僕のスキルと安心院さん (レインコート)
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No.1 緑谷出久:オリジン

安心院さんが安心院さんじゃないかもしれない。緑谷君も緑谷君じゃない。

少し書き直し。


 

『緑谷君………スキル欲しいかい?』

 

「スキル? 何ですかそれ?」

 

 

 夢の中でよくわからない事を言い出したのは、昔っから僕の頭の中に居る、安心院なじみと言う女性だ。

 夢の中………と言う時点で結構胡散臭いと思うかもしれないが、それが案外、胡散臭いとも言い切れない。 

 明日起こる事、僕の名前、ありとあらゆる事を教えてくれるのだ。

 そんな事をされて、信じない訳にもいかない。

 

 本人としては、ここに居るのが気に入っているらしい。

 元々は違う世界に居たらしいが、ある男に上半身を吹き飛ばされた、とあり得ない事を言ってる。そもそも違う世界って言う時点でスケールが大きすぎる。

 まあ、半信半疑のまま話を聞いていると、様々な事がわかった。

 

 まず一つ、ここは誰かによって作り出された世界だと言うこと。簡単に言えば『漫画』と言った存在だ。安心院さんも作り出されたらしい。

 だからと言って、僕にはそのようには見えないけど。

 

 次に、この『漫画』の世界では、僕が主人公だと言うこと。

 だから安心院さんは興味を持ったらしい。

 何か『改造』とか『原作前』だとかよくわからない事を言っていたのをよく覚えている。

 

 そして最後に、本来は僕と安心院さんが会う事はあり得ないと言うこと。

 そもそも『作品』が違うらしい。まあ、安心院さんにはそんな事全く関係ないようだが。

 

 様々な事を教えてもらった結果、僕は安心院さんの言う事を信用する事にした。

 どうせ夢の中だと思ったからだ。

 しかし、それから毎日のように夢の中に出てくるので、安心院さんと会うのを重ねる毎に、言っていた事に信憑性が増してしまった。

 

 そんな事もあり、いつの間に仲が良くなっていた。一回だけ「僕と一緒で楽しいですか?」って聞いたら、『僕は君が欲しいんだ』そう言っていた。

 意味はよくわからなかったけど、頭を撫でてもらったり、抱きしめてもらったり、色々してもらったので、別にわからなくても良いかな? 

 

 その後、安心院さんに聞いてみたりすると、

 

『ん~、恋愛感情と一緒と言えるかな?』

『本当はあっちの世界でも良かったけど、戻るのも面倒だしね』

『そしたらいつの間にか、君の夢に入っていた。もしくは閉じ込められた………と言った所かな?』

『最初は気紛れだったけど………いつの間にか君に対する感情が変化してたんだよ』

『簡単に言うなら…………恋愛感情だと思うよ』

『初めての感情で………面白いじゃないか?』

『だから……緑谷君。幸せにしろよ? 僕の事』

『別に結婚とか付き合うとかじゃないから』

 

 

 聞かなきゃよかった、と後悔する。

 恥ずかし過ぎて爆発しそうだ。顔を見ると恥ずかしくて見られないよ。

 どっちにしても絶対会うんだけどね。

 

 

 そんな感じで色々あって、出会って数年。冒頭の台詞に戻る訳だよ。

 

 それじゃあ、ここで改めて聞こうと思う。

 

「スキルって何ですか?」

 

『………始まる間での序章が長くないかい?』

 

「短いですよ。数年間を文章に纏めたんですよ?」

 

『最後とか投げやりじゃないか……ま、良いや♪ スキルについて………だね?』

 

「はい」

 

『よし、この安心院さんが説明してあげよう! 画面の外の普通達にもね』

 

 

 安心院さん、メタいです。普通って何ですか? 普通って………。

 

 

『簡単に言うと………んー、凄い個性かな?』

 

「適当…………よくわからないですよ」

 

 

 凄い個性って言うのが、イマイチよくわからないだよな。

 僕達の世界の個性と、安心院さんの世界の個性がどう違うのかって話ですよ。

 

 

『違い? 次元的に違うよ。君達の世界の個性はアメコミみたいな感じでしょ?』

『ビームが出たり、空を飛んだり、再生したり……そうじゃないんだよ………緑谷君♪』

『君達の能力とスキルじゃ根本的に違いすぎる』

 

 

 心を読むのを止めてください。

 恥ずかしいじゃないですか? そして抱きつくのも止めてください。これでも思春期の男なんですよ。

 興奮しちゃうじゃないですか。

 

 

『んー?………駄目♪』

 

 

 ですよねー。

 

 

『次は僕達の世界のスキルの話をしよう』

 

『主な分類としては三つ』

 

『一般人には真似出来ない「異常」な能力』

異常(アブノーマル)とか』

 

『おもに実生活では役に立たない有害な能力』

過負荷(マイナス)とか』

 

『「言葉」を操り超常現象を引き起こす能力』

言葉使い(スタイル)とか』

 

『あ、ちなみに言葉使い(スタイル)は他とは違ってスキルじゃないんだ。そこをよーく考えてね』

 

 どう違うんですかね………。

 

『後で教えてあげるよ』

 

 さいですか。

 

『さて、緑谷君。改めて聞こう―――無個性の君は………どれが欲しい?』

 

 

 どれが欲しい………か。正直、わからないです。

 個性と何が違うのか? 何がどう強いのか? それがわからない限りは選ぶのは難しい。

 能力が全くわかっていない僕が選ぶべきなのは…………。

 

「安心院さんが決めてください」

 

『…………良いのかい?』

 

「はい。スキルの事がわからない僕より、安心院さんが選んだ方が良いと思って」

 

『………ふふふ♪ そう言うと思ってたよ』

『この安心院さんが君に一番ピッタリなのを見つけてあるよ』

 

 

 何故聞いたし。

 

 

『ノリだよ、ノリ♪』

 

 

 だから心を読まないでください。プライバシーの侵害ですよ。

 つっても今更か。

 僕の頭の中に居るんだったら、プライバシーもへったくれもないか。

 

 

『ま、良いじゃないか』

 

「良くない、これは良くないですね」

 

 プライバシーは大事、これは本当に。

 

 

『とにかく発表だよ……君が使うのは…………』

 

 無視しないでください。

 

 

『言葉使いと異常だ』

 

 

「チョイスがちょっと………チェンジで」

 

 僕にはマイナスが一番似合う気がしてならない、というか絶対似合う。

 

『…………………』

 

「チェン―――」

 

『ばーん』

 

「ジバァッ!?」

 

 

 ああ、前が見えねぇ………。

 

『そりゃ、顔ないからね』

 

 えぇ………。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 言葉使いにするのは決めてたけど、どんな能力にするのかは決めてなかった安心院さん。

 珍しくテンパっていた。可愛い。

 

 

『今から、君に言葉使いと異常を授けよう。使い方は君次第だけど、凄く難しいんだ………けどね、緑谷君なら使いこなせるだろうね。なんたって、僕がついてるからね』

 

「難しいって………僕に向いてるんですか?」

 

『ん~………多分かな?』

 

 

 凄く不安になった。

 殆ど諦めていた夢、ヒーローになる事。その言葉使いを使いこなせるのか? 

 わからない未来に不安を覚える。

 

 

『ま、駄目なら駄目で違うのにするからさ。頑張ってね、緑谷君♪』

 

「あ、はい」

 

『それじゃ~、渡すよ』

 

 

 そう言って、僕の目と鼻の先まで近づいて――― 

 

 

『緑谷君のファーストキス貰うよ♪』

 

「えっ? ちょっと待っ…………」

 

 

 言葉は途中まで続かなかった。

 安心院さんが僕にキスをしたのだ。急に来たのもあり、全く反応できなかった。離そうとしても、全く離れてくれない。

 それどころかどんどん激しくなってくる。本当に渡すのに関係あるのか? とも思ったが、そんな事を考える暇もなく、今度は舌を入れてきた。

 そして、少しずつ意識が薄れてきた。

 

 

『んんっ………ん………はぁ……』

 

「………………ん………………」

 

 

 なすがまま、と言った言葉が合うだろう。あれよあれよと流されて、意識が飛びそうだ。

 申し訳なさと嬉しさが交互に僕の心を埋めていく。

 

 そして、緑谷は意識を失った。幸せそうな顔をして。

 

 

『………ちょっとだけ……………やり過ぎたかな?』

 

 

 少しやり過ぎた事を反省………している。一応。

 

 

『にしても、緑谷君、使いこなせるかな?』

 

 

『   使いと人心支配の二つ』

 

 

 

 

 




言葉使いは、まだ使いこなせない。




    


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No.2 受験前に色々と

ほんの少し書き直し。


 

 スキルを渡されてから、数年が経過した。展開が早すぎると思っただろうが、特筆するような事もなかった為だ。

 夢の中でスキルの練習、現実では体作り、正直それしかしてない。数年間も練習してたんだから、使いこなせてる…………と言う訳でもない。 

 

 『人心支配』の方は、まあ及第点らしい。けど、言葉使いの方が全く使えないのだ。使いこなせるとか使いこなせないとかそう言う話じゃない。

 そもそも使えない。能力もわからない、使い方もわからない。

 

 頼りの安心院さんは―――

 

 

『君自身だよ。緑谷君』

 

 

 よくわからないです。

 僕の何処かに原因があるんじゃないのか? と思ったが、心当たりが多すぎてわからない。

 まあ、深く考えすぎてもあれだし、なるようになれば良いかな。

 

 そんな感じでいる内に、受験シーズンが迫っていた。自分は雄英を受けるつもりでいる。

 周りからの評価としては、無個性と言う事が定着している為、スキルがバレないでいた。正直、周りが何と言おうとも、どうでもいい気がする。

 

 けれど、最近は良い事や悪い事の連続だった。やっぱりストレス貯まっていく。何があったのか? 省いて言うと幼馴染みの爆豪勝己ことかっちゃんに色々やられたり、スキルが一部の人にバレかけたり、オールマイトに目付けられたり、安心院さんに褒めてもらったり、とにかく色々あった。

 説明は正直面倒だからやらない。

 

 そして現在、僕が何処に居るかと言うと………。

 

 

「……………寒い」

 

 

 雄英高校の目の前だ。

 少し早く来てしまった為、もう少しゆっくり行っても良いかな? そう思って、学校の周りをふらついていた。そうして時間を潰している内に、時間が来てしまった。

 柄にもなく緊張してしまう。

 

 合格出来るのかわからない不安と、思う存分スキルを使う事が出来る楽しみがあった。今までは、スキルの強さを制限されていて、半分以下の力も出なかったが、やっと解いてもらったのだ。

 

 そんな事を考えながら、中へと進む。

 途中で見知った顔と出会ってしまった。

 

 

「どけデク!!」

 

「あ、かっちゃん…………おはよう」

 

「うるせえ黙れ殺すぞ」

 

 

 僕がいったい何をした。

 挨拶しただけなのに、いきなり不穏な言葉ぶつけられて理不尽だ。

 まあ、何もされないだけマシか?

 

 

「…………はぁ、どうなるかな?」

 

 

 やっぱり不安になってきた。途中でかっちゃんに狙われたりして………………うん、本当にありそうで恐い。

 

 そんな恐怖感、進むのが嫌になるほどの怖さ。

 

 

 まあ、あれだよね。頑張りますか!

 

 

 

 




緑谷君 in ステータス

スキル
・『人心支配』
・?
・?

性格
・原作よりクールな感じ
・女子に対する耐性あり

強さ
・能力の相性にもよる。
・轟や爆豪よりも強いかも。
      
        
   


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No.3 このメガネ、真面目につき

緑谷君の『人心支配』は特殊です。
王土が『理不尽な重税』で奪った『異常駆動』を使えたりします。ついでに、『人心支配』の使い方が増えています。『跪け』『平伏せ』以外にも何個か。

一部書き直し。


 

『今日は俺のライブにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!』

 

 

 大声を出しながら、耳をこちらに向ける。きっと返事を返してくれるのを期待してたんだろう。

 まあ、誰も返しちゃくれないが。ちなみに僕もだ。

 

 

『こいつあシヴィーーー!!! 受験生のリスナー!』

 

 貴方のテンションについて行けないんですよ。

 まあ、他の人がもし返事を返したとしても僕は返さないけど…………大声だすのがダルいし……。

 

『実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?  YEAHHHHH!!!』

 

 

 無駄にテンション高いなぁ、と冷めた目線。

 誰一人として返事を返さない。よく見ると、プロヒーローの[プレゼントマイク]だった。

 人気はあるのになぁ………やっぱりテンションが……。

 

「チッ………うるせえ」

 

 

 隣の席にはかっちゃん、とてもイラついた様子で舌打ちする。

 僕も少しだけ同じ気持ちだけど……かっちゃんと同じ気持ちかぁ…ちょっとなぁ…。

 

 

『入試要項通り! リスナーにはこの後! 10分間の「模擬市街地演習」を行ってもらうぜ!!!』

『持ち込みは自由! プレゼン後は各自、指定の演習会場へ向かってくれよな!!』

 

 

 市街地演習………ねえ。多分、相手は機械だろう。

 自分にとっては都合が良いけどね。僕のスキルなら機械でも効果あるし、素でも結構戦えるからね。安心院さんの特訓の成果だよ。

 と言うかスキル貰ってから身体能力が異常な程上がってたんだ。スキルの使い方も増えたし。

 

 そんな事を考えていると、かっちゃんが僕の方を覗いてきた。ちなみに僕とかっちゃんは別々です。

 

 

「同校同士で協力させねえってことか」

 

「………そうだね」

 

「返事すんじゃねぇよ」

 

 

 やっぱり理不尽だ。返事して何が悪いんだ? 

 そもそも協力する人なんかいないけどね。知り合いかっちゃんだけだし。

 かと言って同じになっても、かっちゃんが協力させてくれる訳ないよね。

 

 プレゼント・マイクは話を続ける。

 やはり少しばかり五月蝿いと思ってしまう。かっちゃんも多分そう思っているだろう。なんか嫌。

 

『演習場には”仮想敵“を三種・多数配置してあり、それぞれの「攻略難易度」に応じてポイントを設けてある!!!』

『各々なりの”個性“で”仮想敵“を行動不能にし、ポイントを稼ぐのが君達の目的だ!!』

 

 プレゼント・マイクの言った事に、少しビックリした。

 もっと厳しいかと思っていたからだ。敵を全て殲滅しろ………とか、周りの人同士で戦う……とか色々するのかと思ってた。

 まあそっちの方が楽なんだけどね………かっちゃんに爆破されたくない。

 

「んだよクソデク………見てんじゃねぇ」

 

 うわっ、見てるのバレた。

 

「チッ………」

 

 更に機嫌を悪くしてしまったのか、舌打ちをして凶悪な目付きで前を睨む。

 ただでさえ悪人面が犯罪者顔に…………っと、失礼かな? 

 

 かっちゃんと話している内に、プレゼント・マイクの話は続いていく。

 

『もちろん他人への攻撃等、アンチヒーローな行為はご法度だぜ!?』

 

 かっちゃんがやりそうだな~、なんて事を思った。

かっちゃんだったら周りの受験生全員、叩き潰して行きそう。

 と言うか僕だけ狙ってくるかも………。

 

「質問よろしいでしょうか!?」

 

『オーケーエェィ!! メガネボーーイ!!』

 

 メガネの人が質問をしようとしている。

 ちょっと優等生っぽくて嫌だな、あんなの。僕的には苦手な類いの人種。

 

「プリントには四種の敵が記載されております! 誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!!」

 

 あ、本当だ……今気付いた。

 かっちゃんは多分気付いてたっぽいけど………んー、今後は観察力の特訓も要るかな?

 観察力ってどうやって鍛えればいいのかな? 

 

「我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めて、この場に座しているのです!!」

 

 ちゃんとしてるな~、とメガネの人を見ていると、何故かこちらまでに飛び火が掛かってきた。

 

「ついでに、毛が尖っている君!」

 

「あ? んだよ、メガネ」

 

 かっちゃん………何でそんなに喧嘩腰なの? メガネは失礼だよ。

 

「かっちゃん………メガネは失礼だよ」

 

「うるせえ……デクが命令すんな」

 

 なんでさ………僕は注意しただけでしょうが。なんと言う扱いの悪さ………かっちゃん酷い。

 

「先程からボソボソと……気が散る!!!」

 

 聴こえていたのか? 

 地獄耳だなぁ…………無視してくれても良かったのに。凄い真面目な人に絡まれてしまった。

 真面目とかっちゃんが混ざり合うなんて…………考えられないよ! 

 

「物見遊山のつもりなら即刻、雄英から去りたまえ!」

 

物見遊山…………ねぇ………かっちゃんとかはそんなつもりじゃなかったけど、やっぱり真面目な人はそう言う事考えちゃうんだ。

 

 少し苦手かな、あんな感じの人。

 

 

「物見遊山? はっ、んな訳ねぇだろ……メガネ」

 

「むっ! 誰がメガネだ誰が!!」

 

「お前以外に誰が居んだよ」

 

 あー、やっぱり喧嘩みたいになった。最悪じゃないか。

 

 目立ちたくはないのに………

 

 僕は溜め息をついた。この状況に溜め息をつきたくなってもしょうがないじゃないか。

 僕の知り合いが隣で喧嘩腰なんだから。巻き込まれたらどうしよ………。 

 

 すると、今まで黙っていたプレゼント・マイクが、

 

『ストップだぜ!! ダブルボーーイ!!! 喧嘩なら試験の相手に売っちまえ!!』

 

 そりゃそうだ。

 かっちゃんには関係ないと思うけど。誰にでも喧嘩売ってるし。

 

『オーケー? ダブルボーイ』

 

「………チッ…………うぜぇ」

 

「出過ぎた真似をし、すいませんでした!!」

 

 かっちゃんはイラつきながら座り、メガネの人の方は、直角90度と言わんばかりな頭の下げ方だ。

 やっぱり真面目だ。

 

『んじゃ、さっきの質問答えるぜ!! 四種目の敵は0P! そいつは言わばお邪魔虫!!』

『各会場に一体! 所狭しと大暴れしている「ギミック」よ!』

 

 大方、巨大ロボットとかそんなもんかな。ま、でもあんまり関係ないけどね。

 僕のスキルってロボットにも一応効くし………と言うか電子機器は全部か。

 

「有難う御座います、失礼致しました!」

 

 そして、プレゼント・マイクの話は終盤に入る。

 

『俺からは以上だ!!! 最後にリスナーへ我が校”校訓“をプレゼントしよう』

『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!』

 

『”Plus Ultra“!!!』

 

『それでは皆、良い受難を!!』

 

 

 

 頑張りますか。

 本気だして、頑張って、安心院さんに顔向け出来るようにしなくちゃ。

 

 

 

 

 

 







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No.4 バトルクライ

今回、少しだけ原作改編する。     

あ、ちなみにヒロインは二人。


 模擬市街地に到着した………広い。

 改めて雄英の凄さを知った。何で学校の中に市街地なんかあるんだよ、みたいな事は思わなかったり、思ったり。

 

「…………んー、どうなるかな?」

 

 やっぱり少しだけ緊張する。別にガタガタ震えたりはしないけど。

 ちなみに僕の格好は、どっかの学生服らしい。夢の中で、安心院さんがくれた物だ。餞別だってさ。

 

「っし………!」

「フフ……」

 

 他の人達は自信あり気に佇んでいるけど、なんであんなに自信満々なんだよ………って言いたくなる。

 

 僕は結構緊張してるのになぁ。

 

 あ、よく見ると”個性“に合わせた装備してる。

 つっても僕のスキルに合わせた装備ってないよね。何だろう…………うん、何もないや。

 

「………………」

 

「さっきのメガネの人だ………」

 

 すると、視界にメガネの人が見えた。あ……同じ会場だったんだ。

 何か注意されたりして………離れるか。離れておけば大丈夫でしょ。

 

 

『ハイ、スタートー!』

 

 唐突にプレゼント・マイクの声が聴こえた。僕を含めた受験生の中で動揺が起こる。

 

『どうしたあ!?

実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!!』

 

 それはごもっとも、でも実戦じゃなくて模擬試験ですけど。

 

『賽は投げられてんぜ!!?』

 

 その言葉と同時に、僕以外の人達が一斉に走り出した。

 

「…えー………」

 

 取り残された感が凄い…………出遅れたじゃんか。そうな事言ってる場合じゃない。

 僕も行こっと。

 

 少し遅れ、前にいる皆の後を追いかける。

 

 その時、僕は安心院さんの言っていた事を思い出していた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『緑谷君………はいコレ』

 

 そう言って手渡されたのは、学生服だった。って何で? 

 

 意味がわからないです。

 

『ふふっ………意味がわからない……って顔してるね』

 

 お見通しだったようだ。

 だって本当に意味がわからないんですよ、サイズとかは合ってると思いますけど。

 

『餞別だよ。僕からの』 

 

 学生服をですか?

 いつ着れば良いですか、これ。

 使い道がわからないです。学校に着ていく訳にもいかないですし………。

 

『もし、戦闘があったりした場合、それを着ると良いよ………緑谷君』

 

 戦闘って……何か機能でも付いてるんですか? この制服。

 明らかに普通の制服ですよ? 

 

『うん。普通の制服だよ?』

 

 いやそんな普通でしょ? みたいな事言われても。

だったら着る意味ないと思います。

 無難にヒーロースーツとかで良いんじゃないですか?

 

『わかってないな~、緑谷君。君のスキルに合うヒーロースーツなんかある訳ないでしょ? とにかく………機会が有ったら着てね?』

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 本当に着る機会があるなんて…………てか安心院さん知ってたんじゃ………絶対知ってたよ、あの人。

 

 安心院さんの事を考えていると、目の前の壁が破壊された。どうやら仮想敵のようだ。

 大きさからして、1Pだと思われる。

 小型とは言え、自分よりも大きい存在………まあだからと言って何なんだ、と言う話なんだが。

 

『標的捕捉、ブッ殺す!!』 

 

 そうして僕に近づいてくる。

 スピードは少し速いが、決して止められないレベルではない。

 と言うか安心院さんに比べると雲泥の差の差だ。あれと比べる事自体が間違っているんだが。

 

 残り4m程まで来たので、色々やってみるか……まずはスキルによって得られた身体能力からだ。

 

「おらっ!」

 

 仮想敵に対して、蹴りを喰らわせる。パァン! と言う音と共に敵が弾けとんだ。真ん中から全身に掛けて砕けているみたいだ。

 予想以上の威力に、僕は開いた口が閉じない………と同じ位驚いてしまった。どうやら僕の想像以上に身体能力は向上していたようだ。

 しかし、慣れるのには少し時間が掛かりそうだと思う。

 

 こんな威力の攻撃、人に向けられないよ。

 

『ブチ殺だー!』『ブチ殺、ブチ殺!!』

『やっちまえー!!』『もじゃ殺!!』

 

 何故だ…………何故か僕が狙われてる気がする。気のせいとは思えないんだが。

 最後の奴、もじゃとか言ってるじゃないか。もしかして砕いたから怒ってんのかな? 確かに他の人と比べると壊れ具合が異常だが。

 だが、あっちから向かってくるなら好都合だ。

 

 一つ一つ的確に破壊して、スクラップにしてやる。

 

 

「ふっ!」

 

 一体目、下に潜り込み蹴りを一発。

 

「このままッ!」

 

 二体目、うつ伏せ状態から飛び上がり回し蹴り。

 

「いって!」

 

 三体目、回し蹴りの回転を利用し裏拳。

 

「ラストォォ大切断ッッ!」

 

 最後の四体目は、間接に手を捩じ込み引き裂く。

 この攻撃に掛かった時間、およそ3秒半。

 

 向かってきた4体の敵を、目にも留まらぬ速さで叩き潰した。少しだが力加減に慣れてきた。

 この調子で叩き潰していこうと思ったら、ビルを遥かに上回ると言わんばかりの敵が表れた。これがプレゼント・マイクが言っていたギミックとやらだろう。 けど、いくらなんでもこれはちょっと………。

 

「デカすぎない?」

 

 こう言うのを圧倒的脅威って言うのかな? てか僕の攻撃って効くかな………『言葉の重み』が通用するかどうかわからないな。

 あー、でも機械だったら効くと思うし。

 

 そんな事を考えてる内に、いつの間にか周りの受験生は逃げていた。

 そりゃそうだよね………あれに喧嘩売る人なんて居ないよ、普通。僕も売らないけどね。ワザワザ死地に出向くなんて言う自殺行為、するだけ無駄だ。

 そう思い逃げようと思ったが―――

 

「…………………ん?」

 

 誰かいる。逃げ遅れたのかな?

 少し分かりにくいけど、ギミックの下に人が倒れている。それがわかった時には、既に体は動いていた。 どうやら僕は、結構なお人好しらしい。

 

「痛ッ…………………あー、最悪…………」

 

 黒髪で、耳からはイヤホンのような物が延びている。見たところ女子だろうか。

 とにかく急ごう。

 

 走って女子に近づき、声を掛ける。

 

「大丈夫?」

 

「…………大丈夫に見える? て言うか………誰?」

 

 そう言われても仕方ないか。

 急に声を掛けたんだからなぁ………まあ大丈夫には見えないけどね。

 

「誰って…………んー、助けにきたお人好し」

 

「…………あんたって馬鹿?」

 

 酷いな、助けに来たのに。まあ馬鹿と言われても仕方のない事をしてるけどね。

 ワザワザ死にに来てるような物だし。

 

「………ウチの事………ほっといて逃げれば?」

 

「駄目だよ。見捨てるなんて出来ないし、どっちにしてももう逃げられないよ」

 

 そう、もう踏み潰されても可笑しくない所に居る。

 どちらにしてもほっといて逃げる、と言う選択肢は僕には存在しない。

 

「掴まって」

 

「えっ? ちょっと……待っ」

 

 そのまま女の子の体を持ち上げる。俗に言う、お姫様抱っこ…………と言う物だ。

 ここじゃなかったら明らかにセクハラになるレベルです。

 

「ちょ…………っ………止め…!?」

 

 ジタバタしているが、全く落ちる気配がない。当然だ、女の子はただでさえ怪我をしている上に、僕の力も上がっている。

 

 落とす訳がない。

 

 

「降ろせ! は、恥ずかしい!!」

 

「ゴメン。今ちょっと無理かもしれない。だから少し、掴まってて………ね…!」

 

 そう言った瞬間、ロボットの腕が僕達の居た所を直撃した。どうやらギリギリだったようだ。

 

 そのままビルの壁に張り付いた。

 ただし足だけで。

 

「えっ!? ど、どうなってんの!?」

 

 女の子は驚いているが、答えるのも少し面倒なので無視する事にし、後で沢山謝ろうと思う。

 暴れて落ちるのも駄目なので、更に深く抱き寄せる。

 反論しようとするが、それは却下。

 

「舌噛むよ………静かに」

 

「…………えっ………ちょっ…………」

 

 ロボットは僕に気付いたようだ。さっきとは反対の腕で、こちらに向けて攻撃しようとする。

 その時、良い事を思い付いた。

 

 『言葉の重み』を使おうと思う。

 悪いのはあっちだからな、壊しても文句は受け付けないです。

 

 

「それじゃあ………………喰らえ」

 

 

 

 

 

        「『平伏せ』」

 

 

 

 

 

 

 



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No.5 夢の飼い主

あんまりストーリー進まない。だが今回、ほんの少しだけ緑谷君がパワーアップするかも。




『お疲れさま………緑谷君』

 

 ありがとうございます、安心院さん………でも合格出来たかどうか分からないですよ? 

 殆んど敵を倒せてないですし。

 

『ふふっ………大丈夫だよ♪』

 

 本当ですか? 

 少しばかり不安なんですけど。それに合格出来なかったら……安心院さんに顔向け出来ないですよ。

 自分でした事とは言え………

 

『じゃあ君は後悔しているかい?』

 

 何をですか? 

 

『女の子を助けた事に』

 

 後悔は……まあ、してないです。

 

『なら良いじゃないか』

 

 そうですかね? 

 まあ、もしコレで合格出来なかったとしても、多分…………と言うか絶対に後悔もしないですし、怒りも沸かないと思います。

 自分がやった事が正しいとか間違ってるとかの話じゃなくて。

 

『ん……それでこそ緑谷君だよ』

 

 あー、安心院さん。

 

『どうしたんだい?』

 

 怒ってますか? 何か機嫌が悪いように見えるんですけど。

 

『怒ってないよ…………お姫様抱っこの事以外は』

 

 あっ、それは………いやでもあれは仕方なくやった訳で、そんな邪な気持ちでした訳じゃないですよ。

 おんぶとか面倒だったのでお姫様抱っこにしただけで………

 

『問答無用だね………………とりゃ♪』

 

 安心院さんが跳んできた。

 避ける事も出来ずに、そのままスッポリと腕の中に入った。お姫様抱っこの状態だ。

 

 まさか安心院さんをお姫様抱っこするなんて………

 

『そのまま………………とうっ……』

 

 お姫様抱っこの状態から、僕の口にキスをしてきた。正常な判断が出来ない。安心院さんは不意討ちが得意なのか……………逃げようにも逃げられない。

 と言うか別に逃げなくても良い気がしてきた。

 そもそもキスをしてきたのはあっちなんだし、僕は悪くないよね。

 

『…………………ぷはぁ……………』

 

 やっと解放してくれた。

 別にあのままでも良かったかもしれないが…………。

 

『おや? もっとして欲しかったのかい?』

 

 言ってません、そんな事。心の中では思っていたかもれないけど……………とにかく、急にするのは止めてください。

 僕にも心の準備と言うものが………

 

『おいおい………今のは緑谷君への罰。それと、ご褒美だよ』

 

 罰って………僕が何かしましたか?

 

『自覚なし…………ま、いいや』

 

 最後の投げやり感が凄いですね。自覚なしって、何の自覚がないんですか?

 

『………はぁ……もういいよ…………』

 

 そうですか。

 別に分からなくても良いですけど、いつか教えてくださいね。

 

『……まあ、自覚したらね』

 

 はーい。

 

『…………あ、そうだそうだ………緑谷君』

 

 はい、何ですか? 

 

『さっきキスした時に、もう一個だけスキル渡しておいたよ』

 

 えっ、嘘でしょ………安心院さん……また増えたの? ただでさえ『言葉使い』の方すら使えてないのにぃ………だからご褒美なんですか?

 

『大丈夫だよ………そのスキルは特殊だから』

 

 何が特殊なんですか? 

 補助能力とかですか?

 

『う~ん………当たらずも遠からず……かな?』

 

 どーも、ありがとうございます。   

 

『そんなに心の籠ってないお礼はいらないよ』

 

 すいません。

 でも急に渡されて、少し戸惑ってしまって…。

 

『ま、それもそうかな。とにかく、応援してるから………頑張ってね♪』

 

 夢は覚めていく。安心院さんの応援と共に。

 貰ったのは正直嬉しいです………けど、僕まだ合格かどうか分からないですよ。

 

 

 

 

 しょうがない……起きたらスキルの練習するかな。

 

 

 

 

 

 




緑谷 in スキル

・『人心支配』
・『  使い』
・『受  度』







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No.6 サイレン

後付け設定らしきもの
・緑谷君の顔には、そばかすがありません。
・オールマイトは緑谷君にの能力を渡そうと思っています。
・安心院さんは、一応現実に出れます。ただし、出れても範囲が決まっている。

活動報告の所に、この作品のヒロインの話を出した。
一人目は耳朗響香、二人目が決まってない。できれば意見を出してくれるとありがたいです。もう正直、安心院さんで良いかな? いいよね!


 安心院さんにスキルを渡されてから1週間程経った。使えるようになったか? と言われると全然無理です。

 スキルの影さえ見えやしない………本当にスキル渡したのかなぁ? と疑うレベルだ。

 単に僕の実力不足かもしれないが。

 

 まあ、スキルの話はこの辺にして、次は試験の話をしようと思う。結果はまだ分かんない。

 多分今日明日、明後日位に届くらしい。安心院さんの期待してるよ? みたいな目と、母の良く頑張ったね、みたいな目があって腹が痛くなってくる。

 

「出久? 大丈夫? さっきから様子が可笑しいけど…」

 

「………大丈夫、大丈夫」  

 

 母に対して、とても大丈夫には思えない返事を返す。やはり少しだけ心配させているようだ。

 

「………なら良いけど……………」

 

 ちなみに言い忘れていたが、筆記の方は余裕だった。安心院さんのお陰だ………てかスキル持ってから頭良くなった気がする。

 それに加えて安心院さんのお勉強会もあったから、圧倒的に余裕だった。

 多分平均95点はいけたと思う。

 

 代わりに実技は終わってるけど…………僕は覚えている範囲では五体倒して2Pばっかりだったから、10P位だと…………思いたい。

 10Pだけじゃ駄目だよね。

 

 まあ、つまりは…………通知待ちなんだよ。

 

「通知……今日明日くらいだっけ!?」

 

「そう………」 

 

「雄英受けるってだけでも凄いことだと思うよ、お母さん!」

 

 安心院さんとの事は母にも話していない。

 話した所で信じてくれる訳ないだろうし………話したら安心院さんは怒るだろう。

 たとえ家族だとしても、話す事はない。

 

 安心院さんに色々してもらったけど、試験……合格出来ないかもしれない。

 けど………僕は正しいことをしたと思います。

 

 僕がそんな事を考えていると、母が僕の名前を叫びながら走ってきた。

 

「出いずいずく出久!! 来た!! 来てた!!! 来てたよ!!」

 

 来た、の三段活用だ。声が大きい、走らない、来たは一回でいい。

 そんな事思いながら、母から通知表を貰う。母には見られたくないので部屋に戻る事にしよう。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 

 

「…………………ん~、どうしよっかな?」

 

 この通知を開けるのを躊躇ってしまう。結果を見るのが怖くなる。

 かと言って開けないのも駄目だよね…………よし、開けるか…………。

 

「……………ふん!」

 

 思いっきり緩く破いた。すると、破いた紙の中からスクリーンのようなものが出てきた。

 さすが雄英だな…………………近未来的だ…………やだ、カッコいい……。

 

 感心していると、声が聞こえる。声からしてオールマイトだと思われる。

 んん………渋いね。声が。

 

『私が投映された!!!』

 

 あ、てか何で雄英の通知なのに居るの? 

 もしかして雄英に勤めるのかな? さすが雄英だなぁ。

 教師も豪華だな…………資金力ってどれくらい?

 100億円なんて軽く越えてるよね、絶対。

 

『諸々、手続きに時間かかって連絡取れなくてね。ゲホッ いや、すまない!!』

 

『私がこの街に来たのはね、他でもない! 雄英に勤めることになったからなんだ』

 

 雄英に………? これは凄い……オールマイトが雄英に来るなんて、本当に凄いなぁ………。

 

『ええ何だい!? 巻きで!? 彼には話さなきゃいけない事が……………後がつかえてる!? ……あー、あー、わかったOK』

 

 話さなきゃいけない事? 

 なんだろ………ま、別に良いかな? 

 

『筆記は完璧だったよ。スペルミスや細かいミスがあったけど、殆んど満点……けどね………実技は10Pちょい………まあ………不合格だよ。それだけならね』

 

 予想通りだったよ………やっぱり実技がヤバかったかぁ…………でも、それだけって……どういう事?

 

 僕はオールマイトの言った事に疑問を覚える。

 それだけ………? よくわからないな…………。

 

『私もまた、エンターテイナーーー!!! こちらのVTRをどうぞ!!』

 

 そして、オールマイトの後ろに有ったTVが付く。

 そこに映っていた映像に、僕はビックリしてしまった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「あっと………すいませーん」

 

 そこに映っていたのは、試験の時に助けた女の子だった。イヤホンの子だ。

 もしかして怒ってるのかな? 

 ヤバいよ、僕怒られるのかな? 反省は凄いしてるけど……………。

 

『試験後すぐ直談判しに来たんだってさ!』

『何をって!? 続きをどうぞ!!』

 

 セクシャルハラスメントについて? な訳ないよ…………と思いたい。

 

「えっと………頭がもさもさで、学生服着てた……」

 

 僕だ………やっぱり。

 

「まあ、何て言うか………ウチのP、分けたいんです…私の事………助けたせいで、迷惑かけたし、だから………ロスした分だけ…………借りとか………ちゃんと返したくて」

 

 借りだなんて…………自分がしたいからしただけだよ。迷惑だなんて思ってなんか…………。

 

 

「試験だったのに………あいつ…………助けてくれたんです…………」

 

 

 これは…………凄く嬉しい……かな。自分のやった事が感謝……されてると思うと。

 でも体が勝手に動いたんだけどね。考えるより先に、体が反応したんだよ。

 

 そして、オールマイトの話は続いていく。

 

『先の入試! 見ていたのは敵Pのみにあらず!』

 

『人助けした人間を排斥しちまうヒーロー科など、あってたまるかって話だよ!!! きれい事!? 上等さ!! 命を賭してきれい事、実践するお仕事だ!!』

 

「つまりは?」

 

『つーまり! 救助活動P!! しかも審査制!! 我々雄英が見ていたもう一つの基礎能力!!!』

 

 マジでか…………奇跡起きた。その事を聞いて驚いていると………。

 

『緑谷出久 70P』『ついでに耳朗響香 30P!!』

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ムチャクチャだな………雄英って凄っ……」

 

 映像は、オールマイトの映る画面へと移る。そしてオールマイトより告げられる。

 

『合格だってさ! 来いよ、緑谷少年!!』

 

 

『雄英が君のヒーローアカデミアだ!!』

 

 

 

 僕は………多くの助けを受け、僕自信の人生は変わっていく。特に安心院さんには………感謝してる。

 よし、お礼言わなきゃ……………あのイヤホンの子にも…………ありがたいです。

 

 

 

 

 

 




耳朗さんがポイント貰ったのは、まあ…あれですよ。ポイント分けたいって言いに来たからです。


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No.7 心のままに

今回、駄文に注意。

緑谷君は、感情が表に出ないタイプ。興奮するときはちゃんとする。


「出久! ティッシュ持った!?」

 

「うん」

 

「ハンカチも!? ハンカチは!? ケチーフ!」

 

「持ってる」

 

 いくらなんでもお節介過ぎるんじゃないか? と言う事を思っても言わない。

 言ってしまった所でお節介は治らないだろうし、だったらいっその事言わない方が良いかな?

 

「持ったから………大丈夫だよ」

 

 だが、ここまで母がお節介になるのにも理由が存在する。自分の息子が雄英なんて凄い所に合格したんだ、ここまでされても可笑しくはないだろう。

 流石にここまでされると、こちらが恥ずかしくなってくる。

 

 一応、これでも高校生なのに………。

 

 

 だが、やはり喜ばれる、というのが嬉しくない訳がない。夢だと疑っても可笑しくはない話だ。

 何故なら”無個性“の少年が合格してしまったんだから。

 実際にはスキルを持ってるんだけどさ……。

 

「出久!」

 

「………どうしたの?」

 

 まだ何かあるのか? 

 そう思ってしまった僕は悪くないはずだ。持てる物は全て持った……はず。不安になって鞄の中を探ってしまった。

 でも、忘れ物は無かった…………けど、

 

「すっごく………カッコいいよ」

 

 

「……うん………行って来ます!」

 

 よし、覚悟決めますか。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 やるせない気持ちになりながらも、雄英に到着する。

 しかし、到着したまでは良かったのに道に迷ってしまった………雄英広すぎなんだよなぁ………。

 

 雄英の広さに戸惑ってしまったが、遅れる訳にもいかないので教室を探す。

 

「……………広い………」

 

 しかし、一向に見つかる気配がない。

 

 一般入試の定員36名で1クラス18人、さらに2クラスという少なさ。なのに見つからないなんて可笑しくはないだろうか………やっぱり広すぎるんだよ。

 

「ねえ!」

 

 そうやって雄英の広さに愚痴を垂れていると、後ろから誰かに呼び掛けられた。

 呼び掛けられるような知り合いなんていない筈だけど…。

 

 少し疑問に思いながらも、誰かと思い振り返る。

 

 

「……………あ、試験の時の」

 

 直接的な関わりはあまりないが、一応見知った顔ではあった。

 試験の時や、試験後にも少しばかりお世話になったから………、これはちょうど良いかもね。

 

 とても感謝しているので、お礼を言いたかった所だ。 

 

「やっぱり……試験の時、助けてくれた人だよね?」

 

「………あ、うん。一応」

 

 不明瞭な返事。

 安心院さんの女性と話さないから、少しテンパってしまった。女子に対する耐性が出来上がってないんだよ。試験の時は脳内アドレナリンがドバドバだったんだ………だから抱き寄せたり、お姫様抱っこが普通に出来たんだよ。

 いつもなら絶対無理だろうね。

 

「そっか………えっとさ…………助けてくれて、その、ありがとね」

 

「いや、そんな……自分がやりたい事やっただけで」

 

「でもさ……助けてくれたのには変わりないし」

 

「………お礼を言うのはこっちだよ」

 

「?」

 

 どうやら救助活動Pの事は聞いていないらしい。なので簡潔に話す。

 

「そうだったんだ…………てか、P分けに来たの知ってたんだ?」

 

「あー、まあ……うん」

 

 素直に答えたら顔を伏せてしまった。

 これは照れているのか……きっと照れているんだ。決して僕の顔を見て笑った訳ではない……はずだ。

 

 って、そうだ……この人に聞きたい事あったんだ。

 

「…そういえば……名前、まだ聞いてない」

 

「……………って、え、あ、名前?」

 

「……うん」

 

 ずっと女子とか呼び続けるのも面倒なので、今の内に名前を聞いておく。

 あ、でも合格通知来たときに名前言ってたかも………………忘れた。

 

「ウチの名前は、耳朗、耳朗響香」

 

「緑谷出久。よろしく」

 

 耳朗響香…………大丈夫。もう覚えた。呼び方は普通にしようかな。

 

「それじゃあ改めて、よろしく。耳朗さん」

 

「耳朗? 別に響香でも……良いけど」

 

「いや、耳朗さんって呼ぶ」

 

「………わかった。よろしくね、緑谷」

 

「んー」

 

 お互いの名前を知り合った所だが、ここである事に気づいた。

 

「…………って、遅刻するかも……」

 

 話している内に時間はギリギリになっていた。不味いなぁ………遅刻したら色々と……………。

 初日から遅刻する生徒とか、問題児の烙印押されて退学まっしぐらじゃないか。

 

「えっ………本当だ……」

 

「…教室って……何処?」

 

 道がわからない……いや、マジで。

 

「もう少し先」

 

「ふぁっ」

 

 足下から聞き覚えのない声が聴こえて、少し驚いてしまった。いや不意打ちだったからビビっただけで、覚悟してたら絶対ビビってなかったね。うん。

 

 

「はいよろしく。担任の相澤消太だ。遅刻は厳禁、さっさと行け」

 

 

 えぇ……これが教師?

 明らかに社会不適合感が滲み出ているではありませんか……。

 

「なんか言ったか?」

 

 そんな目で睨み付けないでください。怖いです。

 

「いーえ、何もないです。耳朗さん、行こう」

 

「えっ、あ…わかった」

 

 



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No.8 嫉妬深い風

活動報告の所でヒロイン募集中!
よろしくお願いいたします!!



 

「ドア………大きいね」

 

「うん……デカイね」

 

 先生と出会った後、真っ直ぐ行けば進むと言われて来てみると、教室にたどり着いた。

 どうやらあの人は本当に先生らしい。廊下で横になっているから、つい不審者だと思ってしまった。

 不審者だとか思ってしまって御免なさい………と心の中で謝っておく。

 

 先程言ったが、ドアが大きい。無駄に大きくて威圧されてしまいそうだ。

 雄英はとにかく大きいのが好きなのか? と思ってしまうほど、とにかく色々大きい。無駄に大きいのはアメリカだけで良いんだけど…………バリアフリーなのか?

 

「緊張する…………耳朗さんは?」

 

「ウチだって緊張してるよ………緑谷、本当に緊張してる?」 

 

「…………してるよ?」

 

 口に出して「緊張してる」と言っているのに、何故聞かれなければならないのか………やっぱり感情が表に出ないタイプだからかな? 

 う~ん………確かに昔はこんなに冷めてる訳じゃあ……なかったけど、多分。

 

 安心院さんに出会ってからこうなったのかな?

 

 緊張していては始まらない、そう思ってドアに手を掛ける。

 大きく息を吸う……そのままドアを前に倒す。

 

「……………あれ?」

 

 可笑しい………と思い逆に引いてみる。押しても駄目なら引いてみろ。

 だが開かない………………

 

「……………………」

 

「緑谷、横だよ。横にスライド」

 

「………ああ、そう言う事か」

 

 凄く…………恥ずかしいです。

 そう言えば学校のドアって横だよね。緊張のし過ぎで忘れてたよ。耳朗さんの目の前なのに…………恥ずかしさで顔が熱いよ。

 全く見た目は変わってないけれども。

 

 あ、もしかしたらメガネの人居るかも。それにかっちゃんも居るかもしれないなぁ……………いや別に居るのは良いんだけど面倒だし。

 メガネの人は凄く厳しそうだし、かっちゃんは僕の能力説明してないから面倒だ。本当に面倒だ。憂鬱で溜め息が漏れ出る。

 

「………はぁ……」 

 

「緑谷……どうかした?」

 

 溜め息を付いてしまった為、耳朗さんに心配を掛けてしまったようだ………悪い事をしてしまった。

 もっと心配を掛けるのも悪いので、早い内に謝っておこうと思う。

 

「なんでもない………ゴメン、心配掛けて」

 

「……えっ、別に心配してなんか…………」

 

 これが流行りのツンデレか………良いね。安心院さんとかよくわからないし。ツンもなければデレもない、ヤンでもクーでもない………のか? 

 ジャンル分けが出来ないキャラだって言ってたし、本人が。

 

「ま、良いや…………入ろ」

 

 長い時間を掛けて、ついにドアを開ける。後ろで耳朗さんがあたふたしていたが、そっとしておこう。

 そして、教室の中で初めに目に入ったのは…………

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に、申し訳ないと思わないか!?」

 

「思わねーよ、てめーどこ中だよ端役が!」

 

 2トップ…………有り得ないだろう……いや、有り得るか? かっちゃんは普通に強いし、メガネの人も強そうだし。でも面倒な事になったな。

 絡まれるかもしれない………

 

 そんな事を思っても、話は続いて行く。

 面白いから暫く聞いてみよう。

 

「ボ……俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」

 

 聡明って言ったら、凄い所じゃないか。やっぱりエリートだったのか………………凄いや。

 かっちゃんも半分は僕と同じ事思ってたようで………

 

「聡明~!? くそエリートじゃねえか、ブッ殺し甲斐がありそうだな」

 

 どれだけ喧嘩腰なんだ、かっちゃんは………同じクラスメイトなのにブッ殺し甲斐って、駄目でしょ。

 

「君ひどいな、本当にヒーロー志望か!?」

 

 僕も同じ事思いました。けどヒーロー志望なんですよ、かっちゃんは。

 やると言ったらやる人だから。

 

 性格はあんなのだけども……………

 

「!」

 

 すると、ドアの前に居た僕達に気付いたのか、こちらに歩いてくる。

 そして、僕の目の前に立ち止まって、

 

「俺は私立聡明中学の「聞いてたよ」………」

 

「僕は緑谷出久、よろしく」

 

 先に挨拶をしておく。

 僕の挨拶に続いて、耳朗さんが挨拶する。

 

「耳朗響香、えっと…………飯田だっけ?」

 

「ああ、飯田天哉だ。よろしく頼む」

 

 ちゃんとした挨拶をしてくるなぁ……と思った。意外とイメージとは違うんじゃないか? と思う。

 根は優しいのだろう。

 

「緑谷君………君は、あの実技試験の構造に気付いていたのだな」

 

 構造? 

 何それ、知らないですね。

 

「俺は気付けなかった…………!! 君を見誤っていたよ!! 悔しいが君の方が上手だったようだ!」

 

 何か変な勘違いが起こってる気がするのだが。別に否定する気もないが。

 

「そうなの?」

 

「知らない」

 

 耳朗さんが小声で耳打ちしてきたので、勘違いだと言うのを教えておく。

 ちなみに顔が近くて恥ずかしくなったのは秘密だ……………

 

 もうそろそろ席に着こうかと思った時、後ろから声が聞こえた。 

 どうやらドアを閉めるを忘れていたようだ。

 

「あ! そのモサモサ頭は!!」

 

 振り向くと、とても可愛らしい女の子が出てきた。いかにも、「うららか」と言う言葉が合いそうだ。

 しかし知らない。どうやら向こうの方は僕を知っているようだが、僕は知らない、全く知らない。相手の一方通行だろうか?

 

「えっと…………誰?」

 

「あ! ゴメンね、急に…あの実技試験の時、見てたんよ!」

 

 見られてた。ヤバい凄く恥ずかしいです。

 ただでさえここに居る二人にも知られているのに、一人増えてしまった…………別に問題はないけど………………

 

「凄かったね! あれ!!

なんかよくわかんないけど、とにかく凄かった!! 何もしてないのに、急に敵が潰されて!!」

 

 少し興奮し過ぎじゃないか? 

 そう思って、一旦落ち着かせる。

 

「………わかったから、一旦落ち着いて」

 

 そう言うと、少しずつ落ち着きを取り戻してきた。どうどう……と馬の如く落ち着かせる。

 見ていて面白いなぁ……………と思った。

 そしたら何故か……………

 

「…………………」ガンッ

 

「……………痛い…………」

 

 耳朗さんに足を踏まれた。地味に痛いのだけれど、何で急に踏まれたのか? 

 この理不尽な痛みに耐えなければならないのは何故なのか………?

 

「…………ふんっ!」

 

 そっぽを向かれた。どうやら機嫌を悪くしてしまったようだ。

 後で謝っておこう。

 

「今日って式とかガイダンスだけかな?」

 

「わからない」

 

「先生ってどんな人だろうね、緊張するよね」

 

 見たら驚くだろうね。知ってるの僕と耳朗さんの二人だけかな?

 多分今も近くに居ると思う。例えばドアの後ろに………………

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

 ほら、やっぱり。

 存在に気付かないなんて、ステルス能力高いですね。

 

「ここは………ヒーロー科だぞ」

 

 さっきのお礼言ってなかったや………言っておこう。

 

「………相澤先生、先程はありがとうございます」

 

「遅刻しなかったようだな、緑谷、耳朗」

 

「はい。おかげさまで」

 

「え? あっ……はい」

 

 クラスの皆はポカーンとしている。僕と耳朗さんは一度会っているので、少しだけ慣れた。

 すると、先生は立ち上がり…………

 

「ハイ、静かになるまで10秒かかりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね」

 

 全身を見ると、くたびれている。凄くくたびれている。それ以外に感想が見つからない。

 全体的にほっそりとしており、くたびれている人にしか見えないのだが。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 すると、先生が着けていた寝袋から体操服が出てきた。何故入っているのか、と言うツッコミはなしにしておこう。

 

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」

 

早速にも程がある。何だろう……訓練? テスト?

………ヒーロー科って凄いな。色々と凄いよ。

 

 とにかく頑張ろうと思う。訓練だろうがテストだろうが負ける気もしないし、負ける訳にもいかないからね。

 安心院さんが見てると思うから……………

 

 

 

 




    


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No.9 教師とは理不尽の塊である

「「「「個性把握………テストォ!?」」」」

 

 皆が一斉に驚きの声を挙げる。

 だが、驚いても仕方のない事だ。入学早々にテストをする……という他の学校では考えられないような話だ。しかしここは雄英。

 普通では有り得ないような事も、この学校では起こる。

 それがこの学校にとっての”普通“であり、周りにとっては”異常“な光景なのだ。普通では入学式、ガイダンス等があるだろう。

 

 しかし、ここが”異常“で”普通“な学校である以上、そのような常識は通用しない。僕達は油断していたのかもしれない。雄英に入った事で有頂天になっていた僕達は………………

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事出る時間ないよ」

 

「………………!?」

 

 先生の言っている事は、なんとなくではあるが納得出来た。確かにヒーローになる以上、時間は大切になってくる。

 それなら合理性を求め、無駄な行事を省いた方がよっぽど良いんじゃないか? と思ってしまう。

 普通はあるような事もない学校………………それが雄英、それが雄英だから、で全部済んでしまって恐ろしい。

 

 まあ正直な意見としては、入学式とかガイダンスはいらないと思う。校長先生の長いだけで中身の籠っていない話を聞くよりかは、無くしてしまった方が良いだろう………あくまでも個人的な意見だが。

 ”個人的“な意見だから。

 

「雄英は”自由“な校風が売り文句。そしてそれは”先生側“もまた然り」

 

 あまりにも”自由“過ぎると思うのだが……………校風で”自由“だったら良いって問題でもないのだが。

 少なくとも先生まで自由なのは駄目じゃないか? 疑問は口には出せずに、先生の話と共に流されていった。

 

 他の皆は分かっていないようで、首を傾げている。すると、耳朗さんが僕の耳元に口を近づける。

 少しくすぐったいんだけど。

 

「ねえ、緑谷」

 

「…………何、耳朗さん?」

 

「あのさ、意味わかんないんだけど………先生の言ってる事」

 

 普通の反応はそうだろう。先生の言った”意味“が分かったのは、ほんの一握りだろうと思われる。

 ちなみに僕はある程度は理解している。多分。

 

「まあ……なんでもありって事かな……?」

 

「ふーん………」

 

 僕の説明が適当だったからこんなに素っ気ないのか? 

 少しでも分かりやすく説明した僕を慰めてほしいです。誰でも良いから慰めて………安心院さんならきっと………駄目だな。

 

先生の話は続く。地味に寒いのだが、この格好は。

 

「ソフトボール投げ」「立ち幅とび」

 

「50m走」「持久走」「握力」 

 

「反復横とび」「上体起こし」「長座体前屈」

 

「中学の頃から色々やってるだろ? ”個性“禁止の体力テストとか」

 

 確かにやってたかな、体力テスト。能力禁止っていうのは中々良かったと思う。

 フェアだったから、”無個性“のテストってのは。安心院さんの特訓のお陰でかっちゃんと渡り合えたからね。

 今なら越えてると思うけど………スキルがあるから余裕だとは思う。それに正確な力が測れて良いかもしれないな。

 

 

「爆豪、中学の時ソフトボール投げ、何mだった」

 

 先生はかっちゃんに記録を聞いていた。かっちゃんは元々が才能の塊みたいな感じだからなぁ……ソフトボール投げも中々凄くなかったっけ? 

 60m位ではなかっただろうか………まあ、僕の記憶など宛にはならない。

 正直な話、特訓以外に覚えてる事なんて殆どない。 特訓→学校→帰宅→睡眠→最初に戻る(ループ)みたいなもんだったから…………思い出すだけでも恐ろしい。

 

「67m」

 

 やっぱり才能はあるんだよ、かっちゃんは。

 性格以外は良いんだけど…………いかんせん性格に問題が。あの性格は欠点だろう。

 あの性格を直さない限りどうにもかくにも……………

 

「じゃあ”個性“を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい、好きにやれ」

 

 かっちゃんの”個性“は爆破、という超絶的に強力な”個性“だ。僕の考えとしては汗がニトロのようになっているんじゃないか? と考えている。

 けどかっちゃんの”個性“は戦闘以外にはとてつもなく向いていないだろう。だけど、大きなデメリットもなくて派手で強い。

 かっちゃんの性格にピッタリの”個性“だ。爆発的に暴力的な将来有望少年、といった所だろう。

 

「んじゃまぁ」

 

 腕を回して投げる準備をする。ウォーミングアップは大事。凄く大事だ。

 そのまま投げる構えに入り、こう叫びながら投げた。

 

「死ね、クソがッッ!!!」

 

 かっちゃんは腕を振り抜いた。その瞬間、とてつもない爆音が響いた。爆音の中心地から大量の砂埃と風が飛んできた。

 威力や音にも驚いたが、一番驚いたのはかっちゃんが叫んだ言葉だった。

 

「いや、死ねって……えぇ……」

 

 今のは忘れる事にする。

 

「まず、自分の『最大限』を知る事」

 

 そう言った先生の手の中に、メーターのような物が握られていた。

 ソフトボール投げの記録が書かれている。

 

『705.2m』 

 

 やっぱり飛んだなぁ、と思う。

 まあどうせかっちゃんだし、凄い記録になるんだろうな…………とか考えてたし。

 

「それがヒーローの素地を形成する、合理的手段」

 

 この先生、合理性求め過ぎじゃないか………今の教師には珍しいタイプの人間だろうか。

 安心院さんとは別ベクトルでヤバい人に思える。

 いや別に安心院さんをヤバいと言っている訳ではいが………。

 

「うおー! すげー面白そう!」

「705mって…あんなボールって飛ぶんだ」

「”個性“思いっきり使えるんだ!! さすがヒーロー科!!」

 

 面白そうってか面倒くさいだけじゃないか。”個性“使えりゃ良いって問題じゃないだろう、コレは。 それにいきなりこんな……………

 

「……ハッ……面白そう……か…」

 

 先生の雰囲気が急に変化する。

 これは……地雷を踏んでしまったかもしれない。

 

「ヒーローになる為の三年間……そんな腹づもりで過ごす気でいるのか……………よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分だ」

 

 先生の発言があまりにも衝撃的だったのか、皆が一斉に黙りこむ。

 そして次の瞬間―――

 

「「「「はああああ!?」」」」

 

 驚きのあまり大声を出している皆。

 僕はある程度予測済みだったので、特に驚く事はなく静観する。

 

「生徒の如何は先生の”自由“……ようこそ、これが――――雄英高校ヒーロー科だ」

 

 

 

 

 




   


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No.10 ウソツキィ

アニメだ!! 見たー!!! 良かったー!!!!

ちょっとだけ原作と違うよ、今回は。

書き直し。緑谷が本気だしすぎ。


 

「最下位除籍って………! 入学初日ですよ!? いや初日じゃなくても…………理不尽すぎる!!」

 

 麗日さんが先生に向かって声を荒げる。僕も麗日さんの言っている事には概ね同意だ。

 普通の学校では有り得ない事だから………けど雄英だからね、しょうがないよ、麗日さん。

 

「自然災害……大事故……身勝手な敵たち………いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽にまみれてる」

 

 先生は一息つき、髪に手を掛ける。隠れていた右目が現れる。

 

「そういう理不尽を、覆していくのがヒーロー」

「放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから三年間、雄英は全力で君たちに、苦難を与え続ける」

 

 先生は笑みを浮かべながら、人差し指を立て手前に数回程動かしている。

 俗に言う『挑発行為』だろうか、明らかに喧嘩を売っているようにしか見えないんだけれど。

 

「”Plus Ultra“さ―――全力で乗り越えて……来い」

 

 僕は一度、息を整える。少しばかり緊張しているのか、やはり足が震えている。”最下位除籍“がプレッシャーになってしまっているのだろうか。

 

「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」

 

 そして、テストが始まろうとしている。

 どのような結果になるかは、安心院さんしかわからない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

第一種目:50m走

 

「普通に走るしかないよ」

 

 身体能力をフル活用………しない。本気で走ったらどうなるかわからないから。

 だから適度なスピードで走るしかない。

 

「爆速!!」

 

 かっちゃんがターボを使って速かったです。

 

 

中学 5:69 → 4:34

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

第二種目:握力

 

「本気だす」

 

 これはもうね、うん。本気だすよ。身体能力フル活用するよ。

 

「タコって………エロイよね…………」

 

 

中学 98kgw → 229kgw

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

第三種目:立ち幅跳び

 

「鳥みたいに……………」

 

 普通にジャンプした。記録は結構上がっていたので良かった。

 僕は鳥だ……というイメージで跳んだ。

 

「緑谷の個性って………肉体強化系?」

 

「違うとも言い切れないけど、かと言って肉体強化系でもない」

 

「よくわかんない」

 

 

中学:2m19cm → 4m48cm

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

第四種目:反復横跳び

 

「脳内の電気信号を少しだけ弄って…………」

 

 スキルを使って、自身の頭を弄った。反射速度、筋力の柔軟さ、体感速度を主に変更しただけ。

 

「ひゅううう!!!」

 

 

中学 40回 → 88回

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

第五種目:持久走

 

「………結構……………キツイ…」

 

 体力をつける事が今後の課題。2kmも中々キツい。

 

「背中に違和感が…………」

 

「悪いけど乗せてもらってるぜー!」

 

「…………くっつく………な!!」

 

 

中学:10分26秒 → 9分58秒

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

第六種目:長座対前屈

 

「体は以外に……………柔らかい」

 

 安心院さんとの特訓のやり過ぎで、筋肉が可笑しくなってしまった。

 ぐにゃぐにゃではないが、直角にはなると思う。

 

「飯田くん…………固いね」

 

「何故だ……何故曲がらない!」

 

「イメージ的な問題」

 

 

中学 30cm → 65cm

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

第七種目:上体起こし

 

「腹の筋力………結構あります」

 

 鍛えてますから。

 

「デク君凄いね!」

 

「結構………鍛えてるから」

 

 

中学 49回 → 89回

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

第八種目:ボール投げ

 

「脳のリミッター全部解除する」

 

 スキルを有効活用。

 脳のいつも眠っている部分を覚醒させ、筋力を増加させる。

 

「セイ!!」

 

「∞!!? すげえ!! ∞が出たぞーー!!!」

 

「∞って………ボールは?」

 

「…………さあ?」

 

 

中学 72m → 519m

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 良い感じの結果を出して、僕的には満足。記録的に見ると、最下位ではないと思う。

 

 そしてついに、全種目を終了――――

 

「んじゃ、パパっと結果発表」

 

 トータル最下位が除籍か…………麗日さん、飯田くん、耳朗さんは大丈夫そう。

 

「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので、一括開示する」

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

 先生が唐突にとんでもない発言をした。除籍がウソって事は……………

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

 先生は笑いながら、そう言った。

 

「「はーーーーーーー!!!!!???」」

 

 飯田くんと麗日さんが驚きの声を上げる。

 

「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから、目ぇ通しとけ」

 

「疲れた……」

 

 あー、帰ろ………そうだ、耳朗さん誘って帰ろ。友好を深めるのも大切だからね。

 

「ねえ、耳朗さん」

 

「えっ? あ、緑谷………何?」

 

「一緒に帰ろうよ、今日」

 

「………」

 

「あれ? 耳朗さん?」

 

 帰ろうと言っただけなのに反応がない。ただのしかばねのようだ………じゃなくて。

 

「……………ウチと?」

 

「そう」

 

「…………………わかった」

 

 

 なので、今日は耳朗さんと一緒に帰りました。耳朗さんと意外に会話が合って楽しかったです。

 そしたら途中で飯田くんと麗日さんと出会いました。そのまま4人で一緒に帰りました。

 

 終わり。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

1八百万 百

2緑谷出久

3轟 焦凍

4爆豪勝己

5飯田天哉

(めんどくさいから省略)

16瀬枦範太

17上鳴電気

18耳朗響香

19葉隠 透

20峰田 実

 

 

 




    


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安心院さんの特訓 序

書けそうだった。駄文でごめんなさい。

これは別に飛ばしてもいいのかもしれない。あー、でも必要かも―――って感じ。


『色々おめでとー、緑谷君』

 

「………ありがとうございます」

 

 相沢先生による個性把握テスト、それにより肉体より精神的に疲れてしまった。

 まさか嘘だとは思ってもみなかった…。あんまり人を信じすぎるのもよくないのかもしれない、特に相沢先生は駄目かも。

 

 そんな事を思いながらも耳朗さん達と帰宅したが、家に着くと同時に眠気に襲われてしまった。普通は急激に眠くなるなんて有り得ない、つまり安心院さん。そんな予測を立てると共に廊下でバタンキュー。

 

 気付けば目の前には安心院さん。

 

 僕が座っているのは学校机、安心院さんは僕の前………よく見たら中学の時の教室かも。別に懐かしいと思う程の思い出もないからどうでもいいけど。

それよりも―――

 

「久しぶりに出会った気がするのは気のせいですか?」

 

『そうだね。少なくとも読者にとっては久しぶりなのかもしれないね』

 

「そうですか……ツッコミませんよ?」

 

『ふふっ、別にいいよ』

 

 安心院さんは笑って僕の頭を撫でてきた。褒められて悪い気はしないのだが、少し恥ずかしいんですけど。

 

『んー? 照れてるのかい、緑谷君』

 

「はい」

 

『おおぅ……正直だね。そんな正直な子にはご褒美だ』

 

 そうして安心院さんは僕の唇を奪ってしまった。これで三回目になるのだが、未だに慣れない僕はきっとウブなのだろう。そもそもキスの途中でも冷静に思考している僕は僕で異常なのだろうか。

 

 安心院さんに毒されてきてるよね、コレ……。

 

『んむぅ………』

 

「………………ん………」

 

 安心院さんにキスされてるって事はスキル追加?

僕もういらないんですけど…………多くてもあれだし。

 

『……………ぷはぁ…』

 

 安心院さんはとても満足そうな顔をしていた。そんなにスキルをあげたいんですか、嬉しいけど、嬉しいけどなんか………。

 

『スキルは渡してないよ』

 

「えっ………じゃあキスは?」

 

『さっき言っただろ? ご褒美だって』

 

 安心院さんは純粋にご褒美としてキスしてくれたのか……だったら尚更ダメな気がします。年頃の男子にキスなんて刺激が強すぎるんですよ。

 

『ま、いいじゃないか……そんな些細な事は』

 

「些細な事………?」

 

『―――じゃあ、本題に入ろうか』

 

 些細なのかどうかに疑問を覚えたが、安心院さんの言っている事にいちいち考える事も面倒なので、本題とやらに耳を傾ける。

 

『自分自身の強さ、理解できてるかい?』

 

「………………あのクラスだと、二番、一番くらいだと」

 

『正解、だけど駄目』

 

「?」

 

『あのクラスだったら君は一番、けれども圧倒的に経験値が足りないかな』

 

「そりゃあ、今まで安心院さんしか相手してないですし」

 

『そう、だから今から経験値稼ぎだ。経験すればするほど、使えば使うほどスキルは洗練されていく。もしかしたら有り得ない進化を遂げるかもしれないぜ』

 

 そう告げている安心院さんの顔はいつにも増して嬉しさが滲み出ていた。

 なにが嬉しいのかは知らないが。

 

『君には今後来る脅威の為に強くなってもらうよ』

 

「脅威?」

 

『ま、詳しい事は自分で考えてね』

 

「……………わかりました。でも、経験ってどうするんですか? 安心院さんと千本勝負ですか? 一秒で千回負けそうですね」

 

『あっはっは、一秒もいらないよ………ってまだ何も言ってないだろ?』

 

 一秒もいらないのか……ヤベェ。改めて安心院さんのチートっぷりが僕を絶望させる。

僕はそんな人に毎日毎日負ける勝負を挑んでいたのか………僕も僕で結構、頑張ってたんだ。

 

『大丈夫さ。死んでもすぐに生き返るから』

 

「えっ、死ぬの?」

 

 そう言う安心院さんの腕には巨大なハンマーが―――

 

「ちょっと待っ―――」

 

『アドバイス、とにかく勝て』

 

 安心院さんはハンマーを降り下ろしッ―――

 

 

 

 

 

―――それが地獄の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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安心院さんの特訓 破

ヤバいかもしれない。


 

『安心院さんの特訓、はーじめるよー』

 

 気付けば謎の空間、ただ広い。それ以外の感想が出ないほどに広い。そこには僕と安心院さんの二人きり。

 ある意味いつもの光景ではないのか―――景色が違うだけマシか……。

 

『緑谷君、もし特訓を合格すれば願いを一つだけ叶えてあげるよ。あのドラゴ○ボールなんて目じゃないレベルでね』

 

「頑張らせていただきます」

 

 願いを一つ―――これは合格するしかない。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

『一分間、僕の攻撃から逃げてもらうよ』

 

「」

 

『それじゃ―――スタート』

 

 そこで僕の意識は途切れてしまった。いや……見えない時点で耐えるも何もないですよ。

 そんな不満も言えないまま命が消え去った。

 

 その後、すぐに生き返った。

 

『さあ、二回目―――スタート』

 

 周りに電磁波を飛ばして―――

 

『レーダーみたいに使う……それでも反応出来なきゃ意味がないよ、緑谷君』

 

 後ろを振り向く…事も出来ずに、意識は既に三回目へと突入していた。

 まだ二回しか死んでいないが、勝てるビジョン―――というより耐えきれる気がしないんだけど……。かといって逃げる訳にもいかない、こんな理不尽な事があっていいのか。

 

『緑谷君、ガンガン行くぜ?』

 

「………やけくそだ、とことんやってやりますよ」

 

『それでこそ、緑谷君だ』

 

 

 

 

―――この後、滅茶苦茶ぶっ殺(ry

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「…………何回目、ですか」

 

『これで3989回目かな』

 

「………………」

 

 緑谷は安心院さんの答えによって、さらに絶望的な気分になる。ここまで憂鬱な気持ちになるのは久し振りかもしれない。

 個性が無い、そう医者に宣告された時みたいな感覚に陥りそうだ。

 

 それもその筈、これだけ何回も死んでおいて逆におかしくならない方が変なのだ。常人では狂ってしまう程の地獄だが、緑谷にとっては憂鬱で済んでしまう。長いこと安心院さんと絡んでる内に、思考や精神力が常人離れしてしまったようだ。

 

 そんな中身のみ人外に片足を突っ込んでいる緑谷に、とても満足な表情の安心院さん。

 中身はともかく、見た目は美少女―――嬉しそうにするのを見れるのはラッキーだと思う事にする。

 

 

 まあ、だからと言って―――

 

『そんなに絶望的な顔するなよ、一万回程死んでみたら楽しくなれるかもしれないぜ?』

 

「それは…狂ってるだけです」

 

『今からそうなるかもしれないね。まあ、心配する事ないけどね。なんたって僕が居るんだ、狂っても直してあげるよ』

 

 

 

―――この特訓(地獄)から逃げれる訳ではない。

 

 

 

 

「これっていつ終わるんですか?」

 

『君がやれるまで』

 

 

 終わるまでに数年掛かる気がする。その考えが現実でないことを祈るばかりだ。

 

 

・・・

 

 

 

『えい』

 

「―――」

 

 これで何回目だろうか。思考は数えるのを放棄している。憶測ではあるが、きっと5000回は突破しているはずだ。

 体を吹き飛ばされ、首を切り落とされ、心臓だけ輪ゴムで撃ち抜かれ―――ありとあらゆる方法で命を刈り取られてしまった。

 

 安心院さんの攻撃を予測しようとも、パターンを分析しようとも、そんな事さえも無駄となってしまった―――圧倒的で暴力的な強さ。

 

 人外の名を冠するにはあまりにも―――大き過ぎる。

 

 

 

『ほら』

 

「ガッ―――!?」

 

 気付けば僕は吹き飛ばされていた。

 死んでいないのは喜ばしい事なのか、はたまた安心院さんによる慈悲の皮を被った嫌がらせなのか。

 

「…っ…………」

 

 体が重い―――衝撃で脳が揺れているせいか、体が言うことを聞いてくれない。視界は不明瞭。辛うじて見えるのは誰か―――安心院さんの歩く姿。

 足音と共に一歩ずつ近づいてくる……それだけがハッキリと理解できた。

 

『僕はね、こんな事したくてしてる訳じゃないんだよ。わかるかい? 子供を谷底に落とすのと一緒なんだよ、君のような愛しい愛しい子供を谷底に落とすのではなくフルボッコにしているのはね、心が痛んで仕方がないよ』

 

「ご冗談を………」

 

 安心院さんは本心なのか冗談なのかは知らないが、心の籠ってなさそうな長々しい文を冗談と切り捨てる。悪魔の所業とも取れる行為だが、この人にするのは全く心が痛まない。

 日々の行いがキスばっかりだからだ。少しは反省してもらいたいモノだ。

 

 ともかく状態は最悪。

 今だって悪態を吐いてはいるが、立っているのが奇跡ともいえる状態だ。

 

 正直な話、今にでも倒れてしまいたいのだが、安心院さんがそれを許してくれる可能性は著しく低い。

だったら一回死んだ方が楽、そんな訳でもない。やっぱり人間なのだ。痛みからは逃れられない。

 どうやっても痛い時は痛いし、出来ることなら自害なんて経験したくないさ。

 

 緑谷はそう考え―――安心院さんは問い掛ける。

 

『さて、緑谷君。ここからどうする?』

 

 

―――そんなの決まってる。

 

 

「まだ………やります、よ」

 

『さっすが主人公、諦めない心はあるんだね』

 

 足はまだ動く。動こうとする度に肉体が悲鳴を挙げる。

 止めろ、動くな―――脳が危険信号を出した。

スキルで体を動かす。頭を騙して、脳を黙らせる。アドレナリンにより、痛みは消えた。

 腕は多少、動く事に支障があったが―――動けば充分。

 

『まあ、今までと同じなら瞬殺だったけど』

 

 逃げる。避ける。それじゃ駄目なのかもしれない。

 恐怖心はある。足は震える。

 それでも前に、進まなくてはならない。

 

 体は既に満身創痍、こんなのする方がイカれてる。

 けれども心が、人間としての本能が告げる。

 

戦え―――本能の赴くがまま。

 

闘え―――自らの肉体が散ろうとも。

 

 

『へえ………』

 

 覚悟を決める。そして、これで最後だ。

 

「―――安心院さん、僕の願い……聞いてくれますか」

 

『……聞かせてくれるかい?』

 

「これが終わったら、なじみって呼んでも良いですか?」

 

『―――ああ………良いぜ♪』

 

「………じゃあ、行きます」

 

 全身の力を抜く。

 神経を尖らせ、集中、目を閉じる。避けて一発当てる、それでいい。それだけでいい。

 

 神経を張り詰める。

 

 今から使うのは諸刃の剣、安心院さんから聞かされ、使って後悔したモノだ。

 だから僕なりに進化させたモノです。使いこなせるかはわからない。

 それでも、やれるだけやってみます。

 

 

「……………………」

 

『………………』

 

 

 

 そして僕は―――俺はスイッチを入れ換える。

 

 

 

 

 

 

 

    「見せてやるよ―――伝神モード」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




酷いけど、許してとは言わない。緩めに。



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