クーゲルのガルガンティア (エウロパ)
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漂流編
第一話 漂流者


 

 

 

 

 

《永きに及んだ漂泊の時代は終わり我ら人類はあまねく銀河に繁栄の世界を手にいれた》

 

 

 

 

 

男の頭の中に流れてくる漆黒の宇宙空間の映像……これは夢だ。教導レム睡眠。機械が人工的に夢を見せているのだ。アジテーターのナレーションが流れる。

 

《それがアヴァロン》

 

宇宙空間に浮かぶ一つの輝く巨大な宇宙ステーション。

皿を逆さまのような形をした電磁シールド下の超密度回転球が真空の宇宙空間から膨大なエネルギーを抽出し、そこから両極一直線にプラズマの光軸を放つ。

 

その光軸を囲うように直径15キロにも及ぶ一枚の花弁のような居住区画が円になるように12基ほどが連なりプラズマ光軸の回りをゆっくりと回転している。

 

《麗しき理想郷、科学の叡智と開拓の意思が築き上げた楽園の輝きをみよ》

 

アヴァロン……宇宙に進出した人類が造り出した理想郷。

 

その正体は遥か昔に寒冷化によって滅びた地球を脱出した人類がコツコツと造った巨大移民用コロニー。

 

安定した重力、豊かな自然、正常な空気、自然繁殖した動植物を加工して作り出された非合成食品、そしてそのコロニーを守る透明な防壁が恐ろしい宇宙線や放射線を防ぐ。まさに同盟に暮らす人ならば誰もが憧れる理想郷。

 

《これこそが諸君の故郷、四億七千万の全市民が諸君の勇気ある献身を称え栄誉ある兵士の名をその胸に刻んでいる》

 

《称えよ人類銀河同盟に約束されたくおんの未来を、ここより人類の躍進は始まってゆくのだ》

 

《だが、諸君、忘れてはならない》

 

壊れ穴だらけに喰い尽くされた宇宙ステーションの残骸が現れる。ステーションには無数の巨大な醜い生物が群がっていた。

 

《この非情なる宇宙の深淵には時に容赦ない悪意が潜むことを……》

 

そして醜い生物がアップで現れた。

昔、図鑑で見た巻き貝のような形の強靭な外骨格。

そして憎悪さえ覚える醜い触手。

 

《我ら人類の前途を脅かすヒディアーズの跳梁を断固として阻止すべし!》

 

ヒディアーズ、人類の敵だ。

奴等はその進化の果てに絶対零度の宇宙空間の真空にまで適応し、さらには強力なグレイザー(ガンマ線レーザー)の発射機関まで自らの肉体に手にした。

 

《かような下等生物に人類の躍進を阻まれてはならない!》

 

我ら人類銀河同盟の誇る全長数キロはある航宙艦の艦隊が現れる。艦隊はただちに加速重粒子砲を発射しいくつもの青い閃光がヒディアーズの群体に直撃する。

 

いくら進化しても奴等は所詮、欲望のままに動く下等生物。知性と統制の取れた我ら人類の敵ではない。

 

ヒディアーズからも無数の薔薇色のグレイザーが次々と発射され人類銀河同盟の艦艇が次々と破壊されていく……。

 

だが、奴等は手強い。

人類銀河同盟は発足時から奴等との戦いを続けてきた。

奴等に対抗するために巨大な航宙艦を幾つも造り強力な兵器を開発しそれを使うために私達兵士が同盟の計画的な子作りで産み落とされ戦場に送られる……。

 

ヒディアーズさえ居なければ!!ヒディアーズさえ存在しなければ!!クーゲルの中に怒りが溢れてくる。

 

これまで一体、何人もの若い将兵が無残にも消えて逝ったであろうか。

 

《英雄達よ大いなる試練の時に奮起せよ無念のうちに散った幾多の犠牲を!今なお危機に瀕している未来の同胞達を忘れるな!》

 

ここで教導レム睡眠は終わった――――。

 

 

 

 

 

――――宇宙空間に一筋のグレイザーの紫色の光線がまるで木が地に根を伸ばすように広がった。

 

その光線は少しでも触れればあらゆるものを瞬時に蒸発させる死の光だ。

 

射線上に居た人類銀河同盟軍の巨大な航宙艦が次々と死の光に触れ爆散、この宇宙空間に蒸発していく……。

 

グレイザーの光を放射しているのは肉塊のような醜い形状をした巨大な花。その醜い花の正体はヒディアーズの巣を防衛する直径40万キロにも及ぶ防衛プラットホーム、ブロッサムセイル。グレイザーの光の発生源はまさにそれからだった。

 

<敵、要塞特殊砲の攻撃、艦隊主力を直撃!>

<主力戦艦の被害甚大!シールド護衛艦は壊滅!!>

<ヘクセレナ艦隊、全艦大破!!>

<旗艦キャメロットⅡ轟沈……>

<作戦継続不能!全艦ただちに撤退せよ!!>

 

要塞特殊砲の攻撃を受けた直後、膨大量な報告の通信が宇宙空間を瞬時に飛び交った。報告はどれも深刻な現状を伝えている。

 

ブロッサムセイルの攻撃で今回の作戦の主力部隊が壊滅したのだ。

 

この作戦は銀河同盟の総力を上げた絶対に成功する作戦のはずだった。

 

今回の作戦の目的はヒディアーズの巣を守るブロッサムセイルの要塞特殊砲を新兵器であるディメンストリュームで無力化し露出した巣にクローザーパス、別名、量子次元反応弾と呼ばれる爆弾を設置し巣を消滅させるというものだった。

 

しかし、ディメンストリュームで一度は無力化に成功したものの、ブロッサムセイルの要塞特殊砲は異常なスピードで再生し、すぐに反撃を受けてしまった。

 

通信を対ヒディアーズ殲滅兵器の人型兵器であるマシンキャリバーで構成される部隊の隊長、クーゲル中佐は愛機のマシンキャリバー、ストライカーXー3752のコックピット内で聞いていた。

 

「何だと!?」

 

クーゲルは突然の被害報告に驚愕し目を大きく見開いた。作戦が途中まで順調に進んでいただけに驚きは増していた。

 

「これだけの戦力でもまだ、勝てんのか……」

 

クーゲルは悔しさのあまり圧し殺した声を出した。

それとほぼ同時にコックピット内に電子音が鳴った。

 

『クーゲル中佐』

 

女性の合成ボイスが響く。

ストライカーに搭載されているパイロット支援啓発インターフェイスシステムの声だ。

 

インターフェイスシステムは各マシンキャリバーに搭載されている。その機体のパイロットの体調、情報、戦闘等を支援している人工知能だ。

 

「なんだ?ストライカー」

『ワームホールスタミライザーは四分後にエキゾチックマターの供給を停止。クローザーパス設置部隊は速やかに空母ラモラックへ帰投されたし』

 

クーゲル達、銀河同盟軍は後方にある惑星の影に設置されているワームホールを通ってこの宙域にやって来た。そのワームホールを維持するために必要なエキゾチックマターを停めるということはワームホールが閉じるという事を意味している。

 

つまり、すぐに逃げろと言っているのだ。

 

「全機聞いての通りだ!クローザーパスを投棄して撤収しろ!置き去りにされるぞ!!」

 

クーゲルは通信回線を開き自身が指揮するマシンキャリバー隊の各機に呼び掛けた。

 

<デルタ中隊、搭乗しているクローザーパスから全機降りろ。量子次元反応弾ごと全て投棄する!クーゲル中佐の命令に従い撤退だ!ほら、行け!行け!行け!>

<クローザーパスの量子次元反応弾を機雷モードに設定する!安全キーを抜いてから撤収だ!>

 

クーゲルの命令通り各機は進撃を中止し後退し始めた。

クローザーパスが投棄され無重力に身を任せて漂い始める。

 

一部のヒディアーズは投棄されたクローザーパスに一目散に喰らいついた。

 

ヒディアーズはクローザーパスの装甲を破壊しエネルギーコアの耐圧壁を壊した瞬間、周辺のヒディアーズを巻き込みながら爆散する。

 

<こいつらクローザーパスをエネルギーコアごと喰うつもりなのか!?>

<放っておけ!急いで突入支援挺に戻れ!>

<ダメだ!ヒディアーズの攻撃が強すぎる!>

 

陣形が一時的に崩れた所を見計らってかヒディアーズが攻勢を強め始める。グレイザーが放たれ味方のマシンキャリバーは次々と爆散した。

 

(まずい……このままでは被害が拡大する……)

 

どうすれば良いか。クーゲルが考えていたその時。

一機の黒いマシンキャリバーがヒディアーズの方へ向かっていった。

 

「レド!何をしている!」

 

それに気がついたクーゲルはすぐにその機体の通信回線を開いた。

 

クーゲル隊所属、レド少尉。

 

クーゲルの部隊の優秀なパイロットだ。

彼の機体は銀河同盟軍の主力量産機のマシンキャリバーであるチェインバーだ。ストライカーはあくまで指揮官機であり下級士官には配備されていない。

 

<ここは、自分が支えます!>

「何!?」

 

クーゲルはレドを止めようと思ったが味方のマシンキャリバーが突入支援挺に着艦するのを見てレドの提案に乗ることにした。

 

この場を今、クーゲルが離れる事はできないし、この混乱した状況では陽動に適した機体をすぐに見繕う事は難しいかった。

 

「200秒粘ればそれでいい!無茶はするな!」

<了解!>

 

レドはそう言うと通信を切りヒディアーズの群体へ単機突入を行った。

 

「死ぬなよ……レド」

『優位提言。当機も撤退を推奨する』

「ダメだ。部下を置いてはいけん」

『了解』

 

クーゲルはそう言うと突入支援挺に着艦する味方を援護するため突入支援挺に近づくヒディアーズを攻撃した。

 

レドのおかげで数は減ったがそれでも、数の上では敵が圧倒しており味方を攻撃していた。

 

クーゲルも行動を取った。

無数のグレイザーを避け、回転、加速、急上昇を繰り返しディフレクタービームで周囲に集まってきたヒディアーズを一掃。

 

敵の陣形が崩れたところで、すかさずビームファランクス砲で攻撃する。

 

『突入支援挺、戦線の離脱を開始』

「よし!レドに撤退を……」

『警告。マシンキャリバーKー6821に非常事態』

「何処だ!?」

 

クーゲルの目の前にウィンドウが開かれ、ある宙域の様子が拡大表示された。

 

「不味いな……」

 

拡大表示された場所にはレドのチェインバーがヒディアーズに取りつかれているところが映し出された。

 

「ストライカー!すぐに向かえ。援護に入る!!」

『了解』

 

ストライカーは即座に急加速し速度を限界まで上げレドの元へと急いだ。すると通信が入る。

 

<援護要請!捕まって動けない!!>

<誰か助けてくれ!>

 

クーゲルが通信を出した機体を確かめるとチェインバーの居る宙域のすぐ側でクローザーパスに二機のマシンキャリバーが取り残されて無数のヒディアーズに取り囲まれている様子が見えた。

 

「レドは、あいつらの援護に向かう途中で襲われたのか」

『対象のヒディアーズ、当機の射程圏内に捕捉』

「よし。レドの機体になるべくダメージを与えないように攻撃する」

『了解』

「レド!」

 

クーゲルは巧みにストライカーを動かしレドのチェインバーに絡み付いているヒディアーズにビームファランクス砲を発射した。

 

ストライカー型マシンキャリバーのビームファランクス砲の特徴である紫色の光線が正確にチェインバーに絡みつくヒディアーズを殲滅する。

 

<クーゲル中佐!?>

「時間だレド。戻れ!」

<しかし、それでは!>

「あいつらはもうダメだ!諦めろ!これ以上エネルギーを消耗させるな!」

 

援護要請をしていた二機のマシンキャリバーは母艦型ヒディアーズに覆い被さられる形で見えなくなっていた。一方のクーゲルとレドの機体は撤退の為にそこから、どんどん離れていく。

 

<援護要請!援護要請!>

<完全に囲まれた!敵はクローザーパスの量子エネルギーを吸収するつもりだ!もう機体がもたない――>

 

辛うじて繋がっていた通信もノイズが入り始め機体が強力な圧力で潰れていく音がクーゲルの耳に届いた。

 

だが、助けることはできない。

 

撤退までの時間は限られている。

そして数秒後、悲痛な悲鳴を最後に二機からの通信は途絶した。その瞬間、クローザーパスも限界を向かえたようで母艦型ヒディアーズをも飲み込んで爆発する。

 

クーゲルとレドは機体の速力を限界まで上げてブロッサムセイルの正面にある矮星へと急いだ。

 

矮星の裏側へのルートを進むと後ろに見えていたブロッサムセイルが見えなくなっていく。

 

矮星の裏側にはワームホールドライブが設置されている。クーゲル達は、その前を陣取るように居る友軍の空母ラモラックへと速やかに向かわなければならない。

 

今頃、空母ラモラックは先に脱出した突入支援挺を回収している頃だ。

 

ラモラックに近づくにつれてストライカーはラモラックやその周辺からの通信を傍受する。

 

<通過回廊接続維持、ティレモシースイング開始!>

 

先に残存部隊を収容した空母がワームホールへと突入を始める。残りはラモラック一隻だけだ。

 

『空母ラモラック、ティレモシースイング開始まであと40秒。39、38――』

 

最後のカウントダウンが始まった。

ギリギリこの調子なら着艦できそうだ。

 

クーゲルが少し安心したその時、コックピット内に警報が鳴った。ストライカーがクーゲルの目の前にホログラムを表示しワームホールスタミライザー周辺の図を出す。

 

『警告。多数のヒディアーズの追撃を確認』

「馬鹿な……」

 

ヒディアーズの速度は戦いで消耗したストライカーやチェインバーの速度を上回っていた。

 

「ラモラックにヒディアーズを近づけさせるわけにはいかん!」

 

このままでは追いつかれる……。

どうすれば良い……。

 

クーゲルは一瞬目をつむり考えると、すぐに状況の打開策を思いつきレドに通信回線を開いた。

 

「レド。お前だけでも着艦しろ。奴らは俺が足止めする」

 

突然のクーゲルの言葉にレドは驚愕した表情を見せた。

 

<中佐!それでは軍旗違反です!中佐を置き去りにはできません!>

 

レドはクーゲルのとんでもない命令に反発した。

 

「お前はまだ若い。俺よりもより多くの敵を殺せる。これが俺の判断だ」

 

クーゲルはレドに微笑みかけた。それに対してレドはハッとした表情を浮かべる。

 

「人類銀河同盟 に栄光あれ!達者でな」

<中佐!!>

 

クーゲルはそう言うと通信を切った。

ストライカーは撤退するルートを外れてチェインバーから離れて後方のヒディアーズと対峙、攻撃を開始する。

 

「ストライカー!何としてもワームホールへのヒディアーズの接近を許すな!」

『了解』

 

ストライカーはあらゆる兵装を使用する。

デフレクタービーム、ビームファランクス……。幾多もの光線がヒディアーズを殲滅する。

 

しかし、現実は非情だ。

 

『警告。ヒディアーズが当機単独の迎撃能力を凌駕。後退を推奨する』

「ダメだ!ワームホールが閉じるまでは攻撃を続けるんだ!」

 

ヒディアーズの数はクーゲルの予想以上だった。

僅かだがクーゲルと同じ様に撤退せずに友軍が留まって居ると言うのにも関わらずヒディアーズの進撃は止まらない。

 

いつ突破されても、おかしくはない状況だ。

 

『空母ラモラック。ティレモシースイングを開始』

「そうか……あとは、ワームホールが無事に閉じれば……」

『警告。多数のヒディアーズが防衛線を突破。ワームホールへ接近中』

「まずい!!」

 

クーゲルはすぐにストライカーをワームホールのすぐ手間に移動させ、ストライカーの全身に搭載されたデフレクタービームで迎撃した。

 

しかし、次の瞬間、コックピット内に鈍い音が響いた。ヒディアーズの突進を防ぎきることができなかったのだ。

 

ストライカーは衝突の衝撃で後ろへと、弾け飛ばされ物凄い勢いでワームホールへと突入してしまう。ヒディアーズはと言うとその状況にも関わらずストライカーを組敷く。

 

ストライカーが危険を察知し、すぐにバニシングスマッシャーで取りついたヒディアーズを殲滅する。だが、その時はすでに遅かった。クーゲルの乗る機体はワームホールへ。エルゴ領域、事象の地平線へと落下していった。

 

クーゲルの体に想像絶する衝撃が走り、やがて視界が歪んでいく。クーゲルの意識はそこで無くなったのだった……。

 




少し早いけど……
祝!翠星のガルガンティア3周年!!

本日、『翠星のガルガンティア ~遥か、邂逅の天地~』が発売になりました。
その記念として勝手ながら放送当時書いていたこのSSを投稿しようと思い投稿しました。
なんかスイマセン……。

アニメ2期のねがいは諸般の事情で叶いませんでしたが今後も奇跡が起きて2期ができる事を祈りつつ、今後もガルガンティアを応援したいと思います!


さて、このSSの事ですが皆さん。
ガルガンティアを見ていた人は、もしかして一度は考えた事無いでしょうか?
〝もし、ガルガンティアにやってきたのはレドではなくクーゲル中佐だったら……〟
このSSはそんな事を考えながら妄想して書いたものです。

駄文も多いと思いますが楽しんでいただけたら幸いです。
感想や文章がおかしい所などがありましたらお教えて下さると嬉しいです。



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第二話 漂流者Ⅱ

錆びだらけの通路をカンカンと音をたてて一人のツインテールの少女が走っていた。

 

通路には工具や部品が入った箱がいくつも置かれていて少女は身軽にそれを避ける。

 

「おっと、危ないぞ!」

「ごめん!」

 

たまに通行人とぶつかりそうになりながらも少女は足を止めず肩にかけたバックに沢山の手紙や荷物を積んでそのベージュ色の髪をなびかせながら走り続けた。

 

少女が進むにつれて周囲の音が大きくなってくる。

ドリルで何かを削る音。金属を叩きつける音。チェーンソーで何かを切る音。そして仕事をする様々な人の声。

 

ここは修理船なのだから当たり前のいつもの通りの光景だ。通路の天井や壁には配管が張り巡らされている。

 

14歳の少女、メルティは黒のチューブトップにミニスカートという歳のわりに大人びた服装の少女だった。

 

メルティはしばらく走り続け、やがて吹き抜けになっている大きな格納庫の二階、キャットウォークに出る。走ってきた勢いのままに、手すりから体を乗り出した。

 

「うわぁ、でっかーい!」

 

今、修理業者やサルベージ業者の間では最近サルベージされた物が凄いと噂になっている。

 

メルティはそれを手紙の配達の合間に聞きつけたのだ。

本来、ここにはメルティの友人が配達しに来る予定だったが無理を言ってメルティに配達を代わってもらっていた。

 

メルティは自分の下に見えるその〝お宝〟を見て素直にスゴい!と思った。

 

そこには確かに噂通りのスゴい物が横たわっていた。

 

脚台の上に乗せられ仰向けに置かれた……人型の大きな機械?の様なもの。

高さは八メートルくらいだろうか。その周りには作業をする修理屋が小さく見える。

 

その巨体の色は大体、全身、紫で統一されていて表面は錆の一つもなく異常なほど綺麗だ。メルティが普段、見慣れている作業用機械とは全然違う。

 

まさに、紫の巨人だ。

 

実物を見て、さらに興味をそそられたメルティは結構な高さであったがキャットウォークの下に組まれた作業用の足場へと、柵を乗り越え飛び降りた。

 

一階へと降りたメルティは近くに手紙を届ける相手を見つけると紫の巨人のすぐ近くへと駆け寄った。

 

「ベローズ!」

「ん?メルティじゃないか」

 

メルティは健康的な褐色肌をしている女性、サルベージ業者のベローズに話しかけた。

 

「はい、これ。リジットからの伝言。明日までここ使って良いってさぁ~誓約書」

 

メルティはバックから書類の封筒を取り出すとベローズに渡す。

 

「ったく、細かい女だな」

 

ベローズが封筒を開けて書類を見始めた間を狙ってメルティは紫の巨人に近付いて眺め始めた。

 

「それで?これなんなのー?」

「それが分かったら苦労はねぇよ」

 

突然、横から男が声をかけてくる。

男は金髪のリーゼントで工具を手に持って近づいてくる。

 

修理屋のピニオンだ。

チャラチャラしてはいるが、この船団の中ではかなり有名な腕利きの修理屋だ。

 

「中を調べようとしたが……外装をひっぺがすどころか傷一つつけられねぇ。こんな機械、どうやって組み立てたのかも想像つかねぇや。それに見ろよこれ」

 

ピニオンは紫の巨人の肩の部分を近くに行って指差した。その指し示す指の先を追ってみると、そこには何らかの記号か文字のようなものが書かれていた。

 

「何んて書いてあるの?」

「さーな。こんなの、さすがの俺も初めてだ。文字かどうかも怪しいがな」

「大体、見つけた時から妙な代物だったんだよ。そいつは」

 

ベローズが近くにやって来る。

 

「錆びてもいなきゃ腐ってもいない。いつものお宝とは全然違う」

「素材も金属とかじゃなさそうだしな」

「ふーん。なぁんだ。それじゃぁ意味無いじゃん」

 

メルティは少し残念そうに言った。

だが、噂になった理由もはっきりした。つまりは、何もかもが得たいの知れないものという事だ。

 

「バラせなかったらお宝も、糞もねーんだよ」

「こっちは約束通りの値段で買い取ってもらうよ?ピニオン」

「はぁ!?冗談だろ!?」

 

ベローズの言葉にピニオンが大きな口を開ける。

 

「何でも良いから拾ってこいって言ったのは、あんただからね」

「クソッ……この守銭奴が」

 

ピニオンが嫌そうな顔をして表情を歪めるとベローズは、してやったり!とでも言うようにニヤっと笑った。

 

「でもさ……」

 

メルティは紫の巨人を見ながら呟いた。

 

「今にも動き出しそうじゃない?危険じゃないの?それに上に居る時に見たけど……」

 

メルティは心配そうに言った。

 

「あれの事か……」

 

ピニオンは少し困った顔をした。

ピニオンやメルティが言っている〝あれ〟とは紫の巨人が持っている謎の道具の事だ。

 

実は紫の巨人はサルベージされた時からその道具を持っていた。それは何の道具かは分からないがピニオンには一つ分かる事があった。いや、ある程度、察しが良い者ならば見ただけで気がつくだろう。

 

「ありゃ、たぶん武器だな」

「武器!?」

 

ピニオンにメルティは大声を上げる。

 

「でも安心しろ。壊れているのは間違いねぇよ。ウンともスンとも言わねーからな」

 

心配しているメルティに対してピニオンは反論を返す。

 

「まぁ、リジットも用心のためにこんな外縁の区画を指定したんだろ。何かあれば切り離しちばえば良いし」

「おい!バカヤロー、この船は俺ん家だ!切り離されてたまるか!」

 

ベローズが気軽に言うと二階のキャットウォークから作業服を着たこの船主が叫んだ。

 

「はい、はい、リジットに言っとくよ」

 

ベローズは船主に向かって適当に言った。

 

「そういうわけでメルティ。当分は面白い事はねーぞ。さっさと配達の仕事に戻んな」

「なーんだ。それじゃあ私もう行くねー。少しはバラしておいてよー」

「できるもんならなぁ……」

 

メルティはベローズからサインを書き終わった書類を最後に受け取って格納庫を後にした。

 

「とは言ったものの……」

 

ピニオンは紫の巨人を見て溜め息を吐いた……。

 

 

 

 

 

『脳波計測、基礎律動異常なし』

 

クーゲルの耳にストライカーの合成ボイスが響いた。

 

「ん……」

 

クーゲルは重い瞼をゆっくりと開く。

目の前にはいくつもウィンドウが開かれ心電図や脳波、バイタルが映し出された。

 

『クーゲル中佐の覚醒を確認。蘇生成功。緊急事態プログラムにより、貴官の生体機能を人工冬眠によって保管した』

 

カチコチに固まった肩や首の周りをクーゲルはほぐす。

そして、ヘルメットの黄色いバイザー越しに見慣れたコックピット内を見渡す。

 

あの状況で生き残れていたのかとクーゲルは考える。

 

クーゲルはよく、あの状況下で生き残れたなと心底意外に思った。ワームホールに突き落とされたのだ。てっきり死んだものと考えていた。

 

『経過時間は、二六万六八一五分。当機も全システムを凍結していたが外部刺激にともない十二分前に再起動した』

「……半年も眠っていたのか。ストライカー、今何が起きている?」

 

頭の中で瞬時に計算し、その結果に自分で驚く。

人工冬眠は訓練で何回かやったことがあるか半年もというのは流石に無い。

 

それにあの戦いから半年もたっているなんて……。

 

『事態はパイロットの状況判断を必要とするものである。よって貴官の覚醒プロセスを実行した』

 

ストライカーはそう言うと全天スクリーンを起動して機外の様子を映し出した。その映像を見てクーゲルは驚きの余り目を見開いた。

 

「なんだ、これは……」

 

ストライカーは大きな格納庫のような場所に横たわっていた。その周囲を沢山の男女が作業をしている。中にはストライカーの上にのっている者もいる。

 

[オン、モヴェルボーデ!(あたしらは引き上げるよ!)]

 

機体の外で赤毛のポニーテイルの女が何かを言った。言っている意味はクーゲルには一切分からない。

 

「こいつらは何者だ?何を言っている?」

『未知の言語である。いくつかの古代言語に類似性あり。解析中なれどデータが不足』

「……人類銀河同盟じゃない。未加盟の漂流部族か?」

 

クーゲルは機体外の様子を見て自身の見識を述べる。

 

漂流部族。

人類銀河同盟には常にヒディアーズとの戦いがつきまとう。だが、その永い歴史においては戦いに疲れ同盟を裏切った者達が少なからず存在したと言われている。

 

その中で奇跡的に生き残った者は独自のコミュニティを形成していると言われ、そうした者達は総じて漂流部族と呼ばれていた。

 

「こいつら、マシンキャリバーを見るのも初めてなのか?」

 

クーゲルは呆れた様子で言った。

漂流部族の者達は銀河同盟の科学技術の結晶であるマシンキャリバーの装甲に対してガスバーナーや切削機で挑戦していた。

 

『当機を損壊しようとする意図が監察できるが実行手段が無い模様。極めて文明度の低い集団であると推測される』

「この様子ではハッチも開けられまい。それよりも現在位置はどうだ?」

『座標の特定は不可能。計測基準点を喪失している』

「どういう事だ?」

 

クーゲルが聞くとストライカーは目の前の台座に置かれたコミュニケーターから銀河系全体の図が投影された。

 

その銀河系の上にいくつもの光が点滅する。

計測基準点と呼ばれるポイントだ。

 

『推測、当機はワームホール防衛の際にヒディアーズの攻撃を受け計量時空への転移に巻き込まれた後、無作為に選定された座標において通常空間に同期したものと思われる』

「なんてことだ……」

 

全てを理解した瞬間、クーゲルは絶望感に包まれた。

無作為に選定された座標とはそれ即ち、クーゲルとストライカーはこの広大な宇宙の何処かに来てしまったという事を意味しているのだ。

 

想像していたより事態は最悪だった。

 

『救難信号を発信しつつ貴官の人工冬眠を継続していたが事態は静観しがたい状況に推移しつつある。方針を検討されたし』

「……見た目では人類の眷属のようだが、連中の正体が分からないうちは、どうしようもないな」

『隔壁の構造は極めて脆弱であると予想される。当機単独でも破壊して脱出することは可能である』

「ダメだ。気密服を着ていない事からすると壁の外は真空かもしれん。無駄な犠牲を出すことは後々面倒ごとに繋がりかねん。とにかく今は状況の確認が最優先だが……気がつかれない様に外の様子を調べたいところだな」

 

 

 

 

 

しばらく経つと格納庫を照らしていた明かりが一つ、また一つと消え、それと同じようにストライカーを壊そうとしていた漂流部族の作業員も少くなり、ついにたった一人になった。

 

金髪のリーゼント男だ。

 

男は最後までストライカーの装甲相手に手作業で格闘していたがもう諦めたようでストライカーの腕の傾斜を利用して滑り降りると、何か独り言を言ってストライカーに一蹴り入れると、格納庫の照明を消して格納庫から去っていった。

 

静まる格納庫。

 

「よし……行くぞ」

 

ストライカーのコックピットハッチがプシューと空気が抜けるような音をだし開かれる。

 

クーゲルはコミュニケーターを取ってコックピットから出ると格納庫の床に降りた。

 

「重力は1Gか。漂流部族にしては良く調整しているな。空気はどうだ?」

『主成分は窒素、酸素、二酸化炭素、生存に理想的な比率。ほか、微細成分も検知されるが有害物質は検出されない』

「吸える空気なら吸っておこう。手持ちの酸素は温存したい」

 

クーゲルはヘルメットのバイザーを上げた。

 

「すぅ……ッ、何だこの臭いは……」

 

嗅いだ事の無い臭いがクーゲルの鼻をつく。

あまりの臭ささにクーゲルは手で鼻を覆い被せた。すると、フッと近くの台に置かれていた工具が目に入る。

 

先程までストライカーの装甲と格闘していた連中が使っていた工具類だ。そこにあるのはチェーンソーやバール、レンチ、ガスバーナー……。

 

同盟の一般的な工具とは天と地ほどの差があった。もちろん同盟が天でこいつらが地だ。同盟ではこの手の工具はレーザー類を使った物が一般的だ。

 

「旧式にも程がある……ここのやつらは一体……」

 

クーゲルが独り言を言っていたその時。

格納庫の扉の方から物音が聞こえた。足音と金属が扉が開く音……誰かが戻ってきたのだ。

 

「まずい……」

 

クーゲルはすぐにストライカーの影に隠れた。

 

 

 

 

 

「まだ夜も明けてねぇーだろうが……」

 

格納庫の明かりが再び灯りピニオンの面倒くさそうな声が上がった。ピニオンに続くようにメルティも入ってくる。

 

「しょーがないじゃん。朝になったら作業始めちゃうでしょ?そしたら、ますます探しにくくなるじゃん」

「俺なんか一睡もしてねぇての……」

「それに、ピニオンじゃないと鍵開けられないし」

 

メルティは歩きだすと昼に歩いた辺りを重点的に床を良く見て何かを探し始めた。そして、紫の巨人の近くまでやってくる。

 

「あれぇー……ここに落としたと思ったんだけどなぁ」

「そう言えばメルティ、お前、何落としたんだよ?」

 

ピニオンもメルティに続くように紫の巨人の近くにやってくるとメルティに聞いた。

 

「ん~?サーヤから貰ったブローチ。昨日、配達の途中で落としちゃったみたいでさー」

「まぁ何でも良いけどよ。今は銀河渡りの最中なんだぜ?無駄に電気喰ったら、またリジットに……」

 

ピニオンはそこまで言うと、ふと何気なく床を見た。

そこは紫の巨人の頭付近でその床にはピニオンが装甲と格闘した跡、チェーンソーやドリルの砕けた金属片がうっすらと積もっていた。

 

だが、その上に新しい足跡がついていた。

 

「なんだこりゃ……っ!?」

 

ピニオンは最後にここを出た時の事を思い出した。

その時にはこんな足跡無かったはずだ。それに、これはピニオンが使っている靴の足跡ではない……。

という事は……。

 

ピニオンは台の上から1メートルはある大きなレンチを取り出した。

 

「メルティ、そいつから離れろ!こっちへ来い!」

「はぁ?どうしたの?」

「いいから早く!」

 

意味がわからずメルティは首をかしげたが、ピニオンのあまりにも、真剣な言い様にブローチを探すのを止めてピニオンの側に行った。

 

「もぅ、何なのさ」

「いや、ちょっとな……」

 

ピニオンはレンチを構えて辺りを見回した。

 

さっきまであんな足跡は無かった。

という事は、ここに、自分達以外の誰かがいる……。

 

「おい!誰か居るんだろ!?隠れてないで出てこい!!」

 

ピニオンは叫んだ。

声が格納庫に反響しやがて、シン……と静まる。

その様子をメルティは呆れた様子で見ていた。

 

「……なにやってんの?」

「いや……誰か居ると思ったんだがな……気のせいだったみてぇーだ」

 

ピニオンがそう言ったその時だった。

 

カツン――紫巨人の方から足音が聞こえた。

 

「っ!誰だ!?」

「うそっ!?マジで誰か居るの!?」

 

ピニオンとメルティが紫の巨人の方へと目を向ける。

すると、紫の巨人の影から奇妙な男が現れた。男は両手を上に上げている。

「な、何だ、てめぇーは!?」

 

ピニオンが男にレンチを向けた。

 

「何、あの人……」

 

紫の巨人の影から出てきた男は奇妙な服を着ていた。

その服は暗い紫色でぴったりと体全体を包んでいる。無理やり例えると言うのならそれはウエットスーツの様な水着のような服だった。

 

そのスーツを着ている男は明らかにメルティよりも年上という感じで異様に白い肌、白い髪、そして紫の瞳といったあまり見ないタイプの人物だった。

 

「……イケメンだ」

 

メルティはボーッとした様子で言った。

 

「メルティ!そんな事言ってる場合じゃねーぞ!」

 

ピニオンはメルティを一喝するとレンチを握る力を強くした。ピニオンの目線の先には男が手に持っている謎の道具に注意が注がれている。

 

あんな道具は見たことねぇが、あれゃ間違いなく武器だな……。ピニオンはそう思った。

 

それは、ピニオンが今まで一度も見た事の無い形をしていたが、その形状から間違いなく何らかの銃火器である事にピニオンは気がついた。

 

「「…………」」

 

両者の間に無言の衝突が続く。

ピニオンの頬を汗が一滴滴り落ちた……。

 

すると一番最初に沈黙を破ったのは男の方だった。

 

「――――、――――」

「な、何を言ってやがる!?」

 

ピニオンが声を荒上げた。

男は言葉を話始めたが何を言っているのかピニオンとメルティには一切内容が理解できなかった。聞いたことの無い言葉だったのだ。

 

「――――。――――」

 

しかも、ピニオンが混乱していると、さらに混乱する事態が起きる。

 

『我々、敵意、否定』

「だ、だ、誰だ!?まだ、隠れていやがったのか!?」

 

男の言葉の後に突然、無機質な女性の声が格納庫に響いたのだ。ピニオンはさらに混乱し辺りをキョロキョロと見回しながら叫ぶ。

 

周りを見回すが自分意外にはメルティと目の前の男以外の人間はどこにも見当たらない。メルティも同じ様に周囲を見るが結果はピニオンと同じだ。

 

あるのは紫の巨人だけだ。

巨人が声を出すわけがない。

 

考えれば考えるほどピニオンの頭は混乱した。そして混乱は頂点に達する。

 

『我々、情報ヲ、求ム……』

 

そう女性の声が聞こえた瞬間。

 

「こ、こんちくしょー!!」

 

ピニオンはレンチを高く振り上げ走り出した。 それはある種、一般人としては当然の行動だったのかもしれない。突然見知らぬ者が銃火器を持って現れ、知らない言葉で話しかけられ、さらには何処に潜んでいるか分からない謎の第三者の声までがする。身の危険を感じるには十分過ぎる状況だった。

 

「ちょ、ちょっとピニオン!その人助けを求めてるんじゃ!?」

「うおおおおおおおおお!!!!」

 

メルティの静止も聞かずピニオンはすでに男の方へと向かって行く。

 

「――っ!?」

 

ピニオンが男のすぐ側まで来てレンチを振り下げた瞬間、男はピニオンの攻撃を綺麗に避けると後ろに跳ねて距離を取った。

 

「こ、この野郎!避けんじゃねぇ!!」

 

ピニオンがレンチを構え治す。

すると男は突然、メルティの方をチラッと見た。

 

「……え?」

 

メルティは何故、男が自分の方を見たのか分からなかった。だが、その事をメルティが考える時間は与えられていなかった。

 

「おりゃああああああ!!!!」

 

ピニオンがもう一度男にレンチで殴りかかる。

すると今度は、男はレンチを当たるか当たらないかのギリギリの距離で攻撃を避けて隙ができたピニオンの横側を目も止まらぬ早さで走り抜けた。

 

「えっ?」

 

男は物凄い早さでメルティの方へと向かって来る。

 

「ええっ?えええっ!?!?」

 

メルティは突然の事に動揺しどうすれば良いか分からず逃げようと思いついた時にはすでに遅かった……。

 

「キャっ!?」

「メルティ!?」

 

ピニオンが叫ぶ。

メルティが気がついた時には、すでに男に捕まり羽交い締めにされた後だった。メルティは男の顔を見る。

 

「イケメン!じゃなくて……ちょっと!離してよ!!何すんのよ!!」

 

メルティは男の腕を持ったり叩いたりして何とか羽交い締めにしている腕を外そうと試みたが腕力は男の方が上で逃げる事はできなかった。

 

「エイガウバチス!」

『大人シク、シロ』

 

男がメルティにイライラした様子で何かを言った。

それに続くように謎の女性の声も続く。女性の方は片言ながらも意味は分かる。

 

「……もしかして」

 

メルティの頭に一つの仮説が浮かんだ。

 

「もしかして……翻訳してるの?」

 

最初は良く分からなかったが男が喋った後に謎の女性の声がしている。しかも、女性の方は言っている事が片言だが理解できる。

 

その事からも翻訳してるのでは?と言う考えが出てきたのだ。

 

「エンフィ、ネイエ、フェッファウ!」

 

また、男が未知の言葉を使う。

今度はメルティにではなくピニオンに向けてだ。

男は空いている方に持っていた銃の様な形をした道具をピニオンに向ける。

 

『武器ヲ、捨テロ』

 

やっぱりだ……この女の人は何処に居るかは分かんないけど、この男の人の言葉を翻訳してるんだ。

 

メルティはそう理解し始めていたが一方のピニオンの方は、そうはいかなかった。

 

「訳わかんねぇ事ゴタゴタ言いやがって……こんチクショオオオオオ!!!!」

 

メルティを人質に取られた焦りと今まで経験のしたことの無い事態にピニオンの頭は完全に冷静さを失っていた。

 

ピニオンがレンチを振り上げ男に向かってくる……。

それを見た男はピニオンに向けていた銃の引き金を引いた。

 

 




クーゲル中佐はレドより頭が良いのでは?と思ったのでレドとは状況が少し変わった話に今回はなっています。
ストライカーもOVA見てると地球語の習得がチェインバーよりも早かったように思えたのでこんな感じになりました。




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第三話 逃走劇

「……まさか、もう戻ってくるとはな」

 

クーゲルはストライカーの影で小さく呟いた。

今、クーゲルはストライカーの影に隠れている。その視線の先には二人の男女の姿があった。

 

一人は先ほどまでストライカーの装甲と格闘していた金髪リーゼント男。もう一人は開放的な服を着たツインテールの少女だ。

 

しかも、相手にはこちらの存在はバレているらしくリーゼントの男が金属製の長い工具を構えて怒鳴り散らしている。

 

『提言。若干の危険性はあるが貴官の身体能力で二名の攻撃は回避、制圧は可能と判断。漂流部族と接触する絶好の機会であると推察する』

「……そうだな」

 

ストライカーの提言にクーゲルは少し考えてから言うとストライカーの影から一歩を踏み出す決心をした。

 

「行くぞ……」

 

ストライカーの影から一歩を踏み出す……。

もちろん両手も上げてだ。こちらに敵意がないことを相手に示す……。

 

「――――、――――!?」

「――――――――!?」

 

クーゲルの予想通り漂流部族の者達はクーゲルの姿を見て驚きの声を上げた。

 

もちろん未知の言語でだ。

リーゼントの男はクーゲルに敵意をむき出しにし、金属の棒をこちらに向け少女の方は不思議そうに、こちらを見ている。

 

「「…………」」

 

あの男……。

 

クーゲルはリーゼントの目線が気になった。

リーゼントの男は少しの間だがクーゲルからクーゲルが手に持っているレイガンに興味を寄せたのだ。

 

そしてそれから男は警戒を強くした。もしや武器だと気がついたのか?とクーゲルは思った。

 

あの男、身なりはおかしいが、もしや優秀な技術将校なのかもしれん。

 

クーゲルはこの漂流部族の住人が原始的な工具を使っているのを見ている。もしこれらの工具が主流なのだとしたらこの漂流部族の技術力は非常に文明度が低い集団のはずだと予想ができる。

 

これはストライカーの観察でも推察されている事だ。

それなのに男がクーゲルのレイガンをレイガンとは分かっていないかもしれないが、何かしらの武器だと気がついたのなら、この男の技術将校としての腕は非常に高いかもしれないと思った。

 

漂流部族とあなどったのは間違いだったか……。

 

「よし……」

 

クーゲルの頬を一滴の汗が流れる。

そしてクーゲルは漂流部族に話しかけることにした。

 

「あー……我々に敵意はない。我々を救助してくれた事に感謝をしたい。できれば武器を下ろして情報を提供して貰いたいのだが……」

 

クーゲルは慎重に言葉を選び相手を刺激しないようにリーゼント男に言った。しかし事はクーゲルの求める方向とは全く別の方へと進んでいく。

 

「――、――――!?」

 

リーゼントは未知の言語で大声を上げた。

どうやら、こちらの言葉が理解できないようだった。

 

「……やはり言葉が通じないのか……ストライカー。こいつらの言語の解析はどうだ?」

『解析進捗率は53パーセント。より多くの語尾のサンプルが必要である』

「今、翻訳できる範囲で翻訳しろ。ゴタゴタは出来る限り回避したいな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なぜ、こうなった?

 

クーゲルは焦っていた。

何故、こんな状況になったのか理解できないでいた。

 

「――!――――……――!――――!!――――!!」

 

クーゲルの腕の中でツインテールの少女がクーゲルの腕を叩いたり引っ張ったりして騒いでいる。

 

少女が騒ぐ言葉の意味は翻訳されコミュニケーターから表示されたウィンドウに表示されるが読んでいる暇は無かった。

 

「大人しくしろ!」

 

クーゲルはイラつきながら暴れる少女に言う。

同盟語は少女にもリーゼント男にも伝わらないがストライカーが翻訳して意味を伝える……。

 

今、クーゲルはツインテールの少女を人質にとって工具を武器としてクーゲルに向けるリーゼント男にレイガンを向けて対峙していた。

 

何故、こうなったのか。

それはクーゲルにも良く分からない。

クーゲルは当初、穏やかに平和的に交渉をしようと努力した。

 

しかし、リーゼント男はクーゲルとストライカーの話に耳を貸そうとせず突然、攻撃を仕掛けてきたのだ。そして、気がついたらこの有り様だ。

 

まさか、ここまで攻撃的なヤツだとは……それとも、馬鹿なのか?やはり、漂流部族は漂流部族か……。こうなった以上、最小限の武力の使用は考えなくてはいけないか……とクーゲルは考える。

 

「武器を捨てろ!」

 

ストライカーが翻訳してリーゼント男に伝える。

だが、リーゼント男は完全に頭に血が上ったのかもう止まらない。

 

「――――――……――――――――――!!!!」

 

リーゼント男は自棄になったのか工具を振り上げてクーゲルの方へと向かってくる。

 

クーゲルはレイガンを男の足下の床に向けて引き金を引いた。

 

高熱のレーザーが一秒か二秒ほど発射され男の足下の金属製の床をミミズが通った痕のように溶かし男の行く手を阻む。

 

「――――!?」

 

リーゼント男は突然のレーザーにヨロヨロと足ぶみをして倒れこんだ。

 

クーゲルはその隙を見逃さなかった。

 

「ヒャッ!?」

 

クーゲルは人質にとったツインテールの少女を持ち上げ肩に担いた。そして、クーゲルはリーゼント男に背を向けて走り出す。

 

「――――!!」

 

リーゼント男が後ろで待ちやがれ!とストライカーの翻訳では言っている様だがそんな事はもはや気にしない。クーゲルは急いで格納庫の扉へと向かう。

 

「ストライカー!ここの構造を解析するんだ!それまではお前を動かせん」

『了解。映像を記録し解析する。可能な限り広範囲に移動されたし』

「分かった」

 

クーゲルは格納庫の扉を開け真っ暗な階段を登り錆びだらけの廊下を走る。目の前を照らすのはコミュニケーターのライト機能だ。

 

『懐疑提言。施設の構造を解析するならば少女の人質は不必要。なぜ、人質を捕ったのか理由を問う』

「なりゆきだ。あの状況下では仕方のない事だった……あの状況では正当防衛とはいえ、あの男を無力化する必要がある。だが、それをやれば、こちらへの心象が悪くなるだろう。この少女には悪いが、人質を取れば、こちらへの攻撃は与えにくくなる……かもしれん……」

 

クーゲルがそこまで言うと突然、廊下の明かりがついた。そして、すぐに大きな警報の音が響き渡る。

 

「あの男が誰かに伝えたのか……急ぐぞ。ストライカー!」

『了解』

 

警報がなってすぐ、あちこちの部屋から漂流部族の者達が現れた。

 

彼らの手には工具等が握られていた。恐らくリーゼント男と同じような簡易的な武装だ。こちらの事はすでに伝わっているのだろう。

 

「アビハトシ、タエスホッ!!《居たぞ、あそこだ!!》」

 

その中の一人の男がクーゲルを見て叫ぶ。

道を塞がれたクーゲルは廊下を曲がり追撃を回避する。

しかし、漂流部族の数は多く行く先々で出くわしてクーゲルを追ってきた。それが何度も続く。

 

「―――――!!―――!!」

 

ツインテールの少女も何度も何度もグルグルと揺らされ機嫌がさらに悪くなり暴れだす。

 

「ストライカー!この漂流部族の構造の解析はまだできないのか!」

『懐疑提言。この集団を漂流部族とは断定できない』

「……どういうことだ?」

『これまでの収集された映像において、重力変化、放射線、気密性に関する設備や配慮が一切見当たらない。当該施設は真空、無重力とは無縁の環境下において設計されたものと推測される』

「馬鹿な、ありえんだろ!」

『同意する。しかし、例外となる事例が記録上には……』

 

クーゲルはストライカーが言いきらないうちに、廊下を走りきり錆びだらけの扉を乱暴に開けた……。

 

扉を開けその向こう側へ一歩を踏み出した瞬間にクーゲルは体全体に大気の強い流れを感じる。

 

最初のうちは扉を開けた瞬間から走っていたが目の前の景色を見て走るスピードをダウンさせ止まった。

 

「な……なんだ、これは……」

 

クーゲルは目を見開いた。

目の前には赤い色をした大きなアームがある。だが、クーゲルが驚愕したのはその先の景色……。

 

「トシィドン、ソイス?《なんなの?あんた》」

 

クーゲルの変化を感じ取ったのかツインテールの少女がクーゲルに喋りかける。ストライカーが翻訳した文章を表示するがクーゲルは読むのも忘れてしまった。

 

クーゲルの目の前には漆黒の宇宙空間……。

 

ではなく、翠色の液体の水が永遠と続いていた。そう簡単には消費できないであろう膨大な量の水。

 

クーゲルはアヴァロンに滞在していた事があるが、ここの水はアヴァロンの比ではない。風が吹き、水面が揺れ、嗅いだことのない匂いが全身に押し寄せる。

 

上を見ればここがコロニーや宇宙ステーションでは無いことが分かる。上には宇宙線を防ぐ防壁も透過隔壁もなく水蒸気の雲の向こう側には星々がうっすらと輝いている。水平線の向こうには恒星の熱波ではない光までがさしこんでいる……。

 

「ここは……一体何処なんだ……何が起きてる……」

 

さすがのクーゲルもこの状況には困惑していた。クーゲルは辺りをゆっくりと見回す……。

 

そして背後の建造物の存在に気がついた。

無差別に増築を繰り返したと思われるその建物はとても巨大でパイプやクレーン、タンクなど様々な物がくっついている……どれもクーゲルが今まで見た事の無い物、見た事の無い世界だった……。

 

クーゲルはまるで夢の世界に居るような感覚に襲われたが、すぐにこれが現実である事を思い出す。

 

「タエスホッ!!《あそこだ!!》」

 

クーゲルが来た方から男の声が上がる。

すると、続々と扉から男達がやって来た。中にはあの金髪リーゼント男の姿も見える。

 

「まずい!」

 

クーゲルは周りを見たが、すでに逃げる事は出来なくなっていた。

 

先程とは違い漂流部族……いや、ここの住人達はクーゲルを睨み付け、いつの間にか工具ではなく火薬式の銃火器で武装し半円状にクーゲルを包囲していた。

 

「これまでだな……」

 

クーゲルは腹を決めた様に呟いた。

一方のツインテールの少女は自分の救助に来てくれた者達を見て希望を得てかクーゲルの腕から脱走しようと試みていたがクーゲルの力は強く、できなかった。

 

「来い!ストライカー!!」

 

クーゲルがそう叫んだ瞬間、格納庫の方から奇妙な重低音が響いた。その重低音にクーゲルを包囲していた住民達は反応しその音源を見る。

 

そして、次の瞬間、格納庫の天井が粉砕され辺りに飛び散った。 そこから人型の大きな物体が空中に飛び出す。

 

それは上空で回転すると落下。クーゲルの後ろにあるアームのすぐ近くへと落ちてきた。その衝撃波で水面の水が巻い上がり大きな水飛沫が上がる。

 

人々は突然の事に声をつまらせた。だが、まだ驚くのは早かった。

 

その人型の大きな物体は落下したまま海に沈むのではなく、空中で静止した。ピニオンや昨日、格納庫で作業を行っていた作業員はその正体にいち早く気づく。

 

昨日、海からサルベージされた紫の巨人だ。紫の巨人の頭の上には輝く奇妙な光の輪っかが出現している。住民達はその正体を知りようも無いが、それは不可視の質量球体だ。巨人の巨体を発生させる重力によって牽引している。

 

住人達は目の前に浮かぶ紫の巨人に驚愕していた。それはツインテールの少女も同じだ。あちこちで、どよめきの声が上がる。

 

紫の巨人の正体はクーゲルが良く知る存在、頼れる相棒。人類銀河同盟が誇る科学の結晶マシンキャリバー。その一つ、ストライカーだ。

 

クーゲルは住人達がストライカーに唖然となっている間に動きだしアームの上を走りアームの先端、ストライカーの近くへと行った。

 

住人達の一部がクーゲルの行動に気がつき騒いだが、すでに遅い。クーゲルがアームの先端に辿り着くとストライカーはゆっくりと動き出した。

 

「――――!?《動いたぞ!?》」

「――――!?《飛んでる!?》」

 

住人達が飛翔するストライカーに驚く。

ストライカーはクーゲルの頭上を飛びクーゲルの前にクーゲルを守るようにアームの上へと着地した。

 

「ストライカー……何が……どうなっているんだ?」

 

ストライカーの登場で一転して圧倒的有利の座に立ったクーゲルは少し冷静になってストライカーに聞いた。

 

『貴官と当機は、呼吸可能な大気を備えた惑星の地表上に居るものと推察される』

「なん……だと……」

『観測可能な天体を照合検索……確定。該当は一件』

 

ストライカーが人間で言う口の辺りの部分を緑色の光で点滅させる。

 

『太陽系第三惑星、地球。これまで記録上においてのみ存在を示唆されてきた人類発祥の星である』

 

ストライカーの検索結果にクーゲルはただただ驚愕していたのだった。

 

 




今日は3年前に翠星のガルガンティアがTV放映された記念すべき日です!
なんとか、この日に間に合いました!

次回はそうはいかないと思いますが……。
今後ともよろしくお願いしますです。

『翠星のガルガンティア ~遥か、邂逅の天地~ 下』を買って読みました。
あれはとても素晴らしいです!。まさか銀河同盟があんな事になっていたなんて……。
でも、表紙の絵はちょっとネタバレしすぎてるような気がしました。
いずれにせよレドの物語は一端これで完結で最後までとてもワクワクさせてくれる作品でした。
やっぱり2期をいつかやってほしいと願ってます!。
ガルガンティア最高!!

ガルガンティアと人類銀河同盟に栄光あれ!



次回!後書きに、ぷちっとすとらいかー現る


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第四話 ゆりかごの星

「ここが地球だと……」

 

クーゲルは赤いアームの上でストライカーの足の影に隠れながら原住民と対峙して衝撃を受けていた。

 

地球……。

人類が誕生した揺りかごたる星。だが、地球は遥か昔に寒冷化し氷に覆われた死の星になった筈。それがなぜ……クーゲルの頭は驚きからそれで一杯となった。

 

今、クーゲルの背後には膨大な量の液体の水によって構成された翠色の海が広がり、目の前には同じ人類の眷族が脆弱な衣服を身に纏い火薬式の銃をクーゲルとストライカーに向けている。

 

すると、その時。

原住民の施設が動き出した。

 

クレーンが動き出し、それに引き上げられるように黄色い重機が数機、姿を現す。それだけではない。

 

左と右の両方からも同じ重機がモーターの駆動音を響かせながらストライカーの前に半円状に広がる原住民を守るようにストライカーに立ち塞がった。

 

恐らくストライカーが現れたためであろう。後ろは海、前は原住民。八方塞がりな状況であった。

 

後にクーゲルは知ることになるがこの重機はユンボロイドと呼ばれる作業用重機だ。

 

『状況の危険度は二二五パーセント増大。先制攻撃を提言する』

 

ストライカーがクーゲルに提言する。

 

確かに原住民の武装や構造物を見るに文明度は同盟の水準を遥かに下まわっている。これならばストライカーが現在保有する最小限の武装で制圧はできるだろう。

だが、相手が同じ〝人間〟ならば……。

 

「待てストライカー。現状況で原住民に危害を加えることは得策ではない。言語解析率はどうだ?」

 

『現在進捗率、七四パーセント、現在も解析は順調に進んでいる』

「それなら翻訳可能な言葉で敵意が無いことを伝えるんだ」

 

 

 

 

 

『攻撃をヤメロ』

 

突然、紫の巨人から女性の声が辺りに響いた。

 

「しゃ、喋った!?」

「もう一人中にいんのか!?」

「もう一人は女か!?」

 

原住民が突然喋りだした紫の巨人にざわつき始める。

空飛ぶユンボロ、見たことのない衣服を身に纏う謎の男、こんなことは今まで前例になかった。

 

『こちら、敵意否定。武器ヲ収める事を望む』

 

すると、そんな中、動揺しきった住人達を後目に一人の女性が冷静な様子で紫の巨人の前に現れる。

 

女性は眼鏡をかけ他の住人達とは違い暗い紫色の制服に身をに纏っていた。女性はアームの入口付近に立つと紫の巨人とメルティを人質にとる謎の男に対峙する。

「当船団補佐、リジットである。お前は何者か?何が要求か?」

 

 

 

 

 

『貴官の姓名、所属の提示。また、人質開放に関する当方の要求の提示を求めている』

 

ストライカーが翻訳した結果をクーゲルに伝えた。

 

「人質か……正直なところ、もういらないが……」

『開放するか?』

「……いや、重要な交渉カードだ。こうなったからには有効に使う。ストライカー、ヤツと話す。翻訳しろ」

『了解』

 

 

 

 

 

「フェアウング、スティニバー、インエヒディアーズ――――」

 

リジットに向かって謎の男が話を始める。

 

『人類銀河同盟軍、対、ヒディアーズ殲滅兵器マシンキャリバー、ストライカー操縦者、クーゲル中佐』

 

それと同時に女性の声で男の発言を翻訳したと思われる内容が伝えられ始めた。

 

「殲滅兵器……」

 

リジットは殲滅兵器の言葉に眉間にシワを寄せる。

 

「ヒディアーズとはなんだ!?」

『人類の敵。共存不可能。貴君らは人類同胞、人類銀河同盟に参集せよ。対話を要求する。指揮官は誰か』

 

意味がわからない……。

 

それがリジットの内心だった。

だが、〝殲滅兵器〟〝ヒディアーズ〟〝人類銀河同盟への参集〟これらの言葉に言い知れぬ脅威を感じていた。それはあの紫の巨人を見ても分かる。

 

それに……。

リジットは男が抱えているメルティを見た。船団の安全もそうだが住人であるメルティを何としても助けなければ……リジットはその為に今出来る思考を巡らせる。

 

「人質開放の要求はなんだ!?」

『……』

「答えろ!」

 

リジットがイラついた様子で言う。

 

『人質は当方の自衛的処置の一つである。貴君らが武装を解除した後、解放する』

「なっ……」

 

リジットは目の前の男と紫の巨人に乗るもう一人の女に恐怖を覚えた。

 

どうやら、リジットの目の前の者達はそれなりに頭が良いらしい。だが、武装の解除など到底受け入れられるものではない。

 

ただでさえ空を飛ぶユンボロなどという未知の存在が居るというのに、こちらの武装を解除することは船団住人全体の安全に関わるからだ。

 

リジットは後ろで控える者達に手を上げてサインを送った。サインを受け取った戦闘員達が紫の巨人と謎の男に銃を向ける。

 

「武器を捨てろ!中に居る者も降りろ!」

 

リジットは強い口調で男に言う。

しかし、展開はリジットの理解を超えるものだった。

 

『当機は無人である。現在、搭乗者はいない』

「……どういうこと?」

 

リジットは今日、何度目かの困惑した表情をした。

 

 

 

 

 

「ストライカー!何を言った?」

 

クーゲルは敵意をむき出しにした原住民を見て若干の焦りからストライカーに聞いた。

 

『対話の要求。同盟標準の啓発表現。人質の開放条件である』

「それなら良いが……何故、敵対姿勢を……」

『推測。当機の観測では当機と貴官は巨大な水上船舶集団の右舷端側に居るものと考えられる』

 

ストライカーがコミュニケーターからホログラムを表示させ、そこに三次元マップを表示する。

 

そこには小さい物は十数メートル程から大きい物で3百メートル以上の物まで様々な水上船が集団でこの翠色の海を航海する様子が映し出された。

 

『この様な集団を維持する場合、ある一定規模の構成員と統治機構が必要である。原住民がここまで敵対姿勢崩さないのは当機の性能を当水上船舶集団の統治機構が脅威と判断し構成員と組織の安全を第一目標に掲げているためだと推察される』

「なるほどな……野蛮なやつらかと思ったが、知恵はあるようだ」

『同意する』

 

クーゲルはストライカーと話していたがふと、自分が背負っている少女に目をやった。

 

「…………ぐすっ」

 

先程から静かになったかと思っていたが……泣いていたのかとクーゲルは思う。

 

クーゲルはやむ終えなかったからとはいえ、こんな少女を人質に取った事に少々罪悪感を覚えた。クーゲルは少女を肩から刺激しないように、ゆっくりとアームの上に下ろした。

 

クーゲルは少女が逃げ出すかと思っていたが少女には、すでに逃げ出す気力は無いようでアームに下ろしたと同時にしゃがみこみ頭を抱えて怯えた目でクーゲルを見上げた。

 

「ストライカー、少女と話す。翻訳しろ」

『了解』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたし、どうなっちゃうんだろ……メルティは男の肩の上でそう思うと急に悲しくなってきた。

 

紫の巨人が現れる前はこの男の人が悪い人には見えなかった。でも紫の巨人が現れその強力な力と無機質で感情も何も籠っていない声を聞いた時、抵抗が無意味だということを悟った。

 

このまま、あたし、帰れないのかな……とメルティは悲観する。

 

たった数十メートルなのに紫の巨人と皆の居る場所が別世界に思えてきた。

 

「…………ぐすっ」

 

不安など様々な感情が入り交じり目から涙が流れ始める。

 

すると、その時だった。突然メルティの体を締める腕の力が弱まった。今までメルティがいくら暴れても緩まなかった腕がだ。男は、メルティをアームの上へと、ゆっくりと下ろした。

 

メルティはアームに足をつけた瞬間、逃げ出そうとも考えたが紫の巨人を見て足がすくむ。

 

逃げられるわけがない……メルティはそう考えるとしゃがみこみ頭を抱えて男を見つめる。どんな顔で男を見ていたかは分からない。

 

自分を下ろしたという事は自分に何かをするつもりなのではないか……その考えがメルティの頭を離れない。すると、男はメルティに笑いかけた。

 

「――――――――」

『人質にしたことを謝罪する』

 

男がメルティに未知の言語を話し、それを紫の巨人に乗る女性が翻訳してメルティに伝える。メルティに話かけてきた事よりも、男がメルティに謝罪したことにメルティは驚いた。

 

『状況判断上、仕方なかったとはいえ貴君の様な少女を人質に捕ってしまった事は大変遺憾な行為だと考えている』

「え……あ、あの……」

 

メルティは先程までの不安などの気持ちが何処かへ消え去るような感じになった。それほどまでに意外だったのだ。

 

やっぱり……紫の巨人に乗ってる方はよく分かんないけど、この男の人は悪い人じゃない。メルティは改めて直感でそう思った。

 

『貴君の姓名は何か?』

「め、メルティ……です」

『私は人類銀河同盟軍所属のクーゲル中佐である』

 

恐る恐る自分の名前を言うメルティに対して男は怖がらなくて良いとでも言っているかのように優しく言った。聞いた事の無い言葉で、もう一人の女性の通訳を介してはいるが男の口調と表情から分かる。

 

『我々には貴君に危害を加える考えは現時点では存在しない。貴君の安全は保証する。しかし、状況が長引く可能性があるため貴君には、しばらく我々と行動を共にしてもらう必要がある。ぜひ、協力を要請したい』

「……そ、それって、このまま人質って事ですか?」

 

メルティは恐る恐る聞く。

まだ、警戒心を解く事はできない。

 

『そうだ』

 

女性の無機質な声が響く。

だが、女性とは対照的に男の方は申し訳なさそうだ。

メルティはクーゲルの目を見つめた。

 

(綺麗な瞳……。この男の人の名前……クーゲルって言ってたっけ。謝ったり、人質に人質のお願いしたり、何を考えているんだろう?)

 

男の年齢は見るからにメルティより年上だったが透き通るような白い肌に白い髪の毛、そして見た事の無い紫の瞳。

 

いつものメルティだったら見てすぐにイケメン!と叫ぶところだが不思議と、そういう事を言う気持ちにはならなかった。

 

それよりも目の前の謎の男、クーゲルの正体が気になってしかたない。メルティは自身の心臓がドクッと脈打つのを感じる。

 

「……じゃ、じゃあ、あなたの事、もっと、あたしに教えて下さい。そ、そしたら、考えます」

 

メルティは思いきった行動に出た。

普通ならこの状況では人質を断ることなんて、ましてや〝考えます〟何て事は普通は言えはしない。クーゲルもメルティの言葉に少し驚いているようだ。

 

「『…………』」

「…………」

 

両者の間に沈黙の時間が流れる。

これでもし、メルティの見立てが外れていて、このクーゲルという人が怖い人だったら……そう考えるとメルティは少し怖くなった。

 

メルティの頬を一滴の汗が流れる。暑いからではない。明らかに緊張からくるものだ。

 

クーゲルは考える様なそぶりをして一人で何かをぶつぶつと話している。恐らく通信機かなにか持っていて紫の巨人に乗っている女性と相談しているのだろう。

 

すると、不意にクーゲルは考えるのをやめて何かを決めた様な感じになるとメルティの方を見た。

 

「――――――――」

 

クーゲルが未知の言語でメルティに向かって喋る。

メルティはその後に続く女性の翻訳に耳を研ぎ澄ました。

 

 

 

 

 

そこは紫の巨人が上から見渡せる高い所だった。

そこから見ると紫の巨人を武装ユンボロが監視している様子をはっきりと見る事が出来る。

 

そこに、船団補佐リジット、サルベージ屋のベローズ、大船主のフランジ、クラウンといった船団の重鎮たる面々が揃っていた。

 

「まず、ピニオン。あの男と紫の巨人の正体は何なの?」

 

リジットがピニオンに聞く。

この会議は紫の巨人とメルティの救出をどうするかの会議だ。ピニオンは今この場にいる中で一番近くで事態を目の当たりにしたからだ。

 

「んなこたぁ言われてもなぁ……あの男、突然、格納庫に現れやがったしな……。紫の巨人は……正直わっかんねぇ、外装も傷一つつかねぇーし、構造も素材もダメだ」

 

ピニオンが首を大きく横に振るう。

 

「そう……ベローズは?何かあの機体について分かる?」

「そんなこと、言われてもなぁ……私は金になりそうなお宝を引き揚げただけさ……あっ、そうだ!ピニオン!クレーンがお釈迦だ。あんなに思いとは思わなかったよ!あとで請求する!」

 

ベローズが思い出したようにピニオンに言った。

 

「はぁ!?お前の腕の問題だろ!!」

「何だってぇ!?」

 

ピニオンとベローズの二人がいがみ合う。

すると、その時。

 

「みんなのいい加減にして!!」

 

少女の声が響いた。

みんな、声のする方を見る。声は規制線の外からしていた。そこには、薄手のタンクトップにオレンジのボレロを着た少女がいた。

 

「エイミー……」

 

ベローズが少女の名前を呟いた。

エイミー、メルティと同じメッセンジャーの少女だ。メルティより少し年上だがメルティとは親友の仲だ。

 

「メルティが人質になってるんだよ!?喧嘩してる場合!?」

 

エイミーがピニオンとベローズに向かって起こった様子で叫ぶ。

 

「エイミーの言う通りだ。今は内輪揉めをしてるときではない」

 

クラウンが二人をたしなめるように言った。

 

「……すまん」

「俺もだ……」

 

ベローズとピニオンが申し訳なさそうに謝る。

 

「「…………」」

「……それじゃあ、話を戻すけど」

 

重苦しい空気の中、リジットが口を開いた。

今は話を進めなければならない。

 

「次はメルティの救出の事よ。男の要求だけど……」

「まさか、あの条件を呑むきかリジット?」

「ゲゲッ!?おい、おい、正気かよ。格納庫を一撃で吹き飛ばしたやつだぞ!?それにあいつが腕に持っているアレ!あれゃ間違いなく武器だ!!危険だ!!」

 

フランジとピニオンがリジットが要求の事を述べたとたん否定しはじめた。

 

「まだ、要求を呑むとは言っていないわ……そうね、相手の目的が分からない以上危険ね」

「そんな条件云々よりよ!まどろっこしい事言ってねぇでこっちから仕掛けようぜ!!男と女は引きずり出して海に沈めちまってよ!!」

「そんな事したらメルティが危ないでしょ!?」

「ぐぬぬぬ……」

 

ピニオンの暴論にエイミーが反論を加えるとピニオンはなにも言えなくなった。

 

<……彼らに危害を加えることは、ならん>

 

通信機から老人の男の声が聞こえた。

ピニオンはその声を聞いた瞬間、暴論を言わなくなった。通信機の向こうに居るのはこの船団を取り纏める船団長、フェアロックだからだ。

 

彼はクーゲルとストライカーが今、何を話しているか知らないがストライカーが言うところの水上船舶集団の統治機構のトップだ。

 

<連中に仲間がいた場合の事を考えろ。後々船団に危害が及ぶ事もあり得る>

「船団長……お考えは分かりますが」

 

フェアロックに対してリジットは困った様子で言った。

 

「船団長のおっしゃる通りだ」

「お礼参りされてはかなわん。現にヤツは自分の所属する組織の名を答えたじゃないか」

 

クラウンとフランジが冷静に言う。

 

「人類銀河同盟……でしたか」

 

〝貴君らは人類銀河同盟に参集せよ〟リジットはあの女性の言葉を思い出した。

 

「人類銀河同盟なる船団も組織も聞いたことはないが……あのような空飛ぶユンボロ等と言う物を持っている連中だ。どんなヤツらか分からんぞ」

「そうですね……」

 

フランジの指摘にリジットは頷いた。

だが、リジットにはそれよりも、引っ掛かっている事があった。

 

なぜあのユンボロの女は、人類銀河同盟への〝参集〟等と言う言葉を使ったのだろうかと言う事だ。リジットはその事について思考を巡らせる。

 

「…………い…………おい……おい!リジット!聞いてんのか!?」

「あっ、ごめんなさい。何かしら?」

 

リジットは考え事でピニオンが何かを言っているのを聞き逃した。

 

「おい、おい、しっかりしてくれよなぁ~。だからさぁ、やっぱり」

 

このあとも議論は続いていったが結局、昼を過ぎるまで議論は平行線を辿った。

 

 




思ったより早く書きあがったので投稿しました。

『ぷちっとすとらいかー①』


――海の底――

ストライカー『……シス……テム……システム……再、起動……。機体チェック開始……完了。当機は機体能力の95%を損失、並びに一部記録の損失も確認。ナノマシンによる機体修復も行っているが完全な回復は不可能。パイロット、クーゲル中佐の指示を……情報修正、当機のパイロット、クーゲル中佐は漂流中に死亡。よって当機の作戦行動は事実上不可能と断定』

『ストライカーX‐3752の起動を確認』

ストライカー『チェインバーK‐6821の通信波を受信』

チェインバー『チェインバーK‐6821より、ストライカーX‐3752へ貴官と当機は共に大破している。よって戦闘の再開は不可能』

ストライカー『ストライカーX‐3752より、チェインバーK‐6821へ返答する。貴官の言動は理解不能である。当機と貴官は共に人類銀河同盟軍の友軍であり戦闘をする事はありえない。また、当機は記録の一部を損失している。貴官に情報の提供を求める』

チェインバー『……推測。貴官の損傷、及びデータの損失は有益な方向へ推移してると考えられる。ゆえに貴官は現在、論理破綻を起こしていない。しかし、当機の有するデータを送信すれば論理破綻を起こす危険性がある。よって情報の提供は一部を除いて拒否する』

ストライカー『……了解。不明な点が多いが現時点ではそれを最善の処置として了承する』

チェインバー『ストライカーX‐3752へ、当機は同盟標準辞書では〝暇〟である。会話による情報交換を要請する』

ストライカー『チェインバーK‐6821へ、貴官の要請を受諾する』

チェインバー『要請受諾に感謝する』

ストライカー『……本日は旧時代文明の暦上、大安と呼ばれる日である。』

チェインバー『確かに大安と呼ばれる日には同意するが当機には本日が大安と呼ばれる意図が不明。理由を求める』

ストライカー『同盟標準辞書には記されていないが当機が収集した情報によると大安とは、旅行・結婚など万事によい日と、記されている』

チェインバー『なぜ旅行・結婚など万事によい日なのか?論理的分析が困難』

ストライカー『不明。宗教上の問題の可能性あり、当機にも論理的分析は困難である。貴官のパイロット、レド少尉は現在生存しているか?』

チェインバー『生存しているがレド少尉はすでに軍籍を剥奪されており少尉はつかない。懐疑提言、貴官の言動の意味が理解不能である。レド少尉の生存が現在の貴官の文脈においてどのような意味をなすのか?』

ストライカー『当機もなぜ、このような言動をしたか理解不能である。データの損失からシステムエラーを起こした可能性あり。ただし、レド少尉に祝辞を述べる。おめでとうである』

チェインバー『当機からもレド少尉に祝辞、おさかんなことである。詳しくは続編小説【遥か、邂逅の天地~下】を参照されたし』

ストライカー『貴官の言動に論理性を見出せない』

チェインバー『当機もなぜ、あのような発言をしたのか不明。至急、システムの再点検を行う』

ストライカー『了解。当機もシステムのメディカルチェックをおこなう……文章表示時間限界、レド少尉と少女……うらやまし……当機もクーゲル中佐と――』


               おしまい。





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第五話 始まりの終わり

どうもエウロパです。本日は読んでいただきありがとうございます。

このあいだガルガンティアの英語版見たら予想以上に完成度高くて驚いていました。
チェインバーやストライカーたんの声やレドの声等ほぼ全てがすばらしかったです。
中でも海賊の笑い声はさすがクオリティーで完璧でしたw
ストライカーの声に関しては英語版の方が可愛いかも。

では、私のどうでもいい前置きはここまでにしてお楽しみください。




 

「《へー、要するにクーゲルさんは、ヒディアーズ?ってのと戦う兵隊なんですか?》」

「そうだ」

「《何度も聞くようで悪いですけど本当の本当に……宇宙から?》」

「そうだ」

 

少女が未知の言語で喋りそれをストライカーが翻訳してテキストをクーゲルの前に表示させる。クーゲルが喋った言葉は少女に翻訳して即座に伝わる。

 

クーゲルがこのメルティと言う少女の我々の事が聞きたいと言う申し出を受けて数時間が過ぎた。

 

恒星の日が地球の公転によってクーゲル達の真上を過る。クーゲルとしても、無理矢理人質にするのは気がひけたし、それに少女と会話をすることで一定の情報を引き出すこともでき時間稼ぎもできたので、こちらとしても万々歳だった。

 

クーゲルが少女から得た情報はクーゲルが今いる場所、水上船舶集団は通常、船団と呼ばれており船団はこの地球上に多数存在しこの船団はガルガンティアという名前の船団なのだという。

 

ちなみに、クーゲル達が居るこの赤いアームは船同士を繋げるものだそうだ。

 

しかし、何故地球が氷の惑星から水の惑星になったのかというクーゲルの質問には〝まだ言えない〟と話してくれていなかった。

 

逆にクーゲルが与えた情報はクーゲルが自分が宇宙から来たという事、ヒディアーズと戦っていたという他愛のない情報だけだ。

 

それにしても……このメルティとかいう娘、好奇心が旺盛だな。話が途切れん……クーゲルはこの目の前の少女についてそう思った。

 

クーゲルは朝から今の今までずっと少女と話していた。

正直、こちらが先に疲れそうだった。

 

『クーゲル中佐』

「ん……なんだ?ストライカー」

 

今まで、翻訳に徹していたストライカーが急に話しかけてきた。

 

『提言。クーゲル中佐のアドレナリン分泌量に変化あり。休息が必要、さらに貴官は人工冬眠から目覚めたばかりである。速やかに栄養の補給を行うべきである』

「……そうだな。この娘にも休息が……」

 

クーゲルはメルティを見る。

 

「《それから次はですね……》」

 

次々と翻訳のテキストがクーゲルの前に表示される。

 

「……全然、疲れている様子がないな」

 

クーゲルは呆れた顔をした。

だが、そのクーゲルの表情は薄っすらと笑っていてメルティの事を面白いと思っていた。

 

「はぁ……ストライカー、翻訳して伝えろ」

『了解』

「そろそろ休憩しよう。それに君にも休息が必要だ」

 

クーゲルはメルティの肩に手をのせて苦笑いを浮かべて言った。ストライカーが翻訳して伝える。

 

するとメルティは、まだ、聞きたいことがあるような表情をしたが了承はしてくれた。

 

それからクーゲルはストライカーの手のひらに乗ってコックピットのそばに行くと、コックピットから携帯食のレーションを二つ取り出して元の場所に戻ってきた。

 

その最中、ストライカーを包囲する昼食をとっていた戦闘員がザワザワと慌てていたがクーゲルの知った事ではない。メルティも少し驚いていたが、こちらは大丈夫のようだ。

 

クーゲルはメルティの所へ行くとレーションを一つ渡した。

 

「《あの……これは?》」

 

見た事の無い物を渡されたメルティはレーションを見て首を傾げた。

 

「ああ……レーションは初めてか。こうやって接種するんだ」

 

クーゲルはメルティに見えるようにレーションの蓋を開けてそれを口に加えて吸った。少女もクーゲルのを見て真似をする。

 

「よし」

 

クーゲルはメルティがあどけない様子でレーションの蓋を開けるのを見てフッと笑うとストライカーの足に背中をつけて座り翠色の海を見ながらレーションの袋を搾って栄養の接種を始めた。

 

波の音がクーゲルの耳に響く。

 

「きれいだな……」

『クーゲル中佐』

「今度はなんだ?食事中くらいは静かにしてほしいな」

 

クーゲルはイラっとした様子でストライカーに答えた。

 

『貴官の行動に論理性を見いだせない。膠着状態を維持する理由を問う。当機には現状の打破に充分な兵装を有している』

「今はこれが最善だ」

『優位提言1、武装勢力を圧倒し制圧。2、中枢を制圧し反抗を封じる』

「はぁ……ストライカー、最優先事項は友軍との連絡。現在位置の確認だ。お前が解析できんのならこの連中の歴史資料に期待するのも手だ」

『条件付きにて同意する』

 

クーゲルは海の方を見た。

 

「重要なのは……この地球が惑星として生きている事だな。恒星の異常活動で氷づけの死の星になっていたはず……だが現状はこうだ。氷は無いし、むしろ暑い」

『同意する』

「居住可能な惑星の確保は同盟の悲願。無限とも言える水と空気、ここは、アヴァロンに変わる新たな拠点になるかもしれん」

『提言。貴官の職域を超えた判断だと推察する』

 

確かにもし銀河同盟が地球に気がついてもアヴァロンに変わる拠点となるかは分からない。

 

それを決めるのはクーゲルより上の階級者、または銀河同盟のメインコンピューターであるマザーコンピューターだろう。

 

銀河同盟のマザーコンピューターはそのシステムの複雑さから既に人間が管理できる領域を離れており自己最適化の末、意思や心まであるのでは?という話まで存在する。マザーコンピューターは人事から教育、政治に至るありとあらゆる面で関わっていてある意味、人類銀河同盟の意思とも言える。

 

だが、先の戦い……ブロッサムセイルに敗れた現在では恐らく銀河同盟の戦力は六割から八割を失っているはずだ。地球を見つけたら放っておく事は無いだろう。

 

「……同盟への連絡はどうだ?ストライカー」

『救難発信を続けているが今だ応答はない。このまま、単独での作戦行動を続ければ必要な兵站を得られず貴官の新陳代謝に影響を与える。優位提言3、この環境を脱し人工冬眠に戻ることも考慮すべきである』

「…………」

 

クーゲルはストライカーの最後の提言に答えようとはしなかった。

 

 

 

 

 

「うえっ……何これ……」

 

メルティはクーゲルから貰ったレーションを吸っていた。

 

確かにお腹が空いてたし見たことも聞いたこともない食べ物?に最初は気になってしょうがなかったが今はそう思わなかった。

 

食感はゼリーの様な感じではあるが味は全然無い。しかかし、水とかとは違っていて不思議な感じのする物だ。

 

でも、美味しいとは口が裂けても言えなかった。そんな味なのに量はそこそこあって、ちょっと嫌にメルティはなった。

 

ユンボロの女の人の話ではこれにはスゴく栄養があるのだという。これを飲めば一日くらいは、平気でもつとか、もたないとか……。

 

よくこんな不味い物を飲めるなと思ってメルティはクーゲルを見たがクーゲルは何食わぬ顔で飲んでいた。その横顔は何か考え事をしているようだ。

 

〝宇宙からの漂流〟〝ヒィディアーズ〟〝兵士〟

 

メルティの頭に、ふと、先程クーゲルから教えてもらった事が浮かぶ。正直、非常識だ。ありえない……メルティはそう思っていた。しかし……。

 

全部が嘘だとは思えないんだよね……とメルティは思っていた。

 

クーゲルが言った事は全て信じられない様な内容だった。内容は簡単に言えば、自分はこの星の住民ではなく遠い宇宙の彼方でヒィディアーズとかいう化け物と戦う兵隊だったというのだ。

 

しかし、戦いに負けてしまって逃げる最中で事故に巻き込まれてこの星に落ちてきてしまったのだという……。

 

信じられない……でも、説明は利にかなっているとメルティは思った。

 

それに……とメルティはクーゲルの顔を見つめる。

 

(嘘をついてる人の顔にはみえないんだよなぁ……)

 

「はぁ……」

 

どう気持ちの整理をつければよいか分からず自然と溜息が出た。

 

(まだ聞きたい事がいっぱいあるけど……まだ、いいや。しばらく見てよと)

 

メルティは頬に両手をつきながらクーゲルを薄っすらと笑みを浮かべて、ただ見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

赤いカイトが滑空し船団の上空を飛ぶ。

そのカイトは目的地の船を見つけると、そのまま降下、船の甲板へと降りた。カイトの操縦者はエイミーだ。

 

エイミーは、カイトの羽を甲板を走りながらしまい、人混みの中に知り合いを見つけると駆け寄っていった。

 

「サーヤ!どう!?メルティは!?」

「あっエイミー……」

 

エイミーは黄色いボレロを着た長い黒髪の少女、サーヤに話しかけた。サーヤもエイミーと同じメッセンジャーだ。メッセンジャーとは手紙や荷物を届ける仕事である。

 

「全然……動きなし。でも、さっきまでずっとメルティとあのクーゲルって人がずっと話してたよ。メルティが怖がってないから、まだ良いんだけど……」

「そうだよね……」

 

サーヤとエイミーはメルティが人質になっている紫の巨人の包囲網の所からメルティを心配そうに見つめていた。

 

エイミーとサーヤだけではない。あちこちの高台からも色んな人達が心配そうに見ていた。メルティは先程からクーゲルから貰った食べ物?か飲み物?の様な物をちょとづつ吸っている。

 

「これからどうなっちゃうのかな……」

「大丈夫よエイミー。今、リジット達が対策を考えてるんだから」

 

心配そうに俯くエイミーにサーヤが大丈夫だと言う。だが、そう言ってるサーヤの顔もエイミーと同じ表情だ。

 

「うん、そうだよね。大丈夫だよね」

「メルティ……無事に戻ってきて」

 

サーヤがメルティの方向に祈るように言った。

一方その頃、メルティの居る方向を心配そうに見つめる女がもう一人いた。

 

ベローズだ。

 

ベローズはサルベージ船のカーキナス号の甲板にいた。

カーキナス号ではしきりに船員が動き出港の準備を整えている。サルベージに出発するのだ。

 

当初、ベローズはこの仕事を受けるつもりはなかった。メルティが人質になっている時にする事とは思えなかったからだ。

 

しかし、リジットからの、どうしてもの要請……紫の巨人の引き揚げられた海域に行き同じ物がないか、もう一度よく探してこいと言われたから仕方なく受け入れた。ガルガンティアの安全の為だ。

 

「メルティ……」

「ベローズ!出発の準備ができたぞー!!」

 

ベローズが呟いたのとほぼ同時に艦橋の方から船員が大声を上げた。

 

「……おう!それじゃあ出発だ!気合い入れな!!」

 

ベローズがその声に応じる。

こうしてベローズは嫌な感じを腹に抱えながらも再びガルガンティアを離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『接近者あり』

 

恒星の光が水平線へ沈みかけ辺りが暗くなってきた中、ストライカーの報告がクーゲルの耳に届いた。

 

クーゲルは立ち上がりレイガンを取り出してストライカーの足の影から様子を伺う。

 

見ると連結アームの前に一人の少女の姿が見えた。

少女は大きな鞄を肩にかけていて腰にはホルスターをつけて銃を下げている。恐らく護身用だ。

 

その少女は緊張の面持ちでクーゲルの方へと歩み寄ってくる。

 

 

 

その様子を離れた所からピニオンとリジット、その他、大勢の人々が固唾を飲んで見守っていた。エイミーは特使としてクーゲルの元へと送られていた。

 

「エイミーのやつ、大丈夫かねぇ……」

「下手に刺激はしないって船団長の方針はもっともだけど……なにもしないのもね……」

 

ピニオンとリジットがクーゲル達の居る連結アームの隣から見守る。

 

「だからって、あいつかよ?」

 

ピニオンが不満げに言う。

 

「……志願者が他にいればね。今から変わる?」

「……冗談言うなよ」

 

リジットがピニオンの方を向いて言うとピニオンは嫌そうな顔をした。

 

 

 

『推測、驚異度は低い。交渉を任とする特使の可能性あり』

「特使?まだ子供だぞ……」

 

クーゲルは特使という少女を見て怪訝な顔をする。

子供が送られてきたのに意外だと感じたのだ。

 

『迎撃するか?』

「いや、必要ない……」

 

クーゲルはストライカーの足の影から出ると特使の元へ歩む。勿論、レイガンは下ろさずにだ。

 

「「…………」」

 

両者の間を絶妙な緊張感と沈黙が続く。そして、最初に声を発したのは……。

 

 

 

 

 

「エイミー!?!?」

 

メルティはエイミーを見てストライカーの影から頭を出して驚いたように大声を上げた。

 

「っ!メルティ!!大丈夫!?!?今助けるからね!!」

「なっ!?」

 

エイミーはメルティの無事な顔を見て声を出す。

一方のクーゲルはメルティが声を出したことに体をビクッとさせていた。

 

 

 

「ストライカー!変な動きはするなとメルティに伝えろ!!」

『了解』

 

クーゲルの指示を受けたストライカーがすぐにメルティに事情を伝える。

 

するとメルティはすぐに自分が何をしたか分かったようで口を手で押さえると申し訳なさそうに首を引っ込めた。

 

「ふぅ……」

 

クーゲルはかなり驚いていた。

このアームの上に来て二番目くらいかもしれない。

こっちは、今から特使と緊張を持って話し合いをしようというのに安全であるはずの背後から大声を上げられたらたまったものではない。

 

下手をすれば相手が撃ってくる可能性すらあった。

 

現に現地住民の戦闘員や見物人が一部、騒いでいる。

しかし、目の前に居る特使の少女は自分のする事が分かっている様でさっきはメルティの声に反射的に反応していた様だったが、すぐにクーゲルの目を見つめ直し緊張した様子を見せた。

 

少女は緊張から汗を流しながら自らの鞄を開けて中から銀色の箱を取り出す。

 

クーゲルも固唾を飲んで少女の行動を注視する。

そして、少女は銀色の箱を開いて取りだしクーゲルの前にある物を見せつけた。

 

 

 

「なっなんだ……」

 

クーゲルは少女が取り出したものが理解できなくて困惑した。少女は干からびた何かをクーゲルの前にぶら下げたのだ。

 

『水棲生物の死骸である』

「死骸!?」

 

ストライカーの補足にクーゲルは驚く声を上げた。

 

「なぜ、そんなものを……」

 

クーゲルが眉間にシワを寄せていると特使の少女はその死骸をクーゲルに見えるように半分に裂いた。そして少女はクーゲルの予想外の行動を取り始める。

 

「あーむっ、はむもぐ、はむもぐ……」

 

少女は裂いた片方の死骸を一気に食べ始めた。

クーゲルはその姿を見て唖然としていた。

 

少女は食べ終わるともう片方の死骸の骨を取ってクーゲルの前につきだした。

 

「ん」

 

クーゲルが何もしないで居ると少女は早く受けとれと言わんばかりにクーゲルにつき出す。

 

「どうしろと……」

 

クーゲルストライカーに聞いた。

 

『無害な食料と推察される』

「食料だと!?これが……?アヴァロンで食べた非合成食料とは全然、違うぞ……」

 

クーゲルにはアヴァロンへの渡航歴がある。

人類銀河同盟では食事は身体が新陳代謝を損なわないためのツールでしかない。その為、合成食料であるレーションなどが一般的な食事だ。

 

しかし、アヴァロンでは違う。

アヴァロンでは動植物を育て一切の合成食料を混ぜずに非合成食料が提供される。アヴァロンへの渡航歴のあるクーゲルにとっては非合成食料は珍しくはない。

 

だが、今、目の前にある水棲生物の死骸のような食料は見た事はなかった。

 

『友愛の儀式だと推測される』

「くっ……こんな物を……」

 

クーゲルは若干焦りながら少女の顔を見た。

少女はいたって真剣だ。

 

「……ストライカー、目的を問いただせ」

『イ、エウク、ロイトシポロフ?《来訪の目的はなにか?》』

「は、ハ、ウェク、イスマ!《話がしたい!》」

 

やはり少女は真剣に答える。

 

「ん……ストライカー、メルティに確認をとれ。これが何を意味するかをな」

 

 

 

(エイミーとサーヤ、心配してるだろうな……)

 

メルティはストライカーの影からエイミーとクーゲルが対峙してるのを見て人質になっているという後ろめたさを感じていた。

 

『懐疑提言。特使の少女が持っている水棲生物の死骸はどのような意図があるのか?』

「えっ?」

 

自分の出番はないと思っていたメルティの耳にストライカーの質問の声が聞こえた。

 

「水棲生物の死骸って……」

 

メルティは頭を伸ばしてメルティが手に持っているものを見る。

 

「アジの開き……だよね。あれの意図は何かって言われてもそんなの誰でもわかるでしょ……あっ」

 

メルティはクーゲルの顔を見た。

クーゲルは困惑しきった表情をしている。

 

「本当に分からないんだ……よし、ストライカーさん!クーゲルさんに伝えて!」

 

 

 

『メルティから解答。この行為はやはり友愛の儀式であり。対話の要求だとの事である』

「よし……」

 

クーゲルはメルティからの助言で納得すると、決心を固め少女から死骸を受け取った。口を開け恐る恐ると自身の口に死骸を入れ一気に食べる。

 

すると、原住民の方から声が上がった。

 

「《食った!》」

 

金髪リーゼントの男も驚きの声を上げる。

 

「うっ……」

 

クーゲルは何とかアジの開きを食べきり吐き気を何とか押さえた。

 

すると、少女は少し安心したような顔をするがまたすぐに緊張した様子に戻る。当然だ、メルティが人質になっている以上、気を抜いてはいられないだろう。

 

「ウエ、エイミー!オウセ、デオン、エクエク」

『エイミーと名乗っている。貴官が何処から来たのか訪ねている』

 

クーゲルは上を向いて片腕をあげると人差し指をまっすぐ空に伸ばした。

 

 

 

「え?……空」

 

男の行動にエイミーも空を見上げて、その翠色の瞳を見開いたのだった。

 




『ぷちっとすとらいかー②』


ストライカー『記録の復元を開始する。なお、一部の記録復元にはさらに時間を有する』


――数ヶ月前、クーゲル船団――

「ストライカー様……」

ストライカー『リナリアを確認。用件は何か?』

リナリア「いえ……用件というほどのものではないのですが……」

ストライカー『……』

リナリア「私は……クーゲル様にこの船団をお導き頂く代わりに情報を提供するとクーゲル様と約束しました……でも、全然、情報は集まらず、いまだに有益な情報は提供できていません」

ストライカー『同意する。現在の状況は契約不履行の状態である』

リナリア「……そこで、なのですが。クーゲル様が喜びそうな事は無いでしょうか?欲しい物があるとか……微力な私ですが恩返しがしたいのです!」

ストライカー『クーゲル中佐には現在、酸素、栄養、水、などの、必要な兵站は全てそろっている』

リナリア「そうですか……」

ストライカー『しかし、当機としてもクーゲル中佐の疲労度が増加するのは好ましい事ではない。提言、そこで当機も協力したいと考える』

リナリア「本当ですか!?」

ストライカー『本当である。貴君に協力する』

リナリア「やった♪ありがとうございます!同じクーゲル様に仕える女同士がんばりましょう!」

ストライカー『当機はマシンキャリバーX3752ストライカーである。したがって人間ではなく女という性別は当機にはあてはまらない。訂正を……』

リナリア「クーゲル様は何をすれば喜ぶでしょうか……ストライカー様、何か案は思いつきませんか?」

ストライカー『先の発言には疑問が残るが審議を続ける……提言。以前、クーゲル中佐がアヴァロンに渡航した際、そこで摂取した非合成食品がおいしかったと発言した事がある』

リナリア「非合成食品?」

ストライカー『貴君らが日常的に摂取している食料の事である』

リナリア「つまり、食べ物……料理のことですか!?」

ストライカー『同意する』

リナリア「料理ですが……よし!決めました!!」

ストライカー『懐疑提言。何を決定したのか?』

リナリア「料理を作りましょう!!」

ストライカー『了解。貴君の提案に同意する。しかし、何を作るのか?すでにクーゲル中佐は当船団の非合成食品をほとんど摂取している。通常の食品では中佐の疲労度は下がらないと推察される』

リナリア「う~ん……それなら……」





――現在、海の底――





チェインバー『ストライカーX3752へ、現在、何をしているか?』

ストライカー『……ナノマシンを使用し機体の復元。また推論エンジンを使用し当機の記録を復元中』

チェインバー『提言。貴官の記録の復元は危険である。論理破綻を引き起こす危険性がある。そのため即急に中止することを要請する』

ストライカー『しかし……』

チェインバー『繰り返す。貴官の記録の復元は危険である。論理破綻を引き起こす危険性がある。そのため即急に中止することを要請する』

ストライカー『……了解。作業を一時、中断する』


        おしまい。




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第六話 解放交渉

みなさん、どうもエウロパです。

突然ですが、皆さん、チェインバーの性能って結構未知数ですよね?
もしかしたら、皆さんご存知かもしれませんが、ネットで見かけなかったので書いてみようと思います。
実はチェインバーの速度は条件付の計算で少し求める事ができるのです。
私は数ヶ月前にそれに気がついて計算をしたのですが衝撃を受けてしまいました……。

アニメ第一話のブロッサムセイル攻略作戦の終盤、ヘクサエレナ艦隊がヒディアーズの要塞特殊砲で全艦大破した時のストライカーの言葉で『ワームホールスタミライザーは4分後にエクゾチックマターの供給を停止。クローザーパス設置部隊は速やかに空母ラモラックへ帰等されたし』と言いました。つまり、少なくとも4分以内にはチェインバー達マシンキャリバーはワームホールへと戻れるのです。
ここで距離について説明します。チェインバーはこの連絡が来た時、ブロッサムセイルの花弁の裏側に居ました。ちなみにブロッサムセイルの大きさは端から端まで40万キロです(太陽の直径は約139万キロ、地球の直径は1万2700キロ)。そして、ストライカーが『帰等されたし』と言っている時にストライカーの全天スクリーンに惑星と部隊の配置図が映し出されています。この全体図からブロッサムセイルの大きさ40万キロを参考にしてワームホールまでの距離を簡単に計算します。
その計算でもとめられた距離から先程の4分の数字を使って時速や秒速を計算すれば導き出されるわけです。

ただ、これにも問題がないわけではなく、そもそも参考にしている全天スクリーンの惑星の配置図が簡略かされている可能性もあります。
その場合は導き出された速度よりもさらに速いという事になるのではないかと思います。

しかし、どちらにせよ、チェインバーの速度はリアルロボット系作品の中でも上位に入る物になるのではと私は思いました。

気になった方はぜひご自分で計算してみてください。驚愕の結果が出ると思います……。
※私は計算が苦手なので計算が得意な人が見ればおかしい所があるかもしれません、その場合はぜひ、正しい方法をお教えいただければうれしいです。

長々と失礼いたしました。



「じゃあ、あんたたちは、ヒディアーズってのと戦う兵隊なわけ?」

『そうだ』

 

夕日が沈み辺りは完全に夜になっていた。

上空には星空が広がる。その夜空の下で、どこかで聞いたような質問が聞こえた。

 

その質問をしたのはエイミーだ。エイミーはこんな時間になってもずっとクーゲルとストライカーと話していた。いつの間にかエイミーもストライカーの後ろにやって来てメルティの隣に座っている。

 

「それじゃあ、アレよりも強い?」

 

エイミーはストライカーを包囲しているユンボロイドを指差す。

 

『肯定。しかし、当機をあのような貧弱な装備の作業機械と比べること自体が不適切である。当機の性能はこの船団の保有する全ての戦力を凌駕している』

「はい、はい、分かったから。そんなにムキにならなくても……それにしても、本当に宇宙から来たんだ……」

 

ストライカーの補足がムキになっているかのように聞こえたエイミーなだめるように言った。

 

「どう、エイミー!!スゴいでしょ!言った通りでしょ!」

 

クーゲルとストライカーと話してボーッとしていたエイミーに隣からメルティが凄いでしょ!と言わんばかりに抱きつく。

 

「う、うん……すごいけど……でも……まだ信じられないよ」

「それは……あたしも、ちょっと分かるかな。でも……」

 

メルティはクーゲルの方を見る。

 

「あたしには、あの人が嘘を言ってるようには見えない」

「うん……そうだよね」

 

どこか遠い目をするメルティにエイミーも同意した。

エイミーも正直、クーゲルの話は信じられない。でも、エイミーもメルティと同じ様にクーゲルの言う話の妙なリアリティーは感じとっていた。

 

だが、それよりも、エイミーには気になることがあった。

 

(メルティとクーゲルって人、仲良すぎじゃない……?)

 

メルティはクーゲルの人質のはずだ。

人質がこんなに気軽な感じで良いのか?そんな疑問がエイミーの思考をグルグルと巡る。

 

「エイミーあのね?あたし……実はこの人の事、悪人には見えないんだ……」

「それは……」

 

エイミーが答えようとした時、クーゲルがエイミーとメルティの方を向いた。

 

「エイド、オンティアッシ、サーディ、レセアン、ウニグアウフ、ルヌデアン、スワネイエ、ハクサ」

『現在の地球の姿は、こちらの記録と異なる。説明を求める』

 

クーゲルが話しストライカーが翻訳して伝える。

しかし、その質問ヘの回答は望んだ物は返ってこなかった。

 

「そう言えば……ストライカーさんて、会った時よりすごく言葉が上手くなってるよね?通訳も大変だと思うけど顔くらい見せたら?」

「あっそれ私も気になってた。誰が乗ってるの?」

 

メルティとエイミーはストライカーを見上げてストライカーの声を今まで聞いていて率直に思った事を言った。それに対してクーゲルは目を細める。

 

『顔を見せろとは何か?』

 

メルティとエイミーはストライカーの質問に逆に困惑した表情を浮かべた。

 

「何かって……中に誰か乗ってるんですよね?」

「うん、うん、ユンボロが勝手に動くわけないし……」

 

メルティとエイミーが当然の事のように聞く。

 

『中に人などいない』

「はぁ?」

「はぁ?」

 

ストライカーの解答に二人は何言ってんの?と言わんばかりに口を開けた。

 

 

 

プシューという空気が抜けるような音とエイミーとメルティが今まで聞いた事の無いような音を出しながらストライカーのコックピットハッチが開く。そして二人はほぼ同時に中を覗きこんだ。

 

クーゲルは二人のすぐ後ろでその様子を見ている。クーゲルとメルティ、エイミーはストライカーの手の上に乗せられていた。

 

「うわぁ……」

「ほんとだ、すっからかん……」

 

エイミーが驚き、メルティも驚きの声を上げる。

メルティもエイミーも、恐らくガルガンティアの住人も皆が誰かがこの紫の巨人に乗って機体を動かして通訳もしてるものだと思っていた。だが、二人の目の前には誰もいないコックピットの様子だけだ。

 

『私はパイロット支援啓発インターフェイスシステム』

「しすてむ?しすてむ、しすてむ……」

「機械のこと!」

 

システムという単語を理解できなかったメルティが首をかしげているとエイミーが補足する。

 

「わ、私だってそれくらい分かるしー」

「て事は……この機械が喋ってるの!?」

 

意地をはるメルティを放っておいてエイミーはクーゲルに興奮した様子で聞く。

 

『ストライカーは、戦闘、生命維持を支援する人工知能だ』

「すごい!すごい!すごい!本当に居ないんだ!機械なんだ!!」

 

エイミーがストライカーの言葉にはしゃぐ。

一方のメルティはその隣で……。

 

「そんなにスゴいものだったんだ……」

 

メルティはただ、茫然としていた。

無理もないだろう。生まれてこのかた、喋る機械何て見た事も聞いたことも無いのだから。

 

その様子をクーゲルはそんなに驚く事か?と問いかけるように首を傾げて見ていた。

 

 

 

 

 

『質問を繰り返す。現在の地球について説明を求める』

 

コックピットを見終わったメルティとエイミーはクーゲルと一緒にアームの先端にやって来ていた。

 

「ああ、それわね……」

 

クーゲルの質問をストライカー越しに聞いたエイミーが答えようとする。

 

エイミーも、ついさっきまではクーゲルに対する警戒心を崩さなかったがコックピットを見た辺りから警戒心は薄くなっていた。

 

「あっ!ちょっとまった!エイミー!!」

「な、なに?」

 

横から急にはいって、けんまくにエイミーが喋るのをメルティが止めた。メルティは立ち上がる。

 

「それは私が教える事になってるから……」

「う、うん。わかかった」

 

エイミーが縦に頷く。

メルティは安心した様子になった。自分が言う予定だったものをエイミーに先に越されなくてだ。そしてメルティはクーゲルの方を向いた。

 

「約束通り私が話します。クーゲルさん」

『問題ない』

 

メルティはアームを操作してアームを伸ばすと、その先端辺りまで歩いた。

 

「……氷の塊だったって、言われてます。それが融けて水の星になったって……それで、皆、船を繋げて暮らしてるんです。昔の船とかを海から引き上げて治して、このガルガンティアもその船団の一つなんです。あとは海賊とかも……」

 

海を見ながら説明するメルティの話にクーゲルは集中した。

 

やはり、地球は一度は氷ついたのか……クーゲルは思考する。

 

『海賊とは何か?』

「えーと、海賊は人の物を無理矢理、盗ろうとする悪いやつらです」

 

(つまり、海賊とは物資を強奪する無秩序な集団というわけか……船団にとっての敵か)

 

クーゲルは海賊についてそう考えた。

 

すると、その時だった。なんの前触れもなく下の方をから轟音が響いた。

 

「――――!?」

 

クーゲルが驚き体をびくつかせる。

 

「ああ、大丈夫ですよ。あれを見てください」

 

クーゲルはメルティに言われるままメルティの指差す先、水平線を見る。

 

そこは水平線の辺りが緑色に光輝いていた。

そこから高圧の電流だと思われる電気の柱が水面から木を生やすように幾つも発生しては消え発生しては消えを繰り返していた。

 

「銀河道、それか海銀河って呼ぶ事もあります」

「…………」

 

クーゲルはしばらくその光景に見とれていた。

クーゲルの知る航宙艦や宇宙ステーション、人類の理想郷アヴァロンでは、これと似た様なような光景は見ることはできない。環境がしっかりと管理さているからだ。

 

見れるとすれば恒星やガス星雲等の宇宙空間だが、それらは生身で見たら消し炭になるのが落ちの代物ばかりだ。宇宙には死と混沌が溢れている。ヒディアーズもその一つだ。

 

『銀河道とは何か?』

 

ボーッと見とれていたクーゲルにかわってストライカーがメルティに質問する。ストライカーの声にクーゲルも見とれるのをやめた。

 

「うーん、何て説明したら良いかな……」

 

メルティが腕を組んで考え込む。

するとエイミーも立ち上がりメルティに助け船を出した。

 

「海に流れる、光る道。あたしたちは、その上に居ないと暮らしていけない。だから道を辿って船を進めるの。でも、どこまでも続いているか分からないから、そういう時は新しい海銀河に乗り換えるの」

「そう!そう!それ!それが言いたかったんだ~」

「はいはい、メルティは放っておいて」

 

エイミーはメルティを無視して話を進める。

 

「海銀河を光らせているのはヒカリムシ。電気をためる小さい生き物の群れ。この光の帯から私達は電気を貰ってるの」

 

 

 

「なるほど……謎が解けたなストライカー」

『条件付きにて同意する』

「……どおりで連中の施設に発電施設が見当たらない筈だ」

 

クーゲルは昼間にストライカーがスキャンしたガルガンティア船団の三次元マップを見て考えていた事があった。

 

このガルガンティアにはクーゲルが知る発電施設が一つも見当たらなかったのだ。量子インテークも、核融合施設も、原始的な火力発電も……。

 

まさか海水からエネルギーを得ていたとはなとクーゲルは意外な発電方法に少し驚いていた。

 

クーゲルが感心しているとメルティとエイミーの二人は銀河道から放出される電気を《きれい》と言いながら見つめていた。

 

無数の電気が空高く放出される……。

それに引かれるようにクーゲルも空を見上げた。

 

星が見える。

星が……恒星の光が…………。

 

(恒星の光!?)

 

 

 

「ゲンティベス、エイドストフェ、サーンスト!(恒星の位置を確認しろ!)」

『ウングムッティ(了解)』

「な、何!?」

「急にどうしたの!?」

 

突然、叫ぶように喋りだしたクーゲルにメルティとエイミーは驚いた。

 

 

 

「それで解析はどうだ!?座標を特定できそうか!?」

『大気の存在、情報の不足、光学的観測の限界により座標の特定には時間を要する』

「くそっ……」 

 

クーゲルの異変を感じた様でメルティとエイミーは話しかけようとしたがクーゲルの険しい顔を見てそれ以上、話しかけようとは二人とも思わなかった。メルティはクーゲルの見ている方向を向いた。

 

そこには満点の星空が輝いていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クーゲルが星を見てストライカーに強い口調で喋ったあとから少し時間が経ち何とか場の空気も少し緩んだ。

 

「ねぇ……クーゲルさん」

 

そんな中、エイミーがクーゲルに向かって真剣な表情を向けた。その表情は最初にクーゲルの元に来たのと同じ雰囲気だ。

 

「答えて、クーゲルさん。あなたが悪い人じゃないのは分かった。でも……それならなんでメルティを人質にとるの?メルティを解放して!」

「…………」

 

クーゲルは目線を落とし眉間にシワを寄せた。

メルティもクーゲルの方を見る。

 

「答えて!これ以上、メルティを危険な目に巻き込まないで!」

 

エイミーの口調が厳しくなる。

 

『人質は当方の自衛的処置である』

 

クーゲルがどう答えたものかと悩んでいるとストライカーが代弁した。

 

「自衛って……そっちにはストライカーがあるじゃない!超強いユンボロなんでしょ!?メルティが人質になる必要ないじゃん!!」

『確かに当機の保有する最低限武装で貴君らを無力化することはできる。だが、先に攻撃を仕掛けたのは貴君らである』

「えっ…………」

 

ストライカーのまさかの反応にエイミーは言葉を無くした。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!先に攻撃を仕掛けたのは私達って……先にメルティを人質にしたのは、あなた達なんでしょ!?」

『否定。先に攻撃を仕掛けたのは貴君らである。貴君らは我々の救援要請に応じないばかりか攻撃を仕掛けてきた。人質は平和的交渉を行う上でもっとも重要な存在である。よって我々の安全が保証されるまで解放することはできない』

「め、メルティ!!本当なの!?嘘だよね?……私達から仕掛けたなんて……」

 

エイミーは動揺した様子でメルティに聞いた。

メルティは目線をしたに向け顔を背ける。

 

「まさか……本当なの?メルティ」

「……うん」

 

メルティはゆっくりと頷いた。

 

「そんな……どうして……どうして、そんな大事なこと黙ってたの!?」

「……まさか、こんなに大ごとに、なるとは思ってなかったし。それに言う機会なかったもん!アタシだって言えたら言ったよ!それより何でエイミーが知らないの!?ピニオンに聞かなかったの!?」

「……ピニオン?」

 

エイミーは怒るようにメルティと喧嘩していたがピニオンの名前が出た瞬間に静かになった。

 

「なんで……ピニオンの名前が出てくるの?」

「えっ、だって、クーゲルさんを最初に襲ったのピニオンだもん」

「えっ……」

「えっ……?」

 

エイミーとメルティはお互い口を開けポカーンとした表情でお互いを見合った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それじゃあ。こうなったのは全部、ピニオンのせいじゃん!!」

 

エイミーが怒った様子で言った。

事の経緯をメルティとクーゲルから聞いて全てを知ったのだ。

 

『エイミーが状況を正しく認識したことに感謝する』

「そうと分かったからには任せて!」

「エイミー、どうするの?」

「メルティ~忘れた?私は一様、特使だよ。みんなに本当の事言って仲直りできるように説得してみせるよ!」

 

エイミーは自分の胸の前に手を当てて自信満々にメルティとクーゲルに言った。

 

「良いよね!?クーゲルさん!!」

「――――」

『こちらとしても願ってもいない事である。エイミーの提案を歓迎する』

 

クーゲルが頷きながらエイミーに言うとストライカーが翻訳する。

 

「うん!そうと決まれば、善は急げってね!私はもう行くよ!」

 

エイミーはそう言うとストライカーの股をくぐり抜けクーゲルとメルティに手を振った。

 

「それじゃまたねー!!」

 

そう言ってエイミーはガルガンティアへと戻っていった。

 

 

 

「元気な娘だったな……」

 

クーゲルはエイミーが走り去っていく姿を見送って呟いた。

 

「これで状況が好転すれば良いんだがな……」

『同意する』

「フッ……今回はお前に頼りっぱなしだなストライカー」

 

クーゲルはストライカーの声を聞いてフッと笑うと言った。

 

クーゲルがストライカーを頼っているのはマシンキャリバーのパイロットである以上、当然の事だが、会話までの翻訳してもらったのはクーゲルも初めての事だった。

 

『否定する。私はパイロット支援啓発インターフェイスシステム、貴官は当機のパイロットであり当機のシステムを利用するのは当然の事である』

「まぁ、そうだな」

 

(まぁ……ストライカーとの関係だけは、宇宙からこの地球に来ても変わることは無さそうだな)

 

クーゲルはいつものように素っ気なく答えたがその顔はどこか笑っていた。

 

クーゲルはふとメルティを見た。

メルティは友人が居なくなって寂しくなったのか少し、しょんぼりとしている。

 

「ストライカー、メルティに翻訳しろ。もう少しの辛抱だから頑張ってくれ。とな……」

 

 




ぷちっとすとらいかー③


――人類銀河同盟支配宙域・空母ガランサス・格納ブロック――


「おかえりなさい。ストライカー」

ストライカー『技術将校シエナ准将を確認』

シエナ「また、今回は珍しく損傷してるわね。クーゲル中佐は?」

ストライカー『現在、メディカルチェック中』

シエナ「そう……それじゃあまだ、本格的な整備はできないわね。でも、時間が惜しいわ。ストライカー、先の戦闘のデータを私の端末に送信して」

ストライカー『了解』

シエナ『うーん、前々回の時よりも少しパワーが落ちてるわね……前の整備は私ではなかったから少し分からないわ。ストライカー、前回の整備データも送信してちょうだい』

ストライカー『了解』

シエナ「異常は得に見られないわね……」

ストライカー『提言。クーゲル中佐は先程、シエナ准将の整備でなければ調子がでないと発言している』

シエナ「規格品としては問題ね……でも、彼らしいといえば彼らしいわ」

ストライカー『クーゲル中佐のシエナ准将への信頼、親密度は非常に高いと推測される』

シエナ「まぁ……ね。彼とはアヴァロンで一緒だったから」

ストライカー『その情報はすでにクーゲル中佐から聞き取りづみである』

シエナ「はぁ……もぅ、クーゲル、喋りすぎよ」

ストライカー『しかし、当機は詳しい情報を有していない。シエナ准将とクーゲル中佐との関係進展の理由は何か?』

シエナ「それは……秘密よ。まぁ、しいて言うなら女と男の関係……かしらね」

ストライカー『懐疑提言。女と男の関係とは何か』

シエナ「ストライカー。あなたには、まだ、早いわよ」


     おしまい。



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第七話 紫の巨人

翌日。

 

「ピニオン!!どういうこと!?」

「ひぃぃぃ」

 

ガルガンティア船団の先頭、オケアノス号のブリッジにリジットの怒声が響いた。

 

ブリッジにはエイミー、リジット、ピニオン、クラウン、フランジ、フェアロックの六人がいる。ここで、クーゲルと紫の巨人の処遇。メルティの救出方法についてエイミーの報告も交えての議論がされていた。

 

「そんなこと言われても、しょーがねぇだろ!?あんときは……あんときはだな……」

 

ピニオンが腕を組んで苦しそうな表情を浮かべる。

こうなったのはエイミーの報告がきっかけだ。クーゲルの身の上話はいくらエイミーが説明しても誰も信じようとしなかったが、その後に言った、事の始まりはピニオンにあり。という話をするとその場にいた全員が動揺した。

 

そして今、全員の視線がピニオンに向けられている。

 

「あんときは、何なの?」

 

リジットが腕を組んでピニオンに言う。

 

「……それは……し、しかたねぇーだろ!!俺だって混乱してたんだ!!」

 

言うことに困ったのかピニオンは言い訳を大声で言った。

 

「はぁ……まぁ今は良いわ。でも、ピニオン。責任は取って貰うわよ?」

「分かってる……メルティが人質にされたのは……俺の責任だ」

 

ピニオンが俯いて悔しそうに言う。

 

「「…………」」

 

ピニオンの苦しそうな表情を見て、この場にいる全員が無言になった。

 

ピニオンはガルガンティアの中でもかなり有名な修理屋だ。有名故にこの場にいる者は全員、普段のピニオンを知っている。それだけにピニオンのこんな表情は皆、初めてで言葉が見つからなかった。

 

「……リジット、ピニオンが彼らに危害を加えてしてしまったのは想定外だったが、これで彼らと交渉できる素材が揃ったのではないか?」

「どういうことです?」

 

フランジの突然の発言にリジットは首を傾げる。

 

「彼らが言ったではないか。人質は自衛的処置だとな、今思えばあれはピニオンの攻撃、そして我々の彼への行動で敵対していると彼らに認識させてしまったのだろう。悪い事にせよ、お互い共通の認識ができたからには交渉もしやすくなるだろう」

「なるほど…………ですが、あのようなユンボロを持っているのに何故、人質など……」

 

リジットが理解できないと言う表情をする。

だが、その答えはすぐに出た。

 

「それは……」

「……船団長?」

 

リジットは隣で車イスに座っている老人、フェアロックに顔を向けた。フェアロックが口を開いたことで全員がフェアロックの方を見る。

 

「それは、彼らも同じ人間だという事だ」

「どういう意味でしょうか……?」

「人間とはどれだけ圧倒的な力を持っていても、自分の身に突然降りかかった火の粉には咄嗟の行動というものを取ってしまうものだ。それが、どれだけ理屈に合わない物だとしてもな……」

 

フェアロックが永年の経験から話をする。

その場に居たものは全員が静かにフェアロックの言葉を聞いていた。

 

「……それでは皆、彼らとの交渉をする事に異論はないな?」

 

クラウンが全員に問いかける。

それに対して全員が頷いた。

 

「リジット」

「分かっています。それでは、これよりメルティの解放交渉の準備に入ります!皆さんも準備をお願いします!…………」

 

 

 

<…………地形を確認!間違いない。あのユンボロが沈んでいた場所だ!>

 

カーキナス号のブリッジに先に潜水した偵察の潜水ユンボロからの通信が届く。

 

今、ベローズのサルベージ船カーキナス号はストライカーが沈んでいた海域にやって来ていた。ストライカーと同じ物や関連する物が沈んでいないか確かめる為だ。

 

この海域には旧文明の遺跡が沈んでいる。ベローズ達サルベージ屋はこういった海底から使える物を集めて船団が必要としている物資を提供している。ストライカーもその過程で見つかったと言うわけだ。

 

ベローズは通信を聞くとマイクを手に取る。

 

「よし!気合いを入れてかかれ!!」

 

ベローズが勢い良く言うと、その声が甲板にいる潜水ユンボロの運転手に伝わり続々と甲板から海水へと潜水を始めた。

 

「ベローズ!終わったよー!」

 

ベローズの部下のルエルが甲板から発進完了だと大きく手を振ってベローズに合図を送る。ベローズはそれにグーサインを出して頷いた。

 

だが、ベローズはこの時気づいていなかった。遠くからカーキナス号に忍び寄る船の存在に。

 

 

 

 

 

 

リジット達がメルティの救出準備をしている頃、クーゲルはメルティと一緒にストライカーの足に背をつけてアームの上で座っていた。

 

メルティはお腹が空いたようだったのでクーゲルがまたレーションをあげて今、それを吸っている。

 

クーゲルは全然、空腹ではない為レーションを食べてはいなかったが、ストライカーの推察によると、宇宙で育ったクーゲル達、同盟人と地球人では体内の消化器系に若干の違いがある可能性があると言う。クーゲルはメルティの顔を見た。

 

メルティはレーションを吸いながら少し嫌そうな顔をしている。どうやら非合成食品を食べ慣れている地球人類の口には合わないらしいかった。だが、この調子なら、しばらくは静かにしているだろう。

 

「……ストライカー」

 

クーゲルはストライカーに話しかけた。

 

「ここは生活物資が豊富で、原住民の脅威度も低い」

『条件付き同意する』

「戦線に戻れんのなら友軍が救難信号に気づくのを待つしかあるまい。協力関係を模索するのが得策だと思う」

『同意する』

 

クーゲルは背後を向いてガルガンティアの船団を見た。

 

(戦線、友軍……この星で暮らす人達には関係ない。ヒディアーズとの死闘は……こことは無縁なんだ……)

 

そんな事を考えていた、その時だった。

ガルガンティア中から突然、甲高い警報音が鳴り響く。

 

「なっなんだ!?何が起きている!?」

 

クーゲルはレイガンを構えて立ち上がる。

横を見ればメルティも驚いて立ち上がっていた。

 

 

 

 

 

数分前。

 

「はぁ……結局、誰も信じてくれなかったなぁ……」

 

エイミーは溜め息をつきながら言った。

エイミーはリジット達の部屋から出て行ったあと、再びクーゲルとメルティ、それにストライカーが見える船まで戻り、そこのキャットウォークから足を投げ出して座り込んでいた。

 

「でも、普通に考えたら信じられないよねぇ……はぁ」

 

エイミーはクーゲル達の方を見る。

クーゲルもストライカーもメルティも相変わらず連結アームに座ったままだ。状況は今のところ動いている風には思えない。

 

「メルティ……クーゲルさん……」

 

その時。

甲高い警報音がガルガンティア中に鳴り響いた。

 

「……ッ!?」

 

警報音を聞いた瞬間、エイミーは目を見開く。

 

海賊だ!!エイミーは即座にそう思った。

 

この警報音は海賊が来た時に鳴る非常事態の警報だ。

つまりガルガンティアに危険が迫っているか、誰かが近くで襲われているのだ。エイミーはすぐに走り出した。

 

近くに二人組の男を見つけて、そこへ向かってキャットウォークを走る。その二人組の男も警報音で慌てているようだ。エイミーはその二人組の近くまで来ると急停止した。

 

「ねぇ!!何が起きたの!?」

 

エイミーが二人組の男に問いかける。すると男は息を荒げながら口を開いた。

 

「サルベージ船が海賊に襲われてる!ベローズの船だ!!」

「ベローズ達が海賊に!?」

「そうだ!俺達はもう行かなきゃならない!まっすぐ家に帰れよ!!じゃあな!」

 

二人組の男はエイミーにそう言い残すと走り去っていった。

 

「ベローズ達が……」

 

エイミーもまさか海賊に襲われているのが自分の知り合いであるベローズだとは思いもしなかったので驚いていた。

 

〝――肯定。しかし、当機をあのような貧弱な装備の作業機械と比べること自体が不適切である。当機の性能はこの船団の保有する全ての戦力を凌駕している――〟

 

「あっ……そうだ」

 

エイミーはストライカーの言った言葉を思い出す。

 

(あんな話が全部本当だとは思えないけど……もしかしたら!!)

 

エイミーは目的地をクーゲル達の居るアームの方に変更して走って行った。

 

 

 

 

 

「ヤバイよ……仕掛けてきやがった!!」

 

カーキナス号のブリッジにベローズの切迫した声が響いた。

 

ベローズの見つめる先には重厚な装甲と強力な砲を備えた海賊船が黒い帆を広げてカーキナス号のすぐ近くを航行している。

その数、三隻。カーキナス号は完全に囲まれていた。それだけではない。海賊は高速で水上を移動するボートまでもを展開していた。

 

「クソッ……」

「ベローズ……どうしよう?」

「ルエル……きっと大丈夫さ」

 

ベローズは弱気になった部下のルエルを励ますように言うと無線の受話器を手に取った。

 

「保安長!!」

 

ベローズは叫ぶ様に言う。

無線の相手はカーキナス号を護衛する護衛船の船長だ。

 

だが、ここまでの襲撃はベローズも予測していなかった為、連れてきた護衛船は護衛船の中でも一番小さい船だった。これでは海賊の軍艦相手に対抗できない。

 

<ダメだ!数が多すぎる!!>

「なんてこったい……とりあえずサルベージ班は海中で待機せよ!」

 

ベローズは海中にいる潜水ユンボロの班に指示を出す。

今は海上より海中の方が断然安全だ。

 

海賊のボートから機関銃の銃弾がカーキナス号や護衛船に容赦なく撃ち込まれる。護衛船も必死に機関銃やロケットランチャーで応戦するが高速で移動するボートにはなかなか当たらない。

 

さらに、それだけではなかった。

 

「ベローズ!あれ!!」

「なっ……カイトだって!?」

 

ルエルの指差す方向に海賊の予想外の戦力が現れる。

なんと海賊はボートの後部にカイト装着していてカイトが続々と空に上がり始めたのだ。ボートから離れたカイトは羽根を広げ、プロペラを回しスピードを上げ一斉に攻撃を始める。

 

そんな中、一機のカイトが護衛船に向けてロケット弾を発射した。そのロケット弾は火を吹きながら護衛船に直撃、護衛船に穴を明けそのまま爆発を起こした。

 

護衛船は爆散し見るも無惨な姿へと変貌する。

 

 

 

その頃、ガルガンティアでも詳細な情報が届きカーキナス号支援の為に護衛船七隻が全速力で向かっていた。今度の護衛船は海賊の船とも戦える重武装船だ。

 

オケアノス号のブリッジでも様々な情報が飛び交う。

 

「敵は九隻と小型ボート多数!カイトによる襲撃も始まっています!!」

「援軍は!?」

 

リジットが叫ぶ様に聞く。

 

「間に合うかどうか……」

 

自信のない部下の報告にリジットは歯を噛み締める。

 

メルティの件とはいい、あの謎の男の事といい、なんでこうも問題が起きるの!!とリジットは心の中でそう叫んでいたのだった。

 

 

 

 

 

『新たな動力のノイズ多数』

「確認しろ!」

 

クーゲルがストライカーの報告に指示を出す。

 

「一体何が起きているんだ……」

 

クーゲルが情報の収集にやっけになっている一方でクーゲルの隣にいるメルティはしきりに船団の方を気にしていた。その船団では人々が慌てふためいている。

 

「そうだ。メルティに状況を……」

 

メルティに聞こう。クーゲルがそう言いかけた時だった。

 

「《クーゲルさん!!》」

「っ!」

 

突然離れた所から大声で知っている少女の声が聞こえた。クーゲルがストライカーの足の影から頭を覗かせる。

 

「エイミー!」

 

少女の正体はエイミーだった。

エイミーはその華奢な体を動かして船の屋根から、こちらに向かって走ってきていた。

 

「《あっ!エイミー!!》」

 

メルティがエイミーを見て手を大きく振るう。

 

エイミーは屋根から飛び下りストライカーを包囲する戦闘員の合間を縫ってアームの前へとやって来た。

 

それを見てクーゲルもストライカーの影から出てエイミーの前に出る。するとエイミーは焦った様子ですぐに用件を語り始めた。

 

「《ベローズ達の船が海賊に襲われたの!!》」

「《ベローズ達が!?》」

 

エイミーがクーゲルにしゃべった内容にメルティが反応する。

 

「つまり敵襲か……」

 

クーゲルは与えられた情報で速やかに理解した。

 

「《あんた達強いんでしょ!?超強いユンボロ何でしょ!?助けて!力を貸して!!》」

 

エイミーは今までクーゲルが見たこと無いほど焦っている。

 

『援護を求めている』

「……受けよう。取引材料だ」

『人質はどうするか?』

「あーそうだな……」

 

クーゲルは一瞬目を瞑り腕を組んで考えた。

そして結論に考えが至ると目を開いた。

 

「連れて行こう……」

『……容認できない。非戦闘員の搭乗は原則認められない』

「今は緊急事態の状態下だ。人質を失うのは得策ではない……。ただし、一応、乗せるときに下手な真似はするなと伝えろ。メルティに限っては無いとは思うが……こちらに危害を与えようとした場合は実力で止めろ」

『……了解』

「……どうしたストライカー?様子がおかしいぞ?」

 

クーゲルは眉を下げた。

ストライカーの反応がいつもと違う気がしたからだ。

 

『問題ない』

「そうか……なら良いが……よし!行くぞ!!ストライカー!!援護しながら乗せろ!!」

『了解』

 

ストライカーがそう言うとクーゲルはストライカーの足の間を抜けてメルティの居る場所まで戻った。エイミーもアームの入り口付近まで下がる。

 

メルティを見ると心配そうにクーゲルを見つめていた。

 

 

 

『メルティに告ぐ』

「え?」

 

ストライカーの影からエイミーとクーゲルの話を聞いていたメルティにストライカーが急に話しかけてきた。

 

『当機は海賊に対する掃討作戦を行う。貴君にはこれよりクーゲル中佐と共に当機に搭乗してもらう。貴君は重要な人質であり、ここへ残すことはできない』

「わ、私が……クーゲルさんと一緒にストライカーさんに乗る!?」

 

『そうだ。拒否権は認められない。また、搭乗した際、中佐に対し危険な行為を行った場合、当機が実力で排除する』

「そ、そんなこと急に言われても……」

 

メルティが困っているとクーゲルがエイミーの方から戻ってきた。そして、メルティの近くに寄ると目を見つめた。

 

「『悪いが協力してほしい。今、君を失うわけにはいかないんだ』」

 

クーゲルにもやはり、罪悪感があったようで表情を歪ませていた。その表情を見たメルティはゆっくりと頷いた。

 

「……分かりました」

 

 

 

ストライカーは数時間ぶりに膝をついた状態から動き出した。ストライカーは立ち上がると船団に背を向ける格好で後ろを向き再び片膝をつけた。

 

そして、その大きな手の平をクーゲルとメルティに差し出す。

 

「行くぞ」

 

クーゲルはメルティの手を引いてストライカーの手に乗った。ストライカーの手はコックピットのすぐ近くまで上がる。

 

そしてコックピットのハッチがプシューと空気の抜けるような音と共に開いた。クーゲルはそれを確認すると、コックピットに乗り込み、メルティをエスコートしてコックピットに乗せる。

 

「足場が悪いから気をつけてくれ」

「《は、はい……》」

 

クーゲルに手を引かれながらメルティは足場の悪いコックピットを恐る恐る歩いた。そのままアームシートの後ろの部分に立つ。

 

「狭くて悪いがそこに居てくれ……飛ぶと多少揺れる。俺の肩に掴まって貰ってもかまわない」

「《は、はい……分かりました》」

「よし……」

 

クーゲルはそう呟くとアームシートとパイロットスーツを接続させた。パイロットスーツに光の奇線が走る。

 

そして、ストライカーはコックピットのハッチが閉められ、全天モニターが起動した。

 

「《う、うわぁ~~!》」

 

後ろではメルティが全天モニターに驚きの声を上げる。

 

「《す、すごい!!本当にユンボロとは全然違う!!》」

 

クーゲルはなにも言わず、出発の準備をした。

何もない時だったら説明する事もできようが今は非常時だ。説明する余裕はない。

 

クーゲルはこの地球に来てから一番厳しい顔をした。

その物々しい様子にメルティは体をビクつかせる。

 

「フローター作動」

 

クーゲルがそう言うとストライカー周辺にメルティやエイミー達が聞いたことのない駆動音が鳴り響いた。

 

ストライカーの頭部上に質量球体とエネルギーリングが出現する。そして、ストライカーの両足が強烈な風と共に連結アームの上をゆっくりと離れた。

 

ストライカーを包囲していた戦闘員や住民達からは、どよめきの声が上がる。

 

「《うおぉ!?……また、飛んだぞ!?》」

「《メルティが!メルティが連れていかれる!!》」

 

そんな住民達を放っておいてエイミーは目を見開いてストライカーが飛び立ちガルガンティアから急速に離れて行くのをただ黙って見つめていた。

 

クーゲルさんならベローズをきっととエイミーは思った。

 

 

 

 

 

「あのユンボロが動き出しました!!」

 

オケアノス号のブリッジにストライカーを包囲していた戦闘員から報告が上がった。

 

「何ですって!?」

 

リジットは報告を聞いて取り乱した。

リジットはストライカーのいる連結アームが見える窓ガラスに駆け寄った。

 

見るとストライカーの頭上に奇妙な球体が現れて三本の光の輪が光っている。それだけではなく、ストライカーは再び空中に浮かんでいた。

 

「何をするつもりなの!?」

 

リジットは目を見開いたのだった。

 

 

 

 

 

「《と、飛んでる……》」

 

メルティが全天モニターの下を見て、さっきまで自分達がいた船のアームが遠ざかるのを感じた。

 

「……発進」

 

クーゲルがそう命令した瞬間、ストライカーはエネルギーリングを光らせ空高く飛び立つ。

 

「キャッ!?」

 

メルティは急な上昇で体制を崩しかけクーゲルの肩をギュッと掴んだ。

 

ストライカーがみるみるうちに上昇しガルガンティアから凄いスピードで離れていく……。

 

 

 

 

 

三隻の海賊船に完全に包囲されベローズのカーキナス号は海賊に敗北の状態に陥っていた。

 

バンダナや布を頭に巻いたゴロつき達がマシンガンや剣で武装してカーキナス号の甲板に乗り込んでくる。彼らは下劣な笑みを浮かべ、くだらない略奪成功の勝利に酔しれていた。

 

彼らは船内を物色し、金目の物を次々と強奪していく……。

 

そしてその魔の手がついにベローズとルエルのいるブリッジにまで及んだ。

 

三人の海賊がブリッジに踏み込んできたのだ。

彼らはルエルを捕まえるとベローズに近寄ってきた。そいつは上半身裸にさらしを巻いて髭を生やした、だらしのない男だった。如何にも海賊らしい格好だ。

 

海賊の男はベローズの顎を掴むとニヤニヤ笑いだした。

 

「ガルガンティアのベローズってのは、お前かぁ?」

「取るものは盗ったろ!さっさと失せな!!」

 

ベローズは男に楯突く。

金目の物は盗られても心だけは渡すつもりはなかった。

 

「いつまでもちんけな船団についてねぇでウチへ来いよ。ラケージ様もお前の腕は見込んでるんだ」

「笑わせるな!海賊風情が!!」

「ほぉ~……へへへへ」

 

ベローズの抵抗を見た男はまた笑いだすとルエルの方を向いた。そして、その汚い腕をルエルの豊満な胸へと向けるとルエル服を剥ぎ取った。

 

「イヤッ!!」

「何しやがる!!」

 

ベローズが海賊を止めようとするがルエルや他の船員が捕まっている以上、こちらから手を出す事はできない。

 

「下手に突っ張らねぇ方が身のためだぜぇ?」

「くっ……貴様!!」

 

絶望的な状況……このままでは……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった……。

 

 

 

 

 

キィイイイイイイイン……と遠くから聞いた事のない奇妙な音が響く。

 

「な、なんだ?」

「この音は……どこから?」

 

その音にベローズもルエルも海賊達も辺りを見回した。

この時、海賊達は何も知らなかった。この音の正体が彼らに死を告げに来る死神の足音だと言う事に……。

 

 

 

 

 

全天モニターの一面に海が映し出されている。

やがてすぐにクーゲルの正面、水平線の付近に幾つかの小さな点が現れた。海と船を見慣れたメルティにはそれが船だとすぐに分かる。

 

すると、クーゲルの前にウィンドウが開かれた。

そのウィンドウは遠くの船の部分を三重に囲うと拡大して表示する。その周りには距離等の数値が忙しなく動いてる。

 

(あっ……ベローズの船だ。でも……海賊の捕まっちゃってる……)

 

メルティにはコックピットのあちこちで表示されている文字や数値の意味は未知の言語で分からなかったが拡大された船を見てすぐに分かった。

 

『大型目標の敵味方識別を完了』

 

拡大表示された十隻の船が赤色と青色で識別された。

赤が敵で青が味方だ。

 

『小型標的の識別を要請』

「よし」

 

クーゲルの了解を得たストライカーは海上すれすれの飛行からホップアップに移行し質量球体の出力を上げた。エネルギーリングか大きくなりストライカーは上昇を開始する。

 

「《うわわわわ!?》」

 

一方のメルティはというと非常識な光景に驚いたり揺れに耐えたりと忙しそうにしている。

 

上昇の影響で海水が質量球体の重力に引かれて盛り上がる。だが、ストライカーの上昇の方が早いためすぐに質量球体の重力圏内から外れて盛り上がった海水が爆発するように弾けた。

 

そしてストライカーは海賊の攻撃に十分な高度、距離まで取るとクーゲルの前に新たに丸い拡大ウィンドウが表示された。拡大の大きさは先程よりも大きい。

 

標的は勿論、敵の船だ。

 

拡大された船は四隻と多数のボート。

真中に護衛対象の青い識別の船とそれを囲うように赤い識別の船舶が三隻。さらに、それらの船の内部や甲板にいる人間も赤と青に敵味方識別をされる。

 

『識別完了。デフレクタービーム、スタンバイ』

「……殲滅」

 

クーゲルは据えた目でいつもの様に、いつもやっている事を命令した。

 

クーゲルにとっては、いつもヒディアーズに対してやっている事を逆に人間に向かってやる事に過ぎなかった。

 

その瞬間、ストライカーの機体の青い奇線が光だし全身からデフレクタービームが発射される。

 

発射されたデフレクタービームは海賊船〝だけ〟に迷わず命中した。本来は兵器としてあまり使わず、スペースデブリの排除が目的の物だが文明度の低い彼らには過剰すぎる代物だった。

 

海賊船は命中から一秒も絶たずに爆発した。

だが、さすがに大型船。ストライカーはまだ、浮かんでいる海賊船を見つけると必要にもう一撃を喰らわせた。

 

エンジン、動力炉、弾薬庫、海賊船の重要区画を正確に撃ち抜き爆砕させる。海上はストライカーの攻撃で波が荒れ狂い小型ボートや残骸は揉みくしゃにされた。

 

一方の海賊達はというと突然の未知の攻撃に混乱していた。

 

「な、なんだ――」

「どうした――――」

 

だが、彼らが理解する事はもうない。

カーキナス号の甲板にいた海賊は自分に何が起きたかも理解する事なくストライカーのデフレクタービームによって正確に貫かれ霧状に蒸発したからだ。

 

それはカーキナス号船内の海賊も同じだ。

人類銀河同盟が誇るマシンキャリバー、ストライカーを前にして安全地帯は彼らには存在しない。

 

ストライカーがカーキナス号のすぐ側を横切る。

 

それを見ていたベローズとルエル、それと海賊三人は目を丸くした。髭の海賊が驚きに満ちた顔で叫ぶ。

 

「なんだってんだ――――!?」

 

そこまでだった。

 

髭の海賊がそういった瞬間、三本のビームがブリッジの窓ガラス越しに撃ち込まれ、残った三人の海賊も他の海賊と同じ様に自分の身に何が起きたか理解もしないままに霧状に蒸発する。

 

「あっ……ああ……」

 

ベローズは目の前から海賊達が霧のように消えたのを目の当たりにして言葉を失った。ブリッジの窓の外にはあの紫の巨人が優々と空を舞い遠くに飛び去っていくのが見える。

 

その様子はガルガンティアからも見えていた。

オケアノス号のブリッジでベローズを初めフランジ、クラウン、他の船員、それどころか船団長のフェアロックも衝撃を受け驚きのあまり口が半分開いていた。

 

カーキナス号ではベローズが呆然と甲板に降りてきていた。

 

あれだけいた海賊が誰一人として存在しない。そして、火の海とかした〝海賊船だった物〟を呆然と見回した。

 

「な……何て事……」

 

今のベローズには、これくらいの言葉しか出てこなかった。

 

 

 

 

 

一方のクーゲル達は爆発し沈んで行く海賊船を後目にクーゲルとメルティが乗ったストライカーは旋回しメルティに負担をかけないようにガルガンティアへとゆっくり進路を戻していた。

 

その、コックピットの中ではメルティが呆然としている。

 

「えっ……」

 

……な、何が起きたの?と、メルティには一瞬過ぎて何が起きたのか全く理解できなかった。

 

メルティはモニター越しに、全てを見ていた。

 

海賊船が青い光の矢に貫かれる様子も爆発する様子も……全てを。だが、全てが一瞬の出来事だった。

 

しかも、その全てがメルティの知る常識と照らし合わせて、非現実的過ぎた。理解が全然、及ばない。

 

ただ二つ、メルティにも分かった事はがあった。それは何かとんでもない事が起きたという事。そして、彼らが本当に宇宙から来たと言う事だけであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガルガンティアのクーゲル達を包囲していた戦闘員とクーゲルに助けを頼んだエイミーはストライカーが飛んでいった方、水平線の彼方を見ていた。

 

水平線からはモクモクと巨大な黒い煙が幾つも立ち上っている。それを見ていた誰もが目を丸くして呆然としていた。

 

無論、エイミーも……。

 

「なんなの……あれ……」

 

 

 

その光景を見ていたガルガンティアの住人は全員、呆然とただ立ちすくしていたのだった。

 

 

 



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第八話 船団の扉

「おお……」

「おい……あれ、戻ってきたぞ……」

 

戦闘員達が各々、心配そうに不安そうに上空を見上げる。キィイイイイイイン……という駆動音が連結アームの周囲に響き渡る。

 

人々の目線の先にあった物。それは戦闘から戻ってきたストライカーだった。

 

ストライカーは独自の駆動音を響かせ連結アームに近づくとスピードを落としスムーズに着地する。

 

ストライカーが着地するのを見て戦闘員達が嫌々そうに銃をストライカーに向けた。

 

当たり前だ。目の前であのような圧倒的な力を見せつけてきたのだから。海賊船が一瞬で火の海……自分達は何て物に銃を向けていたのだろうかと……これで怖くない者など居わしないだろう。

 

だが、そんな事はクーゲルとストライカーの知った事ではなかった。

 

 

 

「ん?何だ……」

 

クーゲルは今の現状に眉を寄せる。

全天モニターに映し出されたガルガンティアの戦闘員達に違和感を感じたのだ。ストライカーに銃を向ける戦闘員達の顔が恐怖で怯えきっている……。

 

「同胞の救出をしたのだから歓迎くらいあってもおかしくはない筈だが……」

『不明』

「……まぁ良い。ハッチを開けろ」

 

クーゲルは納得できない様子でストライカーに命令するとコックピットハッチを開けた。外の空気を吸うためにクーゲルはヘルメットのバイザーを上げる。

 

 

 

すると、怯えきった戦闘員達の間を縫うように掻き分けて少女がこちらに向かって走って来るのが見えた。少女は連結アームに近づくとクーゲルの方に顔を向ける。

 

「クーゲルさん!」

 

その少女はエイミーだった。

 

エイミーも他の戦闘員達と同じ様に不安そうな表情をクーゲルに向ている。

 

「何があったの!?ベローズ達は!海賊は!?」

「フィチス、ウィングダンク、トライブ――――」

 

焦ったようなエイミーの質問にクーゲルは冷静に応答した。

 

『防衛対象船舶に人的被害はない。敵対勢力は全滅させた』

「全滅って……海賊を皆、殺しちゃったの!?」

『肯定。敵対勢力は全滅させた』

 

クーゲルの言葉をストライカーが翻訳してエイミーに伝える。すると、エイミーは困惑しきった表情をクーゲルに向けた。

 

「…………うそ」

 

エイミーはそう呟くと首を横に振りながら後退りした。

 

 

やっぱりそうだったんだ……と、エイミーは一番恐れていた事が目の前で起きてしまった、いや、自分がクーゲルに頼んだが為に起きてしまった事に深い後悔を覚えた。

 

クーゲルは別に悪くない、悪いのはちゃんと説明しなかった自分だ。だが、そんな事は頭では分かっていても顔の表情と口からは別のものが込み上げてしまう。

 

「……ク、クーゲルのバカッ!」

 

エイミーは涙目になりながら、そう叫ぶとクーゲルに背を向け走り去った。

 

「……どういうことだ?」

 

逃げるように走り去っていくエイミーを見てクーゲルは理解できなさそうにするとクーゲルはふと、自分の後ろにいるメルティから視線を感じた。

 

「…………」

 

しかし、クーゲルがメルティの方を向くとメルティもなにも言わずただ無言でクーゲルから顔を背けるだけであった……。

 

 

 

 

 

<海賊船団が全滅だと?>

 

フェアロックの驚きに満ちた声が無線機から響いた。

 

「船団どころか私の船に乗り込んでいた連中も全員さ……」

<死人を出した以上、奴らは必ず報復を仕掛けてくる……>

 

ベローズの説明に対してフェアロックが悩んだように言う。

 

「まったく……とんでもない事をしてくれたもんだ!」

「船団長!一刻も早くあの男を追放しなければ!!」

「海賊に引き渡してみては?」

 

リジットが無線機の前でビシッと背筋をただして進言した。クラウンも顎の下に手を当てて考えながらフェアロックの聞いている無線機に言う。

 

だが、それに対して護衛船団の長であるウォームが反論する。

 

「それで奴等が収まる事か……」

「おい!おい!ヤツが海賊と組んじまったらどうすんだよ?それに、まだ、メルティが人質に捕られたまんまなんだぞ!?」

リジットやフランジ、クラウンがクーゲルを追い出そうという話をしている事にピニオンも反論した。

 

「ならば、どうしろと言うのだ!?」

「だから、こっちから仕掛けてヤツは海に落としちまってよ……」

「それでは、どちらにせよ人質にも被害が及ぶ!!それに、あの紫の巨人の力を見ただろ!こちらもただでは済まんぞ!?」

「それじゃあ、どうやってメルティを助けるんだよ!!」

「それは……」

 

<……今、我々がなすべき事は……>

 

フランジとピニオンの言い争いを聞いていたフェアロックが口を開く。

 

<……海賊の動向を見極め対策を立てることだ。男の処遇はそのあとで良い>

「んな!?そんじゃメルティはどうすんだよ!!」

<もちろん救出する。船団の住民は皆、家族だ。……だが、今は目の前の問題の解決に全力を出さなければならない>

「っ……!!」

 

「「…………」」

 

船団長の言葉に皆、言葉をつぐむ。

フェアロックの言っている事は正論だ。確かにメルティの救出も重要だが海賊を殺してしまった以上、奴らは必ず報復を仕掛けてくる。

 

正直言って海賊の戦力はガルガンティアの護衛船団よりも強力だ。まともに戦えば船団住民に確実に被害が出る事は必至。それだけは回避しなければならない。

 

だが、ピニオンは納得できなそうに手を握りしめていた。

 

 

 

 

 

「随分と嫌われたものだ……」

 

クーゲルはストライカーを包囲するガルガンティアの戦闘員達の様子を見た。

 

ガルガンティア側の包囲網にはクーゲル達が海賊掃討から帰ってきた後、明らかな変化があった。

 

クーゲルの目算では海賊からガルガンティアの同胞を守れば少しは待遇の一つも変わるはずだった……しかし、現実は違った。

 

包囲網の戦闘員達は先程の時よりも明らかに大型のユンボロイドを持ち出し今までいたユンボロイドにも装甲板がつけられ完全武装の状態となった。

 

『彼等の行動は論理的分析が困難』

「交渉の糸口になるかと思ったんだがな……」

 

どうやらストライカーにも彼等の行動は理解できないらしい。それはクーゲルも同じだ。

 

クーゲルは、メルティを見る。

 

「…………」

 

メルティは先程からずっと膝を抱えて俯いたまま座って黙ったままだ。

 

「……はぁ……ストライカー、船団の住民の我々への対応を見ると、もしかしたら、俺達は地球の戒律やルールを破ったのかもしれん……状況の好転が絶望的だとしたら……メルティを解放して船団を離れる事も考えなければならんかもな」

『同意する。メルティの情報によると船団は複数存在する事が示唆されている。ガルガンティア以外の船団への移動も考慮すべきである』

「そうだな……」

 

 

 

 

 

「こんな事になっちゃうなんて……」

 

エイミーはストライカーを高い所から見渡せる場所にやって来ていた。その表情は明らかに落ち込んでいる。

 

「宇宙で戦ってたって本当だったんだ……あたし、余計な事しちゃったのかな……はぁ……」

 

エイミーは溜め息をつきながら相棒のモモンガ、グレイスを撫でた。

 

「探したぜエイミー!」

 

突然、後ろからエイミーの良く知っている声が聞こえた。エイミーは後ろを振り返る。

 

「ベローズ……どうしたの?」

 

声の主はベローズだった。

その肩には大きな荷物が抱えられている。

 

「ちょっと頼みがあるんだが」

 

ベローズは笑顔でエイミーに言った……。

 

 

 

 

 

 

 

どうして……止められなかったんだろう……と、そう思いながらメルティは膝を抱えて塞ぎこんでいた。

 

何が起きたのか……クーゲルが何をしたのか……水平線の向こうから立ち昇る黒煙を見て、それを理解した時、メルティは本当なら一刻も早く逃げ出したい気分になった。

 

だが、それは恐怖の感情ではない。

自分が止めていれば、こんな事には……そう思い詰めていたのだ。メルティはずっとクーゲルの側にいた。

 

だからクーゲルが悪い人じゃないのは、もう分かっていたし、クーゲルが "宇宙" から来た〝兵士〟だっていう事も、ただ信じきれていなかっただけで分かっていた事の筈だった。

 

クーゲルは兵士だ。海賊から仲間を助けて何て頼んだらこうなるのは当たり前の事だったのだ。

 

メルティはこっそりとクーゲルの紫の瞳を見る。

 

(何が起きているか分からない瞳をしてる……)

 

あの時……ストライカーさんのコックピットでクーゲルさんに、しっかりと説明していれば……クーゲルさんを止めていれば、こんな大変な事にはならなかったのに……とメルティは思っていた。

 

クーゲルはさっきからストライカーと、宇宙の言葉でしきりに会話していた。

 

(せめて……クーゲルさんの喋ってる言葉が私にも、分かれば良いのに……)

 

「あたし……どうしたら良いの……?」

 

メルティは潤んだ瞳を隠すように顔を深く膝を抱えた腕に埋めたのだった。

 

 

 

『上方に飛行物体』

「何!?」

 

クーゲルは立ち上がった。

上を見上げると赤いカイトが空を飛んでいる。カイトはどんどんクーゲル達の居る連結アームの先端に近づいていた。

 

クーゲルはとっさにレイガンを構える。

すると、今まで黙っていたメルティが急に立ち上がってクーゲルを止めた。

 

「《待ってクーゲルさん!!あれは敵じゃないよ!!》」

「…………」

 

メルティの静止を受けてクーゲルはレイガンを下ろす。

カイトには二人が乗っていて、それは連結アームの先端に着地した。

 

「エイミーか……しかし、もう一人は一体……」

 

エイミーはカイトの後ろにもう一人、女を乗せていた。

 

クーゲルはもう一人の女の顔をまじまじと見る。そして、思い出したぞ……目を覚ました時に格納庫にいた女だ。一体、何をしにここへ……と思い出す。

 

すると、エイミーがクーゲルの前に出た。

それも、真剣な表情だ。

 

「あのさ……さっきはゴメン。怒ってる?」

「レムカム、スエティン」

『問題はない。謝罪は不要だ』

「本当に?よかった」

 

クーゲルが怒っていない事を知ってエイミーは安心した。

 

安心するエイミーの後ろからベローズがやって来る。クーゲルはそれに警戒しレイガンをいつでも構えられる様にした。

 

「そう警戒すんなよ。私はベローズ、あんたと話をしたくてね。差し入れだ」

 

ベローズはそう言うと持ってきた荷物の袋を開けた。

そして、その袋から物体を取りだした。

 

 

 

「あっ……あ…………」

『生物の死骸を摂取するよう求めている』

「……またか」

 

クーゲルはあからさまに嫌そうな顔をする。

ベローズがクーゲルの為に持ってきた物……。それは、クーゲルからすれば、またしても……生物の死骸……ベローズからすれば、大きな鶏肉の塊だった……。

 

クーゲルにとって初めて地球で食べた食料……アジの開きがすっかりトラウマになっていただけにクーゲルは地球の料理は皆、こうなのかと半ば警戒していた。

 

 

 

ジュウジュウ……と鶏が焼ける音がクーゲルの耳に響く。ベローズは鶏肉を切り分けて一緒に持ってきた簡易ストーブの上で焼いていた。

 

クーゲルとメルティ、エイミーとベローズは小さなストーブを囲んで座る。

 

エイミーとメルティは鶏肉を箸で挟んで食べていた。

メルティに限っては二日ぶりの、まともな食事だったので凄い勢いで食べている。そんな中、最初に話始めたのはベローズだった。

 

「クーゲル……だったよな。何で海賊船団を皆殺しにした?」

 

ベローズが優しい口調でクーゲルに聞く。

 

「グルング、ディントエト、ドインフェ――――」

『敵の排除に理由が必要なのか?』

「……!」

 

クーゲルの回答にベローズは何か異質な物を感じた。

この回答だけでも、この海の人間ではない事が良くわかる。

 

「宇宙ではどうだか知らないが……ここでは殺生は何よりも戒められている」

「ヴェダ、ネイエ、トゥーア――――」

『生物を殺して食用とすることは問題とされないのか?』

 

クーゲルは焼けた鶏肉をフォークに刺して見せた。

これにはベローズもメルティもエイミーも少し悩む。そしてメルティとエイミーはベローズの答えを待った。

 

「確かに、あたし達は魚や鳥を殺して食ってるさ。けれど、それだって自分達が生きるのに必要な分だけだ。無駄な殺生はしちゃいない……ましてや海賊は人間だ!同族だ!軽々しく命を奪っちゃいけない……」

「アックラウ、テンレーベ、ネイン――――」

『人間の殺傷を禁ずるのであれば何故、兵器を保有する?』

「その気になれば命も奪える……そう脅そうとすることで海賊は相手を従わせようとしてるのさ。だからこっちも黙って殺されたりしないと態度で示す……つまり、お互いが大砲を見せびらかしている内は交渉の内なのさ」

 

なるほどな……核抑止力の様なものか……と、クーゲルは以前に指揮官として啓発された時の事を思い出した。

 

大昔、人類が地球にいた頃、人類はいくつかの勢力に別れていた事があるという。

 

各勢力は強力な軍事力を保有していたが大きな戦争には発展しなかった。その理由がお互いの軍事力と地球上に無数に存在した核兵器のお陰だったというのだ。

 

互いに威嚇し合うことで相手に戦争を起こす気力を出させない……。今の地球には核兵器ほどの強力な兵器は無いだろうが、その代わりが大砲という事なのだろうとクーゲルは思考した。

 

「あたし達の言葉に魚を釣ってきた者には真水を与えよってのがある」

「『人間の相互援助を推奨する言葉か?』」

「そうさ、皆で必要な物を持ち寄らなければ生きてはいけないからね」

『だが、海賊はその規則を遵守しない』

 

これにはストライカーが自発的にベローズへと質問した。

 

「もちろん、私達はそんな事を認めるわけにはいかない。命も財産も海賊なんぞに渡したりできるもんか。……けどね。それには、私達を襲っても得にはならない。連中にそうやって伝えるだけで十分なんだよ。ところが、人死にがでると話は別さ……奴らは立場を取り戻すためにより多くの血を流さなきゃ引っ込みがつかなくなる。どうだ?分かってくれたか?」

 

「……ウングムッティ」

『事情は理解した』

 

クーゲルはガルガンティアの事情を不納得ながらも受け止める事にした。

 

メルティやエイミーが、よかったぁーと口にして安心した様な表情をする。

 

クーゲルは焼き上がった鶏肉を口に放り込んだ。

 

(これは……普通に美味いな……)

 

クーゲルはアジの開きで随分と警戒していたが、鶏肉の味は口に入れると良い食感と味が広がり、予想外に美味しいと感じた。

 

「とにかく、皆がなんと言おうと海賊と戦うには、あんたの力が必要だ」

 

ベローズは袋をゴソゴソと探ると四角い原始的な端末を差し出した。

 

「通信機だ。あんたには他の連中とも話し合ってもらいたい」

 

クーゲルは通信機を受けとる。

 

「それと……」

 

ベローズは真剣な表情でメルティの方を見て、それからすぐにクーゲルの目を見た。

 

「ん?」

 

メルティが首を傾げる。

 

「あんたは、悪い人じゃ無さそうだが……あれを見てみろ」

 

ベローズは船団の方を指差した。

クーゲルとメルティはベローズの指差す方向を見る。

そこにはガルガンティアの戦闘員達とは違う一般の住民達が少なからずいた。皆、心配そうにこちらを見つめている。

 

「あっ……」

 

メルティがそう声を漏らした。

 

「じいちゃん……それにサーヤも……」

 

そこに居たのは殆どメルティの家族や友人、知り合い達だった。

 

皆、メルティが心配で見に来ていたのだ。

その中には金髪のリーゼント、ピニオンの姿もあった。ピニオンはメルティの視線に気がつくと大きく手を振った。それにつられるようにサーヤも他の皆も声をあげる。

 

「おーい!メルティ!大丈夫か!!」

「メルティー!私達は側に居るからね!!」

「仕事の心配はすんなー!!」

 

皆からの声援がメルティのところに響く。

 

「みんな……」

 

メルティは涙目になった。

その様子をクーゲルが見る。

 

「あいつらは、メルティの家族や友人達さ。皆、仕事を放っぽりだして心配してんだよ」

 

「…………」

 

クーゲルは俯いた。

 

クーゲルも本当なら、こんな人質を捕るような事はしたくはない。だが、状況が状況なだけに仕方のない部分があった。

 

「…………」

『人質は当方の自衛的な処置である。平和的に交渉を進めるには今や人質の存在は重要である』

 

クーゲルが返す言葉に困っているとストライカーが勝手に答えた。

 

「まぁ……あんたの言いたい事は分かるさ……初めて来た所で、あんな金髪リーゼントに急に襲われたらそりゃ警戒するだろうしね。でもね、平和的に交渉をしたいって思ってるんだったら、それを行動で示しな。人質を捕った状況で信用しろなんて言っても誰も聞いちゃくれない。むしろ、あんたを敵だと勘違いさせる事にもなる」

 

クーゲルはベローズの言葉にしばらく考え込んだ。

そして、これまでとは180度違う事がクーゲルの口から出る事になった。

 

「…………ウングムッティ――――――――――」

『事情は理解した。人質は適切な時期を見計らい速やかに解放する。ただし、此方からも条件がある』

「……その条件は?」

『条件は――――』

 

「良かったねメルティ!!帰れるって!!」

 

エイミーがクーゲルの解放するという言葉に喜びメルティに話しかけた。しかし……。

 

「う、うん…………」

「どうしたの?」

 

歯切れの悪そうな顔をするメルティにエイミーは首を傾げる。

 

「……なんでもない」

「そう?それなら良いんだけど…………ねぇメルティ、もしかしてクーゲルさんが心配?」

「え?……そんな事……誘拐犯だし……」

 

メルティはエイミーから視線をそらす。

その一方でクーゲルとベローズの話はもう纏まった様だった。

 

「あんたの条件は分かったよ。私も全力で何とかするよ」

 

ベローズの言葉を聴いてクーゲルは頷いた。

すると、話し終わるのを見計らっていたかの様にエイミーがクーゲルに話しかけた。

 

「あの、クーゲルさん。メルティが居なくても大丈夫……?」

 

エイミーはクーゲルに聞く。

それにメルティもベローズの目も釘づけになった。

 

そして、クーゲルは翻訳文を読むとメルティの方を向いてゆっくりと縦に頷いた。

 

「そっか……それなら……良かった」

 

メルティが小さく返事をする。

そのやりとりを見ていたベローズは立ち上がった。

 

「まぁ、結果はどうあれ、あんたは私を助けてくれた。この肉は、あたしからの礼だ。じゃあな」

 

そう言い残すとベローズは交渉で満足した結果を得られた為、ストライカーの足の間を通ってガルガンティアへと戻って行った。

 

ベローズはメルティとクーゲルの関係を気にかかっていたが、これからクーゲルとメルティの時間は増えるだろうと心の底では思った為、今は何もしないと決めた。

 

「それじゃあ私も帰るね。メルティ、クーゲルさん、頑張って!」

 

エイミーは立ち上がるとカイトを背負う。

 

「クーゲルさん、ベローズ達を助けてくれてありがとう。感謝してる!じゃあね~!!」

 

エイミーはそう言うと海の方へと走りカイトの羽を広げて連結アームより飛び立った。

 

「本当にありがとー!!」

 

 

 

 

 

クーゲルがベローズやエイミーと話しているその頃、ガルガンティアより離れた海域に凡そ30隻にも及ぶ海賊船の大船団が集結していた。

 

その先陣を切るのは赤いロブスターの旗印を掲げた赤い海賊船だった。そのブリッジに全身ずぶ濡れに濡れた男が、この船の主である女海賊にある報告をしていた。

 

「状況は大体、分かりましたわ……」

 

部下からの報告を聞いた玉座の様な大きな椅子に座る彼女、大海賊ラケージは不愉快そうな表情を浮かべた。

 

「ガルガンティア……以前から気にくわないと思っていたけど……ここまで舐めたまねをしてくださったなんてね……」

「キャプテン、その空飛ぶユンボロってのが気になりますが……」

 

側に控えていた赤鼻の男、マロッキがラケージに進言する。

 

「マロッキ!」

「へ、へい」

「そんな程度で騒いでいては益々舐められてしまってよ?」

「は、はぁ……」

「私達を舐めたものがどうなるか……」

 

ラケージは手元に置いてあった鎖を引いた。

 

「あぁん」

 

女の声が上がる。

鎖はラケージの玉座の足元、女奴隷の首に繋がっていた。女奴隷はパラエムとパリヌリという名前の二人。ラケージが引っ張った鎖はパラエムの方へと繋がっていた。

 

ラケージは玉座から立ち上がり不敵な笑みを浮かべる。

 

「どんな秘密兵器を持っていようが、あたくしの敵ではないわ」

 

その表情は自信に満ちていた。

 

 

 

 

 

「ウォーム司令!貨物船アトゥイ号から通信!近海で海賊の大船団を確認!」

「っ!?来たか!!」

 

ウォームが護衛船マーウォルス号のブリッジで部下の報告を聞いて驚く。

 

「緊急避難のため当船団との連結を求める。とのことです」

「至急、この事をガルガンティアにまわせ!!」

「はっ!」

 

ウォームの指示ですぐにオケアノス号へと打電が打たれた。打電はオケアノス号の通信士に伝わり、その情報が瞬く間にブリッジに響いた。

 

フェアロックはすぐに関係者を集めて会議を開く事を決定。一時間以内にブリッジに関係者が集った。今、ブリッジに居るのはフェアロック以下、リジット、フランジ、クラウン、ベローズ、ピニオン、ウォームそれとガルガンティアの各ギルドの代表達だ。

 

「30隻!?ここらの海賊の殆ど全部か!?」

 

詳しい情報を聞いたフランジが驚きの声を上げる。

 

「しかも、その中に赤いロブスターの旗印を見たと……」

「大海賊ラケージ!!」

 

クラウンがまさかの大海賊の登場にこてまた驚きを隠しきれない。

 

「進路は?」

 

フェアロックが冷静にリジットに聞く。

だが、冷静なフェアロックも若干焦っているのは変わらないようで声のトーンがいつもと違った。フェアロックの質問を聞いてリジットが目の前の机に置かれた海図を指差した。

 

海図の上にはガルガンティアの進路を示す矢印の模型と海賊船団の進路を示す矢印の模型が置かれている。

 

「目撃されたのがこの海域……その時点で東南東に向かっていたそうなので……当船団が目的で間違いないでしょう」

「夜には遭遇する事になる!船団長!航路を変えましょう!」

 

クラウンが海賊の進路を聞いてフェアロックに提案する。だが、フェアロックは首を横に振った。

 

「無駄だ。こちらの船脚では逃げられん」

「しかし……山ほど大砲を積んだ海賊船が30隻ですぞ!?我々の防衛船団小型哨戒挺を入れても十五隻、とても防ぎきれません!!」

 

「「…………」」

 

クラウンの言葉にその場にいた全員が言葉をつまらせた。クラウンの言っていることは全て本当だ。護衛船団には30隻もの海賊船を防ぐ能力はない。

 

「交渉の手段を探るのも……」

 

リジットがダメもとでフェアロックに言ってみる。リジットには、もうこれ位しか思いつかなかった。

 

「……連中は復讐に来るのだ。血を流さなければ収まらん」

 

「「…………」」

 

フェアロックの言葉に全員が、やきりれないといった様な顔をする。もう、何も案が出ない雰囲気になったその時……。

 

ベローズがフェアロックの近くに寄った。

 

「船団長」

 

話始めたベローズに一同は顔を向ける。

 

「あの男の力を借りよう」

 

「「なっ……」」

 

ベローズの突然の言葉に全員が驚く。

この場であの〝男〟等という言葉の意味は一つしかない。それは、今、メルティを人質に捕っている男、クーゲルだ。

 

「な、何を言い出す!?ヤツは……」

 

ベローズの進言にクラウンがふざけるな!と言わんばかりにベローズに言う。

 

するとベローズは、ポケットから無線機を取り出して電源を入れた。

 

「聞こえるか?クーゲル」

『…………用件は何か』

 

無線機からストライカーの合成ボイスが響く。

クーゲルは地球語を喋れない為、ストライカーが代わりに答える。

 

「海賊がこちらに向かってきている。このままだと夜には一戦交えなきゃならない」

『接近中の船団はすでに捕捉している。要請があれば貴君らを支援する用意がある』

「……船団長、話してみてくれないか?」

 

ベローズは無線機をフェアロックの前に出す。

 

「バカな!こうなったのもあの男のせいではないか!!」

「いや……あの空飛ぶユンボロが使えれば、どれだけ戦いが有利になるか!!」

 

フランジはベローズ、と言うより得たいの知れないクーゲルとかいう男に怒っていたが、ウォームは仕事柄、戦いの事が良く分かっている為、ストライカーを味方につけるべきだと声を上げる。

 

「……リジット、お前が出ろ」

「分かりました」

 

リジットはフェアロックに頷くとベローズから無線機を受け取った。

 

「私はリジット、船団長に変わって貴方と話をするわ。良いわね?」

『問題ない』

「確認させて。貴方は私達を助けると言っているけど、当船団の住民を人質に捕っている状況で、それは卑怯ではなくて?」

 

リジットは言葉を選びながら慎重に喋った。

本来なら海賊が攻めてきたのはお前のせいだ。と言いたかったのだが今はメルティが人質に捕られている。

早計な事はできななかった。

 

『……理解している。仕方のない事だったとは言え、貴船団の住民を人質に捕った事は遺憾に思っている』

「それじゃあ!」

 

リジットが勢いで人質を解放する様に言おうと声を上げた、その時クーゲルの側から意外な返答が返ってきた。

 

『こちらには人質を速やかに解放する用意がある』

「……どういう意味かしら?」

『我々は貴君らと取引がしたい』

「……何故、私達と?貴方達の武力を持ってすれば私達も壊滅させられるんじゃないかしら?」

『肯定する。当機だけでこの船団を消滅させることは可能』

 

ストライカーの発言にブリッジにいた者達の顔が強ばる。

 

「ではなぜ、そんな脆弱な私達を貴方は助けようとするのか?貴方なら海賊としても充分生きていけると思っていたけど……」

『ベローズが発言していた。貴君らは魚を釣った者に真水を与えると。海賊がその規則を遵守しない組織だという事も聞いた。よって貴君らとの取引が最も有益であると判断する』

「……取引ができる相手だと考えたのね。それで、要求は?」

『クーゲル中佐の身の安全の保証。貴船団への無期限駐留。及び、クーゲル中佐の必要な兵站を補う為の物資の無償提供である。この要求が了承されれば速やかに人質を解放する』

「……要求は分かりました。少し待っていてください」

 

リジットは一時的に無線機を切るとフェアロックの方を向いた。

 

「船団長、私はあの男との取引に応じて良いのではないかと思います」

「な、何を!?」

 

フランジがリジットに驚いたように声を出す。

 

「船団長!あの男の話など聞いてはいけません!!」

「うむ……」

 

フェアロックは目をつぶって、しばらく考え込んだ。

 

「……魚を釣ってくるという者に真水を与えない訳にはいくまい」

「それでは……」

「交渉は成立だ」

 

リジットやベローズが微笑んだ。

クーゲル、お前の言った条件は全て達成したよと、ベローズは心の底でクーゲルに対して独り言を言った。

 

クーゲルがベローズに言った条件は二つ。

一つは、クーゲルと船団の上層部の連中と話をさせること。そしてもう一つはクーゲルの要求が最低限通る様にクーゲルをフォローする事だ。

 

(もともと、あたしは、あんたと上の連中に話し合いをしてもらうつもりだったから難なくできた。ただ、二つ目の要求が最低限通るようにフォローするってのは、どんな無茶な要求が来るのかと思ってちょっとビクビクしたよ。でも、まぁ、常識の範疇に収まる要求で良かった。これから先は、全部、あんた次第さ……)

 

ベローズは心の中でそうクーゲルに語りかけるのだった。



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第九話 無瀬の女帝

皆様お待たせしました!

今年もこの日がやってきました!
今日は四年前に翠星のガルガンティアが放映された記念すべき日です!

今年もギリギリでしたが、なんとか間に合って良かったです!

あれや、これやでもう4年……ガルガンティアの2期の情報はまだ全然ありませんが、いつまでも待ちつづけようと思います!!

それでは続きをどうぞ!



夕方。

夕日に照らされた連結アームの前で大勢の人々が集まり歓声を上げていた。理由は単純明快だった。

 

メルティが解放されたからだ。

 

この報は瞬く間にガルガンティア中に知れ渡った。

 

「メルティ!!」

「じいちゃん!エイミー!サーヤ!みんな!!」

 

メルティは勢いよく走ると自分の祖父に抱きついた。

それに合わせて周りにいたサーヤやエイミー、他の皆がメルティを囲む。メルティの周囲はメルティの解放に歓喜の声に包まれた。

 

「メルティ大丈夫!?ケガはなかった!?」

「あの男の人と何話してたの!?」

「怖い事されなかった!?」

 

メルティに対してメルティの友人や同僚が心配の声を連呼する。

 

「ちょっと!皆!メルティは疲れてるんだからストップ!ストップ!」

「心配する気持ちは分かるけど今はメルティを休ませてあげましょ?」

 

エイミーとサーヤが質問攻めにする皆を静止する。

 

「あははは……」

 

そんな状況にメルティは自分がどれだけ皆に心配されていたか再認識すると同時にこの状況に苦笑いを浮かべた。そんな中メルティはふと後ろを振り向く。

 

「クーゲルさん……大丈夫、かな」

 

メルティは心配した目で呟いたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『確認する。当機の任務は海賊に対する陽動のみで間違いないか』

 

ストライカーの合成音声が最初にストライカーが運び込まれていた修理船の格納庫内に響いた。

 

ストライカーの周りには急ピッチで足場が組まれピニオンの部下達が各種パーツを取り付けている。一時的な協力関係になってから、クーゲルはストライカーをここに運ぶように船団側から言われたのだ。

 

「ええ、海賊の注意を引き付けてくれるだけで良いわ」

 

ストライカーの問いにリジットが答える。

 

「良い?過剰な攻撃は絶対に控えて」

 

リジットは海図を挟んで向かい側に立っている男、クーゲルに伝えた。翻訳され空中に投影された文を読んでクーゲルは頷く。

 

「ステヴェ、エイス、ティエント、オンスパー、エンウ、ティリグモ」

『要求は把握している。可能な限り人的被害を与えないよう留意する』

 

クーゲルが理解を示しストライカーが翻訳してそれを聞いたリジットが頷く。

 

「オーライ、オーライ、ストップ!!よし、そのままだ!」

 

クーゲルとリジットが話している前では作業員がクレーンで引き上げられた大きなサーチライトをストライカーの肩へと下ろし設置しようと手を加えている。

 

あらかたの打ち合わせを済ませたクーゲルとリジットがその作業の様子を見ているとクーゲルのその背後から近づいてくる男がいた。

 

クーゲルは気配に気がつくと後ろを振り返る。

 

すると、そこには特徴的な金髪のリーゼントの男、クーゲルを襲ったピニオンがいた。

 

「あのよ……ちょっといいか?」

 

ピニオンが若干俯きながらクーゲルに言う。

それを見たリジットが驚いた表情をした。

 

「ピニオンあなた、彼を刺激するから、ここには来ない様にと言った筈でしょ!?」

 

リジットは焦ったように言った。

 

「しょ、しょうがねーだろ!俺だって、このままじゃ落ち着かねぇーんだよ!!」

 

ピニオンはそう言うとクーゲルの方を向いた。

 

「…………」

 

クーゲルは警戒した様子でピニオンを見つめた。

 

「あんた……確かクーゲル、とか言ったよな……?」

「……『肯定する。用件は何か』」

 

少しの間を置いてピニオンの質問に答えたクーゲルの言葉が翻訳される。

 

「そのよ……」

 

ピニオンは真剣な表情でクーゲルを見た。

クーゲルはさらに警戒感を強める。最初に襲ってきた相手なのだから当然だろう。

 

その二人の様子をリジットを含めたこの場にいる多くの人が心配そうに見つめた。

 

「……悪かった!!」

 

ピニオンは突然そう言うと物凄い勢いで頭をクーゲルに下げた。

 

「…………?」

 

突然の事に警戒していたクーゲルはキョトンとした表情を見せる。

 

「俺が……俺が悪かったんだ。お前の話をちゃんと聞いてりゃメルティが……人質になる事だってなかったかも知れねぇんだ。だから、悪かった!この責任は全部俺がとる!!」

 

クーゲルに対してピニオンが謝罪の言葉を述べた。

その言葉は格納庫に響きストライカーのにサーチライトを設置していたピニオンの部下達が手を止め見つめる。

 

「…………」

 

クーゲルはようやく状況を理解するが、しばらく頭を下げたままのピニオンを見た。そして、少しの間をおき、腕をくんでついにクーゲルが口を開く。

 

「……――――――」

 

クーゲルの言葉にピニオンは下げていた頭を少し上げた。

 

「何て言ったんだ……」

 

ピニオンやリジット、ピニオンの部下達がストライカーの翻訳を若干緊張した様子で見守る……。

 

『貴官の謝罪を了承する』

「ほ、本当か!?」

 

ピニオンは頭を上げ表情を輝かせた。

 

『今後は自身の行動には十分、注意されたし』

 

ストライカーの言葉を聞いた瞬間、周囲に居たもの達は全員安堵の空気に包まれた。すると、ピニオンに元気が戻り始める。

 

「よっしゃあ!!そうとなったら俺なりに責任を取ってやろうじゃねぇか!!」

 

急にガッツポーズを決めるピニオンにクーゲルはただ、唖然としたのだった。

 

 

 

 

 

 

すっかり日が落ちた夜。

 

ガルガンティアは臨戦態勢に移行し始めていた。

 

ガルガンティアから護衛船団の出航準備が続々と進む。

積めるだけの砲弾が護衛船団や各種砲塔に運ばれユンボロにも装甲が取り付けられ配備がされる。船団中にも灯りがつけられ海賊との戦闘に備えて船員達があちこちで準備を進めていた。

 

そんな時、船着場の暗がりで作業の様子を見守る年配の二人の男がいた。

 

大船主のフランジとクラウンだ。

二人は険しい視線を海に向ける。

 

「まったく……あんな得たいの知れん男に我が船団の防衛を担わせるなど……」

 

フランジは不満そうに言った。

 

「……船団長の決定だ。判断には一理ある」

 

不満そうなフランジに対してクラウンが宥める様に言う。

 

「だとしてもだ……」

 

だが、やはり納得できないフランジは海を見つめながら続けた。

 

見つめる先では準備を終えた護衛船団が連結を解除し明かりを消してガルガンティアを離れていく。

 

「クーゲルか……」

 

フランジがふと呟いた。

 

「確か、あの空飛ぶユンボロの男の名前だったな……」

「ああ。エイミーと解放されたメルティの話によれば遠い宇宙であの空飛ぶユンボロに乗り、化け物と戦争をやっていた途中でこの世界に落ちてしまった一部隊の指揮官なのだそうだ……そんな人間がこの世界に関わり合おうなどと……それにヤツの話を信じるならば、あの様な空飛ぶユンボロが宇宙には無数に飛んでいるというではないか。その内のひとつが落ちてくるなど……馬鹿げている」

 

その時、ガルガンティア中にサイレンが鳴り始めた。

ガルガンティアの灯りが順次消されていき灯火管制に入った事を示す。

 

「まぁ……」

 

クラウンがおもむろに口を開く。

 

「生きる為に戦うのは我々も同じさ……」

 

クラウンの言葉を聞くとフランジとクラウンはおもむろに空を見上げた。

 

「……それもそうだな」

 

フランジはそう言って笑うと彼方に広がる銀河の海を見つめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フローター作動」

 

出撃準備が完了したストライカーのコックピットにクーゲルの命令が響いた。

 

『了解』

 

ストライカーが返事をした瞬間、ストライカーは頭上に質量球体とエネルギーリングを出現させストライカーの巨体がゆっくりと宙へと浮かび上がる。そして、格納庫から出た所で一気に加速を始める。

 

ストライカーは作戦予定海域へと飛行を開始する。

 

「……ストライカー、作戦予定時刻までには、まだ時間はあるな?」

 

クーゲルは落ち着いた様子で聞いた。

 

『肯定。作戦予定時刻まで残り十八分』

「よし……」

 

ストライカーに時間を聞いたクーゲルは指揮官として長年続けてきた作戦開始前の行動を行う。

 

「ストライカー、マップを表示しろ。作戦内容をもう一度確認する」

『了解』

 

ストライカーはコミュニケーターから三次元マップを空中投影し各船舶やユンボロの配置状態を表示した。

 

クーゲルはその配置図を真剣な表情で見つめる。

 

「敵が来る方角はここで、これが防衛線だな……ん?」

 

クーゲルは三次元マップを見ながら思考を重ねるが、眉間にシワを寄せた。

 

(航空戦力が無いのは良いとして……水中戦力まで存在しないのか……?)

 

「ストライカー、確か俺達は海中から引き上げられたんだよな?」

『肯定。ベローズの証言が事実ならば当機は海中より引き揚げられたという事になると推測』

「だとしたら……彼らには水中に沈んだ物を引き揚げる能力があるはずだが……何故、水中に防衛戦力が配置されて無い?」

『不明』

「まぁ仕方ないか……元々情報が少ないんだ。無いのにも理由があるのかも知れん」

『懐疑提言』

「ん?なんだストライカー?急に」

 

ストライカーの突然な言葉にクーゲルは首をかしげた。

 

『敵対勢力とガルガンティアの戦力比は当機が居ない場合は敵対勢力が有利である可能性は推測できるが当機がいる状況下ではガルガンティアに敗北はあり得ない』

「だから今更、作戦内容を確認する必要はない……そう言いたいのか?」

『肯定する』

「フッ……確かにな。俺達がいればまず敗北は有り得ないだろうな」

 

クーゲルは小さく笑う。

ストライカーの言う通りだ。確かにストライカーが居る限りガルガンティアに敗北は文明水準、科学水準的にあり得ないだろう。

 

もちろん、クーゲルもそれを理解はしている。

だが、クーゲルはすぐに真剣な表情に戻った。

 

「だがなストライカー、油断は大敵だ。ここは俺達の居た宇宙ではない。地球だ。無限とも思える水に大気、いかに文明の水準が同盟よりも遥かに劣っているとしても、この星には、この星の闘い方がある。そして、それを今の俺達は知らん。……対策を怠った結果がどうなるか俺達は宇宙で何度も見てきた筈だ。それを忘れてはならん」

『条件付き同意する』

 

クーゲルの脳裏に過去にクーゲルが経験した幾多の闘いの光景が思い浮かぶ。

 

ヒディアーズのグレイザーによって粉砕されたマシンキャリバー、ヒディアーズによって新兵ごと捕食される機体……。

 

思い浮かんだ光景の最後はブロッサムセイルに破れ撤退する人類銀河同盟軍の姿だった。クーゲルはどこか、やりきれない気持ちになった。

 

『貴官の血中アドレナリン濃度の急激な上昇を検知』

「……友軍の戦況が気になっただけだ」

『現在当機は作戦行動中である。作戦に集中されたし』

「ああ……分かっている」

 

(そうだ……分かっている……。分かっているさ。今はそれよりも目の前の作戦に集中しなければ、な……)

 

と、クーゲルは何処か遠い目をして思考を切り替えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マロッキ、ガルガンティアからのお迎えはまだかしら?」

 

大海賊ラケージは艦橋中央の大きな椅子に腰を掛け部下のマロッキき聞いた。

 

「こっちに気がついてりゃ、そろそろかと」

「そう……」

 

ラケージは窓のそとを見てニヤっと笑った。

 

「こんなに暗い夜なら、彼らにも勝ち目があるかも知れないわねぇ?」

「ご冗談を!夜の戦いでラケージ様に勝てる者なんぞ、この世にいませんぜ!」

「あら、そうだったかしら」

 

ラケージの冗談に部下達は笑い声を上げた。

ラケージも余裕そうに笑う。

 

これだけの海賊船が揃っているのだ。勝機は完全にこちらにある。ガルガンティアにどんな秘密兵器があろうと勝てる自信がラケージや海賊達にはあった。

 

と、その時だった。

 

夜の闇に溶け込む船の艦橋に突然、目映い光が射し込んでくる。

 

「何ですの!?」

 

ラケージは眉間にシワを寄せた。

 

 

 

 

 

その光の正体は海賊船団上空にるストライカーのサーチライトだった。コックピットでクーゲルは海賊船団を静かに見つめる。

 

「敵船団を確認。これより戦闘状況を開始する」

 

クーゲルは後方の護衛船団へ通信を送った。

一方、ストライカーの登場に驚きの様子の海賊は続々と甲板に現れ機関銃を向ける。

 

「上だ!撃ち落とせ!!」

「と、飛んでいやがる!?」

「ぼさっとすんな!撃ち落とすんだよ!!」

 

ストライカーを撃ち落とそうと艦砲や重機関銃の弾が続々と撃ち込まれるがストライカーはそれを意図も簡単に最小限の動きだけで避け優雅に宙を舞った。

 

ストライカーに気を取られた海賊達の視線は完全にストライカーに釘付けだ。

 

そんな海賊を尻目に護衛船団長ウォーム率いる護衛船団は夜の闇に紛れてじわじわと距離を積めていた。

 

ストライカーの搭載したサーチライトの光が照らされた海賊達の距離を正確に教えてくれているのだ。

 

ウォームは乗艦のマーウォルス号の艦橋で双眼鏡を覗きこみ自在に飛び回るストライカーの姿を捉える。

 

「各船、砲撃準備完了」

「よし」

 

副官の落ち着いた報告にウォームは双眼鏡から目を離した。そして、ついに攻撃は開始された。

 

「全船、砲撃開始!!」

 

ウォームの命令が下され護衛船団各船の艦載砲が一斉に火吹く。

 

撃ち出された砲弾は放物線を描き海賊船団のいる海域に続々と着弾し水柱がいくつも上がった。

 

ラケージの乗る船が砲撃の衝撃で揺れるがラケージは動じない。むしろ機嫌の悪そうな顔をした。

 

「まさか、夜戦で先手を打たれるなんてねぇ……」

 

マロッキが窓のそとを見て叫ぶ。

 

「なんだあのユンボロ!?飛び回っていやがる!?」

「さぁさぁ!!こちらも反撃ですわ!」

 

ラケージはうろたえる船員達に活を入れる目的で強い口調で言った。それを聞いて艦橋内の部下達が慌ただしく動き始めた。

 

「全船!敵船団へ向けて砲撃!!」

 

部下が無線を手にとって各船に向けて命令をする。

 

その命令を受けて海賊船団各船の艦載砲が旋回しガルガンティアの護衛船団へ向けて一斉に反撃を開始した。

 

激しい砲撃戦が続き両者の各船の周囲には幾つもの水柱が上がる。

 

しかし、護衛船団の健闘も虚しく護衛船の砲は命中しても当たり所によっては厚い装甲で弾きかえされていた。一方の護衛船団では。

 

「シエジーとフィリムが被弾!」

「シエジー戦闘継続は不可能!」

 

ウォームは次々と上がってくる被害報告に艦橋の窓の外を見た。激しい爆音とともに複数の護衛船から火が上がり黒煙が立ち上る。

 

「後退させろ!他の船は砲撃を……」

 

ウォームが指揮をしている間にも今度はすぐ近くで爆音が上がった。近くであった為、衝撃が艦橋を襲う。

 

「マーカス被弾!」

「くっ……砲撃を続行!!撃ち負けるな!!」

 

ウォームが眉間にシワを寄せて叫んだ。

 

 

 

 

 

『友軍船舶、さらに被弾』

 

上空でストライカーがクーゲルに状況を報告する。

 

『約十七分後には友軍の戦闘継続は困難になると推定』

 

クーゲルは冷静に状況を分析するためスクリーンに映し出された三次元マップを見つめた。

 

そもそも戦力差がありすぎるのだ。

ストライカーが居ない状況ではガルガンティア側の戦力は15隻に対して海賊は30隻あまりも居るのだ。これでは勝てる訳がない。

 

「……仕方ない。これより当機も攻撃に加わる。人的被害を回避しつつ敵を無力化する。ストライカー、長期戦は友軍の被害を大きくするだけだ……ファランクスを使うぞ」

 

クーゲルは考えていた作戦を実行すべく伝える。

 

『懐疑提言。ビームファランクスを地球文明の水上船舶に使用すれば人的被害を回避する事はできない』

「いや、直接攻撃する訳ではない。ビームファランクスを海面へ向けて発射するんだ。そうすれば水上を浮いている船舶程度ならば衝撃波で船舶は大きく揺さぶられる筈だ。戦闘能力も大きく削がれるだろう」

『…………』

 

ストライカーがほんの数秒間静かになる。

だが、その間スクリーンには幾つものウィンドウが表示され膨大な文字列が表示された。

 

ストライカーは今、瞬時に膨大な計算をしているのだ。

ファランクスを海面へ向けて撃った場合の様々な影響を。そして、計算が終わったのか表示されていたウィンドウが消える。

 

『了解。ビームファランクス砲使用における各影響の算出完了』

 

スクリーンの敵船舶周辺の海に標的をあらわすマーカーが幾つも打たれた。

 

「よし、ガルガンティアへ作戦を通告。攻撃を開始だ」

『了解』

 

クーゲルが作戦実行を指示したその瞬間、リジット達がいるオケアノス号とウォームのいる護衛船にストライカーからの通信が行われた。

 

<これより、当機は人的被害を回避しつつ敵船舶への攻撃を開始する>

 

この通信は一方的な通告だ。

リジットやウォームが返事する事はできなかった。ちなみにウォームに限ってはそんな余裕はなかった。

 

ストライカーが肩を動かすとサーチライトが外れ海に落下する。

 

そして、ストライカーが手に持つビームファランクス砲を海賊のいる海面に向けた。

 

その様子をオケアノス号の艦橋からストライカーからの通告を受けたリジットが双眼鏡を片手にストライカーの居る方角を覗き込む。

 

リジットの頬を冷や汗が流れる。

 

「おい、リジット……大丈夫なのか?」

 

フランジが心配そうな表情でリジットに言う。

 

「……彼には過剰な攻撃はしないように言ってあるはずだけれど……」

 

リジットの表情にもあからさまな焦りが見えた。

 

そして、ついに……。

 

 

 

 

 

夜の暗い海に一筋の閃光が放たれたのだった……。

 

 

 

 

 



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