとしたら無自覚に彼女は他の魔法少女だけじゃなくタートナックを敵だと判断して傷つけ、殺そうとしたことも。

「思い…出した…」

「うそ、なんで…それじゃあ私は、この手で人を、鎧兵も」

茉莉はカガリと一緒に暮らしていたこと、かつて母親代わりとして椿に色々教えてもらったこと。そして、カガリとは一緒にいた姉妹関係であったことも。

「どうしてこんなことするの…お姉ちゃん」

「お邪魔虫なんだもん、茉莉は…でも大事な双子の妹だから消したのは記憶だけにしたんだよ?それなのになんで関与するのかな?」

 

カガリは真相を知った二人が苦しんでいるのを笑っている。茉莉はどうして側にいたはずなのに今まで分からなかったのだろうかと混乱しており、鈴音は罪悪感で倒れそうになっている。

 

「貴様、奏者に何をした!」

「前々から二人の記憶を弄ったから、それを元に戻しただけだよ。鈴音は記憶の改竄、茉莉は私に関する記憶を消したから二人はそうなってるの。でもさぁ?さっきの3人も、鈴音ちゃんが殺していけばよかったのにね!特にそこにいる大事な化け物を殺したらどんな顔したか「やめてっ‼︎」」

 

そうやって声を遮ろうとしても、カガリは黙ろうとしない。

 

「偽物の記憶なんかに騙されて人殺しになっちゃって!しかも、恩人だったそこの魔物にまで殺そうとしたんだよね‼︎」

 

鈴音のソウルジェムがだんだん黒くなっていく。魔法少女を彼女の手で殺し、ずっと一緒にいた魔物にまで無自覚に使い魔だと認識して殺そうとした。リンクは彼女らの状況など無視して高くジャンプして、タートナックに襲いかかってくる。タートナックとネロは守る為に前に出ているが、二人ともカガリに真実を明かされたせいで思うように身体が動かない。

 

「そーんな悪あがき、いつまでもつかな?」

 

リンクが右手に持っているマスターソードがある限り、斬りつけてくる以上ネロはまだしも、タートナックがかすり傷でも食らえばただでは済まない。退魔剣である為、魔物であるタートナックにとっては相性最悪なのだ。

 

「なっちゃえ!たくさん人を殺した罪に絶望して、そのまま魔女になってしまえばいいんだ!」

 

鈴音はこれまで記憶に振り回されて魔法少女を殺してきた。だが、悲しみ嘆いている鈴音の隣には鎧兵がいる。

 

「私は、なにも知らずに…使い魔か、魔物だと思って椿の炎で焼こうとして、この武器で斬り裂こうとタートナックを傷つけた。他の魔法少女だってそうした。

 

タートナックが消えて以来、魔女を倒すことも出来ずに塞ぎ込んで…もう戦うのが嫌で、誰も傷つけたくない…それなのに」

シャドウファイターのリンクは爆弾を取り出し、鈴音に向かって投げつける。それでも守ろうとしている鎧兵は鈴音に対して何も憎まず、恨まず、前に出て防いでいる。

動けない鈴音を守るために。

「殺そうとした私に、守られる資格なんて…」

 

無口な鎧兵はリンクの猛攻に、押されている。勇者の面影はなく、完全に弱っている鈴音を殺そうとするために。

カガリは何もしなくとも、勝手に魔物が死んで、真実に怯えて何もできなかった鈴音が絶望してくれれば構わなかった。だが、

 

「そんなことはないぞ!余も奏者も其奴から話は聞いた!鎧兵は裏切られたという失望感より、ずっと側で見守りながらも椿とやらとまた一緒にいたいことを望んでいた‼︎

 

椿の復活までいままでずっと待っておったのだ!また三人と一緒にいられることを‼︎犯した過ちに後悔しているかもしれぬが、それでも鎧兵が必死に守っているのは、操られていたとはいえどんなに斬られても焔にやられても、それでもそなたが大事だからではないのか‼︎」

「…話しながら戦うとは、随分余裕があるんだな?」

頭上から降り注がれる黒魔道士の黒い散弾を防いでいる。キャスターが相手ならばセイバーであるネロが優位だが、バーサーカーであるカリギュラと渡り合えるほどの実力を手にしている。

 

(…タートナックは私を置いて何処かに行ったのは、自分のせいで私が傷つくのが嫌だから)

「でも、私っ…他の魔法少女を殺して、タートナックにまで酷いことを」

「そこの鎧兵は鈴音の犯した罪をとっくに赦している!

余と奏者が保証する!それに犯したの過ちに絶望し、魔女という怪物になって鎧兵を巻き込むのが一番の望みではないのであろう‼︎」

椿を体内に取り込んだ鎧兵は、もし鈴音と一緒に居たら自分のせいで傷つけられてしまうと臆病に逃げてしまった。鎧兵は椿が復活する期間が短くなったら、鈴音に逃げたことをちゃんと謝りたかったはずなのに敵だと認識された。それでも、無口な鎧兵は鈴音を死なせないために遠くで眺めながらも側にいた。

 

鎧兵にとって椿も鈴音も、大事だったから。タートナックもボロボロになりながらも、周囲の負を吸収して回復しつつリンクと戦っている。

(私の…私の一番の望みは…タートナックと、椿もいて…またあの時のようにずっと一緒に…だからっ‼︎)

 

聖剣であるマスターソードで何度も切り刻まれ、擦り傷を負うだけでも酷い怪我になる。それなのに、タートナックはまるで弁慶のように立ち塞がっている。

 

だがリンクは、疲れを知らずに今度は鈴音を狙うと見せかけ、タートナックの隙を突く。マスターソードを腹部に突き刺せば、いくら強力な魔物とはいえ致命傷どころか一撃で殺すことができる。

しかし、

 

「…もう大丈夫だから、ありがとう。

鎧兵さん」

 

鈴音は再び立ち上がり、リンクに炎舞を飛ばした。今度はタートナックを守るために。もう過去の前科で絶望することはなく、ソウルジェムの濁りは進行することもなかった。

 

「貴方だけはっ…!」

「へぇ?…魔女になれば、楽になれたのにね?それとも貴方が大事にしている化け物でも殺せば魔女になってくれるのかな?」

「私は貴方の、思い通りには絶対にならない‼︎」

 

カガリは複数のチャラクムを投げて、リンクと同様に鈴音を狙おうとしている。しかし、鈴音とセイバー、タートナックの三人だけではない。

 

 

「…私が真相を明かしても、邪魔するんだね?茉莉」

「カガリは…椿を奪った鈴音のことを憎んでるかもしれないけど、まだ椿は鎧兵の中にずっと生きてるんだよ。タートナックさんが取り込んだおかげで、椿は生きたまま体内にいる。でも、あの時の私達はまだ幼かったかもしれないし、インキュベーターの話を鵜呑みにしてたからこんなことになっちゃったんだよね。

 

それに…関係ない千里や遥香、亜里沙まで巻き込んだ」

「…嘘なんて言わないでよカガリ。

そこの化け物が、魔法少女を救うなんて出来るわけがない。椿は魔女になって、鈴音に殺されて死んだんだ。

 

 

椿は私達じゃなくて鈴音を選んだ。椿はもう戻ってこない。

それなのに何で助けようとするの?」

「鈴音ちゃんも、私にとってかけがえのない友達だからだよ」

鈴音と最初会った時に、椿と一緒にいた彼女のことを気にかけていた。キュウべぇの契約のおかげで、見えなかった世界が見えるようになり、鈴音という最初の友達までできた。

 

「それでも殺したいほど許せないのなら…鈴音ちゃんも、鎧兵も、誰も死なせない。私は…戦うよ!」

「ふぅん…あっそ。鈴音を魔女化させたら茉莉を許してあげようと思ってたのに…ならもういいよ、私達がみんなまとめて壊してあげるから‼︎」

 

鎧兵が二人を助けに向かおうとしても、シャドウファイターのリンクが邪魔をしてくる。もうこれ以上どちらかが劣勢になるまで会話することもままならない。カガリに使えている魔導師が空から茉莉を狙って魔導弾を撃ってくる。

 

「人の事よりも自分とマスターの心配をしたらどうなんだ?セイバー」

「貴様っ…茉莉、キャスターの相手は余に任せておくが良い!」

 

茉莉のサーヴァントであるネロが、撃ってきた魔導弾を剣で防いでいる。カガリはチャラクムを変えて、両手剣で襲いかかっていく。人数では鈴音側の方が上回っているが、戦闘の最中にそれぞれの意識をカガリが手に取るように塗り替えられている。

 

鈴音が攻撃しようとすれば、誰もいないか茉莉かタートナックを斬ろうとし、茉莉も間違えて二人を攻撃してしまう。

 

「あれっ…⁉︎」

「二人ともどこ狙っているのかな?」

 

タートナックの方もまだ防いだりはしているが、リンクの攻撃を完全に防ぎきれていない。それどころかさっきまで立っていたのに、膝を曲げて体力の消費が激しくなっている。

(このままだと鎧兵さんがっ…)

「仲が良かったのにもう仲間割れ?」

 

カガリを攻撃するはずが、完全に手玉を取られている。二人がかりでもリアルタイムで認識と記憶を変えられ、急いでカガリを倒さなければタートナックと椿ごとリンクに惨殺されてしまう。

 

黒・魔・弾(ブラック・マジック)‼︎」

「なにっ…⁉︎」

 

カガリの魔法には、サーヴァントであるネロもまた例外ではない。また2回目の黒魔弾を飛そうと防ぐ構えをしていたものの、カガリの力によって認識がズレ、今度は背後からネロに直撃した。接近戦に持ち込めば、かなり有利に戦えていたものの敵は地上に降りようとはせず、意識や記憶をリアルタイムで変えようとしている。

(この女、あえてゼロ距離で撃ったが…致命傷は免れないはずだぞ)

(直撃したか…皇帝特権で身体的を強化させて防いだおかげで大した怪我はせずに済んだ。が、もし間に合わなかったら確実にやられていた)

攻撃が当たらないどころが仲間を攻撃してしまいかねない。記憶干渉だとするならと、セイバーは茉莉に向けて伝える。

「奏者よ!奴が記憶と意識を操作しているのならば数がこちらが上回っても勝ち目がない!」

(それなら…)

余裕があればネロやタートナック、カリギュラにまで操ろうとしている。意識を変えることで仲間内で潰し合うことも考えられる。茉莉は目を閉じ、魔法で気配を追うようにする。

「鈴音と言ったな!感覚を操作しているカガリを抑えるには、茉莉の言う通りに動く必要がある!

 

このままでは、勝ち目がない!」

「分かった…!」

 

カガリの余裕な表情が段々と曇っていく。改竄が鈴音だけに集中し、他のサポートもできない。

 

二人がカガリをどうにかしてくれたおかげで、戦いやすくやっている。

しかし、鎧兵の身体はほとんど限界にきていた。マスターソードという聖剣に何度も切り刻まれて、身体に激痛が走っている。

武器を落とし、這い蹲っているのがもう限界だった。偽物のリンクにマスターソードでとどめを刺すところを、

 

「鎧兵よ、無事か?」

 

リンクのマスターソードは届かず、タートナックはネロに助けられた。

リンクはネロに背後から斬り付けられ、そのまま機械のように動けなくなった。

 

「…馬鹿が」

 

黒魔道士よりもタートナックを優先したネロを、そのまま高魔力の魔導弾を撃ち殺そうとするが、横から鈴音の炎舞が邪魔をしている。

 

「魔ど…⁉︎」

「仮は、返すわ」

(なぜこいつが…カガリと戦ってるんじゃないのかっ⁉︎)

 

茉莉が気配で察知し、仲間に指示している以上もう記憶と意識の操作は意味が無くなっている。

 

シャドウファイターのリンクは倒され、黒魔道士もカガリも完全に押されていた。

 

「おい貴様!少しはこっちを手伝「邪魔しないでよ!茉莉ぃ‼︎」」

 

二人の連携はもうメチャクチャになっている。元々利害関係で手を組んでいた二人が、互いに上手く取り合えるわけがない。

 

「チッ…こんな時にあの小娘が!」

 

ネロとの戦いで黒魔道士はほとんど魔力が少なくなってしまった。リンクは撃破され、カガリを見捨てて逃げようとするが、瓦礫の山からカリギュラが勢いよく飛んでくる。

 

「な、何⁉︎貴様まだ生きてっ…」

「ガァッッッッ‼︎」

 

横から起き上がったカリギュラが入って、黒魔道士を殴り飛ばそうとする。

しかし、

 

『ろ、六芒星の呪縛っ!』

 

 

魔法で作られた罠を発動し、彼の動きを封じたが、呪縛は狂化された力によって亀裂が入り、木っ端微塵に破壊される。

(バカなっ…こいつ、捕縛の魔導を力づくで)

そしてそのまま彼の腕を掴み、地上に落下していく。

「やめろっ!離せ!」

「ォォォォォォオオオオオオオッ‼︎」

そのままカリギュラは黒魔道士を下に向かって投げ飛ばし、地面に叩きつけた。

 

 

*****

 

茉莉は目で追わずに気配でカガリを追い詰めようとしている。カガリの魔法は茉莉にはもう効かず、黒魔道士は何処かに逃亡、偽リンクは再起不能。

カガリにはもう、勝ち目が無かった。

 

「もうやめようこんなの…これ以上戦いたくないよ」

「…昔からそうだったよね。思ってないことを言ってごまかすの。ホントは私がいなければいいって思ってる癖に…」

「そんなこと、あるわけないでしょ!だって、茉莉はカガリを」

 

魔法の手の内もバレ、側にいたシャドウファイターのリンクと黒魔道士の二人も再起不能。茉莉とサーヴァント二人、鎧兵ががいるせいで計画は杜撰に終わった。

 

「はぁ…ホント、何もかも台無しになっちゃったじゃん。

これで4対1か」

 

ブラックマジシャンもカリギュラが横から殴られて戦線を離脱し、もうマスターのカガリの方に助けに行くことも難しい。しかも茉莉とダートナックのサーヴァントであるネロとカリギュラを相手に正面切って戦うなんて勝てるわけがなかった。

 

「…でも、まだ終わりじゃないよ。私の魔法は、鈴音ちゃんにやったように記憶をいじることができる。その魔法は相手だけじゃなくて自分にもかけることができるんだよ…これがどういう意味が分かるよね?」

 

茉莉はカガリが何をしようとしたかようやく理解した。計画が失敗してしまった以上、復讐できなくなり自分の身を滅ぼしてでも殺そうとする。

カガリは自ら絶望して、魔女になってまで殺そうと考えている。

 

「⁉︎ダメだよ、そんなことしたら‼︎」

「私の記憶をサイアクなお話として作って流し込めば今すぐにでも魔女になれる。だからね…」

 

魔法を使って自分の記憶を酷いものへと変えていく。絶望によってソウルジェムが濁り、とうとう魔女になる直前にまでに至ってしまう。

「そんなのダメだよ!椿だって生きてるかもしれないんだよ‼︎」

「また、嘘ついた。椿が生きてるなんて絶対に信じない…生きてるなら、椿のお守りなんてつけるわけない。

やっぱり、茉莉なんて嫌い」

 

茉莉のことが嫌いだと何度も言っていたものの、彼女の最後の言葉にはカガリの目には涙を流しながら別れを告げている。彼女の記憶が書き換えれ、ソウルジェムの濁りは止められない。

 

ーーーバイバイ

 

「カガリィィィッ‼︎」

 

 

手を伸ばそうとする茉莉はカガリに向けて叫ぶことしかできなかったが、鎧兵は彼女の口よりも身体が瞬時に動いた。

 

(タートナック⁉︎)

 

タートナックはカガリの生み出した絶望と負を直接受け止めている。カガリの顔を見て、鎧兵は椿のように魔女になるのではないかと確信した。

なんとしても魔女化させまいと、絶望の負を取り込んでいく。過去に魔女になってしまった椿の時のように、その子にも二度とあんな魔女にはなってほしくないということから考えなしに突っ込んでいく。

 

(まさか、カガリちゃんの穢れを全て吸収しようと…)

「離せこの化け物っ‼︎」

 

彼女が自分の記憶を改竄して、いくら泣き喚いて殴ってどかそうとしても、絶対に離そうとしない。まだ彼女が自分の身を滅ぼしてしまう前に、必ず会わせなければならない人がいる。鎧兵が抱きついている以上、まだ彼女の記憶の全てを最悪にさせたというわけではない。カガリは魔法でレイピアを出現させて、鎧の隙間から突き刺す。

 

しかし、これでもかというくらいに離れようとはしなかった。まるで彼女の辛さ、痛み、悲しみを包み込むように抱きしめる。だが、負を取り込むことによって耐性が付いていく。

 

もうタートナックに、意識と記憶の改竄は効かない。鎧兵はカガリを抑えたまま、その身体から着物を着た女の人が出現した。

「え、椿…な、んでっ…」

 

タートナックの隣には死んだはずの美琴椿がそこにいた。キュウべぇが死んでいると嘘を言ったせいで、まさか生きているとは本気で思ってもなかったのだから。

 

カガリは驚いて、目を丸くしている。

椿の心臓はちゃんと動いており、彼女もカガリを抱きしめていた。

 

「なんで…死んだんじゃ、なかったの?」

「私は…こうして生きています。タートナックのおかげで。

貴方達二人を巻き込みたくなかったのに、私のせいで巻き込んでしまった」

 

カガリはレイピアを落とし、目を見開いて死んだと思っていたはずの椿を凝視している。

 

「いや、私は、なんで、どうして、椿は…私達を、みす、てたくせに」

「あぁする必要があったの。私がこの魔物の身体にいなければ…今頃私は魔女になって暴れていたかもしれない。

 

そしてカガリの言う通り、殺されていたでしょう」

 

本来魔女から人に変えること自体が異常なのだ。魔女になってしまった以上、二度と人に戻ることはできかった。

 

だが、魔物はそれを可能にした。今目にしているものが現実として、実際に椿が生きている。あの怪物から鎧兵が救うことで、魔女になった椿を蘇らせた。それでも、

「…みんな嫌い、茉莉も、椿も、みんなして嘘ばっかり言ってみんなみんな大っ嫌いっっ‼︎‼︎死んでしまえばいいんだ‼︎‼︎」

 

 

カガリは椿がたとえ生きていたことがわかったとしても、自分にかけた記憶の改竄のせいで感情的になって暴れている。椿が二人ではなく鈴音の方に委ねた結果、こんな悲しい事件が起きてしまった。魔女による椿の死から、カガリの願いが鈴音の記憶を改竄させたことで彼女を殺人鬼にまで変貌させてしまった。

 

鈴音は罪のない魔法少女を暗殺し、無関係な人を死に追いやり、大事な人を傷つけた。真実を知った彼女の悲しみは、カガリの言う通り絶望に堕ちて魔女になってもおかしくなかった。

 

カガリが魔法で拳に力を込めて、鎧兵に殴りつけても、魔女にならないようにカガリを抑えようとする。

 

「離せって言ってんでしょっ‼︎」

「⁉︎やめて‼︎」

 

カガリが泣き止むまでずっとダートナックはそうしている。彼女の抱えた絶望を鎧兵は何も言わずに受け止め続けていた。

 

「もう、死にたい…このままいっそのこと…その剣で私を殺して」

「…」

 

カガリは離そうとしない鎧兵に疲れて暴れるのをやめた。絶望どころか、彼女の目には正気が写っていない。

 

「何も知らなかった私が椿が生きてたことも知らずに、鈴音をあんな風に変えて、私のことが許せないでしょ?

 

私のことが憎くてたまらないのなら、本能のままに殺しなさいよ」

 

だがこの鎧兵は、この世界の何処にでもいる魔女や使い魔のように無慈悲に人の命を刈り取れるのか。時の神殿でずっと立っていたままの人生が、魔女のいたずらでこの世界に降り立ち、様々な人達と出会ってきた。

 

カガリを【殺す(Kill)】か【許す(Mercy)】か。

 

鈴音の記憶から魔物の存在を抹消させ、さっきまでの優しい心を持っていた彼女をここまで歪に変えたのは紛れもなくカガリの記憶操作だ。

 

 

ーーーーダレカ、タスケテ

 

 

だが、彼女の絶望を取り込んだ鎧兵は、その微かな声を聞き取っていた。最悪な記憶は鎧兵がそうさせまいと動こうとした時点で防がれたが、心が疲れ果てた彼女はもう生きたいと望んでいない。カガリもまた偽りの真実に踊らされ、記憶の改竄のせいで鈴音をキリサキさんという暗殺者に変えられ、茉莉さえ利用し、最悪殺そうとしたのだから。

 

「…え?」

 

鎧兵はカガリの頭を優しく撫でる。少女の命を刈り取るために剣を取らず、彼女に慈悲を与えた。たとえ敵だったとしても彼女もまた鈴音と同じように加害者かもしれないが、同時に被害者だった。もし本当の真実を二人に伝えれたのなら、こんな事にならずに済んだかもしれない。

三人が笑い合える未来が。

 

だからこそ、無口な鎧兵が彼女に伝えることは許さないとか、殺してやるとかの憎悪ではなかった。

ただ鎧兵が伝えたかったことは

 

【ゴメンネ】

「変なの…なんで貴方が、私に謝るの?いみ、分かんないっ……!」

 

カガリは大事な人を陥れたのになんで鎧兵が謝るのか理解できなかった。

この鎧兵が一体何を考えているのか。

しかし、カガリは無意識に涙を流しており、声も震えている。今度は椿がカガリに近づいて、抱擁した。

「二人に本当のことを言わずに出て行って…ごめんなさい。タートナックに鈴音のことを任せさせたことも、鈴音にも一人きりにさせたことも…」

 

さっきまで敵だったカガリが、こうして感情的になって泣き叫んでいる。茉莉と鈴音も椿に会えるとは思っておらず、いつの間にか自然に泣いていた。

鈴音はタートナックのおかげで生きていることを知っているのにこうしてまた会えたことに心の底から嬉し泣きしている。

茉莉もカガリと同じように妻を亡くしたことで塞ぎ込んでいたのを、椿が変えてくれた。そして、キュウべぇのおかげで目が見えるようになり、世界だけではなく、二人にとってかけがえのない人が帰ってきた。

 

もう自らの首を締めて魔女に堕ちることも、誰かを殺す復讐も。

椿の生還と、鎧兵が許し(Mercy)たことでこの場は丸く収まる、はずだった。

 

「やれやれ、カガリは僕との約束を破るんだね。君は契約の時に失敗したら魔女になるって言ったのに。

しかも、ここまで隠してたことまで明るみになった上に失敗するなんて。台無しだよ、全く」

 

宇宙の維持のためにエンドロピーを集め、人の感情を利用して魔法少女にさせた。真実を伝える必要性は無いと勝手に判断し、自分達の都合で多くの少女達を散々騙してきた全ての元凶、インキュベーターことキュウべぇが横から割って出現した。

 

 

*****

 

「こんな、こんな…馬鹿なことがっ…早くここから離れて回復魔法を」

 

カリギュラに吹き飛ばされた黒魔道士は壁に手をつけて歩きながら移動していた。さっきカリギュラに空中から地面に叩きつけられたせいで出血多量になっている。杖は使えても、返り討ちにされるのが目に見えている。

 

(私以外のシャドウファイターを使えばっ…!)

 

戦力が黒魔道士とカガリの二人だけではなく、シャドウファイターの内三人がいると考えていた。彼らの実力は有名な英霊とほぼ同等である為にそう簡単に倒せないはずだと考えていた。が、

 

「貴様が襲撃者か」

 

逃げようとしたところには花京院とピチュー、ワドルディが囲んでいる。シャドウファイター達は既に倒れており、残るは血を吐きながら逃げようとする黒魔道士一人だけになった。

 

「もう、これで終わりのようね‼︎」

 

もう詰んだ状態だったが、三体のシャドウファイターの残骸を見て、黒魔道士は不敵に笑いつつまだこの状況を脱する策を閃いた。

「…それはどうかな?」

「何?」

 

黒魔道士はあらかじめ用意していた召喚陣を魔法で取り出す。

 

「⁉︎貴様ッ!何をするつもりだ‼︎」

「新しい英霊を召喚するっ‼︎貴様らは知らんだろうが、元々この世界に連れてこられた事情を知っているのは貴様らではない…この私だけだ‼︎」

 

それぞれの少女達にネロ、花京院、ピチューを、ワドルディを呼び出したことが、どういう事情で呼び出されたのかを黒魔道士だけが知っていた。

 

「神だと⁉︎一体何の話をしている‼︎事情を知っているというのはどういうことだ‼︎」

「話す口などない…あんな身勝手な神の依頼などもう知ったことかっ‼︎」

 

三体のシャドウファイターとタートナックの鎧の破片を触媒にし、新たな英霊を召喚しようとする。

 

 

「今度は何をするつもりだ!」

「あの人、僕らよりも強力な者を呼び出そうとしているんじゃないかと!」

 

身体中から黒い波動出している大男が立っていた。

 

「あの男は…それに急に空気が重く」

(誰なのかが見えない。だが、なんだ…この威圧感はっ⁉︎)

 

それはシャドウファイターで形付けられたものではない。入り混じりに変色していた形からだんだんと変わっていく。目から口、頭部に上半身から下半身へと変貌していく。

 

「…此処は、何処だ?」

 

そこから現れ出てきたのはさっきまで戦っていたシャドウファイターよりも禍々しく、ドス黒いオーラが包まれている。右手には賢者の剣を持ち、大勢の魔物達を支配した男。右手の甲にはトライフォースが光っている。

 

かつてハイラル全域を脅かし、支配しようとした魔王ガノンドロフ本人が黒魔導師によって召喚されてしまった。

ライダーとアヴェンジャーのダブルクラスという得体の知れないサーヴァントとして。



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気づけばこんなにも愛されていた

スマブラSP記念ということで、また来年になる前に今年中に投稿しました。本当は発売日に投稿したかったけど、忙し過ぎてできなかった…Wii Uは持って無いけど、Switchの方は全キャラいたので買いました。


勇者によって敗北する様を見ても、悔しいという気持ちはなかった。これで良かったのだろうかというよりも、負けたことが分かったから諦めがついたという方が正しい。

 

鎧兵という名の魔物、魔法少女という魔女。かつて人々からは心悪しきものと拒絶され、脅威か害悪とみなし、そして虐げられた。

 

それは昔も、今も変わらない。たとえ人を助けるために善意でやっても、その力を恐れ嫌悪される。

 

心がある魔物がいてもいいだろう。

心がある魔女もいてもいいだろう。

 

多くの人を襲い、殺して絶望に陥れる。そういった印象が植え付けられ、故に民から迫害されてきた。

 

目の前にいるインキュベーターという生物は、どんな手段を使おうとしても彼らは無造作に増え自分のしたことを悔いることもないまま契約を続けるだろう。

 

*****

 

カガリのソウルジェムを濁らせ、魔女に変貌するのを阻止した鎧兵に、キュウべぇは計画がバレて失敗したと判断した。

「本当に台無しだよ。まぁ、そこの魔物が死ななかっただけまだ取引材料にはなるかな」

「なにそれ…椿が…椿がまだ生きてることを、黙ってたくせにっ。私と契約する前から知ってたんでしょ…」

「その方がエネルギーを効率的に回収できるからだよ。

 

鎧兵のおかげで彼女は生きてるなんて言ったら、茉莉はともかく、真実を知った君が僕と契約だなんて絶対にしてくれないからね」

 

仮にキュウべぇがそんな話をしたら、彼女は契約する前に、躊躇していたかもしれない。鎧兵が助けたなんてお伽話を信じるも信じないも、見てもない真実を彼女自身の心に止めることが精一杯だった。

 

言っていれば睨むこともなく、本当のことだったと自分を責めているが、キュウべぇは自分の利益の為にあえて言わなかった。計画がタートナックという鎧兵の介入によって救済活動を続けていたのなら、その約束が破られてしまうことを考慮して。

 

だから、カガリは死んだことを言わずに隠蔽していたキュウべぇを恨んでいる。

 

「うそ、つきっ…」

「君だってそうだ、カガリ。魔女になるって約束なのに結局魔女にならなかったね」

 

鈴音の記憶消去と改竄も、キリサキサンという噂も、魔法少女の殺害も。全てはキュウべぇが仕組んだものだった。

結果的に偽りの情報を与えられたカガリは魔法少女となり、偽りの記憶を植え付けれた鈴音は魔法少女を殺していく殺人者となった。

 

まるで鈴音もカガリ、二人が【嘘だらけの物語】に踊らされているかのようだった。

 

「タートナックを通じて感じてました。私が魔女化し、すずねを一人にさせてしまったことも。何度も叫んで、苦しんでました。

他の魔法少女を助け、茉莉と仲良くなったこと。鈴音にも、カガリにも、こうなってしまったのは私のせいでもあったわ…だから、だから…本当にごめんなさい」

 

椿は泣いていた。かつて育んでいた三人がこうして魔法少女同士の抗争に巻き込まれて殺し合っている。

かつて椿は茉莉とカガリの姉妹を巻き込ませないようにしたのに、二人ともキュウべぇと出会った。茉莉は目を取り戻したが、カガリは鈴音を選んだ事実を知ってしまったことからこうして魔法少女になってしまったことも。

 

三人の運命が、椿を中心にここまで残酷な未来へと紡がれてしまったのだ。今の椿は数ヶ月鎧兵の体内にいたことで魔法少女の力を失い、元の人間に戻っている。

 

キュウべぇは、鎧兵の秘められた力を理解した。

【魔女になった魔法少女を救済することができるのなら、才能ある魔法少女を魔女化させてそのサイクルを繰り返すことで宇宙エネルギーを確保できるのではないのかと】

 

「カガリ、僕は約束が守らなかったとしても別にそこまで気にしていないんだ。

 

僕に提案があるんだけどさ、取引しないかい?」

「提案って…今度は何を」

 

ここにいるみんなが嫌な予感がした。約束を破ったことを気にしていないというのであれば、鎧兵を使って何か企むことは間違いなかった。

「君が現れ出てきた魔女を次から次へと解放して、それからまた再契約していくというのはどうかな?特に一番才能を持っている子を魔女化させてた後に、また普通の人間にする。

 

再契約ができるかどうかは分からないけど…

それが可能なら。もし人間に戻れば、また魔法少女にと…サイクルを繰り返していけばいい」

 

世界にいる魔法少女の中から一番素質のある人だけを助けて、それ以外のないものを切り捨てれば効率的にエネルギーを回収できると判断した。鎧兵の力が、魔女になった魔法少女を救う力を秘めているならそれを利用しない手はない。

 

「…他の魔法少女はどうするの?」

「諦めて魔女のまま放置かな。それが嫌なら、その鎧兵が複数の魔法少女を吸収できるようにしないといけないね?」

 

インキュベーターは、結局のところ鎧兵も物扱いとしか見ていなかった。異端とはいえ、自分達にとって新たに都合の良い存在が出てきたのなら、彼女らの心情を無視して話を進めている。

 

「私達や、タートナックは物なんかじゃない‼︎」

「…協力してくれるならと思っていたんだけどね。でも鎧兵は、魔女になった誰かを助ける為にその力を今後も使っていくと思うよ?

 

それにその力をバラされたら、君達以外の魔法少女が鎧兵を奪いにくるだろうね?」

 

鈴音はそう叫んでいるが、キュウべぇの返答は正論だった。鎧兵の力が魔法少女を救う手段として、もしその事実を大勢の魔法少女達に知られたら、その力を保持する為に鎧兵を手にする為に今度は争奪戦が始まる可能性が高い。カガリの復讐が終えても、今度は多数の魔法少女から【真実を知った上での、自らの救済】の為に奪おうとしてくる。

 

穢れを吸収し、魔女になる心配もならなければ、最悪一人が魔女になっても助けることができる。そんな理想的な存在がこの世にいることに歓喜し、魔法の力をもってして略奪するだろう。

 

 

 

*****

 

ずっと話を聞いていた鎧兵は、心底複雑な気持ちでいた。

鈴音の記憶が元に戻ったことを嬉しく思い、彼女の記憶を有耶無耶にさせ、鈴音を殺人鬼に変えたカガリも本来憎むべきなはずだが、彼女も被害者だった。

 

 

まず、前半にあった魔法少女に関してはどうにもならなかったこと。その理由は、その生物から幾多もの奇跡のおかげで彼女らは懸命に生きることができただろう。少女達が魔法少女になる前まで、契約のきっかけになるものがあったのかは分からない。

キュウべぇにだって目的があったから、前々からそういうシステムを作ったのも理解した。

 

何故なら、魔法少女というものがなければ、彼女らと会うことは絶対になかった。

 

 

しかし、鎧兵が許せるのは【前半】だけ。

 

 

一番問題な後半は、その生物が求めていたものが、とどのつまりは自己利益なだけで、無関心なまま少女達を騙し続けてきたことだ。

 

戦いに敗れてソウルジェムが砕かれて死ぬことも、ソウルジェムが真っ黒になって、化け物になることも分かった上で。自分の体内にある負は魔法少女の怒り、憎しみ、悲しみ、それらの【絶望】からエネルギーを搾取していたのだから。

 

ご都合主義のような、都合の良い救済も、軽いハッピーエンドもない。もしそんなものが実在するのであれば、奇跡を留めるか或いはなかったことにするのかという二択の契約破棄を行えることも可能だった。

 

 

だが、その生物が少女達を考慮するようなことを考えてるわけがない。仮に取引をしたところで宇宙エネルギーもどれくらい貯めれば良いのかも知らず、鎧兵に不備が起きても保険なんてかけるわけがない。精々、魔法少女を集めて奇跡の力でまた再復活させて動かせるということぐらいだ。

 

それすらも教えない。

不利益なのだから教えるわけがない。

キュウべぇに取引を提案されたとしても、鎧兵の答えは当然NOだった。何故なら

 

・魔女になることも教えずに、信頼関係を得ようとしてあえて近づいた。

全ては自己利益の為に

・更には椿が育てていた二人の子と、その友達まで陥れようとした。

・そして今でも自分を取引として、今後とも宇宙エネルギーとやらの為に道具になってほしいという暴論を述べている。他の魔法少女達に略奪されたくなかったら、取引に乗れと

 

そして何よりも一番許せなかったのが

 

【鈴音や椿といままで一緒にいたというのに、平然とその二人の信頼と命をも侮辱したこと】

 

それが、何よりもやってはいけないことだった。

 

この生物は確かに、鎧兵にとって彼女らとの出会いのきっかけでもあった。が、この悲劇を生ませた大元の元凶なのだとするならば、それはーーー

 

 

 

 

ーーーー湧き上がるこの憎悪は、無口どころか言葉にすらならないほどの感情が込み上がっていた。

 

この生物は今後も、そうやって無感情なまま平然とした態度で騙していくのだろう。利益の為に、報復されたところで少女達には卓越したシステムに平伏させるように仕向け、願いは叶えてやるからその後は諦めて潔く屈服しろと。

そして鎧兵は、【決意】を抱いた。

 

ーーーこの生物は、魔物以上の邪悪な存在であり、忌むべき敵だと。

 

*****

 

「ダメだよっ…そんなことさせたら鎧兵さんが!」

「取引をする以上、鎧兵の状態変化はこちらから報告するよ。安全の保証は、そこの魔物次第だけどね?」

穢れを吸収するのは可能だったが、魔女になった椿に試しただけでも、鎧兵自身負担は大きかった。それを他の魔法少女に、複数やろうとしたら鎧兵の負担は凄まじいことになる。

 

鎧兵は、そのままキュウべぇに近づこうとする。

 

「よ、鎧兵さんっ…⁉︎」

「何…やってるの?」

沢山の穢れを取り込み、キュウべぇと相対した。まだ身体がボロボロな状態なのに鎧兵が前に出て、そへでも何かやろうとしていたことに嫌な予感がした。

 

*****

 

このまま生きつづければ、いつかみんなは酷い目にあう。生きていたとしてもやはり魔物という理由で虐げられ、今度は救済の道具として命を狙われる。

 

もう長い間ずっと戦って、命もあまり長くない。

ならばここが潮時だと、キュウべぇの言葉通りの運命ならばーーーー

 

 

ここで魔法少女の運命に決着を付けると。

 

鈴音、カガリ、茉莉にあるソウルジェムの穢れを吸収し、鎧よりも先に大剣を出現させる。鎧兵は大剣を振り下ろし、宇宙から来たインキュベーターの頭を粉砕した。その魔物はかつて負を取り込み、抗力と霧状に移動するしか持ち合わせてなかったのが、今では鈴音との出会いで成長している。

 

どんなに攻撃を受けても、不屈の身体を手にしていた。カガリに剣で刺されても、黒魔道士に魔弾を受けても生きている。

 

「無駄だよ、いくら僕を潰そうとても代わりはいくらでもいる」

 

しかし、キュウべぇそのものに物理的な攻撃で解決できるのなら、他の魔法少女もそうしている。そんな方法では、彼らを消すことはできない。

鎧兵は霧を放出してカリギュラに伝える。

 

できるだけ、遠くに行かせるようにと

 

その言葉を聞いてカリギュラは察した。

鎧兵が一体何をするのかを。

 

「⁉︎皆下がるぞ!叔父上の宝具に巻き込まれるぞ‼︎出来るだけ遠くに移動するのだ‼︎」

「宝具…?」

 

カリギュラとネロは、動けない椿とカガリを掴んで遠くへと移動する。鈴音と茉莉はまだ動けるため、二人についていくことしかできなかった。

 

(やっと…やっと会えた。話したいことが沢山あるのに…)

 

キュウべぇは、一体何をする気なのか全くわからない。取引は完全に潰れ、今度は何をする気なのか。

 

「オオオオオオッ‼︎」

 

カリギュラが放つその宝具は、人が食らえば精神的な部分をやられてしまう。特に魔法少女は絶望し、ソウルジェムは黒く染まる。

一斉に魔女になってしまうだろう。

 

我が心を食らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)

 

キュウべぇの影になった鎧兵自身もそれを受けて何が起こっているのかわからなくなっている。

 

「一体何を企んでいるか分からないけど…僕に負のエネルギーを押し付けて感情を持たせようって魂胆なら、そんなことをしても無駄だ」

 

鎧兵は、そのまま受けた大量の負の感情をQBに流し込んだ。

 

(なんだっ…これは⁉︎)

 

宝具による穢れを溜め込むことによって、流し出すことを覚えた。意識があるかどうかも分からないのに、行動に移している。

 

(そ、そんなっ…僕の身体に集中して…制御しきれない⁉︎それに…一体何がしたいんだこいつは)

たとえ感情を与えてそこから繁殖しようとしても、そのインキュベーターを1個体として切り離されてしまった。

 

「ハァッハァッ…それで僕に感情を与えたのかいっ!

感情を与えても無意味だよっ!そんなことをしても、他のインキュベーターから切り離されるだけだ!これで僕はもう1個体でしかない…よくもやってくれたなぁ!」

 

まず、キュウべぇに抱いた感情は怒りだった。生物の言葉からその怒りを鎧兵にぶつけている。

感情を入れられることも考慮して、彼らインキュベーター達が何の対策もするわけがなかった。

 

 

しかし、【インキュベーターの対策そのもの】がまさか命取りになるはずもない。作動させてしまった時点で、すでに勝敗を決した。

 

「ほら…別のインキュベーターに話しかけてみなよ。無駄だって答えてくれるから」

 

本当の目的が果たされ、他の全インキュベータが、カリギュラの宝具によって感情を持ってしまったのだから。

 

「…えっ?なんだ、何がどうなっているんだ」

 

至る場所でインキュベーターが次から次へと宝具の影響で発狂している。キュウべぇが感情を手に入れたことによって絶望によるエネルギーが増えてゆく。ネットワークように感情を持った一個体だけを切り離せばいい話なのに、

「なんで…なんでみんな狂化されている。どうして、僕と同じように感情を持ってるんだ⁉︎どういうことだ、タートナック、答えろ!

 

 

君は僕に何を仕掛けた!なんなんだ君はぁ⁉︎」

鎧兵は何も言わず、口もしない。

そのことに、今度は【恐怖】を感じた。自動的に切り離したインキュベーター全体に発狂と精神汚染が内部で加速する。

 

「ま、まさか、まさか君が…君自身が爆弾になったとでもいうのかっ⁉︎」

 

そもそも1個体を切り離そうという操作事態が、まず間違いだった。インキュベーターを生かして捕らえ、カリギュラの効力を受けたタートナックは『切り離す』という操作を行った時点で勝負はついた。

 

ウィルスは、全インキュベーターの行動に応じて拡散されていく。条件が満たされたことでカリギュラの宝具による影響は、タートナックが対象としたインキュベーター以外を除いた全インキュベーターに流し込まれている。

狂化されてゆき、精神汚染は止まらない。

 

全てではなく個別個別に切り離せれば繁殖はまだ防げたものの、一斉で1個体にリンクをインキュベーター側が切り離したことが原因により、タートナックがかけたきゅうベェ以外の個体はカリギュラの宝具にやられている。

「な、なんてことだ…それじゃあ、僕を除いた全員に…条件が満たされたことで感染が拡大したっていうのか⁉︎」

 

タートナックによって全インキュベーターが感情を持つようになってしまった。 ドミノ倒しのように、次から次へとインキュベーターが数匹、数百万といった大量の数が汚染されていく。

 

自分の命をトロイの木馬とし、脅威性の高いウィルスを抱えたままインキュベーターそのものをを陥れる。

だが鎧兵も、英霊でもない者が宝具を食らってまともにいられるわけがない。その負を吸い取り、史上最悪なウィルスを抱えたままインキュベーターを陥れる策など自殺行為だった。

 

「君は、死ぬことを分かっていた上でっ…そんな馬鹿なっ⁉︎あり得ない⁉︎

なんで、なんでそんなことができるんだ‼︎」

タートナックが生み出した害悪を取り除かない限り、インキュベーターで感情を消すことができない。

 

「理解できない…全くっ、理解できないっ‼︎‼︎そんなこと出来るわけがないっ‼︎‼︎‼︎」

 

大量のインキュベーターが耐えられない狂化と共に死んでゆく、雪崩のように次から次へと持ってしまった感情と狂い乱される感情に耐え切れなくなってコロンと息を引き取るものもいる。

 

 

魔物が最期に残した大逆転だった。

インキュベーターに契約し魔法少女になった彼女達の最期は、悲惨なものだった。

ソウルジェムが壊れ、無念を残して死んでいった者。

真実を知って絶望し、魔女に変貌した者。

 

全てのインキュベーターはタートナック自身をウィルスに耐えきれず、次から次へと死んでいく。感情を捨てようとしても、カリギュラの宝具が余りにも強力すぎるせいでもうどうにも止まりない。

 

細胞分裂みたいに切り離せすというトリガーを作動させたことで増殖し、連鎖が止まることがない。

 

だがそんな博打みたいな大きい賭けを行うこと自体体が持つわけがなく、タートナックは立つ力さえも無くなって倒れ伏せていた。

 

*****

 

鎧兵は倒れながらも、意識だけは取り戻ひた。もう穢れを吸収して回復することもままならず、本当なら鈴音とその友達と沢山話したいこともあった。出来ることなら、命を絶つ前に彼女達を取り込んで魔法少女の戦いもどうにかしたかったと後悔する。

 

鈴音達は、カリギュラの宝具が終えた後に鎧兵の元へと戻ってきた。道中、宝具の影響でキュウべぇの死体が転がっており、 鎧兵を見つけた時は既に倒れ伏せている。

 

「いやだ、いやだっ!」

 

鎧兵の身体は穢れの消失と共に意識も朦朧としていく。こうして命を賭けてキュウべぇに一矢報えたのは、その魔物に『決意』があってこそできたことだった。

 

これでもう、その生物に騙されることも、誰かを傷つけられることもない。

 

「ねぇ、起きてよ!こんなの嫌だよ!」

 

鎧兵にとって心残りだったのは、彼女達も救えなかったこと。そのまま生き残っていれば、鈴音達に魔法少女の最期を背負わせることもなかった。

 

「やっと終わって…記憶も取り戻した。一緒に、一緒にいて欲しかったのに…死なないで!死なないでっ‼︎」

 

鈴音は泣き叫んでいた。二人の頬を触り、魔物の命が尽きる。今まで救ってくれた鎧兵の死に、少女達は泣くのをやめない。

ずっと無口だった鎧兵は、鈴音にこう伝えた。

 

ーー今まで、ありがとう。

最後に会えて良かった

 

「いやだ、嫌だぁぁぁぁっ‼︎」

 

そう叫んでも微動だに動かない、そこにあったのはただの魔物の遺体が残されていた。椿も、カガリも、茉莉も、ネロとカリギュラも鎧兵の死に悲しんでいる。

 

自分の命があと僅かであるのに、鎧兵はその元凶を潰した。

邪悪な魔物としてではなく、多くの少女を救った勇敢な者として。

だが、これで終わるわけがない。

 

「⁉︎あんた達、何やってんやってんの!早くそこから逃げてっ‼︎」

 

亜里沙と春香、千里の三人が後から鈴音達の方にたどり着く。鎧兵が死んだことを知らなかったとはいえ、黒魔道士が召喚した魔王が恐ろしく強いせいで必死になっている。

事情を聞くどころではない。

「そこの少女よ、そうまでしてなぜ泣く必要がある?」

 

インキュベーターは精神的な部分がやられたせいでほぼ死滅し、残る障害はブラックマジシャンが召喚した魔王、ガノンドロフのみとなった。ワドルディとピチューは蹴りだけで再起不能になり、花京院もなんとか逃げつつ移動していたおかげで致命傷は避けたものの、それでもボロボロになっている。

 

「逃げて、下さいっ…その男は、危険すぎるっ!」

「まぁ、どれだけ強くなったところで魔物も魔物。仕方ないか。

 

 

 

所詮、出来損ないの【捨て駒】だったな」

 

ガノンドロフは鈴音に近づいていた。

椿と鈴音を守るようにカガリと茉莉が前に出て、最前線にはカリギュラとネロがいる。一斉に戦闘態勢に入るが、まだ魔王は何もしない。

 

「なんてっ…いったの…」

「聞こえなかったのか、捨て駒だといったんだ。

既にさっきの膨大な負の力に押しつぶされても、まだ遺体が残ってるとはな。

魔物を率いていた私が断言して言わせてもらうぞ。魔物が大量の負を纏ってまともにいられるわけがない。そこの残骸をいくら揺すっても微動だに動かん。

 

 

死んだ、ということだ」

 

魔王でさえも、魔物の身体を見て限界があることは既に把握していた。それでも長生きしていること自体が奇跡で、カガリとの戦闘の時点でいつ死んでもおかしくなかった。

 

「私は…私はただ、謝りたかった。

 

人殺しになっても、それでも鎧兵さんは…私のことを許してくれた。

だから私も、もう一度、一緒にいてほしいって。なのに…こんなの、嫌だよ…ひとりにしないでよ」

「一緒に居たかった?それは叶わん願いだ

 

 

小娘。なぜあの魔物が死んだか分からないのか?それは貴様ら魔法少女達と出会ったが故に死んだ。でなければ命をかける必要などないだろ?」

「わ、たし?なんで…」

「鈴音!聞いてはダメっ‼︎」

 

鎧兵の死に絶望した鈴音に魔王は容赦無くトドメの言葉を突きつける。

魔物と共存すること自体が愚かであると。

そして、魔物も、鈴音自身も互いが互いを陥れていたという事実を口にした。

 

『何も記憶にない貴様がその汚れた手で大事な魔物を殺そうとし、復讐者の標的にされ、あんな風に地獄に落とした。

 

貴様の存在が、奴を苦しめた。魔物も身の程を弁えずに高望みしなければ、こんな自分の首を絞める結果にならずに済んだものを…だが貴様がその力で殺し、目の前で消えてしまった。

跡形もなくな。当然の結果だろう?

そもそも魔法少女とやらに関わらなければこんな無様な死に様をせずに済んだというのにな。全ては、奴が魔物だったこととお前の愚かさから始まったことだろう?

 

 

【お前のせい】で、死んだのだから』

 

(ピシッ)

 

鈴音のソウルジェムは一気に黒く濁り、鈴音の姿は魔女へと変貌しようとした。

が、彼女の姿はおかしかった。

化け物にはならないまま人の原形をとどめ、大人へと身体が成長し、胸の中心には黒く濁りきっていたソウルジェムが埋め込められている。

 

(あぁ、そっか…私のせいで)

「鈴音ちゃん!」

(タートナックをあんな風にしたんだ)

 

彼女の背後には、魔女になるはずの怪物が出現している。

彼女の目は正気を失っていた。

 

(ごめん…ごめんね…ナック)

 

かつて彼女がまだ幼かった頃、鎧兵に肩車していた時に言ったあだ名を口にする。意識は虚になり、深い闇へと取り込まれていく。

魔女の結界も、使い魔も出現しない。鈴音は【魔女という怪物】としてではなく、【人間の姿を保った魔女】として変貌する。鈴音も鎧兵と同様に、鎧兵が残した武器の破片を取り込んだことで変異していた。

 

彼女は、ずっと守ってくれた鎧兵を自らの手で陥れてしまった自分を呪っている。

その目には、涙が流れていた。



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その想いを受け継ぐために

「茉莉っ…⁉︎」

(何、あいつっ…)

(身体が…思うように動かない)

亜里沙と千里、遥香達三人は、黒魔道士によって召喚された魔王に驚いている。魔女とは比較にならないほどの桁外れな魔力を放出しながら歩いている。

 

どす黒い闇が、彼を包んでいる。

茉莉達は今まで感じたこともない禍々しい魔力に触れ、鳥肌が立っている。

 

「それにしても人間に情が移って、こんな馬鹿なことをするとは。

全くもって、無駄死にだな」

「…取り消せ、今の言葉を‼︎」

 

怪我をしていても、典明はゆっくりと立ち上がる。

今の彼は再起不能になってもおかしくないくらい重傷だった。

 

「断じて取り消すつもりはない。立ち上がってたのならともかく、ここまできて奴は死に絶えだ」

 

ガノンドロフは、消えたはずの鎧の破片を持っている。その破片は鎧兵の消失によって塵になり、風とともに飛んでいく。

 

「どんな方法を使ったか分からないが、あの黒魔道士はこれを触媒にしてくれたおかげで…私はこうして蘇ったわけか」

 

その世界における物が、こうして魔王をこの世界へと導いた。勇者のいないこの世界で、この男の力を止められる脅威はいない。

目の前で食い止めようと立ち上がる彼らは、ガノンドロフにとっては雑兵に過ぎない。

何人来ても、問題なかった。

 

「見た夢も叶えられないどころか、あの哀れな少女を絶望させるきっかけになり…あんな化け物に変貌させるとは、とんだ愚図だな。

 

まぁ、奴のおかげでこうして復活できたのだけは感謝するが」

 

ハイエロハントグリーンのエメラルドスプラッシュをガノンドルフに当てる。

しかし、全ての攻撃を弾き飛ばされた。

 

「黙れっ…!」

 

彼は立ち上がった。

鎧兵を侮辱したその発言を、許すつもりはない。他の仲間は臆しているが、魔王から放つ威圧と似たものを感じたことは彼にはあった。

 

生前、DIOに恐怖を克服したことで彼の身体はまだ凛として立ち上がれる。

 

「何を怒っている?

全てはそこにいる小娘二人が原因な筈だ」

 

魔王はそばにあった白い生物を拾う。それは、狂化の影響で朽ち果てているインキュベーターの一つだった。

 

「これは確か、お前達の言う契約者のインキュベータだったか…?魔法少女の仕組みについてはあの黒魔道士を通じて大体は理解している。

 

お前達に一つ聞くが仮に彼らが消失したことで、一体誰が悲しむと思うのだろうな?」

「…どういうこと!それにインキュベーターはみんなを利用して」

 

魔法少女の絶望からエネルギーを回収して、役に立ってくれたら他の魔法少女に狩られて死ぬ運命だった。

 

それなのに鎧兵の命懸けの行為が、どうして悪いことだったのか。

先に遥香が、口を震わせて発言した。

 

「ち、ちょっと待って…今の私達は魔法少女の真実を知っている。

でも、 仮にもし真実を知らない魔法少女がいたとしたら」

「そう、真実を知らぬ無知な魔法少女だ。疑心に思わず純粋な心を持つ者なら突然消えて、いなくなったことに驚くだろう」

「そ、そんなっ…⁉︎」

 

キュウべぇを相棒だと思う人、気軽に話せれる人…親しく思っている魔法少女がいるのだとしたら死んだことに違和感を抱く。

 

「皮肉なものだな?真相を知る者が忌むべき存在を消したいと望んでも、無知な子らは親しかったその生物を殺されてどう受け止める?

 

この下らん生物のために敵討ちの為に動く者もいるだろう。お前達は端的に諸悪の根源を潰せば、それで万々歳だと思っていたんだろうな?」

「うっ…‼︎」

 

何も言い返せない。

インキュベーターの目的を知って彼女達は嫌悪感を抱き、その生物を無力化させることに成功した。このまま鎧兵が生還していれば、絶望を吸収して鈴音達はより長く生きることが可能だった。

 

しかし、今となっては悪い方向へと向かっている。

 

「結局、命をかけてやったことは厄介事を残しただけだろうに。お前達もお前達で感情的に動いた分、楽観的だったのだろう?

 

このシステムを運用していた存在を潰したらどうなるのか、潰したところで身体は元に戻ることなく未来はないこと。そして、グリーフシードの回収もままならない以上魔法少女の絶望からほかの魔女が出現するのも時間の問題だな?

この生物を玉砕した結果、この世界は悲惨な運命を辿ることとなった。

 

所詮、最後の最後まで出来の悪い魔物だったことに変わりない」

「違う!あの鎧兵は!」

「この現状を見て、そんなことがまだ言えるのか?」

 

鈴音は魔女となって暴れ、誰の耳にも届かない。インキュベーターの大量死も、他の魔法少女に知れ渡ることでそう考える者も出てくるかもしれない。

 

「確かに鎧兵の命懸けの行為が、お前の言う通り…悪い方向へと向かってしまったのかもしれない。

 

しかし、確かに一つだけ言えることがあるっ!

あの鎧兵が助けたいと思っていた天乃鈴音…彼女の心を壊したのは紛れのない貴様がやったことだっ!

あんな風にしたお前は…お前だけは絶対に許すわけにないかないっ‼︎」

「そうだな、壊したのは私だ。そこに罪悪感もなければ、あの少女に思入れもない。

 

 

あと…今頃思いついたのだが、駒の割には最後にいい仕事をしてくれた。

あんな風になったあの化け物共を、もしかしたら手駒する可能性があるということを発見したのだから。

自害する覚悟のない残りの魔法少女が絶望して、その怪物が私に下るのならこれほど嬉しいことはない」

「貴様ぁぁぁっ‼︎」

かつてハイラルで自分の城を築き上げて魔物を支配したように、今度は鈴音達のような魔法少女が魔女となって魔王が支配することも考えている。

 

「良いのか?あの魔女を放置して」

「つっ…くそっ‼︎」

 

既にピチューとワドルディが使い魔を撃破している。

鎧兵が消えてしまった以上、もう鈴音を生きて救う手立てが思いつかない。

「もう力が…」

「ここで踏ん張らないと、街のみんなが…遥香達だって!」

魔女を倒さない限り召喚する使い魔は永遠に出現する。

(クソっ…どうする⁉︎僕は、一体どうすれば⁉︎)

臆していないのは花京院だけではない。

英霊もまた、魔王が放つ威圧を恐れることはなかった。

 

「ォォォォオオオ‼︎」

 

 

背後からカリギュラがガノンドロフを相手に襲ってきた。本来バーサーカークラスにある狂化が鎧兵によって汚れを吸収していたことで、これまで落ち着いていた。

しかし、もう鎧兵はいない。

鎧兵の勇敢を死を嘲笑い、馬鹿にして侮辱した魔王に対する怒りはもう誰にも止められない。

 

 

カリギュラは怒り狂い、狂人となって襲いかかる。

急いで花京院は駆けつけようとするが、それをネロに止められた。

 

「魔王は…余と叔父上に任せよ。だから奏者と花京院は、鎧兵の想い人を託す」

「で、でもっ…!」

鈴音を、二人に任せた。

鎧兵の想い人である彼女が魔王の手足となって操られるよりも、茉莉達と花京院達で止めることを望む。暴れてはいるが、ここは任せろとカリギュラの背中は語っている。

(なんだろう…どうして胸が騒ついてるの)

しかし、茉莉にとってネロとは短い間だったが、もしかしたら、これが彼女との最後の別れになるのではないかと不安に思ってしまう。

それでも、

「そうですか…では、頼みましたよ」

「分かったよ!でも絶対に…生きて、帰ってきて!」

「うむ!奏者の想い…確かに余が受け取った!」

止められるのは二人しかいない。

そう信じて茉莉達は魔王の相手を二人に委ねた。

 

*****

 

鈴音の魔女よりもこの魔王を放置すれば、世界はあっという間に彼の支配下となる。魔を退けるマスターソードもなければ、立ち向かってきた伝説の勇者もいない。

 

「邪魔をするな狂人。

お前の出る幕はもうない」

【魔人拳】

「グ…ボッ、アァッ…」

 

何度も殴ろうとしてくるカリギュラの拳を掌で受け止め、溜めていた裏拳でカリギュラを殴り飛ばした。その拳は身体を貫くことはなかったが、たった一撃で内側の至る部分が破壊されてしまった。

辛うじてまだ生き残っているため、魔王はとどめを刺そうと剣を取り出す。しかし、

 

「今度は貴様か…」

「叔父上と友、そして奏者を侮辱することは余が許さん!」

 

ネロの剣先は首に届かず、ガノンドロフはすぐさま取り出した剣で防いだ。

互いに魔力を放出し、ネロは原初の火、ガノンドロフは賢者の剣を構える。

皇帝と魔王、二つの暴君が衝突する。

鎧兵の死によって魔女となった鈴音の悲しみは、もう止まることはない。

使い魔が暴れ、魔女も化した鈴音を救い出こともままならない。

このまま所構わず暴れ続ければ、街は使い魔によって死に絶えることとなる。

「まさか…鈴音が魔女になって私が生き残るなんて」

カガリは魔力消費が激しすぎて戦えない。

ワドルディは動けず、ピチューも電気切れで疲れきっている。もう動けるとしたら花京院典明、日向茉莉、詩音千里、成見亜利沙、奏遥香しかいなくなっていた。

生かそうとすればするほど状況は悪化していく。

 

「ねぇどうすんのよ…このまま野放しにしたら」

「この街の人達だけじゃない…他の街にも手を出して最悪は…」

「もう魔女となっている天乃鈴音を倒すしか…方法はない」

 

それを阻止するためには殺す他、方法はなかった。

かつての魔法少女がグリーフシードのために魔女を倒したように。

「鈴音ちゃんっ…!」

「彼女も…あの鎧兵以外の大事な人を傷つきたいとは思っていない。

あの魔王に操られれば…もう彼女は本当の意味で永遠に報われなくなる。

 

だから…僕達の手で終わらせましょう」

ここまで連戦続きで、彼らの体力も限界だった。魔女である天乃鈴音を操られる前に倒し、この世界を支配しようとする魔王をグリーフシードが渡る前に殺すしか方法はない。

仮に成功したとしても、もう鎧兵だけではなく鈴音本人は戻ってくることは絶対にない。

 

鎧兵の覚悟と彼女の涙を忘れないことが、茉莉達にとってせめてもの弔いだった。

 



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優しい魔物

己を犠牲にして魔法少女の呪縛を解放することができた。

それでも死に際に見た茉莉と鈴音、二人の顔は泣いている。椿は悲しんでおり、カリギュラは口を閉ざして何も言えなかった。

 

ガノンドロフが鈴音を拐かし、タートナックをあんな風にさせてしまったことに絶望して、心が耐えきれないままそのまま魔女となっていく。消えようとする寸前にも彼女の悲しむ声が聞こえ、今になって馬鹿なことをしたと後悔した。

 

この世界において自分もまた忌むべき存在だからと、インキュベーターを道連れにした。

それなのに、少女は悲しんでいる。

 

どうして、何でこうなったんだろうと。

鎧兵は息を引き取り、消えていった。

 

ーーーーーーーー

 

黒い空間の中

その場所はかつてリンクによって倒されてしまった魔物達の成れの果てが沢山いる。死体の山には立っているものもいる。

 

鎧兵の身体は、そのまま消えようとしていた。

『お疲れさん。お前が召喚されて以降のことを見させてもらったぜ。結局俺達のような種族は報われないことがよくわかったよ。まぁ、気にしても仕方ないさ。こうなることも運命だって思わねえと耐えられないだろ?』

ブルブリンは鎧兵の経験を見て、心中察した。魔法少女だからって人間もいてもいつかはこうなるだろうなと、納得のいく最期だったと理解した。次にダイナフォスは軽々しくタートナックにこう告げた。

 

『マジでよく頑張ったよ。人間でもない魔物なのに様々な出会いからこんなとんでもない充実した経験をしたんだ。俺達のような連中が勇者に狩られて消えるよりも比較にならないほど充実したんじゃないの?』

 

彼らは勇者の命を狙うために襲ってはいるが、鎧兵が変異体であったからこそ魔法少女と仲良くなり、その物語を共にしたことが他の魔物達から珍しかった。鎧兵はそんな自分の経験談を聞くよりも、元の世界に戻れる方法を聞くが、他の魔物達は不思議そうな顔をする。

ーーー元いた世界に戻れる方法、と

『…え?』

『いや何言ってんの?』

『…本気でそう思ってるのかよ?何かの冗談だろ…』

 

鎧兵の質問にざわざわと他の魔物達も鎧兵の発言に、困っていた。

彼らは騒ついていた。

『なぁ?まさかとは思うが、まーた人間の為に立ち上がるつもりか?いい加減もう疲れただろう?』

『え、嘘でしょ?何の冗談だ?』

驚いた顔もいれば、何言ってんだこいつって冷たい態度をとった反応をする魔物もいる。鎧兵の生きていたいという願望に、皆が皆混乱していた。

 

『いやいやいや!バカかテメェは⁉︎そもそもあの世界で人間の内にある醜いものを見てきただろ?

お前何を見てたんだよ!あのカガリって女もインキュベーターに嘘を言われたからと言ってそれが免罪符になるわけじゃない。

なんせ、俺達のように無関係な人にまで手を出して、巻き込んでるわけだからな?そして自己犠牲で倒され、そんでもってここに戻って来たんだ!

 

お前は自己犠牲だが、俺達はガノンドロフ様に忠誠を誓って死んだ!

 

やめとけやめとけ!

あの世界で生きたところでそんなもん周囲からは害になるだけだ!だいたい、一体そんな体でどうやって生きていくつもりだ!

…もう用済みなんだよ、ここにいる俺達は、お前さ…何か勘違いしてると思うが、あの世界で俺達のような魔物があの世界で幸せに生きていけると思うか?

別の世界からやってきて、しかも人としてではなく魔物としてだろ?あいつら全員がお前の生還を望んでも、果たして世界はお前が存在することを認めるのか?

だいたい、魔女に召喚されたのは紛れもなく【気まぐれな】だけだぞ。

ならもうさ…流れに身を任せて、そのままゆっくりと永眠していけばいい。俺達のように三途の川に身を任せればいいんだ。そのほうがずーっといい』

 

鎧兵は薄々気づいた。

彼らと住む世界が異なると、当然価値観も異なる。

 

彼らと、自分は既に異なった場所にいると。

 

鎧兵は一人だけでも探し出す。確かに自己犠牲の覚悟はあったが…それでもあの子がまだ泣いていると。

鎧兵は必死に暗闇の中から脱出しようと探した、が。

 

 

『人間風情に情を写すなど、烏滸がましいにも程がある。恥ずかしいと思わないのか?』

 

今度は頭上にいたガーナイルが探している最中に否定する。止めはしないが、無駄だからやめろと言っている。

 

『それでも、この後に及んであの女をまだ救おうとするのか?

寝言は寝てからいうものだぞ間抜け』

 

タートナックの矛盾を論破した。

 

『高望みしたものを手に取ることなどできないしない。それがこちらの限界なのだから。あの女を救ったところで、次は我々の支配者であるガノンドルフ様と戦うつもりか?

 

魔物が少女を救うためにまた立ち上がるのか?

夢を語るのも大概にしろ

 

誰もが、救えるような物語には絶対にならない。貴様のような奴があの悲惨な運命を変えることなどできるわけがない。

何故なら我々も貴様と同類だからだ?

それになタートナック。

既に貴様は命を落として終わったのだ。貴様の辿る物語はこれで結末となった。あの女のことは、あの世界のことは、もう素直に諦めろ』

 

自分と似たタートナックが目の前にいる。

しかし、何かが違う。その鎧兵はガノンドロフ城の管轄でリンクと戦い、そして破れた。

ガノンドロフに忠誠を尽くし、命令に従って人を襲う。

未練があって探そうとしている鎧兵に近づき、肩に触れて冷酷な言葉を突きつけた。

 

 

ーーお前の願望なぞ、唯の贋作なだけだ。この恥知らずの臆病者が。勇者や害する人々を倒し殺すことを強いられているのに、小娘を身体を張ってでも救うなど愚の骨頂なのが分からないのか?あんな化け物になった以上、もう誰の救いも求めていない。

求めるわけがない。救われた結果があんな形になったのだからな。

お前のせいでこんなことになった。

仮に戻れたとしても、人間でも魔物に似た魔女を救うことは貴様には不可能だ。貴様がやれることとするなら、あの少女の醜く薄汚い姿をした怪物を一思いに殺して葬ること。穢れた魂を解放させることしかできない。

浄化することも不可能だ。

穢れを取り込む?

馬鹿言え、あんな姿になった時点でもう手遅れなのは見てわからないのか?

人は、人間というものは醜い生き物だ。

彼らは共存と言いながらも、相容れない者となれば殺害し、略奪し、そうやって火種が生まれていく。

我々魔物も人を襲った、ガノンドルフ様の言う通りに…

 

人間の歴史はそう言ったものばかりだっただろう。

勇者も、魔法少女もまた、そんな大差変わらない。

 

 

魔物が人間を…少女を救うことなぞ無理難題なものをなぜ解決する為にどうにかしようと考える?貴様にはその道理をこじ開ける力すら持ち合わせてない。

 

 

何もないお前に一体何が出来る?

 

 

お前だってとっくに気づいているはずだ、ここがどういう場所なのか。

 

忘れたのか、鎧兵…お前は死んでここにやってきた。

 

ここが終点なんだ、もう後戻りすることはできない。

奇跡だって、起きない。

 

ーーー

 

彼らが世界に戻ることを否定していると発言しているのなら、ならばなぜあの時無関心だった鎧兵は魔女の力で、運命の悪戯のようにこのタートナックが召喚されたのか。彼女のいた環境のお陰で、穢れを取り込む力を、霧状になって姿を隠す力まで手にした。

 

何故、呼び出されていたのか。

何の為に召喚されたのか。

 

仮に理由も深い意味もなくただ単に悪戯で召喚されたとしても、それ以降の出会いには深い意味が確かにあったのだろうか。

 

*****

 

時の神殿

 

 

またここに戻って来てしまった。

タートナックは勇者を倒す為に待っている。今までのことが全て夢だったかのように。

 

夢にしては出来過ぎた物語を目にした。あらゆる出来事が走馬灯の様にタートナックの脳裏に過ぎる。

 

身体を当ててみると、中にいた椿はもういない。このままタートナックは緑の勇者リンクを待ち続け、そして戦わなければならないのか。

 

 

「甲冑…こんなものまで⁉︎」

 

タートナックは棒立ちになりながらも考えた。もしリンクという名の勇者を倒して生き残れたとしてもそのまま主人に忠誠を尽くし、人間を偏見な目で見下しつづけ、あぁなってしまうのだろうか。

 

 

そもそもの話人間が魔物を害だと皆したことで、勇者の存在が求められた。

 

 

 

魔物はガノンドルフという力の存在にすがり、忌むべき敵だってことを。リンクがここにやってきて、剣と盾を構える。

このままリンクに倒されて終わるのだろうか。生きる意味を持った今の鎧兵には勇者を倒して生き続けなければ、鈴音に会うことすらもままならない。

 

しかし、現実は非情だ。

 

鎧兵は勇者に何度も殺され、時の神殿に戻される。何をやっても無駄だということを分からさせるように。

 

聖剣で斬殺され、爆弾で爆殺され、弓で射殺され、あらゆる方法で何度も殺されてしまう。

 

英傑に立ち向かったが、撃ち破られてしまった。

 

(なんてしぶとい…)

 

鎧は剥がれ、何度も斬られてもゾンビみたいに剣を持ってまた立ち上がろうとする。リンク側から感じるものはここを守り通して見せるという絶対的な忠義ではなく、生き残って見せるといった執念心を感じとった。

 

リンクが戦って来たこれまでの魔物はガノンドロフに従われる従属関係のものとして、リンクをあらゆる手段を使って襲ってきた。無関係な人間も襲おうとする者達もいる。

 

 

だがこの魔物は何かが違う。

消えないまま懲りずに何度も、何度でも立ち上がろうと争っている。

 

それが魔王への忠誠心なのか、それとも死への恐怖なのか、見ている勇者には全くわからない。

 

 

「…」

 

だが、もうタートナックには剣を振る力も防ぐ力もあまり持っていない。リンクは目を瞑って、これ以上斬っても無駄だと悟った。

彼は横を通り過ぎてそのまま宝箱へと向かっていく。閉じていた扉は何故か開かれ、宝物から回収したリンクは、横目で鎧兵を見るだけで何もせず無言で出て行った。

 

手を出すまでもなく、この魔物はじきに生き絶えるだろうと。

 

魔物は誰にもわからない相手に死を自覚させようと、気が狂うほど何度も殺されていった。

 

何回も何回も殺され、死に戻りしている。

生きることが無意味だということを、突きつけられる。

 

否定されても、それでもあの場所へ戻りたいと強く願った。こんな別れ方、中途半端な終わり方をしたくないと望んだ。

 

魔物は勇者に何度も挑んだ。鎧は剥がれ、盾も大剣も失い、身体を支えにしているのはレイピアだけ。

 

魔物は倒れて、死に間際に手を伸ばす。

 

ーーーこんなにも、こんなにも生きたいと願ったことがあっただろうか。

まだやり残していることがあるのに。

 

諸悪の根源であるキュウべえを倒しても、彼女を悲しませてしまった。

 

 

『魔物は助けを呼んだ』

【しかし誰もこなかった】

 

 

誰も手を取る人はいない。

助けてくれる人なんて誰もいない。

ましてや魔物が手を差し伸べるわけでもない。

 

ーー無口だから

魔物ではあるが魔物らしくないから。

奇跡なんて起きない。

現実は非情だ。

 

世界の平和の為に魔物を、障害を退治かつ振り払おうと戦う勇者リンクには到底わからないまま。

そんな理由が蔓延る。

 

 

魔物は手を差し伸ばして、鈴音という少女の名前を呼んだ。

しかし、誰の声も届かない。

魔物は誰も救うことなんて出来なかった。

全ては、無駄となった。

結局あの世界に追放された鎧兵には魔物以外は何もない、空っぽだった。

 

『貴方は助けを呼んだ』

【しかし誰もこなかった】

 

死の間際にいた魔物達の言う通り、その願いは叶わない。もう二度とあの少女に会うことも、救うこともできない。

 

勇者に虐殺され、死を受け入れさせられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーそんなことないよ

 

(助けは来ない)

定めを覆し、天使の羽とピンク色の長い髪をした女の子が空から降り立った。

 

わずかな望みが、奇跡を呼んだ。現実は非情だったという悲劇を覆す存在が、鎧兵の目の前にいる。

 

「この世界の魔物は、人を脅かす存在として恐れられて生きているといってもいい存在だよ。

でも貴方は違っていた…魔法少女が抱えている穢れを、その絶望を拡散せずにずっと受け止めていた貴方の力は…彼女達にとって…とても優しく、暖かく包んでくれた」

 

女神が魔物に手を触れると、リンクがマスターソードによって斬り付けられた傷を消した。

身体が段々と治癒されていく。

壊れた鎧も甲冑に戻り、鎧兵に装着される。

 

「貴方が命を張ったことでこの先の未来、多くの魔法少女はこれ以上増えることのないままの未来と、キュウべぇがいない魔法少女達が歯止めが利かずに崩れていく未来もある。

 

そして今でも、置いてしまった一人きりの魔女が大事な人を失ったことでずっと泣いている。

貴方の祈りが、私を呼んだんだよ?

 

貴方が助けて来たあの子達の救済を、あそこでまだ戦っている魔法少女のみんなを、一人ぼっちになって苦しんでいるあの子も…絶望で終わらせたりなんてしない」

 

かつてタートナックを召喚した魔女と一緒にいた使い魔が、リンクによって傷ついた身体を修復している。

魔物、もとい鎧兵は【決意】を抱いて復活した、

全てはあの子達のいる世界へ戻り、魔女となった鈴音を救う為に。

女神は、鎧兵にこう話す。

 

「鈴音ちゃんは…魔女と貴方の力に取り込まれている。

魔女だけど、そうじゃない…あれは、貴方の力も入り混じって変異した魔女なの。

だから、わたしには救うことができない。

今の彼女には人格を持っていても、暴走そのものは止められない。

 

 

その魔女を救うには貴方の力にしかできない。

これから私は…今すぐに貴方を蘇生させる。

ただし、それには条件があるの…貴方は、あの子の…天乃鈴音にある奥底にある心の闇と真に向き合う覚悟はある?」

 

鎧兵の答えはすぐに決まった。

頷き、鈴音とまた再開する。

 

ーー魔女が魔物を召喚できたのは確かに運命の悪戯だったかもしれない。魔物達からは見放しても奇跡は、鎧兵を見放さなかった。

 

 

なぜなら目の前にいる救済の神が、魔物の救いに手を伸ばした。鎧兵の生還と同時に【決意】は、鼠色のハートとして段々と形付けられていく。

 

ーー貴方のその力は、きっと魔法少女を救う力になるかもしれないから

 

鎧兵は助けてくれた女神にお礼を言い、最後に何者なのか尋ねる。

彼女は微笑ましく、こう返事を返した。

 

ーー円環の理(●目ま☆か)だよ。

 

彼女の言葉から、別の本名がかすかに聞こえたような気がしたが、結局何を言ったのかよくわからなかった。

女神は鎧兵に光を纏わせ、宙に浮かせる。

 

ーー行ってらっしゃい

 

笑顔でそういい、鎧兵は戻るべき世界へと戻っていく。

大事な存在を自分のせいで失い、涙を流しながら魔女となって嘆いている少女

天乃鈴音を【SAVE(救う)】ために。

 

 



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SAVE

 

今いるメンバーで、鈴音を救うことは叶わない。人となった魔女とはいえ、やっていることは変わらない。

茉莉達は戦いつつ救う手段を模索しても見つからず、魔女の勢いは増していくばかりだった。花京院はエメラルドスプラッシュで使い魔の数を減らし、ワドルディとピチューは魔王との戦闘で動けない。

 

 

「鈴音ちゃん!」

「悲しいけど、こうなった以上戦うしかない…助かる術はもうないのよっ!」

 

肝心の鎧兵は既に力尽き、死に絶えている。

見ず知らずの魔王ですら、その鎧兵の生き死を感じ取っていた。

 

もし生き残っているのなら、椿のように今度は鈴音を取り込んで鎧兵の中でまた復活させることも可能だった。

 

散々騙したインキュベータを鎧兵が葬ったことで、今度はグリーフシードを回収する手段を無くしてしまった。

 

一つの感情が、結果的に最悪な状況へ導いてしまった。

 

魔女化した鈴音を葬らなければ、街は彼女の手によって滅ぼされる。ソウルジェムがグリーフシードに変わり、危害を加えている時点で魔女になったと理解するしかない。

 

倒さねばならない敵だが、心の何処かで助けたいという気持ちもある。茉莉達にも鎧兵に助けられ、救われたことがあったのだから。

殺されそうになった千里。

魔女化しそうになった遥香。

二人を救った鎧兵を、その想い人を心苦しくも殺さなくてはいけないと、全員死んでしまう。

誰もがその魔女に目を向けていた。

 

予測できない、僅かな奇跡を除いて。

誰かが前に出て、そのまま魔女の元へと突っ込んでいく。

 

「えっ⁉︎」

「う、嘘でしょ…⁉︎」

その正体に一同が驚く。

死んだはずの鎧兵が復活し、穢れで盾を形成しつつ前進している。

 

(一体どうやって⁉︎)

 

誰もが、なぜ鎧兵が復活したか疑問に思っていた。

目を丸くし、生きていたことに驚く。

実際、鎧兵は目の前で活発に動き、炎を防ぎながらも突っ込んでいく。如何にして生き返ったのか、それを考えるよりも先に花京院は託すことを決めた。

(いや、考えるのは後だ‼︎もし鎧兵が生き返っているのなら、彼女を救うことができる…それしか方法はない!)

 

もしも負を吸い取る力が、椿のように彼女もまた救えるというのであれば。

(魔女になっている彼女を救えるのは…あの魔物に、僕らは賭けるしかない!)

「い、生きてたの?でもだってあの魔王は」

「信じましょう、もし他の方法があるというのであればっ…!」

 

 

 

*****

 

鎧兵は魔女の体内へ入り込り、彼女の心象に入っていく。

 

 

【どうしてなの…】

 

背後に立っていたのは鈴音だったか、鎧兵から見て何か様子がおかしいと感じ取っていた、異様な空気を漂っていたものの、手を差し伸べる。が、彼女はその手を振り払り、涙を流しながら鎧兵を睨めつける。

 

【ずっと一緒にいて欲しかった。たとえ人間じゃなくても、一緒にいてくれるだけでも私は幸せだった。

 

 

でも…唐突に突き放されて、今度は置いてけぼりにされた】

『…』

 

鎧兵にも怖いという恐怖があるのは、他の魔物も例外ではない。彼らは欲望に動けば、君主に従って動く忠誠を持つものでも、人間と同じように死への恐怖を抱いたことを。

 

ソウルジェムは既に真っ黒になっているが、その負をいくら吸い出しても穢れはそのままだった。

 

【助けに来たとか救うとかなんて今更遅過ぎるよ…魔物だから救うことはできないって言い訳?

 

それに、言うのが遅すぎるよ。

何で今になって言うの?

あの時、椿がいなくなったあの時に、一人ぼっちだった時にその言葉を言ってもらいたかったっ‼︎】

『…』

 

彼女の嘆きが心を軋む。淀んだ空気だけではなく、空間に亀裂が入り、穢れは更に勢いを増していく。

 

【どうして側にいてくれなかったの…なんで私一人を置いて行こうとしたの‼︎】

 

最悪の記憶を流し込んで自壊しようとしたカガリよりも、鈴音の身体はドス黒く染まっていた。切り裂きさんによって魔法少女を殺し続け、血塗れになっている彼女を止めることはできない。

 

鈴音の内にある不満がタートナックにぶつけ、タートナックの救うという言葉も信じられないようになっている。

 

彼女の嘆き、悲しみは止まらない。

 

【黙ったまま去っていくなんて…私、私は、貴方がずっと一緒にいてくれたら、それだけで救われたのにっ‼︎】

 

黒い鈴音は、何度もタートナックを殴りつけようとする。魔法少女の拳は、同年代の女子とは比較にならない程に重かった。

タートナックはそれを何度も受け続ける。

 

【貴方が一緒にいなかったせいで記憶も!心も!何もかも滅茶苦茶にされた!】

 

椿が魔女になったことがきっかけで、彼女が教育した双子の一人が暴走したこたも。キリサキさんもいう魔法少女狩を誕生させ、鈴音の人生は狂わされた。

 

【もうあの頃の時みたいに…手を取って、もう笑って繋ぐことすら】

 

彼女の身体と、両手は赤い血に塗れている。

もう抱きしめることも、手を取ることすらできない。多くの魔法少女を平然とした顔で惨殺し、殺し続けてきた彼女は自己嫌悪になっていく。

 

【嫌い嫌い嫌い嫌いっ!

みんな大っ嫌いっ‼︎‼︎】

 

カガリと比較にならないくらいの絶望が、この空間を歪ませた。

彼女の絶望はもう止まらない。

 

*****

 

鎧兵は彼女の悲痛な叫びを黙って受け続けるうちに、微かに聞こえる声が聞こえていた。

 

(もうやめて…)

 

深い意識に、彼女自身の心があった。

内に秘めた負の感情が一気に鎧兵へとぶつけていく。痛烈な叫びに、鎧兵は何も言えず黙ったまま攻撃を受けていた。

 

(違う、違う、こんなの私の本心じゃない…こんなこと言いたかったんじゃない)

 

カガリに嘘っぱちな記憶を見せつけられたせいで多くの魔法少女を傷つけた。別れて以来、鎧兵は鈴音に何も悪いことはしていなかった。

 

それでも、鈴音自身にある心の闇とソウルジェムが黒い鈴音を生み、憎しみとなって鎧兵にあたる。幼い頃に鎧兵が何も言わずに去ろうとし、付いて行こうとしたら剣を向けられた。

 

一緒にいたら危険な目にあうことも、鈴音はタートナックにこんな酷いことしたいわけじゃない。

 

「…コ、ロ、シテっ…」

 

どれだけ耳を抑えても、やめてと強く願っても、彼女の生み出した黒い鈴音が、彼女の言葉が、魔法少女の力が、鎧兵を傷つける。

 

友達になるはずだった子も、真意に育ててくれた椿も、復讐に堕ちたカガリも、運命に弄ばれた。

 

鈴音もまた。心の内にある憎悪で黒く染めたまま絶望を振りまいている。

その前に

 

ーーー思い人を手にかける前に、殺してと

 

彼女の周りに使い魔が出現し、鎧兵に襲いかかる。

 

*****

 

鈴音の魔女化は余りに異端であった。人の形を保ち、使い魔を呼び出してことに驚きはしたものの暴走は止まらない。

 

 

魔女の暴走を抑えきれず、悲しみは続く。

鎧兵が手に持っている大剣で彼女を解放しろと、背後で散っていった魔物がそう囁いているような気がしていた。

 

最善だというのであれば、これ以上魔女のまま暴れることもなく、その手を血に染めることもこれ以上なくなる。

生命を断つ事が、人としての生命線を終わらせることだと。

 

その方法は鎧兵にとって救済とは言えない。

別れても、まだ話したいことが沢山あった。

だから、

 

【決意が鎧兵を強くする】

 

そんなのは、ゴメンだと。

 

*****

 

「ねぇ!本当に大丈夫なのこれ⁉︎」

「悪化してるように思えるけど…」

 

魔女は苦しみの叫び声をあげ、武器を振り回す。鎧兵を信じて待っても、状況は悪化してばかりだった。花京院が止めて早急に魔女を倒さなかった分、体力が浪費していく。

 

「いや、何か妙だ…」

「あの顔、ひょっとして」

 

だが、魔女を殺さずに現状維持を保っていたお陰か徐々に変化が表れている。魔女は動きを、使い魔の増加と行動も止まっていた。

そして

 

「魔女が…泣いている」

 

魔女の瞳から涙が零れ落ちていた。

 

 

*****

 

今まで魔法少女の絶望を吸い取ってきた力が、鎧兵の背中を押すかのように助ける。

使い魔の大群が押し寄せると、鎧兵は盾を消した後に亜利沙の鎌を作り出し、使い魔を刈り取る。

 

【近寄らないでっ‼︎】

 

鎌の次に遥香の両手剣を作り出す。

黒い鈴音は、迫り来る鎧兵を恐怖した。

拒絶してもなお迫り、武器を持って近づこうとしたことを。

鈴音を殺さんとばかりに。

 

【こっち来ないでっ‼︎もう消えてよっ‼︎】

 

恐怖と悲しみに満ちた表情に露わにする。

鎧兵を近づかせまいと焼きつく炎を作り出し、炎の壁を作る。

鎧兵はその壁をこじ開けていく。

 

【誰も私なんか助けてくれない!貴方を私のせいでたくさん傷つけて殺した!】

 

鎧は砕かれる事なく、そのまま近づいていく。

そのまま彼女を救わんと前へ進む。また同じ過ちを繰り返し、今度は狂ったまま大事な人を目の前で死なせようとした。

 

【あっ、あぁ、あぁぁっ…もうやめて…なんで進もうとするの…もうやめてよ】

 

魔力を使いすぎたことで、鈴音の身体から怪物が露出する。手も顔も衣服も返り血で汚れ、化け物のような姿を見せて拒絶される事に恐怖する。

 

【こんな姿、見ないで….】

 

千里の魔法、魔法効果の解除によって鈴音の魔法で負った火傷を治療する。黒い鈴音は、負を吸収されている事で段々と正気を取り戻していく。

 

ー助ケニ来タ

 

鎧兵は黒い鈴音をそっと抱きしめる。

彼女は持っていた武器を落とし、その魔物を抱擁した。

 

【なさい…ごめんなさいっ】

 

まだ健気な少女だった頃のように、その温もりを感じて。これまで色々とあったせいで、何年ぶりかあった経ったかのように二人は感じていた。

会いたかったという思いが、込み上がっていく。

 

【つっ……あぁぁぁぁっ‼︎】

 

彼女は膝をむき、赤子のように号泣した。

絶望で生み出す穢れは、鎧兵が吸収されていく。

そして胸に込められた【決意】が、彼女の闇を照らした。

 

*****

 

鈴音の黒く染まっていたソウルジェムは、輝いていく。彼女自身の穢れを鎧兵が全て吸い取り、二人は生還する。使い魔は消えて去り、魔女は泣きながらもまるで後悔のないような笑みを浮かべながらも鈴音の姿へと戻っていく。

 

「上手くいったの…?」

「鈴音!」

 

天乃鈴音の目の周りが赤く腫れ上がり、鎧兵を強く抱きしめて離そうとしない。

茉莉達は肩の力を抜き、変身を解除する。

「みんな、無事ですね…残るは」

花京院は周囲を見渡す限り、春香達はかなり疲弊し、ワドルディも、ピチューも動けない。椿は魔法少女の力を失っており、カガリは戦意喪失になっている。

この戦いで動けるのは茉莉だけだった。

(鎧兵のことは色々聞きたいことがありますが…また後にしましょう)

「茉莉さん、ここは僕達が見ておくので君はセイバーさんのところに行ってあげてください」

「で、でも」

「またあの魔王を倒さない限り、安堵はできないわ…だから彼女の元に行ってあげて。

カガリのことは私も見ておくわ」

椿も茉莉に行くように言う。茉莉が鎧兵の方に振り向くも鈴音の安心した顔を見て、鎧兵と一緒なら大丈夫だと頷いて確信した。

「うん、花京院さん!

みんなのことをお願いします!」

彼女はそう言って、ネロの元へと走っていく。

残る障害は、魔王ガノンドロフのみ。

茉莉のサーヴァントとして戦っている皇帝ネロ・クラウディウスに託すしかなかった。

 



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皇帝VS魔王

あけましておめでとうございます。
今年は、鎧兵を初投稿でお送りします。


「はっ‼︎」

「ぬんっ‼︎」

 

ガノンドロフの剣を横にギリギリ回避し、軽やかに剣戟を繰り出す。一撃一撃が重く、直撃すればそれが致命的になる。

 

(セイバークラスでもないのに…この一撃はっ)

 

剣の才能まで持ち合わせ、最優のセイバークラス相手に押し勝っていた。一気に攻め込もうと懐に入っても、カリギュラのように強烈の一撃を叩きつけられかねないと距離をとっていた。

 

今度は馬と亡霊を召喚し、ネロを妨害していく。

 

「まさか、卑怯とは言うまいな?」

 

ネロは徐々に追い込まれていた。

ガノンドロフは馬に騎乗し、次々と現れる亡霊はネロを囲み、突撃していく。数の暴力に防ぎきれず、よろめいたところをガノンドロフがたたみかける。

 

一撃目は辛うじて剣先を回避し、体制を整えつつニ撃目の斬撃を防ぐ。

 

「亡霊達を相手にいつまでその悪足掻きが続くか。貴様に頼れるのはその剣のみ…仮に防げたとしても、手放して失えば女子と同然よ」

「果たしてそれはどうであろうな?」

「…潰せ」

 

その言葉を聞いた亡霊達がネロを串刺しにせんと襲いかかる。その後方で馬を駆け、トドメを刺さんとばかりに猛突進していく。

 

(所詮は小娘か…)

 

亡霊達の剣はネロに直撃し、最期にガノンドロフの手で止めを刺す。

その筈だった。

 

「侮ったな、魔王よ」

 

剣を手放してしまったのはガノンドロフだった。ネロは亡霊の剣全てを防がず、軽やかに向かい合わせで襲って来ている亡霊同士でぶつけさせ、迫り来るガノンドロフの剣を振り払う。

 

ネロが両手で剣を支えているのに対し、片手のみで降っていた剣は遠くへ吹き飛ばされてしまった。

しかも、振り払ったのは剣だけではない。

剣と共に、騎乗していた馬も斬りつけてガノンドロフを転落させる。

剣を手放し、体制を崩していている好機を見失わずに、一気に攻めようと動く。

それでも、劣勢になってもガノンドロフは笑みを浮かべている。転落しかけたところを、片手で受け身を取りつつ彼女の剣技を受け止めた。

 

 

「防がれたっ⁉︎」

「侮ったといったか…その言葉、そのまま貴様に返そう」

 

ーー剣などなくとも、潰すことなど造作もない。

 

そう言って身体を巨大化させ、魔獣へと変貌していく。巨大な猛獣が殺気立てて、雄叫びをあげる。

魔獣の背後には歪んだ空間を出現させ、消えていった。

 

(変化しただけではなく、消えた⁉︎奴は…一体ど)

 

瞬間、魔獣はネロの背後を取って空間移動し、奇襲した。

三度、洛陽を迎えても(インウィクトゥス・スピリートゥス)

 

殺気に感づき、咄嗟の判断でスキルを発動させたことによって復活する。吹き飛ばされたネロ自身何が起こったかわからず、よろめきながらも立ち上がっていく。

心臓部位を牙に貫かれたが、血反吐を吐きながらも剣を構えた。

 

「つっ…⁉︎小癪なっ!」

 

魔獣ガノンは再度転移しつつ、また姿を消そうと身を潜む。もう一度背後を狙ってくるかとネロは振り返るが、今度は真横から突進してきた。

 

「な、ぬっ⁉︎」

(これで、貴様は終わ…)

最初の突進が甘かったせいで生きながらえていることを確認した魔獣ガノンは、次の奇襲で確実に殺そうと早々に仕掛けた。

 

が、誰かが巨大な足を止めている。

確実に仕留められると思っていたが、全く動けない。魔人拳で倒れていたはずのカリギュラが復活し、ガノンの牙を掴んでいた。

 

「オオオオオオオオッ‼︎‼︎」

 

鎧兵がいなくとも、敵味方を認識できる理性は保っていた。カリギュラは声を上げつつ力を振り絞って、ガノンを横転させていく。

「ヌゥァァァァッ‼︎‼︎」

ネロのみを注視し、他は軽視していたのが魔王の誤算だった。横転した魔獣ガノンはガノンドロフへと戻り、変身で生じる砂塵で視界を妨げる。

 

カリギュラは手で砂塵を振り払い、そのままガノンへ突っ込んでいくが、既にガノンドロフは脚を真上にあげ、目の前で踵落としのように地面へ叩きつける。

「沈め」

「ギ、ァァッ⁉︎」

 

脚に溜めた力は爆発を引き起こし、カリギュラを再度吹き飛ばした。脚そのものに直撃はしなかったが、爆風による火傷を負い、仰向けになっている。

 

「魔人拳で沈んだと思っていたが、辛うじて立ち向かえる気力があるとは」

「叔父上っ…!」

「次は貴様だ。一度葬ったはずだが、まさか蘇るのは予想外…だが、蘇りも必ず限りはあるだろう?」

 

ガノンドロフは剣を拾い、ネロの元へゆっくりと歩いていく。まともに戦っても複数もの亡霊を呼び出し、板挟みにされ、不死な戦いを強いられてしまう。更に魔獣へ変身しすれば、また不死界な方向から転移と奇襲を仕掛けてくる。

 

(ならば…すぐにでも劇場(宝具)を開き、早急に決着をつける)

 

これほどまでに強大な敵だと確信し、出し惜しみせず宝具を展開していく。突如頭上に現れた赤い薔薇が、二人を包み込んだ。

 

「我が才を見よ、万雷の喝采を聞け!

しかして讃えるが良い…開け、黄金の劇場を‼︎」

 

招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)

 

二人のいた場所がネロの宝具によって黄金の劇場へと変わっていく。彼女の生前に建設した劇場を再現させた空間が、ガノンドロフを追い詰める。

 

「…小娘が、これほどのまでの力がまだ残っていたか。次はどうするつもりだ?」

「天下と散れ…花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!」

 

開演前に破壊すれば、宝具は発揮されない。しかし、ガノンドロフはネロが持つ宝具の弱みを一才知らず、ただ眺めているだけで無事開演されていく。

 

薔薇の花弁を撒き散らしながら、ガノンドロフに再度接近し、腹部を斬る。花弁で遮られたことで、防ぐのも遅れてしまった隙を、ネロは見過ごさない。

 

ーー喝采は剣戟の如く(グラディサヌス・ブラウセルン)

 

防御させまいと剣を掴んでいる手と腕の筋、肩の三箇所を斬りつけていく。次々と剣技を繰り出し、反撃の余裕を与えない。

 

童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)‼︎」

 

この固有結界が発動される場合のみ使用できる剣技が、魔王を斬り伏せた。今出せる最大級の剣技で斬り裂さかれ、よろめいていた。

まだ倒れていない。

 

「かつて私と対峙した勇者と同じ見事な闘志を兼ね備えてある。

覚悟のある目だ…

 

 

だが貴様の剣は、残念ながら絶命させるほどには届かない」

 

確実に仕留めることはできなかった。

ガノンドルフの身体から感じたこともない漆黒の悪意が漂い、今度はネロに接近する。既に数回もの宝具と剣技を繰り出し、疲弊している彼女にとって拳を防ぐことも回避することもままならない。

「か、はっ…」

 

魔王の拳を、そのまま受けてしまった。固有結界はまだ展開されているが、カリギュラとネロの身体は限界に達している。

更には、

 

「ネロさん…そ…んなっ…」

「すまぬ、マスター…」

 

最悪なタイミングでマスターである茉莉がやってきたことも、ボロボロの二人を見て絶望の顔をしていた。

二人のサーヴァントを相手にしても諸共しない。

彼女は全力で剣を振るい、こうして敗れている。

深傷を負ってよろめいていたガノンドロフも、今では傷が塞がっていこうとしている。

 

「その身体を、赤い薔薇と同じように赤い血を染めて散るか。

小娘の次は、お前か?」

「奏者よ…その場から、逃げるのだ…」

 

次に目を向けるのは茉莉。

手放した剣を拾い、ゆっくりと歩いていく。

ネロはまだ【三度、洛陽を迎えても】で立ち上がろうとしても、肉体が復活したところで精神面に回復していない。

 

既に、茉莉の距離は拳が届くところまで近づいている。

 

「嫌だ、逃げないっ…ネロちゃんを見過ごすことなんて出来ないよ!」

「サーヴァント…だったか?

言い方を変えれば召使いだ。

その召使いに身を挺して庇うなど、貴様の自己犠牲な行為は…実に愚かだ。

 

このままいけば貴様を、鈴音とやらと同じ魔女にすることだってできる」

 

魔王の手は、茉莉の頭を掴むことだって可能な距離だった手に稲妻を走らせ、茉莉に触ろうとするが、彼女は魔法少女へと変身して魔王の手を振り払った。

 

魔王の威圧に、唇を震わせながらも後ろに引こうとはしない。

 

「これでもまだ戦うつもりか?

それとも鎧兵を侮蔑し、鈴音という女を化け物にさせた仇討ちか?」

「鎧兵さんは、もう蘇ってる。どうやって蘇ったかは分からないけど、そのおかげで鈴音ちゃんは救われた」

 

殺してやるのが責めても情けと言わんばかりの醜い怪物と成り果てたあの魔女に、蘇っても何もしてやれないまま望み通り鉄槌を下したことを聞いて、魔王は盛大に笑う。

 

「ほぉ、あの鎧兵が蘇っていたとはな。

それで、あの鈴の怪物を一思いに消し「魔女になった鈴音ちゃんを元に戻したんだ。

ありのままのあの子を、受け入れて」」

 

しかし、その場にいなかった魔王はそう解釈しているだけで実際は鈴音は生きている。鎧兵は魔女の奥深くまで堕ち、絶望して泣き叫んでいる一人の少女を救った。

 

彼女にとって契約の時期は本当に短い間だったが、それでもネロを見捨てようとはしない。

 

「何、受け入れただと?」

「鈴音ちゃんも、カガリちゃんも救った…あの鎧兵は傷だらけになっても、それでも諦めずに手を差し伸ばした。

 

 

だから今度は…私が鎧兵さんを、ネロさんを助けなきゃいけないんだ!」

「…これでは、お前を魔女にしようにも時間はかかる。絶望させるにしても骨が折れるものなら致し方ない。

 

蘇っているのなら好都合だ、あの魔物を懐柔させるだけだ。

退かないのなら、貴様の余計な茶番に時間を費やす気もない。

魔女化することなく散ってもらう。

貴様は、余りに未熟すぎた」

 

少女は魔王の前に立ち塞がる。

魔王は剣を取り、刃を向けた。

 

狙うは少女の額につけてあるソウルジェムただ一つのみ、その宝石を貫くことでマスターの命を絶たせると同時に契約サーヴァントのネロも消える。

それを理解した上で魔王は確実に仕留めようと構えようとする、その時だった。

 

「手が、光って…⁉︎」

 

手の甲に刻まれている令呪が光りだす。

マスターの思いが、この黄金劇場とネロの持つスキル皇帝特権』が同調している。深傷を負ったネロ・クラウディウスは赤から白へと衣装が変わり、傷は癒えていた。

 

ーーまだ何も終わっていない。

 

三度目の復活と同時に、霊期が変化していく。

ネロはゆっくりと、その場に立ち上がった。

 

「…奏者よ、其方に謝りたいことがある。

倒れかけた時、もう立ち上がれないと余自身で勝手に諦めて、終わろうと少しだけ考えたことを許して欲しい」

 

衣装は拘束具へ、舞台も、落ちていた薔薇も赤から白へと変わっていく。

三度目の蘇りは、茉莉のお陰で凛として立ち上がった。

 

「余は、この絶望的な恐怖を前にしても揺るがなかった奏者の決意と期待に、そして愛に!

一層応えねばなるまい!」

 

 

舞台も変貌し、疲弊した精神も癒えていく。

本来の令呪では回復や魔力向上といった用途に使用されるが、霊期そのものを変化させることはできない。

が、目の前で起きた奇跡がネロを完全なる復活へ成し遂げる。

 

「魔王よ!

其方が相対している奏者は未熟者ではない‼︎

脅威に立ち向かい、勇敢孤高に挑まんとする少女を未熟と見下すというのなら…このネロ・クラウディウスも相手になろう‼︎

今度こそ、この舞台の本当の幕引きといこうではないか‼︎」

「さっきまで倒れていた奴が何をほざく。

ならば望み通り、幕引きとしよう。

今度は貴様らの墓場を終劇としてな…!」

空気が静まり返る。

ネロは剣に情熱の炎を、ガノンドロフの剣は紫と黒を入り混じった禍々しいオーラを纏っていく。

勝負は一瞬、黄金の劇場が消えれば魔王に勝つことはできない。

 

劇場は震え、お互いに込められた剣を両手に持ち、合間見える。

 

「魔人剣っ‼︎」

「唄え、星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)‼︎」

 

双方、最後の一撃をぶつけた。

ガノンドロフの持っていた剣は血で赤く塗れ、一太刀でネロは腹部に傷を負った。

 

(ツッ…!)

「そんな…それでも届かなかったの」

 

少女の強い想いと奇跡によって霊基が変わったとしても、それでも魔王に届かないと茉莉は泣きそうになってしまう。だが、

 

「いいや。貴様の、お前達の勝ちだ」

 

最後の一撃に込めた剣技は、届いた。

本来の生身ならマスターソードでない剣で無ければ勝ち目などない。たとえ心臓を刺されようとも、聖剣ことマスターソードでなければガノンドロフを打倒できずに、魔王は敵を捩じ伏せることもできただろう。

 

仮にも英霊として呼び出されている身である為、切り口から多量の魔力が放出され、身体が薄れていく。

 

「三度も甦り、剣は我が身に届いてしまったか。今度の敗因は聖剣でなく、砕けてしまうこの霊体か…実に、脆い身体よ」

 

情熱の炎に覆われ、霊体化した身体は炎と共に徐々に消えていく。

 

「余だけでは勝てなかった。

叔父上のお力添えと、余と奏者の愛で…ここまで届くことができた。

 

余もまた、奏者が大好きなのだから!」

「愛か。そんな下らないもので、負け…いや、生前でも満更そうではなかったか」

 

愛という言葉で負けるなど巫山戯るなと一蹴するつもりであったが、後々考えても勇者リンクも旅を続け、魔王を討ち取らんと考えていたのは世界を、ゼルダを、その世界で生きてきた人々を愛していたからこそ、こんな形で負けてしまったのも頷けれた。

魔王は消える前に、皇帝に問う。

 

ーーー散る前に聞こう。

ーー貴様は、何者だ。

 

「ネロ・クラウディウス…ローマ帝国の第5代皇帝である」

「ほぉ、そうか…今度は勇者ではなく皇帝に討ち取られてしまったか」

 

この世界を支配できなかったのは不服ではあったが、それでも最後の一騎打ちは勇者リンクとの激闘と等しいほどの心を震わせるものだった。その結果は消えるのは二人ではなく、生前と同じ末路であったが、

 

「だが、実に悪くない戦いだった」

 

この戦いをかつてリンクと決戦の地で相対していたのを思い浮かべながらガノンドロフは、笑みを浮かべて消えていった。

 

「ネロちゃん!カリギュラさん!」

 

茉莉が二人の元へかけつき、二人の安否を心配する。

 

「余は軽傷で済んだ…寧ろ叔父上の方は酷いが、魔力を供給すれば助かるであろう」

 

茉莉は魔法少女の姿から元に戻ると、彼女の手の甲にあった令呪は奇跡の代償として、既に全て費やされていた。

さっきまで白い拘束具の格好から赤いドレスへと元に戻っていく。

「あっ…手の紋章が、それにネロさんの服も」

「奇跡は一瞬であったな。令呪三画全てを費やしても、あんな事が起こせるとは思わなかったが…しかし、鎧兵が蘇っていたとは」

「うん。魔女になった鈴音ちゃんを救ったんだ…長い戦いも終わったんだよね。

でもこれから、どうなるんだろう…」

今こうして鈴音達全員が生きているものの、キュウべぇから明かされた魔法少女の真実と今後の在り方に皆が考えなくてはならない。

鎧兵の能力、カガリの処遇について、それを助力した魔導師のこと、そして魔王が言った通り、キュウべぇの数が一匹のみとなってしまったことで他の魔法少女にも影響を及ぼしている。

鎧兵も生きていたとはいえ、他の人に魔物だとバレてしまえば、みんなと同じように平穏に生活できるのは極めて難しくもなるだろう。鎧兵以外にもワルドディ達はサーヴァントとして神出鬼没に出現しているのならば、彼らとも役目を終えて別れるかもしれない。

それでも、

 

「案ずるな、皆…誰も命を落とすことなくこうして今を守ることができた。確かに奏者の言う通り、辛いこともあるかもしれぬが…何も全て悪い事ばかりではない。

 

今後の話は失ったものを数えるのでなく、これからを笑い合って話すこともできるであろう?」

 

そう言ったネロの笑みに茉莉も少し笑って安堵する。昇っていく日の光と、その光に照らされた二人の笑顔はとても輝やいていた。

 

こうして、キリサキさん事件解決と黒魔道士によって新たに召喚された魔王の撃破と共に、長い夜が明けた。

 

 




この小説自体投稿はかなり遅いですが、もう残り数話で完結へと差し掛かっています。
最後まで読んで頂けると、幸いです。


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精算

 

夜が明け、生き残った皆は疲弊している。

戦いの果てに散り散りになったことで、人気のない場所へ移動しようと念話で連絡し合い、全員と合流する。

 

「あ、茉莉!大丈夫だった⁉︎」

「うん、ネロさんも無事だったよ」

 

まだ動ける亜里沙達はこうして元気に茉莉を待っているが、カガリと鈴音の二人は力を使い果たし、くたくたに疲れて寝込んでいる。

感情を吐き出していた二人は、寝込みながらもそのまま鎧兵に寄り添っていた。

 

「…椿さん本人に教えてもらったわ。

鎧兵のことも、鈴音ちゃん達のことも」

 

春香達が椿に事の全貌を明かしている最中に、ワドルディとピチューの二匹が、倒れている黒魔導士を引きずっていた。

 

「ところで、さっきから引きずられているその人は一体誰なんですか?」

「さっきまで魔王の拳で吹き飛ばされた…姿からして魔法使い…ですかね?

カガリに使えてましたけど」

「何で疑問系なのよ…」

 

ガノンドロフを召喚し、こんな目に遭うなど思ってもない。ガノンドロフのように消えてはいないが、言う事を聞かず返り討ちにされ、白目を剥いたままずっと気絶していた。

 

「…カリギュラさんとの契約を私から鎧兵さんに変更されたの?」

「うん、そうみたい」

「それじゃ…インキュベーターの件とか、そこで伸びてる長髪の人とかどうすんのよ?」

 

カリギュラが生きたままの魔導士を引きずり、みんなの前に放り投げる。この事件を引き起こしたのはカガリだったが、その彼女の協力者である魔法使いも野放しにはできない。

 

「インキュベーターは気絶してるみたいだし、魔法使いは拘束でもしといとく?」

「今日は椿さんの家に置いてもらって、それから山のところまで送っておきます。

 

ピチューも手伝ってもらっていいですか?」

「うん、分かったよ!」

 

カガリも未遂とはいえ四人の命を狙おうとしたものの、今は話せる状態ではない。

 

「詰まる話も沢山あるけど、それぞれ家に帰りましょ。

色んなことがありすぎて、疲れたでしょ」

「確かにその通りだわ…それに、椿さんはもっと忙しくなるもの」

 

こうして各々が家に帰り、気持ちの整理をつけるようにする。

「では、案内をお願いしますねー」

 

鎧兵が鈴音とカガリを抱えつつ椿と共に家に向い、ワドルディとピチューは一緒についていく。

 

特に椿、鎧兵、キュウベェはかなり忙しかった。

 

椿については、行方不明だったことから鎧兵によって生還したことにより、警察署に向かう必要があったこと。魔法少女としての力は既になくなり、今は鎧兵と一緒にいる間はカリギュラが霊体化して彼女の護衛をしつつ眺めている。

 

自動的にカリギュラとの契約と令呪も椿から鎧兵に引き継がれ、今では鎧兵の指示で動いている。

 

その一方、キュウベェは心無い発言の数々にキレた鎧兵からカリギュラの宝具を食らい、一匹のみになってしまったキュウベェの空いた口は一向に塞がらない。

 

『ねぇキュウベェは何処に行ったの⁉︎』

『魔女を倒しても、倒したグリーフシードは何処に処理すれば良いのよ!』

『え、ええっと…僕は』

『今すぐ説明して‼︎早く‼︎』

 

他の魔法少女達から念話でのクーレムが、生き残った一匹へと殺到していく。なんの説明もないまま突如地球にいたキュウベェが不在になったことで殆どの魔法少女が混乱している。

 

キュウベェも感情を得たばかりで、普段冷淡に取っていた対応もままならない。黙ってやり過ごそうかと思おうともしたが、怒号は収まるどころか悪化し、眠れない夜を過ごしている。

 

この混乱を治める為にもキュウべぇから鎧兵にすぐにでも代役の使い魔を大量に用意して欲しいということで、頭を下げてお願いするしかなかった。

 

鈴音達や他の魔法少女を蔑ろにしたツケを支払いきれず、システムを作った張本人が招いたが故に自業自得ではあった。が、この状況を作った原因の一端にもなっている鎧兵も助力するよう促した。

 

他の魔法少女が探りを入れて、元凶を潰そうと襲いかねないからだ。

 

「鎧兵…いや、タートナックだね。

君達の使い魔もまた本体と同じように成長できるというのなら、僕も君達に協力しよう。

 

というより使い魔も成長してもらわないと冗談抜きで困るんだ。

本当にお願いします助けて下さい(早口)」

『…』

「エンドロピーを成就する為に奇跡と代償で蔑ろにしたことも、君が僕らのことを赦さないのは分かっている…でも、今回のことで他の魔法少女の怒りを買うこと十分にあり得るんだ。

君達には英霊のような強力な守護霊がいるみたいだけど、怒りを買った魔法少女の中にはそれと同じくらいの力を手にしている者だって少なからずいるだろう。

 

君の成長にも手を貸すし、僕のシステムを君が改善していけば、他の魔法少女と仲良く手を取り合うことだってできる。

僕と協力することが有意義だってことは必ず保証する!

君の居場所を、守りたい彼女達を守る為にも!

僕も今後は尽力していくからっ!」

『…(コクリ)』

 

鎧兵は頷き、お互いに一からやり直すことを決意した。

感情を得てから色々と吹っ切れていたキュウベェは、鎧兵と手を取り合うこととなっていく。

 

表向きは多大なるシステム不調で殆ど機能しなくなり、別のシステム(鎧兵の使い魔)が対応するとのことだった。裏の真相は公にしても余計混乱を招く形になりかねない為、茉莉達以外は禁句となっている。

 

納得のできる、できない魔法少女。

釈然とする、しない魔法少女。

 

インキュベーターのシステムが残酷なまでに魔法少女を苦しめていたが、そのシステムも鎧兵の成長によって緩和されることとなる。

それが他の魔法少女にとって良い方向へと進むか、或いは悪知恵の持つ魔法少女が利用しようとしてくるのか。

 

今の二匹に今後の未来のことについては分からないままだが、キュウベェにとっても鎧兵にとってもこの街を守る為にはそうするしかないのだから。

 

「この人重いなぁ…」

「えっしょい、えっしょい。

よいこらしょ」

 

また、カガリと契約している魔導使いについては二日間、力尽きて気絶している。その見張りをワドルディとピチューが務めることになっていた。

 

*****

 

済ませた後に椿は警察署へ、当面の間は事情聴取を受けることとなる(いなくなった時今まで何処へ行ったのか)

諸々の手続きをし、晴れて椿は鈴音と一緒に暮らすこととなる。昨日まで顔が赤くなるほどの泣き顔だった時の鈴音は、通学では何も問題ない表情になっていた。

カガリは別クラスとして、茉莉と同じ学校に転入することとなっている。

 

 

昼休憩になると全員が集まり、魔法少女の真実を知ってもなお春香達は人間に戻ることは断った。

 

「…魔女退治ももちろんするわよ。

てゆーか、今も魔女残ってるんだし、この力を持ってなきゃ誰も対応できないでしょ」

「今なら魔法少女を辞めることも可能だけど、辞めるのも難しいわよね…」

 

魔女討伐をせずとも、鎧兵がその穢れを吸収することで魔女になるリスクを減らすことができる。だからといってグリーフシードの心配がなくとも魔女退治しなければ、街を守ることはできない。

 

「マスターも、お主達もそれで良いのか?」

「…私達はまだ、魔女がいなくなるまでは魔法少女のままでいた方が良いと思うわ。

たとえ運命の歯車から抜け出せれる方法があっても」

「そうだよね。

魔法少女の力をなくしたら…今度は魔女と使い魔に接触したら何もできなくなっちゃう。

 

それに…鎧兵さん達だけに頑張らせるわけにもいかない」

 

ガノンドロフの言っていたことに、四人ともかなり応えていた。

真実を知ったばかりで自己利益の為にキュウベエが許せないっていう気持ちはあるが、その存在を大量に消す事がどれだけの被害を被るのかことぐらいある程度冷静に考えれば分かることだ。

 

「もう…話は終わったんだよね」

「カガリちゃん…」

 

それでも、人の心が分からないどころか感情を上手いこと利用していたが故に、カガリにあんな事をさせた鎧兵の逆鱗に触れ、カリギュラの宝具の影響により一匹だけ取り残されたのだから自業自得ではある。

 

「…今まで酷いことをして、本当にごめんなさい」

 

そして昼休憩にて、屋上に集めて鈴音だけではなくみんなの前で頭を下げて謝罪をした。

鈴音は記憶が元に戻ったことでカガリに対して鎧兵とは違い、大事な人を傷つけるきっかけを作ったことで許されないことも覚悟していた。たとえ椿が生きていても、既に鈴音は弄られた記憶に振り回されて多くの魔法少女を傷つけさせた事実は変わらない。

 

「…こんなことで許されるなんて思ってない。

でも」

「…私も、過ちを犯した。偽りの記憶とはいえ他の魔法少女を殺したこと、鎧兵さんのことも、茉莉達のことも傷つけようとした」

 

鎧兵が止めなければ茉莉も、友達である三人を殺そうとしていた。カガリ自身、許さないと言われるのは覚悟していたが抱きしめられる。

 

「だから、今回の事で私も貴方も忘れちゃいけない。自分が何をしたのかをちゃんと忘れずに償うなら、生きて一緒に罪を償おう。

 

そして約束して…私も、貴方も自分を殺す時のようなことをしないって」

「うんっ…!」

 

二人にとっては、とても重い言葉だった。

幼少期の頃に鎧兵と共に生きた大事な記憶を脅かされた事は簡単に許されることではない。

それでも、二人は罪を背負って生きていく。

カガリは鈴音を騙し、鈴音は他の魔法少女達を襲わせて殺そうとしたことへの贖罪として。

 

もう自決して逃げる事はもうせず、二人一緒に生きて行こうとしている。

 

「ただいま」

「おかえり、鈴音」

 

鈴音が学校から家に帰ると、そこに椿と鎧兵がいる。椿はご飯を作っており、鎧兵は地道に小さい使い魔を何十体も生成している最中だった。

自分の分身体を作り出すことで、負のエネルギー能力を向上している。

 

「鈴音ちゃん、甘えたい気持ちは分かるけど。

鎧兵さんは今集中してるから後に」

「むぅ、やだもん…」

 

学校から帰ってきた鈴音は側にくっついて離れようとしない。駄々を捏ねる赤子のように鎧兵の前だけには引っ付こうとしていた。

あの冷静だった頃の鈴音は、鎧兵がいると表情を変え、すっかり甘えん坊になっている。

 

「いいもーん…もう鎧兵さんとずっと隣にいるから」

「フフッ…はいはい」

 

鎧兵の頬に軽くキスしたものの、鎧兵自身に感情が曖昧だった。彼女から愛情をもらったことは実感し、鈴音の頭を撫でると鎧兵の大きな手を掴みつつ彼女自身の顔をすりすりさせていた。

 

*****

 

今週の休日

 

黒魔導士が目を覚ますと、まず四肢を縄で縛られ動けなくされていることに気づく。監視役の二匹ことピチューとワドルディが目の前でちょこんと座っていた。

彼の捕らえられている場所はかつて鎧兵のいた山の中に幽閉されている。鎧兵が秘密基地を用意し、脱走しないよう雑草や小枝でかまくらを作っていた。

 

「なっ…何だこれはぁぁぁっ⁉︎」

「あ、やっと起きた」

「動けないように縛り付けています」

 

春香達には魔導師を監視するようワドルディとピチューが見張っており、愛くるしい目で眺めている。

二匹とも監視しているご褒美として春香達の学校帰りの時間には買ってもらった蒸しパンを置いてくれている。それを二人はムシャムシャと食しながら、目覚めた魔導師と話していた。

 

「フンっ…こんな縄で俺を縛ったつもりか?

この程度造作もな」

「あー縄は鎧兵さんの負から生成して作ったもので、解くことはできてもまた再生しますから無駄です。

それと、カガリさんから令呪で仲間に反抗するなって指示を送ってるから私達に向かって攻撃する事は出来ませんので。

起きたのなら、みんなが来るまで大人しくのんびり待ちましょう」

「なん、だとっ…神だけではなく、お前達とその小娘共までもこの私を振り回すつもりか」

「仮に脱走に成功しても、逃げるところなんてないし、見つかったら殴られるか斬られちゃうから。

 

ここから自力に逃げても全然良い事ないよ」

「く、ぬぅぅぅっ…!」

抜け出したところでネロやカリギュラ、花京院といった人達が罠に嵌めたり、全速力で追いかけようとしてきたりと容易に想像ができ、顔が真っ青になっていく。

 

 

六芒星の呪縛を平気で粉砕され、地面へと叩きつけられたことを思い出しており、観念してワドルディ達と会話するしかなかった。

 

「ハァ…で、お前達は私にこれから何を聞き出すつもりなんだ?」

「何って、どうしてみんながこの世界に来たのか知っているのは貴方しかいなかったので。

 

僕らを呼び出した人って…貴方の言ってた神なんですかね?

神っていうのは何者なんですか?」

 

ガノンドロフを召喚する前に、神が呼び出したんだと言っていたのを忘れていない。いかにして接点もない彼らが、魔法少女のいる世界に来たのかを何も聞かされていない。

 

「縛ったところで貴様らに話す舌など」

「あ、こんなところに罰ゲーム専用のパイが」

 

手元にはパイが何個かビニール袋に入っている。ワドルディとシチューがゴソゴソとその袋か取り出そうとしている。

 

そんな様子を見ても、黒魔道士は動じない。

彼もまたサーヴァントの身である以上は食べ物で脅しでも、無意味なのは分かっていた。

 

二匹とも分かっているのか、それとも知らないだけなのか。

 

「私に食わせるつもりか、無駄だ。

サーヴァントは魔力さえあればなんとでも…おい待て、何だその量は」

「あ、パイはパイでも、パイ投げです。

予備も用意してます。

パイを食べさせられるか、投げられるか選んで下さい。貴方が話してくれるまで、投げるのをやめません」

「発想が結構エグいぞ貴様ら⁉︎そんな姿をしておいて、実は悪魔か鬼じゃないのか⁉︎」

 

嫌がらせ以外の何者でもなかった。

パイを食わされなくとも、投げられたりでもしたら本当のことを話すだろう。

 

「ピンクの悪魔ならご存知ですよ。なんでも吸い込んじゃって、吸い込んだ物をコピーしたりもするんですけど…うーん。悪魔は悪魔でも、まぁ一応善の心を持ってると思うので」

「僕も水玉の悪魔と白い悪魔がいるよ。

水玉は腹を叩くと高火力で相手を撃破したり、白いのは相手を高確率でひるませたり、火傷や麻痺とか異常状態にしやすくしたりとか」

「お前達の世界って…可愛げな生物ほどヤバい連中ばかりなのが当たり前なのか?

そう言う決まりでもあるのか?

いやまぁ……こっちの世界にもマシュマロの奴がいるから、そこまでは言えんが……」

 

話す気がないことも考えて、何枚ものパイが用意されている。用意されたものはタバスコだったり、からしだったり、わさびだったりと黒ペンで書きつつ分けていた。

 

「残念だが、いくらパイを投げたところで防御魔法くらい心得ている。悪知恵でこの私を脅せたかと思っていたんだろうが、残念だっ「このパイは辛味と糖分も入ってるので。カブトムシとか小蝿とか森に住む虫が集ってきても知りませんよ」……」

 

食べ物を投げつけられるのを防げても、その二次被害は間違いなく近くにいる黒魔道士が受ける。捕縛されて何もできずに虫がウロチョロするのは煩わしい。

 

諦めがついたのか、黒魔道士は瞳を閉じつつ溜息を吐いた。

 

「あぁもういい…分かった、話してやろう。

どの道、お前達には残された時間がないのだからな」

「あれ、ちゃんと話してくれるんですね」

 

そう言うと、黒魔道士は目を閉じつつ神との交信をしていく。

ワドルディとピチューの二匹から見ると、うたた寝して呆けているか、或いはこの場から脱出するのを考えているのではないかと互いに頷き、迫ってくる。

 

「そのまま黙って何も言わないとかしないですよね…?」

「だから待てと言っているだろう。

少し静かにしろ、あと近いわ。

今、神に交信している最中だ」

 

目を閉じ、神と交信する。ワドルディとピチューは交信が終わるまで大人しく待っていく。

 

「…お前達を元の世界に返すこともできるとな。あと、鎧兵はその世界で生き残る義務があるとの知らせも入っている。

 

インキュベーターの仕組みが意味を成さない以上、今後は鎧兵の力でエンドロピーを成就できるかもしれないとのことだ。

今まで使っている負の力を駆使して、な。

あの魔物が『決意』という新しい力が今後魔法少女を導く鍵となる。

もう奴はこの世界に必要不可欠な存在であり、戻ることはできない。

 

 

あの鎧兵がこの世界に留まるのは確定だが、お前達は違う。

一度しかチャンスはないぞ。

この世界に留まるか、元の世界へ戻るか。

3ヶ月間以内に決めろとな」

 

彼が目を開き、交信の内容を伝えていく。

鎧兵は鈴音と茉莉達家族と一緒にいたいから留まることは確定しているが、ワドルディ達は戻る戻らないの選択が迫られる。

 

それをたったの3ヶ月で、決めなければいけない。

 

「元の世界に帰る…でも春香ちゃんが」

「…貴方は、どうするおつもりですか?」

「次元移動が可能な魔術を嗜んでいるからな。

ここに止まろうが、離れようが私には何の関係もない」

「うっわぁ…セコい」

 

聞いて、二人ともドン引きしつつ何歩か下がっていた。自分だけ元の世界に帰ろうが留まろうがどちらを選んでも問題ないことを得意げに言う。

 

「何故二匹してドン引きされなければならない‼︎

全部教えてくれって言ったの貴様らだからな⁉︎

もう全部話したのだから、いい加減この縄を解け‼︎あとそのパイ、辛味を含んでたんじゃなかったのか⁉︎」

「あ、ふぁなしぃてくれてはりはと(話してくれてありがとう)

罰ゲームパイは冗談ですよ。ただ落ちたパイが虫に集るのは本当のことだけど」

 

ワドルディはパイを頬張りつつ、魔導士にお礼を言っている。ピチューは知らせを聞いて落ち込みながら、

 

「でも…この人の縄を解くのだって、鎧兵さんに聞いてからにしないと。

解いても大丈夫かな?」

「カガリちゃんが主人なら…もう敵対する必要もなくなりましたし。あと、ネロさんは貴方のことをキャスターって言ってましたけど」

「あの金髪女の言う通り私のクラスはキャス…いや、ちょっと待て。貴様らに神からサーヴァントクラスを譲渡されているだろ」

「「…?何も聞かされてないよ(ですよ)?」」

 

その様子を聞き、黒魔道士はまた溜息をつきつつ頭を抱えていた。

サーヴァントクラスのことまで聞かされてないとなると、黒魔道士以外の全員が神と会わずに強制転移されたことになる。

 

「この終盤でどうしてそんなことまで知らない…まさか私以外の連中には肝心なことを言わずに飛ばしたのか、あの神々は。

もうオベリスクの巨神兵にぶん殴って貰った方(ゴットハンドクラッシャー)が清々するっ…!」

キャスターに知らせておけばなんとかなるという横着さに、同じ神であるオベリスクに怒りの鉄槌を受けて方が良いと思っていた。

 

「ん?オベリスクの巨神兵って?」

「いや、なんでもない…こちらの話だ。

今さっき言ったサーヴァントは英霊が死んだ後に、人々が英霊化したものだ。

赤い剣を持っていた金髪の女と、俺を投げ飛ばした大男がその一例だ。

 

が…死んだ奴もいれば、お前達二人のようにそうでない奴もいるだろう。

 

私の真名はブラックマジシャン・ザ・イービルだ…今後は私のことをイービルと呼べ。

貴様らに名前を言ったところで、私の弱点にはならんがな……ん?」

 

話の最中に、黒魔道士の身体が赤く光る。

ワドルディが念話を通して、頭を上に向けて苦笑いし、話を終えるとイービルの方に顔を向ける。

「あ、なんかイービルさんにカガリさんが令呪で命じちゃったみたいですね」

「お、おい…あの女、私に一体何を命じた⁉︎

まさかっ…」

「えーっと…念話の言伝を受け取りました。

なんか、鎧兵に貢献するようにって言っちゃったそうです。

あと今日は大事な話があるから、こっちに来いと」

 

それを聞いたイービルは、真っ青になった。

もしイービルが主人を操ったり、独り身なら好き勝手することもできたが、カガリをマスターにした時点で彼に選択肢などなかった。

 

ーーーー結局彼女の都合で、動くことになったのだから

 

「あんのごむ゛すめぇぇぇぇぇっ‼︎‼︎‼︎

やはりさっさと裏切っておけば良かったぁぁぁぁっ‼︎」

 

そう叫びながら、令呪の効力によりカガリの元へ転移されていく。この拘束から解放されても、カガリとの契約破棄における機会を逃したことで、今でも不遇な目に遭っている。

 

「…帰ろっか、私達は私達で考えないといけないみたいですし。

このことは、また学校で話しましょう」

「うん」

 

イービルに聞くことは全て終え、この場所に来ることもない。

二匹は茉莉達の元へ、戻っていった。

 

ーーーーー

 

 

学校の屋上で茉莉達6人が集まり、イービルから得た情報に基づいて今後の事を話していく。急な別れの知らせで、カガリの件以来の重い空気が漂っていた。一緒にいたのが短い間だったとはいえ、茉莉達は暗い顔をしている。

 

「とまぁ、イービルさんから聞いた話は以上です。鎧兵とイービルさん、ネロとカリギュラさん以外の僕らは選ばなくちゃいけません。

 

この世界に留まるか、もしくは元の世界へ転移して帰るか」

「とまぁ、じゃないわよ!

何よそれっ…幾ら何でも勝手すぎでしょ!

しかも3ヶ月以内って決めろって」

「仕方ないです、こればっかりは」

「なんで貴方達はそんな簡単に割り切れてんの…確かに一緒にいる時間は短かかったけど」

 

亜里沙と茉莉の二人は納得できずに苦渋な顔をしているが、千里は冷静に返事する。

 

「それで…貴方達は、どうするつもりなの?」

「すぐに決めろってわけではないので、まだ答えを出してないんですけど」

「ワドルディさん…死んだ僕にも、元の世界に帰ることは?」

「それは可能みたいです。

急死に一生を得るって事で、生還できたって事にするみたいです」

「……そうですか」

 

この世界に適応できるようにした鎧兵はともかく、ワドルディとピチューがそうなれるとは限らない。そして、DIOに敗北して死んだ花京院もまた、彼の気持ちがどっちに傾いているのか揺らいでいた。

 

「ごめんなさい。

私達にも考える時間が欲しいわ…」

 

リーダーとして取り仕切っている春香もピチューとかなり仲良くなっていた為に、その知らせを聞いて少し泣きそうな声をしている。

 

親身に協力したことで残って欲しい思いもあるが、当の本人が元の世界に戻りたいからという気持ちを尊重しないわけにもいかなかった。

 

 




星のカービィ界隈
・ワドルディ……一匹ならともかく、無数にいた場合の強さはかなり危険。
デデデ大王ですら、改正のために群れを成して考えを改めさせるよう革命を起こした。

・ピンクの悪魔……カービィ
食いしん坊、食べる量が尋常じゃない。
吸い込んだ相手によっては、その能力をコピーできる。
星の救世主。

ポケモン
・ピチュー……ポケモンバトルではほっぺすりすりや、静電気の特性持ち(ピカチュウも可)
ただし、耐久が低い。
スマブラ界では、その分を機動力と高火力で何人もの格闘者を場外へ落とした。

水玉の悪魔……マリルリ
特性のあついしぼうで炎と氷タイプの技を半減させていく。
はらだいこ&アクアジェットまたはじゃれつくの物理技で、相手を撃破。

白い悪魔……トゲキッス
てんのめぐみによる特性でエアスラのひるみ、トライアタックでの火傷、麻痺、凍りになりやすくなる。

ピンクの悪魔その2……ラッキー、ハピナス
体力・特防が極めて高く、物理技でなければダメージが入りにくい。
白い悪魔同様にてんのみぐみの特性もあるため、トライアタックで攻める事も可能。


遊戯王界隈
イービル「こっちにもあるからとやかくは言えないが…」

・マシュマロン
戦闘での破壊無効&裏側表示で攻撃されると相手プレイヤーに1000ダメージ



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これからのこと

この世界へやってきた異世界の者達が元のいる場所へ帰るのか否か、その期日が刻々と迫っていく。

鎧兵は鈴音達といる為に、ネロ、カリギュラの二人は守護霊としてこの世界に残ることとなった。イービルも自力で転移出来るから対して問題無い。

しかし、それ以外の二匹と一人は?

イービルから神の施しについて話してから、約3ヶ月の月日が経った。他の仲間が帰還、永住のどちらを選ぶかーー運命の日がやってきてしまった。



 

 

「「それじゃ、行ってきます」」

「行ってらっしゃい」

 

茉莉とカガリは学生服に着替え、玄関で椿が見送っている。朝から早起きしていた鈴音が、二人の家の前で迎えに来てくれており、二人が家から出るのを待っていた。

 

「あ、鈴音ちゃん!」

「もう新聞配達も早朝に済ませておいたから、一緒に行こう」

 

今では3人で登校し、仲良く話をしている。

彼らの側には霊体化したネロが、一緒についている。

 

あのキリサキ事件以降から、ずっと誰も死ぬこともないまま彼女達は平和に暮らしている。事件時は学校中の噂になってたが、時間が過ぎれば忘れ去られていくだけだった。

 

*****

 

学校の屋上

 

春香から昼休憩で集まるよう念話で伝えられ、ワドルディ達のことについて話していく。神が言っていた、元の世界の帰還かこの世界の滞在のどちらを選んなのかを話す。

この件に関わっている千里と亜里沙、春香の3人は浮かない顔をしていた。

「千里のとこにいる花京院さんって人は結局どうなったの?」

「やっぱり、あの人は元の世界に帰還するみたい。ここに長居すると私にも迷惑をかけるからって」

 

ここに来てからの彼は、茉莉達の魔法少女の揉め事に巻き込まれ、見返りもないまま自分の意思で助けようとしていた。

それでも少なくとも鎧兵側に加担し、かつ神に協力したことで元の世界に蘇生してもらえるというのとを知った時、見返りが欲しかったとしても十分貰っていると話していた。

 

ーーーーー

『十分です。承太郎や他のみんなの元で生きれる機会を与えて貰えるのなら』

『…どうしても、元いた世界の方に帰るの?』

『貴方達が悪いわけではありません。

もし先に出会っていたのがあなた達で、このハイエロファントのことも見えているのなら、僕はこの世界に残っていたでしょう。

 

 

だが…かつての僕は操られ、勝つことが正義だと思っていた。あの魔王の強さに心酔し、君達を裏切っていたかもしれない。

 

今の僕があるのは、エジプトへ行くまでの長旅に一緒に苦楽を共にしたかつての仲間達がいたからだ…だから、短い間だったけどお世話になりました』

『確かに短い間だったけど…貴方の力のお陰で、私達も助かったのは本当の事だから。

だから、私からも今までありがとう…元気でね』

ーーーーー

前日に千里と花京院が最後の会話と別れの握手をし、当日となった時には既に花京院は千里の家からいなくなっている。

 

千里は少し残念そうな顔をしていたが、こればかりは花京院が決めることだから仕方がなかった。

 

「それで遥香は?」

「それが…いくら部屋中探し回っても…全然見かけなくて…」

「…私もよ。

アイツ、一言もなく勝手に消えたわ」

 

ワドルディとピチューの2匹から何も連絡がないと首を振っている。もし花京院と同様にすぐに消えてしまったのなら、一言も言わずに元の世界へ帰ってしまった事になる。

 

この地球に異形の動物である自分達が存在することで、二人の迷惑になるのではないかと。この世界では存在しない生き物であり、他の人に見られて不味いことは春香達も分かっている。

 

だから、最後の最後に面倒見てもらうこともなく何も言わないまま黙って消えたのか。

 

(そっか…イービルさんや、ネロさん、カリギュラさんのように霊体化できないから…もしこのまま残っても)

 

キュウべぇのように人語を交わし、しかも一般人でも視認できる。たとえ英霊として召喚されても、霊体化が出来ない上に人に見られると騒動が起きるのは目に見えている。

 

 

たとえこの世界に留まらせても、2匹には狭い空間で息苦しい思いをさせてしまうことも。

 

「私が絶望して魔女になりかけてた時に、助けてくれたことも…ピチューには感謝しきれない恩があったから」

「アタシは…春香と違って、助けてもらった事は無かったし。寧ろトラブルばっかで怒ったこととあったけど…でも…急に居なくなったら寂しいかな。

 

 

悪気は無かったことも、可愛いって思ってこともあったし、最後くらい何か言ってよ…」

短い間だったが、居なくなると大事な存在だった事を気付かされる。

千里と同様に寂しい別れだったことに、これ以上誰も何も言わなくなった。

 

「…ねぇ亜里沙、なんか胸の辺り何か入ってない?」

「ん?そういえば、ゴワゴワしてるような」

 

しばらく黙っていた時、茉莉が亜里沙の胸部辺りの違和感を発見し、指差す。

 

亜里沙が下を向いて、制服のシャツの中を覗くと小さくなったワドルディとピチューがボタンの隙間から出てきた。

 

「…ふぅ、やっと出られた。

あ、みなさん。おはようございます」

「えっ⁉︎」

「ちょっと⁉︎

あんた、元の世界に返ったんじゃなかったの⁉︎」

 

ワドルディとピチューが、元の世界へ帰っていない。2匹とも身体は傷だらけで、少し疲れ気味だった。

 

「僕らは、元の世界へ帰りませんでした。イービルさんの弟子になって、転移魔法を習得するまでは頑張ってます。

 

今のは転移失敗して、その度によく分からない場所へ転々しました。今度は、亜里沙さんの服の中に移動しちゃったみたいです。

 

僕ら二人ともあの魔導士に魔法の勉強をしてて、当分の間はコッチに住みます。

あと、時間はかかるけどイービルさんの計らいで別の方法で元の世界に移動することも考えてるからって言ってくれたました。

 

ってあれ…?僕ら、言ってなかったっけ?」

「泊まり込みでずっと猛勉強してたから、言ってないよ。心配かけさせてごめんね…」

「それにしても、相変わらず息苦しいです」

「…」

 

亜里沙は何も言わずに、胸の谷間にいるピチューから取り出す。

 

「…これ、春香」

「あっ、ありがと…」

 

謝ったピチューはそのまま春香に渡し、対して謝らなかったワドルディは、強く掴んで握っている。

 

「ねぇ…アンタ、なぁ〜に当たり前のように胸の谷間に入ってるのかなぁ?」

「アイダダダダ!何で自分だけこんな扱い⁉︎」

「あ、亜里沙ちゃん…落ち着いて」

「だってコイツが!」

 

茉莉を見て、目を背けた隙に握られたワドルディは地面に落ちる。

そのまま、亜里沙から逃げていく。

 

「「あっ」」

「ち、ちょっと待ちなさぁぁぃっ!

さっきの感動を返しなさいよぉぉぉっ‼︎」

「わにやぁぁぁぁっ⁉︎」

 

亜里沙はワドルディを追いかけ、少し経つとへたり込む。彼女は膝をついて、号泣した。

 

「本当に…心配したんだからぁぁっ」

「……えっ?」

「亜里沙と春香、本気で貴方達のこと心配してたんだよ」

「そうだったんですか…なんかすみません」

「なんか、すみませんじゃないでしょぉぉっ…」

 

春香もピチューの事を、自分の子供のように強く抱きしめている。

千里が二人にティッシュを手渡し、何とか落ち着かせた。

 

「それで?3ヶ月間ずっと、魔法のことを勉強すれば自分たちで帰還する事が可能になるからって頑張ってたのね」

「はい。イービルさんが隠れ家を用意してくれてるので、しばらくそこに住まわせてもらってます」

「あんた達、転移できるようになったらちゃんとお礼しなさいよ…」

 

カガリの頼みやら、ワドルディとピチューに魔法についての授業カリキュラムや魔導書の本を大量に用意したりと色々と用意してもらっている。

二匹と鎧兵のために時間を割いて、今でもずっと隠れ家に引きこもっている。

 

「えっと、もしかしてイービルって人…終わってからも酷使される?

カガリが彼のマスターなら、様子見に行かなかったの?」

「様子見には行ってるよ。

魔力供給はちゃんとしてるし、最近はレッ○ブルとかス○ゼロっていう飲み物を飲んでいるから大丈夫だって」

「大丈夫じゃないよねそれ⁉︎ねぇカガリ…もしかして無理させてるとかじゃないでしょうね?」

「いやいや、イービルに無理しろって命じた覚えはないよ。鎧兵のことと、次元移動の件と2匹の先生になって多忙になってるんじゃないの?」

「なら、少しくらい休ませなさい…体を壊しちゃ元も子もないでしょ。

それに…ここに残って魔法について勉強してるのなら、私達にも出来る事があれば協力したいのだけど」

「また後で、隠れ家のこと教えますね」

 

イービルの隠れ家が分かれば、春香達が遊びに来る事もできる。

神の恩恵についても話が済みつつ、解散しようとしたが

 

「あー…多忙って聞いて思い出した。

イービルさんのもそうだけど、キュウベェもだよね」

 

亜里沙がイービルが過労だったという話を聞いて、もう1匹の事を思い出す。

この事態が発生したせいで黙って言わなかった真実が、自分に返ってきた事を。

 

「鎧兵さんが負荷を吸収してたから良かったけど…最近は働き過ぎてストレスで何回か死にかけたって言ってたし、気分悪くて吐きそうって愚痴ってたよ」

「タートナックに使い魔の召喚が出来るように、お願いしたよね。

もし出来なかったら…今頃、私達も」

「そりゃあ…アイツのことはムカつくし、潰したいけどさ…絶滅したら困る事もあるでしょ。

実際、あのガノンっていう男の正論に…私達は何も言い返せなかったし…」

 

魔法少女のシステムや、宇宙の寿命の為といったような仕組みを考えている。女の子を騙す巧妙なシステムとはいえ頭が良いことは本当の事だ。

 

「キュウベェが、鎧兵に命懸けの報復をされて、感情を得てから一気に急変したよね…」

「どんなに潰されても…代わりはいくらでもいるから無駄って感じだったし、それが今となっては1匹になっちゃったから」

「そう言えば念話の中継とかも、鎧兵さんの使い魔召喚が出来て、またすぐに扱えれるようにって話もしてたよ。

実際、何とかなったみたいで鎧兵さんもキュウベェの代役をやろうとしてるからかなり覚えること多そう」

「そうなると私達にも手伝えれること…自分の住む街を守るので精一杯だから無理か…」

 

感情を得て、システムが瓦解したことによる魔法少女達の怒号で寿命を縮める事になりかねないから、その怒りを鎮める為に代用のシステムをタートナックと協力するよう求めていた。

 

ーーー今まで魔法少女に恨まれて、無様に殺されても全然平気だったのに、今度は本気で死にたくないと感じてしまったから。そこからは、生きたいがために頭をフル回転させてどうすれば良いか必死で考えたのだ。

 

自分の身を守るために、もしタートナックの周囲にいる神浜市の魔法少女以外全魔法少女が世界中で暴走して蹂躙することを警告し、協力関係を得ることができた。

 

「鎧兵さんもキュウベェの件で、今もどこか遠くへ行ってるのよね?

鈴音達とはずっと一緒にいられないから、心配じゃないの?

あれから、もう3ヶ月経ってるけど…」

 

鎧兵が家から出てキュウベェと組んで動いていることは、全員知っている。

やっと事件が終わっても、やむ終えない事情で遠いところへ行き来していた。

 

「私達のところは大丈夫、何とかやってるよ。

…もう2度と会えない訳じゃないから」

 

それでも鈴音も事件を経て、離れ離れになるのを嫌がっていたが、今となっては落ち着いている。

死んだはずの椿がいて、遠くにいる鎧兵との念話も取れているのだから。

 

*****

 

放課後ー夕暮れ

 

授業を終え、茉莉、カガリ、鈴音の3人は学校の屋上で待っていた。

何もないところから黒い霧が出現し、時間が経つにつれて実体を現す。

 

「あぁ…3人とも、念話で約束通りに待ってくれたんだね」

「あ、タートナックさんだ!おかえり!」

 

霧の中から、鎧兵とキュウべぇが出現する。

鎧兵のボディガードとして、カリギュラもお供として一緒に世界を転々としていた。

なぜそうしているのか、それは切り裂きさんの事件解決後の二日目に遡る。

 

ーーーーーー

 

キュウベェは1匹になってしまった事による影響を、念話を駆使しつつ長々と説明していく。話を聞いて納得する面々もいるが、鈴音とカガリは不貞腐れていた。

 

『僕が説得して、一緒にいられるのは3日間の準備期間まで。

それ以降は厳しいって散々説明したじゃないか。このまま何日間も野放しにしたら、この国どころか世界が滅びかねないし…だから鎧兵から離れてくれないかな二人とも』

『ずっといるって言ってたのに…それに、こうなったのだって煽ったキュウベェのせいでしょ』

『確かに、効率良くエネルギー回収ができる代物が現れたのは都合が良かった。

宇宙の寿命を長くさせる為のエンドロピーにも困らないだろうし、その鎧兵と資質を持った魔法少女達を何度も再利用していけば安泰になるだろう。

 

僕らの実験に使って、エネルギー回収の解決をしようとしたけど、それを鎧兵含め君達は許さなかった。

それはそうだ、実際僕らは魔法少女だけじゃなく鎧兵ですら物として扱おうとしてた。今まで軽んじていた僕も、こんな状況にしてしまった原因の一端だったのも否定はしないよ。

 

だけど、このまま放置してたらグリーフシードの回収もできない、それどころか世界中で魔女が大量発生することになる。

 

今いる日本だって、例外じゃない。

魔法少女達がこんな風にした元凶を探ってくるだろうし、真実を知ったら鎧兵を略奪するか、タートナックの知り合いを狙って脅してくる事だってある。

 

ガノンドロフっていう魔王も、言ってたじゃないか。 

僕を消す手段があったとしても何の解決にならない、それどころか僕を消す事で悪化していく一方になるって。

だからこんな事になっているだろ?

 

自分達の命と平和な暮らしを守り、各国で魔法少女と魔女の暴走を防ぐ為にもこれは必要な事なんだ。

分かって欲しい』

『…納得はできるけど、感情を持ってるのならもっと言い方があるでしょ』

『僕はただ、事実を言っただけだからぁあいだだだだだっ‼︎いい、いだい、ひだいって‼︎』

『あのねキュウべぇ…そう言うところだと思うよ…?』

『キュウベェト、ヤクソクシタカラ』

ーーーーー

 

キュウベェに感情を得たとしても、いきなり性格を変えることはできないだろう。

 

人の気持ちを理解しようとはせず、事態の解決してに目を向けるようにさせ、自分のことは煙に巻こうとする。そんな配慮が欠けているキュウベェの頬を、鎧兵は引っ張って躾けている。

 

以上の理由から、鎧兵がホオヅキ市に残る時間は少ない。

県外と国外へ行って、魔法少女の浄化作業に行かなければならなかった。

 

鎧兵の頑張りで使い魔の召喚と大量増加させる事にも成功し、週に2回神浜市に帰っている。

事件解決後の慌ただしい責務も、3ヶ月経ってからは峠を越えて少しずつ落ち着き始めていた。

 

「タダイマ」

「今日も、私達が無事かどうか見に来ただけなんだ」

「タートナックが新しい能力を得るまでの成長スピードの速さは認めるよ…でも、良くて使い魔を10万体増やす努力をしてもらわないと困るんだ。以前は週一の半日休みで、その場で休息を取ってるのに…どうしてもっていうから、限度で週に1日って事にしてるんだよ」

「前に事情を聞いて、休みが取れてなかったから私達怒ってたよね」

「休息を取らなくても大丈夫とは言っていたが、24時間活動するのは流石にブラック過ぎぬか?

また物として扱ってるなら余が許さぬぞ。

「そうでもしないと世界の均衡が崩れるんだ、分かってくれ…るわけがないか。

僕も休みたい時だってあるし、こればかりは限度がある。

反論する気はないよ」

 

キュウベェは呆れたように返事し、鎧兵は持っている武器を消す。

鈴音がソワソワしながらタートナックに近づき、ソウルジェムを手渡した。

 

「それじゃあ…約束、覚えてるよね…?

次会う時は、私を貴方の力で魔女にするって約束。暴走していた時みたいに、あの大人の姿にして欲しいの…できるかな?」

「え、魔女って…また前みたいに暴走したら」

「今度は、大丈夫だから。

もう私…今までの魔法少女じゃ無くなってる」

 

鎧兵は手を翳し、今から負のエネルギーを調整した。

黒い霧が彼女の身体を覆われ、怪物のような魔女にならず、さっきまでの中学生の容姿から大人の姿へと変貌していく。

 

前の時のように、暴れる事はなかった。

 

「あれ…本当に何も起きない」

「私の身体は、もう鎧兵さんに組み替えられている。魔女になって暴走してた私を助ける時に身体を…沢山弄ったんだよね?」

 

ソウルジェムが濁りきっても、本人の意思で姿を変えることができる。化け物にもなれば、自らが成長した大人姿に変異する事も自由自在だった。

魔女になっても、ソウルジェムの濁りが無くなれば元に戻る。鎧兵の齎した力が魔法少女のシステムを覆し、鈴音を助けたことで身体は改良された。

 

「僕は天乃鈴音のような成功事例があるのなら、ある程度の魔法少女の数人くらい構造を組み替えたっていいと思うんだ」

「キュウベェ…私のような親しい関係があって、ただ単に損得勘定で割り切ることなんてできない。

心を曝け出されても、鎧兵さんが受け止めてくれる思いが無かったらできない。

凄く簡単なことじゃ無いんだよ」

 

鈴音を救済したことで、鎧兵の能力の影響からもう元の魔法少女の身体ではなくなっていた。

それでも、彼女に後悔はない。

 

「…貴方にはこれ以上ないくらいに救われた。

こんな身体になったことも気にしてない。

頭の兜、外すね」

 

外された兜は、黒い霧となって消えていく。

そのまま鎧兵の顔を近づき、抱きしめて頬にキスをした。

 

魔女となり、ソウルジェムから放出された穢れの減りは時限式となっている。その時間一杯になるまでキスを続け、終えた頃には元の魔法少女の姿に戻っていた。

 

「鈴音ちゃんっ…あ、あのっ…だ、大胆に…」

「…離れても絶対に忘れないように、私が愛してるって証を残したかったから。

でも唇が無いから、頬にしたんだけど…嫌だった?跡も残ってて、これって魔女の口付けになるのかな」

 

鎧兵は敵として憎まれることはあっても、誰かにキスをされて強く愛されるということも今となっては分かる。

 

鎧兵の頬には彼女独自の魔力が込められ、その頬を触ったまま、動かなかった。人間からこれほどの愛情をもらった事が今まで無かったから、どう反応したら良いか分からない。

 

【今まで魔物という周りから疎まれていた存在として生きていたから、逆に誰かから親密な関係で愛されたことにかなり動揺している】

「…あれ、鎧兵さん?

どうしちゃったんだろう」

「奏者よ、声をかけてみたらどうだ?」

「おーい!鎧兵さーん!」

『…』

 

鈴音にキスをされ、唇を抑えてから口も身体も全く動かない。いくら声をかけても、無反応のまま硬直してる。

 

「あ、駄目だ。全然反応しない…ちょっと茉莉、つついてみなさいよ」

「余も、つついてみるか。

つんつーん!」

 

カガリと茉莉、ネロの3人が考え込んでいる鎧兵の腹と顔をつつく。指で突かれた感触に気づいた鎧兵は、三人とも近くにいたことに驚いて後ろに転倒する。

 

『…⁉︎』

「あっ鎧兵さん、大丈夫⁉︎」

「私達が声をかけても気づかないくらい…よっぽど鈴音にキスされた事に驚いたのね」

 

鈴音の顔はみるみるうちに照れて恥ずかしそうになる。両手で口元を塞ぎ、目を合わせられずに戸惑っている。

 

「表情は全然分からないけど…私が好きって証、ちゃんと残ったままだ。

すごい恥ずかしい…でも、嬉しいな」

『コンナコトハ、イママデナカッタ』

 

鎧兵は鈴音を二度見して、もう一度キスされた頬を触っている。

 

「…君は鈴音と椿に好かれたりはしたけど、こんな風に愛を受け入れたことは一度もなかったんだね。

 

前の頃なら、愛されることを恐れてたんだろ?」

 

鎧兵はキュウベェの質問に、ゆっくりと頷く。仮に誰かと会ったとしても、神殿の侵入者を排除する魔王の命令に従っていた。

 

敵意を向けられる存在だから、前の鈴音みたいに子供っぽく親しい友好的なことも無ければ、愛してくれる存在もいない。

 

たとえ愛されたとしても、一緒にいて傷つけてしまうのではないかと一度は逃げてしまったことを忘れていない。

 

今までのことがあったからこそ、今度は求愛を逃げずに受け止めている。

 

「それにしても鈴音ってば、大胆な事を約束してたんだねー」

「…別に、良いでしょ」

「あれ?鎧兵さん、何しようとしてるの?」

 

帰ってくるまで、三人とも甘える事に我慢していた。一緒にいてあげれない鎧兵は気を配ろうと、硬い鎧を黒い霧にして消し、鈴音と茉莉、カガリの三人を抱擁する。

 

「鎧兵さんの暖かい…これ好き」

「えへへっ、なんかこうされると…鎧兵さんって、まるでお父さんみたい」

「鈴音にキスしたのなら…じゃあ、私には撫で撫でして?」

 

鈴音は鎧兵に魔女の口付けができて、身体に触れて温もりを感じてる事で幸せになっている。茉莉は笑いながらも照れ、カガリは恥ずかしげに頭を撫でて欲しいと甘えつつ、撫でた手を掴んで頬擦りさせていた。

 

「…タートナック、そろそろ時間だ。

それじゃあ、また3日後に会おう」

「もっと一緒にいたいけど、忙しないね」

「また元気でね。次会う時は椿にも抱きしめて欲しいな。

椿も絶対に喜ぶと思うよ」

「何かあれば余も駆けつける。

其方はマスターの親友でもあり、叔父上のマスターなのだからな」

「ソレジャア、マタ」

 

そう言ってタートナックは、キュウベェと共に黒い霧となり、風に流されて遠くへ行ってしまった。

 

「…私達も行こうか」

「うん」

 

三人は屋上の出入り口から降り、自分達のすべき事をする。

鎧兵がずっと家にいられるには引き継ぎをしてもらえる存在がいて、全ての魔法少女に対応できて、キュウベェの了承までと考えると当分先の話となる。

 

一緒にいられるならと鎧兵は努力し、また更に向こうへと進化していく。

その強さの果てに魔王ガノンドロフのような強者による支配ではない、かといってキュウベェのような物として雑に処理する事もない。

 

その努力は、無自覚に魔法少女も魔女も両方救う【タートナック】としての希望の象徴となる。

 

魔法少女達にとって鎧兵の存在が有名な噂となり、彼らの救済の旅路が伝説となって多くの者に語り継がれることとなるだろう。

その未来はまだ、誰も知る由もない。

 

 






ーーーーーー事件後の環境もこれまで以上に大きく変動し、仲間達が在住する決断を終える。
そうして、また更に月日が流れる。

次回、最終話。


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