アリスパーティー (gurasan)
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一週間前

四月からのアニメ楽しみだ。それまでに友達はデビサバ2を返してくれるだろうか?


 今日も平和な日常に包まれている。さすが日本。この国に生まれてよかったと心から思う。

 俺の十八年間という短い人生で身近な人の死に直面したのは祖母と祖父の二回だけ。それも二年前と四年前の話だ。勿論毎年お年玉を貰い、その他色々と良くしてくれた存在がいなくなるのは悲しかったが、歳のことを考えるとやっぱりどこか仕方ないと思えてしまう。唯一、見たいと言っていた成人式の写真を見せられなかったのが残念だ。いずれ二十歳になったら仏壇に写真でも供えよう。あれ? それだと俺が死んだみたいだ。線香のように燃やせばいいのだろうか?

 まあ、それはともかく今の日本で俺が二十歳までに死ぬ確率は限りなく低い。世界では一秒に何人死んでいるだとかいつかの番組で言っていたが、結局ここは日本だ。一秒ごとに知り合いが死んでいくなんてことはない。

 

 なんてそんな日常が続く可能性はどれくらいのものだったのか?

 いわゆる裏の世界で日々を生きていた人々や存在は平和ボケした大多数の人達をどんな風に見ていたのだろう?

 能天気に見えたのか? それとも知らぬが仏というように羨ましく思っていたのか?

 例えばニカイアの死に顔動画なんてものを作った人間は何を思っていたのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だが俺の友人の自慢をさせて欲しい。いや愚痴や不満かもしれない。嫉妬ややっかみの類にも聞こえるかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

 その友人、久世響希はこれからの話で間違いなく中心になるであろう存在だからだ。なにせ纏っている雰囲気からして違う。人に好かれ、人が好き。そんなやつだ。ちなみに男。癖毛の髪とどこか可愛げのある顔が特徴だが、いざという時はきりっとした頼りがいのある表情になる。口数は少ないが寡黙と言われるほどそれがどうに入っており、その割に表情の変化が分かり易く、ころころと変わるので話していて面白い。人の事をよく見て、相手に合った言い方というか返しができる。なんというか非常に聞き上手だ。相談事もよく受けるらしい。それでいて時に茶目っ気たっぷりに人をからかったりするもんだから話し相手も含めて見ていて飽きない。

 なんてどうしようもなく長くなったが、俺が言いたいのはもしこの世界がゲームだったなら、そのゲームの主人公は間違いなく響希だということだ。

 じゃあ俺はどんな役割かといえばサブキャラクター。ならまだ良かったのだがどうやら裏ボスと言われる役割を担ってしまったらしい。

 なんでそんなことになったか?

 それを語るためにはまず一人の少女との出会いから始めるべきだろう。

 その少女の名はアリス。

 俺が彼女に出会ったのは激動の一週間が始まるさらに一週間前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人に好かれる響希と違って俺は人に避けられることが多い。いや子供には割と好かれるほうなのだが保護者から好かれたことはない。ようは子供以外からよく避けられるのだ。なぜだろう? 変質者と思われているのだろうか?

 まあ嫌われているというよりは苦手に思われているというのが分かるので話そうと思えば話せるしそこまで問題があるわけでもないのだが、学校のみんなが複数人で帰っている中一人で帰るというのは結構くるものがある。その寂しさを紛らわすために子供達と遊んだりするのだが、ってだから変質者に見えるのだろうか?

 とはいえ最近は道案内をして知り合ったお爺さんとよく会うようになり、帰り道で会えば公園のベンチに腰掛けよく話していた。

 そのお爺さんの名前はトキさんといい。いかにも紳士ですみたいな恰好に帽子を被り、杖を持った裕福そうな老人だった。大きな懐中時計を持っており、「時は大事だ」みたいなことを言っていたのでやり手の資産家とかだったりするのかもしれない。

 そんなトキ爺さんと今日とて公園のベンチで話していると金髪に白い肌をしたどう見ても外国人の少女が寂しそうに公園に入ってきたので、トキさんに断ってから声をかけてみた。

なんかトキ爺さんの表情が固まっていたように見えたがきっと気のせいだろう。それにしてもあの女の子、どこかで見たことがあるような気がするが、これも気のせいだろうか?

「どうしたの?」

 そういえば子供には割と声をかける。知ってるカードゲームをやってたり、携帯ゲームをもってたりすると尚のこと話しかける。別にロリコンでもショタコンでもない。相手してくれやすいから子供が好きなのだ。もうすぐ受験だが保母さんでも目指そうか。あっ俺男なんだった。

 俺が声をかけると女の子は途端に嬉しそうに笑った。単純に寂しかっただけなのかもしれない。とはいえ迷子の可能性もある。とりあえず辺りを見渡すが保護者らしき姿は無い。

 その後、女の子が遊ぼうとせがむので快く了承した。

 小さい女の子と二人で遊ぶ高校生男子というのは変質者に見えるが、今日はトキ爺さんがいる。そう思ってトキ爺さんの方を振り返ったらベンチには誰もいなくなっていた。

 あれ? おかしいなと思いながらも女の子が手を引っ張るので深く考えるのを止めた。

 思えばトキ爺さんが見ているなかで子供達と遊んでいた時でも、保護者からは不審者のように扱われたことがある。トキ爺さんを紹介しようとしたときも顔が引きつっていた。たしかにトキ爺さんは結構彫りの深い顔をして厳格に見えるかもしれないが、優しいおじいちゃんだというのに。もしかしたらトキ爺さんも変質者として見られているのかもしれない。子供好きには行き辛い世の中になったものだ。

 なにはともあれ外国人の女の子と遊びながら話をする。

 その子がアメリカ出身というわけでもないのに自らの英語力を心配し、それでいて日本語で話しかけた俺は日常会話レベルの英語も怪しい。非常に受験が心配である。

 ただそんな俺の不安をよそに女の子が話す言葉は日本語だった。外国人らしき人との会話で胸を撫で下ろしたのはこれでたしか五回目である。俺は避けられる割に色んな人から道をきかれるが、その内訳は大体子供かご老人か外国人だ。

 さて、肝心の女の子だが名前はアリスというらしい。それを聞いてすぐさま不思議の国のアリスを思い浮かべる。外国でも本などの登場人物の名前を付ける親がいるのかと思い、もしかしたら外国だとアリスという名前は一般的なのかもしれないとも思った。どちらにせよ日本人にアリスと付けるよりはよっぽどいいだろう。第一アリスにはその名前が似合っている。

「でアリスちゃんはどうしてこんなとこに来たの? 家族の人は?」

 しばらく遊ぶと日も暮れてきたので頃合いをみて、地雷を踏みかねない質問をした。

「つまんないから一人で抜け出してきたの」

「それは駄目だよ。きっと心配してる」

 アリスは小さく頷いた。どうやら保護者はいるらしい。

「会ったらちゃんと謝らないと、ね?」

「……うん」

「良い子だ」

 そう言ってアリスの頭を撫でる。どうでもいいが彼女の髪はやたらさわり心地が良かった。たぶん延々と撫で続けられる。髪を洗ってやりたいぐらいだ。

一応、念のため重ねて言うが俺にロリコンの気はない。

「でもわたしお友達がいないから」

 アリスは寂しそうに言った。

 遊びたがりの子供にとって遊び相手がいないのは辛いだろう。もしかしたら目立つ金色の髪などのせいで周囲から浮いているのかもしれない。出る杭は打たれるではないが日本だと変わり者を排除する傾向が強いらしい。まあ、俺はそんな風に思わないし、思ったこともないが。

「そんなことないって」

 俺は断言した。遊んでいて普通に可愛い良い子だなと思ったのもあるし、もう一つ理由がある。

「どうして?」

 アリスは不思議そうな顔をしている。

「だって俺とアリスはもう……」

 言いかけたところで前衛的なファッションをした二人の人影が公園に入ってきた。

「「アリス!」」

「あっ。黒おじさんと赤おじさん」

こちらに向かってくる二人を見てアリスは言った。

もっと他に呼び方はないのだろうかと思わずにはいられない呼び方だ。とはいえどちらも両親には見えないし、もしかしたら親族とか家の使いにあたる人なのかもしれない。後者だった場合、アリスはすごいお嬢様ということになる。

やべえ、怒られないだろうか?

「心配したのですよ、アリス」

 黒おじさんらしき人がアリスを抱きながら言った。良い保護者に恵まれているようでなによりだ。ただ、俺が場違いなように思えるのは気のせいだろうか?

「このお兄ちゃんに遊んでもらってたの」

 アリスが自慢するように俺を指差して言う。

「それはそれは。この娘が世話になったようで」

 赤おじさんらしき人に頭を下げられた。

「いえいえ、俺も楽しかったです」

 うん、この受け答え。俺って日本人だわ。

「また遊んでくれる?」

 アリスは不安そうにこちらを見上げて言う。

「ああ」

 俺は腰を落とし、同じ目線で頷いた。

「約束だよ?」

「約束だ。なんなら指切りげんまんでもやる?」

「指切りげんまん?」

 外国人のアリスは指切りげんまんを知らないらしい。外国にも似たようなものはあるかもしれないが当然と言えば当然だ。

 アリスに指切りげんまんについて簡単にレクチャーし、せっかくなのでやることになった。日本文化に触れることはたぶん良いことだろう。

「「ゆーびきーりげーんまーん、うーそついたーら、はーりせーんぼーんのーます。ゆーびきった」」

 アリスが楽しそうで何よりだ。なんか恐ろしい契約書にサインしてしまった気もするがきっと気のせいだろう。

「ではそろそろ帰るぞ、アリス」

 赤おじさんが言い、俺は立ち上がる。

「また遊ぼうね。嘘ついたら針千本なんでしょ」

「あはは、そう言われるとなにがあっても断れないな」

 俺は笑って言った。アリスは笑顔だが、よくよく考えると針千本って子供に言わす言葉じゃないな。ハリセンボンの間違いだろうか?

「またアリスと遊んで下さい。私からも頼みます」

「よ、喜んで」

 黒おじさんに言われて返事を返す。なんでどもったかといえば目が怖かったからだ。約束を反故にしたら本当に針千本呑まされるんじゃないかと思えるほどに。

 アリスは最後に「またね」とこちらへ手を振り、二人に挟まれるように手を繋いで帰って行った。なんか微笑ましい光景だった。

 なんだか俺も家族に会いたくなったので家に向かって歩き始める。今日の夕食はなんだろうか?

 




 あとがき

 子規君は夏目友人帳の夏目みたいな、いわゆる霊媒体質のようなもので耐魔力だけ所持しています。主人公はゲームと同じ。
 

 アラガミ書けよという方ゴメンなさい。なんか色々書きたくなる性分なんです。
 


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 一昨日

 先に言わせてもらうと短くてすいません。


 次の日の放課後もとりあえず公園に向かうとアリスが笑顔で待ち構えていた。黒おじさんと赤おじさんがいなかったことに安堵した俺は臆病者かもしれない。とりあえず針千本の可能性はなくなった。

「お待たせ」

「あっ、おにいちゃん!」

 今更だがおにいちゃんはきついな。響希のやつに聞かれたらほぼ間違いなくおにいちゃんと呼んでくるだろう。そうなった日には俺のあだ名は確実におにいちゃんだ。そして俺の変質者度数もうなぎ上り。ここは先手を打って対処しておいた方がいいかもしれない。

「アリス、おにいちゃんは止めよう」

「なんで?」

 アリスは不思議そうに首を傾げた。子供らしく可愛らしい。

「いやな。今の世の中だとおにいちゃんと呼ばれるのは色々とまずいんだよ」

 何が不味いかっていうと主に体面が。

「じゃあなんて呼べばいいの?」

「うーん。俺はアリスと呼んでるし、子規って呼んでくれれば」

「じゃあシキ遊ぼう!」

「はいはい」

 そう答えて走り出したアリスの後を追う。

 そういえばこれも今更だがこの公園に来る人も大分いなくなったな。前はよく子供たちとここで遊んだものだが、もしかして俺がいたせいでここには近寄るなみたいに言われているのだろうか? そうだとしたらちょっとへこむ。

 俺が今、アリスと遊んでいる光景は微笑ましいものに見えるのかそれとも犯罪臭漂う光景に見えているのか。今時、後者なんだろうな。トキ爺さんとアリスなら微笑ましく見えそうなものだが、生憎今日はトキ爺さんに会わなかったからな。なぜ昨日は急にいなくなったのだろうか?

 

 

 

 とはいえそんな風にアリスと放課後遊ぶのが毎日続き、六日目のこと。

 いつも通り黒おじさんことネビさん、赤おじさんことベリさんが迎えに来るまでアリスと遊んでから家路につく。明日は土曜日で学校が休みと言ったら彼女とおでかけすることになった。それ自体は構わないんだが、変な噂とか立たないよな? もう立ってるかもしれんが。

 そして、帰り道で知り合いの女性に出会った。

「あっ、リリ姐さん、こんばんわ。にはちょっと早いか」

 会うのは夜が多いためつい癖で言ってしまった。

「あら? 子規君」

 リリスというのがこの女性の名前で俺はリリ姐さんと呼んでいる。なぜかといえば夜の女王という称号がついていそうなくらい男を侍らせているからだ。おそらく漫画でもそうそうお目にかかれない光景だと思う。

 今日もリリ姐さんは六人ほどの男に囲まれていたが、俺に気付くと囲みを抜け出して近づいてきた。男の方々の視線が痛い。貢ぎ過ぎて生活に余裕がないのか皆やつれているので逃げるぐらいは出来そうだが。

 ただまあ気持ちは分からなくもない。それぐらいリリ姐さんは美しい。それも男性だけでなく、女性すら魅了するほどに。そしてなにより色気がもの凄く、一緒にいると頭がクラクラしてくる。あれこそ誘惑の名にふさわしい。

 自分でも自覚はあるようで露出の多い服装が多く、いつしか見た時は身体に巻きついた蛇だけだった。あれは本気でやばいと思う。その時は直視することが出来ず、顔を背けたまま上着を着てもらった。勿論俺の上着だ。なんかむちゃくちゃからかわれたっけな。

「こんな時間に合うなんて珍しいですね」

「ちょっとこの街から移動しようと思ってたのよ」

「相変わらず自由人ですね。まあリリ姐さんならどこでもやっていけると思いますけど」

 リリ姐さんなら天使や悪魔でさえ魅了出来そうだし、これは本心だ。たぶん貢物だけで生活できる、ってどこの黄金律スキルだ。

「ふふっ、せっかく会えたのだから一緒に来る?」

 リリ姐さんは蠱惑的な微笑を浮かべて言った。

「後二年遅かったら喜んでその話を受けますけど。俺はまだリリ姐さんと一緒に歩くにはガキ過ぎです。というか他の男性に後ろから刺されそうなんで」

 それにアリスとの約束もある。反故にしたら黒おじさんに何されるかわかったもんじゃない。いいとこのお嬢様だとすると社会的に抹殺とかもありえるかもしれん。もしそうなったらトキ爺さんに相談してみようか?

「……そうね。なら私の隣を歩けるくらい強くなるのを待っているわ」

 そう言われるとなんかモチベーションが上がるから男は便利である。身体は暇なこともあって最低限鍛えているが、もっと頑張ってみよう。

「はい。いつかリリ姐さんを守れるぐらい強くなります」

 正直、リリ姐さんの隣にふさわしい男になるよりは強くなるほうがよっぽど楽そうだ。

「ふふっ、期待してる」

 なんとも魅力的な微笑を浮かべてリリ姐さんは去って行った。

 どうしよう本気で頑張ってみようか?

 からかわれていると分かっていてもどうしようもないのが悲しき男の性というもの。

 それにしてもしばらく会うこともなくなるわけか。リリ姐さんの言葉が冗談にしろ、本気にしろ、次に会う時には今よりましな男になっていたいものだ。

 

 

 

 

 Focus onリリス

 

 

 とても面白い子。

 未だに私が人間でないことに気付かないなんて。良い眼と魔への強い耐性がそうさせるのだろう。

 『深淵を除くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ』なんて言ったのはどの人間だったかしら。

 魔を見ることでき、魔に魅入られる子。いつのことか周りの人間に避けられるという相談をされたが、それも当前のこと。彼がこちら側へ来る日もそう遠くないかもしれない。

 

 

 原初の妻、それが私。その私を前にして、私の魅了が効かないわけではないにしろ耐えてみせるのだ。勿論、本気で魅了をかければ周りにいる男達のように彼も私に傅くことだろう。

 ただ珍しく私とまともに話すことができ、また話そうとしてくる人間。ただの木偶にするのは惜しいかもしれない。

 次に会う時、彼が私の期待を裏切るようなら木偶にしてしまおう。ただもしも彼が私の期待に応えられたなら……。

 「ふふっ、期待してる」

 





 あとがき

 アリスにしろリリスにしろ二択のどちらを選んでも死にそうなのはなぜだろう。


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