もう一人の一方通行 (yamada1600 )
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相棒の誕生

(ン?体が痛ェ。)

 

目が覚めて頭を掻こうとしたが手が動かない。そして腕が痛い。久しぶりの感覚だった。

 

(台所!?どォして料理をしている⁉)

 

キャベツを1枚フライパンで焼いていた。そのフライパンを掴んでいるのは当然自分の手なのだが、自分の意思とは無関係に動く。昨日はベッドで寝たはずだ。少なくとも台所で寝たりはしない。

 

(精神系か!?いや操られてンのは体か。)

 

反射とは物体の運動の向きを真逆にする超能力の使い方の1つだ。これがあればダンプカーだろうと隕石だろうと跳ね返すことができる。たとえ精神を操る能力でも反射で阻止されるはずだ。

 

(......反射が機能してねェ!)

 

これはこの少年にとって死活問題だった。

 

(何が起きてる⁉)

 

「さっきからうるせェなァ。」

 

口が開く。

 

(誰だ!?)

 

「まァまァ、落ち着いて今やってる実験を思い出せェ。」

 

 

 

 

 

 

 

一週間前。

 

「二重人格だァ?」

 

「二重人格の形成によって多重能力を得られる可能性があるそうだ。今日からその研究を行う。」

 

白い髪、赤い目。さらに、細い手足。まさにもやしのような少年と白衣を着た研究者と話している。

 

「おい、多重能力は脳への負担がでかすぎるンじゃなかったかァ?」

 

本来1人に1つの能力を無理やり2つ持たせてしまえば、脳がパンクする、というのが研究者たちの常識だったはずだ。

 

「そのための二重人格だ。」

 

「どうして二重人格なら問題ないンだ?」

 

「知らん。ツリーダイアグラムにそういう予想が出たらしい。」

 

少年は呆れてため息を吐く。この研究者は上の指示にしたがっているだけなのだろう。携帯型ゲーム機をポケットから取り出す。あと少しでジンオウガを仕留められそうなのだ。

 

「そして、多重能力者になれば絶対能力者への近道となる、らしい。」

 

この言葉に興味を持ったらしい。少年はゲーム機をポケットにしまった。

 

「......詳しく教えろ。」

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

(俺の二重人格かァ?)

 

「そォだ。おめでとォ。実験成功だ。」

 

(そンで能力は?)

 

「問題はそこだ。ねェ。」

 

(は?)

 

「色々試したが、俺に能力はねェよ。無能力者だなァ。」

 

(ふざけんな!意味ねェじゃねェか!)

 

「落ち着けェ。確率は六割無能力者だろォが。安心しろォ、絶対能力者にはほど遠いが、メリットはある。」

 

(なンだ?)

 

「生活習慣は良くなるぞォ。俺はお前と違って健康志向だからなァ。ちなみに昨日の夜筋トレした。」

 

(だから痛ェのか。迷惑なだけじゃねェか。もういい、消えろ。)

 

「いや、無理。」

 

(あ?)

 

「人格がそう簡単に消えるわけねェだろォが。これから死ぬまでよろしくな相棒。」

 

こうしてもう一人の一方通行は無事誕生した。

 

「あと、人格の交代はできるがァ、主導権を握ってンのは俺だ。」

 

()

 

 

 

 

 

 

 

 

一方通行たちはスーパーへ向かっていた。

 

(飯なんざコンビニだろうがレストランだろうが変わらねェだろ。)

 

(どンだけ堕落してンだ。忙しいときは仕方ねェよそりゃァ。お前暇だろォ?自分で作れ。)

 

(チッ、面倒くせェ。)

 

家を出るときも駄々をこねていた一方通行だが、裸で躍り念仏すンぞ、と脅されると舌打ちしながらも従った。

 

「やめてください!」

 

声のした方を見ると男二人に中学生ぐらいの女の子がナンパされている。

 

「あの、友達が、待ってるんです。」

 

(断り方の王道だな。)

 

「大丈夫。友達ならわかってくれるって!」

 

「それなら友達も、連れて遊ぶ?俺たちは構わねえよ。」

 

このまま放っておくといつまでも粘着し続けるだろう。

 

(相棒、出番ですぜェ。)

 

(何で俺が。)

 

(だと思った。じゃァ、俺のターンだ。)

 

(能力もねェのにか?)

 

(平和的解決って手段があンだろォが。)

 

とりあえず体を交代したものの、能力はない。体力もない。二人が一人でもまともな喧嘩では勝てないだろう。

 

「やァ、ハニー。待ったかい?」

 

知り合いの振りをして柔らかく助ける作戦を敢行する。しかし人格が別でも知識は同じだ。一方通行の塵のような男女知識ではこれが精一杯だった。

 

「え、え!?」

 

(なンか女の子に引かれてる⁉)

 

女の子からすれば、背中を反らして額に手を当てている知らない人に声をかけられたのだ。さぞ、驚いたことだろう。

 

「誰だテメエ?」

 

「佐藤です。」

 

(誰だァ!)

 

「この娘は今から俺らと遊ぶんだよ。」

 

男の一人がそう言うと、佐藤は手をズボンのポケットに突っ込み、笑みを浮かべる。

 

「そうかァ。フハハハハハ。後悔するが良い。変身、正義の味方、一方通行!」

 

(後は頼む。)

 

「平和的解決はどォしたァ......。せめて、自分でやれよ。」

 

(無理。お前が鍛えてねェのが悪ィ。)

 

「俺は、中略、ぐわっ!」

 

一人の男は水流操作系らしく水の球をぶつけるが一方通行はそれを反射する。男はその水の球を顔面にくらい、後ろに倒れる。気を失っている。

 

「何をしやがった!?」

 

「さァて問題です。この俺は何をしたでしょォかァ?虫ケラどもには一生わかンねェかァ。」

 

一方通行が先程のふざけた笑みとは異なる凶悪な笑顔を見せると男はなにかに気がついて震える。

 

「能力をそのまま跳ね返すって、そんな、まさか、第」

 

「風紀委員ですの!」

 

中学生くらいの女の子が二人、いきなり空中に現れる。

 

「おとなしく捕まりなさい!」

 

「捕まりますから助けてください!」

 

「へ?何があったのよ?」

 

男が風紀委員の後ろに隠れる。髪の短い方の女子中学生が不思議そうに一方通行と男を交互に見る。

 

「風紀委員ですの!」

 

一方通行にも手錠をかける。

 

「あ?」

 

どうやら一方通行も気絶している男の仲間だと思われているらしい。

 

「あの、違うんです白井さん。その人はたぶんわたしを助けようとしてくれたんだと思います。ですよね?」

 

(安心しろ相棒。ちゃンと証言してくれるみてェだぞ。)

 

(かなりギリギリみてェだがな。)

 

一方通行は面倒くさそうにしながらも、誤解を解こうとする。

 

「まァそうだ。」

 

「そうでしたの。申し訳ありません。」

 

「構わねェよ。」

 

一方通行はすぐに立ち去ろうとするが、白井が呼び止める。

 

「正当防衛かもしれませんが、この男性は気絶していますし、あなたには一度風紀委員の支部に来ていただきますの。」

 

(手加減しろよォ......。)

 

(テメェが原因だろォが!)

 

白井はアンチスキルに電話を掛けている。事件の報告をしているようだ。

 

(ナンパで補導されるのは不名誉だなァ。馬鹿なやつらだが少しかわいそうになってきた。っていうか、この娘たちかわいいなァ。)

 

(こいつらより馬鹿なやつがなに言ってやがる。)

 

(お互いが考えていることは全部筒抜けだからなァ?)

 

「この方たちをアンチスキルに引き渡しますので、あら?」

 

「どうしたの黒子?」

 

「あの男性が、逃げましたの!」

 

一方通行は隙をついて逃げ出した!




一方通行をもっと凶悪にしたいけど、上手くできない。


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実験の内容を変えてしまえ

(ごめんなァ。まさか足がこんなに遅いなンて。)

 

(さりげなくバカにしてやがンな?)

 

一方通行が能力を使って逃げたので、すぐに風紀委員から逃げられた。と、思っているのか。なんとあの風紀委員の一人が空間移動の能力者だったのだ。人格を交代した直後に捕まってしまった。そして、ここは風紀委員の支部だ。

 

「逃げないでおとなしくしていただければ手荒な真似もしませんでしたのに。」

 

ツインテールの白井があきれた顔で首を振る。風紀委員としても余計な仕事を増やされたわけで、書類に何か記入している。

 

「いやァ、すンませン。ちょっと怖くなっちゃってェ。」

 

(おい、その軽い口を閉じろ。)

 

(なンで?)

 

(チッ。わかってンだろ。俺がその口調で話してンのが気に食わねェ。)

 

(お前のキャラなんてこいつらには関係ねェだろ。お前に必要なのは社交性だぞ。まず表情だ目を開いて少し微笑ンどく。)

 

「では、この書類に住所、電話番号、名前、学生なら学校の名前も書いてください。」

 

花飾りを頭に着けた中学生女子、初春が書類を持ってきた。ここの支部にはもう一人女の先輩がいるらしい。

 

「さっきはありがとうございました。」

 

助けた長い髪の女子中学生、佐天だ。

 

「いえいえ、大したことはしてませンよ。」

 

(戦ったのは俺だしな。)

 

(嫉妬かァ?)

 

一方通行は黙った。

 

「それで、どうやってあれだけの距離を移動したのよ。足も遅いのに。」

 

御坂はずっとその事を考えていたらしい。探偵のようだが、風紀委員ではなくここの風紀委員と被害者の友人らしい。

 

(ひでェよこの娘。)

 

(......。)

 

「タクシーを待たせていたのでそれに乗っただけですよ?」

 

「あ、そういうこと。」

 

納得してくれたみたいだ。タクシー会社に連絡して調べられれば、ばれる嘘だがそこまではしないだろう。

 

「佐藤さん、書類は全て終わりました。後日警備員から呼び出されたときはそれに従ってください。」

 

もう一人の一方通行は今後佐藤で通すつもりのようだ。

 

(名前と住所はばれなかったみてェだな。)

 

(ああ、名前は佐藤太郎、住所は実際にある学生寮にしといたし、高校もその寮で矛盾はねェからなァ。すぐにはばれまいよ。)

 

「じゃァ、帰りますンで。」

 

「はい、気を付けてお帰りくださいですの。それでは初春、そこに書かれた学校に連絡を。」

 

学校は嘘を書いてあるので電話を一本されればばれる。

 

「はい。わかりました。」

 

(げェっ!)

 

(慌てンな!落ち着いてここを出たらすぐに代われ。飛んで逃げる。)

 

(あと、鬘買おう。)

 

このあと風紀委員たちは騙されたと気がつき白井が探し回るが黒髪に変装した一方通行を見つけられなかった。

 

食材を買ったあと、一方通行は部屋の片付けや運動をさせられへとへとになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、研究所。

 

 

「第二人格はまだかね。」

 

「第二人格?」

 

「新しくできる予定の人格だ。名称がないと不便でな。」

 

まさか、第三、四人格も作る気があるのだろうか。

 

「まだだ。もう面倒だ。平行してやっても実験に問題はねェだろ。もう移れ。」

 

無能力者の人格ができても意味がない。消されかねないと思った第二人格は一方通行を前回同様に脅し、研究者には秘密にしておくことにした。一方通行もこれ以上鬱陶しい奴が増えるのは嫌なので交渉はすぐに終わった。

 

「そうか、では、次だがこれは重要な実験でな。こちらの天井博士が担当する。」

 

「天井亜雄だ。早速実験の説明に移るが、この資料をみてくれ。」

 

そこに書かれていたことを要約するとこうだ。

 

128回超能力者第三位を殺せば絶対能力者になれるが、実際にはそんなことはできない。丁度第三位の軍用クローンの失敗作があるからそれで代用する。しかし、クローンはオリジナルの足元にも及ばない。そのため、戦闘の回数も増やさねばならず20000回クローンを殺す。

 

つまり20000回第三位のクローンを殺してレベルアップしようという実験だ。

 

「これで、本当に絶対能力者になれンのか?」

 

「そうだ。樹形図の設計者の出したシミュレーション結果だから間違いない。」

 

天井は自信に満ちた表情だ。よほど樹形図の設計者をしんらいしているようだ。

 

(やンのか、これ?)

 

(当たり前だ。絶対能力者になンのが俺の目的だ。)

 

(本当に?)

 

(しつけェな。)

 

(.....質問あるから代われ。)

 

一方通行はこの実験に参加する気満々だが、第二人格は気が乗らない。中学生を20000回殺せなんて言われてむしろ引いている。

 

「あのォ、質問があるンですがね。俺の反射を突破できない限り、超能力者も無能力者も俺には同じ雑魚なわけですよ。その、クローン、妹逹でしたか。つまり、俺の敵としてはオリジナルと妹逹にそこまで差がないわけです。128回と20000回の差について聞きたいンですけど。」

 

「樹形図の設計者の予測に誤りはない。なにも気にせずに我々の言う通りにしてくれ。」

 

この前の研究者と同じで詳しいことは説明されていないようだ。

 

(ダメだこいつ。)

 

(樹形図の設計者が出した予測ならほぼ間違いねェ。とりあえず試せばいいだろ。)

 

(そンなに絶対能力者になりてェのかよ....。)

 

しかし、主導権はあくまで佐藤にある。

 

「あの、天井さン。この実験は絶対欠陥ありますよ。」

 

「どこだ。」

 

「さっき言ったところですよ。この方法じゃァ無理ですねェ。」

 

「しかし、樹」

 

ここの人たちは樹形図の設計者が大好きみたいだ。

 

(樹形図の設計者が間違ってるって言っても聞かねェなこいつ。)

 

実験のおかしな点や矛盾点を指摘しても無駄だ。論点を変えてしまうことにした。

 

「いえ、天井さン。樹形図の設計者に入力したデータがそもそも間違っていれば、樹形図の設計者も間違った予測をしちまう。おそらくあなたは上の誰かの責任を押し付けられそうになっているのです。」

 

「なに!?言われてみるとこの実験は妙な点が。それに、これほど重要な実験をなぜ私に」

 

(おっ、食いついた。)

 

(なンのつもりだァ?)

 

(お前のために実験を効率よくしてやろうとしてンだよ。)

 

嘘だ。実験そのものを消してしまうとクローン逹が殺される可能性がある。最悪でも、妹逹に大怪我をさせない程度の実験に変更させることで保護するつもりだ。

 

「あなたが責任を取らされないようにする方法は1つ。実験を成功させることでェす。これは今のプランのままでは不可能。少し改良しましょう。」

 

「し、しかし、下手なことをすればそれこそ上にわたしは。」

 

天井はあと一押しではあるが、命令に従わずに咎められることの方も恐れている。この実験は明らかに暗部だ。公開されることはないだろう。そういう実験では下手をすると殺される。

 

「あなたが今まで積み上げてきたものを思い出すのです。」

 

「積み上げてきたもの?」

 

「勉強で忙しかった学生時代、研究者になったあなたはそのころの夢を叶えたのかァ?」

 

「いや、一度失敗して借金を背負った。そのあとは上の連中の言いなりになるだけだ。」

 

天井は虚ろな目で天井を見上げながら昔話を続ける。

 

(おい、なんかヤベェぞ。)

 

(こんなのマインドコントロールってほどの技術じゃねェンだけどなァ。)

 

まだ足りない。そこで第二人格は天井に顔を近づける。

 

「なにもしなけりゃ死ぬのに動かないのかァ?少なくとも研究者としては一生日陰でしか暮らせねェぞ!?ここで一発上の連中を驚かせてやろうぜ!誰かに命令される。権限はないのに責任だけ押しつけられて手柄は奪われる。そんな平所員C人生で満足か!?いつか大発見をしたかったんじゃねェのかよ!札束に飛び込みたかったンじゃねェのかよ!女に囲まれたいンじゃねェのかよ!これじゃァ一生無理だろォ!いいぜェ、てつだってやるよ!オマエが生き方を変えるってンなら、ここから先は栄光まで一方通行だァァァァ!」

 

(オマエ、良いこと言ってねェからな。)

 

「!そうだった....。わたしには家族はない。失うものはない。しかし、野望はある!一方通行、わたしに任せろ。絶対に成功して見せる!おーい、芳川。」

 

天井は部屋を出て行った。研究仲間のもとへこの決意を告げに行くのだろう。まともな研究者なら反対するだろうが、二人の一方通行はなんとなく了承しそうな気がしていた。

 

「一件落着だぜェ。」

 

第二人格は椅子に座ってコーヒーを飲む。

 

(あいつは一生平社員Cだなァ......。)

 

(そういうことは言っちゃいけませン。)

 

(.....オマエ、さりげなく俺の実験壊しやがったな。何が目的だ?)

 

(普通気づくよなァ。今、言っても聞かねェだろォよ.....。大丈夫だ。後悔はさせねェ。)

 

 



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一方通行の惨敗

ここはごみの埋め立て地。一方通行はゴミの山の影に息を潜めている。

 

(なァ、俺は絶対能力者を目指

 

ついに、先日の実験の改良?されたものが開始された。

 

「ミサカ1から5号はこちらを探索します。ミサカ6から10号はあちらを探索してください、とミサカは指示します。」

 

10人とも女の子なのだが、これから宇宙旅行ですか?、と聞きたくなるような装備をしているためけっこう恐い。狙われている一方通行は尚更だ。通常ならばこれが数億人だろうと負けるはずのない一方通行だが、今日はそんな余裕はない。

 

「能力なしで、どうしろってンだ......。」

 

天井が改良した実験では結局のところ妹達を殺すことには変わりなかった。しかし、第二人格がそれに反対しなかったのは到底妹達を殺すのが不可能だったからだ。なぜならこの実験中、一方通行は能力の使用は禁止。銃のような武器も防具もない。

 

(女子中学生を殺すのはちょっと、と思った俺だが大ケガとか死ぬのは嫌だぞ!どうすンの!?)

 

味わうことがほとんどなかった恐怖で刺激する。そして、それを乗り越える瞬間をトリガーにして自分だけの現実のレベルを上げるそうだ。妹達は一方通行を殺すことは天井に止められている。それでも骨くらいは折るかも知れない。

 

(黙ってろ!くそっ、軍用クローン相手に近接なンざしかけられねェ。)

 

そして、一方通行はそれを承知の上で実験に協力している。

 

(亀のじいさんだって体力トレーニングさせてたよなァ。能力なしじゃァ無理なンじゃねェの?)

 

妹達は異常な筋力とはいかないが一方通行よりは体力的に勝っている。学習装置により軍隊格闘の知識を持っていたり、ミサカネットワークにより連携が完璧に近かったりとかなり厄介だ。

 

(能力がなけりゃァ、俺はこンなもンかよ......。)

 

ゴミの影に隠れながら一方通行は自分の無力を噛み締めていた。その間にも妹達は近づいてくる。そんなとき、一方通行の脳裏には一つの不安が生じてしまった。このまま実験を続けていれば本当にいつか妹達に勝てるのか。

 

「ふざけンな!」

 

一方通行はゴミの影から飛び出し、近づいてくる五つの影に向かって走った。それがプライドを守るためだったのか、実験を成功させるためなのかはわからない。一方通行は叫びながら妹達の一人を殴ろうとするが簡単に避けられてしまった。それと同時に他に膝を蹴られ体勢を崩して倒されてしまう。

 

どちらにせよ、一方通行は妹達に手も足も出ず、気を失い、病院へ運ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天井はミサカ11号と実験の様子を見ている。

 

 

「想像以上に弱いですね、とミサカは実験の行く末を心配します。」

 

「いや、むしろその体力的弱さが今回の鍵だ。今までやってこなかったことをしなければ絶対能力者にはなれない、と思う。あくまで予想だが。しかし、時間はかかりそうだな。」

 

(それにしても、なぜ実験の変更が簡単に認められたのだろう。)

 

変更を上に申請したところすぐに通った。これだけ重要なはずの実験でそれは妙だ。

 

「なぜ、頭を撫でるのですか?とミサカは率直に疑問をぶつけてみます。」

 

「女は頭を撫でられると喜ぶのではないのか?」

 

「ミサカにはわかりません。芳川博士に試せばよいのでは?とミサカは提案します。」

 

「それは、は、恥ずかしい。」

 

天井は天井でどうにかモテようとマニュアル本を片手に妹達で練習していた。モテる男になるには時間がかかりそうだ。

 



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4話

目の前に自分とまったく同じ顔の人間が現れる。初めて見たときは誰しも驚くだろう。人によっては恐怖を感じるかもしれない。

 

御坂美琴は自分が見ている光景を信じられなかった。超能力者のクローンが作られているという噂。それが第三位である自分のクローンだという都市伝説も耳にしている。しかしくだらない話だと、信じてはいなかった。信じたくはなかった。

 

「固まってしまいましたが、どうしたのでしょう。とミサカは首をかしげます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸い骨は折れていなかった。第二人格は缶コーヒーを飲みながらプロテインも飲む。

 

「おえっ。なンだこれ。」

 

(オマエは健康的なンだろ。痛みは俺が受けたンだからそのくらい耐えやがれ。)

 

感覚器官は片方の人格にしか働いていない。よって一方通行はプロテインを味あわずに済む。

 

しかし、知識は共有されるため味は分かる。美味だと騙して飲ませることができない。

 

(ちくしょォ。そンで、あの妹達から生き延びる方法は見つかったのかァ?)

 

(体を鍛えンのは当然だが、そンだけじゃ足りねェ。......なァ、オマエはあの防護服を素手でどォにかできると思うか?)

 

拳で瓦を割る人間が世の中にはいる。しかし、あの防護服は剣道の胴よりは頑丈になっている。

 

(あの服のファスナーを開けるしかねェよな。)

 

(1人のを脱がせる間に他のやつにボコられンな。)

 

(そこが問題だ。奪って着て戦うのが現実的だが、それって武器や防具の使用だよなァ。)

 

能力とおなじく武器も使えない。せいぜい石を投げたり、木の枝で突くくらいだそうだ。

 

二人は沈黙し、思考し始める。次の実験は一週間後。それまでに何か策を考えなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、試してみようと思った二人はミサカ1号に練習を手伝ってもらうことにした。場所は昨日の埋め立て地だ。

 

「では、練習を始めます。と、ミサカは教官の気分を味わい、優越感に浸ります。」

 

「チッ、さっさと始めンぞ!オマエのファスナーを開けたら終わりだ。」

 

防護服は重く、関節の動きも制限される。そのぶん動きが読みやすくなり、1人だけが相手ならば一方通行でもなんとか攻撃を避けられる。避けるというより走って逃げているのだが。問題はバチバチという音だ。

 

(なンだあれ、恐っ!)

 

(能力か、服の機能なのかは知らねェが、昨日はあれでやられた。)

 

「はい。ビクッとなって動かなくなりました。と、ミサカは昨日の一方通行の醜態を思い出します。ふふふ。」

 

「チッ。」

 

一方通行は舌打ちして睨み付けるが、近づくことはできない。

 

「あっ。」

 

ずぼっ

 

 

ミサカ1号は転倒し、粗大ゴミの隙間に上半身を突っ込んでしまった。

 

「ぬ、抜けません。と、ミサカは内心慌てます。」

 

「俺はこンなやつに負けたのか......。」

 

(チャンスだろ!行け!脱がしてしまえェ!)

 

「うるせェな。」

 

一方通行はミサカ1号の防護服を脱がせ始める。

 

「は?」

 

(は?)

 

 

 

 

 

 

ミサカ1号の生足が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「おい!オマエ服はどォした!」

 

「この防護服は温度調整の機能があるので裸でも大丈夫なのです。と、ミサカは説明します。」

 

「裸なのか!?」

 

(おい、なに勝手に入れ代わってやがる!)

 

第二人格ががっつく。

 

「いえ、下着は着ています。と、ミサカは防護服を脱いで見せます。」

 

「おおー。」

 

(前にも言ったが、オマエもう喋ンな!)

 

 

すると、ミサカ1号はポーズをとり始める。

 

「そンなのいつ覚えたンだァ?」

 

「天井博士の持っていた本を学習装置で学びました。と、ミサカは表紙のポーズをします。」

 

「イイねェ、イイねェ最っ高だねェ!」

 

(天井ィィィィィィ!)

 

「アンタ、何してんのよ!」

 

オリジナルの御坂美琴がクローンと共にやってきた。

 

「あ、お姉さま。と、ミサカは悩殺セクシーポーズで止めをさします。」

 

「ぐはっ!」

 

第二人格はその場で倒れた。その表情はとても安らかだ。

 

「そのまま、永眠してろォ。」

 

満ち足りた第二人格が一方通行と交代する。

 

「チッ。おい、オマエ。これはどォいうことだ?」

 

「お姉さまが一方通行に会いたいと言ったので連れてきてあげました。と、ミサカは報告します。ちなみにミサカはミサカ11号です」

 

御坂はそう言ってポケットからコインを取り出す。

 

「離れなさい!」

 

人差し指と親指でコインを挟み、一方通行に狙いを定める。

 

「わたしの妹から離れろって言ってるのよ!」

 

 



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誤解?

御坂はようやく落ち着いてミサカ11号に話しかけた。

 

「あの、常盤台中学の生徒ですか?」

 

目の前にいる人は確かに顔が似ている。しかし、顔が似ているだけの人だけならば生きているうちに数人くらいは会うかもしれない。顔ばかり見ていたが服を見ると着ているのは常盤台中学の制服だ。

 

(わたしのコスプレかもしれない。)

 

御坂は混乱している。いや、それはねーよ。と、言いたくなるかもしれないが、超能力者のなかではかなりまともなコミュニケーションが可能な彼女は広報活動にも起用されている。ファンだっているかもしれない。

 

「いえ、違いますよ。と、ミサカはあっさり否定します。」

 

「え?なら、その制服は?」

 

「これは支給されたものです。と、ミサカは説明します。」

 

謎は深まる。常盤台中学の制服は常盤台中学でしか使われていない。それを支給された?

 

「っていうか御坂?」

 

「はい、ミサカ11号です。と、ミサカは自己紹介します。」

 

「......。」

 

(顔も名字も一緒!?もしくはわたしのファン11号?いやいや、後輩、先輩問わず様をつけて呼ばれるけどファンクラブなんてないわ。)

 

少しずつ落ち着いてきた。

 

(それにクローンは禁止されているし、やっぱりそっくりさんよね。制服はどこかで間違えたとかで。)

 

「ごめんね。顔が似てたから驚いちゃって。」

 

顔が似てるだけと納得して、この場を去ろうとした御坂をミサカ11号が呼び止める。

 

「顔が似ているのはお姉さまの体細胞クローンだからですよ。と、ミサカは困っているお姉さまを助けます。」

 

「クローン!?どういうこと?」

 

ミサカ11号は実験の内容を部外者に教えてはならないところを伏せて説明した。

 

「クローンが必要になったから作られました。と、ミサカは簡単に説明します。」

 

「何もわからないわよ。本当にクローンなの?」

 

「はい。と、ミサカは肯定します。」

 

御坂は過去に筋肉が固まってしまう病気の治療のために自分のDNAが役立つと言われ、研究者に渡している。

 

(あのときの研究者がわたしを騙していた?学校の健康調査の時かもしれないわね。)

 

「なら、警備員か風紀委員に行くわよ。」

 

「それはできません。もう研究所に戻る時間です。と、ミサカは明確に拒否します。」

 

「なら、わたしもそこに連れて行って!」

 

「それは.....では、とりあえず一方通行に会いましょう。」

 

「なにそれ?」

 

「超能力者の第一位ですよ。と、ミサカはお姉さまに教えます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしの妹から離れろって

言ってるのよ!」

 

「妹だァ?こいつらはまともな感情もねェ、ただの人形だろォが。」

 

「人形!?妹達はアンタのおもちゃじゃないわ!」

 

御坂は怒りでつき出している腕が震えている。

 

「なら、どォすンだァ?オマエが代わりになンのかァ。」

 

一方通行が挑発する。御坂から槍のような電撃が放たれる。

 

そして、一方通行に反射された。

 

一方通行の能力ベクトル変換は科学の法則に従って運動する物質の向きをを大小関係なく操ることができる。超能力者の電撃も例外ではない。

 

「な!」

 

電撃ならば御坂には効かない。しかし御坂の代名詞である超電磁砲を撃っていたら死んでいたかもしれない。

 

(おい、大ケガさせンなよ?)

 

「わかった、かァ?俺からすればオマエが無能力者でも超能力者でも変わらねェ。今日は殺さないでやる。だが、この実験のことをばらしたらオマエと知っちまったやつも殺す。とっとと失せろォ。」

 

 

 

 



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上条が来た

「ここまで来て放っておけるわけないてしょ!電撃が通じなくてもわたしには他の手段もあるわ!」  

 

自分の電撃が通用しないという経験はほとんどないがそれでも一度も無かったわけではない。少し前にツンツン頭の高校生にも電撃を消されている。

 

(第一位の能力はベクトルを操るもののはず。そんな化け物じみたやつに勝たなくてもいい。この場にいる二人の妹達を逃がせれば。)

 

すぐに気持ちを切り替える。そのためには一方通行を自分に引き付けるの必要があると思った御坂は一方通行に話しかける。

 

「他にも妹達はいるの?」

 

「ああ?なンにも知らねェらしィなァ。確か20000人だってよォ。こンな欠陥品をよくそンなに作ったンだから研究者ってのはよほどのバカらしいなァ。」

 

一方通行は御坂の方へ近づく。それに合わせて御坂は後ろへ下がる。

 

「おい、他の手段ってのはどうした。まさか、このまま警備員を見つけるまで逃げ続けるつもりかァ?」

 

一方通行は御坂を馬鹿にするように笑う。本気で戦えば数秒で終わる戦いだろうが、一方通行からすれば実験の間のミニゲームのようなものだ。すぐに終わらせるつもりはない。

 

一方通行が足下にある金属のパイプや土管を蹴り飛ばす。当然蹴り自体の威力は大したことはない。しかし、重力の向きを変えることでそれらは軽く数メートルほどまで飛び、御坂の頭上に迫る。

 

御坂はそれを磁場を操ることで砂鉄を操り、高速で振動させて切断したり反らしたりすることで身を守る。

 

「はぁ、はぁ。」

 

(明らかに遊ばれてる。本気になられたら、数秒で、殺される......。)

 

超能力者の御坂と言えども、無限に発電できるわけではない。恐怖と緊張のせいで疲労がたまりやすくなっている。

 

(殺すなって言ってンだろォが!)

 

(何もしなくても当たらなかった。)

 

(下手に動いてたらどォすンだ!?とっとと逃げりゃイイだろォ!)  

 

(チッ。)

 

「帰ンぞ!」

 

「わかりました。と、ミサカは後に続きます。」

 

下着の1号と11号が一方通行の後ろを付いていく。

 

「早く着ろ。」

 

「待って!どうしてそんなに簡単に一方通行の言うことを聞くの?」

 

ミサカ1号は立ち止まり御坂はの方を振り向く。一方通行は1号を待たずに、そのまま闇の中に消えていく。

 

「ミサカが作られた目的は別ですが、今のミサカは一方通行のために存在しているからです。と、ミサカは説明します。」

 

死の恐怖から解放された安心感で戦意を失ってしまった御坂美琴だが、ミサカ1号が助けを求めればもう一度立ち上がることができたかもしれない。しかし、ミサカ1号は助けを求めるどころか、御坂が戦う理由を否定した。

 

「そんな......。」

 

心が折られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「御坂妹から離れろッ!」

 

その時、どこかから叫び声が聞こえる。一方通行も御坂も声がしたほうを向く。

 

「聞こえねえのかっ!御坂妹から離れろって言ってんだ三下がぁっ!」

 

少年が走りながら一方通行を目掛けて拳を握る。対する一方通行はなにもしない。どれだけ殴られようが自分は反射で無傷。いつも相手が自分の拳を痛めるだけだ。

 

しかし、今日は違った。体が後ろに倒れる。殴られた頬が痛い。

 

「は?」

 

(あ?どォした?反射を切ってたのか?)

 

反射は常に使用している。今も使えている感覚がある。目の前のツンツン頭の少年に殴られた一瞬だけ反射を使えなかった。

 

(反射を、いや、俺の能力そのものを打ち消しやがった!)

 

(は?)

 

「アンタ、どうして.....?」

 

街灯に照らされた上条当麻の顔を見て安心した御坂は泣きそうになる。

 

「御坂!えっ四ツ子!?大丈夫か!?」

 

上条は御坂に駆け寄る。

 

「一方通行に会いたいというので連れてきました。と、ミサカは説明します。」

 

「チッ、おいおい頼むぜェ。一般人なンざ実験場に連れ込んでンじゃねェよ。」

 

(オマエ、人気者だなァ。)

 

「詳しいことはわからねえよ。だけどな、超能力者だからって好き勝手やって言い訳ねえだろ!お前は御坂妹達の気持ちを少しでも考えたのか!?御坂と御坂妹になにをしやがった!」

 

「無理よ。逃げて。あいつはベクトルを操れるの。いくらその右手が有っても死んじゃうわ!」

 

「お前たちを置いていけるわけないだろ!俺はお前もあいつらも助ける!」

 

一方通行は能力で上条と距離とる。

 

「ヒーローでも気取ってンのかァ?最高にムカつくぜェ。さっきも同じようなことを言ってやがったヤツがいたが、こいつらはなァ、実験のために作られた、ただの人形だ。」

 

重力や摩擦のベクトルを操り、上条当麻との距離を一気に詰める。

 

「がはっ!」

 

上条当麻に触れさえすれば血液の流れを逆流させてしまうはずの一方通行の手がはじかれ、逆にもう一度殴られる。

 

「イイねェ。なかなか楽しめるじゃねェかァ。」

 

(最近肉体の弱さを実感して、さらに能力まで通用しねェってンじゃ、こいつは明日からなにを支えに生きるってンだ!)

 

(黙ってろ!)

 

「なにが楽しむだ!御坂妹達にもそうやって自分の楽しみのために無理矢理襲ったのか!?この三下が!」

 

実験ではさんざん攻撃をされた。楽しんではいない。むしろ精神的にも身体的にもきつかった。

 

「は?」

 

(は?)

 

どこかでずれている?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分前。

 

「なにやってんだビリビリ?」

 

風で少女のスカートが少しめくれる。

 

「じゃなくて、妹のほうか。」

 

上条は御坂と妹達と前に話したことがある。見分けかたは短パンかパンツかだ。ミサカ12号は街路樹を見上げている。視線の先の枝には子猫がいた。

 

「上ったまま降りられないようです。と、ミサカは暗に助けることを要求します。」

 

「わかったよ。」

 

上条はその木を登る。子猫も簡単に捕まえられた。

 

「よし、うおっ!」

 

足をかけていた枝が折れてしまった。一メートルくらいの高さとはいえ、背中から落ちると結構痛い。

 

「痛っ!不幸だ......。子猫は無事だな。」

 

「もう少し丁寧に降りたほうがよいのでは?、とミサカは提案します。」

 

「降りたというか落ちたんだ!」

 

上条は背中をさすりながら立ち上がる。

 

「へっくし!鼻のむずむずまで感覚共有するのはやめてほしいです。と、ミサカは文句を言います。」

 

「感覚共有?」

 

「はい。詳しくは言えませんが、妹達の一人が裸になっているので寒いのでしょう。とミサカは説明します。」

 

8月とはいえ夜に汗をかくと寒いときは寒い。

 

「妹達?他にも姉妹がいるのか?」

 

「はい、たくさんいますよ。ちなみに今一方通行に脱がされているのはミサカ1号です。」

 

「脱がされて!?妹だから中学生より下だろ!最近の子は進んでるのか!?いや、同意の上ならなにも言わないけど!」

 

「?何を言っているのかわかりませんが、同意の上ではなく一方通行が抵抗するミサカ1号を無理矢理引っ張り出していますよ。と、ミサカはこれくらいは良いだろうと説明します。」

 

「いや、ダメだろ!場所はどこだ!?」

 

なぜか慌てている上条を見て、よほど重要な用事でもあるのかと思ったミサカ12号は

 

「よくわかりませんが、わかりました。ついてきてください。と、ミサカは先導します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうことがあったようです。と、ミサカは説明します。」

 

11号が感覚共有で知った12号の行動を説明する。

 

(なンか勘違いされてンな。)

 

「チッ、面倒くせェ。」

 

(説明して帰ってもらおう。代われ。)

 

「あのですねェ。上条さんあなたは誤解しています。俺がミサカ1号の服を脱がせたのは、えェと、ゴミの中に上半身が埋まったので、そこから抜くためなンです。なァ1号。」

 

「そうでしたか?あなたはミサカの悩殺ポーズに興奮していたと記憶していますが。と、ミサカは疑問を持ちます。」

 

「なに!」

 

「それは自主的にやったじゃン!」

 

「それはそうですね。と、ミサカは肯定します。」

 

「あれ、もしかして俺ってお邪魔だったりするのでせうか?」

 

第二人格が自分の軽率な行いを後悔していると御坂も近づいてくる。

 

「ね、ねえ、わたしもアンタが妹を襲ってるように見えたから攻撃したんだけど。それに殺すとか人形とか言ってなかった?」

 

(もう、オマエ喋ンな!挑発禁止な!)

 

(面倒くせェなら代われ。ぶちのめしたほうが早い。)

 

(嘘つけ。さっき殴られてたじゃねェか。代わると俺も痛ェから嫌だ。)

 

暗くてよくは見えないが触ると頬が腫れている。

 

「いえ、殴られて目が覚めました。本当にすンませン。これからは心を入れ換えて人をからかうのはやめます。」

 

「そんなの信用できるわけ!」

 

「お姉さま。別にミサカは気にしていませんし、下着を見られても構いません。と、ミサカは説明します。」

 

これを聞いて上条は御坂の肩を叩いて一方通行たちから少し離れる。

 

(もしかしてそういうプレイなんじゃねーのか?)

 

(へ?)

 

(言葉責めって言うのか。それと外で、みたいな?)

 

(はぁあああああ!?そんなわけないでしょ!)

 

御坂は顔を真っ赤にして、あたふたする。

 

(でもまったく御坂妹も嫌がってないぞ。)

 

(もしかして本当に、その、つ、付き合ってる、とか?)

 

(だろうな。姉妹のそういう成長は見たくないのかもしれないけど、いずれは通る道なんだろうな。)

 

上条と御坂が戻ってきた。

 

「殴ってごめんなさい!」

 

見事な土下座だ。

 

「わたしもまさか妹の彼氏だとは思わなくて。」

 

「へ?あ、いえいえ、俺も口が悪くてすンませン。ちょっと気がたかぶってて。」

 

(うまく誤魔化せたぞ!)

 

(俺がクローンを殺すつもりだってのは知らねェらしいな。)

 

(どォせ、一生殺せねェしな。)

 

(あンッ!?)

 

一件落着となった。

 

「それにしても四ツ子って珍しいな。」

 

「いえ、ミサカたちは御坂美琴お姉さまのクローンですよ。と、ミサカは訂正します。」

 

ならなかった。

 

(げェっ!)

 

(......。)



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哀れなり、一方通行

「クローン?いやいや、さっきからビリビリが妹って、」

 

「それがどうも本当らしいのよね......。わたしは一人っ子だし。」

 

「え!?だってクローンって法律的にも禁止されてるはずなんじゃ......。もしかして、俺はとんでもない事件に首を突っ込んだのか!」

 

人間のクローンを作ることには倫理的に問題視されている。そのため日本を含む複数の国で人間のクローンを作ることは禁止されている。ちなみにすべての国ではない。

 

(チッ、もう誤魔化せねェ。口止めしとけ。)

 

(仕方ねェなァ。任せろ。)

 

「こいつらのことは秘密にしとけ。」

 

「どうしてよ!」

 

妹達の生活は誰かに依存しているはずだということは容易に想像できる。しかし、法律で禁止されているクローンを作った組織が妹達のことを大切に扱っているとは、御坂には思えない。

 

「全部で二万人いるンだ。」

 

これには御坂も上条も目が点になった。そして、御坂は気がついた。

 

「まさか、一部の科学者の独断じゃなくて、学園都市そのものが作ったの!?」

 

「!」

 

「当初は軍用、つまりは兵士として超能力者を使おうとし作ったらしい。だけど、まァ。」

 

「ほとんどが異能力者、良くて強能力者程度でお姉さまには到底及ばない欠陥品だったために計画は失敗に終わりました。と、ミサかは説明します。」

 

「欠陥品なんかじゃねえ!確かに能力は超能力者の御坂に劣ってるのかもしれない。お前を作った連中は求めた成果が得られなかったのかもしれない。だけどそれがお前が欠陥品だって根拠にはならない!そんなの一つの面からの評価じゃねえか!少なくとも俺や御坂はそんなこと思ってない。あんたはどうなんだ?」

 

上条は第二人格の方を見る。

 

(オマエはどう思う?絶対能力者になるための実験に協力してもらっている一方通行サン。)

 

(......。ハッ、格下がさらに劣化した人形にしては役に立ってンだろ。)

 

(つまり?)

 

(チッ、)

 

「三下だが欠陥品ではねェよ。」

 

(オマエ!)

 

(フハハハハハ!)

 

一方通行が言葉を発する瞬間に人格を交代した。

 

「妹達は欠陥品ではないのですか?と、ミサかは質問します。」

 

「ええ、わたしの大切な妹よ。」

 

御坂は少し照れながら微笑む。

 

「本題に戻ンぞ。学園都市を正規の手段で訴えようとすればその前にオマエらは消される。妹達もなァ。だから今日のことは忘れろ。」

 

「そんな....。」

 

「俺達にできることはないのか?」

 

「黙ってることだけだ。」

 

上条の申し出を一方通行は即座に断る。

 

「たまに会いに来るのは?」

 

「ハッ、オマエとこいつらの命を懸けてかァ?」

 

「.....そうね。やめておくわ。ところで、アンタはどうして妹達のことを知っているの?」

 

「俺もそれが気になってたんだけど。」

 

一番聞かれたくない質問だった。

 

「俺の実」

 

(へい、交代!)

 

一方通行が絶対能力者実験のことを説明しようとするのを第二人格が慌てて阻止する。

 

「「じ?」」

 

「痔を治す研究をしてたンだけどォ、あれだ、そこで偶然会った。」

 

(ふざけンな!)

 

上条と御坂は気の抜けた顔になる。極めて最悪な嘘だが、第二人格は続ける。

 

(こっから先は一方通行だァ!Uターン禁止ってなァ。もう突き進むしかねェ。)

 

「ああ、俺が第一位だってのは知ってンだろ?第一位ともなると健康管理は一流の学者がしてくれンだぜェ。俺の痔を治してこそ一人前ってのがあるしな。」

 

「そ、そうなの?」

 

御坂は超能力者だから研究者と接する機会も多い。

 

「そうだ。オマエ担当の研究者も一流なら俺の痔を治してンだ。だけど、これ秘密な。ほら、学園都市の第一位が痔ってなンか学園都市のほとんどの学生が痔みたいに思うやつがいるかもじゃン?」

 

「え、えと、そ、そう、なの?」

 

「......御坂、こっちに来てくれ。」

 

上条と御坂は第二人格から離れる。

 

「お前が痔だったとして他人にそれを言うか?」

 

「言うわけないでしょ!あ。」

 

「そうだ。なんとなく恥ずかしい。その気持ちを抑えてまであいつは俺達に妹達との馴れ初めを説明してくれたんだ。」

 

御坂は第二人格の方を見る。第二人格は片手で顔をおおっている。

 

「ここはそっとしておいてやらないか?」

 

「そうね.....。」

 

上条と御坂が戻ってきた。

 

「わかったわ。今日のことは誰にも話さない。」

 

「俺も約束する。だけど何か困ったら言えよ。」

 

「ありがとよ。そのときは頼む。」

 

(聞け!俺の嘘は完璧だったようだなァ!)

 

(あいつらの顔を見やがれ。哀れンでンだろォがッ!)

 

こうして二人の乱入者は去り、その後も実験は続いた。

 

 

 

 

 

それから三週間後の8月30日となった。実験中、一方通行は何度も大ケガをしたが、学園都市の医療技術は素晴らしい。その度に復活し、体を鍛え上げた。しかし、実験は一向に進まない。

 

「一方通行、焦る必要はない。絶対能力者になるための実験がそう簡単に成功するわけがないからな。」

 

「わかってる.....。」

 

一方通行は天井の方を向かずに答える。

 

「ところで、この服をどう思う?」

 

「知るか。」

 

やはり、天井を見ようとしない。そこへミサカ3号が来た。

 

「アンケート調査を終わらせました。と、ミサカは報告します。」

 

最近妹達は天井の指示でこの研究所で働く女性が好む男性のファッションを分析している。

 

「その服装は、似合う人には似合う、という意見もありましたが、天井さんには無理、との意見が多かったです。と、ミサカは残酷な真実を伝えます。」

 

天井は無言で膝上短パンを脱ぎ捨てた。

 

 



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事件の前触れ

天井は同僚のもとへ向かった。彼の同僚であるから当然研究者のはずなのだが、向かった部屋にいるのは見たところ女子高校生。

 

「やあ、布束。女子高校生にモテる服を教えてほしい。」

 

布束のぎょろっとした目が天井を見つめる。

 

「Oh.Exhibitionist!Hold everything!」

 

布束は拳銃で天井を狙う。今の天井の服装は短パンを脱ぎ、下はパンツ、なら少し引かれるだけで済んだかもしれない。しかし、研究員用の白衣を来ているためまるで白衣の下には何も着ていないように見える。

 

「No!No!No!No!出るから!」

 

「Move slowly!」

 

天井は布束を見ながらゆっくりと後ろ向きに部屋を出る。嫌な汗が噴き出す。

 

布束は洗脳装置を用いて妹達の脳に一般常識や知識、倫理観を書き込む際の監修を務めている。

 

着替えてからもう一度布束の部屋へと向かった。

 

「Well,何の用ですか?Stop! それ以上近づかないで。Because I don't believe your good sense.」

 

布束は再び拳銃を構えようと、ポケットに手を入れる。

 

「You got it!銃はやめてくれ!」

 

天井は慌てて手を上げる。

 

「いつもより英語多くないか?」

 

「英語なら敬語を使わなくても良いからですよ。それで用は?」

 

布束は年上には敬語を使うべきという常識を持っているが、積極的に使いたいというわけではない。

 

「女子高校生にモテる服装を知らないか?」

 

「知りません。Because 私は一般的な女子高校生の感覚から遠いですよ。芳川さんに尋ねたらどうです?」

 

呆れたように布束は首をふる。

 

「芳川は何か違う。若い子が良い。」

 

「Impossible.頑張っているようですが。」

 

「いいや、不可能などない。実験に取り組む一方通行を見てわかった。あれだけ殴られ、電撃で気絶させられそれでも彼は実験をやめようとはしない。私も彼には負けていられない。恥など捨てる。宣言しよう。モテるためなら何でもすると!」

 

「......。」

 

実際に、天井の評判は少し前から変わり始めている。以前は陰湿な暗いイメージを持たれていたが、今では明るい変人のイメージになっている。モテてはいないが。

 

「天井さん!大変です!来てください!」

 

部屋のドアを勢いよく開け、研究者の一人が入ってきた。

 

「どうした?」

 

「木原数多が打ち止めを渡すように要求しています!」

 

「木原数多!?」

 

木原数多とは一方通行の能力開発の中心人物だった研究者だ。そして、木原は学園都市の研究者の中でも異常なマッドサイエンティストとして有名な一族だ。何をするかわからない怖さがある。

 

天井は緊張した様子で研究者に連れられ部屋を出ていった。

 

入れ替わるようにミサカ1から10号が入ってくる。

 

「どうしたのですか?と、ミサカは尋ねます。」

 

「わからないわ。」

 

「髪が伸びたので切って欲しいです。と、ミサカはお願いします。」

 

「I see.そこに座って。」

 

(クローンを人として見てしまう研究者だっていて良いはずよ。Because 露出狂の研究者がいるのだし。)

 

洗脳装置の監修をしているからこそ妹達が入力されていないはずの感覚や行動に敏感だ。彼女はすでに妹達がただ指令通り動くだけの人形には見えなくなっていた。

 

 

(出来る限りの願いは叶えてあげたい。However,私の眠気が極限だわ。)

 

一昨日、天井に妹達にファッション誌の情報を入力しろと指示され徹夜をしていた。そして昨日はなんとか流柔術の情報を入力させられて徹夜していた。

 

妹達は二万人。分担はしているが実験に参加する1号から10号の体調管理は布束や主要な研究者がすることになっている。

 

「天井さんや芳川さんに」

 

「天井博士に髪を切らせるなど不可能ですし、芳川博士はバリカンを探し始めました。と、ミサカは暗にあなた以外まともな人がいないことを伝えます。」

 

「......。」

 

 



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宴会でもしようか

「どォしたァ?柄にもなく真剣な顔しやがって。」

 

天井は研究所にまだ残ってコーヒーを飲んでいた一方通行を自分の部屋に呼んだ。

 

(これ、あれだろォ!いやァ、まさかモテねェからってオマエに向くとはなァ。いくら女みてェだからって。)

 

(チッ、俺にそンな気はねェ。......まァ、妹達に手を出さねェだけまともなンじゃねェか。)

 

「妹達のことだ。」

 

「は?」

 

(は?)

 

天井を見る一方通行の目がゲロを見るような目に変わる。

 

(こいつ、ロリコンかよ......。いや、中学生はギリギリでセーフかァ?)

 

「な、何だ?実は先程、木原数多が来て実験を中止し、妹達を差し出すように要求してきた。」

 

(おいおい、村の娘をさらう山賊みてェなやつだなァ。)

 

「......それで、オマエはどォ答えた?」

 

「要求に従うと」

 

一方通行は席を立ち、天井の胸ぐらを掴み上げる。

 

「......ッ!」

 

何も言わないが表情で怒っているとはっきりとわかる。一方通行も本気で絶対能力者を目指し、実験にも全力で協力してきた。あっさりと、はい

、そうですか、とは言えない。

 

「お、落ち着け、言っただけだ。あの場で断れば木原数多の犬に殺されていた!この実験を続ける方法を話し合おうと思ってお前を呼んだんだ!」

 

「ハッ、木原クンをぶち殺しちまえばイイだけだ。」

 

一方通行は部屋を出て行こうとする。天井が慌ててそれを止める。

 

「待て待て!木原数多の私的な要求ではなく学園都市の上層部とも組んでいるようだ。下手に動くと木原数多暗殺が成功しても実験を続けられなくなる。それに、今すぐにとは言われていない。ただ、相手は木原だ。いつ我々が殺されるかもわからない。気を付けてくれ。」

 

木原数多暗殺は天井も賛成のようだ。問題は敵の全容が見えないことだ。天井が元の実験を変更したときも邪魔をされなかったことから、実験を始める前から途中で終わらせる気だったのかもしれない。

 

「と、いうわけで今日から泊まりだ。」

 

「あァ?」

 

「お前は超能力者だから良いが、私にはただ優秀な頭脳があるだけだ。寝込みを襲われたらどうする!?」

 

「そのまま死ンでみたらどォだァ?」

 

「私が死んだら実験は無くなるぞ。殺されるとわかっていて実験を引き継ぐものなどいないだろうな。」

 

一方通行からすれば天井なんて変な研究者という認識でしかないが、実験が無くなるのは困る。

 

「チッ、わかった。泊まってやる。」

 

(おおー、初めて友達の家に泊まるじゃねェか。良かったな一方通行。)

 

(本当に黙ってろ!)

 

「せっかくだから布束と芳川や他の研究者とも一緒の部屋で寝よう。」

 

(それが目的かァッ!ってオマエいつの間に交代しやがった!)

 

「確か芳川サンの部屋は大きかったぜェ!」

 

「私は芳川と交渉してくる。お前は布束を誘ってくれ。妹達も呼ぼう!」

 

「イイねェ、イイねェ!」

 

(待ちやがれ!馬鹿共!)

 

天井と第二人はダッシュで部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「I see.確かに集まって寝た方が安全ね。」

 

「で、ございましょォ?」

 

開口一番に「今日は一緒に寝ようぜェ!」と言い、飛び蹴りされた第二人格は正座させられていた。

 

「ミサカ達もそれで構いません。と、ミサカは理由のわからない不安を抱きつつも承諾します。」

 

髪を切り終わった妹達は第二人格を囲むように立っているので、スカートの中が見えそうだ。

 

「一方通行、どうだ?」

 

頬を赤く腫らした天井がドアを開ける。

 

「いいってよォ。」

 

二人は無言で互いの手のひらを叩く。

 

「Bad.一方通行までどうしたのかしら。なら寝る準備を、」

 

「どうせなら宴会もしよう。今までは誘われても断ってきた(誘われたのは若い頃に数回で、それらを断っていたら呼ばれなくなった)が、たまには良いだろう。」

 

布束が十分に寝られる時間はまだ来ない。

 

「あら、珍しいわね。お金渡すからビールでも買ってきて。つまみもね。」

 

芳川が財布を出し、天井に五千円札を渡す。

 

「じゃ、俺はヤシの実サイダーで、」

 

(オマエは?)

 

(コーヒーだ。ブラックな。)

 

「それと、ブラックコーヒーも。あとは適当に寿司も買ってください。」

 

第二人格も天井に一万円渡す。

 

「By the way,妹達の分は誰が出すの?」

 

この質問に天井、第二人格、芳川は固まった。二万人分の食費を出せる者などここにはいない。

 

「ミサカ達はいつも通りの食事で構いません。と、ミサカは妹達の総意を伝えます。」

 

「宴会というものを行えるだけで満足です。と、ミサカは付け加えます。」

 

「わかった。まあ、チョコレートくらいなら二万人分でも数十万円くらいだからなんとかなりそうだ。それでは私は買い物をしてくるから準備をしておいてくれ。」

 

「なら、晴れているし、外でやりましょう。二万人が集まれる部屋なんてないわ。」

 

 

こうして、一方通行、天井、妹達にとって初めての宴会が行われることになった。

 

 



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打ち止め!

「豪華すぎねェか?」

 

見ただけでわかる高級な酒、思わずよだれが溢れる匂いの料理。それが妹達の分まで用意されている。一方通行はこれらの料理の値段を考えるが、個人でさらっと出せる額ではない。

 

「実験を隠蔽する費用として数億円貰っていたんだがなんとなく、使わない気がしないか?」

 

「完全に横領じゃねェか......。」

 

(そォ固いこと言うなァ。木原数多暗殺計画に比べれば余裕だろォ。)

 

「研究員とその家族、友人の宴会ってことにして出前も頼んだわ。」

 

そう言う芳川の顔はすでに赤い。

 

「出前に来たお兄さんが、きみ足速いね!って目を丸くしていたけど。」

 

「オマエ、まさか妹達に運ばせたのか!?」

 

ミサカ、人数が多すぎて番号はわからないが、が一方通行の肩を叩く。

 

「料理を運ぶくらい妹達にもできますよ。と、ミサカは胸を張ります。」

 

「.....ハッ、いやなンでもねェ。」

 

「その何もない胸を?ってミサカはミサカは尋ねてみる!」

 

(ちっちゃ!)

 

小さいのが出てきた。妹達は普通中学生程度の身体だがこの子は小学生程度だ。

 

「なンだこいつは?」

 

「打ち止めよ。どうせだから呼ぶことにしたわ。」

 

「そォじゃねェ。見た目も性格も他の奴と違う理由だ。」

 

他の妹達とは違い打ち止めはテンションが高い。妹達も少しは喜ぶことよ怒ることもあるがこれほど表情が変化しない。感情は実験の妨げになるからだ。

 

「Because 小さい方が扱いやすいからよ。その子の命令に妹達は絶対に服従するの。namely 妹達が反乱や暴走を起こさないようにするためのリモコンね。」

 

「あなたが一方通行?ってミサカはミサカは分かりきった質問をしてみる。」

 

「わかってンなら聞くな。」

 

「必ず実験成功させようねってミサカはミサカは意気込みを口に出してみる。」

 

布束が辛そうな表情をするが誰もそれに気がつかない。

 

「ハッ、実験が成功するってのはオマエらが死ぬってことだぞ?そこンとこわかってンのかァ?」

 

一方通行は一瞬驚いたが、すぐに呆れ、打ち止めを挑発するように言った。

 

「だってそれが妹達の存在理由だもん。ってミサカはミサカは当然の答えを返してみる。」

 

打ち止めは純粋に今言ったことを信じている。打ち止めの洗脳装置の調整は布束も関わっているからこそ、布束はそのことを誰よりも理解している。打ち止めも他の妹達も自分から実験の中止は絶対に求めない。

 

ほぼ不可能ではあるが、殺す者と殺される者が談笑しているのだ。そう考えると布束は気持ち悪くなった。しかし、そうではないことにも気がついた。

 

(Surely,始めは誰もが妹達を実験動物としか見ていなかった。however,今は違う?)

 

天井は妹達相手に恋愛の練習をしていた。この実験より前にも会ったことはあるが、今より楽しそうな顔は見たことがない。そして、今日は宴会に妹達を呼んだ。

 

芳川はあまり変化を感じさせないが、妹達のことを人として見ているような様子は以前からあった。妹達に制服を着せたのは彼女だ。

 

一方通行にしても今のセリフは気になる。挑発と言ってしまえば終わりだが、よく考えると驚き呆れるということは打ち止めの言葉が予想外だったということだ。はっきりとは言わないが妹達を人間として見始めているとも考えられる。

 

(Possibly,みんなこの実験を終わらせること、妹達を殺すことを迷っている?)

 

何かきっかけさえあればこの実験は終わるかもしれない。問題はその後だ。

 

不要になった妹達はどうなるのか。二万人もの人間だ。生活費はどうする?表に出せないのに幸せになれるのか?今のうちにおとなしく学園都市の上層部の要求に従えば生活費は大丈夫だろう。しかし、命の保証はない。それに樹形図の設立者が予想した絶対能力者実験より優先して行うこととは何か?

 

確かなのは木原数多という人間は信用ならないということだ。妹達を全員解剖なんてこともやりかねない研究者だ。

 

「私には何もできないのかしらね。」

 

「何ですか?と、ミサカは聞き返します。」

 

「独り言よ。」

 

宴会は夜遅くまで続いた。



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残骸を盗りに行く

宴会の後、筋トレをしている一方通行に天井が話しかける。

 

「なあ、一方通行。」

 

「なンだ?」

 

「樹形図の設計者が壊れていたらしい。」

 

「は?」

 

(まじかよ!)

 

天井はさらっと言ったがとんでもない大事件だ。今まで学園都市の実験は樹形図の設計者でシミュレーションを行うことも多く、その正確さは研究者たちから絶大な信頼を持たれていた。研究者でなくとも天気予報などで恩恵を受けている人はたくさんいる。

 

それが無くなれば学園都市に対する影響は大きいだろう。

 

「隕石でも衝突したのかァ?」

 

一方通行が椅子に座りながら言う。

 

「いや、正体不明の光線が直撃したそうだ。」

 

「どこのどいつがそンな馬鹿なことしでかしやがった?」

 

「さあな、そこまではわからない。そして、樹形図の設計者のありったけの残骸をかき集め、世界最高の技術を手に入れようとする連中がロケットを打ち上げている。」

 

樹形図の設計者は壊れたものの砕け散った部品でさえ、学園都市の外はもちろん並の内側の技術をも超越している。その価値は計り知れない。

 

「それで?」

 

「拾ってきてくれないか?」

 

天井も欲しいらしい。

 

「あァ!?木原クン暗殺の計画を立てンのよりも重要な理由なンだろうな?」

 

「そうだ。お前も思ったことがあるだろう。なぜ自分には彼女ができないのか。どうしてあいつではなく自分ではダメなのか。私は知りたい。彼女を作る方法を!」

 

実際、一方通行ならば宇宙へ行くことも、残骸を拾ってくることも可能だ。

 

「いやいや、その方法だと学園都市の上層部だとか厄介な連中に見つかります。と、ミサカは思慮の足らない二人を見ながら呆れます。」

 

天井の隣にいたミサカ11号が右手を振りながら答える。実験に参加しているのは1から10号だけなので他の妹達は暇だ。

 

「どォして俺も含まれてンだ!?」

 

「学園都市の内部にも残骸を手に入れようとしている人がたくさんいるから、その人たちから盗っちゃえばって、ミサカはミサカは、むぐっ!」

 

天井が打ち止めの口を押さえる。この研究所のどこに隠しカメラがあるかもわからない。

 

「なかなかの策だが、盗るんじゃない、保護だ。いいかい、ここは重要だ。悪人から保護するんだ。間違えないようにしてくれ。」

 

すると、打ち止めとミサカ11号が一方通行の座る椅子の背もたれに手を置く。

 

「わかった。ってミサカはミサカは一方通行を連れて玄関へダッシュ!」

 

「ミサカ11号の健脚についてこれますか?と、ミサカは挑発します。」

 

「待ちやがれ!」

 

「待て待て!」

 

「「Go!」」

 

タイヤつきの椅子に座ったのが悪かった。一方通行は打ち止めとミサカ11号に押され部屋を出て行った。

 

ドドドドドド

 

「......頼んだぞ、一方通行!」

 

ドドドドドド 

 

「あっ、てミサカは」ガラッ! 「うおォ!」ガッシャーン!「オマエらァ!」

 

「......さて、研究の時間だ。」

 

「Hey,you.少し話があるのですけど。」

 

「諸々の修理代はあなたが払ってくれるのよね?」

 

 

天井が振り向くと芳川と布束が立っていた。

 

 

 



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ほぼ散歩

「ところで、どうしてあなたは素直に頼みを聞くのですか?と、ミサカは尋ねます。」

 

一方通行が自分に関係ない他人の頼みを素直に聞くことは今までほとんどなかった。あっても落ちた消しゴムを拾ったとかそんなものだ。今回ほど面倒な頼みを受けるのは不自然だった。

 

「天井にそのつもりがねェとしても、樹形図の設計者の残骸なら実験の役に立つかもしれねェ。」

 

(で、どォやって盗むすンだァ?どちらサンが持ってるかもわからねェだろ。宇宙旅行してきた連中をしらみ潰しにすンの?)

 

そう言うが第二人格にもわかっている。学園都市上層部に残骸を持っていることがばれれば実験どころではなくなる。必殺仕事人が飛んでくるだろう。

 

(ハッ、簡単だ。)

 

「ロケットを打ち上げれば目立ちすぎる。学園都市内で残骸を狙う連中は正規のロケットが持ち帰った残骸を奪うつもりのはずだァ。俺はそいつらから奪う。上層部を、そいつらが残骸を持っている、と誤解させたままなァ。」

 

「ミサカはどうすればいいの?ってミサカはミサカはわくわくしてみる!」

 

「研究所に帰れ。」

 

「えー、つまんない!ってミサカはミサカは駄々をこねてみる。」

 

打ち止めは一方通行の左手の袖を引っ張る。

 

「どォしてこいつだけ感情豊かなンだ?」 

 

一方通行は面倒そうにミサカ11号を見る。

 

「実験で使われる個体ではないので、他と違う人格にしても良くない?と、布束博士が思ったからです。と、ミサカは説明します。」

 

どんどん研究員達が自由になってきている。天井の影響だろう。

 

 

 

一方通行たちは歩いた。そして正午になった。

 

 

「おお、これがお子さまランチ!って、ミサカはミサカは喜びを隠しきれずに叫んでみる!」

 

「もう少し静かにできねェのか?」

 

(いいじゃねェか、賑やかで。)

 

(うるせェだけだ。)

 

「一方通行、カップルだと割引があるそうです。と、ミサカはパンフレットを見せます。」

 

「それがどォした。」

 

「店員にカップルだと伝えました。と、ミサカは手柄を誇ります。」

 

「はァ!?」

 

周りを見ると数人の店員がニヤニヤしながら一方通行たちを見ている。

 

(やるじゃねェか。)

 

(なにがだ!)

 

 

 

 

 

 

 

さらに少し歩いた一方通行たちは公園に着いた。

 

「ちぇいさーっ!」

 

公園を離れた。

 

「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

自動販売機を蹴っていた方が一行を呼び止める。

 

(えっ、この子って実は不良なのかァ?真面目な子だと思ってたんだが。)

 

(......。)

 

「何をしているのですか?と、ミサカは犯罪に手を染めるお姉さまに衝撃を受けます。」

 

「だ、ダメだよ、そんなこと。ってミサカはミサカは一方通行の後ろに隠れてみる。」

 

「えっ、えと、ほら。アンタにもあげるわよ。」

 

小学生くらいの子供に怖がられるのは精神的につらい。御坂は打ち止めに缶ジュースを渡す。

 

「ありがとう!って、ミサカはミサカは跳び跳ねて喜びを表してみる。」

 

ミサカ11号は御坂をじーっと見つめる。

 

「もうジュースはないわよ。」

 

「じーっと、ミサカは何か欲しいことを無言で伝えます。」

 

「アンタ良い性格してるわね.......。わかったわよ。それじゃこれ上げる。」

 

御坂は缶バッチをミサカ11号のスカートにつける。

 

「何ですかこれは。と、ミサカは謎のカエルバッジを見つめます。」

 

「ゲコ太よ。やっぱり似合うわね。」

 

「いやいや、ねーよ。と、ミサカはお姉さまの子供っぽさに呆れます。」

 

「なにーっ!まあ、要らないなら。」

 

御坂は缶バッジをはずそうと手を伸ばすが、ミサカ11号はその手をはじく。 

 

「これはもうミサカのものです。と、ミサカは所有者が変わっていることを教えます。」

 

「要らないんじゃないの?」

 

「お姉さまからの初めてのプレゼントですから、いや、もう少しまともな物があるだろうとは思いますが、誰にも渡しません。と、ミサカは一方通行の後ろに隠れます。」

 

「オマエもか。」

 

(モテモテじゃねェか!)

 

(あ?代わらねェのか?)

 

(いつも俺が美味しいところ持っていっちまったらオマエがかわいそうだろォ?)

 

(ハッ、中学生に興奮するなんざ天井か?)

 

(いや、俺は見た目がよけりゃァ、歳は関係ねェ。)

 

(少しは自重しろ.....。)

 

「布束に、何かあったら一方通行に助けてもらえって言われてるってミサカはミサカは教えてもらった上目遣いを実践してみる。」

 

「ミサカも手伝いましょう。と、ミサカも上目遣いをします。」

 

ミサカ11号と打ち止めの上目遣いは強力だった。

 

「ハッ、くだら」

 

「Good!最高だぜェ!」

 

(オマエッ!)

 

「布束よ、俺はオマエを尊敬するぜェ。」

 

(黙れ!やめろ!)

 

第二人格は研究所の方へ敬礼する。

 

「アンタなんか二重人格みたいに性格変わるわね。」

 

「」

 

第二人格は固まってしまった。

 

(どォしよ!ヤベェ!)

 

(落ち着け!誤魔化せェ!)

 

「あれ、どうしたの?」

 

「幼いころから実験漬けで、あれだ、アドレナリンがなンか溢れ出したり、血圧が変化しまくったりするンだ。そのせいで友達は未だに0だ。」

 

(おい!)

 

(仕方ねェンだ!思い付いたことそのまま話しちゃったンだからァ!)

 

「ええと、もし良かったらわたしが友達に。」

 

御坂が少し恥ずかしがりながら気を遣ってくれている。

 

「ミサカのことも友達だと思っても良いですよ。と、ミサカは一方通行を哀れみます。」

 

「ミサカもあなたの友達だよって、ミサカはミサカはかわいそうな一方通行を励ましてみる。」

 

(やっぱりイイ子だ!)

 

(俺が無様すぎンだろォが!断れ!)

 

(馬鹿言うな!友達なんてなァ、積極的にならにゃァできねェンだよ!良いのか天井サン1人だけで!)

 

(別に要らねェ!つうかオマエは天井のことを友達だと思ってやがったのか!?)

 

「ああ、ありがとな。今後とも頼むぜェ。」

 

(チッ、面倒くせェ。)

 

 

 

 

 

御坂と別れた後、夕食も食べた一行はまだ歩いていた。

 

「今、妹達に酷似した強力な電磁波を感じた。と、ミサカは報告します。」

 

「もしかしたらお姉さまかも!ってミサカはミサカはダッシュしてみる。」

 

走りだした打ち止めを一方通行とミサカ11号が追う。

 

「なンだァ?」

 

(まァ、行きゃァわかンだろ。)

 

 



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さらしブラ?







 

打ち止めとミサカ11号の後を追って、一方通行はボロボロの立体駐車場のような廃ビルにやって来た。

 

(なンとなく危なそうだから交代。)

 

(好き勝手しやがって。)

 

「あ、お姉さまだ!ってミサカはミサカは手を振っ」

 

「待て。」

 

打ち止めが御坂のもとへ駆け寄ろうとするのを一方通行が止め、3人は歩道に寝っころがり、植樹帯に隠れる。

 

「どうかしたのですか?と、ミサカは一方通行が嫉妬していると推測しつつも一応尋ねます。」

 

(おい、気持ちは分かるが束縛しすぎると打ち止めに嫌われるという本末転倒な結果に)

 

「あァ!?オマエらの能天気はどォにもならねェな。第三位が何見てンのか探せ。下手に動くな。」

 

御坂の視点の先、廃ビルの二階、には髪を2本にまとめた少女が足を投げ出して座っていた。御坂はその少女を睨み付けている。

 

「ほほう、つまりあの少女をもう少し見ていたいのですね。と、ミサカは一方通行も天井博士と同じ男であることを思い出します。」

 

少女の服装はなかなか個性的だ。スカート、は普通だろう。問題は上半身。ブラジャーの代わりか知らないが、さらしを巻き、その上にブレザーをはおっている。  

 

(俺もあの女の子には期待してンだ。なンかの弾みでさらしが取れねェかなァ。)

 

「話を聞け!第三位の体から漏電してやがる。これから戦闘になるかもしれねェ。」

 

(そういえばバチバチすげェな。そンで?)

 

「なら、お姉さまを助けないとってミサカはミサカは木の枝を拾って突撃の準備をしてみたり!」

 

「ハッ、オマエみてェなガキに何ができンだァ?」

 

走り出そうとする打ち止めの頭を押さえた一方通行がバカにするように言った。

 

「お姉さまはミサカたちのことを守ろうとしてくれたもん!ってミサカはミサカは義を掲げてみる!」

 

御坂が実験に乱入してきた時の話だろう。実際にはそれによって妹達は何か得をしたわけでも、助けられたわけでもない。

 

「ミサカはミサカたちのことを妹って言ってくれたお姉さまを助けたいって一方通行を説得してみる。」

 

「一方通行、ミサカもここでお姉さまを放って置くことはできません。と、ミサカは拳銃を取り出します。」

 

ミサカ11号は服の中から拳銃を取りだし、構える。

 

(おい、ここはオマエの出番だろォ。)

 

「チッ、オマエらは実験に使われるために存在してンだ。オマエらに死なれると困るのは俺だろォが。ここで待ってろ。」

 

一方通行が打ち止めとミサカ11号を置いて、御坂に近づいていると別の人影が現れた。

 

「あ!アナタは佐藤太郎!」

 

「あ?」

 

(え?)

 

第二人格が佐藤太郎という偽名を使ったのは一回だけだ。

 

この前のツインテール風紀委員が現れた。

 

「風紀委員の白井黒子ですの。お忘れではありませんわよね。」

 

風紀委員の腕章を引っ張りながら名乗る。

 

「チッ、なンのようだ?」

 

「うっ、いつもならば支部に同行していただくところですが今はできませんの。今日はもう家にお帰りになって、明日風紀委員177支部に来てくださいですの。あ、結標が!では、失礼しますの。」

 

白井は空間移動でどこかへ去った。一方通行が御坂を見ると少女、結標の姿は消え、代わりに数人の男達が倒れている。

 

それにしても、白井は御坂美琴を知っているどころかルームメイトだ。二人がを見つけられたとき、打ち止めは誤魔化せなくもないが、常盤台中学の制服を着ているミサカ11号は不審に思われてしまうだろう。今後はこういうことに気を付けなくてはならない。

 

(あっぶねェー。)

 

「常盤台中学の学生がどォしてこの時間に出歩いていやがる。」

 

天井に聞いた話では常盤台中学の寮はかなり厳しく、暗くなる前に帰らなくてはならないはずだ。

 

「事件の臭いがする。と、ミサカは真剣な眼差しで一方通行を見つめます。」

 

「あんまり変わってないよってミサカはミサカは苦笑いしてみる。」

 

 



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結標撃破

 

白井と別れた一行は未だに残骸を探していた。

 

「もう、眠くなってきちゃったってミサカはミサカはもう帰りたいことをアピールしてみる。」

 

もう夜遅い。打ち止めが目を擦る。

 

「なら最初から着いて来るンじゃねェ。」

 

一方通行は構わず歩き続ける。すると遠くで物がぶつかったような音がした。一同は音がした方を向く。

 

「どうしたのでしょうか?と、ミサカは眠いのをこらえつつ質問します。」

 

「オマエもか。」

 

(残骸と関係あるかも知れねェし、行ってみたらどォだァ?)

 

「行くか。」

 

「こちら打ち止め。不審な音を確認。今から確かめに行くぜってミサカはミサカはミサカネットワークで共有した映画の登場人物の真似をしてみる!」

 

「了解。同行します。と、ミサカは電柱に隠れながら辺りを窺います。」

 

(なンか二人ともテンション戻ったか?良かったな。)

 

(ハッ、うっとおしいだけだ。)

 

ノリノリなミサカ11号と打ち止めが先行し、その後ろを一方通行が着いて行く。

 

「!」

 

もう一度大きな音がした。先程のよりも大きい。音のする方を見ると光の筋が見えた。

 

「......。」

 

(あれって、御坂の超電磁砲に似てねェ?)

 

「早く行こうってミサカはミサカは慌ててみる!」

 

「お姉さまに何かあったのかもしれません。と、ミサカは不安が生じます。」

 

「チッ。」

 

(舌打ちしてンじゃねェ!行くぞ!あンなイイ娘に手ェ出したやつはぶっ飛ばしてしまえ!嫌だってンなら後で打ち止めに告る!)

 

「クソッ!」

 

「うわってミサカはミサカは驚いてみる!」

 

一方通行は打ち止めとミサカ11号を両手で持って空を飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方通行は道路をキャリーバッグを引きながら歩く少女を見つけた。御坂となにかしていた少女のようだ。

 

(たぶん、あいつもさっきの光に関わってンだろ。)

 

(だろォな。)

 

一方通行は静かに着地する。ミサカ11号と打ち止めを建物に隠れさせる。

 

「いってらっしゃいってミサカはミサカは元気に送り出してみる!」

 

「静かに「行ってきまァす!」してろ。あァ!?」

 

(あれ、今人格交代しねェで声出せた?)

 

(どォなってンだ!?)

 

「まさか、返事をするとは。と、ミサカは一方通行の口リ魂を確信します。」

 

(ばれちゃったな。)

 

「違ェ!黙れ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人を隠れさせ終わった一方通行は後ろから歩いて結標に近づく。

 

「何してやがンだ。」

 

少女、結標は咄嗟に振り向く。

 

「第一位!そんな......。超電磁砲ですらかなわない学園都市最強が、どうしてこんなところに。」

 

一方通行は凶悪な笑みを浮かべる。

 

「なァに、大したことじゃねェよ。

『上下ともさらしだけになってください!』

そのキャリーバッグを渡せェェェ!」

 

結標は恐怖で身を震わせる。

 

「どォいう理由で震えてンのかだけ確認させろ!」

 

「ち、近づかないで!」

 

結標は後ずさりしながら叫ぶ。

 

「......。」

 

(確認できたな。)

 

恐怖で固まってしまったが、なにか思い出して叫ぶ。

 

「そうよ!聞いているわ!貴方は無能力者に負けている。ただの無能力者に!なら、私だって勝てるわ!貴方の反射は私の座標移動にも通用するのかしら?」

 

落ち着きを取り戻した結標は一方通行のいる場所に自動車を移動させることで一方通行の体を破壊しようとする。しかし自動車は移動しない。

 

「っ!」

 

「悪ィが、こっから先は一方通行だ。 侵入は禁止ってなァ!大人しく尻尾ォ巻きつつ泣いて、無様にもとの居場所へ引き返しやがれェェェ!今の記憶も消し飛びやがれェェェ!」

 

結標はキャリーバッグを盾にしたが、一方通行の能力の前では無意味。側頭部を殴られ、数メートル飛び、気を失った。

 

「はっはっは。お嬢さん、今日は冷える。ワタシがホテルまで運んで差し上げましょォ。」

 

第二人格が結標をお姫様抱っこで持ち上げる。

 

(おい!こいつがもし起きてやがったらオマエじゃ瞬殺されんだろォが!)

 

(声は出せても、感覚は人格交代しないとねェんだよ!大丈夫だ。女の子をお姫様抱っこする夢がかなったから死んでもイイ。)

 

(そォか、今すぐ消えろ。俺に体を返せ。)

 

「ン?」

 

(......誰か来た。隠れンぞ。)

 

暗くてよく見えないがツンツン頭のシルエットからして、おそらくは。

 

(上条、か?)

 

(そうだな、それにしても慌てたら結標置いてきちゃったけど大丈夫かなァ?)

 

(残骸があれば問題ねェ。帰る。)

 

第二人格は二人が隠れている場所に向かって歩き出した。右手にはしっかりと残骸を握り締めている。

 

(握り?)

 

()

 

残骸は残骸というより破片になっていた。

 

(オマエが殴るから!)

 

(チッ。)

 

 

 

 



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グラサン無傷

「持ってきてやったぞ。」

 

一方通行は天井に破片を渡す。しかし、天井はそれを不審そうに見つめる。少し沈黙が続いたが、天井は視線を一方通行に向け直す。瞬きが忙しい。

 

「何だ、これは?」

 

「オマエが依頼した樹形図の設計者の残骸だ。」

 

天井は口を開け、呆然と立ち尽くす。

 

(ほら見ろ。天井サンが燃え尽きちまったじゃねェか。真っ白じゃねェか!)

 

(チッ。どォせこいつがモテる日なんざ永遠に来ねェ。)

 

「死闘を乗り越え、見事残骸を奪取じゃなくて保護しましたってミサカはミサカは敬礼してみる!」

 

「任務達成を祝して宴会をしましょう、とミサカはワクワクします。」

 

灰になった天井とは対照的にミサカ11号と打ち止めは大はしゃぎしている。

 

「......ははっ、私がモテる日は遠いようだな。しかし、私は屈しない!天井亜雄ファイト!」  

 

「「ファイト!ってミサカはミサカは叫んでみる。(と、ミサカは乗ってあげます。)」」

 

「ハッ、くだらねェ。『ファイトォ!』だからおい!」

 

ギャーギャー騒いでいると部屋のドアが開いた。芳川と一人の男が入って来る。

 

「一方通行はいるかしら。」

 

「なンの用だ?」

 

「用があるのは私だ。」

 

スーツ姿のその男が一方通行の前に立った。サングラスで表情はよくわからないが、緊張しているのはわかる。一方通行の力や今までの行動を知っていれば当然の反応だ。いつ気まぐれで殺されるかもわからない。そんなことを考えているのだろう。

 

一方通行も経験からこういう連中の頼み事が面倒であることもわかっている。一方通行は男を睨んだ。

 

「大覇星祭の開会式で宣誓をしてほしい。」

 

これは予想外だった。

 

「あン?」

 

(はァ?)

 

「つまりだな。」

 

男は説明を始めた。要するに、世界に放送されるとてつもない運動会、大覇星祭は学園都市の宣伝をする絶好の機会である。そこで一方通行にも協力してほしい、ということだ。

 

「断『らない!』」

 

「なに!受けるのか!?」

 

誰よりも男が驚いている。

 

「いや、『当然だ。そンな面白そうな行事に参加せずして第一位を名乗れるかよ!協力してやるぜ。』」

 

(おい。どォしてこンなくだらねェことに俺が協力しなけりゃいけねェンだ?)

 

(おもしろそうだから。)

 

「お、おう。ならこのパンフレットと企画書を見てくれ当日の予定だ。」

 

一方通行のイメージが崩れ落ちたことで戸惑っているが、ホチキスで止められた書類を一方通行に渡した。

 

「チッ。」

 

一方通行は何を言おうと第二人格は止まらないことを察し、しぶしぶ書類を読み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第一位が参加する......?なら俺も協力してやるよ。」

 

 

 

 



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決戦の朝

少年はうんざりした様子で電話の相手の話を聞いていた。

 

「大覇星祭なんてガキのお遊びだろ?そんなものに俺が協力するわけねえだろ。」

 

「ふーん。まあ、それならそれでもいいんだけどねえ。なら、今のところ協力してくれるのは第五位と第七位、それと第一位だけかー。」

 

第一位という言葉に少年は表情を変える。

 

「第一位、一方通行のことか?」

 

「そうだけど?」

 

(どういうことだ......?)

 

少年は一方通行と知り合いですらないが、二人とも幼い頃から実験漬けの毎日だ。研究者たちから話を聞くことが何度もあった。さらにこの少年はある理由で一方通行を調査している。

 

その調査で積極性が皆無であることは間違いなさそうだった。

 

「第一位が参加する......?なら俺も協力してやるよ。」

 

第一位が参加するには相応の理由があるはずだ、と深読みして、少年は協力してみることにした。

 

「あ、そう?それじゃ頼むわ。」

 

電話が切られた。

 

「どうしたの?」

 

ワンピースを着ている少女が不思議そうに尋ねる。

 

「......さっぱりだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、大覇星祭当日となった。一方通行は長点上機学園の半袖の体操服を着てリュックサックを背負っていた。

 

(どォいうことか説明しやがれ......。)

 

(オマエが寝てる間に今日の準備をしました。以上。文句があるなら早く起きろよォー。ま、交代してやるよ。)

 

「お弁当持った?」

 

「水筒は?」

 

芳川と天井が持ち物の確認をする。

 

「あァ、持った。」

 

「私も。」

 

布束も体操着だった。

 

「オマエもか!?」

 

「Because あなたが誘ったでしょう。Perhaps 忘れたのかしら?」

 

半袖半ズボン、ブルマではないのが残念だが、新鮮で良い。

 

一方通行(名前だけで登校していないが)も布束も長点上機学園の学生だ。大覇星祭では長点上機学園の一員として競技に参加する。

 

「ミサカも後で応援に行くってミサカはミサカは固い決意を宣言してみる!」

 

「ミサカは騒ぎになりかねないのでここのテレビで応援します。と、ミサカは少ししょんぼりします。」

 

「ハッ、開会の宣言だけ」

 

(いや、競技にも参加するぞ。)

 

()

 

(昨日の夜、学園に電話したら即OKだった。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の夜。

 

「もしもし、あ、長点上機学園ですかァ?じゃねェや、長点上機学園か?一方通行だ。あァ、明日の大覇星祭だがなンか出られねェ?ン?あァ、そンじゃそれでイイ。おォ期待しとけ。それじゃァな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

(こンな感じ。)

 

(想像以上に即だったな、クソッ!)

 

超能力者の第一位となれば学園の最高の宣伝になる。急な参加でも歓迎された。

 

しかし、第二人格はどの競技を選んだのだろうか。

 

「私と組んで二人三脚もでしょう。So 手を抜いたら怒るわよ。」

 

()

 



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開会式

ある芸術家は言った。芸術は爆発だ、と。

 

ならばこれも芸術なのであろう。

 

「すべて根性で乗り切ることを誓うぜ!!」

バウーン<-背後で爆発する音

 

超能力者第7位、削板軍覇。一方通行と同じく開会式の宣誓を任された1人だ。途中で宣誓の言葉を忘れてアドリブで叫び、背後に大爆発を起こす演出までやってのけた。大したエンターテイナーである。

 

しかし、削板はあくまで宣誓を任された4人のうち1人だ。このままだと他の3人は、

 

「喰われた......。」

 

そう呟いたのは第5位、食蜂操祈だ。御坂美琴と同じ常磐台中学の生徒。常磐台中学の最大派閥の主であり、常磐台の女王とも呼ばれる。女王と呼ばれるだけあって自分へ集まるはずの視線が他人へ向かってしまうのはよい気がしないのだろう。

 

全く同感な第二人格も騒いでいる。

 

(おい!オマエもなンかやれ!完全に持っていかれた。)

 

(何をだ。どォでもイイ。あンな短い台詞も覚えられねェ馬鹿と張り合う気にはならねェ。)

 

(なら俺がやりまァす。何しよォかなァ?)

 

(チッ、わかった!)

 

第二人格に下手なことをされるくらいなら自分で考えた方がましだと思った一方通行は光のベクトルを空へ向ける。ついでに一方通行を中心に風を発生させる。そうすることで観客は視覚的にも触覚的にも楽しめる。そして右手を掲げる。すると一本の太い光線が一方通行をステージごと包む。わが生涯に一片の悔いなし!とか言いそうだ。

 

(......言葉が思い付かねえ)

 

(おいおいおいおい!えーとあれだ!)

 

 

 

 

 

『ならば、俺は愛のために戦おう!!』

 

 

 

 

 

(...,..何言ってやがる。あァ?パクリじゃねェか!)

 

一方通行は聞いたことのないはずのこの言葉が自分の記憶に存在することに気がついた。第二人格は一方通行が寝ている間に好き勝手に遊んでいる。このときの記憶はエピソードは共有されないが、知識は共有される。

 

(仕方ねェだろ、思い付かなかったんだから!ちなみに北斗の拳イチゴ味より引用。)

 

(原作読んでねェのかよ......。)

 

第二人格が咄嗟に思い出した名言だが、一方通行の光線に身を包まれる演出の助けもあって観客は盛り上がった。

 

さて、これに混乱しているのが4人目の宣誓者、第2位垣根帝督である。

 

(何を言っているんだこいつは!?)

 

それはそれは戸惑っていた。

 

垣根の想像していた一方通行は絶対にこの台詞を言わない。直接会話したわけではないが、聞いた話や調べた情報から推測するとあり得ない言動だ。

 

(......何が起きている。最近、こいつの行動が変化しているのは把握していたつもりだったが、ここまでか....!?)

 

しかし、垣根とて第2位。天才的な頭脳を持っている彼が戸惑っていた時間は1秒。彼は即座に決断した。

 

背中から白い6本の翼を生やし、空を舞う。そして周りを漂う白い物質が集まり何かを形成する。

 

 

 

巨大な垣根帝督像が出現した。

 

 

観客席の一番上よりも高い。観客も学生もそれに度肝を抜かれ、ただ目を見開く。

 

その垣根像が垣根と共に口を開けて叫ぶ。2人の超能力者の宣言を聞いてから血が沸いている。ここの観客たちに見せつけたい。俺が一番なのだと。だから垣根はこう叫んだ。

 

「「勝つのは俺だ!」」

 

その言葉は自信に満ちていた。誰もが大覇星祭の激闘を予感し、興奮している。そんな中で1人、冷静さを失わない少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

(いやいや、あなたどこの学校の生徒でもないでしょう?)

 

垣根帝督、彼は学生ではなかった。



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大覇星祭終了(仮)

「お姉さま、すごかったねってミサカはミサカは目を輝かせてみる!」

 

「ペアの方の能力も素晴らしかったです。見に来たかいがありました、と二万人のジャンケン大会で優勝したミサカはガッツポーズをします。」

 

観客席で打ち止めとミサカ10032号がはしゃいでいる。

 

 結局、妹達は二万人の中からジャンケンで一人を選び、その一人だけが変装して見に行くことにした。

 

 そして、優勝したのが10032号だ。彼女は一方通行が以前買った黒髪のかつらを着けたのだが、すぐにずれてしまうのでヘッドフォンで止めている。

 

「御坂美琴が近くにいる状況でかつらを取らなければ大丈夫だろう。たぶん。」

 

「一応、常盤台中学の学生には近づかないようにしなさい。」

 

「わかりました。と、ミサカはとりあえず返事をしておきます。」

 

不審に思われても適当に誤魔化せば良い。天井と芳川はそのように考えた。周りからチラチラ見られている気もするが、見ているのは男だから不審には思われているわけではなさそうだ。

 それでも布束がこの事を知れば、心配で競技どころではなくなるだろう。

 

「次が一方通行と布束の出番だろう?」

 

「一方通行、布束がんばれ!ってミサカはミサカは沸き上がる興奮を叫んでみる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲の緊張や興奮を無視して第二人格は布束と肩を組みながらスタートラインに立った。

 

「学校の体育に参加するのは久しぶりね。Because 研究が忙しかったから。」

 

『イエイィィ!わくわくが止まらねェぜ!うおォォォォォ!』

 

「わかったから黙りなさい。」

 

『ぐおっ!』

 

布束の中段突きが炸裂する。

 

 第二人格は布束とは異なる理由で興奮していた。

 

《なんと、柔らかき肉であることよ!まだだ、まだ、半分くらいまでは布束と密着していたい!》

 

第二人格は痛みに悶えながらスタートの銃撃音を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、二人三脚の結果だが、

 

「Great!流石ね。途中まで普通に走ったのは私に対する配慮かしら。」

 

「まァ、そンなところだ。」

 

当然一方通行&布束ペアが一位だ。一方通行が自身と布束の重力、空気抵抗などのベクトルを推進力に変えてしまえば大能力者でも着いてこられないだろう。途中まで第二人格が走ったためにビリだったが一方通行が交代して一気に一位になってしまった。

 

 唯一、空間移動系の能力者は一方通行の勝利を脅かすが、毎年能力の差が順位の差になる大覇星祭ですらこの種目に空間移動系の能力者は出場できないことになっていた。観客が見ていて面白くないからだ。

 

(俺の能力を使えば一人で走ろうが二人三脚だろうが関係ねェンだが、そこを考慮してこの競技を選んだンだろうな?)

 

《いや、布束と組むことしか考えてねェ。》

 

(......。)

 

《って言うかよォ、せっかく布束と組んでやるンだから距離も増やすように要求すれば良かった!あと、水着でやる競技も増やしてもらおうぜ。》

 

第二人格は次回への反省点を見直している。

 

(なら、全部オマエが走りやがれ。)

 

《いやいや、最近鍛えてるって言っても1ヶ月くらいじゃなァ。なンせ元が貧弱過ぎたし。》

 

(チッ。)

 

《オマエも嫌だろ?何あれ、あれが第一位とか終わってンじゃンwwwとか言われるの。短距離が速いやつが偉いンだよ、世の中は。》

 

(なンの話だ......。)

 

《それでだ、ミッションコンプリート!帰ろうぜ。》

 

(.......。)

 

しかし、彼らはまだ帰れなかった。

 

 

 



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乱入!!バルーンハンター

 天井と布束は固まっていた。

 

「あれ、10032号ですよね。because 他の子達があれだけ表情豊かなのに、一人だけ落ち着いています...。」

 

布束が顔をひきつらせながら、小声で天井に確認する。

 

「」

 

天井はうなずいたが、何も言えない。

 

《あァらら、やばくねェか?》

 

「何やってやがンだ...。」

 

一方通行は額に手を当ててため息を吐いた。

 

「大丈夫よ。オリジナルの方も、気づいて隠れるくらいの頭はあるでしょ。」

 

芳川は微笑みながら双眼鏡を覗く。

 

 

 

 

 

 

 

 グラウンドに並ぶ選手たちはバルーンを着けたヘルメットを着用している。

 

 簡単にルールを説明すると、敵のバルーンを玉入れ用の球で多く割った方の勝ち、だ。

 おもしろそうな競技ではあるが、大覇星祭においてはそうでもない。なぜなら、明らかに能力の種類、強度の差が勝敗に直接関係するからだ。例えば念動力と無能力者が戦えば、念動力がほぼ勝つ。

 

 その上、常盤台中学は全員強能力者。相手の学校はエリート校ではないようだから、多くが無能力者。まともに戦えば勝負にもならないだろう。

 

 

 対する常盤台中学生は余裕の笑みを浮かべている。観客の中には相手校を応援している者も多いが、本気で勝てると思っていないだろう。

 

 しかし、妙なことに相手校の選手たちは真剣な表情で常盤台中学生たちを見ていた。その表情には恐怖もある。それでも彼らに諦めはない。あくまでも、勝つ気だ。

 

 

パァッン

 

 

 競技開始のピストルが鳴った。すると、相手校は全員蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

「諦めていないはずではありませんの!?」

 

黒髪ロングの扇子を持っている常盤台中学生がなにか叫ぶ。

 

「違和感があります。ここは数人で固まりつつ、おいおい聴けよ、とミサカはやれやれだぜ。」

 

10032号が慎重になるよう注意するが、全員の常盤台中学生は相手校を即座に追いかけて行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手校の一人、坂井は常盤台の女子中学生、切斑に追われていた。周りに他の選手がいない。走っているうちにはぐれてしまったのだろう。

 

「おとなしく待ちなさい!」

 

「はっ、なめんな!」

 

坂井は急に立ち止まった。そして、持っていた球が中に浮き、切斑のバルーンへ直進する。

 

 しかし、バルーンの直前で止まってしまった。

 

「あなたは念動使いのようですね。もしかすると、この競技でしたら強度が上の相手にも勝てたかもしれませんわ。」

 

嗜虐的な笑みと共に、切斑の周りに十個ほどの球が浮かぶ。

 

「ですが、残念。わたくしも念動使いですのよ。」

 

「なんだと.....!」

 

坂井は思わず後ずさりしてしまう。

 

 

 

 

 

 

「アナタよりも格上の、ね。」

 

 

 

 

「うあああああああ!」

 

全ての球が坂井のバルーンに襲いかかる。

 



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デンプシーロール

「それでは、他の相手を探しますので。」

 

「くそっ!」

 

切斑はくるりと坂井に背を向け、立ち去ろうとしていた。自信に溢れた表情で次の標的を探す。強度の差は強さの差だ。どんな相手でも自分が負けるはずはない、そう考えている。

 

 だから、切斑は負ける。

 

 突然、バルーンの割れる音がする。切斑の頭上で、だ。

 

「えっ!」

 

「残念だったな。」

 

「ナイス!川田!」

 

坂井とは別の相手選手が植え込みの陰から出てくる。切斑はふーっとため息をつきながら川田に尋ねる。

 

「植え込みに隠れながらどうやってバルーンを?」

 

「念動力だよ。」

 

「まさか、念動力使いが二人もいるなんて。」

 

「いや、俺はちがうぞ」

 

坂井が先程とは違って勝ち誇った顔をしている。

 

「俺は無能力者。最初に見せた玉もこいつの能力で動かしてたんだ。」

 

「作戦だったわけですね。」

 

切斑が悔しそうに顔を歪ませる。

 

「こいつを生け贄に念動力使いを倒せれば大金星だろ。」

 

「見たか、俺の迫真の演技を!成功したのは俺のお陰だな!」

 

「はいはい。」

 

坂井と川田は拳を合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だいたいそんな感じで相手校は能力が格上の常盤台の生徒たちを翻弄し、競技を優勢に進めていた。

 

「残ったのはもしかしてミサカだけですか、とミサカは相手校の作戦に驚きます。」

 

 相手校の生徒15人に囲まれながらミサカ10032号は呟いた。

 

 学習装置で孫子だとかの兵法を知識として持っているミサカ10032号は慎重に行動していたため最後まで生き残れた。しかし、この競技に役立つ能力を持たない10032号には厳しい闘いだ。今も相手に追われながら校庭の中心に誘導されてしまった。誘導されていることには気がついたがその方向へしか逃げられなかったのだ。

 

「慌てるな!冷静に距離を縮めるんだ。」

 

司令塔らしき生徒の指示で包囲が小さくなっていく。

 

「ならば突貫あるのみです、とミサカは賭けに出ます。」

 

10032号は包囲を突破しようと突き進む。相手の生徒たちはそれを止めようとするが軍用に作られたミサカ10032号のバルーンに玉を当てるのは容易ではない。

 

「なんだこいつ!ドッジボールのプロか!?当たらない!」

 

「.....おい、サッカー部、投げられた玉をオーバーヘッドで蹴り返せるか?」

 

「よし、どさくさに紛れて抱きつく。」

 

「おい、味方に当ててどうすんだ!」

 

「.....せめ、て、バルーンに、当て、ろ、よ。」

 

「ボールを持っているとは言え、俺のジャブをことごとく避けやがった!」

 

観客席からの声援が大きくなる。ゲコ太のお面を着けた観客にいたっては大興奮している。

 

「いけー!おもいっきり楽しみなさい!」

 

一方通行たちも競技から目を離せない。

 

「」

 

《ははっ、もっと鍛えねェと勝てなさそうだなァ。》

 

「逆転だ!勝てるぞ!」

 

「うぅ血がたぎるってミサカはミサカは参加したい気持ちが抑えられないことをアピールしてみる!」

 

「だめよ、しっかり応援してなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

(避けることは難しくありませんが、これでは反撃できません、とミサカはこっそり練習していた技を披露します。)

 

10032号は体を左右に振る。

 

「まさか!?」

 

「これは!?」

 

「デンプシーロール!?」

 

10032号の軌跡は八の字を描く。常に動き続けるため、相手は玉を当てにくい。それだけではない。

 

「うわっ!」

 

「速い。生半可な練習で身に付く動きではない。」

 

「はぁっ!?」 

 

「かはっ!」

 

10032号の反撃が始まる。体を振るリズムにあわせて玉を投げ、握って殴っているのだ。攻撃と防御の両立、それがデンプシーロールだ。

 

(この調子で続ければ勝てるとミサカは確信します。)

 

「このままじゃ、逆転されるぞ!」

 

「くそっ、ここまで来たのに......。」

 

「やっぱり能力が強くなきゃ勝てないのかよ。」

 

「いやいや、デンプシーロールできる能力ってなんだよ?」

 

しかし、その反撃は唐突に終わる。



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蚊に刺された

「どう、楽しかった?」

 

競技が終わり、観客席へ戻る途中の10032号にゲコタのお面を着けた人物が話しかける。御坂だ。

 

「お姉様。代役として参加したのにも」

 

「そんなことは良いのよ。係りの人に間違われちゃったのは仕方ないし、そもそも私が出場に遅れたのが原因だし。アンタは楽しかった?姉としてはそっちのが重要よ。」

 

少し申し訳なさそうな10032号の言葉を遮り、御坂は質問を繰り返す。

 

「はい。楽しかったです、とミサカは顔を赤くしながら答えます。」

 

「いや、赤くなってない。ま、それなら良かったわ。最後なんて私よりよっぽど粘ってたじゃない。さすが私の妹!」

 

それじゃ、この後も楽しみなさい、と言い残して御坂は去って行った。

 

「今日、来られて本当に良かったです、とミサカは呟きます。っ!?」

 

歩き出した瞬間ミサカは崩れ落ちた。足に、全身に力が入らない。ミサカは倒れたまま体操着の土がついてしまったところを見る。

 

(お姉様の、お友達に、貸していただいた、もの、なのに)

 

10032号の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天井は不安になっている。

 

「10032号遅くないか?」

 

ガタガタ

 

「あれよ、お花摘んでいるのよ。察しなさい。さっきから数秒毎に、うるさいわ。」

 

ガタガタ

 

「え、ミサカも一緒に摘みたいってミサカはミサカは駄々をこねてみる!」

 

ガタガタ

 

「Calm down.トイレに行くと言う意味よ。」

 

ガタガタ

 

先程からベンチが揺れているのは天井の貧乏揺すりのせいだ。

 

「そんなに心配なら探してきなさい。一方通行も。」

 

ガタガタ

 

「あァ?なンで俺が。『行ってきまァす』チッ。」

 

ガタガタ

 

《一応探しに行こうぜェ。万が一ってこともあるし。》

 

(面倒くせェ。)

 

「よし、行くぞ!早くしろ一方通行!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《チーズフォンデュ、だと....!?》

 

(鍋持参かよ。)

 

天井と2手に別れて数十分経った。一方通行が食堂でキョロキョロしていると、変なお姉さんを視界に入れた。

 

《丁度イイ。あの人に10032号を見かけたか訊こう。》

 

(やけに似てる気がするンだが。)

 

人に話しかけられない一方通行に変わって第二人格が質問する。

 

『すみません。茶髪の常磐台中学生見ませんでしたか?超能力者第三位、超電磁砲って言うンですけど。』 

 

するとお姉さんは笑って答えてくれた。

 

「あら、私の娘に何か用があるのかしら?」

 

《おいィィィ!》

 

(.....似てるわけだ。オリジナルの母親か。)

 

一瞬逃げようかと考えた二人だが、御坂美琴とも面識があることを思い出した。

 

『あァっと、御坂のお母さんでしたか。俺は御坂の友達でして、用があるので探しています。』

 

「あら、美琴ちゃんのお友達?ごめんなさい、今飲み物買いに行っちゃったわ。たぶんドリンクバーが混んでるから自動販売機で買ってると思うけど。」

 

『そォですか、じゃァ、そちらに向かいます。ありがとうございました。』

 

第二人格はボロが出る前に退散することにした。

 

「いえいえ、美琴ちゃんと仲良くしてあげてね!」

 

《あれ、中学生って10代だよな。その親ってことはあの人の年齢って....》

 

(....成長させられたクローンじゃねェだろォな。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに数十分後、天井は女子中学生に話しかけていた。

 

「やっと見つけた。道に迷ったのか?さあ、帰るぞ。」

 

「え、アンタ誰?」

 

いきなりおっさんに話しかけられた御坂は放電して身構える。

 

「あ、オリジナルの方か。ごめんごめん。君の妹がどこに行ったか知らないかい?」

 

「.....誰?」

 

御坂はさらに電圧を上げる。

 

「いやいや、怪しいものじゃない!一方通行のことは知っているだろう!?彼の友人だ。妹達と暮らしている研究員の一人だよ!天井だ!ほら、この写真を見てくれ!」

 

必死に弁解する天井からタブレットを受け取り、表示されている何枚かの画像を見る。そこには目の前のおっさんや研究員ら一方通行、妹達の生活感溢れる様子が写っていた。御坂は放電を止める。

 

「すみませんでした!少し驚いちゃって。妹ならさっきの競技の後話したきり見てませんよ。」

 

「そうか、なら監視カメラをハッキングしてくれ。君なら簡単だろう?」

 

天井はとんでもないことを言い始めた。

 

「えっ、まあ、できますけど。」 

 

そして、そのとんでもないことをこの娘は度々行っている。

 

「よし、頼んだよ!」

 

天井は親指を立てて突きだす。

 

 



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妹を探せ

「まずいな....。」

 

天井が真剣な表情でモニターを覗き込んでいる。

 

「早く救急車の行き先を調べないと!」

 

 御坂と天井はミサカ10032号を探すために、電子端末で監視カメラの映像データを盗み見していた。そして直ぐに御坂とミサカ10032 号が別れた場面を見つけられたのだが、その後が問題だった。

 

 ミサカ10032号が御坂を見送って歩き出した瞬間、突然倒れてしまったのだ。そのまま意識を失ったようで、立ち上がらない。幸いにも数分で通行人が見つけてくれたおかげで救急車に乗せてもらえた。しかし、それも問題なのだ。

 

「病院で身元を調べられたらクローンだってばれるかもしれないわ!早く!」

 

「そ、そうだな!治療なら私のまずは、えー、どうする!?またハッキングか?」

 

「街の監視カメラを全部見るのは私だけじゃ時間がかかりすぎるわ!それよりも私の友達に風紀委員がいるわ。この会場にも風紀委員の設備は用意されているし、非番でも用があれば使えるかも!その娘に頼んで調べてもらうわ!車持ってますか?」

 

「ああ。近くの駐車場に停めてある。」

 

「まずは初春さんを探さないと。大きな花飾りを頭に着けた中学生の女の子です。」

 

「花飾りだな!ん、あの娘か!?」

 

 天井が指差す先には三人の女の子がいる。一人は車イスに乗っているが表情を見るに、元気そうだ。

 

「あっ、黒子!初春さん!佐天さん!」

 

御坂は三人に駆け寄る。先程までより明るくなっている。友達に会えてほっとしたのだろう。

 

(いや~、女の子が仲良くしてる姿ってなんか良いな~。)

 

 天井はそんなことを考えたが、どうやら様子がおかしい。話を聴いていると、どうも友人同士の会話とは思えない。三人とも御坂に対して初対面のような態度なのだ。

 

 御坂と三人は少し話したが、それだけで三人とも去っていってしまった。

 

「どうしたんだ?」

 

「....食蜂っ!」

 

ビクッ

 

(え、な、なぜ急に怒り始めたんだ...?)

 

(私の友達に手を出して、もうイタズラじゃ済まさないわよッ!?)

 

「あ、ははは何か私のこと忘れちゃってるみたいで...。」

 

無理矢理に笑おうとするが、言い終わってすぐに俯いたのを見ればつらいのが誰にでもわかる。

 

(え、ええ...!なんだ?あれか、噂に聞く女の子特有のどろどろの人間関係ってやつか?だとしたら何て慰めれば...?)

 

 天井はオロオロしながら御坂を見ている。

 

 だが!天井は馬鹿ではない!女の子のどろどろした渦に巻き込まれた状況。普通の人なら絶対に巻き込まれたくないこの状況で、なんと!天井は渦の中の地の利を見出だした!

 

(はっ!そうか、これがフラグ!うまく慰めればもしかすると。フフフフフ。)

 

天井がアホなことを考えている横で御坂は怒りを抑えながら状況を整理していた。

 

(食蜂がちょっかいを出してきたことと、あの子が倒れたことに関係は?あいつの能力なら気を失わせることくらいできるし、黒子たちの記憶だって簡単に消せる!)

 

御坂は10032号が倒れたことと食蜂の関係を疑っている。

 

(いくらなんでも考えすぎかしら。)

 

「御坂、まあ友達だって時には喧嘩を」

 

「考えている時間は無いわ!とにかくあの子を見つけないと!」

 

「はいッ!そにょ、その通りだ。一方通行にも連絡しよう!フフフ、あいつなら簡単に解決してくれるだろう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 御坂と天井は救護班の一人に救急車の行き先を尋ねたが、様子がおかしい。

 

 大覇星祭では怪我人が続出する。それの対策として救急車を事前に数台用意しているのだ。その救急車はこの救護班が管理していて、救急車の行き先がわからないなどということはあり得ない。

 

「思い出せないってどういうことよ!」

 

御坂が班員の一人の襟を掴んで詰め寄る。

 

「本当だ!自分でもわからないが救急車の行き先だけが思い出せない。」

 

(もう、食蜂が関係していると見て間違いないわね。)

 

「ここにいても埒が開かない。一方通行が空から探しているから救急車はすぐに見つかるだろう。だが、救急車は何台走っていてもおかしくない。一方通行でも空から救急車の、患者を見分けるのは不可能だ。まさか救急車を止まらせるわけにはいかないしな。そうすると手分けで病院に着いて出てきた患者を一人ずつ確認するしかない。わたしたちは車で探すぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そンで、今救急車を追跡してンだなァ?オリジナルはどォした?」

 

一方通行は空から救急車を見つけているが、大覇星祭の期間は救急車が多い。特定できないから、いくつかの病院を確認しにいかなくてはならない。

 

「それがな、まだ続きがあるんだ。」

 

天井が救護室から駐車場に行く途中に出会った心強い仲間の話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前。

 

「あら、御坂さん。ここにいらっしゃいましたの?」

 

「婚后さん!」

 

常磐台中学の生徒、御坂の友達の婚后光子だ。

 

「それにしても御坂さん双子でしたのね。わたくし少し驚いてしまいましたわ。」

 

「「へ?」」

 

今何て?

 

「隠さなくてもいいんですわよ。同じ中学の仲間じゃありませんの!審判にばれないかヒヤヒヤしていましたが、素晴らしい活躍でしたわ。さすが御坂さんの姉妹!」

 

(ばれてるぅ!)

 

(おう...。)

 

ほとんどの人は気がついていないはずだが、この婚后光子は並外れた観察眼の持ち主らしく、10032号が御坂でないことに気がついているらしい。

 

「え、ええ。妹よ。そ、そのことは誰かに話したり....?」

 

「まさか!このわたくし、お友達の秘密を暴露するような口の軽い人間ではありませんわ。このことはわたくしと御坂さんだけの秘密にしておきますわ!」

 

「そ、そうね。そうしてもらえると助かるわ。」

 

御坂は安心して息を吐き出す。今のやり取りで少し疲れたようだ。 

 

「ところで妹さんはどちらにいらっしゃるの。競技中のあの動き、わたくしにもやり方を教えていただきたいですわ。」

 

「....実は大会の後救急車で運ばれちゃってて。今どこにいるかわからないのよ。」

 

「なんですって!?それは、心配でしょう。わかりましたわ。わたくしも探しますわ!」

 

「でも、実は食蜂が絡んでて....。」

 

御坂が拳を握る。

 

「.....なるほど。そういうことでしたの。先程白井さんたちに会いましたの。ですが白井さんの様子が変で、御坂さんのことを超電磁砲などと他人のように話していましたの。あれは食蜂の能力によるものなのですわね!?許せませんわ!ぜひわたくしに御坂さんのお手伝いをさせてくださいませ!」

 

婚后は御坂の手を両手で握りながら、目を真っ直ぐ見つめている。

 

「ありがとう...!」

 

御坂は泣きそうになりながらも嬉しそうに笑っていた。

 

(フッ、わたしはお邪魔のようだな。天井亜雄はクールに去るぜ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「去るンじゃねェっ!」

 

一方通行が電話越しに叫んだ。天井の耳がキーンとする。

 

「と、いうわけで別行動だ。」

 

「おい、その二人はオマエが別行動になってンのを理解してンだろォなァ?」

 

「フハハハハ!当然、電話番号、メルアド共に入手済みだ!二人分な!」

 

『あっ!ずりィぞ!後で俺にも教えろやゴラァ!』

 

第二人格が久しぶりに出てきた。

 

「馬鹿なこと言ってねェでさっさと探しやがれ!この三下共がァっ!」

 

「ん?のり突っ込みか!?なかなかやるようになったな一方通行!」

 

「黙りやがれッ!」

 

再び天井の耳がキーン状態になってしまった。

 

 



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一方通行絶体絶命

婚后は10032号が倒れた場所に戻って、手がかりを探していた。

 

「さてと、御坂さんが捕らえられてしまったからには、このわたくしが妹さんを取り戻しますわ!あら、今助けてあげますわ子猫ちゃん!」

 

婚后は扇子を握りしめる。

 

そして御坂は、

 

「御坂さんはここにいらしてくださいね。」

 

「あまり先生方に迷惑をかけてはいけませんよ?」

 

(食蜂の派閥...。やっぱりあいつが関わってるわね。)

 

食蜂の派閥の生徒たちに囲まれていた。超能力者の御坂でもこの人数の能力者を相手に戦うのは難しい。そのうえ、この生徒たちは御坂に敵意があるわけではない。御坂が救護班の班員の胸ぐらを掴んだことで常磐台中学の教師に叱られ、この生徒たちはその教師に御坂を見張るように言われているのだ。怪我をさせるわけにもいかない。

 

(食蜂のこと、婚后さんが天井さんに伝えてくれているはずだわ。私も早くここを抜け出さないと。) 

 

その最大の障壁は

 

(御坂さん、私の念話の回線が繋がっている間はどこへも逃げられませんわよ。)

 

この念話能力者だ。この生徒も御坂に敵意はなく、教師の指示に従っているだけだ。

 

(....どうしようかしら。)

 

 

天井は一番患者が多く運ばれている病院に着いた。大覇星祭の会場の近くに大病院があったことで会場からの救急車は全てその病院に向かっているようだ。

 

(ここの院長なら話せば理解してくれるだろうな。ここに運ばれていると良いのだが。)

 

メールが来たよってミサカはミサカは

 

天井の、携帯電話が着信を知らせる。

 

「ん、メールか」

 

婚后からだ。

 

「女の子からのメール!イヤッホオオオオ!」

 

狂喜していた。

 

「ん、なんだと!心理掌握が絡んでいるのか!?と、なると妹さんを気絶させた理由がわかりませんわ、か。確かにその通りだ。御坂は動きを封じられたか...。一方通行にも送らねば。」

 

天井は当然心理掌握を知っている。超能力者、食蜂。能力名、心理掌握。彼女は人間の心を読む、操る、記憶の操作など、人間の脳を操作できる。気絶させることもできるかもしれない。

 

しかし、10032号を連れ去りたければ10032号を操って自分のところに来させればよい。救急車で運ばせる理由がわからない。

 

「まあ、妹達のことを世間に公表して御坂を嫌がらせようとしているのかもしれないが。いやいや、暗部でもない中学生が妹達の存在を知っているはずが....。」

 

 学園都市では非人道的な実験や違法な実験も行われれている。そういった実験は公表されることはない。それでも運悪くそうした実験を知ってしまう人もいる。

 

 彼らは消される。

 

 暗部というのはそれらの公表できない実験に関係する研究者やその実験を隠匿する仕事を持つ連中である。

 

 御坂と上条は妹達のことを知っているが、もしも、天井がこの二人を消すように上層部に要請すれば超能力者として有益な御坂は人質を取られ、無用な無能力者は消される。

 

 さらに、その暗部のなかには学生もいる。死体処理や命じられるままに戦う使い捨ての下っ端から、技術や能力の高さから重宝される者まで様々だが、ほとんどは使い捨てだ。口封じに、仕事が終わってすぐお亡くなりになることもある。

 

 もちろん使い捨ては自分が何の実験を手伝っているのかすら知らされない。暗部の学生のなかで自分が何をしているのか正確に把握しているのはほんの一部だ。

 

 つまりクローンの存在はは暗部でも知っている人間が少ない。食蜂がそれを知っているとすれば暗部に関係していることは間違いない。それも奥深くを知っている。

 

 天井はそんなことを考えていたが、また疑問が増えた。

 

「しかし食蜂が暗部だとしても、嫌がらせするために自分を犠牲にするわけないよな。」

 

attention please....why?どうしてこんな録音

 

天井の携帯が鳴る。

 

「もしもし、一方通行か。」

 

「わかってるとは思うが、その食蜂ってやつが関係してンのは間違いねェが、10032号を拐ったのは目的じゃねェ。手段だ。」

 

「だろうな。何が目的かはわかるか?」

 

「さァな、学園都市の不正を告発しようってバカな正義感は無さそうだ。後ろに誰か付いてンのかもな。とりあえず10032号が病院以外の場所に連れ去られた可能性もあンな。」

 

「そうだな。食蜂によって連れ去られたと決めるのもまだ早そうだ。今一番多くの救急車が運ばれた病院にいる。ここの院長に事情を説明してくる。まあ10032号はいないだろうがな。また何かあったら連絡する。」

 

天井は通話を終わらせようとするが一方通行が続ける。

 

「あァ。いや、待て。」

 

「なんだ?」

 

「常磐台中学の生徒と他の学校の学生が喧嘩してやがる。」

 

天井が焦って叫ぶ。

 

「おいおい、髪の色は!?」

 

「黒の長髪だ。それと扇子を持ってンな。なンだ?急に倒れやがったぞ。」

 

「倒れた!?その子が婚后だ!助けろ、一方通行!」

 

「あァ、相手は捕まえて吐かせる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははっ、誰だ?もしかしてこの娘の彼氏かな。なら早くこいつを連れて病院に行った方がいいんじゃないかい?」

 

婚后は男の足下に倒れている。男と婚后を囲うように犬型ロボットが3体待機している。

 

「妹達っ言葉は知ってるかァ?」

 

「ああ、御坂美琴のお友だちか。ならきみにも聴きたいんだ。妹達はどこだい?」

 

すると婚后は倒れたまま男の足を掴んだ。

 

「早くお逃げなさい!この男のロボットは危険です!」

 

「うるさいなあ。」

 

男は婚后を蹴り飛ばす。

 

「うぐっ!」

 

「よォ。イイ趣味してンじゃねェか。」

 

《あの野郎....ッ!》

 

そう言って一方通行が男に近づこうとしたが、ロボットが婚后の背中を押さえつける。

 

「動くなよ。動いたら、バカでもわかるよな?」

 

「はァ?そいつが人質として機能するわけねェだろォが。」

 

《おいこら!》

 

一方通行は構わず近づこうとする。

 

「!?本気だぞ!まずはこいつの腕を折ってやる!」

 

『すンませンしたァァァ!』

 

第二人格がおもいっきり土下座をする。

 

『ははーっ。あなた様に従いまする。』

 

(何しやがンだ!)

 

《うるせェ。あいつは追い詰められたらネチネチしそうな顔してる。あの娘をこれ以上怪我させられねェだろォが!それに、あいつを見ろ。たぶん精神的に幼稚なタイプだ。うまくやれば10032号の誘拐についても全部べらべら話してくれるかもしれねェ。そンな感じがする!》

 

犬型ロボットが口から出した鋼鉄のムチで第二人格を叩く。肉の弾かれる音が公園に響き渡る。

 

『ぐあッ!痛ァッ!』

 

第二人格は背中を押さえてうずくまる。

 

「ハハッそうだ。それでいい。妹達はどこにいる?」

 

男は第二人格の頭を踏みつけながら勝ち誇っている。

 

『はっはい、えとトイレであります。これから案内いたしましょう!こちらです。』

 

 

「そうか。」

 

犬型ロボットは婚后を引きずりながら連れてきている。

 

《あの娘から離さねェと攻撃できねェな。後で潰してやるからなァ、一方通行が!》

 

『ところで、わたくしめにあなた様のお名前をお教えいただけないでしょうか?』

 

第二人格は少しずつ情報を抜き取ろうとする。

 

「馬場だ。」

 

『良きお名前にございますなァ。ところで妹達をどうしたいので?』

 

「連れてくるように依頼されてね。優秀だと頼られてしまって困るよ。」

 

『さすがでございます!』

 

《こいつかァッ!》

 

(待て、こいつが誘拐しやがったとするとどォしてまだ妹達を探してンだ。)

 

『では、何人必要なのでございましょう?』

 

「一人で十分だ。」

 

《あれ?》

 

(どォなってやがンだ?)

 

馬場は10032号の誘拐犯ではないようだ。

 

『そういえば妹達を拐ったとなれば超電磁砲、御坂美琴が怒ると思われますが...?』

 

「ふんっ、御坂美琴はすでに眠ってもらっているよ。競技中に、あるナノロボットを使ってね。競技が終わってしばらくしたら倒れて、今頃病院で寝ているだろう。超能力者なんてこんなものだ。これ以上は聞かない方が良い。怪我したくなければね。」

 

馬場は得意気に話す。

 

『すごいですね!』

 

《こ、こいつ。》

 

(オリジナルと間違えて10032号を気絶させたのか。)

 

「それで、お前は何者だ?」

 

『へ?』

 

「妹達のことを知っているやつが一般人なわけない。」

 

馬場もそう易々と第二人格の口車に乗りはしない。第二人格は焦った。馬場が一方通行の存在に気がつけば、婚后を人質にしながら逃げてしまうだろう。そうなれば第二人格も一方通行も手が出せない上に婚后がより危険になってしまう。

 

どうにかしてごまかすしかない。

 

『いえいえ、たまたま知っただ』

 

ビシッ

 

『がァァァァァ!』

 

第二人格の背中を先程の鞭が叩く。

 

『うが、ぎ。ぐがっ、あ。』

 

「ほら、早く喋りなよ。」

 

『ほ、本当に、何も、ぐがァァァァッ!』

 

白い体操服に赤い血が滲む。それでも鞭は止まらない。

 

(早く変わりやがれ!)

 

《ダメだ!あの娘を助けられる状況になるまでは代わらねェ!》

 

鋼鉄の鞭は止まらない。気を失いたくなるような激痛が何度も走る。このまま叩かれていれば本当に気を失ってしまうかもしれない。

 

しかし、その時

 

「婚后さん!」

 

女の子の叫び声と共に、水の塊がロボットをはね飛ばした。

 

《よし....,。今、だァ。ぶっ飛ば、せェ。》

 

(ハッ、やっとか。)

 

この好機を逃さぬように、第二人格はすぐに一方通行と交代した。

 

「くそっ何だ!?」

 

馬場は水が飛んできた方向、後ろを振り返り、一方通行に背を向けた。しかし、この瞬間を待ち望んでいたはずの一方通行はなぜか動かない。

 

「」

 

《おい?》

 

「」

 

《ねェ!気絶してンの?嘘だろ!?》

 



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丸太ほどじゃないが石も便利

《とりあえず交代しねェと。》

 

再び感じる背中の痛みに体が固まる。

 

《痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!》

 

第二人格が痛みを堪えて周りを観ると、女の子が3人婚后と自分を守るように囲っていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

『あ、は、、い。』

 

《痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い》

 

「って佐藤さん!?」

 

『さ、とう?』

 

「忘れたんですか?前に助けてもらった佐天ですよ!ほら風紀委員支部に連れていかれたことありますよね?」

 

佐天が興奮したように第二人格に詰め寄る。

 

『あのときの!?痛ァ!』

 

「意識が戻ったようですね。良かったですわ。」

 

「わたくしたちのお友達を守っていただいてありがとうございます。」

 

常磐台の制服を着た女の子二人が馬場を睨み付けたまま第二人格に話しかける。常磐台の学生というとおしとやかなお嬢様というイメージが強いが、今の彼女たちはそこからほど遠い。

 

「佐天さん、子猫と婚后さんとその方をお連れしてお逃げください。」

 

《子猫?》

 

気を失った婚后の側で子猫が心配そうに座っていた。

 

「...わかりました。無事に帰ってきてくださいね!って重っ!」

 

『重ってあンた...。』

 

佐天は婚后を抱き抱えて立ち上がるが、自分より背の高い婚后を運ぶのは大変なようだ。

 

「これでどうでしょうか。わたくしは浮力を操作できますので。」

 

黒髪の娘、泡浮が婚后の体に触れると体重が軽くなる。

 

「軽くなった!必ずまた会いましょうね!」

 

「「はい!」」

 

佐天が橋を走り渡って去って行く。

 

「まあ、どうせ話してくれそうになかったしね。ところで君たちに提案が」

 

馬場がにやついた顔で3人に何か話しかける。

 

『俺は残るぜェ。痛みも引いてきたし。』

 

「無理はなさらないでください!その怪我ではそうとうおつらいはずです。」

 

もう一人の女の子、湾内が第二人格の怪我を心配する。どう見てもすぐに病院に行ったほうが良さそうな大ケガだ。

 

『そうもいかねェンですよ。俺はあいつに用がありましてねェ。』

 

「提案があ」

 

《痛い痛い痛いじゃねェンだよ!能力が使えなくても戦えねェわけじゃねェだろォがシャキッとしろ俺ェ!でも痛いもンは痛いけどなァ!》

 

「わかりました。それではお願いしますわ!」

 

『そンで、作戦があンだけどさ』

 

「作戦?」

 

3人は馬場に背を向けこそこそと話す。

 

「聴け!」

 

『うるせェなァ。人質がいねェ以上、オマエは俺たちにぶちのめされンのが確定なンだよ。どれだけ優秀でも飛べても豚は豚なンだよ。』

 

「「それは豚さんに失礼ですわ」」

 

「ふんっ、これを聞いてもそんなふざけた態度でいられるかなあ?さっきの娘に蚊型ロボットでナノデバイスを打ち込んだ。これだ。それによって彼女は今高熱に苦しんでいるわけだが、そこで提案だ。君たちが御坂美琴の妹について話してくれればこれを渡そう。これを解析してナノデバイスを無効化すれば彼女は元通り元気になるよ?」

 

「お断りします。」

 

「わたくしたちは御坂様の妹は存じませんし、それではどうしても気持ちが収まりませんので。」

 

「力ずくで取らせていただきますわ!」

 

『そうだそうだ!』

 

第二人格は石を拾って馬場に投げつけた。しかし、近くにいた犬型ロボットがそれを防ぐ。

 

《やっぱ痛ァ!》

 

「交渉決裂だね。ならこの蚊型ロボットは」

 

第二人格がもう一発投げた。

 

「無駄だ。うっとおしだけだよこんなの。」

 

今度は第二人格と泡浮が一緒に投げる。砂も混じっている。二体の犬型ロボットがそれを防ぐ。

 

「だから何なんだ!」

 

さらに投げる。両手を使って適当に投げまくっている。石も砂も混ざっているがとにかく投げ続ける。

 

『オラオラオラァッ!』

 

《痛 痛 痛ァッ!》

 

「お、おらおらおらぁ!」

 

第二人格は痛みを力に変えて石を投げ続けるッ!脳裏に浮かぶのは妹達との苦しい戦闘、筋トレ。その成果が今、発揮せれる!

 

「この...!」

 

犬型ロボットは忙しく全て鋼鉄の鞭で打ち落としている。

 

「ふざけているのか?んぐっ!?」

 

怒りを通り越して呆れた顔で首を振っていた馬場が、突然、糸がきれた人形のように倒れてしまった!

 

「それでは持ってきますね。」

 

泡浮が二人から離れてどこかへ行ってしまった。

 

「油断しましたね?」

 

湾内が馬場を見下ろす。

 

「むぐ!」

 

馬場は倒れたまま苦しそうに湾内を見上げる。さすがに馬場は何が起きたか理解したらしい。

 

使ったのは簡単な方法だ。まず、湾内の能力だが、水を操ることができる。操れる最大の水の塊は4つ。

 

さらに、この公園。都合のいいことに佐天さんの通った橋のしたには人工的に作られた川がある。ここからいくらでも水を持ってこれるのだ。

 

 そこで石を投げて気をそらして少量の水を気づかれないように馬場に近づけた。そして水を馬場の鼻から喉に流し込みそこにとどまらせる。さらに耳からも水を侵入させ三半規管を掻き乱して平衡感覚を狂わせた。

 

「それではお仕置きですわ」

 

「がらがらがら!」

 

何を言っているのかわからないが犬型ロボットに自分を守るように命令したようだ。さらに湾内が2つの水の塊で馬場を狙うが、それを犬型ロボットが鋼鉄の鞭で打ち壊す。

 

「持ってきましたわ!」

 

馬場は走って戻ってきた泡浮が持ってきたものを見て青ざめてしまった。

 

「実はわたくし、力持ちなんですのよ。」ナンチャッテ

 

泡浮の持ってきた6tトラックが馬場の目の前に落とされる。

 

しかし、自分で優秀というだけあって、馬場は三本のストローを口に突っ込んで湾内の操作する水の塊を無理やり合計5つにした。これにより喉の水に湾内の操作が及ばなくなる。

 

「はぁ、はぁ。」

 

もう、遅いが。

 

「ひ、人のトラックを壊しちゃいけないんだぞ!ああーッ!」

 

馬場はぎりぎり無事だが馬場を守るように命じられていた犬型ロボットはぺしゃんこだろう。

 

「作戦成功ですわね!」

 

「ええ、やりましたわ、湾内さん!」

 

湾内が新たに操作する水を、泡浮がトラックをもう一度持ち上げる。

 

「ははは....。怪力女と石ころって、原始人に負けた気分だ....。」

 

第二人格は近づいて放心している馬場から蚊型ロボットを奪い取る。そして、問いかける。

 

『そいつはどォも。でだ、オマエがどちらさンか聴かせてくれよ。妹達のことを知ってンだから一般人じゃねェンだろ?』

 

 

 

 

 

 

 

馬場の出番は呆気なく終わってしまった。



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25話

『フハハハさァ吐け!吐かンかァッ!』

 

第二人格は勝ち誇りながら馬場に近づく。

 

「待て!近づくな!」

 

『断る。』

 

「話を聞け!これを見ろ。」

 

馬場は焦りながらも笑みを浮かべて携帯端末で動画を見せる。誰もが諦める場面だが、暗部で生きている馬場は知っている。諦めてたやつはそこで人生終了であると。

 

『あァ?...オマエ!』

 

画面には一人乗りらしい昆虫のようなロボットと一人の少女が映っていた。

 

「そうだ妹達の一人だ。君たちと戦う前に念のため呼んでいたロボットだが運良く見つけたようだね。さて、また人質ができたが、どうする?」

 

馬場は形勢逆転を確信して焦りが消える。

 

『この野郎...。』

 

第二人格は足を止めた。それを見て馬場は端末に話しかける。

 

「やあ、初めまして妹達。怪我したくなければおとなしくしていてくれよ。」

 

画面の中の少女はロボットを睨んでいる。

 

「あの、御坂様ならどうにかできるのではないですか?」

 

泡浮は不思議そうな表情で第二人格に質問する。

 

『いや、こいつは』

 

第二人格が妹達のことをどう説明しようかと考えていると、湾内が画面を指差した。

 

「ほら、このロボット壊されてしまわれましたよ?」

 

『ん?』

 

「なにーっ!?」

 

第二人格と馬場は画面を覗き込む。確かにロボットはボコボコにされていた。

 

「.....。」

 

『.....御坂だな。すげェビリビリしてるし。』

 

さらに、御坂はこちらを向いた。

 

「見ているわよね。誰だか知らないけど今後これと似たロボットが私の友達の近くにいたら、」

 

御坂はすでに運動機能を停止させたロボットに手を向けてコインを親指で弾いた。

 

「潰すわ。」

 

コインがロボットを破壊した轟音と共に、通信が途切れた。

 

「....。」

 

『吐け。』

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「下ろしてくれ。もう君たちに手を出さない!頼む。」

 

馬場は裸で公園の木に縛って吊るされている。その下にはトラックを持ち上げる泡浮と水を操る湾内もいる。その近くで第二人格は電話を掛けていた。

 

「食蜂は関係ない?」

 

電話の相手は天井だ。病院の院長に説明し終わった天井は車に乗って公園に向かっている。第二人格たちは公園の入り口で待機している。

 

『いや、関係はしている可能性が高い。だけど別に動いている連中がいンな。暗部のメンバーって組織は知ってる?』

 

「知らんな。」

 

『まァ、そいつらメンバーが妹達を拐おうとしてやがる。しかも統括理事長の命令らしいぜェ。』

 

「なら、10032号を拐ったのは統括理事長!?」

 

『いやァ、それがよくわからねェ。メンバーの一人が御坂にナノデバイスを射ち込もうとして10032号に射ったらしい。』

 

「バカなのかそいつは。それで、10032号はどこだ?」

 

『それがわからン。』

 

「そうか...。ひとまず婚后が無事で良かった。佐天さんが自転車のかごに婚后を載せて来た時には驚いたが。」

 

『かごに...。じゃ、じゃあ婚后に射たれたナノデバイスと同じものを奪ったからこれを解析できるか?』

 

「たぶん無理だ。」

 

『え。』

 

「化学とか生物学系が専門なんだ。機械も並の技術者程度には扱えるが統括理事長の指示を受ける暗部組織のナノデバイスは無理だ。」

 

『えェ...。』

 

「安心しろ院長ならできるから。絶対。」

 

『院長って医者だよなァ?何者だよ。』

 

「さあな。御坂にはわたしが連絡しておく。ん、着いたぞ。」 

 

天井の車が第二人格の前に停まる。

 

『よし、そンじゃ乗ってくれ。』  

 

(あァ?どォして天井がここにいやがンだ?)

 

《やっと起きたか。痛いから交代なァ。》

 

(チッ、痛ェな。)

 

「失礼しますわ。」

 

「お願いしますわ。」

 

「どこかへ行く前に下ろしてくれ!」

 

湾内とトラックを置いた泡浮が車に乗る。

 

「初めまして、天井亜雄です。」

 

爽やかなスマイルを浮かべながら天井は歓迎した。

 

一方通行も続いて乗り込もうとする。

 

「おい!ずるいぞ一方通行なぜお前だけ女の子の隣なんだ!」

 

「うるせェ。早く行け。」

 

「一方通行!?」

 

馬場が叫び、急に怯え始めた。

 

「ま、まさか実験に使用される妹達に手を出した僕たちを始末しようと?」

 

「ハッ、次はねェ。」

 

一方通行はトラックを蹴り飛ばした。トラックは不自然な潰れかたをしながら、爆薬を使ったように弾けてしまった。

 

「」

 

「じゃァな小便小僧。」

 

馬場の下に水溜まりができた。

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

「あれ、わたくしはなぜ寝ていたのですか?」

 

しばらくして婚后は目を覚ました。

 

「婚后さん!」

 

「どこか痛いところはございませんか?」

 

湾内と泡浮がベッドに手をついて身をのり出す。

 

「天井さんもどうしてここに?妹さんは?」

 

「御坂に連絡したら、君が起きるまで待機するように言われてね。」

 

「皆さん。天井さんも。申し訳ありませんでしたわ!何の役にも立てず。信頼してくれた御坂さんにも会わせる顔がありませんわ...。」

 

「そんなことありませんわ!」

 

「そうですわ!」

 

「あなたにも謝らなくてはいけませんわ。」

 

婚后は一方通行の方を向いた。

 

「わたくしのせいで酷い怪我を、本当に申し訳ありませんわ!」

 

「...大した怪我じゃねェ。」

 

「ですが...。」

 

《ほら、励ませェ!》

 

(チッ。)

 

「確かにオマエらは俺からすれば三下だ。だがなァ、馬場から情報を聞き出せたのはお前が馬場と接触したからだろォが。オマエは役に立った。」

 

「そうだとしても妹さんがっ、御坂さんとの約束はまだっ!」

 

婚后はベッドから起き上がろうとする。

 

「無理はしないでください!」

 

佐天が立ち上がろうとする婚后の前に立つ。

 

「オマエは寝てろ。体調不良の三下が何人いようが変わらねェ。人質にされると厄介だ。」

 

「っ!」

 

婚后は自分の太股をつねって涙を堪えている。

 

《じゃねェだろォが!さっき役に立ったって言ったよなァ?なら言うことがあンだろ。この場で裸躍りしてやろうか?あれだ、強くなりるにはどうすればイイ?》

 

(チッ。)

 

そう言いながら一方通行は妹達との実験を思い出した。

 

「弱いままが嫌ってンなら努力しろ。能力以外もな。俺もそうしてンだ。じゃァな。」

 

「努力.....。わかりましたわ。必ず今以上に強くなってご覧にいれますわ。」

 

「ハッ、勝手にしろ。『早く良くなれよォ!』」

 

「それじゃあ、お大事にな。」

 

 



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初対面

太陽が低くなって気温も下がっている。馬場を吊るしてから数時間は経っているようだ。

そして、病院から出てきた一方通行と天井はの前に意外な人物が現れた。

 

「よう、第一位。」

 

「なンの用だ第二位?」

 

ベンチに座ったまま垣根提督に対して一方通行と天井は身構える。

 

(こいつも関わってやがンじゃねェだろォなァ?)

 

《だとするとかなり大変だよなァ。第二位だしそれなりには強いンだろォし。》

 

しかし垣根は両手を挙げて敵意が無いことをアピールする。表情もまるで今日の天気の話をしているようで、緊張の欠片もない。

 

「そう固くなるなよ。ただテメェに訊きたいことがあるだけだ。」

 

「...言ってみろ。」

 

「まずは今のこの状況だ。何を探している?」

 

垣根は何をしているのか、ではなく何を探している、と言った。実はすでに答えは予想できていて、それを確認しているのかもしれない。

 

「オマエには関係ねェことだ。さっさと帰って寝てろ。」

 

「そう言うだろうと思ったよ。なら次だ。テメェ、どうしてあの中学生を助けた?」

 

この質問が垣根の一番知りたいことのようだ。先程とは変わって目が真剣になっている。

 

「俺が助けたンじゃねェ。」

 

「あ?まあ、あの姿は無様だったし、実際あの3人の女が来なければテメェは何もできなかっただろうな。だが俺が聴きたいのはそんなことじゃねえ。」

 

垣根は思い出したらしく、少し笑ったがすぐに真剣な表情に戻った。

 

「少し前のテメェならあそこで土下座はしねえはずだ。何があった?」

 

「ハッ、初対面のはずだが、オマエはおれのストーカーか?」

 

「まあ、似たようなもんだ。」

 

「」

 

《》

 

一瞬固まる。

 

「ぶふぉっ!うっ、鼻に。」

 

天井もヤシの実サイダーを噴き出した。

 

《え。そういう感じなの!?ライバル関係になるンじゃねェの!?》

 

(知らねェ。つーか、俺たちはこンな危ねェやつと遊ンでる暇はねェ。)

 

一方通行は無視してこの場を去ろうとした。

 

「いや、みたいなものな!そのものではなねえ!俺の上でふんぞり返ってやがる第一位ってやつが気になってな。少し調べさせてもらった。実際に会わなくても過去の行動でおおよそ性格くらいはわかるもんだ。」

 

「そォかよ、そンで俺の性格診断の結果はどォだった?」

 

「他人を見下し、関わることを避ける。そのはずだ。」

 

《いや、恥ずかしがりやサンなだけじゃねェ?》

 

(黙ってろ。)

 

「だが、オマエは自分の身を犠牲にしてまであのガキを助けようとした。ここ最近で何かあったはずだ。何をしている?」

 

『フッ知りたいか?』

 

「!?」

 

(な、何だ?雰囲気が変わりやがった!)

 

垣根は一方通行の変化を感じとった。

 

(オマエ。)

 

《いやァ、イイこと思いついちゃったぜェ。》

 

『天井サンちょっとイイかァ?』

 

「何だ?」

 

第二人格が天井とコソコソ話始めた。

 

「それが素のテメェってわけか?」

 

『どォかなァ?それで、オマエ俺のことを調べた本当の理由はなンだ?』

 

「!さすがに第一位だな。隠す必要もねえか。俺とテメェの順位の差を知りたかったんだよ。別に一番になりたいなんて考えてねえが、第一位の特典に興味があってな。」

 

『ン?なンだその特典ってのは?』

 

「本当に知らねえらしいな。統括理事長との直接交渉権だ。」

 

《なにそれ?》

 

(知らねェぞ。そンなもン。)

 

『つまり、第一位になりたいのかァ?』

 

「結果的にそうなるな。」

 

『でも俺はそろそろ絶対能力者になるから、オマエじゃ相手にならねェぞ?』

 

「あ?」

 

『今そういう実験してンの。』

 

「その責任者がわたしだ。そして第二位なら申し分ない。君も参加するかね?」

 

「なんだと!?」

 

 



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雷神サマ

「ハッ。誰がそんな得体の知れない実験に参加するか。」

 

「そうか。それは残念だ。まあ興味が湧いたら訪ねてくると良い。さらばだ!」

 

『じゃァ、急いでるンで!』

 

《あァ、疲れた。交代なァ。》

 

(早くしろ。)

 

天井と一方通行は走って車に向かおうとした。しかし垣根がそれを止める。

 

「待て。」

 

「あァ?ッ!」

 

振り向いた一方通行に白い物質が襲いかかる。

 

「一方通行!?」

 

「慌てンな。かわしただろォが。」

 

一方通行はギリギリ下に尻餅をつくようにしゃがんでかわした。以前なら能力による反射を当てにして動きもしなかっただろうが、妹達という脅威が一方通行に人間の反射神経を取り戻させた。

 

《危ねェ!いきなりなにしやがンだあの野郎!白い塊とか、アイツの能力は精○操作かァ!?》

 

(ハッ、実験はしたくねェが俺に絶対能力者に成られンのは困るってンだろ。)

 

《なンつー迷惑な...。》

 

「良く避けたな。反射しようとすると思ったよ。」

 

「なンだァ、そのメルヘンな翼は似合わねェぞ。」

 

「安心しろ、自覚はある。」

 

垣根の背には白い翼が生えていた。

 

「一方通行!垣根帝督の能力は未元物質。この世界に存在しない物質を生み出し操る能力だ。まだ見つかっていないとか、希少なんてちゃっちい物じゃない。理論上存在しない、物理法則にすら従わない物質だ。お前の反射も効くかわからないぞ!」

 

「よく知ってるな。テメェ。そうだ、簡単に言えば、俺の未元物質には常識が通用しねえ。」

 

「能力開発の研究をしている身だぞ?現存している能力、まして超能力者くらい把握している。それじゃ、わたしは10032号探しを続けるからな。しばらくしたら戻る。頑張れよ!」

 

親指立てて天井は車に乗って行ってしまった。

 

《天井ィィィッ!》

 

(居ても邪魔なだけだ。)

 

《そンなことよりベクトル変換できないアイツの未元物質、どォ戦う?》

 

(石ころみてェに思い付かねェのか?こンな道草に時間使ってる余裕はねェぞ。)

 

《石投げたってあの白いので防がれンだろォ。やっぱあれを反射できるようにする方法を考えよォぜェ?あ、思い付いたかも。》

 

(俺もだが、言ってみろ。)

 

《つまりだな....なァ?》

 

(それしかねェ。)

 

一方通行と第二人格が話し込んでいると、垣根が再び攻撃してきた。

 

「何ぼさっとしてやがる?」

 

かわすことができたが皮膚を少し擦ったらしく、足が出血している。出血といっても極めて少量だが、能力を使用中の一方通行が出血

するといるのは今まで無かった。

 

《おい、大丈夫かァ?》

 

(オマエが馬場に受けた傷に比べりゃ大したことねェ。)

 

病院で傷の手当てと痛み止めを注射してもらったことで動いても痛くなくなったが、この戦いでも傷が増えるのは間違いない。

 

《気絶とかやめろよォ?俺じゃァ、アイツを倒すのは無理だ。》

 

(....あれは寝不足が原因だァ。)

 

《え?なンだって?》

 

(うるせェ!とにかく病院を離れンぞ。)

 

《あァ、あの娘らを怪我させるわけにはいかねェもンなァ。わかってンじゃン。》

 

(チッ、面倒くせェ。)

 

一方通行は垣根と距離を取りつつ病院を離れた。

 

「おい、どこに行くつもりだ第一位?」

 

「さァな。」

 

《やっぱあの公園かァ?》

 

(他にイイ場所がねェ。)

 

一方通行は空を飛んで逃げるが垣根も翼を使って追いかけてくる。その間も攻撃は続き、少しずつ一方通行の傷が増える。もちろん一方通行も風を使って攻撃を加えているが未元物質に阻まれ、垣根には届かない。

 

「ガッ、パァッ!?」

 

白い塊が一方通行の腹部に衝突した。

 

《なンか一発のダメージが増えてねェ!?》

 

最初の傷は蚊に刺されて痒くなったところかきむしった程度の出血だったが、ついに人に殴られる程の衝撃まで強くなった。

 

しかし一方通行はふらつきながらも、なんとか周囲に人のいない広い場所に着地した。

 

「一方通行、テメェの反射は確かに優秀な盾だよ。だけどな、もしその盾が完璧ならばテメェは日常生活ができねえ。反射したら物に触れられない、飲食、呼吸はできないし、感覚器官も働かなくなるからな。つまり、テメェの反射には有害と無害を区別するフィルターの作用もある。」

 

勝ち誇った垣根はそのまま話す。一方通行はふらつきながら着地した。

 

「なら、俺の未元物質をそのフィルターに無害だと誤認させるような性質を付与しちまえば良いと思ったわけだが、正解だったらしいな。それだけでテメェの盾は機能しなくなる。もうその性質は掴んだよ。これで終わりだ。」

 

垣根は攻撃を繰り返すことで一方通行の反射のフィルターの法則を解析していたのだ。そして解析は終了ししている。垣根はとどめに未元物質でランスを作って一方通行へ発射する。

 

「あ?」

 

しかし、一方通行は垣根の視界から消えていたッ!

 

「うぐ....ッ!」

 

次の瞬間には垣根の頬に一方通行の右拳がめり込んだ。加えて、間をおかずに腹を殴る。

 

「テメェ、どうして俺の未元物質のベクトルをいじれる?」

 

殴られる瞬間、垣根は確実に未元物質で一方通行の拳を押さえたはずだった。

 

一方通行は倒れた垣根に近づきながら笑う。

 

「...ったくよォ、学園都市第二位なンだからしっかりしてくれよ?オマエが俺の反射を解析した様に、俺もオマエの未元物質を解析した。次にその解析結果を反射の設定に組み込み、修正した。そンだけのことだ。」

 

「俺の未元物質はこの世界の法則とは全く異なる物質だぞ!?この短時間で解析できるわけねえ!」

 

「なら、それが第一位と第二位の差だ。」

 

「クソッ!」

 

垣根はやけくそに未元物質を一方通行に向けて乱射すした。しかし全て反射される。

 

「クソッ!」

 

「もう一度聴いてやる。絶対能力進化計画に参加しねェか?」

 

「ハッ、断る。そんなもん、テメェの前の実験体にされて脳をいじくりまわされるに決まってるじゃねえか。」

 

「そォか。なら死ね。」

 

(止めねェのか?)

 

《いや、俺は別にイケメンは消えろォッ!とかァ、モテそうな奴は爆発しろォッ!とかそォいうのではなくてだなァ、仕返しとか怖いし。それとも止めて欲しいかァ?》

 

(ハッ、何言ってやがる。)

 

一方通行がとどめを刺そうとし、垣根は未元物質をタコの墨のようにして逃げ去ろうとした。

 

しかし、その二人の行動は一本の閃光によって阻害された。

 

《へ?》

 

その閃光は一方通行と垣根の間を通り、数百メートルは離れた地点で地面に突き刺さった。そして、隕石でも落ちたのかというように地面がめくれ上がり、空中に舞い上がった石や土が雨のように降り注ぐ。

 

一方通行は閃光が飛んできた方を向く。

 

(あァ?あれは上条か。)

 

《そォだな。》

 

(それと隣の奴は...、まァイイ。二人の奥にいる羽衣着けた御坂みてェのはなンだ?)

 

《あれじゃねェ?雷神サマ。御坂ではねェな。くらばら、くわばら!》

 

第二人格はうまく状況を掴めていないようだ。

 

「おい、あれは何だ!?」

 

「知らねェ。」

 

垣根も異常な状況に気がついた。あまりの驚きに二人の戦いは自然に終わった。

 

「面倒くさそうなやつだな。あれを先に始末するぞ。」

 

「オマエが指示してンじゃねェ。」

 

垣根は未元物質で無数の弾丸を空中に作り、それら全てを雷神さまに向かって撃ち込む。

 

しかし、いや、やはり、未元物質は雷神さまの雷に破壊され無力化されてしまった。

 

「チッ、これならどうだよ!」

 

垣根は次に巨大な右手を出現させ、ぶん殴ろうとした。それも消し飛ばされてしまった。

 

「はあ!?本当にあれは何だ!」

 

「学園都市、超能力者第1.5位じゃねェのか。」

 

一方通行がバカにするが垣根は動じずに返した。

 

「いや、0.5位だろ?テメェあの電撃反射できんのかよ?」

 

《やめろよォ。試さないでね。絶ェっ対無理だからなァ?》

 

(だろォな。)

 

一方通行はなんとなく、あの電撃が高電圧なだけではない、何かほかと異なる電撃であることを察した。

 

「じゃあな。」

 

垣根は一方通行に背を向けてこの場を去ろうとする。

 

「逃げンのか?」

 

「このままここに居てもあれは倒せねえ。今すべきことはもっと他にあるんだよ。」

 

垣根の表情は逃げる者には見えない。何かを決意した様子だ。

 

「そォか、好きにしろ。」

 

「テメェはあれとやり合うつもりか?ハッ。勝手に死んでくれよ。」

 

「黙って消えろ。」

 

垣根は飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テメェ、俺を絶対能力者にできんのか?」

 

「うおっ!垣根か、驚かすな。」

 

天井は御坂と連絡がとれないことを怪しみながら地道な聞き込みをしていた。そこへ垣根が飛んでくる。

 

「いや、むしろ俺だからこそ驚くところだろ。」

 

「何を言っている。結局、一方通行に負けたのだろう?」

 

天井は一方通行の勝利を確信していたらしい。

 

「まあな。」

 

(良かったあー!一方通行が負けていればわたしの命は確実にないから、一方通行が勝ったの前提で話していたわけだが、上手く格好つけられたな。フフ。) 

 

そうでもなかったらしい。

 

「それで先程の質問の答えだが、できる。だが心変わりの理由を聞こうか?」

 

「俺よりも、一方通行よりも上のやつがいる。一方通行を倒しても俺の欲しいものが手に入るか怪しくなったんだよ。俺はもっと強くなりてえ。だからテメェの実験に賭けたい。」

 

垣根は意外と柔軟な脳を持っているようだ。

 

「フッ、もちろん厳しい実験になる。心体共にな。付いてこれるなら実験への参加を認めよう。どうする?」

 

天井は右手を前に出した。

 

「ハッ。決まってる。やってやるよ。」

 

垣根は躊躇わずにその右手を握った。天井は続ける。

 

「よし!まずミサカ10032号を助けてくれ!話はそれからだ!」



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