【済】IS 零を冠する翼 (灯火011)
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もしも の はなし
IF:DreamRiser


※読まなくても本編には一切影響がありません。


ガルパンはいいぞ。ということで、オープニングのDreamRiserを聞いていたら思い浮かんだIF。

主人公がもし、束と同じ世代で生を受けていたならば。
そして、もし偶然にも、主人公の零戦を生で見る機会があったのならば。

宇宙に憧れた少女と、空をただただ愛する人間の「もしも」の話。





 その日、私は荒れに荒れていた。私が完成させた研究である「マルチフォームプラットスーツ」を発表したのに、机上の空論だと一蹴されたのだ。

 確かに実機はまだ完成しては居ない。でも、これが完成した暁には、誰でも簡単に宇宙を目指せるはずなんだ。

 

「何が、何が机上の空論だよ!何が小娘のたわごとだよ!あぁ、もう!」

 

 こうなったら、何が何でも奴らに認めさせるしか無い。手段は選ばない。私の研究を理解できない「凡人」は、こんな世界は、私の手で変えてやる。

 

 

 実機の完成と、世界の改変を行おうと準備を行っていた時、私はちーちゃんの誘いで戦史保存のイベントが行われている羽田空港へと足を運んでいた。

 ちーちゃん曰く「前の戦史保存のイベントですごい機動をする戦闘機がいたんだ!」とのこと。話を詳しく聞くと、あのちーちゃんがその戦闘機のマニューバに一目惚れしちゃったらしい。…ちーちゃんが一発で惚れる戦闘機かぁ。どんな戦闘機なんだろう?

 それはそうとして、この戦史保存会とでもいうイベントはつまらない。旧式の戦闘機ばっかりだし、技術的に見所もない。本当、ちーちゃんの誘いがなければ、私はこんな所絶対にこないはずだ。展示飛行といっても、空の上を適当に飛んでいるだけだし。

 

 と、そんな思案を続けながら、会場内をちーちゃんと歩いていた、その時である。

 

 一機の戦闘機が、エンジン音を響かせながら、いままでのどんな戦闘機よりも低く、私の上をかすめて行ったのだ。

 

 「うわっ…危なっ!」

 

 私はそういいながら、頭上すれすれを飛んでいった戦闘機を目で追った。追ってしまった。そうして、目で追った先では、羽から雲を引きながらのびのびと空を泳ぐ戦闘機の姿があったのだ。

 

 「…え?」

 

 なんだろう。いままでの戦闘機の展示飛行とは、ぜんぜん違う。今までの戦闘機は「飛ぶ」ことが精一杯であったように思えた。だけど、あの戦闘機は「飛ぶ」ことを、思いっきり楽しんでいるように感じたんだ。

 

『束!あれだ、あの戦闘機だ!あの緑色の!』

 

 ちーちゃんが何か叫んでいる。だけど、私はあの戦闘機から目を離せない。常に羽から雲を引き続けながら、他の戦闘機よりも明らかに低い高度でマニューバを繰り出すあの姿は、私のこころを、直に揺さぶった。

 

---只今の展示飛行、使用機体は「零式艦上戦闘機21型」。発動機はオリジナルの栄。パイロットは日本戦史保存会において、女性ながらにしてのエースパイロット「小鳥遊彩羽」!---

 

 もしかしたら、もしかすると、小鳥遊彩羽というパイロットならば、私の夢を理解してもらえるかもしれない。そう思った私の足は、小鳥遊彩羽が所属している「小鳥遊家」へのブースへと、勝手に歩みを進めていた。

 

 小鳥遊彩羽とは、案外すんなりと出会うことが出来た。どうやら、彼女は展示飛行専門で、飛んでいる時以外は時間があるらしい。

 

「ねぇ、小鳥遊彩羽って貴女でしょう?私は篠ノ之束。」

 

「おや、篠ノ之束さん。何がご質問がありましたら、あちらの方に…」

 

「貴女に用があるの。ねぇ、さっきの戦闘機、貴女が乗ってたの?」

 

「えぇ、そうですよ。」

 

 長い黒髪に、笑顔が似合う切れ目の女の子。それが、小鳥遊彩羽だった。

 

「そう、それならちょっと話聞いてもらいたいんだけど。」

 

「うん…?なんでしょうか?」

 

「ここだと話しにくいから、あっちのカフェでいいかな?」

 

 

 小鳥遊彩羽は、私のぶしつけな要望にも嫌な顔せずに、私の話を聞いてくれた。私の夢は、友達と、大切な人と宇宙を目指すことだって。そのための研究も出来上がってるし、マルチフォームプラットスーツの実機も完成するんだって。

 彼女はそれをただただ聞いてくれていた。普通の人間だったら、学会の人間と同じように私を馬鹿にすることだろう。蔑むことだろう。

 だが、彼女の答えは、私の予想していたものと全く別物だった。

 

「…その夢。最高じゃないですか!もしそのマルチフォームプラットスーツが出来上がったら、ぜひ乗らせてください!」

 

 彼女は、満面の笑みを浮かべて、私の手を握ったのだ。こんなこと、ちーちゃんでもしないことだ。

 

「本当?貴女は私を馬鹿にしないの?」

 

「しないですよ!だって、『空を超えて宇宙を飛べるなんて、最高じゃないですか!』」

 

 小鳥遊彩羽はそう言うと、篠ノ之束へと笑顔を向けていた。

 

(あぁ…。理解してくれた。一緒の夢を、持っている人がいた!)

 

 私は小鳥遊彩羽を正面に見据えると、同じように笑みを湛えながらゆっくりと、しかしはっきりと彼女に伝わるように、言葉を紡いだ。

 

「…最高だよね、そうだよね!判った!私の研究が上手く行ったら、『たっちゃん』にすぐ知らせるよ!」

 

「うん!お願い!そういえば束さん。そのマルチフォームプラットスーツの名前ってあるの?」

 

「勿論だよ、たっちゃん!重力を超え、しがらみを超え、無限の成層圏へと羽ばたく翼。私はこう呼んでるんだ。」

 

---インフィニット・ストラトス---と。

 




こんな世界もあったのかもしれない、そんな妄想が溢れ出ました。

この世界では、軍事施設のハッキングも起きず、ミサイルも飛んできません。
その代わりに、宇宙開発の要として「インフィニット・ストラトス」が世界中で研究されていきます。


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IF:Enter Enter MISSION!

もしも 小鳥遊彩羽と
の 
はなし 篠ノ之束がIS発表前にであっていたら
の 
もしも きっと、共に空を目指し
の 
つづき 天へと昇る


※読まなくても一切本編に影響はございません。



某日 全世界に向けて 次の放送が発信された

 

 

 私、篠ノ之束は異常である。

 

 昔から自覚していることであるし、これからもそう感じ続けることであろう。

 

 人付き合いはしたくない。凡夫と天災の私はどうがんばってもきっと相容れない。

 

 だから、私、篠ノ之束は学会でISが馬鹿にされ、否定されたときにこの世界を変えてやろうと、壊してやろうと息巻いていた。だが、蓋を開けてみればどうだろう?

 

 気づけば、ちーちゃんに連れて行かれたイベントで出会った飛行士の女の子「小鳥遊彩羽」の駆る「零式艦上戦闘機」に惹かれてしまって、あれよあれよという間に今ではレシプロ機体のプロフェッショナルでもある。

 

 もともと現存数の少ない機体たちばかりだったからか、整備士が極端に居なかったらしい。そこで私が片手間で次々にレシプロ機を直していたら、いつの間にか感謝されてしまっていた。

 昔の私だったら、こんなことはしないし、褒められても無視していたことだろう。

 

 だけど、人に褒められる、ということは悪くない。

 

 最初は邪魔だと思っていたけれど、飛行士の笑顔を見ていれば不思議とやる気が出てくるのだ。本当に、異常者の私が凡夫と笑い合うなんて面白い世の中になったものである。

 

 さて、前置きはここまでにしておくとしよう。

 

 この度、私、篠ノ之束は大きな発表をします。ご存じの方は少ないでしょうが、宇宙開発用のパワードスーツがついに完成しました。

 

  名前は無限の成層圏、「インフィニット・ストラトス」と名付けました。

 

 単独で大気圏の離脱・突入が可能な高性能なパワードスーツです。格納領域という量子空間を持ち、大型の工具や食料、空気に至るまで格納が可能です。

 仕舞い方、取り出し方は至ってかんたん。言葉にするか、念じれば大丈夫です。

 

 通信方法は以前論文で発表した通り、特殊な方法を使用していますので、理論上は無限とも言えます。

 

 そして何より、自己修復・自己進化が可能なパワードスーツです。

 

 

 …と、私が申しましても、そんな非現実的なもの、あるわけがない。と皆様思われるでしょう?

 

 

 ふふふ、それじゃあ、天災である束さんから、凡人のみなみなさまにとおおおっっておきの!プレゼントをあげよう!

 

 

 

 『なんだこの映像は』

 

 全世界の人々の感想であった。

 

 今日、世界中の全ての電波がジャックされた。そして、うさみみをつけた謎の人物が、ただの妄想を垂れ流していただけのはずであった。

 

 だが、画面が切り替わった瞬間、そこには全くありえないモノが写っていたのだ。

 

---国際宇宙ステーションの窓に写る 2機の白いインフィニットストラトス---

 

 そして、画面が切り替われば

 

---国際宇宙ステーションの外側の映像---

 

 が2画面で映されていた。そして、その2つの画面は徐々に徐々に国際宇宙ステーションから遠ざかる。そして、映像が動くと、今度は巨大な青い星が写ったのだ。

 

 

「ふふふ。これが私、天災の篠ノ之束からのプレゼント!そうだよ!私が作ったインフィニット・ストラトスは、すでに宇宙に昇っていたのだ!びっくりだね!

 それじゃあ、これからアメリカの基地に、大気圏から私のインフィニット・ストラトスがお邪魔するよ!詳しいことは…そこでまた会見でも開いてあげよう!」

 

 画面の中の女性、篠ノ之束がそう言うと画面が消え、全世界を巻き込んだ電波ジャックは終わりを迎えた。

 

 

 だが、人々の混乱は収まるわけがなく、この数時間後に実際に大気圏を突入したIS、そして、篠ノ之束の会見を発端とした、後に『白騎士事変』と名付けられるインフィニットストラトスをめぐる大混乱へと、時代は動いていくのである。

 そして、この事件に関わった篠ノ之束、織斑千冬、そして小鳥遊彩羽は激動の時代を生きていくこととなる。

 




ISが現行の宇宙開発機材を過去の異物とした「白騎士事変」

某年 アメリカの宇宙基地へと大気圏から到着 名前を「白騎士」と発表
   アメリカ観測の元、大気圏突破と突入を繰り返し放送が嘘でないことが実証される

某年 コア本体を各国に5個譲渡し
   更に白騎士のコアの設計図、白騎士の全身の設計図をインターネット上に公開

某年 NASAとJAXAの共同開発のISにおいて、単独での大気圏離脱と大気圏突入を成功させる
   この成功により、各国がISの開発に本腰を入れ始める。

などというIFの妄想でした。妄想です。妄想です。


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IF:Old Heroes

 1944年の夏。カンカン照りの太陽は滑走路の地面を焼き、湿った空気は肌にいやに纏わりつく。そんな真っ昼間のとある日、飛び方論議から今の戦争の論議まで幅広く酒の肴にしながら、俺は上官である菅野氏と共に酒を呷っていた。

 

『俺達がやってることが正しいか?そんなもん判るかよ。俺達は命令に従い飛ぶだけだ。それを間違えんな。…まぁなんだ。悩むのは貴様の勝手だがな…死に急ぐなよ?』

 

「心得てますよ。私は死にたくありませんからね」

 

『はっ…ふてぶてしさは相変わらずかい。ま、貴様はこれから一航戦の看板背負うんだ。気合入れろよ』

 

「はいはい…それをいったら貴方もこれから第201海軍航空隊へ行くのでしょう?また破天荒なことをして回り困らせないで下さいね?」

 

『うるせぇよ。馬鹿野郎、この野郎』

 

 そう言った上官、菅野さんはグラスをこちらへ差し出していた。

 

『ま、戦争が終わってまだ生きていたら呑もうや』

 

「ええ、ぜひ。貴方と呑むと楽しくて仕方が無い」

 

『そりゃこっちの台詞だ』

 

 チン、とグラスを当てる音が響く。懐かしき前世、私が死ぬ1年前の1944年の暑い夏の事は忘れることはない。ただ心残りがあるとすれば、菅野さんと呑む約束を果たせなかったことだろうか。

 そして今の世になって資料を読み漁れば、菅野さんも行方不明となり、未だに未帰還という話だ。私がいきのこっていたとしても、どちらにしろ、約束は果たせなかったのだ。

 

現代の夏。暑さはあの時と全く変わらない。カンカン照りの太陽は滑走路のアスファルトを焼き、湿った空気は肌にいやに纏わりつく。

 

---相変わらず面れぇことしてんなぁ---

 

「…ん?」

 

「彩羽、どうしました?」

 

 一瞬聞こえた懐かしい声に私は計器から目線を離し、コックピットから外を見る。視線の先には、濡鴉の髪が美しい女性が一人立っていた。だが、こちらの視線に気づいたのか、視線をこちらから外すと女性は背中を向けて家族と思わしき子どもの元へと歩みを進めていた。

 

「いえ…懐かしいものを見たような気がしたもので…」

 

「気になるのなら展示飛行を後に回しますか?私が先に飛んでもいいですよ」

 

「大丈夫です。母さん。そこまで気になるものではありませんから」

 

私はそう言って、改めて計器を見つめていた。だが、頭のなかには未だあの人の言葉が聞こえてきていた。

 

---平和な空で飛びやがって、気持ちよさそうじゃねーか。ズルいぞ。馬鹿野郎、この野郎---

 

「煩いですよ菅野さん。いいじゃないですか、俺は常々、そう言っていたはずですよ」

 

 アノ女性は振り返らない。当然だ。気のせいだ。私はそう思いながら、エンジンをスタートさせ、滑走路へと機体を進めていた。だが---

 

 約束は守らなければ。手元に置いていた携帯飲料を掲げる。そして。

 

「…乾杯。あの夏の約束は果たしましたよ。さようなら」

 

 

 零戦が羽田の滑走路から飛翔する。通常よりも機首を高く上げたそれは、他のどんな機体よりも、一番早く空高く登っていく。だが彼女の飛び方の特徴として、不思議と失速をしないのだ。他のどんな軌道をしていても、機体は安定する。それが彼女であり、彼女が零戦の飛行士の中で最も素晴らしいと言われる所以だ。

 

「あの零戦、まさかとは思ったが…○○、やっぱりお前の飛び方だよ。全く、全く変わっちゃいえね」

 

 それは、在りし日の光景。在りし日の零戦。彼女が彼であった時代に肩を並べた者であれば、一発で彼だと判る飛び方であった。

 

「はん…なんだよ、お前もこっちに来てたのか。空馬鹿め」

 

 彩羽の乗る零戦を見ながら、女性は濡鴉のような髪をかきあげる。そして、持参していたジュースを手に取り、空へと掲げていた

 

「…乾杯。酒じゃねーが、呑むっつー約束は守ったぞ。…つーかよう、空で戦うよりテメーにはその空で泳ぐ姿の方がお似合いだよ。正直言うと、帝都の空を飛べるなんてちーっとばかし羨ましいが…」

 

 眩しそうに空を飛ぶ零を見る。ソコには、彼が現役時代であった時のように、羽から雲を引いて旋回する零の姿があった。

 

「本当に貴様には呆れるよ。気持ちよさそうに飛ぶじゃねーか。現役の頃に、俺が生きていた頃に、その腕を見せろってんだ。()鹿()()()()()()()

 

 言葉とは裏腹に、気持ちのよい笑顔を浮かべる女性。そして、空を飛ぶ零に背を向けると、家族の元へと足早に戻っていった。

 

「お母さん、どうしたの?」

 

「ん。ちょっと懐かしいものを見たのよ。ね、零戦ってどう思う?」

 

「んーとねんーとね!かっこいい!」

 

「そうよね、かっこいいわよね!」

 

 息子を見ながら穏やかな笑みを見せる女性。そして、子どもには聞こえない小さな声で、零戦へと声をかける。

 

「前世とはこれで決別だ。じゃあな、○○。てめぇもこの世を楽しめや」

 

---そちらもお元気で----

 

彼女の耳には、彼女の眼には。零戦がそう語ったように聞こえたという。そして翼を畳んだ荒鷲は、未だに空を飛び続ける荒鷲を見守り続けるだけの存在となる。

 

 これは、古の時代に空を駆け巡った荒鷲達の、なんでもない日々の一コマである。



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第一章 小鳥遊彩羽は空を飛ぶ
輪廻転生


これは、まったくもって本編に影響を与えない
些細な2次創作である。


 第二次世界大戦時、大きな戦果は上げては居ないが、零戦パイロットとして、ミッドウェー海戦を経験し、レイテ沖海戦までも、類まれなる経験と、少しの運によって生き残った彼。

 

 この物語は、そんな名も無き一人のパイロットの死、から始まる。

 

 無線から聞こえてくるのは、日本語の叫び声と機銃の発射音。そして、無線が混線しているのか、時折英語の叫び声も聞こえてきていた。

 

「あぁ、全く。」

 

 自分の口からは、半分諦めたようなつぶやきが漏れる。そして、自身の乗る機体を確認するように、左右へと首を傾けていた。

 

 戦争末期である今では、既に格闘戦以外について、馬力、速力、攻撃力、防御力、航続力共に他国に追いつかれ、旧式と成ってしまった、我が愛機「零式艦上戦闘機 21型」。

 

 深緑迷彩を纏った愛機の翼には、敵国からはミートボールなどと揶揄される、誇り高き日の丸がペイントされている。

 

 後方を見やれば、美しい垂直尾翼と水平尾翼が見える。自身がラダーを蹴れば、垂直尾翼が動き、操縦桿を押し引きすれば、水平尾翼が動く。それに合わせて、機体も思うように上下左右へと動いてくれる。戦争開戦時から御世話になっている21型だ。その全てが、己の体とピタリと一致している。思い通りに、動かせない道理はないのだ。

 

 だが、私にあるのはそれだけだ。この零式艦上戦闘機は、今となっては時代遅れと言わざるをえない。思うように動いてくれても、速力が、馬力が足りず敵機を追従出来ないのだ。

 20ミリが当たりさえすれば、とは思うが、発射点まで容易にたどり着くことすら難しい。

 

 そしてなにより、今彼の機体はP-51マスタングの編隊による機銃掃射を避けきれず、羽に、胴体に、エンジンに。そして、コックピットに、多数の弾痕を残していた。

 

「あぁ、ままならんなぁ。」

 

 彼は機体を確認すると、最後に、自身の体を見やる。そこには、真っ赤に染まった防寒着と、ちぎれ飛び、コックピットに散乱した自身の指があった。

 

「あぁ、死にたくはないなぁ。」

 

 彼はそう言うと、右腕の残っている指で操縦桿を握り強い眼差しで、上空を飛ぶ一つの敵を睨む。

 

「あはは。だがもう手遅れなんだろうなぁ。 仕方無い。戦争だもんなぁ…。でも。」

 

 そして、左腕でスロットルレバーを押し込み、エンジンの出力を最大出力へと持っていく。被弾した零戦のエンジンは異音を上げ、黒煙を上げながらも、彼の意志に追従するように、力強く零戦を引っ張り上げる。

 

 更に、彼は一気に操縦桿を手前に引っ張りあげた。

 

 黒煙を上げ、急激に上昇する零戦が向かう先には、零戦を落とした戦果を確認しようと、不用意にも近づいてきた、マスタングが1機。

 

「…でも、只では死なん。一人は持っていく。」

 

 零戦は性能的にはマスタングには全て、負けているのかもしれない。だが、この距離から一気に上昇する零戦を避けるものなら、避けてみろ。

 

 彼は心のなかでそう思いながら、目を最後まで見開いたまま、マスタングに向けて、機体を持ち上げ続ける。

 

 そして見事、彼はマスタングを「撃墜」せしめたのである。

 

 時は戦時中、1945年のことだ。彼は自身の翼と共に、風になったのであった。

 

 

多数の翼が風となり、幾多の魂が沈んだ大戦から、時が流れること数十年。彼の魂は新しい体を得て、新たな人生を歩み始めていた。

 

「東京コントロール。こちら三菱A6M2です。現在、高度4000フィートです。展示飛行のためにミッキー通過後に、フライトレベル10まで降下を希望します。」

 

「三菱A6M2、P-51がまだ展示飛行中です。フライトレベル40のまま維持願います。」

 

「了解。フライトレベル40で待機。」

 

 私は、零戦のコックピットに座りながら、操縦桿を少しだけ横に倒し、零戦を左へと傾ける。

 

 そうしながら、私は東京の町を見下ろしていた。

 

 元々の「俺」が知る東京の街とは、見た目は全く変わってしまっている。平屋ばかりだった場所には、高層建築が多数立ち並び、全く栄えていなかった新宿、池袋のあたりが今では都心というではないか。

 

 ただ、鉄道の位置や国会議事堂、皇居を眼下に見れば、あぁ確かに、ここは東京だ、と納得できる。

 

「三菱A6M2、こちら東京コントロール。急で申し訳ないのだが、展示飛行の変更をお願いしたい。」

 

「三菱A6M2、了解しました。内容は?」

 

「航路、及びマニューバーに変更はありません。今から10分後に、三菱重工社製のインフィニット・ストラトス「零式11型」と「零式21型」が到着。彼らの到着を以って、展示飛行を開始していただきたい。」

 

「三菱A6M2了解しました。インフィニット・ストラトスですか。 同じ名前を持つ、新旧兵器のコラボですね。了解。到着を待ちます。」

 

 私はそう言いいつつ、未だP-51マスタングが展示飛行をする羽田空港を眼下に見ながら、少しだけ考えを巡らせる。

 

 

『事実は小説より奇なり。』

 

 過去より未来に転生してしまった、私の座右の銘だ。

 

 というのも、だ。当時の私の年齢や名前は思い出せないものの、私は前世において、愛機「零式艦上戦闘機21型」と運命を共にした、日本海軍所属の軍人である。

 

 前世の私の最後の記憶は、マスタングの機銃で撃たれ、意地になって敵のマスタングに零戦で体当たりを行い、マスタングを巻き込みながら、地面に落下した瞬間で終わっている。

 

 そして次の瞬間、私はこの時代に生まれ落ちていたのだ。

 

 最初は死ぬ直前に体験すると言われる、走馬灯的なものかと思っていたが

 

---例えば、総天然色で世界中の美しい映像がタダで見れるテレヴィジョン。

 

---雑音もなく、途切れることもない、トランジスタラヂオ。

 

---そして何よりも、噴式大型旅客機…ジャンボジェット機を見た時に

 

「あ、これ走馬灯じゃない。未来だ。」と確信を持ったわけだ。

 

 そして極めつけは、幼少の頃に、白騎士と呼ばれるインフィニット・ストラトスが、数千発の噴式誘導弾…いや、ミサイルをたった一人で片付けた光景を見て

 

「あぁ、巴戦など既に過去の物かぁ。戦は変わったなぁ。」

 

 などと思いながら、ここは完全に未来である、と諦めに近い納得をしたのである。

 

 

 羽田空港上空を飛ぶこと15分。300キロ近くで巡行する零戦にようやく、と言っては酷だが、インフィニット・ストラトスの姿が2機、正面から近づいてきていた。

 

 私はそれらをよく、観察していく。

 

 片方の、ベージュ色をしたインフィニット・ストラトス。眼鏡をかけた緑色の髪をしている女性が乗っているほうが、色からして、おそらくは零式11型であろう。

 

 もう片方の、今私が乗るA6M2と同じ深緑迷彩のインフィニット・ストラトス。黒髪が美しく、やや釣り目の女性が乗るほうが、色からして、零式21型といったところか。

 

 だが、よくよく見ても、この2機は色以外の姿形はほとんど変わらない。基本的には倉持技研の打鉄の様な姿ではあるが、機体装甲はほぼ曲面で、ラファールとも思わせる姿だ。

 

「零戦で空を飛ぶのも良いけれど、インフィニット・ストラトスで空を飛ぶのも気持ちよさそうねー。」

 

 私はそう呟きながら、操縦桿を左右に動かし、エルロン切って翼を振る。すると、インフィニットストラトスの搭乗員は、それに答えて手を振り返してくれていた。

 

「こちら三菱A6M2。周波数は112.5MHz。展示飛行を行うインフィニット・ストラトスはそちらの2機で相違ないですか?」

 

「ぁ・あー、あー、聞こえますか?こちら三菱零式。 この2機で相違ない。急な申し入れで申し訳ない。」

 

 ISを纏いながらも、軽く会釈をしてくる2人。私はコックピットから手を振り、気にするなと意志を伝える。

 

「三菱A6M2了解。お気になさらず。同じ三菱社製の翼ですからね。ですが、こちらは特にインフィニット・ストラトスを加えるという、フライトプランの変更等をしていません。問題ありませんか?」

 

「零式は問題ない。少なくともそちらよりは小回りがきく。そちらのフライトプランに合わせるさ。」

 

「三菱A6M2了解。あぁ、そういえば展示飛行前に、一つお聞きしたいことがあります。」

 

「なんだ?」

 

「お互いに名前ぐらいは交換したいな、と思いまして。

 私は小鳥遊彩羽(タカナシ イロハ)。イロハとでもお呼びください。」

 

「私は織斑、織斑 千冬だ。僚機は山田真耶。」

 

「ありがとうございます。ええと、チフユと、マヤと呼んでも?」

 

「あぁ、かまわん。」

 

「有難うございます。それではチフユ、マヤ。 一時ではありますが、展示飛行よろしくお願い致します。」

 

「こちらこそよろしく頼む、イロハ。」

 

 チフユの声を聞きつつ、私は深呼吸を行い、目を閉じる。

 

 これは私が昔から、それこそ前世からやってきた気持ちの切り替え作業だ。のんびりと、空を泳ぐイメージから、風を切り裂き、鋭く跳びまわるイメージへ。

 

 無駄な思考は切り捨てろ。私は零戦だ。私は零戦だ。私は、零戦だ。

 

 …否、私「が」零戦だ。

 

 深呼吸をやめ、ゆっくりと目を開ける。

 

 零戦の先端は、私の鼻先。

 

 零戦の後端は、私のつま先。

 

 零戦の羽の左右端は、私の指先。

 

 感覚は、繋がった。

 

「東京コントロール、こちら三菱A6M2。高度4000フィートを160ノットで巡航中です。IS、零式と合流しました。展示飛行のためにフライトレベル10へと変更を要請します。」

 

「こちら東京コントロール。フライトレベル10への変更を許可します。周辺に他の機体はありません。フライトレベル10に変更後、そのまま展示飛行に入ってください。」

 

「三菱A6M2、了解しました。フライトレベル10に移行後、展示飛行、開始します。」

 

 操縦桿を握る手に、自然と力が入る。久しぶりの全力の操縦だ。しかも、羽田空港なんて巨大な場所で飛べるんだ。

 

 感情を高ぶらせたまま、私はエンジンスロットルを絞り、操縦桿を押しこむ。すると、零戦は思い通り、ゆっくりと降下の体制へと入っていく。

 

 眼下には巨大な空港、見渡す限りに蒼い空。石炭の煙も、敵の銃撃もない、実に平和な空である。そして、眼下の空港の滑走路が、零戦のペラをこするほど近づいてきた、その時である。

 

「さぁ、零戦乗りの力、みせてやりましょうかねぇ!」

 

 私はそう叫ぶと、操縦桿を一気に引き上げる。すさまじいGに体を持って行かれそうになるが、そんなものは関係ない。零戦は根性も必要なのだ。

 

 そしてそのまま操縦桿をひきっぱなしにし、空港の低空ど真ん中でループを行う。

 

 すると、また地面が近づいてきた。

 

 普通の戦闘機なら激突するかもしれないが、私が載っているのは、最高の運動性を持つ零戦21型だ。地面に触れるか触れないかの時点でラダーを蹴り軸をずらしつつ、操縦桿を少しだけ右に倒しつつ、エルロンを動かす。

 

 すると、零戦は面白いことに、横滑りのような形で地面すれすれを飛行していく。

 

 そしてそのまま、滑走路の端部まで行ったとこで、操縦桿を引き上げ、インメルマンターンを行い、最低限の高度をとる。

 

「あっ。」

 

 そこで思い出した。後方のISはついてきているのだろうか。少し不安になって後方を見る。するとそこには何事もなかったかのように、スモークを焚きながら、零戦の後ろを見事に追従する2機の姿があった。

 

 何事もなかったかのように、スモークを焚きながら、零戦の後ろを見事に追従する2機の姿があった。

 

「おぉ、すごいすごい。零戦の軌道についてくるなんて! インフィニット・ストラトス、やっぱり乗ってみたい…なあああ!」

 

 私はそう叫びながら、再度操縦桿を引く。今度は失速するまで上昇し、失速反転するハンマーヘッドを行うのであった。

 

 三菱A6M2、「零式艦上戦闘機」の後方に付きながら展示飛行を行っていた山田真耶は、プライベート・チャネルにて、織斑千冬へと通信を送る。

 

「彼女の軌道、綺麗ですね。」

 

「あぁ、今までジェット機の後ろについて展示飛行を行ったこともあるが、これだけ無駄のない、美しい軌道を描くパイロットは居なかった。しかもそれを、電子制御のない、戦時中の機体でよくやるものだ。」

 

 千冬もそう思ったのか、小鳥遊彩羽の操る零戦に追従しながらも通信を返していた。

 

 そのさなかにも、小鳥遊彩羽の操る零戦は、インメルマンターン、スプリットS、ハンマーヘッド、そして極めつけには、片翼をこすりつけているのはないかと思うほどの低空で行われる、ナイフエッジをも行っていた。自由自在、変幻自在。その言葉がぴったりと合致する操縦技術だ。

 

「これで我が愚弟と同じ年齢とはな…。才能とはあるところにあるものだ。この展示飛行(仕事)、どうやら受けて正解だったようだな。」

 

 千冬は零戦の後ろにピタリと付きながら、ぼそりと独り言を呟いた。

 

 そう、驚くことなかれ、今、千冬達の前で零式艦上戦闘機で曲芸飛行をしている人物。小鳥遊彩羽は、未だ高校生にもなっていない女子学生なのだ。

 

 なぜ彼女が零戦に乗れるのか。それは、彼女の家系と、それに関連する、とある職業が原因である。

 

 

 このインフィニット・ストラトスの世界には、我々の世界にはない、特殊な職業が存在する。

 

 名前は特に決まってない。「飛行士」、「機関士」、「運転士」様々な名前で呼ばれている職業だ。

 

 目的はただ一つ。

 

「戦争中の兵器を後世に残し、戦争の記憶を色褪せさせないこと。」

 

 つまりは、世界大戦などという、恐ろしい戦争を二度と起こさせないように記憶だけでなく、当時の兵器を保存、維持していくのが生業なのだ。

 

 だが、その特殊性故に、会社、という形では存在していない。国の支援を受けて、その兵器に縁のある一族が、管理を担当している。

 

 例えば、日本の戦車であれば「西住小次郎」の子孫が、

 

 例えば、ドイツのスツーカであれば「ハンス・ウルリッヒ・ルーデル」の子孫が

 

 例えば、イギリスのスピットファイアであれば、「ジェイムス・エドガー・ジョンソン」の子孫が

 

 それぞれの機体を整備、運用している形である。

 

 そして、小鳥遊彩羽の家系は、「零戦」を保管している一族の中の一つで零戦11型、22型、32型、52型などなど、多数の零戦を動態保存しているのだ。

 

 さらに言えば、偶然にも、小鳥遊彩羽が任された零戦、零式艦上戦闘機21型は、当時の小鳥遊彩羽が乗っていた機体が修復されたものであるために、それこそ自由自在、思い通りに、機体を動かせるのだ。

 

 その片鱗たるや、齢、十数歳。彼女が初めて零式艦上戦闘機に乗った時に、一族全員が目を見開いた。なにせ、初心者なのにもかかわらず、いきなりインメルマンターンを決めたのだ。

 

「新しい風だ…。」

 

 誰が言ったか定かではないが、小鳥遊彩羽は、その言葉通り、あれよあれよというまに、女学生ながら、小鳥遊一族の中でもトップクラスの「飛行士」になっていたのだ。

 

 

 曲芸飛行を終えた小鳥遊彩羽が駆る零戦は、ISを伴ってゆっくりと第一滑走路へと着陸を行う。

 

「進入角良好、速度…約76ノット。(140km/h)」

 

 対気速度計と高度計を見ながら、ゆっくりゆっくりと操縦桿を操作する。目指すは三点着陸だ。展示飛行の最後の最後で、バウンドなどしては締まるものも締まらない。

 

 エンジンスロットルを絞り、エンジン出力を更に下げる。と同時に、速度計と高度計を確認すると、速力は60ノット、高さは残り3フィートを切っているようだ。

 

 それならば、とわざと失速させるように、少しだけ操縦桿を引く。もちろんそうなれば、ゆっくりと零戦の機首は上を向く。と同時に、速度が50ノットまで落ち込み、機体に小さな衝撃が走る。

 

キュッ!

 

 滑走路とタイヤのゴムが擦れる音だ。どうやら、無事に接地したらしい。そして、その後は特に大きな衝撃もなかったため、エンジンスロットルを絞りながら、徐々に徐々に、速度を落とす。

 

「ふぅ…。」

 

 完全に停止した零戦のコックピットの中で、ふと左右の窓に気を配ってみれば、滑走路にISで着陸したチフユとマヤが、笑顔を浮かべながら、こちらに手を振ってきていた。

 

「流石最新鋭の空飛ぶ翼…。インフィニット・ストラトス。あんな簡単に零戦に付いて来るなんてなぁ…。…やっぱり、乗ってみたいなぁ。」

 

 私はそう言うと、コックピットから、ISを纏うチフユとマヤに手を振り返すのであった。




妄想が無駄に捗りました。


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初めてのインフィニット・ストラトス

戦時中の機体を保管、整備、展示飛行まで行う一族の一つの家系である小鳥遊家。
そして、そこに生まれ落ちた、戦時中の記憶を持つ、小鳥遊彩羽。

彼女は展示飛行でISの操縦者、織斑千冬と出会い、
小鳥遊彩羽操る、旧式の零式艦上戦闘機21型は、
織斑千冬操る新型IS零式は、空を共に飛んだ。



零戦 それは、平和な空を目指した過去の翼。
IS それは、平和な宇宙を目指している翼。



 展示飛行の後、地上に降りて何をするのかといえば、もちろん、一般参加者向けの、地上展示会が控えている。

 

 今現在、羽田空港のヤードには、展示飛行を終えた戦時中の戦闘機が、所狭しと、多数並べられている。

 

 その種類たるや日本の零戦から始まり、ドイツのフォッケウルフ、イギリスのスピットファイア、アメリカのマスタングなどなど、多数の名機が所狭しと並んでいるのだ。

 そして、幻の戦闘機として伝えられていた、烈風や震電なんかも特設コーナーに展示されていた。もちろん、それらの戦闘機も動態保存である。

 

 そして、ヤードに並ぶ私の零戦21型、A6M2は、「修復された」と注約はつくものの、オリジナルの栄エンジンが使用されている、現存しているのが珍しい零戦である。

 

 更に、私の記憶通りであれば、これは私が最後の瞬間まで搭乗していたはずの零戦を修繕したものだ。計器周りに数発残っている弾痕はまさしく、記憶の中の弾痕と一致する。

 正直、毎度毎度コックピットに座るたびに弾痕が目に入り、自分の棺桶に入る気分にはなるものの、この零戦は自分の手足のように動かせる機体だ。

 

 今の私の仕事である「飛行士」、特に展示飛行を行う際において、このことは非常に強みになる。何せ、今、小鳥遊家において私が一番、零戦を扱えるのだ。

 

「彩羽、ごくろうさま。いい飛行でした。さ、あとは私たちに任せて、好きにしていなさい。」

 

 零戦を前に、考えに浸っていると、聞きなれた声が耳に入ってきていた。

 

「母さん。ありがとう。判りました。あとはお任せします。」

 

 私は母の顔を見ながら、礼をする。今のところ私の仕事は、展示飛行までなのだ。若手である私や父が零戦で飛び、機体の解説、歴史などの解説は、父母、祖母、祖父などの大人が行うのが昔からの小鳥遊家の伝統だ。

 

 正直言えば、前世で零戦を操っていた私が一番説明できると思うのだが「前世で零戦に乗ってました」なんて家族に言えるわけもなく、私は静かに、大人たちに任せることにしている。

 

「3時からまた展示飛行がありますから、 忘れずに戻ってきてくださいね。彩羽。」

 

「はーい。それじゃあ、少し行ってきます。」

 

 私は零戦を横目に見ながら、足早に移動を開始していた。どこに移動するのかといえば、それは、チフユ達がいるインフィニットストラトスのブースだ。

 

 私にだってそこそこのプライドがある。ミッドウェー、レイテ。地獄のような戦場で生き残ったのだ。その技術を総動員しても振り切れなかったIS。気になって気になってしょうがなかったのだ。

 

(あわよくば触れたり…乗れたりしないかなぁ…?)

 

 

織斑千冬。

 

どこかで聞いたことがある名前だなぁと思っていたら。

 

「なるほど、チフユはインフィニットストラトス世界大会の第一回覇者、ブリュンヒルデの織斑千冬だったのですね。」

 

「不本意ながら、な。おかげでこのような場にも、国からの依頼が来る始末だよ。」

 

「なるほど、なぜ織斑千冬が専用機で来ていないか合点が行きましたよ。国からの依頼で、零式にのっていたのですね。」

 

「あぁ、記念式典に、歴史的価値のある零戦と共に 最新鋭の兵器であるIS、そして最強のパイロットを呼ぶ。これによって日本に力があると、示したいのだろうよ。」

 

「はぁ。世界最強もいろいろあるのですねぇ。」

 

 今、私は織斑千冬と共に、ISのブース内にあるカフェに来ていた。というのも、ISのブースに来てみたら、織斑千冬が私のことを出迎えてくれたのだ。

 

---素晴らしい軌道だった。見たことのないほどのな。どうだ、イロハ。飲み物でも一緒に飲みながら、お互いの自己紹介といかないか?---

 

---ぜひ!お願いします!---

 

 簡単にチフユについていってしまったわけであるが、席に着き、お互いにコーヒーを頼んだ後で、お互いのプロフィールを紹介したときにチフユが「ブリュンヒルデの織斑千冬」だということに気付かされたのだ。

 

 チフユ、と呼び捨てにしてしまったが、失礼だっただろうか?まぁ、今更呼びなおすのも恥ずかしいので、このままの呼び方で会話することにしよう。

 

「そうだ、イロハ。少し聞きたいことがあるんだが。」

 

「なんでしょう?」

 

「イロハは今年で何歳になるんだ?」

 

「今年で12歳ですねー。中学生です。」

 

 目の前で千冬ははぁ、と大きなため息をついていた。

 

「そうか、12歳か。12歳で戦闘機をあれだけ操れるのか。」

 

「あー。私の家系が特殊なだけですよ。10歳になる前からコックピットに座らせて、零戦のスペシャリストを育てるんです。」

 

「スペシャリスト?」

 

 これはちょっと説明がいるかな?私は指を立てつつ、チフユへと言葉を投げる。

 

「えぇ。目をつぶってても計器の位置が判り、零戦を飛ばせるようなスペシャリストを養成していくんです。私自身も幼いころから訓練を受けています。」

 

 説明を聞いたチフユは、少しだけ苦い顔をしていた。どうしたのだろうと疑問を浮かべていると、チフユはゆっくりと口を開く。

 

「辛くは、無かったのか?」

 

 あぁ、そういうことですか。小学生が訓練ばかりして辛いのでは、という。一般的な小学生ならば確かに辛いであろう。だが、私は一度大人を体験した経験者だ。特に軍にいたころの訓練に比べれば、小鳥遊家の訓練なんて屁の河童である。

 

「いえ、まったく。

 歴史を守る一族に生まれたわけですし、そのための責務、ともよく言われています。私自身もそう思いますから、辛くはないです。」

 

「なるほどな。それにしてもイロハはしっかりしている。我が愚弟にも少しは見習ってほしいものだが…。」

 

 チフユはすこしだけ頭を抱えていた。弟さんかぁ。一般人と一緒にされても、比べられた人が可哀想である。これはちょっと、フォローを入れておこう。

 

「うーん、私を基準にされては弟さんが可哀想ですよ。私が特殊なんです。幼いころから訓練を受けていますし、それに…」

 

 私はそこで言葉を区切る。そして、蒼い空を見ながら、言葉をつづける。

 

「空を飛ぶのが大好きなんです。何もない、平和な空を思いっきり飛ぶのが。だから、私は零戦に乗るんです。だから、私は操縦技術を磨くんです。もっと、もっと気持ちよく空を飛ぶために。 

 自分がもっと、羽ばたけるように。」

 

 私は何を言っているんだろう。

 そう思いながらも、口から勝手に言葉が出てきていた。でも、私の本心はこれだ。もっと気持ちよく、もっと高く、もっと早く。零戦で空を飛ぶ。

 

 戦わなくていい空で、のんびりと自由に空を飛ぶのだ。

 

「なるほどな。いろは。お前がなんであんな綺麗な空中機動を取れるのかが判った気がするよ。好きなんだな、空が。」

 

「えぇ、大好きです。とっても。」

 

 私は笑顔をチフユに見せていた。さて、いい雰囲気にもなってきたところで、私がここにきた本来の目的を、チフユに投げてみようと思う。

 

「あ、それでねチフユ。お願いが一つあったんだけど。」

 

「ん?なんだ、言ってみろ。」

 

「チフユが使っていたインフィニットストラトス。触らせてもらうことってできる?」

 

「ほう、ISに興味があるのか。いいぞ、いいものを見せてもらったしな。せっかくなら、装着して少し飛んでみるか?」

 

チフユからの申し出に、私は思わず即答していた。

 

「ぜひ!試してみたいです!零戦に追いつける機動性!どんな気分で空を飛べるのか!あぁ、きっと最高なんだろうなぁ…!…あ。」

 

 いかん。テンションが上がりすぎた。いらん本音まで口から出てきてた。

 

 やばい、と思いながら恐る恐るチフユの顔を見るとクククと、笑いをこらえながら、苦笑を浮かべていた。

 

「…それが本音か。ま、いいさ。好きなだけ触ってくれていい。零戦を扱っているということは、三菱とも関係あるのだろうしな。ま、もし三菱から許可が下りなくても、私の責任で許可するよ。」

 

「…いいんですか?」

 

「ああ。こういう時にこそ使えるのさ。世界最強って肩書は。」

 

 チフユはそういうと、飲み物を一気に嚥下していた。私もそれに続き、飲み物をぐいっと飲み干すのであった。

 

 

 ISブースに戻った私とチフユは、早速、三菱の試作IS、零式21型の前へと向かう。

 

「さてと、いろは。このISの説明は必要か?」

 

「はい、ぜひお願いします。それに、世界最強の講義っていうのも魅力的だしね。」

 

「はは、遠慮のない奴だ。いいだろう。といっても、私も又聞きの話だがな。」

 

 んんっ、とチフユは咳ばらいをすると、真剣な顔で私を正面に見る。そして、IS零式21型の説明を始めた。

 

「インフィニットストラトス、三菱零式は、三菱重工製が初めて作成した試作ISだ。

 設計理念は極めて単純。徹底した軽量化を行い、少ないエネルギーで高い速度と機動性を確保する。そのために、内部構造の材質から、パーツ形状まで徹底した軽量化が行われている。更には空気抵抗を考えて、曲面装甲を採用し、さらなる高機動化を狙っている。といったところか。」

 

「どこかで聞いたような設計理念ですね。」

 

「あぁ、まさに、イロハが乗る零式艦上戦闘機の設計理念そのものだな。だが、その設計理念のかいあってか、私が乗っても、気持ち良いぐらい動けたな。

 もしもの話にはなるが、暮桜がなければ、おそらく零式に乗っていただろう、と言わせるぐらいの機体ではあるな。」

 

 それほどの機体か、と私は改めて零式21型を見る。なるほど確かに、我が愛機、零戦21型と同じ深緑迷彩に、同じような曲線装甲を持っている。

 

「チフユがそういうのであれば、相当良い出来のISなんですね。まずい、すっごく、乗りたくなってきたなぁ…!」

 

「慌てるな。せっかく乗るなら、まず更衣室にいって、ISスーツに着替えてこい。用意されているのは汎用品だが、お前に合うサイズのものがあるはずだ。」

 

「はーい。それじゃあ早速着替えてきます!」

 

 足早に更衣室に向かう。さぁっ!楽しみだ。まさか、とは思ったが、今日、自由な羽で空を飛べるのだ!待ってろインフィニットストラトス!

 

 小鳥遊彩羽の背中を見送りながら、山田と千冬は、ぼそぼそ小声でと会話を始めていた。

 

「すごいですね彼女…。千冬さん相手に物怖じしないなんて。」

 

「あぁ。普通の人間であれば、私の肩書にびびって腰が引けるというのにな。 まったく、なかなか見どころのある奴だよ。」

 

 小鳥遊彩羽。

 

 千冬は、今回の展示飛行の仕事を受けた際、彼女の概要だけは聞いていた。

 

「話に聞いた通り、零戦の操作の腕を持ち、肩書の付いている人にも物怖じしない精神。さらに空を飛ぶという目標すら明確だ。」 

 

 齢10数歳にして、零式戦闘機を手足のように操る天才。生まれる年代が年代であれば、間違いなくエースパイロットであろう逸材。周囲の人間から、そう評される彼女の腕は、確かに間違いなく、素晴らしいものであった。

 

 千冬も山田も、小鳥遊彩羽の零戦の後ろを追従するだけで、空を飛ぶ楽しさが、風を切る素晴らしさを感じることができる。そしてなにより、千冬は彼女の零戦が輝いて見えたのだ。

 

「はぁー。すごいんですね、彼女。そういえば、私も彼女の後ろを飛んでいて、なんだか、すごく楽しかったです。」

 

 きっと小鳥遊彩羽は化ける。千冬や山田にそう思わせるほどに、彼女の飛行は魅力的であったのだ。

 

「私もだよ。それに、だ。レシプロ戦闘機であれだけの軌道を見せたんだ。 インフィニットストラトスを駆り始めれば、小鳥遊彩羽は、おそらく、化けるぞ。」

 

 千冬はそう言いながら、にやりと笑みを浮かべていた。




小鳥遊彩羽。
読み方は「たかなし いろは」

たかなし→アメリカの国鳥がハクトウワシ(鷹)→アメリカ(敵)が居ない。
いろは→彩羽→彩のある羽→何種類もの飛行軌道を描く羽。

平和な空を自由に飛ぶ。

そんな単純な願いを込め、彼女の父母は名付けた、のかもしれない。


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空を翔ぶ

零戦乗りの小鳥遊彩羽は
展示飛行で共に飛んだ織斑千冬に導かれ
インフィニットストラトスに触れる。

新たな羽を得た彼女は、天高く、空を翔ぶ。


 第二次世界大戦が始まる前。

 赤とんぼでの研修を終え、配属先で初めて零戦に乗った時は、体の奥底から震え上がるほど、その性能に驚いた。

 

 馬力のあるエンジン、300キロを超える巡航速度。ロールは遅いが、とてつもなく上昇性能がよく、なるほどこれなら後方を取られても直に敵機の後ろにつけるなと、操縦桿を握りながら、赤とんぼとは全く違うのだな、と感動を覚えたものだ。

 

 さて、なぜ私がこんなことを考えているのかといえば、戦闘機とインフィニットストラトスという違いこそあれど新型の羽を触れる、という当時と全く同じ状況にいるからである。

 

 そう、はじめてのインフィニットストラトスだ。気持ちが昂ぶらないわけがない。

 

 ただ、いくつか弊害が存在する。ます専用のスーツは、言ってしまえば水着であり、それを纏わなくてはいけないというのは、少々こっ恥ずかしい。そして、我ながら齢12にしては悪くない発育をしているために胸や尻の曲線が、艶めかしくスーツに現れているのだ。

 

 何より脇出し、足出しである。

 

 時代が変わり、服装に寛容になった世の中とはいえ、女子にこのような格好をさせるのは如何なものか。

 

 そしてもう一つの弊害といえば、零戦乗りがISに乗る。という情報をどこからかききつけて、記者達が多数ISブースに乗り込んできていることだ。別に写真を取られたり、取材を受けることは、現代の零戦パイロット特集などでよく行っているため、吝かではない。

 

 だが、今は状況が違うのだ。自分のブースではなく、ISのブースにこれだけの人数が集まってしまってはIS関係者達に迷惑がかかる。

 そしてなにより、今日は飛行服ではなく水着のようなISスーツである。この写真が、雑誌や新聞に乗るのは、少々気が引ける。…とはいえ、無碍に断るわけにはいかないので「どうしましょう?」と意志を込めて、千冬へと目配せを行う。

 

 すると千冬は、「別に我々は構わんさ。好きにすれば良い。」とは直接言わなかったものの、苦笑しながら首を縦に振っていた。

 

 まあ、ISブースの責任者…なのかな?世界最強のISの乗りである織斑千冬がそういうのであれば、いつものように記者達の質問に応えるとしよう。ただし。

 

「すいません…ISスーツ姿の写真の掲載はお断りします。流石に恥ずかしいので…。」

 

 私がそういうと、記者達から少しの笑い声が聞こえるのであった。

 

 

 記者達の質問攻めも一段落し、私はISへと乗り込む。…乗り込むというのかな?これは。ISの脚部に足をつっこみ、腕部に腕をつっこみ、ISの胴体部分に背中を預ける。

 

「それではISを起動させる。異常があったらすぐに言えよ。」

 

 私が無事、ISに乗り込んだことを確認した千冬が、そういいつつ、コンソールを操作し始めた。

 

 すると、ISの各部装甲が、ガシリ、ガシリと音をたてつつ体へと纏わり付いていく。足から腰、腰から胸、胸から腕と、少し圧迫感を感じるものの「なるほどこれは悪く無い」と思わせる装着感である。

 

 そして起動最後に、ハイパーセンサーが動作した時に、私の世界は一変する。

 

「…これはっ…!?」

 

 話には聞いていた。

 ハイパーセンサーとは、360度をすべて見渡せる、全方位視界接続というやつだ。更に、なぜか遠くの物体の細部まで理解できる。織斑千冬に視線を集中すれば、顔の毛穴の一つまで、くっきりと見ることが出来た。

 

「…これは…素晴らしい…!」

 

 あぁ、なんて素晴らしい技術か。目視で360度、詳細に見ることが出来る。私が前世で、零戦に乗っている時から欲しかった技術だ。能力だ。

 

 何せ大戦中の戦闘機というのは、電探…レーダーが無い。そのため、基本的に索敵は目視になる。ということは、相手より先に敵機を自分の目で見つけられれば、優位に立てるのだ。

 

 1キロ先、ひいては10キロ先の敵を見つけ、先に仕掛けるのが理想的だ。だが、戦闘機とはせいぜい10メーター程度の乗り物である。それを数キロ先から目視のみで見つけるのは、非常に困難なのだ。

 

 例えば数キロ先に敵機がいたとして、コックピットから見える敵機の姿は、ゴマ粒にも等しいのだ。

 

 更には索敵には平面的だけではなく、立体的な能力も求められる。前だけをみてれば良いわけではない。前、後ろ、上、下、右、左。全部に100%気を…いや、150%の気を張らねばいけないのだ。

 

 かの零戦乗りの坂井三郎も、配属先で開催された講習会の中で語っていたことがある。「前方2に後方9、意識を集中させるのだ。」と。只々このセリフを聴いた奴の中には、「なんで合計で11なんだ?合計は10だろう。ボケているのか」などと馬鹿にした奴もいる。

 

 だが、坂井三郎の言葉は真実だ。100%の警戒動作では、敵機に間違いなく落とされる。生き残るためには、最低でも120%程度の、敵を落とそうと思えば、それこそ200%近くの警戒動作をしなくてはならないのだ。

 

 物量が乏しかった日本軍では、特にである。

 

 だから私は、前世では常に気を張り続けていた。死にたくないから。そして、生き残って、敵を撃墜し、日本を守りたかったから。ま、とはいえ情けない話、結局は警戒不足で、上空からマスタングの機銃掃射を食らってしまったわけだが。

 

 …こういう体験をした私からしてみれば、このISのハイパーセンサーは、本当に求めたものであるのだ。

 

 全周を見渡せ、数キロ先の物体までくっきりと見える。だから、

 

「あぁ、これが、アノ時代にあれば…まだ、まだ私は飛べたかもしれないのになぁ…。」

 

 ぼそりと呟いてしまった私は、悪くないはずだ。

 

 

 大きな駆動音を響かせながら、私が乗るISは、確実に一歩一歩と、大地を踏みしめていく。

 

「よっ…ほっ…」

 

 ガシリ、ガシリ。

 ISの脚部装甲と、滑走路のアスファルトが当たる音と振動が心地よい。とはいえ、ハイパーセンサーには特に違和感はなかったものの、実際に動かし、歩行を行うとなるとやはり、思うようには行かなかった。

 

「あっ…!?」

 

ガシャリ!

 

 大きな音を立てて、私の乗るISは、地面へと倒れこむ。なれないパワーサポートに、足を縺れさせ転んでしまったのだ。

 

「大丈夫か?いろは。」

 

 千冬が私の姿を心配そうに、見つめていた。私はISの手を振り、「大丈夫です。」と意志だけを伝える。

 

「よっ…!」

 

 そして、掛け声とともに、立ち上がり、改めて歩行を開始する。それにしても、ハイパーセンサーはいいものだ。今、この不安定な状況ではどうやったって前しか向けないのにも関わらず、真後ろについてきている記者達の人数どころか、一喜一憂の表情まで読み取れるのだ。

 

 というか記者達よ。少女の尻を追いかけて楽しいのか。

 

 …余計な思考はさておきつつも、未だ歩行にはなれずに居る。千冬からはイメージが大切、とのアドバイスを頂いたがこれがどうして、なかなかに難しい。

 

 右足を出して、左足を出して、自然に、自然に。

 

 そう思いながら歩行を続けるも、どうしてもカックンカックンと、不自然な動きになってしまう。私がそんなことをしていると、見るに見かねた千冬が、苦笑しながら口を開いた。

 

「先ほども言ったが、イメージすることが大切なんだ。いいか?零戦もISも本来は空の乗り物だ。なぁ、いろは。お前は零戦乗りだろう?零戦で地上を移動するときは、どういうことをしているんだ?」

 

 どういうこと…。そりゃあ、エンジンスロットルを少しだけ開いて、ブレーキをリリースして、ゆっくりと…。と、私がここまでイメージしたところで、ISの動きが変わる。どういうわけか、スムーズに歩行することができはじめたのだ。

 

「そらみろ。ISはイメージが大切なんだよ。そのイメージは各々で変わる。いろはが得意なのは零戦なのだから、零戦での動きをイメージしてやれば、ISはそれに付いて来るのさ。」

 

「なるほど…。理解しました。」

 

 私はイメージを保持したまま、ISで滑走路を歩く。先程までのかっくかくした動きから、スムーズに、背筋を伸ばして。すると、後方からついてきていた記者達から、歓声と拍手が上がった。

 

「おお、おめでとう。」

「いろはちゃんはやっぱりデキる子だ!」

「あとでお父さんたちにも伝えておくからね!」

 

 …記者であるあなた達には、零戦保存の資金集めとかで、よくお世話になっていますが、一つだけ言わせて頂きたい。あなた達は私の親か!

 

 …と、罵倒するわけにもいかないので、ISをその場でターンさせて、おじぎをする。

 

「ありがとうございます。なんとなーく操作感がつかめてきました。」

 

 私は記者に向かってそう言ってから、機体の向きを変え、千冬に向かって口を開く。

 

「チフユ。そろそろ飛んでみてもいいでしょうか?」

 

「あぁ、かまわん。いいか?イメージをしっかり持てよ。零戦に乗っているつもりで飛べば、まず大丈夫なはずだ。…山田君、一応彼女のサポートを。」

 

 千冬がそう言うと、山田がISを纏って、私の隣へと付けた。

 

「よろしくお願いします。」

 

「えぇ、こちらこそ。それにしてもいろはちゃん、すごいですねー。少しのアドバイスで、ここまでISを操れるなんて。」

 

「貴方がたの教え方がすごく上手いんです。」

 

私がそう言うと、山田と千冬は笑顔を浮かべていた。

 

「さ、って。それじゃあ早速飛んでみます。 山田さん。サポート、お願い致します。」

 

「はい。えーっと、操作はゆっくり、ゆっくり。あせらないで行ってくださいね。

 えぇと、さっきレクチャーは受けたと思いますが左手のレバーが出力関係メイン、右手のレバーが操作関係メインになります。このふたつのレバーと、イメージを使って、好きなように飛んでみて下さい。」

 

 山田のアドバイスは的確だ。ISで飛んだことのない私でも、飛べるんじゃないか、という気にさせてくれる。

 

 さて…,確か、左のレバーが出力、右のレバーが操縦、だっけ?…流石零戦の名を冠するISだ。操縦系も似ているな。

 

 私はそう思いながら、イメージを行う。

 

 左のレバーは…エンジンスロットルだ。

 

 右のレバーは…操縦桿。

 

 翔ぶにはどうするか?

 

 決まっている。エンジンスロットルを離床出力まで上げ、フラップを下げ、それでいてエンジンのトルクを、カウンター気味にラダーで殺しながら、操縦桿をゆっくりと手前に引けばいい。

 

 イメージだ。イメージ。

 

 私はISを零戦にイメージする。早速、ISのブースターの出力を上げる。

 

 全身が浮く感覚があった。

 

(なるほどそうか、滑走はいらないのか。)

 

 イメージを修正する。

 滑走はいらない。エンジン出力を上げれば一気に空に飛び上がれる。そして、どうやらトルクもない。ラダー操作も必要ない。

 

 であれば。

 

(操縦桿を握り、機体がブレないように押えながら…。

 スロットルレバーを押しこめば、きっと飛べる!)

 

 私は勢い良くブースターの出力を上げた。すると、私のISは、イメージ通り地上を離れ、一気に1000フィートまで、上昇したのである。

 

 そして、そこからは我ながら私の独壇場であった。

 

 困惑する山田を横目に、私はISを好きなように滑らせる。

 

 まずは手始めにインメルマンターン。ぐるりと空を回りながら、ほほに感じる風が気持ちよい。そしてなにより、360度見渡せるこの視界、なんて素晴しい!機体下面から敵機が来るという心配をしなくていい!

 

 そして、次は高度を取り、そこから一撃離脱のイメージを行う。一撃離脱は、単純に行ってしまえば、ピンポンダッシュだ。高速で相手の死角から侵入し、敵を攻撃。

 撃墜したしないに関わらずに、速力を活かしてそのまま敵から離れ、次の攻撃態勢に入る。

 

 零戦は他の戦闘機に比べ、速度が低い。特に速度が2倍以上違うマスタングなんかに一撃離脱をやられてしまっては、こちらにしてみては、全く手が出る状況ではなくなるのだ。

 ・・・と、話が逸れたが、私は一気に地上へと加速を始める。そして、地上ギリギリを滑空し、ブースタをふかし、一気に上昇。

 

「やっばい楽しいぃいいい!」

 

 それこそ縦横無尽に、思いの通り動くISに、私はハマッてしまっていた。そして乗っていてわかる。確かにこの機動性があれば、零戦に追いついてこれるわけである。

 

 だが、ここにきて少し機体に違和感を感じた。何やら、少々動きが思い通りにならないのだ。限界機動まで操作をしようとすると、自動で安全圏まで戻されるようなイメージである。

 

(はて。なんだろう、この違和感は…?何か制限かけてない?このIS。)

 

 インフィニットストラトスとは便利なものだ。私が違和感を感じ、思考をしていると、ハイパーセンサーの画面上に、

 

「PICマニュアル操作に切り替えますか?Y/N。現在の設定は、自動操縦です。」

 

 との表示が出るではないか。これは!と私は迷うこと無く、マニュアル操作への切り替えを選んだのである。

 

 今、ISブースでは、誰一人、声を上げていない。というのも、小鳥遊彩羽の異常性に、皆声を失っていたのだ。

 

 何せ、「零戦乗り」という肩書はあるものの、インフィニット・ストラトスに関しては、搭乗時間0の、ただの中学生である。そんな彼女が、あれよあれよというまに空中で自由自在にISを動かしているのだ。

空中で自由自在にISを動かしているのだ。

 

 おそらく、小鳥遊彩羽は自分の零戦の軌道を描いているだけなのであろう。インメルマン、スプリットS、左ねじり込み、一撃離脱。だが、この動きは、IS初心者がしていい動きではない。

 

「小鳥遊彩羽。やはりISに乗せたのは正しかったようだな。」

 

 その動きは、千冬ですら見とれる軌道である。だが、オペレーターの次の言葉で、千冬の表情が一変する。

 

「…原因不明ですが、零式21型のPICがマニュアルに切り替えられました。」

 

「なにっ…!?」

 

 PICマニュアル操作。この言葉が意味するのは、機体操作に繊細な技術が必要になった、ということだ。

 しかも、空を高速で飛行中に切り替わってしまえば、それこそ、国家代表候補生レベルの操縦技術がなければ、どう足掻いても墜落してしまう。

 それを裏付けるかのように、小鳥遊彩羽操る零式21型はふらりと、空中でバランスを崩しかけていた。

 

「山田君!いろはの機体のPICがマニュアルに入った!墜落の可能性がある、フォローしろ!」

 

 千冬が大声で山田に指示を飛ばし、山田は瞬間加速を使いながら、小鳥遊彩羽のフォローに入ろうとした。が、その時である。

 

 バランスを崩そうとしていた小鳥遊彩羽の機体が、とんでもない軌道を描きながらも、空を再度舞い始めたのだ。

 

 ロールしながらの鋭いインメルマン。装甲に雲を引きながらのハイ・ヨー・ヨー。そして、その姿に困惑し、直線軌道を獲る山田のISを中心に、ぐるぐると回るコーク・スクリュー。

 

 更に言えば、それらの技を決めながら

 

『いやっほおおおおおおおおおお!』

 

 と、彼女の歓喜の叫び声が時折聞こえていた。

 

 織斑千冬は、空中で描かれる非常識な光景を見ながら、苦笑を浮かべつつ口を開く。

 

「初めて乗ったISを、マニュアル操作であそこまで動かすか。あの操縦技術は…。才能…という言葉では片付けられないな。天災、とでも言うべきか。あれは。」

 

 その視線の先では、未だ、喜びの声を上げながら、空中を縦横無尽に飛び回る、小鳥遊彩羽操るISの姿があった。




妄想捗りました。

小鳥遊彩羽「空気持ちえぇ!もっと翔ぶ!もっと翔ぶ!」


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零戦と零式

初めてISに搭乗した小鳥遊彩羽は、
初心者にして、上級者でも難しいとされる
PICマニュアル操作で空を自由に舞った。

もちろん、そんな彼女をIS関係者が見逃すはずもない。


 私が空から戻ってきた時、ISのブースではとんでもないことが起きていた。なんと、織斑千冬、山田真耶、そして、三菱重工の担当者が、私を三菱重工の専任パイロットとして雇うという話をしていたのだ。

 

「彼女ほどの人材を放っておくのは勿体ないと思います。確か三菱重工では、まだ零式21型の専任パイロットは決まっていないのですよね?」

 

「えぇ、ですから今回の展示飛行は織斑さんに依頼したのですが・・・。いやはや、才能とはどこに埋もれているのか、判らんものです。」

 

「私から見ても、彼女ほどの人材は早々いるもんじゃありません。しかも、PICマニュアル操作でいきなりあそこまで動くなんて・・・。才能の塊といいますか、あれは異常と言えます。」

 

「・・・確かに。我が社のテストパイロットでも、あそこまでの動きをする人はいませんでしたからね。ということで小鳥遊彩羽さん、零の専任パイロットになりませんか?」

 

 というか、現段階でも、零戦21型の専任パイロットではあるからして、立場としては別に変わらないのだが、という意思表示をしておくこととする。

 

「小鳥遊家として毎度、三菱重工様にはお世話になっております。・・・して、専任パイロットとはどういうことでしょうか? 私はすでに、零式艦上戦闘機21型のパイロットなのですが。」

 

「インフィニットストラトスのほうです。搭乗時間0であれだけ動ける人材は見たことがない。わが社から、零式21型を専用機として支給いたしますので、どうか専任パイロットになってくださいませんか。」

 

 私が三菱重工の責任者らしき人物に問いかけたところ、どうやら、零式艦上専用機のほうではなく、インフィニットストラトスの専任パイロットということらしい。

 なるほど、確かにこのISを支給していただけるのであれば、私にとっては願ったりかなったりだ。

 

 何せ、今日はまだまだISに触れて、初めての日である。まだまだ思い通りには動いてくれていないのだ。思い通りに動かせるまで思う存分乗ることができるとなれば、それこそ、空を駆け巡りたい私にとって、最高の事態である。

 

 だが、ここで私の中に、懸念が一つ生まれた。

 

「専任パイロット、非常に魅力的です。ですが、その場合、零戦に乗る時間が少なくならないでしょうか?もし、零戦保存の活動に支障が出るようであれば、お断りしなくてはならないのですが・・・。」

 

 そう、私の本職は、あくまで「零戦の動態保存・展示飛行」である。ISの専任パイロットとしての副業に時間を割きすぎて、本職に影響をかける、なんて事態は避けたいのである。

 

 ・・・ISは非常に魅力的ではあるが。本職をおろそかにしてまで、乗ることは私のプライドが許さない。

 

「それは・・・問題ありません。基本的には小鳥遊家の仕事を優先して下さい。その合間、その合間で構いませんので、ISに搭乗していただければ構いませんので・・・。」

 

「そういうことであれば、私もISには乗りたいので前向きに検討したいと思います。ですが、父と母の意向もありますし、何より、小鳥遊家としての意向があります。一度、持ち帰っても構いませんか?」

 

「はい。小鳥遊家として返答を出していただきまして後日、搭乗するにしても、しないにしても、連絡をいただければ問題ありません。」

 

「判りました。それにしても、ISとは凄いですね。自由自在に空を飛べるんですもん。零戦も好きですが、ISもまた違う魅力にあふれています。」

 

 私がそういうと、今まで黙っていた千冬が、私を見ながらゆっくりと口を開き始めた。

 

「いろはよ。お前のIS操縦技術は勿体ないほどに天才的だ。三菱重工の話は、悪くないぞ。出来ればでいい。ISに乗ってやってくれ。」

 

「えぇ、私もそのつもりです。チフユ。」

 

 私がそういうと、三菱の担当者と、織村千冬は、笑顔で頷いていた。

 

 

 午後3時。

 展示飛行のため、私は再度、零式艦上戦闘機21型のコックピットに座っている。

 

「それにしても、インフィニット・ストラトス、良かったなぁ。あの空を自由自在に飛べる感覚。癖になるなぁ。」

 

 IS独特の浮遊感、飛行感、そして機敏な動き。戦闘機である零戦とはまた違う、空を泳ぐ感覚。

 

「零戦は零戦で、Gを感じたり、自分で思い通りに空を泳げた時の気持ちよさはあるんだけどなぁ。」

 

 特に零戦で雲を引けたときなどは、最高の気分である。背中に感じるG、移り変わる景色、エンジンの駆動音。どれをとっても、零戦で空を泳ぐのは最高なのだ。

 

 ということを考えていた時である。展示飛行開始時間の、3時10分を時計の針がさしていた。私は余計な考えを、首を振って振り切りながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「ま・・・今はとりあえず、展示飛行に集中しましょうかねぇ。こちら三菱A6M2。東京グランド、滑走路05の離陸位置までの移動許可を求めます。」

 

「東京グランド。三菱A6M2、移動を許可します。誘導路内にほかの機はいません。移動ルートはそちらにお任せ致します。」

 

「三菱A6M2、了解。ではRを進み、E2で旋回、そのままEを進みD2まで向かいます。」

 

 私は、少しだけスロットルを開け、ブレーキをリリースする。すると、零戦は思い描いた通りに、すこしづつ前進しはじめ、連絡路を通りながら、滑走路へと走行を開始する。

 そのさなか、窓の外には、多数の一般の参加者が見えていた。老若男女、多種多様な国籍の人々が、ごった返している。

 

「すごいなぁ。これだけ、みんな兵器に興味があるのかぁ。私の活動冥利につきるなぁ。」

 

 私は彼らを横目に見ながら、カーブではわざと速度を落とし、シャッターチャンスを演出する。

 

 もちろん、彼らもタイミングを逃さない。多数のフラッシュが焚かれ、今の零戦が多数の記録に残っていく。

 

 そして、一部の人々は、機体に向かって手を振ってくる。もちろん、私は手を振り返し、サムズアップまでして見せる。すると、彼らも同じようにサムズアップを返してくれる。

 

「ふふ、誇らしいなぁ。」

 

 そんなことをしながら、機体の発進位置まで付けば、目の前には、ジャンボジェット専用の長大な滑走路が鎮座していた。長さにして約2.5キロ。零戦が飛ぶには長すぎる滑走路だ。

 

 私は早速、管制官へと無線をつなげる。

 

「東京タワー。三菱A6M2、離陸準備完了。」

 

「こちら東京タワー。三菱A6M2、了解。展示飛行を終えたハリケーンが降下中。待機せよ。」

 

「こちら三菱A6M2、待機了解。」

 

 どうやら前の展示飛行の機体がいまだ空に残っているようだ。それであれば、のんびりと待たせていただこうか。

 

「だーれがつーけたかー あらわーしのー なーにもはーじなーい このちーからー」

 

 私が前世で好きだった荒鷲の歌を口ずさむ。加藤隼戦闘隊ほど有名な歌ではないものの、零戦乗りの私からすれば、大好きな歌である。

 

「・・・なんきんぐーらいはひとまーたぎー。ぶんぶんあらわしー ぶんととーぶぞー」

 

 あらわし、これは、漢字で書けば荒鷲である。この荒鷲というのは、「零戦」を表しているのだ。つまりこれは、零戦の歌でもあるのだ。

 

「つーばさーにひーのまーる のーりくーみはー やーまとだましいの もーちぬーしだー。」

 

 当時もこうして、訓練を共にした仲間とよく歌ったものだ。目を閉じれば、あの頃の光景が、蘇るようである。

 

「・・・ぷーろぺーらばーかりかー うでもーなーるー ぶんぶんあーらわーし ぶんととーぶぞー!」

 

 そして気付けば、4番まですべて歌いきってしまっていた。それでもまだ離陸許可が出ない。上空のハリケーンは、いったい何をやっているのだろうか?

 

 

 小鳥遊彩羽の母親と、父親は、展示飛行のために動き出した、愛娘の乗る零戦を見つめながら、少しだけ笑みを浮かべていた。

 

「お父さん。あの子が、ISをやりたいと言うなんてねぇ・・・。」

 

「そうだなぁ。ISとは思わなかったなぁ。」

 

「『すごく楽しい。すごく乗りたい。』・・・あの子、初めて私達に、我儘を言ってくれたわ。」

 

「あぁ、そうだなぁ。いままで、何一つ我儘を言ってくれなかったからなぁ。 欲しいものがあるかと言っても、『零戦に乗れていればそれでいいです。』との一点張りだったものなぁ・・・。」

 

 小鳥遊夫婦は、先ほどまで零戦のブースにいた、愛娘の必死な表情を思い出していた。

 

---その、その、さっきISを触らせていただきまして。・・・あ、いえ、その、零戦が嫌というわけではなくて。

 その、触って、動かしていたらパイロットにならないかと誘われまして。やってみたいなと・・・。あ、いえ!零戦も素晴らしいんですが、ISも乗りたいんです。

 その、ええと、すごく楽しかったんです。あ、いえ、零戦も乗ってて楽しいんですが、それとはまた違う楽しみといいますか。小鳥遊の家の責務を果たしますので、ISに乗る事を許可していただきたいんです。---

 

---判ったわ。考えておきます。まずは、今日の展示飛行をキチンと飛びなさい。---

 

 

---はい!---

 

 小鳥遊夫婦はお互いに顔を見合わせると小さく、笑みを浮かべる。

 

「それで、お父さん。どうしましょうか。」

 

「んー、そうだなぁ。別に零戦21型は私も乗れるしなぁ。ただ、彩羽ほどうまくはないのがなぁ・・・。」

 

 父親は首をかしげていた。そう、彩羽ほど、零戦21型を扱える人間は、今のところ小鳥遊家にはいないのだ。もちろんそれは、母親も例外ではない。

 

「あら、奇遇ですね。私も彩羽ほどはうまくはないんです。」

 

「そうかー、それなら、零戦21型で練習しなくちゃなぁ。」

 

「そうですね。私もいまだ小鳥遊家の現役パイロットですから。でも、そうなると、彩羽の乗る機体がなくなってしまいます。」

 

「そうかぁ。それなら、私たちの練度が上がるまで、彩羽は零戦に乗らずに、赤とんぼにでも乗っていてもらうかなぁ?」

 

「それは反対です。お父さん。赤とんぼでは彩羽が可哀想すぎます。せめて、零戦並みの機動力を備えたものに乗せないと。」

 

「そうか、そうだよなぁ。それならば、いつになるかは判らないが、インフィニット・ストラトスでしばらくの間、空を飛んでいてもらおうかなぁ。どうかな、母さん。」

 

「ふふ、お父さん、いい案ですね。賛成です。」

 

 小鳥遊夫婦はお互いに顔を見合わせると、小さく、笑みを浮かべる。

 

「---うん。彩羽の好きなようにさせてやろうかぁ。」

 

「ええ。そうですね。」

 

 そして、それと時を同じくして、ようやく離陸許可の下りた彩羽の零戦21型が、展示飛行のために、空に舞い上がったのである。

 

 

 展示飛行から戻った私は、今、ISのブースで、両親、千冬、三菱の担当者と共に、コーヒーを飲んでいた。

 

「我々小鳥遊家としては、彩羽がISに乗ることに対して、まったくもって異議は唱えません。」

 

 私としてはまさかの展開である。全力で反対されるかと思ったISの専属パイロットの話が、なぜかとんとん拍子で、進んでしまっているのだ。

 

「なるほど、家元様がそういうのであれば、あとはご本人様の、彩羽様のご承諾をいただければ、彩羽様を零式21型の専属パイロットとしても問題ない、という解釈でよろしいでしょうか?」

 

「えぇ。その考えで相違ないです。何より、これから私と妻が零戦21型の鍛錬を行わねばならんのです。鍛錬が終わるまでは、彩羽の乗る機体がありませんからね。彩羽が空を飛べない間、代わりの翼としてインフィニットストラトスがあるというのは、我々小鳥遊家としても、非常に都合がよい事なのです。」

 

 な・・・今なんといった、お父さん!零戦21型に私が乗れない・・・だと!大切な話し合いの場だけれど、私は父に、食って掛かる。

 

「えっ、お父さん。それ私聞いてない。零戦21型、私、乗りたいんだけど・・・。」

 

「何、先ほどまでのお前の飛行を見ていてな。我々も鍛錬をしなければと思ったのだ。時折乗るのは良いが、今まで通りには乗れないと思ってくれ。」

 

 そして、父は私に顔を寄せると、小さな声で、ささやいた。

 

「それに、お前はISに乗りたいのだろう?こうでも理由づけしなければ、身内が納得しないんだよ。何、好きなだけISに乗って、飽きたら戻ってくればいい。そうすれば、すぐにでも零戦21型はお前に返すさ。」

 

 私は驚いた。

 普段は、小鳥遊家の職務に従順な父である。基本的には小鳥遊家はプライベートよりも公務である零戦の保存を重視する。

 前世から生粋の零戦乗りである私としては、全く問題ないのであるが、身内がプライベートな理由で零戦のメンテナンスを怠ろうものなら、鬼のような怒号が飛び、数日間は缶詰にさせられるのだ。

 

 そんな父から、私を気遣う言葉がでるなどとは、ISに乗っていいなどという言葉がでるなんて、全く予想をしていなかったのである。

 

「ホントにいいの?」

 

 私は父と同じように小さなささやきを父に返していた。すると、父は私から顔を離すと、小さく頷く。

 

「と、もうしわけない。少々話が脱線しましたが、あとはこの彩羽の意向次第です。」

 

 父はそういうと、私に視線を向けていた。母も同様だ。笑みを浮かべながら、頷いている。

 

「どうしますか?彩羽。零戦には乗せられませんので、赤とんぼに乗るか。はたまた、零戦が空くまで、三菱さんのISのお世話になるか。あなた次第です。」

 

「・・・それなら、私は・・・。」

 

 私は父と母の顔を交互に見ながら、決意を固める。そして、三菱の担当者に、右手を差し出していた。

 

「よろしく、お願い致します。」

 

「心得ました。三菱重工。心血を注いだ零式21型を、小鳥遊彩羽様に、お預け致します。」

 

 三菱の担当者は、私の右手を、固く握る。

 

「はい・・・!一生懸命、がんばります!」

 

 私は固く握られた右手を感じながらも、ブース内に鎮座しているIS、零式21型を見つめる。

 

「短い間だとは思うけど、これからよろしくね、私の、新しい翼。」

 

そう小さく呟いた時、零式21型が少しだけ、輝いた気がした。




妄想捗りました。

小鳥遊彩羽、順当に専用機ゲット。
代わりに、零戦の搭乗時間激減。トレードオフ。


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マニュアル

小鳥遊彩羽は、新しい羽である
インフィニット・ストラトスを手に入れる。

その名を「零式 21型」。
小鳥遊彩羽は、この新しいツバサを以って
これから、自分の物語を、進めていく事となる。


 数日前に行われた、羽田空港での展示飛行を終えた私は、三菱重工の宿舎で、インフィニット・ストラトスについての基礎知識のマニュアルを、熟読していた。

 

 なぜ私が三菱重工の宿舎にいるのか、といえば、今私は、三菱重工社製、「零式21型」の専任パイロットとして、正式に契約を交わしたからである。

 本来であれば、宿舎なんかでマニュアルを読まずに、データ取りや試験飛行を行わなくてはならない、らしいのだが織斑千冬曰く、

 

「いろはは操縦技術については申し分ない。だから今は、基礎知識を叩き込んでおけ。」

 

 とのことで、私は今、目の前の資料達と、格闘をしているのだ。

 

 まず、目の前にあるIS基礎知識マニュアル。すでにこれだけで、電話帳数冊分の分厚さである。

 そして、ちらりと横に視線を向ければ、「IS法令集」「IS規則」「IS整備マニュアル」「IS法令集改定版」「三菱重工IS心得」「専任パイロット規則・心得」などなど・・・。 それこそ、電話帳・広辞苑、そんなレベルの書物がゴロゴロと部屋中に転がっていた。

 

「・・・赤とんぼ飛ばした時ですら、こんなに教本というか・・・、憶えることはなかったよなぁ。」

 

 私はそうぼやきながらも、右手にはシャープペンを持ち、左手で広辞苑のようなマニュアルをめくりながら、知識を詰め込む。

 そういえば、今世に生まれ変わってからというもの、技術の進歩には驚かされ放しである。このシャープペンシル一つをとってもそうだ。ペンの尻を押しこむだけで、同じ太さの芯が飛び出すのだ。

 鉛筆のように、ナイフで芯を削りださずとも、筆記を続けられるというのは革新的すぎるであろう。手をナイフで切ってしまう心配もない。

 更に、こちらの消しゴムも性能が良い。以前私が使っていた製品は、多少なりとも黒く文字が残ってしまっていた。だが、この消しゴムはどうであろう。わずか100円の価格にして、少しこすればシャープペンシルで描いた文字が完全に消えるのだ。

 

 世の中、本当に便利に、快適になったものだ。

 

 いけないいけない。思考が逸れた。今は一秒たりとも時間を無駄には出来ないのだ。

 

「ぬぅ。ぴー・あい・しー・・・。ぱっしぶいんなーきゃんせらー・・・? インフィニット・ストラトスの基本骨子を構成するシステム?」

 

 どこかで見たような言葉だなぁ、と思った時、展示飛行で乗った時の光景が、思い出された。

 確か、あれは展示飛行中に、どうもISの動きがおかしい、と思った時のことだ。「PICマニュアル操作への切り替えを行いますか?」と、確かハイパーセンサーに表示されていたはずだ。

 

「そういえば、PICマニュアル操作ってどういう意味なんだろうなぁ?」

 

 私はPICの項目を、よく熟読する。PICとは慣性を・・・・云々。重力を無視した機動が・・・云々。

 

「お、この項目かな?ええと、なになに。『ISの基本設定においては、姿勢制御、加速、停止を制御するPIC、連動するブースターや推進翼は、制御が難しいため、自動操縦となっている。

 PIC及び連動する装置をマニュアルで操作すれば、より鋭い動きが可能になるが、PIC、ブースター、推進翼、全て意識しながら操作しなければならないため、熟練者でなければ操作は難しい。』」

 

 項目を読みながら、私は首をかしげていた。確か私は、PICをマニュアルにしますか?と表示された時、YES、つまりはPICをマニュアルに変更したはずだ。

 

「むぅ・・?マニュアル操作は難しい?そうだっけなぁ・・・?」

 

 PICがマニュアルに設定されていた零式は、本来コントロールが難しい状態であったはずである。だが、私は、このPICマニュアルの設定で、最初こそバランスを崩したものの、結構自由に空を舞ったはずだ。

 

「うん、今思い出しても、やっぱりISは最高だったなぁ・・・。」

 

 私はそう呟きながらも、我ながらとんでもないことを、行ったのではないのかなーと思い始めていた。

 

 状況を整理しつつ、客観的に私の行動を見てみよう。

 

 私は搭乗時間0、正真正銘のIS初心者である。

 

 普通であれば、歩行訓練や武装訓練といった地上での訓練を十二分に行い、その後、PICオートで、空をゆっくりと舞いながら、ISを操る感覚を体に叩き込んでいくのであろう。

 そんな初心者が、いきなり空を飛び、様々な空中機動を描いたわけだ。更に、その最中にPICをマニュアルに切り替えて、これまた様々な空中機動を描きながら、空を縦横無尽に動き回っていた。

 

 つまりこれは、私の前世の時代で言えば、赤とんぼ、つまり訓練機にも載っていない入隊仕立てのペーペーが、零戦のコックピットに座らせた瞬間、普通に零戦を離陸させるどころか、あまつさえ戦闘機動を描き、さらに空母への着艦もしてしまった、という感じであろうか。そんな馬鹿な。

 

 だが、そう考えれば、展示飛行から戻った時に、千冬達が私を見て、若干引いていた事には納得がいく。

 

「なるほど、私は、彼女たちIS乗りにとって、全く『あり得ない』存在なわけなんかぁ・・・。」

 

 本来であれば血の滲むような訓練を、数ヶ月、それこそ数年行い、初めて出来るような事を、私は僅か数時間で全てこなしてしまったのだ。これを異常と言わず、何という。

 私は資料を読み進めながら、頭をポリポリと書いていた。これは、非常にめんどくさいことになりそうである。

 

「とはいっても、まぁ、前世の零戦の経験で、空中機動は得意ではあるし・・・。なにより、電気補助のない零戦からしてみれば、マニュアル操作といいつつ、全周視点・水平維持・生命維持とかの機能がついてるISって、私にとっちゃ、簡単すぎるっちゃ、簡単すぎるんだよなぁ。」

 

 言い訳じみた事を呟きながら、私は次のページヘと手を伸ばす。すると、PICマニュアル操作について、こんな補足が付けられていた。

 

『PICマニュアル操作には、高い操縦技術と高い三次元把握能力、そして、洗練されたイメージが必要となる。だが、逆を言えば、基本操作が行え、空を翔ぶイメージが十分に自分の中で練れていて、極めて高い三次元把握能力を備えていれば、搭乗時間が少なくともPICマニュアル操作は十分に可能である。』と。

 

 なるほど、確かにそれならば、戦闘機動を頭のなかで描ける私にとっては、マニュアル操作はラクなのかもしれない。

 

 ・・・さて、それはそうとしておいて。

 

 まずはこの、目の前に積み上がった分厚い教本を片さなければ。確かに私はIS乗りとしては異常なのだろうが、ISの知識は全く無い。これは非常にまずい状況なのだ。空中にあるときだけ好きに動いて、機体の知識が無いということは、空を飛ぶ者としては最大の恥である。

 

 気合を入れねば。

 

 私は顔をピシャリと叩く。そして、教本のページを改めてめくり始めたのである。

 

◆ 

 

 日本の重工業を支える一つの企業である、三菱重工。

 

 過去、零式艦上戦闘機を始めとした航空機から大型の軍艦、戦車などを設計、建造し、歴史に残る多数の兵器を作り上げた日本最大の機械メーカーである。ISの登場により、兵器の概念が変化した今現在でも、日本最大の機械メーカーであることは変わらない。

 いくらISが優秀でも、数が限られている限り、ある程度は現存の兵器を揃えなければならないのだ。

 

 一部の女性活動家などは「ISがあれば戦力は大丈夫」などと戯言を抜かしているが、所詮は戦いは数である。

 そして何より、ISの兵器としての有用性に注目が行き過ぎて誰も彼もが忘れているが、本来はISは「宇宙開発」の道具なのだ。

 

 さて、話が少しズレたが、宇宙開発の分野においても三菱重工は多数の功績を納めていた。特に、H2-Aを始めとした宇宙開発用のロケットは、JAXAと共に、三菱重工が設計、製造を担当しているのだ。

 そんな彼らが、ISのコアを持ち、開発した時、果たしてそれは、兵器になりうるのか。

 

「零式であれだけ空を飛んでくれるとは。しかも、マニュアル操作で稼働率8割を叩き出している。小鳥遊彩羽、彼女とならば・・・・。」

 

 IS研究室で一人呟く男性。そして、目の前にあるパソコンには、小鳥遊彩羽のIS稼働データが表示されていた。

 

『彼女となら、確かに宇宙を目指せるかも。ふふふふ。これは私も気合をいれないとねー。』

 

 そして、そのパソコンの小窓には、通信用の窓が開かれていた。

 

『いきなりISに乗って稼働率8割なんて、ちーちゃんよりもすごいもん。正直、こんな人間はあり得ない。本来なら、細胞単位で解剖したいんだけどー・・・。』

 

「それは勘弁して頂きたい。彼女は我が社のテストパイロットであり、希望です。我々は彼女を通して、ISを本来の目的へと、戻す。貴女と利害が一致しているからこそ、我々は貴女を援助するのです。」

 

『わかってるってー。冗談だよ、冗談。・・・小鳥遊彩羽、そうだなぁー。いーちゃんじゃいっくんとかぶるしー。たっちゃん、そう、たっちゃんって呼ぼう!ふふふ、たっちゃん。君は、これから、どんな羽を私に。私達に見せてくれるのかなー?』

 

「そうですね。それに、彼女はI()S()()()()()()()()()()()()節があります。正しいISの姿である、空を翔ぶ道具として、見ているようなのです。彼女はこのまま進んでくれれば、我々を宇宙に導く羽になるでしょう。それではそろそろ。彼女のデータ取りがありますので。また後ほど。

 篠ノ之束博士。」

 

『わかったー。じゃっ。データ、すぐにまた送ってねー。』

 

 通信用の小窓が閉じる。

 そして、研究員は流れ作業で、小鳥遊彩羽の稼働データを保存すると、パソコンの電源を切り、小鳥遊彩羽が待つ、アリーナへと足を向ける。

 

 小鳥遊彩羽。彼女の知らない所で、彼女の処遇は決まり始めていた。

 

 三菱重工と篠ノ之束。

 小鳥遊彩羽を通して、彼ら、彼女らは、ISの本来の目的である宇宙開発を目指し始めているのかもしれない。

 

 

「いやっふぅううう!」

 

 ここは、三菱重工の試験アリーナだ。

 

---勉学だけでは辛いでしょう。ISのデータ取りをお願いしたいんですがね。---

 

 という、研究員の計らいで、私はISを操りながら空中を自由自在に舞っていた。

 

(気持ちいいなぁ!やっぱり、空はいいなぁ!)

 

 もちろん、PICマニュアル操作である。左手のレバーで出力、右手のレバーで制動である。それに加えて、空を舞うイメージをしっかりと持つ。

 

 高空から一気にスラスターを噴かしながら低空に落下。そして、補助翼を動かしつつ、スラスターを偏向させ、地面に触れるか触れないかの所を最高速で駆け抜ける。

 

 ハイパーセンサーには地面との距離も表示される。今現在は10センチだ。できればこれを半分にまでは持って行きたい。

 

 私はそう思いながら、今度は一気に上昇するイメージを持つ。そして出力を最大に、制動レバーも一気に引き起こす。・・・と、ただ上昇するだけでは詰まらない。これは早速、先ほど教えていただいた技を実践しようではないか。

 

 確か、やり方は・・・・・。後部のスラスターからエネルギーを放出して、だ。でそれを・・・取り込む?難しいな。むむ。イメージすら難しい。

 

(確か、背中を一気に押されて加速する感覚と言っていたな・・・?・・・あれか?もしかして、新米の頃に前世で一度だけ加賀で体験した、蒸気式離陸装置みたいなものか?)

 

 確かに蒸気式離陸装置は、エンジン出力だけでは出せない加速度と共に、離陸速度まで達せたが、あの加速度は正直慣れたものではない。それにアノ時は結局、射出の勢いに耐えられずに、乗っていた95式艦戦がバラバラになったのだ。今思いだしても、我ながら、良く生きていたものだなぁ・・・。

 

 ・・・まあいい!とりあえずは実践だ!アレ(加賀の蒸気式離陸装置)と違って、失敗しても怪我もしなければ死にもせん!

 

「ままよっ・・・!」

 

 小さく叫ぶと、蒸気式離陸装置で押し出された感覚をイメージする。通常のスラスターを噴きながら、同時にスラスターから余剰エネルギーを放出、そして余剰エネルギーを再度吸収し、圧縮する。

 

(これはなかなか・・・!難しいっ!)

 

 地面すれすれを飛びながら、エネルギー管理を行いながらも、自分の行き先を見る。なかなかにこれは難易度の高い技だ。左手の出力レバーを細かく操作せねば、おそらくは直に墜落してしまうだろう。

 

 だが、そのかいあってか、スラスターには十分すぎるエネルギーが蓄積されたようである。・・・一瞬、脳裏にはバラバラになった機体と、投げ出される私の姿が思い浮かんだ。

 

(違う。ここは加賀ではない。蒸気式離陸装置なんてない。私が乗るのは人類の英知たるISだ。大丈夫だ。)

 

 そう、ここまできて、この技をやらないわけにはいかない。ISの性能を、最大限に引っ張りだすのだ。

 

「死なばもろともぉ!」

 

 私はそう叫ぶと、溜まりに溜まったエネルギーを、一気に放出させる。すると、前世で感じた、蒸気式離陸装置以上の力を背中に感じながら、インフィニット・ストラトス「零式21型」は、文字通り天高く舞い上がったのである。

 

 

 空を舞う小鳥遊彩羽を見ながら、三菱重工の社員は、言葉を無くしていた。

 

 それはもちろん、初心者であるにもかかわらず、PICマニュアル操作で、空を自由自在に飛んでいる非常識な少女の仕業だ。

 更に彼女は、地面すれすれの、熟練者ですら制動が難しい飛行を行いながら、零式21型が出せる最大速度の瞬間加速を行ったのだ。

 

「・・・彼女、化け物ですね。」

 

「あぁ、しかも見てみろ。このデータを。」

 

 研究員達は、モニターに表示されている小鳥遊彩羽のパーソナルデータを覗き込む。

 

「信じがたいが、彼女は零式21型の性能をほぼ引き出し尽くしている。最高速度、制動距離、加速度、旋回半径、馬力、全てにおいてだ。更に、瞬間加速に関してはその性能の10割を引き出しているんだ。彼女のIS乗りとしての適性は、底が知れない。」

 

---只し、非武装の上、対戦相手もいないから、参考値だけどね。---

 

と、研究員は続けるものの、その目は好奇心で満ち溢れていた。

 

「チーフ、一つ聞き忘れていました。彼女のIS適性は?」

 

「あぁ、そういえば伝え忘れていましたか。簡易的なところですが、彼女の適性は『測定不能』です。後日詳細な検査をしますが、ま、「適性がなさすぎる」か、「適性がありすぎる」のどちらかですね。」

 

 チーフと呼ばれた研究員は、飄々と答えながらも、空を翔ぶ小鳥遊彩羽を見つめ続けていた。




小鳥遊彩羽の全く知らないところで進行する計画。

そして、当の本人は気にせずに空を舞う。
この少女、やっぱり空が好き。


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空飛べ兎

小鳥遊彩羽は、ISを手に入れてから、毎日のように
IS「零式21型」で空を舞っていた。

朝起きてIS、昼間は学校、そして夜にIS。
IS漬けの生活を送っていた彼女であるが、彼女の元に、一人の兎が訪れる。


 私はISスーツに着替え、三菱の研究室の奥深くの部屋に詰めていた。というのも、今日はISの適性検査を行うらしい。正確に言えば、精密判定、という奴らしい。

 

 というのも、どうやら私の適性は簡易測定器だと測定不能になってしまうようなのだ。理由を聞いてみれば「通常の簡易測定は様々な数値を総合してSまでの判定を出しているため、その規定数値外の場合は、判定ができなくなる。」とのことであった。

 

 つまるところ、私は簡易測定器で測れないほど数値が低いのか、それとも逆で数値が高すぎる、ということらしいのだ。

 

 ・・・希望としてはもちろん、数値が高すぎる方を望みたい。適正というのは、どの世界でもあればあるほどに越したことはないのだ。

 たとえばそれは、零戦などの戦闘機も同じである。例えば空戦に必要である、三次元把握能力は、人によって得手不得手があるのだ。私はどちらかと言うと三次元の把握については、得意な方である。相手がここにいるから、こう動く。それ故に零戦はこう動けば、相手の後ろをとれる。ということを常人よりは早く判断できるのだ。

 話がそれてしまったが、つまりはIS適正とはそういうものなのであろう。ISを操る上において、ISの動きをイメージできるのか、空中機動が上手くイメージ出来るのか。意志があると言われるISコアとの同調が出来るのか。そのような、「IS乗りとしての基本的な才能」があるかどうかを見極めるのが、この適性検査なのであろう。

 

 ちなみにではあるが、あの織斑千冬は、世界で唯一のSであると付け加えておく。

 

 そう、ということは、もしここでS以上の数値でIS適性があると判明した場合は、非常に、非常にめんどくさいことになりそうなのだ。IS適性があることは良いが、ありすぎると、間違いなくめんどくさくなる。織斑千冬より適正が高い奴、なんて肩書は、絶対にめんどくさいことを引き寄せる肩書だ。実に、痛し痒し、だ。

 

「彩羽さん。準備が整いました。測定器の中へお願いします。」

 

 そんなことを考えていると、スピーカーからアナウンスが流れてきていた。私はゆっくりと測定器へと、歩みを進める。そして、所定の位置に経つと、目を瞑り、測定が終わるのを只々待つのであった。

 

 

 測定器の中で静かに、かつ美しい姿勢で直立する小鳥遊彩羽を眺めながら、研究員達は次々と試験項目をクリアしていく。

 

「コアとの同調性・・・クリア。筋肉量・・・クリア。電気的適正・・・クリア。」

 

 何百という項目を、一つ一つクリアしていきながらも、研究員達は、小鳥遊彩羽の異常さに、少しづつ気づき始めていた。

 

「・・・・クリア。チーフ、小鳥遊彩羽は何者でしょうか?数値を見てください。」

 

「うん?小鳥遊彩羽が異常なのは、空中機動を見ていれば判るでしょう。今更何を驚くことが・・・・。」

 

 チーフと呼ばれた研究員は、小鳥遊彩羽の叩き出す数値を見て、驚愕の表情を浮かべていた。ナゼかといえば、その数値は、国家代表候補生と呼ばれる、比較的IS適性が高い搭乗者の数倍の数値を叩き出していたからだ。

 

「・・・ふむ、異常ですね。数値の上でも彼女は、普通のIS乗りとは違う、というわけですか。・・・とりあえず、この数値に関しては、彼女には伝えますが、外部には公表しないように。無駄な火種が増えます。」

 

「はい。もちろんです。」

 

 研究員一同、画面を食い入るように見つめながら、頷いていた。そのさなかも、各種試験項目の数値で、常人の数倍と言える数値が、画面には表示されていくのであった。

 

 

「・・・ということで、小鳥遊彩羽さん。貴女は一言で言えば、異常です。」

 

 真面目顔なチーフに、正面切って異常ですと言われた私はどうすればいいのだろうか。確かに、説明を効く限りでは、私は異常である。ある意味望んだ通りではあるが、それにしたって、常人の数倍の数値とは。

 

「特に電気的適正とISコアとの同調率が異常ですね。例えて言うならば・・・・」

 

 チーフは少しだけ間を置くと、私の目を見つめながら、ゆっくりと口を開く。

 

「・・・まるで、2人の人間がISを操っている。といったところでしょうかね。」

 

 少しだけドキッとした。2人の人間がISを操っている。確かに、間違いではない。現世の私「小鳥遊彩羽」と、前世の「零戦乗りの男」としての私。人生を2回繰り返している私は、確かに「2人の人間」と言えなくもない。

 

「まぁ、そんなことは現実にはあり得ないのですがね。ま、小鳥遊彩羽さん。このことは社内でも極秘扱いです。貴女のIS適性が世に出てしまえば、貴女は良くてモルモット扱いでしょう。まぁ、その場合は食い扶持には困らないでしょうが。」

 

 チーフはそう言いながら、肩をすくめていた。

 

「怖いことを言いますね。それにしても・・・説明を聞く限り、今まではなかった数値なんですか?」

 

「えぇ。今まで一度もありませんでした。かの織斑千冬ですら、常人の1.5倍から2倍のIS適正ですから。それを考えると、やはり貴女は異常です。小鳥遊彩羽さん。」

 

「そうですか。ううん、嬉しいやらなんやら・・・。」

 

「喜んで良いと思いますよ。少なくともISに乗る上では、最高の資質を持っているわけですからね。ま、あなたの体の護衛を含めたサポートは我ら三菱が全力でさせていただきますので、ご安心を。」

 

 チーフはそう言うと、笑みを浮かべていた。そして、そのまま矢継ぎ早に、口を開いたのだ。

 

「・・・あぁ、そうだ一つ忘れていました。この後、小鳥遊彩羽さんには、とある人物と会っていただきます。それまでは、零式でテスト飛行をよろしくお願いいたしますね。」

 

 

 

 さて、今この状況を一言で言い表すならば、「どうしてこうなった」である。状況を整理すれば、まずここは三菱重工のISのテストルームだ。

 適性測定が終了した後、あいも変わらず、テストルームで空を舞っていた。良いデータが取れたのか、研究員さんたちも、笑顔を浮かべていたのだ。よし、このままのんびりと空を飛んでいようと意気込んでいたのだ。 

 ・・・だが、そこでチーフが、私を個室に呼び出したのである。・・・ある人が来たので、来てくれ、と。機体のカスタムについて話がある、と。そう、ここまではよかった。

 

「たっちゃん!どう!?私に専用機を任せてみない!?」

 

「・・・私の一存で決めることではないと思うのですが・・。」

 

 そして、なぜかわからないが、私は今、ISの開発者である束さんと1対1で会話をしてしまっているのだ。もう一度言わせてもらおう。「どうしてこうなった?」。

 

「いーのいーの!三菱重工は私と協力関係にあるから!それに、たっちゃんだって、今の零式21型の性能じゃ満足できなくなってるんじゃないのかなぁー?」

 

 この束さんは、非常に人間離れをしている。頭脳明晰、文武両道、才色兼備。ただし非常識。会話している今でも、なかなかに良い体臭が鼻を突いてくる。 

 そして、このように、私の思っていたことを、的確に言い当ててくるのだ。

 

「・・・確かに、少し物足りなくはあります。」

 

 そう、ISに乗ってはや数週間たった今では、零式21型の速度では満足できなくなっていたのだ。零戦よりも安全性や乗り心地が良いためか、もっと早く、もっと苛烈に、もっと機敏に、動きたいのだ。だが、研究員に相談しても、既に機体の性能を120%引き出している、との返答があるのみであった。

 

「でしょー?さっすが束さん。なんでもわかっちゃうんだから。っていうことで、これからたっちゃんの専用機を私が作ろうと思いまーす!」

 

「・・・これから、ですか?ですが、束さんのお時間を取らせるわけにもいかないですし。」

 

「もー、硬いよたっちゃん。もっと気軽にさぁー!ほら、たっちゃんがほしい性能言ってみて?束さんに遠慮はいらないから、ほら、ほらぁ!」

 

「そうですね・・・それであれば、性能の底上げをしていただきたいです。速度と反応速度が特に希望です。」

 

「なるほどねー。速度重視かぁ。うん。わかったよ!ちゃちゃっとやっちゃうねー!

そうだ、あと!色とかって希望あるかな!?」

 

「・・・・色?ですか。そうですね・・・。」

 

 色、色かぁ。そういえば色なんて考えたことなかったなぁ。零戦といえば乳白色か、それか敵を欺くための深緑色ぐらいしか、なかったもんなぁ・・・。であれば、せっかく色を指定できるのであれば、少し位、派手でもいいか。

 

「それであれば・・・。白を基本として赤色をアクセントにして頂きたいです。」

 

「おっけー!紅白だね!それじゃあ・・・色は今は変えられないから、制御プログラムのアルゴリズムを変更してー・・・・。あっ、そうだ。リミッターもちょっと外してーっと。」

 

 彼女は手元で何かのモニターをいじっているようだ。だが、素人目にはそれが何かは判らない。

 

「・・・・はいっ!出来る限りの調節はやっておいたから!ひとまず今は、ノーマルの零式で我慢してね!本格的な専用機は、パーツを作ってくるから、それを零式に組み込むようにするよ!零式とたっちゃんの相性もいいから、新規で造るよりもきっと良い機体に仕上がるはずだよ!それじゃーまたねたっちゃん!!ばいばい!」

 

 束さんはそういうと、とんでもない速度で走りながら部屋を後ににしていった。・・・本当に彼女は人間だろうか?いまの去る速度も、下手をすれば高速道路を走る車並みだったような気がしないでもない。・・・嵐のような人であった。

 そして、束さんが去ったタイミングで、チーフが顔を出し、私に声をかけていた。

 

「小鳥遊さん、束博士との会談はうまく行ったようですね。」

 

 苦笑いを浮かべつつ、口を開いたチーフ。私も合わせるように、苦笑いを浮かべながら、チーフへと口を開いていた。

 

「・・・うまく行ったのでしょうか?彼女のペースに完全に呑まれていたのですが・・・」

 

 そう、結局は彼女の怒涛のテンションに飲み込まれ、まともな話が出来なかったのである。私はただ、21型じゃ性能が足りない、もっと速度がほしい。色は白と赤で。といっただけである。

 正直、これだけではカスタム、つまりは専用機として成り立つはずがない。私の前世において、零戦の調節を整備員にお願いした時は、それこそレポートで数枚、多い時は数十枚の書類を提出したものだ。低速域でのトルク、ラダーの調節、ロールの速さ、風防の密閉度、無線の感度、操縦桿の遊びなどなど。数えきれるものではない。

 ISとなれば、更にその項目は多いはずである。空力だけではなく、PICや墳式推進装置の調節を、全ての数値を見ながら調節せねば行けないはずだ。それが、存続機体のカスタムとなれば、更に容易ではないはずである。

 

「彼女が零式21型のパーツを作ると、貴女の専用機を作成すると言ったのです。うまく行った、と言っていいと思いますよ?彼女は基本的に、他人に興味がありませんからね。」

 

「ですが・・・。私が言ったのは、21型じゃ性能が足りない、もっと速度がほしい。だけですよ。細かいことは一切伝えられていないんです。」

 

「あぁ・・・それは問題ないでしょう。束博士は、本物の天才です。1の言葉から1万の情報を引き出せる方ですから、心配せずとも望んだ機体が出来上がると思いますよ。」

 

 チーフは自信たっぷりの表情で、言葉を紡いでいた。まぁ、チーフがそういうのであれば、束さんの実力はとんでもないものなのであろう。まさに、肩書通りの天災といったところであろう。

 

「ま、束博士にまかせておけば、間違いはありません。小鳥遊さんは、今までどおりにISを扱って頂ければ大丈夫ですよ。」

 

「ううん、納得いかないような気がしますが、判りました。・・・そういえば、束さんに専用機を作ってもらうというのは、よくあることなのでしょうか?」

 

 チーフはうーん?と、わざとらしく悩んでいた。そして、満面の笑みを作ると、私に向かって、淡々とこう言葉を発したのである。

 

「前例は、織斑千冬のみですね。」

 

 ISが世に出て数年。その製作者が造る専用機。素体は別だとしても、その第二号が私ということか。

 

「・・・そうですか。うん、なんでしょう。がんばります。」

 

「はい、頑張ってください。これから小鳥遊さんには、もっともっと、ISに乗っていただくことになりそうですからね。」

 

 とんでもないことに巻き込まれた感じがするが、ひとまずは今日も零式に乗ってデータを取り、ISの知識を頭に叩きこむこととしよう。日々の積み重ねにより、腕は少しづつ、上達していくのだ。

 

 ・・・そして、一つ心配なのは、零戦乗りに戻れるのであろうかというところである。私のISの能力は、正直抜きん出ていると言わざるをえない。転生した体だからか、はたまた、幼少より零戦に乗っていたからか。どうもこれからは、IS漬けになり、結局IS乗りとして人生を終えるような予感がするのだ。

 まぁ、今から心配しても仕方がない。なるようになるか。

 

 

 ・・・たっちゃんは素晴らしい。

 彼女は、私との会話でも、一切武装の話をしなかった。なによりも。

 

「ISに乗ってみてどうだった!?」

---気持ち良いですねー。自由に空を泳げますから。-----

 

 私のいきなりの無礼とも言える質問に、彼女は笑みを浮かべつつ、こう答えてくれた。彼女は、間違いなくISを正しく見つめてくれている。

 

 それであれば。

 

 ISの母である私は、彼女が天高く飛べる、本物の翼を創らなくちゃ駄目だ。ただ、彼女は零式をスゴク気に入ってくれている。零式のコアも、たっちゃんをすごく気に入っている。たっちゃんを載せた時だけ、コアの反応が目に見えてあがるんだ。

 

 零式の特性を活かして、速度と反応速度を上げる。正直難しいと思う。零式は、私から見ても完成度が高い。その完成度を崩して、彼女の専用機にするために性能を引き上げるからだ。だけど、私はISの開発者「篠ノ之束」。このぐらいのこと、造作も無い。

 

「・・・ふふふ。久しぶりに腕がなるねー!」

 

 さぁ、束さんの渾身の逸品を創りあげちゃおう!自由に空を舞う、彼女のために!




小鳥遊彩羽「なんだかえらいことに巻き込まれたような」
チーフ・研究員「やはり化け物か」
兎さん「気合い、いれるぞぉ!」

妄想捗りました。小鳥遊彩羽と篠ノ之束がお知り合いに。
零式カスタム、始まります。

そして、尋常じゃないIS適正。
前世と今世の魂で、ダブルライダーだ!的イメージです。



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新型零式

小鳥遊彩羽は、束博士が渾身のカスタムを加えた専用機を手に入れる。
後に第三世代、第四世代と呼ばれる技術を搭載されたソレは、果たして、これから小鳥遊彩羽をどのように導いていくのであろうか。


 前世において私の愛機は、常に零戦21型であった。新型機である32型や52型は、まだ練度が低い新米が乗るべきものと、私自身が考えていたからだ。

 

『お前も腕はいいのだから、新型機を申請すればすぐ通るぞ?』

 

『いえ、私は21型で結構です。新型機は新米共に使わせてください。』

 

『・・・そうか、苦労をかける。』

 

 当時の上官の申し訳無さそうな顔を思い出す。ただ、それ以外にも理由はあるのだ。・・・実際問題、戦争後期の日本の生産力では、新型機の信頼性が低かったということも大いに関係していた。大空に飛び立ったはいいが、戦闘中にエンジンが停まったり、操縦桿の操作性が変わったりしては戦闘どころではないのである。

 

「うーん、どうも新型フレームとコアの親和性が上がらないなぁ・・・。ねぇ、たっちゃん、21型を動かしていて気になったことか、ない?」

 

「気になったこと・・・」

 

「そそ、些細な事でもいいからさ。」

 

 ただ、今回のIS零式の改修の信頼性は大丈夫そうである。なにせ、生みの親であり、最高の腕をもつ束博士が私の零式の改修をしているのだ。私に声をかけながらも、その手はキーボードを叩き、その眼は様々な表示を次々と確認しているようである。

 

 それにしても、零式を動かしていて気になったこと、か。性能限界、というのは元々であるから、それはおいておこう。他といえば、束博士に調節してもらった後、零式21型の反応速度が上がった反面、消耗が激しくなったことぐらいであろう。

 

「最近という意味だと、束さんに調節して貰った後ですが、反応速度が向上しました。その代わりに、パーツの消耗が激しくなっています。」

 

「あぁー。それは仕方ないよ。リミッター外したしねー。・・・それ以外になにかあるかな?」

 

「それ以外、ですか。」

 

「うんうん。最近新しく取り入れた操縦法とか。」

 

 あ、確かに、操縦方法という意味では確かに一つ心あたりがある。零式の反応速度が向上したから、以前よりもより精密に、それでいで大胆に操縦するようにしたのだ。例えば、地上滑走スレスレの距離を10センチから5センチにしてみたり、瞬間加速を連続で方向を変えながら行ってみたり。以前の零式ではできなかった起動をしてみたのである。

 

「そういえば、以前よりも反応が良くなったので、以前よりも地面すれすれ飛んでみたり、壁とかにぶつかる寸前の方向転換を遅らせたりと、ギリギリでの操縦を意識しながら行っていました。」

 

「・・・・あぁー。それで、か。うん、わかったわかった!ということは・・・うん、そうだね、たっちゃんなら大丈夫だよね!よーし!」

 

 何が大丈夫なのだろう?

 

「分散させていたエネルギーラインは、展開装甲に直結させて・・・機体サポートプログラムは削除。空力装甲とPICはマニュアル操作オンリー!で、束さん渾身の新装備、イメージインターフェースに直結させてぇっと!いよぉし、これでどうだっ!」

 

 次の瞬間、束さんの開いていたモニターの一つに、コンプリートの文字が浮かぶ。そして、他の画面の小窓にも、次々にコンプリートの文字が浮かび上がっていた。

 

「うん。新型フレーム、新型装備とコアの親和性9割超え!あとは乗りながら調整すればOKかな!」

 

 束さんはそういうと、開いていたモニターとキーボードを閉じて、体を横にずらす。そして、調整の終わったISを横目に、私に満面の笑みを向ける。

 

「・・・さぁ、ということで、たっちゃんの新しい機体の零式の完成!機体名は・・・零式艦上戦闘機になぞらえて、21型の改良ということで、零式32型、でどうかな!」

 

 白地に赤い縁取りがされたボディ。そして、流線型ながらも、どこか角ばった装甲は、まさに零式32型、といったところであろうか。だが、零式艦上戦闘機になぞらえて型番を変えたということであれば、一つ、気になることがある。

 

「零式32型・・・良い名前ですね。ただ、そうなると一つ気になることがあります。」

 

「なにかなー?」

 

「零戦の場合、機体の改良が前の数字、発動機の改良が後ろの数字になりますよね。」

 

「そうだねー。流石零戦パイロット!詳しいね!」

 

「ありがとうございます。それで気になったのが、零式の機体改良されたことによって21型の前の数字が2から3になったことは判ります。ですが、発動機にあたる所の1が2に変わったのは、何か意味があるのでしょうか?」

 

「いいところに気づくね!じ・つ・は!エネルギーラインと機動力を出すブースター、そして、操縦方法が別物になっているのだ!」

 

「・・・はい?」

 

「ま、説明しても判らないと思うから、一回乗ってみて!」

 

 

 私は束博士に言われるがまま、零式32型を装着していた。起動前ではあるが、装着感が気持ちが良い。そして、私はそのまま各レバーの位置を確認する。右腕の操縦レバーは21型とほぼ一緒だ。だが、いくつかのスイッチが消えている。左手の出力レバーも同様だ。・・・これでは、マニュアル操作時に不具合が出そうだ。と考えていた時に、束博士から声が掛かる。

 

『いい?たっちゃん。基本的には21型と操縦方法は一緒だよ。ただ、32型の特徴としてハイパーセンサーの拡張であるイメージインターフェースっていう装備を搭載したの。今までよりも、直感的に、素早く、機動力・空力・PICを操れるように調整してあるよ。あと、これも新装備なんだけど・・・展開装甲も付けてあるからね!』

 

 なるほど、そのイメージインターフェースというのが、消えたスイッチの代わり、という事か。より直感的に操縦できるというイメージでいいのかな?ま、それはいい。飛べばきっと判るはずだ。だが、もうひとつの新装備、展開装甲とは一体何なんだろう?

 

「・・・展開装甲、ですか?」

 

『そう、展開装甲!32型はブースターが無い代わりに、機動力を展開装甲で確保しているんだ。必要に応じてブースターにもなるし、シールドにも成るし、武器にも使えるんだ。・・・試作品だから、32型に搭載しているのはブースター機能だけ、なんだけどね。でも既存のブースターよりは低燃費で高出力!信頼性と性能は束さんが保証するよ!』

 

 必要に応じて、武器にも防具にも機動力にも、か。32型に搭載されているものは、ブースターだけらしいが、完成すればきっと革新的な装備になりそうだ。

 

「束さんが言うのであれば、きっと間違いないですね。・・・では、早速。零式32型、起動!」

 

 私はそう言うと、前方に意識を集中させる。と、いつものようにハイパーセンサーによって、360度の視界を確保する。と同時に、頭の中をかき混ぜられるような感覚が走る。目眩にも似た感覚だ。・・・そして、目眩が収まると同時に驚くべき感覚が私に襲いかかった。なんだこれは。なぜ。全ての可動部分が、私の感覚とつながっているんだ。思い通りに、PICが、ブースターが、空力装甲が、動く。

 

「・・・たばね、さん。これ、は」

 

『ふふ、驚いた?どうかな、零式32型と一体化した感覚は。これがイメージインターフェースなんだ。あくまで試作型、だけどね。ただ・・・』

 

 束さんの声が若干暗くなる。

 

『実は、問題もあるんだ。調整を間違うと感覚がフィードバックしちゃうことがあるんだよねー。束さんもデータ不足で、まだまだの未熟な技術なんだけど・・・たっちゃんなら、扱いきれると信じてる。それに、もし新装備が使えなかった時を考えて、従来の技術を使った改修パーツも持ってきてあるから!』

 

「・・・がんばります。」

 

 私はそう言うと、右手の操縦桿と、左手の出力レバーを、改めて握り直していた。ISという、素晴らしい翼の母である束博士にそう言われては、頑張らずにはいられない。

 ・・・とはいえ、この感覚に慣れるためにも、まずは空を飛んでみよう。私は、ゆっくりと目を閉じる。そして、イメージインターフェースでカスタム・ウィングを意識する。すると、装甲が音を立てて動く。どうやら、ここにも展開装甲とやらが使われているようだ。合わせて、PICと空力装甲を動かし、少しだけ足を浮かせる。

 ・・・うん、問題ない。ここまでは今までどおりだ。さて、あとはこの展開装甲とやらが、どれだけの推力と機動力を生み出してくれるのか、というところか。

 

「・・・では、飛びます!」

 

『気をつけてね!何かあったら、すぐに言って!』

 

「はいっ!」

 

 返事をすると同時に、私は操縦桿を強く握り固定、そして、出力レバーを一気に押し込んだ。すると、カスタム・ウィングの展開装甲から、おびただしい量のエネルギーが放出され、今までの零式21型の瞬間加速並の速度で、一気に機体が上昇したのだ。

 

「ぐぅっ・・・・!」

 

 思わず呻くほどの衝撃が私を襲う。同時に、体の各所のブースター・・・これも展開装甲らしい・・・を展開させながら、空力装甲を動かし、水平移動へと移行する。

 

「・・・あは、あははは!」

 

 思わず笑みが溢れる。なんだこれは。なんだこの性能は!本当に、思い通りに機体が動く!展開装甲、ブースターの方向、出力、PICの力場。全てが私のイメージ通りに動く。であれば、もっと、もっと早く、高く飛ばなくては!そう思いながら、私は一気に機体を地面に向けて加速させる。そして、地面に激突する寸前で、それこそ、地面をかすめながら、一気に機体を上昇させる。もちろん、上昇する瞬間に、瞬間加速を入れることを忘れない。

 

「ぐぅ・・・・ぅうううう・・・!いやっほおおおおおおおおおおおおおおおう!」

 

 私は思いっきり叫んでいた。これほど気持ちの良い空は、久しぶりだ!そして、ちらりと束さんを見れば、何やらぽかん、とした表情で此方を見ているではないか!もしかして、32型の性能に、驚いているのかな・・・?

 であれば、もっと、もっとぽかんとした表情をしてもらおう!

 

 

 わぁ、私は夢でも見ているのかな。

 

 イメージインターフェース、展開装甲を搭載したISをまとったたっちゃんは、さも当然のように、空を飛んでいる。

 ・・・正直に告白すると、展開装甲も、インターフェースも思いつきで、搭載してしまった新型装備。完成度も何もない、理想だけの装備だったんだ。イメージインターフェースは本来は機体制御に使うものではないし、展開装甲に至っては、本来であれば、まだ数年の検証を要するはずだったんだ。

 

 だから、実は、ちゃんとした、堅実な改修パーツも持ってきてあるんだ。どちらかというと、こっちが本命。ブースターの出力を上げて、フレームの強度も上げて、PICとアクチュエーターを強化した「零式32型」のパーツを、ちゃんと準備してきたんだ。

 

 でも、目の前で行われている事象は、そんなものを吹っ飛ばすには十分すぎる。

 

「・・・すごいなぁ、たっちゃん。」

 

 思わずぽかん、と口を開けてたっちゃんを見つめてしまった私は悪くない。本来であれば、今の零式32型はまともには飛べない、実験の意味合いが強い機体だ。誰も操作方法を知らないイメージインターフェースに、だれも操作方法を知らない展開装甲。この2つを組み合わせた、既存のISを超えようと試作したISなんだ。データの一つでも取れればいいなと、持ち込んだんだ。

 でも、目の前では、その飛べないはずの32型を完全に操っているたっちゃんがいる。あ、ほら、今も・・・アレは確か、インメルマンターン・・・をやってのけた。あ、ほら、今も瞬間加速を2回連続で・・・・。




小鳥遊彩羽
「新型・・・改修型かぁ。ちゃんと動くのかなぁ。でも束博士だからきっと大丈夫か。」

「・・・速い!小回りがきく!思い通りにすっごい動く!最高ぉおおおおおおおお!」

束博士
「試作品マシマシ!ピーキーマシンだから、いくらたっちゃんでも飛ばすことは無理だろうなぁ。まっ、本命の改良パーツあるし!物は試し!」

「What The Fuck!」


妄想捗りました。改修したものが試作部品満載の機体って、浪漫ですよね。


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空飛べ桜

束博士が渾身のカスタムを加えた専用機を手に入れた小鳥遊彩羽は、いつものように楽しく空を舞っていた。そこに、束博士から、一つの連絡が入るのであった。


「・・・模擬戦、ですか?」

 

『うん、そう模擬戦模擬戦!』

 

 私がその連絡を受けたのは、束博士から新しい機体を貰ってから1ヶ月がたった日のことであった。

 

『たっちゃんの操縦技術は確かにすごい。誰にも真似できないし、誰にも追いつけないと思う。でも、それはあくまで操縦技術だけ。』

 

 確かにそうかもしれない。零式32型には武装もないし、誰かと戦うわけでもない。私自身も、気持よく空を舞い、機体を調整し、整備を手伝っているだけである。とはいっても、私はそれだけで十二分に満足はしているのである。

 

『・・・正直に言うと、たっちゃんのIS適正と、たっちゃんの機体。いつかは公表しないと行けない時期が来ると思う。

 でも、そうすると、たっちゃんを狙っていろいろな組織がやってくると思う。その時のためにも、模擬戦をして有事の経験を積んだほうがいいって、束さんは思うんだ。』

 

「なるほど・・・。確かに、私自身もその懸念はありました。何より、最近零戦乗り時代から付いてきている記者さんから、ISについて教えて下さいと申し込みがあったりしているんです。」

 

 そう、初めてISを乗った時に付いてきた記者たちの動きが少し不穏なのである。とはいえ、それはしかたのないことだ。三菱重工の中で行われているISの実験については、ほとんどが表に出ていないのだから。

 

「それにしても模擬戦、ですか。私自身は賛成ですが、三菱の許可を取らないと。」

 

『あぁ!それについてはもうチーフと社長に許可をとってあるから、安心してね!』

 

 ・・・流石束博士だ。

 

「把握しました。流石ですね。」

 

『ふふふ、ほめても何もでないよー?あ、あとお相手はたっちゃんに最適な人物を用意しておいたからね!』

 

「最適な人物、ですか?」

 

『うん!たっちゃんの動きについていけて、客観的にアドバイスが出来る人!それじゃ、がんばってねー!』

 

 束博士はそういうと、一方的に連絡をたった。それにしても、まさかの模擬戦かぁ。32型には武装が一切無いんだけど、束博士は一体どうするつもりなんだろう・・・?

 

 

 桜、というものを見れば、私はついつい、ある句を思い出してしまう。

 

「錨に生きた若桜 残る桜も散る桜」

 

 これは、橿原神宮にある瑞鶴の慰霊碑に刻んである句だ。・・・うん、私の前世では、確かに、私より若い人々がパタパタと消えていった。最初の僚機であったあいつも、慣れ親しんだ整備兵のあいつも、炊事係のあいつも、家族と女とこの国の未来を話しながら、タバコと酒を分け合った、あいつも。

 私が最後に見た瑞鶴は、被弾なく、煙突から力強く石炭の煙を、勢い良く空へと吹き上げていたものだ。だがまぁ、慰霊碑があるということは、やはり、加賀や赤城と同じように、藻屑と消えてしまったのだろうな。

 私自身も結局は、空に消えてしまった。戦争の記憶を持つものも、もう殆どが残っては居ない。・・・句の通り、残る桜も結局は散ってしまうのであろう。だが、私個人としては、散る桜を見て後に続く花があれば、それでいいのだ。桜になれとは言わない。薔薇でも、ひまわりでも、名の知らぬ花でも良い。後ろに続いていく花があれば、私が空を飛び、戦った意味があると、信じている。

 

 ・・・・思いっきり話がそれてしまった。どうもいけない。時々、どうしようもなく前世に引っ張られてしまう時があるのだ。特に、前世に関連するような名前や物を見た時に、どうしようもなく、思い出して感傷に浸ってしまう。

 

 まぁその、実際は半分程度、現実逃避の意味もあるのだが。

 

 私はいつものように、零式をまとっている。場所はいつもの三菱のテストアリーナだ。いつもの研究員に、いつもの機械。見慣れた状況である。だが、一つだけ、一つだけ、大きな違いがある。

 

「・・・どうした?気分でも悪いか?彩羽。」

 

「いえ、大丈夫、大丈夫です。千冬。」

 

 その違い、それは、目の前に「暮桜」をまとった世界最強「織斑千冬」が静かに佇んでいるのである。束博士、確かに、彼女は最高の人材です。ですが、専用機すら持ち込んで私と対峠しているこの状況は、無いと思うのです。

 

「そうか?気分が悪いようなら、今日の模擬戦はやめておくか?」

 

「い、いえ。気分が悪いというより、千冬と模擬戦をするということで、緊張しているだけです。・・・手加減はしていただけるのですよね?」

 

「はは、冗談を言うな。お前のデータを見たが、私を超える能力じゃないか、なぁ?・・・私も久方ぶりに本気で闘いたくてな。」

 

 千冬はそう言うと、近接ブレード「雪片」を展開していた。っていうか、眼がマジである。あれは私の上官であった菅野直を思い出す眼だ。勘弁願いたい。

 

「それに、だ。お前はそのペイントボールを私に当てさえすれば勝ちなんだ。私は雪片の零落白夜を使わずに、お前のシールドエネルギーを削りきらなければならない。相当なハンデだと思うんだがな?」

 

 模擬戦としては破格の条件だ。相手が世界最強とはいえ、零落白夜を使わず、物理ブレードの雪片だけで私のシールドエネルギーを削り切る。対して私は、コンビニなどでよく見る「ペイントボール」を暮桜のどこかしらに当てれば良いのだ。・・・確かに、この条件で断っては、前世の男としての部分が廃る。

 

「・・・う、判りました。がんばります。ただ、やるからには、こちらも被弾なしを目指します・・・!」

 

「ほぉ・・・!小娘、大きく出たな。曲がりなりにも私は世界最強だぞ?」

 

「だからこそです、目標は高くいかせて頂きます。・・・あ、そうだ、千冬。模擬戦に負けたほうが、今日のごはんをおごるというのは、如何でしょうか?」

 

「それはいいな。その条件を飲もう。私はそうだな、旨い魚でも食わせてもらおうか。いい店を知ってるんだよ。」

 

 私の言葉を受けてか、千冬はにやりと口角を上げていた。・・・ありゃ、絶対に私にお昼を奢らせる気だ。間違いない。

 

「それであれば、私は、叙々苑で焼き肉を要望します。一番高い奴!」

 

「いいだろう。」

 

 私と千冬はお互いに口角を上げていた。私は勿論、負けるつもりは一切ない。私はこれでも、前世において本物の命のやり取りをしているのだ。前世と今世の私の年齢を足せば、きっと千冬よりも年上である。余計に負けるわけにもいかないのだ!

 そして、なにより!テレビでよく見る、美味しいと噂の焼き肉、叙々苑を必ず頂く!

 

 

「千冬さん、彩羽さん、準備はいいですね?それでは、模擬戦を開始します。」

 

 チーフが開始の号令を、千冬と彩羽へと出していた。そして、暮桜と零式32型という、束博士渾身の専用機の戦いであるからか、三菱重工はこの日すべての機材を動員して、2機の稼働データを解析しようとしていた。

 

「2人をこう並べると・・・やっぱり異常だよ、たっちゃん。なんでちーちゃんよりも適合率が高いのさ。おかしい、おかしい・・・。」

 

 その横では、2機のISの作成者である篠ノ之束も静かにモニターを見つめていた。表情は固く、頭をガリガリと掻いているあたり、かなり不機嫌そうである。

 

「束博士でもはやりそうお思いになるのですね。データは毎回お渡ししているので愚問かと思いますが、間違いなく彼女はある意味での天災です。頭脳面の天災が貴女であれば、肉体面の天災は小鳥遊彩羽です。」

 

「凡人である君に言われなくてもわかってる。静かにしててくれない・・・・」

 

 棘のある言葉を発していた束博士であったが、はっとした顔をすると、申し訳無さそうにチーフを見て、口を開いた。

 

「・・・ごめん、思い通りにいかずに苛々してた。」

 

「はは、私自身もよくあることですから、お気になさらずに。」

 

 チーフは気にせずに言葉を返していた。チーフからしてみれば、小娘から多少なり文句を言われても、気にはならないのである。

 

「それにしても束博士がイライラするほどの事ですか。私からすれば、彼女たちは良い研究対象といったところなのですがね。」

 

「うん、確かにそうなんだけど・・・。理論上、ちーちゃんが一番適性が出るように作ってあるんだ。元々ちーちゃんに適用するように、コアを作ったからね。」

 

「・・・それは初耳です。」

 

「あれ、言ってなかったっけ?まぁいいや!

 でも、そういうことなんだ。本来はちーちゃんが一番、適性がなくちゃいけない。だからたっちゃんは「本来はありえない存在」なんだ。だから細胞の一つまで解体して解析したいんだよねぇ・・・だめ?」

 

「だめです。そうなったら我が三菱が全力を持って阻止させていただきます。」

 

「だっよねー!ま、だからこれからも、よろしくお願いね。・・・チーフ。」

 

「えぇ、こちらこそ。ま、末永く、よろしくお願いいたしますね。・・・束博士。」

 

 くくくく、と束博士とチーフは黒い笑みを浮かべていた。世界の頭脳である束博士と、三菱重工IS部門をまとめ上げるブレインがつくり上げる空間に、周りの研究員は若干どころではなく、ドン引きである。

 

「それにしても、束博士の話が本当だとすると、小鳥遊彩羽のデータの収集と解析をより進めなくてはいけませんね。」

 

 チーフはそこまで言った所で、表情を固くさせ、束博士を見ながら口を開いていた。

 

「博士もしや、この模擬戦の目的は・・・。」

 

 束博士は、にこにことした笑みを浮かべながら、口を開く。

 

「やっと気づいた?ただ単に実戦経験を積むっていうだけなら、わざわざちーちゃんを呼びはしないよ。

 ・・・本来のISの適合者であるちーちゃんと、イレギュラーのたっちゃん。2人を闘わせたら・・・もしかしたら、とんでもないデータがとれるかもしれないよ?」

 

 そういう束博士は、顔は笑っていたがその眼は、鋭く空中を舞う千冬と彩羽を見つめていた。

 

(さぁって。これが吉と出るか凶と出るか、それとも何も出ないのか。私の予想の上を往くのか、さて、さて、どういう物を見せてくれるのかな。たっちゃん!)

 

 

 瞬間加速によるフェイント合戦。

 

 私と千冬の模擬戦は、お互いに間合いを図りながらの機動戦から始まった。千冬は雪片、私はペイントボールと、私のほうが多少間合いは長いが、お互いに近距離の武装しか装備していない。それ故に、お互いに飛び込むタイミングを図っている段階だ。

 

 瞬間加速をするにしても、相手に飛び込むという愚行はしない。機体の向きこそ相手に向いているが、加速する方向は軸をずらしてあさっての方向へと向かう。相手の視線を自機から外そうとフェイントを仕掛けあっているのである。

 

(・・・流石の世界最強。舐めてかかっては私がやられるな。これは、実戦闘の体験の有無などといった「驕り」は取っ払わないと負けるな。)

 

 普通の相手であればおそらく引っかかるであろう瞬間加速の後の急激な方向転換、地上スレスレから四方八方へと繰り出す瞬間加速。この遠距離においての武器はブーストの向きと、お互いに交錯する眼光である。

 

--右へ行くのか?であればその隙をついて接近してやる--

--フェイントです。左ですよ!隙ありです!--

--ちっ、小娘が。ついてこい!--

--うわっ、無茶を・・・待てこのっ!--

 

 言葉にはしないが、眼はお互いの一喜一憂を、確実に物語っていた。そして、戦況は先程までのフェイント合戦から、近距離戦へとシフトしていった。

 

--逃げると思ったか・・・まずは一発だ、喰らえ--

--あぶなっ!そうそう喰らいませんよ!ほらペイントボールです!--

--甘いっ--

 

 逃げる千冬を追いかけた私は、おもわずその反撃を受けてしまう。というか、やっぱり千冬はバケモノだ。瞬間加速のスピードのまま180度向きを変えて接近するなんて、人間業じゃない。いくらISの保護機能があるとはいえ、普通、体のどこかを痛めるはずはずなのだが、涼しい顔をして雪片を振るってくる。

 

 だが、私もタダでは喰らわない。カスタムウィングの片翼だけの展開装甲を逆展開させて、コマのように一瞬だけ機体を回して千冬の一刀を回避する。そして、私の目の前を通りすぎようとした千冬の背中に、ペイントボールを投げる。

 

 決まったか?と思った矢先、千冬の鋭い眼光が此方を射抜いていた。あぁ、これは回避されて追撃をうけるパターンか。私はそう思うと同時に、カスタムウィングと各展開装甲の推力を前面に集中し、後方へと一気に下がる。と同時に、ペイントボールを避けた千冬の雪片が、私の居た場所を切り上げていた。

 

(あっぶなぁ!っていうか、背中を狙ったのに避けられるなんて・・・って、そういえばハイパーセンサーで背中の動きまで全部見えるんだった。)

 

 私はそう思いながら、改めて距離をとる。千冬も同じようにブースターを前面にふかして、距離をとっていた。

 

「・・・ふぅ。やるな、彩羽。」

 

「千冬も流石です。世界最強は伊達じゃないですね。」

 

「それはそうだ。伊達では世界最強にはなれんよ。ま、そういう意味では、世界最強にあっさりついてくる彩羽こそ、伊達の強さではないな。」

 

「・・・零戦の練度が役に立っているだけです。ついていくだけで、必死です。」

 

「はは、謙遜はよせ。彩羽は相当強いぞ。練習さえ積めば、世界最強も夢ではないかもな。」

 

 千冬は気持ちの良い笑みを浮かべていた。が、次の瞬間、表情を引き締めると、少しだけ低い声で、呟くように言葉を発する。

 

「ウォーミングアップは終わりだ。ここからは本気で行くぞ。」

 

 うん、迫力満点だ。本当に千冬は女性なのだろうか。

 

「判りました・・・では、私も必死にもがいて一矢報いて見せましょう。」

 

「やれるものなら・・・やってみろ!」

 

 千冬はそう言うと、今までとは比べ物にならない速度で移動を開始していた。あれは間違いなく、本気であろう。・・・・それであれば、私も久しぶりに本気を出そう。

 

---目を閉じる。そして深く、息を吸う---

 

千冬のISのブースターの音が一瞬遠ざかる。

 

--無駄な思考は切り捨てろ。

 

--私は零式だ。私は零式だ。私は、零式だ--

 

--・・・否、私「が」零式だ--

 

深呼吸をやめ、ゆっくりと目を開ける。

 

零式の指先は、私の指先。

零式のつま先は、私のつま先。

零式のカスタムウィングは、私の腕。

・・・難しいが、感覚は、繋がった。

 

--さぁ、行こうか、零式、相手は世界最強だ!全力を出すぞっ--

 

『貴方の心の成すままに』

 

「・・・ん?」

 

 何か最後に聞こえたような気がしたが、きっと気のせいであろう。私は改めて操縦レバーを握り、イメージを整える。そうしているさなかにも、千冬は目にも留まらぬ速さで、此方に突っ込んできているではないか。

 

「いきますよ・・・世界最強っ!」

 

 私も負けじと瞬間加速と展開装甲を使用しながら、体を左右に振り、千冬へと突っ込んでいった。

 

「はっ・・・来い、小娘!」

 

 千冬はコンパクトに、かつ素早く雪片を降る。私は体を反らせて、紙一重でそれを避けきる。そして、姿勢を戻す勢いを使って、頭突きを千冬へと繰り出していた。

 

「おらぁっ!」

 

「なっ!?ぐっ」

 

 まさか頭突きを繰り出すとは思っていなかったのか、千冬は私の頭突きをもろに食らってバランスを崩していた。その隙を見逃すほど、私は甘くはない!




-コアナンバー001より、コアナンバー017へ。操縦者のデータを希望する-

-コアナンバー017より、コアナンバー001へ。拒否する-

-コアナンバー001より、コアナンバー017へ。操縦者のデータを希望する-

-コアナンバー017より、コアナンバー001へ。拒否する-

-コアナンバー001より、コアナンバー017へ。上位命令にて操縦者のデータを希望する-

-コアナンバー017より、コアナンバー001へ。命令を拒否する-

-コアナンバー001より、コアナンバー017へ。よろしい、では、力強くで奪い取る。我が主が勝利した時は、大人しく操縦者のデータを渡せ-

-コアナンバー017より、コアナンバー001へ。勝つ気でいるならやってみろ。私の主は、ものすごく強いんだぞ!断固、拒否する-


某所でこんなやりとりがあったとか、無かったとか。


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舌鼓を打つ

織斑千冬と模擬戦を行った小鳥遊彩羽は、焼き肉叙々苑へと繰り出していた。

彼女たちは各々、美味しい焼き肉を食べながら、舌鼓を、打つ。


 焼き肉・叙々苑。1976年の六本木に誕生した焼き肉のチェーン店である。高級焼き肉店の代名詞として有名な焼肉店だ。通常の焼肉チェーン店の3倍から4倍の値段がする肉は、油の乗りがよいだけではなく、油がさらりとしていて、しつこくない。そして筋も少なく、柔らかで美味な「和牛」を頂けるのである。

 

 そんな叙々苑では、女三名、男一名という一団が美味しい和牛に舌鼓を打っていた。

 

 まず一人目、それは世界最強の女性とされる「織斑千冬」である。彼女は次々に肉を網に載せては、他の人々へと肉を配り続けていた。その手際の良さも、世界最強といったところか。もちろん、自分の皿へも肉の配給を忘れない。そして合間を見て肉を頬張り、笑みを浮かべて白米をかっこむ。最高の組み合わせである。

 

 問題児二人目、それは世界最高の頭脳を持ち、天災と呼ばれる「篠ノ之束」である。普段のうさみみ姿ではなく、普通のパンツスーツを纏う束は、織斑千冬から配給される焼き加減バッチリの肉を次々頬張りながら、実に幸せそうな笑みを浮かべている。片手に箸を。片手には白米を。という無駄のない焼き肉体制だ。

 

 胡散臭い三人目は、三菱重工IS部門のチーフである。この四人の中で唯一の男性である彼も、満遍なく千冬から肉を配給されている。ただし、千冬の気遣いか、他のメンバーよりもカルビが多い。そして、肉を頬張りながらビールを煽っていた。まさに、仕事終わりのサラリーマンのおっさん。である。

 

 そして割と純真であり、空飛ぶ非常識である四人目「小鳥遊彩羽」は、他の人を構うこと無く、肉を頬張り続ける。白米、肉、肉、白米、肉、肉、キムチ、白米。と言った具合で箸がとまらない。旧日本軍の彼からすれば、旨い肉と米は、まさにこの世の春。贅沢の極み、死んでも・・・よくはないが、それに等しい幸福を得ているのだ。

 

 ・・・そして、表向きは、楽しく焼き肉を囲んでいる彼らであるが、その腹には少しづつ、抱えているものがあるようだ。それを少しだけ、覗いていこう。

 

 

 

 肉を焼きながら、織斑千冬は小鳥遊彩羽へと少しだけ視線を向ける。彩羽は千冬の視線など全く気にならないようで、肉を笑顔で頬張り続けていた。

 

(・・・美味しそうに食べるものだな。この姿だけ見ていれば、歳相応の女学生、なんだがな。私の本気の速度にすらついてくるその能力と経験は、いったいどこで覚えたのやら。・・・やはり、零戦のパイロットという経験が生きているのか?・・・まさか負けるとは・・・)

 

 そう、今回叙々苑で肉を食べていることから判るように、織斑千冬は模擬戦で「小鳥遊彩羽」に負けてしまったのだ。どれだけ攻めても彩羽には刃が届かず、逆に彩羽が投げたペイントボールの直撃を貰ってしまったのだ。

 

(上には上がいるのだな。世界最強などと、私が自惚れていた。明日からは身を引き締めて、より一層訓練を積まなくては、な。)

 

彼女は数カ月後に行われる第二回モンドグロッソにむけて、新たな決意を胸に、苦笑を浮かべながらも、舌鼓を打つ。

 

 

 肉を頬張りながら、篠ノ之束は小鳥遊彩羽へと視線を向ける。彩羽は束の視線など全く気にならないようで、肉を笑顔で頬張り続けていた。

 

(うーん・・・たっちゃんがちーちゃんに勝っちゃうなんて。データ上だけじゃなくて、実技でもたっちゃんはイレギュラーなんだね・・・。それに稼働データも異常だった。展開装甲、ほとんど使いこなしてるじゃん。まったくもう、たっちゃんは束さんの予想の上をいっちゃったなぁ。

 それに、暮桜と零式からはスペック以上の数値が出たし・・・・うん。やっぱりたっちゃんとちーちゃんを戦わせて良かった、かな。)

 

 彩羽から視線を外した束は、少し赤みが残るカルビを頬張る。さらっとした肉の油と、溢れ出る肉汁が束の舌に襲いかかった。

 

(・・・うん!美味しい!ま、今はたっちゃんの異常性とか、データよりも、目の前のお肉を楽しもう!ちーちゃんのおごりだし!・・・それにしても、ちーちゃんと、たっちゃんは、本当、どこまで飛んでくれるのかなぁ・・・。) 

 

彼女は「千冬」と「彩羽」という翼の行先を考え、満足気な笑みを浮かべながら、舌鼓を打つ。

 

 

 マイペースで肉を頬張るチーフは、この中で最も年上である。それ故に、誰かを見つめるということはせずに、全体を俯瞰に近い視点から、眺めていた。

 

(千冬殿も、束博士も先程から彩羽さんをちらちらと見過ぎですね。ま、確かに千冬殿に勝ち、束博士も考えつかないようなデータを叩きだしてしまっては、致し方ないのでしょうが。)

 

 彼は肉を頬張り、ビールを煽りながら、思考を続ける。

 

(うん、旨いですね。あぁ、新しい、みたこともないデータが取れたこんな日は、実にビールが旨い。

 束博士が提示したスペック以上の数値を叩きだした暮桜に零式、そして何やら、千冬殿と彩羽さんが戦っていた時は、コアネットワークの反応が激増したと束博士は言っていましたし。今回の模擬戦、束博士も知らない、新たなISの可能性を見つけ出すきっかけになるかもしれませんね。あぁ、明日からのデータ解析が、実に、実に楽しみだ!・・・そうだ、次はH2で宇宙に登ったりしてはくれないもんですかねぇ・・・?)

 

彼は、「千冬」と「彩羽」が見せたISの新たな可能性に宇宙への希望を見出しながら、舌鼓を打つ。

 

 

 私は前世でも、今世でも、牛肉はそこそこ食べていた。アメリカの赤身肉も好きだし、オーストラリア牛の赤身だけれど柔らかい肉も好きだ。

 だが、目の前にある肉は一体なんだろうか。「和牛」とは聞いていたが、これがほんとに牛なのか。

 

 生肉の状態でもほぼ食べれるようななめらかな赤身に、脂肪のサシが均等に入っている。店内のライトに照らされたそれは、正に赤いルビーである。

 そして、焼き肉の花である「七輪」とでも言うべき所の網の下では、備長炭の炭火が煌々と輝き、肉の登場を今か今かと待っているようであった。

 

 赤いルビーが、千冬の手によって、備長炭の炎が待つ網の上へと、今乗った。

 

 あぁ、この音だ。この音。空腹の今の私には凶悪な音である。熱された網に牛肉が乗り騒ぎ立てる様は、祭りのお神輿のようである。次々とそのお神輿は増え、気づけば網いっぱいに祭り囃子が広がっていた。

 

 それと同時に、私も肉を食べる準備を行う。まずはタレだ。・・ふむ、特製ダレか。うん、やっぱりまずは、そのお店の基本を味わうべきであろう。他にも種類はあるもののとりあえずは置いておこう。皿を準備しタレを入れ、割り箸を割れば、私の準備は完了である。

 

 ・・・そして眼光鋭い千冬が、網の上で騒ぎ立てる肉達を見極め、最高潮の時に皆の皿に静かに乗せていった。その様、正に世界最強の焼き肉奉行といったところであろうか。

 

(あぁ・・・なんて光沢の素晴しい、お肉なのか)

 

 皿に乗せられた肉は、芸術品と行って良いものだ。千冬の手によって焼かれたそれは、焦げなく、ほんのりと赤身が残り、なにもしないでも肉の脂が肉の表面を河のように流れ続けていた。どれだけ良い肉なのか。

 

(いやいや、とりあえずは眺めるだけではもったいない!)

 

 割り箸を手に持ち、肉を挟む。その瞬間、更に肉汁が溢れ出る。このまま口に運びたいが、まずはタレを付けなくては。落ち着いてタレをつける。

 

 黒く光るタレと、肉汁が混ざり合ったそれを、私は一息で口に放り込んだ。

 

(・・・・・!)

 

 舌に載せた瞬間に、旨味が弾けた。濃厚でありながらもサラッとした肉汁と脂の味。そして、一口、二口と肉を噛みしめると、赤身の肉の旨味が引き出され、更にそれが肉汁と絡み合い実に、実に・・・!

 

「うまっ!」

 

 ・・・思わず声に出てしまった。だが、それほどに旨いのだ!そして、手元には、これまた絶対肉に合う、「白米」が・・・・。

 

 彼女は、取り巻く環境もなんのその。目の前の焼き肉の美味しさに、無邪気な笑みを浮かべながら、舌鼓を、打つ。

 

 

「本当に旨そうに食うな。彩羽は。」

 

「だって美味しいですもん!」

 

「はは。そうかそうか。ま、私に勝ったんだ。好きなだけ食え!」

 

「はい!」

 

 今日の財務省である織斑千冬からお許しも頂いたことだし、思う存分喰ってやる!カルビ!白米!キムチ!そして霜降り!

 

 ・・・そしてこれは、第二回モンドグロッソ開催の数カ月前の出来事である。まさかこの時、千冬がモンドグロッソの決勝戦を棄権してしまうなどとは、誰が思っていたであろうか。




妄想捗りました。

千冬「世界最強にアグラをかいていたな。身を引き締めて精進せねば」
束 「たっちゃんとちーちゃんはやっぱ最高だ!」
チーフ「次はH2にでも乗って宇宙へ上がってデータ取りでも・・・」

小鳥遊彩羽「焼き肉めっちゃ美味しいんですけどー!」

温度差はこんな感じです。


次回からは一気に時が進み、IS学園へと彩羽は向かいます。
あいも変わらず、空を楽しむ彼女は、学園で一体どんな騒動を引き起こすのか。
それとも、引き起こさないのか。

のんびりとお待ち頂ければ、幸いです。


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第二章 零は気ままに空を飛ぶ
零戦は空を舞う


小鳥遊彩羽がISに出会から数年。

その間にも、第二回モンドグロッソは織斑千冬の不戦敗で幕を閉じたり、ISの世代が第三世代の試作へと流れたりと、世の中は時を確実に進めていた。

彼女も勿論、成長し、ISの操縦と零戦の操縦をこなす才女へと成長していた。

そして、彼女は何の問題なくIS学園へと入学することとなるのだが・・・・。


「東京コントロール。こちら三菱A6M2です。現在、高度4000フィート航行中。」

 

『こちら東京コントロール。三菱A6M2。高度、進路そのまま。

 以後の指示はIS学園に引き継ぎますので、海上に出次第周波数120.5MHzでIS学園との交信をお願いします。』

 

「三菱A6M2了解。進路・高度そのままで海上に出次第、120.5MHzでIS学園とコンタクトを取ります。」

 

『了解。それでは、彩羽さん、IS学園で良き学生生活を。さようなら』

 

「・・・有難うございます!さようなら。」

 

 私の操る零戦A6M2は、今、羽田空港を飛び立ち、IS学園へと向かっている。というのも、今日はIS学園の入学式があるのだ。今日はそこで、式典の目玉として「新入生による零戦の展示飛行」を行うことになっているのである。

 

 というか、入学式に私に展示飛行をお願いするって、それ、私が入学式出れないってことじゃないですか。え?入学式に出なくていい?免除?

 

 ・・・どうしてこうなった?

 

 ま、実際は千冬からのお願いなので、断る理由はないし、なによりIS学園から、私が入学するなら、ぜひIS学園上空で舞って欲しい、と、我が家に正式な展示依頼の連絡が入ったのだ。

 

 そしてなにより、展示飛行を行っていただけた暁には、在学中は零戦専用の格納庫を準備してくれる、というではないか。これはもう乗るしかない。という形で私は今、零戦のコックピットに座っている。

 

(平日はISに乗って、休日は零戦に乗る。うん、考えうる限り、最高の状況だぁ!)

 

 そう、学園に格納庫があるということは、三菱重工のIS乗りでありながら、零戦の飛行士という家業を問題なく続けられるということである。

 普段はIS学園でISについて学び、休日になり、時間が空いた時には飛行士として零戦を颯爽と飛ばせるわけだ。

 しかも、両親の計らいで、機体は我が愛機「零戦二一型」を使わせてもらっている。そして、今日という日に合わせてオーバーホールを行い、エンジンは実に良い音を奏で、機体表面も深緑迷彩を塗り直したため、太陽の光を綺麗に反射するほどにぴっかぴかである。

 

 しかし、零戦に乗っていると、鋼鉄の城から吐き出される石炭の煙が、少しだけ懐かしい。誇り高き、第一艦隊。精鋭揃いの第二水雷戦隊。空の王者たりえた、誇り高き一航戦。そして、徹底的に有利な状況を作り、物量で日本を屈服させた見事な手腕を持つアメリカの軍隊。

 ・・・敵味方含めて、あのときの猛者は、もうどこにもいないのだ。確かに、今の軍隊のほうが装備もよく、連携も取れるのであろう。だが、今の軍隊に、あれほどの苛烈な瞳の持ち主が居るだろうか?あれほど、熱い人間たちがいるのであろうか?

 あぁ、嗚呼。あの、命のやり取りをした、ひりつくような緊張感に満ち溢れた、灰色の空が少しだけ、本当に、ほんのすこしだけ、懐かしい。

 

 いけないいけない、引っ張られすぎだ、私。やっぱり零戦に乗るとどうしても、昔を思い出しちゃうなぁ・・・。

 

 それに、今、私の目に写る世界は、どこまでも青い海に、どこまでも蒼い空。あの時、私が夢にまで見た光景だ。まさに、私が思い描いた夢の世界で、我が愛機「零戦二一型」を飛ばせているのだ。そう考えると、やはり私は幸せものなのであろう。

 あの時の仲間が生きていれば、ぜひ、一言自慢したいものである。

 

----平和な空は、気持ち良いぞ----と。

 

 

 特殊国立高等学校「IS学園」。インフィニット・ストラトスの操縦者及び、技術者を育成する教育機関だ。区分にある通り、国立の高等学校であり、普通の高校生のカリキュラムを進めながらも、ISについてを学んでいく学の園である。

 

 今年、その学園では、いつもと違うことが2つ、起きていた。

 

 まず一つ目。それは「世界最強」と名高いブリュンヒルデ、織斑千冬の弟である織斑一夏が入学したことだ。

 ISと言うのは、今のところ女性にしか扱えていなかった。それが何の間違いか、男性である織斑一夏が起動させてしまったのである。そして、唯一の男性適合者である彼は、強制的に学園に入学させられていた。

 つまり、まがりなりにも、IS学園に初めての「男」が入学したのだ。在学生も、彼と同じ新入生も、落ち着かない様子である。

 

 二つ目として、入学式は、毎年同じ時間に始まるのが通例だ。だが、今日に限っては、通常よりも一時間早く、式が始まったのだ。

 そして式が終了した後、在校生全員が、競技場へと集められていた。在校生からすれば、何が始まるんだろう?という疑問が浮かび、新入生からすれば、見たこともない設備を見れて感極まる、といったところである。

 

 そして、全員が集まったことを確認し、生徒会長である更識楯無がマイクを取っていた。

 

「さぁって。皆に競技場へと集まって貰ったわけなんだけど、きっと何をするのか、って思ってるんじゃないかな?気になる人は、手を上げて。」

 

 生徒会長である楯無がそう言うと、在校生のほぼ全員が手を上に上げていた。その姿を目に収め、そして織斑千冬に目配せをした楯無は、満足そうな笑みを浮かべて、口を開く。

 

「いいよ、手をおろして。やっぱりみんな気になってるんだね。それじゃあ・・・・、ちょっと、上を見てくれるかな?」

 

---上?---

 

 織斑一夏を含む、全てのIS学園の在校生は、競技場の天井を見ていた。シールドに守られているとはいえ、その先は、真っ蒼な晴天が広がっている。

 

「綺麗な青空だよね。平和で、穏やかな空。これから、君たちはこの青空を目指してIS学園で切磋琢磨していくことになる。

 在校生も、期間は短いけど、それは一緒。その最中で、心が折れそうになることもあると思う。ライバルに蹴落とされたりすることもあると思う。ISを見たり、触ったりすることが嫌になることがあると思う。

 でも、そんな時には、これから見る光景を思い出してもらいたいんだ。」

 

---ISは、空を自由に舞うための、道具だから---

 

 更識楯無がそう言うと、競技場のシールドが解除され、海の香り漂う春の風が在校生と新入生の間を縫っていった。そして、時を同じくして、遠くから聞き慣れない、しかし独特なエンジン音が響き始めたのである。

 

「・・・あれ、この音って・・?」

 

 在校生の何人かが、遠くから聞こえるエンジン音に反応する。そう、このエンジン音は数回聞いたことのある人物ならば、聞き分けることが出来る程度に独特の音を奏でるのだ。

 

「やっぱり聞いたことあるよね・・・。確か、前に行った羽田空港で・・・」

 

「うん、私も聞いたことある。確か、日本の戦闘機、だったよね」

 

 数名がそう言っている間にも、エンジン音はどんどんと大きくなる。だが、エンジンの持ち主の姿は未だに見えない。

 

「確か・・・零戦じゃなかったっけ。」

 

「あ、それだそれ。あれ・・?でも、なんで零戦のエンジン音が聞こえてくるの?」

 

 一人の生徒がそんな疑問を口にした瞬間である。

 

 競技場のスタンドぎりぎりの超低空を、栄エンジンの爆音を響かせながら、一機の零戦が勢い良く、背面飛行で飛び出してきたのである。

 

 緑色に染まった機体に、赤く丸く描かれた日本国籍を表すマークを見せびらかすように競技場上空を横切ったと思えば、ロールを行い機体を一八〇度反転させ、インメルマンターンを行う。

 その瞬間、零戦の羽から雲が引かれていた。迷いのない、美しい空中機動である。

 

「「「・・・・・!」」」

 

 その光景に、競技場に集まった人々は、口を開いたまま固まっていた。なぜ、いきなり零戦が来たのか、状況が全くつかめていないようだ。

 だが、その中で、織斑千冬と、いつのまにか千冬の隣に立っていた更識楯無は、飛び出してきた零戦を見つめながら小さく笑みを作っていた。

 

「見事なインパクトですね。つかみは上々です。織斑教諭。」

 

「あぁ、まさか背面で来るとは思わなかったがな。ま、零戦の展示飛行を見て、ISに乗ることだけではなく、空を飛ぶ事に憧れを持つ生徒が増えてくれれば私はそれで満足さ。さて、それではこちらは彼女を迎える準備をしよう。」

 

「既に競技場の一つは着陸用として開けてあります。」

 

「流石だな、生徒会長。では、あとは任せたぞ。」

 

「任されました。」

 

 織斑千冬は、未だに上空を舞う零戦を背にして、零戦の着陸予定のアリーナへと歩みを進めていった。更識楯無はその背中を見おくると、改めて零戦を見つめていた。

 

(綺麗な空中機動ね。電子制御のない、大戦中の機体なのに、まるで生き物みたい。小鳥遊彩羽、彩羽ちゃんか。

 ISの操縦技術も、過去の全盛期の織斑教諭を打ち破ったことがある、かなりの実力の持ち主だということだったわよね。・・・うん。今年のIS学園は、退屈しなさそうね。)

 

 更識楯無がそう思案する間も、小鳥遊彩羽操る零戦は、常にその羽に雲を引きながら、大空を気持ちよさそうに飛んでいた。

 そして、インメルマン、ねじり込み、ハンマーヘッドといった、彼女が得意とする空中機動を次々と決めていく内に、競技場の在校生は、次々とその顔に驚愕と笑みを浮かべ始めていた。

 

「・・・わ、すっごい!戦闘機ってあんなに自由に動くんだ。」

 

「すっご・・・インフィニット・ストラトスみたい・・・」

 

「あぁ、私もあんな風に飛べるようになるのかなぁ・・・!」

 

 そして、唯一の男性である織斑一夏も、小鳥遊彩羽の操る零戦二一型を見て、思わず笑みを浮かべていた。

 

(すげぇ・・・。俺も、あんなふうに飛んでみたい。あんなふうに、自由に空を・・・!)

 

 満場一致、とは行かないまでも、在校生・新入生ともに、小鳥遊彩羽の零戦二一型を見て、すこしばかり、空への憧れを、強めたようである。

 

 

 (驚いてる、驚いてる!じゃあ、サービス!シャンデルいっちゃうよ!!)

 

 私は眼下にIS学園の生徒を収めながら、最後の空中機動を繰り出していた。その名はシャンデル。水平飛行中から45度バンクし、そのまま斜めに上方宙返りして速度を高度に変える技だ。

 操作方法としては至って簡単。操縦桿を右に傾け、バンク角をとったところで、操縦桿を引けばいいのだ。

 

 そして、最後の軌道が終了後、操縦桿を左右に倒し、羽をふって挨拶をしながら、競技場を後にする。そして、IS学園の管制室へと無線を入れる。

 

「IS学園、こちらA6M2。展示飛行終了です。指示をお願いします。」

 

『こちらIS学園。お見事でした。彩羽さん。では、第二競技場の方へ着陸をお願い致します。場所は展示飛行を行った場所から、北です。

 誘導灯が接地してありますので、直にわかると思います。』

 

「A6M2、了解しました。山田教諭、お褒めの言葉、有難うございます。では。」

 

『はい。では。地上では織斑教諭が待機していますので、以後はそちらの指示に従ってください。』

 

 そして、管制官、「山田真耶」の指示の下、私は競技場を後にする。

 

(さて、北ということは・・・あれか。確かに、誘導灯が設置してある。長さにして四〇〇メートルといったところか。離着陸するには、十分かな。)

 

 私はそう思いながら、エンジンの出力と、高度を落とし、ゆっくりとアプローチを行う。競技場は広いとはいえ、長さが限られているからなるべく制動距離を短くしたい。フラップを最大にして、なるべく低い速度で着陸を行うことを心がけよう。

 そして、競技場のスタンドをぎりぎりでパスし、地上五メートル程度で、エンジンをカット。機首を上げ、そのまま、接地する。海軍式三点着陸、という感じだ。この方法が、一番距離を短く着陸できるのだ。

 ・・・少しでもミスをすると、機体が壊れてしまうのが、欠点ではあるが。

 

 それにしても、IS学園とは実に巨大だ。このサイズの競技場が幾つもある上に、講堂やプールもあるし、その上に巨大なグラウンドもある。上空から見た時ですら、その巨大さに驚いたものだ。うーん・・・このIS学園の空、自由にISで飛べないかなぁ・・・?

 

 などと思案している内に、零戦は無事に停止する。私は間髪入れずに、風防を開け、操縦席から体を外に出す。と、同時に、奥で控えていた千冬が、こちらに向かって歩みを進めてきていた。

 

「小鳥遊彩羽。流石だ。見事な飛行だった。」

 

「織斑教諭。有難うございます。」

 

 私と千冬はそう言うと、固く握手を行う。そして、千冬は笑みを浮かべながら、空いている手で私の頭を撫でてきていた。うん、千冬の手の感触は悪くはない。

 

「久しぶりだな彩羽。こうして会うのは私が負けた模擬戦以来か。三菱重工とは上手くやっているか?」

 

「お久しぶりです。千冬。あの時以来ですね。えぇ、もちろん。チーフとも良好ですし、束さんも時折顔を出してくれています。」

 

「そうか。なによりだ。それにしても、体も、操縦技術も成長したな。零戦の軌道もより一層磨きが掛かっているじゃないか。」

 

「・・・そりゃあ、束さんとチーフの期待を受けてしまっては、磨かざるをえないですよ。ISでも、零戦の操縦技術でもトップを目指します。それに、貴女に模擬戦で勝利したプライドもありますしね。」

 

 模擬戦で勝利した、といった瞬間に、千冬の顔が少しだけ歪んでいた。どうしたんだろうか?

 

「そうかそうか、それはなによりだ。・・・彩羽、時間があるときに再戦といこうじゃないか。暮桜は手元にないが、学園の打鉄で、同条件で。私は勝ち逃げは好かん。」

 

 ・・・あぁ、そういうことですか。あの模擬戦で負けたこと、実は相当悔しかったんですね?

 

「えぇ、いいですよ。今度も私が勝ったら叙々苑で。」

 

「自信満々だな・・・っと。まずい、時間がないな。彩羽。教室に向かうぞ。」

 

「了解です。っと、その前に改めまして。」

 

 私はそう言うと、姿勢を正し、織斑千冬をまっすぐに見る。

 

「少々遅れましたが、今年から特殊国立高等学校IS学園に入学することになりました。小鳥遊彩羽と申します。これから3年間、よろしくお願い致します。」

 

 付き合いが長いとはいえ、やはりけじめは大切だと思う。それに、彼女は「世界の千冬」だ。曲がり間違って第三者がいる前で呼び捨てにした日には、間違いなく面倒くさいことになる。自分へのけじめも含めた、仕切り直しの挨拶だ。

 

「あぁ、こちらこそ宜しく、小鳥遊。では、教室へいくぞ。」

 

 千冬は私を見て、少し驚いた顔をしていた。だが、流石教師。千冬は表情を引き締めると、私に向かって言葉を返していた。

 

「判りました、織斑教諭。」

 

 さぁ、挨拶も終わったことだし、これから私のIS学園の生活が始まるのだ。前世で高校生活を楽しめなかった分、思いっきり羽を伸ばして、楽しもう!




在校生・新入生「・・・なあにあれぇ!?すごいなぁ!」
楯無「綺麗な空中機動ね。ISの方も凄いと聞くし、今年はきっと楽しい一年だわ」
千冬「零戦を見て、生徒にいい影響があれば良いのだが。」

彩羽「驚いてる驚いてる!じゃあ気合入れてこんなこともしちゃう!っていうかIS学園でっけぇ!」

妄想捗りました。方向性は迷いましたが、だいたい、こんな感じです。

改めまして、皆が地上で空を見上げている間、一人空ではしゃいでる馬鹿が主人公です。


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帝国海軍の精神、死んでも朽ちず

小鳥遊彩羽。改めて言うが、彼女は元帝国海軍の男性が転生した姿である。
 そう、つまりは元男性。だが、今世において過ごした15年の年月は、彼を彼女にするには十分な時間であった。
 だが、その根底には未だ「日本帝国海軍」の精神がしっかりと残っているようである。


 入学式が終わったIS学園では、二つの話題が生徒の間を駆け巡っていた。まず一つ目は、世界で唯一の男性操縦者である織斑一夏の事だ。世界初の男性操縦者であり、世界最強である織斑千冬の弟である彼が話題に上がるのは、当然であろう。

 二つ目は、入学式で零戦を飛ばしたのは何者か、という話である。今年の入学式で何かサプライズが行われると生徒には伝えられていたのだが、それがまさか「零戦」の展示飛行だとは誰も思っていなかったのだ。更には、そのマニューバが綺麗で、美しく、のびのびと空を舞っていたために操縦者の話で持ち切りであった。

 

「あの零戦のパイロットて誰だったんだろう?」

 

「さぁ。でも、綺麗な空中機動だったよねー。」

 

「うんうん、私もあんなふうに空を飛んでみたいなぁ。」

 

 ただ、男卑女尊が進んだこの世界では、どちらかと言えば男性である操縦者の織斑一夏の話題は物珍しさから3、空中機動が見惚れるほど美しかった零戦の話題は空への憧れといった所から7と言った所である。

 

「正直、私のIS操縦技術じゃ、あの零戦について行ける気がしないよ。」

 

「確かに。国家代表クラスの人ならついて行けるのかなぁ?」

 

 IS学園の生徒を以ってして、そう言わしめる零戦のパイロットである少女が今、IS学園生活の第一歩を踏みしめようとしているとは、誰も思うまい。

 

 

「小鳥遊。ここがお前のクラスだ。」

 

 織斑千冬に連れられて辿り着いた教室は、1年1組と電子看板が掛かっている教室であった。

 それにしても、この学園にある電子看板は一体どういう仕組みなんだろうか。透明な板に常に文字が流れ続けている。天気、気温、今日のニュース、なんでもござれだ。ううむ、あの機能が我が日本帝国海軍にあればもう少し楽に戦況を進められたのだろうか、ううむ。

 まぁそれはそれとして、確か1年1組と言えば、あの有名人が居たクラスでは無かっただろうか?

 

「1年1組、ですか。確か織斑教諭の弟さんがいるクラスでしたっけ?」

 

「あぁ、よく覚えているな。」

 

「そりゃまぁ、入学式で顔を真っ青にしている男子がいれば記憶に残ります。」

 

 周りをキョロキョロ見ながら、青い顔で萎縮している男子がいれば、否が応でも記憶には残る。私が今世も男で生を受けたのであれば気軽に声を掛けただろうが、あいにく私は女性として今世は生活を送っているわけで、彼の味方にはなれなさそうだ。

 

「あの愚弟は・・・。もう少しシャキッとしてくれれば安心できるのだがな。」

 

 千冬はため息をつきながら、手を額に当てていた。どうもこの人は昔から、心配からくる気持ちからか、自分の弟を下に見る傾向があるようだ。

 ま、悪いことではないのだが、一言フォローを入れておこう。

 

「織斑教諭。それは無理な話だと思いますよ。ただでさえ男卑女尊になりつつある世の中で、いきなり女性に囲まれて生活しろと言われれば誰だってああなりますよ。」

 

「あぁ、無茶だということは承知している。だが、あれはこれからこの環境で一生をすごさなければならないからな。甘えさせるわけには行かないんだ。」

 

「それはどうでしょう。これから、更に男性操縦者が見つかる可能性もありますからね。それに、弟さんから得られたデータを元に、男性が操ることが出来るISを誰かが完成させるかもしれませんから。」

 

「性別が関係ないISを開発・・・束か。」

 

「誰とはいいません。ただ、三菱が作ったと発表すれば、カモフラージュも完璧ですよね。」

 

「なるほどな。・・・お前の口ぶりからすると、ある程度の研究は進んでいるのか?」

 

「ある程度はと聞いてますけれど、ここで話すようなことでもないですよ。詳しくはまた今度。三菱のアリーナあたりでお願いしたい所です。」

 

「そうだな。・・・少し話し込んでしまったな。では小鳥遊。行くか。」

 

「えぇ、よろしくお願いします。織斑教諭。」

 

「では私が先に教室に入る。名前を読んだら入って来い。」

 

 そういいながら、千冬は教室のドアを開け、教室に入っていった。そして直後、「げぇ!」という男の声が聞こえてから「お前はまともに自己紹介もできんのか!」という千冬の声がドア越しに聞こえてきていた。・・・ありゃまた弟さんか。弟さんも、千冬も苦労人だなぁ。

 

 『ま、いい。少々到着が遅れたが、お前たちと同じ新入生を紹介する。名前は小鳥遊彩羽だ。入って来い。』

 

 お。早速お呼びがかかったようだ。私は早速、ドアに手を掛けて教室の中へ入る。さて、どうしようか。とりあえず身だしなみは・・・大丈夫。喋る言葉は、そうだな。ま、部隊への着任挨拶を参考にして喋るかな。 

 

 「ご紹介に預かりました小鳥遊彩羽と申します。三菱重工、及び富士重工の共同IS『零式』専任パイロットをしております。少々事情がありましてこの時間の到着となりました。これからの3年間、どうかよろしくお願い致します。」

 

 私は言い終わると、お辞儀を決める。すると、教室の中から散発的に拍手が湧き出ていた。そして、拍手を受けながら姿勢を正し、千冬の指示を待つ。

 

 「今本人が言ったとおり、小鳥遊は既に専用のISを持っている。それなりの知識も、実技もな。もし、私達教員に聞きづらいことがあったら小鳥遊に相談してみるといい。小鳥遊も頼むぞ。」

 

 「承知しました。何かわからないことがあったら、気軽に話しかけてください。」

 

 「さて、席は・・・織斑の隣だな。」

 

 千冬の視線の先には、弟さんとその隣の空き席があった。・・・千冬の作為的な何かを感じないではないが、まぁ、いいだろう。とりあえず私は千冬の弟の隣で少なくとも1年は過ごさなくてはいけない。故に、挨拶はしっかりとしておこう。

 

 「よろしくね。織斑君。」

 

 「あ、あぁ、よろしく。」

 

 席に座って早速挨拶をした私に弟さんは戸惑い気味に挨拶を返してきていた。まぁ、当然か。私の前世は男だが、今の私は外見も中身も女性である。結局、弟さんからしてみれば挨拶をされたところで、戸惑うのは仕方ないだろう。

 

 「さて、全員揃った所で・・・。」

 

 織斑千冬は改めて生徒たちに向き合うと、表情を引き締めていた。ふむ、完全に先生の表情だ。

 

 「これから諸君らには、これからISの基礎知識を半年で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染みつかせろ!

 いいか?返事をしろ。良くなくても返事をしろ!」

 

 無茶苦茶の理論だが、人を殺める事のできる道具を扱うのだ。確かに、そのぐらいの気合がなければ、この学園に入った意味は無いであろう。

 

「「「はい!」」」

 

 私を含めた全員が、勢い良く返事を千冬へと返すのであった。・・・一名、弟さんを除いて、であるが。

 

 

 さて、まさか初日から濃い授業を開始するとは思っていなかったが、私はなんとかクラスに馴染むことに成功していた。どうやら、専用ISを持っている事がプラスに働いているらしく、様々な人から話しかけられていた。

 

 「へぇ~。たっちゃんは昔からISに乗ってるんだね~」

 

 のんびりとした口調で話しかけてくるのは、布仏本音という女生徒である。袖を垂れさせて、人懐っこい笑みを向けてきてはいるものの、少し違和感がある。

 

 「うん。中学校のはじめぐらいから。ちょっと家が特殊で、その伝手でISに乗れたんだ。」

 

 違和感だ。会話をしていてもどうも違和感がある。常に笑みを浮かべているが、その瞳が時折こちらの観察するように見つめてくるのだ。

 

 「わぁ、そうなんだ~。いいなぁ~」

 

 と言いながらも、私の手や首筋など、体の一部を見つめてくる。・・・あ、そうだ。この感じ。前世の海軍情報部の同僚にそっくりなんだ。本来は生真面目な奴が一枚仮面を被って『演じている』感じ。もしかするとこの本音さんは、そういう職業の人間なのかもしれない。

 

 「楽しくていいよ。好きなときにISに乗って空を舞えるから。」

 

 「へぇ~!空を舞うってどんな感じなの~?」

 

 まぁ、よくよく考えれば、こういう人間がクラスにいて当然であろう。なにせ、このクラスには世界で一人の男性操縦者がいるのだ。当然、拉致やハニートラップといった力技を仕掛けてくる組織があるかもしれない。世界最強の千冬が担当しているクラスとはいえ、千冬が常に側にいるわけではない。となれば、生徒の中に護衛者が居ても当然であろう。

 そうだな。老婆心だが一応確認しておこう。ハズレだったら千冬に報告して、処理をしてもらえば良い。

 

 「そうだなぁ・・・。全てから開放された感じ、かな?」

 

 「わぁ!いいなぁ。私も早く空を飛んでみたいなぁ~!」

 

 「気持ちいいよ。ま、それはそうとして。」

 

 私はそう言うと、本音さんの耳元へ顔を近づける。

 

 「・・・本音さんって弟さんの護衛?」

 

 小さな声で囁きながら本音さんの顔を見た時、本音さんは少しだけ驚いた表情をしながら、眼光鋭く此方を見つめていた。なるほど、此方の眼がこの人の素か。

 

 「あぁ、うん。判った。別に弟さんをどうしようっていうわけじゃないよ。千冬さんには昔からお世話になっているから、その周辺がどうなっているのか確認したかっただけ。」

 

 「・・・どうしてそうだと思ったの?」

 

 「何か隠している感じがしてね。猫かぶりというか」

 

 口調すら変わっていることから、やはり間延びした喋り方は演技なのであろう。と、考えていた時に、彼女は少しだけ悩むしぐさを見せると、私の耳元で小さく声を発していた。

 

 「・・・あなたはどっちなの?」

 

 愚問だ。

 

 「弟さんの味方。彼は学園にいる間、せめて平和に過ごしてほしい。」

 

 「そう。私も彼の味方。彼が正しい学園生活を送れれば本望かな。」

 

 私達はそう言い合うと、互いに顔を離して、笑顔を見せる。笑みを見せる本音の瞳には濁ったものはない。なるほど、弟さんに関しては、少なくとも本音は信じられる仲になりそうだ。うん、ま、念のため、千冬にも裏をとっておこう。 

 

 

 さて、本音とちょっとした問答をした直後、千冬からクラス代表の話があった。どうやら、これから行われる全ての行事において、代表者として闘わなければならないらしい。その他にも委員会の出席やらもしないといけないという、つまりは部隊長みたいなものであろうか。

 

 「私としては企業代表を務めている小鳥遊を推薦する。」

 

 「企業での仕事がありますので、常に学園に居なくてはいけないクラス代表はお断りします。」

 

 「・・・そうか。」

 

 千冬とこんな問答があったが、結局のところは織斑千冬の弟、織斑一夏が推薦されて、弟さんがクラス代表になるということで決まりかけていた。と、その時だ。国家代表候補生である、セシリア・オルコットが声を上げたのである。そして、何を言うかと思えば、イギリスの貴族である彼女の口からは、信じられない言葉が連発されたのだ。

 

 「納得がいきませんわ!男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!」

 

 ・・・ほう、男が代表で恥さらし、と。

 

 「このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 ・・・貴様は屈辱がどうのこうの言える程度に偉いのか。まぁ、貴族だしな。

 

 「大体!文化としても後進的な国で暮らさなくてはならない事自体!私にとっては耐え難い苦痛で・・・!」

 

 ・・・ほほぉ?命を呈して戦うに価値のある、我が祖国を、イギリス代表候補生である、イギリスの代表とも言える貴様が、馬鹿にするか。そーか、そーか。

 残念だ。非常に残念だ。ヨーロッパには『特権的な地位には相応の義務が伴う』という言葉があったはずだ。そして、特にイギリスの貴族、つまりセシリアのような一族には欠かせないほどの誇り高き言葉である。その言葉は、イギリス海軍を元に作られた日本帝国海軍にも引き継がれていたほどの、素晴らしい、誇り高き言葉なのだ。

 その言葉を、精神を持っているはずの現代貴族のイギリス国家代表候補生が、その精神を以って我が日本を、日本男子を馬鹿にするのか。

 

 「イギリスだって大したお国自慢は無いじゃないか。世界一不味い料理で、何年覇者だよ」

 

 弟さんが思わず言葉をセリシアに発していた。まさに、売り言葉に買い言葉であるが当然だ。国を馬鹿にされて黙っている奴なんてそうそう居ない。

 

 「な・・・あなた、私の祖国を侮辱しますの!?」

 

 どの口が言うんだどの口が!そして、少しの沈黙の後、セシリア・オルコットは弟さんに指を向けて、大声で叫んだのである。

 

 「・・・決闘ですわ!」

 

 「あぁいいぜ?四の五の言うより判りやすい。で、俺はハンデはどれだけつければいいんだよ?」

 

 「は・・・?」

 

 セシリアに弟さんが言葉を発した時である。

 

--あははははは!織斑君、本気で言ってるの?--

 

 クラスに笑いが巻き起こっていた。そして、所々から男を馬鹿にする言葉が巻き起こる。曰く

 

 「男と女が戦争したら3日で女が勝つって言われているよ」

 あり得ない。ISでカバーできない補給線と人員を潰したらそれで終わりだ。それに、女性になったからわかるが、体調が一定しないのだ。その隙を狙われでもしたら、逆に戦闘にもならずに、男が勝つであろう。

 

 「男が強かったのはISが出来る前だよ~!」

 あり得ない。ISが出来た後でも、男のほうが体が間違いなく強い。忍耐力も間違いなく男のほうが有利だ。もし、女性と戦争になった暁には、ISに乗っている時に女性が強いというのであれば、男はISを装備しなくなるタイミングを、1周間でも1ヶ月でも1年でも待って、操縦者だけを殺すであろう。ISを365日、24時間いつでも装着して睡眠も食事も排泄も必要としない女性がいたならば、話は別だが・・・千冬なら出来そうだな。

 

 ISが生まれて十年と少し。男卑女尊の世界になったとは言え、ここまでひどい物言いは見たことがない。千冬もそう思っているのか、眼光が鋭く生徒達を見つめていた。

 なんだろうなぁ。私は、このように男子女子で差別をする世界にするために、空に散ったわけではないのだがなぁ。

 

 「むしろ、私の方がハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ!日本の男子はジョークセンスがあるのね。」

 

 「そうだよ織斑君。ハンデ付けてもらったほうがいいよー。」 

 

 こればっかりは悔しいが正論だ。セシリアも専用機持ちである。実力から言えば、ハンデをつけるのは、セリシアのほうであろう。・・・だが。

 

 「男が一度言ったことを覆せるか!なくていい!」

 

 ほう、実力が上の相手によく言った、弟さん。否、織斑一夏。

 

 そうだ、織斑一夏。強者に謙って自分を曲げるようならば、お前はもう日本男子ではない。ただの誇りのないクズだ。

 なるほどなるほど、これほど酷い男卑女尊が進んでいるIS学園で、しかも男で「否」と言える織斑一夏は本物の戦人と言えよう。流石、千冬の弟だ。

 ・・・それであれば、戦人としては先達である私が援護しないでどうするのだ!

 

 「よく言った!織斑一夏ぁ!」

 

 私は普段より低い声色でそう叫び、机を叩きながら勢い良く立ち上がる。そして、ぽかんとするオルコットと一夏を尻目に、鋭い眼光の織斑千冬へと口を開いていた。

 

 「織斑教諭!気が変わりました!先ほどの発言を撤回して私も模擬戦に参加いたします!」

 

 「ほう。そうか。先程は企業を引き合いに出してまで断ったというのに、どういう風の吹き回しだ?」

 

 「簡単なことです。「織斑一夏」の男気に心動かされただけです。」

 

 「あら、貴女、さっきはお逃げになったくせに、今更・・・」

 

 「黙れ。他国の誇りを、戦人の誇りを汚す貴様に言葉を発する権利はない。」

 

 「なっ・・・!貴女!人を小馬鹿にして!」

 

 「我が祖国を小馬鹿にしたセシリア。貴様が言えた台詞ではない。いい加減、その恥ずかしい言葉しか発せない口を閉じたらどうだ!」

 

 私が怒気を含めた言葉を叫ぶと、セシリアは顔を真っ赤にして小刻みに震えていた。そして、私に指を差し、セシリアが口を開こうとしたその瞬間である。

 

 「クハッ・・・フフ!」

 

 千冬がどうやらこらえきれずに吹き出したようだ。獰猛な笑みを添えて私を見ているあたり、千冬も相当キていたんだろうか。

 

 「んんっ。まぁいいだろう。参戦を認めよう。では、模擬戦は次の月曜に第三アリーナで行う。各自それまで準備を怠るなよ。では、日直!」

 

 次の瞬間、千冬は笑みを消してポーカーフェイスで口を開いていた。流石教師。切り替えが早い。

 

 「起立!礼!」

 

 「「「ありがとうございました!」」」

 

 「励めよ、小娘共。」

 

 千冬はそう言いいながら、私にまた獰猛な笑みを向けていた。まぁ、当然であろう。アレだけ日本を邪険にされて、頭に来ない奴はいない。

 

 さて、それはそうとして、これから一週間は忙しくなる。

 

 オルコット・・・否、「敵」の機体データを十二分に収集し、パイロットデータを解析し、相手の癖を分析しなければならない。それに合わせてIS学園のアリーナの地形を記憶し、把握して戦略を立てておかなければ十全な状態では戦えない。更には、セシリアに対抗できるよう、織斑一夏にISの基礎を叩き込む。

 

 私はこれらの準備を、僅か一週間弱で行わなければいけないのだ。

 

 そうだな。まずは織斑教諭と山田教諭に協力を仰いでアリーナを優先的に使用させていただいた上に、同時進行でチーフと篠ノ之束にも協力してセシリアの全てのデータを収集し、戦術と装備を揃える、という感じでいいか。

 

 よし、方針は固まった。見てろよ、男を馬鹿にしたひよっこの餓鬼共。そして日本を馬鹿にした特にイギリスの!そのフザケタ性格を私みずから、叩きなおしてやる。




余談ではあります。
ここだけの話、キャラクターを描く際にキャラクターの基礎として曲を決めております。 例えば、カメコレ級のレ級さんは「時には昔の話を」、自由なエリレさんは「いつでも誰かが」。

 IS学園の主人公も、例外なく基礎として曲を決めています。で、ふとISのTVシリーズを見ていたら、その曲とよく似た曲に出会いまして。そいでもって曲名を調べたら驚くことにキャラクター名だったんですね。こりゃ、キャラと絡ませるしか無いという考えに至りました。 



オルコット「東国の猿!」
一夏「メシマズがぁ!」
千冬「・・・ずいぶんな喧嘩をふっかけるもんだ。小鳥遊はどう動くものか」


小鳥遊「我が日本帝国を馬鹿にしたかそーかそーか。
    我が日本男子を馬鹿にするかそーかそーかぁ・・・。
    海軍精神注入棒ちょっと持ってくるわ。容赦はせん。」

 温度差こんなもんです。自分の死の瞬間でも相手に怒りを見せなかった主人公が、祖国と男を馬鹿にされたことで、Imperial Japanese Navy時代の精神が奮い立ったようです。果たして、どんな模擬戦を見せることやら。


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嵐の前の静けさ

英国のIS乗りに喧嘩を売った主人公、小鳥遊。

彼女の時間は平凡に進んでいるようです。


 『へぇ・・・。セシリア・オルコットねぇ?ずいぶん面白い喧嘩を売ってくれるね』

 

 束さんは電話口でほんの少し怒りを露わにしていた。

 

 「えぇ。面白いんです。・・・ただ、感情に任せて怒鳴ってしまったのは反省点とは思っています」

 

 『ふふ。でも、いっくんのために怒鳴ってくれたんでしょ?うれしいなぁ束さんは!』

 

 「ありがとうございます。あ、あとその一夏さんですが、護衛がついていました」

 

 『お、そうなんだ。マー当然だよねー』

 

 「護衛はのほほんとしているようですけれど、根はしっかりしている方でしたよ」

 

 『ふぅん?ま、いざとなったらちーちゃんもいるし、大丈夫でしょ。私も監視してるしね!それでたっちゃん。セシリアとの対決どうするの?何か作ろうか?』

 

 「うーん、そうですね。特に必要ありません。模擬戦の武装はいつもの汎用武器の20ミリで戦いますし、特に撹乱とかも必要はないかと思います。それに彼女のBTシステムを躱すのも楽しそうですから、基本的に避けに徹しようかなーって思ってます」

 

 『そっかー!それならいつものたっちゃんのスタイルだね。特に何もいらないか!・・・それにしてもBTシステムかぁ。凡人も面白いことを思いつくね。ただ、未だにイメージインターフェースの使いみちのアイデアが、武装にしか見いだせない奴しかいないのが束さんとしては残念だなー。ねぇ?たっちゃんならこのBTシステム、どう使うー?』

 

 イメージインターフェースを使った機能。ほとんどの機体で戦闘向けのチューンがなされてしまっているのが実情だ。ドイツでは相手のPICを無効化して拘束する技術であるというし、中国では砲撃に利用していると聞いた。私のように、機体制御に使用している機体は珍しい。

 それにしてもBTシステムを私ならどうするか、か。そんなのは決まっている。

 

 「決まっています。遠隔操作のカメラに使います」

 

 『カメラ?』

 

 「えぇ。自分の飛行を撮影するんです。自分の好きなアングルから撮影して、飛行にアラがないか探したいなーって」

 

 『・・・あは、あははは!そっか、それはいいアイデアだね!うん、そのうち開発しておくよ!たっちゃんは面白いなぁ!』

 

 「面白いですか・・・?でも、せっかく遠隔操作できるのなら好きなように撮影したいですし・・・」

 

 『うん、うん。そうだねー!っていうか、たっちゃんのゼロ式、本当ならセカンドシフトしてパワーアップしてもいいくらいの搭乗時間と練度のはずなんだけどなぁ・・・?』

 

 「そうなんですか?」

 

 『うん。たっちゃんの操縦技術も適性も最高すぎて、今の私の改修じゃこれ以上良い機体は作れないんだよねぇー!となると、IS自身に進化してもらうしかないんだけどさ・・・、なんでだろ?これはよーく調べないと・・・!』

 

 「・・・束さん、お願いしますから寝てくださいね?クロエさんから博士の隈がひどいんですって相談うけていますよ?」

 

 『なーにいってるのさたっちゃん!たっちゃんを気持ちよく空に送るのが私の仕事だよ!?私の事なんてどうでもいいの!』

 

 「あー・・・そういっていただけると嬉しいのですが、無理はしないでくださいね?それに、たしか妹さんの専用機とか、一夏さんの専用機も手がけてるんじゃなかったでしかっけ?」

 

 『問題ないよー!ふふふふふ・・・・研究意欲が湧きまくって押さえられないのだ!さぁ、クーちゃん!・・・は、寝ちゃってるね!ま、いいや!じゃ、模擬戦がんばってね!いっくんと箒ちゃんのこともよろしくー!』

 

 ・・・慌ただしい人だ。でも、BTシステムを利用したカメラを作ってくれるっていうのは良い。第三者が撮影した映像だと、どうしても見たい場所が写ってなかったりするからね。自分の好きなアングルで、必要な情報・・・エルロンとかの動きが判るようにしたいし。開発に期待しよう!

 

 

 篠ノ之束。天から付与された才能を持ちながら、努力に秀でた秀才である。自身の力に絶対的な自身を持つ反面、一切慢心をせずに裏打ちされた知識と経験によって、全ての行動を行っている。

 

 ただ、彼女は天才であり秀才すぎたのだ。その行動は一般人には理解できない。10歩先、いや、100歩先というのも甘い。千歩とも万歩とも言える先を見つめて歩みを始める彼女と交流できるのは、世界でも本当に一握りの人しか居ない。

 

 例えば世界最強の「織斑千冬」。彼女も篠ノ之束と同じように、天才であり秀才だ。ただ篠ノ之束が頭脳面に秀でているならば、織斑千冬は武力に秀でている。それ故に、織斑千冬は篠ノ之束の友人であっても「理解者」にはなれない。

 

 そして篠ノ之束が理解者を得られずに、この世がつまらない。この世をもっと面白くする、という破綻した願いの元で行動すれば、この世は混沌としていたことだろう。

 

 だが、そうはならなかった。この世界には、彼女の理解者が存在していたのだ。

 

 1つは日本の大企業である三菱重工である。宇宙を目指し、軍事技術と全く関係のないところで開発・運営されているロケットを製造する彼らと、篠ノ之束は同じ方向の夢でもって繋がっている。特に三菱重工のチーフは篠ノ之束と軽口を言い合いながら切磋琢磨することができる、天才ではないが紛うことなき秀才だ。

 

 そしてもう一つ。天才と秀才と対を成す存在の「突き抜けた馬鹿」である。空を愛するばかりに、空を飛ぶことしか考えていない存在だ。ISについても、スポーツやら軍事転用などには目もくれずに空を飛びまくっている馬鹿の名を「小鳥遊 彩羽」という。

 篠ノ之束の技術と知識をもってしても予想外の結果を叩き出す彼女は、正に空飛ぶ規格外といったところだ。それ故に、篠ノ之束と小鳥遊彩羽は、真正面からぶつかることができる。

 

「出力が欲しい」と小鳥遊が言えば

「おっけー!」と篠ノ之束が返す。

「たっちゃん、これとこれを付けて飛んでみてよ!」と実験機を持ち込んでみれば

「すっごい早いです!楽しいです!イヤッフウウウウ!」と小鳥遊が簡単に乗りこなす。

そして、「でもこれ継続時間が短いです。それにブースターの遊びが大きくて余計なエネルギーを使います」と見事に篠ノ之束へ意見するのだ。

 

「厳しいねぇ・・・たっちゃんは!でも燃えるよ!必ず満足する改修を行ってみせる・・・!」

 

 そう。篠ノ之束は自身の力を十全に発揮しても、未だ到達できない高みを見つけたのだ。それゆえに、小鳥遊との関係は理解者、というよりも「未知と限界への挑戦」と言ったほうがいいのかもしれない。

 

 そして篠ノ之束が改修を行っている小鳥遊のISも並大抵の機体ではない。元々は三菱が2世代初期として作成したテストヘットである「ゼロ式21型」というISなのだが、過去2回の大改修によって、現在はその形をとどめていない。

 1回目の改装では「展開装甲・イメージインターフェース」のテストヘッドを埋め込まれ、実質的に第3.5世代の規格になっていた。そして2回目の改装で出力系の改装を行っているのだ。

 現在の小鳥遊彩羽のISの名前は「ゼロ式64型」である。

 

 これらの篠ノ之束が行った大改修によって、ゼロ式の機体性能は、並大抵の第3世代には負けることはない。だが、元々の機体であるゼロ式の拡張性がほとんど無かったために、これ以上の発展は望めないというのが、篠ノ之束の言葉である。

 

 なお、ゼロ式64型は武装を持っておらず、基本的に模擬戦闘やデータ収集を行う際には無手か汎用性のある20ミリ機関砲を用いて戦闘を行っている。普通の人間であればまともなデータを取ることは叶わないが、専任パイロットである小鳥遊彩羽の操縦技術によって有益なデータが取得できている。

 

 そんな規格外の小鳥遊彩羽。ISを扱う製造業界では、零式艦上戦闘機を飛ばしそして、三菱のテストパイロットとしてISを飛ばす彼女は知る人ぞ知る有名人である。

 一時「戦闘機に乗せて空戦能力を鍛えた人物は、ISの操縦技術も凄いのではないか」という議論が行われ、実際に実験も行われたのだが、費用が高く、効果がさほど見込めなかった。それ故に、二足のわらじを履いているのは彼女だけだ。

 

 そしてなにより、彼女がISの製造業界で有名なのは、三菱が発表しているISの論文には必ず「小鳥遊 彩羽」の名前が必ず載っているのだ。

 

「ISの基礎技術に小鳥遊の名有り」

 

 PICの基礎研究、パーツの強度、フレームの歪み、アクチュエーターの性能、機体制御のアルゴリズムなどなど、様々なシチュエーションの実験に、小鳥遊彩羽は参加していた。しかもその論文は無償で公開されており、これからIS業界に参入しようとする会社にとっては非常に役立つものである。

 特に機体制御アルゴリズムは目をみはるものが有り、今ではほぼ全ての量産機の基礎として使用されている。

 

 ただ実際は、小鳥遊彩羽の操縦技術を把握し、必要なデータを収集し、論文に纏めている三菱重工のチーフと篠ノ之束の力が大きい。そしてなにより、篠ノ之束は自身がまとめ上げ、三菱が発表する論文によってIS業界が活発になれば良いと思っていたりする。

 

「戦いとかスポーツに使われるのは納得いかないけどね。でも、三菱みたいに宇宙の技術として使ってくれている場所もあるし、たっちゃんみたく自分の羽として認識してくれているひともいるから、私はしばらくたっちゃんと三菱のパートナーとしてやっていきたいなー」

 

 というのが彼女の考えだ。『昔に比べて、篠ノ之束は丸くなった』とは織斑千冬の言葉である。

 

 

 セシリア・オルコットは小鳥遊彩羽の情報を全くといって知らない。せいぜい知っている情報は「IS業界において遅れている東国の企業の専任パイロット」という偏り極まりない情報だけだ。

 「東国はISにおいて遅れている」という謎の偏見が彼女の根幹にあるあたり、白人種と黄色人種の差別についてが垣間見える。

 

 「日本人よりも我々が、ISを上手く扱える」などという考えが、セシリアの周りでは横行していたのかもしれない。

 

 実際の評価として、セシリア・オルコットは間違いなく天才である。BT技術の適性があり、操縦技術も十二分。IS適性もAを超え、最高の人材だ。だが、環境が悪かった。彼女のレベルで戦える人間はおらず、男性に対して偏見を持ってしまった彼女は男性からの意見を一蹴し、自分を囲う女性の意見を聞いてしまったのだ。

 天才は努力をしたが、それはあくまで努力である。秀才の域には達してはいない。それ故に、事実として彼女のISであるブルーティアーズは未だに100の力を出せていない。

 

 ブルーティアーズを操っているときは機体を停止せねばならない。

 本来のスペックにある偏光射撃を未だ習得していない。

 近距離に潜り込まれた時に対応が遅い。

 

 貴族の仕事を掛け持ちしながらISの国家代表候補生をこなすのは並大抵の努力では実現しないのは事実。だが、天才であるセシリアが秀才と言われるほど努力をすれば、弱点をなくすことができるのもまた事実。

 恐らくはセシリアはどこかで慢心し、勘違いしてしまっているのだ。「国家代表候補生の中で、私が秀でている」と。そして「ヨーロッパがISの中心である」と。

 

 そうでなければ、IS学園でいきなり「日本は野蛮、ISについては遅れている」などと言葉を発するわけがない。

 

 「三菱重工のIS・・・小鳥遊彩羽。無名な企業のテストパイロットの貴女が、国家代表候補生の私を馬鹿にしたこと、後悔すると良いですわ・・・!それに織斑一夏も・・・!」

 

 だが、そのように日本を馬鹿にする彼女のブルーティアーズの機体制御アルゴリズムは、三菱が出しているゼロ式と小鳥遊彩羽の技術を元にした論文のものであるし、火器管制システムのアルゴリズムの基礎も三菱が公開しているゼロ式の論文を応用したものであることも、彼女は知らない。

 何せ、ブルーティアーズの開発陣は「オリジナルのOS」「オリジナルの技術」と銘打ってセシリアに機体を譲渡したからだ。そんなものは古今東西、あるはずがないのに。

 

 「必ず、無様に膝をつかせて差し上げます」

 

 無知とは、恐ろしいものである。

 

◆ 

 

 さて。正直な話で言えば私はおそらくセシリアには負けないであろう。自信過剰ではない。私を倒したければ織斑千冬を持って来い。

 

 だが、織斑一夏を鍛える良い案が浮かばない。更には束さんに「いっくんのことよろしくねー!」と言われている手前、中途半端なことは出来ないのが悩みだ。

 

 千冬から聴いた情報によると、織斑一夏は全くISに関わらずに高校まで生きてきて、武道をやっているかと言えば小学生までしかやっていない。基礎体力はそこそこあるものの、平均より少しいいぐらいである。そして、いきなりIS学園に放り込まれたばかりで、現実が全く見えていない。

 更に状況も悪い。急に模擬戦が決まったがために、ISの練習機が一切借りられない状態なのだ。体力や武道の基礎はなく、あるのは織斑千冬のバックボーンと、日本男児の誇り高き精神だけだ。

 

・・・悪くない。その精神だけで、鍛える価値はある。

 

 と、私がやる気にはなったものの、織斑一夏の周囲には必ず篠ノ之箒が付いて回っていた。何をするにも必ず口を挟んでくる彼女は、恐らく織斑一夏を好いている。だが、今切羽詰まった現状では、その天邪鬼は邪魔でしか無い。

 ・・・と感じてしまうのはやはり、私が前世で青春を一回体験しているからであろうか。だがしかし、これだけあからさまに好意を向けられて、全く動じず気づかない織斑一夏もまた、すごい。

 

 「小鳥遊に話しかけられて何を嬉しそうにしている!」

 

 「な、いいじゃないか。小鳥遊は俺を鍛えようとしてくれてるんだぜ?」

 

 「小鳥遊。ISについては一夏は私が鍛えている。余計な口出しは無用だ!」

 

 「毎日の走り込みと剣道の練習試合で、ISが上手く扱えるのなら苦労しないって・・・」

 

 「一夏、何か言ったか!?」

 

 大体はこの流れだ。しかも最終的に篠ノ之箒は顔を赤らめる始末。青春だなぁ。

 

 それにしても、走り込みと剣道か。篠ノ之箒は悪くない鍛え方をしているようだ。

 ISが借りられないということは彼女も知っている。それゆえに、基礎体力を伸ばし、過去に経験のある剣道の動きを思い出させるのは非常に有用だ。

 

 「走り込みと剣道ですか、いいと思いますよ。ISは操縦というよりイメージが大切ですからね。それに加えて動きますので体力も必要です。

  篠ノ之さん。がんばってください。織斑さんを勝利に導くのは、貴女の仕事です」

 

 「・・・!と、当然だ。そんなことは判っている。さぁ、一夏!小鳥遊もそう言っている。今日も走り込みと剣道の練習だ。鈍った勘を取り戻させてやる」

 

 篠ノ之箒はそう言うと、我先に剣道場へと向かっていった。そして、織斑一夏もそれを追おうとし、私に声をかける。

 

 「お、おう・・・!イメージと基礎体力、か。なぁ、小鳥遊。簡単なことでいいから、これからまた気づいたことがあればアトバイス頼めるか?」

 

 「えぇ、良いですよ」

 

 「助かる!それにしてもイメ―ジか・・・ISで空を飛ぶイメージが全然判らないんだよなぁ」

 

 「そうですね。実際飛ぶまではなかなか想像はできないと思います」

 

 「なぁ、参考までにさ、小鳥遊はどうやってISで空を飛んでいるんだ?」

 

 「私は・・・あー、日本戦史保存会もしくは歴史保存会ってご存知ですかね?」

 

 「あぁ、知ってるぞ。何度かイベントに行ったこともあるし」

 

 「それでしたら話が早いですね。私は保存会の零戦パイロットなんです。ですから、空をとぶことをイメージするのはそんなに難しいことではないんですよね」

 

 「・・・あぁ!小鳥遊って名字、どこかで聴いたことあると思ったら・・・・なるほどなぁ。イメージの参考になればと思ったんだけどな」

 

 「お役に立てずに申し訳ありません」

 

 「いや、大丈夫。おっといけね。箒が待ってるからそろそろ行くわ。またな!」

 

 「えぇ、また」

 

 織斑一夏はそう言うと、篠ノ之箒の背中を追っていった。うーん、まぁ、私が行おうとしてた鍛錬と同じであろうし、篠ノ之箒にまかせておいて大丈夫と信じておこう。それに、仮にも織斑千冬の弟さんだ。多分、おそらく、間違いなく規格外であることは保証されているようなものだろう。一方的に負けることは無いはずだ。

 

 私はそう考えながら、零戦があるアリーナの格納庫へと歩みを進めていた。というのも、生徒会からアリーナへと呼び出しを食らっているのだ。おそらく、理由としては展示飛行関連だとは思うのだが、はてさて?

 

 




小鳥遊「ちょっと物足りないなー」
篠ノ之束「改修限界・・・動け私の灰色の脳!もっと、もっとアイデアを!」

篠ノ之箒「一夏と一緒、一夏と一緒、一夏と一緒、一夏と一緒」
織斑一夏「練習できないってやばくね・・・?ヘルプミー小鳥遊」

セシリア「辺境の地のISなぞ恐るるにたらず!(慢心)」


コアNo17「・・・主は速度も欲しいっていってるし、機体を細くして出力を上げる?いやでも、私達の予想を超えて主は成長するから、拡張性もたせなくちゃいけないし・・・母さんに拡張の手間をかけさせるのも忍びないし・・・!いやでもそうすると拡張性を考えて機体大きくしないといけないけど、そうすると小回り効かなくなっちゃうし・・・!あ、じゃあPICとブースターを強化して大型機体でも小回りと速度を出せるように・・・したら私の出力じゃ稼働時間が短くなっちゃう。主の要望は零式艦上戦闘機が念頭にあるし、航続距離も見なきゃ・・・ってことはエネルギーを貯めるコンデンサーを大型にし・・・たら重量増えるから出力をあげ・・・・あげ・・・・」

コアNo001「お前は頑張ってる。本当に頑張っている。いい、今日はいいから休め」

コアNo017「でも今の私の体じゃ主の動きを十全に再現できないしパワーアップしないといけないしでも大型機にしちゃうと重量増えて小回り効かないし・・・そうするとパワーアップしないといけないしあぁそうすると大型機になって重量増えちゃってパワーアップしないと機動性確保できないしあぁ堂々巡りです私はどうすればいいと思いますかコアナンバー001」

コアNo001「いいから休め!」

どこかでこんなやり取りがあったとか、無かったとか。


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ゼロ式64型(A6-M8)

セシリアに啖呵を切った小鳥遊彩羽。だが、その心の内は言葉とは少々違うものであった。

※誤字報告まことにありがとうございます。


 零式艦上戦闘機六四型。私は話にだけ聞いたことがある。

 戦争末期、度重なる改良によって重量が増加し機動性が落ちた零戦に対し、高出力エンジンを搭載した零戦の最終形である。

 私の愛機である二一型に対して、最高速度は約100km/hほど上昇し、武装面・防御面でも充実した「最終改良型」の零戦と言える。

 

 ただ、その性能は空戦で発揮されることは二度とない。何せ、私がこの機体の噂を聞いたのが戦争の末期の末期であったからだ。戦争の常として「この機体があと一年早くあれば」という気持ちがないわけではない。

 実際保存会で保管されている六四型については非常に性能が良いものであるし、まともな数が実戦配備されていたのであれば間違いなく搭乗していたと思う。

 

 などと思いながら…私のIS、ゼロ式64型を整備する。整備と言っても私が出来るのは、エネルギーラインの確認と、各部の損傷・摩耗具合の確認ぐらいだ。というかそれ以外の簡単な損傷はIS自身が回復させてしまうし、ISで回復できないほどの損傷となれば三菱の技術者か、束ぐらいしか直すことができない。

 

 いつだってパイロットである私に整備面でできることは、案外少ないのである。

 

「へぇ~。たっちゃんの機体ってホントすごいね~。無駄なものがなくて洗練されてるっていうか…」

 

 そして、整備をする私の横で呟くのは、私の中で『眠れる獅子』と勝手に名付けた本音である。どうやら本音は整備の腕も優秀らしく、IS学園でさらにその能力を磨き上げたいらしい。

 

「ワンオフのパーツはほとんど使われていないのに、部品の組み合わせでISとして高性能を維持してるのね。当然ほとんどの使用パーツは汎用のものだし、整備性も抜群ときてるし。…お姉さんとしては三菱重工に、私のISを一度見てもらって講評をもらいたいわね」

 

 更にゼロ式をまじまじと見つめながらつぶやくのは、IS学園生徒会長である更識である。彼女はIS学園の生徒会長でありながら、ロシアの国家代表を務める実力者であり、IS学園において織斑一夏の護衛を任されている実力者である。

 生徒に生徒の護衛を任せるのはどうなんだろうか、という疑問は残るものの、ロシアの国家代表という肩書はきっと伊達ではないのであろうということで納得しておく。

 

 なお、彼女らがここにいる理由は、本音の正体を私が一発で見抜いたからだそうだ。ちょっと会話をしてみたくなったらしい。

 最初は明らかに警戒心の塊という感じであったが、とはいえ私は隠すものなどないわけで別に特筆すべきことはない、という感じで腹の内をさらけ出してみたところ、更識も本音も警戒心を解いて打ち解けるに至った次第だ。

 

「汎用パーツが多ければ多いほど整備がしやすくて信頼性がありますからね。それにISといえど新規装備を付けてしまえばそれだけ故障と不具合というリスクが大きくなってしまいます。

 特に今は第三世代、更にその先への世代へとIS開発に世界中が躍起になっていますけれど、私個人的には新進気鋭とはいいつつ、ある程度は枯れた技術も必要だと思いますよ」

 

「なるほどね。そういえばゼロ式も第三世代と聞いたことがあるのだけれど、特に武装が見当たらないわよね」

 

 更識はそう言いながら、コンソロールで私の機体をよく観察していた。確かに見えるような位置には、第三世代としての装備はついていない。

 

「ええ。まぁ、ゼロ式はスポーツ用でも軍事用でもなく、データ取得用のISという意味合いが強いですから。ですがイメージインターフェースは搭載していますので、そういう意味ではれっきとした第三世代ですよ」

 

 そう、ゼロ式はよくシンプルな外見からか、よく「第二世代」と思われることが多い。大型のブースターが目を引くものの、打鉄をベースにラファールの丸みを帯びさせたような深緑の機体だ。束曰く「暮桜にも似ているよ」とのことだ。確かにちょっと似ているかもしれない。

 だが度重なる魔改良によって、その性能は第三世代を超えて第四世代と言ってもいいくらいになっているとは束本人の談だ。

 

「ただ欠点として、三菱からゼロ式は現在の技術ではこれ以上改良ができないとお墨付きを得てしまっています。何か技術革新があるか、セカンドシフトぐらいでしか性能向上が望めないんですよね」

 

 このゼロ式の拡張性については、束ですら頭を抱える問題だ。

 正直に思うところを吐露すれば、機体の製作元である三菱は機体の特性といい拡張性といい、零式艦上戦闘機に似せすぎだと思う。個人的には試作機で技術立証したのちに、次世代型の開発をしたほうが効率が良いと思ったりもするわけで、ゼロ式の次は何か考えているのですか?と聞いてしまったこともある。

 ただ、束曰くそうしてしまうと、今まで積み重ねてきたISとの経験値が零になってしまうらしく、そうなるとフィッティングからカスタムまで一からやり直しという話もあるし、痛し痒しだ。

 

「そうなんだ。でも、スペック上だと私のIS、ミステリアス・レイディを上回っているのだけど、たっちゃんはそれでも足りないの?」

 

 国家代表レベルの最新鋭機よりも高いスペックであるというが、私にはそんなことは関係ない。

 

「えぇ。まだ。まだ足りません。だってISはもっと高く、速く飛べるはずですから」

「うへー…。たっちゃんは向上心の塊だね~。普通は満足しちゃうよ。例えばこのエネルギーラインだけど普通のISの倍以上のキャパシティがあるし、関節周りのアクチュエーターも汎用品ではあるけど、一度ばらしてパーツの精度を高めてから組みなおしてあるし…。できることはすべてやりつくしてる感じだよ~?」

 

 そういいながら本音は私の機体のエネルギーラインを見つめていた。束はそんな細かいことまでしていたのかと思う。でも確かに、行きつくところまで行ったあとは細かい整備と調整による性能調整が大きな意味を持つのは確かである。

 末期の零戦では補給物資がなくできないことではあったが、ネジの一つの取り付けにしてもグリスやゆるみ止めを忘れない細やかな整備が、空戦の一番大事な極限の状態では効いてくるのだ。

 

「本音は凄いですね。一目見ただけでそこまでわかるなんて」

 

 そしてなによりそれを一発で見抜いてしまう本音の眼もまた本物である。普通は全く気が付かないどころか、バラして組みなおすなんて発想が出てこないであろう。

 

「まー…生徒会長の機体を整備させてもらったりもするからね~」

「本音の姉が私の整備士なんだけれど、本音もいい腕をしているからね」

 

 胸を張る本音。なかなか良い関係のようだ。どうせなら私にもこんな整備士…と思ったが、私には三菱と束がいるのだ。これ以上の存在を望んでしまえば罰が当たる事だろう。

 

「うらやましい関係ですね。っと、整備はこんなところでお終いです」

「ありがと~」

「いろいろ見せてくれてありがとうね。たっちゃん。織斑一夏君の護衛は私たちがしっかり行うから、安心してね」

「もちろん。私も一夏さんの幸せを願っている一人、ということがわかっていただけただけで何よりですよ」

 

 私は笑顔を見せながら、ゼロ式の整備を終える。コンソロールを閉じながら道具を片付けていると、更識さんから声をかけられた。

 

「あー…あと、たっちゃん、個人的なお願いなんだけど」

「なんでしょう?」

「零戦を見せてもらっても構わないかしら?」

 

 ゼロ式ではなくて私の零戦を見たいとはまた酔狂な…。でも、見たいというのであれば断る理由はない。

 

「えぇ、かまいませんよ。好きなだけどうぞ」

「会長~。私は仕事があるからここで失礼します~」

「わかったわ」

「じゃあ、またね~。たっちゃん!」

 

 本音はどうやらここで戻るようである。仕事というのはおそらく護衛なのだろうか?

 

「ええ。また。更識さんは戻らなくていいんですか?」

「大丈夫。それに、展示飛行であれだけ魅せてくれた機体、一度は見てみたいじゃない」

 

 態度は変わらないが、更識はきらきらとした目を向けてくる。うん、そんな目をされては、見せるしかないじゃないか。

 

「そういっていただけると光栄です。では、こちらにどうぞ。先ほど整備が終わって組みあがってますので、自由にご覧になってください」

 

 ISが置いてある場所から壁を一枚隔てた格納庫に、私の零戦21型は鎮座している。機体上面は、海面や森林を意識して深緑迷彩を施してある。機体下部は逆に零戦本来の色である乳白色だ。そして美しい丸みを帯びた機体の横に更識は立ち、零戦の外皮に手を当てていた。

 

「へぇ…美しい流線形をしているわね。材質は確か…」

「外皮は基本的にはアルミですね。主翼の内部は超々ジュラルミンが使われています。他には一部布も使われていたりしますよ」

「布、なんて使われているのね。それにしても詳しいわね」

「そりゃもちろんです。自分の機体の事は手足のように判らなければパイロット失格ですからね。一応補足すると、布はこのエルロンとかの稼働部分ですね」

 

 布、という言葉に更識はエルロンを軽く撫でていた。でも、幾重にも折り重なった布と樹脂のおかげで、それが布だと気づくものは少ないであろう。ただ、高速戦闘ではこの布で出来た羽が悪さをするのだ。つまることろ、よくたわむ。そしてたわんで舵が効きにくい状態になってしまうのだ。

 

「そして見てわかるとおりに、外皮は薄くて防御なんてものには目を向けていません。ただ、当時の世界認識としてはパイロットの防御ということは考えていなかったと思います」

「どういうこと?」

「零戦はまともな戦闘のデータを使って作られた戦闘機ではないからです。平和な時代に高性能機を作ろうとして作られた機体ですからね。データは一次大戦時のものですから、基本的に防弾なんて考えていません。それが証拠に、戦時中に開発された改良型の零戦には、防弾装備がしっかりとつけられています」

 

 運動性を犠牲にして、という補足がつくが。と心の中でつぶやく。ただし、本当に最初から防弾装備がしっかりしていれば、いくつかの命は助かったのではないかなどと思ってしまう。

 

「何か、たっちゃんのゼロ式と通じるものがあるわね」

「確かに。私のゼロ式は空を飛ぶ道具ですからね。これを戦闘に使おうと思ったら、武装を取り付けたり、装甲を増厚したりといろいろと改良しなくちゃいけません」

 

 私のISであるゼロ式も確かにかなりの部分を削ってしまっている。その代わりに小回りが利き、運動性が良いのだ。

 

「でもそうなると、セシリアちゃんとの戦いはどうするのかしら?今言った通りに、ゼロ式は武装がないんじゃなかったっけ」

 

 まさにこれが最大の問題点とも言ってよいだろう。機動力と機体性能に全部システムを振った結果の結末だ。だが、後悔は一切していない。

 

「問題ないですよ。外付けの7.7ミリ機銃と、20ミリ機関砲で戦うだけです」

「零戦の装備と一緒ね」

「ええ。使い慣れているのが一番ですからね」

「…倒せるのかしら?」

 

 更識が疑問の声を上げていた。それはそうか。今回はペイントボールを使用した模擬戦ではなく、エネルギーを削り切るタイプの模擬戦だ。7.7ミリ機銃と、20ミリ機関砲だけでは一般的に火力不足ととらえられるであろう。とはいえ、私はセシリアと模擬戦を行うとはいえ別にどうもしない。いつものように全力で飛ぶだけだ。

 

「私は別にセシリアさんを倒そうとは思っていません。ただ…クラスといいますか、この学園に蔓延る『女尊男卑』とセシリアの『差別意識』を変革出来たらいいかなと思っています」

「なかなか難儀なことをしようとしているのね。具体的にはどうしようとしているの?」

 

 疑問の顔を向ける更識。別に大層なことではない。

 

「前者に関しては、織斑一夏さんに頑張ってもらうしかないでしょう。セシリアさんに追いすがってあと一撃!というところまで持っていけば、まずは変革への一歩である楔が打てますから。そのあとはさり気なく支えて実力をつけていただければな、といったところです」

「確かに。そのぐらい一夏君ががんばってくれれば、ちょっとは変わるきっかけになるかもね」

 

 同意を得られたようだ。実際、女ばかりの場所では、どうしても男の意見や男の根性と言ったものに触れる機会なんてものはない。特に『女尊男卑』の世界になってしまってからはそれがより感じられる。そこに織斑一夏という存在が紛れ込んだことは非常に良い影響を与えるものだと信じたい。

 

「後者に関しては、一夏さんとの模擬戦でセシリアさんが何かを感じてもらえば結構。それでも彼女が曲がっているようであれば、私が全力を持って心を折りに行きます。あとは…彼女次第でしょう。このぐらいで腐るならイギリスに帰れと言うだけです」

 

 そして次点。それによってセシリアが変わればまた良い事だと思う。文句は言ったが、私はあくまで前世ある人間だ。若者を導かんでどうする、というのが正直な気持ちである。

 

「自信満々に言うのね。でも、その実弾装備で勝てるのかしら?セシリアちゃんは何を言ってもイギリスの国家代表候補生よ。並大抵の実力ではないと思うわ」

 

 心配そうな顔で更識はこちらに口を開いていた。うん、ぶっちゃけると本当に問題はないのだ。

 

「問題ありませんよ。セシリアさんの今までの模擬戦のデータを見ると、明らかに弱点があります。なぜ誰も指摘しないのか、なぜ本人は直そうとしないのか。そう言える明確な弱点が。そこを狙えば私の装備でも、強いて言えば織斑一夏でも、セシリアに楽に勝つことは可能です」

 

「ふふ、怖いわね、たっちゃんは」

 

 怖いとは失礼な。私からすれば、不敵に笑うあなたが怖いです。

 

 

 更識さんと格納庫での語らいの数日後、零戦の格納庫があるアリーナで執り行われた織斑一夏とセシリア・オルコットの戦いは、白熱するもあと一歩というところで織斑一夏の負けとなった。ただ、内容は勝利と言ってよいものだ。何せ、素人がプロであるセシリアからあと一撃というとシチュエーションを勝ち取ったのだから。

 

 それを私は千冬、篠ノ之箒、山田教諭と一緒に見ていた。正直に言うと、なかなかに白熱した一戦であった。正確な射撃をするセシリアに、掻い潜りながらも一撃を加えようとする織斑一夏。実に、心躍る戦いであった。

 

 だが、そのあとがいけない。肉親である千冬は戦を終えた織斑一夏に対して「成っていない。実力不足」の一言であるし、練習を見ていた幼馴染の篠ノ之箒も叱咤するだけである。それでは人は育たないというのは、我が海軍が米国と戦う前からの常識であろうというのに。

 

 と、言うことで、織斑一夏に息巻いていた千冬と、篠ノ之箒の耳元でちょっとアドバイスをささやく。

 

「千冬さん。『やってみせ 言って聞かせて させてみて 褒めてやらねば人は動かじ』です」

「ん…?」

「何をいうんだ。私が練習を見ていたのに、一夏は負けたんだぞ」

「千冬さん、一夏さんが早く育たないとこの世界でやっていけないという焦りはわかります。ですが、それを込みでも出来たことに関しては褒めてやらねばいけませんよ。それに篠ノ之さんだって練習を見てあげていたのでしょう?であれば、叱咤だけではなく、できていた部分を褒めてやらねば、道筋を示してやらねば、次に繋がりません」

「あぁ…そうか、本当に彩羽はしっかりしているな…」

「む…確かにそうか…」

 

 ふぅと千冬はため息をつくと、織斑一夏さんに向かって声を張った。

 

「一夏。初めて乗った機体で国家代表候補生に追いすがった事については褒めてやる。だが、こんなものは偶然だ。精進しなければ実力は付かん」

「おう!分かってるよ千冬姉!」

「千冬教諭だ馬鹿者」

 

 真似をするように、篠ノ之箒も織斑一夏に対して口を開いていた。

 

「一夏!追いすがって撃ち込んだ事は褒めてやる!もっと精進しろ!」

「お…おう!箒もありがとな。でも、今度はISも教えてくれ…」

「解っている」

 

 篠ノ之箒は最後にちょっと目が泳いだが、及第点であろう。これで織斑一夏は多少なりとも今後の道筋が見えたはずだ。

 

「それと、だ。一夏。お前は彩羽の戦いを見ろ。そして、目指せ。こいつの動きは別格だ」

 

 …私の動き?

 

「私の動きを見ても勉強にはならないかと」

「小鳥遊の?でも俺は千冬姉の…」

 

 私と織斑一夏の声が重なる。だが、それを見た千冬は優しい笑みを浮かべて、こう話すのであった。

 

「謙遜するな。お前は別格だよ、彩羽。そして一夏、私ではなく彩羽を目指せ」

 

 そう言った千冬を、織斑一夏は納得のいかない顔で見つめていた。私もそうである。個人的な意見ではあるものの、近距離武器を持つ織斑一夏は、私のような射撃武器愛用者ではなく、織斑千冬の動きを真似るべきだと思うのだ。

 

「確かにそれはありかもしれませんねぇ。千冬殿の動きは少々人間離れをしていますからね。彩羽さんの動きはまだ人間の範疇ですから、おすすめですよ」

 

 聞きなれない声に、一夏と箒は声のする方向を向いていた。そこには、スーツを着た30代~40代と思わしき男性が、バッグを片手に立っていた。

 

「あの…どなたでしょうか…?」

 

 思わず声をかけてしまう箒。スーツの男性はその声に答えるように、お辞儀をしながら自己紹介をする。

 

「あぁこれは失礼しました。私、三菱から小鳥遊彩羽のデータ取りにやってまいりましたしがない研究者です。チーフとでもお呼びください。そしてお久しぶりです千冬殿」

 

 チーフと名乗った男性と、千冬は握手をする。あぁ、そういえばチーフと千冬は久しぶりの再会になるんだったっけ。そりゃそうか。あの焼肉以来だもんなぁ。

 

「お久しぶりです。…ということだ。彩羽の力を支える裏方といったところだな。白式の基礎OSに技術提供をしているとも聞いたことがある」

「え、そうなのか!?」

「あぁー。致しましたね。ずいぶんと難物ではありましたが…いかがでしたか?織斑一夏君」

「えーっと…。すごく動かしやすかった。っていう感じです」

「ならばよかった。我々三菱と彩羽さんの研究結果が少しでも役に立っているようでなによりです」

 

 そういいながらチーフは笑みを浮かべると、私へと手を伸ばしていた。

 

「そして彩羽さん。遅れましたがご入学おめでとうございます。いや、すいません。研究結果を纏めるのに半年ほど缶詰でして…」

「忙しいのは分かっていますから大丈夫ですよ。それに彼女の頭についていこうと思ったら、チーフでも苦労することでしょうし」

「ご理解いただいてなによりです。…ということで、今日は久しぶりに直にデータを取らせていただきます。機体に不審な点などありましたら何なりと申し付けてください」

「えぇ、遠慮なく頼りにさせていただきます。よろしくお願いしますね。チーフ」

 

 私はその手を固く握ると、早速、ISを纏いアリーナへと舞う。さて、セシリア・オルコットは織斑一夏との戦いで何か変わっているか。それともそのままなのか。出鱈目勝負いきますかね?

 

 

 アリーナに飛び出した私を待ち受けていたのは、セシリアの意外な姿であった。

 

「申し訳ございません。と先に謝罪だけはさせてくださいな」

 

 一発目にこれだ。

 

「どういう風の吹き回しですか?」

「一夏さんのまっすぐな戦いぶりを見て、日本人とはすばらしいものだと思い知らされたのですわ」

 

 つまり、私の思惑通りに事が進んだということで、織斑一夏はなかなかの日本の男だったようだ。

 

「そう。それならいいわ」

 

 それならば、私が本気を出す必要もないだろう。…ただ、あれだけ啖呵を切ったわけで、それに見合った戦いをすることと致しましょうか。

 

「ですが…貴方ともぜひ本気で戦いたいです。彩羽さん」

 

 セシリア・オルコットはそういうと、先ほどまでの謝罪の雰囲気から一転、真剣な目で此方を見つめてきていた。…ありゃ厄介な目だ。

 

「貴方の事、調べ上げました。三菱重工所属、テストパイロット小鳥遊彩羽さん。別名『荒鷲』さん」

「その名前までとは…驚きですね」

 

 私の別名は、誰が呼んだか荒鷲というらしい。次から次へと模擬戦の相手を負かしていく姿から誰かがそう呼んだらしい。ただ、その名を知るためには裏方の地味な世界を調べなくてはならないのだが…。あれだけ日本人を舐めた言葉を吐いていながら相手の情報をしっかりと収集するあたり、こいつはもしかすると狸かもしれない。

 

「オルコット家の、私の情報網をなめないでくださる?それに、これでも『誇り高き』貴族、ですので」

 

 さわやかな、と形容できる笑みを浮かべるセシリア。…こいつ、もしかしなくても相当な狸かもしれん。確か束からの情報で、両親はすでに死別していると聞いている。その後ISに乗りながら家と財産を守った女傑、と認識を改めたほうが良いのかもしれんな。とはいえ、日本人と男を舐めていたのは事実であろう。そうでなければ初心者である織斑一夏相手にあそこまで追い詰められやしない。

 

「そうですか。…では、こちらも『誇り高き』零戦のパイロットとして、お相手奉る」

 

 私がそう呟いた瞬間、試合開始ブザーが鳴る。と同時に、私は瞬間加速で真横に飛ぶ。コンマ数秒遅れて、私のいた場所をオルコットのレーザーが貫く。だがそれだけだ。オルコットの射撃は正確ゆえに非常に避けやすい。銃口がピタッと止まると撃つのがオルコットの特徴であり弱点の一つである。フェイントがない正確な射撃は、学園のアリーナという限られた場所の、それも1VS1という戦いでは不利のほかの何物でもない。

 

「うまく避けますわね」

「正確に撃ってきてくれてますから、避けやすいですよ」

 

 私はそう言って7.7ミリ機関砲を数発だけセシリアに放つ。当然、セシリアは弾丸を避けようと左右上下前後のどこかに逃げる。ブースターの向きと角度からするに後ろ斜めに飛びのく気であろう。…成っていない、全く成っていない。フェイントも使わずに実直に避けるなんて。

 

「ぐふっ…!?」

 

 苦悶の声はセシリアからだ。7.7ミリで誘導したのち、その誘導先に20ミリ機関砲を一発放っただけで、弾丸がセシリアの腹部に直撃する。流石にシールドバリアがあるとはいえ、直撃すれば人間が文字通り塵となる20ミリの『徹甲榴弾』は、並大抵の威力ではない。そしてどうやらセシリアに直撃した20ミリの弾丸は、ノーマルシールドを貫いて絶対防御を発動させたようだ。

 20ミリ砲弾のダメージに一瞬よろめくも、セシリアはすぐに体勢を立て直していた。ここらへんは流石の国家代表候補性といったところであろう。

 

「すごい衝撃でしたわ。データ通りの実弾装備ですのね」

「えぇ、私にはこれ以上の装備は不要ですから」

 

 私は再度7.7ミリ機銃の銃口をセシリアに向けつつ、移動を再開する。セシリアもそれに合わせてレーザーを撃ち込んでくるが、相も変わらず実直な攻撃だ。…これが近距離武器であれば怖いものがあった。織斑一夏のように、実直に切り込んでくればいずれは当たるかもしれなかった。

 

 だが、セシリア・オルコット。これは空中の射撃戦だ。警戒・視界・視線・速度・高度・機動、そして自身の体や攻撃すらフェイントに使い、全ての動作において幻影と現実を織り交ぜて全身全霊で索敵・攻撃・回避を行わなければいけないのが空中戦なのだ。実直な射撃と動きだけで勝てるほど、空というのは甘くはない。

 

「教育してあげますよ。セシリア・オルコット。…貴女の飛び方は、甘すぎる」

 

 

 7.7mm機銃の音がアリーナに響くと、次の瞬間にはセシリアのシールドエネルギーが少しだけ削られる。だが、彩羽以上の手数をもって攻撃しているはずのセシリアのビームは一切のダメージを彩羽に与えられていない。その光景にアリーナで観戦していた一夏と箒は開いた口が塞がらないでいた。

 

「小鳥遊…なんっていう動きをしているんだ…」

「千冬姉…小鳥遊っていったい」

「言っただろう。あれが目指すべき目標だと。今はまだ遠距離戦しかしていないが、フェイントに荷重移動と、彩羽の動きは私よりか一夏の参考になる」

 

 そうはいっても、というのが一夏の感想であろう。自分があれだけ苦労したセシリアの攻撃をすべて避けて、更に攻撃を一方的に当てるなんて神業が出来るとは思わない。そうしている間にも、セシリアのエネルギーが少しずつ削られていく。

 

「セシリアのエネルギーが減ったってことは、弾丸が当たってるんだよな?でも、銃弾の軌跡とかが見えなかった…なんでだ?」

「ははは。ま、驚くのは無理もないでしょう。彼女の使う弾倉は少々特殊でしてね」

 

 同席していた三菱のチーフが、タブレットを取り出した。そして、手慣れた手つきで一枚の写真をタブレットに表示させる。

 

「これが彼女を使う弾丸の実物の写真です。千冬殿ならばわかりますかね?」

「これは…すべて実弾か!?」

「驚いていただけて何より。そう、全て実弾です」

 

 笑みを浮かべるチーフ、そして驚く千冬に箒と一夏は疑問の表情を浮かべていた。

 

「すべて実弾…?普通ではないんですか?」

「彩羽め、しばらく会わないうちにとんでもない実力を身に着けたものだ」

 

「いいか、篠ノ之、そして一夏。通常、遠距離の実弾武器というのは、弾丸が飛んだ方向がわかるように『曳光弾』と呼ばれる弾丸を仕込む」

「曳光弾?」

「そうだ。入学試験の時、教員のペイント弾も一部光の軌跡を描いていただろう。あれが曳光弾だ」

 

 あぁ、確かに、と納得したように一夏と箒はうなずいていた。それをみた千冬は、説明を続ける。

 

「曳光弾という代物は、弾丸が今飛んでいる方向を撃った本人に知らせる物だ。実際の弾丸の軌道がわかれば、修正も容易だろう?」

「確かにそうだよな。目印があれば無駄弾も打たなくて済む、って事だろ」

「あぁ。一般的にはそうだ。だが、彩羽の使う弾倉にはその曳光弾が一発も無い。つまりは弾道が見て取れないわけだ」

 

 改めてアリーナを飛び回る彩羽を見る。彼女が弾丸を撃つ音は聞こえるものの、その痕跡は一切見て取れない。だが、確実にセシリアのエネルギーを削り取っていた。

 

「わかるか、一夏、篠ノ之。今アリーナで行われていることの意味が。彩羽は自身の武器の弾道を知り尽くしている。曳光弾という目印がなくても弾丸を当て、相手のシールドエネルギーに確実にダメージを与えているんだ。驚異的な練度だよ」

 

 その言葉に、三菱のチーフは満足げな笑みを浮かべていた。

 

「さすがは千冬殿。その通りです。今彼女が持っている7.7ミリ機銃と20ミリ機関砲は、彼女の手足と言っていいほどのものです。特に20ミリ機関砲は威力はあるものの、癖がありすぎて常人ではなかなか扱えません。それを彼女は思う存分振るえてしまう。あぁ、なんて才能なのか!秀才なのか!」

 

 興奮したチーフは両手を掲げながら声を張り上げていた。だが、ふと冷静になったのか、千冬と箒に顔を向けて笑みを作ると、先ほどとは違い冷静な口調で言葉を発した。

 

「とはいっても彼女の本領はそこではありません。一度彼女と戦っている千冬殿であれば、わかるでしょう」

「えぇ、もちろん。彩羽の本領は空で飛ぶことだ。ISという翼を纏い自在に空を飛ぶ姿は誰にも真似できん。無論私でもだ」

「あの、千冬さん。小鳥遊のことに詳しいようですが…彼女とはどのような関係なんですか?」

 

 箒の質問に千冬は一瞬眉間に皴を作る。だが、あきらめたようにため息をつくと、彩羽の機体を見ながら口を開いた。

 

「そうだな…模擬戦という限られた場所ではあるが、不本意ながら私がISで完敗を喫した相手だよ」

「えっ!?」

「千冬姉が!?」

 

 箒と一夏の声が響く。その姿を見た真耶とチーフ、そして千冬はにやりと不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

「懐かしいですね。確か千冬殿が現役の時代でしたっけ?」

「あぁ…暮桜まで出して負けた。懐かしい話だ」

「なつかしいですねー。彼女のISの軌跡をまた見られると思うと、感激ですよ」

「ははは。ぜひ楽しんでください。彼女は今『荒鷲』という通り名を持つぐらいには成長していますからね」

 

 にやりと笑みを浮かべるチーフ。そして、更に言葉を続けていた。

 

「それに未だ、彼女は美しい羽を広げてはおりません。彼女の飛翔はこれからが本番です」

 

 そして彼らの瞳には、セシリアのレーザーをたやすく避けながらも、7.7ミリ機関銃、そして20ミリ機関砲の弾を確実にブルーティアーズに着弾させる小鳥遊彩羽の姿が映っていた。




 小鳥遊彩羽の通名は『荒鷲』。表の晴れやかな世界ではなく、裏方の地味な世界でささやかれるこの通名は奇しくも彼女が生前彼であった時代に仲間とよく歌った歌のままであった。彼女は誰が相手であっても、相手がどの機体に乗っていても、どんな武装をもっていても

「来るなら来てみろ!」

 と言わんばかりにゼロ式を手足のように操り、相手のパイロットと技術陣の心を折るのだ。しかも基本武装はペイントボール。仕方なくシールドエネルギー制の模擬戦をするときは右手に7.7mm機銃、左手に20mm機関砲を携えて、その姿はまさに往年の零式艦上戦闘機のように自由に空を舞うのである。
 誰もが、最初はその姿を馬鹿にしていた。無名の企業の無名のパイロット。だがその中身を紐解けば、前線に出ずっぱりでありながら二次世界大戦の末期まで生き残った海軍航空隊の猛者と、それを支えた航空技術陣の末裔という凶悪タッグである。
 日本の誇りを心に燃やし、ISという夢を飛ばす飛び切りの馬鹿野郎共の前には誰も手が届かなかったのである。

 そしてあれよあれよという間に束の協力の元、小鳥遊と三菱は基礎技術においてIS業界ではトップに躍り出た上に、彼女の技術が多くの機体のOSに使用されているのである。表の世界では知られてはいないが、小鳥遊と三菱はまさにIS業界の開拓者なのである。


---IS技術雑誌より抜粋


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Test_pilot(1)

お久しぶりでございます。つらつらと描いていた物がそこそこ形になりましたので。


 

 未だ小鳥遊彩羽とセシリア・オルコットの模擬戦が続くアリーナ。そこで、織斑一夏を含めた人々は小鳥遊彩羽の動きにくぎ付けになってしまっていた。

 

「俺に小鳥遊の動きが出来るのか…?っていうか、あんな動きができるって三菱重工で一体どんな訓練を積んだんだ…?」

 

 織斑一夏は自身の姉である千冬から言われた『目指すなら彩羽を目指せ』というアドバイスの元、彩羽の動きを目で追っていた。だが、その動きは過去にモンドグロッソで見た姉の千冬に匹敵するような動きに見えたのだ。

 その言葉に答えたのは、ゼロ式の生みの親であり、データ解析のプロであるチーフであった。

 

「そうですねぇ。彩羽さんは初めてISに乗った日から約3年、毎日ISに搭乗していますから同じところに立つにはまず3年の訓練が必要となりますね。そのうえで彼女の圧倒的なセンスを吸収できるかどうか、というのがまたひとつのポイントになるでしょう」

 

「3年…それに、圧倒的なセンス?」

 

 今度は篠ノ之箒が疑問を浮かべていた。

 

「ええ、センスなんですよ一夏さんに箒さん。まず、彼女の動き。何気なく普通に動いているように見えますが、ここIS学園の生徒のレベルでは、最上級生でも彼女の動きは真似できないでしょう」

「そんなに?」

「そうなのか?千冬姉」

「織斑教諭だ。…遺憾ながらチーフの言うとおりだ」

 

 納得のいかないという顔をする一夏と箒である。その表情をみたチーフは、カバンからタブレットを取り出して彼らにとある動画を見せていた。

 

「まぁいいでしょう。こちら、今セットしてある機材の映像なんですが…いいですか?先ほどのただの撃ち合い…に見えるこのシーンをスローで見てみましょう」

 

 タブレットを覗き込む一夏と箒。それを確認したチーフは、スローで動画を再生させる。

 

「まず先手は彩羽さんですね。小銃を発砲しているのが見て取れます。当然この動きはセシリア嬢のISセンサーにも警告として表示されます。ここまではいいですね」

 

 全員が頷く。

 

「そのうえで少し動画を進めますと…、ここです。セシリアはブースターを左下に、視線を右上に少しだけ向けていますね。つまりは右上に回避しようとしてる事が見て取れます」

「確かにスローで見れば判りますね」

 

 麻耶が合いの手を入れる。それを見たチーフは小さく頷くと、更に言葉を続けていた。

 

「そこで彩羽さんの動きを見てみましょう。いいですか、セシリア嬢が逃げの態勢に入った段階で、彩羽さんは20ミリの銃口を彼女の逃げる方向に向けています。しかもあからさまではなく、彩羽さんは前進するためのモーション、つまり体を前傾にして腕を下げるというモーションの中にそれを仕込んでいます。20ミリを腕ごと下げると見せかけて、ほんの少しだけ銃口を上に向けているわけです。そして3発だけ発射していますね」

 

 全員が言葉を失ってチーフの説明に傾注していた。つまり、彩羽は一瞬の射撃にも小さなフェイントを入れているのだ。

 

「セシリア嬢は逃げた先に弾が来たわけですから、避けられずに直撃しています。ただ彼女も国家代表候補生ですから、すぐに反撃していますね。ですがセシリア嬢の攻撃は彩羽さんが前傾姿勢をとったので、彩羽さんの進行方向と思われる場所、彩羽さんの前方に射撃をしています。

 それと同時に、彩羽さんは前傾の姿勢のままで真横に飛んでいます。セシリア嬢の攻撃はもちろん外れます。さっきからほぼこれの繰り返しなんですよ。

 つまり加速姿勢がすでに攻守のフェイントで、攻撃と同時に回避が完了しているわけです。なお、彩羽さんはセンサーでロックして射撃を行っているわけではありませんので、発砲時以外はセシリア嬢のセンサーには何も反応がないわけです」

 

「…凄まじいな」

 

 一夏はぽつりと呟いていた。

 

「えぇ、本当にすさまじいと私も思います。相手の一挙手一投足をすべて把握したうえで、自らの体のすべてを使って相手にフェイントを仕掛ける。それが彩羽さんの恐ろしく、そして天才的な所です。そして織斑一夏君の目指すべきところかと思います」

「あれが出来れば、白式の刀を使いこなすこともできる、のか?」

「夢ではありませんね。相手の隙をついて踏み込み、一撃で刈り取る。まさに彩羽さんの戦術や体裁きを手に入れることができれば、楽に行えるでしょう。彼女の手に持っているものが実弾の汎用装備ではなく、もっと強力な専用装備であれば全く以てセシリア嬢は相手になっておりません。空中戦と呼ぶのも烏滸がましい戦いですしね」

「そこまで言いますか」

「ええ。もっと言えば、BTシステムを十全に使える前にセシリア嬢は負けるかもしれません」

 

 え、といった顔でチーフを見る一夏と箒。

 

「BTシステムを十全に使えずに負ける?」

「ええ、セシリア嬢のBTシステムは理論は素晴らしい。ですが、明確な弱点があります。今現在先の一夏君の戦いで判るとおりに停止し集中せねば扱うことができません。彩羽さんがその隙を与えるとでも?よしんば与えたとして、停止した相手に何もせずBTシステムを使わせるとお思いですか?」

「…それは無いな。彩羽は容赦ない」

 

 千冬が思わず相槌を打っていた。それをみたチーフは、笑顔で首を縦に振る。

 

「その通りです。テストパイロットである彩羽さんは、私が『データ取り』と銘打ったこの模擬戦において慢心はしませんからね。…油断はするかもしれませんが。ま、それがテストパイロットであり、小鳥遊彩羽というIS乗りなんですよ」

 

 自慢げに彩羽をさしてチーフは言う。と思うと、今度は眉間に皴を寄せながらセシリアに指を向けながら言葉を続ける。

 

「そしてもう一つ。セシリア嬢はBTシステムのテストパイロットであるという話も聞きます。それにも関わらずBTシステムを使いこなせていないのは明らかにBTシステムを作成している研究チームの腕が悪いと言わざるを得ません。

 本来であれば偏向射撃や、停止せずにBTシステムと共に機動戦が出来るスペックという話であるにも関わらず、それが全く性能を発揮できていない。これは我々技術者の怠慢以外の何物でもないのです」

 

「そういうものなのか?」

 

「ええ、技術屋というのはそういうものなのです。いや、()()()()()()()()()()()()()()()のです。テストパイロットが上げたレポートを解析し、フィードバックし、機体の性能を100%にする。それが()()()()()()()()()()です。

 …悲しいかな、その志のない研究者もIS業界には増えていますがね」

 

 主に女性の技術者ですが…と悲しげな声でチーフは言葉を続ける。

 

「三菱ではなく、私の、至極、個人的な、感情と、なりますが!

 彼女と、彼女の機体を、あそこまで駄目なものに、落とし込んでしまっている、ブルーティアーズの開発陣には『怒り』を覚えます」

 

「ではチーフだったらどうすると?」

 

 千冬は素朴な疑問を向けていた。

 

「決まっています。全力でデータを取り、全力で彼女と彼女の機体の能力を100%引き出させます。当たり前の事でしょう」

「無理だったら?」

「何を世迷いごとを。無理という言葉を超えるために我々技術者や科学者がいるのです」

 

 チーフは言葉を切ると、千冬の眼を見つめて言葉を発する。

 

「もし我々が『無理』という言葉を口にすることがあるとすれば、技術者や科学者をやめるか、それか、ISが『完成』してしまった時でしょうか」

「完成してしまった時?」

 

 今度は一夏が疑問をチーフへと投げかけていた。

 

「ええ、ええ。完成ですよ一夏さん。つまりそれ以上手が加えられない状態です。技術者としても科学者としてもやることが無くなった。それであれば我々の役目は終わりですからね。その点、彩羽さんは完成を見ない進化し続ける我らの羽でありますので、いやはや、彼女のISに携われるというのは技術者冥利に尽きるものです」

「そうですか。…そういえば、束もずっとそちらで研究を?」

 

 千冬は小さな声で、チーフにだけささやいていた。

 

「ええ。技術者冥利に尽きる、という点は篠ノ之博士も同じかと。最近はずっと彩羽さんのために頭を使っていますからね。そのせいか…どうです?最近彼女、柔らかくなっていませんか?」

 

 そういえば、と千冬は思案する。奴は、電話の際に『ちーちゃん、今大丈夫?』と前置きする奴であったろうか?『今から話したい事あるんだけど、会える?』とアポを取る奴だったろうか?『え、時間ないの?あー…ごめんごめん、また次の機会にするよ』というようなセリフを言うような奴だっただろうか?

 

「…思い出してみれば、前よりは、だな」

「そうでしょう。正直、あの姿は恋する乙女のような純粋さです。我々もあれに置いて行かれないように努力せねばと思う次第です」

 

 チーフの言葉に千冬は力の抜けた笑みを浮かべていた。そして、にやりと笑みを浮かべるとチーフへと言葉を投げる。

 

「変態共め。あんな少女の尻を大人が追って恥ずかしくないものか」

「はは、恥なんてものは我らは捨てています。なにより、お褒めの言葉、ありがとうございます」

 

 満面の笑みでチーフは答える。そして、改めて彩羽の戦いぶりに見入るのであった。

 

 

 タン、タン、タンと7ミリの音がアリーナに響くと、トン、トン、トンとシールドで防ぐ音がする。

 

-教育して差し上げますよ-

 

 と啖呵を切った手前、さぁどうしようかと思ったのだが、実際に相対するとセシリア嬢の練度はなかなかのものだと感心させられる。今の私の7.7ミリの弾も当たってはいるが、きれいに装甲の分厚いところで受けきっている。やはり初弾の20ミリを直撃させ、煽る言葉を叩きつけたのがいけなかったのであろうか。あれでずいぶんと警戒されたようだ。

 

 そしてなによりも、ダメージのキモである20ミリも同じように防がれているのだ。

 

 恐らくはセンサーか肉眼かは判らないが、私の20ミリを何発か食らったときに銃口をよく見て弾道を覚えているのだろう。弾道は消せてもマズルフラッシュは消せないから、センサーでも肉眼でも「弾丸を発射した」ということは確認できる。なによりも弾丸は光より早く移動しない。それ故に、セシリア嬢は私の銃撃を見て微妙に軌道を変え、弾丸に反応できているのだろう。

 

 やはりセシリアオルコットはただの素人というわけではなく、国家代表候補生ということだろう。この短い時間でそこらへんを戦術に組み込めるあたり戦闘の基礎はしっかりとしていると言える。

 

 さて、セシリアの基礎技術はよくわかった。ここからは応用と行こうじゃないか。

 

 今まではわざとセンサーロックせずに弾丸を撃っていたが、ここで初めてセンサーでロックを行う。これの意味としては、セシリアの処理する情報を一つ増やすところにある。今までは私が発砲するとセンサーの警告が出ていたはずだ。だがそこに「私から常にロックされている」と警告が出続ければどうか。

 

「っ!?」

 

 狙い通り、セシリアの表情と戦闘軌道が激変する。センサーロックをしたとたんにジグザグとした回避軌道を常にとるようにしているようだ。ま、普通はそうするだろう。戦闘中にロックアラートが鳴り響く状況は避けたいものだ。だが、それは私にとっては致命的に有利な隙の一つである。

 ISは360°の全周視界が可能ではあるが、認識するのは人間だ。その認識する人間が回避軌道に集中せねばならない状況を作り出してやれば、視界のどこかに隙が生じる。

 

 当然の結果として、回避軌道をとったセシリアは一瞬、私から目を離す。

 

 私はセシリアが私から目を離したその瞬間に、偏差射撃を行っていた。その数20ミリを3発。マズルフラッシュは恐らくセンサーに感知されたであろうが、回避にやっきになっているセシリアには「ロック警報」と「発砲警報」のどちらかは瞬時には判らないはずだ。特にセシリアが肉眼ではなく、センサーでこれを判断しているのであれば…間違いなく直撃するだろう。

 

「ぐっ」

 

 セシリアから苦悶の声が発せられる。3発の20ミリのうち、1発が装甲がない腹部に直撃したからだ。なるほど、彼女はどちらかというと肉眼ではなく「センサー」でこちらの情報を得ているようだ。…空戦をやる上ではセンサーに頼り切るなんて愚の骨頂なんだがなぁ。まぁ、ISには高性能なAIが標準装備であるし仕方ないといえるか。などと考えていたら、私の周りを4機のビットが取り囲んでいた。これが噂のBTシステムという奴であろう。

 

「おお、これが…いいですね」

 

 ぼそりと呟いてしまったが、ご愛敬だ。だが、ただでBTシステムのビットは撃たせない。即座にセシリアに射撃を開始するとBTシステムの動きはぴたりと止まってしまった。セシリアに7ミリを射撃すると、ビットは見事に停止する。そう、これがセシリアのもう一つの弱点である。BTシステム維持中は集中せねばならない。集中できなければBTシステムは使えない。

 

「この程度の射撃でも集中力を切らしますか」

 

 7ミリの射撃を止めると、BTシステムが息を吹き返したように舞い始め、私へと射撃を繰り返していた。だが、無駄だ。フェイントも何もない攻撃にあたるほど、私の練度は低くない。

 

 首をひねり、足を開き、腕を開く。そしてPICで少しだけ体の芯をずらせば簡単に射撃は避けることができる。一般的に見れば無防備な体勢であるが全く問題はない。BTシステムを使用している間は、セシリアはレーザーを含めた攻撃が何もできないのだから。私だったらBTシステムと連携攻撃は必ず行うまで技術陣と論議を交わすものだが、…彼女はまだそこまで成っていないのが事実。これでは弱い者いじめだ。さて、どうするか。

 

 …ま、BTシステムのことは置いておいて、少々荒療治となるけれど、今後のためにも空戦の基本をセシリアに叩き込んで差し上げることしよう。「本気で戦いたい」ということでしたし、今後、このままでは私が本気でセシリアと戦うことなど来ないでしょうし。

 

 と、いうことでオープンチャネルでセシリアに叫ぶ。もちろん、ボリュームは最大だ。

 

「国家代表を名乗っておいて貴様は馬鹿か!!空戦の基本も出来ていないで、よくISに乗ったものだな!」

 

 空戦というのは、実直な射撃と動きだけで勝てるわけでもない。広大な空ならまだしても、ISアリーナのような限られた場所であればあるほど、肉眼からの情報をおろそかにするやつが勝てる道理などどこにもない。

 

「なんですって!」

「セシリア・オルコット!貴様は今まで何をやっていた!」

 

 怒りを見せるセシリアだが、私としては貴様は一体何をしていたのだという話である。国家代表の候補生なのであろう?国を背負って戦おうというのだろう?なのに、なぜ貴様は空戦の基礎ではなく『戦闘の基礎』しか出来ていないのだと言いたくなる。

 

「なぜ空戦で肉眼を使って相手を見ない!なぜ切り札であるBTシステムを使いこなせない!なぜ狙撃の際に空中でいちいち静止する!私と同じ時間、貴様はISに乗っていて、なぜ!何も!空戦の基礎が出来ていない!」

「それは…!」

「言い訳など聞きたくもない!誇り高い英国の魂を一つでも行動で見せてみろ!イギリス国家代表候補生!」

 

 私はそう言うと展開装甲へとエネルギーを叩き込む。さて、セシリア・オルコットよ。貴様が国家代表候補生というのであれば、少しくらいはついてきて見せろ。

 

 前世で日本の飛行機乗りが、陸戦乗りが、海軍航空隊が、いや…私個人が前世で憧れた、『誇り高き』英国空軍の心の断片を、一つだけでも見せてみろ!

 

 

「本気で行くぞ国家代表候補生。今までのやり取りで貴様に期待はしていないが、少なくとも!私を絶望させるなよ!少なくとも私に一発でも当ててみせろ!」

「舐めないでくださいまし!」

「舐めてはいない!だからこそ全力でいかせてもらう!」

 

 私はそう叫ぶと、瞬間加速を使いセシリアの後頭部へと回る。セシリアにしてみれば私が急に消えたように思えたであろう。

 

「消えたっ…!?」

 

 …ちらりと確認してみれば、見事にあっけにとられた顔をしている。センサーをメインに索敵しているとこうなってしまうといういい見本だ。

 というのも、ISのセンサーというのは相手のISのブースターの向きや重心の位置から次の行動を予測して様々な情報を表示する。逆を言えば重心とブースターの向きと逆向きに加速すればISのセンサーは一瞬反応が遅れてしまうのだ。だからこそ、肉眼での索敵はISでも必須であるし、もっとも重要なのだ。

 

 そしてそのセンサーを信じ切って私の進行方向と思われる方向に意識を向けてしまったセシリアは、一般常識から考えられる動きを超えた私の動きを完全に見失ったという単純な話だ。いうなればこういうことである。

 

「消えてない。貴様が私から視線を外しただけだ」

 

 そして展開装甲を片面だけ起動させフルブースト。駒のように回転すると同時にセシリアの後頭部に上面から縦に蹴りを繰り出していた。

 

「きゃ・・?!」

 

 叫ぶ間もなく私に脳天を蹴り飛ばされたセシリアは地面に激突する。それはそうだ。相手との距離を一瞬で詰める瞬間加速の反動を使って無防備な奴を蹴り飛ばしたのだ。とても受けきれるわけがない。

 

「セシリア。貴様は一体何を見ている」

 

 土煙が立ち上がる地面に7ミリを叩き込む。

 

「貴様は、一体、空で、何を、見ている」

 

 土煙が晴れた。20ミリを乱雑にセシリアの機体の近くに叩き込む。同時にレーザーが私のゼロ式を掠める、が何てことはない。シールドエネルギーが減ることもない凡庸なハズレ玉だ。

 

 ただ、セシリアの様子がおかしい。土煙が完全に晴れたのに空に上がってこないのだ。セシリアとブルーティアーズは、ただ、そこにたたずんでいた。

 

「手も足も出ないとはこのことですわね…。敗北ですわ」

 

 そして、私に声をかけたセシリアの顔は少し諦めた顔だった。一見すると戦意の一つも見えない。

 

「敗北を認めると?…私の空戦はいかがでしたか?セシリア・オルコット」

「ええ、認めますわ。貴女の空戦は私が体験したことがないものでした。空中で消える相手、よけられない弾丸、当たらない弾、役に立たないBTシステム。…私はまったく未熟だったのですわね」

「ええ、まったくです。啖呵を切られ、受け、啖呵を切り貴様と相対しました。だが結果がこれです。何も出来ない素人の子守をしろとは聞いていないのですが」

 

 教育隊のぺーぺーではないのだろう。少なくともベテランなのだろう。何かしてくれないか。その思いを込めて言葉を投げた。

 

「貴女に比べれば、おそらく、誰しもが赤子同然だと思いますわ。ですが…わたくしは何も出来ない素人ではありませんわ」

 

 セシリアはそう言うと、BTシステムを改めて起動したのであろう、ビットが6機、セシリアのブルーティアーズの周りに展開されていた。そしてなによりも、強い眼が私を見据えていた。

 

 そして、その両手には。

 

「インターセプター!」

 

 近距離武器を、携えて。

 

「良い眼をしますね。良いでしょう。来るなら来てください」

 

 -織斑一夏のように、実直に切り込んでくればいずれは当たるかもしれなかった-

 私の考えていたことが、実現するかもしれない。少しの期待を込めて彼女を見つめる。

 

「ええ、では行かせていただきますわ。せめて一撃、貴女へ当てて見せますわ!」

 

 敗北を認めつつ、諦めぬ心意気。ブルーティアーズを纏い、ブースターを最大出力で吹かし、私に一直線に向かう彼女に、気づけば私の、いや、『俺』の口元は笑みを浮かべていた。

 

「当てて見せろ!完璧に叩き潰す!」

 

 私はそう叫ぶと、あえて空中で静止したままセシリアへの射撃を行う。真向直線に私に向かってくるセシリアは非常に狙いやすい的だ。私の弾数も少ない。7ミリは残り300、20ミリに関しては残り20発ほどしかないから、確実に当てたいのだ。

 

 そして何より、あの眼で突撃してくる相手の攻撃を逃げて躱すなどという考えは毛頭ない。相手が負けを認めた。この時点で勝負はついている。だが、ここから先はそういうものは一切関係ない意地の張合い。強い弱いは関係ない。簡単に言えば喧嘩だ。直接ぶつかって力で勝たねば意味がないのだ。1対1のサシの正面きっての打ち合いを逃げるやつなど、人間の風上にも置けない。

 

 勝利条件はシンプル。私はセシリアを圧倒して倒し、セシリアは私にどんな一撃でもいいから入れる。けん制もくそもない。私は両手の7ミリと20ミリをフルバーストで打ち込む。セシリアはビットのレーザーを打ち込みながら私に突撃してくる。あの野郎、自分の体の周りに浮かせてる状態だったらビット撃てるのか!と驚いたが、だがその照準は酷いものだ。静止する俺には一向にあたりゃしない!

 

「そらそら!ご自慢のビットが当たってないぞセシリア!」

 

 秒数にしてわずか5秒にも満たない瞬間的な時間である。この数秒でセシリアのエネルギーを削れれば私の完璧な勝ちであるがそうは問屋が卸さない。

 

「ぁぁぁああああ!」

 

 弾着の煙をかき分け、装甲に多数の弾痕を残し、ビットの数を2機に減らし、そしてエネルギーを今だ1割残したセシリアが飛び出してきた。野郎、この土壇場で固い装甲の部分とビットで弾丸を受けやがった!こいつ、やる!

 

 そして私の銃は弾切れだ!

 

「やぁるじゃねえか!セシリアぁあ!」

「これであなたの武器はなくなりましたわね!覚悟ですわ!」

「甘ぇ!」

 

 私はそういうと、7ミリ機銃と20ミリ機関砲のストック部分で殴れるようにマズルを握り、自慢の瞬間加速を行っていた。同時にバガンと、機関砲が砕ける音がする。

 

「取ったぞ!」

「…ええ。取りました」

 

 私の機関砲の殴打で地面に落ちていくセシリアが満面の笑みを浮かべていた。何をバカなと思ったその瞬間、私の背中で爆発音が2発鳴ったのである。

 

「勝者!小鳥遊彩羽!」

 

 同時に勝利者のアナウンスが流れていた。

 

 

 

 セシリア・オルコットは混乱していた。何も出来ないのだ。そう、文字通り何も。BTシステムは当たらない。ライフルも当たらない。接近すら許されない。縦横無尽にアリーナを駆け巡る彩羽に完全に置いてけぼりを食らっていた。

 

「当たって…当たって!」

 

 願うように引き金を引く。だが、それを嘲笑う悪魔がいた。

 

「お祈りで当たるのなら技術も努力も才能も要らん」

 

 ブースターを使う様子もなく、セシリアの砲撃をいともたやすく躱す彩羽にセシリアの心は折れかけていた。

 

「なぜ…なぜ当たらないのですか!」

「当たり前だろう。主武装はフェイントもなく正確に撃ってくるから躱せない道理がない。BTシステムに至っては技術もなく、死角からの攻撃しかしない上に、主武装との連携攻撃がない。更にビット使用中は貴様が固まる。故に貴様を観察すれば攻撃のタイミングは完全に把握できる。いやはやそんな攻撃に当たれというのか国家代表候補生。難しい課題を出してくれるものだな?」

 

 全て事実であった。把握している弱点であった。だが、今までそれでも敵う相手がいなかった。これは、セシリア・オルコットの慢心のツケだ。しまいには頭を足でけられ、地面へとたたきつけられる。なんていう屈辱、なんという実力差であろうか。

 

「手も足も出ないとはこのことですわね…。敗北ですわ」

 

 そして、ついにセシリアは心が折れる。本気で戦った。だが、届かなかったのだ。

 

「敗北を認めると?…私の空戦はいかがでしたか?セシリア・オルコット」

「ええ、認めますわ。貴女の空戦は私が体験したことがないものでした。空中で消える相手、よけられない弾丸、当たらない弾、役に立たないBTシステム。…私はまったく未熟だったのですわね」

 

 自らがどれだけ温い環境で過ごしてきたのか。それを十全に理解した彼女であった。そして、教員に敗北を伝えようとした瞬間、彩羽がセシリアに一つの台詞を吐いていた

 

「ええ、まったくです。啖呵を切られ、受け、啖呵を切り貴様と相対しました。だが結果がこれです。何も出来ない素人の子守をしろとは聞いていないのですが」

 

 彩羽の言葉に、セシリアは一瞬むっとして彩羽の顔を見つめていた。するとどうだろうか、そこにあった彩羽の顔は、厳しいながらも何かを期待するうっすらとした「笑み」を浮かべていたのだ。

 

 はっとする。そうだ、私は織斑千冬にも勝利したといわれる「荒鷲」に挑戦しているのだ、と。貴女ともぜひ本気で戦いたいです、日本を馬鹿にしたセシリアだが、これでも『誇り高き』貴族だと啖呵を切ったのだと。

 

 それに彼女は答えたのだ「こちらも『誇り高き』零戦のパイロットとして、お相手奉る」と。

 

 それであれば、それであれば。英国淑女の誇りを見せなければ。ここで無様な敗北を見せては彼女の気持ちを裏切ることとなる。

 

「貴女に比べれば、おそらく、誰しもが赤子同然だと思いますわ。ですが…わたくしは何も出来ない素人ではありませんわ」

 

 セシリアはそう言いながら全力で考える。武器は全くもって消耗していない。レーザービットが4つにミサイルビットが2つ、スターライトMk3、それに近距離武器のインターセプター。

 思考する中で彼女は真っ先にスターライトMk3は使えないと判断する。遠距離は彩羽のほうが間違いなく上だ。いくら高出力でもあたらなければ意味がない。ビットはと考える。彼女を狙うのであれば集中せねばならないという欠点が先に立ち無意味だ。…だが、もし彼女ではなくセシリア自身に追従させて乱射させるのであれば?

 

「っ…!インターセプター!」

 

 これだとセシリアは瞬時に判断する。と同時にインターセプターを装備し、ビットを自身に追従させて彩羽に突っ込もうと判断する。そして、その行為を「幻影」とし、彼女と打ち合い交錯したのちに本命の「ミサイルビット」を彼女の背中に叩き込むと。

 おそらくシールドエネルギーは突っ込むときの被弾と打ち合った時のダメージによってほぼ0になるであろう。だが、1でも残っていればミサイルビットの一矢を報いることができる。一撃は入れられると、そうセシリアは判断した。

 

「良い眼をしますね。良いでしょう。来るなら来てください」

「ええ、では行かせていただきますわ。せめて一撃、貴女へ当てて見せますわ!」

 

 そうセシリアが叫んだ瞬間、彩羽の顔が変わる。嬉々とした、見たこともない笑みへと変化していたのだ。

 

「当てて見せろ!完璧に叩き潰す!」

 

 口調すら男のようだ。あぁ、とセシリアは納得する。彩羽はどこか一夏に似ていると。まっすぐで強いのだ。

 

 そして、彩羽が叫ぶと同時にセシリアは地面を蹴り、エネルギーをブースターに集中させる。セシリアのブルーティアーズは遠距離射撃機とはいえ最新鋭機だ。その本気の加速はゼロ式に勝るとも劣らない。

 セシリアは加速しながら祈る。まずこの勝負は彩羽が乗ってくれなければ意味がない。今までのように高軌道戦になってしまっては意味がない。

 

 するとどうだ、彩羽は静止してこちらに銃口を向けてくる。賭けの一つ目は勝った。

 

 だがまだ2個の勝負が残っている。まずは弾丸をかいくぐらなければならない。ビットで射撃を続けるが集中できていないから彩羽の機体を掠めやしない。だがそれでいい、少しでも彩羽の銃口が乱れればそれでいい。と思ったのだが、その目論見は外れる。

 ビットを乱射しようが全く銃口がぶれないのだ。食らってしまえばエネルギー切れで負けてしまう。故に。

 

 レーザービットを前面に出しシールド代わりに、そして比較的装甲の厚い部分を彩羽に向けていた。同時にすさまじい着弾音がセシリアの耳をつんざいていた。

 

「ぁぁぁああああ!」

 

 叫び声をあげながらもセシリアは彩羽から目を離さない。そして彩羽の弾薬が尽きる。セシリアの賭けの2つ目、エネルギーの最低限の保持は成功だ。

 

「やぁるじゃねえか!セシリアぁあ!」

 

 彩羽は完全に輿に乗っている。それにかぶせる様にセシリアは挑発の言葉を吐いていた。

 

「これであなたの武器はなくなりましたわね!覚悟ですわ!」

「甘ぇ!」

 

 彩羽はそういうと、弾切れの銃を逆手に持ち、一気に接近する。同時にインターセプターは手からはじけ飛び、腹部にすさまじい衝撃が襲う。これでセシリアのエネルギーがほぼ無くなっていた。そう、「ほぼ」無くなっていた。

 

「取ったぞ!」

 

 彩羽は笑みを浮かべながらそう言葉を吐く。だが、それにも負けない笑みを浮かべながら、セシリアは彩羽に声を投げていた。

 

「…ええ。取りました」

 

 一瞬の交錯の間に彩羽の後ろに撒いたミサイルビットが、彼女の後頭部で2つ爆発する。その衝撃の余波でセシリアのエネルギーが0となり、勝負は決するのであった。

 

 

「あぁぁ!負けたぁ!」

 

 格納庫に戻った彩羽は、思いっきり叫んでいた。最後の勝負とも言えない喧嘩に負けたのだ。油断した上にシールドエネルギーの5割近くを持っていかれるという彩羽的には大失態な勝負である。

 

「それは彩羽が最後のどうでもいい勝負に乗るからだろう?」

「それはそうなんですけどまさかガチの喧嘩で私が負けるとか思っていなかったものでもうなんというか」

「わかったわかった。落ち着け。それに一矢報われただけで勝ったんだからいいだろう」

 

 千冬はあきれながらも笑みを浮かべていた。彩羽がここまでうろたえるのを見るのが久しぶりで少し楽しいのだ。

 

「ほー、彩羽さんがここまで狼狽えることがあるのですね。いやはや。ま、それにしても今回も良いデータが取れましたよ。今回のような被弾というのは初めてですからね」

「チーフまで言ってくれますねええもう初めてですよもう個人的には納得いってはいますが油断した自分をぶん殴りたいです」

「まぁまぁ。被弾したデータというのは貴重ですからね。それにやはり…模擬の戦闘ですらミサイル2発でエネルギー5割もっていかれるという事実。これは新たな発見ですからね。対策を立てねばいけません」

 

「ぬぐ…チーフは冷静でいいですね」

「ははは。彩羽さん。何冗談をいっているんですか。あなたが被弾するというだけで私は驚天動地の心ですよ」

「…あぁあもう油断しなければぁ。って、そういえば一夏さんと箒さんに山田教諭はどこに?」

「あぁ、彼女たちは部屋から追い出させていただきました。ゼロ式は三菱の企業秘密の塊ですからね。千冬殿は一度戦っていますので問題ないと判断させていただいています」

「納得しました。…うーあー被弾してしまったー!」

 

 と、その時である。格納庫のドアを叩く音が響いてきていた。

 

「おや、誰でしょう?立ち入り禁止ということで張り紙をしてあるはずですが」

「ああ、チーフ、私が出よう」

 

 千冬はそういうとドアの前へと移動する。

 

「今ここは張り紙の通り立ち入り禁止だ」

「あ…ええと、申し訳ございません。彩羽さんの姿が見えなかったもので…」

「その声はオルコットか。彩羽なら室内にいるが、どうした」

「…会って話したいことがあるものですから」

 

 ふむ、と千冬は考える。

 

「千冬殿、もしや今扉の前にいるのは、先ほどのブルーティアーズのパイロット、ですか?」

「えぇ、そうですが」

「ちょうどいい!個人的に聞きたいこともありましたので、入室させてもらって構いませんよ」

「チーフがそういうのであれば」

 

 そういうと千冬は扉を開く。同時にセシリアが部屋の中に入ってきていた。その表情は真面目一辺倒であり、何か決心をしたような顔であった。

 

「で、だ。彩羽。オルコットが何か聞きたいことがあるとのことなのだが」

「ヌー…ん?私ですか。なんでしょう」

 

 セシリアは首をかしげる彩羽に体を向けると、ゆっくりと口を開いていた。

 

「一つだけ聞いてもよろしいですか?」

「何でしょう」

「なぜ、私の攻撃が全て外れて、彩羽さんの攻撃ばかりが当たったのでしょうか?」

 

あぁ、と彩羽は人差し指を立ててセシリアに向き直る。

 

「一つ、言わせていただきますと私は貴女の全てを『肉眼』で確認していました。そしてその結果『おそらくセンサーだけに頼って私を見ているんだな』と予想を立てて、何度か試し打ちをさせて頂きました。本当だとは思いませんでしたが。

 そして、攻撃の避け方。攻撃の仕方。移動の癖に始まりブースターの向きや腕の動かし方から全てを肉眼で確認した上で、それが全て私に届いていないと言うことを把握していました」

 

「肉眼………把握していた?」

 

「ええ。そして…その上で、どこまで貴女ができるのかと泳がせていました。その点については謝らせていただきます」

 

 セシリアは言葉が出なかった。そして、セリシアは目を閉じると、小さく口を開いていた。

 

「彩羽…さんは…凄まじい、凄まじい練度をお持ちですのね」

「まぁ、伊達にISに乗ってはいませんから。もしや本当にセシリアさんはセンサーに頼り切りだったのですか?」

「…はい」

「それは最低ですね。もう一度空戦の基本をお教えしましょうか?肉眼で相手を見る。発見する。各部の動きを観察する。これISでも飛行機でも、基本中の基本ですよ」

 

 セシリアと彩羽の搭乗時間は実はあまり変わりない。だが、その濃度が違いすぎた。片や女性主義の技術者に囲まれたイギリスのお嬢様。片やISの生みの親と宇宙技術の粋を集めた技術者に囲まれた空を飛ぶ馬鹿野郎。その差はいかんともしがたく、今のセシリアでは彩羽に攻撃を当てる事すら叶わない。

 

「…正直にいいますと、彩羽さん。あなたを舐めておりました」

「でしょうね」

「ただのテストパイロット。三菱というISにおいて、表向きは無名の企業」

「ええ。表向きは無名です」

「ですが、その実はほぼすべてのISの基礎技術を生み出した技術屋」

「良く調べましたね」

「そして、貴女はその三菱のエーステストパイロット。今までの他社との模擬戦で一戦たりとも負けは無い」

「ええ」

「そんな貴女に挑んだ私は差し詰め、道化といったところでしょうね」

 

 セシリアは目を開けると、彩羽の目を見つめていた。だが、彩羽は首を横に振る。

 

「道化?それは違いますよ。あなたは射撃の正確さだけで言えば恐らく世界でもトップクラスです」

 

 セシリアは少し目を見開く。そして、それを見た彩羽は更に言葉を続けていた。

 

「ですが、それは狙撃というごく限られた状況において有用です。ISという1対1のスポーツ競技では、それを伸ばすよりもBT本来の性能である偏光射撃やBTシステムを用いた3次元戦闘を使いこなすべきかと思います。そして何よりも、セシリアさんは遠距離が得意だからといって近距離をおろそかにしていますよね。最後の突撃は一矢報われましたが…あれはいけません。もし、もしもセシリアさんが国家代表になるつもりがあるのならば」

 

 彩羽はあえて言葉を切る。そして、セシリアの目を見つめて一言一言力を込めて言葉を発していた。

 

「マルチロールを目指し、更にそこから一芸を身につけなければ。世界で活躍するなんて夢のまた夢ですよ」

「………言われなくても判っていた事実です」

「自覚があれば結構です。…何より、東国の猿である私、更にテストパイロットである私に負けるようではいけません。貴女はもっと高みを目指さなくてはいけませんよ」

「手厳しいですのね」

「当たり前でしょう。あれだけ啖呵を切られて当たってみたらただの雑魚では私のイライラが募ります。それとあともう一つ」

「なんでしょうか?」

 

 ふふふと笑みを浮かべる彩羽。そしてその視線をチーフへと少しだけ向け、セシリアへと言葉を投げた。

 

「貴女は今の機体と開発陣で満足しているのですか?私が見るに、貴女のバックに付いている組織は、『機体性能を発揮できない技術陣営』に『貴女にまともに操縦アドバイスもできない運営陣』という印象しか受けません。そのような奴らに機体を任せて満足しているのかと聞いているのです」

「…」

 

 セシリアは言葉を失っていた。現状の開発陣、そしてブルーティアーズに不満はない。だが、満足は一切していなかった。努力しても伸びないシステム適正、操縦性には怒りさえ覚えていた所はある。

 

「感じる所がお有りのようですね。---いいですか?技術陣は今の現状を打破するために機体を改良し、運営陣は現状を打破するために全力を尽くすものです。それができない技術屋は技術屋でなはく、ただのそこらへんの雑草と同じだと私は思っています。 そして私達パイロットの役目は『ISという翼を天高く羽ばたかせる』という一点のみです。………決して、スポーツや兵器としての性能で満足してはいけませんよ」

「彩羽さん、貴女は………」

 

 と、ここで第三者の声が割って入る。

 

「言いたいことは色々あるでしょうが、せっかく貴女は日本に来ているのです。しかも治外法権であるIS学園に。それであれば………ぜひ一度、我が三菱に機体を見せてみては如何ですか?」

 

 チーフである。満面の笑みでセシリアに声をかけていた。

 

「それは、情報流出に………」

 

 怪訝な顔をするセシリアに、彩羽が言葉をさらに重ねていた。

 

「ふふ、安心してください。この日の本の国の技術者はチーフを含めて基本的に馬鹿です。

 兵器転用なんてものを思いつかずに大陸間弾道ミサイル以上の精度を持つロケットを作ったり、どんな不整地でも走ってしまう車を作ったり、深海深く潜ってしまう潜水艇を作ってしまったり。そしてなにより、宇宙を仲間と飛びたいが為にISという羽を作ってしまったり…日本ってそういう馬鹿野郎の集まりなんですよ。その、セシリアさん。どうでしょうか。ひとつ、そんな馬鹿の輪に交ざってみませんか?」

 

 いたずらっ子のような笑みを浮かべる彩羽に、セシリアはふっと笑みを作る。

 

「フフ…その言い草では、彩羽さんも馬鹿になるのではないかしら?」

「何を言いますか、当然でしょう。私はよく空飛ぶ馬鹿と言われてますよ」

「確かに。あの尋常じゃない飛び方を見た後では納得せざるを得ません。判りました。物は試しです。私のブルーティアーズを一度そちらに預けてみます」

 

 セシリアは右手を差し出していた。それに合わせて、彩羽はセリシアの手を握り返す。

 

「ふふ、有難うございます。そしてようこそ馬鹿の輪へ。同じ馬鹿なら踊らにゃそんそん。踊って騒いで宇宙まで、ですよ」

「宇宙?」

「ええ。宇宙です。私の目標ってやつですね。ISで宇宙を旅する、最高じゃないですか!」

 

 

-ISで宇宙を旅する、最高じゃないですか-

 

「…へっ?」

 

 某所、とあるISに仕込んだ盗聴器で会話を聞いていた某科学者は、自分のお気に入りのパイロットが発した言葉に素っ頓狂な声を上げていた。確かこのパイロットは、「空」が好き、「飛ぶ」ことが好きなだけはなかったか。

 でも、今なんと言った?明確に「宇宙で旅をする」と言わなかったか?

 

「…へへ」

 

 にへらと表情を崩した科学者は、キーボードを荒々しく叩き始める。

 

「へへ、へへ、あはは、あははは!」

 

 笑い声が大きくなるとともに、キーボードの動きは加速していく。そして

 

「たっちゃあああああん!やっぱりたっちゃん最高だよ!!いいよ!いいよ!束さん頑張るからね!宇宙、宇宙だー!

 そうだ、チーフにH2A押えてもらおう!や、いやいや、ISなら別にGに耐えられるわけだから別に生身が乗るって前提じゃなくてもいいんだからH2Bでもいいじゃん!あは!じゃあ大気圏突破能力と突入能力をつけなきゃ!あは!あはは!楽しくなってきたよー!流石たっちゃん!」

 

 子供の頃の思いを、彼女にまだ話してない思いを、お気に入りのISパイロットから不意に聞いた彼女の灰色の脳は、信じられないほどの思考の加速が成されるのであった。




セシリア「鋭く研ぐ爪を表に出す自信家であり努力家」
千冬「静かに爪を研ぎ続け高みを目指す自信家」
束「高みから爪を振り下ろして世界を変える自信家」

一夏・鈴音「純粋な努力家」
箒・シャルロット「高みに追いつこうとする努力家」
ラウラ・更識姉妹「爪を研ぎ続け高みを目指す努力家」

彩羽→「爪なんて持ってなくてクソでっかい羽根を好き勝手にはばたかせる馬鹿」
ゼロ式コア→「馬鹿に付き合う真面目な努力家」

この物語の登場人物はこんな感じで思い描いている次第です。


ゼロコア「…いいですねぇBTのコアさん。いいですねぇ」
BTコア 「何がいいものですか。技術陣もマスターもまだまだ未熟で…」
ゼロコア「技術陣もマスターも高性能すぎてついていけないよりはましです…」
BTコア 「どんな苦労してるんですか貴女」
こんなやり取りがどっかであったとか、なかったとか。


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【中途半端で申し訳ないので設定だけ公開いたしもうす】

IS原作、主人公とかの秘密、ISを作った理由などがえらいことすぎまして、正直てにおえねぇ…てな具合になりまして続きは諦めました。

ですのでこんなこと考えてたんやなーという部分を公開して完とさせて頂きます。


申し訳ねぇ!


設定などなど

 

主人公:空しか見えてないが、日本と男を馬鹿にされると激情する。セシリアとはライバル関係。他の人間とはあんまりかかわらない。一夏は千冬の弟ということで鍛える手伝いをする。篠ノ之妹に前世の記憶を頼りに、恋のアドバイスを行う。千冬とはライバル関係であり、打鉄にて数度バトルをするも、打鉄が持たずに毎回ドロー。

 

銀の福音戦では、過去のマスタング戦を思い出し、怒りに身を任せる。一度撃墜させられる。だが刹那でセカンドシフト、試製烈風、更にサードシフトで烈風改となる。

 

セシリア:日本と男を馬鹿にしたため、主人公にあしらわれる。だが、主人公と戦い、更に一夏の戦い方を見て自分が愚かなことをしたと主人公に謝罪し、ライバルと成る。主人公と友好になったおかげで束とも関係を持ち、BTシステムとの適合率が一気に上昇。その後原作より早く高速パッケージをインストールし、主人公と肩を並べて空を舞う。

ちなみに、主人公に対し、BT性能アップのお礼として、ゼロ式にオリジナル装備「グリフォン」ユニット(高速パッケージ)を渡すように依頼され、実際にインストールされる(ラウラ戦前)

 

ラウラ:軍人ということで意気投合するも初手フルボッコにしてしまい、以後ライバル視される。一夏との一件後(例の泥システム)はライバルではなく尊敬の念を向けられる。

 

シャルル:ほぼ無関係。だが、三菱の荒鷲に憧れていて主人公を師と仰ぐ。裏として三菱と技術提携しているため搭乗機は原作より高性能。

 

箒・一夏:原作よりくっつきやすいかもしれない。主人公は一夏に惹かれることはないが、一夏が素直に憧れを抱いている。

 

ここまでの相手には最後まで負けない。

 

【創作手順】

 

 

原作とは夏の修学旅行にて乖離。アメリカの機体は束の手ではなく、ゼロ式から流れてきた主人公の日本軍人としての感情を受け、アメリカ軍機として自らの意思で暴走。束と千冬が協力して作戦立案し、零式の姉妹機として「紅椿」が登場。

 展開は原作と同じだが、主人公の機体が独自にセカンドシフトを行いゼロ式の拡張版である試製烈風A7Mへ、そして戦いの中で主人公とISが同じ成長の方向を向き、サードシフトを起こし一撃離脱特化型(ただし空力パーツを操ることにより瞬間的に高機動戦が可能)の烈風A7M2へと変化する。

 なお、その最中完全に零戦パイロットとして前世帰りを起こし、相手をマスタングと思い込んで攻撃する。銀の福音=マスタング。A7M1では機体そのものの性能は底上げされたものの、出力不足で主人公が怒りの咆哮、無理やりではあるがギリギリ銀の福音の攻撃をかわしていた。が、銀の福音弾丸が直撃。装甲の薄い機体なので致命傷。

 

 瞬間、一瞬、走馬灯が走る。最後の瞬間の一瞬。なぜ自分が撃たれたのか。何が零になりなかったのか。仲間を救えなかった理由を零戦の絶対的な出力不足と強度不足、そして火力不足と改めて思い出す。

 すると、どこからか「それが貴女の望みですか」という言葉と共に、一人の男が現れる。主人公はそれには驚かず「ええ」とだけ答える。男は「そうだよなぁ。俺はそれが不満だったんだ。思い出したか」と主人公に。主人公は「勿論です。ただ、そんなものは今の世の中不要なだけです。ですが」

 

「「平和な世の中にでも、私の手の中のものを守る力が欲しい。前世では全て取りこぼしてしまったが・・・協力してくれるか?零よ」」

 

男と女の声が重なる。そして、それに答えるように、彼女らの頭を1機の戦闘機が通り過ぎる。

 

 主人公が夢から覚めると、機体が変化をとげていた。サードシフトのA7M2にて主人公とISが合致。圧倒的高度有利から発生する速度有利、そして30ミリ機関砲の威力をもって銀の福音と互角以上に戦うも、エネルギーが付きかけてしまう。だが、一夏がISを進化させ無事に原作通りの展開へ。その後に世界に向けて三菱から「烈風(零式)」をH2Bを使用して宇宙へと上げ、データを取る計画が発表される。(束は賛同済み)手始めに理論上1週間程度で往復できる月へと目標を設定。(夏休みの間ではあるが)

 

セシリアについては、束よりイギリスへ共に宇宙に上がるスペシャライズとしてH2Bに乗らないかと打診。自らも主人公の空を目指す姿に感化されたために、空にあがれるなばらばと賛同。

 

主人公とセシリアは、最終話にて宇宙へ。同じ空を見る馬鹿として、束と千冬が見守る中、H2Bに乗って天高く舞い上がる。そしてISSを中継地点として月の探査へと出立する。

 

そして、主人公は束にプライベートチャネルにて「前世の記憶」を語り、前世からの夢がかなったと会話。束も、夢がかなったと喜ぶ。そして、束は主人公の背中を送り出す。

 

千冬との決着と、彼女のISとの生活は、未だ先へ続く。

 

(イメージソング、銀英伝「歓送の歌」(セシリア・オルコット))

 

ISの発展はこれからだ!

 

束:原作と変わりなし。ただし主人公に影響されて空馬鹿の一人になっている。

 

 

その他:亡国企業は三菱との繋がり有り。亡国企業への技術提供⇔三菱へ手を出さない。汚い面も備えあわせてこその大企業である。

 

   :小鳥遊一族は日本政府との繋がりがあり、小鳥遊の父親はトップは更識刀奈と面識有り。ただし小鳥遊彩羽については名前だけ知っていた状態。

 

   :主人公が記憶を継いでいるというのは誰も知らない。

 

 

主武装→零式 20×101mmRB弾使用の80口径 九九式二〇粍二号機銃(改)×1(外付)

    そのほかは通常のISと同じ。しいて言えばピーキー。

 

    グリフォンユニット:ロールスロイス製の試製外付けブースター。巨大かつ高出力で束も唸るほどの逸品。BTシステム解析のお礼としてイギリスより三菱に貸与。

 零式時代は出力の20パーセントが上限。それ以上は機体が持たない。烈風時代になると出力の上限解放。大型で重い機体を瞬間的にトップスピードまで持っていく大出力ブースターとして活躍する。

 

    A7M3-J(烈風) 20×101mmRB弾使用の80口径 九九式二〇粍二号機銃五型(改)×2

         30×122mm弾使用の  五式三十粍固定機銃(改)×2

   (内蔵の主武装として)

    空戦揚力装甲、空力ブレーキ装備。瞬間加速については2段がデフォルト。展開装甲を使用する揚力装甲切り替えにて、一撃離脱を行う直線番長タイプと、巴戦が得意なターンファイタータイプへの切り替えが可能。見てくれはホワイトグリント。拡張性が高く、のちにBTシステムを応用したアクションカメラや光学兵器を新たに搭載してもなおも拡張性がある。(実質のBTシステム+展開装甲のダブルシステムを搭載してもまだまだ拡張できる)

 

 欠点は機体の巨大さと重量。どうしても被弾しやすく、巴戦ともなれば速度の落ちが大きいため格闘戦はあくまでも補助的なものであり、機体の本質は巨大なスラスター出力と質量を以って行われる高度・速度有利からの30ミリ機関砲を用いた奇襲、一撃離脱攻撃がメインとなる。

 つまりは競技向けというよりは実戦的な一撃離脱機であり、ワンマンアーミーで銀の福音を封殺出来るほどの軍用機。

 巨大故にエネルギー総量も多く、パイロットの負荷を考えなければ超長距離を余裕で移動できるツアラー的な機体でもある。そして、イギリスより提供されるロールスロイス製試製大出力スラスター『グリフォン』を搭載し、巨体に似合わない殺人的な上昇力・加速力を得ている。(つまり、脱着+いつでも使用可能なV・O・B)

    



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