闇と影 (春の雪舞い散る)
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人魚姫と呼ばれる少女
光なく闇でもなし


舞姫の平行世界ですが始まりは舞姫より前の時間から始まります


① 二人

 

 ナゼ、ダレがいったいナニを考えたら、ナニが目的でこんな事をする…否、こんな非道な仕打ちができると言うのか?

 

 この幼い子達に一体どんな罪咎があると言うのだろうか?

 

 生まれてから間もないだろう産衣を着たこの二人の赤子達が寝かされて居るのは光が一切届かない地下牢獄とでも言う空間の石の寝台の上

 

 無論、こ布団はおろか敷布すら敷かれてなどいない状態なのだから二人のその扱いを思うと…

 

 真新しい産衣を着せて貰ってはいるもののここには人が出入りしている形跡は全く見られないどころか命の気配すらなく

 

 ここに連れられてきた当初は母を…乳を求め泣き喚いていた赤子達

 

しかし… 今ではすっかり虚ろな目で天井を見詰める子とそれでもなお諦め切れずに弱々しく泣いているもう一人の子と各々異なる反応を見せる二人の赤子…

 

 その二人の赤子の足元の床から浮かび上がる人影がひとつ…

 

 二人の赤子の様子を伺う人影は人ではなく女剣士を象った人形 ( ひとがた ) の石像だった

 

 その変わらぬ硬い表情からは何を考えているかは不明だが呪文を唱え始め

 

 その呪文は召喚魔法だった様でそこに現れたのはかなり不機嫌そうな魔族の人魚だった

 

 「お前なんぞに呼び出される謂れは無いんだよ!全く…忌々しい、一体何様のつもりなんだい?

 

 ましてやこんな水気の無いとこに呼び出すなんてさっ!嫌がらせにも程があるよっ!」

 

 そう言っていきり立つ人魚に向かい

 

 「済まないとは思うがあの御方からの伝言を伝える」

 

 その表情筋の無い無表情な風貌からは全く済ま無いと思っている様には見えないが…

 

 「そこの二人の赤子に乳を飲ませてやってくれ…だ」

 

 「はぁ、何で私がそんなことをしなきゃいけないんだいっ?全くさっ!」

 

 そうボヤキながらもとんぼ返りをすると下半身が人魚のそれから二本の足に変えそして一人ずつ抱き抱えて順番に乳を与え

 

 それが終わるとやはりぶつぶつ文句を言いながらその場から消えた

 

 石像からの又頼むと言う言葉には見向きもせずに空中に消えた人魚

 

 石像も又お腹が一杯になり健やかな寝息をたてる赤子達の寝顔を見て現れた時とは逆に静かに地中へと消えていった

 

 

 二人の赤子は双子の姉妹らしく一人は産衣に真琴と書かれておりもう一人には命と書かれていた

 

 日の光も射さず時計等も有るわけでないこの洞窟内ではこの姉妹が生後何ヵ月になるのかは判らない

 

 ただ、人魚が授乳は卒業の頃合いだからと言ってそれ以後の呼び出しを一切拒否するようになったのでおそらく一才前後なのだろう

 

 双子のはずだった二人が次第にその違いがはっきりしだしていた

 

 真琴は貪欲なまでに食事を求めて泣きながら訴えていたが命はお世辞にも美味しいとは言えない食事を嫌がり我慢の限界まで口にしようとはせず

 

 だからと言って別の食事の要求をする事もしないで自分の食べない食事を真琴に譲っていた

 

 そしてナニも求めず、ナニも訴えることもなくただただ暗い生気の無い目で洞窟の天井を見るともなく眺めているだけだった

 

 その二人の成長率の違いは月日を重ねるほど大きくなりそれは二人の成長にはっきりと現れていった

 

 と、言っても真琴自体も満腹と言うにはほど遠い量の食事量しか与えられるだけで命の手付かずの食事を食べてさえなお足りないくらいでしかなかった

 

 そんな二人の体格は勿論比較したわけではないが同じ年齢の子供よりかなり小さいよう思えた

 

 

 

 

② 幼いその目に見えるのは

 

 物心が付き始め好奇心が芽生え始めた真琴が知りたい事だらけの疑問だらけだったから石像に向かい色々話し掛けていたが会話が成り立つわけでもない

 

 石像には真琴の疑問に答える為の知識と情報が与えられてないからだ

 

 一方の命にとって真実とは知らない方が良い物と感じるのか…

 

 全てを拒否するように心を閉ざし、座り込み何処を見るでもなく視線を漂わせ日長ぶつぶつと独り言のように呪言を呟くだけの日々を過ごしていた

 

 そして、時が流れ真琴が歩き始め暫く経ったある日の事

 

 「二人に私からのプレゼントが有ます」

 

 そう言って石像から渡されたのは白い勾玉のネックレス、一組の数珠ブレス、数珠アンクレットだった

 

 特別な宝石と言うわけでもなく、磨かれてもいないそれは余りパッとしない物ではあったが生まれて初めてのプレゼントであるそれを早速着けてみて

 

 満面笑みを浮かべる真琴と、滅多に反応を示さない命も無表情のままではあったが本人にとっては精一杯の速さで身に付けてみた

 

 が、命の反応はただそれだけで終わった

 

 小躍りして喜ぶ真琴に対し命は着け終えると直ぐに関心を失いまるで何事もなかったかの如く寂しげに抱える膝に顔を埋めその表情を見せるのを拒んでしまった

 

 そんな本人達の思いはお構いなしにそれは突然起こった

 

 命の数珠の全てが一瞬にして黒く染まり黒い煙が数珠から沸き立ち千切れ飛んで半分に分かれた数珠達の半分

がその煙を吸い込み始めその姿を変え始めた

 

 黒い煙を吸収した珠はホンの少し大きくなって禍々しい魔力を放つ勾玉に姿を変え命の周囲に散らばったそれに興味を示す事の無い命

 

 それに対真琴は今の現象が気になって仕方無かったから命の数珠から外れた勾玉を拾い集めて手に取りまじまじと見つめてみた

 

 しかし…今の現象にに対する命の反応は全く興味を示すこともなく知っているのかいないのかすら伺い知れない命に聞いてもナニも返事もしないのはこれまでの経験で解っている

 

 まして石像にいたっては時期がくればわかるとしか答えないのはこれ迄の経験でわかっている

 

 ただ、自分の方はなんの変化もみられず命と自分の違いが全く理解できなかったし寂しかった

 

 それでも得られない答えにいつ迄も執着することはしない真琴は今すべき事を…

 

 つまり、今の自分がすべき事が修行中の回復系の呪文と体術の稽古に励むしかないと理解できる真琴にとってはそんな事に過ぎない

 

 大切なのは謎解きをする事ではなく誰かに今すぐ答えを求める事でもない

 

 そんな事よりいつか命と二人でここから出る事の方が余程大事で重要なことだし、今の自分に理解できない事をいつ迄も気にするより力が欲しい…

 

 命を守る力が…命とここから抜け出し一緒に生きていくための力を求めるべきだと思うし修行すべきだ思うのが真琴なのだ

 

 今はまだ、その日のおとずれを夢見ているだけで我慢していた…

 

 未々修行が足りない自分にはどれ程気に入らなくてもここから出て命を守って生きていける自信ががあるなどと言う自惚れはない

 

 だから、散らばっている数珠と勾玉を拾い集めたネックレスを修復して命に手渡すと、小さく頭を下げると後は又再び顔を伏せ呪言を呟く命

 

 二人の受難の日々は未々終わりの時を迎えてはいなかった

 

 

③ 最初の試練

 

 「真琴…いよいよ貴女達が外に出る時が来たようですね」

 

 真琴に体術の稽古を着けていた石像がそう言い命の方をチラッと見たが石像の言葉に喜んだ真琴が

 

 「みこっ、僕達やっとここから出られるんだよ

 

 さぁ立って、そして一緒に出口を探しに行こう…僕達はやっと自由になれるんだよっ!」

 

 いつもの呟きを止めず真琴の声に全く反応しない命を訝しげに見ながら悲しげな目でみながら

 

 「私にそんな資格は無い…一人で行きなさい」

 

 そう呟く命に

 

 「 どうしたってゆーの命?ここを出たくないの? 」

 

 真琴の視線に対し興味無さげに

 

 「 逆に私は問う…何故、私がここを出なくてはいけないの?

 

 否、私がそれを許されるのか?と…

 

 外の世界は厭わしき黒き魔女の私の存在を許さず人は誰も私が生きることを…存在する事を望んではいないのに? 」

 

 真琴に視線を合わせること無く問いかける命に違和感を覚えつつも

 

 「 僕がみこに生きてて欲しい…傍に居て欲しいってだけじゃ理由にならない?

 

 逆にこんなとこに押し込められなきゃいけない理由の方が僕にはもっと意味わからないよ? 」

 

 かろうじてそう答えた真琴だがその言葉には全く反応すること無く

 

 「 ここは罪深い私を閉じ込める牢獄、私と違い心に光を持つ巻き添えの貴方には不当であっても私には相応しい場所

 

 だから貴女はここを出て行き私の事なとさっさと忘れ光の下で幸せを探し求めなさい… 」

 

 命にそう言われた真琴はかっとして

 

 「 僕一人でかっ!?みこ独りをこんなとこに置き去りにして幸せになんかなれるもんかっ!

 

 そんなのは幸せでもなんでもないしそんなモノが幸せだとゆーのなら僕は幸せなんか要らないっ! 」

 

 その真琴の悲痛な叫び声にも

 

 「 大丈夫、すぐに忘れられるし忘れてしまうのが貴女の為なのだから私の事など嫌な思い出と共に忘れてしまいなさい…

 

 私が貴女に出来るのは、精々貴女の足枷になら無い様に気を付ける事と、ここから貴女の幸せを祈り続ける事しかないのだから…

 

 それが貴女の為でありお互いの為でもあるのだから…

私に許されているのはここで貴女の幸せを祈る事のみ」

 

 全くの他人事の様に言う命に苛立ちを隠すこと無く

 

 「僕の為とゆーのなら…」

 

 そう言い身動きひとつしようとしない命の小さな身体を抱き上げて

 

 「 黙ってついてこれば良い、説得が無理だとゆーのなら実力行使有るのみっ! 」

 

 そう言い放ち石像の方を振り返ること無く

 

 「 さっさと出口に案内してっ! 」

 

 そう告げ弱々しく抗う命の身体を力一杯に抱き締めながら歩き始めた

 

 「 下ろしなさい、私に此処から出る資格も権利もないのだからっ!降ろしてっ! 」

 

 その弱々しい命の訴えには一切耳を貸す事無く無視して歩き出した真琴に向かい

 

 「真琴…命を渡しなさい」

 

 あまり抑揚のない声で石像は言われ

 

 「 まさかアンタも命をここに置いて行けってゆーんじゃないんだろうね? 」

 

 そう言って石像を睨み付ける真琴に

 

 「 それはあり得ない…時、至らば貴女方を外の世界に送り出すのが私の使命

 

 もし命や貴女が未だ力不足、そう判断したのなら二人に修行を続けていただくだけで未だ時至らず

 

 と、そう結論付けるだけなのですからそうではなく此処から出るには幾つかの試練を経ねばならずその試練を受けてもらわねばならず

 

 その試練を受けてもらう祭に真琴の手が塞がったその状態は好ましくないのだから命は私がつれていくべきだと判断しただけの話 」

 

 その感情の欠片も見出だせない石像を睨むのを止めしぶしぶ命の身体を引き渡した真琴は

 

 これまで全くと言っていいほど身体を動かして無かった命の小さな身体はか細く軽すぎて全く生気が感じられず人形の様にも見える

 

 

 

 魔女の命

 

 三人がこの凍りついた断崖絶壁を登り始め、いったいどれ位の時間がたったのだろうか? 元から時間の観念はなかったがいよいよ麻痺してきた三人

 

 見下ろしても眼下の地面わ遥かに遠く視界の外に有り頭上に在る筈の頂上わ全く見通す事は叶わない

 

 ただひたすら登り続ける石像と真琴に構わず誰も居ない筈の空間に視線だけ一瞬向け

 

 「 この茶番、いつまで続けるつもり? 」

と呟く命の声に深い溜め息を吐き

 

 「 みこ…僕達は真剣に頂上目指して… 」

 

 ― 茶番とは失敬な ―

 

 話を遮られた真琴がその声のした方を見るとそれまでは全く気が付かなかった僅かな空間の歪みがあること気付いた

 

 「 さっさと姿を現しなさい…さもなくば… 」

 

 空間の歪みから三人を嘲笑う気配をさせながら

 

 ― 現さなければどうなると言うのですか… ―

 

 ー 我が敵は汝に捧げし貢物なり… 燃やせ、食らえ焼き尽くせっ!… 黒炎竜(こくえんりゅう)

 

 命が放った禍々しい黒い炎の竜に食らわれた愚者の思念お嬢ちゃん?そう続けるつもりの思念はその主の消滅と共に失われた…永久に…

 

 「 み、命…一体…何を? 」

 

 いつ現れたのか解らない両手に持つ二本の短剣に戸惑いながら聞く真琴に

 

 「 愚者が一人…貴女の行く手を阻んでいただけで気にするほどのモノでは有りません…がっ! 」

 

 命の表情が一変し先程とは又異なる方向を睨みながら

 

 「 貴方も試練とやらですか? 」

 

 冷やかな声で問いかける命に

 

 ― 立場上試練を与える者ではあるが…

 

 私にお前を引き留める力が無い事も理解出来ぬ様な愚者では無い ―

 

 そう、消滅させられた事すら気付かぬ愚か者と違ってな… ―

 

 「 ならばさっさとここを通して貰いたい…力ずくで通れと言うのならばそうするのだけど? 」

 

 嘲笑うように言う命に

 

 ― それをされたくないからこちらから姿を現したのだから焦るでない …

 

 ほれっ、この空間の出口はお前さん達のすぐ上に在るからこれ以上この空間を揺さぶらんで欲しい

 

 お前さんが放つ巨大な魔力は、余りにも凶悪すぎるのだから…

 

 このままここに居続けられては崩壊されかねんのだからな… ―

 

 「 ならばさっさと通り抜けさせてもらう 」

 

 命のその言葉に

 

 ― そうしてくれるのならこちらとしても助かる…

 

 本来我も含め五つの試練を経て貰うのだが最終関門以外は役不足過ぎて申し訳ない ―

 

 「 お前にそんな権限が有るというのか? 」

 

 疑がう響きのその問いに

 

 ― 権限があるわけではない、ただ単に消されたくないしこのお気に入りの空間を壊されたくないだけだ

 

 消えた愚者と違い他の監視者は我の忠告に耳を貸さぬ程愚かではない

 

 が…あれのお陰で忠告を受け入れる気になったのだから結果的には役にたったというべきか? ―

 

 「 では最後試練は? 」

 

 その当然の問い掛けに

 

 ― あれに知性は無く、我の呼び掛けに応える理性もない…

 

 それ故後は健闘を祈るとしか言いようがない ―

 

 そう伝えると一切の思念を閉ざすのを感じたた命は

 

 「 先に進みなさい 」

 

 と、告げるのみで詳しい説明を一切しようとしない命に相変わらず溜め息を吐くしかできない真琴

 

 「 命を頼むね… 」

 

 彼女にはそうとしか言えなかった

 

 時空を越え抜け出た先には何もない虚空だった…

 

 「 命…ここわ一体… 」

 

 その真琴の呟きに応える代わりに

 

 「 来たっ! 」

 

 そう短く呻いた

 

 えっ?と呟く間も無くそれが襲ってきた…

 

 真っ黒なのに艶々で…ぬるぬるしてそうな巨大な触手(?)が唸りをあげて近付いて来るのが見えた

 

 ―”八叉の黒炎竜っ!“―

 

 間髪をいれず先程より更に凶悪すぎる程の大呪文を放った

 

 黒炎は八っつの鎌首をもたげた怪竜となり触手達を喰らったけれども風穴を空けたほどにしか影響を与えることしか出来ない

 

 それなりに修行してそれなりの力をつけていたつもりの真琴にそれなり力では何ともなら無い敵の出現に

 

 「 命…あれは一体…あんなの相手に僕は一体どうすれば… 」

 

 自分の力のなさを思い知らされ悔しさの余りに血が滲むほど強く握りしめた手を震わせる真琴に

 

 「 この神剣が貴女に力を貸してくれます 」

 

 そう言って先程の呪文の残り火が収まりつつある命が握っている剣を真琴に投げつけた

 

 三尺は有ろうその剣は身長四尺五寸位の真琴には長すぎる様にも見えた

 

 その剣が、真琴の手に収まるとまるで何年も前から握っていたかの如くしっくり馴染み

 

 「 神剣… 」

 

 と、無意識のうちに呟いた真琴

 

 「 神の力宿りし天叢の剣、貴女の魔力に呼応してその神通力を解放します 」

 

 その言葉に頷き剣を一旦背負い鞘から抜き放ち触手に向かい飛び込んだ

 

 「 私はどうすれば? 」

 

 石像のその問い掛けに振り向くこと無く

 

 「 私達の試練のはず…貴女が今すべき事は未だ何もない

 

 このまま私と成り行きを見守っていればよい 」

 

 と、そう答え魔力を高め始めた

 

 最初に放った黒炎竜ですらかなりの最上位の部類に入る魔法であるのにも関わらず今の命が高めている魔力はそれすらもちっぽけに感じるほどに凄まじく感じられた次の瞬間

 

 ―真琴、退きなさいっ!―

 

 そう叫ぶと呪文の詠唱を始めた命

 

 ―黒き炎の竜頭はぜる時…禍の炎が全てを焼き、喰らい尽くす災厄の炎とならん…“爆竜炎っ!”―

 

 八つの竜頭を合わせてさえ及ばぬ程巨大な竜頭が真琴の横をすり抜け触手の本体近くで大爆発した

 

 大爆発で拡散する黒い炎が次々に再生し続ける触手に負けじと触手を喰らう

 

 ― 今です真琴…奴に止めを刺しなさい ―

 

 「 解った 」

 

 そう短く答え白魔法の魔力を高める真琴

 

 その魔力を神剣が浄化の光に変え触手を照らすと徐々に崩れ去りみるみるうちに小さくなっていった…

 

 「 命? 」

 

 爆炎竜を放ち力尽きた命を抱き止めた石像が声を掛けた

 

 その瞬間命の目が怪しく光り…

 

 左右の手に持った勾玉を石像の額と心臓辺りに埋め込み

 

 「 これで私達のお守りからから解放されるつもりだった?

 

 残念ながら貴方を解放してあげる気はない 」

 

 悲し気に表情を歪め

 

 『お前の主がお前を使役する為の契約を打ち消し私との主従関係を結ばせて貰いました

 

 その過程で貴方に外の世界で差し支えの無い様な仮初めの命と身体を与えましたのでしばらくは違和感もあるだろう…」

 

そう言って溜め息吐き石像を見て

 

 「 さすがにこの身体であれだけの呪文を放つのは無理が有りすぎた様です

 

 これ以上意識を保てない私に抗う術は有りませんから此処から出るのは本意ではありませんが…

 

 真琴好きにすれば良いと伝えれば良い

 

 そしてこれらをお前に預けますから真琴の神剣の束にこれを埋め込みなさいと言って真琴に渡しなさい…では後の事は任せます―

 

 最後の方は言葉ではなく念話に切り替わり石像に伝えるとそれきり命の意識は途絶えた

 

 触手を浄化し終えた真琴が二人の元に戻ったのはその暫く後の事で

 

 「 貴女は誰?命…は全く動かないけどまさか… 」

 

 ぼんやり命を抱き抱え立ち尽くしていた石像だった者が真琴の問い掛けに

 

 

 そんな俺が、最初の目標だった影分身の術をマスターしたのは小町と小梅の満一歳の誕生日が過ぎた頃でアタシの修行は木登りをしていたな

 

 保育園じゃよくうんていや登り棒で遊んでたから身が軽いって思われていた

 

 まぁ、特に反論することでもないから放っておいたが母ちゃんはあまり良い顔はしてなかった

 

 チャクラを使って張り付いてるから間違っても落ちる心配はないんたがな…

 

 その気になれば登り棒なら歩いて上れるんだからさ、登り棒位の高さなんかね

 

 さすがにそれは言えない秘密だけどな

 

 とにかく、見た目は地味でチャクラを感知できないヤツにはわからないチャクラコントロールの修行を密かにしていた

 

 もちろん、いつだって園庭を一人で名一杯走り回っていたがな

 

 だからチビの大食いで、インドア派であまり体を動かさない八幡よりもたくさん食べていたけどナゼだか身体の成長にはあまり回らなかったよ、残念ながらな

 

 そんな俺が、分身の術を覚えてからは平日は分身に家の中で壁や天井に張り付かせる修行をさせて俺は相変わらず保育園で走り回る日々を送っていた

 

 走り回っていた成果がでてきたんだろうか?

 

 「 今の私が真琴の目にどう映っているかは解りませんが貴女方姉妹の世話を任されていたモノでした…

 

 命様は意識を失われているだけで命に別状有りませんが命様からのご伝言です…

 

『 意識を失っている私に抗う術は無いから勝手に連れ出せば良い 』

 

 と、真琴に伝えるように申しつかりました

 

 主無き今ならこの空間を神剣で切り裂き脱出できしましょう…やってくれますね? 」

 

 言われて列泊の気合いで大上段から切り下ろすと空間が避けて新たな空間の入り口が見えた

 

 「 聞きたい事は山程有るけどここを出て落ち着いてからにしよう…命を頼めるね 」

 

 頷くのを確かめ二人は空間の裂け目に入っていった




元々舞姫はこの作品から派生したものですがこちらは未だ未完成です


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火と水と女神

迷宮脱出成功!?


 

 

 ①  廃坑

 

 「 又、地下迷宮? 」

 

 ウンザリ顔の真琴の呟きに女剣士は

 

 「 いいえ、ここは迷宮と言うより廃坑の様ですね…どうやら元は炭鉱だったようですが… 」

 

 流れの無い、淀んだ空気から元石像はそう判断して真琴にそう告げてからもう一度注意深く周囲を見回してから

 

 「 取り敢えずこの坑道がどれ位続くのか解らないのなら一度休憩を取りましょう 」

 

 そう真琴提案すると

 

 「 そうだね、みこの様子はどう? 」

 

 真琴も大きく息を吐き出してからそう言って現状確認のために命の様子を聞くと

 

 「 呼吸も脈拍も大分落ち着いて来たようです 」

 

 注意深く観察してからそう答えると

 

 「 そう、じゃあ比較的見通しの良いこの辺りで休憩を取ろう… さすがの僕もお腹空いてきたよ 」

 

 「 その剣を背負ったままでは座り難いでしょうから外したらどうですか? 」

 

 「 ああ、あまりにもの軽さに背負っていた事を忘れてた 」

 

 椅子状の岩に真琴が腰を下ろしその隣に女剣士は胡座をかいてその足の上に命を寝かせた

 

 ついで、リュックからなめし革の袋と水筒を取り出し真琴に手渡した後に

 

 「 真琴、神剣を見せてもらえませんか? 」

 

 そう真琴に頼むとその真意がわからないものの

 

 「 ?、良いよ 」

 

 と、答えてから剣に手を添えると背負ったその剣から伝わってくるはずの力、神通力が全く感じられず訝しげに抜き放ち驚いた

 

 「 えっ…、何これ…一体何が……? 」

 

 そう驚きの声をあげる真琴を見ながら

 

 ( 命様の言ってたのはこの事なのですね… )

 

 そう思いながら

 

 「 ごめんなさい、真琴…これを命様から預かっています 」

 

 そう言って差し出されたそれを受け取り

 

 「これはみこの勾玉?」

 

 そう問い掛ける真琴に

 

 「この勾玉を剣の柄に埋め込むように伝えなさいと命様からのご伝言です」

 

 そう答える石像に言われて受け取った勾玉を通りに柄に押し当てると勾玉は柄に入り込んでゆき元々そう言うデザインであったかのように収まった

 

 ― 剣を正眼に構えこう叫ぶのです、"我の呼ぶ声に応え、目覚めよ黒炎竜 ”と―

 

 「 命の声が… 」

 

 そう呟き言われた通りに真琴が叫ぶと勾玉から黒い炎が吹き出し黒炎となって刀身を覆った

 

 ―その状態の剣を鞘に納める事が出来たら剣は貴女を正当な主と認め貴方に従います…さあ、剣を鞘に納めなさい―

 

 その言葉に

 

 「 わかった…やってみる 」

 

 そう答えると、腕に魔力を集中し抗う剣を鞘に納めると再び剣は落ち着きを取り戻した

 

 「 魔剣黒炎竜…レム…あ、勝手で済まないけどいつまでも名無しのままでは不都合だからそう呼ばせてもらうけど構わない? 」

 

 容姿が変わったからと言って直ぐに何かが変わる訳でもなく相変わらずの無表情で

 

 「 命様に差し支えなければ私はどのように呼ばれても問題ない 」

と答え

 

 「 その命様と呼ぶのも何故?そもそも何故姿が変わったのさ? 」

 

 一 目見た時からの疑問を口にした

 

 命との主従契約、外での行動に差し支えの無い姿に変えられた事をかいつまんで説明されると苦い顔をしながら考え込んだ…

 

 真琴の食事が終わり再び出口を求めて歩き出した

 

 

 レムと真琴の二人に

 

 「 血の匂いがする…それもかなり大量の血のね…」

 

 一瞬二人はお互いに顔を見合わせたが相手が言ったのでは無いと知り困惑していると

 

 「私の言った言葉の意味が理解出来ないのですか? 」

 

 命は苛立ちを隠すことなく二人に怒鳴り付けると

 

 「 僕にはそんな匂い全然しない「当たり前です、私の嗅覚は野生動物以上に鋭敏な五感なのですから貴女達がわからなくて当然です

 

 が、どうやらこの洞窟内ではなく外から匂って来てるようですね… 」

 

 そう言われて更に歩き続けていると

 

 「 血の匂い端じゃ無く肉の焼け焦げる匂いが… 」

 

 不快そうに歪む命の表情を見かねた真琴が

 

 「 命をお願い、先に行って様子を見て来るっ! 」

 

 そう言って真琴は出口に向かい駆け出していった

 

 

 

 

 

 

 ②  運命の出会い

 

 様子を見に行ったはずの真琴は、ただ様子見で終わらず足元に横たわる少女を庇いながら4~5人の敵と闘っていた

 

 敵はあまり生気の感じられない盗賊でその風貌からは想像出来ないほど機敏な動きで真琴を圧倒的に翻弄していた

 

 だが、やはりゾンビなのだろうか?

 

 女剣士と命の出現には全く気付かず、気付く前に女剣士に斬り倒されていた

 

 「 僕の治癒呪文ではもう間に合わないからみこの勾玉をこの子と抱えている仔猫にあげて欲しいっ! 」

 

 そう真琴に頼まれた命はその希望のままに少女の前に座らせてもらい黒い勾玉の小さいのをひとつずつ少女と仔猫に埋め込んだ

 

 少女と仔猫はレムの時と同様に黒い煙に包まれるのを見て

 

 真琴に二人の護衛と治療を任せて命は女剣士に村の中心らしい方向に歩くように指示した

 

 動くモノの気配はするがやはり生きる物の気配がない

…否、居た…大勢の敵に囲まれていた

 

 大して強く無いとはいえ倒しても倒しても何度も起き上がり向かって来る敵にいい加減ウンザリって表情を浮かべる謎の戦士に

 

 「 上に跳んでっ! 」

 

 頭の中に響いたその声に何の疑問も持たず跳躍

 

 間髪を入れず命が放った黒炎竜がそこに居た敵を総舐めにする

 

 命とレムに気付き屈託の無い笑みを浮かべ二人に近付き命に手を差し出して

 

 「 面倒臭い奴等を始末してくれて助かったぜ、アンタ等も水の精霊を救出に来たのか? 」

 

 そう言われて最前から感じていた精霊の気配に納得した命は

 

 「 水の精霊?別に…私逹はたまたま通り掛がっただけで精霊が居るなんて知らなかった

 

 ただ、闇の者が嫌いだから余計なお世話と知りながら貴女の闘いに介入した 」

 

 「 いやぁ~、ちっとも恐かねえが面倒臭ぇ~し鬱陶しい奴等だと思ってたからな、感謝してるぜ! 」

 

 眉を潜めた命が

 

 「 その水の精霊の気配が薄れている 」

 

 そう言い命が指差す方に駆け出す二人の女戦士

 

 水の精霊が封印されているらしき物を祭壇に捧げて封じようとをする者を一重二重に守る者たちは明らかにゾンビの群れだった

 

 個々の戦闘力は低いが恐怖も痛みも感じ無い厄介そうな敵を前に

 

 「 あの程度のモノ逹なら何ら問題ない…私を水の精霊の元に投げなさい、封印儀式が終わってしまうその前にっ! 」

 

 自らは何の策も思い浮かばないその戦士は命の命ずるままに命の身体を思い切り投げ飛ばした

 

 命の接近に気付いて封印儀式を行っていた首領格が一時封印儀式を中断し剣を抜き身構えたところに手を伸ばした命が飛び込んだ

 

 命の右手が封じられた水の精霊を掴み敵の剣が命の身体を貫き…

 

 唇から血が流れフッと微笑み精霊を体内に取り込むと

 

 ― 爆炎竜《ばくえんりゅう》ー

 

 そうスペルを唱えた

 

 至近距離でこの呪文を受けた者逹は瞬にして蒸発したがその凶悪な爆炎は術者で命自身無傷で済むはずもなく全身に大火傷を負いピクリともしない

 

 「 み、命…様? 」

 

 そう声を掛けたが意識の無い命からのいらえは無く

 

 「 済まないがあの方を頼む… 私はあの方の姉を案内してくるからその間見守っていて欲しい… 」

 

 相手の返事も待たず真琴の元に駆け出したレム

 

 暫くして余り要領を得ないレムの説明を受けて駆け付けた真琴が見た命の姿は最悪だった…

 

 全身に酷い火傷を受けていたのは勿論おそらく心臓貫いているようにすら見える剣の突き立った姿を見て冷静さを失った真琴は命の側で仁王立ちの女戦士に構わず命の身体に触れようとしたら

 

 「 触るなっ! 今、水の精霊がこの子を体内から治療中だ

 

 水の精霊の許可が出るまで剣もこのままにしておくようにと、そう言われてる 」

 

 そう強い口調で言いながらも本人も納得してない表情に何も言えずただ見守るしか出来なかった

 

 真琴とり悠久の時とも言えたが実際には四半時位の時間が経過する頃命の身体から蒼い煙が立ち上ぼり女性の姿になった

 

 ― 一応の処置を施しましたが… 貴女が真琴ですね?治癒魔法を施しながら剣を慎重に抜きなさい、くれぐれも慎重に… ―

 

 そう告げられその通りに命の身体に生えていた異物を取り除いた真琴に

 

 ― 私に出来たのは傷の応急措置のみ… ですがこの生きる事に否定的な娘の霊を呼び戻すには至りません …

 

 無論、出来うる範囲で手助けわしましょうが… 解りますね?今私に言えるのは頑張りなさいだけです

 

 私はこれよりこの娘を私の巫女とし… 私を取り込んでしまったのだから拒否権は認めません… ―

 

 「 水の精霊の貴女の言葉を遮るご無礼をお許し下さい… 」

 

 更に真琴が言葉を継ぎ

 

 「 僕と命は黒き魔力を持つ者で精霊の巫女になる資格は無いはず? 」

その二人に微笑みかけ

 

 ― それこそが大いなる勘違いの元でこの娘の魂は魔女の… 黒き魔女の魂ではあるけれど闇に落ちてはいません

 

 貴女逹に勘違いさせた原因、それは黒き魔女の魂とその膨大な魔力を手に入れようとまとわりつく闇の者のせい

 

 この先この娘が闇に堕ちるか否かは側にいる貴方逹次第…

 

 無論水の精霊の巫女を導きはしますが最終的には巫女を囲む者逹次第… 期待してますよ ―

 

 「 なぁ、水の精霊よ…アタイはず水の精霊の巫女がアタイを導くのだから先ずはアンタを救出するよう言われたんだが…この娘につい行けば良いんだな? 」

 

 女戦士の問い掛けに

 

 ― それは私が決めることでは無いけど… 少なくともこの娘について行くのは苦難の連続でしかありません

 

 それだけの覚悟が無いので有ればここで袂を分かつことお勧めします ―

 

 「 ふんっ… 苦難ね… 運命から逃げて後悔するよかましだろう? 」

 

 と、不適な笑みを浮かべて見せ

 

 「 僕は嫌だ… 命が諦めずに生きてくれるのなら… 逆に命の手を引いて命の前を歩きたい… 命の行きたい方に導くために… 」

 

 と、逆の意味でついて行く事を拒否する真琴に

 

 「 私は命様を主と受け入れたのだからついて行くのみです… 」

 

 三人がそれぞれの言葉で運命を受け入れたの聞き

 

 ― 取り敢えずこれを貴女方に託しましょう ―

 

 そう言って蒼く染まった勾玉をいくつか真琴に手渡し

 

 ― これらが貴女方の力になるはず…巫女の事を宜しく頼みましたよ ―

 

 そう言って水の精霊は命の心の奥深くに潜っていくのを見送った

 

 「 今更だけど一応お互いに自己紹介した方が良いみたいだね…

 

 僕は真琴でこっちは双子の妹の命に命の従者のレム…貴女は? 」

 

 問われた女戦士は

 

 「 アタイは賞金稼ぎを生業にしている鬼百合ってモンだ、鬼百合と呼んでくればいい

 

 アタイは月影の国経由でこの島に来たが、北の方からここに来る途中に在った集落は何処もここと同じ様な有り様で…

 

 アタイが見た限りじゃ少なくと命やその二人の少女逹を休ませられそうな場所は見当たらなかった… 」

 

 そう言われた真琴は

 

 「 じゃあ南に向かえと? 」

 

 鬼百合の進言に真琴が即座に答えると

 

 「 多分な… この島は中央の山岳地帯を挟んで二つの国が分割領有しているから山を越えれば或いは…

 

 だが間も無く日が暮れるんだから今夜だけはこのままここで過ごした方が良いだろうな… 」

 

 その言葉に暫し考え込んだ後に

 

 「 迷宮で生まれ育った僕達がこんなことをゆーのも何だけど…貴女は普通の人間では無いはず? 」

 

 ちらっとだけ真琴見た鬼百合に

 

 「 貴女が本気で命の力になってくれるのなら貴女の隠してる腕が欲しい 」

 

 今度は意味ありげに笑いなから

 

 「 ほおっ、アタイの腕をどうする気なんだい? 」

 

 鬼百合がそう聞くと

 

 「 貴女の腕を触媒にすればきっと凄い戦士が召喚出来るから… 外しても差し支え無いんでしょ? 」

 

 更ににやにや笑いながら

 

 「そんな禁呪に近い事をしていもお前は平気なのか? 」

そう聞かれて

 

 「 全く問題ない、それが許されないのなら石像に人の姿を与え仮初めの命を吹き込んだみこもまた許される筈はないのだからね… 」

 

 そう聞いて破顔一笑の鬼百合は

 

 「 なら問題ねーなっ! 命は精霊の巫女に選ばれたんだからな

 

 そーゆー事なら喜んでアタイの腕を差し出そう 」

 

 そう言うと鬼百合の脇腹から四本の腕を生え抜け落ちた

 

 「 んで、その召喚とやらはどうやるんだい? 」

 

 と、子供の洋に好奇心に満ちた目をして聞かれて真琴は

 

 「 見てれば解るよ 」

 

 とだけ言って自分のリュックの中から黒い勾玉と白い勾玉を2個ずつ取り出すと先ずはそれぞれの右腕に黒い勾玉、左腕に白い勾玉を埋め込んだ

 

 「 これで終わりで直に終わるから今後のことはその四人も含めて相談しよう 」

 

 そう真琴が告げると

 

 「 なぁ、ひとつ聞きたいんだがアタイ自身がその勾玉を受け入れたらどうなるんだ? 」

 

 と、考え込みなから聞いてくる鬼百合に

 

 

 「 具体的にはちょっと…魔導師にはなれないだろうけど魔力を帯びた武器をより使いこなせる様な魔戦士になれるんじゃないのかな? 」

 

 同じく考え込み、言葉を選びながら答えると

 

 「 なら… 少なくとも強くなれるのは間違いないんだな?だったらアタイの分も勾玉をくれ

 

 あの程度の雑魚に手間取ってるようじゃ先が思いやられるからなっ! 」

 

 陽気に言う鬼百合に頼もしさを感じながらこれで良いかな?と黒い勾玉をひとつ取り出すと

 

 「 どうせならもう後10個貰って全部で11個欲しいぜ

 

 おそらく勾玉を受け入れりゃ腕の再生も早いだろうからな

 

 それにお前がさっき言ってた魔力を帯びた武器も欲しいからこの剣と片手斧に埋め込む分もな

 

 後、アタイ自身のは有ればもっとでかい奴を頼む」

腰に手を当て笑いながら言う鬼百合に

 

 「 申し訳無いけどこれよ大きいのは… 「 これ位ならどうですか? 」」

 

 そう言って差し出したのは真琴の勾玉の二倍はありそうな大きさの勾玉では

 

 「 みこの勾玉…だね? 」

 

 「 勿論そうです…でなければ魔導師で無い私が持ってる筈有りません 」

 

 そう言いながら鬼百合に手渡すと受け取った鬼百合嬉しそうに勾玉を鬼百合に渡すと受け取った鬼百合は嬉しそうに

 

 「 そうか、お前達… 」

 

 そう勾玉に語り掛けていた

 

 そうこうしているうちに煙りの中から四人の戦士が現れ出たのを見た鬼百合に

 

 「 んで…これからどうするんだ?…」

 

 鬼百合にそう聞かれて

 

 「 え…いや…僕達はこの辺りの事は何も知らないから… 」

 

 「 いや、それ以前の問題で名前がなきゃ話もし難いだろ? 出来りゃお前逹が名前を付けてやって欲しいんだがな? 」

 

 と、言う鬼百合の言葉に

 

 「 私の名も真琴が付けたのだからその者逹もそれで良いのではないのでしょうか? 」

 

 そう言って真琴に丸投げのレムに溜め息吐きながら四人を見たがただ黙って頷くのみ

 

 諦め今度はじっくりと観察してみた

 

 双子の様にそっくりな二人は拳闘士風の出で立ちに鏡あわせの如く左右対称だった

 

 そんな二人に

 

 「 右肩に肩当ての有る貴女は阿、左肩に肩当ての有る貴女は吽で共に古の闘神から頂いたもの 」

 

 残る二人に目をやると蒼い目の四人中では一番小柄で細身の剣を腰にさした剣士に千浪、阿吽より頭ひとつ背の高い剣士には沙霧と名付けると頷く四人

 

 「 早速で済まないが阿吽は生存者の有無の確認と短いとは言え10日間の強行軍だ… 子供逹に必要そうなものを調達して欲しい 」

 

 二人が頷き駆け出すのを見送り

 

 「 千浪と沙霧は食料の調達を頼む… 真琴はその具合の悪そうな娘逹の治療でアタイとレムで警護するで良いな? 」

 

 戻って来た四人はそれぞれに投網を担ぎ魚をくくりつけた縄を何本も持った千浪

 

 狩猟用の弓を背負い数羽の山鳥を腰に下げた沙霧

 

 甘い香りのする木の実を袋一杯持って来た阿

 

 吽は必要と思われる色々な雑貨類を持って戻ってきたのは日もどっぷり沈んでからだった

 

 魚焼き立ての魚は熱いけれども柔らかくて良い香りがした

 

 レムも初めての食事は楽しいものなのだと思えた

 

 「 真琴は食後魔力の回復の意味からも少し休んでおきな、アタイは今から勾玉取り込むからその間はレムに従ってくれ

 

 後の二人の名前も真琴に頼むし、こいつ等も預ける 」

 

 そう言ってレムに愛剣と片手斧を預けた

 

 鬼百合が結界に隠る中… 二人の格闘家タイプの戦士が目覚め闘嘩と舞と呼ぶことにし、剣鉈とソードブレーカーと勾玉を刀身に埋め込んだ妖刀にバトルアックスが突き立っていた

 

 「 僕の独断で申し訳ないんだけど沙霧さん…貴方に魔剣を預け、千浪さん…貴女にはソードブレーカーを預ける

 

 勿論、この剣鉈とバトルアックスは鬼百合さんに使ってもらうよ 」

 

 そう言って真琴から魔剣とソードブレーカーを受け取った二人

 

 沙霧は細身の長剣を、千浪は細身小太刀を各々にレムに渡して

 

 「 真琴、私達の持つ武器も強化してもらうわけにはいかいだろか? 」

 

 そう言われて頷いた真琴に沙霧は狩猟用の弓矢に刀子10本を差し出しその内の一本を別にして

 

 「 戦いの場が必ずしも剣が振るえるとは限らないし武器としてばかりでなく肉や魚をさばいたり木の実や草の実の皮を剥いたりするのに重宝するから持っていると良い 」

 

 そう言われて受け取りながらこれからはそう言った使い方をする場面が増えるのだろうと思い

 

 「 有難うございます、きっと色々役立ってくれると思います 」

 

 そう言って真琴が刀子を受けとると

 

 「 ならこれも巻いとけば刀子を差しておける 」

 

 そう言って千浪がサッシュを巻き付けて真琴に取りやすい位置に刀子を差して見せた

 

千浪は小太刀にレムの長剣と小太刀にサーベルとレイピアに各々黒い勾玉を埋め込んでから真琴は休み他の戦士達は交代で休むことにした

 

 

 

 翌朝結界から現れた鬼百合は深紅の胸当てに腰には蠍の尾を思わせる鞭を巻き付けた姿を一同に見せた

 

 だが、少し遅れて結界から姿を表した命の変化は更に大きく、黒い瞳と長い髪はコバルトブルーの髪とダークブルー瞳に変わり…

 

 何よりも幼児体型とも言えた体型はスリムになり…

 

 人形めいた八頭身の人間放れした姿に変わっていた

たがそれより一同を驚かせたのは目を閉じたままの命が喋り出したことだった…

 

 そして、それがいったい何を意味するのか…どういう事なのかは皆はすぐに気が付いた 




本編スタートしました


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火と水と女神②

精霊の導きを求めし戦士達の邂逅…そして精霊に選ばれた魔導師の少女の運命は?


 

 

 

 水の精霊が命の身体で話掛けているのだと言う事に

 

 「命の霊の本体は心の奥深くに隠ってしまい私の説得にも一切応じようとはしません」

 

 ですが、その壊れた命の魂の残骸と言えるものが体裁を整え人格形成を始めてますから目覚めるのに今しばらくの猶予が必要です」

 

 そう言って一同を見回し

 

 「その目覚めの時のまで、巫女の事を宜しくお願いしますね…それと」

 

 少し間を置き

 

 ―皆に頼みが有りますが、この地の何処かに封印されし我が同胞の精霊と泉の女神を解放して欲しいのですが頼めますか?―

 

 そう水の精霊、アクエリアスが依頼を要請すると

 

 「あんたの同胞ってのは地の精霊、火の精霊、風の精霊…あんたを含めた四大精霊の内の三人と泉の女神が封印されてる!?」

 

 思わず絶叫する鬼百合と眼を見開き絶句する真琴に

 

 ―私が完全に封印されていれば世界のバランスは完全に崩れ崩壊の一途を辿っていたでしょう…―

 

 その水の精霊の言葉に

 

 「それがこの世界各地に起こっている異変の元凶だったのか?…」

虚ろな表情で鬼百合が呟いた

 

 「解りました…正式には命の意識の戻り次第だけど…精霊の巫女たる命がそれを引き受けると信じ僕もその手助けをすると約束します」

 

 そう答えたのを満足そうに聞いた水の精霊は

 

 「ありがとうございます、私も全力で巫女を導きましょう…では、くれぐれも巫女の事を宜しくお願いしますね」

 

 そう言うと水の精霊は命の霊の奥底に沈んでいったが意地悪く自分を睨む鬼百合に

 

 「僕もじゃなく僕達もっ!じゃねえのか?真琴よっ♪」

 

 ニヤリとニヒルな笑みを浮かべる鬼百合に言われ

 

 「そうだね…ごめんなさい…」

 

 と、素直に詫び一同を笑わせた

 

 

 

 朝食の後すぐに真琴に四本の腕で新に戦士達を召喚させて盗賊風の白浪に海賊の海猫、野武士の信濃バイキングの九鬼の四人だ

 

 

 

 「この二人は着替えさせますが真琴はどうしますか?

 

 それと命様に合うサイズは有りませんでしたからタオルを巻き付け上に旅装のマントを羽織らせましょう」

 

 それが着替えのない命に対するレムの思い付いた唯一の考えだった

 

 「僕はこの袖の無いシャツとパンツそれに旅装用のマントに水筒を貰って良いのかな?」

 

 そう言ってそれに着替えると鬼百合が

 

 「シンプルで動き易い格好だな」

 

 半ばからかう様な口調で言ってから

 

 「守りたい者が居るお前は今でも十分強いがもっと強くなれる…頑張んなっ!」

 

 真琴に初めて見せる真剣な顔で真琴を励ました

 

 その他には袖無しのワンピースと大判のタオルと手拭いを一枚ずつ鞄にしまうと

 

 「ついでにこれもしまっておきなさい」

 

 そう言って渡されたのは小さめの巾着袋で

 

 「中身は干し豆が入ってますから非常時の食料に持ってなさい」

 

 そう言われたので鞄にしまうことにした

 

 

 

 二人の拳闘士のうち阿が命を抱き吽が真琴を肩に乗せ…

 

 格闘家の闘華と舞が少女を抱いて行くことになった

先頭は鬼百合、殿はレムで剣士達は荷物を運ぶ事になった

 

 移動は丸10日掛かり隣国の国境にたどり着いたのは深夜の事だった

 

 

 

 

③ 国境の攻防戦

 

 「 門を開けてくれっ!連れの三人の子供の具合が悪いんだっ!頼む、医者に見せたいから通してくれっ! 」

 

 門を叩きながらレムが叫んだ

 

 覗き窓から見た門番はパッと見で解るくらいに具合の悪そうな三人の少女を見ると慌てて上の者の許可を貰うから待ってろと言い残して走り去った

 

 戻って来たのは門番一人ではなく身なりの良い隊長らしき人物を伴っていた

 

 その隊長らしき人物は一行の顔を眺めた後、何も言わず潜り戸を開け

 

 「 早く子供達を休ませてやりなさい 」

 

 そう言っただけで自らが空いている部屋に案内しレムだけ別室に呼んだ

 

 「 良いのですか?子供達に… 特に昏睡状態にある娘にこれ以上無理させたくない我々にはとても有り難いが貴女にも立場があるはずでは… 」

 

 そう問い掛けると

 

 「 確かにお前らだけなら門は開けなかったが…特にあの昏睡状態の娘を見て開けぬような鬼では無い

 

 取り敢えずひとつだけ質問に答えて欲しいがお前達は何が目的で我らの領地に来たのだ? 」

 

 真っ直ぐな目で聞かれたレムはやはり真っ正面で向き合い答えることにした

 

 「 我らの目的は子供達にキチンとした治療を施してやりたいのがひとつ

 

 もうひとつは水の精霊の依頼

 

 ーこの地に眠る3人の精霊と泉の女神の封印といて欲しいー

 

 と言う依頼をを果たすため 」

 

 まじまじとレムの顔を見る隊長

 

 「 水の精霊に逢ったと言うのか? 」

 

 と、聞かれ別に隠す必要の無いレムは

 

 「 水の精霊の救出は赤い胸当てを着た者が受けてきた依頼だからな

 

 あの四人の娘達は精霊を封印しようとしていた者に襲われていた村で出会った子等だ 」

 

 と、多少の嘘を混ぜ

 

 「 ならば養い親が見付かればその者達に託してみてはどうだ? 」

 

 反応を確かめるように聞いてきた問いにレムは

 

 「 本人達がそれを望むのならば…としか言いようがない

 

 垢の他人にすぎない我々が勝手に決めて良いものでは無いと思うが…

 

 特にあの昏睡状態の娘は、我が主にして水の精霊の巫女なのですからこの国の偉い方に判断を仰ぐ必要があると思います 」

 

 その衝撃の告白に

 

 「 水の精霊の巫女… それが事実なら確かに我等の判断でどうこうして良いレベルの話ではない 」

 

 そう話している部屋に慌てて飛び込んできた鬼百合の腕には命が眠っていた

 

 「 命様を連れて貴女は一体何してるんのですっ!? 」

 

 と問い詰めるとしどろもどろになりながら

 

 「 この子が敵襲だって言っているような気がして仕方ねえんだからしょうがねえだろがっ! 疑うならこの子の手に触れてみな! 」

 

 鬼百合が差し出した命の手に精霊との契約者の刻印を見つけた隊長は廊下に飛び出し

 

 「 第一級の警戒体勢を取れっ! 」

 

 大声で命じ部屋に戻り二人を指令室に伴い善後策を練ろうとした

 

 だかそれでは間に合わないとばかりに目を閉じたままの命は櫓まで翔ぶように移動し…

 

 ー レム、それと貴女は鬼百合と言いましたね?

 

 真琴達には既に屋上に集まるように伝えてありますから貴女達も急いで向かいなさい

 

 隊長の貴女は兵に弓矢を十分に用意させなさい

 

 敵は毛玉達とそれに運ばれてくる腐った死体達と一体ごとの兵力は大した戦力ではありません

 

 ですが両者を併せて千を下らない無駄に多くの数を投入していますから油断大敵、死の恐怖も痛みも知らぬ腐った死体は面倒な敵ですからね ー

 

 そう言って本人はそのまま櫓まで翔ぶように移動し未だ見えない敵に向かい…

 

 ー 八叉の黒竜炎っ! ー

 

 と、呪文を放ち駆け付けた沙霧に投げ付けると

 

 ーこの神剣、貴女に託しましょうー

 

 そう言って更に

 

 ー 八叉黒竜炎っ! ー

 

 と、呪文放ち

 

 ー これは貴女に ー

 

 そう言われた千浪が驚きながら受け取ったのは一対の小太刀で

 

 ー 八叉の黒竜炎っ! ー

 

 と、三度目の呪文を放つと遅れてきた鬼百合に神剣を投げつけ

 

 ー それらは貴女達のです、その代わり三人に頼みが有りますが沙霧は黒い勾玉の大太刀をレムに渡しレムの長剣をそちらの隊長に渡しなさい

 

 千浪の勾玉の小太刀は白浪に渡しソードブレーカーは九鬼に渡して下さい

 

 沙霧、貴女の弓矢と鬼百合の剣鉈にレムのサーベルとレイピア達に九鬼のサクスは勾玉が主人を選びますからその者達に託すつもですー

 

 そう言って蒼い霊玉を千切り取ると戦士達に向かって投げ飛ばすと霊玉はその霊力を解放して水色の翼となって敵を迎え撃つべく敵の元へと案内した

 

 

 

④ 兄妹…

 

 

 

 その国境警備隊基地司令官の提案を聞いたレムも

 

 「 もしそれが許されるならば急いで命様を医者に見せたいのですが… 」

 

 そう言って鬼百合を見ると鬼百合の方も嵐と司令を見て

 

 「 みこを医者に見せてやりたい、頼む… 」

 

 そう言って頭を下げると

 

 「 遠慮は無しだ、精霊の巫女様の前でつまらん駆け引きや遠慮は互いに要らんだろう? 」

 

 そう言ってニヤリと笑うと鬼百合も同じくニヤリと笑って返し

 

 「 まぁそうゆー訳だから誰を付き添わせるよ 」

 

 そう鬼百合がレムに問い掛けると

 

 「 鬼百合、貴女と阿、白浪の三人にお願いしたいのですが… 」

そう答えたので驚いた鬼百合が

 

 「 同行しないのか?、二人供お前も一緒の方が良いのだろうに… 」

 

 そう鬼百合に言われて

 

 「 自分達の勾玉を受け入れた貴女達に不満等はないはず?

 

 それに鬼百合、真琴は貴女に対し戦士として尊敬の念を隠していないのだから同行してくれれば嬉しいはずです

 

 それ故、後は向こうでの受けの問題だろうが… 貴女はそれなりに名の通った賞金稼ぎなんだろう? 」

 

 そのレムの問い掛けに

 

 「 まぁその筋じゃちったぁ名の知れた姐さんさ 」

 

 そう苦笑いで答えると

 

 「 なら問題ない、私も貴女なら背中を預けて良いと思える戦士の貴女に命様を託せぬ訳はない

 

 異界から来た私達にとり貴女に出会えたのは幸運としか言い様が無い 」

 

 「 そんなこっ恥ずかしい事を正面切ってゆんじゃねぇーよ… だか、まぁあれだな?

 

 アタイだって長年追い求めていた水の精霊の巫女と出会えてやっと運命を見出だせた今

 

 アタイにとってもあの二人はもう大事な守りたい子達なんだからよ… わかった、二人の事は任せろ 」

 

 照れ臭そうに言われて安心した表情で任せると答えるレムだった

 

 

 

 

 驚異の身体能力と命から授かった水の翼のチカラを以て一行が大公の居城に着いたのは間も無く東の空が白み始める頃だった

 

 「 国境の砦から火急の用だ、入城の許可を頼むっ! 」

 

 隊長の嵐がそう叫ぶと、正門の横の通用口にある覗き窓から様子を見るた門番が嵐の顔を見ると驚いてドアを開け放ち相方に見張りを任せ

 

 「 嵐様、案内いたします 」

 

 そう告げる兵士の態度は明らかに一隊長に対するものではなく鬼百合は気付かぬ振りで済ませたがその理由はすぐに解った

 

 鬼百合達と共に歩く隊長の嵐にいきなり抱きつき頬擦りする男が

 

 「 嵐…我が妹よ、兄はお前に会いたかったぞーっ! 」

 

 と叫んだからで最初は不意を突かれ狼狽えてた嵐も何とか気を取り直して

 

 「 大公閣下っ、客人や部下の前なのですよっ…お願いですからご自分のお立場をお弁えくださいっ! 」

 

 そう言われて渋々嵐の身体を離すと

 

 「 久し振りの兄妹の再会に大公閣下とは相変わらずつれないぞ…嵐 」

 

 そう言われた嵐が門番と鬼百合達を横目で見ると視線を反らし見ない振りをしてるのに気付いて溜め息を吐いて

 

 「 貴方は現職の、この地を治める大公で私は勤務中の一隊長に過ぎないのですから当然の対応ですっ! 」

 

 そう答えられて、千波今度は大公の方が溜め息を吐き

 

 「 客人から話を聞きたい、客間の支度と医者の手配を大至急するように 」

 

 そう言われて後ろに控えていた侍女の一人が頷くと重ねて大公は

 

 「 眠っておられるお嬢様は貴き方なのだからくれぐれも粗相の無いよう頼む 」

 

 そう指示を与えると驚く嵐と門番を気にせず

 

 「 真琴…少しは休めたか? 命を頼むぞ… 」

 

 命を気遣い、様子を見守る真琴とその眠っている命を抱いている阿と白浪にもそう声を掛けると

 

 「 十分です… 」

 

 真琴は鬼百合に答え阿と白浪が黙って頷くと

 

 「 そうか、なら宜しく頼む 」

 

 大公に命じれた侍女に軽く頭を下げる鬼百合に

 

 「 畏まりました 」

 

 そう言ってお辞儀をして三人を客間に案内した

 

 大公が侍女を引き連れ二人を執務室に案内し部屋に灯りを点けると

 

 「 御主人様はいつものでお客様には何をご用意致しましょうか? 」

 

 そう話すのを聞いた嵐が

 

 「 私には閣下と同じお茶を頼むが客人には酒と適当なつまみを頼む 」

 

 そう答えると侍女は黙って頷き退室した

 

 「 嵐、水の精霊の巫女様が私を頼っておみえになった…と、そう解釈してよいのだな? 」

 

 顔には出さないけど、今度ばかりはさすがの鬼百合も驚きつつも

 

 「 さすが賢公の噂に高き歌の国の大公閣下、水の精霊とその巫女の願いを聞き届けてほしい 」

 

 そう言われて

 

 「 ひとつだけそなたに問う、そなたの目的、狙いはなんだ? 」

 

 探るような視線を感じなから聞かれた鬼百合は笑って

 

 「 そんなもの何もねぇ、アタイは水の精霊の巫女様がアタイを運命へと導くって宣託を受けてるから水の精霊の巫女の守護者になっただけだ

 

 だから取り敢えず、その巫女の明るい笑顔を見てみたい、早く冒険の旅を共にしたい…だな 」

 

 そう言われて

 

 「 成る程、きっと誰もが虜にならずにはいられない笑顔…だろうな…

 

 あい解った…隊長、当面は水の精霊の巫女様とお連れの方達を頼む

 

 後日大公家の重鎮達と共に詳しい話を聞きたい…で、宜しいかな? 」

 

 寂しそうに言う大公に

 

 「 あ、兄上如何なされましたか? 」

 

 慌てて聞く嵐に

 

 「 私がもっと若ければそれこそ自らが陣頭指揮を執るのに…そう思うとそなた達が羨ましくてな… 」

寂しそうに笑う大公に

 

 「 巫女様が可愛いと思うなら…幼い現し身と裏腹に今尚人と異なる自分を忌み嫌い自分を否定してる巫女様を愛してやってくれ…

 

 そのおさなごころに温もりを与えてやって欲しい 」

 

 辛そうに言う鬼百合に

 

 「 良いのか?その様に振る舞っても? 」

 

 そう言われた鬼百合は

 

 「 自分は罪深き子であり生まれてくるべきではなかった…生きていてはいけない子だったんだ…そう言ってる子にそれ以外の何が必要だ? 」

 

 本当に悲しそうに言う鬼百合に

 

 「 そうだな… あの淡雪の様に触れたら消えてしまいそうな第一印象は間違って無かった訳か… 」

 

 そう悲しそうに呟く大公だった

 

 




ちょっと寂しいです

サクス、スクラマサス

サーベルとカットラス


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火と水と女神③

水の精霊は語る世界の現状を精霊は告げた巫女に選びし乙女が面に表せない本心が救いを求めていることを…


 

 

⑤ 公女宮の主人

 

 この大公家には絶対もと言える暗黙のルールが存在する

 

 女性の訪問者はまず何をおいても公女に訪問の挨拶をせねばならない

 

 だったのだけど、当然の事ながら社交界に縁の無い真琴がそれを知るはずはなく…

 

 居合わせる侍女も、余り気の回る方では無くただ不安そうに眠っている命と治癒の魔法を使う真琴を祈るように見守っているだけだった

 

 それでもただボーッと呆けているわけではなく、滝のように汗を流し治癒魔法を妹に施す真琴の着替えと入浴の支度

 

 そして、入浴後の軽食や飲み物などはすでに準備してあり区切りの良いところで休憩すると約束を取り付けていた

 

 侍女と阿が見守る中ひたすら治癒魔法を掛け続ける部屋に一向に挨拶に訪れない訪問者に業を煮やした公女自らかお出ましになった

 

 それでも真琴は公女に気付く事なく懸命に治癒魔法を掛け続けついに魔力が尽きる…即ち真琴の精も根も尽き果て命の横に崩れ落ちた

 

 力なく横たわり大きく喘ぐ真琴に

 

 「 貴女の妹ですか? 」

 

 その公女の問い掛けでやっと訪問者の存在に気付いたけど、霞む視界は相手の顔を認識できない真琴は

 

 「 は… はい、僕… いいえ私の唯一人の家族である妹の命で私の名は真琴… 魔導剣士です… が、失礼ですが貴方様は? 」

 

 かろうじてそう訪ねる真琴に

 

 「 私はこの地を治める大公の娘、観月です 」

 

 そう名乗る観月に

 

 「すいません、この世界の事を何一つ知らない私は貴女の事も知りませんでしたからだらしない姿をお目にかけ申し訳ない事をしました」

 

 そう詫びて尽き果てた気力を更に絞り出そうとあがき身体を起こし命の胸に両手をかざし

 

 「申し訳ないですが私は未だ命の治療を続けます…えっ?」

 

 「脈拍が異常に早く不規則

 

 おまけに魔力もとうに尽き果てているのではありませんか?」

自分の手首を握りそう告げる公女の言葉に

 

 「真琴ちゃん、一段落したらお風呂に入り食事を摂ってくれるって約束をしてくれましたよね?」

 

 侍女がそう言って真琴を見詰めるとその背後で阿も頷くのを見て

 

 「う、うん確かにそう約束したけど公女様がおみえになられてるのに中座するって失礼極まりない…よね?」

 

 そう答える真琴がはっきり言って入浴を嫌がってるにも関わらずその言葉を鵜呑みする侍女は

 

 「汗臭い方がもっと失礼ですよ?」

 

 と、言っている事は当たり前なのだが真琴の言葉の意味を読み取れない侍女のその珍妙なやり取りを苦笑いで聞きながら

 

 「ならば貴女の状態を見れば一人では入浴も儘ならないでしょうから私も一緒に入りますし…」

 

 観月の視線に応え

 

 「私が貴女の入浴のお手伝いをしますから取り敢えずこの冷たい飲み物を飲んで落ち着いては如何ですか?」

 

 そう言われて勢いを得た侍女が何かを言おうとしたのを視線だけで制し

 

 「真琴…でしたね?貴女の入浴の間に命の方も汗を拭きシーツを変え服を着せておきますから心配は要りません」

 

 そう言って部屋に居た侍女を見て

「貴女もそのつもりで支度をしてあるのでしょ?」

 

 観月にそう言われて不安そうに

 

 「は、はい…仰る通り支度は整えてありますし…こちらにいらっしゃる騎士様に命様のお着替えを手伝っていただけるようお願いもしてあります」

 

 その侍女の答えに満足そうに頷き観月の後ろに控える侍女達も感心するように声をあげ目を細めその中の一人が

 

 「観月様、私が彼女を手伝ってもよろしいのでしょうか?」

 

 との問いに振り返る事無く

 

 「任せます」

 

 と、だけ答えた観月たったけど言外に

 

 「磨けば光る逸材、彼女の指導も併せて任せます」

 

 そう、言ってるのを読み取りその上で

 

 「承知しました」

そう答え命の側に近付いた

 

 脱衣室に案内され侍女の助けを借り服を脱いだ真琴の身体を見て息を飲む観月と侍女達

 

 それも無理はなくあばら骨を始め痩せ細り骨が浮き出ているにも関わらず艶やかな肌の真琴の身体は不自然を通り越して異様と言っても良かったのだから…

 

 勿論先程握った真琴の手首の細さからある程度の予測はついていたが観月の予測を遥かに越えていた

 

 「この身体を見られるのを嫌がってたのですね?

 

 弱々しく頷く真琴に

 

 「貴女の溢れるばかりの生命力があればしっかり食事を摂り十分に睡眠をとればまたまだ成長期の身体は遅れを取り戻せますが…」

 

 そう言って言葉をと切らせる観月に

 

 「命そうじゃない…ですね?」

 

 真琴の言葉に頷き

 

 「酷なことを言うようですが命の身体には生命力はおろか生きたいと言う欲求…意思すら感じられません」

 

 その主の言葉に焦る侍女達に首を横に振って

 

 「良いんです、その事なら私も本人から直接言われて知ってるしそんな事を言ってるみこがどうしたら生きたいと思ってくれるのかって悩んでますから…」

 

 その真琴の独白に

 

 「医師でない私には解りませんが真琴ちゃん…命ちゃんは何故生きてたくないと言ってるのですか?」

 

 そう聞かれた真琴は

 

 「私達は何故知らず物心つく前から迷宮で動く石像に育てられました

 

 命はその全ての原因が自分にあり私はその巻き添えなのだと…

 

 そんな自分が私の側に居る…生きてること自体が罪であり決して許されるはずがないのだ…

 

 そう言って生きながらにして生きる事、自分が存在する事を忌み嫌い否定しながら生きてきました

 

 ただ私達が捨てられた原因の黒き魔力が命の死を望む思いと裏腹にその不摂生にして不健全な生き方が更に魔力を高めた結果命は死とは程遠い魔導師の高みへ押し上げたのです」

 

 真琴がそう告げると

 

 「本人には遺憾なのでしょうが私達からすれば良くぞ無事に辿り着いたと喜ぶべき事ですが…

 

 真琴ちゃん…今貴女に言えるのは貴女が辛そうな顔をしてたら自分の存在が貴女を苦しめた…

 

 そう思ってる命ちゃんが今尚貴女を苦しめてる事実を知って生きたいと思いますか?」

 

 侍女のその言葉に衝撃を受けた真琴が

 

「な、なら私はどうすれば…どうしたら良いと言うのでしょうかっ!?」

 

 悲痛な声をあげてそう聞かれた侍女は

 

 「貴女が生きてる事を楽しむことで笑顔でおいで…私と一緒に生きてっ!

 

 そう言わなければ説得力無いと私は思いますよ?」

 

 そう教えられて

 

 「頑張るって…歯を食い縛るだけが頑張る訳じゃないって事なんですね…」

 

 そう呟いて苦笑いする真琴に

 

 「女神の岩戸隠れと言う話を知ってますか?」

 

 観月のその問い掛けに疑問を持ちながらも

 

 「いいえ、残念ながら知りませんが?」

 

 真琴がそう答える

 「そうですね、余りにもの古き神代の物語ですから知ってる者の方が少ないでしょうが…」

 

 そう言って入浴後の休息をとりながら

 

 「先ほどの話の続きですが…」

 

 そう言って古より伝わる神代の話を風呂上がりに再開する公女々

 

 「その昔…破壊の衝動に身を委ねる弟神達に大いなる怒りと深き悲しみに沈み岩戸に隠ってしまわれた輝神に呼応し天空の輝神もその姿を隠してしまい大騒ぎになった神

 

 如何なる説得にも応じず耳を貸さない神々が困り果てていると笑いながら歌の女神が

 

 ー歌いましょう、輝神の怒りを鎮めるために楽しい歌をー

 

 その言葉に続いて舞の女神もー

 

 ー舞いましょう、輝神の悲しみを癒す希望の踊りをー

 

 そして二人の女神が声を揃えて

ーせっかく暗くなった今この時こそ宴の時です、共に浮かれ騒ぎましょうー

 

 その二人の女神の誘導で始まった宴は輝神の本質を突いた二人の女神の目論みどうりいつのまにか岩戸から抜け出した輝神が主役となって大騒ぎになった

 

 …それが私の知る神の岩戸隠れです」

 

 そう言って溜め息を吐く公女に

 

 「 そうですね、岩戸に隠ってしまいになられた女神様と自分の殻に閉じ籠ってしまいアクエリアス様の声にも耳を貸さないみこ…

 

 今の命が何に興味を示すかは解らないけどまず私が楽しまなきゃ命の気は引けませんよね?」

 

 やっと納得した真琴に笑顔がでると内心

 

 (観月様、かなり話がずれてますよ…大筋は間違ってはいませんが…)

 

 と、言う苦笑いは胸にしまい

 

 「先ずさしあたってですが観月様、真琴ちゃんの衣装、私が揃えて宜しいでしょうか?」

 

 そのユイの発言を聞いて

 

  「ユイ、抜け駆け反則」

 

 と、言われたユイが

 

 「デザイナーの貴女達は真琴ちゃんや命ちゃんのドレスをデザインすれば良いじゃないですか?

 

 特に命ちゃんはレディメイドの服はサイズが合わないでしょうから…

 

 全ての服がオーダーメイドでないといけない上眠っていてさえ神秘的な姿の命ちゃんの衣装はいつにも増して気合い入れ無いとだめなんじゃないの?」

 

 そう言われて改めて命を見る人達に

 

 「命は精霊の巫女だから…約束したんです水の精霊アクエリアス様と…我が巫女と花の娘を守るって…」

 

 観月と侍女達の表情が一変し

 

 「貴女達は水の精霊様と会われしかも命は精霊の巫女…それに花の娘っ!?

 

 ならば真琴、私達に頼りなさい…

 

 この地は和泉の女神様と水の精霊様とが守りし水の都と呼ばれしこの地を納める大公家に訪れた水の精霊の巫女様…

 

 精霊からの贈り物である神泉花と謳われし花の娘…

 

 私達はこの出会いが運命であると思いますから命の笑顔、私達にも見せてください…私達もその為の努力は一切惜しみません」

 

 観月がそう言うと控えていた三人の侍女達も頷いた

 

 「え、ですが…」

 

 その展開についていけずに焦る真琴の声は全く聞き入れられず

 

 「真琴と命の二人は例え父大公がなんと言おうとも公女宮並びに美月が保護しますっ!」

 

 その力強い宣言に寂しそうな顔をする大公邸の侍女に

 

 「貴女、名前は?」

 

 観月にそう聞かれた侍女は

 

 「わ、私の名はミナと申します…」

 

 そう小さな声で答えると

 

 「ミナですね、判りました…ユイ、ミナを二人の専属に固定するよう大公に進言を

 

 ユカは当面ミナの支援(指導)を任せユカますから折角命の側付きになるのですから目が覚めた時の為の衣装の準備を色々進めておきなさい

 

 ユウは真琴に社交界のマナーやダンス等々指導を任せますが…ただで施しを受けるのは気が引ける、そう言言いたそうな顔ですね?」

 

 ―その心配は要らない、二人の恩人の貴女達には多大な恩義が有りそれはこれから始まります―

 

 一同の前に姿を表した花の娘がそう言って頭部を飾るバラの花ラビアンロゼを蔦ごと引き抜くと

 

 ー些少ですがお納めください…ー

 

 そう言って公女に薔薇を渡すとそのまま意識を失ってしまった花の娘の身体を抱き止めながら

 

 「全く…なんと言うむちゃを…花の娘が命の…霊力の根幹たる花飾りをむしり採るなど自殺行為も甚だしい…

 

 真琴、貴女にはモデルスタッフであり公女宮の見習い侍女を勤めてもらいますから気にしないように

 

 ただ…命が目を覚ました時に、美月のモデルスタッフを引き受けてもらえるよう説得に協力してくださいね…」

 

 そう言われて

 

 「わ、私なんかがモデルだなんて…そんな自信ありません…」

 

 そう言って狼狽える真琴を見ながら

 

 「真琴本人はこういってますが美月が誇るコーディネーターとデザイナー二人の意見を聞かせて上げなさい」

 

 そう観月に言われて

 

 「今から真琴ちゃんのコーディネートを考えると思うと当分は寝る間も惜しいくらいです」

 

 ユイが嬉しそうにそう言えば

 

 「私は当面命ちゃんの衣装を優先しますが真琴ちゃんの為のドレスについては思い付いた時にその都度デザイン画を書き留めておこうと思います」

 

 ユカもそう言い

 

 「私も水の精霊の巫女様に相応しいドレスとモデルスタッフならダンスパーティーのレギュラーになりますから…

 

 真琴ちゃんの為のパーティードレスを急ぎ作りたいです」

 

 そう言われて驚く真琴に

 

 「と、言う事ですがなにか質問は有りますか?」

 

 面白そうに笑う観月は更に

 

 「真琴、貴女が社交界デビューを果たせばどんな騒ぎになるのか貴女には想像もつかないでしょうね」

 

 そう言われて確かに全く想像のつかない真琴が不思議そうな顔をしていると

 

 「まぁそれについていけないところがありますからその時が来れば解るのだからその時を楽しみに待ちなさい…」

 

 観月の話まを聞きながらうつらうつらとする真琴を見て阿に向かい

 

 「頼めますね?」

 

 そう聞かれた阿は

 

 「この程度の事などいちいち聞かずとも命じてくれれば良い

 

 二人が世話になるのなら、貴女方も我々の守るべき対象になるのだから力仕事荒事は遠慮なく使ってくれれば良いのだからな」

 

 表情を変えること無く言う阿に

 

 「二人の為協力しあいましょう、勿論貴女にも期待してますよ」

 

 そう答えミナにも声を掛ける観月と観月のその言葉に頬を紅潮させ感無量のミナ

 

 命を中心に動き始めた運命

 

 本人達は未だ知らない知らない事だけど闇の勢力への人類の反撃の狼煙は今上がった

 

 その翌日は真琴を連れ主に美月のスタッフを中心に公女宮の主要人物に紹介しつつ必要な物を揃えさせた

 

 食事は取り敢えず自分達の部屋でミナ、ユカ、ユウに鬼百合と阿に白浪と共に済ませ

 

 そして…夕食前に日課の素振りを済ませ浴室で汗を洗い流すと夕食も六人と摂ることになった

 

 一夜が明け、早朝大公宮の庭を走り回り素振りと瞑想行を終えて部屋に戻ったのは夜明け間近の頃

 

 「二人の少女達が回復したから貴女の仲間達も二人を連れてこちらに来ると連絡が有りました」

 

 観月が鬼百合にそう話してるところで

 

 「だそうだ、良かったな真琴」

 

 鬼百合がそう声を掛けると

 

 「貴女達のお友達?」

 

 そう観月に聞かれ

 

 「いいえ、ぼ…私が二人を見付けた時には既に瀕死の状態でしたから話した事も有りません

 

 ただ抱き合って倒れている二人を見て私達と重なって見えたから助けたい、助けよう…そう思ったんです

 

 だから二人の事は名前すら知らないんですよ…」

そう寂しそうに話す真琴に

 

 「その事に関しては二日後の昼過ぎにはこちらに着きますからそれからの事

 

 どのみち二人の事は考えてあげる必要があるのではなくて?」

 

 を鬼百合にそう問い掛けると

 

 「あぁ、この島の月影の国側の人間のたった二人の生き残りだからな…

 

 恐らくは頼るべき親類縁者は一人も居ねぇんだろうな…」

 

 そう言いながら辛そうに首を横に振る鬼百合だった

 

 話に聞いていた予定通りに午後のお茶の時間の少し前に着いたレム達はそのまま謁見の間に通されており

 

 (ある程度待たされるのを覚悟していたのだが…)

 

 内心そう考え驚いてるレムの前に大公と公女が現れその公女の脇に控える一人の少女の存在に驚いた…

 

 清楚なドレスを身に纏ったその姿を見たその場の一同がどよめき感嘆の声をあげていた

 

 勿論レム達もその例に漏れず真琴は真琴でその人達の反応に面食らっていた

 

 言葉にすれば

 

 「え…何この反応は?」

 

 そんな感じだろうがそれを気にする者はなく

 

 「この地に封印されし守り神たる和泉の女神、そして精霊達を闇の封印から解き放ちたいと願うのはそなた達か?」

 

 大公が訪問者達に対し形式通りに問い掛けると

 

 「我等はむ賢公の誉れ高き大公閣下に偽りは申すはず有りません

 

 我々はすでに一人の精霊の救出を果たし尚且つ仲間の一人がその巫女に選ばれました」

 

 そう形式通りに答えると

 

 「して、その精霊の名は?」

 

 勿論大公自身は知っていても家臣に知らしめる為に更に問い掛ける大公に

 

 「水の精霊アクエリアス…そのお方はそう名乗られました」

 

 その答えを聞いたと言うより大公家の重鎮達に聞かせた大公は

 

 「あいわかった…が、これだけの話であれば私一人が決められる事ではない

 

 評議に掛けるのは勿論本国側…陛下にも報告すべき案件故に暫くの刻が必要だがその間そなた達はどうするのかね?」

 

 と、そう大公に問われたレムは

 

 「先日先のりしこちらでお世話になっている仲間の容態が良くならねば身動きはとれません

 

 それにこの二人の少女達は我々と違い戦士ではありませんのでこの先連れ歩くのはどうかと思いますから…

 

 二人が落ち着くのを待って今後の身の振り方を考える時間と場所を与えてやりたい…宿屋か何かを世話していただける有り難いのですが」

 

 レムのその言葉を意外に思った大公は

 

 「我が城内に留まろうとは思わないのかな?」

そう問われたレムは

 

 「所詮余所者に過ぎない我々は、その様な身分を弁えない振る舞いは出来ないし閣下のお許しをいただいたら女神や精霊の捜索に奔走する我々に宿の必要は無いのですから」

 

 大公の問い掛けに対してそう答えると

 

 「ならば東にある私個人の小屋を提供しよう

 

 あれは私個人の所有する物だから遠慮は要らんし大抵の物は揃ってるから…

 

  ミサ、客人達の案内と接待、以後の連絡役を任せる…

 

 では客人達に旅の垢を落として貰い我等はこれより評議に移る」

 

 そう言って退出を促されたレムは

 

 「閣下のご厚情感謝いたします」

 

 そう謝意の言葉をのべミサの案内で謁見の間を退出した

 

 あてがわれた部屋で入浴を済ませ

 

 二人の少女達はミサと呼ばれた侍女の用意してくれたシンプルなドレスを着てミサの手も借りて髪を整えている

 

 そんな一行の元に、真琴の魔力が近付くのに気付き覗き窓から様子を伺っていると真琴と侍女を従えた公女の姿が見えた

 

 侍女がドアを叩き

 

 「お客様にご相談があり参りましたがよろしいでしょうか?」

 

 その声にレムが頷くのを見てドアを開ける吽

 

 「どうぞお入りください、公女殿下」

 

 と、恭しく頭を下げると軽く頭を下げると観月をレムが席にエスコートし

 

 その後を真琴と侍女がついて歩いていた

 

 しかし、観月はまるで珍しい物でも見るかの如くへあちこちを見て廻り始めたので…

 

 実際に座ったのは真琴だけで、侍女達は真琴の後ろに控えていたけどレムがお茶の支度を始めたのを見てそれに代わって支度した

 

 「観月様、お茶の支度が整いました」

 

 侍女がそう声を掛けると真琴の隣に腰を下ろし真琴に話を促した

 

 「初めまして、僕の名は真琴…君達とこうして話をするのは初めてだね?」

 

 真琴が二人にそう声を掛けると

 

 「私の名は翼でこの子はチサ、血は繋がって無いけど妹です」

 

 不安げな表情で互いの手を握り合う二人を、あ不躾な言い方をすれば品定めをする観月が納得して真琴と侍女に微笑みながら頷くと

た、

 「僕は寝込んでいるみこ…妹の事があるから観月様のお世話になるって決めたけど二人はどうしたい?

 

 暫くしたらレム達は女神様や精霊様の捜索でここには殆ど居られないと思うのだけど…」

 

 そう言われて泣き出しそうな表情で

 

 「それでも私達にはもう帰るところも行く宛も無いし…頼る人なんかももう居ません…」

 

 そう答えると

 

 「なら僕達の部屋に来ない?部屋には未だ空いてるベットがあるのだから一緒に暮らそう

 

 僕達も君達と同じでお互いを除けば身寄りはないけど二人が一緒に居たいって望んでくれるのなら戦士の皆や観月様、美月や公女宮の皆さんが僕達に手を差し延べてくれるからね」

 

 そう言って微笑む真琴に

 

 「元々親の居ない私は平気…でも、翼ちゃんは…家族をみんな…

 

 だから私は強くなりたい、翼ちゃんみたいに泣く人が居なくなるように守れるモノになりたい…強くなりたいっ!」

 

 そう涙を流しながら訴えるチサと呼ばれた少女に

 

 「いつまでも泣いているだけじゃおばあちゃんも安心して成仏できませんよね?

 

 私も強くなりたい…いいえ強くならなきゃナニも守れないんですよね…ただ泣いているだけじゃ…

 

 私も力が欲しい、大切な人を守るちからが…」

 

 そう答える二人に真琴は

 

  「瀕死の二人の命を繋ぐにはみこの黒い勾玉に頼る他はなく勾玉の魔力を取り込み生き長らえた二人は言わば魔導師のみこの眷族かみこの弟子…

 

 勾玉二人を導いてくれるから焦らずに頑張ってよ、既に二人はみこの試練を乗り越えたンただからさっ!」

 

 そう言って二人を励ます真琴を見ながら

 

 「わかりました、貴女達の適正を見極めた上で二人に然るべき修行をさせましょう

 

 この二人の身柄も公女宮でお預かりしても宜しいですか?」

 

 そう観月に問われたレムは

 

 「私に反対する理由も公女殿下の提案より良案が出せませんし…

 

 それに何より二人もそれを望むならば…と、しか言えませんが真琴の言うように命様が二人を導いてくれましょうから頑張りなさい

 

 公女殿下、どうか四人の事をよろしくお願いします」

 

 そう言って頭を下げると他の戦士達もそれに倣って頭を下げたので

 

 「共に精霊の巫女と歩みましょう」

 

 

 

 

 

 

 そう言われた真琴が頷くと、あらかじめ指示を受けていた阿が命の身体を抱き上げて浴室に入った命の身体を抱く阿と甲斐甲斐しく世話するミナ

 

 そして、三人を見守る人達の目の前でそれは起こった

 

 蒼く輝く霊気が命の身体から溢れだしその身を包み込み人魚へと姿を変えたのだ

 

 人魚になった命が目を閉じたまま

 

 「我が名はアクエリアス…司祭の血を受け継ぎし者達よ…」

 

 そう呼び掛けたのだ

 

 勿論真琴と阿はそれがアクエリアスであるのは気付いたし他の者達もその容易ならざる事態である事には気付いた

 

 「生きる事を拒む命の魂は、私の声に耳を貸すことなくより深き心の闇に引きこもってしまったことを詫びねばなりません…」

 

 それがアクエリアスの第一声だった

 

 「それはある程度覚悟していたから、仕方有りませんが…

 

 それでも未だみこは自らの命を断とうとはしない、違いますか?アクエリアス様…」  

 

 その真琴の問い掛けに軽く頷き

 

 「真琴、予想通りに命のこの世の未練は貴女です…許されるのならば貴女の側に居たい…貴女に甘えたい…そう願っています」

 

 アクエリアスのその言葉に

 

 「つまり僕がみこにどこにも逝かないで傍に居て、みこが大好きだから僕を独りにしないでってそう強く願えば生きていてくれる…かも知れないんですよね!?」

 

 思わずそう叫ぶとアクエリアスも

 

「恐らくは…私にも断言は出来ませんが命が貴女を…貴女の赦しを求めているのは紛れもない事実なのですからね…」

 

 アクエリアスが言葉を選びながらそう告げた

 

 「解りました…僕が何をすれば良いのかまではわからなくてもみこが僕に躊躇わずに抱き付いてくれるようになれるように努力します

 

 お姉ちゃんなんだから、みこに躊躇わせてちゃ…遠慮させていちゃダメなんですよね?

 

 なら、僕はみこが精霊の巫女の務めを果たせるように力を貸したいし…

 

 何より、精霊の巫女の自覚はきっと生きる理由になるに違いないしその運命に押し潰されてしまうくらいならとっくに自らの命を断ってますよ

 

 だから観月様、阿さんと他の皆さんも僕に力を貸してください、みこが生きたいと思ってくれるように…

 

 双子の僕ですら未だ見たことの無いみこの笑顔を見せてくれるように…」

 

 苦笑いを浮かべる真琴に観月は

 

 「そしてその笑顔を早く私達にも見せて…私達にも向けて貰いたいものです」

 

 そう告げると

 

 「解りました、私も自ら選んだ巫女の指導…水の精霊の務めを共に果たす努力を致しましょう」

 

 そう言って気配を消すと元のあどけない寝顔に戻ったけどその口許は微かに笑っている事に一同は気付いた

 

 命の目覚めにより態勢が変更される事になり、ミナは完全に命の専属となりユカは命達四人の服を製作の傍らミナの指導

 

 ユキは三人の勉強を教えユミは礼儀作法と実務、ユウは三人にダンスの指導をする事になった

 

 勿論その四人の穴を埋めるべく人事異動も発表され数名ほどスタッフ見習いに公女宮の侍女から選抜されたのだった

 

 真琴の朝は早い…隣のベッドで眠る命の手を握り締めかしづく様にベッドに凭れ眠るミナにブランケットを掛け

 

 (ミナさん…又夕べもここで夜を明かしたんだな…)

 

 そう思い見詰めるミナの寝顔に疲労の色は隠せないけど充足感に満ちた寝顔だった

 

 なかなか言葉を発しない命だったけどミナとユカの献身的なお世話を受けて最初に発した言葉はミナ、ついで

ユカ、まこちゃんで世話する二人を喜ばせた

 

 眠る間すら惜しんで奉仕を続けだった甲斐が…しかし逆にチサ、翼の後になった観月のがっかり感は相当なものでユカやユウ、ユキ、ユミ等は苦笑いを堪えるのが大変な位だった

 

 取り敢えず記憶の回復の目処が全く見えないことも有り

 

 「歌を覚えるのが言葉の回復に役立つのでは?」

 

 との医者の勧めに従う事にした観月の指示でユウ、ユカ、ユキ、ユミの四人が交代で教える事になり会話はともかく歌の歌詞は徐々に覚えていった

 

 阿と吽の二人はその名が示す通りにある程度の距離を置いても意思の疎通が取れる

 

 それ故今現在の事だか阿と鬼百合と沙霧以外の…吽、白浪、千浪、レムは嵐の部下達の案内で和泉の女神及び精霊の捜索に出ている

 

 その吽と連絡が取れなくなった事を沙霧と話合っている所に真琴を肩に乗せた鬼百合を従えた観月が二人の前に表れ

 

 「皆さんの救出に向かいましょう……

 

 勿論、水の精霊の巫女も同行するはずですし私も同行せねばなりません」

 

 そう言って、鬼百合に向かって頷くと鬼百合も頷き返し

 

 「まずはみこを迎えにいく」

 

 そう告げて命の眠る部屋に向かう一同だけど観月の言葉通りにいつもなら夢の中に居るはずの時間であるにも関わらずベッドの上で座って待っていた

 

 そして訪れた一行に向かって静かに頷くと、阿に向かってその白い手を伸ばすと阿も黙って命の小さな身体を抱き上げその阿の向かって

 

 「阿に聞きますが連絡が途絶えた場所は勿論解りますね?早速そこに案内しなさい」

 

 穏やかに命ずる命に、誰も異を唱えること無くその指示にしたがった

 

 強いて言えば鬼百合が沙霧に頷き掛けると沙霧も黙って観月を抱き上げた事位だろう

 

 三人の女戦士達は音もなく姿を消して残されたユカはミナに命達がいつ戻ってきても良いように支度させ自らは大公に報告すべくその元に向かった

 

 

 異様な熱気を放つ洞窟の入り口の前に降り立つ三人の女戦士

 

 降り立つと同時に下ろされた真琴と観月に向かって鬼百合は

 

 「この熱気はさすがに厄介だがどうしたもんかな?」

 

 全く考える気の無い鬼百合がそう呟くと阿に向かい

 

 「洞窟の入り口正面に私を向けしっかり支えなさい」

 

 そう告げ静かに目を閉じ気を高めると両手に水の精霊の霊気が集まり霊力が高まって行き…

 

―八青龍陣っ!―

 

 八つの頭を持つ青龍が、命の両腕から現れ洞窟内の奥深くに向かった

 

 が、思った程深くないらしいその奥に突き当たり邪気に満ちた熱気はその邪気が払われ次第にその温度を下げていった

 

 やがて、なんとか人が活動出来るところまで温度が下がると中から千浪に伴われた嵐の部下三人が中から出てきて命の前に膝まづくと

 

 「精霊の巫女様、お迎えに上がりました」

 

 そう言って恭しく頭を下げると鷹揚に頷く命の様子を微笑みを浮かべ見守る観月が

 

 「巫女様をレム達の元に案内しなさい」

 

 そう告げられ何故公女がここに?一瞬そう考えたものの鬼百合が公女の気紛れに付き合う筈もなく精霊の巫女が意味無く同行を許す筈もない

 

 つまり、自分達の預かり知らぬ理由があるのだろうからそれなら別に自分達がとやかく言うべき問題ではない…それが四人が出した結論だった

 

 その一行にそれまで黙っていた命がいつの間にか手にしていたツインランサーを阿に向け

 

 「この子達が貴女の力になってくれるでしょう、受け取って下さい」

そう告げられ見慣れないその武器に戸惑う阿に

「このツインランサーは分離式使い慣れるまでは分離すれば貴女にも扱いやすいはず」

そう告げると抱かれていた状態から阿の頭部に股がり肩車の体勢になり阿の手を自由にして手に取らせた

ツインランサーは命の言う通り分離したパーツの内側に腕を入れるとトンファーの様な握り手があったのを確認した阿が装備すると小さく頷くと

「さぁ参りましょう」

そう告げる命だった

 

千浪を先頭に洞窟内を進む一行

「さすがにあの呪文を受けて動ける闇の者は居ないみたいだな…」

溜め息混じりにそう呟く鬼百合にちらっと視線を向けるだけの一同に改めて

「阿よ、差し支え無ければお前さんが今まで持っていた武器…嵐の部下に与えてやっちゃどうだ?」

と言われ驚き

「勾玉の魔力宿りし物をか?」

驚いた阿がそう聞き返すと

「すぐに使いこなすのはさすがに無理だが…この探索隊に選ばれたのは伊達じゃない、そうだな?巫女よ…」

命にそう聞くと

「その通でさすが司祭の里に縁の深い歌の国大公領に住まいし者達ですね、そうでない者達に比べると魔力への適応力の高さを感じます」

そう穏やかに告げたから

「観月、お前に聞いていいのかわからんが渡しても構わねぇな?」

今度は観月にそう問い掛けると

「事態は既に私達にも関係ない話では有りませんし…如何に力不足とは言えいつ迄も守られてばかりでは男の沽券に関わりますね?

それならば渡される武具を受け取り使いこなせるよう鍛えなさい」

そう観月が告げると嵐も

「うむ、そう言う話しならば私からも頼む、是非とも渡してやってくれ…そしてお前達も巫女様の加護を得た武具を使いこなせるようになって巫女様や公女殿下をお守りできる騎士になれっ!」

そう言いながら頭を下げるのを見てようやく阿も頷いて嵐に拳鍔を渡し嵐もそれを部下に手渡すと鬼百合も

「それなら嵐よ、こいつら残り二人に渡してやんな」

そう言って腰に挿した二本の太刀を嵐に渡すとそれらを受け取って三人に手渡しそれを受け取った男達も決意を新たに改めて観月に忠誠を誓った

 

命と再会した吽が開口一番

「済まない、この熱気から身を守るためとは言え連絡が取れぬ状態に陥るなど不覚をとった…」

と詫びると

「貴女達が無事なら何の問題もありません

逆にこれだけのトラップを必要とする場所を発見したのだから苦にする必要もありません、ご苦労様」

表情を変えること無く吽に答える命

に対し吽は尚もしつこく

「で、ですが…と言い淀むと」

溜め息を吐き

「貴女がそこ迄気にするのであれば次に活かせば良いのです、戦いはまだ始まったばかりなのですから悔やむ暇が有るならそれを取り返す為の努力をなさい、解りましたね?」

命はそう言うとはっきりとこの話はここまでにしなさい…そう言う雰囲気を隠すこと無く表し

「それよりまだ発動してないトラップが在るようですから今度こそ油断無き様頼みますよ」

命の一言で一同に緊張の色が走り命を見ると

「敵の気配自体はもうありませんから水の精霊の封印が失敗に終った事に未だ気付かぬ敵は和泉の女神を解放しようとする者が現れるなど夢にも思ってないのでしょうね…八封陣…ですか…」

命の指差す方を見ると八つの小さな祠とその中央に在る少し大きめの祠が見えた

― 八青龍神っ!―

再び解き放った青龍達が祠を砕き結界を構成していた物達を浄化した

「レム…回収を任せます

公女殿下と真琴は私に続きなさい」

そう告げると二人がついて来るの確かめること無く祠に近付く命

「殿下は祠の前で膝ま付き祈りなさい、私はその左後方に立ちますから真琴は殿下の右後方に立ち殿下の右肩に左手を添えて祈るのです」

そう言って自らは観月の左肩に右手を添え祈り始めた

祠の前は静まり返りやがて淡い光が三人を包み洞窟内を埋め尽くしたその時祠は砕けちり最後の封印の鍵が姿を表した

火の精霊フレアその人だ

「私は水の精霊の巫女を仰せつかった者…フレア様、私の声は届いておりますか?」

それまで目を閉じていた火の精霊がゆっくりと目を開け

ー待ってましたよ、アクエリアスも息災の様で…

和泉様にもご迷惑をお掛けして面目次第もございません…ー

そう言って詫びるフレアに

「時が惜しいし和泉様にお目覚めいただくのが先だと思いますよ?フレア様…ご助力願えますね?」

そう言って振り返り観月と真琴を見て

「和泉様の開封を行いますが公女殿下…こちらに」

そう言って出掛けにミナが命に掛けてくれた肩掛けを足下に敷きそれに膝を着け祈らせると真琴が観月の右後ろに立ち左手を観月の右肩に添えさせ祈らせ…

 

 自らは観月の左後方で宙に浮き右手を観月の左肩に添えて祈り始めるとフレアも三人に併せて祈り始めた

 

 四者の祈りが高まり光が集まり始めやがて人の姿を取り始めるのを見守る鬼百合達の視線を気にする事なく観月に向かい

 

 



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火と水と女神④

封印された女神の救出は通過点に過ぎず新たな戦いが始まる…


 

 

 ー私を縛る戒めから解き放ってくれたアクエリアスの巫女とその従者達よ… 感謝します… フレアも手間を掛けさせましたねー

 

 「つまりアタイは火の杖を火の精霊の巫女に渡すまで預かっていれば良いってことなんだな? 」

そう確認すると

 

 「 察しの良い貴女ならこの程度の事一々言わなくても良いと判断してますから 」

と告げるのみで

 

 「 火炎剣と業火の盾は千浪が焔の爪は吽が熱の槍は沙霧が左右炎剣真琴が各々に預かってください」

 

 そう告げると

 

 「 じゃあアタイは真琴で阿は命に沙霧が観月を連れて嵐は吽に頼めるな? 」

 

 そう言われた三人が頷きその言葉通りに行動する一同

嵐だけは嫌な顔をしたのだけど皆にスルーされた

 

 

 

 

 

 ④  火の精霊フレアは巫女と出会い、その手を求めた

 

 

 結局一同が大公邸に帰り着いたのは夜明け間近い頃で事態を知った重臣達が待ちわびる謁見の間に帰還報告をする事になった

 

 愛娘の表情に違和感を覚え見詰める大公に

 

 「 司祭の里の血を受け継ぎし王国の王子よ… 今そなたに語り掛けしは汝の娘に非ず…

 

 我は和泉の女神… 泉美です」

 

 そう聞いた父大公は何も言わず方膝を付くと

「話を御続けください、我等の女神よ」

と応えると集まっていた重臣達も大公に倣い方膝を付き頭を垂れると泉美の次の言葉を待った

「賢明な卿等は我が公女観月を依り代に選び観月も我を受け入れた事は推測していよう…

その上で更に皆に協力してもらわねばならぬ事があるが頼めるか…」

そう問われ考え込む大公に

「閣下、泉美様は我が大公領の守り神」

「依り代に選ばれし観月様は貴殿方の愛娘ですが我等にとっても愛する公女殿下様…」

そう大公領の文と武の要の二人が言えば二人の次官も

「我等を女神様とその依り代様と共に歩ませてください…」

声を揃え進言され二人の息子を見やると穏やかな笑みを浮かべ頷くのを見て

「我等に進むべき道をお示し下さい」

そう言って頭を垂れる大公に

「その言葉感謝します

まずアクエリアスから聞き及んでいる通りにこの地に封印された精霊達の解放を頼みたい

そして…司祭の里無き今、舞の女神の降臨の儀式にに必要不可欠な歌の女神の解放をお願いしたいのです…」

そう告げられた大公は

「歌の女神様が封ぜられているのはやはり…」

言葉を選びなから問い掛ける大公に泉美は辛そうに

「歌の女神のハーモニーより先に封印された私には歌の国だろうとしか言えません…だが…かの地より連れ去られたのであればその痕跡まで隠すのは無理な話ゆえに次の女神の祭典に照準を合わせ…」

そう言って真琴に視線を合わせ

「貴女は出場者となり封印解除の一翼を担いなさい、よろしいですね」

それは真琴に対する要請ではなく事実上の命令ではあったけどアクエリアスの霊気を放つ命が泉美の隣に立ち頷いて真琴に反論する事を許さなかった

「委細承知いたしました、我等にお任せ下さい」

そう応えると恭しく頭を垂れる大公とその家臣達の様子を見ながら満足そうに頷いて

「以後は依り代に任せますから皆の助力に期待します」

そう告げるとその気配を消した為力なく崩れ落ちそうになる娘の身体を慌てて抱き止める大公は

「公私混同の謗りを受けようともお前を守るつもりだ…愛しい娘よ

お前がいつか私の元を巣立つのはわかっていた…嫁に行く等とは異なる何かだともわかっていた

それが女神の依り代になる事だとは思わなかったが私達の娘に生まれてきてくれたことに感謝している」

そう大公が告げると二人の兄も

「勿論私達も泉美様と依り代たる貴女に誓いを捧げよう」

「依り代として…そして妹として

お前が依り代として振る舞うのなら我等はお前を守る盾として大公家の務めを果たすのみだからな」

そう言って観月の肩に手を乗せる二人を見て重臣達は男泣きし侍女達は互いに抱き合い涙した

そんな人達の中一人状況についていけないチサは

(感動的な場面なのは解るけど何故私が…翼ちゃんは呼ばれず私だけなの?)

そう考えるとどうしても他の人の様には感動の波に乗れないチサに

―確かに依り代の従者を使者に立てましたが…私の呼び声に気付いていたのでしょ?―

いつの間にか火の杖から抜け出した火の精霊フレアがチサの前に現れていた

火の杖である程度の霊力を回復していたフレアの姿は霊力を持たぬ者にも見えており

―私は火の精霊のフレア…

私が何故貴女の前に現れたか分かりますか?―

勿論チサには全く見当が付かず怯える表情で首を横に振るだけで精一杯だったけどアクエリアスとの邂逅

観月が女神の依り代に選ばれた瞬間のそのどちらにも立ち合っているレムと鬼百合にはピンときていた

―私の願い…それは貴女に私の巫女になってもらいご迷惑をお掛けした泉美様…

陳びに助けてもらったアクエリアスとその巫女と従者達の力になりたいのですがその手伝いを頼めますね―

そう告げられると

「それをお引き受けしたら私は命ちゃんや真琴の力になれるんですね?

翼ちゃんやご恩ある観月様…大公様やお兄様達

その他大公家の皆様をお守りできる様になれるんですね?なら私を導いて下さい、フレア様

街の人達が私達の様に泣かなくても良い様街の人達の幸せを守る力を…大切な人達を守れる力をお貸しください…」

膝ま付き祈るチサに

―では左手を私に差し出しなさい―

そう言われたチサが素直に掲げるとフレアも泉美同様にその手を取り口付けを落とすとチサの中に吸い込まれ

―私は今暫くは巫女の中で休みますからアクエリアスの巫女よ…後の事を頼みますよ―

そう告げ命が頷くのを見届け気配を消した

それを汐にチサの身体が崩れ落ち

それ迄表面に出ていたアクエリアスも自らの結界に戻ったため命が意識を失い…観月の身体も完全に力を失っていた

チサを抱き上げた鬼百合は

「アタイはチサを、阿は命を…沙霧は観月をそれぞれ寝室に運ぶからレムはみこの代理で嵐は観月の代理として…真琴は当事者としてこれから行われるであろう会議出席してくれ、大公殿もそれで宜しいか?」

そう問われた大公が黙って頷くのを見て今度はユイとユウに視線を向けると

「ユイにユウだったな?

ユイは嵐と共に議会に出席し後で観月に報告

ユウは観月が目覚めるまでの指揮は任せて構わねぇな?」

そう聞くと二人も声を揃え

「承知いたしました」

と応えるとのみで後は傍に控えていた部下の侍女に指示を与えユイは嵐と共にユウは沙霧の後についていった

 

会議で大公は開口一番

「真琴の出場手続きはこちらで行うゆえ講師の手配は美月の方に任せてよいか?」

と大公が問うと

「観月様の目覚め次第…無論候補者のリストアップはすでに始めております」

とユイが応えるのを満足そうに頷いて

「うむ、よろしく頼む」

短く応え

「和泉の女神の依り代については我が一存で公表しようと思うが水と火の精霊の巫女様達については本国の判断に委ねるべきだと思うが異議の有るものは?」

そう大公に問われたが特に異議の声は上がらず

「依り代のお披露目についても美月中心で準備を頼むことになるが?」

ユイに向け大公が問うと

「私の一存で決められるものではありませんので観月様にその様にご報告します」

と応えると

「私達に出来ることはお手伝い致しますとお伝えください」

大臣が言うと他の重臣達も頷くのを満足そうに見つめる大公だった

「後一番肝心なことだが歌の女神の封印されている場所が判らぬ以上女神の祭典の前までに見つけ出さねばならぬと言うことになる

その使者を誰に任せるか人選を急ぐ必要があるが皆の意見を聞きたい」

と問うとユイが控え目に手を挙げ大公が発言を許すと

「依り代の観月様に使者に立って頂くべきだと思います…事は既に私達人間だけの問題ではありませんしついでと言っては失礼に当たりますが二人の精霊の巫女様達に…お二方からもお願いしていただくのがよろしいかと存じますが?」

とのユイの進言に感心しながら大公は

「いずれお二方には本国の方に訪れていただかなくてはならんのだからな…わかった、水の精霊の巫女様の回復を待ってこちらも観月の判断に委ねるべきだと思うが?」

と一同に問うと異議は無かった

「大公閣下、以後は実務協議になりましょうから私達は遠慮して退室致しましょうか?」

そうレムが大公に訪ねると

「いや、嵐はこの先観月の身辺警護を頼みたいしレム殿達には引続き精霊の探索を行っていただきますからそちらの代表者としてご参加下さい

ユイは取り敢えずお茶の支度を頼みたい…がその後も会議の手助けをしてくれると助かるのだが?」

そう言われたユイは

「承知いたしました、では巫女様の容態が気になる真琴様は退室してもよろしいですね?」

と尋ねると頷いて

「急いで行ってあげなさい」

と言われた真琴はお辞儀をして駆け出していくその後ろ姿を微笑ましく見送る一同だった

 

その後会議は夜更けまで続いたけど途中観月が目を醒ましたと伝えられ美月に関わりのある議事録を渡した為観月の対応策も素早く決まった

日柄も良いので翌日の午後に市民に公表

更にその一月後に

観月の生まれて二度目になる女神の依り代としてのお披露目のパーティーとを行うことを宣言すると決まったと発表した

翌朝目覚めた命は女神救出の際の命ではなく再び舌っ足らずな喋り方の命に戻っていたので歌のお稽古が再開されることになった

しかし当の命はと言えば食事を摂る事すらも面倒臭がりミナが手伝わねば一切手を付けようとはしないばかりか食べる量も殆ど小鳥よりも食べない状態で一同を悩ませていた

それでも唯一ミナが勧めれば他の誰が言うよりも多くの食事を摂る命だったが当のミナ自身はその事を自覚が無い為未だ表面化してない

その為観月の女神の依り代としてのお披露目や真琴の歌の指導者の選任者の選定等優先順位の高い案件から取り組んでいる現状では中々気付かれないことでも有るのだが…

 

公邸一般市民公聴用テラスに珍しく大公家一家が勢揃いしていた

既に一部政務については長男睦月が引き継いでおり公都一般市民向けの政策発表なども彼の役目になり久しい

その為通常睦月が発表内容に関連する政務官を従えているだけなので人々の関心は否応なく集まっていた

「突然の事ではありますが私公女観月は大公家及び大公領の守り神である和泉の女神、泉美様に女神の依り代となるよう求められそれをお引き受け致しましたことをご報告致します

またそれに伴い美月の発注で女神の神殿の再建、美月と大公家の主催でお披露目の式典を執り行う事も併せて発表いたします」

そのあまりにもの衝撃的な告白に一瞬思考が停止した市民達が我に返りその静寂を打ち破り大歓声が沸き起こった

皆口々に女神の再臨と依り代の誕生を喜んだ何よりも領民から敬愛されている大公家の…公女観月がその依り代と選ばれた事を事の他喜んだ

真琴達三人の美少女の出現で彼女ら目当ての旅行客や商人達の訪れが増えて経済に明るい兆しの見え始めていた領内

朽果てた神殿の再建はほぼ新築になるため建設業界に落ちる額は半端無い上に税金で賄われない事も人々を喜ばせた

そして何より人達の好奇心を駆り立てたのは観月の御披露目当日のドレスが如何なる物か…更には観月の警護に当たる騎士やそば近く使える侍女達の衣装は?

美月のお膝元の大公領の領民達にとり観月のファッションに関心の無い者は居ないと言っても過言ではなかった

養蚕や綿花、麻の栽培及び製糸等美月に関わる業種が基幹産業の大公領の経済界

それに従事する者達にとり美月の浮沈は傍観してて良いものではないのだから…

その意味でも感心の無い者等一人として居なかっただろう

真琴、翼、チサの三人もそれまでの勉強に加え真琴は歌、チサは精霊の巫女になるための修行…

その為通常は長子である睦月が発表内容に関連する政務官を従えているだけなので人々の関心は否応なく集まっていた

「突然の事ではありますが私公女観月は大公家及び大公領の守り神である和泉の女神、泉美様に女神の依り代となるよう求められそれをお引き受け致しましたことをご報告致します」

またそれに伴い美月の発注で女神の神殿の再建、美月と大公家の主催でお披露目の式典を執り行う事も併せて発表いたします

そのあまりにもの衝撃的な告白に一瞬思考が停止した市民達が我に返りその静寂を打ち破り大歓声が沸き起こった

真琴達三人の美少女の出現で彼女ら目当ての旅行客や商人達の訪れが増えて経済に明るい兆しの見え始めていた領内

朽果てた神殿の再建はほぼ新築になるため建設業界に落ちる額は半端無い上に税金で賄われない事も人々を喜ばせた

そして何より人達の好奇心を駆り立てたのは観月の御披露目当日のドレスが如何なる物か…更には観月の警護に当たる騎士やそば近く使える侍女達の衣装は?

美月のお膝元の大公領の領民達にとり観月のファッションに関心の無い者は居ないと言っても過言ではなかった

養蚕や綿花、麻の栽培及び製糸等美月に関わる業種が基幹産業の大公領の経済界

それに従事する者達にとり美月の浮沈は傍観してて良いものではないのだから…

その意味でも感心の無い者等一人として居なかっただろう

真琴、翼、チサの三人もそれまでの勉強に加え真琴は歌、チサは精霊の巫女に相応しくなるための修行…

そして未だ道の見えない翼はユイと共に観月に付き従い秘書見習いとなりユイから秘書の勉強学ぶことになったがその観月の目論みはそれだけには止まらなかった

観月自らが妹達と宣言した少女達の一人を連れ昼食間近いこの時間帯に観月をランチを誘うも

「この後も色々と予定が立て込んでいますので」

と、一蹴に臥されが誘った者にとっては予想通りの返答に過ぎ無いので全く意に介さず

「ならば差し支えなければ翼嬢だけでもご臨席願えませんか?」

と懇願すると今度は

「翼は未々幼く勉強中の身なのですから大公家や美月に対する要請等は口にしない事を守っていただけるのでしたら色々経験を積ませたい私も喜んでお願いしますが?」

滅多に見せない優しい笑みを浮かべて観月がそう答えると喜んで観月に約束を守ると誓い翼をランチパーティーに誘う事になった

命達の訪れ以来元々忙しかった観月が更に多忙を極めそれを理由に社交界から足が遠退きがちだったのだがそんな観月の代わり招待を受けることになった翼

この新しいヒロインの登場によりこれまで観月に向けられていたパーティーへの招待がこの瞬間を境に翼へと向けられるようになった

それにより観月には商談などの実務的な会談以外の面談申込が無くなり観月を喜ばせたのは間違いなく

また、それは同時に巫女の修行をせねばならないチサと歌のレッスンを始めたばかりの真琴にとっても有り難くその二人に比べ何も出来ないと悩んでいた翼自身も

「私に出来る事なんて何も無いって思ってたから観月様のお役に立てて嬉しい」

そう言って喜んでいたから翼付きを任されたユマも心底喜んでいた

その一方で人見知りの対人恐怖症傾向が強い命もようやく真琴達や鬼百合逹、ミナとユカに観月以外の美月スタッフや公女宮の侍女達が側に寄るのも拒んでいたのだが…

ようやく大公父子を受け入れたのを皮切りに美月スタッフと公女宮の侍女逹もなんとか受け入れられ様にまで回復してきた

だが…そんな命に新たなる問題浮上した…

夜泣きとでも言うべきなのか眠りに付き暫くすると一晩中涙を流している命にミナが気付いたのだ

声も出さず表情も一切変えること無くただ涙を流している命に…

そんな命の寝顔見ている内に切なさで胸が押し潰されそうになり気付くと命の手を握り締めていた

するとそれまで流れ続けていた涙がピタリと止まり離すと再び涙を流す命の為その夜以来夜を徹して握り続ける事になったのだった…

 

夜明けには未だ遠い時刻に目覚める真琴が隣のベッドに目をやり

「ミナさん…」

そう呟き命の手を握り倒れ込むように眠るその身体にもはやミナの必須アイテムと化しているブランケットを掛け静かに部屋を出て走り込みに向かう真琴

走り込みに素振りをこなして精霊の巫女の修行として祈りを捧げるチサの隣で魔力を高めるべく瞑想行に励む真琴

唯一四人揃っての食事である朝食を済ませ午前中は学問に当てられ昼前にはその日の昼食会に出掛ける支度をする翼

真琴は歌のレッスンを受けチサはユキに付き従い侍女見習いの仕事をこなし夕食後にダンスのレッスン

そんな日々を送っていた

そして領民逹は勿論歌の国の本国や噂を聞いた他国からの旅行者逹が待ちわびた女神の依り代のお披露目の日が来た

 

 

 

 

 

⑤女神の降臨と依り代のお披露目

 

いよいよお披露目の日がやってきた

パレードの露払いを勤めるのは客分騎士の正装を纏った阿吽の二人

お披露目の馬車には主役の観月とそれに付き従う翼にその左右に華を添える真琴とチサ

後続の馬車にはユキが馭者を務めユイ、ユウ、ユマ、ユミが控えていた

観月逹が乗る馬車の馭者を務めるのは正騎士の礼装を身に纏った嵐で馬車の周囲を固める鬼百合、レム、沙霧、白浪の四人が四方を固めた

皆が期待した観月のドレスは一言で表現するなら女神の依り代に相応しく荘厳なものだった

不用な飾りは無いにも関わらず決して地味にならず美しい観月の容姿に負けることの無いものだった

勿論付き従う三人のドレスも清楚な妖精を思わせるもので四人を神々しく演出していた

通常なら一刻もあれば足りる距離に有る大聖堂ではあるがその二倍の時間を掛け惜しみ無くその姿を人々に披露する観月

沿道の大歓声を一身に浴び手を振ってその声に応えた

そして大聖堂で祈りを捧げた後大聖堂のテラスに観月が姿を現すと泉美もまたその姿を表し

ー我が名は和泉の女神の泉美

今この場に於いて大公家の公女観月を我が依り代に選んだ事を宣言します

これより多難な時を迎えねばならぬこの世界を導く者の一人として立ち上がった依り代に力を貸して欲しいー

そう言って反応を見守ると

「泉美様万歳っ!」

「観月様万歳っ!」

「大公閣下万歳っ!」

歓喜の声があちこちから上がり紙吹雪が舞う沿道

泉美に頷かれた観月は

「未々未熟者の私には世界を導くとは申せませんが生まれ育った故郷

私の愛するこの地とここに生きる貴方逹を導く存在で在りたいと思っています

これまで同様大公家陳びに美月に皆様のお力添えよろしく賜りますようお願いします

私も公女として美月の代表として…そして何よりも女神の依り代としてこの地の安寧に力を尽くすと今ここに宣言致します」

そう告げると感極まった民衆の興奮はピークを迎えた

大聖堂で昼食を済ませた一行は帰りは行き以上の時間を掛けて大公邸に戻り夜のパーティーの支度を始めた

 

今度のドレスは昼間のそれとは異なり派手さは押さえたものの華やかさは欠かさぬよう注意して作られた物で三人にはダンスの邪魔にならぬ軽やかな仕上げになっていた

パーティーが始まり観月を誘ったのは父大公と兄の公子逹に重鎮の年寄り逹で後の若者逹は取り巻きになっていた

元から社交界でも一、ニを競う美人の呼び声の高い観月が女神の依り代となりますます手の届かぬ高嶺の華となった観月を誘えるものはない

仕方無いのでその後の観月のバートナーを務めたのは嵐にレム、鬼百合逹だった

その一方で観月の代理人を勤める翼

美少年めいた容姿の真琴は男女を問わず

前回のお披露目の時はただただおどおどして真琴の背に隠れていたチサ

火の精霊の巫女になりその事は伏せていても漆黒の黒髪が赤味を帯び神秘的な雰囲気は隠せず人々の目を引いた

その為パーティーの主役は観月ではあってもホールの華、主役は三人で次いで美月のスタッフ達も華を添えていた

この魔物や海賊逹が跳梁跋扈する世界で安全な市街地を出て…

況してや公海上に出るのは死を覚悟せねば出来ぬ事故に船乗りや商人は勿論海軍の兵士とて無事航海を終える保証の無い時代人の行き来は少なく物流も減少しており世界的の不況状況だ

そんなご時世でも…いや、そんなご時世だからこそ一攫千金を夢見る商人、冒険家逹が旅に出る

そしてそんな勇者逹の訪れを待ちわびる乙女逹との一夜限りの恋を楽しみにする者が居るのもまた自然な事でもある

そんな世界だからこそ噂の美少女逹に会いに来た者も少なくないし最近連日の豊漁で賑わう大公領の紐の緩んでいそうな経済を当て込んで多くの商人逹も訪れている

勿論、最近続々と発表された新作ドレスの買い付けに来た者も居る

そのお陰でかなりダブついていた木綿の糸や生地、絹糸や絹織物がかなり捌けますますの好景気に沸く大公領

そんな喧騒とは無縁でひっそり暮らす命と花の娘はようやく公女宮の裏庭に出られるようになりミナと花摘を楽しんだり歌を歌って過ごしていた

ミナが作った華冠を頭に飾った命は華の精と呼んでも差し支えなく…

ぱきっ…地面に落ちた小枝を踏む音に身を強張らせる命と姿を眩ます花の娘に

「みこ…花の娘、驚かせてごめん、僕だから安心して…」

ばつ悪そうに頭を掻きながら現れる真琴の姿を見て小さく息を吐き

「まこちゃんは全然悪くないよ…みこが悪いの…こんな事くらいにいちいち怯えてるみこが…」

悲しげな表情で言う命に何て声を掛ければ良いのかわからず黙り込む真琴に

「どうしたの?いつもならお勉強の時間なのに…」

そう話題を変えてもらった真琴は

「今日はお休みだから体術の稽古をしてたんだよ

そしたらみこの歌声が聞こえてきたから嬉しくなって側に近寄ってみたんだ」

そう言われ

「ごめんなさい…みこの歌声が耳障りだったんでしょ?

もう歌わないからお稽古に戻って…」

消え入りそうな声で言われた真琴は

「何でさ?みこの可愛い歌声が耳障りな訳ないよ、もっと近くで聞きたいから来たのに…」

そう言われてさえそうは思えない命が思案して居ると命の歌声に導かれた者がもう一人その姿を表した

観月逹の従兄で歌の国の第二王子の十六夜で真琴は勿論彼を認識しているがいつも上の空の命は紹介されているにも関わらず未知の存在に過ぎない

その未知の存在の出現に命は固まってしまいひきつる顔は完全に血の気を失い大きく見開かれた目、握り締めた両手で隠された口は大きく開いていても声を出せないくらい驚いている

「えーっと…参ったね、これは…」

第二とは言え王子で容姿にも恵まれた自分を見て恐怖でひきつる娘と敵意を剥き出しにする少女が居るなど夢にも思わなかったその男は真琴に向かい

「如月や観月に聞いてたレベルじゃない人見知りだったんだね…」

そう言って溜め息を吐くと

「申し訳有りません、十六夜様…みこの重度の人見知りの原因は解りませんけど特に男の人に対する拒絶反応が酷く大公様や睦月様、如月様になれるのにもそれなりの時間が必要でしたから…」

そう言われた十六夜は

「その様だね…どうやらこの様子じゃ命ちゃんの社交界デビューは未々無理っぽい様だね…」

苦笑いを浮かべながらそう真琴に確かめると

「ホントにそうですね…十六夜様には申し訳有りませんが全く知らない人達が集まるパーティーは今のみこには未々無理だと思います…」

そう言って詫びる真琴に対し

「だよねぇーっ…」

と言って溜め息を吐く十六夜に

「申し訳ありません、十六夜様」

と再度詫びる真琴に十六夜は

「観月にも言われてたから知ってはいたんだけど結構諦めの悪い方だからね…だから君が謝る理由は全然無いから気にしないで…」

そう言って寂しそうに笑う十六夜に

「未だ極限られた人…僕と翼にチサ、観月様にミナさんとユカさん逹日常的にみこの側にいる人以外聞いた事の無いみこの歌を聞いてあげて下さい

夜までに何とか説得して歌わせますから…」

真琴にそう言われた十六夜は微笑みを浮かべて

「命ちゃんに無理はさせなくても良いからね?いつか本人から聞かせてくれる日を楽しみに待つからね?



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火と水と女神⑤

降誕した和泉の女神の依り代と観月の代理で大公領の社交界を賑わす翼だけど自分に閉じ籠る水の精霊の巫女と自分に自信の持てない火の精霊の巫女がその身分を明かすのはいつ?


 

 「 それじゃあ僕は命ちゃんが我に返った時、未だここ僕が居たら不味いだろうからここは一旦退散する事にしよう 」

 

 そう言って笑顔を残し立ち去り、その後暫くして我に返った命に

 

 「 あれ? まこちゃんはいつから居たの?みこ、全然気が付かなかったよ… 」

 

 そう苦笑いを浮かべて言う命を見ながら真琴は

 

 「 少し前だけど一生懸命お歌の稽古してたから気付かなかったみたいだね 」

 

 そう言いながら

 

 ( 十六夜様と遭遇した前後の記憶を削除して心の安定化をはかることにしたんだな… )

 

 そう考えて内心苦笑いする真琴だった

 

 

 何故、自分が同席しなければならないならないのか?

 

 それを理解出来ない命にとっては苦行に等しい晩餐も終わりに近付き

 

 「 みこ、最近観月様にお歌聞いてもらったこと有る?

 

 今朝のお稽古聞いたけど大分上達してたから大公様や睦月様に如月様にも聞いていただいたらどうかな? 」

 

 そう言われてビクッと震え弱々しく首を振り

 

 「 まこちゃんみたくお上手じゃないみこのお歌聞かされたって誰も喜ばない、迷惑なだけ… 」

 

 消え入りそうな声で言う命に理由はわからなくても真琴が今この場で命に歌わせたがってる事に気付いた翼とチサは

 

 「 そんな事ないよ、みこちゃんの可愛い歌声を迷惑な人なんて言う人なんて居るはずないよ?

 

 未々社交界に慣れない私はいつもみこちゃんの歌に癒して貰ってるんですからね 」

 

 そう翼が言えば

 

 「 お勉強の後にみこちゃんの歌を聞くと、午後からも頑張ろうって思えるんだから自信持って 」

 

 そう言いその理由は十六夜の為だろうと推測した美月のスタッフ達は

 

 「 みこちゃんの側に居て沢山聞いてるミナとユカの二人が本当に羨ましくてたまには代わって欲しい位ですよ? 」

 

 と、ユイが言うと同調して頷くユウ、ユキ、ユマ、ユミ達

 

 そして優しく包み込むように命の身体を抱き締めながら

 

 「 私も命様のお歌を聞くのは大好きですからいつものように歌ってください… 」

 

 そう囁くように言われて

 

 小さく頷くと静かに歌い始めた

 

 最初の曲はミナと花摘をしてる時をイメージしながら歌い ( イメージ曲は松任谷由美の守ってあげたい )

 

 次いで二曲目はしっとりとした曲を歌い ( イメージ曲は帝国歌劇団奇跡の鐘 )

 

 そして三曲目は軽快に歌い ( イメージ曲はパリ歌劇団ボヤジュー )

 

 そしてラスト四曲目はおもいっきり弾ける曲で盛り上げた ( イメージ曲は激、帝国華撃団 )

 

 普段は落ち着きはらった大公、穏やかな睦月、観月の前では大人しくしている如月も大いに盛り上がった

 

 観月の指示で大公家の使用人逹が集められ時ならぬミニコンサートに沸き上がった夜になった

 

 聞いていた人達が喜んでくれたのが余程嬉しかったのか笑顔で涙を流していたけどそんな命に観月が

 

 「 まもなく私はチサを連れて歌の国の本国に向かわねばなりませんがみこもついて来ますか? 」

 

 そう問われてそれまで真琴と離れるなど夢にも思わなかった命は

 

 「 行かない、まこちゃんの側に居る…離れ離れはヤっ! 」

 

 小さい声では有るけどハッキリと拒絶すると

 

 「 みこ… 僕達だっていつまでも子供でいられるわけないんだから大人にならないとね… 」

 

 そう諭すように告げられた命は

 

 「 みこは大人になんかなれないしなりたくもないもんっ! 」

 

 そう言って目をつぶり下を向く命の肩を震える肩を抱きながら

 

 「 …うん、確かにそうだね…大人になったみこの姿は僕にも想像できないよ… でもね… だからこそ僕は早く大人になってみこを守って上げられるよう大人にならなくっちゃダメなんたよ… 」

 

 真琴にそう言われて

 

 「 生まれてきちゃダメな子のみこにはまこちゃんの側以外に居場所は何処にも無いから…なんにも出来ない要らない子のみこは誰も用は無い 」

 

 歌っていた時の輝きを失っている瞳は暗く淀んでいて、居たたまれなくなったミナが

 

 「 そんな事有りません、私は命様の事が大好きですし私にとって恐らく最後のご奉仕が命様のお世話になって幸せな時を過ごさせて頂きました 」

 

 命にとりその告白は衝撃だった

 

 側に居てくれるのが当たり前で、身の回りの全てをお世話してくれるミナは既になくてはならない存在になっていた

 

 そのミナが自分の前から居なくなるなど考えたくもない事なのに命のその様子に気付かない鬼百合が

 

 「みこ、お前の事が好きなのはミナだけじゃない…な、大公?」

 

 そう声を掛けられた大公は穏やかな笑顔で

 

 「観月達の様に妹と呼ぶのは無理があるが、娘や姪を見る様にお前達を見守っている」

 

 大公はそう答えながら命と真琴の二人を連れて初めて言葉を交わした時の鬼百合の台詞を思い出していた

 

 「それにね、みこ…一緒にはいけないけど僕や翼だって後から行くんだよ?

だからほんの少し離れるだけなんだから我慢できるよね?」

 

 真琴のその言葉を聞いて

 

 「 ホントに来てくれるの? 離れるのはホントにちょっとだけ? 」

 

 そう確かめずには居られない命に笑ながら

 

 「 僕だって余り長く会えないのは嫌だし女神の祭典に出なきゃいけない僕はどうしたって行かなきゃいけないんだかからね 」

 

 その言葉を聞いた命は

 

 「なんかまこちゃんて、お兄ちゃんみたい…

やっぱり妹はお兄ちゃんのゆー事聞かなきゃダメなんだよね?」

そういきなり話を振られた観月は逆に兄達に言うことを聞かせていたから

「ええ、まぁそうですね…」

と言葉を濁し三兄妹の事を知るも者達は笑いを噛み殺していた

そんな事を知らない命は小さく頷くと

「分かった…自信無いけどちょっとだけ頑張ってつよくなる」

そう呟き

「観月ちゃま、みこも連れてってね…チサちゃんも一緒なんだから多分大丈夫…だよね?」

そう言いながらミナを一瞬見たけど命の決意を喜んでるだけなのを見て目を伏せる命だった

その様子を見ていた大公父娘は互いの顔を見て頷き合っている事は勿論命は気付いていない

そして十六夜が嬉しそうな顔で真琴に頷きかけていることも勿論気付いていない

「命様のお床の支度をしに参ります」

そう観月に告げ退出するミナの後ろ姿を切なそうに見送る命だった

その後暫くしてから阿に抱かれ寝室に向かうみこを見送り

「ミナを命付の侍女として連れていけるか?」

と言われた観月は

「折角行くと言ってくれた命の気が変わらぬように是非とも連れていくべきですしそろそろ公女宮に呼んでもよい良いくらいですから何ら問題有りません

ただこの慌ただしい中わざわざ所属変更せずとも大公邸所属のまま命付で私の預かりとすれば良いと思います」

そう聞いた大公は

「分かった、そのように処理しておく」

大公がそう告げるとその夜の晩餐はお開きとなり使用人達は仕事をしに各々の持ち場に戻った

ただその事を未だ知らない命は真琴とミナの二人と別れる不安からミナに手を握られても涙が止まる事が無く…

その様子を見た真琴が

「ミナさん…みこに添い寝して抱き締めてあげて

それ程に不安なんだからね、僕と貴女が一度に自分から離れるって事はさ…」

そう言いながら溜め息を吐く真琴に

「私なんかがその様なことしても宜しいんでしょうか?」

そう言うミナに

「精霊の巫女であるみこに遠慮してるならそんな必要はない

今ミナさんが手を握っているのは精霊の巫女の命じゃない、本人が言った通りに貴女に甘える事しか知らない幼く弱いみこなんだからさ

それともみこなんかと添い寝なんてしたくないの?」

そう言われ慌てて命の布団に入り頭を抱き締めると命の涙は止まりミナの胸に顔を埋めて微笑んでいた

真琴すら初めて見た嬉しそうに微笑む寝顔

日頃の疲れがたまっているミナもすぐに寝息をたて始めたのみた真琴は事の次第を観月に知らせると

「ミナをこのまま命付きにして本国に同行する様に手続きしてますから安心しなさい」

そう言われさすが観月様と思って安心して部屋に戻り眠りに就く真琴だったが

「やはりミナは常に命の側近く控えさせる必要がありますね…」

微笑みなからそう呟く観月だった

 

翌朝その事を知らされた命が喜んだのは言うまでもなく玄関迄ではあるけど十六夜の見送りに現れる程だった

勿論ミナの背中に隠れてでは有るけど昨日の朝は自分の姿を見て意識が跳んだ事を思えば格段の進歩

本当の笑顔はこの次会う時の楽しみにすれば良いと思える十六夜だったから

「チサちゃんとの再会を楽しみにしてる、みこちゃんはその時に本当の笑顔を見せてくれたら嬉しいな

翼ちゃんは母上のお供で社交界に顔を出してくれたら喜んでくれるよ?

娘を連れて歩くのが母上の夢だったからね

真琴ちゃん、女神の祭典については役員に名を連ねる僕が受け付けた

だから後は観月が書類を持ってくれば良いようにしておくから来てくれるのを楽しみに待ってるよ」

と言われた真琴は

「泉美様と観月様に恥を掻かせない様に頑張ります」

そう答えると

「阿とミナは命を頼みます

真琴とチサは朝の勉強を、翼は今朝の勉強は休みで私と港まで十六夜の見送りに向かいます」

そう宣言するとユマは翼に同行し吽が警護役で同行する事になった

その夜正式に出航日がきまり観月の秘書にユイ

命の世話役にミナ

ミナのサポートとチサの指導にユカが選ばれ

全体のサポート役としてユウが選ばれ女神の騎士団を名乗る嵐と部下の内の三人に鬼百合と阿が同行する事になった

そしてまたしても命にとっての難題発生

「みこ、出航前日の壮行会を兼ねたパーティーで貴女の社交界デビューを飾って欲しいのですが勿論出席してくれますね?」

そう言われ青ざめた顔で

「みこにはまだ早いよね?」

そう言ってミナに救いを求めるとミナより先に

「まぁ確かに体力的には未々無理があるかな?」

と真琴が言えば

「未だまともに歩けませんしね」

と阿も言い

「真琴が歩き始めても何をするでもなく日長膝を抱えて踞ってましたし歩き始めたのもこちらに来てからですからね…」

とレムも言うと

「阿には申し訳無いけどその夜はみこの側から離れずミナに手を貸してもらえますね?

勿論入退場のエスコート(抱き上げて)も任せます」

そう言われホッとする阿と複雑な表情のユカだった

「取り敢えず今回は顔見せだけでも果たして欲しいのですから宜しいですね?」

そう言われてさえ言い訳を考え言葉の出ない命に

「みこ、僕達より年下のチサちゃんだって出てるし翼は観月様に代わって社交界に参加してるんだよ?

それにね、みこ…大勢の人達がみこの登場を待ってるよ…」

その背中を押すように

「確かに早すぎることはない、アタイの知る限りじゃあ観月が社交界デビューしたのはチサよりもさらに早い六歳だと聞いている」

その言葉を聞いて逆に

「人は人、真琴…貴女は大事な事を忘れている…

貴方達は鬼百合と出会う前に話をした事のある人間がいますか?対人恐怖症にも等しい命様にとって見知らぬ人間が多く集まるパーティーに出ることが恐怖以外の物でしかない事を?

逆に言うと同じ環境で過ごしてきたはずの貴女が真逆の反応をしている事の方が私には驚きですからね?」

そう言われ頭を掻きながら

「そうなのかな?そう言われても余りピンとこないんだけど…」

レムにそう言われて苦笑いの真琴に

「芯の強い貴女には今の命様は理解出来ないでしょうし私自身理解できるとは言えません…ですが真琴、貴女が初めてのパーティーで踊る気になった気持ちを教えてあげてはどうですか?」

そう言われた真琴が命の顔を見て頷き

「みこ、今の大公様のお屋敷に敵なんか居ないんだから安心して…仮にいきなり襲ってきたってレムや鬼百合さん達がみこに近付かせなんかしない

それにね、みこ…今の僕達を守ってくれる人はもっといるんだよ?

大公様、睦月お兄さんに如月お兄さん観月様にユカさん達美月のお姉さん達やその方達にお仕えする皆さんもいる

僕や翼、チサちゃんだっているんだから辛かったら辛いって言えば良い……

それにね、みこ…何よりも皆がみこの事を愛してるんだから…ね、ミナさん?」

笑って言われたミナが慌てているのを見て笑いの渦が巻き起こる一同だった

勿論命と当のミナ以外ではあるけども……

そんな訳で渋々出席を了承した命だった

そしてパーティー当日

分厚いベールの影に隠された真琴の妹の命がついにその姿を現す時が来たそのセンセーショナルな発表は社交界に縁の無い者すら好奇心を掻き立てられる物だった

しかし期待が大きかった分人々が命に対し落胆するのも早かった

阿に抱かれたままの姿で会場入りした命のその貧弱とも言える体つきはダンスに耐えられそうに無い様に見え何よりも阿にしがみつくその姿は母親から引き剥がされまいとしがみつく幼子のそれに見えたからだ

それ故にそれを不満に感じたのは一部の男達だけで多くの淑女達の母性本能をくすぐったし

老紳士の目には友人知人の孫娘の様に映りその命の容姿から妖精之様ではなく妖精その物とおもえた

観月に似てなくもない命が実は睦月の隠し娘と言われても不思議ではなく感じられたが真琴と命の年齢からはさすがに有り得ない話

と、言うか27歳の睦月が推定年齢12歳の二人の父親等洒落にならないから未だ大公の隠し娘の方が…

まぁ未だ無き妻を想いパーティーでも踊らない大公には有り得ない話だが

翼、真琴、チサの最初のパートナーは観月の推薦した者を選びユカ以外の美月のスタッフは各々の判断でパートナーを指名

それを見てその他の淑女達も各々思い思いに指名して各々カップルになり紳士達のエスコートでホールに向かった

如月はミナに向かい目配せするとミナも頷き「僕にはシャンパンと命の飲み物は任せて良いね?」

そうミナに言うと軽く頭を下げミナが取りに行くのを見送り窓際のベンチに命を下ろすとユカが隣に座り如月は向かいのシートに腰を下ろしその脇には人の目にはブーケとしか映らない様にして花の娘を控えさせていた

そこに飲み物を持ってきたミナが如月の前にシャンパン、命の前にはほんのり甘いノンアルコールのカクテル

ユカの前にはユカと阿の為の冷たいお茶を置き

「観月様の指示ですので…」

と言われてミナに抗議を封じられたユカだった

そんな一同に一人の青年が近寄ってきて

「おいこら如月っ!こんな可愛いお姫様独り占めたぁどうゆー了見だぁっ?

全くぅーっ…相変わらず良い根性してやがるなぁ~っ?」

そう言われた如月はにやりと笑いながら

「兄が可愛い妹にお前みたいな悪い虫が寄り付かない様に警戒するのは当然の事だろ?」

同じくにやりと笑いながら応えると互いの肩を抱き合いながら

「長い航海演習ご苦労さん、いつ戻ってきたんだ?」

と聞かれた青年は

「今日の昼過ぎだが急遽明日の早朝出航が決まって直前まで出航準備でバタバタだったから本当の所来る気にならなかったんだが…」

と渋い表情を見せると

「なんだお前、観月が女神の依り代になった事を未だ聞いてないのか?

その観月がお前がさっき踊っていた赤毛の娘、チサとこの命を連れて本国に向かうんだ

それ位の事情がなければ我が大公領が誇る海兵隊旗艦にそんな無理はさせない」

そう誇らしげに言うと

「公女殿下についてはそれで良いとして…」

そう言って命を見る青年に

 「お前の疑問は解るが今は未だと言うより僕の口からは答える事はできない

 

 その問題は後日本国より発表されるべき重要機密でこれは父大公の決定事項だからな

 

 だから、先日訪れた十六夜にすら明かしてない程の重要機密だ…と、のみこたえておこう」

 

 その答えを聞いた青年は溜め息をひとつ吐き

 

 「そうか…お前と違い一士官に過ぎない俺はそれはそれと置いとくとして…

 

 今、最大の問題はいつになったら二人の可憐な姫君達に俺の事を紹介してくれるのだ? って事だな… 俺としてはそっちの方が余程重要な問題なのだがなっ♪ 」

 

 ニヤリと笑みを浮かべながら言われた如月は、苦笑いしながら観月に目配せすると命の手を握る真琴を挟んで並ぶ四人を見ながら

 

 「二人等と遠慮しないで四人とも紹介させろっ♪ 四人とも、この男は帆風と言って僕の士官学校時代の悪友でね…

 

 特に命とチサは明日乗る船の一等航法士だから面識が有った方が良いと思って紹介することにしたんだ 」

 

 そう言われて

 

 「四人の中では年長の翼です、宜しくお願いします帆風様」

 

 そう言ってドレスの裾を摘まんでお辞儀すると

 

 「僕は真琴でこの子は妹の命です、宜しくお願いします帆風様」

 

 そう言ってドレスの裾を摘まんでお辞儀すると命も慌てて頭だけペコッと下げる命の様子に苦笑いの観月

 

 「チサって言います、宜しくお願いします帆風様」

 

 そう言ってドレスの裾を摘まんでお辞儀すると

 

 「君達は如月の事を何て呼んでるのかな?」

 

 その意外とも言える問い掛けに翼とチサは

 

 「如月お兄さん」

 

 真琴と翼が

 

 「如月にいさん」

 

 命は

 

 「キーにいちゃま」

 

 そう答えると

 

 「そうか、なら俺にも “ 様 ”は要らない 」

 

 公女殿下や如月…睦月さんもだろ?」

 

 そう言って如月が頷くのをみて

 

 「なら俺は君達を友人の妹として扱うし君達も俺の事は兄の友人って思ってくれれば良い、って訳で宜しくね」

 

 そう言われて面食らう三人と事態に全くついていけない命を他所に

 

 「 帆風、貴方はツイてますね? 十六夜が望んでいた命の社交界デビューに立ち会えたのですからね 」

そう言われて会場内に流れる微妙な空気を読み一言

「 それは俺に命姫の為に社交界のドアを開けと言うフリなのかな? 」

そう観月に軽口を叩くと

「 私はそう宣言してますし美月のスタッフ達もそう考えてます 」

表情を余り変える事の無い命の顔が戸惑いの色を浮かべるのに構わず

「命は踊らないんだね? 」

帆風のその言葉にビクッと反応し

「 出来ない…」

そのか細い呟き…囁く様に漏れた言葉に

「大丈夫、踊りなんかすぐなれるから気にしないで…」

ふるふると首を左右に振る命に代わって真琴が

「対人恐怖症の傾向のあるみこは特に見知らぬ男の人が駄目で十六夜様の姿を初めて見た時も衝撃から意識を跳ばしましたから…

踊る踊れないじゃなく手を繋ぐのは勿論近寄るのだって…」

そう言いながらあれっ?と思い命の顔を見る真琴に

「大丈夫ですよ、阿の陰に隠れてはいてもみこは帆風の事を拒絶してませんからね

みこ、生粋の武人である帆風は怖いですか?」

そう聞かれた命は右左右と小さく首を振り

「そんな事言ったら鬼百合達だって怖い事になる…」

命のその言葉を聞き

「普段はお調子者ですが優しくて頼りになる男なのは分かりますね?」

首を小さく縦に振り

「王子ちゃまの時はいきなしだったから…」

そう口ごもる命に

「みこ、帆風さんなら稽古もしたこと無いみこの相手も優しくしてくれるから踊ってきなよ?」

観月の言葉の端々から感じるその思いを命に告げると口を閉ざした命に向かい

「みこ、踊ってきなさい」

静かに…しかしきっぱり言いきる観月に言い返せる命ではない

その命に右手を差し出し

「麗しの命姫の映えある社交界デビューを飾る最初のパートナーになる栄誉をお与え下さい…」

そう告げられた命が返事に窮していると

「みこ、帆風様の差し出した手を取って喜んでって答えてその甲に口付けすれば良いんだよ」

真琴にそう言われてその通りにすると帆風に導かれホールに向かう命の姿を見て驚きと落胆の溜め息が広がった…命のその覚束無い足取り故に

ホールの中央に立つと溜め息を吐き目を閉じると大きく息を吸い込み流れて来る音楽に耳を澄ませ…

目を開くとそれまで枯渇していた魔力が一気に高まり命の身体を宙に浮かせた

勿論その事に気付いたのは命の事を心配して見守っていた者達だけで差し出された帆風の手を取るとやっと命の社交界デビューが始まった

そして次第に宙を舞う命の姿に気付き始めた人達が現れ始めホールに居る者全てがその事実を知った

宙を舞う命と踊る帆風の姿はまるで神話か童話の中で妖精と踊る主人公の一場面の様に見え後は老若男女を問わず命の手を求めて踊りに誘った

命が踊り始めたのを見て安心した観月はユカと阿に目配せをするとユカは嬉しそうに微笑み阿は苦笑いでユカに手を差し出すと命の近くで踊り始め真琴たも新たなパートナーの申し込みを受け入れ踊り始めた

ー鬼百合に頼みが有ります…貴女の腕を譲ってほしいのですー

直接頭に響くその声に反応し命の顔を見ると

ーみこは預かり知らぬこと故にみこの顔からは何も読み取れないー

そう告げられた鬼百合は溜め息を吐き

ーお前は女神の救出の時にアタイ等を仕切ってたみこだな?

頼みってのは一体何だ?ー

そう聞くと

ーみこに同行する者、真琴達を守護する者、精霊達を捜索する者、真琴達が去った後のこの地を守護する者、国境を守護する者…

手駒不足は否めませんね?ー

そう告げられた鬼百合は

ーそれはその通りでアタイの腕を触媒にして戦士を召喚したいんだな?ー

そう聞くと

ーその通りです、勿論お礼は勾玉と霊玉をと考えてますが頼めますか?ー

その要請に

ーそれはアタイも気にしていた事だから異論はない

分かった、お前達が退場したらちょっと抜け出し受け入れようー

そう答えると

ー私もミナに言って勾玉と霊玉の入った鞄を控え室に持ってこさせます

それと大公と公女とユウとユカにも立ち会わせますー

そう告げると次のパートナーである大公の元に向かう命だった

 

命達の退場時間になり命達と共に控え室に入った観月とユウに

「間も無く大公と鬼百合もここに来ますから暫く待ちなさい」

その聞き覚えのある威厳に満ちた命の声に命の顔を見る翼以外の者達

その言葉通りに二人が現れるとミナから鞄を受け取り

「大公と公女、これより召喚儀式により鬼百合の腕を触媒にして戦士を召喚します

それにより呼び出した者の力を借りこの地の守護や精霊の探索を進めたいのだが宜しいかな?

そしてユウにユカ、貴女達の想い人が何者で有るのかと言う事実を知りなさい」

そう告げられ息を呑むユウとユカに対し静かに頷くだけの大公と観月を見て

 

 「 鬼百合、お願いします… 」

 

 命にそう言われて隠し腕を取り外し命の前に置くとそのひとつひとつひとつに勾玉と霊玉を埋め込み結界に包まれた

 

 「 みこ… この他に後十個くれりゃ寝る前に後四人呼び明日の朝、腕とこの鞭を置いていくんだかな?

 

 真琴、そん時手伝いに来てくれるな? 」

 

 そう鬼百合に言われて静かに頷く真琴を見ながら

 

 「 鬼百合様、私もお側に居ても宜しいでしょうか? 」

そう震える声で聞くと

 

 「怖いなら無理するな」

 

 そのユウの言葉に勘違いした鬼百合が言うと

 

 「 怖い… 『普通の人間に過ぎないお前が近付くのは許されない領域なのだから駄目だ 』 と、そう言われるのが怖いのです… 拒否されるのが…」

 

 そのユウの切ない言葉に

 

 「悪ぃ、勘違いした…恐らく勘づいてんだろうが残りの手足にも埋め込み手足の再生促進のためアタイ自身も受け入れるつもりだ

 

 だからこれ等を見て分かる通り、事が終わるまではアタイの身体にゃ指一本触れねえがそんで良いなら側でみてな」

 

 鬼百合のその答えを聞いてやっと安堵の溜め息を漏らしたユウに聞こえるように

 

 「 分かった、お礼はみこの勾玉と霊玉を五個づつと僕の白い勾玉の一番大きい方から四個で良いかな? 」

 

 そう問い掛ける真琴に

 

 「今のアタイにゃそれに勝る物はねぇからなっ!」

 

 そう言ってにかっと笑う鬼百合だったから真琴も残りの分は預かっておいて僕の白い勾玉の分と合わせて後から持っていくよ」

 

 と、鬼百合が答えると

 

 「 真琴と大公にはもうひとつ頼みが有ります

 

 まず真琴ですが小さめの勾玉と霊玉を真琴に預けますからそれを使って一般兵士にも使える武具を錬成してください

 

 そして大公、それを貴方に仕える騎士達に託しても構いませんか? 」

 

 そう問われた大公は

 

 「 泉美様の治めるこの神聖なる領地と愛する我が領民達を守る力、有り難く頂戴致します 」

 

 そう聞いて安堵の溜め息を吐き阿を見て

 

 「 私からの話は以上で終わりましたから少し休みます

 

 ただ、既にみこも既に眠ってますから寝室まで頼めますね? 」

 

 そう告げるや否や返事を待つことなくくたっ… と崩れ落ち慌てて抱き止めた阿にそのままベッドへと運ばれた

 

 パーティーに戻った一同は、その後も何事もなかったように振るまいやがてパーティーも終わりの時を迎え…鬼百合が部屋に戻り

 

 仮眠から目を覚ました真琴が待っていて、恐らくは不要になるだろう胴丸を預け

 

 新に霊玉に召喚されたバイキングの姿をした二人の戦士には鱗気と飛沫と名付け

 

 勾玉が召喚したスピード重視タイプ格闘家の二人には黒豹と黒狼と各々に名付けた

 

 胸当てと胴丸に関しては真琴に任せると言うことになりそれは明日以降で良いかな

 

 そう判断し、最後に鬼百合の残った手足と胴に勾玉と霊玉を埋め込みそれらが結界に飲み込まれるのを見届けると真琴は部屋に戻り再び仮眠を取ることにした

 

 夜を徹して鬼百合を見守るユウの前に、新たに現れた水竜と黒竜に翠湖と睡蓮の四人万能タイプの戦士達が姿を表した




次はより新展開です


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風が吹く

歌の女神の救出という使命に挑む乙女達は旅立った…それぞれの思いを胸に…


二章風が吹く

 

①お舟に揺られて

 

 早朝にも関わらず観月の出港の刻を間近に控えた大公家は喧騒に満ちていた

 

 重要機密扱いの火と水の精霊の巫女達並びに花の娘の存在、さらに最重要機密扱いの人魚姫の出現といつまでも隠すわけではないものの色々政治的な思惑から公表を控えている事案が山積みとなっている

 

 もっともそのその当人達は政治的な…平たく言えば大人の事情をあまり理解してはいないのだけど目立つ事を忌避しているの は間違いない

そんな少女達を気遣う千浪が

「真琴、これを…」

と言って以前真琴に渡した物と同じ小刀を渡し受け取った真琴は

「 ユイさんユウさんにユカさんにチサちゃん、そしてミナさんも護身用にこれを持っていってよ…まぁそうでなくても軽くて切れ味が鋭いから結構重宝するんだよ?」

真琴がそう言うと

「真琴ちゃんが持ってるのと同じのだよね?」

そうチサに聞かれた真琴は

「そうだよ、千浪さんから貰った奴なんだ、翼にもはいこれ」

と言われ

「観月様とみこちゃんには?」

と、翼が微かに沸き上がった疑問を口にすると

「観月様が護身用の刃物を持たねばならぬ様な状態には私達が致しません」

そう建て前をユイが言い

「翼、仮にみこにリンゴの皮を剥きたいからって言われたからってナイフを渡そう何て思う?」

そう真琴に聞かれた翼は日頃の壊滅的に不器用な命を思いだし

「た、確かにお二人には「えっ、えっリンゴあるの?」」

それまでぼんやりしていた命の反応にあきれなながらも苦笑いを浮かべた翼だったのだが…しかしそれにしても…

と思い皆の視線が命に集まるのを気にも止めないその命の服装はユカが悪戯に作った海兵隊の制服命バージョンとでも言うべき物で…

勿論左の胸には海兵隊の隊章が縫い付けてある本格的な一着だ!

当然の事ながら皆が孟反対するのをダメなら行かないとまで言い出したからさしもの観月も渋々了承した…否、せざるを得なかったのだ

そんな命の姿を出迎えた提督が目を丸くしながらも嬉しそうに微笑み歓迎の意を表した

勿論命の姿を見て驚いたのは見送りに集まった一般市民も同じで噂に聞いていた謎の少女、真琴の妹の姿に驚いていたが注目も集めていた

その一方で初めての船旅に意識が飛んでいるみこはその自分に対し集まっている沢山の視線には全く気付いていなかったので苦にはならなかったようで

阿と波頭の二人に荷物を持たせさやついでながら命自身は鬼百合の肩の上に腰かけていて甲板に上がった途端にマストをとっとっとっと駆け上がるとアンダートップに腰掛けて気持ち良さげに歌い始めた

白い服を着て白いマントをなびかせる命の姿はまるで白い鳥のように見えその歌声は小鳥の囀りの様にも聞こえた

その歌声のお陰で昨夜のパーティーの際、帆風が愚痴った事情のため不機嫌だっ乗り組み員達の機嫌はすっかり良くなりいつもはただただ慌ただしい出航時…

それが思いがけない天使の歌声?と思える命の歌声のお陰でとても楽しい一時になり愚痴っていた事などすっかり忘れてしまっていた

島を離れ航行が落ち着いてきたこともあり帆風が観月の案内がてら甲板に上がると潮風にマントと長い髪を靡かせ遠くを見ながら鼻唄を歌う命とその姿を嬉しそうに見まもるチサがいた

「みこ、チサ…帆風が船が初めての二人を案内したいそうですがどうしますか?」

観月にそう言われ好奇心の塊のチサの目が輝いたけど潮風に吹かれていたい命は首は小さく横に降り

「ここにいたい…」

と、静かに答えたので帆風としては本音を言えば命も連れていきたかったのはやまやまだった

だけど本来なら帰還後の半休に行われる甲板の掃除や砲台の手入れをする乗り組み員達の連れてかないでくれっ!

と、言う心の叫びが聞こえてきそうな視線の前に諦めてチサだけを案内した

それでも船の事を全く知らないチサが好奇心に任せ知らない事をあれこれ聞いて教えてもらうと素直に…時に目を丸くして驚き教えてくれる者を尊敬の眼差しで見られて悪い気がする者はない

不幸にして命の歌を聞けなかった者の心を癒したチサも又意識せず乗り組み員達のアイドルになっていた

 

足元がガヤガヤと賑やかになってきたのに気付いた命が鬼百合の姿を見付けて

「鬼百合何してるの?」

と聞くと

「見てわからんのか?魚釣りしてるんだよ

釣った魚は船が買い取ってくれるから小遣いかせぎだな」

と答えると

魚釣りと小遣いと言う初めて聞く単語に首を捻っていると

レムから聞いた二人の生い立ちを思いだした鬼百合は魚釣りや小遣いを知らなくて当然かと思い

「そうだな…取り敢えずまぁこうやって静かに釣糸垂れてて針についた餌に食い付いたら釣り上げるのが釣りで提督が魚の価値に応じて褒美をくれんだよ」

その鬼百合の説明で理解出来たのかそうでないのかがよくわからない命の反応だけど

「ふーん…で、その魚釣りってどう面白いの?」

と命が聞くとそれを聞いた釣り好きの乗り組み員達が銘々に釣りの楽しさを語り

「まぁそいつについちゃ何でもそうだがやってみん事にはその良さはわからよ…みこ、お前…歌を歌うの始めっから楽しかったか?」

そう言われて首を横に振り

「そだね、最初は仕方無しやってたな…歌詞覚えられなかったしお歌が上手なまこちゃんと比べてダメダメなじぶんがヤでいつも泣いてた…辛いって言って

うん…鬼百合教えて、みこやってみるから」

とニッコリ笑って答えると喜んで釣り竿を用意する乗り組み員達

そこに船を一回りしたチサが帆風と共に戻ってきた笑顔の命を見て

「みこちゃん何してるの?」

そうチサに聞かれた命は

「鬼百合がお魚釣りを教えてくれるんだって、チサちゃんもやる?」

と誘われ聞いたことは有ってもやったことは勿論見たこともないチサが返事に迷って帆風を見ていると命の支度をしている男が

「みこちゃが使うのも船の備品だからチサちゃんも遠慮しなくて良いよ」

とチサに教えると帆風も笑顔で頷き

「物は試しってゆーからなっ、やってみなよ?チサっ♪」

と、鬼百合にも言われて

「わかりました、やってみます」

そう答えたから

「そうか、なら取り敢えずこれでやってみな」

そう言われて鬼百合がそれまで使っていた釣り竿で釣り始め支度の終わった命も仕掛けを投げ込むとそれを待ってましたと言わんばかりに乗り組み員達の竿がしなりだした

釣り上がった魚を見て一番乗りを果たした男が

「良型のホシカイワリだぞ…」

そう呟くと次から次に同じサイズの魚が上がり入れ食い状態に

そしてチサの竿が大きくしなり命の竿は一度小さくしなり続いて竿を持つ命の身体ごと海に引きづり込みそうなしなりをみせ慌てて鬼百合が手助けした

勿論チサの方は帆風が手伝って上がったのは花鰹と呼ばれる魚のそれは大公領ではとても珍重されてる魚で勿論観月の好物でもある

「凄いなぁ…チサちゃん、こいつなら観月様の今夜の食事にお出しても恥じない一品だよ」

そう一人が言うと別の男が

「親父を呼んでくるっ!」

そう叫んで船長室に走って行きチサを驚かせた

一方、巨大魚との格闘に飽きた命は竿を鬼百合に押し付け再びアンダートップに腰掛け暫く鼻唄を歌っていたけどすくっと立ち上がるとどこからか現れた蒼い銛を投げつけその巨大魚を仕止め鬼百合も一気に釣り上げたその魚は大マグロで

「多分最初の小さい引きはホシカイワリでそいつに食いついてきたんだろうな…」

そう言って呆然とする船乗り達を気にせず

「鬼百合が一等賞だね?御祝いにその銛あげるよ

アクエリアスちゃまのご加護が有るから戦いでも凄い力を鬼百合に貸してくれるはずだよ?」

そう言われて

「そいつは有り難いがこいつの褒美はどうするんだ?」

と聞かれて不思議そうに

「釣り上げたのは鬼百合だから鬼百合のだよ?」

と言われて溜め息を吐くのを提督と一緒に甲板に上がってきた観月に

「そんなを事みこに言ったところで言うだけ無駄ですよ?鬼百合…どのみちその魚の価格ならみこに管理できるわけ有りませんから預かって私達が管理するだけの事」

そう言われて

「ならアタイが言う事は何もねぇな…少なくも管理を任して構わねぇんならな」

鬼百合が溜め息を吐いてそう答えると観月も

「そう言う事ですからユイ、二人の釣果のご褒美の管理任せますよ」

と言うのを聞いた鬼百合がお前も丸投げかよと思ったがなにも言わなかった代わりにチサが

「観月様、私が一人で…」

と言い掛けるのを帆風が咳払いで止め小声で

「俺は勤務中だからその褒美を貰ったらサボった事になるんだから俺を助けると思ってご褒美もチサ一人で貰ってくれないか?この通り」

そう言われても未だ考え込むチサに事情を察した観月が

「本国で行われる歓迎のパーティで必ず帆風と踊って上げなさい、その方が遥かに嬉しいのですからね?帆風にとってはですねっ♪」

そう言われて夕べの帆風の言葉を思い出し自分も四人の娘達の兄になったような気のする帆風の目は優しくチサもやっと

「有難うございます…帆風…お兄さん…」

はにかみながら言ったチサのその一言が何より嬉しい帆風だったがいきなり目の前に差し出された

 

その騒ぎも収まり再び釣りを再開した鬼百合とチサに乗り組み員達

チサと命達のようなラッキーは二度となかったがチサを筆頭に鬼百合達はホシカイワリ以外にクラサーや島鯵を釣り上げチサは初めての釣りを楽しみ鬼百合達は上陸後の小遣いをたんまりと稼いだのだった

釣果は久々の大漁で干物にしておけば魚に関しては補給の必要が無いくらいだった

そして日が落ちて不運な当直以外の乗り組み員以外の宴会が始まった

ユイは観月と提督の為の料理を用意して

ユウ、ユカ、ミナは料理長以下食事当番を手伝って宴会料理の支度をした

見習いの乗組員達は今日の釣果のホシカイワリを捌き干物の準備をし宴会を迎えたのだ

今夜の宴会は特別だった

 

 特別な肴に命の歌、花の娘から提供された数種類の新鮮な香草に草の実達… 本来なら有り得ない、軍艦でロンドを踊れるのだから…

 

 普通の神経の持ち主なら男達だけでロンドを踊りたいとは思わないし少なくもこの船にはそう言った趣味嗜好の者は居ないのだから

 

 そう言うわけだから久し振りの休暇が潰れて文句たらたらだったハズの乗り組み員達が命達を誘ってロンドを一緒に舞う事を誰も止められなかった

 

 しかも、その踊りの輪の中に観月も加わりたいと言いだし

 

 「 嫌いなのではなく、公女という立場上出来なかっただけで今宵この場ならその様な事を気にする必要が有りますか? 」

そう言われて

 

 「 有りません、我々乗組員一同は観月様のご参加心から歓迎いたします 」

 

 帆風が代表してそう答えると皆も口々に歓迎の言葉を叫んだ

 

 そう、乗り組み員達にとり本当に特別な一夜になったのだった

 

 そんな賑わいの中ただ一人不機嫌さを噴き出している者が居た

 

 『 依り代よ、何故我を貪り喰らうこの獣… くっ、殺す… ギャーっ、食うなっ! よ、寄るな、触るなっ、あっち行けっ! 獣風情がずーずーしい、私の視界から消え失せろっ! 』

 

 山羊を見てそう心の叫びを上げて取り乱す花の娘の姿を唖然と見守るしかない船乗り達だった

 

 翌日の非番の者も朝から釣り三昧で、勿論釣果は爆釣でさすがに釣れ過ぎたので本国近くで漁をしていた漁師に引き取らせ市場に出荷させた

 

 軍艦で釣った物を兵達が市場に出せないからで代金は後で魚市の落札価格によって決まるのも両者の暗黙の了解になっている

 

 そうこうする内に昼過ぎになりいよいよ本国が見えてきて

 

 「 二人共この港の入り口付近は潮の流れが早いから落ちないよう気を付けるんだよ?

 

 出来れば観月様は勿論二人共船室に連れていって貰うのが一番安全なんだけどね… 」

 

 と、言われて苦笑いで返す鬼百合達と船室に入る気など更々無い命とチサの表情に溜め息の帆風

 

 歌の祭典迄未だ日にちが有るにも関わらず予想外に早い観月の訪問に沸く王都市民が港の入り口にある堤防にも数多く集まっていた

 

 その様子に悪い予感の観月が

 

 『 何も起こらなければ良いのですが… 』

 

 と、そう思った矢先にそれは起こった

 

 

 

 





じゃあ僕は命ちゃんが我に返った時未だ僕が居たら不味いだろうからここは退散する事にしよう」
そう言って笑顔を残し立ち去りその後暫くして我に返った命に
「あれ?まこちゃんはいつから居たの?みこ、全然気が付かなかったよ…」
そう苦笑いを浮かべて言う命を見ながら真琴は
「少し前だけど一生懸命お歌の稽古してたから気付かなかったみたいだね」
そう言いながら
(十六夜様と遭遇した前後の記憶を削除して心の安定化をはかることにしたんだな…)
そう考えて内心苦笑いする真琴だった
何故自分が同席しなければならないならないのか理解出来ない命にとって苦行に等しい晩餐も終わりに近付き
「みこ、最近観月様にお歌聞いてもらったこと有る?
今朝のお稽古聞いたけど大分上達してたから大公様や睦月様に如月様にも聞いていただいたらどうかな?」
そう言われてビクッと震え弱々しく首を振り
「まこちゃんみたくお上手じゃないみこのお歌聞かされたって誰も喜ばない、迷惑なだけ…」
消え入りそうな声で言う命に理由はわからなくても真琴が今この場で命に歌わせたがってる事に気付いた翼とチサは
「そんな事ないよ、みこちゃんの可愛い歌声を迷惑な人なんて言う人なんて居るはずないよ?
未々社交界に慣れない私はいつもみこちゃんの歌に癒して貰ってるんですからね」
そう翼が言えば
「お勉強の後にみこちゃんの歌を聞くと午後からも頑張ろうって思えるんだから自信持って」
そう言いその理由は十六夜の為だろうと推測した美月のスタッフ達は
「みこちゃんの側に居て沢山聞いてるミナとユカの二人が本当に羨ましくてたまには代わって欲しい位ですよ?」
とユイが言うと同調して頷くユウ、ユキ、ユマ、ユミ達
そして優しく包み込むように命の身体を抱き締めながら
「私も命様のお歌を聞くのは大好きですからいつものように歌ってください…」
そう囁くように言われて
小さく頷くと静かに歌い始めた
最初の曲はミナと花摘をしてる時をイメージしながら歌い(イメージ曲は松任谷由美の守ってあげたい)
次いで二曲目はしっとりとした曲を歌い(イメージ曲は帝国歌劇団奇跡の鐘)
そして三曲目は軽快に歌い(イメージ曲はパリ歌劇団ボヤジュー)
そしてラスト四曲目はおもいっきり弾ける曲で盛り上げた(イメージ曲は激、帝国華撃団)
普段は落ち着きはらった大公、穏やかな睦月、観月の前では大人しくしている如月も大いに盛り上がった
観月の指示で大公家の使用人逹が集められ時ならぬミニコンサートに沸き上がった夜になった
聞いていた人達が喜んでくれたの
が余程嬉しかったのか笑顔で涙を流していたけどそんな命に観月が
「まもなく私はチサを連れて歌の国の本国に向かわねばなりませんがみこもついて来ますか?」
そう問われてそれまで真琴と離れるなど夢にも思わなかった命は
「行かない、まこちゃんの側に居る…離れ離れはヤっ!」
小さい声では有るけどハッキリと拒絶すると
「みこ…僕達だっていつまでも子供でいられるわけないんだから大人にならないとね…」
そう諭すように告げられた命は
「みこは大人になんかなれないしなりたくもないもんっ!」
そう言って目をつぶり下を向く命の肩を震える肩を抱きながら
「…うん、確かにそうだね…大人になったみこの姿は僕にも想像できないよ…でもね…だからこそ僕は早く大人になってみこを守って上げられるよう大人にならなくっちゃダメなんたよ…」
真琴にそう言われて
「生まれてきちゃダメな子のみこにはまこちゃんの側以外に居場所は何処にも無いから…なんにも出来ない要らない子のみこは誰も用は無い」
歌っていた時の輝きを失っている瞳は暗く淀んでいて居たたまれなくなったミナが
「そんな事有りません私は命様の事が大好きですし私にとって恐らく最後のご奉仕が命様のお世話になって幸せな時を過ごさせて頂きました」
命にとりその告白は衝撃だった
側に居てくれるのが当たり前で身の回りの全てをお世話してくれるミナは既になくてはならない存在になっていた
そのミナが自分の前から居なくなるなど考えたくもない事
が、命のその様子に気付かない鬼百合が
「みこ、お前の事が好きなのはミナだけじゃない…な、大公?」
そう声を掛けられた大公は穏やかな笑顔で
「観月達の様に妹と呼ぶのは無理があるが娘や姪を見る様にお前達を見守っている」
大公はそう答えながら命と真琴の二人を連れて初めて言葉を交わした時の鬼百合の台詞を思い出していた
「それにね、みこ…一緒にはいけないけど僕や翼だって後から行くんだよ?
だからほんの少し離れるだけなんだから我慢できるよね?」
そう聞かれて
「ホントに来てくれる?離れるのはちょっとだけ?」
そう確かめずには居られない命に笑ながら
「僕だって余り長く会えないのは嫌だし女神の祭典に出なきゃいけない僕はどうしたって行かなきゃいけないんだからね」
その言葉を聞いた命は
「なんかまこちゃんてお兄ちゃんみたい…
やっぱり妹はお兄ちゃんのゆー事聞かなきゃダメなんだよね?」
そういきなり話を振られた観月は逆に兄達に言うことを聞かせていたから
「ええ、まぁそうですね…」
と言葉を濁し三兄妹の事を知るも者達は笑いを噛み殺していた
そんな事を知らない命は小さく頷くと
「分かった…自信無いけどちょっとだけ頑張ってつよくなる」
そう呟き
「観月ちゃま、みこも連れてってね…チサちゃんも一緒なんだから多分大丈夫…だよね?」
そう言いながらミナを一瞬見たけど命の決意を喜んでるだけなのを見て目を伏せる命だった
その様子を見ていた大公父娘は互いの顔を見て頷き合っている事は勿論命は気付いていない
そして十六夜が嬉しそうな顔で真琴に頷きかけていることも勿論気付いていない
「命様のお床の支度をしに参ります」
そう観月に告げ退出するミナの後ろ姿を切なそうに見送る命だった
その後暫くしてから阿に抱かれ寝室に向かうみこを見送り
「ミナを命付の侍女として連れていけるか?」
と言われた観月は
「折角行くと言ってくれた命の気が変わらぬように是非とも連れていくべきですしそろそろ公女宮に呼んでもよい良いくらいですから何ら問題有りません
ただこの慌ただしい中わざわざ所属変更せずとも大公邸所属のまま命付で私の預かりとすれば良いと思います」
そう聞いた大公は
「分かった、そのように処理しておく」
大公がそう告げるとその夜の晩餐はお開きとなり使用人達は仕事をしに各々の持ち場に戻った
ただその事を未だ知らない命は真琴とミナの二人と別れる不安からミナに手を握られても涙が止まる事が無く…
その様子を見た真琴が
「ミナさん…みこに添い寝して抱き締めてあげて
それ程に不安なんだからね、僕と貴女が一度に自分から離れるって事はさ…」
そう言いながら溜め息を吐く真琴に
「私なんかがその様なことしても宜しいんでしょうか?」
そう言うミナに
「精霊の巫女であるみこに遠慮してるならそんな必要はない
今ミナさんが手を握っているのは精霊の巫女の命じゃない、本人が言った通りに貴女に甘える事しか知らない幼く弱いみこなんだからさ
それともみこなんかと添い寝なんてしたくないの?」
そう言われ慌てて命の布団に入り頭を抱き締めると命の涙は止まりミナの胸に顔を埋めて微笑んでいた
真琴すら初めて見た嬉しそうに微笑む寝顔
日頃の疲れがたまっているミナもすぐに寝息をたて始めたのみた真琴は事の次第を観月に知らせると
「ミナをこのまま命付きにして本国に同行する様に手続きしてますから安心しなさい」
そう言われさすが観月様と思って安心して部屋に戻り眠りに就く真琴だったが
「やはりミナは常に命の側近く控えさせる必要がありますね…」
微笑みなからそう呟く観月だった

翌朝その事を知らされた命が喜んだのは言うまでもなく玄関迄ではあるけど十六夜の見送りに現れる程だった
勿論ミナの背中に隠れてでは有るけど昨日の朝は自分の姿を見て意識が跳んだ事を思えば格段の進歩
本当の笑顔はこの次会う時の楽しみにすれば良いと思える十六夜だったから
「チサちゃんとの再会を楽しみにしてる、みこちゃんはその時に本当の笑顔を見せてくれたら嬉しいな
翼ちゃんは母上のお供で社交界に顔を出してくれたら喜んでくれるよ?
娘を連れて歩くのが母上の夢だったからね
真琴ちゃん、女神の祭典については役員に名を連ねる僕が受け付けた
だから後は観月が書類を持ってくれば良いようにしておくから来てくれるのを楽しみに待ってるよ」
と言われた真琴は
「泉美様と観月様に恥を掻かせない様に頑張ります」
そう答えると
「阿とミナは命を頼みます
真琴とチサは朝の勉強を、翼は今朝の勉強は休みで私と港まで十六夜の見送りに向かいます」
そう宣言するとユマは翼に同行し吽が警護役で同行する事になった
その夜正式に出航日がきまり観月の秘書にユイ
命の世話役にミナ
ミナのサポートとチサの指導にユカが選ばれ
全体のサポート役としてユウが選ばれ女神の騎士団を名乗る嵐と部下の内の三人に鬼百合と阿が同行する事になった
そしてまたしても命にとっての難題発生
「みこ、出航前日の壮行会を兼ねたパーティーで貴女の社交界デビューを飾って欲しいのですが勿論出席してくれますね?」
そう言われ青ざめた顔で
「みこにはまだ早いよね?」
そう言ってミナに救いを求めるとミナより先に
「まぁ確かに体力的には未々無理があるかな?」
と真琴が言えば
「未だまともに歩けませんしね」
と阿も言い
「真琴が歩き始めても何をするでもなく日長膝を抱えて踞ってましたし歩き始めたのもこちらに来てからですからね…」
とレムも言うと
「阿には申し訳無いけどその夜はみこの側から離れずミナに手を貸してもらえますね?
勿論入退場のエスコート(抱き上げて)も任せます」
そう言われホッとする阿と複雑な表情のユカだった
「取り敢えず今回は顔見せだけでも果たして欲しいのですから宜しいですね?」
そう言われてさえ言い訳を考え言葉の出ない命に
「みこ、僕達より年下のチサちゃんだって出てるし翼は観月様に代わって社交界に参加してるんだよ?
それにね、みこ…大勢の人達がみこの登場を待ってるよ…」
その背中を押すように
「確かに早すぎることはない、アタイの知る限りじゃあ観月が社交界デビューしたのはチサよりもさらに早い六歳だと聞いている」
その言葉を聞いて逆に
「人は人、真琴…貴女は大事な事を忘れている…
貴方達は鬼百合と出会う前に話をした事のある人間がいますか?対人恐怖症にも等しい命様にとって見知らぬ人間が多く集まるパーティーに出ることが恐怖以外の物でしかない事を?
逆に言うと同じ環境で過ごしてきたはずの貴女が真逆の反応をしている事の方が私には驚きですからね?」
そう言われ頭を掻きながら
「そうなのかな?そう言われても余りピンとこないんだけど…」
レムにそう言われて苦笑いの真琴に
「芯の強い貴女には今の命様は理解出来ないでしょうし私自身理解できるとは言えません…ですが真琴、貴女が初めてのパーティーで踊る気になった気持ちを教えてあげてはどうですか?」
そう言われた真琴が命の顔を見て頷き
「みこ、今の大公様のお屋敷に敵なんか居ないんだから安心して…仮にいきなり襲ってきたってレムや鬼百合さん達がみこに近付かせなんかしない
それにね、みこ…今の僕達を守ってくれる人はもっといるんだよ?
大公様、睦月お兄さんに如月お兄さん観月様にユカさん達美月のお姉さん達やその方達にお仕えする皆さんもいる
僕や翼、チサちゃんだっているんだから辛かったら辛いって言えば良い……
それにね、みこ…何よりも皆がみこの事を愛してるんだから…ね、ミナさん?」
笑って言われたミナが慌てているのを見て笑いの渦が巻き起こる一同だった


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風が吹く②

公女殿下が人魚姫を連れてやってきたっ!


その最中今回予備のテキストを用意していなかった為チサが使っている物をりんに渡しチサは本来の予定を早めより中級のテキストを支給していたので遅れて戻ってきたユカとチサにりん

そのりんが王妃の姿を見て

「王妃様、あんな素敵なドレス有難うございます

あのドレスに恥じないよう一杯お勉強して命様…みこちゃんにお仕え出来るようになります…皆様、宜しくお願いします」

そう言ってユカ達美月のスタッフにお辞儀するりんだった

でもりんちゃんはみこの生まれて初めてのお友達なんだよ?

だからお友達になってもらったけどお友達って何なのか良く分からないんだ…ホントの事言ったらね」

それを聞いていた鬼百合が

「みこ、そいつは考えて分かることじゃねぇからりんと過ごして色んな事を一緒にやってって初めてわかる事だ

船旅楽しかったろ?だが乗る前からその楽しさ分かってたか?違うだろ?ならせっかく出来た友達と色々やってみな?取り敢えずは風呂からだな、りん…お前、友達沢山いるんだろ?

ならその友達の良さをみこに教えてやってくれ、チサも今は友達居ねぇから仲良くしてやってくれたら嬉しい

今のお前の出来る最大の事だし人見知りするみこが自ら受け入れたお前をアタイ等も期待してるぞっ!」

鬼百合がそう言うと王妃と観月を始め皆が頷いていた

「分かりましたね?ミナ、三人をお風呂に入れてください

ユイはみことチサの今夜のドレスとりんのお披露目のドレスを用意しておきなさい

ユカはそれまで着ておくみこの服とチサとりんの替えの制服を用意するように」

そう指示すると王妃を見て

「伯母様も宜しければ人魚になったみこの姿をご覧になりますか?」

聞かれ嬉しそうに微笑みながら

「勿論それを期待してきたのですからね」

微笑みながら答える王妃に

「こればかりは父や兄達には見せられない状況ですから見せてません」

そう笑いながら言うと王妃も

「それは私も、同じで夫や息子達にも見せる気はありません」

そう言うと他の者達も一緒になって笑っていた

暫くして「命様が湯船に入られました」そうミナが告げると一同がぞろぞろと浴室に入って行き命の姿を見た

今日会ったばかりの王妃は勿論初めて見る嵐にちゃんと見るのは初めてのりんが大喜びし

何よりアレ程入浴を渋った割りに…の命の弾けっぷりには普段の命からは想像がつかない程

そんな命に王妃が

「みこちゃんに聞いても良いですか?貴女方のご両親の事を教えて下さい…」

とこれまで観月ですら敢えて触れなかったその問い掛けに

「私は知っている…生まれて間もない頃にお母様自らの手でそう、まるで汚らわしい塵クズでも捨てるように迷宮に投げ捨てられたのを…

私は聞いていた…あの愚か者達がみこ達の事を散々黒い魔力を持つ魔女、穢らわしい黒き血と魂を持つ呪われた闇の子と口汚く罵りながら私が赤子故に何も見えず何を言っても聞こえない

そう勝手に思い込み知りたくも聞きたくも無い事をべらべら喋っていた事を…

だから真琴には申し訳無い事をしたと思っている…私自身は言われる通りの黒き魔力を持つ黒き血脈を受け継ぎし魔女なのだから仕方無いが生まれる前の小さなその身体には収まりきらぬ黒き魔力…

それがお母様のお腹の中で私と共に過ごした故に真琴の魂をどす黒く染めてしまったのだ…

そう純白の生地を汚す黒い墨がシミのように真琴の魂を汚してしまった私はその罪を我が命を以て購うしかないのだ…」

そう言って言葉をと切らせた命に

そんな事無いっ!みこちゃんに会えたのがアクエリアス様のお導きなら私はアクエリアス様に感謝してるんだよ?みこちゃんを私の前に連れて来てくれた観月様やその他の人達にも一杯感謝してる…

だからもうそんな悲しい事言わないでよっ!

大好きなみこちゃんにそんな事言われたら私、どうして良いのか分からない…」

りんがそう嘆くと

「みこ…意識の無い貴女を初めて見た時私は運命的な出会いと感じその後女神の依り代と言う運命に導かれました

導く者である貴女はこれからも多くの者を導くべきです」

その観月の重い言葉に

「私は貴女の様に強くないしなる気もない、私は他人に棘の道を歩ませる事が出来る強さ等微塵にも持ち合わせてなどいないのだから…」

そう悲しげに告げると

「私はただ翼ちゃんの側に居たかった…

でも…その願いすら断たれようとしたあの時私達を助けてくれたのは真琴ちゃんとみこちゃんなのよ?だから今度は貴女が背負う運命や宿命を私や翼ちゃんにも背負わせて…だってみこちゃん言ったよね?私達は家族だって言ってくれて…本当に嬉かったんだよ?

だから真琴ちゃんも翼ちゃんもみこちゃんにもっと頼って欲しいって思ってるし私だって…

勿論観月様や大公家の皆様、王妃様や十六夜様にりんちゃんだってみこちゃんの力になりたいと思ってる

大好きな人を守るのに楽な道なんて無い…

だからもうみこちゃんが一人で苦しむ必要なんて無いんだよ?」

そう言われてさえ尚

「そんな事無い、みこには生きてる資格なんか無い…生まれてきた事その物が誤りのみこは生きてちゃいけない子なんだよ…」

うわごとの様にそう繰り返す命とりんの啜り泣く声だけが静かに聞こえていた浴室内

「寝ちまったみたいだな…二人とも」

鬼百合の低い呟きに我に反った観月が

「鬼百合…今みこが言った事は…」

不安げに聞かれた鬼百合は

「多分本当の事なんだろうな…覚えてるか?嵐…レムが前に多分命様は高位魔導師が転生された方なのだって言ったのを…」

そう言われ

「あぁ、確かにそう聞いた…我々には感知出来ない敵の接近に気付いた時の事だったな…」

あれからそれほどの時が経った訳でも無いのに随分昔の事の様に感じていると

「真琴と命の身元に心当たりがありますが…観月、手伝ってくれますね?」

そう聞かれて

「彼方に残っているレムに言って調べて貰うように頼みます」

そう言って一同を見回し

「取り敢えず今は今夜の夜会の準備をします

阿はみこに服を着せるミナを手伝って

鬼百合はりんに服を着せるユカの手伝いを…

チサは服を着たら午後のお茶にしますからリビングにユイとユウはそのお茶の仕度を…」

そう告げると

「王宮の茶菓子は期待して良いんだろうな?」

鬼百合がそう聞くと

「今日は水菓子の新作を試食の予定ですから微妙な所でしょうね…」

と言われ盛大な溜め息を吐き皆を笑わせ何とか場の空気を変えた鬼百合はむぅっ…と唸ってみせ皆を笑わせた

そんな中表情を改めて観月が阿に向かい

「彼方に何か変化は?」

と聞くと

「特に問題無い

まぁ強いて言うなら翼が貴女の代理を立派に勤めている事

レム、吽、黒豹と黒狼は地の精霊と風の精霊の情報待ちで大公領内の見回りをしていると沙霧と白浪は真琴と翼の側に

黒竜、隣気、黒炎、白炎の二人は大公家の騎士達を鍛え千浪、波頭と四聖獣達は海兵隊の者達を鍛えてる為二番艦、三番艦に乗船

飛沫、水竜は海兵隊の基地に詰めている

睡蓮は、翠湖の二人は国境警備隊の応援に向かいました

と言ったところが今の状況です」

その話を聞いた王妃は

「先ほどみこちゃんが名前を出した子ですね?その翼というのは…

十六夜からも聞いてましたが社交界で貴女の代理を立派に勤めてる…

その子も勿論こちらに来てくれるのですね?」

と聞かれた観月は

「真琴のレッスンに目処がついたら共に此方に来ます」

そう答えると

「そう、此方に来たら私の供として社交界に紹介しても構いませんか?」

と訪ねられ

「構いません、と言うよりそうしても恥ずかしくない教育を施して有りますから色々経験させてください」

その嬉しい観月の返答に

「二人の到着を楽しみにします」

その顔はとても嬉しそうだった

「それはそうとこちらでも鬼百合と阿のお二人に女神の騎士団の四人を鍛えて貰いたいのですか…」

観月が二人に言うと鬼百合が

「それは確かにそうだが感覚で生きてるアタイにゃ期待せんでくれ…」

と答え日頃の威勢の良さはすっかり影を潜めていたが

「まぁそれに関わりのある話になるんだがチサ…お前、みこみたく霊玉を産み出せるか?

出来るんなら幾つか分けて欲しいんだがな?」

そう頼まれたチサは

「自信は有りませんけどみこちゃんに教えてもらってご用意致しますけど?」

その答えを聞き

「あぁわかった、宜しく頼む

アタイらの方も戦力補充と自身の強化に勾玉を受け入れようと思うがお前はどうする?」

そう聞かれて

「敵が闇の者である以上戦力の強化は重要で我々は命を守りたいと願う真琴とレム、そして鬼百合…お前達の願いが具現化した者

だが命を守りたいと思うのは既に我々の願いであるのだから命にあだなす者が強いならこちらも強くなるだけの事

私の分も有るのか?」

そう聞いて

「取り敢えず手持ちはみこの勾玉と霊玉が四個ずつで真琴の勾玉が一個有る」

そう言ってニヤリと笑うと

「ならば私は蒼い霊玉を頼むが早い方が良いのか?」

と阿が聞くと

「いや、お前は未だ初めてだから今夜の夜会が終わってからで良い

アタイ自身も明日にしておくから取り敢えず六人の戦士を召喚しようと思う

観月、真琴が居らずみこも寝ちまってるからお前が代わりに埋め込んでくれるか?女神の依り代であるお前が…」

そう頼まれると「私がやっても構いませんがチサ、今まで祈りを捧げてきた成果を見せる時では有りませんか?」

観月にいきなり振られたチサが焦って

「そんな…二人の代わりなんて私には…」

と断ると

「チサ、お前がその気になれば…自覚を持てば出来ん事じゃないと思うぞ?

実際の話二人がやる時も然程魔力や霊力を使ってるようには感じんからな」

その会話を聞いていた王妃が

「もしやと思ってましたがチサ…貴女は精霊の巫女なのですか?

貴女から僅かに感じる霊気は火の系列の…まさかフレア様なのでは有りませんか?」

そう言われたチサはビクッと震え観月は

「さすがは司祭の里の血を濃く引きし伯母様、良く気付かれましたね

未だ未熟な私が精霊の巫女を名乗るのはおこがましい」

そう言うチサの意思を尊重し伏せてありますが伯父様や十四夜、十六夜にだけは場をも受けて貰いお話ししようと思います…宜しいですね?チサ」

そう言われたチサは

「はい、国王様や王子様達にはお話ししておくべきだと思います…」

覚悟を決めたチサの返事を聞き満足の笑みを漏らす王妃と観月だった

「鬼百合さん、勾玉と霊玉を貸して下さい」

そう言って渡された勾玉と霊玉を受けとると一つ一つ丁寧に埋め込むと命や真琴がしたのと同様に各々の結界を張り…

霊玉が召喚したのは船乗り風の瑞穂と柳水

勾玉がよびだしたのは忍者と呼ばれる特殊職業の斬刃とモリオンに白い勾玉が召喚した白檀に白蓮

「柳水、お前にこのアクエリアスの祝福を受けた銛を預ける」

そう言って命から船上で貰った銛を渡すと静かに頷くとその六人に向かい

「今夜は私達を歓迎する夜会がありますからユウ、六人を大公宮に案内し客分騎士の正装に着替えていただきなさい

チサも同行して手伝いなさいね」

そう言われ

「承知しました」

と答えユウの案内で大公宮に向かう六人だった

ユウの案内でチサと六人の戦士達が大公宮に向かってから暫くしてからりんが目を覚ますと居眠りしていた事に気付いて恥ずかしそうにしているのが微笑ましかった更に時が経ち目を覚ました命は起きていると言うのが微妙な程ボーッしていてミナが冷ましておいたお茶をを飲ませ覚醒を促した

それでもスッキリと目覚めない命に溜め息を吐いて

「しょうのない子ですが好都合とも言えますね…ミナ、ユカ、今のうちに夜会の仕度を済ませてしまいなさい

今なら可愛いドレスを嫌がるみこに着たくない言い分けをされずに済みますから捗りますね?」そう言われ苦笑いを浮かべて頷く二人は普段ならば絶対に嫌がる桜の花を模したドレスを命に目覚め無いよう慎重に着せ

髪型も桜色のリボンでローツインテに纏め赤い踵の高い靴を履かせた

逆にチサは赤いバラをモチーフにしたドレスを纏い黒いパンプスを履く予定

最後のりんは当然初めてのパーティーなだからお披露目のドレス

靴もそれに合わせて作られたシンプルな物でパーティー会場の給仕に立つ際にも履く靴が用意されている

そして食事の前の一時をを利用し王と王子達にもチサが

「私はみこちゃんとアクエリアス様の導きで火の精霊フレア様の導きを受ける巫女となった者です

ただ…余りにもの未熟さから観月様にお願いして今は未だ公表を控えて貰ってますから国王様にもそうお願いしても良いでしょうか?」

そのチサの告白と要請に

「それはつまり私達は教えてもらえる側の…隠さなくても良い者達なのだと思ってくれた訳ですね?」

そう改めて聞かれたチサは

「私達の事を妹同様に扱って頂いて王子ではなくお兄さんと呼んで欲しいって言ってくれた十六夜お兄さん、りんちゃんにも優しい言葉を描けてくださる王様

未だお言葉は交わしてませんけど優しい眼差しでみこちゃんや私見守って下さる十四夜様にお話し出来なければいつまでたっても誰にも話せませんから…」

そう言われ

「対極をなす二大精霊の巫女様が揃って我が国を頼ってくれ数ならぬ我が身に秘密を打ち明けていただき感謝します…巫女様よ」

そう言われ赤面するチサを十四夜がダイニングにエスコートしながら

「私の事もお兄さんと呼んでくれたら嬉しいよ?幼い頃は観月の居る睦月や如月が羨ましかったのだからね」

その息子の言葉を聞きながら或事を決意した王妃と予想通りの展開に満足する観月だった

そして第一部のディナーが始まりボンヤリしたままの命はミナの献身的な介添えでいつもと変わらぬ…

いや、デザート分も会わせるといつもより多く食べさせる事が出来大満足のミナだけどその代わりにミナ自身は手付かずのまま料理を下げられたが全く気にはならなかった

そんなミナにユカが

「王妃様が貴女の食事を取り置いてますから控え室で食べてきなさい」

そう言われても命を見て躊躇っているとミナのお腹から控え目な虫の音がなり

「ミナさんが手伝ってくれたからみこ、ちゃんとご飯食べれたんだから今度はミナさんが食べる番だよ?」

そう言われやっと

「承知しました、急いで食べてまいります…有難うございます、命様」

ミナにそう礼を言われた命は照れ臭そうに笑いながら

「違うよ、ミナさん…お礼ゆーのはとっててくれたおーひ様にだよ?」

そう言われて照れながら

「そうですね、ですが王妃様はお忙しい様ですから後程改めてお礼に伺います」

そのミナの言葉通りに来客の応対に忙しそうな王妃だった

今夜の主賓である観月と命にチサについてパーティーの開幕に際し

「今宵は特別な夜、和泉の女神の依り代と水の精霊の巫女のお二方のお越しを歓迎すると共に…

大公家の計らいにより控えられていた水の精霊の巫女、そして人魚姫の公表

ならびに命自身は大公家で社交界デビューを果たしているが水の精霊の巫女、人魚姫としての社交界デビューは今宵執り行えることになり使用人達も皆喜んでいる

その様な特別な夜を皆も共にこの訪れを祝い大いに楽しんで欲しい」

そう紹介してパーティーは始まったのだが命一人だけ例によって

「みこお姫様じゃないよって言ったのにぃっ!」

そう言って頬を膨らませて抗議を態度で表していると

「それでしたらいっその事本当にお姫様になりませんか?

私達なら貴女達四人を喜んで迎え入れますよ?」

そう王妃に言われその意味が判らずキョトンとして居ると最初のパートナーの十四夜に誘われダンスの和に加わった

因みに国王は観月、命、チサの順に踊り席に着き

十四夜は命、チサ、観月

十六夜がチサ、観月、命

帆風がユイ、ユウ、ユカで四人目にチサと踊り十六夜がユイの手を取ると

「この夜だけでなくこの先の人生のパートナーになって欲しいって考えてる

愛してるよ…ユイ」

と突然のプロポーズに赤面するユイと十六夜の思いに気付いていた十四夜は十六夜の背中を叩きながら

「ようやくコクったかっ!」

そう言って我が事の様に歓び王妃は

「今日はなんと嬉しい事が続く日でしょう、勿論私は大賛成ですよ」

そう言ってユイに受け入れを急かしたから国王が

「これ、その様に返事を急かさずとも…」

との国王の言葉に

「貴方は反対だと仰るのですか?」

そう言って妻に睨み付けられ

「いや、そう言う問題ではなく十六夜も先ずは交際を申し込むところから始めるべきではないかと…」

しどろもどろに答える国王だったがその二人の様子を見た人々は既にこの話が正式発表されるのも時間の問題だと感じていた

人々の視線が当事者の四人に集中してる隙を狙って命がバルコニーにエスケープを目論むも鬼百合にむんずと首根っこを掴まれ

「あのなみこ、もう少しで良いから場の空気読め

今のこの場の雰囲気を壊すような真似はすんじゃねぇよ…」

呆れ声で命に言い

「楽士さん演奏止まってるぞ?水の精霊の巫女様はここに居る

次のパートナーの者は迎えに来てやってくれっ!」

鬼百合がそう叫ぶと慌て演奏を再開する楽士達と

「はい、私がパートナーの栄誉を賜った者です」

そう言って鬼百合の元に来た青年は育ちが良く人当たりは良さそうだが線の細い頼りなさそうに見えた

「巫女様との一時をダンスのパートナーを勤めるのも良いのですがテラスで冷たい飲物を飲みながらお話ししませんか?」

その会話を聞いていた鬼百合が

「待ってろ」

そう言って食事を終えたミナを呼び寄せると

「二人はテラス席で飲みながら会話を楽しむそうだから欲しい物を聞いて運んでやってくれ」

そう言って二人に頭を下げると鬼百合は自らバーに向かいブランデーのストレートを頼むと軽く煽り会場の様子を見回した

 

「みこはこの前飲んだ綺麗な色のジュース」

「私はシャンパンをお願いします」

そう聞いて

「承知しました、お席にお持ちしますからお座りになってお待ちください」

そう言ってバーに向かうミナとテラスに向かう青年だった

暫くして飲物を用意して貰ったミナが二人に届け命の後ろに控えるとシャンパンを一口呑んだ青年がまず最初に

「先程騎士殿に担がれていたとき身体を丸めていたのは何故ですか?」

その様子を一目見て気になっていたこと聞くと

「あーユー時に身体を丸めないと賢い子に見えないぞって鬼百合にゆわれたからだよ?」

ストローを口から出しそう答える命を見ながら

鬼百合…先程の騎士殿の事か…しかしそれでは巫女様の事はまるで猫扱いだな?

そう思い内心苦笑いをしながら

「巫女様は…」

そう言って不機嫌そうな顔付きの命に気付きどうしたのだろうかと考えていると

「貴方が巫女様と様を付けているからですが…

命様、このお方は水の精霊の巫女の意味で巫女様とお呼びしてるご様子ですから仕方無いと思いますよ?」

そう言われ自分の方を見て

「そうなの?みこ、命様や人魚姫様と呼ばれるのあんまし好きく無いから…やだなって思って…ごめんなさい」

そう言って頭を下げる命の様子を可愛らしいと感じその後は命についての色々な話を聞いた

「いつもしてるのはお勉強とお歌のお稽古

お勉強は難しくて退屈だから嫌い、お歌のお稽古は楽しいから好き

大好きなのまこちゃんと翼ちゃんとチサちゃん…皆みこの大切な家族

甘えさせてくれるミナ、初めてのお友達のりんちゃんも好き

ユカさんも好きだし観月ちゃまやユウさん、鬼百合達も皆好きだし大公様やむーにいちゃまとキーにちゃまもすき」

そう笑顔で聞きながら

(むーにいちゃまとキーにちゃまもすき?あー公子の睦月と如月の事だな?)

と考えながら次の言葉を待っていると

「お舟の旅って楽しいんだね…お魚釣りもちょっと退屈だけど面白いしそれにね…マストに座って身体に風を受けてるととっても気持ち良かったんだっ♪」

と言うのを聞いて

「それならば近いうちに私の祖国も遊びに来て頂けませんか?」

と、誘われて

「みこ貴方のお国何処に有るのか知らないってユーか大公様のお家と王様のお家しか知らないんだよ、みこおバカだから…それにみこ一人じゃご飯も食べれないしお着替えも出来ないから観月ちゃまのお許しが居るんだよ」

そう言われてやはり精霊の巫女の交渉窓口は観月なのだと理解し納得もした

そして次のパートナーの帆風が迎えに来てホールに向かう命の後ろ姿を見送った

やがて命達の退場時間も迫り一休みもかねて楽士達の前に胡座をかいて座る鬼百合

そしてそのその足の上に座って演奏を聞く命に気付いたハープに奏者が舞台袖の裏方に声を掛けその者が

「ハープを奏でている者がお渡しして欲しいと言ってます」

そう言って古びた竪琴を命に手渡し舞台袖に下がると楽士達の休憩になりハープの奏者が命に近寄り

「命様は楽器の経験は?」

笑いながら命に聞くと

「次から命様ってゆったらお返事しないよ?楽器は触った事無いし見たのだって未だ二回目だよ…」

命の最初の言葉を聞いて嬉しそうに

「ならみこちゃん…とお呼びしても良いのですか?」

その言葉が余程嬉しかったのか満面の笑顔で

「うん、それが良いっ♪」

と答えると

「分かりました、みこちゃん…宜しければその子を貰って頂けませんか?

私の愛用していたお古ですが手に馴染みやすく扱いやすい初心者向けなんです」

そう言われ思うままに奏でて見ると全く分からないにも関わらず右手が勝手に旋律に乗って躍っていた

楽士達の小休憩が終わり再び演奏が再開されると命もそのまま演奏に合わせ竪琴を奏でる命

その命を見て

(やはり私の勘に狂いはなかった)

そう思って微笑む奏者だった

勿論今宵の夜会二部のクライマックスを盛り上げるのに一役買ったのは間違いなく

「今度はもっとお稽古してお上手になってるね、じゃあみことチサちゃんはお部屋に戻って寝るからお休みなさい」

そう告げる言葉はしっかりしていたけど眠気に負けそうで足取りは覚束無い命を阿が抱上げるとさすがに引き留めるものはなく

抱き上げられて安心したのか既に頭を阿の肩に預けうとうとし始めていたが会場の人達の優しい笑顔で退場を見送られた命とチサ二人に付き従うりんだった

それでも部屋に戻るのが精一杯なのはチサの目にも明らかで言われ通りに何とか着替え終えるとベッドに倒れ込む様に眠りについた

阿は命の着替えさせるミナの手伝いをしその後りんを布団の中に寝かせ直す

そしてそれらが終わるとチサの手により命の霊玉を埋め込まれると蒼い結界に包み込まれた

翌朝早く命達の部屋を覗き二人が寝ているのを確認し

船での着替えた服を洗濯して戻ると命の姿がなくおろおろするミナに気付いて目を覚ましたチサが

「ミナさんどうしたんですか?」

そう訪ねられ

「お恥ずかしい話ですが私が洗濯で席を外してる間に間に命様の姿が見えなくなりまして…」

そう申し訳無さ一杯に言うミナに

「大丈夫ですよ?お城の裏の方がざわついてますから多分みこちゃんがそこに居るはず…迎えに行きましょう」

そう言われても生きた心地のしないミナは顔面蒼白でチサの目からも痛々しかった

(みこちゃん…観月様から注意して貰った方が良いみたい)

そう考えながらミナを案内する事にしたチサだった

 

時は少し遡りミナが洗濯物を持って部屋を出たそのすぐ後に目を覚ました命はいつもの寝起きの悪さが嘘みたいにスッキリした表情で夕べ貰った竪琴を手に取り満面の笑みを浮かべると…

本当は今すぐにでも弾いてみたいけど我慢して部屋を出ると寝ている者の迷惑にならない場所を探してさ迷い出たのは良い…




一話抜けてました…


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風が吹く③

人魚姫は甘えん坊で今日もお気に入りの侍女に甘えてます


良いのだけどはっきり言って今自分の居る場所すら把握できない命がそもそも何処に何が在るかすらわかってもいないのだ

すっかり道に迷ってキョロキョロ辺りを見回している命を見掛けた侍女の一人が

「巫女様、供の者を連れずお一人で一体どうかなさいましたか?」

そう声を掛けると

「昨日貰った竪琴とお歌のお稽古したいんだけどお歌歌ってても良い場所教えて欲しいの…お姉ちゃん」

そう言われビックリしながらも城の北に在る池の畔の東屋まで案内すると

「有り難う、お姉ちゃん…良かったら今度暇な時にみこのお歌聞いてね?」

笑顔で言われたその侍女は真っ赤になりながら

「巫女様のお役に立てて私の方こそ嬉しいです」

そう言って頭を下げ

「私はこれで失礼しますがここに巫女様がいらっしゃると観月様にお伝えしますね」

そう言ってその場を後にした

その侍女と結界から出て身体を慣らしているいる阿と遭遇し慌ている気配を感じ

「巫女様がこの先の入り口から見える東屋でお歌のお稽古をしていると観月様にお知らせに行こうと思いまして」

そう言われ

「ならみこには阿が付いてるからご心配なくと伝えて欲しい」

そう言って命の方に大股で歩いて行く後ろ姿にみとれていたけど我に反り観月達の部屋へと急いだ

その侍女と青ざめた表情のミナが鉢合わせし焦るミナを見て内心せせら笑い

(美月のスタッフと言っても大したこと無いな)

と思っているところにチサが

「すいません、みこちゃんは今何処に居るかご存知ではありませんか?」

そうきかれて見詰められた侍女は

「このまま真っ直ぐ行くと扉が有りますからその扉から外に出ますと右手に見える東屋にいらっしゃいます

先程騎士の阿様にそうお話ししましたら公女の観月様に阿が一緒に居ますからご安心下、そう伝えて欲しいと仰せつかり観月様達の所に向かうところです」

そう聞いてほーっと息を吐き出すミナに

「だからみこちゃんの事なら大丈夫と言ったんですよ?ミナさん…」

そう言われてさえ尚

 

そう伝えて欲しいと仰せつかり観月様達の所に向かうところです」

そう聞いてほーっと息を吐き出すミナに

「ですが…」

そう言って口をつぐむミナを見てふんっ…と鼻を鳴らすと

「私は観月様に巫女様と阿様の事をご報告に上がりますから(後は御勝手に)…」

そう言って立ち去る侍女を見送ったそチサはその時はそれが相手の心の声と気付かなかったけど徐々にその秘めたる力の目覚める時は近付いていた

チサとミナが東屋に近付くと命は既に東屋を離れすぐ側で池に脚を…いや、脚ではなく人魚化した下半身を水面にたらし尾ひれだけがゆらゆらと揺れていた

その周りを何人かの侍女達が見守っていたけれど命自身は気付いてないのか全く気にする様子はなく歌続けていて

「良い場所教えて貰ったんだね?みこちゃん…」

そう言われて近付いてくる二人に気付いた命が歌いながら笑顔を二人に向けると

「ミナさん…今朝はここでお茶にしてはどうかって思いますけど?」

命に声を掛けてからミナにそう話し掛けている二人の後ろから

「みこがこちらで歌の稽古をしていると報告を受けましたからユウとユカに仕度をさせてますので今暫く待ちなさい」

観月にそう言われて頷くと命の歌を聞くことしたミナとチサを見ながら

「貴女達はいつまでそうしているつもりなんですか?いい加減仕事に戻りなさい」

そう叱責を受け観月の背後に控えて居た侍女も慌てて戻ろうとするのを

「貴女は構いません、みこをこちらに案内してくれた礼に朝のお茶に招待します

勿論私が招待したのですから伯母様には私から話しますからサボってる等と心配しなくて良いですよ?ですが…」

そう言って歌の稽古に区切りをつけミナに脚を拭いて貰っている命に

「みこ、このお姉さんは優しかったですか?」

と声を掛けると

「うん、どこでお稽古したら良いかわからなくて困ってたみことお手て繋いで連れてきてくれたんだ、ありがとねお姉ちゃん」

そう言って笑顔で答えると

「みこちゃんおはよーっ♪」

りんの明るい声が響いてお茶を持ってきたユウとユカがその後についてきたのを見て

「ミナ、今朝のお茶の支度は貴女に任せますよ」

そう指示を与え

「貴女、名前は?」

その突然の問いかけに慌てて

「マ、マイと申します」

吃りながら答えると

「マイ…ですね、わかかりました…折り入って貴女に頼みたい事がありますが宜しいですか?」

その思いもよらない成り行きに緊張して

「私に出来ることならなんでも仰ってください」

との答えを聞いて

「現在命に付いている侍女は大公家の侍女のミナと見習いとして奉公に上がったばかりのりんの二人に任せてますが…

当然の事ながら共に城内に明るくないばかりかりんに至っては未々自身が勉強を始めたばかりですから…

マイ、貴女に二人を助け共にみこの世話をしてもらいたいのです」

と驚くべき申し出を請け

「私の様な者で宜しければ…」

震える声で答えると

「マイさん、共に命様の為に頑張りましょう」

裏表を全く感じない笑顔で言うミナに

「宜しくお願いします」

と頭を下げるりんと

「宜しく頼む」

と全く表情を変えることなく言う阿にそう言われ

「宜しくお願いします」

とミナにライバル心剥き出しで挨拶するとミナの用意したお茶を呑み驚いていたら

「この茶葉ならもう少し温くした方が良いですね」

とダメ出しされるのを聞いて自分達が淹れるお茶よりずっと美味しいのに…

ミナに対する見る目が代わってもう一度

「宜しくお願いします、ミナさん」

そう呟いた

「ではマイ、貴女の事は朝食の時伯母様にお願いしますから今から命に付いて貰います」

そう言ってユカを見る観月の視線には

「ミナ同様にマイも頼みますよ」

そう言っているのを理解し小さく頷くユカだった

そうして朝食の席でマイを借り受けたい旨を王妃に伝えマイには

「命の午睡の時間に必要な荷物を私達の部屋に持って来なさい

その方が命を見て貰う上で都合は良いですからね」

そう言われ命とチサとりんが午前の勉強の間その様子を見守るマイ

命の為のドレスのデザインを考えてるユウとユカに頼まれた針仕事をこなすミナとそれぞれのすべき事をして過ごした

そうして昼食後に鬼百合に頼まれていた彼女の四肢に霊玉と勾玉を埋め込むと脚は大きな結界に包み込まれ腕は中くらいの結界が四個小さな結界が二個に更に小さな結界が十個に別れ鬼百合も又結界に包まれた

食事の後午睡の命とそれを見守るマイとダンスのレッスンのチサ

礼儀作法のお稽古のりんとそれぞれのすべき事に別れユウが指導する

命の為の服のデザインを考えながら制作中の服の作業を急ぐユカとユカの指示を受けながら引き続き針仕事をこなすミナ

命の午睡が終わる頃には武具にその姿を変えた鬼百合の四肢

左足はアクエリアスの霊気を纏った戦斧で右足は黒い魔力を放つ鉈で共に柳水が所持

左腕は二本の青竜刀になり瑞穂が持つことに

右腕は小太刀二本は斬刃が

左手アクエリアスの霊気を纏ったバックラーで右手は黒い魔力放つハンドボーガンとなり二人で分け合い残りは十本の投げナイフとクナイとなりモリオンが管理することになった

その日の仕事を終えるとミナはその確かな針仕事の腕前を認められユカの助手として美月への移籍を進めると発表した

食事が始まり暫くして目覚めた鬼百合は二人に別れており互いの鬼百合は白黒の同じ型の胸当てを身に纏っていた

さすがの命も鬼百合が二人になるなどという予想外の事態ではあるけど

「夜ご飯は鬼百合の分が沢山要るから用意したげてね」

そう言われていたからたっぷり用意してある

また、命達が乗ってきた船の幹部達も招かれ彼らもそれに立ち会っていたので観月に

「帆風、お父様と今あちらで私に代わり美月の指揮を取っているユマに渡して欲しい書簡を預けますが宜しいですか?」

と聞くと

「聞かれるまでもなく任せるとそう言ってくれれば良い」

そう笑顔で答える帆風でそして提督には

「申し訳有りませんが帰還後間を置かず再びこちらに戻って頂くことになりますから宜しくお願いします」

その観月の要請には

「観月様やみこちゃんとチサちゃんに会えると皆喜んで来ますからその心配には及びません」

と答えると帆風も

「鬼百合殿と阿殿を姐さんと呼んで慕ってる奴も結構居ますからねっ♪」

と帆風に楽しそうに言われて

「アタイも共に酒を酌み交わして楽しい酒を呑める奴等を気に入ってるから又一緒に呑みたいもんだぜっ♪」

そう笑って言うと

「出航迄にはその機会を設けましょう」

と提督が請け合った

食事もあらかた終わり命の歌が始まり手の空いてる者も聴くことが許され集まってきた

そんな夜を五日過ごして一区切りがついたので

「みこ、チサにりん…明日明後日は貴女ん達のお勉強はお休みにしますがどうしますか?」

そう聞かれた命は

「りんちゃんのお家に遊びに行きたい」

観月の問い掛けにそう答えたけどりんは

「家に行っても二人とも漁に行ってるから誰も居ないよ?お父さんは仕掛けた網を引き揚げる日なら遅いかも知れないけど…」

そう言われてがっかりする命を見ながら

「チサはどうしますか?」

観月にそう言われて

「私はみこちゃんと過ごせれば何処でも良いですからみこちゃんの希望が叶えば良いです」

と、答えたので

「では馬車を用意しますから…鬼百合はどうしますか?」

そう聞かれた鬼百合は

「アタイは運良くりんの親父に会えたら漁についていきたいぜ」

そう鬼百合の答えるのを聞いたりんが

「ならみこちゃんは私達がいつもお母さん達が漁に出てる間過ごしてる岬に行く?」

そう提案されて勢い良く頭を上げると

「行く行くっ…りんちゃんそこに連れてってねっ♪」

そう言って喜んで答える命を見ながら

「そう言う事なら提督、明日非番の奴等を誘って俺達も同行しても良いですか?

りんが言う場所は俺達の間じゃ大物が期待できるって有名なポイントなんで皆喜んで行きますからねっ♪

勿論鬼百合殿は漁が終わったらみこと合流するのでしょ?ならば共に一杯やりながら釣糸を垂れませんか?」

と言われ

「そうだな、それなら運悪くりんの親父達に会えなくても楽しい時間が過ごせそうだぜっ♪、お前達はどうするんだ?」

そう聞かれて

「私達はお前ほど酒好きではないが命の行くところなら同行するだけだ」

と答えると頷く七人と嬉しそうに

「私達が美味しいお弁当を用意いたしますっ♪」

ユウも嬉しそうな声でいうと

「勿論ミナとマイの二人も手伝ってくれますね?」

そうユカに言われて

「勿論喜んで」

と、マイとミナが答えると

「私とりんちゃんにもお手伝いさせて下さい」

そう言ってチサが訴えると

「二人も宜しく頼みますね」

と言われて喜ぶ二人だったがやはり花の娘だけが

―その獣か私のどちらかを選べ、もう辛抱ならんゆえ其奴か私のどちらか…イヤ、私を解放しろ私が人界に留まる理由はない―

そう訴えだけれども誰にも相手にしてもらえず不貞腐れて終わりだった

明けて翌朝…命の馬車の同乗者はチサ、ミナ、マイ、ユイ、ユカ、阿、瑞穂、白檀、白蓮と馭者の隣に案内役としてりんが座り

後続の馬車にユウ、鬼百合、柳水、斬刃、モリオンが乗り帆風と二人の部下も誘われ同乗した

予定通りりんの家の前で馬車を止めると網の引き揚げに向かうりんの父親に会い

「なぁあんた、網の引き揚げに行くんならついていって良いか?」

そう言われて

「来るのはかってだがタダ働きになるんだぞ?」

そう言われて笑いながら

「漁の後の一杯を呑ませて貰えりゃ良いんだぜ?つかみこの友達の親父から金なんか貰うつもりなんかねぇんだからよっ♪

柳水もついてきな、帆風…あんたらはどうするよ?」

そう誘われ「勿論お供しますよ、姐さんっ♪」

帆風の部活達が嬉しそうに

そう答えりんの父親に同行し馬車は引き続きりんの案内で岬に向かった

岬には直接こちらに来ていた乗組員達が思い思いの場所で一杯やりながら釣糸を垂れていた

命は馬車が止まると一目散に水際に走りいつもの緩慢な動きからは想像つかない手早さで服を脱ぎ捨てると沖に向かって泳ぎ始めた

後に残ったチサとりんだけどそのりんに向かいユカが

「りん、チサとミナは初めての海ですから二人に磯遊びの楽しさを教えてあげなさい」

そう言われ潮溜まりに二人を案内するりんに色々教えて貰いながらはしゃぐ三人のを遠巻きに眺めていた同行者達

見知らぬ馬車が現れ警戒していた子供達が三人の様子を伺っているとその中の一人がりんに気付いて

「留美菜っ!りんがっ …りんが居ひさしぶりに来てるよぉーっ!」

と語気を強める少女に留美菜と呼ばれた少女が料理の手を止め様子を見に来て

「本当…りんが帰ってきた…じゃああの人達はもしかして…」

そう呟いて身を乗り出すと

「りーん、帰ってきたのぉーっ!」

留美菜がそう叫ぶと

「今日はお勉強お休みだからみこちゃん達と遊びにきたのぉーっ!」

りんもそう叫び返すと隠れて様子を見ていた子供達が潮溜まりに居るりんの周りに集まり始め…そして三人を見ながら留美菜がりんに

「人魚姫様はいらっしゃらないの?」

そう聞くと

「みこちゃんならさっき沖の方に泳いでいったから多分お母さん達の漁場に行ったんだと思います」

と答えるりんに別の子が

「この二人は?」

そう聞かれたりんは

「チサ様はみこちゃんの家族でミナ様は美月のスタッフで私が一杯お世話になっている方達だよ」

そう言われたけど美月のスタッフになったばかりのミナは知名度は低くチサも自身命の影に隠れているのが現状のため一般市民には殆ど情報が流れてないために子供達の反応は薄かったがそれでもりんは皆を見回して

「皆にお願いが有るんだけどチサ様とミナ様は海に遊びに来るの初めてで海の事を余り知らないから皆も一緒に色々教えてあげてよ?」

と、りんが説明するとチサが

「私、山奥の生まれだからこちらに来る船に乗るまで海って見たことがありませんでしたから…」

と言うとミナも

「私も同じと言うか外で遊ぶなんて経験が殆ど経験ありませんでしたから…知らないのは海の事だけじゃないんですよ…」

と言うと一人の男の子が岩を動かし何かを摘まむと

「カニ…」

そう言って二人の前に差し出すと

「カニ、生きてるの始めてみたけど随分小さいんですね?」

ミナが感心しながら言うのを聞いた男の子が

「お姉さんは大きいのしか食べた事がないの?」

と、聞かれたミナが首を横に降り

「お仕事で運んだ事が有るだけで食べたことはありません」

と、答えるミナに

「美食家として有名な大公様のお屋敷で出される料理なら物凄いご馳走なんでしょうね…」

そう言って溜め息を吐き

「りん、良かったら久し振りに皆と一緒に食べてく?お鍋」

そうりんに声を掛けると

「味噌の良い香りがしますね…どうやら自家製のお味噌の様ですね…宜しかったら私達も頂いていいですか?

私達も一応お弁当を用意してますからそれも皆で分け合って食べましょう」

そうユイが問い掛けるとりんも

「私も色々と教わりながらお手伝いしたんだよっ♪」

と、得意気に話すと

「わ、私達が食べる小魚のごった煮なんか美月のスタッフの皆さんのお口に合う訳無いですよ?」

そう留美菜が言うと

「そんな事はありませんよ?私達に限らず大公家にお仕えする者達の中には漁師の子は少なく有りませんから」

ユカがそう答えるとミナは

「逆に山奥の生まれの私は新鮮な魚がこんなに沢山入った鍋は初めて見るご馳走なんですよ?」

と言うとチサも

「私もミナさんと同じてすよ?でもまだお昼にはまだ早いからこの潮溜まりの事もっと教えてください」

そう呼び掛けると

「うん、一杯教えたげるね」

そう言って皆仲良く遊び始めた

 

 

見知らぬ命の接近に気づいた海女の一人が怒り顔で

「アンタ、初めて見る顔だね?今日この海域はアタシ等の漁場を知らぬとは言わせない

この落とし前、どう着けるんだい?」

そう言われたけど言われてる事をさっぱり理解できない命は

「知らないよ、みこ…りんちゃんのお母さんに会いに来ただけだもんっ♪」

そう笑って答えると

「りんちゃんのお母さん?」

そう呟くと当のりんの母親が命に気付いて

「に、人魚姫様、一体全体こんなとこまで何しにお出でになったのですか?」

りんの母親が驚いてそう声を掛けると

「人魚姫…様?」

そう呟いた海女が改めて目の前の少女の顔を見ると噂に聞いたコバルトブルーの髪とダークブルーの瞳

そして水の中に見えるのは人の脚ではなく人魚の下半身だったのだから

「人魚…姫、様…」

そう呟いて自分の無礼な振る舞いに怯える海女に向かい

「もお、何でわかってくれないのかなぁ~っ…みこはお姫様なんかじゃ~ないんだからねっ!」

と頬を膨らませ抗議しその後にりんの母親に向かって

「これを取ってきたら良いの?みこお手伝いしたいけど良いですか?」

そう言って海女達が捕ってきた魚介類を入れている桶を指差しながら聞かれて溜め息を吐き

「私がお教えしますからお手伝いお願いしますね…」

そう言って潜り始めると命もその後について潜り実物を見せながら取って良いもの悪いものを教えながら獲物を探した

命が潜り始めるとそれまでは見掛けなかった大型の海老やタコ、気付けなかった貝などがごろごろ見つかりあっという間に一日の限界漁獲量に達して漁の時間は未々有るもののこれ以上取ってはいけないのだからと切り上げるごとになり

「私達迄手伝って頂いて宜しかったんですか?」

そう聞く海女達に

「何にも知らないみこに一杯一杯教えてくれてありがとございました

みこ、又お手伝いに来ても良いですか?」

と逆に言われて

「みこちゃんにはお礼に後から良い物を差しあげますがまずは取り敢えずこれらをどうぞ…」

そう言って渡した魚籠には程々のサイズの牡蛎が入っており

「皆様と召し上がってください、又後程お会いしましょう」

そう言って漁港に近い方の岸から上がると市場に向かっていった

 

「あっ、人魚姫様だっ!」

岸に向かって泳いでくる命に気付いた目の良い男の子が叫ぶと皆で一斉に手を振って命を出迎えた

その騒ぎに気付いた近くでスケッチしていた画家達が集まり各々に命のスケッチを始めた

潮溜まりに来た命が仲間に入るとますます大ハシャギの子供達

山に入り香草や木の実、草の実を集めてきた留美菜達の母親達が帰って鍋の魚が溢れ反らんばかりになっているのに未々魚を捌いているのを見て

「留美菜、この魚達は一体…」

と恐る恐る聞くと

「あのお兄さん達が魚を提供するから俺達も鍋食べさせてよって言ってくれて余りにもの小さいのは逃がして刺身がとれるサイズは刺身に

それ以外の魚は鍋に入れてるの」

と説明したけど魚を捌いている者の顔を見て思考が停止した

その母の様子に気付いた留美菜は

「母さん、潮溜まりを見て…もっと驚く方がいらっしゃるのだからねっ♪」

そう言われ潮溜まりに視線を移すと確かに驚くべき人物が居た…漁の時間は未々有るもののこれ以上取ってはいけないのだから切り上げるごとになり

「私達迄手伝って頂いて宜しかったんでしょうか?」

と申し訳無さそうに聞いてくる海女達に向かって

「何にも知らないみこに一杯一杯教えてくれてありがとございました

みこ、又お手伝いに来ても良い?」

と逆に言われて

「みこちゃんにはお礼に後から良いものをあげますね

でも取り敢えずこれをどうぞ…」

そう言って渡した魚籠には程々のサイズの牡蛎が入っており

「皆様と召し上がってください、又後程お会いしましょう」

と言って漁港に近い方の岸から上がると市場に向かっていった

「あっ、人魚姫様だっ!」

岸に向かって泳いでくる命に気付いた男の子が叫ぶと皆で一斉に手を振って命を出迎えた

その騒ぎに気付いた近くでスケッチしていた画家達が集まり命のスケッチを始めた

潮溜まりに来た命が仲間に入るとますます大ハシャギの子供達

山に入り香草や木の実、草の実を集めてきた留美菜達の母親達が帰って鍋の魚が溢れ反らんばかりになっているのに未々魚を捌いているのを見て

「留美菜、この魚達は一体…」

と恐る恐る聞くと

「あのお兄さん達が魚提供するから俺達も鍋食べさせてよって言ってくれてね

余りにもの小さいのは逃がして刺身がとれるサイズは刺身に

それ以外の魚は鍋に入れてるの」

と説明したけど魚を捌いている者の顔を見て思考が停止した

その母の様子に気付いた留美菜は

「母さん、潮溜まりを見て…もっと驚く方がいらっしゃるのだからね」

そう言われ潮溜まりに視線を移すと確かに驚くべき人物が確かに居た

 

「頭、なんか今日の網はやけに重いっすね?期待しちゃうだけの手応えっすね」

そう言われた船頭のりんの父親は

「いい加減たまにゃ大漁旗を上げて帰りたいから吉兆だと良いがな?」

そう答えるとずっしりとした手応えに相応しく網の中の魚達が窮屈そうに見えるくらい詰まっていた

しかもパッと見でも分かるくらいに高級魚がかなり混ざっている

漁師達が大喜びで生け簀に入れていると鬼百合と柳水は僅かに感じる船への衝撃に悪い予感が…

「鬼百合、どうやら悪い予感は当たってしまった様だ…

クラーケンが漁師達の獲物を横取りに来た」

柳水が言うクラーケンは勿論妖魅の類いではなく大王イカでも漁船を襲って漁獲の魚を奪う者を指しているのだが…

「出会しちまったもんはしょうがねぇ…

それに逆にこいつ仕留めりゃそれなりの小遣いなるんだから一石二鳥ってもんだぜ?

お前達は漁師達を守れ、アイツはアタイらが仕留めるからよ…行くぜ柳水っ!」

そう言っていつのまにか呼び出した円月刀達を構えた鬼百合がクラーケンに飛び掛かりいつの間にか呼び出した青海の銛を構えた柳水がクラーケンを睨み付けていた

勿論容易く倒せる相手ではなく鬼百合と柳水の二人をもってしてもそれなりに手を焼いたが所詮は魔物ではない普通の生物に過ぎないクラーケンの敵う相手ではない

結局二人に打ち倒されたクラーケンのその身体は船に曳航され出荷されることになった

そのクラーケンが引き揚げられ競りに掛けられると市場は大騒ぎとなり

単価的には中の上位でもその量は半端なく単品は勿論これひとつで最近不漁続きの漁師が多い市場では船数隻分売り上げに匹敵する

 



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風が吹く④

人魚姫がやって来た…大はしゃぎの人魚姫と海兵隊の隊員達の騒ぎに収集は着くのか?


そしてその他の魚も他の船の漁師が溜め息を吐くような高級魚が次々に競りに出されていき本日の漁獲高一位を獲得

漁港組合からの金一封が与えられる事になり予定外の臨時収入にホクホク顔の漁師達と共に網元と市場から金一封を与えられその金を握り漁港に隣接する市場に向かうことにした

勿論予定外の臨時ボーナスなのだから漁師達は妻子や恋人に贈る珊瑚や真珠の装飾品を市場で買い求めたので鬼百合と柳水もそれに倣い命や観月達への贈り物にしようと装飾品を見ていると

 

「姐さん方、人魚姫様達への贈り物なら俺達も一口のせてくださいよ?」

「俺達小遣い欲しくて手伝った訳じゃ無いですからねっ♪」

二人が苦笑いを浮かべてそう言うと

「だからと言って返すのもそれはそれで変な話しになるからそれならってとこか?」

鬼百合も笑ってそう返すと

「人魚姫様やチサちゃんと共に過ごした船旅は幸せでしたからね、美月のお嬢様方の料理も旨かったし…だから遠慮なく使ってやってくださいよっ♪」

そう二人に言われて

「あぁ、了解したぜっ♪良いもの見付けて買い物をさっさと済ませて共に酒を酌み交わそうじゃねえかっ!」

そう言って買い物を続けた四人だった

 

ただでさえ大豊漁なのにクラーケンの代わりには余つかり値の付かない魚ではどれ程渡せば良いのか検討もつかず悩んでいる網元に鬼百合の希望で引き取り干物や塩漬けにしてもらう事になった

勿論、それでも尚明らかにその対価の釣り合わなさは漁師達も気になって仕方無いが網元の一言が漁師達の気持ちを切り替えた

「リンが命様のお側近くでお仕えしているならば自ずとあの方との縁も切れる事は無いんだから焦る必要はない」

そう言われてやっと皆も納得し

「じゃあ酒を仕入れて岬に行くか、漁の後の一杯を楽しみにしとったからな

あれこれうだうだ言っとらんで姐さんと共に酒を楽しめば良いと思うがな?」

そう言って漁港に隣接する市場に買い物に行く事となり酒が強そうな鬼百合のためにもう少し買い足すことにした

 

「みこ、貴女もそろそろ水から上がって食事にしなさい」

瑞穂がバスタオルを手にそう声を掛けると頷いて両手を挙げるのを見たミナが瑞穂から受け取ると命の身体に巻き付け

「瑞穂様、宜しくお願いします」

そう言われて抱上げる命の身体は相変わらず軽く

「命様、今日くらいはしっかりお食事をしっかり摂りなさい」

と、思わず言ってしまうほどなのだがその瑞穂の心遣いがわからない命は

「そだね、今日は思いきり泳いだからいつもよりは食べられるかもねっ♪」

と、無責任に答えるのでそれを聞いた者達に溜め息を吐かせた

命が水から上がるのを見たチサは阿に

「これみこちゃんから鬼百合さん達に渡して欲しいって…」

そう言われ受け取ったのは命がりんの母から預かった魚籠で形の歪んだ牡蠣が入っており

「わかった、鬼百合に渡しておく…チサ達もそろそろ上がりなさい」

そう言って預かった魚籠をユウに預けに向かった

濡れた身体を拭いてもらい来るときとは異なる…命お気に入りの海兵隊の制服命バージョン着て現れたので見ていた人々を驚かせた

猫舌の命に渡された鍋は命用の椀にあらかじめユカの指示で冷ましておいた物で事情を知らぬ者達は驚いたが従者達が皆揃って

「命様は猫舌なので…」

 

 

 

 

 

と、苦笑いで答えたのでそうなのかと半信半疑ではあるけど納得したのだがまぁ嘘でないのですぐにその事実を目の当たりにするのだけど…

やがて出荷を終えたりんの母親達が戻ってきて浜の状態を見て驚いたが

「みこちゃん、今日はお手伝い有難う…これは私達からのお礼です」

そう言って渡されたのは真新しい魚籠と専用の桶にかきばりで受け取った命が大喜びして

「みこもおばさん達と一緒だね?」

と、嬉しそうに聞くとりんの母親も

「みこちゃんの参加をいつでも歓迎しますからね」

そう言うと他の海女達も笑顔で頷いた

そうこうする内に漁を終えた漁師達が売れない魚を持って来ると歓喜の声を上げて子供達が出迎え従者達が微笑ましく見守る中命だけはその光景を呆然と見ていた

命には理解できない…馴染みのないその光景を不思議そうにぼんやりと眺めていた

「鬼百合、お前に渡してくれとみこから預かった物だ…」

そう言ってむき身になった牡蠣が入ったボールと酒の入ったコップを渡すと

「おう済まねえな」

そう言って牡蠣をひとつ摘まんで酒をあおるとチサやりんから酒を受け取った柳水と鬼百合に同行した海兵隊の男達に

「せっかくのみこの気持ちだ…旨いからお前達も有り難く頂いときな…で、みこはこれをどうしたんだ?」

と、阿に聞くと

「りんの母親達の漁を手伝ったご褒美だそうだ」

そう説明された鬼百合は三人を見ると三人も頷いたので

「ユカ、済まんがちょっと来てくれ…」

そう言ってユウを呼び寄せると

「これはみこ、チサ、りんのでこっちは観月、ユイ、ユカとお前ので残りのこのふたつは翼と真琴のだ」

そう言って真珠のブローチを渡すと

「ご心配なく、ユウさん…それは今日手伝った漁が好調でその特別ボーナスを皆で出しあって買っただけですから気にしないでください」

そう言われてはい等と言えるわけもなくそんな躾を受けていないユウは

「観月様のお許しなくその様な物を受け取り訳には参りませんっ!…と、言いたいところですが承知しました…

観月様の方には事後承諾として報告しておきますのでその…有難うございます、命様達にお渡ししてまいりますね」

そう言ってブローチを受け取り配りに行った

それを見送りながら摘まんだ牡蠣に固い歯応えと言うか違和感にその原因らしきものを口から出すと

「ほおっ…大した大きさじゃねえが結構質は良さそうだな?」

鬼百合のその呟きに気付いたユカが

「そうですね、サイズ的には特筆事はありませんが美しいピンクパールですね?」

と、感想を述べると

「済まねえがみこを呼んでくれ…」

と頼むと

「承知しました」

とだけ言って命の元に向かい鬼百合が呼んでると用件を伝えたらしく頷いた命が近付いてきた

「みこよ、お前から貰った牡蠣の中からこんな物が出てきたんだがな…」

そう話し掛けると

「ナニ、鬼百合?」

話し半分で聞いている命は鬼百合に呼ばれた理由がわからずそう聞くと

「あぁお前から貰った牡蠣の中からこれが出てきたからお前に渡そうと思ってな」

と、答えると

「鬼百合が引き当てたんだから鬼百合のだよ」

「アタイにゃ不要だ」

「みこも要らない」

そう言い合ってる命と鬼百合の二人に割って入ったのはユウで

お二人が要らないと仰るのなら命様から王妃様に贈られてみてはいかがでしょうか?きっと喜ばれると思いますよ?

そう言われた命は

「で、でもおーひ様ならもっと「えぇ、確かにみこちゃんが思うように王妃様はもっと高い宝石をいくらでも持っています…」」

命の悲観的な言葉を遮って話し掛けるユウは命を見て

「ですがこの真珠は命様が見付け鬼百合様が引き当てた…私達にとっては特別な物なんです

金額では表せない、お金には変えられないものなんですから王妃様に贈ってあげてください」

「う、うん…わかった…おーひ様、喜んでくれたらいーな…」

心配そうにそう呟く命だった

 

岬に集まった人々が陸に居る命に期待することはただひとつで噂に名高い妖精の歌声を聞いてみたいだった

人々が見守る中その期待に一切気付くこととなく気儘に振る舞う命だけど

思うままに食べ気の向くままに振る舞い楽しい一時を過ごすとミナに向かって右手を伸ばすとその意味を理解したミナは竪琴を差し出すと受け取った命は天女さながらに宙を舞い気に入った木の枝に腰を下ろし

竪琴を掻き鳴らすと歌い始め宴は最高潮に上り詰めた

それまでは海兵隊の隊員達と酒を酌み交わしながら釣りを楽しんでいた鬼百合もいつの間にかその傍らに寄り添う様にして控えているユウに酌をしてもらいながら酒を飲んでいた

竪琴を奏で歌う命の歌声は小鳥のさえずりのようでその姿は妖精のように人々の目に映った

楽しい時間の流れるのは早く頭を揺らし居眠りを始めた命と欠伸が止まらないチサに頭が下がったままのりんの三人の様子を見た鬼百合は

「みこ達も居眠り始めちまってるからそろそろ神輿上げるから帰り支度をはじめてくれ、頼むぞ…ユウ」

そう言われたユウが帰り支度を始めるのをみながら

「見ての通りだからアタイ等はみこを供して帰るがお前らはどうするよ?」

そう鬼百合に問い掛けられた帆風を筆頭に非番の隊員達は

「俺達はりんの親父殿達ともう少し飲んで帰りますよ」

と、笑って返す帆風に鬼百合も

「あぁ、ほどほどにするんだぜ」

そう言って馬車に乗り込むと馭者に声を掛けて王宮に戻ることになった

 

王宮に帰り着いたとき熟睡していた命は瑞穂がチサとりんと一緒に風呂に入れミナとマイは阿の助けを借りてその手伝いをして寝間着を着せ寝室に案内してそのまま寝かせ

チサとりんは服を着た後ダイニングに案内され遅い夕食を取ることとなった

 

「明日の夜美月主催のパーティを開き命のの側付きであるミナとマイの二人を社交界デビューをさせたいと思います

いずれ私の元から巣立ち精霊の巫女として務めを果たさねばならぬみこの側で支える者達には必須のスキルになりましょうからね…

その際大公領海兵隊の高級士官達は王宮に招待し下級士官及び一般兵は兵舎前広場にて彼等を労う宴を執り行いますがその席で公表するおつもりですか?伯母様…」

その観月の言葉に

「何を公表すると言うのかね?」

そう問い掛ける国王に王妃の答えは

「命、真琴の姉妹とチサに翼の四人を養女として迎えたいのです、勿論本人達の同意を得てからの話ですが…貴方はお嫌なのですか?」

逆にそう聞き返された国王は

「未だ見ぬ翼と真琴の二人も会える日が楽しみな娘達なのだろう?」

そうチサや命と同様に二人の後見人でもある観月と二人とも面識のある十六夜に問い掛ける国王に

「勿論みことチサ同様に翼と真琴にも兄さんと呼んでもらっているし可愛い妹達

だから父上と兄上も気に入りますよ、二人とも良い娘なんだからね」

そう言ってもらい

「そう言う訳だから明日のパーティーでは準備を始めたと発表し…観月、手続きを手伝ってくれるのだろう?」

伯父に聞かれた観月は

さんと呼んでもらっているし可愛い妹達

だから父上と兄上も気に入りますよ、二人とも良い娘なんだからね」

そう言ってもらい

「そう言う訳だから明日のパーティーでは準備を始めたと発表し…観月、手続きを手伝ってくれるのだろう?」

伯父に聞かれた観月は

「ユイ、伯母様の元で書類作成などの手伝いなさい

ユイを任せて宜しいですね?伯母様」

そう言って小さく頷くと

「ユイを借りても美月の方は大丈夫ですか?」

と、王妃に聞かれた観月は

「勿論美月の大番頭とも言うべきユイの不在は痛いですがいずれ十六夜が嫁に迎えてくれるのなら避けられない事

ただそれが少し早まるだけですから問題有りませんよ?」

そう笑って答えたので

「成る程、そこまでお前に言わしめる頼もしい娘が嫁に来てくれるのだな?

ならば西の大公家の再興を本格的に進めよう」

と完全に寝惚けている命と事態についていけないチサは置いてきぼりの状態だったけど一人りんだけが

「ミナ様、そうなったらみこちゃんの事を人魚姫様って呼んで良いんですよね?

みこちゃんとチサちゃんは王女様になるんでしょ?」

そう嬉しそうに聞いてくるりんに聞かれたミナも嬉しそうに

「ええ、勿論ですとも…そうなったらもうみこお姫様じゃないもんとは言えなくなりますからね」

そう言って唯一人命を命様と呼ぶのを止めさせられなかったミナが微笑んだ

そのミナの頑固さと言うか芯の強さを観月が気に入ったのもミナの同行者選抜に選んだ理由のひとつ

しかしそうなると今の王宮の状況はかなり心許ないと王妃の懸念を観月が笑い掛けながら

「勿論お手伝いします」

とだけ言って微笑む観月だった

 

 

 

③真琴

 

僕の名は真、治癒の魔法を操り魔剣黒炎竜を媒体に黒魔法を使う魔導剣士まぁ治癒呪文を得意とする僕を皆はパラディンと呼んでるけど今はゆえ有って歌の女神の祭典に出場するため歌の特訓中

で、今隣に居るのは血の繋がらない姉の翼で朝早い港に居るのは僕達の妹のみことチサが観月様達と歌の国の本国に行くのを見送るため来てたけど…

もうみこ達の乗った船もすっかり見えなくなっていた

「ユマさん、僕は大公様のお屋敷に戻り歌のレッスンを始めます」

その真琴の言葉に

「今日のお勉強とレッスンはお休みで翼に付き合いなさいとの観月様からのお言付けですが取り敢えずこの側に有ります礼拝堂で自習できるよう様に手配してありますからこれからそちらに行きましょう」

そう言われた真琴は焦って

「ぼ、僕の歌のレッスンの間皆はどうするんですか?」

と言うと翼は笑いながら

「礼拝堂に隣接する教会が運営する孤児院でお手伝いしますからご心配なく

それに沙霧さんと白浪さんにもお手伝いしてもらいますし…」

そう言ってクスッと笑い沙霧を見ながら

「沙霧さんは英雄扱いで男の子達が喜んで冒険譚を聞きに集まるんですよ?」

そう言われた真琴は

(そうか…全て観月様が仕組んだのか…なら僕が幾ら足掻いても無駄だろうから…)

そう考えて

「わかったよ…ってどうすれば良いかはわからないんだから後は僕がすべき事をちゃんと教えてよ?

でないとどうしたら良いのかさっぱりわからないんだからさっ♪」

とおどけて答える真琴に

「取り敢えず自習の後孤児院で子供達と朝食を摂りその後暫く子供達と触れ合って頂いてから今日の予定の紡さんのお宅に向かいます」

そう言われて溜め息を吐く真琴に

「真琴、未だ社交界デビュー前のお嬢様のお誕生会ですからあまり堅苦しいパーティーじゃないのよ?」

そう言われてもう一度…更に深い溜め息を吐いて

「そうだと良いんだけどね…」

そう力無く呟く真琴だった

 

自習を終えた真琴が孤児院を訪れると子供達の歓声が出迎えを受けその歓声に一瞬たじろいだをものの

「真琴様と翼様はこちらの席にお掛けください」

そう示された席は普段は子供達の世話をしているシスターの席らしい場所で

「僕達がこの…上座に座っても良いんですか?」

そうシスター達に聞くと

「その席ならお二人のお顔が皆によく見えるからですよ?」

最年長者らしき少女にそう言われ席の後ろに立つと確かに食卓に着く子供達の顔が見渡せた…

「真琴、皆に挨拶してあげて」

翼にそう促されて

「僕と妹の命も親の顔はおろか名前すら知らない…何処の生まれかもね

でも、翼とチサと知り合い鬼百合さん達や観月様と出会いこうして歓迎してくれる皆と会えてとても嬉しいし僕とも友達になって欲しい…

そしていつか妹の命も連れてきて命とも友達になって欲しいなってお願いして良いかな?」

真琴がそう言うと真琴に座席を示した少女は

「私達の先輩のユマ様達は血は繋がらなくても家族って言ってますから友達じゃなく家族じゃダメなんですか?」

そう言われて驚いた真琴だったけど

「そうだね、僕とみこも血は繋がらなくても翼とチサを家族って思ってる

いきなりこれだけたくさんの妹や弟が出来てちょっと驚いたけど歌のレッスンや勉強の合間を見て又皆に会いに来るよ」

そう答えるとシスターが

「話しは綺麗に纏まりましたから皆で朝の食事を頂きましょう」

真琴にとっては子供達の笑い声が響く食卓は初めての経験だけどとても楽しかった

片時も離れる事の無かった"みこは僕が守る"の思いは身近に居ないことも手伝って忘れる程で

「年相応の笑顔ですね?」

真琴の笑顔を見ながら隣に座る沙霧に話し掛けるユマの顔も嬉しそうに綻んでいた

食事が終わりデザートにユマが焼き翼や年長の少女達がデコレーションを手伝ったケーキが出され一人の少女が名前を呼ばれると翼と真琴の間に立たせ

「今日真琴に来て貰ったのはこの子かなって言いますけどそのかなの六才の誕生日に唄ってあげて欲しいの

「まだここに来て日が浅いこの子……

で、もうすぐ誕生日だと聞いてそのパーティーでなんとか元気付けたいと思って話を聞いてみたら真琴様に会いたいって…」

そう言って少女を心配そうに見る翼に真琴は

「成る程、そーゆー訳だったんだ…了解、僕の歌でよければ喜んで歌わせてもらうよ」

そう言ってシスターの伴奏で歌い始めた真琴の優しい歌声は孤児達の心に染み込んでいった

歌のプレゼントが終わり改めて

「知ってるかもしれないけど観月様の公女宮でお世話になってる真琴です、職業は魔導剣士兼見習い歌人」

そう笑って名乗ると

「いらっしゃいませ真琴様、来ていただいて…お会いできてとても嬉しいです」

一同が声を揃えて歓迎の言葉を述べると

「真琴様…今日は来てくれて有難うございます…翼、我が儘を聞いてくれて有難うございます…」

声をつまらせお礼を言うカナの頭を撫でながら

「おんなじなんだよ…僕に戦士の力がなかったら…巫女に魔導の力がなかったら…僕達はチサや翼、観月様達と出会わなかったと思うし何処かの孤児院預けられていたと思う…だから僕にはカナや皆が他人の様には感じられないよ

だって…僕とみこは両親の顔を知らないのだからね」

そう言われて驚いたカナが真琴に抱きつくと

「じゃ、じゃあ真琴様の事をお姉さんって思って良いですか?院の人達は皆家族だって…私は未だそう言うのに慣れませんけど…」

そう言って真琴を上目使いで見るカナに

「真琴様って呼ばれるよりずっと良いんだけどお姉さん、か…」

そう呟くと

「ダメ、なんですか?」

と、泣きそうな顔で言われて

「ダメじゃなくて慣れないんだよ、みこは僕をお姉ちゃんとは呼ばずまこちゃんって呼んでるからね…」

そう言って苦笑いを浮かべると他の子達も真琴の周りに集まり

と、答えると孤児院に不釣り合いなグランドピアノの前にシスターが腰掛けると伴奏を始めると真琴が讃美歌を歌い始めた

皆が静かに聞き入り歌い終えた真琴はユマから手渡された包みを手渡しながら

「かな、お誕生日おめでとう」

と告げると翼も大きな包みを渡しながら

「かな、お誕生日おめでとう」

そう言うと友達に開けて見せてと言われまず真琴からもらった包みを開けると…

天然石の数珠ブレスで真琴の二色の勾玉と命の霊玉も含まれているレア物だ

その高そうな物だけに心配したシスターが

「あの様な高そうな物を頂いても宜しいのですか?」

そうユマに聞くと

「石は騎士の方が山で見付けた綺麗な石だからと持ち帰った天然石を分けて頂いた物ですし…

それをアクセサリー造りが趣味の友達に作ってもらいましたからお金は然程掛かってませんよ?」

と言うと翼が渡したぬいぐるみはそれなりの値が着きそうな物で

「あれはそれなりの値が着く物ですが似たようなのをいくつも贈られてますからお気になさらないで下さい」

そう微笑みながら言われて驚いたシスターの様子を見ていた

そうしている内に真琴達の帰る時間になり別れを惜しみつつ次の目的地に向かった

馬車が屋敷の玄関に着くと当主自らが出迎えに出ており

その孫娘とその友人らしき子供達がテラスからこちらの様子を伺っているのが見えた

ユマと当主が挨拶を交わした後にパーティー会場に案内されると本日の主役である当主の孫娘、紬(つむぎ)に手を引かれ中央に案内された真琴

そして真琴の熱唱でパーティーの幕が開き

一旦控え室に案内された真琴が手渡された服は鬼百合達がパーティーの際に着ているものと同じ大公家の客分騎士の正装

「僕は嫌じゃないけど観月様に叱られませんか?」

そう気にして言うと

「公式の場以外なら構わないし真琴は男装も似合いそうです…

それに戦いに赴く時はやはり戦士の服装が相応しいから既に製作に取り掛からせてますと仰ってましたからね」

そう聞いて受け取った騎士の正装に身を包む真琴は美少年の騎士にしか見えず勿論その姿を見た少女達が真琴に群がり互いに気を引き会うのも当然の事

似合うだろうとは思っていたがさすがにここまでとは思っていなかったユマを苦笑いさせた

この世界のしきたりで十歳を前に社交界デビューを果たせるの貴族籍でも公爵や伯爵、大公等一握りの階層の者

そして公女観月に認められ公女宮で働く事を許された者だけで貴族でも男爵クラスや軍の将校で十二歳

街の有力者は十五才迄待たなくてはいけない

その為翼と真琴と歳が変わらない位の彼女達のその時は未だ遠くせめてもの真似事をと内輪の誕生日会でやっているのだ

依り代のお披露目のパレードで観月に付き従う真琴に心惹かれた少女は少なくない

その内の一部が紬であり今日集まった少女達である

そんな真琴が騎士の姿で現れたのだから少女達が興奮するのも無理は無い

そんな少女達の笑顔の花が咲き誇るパーティーの雰囲気をぶち壊す闖入者が現れた

「私の商談を断っておいて孫の誕生日とはいいご身分だな?」

そう言ってご馳走の並ぶテーブルに土足を乗せる男に

「商談?僕の目にはゆすりたかりのチンピラにしかみえないんだけど?

まぁ貴方達の国の流儀かどうかは知らないけどこの地でそんな振る舞いが許されると思ってるの?」

そう詰問する真琴に

「観月様に言い付けてやるってか?女みたいに生っ白い小僧は黙ってなっ!?」

そう言われて立ち上がろうとした沙霧と白浪を手で制し

「もう一度だけ言う、脚が大事なら即刻退けろ!これが最終通告だ」

そう言われて薄ら笑いを浮かべる男の頭頂部を真琴の手刀が掠めたしかしそのあまりにもの素早い真琴の動作は男達の目には全く見えるはずも無く男の髪がハラハラと落ちるのを見た仲間が

「お、お前髪の毛…」

そう言われて頭に触れると頭頂部の髪の毛が綺麗サッパリ無くなっていた

その事態にようやく気付いた男が慌ててテーブルから脚を下ろすと胸から出したハンカチで綺麗にしてから部屋から飛び出して行くのを見送りそれまで互いに抱き合い怯えていた少女達に笑顔で

「もう大丈夫だから安心して」

そう伝えると皆真琴に抱き付いて涙を流していた

その様子を見ながら当主は尚も不安そうに

「真琴様は大丈夫なのでしょうか?このままで済ませるような輩ではないはず…」

そうユマに訪ねると

「真琴の顔も知らぬ程度の連中など問題ない」

白浪が忌々しそうに答えると

「あの愚か者の不用意な発言に沙霧様と白浪様は相当おかんむりの様ですし…

弱い癖に男の面子がどうのと言う類いのあの程度の者達にはこれ以上騒ぎは起こせません

自分達が尻尾巻いて逃げ出した相手が実は女の子でしたなんて誰に言えますか?

下手に同業の者に知られでもしたらもうおしまいでしょうからね…まぁ同情する気は微塵も有りませんけど」

とはっきり言い切り

「彼らを雇っている者にもそれ相応の報いを受けてもらいますから紡様…

これからも美月の命、大公領の宝の紡績を宜しくお願いしますね」

そう言われ

「私の方こそ亡き大公妃様が立ち上げられそのお嬢様であられる公女観月様が守り育てられた美月及びスタッフの皆様のお陰で絹糸及び絹織物の生産地として名を馳せる迄になれたのです」

前大公妃を懐かしみながら話すと

「亡き大公妃様、そして今の美月を守り支える観月様のご恩に報いる道は唯ひとつ…

私達も美月を支える者になる事なのだと考えますから共に頑張ってゆきましょう」

ユマの言葉に頷く元締めだった

翌日大公邸を訪れた愚者共は更に盛大に恥を上塗りする事となった

使用人に大怪我を負わせた少年騎士の身柄引き渡しを要求に来たのだが前日と事なりドレスを身に纏い現れた真琴には全く気付けず少年騎士の身柄引き渡しを繰り返す男に

「お前達が馬鹿なのは承知していたがその雇い主も底抜けの愚者だったとはな…美月がまともに相手にしてやらぬ訳だ

お前達が要求している者ならば最前から目の前に居るのに全く気付けずいるのだからな…救いようがないとはこの事だ」

千浪と白浪の蔑みきった眼差しに晒された男達にはもう逃れる先はなかった

墓穴を掘り恥の上塗りし更には雇い主も巻き込み更なる恥の上塗りを重ねたヤクザ者とその程度の者を重用していた事に気付いた愚者の一族が慌てて放逐したため彼等にはもう何も残されてはいなかった

その事に気付いた時には全てを失っていたのだから

この一件で少年騎士の真琴の知名度はうなぎ登りとなり真琴に恋い焦がれる乙女達に事欠く事は無い状態になったのは喜ぶべきか悲しむべきか微妙なところではある

 

 

 

 

④唄うなら

 

遅めの夕食が終わる頃自室に戻った王妃の元に訪問者が現れた

ミナを伴った命で散々迷ったあげくの訪問だが王妃の自室前に着いて尚迷う命を他所に

「この様な夜分の訪問が失礼に当たるのを重々承知の上の厚かましいお願いを申し上げますが我が主人、命様のお目通りお願いできませんでしょうか?」

そのミナの声に反応した王妃は

「遠慮は要りません、入りなさい」

そう言って二人の入室を許可するとミナに案内された命はおずおずと口を開き

「今日みこね…りんちゃんのお母さん達のお手伝いしたんだ…海の中はとっても楽しかったんだよ…」

そう楽しそうに昼間の海での体験を話す命を見守っていると頭を下げたミナがどうやらお茶を酌みに行ったらしくその場を離れていくのが見えたので命を腰掛けるように促し辿々しく話す命の様子を暖かい目で見守っていた

命の話も後半に入り預けてあったそれをミナから受けとると

「形が歪だから市場に出しても大した値が付きませんから…ってゆわれて貰った生の貝を鬼百合達に食べて貰ったんだけど鬼百合が食べた貝からこんなんが出てきたんだ…」

そう言って命に見せられたのは淡いピンクパールで色、質的にはかなり上等な部類に入る天然真珠ではあってもサイズ的には一国の王妃が身に付けるにはかなり物足りないものと言わざるをえず

正直なところ命自身も恥ずかしくてその後に続く言葉を言いあぐねているのだった

「鬼百合がね、ゆったんだ…こいつは今日頑張って漁のお手伝いしたみこへのご褒美だから有り難く貰っときなっ♪って…

でも…みここーゆーのよくわからないから要らないってゆったら…」

そう言って一旦言葉を区切り

「なら大好きな人やお世話になってる人に贈ったらどうだ?って…」

そう言って再び口をつぐむ命を見ながら考え込む王妃は

「そう、それで私がその人に選ばれたのですね?」

そう問われた命が小さく頷くとその命の頭を抱き締め

「有難う…みこちゃん」

そう言われて真っ赤になった命に

「みこちゃんさえ良ければ今夜は私の部屋に泊まりませんか?」

そう声を掛けると何と答えれば良いのかわからない命がミナを見ると頷いて

「お寝間着お持ちしますから暫くお待ちください」

そう答え王妃にも待ってもらうことにして支度を急ぐミナ

着替えを終えた命を王妃の寝室に残してミナとマイは従者の控え室に待機する事にした

「今夜は私達も隣に控えますからご用が有りましたらお呼びください」

そう王妃に伝えて…

深夜に喉の乾きで目を覚ますと隣で眠る王妃の寝顔に驚いたけど王妃の胸にすがり付き再び眠りに落ちた命の寝顔は幸せそうだった

未だ臼ぐらい早朝に目覚めた王妃は声を出さずに涙している命に気付いた自分も喉の乾きを覚えていたため泣いている亊には敢えて触れずに当番の侍女をベルで呼んだ

現れたのはミナでも無ければマイでも無く本来の王妃付の今夜の当番の一人であるマキと言う侍女だった

王妃は知らない話ではあるけど歌の稽古の為早起きな命の為に着替えの支度を既に始めている

ミナは命の稽古の間は命の側で出来るユカの仕事をこなすのでそれの準備もあり命の側を離れていたのでマイに無理を言って王妃の呼び出しに応えたのだ

マキは残念ながら俯いてる命が涙を流している亊には全く気付く様子は無く

「私にはお茶と命にはほんのり甘いジュースを」

そう指示したのたけど侍女が持って来たのは命には大きすぎるグラスに冷たかっただろうジュースと熱すぎるお茶だった

(このグラスでは命には大きすぎる位解りそうなのに…)

「有難う、貴女はもう暫く休んでなさい…未だ夜明けには時間がありますからね」

そう言われて頭を下げて退出した

溜め息を吐いてそれを見送り振り替えると命は竪琴を抱え鼻唄を唄っていた

「さあ、ジュースが来ましたよ」

グラスを差し出すと竪琴を横に置き両手でグラスを受け取るとグラスの半分位を飲んでテーブルに置いて

「美味しい」

と、そう言って小さく笑う笑顔が可愛かったのだが…

夜が明けて暫く刻が経ちドアを叩く音がしてユイですと言う声が聞こえ許可を得て入って来たユイが難しい顔をして考え込む命に気付いて心配顔で何を悩んで居るか聞こうとしたら王妃に笑って止められ

「大丈夫、今日はお外に行けないから昼間どうして過ごそうかって考えているだけですから」

王妃からそう聞いたユイは

「ねぇみこちゃん、竪琴貰った人とお話ししてきたらどうかな?

それなら外出しないで済むから私が彼女の都合聞いてきましょうか?」

そう言われて

「でも…ユイさんだってお仕事忙しいんでしょ?」

そう聞き返すと

「大丈夫ですよ、忙しくなるのは朝食が済んでからですから」

そう答えると

「じゃ、じゃあユイさんに行って貰ってきて良い?」

駄目と言われたら泣き出すんじゃないかと言う表情で言われたら駄目とは言えなかった…勿論そんなつもりもなかったのだけど

まぁ、今日は大公領から使者が来るのだからあまり予定は入れてないから暇と言えば暇なのだから

「では朝の報告…何か変わった事は?」




取り敢えず加筆修正予定です


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風が吹く⑤

自分の歌唱力に自身の持てない人魚姫は何を思うのか?


「何も、少なくとも今現在はそのような報告は一切有りませんが一度執務室に戻り何もなければ楽士寮に行きます」

そのユイの答えを聞いた王妃も

「任せますが楽士に会いに行けると良いですね」

そう告げると

「ユイさんのお仕事の方が大事だから…」

そう心配そうに言う命に笑いながら

「失礼します」

そう言って出て行くユイを見送り命は習い覚えた曲のお復習を始め王妃はそれを聞きながらユイが置いていった書類に目を通した

戻って来たユイの報告は

「礼拝堂でお祈りしてますから宜しければ竪琴を持ってお越しください、午前中はそこで過ごしますから…」

だった

 

「お姉さんおはよー」

祈りを捧げているのを無視して抱き付いた命

「あれから竪琴の調子はどうですか?」

と笑顔で問い掛けると

「良く解らない…だけどみこの気持ちが解るみたいなの」

「そうよ、その子は弾き手の気持ちが音色に表れるのですからね

そういえば私はまだみこちゃんの唄を聞いた事なかったわね…良かったら何曲か聞かせて貰えますか?」

首を横に振り

「みこの方が聞いて欲しいの…みこの唄そんなにお下手じゃないって思う…でも、誰に感想聞いてもただお上手としか言ってくれなくて…

だからみこの唄って本当はお下手で皆は本当の事言えないんじゃって…」

弱々しく言う命に

「まずは聞いてみないと…ね、さぁ唄って下さい」

 

一通り歌い終えた命に

「みこちゃんは随分古い唄を知っているのね…大丈夫お上手ですよ、素人レベルなら」

そう言われ感じていた疑問を口にした

「何処がダメなの?」

と素直に聞かれ

「私は唄の専門では無いけれどその私の耳でも解るほど声が出し切れていないし唄ってて声を出すのが辛くなる時が有るでしょ?

上手になりたいのなら基礎的な発声練習から始めるのが一番ですから私の知り合いに唄の女神の祭典で審査員になってる人が居るから教えて貰えるように頼んでみましょうか?」

そう笑顔で言ってくれてるけど…

「観月ちゃまに相談してみる」

としか答えられない命

「何故自分の事なのに自分で決めないの?」

「だって…そう言うのってお金要るんでしょ?

みこお金持ってないから…」

哀しそうに言う命に

「そう、じゃあ私も一緒にお願いしてあげるけど出来れば唄の勉強したいんでしょ?」

そう確認すると

「うん、お勉強したい」

力強く答えた命の手を握り

「じゃあ早速観月様にお願いに行きましょう」

礼拝堂を出ると控え室に居たミナが声を掛けてきた

「ご用なら私に申し付け下さい」

と声を掛けてきたので

「観月様の所在とみこちゃんが話したい事があると伝えて下さい

私達は礼拝堂に居ますから…お願いしますね」

と聞いた彼女は頭を下げると立ち去り暫くしてミナが観月と王妃を案内してきた

「どうしたのみこ?そんなに改まってお話しって…?」

「お姉さんがお唄が上手になりたいのならちゃんと先生に習った方が良いって」

「私が先生紹介しましょうかと言ったらみこお金無いからって…」

溜め息をつき

「だから私に相談したい…って訳ね

解るんだけど、相談して貰えなくて寂しがってる人が居るって知ってる?」

「?、?、?…」

「王妃様がみこの力になりたいのよ、解る?」

何で?と言う表情の命にどう説明したら良いのか悩んで居ると

命の小さな身体を包み込むように抱き締め

「それは私がみこちゃんを好きだから」

驚きのあまり目を見開いて

「みこは…生まれて直ぐなのにお母様が棄て無きゃいけない悪い子なのに?」

虚ろな顔の瞳は全ての感情が消え失せていた

「もう良いのよそんなに自分を責めなくても」

そう言われてさえなお

「でも、みこのせいでまこちゃんまで棄てられた…

みこを取り上げた人逹は穢らわしい黒い血の子、触れることさえ厭わしい闇の子、こんな醜い子は災いをこの里にもたらす前に相応しい闇に葬ってしまえば良いって言ったのを聞いた…

その言葉の意味はまだ良くわからなかったけど余り知りたくなかった

みこは多分生まれてきてはいけない子なのだから…私には人に優しくして貰う資格なんかない…」

全く感情のこもらぬ声で話す命に

「もう良いのよ、貴女は王妃様や観月様やその他の沢山の人に愛されているのよ勿論私も…まだ会ったことはないけど真琴さんや翼さんもね」

そう言われてもやはり

「本当に良いの?みこ…皆に甘えても…みこは…みこは」

マイはこの時泣いて問い掛ける命を見て決意した…この幼子の魂を持つ命の力になりたいと

自分に大した事は出来ないのは知っているけど出来るだけの事を精一杯御勤めしようと決めた

その後今夜のダンスパーティーの打ち合わせが始まり命も立ち会うことになり湊の提案でパーティーの開幕を告げるオープニング曲を命の歌で飾ってはと言うことなり指揮者の操が

「差し支えなければ命様の持ち歌をお教え願え願えないでしょうか?」

そう声を掛けたけど返事をしないばかりか振り向きすらしない命を見ながら苦笑いを浮かべ

(次に命様と呼んだら返事しないと言ってのは本気だったんですね…)

そう思いながら

「操さん、みこちゃんと呼ばなければ返事してくれませんよ?」

そう言われて複雑な表情で

「遠からず王女様になるかもしれない方をですか?」

そう呟くと

「その事は私も気になり観月様にお尋ねしたらみこを説得する等無駄なことは止めなさい

直に言い訳が出来なくなりますからそれ迄は本人が望むように呼べば良いだけの事なのですから…と仰いましたから」

そう説明され

「観月様…何て男前な方なんでしょうね…わかりました、その時が訪れる迄はみこちゃんと呼ばせていただきましょう…」

そう呟くと

「何かみこちゃんお薦めの曲はありますか?」

「あのね、未だ不安だけどね…ダンスの前にピッタリな歌があるんだけど…」

そう言って歌い出した曲は確かにダンスパーティーのオープニングを飾るにに相応しい曲(イメージ曲はシャルウィーダンス、大貫妙子)

命の歌に湊が即興で合わせ暫く練習し本番もこの曲で行く事に決まり

手入れも終えてそれも含めたリハーサルを繰り返した

勿論その事はパーティーの主催者である観月にも報告したら

「その曲なら私も知ってますが…いきなりみこの歌声でパーティーの開幕を知らされたら皆驚く事でしょうね

私も事前に知ってしまったのが惜しい位の企画、やはり柔軟な思考のみこは面白い発想をしますね

 

その方面については然程専門的な知識は持ち合わせてませんので貴女達に任せますからみこへのサポート頼みますね」

そう言われどう説得しようかと悩んでいた自分がバカみたい感じる操だった

命が午睡から目覚め本番前の最後のお茶休憩(茶菓はミナからの差し入れ)を終え本番前の総ざらえ

それを終えて一同は軽い食事と着替えを済ませに控え室に戻り命も自室に連れ戻されて着替え等の仕度をさせられたその命が阿に控え室に運ばれていくと今度はミナとマイの番でユウとユカの手により美しく変身していく二人も最初は私達なんかがと尻込みしているのを

「この先水の精霊の巫女として人々を導かねばならないみこの側近く仕えると言うことは貴女達もいずれユイやユウ、ユカ達美月のメインスタッフの様に社交の場にも付き添ってもらわねばなりませんがそれは理解できますね?」

そう言われた二人が頷くと

「ユイ達が私の側に居るようにみこの側で仕える存在になりなさい、その為にも私達が側に居る今の内に色々な事に慣れておきなさい」

そう言われて果たして慣れることが出来るか?という本人達の疑問はさておき国王夫妻がゲストを迎えその他の王室関係者の入場も終わったにも関わらず人魚姫の姿が見えない事を疑問に思い訝しげに辺りを見回す訪問者達

薄暗がりのパーティー会場内は参加者のざわめきの中、何の前触れもなく指揮者の操にスポットが当たり注目が集まり両手を振り上げると命の歌声と伴奏が同時に始まって…

事前に知らされていた観月は国王を…ユイは十四夜にチサは十六夜を誘いミナは歩風でマイは艇督をパートナーに指名すると他の淑女達も命の歌声に誘われ…各々が思うままにパートナーを選び指名して行きその歌を歌い終える間近に命も海兵隊の提督に右手を差し出し歌い終えると一言だけ

「みこと踊って」

と言うと提督も海の男に相応しくただ一言だけ

「勿論喜んで」

答え命の手を受け取るとその甲に口付けを落としダンスの曲に切り替わるとパーティーが始まった

最初は何も知らされいなかった参加者が戸惑ったものの粋な演出が喜ばれ以降は美月主催のダンスパーティー定番化となった

今夜のパーティーでユウとユカが不在の穴を埋めたのはミナが男達を喜ばせた

「社交界で遠慮はタブー」

は、やはり建前でミナが命に寄り添い仕えている姿を見て

「彼女の様な娘にあの様に側で世話してもらえたら…」

等と妄想する男は少なくなくそんな男の親達も

「うちのだらしない息子の嫁に来てくれたら…」

等と思っては溜め息を吐く者も少なくなく無くなかった

兎に角今までの美月に居なかったタイプのミナは人々の視線を集めていた

勿論容姿の方も派手なタイプでは無いけどその代わりに清純で可憐なミナは男達の保護欲をそそる存在

そしてマイ…以前何度か給仕として働いてはいたが全く存在感の無い地味な印象…

それが良くも悪くも覚えている者の記憶だ

ったのだから殆どの人間の記憶にはなく大抵初対面の挨拶をされた

だがそれも良い方に考えればマイが変わり人の目を引く存在になれたのだと言う事だからそんなマイを踊りに誘う者も少なくなくそれを見ている同僚達に羨ましがらせていた

マイの成長は確かに他の侍女達を驚かせたけどただたんに驚いただけの事に過ぎなかった

「やはり侍女達の教育をやりなおさなければ変わらないのですね…」

そう密かに呟く王妃だった

今回王は命とチサとは踊らなかったけどその代わりに十四夜は命に十六夜はチサに付き添い三人分のダンスの時間を使い二人の食事時間に当てさせた

ただえさえ退場時間の早い二人はそうでもしなければ食事するのもままならないからだ

そんな二人の退場時間も近付き今回も終盤はダンスから開放された命は楽士達に混じり演奏に加わった皆本音を言えば最後までダンスに加わって欲しいがあれだけ幸せそうな顔をする命に演奏を止めてとは言えない

最後の曲は本来ダンス曲ではないものの命の歌声に合わせ皆思い思いのパートナーとチークダンスを踊り始めた

国王は妻の王妃と、十六夜は勿論ユイで夫婦での参加者は当然配偶者と踊り

未だ結婚してなくても思い合う者達はその想い人と…

それぞれの想いを胸に共に踊ったのだった

そして命、チサの退場時間になり

「皆さん、今日も楽しい夜をありがとおございますっ♪みことチサちゃんはおねむの時間になったからお部屋に帰るけど…

今日はユウさんとユカさんがお仕事で居ないから観月ちゃま、今日は二人を最後まで宜しくお願いします」

そう言って会場を見回し宙を滑ると一人の侍女の身体にしがみつき

「今日はこのお姉さんがみこのお守りしてくれるから大丈夫だよっ、この後はもうお着替えして寝るだけだしねっ♪」

笑顔で告げる命の嬉しい提案に

「わかりました、確かマキと言いましたね?今聞いた通りパーティー半ばの退場は心残りでしょうけど命とチサを任せますよ」

観月にそう言われたマキは慌てて

「いいえ、滅相も有りません…なぜ私が選ばれたのかは分かりませんが巫女様に選らんで頂いて何の不満が有りましょうか?」

そうマキが答えるとしがみつくのを止めた命に手を差し出されたマキがその手を握ると命とチサに付き従うりんが二人と守護役の瑞穂と共に退場した

「みこちゃん、みこちゃんに相談があるけど良いかな?」

二人が部屋に戻りチサが命にそう話し掛けると「今夜は満月なんだね…」

そう言われ命以外が見上げた窓の外には蒼白く輝く月が浮かんでいた

「チサ、貴女の身体に在る私の勾玉が呼応し貴女の身体に有る魔力が私に教えてくれました

精霊の巫女として目覚めたいのですね…」

そう言われ頷くチサに

「分かりました…その切っ掛けを私が作りましょう…ですが私に出来るのはあくまで切っ掛けに過ぎませんからその先は貴女自身が選び取るもの…覚悟はいいですね?」

そう命に聞かれて頷くチサに

「わかりました、それでは今から火の精霊フレアに祈りなさい」

そう言われ祈り始めたチサの身体をアクエリアスの結界が包み込んだ

祈り続けるチサに時の概念がなくなり足下が不安定に感じ目を開けると周りには何もなかった…

室内に居た筈なのに床は勿論壁、ベッドなどの調度品も一切見当たらない

側に居た命やりん、瑞穂やマキと言ったか?彼女の姿も見えないし気配も感じられない

いや、上下の違いすらも失われて漠然とした不安を感じていると

「力を求めし者よ、汝の覚悟を我に示せ」

そう言ってチサの手を取る人物の顔が命に似ている事に気付き

「貴女は…みこちゃん?」

そう言われたその者は

「そうだ…だが我はお前の知るみこ…命ではない」

そう言って自らの胸にチサの左手を添えると

「我に続きフレアの目覚めを促す呪文を詠唱せよ」

そう言って

ー我は願う、闇夜を照らし魔を焼き払う火の精霊フレアよ

我命、我魂を糧に貴女の聖なる炎を我が身に宿したまえー

そう言い終えるとチサの左手を添えた胸に火が点りその身体を燃やし始めた

「このフレアの聖なる炎がお前の身体に巣くう我を燃やし尽くした時お前は火の精霊の巫女として目覚めの時を迎える」

無表情に話す相手に

「私が力を求めるのはみこちゃんの力になりたいから

なのにみこちゃんを犠牲にしなきゃ力が得られないなんて…」

そう言い涙するチサに

「我は覚悟を問うたはずだ?だが案ずるが良い、我は勾玉に残りし過去の記憶…残存思念に過ぎぬのだから…だからその優しさはお前達のみこに向けてくれればそれで良い…」

そう言われても目の前で燃えていく命の姿を見ている事実は辛く

「でも何故なんですか?何故貴女を燃やし尽くさなきゃいけないんですか?」

そのチサの問い掛けに

「我が闇に親い黒き血と魂を持つ魔女、フレアの忌み嫌う魔の者だから…

それ故に我が魔力をその身に宿せしお前は火の精霊の巫女として目覚める事が出来ぬのだ

さぁフレアの聖なる炎で穢れ(我)を焼き払うが良い」

その言葉が最後になり今まさに燃え尽きようとした瞬間チサが叫んだ

「いやぁーっ!みこちゃんが死んじゃうっ!消えないでっ!

どこにも逝かないでぇーっ!…」チサの絶叫が木霊し涙を流しながら伸ばす手を優しく握る者が

「チサちゃん、みこはここに居るから…どこにも行かないから安心して?」

そう微笑みながら話し掛け

「りんちゃん、みこのリュック取って…」

そう言われてクローゼットから取り出されたリュックを受け取ると中から無地の玉石の数珠を取り出し

「はい、チサちゃん…」

そう言ってチサの首にネックレスを掛け手首にはブレスレット、足首にアンクレットを着け

「さぁチサちゃん…フレア様に祈って…」

命の声を遠くに聞きながらチサがフレアに祈ると一気に高まったチサの霊気が身体から溢れ出し勾玉を朱く染め…

十個の朱い霊玉にその姿を変えた

「みこちゃん?あのみこちゃんはどうなっちゃったの?燃え尽きちゃってもう会えないの?」

そう言われて

「みこにはわからない…でもチサちゃんが願ったからほら…」

そう言って自分の右手を見せられ

「わかるでしょ?勾玉から感じたのと同じ魔力を感じるでしょ?

姿形は変わったけどこれからもチサちゃんが力を必要とする時は力を貸してくれるからね…だから今はもう少し休んでね」

そう言って阿に目配せして寝かせ直し

「鬼百合(陰)、霊玉は明日チサちゃんが起きたらチサちゃん本人から貰って」

そう言われて

「全く心配させやがって…みこの悪いところは見習わなくても良いのによ…」

そう呟くと

「鬼百合、みこは無茶なんかしたこと無いよ?」

と頬を膨らませて言う命に

「今度真琴とレムに会ったらそう言っておいてやる」

と言われて

「二人は鬼百合みたく意地悪くないもんねっ!」

と言うのを聞いてどうにも頭の痛い観月だった

 

一夜明けチサと命の見送りを受け一路大公領に戻る旗艦

そして王宮に戻るとチサはりんと午前の勉強会

やる気の無い命は無理に勉強させず楽士達と過ごさせ命にはマイが、チサとりんにはマキが付き添い

ミナは本格的にユカの助手になりドレス以外の新作の手伝いを始めていた

その様子を見に来た観月にユカがそっと

「危ないところでしたデザインを任せるほどかは未だわかりませんが…

私の意思を汲み取り漠然としたアイデアを上手く形にしてくれるあのセンスの良さ…危うく優秀なパターナーを見過ごすとこでした」

と言うとユウも

「時々で良いから私の方の仕事も手伝わせてよねっ!」

と言うのを聞いて

「そんなに優秀なのですか?」

そう二人に聞くと

「性格のままに真面目で丁寧な仕事をしてくれますから安心して任せられます」

ユカが言うと「ファッションに関しては説明不足で打ち合わせにいつも苦労するユカの相手をしてもユカが切れたこと有りませんから…

多分ミナのファッションに関するセンスかなりなものだと思います」

チサとミナがそれぞれの運命をさらに進みマイに続きマキも人生の岐路を迎えていた

 

そして夜明け前…命、チサの見送りを受け一路大公領に戻る旗艦の後ろ姿は寂しげだった…

しかし帆風がチサから預かったビスケットを皆に配りほぼとんぼ返りで本国に戻る事を伝えると一同に笑顔が戻りその様子を見た提督が

「現金な奴等だ…」と苦笑いした

その翌日の午前中には無事大公領の港に入港し預かった手紙を大公と美月のスタッフに渡すと久し振りに大公領での半暇を楽しむ帆風だった

 

美月の事務所では観月からの手紙を読んだユマがユキとユミ、ユズとユナにユリを集め話し合っていた

「ユイ、ユウ、ユカが不在の原状でユキとユミが呼び出しを受けたけどこの好景気で正直かつかつの状態だよね?」

ユマが言うと

「私は今こそ次の世代の成長を促す時だと思うよ?」

と、ユリが言い

「ユイも寿退社だからユマもそろそろ後進を育てないといつまでも留守番になるよ?」

そう言われて

「サエ、サキは私が見るからサコ、サチはゆりが…

サナ、サホをユズがサナ、サラはユナが見てあげて

その八人でも抜けた五人の穴は埋まらないだろうけどそれ以上増やしたら逆に私達まで身動き取れなくなるから当面この体制で頑張りましょう」

ユマが言うと

「今日中に公女宮侍女八人の抜けた穴を…せめて半分だけでも埋めないと…」

ユリがそう言うと

「大公邸の侍女達の様子を見に行きその結果次第で大公様にご相談しましょう」

とユズが纏め

「まぁ不安は口にしても仕方無いですからユキ、観月様にはその様に報告しておいてください」

「困りましたね…」

そう呟くのを聞いたユウが

「如何なさいましたか?」

そう聞くと

「ユキとユミを私が出迎える予定が例の案件がこちらの思惑通りにならず私が応対せねばならなくなってしまって…」

そう難しい表情をする観月に

「マイ、お前ならそのユキとユミっての識別出来るな?

ユウとユカにチサはしなきゃならんお勤めがあるがみこなら融通が利くからアタイが身辺警護に立ちゃ問題ないと思うが?」

そう言って観月の反応を伺うと溜め息を吐いた観月が

「マイ、頼みますよ」

そう言われて港で入港を待つ三人は騒ぎにならぬよう馬車で待つ事になり

船の到着を確かめ命を肩に乗せ三人を出迎え代わりにチサから預かったアップルパイを帆風に渡し上陸準備に勤しむ彼等の茶菓となり一同を喜ばせた

ユキとユミに千波が国王に入国の挨拶を済ませる間に鬼百合が二人の手荷物を部屋に運び入れておき

二人は引き続きマイが観月の臨時の執務室に案内し二人が座る頃あいを計った様にマナと言う侍女がお茶を持ってきた

それを見たユキとユミが腰を浮かして仕度を変わろうとするのを観月が目でせいし様子を見守る事に

マナがお茶の仕度を終えて出て行くのを見送り見送り暫くすると執務室のとを叩く音がしミナとマキを従えた王妃が部屋に入ってきて

「二人に来てもらった理由…きづきましたね?

貴女達の正直な感想を聞かせてください」

そう言われても正直に言って良いものか迷っていると

「公女宮からお呼びの掛からなかった私の目から見ても…」

そう遠慮がちに言うと

「私達も彼女と変わりませんが命様やチサちゃんのお側に居る事を許され皆様から沢山の事を学ばせてもらって居る事を他の皆もその機会が頂けたら…そう思います」

マイが答えマキが頷くと

「先程の娘も変われますか?」

そう王妃が聞くと

「切っ掛けがあれば…さっきミナが言いましたがミナを変えたのは命様との出会いで貴女達もそうじゃないですか?」

三人が頷くのを見て

「私達にとってのその方は観月様

幼くしてお母様である大公妃様に先立たれても人前では涙を流さず…

自室で一人声を殺して泣いてる観月様を見て私達がこの方の側でお守りしたい

お力になれるようになりたいそう思いましたからね」

そう言われて珍しく顔を赤らめ

「その様な事を人前で言うものではありません」

と動揺は隠せなかったけど咳払いをして

「私達が侍女が変えるのではなく学びの機会を与え切っ掛けを模索する時を与えるだけです

最終的に変わる変わらぬは本人達次第ですが貴女達三人が特別な訳ではありませんね?」

そう言われて再び頷く三人を見たユウが

「私からの提案ですが今夜の晩餐はユキとユミの歓迎の席ですから二人は明日の朝からで…

今夜はマイとマキは私達の席に着き食事をしなさい

それにより給仕を受ける側の視点とテーブルマナーを学びなさい

その経験から自分に足りないものが気付けるはず…」

と言うとミナが

「私にもお手伝いせてはもらえませんか?」

と言うと

「貴女は未だ大公邸所属の侍女ですから私の判断で決めるのは…」

と答えると王妃が

「それならば私が代わりに…ミナも手伝ってくれますね?」

と微笑みながら言うと

「勿論喜んでお手伝い致します」

と答え更に

「私達には未だ早いでしょうか?」

いつの間に来ていたのかりんを連れたチサが観月に聞くと

「そうですね…貴女達の席には見習いの侍女が座りミナ、貴女はりんの指導と見習いの子達に気を配ってください

りんは命の専属に付きミナはりんの指導も任せますがそれで宜しいでしょうか?」

観月にそう言われて

「そう言う事ならりんには申し訳無いですが王宮の見習いの子達にもその機会を与えてもらえませんか?」

そう王妃に言われた観月は

「わかりました、ならばいっそのこと見習い侍女の教育その物を任せてもらえませんか?」

観月がそう聞くと

「観月に任せます」

そう返事をもらい

「承知しました、お任せください」

そう答えて

「ユカは引き続きチサとりんの午前の勉強を見なさい

ユウは王宮の侍女逹の礼儀作法

ユキは見習い侍女逹の勉強を、ユミは礼儀作法とダンスを見なさい」

そう指示を与えると頷く一同に微笑み返し

「マイ、マキ…先ずは貴女逹が変わりなさい

貴女逹の成長が他の者逹の成長を促します

貴女逹が好きなみこの為、何より貴女逹自身の為にも…」

そう言って一人椅子に腰掛け微睡む命を見詰める一同だった

夕刻の入浴で初めて人魚姫との対面を果たしたユキとユミが弾ける一時を過ごした

そして時を同じくして鬼百合は仲間の戦士と嵐以外の女神の騎士団を誘い海兵隊との宴を繰り広げた

そして…事情を全く聞かされていないマナ、見習い侍女のスー、スエ、スズに

「水の精霊の巫女を迎えた我が国はこれから未曾有の状況を迎えますですがそれを乗り切る為には貴女逹の成長が不可欠です

今夜より貴女逹の教育を引き受けてもらう美月のスタッフユキとユミの歓迎の宴からそれは始まります

この晩餐で気持ち良く給仕を受ける事を体験し受ける側の視点から見て学びテーブルマナーも学びなさい」

そう言われ驚く四人

事前に知らされていたけど緊張しまくりのマイとマキ

二人には選択権は一切無かった…

それでも観月に言われた命の為に…その言葉を噛み締めた二人に諦めると言う選択肢はあり得ず背後のユウとユカの指導を真摯に受け止める二人だった

晩餐を終えた五人と席に着いて居た侍女と見習いの侍女逹が今度は侍女逹相手に給仕の稽古勿論晩餐で出されたご馳走には程遠いけど食事する侍女逹もマナーの勉強の時間でもある

緊張の面持ちの侍女逹を他所に初めて食事を共にする美月のスタッフの四人

食事の時ミナの助言でマイ、マキ、マナの三人より注意される事の少なかった二人の目にはミナもまた憧れの存在

それはりんと共に給仕に回った見習いの少女にとっても同じでしきりに話しかけていた

勿論マイ、マキ、マナも負けず劣らず食事のマナー、今の給仕についての採点を聞き悪かった点についてのアドバイスを求めていた

その様子を見て呆気にとられる侍女逹にユウが

「何を他人事の様な顔をしているのですか?

明日朝の食事からは私達五人に代わり順番で食卓に着き今夜席に着いた三人同様に学んで貰うのですよ?」

その言葉を継ぎ

「国王様と王妃様が命様逹を養女に迎えたがっているのはご存知ですね?

その四人を王女に迎え入れた時人手不足になるのはわかりますね?

今のままでは後から来た者にバカにされますよ

勿論りんはそんな失礼な子ではありませんが貴女逹がその気ならば私達も手間は惜しみません、その為に呼ばれたのですからね

王妃様は貴女逹自身が成長を望み四人に仕えてくれる事をお望みです」

ユウがそう言い「私は見習いの子逹に学問を教える様に言われてますが…」

そう言って侍女逹を見て

「貴女逹からの質問にも応じますから気になる事はなんでも聞いてください」

とユキも言った

 




取り敢えず混乱は収まりました


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風が吹く⑥

人魚姫を中心に動き始めた美月の新時代…少女達の運命は?


「ならユミは観月様の指示の有った物を八人を指揮して用意して、私は受注と納品の確認を急ぎます」

そうユキが言うと

「それが八人にとって美月正スタッフとしての初仕事って訳ね?」

そう言って一人頷くユリに向かって

「それが妥当なところでしょうね」

と、皆の意見が一致した

 

久し振の大公領で過ごす休暇なので取り敢えず真琴と翼に鬼百合からの預かり物を渡すのと命達の様子を土産話をしに訪ねることにした

 

「と、まぁそんな感じで二人とも毎日を楽しんで過ごしているよ」

勿論あくまでも帆風が見てきた範囲内の話に過ぎないがそれでも会えずに過ごした日々の事を多少なりとも知れて嬉しくもありホッとしている真琴と翼

そんな二人の様子を見ながら

「土産…とはちょっと違うが鬼百合殿と柳水殿、それと俺の二人の部下の四人からのプレゼントでみこやチサ、観月様に美月のスタッフ達とお揃いだから遠慮なく受け取ってくれたら皆喜んでくれると思うよっ♪」

そうあくまでお気楽な調子で言われたけどやはり気にしないではいられない真琴が翼を見ると自分を見て頷いてくれたので各々受け取ると

「有難うございます、何かお礼を考えないとですね?」

笑顔でそう言う真琴に

「鬼百合殿達はともかく俺の部下達になら気を遣わなくて良い

みこやチサ、観月様達と楽しい船旅を経験したし鬼百合殿と酌み交わした楽しい酒宴

何より出港の際にチサが持たせてくれた手作りのクッキーは皆で大喜びで食べたものさっ♪」

その話を聞いた真琴が

「焼いたのはチサ…だよね?みこがそうゆーのをするのは想像できないんだけど…」

そう聞くと

「ユウ様に習って焼きましたって言ってたよ、ユカ様とミナさんの二人は最近美月のお仕事が忙しくて不参加でしたと聞いてるよ」

と、真琴が感じてるだろう疑問を先回りして答えると

 

「翼様、真琴…明日のお菓子作りのお題ですがパウンドケーキ作りにしようと思いますがそれで宜しいですか?

宜しければ支度は私達がしておきますからお任せくださいませ」

そう言われて初めてのお菓子作りに期待と不安の二人が中々寝付けない夜を過ごした

 

ユキとユミの指導の元始まったパウンドケーキ作りだけど真琴に翼、非番の大公邸と公女宮の侍女が六人と公女宮の侍女四人集まって始まった

しかしさすがに初心者ばかりが12人をユキとユミだけでは面倒を見きれず手間取っていると心配顔で調理場を覗いていた公女宮の下働きの女達がその事態を見兼ねて助け舟を出してくれた

そのお陰で当初の予定より多くのケーキが焼け命達に手土産を持っていってもらえるほどだった

そしてケーキの仕上がり具合と現状を鑑みて公女宮の侍女達を美月の見習いスタッフに、大公邸の侍女達を公女宮の調理補助と言う名目での移動を観月に推薦する事を決め…

それが承認され次第大公邸の侍女の人事変更を要請してもらえるよう進言も併せてする事にした

天候にも恵まれた出港の朝、ユキとユミにも千浪から預かった刀子を護身用に持たせ護衛役の千浪と共に船に乗り込んでいき

帆風に差し入れ用と命達への土産用のパウンドケーキと吽から預かった鉤爪と千浪から預かった鬼百合から譲り受けた一対の短剣を帆風に預けた

因みに鉤爪は突撃隊隊長に預け短剣は自らが預かる事にして自分が持っていた二本のカットラスと突撃隊隊長が持っていた手斧と青竜刀を真琴に手渡し真琴もそれを受け取った

船の出港を見送った真琴は今回直接孤児院に向かいシスターの伴奏で歌の稽古をする事になった

二度目の訪問となる真琴への質問は主に未だ会った事の無い命に対するものが多く命について説明する事にした

「普段のみこ…僕や一部の人達は命の事をみこって呼んでるんだけどみこはね、かな…かなの目から見てもみこちゃんって言ってお姉さんになった気になって面倒を見たくなる子なんだよ

実際に八歳のチサと居るみこを見れば誰だってチサの方がお姉さんにしか見えないんだからさっ♪」

そう言って笑う真琴だった

その一方で翼は

「シスター、お久しぶりですがお元気そうで何よりです」

そう言って抱き付いてくるサエを嬉しそうに見ていると遅れて入ってきた翼の顔を見て驚いていると

「はい、和泉の女神の依り代である観月様の代理人で水の精霊の巫女である命様の姉の一人の翼様です

私は観月様不在の美月を預かるユマ様から翼様の御世話を任され今朝は翼様をこちらに案内する役目を任されました」

そう言われ更に驚くシスターに

「翼って言います、味に自信無いですけど昨日焼いたパウンドケーキを味見して頂けたら嬉しいです」

そう言って差し出すと

「親と死に別れた私達も又こちらにお邪魔させて貰って良いでしようか?」

そう言われ中の様子を覗き見てた子供逹が翼に群がり

「じゃあ私達翼様逹の事をお姉さんって呼んで良いですか?」

そう聞かれて

「私や真琴は良いけどチサは未だ八歳ですし真琴の双子の妹のみこちゃんは…」

と言い淀むと

「水の精霊の巫女の命様は許してくれないんですか?」

と悲しそうに聞かれて翼に代わりき

「会えば分かるけど真琴ちゃんと双子って信じられない位に幼く見える命様は皆から見てもみこちゃん…

なんですよ…つまりお姉さんって言うより命様の方が妹の様にしか見えませんから皆がお姉さんって呼ぶのはちょっと違うと思いますよ?」

そうサぇ言われ驚く子供逹に

「水の精霊の巫女の命様とみこちゃんは別人にしか見えないし…命様って言われるよりみこやみこちゃんって呼ばれるのが好きな子なんですからね」

翼がそう言うと

「じゃあ私達もみこちゃんって呼んで良いですか?」

翼にもそう言われてそう聞くと

「みこちゃんはそう呼ばれるのが好きですよ?

自分の事をみこって呼んでる娘なんですからね」

そう言われ歓声をあげる子供逹だった

 

チサが覚醒を始めた翌朝命には勾玉を六個、鬼百合に四個ずつ渡すと受け取った鬼百合が早速隠し腕に埋め込んでもらうと四人の戦士を呼び出した

深紅甲冑を身に纏った剣士の両刃の剣を装備した修羅にいかにも喧嘩屋っぽいその名も喧火

拳闘士の闘炎(ブラスナックルを装備)に海賊風の出で立ちのコロナはカットラスの二刀流の使い手だ

 

チサ達の連休初日は前回同様に留美菜達の居る岬に行き鬼百合は柳水とモリオンを誘って漁の手伝いに回った

前回の事を海兵隊の友人から酒を酌み交わしながら聞いた本国海軍の下士官逹

その内の運良く非番の者逹が同行したので岬は今回も賑わって居る

勿論前回以上に画家逹も増えていて待望の人魚姫の姿をスケッチした

沖に出た命を出迎えてくれたのは岬の少女達のリーダーの留美菜の母親で勿論皆喜んで迎えてくれた

二度目の漁の命は前回以上に上手にこなし魚も良型を仕留め前回以上に早めに漁を切り上げる事になった

今回は足が早く競りに出してる間に味が落ちてしまう貝を命に持たせ海女逹は漁港に向かい命も岸に戻り少女逹と過ごした

翌日命はいつもの様に楽士と過ごしチサ逹は明日訪れる帆風逹海兵隊の為のお菓子作りをする事になり今回はアップルパイに決まった

前回のビスケットが好評で興味を持った侍女逹が休日返上で詰めかけ厨房の下働きの女逹も

「アップルパイか…うちの子供逹にも食わしてやりたいよ…」

そう呟くのを聞いたユウが

「それなら侍女の娘逹には料理に不馴れな娘も居ますからその娘逹の手伝ってあげていただき一緒に作りませんか?」

そう言われ

「え、ほ…ホントに良いのかい?」

と、躊躇う相手に笑顔で頷くユウに向かい厨房以外の下働きの女逹もどっと流れ込みその手を握ると

「あたしらに出来ることはなんでも言っとくれよっ♪」

そう笑顔で答えた

アップルパイが焼き上がり下働きの女逹は子供逹のおやつに…

チサは国王夫妻に十四夜と十六夜にユイ

それと直前に国王と面談していた海軍の将軍も招かれた午後のお茶に出すと喜ばれ

「宜しければお持ち帰り下さい」

そう言って残りの分を包むと将軍に持ち帰ってもらった

後日将軍に

「孫逹も喜んでましたよ、チサちゃん」

そう言われ照れながらも嬉しそうに笑うチサだった

ミナとユウが焼いた分は明日来る海兵隊にとっておきりんは今回も岬の友達にマイとマキは楽士寮で過ごす命逹と午後のお茶を共に楽しみ

何人かの侍女逹は海軍の休憩所に差し入れて残りは下働きの男や侍女逹のおやつになった

それまでには無かった明るい笑い声が広がる王宮だった

食事を終えマナと三人の見習い侍女逹も命逹の部屋に呼ばれる事を言われ荷物を纏めるように指示された

それによりユキとユミ、ミナとりん、マイとマキにマナ、見習いのスー、スエ、スズにあきの十人が侍女の部屋で同室

鬼百合、阿、千波、ユウ、ユカが騎士の部屋と割り振られた

王妃の望む王宮の改革それは今始まったばかりでもきっと望む形に育ってくれる…

そう願う王妃だった

翌日からは三人を含む侍女見習いの侍女達も午前中はチサとりんと同じ部屋で学ぶ事になり

午後からは礼儀作法とダンスを学ぶ事になった

しかしその夜遅くの事

鬼百合、不味い事態になったっ!」

珍しく王宮に居る鬼百合に焦った声で阿が話し掛けると面倒臭そうに

「大変ってのはどれくらい大変なんだよ?」

その緊張感の乏しい声に

「夕方風の精霊に関する情報が入ったと吽から連絡が有ったのは話したな?

その情報を頼りに真琴と翼の二人がレムが目を離した隙を突いて探索に向かってしまったんだ」

そう言われて渋い顔をして

「真琴はともかく翼までたぁどぉなってやがんだ?」

そう呻くと

「鬼百合、まこちゃんと翼ちゃん助けに行くけどどうする?」

そう言われて驚いて顔を見合わせる鬼百合と阿に再び

「行くのをか行かないのはっきりなさい

私は別段困らないし一人の方が早いのですからね」

そう断言すると

「勿論私も連れてってくれるよね?みこちゃん?」

チサが言うと瑞穂が

「当然私も同行する」

そう答えれば柳水も

「水の精霊の巫女の元に集いし我等が同行しなくてどうする?」

そう鬼百合と阿に言うと斬刃とモリオンも頷き

「だな、水の精霊の巫女よアタイ達を導いてくれ…」

鬼百合がそう言い阿も

「見苦しい姿を見せて申し訳ありません」

そう詫びていると

「阿はチサを、瑞穂はみこを頼む

観月には残ってもらいこの事態を王や王妃に報告してほしい」

そう言ってりんを見て

「勿論魔力や霊力を持たないりんは連れてけねぇのは分かるな?」

本当は「連れていって下さい」そう言いたいけどそれを言える程の愚か者ではなく

自分がついていってもただの足手まといなのは分かるりんは努めて明るく

「鬼百合さん、みこちゃんをちゃんと連れて帰ってくれなきゃダメですよ?」

そう言われて

「勿論瑞穂に抱かれて帰ってくるさっ♪」

そう鬼百合が陽気に答えると

「自分がと言わないのが如何にも鬼百合らしいですね?

仕方ありません、私とて同行したいのは山々ですが…こちらの事は任せなさい」

観月も溜め息を吐きそう答えたが嵐だけは

「私は連れていってもらえるのだろうな?」

と言われた鬼百合が

「女神の騎士団団長が和泉の女神の依り代から離れるわけにはいくまい?」

そう言われて

「ならば私も言うがみこは勿論土地勘の無いお前達だけでいってどうする?」

そう言われて言い返せない鬼百合に構わず

「今のこの王宮は私がアクエリアス様とフレア様の加護を得て張り巡らした結界に守られてますから余程の敵が襲って来ぬ限り問題はありません

嵐、頼みますよ」

そう巫女に言われてはそれ以上の事は言えない鬼百合はやむ無く

「巫女にそう言われちゃ仕方ねぇが…お前は嫌だろうが柳水頼むぞ」

そう言われて黙って頷きお姫様だっこで嵐を抱き上げると一行は港に向かった

泣きたいのを堪えるりんに

「取り敢えずお茶を飲んで落ち着いたら報告に行きます

りんはお湯の仕度を、マイは国王に、マキは王妃に面会したい旨を告げてきてくださいマナは器と茶葉の準備任せますね」

そう言いながら

(りん、遠慮は要りません…暫く泣いてきなさい)

そう思いその小さな背中を見送りミナを見て

「頼みますよ…」

そう声を掛けるとりんを追い掛けるミナを見送る観月

そして…二人きりの給湯室でそれまで押さえていた涙が堰を切って溢れだしミナにすがり付き泣くりんだった

 

 

 

 

④風の精霊

 

普段はあまり人気の無い夜の桟橋なのに青白く輝く月明かりを頼りに夜釣りを楽しむ者逹が居た

暗がりから音も無く現れた戦士に驚いた男逹

しかし一行に命の姿を見付け様子を伺っていると背中のリュックから得体の知れないものを出しそれを海に放り投げ

海水に浸かったそれはみるみる巨大化しいつの間にか服を脱いだ命も海に飛び込みその得体の知れないものに呑み込まれた

様子を見ていた男逹が腰を抜かしているとそれの背中とでも言うのか天窓の様に開き

中から命が何事も無かった様に手招きすると戦士逹もそこから乗り込むと信じられない速度で港を後にした

そのあまりにもの信じられない光景を目の当たりにした男逹は幻を見たのだろうと思って忘れる事にした

 

最初は船体と言うべきか…それが波を切る音が聞こえていたがやがて聞こえなくなり静かな波の音が聞こえるだけになり…

「みこ、一体これはどういう事だ?波を切る音が聞こえないばかりか船体に当たる揺れすらしねぇんだがな…」

一同の疑問を鬼が聞くと

「この子は既に水上ではなく低空ではありますが海面の上を飛んでるからですよ

一刻程で大公領に着きますが港に入る前に海面に降りますがその時は指示しますから衝撃に備えなさい

それまで身体を休める様に」

そう言われて胡座をかく戦士逹と各々の精霊に向かい祈る命とチサ

その命の目が開き

「鬼百合、水に落ちるよ…」

(この物言いはみこか…)

そう思いながら

「みこ、落ちるじゃなく降りるな…意味全然違うぞ」

そう言われても理解出来ないみこは鬼百合に

「そーかな?似たよーもん…」

自分で言っておきながら着水時の衝撃でよろつき鬼百合に抱き止められる命

「あはは…桟橋に吽逹が居るんだよね?ぺんちゃんお願い」

そう言われて進路を変えたらしく遠心力に振られそうなチサを阿が抱き止めた

桟橋で待っていた吽逹が乗り込むと嵐に

「聖なる和泉…がキーワードらしいが私達には何の事やらさっぱり…

真琴と翼は何やら思うところがあるらしく急いで救出に向かおうと言ってたのをレムが鬼百合逹を待つよう言ったのだが…」

そう苦々しく言うと

「聖なる山に在る聖なる和泉に入り口が有るらしいよ?」

不意に命に言われて驚きながらも

「それならば心当たりが有る…

みこ、港を出たら西に進路を取り最初に在る河を遡らせて欲しい」

そう言って再び目を閉じる嵐

「だって、…お願いねぺんちゃん」

命もそうとだけ言うと口を閉ざし物思いに耽った

 

元々然程大きいとは言えない大公領の在る島の川はすぐに川幅が狭まり

「ぺんちゃんがそろそろ限界だって言ってるよ?」

そう言われてやっと目を開いた嵐が

「右岸から上陸する」

その声で右岸に寄ると今度は扉が現れ命がそれを開くと命の身体を小脇に抱え

「お前を水に入れるとめんどうだからな」

そう言って川に入り

「そこそこ深く流れも早いから阿はチサを柳水は王女を頼む」

からかう口調の鬼百合に

「今はそんな馬鹿言ってる場合ではない」

吽にたしなめられ

「ふんっ」

と鼻を鳴らす鬼百合にかまわず

「山頂が平になっている山が分かるか?

あれがみこの言った聖なる山で本来依り代不在の和泉の女神が住みし聖なる和泉の在る場所でもある」

その話を聞いた鬼百合は

「山頂に在るのか?」

そう言われて

「あの山は死火山でいつの頃からか水が溜まり始め今では年間を通し変わらぬ水位を保っている」

すると今度は阿が

「雨水が貯まったのであれば和泉の女神には相応しくないはずでは?」その疑問を嵐に問い掛けると

「雨季と乾期がはっきり別れるこの島に在って乾期で水位が下がらないのだから水源はあるはず

ただそれを調べるのは不敬故あえて調べ無いのがこの地の掟だ

最も今回はその不敬も水の精霊の巫女が同行してるから問題ないだろうがな…」

その説明がされてる間真琴の魔力を探っていた命が

「居た、まこちゃんの魔力を捉えた

翼ちゃんとレムの二人からのみこの魔力も感じる…鬼百合、あっち」

そう言われて命の指差す方向に歩き始める一行がしばらく進むと岩山が有り

「この先にまこちゃんと翼ちゃんが居るから先に行くね」

そう言ってすーっと岩山を飛び越える命の姿が見えなくなるまで唖然と見送る一同に構わずまっこちゃーん、助けに来たよぉーっ♪」

図上から聞こえてくる命に続いて舞い降りる命の小さな身体を受け止めると

「みこ、例えみこだろうと僕達の決意は変わらないっ!」

そう言って翼と頷き合うと

「???、何ゆってるのまこちゃん?レムもウィンディー様の救出に行くから気合い入れてよ?」

気合いが微塵も感じられない命に真琴も思わず

「みこ、みこが一番気合いいれなよ?ってゆーかボク達の事止めに来たんじゃないの?」

そう言って翼と二人命を見詰めていると

「お二人を説得しに来て…いえそれ以前になぜこの場に命様が…」

レムがそう言うと今更ながら驚く三人に

「今はそんな事なんぞどうでも良いだろ?水の精霊に導かれたで納得しな

つかこっちはみこがまこちゃんと翼ちゃんが大変だから助けに行くけど行かないなら一人で行くと騒いで大変だったんだからなっ♪」

そう言って笑うと

「それに川に居た時にはまだ感じ取れなかったウィンディー様の霊気を微かに感じます

しかもかなり弱っていらっしゃいますから救出を急いだ方が良いと思います」

チサの言葉に命も頷き

「真琴…来なさい、沙霧は翼を頼めますね?命様にチサ様…私達を風の精霊の元にお導き下さい」

レムの言葉に驚く真琴は

「レム、反対だったんじゃないの?」

そう言われて穏やかな笑みを浮かべ

「私は事実確認と鬼百合逹を待つよう言ったのですよ?

しかし二人の精霊の巫女様逹が風の精霊の霊気を感じると言い鬼百合達も居る

ならばここまで来てるのに引き返す必要等ありません

命様も救出に向かうと仰った今の私はその意向に沿うのみ…さぁ行きましょう」

そう言われてレムに身を委ねる真琴を見て

「んじゃ、風の精霊の救出をサクサク片しかりらはさささてみこを連れ帰らにゃ王妃が心配するからな

取り敢えず山頂目指しゃ良いんだな?みこ」

そう聞かれた命が頷くのを見て首根っこ摘まむと指定席に座らせ

「さぁ行くぜ」

そう言ったが言った本人も別に返事を期待したわけではなく気持ちを切り替えるため言っただけで皆返事より行動でその意思を示した

一刻程掛け山頂まで駆け上がると鬼百合が

「何もねぇみたいだが?」

山頂を見回し溢す鬼百合には目もくれず

「ペンちゃんお願い」

命が背負うリュックがモソモソ動いて又謎の生物が現れ湖に入ると今度はすぐに形態変化で来た時と異なる姿になり

やはり胴体に扉が現れ命が開けると一同が乗り込み

水の鞭で真空の刃を回収すると力尽きその場に倒れ込む命だった

八青龍神と黒い炎の剣の激突により酸素の発生及び一酸化炭素が水に溶け込み貴女達が活動するのに差し支えが無くなりました

今こそウィンディーの救出の時ですー

そう告げられ上陸を果たした一行は上陸地点から左手に真琴、吽、柳水、斬刃、千浪、黒狼、闘炎、コロナで真琴は装備していた左右炎剣をコロナに渡し自らは黒炎竜を呼び出し装備

吽は焔の爪を闘炎に託し代わりに命から白竜牙…白竜の牙を両の拳に装備した

真ん中にチサ、鬼百合、阿、修羅、喧火モリオン、白浪、黒豹、に別れ

「レムよ、翼、嵐、瑞穂、沙霧はペンでみこを迎えに行ってくれ…嫌な予感がするからな」

鬼百合にそう言われて各々に進路を選んで歩き始めるのを見送り

「私達を命様の元に案内してください…貴方なら命様の霊気を感じ取れますね?」

そうレムが声を掛けるとそれに応える様に方向転換し移動を始めた

暫くしてアクエリアスの話してくれたらしい小島が見付かり

「命様が倒れている…」

浅瀬まで寄せてもらい慌てて駆け寄る一行

「辺り一面に漂う血の臭いの元が判らない

命様の身体には傷ひとつ無いし炎の剣以外の敵が居たと言う話も聞いてない…」

考え込むレムに

「みこが抱えるこの剣は?」

そう嵐に聞かれてレムが確かめ

「真空の刃…の様ですがなぜ命様が?」

レムがそう呟くのを聞き

「今はそんな事等どうでも良いだろう?

炎の剣は回収したからレムは命様を、嵐はその真空の刃を持ってぺんに戻れ

ぺんの中で翼が命様の身を案じて居るのを忘れるな」

そう沙霧に言われてぺんに戻り自分のマントを外し

「私が手伝いますから命様に服を着せてください

それが済んだらこの上で休んでもらいますから」

そう言って命に服を着せる二人に

「みこが意識を失って居る現状でこの後私達はどうしますか?」

そう嵐に聞かれてレムが

「ここまで来る途中敵の気配は一切感じることが無かった事から多分ここには水棲の魔物は居ないと判断し翼に命様を任せてこの中で待機してもらいます」

レムのその言葉に

(ここまで来たのに最後の最後に留守番しなくちゃいけないの?)

そう思ってぎゅっと目を瞑る翼の膝枕で横になっていた命が目を覚まし

「レム、それじゃ意味ないんだよ…みこと違って冷静沈着な筈の翼ちゃんが何故拘ったの?

何故まこちゃんがレムの反対を押しきってまで翼ちゃんをここに連れてきたの?

翼ちゃん…聞こえたんでしょ?翼ちゃんを呼ぶ声が…」

命に問われ頷く翼を見詰め

「済まない、翼…私の目には未だに貴女の事を寄るべ無い少女のままでした

貴女も又チサと同じく命様の勾玉を身に宿した特別な存在である事を忘れてました…」

そう言って詫びるレムに翼は

「私達に帰る場所…待ってる家族が無いのだから謝ること無いし今の私達には真琴とみこちゃん、レムさんや鬼百合さん逹に大公家の皆さんがいます

そのレムさんが本気で私達の事を心配して反対したのは分かってますから…」

そう翼が話終えると

「沙霧はこれを使いなさい、それと翼を頼みますね

嵐、一応炎の剣を持っていきなさい

さぁ行きましょう、命様…風の精霊ウィンディー様の元へ」

レムがそう言うと

「ぺんちゃんはここで待機、みこ達が戻ってくるまで休んでてねっ♪」

そう言ってレムに抱えあげられると左の道を進むことにした

途中全く敵に会うこと無く狗の獣人が古びた祠の前でおろおろと狼狽えていた

その獣人がレム逹に気付いて

「あ、貴女逹何故こんな所迄来て…アイツ等に見付かったら酷い目に合わされますよ?早くここから立ち去りなさい」

獣人がそう言って立ち去る様に促していると

「こら牝狗、飼い犬の分際でなに勝手なことしてんだ?」

「侵入者は殺すか捕らえろと言ってあるはずだ」

全く気配を感じさせず現れた人狼逹が口々に言うのを聞いて怯える狗の獣人を見ながら

「全く…俺達の手を煩わせやがって出来の悪い戌っころはよぉ~っ!後でたっぷり仕置きしてやるから覚悟しておくんだなっ♪」

そう言われてガクガク震える獣人とその相棒を蔑む目で見るもう一人の人狼に

ー青竜牙っ!ー

そう唱え青竜の牙が二人を引き裂いたけど不死身の人狼の再生能力は凄まじくあっという間に傷が消えてしまった

「何て怖いお嬢ちゃんだろう?顔に似合わない凶悪な呪文をいきなりぶっ放しやがってよ

俺達じゃなきゃ確実に死んでたぜ」「……」

騒ぐ者と眉間にシワを寄せ考え込む者と異なる反応の二人を見て

「ふーん、じゃあもっと素敵な呪文を見せてあげるね」

ー双頭の黒炎竜っ!ー

2つの竜頭が人狼に襲い掛かり人狼逹の身体を燃やしているにも関わらず

「甘いなお嬢ちゃん、俺達の再生能力を舐めてもらっちゃ困るぜ」

と不死身故にか鈍い相棒に

「ま、待て…この炎、俺達を喰らってやがるぞ?」

そう言われて炎を見て

「この黒い炎に見覚えが…まさか…アイツは何十年も前に死んだはずだぞ…

それにこんな小娘に使えるほどちゃちな呪文じゃ…」

「そんな事今さ…ら」

その言い掛けた言葉を最後に二人の人狼は跡形もなく燃え尽きた

「容赦無いねみこちゃん…」

そう翼が言い嵐も

「何もそこまでしなくても…」

そう嵐に言われて

「見なさい」

そう言って嵐の額に指を当てると嵐の身体が恐怖と怒りに震え

「まさか本当にこんな…」

そう言って今度は怯えた目で命を見る獣人を見ながら口ごもる嵐に

「私がその様な嘘を言ってどうしますか?

悪い予感がしましたからみこを下がらせたのは正しかった…」

既に今話している相手がみこでない事は気付いて居る嵐が

「みこは見ていない?」

と言われて

「当たり前だ、無垢なみこ…清浄な精霊の巫女の汚れを知らぬ二人に見せるべき物ではない」

そう言い放つと嵐も

「私ももう見たくありません」

と、答えるのみの嵐に構わず

「汝に問う、この地で静かな眠りに就くのと我等と共にここを出て己の運命と戦う試練の…棘の道を選ぶのか…」

そう問われ震える獣人に掛ける言葉が見付からずただ見守るだけの翼に弱々しく笑い

「私は長い間アイツ等に小突かれ濃き使われ玩具の様に扱われ生きてきたから生き続けるのが辛かった

でも…許されるならばもう一度太陽の下を走り回りたい

楽しい時には笑い悲しい時には泣きたい…そんな風に生きたい」

そう命に訴えると

「わかりました、では暫く待ってもらうが…翼、開封の時が来ました…祠の前で祈りなさい、他の者も翼の為共にウィンディーに祈りなさい」

獣人に向かいそう指示して膝間付く翼の肩に両手を置き祈り始める命に呼応して小さな筈の祠の中で強風が吹き荒れ祠の壁を内側から叩き付ける音がし始め翼の祈りが高まるにつれ強風は暴風となって吹き荒れついに祠を砕き…

「感謝します…我が友アクエリアスとその巫女及びその従者逹よ

そして我が呼び声に応えし者よ…

貴女が今この場に居ると言うことは私を受け入れ我が巫女となる意思の表れそう介錯してよいのだな?」

そうウィンディーに問われ

「いいえ、私の方こそ貴女様の導きを求めてここに来ました…風の精霊ウィンディー様のお導きを求めます」

そう答えると

「翼、ウィンディーに左手を差し出しなさい」

命にそう言われて差し出すとウィンディーは翼の手を取り口付けを落とす

するとウィンディーは風になり翼の身体に入り込み翼の背中に黒い翼が現れた

「翼、目的は果たしましたから鬼百合逹にぺんの所に戻る様に伝えて下さい

真琴には阿が

吽を通して知らせてくれるでしょう

嵐、炎の剣を翼に預けて下さい

敵の気配はありませんが万が一に備えお守り代わりに持って行きなさい

今の貴女なら炎の剣が応えマジックアイテムとして力になってくれますからね

修羅に会ったら彼女に預けるとワタシが言っていたと伝えて下さい」

そう言って翼を送り出し

「貴女の決意を見せてください、黒いこの勾玉で…」

そう言って命の勾玉を渡し

この勾玉が貴女の闇と穢れを吸収し浄化してくれます

この試練を乗り越えた時貴女は生まれ変わります」

そう言われて差し出された勾玉を受けとると心臓の上に押し当てると勾玉は獣人の身体から邪気を吹き出させ

その邪気を全てを吸収すると獣人中に吸い込まれていった

後には裸身の乙女が立ち尽くしていたけど崩れ落ちる寸前を嵐に抱き止められ

「これを掛けてあげなさい」

そう言われて渡されたマントを身体に掛けると

「その者は私が連れていく、レムは命様を頼む」

そう沙霧が言うと

「そうですね、私もそろそろ限界ですからみこと代わるので頼みますね」

そう言って目を閉じると立ったまま眠っていたからその身体を抱き上げぺんに戻り仲間を待つ事にした

手探り状態の来る時と事なり船脚自体は早いが意識不明の二人を抱えた皆の気は重かった

山道を駆け降り川を下り桟橋で真琴達が降りると意識を取り戻した命が

「チサちゃん、みこのリュックからチサちゃんに渡したのとおんなしの入ってるから翼ちゃんにも渡してあげて」

そう言われて数珠を一式取り出し翼に渡し翼が身に付けると

「翼ちゃん、ウィンディー様に祈って」

そう言われて翼が祈り始めるとチサの時同様に翼の身体から霊気吹き出し数珠を染めると十個の碧の霊玉が現れそれをチサにひとつ渡し真琴には三個渡し

「真琴は真琴の分と大公様に頼まれた武具の強化に使って」

そう言って命に残りの六個を預けると

「みこ、アタイも欲しいが沙霧、お前さんもその霊玉を受け入れちゃどうだ?」

そう鬼百合が言うと碧の霊玉自らが沙霧の元に行き受け入れを求めたから」

「公女宮に戻り次第受け入れる」

とだけ答えた

「それなら真琴ちゃん、私のフレア様の霊玉も役立てて」

そう言って朱い霊玉を六個渡すと命も

「未だ有るかもだけど…」

そう言って真琴に20個と翼に渡しその三人がくれた霊玉を寂しそうに見る真琴に気付いたレムが

「確かに霊力の無い真琴には霊玉を産み出せませんが白魔法の魔力を吸った白い勾玉が有りますね?」

レムが言うと命も

「うん、みこもまこちゃんの勾玉大好きだよ」

嬉しそうに言うと

「真琴ちゃんの白い勾玉って物凄く綺麗だもんね」

チサも言うと

「実際に真琴の勾玉はお守りの装飾品として大公領内ではかなり人気が高いんですよ?」

そう笑って言われて照れる真琴は白い勾玉を出し翼とチサにひとつづつ渡し命に六個渡し

「歌のレッスンもそろそろ最終段階に入る頃だからもう少しだけ待っててね…みこ」

そう声を掛けると

「うん、みこも良い子にして待ってるからねっ♪」

そう再会を誓いあい真琴達は公女宮に帰り命たちも本国に向けて出航したのは夜明け間近い頃だった



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噂の主

風の精霊を無事に解放した水の精霊の巫女達だけど人魚姫の姿を見たいと望む声が国の内外を問わず上がり始めていた…


三章噂の主

 

 

①お顔を見せてよ人魚姫

 

夜が明け月は既に沈んでいる帰り路、飛空挺になれないぺんは行きの倍近い時間を掛けて本国に帰り着いた

意識の無い命と元獸人の少女に眠っているチサと嵐を抱えた一行

人気の無い海岸を探して上陸し千浪が先触れの使者に立ち、王家に命の状況報告をして馬車を借り受けてから迎えに戻った

命を乗せた一行の馬車が王宮に戻ったのは昼の少し前で予め受け入れ準備を整えられていて観月の指示の元、目覚めたばかりのチサと嵐はマイとマキに手伝わせ入浴後に食堂に案内させ待っていた王家の者達と共に食事を摂ることになった

命は瑞穂が運びミナが看病にあたり、もう一人の少女は阿が自分達の部屋へ運びマユが看病の担当を任されている

命達の帰還の安堵とその命が原因不明の意識不明の状態が暗い陰を落とす微妙な空気の中での食事が終わり…

嵐は国王一家に、千浪は観月及び美月のスタッフに事の次第を報告する事になった

無事に風の精霊ウィンディーを救出を果たし翼が風の精霊の巫女に選ばれた事実と闇に囚われていた少女を救い出した事を大まかに説明して…最後に

「敵の罠である炎の剣と真空の刃との接触が命の意識不明の原因としか思えず炎の剣に関しては命の八青龍神と言う呪文で問題無く浄化したはずなのだから…」

言い淀む嵐と千浪に王妃と観月は各々に

「その場に立ち会ってないから後は推測に過ぎない…ですね?」

そう言われて力無く頷く二人に

「了解した、報告ご苦労だったな…今日はもうそなた達の手を煩わせるよう事も起こるまいからゆっくり休みなさい」

国王が嵐に言い

「翼が風の精霊の巫女に撰ばれたのですね…ユウ、風の精霊の巫女のドレスも任せますから頼みますね…で、千浪に聞きますがあの少女はみこの客人として扱えば良いのですか?

それならそれで私の方もそのつもりで衣服等用意させますが…」

そう言われて

「後から命本人も言うでしょうが嵐からも観月によろしく伝えて欲しいと頼まれている」

そう告げる千浪の言葉を聞いて

「わかりました…ユキ、聞いての通りですから大まかなサイズは分かりますね?

彼女に似合うドレスを適当に見繕いなさい

ユカはマイにミナと交代し命を見守るよう指示しミナといつもの作業を進めユミはいつもの通りに見習い侍女達の礼儀作法を指導を任せますからね

千浪はお疲れ様、ゆっくり休んで霊玉を受け入れる時まで英気を養っておきなさいね」

観月が各人にそう指示を与えてから解散となった

 

夕方になり日中は微熱だった命の体温が急激に上がり始めその高熱で魘され始めた

 

夕食の間王妃は普通に席に着きミナは給仕にまわりミナ、マイの二人が交代で食事の間王妃が命、マキの代わりにマユが少女を看守って過ごし…夜間もマキがマユと交替で看病に入っていた

明け方には多少容態が安定しなんとか目覚めた少女に朝食の給仕を済ませたマキとマユに

「伯母様は今から休んでいただきミナ、マイと共に食事が済んだら休みなさいなさい」

そう言われても渋る四人に

「容態は安定してますし仲間のマサミとマナが信じられませんか?」

そう言われて渋々王妃は隣の観月の部屋でミナ達四人は各々侍女の部屋の自分達のベッドで仮眠をとることにした

それから暫くしてマナの使いから少女が目覚めた事を聞いた鬼百合が様子を見に行くと

「貴女は誰ですか?ここは一体どこなのですか?」

そう聞かれて

「精霊の巫女逹の守護者を自認する者の一人で鬼百合ってもんでここはアタイ等が厄介になってる歌の国の王宮だ」

そう答えられて

「その様な場所に私の様に得体の知れない者が居ても良いのでしょうか?」

戸惑いながら聞くと

「良いも悪いもそいつはアタイ等の決めることじゃねえが…どうだ、身体の調子は…起きられそうか?」

そう聞かれて慎重に自分の身体を確かめ起き上がると服を着せられていてそこから覗く手足が無毛である事に驚き

「何故…」

と呟くと

「細かいことは気にするな、アタイに聞かれても知る分けねぇんだからよ…それより歩けるならついてきな」

鬼百合にそう言われて黙ってついて行くと命が眠る部屋に案内された

「観月、連れてきたぞ」

そう鬼百合が声を掛けるとそれまで開いていたスケッチを閉じると

「貴女の名前は?」

観月に聞かれて

「忍と言います」

そう答えると

「私は観月と言いい歌の国、東の大公家の公女です」

そう言われて

「すいません、長きに渡り闇の者に囚われていた私はこの世界の情勢に詳りしく有りませんが貴女も高貴な方なのは判ります」

そう答えると

「率直に聞きますが貴女の今後の身の振り方についてですが何か希望はありますか?」

そうストレートにきかれたので

「もし許されるのならば私は私を闇から救いだしてくれた水の精霊の巫女様の為に戦う戦士になりたい

多少鍛え直す必要は有りますが今こうしていられるのも全て巫女様のお陰ですから…」

その決意を込めた答に

「そうですか…わかりました、取り敢えず入浴と食事の仕度はさせてありますから入浴後仕度させてある服に着て食事を摂りなさい

昼食は貴女を紹介したいので私達と摂ってもらいますから朝食は軽めにしてあります

それ以降の事は鬼百合に任せますね」

そう言われて退出するとマユが浴室に案内して浴場の使い方を教えてもらい身体を休めた忍

食事中も慣れない王宮に落ち着けない様子の忍を気遣い食後の散歩に誘う鬼百合が

「ひとつ聞くがお前さんは剣などの武器で戦う戦士と体術で戦う闘士のどっちのタイプ何だ?」

鬼百合がそう聞くと

「狗の獣人だった私は牙と爪が主な武器でしたから闘士タイプでしょうか?」

そう問い返すと

「鍛え直すんならアタイは主に剣でも大太刀で戦うタイプだからアタイより拳闘士の阿に見てもらった方が良いと思ってな…」

そう言われて成る程と思い

「貴女の判断に任せますが鬼百合さん、貴女にお聞きしたい事があるのですが宜しいですか?」

鬼百合に対し畏まる忍に

「鬼百合で良い、アタイもお前を忍と呼ばせて貰うからよっ♪んで、アタイに聞きたいことってのは何だ?

見ての通り賢いとは程遠いアタイに答えられる事にしてくれよ?」

そう笑って言われた忍は

「あの方は…精霊の巫女様は一体どの様な方なのですか?

身なりからして王族の一員である事が部外者の私でもわかかる観月様にあれ程思われてはいてもとても王族には到底見えないですが彼女が伏せって居る事に心を痛めて居る者逹に事欠く事もない

風の精霊を封印する祠の番人である私を滅することなく今の自由を与えてくれました

少なくとも今の私には全く理解出来ない事を望んだ私がそう言うのも何ですけどね…」

そう自嘲気味に言う忍に

「詳しくは知らねぇがなんの因果かアイツは生まれながらに心に闇を抱える者なんだよ…だから闇から逃れたいって願いがお前の本心だと分かったから手を差し延べたのだと思う…

無論アタイの推測に過ぎんがあの小さな身体に少なくとも三人…四人の人格が住んでいるアイツを理解するのは相当に難しいかもな…」

その答えに忍が考え込んでいると鬼百合が自分達を見ている視線に気付いた…嫉妬に燃える目で忍を睨んでいるのユウを見て頭を抱えたい気持ちになりながら

「ユウの奴か…全く、アイツにも困ったもんだ…よりにもよって何でアタイなんだよ?」

等と愚痴ってもしかたがないけどそう愚痴らずには居られない鬼百合だった

昼食後観月から部屋割りの説明を受ける忍

「鬼百合がリーダの部屋には瑞穂、斬刃、修羅、千浪、コロナで主に剣で戦うタイプの部屋でユウが世話役」

そう言われて

「面倒を見てやってくれ、頼むぞユウ」

と言われても鬼百合を見ること無く

「承知しました」

とだけ答えるユウに溜め息を吐きつつ

「阿がリーダの部屋には柳水、モリオン、喧火、闘炎、忍の主に体術使いが使う部屋に別れます

忍、貴女が住む部屋の世話役はこのユカがしますから生活面はユカに相談しなさい」

そう言われて

「ユカさん、早速なんですが何故この中で私だけ皆さんと違う服なんですか?」

そう聞く忍が着ているのは試作品で海兵隊の制服をアレンジしたワンピースで

「忍様はその服はお嫌いなのですか?」

そう聞かれて

「いいえ、服についてはあまりよく分からない私はその様なことは言いませんが何故同室の皆さんと違うのか気になっただけです…」

そう答えると

「ならば遠慮は要りません普段はその格好で居なさい

ユカ、その方面も貴女が面倒見てあげなさい…どうやらみこ同様にファッションに疎い人の様ですからね」

と言うとユカも

「雰囲気や面差しが真琴ちゃんに似てますから男女どちらのファッションも着こなせそうですから楽しみですね」

そう言って驚きの眼差しで親友を見るユウだった…

 

その夜遅く意識を取り戻した命が王妃の顔を見て震える唇で

「ぉ水…飲みたい」

小さく呟くの聞いた王妃があらかじめ用意していた吸い口を口に含ませ水を呑ませると今度は

「お腹、空いた…」

と、小さいながらもさっきよりしっかりした口調で告げるのを聞いたミナが

「お粥を用意して参ります」

そう言って部屋から出るとその気配を察したユカに

「貴女は部屋に戻りなさいお粥は私が用意します」

と言いユイも

「みこちゃんが目を覚ました事は私が国王と王子逹にお知らせしますと伝えておいてください」

そう言って二人は部屋を出ていき暫くしてお粥を持ってきたユカと報告を終えたユウが部屋に入り王妃の前に置かれたワゴンの上に置き替わってユウが

「陛下は未だ意識を取り戻したばかりだろうから顔を見るのは明日の朝にしておくと伺い二人の王子も女性しか居ない客室にこのような時間に訪れるのは無粋、明日元気な顔を見れるようよろしく頼むねとのお言葉を頂いてます」

と言い王妃が命に食べさせるのを見て二人は観月と退出した

三人が出て来るのを見てマユがお茶を淹れるのを見た観月が黙って様子を見ていると微笑むユキとユミと目が合い小さく頷いた

差し出されたお茶を三人が飲み終え

「美味しいお茶を有り難う」

その観月の一言で努力が実った事を実感したマユだった

「さぁみこも意識を取り戻しましたから安心して休みなさい、チサは…」

そう言い掛けうとうとし始めているチサに気付き

「今夜は私の部屋で寝かせますから修羅、頼みます」

そう言われてうっそりと頷くとそっとチサを抱き上げて観月の部屋へ運ぶ修羅だった

 

目覚めた命の食欲はユカの予想を良い意味で裏切る結果になり本当の事を言えばちょっと多すぎたかと思っていたのが全て残さず完食し王妃とミナにマイを喜ばせた

お腹も膨れ再び眠りに就いた命の寝顔はいつもの穏やかなものに戻っていたので三人はホッと息を吐いた

 

そして一夜が明けミナとマイに仮眠を取るよう指示しマユを命の元で待機させた

最初に面会に訪れたのは朝食後の朝の議会前に王妃の許可を得た国王

国王が妻の許可が必要とする事実は夫婦の力関係を如実に表すものでそれを聞いた戦士達もさすがに苦笑いを浮かべていた

その次に訪れたのは十四夜に十六夜とユイのカップルで二人を見る十四夜の目にも既に弟が尻敷かれているのは一目瞭然の事実で

(この二人の将来像は父上と母上のような夫婦になるんだろうな…)

二人を見ながら密かにそう思う十四夜だった

その次に訪れたのは鬼百合にユウ、阿とユカの四人で不機嫌なユウを持て余す鬼百合と阿の腕に嬉しそうに絡み付くユカの笑顔が対照的だった

午前中の最後の面会は阿と瑞穂に柳水にユキとユミ

一様に命の元気そうな笑顔を喜び残りの王宮の侍女達は観月の指示で命の食事や飲み物を持たせ器を下げさせたり等

通常ならば有り得ない指示で命の負担にならないように命の顔を見に行かせた

そして午後の面会は帆風と斬刃にモリオンの三人でその次に修羅、喧火でりんを含む見習い侍女達は今日の所は午睡中の命の寝顔を見るに留めた

夜には起き上がれるまでに回復した命は軽く三曲程歌い部屋の皆に元気そうな姿を見せた

そして翌日の早朝には又いつもの東屋で歌の稽古をした後チサと礼拝堂でお祈りした後に朝食と言う生活パターンに戻った

その命の様子を見ながら観月が頭を痛めているのは命の訪問要請に訪れる他国の大使や主人の指示で命のパーティー招待を望む貴族や資産家

国内の王都以外の町役人や土豪等の実力者達の訪問要請にどう応えるかで…

そもそも王宮の在る首都王都の市民ですらごく一部の者にしかその姿を見た者はない

その為王都の市民からも命の顔を見てみたいと命の後見人である観月に要請する声の高まりへの対応に苦慮していると今度は命の気を引こうとする者達のプレゼント攻勢が始まったのだ

美月や観月経由で命宛の贈り物が競って送られ始めていたが何かを思い付き隣の部屋でチサとりんの勉強を見ているユカを呼び

「貴女が進めていた例のプロジェクトですが後何日有れば実行する事が可能ですか?」

そう聞かれたユカは嬉しそうに

「もしミナが居なければ今頃は最低でも三月位は掛かりますと答えていたはずですが十日も有れば十分です

彼女の作ってくれた試作品のお陰でこちらの業者の発注が美月程でないにしろ今までに無くスムーズに出来まして

もしこの試みが成功し評判が良ければ量産化の話も出るまでに漕ぎ着けてます」

そう答えると

「二週間後に実施としてチサは自習でりんの復習を見させ貴女はプロジェクトの準備を始めなさい

経理、事務関係は書類を纏めてからユイに見てもらい私も伯母様に話しておきますからね」

そうユカに言いながら命の運命がいよいよ大きく動き出す瞬間だと感じる観月だった

勿論ユカが考えている程のビッグイベントをいかな観月とても国王の許しを得ずに王都で行えるわけ無い

その為先ずは国王から許可を貰いに行くと話を聞いたお国王は

「今の命は美月預りの身ゆえ政治に干渉しない、されないを信条にする美月並び公女宮に私から要請するのは政治的干渉に他ならないと断っているのだが…」

と、苦笑いを浮かべる国王に

「そろそろ市民の我慢も限界間近ですね?」

笑いながら言う観月に

「その状況でのこの申し出は渡りに船、私も協力するゆえ遠慮なく大々的なイベントを行ってほしい」

と、両手をあげてのお許しを得て

「開催場所等の概要は今夜迄に具体的な計画を立てますからそれが決まり次第報告しますので早速取り掛かります」

そう言って「失礼しました」と挨拶し退出した

開催予定日は二週間後で開催場所は王都南大広場

開催内容は命のミニコンサート、美月デザイナーであるユカによる新作ファッションショー(命もモデルで出演)

命をモデルで写生会(有料、構図に希望があるなら申し出があれば検討する

命の出番終了後のメインステージは申請者達によるパフォーマンスの発表の場にする為出演者募集開始

美月もファッションショーで使用された服(綿製品)の即売会行うので申請者の会場内の屋台も許可するので出店者募集

と、言った内容のチラシをガリバン刷りで用意しユカと阿が市長舎と治安維持局に赴きイベント開催を申請を行い

観月が明日午前中に市長及び治安維持局長との面会を希望している旨を伝え申請が無事受理され明日の面会も喜んでお待ちしておりますとの返事を貰い

「差し出がましいのかもしれませんがこれだけの規模のイベントを行うのであれば会場設営を任せられるのはこの男しか居りません」

そう言って一枚の名刺を差し出され受け取ると

「有り難うございます、実のところ私達も自主開催は初めての事なので一旦王宮に戻り業者の選定から始めねばならないと思ってましたから大変助かります」

と、答え頭を深々と下げると

「勿論私もですが市民の待ち望んでいた人魚姫がいよいよそのお姿をお見せくださるこのイベント

市庁舎の全職員も応援しますから宜しくお願いします」

そう言って貰い貰った名刺を馭者に預け業者の元に向かった

業者の男も最初チラシを受け取り驚いたものの面識の無い筈の相手が何故?と考えているのが見えたので

「市長様がこれだけの規模のイベントの会場設営を任せられるのはこの男しか居りませんっ!そう仰って貴方の名刺を頂きました」

そう言われて

「成る程、市長の推薦か…分かった元々俺も社員達も家族に人魚姫にお会いしたいとせっつかれて困ってたんだから最高の舞台に仕上げよう、図面は用意してあるのかい?」

そう聞かれて完成予想図を見せると

「う~ん…俺等には無い斬新なアイデアだ…極力希望に添えるよう努力しよう」

そう言われて王宮に戻り結果を観月に報告を済ませると命とチサ以外のモデルはマイ、マキ、マユの他にマナが呼ばれ見習い侍女からはりん、スー、スエ、スズの四人が選ばれた

その為観月に頼みマナも通常業務から外して貰い所謂ところの演出に沿った立ち居振舞い

短時間での衣装換え…早変わりを会得する為の特訓を受けることになった

「今回のイベントが終わり次第マナもこの部屋の住人となり命逹の世話を任せますから個人の荷物を持ってきなさい」

そう言われて喜んだマナだった

翌日の朝食後部屋に戻った命と嵐と忍に瑞穂が呼ばれ部屋に入るとユカとミナにマイもいて

「これより私は治安維持局で局長、市庁舎で市長と面会に行きますからそれを着てついてきなさい

命の着替えはマイが手伝いなさいね、ミナは嵐にそのスーツ(勿論レディース)を渡したら出掛ける仕度をなさい

今回のイベント内容はある程度把握してますね?ユカの助手として紹介しますのでそのつもりで

ユカは忍にその(海兵隊風の)チュニックワンピースを着替えさせ髪型を整えてあげて終わり次第準備作業に戻りなさい」

そう言われて仕度を調え命の仕度が終わるのを待って先ずは治安維持局に向かった

二日続けて現れた王家の馬車を見て何事かと様子を見ていると

「公女様、侍女、?可愛い少女にスーツ姿の佳い女と続いて…」

「ありゃ大公家の海兵の制服だな?…が何で人形を肩に乗せて…」

「イヤ、良く見ろよ?さっきからしきりに首を振ってはキョロキョロとあっちこっちを眺めてるしあの髪と瞳の色は?まさか…」

そう人々が噂している中一行は治安維持局に入っていった

勿論治安維持局の局員達も命の訪問までは聞かされてはおらず皆の目は命に釘付けになり

受付嬢も命に見惚れて一瞬対応遅れたが気を取り直して立ち上がると

「局長がお待ちです、こちらにどうぞ」

と言って案内に立ちこんこんっ…と局長室と書かれたプレートの張り付いたと戸を叩き

「局長、観月様がお見えになりました、お通しします」

そう言って戸を開けると「どうぞ」と言って一行に入室を促した

「失礼します」

そう言って入ってきた面々を見て命の存在に気付き驚く局長に

「みこ、局長さんにちゃんとご挨拶出来ますね?」

そう言われた命は瑞穂に下ろしてもらうと

「今おーさまのお家に居るみこです、お歌を歌うのが大好きですっ♪」

命がそう名乗るのを聞き頭をペコリと下げるのを見て

「私は治安維持局を預かる局長を務める御法と言うものです…よろしくねお願いしますね、みこちゃん」

観月のメッセージをしっかり受け止めた御法はみこちゃんと呼び掛けたのでご機嫌な命は

「ぉ姉さん、お祭りって何?鬼百合がお祭り騒ぎだなってゆってたんだけどみこはお祭り知らないんだ」

そう笑って言われ何と答えれば良いのか分からない御法に代わり

「二週間後にみこが主役の祭りが有りますから楽しみにしてなさい」

そう言われて不思議そうなな顔をして

「みこが主役?……あははっ、なんか変なのぉ~っ♪」

と笑う命を見て目を白黒させる御法に

「まぁこの通りの娘で世間様にはかなり誤解されてる部分が大きいのですよ…」

そう言われて

「そうですね、私の聞いた噂もももっと高圧的な雰囲気の子だと聞いてますからね…」

そう言われて

(まぁ確かにそれは間違いではありませんが…みこの事ではありませんね…)

そう観月は考えたが他の者も大体似たようなこと考えていた

「ところで今回のイベントについてですが昨日使いに寄越した…ユカと言う者が実質の指揮を執りこのミナが助手を勤めます

ですからミナは常に本部につかせてますから何かしら用件がある場合遠慮なくお申し付け下さい」

そう紹介され自信は無いけどそれは今に始まった事では無いミナは

「未熟者ですけど精一杯勤めますからお気付きの点はご指導の程宜しくお願いします」

と観月が納得出来る受け答えが出来る様になったミナの成長を密かに喜んでいた

「こちらの二人はモデルでは御座いませんが今回の黒子…

と言うにはファッショナブルですけど舞台のみこのサポートする者で嵐に忍です」

そう紹介され頷く二人に

「かなり鍛えられた戦士達も参加するのですね?」

と驚く御法に

「いやと言って許してくれる方ではありませんからね…」

そう言って溜め息を吐く嵐に

「そうなのですか?私なら巫女様の為ならば気になりませんけど?

勿論特に似合ってるとは考えませんが戦闘向きで無いのが気になる程度…」

そう言われて更に溜め息を吐く嵐

「最後のこの者は海兵隊の者では在りませんがみこの兄の一人を自認する男にみこが瑞穂と柳水に似合うからチョーダイと言われているのを聞いていた提督がその男を押し退け♪

自らが大公宮の海兵隊寄宿室に三人を案内して保管してある予備の制服を渡すとみこに

『ありがとねー、おじいちゃま大好きだよっ♪』

そう言われて頬に口付けされてやにさがっていた…と言う曰く付きの一着です」

そう又してもリアクションに困る話に戸惑う御法だったから取り敢えず話題を変える為に

「そう言えばみこちゃんは我が国への訪問の際に我が国の少女を救ってくれて有難う、皆とても喜んでましたよ」

と、言われ

「うん、りんちゃんはもうお友だちたしりんちゃんのお友だちも皆みこのお友だちになってくれたんだよっ♪」

と言われ又々驚きながらも

「その話を聞いて思ったのですが間も無く開催される海難事故防止のイメージキャラクターをみこちゃんにお願いしたいけど良い?」

と言われ難しい顔で

「…イメ……??」

と言うみこの代わりに笑いながら

「みこにお手伝いしてっていう話ですから問題ありませんね?」

そうざっくりと説明され

「あははっ、なんだそーゆー事ならそー言ってくれないとみこわかんないよぉーっ♪」

そう笑って言われ黙り込む御法に

「その件については詳しい話しは私がお伺いしますから…」

そう言って入口に目をちらっと向けるのに気づいた御法が

「お、お前達は何をしているっ!お客様の前でみっともない姿を見せるなっ!」

そう部下達を叱責する御法に

「後はワタシと御法様とで話をもう少し詰めておきますからみこはお兄さんやお姉さん達とお茶を頂いて待ってなさい」

そうたしなめられ畏まる御法に

「噂ばかりが先行してしまった今の命は何処に行ってもあんな感じでしょうね」

そう笑って言うのを聞いては

「やはり観月様の所でさえそうなのでしたか?」

と聞くと

「みこが水の精霊の巫女で有ると言う事実は分家である大公家が本家の国王を差し置いて公表して良いものではない

そう判断し一部の重鎮と命の身の回りの世話をする極一部の侍女のみが知る極秘事項でしたし

公女宮にいた頃は臥せっていることが多く今と違い中々人に馴染めない子でしたから…

今日のように私についてくるような表舞台に出てくる子では無かったのでわかりません」

と言われ驚いたものの

「確かに水の精霊の巫女で有ると言う事実の公表は入国した翌日の発表でしたね…」

観月の言葉に感心しながら用意したパンフレットを渡しながら

「これが毎年この時期に行われる海難事故防止の強化月間初日に行われるイベントの概要です」

 




この章は華やかさが演出できたら…


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噂の主②

華やかに歌う人魚姫は踊りをならい始めますがそれもまた運命?


「お、お前達は何をしているっ!お客様の前でみっともない姿を見せるなっ!」

そう部下達を叱責する御法に

「後は私と御法様とで話をもう少し具体的に詰めておきますからみこはお兄さんやお姉さん達とお茶を頂いて待ってなさい」

そうたしなめられ畏まる御法に

「噂ばかりが先行してしまった今の命は何処に行ってもあんな感じでしょうね」

そう笑って言うのを聞いて

「やはり観月様の所でさえそうなのでしたか?」

と聞くと

「みこが水の精霊の巫女で有ると言う事実は分家である大公家が本家の国王を差し置いて公表して良いものではない

そう判断し一部の重鎮と命の身の回りの世話をする極一部の侍女のみが知る極秘事項でしたし

公女宮にいた頃は臥せっていることが多く今と違い中々人に馴染めない子でしたから…

今日のように私についてくるような子では無かったのでわかりません」

と言われ驚いたものの

「確かに水の精霊の巫女で有ると言う事実は入国した翌日の公表でしたね…」

観月の言葉に感心しながら用意したパンフレットを渡しながら

「これが毎年この時期に行われる海難事故防止の強化月間初日に行われるイベントのです」

そう言って手渡されたパンフレットじっくり読み込むむ観月に

「いかがでしょうか?」

不安気に聞く御法に

「趣旨は理解できましたからその日はみこのスケジュールを空けておきます」

そう答えるとホッと息を吐き出し

「それと広報の者が写生大会にお邪魔して命様の絵を描かせて貰いそれでその絵を広報用のポスターの絵に使いたいのですがよろしいでしょうか?」

そう尋ねられた観月は

「明日の写生大会の入場料を払って頂ければその後は描いた人の良心に任せますが貴方達のそれは良心に何ら恥じるものではないと思いますが?」

との答えに

「ご理解頂き恐縮です」

と、言って頭を下げる御法

「心身ともに幼いみこは未だ知らないことばかりですから色々体験させたいのでこちらからお願いします」

そう言って貰った局長は感激し

「局員逹も皆みこちゃんの虜になったようですから何かの折りにはお声を掛けて戴ければお手伝い致します」

そう言って観月の手を握りしめた

観月と御法には少し温くなったお茶を飲み干すと

「私はこの後準備の始まっているはずの会場、それに市庁舎にも訪れて市長にも挨拶にに行かなければならないのでそろそろ失礼します」

そう言って頭を下げる観月に手を差し出しながら

「又お会いしたいものですね…」

「明日会場にお越し頂ければ私の方は陣頭指揮を執ってますからご遠慮無く顔を出してください…みこ、嵐、移動します」

互いの手を取り合い別れの挨拶を済ませると局員達が敬礼するなか観月を先頭に馬車に戻った一行

会場の中央広場ではみことミナは馬車にお留守番

観月は会場設置責任者に大まかな会場の見取り図を手渡して宜しくお願いしますと頭を下げた

「おう、任しときな!明日は待望の人魚姫様の御光臨なんだろ?

皆楽しみにしてるんだからこちこそ宜しく頼むぜっ!」

と威勢良く答えを返した

そして市庁舎…

こちらは市庁舎前が大騒ぎになり早速治安局のお世話になることに…

命の挨拶は局長の時と同じでやはり観月の意思を読み取りみこちゃんと呼び掛けたのでヘソを曲げること無く対応した

そして市長が

「私の妻と娘逹がみこちゃんに是非とも会いたってるのでお昼でもご一緒に如何でしょうか?」

「嵐、ミナ、みこをお願いします

市長、私は明日の準備のため戻らなければなりませんがみこと世話役にこの嵐とミナを置いて行きますので宜しくお願いします」

観月のその言葉にがっかりしながらも観月の多忙さは有名な話なので

「それは残念ですが…又後日お会いしましょう」

そう挨拶すると

「みこ、未だ帰らなくて良いの?」

「みこは今から市長さんと市長さんのご家族とお昼ご飯を食べるのよ」

ドアを叩く音がして

「失礼します…市長、奥様とお嬢様方がお見えで…

再びドアが開き五人の女性達が入って来た

「約束の時間はとっくに…

今度は市長夫人の話が末娘の声によって遮られた

「あ゛~っ、もしかしてもしかする~っ?」

驚く娘達に

「急な訪問で市長にはご迷惑お掛けしました」

少し自慢気に

「ちょっと遅くなってしまったが命様が一緒にお食事する事になったが良いかい?」

市長は末娘に訪ねると

「一緒に?じゃあ早くいこ!」

嬉しそうな娘を見ながら

「では後の事は任せるから宜しく頼む」

秘書に言い残すと市長室を後にした

「私は雪華、人魚姫様にお会い出来とっても嬉しいです」

と喜びを隠さずに言う雪華に

「あのね、みこお姫様じゃないよ?だからみこで良いんだよ」

と言われて嬉しそうに

「それじゃあみこちゃん…って呼んでも良いですか?」

と言うと

「うん、そんで良いしお姉さん達もそう呼んでね…」

命がそう答えると

「そう、私は長女の春蘭宜しくねみこちゃん」

「私は次女の美潮、みこちゃん宜しくね」

「三女の弥空…宜しくね、みこちゃん」

「私は嵐と言います…」

「ええ、存じてますよ…大公領国境警備隊の隊長さんでしょ?王女様」

「え?今の王家には王女様は居ないはずじゃあ?」

「ええそうですよ、この方は前国王の娘にして現在の国王の妹君ですからね」

「昔の話しです、今の私は泉の女神を護る騎士ですから

今日はみこのお守りですが」

と笑って言った

「貴方、街がざわついてますが何か有ったのですか?」

と聞かれて

「何かは明日起こるのさ、美月のファッションブランドのファッションショーとみこちゃんがモデルの写生大会等のイベントを開くのだそうだ」

嵐は頷き

「私達はそのご挨拶に市庁舎へお邪魔してました」

「明日何か気にいった服があれば買ってあげるよ」

と市長が言うと

「え~っ、美月ブランドって高いから無理しなくて良いよ」

と遠慮する雪華に

「そうでもないですよ、私やみこが着ているのは木綿の服ですから美月のブランドでは安い物です」

頭を下げ

「侍女の私が口を挟むのをお許しください

今回の試みはブランドとして確立した観月の服をもっと多くの方に楽しんで貰う為と観月様とデザイナーのユカ様が仰ってました」

とミナが説明すると

「貴女は確かミナ…さんと言ったね?私は市長と言っても一役人に過ぎないのだからその様な遠慮は無用だよ?

が、まぁそれは良いとして世界中の宮廷に愛される美月が一般市民向けの服をデザインするとなると…」

とぶつぶついい始めたのを呆れ顔で

「今日位仕事を忘れ市長ではなく娘達の父親で居てくださいな」

と妻に言われて頭を掻きながらに苦笑いする市長だった

やがてそれぞれに頼んだ料理が供されミナ以外の者が食事を始めた

ミナは熱々の鍋を盛った椀をまず嵐に手渡しついで命用の椀に魚を入れ細かく解して命食べさせ始めた

それを見た雪華羨ましそうに見ていたが

「ミナさん…本当の誕生日は過ぎちゃってるけど今日はその代わりのお食事なの…

だから今ミナさんがしてるみこちゃんのお世話、私の我が儘と思って変わって下さい」

と言われて

「命様はものすごい猫舌だから良く冷ましてあげてね」

と言われて満面の笑みで

「はいっ、判りましたっ!」

と答えると

「ズルい」

と姉達が言い出して市長夫人までが一緒なって命の世話を取り合った

「お父さん、最高のお誕生日プレゼントありがとう

今みこちゃんが私の目の前に居るなんて最高に幸せだよ」

それは他の四人も感じている事だが嵐は命に

「お誕生日プレゼントって何」

と聞かれて答えに困っていると市長夫人が

「その人に生まれてきてくれて有難うの気持ちを伝える物ですよ」

と言われて自分の誕生日すら知らぬ命は

「祝福されなかったみことまこちゃんには関係無い事なんだ…」

その微かな呟きに気付けた者はない

「おじさん、みこ何も用意してないからお歌歌って良い?」

命の突然の申し出に

「ここはお店だから他の人達も居る

だからお店の人に聞いてみないとね」

と言って偶々通り掛かった中居に

「女将を呼んでほしい」

と頼むと勘違いした彼女は

「市長が深刻な顔で女将を呼べと言ってます」

と伝えものだから女将も泡食って市長の座敷に駆け込んだが市長から事情を聞き

「他の客には私逹の方からこういう事情だからと言って理解して頂きます」

と請け合った

女将からすれば噂の人魚姫が自分の店で歌いたいと言ってくれていると知ってそんなチャンスを逃す女ではない

急いで手の空いている中居を集め事情を話し他の座敷客達の了解とるよう命じた

歌う人魚姫と呼ばれ始めていた命を師事するのは世界的にも有名なアリア女史だと言うのは既に知れ渡っていた

偏屈な女史は才能が無ければ何処の誰だろうがいくら積まれようが教えない

と、言うのも有名だが裏を返せば今教えを受けている命の才能は彼女が認めるものだと言える

だから誰も反対する者がないばかりか逆にその幸運のお裾分けを受けたいと言い出し

二階テラスの演舞台で歌って貰えたらと言う話で纏まったので市長にその旨を伝えた

そして人達リクエストに応え演舞台の手すりに座ると

「雪華ちゃんお誕生日おめでとう、知らなかったみこはプレゼント用意してないから代わりにみこの歌聞いて

そう祝辞を述べて歌い始めた

雪華は幸せを噛み締め思った

(今命様の歌を聞いているのは私だけじゃない…

でも命様は私の為に唄うと言ってくれたのだと…)

その歌声に引き寄せられお昼のピークが終わった店はそろそろ暇になる時間帯にも関わらずどんどん増えていった

命の歌が始まると座敷から芸妓が出てきて即興の踊りを舞った

芸妓逹は命の様子を見ていたが命が一瞬驚いただけで更に嬉しそうな顔になって歌うのを見て喜んだ

命が歌い終わると大夫が拍手をしながら現れたのを見た命は大きく目を見開き一言

「キレイ…」

とだけ呟きじっと魅入った

そして我に返ると

 

「お姉さん達が着てる服…みこ初めて見るけど素敵だね、みこも着てみた…あ、一人じゃまともにお着替えできないくらい不器用なみこには無理っぽいね」

と言って頭を掻きながらあははと笑うと

「女将、あんたのお宝の…あの人形の着物ならこの方に合うサイズなんじゃないのかい?」

言われて大夫の考えを理解し側にいた中居に取りに行かせ大夫は更にミナを手招きし

「貴女はこの方のお付きの侍女だね?この方にアタシ等の我が儘で着物を着せちまっても構わないのかい?」

とミナを探るように見ながら問い掛けると

「観月に叱られますから…」

そう言って止めようとする嵐に

「命様が興味を示されてますから私が反対する理由は有りませんがもし仮にこの事で観月様がお怒りになられたのならそのお叱りは私がお受けするつもりです」

と命に支える意気込みを聞かされ

「そんだけの覚悟があるのなら一度に全ては覚えきれないだろうけど貴女に教えながら着付けをするから着いてきなさい」

そう言って運ばれてきた着物と一緒に控え室に消えた

その間に市長を知る者達が雪華本人を知っているいないに関わらず祝い言葉を述べに集ま祝福した

そうして暫く待って居るとようやく着替えを終えた命が姿を現した

その命の姿を見た人々からため息が漏れた

夜の食材まで使わねばならなくなった板場はパニックに陥っていたが泣き言を言う者は一人として居なかった

そしてそろそろ日もくれようとする頃命のお迎えが来たことが告げられ市長の家族と店を出た

座敷を出る時に太夫がお誕生日のお祝いですと貰ったばかりの…

命とお揃いのかんざしを髪に挿した雪華の笑顔は眩い位に輝いていた

「こらっ、みこの瞼がくっつきそうだぞ」

笑顔で言う鬼百合に

「だからと言ってみこは渡さないがな」

お互いに笑い合ったがその鬼百合達に雪華が

「ミナさん、私…みこちゃんのお友達になれるのでしょうか?」

不安げに問い掛けると

「新しくお友達になってくれたとみこは言いましたよ?」

と、嵐がそう言えば鬼百合も

「みこの左手を見ろ」

簡潔に言う鬼百合の言葉に促された人々が命を改めて見ると

「あっ…」

と、呻く雪華に

「みこはもうお前を友達って思ってるんだぜ?もっと自信を持ちな」

そう言われて嬉し涙を流しながら

「はい、有り難うみこちゃん…」

と答える雪華だった

「さてと、みこも完全に寝ちまったからアタイ等もいい加減帰らねぇと観月も煩かろう」

そう言って肩を竦めて馬車に乗り込む鬼百合に続き馬車に乗り込む一行だった

帰り着いた一行は鬼百合が命部屋に運びマイに着替えさせ観月に呼ばれた三人

「私の独断で命様に着物を着せましたから処罰は私だけにお願いします」

そう言って頭を下げるミナに

「みこが着物を着たいと言ったのでしょ?

なら何故貴女を処分しなくてはいけないのですか?

その程度の判断の出来ぬ者にみこを任せた覚えは有りませんからこれからもみこの意思優先で判断しなさい

着物の仕舞い方はユカが心得てますから心配要りません」

と言われて

「そう言えば大夫もユカ様が踊りを習っていると太夫が仰ってましたが…」

とミナが言うと

「正確には習っていた…ですね

デザイナーとして急がしくなり今回の様に私に同行することが増えて中々稽古の時間が取れなくなり久しいですからね」

そう残念そうに言う観月に

「命様も芸妓の方達に指導を受け踊りを経験され嬉しそうにお稽古されてました」

その話話を聞いていた王妃は

「みこが踊りを…」

その呟きを辛うじて聞き止めた観月は

(伯母様の推測が正しければ偶然ではなく必然の出会いなのかもしれませんね…)

そう考えながら

「取り敢えず今日はお疲れ様です…

侍女逹の食堂に貴女達三人の食事を取ってありますからたべてきなさい」

そう言うと三人の退出を促した観月だった

 

王宮に戻ったものの起きる気配の無い命はユカとマイが寝間着に着替えさせ瑞穂にベッドに運ばれ本格的な眠りに就き

その報告を受けて空き部屋だった隣の客室を借り受けたユカ達美月スタッフは仮事務所とし

ユカとユキはイベント準備を、ユウとユミは各々にドレスのデザインをしミナはユカがデザインしたエプロンの製作に当たっていた

取り敢えずりん友達や家族が鍋の屋台と魚介類の販売に参加すると聞いている

「ですから屋台で働く少女達に着けて貰うのが一番の宣伝になるのではないでしょうか?」

そのユカの言葉に賛同し観月も許可を出したので新作の製作を止めてる今の有る意味丁度良い作業かもしれない

もっともユキやユミからしたら

「この機会に私達の仕事も手伝わせて欲しいんだけど?」

そうユカに一言言いたかったけどこのイベントが終わるまではユカ専属のアシスタントと言われては諦めざるを得ないし

逆に観月にそう言わせるミナと組んで仕事をしてみたいとも思わせるミナだったが本人は余り自覚無い話だった…

五人がその日(?)の作業を終え命の寝顔を見てからベッドで眠りに落ちる頃目覚めた命

その命の起きた気配に気付いたチサも目を覚まし目覚めたものの未だ寝惚けてボーッとしている命に

「お腹空いたの?」

と聞くとコクりと頷く命に

「お粥用意するからその間待ってられる?」

そう聞くと寝惚けたままコクりと頷くのを見て

「じゃあ用意するね?」

そう言って二人の部屋を出ると大きな欠伸をしながら朝の仕度をしていたマイに

「チサちゃん、命様に何か?」

と、言われ苦笑いしながら

「夕べご飯食べずに寝たからお腹空いてるみたいなのでお粥用意しようと思って…」

と、答えると

「それでしたらお粥は私が用意しますからチサちゃんは命様のお側に居てください」

眠気が吹き飛んだマイに言われ苦笑いしながら部屋に戻るチサだった

そのチサが命に向かい

「ねぇみこちゃん、今日昨日みたいにご用無かったらどうする?

いつもなら昨日皆で岬に行ってたよね?」

そう聞かれた命は

「ユカさんとミナさん達忙しいみたいだしみこも昨日習った踊りのお稽古したいしお昼からはお歌のお稽古の日だし…」

そう答えると

「そう…ならお昼からの王妃様のサロンのお供は私がするからお稽古頑張ってね」

そう言うとやはり上の空の声で

「うん…」

と、答える命だった

その日の午後命はいつもの様にアリア女史の指導を受け歌のレッスン

チサは王妃が招かれた伯爵夫人のサロンのお供

そしてりん達見習いの少女達はユキの指導を受け針仕事を基礎から習うことにして雑巾作りを指示されその製作に励み当日を迎えた…

既に生活サイクルが新しい物に馴染んでいる命の朝は早い

それでも慌ただしく出掛けねば為らないこの朝は命をしても着替えるのが精一杯でユキの手伝いで着替えを終えると鬼百合に担がれ馬車に乗り込むとイベント会場に向かった

第一陣は命、鬼百合、ユキ、瑞穂、阿、ミナで出店の受付は鬼百合とユキでマスコットとして命も同席

予め申請順と飲食品コーナーを分けてあり来場時間も指定して有るため

ユキの計画と鬼百合の指導力、何より受付に座る命の笑顔を見てせっかくのイベントを台無しにする様な愚か者は居なかった

ミナは瑞穂と阿の力を借りて馬車の荷物を所定の場所に運び込む担当及び馬車を控え室にする仕度出店の陳列棚等大道具の準備

それらを予定より早く終え控え室で休んでいると

「観月様のご注文の品お届けに上がりましたぁ~っ♪」

馬車の外から留美菜の明るい声が響いて

扉を開けると台車を支える留美菜が立っていて

鍋と握り飯が山盛りの大皿と鍋を盛る器が意されていてそれを鬼百合が控え室に入り留美菜が器によそい皆に配った

それを受け取り握り飯と鍋をがっつく隣の命はユキとミナの手が空いてないため熱い鍋をぼんやり眺める命に鬼百合が

「しょうがねぇ猫舌だぜぇっ…」

そう呆れ声で言うと留美菜が

「歌を唄うみこちゃんの舌はデリケートなんですっ!」

そう言うと命から器を受け取り冷まして食べさせ始めた

二人の手が空いたのは命の食事が終わる頃で放って置いたら鬼百合が鍋も握り飯も食い尽くすから予め取り置いた物を二人に出した

提供を終えた留美菜に

「今日屋台に来てるのは何人ですか?」

ミナの問い掛けに留美菜が

「子供は私を含めて七人です」

と答えると

「もしも嫌でなければこの子達を身に付けて屋台に出てもらえると嬉いんですけど…」

そう言われて

「あの…私達お小遣い持ってきてないんですけど…」

そう申し訳なさそうに言う留美菜に

「最初の予定ではこれは今回のイベントに出すつもりはなかったんですが貴女達が出店するのを知ってならいっその事貴女達にモデルをやって貰ってはと言う話になりまして…

報酬はそのエプロンになりますけど美月のユカ様がデザインした物です、引き受けていただけますか?」

ミナにそう言われて

「あ、有り難うございます、皆喜びます」

そう言って頭を下げると皆の所に戻っていった

第二陣はチサ、りん、マイ、マキ、マユ、マナ、スー、スエ、スズに嵐、忍、ユウが到着

モデルをする者達は命と共に舞台の下見でユウ、ユキ、ミナは命以外は最初の服を着ている為二着め以降の衣装の準備

そして最終便で国王一家とユイ、観月、ユカが到着し他の戦士達は然程遠くないため適度にバラけてトラブルが無いよう見回りをしている

治安維持局のアナウンス課のウグイス孃、ヒバリの

「ただ今から噂の人魚姫みこちゃんの歌とファッションショーを開催します」

と言う開会宣言で始まった

「ではまず主催者の美月代表観月様のご挨拶」

そう言って呼び出され観月は苦笑いしながら

「今日の主役は命なのですから私からは出店の皆さん、出店料を記して無いのは頂くつもりが無いから

代わりにこのイベントが盛り上がるよう皆さんの力をお貸しください

お待たせして申し訳なく思いますがみこの歌を楽しんでください」

そう言って一礼すると舞台袖に下がると

「では早速人魚姫みこちゃんを呼んで歌ってもらいましょう

さぁ皆さん、大きな声でみこちゃーんっと呼びましょう」

そう言われた観衆達がバラバラでは有るけど大きな声で呼ぶと

「もおお姉さん、みこぉ姫様じゃないよ?」

そう言って頬を膨らますと

「大丈夫よ、みこちゃん

私の小さい頃にも姫って呼ばれてた子が居たけどみこちゃんと同じで別にお姫様じゃなかたのよ?」

そう言われ

「ふーん…そうなんだ…まっ、いっかーっ♪」

と言うと頭をぺこりと下げると

「今日は沢山集まってくれてありがとね、こんなに沢山の人の前で唄うの初めてだから間違ったらごめんね」

そう言ってぺろっと舌を出し竪琴を奏で歌い始めた命

明るく陽気な祭りの歌を中心にアンコールを含めて全十曲を歌い上げ

「今日はみこなんかの歌を聞きに来てくれてありがとー

一旦下がるけどまだまだ終わりじゃないから楽しんでもらえると嬉ーな」

そう言って舞台袖の忍に飛び付くとセットが代わりチサを先頭にモデル達がまるで磯遊びを楽しむようにはしゃぎ始めた

そして暫くすると嵐の肩に乗った着替えを終えた命が現れマイに飛び付くと一層弾ける笑顔を見せる少女達とそれを見守る嵐と忍

命とチサにりんは青、赤、白の大公領海兵隊の制服で見習いの少女達はそれのスカートバージョン

四人の侍女は青と白のハーフパンツとショートパンツバージョンをそれぞれ身に付けていた

一同が退場しセットが組み直され今度はマイに手を引かれ身体を宙に浮かせた命の二人を先頭にチサとりんに見習い侍女達が後を追い

その後を侍女達と荷物を持った嵐と忍が現れ草原を駆け回る命達を嵐と忍に侍女達が見守ると言う構図だ

命が着ている服は空色のノースリーブのミニのワンピースでチサはオレンジにりんはモスグリーン

見習い侍女達が同色の半袖で膝丈のワンピースでマイとマキは空色とオレンジの長袖でロングのワンピース

マナは空色のブラウスにセミロングのスカートでマユはモスグリーンのブラウスにスラックスで登場

再び一同が退場しセットの組み直しになり現れた命は嵐に肩車されているその後ろにチサの手を引く忍りんの手を引くマイといった感じで黙々と山道を歩くイメージの一行

命が濃紺のデニム地のサロペットデニム地に淡いピンクのタンクトップでチサは薄いオレンジの半袖に濃紺のショートパンツ

で、りんはイエローグリーンのシャツに濃紺のジャンパースカートで三人の見習い侍女は各々の色違い

侍女達はデニム地のショートパンツにノースリーブとハーフパンツにポロシャツ

ロングパンツに白いシャツをは来て着てデニムのベストを羽織り最後の一人がデニムのワンピース

そして最後はパステルカラーの一同が現れ

皆色違いではあるけど同じデザインのミニのワンピースを町中を模したセットの中をウィンドウショッピングの様に散策している

そして全員が横一列に並びその前に観月が現れ

「今回美月初の試みにお集まり頂き誠に有り難うございます

今日見ていただいた服はデザイナーとして知られているユカとそのアシスタントが手掛けた物

今日のイベントも近々若月と言う美月の姉妹ブランドとして立ち上げる物のデモンストレーション

皆さんの熱いご支援を願いつつ今日のファッションショーは終わります

この後のパフォーマーは芸処と呼ばれていた歌の国の芸自慢復活のため頑張ってください」

そう言って美月主催のイベントは幕を閉じた

 

もっともその閉会の宣言を皮切りに美月も含む出店の本格的な営業が始まり…

りんとチサ以外のモデル達は美月のお手伝いでりんとチサは年相応にお小遣いを貰い留美菜達の屋台に向かった



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噂の主③

精霊の巫女の周りに人が集まり始めてきた…巫女を助けたいと願い…


ただでさえ目立つパステルカラーの可愛いエプロンを着けた留美菜達の屋台はダントツに目立っていた

そこにファッションショーのラストで着ていたワンピースのままで現れたチサとりんが一気に客を集めた

二人が手伝い始めると四つ用意した鍋はあっという間に底を尽き空いた順に追加を用意してるけどとても間に合わない

四人はまだまだ材料を刻んで鍋の準備をしている留美菜達の様子を見ながら

「りんとそのお嬢様の手が空いてるのならうちの店も手伝っておくれでないかい?」

と聞かれ

「チサちゃん良い?」

とりんが聞くから

「りんちゃんの親しい人なの?」

そうチサもりんに聞くと

皆が「時化て漁が出来ない時のお昼ご飯食べに行くお店なんだ」

そうりんに教えられて

「そうなんだ、じゃいつか皆で食べに行きましょう

でも今日は二人でお手伝いしましょ♪」

そうチサに言われて手を繋いで蕎麦屋に向かった

未だ昼飯には微妙に早い時間で留美菜達の鍋を食べ損ねた物達が軽く腹に入れておこうと蕎麦屋に集まったが勿論チサとりんが目当てだ

そんな訳で蕎麦屋も瞬く間に売り切れにした二人は

「りん、そちらのお嬢さんと皆の分用意して有るから今のうちに食べときな」

そう言って皆で熱い蕎麦を振る舞われ

「おじさんの店、冷たいお蕎麦も有りますか?」

と聞かれた主が

「お嬢さんは冷たい方が良かったのかな?」

そう言われたチサが

「私は平気だけどせっかくの美味しいお蕎麦が冷めて延びるより冷たいお蕎麦の方が猫舌のみこちゃんには良いかな?って思ったんです」

と言われた主が驚いて

「みこちゃんって人魚姫様の事かい?猫舌だって噂は聞いてるがそんなにすごいのか…?

あぁ勿論冷たいのも有るからいつか一緒に来ておくれ」

と言われて

「はい、必ず行きます」

そう嬉しそうに返事され素直に嬉しい主だった

昼時になんとか間に合った鍋を見て

「チサちゃん、隣のおまんじゅうとお握り買って鍋と一緒に観月様の所に差し入れに行こうよ」

そうりんが提案すると

「じゃありんちゃんはおまんじゅうを買って、私はお握りを買うから」

と二人の会話を聞いていた店番の婆さん二人が

「りん、うちは金は良いからうちも手伝っておくれでないか?」

「お嬢ちゃん、うちも金は良いからお握りを鍋とセットで売ってくれないかい?」

二人にそう言われて共に二十個ずつ分けて貰い鍋と共に留美菜が控え室に運び込むと

「みこにはおまんじゅうと鍋を器に入れて持っていってあげて

マイはお茶を持って留美菜を案内してあげなさい」

そう言われたマイに命がモデルをしている所に案内された留美菜が様子を見た

すると命は広場のシンボルとも言える水飲み場から流れる人口の川縁の岩に腰を下ろし竪琴を胸に抱くと言うポーズを取っていたが…

命の顔はひきつって強張っていた

「みこちゃんが休憩に入りまーす」

努めて明るく声を張り上げ忍に手渡されたタオルを巻き付けると忍が抱き上げ椅子に座らせ

「みこちゃん食べられる?」

そう言ってまんじゅうを差し出したけど緊張で強張っていた命の手は思うように動かない

物思いに更けると微動だにしない命も動いてはいけないと言うのは初めての経験

大公邸の頃からしたらかなり解消されたかに見えた人見知りもさすがに歌も歌えずただじっと見詰める視線に耐えきれない

だから留美菜の声を聞きその顔見た瞬間それまで堪えていた涙が堰を切り止めどなく流れ落ちた

しかし不謹慎は承知でも画家達はその表情を書き止め甲斐甲斐しく命の世話を焼く留美菜

そしてその甲斐あって徐々に表情が和らぐ二人の姿や表情を余す事無く書き止めた

勿論食事を終えお茶も飲んで一息入れた命がお礼に留美菜のリクエストに応え唄う姿もスケッチした

後半は命に頼まれ参加者の邪魔にならない場所で見守っていたので一度の休憩を挟み無事その役目を果たした

そして終了の時間になり

忍に抱かれ退場する命を見送りひとつの決意を秘めて皆の元に戻る留美菜だった

 

チサとりんが手伝って大いに盛り上がった出店は売り切れ店が続出

ライバル店が早い段階で店仕舞いしたので残りの店もチサとりんが手伝って更に盛り上がった

今まで命の影に隠れ気付かれて無かったチサが改めて注目を集めあの紅い髪の少女は一体何者といった声も上がり始めた

そのついでと言うか副産物言うか手伝った店の数だけ

「売り物で悪いけど…」

そう二人に持たせたものだから練り物の串焼き、甘いまんじゅうも蒸かしたのや焼いたものに焼き菓子

魚介類の串焼きに煮凝り等々が集まり鬼百合を驚かせたけど酒の肴になるものは鬼百合が貰い受け馬車に運んだ

その途中何やらキョロキョロしている留美菜達に気付いた鬼百合が

「留美菜、こんな所で何してるんだ?帰り支度はもう済んだのかい?」

と、その聞き覚えのある声に振り返り

「あっ…鬼百合さん」

そう応えたた留美菜に

「何だ、なんか探し物か?」

と、聞かれ

「今日見ていたみこちゃんはやっぱり可愛くて…

私にも何かみこちゃんに出来る事有るんじゃ無いのかな?

って考えてたら私も側に居たいって気持ちが我慢出来なくなって…

母さんにみこちゃんの側に行きたいって言ったら一緒に観月様にお願いしてくれるって…」

留美菜の言葉に母親が頷くのを見て別の母親が

「アタシだってみこちゃんやチサちゃんの側に居たいって今まではっきり物を言わない娘が言ってくれたから私もその気持ちを大切にしてやりたくてね」

話を聞いていた鬼百合は

「りんが今あるのは勉強や作法を一生懸命に習ったからだ

お前達もりんに負けない位頑張れるか?」

そう聞かれて

「日々漁に頑張るお父さんやお母さんも子供の頃から頑張ったから今があるってよく聞いてます」

「初めてのお手伝いって思えない位に器用に屋台の仕事をこなすチサちゃんみたいな特別な才能なんかない私達は頑張るしかないですよね?」

「初めての漁で船酔いで散々な目に合っても親父みたいな一人前の漁師になるんだから船酔いなんかにいつまでも負けてらんねぇからよっ!

そう言ってる兄ちゃんが格好いいって思えたから私もみこちゃんの側に居たいなら頑張るしかないですよね?」

そう口々に言う少女達に

「お前達の決意を確かに受け取ったからアタイが仲介に立つが心配するな

確かに観月は直接お前達を知らないがそのエプロンは誰にもらった?

ユカとミナがお前達ならって託したんだろ?

つまりその二人が認めてるしユウだってお前達が良い娘だって知ってるんだからよ、ちと待ってな」

そう言って駆け出す鬼百合を見送ったが程なく戻ってきて

「明日の朝岬に出掛ける時間にりんの家の前に迎えの馬車を寄越すから荷物を用意して待ってなさい…だとよ

明日はアタイも迎えに行くから楽しみにしてるぜ」

と話してると片付けを手伝っていたチサが

「留美菜ちゃん達も来てくれるの?皆が来てくれたらみこちゃんも喜ぶから待ってますね」

そう言って母親達に頭を下げ馬車に向かって歩いていった

「もっとも冷静さを失っている姉さんは逆に凄く怖いんだけどね…雪華は覚えてないだろうけどね」

そう苦笑いする深潮に?と言った表情の雪華

そんな四人に観月が

「始まりますから静かになさい」

そう声を掛けると

「急の事ゆえ皆も状況が分からぬであろうが以前より陛下より男爵任官の打診を受けていた劉そ啓吾が承諾

その為にこの任官式を急遽執り行う事と相成った、陛下…」

そう筆頭大臣が声を掛けると王妃と市長夫妻を従えた国王が席の後ろの垂れ幕から現れ国王の前で市長が膝まづき…

王妃の前では夫人が膝まづいている

お洒落な母の見たてでいつもこざっぱりしてる父が着ているのは一目でわかる高級なタキシード…もしかして美月製

母が着ているのも明らかに美月製のパーティードレスで初めて見る二人の姿にその意味を考える春蘭

その四人に向かい

「陛下はこちらを、奥方はせっかくのドレスがシワになるから王妃様の隣に立って控えなさい」

国王に小箱を渡しながら夫人に声を掛ける大臣に小箱を受け取り頷くと

「劉啓吾、陛下の御前に…」

そう言われて一旦立ち上がり国王のすぐ側に近寄り今度は方膝を着き控えると

「劉啓吾、長年に渡り王都市長の歴任大儀であった

これからはそなたの手腕を男爵として王都のみならず国全体の為に発揮して欲しい」

そう告げられ

「我が身には過ぎたるご厚情ではありますが私を推挙下さった大臣や陛下の恥にならぬ様精進を重ねるつもりです」

そう宣言し妻を見て

「無論お前も力を貸してくれるのであろう?これまで同様に」

そう夫に言われ微笑みを浮かべ頷くと会場は割れんばかりの拍手に包まれたさ

そして市長を立ち上がらせると勲章の入った小箱を授け

「精霊の巫女様をお迎えした我が国は何かと賑やかになろうが期待している」

そう言って右手を差し出すと市長それを両手で受け取り

「どうせ賑やかになるのであれば皆が笑顔で居られるよう尽力致します」

そう答えると

「全くこれ程の重大な事を思い付きでされては晴れ舞台で新しいドレスの一着も用意出来ない奥様がお可哀想です

幸い女神の祭典の為のドレスが仮縫いまで仕上がっていたから良かったものの…」

と渋い表情で夫を睨む王妃に

「全くこれ程の重大な事を思い付きでされては晴れ舞台で新しいドレスの一着も用意出来ない奥様がお可哀想です

幸い女神の祭典の為のドレスが仮縫いまで仕上がっていたから良かったものの…」

と渋い表情で夫を睨む王妃に

「大丈夫ですよ、伯母様…伯母様のはユミが責任を持って祭典に間に合わせてくれますからね、伯父様宛の請求で」

と、意地悪く言われ

「はははっ…お手柔らかに頼むよ」

苦笑いで答え

「後日就任披露パーティーを行うので勘弁して欲しい」そう答えたので

「それは勿論王家の主催で、ですね?」

そう追及され

「勿論…と言うより国王ではなく啓吾の友人として私個人の主催で開くつもりだ」

その答えでやっと追及が止み

「勿論私もお手伝いしますし…」

そう言って観月を見ると観月も

「命を始め皆喜んでお手伝いしますよ、伯父様」

そのやり取りを見ながら両親の晴れ姿を涙を流して見つめる姉妹達だった

翌朝観月との話し合いでユウ、ユカ、ユキ、ユミ、ミナは美月の仕事もあり仮設事務所で寝起きすることになり

A班マイ、マユ、春蘭、深潮、りん、スー

B班マキ、マナ、弥空、雪華、スエ、スズ

という編成で留実菜達は到着後に割り振る事に決まりクローゼットの整理をした

昨日ショーのモデルを務めた彼女達のクローゼットには昨日ショーで着た服が臨時ボーナスとして支給されていたためクローゼットを開けるのが楽しくて仕方無い彼女達

勿論春蘭達も昨日買って貰った一着が飾ってあり自己主張していた

歌の稽古を終えた命について命の部屋の侍女達も礼拝堂で祈る事が彼女達の日課に加わった

そして祈りの時を終え朝食が終わる頃に留美菜達が来た

ユカと春蘭が案内に立ち七人の少女達を割り振り昨日受けた説明を春蘭がするのをユカが見守っていた

最初は春蘭にライバル心剥き出しの留美菜達の視線に

(私達も夕べチサちゃんとりんの二人をあんな目で見ていたんですね)

苦笑いしながらの春蘭の

「大好きなみこちゃんの為に力を合わせて頑張りましょう」

と言う言葉に自分達の過ちに気付かされた留美菜達

着替えを終え自分達の荷物と支給された予備の制服を仕舞い終える頃命の部屋の侍女達も食事を終えて戻ってきた

その他の見習い侍女達と共に

そして留美菜達と王宮の侍女達の両者を知るりんに互いの紹介を任せ見守る二人

チサと弥空、深潮の学力はほぼ同水準で三人は自習しながら雪華とりんの指導

見習い侍女達はユキが留美菜達の指導はユウが隣室で行いミナはマナ、マユに裁縫の手解きをしながらユカと共に新作製作を作成

ユミは同室にて王妃の為のドレスに取り掛かりマイは小ホールで踊りの稽古をする命

マキはチサの側で控える事となり午前中を過ごす事に

午後はアリア女史のレッスンと都合が着かなければ半日を楽士達と過ごし

春蘭は作法、ダンス共にそつなくこなし弥空と深潮は無難にこなせるのがわかり

春蘭とチサは小ホールでユミが見守る中ダンス指導

弥空と深潮は部屋で美月の仕事をこなす傍らのユカが見守る中指導をする事になりそして三日目

朝のお祈りを済ませ着替えをする命達に

「先週は行けませんでしたけど今日は特に予定が有りませんから岬に出掛けますか?」

観月の突然な提案だったけど

「うん、岬も行きたいんだけどみこお蕎麦食べたい

だってチサちゃんズルいんだよ?みこが一人で寂しい時に留美菜ちゃん達と美味しいお蕎麦食べてたんだもん」

と命に恨めしそうに言われて苦笑いしながら

「でもみこちゃん、漁のお手伝いするんならお昼には行けませんよ?」

と言われてぶーっと頬を膨らませると

「大丈夫だよみこちゃん、お蕎麦屋さん今日は定休日だから頼めばお昼頃蕎麦を持って岬に駆け付けてくれるよ」

そう言われて膨らんだ頬がすぼまり目を輝かせて

「ホントっ、留美菜ちゃんっ♪」

と嬉しそうに聞いてくる命に

「休みじゃなくてもみこちゃんに会いたくてこっそり店を抜け出すかもねぇ~っ?」

とはなが笑いながら言うと

「さすがにそれは不味いのでは?」

心配そうに言うチサに

「休みだから大丈夫だよ?チサちゃん

 

まぁ休みじゃなかったら漁のお手伝い終わったら鬼百合さんか誰かに頼んでみこちゃんとチサちゃんだけでもお店に連れて行ってもらえば良いだけの話だしね」

と生真面目に言う小明(あかり)に

「確かに小明の言う通りだけどそれじゃ私達がつまらないよ?ね、春蘭さん?」

同じ見習い侍女でも歳上で聡明な四姉妹でも特に春蘭を姉の様に慕う岬の子達は四人もさん付けで呼んでいるがいきなり振られたその春蘭が

「そうですね、私だってみこちゃんのお供をしたいですからつまらないと言うか寂しいですね…」

その春蘭の言葉を聞いて

「蕎麦屋さんが休みだからホント良かったよねっ♪」

そう言って笑いあう少女達だった

 

 

「あ、おばさんおはよーっ!」

聞き覚えのある声に洗濯をする手を止め振り返ると

「りん、それに留美菜…お城にいるはずのあんた等がこんな所で一体何をやってんだい?」

大きな声に驚いて蕎麦屋一家が顔を出すと遅れてきた命がチサに連れられてきたので

「人魚姫様っ!」

と叫び声が上がったけど当の命はヒバリに言われた事と未だ見たことの無い蕎麦で頭が一杯で聞こえてなかった

「この間おじさんにお蕎麦ご馳走になったのみこちゃんに話したら

チサちゃんばっかしズルいって言われちゃって…」

苦笑いするチサに代わり

「留美菜達が今日は定休日だからと聞きましたからどうでしょうか?岬で臨時の出張営業をお願い出来ませんか?」

ユカからの突然の提案に驚いて顔を見合わせる蕎麦屋一家に

「仕込みの時間なら大丈夫です

みこちゃんはお母さん達の漁のお手伝いしに行くからお昼前迄に食べられる様に出来れば良いですから」

そうりんが言い

「海軍の非番の方達が既に岬で釣りをしながら待ち構えてますしね」

とユウも言い

「そうだね、岬の事はかなり噂になってるから行きゃかなりの人が居るんだろうね…

よし分かったよ、人魚姫様に喜んで頂けるようしっかり支度して岬に向かうとしよう

あんた、仕度するよっ!」

そう声を掛けると

「あぁ大急ぎでな、親父とお袋も頼むっ!」

そう言って幼い息子と娘を見やると

「行こ…」

いつの間にか命が我が子達に手を差し出すのを見て

「何遠慮してるんだ?留美菜にりん、二人を頼んで良いか?」

そう聞かれた二人の答は勿論

「みこちゃんが二人を招待してるんだから任せてください」

そう言って二人を馬車に招き馭者は岬へと走らせた

馬車が岬に着くと岬はいつもと異なる雰囲気があった

漁師の子供達、画家、海軍の兵士達とは明らかに異なる市民達がちらほら混じっているのだ

もっとも美月のスタッフは何人かの人     達から岬の事を聞かれていたので予測の範囲内ではあった

ただ、これまでの二回は幼い子供は別として海兵隊と海軍の兵士だけだったから命が岸辺で裸になっても目を背けていたが…

「マイ、みこちゃんの服を脱がせタオルを巻きなさい

瑞穂様はタオルを巻いたまま水に入れてあげてくださいまし」

そう言われた二人の手伝 で沖に向かって泳ぐ命を残念そうに見送っているのは始めて訪れた者達なのは明白だった

命が潜るといつもなら滅多にお目に掛かれないような獲物が少なからず上がり海女達を喜ばせた

今日も命が現れてから漁の調子は一変し何処から現れたかのように漁はあっという間に一日の限界量に達し海女達は漁港に向かい

命はは漁の途中見付けたとて綺麗で大きな貝殻で

「観月様に見ていただいたら?」

そう言われて運んでいる途中

その一方で鬼百合と柳水に船が

苦手な女神の騎士団三人が漁の手伝いに加わっていた

大きな軍艦と違い小さな漁船の揺れは軍艦比では無い

無論未だ船酔いは克服出来てないが風の精霊救出以降日に日に高まる女神の騎士団の一員で有ることの自覚と覚悟

それでも己が使命に気付いた男達士気を挫くものではない

それがともすると船酔いに負けそうな自分達を支えていた

海もそんな三人に大漁と言う形で応えてくれた

だがそれ以上に騎士団の三人と鬼百合に柳水が持つ命の蒼い霊玉…

そして柳水が持つアクエリアスの祝福を受けた銛が三人を祝福した

漁師達が魚をより分けている間の暇潰しする鬼百合と柳水の竿を賑わせた

鬼百合が釣り上げたのは二尺半の花鰹二枚に桜鯛は一枚で柳水が四本の三尺クラスの大マグロ

鬼百合も知っての通り花鰹と桜鯛は本国では大公領程の付加価値は付かない

だから網元の勧めもあり王宮に持ち帰り観月初め大公領の乙女達に食べてもらい

桜鯛は岬で騎士団の三人に振る舞うつもりだ

そして大マグロの方はと言えば相応の魚と交換して貰い岬に運んでもらうことにして交渉を成立させた

陸に上がった鬼百合は花鰹を担いで王宮に戻り観月に報告し厨房に運び込み

料理長に任せたので岬に向かおうとしたら葡萄酒一樽持って行くように言われて遠慮せず持っていくことにした

 

漁のお手伝い終わり岸辺に近付いた命は陸を見て驚いた

岬に居る人の数が算術の苦手な命にもわかる位に増えていて自分の姿を見て歓声を上げていた

その事態に怖じ気づいた命は取り敢えずチサ達が遊んでいる潮溜まりに行き

「何でこんなに沢山の知らない人が居るの?」

と聞くと

「時々みこちゃんがこの岬に遊びに来るらしいって話がかなり広まってるらしいの

で、皆さんはただじゃ申し訳ないからって屋台の時と同じ代金を支払って鍋やその他の食べ物を買って食べてるのよ」

そう言われても事態についていけない命が頭を抱えていると

「深く考えなくても良いですよ?みこちゃん

ほら、潮溜まりで遊んでる子達…初めて見る子達も皆仲良く遊んでるでしょ?

だからみこちゃんも岬に友達か増えたって思えば良いだけの事じゃないのかな?」

そう言われて左の掌に右の拳をポンと打ち鳴らし

「おおっ、成る程…チサちゃん頭良い」

と言われて

(みこちゃん…鬼百合さんの変な癖移っちゃってる…)

内心そう思って苦笑いしながら

「所でさっきまで何か持ってたみたいだけど…」

そう言われて水中から出したのは大きな二枚貝の一枚で

「綺麗だから見てたら留美菜ちゃんのお母さんが持って帰って観月様にお見せしたら?って言われたの

他にも色々見付けたんだよ?」

そう言って見せてくれた魚籠には色とりどりの貝殻が入っていて

「綺麗なのが一杯みつかったんですね?」

チサにそう言って貰い嬉しそうに微笑む命だった

「そうそうみこちゃん、今お蕎麦屋さんがみこちゃん用のお蕎麦を湧水に晒して冷たいお蕎麦用意してますから上がってお洋服着ますか?」

と尋ねられて

「うん、お蕎麦食べたい」

そう命が答えたから

「瑞穂さん、みこちゃんをお願いします

阿さんはこれを馬車に運んでもらえますか?」

と、チサに声を掛けられた三人は膝下まで水に浸かり命の尾ひれが水に浸かる高さまで抱き上げるとマイがタオルを命の身体に巻き付け

それが済むと一気に抱き上げ二人で馬車に向かうその後を阿も貝殻を担いで馬車に向かった

見習い侍女達はユキが留美菜達の指導はユウが隣室で行いミナはマナ、マユに裁縫の手解きをしながらユカと共に新作製作を作成

ユミは同室にて王妃の為のドレスに取り掛かりマイは小ホールで踊りの稽古をする命

マキはチサの側で控える事となり午前中を過ごす事に

午後はアリア女史のレッスンと都合が着かなければ半日を楽士達と過ごし

春蘭は作法、ダンス共にそつなくこなし弥空と深潮は無難にこなせるのがわかり

春蘭とチサは小ホールでユミが見守る中ダンス指導

弥空と深潮は部屋で美月の仕事をこなす傍らのユカが見守る中指導をする事になりそして三日目

朝のお祈りを済ませ着替えをする命達に

「先週は行けませんでしたけど今日は特に予定が有りませんから岬に出掛けますか?」

観月の突然な提案だったけど

「うん、岬も行きたいんだけどみこお蕎麦食べたい

だってチサちゃんズルいんだよ?みこが一人で寂しい時に留美菜ちゃん達と美味しいお蕎麦食べてたんだもん」

と命に恨めしそうに言われて苦笑いしながら

「霊力が解放されたあの姿の時のは参考にならん

全て霊力が補ってるんだからな身体能力、体力ともにな…

しかも未だ人魚化に水が必要な状態じゃ未々半人前としか言えんと思うが?」

そう言われて悔しいけど何も言い返せない命に

「踊り…覚えたいんだろ?歌だってもっと一杯歌いたいんだろ?

だったらもっと歩いて体力着けな?

一杯歩いて踊りの稽古を一杯すりゃ飯も食えるようにならぁ」

そう言われて少しずつ歩く機会を増やし始めている

歌の稽古、お祈りを終えた命が部屋に戻り食事様のドレスに着替えを終えると食堂に向かった

命を送り出した後しばらくして自室から観月が現れ

「春蘭…お茶、ですか?良い薫りが漂ってますが」

そう尋ねられたので

「はい、薬草や香草に詳しい母が調合したオリジナルブレンドのお茶です」

と春蘭が答えると

「良かったら私にも一杯淹れてくださらない?」



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噂の主④

運命の出会い運命の再会で集い始めた少女達の未来は?


そう望まれたので

「承知しました、お湯を用意致しますから暫くお待ちください」

そう言って仕度に掛かっているとチサにユウにユキと瑞穂に支えられながら蒼白い顔色のユミが不機嫌そうな顔付きで現れ

「あ…ちょうど良い、ユミ良い薫りのお茶が少し残ってるみたいだから飲んだら?」

そう言われて渡された湯呑みの温くなったお茶を飲み干すと

「ぉぃしぃ…」

と小さく呟き

「もう無いの?」

という声に

「今春蘭に新しく淹れて貰ってますから待ちなさい」

そう言われて暫く待つとティーポットと湯呑みを人数分用意しお茶を満たして配った

一同はまず香りを楽しみ一口啜ると驚いたが

「美味しい、冷めても美味しいけどこの位の温度が一番美味しいんじゃないかなっ!?」

そう興奮気味に言うユミに観月、ユウ、ユキの視線が集まり

「寝起きのユミがマトモに喋ったよ…」

驚いてそう言うユキに

「べ、別に好き好んで寝起き悪い訳じゃないんだから放っといてよ?私だって辛いんだからさ」

そう言って不貞腐れるユミに

「ゴメンゴメン謝るってばっ♪でもユミ、このお茶があれば明日から目覚めばっちりの朝が迎えられるんじゃないの?」

ユキに言われユウも

「貴女の低血圧は大公邸の見習い侍女達まで知ってるくらい有名ですからね」

そう言って笑い

「はいはい、ユミを弄るのはそれまでにしておきなさい

そう言う訳ですからこれからは朝のお茶の仕度は貴女に任せます」

そう話していると他の少女達と戦士達も次々に目を覚ましたので

「お茶を飲んだら仕度をして命とお祈りをして来なさい」

そう指示された少女達の為にお茶を淹れて賑やかな朝のお茶の時間になりその賑わいに誘われた王妃とユイも出されたお茶を喜び

「私達も都合を着け来ますから頼みますよ、春蘭」

そう言われてひたすら恐縮する春蘭だった

「所で今日は何を作るつもりなんですか?」

事情を知らない春蘭が?と言う顔をしていると

「私達は五日のお勉強岬にお出掛けお菓子教室の日ってサイクルで一週間を過ごしてるんですよ」

りんに言われ

「ですが…」

春蘭の言いたい事に気付いたユウは

「前回は例外です、みこちゃんがいかなきゃ意味がありませんからね」

そう言って同意を求めるとチサは

「みこちゃんが行けないのに行ったらきっとおへそ曲げますよ?」

とチサがおどけて言うと鬼百合も

「ちげぇねぇなっ!」

と、言って豪快に笑っている

「特に決まって無いならこのお茶に合うお菓子等はどうですか?」

と王妃が提案すると

「もうひとつ捻りを加えた物にします」

そう答えるユウだったがその日作られたのは春蘭の淹れたお茶で生地を練り込んだクッキーだった

その日の夕食後にマナとマユの二人に内示があり寝起きする場所は命の部屋のままユイの指導を受ける様にと言う物

つまり二人にはユイの美月での仕事だった経理事務担当と観月の秘書を二人に分けて学ばせるための人事である

命を取り巻く環境は新しい段階を迎えているのかも知れなかった…



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舞姫
迷子


謎の失踪騒ぎを巻き起こしお説教を受けるはめになりますが自業自得のため誰もフォローしてくれませんがもっと自覚しましょうね


五章 迷子

 

 

①迷子の迷子の人魚姫?

 

体力はすぐにつくものではないけど着実に散歩の距離は延びている

未だ真琴の望む命自身が生きる意味を見出だすまでには至ってないが興味を持った踊りをちゃんと習いたい

あの時見た芸妓達の様に踊れる様になりたい

その気持ちこそが生きる活力となり始めている命は徐々にではあるけど食事量が増えている

世話をする者が後一口、せめて一匙でも…と思う一匙を受け入れ食べるようになり始めている

そのせいかアリア女史からも

「最近声の延びが良くなりましたね」

そう誉められご満悦の命

そして再び岬に行く日になりこの日起こる大騒ぎを知らず浮かれ気味の命の部屋

いつものように岬に行き漁の手伝いを終えてりんの母親達を見送るとぼんやり空を眺めていた

気が付くと南国の日差しは閉され海は荒れに荒れていた

その状況の変化をぼんやり眺めていると波に弄ばれる船が一隻

しかし乗組員達を苦しめているのは時化だけではない

空から攻撃を仕掛けるガーゴイルの群れ

その群れが放つ闇の波動を見て不快そうに顔を歪めると

ー青龍双爪牙っ!ー

そう呪文を放つと青龍の左右の爪と牙がガーゴイル達を襲った

船を覆う様に群がっていたガーゴイルが命に気付き生き残った半分が命に襲い掛かったけど

「ふんっ…」

と鼻を鳴らし

「双頭の黒竜炎っ!」

と放たれた呪文はガーゴイル達を呑み込み塵ひとつ残さす消滅させた

だが二度目に放たれた呪文を知らぬ闇の者はない

残っていたガーゴイル達パニックを起こし逃げ惑い一匹残さず逃げ去った

命が船に近付くと乗っている何者かが首を横に振り一本のロープを投げてきた

命がそれを受け取るとその何者かは頷くと船は霧の中に消えていった

暫く船が消えた方を見ていたけど理解出来なければする気もない命にはどうでも良く考えるのを止めた

 

(みこを呼ぶ声がする…みこが知ってる声がみこを呼んでいる…鬼百合の声だ…)

波間に漂ううちにいつのまにか居眠りしていた命が鬼百合の声で目を覚ました

掴んでいたはずのロープが無いこと気付き変な夢を見ていたんだと思っていたら鬼百合に

「お前…こんな所で何やってるんだ?」

そう聞かれて

「お空見てたら寝ちゃってた…」

寝起きの顔でそう言われて

「お前なぁ~っ…」

そう言って肩を落とす鬼百合に

「そういうみこなのだから仕方無い

鬼百合、みこを引き上げろ」

そう言われて命の身体を引き上げると左手がロープを掴んでいる事に気付き柳水にタオルを巻かれた命に

「みこ、こいつは何だ?」

そう言ってロープを見せたが

「わかんない…でもいー物だから鬼百合にあげる」

命のその一言で今までは全く手応えの無かったロープに引きずり込まれそうになり慌てて踏ん張り

「わりぃ柳水、ちぃーとばかし手を貸してくれねえか…」

そう言われて二人掛かりでもかなりの苦戦はまぬかれず一刻の戦いを経て船に寄ってきたそれを見た漁師の一人が

「芭蕉扇…」

呟いたがその巨体は優に十間は越えるだろう大物で正直この船団では最大の船でも積みきれないから又も曳航して帰る事になる

「芭蕉扇か…こいつを市場に出したらいくら位の値が付くんだ?」

留美菜の父親に聞くと

「新型漁船四隻買っても釣りが来るだろうな…」

そう言って溜め息を吐くと

「ならこいつを売って船を買いな

まぁ流石にこんだけの獲物をただっうのは互いの関係上良くねぇ」

そう言われて

「ワシもそう思うが…さっき言った価格に見合った対価をワシ等には払えんぞ?」

と答えると

「取り敢えず四隻一気に買える訳じゃなかろう?

まず最初の一隻を買ったら一番古い船をアタイにくれ

んで残り三隻はかなりくたびれた船をちらほら見掛けるから格安で譲ってその代金をみこ宛で観月に預けてくれさえすりゃそんで良い」

そう言われても悩む留美菜の父親を他所に

「姐さん、なんか別のロープがからんでますぜ?」

そう言われて曳航準備の終わった鬼百合も気付き

「みたいだな」

そう言ってロープを手繰ると少々の手応えが有るだけで難なく引き上げられその先には四個の宝箱が括り着けてあった

「ふーん…どうしたもんか」

そう言って鍵に触れると錆び付いていたそれはポロっと落ちたので中を確かめると

「ほーっ…」

と唸る鬼百合の後ろから覗き見る柳水が

「一振り抜いてみてはどうだ?」

そう言われて手前の太刀を抜くと

「かなりの業物…名人級の刀鍛冶師の手で鍛えられた物だろう」

と言うのを聞いた鬼百合が

「判るのか?」

と聞くと

「刀の良し悪しがわかるとは言わんがワシ等漁師も魚を捌く為に包丁を扱う以上刃物を見る目は必要だからな…

そう言う目で見てもそいつの切れ味は相当なものと見える」

そう言われて

「成る程な…」

と言って他の三箱も確かめると

最初の箱には四振りの太刀、二番目の箱には小太刀が六振りで三番目の箱には短剣が八本細に最後の長い箱には短槍が四本収まっていた

「柳水、こいつは王宮に持ち帰り国王と観月に報告し扱いを相談…つか任せた方が良かろう?」

と言うのを聞いて

「私達には必要無い物だから構わない」

そう答え

「みこ、岬が見えてきた…そろそろ

皆の元に戻りなさい」

そう言われて

「うん、そーする」

そう答えるとタオルを剥ぎ取りポーンとヘリを飛び越え

「鬼百合、又後でねっ♪」

その言葉を残し岸に向かって泳いでいった

 

海女達が出荷を終えて戻ってきたにも関わらず命が戻らない事態に岬がざわつき始めていた

その騒ぎの中命の霊気が近付いてきたのにいち早く瑞穂にそっと教えると海に入り命を迎えにいった

岸が近くなった事もあり仰向けになり鼻唄まじりでのんびり泳いでいると胸まで水に浸かった瑞穂が

「みこ、貴女と言う子は一体何を考えているのですかっ!?」

その物凄い剣幕に気圧された命がばか正直に

「みこ、何も考えて無いよ?」

と答えたものだから更に怒りを増した瑞穂が

「見なさいあれを、貴女がいつまでも戻らないから皆心配して生きた心地じゃ無かったんですよ!」

そう怒鳴る瑞穂の目は真っ赤に充血していた

陸ではチサは泣き止んだみたいだけどユウ、ユカ、ユキにユミとミナが…春蘭と妹達…りんと留美菜とその仲間達が…

マイ、マキ、マナ、マユに非番の侍女達に見習い侍女達に海女達とその家族…

蕎麦屋等の店主達に名前も知らない町の人達…

皆か悲嘆にくれ涙を流していた…

未だに自分は要らない子と言う呪縛から解き放されていない命には理解できない感情…

それでも自分の不用意さが引き起きた事だと言う事まで理解できない命じゃない…

「瑞穂、みこ…皆に何て言ったら良いのかな?」

そう殊勝に聞かれ溜め息を吐くと

「ごめんなさいと言えば良いんですが取り敢えず何をしていたんですか?」

命を抱え陸を目指しながら聞いてくる瑞穂に

「お空見てたら寝ちゃってたの

そしたら鬼百合がみこを呼ぶ声がしたからお船に乗せてもらって近くまできたの

なんか良くわからないけど鬼百合が物凄いお魚を仕留めたんだって

お船に乗らない位大きなお魚だよ」

そう楽しそうに話され

(帰ったら観月様にお説教していただいた方いいようですね)

楽しそうに話す命の様子を見ていて完全に毒気を抜かれてしまった瑞穂に怒る気力は失せてしまったのだから

そろそろ命の身体が完全に水が離れる位置まで来るとタオルを持って待つ阿に命を渡し抱き上げて水から出した

陸に上がり皆に向かい

「ごめんなさい…」

ばつ悪そうに謝ると

「チサにミナは瑞穂様に着替えをご用意しみこちゃんに服を着せなさい」

ユウにそう指示され

「春蘭さんに手伝って頂いても宜しいでしょうか?」

そうユウに聞くと

「春蘭、頼みますよ

私達は皆さんにみこちゃんに怪我など無いからご安心下さるよう伝えて回りますから…」

と言うと

「別に何かあった訳じゃなく波間に漂ううちに居眠りしていただけ…ですね?」

そう瑞穂に改めて聞かれ

「う、うん…」

と小さく答える命を呆れてみるユウだった

 

船が漁港に戻り曳航されてきた魚が引き揚げられると漁港は騒然となった

ただでさえ高級魚の芭蕉扇がこのサイズではどれ程の値が付くのか想像もつかない

競りに出され値はどんどんつり上がり結局最新の船が六隻買える値で落札された

「おい、こんな大物一体どうやったら獲れるんだ?」

笑いながら話し掛けて来たのは隣村の網元で

「別にワシ等は命様の従者の方から頂いたのだが…」

そう言って暫く考え込み

「お前もこの恩恵に与れ

あの方はワシに良い船で漁をすりゃ漁獲量が増えそいつが市場に出回りゃ街も活性化し何よりうまい魚が食えりゃそれだけで幸せになれるんじゃねぇのかと…」

そう言われて自分が言った

「だがお前と違って俺にゃそんな金はねぇぞ?」

と、言われて

「ワシだって買い換えは未だ先で今資金を貯めてる途中だがあの方はこうも言った

かなりくたびれた船を見掛けるから最初の一隻を買ったら一番古い船をアタイにくれんで残り三隻は仲間の漁師達に安く譲ってやんな

その代金は命宛で観月に預けてくれりゃ良い…とな」

驚いた隣村の網元が

「何て豪気なお人なんだい…」

そう溜め息を吐くと

「うちの漁師達は勿論海軍の兵士や大公家の海兵隊のもん達にまで慕われてる程の方だからな」

笑って言われて

「わかった、その恩恵を受け俺から二人の船主にも恩恵のお裾分けをし漁に精を出すとしよう」

その他の魚も良い値で引き取られ漁獲高は他の追随を許さず鬼百合達の金一封を預かり岬に戻ることにした

 

「鬼百合、内密に相談したい事とはなんですか?」

観月に聞かれ波間に漂う命を見付け船に上げ渡されたロープに巨大魚が掛かっていたこと

その魚を売った金で船を買わせ今使っている船は順次おんぼろ船の船主に安く譲ってその代金をみこ宛で観月に預ける様に言った事

そして足元の宝箱を見やり

「問題はこいつだがどうやらどこぞの国かはわからんが王家の紋章らしき物が描かれてるだろ?

それに中身はかなり手の込んだ装飾が施されてるだろ?」

そう言って王に一振りの太刀を渡すと

「ウム、確かに他国訪問の際護衛の騎士に持たせても良い物だろう」

その答えに頷きながらも

「だが問題はいつ何処でみこがこいつを手に入れたのか?

それにこの紋章が何を意味するのか…

後は国王か観月の判断でコイツらを支給してやってくれ」

そう言われて観月が

「貴女が推薦する者は居ないのですか?」

そう聞かれて

「アタイが戦士としての実力を知るのは女神の騎士団の四人だけだがアイツ等は既に魔力を帯びた武器をつかいこなしてる

だから如何な業物とは言え今更普通の武器に変えさせる必要はねぇから他の者に持たせるべきだろ?」

三人が頷き

「わかりました、これらは私が預かり紋章について調べさせましょう

但しこの小太刀は真琴に持たせます」

その言葉に反論しようとする鬼百合を押さえ

「武器として持たせるなら小太刀ではなく太刀を持たせるはず

それに陛下のお言葉を聞いてないのか?

ドレスではなく戦士として公式の場に出る時の物ですね?」

その柳水の言葉に

「あっ…」

と呻く鬼百合と悠然と頷き

「あくまで礼装用ですから小太刀で十分です」

と答えるのを聞いて

「確かにそうだが真琴の腕なら闇の者でも雑魚くらいそいつでも十分蹴散らせる」

と照れ隠しで憮然と答える鬼百合を笑いながら見る四人だったが

「ですがみこと双子なのですよね?真琴は…」

その問い掛けに

「よく似てますがそっくりではありません

体型は普通の人間の物ですし顔立ちも目元がはっきりと異なりますば

垂れ目のおっとりしたみこと違ってつり上がった目元のスッキリした顔立ちの真琴をたまにお兄ちゃんと呼んでましたからね…みこは」

と観月が言えば

「ユキから聞いたぜ、アタイ等と同じ大公家の客分騎士の正装をしたら少女達にモテモテだってな」

面白そうに言う鬼百合に

「私でも全く面識の無い時に今の真琴に会っていれば紅顔の美少年と言われても疑わ無かったでしょうし気付く者も中々いないでしょうね」

と言われて益々驚く二人に

「美少年とも美少女つかない真琴は男女問わず人気を得てますからね、みことは異なる意味で…」

その言葉を聞いた王妃は

「それは是非とも一度で良いですから美月主催のパーティーで真琴に騎士の正装をさせて参加させてもらえますか?」

それを聞いて驚いている国王を他所に

「騎士の正装も良いでしょうがどうやらユミが絵本の中の王子の衣装を作っているようです」

と答えると

「さすが美月のスタッフ、仕事が早い」

そう言って手を叩き合わせ喜ぶ妻を見て上機嫌の王だった

「伯父様、また今日もお酒を頂いて鬼百合達に持たせて宜しいでしょうか?」

そう聞かれて

「遠慮は要らん、持って行きなさい」

そう言って当番の侍女を呼び

「鬼百合殿と柳水殿と厨房に向かい料理長にお二人に酒樽をお渡しする様に伝えなさい」

そう言われて

「承知しました」

そう答えると

「鬼百合と柳水は箱を持って私の部屋に、マサミでしたね?貴女はその後についてきなさい」

そう指示し

「それでは失礼いたします」

そう言って退出した

 

「鬼百合は少し話が有りますからマサミ、柳水をつれて二樽貰ってきてください」

そう言って二人を送り出すともう一度箱を明け

「鬼百合、この箱何かおかしくありませんか?」

そう観月に言われたものの意味がさっぱりわからず

「何がおかしいって言うんだ?」

と聞き返すと箱の中を探っていた観月が内張りの布を剥がすと上げ底になっていてその底を取り外すと皮の巾着袋が入っていて中身を確かめると

「砂金…ですね」

と呟き他の箱も確かめると宝石や貴金属が入った皮袋がぎっちり詰まっていた

「鬼百合、どうしますか?」

そう聞かれて

「さすがにこれは貰うわけにはいかねぇからみこに返す」

と答えると

「ですがみこに管理出来る物でも有りませんね?」

そう聞かれて返事に困り

「ならお前か国王もしくは王妃に任せるのか?」

と聞き返すと

「あの話がまとまればこの地に残るみこの物をいずれ大公領に戻る私が管理すべきではありません

私なら伯母様だけに話管理してもらえればいつかみこ達が必要になった時に最も有効に使って下さります」

と答えると

「国王じゃダメなのか?」

更に聞き返すと

「どんぶり勘定の傾向のある伯父様ですから国の財務関係は伯母様が監理してるんですよ?」

と言われて

「まぁ良い、アタイにゃお前に相談する以外思い付かないんだからお前の判断に任せる

王妃の部屋に運ぶときは声を掛けてくれりゃ良いからな」

そう笑って言う鬼百合の耳に足音が聞こえ

「どうやら戻ってきたようだ」

と言うと部屋の戸を叩く音がして

「柳水様が戻られました」

とマサミの声がして

「入りなさい」

と言う観月の返事で二人が室内に入り

「鬼百合、話はすんだのか?」

酒樽を渡しながら聞く柳水に

「あぁすっかりな」

そう答える鬼百合に

「ならばみこ達の元に戻ろう」

そう声を掛けると

「そうだな、急がねぇと呑む時間が無くなっちまうぜ」

と言って観月とマサミを笑わせ柳水を呆れさせた

 

濡れて張り付く服を脱ぎ下着から着替えた瑞穂に手渡された服は…

イベントの日に嵐が着ていたのと同じデザインだが決定的に違うのが生地の色

瑞穂が思わず赤面したその色は淡い桜色でこの時が訪れるのを虎視眈々と待ち構えていたユキの自信作

「ミナ、これしか着替えは無いのですか?」

と聞かれ

「戦士の瑞穂様には申し訳ありませんがそれしか合うサイズがありません」

勿論嘘や隠し事の出来ない素直なミナも何も知らされておらず指示された廿楽から出してきただけ

だからその本当に申し訳なさそうな顔をしているミナを責める事も出来ない瑞穂は諦めてその服を着るしかなかった

それでもやはり細身で上背のある瑞穂のスーツ姿は映え男達の視線を釘付けにし

多くの男達が一緒に呑もうと瑞穂に群がっていたがユカの視線が気になる阿、飛び火が怖い嵐と忍は気の毒そうに見守るしかなかったが

斬刃、修羅は我関せずと他人事だしモリオンと喧火は面白そうにニヤニヤ笑っているだけでだるけで誰も救いの手を伸ばさない

瑞穂の試練は未々始まったばかりだった

一方の命はチサと春蘭が整えたスタイルは

青いミニのワンピースに水色のシースルーの襞をふんだんにあしらいその背には透明の…妖精の羽を模した飾り羽をあしらったもの

そこにオレンジ色のカチューシャをアクセントにし藍色のサンダルを履いた命はまさに水の妖精だった

「みこちゃん妖精さんみたいだね」

そう笑って言われて

「うん、ホントだねっ♪みこ先におりてるから」

そう言ってドアに手を掛ける命に

「みこちゃんそそっかしいからちゃんと足元見なきゃダメですよ?」

と、言われて

「今のみこはよーせーさんだから歩かないからへーきだもーんっ♪」

そう言ってその言葉通りにポーンと馬車から飛び出した

後に残されたチサと春蘭だったけどチサが春蘭に向き直り

「春蘭さんに今からお話する事は未々計画中の話で私も会話の端々からの推測に過ぎません

ですから春蘭さん胸の中に留め置いて欲しいのですが…続きを聞いていただけますか?」

そう言って自分を見詰めるチサに頷くと

「今多くの国々から精霊の巫女、人魚姫のみこちゃんの訪問要請がひっきりなしに来ていますが…

みこちゃんには大事な使命、女神の祭典に合わせ歌の女神様の救出と言う果たさねばなりませんから

その間は国王様や観月様も祭典を理由にお断りしてますがその後取り敢えず月影の国から訪問するのが妥当ではないかと纏まり始めてます」

この話に自分がどう関わるかはわからないので

「政治的な話はわかりませんけど確かに地理的には月影の国からが無難だと思います」

と、答えるのを聞き

「観月様と美月の方達も政治不介入の原則に基づきその手の話は致しませんから私も知りません

それに私がお願いしたいのはどうやらユウさんかユカさんのどちらかが観月様の代理でみこちゃんのお供をするらしいけど…

後、ミナさんともう一人お手伝い出来る人が欲しいと観月様は考えているようですが私は春蘭さんこそがその人だと思います

勿論私が口出し出来る話じゃないけど推薦する事は出来るし応援もします

ですから春蘭さんみこちゃんを助けて上げてください

勿論りんちゃん、留美菜ちゃん辺りもお供に選ばれるでしょうけど本当にお供の一人でしかないと思います

ですから春蘭さんの様にしっかりした人がみこちゃんの側にいて欲しいんです」

と、言われて最大の疑問

「チサちゃんではダメなのですか?」

その一言に

「私はフレア様の巫女、その私の使命はアクエリアス様の巫女の同伴者ではありません…残念ながら…」

そう泣き笑いの顔で答えるチサを見て悪い事を聞いてしまった事を悔いる春蘭に

「私は私の使命を果すのがみこちゃんの為だとわかってますからどうかみこちゃんの事をお願いします」

そう言われてチサの手を取ると

「先ずはみこちゃんのお供に選ばれる様に頑張ります…それが最初の関門でしょうから」

そう言ってもらい今度は本当の笑顔を見て自らも嬉しい気持ちで一杯の春蘭だった

瑞穂を苦行から救ったのもやはり命で

「みっずっほぉーっ♪」

馬車から顔を出すと真っ先に見付けたのは瑞穂でその瑞穂に向かってポーンと跳ぶとそのまま真っ直ぐ瑞穂に向かって宙を滑り瑞穂の胸に飛び込み

「ねぇねぇ、みこよーせーさんみたいだった?」

顔を覗き込む様に見詰める命に微笑みながら

「みたいではなく本当に妖精が翔んで来たのかと思いましたよ」

そう言われて叱られて悄気返っていたのが嘘の様に笑う命を見る目はいつもの落ち着きを取り戻していた

プレイボーイの少なくない海軍の下士官のグループが

「もう一押しで俺達のグループの輪に入りそうだ」

そう手応えを感じていた所に命が現れ冷静さを取り戻したのを見てがっかりしながらも

「まぁ可愛い妖精のお出ましにそれはそれで良しとするか…」

一人が呟くと

「今日の所は諦めて普通に接しよう」

そう言って皆いつもの様に飲み始めたがつまるところ

「いつかは他の奴等を出し抜いて彼女を口説き落とすっ!」

と言うのを皆腹の中で考えてるのだけど

まぁとにもかくにも瑞穂の試練は面白がって見ていた喧火とモリオンをがっかりさせる幕引きとなった…今日の所は…

「皆遅いね…」

いつもなら既に二、三杯は呑んで上機嫌の鬼百合が未だ戻ってない事に気付いて瑞穂に漏らす命を見ながら

(そうやって人の心配はするのにご自身は心配されている自覚は無いのですか?)

そう思いながら

「大物を仕留めたのなら競りが長引いても不思議ではありませんよ?」

そう話して居ると荷車を押して女神の騎士団の三人が戻ってきて留美菜の母親に預かってきた魚を渡すと一斉に捌き始めた

瑞穂の肩に乗り三人に近寄り弓士の玄に

「玄、鬼百合達は?」

と聞くと

「姐さん達なら何やら急用が出来たから観月様の所に寄ると言ってましたが…」

そう聞いて

「そうなんだ…」

と肩を落とす命を見守る瑞穂の頭の中で

―真琴ちゃんとレムさんが側に居ない今のみこちゃんにとって鬼百合さんは特別な存在だから…―

チサの声が響くのに気付き

(私の心を読んでるのですかっ!?)

と、叫ぶと顔をしかめて

―違います…私の様に感度の高い受信能力を持つ者にとって瑞穂さん達の様に強い精神力を持つ方の思念

それはまるっきり独り言を大きな声で喋っているのと変わらないんですよ―

そう苦笑いを浮かべ額に脂汗が流れているのを見て

(大丈夫ですか?具合悪そうですが…)

そう心配して聞くと

―出来ればもう帰りたい位です

私のこの力はみこちゃんが私の身体に埋め込んだ黒い勾玉が与えてくれたもの

ウィンデイー様救出の後急激に力を増してきて特にみこちゃんが側に居る時程力を発揮するのに私自身制御出来ないんです―

そう言って溜め息を吐いているとチサの顔色が悪い事に気付いた春蘭が香草茶を差し出しなから

「これを飲んで休まれた方が良いですよ?」

そう言われて差し出されたお茶を啜ると少し落ち着いて

「有り難う、春蘭さん…」

そう言って残りを飲み干し

「馬車で横になってます…」

チサの言葉に阿が頷いてチサの身体を抱き上げ馬車に運んだ

鬼百合達が酒樽を抱え戻ってくるに気付いた命が今度は鬼百合に飛び付き空いてる左肩に飛び乗り腰掛け

「よーせーさんのお迎えだよぉーっ♪」

笑いながら言う命に

「この妖精は気まぐれで皆を振り回して大変だからなぁ~っ♪」

鬼百合にそう言われて

「え~っ?みこ鬼百合みたく人を振り回せるよーな力無いよ?」

そう言って頬を膨らませる命を周りに居てその発言を聞いていた者は皆笑い声を噛み殺して肩を震わせていたが当の命は

(皆何が可笑しいんだろう?)

と不思議で仕方なかったけど

「んな事よりみこ、ちゃんと飯は食ったのか?」

と鬼百合の不用意なその一言に命は頬を更に膨らませ

「鬼百合待ってたのにっ!行こっ春蘭さん」

そう言って春蘭の手を取ると冷たい蕎麦を貰いに行き

春蘭が器を受け取ると手頃な倒木に腰を下ろし命が食べやすい高さに持っていくと悪戦苦闘しながら自分で食べている姿は微笑ましかったけどび



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迷子②

水の精霊の巫女の周りに集い始めたのは人ばかりではなかった…


「みこちゃん独り占めして姉さんズルいっ!」

と、言ってる様な妹達の視線は痛かったので三人を呼び

「私はユウ様達にお茶をお出ししてきますからみこちゃんの事、貴女達に任せますからよろしく頼みますね

それと多分一人じゃ食べきれませんから残した分も任せて良い?」

そう言われて三人は

「任せておいて」

と応え弥空が春蘭から器を受けとると命も食事を再開し食べ始めるのを見てユウ達の方に歩き始めたけど一度振り返ると

「やっぱり…」

そう呟き心配していた通りいつの間にか命のフォークを取り上げ雪華が食べさせていた

(みこの意思で食べている時は手を出さない様にと観月様に言われてるのに…)

そう思い溜め息を吐く春蘭だった

三人の世話で蕎麦四分の一人前と鍋を命用のお椀一杯食べて皆が楽しみにしていた歌の時間に

定番の曲に新しく覚えた曲を織り混ぜいつものように十曲歌い終えた

しかし少しずつ体力がついてきて未だ元気な命は留美菜達を誘いユカにお菓子を買って貰い

春蘭に頼んでお茶の用意してもらってお茶の時間にした

そして太陽が沈み始める頃帰り支度を命達に反して岬に集まってきたもの者達が居る

今日の勤務を終えた海軍の兵士達で明日の為の肴を夜釣りで賄うためだ

残念ながら命達や町の者達は帰ってしまう

それでも漁師達の一部は未々呑んでいるし何より鬼百合が夜釣りに付き合って酌み交わしてくれる約束になっている

おまけに魚は買い取ってもらえる上賞金の掛かった勝負でもある

皆それぞれに静かな闘志を燃やしていた

 

王宮に戻り食事も終えて寛ぎの一時の筈が命だけは観月からみっちりお説教を受け

挙げ句の果てに苦手で嫌いなお習字をさせられたが誰もが仕方無い事と思ったのは言うまでもない

 

そして一夜が明け命はいつものように過ごしチサ達の午前中は月餅作りに決まった

今日付けで男爵の位を拝任する春蘭達の父に贈る物を今日のお題にする事になり

「ご両親が喜ばれるお菓子はありませんか?」

そうユウに聞かれ

「深い理由は知りませんが何故か劉家は祝い事の度に月餅を作り隣近所等にも配る習わしが有ります」

四人を代表し春蘭がそう答えたので

「では今日のお菓子作りは月餅で決まりですね」

そう言う訳で時間一杯の月餅作りがはじまった

その一方で市庁舎で昨日付けで退任になった劉啓吾の挨拶の挨拶

新市長の李宗吾の就任及び李宗吾の就任に伴い空席となる市長秘書の席に指名された陣由哉の挨拶が行われ

その後

「急な交代劇のため暫くは市庁舎で書類上の手続きを処理に登庁するのでよろしく頼む」

そう言って先ずは新市長の為私物を整理から始める事になった

そして夕方になり王宮からの新男爵迎えが来て

良い機会だからと新市長とその秘書を国王に就任の挨拶に同行させる事になり二人も向かうことになった

王宮の控え室で着替えを済ませるとドレスアップした妻がりんに案内されてきた

今宵は男爵令嬢として社交界デューを果す四人の娘達

その他にお披露目のドレスを着て命の部屋の見習い侍女達とマナとマユが社交界デビューを迎える事になった

娘達を従え妻と腕を組歩く姿は既に貴族の風格があった

そして国王夫妻の前に並び立つと

「今宵は私の為この様な宴を催していただき感謝の言葉もございませんしどの様に現せば良いかもわかりません」

と、挨拶すると命やチサ、りんや留美菜他見習い侍女達が篭を持って現れまず命とチサが新男爵夫妻にりんや留美菜、小明にはなが令嬢達に渡すと

「お父さん、お母さん、中身を見てください」

春蘭にそう言われ布巾を剥がすと

「やはり月餅だったか…だが何故これが?」

と不思議がる夫に

「臭いでわかりませんか?これは店で売ってるものではなく私が貴方のお母様から受け継いだレシピ通りに作ったもの

春蘭達だけで焼ける量とは思えませんから皆さんに手伝って頂いたようです」

そう母が言うのを聞き

「これが劉家の幸せのお裾分けでしょ?皆様にお配りしましょう」

そう言って両親を促し月餅を配り始めた劉一家

その間に前市長秘書として面識の有る後任の新市長李宗吾と国王に拝謁の機会を初めて得た陣由哉を紹介すると

「啓吾と宗吾の推す者ゆえ大丈夫だろうが二人に恥を掻かせぬよう尽力して欲しい」

そう言われ感激の余り顔を紅潮させる由哉だった

二人宛に各関係者が祝いの品を届けに来ていたし二人に挨拶をしていた

勿論新市長にも挨拶を忘れないし総務課と言う地味な裏方の由哉自身は知らなかった

だが誠実で親切な対応で市民に接する彼は市民からの信頼も厚くさすがな人事と納得する者が多かった

そして観月にすら知らされていないサプライズ

ダンスの時間は未だ先であるのに演奏の支度を始める楽士

そして準備が整い命が入場し会場の参加者に一礼をして演奏が始まり命が歌い始めたのは歌の国の国歌で歌の女神を讃える唄…女神と共にだった

本来はソロの唄である曲だが声量、声域、表現力の求められる水準が高く歴代の祭典優勝者でも歌いこなせる者は少ない

そして数少ない一人であるが故にアリア女史には音楽に対する我儘が許される特権を持つ者の一人だった

その女史に比べれば表現力は未だ遠く及ばないものの声量、声域共に人並み外れたその歌唱力は女神の祭典に出ない事を惜しむ者が少なくない程

「みこと楽士の皆からのお祝いの代わりに頑張りました」

そう言って頭を下げる命の身体を抱き締め

「何よりも嬉しい贈り物を有難う、みこちゃん…そして楽士の皆さん」

そう言って涙を流し喜ぶ夫妻に

「私にすら秘密にしていたこの歌の初披露…

伯父様、これから国の行事にみこの歌は欠かせませんね?」

そう言うと国王も治安維持局局長の御法に

「海難事故防止のキャンペーンで最初に唄ってもらわなくてはな?」

「それは勿論是非ともお願いしますね、みこちゃん」

そう言われ

「もっともっと一杯お稽古するから楽しみにしててね」

と笑顔で答えと奇跡が起こった

二つの光が春蘭とりんの前に現れると

ー私は潮風の精…春蘭、私は主ウィンディーの為に…そして貴女は大好きなその巫女の為共に力を合わせませんか?

貴女にその意志が有るのなら私を受け入れ私の巫女になりなさいーー

そのとつぜんの申し入れに戸惑いりんを見ると

ー私は海原の精…りん、貴女の大好きな命の力になりたくば私を受け入れ私の霊力を我が物としなさいー

そう告げられたりんは迷う事無く

「私は決して忘れない…ウィンディー様の救出に向かった真琴様と翼様を助けに行くと言って出掛ける命様についていけなかった事を

ついていっても足手まといにしかならないのはわかっていてもついて行けないのが悲しかった

私に力を下さい、みこちゃんについて行ける力をみこちゃんの力になれる霊力を…」

そう願うりんに

ーそれはアクエリアス様のお力になりたいと言う私の願いと重なります

さぁりん~左手を掲げなさいー

そう告げた海原の精は人の姿をとり掲げられたりんの左手を受け取るとその甲に口付けを落とす再び光の固まりに戻った海原の精はりんの身体を包み込み…

やがてその光はりんの身体の中に還って光は治まりそれを見ていた春蘭も又

(私は何を畏れ躊躇って居たのだろう…みこちゃんの側に居たい、力になりたいのはりんは勿論チサちゃんにだってまけないつもりだったのに…)

そう思い

「お待たせして申し訳ありません…私にもお力をお貸し下さい、潮風の精様

みこちゃんの側にいてお力になりたい願いを叶えて下さい…」

そう思いを告げ左手を掲げると

ー互いに力を合わせ私は主の盟友の為、貴女は大好きなその巫女の為共に手を携え歩みましょうー

そう告げた潮風の精は海原の精同様に春蘭の左手を受け取るとその甲に口付けを落とし春蘭の身体を包み込み春蘭の中に還っていった

人々がこの奇跡に言葉を失う中ただ一人国王が

「此度の人事を精霊様達も祝福してくださった証し

我が国の未来を占う吉兆…観月、新たに精霊様に選ばれし二人の巫女達に暫し休んでいただきなさい」

ぐったりする二人を見ながらそう声を掛けると男爵夫人が

「春蘭に預けた茶葉をお持ち頂ければ私が淹れますから二人に呑ませれば落ち着くはず」

そう話すとミナが

「私が茶器と共にお持ちします」

そう言い残し部屋に向かった

そして…命の歌で始まるダンスの時間になり命やチサ、ミナを含めた美月のスタッフに新男爵令嬢の四人に男達が群がり

それ程ではないけどマイ、マキ、まな、マユ達をアプローチする者達も少なくない

それでも王宮の侍女達は確実に

変わりつつあるしそれも王妃の望む方向に

観月が連れてきた二人の巫女達のお陰で長年燻っていた不満が解消されようとしている王妃の表情は明るかった

 

 

 

 

 

②みこぉ~っ…

 

翌日からはチサ達も通常通りの生活に戻りついに海難事故防止キャンペーンの初日を迎えた

ミナを含めた美月のスタッフと忍、瑞穂以外の戦士達全員が集められて着替えなさいと言われた服はかなり微妙

命の部屋の住人ではないのに呼び出された嵐もその服を仏頂面で掲げ見ていた

それでもその服(イメージはミニスカポリス)を見て喜んでいる命とチサを見たら他の者達もあからさまに不満も言えず皆揃って微妙な顔付きをしていた

命はミナに手伝ってもらってチサも嬉々としてその服に着替えている姿を見て渋々着替えを始めた

命が嫌と言ってくれたら観月も考え直すかも知れないけど大喜びで着ている以上

「みこ達が喜んでいるのに何が不満なのですか?」

そう観月に言われて言いたい事はあっても言い返せるのは美月のスタッフか鬼百合位の物

因みに鬼百合以外の戦士達ならあれこれ言わず

「断る」

の一言で済ませるし阿は不本意ながらユカに勘弁して欲しいと頼み込んででも回避するだろうは予測できたから免除された

そして治安維持局から迎えが来て命達の姿を見た女性の局員達も又

「可愛い…でも自分が着るのはやっぱりイヤッっ!」

とその服を制服に採用する案に反対して良かったと思っていた

命達が会場入りすると命とチサに負けない程の歓声を受ける春蘭とりんの二人が精霊の巫女になったのは既に知れ渡っている事の証し

そして来賓達の退屈な挨拶が続き残るのは男爵と御法だけで終わるその男爵が

「男爵となり皆様の前に初めて立つ今日の緊張感は市長就任の挨拶をした時を思い出します…」

そう言った時だった

小さな命の口がこれでもかと言う位に開かれた大欠伸をして隣に座る春蘭が慌てて口の前を覆ったけど…

観月と美月のスタッフは目を覆い鬼百合を始め戦士達や来賓達は苦笑いし観衆達は必死に笑いを堪えていたが

「まぁこの様に突然起こるアクシデントも落ち着いて対処しさえすれば難なく乗り越えられる場合も有ります

ですから常々もしかするとこんな危険があるかも知れないと予測出来自分達ではどうしようも無い事に気付いたら…

迷わず私や市長、治安局に知らせて下さい

それらを解決するのが私達の役目なのですからね」

そう言って命の欠伸を逆手に取ったスピーチで無難に収め一礼をして来賓席に戻ると代わって御法が

「来賓の皆様が色々語って下さりその上で尚も私が人魚姫様をお待たせしてまで言う事は無い」

そう言って一礼をすると舞台脇に立つ司会のヒバリが

「それでは我等の可愛い歌う人魚姫に唄って貰いましょうっ!それではせぇーのっ!みぃっこっちゃーんっ♪」

そのヒバリの呼び掛けに応えた観衆達も大声で叫ぶと竪琴を抱えた命が現れ竪琴を置くと歌い始めた

"女神と共に"を…

「アリア女史に習ったのか…」

その一人の男の呟きは誰もが思った事で数多居る現役の歌い手中唯一ソロで…

現在ソロで歌えるのはアリア女史のみでその中でも一、ニを争う歌姫とも呼ばれている

そのアリア女史に公称十二歳の命がこの歌の指導を受けた才能を考えると

「今年の女神の祭典に出られないのが残念だ…」

と漏らす者も居るがその声に訳知り顔で

「確かにそうだが今年は人魚姫様の双子のお姉さんが出場されるそうだ

だから生涯にただ一度だけしか出場出来無い祭典に敢えて二人を同じ年に出す必要はねぇだろう?」

そう言われて皆納得したが何はともあれ命の姉の歌を聴くのが楽しみな人々だった

そしてアンコールにも応えた命が歌い終えると再び奇跡が起こった

光の固まりがミナの前に現れ

ー私は雨水の精…ミナの水の精霊の巫女の力になりたい気持ちに応えたい者

貴女が命の為にと思うならば私を受け入れ私の霊力を我が物としなさいー

そう言われ

「私にそのような力を与えて頂ける資格があるのでしょうか?」

そう雨水の精に問うと

ー私は貴女の命に対する思いの強さ、深さを知ってますから資格があるとそう判断しました…

が、それ程心配なら潮風の精と海原の精の巫女達の意見を聞きなさい

貴女の命に捧げる無償の愛をー

そう言われて

「私は大公様からお給金を頂いてますから無償とは…」

狼狽え口ごもるミナに

「私より付き合いの長いりんにききますがミナさんにプライベートな時間って有りますか?」

と聞くとりんも

「僅かな時間でも都合がついたらみこちゃんの顔を見に行くミナさんにはプライベートな時間って無いに等しいです」

そう答えると

「そんなの給金を貰ってますからの人に出来ますか?

今日だってユカ様と二人で明け方近くまで仕事をしてたのでしょ?

忙しさからみこちゃんの側に余り居られないから今日の様に側に居られる機会を逃したく無い…でしょ?」

そう春蘭が言うと

「私に技術的な事じゃなくみこちゃんへの想いを教えてくれたのはミナさんですよ?

何でもこなせるユカ様やユウ様に混じってただひたすらみこちゃんの為にと頑張ってるミナさんは私の目標でお姉さんみたいに思ってます」

そう叫ぶように言うと

ーわかりましたね?二人の巫女も貴女が私を受け入れる事を認め望んでいる事を…ー

雨水の精のその言葉に

「そう言われてさえ私には自信等有りませんが命様の為…いえ、命様のお側に居たい気持ちに偽りはありません

ですから雨水の精様、私に命様のお側に居られる様にお導き下さい

今の私には命様のお側に居られないより辛い事はございません」

やっとの事そう本心を明かしたミナに

ーその為にこそ私は貴女の前に現れました

さぁ契約の代わりに私の霊力を受け取りなさいー

そう言われて左手を掲げるミナも又精霊の巫女となった

この誰にも予測の出来ない奇跡にいつもなら地味な行事が都合が着かず見に行けなかった者達を後悔させた命の歌の後は命達のパレード

そして港の教会で水の精霊の巫女が祈りを捧げて終わった今日のイベント

それが数日前誕生した二人の精霊の巫女と先程誕生した巫女の四人が教会に向かうパレード

残念ながらミナは身体を休める為馬車で横になってるが誰にもそれは責められない

精霊の巫女と言う試練を受け入れたミナが身体を休める事を心配して声援を送るものなら沢山いたが非難する者等は一人として居なかった

ただ一人チサだけがそんな様子を見て

(私も自信が無いなんていつまでも甘えてちゃいけない)

そう自分に言い聞かせていた

 

 

その夜の晩餐会に男爵夫妻、りんの両親に治安維持局の局長以下広報課の映見、救護班の愛と賜恵(めぐみとたまえ)防犯課の操と純の六人が招かれていた

その他に今日命の供を務めた命の部屋付き侍女達も労う為呼ばれている

その為給士役もいつもより多く

「何故彼女達は給士なのですか?」

不思議そうに観月に聞く男爵に

「彼女達は指導者で有りチサを除けば通常の務めに過ぎませんしミナは今日それ以上のものを得ました

それに彼女は席に着いて食事するよりみこの側で世話する方が好きなのですよ?」

そう言われて夫妻がミナの顔を見ると命に笑顔を向けられ幸せそうな笑顔を見て

「そうですね、あの幸せそうにしている様子をみれば…それに初めてお会いした時の彼女もみこちゃんの世話するのが嬉しくて仕方無い…

その思いが全開で放たれていてみていて微笑ましかったですよ」

そう男爵が言うと

「これまで気付いてあげられなかった彼女の才能が花開き忙しくなって中々命の世話する時間が取れませんからね」

そう言ってミナを見守る三人だった立場上このような席に慣れている局長と局長程では無いにしろ目立つポジションのヒバリも招かれる事が少なくないが…

一局員に過ぎない他の四人はガチガチに緊張し未だ最初の一皿目が手付かずの状態に気付いて

「マナーを気にしていらっしゃるなら大丈夫

いくら不慣れでもあの方程は酷く無いでしょ?」

かつて大公邸で初めて食事した時に観月に言われた事をそのまま言うと

「それで宜しいのでしょうか?」

と映見に聞かれ

「私だって初めからマナーを身に付けてた訳じゃ有りませんよ

先程の言葉も私達が初めて大公様からお食事に招かれた時に観月様に仰っていただいたお言葉

それでもご心配なら私が助言いたしますから安心してお召し上がりください」

そう言われてようやく食事に取りかかった四人だった

そしてりんの両親はさすがに王宮は初めてでも網元の信頼も厚い一番船の船頭

そして四人の船頭のリーダーでもある彼は網元の供で宴席に訪れることも少なくない

場合によっては妻も招かれるし逆に網元の自宅に招く場合も有りそんな時は女房衆総出でもてなす事もある

そんな感じの二人に育てられたりんだから礼儀作法は比較的早く身に付いた

そして最後の御法は今日着た服が御法のデザインだと知った命とチサに挟まれあれやこれやと質問攻めにあっていた

最初の方は観月が気になり上の空だった御法も笑顔であの服が大好きだと言ってくれる二人につられいつの間にか子供の様なしゃべり方になっていた

そのいつもの威厳が消え失せた御法の姿に目を点にした局員が唖然としたが今の御法には全く気にならなかった

話が盛り上がった三人は

「明日は勤務が休みだから子供の頃から書き留めた落書きみたいなデザインを見せようか?」

と話して居るの聞いた観月が

「それは是非とも私も見たいですが他の六人も明日は休みですか?」

と聞かれ

「勿論彼女達も休みで今回の各部署の担当者ゆえ暫く休み返上で頑張って貰いましたから」

と答えると

「わかりました…ユウ、六人を今夜貴女達の空いている方の部屋に泊めますから後で案内しなさい」

そうユウに指示し

「貴女達の身柄は治安維持局に要請し王宮に出向して貰いますので暫く滞在し侍女達に護身術や手当て等の急救術を指導して貰います

ヒバリもりんに貴女の話術を習わせてください

そして映見、貴女のその絵の才能暫く王家に貸して貰えませんか?」

そう言われて互いに顔を見合わせ局長を見たけどとても良い返事をもらえそうに無い局長の溜め息を吐き

「局長の判断に任せます…」

六人を代表してそう答えるヒバリだった

 

食事が終わりりんの両親は

「明日も漁で朝が早いから」

と言って歩いて帰ろうとする二人に

「お招きしたお客様を送りもせず歩いて帰らせるような失態をさせぬようご理解下さい」

そう言ってなんとか説得し馬車で送らせてもらった

二人を送りユウ達の部屋に行くと既に六人は春蘭から出されたお茶を飲んで観月の訪れを待っていた

その観月が今までに無い真剣な面持ちで現れると

「良いですか…今から話すことは貴女達が他言しないと信じ明かすことだと言う事を肝に命じなさい」

そう前置きし六人を見回し頷くのを見て

「これは公女ではなく和泉の女神と水の精霊からの要請によりこの国の何処かに封印された歌の女神、ハーモニーの救出の為の一環で私達は既に水の精霊、火の精霊、風の精霊…そして我が女神、和泉の女神救出に成功していますが逆にこれから闇の反抗は避けられないでしょう…」

そう言われて息を呑む六人に

「勿論私達とて命の守護者達の協力で戦力を上げる努力は怠ってませんが…

ですから有事の際には王宮も怪我人を受け入れ医者でなくとも出来る手当てを出来る人材を一人でも増やし

治安維持局と共に市民達を守る備えをしたいのです」

そう言われてやっと得心の言った六人だけど一人映見だけが

「それはわかりますがそれなら何故私の絵が必要なのでしょうか?」

と聞かれ

「絶対ではありませんが辛い時にみこの絵を見れば辛い時に力になれるかもしれないとは思いませんか?」

と答えると映見も

「わかりました、私の拙い絵がそのお手伝い出来るのなら喜んでみこちゃんを書かせて頂きます」

そう答えた

 

男爵は国王用の居間で国王と鬼百合の三人で酒を酌み交わし四方山話で盛り上がり…

王妃はやはり私室のティールームに男爵夫人を招き春蘭に香草茶を淹れてもらっていた

「有り難う春蘭、下がって休みなさい」

そう言われて春蘭が部屋を出ると

「変わりましたね、春蘭…もっとおっとりした娘でしたのに」

その言葉はどこか嬉しそうで

「みこちゃんも春蘭にすっかりなつき美月の仕事が忙しくなってきたミナに代わりみこちゃんの世話をする者の一人になってます

観月を始め美月のスタッフ達に未だ公表を控えていますが火の精霊の巫女のチサからの新任も厚く

幼い見習いの侍女達にも慕われています」

そう告げると

「下の娘たちは?」

と聞かれ

春蘭とチサ共に午前中の勉強は自習しながら雪華とりんの指導

午後は春蘭とチサ、弥空と深潮にわかれ各々にダンスと礼儀作法を指導してますから既に三人は見習いの肩書きを外しても差し支えないと思います」

そう言われて

「そう言っていただき恐縮ですがそろそろ本題に入られては如何ですか?

その話をする為だけに私を呼んだとは思えません」

そう言われて溜め息を吐き

「どう切り出せばよいのか迷いましたが…

単刀直入に伺いますが薬師に復職する意思はありますか?

無論王家に縁の深い薬師の里の事ですから貴女の資格が永久剥奪なのは存じてます

ですが既に里の長は貴女の父上、その後を継いだ兄上が相次いで亡くなり貴女の姉上が継いでます

ですから私の方からもなんとかならないか働き掛けようと思いますが当の貴女の本心をお聞かせ下さい」

そう言われて

「里の掟を破り里を出た私にはその可能性が有るとは思えません…」

そう答えると今度は王妃が

「それは貴女ではなく里長の決める事ですよ?

それに歌の女神の祭典に合わせてハーモニー様の救出の戦いに赴くみこちゃんの為に打てる手は全て打ちたい

その手始めが貴女の薬師復職だと考えてます」

そう告げられ

「みこちゃんの名を出すのは反則ですよ?王妃様…

その名を出されて断れる者等一人として居ますまい

わかりました…復職の可能性はわかりませんが当面は薬師の掟に触れない範囲の薬草で色々な薬をご用意致します…私達のみこちゃんの為に」

そう夫人が言うと王妃も微笑みながら

「私達の可愛いみこちゃんの為に」

そう言って笑い会う二人だった

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ去り命がうとうとし始めたので御法が命をベッドに運ぶと観月が現れたので

「本日はお招き有り難うございます、私は局の様子を見て寮に戻りますから部下達の事を宜しくお願いします」

そう言って帰ろうとする御法に

「引き止めるみこの手を振り切って帰るのですか?」

そう言われて意味がわからなかい御法に

「みこを見なさい」

そう言われて振り向いて命を見下ろすと眠ったままの命の左手がしっかりと御法のジャケットを掴んでいた

「どうですか、それでも貴女は帰ると言うのですか?



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迷子③

人の悩みは尽きぬもの…あなた悩みは何?


それに局の方はポスターと貴女の服に関する問い合わせしか有りませんから明日迄に決めるので待ってほしいと答えるよう私の方から指示を出しましたから安心なさい

それと貴女の服の利権はどうなって居ますか?」

そう聞かれた御法が辛そうに

「局員達に不評で制服に正式採用されなかった為に製作費用は今なお私が月々返済してますから利権も私に有りますしお預けした図面も原本ですし」

そう言われて嬉しそうな顔で

「そうそれなら話が早い、先日のファッションショーの服は正確には美月ブランドではありません

現在立ち上げ中の美月の姉妹ブランド若月の試作品です」

そう言われてデザイナーを夢見たことのある御法が

「確かに従来の美月とは方向性が全く異なってますから不思議に感じてましたがそう言う事でしたか…」

と答えるのを聞いて

「若月は七歳から十六歳辺りまでの少女を客層に考えるブランドとして予定してますが…

今回の貴女の服の問い合わせが多いのもその世代が中心らしいですよ?

どうですか、貴女の服を若月から発売してみませんか?

みこやチサは勿論他の侍女達も応援しますよ?」

そう言われて

「そうでしょうか?お二人以外は余り乗り気に見えませんでしたが…」

と言うと

「斬新なデザインですから最初の内は恥ずかしがってましたが慣れてきたら

よく見たらこの服って結構可愛いよねっ♪

そう言ってましたから局員達より若年層に受けるデザインだっただけの話」

そう言われて

「嬉しい事にみこちゃんとチサちゃんに私達がお姉さんの服のファン1号と2号だねっ♪

そう言って貰いましたから…」

そう言って涙を滲ませる御法に

「服に関しては明日の朝食後に局に行き

後日美月から発売の知らせと予約を受け付けると発表しなさい

ポスターに関しては要望に応え増刷すると良いでしょう

又、今夜ここに居る局員達も同行させ当面必要な荷物を持ってきなさい」

そう告げるとただただ頷くのだけの御法に

「正式な契約は戻り次第交わすとし貴女も他の局員達の部屋で寝起きしなさい

但し今夜は特別ですからそのままみこと一緒に眠りなさい、みこの手を振り切って部屋を出ていくのは野暮ですよ?」

笑って言われて焦る御法に

「貴女は勘違いしています、みこの手を握りなさい…

そうすれば貴女が真に求めていたモノが何なの見えてくるはず…」

そう言われて命の小さな手を握ると涙が溢れてきた

ファッションに関しては誰にも理解されず受け入れなくてこっそり隠れて絵を書き続けてきたこと

話せる者もなく理解してくれる者等一人としていなかった少女時代…

「わかりましたね?今ようやく貴女の理解者のみことチサに出会いました…

さぁ、今夜はこの部屋でゆっくり眠りなさい」

そう言われて

「もしも叶う事なら子供の頃にみこちゃんと会いたかった…」

そう呟く御法に

「私はそう思いません」

そう断言する観月を驚いて見る御法に

「確かにチサやりん達を羨ましくないと言えば嘘になります

ですが私や美月のスタッフにはりん達に出来ない役割が有ります

みこの手助けではなく守り導くと言う役割が…」

そう言われて驚く御法に再び観月は

同じ見習いの侍女でも春蘭とりん達では求められるものは違います

ですから貴女も何故今なのかその意味を考えてみなさい」

そう言い残し観月は部屋を出ていった

眠る命の手を握りながら高鳴る胸を押さえ

(こんな状態で今夜私は眠れるのだろうか?)

そう思いながらもその手を離す気にはならなかった

その手を離す事でまるでこの幸せまでもがどこかにいってしまいそうに感じるから

夜半口の乾きに目を覚ました御法が驚ほど近くにみことの寝顔が有った

いつの間にか懐に潜り込み自分の胸にすがり付くように眠っていたのだから

その寝顔を微笑みながら眺めていると

ーどうぞ…ー

そう言われて水の入ったグラスが差し出された

(いつの間に頼んだのだろうか?と、言うか見られていた?)

命の寝顔を見ながらにやにやしていただろう自分の姿を見られていた事に恥ずかしさを覚え頬を赤らめていると

ー今夜中の散歩から帰ったばかりだしみこちゃんの寝顔を見て笑顔になら無い人なんて居ないって思いますよ?ー

そう言われて

(散歩?確かに隣のベッドで寝ていたはず…)

そう思っていたら

ー現し身から離れみこちゃんの張った安全なお城の中を散歩するのが今の私の楽しみであり修行のひとつなんですー

そう言われて戸惑う御法に

(現し身から離れて…?)

そう魔導に馴染みの無い反応に

ー私は精霊の巫女であり魔導師であるみこちゃんの魔導師の弟子の様な存在です

その私に魔導の心得があるのは不思議じゃないですよ?ー

そう言われて

(そう…ですね…考えみれば私達は声を出さずに会話してますがコレも貴女の力なのですか?)

その御法の問い掛けにチサは

ー私の力も有りますが師であるみこちゃんの助力により可能になってますー

そう聞いた御法が

(不思議な娘なんですね…みこちゃんは…)

御法がそう思うと

ー大公様の所に訪れる前の記憶の無いみこちゃんにも自分自身不思議な存在なんでしょうね…

じゃあ私も床に就いて寝ますからみこちゃんの事…お願いしますねー

そう言って御法が飲み終えたグラスを受け取りワゴンに戻すとベッドに潜り込み眠りに就いた

それを見た御法も又命の身体を抱き寄せると眠りに就いた

そして夜明け前にはいつもの様に目覚めた命はいつもの様に歌の稽古に始まり三人の巫女を含めた見習いの侍女達と祈りに向かう頃目覚めた御法

その彼女にユウが

「御法様、宜しければシャワーを浴びられてさっぱりしましては如何ですか?

着替えは私がご用意致して置きますから」

そう言われて遠慮がちに

「宜しいのでしょうか?」

そう答える御法に

「観月様がお招きしたお客様にご不自由な思いをさせたら私が観月様にお叱りをうけてしまいますからどうぞご遠慮為さらずに」

そうユウに言われて浴室に案内してもらいシャワーの説明を受け熱いシャワーを浴びてさっぱりするところまでは良かった

用意された服を手にするまでは…

(何だこのドレスは…今からパーティーでも有ると言うのか?)

手にしたドレスを見ながら御法はそう思ったけどユウにとっては休暇の時の町歩きに着るワンピースに過ぎずない

無論ユウがデザインしたのだから美月のブランド品と言えなくも無いけどあくまでも自分のプライベート用にデザインした物を観月の依頼で戦士達用に仕立てた物をサイズの合う嵐用を渡したのだ

既に夕べ着ていた物は洗濯されているし借りていた寝間着を再び着るわけにもいかない

諦めて着る以外の選択肢は無かったのだから覚悟を決めて着たけど着慣れない御法に問題発生

ファスナーが自分で上げられないのだが基本社交界のパーティードレスが主力商品の美月の顧客

彼女達には自分で着ると言う発想の無い者が少なくないから大した問題では無かったのだけど

シャワーを浴びて同様に用意された試作品に袖を通し笑顔で現れた局員達もこの朝までは国王と陪席で食事を済ませ

「瑞穂、貴女も同行して荷物を運ぶ手伝いをなさい

貴女のデッサンの全てを見せてもらいたいのだから遠慮は無用です」

そう言って送り出された

維持局敷地内に入り局員達の独身寮と局の裏口の近くに馬車を止め部下達は私物を先に取りに行かせ自分は瑞穂を同行して裏口から入ろうとした

すると裏口の詰所の局員に

「ここは関係者用の通用口…」

そう言いながら相手の顔を見直し

「き、局長でいらっしゃいますか?」

そう言われて溜め息を吐きながら

「似合わぬ服を着ているからわからなかったのは無理無いが…

もっと観察力を養うように」

御法にそう言われて

「観察力に関しては仰る通りですがそのお姿が似合いすぎてわからなかったんですっ!」

顔を紅潮させ叫ぶ局員にばつ悪そうに

「そ、そうなのか?ならば礼を言っておくが…服とポスターの問い合わせる者達は受け付けか?」

そう言って話題を変えると聞かれた局員も

「はい、かなりの人数が集まってます」

そう聞いて

「お聞きの通りですから向かいましょう」

そう言って瑞穂を促した

そして集まっていた人達の前に出ると

「ポスターは観月様のご理解を頂いたので増刷を始めるから…」

そう言って受け付け孃達に頷き掛けると二人も頷き返し

「今からこちらで注文を受け付けるので連絡先と必要枚数を記入する様に

価格はいつものポスターと同じだからわかっていよう?」

そう御法が告げると

「人魚姫様がモデルなのにですか?」

の質問に

「別にこのポスターで利益を得ようとは考えてないからな」

そう答えると皆喜んで申し込みを始めた

「あの服は観月様のお世話で再生産する話が出ているので美月のスタッフに問い合わせる様にと仰って頂いた」

そう言って瑞穂に目を向けると集まっていた人達も瑞穂に気付きその視線に気付いた瑞穂が

「既に用意されたサイズ以外はこれから製作するゆえ時間が必要だが…

在庫を出し合うサイズがないか見てもらってはどうだろか?」

その事に気付けなかった事を恥ずかしく思いながら数人の局員達が走り出し

「局長あるだけ全てを出しますね」

そう言って用意された物を見て欲しいサイズが有った者は買い求め無かった者は大公宮に向かい美月に問い合わせる事になった

その後御法も私物を纏めデッサンも全てを積み込み王宮に戻ると映実は踊りの稽古をする命をスケッチを始め

映実と御法以外の局員達は王妃とユイ、ユウにユキとユミ達と救護訓練や応急手当等の講習に護身術等の教育のカリキュラムの話し合い

そして御法はデッサンを観月とユカにミナの三人に見せると

「観月様…これらを形にしてみたいのですが…」

そう言ってミナが見せたのはホルターネックでロングのワンピース

下半身が人魚のそれのデザインになった洒落た物

ピンクのサロペットにうさ耳のカチューシャとピンク色した兎の足を思わせる靴

同じくピーンキーエンジェルと呼ばれる熱帯魚をモチーフにしたミニのワンピースで

「この三点ならすぐに試作に入れますが?」

そう言われておどろく御法を余所に

「わかりました、貴女に任せます」

と観月も応えるのを見て今度はユカが御法に数ヶ所チェックし修正の助言を書き込んだ物を渡すと

「その助言を参考に新しく書き直してみてください」

そう言われて観月を見ると

「ユカの元で勉強しなさい、勿論ミナも助けてくれますからね」

そう話が纏まり

「ではそう言う事で治安維持局の局長は急ぎ後任を選びデザインに専念しなさい

ユカ、ユイからこれを預かってますから日付以外の必要事項を埋めて私の所に持ってきなさい」

その後は食事まデッサンを見続けた観月と契約内容を説明して御法に記入させるユカ

まず人魚姫のワンピースから命用にデザイン起こしから始める事にしたミナ

ユカの若月は新しい段階を迎え力を蓄え始めた

 

 

 

③憂鬱な者達

 

可愛い恋人を得たものの実の母親にヤキモチを妬く等夢にも思わなかった十六夜

公務とは言え母王妃の秘書を務める彼女は恋人の自分より母と過ごす時間の方が遥かに長い

十六夜自身も公務が忙しい事もあり一緒に過ごす時間が中々取れないのが悩みの種

勿論本来ならば美月のスタッフであるユウにユキとユミだけでは足らず観月迄も駆り出しても人手不足に悩む現状は弁えている

ただ…二人の甘い時間は未々遠く十六夜の憂鬱な日々が続くのだけは確かなこと

 

「なぁチサ、最近みこの奴一体どうしちまったんだ?」

鬼百合がそう言うと

「どうしたって?何が気になるのでしょうか?」

お茶を淹れながら話を聞いている春蘭も

「お話ししててもどこか心ここに在らずと言いますか上の空の様に感じます」

そう話すと戦士達も頷き

「それでしたら何故みこちゃん本人に聞かないのですか?

私だってみこちゃんの事を全て理解できる訳じゃ有りませんよ?」

そう言われて

「最近のみこの奴はアタイが声掛けたって返事すらしやしねぇ事だって有るんだからよお前からみこに悩みを聞いて貰えないかと思ったんだよ」

そう話す鬼百合に

「取り敢えず深刻な悩みでない事だけは私も気付いてますからもう少しだけ…少なくともみこちゃん自身が話してくれるのを待っても良いと思いますよ?」

そうチサに言われ

「そうかも知れねぇけど気になって仕方ねぇんだよ…」

そう唸る鬼百合に

「どうしたの?鬼百合…お腹空いたの?ごはんの時間は未だだよ?」

その間の悪い命の言葉にかっとなった鬼百合が他の戦士達に取り押さえられている事にも気付か無い命にチサが

「みこちゃん、お歌の稽古は終わったの?

今春蘭さんのお茶を呑みながら皆でお話ししてるけどみこちゃんも一緒にどうですか?」

そう声を掛けると首を小さく横に振り

「もうお祈りの時間だから…」

そう呟く命を見送り

「そう、もうそんな時間なんですね…

聞いての通り今の物思いに更けりがちなみこちゃんは私に対してもあんな感じなんですよ?まぁそれはともかく春蘭さん、私達もお祈りに行きましょう」

そうチサに言われた春蘭も又

「食事の後に片付けますから湯飲みはテーブルに残しておいてください」

そう声を掛けると部屋から顔を出した観月が

「貴女達はみこをちゃんとみているのですか?」

そう言われて鬼百合が

「じゃあお前ならわかるのかよ?」

そう聞かれて

「多分間違いないしチサの言う通りみこには大問題でもそれで悪い事に繋がる訳では有りませんし…

私達にどうにかしてあげられる事では無いばかりか鬼百合…それを聞いたら大笑いしそうな事ですから多分貴女にだけは知られたくないって思ってますよ…みこは」

そう言われて

「何故私達にどうしようもないと言い切れるのでしょうか?」

そう春蘭か悲しそうに聞くと

「私達に何とかなる問題ならみこ自身が既に何とかしてると思いますが…

みこはどんな歌を歌い歌の合間は何をしてるのか見なさい

そして…みこが物思いに更ける様になったのは風の精霊の救出後ですから後は自分達で考えなさい」

そう告げると再び自室に戻る観月と替わりミナが

「多分命様は羽が欲しいのだと思いますよ?」

そう聞いた鬼百合が

「ぷっ…」

と吹き出すと瑞穂脇腹を肘で突かれ

「ミナの話を聞く気が無いのなら席を外しなさい」

と、言われムッとしながらも

「ミナ、済まねぇ…続きを頼む」

と言うと頷き

「命様が最近よくお稽古されている歌は翼を求める歌詞の物が多く歌の合間だけでなく空を飛ぶ鳥を見ては羨ましそうに見

ご自分の背中を見て溜め息を吐いてますし風の精霊の巫女の翼様が羽を生やした姿を話す時は本当に羨ましそうに見えますが…

チサ様と春蘭さんも覚えてませんか?

水の妖精と命名された服を初めて着た時の命様の反応に…」

そう言われた二人が

「あっ…」

と呻くと阿も

「確かにそれならば観月様の言われた四つの条件を全て満している…」

と言いチサも

「さすがミナさん、私達と違いみこちゃんが望む事に応えたい思いが一番強いだけは有ります…

鬼百合さんも私じゃなくミナさんに相談すれば良かったと思いますよ?」

そう言われ

「ふんっ…」

と鼻を鳴らした鬼百合がそっぽを向いたが気にする者はない

 

留美菜の心は散散に乱れていた

ミナ、春蘭、りんの三人が精霊の導きを受けその巫女に選ばれた事が羨ましくも妬ましい…

そんな事を考える自分に気付いてそんな自分が堪らなく嫌で仕方なかった

でも…みこちゃんに長くお仕えしているミナさんや同じ時期にお仕えしたけど私より大人で賢い春蘭さんは仕方無い…

でも…りんに負けてるなんて…りんより劣ってるなんて思いたくない

そんな留美菜に祈りの間は一言も発しない命が

「留美菜、祈りに集中しなさい…

貴女のその雑念が貴女の目を曇らせ見えるはずの者が見えず

耳を塞ぎ聴こえるもの聴こえなくしている事実に気付きなさい」

ミナ、りんマイとマキ以外が初めて見る精霊の巫女の命に戸惑いながら祈りを再開した

同世代の子供の中では年長者グループの一人で網元の娘としての自覚を持って生まれ育った留美菜は常に率先して年下の子達の世話をしてきたから命のお世話だってこなせると思っていた…

でも実際にはミナに遠く及ばないし春蘭達四姉妹にも叶わずりんもいつの間にか自分の上を行っていた

それどころか逆にマイやマキ達命の部屋付きの侍女達の世話を受けながら勉強する日々を情けなく思っていた

(命様はお祈りに集中しなさいと言ったけど今の私には出来ない…私は何も出来ない…)

―私に出来る事何て何も無いっ!―

その留美菜の心の叫びはチサ、ミナ、春蘭、りんの心にも届き

「留美菜ちゃん、思い出してあの雨の日を…

お母さん達に黙って草の実を取りに山に入って…

怪我しちゃって歩けなくなっちゃった私を慰めながら一緒にお迎えを待った時の事を…」

りんのその言葉に

「日が沈んできて不安だった私達に留美菜が言ったんだよね

りんは私が見てるからはなは暗くなる前に皆を連れて山を降りて

りんが足を捻って動けないから休憩小屋で待ってるからってお母さん達に教えて欲しいの

ってその言ってくれたから私達も暗くなる前に降りれたんだよね」

はながそう言うと

「そんなの別に私じゃなくたって…」

そう口ごもる留美菜に

「そう、誰にでも出来る事だけど皆が皆必要な時に気付ける訳じゃ有りませんよ?」

春蘭が言い

「私は特別優れてる訳じゃ有りませんよ?私に有るのは経験の長さですからね」

ミナも言い

「みこちゃんが好きならみこちゃんの期待に応え無きゃ…留美菜ちゃん

命様は祈りに集中しなさいと言ったんですよ?

余所事を頭から追い出してっ!」

そのチサのいつもと違う強い口調に驚いて再び祈りを再開する少女達

重い沈黙の時が流れ…

―美菜…私を求めし者よ私の声が聴こえたのなら返事をしなさい―

その呼び掛けにようやく気付けた留美菜が目を凝らして見ると徐々にその姿がはっきり見えてきて精霊の巫女でない少女達の目にも見えてきた

「貴女様は…」

その留美菜の問い掛けに

ー私は氷雨の精、水の精霊の巫女の為力を求める貴女の想いに応えし者

です

留美菜に覚悟があるのなら私を受け入れその霊力を手に入れなさいー

そう言われ左手を掲げ

「私をお導き下さい氷雨の精様…」

留美菜がそう答えると氷雨の精も留美菜の手を取り契約を交わした

「少し横になると良いよ留美菜ちゃん…」

りんがそう留美菜に声を掛けると

「皆さん、みこちゃんに命を救われた私と翼ちゃんはりんちゃんと同じです

私も皆さんと同じ仲間なんですよ…」

そうチサが言うと

「未熟な私達に貴女達を待つ余裕は有りませんけど共にみこちゃんにお仕え出来る日まで頑張りましょう…」

春蘭が言い

「私達は仲間…!ですからね…」

ミナも言うと頷く一同だった

 



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舞い踊れ

生まれて始めてのおお舞台と精霊の巫女としての務めをを大成功の地に果たした水の精霊の巫女の次なる舞台は?


六章 舞い踊れ

 

 

①みこが踊りを習う時

 

酔仙亭の女将は悩んでいた

あの日以来客達が挨拶代わりに

「人魚姫様が訪れてくれるのはいつなんだい?」

と、聞くようになったけどそれを一番知りたいのは女将自身でどうしたら酒場に幼い人魚姫を呼べるか…呼んでも良いのかと頭を悩ませていた

そんなある日の事、顔を歪ませた芸妓が女将の部屋を訪れて今しがた出てきた座敷で聞いた不快な密談を女将に話した

「全く…忌々しいったらありゃしないよ、あの獣達ときたらっ!」

そう女が吐き捨てる客達は以前翠蘭太夫と揉めた事の有るその客を快く思う者はなく金離れの良い客だから女将も太夫に頭を下げ店の出入り禁止は回避したのだが…

話を聞いている内にこれが太夫の耳に入ったらさすがに今回ばかりは庇えないし事と次第によっちゃ当人達だけじゃ済みそうにない様な気すらしてきた女将だに…

今回の事は自分の顔を立てて欲しいと太夫に頭を下げた自分の面目丸つぶれにしてくれた相手に同情する気等更々無い

観月に話の内容を手紙を認め招待状と共に持たせ使者を送った

招待状と手紙を受け取った観月は御法の話に何やらキナ臭い物を感じていたが真相がはっきりしなかった為様子を見ていたのだが…

直ぐ様その手紙を手に国王に面会を求め手紙を渡すと怒りも露の国王と不快感に顔をしかめる王妃を気遣い

「至急内偵を始める様に手配します」

そう告げて国王の執務室を退出した

 

 

そして命が店を訪れる日を迎え王家の馬車からまずミナが降りると続いて命が瑞穂に抱かれて降りユカ、マイ、マキ、マナ、マユ、留美菜、りんの順に降り出迎えた太夫の案内で置屋に入ると

「お招き有り難うごいます」

そう言って箱を女将に渡し

「これが命様が頂いた着物の代わりになるかは存じませんが命様が水の精霊の巫女のお披露目のパーティーでお召しになった一着、差し支えないようでしたら着物を剥ぎ取られた人形が可哀想ですから着せてあげる訳にはいかないでしょうか?」

ミナがそう女将に聞くと女将は嬉しそうに

「アタシ等が着れない美月のドレスが着れるなんて人形が羨ましいよ

しかも人魚姫様がお召しになったを…」

そう答えると太夫も

「女将、うちの新しい名物になりそうだね?」

と言うと

「若い娘達が美月のドレスの実物が見れるって昼時に殺到しそうだよ」

そう言って頭の中で早くも算盤を弾く女将が更に王宮の侍女達を見て

「もしアンタ等が嫌じゃなきゃ着物を着てみないかい?」

そう聞かれて

「宜しいのでしょうか?ユカ様…」

と聞かれて

「昔踊りを習っていた私も持ってますから経験してみてはどうですか?」

と言われてマイが

「嫌じゃ無く私達なんかが高価な着物を着ても良いのという気後れが…」

と答えると

「観月様が人魚姫様の同行を許す者ならばそれだけで十分だと思うがね?」

そう女将に言われて

「き、着付け出来ませんから宜しくお願いしますっ!」

マイが両手をついて頭を下げると

「任しときなよ…お前達、お嬢さん達の事宜しく頼むよ?」

女将がそう声を掛け留美菜とりんに目を止めると

「留美菜、りんアンタ等には…」

そう言って折り畳まれた着物を見せると

「今時これを着るの娘は居ないが昔の王家の女官童(わらは)…

今の時代ならアンタ等みたいに幼い見習い侍女が着ていた物で

うちじゃたまに皿洗いのお手伝いを頼む子達が着てるもんだが着てみるかい?」

そう聞かれた二人が目を輝かせると

「はい、着てみたいですっ!」

そう元気良く答えたので太夫も笑いながらユカを見るとユカも穏やかな笑みを浮かべ頷き

「ミナ、私達も命様の着付けを始めましょう」

そう言って表舞台の仕度が始まった

 

その一方で置屋の裏口から店に入った国王、観月と御法、忍、春蘭に護衛の嵐と

阿は命の訪れでざわつく店の内外の隙を突き国王と観月に嵐は目当ての座敷に潜り込み

御法は異国から来た芸妓で忍、春蘭は今日が初座敷の新人の芸妓と言う触れ込みでこちらも目当ての座敷に案内された

「もっと側に来なさい…」

御法の肩に手を回し抱き寄せても正体には全く気付かないけど妻子が有りながら御法に懸想する男にってはまさにタイプの女の登場だ

「生真面目で融通が利かず鈍いから自分のアプローチに全く気付かないから困らせて私に泣き付かせる筈が中々どうして

又新しい手で足を引っ張ってやるわっ!」

そう御法本人とは気付かず息巻く男に溜め息を吐く御法

そして今日の為に裏付け調査した報告書を持って隣の座敷から国王と観月に二人に付き従う嵐が入ってきて

「全く…何故お前の様な愚者が家督を継いだのだろうな?

王家とも浅からぬ名家をお前の様な愚者の為に潰すのは忍びない

家督を息子に譲り今後は一切出ぬと約束するならば不問にしよう」

そしてもう一人の商人には

「悪い噂は絶えぬがそれでもお前の商才が我が国にもたらしてくれた実績は決して小さくない

同じく早晩にも息子に暖簾を譲り隠居するのなら大目に見るが…」

そう言って御法を見ると

「みこちゃんとチサちゃんが私の服が好きと言ってくれ観月様にも認めて頂いた今の私にはもうどうでも良いことです

女好きの困った所を除けば尊敬していましたし何も知らない奥様には何とお世話になってましたから…

陛下のご判断にお任せします」

そう御法が答えると

「御法さんは人が良すぎますっ!」

そう仲居の一人が叫ぶと別の者も

「隠居するのなら反省謝罪の意味で頭を丸めな、アタシ等が刈ってやるからよっ!」

その声を聞いた国王も

「その程度の罰で許されるのなら有り難く思うが良い」

そう国王の許しを得て頭を丸められた二人が方々の体で逃げ出したが…

命の登場を心待ちにする者達にはそんなオヤジ達の事などどうでも良いとゆーより命の登場の方が大事だった

そして青い髪を高く結い上げた極上の太夫(命)が習ったばかりの優雅な歩みで練り歩き

その後ろに童(留美菜とりん)従えるその姿は一の幅錦絵さながら…

コテンっと命が派手にスッ転ぶまではだが…

「だから手を繋ごうよって言ったのに…」

そう言いながら命に手を差し出すりんと立ち上がった命に竪琴を渡す留美菜に

「えーっ、そんなの格好悪いよ?」

そう答えた命だけど

「転んでしまうのはもっと格好悪いですよ?」

そう言われても

「練習じゃちゃんと歩けたのに…」

そう本人はぶつぶつ言っていたが留美菜とりんは

(練習じゃ手を繋いでたって危なかしかったのにね…)

互いにそう思い苦笑いしあった

「ま、いっか…」

そう言って床を蹴りまるで水面に向かって泳ぐように階上に向かう姿を見て

「まさに人魚姫様だ…」

一人が呟くと皆も頷き同意して上昇する命を見送った二人に一人の酔っ払いが近付き

「お前、もしかして兄貴の娘のりんか?義姉さんの若い頃に良く似ている…

するとこっちは網元の末娘の留美菜だな?」

そう声を掛けられた二人は互いに顔を見合わせ知ってる?という表情をしていると

「お前がこの街から姿を消して何年だい?二人の親達がお前の事など話す理由は無いんだから知る訳無いだろうっ!?」

そう怒鳴られても気にする事無く

「そんな事よりお前達がここで働いているのなら一杯奢っちゃくれねぇか?」

パシャっ…

いつの間にかカウンターから出てきた女が手にしていた徳利を逆さにして男の頭から酒を浴びせ

「この一杯はアタシからの奢りだからこれで我慢して足元の明るいうちにさっさと帰りなっ!」

そう言われて

「このアマっ!」

そう喚き女に掴み掛かろうする手を別の方から伸びてきた腕が掴むと捻り上げ

「アンタ…良い啖呵を切るね、気に入った

留美菜にりん、お前達の知り合いか?」

鬼百合が聞くと二人に代わり

「こいつはりんの父親、舟頭のロンの弟でこいつがこの街を出たのはりんが生まれてすぐだから二人は初めて会った」

そう言われてじろじろ見ていると

―鬼百合、そのままその男を押さえたまま店を出なさい―

アクエリアスからの呼び掛けに従い店を出るとどこからか現れた水が二人の頭に降り注ぎずぶ濡れにした

「みこの奴めぇ…」

そう言って怒りに震える鬼百合に対しもがき苦しみ始めた男の身体から黒い煙が現れやがて消滅すると

―闇に操られついたその男を浄化しましたから後の事は任せます…―

そう言って気配を消したアクエリアス

「へきしっ!」

横たわっていた男が我に返り

「何で私はずぶ濡れでこんな所で寝ているのだろう?」

そう呟く男の様子を見る二人の少女の顔に見覚えがあり

「お前…兄貴の娘のりんか?姉さんんの若い頃そっくりだ…んで一緒にいるのが網元の末娘の留美菜だな?

義姉さん達と一緒で仲良いらしいな…」

先程とは違う穏やかな笑顔で言う男を不思議そうに見る他の客達

「鬼百合、大変な事になってしまったな?」

そう言われて

「全くだ…後でみこをとっちめてやらんとな…」

唸りながら言う鬼百合に

「さっきのがみこではなくアクエリアスからの呼び掛けだと気付かぬ貴女ではなかろう?

みこに八つ当たりは止めなさい」

そう言ってピンクのフリルたっぷりドレスを手渡し

「早く着替えないと風邪をひくぞ?」

そう言われて嫌な顔をしながら

「何でこんな物を着なきゃならんのだ?」

怒気を孕ませ言う鬼百合に

「水難の相が出てるから今日大人しくしてた方が良いですよとチサちゃんがいってましたよ?と言うユウに

馬鹿馬鹿しい、そんな目にあったらこのドレスを着てやるよっ♪そう言ったのは貴女自身、貴方もさっさと立ち上がりついてきなさい」

そう言ってカウンターの中に戻っていたフロアリーダーに

「済まないが二人が着替えられる場所とその男の着替えを貸してやってください」

そう言われて

「人魚姫様の従者のアンタに頭を下げられちゃ嫌とは言えない…

仕方無い、留美菜とりんにアタシが引っ込んでる間酒や料理の配膳手伝ってくれるんなら用意するよ?」

そう言われて

「お手伝いにぴったりな服丁度着せてもらってますから任せてください」

二人が応えると

「留美菜は奥のじいさんに熱燗、りんはほらっ、手を振ってる髭親父に麦酒を持っていっとくれ…」

そう言って渡された酒を運びテーブルには置かずに

「どうぞ…」

そう言ってる笑顔で徳利を傾けると戸惑いながら湯飲みを差し出すと互いに持っていた酒を並々と注ぐのを見て

「人魚姫様の従者の二人が酔っ払い相手にそんな事してやらなくても良いんだよっ!」

と叫ぶと

「漁の後の宴会じゃいつもの事だよね?」

そうりんが言えば

「網元の娘として働く漁師達を労うのは当然の事って習いましたから普通の事ですよ?」

そう留美菜にまで言われて鬼百合を見ると

「アタイだって妹みたいな留美菜やりんが酌してくれる酒は手酌で呑むよか遥かに旨いんだからな

それに貴族にだって胸糞悪い酔っ払いだって居るんだ

少なくとも翠蘭太夫の目が光ってるこの店でそんな問題起こすような客はおるまい?

まぁさっきみたいなのは例外で心配は要らん

それに二人に酌してもらった奴等を見てみなよ?」

そう言われて男達を見てから考え込み

「そうだね、さっきおん出された様な質の悪い酔っ払いは例外だけど確かに貴族にも…

権力を嵩に余計質の悪いのが居るね…そう言って溜め息を吐き

「わかったよ、但し注いでやるの最初の一杯だけ…まぁお代わりすりゃ又そん度に注いでやるの構わないけどね」

そうフロアリーダーの女が言うと様子を見ていたが客達がお代わりに酌してもらえる酒を注文し手元の酒が残っている者は急いで飲み干しお代わりを求め一階の居酒屋が賑わい始めた

命の気配に気付いた観月と春蘭に忍の三人

「伯父様、みこが下から来ますよ」

そう言われて春蘭が襖を開けると命が王の胸に飛び込んできた

その様子を見ていた三階の客達が滅多に無いこの機会にと国王の座敷に訪れて来た

その内の二人の人間が観月と御法の目に

止まり

「あの二人が経営する店はさほど大きな店構えではありませんがどちらの店も経営者の拘りが詰まった店構えと品揃えで若い子達に評判の店です」

そう聞いて

「差し支えがなければお二人を紹介してもらえませんか?」

そう言われた御法が二人にその旨を伝えて観月の前に案内して

「こちらは真依さん、王都で人気の子供服を商っている人です

もう一人の早苗さんは十代前半の少女向けの服を中心のブティックを経営している人です」

そう言って一人ずつ紹介すると

「唐突な話になりますが先日催したイベントで発表しました美月の新ブランド、若月の服の代理店を引き受けていただけませんか?」

と、観月自身の言葉通りの唐突な申し入れに戸惑っていると

「デザイナーのユカの発案で作った服達ですが基本的にオーダーメイドの美月には売り出す店舗がなければ販売の為のノウハウも販路も無いことに気付いたのです」

そう言って笑いながら

「ですのでその打開策を考えていましたが今日ここで貴女達と出会えたのは何かのご縁

美月、新ジャンルの服の服達を貴女達に託せませんか?」

そう持ち掛けられた二人は

「あ、あの服達を私達にお任せ下さるのでしょうかっ!」

興奮を隠せない二人の声が綺麗にハモり驚きの声を上げると微笑みながら

「貴女達自らデザインを手掛けているのなら自分の手掛けた服への思い入れは理解できますね?」

そう言われて頷く二人に

「少なくともそういう感性を持った方達に託したいのですよ」

その言葉に観月を始め美月のスタッフ達が自分達の手掛けた服への思いの深さが垣間見え

「「はい、その思いと共に若月の服を私達にお任せください」」

そう答えると嬉しそうに頷いて命の側に控えていたミナを呼び寄せ

「この者はミナ、前回のイベントの総指揮者ユカのアシスタントでありデザイナーのユカのパートナーでもあります」

そう言って二人に紹介すると

「ミナさんには私の原画を基に新作を作製していただいてます」

そう言って御法からも口添えすると

「ミナ様…、「もしや雨水の精の巫女様のミナ様ですかっ!?」」

そう言って驚いた二人に

「ミナ様等と…私はユカ様の指示に応えようと必死に足掻いている者ですし精霊の巫女としても修行を始めたばかりの未熟者ですから…」

そう言って戸惑うミナに

「そうですね、今は未だ美月の準スタッフですから今の内に親しくなっておけば良いですし先々の話になりますが先日のようなイベントでの新作発表の場では色々と手伝っていただく機会もありましょうからスタッフに準ずる扱いになっていくかもしれませんからその意味でも期待しています」

 

 

大人達の話が一段落したのを見て

「みこ、まずは太夫にお稽古の成果を見ていただきなさい」

そう観月に言われた命が太夫に見てもらうために足捌きと体捌きとを見てもらうとつい先日教えたばかりとは思えないその動きに感心した太夫がいよいよ踊りを教える事になり

「せっかく着物を着ているのだから貴女達も踊りを習ったらどうですか?」

と、観月が言うと太夫の視線に気付いた手の空いている芸妓達が指導を始め普通はお目にかかれない踊りの練習風景が舞台に流れていた

暫く踊りの稽古をしていた観月が同じく命を見守っていた太夫に視線を合わせると

「太夫にお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」

そう真剣な面持ちで言う観月に頷くと

「巫女達に着物を仕立ててみたくなってしまいましたのでその道に詳しい業者を紹介してほしいのですが…

勿論仕立て自体はそちら様ににお任せで美月はあくまでもデザインをするだけですが

後着物の小間物を扱う業者もご紹介いただくと有り難いのですが?」

そう話を持ち掛けると日頃から着物の衰退を憂い嘆く呉服屋の女将の愚痴を聞いている太夫は

「私が贔屓にしている店で宜しければご紹介致しますが?」

そう答えると

「今の貴女の姿を見れば貴女な選美眼の程は十分に伺えますのでその貴女の目から見たお勧めの店を知りたいのですよ」

そう観月が答えると

「わかりました、先方に打診しますが差し支えなければ観月様のご都合の良い日をお教え願えますか?」

そう太夫に聞かれた観月は

「この話しは今思い付きで話してますから私の予定もはっきりしてませんので明日にでものユカを私の代理人として寄越しますので日程調整をしたいのですがいかがでしょうか?」

そう問い掛けると

「そうですね、それでしたら声を掛けて呼べる店の数も増えますからその方が何かと宜しいかと…」

太夫もそう答えたので

「ユウ、聞いての通りですから明日の打ち合わせはユカとユキに任せますから二人にそう伝えてください」

そうユウに指示を与えると

「承知しました」

とユウが答えるのを聞いて

「その際我が儘承知のお願いですがみこちゃんの同行もお願いしてもよろしいでしょうか?」

そう女将が言うと一通りの指導を終えお茶を飲みに戻っていた太夫も

「そうですね、みこちゃんと共に今日踊りを教えてる子等を一緒に連れてきてくれたら今日の続きを教えますがいかがでしょうか?」

と言う女将の要望と太夫の提案を聞いて

「わかりました、みこについてはダメだと言おうものなら落ち込んで食事も喉を通らなくなりますから伯父様までお嘆きになりますしそもそも本人も喜んで参りましょう

それと侍女達に関しましては踊りを通して優雅な所作を身につけてもらいたいですからご指導うのほどよろしくお願いいたします」

そう言って言って頭を下げる観月に

「そのついでにと言っちゃなんだけどりんや留美菜に一階の手伝いに寄越してくれるとうちとしても助かるし客達も喜ぶんじゃないのかい?」

ニヤリと笑いながら言う太夫に頷きながら観月に懇願の目を向ける女将に

「わかりました、では明日ユカに同行するメンバーはみこ、ミナ、マイ、マキ、瑞穂、忍、留美菜、りんを含む漁師の娘達

御法さんは勤務を終えてからみこと合流すると良いでしょう

みこも太夫のいうことをちゃんと聞くんですよ、良いですね?

太夫、世話の焼ける子ですが踊りを習いたい気持ちは本物ですから厳しく指導してあげてください

女将さんに他の皆さんもみこの事をよろしくお願いいたします…ミナ、マイ達もみこの事を任せますからね?」

その観月の言葉に笑顔で頷く一同だったけどそう言ってもらったものの一抹の不安を覚える女将が

「王女様になられる方に本当によろしかったのでしょうか?」

そう観月にお伺いをたてると観月も

「女将、女将は踊っているみこを見て何か感じるものはありませんか?」

そう観月に小声で問われて暫く考え込んでから「あっ!」と驚きの声をあげたので

「やはりその可能性に気付かれましたね?みこのあの異常なまでの才能に…」

そう言われて頷く女将に

「未だ確証の持てないことですので内密にお願い致しますがそう言うわけですからみこと太夫の出会いはただの偶然ではないと思いますよ?私は

それに水の精霊の巫女として水にまつわる奉納踊りを習いたがるのは必然ではないのでしょうか?きっとこの出会いは舞の女神の采配なのだと私は思います」

そう答えると

「太夫、アンタには今の会話の秘密を教えよう…新しい舞姫様の師に選ばれたかもしれないアンタには知る権利があるんだからね…」

その重大さが十分に予測できる言葉に息を飲む太夫だった

 

 

そんな訳で明日も又命が訪れること知らされ二日続けての命の訪問は嬉しいが板場の者達のプレッシャーは半端なかった

始めての来店の経験を踏まえてたっぷり用意したはずの食材達が軒並み底をつくような異常事態になり板長の顔色も気の毒なくらいに青ざめていたが明日の朝からフル稼働で対応するしかないのだと腹もくくっていた

外は陽もすっかり落ちきって真っ暗になり町に火が灯る頃になり

「みこ、今夜の舞台を頼みますよ」

観月に言われた命は頷いてミナから竪琴を受け取ると宴舞台に舞い降りて歌い始め今日の宴は最高潮に達しようとしていた

酒や魚が次々に注文され客の胃袋に治まり消えていった

その盛り上がりは命達が帰った後も静まることなくり出せる料理が殆ど無くなるまで繰り広げられたが最後の客が店を後にしたのは未だ夜半を回って少し経ったくらいの時間だった

 

 

そして一夜が明け打合せに集まった人達だけどまずマイを始め侍女達は着物の着付け後に踊りの稽古で留美菜とりんを始め漁師の娘は一階のお手伝いや洗い場の手伝い等にそれそれ別れミナは前回同様に着付けを手伝いを兼ねて習っている

その一方で昨日の今日で準備が不十分な状態で命を迎えるには限界を女将はとにかく酒や食材の買い付けに走り回り一部の予約料理以外は底をついた状態の料理の仕込みを急がせ…

酔いどれ小路酔泉境で人気の屋台の店主達を集め

「夕べの大騒ぎは知ってると思うが今日も早くから人魚姫様がお越しくださる事が決まってるが早朝から急がせちゃいるけど姫様の吸引力の前じゃ正直言って焼け石に水さね」

そう言って溜め息を吐いて見せ

まぁ今もこんな有り様で作りおきの惣菜なんかも改めて仕込まなきゃなんない状態

「この現状打破だけでも大変なのに不定期じゃあるが姫様が家の太夫に踊りを習いにいらっしゃる事が決まってるからこれからが大変でね…」

そう言って一同を見回して

「で、アンタ等に集まってもらったのは他でもないんだけど一階の客を中心にアンタ等に料理を出してほしいんだよ」

そう持ち掛けられた男達が顔を見合わせていると

「なにうだうだやってんだい?この高慢ちきな女が自ら進んで頭を下げてんだよ?」

そう言ってきたのは酔いどれ小路の入り口に御棚を構える仕出し屋の女主人で女将の幼馴染みにして幼い頃からから何かにつけて張り合ってきたライバルと言うかケンカ友達で…二人の仲の悪さについては酔いどれ小路界隈でも有名な話であるため彼女の登場に女将以外の者は皆驚きを隠せないでいる

その仲の悪い仕出し屋の女将に頭を下げて料理の注文をするなどまですると言う女将の苦心の末にこうしてやっと昼前の開店にこぎ着けたのだった

 

 

当然真っ先に着付けを終えた命は暫くミナを見ていたがその瞳が煌めいてウンウンと頷いた後

「ミナさん、みこユカさんにご用があるから先にユカさんとこ行くねっ♪」

そう言って控え室を出ていく命を見送るミナだった

ユカの座敷には美月との、ひいては王宮との取引も夢ではない今回の話に功名心に逸る店主達が各々に持ち寄った商品を各々に見せているところに戻ってきた命が

「ミナさんに似合いそうな着物だね?せっかく色々揃ってるんだからミナなさんに着せちゃおうよ?」

イタズラな笑みを浮かべ瞳を輝かせながらそう話す命に

「ミナがうんと頷くとは思えませんが確かにその提案は観月様も喜ばれるとは思いますけど何と言って説得すれば良いのやら…」

そう言ってこめかみを押さえるユカを見て驚いた命は

「え?なんで?みこはミナさんの気持ちを聞くつもりなんかないよ?ミナさんの意見聞かないから着せちゃおうよってゆったんだけど…下で飲んでる人にも手伝ってもらってねっ♪

大丈夫、ミナさんには後でちゃんと一杯一杯みこがごめんなさいして『みこが着てほしかったのってゆーからねっ♪』」

命の言い訳を聞いて

(成る程、下手に説得しようとしなくても命様に甘いあの子なら命様のお願いを無下に断ることなどできませんね?それならば一噌の事…)



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舞い踊れ②

本格的に舞を習い始めた水の精霊の巫女は踊りに込められた意味と願いを知り…


そう割り切ると命が言っているの誰なのかはすぐにわかった

ミナもそうだが結局は命が甘えられる人物なのだから

「わかりました…太夫、着付けの手配をお願い出来ますか?」

開き直ったユカが面白そうに笑いながら言うと

「一番着物が似合いそうな娘に着ないのが勿体無いと思ってましたし…他の子達も喜んでお手伝いしますよ」

(こんな面白そうな話し見逃すわけない、ですか?)

(勿論)

と二人が目で会話しているのには気付かないみこに

後の細かい事は私と太夫に任せて下の人にも頼んできてくださいね」

その命の後ろ姿を見ながら太夫が

「でも、本当に宜しいんですか…この様な…(本人の同意も得ずに…)」

そう心配顔で聞かれ

「ミナも精霊の巫女の一人…そう考えるといつまでも命様を影から支えるだけではダメですしいずれ他の巫女達の着物も命様の着物の後に作る話は出る話ですから…」

そう言われて納得した太夫は頷き

「私達はミナと言う花の蕾が綻ぶ瞬間に立ち合えるのかもしれないのですね?」

そう言って二人はその瞬間を想像し微笑んだ

 

音もなく忍び寄った命が耳元で

「鬼百合ぃっ、みこ鬼百合にお願いが有るんだけど聞いてくれるよね?」

言外にユウさには黙っててあげるからと言う言葉が滲み出ている命の顔を暫く見ていたけど諦めた鬼百合が溜め息を吐き

「で、アタイに何をさせたいんだ?」

と言われいたずらっ子の様に瞳を煌めかせている命は

「みこが呼んだら座敷に来てくれたら後はユカさんが教えてくれるよ」

と言われ

(みこに聞いたアタイがバカだった…)

と心の中で呟き

「解った、呼ばれたらすぐに駆け付ける」

片手を挙げながらそう答えとその答えを聞いた命が階上に戻っていった

その命の後ろ姿を見送りながら

「しっかしみこの奴にも困ったもんだぜ…階段を使うって発想はあいつの頭ん中にゃねぇのかよ?」

そう言って愚痴を溢す鬼百合に笑いながら

「そんなオチャメさが人魚姫様らしいしそんなお姿を見せていただいてるアタシ等にゃ有り難い事なんだから良いんじゃないのかい?」

そう言ってもう一度笑う女に

「まぁな、拝んでる奴まで居やがんだからしょうがねぇっちゃしょうがねぇんだがな…」

そう言って苦笑いを浮かべる鬼百合に

「まぁここは王宮じゃないんだから良いんじゃないのかい?としかアタシにゃ言いようがないよ」

そう言われて互いに苦笑いを浮かべ合うしかなかった

春蘭達の支度が終わり座敷に向かうのを見て別の芸妓達がこっそりと控え室に入りミナの為の支度を始めた

そして取り敢えず着物の礼儀作法の説明を受けていたミナの前にー今だよ、来てっ!ーそう言って呼び出された鬼百合が現れ

「百合様、ミナを控え室に…連れて行ってくれれば後はお姉さん達が着付けしてくれますから」

と言われ

(成る程、経緯は解らんがこの三人の共犯か…面白れぇっ!)

何をさせられるのか解らぬうちは不安だった鬼百合も

(こんな美味しい話なら喜んで手伝うぜ)

と思いミナを抱え上げると

「任せろっ!」

と言って駆け出した

 

 

着付けを終えて座敷に戻るミナを見た女将が

「このままうちで働いて欲しいくらいだよ」

と溢すほどだった

照れながら俯き加減で歩くミナを見て何も知らない客達は

「あの初々しさは今日から座敷に上がる娘なんだな?」

と言って微笑んでいたが

「本当にそうなら嬉しい事なんだけど生憎な事にあの娘は人魚姫様の従者の一人にして雨水の精の巫女様なんだよ…

それでもたまにくらいならうちで芸妓をやってくれても…」

後半は聞き取り難い呟きをブツブツと心底残念そうに言ってるの苦笑いを浮かべた仲居達が聞いて居るのに気付かない女将だった

「どうでしょうか?着物の作法の為にもこの娘達に踊りの師匠を紹介して頂けないでしょうか?」

と言うと

皆さんせっかくの着物姿をこのまま何もしないでいるのは勿体無い話し

今日のところは私達が基礎をお教えましょうか?」

と言われて命の目が輝き

「太夫にそう言って頂けるのなお座敷をお借りしますからその代金は…

「いいえ、座敷より二階の演舞台でお稽古を公開稽古にして頂ければ手の空いてる者が誰か必ず着くように手配しましょう、命様宜しいですか?」

「んーんっ…良く解らないからユカさんに任せるね」

「え…」

春蘭とマイ達は驚いたが既に自らの意思にかかわらず着付けをさせられたミナは開き直って平然としていた

「店にに居合わせた著名人達は練習の合間にジュースを差し入れたりミナや春蘭に名刺を渡して知己を得ようとしてきた

「これが目的だったのですね?」

「ここが密談に使われる事があると言うのは聞きました

そういった要人と知己を得るのはこれからの彼女達の財産になる

それが観月様の考えですから」

「成る程大胆にしてユニークな発想ですね」

「では、日取り段取りは以上で宜しいですか?」

「構いませんが侍女の全員のサイズまで把握しているのですね」

「でないと制服を用意できませんし健康管理も私達の責任だと言うのが亡くなられた大公妃様からの教えですから」

「素晴らしい方だったのですね」

「私達には生んでくれた亡き母、孤児の境遇から救いだしてくれた前大公妃様、私達に礼儀作法の手解きをしてくださったワイマール男爵夫人の三人の母が…」

そう答えると

「そうですか…良いところのお嬢さんが花嫁修業で侍女をやっているイメージしか持ってませんでした…すいません」

と詫びる太夫に

「確かにこの国の王宮もそれなりの紹介状を必要としますから大公家が特殊なんです

ですからそのイメージはおおよそ間違ってませんからお気になさらずに」

そう言われて

「あ…だからですか、りん達漁師の娘達が見習い侍女になれたのは…」

と太夫が言うと

「彼女達の身分は公女宮の見習い侍女ですから紹介状を必要としませんからね」

そう言われて

「運が良いと言うのか運命と言うのかはわからないけど羨ましい娘達だよ」

そう呟く太夫だった

夕方前懇親会になるはずの食事会が他の座敷客達の希望で三階の座敷の襖を取り外し各々に料理を注文すると

侍女達を誘っての食事会になりそのまま宴会に雪崩れ込んだ

日が沈む前には既に満席の店を見て顔を青褪めさせる女将は更に念の為にと声を掛けておいた総菜屋に使いを走らせ店の物を全て買い取らせたが未々不安は抜いされず

迷っている女将の前に仕出し屋の女将が現れ

「良い意味で期待を裏切られたね?うちの追加で用意した料理、引き取ってくれるよね?」

そう言われて

「勿論見せびらかしに来ただけって言われたら首閉めてでも置いてかせる位に欲しいからね、感謝するよ」

そう言われて

「負けず嫌いのアンタのその言葉を聞けただけでも板さん達に頑張らせた甲斐が有るよ」

と言われて

「今回思わぬ伏兵が居てね…」

そう言って女将が向けた視線の先には恐ろしい勢いで大皿に盛られた串焼きと酒壺に口を付けグイグイ煽る鬼百合が居た

「言っておくがあの方が呑ってるのは月影の国から取り寄せた侯爵領の爆酒だしあれは既に二皿目なんだからね」

そう言われて絶句する相手に

「まぁそう言う訳なんだよ…」

そう力なく笑う女将だった

命の歌が始まり留美菜とりんと仲間達は一階の手伝いで春蘭以外の侍女は二階の配膳を手伝い春蘭は本当なら休みだった太夫にお酌をしている

命の歌が終わり暫しの休憩の後航海の安全祈願と無事に終えた事に対する感謝を奉納する踊りを踊り酒場を盛り上げた

四人の精霊の巫女達も注目を集め特に一階の居酒屋スペースでは留美菜とりんが活躍し大いに盛り上げた

この夜は何とか凌ぎきれたものの次にの観月が訪れる日と命の前衛基地慰問と帰還兵とその家族を労う海軍の慰労会の日を考えると未々検討課題は多かった

そして岬の日

益々訪れる人は増えてはいたが既に定番化ししている為特に目立った混乱は無い

命も海女達の漁の手伝いを楽しんだし鬼百合も柳水とすっかり船酔いを克服した女神の騎士団の三人と漁の手伝いと魚の仕訳の間に釣りを楽しんだ

勿論鬼百合と柳水の釣った高級魚はいつものように市場に出しその分の魚と騎士団達の釣った魚を持って岬に向かい宴会を楽しんだ

翌日は明日命が訪れる海軍の前衛基地の士官達に差し入れる為の菓子を作る事にし命は踊りと歌の稽古で過ごした

一部の高級士官を除き酔仙亭に向かうと士官達の家族が待ち構えており士官達が席に着くのを待っていた

王宮に向かった高級士官達も

「えい、融通の効かん奴等だワシと陛下が折角こうして公務を早めにこなしみこちゃんの所に行こうとしてるのがわからんのかっ!?」

そう言われしどろもどろの部下に

「至急報告せねばならぬ案件があれば聞くが無いなら明日にしなさい」

国王に言われて

その後ろに控える観月達を見て

「明日午前中にお時間を頂きます」

そう答え酔仙亭に向かう事になった国王の馬車の同乗者は海軍将軍と副官、観月、嵐、チサ、留美菜、りん

の七名

当然の事ながら留美菜とりんはいつもの服を着て一階のお手伝い

国王の入室に一瞬シーンとなったが

「皆ご苦労だった、このような席で野暮な言葉は要るまい?」

デビュー前の将軍や副官の孫や高級士官達の娘達

一般士官の子供達が命やチサの周りに集まり観月やミナや御法を含めた美月のスタッフの周りにはご婦人達が集まった

宴も闌になり命の歌が始まると一階の客達も盛り上がり酒と肴が次々に追加注文されては客達の腹に消えていった

国王や命達が帰った後もその賑わいは一向に衰えを見せずその騒ぎは深夜にまで及んだ

それでも協力者の奮戦も有り売り切れ品はいくつも有ったが出せる物が全く無い…

そういった情けない事態には至らず女将も満足そうに笑い掛け他の者も笑顔で応えた

命達の数度の訪れがこの界隈にもたらした経済効果は計り知れず酒屋は抱えていた在庫が激減したので国内の蔵元は勿論大公領からも買い付けしていた

更には軍の協力により近隣の諸国から輸入の検討も始めていたまずは国内の流通の活性およびと大公領交易の再構築が緊急課題として浮上してきたのだ

逆にこの歌の国本国と大公領の好景気に目を付けた他の国の商人達が人魚姫の訪問要請で歌の国訪れる使者に目を付けた

商人達の身と荷物の安全の代わりに訪問に掛かる費用の一部を負担することにしたのだ

商人達が共同で陳情し補給艦を運搬船代わりにして貰い歌の国の同行を願い出ると

「歌の国に頼るのは癪だが魔物のせいで世界中の経済が停滞する中に現れた水の精霊の巫女と彼女がもたらした影響と考えれば良いか?」

等と言い訳して自国の商人達を連れて歌の国に向かった

 

そして観月と着物関連の業者が会談を行う日になり観月に同行するのは命、嵐、ユウ、ユミ、ミナ、春蘭、マイ、マキ、マナ、マユ、留美菜、りん、忍、瑞穂、映見

「瑞穂は映見さんの荷物を頼みます、忍の着物も用意して貰いましたから今日は貴女も着付けをして貰いなさい」

そう告げられた一同は置屋で着付けをする事になった

その間にまず釵屋が

「どうぞお確かめ下さい」

そう言って渡された五本の釵は命から預かった霊玉と勾玉をメインの飾りにした物で各々に霊力と魔力を感じる物に仕上がっていて

「護身用の意味合いもあるようですね…」

そう呟く観月に頷きながらも

「叶うならそうしたしい使われ方にはならない事を願いますが…」

そう悲しげに微笑む釵屋の女将だった

その次に観月に紹介されたのは呉服屋の女将で

「太夫に頼まれた物です」

そう言って差し出されたのは人魚姫をイメージした着物でそれを手にした観月は軽い後悔の念を覚えたが

「ユカ、みこの仕度を急がせ連れてきてください」

そう告げ下がらせると引き続き櫛、組紐、帯、匂袋等の業者と話し合っていると命を連れてユカが戻り

「みこ、チサと連絡は取れますか?無理なら使いを出しますが急いでチサに来て貰いたいのです」

そう言われて

「今日はチサちゃんここも呼んだげても良いの?…うん、わかった」

そう答え目を閉じて

―チサちゃん、修羅、ママ聞こえる?観月ちゃまがチサちゃんに来て欲しいって言ってるんだ…だから修羅、チサちゃんを連れてきて欲しいんだ…ママもそう言うわけだからゴメンね―

そう伝えると目を開け

「修羅に頼んだからすぐに来るよ、後ママにもちゃんと話したからね」

そう聞いてこの成り行きを理解できないでいる呉服屋の女将に

「まだ世間には公表してませんからここだけの話にして欲しいのですが間も無く従者に連れられて火の精霊の巫女が来ますが本人を見て彼女の為に仕立てをお願い出来ますか?」

そう言われて

「な、何と…水の精霊の巫女様に続き火の精霊の巫女様の着物を私共に仕立てさせていただけるですか?」

そして微妙な問い掛けに

「私達がデザインしたいのはあくまでも精霊の巫女様の着物

ですけどこのみこの為に仕立てられた着物は人魚姫の為に仕立てられた物…違いますか?

ですから本人を見てイメージして仕立てて欲しいし勿論四人の巫女達のも貴女のイメージで仕立てて欲しい…

それともう一人公表を控え大公領に居ますが間も無く本国を訪れる風の精霊の巫女の着物も仕立てて貰えますか?」

そう聞いて

「な、何と言う事でしょう四大精霊の巫女様が三人も我が国にお出でになられしかも七人の巫女様の着物を仕立てさせていただける

何と果報者何でしょうか?私達は」

そう興奮する女将に

「反物に必要な生糸は美月の方で責任をもってご用意しますから遠慮なく仰って下さい」

そう言って暫く待っているとチサを連れた修羅がが現れ朱い霊玉をあしらった釵を渡されるとその釵を握りしめ

「観月様、今日お城に戻りましたら陛下に精霊の巫女で有ることの公表をお願いしようと思います

ミナさん、春蘭さん、留美菜ちゃんとりんちゃん達は自信が無いから何て甘える余裕すら無いのに私達はいつまでも甘えてられません」

そう告げるとその決意が霊力を高めチサの右手小指を飾る指輪が完全に朱に染まった

それは形は異なるものの朱い勾玉とも呼ぶべき物進化を遂げたモノだった

 

そうして話が進む中退屈顔の命に気付いた太夫が

「私は今から座敷の予約が有りますから行かねばなりませんけどみこちゃん…

今日の座敷では今までと違う踊りを舞いますから見に来ませんか?

勿論後から教える物ですよ?」

そう言われて素直に

「うん、見たい」

そう答える命に対して宜しいのですか?と聞く視線の観月に

「その我儘が許される方達ですから私の方からお許しを頂きます」

太夫がそう答えると

「みこの為に太夫がお骨折り下さるのをお断りするのは野暮ですね?

わかりました、みこの事宜しくお願いします

みこもちゃんと太夫の言う事を聞くんですよ、わかりましたね?」

そう言われて軽く陽気に

「はーいっ♪」

と答える命に苦笑いする観月だった

座敷の前で

「私が呼んだら入って来るのですよ?」

そう言われて命が頷くの見て

「失礼します」

そう告げ座敷に入っていった

「本日のお招き誠に有り難うございます

不躾なお願いを招致でこの座敷に呼びたいのですが呼んでも宜しいでしょうか?

そう聞かれた客達は

「太夫がそう言う子なら問題ないよ」

一人がそう言いもう一人も

「逆に太夫にそう言わせる娘がどんな娘か興味津々ですよ?」

そう言って貰い

「みこちゃん、お許しを頂きましたから入って来なさい」

そう声を掛けると座敷のマナーを無視して襖も開けっ放しにして入って来た少女を見て

「に、人魚姫様?」

そう言われて

「みこお姫様じゃ無いのに…」

と言って唇を尖らす命を苦笑いで見守る客達から視線をずらし襖を見ると通り掛かった仲居が目配せして閉めていった

「ところで太夫、みこちゃんをここに呼んだのは何故なんだい?」

そう聞かれた太夫は

「今日お二方に披露する踊りを今日から教えるつもりでしたので一度通しで踊るのを見ていただこうかと思いまして」

そう聞いた客の一人が

「水の精霊の巫女様にあの踊りを…」

そう言葉を詰まらせるともう一人は

「そう言う話なら私達に遠慮は要らないどころか早く巫女様に習得していただきたいくらいですよ、太夫っ!」

そう言われて

「ぉ二人ならきっとそう仰って頂けると思いみこちゃんを呼んだのです

さぁ、始めますがお礼はみこちゃんが上手に踊れるようになる事でから頑張りなさいね

最初に踊りますから目に焼き付けなさい」

そう言うと踊り始め終わると息ひとつ乱さない太夫に

「今度は私のお踊りをを真似て踊りなさい」

言われて踊る命を見て話を聞いた時には何て無茶なと思った自分が恥ずかしい二人だった

太夫は命に出来ない事を要求した訳ではないのだから

そして三度目は命一人で舞いその後ミスを指摘し四度目には無難に舞える様になりこの段階でようやく

「お姐さん、この踊りはなんて踊りなの?」

そう聞いてきた命に

「この踊りは通称大漁祈願の踊りと言ってね…みこちゃんにわかり易く言うと留美菜やりんのお父さん達のお舟にお魚が一杯獲れますように…

お母さん達海女の皆さんが海女漁で良い物が一杯獲れます様にって海の幸を司る神様にお願いする踊りなんですよ」

そう言われて驚きながらも

「じゃあみこが一杯一杯お稽古しておじさんやおばさん達の為に踊れるようになったら皆喜んでくれるのかな?」

そう聞かれた太夫に代わり

「勿論、私としても是非とも漁港で踊って欲しいですよ?」

その時ちょうど襖が開き

「面白い話ですね、ユカ…今度は私の居る所でやって下さいよ?

まぁあのジミっ娘のミナに着物を着せた事は喜ばしい事ですから評価してますけど…」

その観月の言葉に苦笑いを浮かべるユカに苦笑いで応える太夫は

(本当にユカさんの仰ってた通りの反応ですね…)

そう思って苦笑いの禁じ得ない太夫だったのだが

「みこがお世話になりましたお礼も兼ね私達の座敷にご招待したいのですが宜しいでしょうか?

ただいまより私達は美月の商談を無事に終えた懇親の宴に入りますが生憎未成年が大半の私達では相手も遠慮してしまいますから是非ともお酒の呑める方に同席していただきたいと思いましてお誘いに参りましたのです」

そう告げられ

「勿論みこちゃんとともにすることを断る者など居ませんよ

喜んでお招きを受けしましょう」

と話していると会話が途切れたのが見たのでやっと命が

「何でおじさんが漁港で踊って欲しいって言うの?」

と聞いてきたので

「みこ、このお二方に見覚えはありませんか?

まぁ大欠伸の貴女が覚えてないと言っても驚きませんけどね…」

と、観月に言われた命が暫く考えて右の拳を左の掌に打ち合わせ

「おおそうか、ミナさんが雨水の精の巫女になった日に会ってたんだ」

観月の言葉でやっとその事を思い出した命だったけど

(全く…あの人にはろくな影響を受けてませんね…)

と観月が考え太夫もその命らしからぬ仕草にパッと鬼百合の顔が浮かび…

(あぁ、あの人の影響なんですね?)

そう思いながら苦笑いする太夫

 

今日はランチタイムからの為若い女性客が多く観月達の居る座敷をチラチラ見る者が少なくない

だから常連客のグループに話し掛け

「良かったら美月のスタッフ達のファッションアドバイスを受けられないか私から観月様にお願いしてみようかい?」

そう言って貰い

「はい、宜しくお願いしますっ!」

意気込む娘達に

「じゃあちょっと待ってな」

そう言って部屋を出ると観月達の座敷に行き

「宜しければ美月のスタッフの皆さんにファッションアドバイスをしてあげて欲しいし娘達が居るんですが良いでしょうか?」

そう聞かれた観月が

「ユカ、ユミ、ミナ…頼みますよ」その観月の突然の言葉に戸惑う

ミナに

「大丈夫、困ったら私達がフォローしますから私のアシスタントのつもりで居れば良いのだから」

とユカがそう言えば

「そうそう、ユカより面倒な人なんてそうそう居やしないをだから自信を持ちなさい

少なくとも貴女のセンスは私達は勿論観月様すら一目置いてるのを忘れないようにね」

そう言われて三人は女将の案内でその座敷を訪れ相談に乗ることになった

その様子を見た他の女性達が中の様子を伺い始めたのに気付いた座敷の客の一人が

「皆様のアドバイスが欲しいのはあの方達も同じですからお招きして宜しいでしょうか?」

そう聞かれたユカは

「ここは貴女方の座敷なので貴女方が構わないのなら私達に断る理由は有りませんよ?

但し男子禁制の公女宮の住人である私達は恋愛経験有りませんからその手の相談にはお答えできませんからね」

そう言われて

「社交パーティーでは座る間も無いくらいダンスに誘われてるって有名ですのに?」

そう言われてふんっ!と鼻で笑い

「その殿方の大半は私達の誰かと親しくなりあわよくば観月様にお近付きになりたいと言う下心が見え見えですからね…

初な頃は勘違いする事もありましたけど…」

そう言って苦笑いするユカとユミだった

 

日暮れが近付き命の歌が始まり夜の部が始まった

今夜の酔仙亭いつもと違いはそろそろ若い娘や子供の姿が見えなくなる時間にも関わらす若月ブランドの服を着せた子供連れの姿が目立っていたので急遽二階の座敷を子供連れの家族を迎え入れたらその姿で溢れだした

幼い男の子の中には海兵隊風のパンツスタイルの子も居たのでその後のユカとミナの検討課題となった

 

 

②再会の時は笑顔で

 

「人々から歌う人魚姫って呼ばれてるらしいよ?」

そう言われて

「そう言えば命様の事を海兵隊の旗艦の乗り組み員達は俺達の人魚姫って呼んでますね…

歌も何故あんなに自分の歌に自信が持てなかったのか不思議な位でしたから…」

そう言って首を捻るユマに

「みこは自分が許せない…嫌いなんだよ自分の存在が…

生きている事を否定する自分と僕と生きたいと願うもう一人の自分に揺れながら生きている…

まあ、全部アクエリアス様からの受け売りなんだけどね…」

そう言われて考え込む一同に

「まぁいざとなたったらみこの使役する霊獣ペンギンの力を借りれば大公領まで二刻程で移動出来るそうだよ?」

との真琴に

「まさか…」

というユマの呟きに

「うん、普通じゃ考えられない事を可能に出来るからこその魔獣、霊獣と呼ばれる者達なんだよ」

そう言われて

「そう…ですね、私達の理解を越える存在ですから恐れ敬うのですからね…」

そうため息混じりに言うユリに

「チサはペンちゃん…みこちゃんはそう呼んでるのですけど…小さい状態だと徳利のような体型の可愛い子なんだよっ♪

って言ってましたから多分可愛いんだと思います…多分」

そう言って明言を避ける翼に苦笑いの侍女達だった

 

そして出港の朝になりワイマール男爵夫人、翼、真琴、吽、沙霧、白浪が帆風の案内で乗船すると旅行鞄をサエに押し付け

「貴女ねぇ、翼様の側離れたくないんでしょ?

だっらユマ様にちゃんとお願いをしなきゃダメじゃ無いのよっ!

ほら、ご覧なさい…翼様も笑顔で貴女に手を差し延べてます…」

 

 

 

 



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舞い踊れ③

再会の時を迎えた少女達はどこに向かうのだろうか?


「強度の高い魔物でもダメージを与えやすい箇所と言うかこの角度で斬りつければ良いってモノがある?」

そう聞くと

「理屈的には…その域に到達出来る者はそうそう居ないが…

魔導師剣士である貴女には修行次第で身に付けられましょう」

提督がそう話すと

 

「まぁそうかもしれないがオヤジ的にはこの釣果を見て魚捌き隊が増えてよろこんでるだけだろ?」

そう言って笑う帆風に

「それはわしの本音でこの方ならそんな屁理屈わざわざ言わずとも

[やりなさい]

と言われたら観月様でも逆らえないお方なんだからわしだけの妄想ではないっ!」

との提督の言葉を聞き

「全く…その程度の理屈も知らず減らず口を叩くとは…

さすが如月様のご学友ですね」

と言われ目の前の人物を心底恐れていた如月の…当時は理解出来なかった気持ちが理解出来た…全然嬉しくないけど

そして花鰹を一本真琴が三枚に下ろすと夫人の手解きで翼が美しい刺身盛りに仕上げ

真琴は海兵隊の男達と売りに出さない魚を干物にする為捌き始めサエには調理場の手伝いに行かせた

社交界に参列出来ない下士官達には夢の様な夜…三度目だけど…だった

 

「強度の高い魔物でもダメージを与えやすい箇所と言うかこの角度で斬りつければ良いってモノがある?」

そう聞くと

「理屈的には…その域に到達出来る者はそうそう居ないが…

魔導師剣士である貴女には修行次第で身に付けられましょう」

提督がそう話すと

 

「まぁそうかもしれないがオヤジ的にはこの釣果を見て魚捌き隊が増えてよろこんでるだけだろ?」

そう言って笑う帆風に

「それはわしの本音でこの方ならそんな屁理屈わざわざ言わずとも

[やりなさい]

と言われたら観月様でも逆らえないお方なんだからわしだけの妄想ではないっ!」

との提督の言葉を聞き

「全く…その程度の理屈も知らず減らず口を叩くとは…

さすが如月様のご学友ですね」

と言われ目の前の人物を心底恐れていた如月の…当時は理解出来なかった気持ちが理解出来た…全然嬉しくないけど

そして花鰹を一本真琴が三枚に下ろすと夫人の手解きで翼が美しい刺身盛りに仕上げ

真琴は海兵隊の男達と売りに出さない魚を干物にする為捌き始めサエには調理場の手伝いに行かせた

社交界に参列出来ない下士官達には夢の様な夜…三度目だけど…だった

 

 

 

 

③再会

 

命の朝一番の支度はチサの役目

髪を解かしミナが自分が寝る前に支度した朝の歌の稽古とお祈りの時間用の服に着替えさせる事…なのだけど

「ねえチサちゃん、ワイマール男爵夫人ってどんな人?」

その突然な命の問い掛けを不思議に思いながら

「厳しいけど優しい人よ…みこちゃんは顔を合わせて無いはず…」

そこでチサのお喋りは止まり

「た、大変…いきなりあの方の事を聞いてきたのは…」

そう言って寝室のドアを開け

「春蘭さん用意するお茶の量を増やしてっ!」

そう言って今度は

「みこちゃんは観月様にこの事を報せて

私は隣の部屋のユウさん達に報せてきますから」

そう言ってパタパタ走るチサともさもさ歩く命

 

「観月ちゃまーっ、起きてぇーっ…怖いおばさんが来るよぉーっ…」

その抑揚感の全く無い呼び掛けに

「船の入港予定は昼過ぎのはず…

誰にそんな事を言えと言ったのですか?」

不機嫌さを隠さずに聞いたけど全く意に介さず…と言うより気付かない命は

「お舟の翼ちゃんが予定より到着するの早いから皆に言ってねって…」

そう言われて

「翼が…風の精霊の巫女の彼女が乗船する船だから到着時間も通常より早い?」

そう独り言を呟き

「ユ、ユウ達は…」

そう言い掛けるとドアを開けたユウが

「み、観月様大変ですっ!…」

そう叫びながら入ってきたが観月が起きているのを見て

「私達の部屋にはチサちゃんが教えに来てくれました…」

そう言われて

「みこは伯母様とユイにこの事を急いで知らせなさい…」

そう言われて窓を開け少し下がると窓目掛け走り出す命の考えがわかった観月が

「み、みこっ止めなさいっ!伯母様の心臓に…」

そこまでしか言えなかった…

たたたっ!っと窓目掛け駆け寄った命は窓の前で踏み切るとポーンと向かいの棟目掛け飛び出してしまったのだから…

「鬼百合様の部屋にはミナが阿様の部屋にはユカがユキとユミはそれぞれの見習いの侍女を起こしに行って兄貴ます」

この状況で観月が言い掛けた事が何なのか位判らない者は公女宮には居らずそう言われて

「わかりました、みこのいつものリュックに着替えを入れて精霊の巫女達と鬼百合、阿、瑞穂、柳水、修羅、忍に支度をさせてみこが戻り次第沖に迎えに行かせなさい」

こうして慌ただしく再会の朝は開けた

 

トン、トン…何かが窓に当たる音がしてユイが窓の外を見ると命が宙を滑り近付いてきた

「!」

ユイが声にならない叫び声をあげ窓を開けると一拍おいて命が滑り込みそのまま反対の壁に突き当たり額を押さえ

「痛い…」

と呟くと溜め息を吐き

「みこちゃん…貴女と言う子は一体何処から入って来るのですか!?」

言われて言われている事の意味が理解出来ない命は

「見てたでしょ、窓からだよ?」

悪びれる事無く答える命にがっくり肩を落とす王妃に構わず

「何が有ったの?理由もなくした訳じゃないでしょ?」

とユイに聞かれて

「お舟がもうすぐ着くから皆に教えてねって翼ちゃんがゆったの…」

命のその言葉に気を取り直した王妃が

「成る程、風の精霊の巫女様が乗る船がウィンディー様の加護を受け通常より早い到着になり抜き打ちで訪れようとしている訳ですね?」

そう呟くと

「はーっ…」

と深い溜め息を吐き

「面倒臭い…それで観月が私に報せる様に言ったんですね?」

やっと話が通じて命がにかぁっと笑い頷くと

「ユイ、緊急事態ですっ!皆にこの事態を報せて迎えの準備を始めなさいっ!」

と、号令を掛け

「みこちゃんは歩いて部屋に戻り観月の指示に従いなさい」

その言葉に不満な命は頬を膨らませ返事もしないで部屋を出て行き二人に溜め息を就が吐かせたが…

そのすぐ後に部屋を出たユイが未だあまり遠くまで歩いていない命がぶつぶつ呟きながら歩く後ろ姿が誰かに似ている気がした

 

命が戻ってきた事に気付いた観月が

「みこが戻ってきましたから瑞穂はみこ、修羅はチサ、鬼百合はミナ、柳水は春蘭、千浪は留美菜、忍はりんに任せ港に向かいなさい

みこ、ペンちゃんと言う霊獣で迎えに行けますね?」

そう言われて嬉しそうに笑いながら観月に向かい

「うん、まかせてっ♪」

そう答えると鬼百合に

「頼みます」

そう告げると戦士達は音も無く姿を消した

 

真琴達の到着は本来なら昼過ぎであるにも関わらず港は既にかなりの人で賑わっていた

命の双子な姉で女神の祭典出場者の真琴に風の精霊の巫女の翼様がお越しになる

これ程わくわくする訪問者は久し振りで恐らく観月が初めて本国入りしたとき以来だろう

観月に対しては元々同国人で元第二王子の娘の観月はお帰りなさいの感覚で迎える市民にようこそと言うの違和感があったのだ

その市民の前に音も無く姿を表した戦士し達に肝を潰したが彼女達に抱かれた巫女達の姿に気付いて安堵の溜め息を吐く中瑞穂に下ろしてもらうと背負ったリュックから怪しげな物が現れ海に飛び込み命はミナに手伝ってもらい服を脱ぎ海に飛び込み少し大きくなった先程の物体に飲み込まれた?

驚いて見ているとそれはさらに巨大化して体の一部がまるで天窓の様に開き中から命が手招きして戦士達は巫女を抱え中に入り込み

全員が乗り込むとその物体は通常では考えられない速度で港を出ていった

港を出ると命が

「ペンちゃん先行くね」

そう言って瑞穂からリュックを受けとり背負うとドアを開けると

海に飛び込むとかなりの速度で水面を滑るペンをさらに上回る速度であっという間に視界から消え後に残された者達の耳にも落ち込んで吐いたペンの溜め息が聞こえた

潮風を身体で受けながら遠くに見える歌の本国を見る真琴と翼

実際には風の精霊の救出の際会っているのだからそれ程長く会って無い訳ではないがそんな理屈の問題ではない

隣にいる翼も同じ事を考えていたらしく目が合い互いに苦笑いを浮かべる二人

その二人の耳に遠くから風にのって聞こえて来る声

「まっこぉちゃぁーんっ…つばさちゃぁーんっ…待ってたよぉ~っ♪」

と命の声が潮風にのって遠くから聞こえてきた

身体いっぱいからあふれでてくる喜びを全身で現するかのごとく何度も跳び跳ねながら近付く命を見て

「おおっ…」

と、感嘆の溜め息を漏らす海兵達に気付き真琴の耳元で

「タオルを用意しますね」

そう言って船室に入っていった

まるで再会の喜びを表現するかの如く何度も跳び跳ねながら近付く命を見ながら真琴の頬も緩み

「みこ…」

と、呟くと

「お姉ちゃん、大好きな妹をしっかり抱き止めてあげなよっ!」

帆風に笑顔で言われ

まるで帆風の言葉が合図のように海中に姿を消した命

その命はぐんぐん深く潜り一気に浮上する勢いで真琴に飛び付くと翼が命の身体にタオルを巻き付け

命の背負っていたリュックを真琴に預けた

その感動の再会の最中船室から現れた人物が

「翼と真琴、何をその様に騒いでいるのですかはしたない」

と叱責すると

「あのオバサン誰?」

相手を指差して真琴に聞いたけど居合わせた者達の表情は命の放った冷却魔法(失言とも言う)で凍り付いていた

そんな命に

「違うでしょ?お嬢ちゃん、初めて会った人には初めましてと言って名前を名乗るものですよ?はい最初からやり直し」

そう言われて

「初めまして、命です…宜しくお願いします…」

そう言ってペコリと頭を下げると

「はい、良くできました…挨拶は大切ですからこれからは忘れないようにね

私はレイナ=ワイマール

人は私の事をワイマール男爵夫人若しくは男爵夫人と呼びます」

そう名乗ると

「みこレイナさんって呼んだ方が素敵って思うのになぁ~っ」

と、先程の失言を全く悪びれる事なく言うと

「結婚以後両親と兄弟以外でその名で呼ぶ者は居りませんでしたから嬉しいですが…

真琴、観月様の事ですからそのリュックの中におそらくはみこちゃんの着替えが入っているはず

二人で身体を良く拭いてあげ着せてあげなさい」

そう言われて先に翼が命を連れ船室に入ると頭上から

「正体不明の物体が急速で本艦に向かってきますっ!」

そう叫び声をあげたので気配を感じる方に意識を集中するとペンとチサの霊気を感じ

「あれはみこが使役するペンギンと言う霊獣で形態変化で色々な任務をこなす頼もしい子なんだよ」

そう言われて顔を蒼くした海兵が

「有り難う御座います、危うく可愛い人魚姫様の機嫌を損ねるところでした」

と言うのを不思議に思いながら真琴も船室に入っていった

 

速度を落とした艦に帆走する形になり天窓から顔を出した鬼百合が

「縄梯子を頼むっ!」

そう叫ぶと投げ下ろされて

「怖かったら目を閉じてしっかりしがみ着きなさい」

春蘭を背負い縄梯子を昇る柳水

「私にしっかり抱きついていれば大丈夫です」

そう千浪に言われても好奇心でしきりに周りを見回す留美菜

「じっとしてな」

そう言ってミナを肩に担ぎ縄梯子を昇る鬼百合に

「ユウには見せられない姿だな」

と鬼百合をからかうと鬼百合は言った修羅を睨んだが気の毒なのはミナで顔を蒼くするのを見て

「なんぼ妬きもちやきのユウの奴でもミナがみこ以外の人間に目をやるなんざ思わねぇから心配するなっ!」

と言ってもらい小さく息を吐くを見て

(アタイは良いがミナの様に洒落に受け取れない者も居るから他の奴等にも釘を刺さんといかんな)

そう思った鬼百合だった

「みこちゃんは無事なんでしょうか?」

りんの言葉に

「こういっては命様に申し訳無いけどペンを無警戒で近付けさせたのは命様に聞いているからだと思うしチサ様も何も言って無い」

そう言ってりんを背負い縄梯子を昇る忍

「私は平気なのに…」

と言って不満げな表情のチサに

「子供はそんな遠慮しない」

そう言われて頬を膨らませるチサ

最後に縄梯子に手を掛け

「来なさい」

そう言って手を伸ばすと小さく縮んで瑞穂の肩に乗るペン

 

鬼百合が縄梯子を昇るとあまり再会を喜べない人物に気付き辟易としていると

「男爵夫人様お久しぶりです」

そう再会の挨拶をし四人に頷き掛けると

「春蘭と申します、美月の皆様の元命様にお仕えできるよう修行中の者ですから色々ご指導の程宜しくお願いします」

そう挨拶をすると

「留美菜です、宜しくお願いします」

「りんです、宜しくお願いします」

そう挨拶をした三人に

「私はきちんと挨拶をする礼節を弁えた子達は大好きです

判らない事はなんでも聞きに来なさい、私はその為に来たのですからね」

そう優しく話し掛ける男爵夫人に

「ご無沙汰してます男爵夫人様」

と挨拶をするミナに

 

海に飛び込むとかなりの速度で水面を滑るペンをさらに上回る速度であっという間に視界から消え後に残された者達の耳にも落ち込んで吐いたペンの溜め息が聞こえた

潮風を身体で受けながら遠くに見える歌の本国を見る真琴と翼

実際には風の精霊の救出の際会っているのだからそれ程長く会って無い訳ではないがそんな理屈の問題ではない

隣にいる翼も同じ事を考えていたらしく目が合い互いに苦笑いを浮かべる二人

その二人の耳に遠くから風にのって聞こえて来る声

「まっこぉちゃぁーんっ…つばさちゃぁーんっ…待ってたよぉ~っ♪」

と命の声が潮風にのって遠くから聞こえてきた

身体いっぱいからあふれでてくる喜びを全身で現するかのごとく何度も跳び跳ねながら近付く命を見て

「おおっ…」

と、感嘆の溜め息を漏らす海兵達に気付き真琴の耳元で

「タオルを用意しますね」

そう言って船室に入っていった

まるで再会の喜びを表現するかの如く何度も跳び跳ねながら近付く命を見ながら真琴の頬も緩み

「みこ…」

と、呟くと

「お姉ちゃん、大好きな妹をしっかり抱き止めてあげなよっ!」

帆風に笑顔で言われ

まるで帆風の言葉が合図のように海中に姿を消した命

その命はぐんぐん深く潜り一気に浮上する勢いで真琴に飛び付くと翼が命の身体にタオルを巻き付け

命の背負っていたリュックを真琴に預けた

その感動の再会の最中船室から現れた人物が

「翼と真琴、何をその様に騒いでいるのですかはしたない」

と叱責すると

「あのオバサン誰?」

相手を指差して真琴に聞いたけど居合わせた者達の表情は命の放った冷却魔法(失言とも言う)で凍り付いていた

そんな命に

「違うでしょ?お嬢ちゃん、初めて会った人には初めましてと言って名前を名乗るものですよ?はい最初からやり直し」

そう言われて

「初めまして、命です…宜しくお願いします…」

そう言ってペコリと頭を下げると

「はい、良くできました…挨拶は大切ですからこれからは忘れないようにね

私はレイナ=ワイマール

人は私の事をワイマール男爵夫人若しくは男爵夫人と呼びます」

そう名乗ると

 

「怖がらなくてもしっかり抱きついていれば大丈夫です」

そう千浪に言われても好奇心でしきりに周りを見回す留美菜

「じっとしてな」

そう言ってミナを肩に担ぎ縄梯子を昇る鬼百合に

「ユウには見せられない姿だな」

と鬼百合をからかうと鬼百合は言った修羅を睨んだが気の毒なのはミナで顔を蒼くするのを見て

「なんぼユウの奴でもミナがみこ以外の人間に目をやるなんざ思わねぇから心配するなっ!」

と言ってもらい小さく息を吐くを見て

(アタイは良いがミナの様に洒落に受け取れない者も居るから他の奴等にも釘を刺さんといかんな)

そう思った鬼百合だった

「みこちゃんは無事なんでしょうか?」

りんの言葉に

「こういっては命様に申し訳無いけどペンを無警戒で近付けさせたのは命様に聞いているからだと思うしチサ様も何も言って無い」

そう言ってりんを背負い縄梯子を昇る忍

「私は平気なのに…」

と言って不満げな表情のチサに

「子供はそんな遠慮しない」

そう言われて頬を膨らませるチサ

最後に縄梯子に手を掛け

「来なさい」

そう言って手を伸ばすと小さく縮んで瑞穂の肩に乗るペン

 

鬼百合が縄梯子を昇るとあまり再会を喜べない人物に気付き辟易としていると

「男爵夫人様お久しぶりです」

そう再会の挨拶をし四人に頷き掛けると

「春蘭と申します、美月の皆様の元命様にお仕えできるよう修行中の者ですから色々ご指導の程宜しくお願いします」

そう挨拶をすると

「留美菜です、宜しくお願いします」

「りんです、宜しくお願いします」

そう挨拶をした三人に

「私はきちんと挨拶をする礼節を弁えた子達は大好きです

判らない事はなんでも聞きに来なさい、私はその為に来たのですからね」

そう優しく話し掛ける男爵夫人に

「ご無沙汰してます男爵夫人様」

と挨拶をするミナに

「すっかり変わりましたね…美月のスタッフとしての活躍も聞いてますよ

貴女の活躍を聞いて貴女の才能を見抜けなかった私も未々なのだと思い知りましたよ」

そう言われて恐縮していると

「あ、皆も着いたんだね?」

船室から出てきた命がそう声を掛けると

「みこよ、お前の泳ぎが早すぎてペンのやつマジに凹んでたぜ?」

と鬼百合が言うと

「水のていこーが違うし人を乗せるペンちゃんと違って何も考えて無いみこが早いのは当然だよ」

そう本人は笑って言うけど洒落になら無いその言葉で笑える者は居なかったし春蘭は頭を抱えたいくらいだった

取り合えず場の空気を変えようと思った瑞穂がペンに向かい

「主の所に帰りなさい」

と声を掛けると瑞穂肩から飛び降りとことこ歩くと命に飛び付いた

「二人にみこのお友達紹介するね?

春蘭さんに留美菜ちゃんとりんちゃんだよ」

そう言われて

「初めまして真琴様…翼様、お会い出来て光栄です」

そう挨拶をする春蘭に

「貴女が潮風の精の巫女なんですね?」

そう笑って声を掛けると

「はい、留美菜は氷雨の精様の巫女、りんは海原の精様の巫女でミナさんも雨水の精様の巫女です…」

そう答えると

「それでみこの我儘に付き合わされこんな所まで来たんだ」

と呆れて言う真琴に

「そんな事有りません、私はあの夜…

翼ちゃんとまこちゃんを助けに行くって言うみこちゃんについていけない自分が悲しかった

ついていってもが何も出来ないくせについていけない事が寂しかった

だからこうしてお供が出来てお二人に会えてとっても嬉しいんです」

りんが言うと

「私達はみこちゃんの側に居たくて集まった仲間なんです」

留美菜もそう言うと

「皆みこちゃんって呼んでくれてるんだね?

なら僕達も真琴様、翼様は止めて欲しいな?」

と、言われて

「私は真琴さん、翼さんで良いかと思いますが二人は真琴様を何とお呼びしたら良いのでしょうか?」

そう改めて聞かれ

「確かに翼さんはしっくりくるけどこのキャラの僕は真琴さんって微妙だね…」

とい苦笑いする真琴に

「ですから日頃から日常の振る舞いを改めなさいと言っているのですっ!」

説教の始まりそうな雰囲気に男爵夫人から逃げる様に遠ざかる真琴は

「まぁ真琴様以外で二人に任すよ」

そう言って話を打ち切ると命の踊りが始まった

デッキに居合わせたごく少数の者だけが見れた舞いに

「何故もっと人が大勢いる時に踊らないのかな?」

真琴がそう呟くと

「今の踊りに限らず奉納の踊りは神々や精霊に感謝の気持ちを捧げる物

だから人魚姫様も私達の航海の無事を神々や精霊に感謝をの気持ちを捧げ踊ったのですよ、この航海の終わりに…」

そう聞いてしんみりする真琴の耳にも

「湾内に入るっ、接岸準備を始めろっ!」

と叫ぶのを聞いた男爵夫人が

折角ですから春蘭は私の上陸準備を手伝いなさい、貴女は一緒に来て荷物を運んでもらいます」

と、言うと頷く柳水を見て今度は

「留美菜は翼の手伝い任せますよ」

そう言って千浪を見た

「りんは真琴の手伝いをしてもらいますので任せます」

と言って忍声を掛け

「チサとミナはこちらの同行の騎士とそちの三人にこのメモにある美月の荷物を運んでもらいなさい」

と告げ上陸準備に入ろうとしたら

「ねえねえレイナさんみこは、みこはお仕事無いの?」

そう言われてさすがの男爵夫人も返事に困っていると鬼百合が敬礼をしながら

「命隊員、貴公も知っての通りこの海域は暗礁が多い上潮の流も強い

このタイミングで闇の者に襲われたら何かと厄介だ

そこで貴公には闇の者に対する警戒、敵索の任務を遂行してほしい」

と言われて鬼百合を真似て敬礼し

「わかりました、鬼百合隊長殿っ!」

そう言って辺りをきょろきょろ見始めたのでその後ろ姿を見ながら上陸準備に入っていった

 

接岸が始まり岸壁に居る観月が手招きしているのです~っと滑る様に飛ぶと

馬車に乗せられ着物に着替えさせられた

さすがに髪を結う時間はなかったけど…

上陸の喧騒で命の不在に気付いたのは出迎えの観月の隣に着物姿の命が居たの見てやっとだった

観月の馬車に観月、命、翼、真琴、留美菜、千浪、りん、忍が乗り

もう一台には男爵夫人、春蘭、柳水、チサ、サエ、阿が乗り込んで出発

ミナは美月の荷物を確認し荷馬車十台分の荷を積み終えると

残った馬車に

鬼百合達と共に乗り込み王宮に戻ると伝票を受け取ったユウが立ち会ってモリオン、斬刃、騎士団の三人に手の空いている海軍の兵士達が志願して荷物を大公宮の倉庫に納めた

いつもより遅い朝食だったけど問題はそんな事ではなく真琴と翼も席に着かずチサと同じく給士に回っていたことだ

久し振りに真琴と一緒に食事するのを楽しみにしていた命食欲は消え失せ

食べる様に促すミナの声にも全く反応せず俯いていた

食事が終わり真琴と翼は男爵夫人共に謁見の間で大公よりの書簡を手渡し

「男爵夫人、そなたも大公宮では無く王宮の客間で過ごしていただくに訳にはいくまいか?」

そう請われたけど

「私はあくまでも大公様の使いで来た者に過ぎませぬ故大公宮で寝起きするのは当然

そして私に付き従う者がそうするのも又当然かと?」

そう言われて返す言葉の見当たらない国王はただ黙って三人を見送るしかなかった

 

荷物を解き与えられたクローゼットにドレス等の荷物を仕舞い礼拝堂で歌の稽古をする真琴とサエに習い始めた手提げバッグ作りを始める翼

二人は例の件がハッキリするまで国王夫妻は勿論観月達との接触も止められている

故に昼食からは王宮に顔を出さず大公宮で質素な食事を七人で済ませたので命は真琴の顔すら見ることが叶わなかった

そして夕げの晩餐も現れず空席がますます場の空気を重くした

そしていつものように歌の稽古と祈りを済ませ今度今度こそはと願いながら席で待っていたけど一向に現れない七人

さすがに耐えきれ無くなって中座すると何もかも忘れようと踊りの稽古に没頭した…

昨日から何一つ口にせず夕べ一睡も出来ませんでした…

そんな命の身体を心配したけど今の命は誰の言葉にも反応しない

そうミナの声すら聞こえてない…いや、心を閉ざし聞こうともしない

その事を真琴や翼に伝えたいがあからさまに避けれている現状では何ともしょうがない

だから大公宮の客間で仕事しているであろう男爵夫人に王妃と共に問いただす事にした

「貴女に伺いたい事が有ります」

そう王妃に問われ

「何の事かは存じませんが伺いましょう」

と答える男爵夫人に

「わかっている癖にっ!」

と言う言葉を飲み込み

「話しとは翼と真琴の事です」

 



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舞い踊れ④

再開した姉妹だけど二人を隔てる壁が現れた…


そう言われてさえ尚

「私の供の二人が何か粗相でもいたしましたか?」

そう答えられた観月が何とか声だけは荒げる事無く

「何故王宮に来て一緒に食事をさせないのですか?」

そう男爵夫人に問いただすと

「ならば私も伺いますが例の件はどうなてるのでしょうか?」

一旦言葉を区切り二人を交互見る男爵夫人に

「ですから現時点での推論を二人に…少なくと真琴には知る権利が有ります」

そう観月が言うと

「みこには無いって言うの?」

その挑戦的な物言いに

「あまり耳に優しい話ではないだけにどう話せばよいのか…それ以前に話してよいのかも私達には判断できません…」

王妃がそう表情を歪めて言うと観月に

「真琴は強く聡明な娘ですから信じて話すべき…いえ、私から話しましょう」

と言って真琴を見て

「真琴、貴女は現在レムが何をしているか知ってますか?」

と、一見何の関わりも無さそうな話しに取り敢えず

「地の精霊の探索のはずじゃあないんですか?」

そう答える真琴に

「それはあくまでも表向きの理由で十数年前に滅んだ司祭の里である調査を行って貰ってます」

そう告げれ意味がわからず

「それがどうしましたか?僕やみこに何の関係が有ると言うのですか?」

そう問われて王妃が

「順を追って話さねばなりませんから昔話から聞いてください」

そう言われて

「ふんっ…」

と鼻を鳴らす真琴に構わず

「夫人はご存じですね?私が何処の国の生まれで私達の母が何者かを?」

そう言われて

「貴女と貴女と共にこの国を訪れた妹君は今の月影の国の女王陛下の妹君で貴女方三姉妹の母上は司祭の里の元祭司長の姉上に当たられる方で

最後の舞姫と言われる方は貴女方の従姉妹でしたね?」

そう言われて益々わからない真琴が何か言おうとするのを夫人が目で止めるのを見て

「私と咲夜は年は離れてましたが話が合い手紙のやり取りをする仲で妊娠した事

通常よりお腹が大きく双子ではないかと言われていた事等色々な事を聞きました」

そう言われて

「それが僕やみこに何の関係が有ると言うのですか?」

苛立ちを隠さずに同じ質問を繰り返す真琴に

「私の元に届いた最後の手紙には娘達が生まれました…

とだけ書かれた文字が涙で滲むそれが私の元に届いた時は既に里を襲った惨劇で一人の生存者も無く滅んだ後でした」

王妃の言葉を継ぎ

「レムから聞いた貴女達推定年齢、貴女達の現れた廃坑と司祭の里の調査結果

赤子の死体は見受けられず廃抗は司祭の里の隠し通路である事とかなり磁場の乱れた特殊な場所であるなど判明し…」

最後に王妃が

「最近習い始めたにも関わらず異常なまでの上達の早さ…」

そう言われて

「だから何?そんな事言われても僕達には何も言えないけど逆に言う事も何もない」

そう答えると

「何よりも私に確信させたのは踊る命の姿が咲夜を彷彿とさせるものだったのです」

そう言われて

「信じる信じないは別にしてその話のどこにみこに話せない要素が有ると言うの?」

真琴のその問い掛けに

「ここからがみこに話せない事になりますが…

当時の月影の国側からの調査報告によると里の者達を殺害したのは遺体の様子から単独犯

しかもその容疑者は最後の祭司長にして咲夜の夫…即ち貴女達の父親かも知れないと言うのです…」

その言葉に黙り込む真琴に

「そう考えるとあまり良くない方向で辻褄があってしまいます

貴女達の黒い魔力を忌み嫌い…この里に…と言ったみこの言葉

 

磁場の狂った隠し通路

 

祭司長の狂気が生まれたばかりの子供にも向けられたら…」

 

そう言葉を綴る観月にもう一度

「信じる信じないは別にして…」

そう言って溜め息を吐き

「確かにみこには話せない…

少なくとも今のみこには耐えられないしまたぞろみこの死にたい病が顔を出す…

やっぱりみこなんか生まれてきちゃいけなかったんだって…」

真琴の言葉に溜め息の四人

「私もチサには早いと思います

知ってしまえばこの先みこちゃんに気取られず接することはまだ難しいと思いますから…」

そう翼が言葉を挟むと

「これらの事実関係を踏まえた上でも私達の申し出を受けてくれますか?」

王妃が祈る様に手を組むと

「逆です…いくら上手に隠してもいつまでも隠しおおせるものじゃないし

その最悪のシナリオが真実でみこ自身がその事を思い出したらどうしようもないよ…

だからその時みこがすがりつく存在が必要だけど僕じゃみこの罪悪感が増すだけで救いにならない…だからその時みこの弱い心を守ってくれますか?

受け入れを…救いを求めるのは貴女達じゃない、僕達の方なんです…」

その真琴の言葉を聞き

「陛下、そろそろ出てきて陛下自身のお言葉を皆にお聞かせください」

そう言われて姿を表した国王は

「まぁ色々有るようだが私にとって言えるのはお前達の父親になりたい、私達の娘になって欲しいただそれだけだ」

穏やかではあるけど確固とした信念を感じる口調て語る国王に向かい

「書類上の手続きは済み継承権の無い王女として養子に迎えられるよう整えました

後は両陛下と関連大臣のサインが入れば良いようにしてあります」

そう言って書類の束を渡す男爵夫人は更に

「観月様、後は閣議の結果次第ですがチサ様にいつまでも給仕はさせられませんし侍女や見習い侍女達の教育も見直す時ですからこの後二人で相談し結果を両陛下にご報告致しましょう」

そういつもの男爵夫人の調子にやっと胸の支えが取れた観月が

「伯父様、朝の閣議の時間はよろしいのですか?」

と、こちらもいつもの調子で言うと

「済まないが春蘭に頼んでお茶を会議室を用意してもらうように伝えて欲しい」

そう言って会議室に向かった

その後ろ姿を見ながら

「観月様の部屋ですが相変わらず書類の山でしょうからどのみち祭典後大公領にお戻りいただかねばなりません故現状のまま

但しチサ様は隣の美月臨時事務所の本客間に翼様とお使い頂き私もう一部屋をお借りします

サエはユウ達と同じ部屋ですからそれで良いですね?」

男爵夫人が言うと

「取り敢えず二人を命の部屋付きの侍女達に紹介しますからついてきなさい、レイナとサエも…」

そう言って王妃に

「では後程執務室にお邪魔いたします」

そう告げて四人を案内した

 

部屋に入り勉強中の見習い侍女達に向かい

「皆に紹介します、この子は翼…大公領では忙しい私に代わり社交界に参加してもらってました

その隣に居るのが見てわかると思いますがみこの姉の真琴です

そしてこの方はレイナ=ワイマール…その名を知る者も居るようですね?

これから貴女達やこれから入ってくる見習い侍女の教育の総責任者になりますからこれからも励むように

そして最後にサエ、この者は公女宮の侍女さで最近美月のスタッフになり翼の世話役になりました

つまりみこにとってのミナのような存在、仲良くしてやってください

それと春蘭、陛下が貴女に会議室でお茶を淹れて欲しいと陛下のお言葉ですからお願いしますね」

そう言われて

「承知しました」

そう答えると茶葉を用意して部屋を後にする春蘭を見送り

「チサ、申し訳ないけど今日か貴女の部屋はユウ達と同じ部屋の本客間ですから宜しいですね?

貴女の代わりに真琴がみこの部屋に入りますから」

と聞いて

「じゃあ食事も一緒に?」

笑顔で聞くチサに

「勿論翼も一緒に摂ってもらいますからサエ、これからはチサに代わり見習い侍女達の教育も頼みますよ

まぁ何にしろ体制作りや真琴のレッスン等今からレイナと相談しますから取り敢えサエも勉強を見てあげなさい」

そう告げて観月の部屋に入っていった

新に決まった体制は命付きにマイ、チサ付きにマキは変わらないし翼付きにサエも大公領に居た時と変わらない

最初の変更点は新にマミと言う侍女が真琴付きに選ばれマキはチサと共に部屋替えでマミは命と真琴の部屋付きになった

歌の女神について検証を行う学者の中から女性の弟子の学者を二人紹介してもらい一人は春蘭、弥空、深潮、雪華、翼、チサの勉強を見てもらい

もう一人に見習い侍女の勉強をみてもらう様にしたこと

更にマサ、マチ、マツ、マホの四人を男爵夫人付きに選び公女宮の侍女達の様に巡回させ不備があれば修正し

自分達では無理なら報告させ自分の方から手を打つと言うことに

命は歌と踊りの稽古で真琴は祭典に向けた調整に集中し

翼とサエは見習い侍女達のダンス指導を弥空と深潮と代わり二人は午後だけ観月の側について仕事を学ぶ事になった

当面は雑用係りではあるけど

それらの事を王妃の執務室に報告に行くと王妃にお茶を淹れている春蘭が居て二人を見ると頷いた春蘭は湯と茶葉の量を増やし二人にも用意すると王妃の後ろに控えたので王妃に体制の報告を行うと今度は王妃から

「四人を養女に迎える件は満場一致で可決と言うかやっと決まりたしか?と逆に呆れられてたそうですし特に海軍の将軍は男泣きしてたそうですよ?

将軍を始め、陸の事務方にまで慕われてる二人ですからね…」

そう言われて

「わかりましたではやはり以前から出ていた見習い侍女の募集を検討してください

レイナが来てくれましたから受け入れ体制は整いましたから」

そう告げて

部屋に戻る頃には昼近くで

「翼と真琴は着替えてサエ、翼と真琴の荷物を纏めておきなさい

食事の時にでも誰かに頼んで運ばせますから

真琴は着替えたら小ホールで踊りの稽古をしている命を迎えに行きなさい、任せましたよ

チサも侍女の服は卒業ですからね」

そう言われチサも新しい部屋に着替えに行き翼と真琴も荷物を置いてある部屋で着替えに向かった

 

 

稽古を終えた命に

「そろそろ食事の時間ですよ?」

とマイが声を掛けても全く反応せず俯いて座り込む命を見て

「みこ、ご飯の時間だから迎えに来たよ」

そう言って呼び掛ける真琴の声にも気付けなくただ力無く首を横に振る命の身体を抱き上げ

(あの時のままじゃないか…)

そう思い苦笑いしながら

「ならこのまま連れていくからね」

その聞き覚えのある言葉に

(いつ誰から聞いた声なんだろう?)

そうぼんやり考えているうちに椅子に座らされ我に返ると笑顔の真琴が居た

「みこ、僕が来たんだからちゃんとご飯食べるよね?」

そう言われて小さく頷き王妃達を安心させた

食事の後、命の午睡の間今朝やれなかった素振りをこなし午睡から目覚めた命に楽士寮に案内され翌日から午前中とアリア女史のレッスンの無い日の午後はここで稽古をすることになった

 

そして夜になると風の精霊ウィンディーの巫女と命の姉の真琴の歓迎パーティーが開かれ正式に四人を養女として迎える事が決まったことを発表した

益々華やかになった王宮パーティーに勿論命の踊りも花を添えている

真琴が久し振りに会った命は色々成長していた

早朝、真琴が目を覚ますとマイに手伝われながら着替えているとこで

「みこ、こんなに早くからどこに行くの?」

真琴に聞かれいつものポーズで

「お歌のお稽古とお散歩だよ、踊りを習い始めた時にすぐ疲れちゃうみこに『たくさん歩いて体力着けろ』って鬼百合にゆわれたの

だからお歌のお稽古とお祈りの間に少し歩くから段々朝起きるの早くなっちゃって…」

そう言って小さく笑うみこは全く歩けないと言っても過言じゃなかった頃の覚束ない足取りではない

そして真琴達が入国して四日目の夜の夕食の席で観月から

「明日の朝留美菜の父親、網元の船の浸水式があり予定通りにみこには踊りを奉納してもらいます

勿論留美菜やりんも同行させますし他の子達も浸水式には立ち会わせます

翼、真琴、チサはどうしますか?」

そう聞かれた三人に

「チサちゃんは見てるけど翼ちゃんとまこちゃんまだ見てない踊りがメインなんだよっ♪」

そう嬉しそうに話す命に嫌とは言えないしあれ程人前に出るのを嫌がって…

と、言うか怖れていた命を変えたのが何か気になる真琴は同行することにし翼とチサも二人が行くのなら…と同行する事にした

その多分生まれて始めてであろう命は素直に真琴に夜甘えて

「今日はまこちゃんと一緒に寝たい」

そう言われた真琴は

「みこ、甘えん坊になったんじゃない?」

笑いながら言うと命は

「違うよ、まこちゃん…甘えん坊になったんじゃなくて甘えん坊だって認めただけだよ…

鬼百合やレム、まこちゃんに翼ちゃんとちさちゃんやミナさんにユカさん王妃様達…みこ、甘えん坊だったんだよ…」

そう呟きながら眠りについた命の寝顔を見ながら

「あの迷宮で抱き上げた時より軽くなっていたみこの背はちっとも伸びてなかった

僕は風の精霊救出からの僅かな間も少し伸びたのにみこが伸びたのは髪の長さだけ…

今度はいつまで一緒に居られるのかわからないけどその間だけでもちゃんと食べさせないと…」

そう思う真琴だった

 

翌朝も歌の稽古の後散歩にお祈りを済ませると一台目に観月、命、翼、真琴、チサ、鬼百合、留美菜、りんが乗り

二台目に瑞穂、柳水、はな、なみ、小明、咲、みか、ほなみ

三台目に女神の騎士団の三人にユカ、ミナ、春蘭、マイ、マキが同行する事になった

命は現地で着物に着替える為お祈りの時のまま…今朝は白いワンピースだったのでそのまま出掛け

真琴は若月のマリンルックでは無く海兵隊名誉隊員の真琴に支給されたお気に入りの海兵隊の制服姿

翼はショーでスーが着ていで着ていた海兵隊風のワンピースとチサとりんは当日着ていた物で後のマイ、マキと漁師の娘達は侍女の制服で出掛ける事になった

 

命の訪問は事前知らされていない漁師達が慌てて出迎えると

国王からラム酒が一樽、観月と鬼百合や騎士団からは月影の国の瀑酒を一樽に命、チサの連名で大公領の地酒玉蜀黍酒を一瓶を祝いに贈られ

命は一旦馬車に戻りミナに着付けをしてもらっている間は翼と真琴に子供達が群がり

鬼百合達、特に鬼百合の周りには見習い侍女の親達が感謝の言葉をのべ集まっていた

そして命の準備が整ったのを知らされた組合長が

「網元、私達の人魚姫様が航海の安全祈願と大量祈願の踊りを奉納してくださいます、皆も祈りなさい」

そう言われて驚くと着物姿の命が現れ舞い始めた

居合わせた者も皆目を閉じ漁の安全と大漁を願い祈った

命の踊りが終わりまず留美菜とりんの両親に

「みことチサちゃんのお姉ちゃんの翼ちゃんとまこちゃん

翼ちゃん、まこちゃん、留美菜ちゃんとりんちゃんのお父さんとお母さん達だよ」

そしてそれ以外の人達にも二人を紹介すると再び着替えて出てきたのは海兵隊の制服命バージョンだった

網元から振る舞い酒が配られ来賓に挨拶をして回る網元と四人の船頭達

留美菜とりん以外の見習い侍女達は先に王宮に戻り勉強に戻り

鬼百合や柳水、顔馴染みの三人に漁師達が酒を勧めた

「準備が終わりましたぁーっ!」

ミナの手伝いをしていた留美菜が声を張り上げると手頃な場所を見つけ腰を下ろし歌い始めた

真琴に群がっていた子供達も命の歌が始まると耳を傾け静かに聞き入った

その様子を見て驚く真琴に

「稽古と比べてどうですか?」

そう観月に聞かれ

「いいえ、お互いに距離をとってますからみこの歌を聞いたのは十六夜様に聞いていただいた時以来です…

が、良い方向ですっかり変わりました

楽しい歌は楽しく悲しい歌は悲しくとメリハリがついてるし…

前のみこは楽しい歌があまり楽しそうに聞こえなかった…」

と言って追憶に更ける真琴に

「切っ掛けをくれたのはりん」

そう言われて驚き

「あんな小さな子が?」

そう観月に言うと

「みこよりは大きいししっかりした子なのはわかりますね?」

そう言われて

「確かにそうだけど…」

と、中々納得しない真琴に

「もっとも…真琴が疑問に感じるようにりんが特別何かしたわけではありませんが…再会後のみこの変化何かありませんか?」

そう言われて暫く考えて

「相変わらすな少食だけど前よりはましになってるし食卓に着く着かないでミナさん困らせなくなった…」

そう答えると

「一番最初の切っ掛けはりんが海に落ちたこと…

それも屈強な海の男ですら怯むカ海域で」

何となくわかり

「みこが?」

その答えにうなずき

「人魚化して助け、りんの両親は一度諦めた娘の命…

人魚姫様お側で生涯お仕えさせてくださいっ!って言われて公女宮の見習い侍女として受け入れました」

その不思議な出会いの物語に唸る真琴に

「ミナを食事の事で困らせたのは二回

入国して最初の晩餐でその頃はまだ寝起きの悪いみこは例によって

『お腹空いて無いから要らない…そう答え

『でもりんちゃんが一緒なら行く』

それを聞いた伯母様が『りんちゃんの席も用意するから来てねって…』」

「ほんと不思議だ…確かにりんは何もしてない…ただたまたまそこに居合わせただけ…」

そう驚く真琴に



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舞い踊れ⑤

今こそ水の精霊の奉納の踊りを…水の精霊の巫女の務めに目覚めるためにも踊りを習うときがきた


 

「みこはりんの事を初めての友達といってます…」

そう言って一息入れると

「翼ちゃんとチサちゃんはまこちゃんとおんなしで家族なんだよ?って答えました」

その答えに

「みこもそう考えてくれたんだ……

養女の話を始めて聞いた時翼は不思議がってた…

みこと双子の僕とフレア様の巫女のチサはわかるけど何故私まで?

って驚いてたけど…」

真琴のその言葉を受け

「多分みこの家族の一言は大きかったでしょうけど…

伯母様は十六夜に私に代わりに社交界に参加しているのを聞いて娘を連れ歩きたい夢を持ってたから結局は伯父様を説得してたでしょうけどね」

そう笑いながら言うと

「不思議な縁と言えば貴女達と翼とチサだって同じではありませんか?

ぎりぎりのタイミングで出会った四人も…」

そう言われて

「誰が人の運命を決めてるんでしょうね…」

真琴の苦々しいの言葉は観月には聞こえず真琴も少女達に引っ張られていった

留美菜とりんはいつの間にか宴を仕切っていて二人に口喧しく言われている網元と船頭のロンが形無しだったがまぁ久し振りにあった愛娘の前じゃあんなものか?

皆呆れつつもその父娘のやり取りを見ていた

楽しい時間は瞬く間に過ぎ明日岬で会うことを約束して命達は帰っていった

明日は早朝のお稽古は無しで漁港で踊りを奉納する事になっている

だから浮かれ気分でいた命達は冷水を浴びせられたような話を聞く事になる

「みこ、明後日早朝王宮を発ち一部ではありますが国内を回って欲しいのです…」

その言葉に反発したのは真琴で

「祭典が近いのに何故?」

その予想の範囲内の質問に

「近いからです…今まで貴女達は大公領の公女宮=美月預かりの立場にありましたから政治不介入の原則で祭典まではと断ってきました…

ですが貴女達が王女となった今その言い訳が使えず祭典出場者と見た目はともかく最年少のチサ

未だ本国入りしたばかりの翼には配慮しているようですがみこに対してはもう我慢出来無い…

そんな空気になりつつあります」

そう言われて

「つまり、あまり遠くまでいかなければ国内ならなんとかなるけど他国にいってしまったら何ともなら無い事態に陥るかもしれないから…ですか?」

翼の答えに溜め息を吐き

「主に一部の王都市民にしか姿を見せてませんし貴女達の王女としてのお披露目もしてませんからね」

観月に皮肉たっぷりそう言われて

「申し訳ない話だがな…」

国王に苦笑いでそう言われて黙り込む三人と未だ事態を理解出来無い命はただ黙ってキョロキョロ見回すだった

「取り敢えず同行者の発表をします

阿、瑞穂、忍、ミナ、春蘭、留美菜、りんの以上八名になります

その為一部侍女のシフト変更になりますから部屋で発表しますから食後全員集まるように」

その為暗い雰囲気になった食欲は良くも悪くも命以外の者達は減っていた

因みに鬼百合は朝食以外は滅多に顔を出さなくなっていたから今も居ない

命が不在の間マイは観月の側で修行し留守の春蘭に代わり雪華がチサと共にはな達の礼儀作法を指導

その間先に命の部屋付き以六人以外の見習い侍女は先にダンスレッスンを受け

その間マサはスー、スエ、スズを連れマチはスミ、セイ、セツをそれぞれ引き連れ巡回

マツはマイに代わり観月の側で仕事を代わりマホはマナ、マユに代わり王妃の手伝い

その間マイ、マキ、マナ、マユは酔仙亭から芸妓を派遣してもらいユカも含め踊りの稽古を着けて貰うことになっていた

又、翼は年長の王女としての役目として代表でサロンやパーティー等に出席し他国の大使との面談にも立ち合い緩衝材の役割を果してくれる事になる

そして早朝漁港に向かい着物を着た命が深夜の漁から戻った漁師達に航海(漁)の無事の感謝の気持ちを奉納して踊り

これから出漁する漁師達の為航海(漁の)安全祈願と大漁祈願の踊りを奉納して出漁を見送った

そのお陰かこの日を境に漁師達に活気を取り戻させ

漁師達は皆この日を人魚姫様が魚を呼び戻してくれた日と呼び不漁続きに喘いでいた漁師達に恵みをもたらした…らしい

昨日は浸水式で漁を休んだ為網を仕掛けていないこの朝は早朝前から漁に出掛け

明るくなってから網を仕掛ける予定で最初から釣りを楽しむ鬼百合達

漁師達の方も新しい船は従来の物より一回り大きかった為本来なら漁に出るのは未だ少し早い子等を乗せねばならないから初の出漁にはちょうど良かった

今日は底物を狙うため皆竿は使わない

勿論一番乗りは平べったい姿が特徴の一間はありそうな比目魚で続いて

柳水が刺鰒を釣り上げると他の者達もボチボチ連れ始め

当たりが止まるまでに釣り上げたのは鬼百合が一間クラスの比目魚二枚、刺鰒五匹、紅鯛が三枚、大鯵十本と今日も絶好調

柳水は刺鰒十匹に紅鯛が五枚、大鯵二十本とこちらも好調で騎士団の三人は刺鰒二十匹、紅鯛が十枚、大鯵三十本とこちらも好調

いつもの様に大鯵以外の魚を市場に出させ代わりの魚を岬に運んで貰うことにした

ただ毎回の事だけど鬼百合達から譲られる魚の価値は高く持って行く分では割りが合わないので

干物や塩漬け等にしてとりおいてあるがかなり貯まっていたが命が王都を離れ他の町を訪問すると聞き持っていって貰うことにした

 

海女漁の方は手伝いで活躍する話を聞いた漁港関係者が命に漁業権を認め与えた為手伝いではなく自分の漁と皆の手伝いになった

もっとも出荷に関しては

「みこに出来る訳無いのだからお二人が代理でお願いしますね」

そう観月に委託された留美菜とりんの母親達に任されている

そして戻った漁師達に航海の(漁の)無事の感謝の気持ちを奉納する踊りを舞いそしてて歌い一時の別れを惜しんだ

旅立ち前の晩餐を終えた命はミナが用意してくれたいつものリュックを背負い窓に立っていた

その悲しげな横顔に声を掛けるのを躊躇っているとすーっと宙を舞い王宮から出ていった

それに気が付き慌てて追い掛けようとする真琴の肩を掴み

「慌てなくても行く先はわかってます

観月様は予測していたし荷物を用意したミナにも確認しましたから

何も無いでしょうが疲れて自分で帰って来れないでしょうから様子を見守り

終わり次第連れて帰りなさいと観月様にいわれてますから一緒に行きますね?」

そう聞かれ真琴の返事は

「勿論行きます」

だったので二人で命の向かった先に後を追うことにした

 

窓を叩く音がし訝しげに窓の外を見やると今にも泣き出しそうな表情の命が居て慌てて窓を開け命を招き入れると

「お姐さんとの約束守れなくなっちゃった…」

命が暫く王都を離れる話は既に太夫の耳にも届いていたけど

別れより約束(新しい踊りを習う事)が出来無い事を詫びに来たことに驚き

「仕方無いよ、みこちゃんは王女様になったから今まで以上に沢山の人に笑顔を届けなきゃいけないんだからね…」

その太夫の言葉に

 

「みこはりんの事を初めての友達といってます…」

そう言って一息入れると

「翼ちゃんとチサちゃんはまこちゃんとおんなしで家族なんだよ?って答えました」

その答えに

「みこもそう考えてくれたんだ……

養女の話を始めて聞いた時翼は不思議がってた…

みこと双子の僕とフレア様の巫女のチサはわかるけど何故私まで?

って驚いてたけど…」

真琴のその言葉を受け

「多分みこの家族の一言は大きかったでしょうけど…

伯母様は十六夜に私に代わりに社交界に参加しているのを聞いて娘を連れ歩きたい夢を持ってたから結局は伯父様を説得してたでしょうけどね」

そう笑いながら言うと

「不思議な縁と言えば貴女達と翼とチサだって同じではありませんか?

ぎりぎりのタイミングで出会った四人も…」

そう言われて

「誰が人の運命を決めてるんでしょうね…」

真琴の苦々しいの言葉は観月には聞こえず真琴も少女達に引っ張られていった

留美菜とりんはいつの間にか宴を仕切っていて二人に口喧しく言われている網元と船頭のロンが形無しだったがまぁ久し振りにあった愛娘の前じゃあんなものか?

皆呆れつつもその父娘のやり取りを見ていた

楽しい時間は瞬く間に過ぎ明日岬で会うことを約束して命達は帰っていった

明日は早朝のお稽古は無しで漁港で踊りを奉納する事になっている

だから浮かれ気分でいた命達は冷水を浴びせられたような話を聞く事になる

「みこ、明後日早朝王宮を発ち一部ではありますが国内を回って欲しいのです…」

その言葉に反発したのは真琴で

「祭典が近いのに何故?」

その予想の範囲内の質問に

「近いからです…今まで貴女達は大公領の公女宮=美月預かりの立場にありましたから政治不介入の原則で祭典まではと断ってきました…

ですが貴女達が王女となった今その言い訳が使えず祭典出場者と見た目はともかく最年少のチサ

未だ本国入りしたばかりの翼には配慮しているようですがみこに対してはもう我慢出来無い…

そんな空気になりつつあります」

そう言われて

「つまり、あまり遠くまでいかなければ国内ならなんとかなるけど他国にいってしまったら何ともなら無い事態に陥るかもしれないから…ですか?」

翼の答えに溜め息を吐き

「主に一部の王都市民にしか姿を見せてませんし貴女達の王女としてのお披露目もしてませんからね」

観月に皮肉たっぷりそう言われて

「申し訳ない話だがな…」

国王に苦笑いでそう言われて黙り込む三人と未だ事態を理解出来無い命はただ黙ってキョロキョロ見回すだった

「取り敢えず同行者の発表をします

阿、瑞穂、忍、ミナ、春蘭、留美菜、りんの以上八名になります

その為一部侍女のシフト変更になりますから部屋で発表しますから食後全員集まるように」

その為暗い雰囲気になった食欲は良くも悪くも命以外の者達は減っていた

因みに鬼百合は朝食以外は滅多に顔を出さなくなっていたから今も居ない

命が不在の間マイは観月の側で修行し留守の春蘭に代わり雪華がチサと共にはな達の礼儀作法を指導

その間先に命の部屋付き以六人以外の見習い侍女は先にダンスレッスンを受け

その間マサはスー、スエ、スズを連れマチはスミ、セイ、セツをそれぞれ引き連れ巡回

マツはマイに代わり観月の側で仕事を代わりマホはマナ、マユに代わり王妃の手伝い

その間マイ、マキ、マナ、マユは酔仙亭から芸妓を派遣してもらいユカも含め踊りの稽古を着けて貰うことになっていた

又、翼は年長の王女としての役目として代表でサロンやパーティー等に出席し他国の大使との面談にも立ち合い緩衝材の役割を果してくれる事になる

そして早朝漁港に向かい着物を着た命が深夜の漁から戻った漁師達に航海(漁)の無事の感謝の気持ちを奉納して踊り

これから出漁する漁師達の為航海(漁の)安全祈願と大漁祈願の踊りを奉納して出漁を見送った

そのお陰かこの日を境に漁師達に活気を取り戻させ

漁師達は皆この日を人魚姫様が魚を呼び戻してくれた日と呼び不漁続きに喘いでいた漁師達に恵みをもたらした…らしい

昨日は浸水式で漁を休んだ為網を仕掛けていないこの朝は早朝前から漁に出掛け

明るくなってから網を仕掛ける予定で最初から釣りを楽しむ鬼百合達

漁師達の方も新しい船は従来の物より一回り大きかった為本来なら漁に出るのは未だ少し早い子等を乗せねばならないから初の出漁にはちょうど良かった

今日は底物を狙うため皆竿は使わない

勿論一番乗りは平べったい姿が特徴の一間はありそうな比目魚で続いて

柳水が刺鰒を釣り上げると他の者達もボチボチ連れ始め

当たりが止まるまでに釣り上げたのは鬼百合が一間クラスの比目魚二枚、刺鰒五匹、紅鯛が三枚、大鯵十本と今日も絶好調

柳水は刺鰒十匹に紅鯛が五枚、大鯵二十本とこちらも好調で騎士団の三人は刺鰒二十匹、紅鯛が十枚、大鯵三十本とこちらも好調

いつもの様に大鯵以外の魚を市場に出させ代わりの魚を岬に運んで貰うことにした

ただ毎回の事だけど鬼百合達から譲られる魚の価値は高く持って行く分では割りが合わないので

干物や塩漬け等にしてとりおいてあるがかなり貯まっていたが命が王都を離れ他の町を訪問すると聞き持っていって貰うことにした

 

海女漁の方は手伝いで活躍する話を聞いた漁港関係者が命に漁業権を認め与えた為手伝いではなく自分の漁と皆の手伝いになった

もっとも出荷に関しては

「みこに出来る訳無いのだからお二人が代理でお願いしますね」

そう観月に委託された留美菜とりんの母親達に任されている

そして戻った漁師達に航海の(漁の)無事の感謝の気持ちを奉納する踊りを舞いそしてて歌い一時の別れを惜しんだ

旅立ち前の晩餐を終えた命はミナが用意してくれたいつものリュックを背負い窓に立っていた

その悲しげな横顔に声を掛けるのを躊躇っているとすーっと宙を舞い王宮から出ていった

それに気が付き慌てて追い掛けようとする真琴の肩を掴み

「慌てなくても行く先はわかってます

観月様は予測していたし荷物を用意したミナにも確認しましたから

何も無いでしょうが疲れて自分で帰って来れないでしょうから様子を見守り

終わり次第連れて帰りなさいと観月様にいわれてますから一緒に行きますね?」

そう聞かれ真琴の返事は

「勿論行きます」

だったので二人で命の向かった先に後を追うことにした

 

窓を叩く音がし訝しげに窓の外を見やると今にも泣き出しそうな表情の命が居て慌てて窓を開け命を招き入れると

「お姐さんとの約束守れなくなっちゃった…」

命が暫く王都を離れる話は既に太夫の耳にも届いていたけど

別れより約束(新しい踊りを習う事)が出来無い事を詫びに来たことに驚き

「仕方無いよ、みこちゃんは王女様になったから今まで以上に沢山の人に笑顔を届けなきゃいけないんだからね…」

その太夫の言葉に

「お姐さんはみこと離れるの寂しくないの?」

命が思わず漏らしたその言葉に

「私は貴女の踊りの師、二人が踊りを続けていれば側に居なくてもいつでも一緒…」

そう言うと命の背にあるリュックに気付いた太夫が

「着物を持って来てますね?暫しの別れの前に新しい踊りを教えておきましょう、二人を繋ぐ絆ですから…」

障子を開け下の階に向かって

「お前達、さっさと上がってきなっ!」

太夫の呼び声に

「太夫の座敷は未だなのに…」

等と口々にブツブツ言いながら上がると太夫の部屋にいる命に気付いて

「いつの間に?って言うか人魚姫様のお越しなんて聞いてないし供も連れずに一体何故…」

そう戸惑う芸妓達に

「その辺りはアタシも聞いてないけど約束が守れないって泣きそうな顔で来てくれたんだ

だからアタシも着物を持って来てるみこちゃんに予定通り今から例の踊りを型映しで教えることにしたからお前達、急いでアタシ等の舞姫様のお支度をお手伝いしなっ!」

そう指示され喜んで命の着付けを始めた

何だかんだと言って社会的地位は低い芸妓達にとって

命が太夫との守れない「約束」を詫びに来るという筋を通しにわざわざ王宮を抜け出して会いに来てくれたのが嬉しかった

「水の精霊の巫女の人魚姫で人々からは歌う人魚姫と愛され…国王夫妻からも愛され…王女様になった命様がアタシ等芸妓に…」

そう呟きながら着付けや髪を結っていた

最初の出会いから自分達の踊りを喜んでくれたし着物を着たいとも言ってくれた

自分達はお姉さん達、太夫はお姐さんと自分達が姐さんと呼ぶのを倣ってそう呼んでくれている

「いつか基礎だけとはいえあの命様に踊りを手解きした事が有るんだよ?」

そう自慢話を出来る日が来るんだろう

そう考えると自然に頬の緩む芸妓達だった

 

支度が終わり向かい合って座る命に太夫は

「今から行う稽古は型映しと言って師と向かい合って踊る踊りの稽古で今ではこれを行える師弟は殆ど居ませんが…やってみますか?

これが出来れは一応踊り自体は覚えられますから後は一人でお復習を続けるだけで習得出来ます(水の精霊の巫女の貴女ならば…)」

そう言って立ち上がり命も立たせ稽古を始めた

稽古が終わり

「暫く頭の中で今の踊りを思い出しなさい」

そして稽古を見物していた芸妓の一人に

「みこちゃんにお茶を頼むよ、それとあの方が来ていただいたらみこちゃんも連れていきますからそのつもりで…」

そう言って太夫も又先程の稽古を思い返していた

お茶が運ばれ芸妓達にも伝わっている猫舌の命の為にお茶を冷まし渡すと

「ありがと」

そう言ってにっこり笑う笑顔が可愛く思わず抱き締めたい芸妓達だった

そしてて太夫が言うその方が訪れたのを聞いて

「みこちゃんに今から会わせる方は私の踊りの師匠、その方に貴女の踊りを見てもらうつもりですが宜しいですね?」

太夫にそう言われて難しい顔をして考え込み

「お姐さん、師匠って何?」

そう聞かれた太夫からたら

「貴女が悩んでいたのはそこ?」

と言いたいのを「私に踊りを教えて頂いた方です」

と言われ再び左の掌に右の拳を打ち付けて

「オーっ、なるほど…お姐さんの先生なんだね?」

そう言って一人納得する命だが初めて見た芸妓達を驚かせたけど皆の頭には鬼百合の顔が浮かんだ

 

「問題なければ参りましょう」

そう言って命を座敷に案内して

 

座敷の客も当然初めて会う者ではあるけれど命の事を知っていたし弟子の翠蘭が手解きしている話も耳にしていた、だからただ一言

「踊ってみなさい」

一言告げると命も今倣い覚えた踊りを舞った

ただ、命の無難に踊れました…と言うレベルの踊りに失望を隠さず

「どれくらいお稽古しましたか?」

命が何か言うより先に答えた太夫は

「いいえ、一度も…この子は少し前に型映しでなんとか型を覚えたばかりですから…」

そう言われて改めて命の顔見て

(成る程、水の精霊の巫女だからと言うだけではなさそうですね)

そう思い

「もう一度頭からおどりなさい」

そう言われて踊ると一度目より滑らかに踊り

「今度は貴女と…」

そう言われて太夫と踊ると太夫の踊りにより高見に引き上げられ上達の速度を早め

「最後に全員で…」

そう言われて立ち合っていた芸妓達が全員で踊ると命の高まった霊気が身体から溢れ出て命の身体を包んでいた

踊り終えへたり込んでいた息を整え命が太夫に手を借り座り直し

「有り難うございました」

そう言って頭を深々と下げると

「ご褒美です」

そう言って至高の踊りと呼ばれる踊りを見せてくれた

感動の涙を流す命と久し振りに見る師の踊りに見惚れる太夫

そして忽然の表情の芸妓といつの間にか襖は開け広げられ様子を見守っていた客達も又茫然と見ていた

師の踊りが終わり窓に向かい

「隠れて見ている貴女達、入ってきなさい」

太夫にそう言われてばつ悪そうに座敷に入ってきた真琴と瑞穂は

「みこ、もう気は済んだでしょ?明日は朝が早いんだから早く帰って寝ないとね…」

と、勝手な外出を咎める真琴に

「あれ程の踊りを見たのですから踊れますね?」

そう太夫に挑発され下を向いて唇を噛み締めているといつか見た瞳の輝きの命がそっと太夫に耳打ちした

それを聞いた太夫は手近な芸妓にそっと指示を与え一人は一階に降りていった

暫くの時が経ち考え事をしていた為音も無く忍び寄る鬼百合に気付くのが後れ担ぎ上げられると

「鬼百合ぃ、よろしくねぇーっ」

無責任に言われてとにかく控え室に真琴を連れていくと

「頼むから大人しく小悪魔みこの言う通りにきせかえ人形になってくれっ!」

と拝み倒す鬼百合に

「全く…いつの間にそんな悪い子になったのさ…」

真琴が呆れ顔で言うと真顔で

「お前で二人目だ、最初の犠牲者はミナだった…」

着付けされる真琴に苦笑いで話す鬼百合だったけど着付けを終えた真琴を見て鬼百合も思わず口笛を吹くほどで

「本当に何でうちで働けないんだろうね?」

と何度聞いたかわからないぼやきに

(留美菜やりん達みたいに給仕ならともかく未成年の娘に芸妓をやらせたら不味いでしょ?)

そう思ってるけど口には出さない仲居達だった

着物を着た真琴が腹を決めてさっきさんざん見た踊りを踊り舞うと

「良ければ貴女も踊りを覚えませんか?」

そう太夫に誘われたけど

「興味深く有り難いお誘いだけど今は祭典に集中しなきやいけない時だから遊びに来るだけならともかく

きちんと習うなら祭典が済んでからでないと今まで歌を教えてくださった方に申し訳無いです」

そう言われて

「そうですか、では踊りを教えている侍女の子達と遊びに来なさい、見てるだけでも違いますからね」

太夫がそう言うと太夫の師匠も

「祭典後一度遊びに来なさい、待ってますから」

と、言い

「そろそろ二人連れて帰りなさい」

そう鬼百合と瑞穂に言うと

「みこはともかく僕は着替えてお返ししないと…」

真琴のその言葉に

「その子等と一緒に又来てくれりゃ良いんだよ」

女将が言い鬼百合も

「見な、周りを」

そう言われて見回すと自分が踊り始める前より更に人が増えて皆酒を酌み交わしていた

「お前達は十分店に貢献したんだから遠慮するな」

その鬼百合に

「お前は二人と違う形で毎晩貢献しているようだがな」

と、痛い所を突かれ

「街中を見回ってるんだよ」

と、あまりにもの苦しい言い訳に芸妓や仲居にまでくすくす笑われたけど

実際の話し、鬼百合がこの呑み屋街に現れる様になって呑み屋街に付き物のトラブルが減っているのも事実だ

だからといって店で酒を呑む言い訳にはさすがにならないとは太夫も思わざるを得ない事

「真琴、礼を言って有り難く貰っておきな」

そう鬼百合に言われ

「有り難う御座います、又来たときも着付け宜しくお願いします」

そう答えると命は瑞穂、真琴は鬼百合の肩に乗り王宮に帰ることになった

(なんでさ、みこ…今夜はゆっくり二人で過ごしたかったのに…)

そんな真琴の思いに気付いた鬼百合が

「みこを許してやんな、あの踊りはみこには特別な意味がある」

そう言われて鬼百合を見ると

「あれは水の精霊への奉納の踊りと言って水の精霊のみこには覚えなきゃならん義務みたいなものだからな…」

そう言われても真琴が納得出来ないのは理解出来る鬼百合は強いて真琴の同意は求めなかった…



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国内ツアー開幕

精霊の巫女、歌う人魚姫と噂だけが先走る王女の評判だけど国内にアピールせんがために彼女の国内ツアーが始まった


第七章 国内ツアー開幕

 

 

①いってきます

 

いつもより早く目覚めた命はほぼ同時に目を覚ました真琴に

「まこちゃん、ペンちゃん暫く預かってくれる?」

そう言って可愛いがっていた霊獣ペンギンを真琴に渡すと

「どうして?あんなに可愛いがってたのに…」

と真琴に聞かれ

「みこの代わりだよ、それにママに聞いたらみこの行く範囲にペンちゃんが活躍出来るような川や湖無いから残ってまこちゃん達のお手伝いして貰った方がいーって思うんだ…それとこれも預かって」

そう言って渡されたのは勾玉と霊玉で

「又よろしくね」

そう言われて意味がわかり

「ん、やっておく」

と答えると

「ごめんね、まこちゃん…勝手ばかり言って…」

そう言って目を伏せる命に

「良いよ、みこ…みこが自分の意思で頑張るのなら応援するからね?

僕はみこのお姉さんなんだからさ」

そう言って笑って見せると

(そうだ、大事なことを忘れていたよ…今のみこには踊りが生きる意味になりつつあるなら今みこを応援しなくていつするのさ)

そう思って

「旅先でも踊りの稽古頑張るんだよ?」

そう言って部屋にマイを呼ぶと着替えを手伝わせ寝室を出ると既に他のメンバーの支度は終わっていて命を待っていた

その中に白浪を見つけると

「これを白浪に預けるね、双竜牙って言って白炎竜と青竜の牙って意味だよ」

そう言って渡されたのは白い勾玉と蒼い霊玉が柄を飾るスクラマサクスで

「ほおーっ…」

と言って目を細目柄を握ると

「成る程…」

と呟き

「確かに預かった」

と答え

命の手に現れた長槍の柄には石突きではなく金剛杵の半身の様になっていて恐らくは懐に入られた時の物だろう碧の霊玉で飾られていて

「沙霧にはこの碧風竜槍を預けるね

真空の刃を貼るかに上回る真空竜を放てるんだよ」

更に千浪を見つけて弓と矢筒を渡しこの矢筒から取り出す矢は一本一本が黒炎竜になるから祭典の時頼もしい存在になるよ」

そう言って三人に神剣から生まれた魔剣、霊剣、霊槍、魔弓を渡した

そして最後に

「チサちゃん…指輪を見せて」

命に言われ右手を差し出すと

「翼ちゃんとまこちゃんはこれがなんだかわかる?」

そう聞かれた二人がその霊気とも魔力とも判別し難いそれを見て首を横に振ると

「これは記憶に無いみこがチサちゃんの身体に埋め込んだみこの勾玉がチサの試練の時に姿を変えた勾玉

それがチサちゃんの高まりに応じ黒い魔力を紅く染め上げた紅い魔玉とでも言う物だからはい、これを…」

そう言って粒の小さい黒い勾玉のネックレスを二人に渡し

「これを二人の霊力で染め上げた魔玉を産み出してまこちゃんに渡して欲しいんだ」

命に言われ

「みこちゃんはいらないの?」

チサに聞かれ

「みこに力を貸してくれるけどみこは触れちゃいけない力…らしいんだ…」

そう言われてチサが

「誰がそんな事を言ったの?」

そう聞かれ

「みこじゃ無いみこが言ったの

それはお前が手にすれば大切な者達に厄をもたらすモノ故に決して触れてはいけないモノ…ってゆわれたんだよ」

そう言われて一人考え込むチサ

「わかりました、その言葉の意味はわからないけど真琴に預けますね」

翼に言われて笑顔で

「うん…お願いだよ、翼お姉ちゃん」

その言葉に侍女達は今この時姉妹の様ではなく姉妹になったんだと感じた

 

旅立ちの時はっきり言って観ている者が思い切り未練がましい国王に皆引いていた

「あんたが決めたんでしょうがっ!」

と言いたいけどその様子を見てそれこそ血を吐く思いで決断したんだろな…

と、思い王妃を見たら彼女もドン引きしていた…

そんな感じの旅立ちだったけど馬車は順調に王都の街中を駆け抜け山岳地帯へと入っていった

山道走り続ける馬車は順調だけどただ一人納得仕切れない留美菜が

「命様はペンちゃん居なくても平気なの?」

真琴に抱かれ留守番になったペンの事を聞くと

「みこについてきたってペンちゃんの活躍の場はないよ?」

そう言われて何と言い返そうか迷う留美菜に

「落ち着きなさい、留美菜…旅立ちの時ペンちゃんは

ー真琴達は僕が守るから早く帰って来てね、命様ー

と、言い霊力の無い真琴様は気付いてななったけど翼様とチサ様は肩を震わせ笑ってましたよ?」

そう言われて驚いていると

「留美菜、私達の旅は始まったばかり…もっと力を抜かなきゃ持ちませんよ?

ね、命様…ミナさん?」

そういきなり振られ元々何も考えず踊りで頭が一杯の命と旅の不安で頭の一杯のミナには聞こえてなくて

「は、はい申し訳ありませんっ!」

と、裏返った声で言われては緊張から来る不安にさいなまれる留美菜さえ吹き出した

その一同を見て意味がわからず顔を見合わせる二人の姿が更なる笑いに誘った

「命様、慌ただしい出立でしたから取り敢えずお祈りをしませんか?]

そう春蘭言われて

「あぁ、なんか忘れてる気がしたのはそれかっ♪」

そう言って朝のお祈りをする命

山岳地帯に入り見晴らしの良い場所で朝食を摂る事にし命は踊りの稽古でミナは踊りの稽古の後の着替えの準備と同行する山羊のメイプルの乳搾り

春蘭と留美菜、りんはそれらを使い朝食の支度の為重い行基と格闘していたがそれに気付いた三人が駆け寄り

「力仕事なら何故私達に言わないっ!」

そう阿に強く言われた春蘭が

「貴女様達は命様にお仕えする騎士様、故に命様同様お仕えする方達と思ってます」

春蘭が正直に自分の考えを言うと

「ここは王宮では無いし旅の途中の今気にすべき事ではないっ!」

そう阿に強く言われ更に

「それは私達にも言える事で私達では命様に食事をさせたり着替えさせたりなど出来ない

ですから私達には命様同様お守りする存在ですから互いに自分達の出来る事で命様にお仕えすれば良いのです」

それでも気にする様子の春蘭に

「ユカ様が妬きもち妬く様な事さえしなければ良いんですよ?春蘭さん」

と言われ

「り、りん…貴女は誰にその様な事を聞いたのですか?」

困惑しながら聞く阿に

「そんなの皆言ってますよ?阿様のお世話を甲斐甲斐しくするユカ様

鬼百合様のお世話するユウ様を見れば…ねっ、留美菜ちゃんっ♪」

そう言われた留美菜も

「観月様も時々お二人の事新妻達って言ってますよ?」

そう言われた阿が渋い顔をするの見て

「確かにその気遣いは忘れない様にしないとユカに有らぬ疑いを持たれますから気を付けなさい」

完全に他人事の瑞穂が無責任に言い忍もくすくす笑っている

「あっ…」

留美菜の呟きに命を見ると尻餅をついて座り込無と頃だったから慌てて駆け寄る忍とりん

忍が命を立たせりんがお尻に付いた土を払い落としスカートの襞を直すのを見て

「あの様にお仕えするれば良いんですね…」

その呟きに

「私達もそう思いますが春蘭…忍もですがこの格好で騎士様と言われても正直微妙です」

そう言われた瑞穂は黒いレディースのスーツ姿で騎士と言うよりは秘書といった感じだし

忍に至っては白のブラウスの上に紺のブレザーで深紅のリボンが胸元を飾っていて勿論スカートを履いている

一転して今度は瑞穂が渋い顔をするのを見て

「良いじゃ無いですか?お二人とも良く似合ってますし瑞穂様は岬で海軍の方達にモテモテだったじゃないですか?」

そう言われた瑞穂は溜め息を吐きながら

「先々頭の痛くなる難題です」

そうぼやく瑞穂だった

「留美菜、りん踊りの稽古で汗を掻いた命様のお着替えを頼みます

その間に私とミナさんで食事の支度をします

阿様と瑞穂様はござを敷いてくださいますか?

忍様には私達の手伝いを頼みますから」

そう言って食事の支度に取り掛かった

 

食事中阿が

「留美菜とりんに以前から気になってた事を聞きますが何故鬼百合だけ鬼百合さんで私達には様を付けるのですか?」

そう阿が聞くと

「最初は鬼百合様でしたけどご本人が様って柄じゃねえんだからよ

本当はみこみたいに鬼百合で良いんだがそれが無理ならせめて鬼百合さんにしてくれって言われましたから」

そう聞いた阿が

「なら私達にも様は不要だし他の者も同じだと思いますし、春蘭…貴女もですよ?」

そう言われた春蘭が

「わかりました阿さん、でしたらこの際ですから命様も私達を呼び捨てでお願いします」

と、ボーッしていた命に言うと

「え、何で?みこの方がお世話になってるのに…」

そう答えると

「命様は王女様になられましたし…それに戦士の皆様は呼び捨てですよね?」

そう指摘され考え事をする時の仕草で考えてから

「鬼百合は鬼百合で良いってゆったし他の皆はお互いに呼び捨てでゆってるからかな?」

そう言われた春蘭が溜め息を吐きながら

「確かに命様以外のお三方は様ではなくさんでしたね…

わかりました、ではこれからは呼び捨てでお願いしますね」

そう言われた命は

「う、うん…気を付ける…」

と自信無さげに答え春蘭に溜め息を吐かせ二人のやり取りを見てる一同を笑わせた

食事の終わりに命以外にはすかり冷めていたお茶を飲みながら

「命様の出立後のご予定は?」

そう春蘭に聞かれて

「今朝未だしてないお歌のお稽古したい…」

そう聞いた阿が

「そう言う春蘭達はどうするのですか?」

聞かれ

「私とミナさんは色々観月様達から宿題を出されてますからそれをします

留美菜とりんは今まで命様のお世話を受け持っていたマイさんに代わってお世話させる様に言われてますから頑張ってね」

そう言われた留美菜が

「何故マイさんは選ばれなかったんでしょうか?」

その留美菜の呟きに

「さぁ、詳しくは聞いてませんがマイさんは観月様の元で私達とは違う新しい勉強を…

私達とは違う事を学び月影の国にを訪れるみ命様のお供をする為と聞いてます」

そう聞いたりんが

「ミナさん以外の私達三人は候補者に名前があがってますからこの旅の成果次第ですが…

もっともミナさんは命様のお供と言うよりユカ様の助手、パートナーとしてユカ様の希望ですけどね」

そう聞いたりんが

「ミナさん一人占めのユカ様が羨ましいってユウ様やユキ様、ユミ様が言ってるの聞いた事有ります」

と言えば留美菜も

「ユカ様がデザインしミナさんが作ったエプロンは私達の宝物です」

と言い

「ユカ様も口にこそしなかったけどミナさんの今回の同行に難色を示してましたから…」

と、当のミナ自身が知らない話しに驚いていると

「ミナさんってミナ様って呼ぶべきなんだけど今みたいな表情するのを見るとお姉ちゃん可愛いって思っちゃうんだよね?」

留美菜にそう言われたミナが更に照れると

「確かに春蘭と違いミナの印象はある意味雪華に近い

弥空や深潮より年下に感じる時が有りますね…」

と阿に言われて今度はさすがに複雑な表情をすると

「だから留美菜に可愛いと言われるんですよ、素直すぎて感情がすべて顔に出てます」

と、瑞穂が言うと

「でも…そこがミナさんの良いとこじゃないですか?

ユカ様が私が言うと立つ角も裏表無いミナが言えば立ちませんからねって…」

春蘭にそう言われた瑞穂も

「確かに皮肉を言うミナは想像出来ません」

そう言って苦笑いすると

「取り敢えず留美菜とりんは朝早かったから少し寝なさい

今日は未々先が長いですからね」

と、言うと

「なら夕べ宿直の私と忍も仮眠をとります」

と、言うと

「じゃあみこお稽古止めて静かにした方が良い?」

そう落ち込みぎみに言うと

「命様の歌なら歓迎しますがスローで穏やかな歌なら良く眠れますし夢見も良くなりそうですからその方向でお願いします」

そう言われた命は

「うん、わかった…そう言う歌にする」

そう言って早速稽古する歌のチョイスを始めた

そのミナが仕事に戻りエプロン作り春蘭は分厚い書類の束のチェックする二人に

「馬車の揺れは苦に為らないのですか?」

瑞穂の問い掛けに暫くして春蘭が

「何か仰いましたか?」

そう問い返すと

「何ですか?その書類の束は…」

と呆れ声で聞く瑞穂に

「今見ているのは美月の取引のある有力者のリストです

継承権の無い命様達に政治問題に巻き込ませ無い様に観月様の公女宮同様に政治不介入を宣言されるそうですが…

王家の決定でいくら政治不介入を唱えようとも藁にもすがりたい者には通じません…

ですから美月のモデルスタッフの命様達に影響を与える可能性…

即ち縁故の生じる美月の顧客を私に把握する様に渡されたものです」

そう言われて

「そんなに?」

と言われて

これ以外にも知っておくべき…頭の片隅にでも入れて置かなければいけない情報の一部に過ぎません」

そう言われた瑞穂が深い溜め息を吐くと

「で、ミナは何を作ってるんですか?」

そう言われたミナがやっと自分に話し掛けられている事に気付き

「はい…私がどうかしましまでしょうか?」

と、ピントのづれたミナの言葉に

「貴女は何を作ってるんですか?と聞いたんです」

今度はちゃんと耳に入ったので

「馬車の中ではエプロン作りをします」

そう言って元々作り掛けだったそれは完成したようで

「成る程、留美菜が宝物と言うのも頷けますね…」

そう感心している間にエプロンは折り畳まれ行基にしまわれ新しいエプロンの製作に取り掛かるミナだった

馬車が当初の昼食を摂る予定だった峠の茶屋に着いたのは未々昼食には早すぎる時間で弁当を買って先を急ぐ事にした

 

馬車は見晴らしの良い開けた場所で止められると瑞穂はお茶を沸かす為のコンロを下ろし春蘭がお湯を沸かし始める

阿と忍は弁当を下ろし馭者に弁当を水筒とと共に渡し

先に食べて貰うことにし子供達を起こすと三人に冷たい濡れタオルを渡し目を覚まさせた

取り敢えず渡されたお茶を飲みながら頻りに首を傾げる命に

「命様、どうかしましたか?」

そう忍に聞かれたけど

「何かおかしいんだけどそれが何なのかわからないんだよ…」

そう答えると

「調べますか?」

そう忍に聞かれた命は

「うん、みこが考えたってわかるわけ無いから気配を頼りに探ってみる、忍手伝ってくれる?」

そう聞かれた忍は

「命様はただ命じれば良いんですよ?」

そう言われてフワッと浮き上がると目を閉じて

「ついてきて忍、阿は皆と先に食べてて」

そう告げると水の音がする方に進んで行く二人を見送る三人だった

「水量が減ってるよね?」

小川とも言えないその水量だけどそれが本来の水量でないのは一目でわかる忍

「闇の者気配は勿論闇の者が力を振るった痕跡も感じられませんね?」

そう命の反応を見ながら言う忍に

「そうそれが一番わからない事なんだよね…ただの自然災害ならとっくにアクエリアス様からそう告げられていますが…

あまり良い予感はしません…」

忍にそう告げると水源地に向かう事にした

宙を舞う命の後を黙々と歩く忍の目に小高い丘が見え水の音がそこから始まっている事に気付いた

「さぁ、何が出てくるのでしょうね…」

面白くもなさそうに呟く命に

「やはり闇の者の気配は有りません…」

その言葉に何も言わない命が何を考えているのか忍にはわからなかった

その丘を上りきり丘から水源らしき小さな水溜まりと化した泉が見付かり

その水溜まりに近寄ると肉食、草食大小を問わず獣達が集まり水を呑んでいたけど命達が近付くのに気付き二人に向かい威嚇してきた

―皆、その方達なら大丈夫です

何故ならば私の主、アクエリアス様の巫女とその従者の方なのですからね―

その声の主である精霊が姿を表すと

「泉の精よ、貴女の泉に一体何が起こったと言うのですか?」

そう問われて

―人間の男の投げ込んだあの岩が水源を塞いでしまいその隙間から僅かな水しか湧き出せなくなりました…―

そう言われて

「そうですか、そうで無ければ良いとは思っていましたが…

ですがおかしな話しですね?

その者が闇に操られていたのであれば貴女も気付いたはずですし…

貴女も無事では済まなかった可能性もありますからね

ですから何故普通の人間が正確に水源を塞げたのか?いえ、何故そのようなことをしたのかすら疑問です」

そう言って溜め息を吐き

「犯人が何を考えているかは知りませんが炙り出すのは簡単だし泉を元に戻すのはもっと簡単な事」

命がそう言うと

「そうですね、多少骨は折れますが私一人でも動かせない程の物でも有りませんね」

忍がそう言うと首を横に降り

「取り敢えず岩はそのまま残します」

そう言うと蒼い霊玉を取り出し祈りながら岩に埋め込むと霊玉から水が染みだし徐々にその量を増やし始めた

「泉の精よ、霊力の源である水源を断たれた今の貴女の霊力の低下は著しい

力を回復するまでは私の中にいらっしゃるアクエリアス様の結界に隠りなさい

アクエリアス様もそう仰ってますからね」

そう命に言われて

―確かに今の私では小魔相手にも苦戦は免れませんが…―

そう渋る泉の精に

「その為に岩をどかす事無く霊玉を使ったのです

岩をどけただけなら又塞がれますが犯人がこの事に気付いた時には既に頭が出ている位でしょう

ですから何故水が出るようになったか理解出来ないでしょうし泉の中に入ったとしても人間がどうこう出来る訳ではありません

まして泉の中に入った者をこの子達が許すとも思えませんしね」

命のその言葉に同意しているように忍には見えた

―そこまでお考えでしたか…感謝してお世話になります―

そう言うと命の中に入っていく泉の精に

「取り敢えず今後の事も有りますから今回の犯人は私達で捕らえます」

そう言うと忍に向かい

「見張りを残し私達は食事に戻りましょう、翔…」

と、命が呼ぶとどからともなく紅い鳥が現れ命が差し出した右手に止まり

「何者かがこの泉に近付くのを感じたら知らせなさい」

そう言われると近くに有る木の中で一番高い木を選び先端に止まって気配を探るのが忍にもわかり

「水が流れ出すのにも時間が必要でしょうから戻りましょう、皆も心配している事でしょうからね…」

そう言うと身体を預けてきた命の身体を受け止め馬車に戻っていった

 

二人が馬車に戻ると一行は既に食事を終えていて二人の帰りを待っていた

「ン~っと…、取り敢えず忍とご飯先食べるね?」

そう命に言われて

「留美菜、みこちゃんの食事を手伝いなさい、ミナと春蘭は出発が遅れそうですからどうしますか?」

瑞穂が聞くとミナは躊躇わず

「先程の続きをします」

春蘭は暫く考え溜め息を吐き

「私も続きをします」

そう答えると

「留美菜とりんは二人の食事が済んだら後片付けをしなさい」

そう指示して二人の食事を見守った

先に食べ終えた忍に大まかな話を聞いて

「確かに命様の言われる通りにあまり良い予感はしませんね…」

阿が言うと瑞穂と春蘭も頷いて

「留美菜とりんは後片付けを終えたら私が水を汲んできますから命様が着替えた物を水洗いして干しておきなさい」

春蘭がそう指示すると瑞穂が

「春蘭、水は私が汲んでくるから貴女は続きをしなさい」

そう言われて

「わかりました、よろしくお願いします」

頭を下げそう答えると書類のチェックを再開した

 

暫くして既に留美菜とりんは洗濯を始め阿と瑞穂、忍は座禅を組命も目を閉じて意識を翔に向けていた

ー来たでっ!ー

翔の報せが届き

「阿…頼みます、忍はついてきなさい

瑞穂は皆を頼みますよ」

そう言われて手を差し出す命を抱き上げる阿と立ち上がる忍はすぐに泉に向かい瑞穂は

「仕方無い…私はござを片付け出発の支度をします」

そう瑞穂に言われて

「ミナさんは先に馬車に戻って続きをしてください私は瑞穂様と出発準備をします」

そう言って残った者達は自分達がしておくことをすることにした

 

泉に着いた三人に

ーそれは獣達の礼やー

そう言われて三人が見ると木の実や草の実等が山の様に積まれていた

「有り難いですね…」

そう呟くと

ー来たでー

そう言われて人が上がってくるの気配がする方を見ているとあまり賢そうには見えない大男が現れ

「どう言うことだ…言われた通りに俺が投げ込んだ岩はそのまま有るのに何故水が湧き始めたのだ?」

そう言って考え込男を見て

「どうやらあの男は直接闇の者に支配されてないようですね…

しかも意識を失わせ街中に放り出せば自らボロを出す程度の愚者の様です

頼みます、阿…翔は案内を任せます」

そう言われて返事をするより先に男の意識を奪い担ぎ上げると

「頼みます」

と告げると

ーわかった、ついてきなー

そう翔も応えた

二人はマントに獣達からの贈り物を包むと馬車に戻る事にした

 

大男を担ぎながらその男が来たであろう獣道より険しい道を苦もなく駆け降りる阿

町外れに男を放り投げ山から様子を伺うことにした

暫くして意識を取り戻し茫然自失の体で座り込む男に街の者が気付き

「水源地の様子はどうだった?また水量が増え始めたのか?」

そう聞かれたけど男は

(泉の様子を見ていたはずの俺が何故街中に?)

と、すっかり混乱していたから一人の小太りな男に

「議長さん、俺があんたに言われた通りに投げ込んだ岩はそのまま有るのに水が湧き始めたのだ

だから俺のせいじゃない、残りの礼金はきっちり払ってもらうからなっ!」

声を荒げる男に議長と呼ばれた男は

「お前は何を言っているのだ?ワシはそんな事頼んだ覚えはない」

そう慌てて言うと

「今更そりゃないぜ、あんたが丸い岩か大きな岩を投げ込み水源を塞いだら褒美をやるって言ってきたんだろっ!?

まさか残りの礼金は初めから払う気が無かったんじゃないたろうな?」

そう言われて更に焦って

「な、何の話だワシはそんな事言った覚えはない、ワシは知らんからなっ!」

そう叫んだが

「その男を連行しろ、議長…あんたにも色々聞かなきゃいかん事が有るようだな?ご同行願おう」

そう言われて保安官に連行される男を見て

(あの男も闇の支配を受けてる気配が無い…)

そう考えていると

ーせやけど闇のモンの臭いはする、おおかた旨い話しに乗せられたんちゃうの?ー

そう言われて

(成る程…命様の言われていたあまり良い予感がしないのはこの事ですね?)

そう考えていたが

ーみこの元に案内したるからついてくるんやでー

そう翔に言われて

「頼みます」

と応え翔の後を追った

街中では人の視線を感じた保安官が阿のいた辺りを見たが既に阿は姿を消した後で気のせいだと思うことにした

阿が命達と合流したのは道が二股に別れている所で既に日も傾き始めていた

阿が馬車に乗ると

「命様、本当は先を急ぐべきなのですが右の脇道に寄りますが宜しいですか?」

そう春蘭に聞かれ

「良いよ、春蘭に任せるね」

翔に草の実を与えながら応える命の手に止まる翔に留美菜とりんが興味を示し

二人が別の草の実を掌に乗ると二人の掌の草の実をついばみ二人を喜ばせた

馬車が暫く走ると楊牧場と書かれた看板が見え牛や羊に馬や豚等の家畜が飼われている様だった

そして一番大きな家屋の前に馬車を止めてもらうと馬車から降りる事になりまず阿が降りて命を下ろす事にした

 

 

②初演

 

日没前のこの時間に牧場を訪れる者等ほぼ皆無でその訪問者達の乗る馬車が王家の紋章を付けていればその驚きは尚更だ

馬車が止まり最初に降りて来たのは騎士の平服を着た女戦士で女戦士が抱き下ろした少女を見て人達の目は点になった

少女が着るその奇抜なデザインの服に…

その服はミナが御法原案のひとつでピンクのバニーだ

 

 

 



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国内ツアー第一幕

ツアーの第一幕は町外れの牧場の牧夫達の前で歌い踊る精霊の巫女の楽しい幕開け…彼女の旅が始まった


今回三枚の原画の服はピンキーエンジェルと人魚媛も持ってきているけど命の希望でピンクのバニーにしたのだ

もっとも留美菜とりんが良い顔をしなかったは言うまでもないけど命に言われてダメと言えない二人に任せたのがそもそも失敗の元

だがピンクの服を着た少女の後に降りた侍女の服を着た少女が

「命様、大切なものを忘れてますよ?」

そう言いながら愛用の竪琴を渡すの見て

「ま、まさか人魚姫様!?」

そう言って驚き続いて降りた少女の後に降りた人物を見て老夫人が

「まさか春蘭お嬢様?」

そう声を掛けられた春蘭が

「お久し振りですね?お糸さん、楊さん」

と、応えると

「春蘭、知り合いですか?」

そう瑞穂に聞かれ

「昔母の薬草畑を手伝ってくれていた方達です」

そう紹介されるた瑞穂は

「だから会いに来たと?」

瑞穂にそう言われて

「いいえ、観月様に与えられた課題です」

そう言ってお糸さんと呼んだ老夫人を見て

「少しばかり大切な話が在りますからお時間を頂けませんか?」

と言われて昔世話になった家のお嬢様に言われ無下にもいかず

「事務所で宜しいでしょうか?」

と聞かれた春蘭は

「構いませんと言うよりそちらの方がむしろ都合が良いです

留美菜は私についてきなさい

ミナさんは荷物の整理でりんはミナさんを手伝って下さい

命様はどうされますか?」

そう聞かれた命は

「今日はあんまし踊りのお稽古出来なかったからお稽古したい」

そう命が言うのを聞いて

「ミナさんとりんが稽古着に着替えさせてくれるのなら稽古の間は私が見てますが?」

そう忍に言われ

「ミナさんとりんは着替え手伝ってから荷物の整理お願いします

忍さんも命様の事宜しくお願いします」

と云い自らは留美菜を連れ糸の後に続いて事務所に向かった

「まず本題の前に干物や塩漬けは要りませんか?

私達では食べきる前に傷みそうな位持たされましたから」

と、笑顔で言われ

「では私達の造っているハムやソーセージと交換致しましょう」

と、言われ

「ではその件については後程と言う事で…

こちらで紡績している毛糸を見せていただきたいのです」

そう言われて毛糸玉の入った箱を部屋の片隅から春蘭の前に置くとその中の一玉を手に取り観月から預かったサンプルと見比べて

「もしお糸さんさえ良ければ美月に推薦しようと思いますがどうでしょうか?」

と、聞かれ

「このような地味な物をですか?」

そう言われて

「この無着色の物を自然な風合いが良いと好む方も居ますし…

染色なら木綿糸や絹糸の染色も手掛けている美月が指導してくださるはず」

そう言われて

(あくまでも観月様がお決めになるのだろうから結果はわからないけど見てもらおうかね…)

と、そう思い

「お嬢様に任せます」

と、応えたので

「箱ごと譲っていただきますがいくらになりますか?」

と尋ねると

「一玉二百で百玉入ってますから二万ですが…在庫がダブついてますからただでお譲りしても良い位です」

そう言われた春蘭は

「これは貴女一人で作った物ではない筈なのにその様な事を言ったらその方達や毛を刈られた羊も可哀想ですよ?

それにただで頂いてしまったら私が観月様に叱られてしまいます

美月の新素材買付を任されたのに私情とただで貰ったから推薦したのですか?と…

勿論物を見ていただけれはその様な事が無いのはわかっていただけますが…

それが慣習になり美月に扱ってほしいと思う人達がただで持ってくるようになれば収集が着かなくなりますからね」

そう言われて

(元々しっかりされていたお嬢様が…)

そう思うと嬉しくなり

「承知しました、二万kcになります」

そう言われて支払いを済ませると

「お嬢様達のこの後の予定はどうなっていますか?」

と、聞かれた春蘭は

「魚を見て頂き毛糸を積み込んだら街に降りて宿を探そうと思います」

そう答える春蘭に

「決して騎士の方達を軽んじてませんがこの先には怪異の噂が絶えない所が在りますしなにより月の明かりも届かず片方が深い谷の狭い山道は馬借すら日がくれてからはこの道は通りません

ですからもう日も暮れていることですし空いてる部屋も在りますから今夜はこちらに泊まっていかれては?」

と、言われていると命の手を引いてきた幼女が

「えーっ、みこちゃんもういっちゃうのぉーっ?お泊まりしてってお姉さんにお願いに来たのにぃ~っ!」

と言うとその後ろから

「春蘭、私もその方の意見に賛成です

まぁ怪異についてはなんとも言えませんが狭い谷あいの道を暗くなって走るのは自殺行為です

旅は始まったばかりですし留美菜とりんは初めての旅ですから初日から無理はさせない方が良い」

阿が言うと瑞穂も

「ここの様な人里離れ牧場や農場を営む人達は基本的に娯楽に飢えてます

ですから命様のこの旅の最初の舞台にし皆さんに楽しんで貰うべきだと私はそう思いますよ?」

そう言われて

「私は焦りすぎなのでしょうか?」

そう春蘭に聞かれ」

「もう少し皆を頼りなさい

貴女は貴女にしか出来ないことを頑張り留美菜やりん、私達の出来ることは私達に任せなさい

と、言う事で取り敢えずハムやソーセージ等を試食させて頂き鬼百合が喜びそうだな?

と、瑞穂と話していたら二、三日中には馬借が王都にむかう途中寄るから馬借に渡す手間賃込みでなら馬借に頼むよ?

そう聞いたので注文に来た」

そう阿に言われて

「なら私が注文しますから瑞穂さんと忍さんは馬車から干物や塩漬けなど持ってきてください

留美菜は命様を連れてミナさんとりんと一緒に命様の舞台の支度をしなさい」

と、言うのを聞いた幼女…絃の孫ミミが

「今日みこちゃんお泊まりする?ミミみこちゃんとおねむして良い?」

と、聞かれ絃は目を丸くして驚いたけど阿が

「ミミが良い子で今夜は早く寝ると約束出来るなら命様の隣で寝ても良いです、約束しますね?」

そう言って左の小指を立てて見せるとミミも

「約束出来るっ!」

そう言って阿の指に自らの左の小指を絡ませ

「約束、約束指切ったっ♪」

と、二人で誓約を交わす

「留美菜、この娘も頼みますよ?」

そう言われて留美菜は命とミミを連れてミナがいる場所に

瑞穂と忍は味噌漬けと塩漬けに一夜干しを持って事務室に戻ってきた

 

「一度に送れる量はどれ位ですか?」

そう聞かれて

「馬借の荷の状態にもよるけどうちの枠は今回他に注文無いから十貫なら大丈夫だよ?」

「ならハム、ソーセージ、干し肉を適当に十貫分詰め合わせて王宮の鬼百合さん宛に送って下さい

あ、魚が来たみたいです」

そう言われて見せて貰ったのは一夜干しと塩漬け味噌漬けの入った中位の壷でどれも旨そうだけど確かに一行だけでは食いきれる量では無い

特に一夜干しは急いだ方が良いだろうと思い

「じゃこれは売る分と別にして渡しますね」

そう話していると

ー見本一足先に持ってたろか?ー

頭に響く翔の声に

(小鳥のお前がか?)

そう皮肉られるの予想の範囲内で

―ペン程ちゃうけどボクかて魔力解放したら大きゅうなれんねんで―

そう言われると(大きく…か?どれくらい大きくなると言うのだ)

翔の言葉を真に受ける気が無いその口調にムッとした翔は

―まぁ翼を拡げたら四尺ちょいやけど魔鳥化すんねんからまぁ五十貫は軽く運べるわなっ!―

得意気に言う翔に

(そんなに?)

そう驚く阿を他所に

―せやから魔力を持つ魔鳥やゆーとるやん?―

面白そうに言う翔に

(そうですね、では少し篭に入れて貰いますから頼みますよ?)

そう言われて

―あぁ、任しとき…ただし夜や無いと具合悪いさかい今夜の内に出発したいから安生頼むでー

翔がそう答えると

―おい駄鳥、私も連れてけ…もうこれ以上私を貪り喰らう獣臭い奴とは一緒に居りとうないっ!―

その花の娘の訴えを無視して

(夜で無いと都合悪いとは夜で無いと巨大化出来ないとか?)

瑞穂の頭に浮かんだ疑問に

ーそんなんちゃうで?別にペンの飛行形態ちゃうんやからそない縛りはない

ボクの身が危ないんよ、ボクの魔力は人間や精霊には向けられん…

つか攻撃出来ひん縛りがあるさかい人の目に着きた無いんよ…って今笑たやろ?

まぁ魔鳥ゆーたかて見た目は朱鷺色の…極楽鳥にかてひけをとらん別嬪なんやで?後で謝らしたるから覚悟しときやー

そう言われて

(そうだな…楽しみにしている)

そう言われて

ーふんっ…ー

と鼻を鳴らすと念話を打ち切る翔だった

阿の指示でハムの塊、ソーセージ一貫、干し肉一貫、毛糸玉、牛肉の燻製の塊、毛糸玉を篭に入れ翔の待つ馬車に行くと

「翔…なの?」

そう言って言葉を失う春蘭と絶句する阿に

ー納得したようやからそんでええ…

これとおんなじ霊気の所ゆけばえーんやろ?

ほなちょっくら行ってくるわっ♪ー

そう言って魔力のみで浮き上がると物凄い勢いで飛び去る翔に

―こら、駄鳥っ!私も連れて行けっ、置いてかないでくれ、見捨てるなっ、駄鳥っ!―

そう心の叫びを上げたが誰にも相手にしてもらえなかった

 

「行ってしまいましたね…」

そのユウの呟きに観月は

「祭典までには戻ってきますし何より未だ国内に居るんですよ?」

そう言われて

「それはそうですけど国王様は一体大公宮をどうなさるおつもりなんでしょうか?この先私達は一体…」

不安気なユウに

「大公宮を廃止し王女宮を創設します、つまり命達のお城になるわけですね

そして王女宮は公女宮同様政治不介入を原則としますから私がこれ迄同様に四人の後見役…

私は女神の依り代として大公領に戻りますから貴女達の内の誰かが私の代理人として私の部屋、父の執務室兼私室に詰めて貰います」

そう聞いて

「では私達はこれ迄通り命様達のお側に?」

そうユウに言われて

「妬ましいですが…

まぁ冗談は置いておくとして実際には命は十六夜とユイの婚礼の儀式の際には一時帰国するとはいえ国本を離れますし…

チサには基本的に東の大公領に詰めて貰いますから…」

寂しそうに言う観月に

「阿吽のお二方が離れていても意志疎通が出来るのなら精霊の巫女のお三人と命様の双子の真琴様達ならいずれ可能でしょう

何方かのお側に居られれば良い気がしますが女神の依り代たる観月様も命様達側の人だと思いますよ?」

そう笑顔で言われ

「そうだと良いのですけどね?

取り敢えず真琴の部屋になる睦月兄さんの部屋の私物を纏めて置きなさい

朝食の後から鬼百合達が加勢に来ますから力仕事は任せれば良いのですからね

真琴の部屋が終われば侍女は、貴女、マミ、雪華、スー、はな

戦士の部屋は鬼百合、吽、白浪、柳水の構成になりますから任せます」

そう言われ鬼百合と一緒なのにホッとするユウだった

その日の夕方には模様替えが終わり早速先程名前の上がった者達の引っ越しをした

晩餐が終わり食後のお茶で寛ぐ一同に緊張の色が走る

魔力を持つ何者かが急速接近しているからだが隠れて窓から様子を見る戦士達

しかし緊張感は接近者が窓から浸入する事無く壁に激突すると言う結末に呆れたが…

呆れながらも鬼百合が受け止め無ければ更に地面に激突するのは免れ無かっただろう

その魔鳥のチョーカーに命の勾玉と霊玉が着いている事に気付くとみるみるその体は縮んで

鬼百合の片手に収まるサイズになり意識を失っても放さなかった篭を手放した

落ちた篭を拾い小鳥になった魔鳥…と言っても感じる魔力はすっかり小さくなっていたのだが…を観月の元に連れて行くことにした

鬼百合が持って来たそれは確かに接近者の魔力を感じるけどその身は小鳥の大きさになっていてすっかり魔力を感じられないレベルまで低下している事に驚いたけど真琴は警戒を緩めずに

「みこの使い?」

そう聞くと

「多分な…」

そう答え勾玉と霊玉を見せ観月の前に

「こいつが持って来た」

そう告げると用心の為吽が篭を開けると

「ほおっ…」

と、吽が声を出し観月も

「春蘭からの手紙ですね?」

そう言って目を通すと

「ユウ、この毛糸玉の品質をどう見ますか?」

そう言われて受け取り暫く観察した後

「細かい判定迄は出来ませんが美月で扱う水準は余裕でクリアしてますが?」

それがどうかしましたか?と言う表情のユウに

「楊と言う者の一族が経営する牧場で紡績しているそうですが美月で扱う事は可能かと春蘭が推薦してきましたが貴女の意見は?」

そう聞き返され

「あのサンプルだけで推薦出来るのでしたら、バイヤーの資質があるかも知れませんね?」

と、答えると

「みこの側付きだけでなく共に旅し色々な無名の名品の発掘が期待出来るかも知れませんね?」

嬉しそうに言う観月に

「今までは意識してませんでしたが命様は人を呼ぶ方なのかもしれませんね?

最初に呼ばれたのは翼様とチサ様、次に鬼百合様と戦士の皆様達

ミナだってあの娘の眠っていた才能を目覚めさせたのは命様との出会い…」

と、神話を語る様に言うユウに

「私もその例に漏れませんが鬼百合、このハム等は阿達が貴女に食べて欲しいと持たせた物です」

そう言われてハムの塊にナイフを入れて削ぎ切りにして食べ驚き更に王に渡すと王も驚き

「鬼百合殿、このハムに合いそうな葡萄酒があるがこの後一緒にどうかな?」

そう言われてユウの視線を気にし

「あぁ悪くない話だが葡萄酒なら呑む者同士で注ぎ合うよりは注いでくれる者が居た方が良い、ユウ頼めるか?」

そう聞かれたユウが観月を見ると

「伯父様はあまり強くない癖に量を呑みたがりますから呑ませ過ぎないよう気を付けなさい」

と言うと言うと王妃も頷いたので

「頼むぜユウ、だが…」

と言って更にハムを削ぎ切りにして王妃、観月、翼、真琴、チサと渡し試食させるとやはり皆驚き

「明日の朝飯に出してもらって良いか?」

と言うと王妃が

「貴女の分が減ってしまいますが良いのですか?」

と聞き返すと

「アタイは大喰らいだが旨い物を独り占めする趣味はねぇ

同じモン食ってたって一人で喰うより気の合う仲間と一緒に喰うんじゃ味が全然違うからな」

と言い観月も

「阿から後日十貫分を詰め合わせて送るから楽しみにしとけと言ってますしこちらでは焼肉も楽しめますよ?

そう書かれてますから一度ユウを連れて行きませんか?」

と観月に言われた鬼百合が溜め息を吐くと

「闇に唆された者が手下を使い悪事を働いているらしいですから闇の者と遭遇する可能性が否定出来ません、ユウを頼めますね?」

そう言われてはさすがにイヤとも言えず

「あぁアタイの名誉に掛けユウの身は守る」

そう言うと喜んだユウが鬼百合の手を握り

「宜しくお願いしますね鬼百合様っ♪」

そう言われて辟易する鬼百合だった

「所で観月様、この子については何も書かれてないのですか?」

翔を鬼百合から預けられたユカがそう聞くと

「みこの使役獣の翔としか書かれてませんが暫くこちらで連絡係に使って良いそうです」

そう聞いた真琴が

「その子から感じる魔力はみこに近く火と冷気を感じるからチサが面倒見るのが良いんじゃないのかな!」

そう言うと

「私達の持つ蒼い霊玉の霊気を目指しどの窓から入れば良いのかわからず壁にぶつかるような子ですから…」

そう聞いてあの朝の事を思い出し笑いするユイとそれとは関わり無く

「有る意味みこちゃん以上に世話の焼けそうな子ですね?」

チサがそう笑いながら言うと皆も笑い合う中翔が目を覚ましチサがてを差し出し

「おいで」

と、声を掛けるとパタパタっと飛んで差し出された指に止まると

「どうやら翔もチサを気に入ったみたいだね?」

真琴がそう言うと

「チサと言います、宜しくね翔ちゃん」

チサが言うと

―うん、安生頼ンます、チサ…様?―

そう言うと

「チチチッ」

と鳴いてみせる翔だった

 

翌日は翼の部屋で侍女はユキ、サエ、弥空、スエ、なみで戦士は沙霧、斬刃、千浪

その翌日にはチサの部屋が済み侍女はユウ、マキ、深潮、スズ、小明で戦士は修羅、拳火、モリオン

更にその翌日とその翌日の二日掛けて観月の部屋の整理が終わるとユリ、マイ、マナ、マユと残りの見習い侍女と嵐に二人の教師が住む事になった

その日の夕方の少し前に馬借が鬼百合宛の荷を運んできたが改めて見たその量の多さに

「鬼百合、勿論それは貴女に送られて来た物ですから貴女の判断に任せますが…

貴女が嫌で無ければ海軍寮で海軍の兵士達とこれで酒盛りしてはどうですか?」

そう言われて

「成る程…さすが観月、目の付け所が違うぜ

今から声掛けてくるがお前等も来るんだろ?」

そう言われた戦士達は頷き真琴も声を掛けて貰いたいけど王妃の手前自分からは言えずにいると

「真琴…行きたければ何故そうはっきりと言わないんですか?」

呆れて言う観月に鬼百合も

「アタイは構わねぇが曲なりにも王女様だからな…」

そう言って真琴と二人で王妃を見ると王妃も溜め息を吐いて

「行ってきなさい真琴、海兵達喜びますからね

翼は今夜は私のお供で招かれている夜会に行きますからチサも真琴と一緒にどうですか?

それを聞いた王が

「チサ迄で行かれては私はどうなるのだ?」

と言われて

「息子達にユイと観月に美月のスタッフがいますっ!」

とピシャリと言われて口の中でブツブツ言う父を見ながら

「兄上、ああはなりたくないものですね?」

とこっそり言ってきたが

(既に手遅れだよ…)

そう思いながら

「そうだな…」

そう言って苦笑いする兄だった

 

命の支度と食事の支度が整う命の舞台の幕が開いた…幕はないけど

奉納の踊りを舞い歌い始める頃にはが終わり竪琴を受け取り歌い始める頃には十世帯六十人全員が揃い楽しい夜が始まった

命はいつものようにアンコールを含め十曲歌い歌い終えると着替える為一旦下がる事になった

皆の顔は笑顔に満ちていた

瑞穂の言葉通り娯楽のない牧場の

生活は忙しく充実感は有るがやはり刺激の少ない毎日

そんな集落に久し振りに噂に聞いた

歌う人魚姫が訪れのだ

子供達の笑顔を喜び大人達も料理用の葡萄酒を提供して貰い魚を食卓に出し

久し振りの葡萄酒と焼き魚を堪能した

一行はその代わりに留美菜やとりんの勧めでどぶろくと酒粕を譲り受けた

 

風呂が沸いたと言われ春蘭とミナが若い母親達に

「宴会場は私達が見ますから子供達をお風呂に入れてきてくださいっ!」

そのキツい言われようにブツブツ文句を言っていたがすぐにそれが間違いだったと知る

湯槽に入った命の身体が人魚化しているのを自分達に見せる為なのだと気付いたからだ

命の人魚姫姿を見た母娘達の喜びの声は後々迄の語り草ではあるけど本人達の幸せは立ち合った者以外には理解できないモノだろう…

翌朝いつものように歌の稽古に軽い散歩をしてからお祈りをして朝食になり出された乳粥が気に入ったらしくミナですら驚くほどの食欲を見せ

だから午前中は命に踊りの稽古をして貰いミナは色々なレシピを教えて貰い春蘭は留美菜とりんに勉強を教え昼食後に峠の町を目指した

 

未だ陽は高いけど先に進むには既に遅い時間だから今日はこの街に泊まることにした

街に一軒しか無い宿屋に行くと割合大きな店で団体用の大部屋借りる事にした

少々広すぎるきらいはあるものの別々の部屋よりは良いと判断したのだ

仲居のもてなしのお茶を呑みながら寛いでいると

「女将が部屋を訪れ人魚姫様に町長が面会を求めてきましたが?」

そう言われて

「命様との面会を?」

そう言われて小首を傾げる命に代わり面会理由に見当がついている春蘭が

「構いませんから入ってもらってください」

そう告げると

「少々お待ちください」

そう答え部屋を一旦下がると町長を案内してくると恭しく頭を下げるその男に

「命様は勿論私達の誰一人その様にかしこまった挨拶には慣れてませんからお気になさらないでください

それよりどこを予定しているのですか?」

いきなりそう聞かれ驚く町長に

「命様に歌の披露を頼みにいらっしゃったのでしょ?ですから歌の舞台となる場所をお聞きしたのですが?」

そう春蘭に言われて

「お願いしても宜しいのでしょうか?」

そう問い返すと

「この旅は命様のお披露目の旅ですから命様を知っていただくのは歌を聞いていただき歌う姿を見ていただく事が一番早い

それに新に覚えた踊りを見ていただくのも命様ご自身が楽しい事ですしね」

町長が驚きのあまり言葉を失っているのを見かねた女将が

「うちの宿の裏には遠い昔舞いの女神、舞彩様が歌の女神、ハーモニー様を訪ねて来られ

再会を喜び踊った際供をしてついてきた小鳥が落とした実が芽吹き御神木と祀られた十二一重の樹の前に奉納の演舞台があります…

勿論先程の話の真偽の程はさだかではありませんが私の家は代々御神木のお世話と舞台の管理を行って参りました」

女将がそう話すと

「それは真の事で私もその場に立ち合いした…ってアクエリアスちゃまがゆったよ?」

そう命が告げると

「だそうです、良かったですね?女将さん

町長さんも何かご意見は?」

と春蘭に問われ

「公演料は如何程でしょうか?」

と言われ

「こちらの舞台をお借りしますからこちらの料理を召し上がっていただくと言うのはどうでしょう?」

そう春蘭に言われて

「命様の報酬の事です」

そう話していると

「留美菜ちゃん、りんちゃんこのクッキー美味しいね

ママにお土産に持って買えったら喜ぶかな?」

その命言葉に

「旅の途中で食べちゃって全部無くなりますよ?」

留美菜に言われて珍しく

「そうだね…沢山有っても割れちゃうしね…」

と話すのを聞いて

「だそうですからあの香草入りのクッキーを幾らか分けて頂ければ良いです」

そう春蘭に言われて

「もうひとつ然程大きな街ではありませんがそれでも私共だけで

料理を賄い切れませんしそもそも食材も…」

その女将の言葉に

「留美菜にりん、昨日習った干し肉のスープ出来ますね?

ミナさんは本番まで内職をしお湯を沸かして置きますから本番ではそれでソーセージを茹でてください」

そう三人に指示をし町長と女将を見て

「串を作りたいのですが近くに竹は生えてませんか?」

と春蘭が訪ねると

「多分その程度の竹なら竹細工を生業にしている者の所行けばいくらでも余ってると思いますからご案内しますよ?」

そう言われた春蘭はの

「阿さん、忍さん、瑞穂さんは留美菜達が作るスープの食材とソーセージ私が用意する生ハムのマリネ

他に馬鈴薯にキャベツ

女将さんに渡す塩漬け、と味噌漬けの魚を荷下ろししてください

留美菜とりんはスープとマリネに必要な野菜を説明して野菜を下ろしてたら刻んでくださいね?」

当面の予定を告げると

「宜しくお願いします」

そう言って町長に頭を下げる春蘭だった

竹細工の工房には竹製のザルを始め日曜雑貨が何点か並んでいて今も制作中だった

「こんにちは」

そう挨拶して工房に入ると町長が

「精が出るね、マダケさん

こちらのお嬢様は人魚姫様のお世話係をしてる方でね…」

そうそう話していると

「町長、アンタの目は節穴かい?そのお嬢様の顔をよっく見てみるんだね」

そう言われて春蘭の顔を改めて見て

「あっ!」

と、驚きの声をあげ

「た、確かにあの方のお若い頃にそっくりだ…王都の市長、劉啓吾氏の奥様に」

そう言われて驚き

 

 



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国内ツアー第二幕

女神達と水の精霊の足跡を見た巫女その思いでの地で踊りを奉納しその歌声で人々の心を癒そうとした…魔物が跳梁跋扈し始め闇に怯える人達のために


「は、はい確かに私の父は劉啓吾ですが今は国王様より男爵の位を賜りその任を拝命しましたから市長の役職は別の方に引き継がれましたけど…」

と答えると

「さすが陛下、あのお方なら陛下の期待は裏切らないでしょうね」

そう言われて

「父をご存知なんですか?」

そうどちらにともなく聞くと

「貴女のお祖父様からのお付き合いですから幼馴染みと言っても良いでしょう

植物学者だった啓太博士に連れられよくこの街を訪れましたからね」

そう工房の主に言われ

「父をご存知なんですか?」

そうどちらにともなく聞くと

「貴女のお祖父様からのお付き合いですから幼馴染みと言っても良いでしょう

植物学者だった啓太博士に連れられよくこの街を訪れましたからね」

そう工房の主に言われ

(お父さんはあまりそう言う私達が生まれる前の事は何も教えてはくれませんから…)

そう思っていると

「人魚姫様に喜んで頂いたクッキーのレシピを考えて下さったのは貴女のお母様ですよ?」

そう言われて更に驚きのあまり言葉が出ない春蘭に

「ところでそのお嬢様は何のご用件でお越し頂いたのでしょうか?」

と言われ

「料理に使う竹串の材料の竹を分けて頂きたいのですが…」

春蘭に言われて笑いながら奥に入り太い竹筒を二本持って来ると

「わざわざ作らずとも私が作った物を使ってください」

そう言われて

「有り難うございます、代金は…」

と聞かれた主が春蘭の顔を見て

「無料と言いたいのですがそれでは貴女が由としないでしょうからその竹串を使った料理を私にも分けてください

因みにおおよそ五百位入ってますから合わせて千kcで売ってますよ?」

そう言われて

「わかりました、今夜は奉納の演舞台で命様の踊りと歌がありそこで宿屋の方と共に料理を提供しますからその時に召し上がって頂きたいとますが?」

そう言われて

「それはどちらも楽しみですね…」

そう言って微笑み

「今日の仕事は早めに終え見物に行くとしましょう」

そう主が言うと作業をしながら聞き耳を立てていた者達も目を輝かせ作業を急ぎ始めた

 

春蘭が宿に戻ると既に野菜を刻み始めていて湯を沸かし始めていてそれを見た春蘭は串の入った竹をテーブルに置き皿を用意してもらうと短い串を一本取りだしソーセージも一本摘まむと縦に串刺しに干物は頭から串刺しにして見せ

「阿さん、忍さん、瑞穂さんはこの様に干物とソーセージを串刺しにしてくださいませんか?」

そう頼むと阿が

「承知した」

と答え忍と瑞穂も頷き串を刺し始めた

春蘭自身は馬鈴薯の皮を剥き丸のまま鍋に入れキャベツはざく切りにして置きマリネ様に野菜を刻み始めた

馬鈴薯に火が通り小さいソーセージを入れざく切りのキャベツを敷き詰めるとその上に突き立てるように串に刺したソーセージを立て終わる頃

王都に比べ早いに日没の早い山間部の夜が訪れようとしていた

留美菜にスープを見させりんにミナの手伝うよう指示し着物に着替えさせた

今夜は人魚姫の着物で髪型も右側で束ねるだけにしておくに止めた

奉納の踊りを舞い竪琴を受け取り全十曲を歌い上げ今夜の舞台を無事務め宴の本番になった

久し振りに入荷された海の魚は飛ぶように売れたし串に刺したソーセージも人気が高いしマリネも若い女性を中心に売れた

そしてソーセージとスープが尽きると代わって今まで煮込まれていたソーセージにキャベツ、馬鈴薯が盛られた椀と厚切りのハムを炙ったものが提供され再び人達の食欲はそそられた

最終的に結構な数の家族が酔っ払いの父親に手を焼き宿の部屋まで位なら阿や瑞穂に忍が運んだから宿に泊まり

宿の食材と酒も大半が売れ一行も準備した料理は完売しミナがこの二日で完成したしたエプロン十枚も完売した

それらを観月への報告書に纏めたのは夜明け近くの事だったけど未だ起きて針仕事をするミナに声を掛け共に眠る事にした

 

いつもの様に…とはいかず踊りの稽古をしお祈りを済ませ朝食を摂っていると春蘭の予想外の事態になった

街の人達が色々な贈り物を持って宿を訪れて来たのだ

命に仕えたいと望む少女三人とその親達も訪れてきた

町長は変わった馬車を持ってきて通常の馬車より長く背が高い

扉は前の方に有り窓は小窓が三つに中央に大きな物が1つ見える

受け取って良いのか受け入れて良いのか悩む春蘭に

「命様の意見をお聞きしては?」

ミナが言い

「命様は彼女達三人が供として受け入れても良いですか?」

本当は命と三人が仲良さそうに話していたのを見掛けていたけど敢えてそう聞くと

「うん、一緒に来てくれたら嬉しいよ」

命が答え忍も

「観月様は命様の意思を優先する様仰ってますから命様が三人を受け入れるのなら馬車は必要ですよ?」

と言い阿も

「それでも一目見ただけでわかる特注品の高そうなこの馬車は頂くのではなくお預かりするのだと思いなさい」

そう諭し瑞穂も

「皆さんの命様への感謝の気持ち…貴女も感謝の気持ちを忘れずに有り難く受け取りなさい」

そう言うと命が

「皆ありがとねっ♪」

笑顔で言うとそれまで躊躇っていた春蘭も

「有難うございます」

そう言って頭を下げたので町長が阿と春蘭に馬車の説明する間ミナが贈り物を分類訳しておくことにした「この扉から中に入ると前部は八人掛けの座席と簡易の寝台が二つ

後部は天井の高い簡易の調理場になっていますから天候の悪い時でも簡単な調理なら行えます

そしてその奥に入りますと内扉がありそこは貨物スペースとなっていますから食材はこちらに収納する事をお勧めします」

そう説明を受けその進言を受け入れ持ってきた荷の食材と今貰ったばかりの食材を借り受けた馬車に入れ

食材以外の贈り物を乗ってきた馬車にしまうと瑞穂が

「こちらの馬車の馭者は私がします」

そう言うと

「それでしたら午前中は互いに自己紹介を兼ねて親睦を深めたいですから乗ってきた馬車に全員乗り

昼食の後午睡の命様と見守る者が瑞穂様の方にと別れましょう」

そう決めもう一度

「皆様、有難うございました」

そう言って頭を下げると一同も下げ命も

「またいつか来るねっ♪」

そう言って馬車に乗り込む

馬車が走りだし暫く走ってついてきた子供達

命との別れを惜しみ、友との別れを惜しんで…

 

「私の名はつぼみです、八歳になりました」

「私はつぐみ、七歳になります」

「私はしずく、今年七歳になります」

そう名乗ると一同も名乗りその後命は歌の稽古をし春蘭とミナはいつもの作業、阿と忍は仮眠になり三人は留美菜とりんに命の事を色々聞いていた

出発が大幅に遅れた為に昼食は早く宿から贈られた弁当を食べることにした

 

「春蘭さん、つぐみちゃんとしずくちゃんは私と殆んど変わらないから予備の制服渡して良い?」

と聞かれ

「制服は観月様への報告後にしましょう」

そう答える春蘭に

「吽を通して観月様から三人の受け入れ承諾を頂いてます」

そう言われて留美菜も

「じゃあつぼみちゃんは私のサイズみたいですから早速着替えますか?」

そう言って三人を連れて馬車に戻る留美菜とりん

その五人の後ろ姿を見ながら

「今程度の事なら私に言えば王宮の吽を通し観月様から指示して頂けますから聞きなさい」

そう言われて

「その様な力をお持ちとは存じませんでしたから…」

そう言われて少し考えて

「まぁそれが当たり前ですが私達にはこうして連絡係をするのが当たり前になりすぎてその事を知らない者がいる事を忘れてました」

そう言って苦笑いする阿だった

着替え終えた三人と共に戻ってきた留美菜とりんに新しくお茶を淹れ一休みした後再出発した瑞穂の馬車のベッドで午睡の命と内職をしながら見守るミナと二人を見守る忍

残りの全員がもう一台に乗り込み春蘭の説明を受ける三人だった

馬借達は通常峠の街と湯元の街の間は微妙に距離が有るため途中にある無人宿で一泊するのだけど馬借以外には殆ど知られてない

知識として多少は知っている春蘭も勿論そこまで詳しく知っている訳ではない

「阿さん、夜も更けてきましたからこの先に見えてきた怪しげな宿に今夜は泊まりませんか?」

そう聞かれた阿が

この辺りに土地勘の無い私には貴女の判断に任せますが…

この様な町外れの宿は何処の国でもあまり良い評判は聞きませんが?」

そう聞き返すと

「あくまでも聞いた話ですがこの辺りに現れる盗賊の類いはお三方の手を煩わせる程の者は居ないそうです」

そう春蘭に言われて

「確かにこちらを伺う気配は感じますが苦にする程のモノは感じませんから今夜は私と忍で不寝番

瑞穂は宿で仮眠を取らせ馭者は馬車のベッドで休ませます」

そう言って宿を目指させた

宿は廃棄された別荘地だったのを修繕したらしく上品な造りをしていた

春蘭が選んだのは馬車が二台入る車庫のある部屋

取り敢えず着替えとお茶に軽い食事を用意するだけの荷物を下ろし部屋に入ると

ミナさんは寝付けないでしょうから内職をし明日馬車で寝ると良いですよ

留美菜につぼみ、つぐみ、しずくは命様とお風呂に入って下さい

留美菜、先輩として三人を頼みますよ?

りんは私と蕎麦を湯掻きましょう」

そう言って湯を沸かし始める春蘭の後ろ姿を見守る瑞穂だった

三人前の蕎麦と取り敢えず眠気覚ましのお茶を水筒二つに詰め干し烏賊を刻んだ物を皿に乗せりんと馬車に向かう瑞穂

馭者は蕎麦を食べ終えると寝台で横になり瑞穂とりんは空の器を受けとると部屋に戻り風呂上がりの命達と蕎麦を食べ

少し休んでから瑞穂と入り先に寝ている命達と同じキングサイズのベッドで眠る事に

瑞穂は春蘭が絨毯の上に敷いてくれた召し使い用の布団に潜り込むと目を閉じ仮眠する事にした

 

 

命の周りには無数のペンギンが群れていた

「ぺんちゃん?」

命がそう声を掛けると

ーそのもの達に固有の姿はなく貴女が見ているのは霊獣に対するイメージが見せてるものに過ぎないー

いきなりそう語り掛けられた命は

「貴女は誰?」

そう尋ねると

ー我が名はライラック、全ての霊獣を統べる者

アクエリアスにペンギンを預けたのも我なりー

そう言われて

「そのライラック様がみこに何のよーですか?」

今度はそう聞くと

ーお前にペンギン同様にその者達も受け入れてもらい進化を助けてやってほしいと願っているー

その命の理解を超えた答えに

「進化を助けてやってってみこどーしたいーのかわかんないよ?」

命が困惑気味にそう言うと

ーお前がそのモノ達の存在を認め受け入れてお前の霊気に触れる事が進化に導くゆえ特にする事は無いー

そう言われて霊獣に向かって

「みこが貴方達を受け入れたら嬉しいの?」

命が聞くと受け入れを求める想いが命に訴えてきた

ー受け入れて欲しいっ!ー

と、訴えてきたから…だから命も両手を広げ

「わかった、みこの所に来て…」

そう告げると歓喜の咆哮を上げ命を包み込むと姿が薄れていった

ー感謝する、アクエリアスの巫女よ…ー

そう言い残しライラックも姿を消しそれを確かめホッと息を吐き出すとゾクッ…

例えようの無い悪寒に思わず両腕を抱き締めそっと振り返るとそいつは目の前に現れ鼻の頭をなめられた

ー八青龍神っ!ー

そう唱え呪文を放つも手応えは全く感じられず全身を舐めるような粘り着く様な視線は消えない

ーお前は俺のモノだ…ー

まるで耳元で囁く様に言われて右の頬を舐められ絶叫する代わりに

ー清瀧大瀑布っ!ー

そう唱えたけど今度も手応えは全く無く

嘲る様な笑い声を残しそいつは姿と共に一切の気配を消し弄ばれて居た事実に気付いて絶叫した

 

(ここは…どこ…)

心臓の鼓動が煩く響き寒気がしたため横になったまま体を丸め両腕を抱き締めると命が目を覚ましたことにミナと春蘭が気付き二人が側に行くと焦点の合わない目の命がガタガタ震え歯の根も合わない位怯えていた

「ミナさんは命様の汗を良く拭いて着替えをお願いします

私はその間にお茶を用意しておきますから」

そう言われて寝汗でぐしょ濡れの命の服を脱がせ乾いたタオルで汗を拭き取り空色のミニのワンピースを着せテーブルの前に座る二人

その二人に命には冷ましたお茶を渡し自分とミナにはまだ熱いお茶の入った湯飲みを渡し命の様子を見守りながらお茶を啜った

「出発の時間迄そんなに有りませんから夕べ着替えた物と合わせて脱いだ服を纏めてください

私は食事の支度をしますから」

春蘭に言われて脱衣篭に畳んで置いてある服を自分達の篭に入れると自分たちの作り終えた服と作り掛の服を仕舞い出発の準備をした

瑞穂が目を覚まし子供達を起こして身仕度が終わる頃にパンとハムエッグとスープとうシンプルな朝食を用意

馭者と阿に忍の三人はハムエッグサンドにしてスープと共に運んだ

 

 

 

 

 

 

③謡華

 

今朝は朝食の時間がかなり早く胃の負担になら無いよう量を控えたこともあり昼食の時間にはまだ未々早いものの店を探す一行

その一行が無国籍料理の店と言う看板の店を見付けてその店に入ることにした

店内は昼時には少し早い為他に客は居らず給仕の女性も油断して大欠伸をしているところだった

「十二人ですが良いですか?」

そう春蘭が声を掛けると

照れ隠しで

「お昼の定食は未だだよ?」

そう言われたものの未だ半刻は有るのを見て

「構いません、もう皆待てる余裕はありませんから…」

「じゃ適当に座っとくれよ」

そう言うと奥の六人が卦のテーブルに別れ座ると人数分のお茶を用意して朝のメニューを渡し

「決まったら呼んどくれよ?」

そうそう言うと

調理場に

「団体さん入ったからねっ!」

そう叫ぶと

「おぉっ…」

とくぐもった声の返事があった

阿と瑞穂に忍の三人は朝のお任せ丼大盛りを頼みミナと春蘭は土鍋の雑炊で命にはそこから分ける事にし

留美菜とりんはパンケーキセットでつぼみ、つぐみ、しずくの三人はオムレツセットに決め注文した

給仕の女が気になるのは勿論命で小さな身体ながら周りの者達の態度は丸きり幼い主に支える騎士や侍女のそれ

それに雑炊を食べる匙を持つては小さくまるで日に当たったことなど無いかのように蒼白かった

阿もその視線が気にはなったけど逆に言えばそれが普通の反応だとも思い女を呼ぶと

「済まないがこの方は我々が主に任された大切な方だが初めての陸路の旅にお疲れの様子だから暫くは身元を隠したいがそんな宿は無いだろうか?」

そう言われて

(やっぱり何処かの御曹司かご令嬢なんだね…)

好奇心一杯の女は嬉しそうに

「この店の裏に店の親父の兄貴がやってる宿が良いよ

そこなら訳アリの男女が隠れて密会出来るは離れもあるから身元を隠したいならぴったりじゃないかい?

宿の親父を呼んでくるから待ってなよ?」

そう言うと裏口に消え宿の親父を連れてきた

「お前さん達が身元を隠したいお方はこちらの方かい?

だが宿の親父の立場上ワシ位は把握しとらんと不味いのは理解してくれるな?」

そう言われて阿は主を手招きしそっとフードをずらして主にだけその素顔を見せた

「成る程…確かに大層顔色が悪い…

うちの宿は天然温泉が売りで美人の湯とか疲れを癒す効能があると言われてるからお客さん達にはお勧めの湯だ

食べ終わったらさっきの女に案内させるがこの人数なら馬車は二台だろ?

団体客用の離れが空いてるから余裕で二台入るから今の内に馬車を入れておくと良い」

そう言われて一足先に食べ終えた瑞穂が二人に頷くと二人もそれに応じ頷き馬車に向かった

食べ終えた一同は店先に並ぶ弁当も買い求め支払いを終えると

「さぁ、行こうかい?」

と、陽気に言われて

「なんか申し訳ないのですが…」

そう阿が言うと笑いながら

「本当は渋ってた宿の親父をああもあっさり納得させたこの方の素性、気になってしょうがないじゃないか?

だからこの方がその素顔を見せる時になるべく近いとこに居たいってゆーアタシの好奇心が主な理由だから気にしなくても良いよっ!」

笑って言われてやっと納得し

「感謝する」

とだけ言う阿だった

宿の帳場で宿帳を持った親父が待っていて

「部屋に案内します」

と言われ他の離れより二回りは大きい部屋に案内されると

「一階は馬車の車庫と洗濯の出来る洗い場になっている他馭者が寝起き出来る休憩室になっとります」

そう言われて二階に上がり

「この部屋は芸妓…と、言ってもろくな芸も持たないのを呼ぶか流派の師範が金持ち相手の手習い教室を開く部屋だから防音対策済み

人魚姫様が心置き無く稽古ができます

奥には十二畳の座敷がありますから一面に布団を敷き詰めれば全員で眠ることも可能でしょう」

そう言われて成る程と頷く阿

「右手には簡易の調理場が有り湯を沸かし足り簡単なスープ位は用意出来ますよ」

そう言われて

「至れり尽くせりですね…料金の方は?」

そう春蘭が聞くと

「この離れは一泊十万kcで連泊すると割り引き料金になる」

そう親父が答えると

「なら七泊を予定してますからその割り引きの代わりに一日に一度貴方の自慢する温泉を貸し切りにして頂きたいのですが?」

そう春蘭が申し出ると

「そうですな、目立つその方が温泉で他の客と鉢合わせしたら身元を隠す意味が無い

わかりました、貸しきりの件承知しました」

と、答えると

「ただ…これだけの部屋で一泊十万kcは安すぎる気がするのですが…」

と、言う春蘭に

「うちは素泊まりの宿で飯は近在の飯屋で食べてもらうからさ

もっとも弟の店で食ってくれりゃ割り引きサービスはさせてもらうがねっ♪」

そう言って笑われて春蘭は

「温泉を貸し切りにして頂くのにですか?」

そう聞き返すと

「うちの温泉は宿泊客以外にも有料で開放してるからね

女神の祭典が近い今の時期に温泉を貸し切りにする者がいれば貸し切りにしているお人は何て方だ?

そう言う噂はすぐに広まり皆さんが旅立たれた後に

「実はうちの宿に人魚姫様がお泊まり下さり温泉を貸し切りにして下さってたんだ…

つまり人魚姫様御宿泊の宿を名乗る栄誉を賜り温泉はもし姫様がお気に召されたら人魚姫様が喜ぶ湯と銘打ちたいのです」

そう言われて春蘭は

「わかりました、命様の回復状況にもよりますが宿の宴会場の予約状況はどうなってますか?

と、聞かれた主は

「歌の女神の祭典が近いこの時期、うちに限らず泊客は勿論宴会場を貸し切る客はまず居りませんよ?」

そう聞いてた春蘭は

「わかりました、宿泊最後の夜に宴会場の予約する事にしましたから出発が決まりましたら知らせます」

そう言われて何故離れの客が宴会場の予約するのか不思議だったけど敢えて聞くことはせず

「わかりました、その日の訪れは寂しいがいつかは来る日、楽しみに待ちましょう」

そう話していると轍の音が近付いてきたので

「馬車を仕舞いましょう、それが済んだら温泉の説明をしますがどなたにしましょうか?」

そう阿に声を掛けると

「お店で食事をしていた馭者の方に聞いて頂きます

私は取り敢えずお茶の支度をしますからミナさんはその旨を瑞穂さんにお伝え下さい

阿さんと忍さんはお茶を飲んだら奥の部屋で休んでいてください」

春蘭のその言葉を聞き命が瞳を輝かせ

「みこもお風呂見たいから一緒に行くっ!」

そう言うと宿の親父が目を丸くするのを見て

「驚かれましたか?精霊の巫女である命様の素顔は従者の少女達より幼い子なんです」

そう春蘭に言われて

「驚いたが納得もしましたよ…精霊の巫女様と可愛いと言う形容詞が何故結び付くのかわからなかったがご本人を見てわかりましたよ」

と穏やかな目で命を見る宿の主に

「まぁそう言う訳ですから宜しくお願いします、りんはミナさんの荷物の整理を手伝って下さい

留美菜はつぼみ、つぐみ、しずくと一緒に命様を頼みますね

私は馭者の方に暖かいスープを用意しますから」

そう春蘭が言うと動き出す一同だった

宿の主の誘導で馬車を車庫に入れると

「宿の御主人が温泉の説明をしてくださるので聞いて欲しいと春蘭さんが言ってます

命様をお願いしますとも…」

最後の一言は苦笑混じりに言うミナに同じく苦笑いで返す瑞穂だった

「主、温泉の説明をお願いします」

そう瑞穂が声を掛けると

「わかりました、ご案内致します」

そう親父も応え

「つぐみとしずくは命様と手を繋いで留美菜とつぼみはその後ろからついてきなさい」

そう指示すると親父の後に続き温泉に向かった

湯殿は一部三階建てで基本的には土蔵の様だった

建物の中央に入り口が三つ有り主は躊躇わずに真ん中に入ると

ここは男女の共用スペースで左手に男湯、右手に女湯となっとります

この共用スペースでは一階は持ち込みで自由に食事が出来ますが飲み物はこちらで提供しとります

この扉を開けると女湯の入り口になりこの右手にある扉が貸し切りの要です」

そう言われて扉に触れると

「石作の様ですね?」

そう瑞穂が言うと

「一枚岩で出来たそれは二百貫有りまして中からこの滑車を使わねば開かぬ仕組みになっとりますし簡単に開けられても困りますが…」

そう言われて

(成る程…さすがに自慢するだけの事はあるな…)

そう感心しながら

「その前に共用スペースとの出入り口ですが内鍵があり外からは容易に開けられませんしこの小窓から様子が伺えますか仲間の方が後からお見えになる場合確認してから入ってもらう事が出来ます

親父の説明に頷き

「続きの説明を…」

そう言われて

「ここは脱衣所で食べる物は禁止ですが飲み物はそこの小窓で頼めるし給水器はそちらにと指差した

いよいよ温泉に入り左の扉を示し

「こちらは岩風呂…蒸し風呂になっとります」

今度は小さな泉の前で

「こちらは水風呂で蒸し風呂で火照った身体を冷ませます、そして…」

 

そう言って現れた空間は熱帯の楽園だった

大きな温泉の周りには小さな温泉がいくつも有り浴場一杯に南国の花や実を着けた樹や草花が生い茂っている

「貸し切り客限定で飲物ならあそこの東屋で飲める事になっとります

以上何かわからない事は有りませんか?」

一通りの説明をし終えると

「みこ入るっ!」

そう叫ぶとワンピースを脱ぎ始める命を見て慌て目を閉じる親父と溜め息を吐き

「留美菜は三人に説明しながら命様の服を急いで脱がせなさい

今日は掛け湯だけで良いですから」

そう言われて急いで脱がせ掛け湯だけすると温泉に飛び込む命を見て

「気遣いに感謝しますがもう開けても構いません」

そう言われて目を開けると奇跡を目に

長年掛け完成させた自慢の温泉に理解しない者達の批難の声は少なくなかったが歯を食い縛り耐えてきた

その温泉に人魚姫様が笑顔で戯れる姿見て

「この笑顔、この瞬間に立ち合う為にワシはここまできたのだな…」

そう言って現れた空間は熱帯の楽園だった

大きな温泉の周りには小さな温泉がいくつも有り浴場一杯に南国の花や実を着けた樹や草花が生い茂っている

「貸し切り客限定で飲物ならあそこの東屋で飲める事になっとります

以上何かわからない事は有りませんか?」

一通りの説明をし終えると

「みこ入るっ!」

そう叫ぶとワンピースを脱ぎ始める命を見て慌て目を閉じる親父と溜め息を吐き

「留美菜は三人に説明しながら命様の服を急いで脱がせなさい

今日は掛け湯だけで良いですから」

そう言われて急いで脱がせ掛け湯だけすると温泉に飛び込む命を見て

「気遣いに感謝しますがもう開けても構いません」

そう言われて目を開けると奇跡を目に

長年掛け完成させた自慢の温泉に理解しない者達の批難の声は少なくなかったが歯を食い縛り耐えてきた

その温泉に人魚姫様が笑顔で戯れる姿見て

「この笑顔、この瞬間に立ち合う為にワシはここまできたのだな…」

親父が呟くのを聞き

(そうかもしれない…)

そう思いつつ

「取り敢えず早速貸し切りにして頂きたいのですが?」

そう瑞穂に言われて

「入る時に念のため貸し切りにして有りますからご安心を



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リゾートアイランドで腕試し

温泉サイコーっ!…ですぬぐいきれませんけども


私はこれで失礼しますから貴女は入り口迄来ていただき私が出た後内鍵をお願いします

それと人魚姫様のお着替えを持ってくるよう伝えましょうか?」

そう言って貰い

「侍女の子達のも頼んでください」

そう応え

「留美菜、貴女達も一緒に入りなさい脱いだ服は纏めて東屋に置いて置けば良い」

そう言って親父を見送りに出ると

「入浴が済みましたら帳場のワシに知らせてください」

そう言うと帳場に戻っていった

着替えを持ってきたのはりんで

「春蘭さんが貴女も入りなさいって言って下さりました

瑞穂もご一緒にどうぞと聞いてます」

そう言って着替えが入った篭を持ってきたがその後ろに隠れて近付く人物に気付きりんを先に行かせその人物を招き入れると

「王妃様に旅の様子を描く様頼まれたのですね?映見さん」

そう言われて驚いて

「何故私と気付いたのですか?」

瑞穂に聞くと

「上手に隠して居るつもりでも貴女の体臭には長年掛けて染み付いた絵の具の臭いがしますからね

勿論阿や忍は気付いてまし春蘭も…」

そう言われて

「それではもう顔を隠す意味は…?」

映見が聞くと

「まだ暫くはいまのままで…その内仲間内では隠す必要無くなりますが…

貴女が表に出れば人は貴女を交渉窓口に選ぶ為春蘭の成長の妨げになるからです」

瑞穂がそう言うと

「やはり春蘭さんが若いからですか?」

そう聞き返す映見に

「ええ、残念ながら…私達は春蘭の優秀さを知ってますが知らぬ者には若い娘に過ぎませんからね…」

命を部屋に送り留美菜達に任せ帳場の親父に知らせに行く瑞穂を見送り二階に上がる六人だに入ると奥の部屋で仮眠を取っているらしい阿と忍の姿は見えない

ミナは既に荷物の整理と買い出し品のリストアップに洗濯を済ませいつもの内職をしていた

いつもの書類のチェックをしていた春蘭は六人が戻ってきた事に気付いて

「瑞穂さんはどうしたんですか?」

そう聞くと

「帳場に貸し切りが終わったことを知らせに行きました」

留美菜がそう答えると

「命様、私は瑞穂さんが戻られたら買い出しに行きますがどうなさいますか?」

そう聞くと返ってきた返事は勿論

「一緒に行く」

の一言だったので

「皆はどうしますか?ついてくるか留守番するか?」

そう聞かれて

「勿論命様のお供をします」

と全員が応えたので

「わかりました、買い出しを手伝って貰いますね

ミナさんは阿さんと忍さんが目を覚まされたらお風呂に行かれるように伝えて下さい」

そう言いながら命にフード付きマントを纏わせ五人には鞄をそれぞれ用意し持たせていると瑞穂が戻り

「瑞穂さん、買い出しに行きますからお付き合い下さい」

と、言いながらマントを渡し命の背を押し

「命様はマントの中で抱いて下さるようお願いします」

と、言うと瑞穂の返事を待たずに

「行きますよ」

そう声を掛けると階段を降りる春蘭のを後を溜め息を吐き階段を降りる瑞穂だった

宿を出て右に曲がると少し進んだ所に大きな篭を扱う店が有り店内に入り物色して…

ようやく目当ての品を見付けた春蘭が近寄り手に取り確かめると頷き

「これより大きな物は有りませんか?」

春蘭に聞かれた店主が春蘭を眺め

「お嬢ちゃんには今手にしてるので十分だろ?」

そう答えると

「ええ、私の分はですけどこの人に背負ってもらう物が欲しいんですけど?」

そう言われた店主が瑞穂を見て仕方無いとばかりに立ち上がり

「それより大きい物は奥に置いて有るからついてきな…」

そう言われて

「瑞穂さん、命様を下ろしてください

留美菜、命様を頼みますね」

そう言って命の顔をフードで隠すと留美菜達も命を囲むように立つことにした

先に出た店主と瑞穂が大きな篭を見ていて遅れて出てきた春蘭に向かい

「これがうちの一番大きい物だがお嬢ちゃんが三人入ったって壊れない自信作だ

何を入れるかは知らんがこれなら文句あるまい?」

そう得意気に言う店主に

「はい、とても素晴らしい物ですね

ふたつ合わせておいくらになりますか?」

春蘭に聞かれた店主がじっと春蘭の目を見るとその気迫のこもった眼差しに負け

「六千と一万五千で二万千を負けて二万kcでどうかね?」

そう呈示されて財布を取りだし

「二万kcですね?お確かめ下さい」

そう言って手渡すと

「確かに受けとりました」

店主が応えると

「瑞穂さん、宜しくお願いしますね」

春蘭がそう言うと

「ああそれは見てわかると思うが背負って表口からは出られんからこのまま真っ直ぐ行った裏口から出てくれ」

と言われたので春蘭も

「そう言うことだそうですから入り口で待ってますからお願いしますね」

そう言うときびすを返し入り口に向かう春蘭の後ろ姿を見ながら

「アンタ…苦労してるね?」

そう同情のこもった声で言われ右手を上げて苦笑いする瑞穂だった

瑞穂と合流し再び命を抱き上げて貰い更に歩を進めると繊維関係の店が有り

バスタオルからハンドタオルまで各種サイズを買いそろえクッションもひとつ買うと瑞穂の篭に入れた

木綿のハンカチやネッカチーフに刺繍糸は個人的な買い物だから自分の財布からだして買った

その店からでて暫くすると

「歌声が聞こえる…」

と言う命の声に反応した瑞穂が耳を済ますと

「確かに聞こえますね?聞きにいきますか?」

瑞穂にそう聞かれて

「うん、連れてって」

命がそう答えたので揃って向かうことにした

明らかにアマチュアの歌い手の歌が終わり舞台を降りると司会兼受け付け担当者が

「本日最後のエントリーの方の歌が始まるよぉ~っ!

この方の歌が終わるまでに新たなエントリーが無ければ本日は終了になるから希望者はお早めにぃ~っ!」

そう声を上げるのを聞き

「命様、出られますか?」

と、春蘭が聞いたけど三弦を手に歌う女性の歌に聞き入り上の空で

「あのお姉さんの歌素敵だね…お姉さん、教えてくれないかな…」

と、呟くのを聞き

「りんはしずくを連れて受け付けに

、留美菜はつぼみとつぐみを連れて今歌っている方に私たちの主人が頼みたい事がありますからお時間を下さいと言ってきて」

そう言うと自分は会場外の舞台に近い木の根元で命のマントを裏返し水色のマントにチェンジし

「命様、出番までこの木上で待機して呼ばれたら舞台に降りてください

そして歌が終わったらここで待つ瑞穂様の所にお戻り下さいね」

と言って瑞穂と頷き合うと受け付けに向かう春蘭

(やはり揉めていますね…)

そう思いながら杓子定規に

「本人がエントリーしないと受け付け出来ませんっ!」

受け付け孃に向かい

「本人に来させても良いですが残念ですがご自分の名前すら掛けませんから来ていただいても…

それにあの木上に居るのが誰かこれで見なさい…

あの方がここに来てパニックが起きても責任は負えませんから」

そう言われて遠眼鏡で木上に居る者を見ると表情が変わり

「あの小さな顔にコバルトブルーの長い髪…まさか…」

そう呟き改めてりんの顔を見て

「思い出した…お嬢ちゃんも舞台に立ったモデルの一人だよね?」

そう言うとしずくも驚いてりんの顔を見ると

「わかりました、貴女が代わりに記名すれば受け付け完了です」

やっと命がエントリーされ

「どうでしょうか?あの方の名は出さず貴女の驚きをそのまま紹介に使っては」

と春蘭に言われて面白いと感じた受け付け孃は今の歌い手が歌い終わるのを待ち

「謡華さん、お疲れ様でしたぁ~っ!貴女の後に歌う強者なんて居やしないと思ってたけど凄いエントリー者が現れたぁ~っ!

神が起こした奇跡か悪戯か、歌う人魚姫のご光臨だぁーっ!」

と絶叫すると青いマントを靡かせパステルカラーの青いワンピースを着た命が舞い降り奉納の踊りを舞いアンコールも含め全十曲を歌い上げると

「今日はみこの歌きいてくれてありがとねっ!

暫くはここに通うから又聞いてくれると嬉しいなっ♪じゃ、又明日ねっ!」

そう言うと会場外の瑞穂が待つ所に飛び出した

思わぬ飛び入りに大興奮の内に幕を閉じた路上ライヴ会場だった

 

「今の方が私に頼みたい事があるから会いたいと伝えるよう命した貴女達の主人だね?」

と言われ

「いいえ、一寸違いますっ!

未だに王女の自覚の無いあの方には命ずると言う発想はなくお願いする甘えん坊

だから私達は私達の可愛いみこちゃんを守りたい側にいて助けてあげたいって思ってるしそう思わせる子なんですっ!」

と留美菜が力説し

「その子達に指示を与えたのは私です」

そう言って頭を下げ

「差し支えなければ落ち着いて話せる所でお話できませんか?」

春蘭が言うとその春蘭を値踏みするように見る謡華と呼ばれた女

その沈黙を破る

「春蘭、引き受けて…」

「お断りしますっ!」

瑞穂の言葉を遮り断言する謡華に

「ですが未だ何も…」

と言い掛ける春蘭に

「ご本人が直接お願いすれば彼女の返事も変わるかも知れませんが眠ってしまわれましたから…」

そう言われて

「貴女方の事情は知りませんけどその眠ってしまった主を一人にして何処に置いてきたのですかっ!?」

と詰問すると瑞穂はにやりと笑い

「一人に等してませんよ?」

と答えるのを聞いて大きな篭を背負っている事に今更ながら気付き

「ま…まさかその…」

と、戸惑う謡華に

「その思い込みが見えている物すら見えなくしますから気づく者は有りません

お時間を取らせ申し訳有りません

私達はまだ買い出しの途中ですから買い物に戻ります…それではは失礼します…」

そう言うと更に先へと進む一行を見送りながら

「…………………まあ私には縁の無い人達だから気にする必要ないか…」

そう言うと命達とは反対の方向に歩いていった

その後ミナのリストを参考に買い物し又市場調査に新しい特産品等を買い付け宿に戻った

「何やら帳場が騒がしいようですね?」

何故だか気になった春蘭が帳場を覗くと謡華が

「この時期何処の酔狂があの高い部屋を借りてると言うのですかっ!」

烈火の如く怒りも露の謡華の後から春蘭が

「どうかなさいましたか?」

と、親父に声を掛けると

「顔馴染みのお客さんだが貴女方の部屋に泊まりたいと言われて空いてないと申したら

この時期にそんな事は有り得ないとと、お怒りで…」

その会話と聞き覚えのある声に振り向くと溜め息を吐き

「そう、貴女達でしたか…少し落ち着いて考えればわかる事なのに…」

そう呟くのを聞き

「取り敢えず私達は今からお茶にしますから貴女もご一緒にどうでしょうか?

 

 

 

色々ご不満も有りましょうが差し支えなければ今夜は私達と過ごし明日からの事は明日の朝までに考えれば良いと思いますよ?」

そう言われて

「確かに頭に血の登った状態で行動してろくな目に合った試しはない

ここは貴女の心優しい気遣い、助言に従いましょう」

そう謡華のが言うのを聞きなんとか丸く収まりそうな雰囲気にそっと息を吐く親父だった

部屋に戻り奥の部屋に行くと既に阿と忍の姿は無く

「お二人なら春蘭さんの勧め通り温泉に入ってます」

と、ミナに言われて命を布団に寝かし付けお茶を淹れ呑む事にした

お茶を淹れ茶菓を用意するとミナも休憩に入りお茶にする事にしてテーブルに着いた

出されたお茶の香りは初めて嗅ぐ臭いで驚いていると

「薬草や香草に詳しい母が独自に調合した物です」

そう説明されその爽やかな香りに感心していた

茶菓は峠の街で頂いた土産の干した木の実でそれを味わいながら

「ミナさんは今何を?」

と、春蘭が尋ねると

「夕べ迄作っていた命様の服をサイズを変え量産品の為の型紙作りを終え試作品を作ってます」

そう言うと手元にある行基から命用の服を出し

「春蘭さんに預けます」

そう言って預けられた服は騎士の平服をアレンジしたワンピースの為出来はともかく自尊心だけは人一倍高い騎士達の反応が怖い物だった

お茶の時間が終わり冷めたお茶が残されているのを見た謡華が贅沢な…と思い

「その冷めたお茶はどうするのですか?」

と、春蘭に聞くと

「これは呑み残しではなく猫舌の命様用に冷まして置いてあるお茶です」

そう言うと留美菜も

「熱々が美味しい鍋も冷まさないと食べれない命様ってかなり人生を損してますよね?」

そう言うと

「これでもかなり改善されたんですよ?

公女宮に居られた頃は食べる事自体拒まれてましたから…

みこお腹すいてないから…と」

そうミナが言うと

「何故そんな贅沢な事を…」

そう詰る様に言う謡華に

「命様はご自分の存在自体を否定されてますから…りんも知ってますね?

私もレム様から伺った話なんですけど…

元々高位魔導師が転生されたらしい命様はそれ程食事を必要としない代わりに育ち盛りの身体が必要とする栄養が全く足りて無いそうです…」

その話に重くなった空気をなごませたのは午睡から目覚めた命で

迷う事なく指定席(ミナの膝)に座ると用意されたお茶を一口啜った

いくら養女とは言えその王女に相応しいとは言えない振る舞いに驚いていると湯上がりの阿と忍が部屋に戻ってきた

「阿さん、忍さん、一寸早いですけど早目に夕食にしませんか?」

そう春蘭に言われて

「そうですね、フードで顔を隠しているとはいえ未だ目立つのは好ましくないですからね…」

そう阿が答えると

「謡華さんはどうなさいますか?」

春蘭の言葉で謡華の存在にやっと気付いた命が春蘭に

「お姉さんが居る、もしかして?」

そう聞くと

「あの話しは残念なから断られれましたから…」

そう言われ

「そっか…」

小さく呟くだけだった

夕食は阿、瑞穂、忍は大盛りのカレーで春蘭は中盛りに少女達は一人前でミナだけはシチューのセットでパンとサラダ付きを命と二人で食べる

馭者の映見にはミナと同じシチューのセットを出前してもらえるよう宿の親父が口添えしてくれた

食事終えて部屋に戻ると春蘭はつぼみ、つぐみ、しずくの三人にテキストを渡し

「明日から午前中は勉強をして貰いますからその道具です」

そう言って学習セットを渡し

「留美菜とりんは王宮を出てから、三人は馬車に乗ってから今まで思い出した範囲の日記を書きなさい

ミナさんはいつもの内職で命様は竪琴のお手入れをしてくださいね」

そう言って春蘭も何やら針仕事を始めて静かな時が流れた

竪琴の手入れをしながら謡華が最後に歌った曲を口ずさむけどやはり自身の本番前だけに覚えきれてない

三弦の手入れをしながら命の様子を見ていた謡華がついに我慢出来ず指導を始めた

乾いた大地に雨水が染み込むように謡華の指導を吸収する命に教えるのが楽しく教えを受ける命の顔も嬉しそうで

「良かったですね、命様…願いが叶って」

その呟きを耳にした謡華が

「まさかそれが貴女達の頼みたい事だったんですか?

私はてっきりお姫様の退屈しのぎのお相手をさせられるのかと思ってお断りしましたのに…」

そう言う言葉の端々に悔やむ気持ちが滲む謡華に春蘭達は何も言わないし謡華も

(結局なるようになった…と言う訳ですね)

その後謡華による命の指導は命がうとうとしだすまで続き一足先に床に就かせると他の者達は

留美菜とりんは長い日記を書き終え三人は針仕事をする二人を見て

「私達春蘭様に見て頂きたい物が有ります」

そう言ってつぼみが出したのは組紐で未だ複雑な模様は表現出来てないけど丁寧な仕上がりで

「うちの内職を見て覚えました」

と言うつぼみに

「観月様に見ていただきますから預かっても良いですか?

それと材料を持ってきてるなら他のも作ってみて下さい」

そう言われて

「はいっ!」

と答えたつぼみに続きつぐみは竹細工でその技法を見て

「まさかあの店の?」

と春蘭が言うと

「はい、春蘭様がいらっしゃいました店の娘です」

と答えるのを聞いて

「店の跡は…」

その言葉に

「店の経営は兄が、職人技は兄嫁が受け継ぎますから私には好きに生きなさいって以前から言われてました…

ですからね命様の側に行きたいと言う私の願いも賛成してくれたんです」

そう答えたから

「わかりました、貴女のも預かり別の物をこさえてください」

と言い最後のしずくは編み物で五本指の手袋を見せ

「女神の祭典後月影の国を皮切りに他国の訪問が始まる命様の為にと思い急いで編んだ手袋とこれはその前に編んだショールです」

そう言ってショールも渡された春蘭は二人に言ったのと同じく観月に見せる事にし…

別の物を造る様指示しそれが一区切り付きミナもキリの良い所で手を止めお茶にする事にした

その隙を突き春蘭の手元を気にしていた阿がひょいと春蘭の手からそれを拐うと

「ほう、これは中々の物ですね?これならば王妃様に贈っても恥ずかしくない物だと思いますよ?皆も見なさい」

そう言って阿が広げたスカーフには命の横顔の刺繍が施されていて

「春蘭さん凄いっ!」

と言い留美菜も

「私達のはもっと小さいので良いから作って欲しいよね?こずえちゃん達も」

未だ緊張感が抜けず中々話しに入れない三人に振ると

「はい、本当に素敵です…」

と、こずえが代表で答えるとこくこくと頭を降る二人に合わせ謡華も

「アタシも三弦入れに施してほしいくらいだよ…」

と、言われてますます照れる春蘭に

「取り敢えずこの子達の分と謡華さんの三弦入れに施して見なさい

少なくともお世辞で大切な三弦入れに施して欲しいと言うタイプの方でないのはわかってますよね?」

そう言われて

「はい、がっかりさせないよう頑張ります」

そう答える春蘭だった

急須を二つ用意するのを見て不思議に思っている瑞穂に

「お茶と茶菓を下の方に持っていってくださいますか?

私とミナさんもあまり人の事は言えませんがお茶と茶菓で休憩されてはとお伝えください」

そう言って盆を渡すと湯呑みに注ぎ皆に配った

瑞穂も戻り最初に口火を切ったのは春蘭で

「所でミナさんはどんな服を作り始めたのですか?」

と聞かれ閉じていたスケッチブックを開き

「この服です」

そう言われた服は遠い昔に滅んだ国が崇めていた神に使える巫女の装束に似た物で現存する物はなく資料も乏しい

その為デザインした御法自身もほぼ想像で描いたものをユカの指摘で手直しした作品で

「ミナ、命様のが完成したら留美菜、りん、春蘭、貴女のと作り更に翼とチサのを完成させたら二人に贈ると良いでしょう」

と、言われた留美菜が

「私が命様の次で良いんですか?」

そう聞くと春蘭が

「私はお披露目のドレスではないパーティードレスと着物

りんはモデルのご褒美にやはりパーティードレスも頂いてますから貴女から命様とお揃いの服を頂きなさい

ミナさん、エプロンは有りますか?」

と聞かれたミナが

「完成品は五枚有りますけど…」

と、答えると

「では三人に一枚ずつ渡してあげて下さい」

そう言われて春蘭の考えを理解し取り敢えず五枚だして

「好きな色を選んで下さい」

そう言われてエプロンとミナ、そして春蘭の顔を順番に見る三人に

「既に見習いの侍女だったりんは別だけど私達は見習いの侍女になる前に頂いてますから遠慮しなくても良いですよ?」

そう留美菜言ってもらい頷き合った三人はこずえがパステルカラーのグリーン、つぐみはレモンイエローでしずくはパステルカラーの水色選び春蘭とミナの二人に

「ありがとうございます」

そう礼を言うと苦笑いで

「りんも欲しいんでしょ?もう二色しか有りませんけどどちらかで良ければ選びなさい」

そうミナに言われて恥ずかしそうに桜色のを選ぶと留美菜が

「勿論私も持ってきてますから五人お揃いですね?」

と言うと誰からともなく笑い合う五人とその五人を微笑みを浮かべ見守る春蘭達だった

そしてその立ち上がったついでに襖を開け穏やかな寝顔に安心したミナが

「私は未だユカ様のお手伝いしか出来ませんから特技を持つ春蘭さんが羨ましいです…

それに私はたまたま運良く命様のお側に居られるだけですから…」

そんな事は無いっ!そう言おうとするりんを制し黙って成り行きをみまもると

「あの夜…高熱に魘される命様が大公様のお屋敷を訪れた命様の事を貴き方ゆえ粗相の無いようにと言われたのはたまたま宿直だった私

その命様を一目見てこの方が元気になるよう私に出来ることは何でもしよう

お側に居たい、居られる様頑張ろう…

公女宮からお声の掛からなかった落ちこぼれの私はただそれだけを考えお仕えし幸い命様にも気に入られこの旅の同行も許されましたが何故私なのかは未だわかりません…

ですがこんな話をされても皆さまのご迷惑でしたね…申し訳有りませんでした…」

そう言われて阿が

「全く主が主なら長く使える貴女も貴女だ…

何故お二人がこんなにも自己評価が低いのか不思議でなら無い…」

そう言うとりんも

「ミナさん聞いてないんですか?ファッションショーの後ユウ様、ユキ様、ユミ様のお三方の誰がミナさんと組んで仕事をするか競ってたんですよ?

美月のデザイナー四天王の三人が…

その貴女に価値が無いなんて誰も思ってません」

りんが言い留美菜も

「いつも大事な時には命様の側にいて命様を支えるミナさんは命様にお仕えしたい私達のお手本ですよ?」

と言い謡華も

「食事の前寝起きの命様は迷わず貴女の膝に座られましたよね?それ程気を許し信頼されてる

命様が甘えられる存在なんですよ?

それに私は偶然とか奇跡は信じません

今皆さんが言った才能を開花させる為貴女は命様と出会った

勿論無事出会えた事を奇跡と言われればそうかも知れませんが命様は貴女を目覚めさせるために貴女の前に現れた私はそう考えますそしてその後の事は貴女自身の努力によるものだと思いますよ?

現に貴女自身言いましたね?この旅のお供も許されたと…

選抜に漏れた子も居るのでしょ?なのに選ばれた貴女がそんなこと言ってたら来たくても来れなかった子達が可哀想ですよ?

 

自信が無いなら今まで通り頑張れば良い、その貴女の後姿を見て後輩達はついて行きますからね?」

そう言って少女達を見ると五人も力強く頷き春蘭も

「私も貴女が居てくれなかったら行程の責任者の重圧に耐えきる自信はありません

それに始めて聞いたミナさんの本音

命様への思いを迷惑なんて思いませんよ?

そんなことを気にすることを水臭いとは思いますけどね」

春蘭がそう言うと

「旅の仲間が親睦を深める有意義な時間だったがそろそろ五人を寝かさないと良く無いし謡華さんも隣で寝ると良いでしょう、瑞穂も

春蘭はこの後収支報告書を書きミナはまた今夜も遅くまで内職をするんでしょ?

私と忍は昼寝をしてますから見張りを兼当分起きてますから瑞穂はいつでも起きる気構えだけは忘れず休みなさい」

そう言うと寝室に向かわせた



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鬼百合とユウ

ユウの出張に鬼百合が護衛に同伴します、ユウお気に入り魔鳥の翔を連れて


九章 来て来て

 

 

①楊牧場

 

 早朝、王宮を出た鬼百合とユウを乗せた馬車は大した荷を積んでない事もあり命達より早かった

 

 命達より一刻遅く出たにも関わらず朝食を摂ったのは同じ場所で

 

 ーなんや知らんけどアホ共がついてきよる…ー

 

 落ち着きの無い翔は王宮から出てからこっち、馬車から飛び出しては木の実のついた枝を持って帰ってきてたが…

 

 その姿に一目惚れの魔物達が翔の後をつけ互いに牽制しあっている

 

 「鬼百合様、先程から私の翔ちゃんの後をつけ回すあの不快な者達は何なのですか?」

 

 そう、不快感も露に言うのを聞いて

 

 ーなぁ鬼百合…ボクっていつの間にユウのモノになったんや?ー

 

 そう呆れて聞く翔に

 

  (さぁな、ユカの奴もお前事を気に入ってたから先に所有権を宣言したって所だろう…

翔ちゃんは私の子よっ!って感じゃねえのか?)

鬼百合そう言われてやはり呆れた感じで

ー何でやねん?ー

そう突っ込みを入れる翔には構わず

「気にするな、あの程度の奴等にどうこう出来る様な翔じゃねぇんだからよ?」

鬼百合がそう答えると方眉を跳ね上げ

「私が申しているのはその様な事ではありません

あの様な者達に翔ちゃんの周りを彷徨く事自体不快だから何とかして頂きたいのです」

鬼百合を睨みながら言うユウを見ながら

(いつかこいつが母親になった時こいつの子供…特に娘に惚れた男は大変だろうな?)

そう思う鬼百合だった

 

ーそろそろみこンたぁが昼飯喰うた所やけど鬼百合ンたぁはどないするんよ?

こっから先は牧場までそないな場所無いンやけどな…ー

そう言う翔に鬼百合は

(そうか、昼飯にはちと早いがどのみち買った弁当だけじゃ足らんから大した違いはねぇか…)

そう翔に言うともなく考え

「ユウ、直にみこ達が昼飯食った見晴らしの良い場所に着くそうだから飯にするか?」

その鬼百合の言葉に溜め息を吐いて馭者に

「この先に広場が有るそうですから少し早いですけどお昼の休憩にしましょう」

そう声を掛け馬車が止まるのを待ってお茶の支度を始めるユウだった

大盛弁当四人前を下ろしユウが湯を沸かしている間馭者と鬼百合は馬の世話をしている

暫くしてまた木の実のついた枝を持って帰ってきてた

ただ今度は自分用ではなく三人に食べてもらう為の物だろう翔にはおおぶりな山桃で甘酸っぱい香りが漂ってくる

「翔、済まんな…」

と、鬼百合が言って受けとるとユウは

「翔ちゃんのもちゃんと用意しましたからね」

そう言って一つの手皿には水もう一皿にはクッキーを砕いたものと一粒ずつ解した草の実が乗っていた

それらを啄みながら

ー牧場とその先の街の間に起こるチュー怪異の噂どう思う?ー

翔に聞かれた鬼百合は

(みこ達が通った時は何も起こらなかったンなら何かの見間違いとかじゃねぇのか?)

鬼百合は面倒臭そうに答えると

(んなこたぁない、みこンたぁが通った時は隠れとったみたいやからね…

具体的にわかってたわけやないけど四人の巫女達もその気配には気ぃついとったけどみこが全く気にも止めとらんから黙るとったみたいなンやけど…)

そう言われてさすがに

(わかった、取り敢えず牧場の用事を片付けてからだな…)

そう言われて翔も

ーわかった、鬼百合もそのまんま闘気押さえとってや?

そないな力持っとる様には思えんけど用心に越したこと無いー

そう答える翔に鬼百合は

「なんに対する用心だ?大した事無い奴等なんだろう?」

と聞き返すと

ーせや、大した奴等ちゃうから窖に潜られたら面倒なんや

精霊の清浄な霊気は隠し切れへンからみこも自分が今出向いてもって判断したんやろねー

そう言われて

(成る程…本人が気付かなくとも魔力に抵抗力を持つ者は居る

が、その鍛えられてないそれでさえ上まれねぇ程度の奴等なんかもな…

わかった、ソイツ等が怯えて窖にま潜り込まれねぇよう気ぃ付けるぜ)

そう話合っていたのを馭者とユウは知らなかった

もっとも相変わらず翔の様子を伺う魔物達の存在に不快感を隠さないユウはそれ所じゃ無かったのも有るのだけど

 

馬車が牧場の敷地に入りその長閑な風景を眺めながら

「こんなにも長閑な所で育ったから旨い肉になるんだろうな…」

と、鬼百合は欠伸をしながら呟くとユウも

「一度だけと言うのは惜しいですから又訪れたいものですね」

そう話しているうちに馬車は牧舎の前に止め馬車の前に立つ老婦人に

「貴女がお絃さんですね?

私は観月様の使いでこちらを訪れたユウと言う者です」

そう言って手を差し出し握手する二人を見ながら

「ユウ…もしかして美月のデザイナーのユウさんですか?」

そう驚く嫁のニナに

「はい、確かに私は美月でデザインを任されている者ですが?」

と、答えると

「何といきなり美月の方が…しかもこんなにも早く訪れるとは…」

と、驚くお糸に

「命様のお世話の責任者を任される程の春蘭の推薦ですしこの子が春蘭からの手紙を運んできてくれたのも要因ですが…」

そうユウが話すのを聞いた孫娘のミミが

「その子ってお姉さんが飼ってる子なの?」

と、聞かれたユウは

「いいえ、この子の主は命様で命様のお使いで私達の元に居ます」

そう答えると

「じゃあミミ、みこちゃんのお友だちだからその子に触っても良い?」

と、言うのを聞いた翔が溜め息を吐いてミミの差し出した手に止まるとチチチと鳴いて見せ頭を撫でさせ喜ばせた

「お姉さん、この子何て名前なの?」

そうミミが聞くと

「翔ってゆうから私は翔ちゃんと呼んでますよ?」

と、言われて

「じゃあミミも翔ちゃんって呼ぶからよろしくね、翔ちゃん」

そう言われて再び溜め息を吐いたがそれがわかるのは鬼百合だけで

「じゃあ私はお祖母さんとお話があるからミミちゃんは翔ちゃんをお願い出来ますか?」

そう聞かれ

「うん、ミミに任せてっ♪」

ミミがそう答えたので鬼百合にも

「鬼百合様もご自分の欲しい物を見せて頂いてはどうですか?」

そうユウが言うのを聞いた嫁のニナが

「それでは貴女が騎士様達の仰ってた鬼百合様ですか?」

そう言われたので

「あぁアタイが鬼百合だがそれがどうかしたか?」

そう聞かれたニナが

「騎士の瑞穂様達が大酒呑みの大喰らいと仰ってましたからどんな大男の方なのかと思ってましたから…勿論私達から見れば充分大きい方ですが…」

と言ってユウと並ぶ鬼百合を見て

「お二人がそうして並んでいると天棚機姫命様と守護者十羅刹女様のようです」

そう言ってうっとり二人を見つめるニナになんと言えば良いのかわからない二人だった

毛糸と保存状態の良い牛革等の買い付け契約を交わし今回在庫の半分を買い取ることにし一括の現金で払うことにした

毛糸製品に関しては峠の街に名手が居ると言われて後日街に行く話に決まり…

鬼百合は取り敢えず今夜は持って来た魚を刺身にして漁師達の濁酒を出すと牧場の女達は肉を焼き男達は自分達の濁酒を出して呑み比べた

その結果刺身に合うのは漁師の濁酒で焼き肉に合うのは自分達の濁酒だと言う結果になり共にどんどん消費されていった

ー勿論気ぃ付いとるやろ?ー

と、言われて

(ユウに気付かれる程度のやつ等だろ?)

面倒臭そうに答える鬼百合に

ーそないな事言わんと余興代わりに懲らしめたろ?ー

と、意地悪く言う翔に

(八つ当たりか?)

そう聞くと

ーそんなん当たり前やろ?ボク完全に玩具扱いやン?ー

そう愚痴ると

(逃げるか拒否すりゃ良いだろう?)

と、言われて

ーアンタには話とらんかったかもやけどボク、人間や精霊に危害加えられん縛りがあるから無理なンよ…

例え自己防衛の為やとしてもねー

翔にそう言われて

(成る程…でどうするんだ?)

と、聞く鬼百合に

ー取り敢えず鬼百合はボクを呼んだらえーねんー

そう言われてふーんと思いながら

「翔っ!」

と、鬼百合が呼ぶとミミの手から離れた翔が牧舎の屋根に隠れて矢をつがえる男の弓の弦を切りバランスを崩した男は無様に転げ落ち

同じく木の枝から狙いを定める男が乗る枝を一瞬にして切り落とした為

男がその事に気が付いたのは腰を強かに打ち付けてから

その二人が鬼百合や男達を射殺したら女達を襲うつもりの野盗達は完全に出鼻を挫かれ

元々大した盗賊団でも無い野盗達はユウの護身術にすら歯が立たなかった

が、このユウの大立回りは暫くの後にユウの立場を一変させる事になるとは本人も含め未だ知る者はなかった

ミミ達子供が眠るのを待ち翔に

「観月に野盗の群れを捕らえたから引き取りに誰か寄越してくれと伝えてくれ」

と、伝言を頼み再び宴会に戻った

そしてその翌日の夕方近く護送班として現れたのは女神の騎士団の三人で共に斬刃とモリオンが到着しモリオンが

「私は美月の依頼で取り引き先である貴方達の警護を任された者

本来自分達の国民を守るべき騎士団が本来の役目を果たさない今一々評議に掛けるのもまどろっこしいと考えた結果故気にする事はない」

そう言われて

「峠の街の者達は…」

と楊が聞くと

「その辺りは口下手な私が話すよりユウ、観月様から貴女宛にと預かった物です」

そう言って渡された手紙を読み

「明日の朝私は鬼百合様と峠の街に行き毛糸製品の視察に行き可能なら美月の注文する品の作成ができないか交渉にいきますから

その結果次第でもう一人駐在員を派遣していただきます」

そう言ってもらったのでホッとした

その夜は女神の騎士団達も旨い焼肉と鬼百合が持ち込んだぶどう酒

モリオンが手土産代わりに持って来た麦酒を楽しみ翌朝斬刃と護送の任務に着き鬼百合達が乗ってきた馬車も観月の買い付けリスト通りの物を買い積み込み王宮に帰っていった

鬼百合は斬刃が置いていった馬に股がりユウと共に峠の街に向かう途中噂の

怪異のが起こると言われて居る所に近付くと確かに異様な気配がし始めた

ユウだけがその気配に警戒したけど翔と鬼百合はそのちゃちな妖気に呆れて言葉がなかった…

「ユウ、この先から怪しい気配がするからお前は翔とここで待て、アタイは少し様子を見てくる」

そう言ってわざと見当外れの方に行き

翔もユウの隙を突いて様子を見に行く振りをしてユウを誘導し気配を完全に消した鬼百合がユウの後をつけた

(さて、あんまり期待出来んがどの程度の奴が隠れてるんだ?)

鬼百合がそう考えているとその者達はあっさり釣られた

ユウの背後からこっそり襲い掛かろうとしていたそれはあっさりユウに打ち倒された

幻覚で混乱させて相手を襲うのがそれらの手であるけど本国に来る時に千浪から護身用だと渡された小刀の魔力がユウを守ってくれたから冷静に対応できた

逆にその事態に焦った小魔達が一斉にユウに襲い掛かったけどそれを待っていた翔と鬼百合の二人(?)に挟み撃ちにされ一網打尽だった

取り敢えず峠の怪異はその後現れる事がなくなり忘れ去られたが…

それでも多分あの二人が怪異の元を断ってくれたのだろうと言う噂は一部ではいつまでも語られた

 

峠の街に訪れ先ず町長宅に向かい楊から預かった町長からの借金返済の金を渡し

ユウは牧場の毛糸や牛革、ガチョウにアヒルの羽毛等の売買契約を結んだ事を話し

この街の編み物の名手の腕次第では注文品の作成を頼みたいと伝えた

その夜街で買い集めた物を翔に観月元に届けさせると観月に

「命様の元に来て欲しい」

と、春蘭からの伝言を伝えられて仕方無いからそのまま命の元に向かった

 

翔は不機嫌だった…

チサの顔を見ることも出来ずたらい回しの様にお使いの連続に

春蘭にも荷物を持って王宮に戻って欲しいといわれたからだ

荷物は映見の描いた羊に股がる命、鶏に追い掛けられる命、ご神木の前の演舞台で踊る命の絵を二枚ずつの計六枚

ミナが完成させた騎士風のワンピースの試作品と型紙




急いだ方が良い物と嵩張る物を減らす為運んでもらった
それに母が又新しい薬草や香草の利用法を模索しているとも聞いていたから命のお供をする自分達が持って歩くより有効活用できる
そう判断したからだが実際栽培出来ない物が多かった為とても喜んで受け取った
と、聞いたのは未だ先の話だけどそんな感じで荷物運びでこき使われた翔の機嫌は頗る悪かったけど大好きなチサが起きて待っていて
「お疲れ様、翔ちゃん」
そう言ってくれたから
ーまぁええ、チサ様の顔に免じて許したるわ…ー
そう呟いてチサに甘える翔だった
明けて翌日の夕方護送車は海軍寮に入り野盗達は敷地内に有る牢に入れられ後日前衛基地の有る島の矯正施設に送られる事になっていた
その一方で荷を積んだ馬車は酔仙亭の前で荷を下ろし酔仙亭の女将が仕切り卸売りが始まった
勿論女将に対する代償は同行に漏れたマイ、マキ、マナ、マユの四人が演舞台で舞い…
特に命の稽古の時間に共に稽古をしていたマイは太夫に
「座敷でお客様の前に出しても恥ずかしくない位には踊れるよっ!」
そうお墨付きを貰って居るから女将も喜んで迎え入れた
更に留美菜とりんの友達の漁師の娘達が配膳の手伝いに来てくれる事も決まっていたから卸売りの代行を喜んで引き受けた
ただ残念な事に今日の荷は完売し酔仙亭の分は残らなかったけど…
明日の朝荷馬車を送り出せば明後日には又荷が届き且つ二台の荷馬車の内一台は自分の店用だから焦る必要はない
何にしろ不安だった道中の安全を毛糸を運ぶ美月が人魚姫の騎士達の警護して守ってくれる今この話に乗らない方はない
ただこの幸運を一人占めするのもどうかと思い彼女の店の在る呑み屋街、通称酒仙境で肉を取り扱う店に声を掛け仲間に入れた
手数料は荷馬車の馭者と護衛の騎士に牧場で呑む酒壷一壷を参加者で出し合う事
なので今王都の中でも一、二を争う盛況ぶりだ
王都の経済復興は今や確実な物へと変わりつつあった
その変化をユウの元に翔が伝言に飛び翌日斬刃は峠の街駐在員として
喧火は輸送車警護として牧場に向かう事になった
斬刃が峠の街に着き鬼百合とユウは牧場に戻った翌日二人は馬で王宮に戻り翔は一足先にチサの元へと帰っていった


②宴の夜に

命達も今夜で六泊目で予定通りに明日の夜を最後に次の町を目指す事になった
「明日の夜の宴会場の予定は空いてますか?」
春蘭に聞かれた宿の親父が
「やはり当分予約の入る見込みはありません」
そう答えたので
「では明日の夕方から貸し切らせて頂き命様の踊りや歌を披露し入場料代わりに宿の前の店の料理を召し上がって頂くのはどうでしょうか?」
と親父には全くの想像外の申し出に勿論親父は飛び付いた
「それは弟も喜ぶ申し出ですが…」
そう言って考え込親父に
「何か不都合でもあるのですか?」
そう春蘭に聞かれ
「その場合短時間で弟の店で捌き切れるのか?
王都で一、二を争う料亭を売り切れ御免の札を出させる人魚姫様の集客力を考えると…」
そう不安を口にする親父に
「その店は売り切れになら無いよう店の前に屋台を呼び総菜屋に声を掛け協力してもらってますからね?
勿論私達も色々協力させてもらいますから頑張りましょう」
と、言われて
「わかりました、弟と明日の予定を決めてきます」
そう言って飯屋の裏口に向かった
そして最後の夜を迎え命は早朝の稽古を歌から踊りの稽古にし午前中謡華に稽古を着けて貰い
昼食後最後の野外ステージに立つ予定で留美菜達五人は午前中はいつも通りで午後からは夜の宴会の料理の下拵え
野外ステージから戻った命の入浴と着付け等色々あって忙しい
ミナはミナで枚数三十枚限定でエプロンの販売をし売り切れ次第留美菜達を手伝うため朝からエプロンの作成を急いでいる

「明日の朝この町を出るから今日で最後なんだ、ごめんねっ!
でも、いつか又きっと来るから楽しみにしててね
その前に今夜はみこ達がお泊まりしてた大きなお風呂の在る宿屋でこの街最後の舞台をやるからご飯代掛かっちゃうけど新しく覚えた歌のお披露目するから良かったらきてね
じゃあ又会う日まで…」
そう言っていつものように舞台から姿を消した
宿に戻り先ず飯屋に向かうと客が数人と飯屋と宿の親父達が居て話をしていたけど命に気付き振り向く二人に
「きょーまで美味しいご飯と素敵なお風呂をありがとおございました
お蔭でみこすっかり元気なったよ
それにおじさん達がみこの事内緒にしてくれたから舞台を楽しみながら
お歌と踊りのお稽古にしゅーちゅー出来てホント楽しかったよっ♪
だからおじさん達にこれ」
そう言って春蘭が二人に渡したのは二枚の絵で飯屋の親父に渡したのは命の指定席で笑顔でお椀を持つ命
宿の親父に渡したのは湯から跳ね上がり振り向いた人魚姫の命を各々描いた物で
「親父さんの苦労が報われた絵だね」
そう言ったのは宿と飯屋の常連客で老婆の伴で来ている若い女性客で
「所で人魚姫様がお気に入りの料理ってなんですか?」
そう聞かれた命は
「ンとね、みこ猫舌だから冷たいスープだよ」
命がそう答えると
「それってお品書きに無い料理ですよね?」
と飯屋の親父に聞くと困った顔をして春蘭を見ながら
「薬草や香草に詳しいそちらのお嬢さんに協力していただき身体の弱い人魚姫様の為の料理だから今のところ店に出す予定は…」
と言う言葉に春蘭が
「命様のお昼の残りが有りましたら味見していただき反応が良いようでしたら明日からお品書きに書き加えてはどうでしょうか?」
そう言われた親父が居合わせた三人の客に出すと味見した三人は各々に
「さっぱりして食欲無い時でもこれなら食べられます」
「冷めてるんじゃ無くこの温度になったら美味しくなるよう考えてあるんですね?」
「消化も良さそうで本当に優しい料理ですね?」
等の声を聞いた春蘭が
「皆様の仰ってた事全てが命様にキチンとお食事を摂って頂く為の工夫ですからね」
そう言われた命は
「そうなんだ、春蘭って大変なんだね?」
と、まるっきり他人事の物言いに溜め息を吐く春蘭は勿論他者が居なければ説教の嵐だった事を自覚した方が良さそうな命かも知れない
そんな頭の痛い春蘭も一応
「これでおわかりでしょうけど女湯を貸し切らせて頂いたのは命様ですが温泉に入るのも今日で最後になります
ですので今日は貸し切りにせず素顔の命様に接していただこうと思います…女性限定で」
そう言われた女性の客達は
「あらまあ大変、急いでお風呂の支度をしなくっちゃ」
と、言って勘定を済ませると部屋に戻って行った

「命様、お風呂場で走ってはいけませんって春蘭さんにきつくいわれたでしょ?」
留美菜にそう言われた命は
「春蘭居ないもーんっ♪」
と、留美菜を振り返って見ながら言うと
「命様っ、走っちゃダメっ、危ないっ!」
「前を見てくださいっ!」
「あっ!?命様前に人がっ…」
そう言い掛けた時には先客にぶつかり受け止められていた
その女性に対し留美菜が代表して
「命様が大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
そう言って頭を下げると
「このお嬢様にぶつかられた位でどうこうなるような柔な鍛え方はして無いから平気だ、お嬢様にも何も無いから安心おし」
そうその女性に言って貰いもう一度頭を下げると
「春蘭さんにお風呂場では走らない、お湯に浸かる前には身体をちゃんと洗って下さいって言われたでしょ?
私が綺麗に洗って差し上げますから大人しくしててくださいっ!」
そう言われた少女が渋々座ると他の少女達が甲斐甲斐しく世話をする姿は微笑ましく思って見守っていた
「はい、命様…泡も綺麗に流し終わりましたから先に…
だからお風呂場では走らないで下さいっ!」
その留美菜の叫びは虚しく響き命は綺麗な放物線を描き温泉の中に吸い込まれていった
その呆れた行為を見てさすがに
(後で春蘭さんに報告しなきゃダメですね…)
そう溜め息を吐く留美菜だったけど様子を見守っていた女性が少女が飛び込んだ時の異様な程の飛沫のたたなさ
潜っままいつまでも浮き上がらない少女とその事を全く気にしないで身体を洗う少女達に不安を覚え自らも湯に顔を浸けると…人魚が泳いでいた
(ま、マジ?)
そう思って水面から顔を出し留美菜達に
「に、人魚が現れたっ!」
そう叫ぶと呆れた留美菜が
「申し訳ありませんけど貴女はもしかして歌う人魚姫様の噂をご存知ないんですか?」
そう聞かれて
「い、いいや一応しってるが…人魚姫と言うのは単なる物の例えで本当に人魚になるとは思って無かったから…」
そう言って口隠っているとその騒ぎで命が入っている事に気付いた他の客達が一気に流れ込んだ
「あ、いたいたっ…人魚姫様がいらっしゃるわよ」
「本当に可愛らしいお顔立ち…」「あの蒼い髪と瞳が水の精霊様の巫女の証しなんですってね」
「なんまいだなんまいだ…」
「本当に顔小さいね…」
「舞台の上と表情が全然違うんだね…」
と、皆好き勝手に言い拝む者までいたけど命に
「皆ちゃんと身体洗って入らなきゃダメだよ?」
そう言われそれを聞いた留美菜が再び溜め息を吐くのだった
その命にお腹の大きい女性とその母親らしい女性が命に向かい
「あの…姫様にお願いがあるのですが宜しいでしょうか?」
そう言われ何?と言った表情の命に母親らしい女性が
「まもなく産み月を迎える娘のお腹を姫様に擦って頂き安産を願って欲しいのです」
そう言われそのお腹に手を翳し
「生命の始まりの母なる海に合い通じる胎内の海にて産まれる時を待つ子と共に母体である貴女にアクエリアス様のご加護が有りますように…」
命がそう告げると命とその女性がまるで水の中に居るような霊光に包まれやがて光が消えると
「お産の時にはアクエリアス様に祈ればきっと守って下さいますよ」
そう言って一歩踏み出すと足を滑らせびったーんっ…と派手な音を立て尻餅を着き
「い、痛い…」
と、呟く命に
「命様…お尻を水風呂で冷やしてきた方が良いですよ?」
留美菜にそう言われ
「うん、そうする…」
そう答える命
そんな命に一人の少女が近寄り
「私もアクエリアス様に祈れば早く泳げるようになりますか?」
そう聞かれて
「うん、祈りは大切だけどそれだ
けじゃダメなのはわかるよね?
みこだって最初はお歌覚えれないしすぐ側にお上手な人が居たからお稽古辛かったんだよ?
何度も止めたいって思ったし…
だから貴女も挫けず頑張ってね…」
そう言われ感激した少女が
「有り難うございます、人魚姫様…もし良かったら今日の記念に握手してもらえませんか?」
そう言われた命は
「みこでよければ喜んで…」
そう答え差し出された手を握り興奮する少女の後ろに握手の希望者が並んでいた
結局留美菜に
「そろそろ上がってお支度をしないと…りんが着物を準備して待ってますよ?」
と、言うと女性達も
「私達も上がって良い席を取らないとねっ♪」
そう言って皆も上がり始めた
会場の準備が整い…勿論命の着付け
も既に終わっている
第一幕の歌、女神と共にと水の精霊への奉納の踊りの間は飲食を控えて貰うため春蘭のお茶が用意された
女神と共にを歌い水の精霊への奉納の踊りを舞い命が一旦下がり料理や飲物の提供が始まる
料理は食べ放題の為大皿に盛られた料理が各テーブルに配られ始めた
留美菜とりんが用意した鍋は欲しい者が取りに行く事になっているけど
無くなるまで列が途切れることはなかった
ミナが販売したエプロンも三十枚はあっと言う間に完売し会場が落ち着くのを待って二幕に移る
二幕は海や航海を必要とする海などの無いこの辺りには縁の薄い航海の安全祈願と航海の無事の感謝を奉納する踊りを中心に魅せ
干した香草や薬草を母に届けて欲しいと手紙を添えて送り
急いだ方が良い物と嵩張る物を減らす為運んでもらった
それに母が又新しい薬草や香草の利用法を模索しているとも聞いていたから命のお供をする自分達が持って歩くより有効活用できる
そう判断したからだが実際栽培出来ない物が多かった為とても喜んで受け取った
と、聞いたのは未だ先の話だけどそんな感じで荷物運びでこき使われた翔の機嫌は頗る悪かったけど大好きなチサが起きて待っていて
「お疲れ様、翔ちゃん」
そう言ってくれたから
ーまぁええ、今回だけはチサ様の顔に免じて許したるわ…ー
そう呟いてチサに甘える翔だった
明けて翌日の夕方護送車は海軍寮に入り野盗達は敷地内に有る牢に入れられ後日前衛基地の有る島の矯正施設に送られる事になっていた
その一方で荷を積んだ馬車は酔仙亭の前で荷を下ろし酔仙亭の女将が仕切り卸売りが始まった
勿論女将に対する代償は同行に漏れたマイ、マキ、マナ、マユの四人が演舞台で舞い…
特に命の稽古の時間に共に稽古をしていたマイは太夫に
「座敷でお客様の前に出しても恥ずかしくない位には踊れるよっ!」
そうお墨付きを貰って居るから女将も喜んで迎え入れた
更に留美菜とりんの友達の漁師の娘達が配膳の手伝いに来てくれる事も決まっていたから卸売りの代行を喜んで引き受けた
ただ残念な事に今日の荷は完売し酔仙亭の分は残らなかったけど…
明日の朝荷馬車を送り出せば明後日には又荷が届き且つ二台の荷馬車の内一台は自分の店用だから焦る必要はない
何にしろ不安だった道中の安全を毛糸を運ぶ美月が人魚姫の騎士達の警護して守ってくれる今この話に乗らない方はない
ただこの幸運を一人占めするのもどうかと思い彼女の店の在る呑み屋街、通称酒仙境で肉を取り扱う店に声を掛け仲間に入れた
手数料は荷馬車の馭者と護衛の騎士に牧場で呑む酒壷一壷を参加者で出し合う事
なので今王都の中でも一、二を争う盛況ぶりだ
王都の経済復興は今や確実な物へと変わりつつあった
その変化をユウの元に翔が伝言に飛び翌日斬刃は峠の街駐在員として
喧火は輸送車警護として牧場に向かう事になった
斬刃が峠の街に着き鬼百合とユウは牧場に戻った翌日二人は馬で王宮に戻り翔は一足先にチサの元へと帰っていった


②宴の夜に

命達も今夜で六泊目で予定通りに明日の夜を最後に次の町を目指す事になった
「明日の夜の宴会場の予定は空いてますか?」
春蘭に聞かれた宿の親父が
「やはり当分予約の入る見込みはありません」
そう答えたので
「では明日の夕方から貸し切らせて頂き命様の踊りや歌を披露し入場料代わりに宿の前の店の料理を召し上がって頂くのはどうでしょうか?」
と親父には全くの想像外の申し出に勿論親父は飛び付いた
「それは弟も喜ぶ申し出ですが…」
そう言って考え込親父に
「何か不都合でもあるのですか?」
そう春蘭に聞かれ
「その場合短時間で弟の店で捌き切れるのか?
王都で一、二を争う料亭を売り切れ御免の札を出させる人魚姫様の集客力を考えると…」
そう不安を口にする親父に
「その店は売り切れになら無いよう店の前に屋台を呼び総菜屋に声を掛け協力してもらってますからね?
勿論私達も色々協力させてもらいますから頑張りましょう」
と、言われて
「わかりました、弟と明日の予定を決めてきます」
そう言って飯屋の裏口に向かった
そして最後の夜を迎え命は早朝の稽古を歌から踊りの稽古にし午前中謡華に稽古を着けて貰い
昼食後最後の野外ステージに立つ予定で留美菜達五人は午前中はいつも通りで午後からは夜の宴会の料理の下拵え
野外ステージから戻った命の入浴と着付け等色々あって忙しい
ミナはミナで枚数三十枚限定でエプロンの販売をし売り切れ次第留美菜達を手伝うため朝からエプロンの作成を急いでいる

「明日の朝この町を出るから今日で最後なんだ、ごめんねっ!
でも、いつか又きっと来るから楽しみにしててね
その前に今夜はみこ達がお泊まりしてた大きなお風呂の在る宿屋でこの街最後の舞台をやるからご飯代掛かっちゃうけど新しく覚えた歌のお披露目するから良かったらきてね
じゃあ又会う日まで…」
そう言っていつものように舞台から姿を消した
宿に戻り先ず飯屋に向かうと客が数人と飯屋と宿の親父達が居て話をしていたけど命に気付き振り向く二人に
「きょーまで美味しいご飯と素敵なお風呂をありがとおございました
お蔭でみこすっかり元気なったよ
それにおじさん達がみこの事内緒にしてくれたから舞台を楽しみながら
お歌と踊りのお稽古にしゅーちゅー出来てホント楽しかったよっ♪
だからおじさん達にハイっ!」
そう言って春蘭が二人に渡したのは二枚の絵で飯屋の親父に渡したのは命の指定席で笑顔でお椀を持つ命
宿の親父に渡したのは湯から跳ね上がり振り向いた人魚姫の命を各々描いた物で
「親父さんの苦労が報われた絵だね」
そう言ったのは宿と飯屋の常連客で老婆の伴で来ている若い女性客で
「所で人魚姫様がお気に入りの料理ってなんですか?」
そう聞かれた命は
「ンとね、みこ猫舌だから冷たいスープだよ」
命がそう答えると
「それってお品書きに無い料理ですよね?」
と飯屋の親父に聞くと困った顔をして春蘭を見ながら
「薬草や香草に詳しいそちらのお嬢さんに協力していただき身体の弱い人魚姫様の為の料理だから今のところ店に出す予定は…」
と言う言葉に春蘭が
「命様のお昼の残りが有りましたら味見していただき反応が良いようでしたら明日からお品書きに書き加えてはどうでしょうか?」
そう言われた親父が居合わせた三人の客に出すと味見した三人は各々に
「さっぱりして食欲無い時でもこれなら食べられます」
「冷めてるんじゃ無くこの温度になったら美味しくなるよう考えてあるんですね?」
「消化も良さそうで本当に優しい料理ですね?」
等の声を聞いた春蘭が
「皆様の仰ってた事全てが命様にキチンとお食事を摂って頂く為の工夫ですからね」
そう言われた命は
「そうなんだ、春蘭って大変なんだね?」
と、まるっきり他人事の物言いに溜め息を吐く春蘭は勿論他者が居なければ説教の嵐だった事を自覚した方が良さそうな命かも知れない
そんな頭の痛い春蘭も一応
「これでおわかりでしょうけど女湯を貸し切らせて頂いたのは命様ですが温泉に入るのも今日で最後になります
ですので今日は貸し切りにせず素顔の命様に接していただこうと思います…女性限定で」
そう言われた女性の客達は
「あらまあ大変、急いでお風呂の支度をしなくっちゃ」
と、言って勘定を済ませると部屋に戻って行った

「命様、お風呂場で走ってはいけませんって春蘭さんにきつくいわれたでしょ?」
留美菜にそう言われた命は
「春蘭居ないもーんっ♪」
と、留美菜を振り返って見ながら言うと
「命様っ、走っちゃダメっ、危ないっ!」
「前を見てくださいっ!」
「あっ!?命様前に人がっ…」
そう言い掛けた時には先客にぶつかり受け止められていた
その女性に対し留美菜が代表して
「命様が大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
そう言って頭を下げると
「このお嬢様にぶつかられた位でどうこうなるような柔な鍛え方はして無いから平気だ、お嬢様にも何も無いから安心おし」
そうその女性に言って貰いもう一度頭を下げると
「春蘭さんにお風呂場では走らない、お湯に浸かる前には身体をちゃんと洗って下さいって言われたでしょ?
私が綺麗に洗って差し上げますから大人しくしててくださいっ!」
そう言われた少女が渋々座ると他の少女達が甲斐甲斐しく世話をする姿は微笑ましく思って見守っていた
「はい、命様…泡も綺麗に流し終わりましたから先に…
だからお風呂場では走らないで下さいっ!」
その留美菜の叫びは虚しく響き命は綺麗な放物線を描き温泉の中に吸い込まれていった
その呆れた行為を見てさすがに
(後で春蘭さんに報告しなきゃダメですね…)
そう溜め息を吐く留美菜だったけど様子を見守っていた女性が少女が飛び込んだ時の異様な程の飛沫のたたなさ
潜っままいつまでも浮き上がらない少女とその事を全く気にしないで身体を洗う少女達に不安を覚え自らも湯に顔を浸けると…人魚が泳いでいた
(ま、マジ?)
そう思って水面から顔を出し留美菜達に
「に、人魚が現れたっ!」
そう叫ぶと呆れた留美菜が
「申し訳ありませんけど貴女はもしかして歌う人魚姫様の噂をご存知ないんですか?」
そう聞かれて
「い、いいや一応しってるが…人魚姫と言うのは単なる物の例えで本当に人魚になるとは思って無かったから…」
そう言って口隠っているとその騒ぎで命が入っている事に気付いた他の客達が一気に流れ込んだ
「あ、いたいたっ…人魚姫様がいらっしゃるわよ」
「本当に可愛らしいお顔立ち…」「あの蒼い髪と瞳が水の精霊様の巫女の証しなんですってね」
「なんまいだなんまいだ…」
「本当に顔小さいね…」
「舞台の上と表情が全然違うんだね…」
と、皆好き勝手に言い拝む者までいたけど命に
「皆ちゃんと身体洗って入らなきゃダメだよ?」
そう言われそれを聞いた留美菜が再び溜め息を吐くのだった
その命にお腹の大きい女性とその母親らしい女性が命に向かい
「あの…姫様にお願いがあるのですが宜しいでしょうか?」
そう言われ何?と言った表情の命に母親らしい女性が
「まもなく産み月を迎える娘のお腹を姫様に擦って頂き安産を願って欲しいのです」
そう言われそのお腹に手を翳し
「生命の始まりの母なる海に合い通じる胎内の海にて産まれる時を待つ子と共に母体である貴女にアクエリアス様のご加護が有りますように…」
命がそう告げると命とその女性がまるで水の中に居るような霊光に包まれやがて光が消えると
「お産の時にはアクエリアス様に祈ればきっと守って下さいますよ」
そう言って一歩踏み出すと足を滑らせびったーんっ…と派手な音を立て尻餅を着き
「い、痛い…」
と、呟く命に
「命様…お尻を水風呂で冷やしてきた方が良いですよ?」
留美菜にそう言われ
「うん、そうする…」
そう答える命
そんな命に一人の少女が近寄り
「私もアクエリアス様に祈れば早く泳げるようになりますか?」
そう聞かれて
「うん、祈りは大切だけどそれだ
けじゃダメなのはわかるよね?
みこだって最初はお歌覚えれないしすぐ側にお上手な人が居たからお稽古辛かったんだよ?
何度も止めたいって思ったし…
だから貴女も挫けず頑張ってね…」
そう言われ感激した少女が
「有り難うございます、人魚姫様…もし良かったら今日の記念に握手してもらえませんか?」
そう言われた命は
「みこでよければ喜んで…」
そう答え差し出された手を握り興奮する少女の後ろに握手の希望者が並んでいた
結局留美菜に
「そろそろ上がってお支度をしないと…りんが着物を準備して待ってますよ?」
と、言うと女性達も
「私達も上がって良い席を取らないとねっ♪」
そう言って皆も上がり始めた
会場の準備が整い…勿論命の着付け
も既に終わっている
第一幕の歌、女神と共にと水の精霊への奉納の踊りの間は飲食を控えて貰うため春蘭のお茶が用意された
女神と共にを歌い水の精霊への奉納の踊りを舞い命が一旦下がり料理や飲物の提供が始まる
料理は食べ放題の為大皿に盛られた料理が各テーブルに配られ始めた 
留美菜とりんが用意した鍋は欲しい者が取りに行く事になっているけど
無くなるまで列が途切れることはなかった
ミナが販売したエプロンも三十枚はあっと言う間に完売し会場が落ち着くのを待って二幕に移る


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女神の依り代、りん

舞姫の為にその想いがりんを更なる運命に導いた


蒸気の勾玉にスチーマーの蒸気を吸ったチサの霊玉のスチームエクスプロージョンの魔玉と蓄熱の勾玉

早朝、まずは歌の自習を済ませ媛歌と二人舞い姫から命が一度踊った温泉の女神の奉納の踊りを改めて習い

真琴、チサ、翼、歌姫の霊体他留守番組の巫女達を呼び結界内で踊りの稽古を着けることになり羊祭りを媛歌と共に指導することになり充実した時を過ごした豊作祈願や地の精霊への奉納の踊りは歌姫も習得しているので限られた時間の命はそれ以外の踊りを教える事にしたのだ

勿論大樹も呼ばれ真琴が踊りの稽古の間は自習でその後修行を見て貰い腕を磨いた

その後朝食の席でモリオンと斬刃のハンドボウガンに朱鷺色の勾玉を埋め込み強化して再度渡しその席で

「三日後の婚約披露宴の露払いのファッションショーの為翔を鬼百合に迎えに行かせますのでそのつもりでいなさい」

そう言われてこの日は昨日用意した菓子を持って命の前衛基地慰問に訪れることになった

同行するのは勿論翠蘭太夫、雅、真琴、翼、チサ、媛歌、マキ、マサミ、サエ、スズ、スエ、スミ鬼百合に修羅、沙霧、白浪、風華、炎、りゅう

いつもの様に海軍公邸で航海の安全祈願と水の精霊の奉納の踊りを舞い

前衛基地では航海の安全祈願、航海の無事を感謝の気持ちを捧げる踊り、基地最大の娯楽である釣りの為の大漁祈願に水の精霊の奉納の踊りを舞い

雅、真琴、命の歌が更に場を盛り上げ

侍女達の料理に舌鼓を打ち鬼百合と酌み交わしながらの釣りや他の戦士達と打ち合いを楽しむ時を過ごし

任務を終えた者達と帰還となり恒例の酔仙亭で慰労会

大賑わいの王都の夜が又更けていった

翌日は真琴、媛歌と共に太夫の師匠宅を訪問し同行者は雅と風華、マキ、サエ、マサミに馭者は炎で炎は余り離れない範囲で里山のに恵みを集めて時を過ごした

 

そして媛歌と翔のファッションショーで翔としては断る口実として

「あんなぁ、お父ちゃん…何でボクがそないな事をせなアカンのよ?まぁ、セレナも一緒に連れてってくれるんがボクが大人しゅーついてく条件やねっ♪」

と又してもうっかり口を滑らせたら

「遠慮するな、王女達も可愛い妹の友達に会いたいだろうからなっ♪」

そう言って翔を抱き抱えたセレナを自分の前に座らせると翔の頭がフリーズしてる間に飛び立つ鬼百合

(え、あれっ?何でやねん?)

そう思って頭を抱えている内に連れていかれ

「堪忍やでセレナ…又ボクが要らんことゆーたせいでセレナを巻き込んでもーて…」

そう謝られたセレナは

「大丈夫だよ、翔ちゃん…確かに最初はビックリしたけど翔ちゃんのお陰で歌の国に行けるんだもんスッゴク嬉しいよっ♪」

そう言われて

「ホンマに?そっか…セレナが喜んでくれるならボクも嬉しいでっ♪」

そう言ってひしと抱き合う二人を笑顔で見守る鬼百合だった

三人が到着すると早速翔はユウに手を引かれ控え室でショーの準備をされセレナは真琴に手を引かれ王女達と屋台巡りをする事に

翔が承諾する経緯もこっそり教えたから大歓迎で迎えられたのは言うまでも無いことだろう

命は当然吽の肩に乗っての移動だが…

勿論風華、大樹(は男の子限定)、炎、りゅう、鬼百合達霊獣の騎士達は乗せて貰いと言うリクエストに応え結納の儀を執り行われた際

「みこ達からの御祝いだよ」

そう言って十六夜、たか、れんに口笛を吹かせ十六夜の元に来たのは天馬、れんの元には炎馬、たかの元には羚羊が現れ騎乗を求めた

「勿論霊獣達は豊穣の女神の依り代を守る為に力を貸してくれるんだから…

十六夜お兄さんはユイお姉さんとランデブーを楽しんでたかとれんは大樹達と希望者のリクエストに応えてあげてね」

そう言って送り出し

「十四夜お兄さんにはちゃんとウルズお姉さんと話がまとまったら呼んだげるからねっ♪で、お誕生会に出れなかったパパには…」

そう言ってもう一体の天馬を呼び

「有事の際には信頼出来る騎士に託してママとお空を楽しんで来てね」

そう言って仲睦まじい国王夫妻の姿を王都の市民達に惜しみ無く披露した

大盛り上がりの中待ちわびたの少女達の前に精霊達が現れた

北風の精が受け入れを求めたのは

ー紫帆、私は北風の精…貴女の目覚めの時が来ました…私を受け入れを自由に空を翔なさいー

雨水の精が受け入れを求めたのは

ーミナモ、私は雨水の精…大地を潤す雨水の如く人の心を潤しましょう、私を受け入れてくれますね?ー

浜風の精が受け入れを求めたのは

ー美帆、私は浜風の精ですが貴女と共に歩みたい者です…受け入れてもらえますねー

雹の精が受け入れを求めたのは

ーこゆき、私の力に依り熱くなった大地を冷ましましょうー

そう求められた少女達は皆喜んで精霊の導きを受け入れた

その夜オアシスの町から付き従ってきた少年達を導く時がきた

レイを導くの飛頼雷蜥蜴の魔石で守人を導くのは飛び火蜥蜴の魔石にジャンを導くのは保冷の魔石でパリスを導くのはくすんだ黒い勾玉がー

チサの霊力で少年達を導き結界は翼、真琴、媛歌、深潮が張り

翌朝は歌の自習の後命と媛歌に歌姫は温泉温泉の女神の奉納の踊りを習いチサ、翼、真琴と留守番が命と媛歌に羊祭りを習い歌姫が新しく巫女になった四人に基本の足捌きを教えた

朝食の後に大聖堂にて婚約の報告を行い王宮にて立食の婚約披露パーティーが開かれ招きに応じたななつの国と地域の大使が参加する中奇跡は起きた

参加者に光の精霊と水の精霊が互いの巫女の身体を借りて語り始めた

「私は光の精霊」

「私は水の精霊」

「私達は求めます人々の融和を…その第一歩に巫女達に皆様のご理解とご協力お願いしたいのです」

そう言って頭を下げると七人の精霊と七個の霊玉が現れ受け入れを求め少年少女達は望んだけどその主人達はそれを許さず

「何故です?僕は導きを受けたいのに何故許していただけないのです?」

一人の少年が堪り兼ねて叫び声をあげるとただ黙って首を横に降るだけの上官にに

「何の説明もなくあくまでも僕の道を塞ぐのなら僕は祖国を…」

「いけません、その先を口にすることは許しません…

水の精霊の巫女は一度たりとも親の同意を得ぬもの受け入れていない」

「勿論貴殿方の思いは嬉しいですが今のまま貴方達を受け入れてしまえば人々は巫女達を信用しない

残念ですが私の巫女は日頃の無理が祟りそろそろ限界ですので今回は諦めることにしましょう…」

そう告げると光と水の精霊が気配を消すと二人に導かれた精霊と霊玉も姿を消しその重い空気の中命が見たことの無い踊りを舞い始めた

「水の精霊の祝福の舞い…」

歌姫が真琴の頭に直接囁いたのを口に出すと少年達は悔しそうに顔を歪め少女達は寂しそうな顔をして伏せた

ー真琴、舞が終わったらみこは…人魚姫は力尽きるから受け止めてあげてー

そう言われて頷くとじっと命を見守りその時に備えた

命の身体から溢れ出したアクエリアスの浄化の霊気が王宮を覆い尽くし二人を祝福し舞を終えた命は歌姫の言葉通り力尽き倒れるところを琴に受け止められ

「真琴様、命様は休んででいただける支度する間は私にお任せ下さい」

そう声を掛けてきて受け取り抱き上げると

「よろしくお願いします」 

と、王妃が言い真琴も

「水の精霊の祝福の舞いと言う特別な踊りを十六夜兄さんとユイ姉さん…そしてその二人を祝福しに集まってくれた皆様にアクエリアス様の祝福があります様にと願う舞ですが…

その舞いは水の精霊の巫女をしてもその負担は決して小さくないですが霊力を一気に放出しての放心状態ですから今の所は何の心配も有りませんからご安心下さい」

そう声を掛けるとレイナ=ワイマールが

「真琴様、深潮と弥空に目を覚ました命様にお茶を用意させましたから」

そう言われて笑顔で頷き王女として振る舞い場を盛り上げようとするの見て溜め息を吐くと

ー媛お姉ちゃん…迎えに来たってや…こないとこに慣れとらんセレナに無理させとぉ無いからー

そう言ってパーティー会場の隅のカーテンの影に隠れる翔の元に媛歌を呼び命の元に連れていってもらい吸熱魔法で火照った身体を冷まし

「まこお姉ちゃん、みこお姉ちゃんの火照った身体冷ましたからこんで落ち着くはずやで?」

そう声を掛けると

「媛、ありがとう…翔もご苦労様、こんな公式の場では良くないけど大好きなチサお姉ちゃんに甘えておいで」

そう言われて媛に下ろしてもらいよたよた歩きチサの元に歩く姿を見て心を動かされないものは少なくなく行動自体は演出だけど上手とは程遠い翔の歩みに心を動かされない者は少なくない 

誤解はあるけどパーティーに出る事を好まない翔が表舞台に出てきたのを見て例に漏れず翔に群がり先着一命様が翔の身体を抱いてチサの元に向かうと

十重二重に青少年に囲まれるチサは申し訳無さそうに

「翔ちゃん、もう暫く待ってくれますか?」

甘えん坊の妹を嗜める口調で言い唇を尖らせる翔を苦笑いで見ながら抱いているご婦人に

「もしお嫌で無ければもう暫く翔ちゃんを見ていてはいただけ無いでしょうか?」

そう頼まれたご婦人の周りに翔を構いたいご婦人が群がり

(翔ちゃんが嫌がるわけだ…)

そう苦笑いを浮かべるとレイナがセレナの肩に手を置き

「賢いとは言えませんが最低限自分が何をすべきか自分の感情とは別に必要とあれば妥協して振る舞える子だからストレスも溜まるでしょう

翔が好意を寄せる貴女に王女達も…ユウに託されているのでしょ?翔の事を任せますよ」

そう言って穏やかな笑みをたたえるレイナに頭を下げ

「はい、私も翔ちゃんが大好きなんですから」

そう答えるセレナだった

 

海神公国海軍総督ラインバックは正直迷っていた…

自分が姪のライラの霊玉を受け入れを断ったにも関わらず何の躊躇いも無く意識の無い命王女を託して…

いや、当の命王女自身左手以外の四肢は力無く垂れ下がっているもののその左手が海兵の礼装のジャケットの裾をしっかと握り締めているのを見て

「るう、来なさい」

そう言って花嫁修行の一環で預かっているもう一人の姪を連れ真琴の前に行くと片膝を着き

「己が狭量で姪達が精霊様の導きを受ける機会閉ざす等と言う愚行を詫びると共に今一度再び二人を導く機会をお与え下さる様貴女方の精霊様に取りなしていただけませんか?」

そう言って膝ま付いて深々と頭を下げると

ーるう、私は海湯の精…水の精霊の巫女の巫女と共に人々に安らぎを与える存在になりませんか?その意思が有るのならば左手を掲げなさい…ー

そう言われた通りに左手を精霊に向け掲げると海湯の精はその手を受け取るとその甲に口付けを落としその体内に消えていき時を同じくし橙色の霊玉が受け入れを求めライラの前で漂うのを見て

「貴女が力を求めるならその霊玉を受けとりなさい…」

そう言われて霊玉を手に取ると霊玉は光となりライラの口から侵入しオレンジ色の光に包まれ暫くの後に光はライラの身体に返り暫くら呆然としているのを心配したるうが

「ライラ様のお身体は大丈夫なのでしょうか?」

真琴にそう問い掛けると笑いながら

「るう様…大丈夫、あれだけ大きなお守りのご利益が有るのだからねっ♪」

そう言うのを聞いて苦い顔をして

「自分の妹の事をお守りとかご利益とかなんと言うことを言うのですか?貴女は…」

そう言われても叱られたいたずらっ子の様に舌を出す真琴に呆れて溜め息を吐く王妃だけどその会話についていけない二人はただ顔を見合わせるだけだった

その様子を見ていたレイナが弥空にお茶を運ばせライラに飲ませると意識のはっきりしてきたライラに

「我が王女宮騎士団にようこそ、騎士団団長を務める真琴です

私達の王女宮は独立採算ゆえ貧乏で他の軍の様な贅沢はさせてあげられませんが不自由はさせないよう努力してますから貴女も正騎士目指し頑張ってください

その真琴の驚くべき発言に

「独立採算…貧乏とは一体…ならば王女宮の財源は一体…」

そう呟くラインバックに

「本人達の望まない継承権を持たぬ王女達を極力政争に巻き込ませないため東の大公家公女宮に倣い政治不介入を原則とするためです

ですからは王女として出席してますが踊りや歌は精霊の巫女として王家の依頼で歌い舞っていただいてます」

その王妃の言葉を継ぎ

「現在王女宮の財源は過去本国入りの際移動の為の軍船で兵達に混じり釣った巨大魚の報酬

翼、チサ、真琴が侍女をしていた頃の給金と退職金に真琴の女神の祭典の入賞の賞金や命の漁の手伝いで得た報酬等で

現在は美月や王家からの歌や踊りの公演料に命の持つ漁業権での週一の漁の漁獲高に美月のモデル料が主な収入源となっております」

そう観月が説明すると

「勿論その中には真琴のアルバイト料も含まれてますね?」

そうチサが指摘すると

「ではあの、王女が座敷で踊っていると言う噂は真の事だったのか?」

再び驚きの声を上げるラインバックに

「そんな大袈裟なものではありません、私だけでなく巫女達の踊りも指導していただいてますし命同様翠蘭太夫には妹の様に可愛がってもらってますからね」

そう笑顔で答えると

「なら何故私だけ連れていってもらえないのですか?私だって貴女と一緒に踊りを習いたいのに…」

そう涙を滲ませ訴えるチサに

「ごめんなさい、それについては観月姉さんと相談してください少なくとも私は姉さんに遠慮して貴女を同行してないのですから

それに王女としてお母様に同行したり私や留守の翼と命の代表を務めてもらってますし

歌も命の師であるアリア様の時間が取れる時にレッスンを受けてますから予定が組みにくいのも有りますから…」

そう難しい顔で言う真琴に

「真琴さん、その程度のお留守でしたら私が王女宮の留守をお預かりします

勿論ユキさんやユミさん、マサミさんを始め巫女の皆さんや侍女の皆さんもお手伝いしてくれますね?

それにチサちゃんもいつも一緒に行けなくても良いのでしょ?

それなら真琴さんももう少し予定を組みやすいしお店の方も二人揃っての訪問も嬉しいけど来ていただく日数が多い方がもっと嬉しいと思いますよ?」

そう言って観月を見ると

「マキはチサの、マユは真琴のスケジュール調整を任せますから王妃様と三人で話し合いなさい、それで良いですね?チサ」

観月に問われ頷いたので

「皆様のお帰りの際は出航の予定を教えていただければ航海の安全祈願と水の精霊の奉納の踊りで見送らせて頂きますからお声掛け下さい再度の入国も予めご連絡頂ければ航海の無事を感謝する踊りで迎えましょう」

そう話すのを聞いて

「済まなかったな紫煙、リンリン…光の精霊の巫女様にお願い申す、私の愚かさを詫びると共に我が国の二人もお導き下さる様精霊様におとりなし下さい、これこの通り」

そう言って頭を下げると

ー私は潮騒の精…貴女に受け入れを望む者、さあリンリン、その手を差し出し受け入れの意思をお願いしますー

その一方で紫色の霊玉が紫煙と呼ばれた少年が受け入れを求められ今見たばかりの意思表示で受け入れると他の者達も口々に詫び精霊の導きを受け入れた

そしてそれに合わせたように目を覚ました命が

「私達の融和が祝福された…皆外に出て」

そう言われて訪問者が首を捻る中

「来たっ…」

そう命が呟くと霊獣の一団が現れ真琴の前に降り立ったのオディロン…に日輪の神の馬車を引くとされる霊獣が騎乗を求め

もう一体はライラにオディロン、シーホースは千浪と白浪で焔馬は修羅、炎馬は紫煙、麒麟は斬刃が羚羊はモリオンを選び各々に騎乗を求め

各々馴れた所で人々の期待に応えて空へと案内し

「凍夜新治安維持局長来なさい」

そう呼ばれた青年が国王に近寄ると王の口笛に呼ばれた天馬に

「有事の際はこの男に力を貸しなさい、それと今は有事ではないが他の者同様に空の案内役を頼む」

そう言われ驚く男に

「みこは私に有事の際は信頼出来る騎士に託してと言ったがゆえやはり私は治安維持局の局長であるお前に託したい、任せてよいな?」

そう言われてやっと納得し

「御意、有事の際は天馬殿の力をお借りして市民を守りましょう」

そう答えると

「イベントの際に空からの警備にも力を貸してもらうとよい」

そう言われ凍夜は命を見て微笑むと

「初乗りは貴女にお付き合い願いたい」

そう言って手を差し出すと命も笑顔でその手を取り初乗りに付き合うと国王の前に一人の見習い騎士が国王の前に膝ま付き

「いきなり不躾なお願いを申し上げますが王宮の騎士、准騎士は王女宮の転属は無理…

でも、未だ見習い騎士のボクならば…陛下、お願いしますボクでは役不足でしょうか?そう言われれば諦めも着きますが…」

そう訴える見習い騎士に近寄りその顔をじっと見詰めて

ー王女宮じゃなきゃ

…みこじゃなきゃダメ?何でか知らない…でも初めて美輝に会った時に感じた物を貴方から感じる…媛の騎士じゃ嫌?ー

そう言われて

「そ、そんなことはありません、月影の国の王女となられましたが貴女も又王女宮の住人であり歌の国の六花に違い有りませんね?陛下」

そう言われて陸軍副将軍と観月を見て

「構わぬのか?」

そう言われて

「四男ゆえ王女様達に誓い自ら信じる道を進め、よいな?」

その言葉を受け

「そう言うわけですから私がお断りする理由はありませんが媛の希望を叶える場合は私ではなく女王陛下との話し合いが必要だと思いますが?」

そう観月が告げるとそれまで他国の者が口を挟むべきではないと黙っていたヴェルサンディがこの件に関してはと思いね

「その際には私達も応援いたします、媛歌様が騎士にと望んだ方を信じましょう」

そう言うべき事を言い一歩下がるヴェルサンディを好もしい思いで見守る国王と観月の姿に未だ公表されない事実があるのだろうと思う一同だった

その頃翔は無い知恵絞って一生懸命考えその内何を考えて他のかを忘れ一生懸命思い出していていると雅に

「翔ちゃん、何をそんなに悩ん出るのですか?私で良ければ相談に乗りますよ?」

と、言ってもらったけど

「う~ん…でもメッサムズいから…」

そんな二人のやり取り聞き付けた観月が

「その様な物言い雅さんに失礼だとは思いませんか?」

そう言われて仕方無さそうに

「教えるけどお母ちゃんには絶対内緒やで?考え事しとって途中で何考えとったか忘れてもーたなんてばれたら…」

「やっぱり一からお勉強しなさいね、翔ちゃん?」

そうユウ本人に言われている事に気付かずに

「ってゆわれるからに決まっとるやん、観月様っ♪」

そう笑顔で答える翔に溜め息を吐く観月と苦笑いを浮かべる雅だけどカーテンの影からこそこそ出てきたセレナが

「翔ちゃん、十六夜王子様とユイ様のお二人に何かお祝いしたりたいんよって言ってたでしょ?」

そうセレナに教えられ

「あぁ…せやせややっぱセレナにゆーとってって良かったで、せやなかったら思いだせへかったわっ♪」

そう言って喜ぶ翔に

「翔ちゃんやっぱり木の実や草の実やジュース凍らせたのを召し上がっていただいていただきましょう?」

そう言われた翔は

「えーっ、そんなん王子様が喜ぶ訳無いやん?」

そう言って愚図る翔に

「私だってそんなのわからないから観月様に判断して頂いたら良いんじゃないの?」

そのセレナの言葉を受けうけて

「良いからやって見せなさい、私も一度見たいと思ってましたから」

そう言われて用意された大皿一杯の木の実草の実を凍らせた物を観月が味見してサラダボールに盛り

セレナにサラダボールを持ってもらい宙に浮いて十六夜とユイに近寄ると

「あ、あのですね…頭悪いボクもアホなり考えたんですけど…何考えとったか忘れる位一生懸命考えたんやけど何も浮かばんくて…」

チラッとセレナを見ると頷いたセレナは二人にボールの中身を見せ

「翔ちゃんの得意術でご用意したデザートで観月様にもお墨付きを頂きました、翔ちゃん自身は自信無いみたいなんですけど…」

そうセレナに言われて一粒ずつ摘まみ口に入れ味わうとその冷たさに驚き翔の身体を抱き締めると

「これ程驚き嬉しい贈りもの久し振りですよ?そうですね、十六夜様…」

そう振られた十六夜も

「あぁ驚いたよ、許されるなら大公領について来て欲しいくらいだよ…まぁ、無理っぽいけどね」

そう言って凄い形相で睨むユウ視線に苦笑いを浮かべる二人だった

「でも翔ちゃん、本当に良いおとも逹に巡り会えたみたいね…

セレナちゃんでしたね?貴女も知ってるだろうけど誤解されやすい娘だけど仲良くしてやってくださいね」

その言葉に

「はい、翔ちゃんが旅立つその時迄…私の幸せの夢のような時ですから…」

そう幸せそうに言うセレナと

(やっぱしついて着てくれへんのやね…)

そう思い翔が悲しんでいる事には気付けないセレナだった

その後参加者達のリクエストに答え次々と木の実草の実を凍らせジュースや水を凍らせ人々を喜ばせパーティーを盛り上げたし夜のパーティーでも宙に浮く翔も又五人の王女達にひけを取らない人気者になった

夜は命のアイデアで女神と共にで開幕しダンスを誘う歌によりパートナー選びを促し…

観月が久し振りに踊り指名したのは命でその事には関与してない命を驚かせ又喜ばせた

翼は背中の翼で翔を誘い宙を翔びチサは帆風に媛歌は見習い騎士の剣斗を指名で真琴王子はその意思を汲み取ったマユが

「王子様は貴女と踊りたいようですから誘って上げてください…」

そう言ってスクルドの背中を押し十四夜はウルズに十六夜は勿論ユイを選んだ

二曲目は命は翔と踊り観月は翼で三曲目は命は翼で観月は翔を選んでパートナーチェンジ

四曲目は命は媛歌を選び観月はチサに真琴は翔で翼は風華

五曲目は命はチサで観月は真琴に媛歌と翔で六曲目は命は真琴に観月は媛歌を選びチサは翔と踊り二度目のパートナーチェンジ

七曲目は命は翼で観月は真琴に媛歌はチサ翔は翼

八曲目命は海神公国の提督を指名し翼が

「提督様、パートナーチェンジでみこちゃんと踊っていただきその次の曲は私と踊っていただけませんか?

宙を舞う翔と私達に男女の垣根はありませんから一人一曲ずつにしていただきより沢山の方に誘って頂きたいのです」

そう言われて三人が踊る姿を見て確かに妖精の様だけど翼を背負いし翼とチサの二人も神秘的だし真琴王子も不思議な存在

だから翼の提案も喜んで受け入れたのだ

十四夜は十六夜は今夜は終わりで国王と三人分の時間を食事時間に当てさせる予定

一応始まる前と食事タイムに眠気覚ましにいつものお茶を飲んだけどますます夜の早くなった翔は半時が過ぎる頃には身体を真っ直ぐ維持できずその時踊っていたご婦人が抱き止めると頭をご婦人の肩に預け寝入ったので踊りの輪から離れて

翔を膝枕で眠らせるご婦人の幸せそうな顔とそれまでカーテンに隠れようにしていたセレナが眠りに就いた翔を心配してその姿を見守っていたが

昨日の朝から驚きの連続と全く縁の無かった社交界はその場に居るだけで精神的に疲弊していたからいつの間にか眠りに落ちていた

それでも翔の身を案じるセレナが翔の手をそっと握る姿は微笑ましく二人を並んで寝かせることにした

 

 

 

 

③女神の依り代りん

 

公邸から侯爵家の居城までの旅は通常よりかなり時間が掛かった

命では無いが人魚媛の一人のりんと王女として迎え入れられた地の精霊の巫女と供の精霊の巫女達を連れた侯爵家の一行に

「素通りは無いでしょ?」

言葉にすればそんなところで巫女達も豊作祈願の踊りで応え女王も喜ばせた

侯爵家の居城に着いたのは夕方近くで教師を務めるアレスが

「皆様お疲れでしょうから明日は一日ゆっくりされてお勉強は明後日からでよろしいかと思いますが如何致しましょう?」

そう聞かれたりんが



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お供になりたい

盛大な別れの宴も終わり町を出る精霊の巫女を待ち受けていたのは…


二幕は海や航海を必要とする海などの無いこの辺りには縁の薄い航海の安全祈願と航海の無事の感謝を奉納する踊りを中心に魅せ

大漁祈願と大漁の喜びを感謝し奉納する踊りを舞い再び幕間

三幕は命が歌い四幕は謡華の歌で最後の幕間して謡華の伴奏で命が歌い最後は二人の二重唱で幕を閉じた

舞台を移動しながら歌い踊ったので入れ換えなしで上演した

もっとも客の皆が皆時間を気にしないで居られる訳ではないし

酔い潰れた客は帰らず部屋を取り泊まる者やはしゃぎ疲れた子供達を金を出し合い大部屋を取り寝かせる者

それらが居たから自然と席は空いた大小全ての宴会場を埋めつくし用意した料理は全て底をついた

勿論留美菜とりんが用意した干し肉のスープと生ハムのマリネ

忍達の干物の串焼きも好評だったし童女の着物を着て主に飲物の給仕に頑張ったお蔭で飯屋の酒は底を尽き応援の飯屋が店から持ってこなければならないほどだった

騎士の平服を着た阿とスーツ姿の瑞穂は各々に酒をすすめられて閉口した

しかしそれが嫌で宴が始まってからは一人で魚を焼いていた忍はその難から逃れ命や謡華の歌声を離れた場所で楽しんだ

童女の着物姿の留美菜とりんが主に飲物の給仕をして回り

酒の消費量を増やすことに貢献しその衣装は幼い女の子達が羨望の眼差しで見ていた

そして命がうとうと仕始めたのを見て瑞穂を呼び

「命様と留美菜達を連れて休んで下さい

阿さんも頃合いを見て抜けてくださいね、今夜は呑まれてない忍さんにお任せして良いと思います」

そう言われた阿が

「貴女とミナは?」

そう言っていつの間にか姿を消しているミナを探して聞くと

「ミナさんはエプロン作りを始めてますし私も一応未成年ですからそろそろおいとまして収支報告書を付けてから刺繍をするつもりです」

と、答えるのを聞いて

「貴女達もたまにはゆっくり休んだらどうなんですか?」

そう阿に言われた春蘭が

「何故だか知りませんけど私もミナさんも王宮を出てからあまり眠りを必要と感じなくなりました

ミナさんを見て気付きませんか?

出発前は寝不足が顔に出てたのに今はその気配すら感じませんよ?」

そう言われその事に気付き

「旅立ちが精霊の巫女としての成長を促した?」

そう聞かれて

「そうなのかも知れませんけど留美菜や…

特に私と同じ刻に精霊様の導きを受けたりんが未だ目立った変化がありませんし…

何よりも命様はその事に全く触れませんから私達では何とも言いようがありません…」

そう答える春蘭だった

そんな春蘭に命の寝顔を見て来た謡華が春蘭に

「春蘭さんにお願いがありますが今宜しいですか?」

そう聞かれて

「大丈夫ですけど謡華さんは私より目上の方なのですから私の事は春蘭で良いですよ?」

そう言われた謡華は

「そうですか、わかりました…

春蘭にお願いがいしたいのは今暫く命様のお伴をして歌の指導をしたいのですが宜しいですか?」

そう聞かれて驚いた春蘭は

「命様は謡華さんは一緒に旅して歌の指導をしてくれると思ってましたから私達もそのつもりでしたが?」

そう言われた謡華は

「私だけが自分の気持ちに気付いてなかったみたいですね?」

と苦笑いしながら言うと春蘭が

「私達は舞台を盛り上げるお手伝いはできますけど歌そのものは何もお手伝い出来ません

どうか私達の大好きなみこちゃんのご指導宜しくお願いします」

そう言って頭を下げる春蘭の手を取り

「共に大好きなみこちゃんの為に…ですね?」

そう謡華が言うと二人は笑顔で頷きあった

宴の興奮は命達が退場しても全く衰え無い所か逆にエスカレートする一方

だから宿の客の朝食を出さねばならない宿屋の弟だけは先に休ませてもらい後を任せた

仮眠から目を覚ますと既に夜長の客に料理を出していた二人が夕べの残り物の良い物を選び弁当箱に詰め

窯に火を入れ飯を炊く支度もしてくれていた

だから飯屋の親父達も気合いを入れて三十人前の弁当の用意を始めた

部屋では既に荷物の積込を終え命と春蘭に阿が宿屋の帳場で宿屋と四人の飯屋の親父達に出発の挨拶に向かった

「長かったような…それでいてあっという間の八日間お世話になりました」

そう言って助っ人で入った三人の飯屋の親父達には鶏と戯れる命、樹の上で待機する命、舞台に舞い降りる命を描いた物を渡し

給仕や仲居達には春蘭の刺繍とミナが作ったエプロンを人数分…十五枚ずつ渡し

「このエプロンは美月のデザイナーのユカ様の監修でミナさんが作った物…

美月の新ブランド若月の製品です

こちらは…私が刺繍を施したハンカチですから喜んで頂けると嬉しいのですが…」

そう言って渡されたエプロンは(ちょっと若い子向けかな?)

そう思いながらも洒落たデザインはさすが美月製と思ったし春蘭の刺繍も

「私も趣味で刺繍をするからわかるけど細かい所まで丁寧に仕上げた良い物だよ

観月様は貴女が刺繍をする事はご存知なのかい?」

そう聞かれて

「いいえ、命様のお側に参りましてからは暫くやってませんでしたから…」

そう答えると

「なら観月様の目に止まれば…

アンタ等、もしかしたらこのハンカチは物凄い値が付くかも知れないよ?」

と、言われてガヤガヤ話ていると

「これはワシ等からの気持ちだよ」

そう言って弁当を三十人前と温泉卵と温泉まんじゅうを五十個ずつに命が気に入っていた手拭い五十枚、それぞれの店の漬け物を一樽を土産として渡され馬車に運ばれた

命が窓から身を乗りだし手を振り春蘭が

「危ないですからあまり身を乗り出さないで下さいっ!」

そう叫んでいるのが丸聞こえで別れの切なさや寂しさに混じり笑いを堪えきれず

「可愛らしいけどお側でお仕えするのは大変そうな王女様なんですね…?」

そう言って苦笑いする一同だったけど

(本当に夢のような一夜だったね?)と、考えながら板場と宴会場に残る洗い物の山と言う現実が頭の痛い事実だった

 

馬車が町の中心にある広場の入り口に差し掛かると多くの人が待ち構えていて命達が馬車から降りると

「王女命様にお願いしたい事が有りご無礼の段は重々承知いたしておりますが何卒お聞き届け下さいます様平に、平にお願い申し上げます」

そう言って石畳に額を擦り付けんばかりの勢いで頭を下げる…

多分町長らしき男を見ながら難しい顔をして見る命とその命を見守る者達が息を詰め見守る中…

「おおっ、そーかっ!命王女様ってみこの事なんだ…

すっかり忘れてたけどいちおーみこって王女様になったらしいよね?」

そう言われた春蘭は眉間にシワを寄せ

「一応ではなくれっきとした歌の国の王女様ですよ?」

そう言って溜め息を吐き

「今ご覧になった方ですからお話は私が代わって承ります」

そう言われた町長らしき男が

「私はこの湯下の町の町長を務めさせて頂いて居る者ですが我が町の少年少女達が是非とも王女様のお側でお仕えしたい

王女様の為に戦う騎士になりたいと申しまして両親共々私に相談に来まして共にお願いに上がった次第にございます」

そう言われた春蘭が阿を見ると

「この国の兵士、使用人の雇用は縁故がないと難しい事は勿論しってますね?」

阿の言葉に一人の少年が立ち上がり

「勿論知ってます…でも、思ってるだけじゃ夢が叶わない事も同じ位知ってるから先ず声を上げました、命様にお仕えしたいと…」

その答えを聞き他の少年達が頷くのを見た阿がその闘気を爆発的に膨らませ少年達にぶつけた

少年達が歯を喰い縛り闘気に立ち向かう中柳の枝が風を受け流すが如く阿の闘気を受け流す者が居た

温泉で命を受け止めた女性で

「この闘気には殺気が無ければ敵意も無いのだから受け流せば良いのです…がまだ無理でしょうね…」

そう呟くと

「貴女の名は?」

その女性に聞くと

「私の名は風華、命様にお仕えしたい騎士希望の者以後お見知り置きを」

そう名乗ると

「あっ、昨日お風呂場場てぶつかったお姉さん…」

そう言ってせっかく留美菜達が春蘭に伏せてくれていた事をついうっかり口を滑らせ留美菜達もあちゃーって顔をして居る

振り向くとこめかみをピクピクさせた春蘭が

「命様、どういう事でしょうか?お風呂場では走らないお約束でしたよね?」

そう言われて返事に困っていると

「大丈夫ですよ?よそ見していた命様はぶつかったと感じたかも知れませんがその前に受け止めましたから問題有りません」

そう言われて

「そうなんだって、良かったね春蘭…優しいおねーさんでっ♪」

そう言われて

(貴女がそれを言いますか?)

そう思ったけどそれを言うのも命なのだと思い出し頭の痛い思いの春蘭をなだめながら

「風華といいましたね、貴女の言う通りですが本気でないとはいえ私の放った気をずぶの素人の少年達が耐えきったのは賞賛に値する

それ故先程も言いましたたが縁故を持たない貴方達がこの国の兵士や使用人になるのは難しい…」

そう言われて肩を落とす人々に更に阿は

「この国では難しいが抜け道はある

私達や侍女のこの子達は命様のお供をしてますがその実王家ではなく大公家…

更に言うなら公女宮に所属する騎士であり見習い侍女です」

そう話すと町長が

「つまり公女宮所属と言う立場を気にしなければ問題無いと…ですが何故?」

町長が疑問を口にすると

「命様達が王家の養女となる前はその立場は公女宮の預かりで有ったゆえ側に居る私達も自然とそうなり…

命様を慕った彼女達の身分もまたそうなりました

ですからこの旅の同行も王家の依頼を受け観月様が私達を付けると言った変則的な状態

少年達が望むならば私達が鍛える故観月様にも推薦しよう…音を上げずついてこれますね?」

そう問われ

「勿論今諦めるより辛い事なんて想像つかないからよろしくお願いしますっ!」

一人がそう叫ぶと残る三人も

「お願いしますっ!」

そう叫び頭を下げたので

「解わかりました、荷物は用意しましたか?」

と、聞かれて

「勿論皆用意しましたが…」

と、言うとそれまで黙っていた町の者達が

「昨日のお礼です」

そう言って様々な贈り物を持ってきて完全に馬車に乗せきれない量になり春蘭が頭を抱えていると車輪の音がして四台の馬車が現れた

二台の馬車と二台の幌付きの荷馬車で町長が

「四人の騎士希望の者達の父親達からの餞別です」

そう言われて春蘭は溜め息を吐き

「今頂いた物を積み込み…」

そう言って考え込んで居ると阿が

「君とその隣の少年は馬車の馭者出来ますね?」

そう聞かれて

「俺達稼業の手伝いで毎日乗ってますから任せてください」

そう言われて

「忍はこの一番背の高い少年の馬車に、私は一番背の低い少年の馬車に乗ります

後の二人は荷馬車を頼めますね?」

そう聞かれて

「はい、大丈夫ですっ!」

二人もそう答えたので

「謡華さん、子供達を頼みます

侍女希望の娘達は朝食迄は私と同じ馬車に乗りなさい

その休憩の時に振り分けを考えますから…頼みますよ?春蘭」

そう声を掛けると

「承知しました」

やっと気を取り直した春蘭がそう答えた

荷物の積み込みが終わり

「お別れはもう済みましたね?」

そう確認して命を促し

「皆が立派な騎士や侍女になったよって報告できるよーみこもおーえんするから待っててあげてねっ♪じゃあみこ達出発するから…」

命がそう言うと阿も

「お子さん達、しかと預かりました」

と、言われて

「頑張れよ、俺達にはこんなチャンスなかったんだからな」

誰かの兄らしき人物が声を掛けると皆それぞれ叱咤の声をあげその声を受けながら馬車は走り出した

 

 

(言うだけあって中々上手い手綱さばき…

忍等徹夜明けもあって居眠りしてますね…)

その様子に安心して窓から見える景色を眺めていると馭者の少年が

「この先に見晴らしが良くて馬達が喜んで食べる草の生えてる所が有りますから休憩にしませんか?

未だ朝飯には早いけど馬達が喜びますから…」

そう言われて

そう言われて

「私達はこの辺りには縁の薄い者で当然地理にも疎いのだから君の判断に任せる」

そう言って貰い前の馬車に合図を送ると先導の荷馬車が進路を脇道に入り後続も続いた

暫く走ると視界が開けた場所に出て馬車を止め

完徹で居眠りしているミナと忍以外が馬車を降り身体を伸ばしている

がそこから見える景色に息を呑む一同だったが阿の目配せに気付いた春蘭は

「さすが地元の人ですね?私達だけでは気付かず通り過ぎてたでしょうね…」

その春蘭の言葉に顔を真っ赤にして喜ぶ少年と悔しがる二人に聞かせるように

「勿論他の三人も知ってる筈でしょうが荷馬車の二人に伝える相手はないし忍もあの状態ですからね…」

と言うのを聞いて笑みを溢す一同を見て

「命様もここで踊りのお稽古をしていきますか?」

そう春蘭に聞かれて

「うん、未だお歌のお稽古もしてないから…」

と、答えたので

「貴方達は朝食を持ってきてますか?」

そう春蘭に聞かれ見せたのは乾パン等の携行食だったから

「食欲が有りお弁当を食べきれる人は挙手」

そう言われて手を挙げなかったのは命だけで

「わかりました、私も余り食欲が有りませんから命様と二人で分け合います

今からお茶を沸かし食後に熱いお茶を出しますからそれまでは各自水筒のお茶を呑んでいてください」

と、言うと阿も

「馭者の五人は申し訳無いが馬の世話をしてから食事をしてください

つぼみは春蘭の手伝い、留美菜、りん、つぐみは簡単なスープを頼みます

他の娘達は取り敢えずござなど敷いて食事の準備をする私を手伝いなさい

命様は踊りのお稽古で謡華さんは夕べしてませんから三弦の手入れをしながら命様を見守ってください」

そう言って皆行動に移った

食べる場所を確保し終えた阿が辺りを見回すと所々に花が咲き実を付けた草もあり馬車から降りたメイプルも喜んで牧草を食んでいた

視界は開け眼下には少し前まで居た湯下の町の全景が見渡せる

人数的に一番多く弁当と温泉玉子と食器を用意するだけの新しく入った少女達が一番早く終わり

「私、蛍と言いますけどここには時々連れてきてもらってジャムの材料を集めてます

もし宜しければ食事迄の間に集めていても良いでしょうか?」

そう聞かれ命を見ると今からがピークに差し掛かるから暫くは終わらないと判断し

「余り遠くに行かない様に気を付けなさい」

そう答えると

「はい、そんな事で皆様のご迷惑になりたく有りませんから気を付けます」

そう言って仲間達の元に戻り各々篭を手にして散った

次いで馭者達が馬の世話を終え戻ってきて

「俺達は今から急いで枯れ枝拾いしてきますからお二方とお休みください」

と、言われた阿が

「何故枯れ枝拾いを?」

と、聞くと

「何故かこの広場は枯れ枝等が風に運ばれ集まりやすく馬が草を食むのに邪魔になる

ですからここで馬に草を喰わせる者は枯れ枝を纏めて邪魔にならない所に置くか撤去するかが決まりなんですよ」

そう言われて

「成る程、理に叶ってますね…ですが何故二人はしなくて良いのですか?」

と、聞くと

「いくら集まり易いと言っても五人も必要な程じゃないからですよ

それに俺達の狙いはそれだけじゃないですから」

そう言って笑って散っていった

命の稽古が終わり持っていった篭が一杯になった麦と澪が命の元に行き春蘭の指示で命の着替えをりんと共に手伝う事になるはずだった…

―お前達はなんだ?ここは私の縄張りだから間違っても四足獣を側に近寄らせるなっ、わかったなっ!―

そうまくし立てられた二人が目を白黒させ

「あ、あの…貴女様は一体どなた様でいらっしゃいますのでしょうか?」

そう麦に問われたので

―知らぬ、依り代や巫女達は私を花の娘と呼ぶが私はその意を知らぬしどうでもよいことだ…

何故なら私は私だと言う自覚さえあればそれで良いのだからな―

不敵な笑みを浮かべる花の娘に

「あ、あの…もしかしたら花の娘様はメイプルの事がお嫌い…―その様なモノは知らぬし関係無いゆえ私の視界から消え失せろ生臭い獣めっ!―」

感情剥き出しにする花の娘を苦笑いで見守るしかない二人だった

踊りの稽古で汗に濡れた淡い水色のワンピースを脱がせりんの用意した大公領海兵隊の制服命バージョンを着せると

「新しい人達が入ったから私達に巫女としての修行時間が取れる様にと春蘭さんは考えてます

取り敢えずここは私が見守るから二人は先に食事行って下さい

後片付けは私達がして春蘭さんに休んで貰いましょうね」

と言って馬車から出した

手慣れた手つきで命の着替えを手伝う少女に

「私はりん、八歳です」

と自己紹介すると

「私は澪、九歳」

「私は麦同じく九歳」

と答えてくれたから

「じゃあ留美菜ちゃんと同い年かな?

留美菜ちゃんは今年九歳になったんなら…」

と言うと

「じゃあ貴女と蛍が同い年で私と麦、留美菜さんが同い年になりますね

後のライは十歳で風歌さんは十五歳です

あの…貴女達三人も精霊の巫女様なんですか?」

と聞かれ首を横に振り

「春蘭さんも含めて四人だけど未熟な私達は未だ精霊の巫女見習い…ですね」

と苦笑いすると

「みこがいつまでもしっかりしないからだよね?

お着替えひとつまともに出来ないんだから…」

そう言って震える命の身体を見ながら小声で

「二人とも、命様を抱き締めてあげて」

とりんに言われおずおずと言って抱き締めたのだけどその命の身体の細さ小ささに驚き思わずしっかり抱き締めて

(この方をお守りしたいっ!)

と強く思っているとりんの笑顔も私もだよと言っていた

命様の従者の方ってどんな人達なのか不安だったけど私達と同じ命様が大好きな人達なんだと知りホッとした

そう思い命を見るとホンの一瞬では有るけど命が泣いている赤ちゃんに見えた澪が

「りんちゃん…私の目おかしくなったのかな?

今一瞬命様が泣いてる赤ちゃんに見えたなんて…」

そう戸惑い気味に言う澪に

「それは私にも解らないから春蘭さんに聞いてみますね

命様ご飯食べれそうですか?」

首を横に振るのを見て

「じゃあ他の人達に先に食べて貰う様に伝えて春蘭さんに今の事を話して来ますからその間お願いしますね

それと…後で皆の所に戻ったらお友達の嫉妬の視線を覚悟しといた方が良いですよ?

春蘭さんも妹さん達の視線に苦笑いしてた事有りますから」

と言われてやはり苦笑いする澪と麦だった

「命様はもう少し遅くなりますから皆さんは先に食べ始めて下さい

それと春蘭さんはどちらに?」

と聞くと

留美菜が指差しあっちで瑞穂様と今後の予定を話し合ってるよ」

そう留美菜に言われて有り難う難うと言ってそちらに向かった

「春蘭さんにお話がありますけど良いですか?」

と言うとどうぞと首を傾げたので

「春蘭さんが命様の着替えを手伝う様に仰った…澪ちゃんが」

りんの言葉を遮り

「あの子が何かしでかしたの?」

りんの言葉を待たずに聞く春蘭に

「いいえ、命様を…」

「命様が困らせたの?」

と又もりんの話を聞かない春蘭に余裕の無さを感じ観月様に相談すべきと感じる瑞穂だった

「命様を一瞬泣いてる赤ちゃんに見えたって言ったんです」

と今度は邪魔され無いよう一気に話すと

「何故それを早く言わないのですか?」

と眉を潜める春蘭に苦笑いしながら

「自覚は無いでしょうが今の貴女には相手の話を落ち着いて聞く余裕も無いのです

もっとミナや留美菜、りんを頼りなさい

未だ今の貴女が一人で背負うには荷が重すぎますよ?」

と言われて溜め息を吐き

「そうですね、りん…役割分担を決めて貴女達の力を貸してくれますか?」

と言われて

「勿論、私達は仲間なんでしょ?春蘭さん

じゃあ私は命様の所に戻りますね」

と言って駆け出した

そのりんの後ろ姿を見送り

「待ち人来る…ですね」

「これからなのでしょうが…」

「助けが必要な時は迷わず相談しなさいね」

「はい、その時は宜しくお願いします」

 

雫のお腹がなってしまい麦と二人で顔を見合わせ命の前で笑っているところにりんが戻ってきた

「命様、お元気を取り戻されたのならお食事になさいませんか?」

「りんちゃん、みこが馬車から降りるの手伝ってね…みこ、何か疲れちゃった」

馬車から降りた命は機能性重視の海兵隊の制服に白のサンダルと、命が持っている衣装の中では一番地味だが一番のお気に入りの物だった

実際には綺麗な白ではなくなってきていたが今日明日中に人里に出る事も無いって着せたのだ

「さぁ、少年達よいつまでも命様に見とれていないで自己紹介しなさい」

そう阿に言われて

「俺は大樹、三人の中では年長です」

と最初の少年が名乗りをあげ

「俺の名は炎、十四歳で命様の為に戦う騎士になりたくて参りました」

二番目の少年が名乗り最後に三人の中では一番小柄な少年が

「僕は海斗十二歳、腕力じゃ二人に敵わないけど身の軽さなら負けないから命様の為に頑張りますっ!」

そう言って意気込むと少し難しい顔をしながら三人の顔を見る命に代わり

「命様は貴方達位の男の子と余り接した事が有りませんから…

取り敢えず貴方達の呼び方を教えてあげてください」

そうミナに言われて

「それなら俺は大樹で問題有りません」

「俺も炎で」

「僕も海斗で」

そう言うと風華も

「なら私もついでですから風華で願います」

そう四人に言われて

「たいき、ほむら、かいとにふうかだね?うん、覚えるよ」

そう言うと春蘭が

「次に澪と麦以外の見習いの侍女の子達も自己紹介しなさい」

そう言うと

「僕はライ十歳、宜しくねっ命様っ♪」

真琴以外の女の子から初めて僕と言う聞いて何と無く嬉しくなり

「ライもまこちゃんみたく僕ってユーんだねっ♪」

そう言われたライが

「おかしいですか?」

そう小さな声で言われ驚いた命が

「じゃあまこちゃんも変なの?」

そう聞かれたミナが

「変じゃありませんよ?

ライも命様にとっては逆に何故真琴様以外の女の子が僕って言わないのか不思議なんですよ」

そう言われたライは

「なら命様はご自分の事を何て言ってるんですか?」

そう聞かれた命は

「みこはみこだよ?」

そう命が言うと

「命様がそう何度も口にされてるのを聞いてませんか?

それこそ両陛下や観月様の前でもそう言ってますからね」

ミナが言うと春蘭も

「もう少し王女としての自覚と立ち居振る舞いを身に付けて頂きたいのですけどね?」

そう言われた命は

「あははっ、自覚以前にオーじょさまになったの忘れるみこにはむりだよ?」

そう言われた春蘭が溜め息を吐くと

「取り敢えず今は気にしなくても良いですよ?

次の子、自己紹介を続けて下さい」

そうミナに言われて

「私は美景八歳」

「私、蛍七歳です」

そう順番に名乗るのを聞いた命が

「みこね、多分皆に一杯一杯迷惑掛けるけど宜しくね?

みこなんにも出来ない子だから…」

その命の言葉に言葉に溜め息を吐きながら

「余り迷惑を掛けないようにしようとは思わないのですか?」

と呆れ声で言う春蘭に

「うん、みこだって迷惑掛ける気無いけどいつも春蘭に怒られてるんだもん

何をどうしてらいーのかさっぱりわかんないんだよ?」

情けない声で言う命に驚いた少年達と少女達に



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見習い騎士と霊獣シーホース

いつかは精霊の巫女を守る騎士と夢見るしょうねんたちはたびだった


「がっかりした?みこがこんなおバカな子だって知って…

でもごめんね、これがホントのみこで皆幻想を見てるんだよ…

水の精霊の巫女、人魚姫って…」

淋しいと言うよりは辛そうに笑う命に

「そんな事有りません、りんちゃんに聞いたけど王女様になる前の命様をみこちゃんって呼んでたよ?って…

ホント言ったらねその話を聞いても最初はあまりピンときていなかったんだけど命様とお話しした今なら何となくわかったんです…

私に何が出来るかわからない…だけど…ホンの少しだけれど命様の事が知れてもっともっと命様が好きになりました

春蘭様、ミナ様、一生懸命頑張りますからどうか命様にお仕え出来る様ご指導宜しくお願いしますっ!」

そう決意も新に頭を下げると他の少女達も我に返り頭を下げるのを見た春蘭が

「取り敢えず食事を再開しなさい、命様もそろそろお腹が空いてきたでしょうしね?」

そう言われて皆も食事を再開し命とお弁当を分け合うと言った春蘭はミナを呼び

ミナが春蘭の隣に腰を下ろすと命も指定席に腰掛けると少女達も腰を下ろしながら

(あのお姿はやっぱり命様って言うよりみこちゃんって呼ぶ方がしっくり来るよね?)

それが留美菜とりんにも改めて感じる正直な気持ちだった

春蘭から命用のさ小さな器を受け取り食事を始めると皆も食事を再開した

 

 

「たいきの思う理想的な騎士ってどんなの?」

食後の一時に命にそう聞かれた大樹は

「それはやっぱり伝説の騎士達の様にお守りすべき方の為…守るべき人達の為に戦う騎士と思うけど…それがどうかしましたか?」

そう大樹に聞き返された命は

「ンーなんか違う気するけどまっいーか?」

そう言うと祈り始めると空の彼方から何者かが舞い降りてきた

それが何者なのか最初に気付いた瑞穂が思わず

「霊獣シーホース…」

そう呟くと

「あの子はたいき達に力を貸してくれるかもしれないからあの子の試しを受けてみる?」

そう言われ大樹が

「その試しとはなんでしょうか?」

内容を気にしてそう尋ねると

「別に特別な事をする訳じゃないよ?お馬さんに乗れるたいき達ならね

乗りこなすまではゆわないけどちゃんと乗れたら良いだけなんだからね?」

その答えに

「炎、海斗に風華さん…俺からでも良いかな?」

そう聞かれた三人が頷くのを見て気合いを入れてシーホースが降り立つのを待つ大樹だった

シーホースが降り立ちまず命がその背に股がると

「たいきからで良いんだよね?

じゃあ早速みこの後ろに乗って」

そう言われて命の後ろに乗ったものの前にいる命の存在が気になって仕方ない大樹と炎が集中出来ないのも無理からぬ事

二人の結果は落馬こそしなかったものの良いところ無く試しは終わってしまってしまった

そして海斗の番になり二人の失敗を参考にとにかく乗馬に集中する事だけを心掛けることにして

「頼むよ…」

そう声を掛けると一気に飛び乗りゆっくり歩かせてみた

精神を集中した乗り手にシーホースは答え徐々にその速度を上げるとそれを感じとった海斗が

「このまま翔んでくれるのかな?」

その問い掛けに応え宙に駆け上がり始めた

暫くは見守っていた春蘭達も出発の支度を済ませると

「降りてきて出発の支度をしなさいっ!」

春蘭がそう声を掛けると

「かいと、このまま行っていーか春蘭に聞いて?」

命にそう言われて

「春蘭様っ!、命様がこのまま行って良いと聞いてますけどっ!?」

そう叫ぶと

「どうやらんこのまま海斗にはシーホースと組んで貰う事になりそうですから海斗の代わりに私が馭者をします」

そう阿に言われた春蘭は

「未だ慣れてないのだから無理は禁物ですからねっ!」

そう海斗に向かって叫び返した

勿論海斗の方も前方に見える雨雲が気になり始めていたから無理をする気は更々無いのに命の指示で海上に出てしまい

(良いのかな?馬車ともかなり離れちゃったけど…)

そんな海斗の思いとは他所に難しい顔をして前方を睨む命がやがて溜め息吐くと宙に浮き

「かいと、敵が来るから警戒するよう阿に伝えて

みこはここで迎え撃つから」

そう言って山風、山谷風の精達と霧の精海原の精を呼び出すと未だ動かずにいる海斗に

「何をしているのです?早く皆の元に行きなさいっ!」

今迄の命と異なる表情の命に強い口調で命じられた海斗が慌てて引き返すのを見送り

「敵は闇に侵された雷精達と雷精達が操る霊玉達です

山風と山谷風の精達は雷精達が呼ぶ雷雲を極力払ってください

霧の精と海原の精は私のサポートを頼みます」

そう言って霊力を高めると未だようやく視界に入った雷精達に向かい

ー八青龍神っ!ー

命が放った呪文を見た精霊達が

ー巫女様、その呪文では雷精を倒す事はできませんよ?ー

そう言われて

「そう、あくまでも雷精達の浄化と放電により霊力を弱め無駄な戦闘を控えるため

雷精達が本命の敵じゃ無いしその為に神剣を呼び出したのですからね…」

そう告げ竜頭の直撃を受けた雷精達が浄化され闇の呪縛から解き放たれ…

同じく浄化された霊玉で結界を張り霊力の回復を図った

一方直撃を免れた雷精達と霊玉達も浄化されるまではいかないものの霊力の低下は著しくやはり霊玉で結界を張り霊力の回復を図った

そして運良く雷精達のリーダーらしき者がりタイヤしたらしく統率者の居ない群と化した敵

それはどれだけ数かが居ようとも烏合の衆に過ぎず散開する事もしないで無策のまま接近する敵に

ー清瀧大瀑布っ!ー

その呪文で残った雷精を一気に浄化するとその背後から飛雷蜥蜴が雷撃を放ってきた

ーウォーターウォールっ!ー

辛うじて張った障壁がその雷撃の威力を殺してくれたお陰で大ダメージこそ免れたものの決して浅傷では済まなかった

しかも後続の飛炎蜥蜴達が迫るのを見ていると

「命様、これは一体どういう事なのか後できっちりとご説明ねがえますか?

但し、春蘭の怒り様は尋常ではありませんでしたから彼女のお説教は免れないものとご覚悟される事ですね」

海斗の後ろに乗った忍がそう冷たく言い放つと

「それはみこに言ってやりなさい、私の関知する事ではありませんから…ですが良い所に来てくれました

遠距離攻撃用の呪文が主力の私には飛行能力値の高い飛雷蜥蜴や飛炎蜥蜴達はさすがにちょっと荷が重いと感じてましたからよろしく頼みますよ?」

そう言われて

「当たり前です、無事に連れ戻し春蘭の説教をたっぷりお受け下さいねっ!」

そう怒鳴る忍に対し肩を竦める命は

「私とてこの身体を傷付けるのはみこに対し気が退けますから出来うる限り遠慮したいのですけどね」

そうは言ったものの散開して全方位から襲って来る敵に攻撃力の低い水の鞭と水球だけでは対応できる筈もない

その小さな身体に裂傷や擦過傷、火傷が刻まれていく…

ー飛炎に飛雷の蜥蜴達か…本命は火怒雷(ヒドラ)辺りやろか?

阿はみこを庇いつつ応戦、瑞穂はボクに火力と魔力を吸われた飛炎蜥蜴と魔力の低下した飛雷蜥蜴を叩き落としたりー

翔の声に気付いた命が

「瑞穂、受け取りなさいっ!」

そう言って投げられた物を受け取

たるとそれは一対のカトラスに姿を変え瑞穂の手に納まるのを見た翔が

ーほないくで?瑞穂っ!ー

そう呼び掛けると共に大きく息を吸い込むとその先に在る大気の温度と共に飛炎蜥蜴の纏う火と魔力

飛雷蜥蜴の魔力と体温を奪い始るとそれに気付いた蜥蜴達が狼狽え始めたけど既に手遅れで蜥蜴達の間を縫うように飛ぶ翔の背に乗る瑞穂から繰り出される一撃で叩き落とされていった

ー本命が湧いて出た…うざっー

翔の言う通りに倒された火炎蜥蜴と飛雷蜥蜴の命を生け贄にして何者かが召喚したのだ

つまり飛怒雷を倒しその召喚者も倒すか追い払わなければ切りがないと言うことだ

ー飛怒雷の力を弱めるから忍と阿は頼むで

ボクと瑞穂は無駄なんは承知やけど放っても置けんから飛炎と飛雷を始末するさかいー

そう言って先ず火怒雷の魔力と火を吸い込むと周囲の火炎と飛雷の魔力や火、体温を奪い始めた

しかしそれに対し二体、三体、と現れる火怒雷

多少の魔力と火を奪われて弱る程柔でも無い厄介な敵でしかも翔の方も魔力と火を吸い込みすぎ既に飽和状態

その翔に進化の時が訪れた

命に持たされた数珠玉が翔の霊体に満ち溢れた火気と雷気を帯びた魔力を吸い始めると代わりに翔は眼下の海に向け息を大きく吸い込むと

ー竜氷連山っ!ー

翔の放った呪文により海水が氷竜となり火怒雷達を襲い始めた

一撃、二撃で何とかなるわけではなくても更に追撃が次々と襲って来るから始末が悪い

十体を越える火怒雷をあっという間に殲滅すると

ーえー加減に姿を表したらどうやねん、みこのストーカーっ!ー

翔が叫ぶと

「全く躾のなってないヒヨコは煩くて敵わん…」

そう言われて

ーあぁっ!誰が可愛いヒヨコやっちゅーねんよ?つか静かなヒヨコなんぞ寝とるか死にかけとるやろがっ!ー

そう喚き散らすと

「可愛いとはゆーとらんがの、全く…お前の親の顔が見たいものだ…」

そう言われて癇癪を起こした翔が

ーはぁっ?そないなボクも知らんのやから好きにすればえーやろっ!?

つか、何処ぞに居るんかもわからんモン達見に行ってそんまんま二度とみこの前に面そのを出すなやっ!ー

そう叫び

ー火錐衝っ!ー

翔が放った翔の最大級の火炎魔法にも拘らずあっさり払いのけたその男を悔しそうに見ながら

ーアカン…挑発に乗ってもーて魔力尽かしてもーた…

瑞穂には悪いけどボク等の出番は終わったから引き返すで…ー

そう言って陸目指して飛んでいった

それを嘲る笑みを浮かべその後ろで短剣を構える忍を見ると

「暫く見ないうちに随分と人がましい顔付きになったものだ

たかが人狼に飼われていた牝狗の分際で…」

そう嘲りを込めて言うと忍も恐怖と屈辱的な記憶を呼び戻され怯え始めた

その怯える様子は振り向かなくても海斗にも伝わりなんと声をかければ良いのか見当も付かない海斗は忍に声を掛ける代わりに

「忍様はお前が嫌いみたいだからさっさと逃げろよ?手下も皆居なくなったんだからさっ!」

そう怒鳴ると

「そう喚かずとも聞こえておるわ小わっぱが…だが、ひとつだけ教えておいてやろう…無知にして無垢なる少年よ

それにはお前が庇ってやる価値はないし如何に精霊の巫女達と共に在ろうとも一度闇に墜ちた過去を消せはしない

その事は本人が一番がわかっているはずなのだがな?」

そう言われた忍の怯え方は尋常ではなくもう一度海斗が

「そんなの余計なお世話だっ!僕にとって忍様に価値があるか無いかなんて僕が決める事で少なくとも敵のお前なんかにとやかく言われるのは筋違いだし無性に腹が立つ事だっ!」

いつの間にか意識を回復した命が左手を額に添え右の手刀を相手の胸に突き立てると

―八叉の黒炎竜っ!―

八首の黒炎竜を放ち神剣を握り締めた手は何故か震えていた

(今度こそ捉えたと思ったものを又も傀儡…)そう言われた忍の怯え方は尋常ではなくもう一度海斗が

「余計なお世話だっ!僕にとって忍様に価値があるか無いかは僕が決める事

少なくともお前なんかにとやかく言われるのは腹が立つ…」

いつの間にか意識を回復した命が左手を額に添え右の手刀を相手の胸に突き立てると

―八叉の黒炎竜っ!―

八首の黒炎竜を放ち神剣を握り締めた手は何故か震えていた

(今度こそ捉えたと思ったものを又も傀儡…)

その苛立ちを遅れて現れた大飛び蜥蜴に向けて

ー八叉の黒炎竜っ!ー

呪文を立て続けに放ち紛らしたもののその反動で再び意識を失い降下を始めた命を見て

「海斗、忍は私が連れて帰りますから貴方は命様を頼みます」

そう告げる阿に

「このまま皆の所に戻った方が良くないですか?」

そう聞き返すと忍を見てみなさい、今の忍は男の子の貴方には任せられる状態に有ると思いますか?」

そう阿に言われて

「無理…そうです…」

そう情け無さそうに答える海斗に忍の身体を抱き上げながら

「わかったのなら急ぎなさい、命様はかなり降下してますよ?」

その言葉に驚いた海斗が命の姿を探すとかなり海面に近付いていた

それに気付いたシーホースも慌てて命に近寄り海面すれすれで海斗が受け止め

(命…様?)

先程迄の峻烈な表情ではなく少なくとも自分の見知っている歌う人魚姫の物だったから

「命様、ご気分は如何ですか?」

そう聞くと弱々しく横に振るから

そう情け無さそうに答える海斗に忍の身体を抱き上げながら

「わかったのなら急ぎなさい、命様はかなり降下してますよ?その言葉に驚いた海斗が命の姿を探すとかなり海面に近付いていた

それに気付いたシーホースも慌てて命に近寄り海面すれすれで海斗が受け止めた

(命…様?)

先程迄の峻烈な表情ではなく少なくとも自分の見知っている歌う人魚姫の物だったから

「命様、ご気分は如何ですか?」

そう聞くと弱々しく横に振るから

「忍に合わせる顔無いから…」

耳をそばだてても聞き取れない位の小さな声で答え

「みこは具体的には知らない…でも忍の心に深い傷跡があるのは知ってる

身体の傷はすっかり消えたけど心の傷の瘡蓋を剥がされ苦しむ忍に何もしてあげられない

みこが守ってあげることも出来なかった…

だから皆の所には戻れない…忍の前には出られない…」

その命の独白を聞いた海斗は

(説得するよりそっと連れ戻しましょう)

そうシーホースに語り掛けるように思考するとシーホースも海斗の意思を汲み取り静かに陸に戻った

 

謎の男が撤退したのを見た精霊達が姿を消し春蘭達の前に現れた

雨の中、命の無事を祈る春蘭達の前に

ー私は雷精…春蘭、貴女に私の受け入れも求めますー

一人の雷精が言うと

ーライ、私の導きを受け入れ我が霊力を我が物としますか?ー

そう問われた二人は

「喜んで雷精様の導きを受け入れます」

春蘭そう答えると

「ぼ、僕も雷精様に導いて欲しいです…

こんな…離れた所に置き去りにされ命様の身を案じてるだけなんて辛すぎるっ!」

そうライが叫ぶと他の少年少女達も頷き

(又も連れて行って貰えなかった…)

そう感じるりんが一番強く感じていることだった

ーわかりました、左手を掲げなさいー

そう言われて差し出された左手を取り口付けを落とし契約を完了した

ーりん、私が何者なのかはもうわかってますね?

私も受け入れて大海原を目指しなさい…ー

そう言われて

「私を大海原にお導き下さい、海原の精様」

そう答え左手を差し出した

ーミナ、私は山谷風の精…貴女を導く雨水の精とは属性の異なる私を受け入れて新たな力を求めませんか?ー

その呼び掛けに今度は躊躇う事無く

「命様のお側に導いて下さい、山谷風の精様」

ミナもそう答え左手を差し出した

ー私は山風の精、つぐみ…私の巫女となり水の精霊の巫女と共に歩みませんか?ー

そう問われ皆が受け入れるのを見たつぐみに躊躇う理由はなかったから

「喜んで山風の精様のお導きを受け入れます」

そう答え左手を差し出しそして

ー私は霧の精、しずく…私と共に水の精霊の巫女にお力添えを致しませんか?ー

そう誘われたしずくは

「命様のお力添えが出来る力が欲しいです…霧の精様、私をお導き下さいっ!」

そう言ってしずくも左手を差し出した

新たに三人の精霊の巫女が産まれ更に四人の巫女の内の三人が更なる精霊の導きを受けることになった

「ミナさん、留美菜、りん…ライ、つぐみ、しずくの三人の身体を拭いて着替えさせてから休ませましょう」

そう言うと馬車の中から謡華が

「ミナさんの顔色も悪いですから着替えさせてから休ませましょう

留美菜ちゃんとりんちゃんも着替えて具合の悪い人の看病を手伝って下さい、私はつぐみちゃんとしずくちゃんの着替えを手伝って様子を見ますから…」

そう提案すると

「私は何とも無いですしつぼみちゃんが二人を心配そうに見てますから側に居させてあげて下さい

りんはミナさんに次いで一番の先輩なんだから謡華様のお手伝い宜しくね?」

そう言うと

「良くわからないけど僕も身体の調子良いから春蘭様こそ先に着替えて出発の準備をしておいてください

大樹と炎、ミナ様と春蘭様のお着替え覗いたら命は無いからねっ!」

と言われて

「あ、当たり前だろっ!?こんな時に洒落になんないんだよ、そんな冗談はっ!」

そう焦って言う炎に

「だってさ?蛍、こんな時じゃ無かったら覗きたいらしいよ?」

そう言われた蛍も

「まぁ炎のスケベさは今に始まった事じゃないからねっ!」

そう言って睨む蛍に

「兄貴に向かってそりゃないだろう?」

と、情けない声で言うとそれまで張りつめていた春蘭の緊張感もほぐれて

「わかりました、大樹と炎…命様が戻り次第雨宿りの出来る場所に誘導してください

そこで今日のこの後について話し合いますから」

そう言うとミナに肩を貸しつぐみにライが寄り添いしずくにはつぼみが寄り添ってりんと留美菜は最後について馬車に向かった

春蘭はまずミナの着替えを手伝いその後で自分の着替えをするとミナを寝台で休ませてからお茶の支度を始め同じく着替えを終えたりんに

「謡華さんのお手伝いをしてきなさい」

そう言われ手伝い向かった

謡華は二人の着替えを終えると二人にもう一つの寝台を二人で使うよう指示して休ませところだった

「春蘭さんはお茶の支度を始めましたから多分それを飲んで落ち着いてから出発するのだと思います」

そう伝えると

「雨に濡れて冷えた身体を温める為にも…ですね?さすが春蘭さん」

と、言うと

「それ程意識はしてなかっただろうけどライさんが春蘭さんに休むよう言ってくれたから春蘭さんも気付いたんだと思います」

そう言うと

「そうですね、春蘭さんの淹れてくれるお茶は心と身体を温めてくれますからね…」

そう微笑みながら言うと

「はい、低血圧で朝の苦手なユミ様も春蘭さんのお茶を飲めば快適な朝が迎えられるって仰ってましたから」

そう聞いて

(ユミ様…確かその名も美月のデザイナーはとして知らぬ者は無い方ですね?)

そう思いながら春蘭の背負う期待の大きさを改めて思いしる謡華だった

 

不時着と同時に意識を失い小さくなった翔を手の内に庇いながら馬車に戻った瑞穂に着替てもらい

熱いお茶を飲んでもらった春蘭は取り敢えず瑞穂が撤退するまでの話を聞いた

次いで戻ってきた阿と忍

阿に着替えてもらい忍の着替えを手伝って二人に熱いお茶を出し忍を見守る一同ではあるがさすがに春蘭も忍を見守るしかなかった

 

「海斗…何で陸の上にいるの?下ろして…みこゆったよね?皆の…忍には会えないって…」

そう言われて

「春蘭様やミナ様、阿様や瑞穂様に謡華さんだって心配してますから戻りましょう」

海斗がそう言うと命は

「ふんっ…」

と鼻を鳴らし

「お母様自らの手で産まれて間もないまこちゃんとみこは迷宮に棄てられた

だからそんなみこの事なんか心配する人なんか居るわけ無い

だから貴方もみこの事なんか放っておいて、貴方に災厄を招く前に…

疫病神なんかに関わらない方が貴方の為なんだからっ!」

そう言われて

「僕みたいなごく普通の平凡な人間に命様の様な特別な…」

「特別なって何なの?ごく普通の平凡なって…みこはその普通で良かったんだ

岬で留美菜ちゃん達のお母さんやお父さん達が漁から帰ってくるのを見てあの時はわからなかったけど今なら何と無くわかる…

みこもあんな風に迎えに来て欲しかった…

まこちゃんとみことお友達と遊びたかった…

ただそれだけなのにわからなかったまこちゃんとみこには迎えに来てくれるお父様とお母様も一緒に遊んでくれるお友達も居なかった

閉ざされた空間には昼も夜も無かったんだよ?

そんな特別の何処が羨ましいのさっ!」

涙を流しながら捲し立てる命は

「疫病神のみこの事なんかを心配してくれる人なんか居るわけ無い、放っておいてっ!」

そう叫んで黙り込む命を不安げに見守りながら手綱を持ち歩いていた海斗の左頬に痛みが走った

痛烈な平手打ちがバッチーんっ!と言う音を響かせ決まったからだ

「海斗、こんな大変な時に命泣かせて何してんのさっ!」

そう言われて蛍に叱られた海斗も何と言えば良いのかわからず

「うん、ごめん…」

と、謝ると

「海斗に悪気無いのはわかるけどもう少し考えて喋りなよ?

でないといつか取り返しのつかない失言をしかねないんだからさ…海斗は」

そう言われ何も言い返せない海斗に溜め息を吐くと

「命様を馬車にお連れしなよ

この先の雨宿り小屋で休憩するからついてこいって大樹が言ってたからね」

そう言って自分も馬車に戻っていった

命が馬車に戻り着替えを終えると謡華の膝枕で休ませることにして

雨宿り小屋に着くと一先ず食事の支度を始める春蘭と手伝いの留美菜、蛍と澪でライ、麦、美景は朝集めた草の実を仕訳することにした

馭者達は飼い葉を食べさせながら雨に濡れた馬の体を拭いてやっていた

先に役目をはたした馭者達に朝の残りの弁当と温泉卵を使ったサラダにお茶を出し先に食べてもらい休憩を取ってもらう事に

ただ…戻って来る途中意識を失っていた忍を一人には出来ずりんに見守らせていていたので瑞穂が弁当を分けると食欲が落ちるどころかいつもより旺盛な食欲を見せた

だから瑞穂も取り敢えずりんにしっかり食事を取らせるといつの間にか眠りに落ちていた

そんな瑞穂の元を訪れたのは海斗で

「瑞穂様にご相談したいのですが宜しいですか?」

そう聞かれた瑞穂は

「忍とりんが眠ってますから手短に頼みます」

そう告げると自分と翔が退却した後から話始め命を馬車の謡華に預けるまで話してくれ

「僕はもう命様に嫌われてしまったのでしょうか?」

全てを語り終えた海斗にそう聞かれた瑞穂は

「嫌いな者に身を委ねる命様ではありません

謡華さんに預けるまで貴方がお守りしてたのですからその心配は無用ですし良くも悪くもいつまでも引き摺らないのが命様です 」

そう言われた海斗が

「はい、取り敢えず今は早く一人前の騎士になって命様をお守り出来る男を目指します」

そう答えながら空の容器を纏め

「ついでですからこれは僕が洗い場に持っていきます、ありがとうございました」

そう礼を言って馬車を出ていった

 

「留美菜ちゃん凄い…」

そう澪が思わず呟いたのも当然でお手伝い程度にしか台所に立った事の無いライ達

それと鍋だけならほぼ毎日作っていたし祭の出店で高評価を得ている実績を持つ留美菜達岬の子達に敵うわけはない

「留美菜さん、りんさん…」

そう呼びたくなる二人だけどそんな呼び方しても喜ばないのもわかっている澪の当面の目標は二人を

「留美菜ちゃん、りんちゃん」

と、そう呼んでも恥ずかしくない自分になる事と決めた澪だった

春蘭は春蘭で母親のレシピは一通り厳しく仕込まれているのだから更に別格の存在だから引け目を感じるより春蘭に料理を習うのが楽しみな少女達だった

その留美菜の鍋と春蘭の野菜炒めが仕上がり謡華、命、ミナ、つぐみ、しずくの分を持っていき

すると命以外の三人は何とか起き上がり普段より少し多目に食べると再び眠りに落ちた

 

 



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新たな人材

人の出会いは不思議なもので精霊の巫女との出会いが埋もれる才能を掘り起こしお眠れる才能を揺り起こす


「私の分を分けたら結構な量を食べると寝てしまいました」

瑞穂に説明され

「顔色が悪いのだから素直に休めば良いのに無理してましたから…」

そう言ってりんの寝顔を見る春蘭を見て

(そのりんより更に顔色の悪い貴女に言われても説得力はありませんよ?)

そう思っていると

「瑞穂さんに見ていただきたい事があるのですが少し宜しいでしょうか?」

そう言われて

「ここでは不味いのですか?」

そう聞くと

「はい、少なくとも馬車からは出た方が…」

そう答えるので忍とりんの寝顔を見ると変わらず熟睡していたので

「わかりました」

そう言って春蘭と馬車から降り小屋の外に出た

「まずこれをご覧ください」

そう言って春蘭が見せたのは三寸位の小枝で

「それがどうかしましたか?」

春蘭の言いたい事がわからずそう聞くと

「見ていただきたいのは…」

そう言って大きく息を吸うと

ー溶っ!ー

そう唱え息をゆっくり吐き出すと小枝はみるみるうちに小さくなり春蘭の手にその痕跡を残すだけになった

「私に目覚めた力でもうひとつは…」

そう言って手刀を切ると二間程離れた樹の葉が半分に切り裂かれた

葉が落ちたなら偶然と言えなくもないけど半分になった葉の残り半分は枝に付いたまま

「これらの力を得ましたがこれの使い方や制御を学ぶ必要がありますしその一方でもっと強化したい気持ちも有ります…」

そう言われて

「わかりました、命様と阿とも相談しましょう…

ですがもしかしたらミナとりんも?」

そう春蘭に聞くと首を横に振り

「二人に聞いてみないとわかりませんが可能性は高いです」

そう言われて

(春蘭、ミナ、りんも本格的に巫女としての修行をさせる時期かもしれません…

踊りの稽古は新たに加わった三人の巫女達も合わせて時間を取るようにしたいですから現状の報告を兼ね観月様に相談しましょう…)

そう考え

「二人が落ち着いてから話を聞きましょう…

貴女も戻り食事をとりなさい」

そう言われて春蘭も馬車を降りライ達と食事をとる事にした

春蘭に遠慮するライ達の質問が留美菜に集中するのは自然の成り行きで命との出会いから聞かれた

食欲の余り無い春蘭が皆より先に食べ終えると食器を下げようと立ち上がるのを見た蛍が

「後片付けは私達がしますから春蘭様も暫く馬車で腰掛け休んでいてください

ミナ様とりんちゃんの具合が悪い中春蘭様も倒れたら留美菜ちゃん一人に負担を掛けてしまいます」

そう言われた春蘭も

「わかりました…命様の様子を見てから少し身体を休めます」

そう言ってふらつく足取りで命の眠る馬車に向かった

馬車では半ば眠っている表情の命がつぼみに手伝ってもらいながら食事をとっているのを見た

その様子に安堵の溜め息を吐くと空いている席に座り込み眠りに落ち気付いた謡華がその身体に毛布を掛けると溜め息を吐き

「りんが無理をしていると溢してましたがもっと無理している貴女が言っても説得力無かったですよ?」

そう言ってやっと身体を休める春蘭を見てホッとする謡華だった

 

馬車が再出発する頃には雨はすっかり上がっていたけど

「今から次の湯町を目指すには中途半端な時間だから途中にある馬借組合が建てた無人宿に泊まりませんか?

次の宿は天然の温泉を囲った露天風呂風呂も有りますから調子の悪い人達も回復するかもしれないですよ?」

そう大樹に言われた瑞穂がその提案を受け入れて無人宿を目指す事にした

春蘭が目を覚ましたのは既に宿に着き洗濯物を下ろしているところで

「春蘭、目を覚ましましたか?」

そう声を掛けてきた謡華に水筒を手渡されお茶を一口飲むと

「ええ、スッキリした目覚めです」

そう答える春蘭に

「瑞穂さんに絵と貴女の刺繍、つぼみの組紐、つぐみの竹細工、しずくの編み物に草の実等を纏め…

海斗に王宮に運んでもらう準備をして欲しいとの事ですが大丈夫ですか?」

そう聞かれたので

「大丈夫です、今から取り掛かります」

そう春蘭が答えると

「お願いします、その間に私は命様に貴女とミナさん、ライ、つぐみ、しずく、りんの入浴の支度をしますから終わったら一緒に入りましょう」

そう言われたので

「宜しくお願いします…」

そう答える春蘭だった

草の実に関しては草ブドウ、ムカゴ、と草の実ではないけど木苺に湯下の町で貰った干した木の実や草の実が小さな篭に詰められていてそれを渡された

それを瑞穂に指定された荷物と収支報告書、澪とりんから聞いた話を纏めた物と一緒にして瑞穂の下に向かうと既に海斗とシーホースに翔が待っていて

「この手紙も頼みます」

そう言われて受け取った物を自分の書類と纏め海斗に渡すと受け取った海斗に巾着袋とメモを一枚渡し

「巾着袋の中には霊玉化した雷精様と雷精様の霊力が込めれた霊玉が多数入ってますから翼様に渡してください

これに書いてあるのが荷物の内容です」

そう言われ受けとると一度目を通し胸ポケットに仕舞い

「シーホース様、宜しくお願いします」

そう声を掛け飛び乗るとその海斗の肩に翔が止まりシーホースも静かに浮き上がり王宮に向け駆け出した

 

海斗達を見送る瑞穂と春蘭の二人に

命を抱いた謡華とまだ少しふらつくミナ、つぐみとライに手を引いてもらっているりんとしずくが近寄り

「温泉に行きましょう」

そう謡華が声を掛けてきて春蘭も頷き一緒に向かった

脱衣所は洗い場になっていて留美菜、麦、澪、美景、蛍が洗濯をしていて

「悪いね、僕は元気なのに手伝わなくて…」

そう言われて澪が

「何のんびりはいるつもりでいるんですか?

今だってりんちゃんとしずくちゃんの手を引いてあげてるんでしょ?」

そう指摘されて

「そうだね…わかったよ、そっちは頼んだよ

僕は僕のすべき事をするからさ」

そう言ってりんとしずくの脱衣を手伝い自分も服を脱ぐと二人の手を引いて浴場に入った

ミナも同じ様につぐみの脱衣を手伝い自分も脱いで浴場に入り謡華は命の服を脱がせ春蘭はライ、りん、しずくの服を綺麗に纏め

「洗濯物が多いけど頼みますね」

そう声を掛けると

「早速私達にも出来るお仕事が有って嬉しいです」

澪がそう言うと麦、美景、蛍も笑顔で頷き留美菜と一緒に楽しそうに話していた

「に、人魚姫がぁーっ!」

そう叫ぶライの声を聞いて留美菜と顔を見合せると一同も浴場に向かった

(今更何を言っているのだろうか)

そう思っていた春蘭も見て驚き

「り、りんも人魚姫に?」

そう呟くと留美菜もそう呟いていた

「尾ひれを湯に浸け座る二人の人魚姫…留美菜、映見さんを呼んできてっ!」

そう言われて気付いた留美菜が慌て馬の世話をしている阿と瑞穂と映見の下に行き

「り、りんも人魚姫になっちゃって…だから春蘭さんが映見さんを呼んできてって言ったから…」

そう留美菜が言うと

「行ってください、その様子を早く王妃様にお見せ出来る様に」

「それが貴女のお役目で有り他の者では代われない事

馬の世話は私達に任せてくれれば良いですからね」

阿と瑞穂に言われて慌ててスケッチの支度をすると温泉に向かった

コバルトブルーの魚体を持つ命とマリンブルーの魚体を持つりん

気が付くとりんの髪の色もマリンブルーに変わり瞳の色は藍色に変わっていた

しかし身体に変化が起きたのはりんだけでなく身体を洗い終えたミナもまた変化した

髪の色は抜けるような青空を思わせるブルースカイに瞳は青緑へと変わっていて湯に浸かるとすっかり回復した

勿論しずくの体調も良くなりつぐみも快方に向かっている

そして春蘭も身体を洗い終えると身体に変化が起きていた

黄色い髪に翠の瞳そして父親譲りの小麦色肌は母親と同じく雪の様に白く…

今は温泉の湯でほんのり赤く染まって居るけどまだ自覚はない

「帰ったら一緒に漁のお手伝いしようね、りん…」

そう声を掛けると

「はい、海の中迄でもお供します」

そう答えると

「みこが一杯教えたげるね」

そう笑顔でいい

「りんのおとーさんとおかーさん驚くかな?」

と笑って言うと

「お父さんは驚くけどお母さんって滅多に表情変わらないから驚いてもわかりません…」

そう言われて

「う~ん…そーゆわれてみたらあんましひょーじょー変わるとこ見たこと無いからそーぞーできない…」

そう言って考え込む命に

「命様もそう思いますよね?」

  そう言って笑い合うそんなのどかな一時だった

 

王都が見えてきたので

―ここまで来たら後は一人で大丈夫やろ?ボクはチサ様ン所行くから気張るんやでっ♪―

海斗の返事を待つ事無く無責任なことを言って飛び去る翔を見て

「あーあ、行っちゃったよ…」

と、呟きシーホースからも呆れている感情が感じられる海斗に

―一応観月には知らせといたるからボチボチ来いやっ!―

翔の声が響いたので

(うん、頼むよ)

と、だけ答える海斗だった

突如として王宮の上空に現れた青い馬体のシーホースの姿を見た王宮の内外の者が驚きの声をあげ見上げる中…

観月に言われて海斗の出迎えに来た吽は

「何をしている、さっさと降り来なさいっ!」

そうキツい口調言う吽に

「門の前に降りて門を通った方が良いのでしょうか?」

そう聞いて来る海斗に

「今更そんな事を気にしてどうするのだ?グダグダ言ってないでさっさと降りるっ!」

そう命令口調で言われシーホースに着地してもらうと転げ落ちるように吽の前に立ち上官に対する儀礼をしようとしたら

「その様な物は無用、それよりまずはお前達の主、観月様にご挨拶を…

私が部屋まで案内するからついてきなさい」

と、言うと王女宮の三階の客間に通された海斗を観月が待っていて観月に気付いた海斗が観月に見惚れていると

「私の顔が何か?」

そう言われて

「す、すいません…よく叱られるんです、女性の顔をそんなにじろじろ見るのは失礼に当たりますって…

でも、観月様の様に美しい方は初めて見ましたから…」

と言うとその言葉に

「命はどうなのですか?命の騎士志望の貴女がその様な事を言って良いのですか?」

そう問い掛ける観月に

(意地の悪い事を聞く方ですね…)

吽はそう考えたものの海斗の答えははっきりしていて

「はい、綺麗な顔立ちだけど命様は未だ美しいと言うより可愛いって言葉の方が似合う気がします」

だったので

「確かに命様は次世代の一、二を争う美人候補でしょうが未だその争いに命様が名乗り出るのは早いでしょうね…」

そう吽も言うと

「そうですか?まぁ良いでしょう…」

そう述べた観月に見よう見まねで高貴な女性に対する挨拶をし荷物を渡そうとする海斗に

「私には手紙を渡し後の荷物は本殿で王妃様にお渡ししなさい」観月にそう言われても動かない海斗に呆れ

「何をしているのですか?観月様をお待たせして」

そう吽に言われた海斗は

「直接お目に掛かる事すら憚られる様な方に僕が直接お渡ししても良いのでしょうか?」

そう言って戸惑いを隠せない海斗に

「ぐずぐず言って観月様をいつまでもお待たせしない、さっさとお渡ししなさい」

そう言われて慌てて手紙を差し出すとわざと海斗の手に触れ真っ赤になる海斗の反応を面白がっていたけど読み進める内に

「海斗、他の書類も出しなさい」

そう言ってそれも受け取ると新しく入った少年少女達と命に歌を指導する謡華の身長体重からスリーサイズまで

それらが記された物をユウに渡すと

「これに記されたサイズの侍女の制服と見習い騎士の平服と謡華と言う方のスーツを用意して王妃様の執務室に

海斗はそれを受け取り着替えたら王妃様の執務室に来なさい、吽…案内してあげなさいそう言って三人に退室を促し観月自身は美月の事務室に行き

「ユカ、必要最小限の荷物と若月の服をある程度纏め伯母様の執務室に来なさい」

そう伝えると王妃の執務室に向かった

 

そうた言って執務室に入ると入り口から数歩入った所で平伏すると

「命様の使いで参りました見習い騎士の海斗です、お初にお目に掛かります」

そう顔を上げる事なく言う海斗に

「そんな所に踞っていては持ってきた物を受け取れませんよ?」

そう笑って言われ吽にも

「命様の騎士になるのならばなれなさい

命様は女神の祭典の後に他国を歴訪するのですからその際命様のお側でお守りしなければならぬのにその様な事でどうします?」

そう言われて

「わ、わかりました…」

そう答えると王妃の足下に控えリュックからまず春蘭から預かった春蘭達の作品の入った藤篭から渡すと受け取った王妃は

「これは組紐の様ですね?」

そう聞いてくる王妃に

「それは峠の街から命様のお側に付くことを許されたつぼみと言う者が作った物で彼女の母親が内職で組紐を作っているので習ったそうです」

そう説明され

「丁寧な作りですね?もっと経験を積み色々な色柄の物を作れる日が楽しみです」

そう言って観月に預けると

「これは竹細工の盆ざるですね?」

そう言って取り出すと

「それは同じくつぐみと言う者が作った物で彼女の実家は竹細工の工房で彼女の母親は名人と言われる職人です」

そう説明され

「もっと色々な作品を見たいものです」

そう言って観月に預けると次に取り出したのは毛糸を編んだショールで

「それはしずくと言う者が作った物で王都では余り馴染みはありませんが山の方では有名な職人の母親から習ったそうです」

そう説明されると観月が補足に

「それは染色前の毛糸を使った物ですが美月が支援し染色技術を学んで貰いますからそれで編むだけでかなり変わる筈です」

そう聞いて

「経済的にもかなりの恩恵を受ける話ですね?」

そう観月に聞くと

「欲しい素材を得るための先行投資です」

と、そっけなく言うと王妃は

「公の場での着用はともかく冬場の寒風が流れ込む時の夜着の上に羽織ると温かそうですね?」

そう言って観月に預けると最後に白いスカーフとハンカチを数枚取り出し

「これは木綿のスカーフとハンカチですが…これをわざわざ?」

そう言ってスカーフを広げると

「こ、これは…」

と、言葉に詰まる王妃に

「伯母様、そのスカーフがどうかなさいましたか?」

そう訝しげな表情で聞く観月に

「見てみなさい…」

そう言われて渡されたスカーフを手に取り広げてみると

「みこが描かれた刺繍ですね?」

観月の言葉に

「春蘭様が施した刺繍と聞いてます」

そう聞いて

「もっと良い素材で作らせたいですね?伯母様」

そう話す観月に

「そうですか?私はとてもきにいりましたよ

このスカーフは私が貰うとして後の五枚有るハンカチはどうしますか?」

そう聞かれた観月は

「私と真琴達に嵐で分けさせてもらいます」

そう答えると次に取り出したのはこれはムカゴにこちらは木苺、そして草ブドウ

干した木の実や草の実と干したキノコや山菜等です」

そう言って篭ごと渡すと

「良い香りがしますね?これ等は後で厨房に運ばせましょう」

観月にそう言われて

「最後は額付きの三枚の絵と同じ絵の額なしが三枚です

これで僕が預かってきた物は全てです」

そう言われて渡された絵は命が笑顔で食事している物

命が温泉から跳ねている物に舞台に舞い降りる命の三枚の絵で額の無い物は治安維持局に提出する物だろう

「僕の役目は無事終わりましたからそろそろ帰って宜しいですか?」

観月にそう聞くと

「命が気になるのはわかりますがもう暫く待ちなさい」

観月にそう言われて大人しく待っていると

「ユウとユカ、観月様に呼ばれただいま参上しました、入っても宜しいでしょうか?」

そう言われて観月が

「入りなさい」

そう答えると

「失礼します」

そう告げて二人が入ってきた

「ユウ、海斗に渡しなさい

海斗、それは貴方達に支給される制服です受け取りなさい」

そう言われて受け取ると人数が多いだけあって結構な数になるだけに量も嵩張った

「ユカ、阿が貴女の助けを必要としています

見習い騎士の海斗と共に命の元に行きなさい」

観月の話を聞いて

「身分は見習い騎士ですのに霊獣の騎士様なのですか?素晴らしいですね」

そう言われて慌てた海斗は

「い、いいえ…僕は未々シーホース様に乗せてもらっているだけの未熟者ですから…」

そう答える海斗に

「それがわかっているのなら早くシーホースに認められる一人前の騎士になりなさい

少なくともお前は誇り高き霊獣がその背に乗る事を許した者なのだから乗りこなす可能性を秘めていますからね」

そう吽に言ってもらい

「はい、当面の僕の目標ですから頑張りますが…」

ユカを見て

「応援要請をしたのは瑞穂様です」

と、言おうとした海斗の気配に気付いた吽が

「男のお喋りは嫌われる…」

そう言って海斗を黙らせた

「では海斗、ユカをたのみますよ」

そう観月に言われてユカを案内することになったけど未だこの時の海斗にはユカを連れていくことの重大さを知らなかった

「それとこれは大公家の見習い騎士に支給する短剣です

他の三人の物も有りますから戻ったら渡してあげなさい」

そう言って四本の短剣を受け取り一本は自分の腰に差し残りの三本折り畳んだリュックと共に肩掛けカバンに仕舞いユカを伴い命の元に戻る事になった

まず自分がシーホースに股がりユカに手を差し伸べ吽に手伝われ海斗の後ろに横座りになると

「ユカ様、出発します」

そう言うとユカにしがみつかれて真っ赤になる海斗を見て呆れている吽とまるで溜め息をついたように息を吐き出したシーホース

海斗の受難の時が始まった

「ぁ、あのユカ様そんなにくっつかなくても落ちませんからもう少し離れて貰えませんか?」

背中に当たる双丘と尻に当たる太股の感触が気になって仕方無いので出来れば離れて欲しかった

でも、ユカからしたら海斗をからかって楽しんでいるのだから離れる気は毛頭無い

シーホースが再び溜め息を吐いた

 

(海斗…戻ってきたようですが…)

渋い表情の阿に気付き海斗が一人ではなく同行者を連れて来たのに気付いた春蘭

「そんな顔をユカ様にはお見せしない方が良いですよ?」

そう春蘭に言われ心の中で溜め息を吐く阿

シーホースが降り立ち阿に下ろして貰いそのまま暫く阿に抱き付いていたユカ

やっとユカから解放された海斗は

「顔を洗ってきます」

そう春蘭に言ってその場…ユカから離れようとしたら

「大樹達は食べられる物の採取に行ってますから手伝いに行ってください」

そう言われホッとすると様子のおかしい海斗を心配した命が

「海斗、そんなに早く力が欲しいの?」

そう聞かれた海斗は

「出来るのなら早く強くなりたいけど…

でも、命様のお顔を見て安心しましたシーホース様も僕に力をお貸しくださってますので我が儘ばかり言ってられませんから…

では、僕は大樹達の手伝いをしてきますから」

そう言って大樹達の向かったと思われる方に入っていった

「さて、阿様…シーホース様から荷を下ろして下さい」

そう言って荷を下ろして貰い

「有り難うございました、シーホース様…

春蘭、制服の支給をしますが何処でするのが良いですか?」

そう聞かれた春蘭は

「宿の食堂が良いと思います」

そう答えると荷物を

「解りました、阿様はそちらに荷物を運んで下さい

春蘭は全員をそこに集めて下さい」

そう言われて阿はそのまま荷物を持ってユカを案内し春蘭は見習い侍女達を集合させた

「私は観月様の下で美月の仕事をお手伝いさせて頂いているユカと言う者です

今日から春蘭の手伝いをする様観月様のご指示で参りましたから皆さん、宜しくお願いしますね」

そう言って頭を下げると

「ライ、こちらに来て下さい」

そう言われてユカの前に立つと

「貴女の制服一式です、貴女だけサイズが合わなかったと聞いてますから三着有りますから着替えて来なさい」

そう言ってライに手渡し

「次に麦、貴女には着替え用に二着用意して有りますから着替えて来なさい」

麦に手渡すと

「何故わざわざ一人ずつ手渡し何ですか?」

麦にそう聞かれたユカは

「こちらに来る途中名前だけは覚えて来ましたがそれだけです

ですからこうして一人ずつ手渡し名前と顔を一致させてます」

そう言われて

「凄い、制服の支給をただ配るんじゃなくちゃんと意味の有ることにしてるんですね」

そう感心して着替えに行く麦

「次に澪、貴女も二着ですから着替えて来なさい

次、つぼみも二着ですが貴女の組紐、王妃様のお言葉を伝えます

もっと技術を磨き色々な柄の組紐を作れる様になりなさい…

それから観月様からは命達の着物の帯留めを作れる様目指しなさいですから…お二人が期待してますよ、頑張りなさい」

そう言われて受け取ると着替えにいった

「次、つぐみは王妃様のお言葉を伝えます

もっと色々な作品を見たいものです、でしたから暇を見ては新しい物を作りなさい」

そう言われて制服を受け取ると着替えにいった

「次、美景も二着ですから着替えて来なさい

次、蛍も二着ですから着替えて来なさい

それと貴女達が届けてくれた山の幸厨房に持って行ったら喜んでましたよ?

干した物なら手に入るが生のままのは中々手に入らないし見る目が有るらしく美味しいとこを集めてある

そう言ってましたからね」

そう言って二人にも手渡し最後に

「貴女がしずくですね?王妃様が貴女の作ったショールをきにいってました

観月様からは美月の支援で毛糸を染色の技術を学んで貰いますから試作品で色々作ってみなさいと仰ってましたよ」

そう言われて制服を受け取ると着替えにいった

「留美菜は取り敢えず一着でりんは二着持って来てますから仕舞って置きなさい」

そう言って二人にも手渡すと三弦の手入れをしている謡華の前に行き

「もしお嫌で無ければ瑞穂様も着られているこちらの服を貰って頂けませんか?」

そう言ってスーツを見せると以外とあっさり

「有り難く頂戴します」

そう言って受け取ると

「一人旅の間は着た切り雀でしたから一度本格的な手直しをしたいと思ってましたので丁度良かったです

人様の前で歌う時以外はこれを着ていようと思います」

そう言ってスーツを受け取ると着替えにいった

「ミナ、春蘭…身体の調子はどうですか?」

そう聞かれたので

「私は疲労のピークを越えたようで最近落ち気味だった食欲も戻り前より調子が良い位です」

そう春蘭が答えるとミナも

「私も温泉に入ってすっかり落ち着きました…」

そう答えるのを聞いて

「ミナは能力に変化は有りましたか?」

そう聞かれたので

「私の力はかなり狭い範囲で雨を降らせたり水球を現せる程度でどう扱えば…何が出来るのかわかりません…」

そう言われてユカは

「この水の豊かな歌の国でも乾燥地帯はありますからそういった場所では水はとても貴重な物ですよ?」

そう言って反応を見ていると

「ですがそれは既に命様がもっと大きな力を振るえます…」

との予想通りの答えに

「確かに命様の方が大きな力が振るえますが…こうも考えられますよ?他の者が出来る事をわざわざ命様の手を煩わせても良いのか?

他に出来る者が居るのならその者に任せ命様には他の事をしていただいた方が…

休める時には休んでいただいた方が良くないでしょうか?と…」

そう言われて気付いたミナが

「命様と自分を比べるから辛いんでしたねわかりました、もう少し今の自分に何が出来るのかを考えてみます」

やっと前向きな発言をするミナに



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成長の時

③謡華

今朝は朝食の時間がかなり早く胃の負担になら無いよう量を控えたこともあり昼食の時間にはまだ未々早いものの店を探す一行
その一行が無国籍料理の店と言う看板の店を見付けてその店に入ることにした
店内は昼時には少し早い為他に客は居らず給仕の女性も油断して大欠伸をしているところだった
「十二人ですが良いですか?」
そう春蘭が声を掛けると
照れ隠しで
「お昼の定食は未だだよ?」
そう言われたものの未だ半刻は有るのを見て
「構いません、もう皆待てる余裕はありませんから…」
「じゃ適当に座っとくれよ」
そう言うと奥の六人が卦のテーブルに別れ座ると人数分のお茶を用意して朝のメニューを渡し
「決まったら呼んどくれよ?」
そうそう言うと
調理場に
「団体さん入ったからねっ!」
そう叫ぶと
「おぉっ…」
とくぐもった声の返事があった
阿と瑞穂に忍の三人は朝のお任せ丼大盛りを頼みミナと春蘭は土鍋の雑炊で命にはそこから分ける事にし
留美菜とりんはパンケーキセットでつぼみ、つぐみ、しずくの三人はオムレツセットに決め注文した
給仕の女が気になるのは勿論命で小さな身体ながら周りの者達の態度は丸きり幼い主に支える騎士や侍女のそれ
それに雑炊を食べる匙を持つては小さくまるで日に当たったことなど無いかのように蒼白かった
阿もその視線が気にはなったけど逆に言えばそれが普通の反応だとも思い女を呼ぶと
「済まないがこの方は我々が主に任された大切な方だが初めての陸路の旅にお疲れの様子だから暫くは身元を隠したいがそんな宿は無いだろうか?」
そう言われて
(やっぱり何処かの御曹司かご令嬢なんだね…)
好奇心一杯の女は嬉しそうに
「この店の裏に店の親父の兄貴がやってる宿が良いよ
そこなら訳アリの男女が隠れて密会出来るは離れもあるから身元を隠したいならぴったりじゃないかい?
宿の親父を呼んでくるから待ってなよ?」
そう言うと裏口に消え宿の親父を連れてきた
「お前さん達が身元を隠したいお方はこちらの方かい?
だが宿の親父の立場上ワシ位は把握しとらんと不味いのは理解してくれるな?」
そう言われて阿は主を手招きしそっとフードをずらして主にだけその素顔を見せた
「成る程…確かに大層顔色が悪い…
うちの宿は天然温泉が売りで美人の湯とか疲れを癒す効能があると言われてるからお客さん達にはお勧めの湯だ
食べ終わったらさっきの女に案内させるがこの人数なら馬車は二台だろ?
団体客用の離れが空いてるから余裕で二台入るから今の内に馬車を入れておくと良い」
そう言われて一足先に食べ終えた瑞穂が二人に頷くと二人もそれに応じ頷き馬車に向かった
食べ終えた一同は店先に並ぶ弁当も買い求め支払いを終えると
「さぁ、行こうかい?」
と、陽気に言われて
「なんか申し訳ないのですが…」
そう阿が言うと笑いながら
「本当は渋ってた宿の親父をああもあっさり納得させたこの方の素性、気になってしょうがないじゃないか?
だからこの方がその素顔を見せる時になるべく近いとこに居たいってゆーアタシの好奇心が主な理由だから気にしなくても良いよっ!」
笑って言われてやっと納得し
「感謝する」
とだけ言う阿だった
宿の帳場で宿帳を持った親父が待っていて
「部屋に案内します」
と言われ他の離れより二回りは大きい部屋に案内されると
「一階は馬車の車庫と洗濯の出来る洗い場になっている他馭者が寝起き出来る休憩室になっとります」
そう言われて二階に上がり
「この部屋は芸妓…と、言ってもろくな芸も持たないのを呼ぶか流派の師範が金持ち相手の手習い教室を開く部屋だから防音対策済み
人魚姫様が心置き無く稽古ができます
奥には十二畳の座敷がありますから一面に布団を敷き詰めれば全員で眠ることも可能でしょう」
そう言われて成る程と頷く阿
「右手には簡易の調理場が有り湯を沸かし足り簡単なスープ位は用意出来ますよ」
そう言われて
「至れり尽くせりですね…料金の方は?」
そう春蘭が聞くと
「この離れは一泊十万kcで連泊すると割り引き料金になる」
そう親父が答えると
「なら七泊を予定してますからその割り引きの代わりに一日に一度貴方の自慢する温泉を貸し切りにして頂きたいのですが?」
そう春蘭が申し出ると
「そうですな、目立つその方が温泉で他の客と鉢合わせしたら身元を隠す意味が無い
わかりました、貸しきりの件承知しました」
と、答えると
「ただ…これだけの部屋で一泊十万kcは安すぎる気がするのですが…」
と、言う春蘭に
「うちは素泊まりの宿で飯は近在の飯屋で食べてもらうからさ
もっとも弟の店で食ってくれりゃ割り引きサービスはさせてもらうがねっ♪」
そう言って笑われて春蘭は
「温泉を貸し切りにして頂くのにですか?」
そう聞き返すと
「うちの温泉は宿泊客以外にも有料で開放してるからね
女神の祭典が近い今の時期に温泉を貸し切りにする者がいれば貸し切りにしているお人は何て方だ?
そう言う噂はすぐに広まり皆さんが旅立たれた後に
「実はうちの宿に人魚姫様がお泊まり下さり温泉を貸し切りにして下さってたんだ…
つまり人魚姫様御宿泊の宿を名乗る栄誉を賜り温泉はもし姫様がお気に召されたら人魚姫様が喜ぶ湯と銘打ちたいのです」
そう言われて春蘭は
「わかりました、命様の回復状況にもよりますが宿の宴会場の予約状況はどうなってますか?
と、聞かれた主は
「歌の女神の祭典が近いこの時期、うちに限らず泊客は勿論宴会場を貸し切る客はまず居りませんよ?」
そう聞いてた春蘭は
「わかりました、宿泊最後の夜に宴会場の予約する事にしましたから出発が決まりましたら知らせます」
そう言われて何故離れの客が宴会場の予約するのか不思議だったけど敢えて聞くことはせず
「わかりました、その日の訪れは寂しいがいつかは来る日、楽しみに待ちましょう」
そう話していると轍の音が近付いてきたので
「馬車を仕舞いましょう、それが済んだら温泉の説明をしますがどなたにしましょうか?」
そう阿に声を掛けると
「お店で食事をしていた馭者の方に聞いて頂きます
私は取り敢えずお茶の支度をしますからミナさんはその旨を瑞穂さんにお伝え下さい
阿さんと忍さんはお茶を飲んだら奥の部屋で休んでいてください」
春蘭のその言葉を聞き命が瞳を輝かせ
「みこもお風呂見たいから一緒に行くっ!」
そう言うと宿の親父が目を丸くするのを見て
「驚かれましたか?精霊の巫女である命様の素顔は従者の少女達より幼い子なんです」
そう春蘭に言われて
「驚いたが納得もしましたよ…精霊の巫女様と可愛いと言う形容詞が何故結び付くのかわからなかったがご本人を見てわかりましたよ」
と穏やかな目で命を見る宿の主に
「まぁそう言う訳ですから宜しくお願いします、りんはミナさんの荷物の整理を手伝って下さい
留美菜はつぼみ、つぐみ、しずくと一緒に命様を頼みますね
私は馭者の方に暖かいスープを用意しますから」
そう春蘭が言うと動き出す一同だった
宿の主の誘導で馬車を車庫に入れると
「宿の御主人が温泉の説明をしてくださるので聞いて欲しいと春蘭さんが言ってます
命様をお願いしますとも…」
最後の一言は苦笑混じりに言うミナに同じく苦笑いで返す瑞穂だった
「主、温泉の説明をお願いします」
そう瑞穂が声を掛けると
「わかりました、ご案内致します」
そう親父も応え
「つぐみとしずくは命様と手を繋いで留美菜とつぼみはその後ろからついてきなさい」
そう指示すると親父の後に続き温泉に向かった
湯殿は一部三階建てで基本的には土蔵の様だった
建物の中央に入り口が三つ有り主は躊躇わずに真ん中に入ると
ここは男女の共用スペースで左手に男湯、右手に女湯となっとります
この共用スペースでは一階は持ち込みで自由に食事が出来ますが飲み物はこちらで提供しとります
この扉を開けると女湯の入り口になりこの右手にある扉が貸し切りの要です」
そう言われて扉に触れると
「石作の様ですね?」
そう瑞穂が言うと
「一枚岩で出来たそれは二百貫有りまして中からこの滑車を使わねば開かぬ仕組みになっとりますし簡単に開けられても困りますが…」
そう言われて
(成る程…さすがに自慢するだけの事はあるな…)
そう感心しながら
「その前に共用スペースとの出入り口ですが内鍵があり外からは容易に開けられませんしこの小窓から様子が伺えますか仲間の方が後からお見えになる場合確認してから入ってもらう事が出来ます
親父の説明に頷き
「続きの説明を…」
そう言われて
「ここは脱衣所で食べる物は禁止ですが飲み物はそこの小窓で頼めるし給水器はそちらにと指差した
いよいよ温泉に入り左の扉を示し
「こちらは岩風呂…蒸し風呂になっとります」
今度は小さな泉の前で
「こちらは水風呂で蒸し風呂で火照った身体を冷ませます、そして…」



「焦らずじっくり考えなさい

私は貴女が精霊の巫女ではなくデザイナーとしての私のパートナーと考えてますがそう思えるのは貴女が初めて…

そう言う意味では私には貴女の代わりは居ませんよ?」

そう言われてより考え込むミナだった

 

「さて、皆戻りましたね?」

ユウが一同を見回しながら言って

「今から大切な話をしますからよく聞きなさい

謡華さんにも色々関わりの有ることですから聞いて頂きます」

そう言って反応を見ながら

「まず、この一団のリーダーはこの後も春蘭が変わらず務めますからミナ、貴女は基本的にはこれ迄同様に若月のデザインを優先で新しく入ってきた娘達を見守りなさい

それと私の事をユカ様と呼ぶのも禁止で妥協点でユカさんにしなさい」

そう言われて戸惑うミナには構わずユカは

ミナ、春蘭、留美菜、りん、ライ、つぐみ、しずくは命様のお祈りの時間は共に祈りなさい

踊りに関してはライ、つぐみ、しずくは私が基礎を教えますから他の四人は自習で行き詰まったら命様に相談なさい

明日は湯町に行き宿を取りそれ以降は明日決めましょう

ここまでで解らないことは?」

そうユカに言われて

「名前を呼ばれなかった私達はどうしたら良いのでしょうか?」

麦が代表して質問すると

「その辺りも適正を見て考える必要がありますから明日迄の予定しか考えてませんが…

その前に皆にお願いしたい事が有ります」

そう言って若月の服を取り出し

「この中から一人一着気に入った物を選んでください、プレゼントしますから」

と、言われたけどその真意が分かず二の足を踏む少女達を他所に留美菜とりんが物色中

「あ…これ、あの日りんが着てたのだね?」

そう聞かれたりんは

「うん、留美菜ちゃんのサイズのだね」

と、言われて

「私も欲しかったけどお店があったから諦めてたんだよねぇーっ…」

そう話す二人に

「留美菜とりんも遠慮は要りません、勿論ミナと春蘭もね」

そう言われて探し始める二人が選んだのはミナがデニムのワンピースに春蘭は空色のロングのワンピース

留美菜はレモンイエローのミニのワンピースにりんはピンキーエンジェルを選ぶのを見て他の少女達も選び始めた

「でも、何故この服を頂けるのでしょうか?」

そう麦がユカに聞くと

「若月の知名度が未々低いからです

貴女達にモデルになって着て貰う事によりより多くの人の目に触れる機会を増やしたいのです」

そう説明すると

「でも…モデルでしたら命様がいらっしゃるのに何故?」

麦が不思議そうにそう話していると

「だっ、誰か早く来てくださいっ!命様が、命様がーっ…」

切羽詰まった忍の声が響いたので慌てて一同も声の方に向かうと瑞穂と阿が青い顔をして部屋の入り口に立っていた

「ミナは子供達とそこに居なさい、ユカと春蘭だけ入りなさい」

そう言われて中に入ると自らの胸に手刀を突き立てて倒れていた

「一体何が有ったと言うのてすか?こんな事になるなんて…」

その春蘭の呻くような言葉に忍が

「私のせい、私が命様の前で死にたいなんて口走ってしまったからいけないんです…死にたいなんて…」

忍がそう呻くと

「一人で死ぬのは寂しいからみこが一緒に死んであげる…

と、いった感じですか?」

そう言われて

「は、はい…命様っ!後生ですからもうこの手を止めて下さい…もう二度と仇やおろそかに死にたいなどと申しませんから…」

泣きながら言う忍に

「ホントに?忍を守ってあげられなかったみこを許してくれる?」

息も絶え絶えの命にそう言われて

「それは命様のせいではありません私の弱さのせいですから…」

そう弱々しく言う忍に

「それはみこにはわからない事だから忍が一言赦すって言ってくれたらみこも自分を許せる…」

命のその言葉に

「赦しますから…お願いですからこれ以上ご自分を責めないで下さい

ご自分を傷付けるのは止めてくださいっ!」

忍のその言葉にそれ迄はびくともしなかった右手に力が抜け自ら抜き取ると大出血を恐れた春蘭が慌てて傷口を押さえよう手を翳すと傷口はみるみる内にふさがり命の胸には染みひとつ残ってない

しかも春蘭が命の呼吸を確かめるとそれまでは青ざめていた顔が真っ赤に染まり怒りに震えて

「これだけの大騒ぎを起こしておいて寝息を立てて寝てる?」

そう呟いていると

「おはよー、春蘭…泣いてるの?怖い夢でも見た?なんか悲しい事…」

そう言いながら春蘭の表情が怖くなり口をつむぐ命に

「命様、ジュースでも溢されましたか?

お洋服が汚れてしまいましたから男の子達が戻ってくる前にお着替えしましょうね?」

目が全く笑ってないひきつる笑顔でそう言われて恐れおののく命が阿と瑞穂を見て助けを求めたけど触らぬ神に祟り無し…

そう思わせる程の春蘭の怒りと二人もかなり怒っていたから助ける気もない

命の手を引いて温泉に向かう春蘭がミナとすれ違い

「ミナさん、ピンキーエンジェルお願いしますね?」

そう言われて溜め息を吐き日頃命には甘いミナでもさすがに少し怒っていたので庇いきれない

しかもどうやら春蘭は命が余りお気に召さないピンキーエンジェルを着せるらしい

「わかりました、脱衣所に持っていけば良いのですね?」

そう言って馬車に向かうミナを見送り

「澪は先程選んだその服に着替えてください

そうすれば麦の疑問も言葉で説明するよりわかりやすいですからね」

そう言って血で汚れた服を脱がせ洗い場で血を洗い流しミナが用意した肌着を着せてピンキーエンジェルを着せた

ピンクのローヒールにピンクのリボンカチューシャを着けて食堂に向かうと澪も同じ服を着て待っていた

「この服は通称ピンキーエンジェルで、見てわかると思いますが熱帯魚のピンキーエンジェルをイメージした物です

勿論二人の服の素材は同じですし体型の違いからくるデザインの多少の違いは有りますが同じ服です

その二人を見比べて正直な感想を言ってみすなさい」

ユカにそう言われて麦が

「澪が着てるのは可愛い子供服だけど命様のは余り子供服っぽくないです…」

新しく入ってきた娘の中でも一番ファッションに関心の高い麦にそう言われて命から感じていた違和感に気付いて頷く少女達

「そう、同じデザインの筈なのに命様の服は子供服に見えないので貴女達にも着て宣伝を手伝ってほしいのです」

ユカにそう言われて

「可愛い服を着るのがお手伝いになるんですか?」

麦が嬉しそうに聞くと

「服じゃなかったけど可愛いエプロンを頂きましたよ?

未だ見習いの侍女になる前の私達は…

あの時りんも含めてモデルをした方達はショーで着た服は四枚とも頂いたって聞いてますよ?」

留美菜がそう言うと

「まぁそう言うことですね

取り敢えず何度も着替えさせるのもどうかと思いますから澪はねるまでその格好で居なさい」

ユカにそう言われて

「でも、こんな可愛い服を汚しちゃったら…」

そう言う澪に

「今日はもう夕食の準備と後片付け位だから貴女は明日の朝食の支度と後片付けをしなさい

今夜は私と麦、美景、蛍で支度しますから後片付けは春蘭、留美菜、ライ、しずくで後片付けを

明日の朝食の支度は私、澪、つぼみで後片付けをミナ、りん、、つぐみ、澪の予定です」

そう言うと

「みこもお着替えしたい…」

春蘭にそう小さな声で訴えたけどものの見事に聞き流されて

「春蘭様、戦闘と今の騒ぎで傷付いた服はどうなりますか?」

麦に聞かれた春蘭は

「戦闘で傷めた服は何ヵ所も焼け焦げてますし今の騒ぎで傷付いた服は血が落ちるかわかりませんから…

どちらも命様のお気に入りの服ですけど処分するしか…」

そう言われて麦が嬉しそうに

「それなら、私に手直しさせて貰えませんか?リフォームって言いますが…」

そう言われて初めて聞く単語に

「リフォーム?」

と、聞くと

「破れた所や落ちない汚れを当て布で隠すんですけど麦や麦のお母さんはパッチワークやワッペンで可愛く作り替えてくれるんです」

そう澪が説明すると

「お下がりでお姉ちゃんから貰うときなんかも作り替えてくれるからお下がりに見えないんだよねっ♪」

と、美景も嬉しそうに言ったけど元々長女で弥空と深潮が双子の為どっちが着るかで喧嘩になった為劉家ではお下がりはせず知り合いの娘に譲ったり孤児院に寄付したりしていたので春蘭にお下がりと言う言葉自体馴染みがなかった

だからこの話に反応をしたのはユカで

「わかりました、麦…貴女に任せますから仕上がったら見せてください

それともし必要な材料が無く悩む暇が有ったら言いなさい」

そう言われて

「はい、頑張りますっ!」

その麦の返事を聞いて

(若月の服のバリエーションが増やせるかもしれませんね?)

そう考えると嬉しくなるユカだったから

「春蘭、ミナ、つぼみ、つぐみ、しずく、麦は食事まで創作活動

留美菜とりんは自習で澪は暫く見学し興味の有るものがあれば私に言いなさい」

そう言って自身は夕食の支度を始めた

ユカが用意した夕食は鍬焼きと呼ばれる料理で鳥肉がメインの大公領の郷土料理のひとつ

後はスープと山菜の佃煮を纏めて作りそのついでに蛍が

「朝採った草の実でジャムを作りたいんですけど…」

そう言われたのでそのための下準備も済ませた

大漁の大樹、山鳥を二羽仕留めた風華、篭一杯のこけももを背負ってきた海斗、同じく草ブドウをが一杯に背負ってきた炎の四人

「魚は俺達がちゃっちゃと捌きます」

と大樹が言うと蛍が

「炎、後でジャムを作るからそれも頂戴ね?」

と言われ美景は

「海斗、早速今晩のデザートにする?」

そう言われて

「勿論そのつもり」

と、答え

「私は鍋にするならともかくそうでないなら湯町て売った方が良いからその様に処理した方が良いと思いますが?」

そう言うと

「この人数ではその方が良いでしょうから任せます」

それと風華、大樹、炎の三人の見習い騎士の平服も有りますから食事の時に渡します」

そう言われて喜びの笑みを浮かべる三人だった

夕食の時に命が

「たいき達早く強くなりたい?」

そう聞かれた海斗は真っ先に

「はい、戦場に居ながら何も出来ない自分が情けなかったから…

もうそんなのは嫌なんです」

そう答えると大樹は

「俺達はそこにすら行けずどうなっているかもわからないで不安になって待つしかなかった…」

そう言うと風華と炎も頷きそれを見た命が考えながら

「わかったよ…じゃあ瑞穂にお願いだけど四人の座禅修業をみこのお歌のお稽古終わるまで見てあげて…

後、阿と忍に春蘭はお願いしたいこと有るから…」自分達に命が何をさせたいのかはわからなかったけど

「私達はどこで待てば宜しいでしょうか?」

春蘭がそう命に尋ねると

「春蘭と忍はこの後の予定あるの?」

そう聞かれた二人は

「私は特に有りませんから大樹達と座禅行を行います」

忍がそう答え

「私は洗い物の後刺繍を少しする予定ですが?」

と、答えるのを聞いたユカが

「春蘭、先程渡し忘れた観月様からの預かり物が有りますから洗い物が終わったら声を掛けなさい」

と、言われるのを聞いたりんが

「春蘭さん、洗い物は私達でしますからその分刺繍の時間に充てて下さい」

と、言われて戸惑う春蘭に

「丁度良いかもしれませんね、預かり物は絹のハンカチと絹の刺繍糸ですから観月様の期待の程がわかるでしょ?」

ユカが言うと驚くミナが

「さすが春蘭さん…」

そう声をあげると

「何を他人事の様に…

貴女の協力で完成させた若月の第一期の量販が始まると同時に完売してしまったんです」

そう言われて唖然とするミナに

「だからユカ様は禁止と言ったんですよ?

貴女も立派な美月のスタッフと言うより最早主力の一人なんですからね?」

そう聞いた少女達のミナを見る目が更に尊敬の念がより深い物になった

「じゃあ、春蘭が気にならないならここで刺繍したら良いよ…

後は留美菜、りん、ライ、つぐみにも協力して貰うからお願いね」

そう言うと食事を再開する命だった

 

食事の後ミナは新作の試作品作成、春蘭は刺繍、つぐみは竹細工、つぼみは組紐、しずくは編み物で蛍はユカとジャム作り

麦は命の服の補修で胸に裂け目の有る海兵隊風のシャツは裂け目の上に向日葵の花の柄のアップリケで隠すと

「縫い目もしっかりしてますがこのアップリケが可愛いですね?

もう一枚も期待してますから」

そうユカの高評価を共に喜ぶ少女達を見て

(若月期待の新人ですね…)

その出現を密かに喜ぶユカだった

「たいき達お風呂入って来て…儀式を執り行うから身を清めてほしーんだよ」

命が三人に告げると風華が

「命様、私にも戦士の力をお与えください」

そう訴えられたので

「んーっ…精霊の巫女じゃダメなの?みこ的にはそっちがお勧めなんだけど…」

命にそう言われた風華は

「アタシみたいながさつな人間には向いてませんよ」

そう言ってあっさり断られたので

「う~ん、そおかぁーっ…じゃあ、大樹達の後に入って来て

海斗は肌着だけ着替えて他の三人は海斗とおんなし格好でいーからね?んでみこは…」

そう言って春蘭を見ると

「はーっ、仕方ありませんね…水の精霊の巫女のドレスで宜しいですか?」

そう聞かれた命ホッとすると

「うん、じゃあこの服はもう終わり?」

そう春蘭に聞くと

「そうですね…また明日の朝着替えましょう」

そう言われたので

「いつまで着なきゃいけないの?」

更に聞いてくる命に

「私達が心配している事を命様がご理解出来るまで…

は、さすがにお洗濯もありますから冗談ですが今後はその服を優先的に着させて貰います

何でしたら今日の事を真琴様や観月様にご報告致しましょうか?」

そう言われたらもう何も言えない命に春蘭は

「命様はお嫌いでしょうが可愛い命様に良くお似合いなんですよ?」

春蘭にはお世辞のつもりは全く無く有りの儘の事実を述べているにも関わらず命の心には届かない

(そんなウソみこが信じるって思ってるの?)

春蘭から視線を反らした命の瞳は虚ろで目に写る物を拒絶し何も写してはいなかった

 

「ついてきて…」

阿、忍、春蘭にそう告げ向かった先は寝台付きの馬車

乗り込むと三人をキッチンの床に座らせ暫く考え込んでいた命が瞳をひらくと

「良く聞きなさい、今から貴女達にみこがさせようと考えたことを説明します」

その物の言い方がいつものみこでない事は春蘭でもわかり三人が頷くのを見て

これは常日頃私がみことは別に張っている警戒の為の結界を貴女達にやらせる為の方法」

そう言われて阿が

「そのようなことが私達に出来るのですか?」

そう問われた命は

「春蘭でも現状では無理、まだ実力不足で魔導師でない二人には更に不可能…

ですがそれを可能にするのがみこの考えたことで理屈を聞くまでは思い付かないと言うより考える必要もなかったのだが…

二人には魔力や霊力を感じ気配を読む事は可能ですね?」

そう言われてムッとした阿は

「瑞穂にも出来るっ!」

感情を圧し殺し答える阿に

「私もみこも瑞穂が二人に劣るなど微塵にも思わない」

ただ、幼い巫女達や見習いの侍女達にとり精神的支柱の瑞穂と春蘭の二人の不在は好ましく無いゆえ彼女を外したのはみこなりの気遣い」

そう言われて

「確かにまず私か瑞穂さんに相談しに来ますね…」

そう春蘭に言われて

「私は留美菜やりんにユカの事でからかわれているだけに一歩ひいてしまいますから…」

阿のその言葉に

「それが皆と離れさせた理由…だが時が惜しい故本題に入る

簡単に言えば貴女達の魔力や霊力、気配を感じる力を春蘭が触媒となり精霊の霊力で感知出来る範囲を広げるのです

遠眼鏡で遠くを見通すように」

そう言われて

「そうですか、私達の誰一人出来ないが協力し合うことで可能になるわけですね…」

そう言って納得する阿に

「今夜は阿と春蘭が組み忍は二人の映し身を守りなさい、術中を襲われたらすぐに対応出来ぬゆえ…」

そう言われて

「ならばやはり皆と一緒の方が良くありませんか?」

そう聞く春蘭に

「直にわかる亊…まず阿よ、その場で座禅を始め魔力や霊力、気配を感じ取りなさい…」

―私の魔力、春蘭の霊力、忍の気配を感じますね…―

そう聞かれた阿は

(命様の霊力は感じませんが…)

そう聞き返すと

―私はみこの魔力の根幹で魔力その物とも言えよう…

故に私が表に出ている今は精霊の巫女は一歩下がっている故に貴女には感じ取れぬだけ

次の段階に入ります―

阿にそう伝え

「春蘭、阿の組まれた脚の上に腰を下ろしなさい…」

何も考える亊なく命の指示に従い腰を下ろす春蘭を見ていた忍がアッと呻き目を覆うと

「りんが言うところのユカ様が妬きもちを妬く亊ですね?」

改めて言われて青ざめる春蘭と阿に

「みこに深い思慮は無いが見てないようで見て全てを心の奥にある引き出しに仕舞い込んでいる

余りに奥の方過ぎる故何を知り何を知らぬかすら本人も知らぬから何も知らぬと思い込んでいるが…」

命はそう言って溜め息を吐き

「そう言う訳故貴女達をユカから離したのだ…

春蘭目を閉じ風を感じなさい、その風に心を委ねなさい」

そう春蘭に指示すると

(風が…優しい風を感じたが…)

阿が頬に当たる風を感じた時

ーそれが貴女の持つ春蘭の印象ー

突然言われて阿が驚くの気にも止めず

「さあ春蘭、その手を目の前に有る阿の手に添えなさい…」

既に何も感じ無い春蘭が命の指示に従い自らの手を重ねた

するとそれまではまるで濃密な霧の中にでも居たように視界を遮っていた霧が吹き払われ一気に開かれた

(んっ!)

その強すぎる光に目をきつく閉じ一瞬息が詰まり身体が強張った

暫くして光に慣れて目を開けると三人はいなかった

命はその感じる魔力から命とわかるのに幼い少女では無く魔界の女王を思わせる姿をしていた

忍は阿が始めて見る戌の獣人の姿をしていたけど春蘭の姿が見当たらなかった

春蘭の…潮風の精と雷精の霊気はまるで自分を包み込んでいるかの如く感じるのに肝心の春蘭が居ない

(どういう事だ?)

その阿の疑問に

ー貴女を包む風、それが解放された春蘭の霊力

阿よ、その風を感じ風に乗りなさい…

そうする事により貴女の感知能力を風(春蘭の霊力)が刺激し拡大してゆくのだからー

そう言われて風に身(霊体)を任せ風に意識を集中した

馬車の壁をすり抜け宿の食堂で水を飲む大樹達の姿が見えた

温泉に向かう風華がこちらを振り返り首を捻った

風が川の流れの様に見え夜鳥や夜行性の獣達の息遣いが聞こえた

朝まで居た湯下の町まで意識が広がったのを見て

ー今夜はこの位で良いでしょう

さすが鍛えられた戦士の感覚ですね…

春蘭の霊力の制御の修行も兼ねるこの術

いずれ春蘭の修行に区切りがついたら他の者に変わらせましょうー

そう考えながら

「忍は警戒を怠る事無く寝台で仮眠を取りなさい、その為この馬車を選んだのですからね…」

そう言って一旦宿の食堂に入り

「留美菜、りん、ライ、つぐみはついてきなさい、大樹達は風華が一息吐いたら王家の馬車に来なさい

私達はそこで準備を整え待ちますから」

そう話すのを聞いて

「瑞穂様はつぼみとしずく、謡華さんは澪と美景、映見さんは麦と蛍を連れて寝室で休んで下さい

私とミナは四人の巫女達を待ちますから…」

そう言われて瑞穂達は各々に少女達を引率して休む事にした

 

「りんは見た事がありますね?鬼百合達が勾玉や霊玉を受け入れるのを…」

そう聞かれたりんは

「じゃあ大樹君達にそれを?そんな事して大丈夫なんですか?」

心配そうに聞くと

「本来ならば今のあの者達の身体では負

担が大きすぎる故無理でしょうが…

その無理を道理に変える為貴女達に力(霊力)を借りたいのです」

そう言われて

「私達に何が出来るのでしょうか?」

留美菜が聞くと

「貴女達は祈るだけ、貴女達の霊力を借り私が結界を張りますからそのまま祈り続けなさい

私はその結界の中で四人を守り導きますから頼みますよ

ただし、結界は私が張りますがその手順をしっかり目に焼き付けなさい

貴女達の身を守る技のひとつになりますからね」

そう言われて緊張の面持ちで待つ四人

暫くして四人の見習い騎士が揃って現れた

「まず最初に断っておきますが命に保証はありません

ですから無理強いするつもりは有りませんし心身への負担も決して小さく有りません

それだけは承知しておきなさい」

命にそう言われて

「普通に修行したって苦しいはずだし今すぐ力が欲しいって無茶を言ってるんだから仕方無いです」

海斗が言えば

「危険も負担も…」

炎も言い

「今のままじゃ遅かれ早かれ闇の者に一矢も報えず死ぬのは目に見えてます

それなら今ここで命を賭けて力を求めるのもありではないでしょうか?

勿論俺達は夢に向かって旅立ったばかりなんだから未々死ぬ気はこれっぽっちもありませんけどね」

そう言って右手の親指と人差し指を殆どくっついてる位の隙間を開けて見せると三人もうなずいたので

「わかりました、大樹は進行方向に背を向けその左の壁を背に海斗

風華は進行方向を見て座り、炎は扉を背に座りなさい」

四人が座り直すと

「りんは大樹の左に座りなさい、その向かいに留美菜でライは風華の左に座りその向かいはつぐみが座る」

そう指示し巫女達も席を移動を終えると

「これは三人の精霊の巫女の霊力が込められた霊玉と雷精の霊力を閉じ込めた霊玉と二人の魔導師の魔力を封じ込めた勾玉

これらを身に受け入れる事により各々に精霊やその巫女、魔導師の加護を得て力をえるのです」

そう言って四色の霊玉と二色の勾玉を巾着袋から出して見せると

「力を求める者達の元に行き力を与えなさい…」

命がそう命じると蒼い霊玉は海斗の元に行き碧の霊玉は風華の元に、朱い霊玉は炎の元に行き…

大樹が手にしたのは黒い勾玉で霊玉ではなかった

「それを心臓の上から取り込めば苦しく無い代わりに力の目覚めは遅く

呑み込めば苦しむ代わりに力の目覚めは早い

どちらを選ぶかは各人の判断に任せます」

命にそう言われた四人は迷う事無く呑み込み命に与えられた水筒の水を飲み次の言葉を待つと

「後は貴方達は目を閉じ心を落ち着けることです

巫女達も祈りなさい貴女達の為、見習い騎士達の為…」

そう言って四人の巫女達に祈らせて高まった霊力を引き出し結界を張ると

自らは霊力で見習い騎士達の身体を包み込み霊体に寄り添い四人の魂を導いた

四人の身体に霊玉や勾玉が馴染んだのは夜の闇が白み始める頃で一人馬車を降り宿の食堂に行くと椅子に座り内職をしているミナ

 



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水の精霊の巫女はご機嫌ななめ

色々なアクシデントやイベントが発生します


机に突っ伏して眠るユカの肩にはミナが気遣い毛布が掛けてあり命の気配で目を覚ましたらしい

「お早うございます…命様」

二人揃って命に声を掛けたけど命の顔は半分以上眠ったままで二人には全く気付いてなかった…

その命にミナがお茶を差し出すとコクりと頷き受け取ると一口飲み息を吐く命は少しだけ頭がすっきりしたので

「おはよ…ミナ、ユカ…」

そう声を掛けぽすっと音を立ててミナに抱き付くともう一口お茶を口にして今度は大きく息を吐き出し

「踊りのお稽古してくる…」

そう言って出ていった

見習い騎士の四人が意識を取り戻したのは命がお茶を飲んでいる頃で取り敢えず食堂に行くとユカが朝食の支度を始めていた

「お早うございます、ユカ様、ミナ様っ!」

そう四人が挨拶すると少年達のお腹が鳴りき

「命様の言われた通りですね…」

そう笑いながら饅頭と温泉卵を出すと貪り食う四人に

「成果は感じられますか?」

ユカが四人に聞くと

「気のせいかもしれませんが力がみなぎってるって感じです」

大樹がそう答えると

「身体が軽い感じです」

炎と海斗が声を揃えて言いただ一人風華だけが

「今の所特にこれといった変化は感じません…」

そう少し落ち込み気味に言う風華に大樹が

「まぁ俺達だって気がするだけで実際に何かが変わった訳じゃないから気にしても仕方無いよ?

それより炎に海斗、昨日仕掛けた篭見に行くぞ」

そう二人に声を掛けると風華も

「私は昨日見かけた大葉の群生地に行ってくる」

と、言って立ち上がり四人は出掛けていった

 

「夜が明けた…」

忍がそう呟くのと同時に阿が組んだ手に添えたの自分の手を離し阿の脚の上から降りると

「特に問題無かったがこちらは?」

阿が忍に言うと

「こちらも特に何も有りませんでした…」

と答えたので

「春蘭は身体の調子の方はどうですか?

私達は身体をほぐしてから宿の食堂に行きますが…」

そう阿に言われた春蘭は

「身体の調子は良いので食堂でお茶の支度をしがてら朝食の支度をしているだろうユカ様と今日の予定の確認をします」

そう答える春蘭の様子は確かに無理をしているようには見えない

「わかりました、熱いお茶を楽しみにしてます」

そう言って身体の筋を伸ばす二人だった

 

「おはようございます…」

食堂に入りながら声を掛けると調理場にはユカが澪とつぼみに指示しながら食事の支度をしていてミナは内職をしていた

(朝食の支度だけではないようですね…)

調理場を一瞥してそう考えながら

「ユカ様、お湯が沸いたら少し分けていただいても良いですか?」

そう声を掛けると

「それは貴女の為に沸かしているのだから遠慮は要りませんよ」

そう答えが帰ってきたので暫く見守っていた

湯が沸く頃阿と忍が食堂に顔を出しある程度支度を終えた調理場の三人とお茶を飲んでいる

「ミナさん、命様は?」

そう声を掛けると

「夜明け前に現れて踊りのお稽古をすると言って外に行かれました

後、見習い騎士の方達は昨日仕掛けた篭を見に行くと言って出掛けてます」

そう言われたので

「では留美菜やりん達は?」

そう聞くと

「夕べ命様と馬車に向かわれたままですから馬車で休んでると思いますが?」

そう言われたので

「わかりました、様子を見て命様のお稽古が終わったら汗を流させます」

そう言って食堂を後にした

 

「み、命様が居ないっ!大樹達の姿も…」

ライの叫び声が聞こえてきた

馬車の戸を開け中を見ると狼狽えている四人の視線が春蘭に集まり

「し、春蘭さん…命様の姿が見当たりませんっ!」

そう言われたけど

「ミナさんに踊りのお稽古してくるとそう言って出ていったと聞いてますから…

留美菜、りんは落ち着きなさい…命様の霊気がわからない二人ではないでしょ?

見習い騎士の四人は昨日仕掛けた篭をみにいったそうですよ?」

そう言われて

「えっ?」

っと言う表情の四人に構わず命の着替えの支度をしていると

「春蘭様は命様が居ないのに心配じゃないんですか?」

ライに言われて

「私は夕べ阿さんと忍さんの三人で見張りをしていましたがお二人からは異常なし、問題はなかったと聞いてます

何より命様の霊気はすぐそばから感じていますからね」

そう言われて顔を見合せる留美菜とりんは落ち着きを取り戻し

「た、確かに命様の霊気をすぐ側に感じるし弥空さんが姉さんが冷静なら問題無いって言ってましたね…」

そうりんがそう呟くと留美菜も

「確かに…」

と、言うのを聞いて

「この感じからすると命様は湯殿の前でお稽古されてますから私は着替えを持っていき…

命様と朝風呂で汗を流しますけど貴女達はどうしますか?」

そう聞かれたので

「私も着替えを準備します

でも、私がユカ様とミナさんを除いたら一番長く命様のお側に長くお仕えしてるのに…」

そうぼやくりんに

「だから私達は学んでいるんですよ?

失敗が笑って許される今のうちに色々な事を経験しておけば良いのです」

そう春蘭に言われて

「それで良いのでしょうか?」

と、聞いてくる留美菜に

「知らない事、出来ない事を学ぶ為の見習い期間です」

そう言われて

「そうですね…兄貴達や大樹達もいきなり馬に触らせて貰えた訳じゃなかったんだよね…」

ライが言うとつぐみが

「そうなんですか?」

と、聞いてくるので

「最初は馬小屋の掃除に昨日朝御飯食べた所で草を苅り飼い葉作りの手伝いで馬に触らせてもらえない…

って海斗は良く溢してた」

そう言われて始めて会った時の大樹達は既に馬借の手伝いで馭者をしていたのでつぐみには驚く話だった

「命様の霊気に乱れを感じますから様子を見に行きますが貴女達も温泉に入るなら支度をしてきなさい」

そう言うと着替えをもって湯殿に向かう春蘭を

そう声を掛けると

「つぐみちゃん、僕達も支度して朝風呂に入ろう」

そう言って四人で支度を始

湯殿の前で宙に浮き踊りの稽古をする命に向かい

「そろそろお稽古稽古を終わりにして温泉で汗を洗い流しませんか?」

多分命の耳には届かないだろうとは思いながら一応呼び掛けたが予想通りに反応はない

代わりに稽古を終わりにするつもりなのか命の身体は降下を始めている

その様子を見てホッとしたのも束の間で命の顔が青ざめ目を閉じている事に気付いて慌てて降下地点駆け寄り命の身体を受け止め

汗で濡れて張り付く服を脱がせると冷えきった身体を抱き上げそのまま温泉に浸かった

真っ青だった顔色に血の気か戻り身体の震えも収まりつつある

ようやく開かれた目は生気は感じられず虚ろで何も見えてないように思えた

「…喉乾いた…」

やっと発してくれた命の言葉を聞いた春蘭は

「お水のみますか?」

と、聞くと小さく頷き返したので自分と命の体にタオル巻き付け

浴場に備え付けのベンチに腰掛けると水の入った水筒を渡し命が飲むのを見守っていた

暫くして留美菜達が入ってきたけどベンチに腰掛ける命を見て

「命様…もう上がるんですか?」

そう留美菜に聞かれ弱々しく首を横に降り

「お水…飲んでただけ…」

そう言われたので掛け湯をして温泉に浸かると緊張で固まっていた身体が解れていくようだった…

 

「こんな亊…親父達に言っても誰も信じないだろうな…」

魚籠に入った早瀬鰻を見ながら大樹言うと海斗も

「僕だって狢に化かされてるって言われてもおどろかないんだからさ」

そう言って魚の入った魚籠を抱えながら歩く炎と魚取り用の竹篭を担ぐ海斗が興奮を隠しきれない

待ち合わせ場所に行くと既に篭一杯の大葉を背負った風華が待っていて四人揃って宿に戻ると丁度命達が湯殿から出てきた所で

「魚を調理場に持っていったら貴方達も温泉に入って着替えなさい

魚の臭いがしますからね」

そう春蘭に言われ微妙に春蘭と命から視線を反らした三人は苦笑いしながら

「わかりました」

そう答え調理場に魚を運んで行くとその漁果に呆れたユカが

「魚屋でも始めるのですか?」

と言うもので

「炎の荷馬車に積んだら温泉に入って着替えなさい

服に臭いが染み付く前にしなさい」

そう言われて調理場から追い出し風華の篭中身を見せてもらうと

「大葉といっても赤紫蘇なんですね?」

嬉しそうに言われ

「はい、中々これだけの量は採れませんからちょっと欲張りました」

そうちょっと得意気に言う風華に

「少し良いから欲しいと思ってましたから有り難いです」

そう言ってその訳を話した

 

大樹達が温泉から出て食事の後に阿、瑞穂、忍、ユカ、ミナが温泉にはいりその間に洗い物を済ませ出発準備を済ませた一行

出発の時を迎えると命が再び祈り始め空の彼方よりそれは舞い降りた

大きな翼を羽ばたかせたた純白の天馬が…

天馬は命の前に降り立つと鼻面を命に擦り寄せ風華に乗れと言う様にしゃがんで見せるので風華も遠慮はせずその背に乗り自分に向かい両手を伸ばす命の手を取ると一気に引き上げると歩き始める天馬

それを見て

「忍、海斗の後ろに乗せて貰いまた勝手なことをしないようついていきなさい」

阿にそう言われて

「海斗、お願いできますか?」

そう言われて

「承知しました」

そう答えシーホースに股がり忍の手を取り後ろに乗せると命達の後を追い掛けた

最初は普通に四足歩行をしていた二体だけど徐々に加速して行き結局飛行競争になっていた

風華が慣れ始めたのを感じた天馬が宙を駆け始めるとシーホースも追走した

その海斗の背中を見ながら

「昨日より格段に上達してますね

昨日の乗せて貰っていた状態から乗って居ると感じる状態になってますから」

忍にそう言われて嬉恥ずかしの海斗は

「僕にはそんな自覚無いけど忍様がそう仰るならそれは僕自身の手柄じゃなく…

夕べ命様から頂いた蒼い霊玉が僕に力を貸してくれてるんだと思います」

そう答える海斗に

「それならば天馬を追い越してみなさい」

そう言って海斗よりはシーホースを挑発する忍

勿論シーホースも真に受けた訳ではないけど試しに追い抜きに掛かると意外な程簡単に両者の距離は縮まった

その追い上げを見せるシーホースを見て命も風華と天馬を叱咤する

「頑張らなきゃシーホースに追い越されちゃうよっ!?」

そう言って…

風華と天馬を煽る命に応える天馬ではない

今自分に取り何が重要なのか…そしてまた、本気の走りでこの状況なら焦りもするし本気を出さざるを得ないがシーホースからも本気さは感じない…

 

「命様、そろそろ地上に降りましょう…余り離れすぎると春蘭様が心配なさいますからね?」

風華にそう言われ余り面白く無い命が

「かいとなんかに負けるのつまらないもん…」

そう呟くと黙り込む命に呆れる風華だったから海斗に地上に降りるよう合図を送り休憩する事にした

「海斗、ここからはシーホース様に歩いて貰いなさい

命様と忍様に海斗の三人を苦にするシーホース様でも無いでしょ?」

そう言われ何と言えば良いのかわからない海斗は取り敢えず

「そんなの当たり前ですっ!」

そう海斗が喚くと

「なら私は春蘭様を迎えに行きますからのんびりして先を目指してください」

そう告げると忍に命を渡し海斗の前に座らせると

「命様、余り無茶をされてばかりいては心配する春蘭様の身がもちません…

彼女の事を少しは考えてあげないとお可哀想ですよ?」

そう言って天馬を引き返させ馬車に戻るのを見「忍、みこってやっぱり悪い子?」

その忍への問い掛けに

「そんな事は思って…」

「思っててもゆいません?

かいとには聞いてないんだけど?」

不機嫌さを隠さないその言葉に悄気る海斗を見ながら

(いつにもまして不安定な命様…何がそうさせているのか?)

少なくともそれがわからない忍には海斗フォローのしようがないので取り敢えず話題をそらす為

「海斗…先程から崖にチラチラ見えるピンクの塊はなんですか?」

そう言われた海斗はそちらを見る事無く

「それならここらでは崖イチゴって呼んでる通称ピンクの奇跡と呼ばれる苺の一種

一部の食通達の間じゃ高値で取り引きされてます」

然程興味は無いけど取り敢えず

「美味しいのですか?」

そう聞いてみると海斗の答えは

「美味しいですよ…ただ命を賭けて取りに行く程じゃないしさっきの理由から僕等に手が出せる値段じゃ無いんです…」

そう言われて

「この崖位なら私でも登れそうな気がしますが?」

忍の言葉を聞いた海斗は

「途中まで…崖の色がかわってますね?

その辺りまでなら僕等も登れるからそこから手の届く実なら採った事なら有るけど…

その先からが無理何ですよ、僕も木登り崖登りは得意な方だけど…」

そう話していると

「ですがどうやら貴方より小さい男の子が登ってますよ?海斗」

そう言われて顔を上げると

「あ、あいつ…僕の…師匠の言い付けが何で守れないんだよ?」

海斗がそう言うのと同時に男の子の足場が崩れ掴まっていた突起も崩れると宙に舞い落ち始め忍も思わず顔を伏せ目を閉じた…

が、男の子の身体が宙に浮いたままゆっくりこちらに向かい始めた

命が水の鞭で受け止めたのに気付いた海斗は安心して

「色の変わった辺りから砂岩が多くて崩れやすいんです

それがこの崖が危険な理由…なのに何でだよ?たけ…」

そう呟くと

「命を賭けて取りに行く理由が出来たからじゃ無いの?

海斗だってただ命が惜しいからじゃなくって命を賭けて取りに行く理由が無いだけでしょ?

命を賭けてみこの為に霊玉を受け入れた海斗達だもん」

そう言われて真っ赤になりながら

「もしかしたらきみに何か有ったのかも?」

そう呟くと

「忍、シーホースの足下であの子を受け取って、みこがあれ採ってくるから」

そう言われて驚いた海斗が

「命様にそんな危ない真似させる位なら僕が行きますっ!」

と、叫ぶ海斗に

「宙に浮いてるみこにどんな危険があるの?」

そう言うの聞いた忍が笑いながら

「居るかどうかは知りませんが猛禽類が襲ってきたら海斗の出番でしょ?命様に任せなさい」

そう忍が言い

「それに危ないからもう登るのやめなさいってゆわれて諦める位ならおちてないよ?

なら、ごちゃごちゃ言って無いでみこがあれ採ってくれば早いし海斗達の友達だよね?」

そう言われて

「はい、僕達の事を師匠って呼んでくれる奴なんです」

そう答えると

「じゃあ行ってくる」

そう言って篭を受け取ると宙に浮き苺の実を集め戻ってきた

 

忍に膝枕されたたけと呼ばれる男の子がが息を吹き替えし

「俺死んじゃったのかな…天使が見える」

心配顔で覗き込んでいた命の顔を見てそう言うの聞いた命がたけの鼻を摘まむと

「たけ、痛いだろ?生きてる証拠だよ

まぁ天使に見えるのは…ひたひ、ひたひっひほほはは、はんへんひへふらはい

…」

そう言ってる海斗の口の端をつねる様に引っ張る命は

「誰が天使?天使がやってるなら痛くないよね?」

そう意地悪く言う命に気付いたたけが

「命様ってもしかして…」

驚いて命を改めて見るたけに命から解放された海斗が

「その命様だよ、歌う人魚姫のね

それにもう上る必要もない」

海斗にそう言われて

「きみが、妹が死ぬのを黙って見てろ、諦めろっ!って言うのかっ、師匠っ!」

そう食って掛かるたけに

「そうか…お前が僕の言い付けを破って迄この崖を登る理由はそれしか思い付かなかったけど…」

海斗がそう言うと

「はい…」

そう言って篭を差し出す命と

「お前が持ってた篭、悪いけど借りて命様が採ってきてくれた

それで足りなきゃ上る必要有るけどどうなのさ?」

海斗に聞かれたたけは

「何で王女様が俺なんかの為に?」

と、漏らすと

「海斗達はみこのお友達、貴方は海斗達の友達だよね?

なら、それで良いんじゃない?貴方がみこみたいなおばかは嫌いなら仕方無いけど…」

寂しそうに言う命を見て海斗を見ると

「僕達は騎士になりたいのだけど命様がそう言って下さるなら今はそれで良いんじゃないかな?」

そう言われてたけが

「きみが助かる…」

そう呟くと

「かいと、悪い予感がするから急いでその子のお家に連れてって

急がないといけない気がする…」

命にそう言われてたけが驚いて

「そ、そんな命様にわざわざお出で頂く…」

そう言い掛けるたけに

「街道からちょっと外れるだけ、命様が湯町目指すのはわかるよな?」

そう言われて頷くたけに

「なら急ぎましょう、私達には感知出来ないことを命様が気付いたのでしょうからね…」

忍がそう言うと海斗とたけも頷きシーホースに乗馬した

 

分かれ道でシーホースを止め

「海斗、これ…」

そう言って渡された命愛用の水筒を首に下げると

「忍とここで待ってるから…」

そう言われてたけが

「ここまで連れてきて貰えばすぐなのに…」

と、苦笑いするたけに

「気にするなたけ、言葉足らずな命様は僕にきみのお見舞いに行きなさいって言ってくださってるんだからさ」

そう言いながら歩く二人

その二人が視界から消え自分に向かい手を伸ばす命を見て頷くとその身体を抱き上げ

「行きましょう…」

そう言って気配を消して二人の後を追った

 

目の前の三人を信用できないのだけははっきりしていた

だからと言って娘の命が危ういのも悲しい現実

どう判断すべきか迷いに迷う男に

「急がないと娘さんの助かる可能性は刻一刻と下がって行きますよ」

そう言ってじわじわと追い詰められていたけど勢い良くドアが開かれ

「父ちゃん安心しな、っ!そのおっさん達の言った篭一杯の崖苺を採ってきたからよ」

そう言って篭を机の上に置くと

「さぁ確かめてもらって良いぞ?」

そうたけに言われて顔を見合せる男達に構わず

「たけ、その狢憑きが予想外の事態に対応出来る訳無い」

そう言って家の中に入ってきた海斗は親父を見て

「おじさん、きみのお見舞いに来たよ、たけ同様に妹みたいに思ってるきみが寝込んでるって聞いてね」

そう言って挑発的な目で眺めていると

「親父、なんだ?この礼儀知らずの小僧はっ!」

そう喚くのを聞いて

(海斗の顔も知らんのか…)

そう思っていると

「所詮その程度の狢憑き…お前達は知るまい、この水筒に入っているのが命様…

アクエリアス様の霊気に満ちた清浄なる水、なんなら頭から掛けてやろうか?」

そう言われて焦る男二人が海斗に殴り掛かってきたけどあっさり返り討ちにしもう一人はいつの間にか室内に現れた忍に加減してうち据えられていた

「良い動きをしましたね?海斗…」

忍のその声で今何が起きたのか理解したたけが

「す、すっげぇーっ海斗師匠、いつの間にあんな事が出来る様になったんですか?」

そう聞いてくるたけに

「わからない、気が付いたら身体が反応してたから…」

そう答える海斗を頼もしく思う忍に

「どうやら何も教えられてない愚者の捨てゴマの様ですね…」

現れた命がその三人の狢憑きを見る目は完全に見下して蔑んでいてその視線に気付いた忍にうち据えられた男が

「な、何だこのくそ生意気な小娘はっ!?」

そう喚く男に

「本当に呆れ果てた男だ、お前達の目的は私ではないのか?

差し詰めあの陰険な男に唆されて来たのだろう?」

その先程からは想像も着かない命の口調に目を見開くたけを気にする事無く

「海斗、その子はこの者の障気に当てられているだけだから貴方の考えた通りアクエリアス様の霊水で浄化できます

飲ませてあげなさい」

そう言われてたけに手伝わせて上体を起こし水筒水を飲ませると…

それまで高熱を出して真っ赤になって苦しそうにしていた少女の熱が下がり始め呼吸も穏やかになりホッとする父子を他所に

「おかしい、あいつは水の精霊の巫女は幼いから簡単に捕まえられるから俺達の手柄にすれば良いといってたのに何でだ?」

そう口にする男に

「闇の道化師なら既に二度程接触してきている

一度目は私夢の中で…

もう一度は雷精を操って来ている」

そう告げられて

「そ、そんな話しは聞いてないぞっ!?」

そう叫ぶ相手に

「だから捨てゴマと言ったのだ

あいつは自分より格下や取引相手と認めぬ者に情報は与えない」

そう言われて

「う、うるさい煩い五月蝿いっ!

俺はお前みたいな知ったかぶりの小生意気な小娘を従順なペットに躾るのが大好きなんだよ…」

そう言って劣情で醜く歪めた表情を見せる男に

「私はその様な持て成しは興味ない」

そう言って右手を高くあげスッと降り下ろすと水の塊が男の頭に落ち男の中の狢が祓われた

「済まないな…家の中を水浸しにしてしまって…」

そう言って軽く頭を下げる命に

「いや、貴女の清浄な水のお陰でこいつらが持ち込んだ邪気が祓われ清々しい」

と、言われ

「この埋め合わせは後でさせて貰うとしていつまで狸寝入りをしているのだ狢憑き?」

そう言われて仕方無しに起き上がる狢憑きの二人に

「お前達は先程祓った愚者と同列の愚者か?」

そう意外な問い掛けをされ

「俺は愚者じゃ無いとは言わんが少なくともアイツよりはましだと思いたい」

一人が言うともう一人も頷き

「失敗を許さない闇の道化師ならお前達から情報が漏れぬよう始末しに来る位は予想出来よう?」

そう言われて

「俺達は用済みって訳か…」

そう呟くと

「そうなるがお前達か取引に応じるならば守ってやらんでもない」

そう言われて互いに顔を見合わせ

「ワシ等に何をしろと言うのだ?」

警戒する狢憑きに

「何、大した事では無い…

お前達の知る限りで良いから情報が欲しい

私は今の闇の勢力分布が知りたい

その程度の事ならお前達でも知ってるだろうし然程守らねばならぬ秘密でも無かろうが私はしらない

それと闇の道化師に何と言われてこの計画に乗ったのだ?

どうせあやつの事だから真の目的は言ってはいまい」

そう言われて

「確かに…何でこんなずさんな話に乗ったのか我ながら呆れる

宜しい、今の闇の主要勢力は3つで最大派閥は人狼族を従えたバンパイアを頂点に頂く不死身の軍団

第二にトロルやひとつ目等の巨人属を操る魔物使いの一味

そして第三勢力は骨や腐った死体を使うネクロマンシーとゴーレムなどを操る傀儡師の連合軍

あいつが言うには見目麗しい精霊の巫女を生きて捕らえ何処の軍でも良いから献上すれば出世は思いのままと言っていたが…

そんなものは作戦でも何でもない、あいつの妄想や願望にすぎなかった

他に知恵も情報も与えられずただ間も無く水の精霊の巫女がこの地を訪れると教えられただけなのだからな…」

そう言われて

「成る程、ではお前達に試練を与えよう…お前達とて元からの闇の者ではない筈

お前達がこの霊玉を受け入れ無事乗り越えたらお前達の結界を用意するがどうするが?」

そう命に言われて

「そんな事をしてアクエリアス様のお叱りは受けぬのですか?」

逆に心配して言う狢憑きに

「今一度言う、私が赦すわけではない

アクエリアス様の霊気がお前達の試練となり許されるか否かを決める

故にアクエリアス様には不本意だろうが許されるたならばとりもなおさずあの方のお許しを得ることになる」

そう事も無げに言う命に

「で、ですがこれまで俺達が犯してきた罪は決して軽くなくアイツの様に問答無用で祓われてもやむを得ない身」

その問い掛けに

「多生の過去を持ち時に闇の側に与しもっと重い罪も重ねている私にはお前達の罪等私から見れば子供の稚戯にすぎぬ」

そう告げられて

「わかりました、暫しお待ちください」

そう言ってまず取り憑いていた人間の身体から抜け出ると二人に意識を取り戻させ

 



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経済復興

内需拡大への布石、掘り出し物発見


(これに懲りたら二度と身の丈に合わぬ欲望は持たぬ事だ

それがわかったのなら寝てるそいつをつれてさっさと立ち去れっ!)

そう怒鳴りつけると二人の男達は真っ青になって言われ通りに寝てる男を担ぐと一目散に逃げて行きそれを見ながら

(我等も偉そうに言えた義理ではないがな…)

そう思いながら命が差し出す蒼い霊玉を受け取るとそのまま呑み下し二人の霊たいから吹き出た蒼い霊気が包んだ

そのまま暫く様子を見ていると霊気は再びその二つの霊体の中に還りドサドサっと落ちた

(霊体の二人に体重は無い筈…)

そう思いながら忍が音のした方を見ると山賊の風体をした中年男が二人居た

「ふむ、生身の身体は久方ぶりだが悪く無いな…霊体は気楽で良いが生きているわけではない」

そう一人が言うと

「取り憑いた状態で何かしても所詮他人事で何をしても面白味に欠ける

久し振りに自分の身体で思いきり汗を流してみたい…」

そう話していると

ー面白く無い程に魔女の命の思惑通りですね…ー

アクエリアスが霊体で現れそうぼやくと

(私の眠りを妨げた貴女の罪が巡り巡っただけ)

そう言われ

ーその罪は私だけの物ではない筈?ー

アクエリアスにそう言われ

(真琴ならばこの旅立ちの際にかなり手酷い悪戯をしたし私達が生きている限り何度でも繰り返すのだから貴女の気にする必要は無い)

そう言い返され苦い顔をするアクエリアス

ーが、貴女の言う事にも一理ありますー

そう言って二人の男を見て

ーだからと言って無条件で貴方達を許す訳にはいかない私の立場はがわかるのなら私からの条件も呑みなさいー

そう言われ

ーアクエリアス様の条件をお教え願えますか?ー

背が高く弓を背負った男が言うと

ーみこを守りなさい、今いる魔女の命ではなく幼い無垢なる命を…ー

そう言われ舌打ちをしたものの反論の余地の無い命に構わずずんぐりむっくりの髭男が

ーアクエリアス様、それは話が逆になります

大恩有る命様の守護を願い出る我等に一度は闇に落ちたお前達の言葉は信用ならん

そう言われたら何も言い返せぬ我等に

我が巫女を守る盾となれとそうお命じくだされば良いのですー

ーそれこそが我等に取り最大の許しにして我等に出来る巫女様へのご恩返しとなり我等の生きる意味ー

ーですからお命じ下さい、貴女様の御名に於いて我が巫女を守れとー

そう言われてやっと決心したアクエリアスが

―我が名は水の精霊アクエリアス、その名に於て汝等に命ずる…我が巫女命を守る盾となれっ!―

そう言われて二人は畏まり

―我等に過ぎた大任慎んでお受けすると共に鍛え直す時間を頂きたいと申し上げます―

そう答えるとアクエリアスは

―然程時間が無い今私が用意する結界に隠り修業しなさい―

そう言って結界に入る扉を開けると二人はその中に入り姿を消した

 

人の子である三人の時が動き始め魔女も命の中に隠り考え込む命…

バンッ!

勢い良く扉が開き鬼の形相の春蘭が現れ

「命様、また何を勝手な亊をなさってるのですかっ!?」

その春蘭の怒りも露の怒鳴り声に首を竦める命を見かね

「今回はお一人で暴走せず後方で私と共に有り海斗を指揮してました

小競り合いも有りましたが命様の手を煩わせる程の物でもありませんでしたから安心しなさい」

その話を聞いていたたけが

「なぁ父ちゃん…俺も命様のお供をしたら海斗師匠みたいに強い男になれるかな?」

そう聞かれた父親は

「さぁな、そいつはお前次第だがその前に命様のお供を許して頂くのが先決でわしはお前が本気なら宜しくお願いしますと頼むだけだ」

そう話す父親に目を覚ました娘が

「父ちゃん、私も命様についていきたい」

そう懇願する娘に

「それも頼む相手が違う、許すも許さぬも決めるのはわしではない」

そう言われた兄妹は

「俺を…

「私を命様のお供をする亊をお許し下さい」

その申し出を受け父親に

「お嬢さんはともかく息子さんは跡取りではないのですか?」

そう聞かれた父親は

「別に継いで貰う程の屋号があるわけでも継がせる山を持ってる訳でも無い

だから悪い道に走るのなら許さんが王女様の騎士を目指すと言うのなら男として応援せぬ訳にはいかんでしょう?」

その父親に春蘭は

「わかりました、息子さんとお嬢さんはお預かりします」

そう答えると

「勿論海斗、お前達も兄貴分として二人を見てくれるのだろ?」

そう言われた海斗は逆に

「やだな、おじさん…今更そんな水臭い亊を…

だからさっきだってたけを本気で叱ったんだからさ」

そう聞いて

「そうか、ちゃんと叱ってくれたか…」

そう呟くと

「そう言えば折角ここに立ち寄ったんだから炭を見せて貰いませんか?

きみには悪いけどこのおじさん、厳つい顔してるけど良い炭を焼きますよ?」

そう言われたので

「厳つい顔は余計だがこの様な上品なお嬢様に炭の良し悪しがわかるのか?」

訝しげに聞かれた春蘭は

「私の父が王都の緊急用備蓄品の管理を任され炭を見回る時には同行してましたし家の庭でするバーベキューは父の趣味

勿論料理は母から仕込まれてますから炭の良し悪しは多少わかるつもりです」

そう言われたので改めて春蘭の顔を見て頷くと

「わかりました、わしの焼いた炭を見て頂きましょう」

そう言われて共に炭置き場に向かう父親と春蘭を見ながら

「きみの蔓草細工、春蘭様に見ていただかないか?僕も推薦するからさ」

海斗のその言葉を聞き

「興味有りますね、見せてもらえますか?」

そう忍にまで言われたきみに

「きみ、折角の機会なんだからダメ元で見てもらえよ?」

と、本人は応援のつもりで言うたけに

「たけ、兄貴のお前がダメ元って言ってどうするの?

それじゃ推薦する僕の立場はどうなるのさ?」

そう笑って言われて

「…はい、自信有りませんけど持って来ます」

そう答えると自分の部屋に走っていった

 

命の隠れ蓑とも言うべき篭の中に蠢くモノがあった…

(ここは…どこ?なんで私はこんなとこでうもれてるの?

タオル…かな?これ…)

そう思考を巡らせるそれが肝心な亊に気付いた

(わ、私…誰?何者なの?)

と、言う事に…

(取り敢えず誰かに見つかる前に逃げ出さないと…

敵と味方がわからないんじゃ誰も信用できないんだから逃げなきゃ…)

そう考えた時には既に手遅れで

「何者だ、馬車に隠れているのはわかっている、大人しく正体を表せ」

そう叫ばれて

(こ、怖い…私は何もしてないのにいきなり怒鳴るなんて野蛮人だ

関わりたくない…逃げなきゃダメ…でも何処に逃げたら良いの?)

そう迷っていると別の声がして

「大樹、敵かどうかもわからないのにそんな怒鳴り声上げたら怖がって余計出てこないよ?」

そう少女の声が言うのを聞きホッとしていると

「大樹、何を騒いで居るのですか?

そろそろ出発すると言うのに…」

また別の人物が現れ身を固くしていると

「何者かがこの馬車に浸入してますから問い詰めてます」

そう答える大樹を見ながら

(何故?命様の魔力を感じる?命様は…)

この場に居ないはずの主人の気配に戸惑うミナに

「ミナ、どうかしましたか?」

そう聞かれたミナは

「何者かは知りませんけど敵意は感じ無いどころか逆に怯えきっている様に感じます

それこそ何にそんなに怯えているのか聞きたいくらいに…」

そう聞いた瑞穂も

「私にも震えていると感じられますが…」

そう言いながら気配のする篭にてを突っ込み手に触れたそれを一気に引き抜いた

まるで畑から大根を引き抜く様に…

勿論、その相手も大人しく引き上られた訳じやない

が、その抵抗は精々自分の身体を埋め尽くすタオルにしがみ着いただけなので何の効果も無かったが

「大樹、目を閉じろっ!」

そう叫ぶ少女の声が聞こえ慌てタオルが自分の体に巻かれるのを感じた

―貴女は誰ですか?氷雨の精の巫女よ…

私は雨水と山谷風の精の導きを受けるミナと言う者

決して貴女に危害は加えませんから貴女の事を教えてください―

そう言われて

ーわ、私が精霊の巫女?いきなりそんな事を言われても知らない

私がどこの誰で何でここに居るかなんてもっと知らない

だから私なんか構わず放っておいてっ!ー

そう叫ぶと

「瑞穂様、何ともややこしい事にその娘には記憶が有りません…」

そう言われた瑞穂が

「それを信じろと?」

そう聞かれたミナは

「あくまでも私がその娘から感じた印象ですし今の所は瑞穂様に信じていただくようお願いせねばならない理由は有りません」

そう答えると

「私には霊力とか無いから何もわからないけど今その娘を怯えさせているのは大きな声で威嚇する大樹

騎士様の瑞穂様でも精霊の巫女様のミナ様でも無いのは私にもわかります」

そう麦が言うのを聞き

―良いから私なんか放っておいて、その二人には厄介払いで問題ない筈?―

そう言われた瑞穂が

「記憶が無い今身を守る術を持たぬ貴女をか?」

そう聞き返されたけど

―そんな事貴女に心配して貰う必要ないし関係ないでしょ?―

そう言い返された瑞穂はそれ以上言うべき言葉が見当たらずミナも

「大樹、麦…どちらでも良いから留美菜を連れてきて…」

その意味がわからない二人が顔を見合わせていると

「意味なんかどうでも良いから早くっ!」

飛び去ろうとする少女の身体を掻き抱きながら叫ぶとさすがに焦って留美菜を呼びに走る大樹

そして留美菜を一目見た少女の表情も一変し

―お姉さま…―

そう呟き留美菜も一度目を閉じ

―なぜ貴女がここに?貴女もアクエリアス様に呼ばれたのですか?―

そう聞くと

―わかりません、気が付いたら私はこの者と強制的に契約を交わされこの者の中にいました…

が、記憶と声を失いしこの者の怯えも本物で私もどう判断するべきか全くわかりません…―

そう話す氷雨の精に

「取り敢えず命様、水の精霊の巫女様の判断を仰ぎましょう

私達にわかる事態ではありませんね?」

ユカのその言葉に言い返すものはない

あらゆる意味に於て判断を下せる者は無いのだから

「馭者は映見さんが王家の馬車に、阿様は寝台付きの馬車に

瑞穂様はもう一台の馬車で大樹、炎は荷馬車を

謡華さん、ライ、つぐみ、しずく、りんは王家の馬車に

ミナ、澪、美景、つぼみ、蛍は寝台付きに

私と留美菜、麦がもう一台で留美菜はその娘を頼みます」

そう言ってそれぞれの馬車に分乗する一行

馬車に乗り込むとタオル二枚取り出し裁縫を始めたユカに興味津々で

「ユカ様、一体何をなさっているのですか?」

そう聞いてくる麦に

「今後のその娘をどうするかは命様の判断にお任せするにしてもいつまでもタオルを巻き着けたままは可哀想とは思いませんか?」

そうユカに言われて

「え、あ…じゃあ何かお洋服を?」

そう聞き返す麦に

「取り敢えず何か一着作ってあげないとね?」

そう言ってウィンクするユカが作っているのはホルターネックタイプのワンピースで

真っ白なタオルだけにかなり地味に見えるのを気にした麦が

「ユカ様、良かったら私がこの子達を使って可愛く仕上げましょうか」そう言ってハートや星形のワッペンを見せる麦に仕上がったばかりのワンピースを見せながら

「私がしなくても大丈夫ですか?」

そう訪ねると

「落ち着いて作業すれば大丈夫です

刃物を扱う裁縫なのだから常に周囲に気を配りなさいます

怪我したり人を傷付けない為にね…そう厳しく何度も言われてますから」

むぎのその言葉を聞いて「そう、大事な事を心得ている方なんですね?貴女のお母さまは…」

そう言って暫く考えた後に

「そう、大事な事を心得ている方なんですね?貴女のお母さまは…」

そう言って暫く考えた後に

「貴女にその気が有るのなら見習いの侍女としてではなく一人のデザイナーとして貴女の指導をしますがついてこれますか?私は厳しいですよ?」

そう言われて

「はい、ついていかせてください」

その問い掛けに力強く応える麦に出会えた事を感謝するユカだった

 

枝道に止まるシーホースに気付いた大樹がその事を知らせ

「この先には何が有るのですか?」

そうユカに聞かれた大樹が

「炭焼き小屋が有って父子三人が暮らしてます」

そう答えるのを聞いて

「取り敢えず私達も炭焼き小屋に向かいましょう」

そう言って上がっていくとシーホースもついてきた

「留美菜はその娘にその服を着せなさい

麦は取り敢えずミナに待機しておく様に伝えて」

そう言って馬車から降りると春蘭の話し声が聞こえてきた

 

「これがわしの焼いた炭だ…」

俵から出したそれを受け取り父がしていたように耳元で打ち鳴らしその音を聞いてみた

現在市庁舎の備蓄倉庫に有る輸入物と全く遜色の無い澄んだ音に

「確かに良い炭ですね?これならわざわざ手間隙掛けて危険を冒して輸入する必要有りません」

そう春蘭に言ってもらい

「僕達もおじさんの炭の良さを知ってるだけに高い輸入物が幅を聞かせてる現状が嫌だったんですよ」

そう話していると春蘭の手元から炭を取り上げ

「海斗、この炭は夕べ泊まった無人宿に置いて在った物ですね?」

そう聞かれて

「ほお、お嬢さんは見ただけでそれに気付くとは…」

そう言われて

「料理人として炭の良し悪しは叩き込まれましたからね…」

そう答えるユカに

「さすがユカ様ですね…」

そう感心している春蘭に

「私達の連名で国王様と観月様に推薦状を書きその上で認めていただいたら御墨付きを頂ける様にお願いもします」

そう言われて難しい顔をする男に

「御墨付きが付けば価格が跳ね上がり今まで支援してくれた近在の顧客に迷惑を掛けると気にしているのなら

近在者は大抵こちらに買い取りに来ると思いますが?」

そう言われて

「近在の者と言うより馬借達が引き取ってくれている」

そう答えるのを聞いて

「ならば馬借達の送料込みで請求し貴方の方で馬借達には送料を払えば送料の要らない馬借達は今まで通りで問題有りませんよ?」

そう言われて

「う~ん…」

唸る男に

「確かに値上がりは痛いけどおじさんの炭の知名度が上がって沢山売れたら家の仕事か増えるし…

自分で買い付けに来るなら道中の温泉街の客も増えるんじゃないの?」

海斗がそう言うのを聞いて

「そう、海斗が言う通りの事を私達は期待してます」

そう言うのを聞いて驚く男に

「それに海斗、現在馬借の組合と専属契約を結び楊牧場と王都間の駅馬車を再開させる話しも浮上してますよ」

そう言われて

「そうか、そんな話が有るから最近打ち合わせが多かったんだ…」

そう感心している海斗に

「命様を中心に色々な事が動きを始めてます

勿論ご本人に自覚はありませんけどね

それよりそろそろお昼時、差し支えなければこちらで食事を済ませていっても良いですか?」

そのユカの問い掛けに

「家は見ての通りに狭いんだが?」

と、答えると

「天気が良いし魚も焼きますから馬車を停めてる広場で良いと思いますよ?」

その思いがけない返答に

(そこいらのつまらん奴等とは器が違うと言う事か…)

そう思いながら

「海斗、今年も旨そうに実ってるから炎も居るなら一緒に採ってこい

大樹には昨日の雨で魚影が濃い

大物が期待できるぞと言っておけ」

そう言われて

「うん、わかった…ユカ様、そう言う訳ですから一寸行ってきます」

そう言って駆け出そうとする海斗に

「その前に炭の買い付けしますから積み込みを済ませてから行きなさい」

そう言って百貫の炭を買い取り大樹達に積み込みを任せ謡華には命の稽古を頼み書類作成を終えた春蘭、ミナ、留美菜、りんは踊りの自習でライ、つぐみ、しずくはそれを見学しユカが指揮して残りの見習い侍女達と昼食の支度を始めた

支度を終えたミナ、留美菜、りんが命の支度をさせて

その間春蘭には風華に運ばせる荷物を用意させそれが終わりいよいよ湯下の町から仲間に加わった九人とたけときみの歓迎の宴が…

謡華の演奏に合わせ舞い踊る命、そのまま謡華に習った歌を歌い…

竪琴を受け取ると元からの持ち歌を歌い始めるとライが

「たけにきみ、あんた達なら即興で命様の歌に合わせられるだろ?」

そう言われて二人が竹笛を取り出す取り出すと吹き鳴らし始めた

それに合わせる様にいつの間に戻ったのか翔も合わせるかの様に囀ずり始めた

一人を除く全員が浮かれる宴…いや、もう一人と一羽居た…

翼を持つ少女にとっては他人事出し鳥の翔にとっても興味の無い事

ただ一人、留美菜はその身に宿背し氷雨の精が妹の精霊を気遣う思いが伝わり楽しめないでいた

その二人に気付いてしまった翔は仕方無しに少女の前に降り立つと

―なに辛気くさくしとんねん?―

そう言われてやっと翔に気付き

(大して面白いと感じてない貴女に言われたく無い…)

抑揚の無い思考の少女に

―ここに居るもんでそれに気付けるんはみことあんたさん位のもんやから気にせんでよろし

所詮ボクの事なんぞ変な鳥位にしか思われてへんのやからこっちから頭下げてまで仲良ーしてもらわなアカン理由は無いんやからね―

そう言って

―みこ、いつになったらこの娘の事ユーんや?

宙ぶらりんのまんま放置てほんまもんのアホちゃうっ!?―

そう言われて

(全く翔ってば口が悪いんだから…)

そう言って溜め息を吐くと

―来て…―

少女に向かい手を伸ばす命に向かいその胸に飛び込むと

留美菜と麦、この娘に名前付けて呼んでたよね?それ教えて」

そう命に言われて互いに顔を見合せ二人同時に

「媛ですっ!」

そう答えるのを聞いて

「貴女の本当のお名前わからないからそう呼んでもいー?」

命に聞かれた少女にとっては他人事にしか思えないので頷くと

「この娘を媛って呼ぶことになったから…皆も仲良くしたげてね

留美菜とおんなし氷雨の精の巫女で二人の精霊は姉妹なんだって」

そう簡単に説明を済ませる命を訝しげに見る翔の視線に気付かない命

宴も終わりに近付き

「命様、風華に使いを頼んで宜しいでしょうか?」

既に支度を済ませてある状態を見て

(あざとい…)

そう思っていると

「うん、ふーか…翼ちゃんに会ってくるといーよ」

そう命が答えるので

―ボクもついてくからね―

そう宣言する翔に

(うん、初心者のふーかを宜しくね)

そう応えるだけで用意された荷物を受けとり王都に向かい飛び立つ風華だった

 

後片付けも済みたけときみの荷物を積み終え

「たけときみの二人にお言葉を、命様…」

そう言われて

「みこはフツーが出来ないお馬鹿なんだよ…だから二人…特にきみには一杯助けて貰うから宜しくね?」

その命の言葉に

「お前達、命様がこんな事仰ってくれたんだから一生懸命お仕えするんだぞっ!」

そう言われて

「そーゆー父ちゃんこそきみが居なくなってもちゃんと飯を食えんのかよ?」

そう言われて

「あー、お前等には黙っていたがわしの妹の旦那が病気で退役したから手伝いに来る事になってたんだが…」

そう言われて

「全く親子揃って鈍いからやになるよヤになるよ」

そう呆れる女(父親の妹)に

「済まん済まん、今日は色々有ったからな…」

そう言われて

「まぁ、良いけどね…お前達も良かったじゃないか

アタシなんか王宮の下働きだって羨ましがられたんだからね?

兄貴の尻は義姉さんの分までひっ叩いてやるから安心して旅立ちな」

そう言われて馬車に乗り込むと

「元気でなっ、父ちゃんっ!」

そう叫ぶたけの声を残して走り去っていった

 



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風の精霊の巫女と風の騎士

風の精霊の巫女との出会いに運命を感じた少女騎士巫女に誓いを捧げるっ


大樹、炎、海斗、たけも取り敢えず板場で待機し力仕事を手伝いなさい

ミナ、命様と媛を連れ温泉に入り舞台の…」

そう言いながら命とミナが居る筈の場所に目をやると二人とも居らず溜め息を吐いて

「ユカさん、取り敢えず私は部屋に行き着物や小物を支度しておきますから二人に部屋に来るようお伝えください」

そう言って部屋に向かった

「ユカ様、指示された物を持ってきました」

そう言って大樹と炎が担いできたのは看板で その上に張り付けた紙に

ー歌う人魚姫様ご一行宿泊の舎ー

ー期間未定で今夜より命様の歌と踊りを上演中ー

と、二枚の看板に記入し玄関に置きに行くと早速暖簾を潜って三人の老婦人が現れ代表の一人が宿泊の手続きをしている

すると静かな宿の廊下をトタトタと足音をさせて帳場に近付いてくる

勿論足音の主は命で少し遅れて

「命様、廊下は走ってはいけませんっ、歩いて下さいっ!!」

帳場の前を竪琴を背負った蒼い髪の少女が駆け抜けその後を侍女の服を着た…

こちらも未だ少女と言って差し支えない年頃の娘が足早に後を追いかけている

「申し訳有りません、お見苦しい所をお見せしまして」

そう頭を下げ通り過ぎるのを見た三人組の二人が

「今の見ました?」

「ええ、はっきりと…」

「本当に噂通りの愛らしいお姿をなさってますね」

そう話しているのがユカの耳にも聞こえてくる

暫くして息も絶え絶えのミナがユカの前に現れ

「申し訳有りません…命様を見失ってしまいました」

そう頭を下げて近付いてくるミナに同じく申し訳なさそうに女将が

「命様ならあちらに…」

女将が指さした方で二人の客と話をしていた

「うん、今お支度してるからそれが済んだら媛とせんせえーとミナの四人で温泉に入るんだ

そいでその後舞台の支度してもらったら舞台に立つんだよ」

いつの間にか帳場に客が集まり命の話を聞いていた

特に水の中で人魚になると噂されているためもしかしたら人魚姫に会える?

そう期待しない方がおかしいが

「命様、それがお分かりなのでしたらミナと部屋に戻りまずは温泉に入って舞台の支度を為さってください」

そう言われて

「はーい」

と、答えミナに手を引かれ部屋に向かうと他の客達も宿泊の手続きを急ぎ始めたので取り敢えず女将も含め四人で手続きを済ませた

ユカは板長と食材の交渉をしていたが問題は酒で既に配達可能な時間ではない…

そう愚痴る板長に

「何を言ってるのですか?

三人もの元馬借が居るのですよ?店が開いてるのならば彼らを使いに出せば良い事です

酒に限らず必要な物があるのでしたら遠慮なく言い付けてやってください」

そう言われて驚きの目で見た物の

(本物の大物だな…)

そう関心する板長は板場に戻り

留美菜とりんは客を部屋に案内し荷物運びに阿、瑞穂、忍も手伝い宿を活気付かせた

取り敢えず第一陣の客を捌き終えると女将が皆にお茶を出し

「所でユカ様にお聞きしたいのですが宿を探させる時に何故命様の名前を出させなかったのですか?

かなり苦労したみたいでしたよ?」

その命を見た時から感じていた疑問を口にすると

「私達は肩書きで客を選ぶような宿に大切な命様をお泊めさせる気はありませんし…

逆に先程の命様の振る舞いを見て何と言うのでしょうね?

まぁ今更二人を追い返した事を悔やんでも遅いんですよ

幸運の女神に後ろ髪は無いのですからね?」

そう言って艶然と微笑むユカだった

その後ユカは板場で大公領風の料理を作って板場の手伝いをすることにした

 

命が部屋に戻ると媛が声無き泣き声をあげ泣いていて様華にしがみついていた

「媛、どうしたの?」

命がそう心配そうに聞くと

「命様がいけないのですよ?留美菜ちゃんが側に居ない媛を一人にしてほっぽらかしてるからです」

そう謡華にキツく言われて

「ごめん、媛」

そう言われても嗚咽の止まらない媛の身体をやさしく包み込む謡華は「媛、みこちゃんも反省してますから皆で温泉に入りましょう」

そう言って宿の浴衣に着替えたミナと謡華に連れられて温泉に向かった二人

しかし向かった先の温泉の入り口は既に人だがりが出来ていて既に順番待ちの様で諦めて帰ろうとすると

「皆さん、待望の人魚姫様がお見栄ですよ道を開けましょう」

と、言って先を譲られて

「皆のが先に来てたのに何で?」

不思議に思った命が聞くと

「私達は命様と入りたいからですよ?」

そう言われて

「そうなの?」

と、やはり命には理解出来ない答に頭を悩ませなからも謡華に手を引かれて脱衣所に入るとやっと他の者達も脱衣所に入り浴衣を脱ぎ始めた

その中にあって命と話していた老婦人がミナに

「確かミナさんと仰いましたね?宜しければこの娘さん達に命様のお世話をさせて頂けませんか?」

そう言われた二人が驚いてその婦人を見ると

「私達は湯治で連泊しますから未だ機会はありますけど明日のお昼前には宿を立つ貴女達には今夜しか有りませんでしょ?」

そう笑顔で答えると

「命様はこのお姉さん達と入りますか?」

そうミナに聞かれた命は返事をする代わりに二人の前に立つと両手を上げるのを見て

「命様は脱がせてと言ってますよ?

お任せしても宜しいでしょうか?」

ミナが二人に声を掛けると

「は、はいっ!任せてください…」

「命様、宜しくお願いしますっ♪」

そう答える二人に

「一応風呂場は走らない、身体はちゃんと洗うと真琴様との御約束は忘れてませんね?命様

もし風呂場内を走ったり身体を洗わせ無い様でしたら注意してくださいね」

そう言われて

「そんな恐れ多いことして宜しいのでしょうか?」

そう聞かれてミナは

「湯下の町の温泉では風呂場で走って人とぶつかったと聞いてますから遠慮なく」

そう言われて

「そうですね…何か有ってから反省しても遅いですからね…」

そう言って頷くとミナの胸元がモゾモゾ動いて小さな顔後こちらを覗き見ていることに気付いて

「何か居る?」

そう声をだすとひょこっと顔を出す媛を見て

「あの子は媛…ホントの名前は知らないから皆媛って呼んでるの

アクエリアス様から守ってあげてってゆわれて預かった子なの」

命からそう説明されて

「アクエリアス様から…だから天使様の様なお姿なんですね?」

そう一人が言うともう一人も

「命様にも似てらっしゃいますね」

そう話す二人に

「私はこの娘、媛のお世話をしますから命様はちゃんとお姉さん達の言う事を聞いて良い娘にしてくださいね?」

そう言って互いに風呂場に入っていった

二人に命を任せ媛の世話をするミナは何故か懐かしい気持ちに浸っていた

何故なのかは良くわからなかったけど媛の世話をするのは楽しくその表情で媛の考えている事がある程度

良くも悪くも感情が顔に出るから分かりやすい

が、それはある意味間違いで何と無く理解している間に媛がミナに心を開き素直に感情を見せているだけに過ぎなかった

ふと命を見ると人魚姫の周りは凄い人だかりになっていて老いも若きも華やいだ声をあげていた

やがて入浴時間も終わり命は宿の浴衣で媛は麦が作ったワンピースに着替えて控え室に向かい舞台の支度を始めた

帳場では既に春蘭が仕事をほぼ把握出来たのとある程度落ち着きを見せてきたので春蘭一人に任せ

勿論留美菜とりんの方も春蘭との会話の中で出てきた漁師の鍋を川魚を使って作ってみてはどうだろう?

と、言う話になりその支度中

勿論蛍は野菜等のカットの手伝いに回ったし魚の扱いに慣れた大樹も手伝いに入った

そうこうしている内に命の舞台の時間になり命がまず奉納の踊りを舞った

すると命の前に湯の精が現れ命の身体を借り温泉の神を讃える踊りを舞わせ教えると

―しずく…霧の精と共に私とも歩んで欲しい―

と、言われ

―麦、私は豊穣の女神に支えし草の実の精…

私達の主人、豊穣の女神を呼び覚ますのに力を貸してください―

と、要請してきたし

―きみ、私は草の精…私と共に人と精霊の絆を編んでゆきませんか?―

精霊達の申し入れを受け入れを受け取り命の周りに居る見習い侍女達は皆精霊に巫女となり

(風華が戻って来次第観月様に報告した方が良さそうですね?)

ユカが考えていると命の歌も終わり舞台を終えた命がいつもの様にミナの膝に座ろうと近付くと我が物顔で座る者が居た

勿論命に対してそんな振る舞いを出来る…と言うかする者はない

春蘭やユカなら出来なくも無いけどミナの膝に座ろうと言う気もせねばならない理由も無い

暫くの睨み相の末命に

「命様、私の膝で良ければお座り下さいませ…」

そう謡華が言わねばどちらも引きそうにない険悪な空気になっていてだろう

そんなこんなで大騒ぎの湯町の夜は更けていった

「大樹、薬師の里の人にはどうすれば会えますか?」

その夜遅くにユカと春蘭に呼び出されそう聞かれたので

「明日の朝薬の受け取りの為会う予定になってます…」

そう答えると

「王妃様の使いで春蘭を会わせたいのですがお願い出来ますか?」

そう頼まれて

「薬を持ってくる人なら俺達となら会ってくれますから逆に俺達の方が更に北の町まで薬を運んで良いのか聞きたいです」

そうお願いされると

「北の町…確か特産品に蕪の赤葡萄酒漬けと言うのがありましたね?

序でに買ってきてくれますか?」

そう頼み

「そうですね…小樽を一樽頼めますか?」

そう言われて

「了解しました」

そう答えると

「ミナと媛に海斗を同行させますから明日は頼みますね、今夜は早く休みなさい」

そう告げて大樹を下がらせた

 

「大切な用事ではありますが春蘭とミナは息抜きになればと思ってます…

媛、ミナを困らせてはいけませんよ?」

そう言われてもミナを独り占め出来る嬉しさから余り聞こえてはなさそうだった

取引場所は山裾の休憩小屋の前で男は急斜面を駆け降りてきて二人を見ると

「大樹と海斗…珍しい組合わせと言うか始めてじゃないのか?この組合わせは」

そう笑いながら言われて

「はい、実は会って頂き方をお連れしたのですが良いですか?」

そう大樹に聞かれた男は

「わしにか?わしに会って何が面白いのかは知らんがは他ならぬお前達の頼みなら会おう」

そう言われて

「こちらは命様お側付きの侍女のミナ様と春蘭様です」

そう二人を紹介すると春蘭を見た時一瞬目が止まったが表情に変化はなかった

「私は春蘭と言いますが実は貴方に読んで頂きたい手紙を王妃様よりお預かりしています」

そう告げて手紙を手渡すと受け取ったその男は

「何故わしなのだ?」

と、聞くと

「この様な言い方をして気を悪くするかもしれませんが里の方としか伺ってませんから出会えた貴方に読んで頂くのです」

その答を聞き手紙を開いて読むと

「大樹に海斗…今日はこの二箱だけだから馬車に積んでいつものように北の町の問屋に頼む

海斗、お前の側に居るのは普通の馬ではあるまい?」

そう聞かれた海斗は

「はい、命様からお預かりした霊獣シーホース様です」

そう答えるのを聞いて

「そうか…(命様、水の精霊巫女がこの若者達の主人か…)海斗、お前とお嬢様とそちらのお嬢さんの三人が乗っても差し支え有るまい?」

と言われて

「はい、勿論大丈夫です」

と、答えたけどある意味海斗の方が大丈夫ではなかった…まだまだ未熟者だったから

ミナを前に乗せたのが微妙で乗馬の経験の有る春蘭に後ろに乗ってもらいミナが横座りで前に座るととても目の毒なモノが見えてしまった

元から一行の中でも豊かな胸の持ち主が胸元に収まる媛のせいで余計に強調されているのだ

なものでシーホースの三人と忍の者の様な身体能力の男にとっては然程の時間は掛からないもののませてる海斗にはかなり厳しい試練になった…

 

一行が里の門の前に降り立ち

大樹、炎、海斗、たけも取り敢えず板場で待機し力仕事を手伝いなさい

ミナ、命様と媛を連れ温泉に入り舞台の…」

そう言いながら命とミナが居る筈の場所に目をやると二人とも居らず溜め息を吐いて

「ユカさん、取り敢えず私は部屋に行き着物や小物を支度しておきますから二人に部屋に来るようお伝えください」

そう言って部屋に向かった

「ユカ様、指示された物を持ってきました」

そう言って大樹と炎が担いできたのは看板で その上に張り付けた紙に

ー歌う人魚姫様ご一行宿泊の舎ー

ー期間未定で今夜より命様の歌と踊りを上演中ー

と、二枚の看板に記入し玄関に置きに行くと早速暖簾を潜って三人の老婦人が現れ代表の一人が宿泊の手続きをしている

すると静かな宿の廊下をトタトタと足音をさせて帳場に近付いてくる

勿論足音の主は命で少し遅れて

「命様、廊下は走ってはいけませんっ、歩いて下さいっ!!」

帳場の前を竪琴を背負った蒼い髪の少女が駆け抜けその後を侍女の服を着た…

こちらも未だ少女と言って差し支えない年頃の娘が足早に後を追いかけている

「申し訳有りません、お見苦しい所をお見せしまして」

そう頭を下げ通り過ぎるのを見た三人組の二人が

「今の見ました?」

「ええ、はっきりと…」

「本当に噂通りの愛らしいお姿をなさってますね」

そう話しているのがユカの耳にも聞こえてくる

暫くして息も絶え絶えのミナがユカの前に現れ

「申し訳有りません…命様を見失ってしまいました」

そう頭を下げて近付いてくるミナに同じく申し訳なさそうに女将が

「命様ならあちらに…」

女将が指さした方で二人の客と話をしていた

「うん、今お支度してるからそれが済んだら媛とせんせえーとミナの四人で温泉に入るんだ

そいでその後舞台の支度してもらったら舞台に立つんだよ」

いつの間にか帳場に客が集まり命の話を聞いていた

特に水の中で人魚になると噂されているためもしかしたら人魚姫に会える?

そう期待しない方がおかしいが

「命様、それがお分かりなのでしたらミナと部屋に戻りまずは温泉に入って舞台の支度を為さってください」

そう言われて

「はーい」

と、答えミナに手を引かれ部屋に向かうと他の客達も宿泊の手続きを急ぎ始めたので取り敢えず女将も含め四人で手続きを済ませた

ユカは板長と食材の交渉をしていたが問題は酒で既に配達可能な時間ではない…

そう愚痴る板長に

「何を言ってるのですか?

三人もの元馬借が居るのですよ?店が開いてるのならば彼らを使いに出せば良い事です

酒に限らず必要な物があるのでしたら遠慮なく言い付けてやってください」

そう言われて驚きの目で見た物の

(本物の大物だな…)

そう関心する板長は板場に戻り

留美菜とりんは客を部屋に案内し荷物運びに阿、瑞穂、忍も手伝い宿を活気付かせた

取り敢えず第一陣の客を捌き終えると女将が皆にお茶を出し

「所でユカ様にお聞きしたいのですが宿を探させる時に何故命様の名前を出させなかったのですか?

かなり苦労したみたいでしたよ?」

その命を見た時から感じていた疑問を口にすると

「私達は肩書きで客を選ぶような宿に大切な命様をお泊めさせる気はありませんし…

逆に先程の命様の振る舞いを見て何と言うのでしょうね?

まぁ今更二人を追い返した事を悔やんでも遅いんですよ

幸運の女神に後ろ髪は無いのですからね?」

そう言って艶然と微笑むユカだった

その後ユカは板場で大公領風の料理を作って板場の手伝いをすることにした

 

命が部屋に戻ると媛が声無き泣き声をあげ泣いていて様華にしがみついていた

「媛、どうしたの?」

命がそう心配そうに聞くと

「命様がいけないのですよ?留美菜ちゃんが側に居ない媛を一人にしてほっぽらかしてるからです」

そう謡華にキツく言われて

「ごめん、媛」

そう言われても嗚咽の止まらない媛の身体をやさしく包み込む謡華は「媛、みこちゃんも反省してますから皆で温泉に入りましょう」

そう言って宿の浴衣に着替えたミナと謡華に連れられて温泉に向かった二人

しかし向かった先の温泉の入り口は既に人だがりが出来ていて既に順番待ちの様で諦めて帰ろうとすると

「皆さん、待望の人魚姫様がお見栄ですよ道を開けましょう」

と、言って先を譲られて

「皆のが先に来てたのに何で?」

不思議に思った命が聞くと

「私達は命様と入りたいからですよ?」

そう言われて

「そうなの?」

と、やはり命には理解出来ない答に頭を悩ませなからも謡華に手を引かれて脱衣所に入るとやっと他の者達も脱衣所に入り浴衣を脱ぎ始めた

その中にあって命と話していた老婦人がミナに

「確かミナさんと仰いましたね?宜しければこの娘さん達に命様のお世話をさせて頂けませんか?」

そう言われた二人が驚いてその婦人を見ると

「私達は湯治で連泊しますから未だ機会はありますけど明日のお昼前には宿を立つ貴女達には今夜しか有りませんでしょ?」

そう笑顔で答えると

「命様はこのお姉さん達と入りますか?」

そうミナに聞かれた命は返事をする代わりに二人の前に立つと両手を上げるのを見て

「命様は脱がせてと言ってますよ?

お任せしても宜しいでしょうか?」

ミナが二人に声を掛けると

「は、はいっ!任せてください…」

「命様、宜しくお願いしますっ♪」

そう答える二人に

「一応風呂場は走らない、身体はちゃんと洗うと真琴様との御約束は忘れてませんね?命様

もし風呂場内を走ったり身体を洗わせ無い様でしたら注意してくださいね」

そう言われて

「そんな恐れ多いことして宜しいのでしょうか?」

そう聞かれてミナは

「湯下の町の温泉では風呂場で走って人とぶつかったと聞いてますから遠慮なく」

そう言われて

「そうですね…何か有ってから反省しても遅いですからね…」

そう言って頷くとミナの胸元がモゾモゾ動いて小さな顔後こちらを覗き見ていることに気付いて

「何か居る?」

そう声をだすとひょこっと顔を出す媛を見て

「あの子は媛…ホントの名前は知らないから皆媛って呼んでるの

アクエリアス様から守ってあげてってゆわれて預かった子なの」

命からそう説明されて

「アクエリアス様から…だから天使様の様なお姿なんですね?」

そう一人が言うともう一人も

「命様にも似てらっしゃいますね」

そう話す二人に

「私はこの娘、媛のお世話をしますから命様はちゃんとお姉さん達の言う事を聞いて良い娘にしてくださいね?」

そう言って互いに風呂場に入っていった

二人に命を任せ媛の世話をするミナは何故か懐かしい気持ちに浸っていた

何故なのかは良くわからなかったけど媛の世話をするのは楽しくその表情で媛の考えている事がある程度

良くも悪くも感情が顔に出るから分かりやすい

が、それはある意味間違いで何と無く理解している間に媛がミナに心を開き素直に感情を見せているだけに過ぎなかった

ふと命を見ると人魚姫の周りは凄い人だかりになっていて老いも若きも華やいだ声をあげていた

やがて入浴時間も終わり命は宿の浴衣で媛は麦が作ったワンピースに着替えて控え室に向かい舞台の支度を始めた

帳場では既に春蘭が仕事をほぼ把握出来たのとある程度落ち着きを見せてきたので春蘭一人に任せ

勿論留美菜とりんの方も春蘭との会話の中で出てきた漁師の鍋を川魚を使って作ってみてはどうだろう?

と、言う話になりその支度中

勿論蛍は野菜等のカットの手伝いに回ったし魚の扱いに慣れた大樹も手伝いに入った

そうこうしている内に命の舞台の時間になり命がまず奉納の踊りを舞った

すると命の前に湯の精が現れ命の身体を借り温泉の神を讃える踊りを舞わせ教えると

―しずく…霧の精と共に私とも歩んで欲しい―

と、言われ

―麦、私は豊穣の女神に支えし草の実の精…

私達の主人、豊穣の女神を呼び覚ますのに力を貸してください―

と、要請してきたし

―きみ、私は草の精…私と共に人と精霊の絆を編んでゆきませんか?―

精霊達の申し入れを受け入れを受け取り命の周りに居る見習い侍女達は皆精霊に巫女となり

(風華が戻って来次第観月様に報告した方が良さそうですね?)

ユカが考えていると命の歌も終わり舞台を終えた命がいつもの様にミナの膝に座ろうと近付くと我が物顔で座る者が居た

勿論命に対してそんな振る舞いを出来る…と言うかする者はない

春蘭やユカなら出来なくも無いけどミナの膝に座ろうと言う気もせねばならない理由も無い

暫くの睨み相の末命に

「命様、私の膝で良ければお座り下さいませ…」

そう謡華が言わねばどちらも引きそうにない険悪な空気になっていてだろう

そんなこんなで大騒ぎの湯町の夜は更けていった

「大樹、薬師の里の人にはどうすれば会えますか?」

その夜遅くにユカと春蘭に呼び出されそう聞かれたので

「明日の朝薬の受け取りの為会う予定になってます…」

そう答えると

「王妃様の使いで春蘭を会わせたいのですがお願い出来ますか?」

そう頼まれて

「薬を持ってくる人なら俺達となら会ってくれますから逆に俺達の方が更に北の町まで薬を運んで良いのか聞きたいです」

そうお願いされると

「北の町…確か特産品に蕪の赤葡萄酒漬けと言うのがありましたね?

序でに買ってきてくれますか?」

そう頼み

「そうですね…小樽を一樽頼めますか?」

そう言われて

「了解しました」

そう答えると

「ミナと媛に海斗を同行させますから明日は頼みますね、今夜は早く休みなさい」

そう告げて大樹を下がらせた

 

「大切な用事ではありますが春蘭とミナは息抜きになればと思ってます…

媛、ミナを困らせてはいけませんよ?」

そう言われてもミナを独り占め出来る嬉しさから余り聞こえてはなさそうだった

取引場所は山裾の休憩小屋の前で男は急斜面を駆け降りてきて二人を見ると

「大樹と海斗…珍しい組合わせと言うか始めてじゃないのか?この組合わせは」

そう笑いながら言われて

「はい、実は会って頂き方をお連れしたのですが良いですか?」

そう大樹に聞かれた男は

「わしにか?わしに会って何が面白いのかは知らんがは他ならぬお前達の頼みなら会おう」

そう言われて

「こちらは命様お側付きの侍女のミナ様と春蘭様です」

そう二人を紹介すると春蘭を見た時一瞬目が止まったが表情に変化はなかった

「私は春蘭と言いますが実は貴方に読んで頂きたい手紙を王妃様よりお預かりしています」

そう告げて手紙を手渡すと受け取ったその男は

「何故わしなのだ?」

と、聞くと

「この様な言い方をして気を悪くするかもしれませんが里の方としか伺ってませんから出会えた貴方に読んで頂くのです」

その答を聞き手紙を開いて読むと

「大樹に海斗…今日はこの二箱だけだから馬車に積んでいつものように北の町の問屋に頼む

海斗、お前の側に居るのは普通の馬ではあるまい?」

そう聞かれた海斗は

「はい、命様からお預かりした霊獣シーホース様です」

そう答えるのを聞いて

「そうか…(命様、水の精霊巫女がこの若者達の主人か…)海斗、お前とお嬢様とそちらのお嬢さんの三人が乗っても差し支え有るまい?」

と言われて

「はい、勿論大丈夫です」

と、答えたけどある意味海斗の方が大丈夫ではなかった…まだまだ未熟者だったから

ミナを前に乗せたのが微妙で乗馬の経験の有る春蘭に後ろに乗ってもらいミナが横座りで前に座るととても目の毒なモノが見えてしまった

元から一行の中でも豊かな胸の持ち主が胸元に収まる媛のせいで余計に強調されているのだ

なものでシーホースの三人と忍の者の様な身体能力の男にとっては然程の時間は掛からないもののませてる海斗にはかなり厳しい試練になった…

 

一行が里の門の前に降り立ち

 



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大舞台

水の精霊巫女初の本格的舞台に立つ


①王子様と騎士様

 

今回は最後まで付き合った翔に指定された広場に着地すると出迎えに来ていた翼を見た風華は

(この方こそ我が主人)

そう気付き

「我が運命の主人、翼様にお願い申し上げます

我が騎士の誓いを受け取り貴女の騎士の末席にお加え下さい」

そう言われて

「貴女の騎士の誓いを確かに受け取りました

ですが水の精霊の巫女の側に行けぬ我が身に代わり今暫くは彼女を守って下さいね」

そう言われて

「はい、翼様に代わりその任確かに承りました」

そう答えるのを聞いて

「まずは観月様にご挨拶なさい、案内します」

そう言って海斗には入る事を許されなかった王女宮最上階の観月部屋に通された

但し、早瀬鰻一尾については沙霧に頼み既に厨房に運ばれている

「観月様、風華をつれて参りました」

そう翼に言われ

「いい加減その観月様止めなさいと何度も言ってます」

そう言われて面白そうに

「では観月御姉様とお呼びしましょうか?」

そう言われて嫌そうに顔をしかめ

「せめて観月姉さんにしなさい

風華、まず預かっている報告書類から渡しなさい」

そう言われてまず預かった書類を渡し炭の見本を渡すと

「成る程、これは伯父様にも見せるとしてまずは公女たる私のお墨付きを作成しましょう

私はお墨付きを作成しますから翼は伯母様のサロンに風華を案内しなさい」

そう言われて

「わかりました、観月姉さん…行きますよ、風華」

そう言って連れだって行く二人を見て

「王女宮もそろそろ騎士団結成を考える時期かも知れませんね…」

そう言って書類を用意する観月だった

 

「未だ見習いの身ではありますが天馬様の背に乗ることを許された風の騎士、風華と申します」

そう名乗る風華に

「風の騎士とは?」

そう王妃に問われた風華は

「力を望んだ私達は霊玉や勾玉をその身に受け入れ力を得ました

私を選んでくれたのが翼様の碧の霊玉…即ち風の精霊の巫女の翼様の騎士ですからそう名乗り

翼様にも我が誓いを受け入れていただきました」

そう聞いて

「生身でその様な無茶を?」

そう驚く王妃に

「命様と四人の巫女達の加護を得た私達はそれほどの負担はありませんでした」

そう言われて

「なら良いのですが…

所で翼に誓いを立てたのなら貴女はこちらに残るのですか?」

そう聞かれ

「いいえ、私に代わり命様をお守りしてほしいと命ぜられましたから命様の元に参ります」

そう言われてガッカリする王妃に

「相も変わらず沢山の荷物を持たせますけど今日は何を預かりましたか?」

そう聞かれ

「まずこちらは海斗が集めた木の実で王妃様と観月様にも召し上がって欲しいとユカ様に願い出た物です」

そう言って出された実は野趣溢れる香りで食欲をそそる物だった

「次は兄の炎が集めた草の実を妹の蛍がジャムにした物で私達の町では評判の物です

後は四尺の早瀬鰻をもって参りましたがそちらは既に厨房に運ばれています」

そう答えると

「ユキ、早速ですがいくつか皮を剥いてきてください…味見がしたいです」

そう言われて

「承知しました、暫くお待ちください」

そう答えて二個掴むとサロンを出ていった

「風華に渡したい物が有ります」

そう言ってユウが風華に渡したのは観月の見立てた鮮やかな新緑のドレスで

「私にこの様な物は似合いませんから…」

そう言って断ろうとする風華に御墨付きを書き終えた観月と共に嵐が現れ

「鍛えられた騎士にドレスは似合いませんか?」

そう観月に言われて

「そのお方は?」

風華が聞くと

「和泉の女神の騎士団、団長の嵐です」

そう風華に紹介すると

「お初にお目に掛かります、嵐様…」

そう言って上官に対する挨拶をし

「確かには嵐様にはお似合いですがそれは嵐様がお美しい方だからで…」

「この為に私にドレスを着せたのですか?」

口ごもる風華を他所に不快感を隠さず観月に聞くと

「私としては有事の時以外はそうして貰いたいのですが?」

そう王妃に言われて更に表情を歪めて

「お戯れは大概に願います…」

そう話しているとユキが弥空を伴って戻り皿をテーブルに置くと弥空もお茶の支度を始めた

「所で…風華、報告書にあった媛とは何者ですか?」

そう観月が聞くと

「わかっている事は彼女が氷雨の精の巫女である事

彼女の背に生えた翼が飾りでなく空を翔べそうな事

顔立ちが命様に似ていて人見知りが強く同じ氷雨の精の巫女である留美菜以外は拒絶して居るのが現状です

因みに体長は約二尺前後で翼は広げれば四尺にはなりましょう…」

そう話していると

「美味しそうな木の実だね、頂いても良いかな?」

そう言って返事も待たず摘まんで食べると

「全くはしたない、私は貴女にその様な振る舞いを躾た覚えはありませんよ?

見習い侍女達ともう一度勉強し直した方が宜しいかもしれませんね?」

そう言われて危うく種を呑み込みそうになった真琴が顔を青くして

「貴女がこのサロンにお見栄になるのは珍しいですね?」

そうなんとか言い返すと男爵夫人は風華を見て

「乙女が夢見る天馬に股がりし騎士様がお見栄ですからね

私自身はその様な歳では有りませんが乙女だった事まで忘れた訳では有りませんから…」

そう言ってサロンの入り口を見ると数名の侍女達がこちらの様子を伺っているのが見えたので

「皆入ってきなさい…」

呆れながらも入室を許す観月に軽く頭を下げる男爵夫人

侍女達が風華を取り囲み

「観月様、こちらの騎士様は今夜のパーティーにご出席されるのでしょうか?」

そうマキに聞かれて

「そうしてくれたら私も嬉しいのですが風の騎士の風華は命の使いで来てるだけですから私にも要請しかできませんが真琴はどう考えますか?」

そう真琴に丸投げすると

「みこならきっと…」

そう言って命の考え事をする時の仕草を真似て

「ぅ~ん…みこわかんないからふーかが出てもいーならい~んじゃない?…

ってユーと思うよ?」

口調も真似て言う真琴に

「真琴様の言われた通りの返事を頂きました、鏡合わせの様に見えましたよ…貴女方お二人は」

そう言われても気にする事無く

「そう言う訳だから僕や観月姉さん

が言えば命令になってしまいみこに悪いから風華に出て欲しいなら皆からお願いしないとね?」

真琴が全く悪びれる事なくそう言うと観月も

「今夜はユイが男爵家の養女に迎えられたお披露目の…美月主催の物

ですから貴女がこの風華を招待するのなら喜んで迎え入れます」

そう言って男爵夫人を見ると

「嵐様、平時にこの様な期待に応えるのも騎士の勤めですね?」

そう半ば恫喝され半ばドレスを着るよりはましと考える嵐は

「期待に応えてはどうですか?」

そう嵐も言うと

「騎士様、今夜のパーティーにご出席ください…」

そう言って見詰められ断れなくなり力無く

「はい、慎んでご招待お受け致します」

そう答えると笑顔で

「そう、出てくれますか?

ではマキ、貴女に風の騎士風華の滞在中の世話を任せます

ユキは今夜のパーティーに着せる客分騎士の礼装を用意しなさい」

その観月の言葉に焦った風華が

「私達は未だ見習い騎士…」

そう言い掛けた風華に

「未だ修行半ばの四人が勾玉や霊玉の試練を乗り越えた事実、吽はどう考えますか?」

そう問われ

「さすがに未だ何の実績も無い現段階で正騎士は難しいが准騎士の称号なら差し支え無い

現に忍の話によれば海斗は狢憑き二人を一蹴したそうですから」

そう答えるのを満足気に頷く王妃と観月そして

「それに既に翔を大公家に飛ばせ貴方達を准騎士に昇進させる手続きを始めてますし…」

そう言って嵐を見ると

「非公式の女神の騎士団にはその様な手続きは不要、貴女達を喜んで客分騎士として迎え入れよう」

そう告げられて

「今は身に余る光栄ですが皆様に恥を掻かさぬ様、精進し期待にお応えします」

そう答える風華だったがユキが

「折角の機会ですから真琴様に例のあれ、お願いしてはどうですか?」

そう言われたマナが

「見習いの侍女の子達とも時々話題になりますけど真琴様に騎士様のお姿は似合うんじゃないかって…」

そう躊躇いながら言うマナに

「なんだ、そんな事なら大したことじゃない

大公領に居た頃は非公式のパーティーに出る時は客分騎士の礼装を着て出席してたんだよ?

だから今夜のパーティーも非公式なのだからお母様が良いと仰って下さるなら僕は一向に構わない」

そう真琴が答えると

「ユキ、真琴に騎士は勿体無いと思いませんか?」

そう意味ありげに聞かれマナ達が落胆するのを他所に

「そうですね、では非公式ながら真琴王子の社交界デビューと致しましょうか?」

そう答えると聞いていた侍女達が抱き合って喜び

「では、真琴王子…王子の振る舞いを少しばかりお教え致しましょうか?」

そう聞かれた真琴は苦笑いしながら男爵夫人に

「お手柔らかに願います…」

そう答えるのだった

 

「映見さんの馬車は春蘭、ライ、つぐみ、りん、つぼみ、澪、美景、蛍が…

みこの馬車は瑞穂が馭者で先生、ミナ、麦、きみでたいきが馭者の馬車は阿とユカに留美菜、しずく、媛

荷馬車は炎とたけが馭者でだいじょーぶだよね?」

そう珍しく仕切る命の考えは不明ながら従う事にした春蘭

走り出して暫くした後に霊体の命が春蘭達の前に現れ

ー春蘭、りん、こずえ、ライ…修行の時です

そしてつぼみ、澪、美景、蛍…貴女様の試練の時ですー

そう告げると八人をアクエリアスの結界内に導きいれた

ー春蘭は樹の精、りんは火の粉の精、つぐみは滝壺の精、ライは砂の精と修行なさい

後の四人は修行する者達を見守る事から始めますー

そう告げると一斉に巫女達に攻撃を仕掛ける精霊達に春蘭は熱い吐息と真空波で応戦しりんは命よりは劣るものの水の鞭と水球で防戦

だが…滝壺の精の霊力に取り込まれたつぐみと砂塵に翻弄されるライの情況は余り捗捗しいとは言えない

霊力が見せる水に等しい物に過ぎないので落ち着けば息も出来るのに奇襲で落ち着きを失っているつぼみには無理のようだった

同じくライの方も初心者のライに合わせ単調な攻撃を繰り返す砂の精の動きは落ち着きさえすればライが見切れないでも無い

「命様、こんなの修行じゃない二人が可哀想ですっ!」

そう非難する蛍に

ー蛍、何故貴女が二人の限界を決めるのですか?

まして実際の戦いの場に於いてそう言えば手加減してくれるとでも思っているのですか?ー

その手厳しい指摘に

「で、ですが火と風、水の精霊の巫女様達がいらっしゃるのに…」

そう声を詰まらせる蛍に

ー残念ながらアクエリアス様は封印される寸前でしたしウィンデイー様とフレア様は虜囚の憂き目を見たのですよ?

それでも尚私達が居れば…と、そう思えますか?ー

最早返す言葉の無い蛍に

―考えなさい、私が何故貴女達をこの場に連れてきたのかを…―

そう聞かれた蛍

「確かに私は水の精霊、アクエリアス様の巫女として他人に無い力を有しますがただそれだけ

おそらくは歌の女神、ハーモニー様を呼び覚ます鍵となるであろうそれを…ー

「つぐみ、落ち着いてっ!泳げるでしょっ!?」

つぼみが叫び

「ライ、砂の流れる方向や時間は単調だよっ!?」

澪が叱咤し美景が祈り始めた

(精霊様二人にお力をお貸したください…)、と

修行により扱える霊力が上がり始めた春蘭が真空波を放つも軽くいなされ弾かれた…

斬っ!

滝壺の精の霊力の水が切り裂かれ一瞬つぐみの顔が水から解放され意識を取り戻した

射程距離が延び始めているりんの水の鞭も威力はそのままだからあっさり弾き返されライを襲わせた…

つもりの火の粉精の考えはりんを甘く見すぎていた

りんの水の鞭はライを襲った訳ではなくライの目に入った砂を洗い流すのが目的だったのだ

冷たい水がライの意識を取り戻させた

―ライととつぐみに目覚めの時がきました

春蘭、りん、遠慮は要りませんよ?反撃にでなさいー

そう言われて春蘭が放ったのは真空波ではなく更に強力な真空刃

りんの水球自体の威力は変わらないけど一度に放てる数が増えてきている

そしてつぐみの身体を包む水に変化の兆しがあった

対流?水が渦を巻き始めたのだ

美景の不安は大きく膨らみ二人の無事を願う気持ちは高まっていった

やがて渦でつぐみの姿が見えない程激しさを増した渦が水を弾き跳ばした

事態を理解出来ない四人が呆然とするのを見て

ー見なさい、つぐみがその身に纏いしつむじ風を

あの風が滝壺の精の水を弾き飛ばしたのです

そして何よりも大切なことは美景、二人を思う貴女の気持ちに山風の精が応えてくれたのです

決して諦めないつぐみ一人で力を目覚めさせたのではありませんよ?ー

そう言われて

「私の祈りがですか?霊力の無い私の祈りが…」

そう言って驚く美景に

ー友を思う気持ちに霊力の有無が関係ありますか?

たけは霊力等無くてもきみの…妹の為に命を賭ましたよ?ー

そう言われてやっと

「それが私達がここにいる理由ですね?」

その望む答えにやっとたどり着けた蛍に

ー私達だけが特別ではありません

無敵でも不死身でも無いのです

かなりしぶとくは有りますけど力尽き倒れる時が訪れる事は否定出来ません

勿論戦いの渦に貴女達を巻き込んでしまった責任がある以上あっさりと死んで闇の者を喜ばせる気は有りませんが…

それでも死ぬ時は死にますー

そう言われて

「そ、そんな悲しい事を仰らないでください…命様の居ない世界なんて…」

そう言って涙を流す蛍に

ー先程も言いましたがそう簡単には死にませんが…

今この場にミナ、留美菜、しずくが居ない様に常に貴女達と行動を共には出来ません

その時に大切な者を守る為に戦う力、生き延びる術を身に付けてほしいのです…ー

そう言われて

「わ、私は何て失礼な事を…」

そう嘆く蛍に

「良いのです…貴女は私の様に感性で生きるタイプではありませんから納得して貰うための重要な儀式(問答)でしたから」

そう言われて苦笑いしながらライを見るとライがその身体に雷を纏い砂の精を追い立て始めていた

そして降参した精霊達は

ー蛍、火の粉精である私と共に闇を焼き払いましょうー

そう言われて

「短気な私をお導きください…火の粉の精様…」

そう答える蛍

ーつぼみ…貴女と言う樹につぼみをつけ花咲かせましょうー

そう言われてつぼみも

「そのつぼみがどんな花が咲かせるかはわかりませんけど…」

そう答え

ー澪、私を受け入れてくれますか?ー

そう躊躇いながら言う滝壺の精に

「私の勝手な思い込みかも知れませんけど貴女様のお導きは人魚姫への道…じゃないですか?

もしそうなら私は貴女様のお導きを受けたい」

と答え

ーライを苛めた私を許してくれますか?ー

「別に貴女様はライを苛めて喜んでた訳じゃありません…

ライの成長を喜んでいる様には感じましたけど…だから私もお導き下さい、砂の精様っ!」

そう言って四人が左手を差し出し精霊を受け入れた

ー春蘭、貴女の中に居る潮風の精と雷精は無事融合を果たし風雷の精へと進化しましたー

そう言われて

「進化については良くわかりませんが融合して一人になられたのはわかります」

そう答えると

ー理屈ではなく感じる事…

そしてりん、貴女の中の二人の海原の精は融合を果たし大海原の精へと昇華しました

そしてつぐみ、ライ…貴女達の中の力が目覚める事は始まりに過ぎません…

この先どう変わって行くかは貴女達次第ですが今は休みなさいー

そう言って八人を馬車に戻した…

 

馬車の中、命は寝台で午睡で謡華は三弦の手入れにミナはいつもの様にエプロン作りを始める為に素材を出すと…

「ミナ様、宜しければ私に一つ頂けないでしょうか?

それを使って媛の服を作ろうって思うんです」

そう言われて

「それは言い考えですね?

この篭に有るのから気に入ったので作ってみて下さい」

そう言って本体の生地、ポケット用の端切れに括り紐の素材がそれぞれ入った篭を渡してもらい

ピンクの本体の生地をメインに作り始めた

それを見たきみは取り敢えず自分と預かっているたけの笛の手入れをする事にした

二人と違い未だ揺れる馬車の中で作業する自信がないからからでただ一つだけ言えるのは皆それぞれのしたい事すべき事を黙々とこなしていた

 

しずくを受け入れ馴染んでき始めた媛は取り敢えず留美菜としずくの間に座っている

進行方向に背を向け座る阿は瞑想中でユカは目を閉じて考え事をしている

その二人の顔を見ながら悪戯心が芽生え始めた媛は左右に座る留美菜としずくの二人に

ー私の手を握って…ー

そう言われて差し出された手を握ると

ー反対側の手を上げて…ー

そう言われて言われた通りに手を上げて

「これで良いの?」

そう聞かれ

ーうん、しばらく目を閉じて…ー

そう言って二人に目を閉じさせた

何をさせられているのかわからない二人に

ー降り下ろしてー

留美菜の正面に座るユカに雪玉が、しずくの正面に座る阿は水球をぶつけられずぶ濡れになり…

声無き笑い声をあげる媛とは対照に自分達がしてしまった事にやっと気付き青い顔をする二人を見て怒りが少し納まった…

(この三人の様子を見れば主犯各は媛でしょうけど…

留美菜はともかく昨日精霊を受け入れたばかりのしずくに可能なんですか?)

そう考えると怒りに任せて叱るより確かめなければならない事があると判断し

「媛、怒りませんから二人に何をさせたのか説明しな…説明は難しそうでしょうからもう一度やらせて私に見せて下さい

但し、また雪玉をぶつけられては敵いませんから今度はこれに入れなさい」

そう言って桶を二つだし二人の足元に置くのを見て

上手にやれば怒られないと理解して再び二人の霊力に干渉して雪玉と水球を表させ桶に投げ込ませた

「留美菜としずく、今度は自分達で意識してできますか?」

結果を見たユカが更に一段上の要求をし二人も媛程早く出来ないものの自分達で作れるのを見て

「媛、二人の修行を見てあげなさい

それとさすがにずぶ濡れにされた阿様には謝りなさいね?」

そう言われて

ーごめんなさいー

「ごめんなさい」

そう言って謝る媛としずくだけど今の一幕を見た後では怒るに怒れない阿だった

 

今の歌の国の陸軍の主力部隊は通称貴族騎士団と呼ばれる貴族の子弟の騎士で構成される大隊と将軍直属の中隊に国王と二人の王子の親衛隊で構成されている

将軍直属の中隊に所属する者は代々騎士として支えてきた家系の者やその家に支える家子朗党達で

中には功績を上げて騎士になった者も居るが貴族騎士団からは冷遇されている

当然と言うべきか賞金稼ぎの鬼百合や正体不明と言われる仲間の戦士達は騎士達にとり面白くない存在

鬼百合達の登場でパーティー等ではすっかり影が薄くなったし男尊女卑がまかり通る騎士社会において女戦士達が…

まして自分達より遥かに強いだろう彼女達は騎士達にとりまさに招かざる客に他ならない

その上に先日シーホースに乗って現れた小僧(海斗)に今日見習い騎士の服を着て現れた小娘(風華)は癪に触る存在

その見習い騎士である筈の風華が大公家の客分騎士のとは言え騎士の礼装を着ているだけではなく宝飾刀を侍女に持たせた真琴王子の登場で

「このパーティーは社交界の集まりではなく少女歌劇団の集まりなのかっ!」

そう聖騎士候の一人が叫ぶと怒鳴り返そうとする鬼百合を抑え

「鬼百合さん達には正面切って文句一つ言えない癖に僕や風華に食って掛かるとは情けないにも程がある…」

そう真琴が言い捨てると見計らった様に現れた翔が小さな篭を嵐に投げ付け

受け止めた嵐は観月に渡すと中身を確認した観月は目を光らせ

「陛下ご確認を…」

そう言われて渡された証書に目を通すと

「ほう、風華、大樹、炎、海斗の四名を准騎士昇任とし公女観月の名で昇任式を行う様にと書かれておる」

そう言われて悔しそうに顔を歪める聖騎士候に

「翼王女とその騎士の風華殿にお願い申し上げます

未だ此度の人事を承服しかねる馬鹿者共に身をもって納得させて頂きたい」

そう言われて再び癇癪を起こした聖騎士候が

「ご老体、その様な無責任な発言をして俺がその騎士殿を打ち倒したらなんとするっ!」

そう言われて情けない表情で

「風華殿の力を見抜けぬ者達の無礼を許してやってください、鬼百合殿?」

そう呑み達の老将軍に言われれば鉾を納めざるを得ない鬼百合が

「風華、一丁揉んでやれ」

と言い真琴も

「もし風華を打ち負かせるのなら僕もこんな格好は二度とせず貴方の事を騎士様と呼ぶ事にするよ」

そう言ってあからさまに挑発する真琴に

「年端のゆかぬ王女様だが祭典の優勝候補者である貴女ならば王家の血を引かずとも我が愚弟の嫁になって貰うのも悪い話ではない、良かろう受けて立つ」

そう答えてると

「ならばわしも万が一にも風華殿がお主に遅れを取ろう物ならわしも老いを認め明日からでも庭弄りを始めようが逆にそこまでほざいたお主等に拒否権はない

鬼百合殿達にしごいて貰うが良いわっ!」

そう言われて意気込んだものの後に精霊の巫女の騎士達と呼ばれる風華に常人…

まして家柄や血筋で騎士号を得ている貴族騎士の手に負える筈もない

見習い騎士の短剣に剣を弾き跳ばれ勝負は一瞬で着いた

その結果この夜の主役は真琴と風華に変わってしまったけど気にする男爵夫人でもユイでもない

弟の様に可愛い真琴は互いに血の繋がりは無くとも弟の様な妹になるし天馬の騎士風華はやはり気になる存在

それに天馬に乗って来た騎士が風華と言う人魚姫に支える騎士だと言う事はかなり広がっているらしい

だから凛々しい女騎士に会って喜んでる乙女は少なくないし男達の中にも風華の訪れを戦の女神の降臨と言う者も居たのだから

聖騎士候達も風華の実力を認めそれでも我等に並ぶ者と言ってとにかく下に立つ事は認めなかったが風華を謗ることばはなくなり

又、聖騎士候達に遠慮して鬼百合や仲間の戦士達と距離を置いていた下士官や兵士達がこの夜を境に集まりだした

歌の国の軍が纏まる日も近い

ただ一人困惑の表情を浮かべるのがユウで楊牧場での山賊退治の英雄譚がいつの間にか知れ渡り

ユウに対しても「ユウ様っ …」そう言って熱視線を送る娘もちらほら居て本人を辟易させているが鬼百合からしたら

「アタイの気持ちがちったぁわかったか?」

そうユウに言いたい位だから笑い話に過ぎなかったのだけど

 

 

 

②湯町で貴女の誕生日

 

「さぁ皆、今日はお茶ではなく冷たい物を食べましょう」

そう言って一同に配られたのは粉雪に蛍が作った煮詰めてないジャムを掛けた物で…

蛍自身この様な使われ方をされるのは驚いたけど喜んでたべた

「一体この様な物をどうやって…」

そう驚く春蘭に

「留美菜ちゃんと媛が霊力で降らせた雪です」

そうしずくが答えると謡華が驚いて

「力の平和利用ですね?」

そう言われて

「そうですね、人は新しい力を手に入れるとすぐに戦いで使う事しか考えないが…」

と、瑞穂が言うと

「鬼百合なら麦酒を冷やしてくれってユーよ?」

命がそう言うとその姿を思い浮かべた鬼百合を知る者達が吹き出して笑い

「確かに鬼百合もそう言う使い方を真っ先に思い付くでしょうね…」

阿も笑いながら言い明るい笑い声が響く中

「んーとね、風華だけど今夜のパーティーに招かれたから帰ってこないんだって」

命がそう言うと

「えーっ、風華さんだけズルいなぁ~っ!」

と、声を上げる蛍に

「えっ?蛍って…騎士になりたかったの?



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大好きなミナ

旅の途中誕生日を迎えた雨水の精の巫女初のためにサプライズパーティーを画策する一行の企みは成功するのか?



「海斗、お嬢様とそちらのお嬢さんを頼むぞわしはお嬢様達が里に立ち入る事の許しと長との面会希望を伝えてくる」

そう告げて立ち去る男の後ろ姿を見ながら

「又私をお嬢様と呼んだけど何故?

一体どんな意味が…

ミナさんはお嬢さんと明らかに呼び分けています…」

そう考えていると子供達は好奇心丸出しの視線を自分達に注ぎ大人達は見てはいけないモノの様に…

あからさまに視線を反らし子供達に注意をするけど子供達にそれを聞く気はないらしく言う事を聞かないので仕方無く遠巻きに見守っている体はとっているけど好奇心は隠せていなかった

暫くして戻って来た男は

「里長はお嬢様、貴女との面会を希望している」

その言葉を聞いたミナは

「春蘭さん、どうやら私は遠慮した方が良さそうですから海斗君とここで待ちます、行ってください」

そう告げると

「失敬した、言葉が足らなかったようだが長は貴女達との面会を受け入れたが特にお嬢様との面会を希望しているだけだ」

そう聞いて

「それを聞いて安心しました…ミナさんは姉の様に頼りになり妹達同様に守らなくてはと思わせる不思議だけど大好きな人

そのミナさんを否定する方と会うのは遠慮したいですから…」

と、言われ苦笑いし

「わかる様なわからん様な…だが、確かにわしにお嬢さんと呼ばせる不思議な雰囲気はある」

そう答えると

「おじさん口悪いもんね」

そう海斗に笑って言われた男は三人をある屋敷の前に案内したがその屋敷が王都の実家に酷似している事に内心驚く春蘭だった

「長、お嬢様をお連れしました」

そう声を掛けると中から

「入って貰いなさい」

春蘭とミナの二人が聞き覚えの有る声で言われると中に入った二人は

「ぉ、お母さん…」

「………」

そう言って絶句する春蘭と驚きのあまり言葉の出ないミナ…

そしてそのミナの胸元から春蘭の声に驚いた媛がそっと顔を出すと今度は里長と案内の男が驚く番だった

もっともそれを表情に出す事はなく

「媛、大丈夫です…大きな声を出してしまってご免なさい、ビックリしましたか?」

そう聞かれて小さく頷くと里長の顔をじっと見詰めている

「お嬢様…その子は一体…」

そう聞かれた春蘭は

「私達も昨日会ったばかりで詳しくは知りません…

私達にわかっているのは記憶か無い為この子は自らの名前すら知らない事

この子が氷雨の精の巫女である事

命様がアクエリアス様から守って上げて欲しいと言われてお預かりした子の三点です」

と、説明すると

「そう、貴女達の主人はあの命様なんですね?

貴女達の疑問に答えましょう

私は美桜、貴女の母、美紅の双子の姉ですが貴女も妹に会った事が有るのですね?」

と、聞かれて

「はい、何度かお目に掛かる機会を得まして…」

そう答えるのを聞きながら

「ではお母さんはこの里の?だから薬草や香草に詳しい…」

そう呟く春蘭に

「そうです、貴女の父親劉啓吾と駆け落ちするまでこの里の薬師でした

ですがこの里の者…

特に薬師は絶対にこの里を出てはいけない…

と、言う里の掟を破ったあの子は私達の父親…当時の長から薬師の資格を永久剥奪されましたから薬草は扱えないはずですが…」

そう話す長に

「はい、ですから母は薬師の掟に触れない物だけを使って香草茶や薬草茶、火傷や怪我の傷薬を作ってます…

今日も少しだけですが王妃様も喜ばれるお茶の葉を持ってきてます」

そう答えると

「湯を沸かし茶器を用意して下さい」

そう言われて男が立ち上がろとするのを見て

「お手伝いします」

そう言ってミナが立ち上がろとするのを制し

「貴女は客人なのだから座ってなさい」

そう男が言うと長も

「それよりその媛と言う子を良く見せていただけませんか?」

そう言われて胸元に居る媛に

「良いですか?」

そう声を掛けると自信無さそうに頷くとモソモソと這い出してミナの膝の上に座り長の顔を見詰め続け

ふわっ…っと翼を拡げると長に向かいその胸に飛び込んだ

その姿を見て

「留美菜以外の初対面の人に身を投げ出すのを始めてみました…」

そのミナの言葉に

「貴女でも?」

そう聞かれて

「朝出会ったのですが私に心を許すようになったのは夕方で男の子達…

特にいきなり威嚇してきた大樹は毛嫌いしてますから目も合わそうとしません」

と、言うと

「大樹も悪気は無かったんだろうけどね…」

と、苦笑いする海斗に

「だからか、大樹が居る間は全く気配を感じ無かったのは…」

と、驚きの声を上げると春蘭の前に茶器と湯の沸いた茶釜を持ってきたので急須に茶葉を入れお茶を長と男、ミナと媛に自分の分を用意して配り

「どうぞご賞味下さい」

そう言われ香りを確かめてから一口含んでみて

(こ、これは…)

香りと味わい驚来ながら飲み干すと立ち上がり部屋の奥の箪笥の小さな引き出しから書類を取り出し

未だ息を吹き掛け冷ます春蘭に

「代わります、貴女も熱い内に…」そう言って湯呑みを受け取るミナに

「何故それ程までに冷まさねばならぬのですか?」

そう長に聞かれたミナは

「命様もですけど媛もかなり猫舌ですから…」

そう言って小さく笑うといつの間にかミナの前に立つ媛が頬を膨らませている

その様子を見た長が

「二人を見ていると丸っきり親子の様ですね?」

面白そうに言うと

「これに命様が加わると大好きなママを取り合う姉妹になるんですよ?」

と、言うのを聞いて溜め息を吐いて

「今、歌う人魚姫の呼び声高い命様が目と鼻の先にいらっしゃってると言うのに里を出られぬこの身が恨めしい…」

そう話す長を苦笑いで見る男に

「実は宿を出る時ご本人はこっそりのつもりで馬車に乗り込むのをユカ様に捕まり

後日あちらの許しがあれば訪問していただきますから暫くは舞台に専念してください」

と、キツく言われて諦めて頂きましたから長様がお許し下さるなら命様と何名かの供がこちらにお邪魔致しますが?」

そうミナが言うと

「それは真の話ですか?」

そう問い掛ける長にミナが苦笑いしながら

「私の胸元に居る媛に向かい小さな声で媛ばっかしズルい…

と、恨めしそうな顔でそう言われましたから…」

そう言われて

「命様をお招きする?長、宜しいのですか?」

男が驚いてそう聞くと

「水の精霊の巫女である命様をお招きするのにどんな差し障りがありますか?

そして貴女達の里入りを許したのも同じ理由です、精霊の巫女達よ…」

そう言われて

「お気付きでしたか?私達の事は話していないはずです」

そう言って驚く春蘭に

「この地は豊穣の女神の娘、薬玉媛神様の領ろしめす地

その地を預かりし長の私はそれ位の力は与えられています

そしてこの地がアクエリアス様の巫女を拒む理由はありませんよ?」

そう言われて

「そう仰っていただき感謝します…ただでさえ栄養の足りない命様に絶食されては敵いませんから…」

それを聞いて

「実年齢とは掛け離れた容姿と聞きますがそれ程までに酷いのですか?」

そう長が聞くと

「重度の貧血でアクエリアス様の救出の際生死をさ迷う大怪我をしたとかで不自然な体型をしています…

血も骨を形作る栄養も足りないからだとアクエリアス様から言われたと鬼百合様から伺ってます

それに生まれてからこの方まともに食事を摂らなかった命様のお腹の臓器は未発達でやっと離乳食を卒業出来た所なんです」

そう聞いた里の二人も溜め息を吐くと

「その様な事だとさぞ王妃様も頭が痛い事でしょうね…

これを貴女に預けますから王宮に持ち帰りなさい」

そう言って手渡された証書を受け取ると

「これは一体…?」

と、言う春蘭の呟きに

「それは劉啓吾の妻、在野の薬師美紅に薬師の里の長が与えし薬師の証です」

そう言われて

「永久剥奪なのでは?」

驚きを隠さずに聞く

春蘭に

「掟の抜け道です…

あの娘が里を飛び出して二十年近い年月が流れもう死んだものとして書類上では扱われてます

ですから先程も言いましたがこの証書はあくまでも里の長がその者一代に限り有効な証書で里の者以外の者に与えられるものなです」

そう教えられた春蘭が

「面倒臭い話ですね?」

そう言って溜め息を吐くと

「薬師にはそれ程の権益と共に重い責任を負わねばなりませんからこの程度の事を厭う者には任せられませんからね?」

そう言われて納得し

「それはある意味私達にも言える事でしょうね…

ホンの少しの手間を惜しむ者に王妃様や観月様が命様のお世話を任せてくださる筈が有りません…」

そう答える春蘭に頷くミナが子供達の声に気付き

「その…長様、里の子達が媛が気になっている様ですが…」

苦笑いで長に小さな声で伝えると媛に向かい

「子供達を入れても良いですか?」

そう問い掛けると一瞬身を強張らせた後に小さく頷くと

「皆入ってきなさい

但し、余り大きな声を突然出さないようにしなさい

とても繊細な子なのですからね、約束ですよ?」

そう言われてぶんぶん頭を振ると静かに入ってきた少女達を見た媛が突然一人の少女に向かい飛び付き抱き付いた

少女も一瞬驚いたもののしっかと媛を抱き止めその身体を優しく抱き締めた

その様子を見た春蘭が

「海斗、もし面倒でなければ取り敢えず私を宿まで送って貰いこの証書を持って王妃様の元に運んで欲しいのです

ミナさんと媛は戻って来た風華か貴方に迎えに来て貰いますから…」

と指示する春蘭に

「お嬢様、海斗の奴は腹が減ってるみたいだからお嬢様も一緒に食事を摂ってはどうですか?」

そう言われてミナ、媛、海斗の順番で見ると

「私が先に戻りますから春蘭さんは折角ですから薬草の事を聞かれてはどうですか?」

そう言われて

「旅の責任者の私が余り長く一行から離れるのはよく有りません

それに…ミナさん、子供達が困ってますよ?」

そう言われて媛に声無き訴えに

「ごめんなさい、私貴女の言いたい事解らない…」

そう言って途方にくれる少女と媛に

「媛、もう少しゆっくり言ってみて

貴女達は媛の口許を見て真似て動かしなさい」

そう言われて媛は一言ずつ区切るように口を動かし里の子達もそれを真似て口を動かすのを見て

「それで声を出してみて」

そう言われて

「あ、そ、ぼ、う、よ…遊ばうよ、なの?」

そう言われてやっと通じた事に満足の笑みを浮かべる媛の身体抱き締め

「お姉さん達にお願いがあります

私達この娘、媛ちゃんと遊びたいの…良いですか?」

そう言われて代わりに長が

「間も無く朝食の時間だから余り遠くには行かないようにしなさい」

そう答えると

「はーいっ!」

と、明るい声で返事して出ていった

「凄い、ミナさん…私はてっきり霊力で媛と会話しているものだと思ってました…」

そう言われて照れながら

「大公様の所で学んだ読唇術ですが当時はちょっとも覚えれなかったのに何故?」

そう言って首を傾げるミナに

「それだけ媛が貴女にとって大事な存在、媛への愛があるからですしそんな貴女だからこそ媛も貴女を慕うのでしょうね…」

そう長が言うと

「そう言う訳ですから媛を頼みますね、ミナさん」

そう言うとお腹の虫を鳴かせる海斗に呆れながら

「仕方有りません…私達も朝食をよばれましょう」

と、言われてばつ悪そうに苦笑いを浮かべる海斗だった

「わかりました、そう言うことなら今から媛を見守ってきます」

そう言って出掛け気配が無くなったのを確認して

「実は今日はミナさんの誕生日だからこっそりお祝いの準備をしよう

と、言う話になってますからミナさんはこちらでゆっくり過ごして欲しいと考えて私の同行者に選ばれました」

そう話すのを聞いた長が

「確かに不思議な娘ですね…

読唇術で声の出ない媛との会話の重大さより何故出来るようになったのかとそちらを不思議がるなんて…」

苦笑いを浮かべる長に

「お仕事はしっかりこなすのにそう言う抜けた所がありますから…」守ってあげたくなる妹みたいな人ですか?」

春蘭の言葉を思い出した男が笑いながら言うと

「放っておけませんでしょ?」

春蘭にそう言い返されて

「確かにあの様に良い娘さんに悪い虫が寄り付くのは好ましくない」

そう言うと

「命様にお仕えする姿を見て家の息子の嫁に来て欲しいと言う声が少なくないそうです」

春蘭がそう言うと

「それにも自覚が無いと?」

「全く気付いてません、命様と美月の仕事で頭は埋め尽くされてますから…」

そう言って溜め息を吐き

「肝心の命様の事でお願いがあります」

そう真顔に戻って言う春蘭に姿勢を正した二人に

「未だ王女で在る事に慣れてないと言うか理解していないところの有る命様は命様と呼ばれるのを余り好みません

ですが私達大人はそれをはい、わかりましとは言えませんが大人の事情を理解できない幼い子供達にまでそれを押し付けるのは?

そう考えて小さな子達がみこちゃんと呼んでも叱りませんから里の子達もそうしてもらえた方が命様も喜びます

実際私もでしたが見習いの侍女達は正式に王女様になられるまではみこちゃんと呼ばせていただいてましたから」

その話を聞いた男は

「長、今の話と命様の訪問を里の者達に告知してきて良いでしょうか?」

そう言って返事を待つ男に

「頼みますね」

長が答えると勇んで出ていったが

「今まで落ち着いていたのが嘘みたいに浮かれてますね?」

春蘭に言われ互いに顔を見合せ微苦笑を浮かべる二人だった

 

何故媛がその少女、美輝になついたかは誰にも解らない…

ただミナの膝の上に腰掛け美輝は右隣に来て貰い食事を手伝って貰っている

海斗の周りには騎士に憧れる男の子が群がりシーホースを操る海斗に白馬の皇子を重ねる少女が遠巻きに見ている

海斗は今日はゆっくり出来ないけど後日歌う人魚姫の命のお供で再び訪れると約束しその時にはシーホースに乗せるとも約束した

そして食事の時間が終わりミナと媛を残し春蘭を伴い海斗は命の元に向かうと

「海斗さんっ、約束ですよっ!」

そう叫ぶ少年に拳を付きだし親指を立てて見せる海斗だった

 

宿に戻りユカに長から預かった証書を渡し命の訪問要請に媛とミナを残した経緯を告げると

「海斗は春蘭の言う通り王宮に向かいなさい」

そうユカに指示され渡された荷物を持つと王宮に向かって飛び立った

早朝春蘭達についていけなかった事をひきづる命の機嫌は未だ宜しくない…

朝食の後の今は創作活動の巫女達に踊りの基礎を教えているところなので見物人相手に近所の菓子屋が菓子を持って売りに来ている

海斗が春蘭を連れて戻ったのは謡華の歌の指導を受けているところで昼食後の午睡の間春蘭、留美菜、りんが踊りの自習とそれ以外の巫女達の基礎をユカが指導

命の午睡の後お茶を飲んだ後に歌の自習を済ませると瑞穂に温泉に連れられると喜んで他の客達に世話される命

その間に留美菜とりんは川魚を使った鍋を用意し…

春蘭は以前作ってミナが喜んで食べた挽き肉の固め焼きソース掛け用意した

そしてユカは蛍に手伝わせある料理の支度を始めた

ミナが帰ってきたのは夜の舞台の準備が粗方すんでからで

「申し訳有りません…こんな遅くまで留守にして」

と、詫びるミナに

「仕方有りません、海斗と風華の手が空かず迎えに行かせられなかったこちらの責任ですからね」

そう言われても納得仕切れないミナの手を引いて舞台が終わった後の命の席に案内して本番を待った

いつものように奉納の踊りから始まる舞台

踊りが終わり

「今日はみこの個人的な話からするけどいー?

今日はみこの大切な人達の中の一人…ミナのお誕生日なんだよ…だから」

そう言うと瑞穂にエスコートされたミナが舞台に上がり待ち受けていた大樹が蔦の篭を渡し

「きみが作った蔦の篭に春蘭さんの刺繍、つぼみの組紐、麦のワッペン、つぐみの竹細工の箱、しずくの鍋つかみと鍋敷きが入ってます」

そう告げると続いて炎は

「三人の王女様と王宮の侍女の皆さんがミナさんの為にといって焼いたパウンドケーキと花の娘からは森のバター―煩い黙れっ!―…

真琴様からお預かりした命様の霊玉が埋め込まれた調理用ナイフです」

炎のその言葉に海斗は

「あ、蛍…このケーキ、お前が作ったジャムが生地に練り込まれてるって聞いてる

王宮に来たら一緒にお菓子を作りましょうと皆さんからの伝言な」

そう言ってミナでは抱えきれない様な花束を渡し

「僕達の気持ちです」

そう言うと受け取ったミナは

「誰かに誕生日を祝って頂けるなんて多分両親が生きていた頃以来です…」

そう言って涙するミナの荷物を三人が預かると自分の髪を飾る霊玉の釵を差し出し

「新品じゃないけどみこからの気持ちだよ…」

そう言われて涙するミナは瑞穂が肩を抱き席に案内されるとテーブルに用意してある料理を見て嗚咽するミナを見て

「私の用意したこの料理は大公領に生まれ育った娘達には特別な物

母親が娘の誕生日等の慶事には必ず作る母の味…

そしてこれは私達の生母ではなく守り育ててくださった亡き大公妃様とワイマール男爵夫人から受け継いだ大公邸出身の娘達の母の味なんです…

ミナ、言わば貴女は私達の妹…姉である私達にもう少し甘えなさい」

そう言われて苦笑い浮かべ

「その…自分には甘いけど人に甘えた事有りませんから…」

そう答えるミナに溜め息を吐くと

「何故?」

そう聞かれたミナの答えは明確で

「相次いで両親が亡くなった時に私の甘えて良い人は居なくなったからです…」

その答えを聞いて溜め息を吐くユカだった

再び訪れた海斗の出迎えに出たのはやはり吽で王女宮三階のサロンで預かった証書他ユカの手紙を渡し

「ユウ、マイとスーの二人に荷物を纏めさせて命の元に向かう様にと伝えなさい

海斗と風華は瑞穂から

青竜刀を貰っているんでしたね?

では風華はこれを貴女に預けますから青竜刀は大樹に渡しなさい

それと炎にはこの火炎剣を渡して上げる様に預けます

それからこれはたけの短剣と制服にきみの制服です」

観月がそれぞれに渡すと

「これは料理用のナイフにみこの霊玉を埋め込んだ物、ミナに渡して」

真琴がそう言って渡し翼も

「これは皆で焼いたパウンドケーキです、ミナにお願いしますね」

と、言いチサも

「このケーキには蛍ちゃんのジャムを練り込んでありますからね

いつか一緒にお菓子を作りましょうと伝えて下さい」

そう付け加えると

「そう言っていただいたと聞けば蛍も喜ぶと思います」

海斗もそうケーキも受け取ると支度の終わったマイとスーの二人を命の元に案内する事になった

 

翌日からマイの主な仕事は命と共に舞台に立ち

春蘭、ミナ、留美菜、りんには大漁祈願の踊りの指導

他の巫女達には航海の安全祈願を教える事でそれ以外は命の側付きを担当するスーのサポートを任される事となった

日に日に求人の張り紙を見て人が集まりまず大樹達准騎士達が稽古時間が取れる様になり

十日目の晩には最後のりんの手伝いも不要になり

「明日の公演をもって命様の興行も千秋楽となりますので明日の晩は更にお客さまが増えるでしょうから留美菜、りん、蛍と力仕事に准騎士達を回します」

そう言われて

「そうですか…いよいよ明日の晩で最後ですか、寂しくなりますね…」

と、言う女将に

「明日の夕方には北の町に居ると言う謡華さんの妹弟子が来て命様と交代で歌う事になってますし…

板長の腕も上がってますし食通揃いの美月のユカ様もほめてましたからね?

女将もユカ様の料理をアレンジして女将さんの一品に仕上げたし

初めてお会いした時の自信無さげな雰囲気が消えて笑顔が輝いてますよ?

なにより何も見もしないで大樹と海斗の二人を追い返した他の宿とこの宿のどちらに泊まれば良いかはお客様もおわかりのようですしね?もっと自信をもって良いと思いますよ」

そう言われてもすぐに変われる質でないのは自分でもわかる女将はこれからも地道に努力を重ねればいつか自信が持てるかもしれないと考えていた

 

翌日海斗に薬師の里に使いを出し明日の朝訪問する事を連絡させた

「風華、炎、海斗に忍、春蘭、ミナ、媛にみこが里を訪れるメンバーだから皆支度してね」

朝食の際の命から発表された事で残りのメンバーは一足先に北の町の宿で待つ事になっている

そして最終公演準備を始める一方で若月の服とエプロンの即時販売も行われた

侍女の仕事をしてない為創作活動のグループメンバーは若月の服を着てエプロンをしていたから話題になっていたのだ

だからユカは宿の周りをリサーチして若月の服を店をさがした結果が今の販売を担当している者達だ

顔馴染みも多いらしく用意した分」

はあっという間に売り切れて再入荷待ちになりますます増産体制を整える必要がある

そして最終公演の幕が閉じ命の本格的な初公演を無事終えることができた

 

「だ、だから何故こうなるのですか?」

宿の者達が持たせてくれた朝食の弁当はわかるとして泊まり合わせた客達に持たされた土産物、町の者達の命への貢ぎ物の野菜やらのな何やらで結局馬車は荷物が満載になっている

薬師の里の麓で

「炎、口笛吹けるなら思いっきり響かせて」

そう言われて思いっきり鳴り響かせると空から火の玉が降ってきた…様に見えた

「焔魔だよ…炎に力を貸してくれる霊獣焔魔…

風華は春蘭とみこ、炎はミナと媛、海斗は忍で行くね、海斗…案内して」

命がそう告げ宙に浮く霊獣達が里を目指して飛んでいくのを見送り

「いつまでもここに居ても仕方有りません、大樹…北の町に案内して下さい」

そうユカ言われて大樹が走り出すと他の馬車もその後ろをついて走りだした

 

前回同様に里の入り口で待つ命達だけど今回は命の訪問が予告されていたこともあり里の目は大人達すら好奇心が隠せてない

長の補佐役の男も三体の霊獣達揃い踏みは圧巻で息を飲んでいた

「水の精霊の巫女様、まずは長に挨拶をお願いします」

そう告げられた命は

「それはみこと春蘭、ミナだけで良いよね?

海斗、約束有るんでしょ?風華と炎も手伝ってね、忍はこれ握って翼よっ!って叫んで」

そう言われて渡された蒼い霊玉を握り

「翼よっ!」

そう言われた通りに叫ぶと蒼い霊体の翼が現れ忍の身体を浮かせた

「これは阿も隠し持っている翼てすね? 」

そう聞かれた命は

「うん、別に隠してる訳じゃないけどね…

その状態で皆を見守ってあげて」

そう告げると

「承知しました」

そう答えた忍に対し

「焔魔様は魔力霊力の類いがないと乗れないのでは?」

そう心配そうに聞く海斗には構わずいつの間にか媛の身体を抱き締める美輝を見て

「貴女、媛のお友達?」

そう命に聞かれた美輝は

「はい、そうです」

頷いて答える美輝に

「じゃそのまま媛の身体を抱き締めて燃えるお馬さんに近付いて」

そう言われた美輝はそろそろと近付くけど一向に炎の熱を感じない

「熱くない…」

とうとう焔馬の馬体に触れたにも関わらず熱くないその炎

「媛が無意識に張っている結界が貴女を炎の熱から守っているんだよ

媛と一緒になら霊力の無い子でもへーきだから宜しくね」

そう言われた里の子達は三人に群がり霊獣に乗る順番待ちになりそれを見た春蘭が

「では命様、長様に挨拶に行きましょう」

そう言われて中に入ると

「えっ、あれっ、えっ?何でここに?」

そう混乱する命に

「貴女も妹をご存知なのですね?」

そう聞かれたけど未だ状況を理解出来ない命に代わり

「命様に同行して私と騎士の忍様は妹様とお会いしましたから」

そう答えると

「じゃあ長様と春蘭はママと観月お姉ちゃんみたいな感じ? 」

そう命に聞かれた春蘭は

 

 



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運命の再会

有巽の少女、氷雨の精の巫女は運命の再会を果たす


「大体そんな感じですね、長様は母の姉である方ですから…」

そう説明され

「そうなんだ…」

そう呟き

地の精霊への踊り、豊作祈願、豊作の感謝の気持ちを奉納する踊りを覚え

明日の夜奉納せねばなりません

ですから滞在も明後日の朝までお許し願いたいのですが…」

と、頭を下げると

「貴女達の訪れが今日なのは偶然ではなかった…

踊り手が生まれず絶えて久しい豊穣の女神に五穀豊穣祈願する奉納の儀式を行える…

こちらこそ宜しくお願い致します、水の精霊に選ばれし舞姫様よ…」

そう言って貰えた命は

「私は本格的な稽古を始めてきます…」

そう言って長の屋敷を出る命と三人に向かい頭を下げて命の後を追って出ていくミナを見ながら

「命様は又無理をなされるんでしょうね…」

そう言って溜め息を吐く春蘭に

「そんなに無理を?」

そう聞かれた春蘭は

「正確には無理をするのではなくご自分の限界を忘れます

それこそ眠り就くか体力の限界迄か…と、そういっても過言ではありません」

そう聞いて長も溜め息を漏らし

「王妃様の心痛お察しします…」

そう言わずにはいられない長だった

暫くして

「長様、朝食の支度が整いました」

そう呼ぶ声が室外から聞こえてそれまで妹…春蘭達の母の事を色々聞いて居た長も

「一緒に食事にしましょう」

長がそう声を掛けるとそれまで乾燥した薬草を擂り潰していた男が立ち上がると

「春蘭お嬢様、これを持って行けば良いのですね?」

そう言って弁当の包みと茶葉と茶器の入った包みを持つと室外に向かってしまった

「申し訳有りません…」

そう詫びる春蘭に

「その様な他人行儀な遠慮は無用に願います」

そう言って笑う男になんと言えば良いのかわからず曖昧に笑う春蘭だった

風華達も里の子等に手を引かれ戻ってきたの見て春蘭が弁当を配ると

里の子等は見慣れない行楽弁当を羨ましがり

「え、一緒に食べようって?」

媛を見て言う美輝に笑いながら

「食べさせて…でしょうね、媛の場合は…」

そう春蘭に言われてむくれる媛を見ながら命が一人の少年を手招きし

「みこ、あんましお腹減ってないから食べて…」

そう言って渡され弁当を持って戸惑っていると長が

「命様には今茶粥を用意してますから有り難く頂きなさい」

そう言ってもらい喜んで弁当を開けると

「スッげぇーっ、皆で分け合おうぜっ♪」

その少年が言うと忍も

「私達の分も分けあいましょう」

そう言うと准騎士達も頷き

「私達には朝から食べるにはボリュームがありすぎますから助けて頂きたい量ですね?」

春蘭に言われて苦笑いを浮かべ頷くミナだった

「所で長様、命様はいつまでゆっくりなされるのですか?」

一人の老婦人にそう聞かれ

「残念ながら明日の夜までに地の精霊への奉納の踊りから豊作祈願、豊作の感謝の気持ちを奉納のする踊りを覚えねばならぬ命様はゆっくりとする暇は有りません…」

そう言われて

「長様…い、今なんと…」

驚きのあまり声の出ない老婦人に

「明日の夜、演舞台にて踊りを奉納せねばなりません命様は今この地に住まいし草の精様が一人の指導を受け奉納の踊りを会得中です」

そう聞いて

「ならば明日の夜は久し振りに奉納の儀式が執り行える?」

その言葉に反応し

「明日の夜までに完璧に舞えるよーになるから…」

そう言ってニコッと笑う命を見て既視感の様なもの感じ考えたものの長が何も言わないので何も言わない事にした

賑やかな朝食も終わりに近付き

「海斗さん、炎さん、この後一緒に釣りに行こうよ?

里の者しか知らない穴場に案内しますよ?」

と、言うと

「二人も釣りは苦手じゃ無いが海斗は里の外の者の中じゃかなりの木登り崖登りの名人だからあの木に案内してやれ

炎は草の実に煩い…と、言うかジャム作りが趣味の妹の為探して集めてるからな」

と、言われて何と無く照れ臭い二人の代わりに

「炎の妹蛍のジャムなら少し持ってますから後で味見をしますか?」

それまでボーッとしていた命が春蘭の言葉に反応し

「媛、またあれ作ってくれるの?」

そう言われて美輝の顔を見て考え込む媛に

「媛、お願い出来ますか?」

そうミナに言われては嫌とも言えない媛が渋々頷くのを見てホッとする春蘭はミナに感謝の意をすとミナもお互い様と返すミナ

「そっか…ありがと、媛…じゃあ、みこお稽古にもどるから…」

そう言ってフラッと立ち上がると広場に向かって歩き始めそれを見ながら溜め息を吐いて

「風華、そう言う事になりましたからユカ様に連絡をお願い出来ますか?」

そう聞かれた風華は

「はい、お任せください」

そう答えて立ち上がると天馬に股がりユカ達の下に向かって飛んでいった

食後、海斗は少年達に連れられて甘酸っぱい香りのする果実を実らせた大木達の林に案内された

「俺達には未だ上れないんだよね…」

そう自嘲気味に言うのを聞いて

「うん、確かに手掛かりが殆ど無いから厳しいね…」

そう言ってポーンと飛び上がると一番低い枝に掴まりそれを手掛かりに高く登り熟した実だけを撰んで篭に入れると半時程で大きな篭は一杯になった

「海斗さん、凄い…」

感嘆の声を上げる少年達に照れながら

「そ、そうかな?」

と、答える海斗だった

 

媛と少女達の大半が花摘に興じ一部の少女は炎と草の実を摘んでいたけど…

「あっ…」

と呟いては時折木の根方を掘ってはお宝を発掘していた

その成果を昼食を摂りに戻るまでに小さな篭一杯にそのお宝達が集まり長を呆れさせた

その大量の茸類に…

勿論里の子達と集めた草の実や薬草の量も半端無く

「又手伝いに来て欲しいくらいですね…」

そう長に言わせて溜め息を吐かせた炎だった

続いて戻ってきた海斗達も難易度の高い木の実を篭一杯に摘め他の実もその量からしたらかなりの努力を要した筈にも関わらず笑って戻ってきた少年達と海斗達を見て

再び溜め息を何度も吐く長だった

昼食をお腹一杯食べた炎と海斗を含めた少年達

あまり食欲の芳しく無い命

命の供の中で最も苦手とする大樹の居ない媛はいつもの倍近い食欲を見せ楽しい食事の時間とそれぞれに過ごした

デザートは媛の用意した粉雪のジャムソース掛けと翔に手伝わせたアイスフルーツ

で、最初は

「翔、良い所に戻って来ましたねちょっと手を…これ、どこに行くつもりですか?」

忍の言葉に悪い予感の翔が聞こえない振りして飛び去ろうとするのに気付き

「ち、ちょっと待ちなさい…」

焦る忍の声に気付いた命が

ー翔、いー物あげるから忍のユー事きーてあげて…ー

そう言われた翔は

ー良いもんて何やねん?ー

翔に聞かれた命は

ーこれ、翔の槍とでも言う翔の魔石の槍…ー

そう言われた翔は

ーはぁ?ボクにそないなもんどないせーちゅうんよ?ー

そう言われた命が

ー魔力で操るんだよ、雷精達が霊玉を操ってたみたいにねー

命にそう言われて

ー…………ー

と、考え込む翔は暫く考えてから

ーわかった、ボクに出来る事ならやったる…ー

そう言われて

「翔は確か冷却系の魔法が…」

ー交渉決裂、ボクの魔法は似て非なる物、冷却魔法は使えんで?ー

そう答えると

「冷却魔法が使えない?では貴方が以前使って見せた竜頭氷連山は何ですか?」

そう不信感も露に聞く忍に

ーあれはゆーてみれば青竜大瀑布の一形態、低温の青竜大瀑布とでも言うべきもんでボクの魔法は吸熱魔法

熱と魔力を吸い取るから凍結したりするだけで氷雨の精の巫女達みたく冷気を操るわけちゃうー

その説明についていけてない忍に

ー媛や留美菜は雪降らせられるけどボクは水や水分無いと気温が下がるだけやー

そう言われた忍は

「それでは雪玉を作れませんね…」

と、聞かれ

ー天気次第やね、霧雨が降っとれば霧雨から熱を奪えば雪になる

つまりボクの持っとる力は中途半端なんよー

そう話していると

「なら翔ちゃん…この草の実を凍らせますか?」

そう春蘭に聞かれ

ーそれなら出来るけどそんなもんでえーんか?ー

と春蘭に聞き返すと

「取り敢えずこの草ぶどうを凍らせてください」

そう言って差し出された草ぶどうに向かって息を吸うと徐々に凍り付き完全に凍結すると

「有り難う翔ちゃん、忍様…」

そう言って草ぶどうを一粒もいで渡すと受け取った忍が口に含むと驚いて

「こ、これは…」

と、感嘆の声を漏らすのを見て

「翔ちゃんには簡単でも私達には出来ませんからお願い出来ますか?」

そう言われた翔は

ーそれでもさっきのくれるんならやるー

そう翔が答えると

ー勿論あげるからお願いね、翔ー

そんなやり取りの末に用意された物だった

冷やされ凍結した草の実は余分な水分も奪われ自然な旨味と甘味が凝縮されている

「なんと贅沢な味わい…」

そう言って恍惚の表情を浮かべる長だった

 

命の午睡の夢世界…アクエリアスの結界で槍の扱いを習う翔

―先ずこの宙に浮く槍の止まり木みたいな突起に止まりなさい―

そう言われて相手が魔女の命である事に気付いて黙って言うことを聞く翔に

―槍の穂先に意識を集中しなさい―

言われた通り穂先に意識を集中すると何と無く奇妙な感覚に陥った

(なんやろ?例えてユーなら槍が身体の一部にでもなったみたいな?)

考え込む翔に

―ならば吸熱魔法を使うつもりで精神を集中なさい…―

言われた通りに集中すると槍の穂先から熱を吸い石突きから熱を吹き出し推進力にして動き始めた

―な、なんやこれ?―

翔のすっとんきょうな叫びに

―それが翔の槍の最大の特徴です―

そう言われて訳のわからない翔が

―はぁっ、意味ちぃーともわからへんのやけど?―

そう声を上げると

―翔の吸熱魔法は言わば変換魔法

熱、魔力を奪い自分の使う魔力へと変換しています―

そう命に言われ

―だからそれがどないしたんやちゅーねん?―

そう聞き返すと

―槍も穂先から熱を吸い石突きから熱を吹き出し推進力にして飛行可能となる

消費魔力が小さく大きな力を操れる可能性の高い…

それが翔であり翔の槍です―

そう説明されて

ーなんやよーわからへんけどボクの力てめっさセコいんちゃう?ー

翔のぼやきに

―何故その様に考えるのです?―

そう問われた翔は

―竜頭氷連山かて大量の水とみこ、アンタの霊玉が無けな放てん呪文

ゆーたら借り物の呪文やろ?

まぁその程度の小者なん位は自覚しとるからえーねんけどな…―

そうぼんやり呟き

―これ…使いこなせるんかな?ボク…

まぁええか…所でこっから出る出口はどこに有るんよ?―

そう命に聞くと

―みこが出る時を待つか自ら作るかのどっちかだよ、翔―

そう言われて

―はぁ?何ワケわかんないことゆーとるんよ?

ボクにアクエリアスの結界破れる訳無いやろ?アホな事ユーとらんでさっさと出口教えんかい?―

そう文句言うと

―なら、みこのお稽古終わるの待ってて―

そう言うと歌と踊りのお復習をこなし新しい踊りの稽古をこなす間

ただボーッとして待ってても仕方無いので翔も槍の修業をしながら待った

夕食は春蘭とミナも手伝いいつもと同じはずの食事の準備を楽しい時間に変えた

翌日も各々に許された時間を有意義に過ごし夕方近い頃

「長様、奉納の儀式の前に禊を済ませたいのですが相応しい場所はございませんか?」

命にそう問われた長は

「演舞台の裏に在る小さな滝が相応しいでしょう…

演舞台の演者達もそこで禊を済ませ舞台に望んできましたから」

そう教えられると

「わかりました、春蘭、ミナ舞台の支度を始めます

それと本日の進行について説明しますからメモを取りなさい」

「聞いた話じゃ大抵高い所から舞い降りる登場の仕方をするそうだ」

が舞台の床を指差し

「何かが現れたようですよ?」

そう言われて皆が見守っているとそれは大きな大きな蓮の蕾でやがてそれはゆっくりと花開き始め

「命様がいらっしゃる…」

その言葉通りに蓮の花の中央で命が踞っていた

長が鼓を打ち始めると命がスーっと立ち上がり地の精霊への奉納の踊りを舞い

続いて豊作祈願と豊作の感謝の気持ちを奉納する踊りを舞い未だ慣れない踊りに命が一息ついた

長も鼓を打つ手を止め合図すると一部の女達が下がり料理を運んできたのを見て命が舞台に居るのに?

そう考え戸惑う男達の反応を事情を知る女達がにやにや笑いながら見ている中

「奉納の儀式は終わり今からは歌う人魚姫の歌と舞いを見ながらの懇親の宴

精霊の巫女達とその騎士達とのこの出会いに感謝し充分にこの宴を楽しみなさい

それが水の精霊の巫女にして歌う人魚姫様のご意思です」

そう長が一同に告げると再び踊り始める命は水の精霊への奉納の踊りを舞い

航海の安全祈願、航海の無事を感謝する気持ちを奉納する舞い踊り続いて大漁祈願、大漁の感謝を奉納する踊りを舞い竪琴を受け取り…

アンコール二曲を含めた全十曲を歌い上げ舞台を降りた

舞台を降りるとミナの膝は既に媛が占拠しており春蘭は長達と難しい表情で話し込んでいる

「ぁ、ありがとね…どうだったかな?みこの新ー演出は?」

裏方をつとめてくれた男に声を掛ける命に

「久し振りの舞台の出番を与えての頂き感謝の言葉も有りません

演出は妖精の様な命様に相応しい物でしたよ」

そう答えて貰い嬉しそうに

「えへへ、そーかな?」

そう照れ笑いしながら

「又踊りに来るね」

そう言って忍の下に向かう命とその忍に

「やはり戦士の貴女にはお酒がないと物足りないのでは有りませんか?」

香りの良いお茶を差し出しながらそう話し掛ける女性に

「呑めない私は命様の供として王都を出て以来宴の時はいつも裏方の手伝いに逃げてましたから…

始めてなんですよ、酒を断る言い訳を考えなくても良い宴は」

そう答えると

「そう何ですか?まぁこの里には薬用に使う酒しか有りませんから望まれても困りますけど…」

苦笑いで話すのを聞いた命が

「うん、忍ってば甘酒ってゆーの?あれ飲んでお顔真っ赤だからお酒呑めないんだよ」

そう言いながら忍の膝に腰を下ろす命を見て

「命様、宜しければこちらにいらっしゃいませんか?」

忍と話していた女性が自らの膝を指し示すと首を傾げながら

「良いの?」

その女性と忍の顔を見比べて聞く命に

「勿論命様が座ってくだされば良い思い出になりますからね」

そう言われて忍もうなずくのを見た命はそっと立ち上がりその女性の膝に座ると

「さぁ命様は何をお召し上がりになりますか?」

そう聞かれてテーブルに並ぶ料理を見て

「あれが良い」

そう言って指差したのはこの辺りではありふれているものの他所では余り見掛けない根菜の煮物―

そう答えると美輝がそうしている様に命にも一人の少女が寄り添い甲斐甲斐しく食事の手伝いを始めた

 

「長様、こちらのお嬢様はどちら様でしょうか?」

そう聞かれた長は笑いながら

「この娘の顔を良くご覧なさい

髪と瞳の色に惑わされてどうするのですか?」

そう言われて改めて春蘭の顔を見て考え込む女性達の一人が

「えっ?」

と呟き長の顔を見て

「長様の若い頃に似ておいでですが…」

そう呟き首を傾げるその老婦人に

「私に娘は居りませんが決して他人のそら似ではありませんよ?」

そう言われてやっと気付いて

「もしや美紅様の?」

そう長に訪ねると

「そう、私の妹美紅の娘ですよ」

愉快そうに告げ

「今私達が味わっているお茶も美紅が調合した物をこの春蘭が淹れてくれた物です」

そう答えると

「確かに髪や瞳の色の違いだけで貴女達姉妹の若い頃に良く似た面差しに気付けないとは…歳は取りたくないものですね…」

そう言いながら改めて春蘭の顔を見詰める老婦人

 

宴の終わりの時を迎え媛を抱き抱えた美樹が長の前に来て

「長様…いえ、叔母様…私、媛の側に居たい…命様のお側でお支えしたい」

そう声を上げると他に四人の少女と三人の少年達も僕も私達もと声を上げ

「海斗さんに聞いたんだ

准騎士の皆さんが騎士の家柄の生まれじゃないって

だったら僕達だって夢見ても良いですよね?騎士になりたいって…」

少年の一人が言うと

「私達は親の許しを得ぬ者を連れてはいけませんしまして私の母がしたように貴女達に里抜けの罪を犯して欲しいなど考えません」

そう答える春蘭の肩に手を起き

「この子達の親の了承なら得てる筈ですね?」

そう長が問うと後ろに控えた両親達が頷き

「美輝、里の掟を言いなさい…」

そう言われた美輝の表情が曇り

「光輝く者が導く日までこの地に隠れ棲むのがこの里に生を受けた者の定め…」

そう辛そうに答える美輝に笑顔を浮かべ指差し

「貴女達にはあの方の放つ輝きが見えませんか?」

そう長が指差した先を見ると眠りに落ちそうな命が居て

「では…長様は命様がその?」

と聞かれ

「四人の若き騎士や巫女達を導く命様は導く者だと思います

今更里を出たい等とは考えませんが命様の訪れこそがこの里の戒めを解くもの判断し貴女達が里を出る事を許しましょう

ただし、今は未だ幼い故貴女達の弟や妹達の同行は許しません」

そうきっぱり言われてがっかりする幼い子達に

「西の大公家が再興しますから焦らなくても機会は未々ありますよ」

春蘭に言われて長を見ると

「今回は諦めなさいと言ったまでです」

長の言葉にホッとする幼い子達

「春蘭、この子…美輝に色々教えて上げてください

何故ならこの子は貴女の従妹で私達の亡き弟の忘れ形見なのだから…」

そう言われた春蘭は驚いたものの

「わかりました、美輝は末の妹として扱いますが…雪華が一番喜ぶでしょうね

幼い頃は妹か弟を欲しがってお父様とお母様を困らせてましたから…」

そう笑って話し

「そして貴女達は妹のお友達も喜んで迎えましょう

ですから旅の支度と別れの挨拶はしっかり済ませなさいね」

そう言われた少年、少女達は一斉に

「はいっ!」

と、答えて夜の宴は幕を閉じた

 

翌朝旅立つ我が子達に自分達には叶わなかった里を出る夢を乗せ晴れやかな笑顔で見送っていた

海斗は少年二人に炎は少年と美輝に媛のを乗せ風華が少女二人に巨大化した翔が残り全員を運ぶ事になった

里の麓に降り立つと大樹が馬車で既に待機して居りそれを見た命は

「炎…今度は炎の番だよ、翔も荷物お願いね…」

そう言って送り出し

「風華、忍をお願い…春蘭とミナは馬車の寝台で休憩皆は馬車で座ってねみこは海斗と行くからね」

そう言って久し振りにシーホースに乗る命を溜め息をついて見る忍と春蘭だった

暫く走らせた後海斗に

「海斗、皆に話し有るから休憩にしよう…」

そう言ってシーホースに止まってもらうと

「大樹はこのまま皆を連れて先に戻って、風華も皆を頼むね

忍はみことシーホースに乗ってみこを呼ぶ声に導かれそれが何なのかを確かめに行く」

そう言われた春蘭とミナは

「なら私達の同行もお許しくださいっ!」

そう言われたけど命の返事はつれなく

「生まれて始めて里の外に出た皆にいきなり夜営させる気?妹なんでしょ?ちゃんと見てあげなきゃダメだよ

それに敵の気配は無いし忍と海斗に草の精も一緒だから大じょーぶだよ」

そう答えると余り信用できないのが常日頃の命の言動だけどこの場合の命の言葉を疑うことは忍も当てに出来ないと言っているにも等しい

そう考え忍を見ると忍も春蘭を見て互いに頷き合い

「ならば命様、くれぐれも単独行動は慎んでくださるようお願い致しますね!?」

春蘭にそう言われて

「うん、草の精も闇の気配は感じないけどみこの警護に忍がいた方が良いってゆってる」

そう言われて溜め息を吐くと

「だそうですから忍さん、命様の事宜しくお願い致します」

そう言って渋々ながら大樹の案内で北の町を目指す春蘭達を見送り

「じゃあ、みこ達もいこか?海斗お願いね」

そう言ってシーホースに再び騎乗し先に進む事にした

 

旧街道らしく余り整備されていない路面はかなり荒れていて普通の馬にはかなり厳しい行軍になっていたのは間違いない

「命様、この先はもう少し行くと行き止まりの筈だけど…」

そう命に告げる海斗に

「問題ないよ…そこにみこを呼ぶものが居るんだからね…」

そう命に言われ何も言えなくなる海斗と命を見て考え込む忍

(命様を呼ぶものとは一体何者?)

その答えは程なく姿を現した

―私の名はスピカ、麦の穂とも麦の精とも呼ばれ豊穣の女神に支えし者でした

我が呼び掛けに応えし舞姫よ…

自ら光を閉ざし眠りに就きし我が主人

豊穣の女神を今再び目覚めの時を迎えさせる舞いを奉納する事を頼めませんか?―

そう言って頭を下げるスピカに

―舞って下さい、我が友スピカの為…この地に再び豊穣の女神の祝福が与えられる為にも…―

「忍、闇の気配は有りませんが奉納の踊りを舞う間の警護を任せます

海斗は一旦春蘭達の元に向かい事情を説明して食糧を分けてもらってきなさい」

そう指示を与えると地の精霊への奉納の踊り、豊作祈願、豊作の感謝の気持ちを奉納する踊りを舞いそれを何度も繰り返した

忍と海斗が見守る中夜通し続いた奉納の踊りが日の出を迎える頃

―何故私を呼び覚ます?驕れし人間達が私達を見失い敬いの心を忘れた故私も眠りに就いたのです

私達を必要としない者達に干渉すべきではないはず?―

そう言われて

「そんな昔話しみこ知らない

みこはスピカと草の実の精が貴女を起こして欲しいっゆーから奉納の踊りを舞っただけ」

そう豊穣の女神に答えると

―では貴女には私の目覚めの必要は有りませんね?―

そう問われた命は

「考えた事無い…

大漁祈願は留美菜やりんのお父さんやお母さんが喜ぶって分かりやすい理由が有ったけど…

豊作祈願はそれ自体が良くわからない…

喜ぶ人を知らないだけかもだけどおバカなみこには具体例が無いと理解しきれない」

そう答える命に

―我が主人よ、私が望だけでは足りませんか?―

そう言われて考え込む豊穣の女神に草の精も

―この時代に貴女を呼び覚ます理由はもうひとつ

依り代…貴女様の器になる乙女が生を受けたからに他なりません

目覚めの時を迎えたのですよ、我が主人…―

そう言われて

―そうですか…わかりました、シーホースの騎士よ私を依り代の元に送って欲しい―

そう海斗に告げるとシーホースの中にスピカと共に消えると

 



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豊作祈願…

薬師の里で奉納の儀式を執り行うためで舞うことを草の精に習う事を要請された水の精霊の巫女は無事習得できるのか?


れた春蘭は

「大体そんな感じですね、長様は母の姉である方ですから…」

そう説明され

「そうなんだ…」

そう呟き

地の精霊への踊り、豊作祈願、豊作の感謝の気持ちを奉納する踊りを覚え

明日の夜奉納せねばなりません

ですから滞在も明後日の朝までお許し願いたいのですが…」

と、頭を下げると

「貴女達の訪れが今日なのは偶然ではなかった…

踊り手が生まれず絶えて久しい豊穣の女神に五穀豊穣祈願する奉納の儀式を行える…

こちらこそ宜しくお願い致します、水の精霊に選ばれし舞姫様よ…」

そう言って貰えた命は

「私は本格的な稽古を始めてきます…」

そう言って長の屋敷を出る命と三人に向かい頭を下げて命の後を追って出ていくミナを見ながら

「命様は又無理をなされるんでしょうね…」

そう言って溜め息を吐く春蘭に

「そんなに無理を?」

そう聞かれた春蘭は

「正確には無理をするのではなくご自分の限界を忘れます

それこそ眠り就くか体力の限界迄か…と、そういっても過言ではありません」

そう聞いて長も溜め息を漏らし

「王妃様の心痛お察しします…」

そう言わずにはいられない長だった

暫くして

「長様、朝食の支度が整いました」

そう呼ぶ声が室外から聞こえてそれまで妹…春蘭達の母の事を色々聞いて居た長も

「一緒に食事にしましょう」

長がそう声を掛けるとそれまで乾燥した薬草を擂り潰していた男が立ち上がると

「春蘭お嬢様、これを持って行けば良いのですね?」

そう言って弁当の包みと茶葉と茶器の入った包みを持つと室外に向かってしまった

「申し訳有りません…」

そう詫びる春蘭に

「その様な他人行儀な遠慮は無用に願います」

そう言って笑う男になんと言えば良いのかわからず曖昧に笑う春蘭だった

風華達も里の子等に手を引かれ戻ってきたの見て春蘭が弁当を配ると

里の子等は見慣れない行楽弁当を羨ましがり

「え、一緒に食べようって?」

媛を見て言う美輝に笑いながら

「食べさせて…でしょうね、媛の場合は…」

そう春蘭に言われてむくれる媛を見ながら命が一人の少年を手招きし

「みこ、あんましお腹減ってないから食べて…」

そう言って渡され弁当を持って戸惑っていると長が

「命様には今茶粥を用意してますから有り難く頂きなさい」

そう言ってもらい喜んで弁当を開けると

「スッげぇーっ、皆で分け合おうぜっ♪」

その少年が言うと忍も

「私達の分も分けあいましょう」

そう言うと准騎士達も頷き

「私達には朝から食べるにはボリュームがありすぎますから助けて頂きたい量ですね?」

春蘭に言われて苦笑いを浮かべ頷くミナだった

「所で長様、命様はいつまでゆっくりなされるのですか?」

一人の老婦人にそう聞かれ

「残念ながら明日の夜までに地の精霊への奉納の踊りから豊作祈願、豊作の感謝の気持ちを奉納のする踊りを覚えねばならぬ命様はゆっくりとする暇は有りません…」

そう言われて

「長様…い、今なんと…」

驚きのあまり声の出ない老婦人に

「明日の夜、演舞台にて踊りを奉納せねばなりません命様は今この地に住まいし草の精様が一人の指導を受け奉納の踊りを会得中です」

そう聞いて

「ならば明日の夜は久し振りに奉納の儀式が執り行える?」

その言葉に反応し

「明日の夜までに完璧に舞えるよーになるから…」

そう言ってニコッと笑う命を見て既視感の様なもの感じ考えたものの長が何も言わないので何も言わない事にした

賑やかな朝食も終わりに近付き

「海斗さん、炎さん、この後一緒に釣りに行こうよ?

里の者しか知らない穴場に案内しますよ?」

と、言うと

「二人も釣りは苦手じゃ無いが海斗は里の外の者の中じゃかなりの木登り崖登りの名人だからあの木に案内してやれ

炎は草の実に煩い…と、言うかジャム作りが趣味の妹の為探して集めてるからな」

と、言われて何と無く照れ臭い二人の代わりに

「炎の妹蛍のジャムなら少し持ってますから後で味見をしますか?」

それまでボーッとしていた命が春蘭の言葉に反応し

「媛、またあれ作ってくれるの?」

そう言われて美輝の顔を見て考え込む媛に

「媛、お願い出来ますか?」

そうミナに言われては嫌とも言えない媛が渋々頷くのを見てホッとする春蘭はミナに感謝の意をすとミナもお互い様と返すミナ

「そっか…ありがと、媛…じゃあ、みこお稽古にもどるから…」

そう言ってフラッと立ち上がると広場に向かって歩き始めそれを見ながら溜め息を吐いて

「風華、そう言う事になりましたからユカ様に連絡をお願い出来ますか?」

そう聞かれた風華は

「はい、お任せください」

そう答えて立ち上がると天馬に股がりユカ達の下に向かって飛んでいった

食後、海斗は少年達に連れられて甘酸っぱい香りのする果実を実らせた大木達の林に案内された

「俺達には未だ上れないんだよね…」

そう自嘲気味に言うのを聞いて

「うん、確かに手掛かりが殆ど無いから厳しいね…」

そう言ってポーンと飛び上がると一番低い枝に掴まりそれを手掛かりに高く登り熟した実だけを撰んで篭に入れると半時程で大きな篭は一杯になった

「海斗さん、凄い…」

感嘆の声を上げる少年達に照れながら

「そ、そうかな?」

と、答える海斗だった

 

媛と少女達の大半が花摘に興じ一部の少女は炎と草の実を摘んでいたけど…

「あっ…」

と呟いては時折木の根方を掘ってはお宝を発掘していた

その成果を昼食を摂りに戻るまでに小さな篭一杯にそのお宝達が集まり長を呆れさせた

その大量の茸類に…

勿論里の子達と集めた草の実や薬草の量も半端無く

「又手伝いに来て欲しいくらいですね…」

そう長に言わせて溜め息を吐かせた炎だった

続いて戻ってきた海斗達も難易度の高い木の実を篭一杯に摘め他の実もその量からしたらかなりの努力を要した筈にも関わらず笑って戻ってきた少年達と海斗達を見て

再び溜め息を何度も吐く長だった

昼食をお腹一杯食べた炎と海斗を含めた少年達

あまり食欲の芳しく無い命

命の供の中で最も苦手とする大樹の居ない媛はいつもの倍近い食欲を見せ楽しい食事の時間とそれぞれに過ごした

デザートは媛の用意した粉雪のジャムソース掛けと翔に手伝わせたアイスフルーツ

で、最初は

「翔、良い所に戻って来ましたねちょっと手を…これ、どこに行くつもりですか?」

忍の言葉に悪い予感の翔が聞こえない振りして飛び去ろうとするのに気付き

「ち、ちょっと待ちなさい…」

焦る忍の声に気付いた命が

ー翔、いー物あげるから忍のユー事きーてあげて…ー

そう言われた翔は

ー良いもんて何やねん?ー

翔に聞かれた命は

ーこれ、翔の槍とでも言う翔の魔石の槍…ー

そう言われた翔は

ーはぁ?ボクにそないなもんどないせーちゅうんよ?ー

そう言われた命が

ー魔力で操るんだよ、雷精達が霊玉を操ってたみたいにねー

命にそう言われて

ー…………ー

と、考え込む翔は暫く考えてから

ーわかった、ボクに出来る事ならやったる…ー

そう言われて

「翔は確か冷却系の魔法が…」

ー交渉決裂、ボクの魔法は似て非なる物、冷却魔法は使えんで?ー

そう答えると

「冷却魔法が使えない?では貴方が以前使って見せた竜頭氷連山は何ですか?」

そう不信感も露に聞く忍に

ーあれはゆーてみれば青竜大瀑布の一形態、低温の青竜大瀑布とでも言うべきもんでボクの魔法は吸熱魔法

熱と魔力を吸い取るから凍結したりするだけで氷雨の精の巫女達みたく冷気を操るわけちゃうー

その説明についていけてない忍に

ー媛や留美菜は雪降らせられるけどボクは水や水分無いと気温が下がるだけやー

そう言われた忍は

「それでは雪玉を作れませんね…」

と、聞かれ

ー天気次第やね、霧雨が降っとれば霧雨から熱を奪えば雪になる

つまりボクの持っとる力は中途半端なんよー

そう話していると

「なら翔ちゃん…この草の実を凍らせますか?」

そう春蘭に聞かれ

ーそれなら出来るけどそんなもんでえーんか?ー

と春蘭に聞き返すと

「取り敢えずこの草ぶどうを凍らせてください」

そう言って差し出された草ぶどうに向かって息を吸うと徐々に凍り付き完全に凍結すると

「有り難う翔ちゃん、忍様…」

そう言って草ぶどうを一粒もいで渡すと受け取った忍が口に含むと驚いて

「こ、これは…」

と、感嘆の声を漏らすのを見て

「翔ちゃんには簡単でも私達には出来ませんからお願い出来ますか?」

そう言われた翔は

ーそれでもさっきのくれるんならやるー

そう翔が答えると

ー勿論あげるからお願いね、翔ー

そんなやり取りの末に用意された物だった

冷やされ凍結した草の実は余分な水分も奪われ自然な旨味と甘味が凝縮されている

「なんと贅沢な味わい…」

そう言って恍惚の表情を浮かべる長だった

 

命の午睡の夢世界…アクエリアスの結界で槍の扱いを習う翔

―先ずこの宙に浮く槍の止まり木みたいな突起に止まりなさい―

そう言われて相手が魔女の命である事に気付いて黙って言うことを聞く翔に

―槍の穂先に意識を集中しなさい―

言われた通り穂先に意識を集中すると何と無く奇妙な感覚に陥った

(なんやろ?例えてユーなら槍が身体の一部にでもなったみたいな?)

考え込む翔に

―ならば吸熱魔法を使うつもりで精神を集中なさい…―

言われた通りに集中すると槍の穂先から熱を吸い石突きから熱を吹き出し推進力にして動き始めた

―な、なんやこれ?―

翔のすっとんきょうな叫びに

―それが翔の槍の最大の特徴です―

そう言われて訳のわからない翔が

―はぁっ、意味ちぃーともわからへんのやけど?―

そう声を上げると

―翔の吸熱魔法は言わば変換魔法

熱、魔力を奪い自分の使う魔力へと変換しています―

そう命に言われ

―だからそれがどないしたんやちゅーねん?―

そう聞き返すと

―槍も穂先から熱を吸い石突きから熱を吹き出し推進力にして飛行可能となる

消費魔力が小さく大きな力を操れる可能性の高い…

それが翔であり翔の槍です―

そう説明されて

ーなんやよーわからへんけどボクの力てめっさセコいんちゃう?ー

翔のぼやきに

―何故その様に考えるのです?―

そう問われた翔は

―竜頭氷連山かて大量の水とみこ、アンタの霊玉が無けな放てん呪文

ゆーたら借り物の呪文やろ?

まぁその程度の小者なん位は自覚しとるからえーねんけどな…―

そうぼんやり呟き

―これ…使いこなせるんかな?ボク…

まぁええか…所でこっから出る出口はどこに有るんよ?―

そう命に聞くと

―みこが出る時を待つか自ら作るかのどっちかだよ、翔―

そう言われて

―はぁ?何ワケわかんないことゆーとるんよ?

ボクにアクエリアスの結界破れる訳無いやろ?アホな事ユーとらんでさっさと出口教えんかい?―

そう文句言うと

―なら、みこのお稽古終わるの待ってて―

そう言うと歌と踊りのお復習をこなし新しい踊りの稽古をこなす間

ただボーッとして待ってても仕方無いので翔も槍の修業をしながら待った

夕食は春蘭とミナも手伝いいつもと同じはずの食事の準備を楽しい時間に変えた

翌日も各々に許された時間を有意義に過ごし夕方近い頃

「長様、奉納の儀式の前に禊を済ませたいのですが相応しい場所はございませんか?」

命にそう問われた長は

「演舞台の裏に在る小さな滝が相応しいでしょう…

演舞台の演者達もそこで禊を済ませ舞台に望んできましたから」

そう教えられると

「わかりました、春蘭、ミナ舞台の支度を始めます

それと本日の進行について説明しますからメモを取りなさい」

そう言われて皆が見守っているとそれは大きな大きな蓮の蕾でやがてそれはゆっくりと花開き始め

「命様がいらっしゃる…」

その言葉通りに蓮の花の中央で命が踞っていた

長が鼓を打ち始めると命がスーっと立ち上がり地の精霊への奉納の踊りを舞い

続いて豊作祈願と豊作の感謝の気持ちを奉納する踊りを舞い未だ慣れない踊りに命が一息ついた

長も鼓を打つ手を止め合図すると一部の女達が下がり料理を運んできたのを見て命が舞台に居るのに?

そう考え戸惑う男達の反応を事情を知る女達がにやにや笑いながら見ている中

「奉納の儀式は終わり今からは歌う人魚姫の歌と舞いを見ながらの懇親の宴

精霊の巫女達とその騎士達とのこの出会いに感謝し充分にこの宴を楽しみなさい

それが水の精霊の巫女にして歌う人魚姫様のご意思です」

そう長が一同に告げると再び踊り始める命は水の精霊への奉納の踊りを舞い

航海の安全祈願、航海の無事を感謝する気持ちを奉納する舞い踊り続いて大漁祈願、大漁の感謝を奉納する踊りを舞い竪琴を受け取り…

アンコール二曲を含めた全十曲を歌い上げ舞台を降りた

舞台を降りるとミナの膝は既に媛が占拠しており春蘭は長達と難しい表情で話し込んでいる

「ぁ、ありがとね…どうだったかな?みこの新ー演出は?」

裏方をつとめてくれた男に声を掛ける命に

「久し振りの舞台の出番を与えての頂き感謝の言葉も有りません

演出は妖精の様な命様に相応しい物でしたよ」

そう答えて貰い嬉しそうに

「えへへ、そーかな?」

そう照れ笑いしながら

「又踊りに来るね」

そう言って忍の下に向かう命とその忍に

「やはり戦士の貴女にはお酒がないと物足りないのでは有りませんか?」

香りの良いお茶を差し出しながらそう話し掛ける女性に

「呑めない私は命様の供として王都を出て以来宴の時はいつも裏方の手伝いに逃げてましたから…

始めてなんですよ、酒を断る言い訳を考えなくても良い宴は」

そう答えると

「そう何ですか?まぁこの里には薬用に使う酒しか有りませんから望まれても困りますけど…」

苦笑いで話すのを聞いた命が

「うん、忍ってば甘酒ってゆーの?あれ飲んでお顔真っ赤だからお酒呑めないんだよ」

そう言いながら忍の膝に腰を下ろす命を見て

「命様、宜しければこちらにいらっしゃいませんか?」

忍と話していた女性が自らの膝を指し示すと首を傾げながら

「良いの?」

その女性と忍の顔を見比べて聞く命に

「勿論命様が座ってくだされば良い思い出になりますからね」

そう言われて忍もうなずくのを見た命はそっと立ち上がりその女性の膝に座ると

「さぁ命様は何をお召し上がりになりますか?」

そう聞かれてテーブルに並ぶ料理を見て

「あれが良い」

そう言って指差したのはこの辺りではありふれているものの他所では余り見掛けない根菜の煮物―

そう答えると美輝がそうしている様に命にも一人の少女が寄り添い甲斐甲斐しく食事の手伝いを始めた

 

「長様、こちらのお嬢様はどちら様でしょうか?」

そう聞かれた長は笑いながら

「この娘の顔を良くご覧なさい

髪と瞳の色に惑わされてどうするのですか?」

そう言われて改めて春蘭の顔を見て考え込む女性達の一人が

「えっ?」

と呟き長の顔を見て

「長様の若い頃に似ておいでですが…」

そう呟き首を傾げるその老婦人に

「私に娘は居りませんが決して他人のそら似ではありませんよ?」

そう言われてやっと気付いて

「もしや美紅様の?」

そう長に訪ねると

「そう、私の妹美紅の娘ですよ」

愉快そうに告げ

「今私達が味わっているお茶も美紅が調合した物をこの春蘭が淹れてくれた物です」

そう答えると

「確かに髪や瞳の色の違いだけで貴女達姉妹の若い頃に良く似た面差しに気付けないとは…歳は取りたくないものですね…」

そう言いながら改めて春蘭の顔を見詰める老婦人

 

宴の終わりの時を迎え媛を抱き抱えた美樹が長の前に来て

「長様…いえ、叔母様…私、媛の側に居たい…命様のお側でお支えしたい」

そう声を上げると他に四人の少女と三人の少年達も僕も私達もと声を上げ

「海斗さんに聞いたんだ

准騎士の皆さんが騎士の家柄の生まれじゃないって

だったら僕達だって夢見ても良いですよね?騎士になりたいって…」

少年の一人が言うと

「私達は親の許しを得ぬ者を連れてはいけませんしまして私の母がしたように貴女達に里抜けの罪を犯して欲しいなど考えません」

そう答える春蘭の肩に手を起き

「この子達の親の了承なら得てる筈ですね?」

そう長が問うと後ろに控えた両親達が頷き

「美輝、里の掟を言いなさい…」

そう言われた美輝の表情が曇り

「光輝く者が導く日までこの地に隠れ棲むのがこの里に生を受けた者の定め…」

そう辛そうに答える美輝に笑顔を浮かべ指差し

「貴女達にはあの方の放つ輝きが見えませんか?」

そう長が指差した先を見ると眠りに落ちそうな命が居て

「では…長様は命様がその?」

と聞かれ

「四人の若き騎士や巫女達を導く命様は導く者だと思います

今更里を出たい等とは考えませんが命様の訪れこそがこの里の戒めを解くもの判断し貴女達が里を出る事を許しましょう

ただし、今は未だ幼い故貴女達の弟や妹達の同行は許しません」

そうきっぱり言われてがっかりする幼い子達に

「西の大公家が再興しますから焦らなくても機会は未々ありますよ」

春蘭に言われて長を見ると

「今回は諦めなさいと言ったまでです」

長の言葉にホッとする幼い子達

「春蘭、この子…美輝に色々教えて上げてください

何故ならこの子は貴女の従妹で私達の亡き弟の忘れ形見なのだから…」

そう言われた春蘭は驚いたものの

「わかりました、美輝は末の妹として扱いますが…雪華が一番喜ぶでしょうね

幼い頃は妹か弟を欲しがってお父様とお母様を困らせてましたから…」

そう笑って話し

「そして貴女達は妹のお友達も喜んで迎えましょう

ですから旅の支度と別れの挨拶はしっかり済ませなさいね」

そう言われた少年、少女達は一斉に

「はいっ!」

と、答えて夜の宴は幕を閉じた

 

翌朝旅立つ我が子達に自分達には叶わなかった里を出る夢を乗せ晴れやかな笑顔で見送っていた

海斗は少年二人に炎は少年と美輝に媛のを乗せ風華が少女二人に巨大化した翔が残り全員を運ぶ事になった

里の麓に降り立つと大樹が馬車で既に待機して居りそれを見た命は

「炎…今度は炎の番だよ、翔も荷物お願いね…」

そう言って送り出し

「風華、忍をお願い…春蘭とミナは馬車の寝台で休憩皆は馬車で座ってねみこは海斗と行くからね」

そう言って久し振りにシーホースに乗る命を溜め息をついて見る忍と春蘭だった

暫く走らせた後海斗に

「海斗、皆に話し有るから休憩にしよう…」

そう言ってシーホースに止まってもらうと

「大樹はこのまま皆を連れて先に戻って、風華も皆を頼むね

忍はみことシーホースに乗ってみこを呼ぶ声に導かれそれが何なのかを確かめに行く」

そう言われた春蘭とミナは

「なら私達の同行もお許しくださいっ!」

そう言われたけど命の返事はつれなく

「生まれて始めて里の外に出た皆にいきなり夜営させる気?妹なんでしょ?ちゃんと見てあげなきゃダメだよ

それに敵の気配は無いし忍と海斗に草の精も一緒だから大じょーぶだよ」

そう答えると余り信用できないのが常日頃の命の言動だけどこの場合の命の言葉を疑うことは忍も当てに出来ないと言っているにも等しい

そう考え忍を見ると忍も春蘭を見て互いに頷き合い

「ならば命様、くれぐれも単独行動は慎んでくださるようお願い致しますね!?」

春蘭にそう言われて

「うん、草の精も闇の気配は感じないけどみこの警護に忍がいた方が良いってゆってる」

そう言われて溜め息を吐くと

「だそうですから忍さん、命様の事宜しくお願い致します」

そう言って渋々ながら大樹の案内で北の町を目指す春蘭達を見送り

「じゃあ、みこ達もいこか?海斗お願いね」

そう言ってシーホースに再び騎乗し先に進む事にした

 

旧街道らしく余り整備されていない路面はかなり荒れていて普通の馬にはかなり厳しい行軍になっていたのは間違いない

「命様、この先はもう少し行くと行き止まりの筈だけど…」

そう命に告げる海斗に

「問題ないよ…そこにみこを呼ぶものが居るんだからね…」

そう命に言われ何も言えなくなる海斗と命を見て考え込む忍

(命様を呼ぶものとは一体何者?)

その答えは程なく姿を現した

―私の名はスピカ、麦の穂とも麦の精とも呼ばれ豊穣の女神に支えし者でした

我が呼び掛けに応えし舞姫よ…

自ら光を閉ざし眠りに就きし我が主人

豊穣の女神を今再び目覚めの時を迎えさせる舞いを奉納する事を頼めませんか?―

そう言って頭を下げるスピカに

―舞って下さい、我が友スピカの為…この地に再び豊穣の女神の祝福が与えられる為にも…―

「忍、闇の気配は有りませんが奉納の踊りを舞う間の警護を任せます

海斗は一旦春蘭達の元に向かい事情を説明して食糧を分けてもらってきなさい」

そう指示を与えると地の精霊への奉納の踊り、豊作祈願、豊作の感謝の気持ちを奉納する踊りを舞いそれを何度も繰り返した

忍と海斗が見守る中夜通し続いた奉納の踊りが日の出を迎える頃

―何故私を呼び覚ます?驕れし人間達が私達を見失い敬いの心を忘れた故私も眠りに就いたのです

私達を必要としない者達に干渉すべきではないはず?―

そう言われて

「そんな昔話しみこ知らない

みこはスピカと草の実の精が貴女を起こして欲しいっゆーから奉納の踊りを舞っただけ」

そう豊穣の女神に答えると

―では貴女には私の目覚めの必要は有りませんね?―

そう問われた命は

「考えた事無い…

大漁祈願は留美菜やりんのお父さんやお母さんが喜ぶって分かりやすい理由が有ったけど…

豊作祈願はそれ自体が良くわからない…

喜ぶ人を知らないだけかもだけどおバカなみこには具体例が無いと理解しきれない」

そう答える命に

―我が主人よ、私が望だけでは足りませんか?―

そう言われて考え込む豊穣の女神に草の精も

―この時代に貴女を呼び覚ます理由はもうひとつ

依り代…貴女様の器になる乙女が生を受けたからに他なりません

目覚めの時を迎えたのですよ、我が主人…―

そう言われて

―そうですか…………わかりました、シーホースの騎士よ私を依り代の元に送って欲しい―

暫く考えてから女神がそう答えると

「海斗は春蘭を連れてユカ達の元に案内してから王都にお二方を陛下の元にご案して差し上げ毛てください

私と瑞穂はここで待機してますから手の空いてる者を迎えに寄越すように伝えるのも忘れずに頼みます」

そう命に指示を受け

「承知しました、お任せください命様…お二方を陛下の元にご案内致します」

そう答える海斗に

「よしなに」

そう答える聖霊スピカとおうように頷く豊穣の女神がシーホース中に潜り込む二人を確かめると

「それでは命様、行って参ります」

そう告げると春蘭を乗せ北町を目指す海斗だった

 

 

 



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火の精霊の巫女とその騎士…そして四人の若き騎士達(見習い)

命を賭けて地からを得た若者達…小魔をあっさり払いのけて見せた海斗の実績に准騎士の称号を得た四人
そして火の精霊の巫女に己のうんめいをみいだしたほむらは…


18章 北の町の喧騒と賑わい

 

 

①チサと炎と翔と女神の依り代

 

荷物を預かっている為今回もチサの部屋に直行出来なかった翔

おまけにユウに捕まりサロンから出るに出られないでいる

それにさっき見せられた

「チサ様、俺なんかじゃ役不足の力不足は承知してますけど俺の騎士の誓いを受け取って貰えませんか?」

そう申込み有ろう事かその申込みを

「勿論喜んで受け取ります

側に居れない私の分まで水の精霊の巫女を…

みこちゃんを守って上げてくださいね」

そう言われて嬉しそうに笑っていたのが何故か面白くない翔

「これらの薬草は薬師の里長様から春蘭様のお母様にとお預かりした物

これらは皆で採った薬師の里の山の恵みです」

そう言って差し出すと

「貴方に持たせる荷物纏める間薬草を春蘭達の実家に持っていって欲しいのですが…

チサに案内させますからしばらく待ちなさい」

そう言われて

「な、何故王女のチサ様がその様な使いをするんですか?」

狼狽えて言う炎の声を聞いて

「私とじゃ行けませんか?」

悲しそうな声で言われてさらに狼狽える炎は

「そ、そんな事は決して有りませんっ…俺なんかの案内等申し訳無いだけですっ!」

そう叫ぶ炎に

「ならなんの問題も有りませんからチサ…焔馬に乗せてもらいなさい」

そう言われて送り出された二人だった

ユウから逃げ出した翔はチサの部屋の窓からその様子を眺めていた

チサが嬉しそうに炎の手を借りて焔馬に乗るところを

「珍しいですねいつもの貴方ならチサにべったり貼り付いて離れない癖に…」

「良いの?あの二人を二人っきりにしてもさっ♪」

からかわれているのは丸わかりと言うか隠す気の無い二人に

ーはぁ?ボクは真琴とちごて女の子口説く趣味もってへんで?

チサ様は大好きなお姉ちゃんみたく思てるだけでボクかて一応女の子なんやで?

全く…お姉ちゃん男に取られたみたいでムッとしとるんやからアホなことゆーてくるなや、マジムカつく…ー

そう言い捨てると何処へともなく飛び去る翔だった

 

「初めて乗るけど馬車よりゆれないんですね?」

そのチサの言葉に

「いいえ、普通の馬はも

っと揺れますよ…

これはあくまでも焔馬様だからこその乗り心地ですから

「そうなんですか…私は未だこの国に来て間も無い事も有りますけど余り出歩く機会が無くて…

良かったら帰りは少し遠回りして貰えませんか?」

そうチサにお願いされ

「わかりました…王都に来たのは初めてじゃないけど空を飛んできたのは初めてで来る時見付けた絶景を見て頂きます」

そう炎に言われて

「本当にぃっ!?」

そう言って顔を綻ばせるチサの顔を見ながら

「本当に、チサ様が気に入ってくれると良いですが…」

そう二人で話ながら元市長の邸宅に着くと門番が出迎えたので

「チサが男爵夫人に面会希望とお伝え願えませんか?」

そう言われた二人の男は目立つチサを見間違える筈もなく

「俺は夫人にお知らせするからお前は手綱をお預りしろっ!」

そう言って駆け出す男を見送り手綱を預け玄関に向かう焔馬に揺られるチサと炎

 

焔馬が玄関に着くとチサの訪問を知らされた夫人に出迎えられ

「チサ様がいらっしゃるとは聞いて居りませんでしたが一体何が?」

そう聞かれたチサは

「観月姉さんが私に誓いを立ててくださった霊獣の騎士様と出掛けて気分転換をしなさいと気遣ってくれただけです」

そう答えると焔馬から飛び降り

「お嬢様の春蘭様にはいつもお世話になっている炎と言います」

そう言って頭を下げ

「今日は薬師の里長様からお預りした薬草をお持ちいたしました」

そう言って先ずチサの手を取り焔馬から下ろすと鞍から薬草の入った袋を外して見せ

「指示していただければそこまでお運びしますから遠慮無く言って下さい」

そう炎に言われたので

「では遠慮なくこちらに…」

そう言って調剤室に案内し机の上を指し示し

「中身の確認は後で致しますからそちらにお願いします」

そう言って置いてもらった

二人が調剤室から戻ると立っているチサに

「座って待っててくだされば良かったのに…

お茶を淹れますから座ってお待ち下さい」

そう言われたチサは

「その…お手伝いと言いますか男爵夫人様の調合したお茶の美味しい淹れ方を教えてはいただけませんか?」

そうチサに言われて驚いたものの

「わかりました、ではこちらにいらしてください」

そう言って厨房にチサを呼ぶと

お湯の温度から始まり細かく説明するのをメモを取りながら聞くチサの横顔に見惚れる炎

その後暫くは二人に命達の旅の様子を聞かれ話をしていたけど昼食時を迎え

「お二人の食事の予定はどうなってますか?」

と、聞かれて

「私は特に決まってません」

チサがそう答えると炎は

「俺はチサ様を王宮にお送りした後命様の元に戻るから食べられる物を途中適当に探して食べます」

そう答えると

「それではもし宜しければ私と一緒に召し上がって行かれてはどうですか?」

そう言われた炎は

「チサ様がお望みならお食事が終わるのをお待ちしますよ」

そう答えると夫人に

「貴方はどうするのですか?」

そう聞かれて

「半人前でも騎士の端くれ、チサ様のお食事の間は警護に立ちますよ?」

そう胸を張って答えると

「バカね、炎…夫人様の聞かれてのは貴方は食べないのですか?

と言う事なのよ?」

笑いなから告げるチサに

「あ、えーと…俺とだとチサ様に恥を掻かせる事になりますからね…」

そう情けない顔で言うと

「みこちゃんとは一緒に食べてるのに?」

チサに拗ねて言われた炎は

「同じ場所と言う意味なら一緒だけど俺と大樹、海斗は食事の作法がなってないと言われてミナ様とミナ様の膝に座る媛の五人は別卓でミナ様の厳しい指導を受けてるとこなんですよ

強さだけではなく騎士としての作法を身に付けなさい、騎士と戦士は違うのですからねっ!

ユカ様にそう厳しく言われてまして…」

そう苦笑いしながら言う炎に

「たまには良いと思いますよ?私も今日は慣れない王女で有ることを忘れますから…」

そう笑いながら話すチサに

「そうですね…命様は器用に王女で有ることを忘れ去りますから」

と言う

「その話を観月姉さんやお母様が聞いたら頭を抱えそうですよ

いかにもみこちゃんらしい話ですけどね…」

そう言って溜め息を吐くと

「わかりました、では二人の門番の食事と合わせ五人分支度しますね」

そう言って席を立つ夫人に

「夫人様、お手伝いします」

そう言ってチサも席を立つ立つと

「王女様にその様な…」

そう言って恐縮する夫人に

「私はさっき王女で有ることを忘れますからといいましたよ?」

そう笑いながら言うチサに

「そう…でしたね…チサちゃんは料理を習ったことは?」

そうチサに問い掛けると

「お菓子作りは良くしますけど料理はお野菜を刻んだことがあるくらいです

だからちゃんと覚えてお父様やお母様に食べて頂きたいなって…」

そう言って舌を出すチサに

「わかりました、では今日は両陛下に出しても恥ずかしくないけど簡単な料理をお教えしながら作りましょう」

と、言う話しになり炎が

「あ、あの…俺にお手伝いすることはないですか?」

そう言って立ち上がると

「そうですね、特に力の要る料理を作る訳ではありませんから…」

そう夫人に言われた炎は

「いや、別に料理じゃなくてもチサ様がお手伝いしてるのに俺一人座ってるのに耐えられませんから…」

そう答えると

「なら炎君は草むしり…」

そう言い掛けるチサを止めて

「炎君は木登りは得意ですか?」

そう尋ねる夫人に

「はい、結構得意ですが?」

そう炎が答えると

「門の側に実の着いた木が数本有ったのは気付いてますか?」

そう聞かれて

「はい、食べ頃の実がかなりありましたね?」

と言う言葉に

「なら私が貴方に望む事も気付いてますね?」

そう言われて

「はい、篭はありますか?」

そう夫人に聞くと

「こちらに…」

そう言われて再び薬草の調合室に案内され納戸を開けると大きな篭が最上段に置かれているのに気付いた夫人が

「脚立を持ってきます」

そう声を掛けると

「いいえ、大丈夫です」

そう言ってスッと飛び上がると丁度こちらを向いていた背負い紐に腕を通し着地すると

「この篭に入るだけで良いですか?

見た感じこの篭に収まりきるかきらないか位の実が食べ頃な感じだけど?」

そう言われた夫人は

「なら入りきらない分は気にせず食べ頃だけを摘んで下さいませ」

そう言われた炎は勇んで樹に向かった

二人が料理を終える頃木の実を取り終えた炎が戻ってきた

篭の中には炎の見込み通りに山盛り状態で

「取り敢えず低い枝の実を残してとりました」

そう報告すると目を丸くした夫人が

「もう篭を一杯に?」

そう言われた炎は

「これ位は命様の祝福を受ける前の海斗でも朝飯前です

アイツは実の選別と剪定の手際が凄いんですよね…元々身の軽い奴だし」

そう話す炎に

「じゃあ炎君の特技は?」

そうチサに問われて

「俺は茸とか草の実…香草も得意かな?

大樹は魚釣りが得意でそっちじゃ名の知れた釣り名人で…

風華さんは実は元狩人で弓の名手の親父さんに弓を仕込まれてるから弓の名手なんだ」

そう話す炎に

「ご苦労様、貴方達が訪れてたお陰で一人寂しい食事が思いがけない楽しく過ごせそうです

さぁ貴方も腰を下ろして食事を始めましょう」

そう言われて共に過ごした昼食の一時

「炎君は媛の事をどう見てますか?

風華さんは臆病で人見知りする子と言ってましたけど…」

食後のお茶を飲みながら媛の事が話題になった

「大樹程じゃないけど俺も海斗も警戒されて目も合わせてもらえないから…

基本的にミナ様の側にべったりで他に留美菜と美輝…

確か春蘭様の従姉に当たる子ときいてますがその三人の誰かの側にいますが…

命様とよくミナ様の膝を取り合ってますから決して気が弱いわけじゃなく用心深い子とも言えます」

そう話す炎に

「姉には男の子しかいないはずでは…」

そう呟く夫人に

「はい、長様が亡き弟の忘れ形見と仰ってました」

そう炎に言われて

「そうでしたか…やはり弟はもうこの世には…」

そう呟くと項垂れる夫人に何と声を掛ければ良いのかわからない二人だった

土産に春蘭と王妃にお茶の葉と先程摘んだ木の実、妹達に木の実を預かると夫人と門番達に見送られると敷地を出て暫く歩いた後宙に浮き王宮とは違う方向に進路をとった

北西に向かった焔馬が暫く飛ぶと森に囲まれた小さな湖が在り…

西に傾く夕陽に森と湖が真っ赤に染まっている

その景色を目を潤ませ眺めるチサに向かい

「そろそろ帰りますね」

そう告げると

「有り難う…炎君、こんなの始めて見ました…」

そうお礼を言われて

「チサ様が喜んでくれて俺も嬉しいです」

そう答えて焔馬に合図して王宮に向かって貰い日が沈みきる前に何とか帰り着いた

 

「炎です、入ります」

王宮に戻ってきた炎は観月の呼び出しを受け王女宮の三階の客間の戸を叩いた

「入りなさい」

観月のその呼び掛けに

「失礼します」

そう答えて戸を開けて中に入ると開口一番

「夕暮れ迄チサ様を連れ回し弁解の余地は有りませんから如何様な処分も受けるつもりです」

そう言って頭を下げる炎に

「チサに頼まれたのなら問題有りませんし近頃塞ぎ混み勝ちなチサの表情が明るさを取り戻させた貴方には褒美を出しても良い位です」

その言葉に

「褒美をと仰って頂けるのならチサ様の騎士になりたいです」

その言葉に一瞬蔑みかけた気持ちを抑え続きを促すと

「一応チサ様に騎士の誓いを受け取って頂いたけど半人前の俺じゃ真似事と言われても言い返せません

それにそんな事悔しがる前に言い返せる自分に…

 

だからまずは己を磨きチサ様をお守りする騎士だと胸を張って言える自分になる事が先なんじゃないのか?って思うんです

だから俺同様にフレア様の…チサ様の祝福を受けた方に稽古を着けて頂きたい…鍛えていただきたいとそう思う事は我儘でしょうか?俺は強くなりたいんです」

炎にそう訴えられた観月は

「歌の女神奪回の戦いを間近に控えた私達にも力の有る戦士が一人でも多く必要な今…

貴方にやる気があるなら修羅に鍛えてもらい強くなりなさい自分の大切な者の為に

それに彼女も貴女を鍛えてみたいと言ってましたからね

吽、ユカに明日の朝風華をこちらに寄越すよう伝え風華は沙霧、炎は修羅に鍛えさせ…

そちらでは瑞穂は海斗、忍が大樹を鍛えなさいと伝える様に」

そう吽に指示を与え

「炎は今日より兵士の寄宿舎に在る女神の騎士団用の部屋で寝起きをしなさい

修業の進捗率によってはチサのお供の外出も許しますから頑張りなさいね

吽、炎を女神の騎士団の部屋に案内して下さい」

そう言われて

「ユカが日の出前に送り出すと返事したそうです

炎、ついてきなさい」

そう言われた炎は

「すいません、このお茶の葉を王妃様に…この木の実は春蘭様の妹の方達に

そしてその両方を春蘭様にと預かりましたが…」

そう炎に言われて

「わかりました…マキは伯母様と弥空に

ユウは炎に支給品を用意し手渡しなさい」

そう言われた各人が部屋を出ていくとそれまで気配を消し隠れていた修羅が姿を表し

「炎、使えそうですか?」

観月にそう聞かれた修羅は

「多分…私が隠れていた事にも気付いてた様ですし…」

そう答えると

「なら炎は任せます」

観月にそう言われて

「急がねば中途半端な状態で戦場に駆り出さねばなりませんからね…」

そう呟く修羅に

「そうですね、勝利は勿論被害は出来るだけ小さくしたいですからね…」

そう絞り出すように言う観月だった

 

夜が明けまず風華が姿を見せ次いで

「緊急の用件があって国王陛下にお目通り願いたい」

と、言って王宮に現れた海斗に

「たかが准騎士の分際でっ!」

と息巻く貴族騎士達を制して

「その方の要請なんだね?」

偶々騒ぎを聞き付けた真琴が海斗の誰も居ない背後を見ながら聞くと

「はい、僕にはまだまだこんな大それた事を考え着く度胸はありませんから…」

そう苦笑いしながら言う海斗に

「わかりました…私が案内します、ついてきなさい」

そう海斗に告げると先に立ち謁見の間に向かう真琴

滅多に朝の謁見には立ち会わない真琴が准騎士の海斗を伴い姿を現したのに驚く国王に

―司祭の血を引きし歌の女神の部の民の長よ

貴方に面会を求めたのは私です―

海斗の背後が光だしやがて人の姿をしたそれが語り始めた

「貴女様は?」

その国王の問い掛けに

―私に固有の名は無いがかつてお前達人の子は私を豊穣の女神と呼んでいた―

そう豊穣の女神が名乗ると

「その女神様が如何なる用件で我等の前にお出でになられたのでしょうか?」

そう国王が尋ねると

―豊穣の女神たる私が為すべきは大地に五穀豊穣の恵みをもたらす事

水の精霊の巫女の要請故に今一度人の子等と共に現世にてその力を振るう事にしましたがその為に…―

そこで言葉を区切り十六夜の背後に隠れるユイの前に移動すると

―この娘が居るからこの地に…王宮に来た…この時代の我が依り代、我が器たる乙女に会いに来たのです―

そう告げると

「な、何故私なのですか?」

恐れおののきながら問うユイに

―それは私より高位の神々と貴女の魂の契約ゆえ私には預かり知らぬ事です

私が知るのはただ貴女が我が依り代であると言う事実のみ―

そう宣言すると

「私にその様な重責を担う自信はありません…」

怯える声で言うユイに

「ユイ、貴女が私の元に現れたの偶然じゃなかったのです

大丈夫、貴女は一人ではありませんから…共に女神の依り代として…そして…」

観月と視線を会わせた十六夜が頷いて

「僕も君を守ろう、愛しい人よ」

そう言ってユイの身体を包み込むように抱き締め

「豊穣の女神様…この僕に貴女の依り代を妻として迎える資格は有りますか?」

そう問い掛けると

ー私からの条件は西の大公家の再興と貴方が大公となる事…ただそれだけですー

その女神の言葉に

「それならば再興の話を急がなければなりませんな?女神様」

国王がとえば

ー地の精霊への奉納の踊りに豊作祈願と豊作の感謝を奉納する踊りにより長き眠りより目覚めさせた…

水の精霊の巫女の舞姫の舞いでこの後の豊作は約束されたも同然…

それを貴女が我が依り代となる事で確固たるものとしなさい

ただ案ずる事は有りません…精霊巫女達の様に依り代には力の行使は有りませんから必要な時は私が守りますし…ー

そう言って真琴を見ると

「それは戦士である僕達の役目、そうだろう海斗准騎士?」

そう言われた海斗も

「二人の女神の依り代様達と精霊の巫女様達の為に戦う騎士になる事こそ僕達の希望と思ってます」

騒ぎを聞き付けた鬼百合達も

「みこ達の大切な者の一人のお前はアタイ等が守るから安心して引き受けな」

鬼百合が言うと仲間の戦士達と王国の騎士達も頷いた

「私はやはり自信はありません…ですけどかつて幼かった観月様は自信が有ったから美月の主になられた訳では有りませんよね?」

そう問われた観月が静かに頷き

「お母様亡きあとせねばならないことでしたから…」

そう答えると

「それは今豊穣の女神様を受け入れ女神の依り代になるのも同じ事ならば…私をお導き下さいませ、豊穣の女神様…」

やっと受け入れる覚悟を決めたユイがそう答えると

ー司祭の血を引きし者達よ、共に祈りなさい

我が依り代の為、この地の五穀豊穣を願うため…ー

そう言われ祈り始めた人々を見て微笑みを浮かべるとユイの中に入っていった

その影響で意識を失ったユイの身体を抱き上げる十六夜に

「今日はもうよいから下がって休ませなさい

観月、この件に関しても美月の協力を頼む事になるだろうが構わぬだろうか?」

そう国王が問い掛けると

「勿論喜んでお手伝いしますよ、国王陛下」

そう観月が答えると

「僕達に出来る事を手伝わせて欲しい」

真琴が言うと翼とチサも頷き

「勿論私達にもお手伝いさせてください」

そう翼とチサも言うと

「勿論お前達も妹として、精霊の巫女として色々力を貸してもらう事になるだろう…

だが、それはそれとしてこのざわついた状態では謁見どころではなかろうから例のあれをしてはどうだ?観月よ」

そう国王が言うと

「そうですね…ユウは私の部屋から例の物を、ユミは三人に支度をさせユキは海斗に持たせる大樹の物を準備しなさい」

と、指示を与えると

「なら僕もあれを持ってきます」

真琴もそう言って謁見の間を出ていった

「お父様、一体何が始まると言うのですか?」

翼が国王に尋ねると

「大樹は居ませんが風華、大樹、炎、海斗の准騎士の昇任認証を行います

これにより名実共に大公家公女宮所属の准騎士となる訳です

翼は今夜伯母様と夜会に招かれてましたね?

風華を伴の騎士として連れて行きなさい、風華にそれ以上の褒美は無いでしょうからね

チサは後日炎に付き合い炎の故郷に赴きなさい、炎の主人として」

それを聞いた翼が

「その時は私も風華と行っても構いませんか?」

そう言われた観月は溜め息を吐いて

「ダメとは言えないでしょう?

未だいつとは言えませんが二人の修行の進み具合ですね…」

等と話していると准騎士の正装を着た三人を連れたユミが戻り真琴、ユウ、ユキの順に戻ってきた

「諸卿等には申し訳ないが今暫く付き合いを願いたい」

国王がそう告げると

「風華、炎、海斗、観月様の前に立ちなさい」

ユウがそう三人に呼び掛けると三人が観月の前に並び立つと

「今この場には居ませんが大樹を含めた貴方達四人の准騎士の昇任認証を取り行います」

そう観月が宣言するとユウから紀章預かった真琴と翼、チサが観月の元に行き翼とチサは観月の隣に並ぶと

「観月姉さん」

そう言って紀章を渡し

「翼とチサも」

そう言って二人にも紀章を渡し脇に避ける真琴

「海斗は観月様の前に、風華は翼様の前に、炎はチサ様の前に別れなさい」

そう言われた三人がそれぞれの相手の前に立つと三人の服の襟元に紀章を着けると

「海斗、大樹の分を預けますから命に着けさせなさい」

そう言われた海斗は感極まって

「観月様…僕の女神様っ!どうか未熟者の僕の誓いを受け取って下さい…」

そう思いの丈を告白すると

「貴方の誓いを受け取りましょう

ですが今暫くはみこの警護を任せます

それと祭典の際の活躍期待しますからね」

そう言われて貰い喜ぶ海斗に

「海斗、これは僕の白い勾玉を埋め込んだ剣鉈で君と大樹の分だ

魔力で強化された切れ味は保証するよ」

そう言って渡し風華と炎の二人にも渡した

「風華は今夜夜会に招かれている翼の伴をしなさい、炎は…」

と、言って炎を見る観月に

「お前はアタイ等が祝ってやるしチサも来るよな?」

そう言われたチサも

「はい、勿論私がお祝いしてあげないと…」

と答えると

「海斗、お前は食材持たせるから向こうで料理して貰って大樹と一緒に食いな」

そう話すのを見ながら

「父上、人が力が集まりつつ有りますね?」

そう十四夜に言われた国王は

「全て命が連れてきてくれているのだな…」

そう呟くと

「この国に運命と戦う力をもたらしに来てくれた精霊の巫女…ですね」

そう答える十四夜だった

 

 

 

②大樹の晴れ姿

 

特に見所の有るわけではない歌の国有数の穀倉地帯である北の町の宿屋は…

穀物の買付に来た商人か湯の町に向かう旅人が一夜を過ごす場所でしかない為基本的に素泊まりの宿である為

「ユカ様、海斗さんの分はどうしましょうか?」

そう美輝に聞かれたユカは

「お昼前後には到着するはずと吽様から連絡があったと聞いてますから用意します

朝も簡単な物で済ませてるからたっぷり用意しておきましょう」

そう話していると外から海斗の声が聞こえてきた

「大樹、ユカ様は何処?」

そう聞かれた大樹は

「調理場に居られる」

そう答えると

「じゃあ手伝って」

そう言って荷物を手渡し二人で調理場に向かう事に

「ユカ様、これは鬼百合様から頂いた肉や魚です」

そう言って荷物を邪魔にならない所に置くと中身を確かめるユカに

「春蘭様はどちらに?」

と、尋ねると

「春蘭は、ミナ、留美菜、りんと裏庭で媛に踊りの稽古を着けてもらってます」

そう聞いて驚いたものの

「じゃあ預かり物があるから渡しに行きます…

と、その前に大樹…これは真琴様から頂いた剣鉈だよ

真琴様の勾玉が埋められた物だから使うのが楽しみだね?

それとユカ様はこれ、観月様が大樹の准騎士の紀章だから命様に着けさせなさいって…」

そう言って渡すと

「海斗達はあちらで認証式を済ませたのですね?」

そう聞かれた海斗は

「はい、だから大樹はこちらでしてあげるよう伝えなさいって…」

そう答えると

「わかりました、海斗はこの町の偉い人にこの話を伝え食後に行う認証式に参列していたたけるように伝えてきなさい」

そう指示された海斗は

「わかりました、春蘭様に荷物を渡したら行ってきます」

そう返事して大樹から荷物を受けとると

「じゃあ大樹、又後でね

失礼します、ユカ様」

そう言って海斗が調理場を出ると

「じゃあ俺は薪割りの続きをします」

そう言って調理場を出ていった

その二人を見送ったユカは

「これで四人も正式に大公家の准騎士の仲間入りですね…」

と、呟くと

 



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雷精に選ばれた少女と赤い霊玉を飲み込んだ魔鳥

仲間や知人達に准騎士昇進を祝ってもらう二人の少年達と力を取り戻した雷税は一人の少女を巫女に選び時同じくして赤い霊玉と戯れていた翔は誤って飲み込んでしまい…


「りゅう達の番は未だなのでしょうか?」

その春菜の呟きを聞いたユカは

「それは人の子に過ぎない私にはわかりません…

未だこれと言って目立つ功績の無い四人が准騎士に抜擢された事自体異例の事なのですからね…

ですが遅くとも女神の祭典の際の活躍次第で准騎士の昇任は可能でしょうから残りの時間でどれ程己れを鍛えられるか…でしょうそう教えられ頷く春菜だった

 

裏庭に行くと丁度一休みしている春蘭達が見えたので

「春蘭様、炎が春蘭様のお母様からお預かりした茶葉と庭先の木の実です」

そう言ってその二つを差し出すと

「お茶は今受け取りますが木の実は調理場に運んでもらえますか?」

そう言われて

「海斗君、そんな重そうな物春蘭さんにどうしろってユーの?」

と、りんにまで言われて頭を掻きながら

「確かに言われ無くても気付くべきだよね…」

そう言って苦笑いの海斗は

「取り敢えず調理場に置いて来ますね

後、大樹の准騎士の認証式をするとユカ様が仰ってましたから多分昼食の時に詳しい説明があると思います」

そう言って再び調理場に向かい木の実を置くと町役場に向かった

 

久し振りに寝覚めの悪い命は特製の茶粥を食べて目を覚ますと早速午後からの予定を説明され…

「うん…大じょーぶ、ちゃんとやるから」

そう答えると、着替えを任せ仕度する命

町長以下数名の町の有力者が参加する中認証式が始まった

「大樹、命様の前に…」

春蘭に呼ばれた大樹が命の前に立つと

「私、水の精霊の巫女の命は和泉の女神の依り代たる大公家公女観月に代わり大公家公女宮の准騎士の称号を与え…

その証しにこれを与えましょう」

そう言って浮き上がると大樹の襟元に記章を着け

「以後も変わらず精進し私達に力を貸してくれるようお願いします…」

そう言って微笑むと

「以上で簡単ですが認証式を終わります」

そう春蘭が告げると

「今夜、宿の前の広場で大樹と海斗の准騎士の昇任を祝う宴を開きます

一応私達も料理を用意しますが可能な方は料理等を持ち寄り参加して頂けるのなら歓迎します」

そう呼び掛けて解散となった

 

そして夕方になり魚釣りから戻ってきた大樹と海斗に見習い騎士の四人と二人の取り巻きの釣り好きの子達を連れて宿に戻り

「ユカ様、料理じゃなくても魚を持ってきたからこの子達も参加して良いですか?」

そうユカに聞くと

「魚を捌くのを手伝ってくれるのなら…

今暫くはこちらは手が放せませんからね」

そう言われて少年達も顔を紅くしてユカを見ながら

「はい、喜んでっ!」

そう返事して魚を捌き始めた

「あ、そうだ…ユカ様、媛か留美菜の力を借りたいんだけど良いですか?」

そう言われて手に持つ鯉を見て

「洗いにするんですね?わかりました、裏庭で踊りの稽古をしてますから留美菜に頼みなさい」

そう教えられて裏庭に行くと留美菜に

「悪いけど鯉を釣って洗いにしたいから力を借りたいんだけど良いかな?」

そう言われて命と媛を見ると頷く二人は

「春蘭、ミナ、留美菜、りん、媛が今日のお稽古は終わりだって…

春蘭とミナは、ユカに聞いて…留美菜とりんは大樹と海斗と海斗に代わって魚を料理したげて

大樹と海斗は修行を兼ねて薪割りだよ、頑張ってね」

そう言われてユカの元に行き春蘭は瑞穂と買い出しに行きミナは指導を兼ねて見習い侍女達の料理を手伝った

 

夕暮れ近くになり未だ公務の時間内であろう町長がユカの元に訪れ

「歌う人魚姫の呼び声高い命様にお願いが有って参りましたが宜しいでしょうか?」

そう言われてユカは

「この一行の責任者は私では有りませんから代表の者を紹介します」

そう言われた町長は

「その様なお戯れを…美月のスタッフの貴女を差し置いてその様な事は信じられません」

そう言われたユカは微笑みを浮かべると

「後進を育てる為の人事、それだけの期待を観月様がかけている子ですからね」

そう説明された町長は

「成る程…流石は観月様…

私共ではそこまで思い切った人事は出来ません…」

そう言って感心する町長に

「私達の方からも町長の貴方に頼みたい事が有りましたから…

丁度良いところに春蘭が戻ってきました」

そう言って

「春蘭、町長がお見えになってますから例の件をお願いしてはどうですか?

町長、彼女が観月様の眼鏡にかなった春蘭と言います」

そう紹介された春蘭を見て

(成る程若いながらも落ち着いた物腰とたたずまい…)

そう考えていると

「春蘭と申します、宜しくお願いします」

そう言って頭を下げ

「早速ですが町長さんに今夜の宴の来賓代表の挨拶をお願いしたいのですが引き受けて頂けないでしょうか?」

その意外過ぎる申し出に一瞬で頭の中が真っ白になってしまった町長が固まっていると

「すいませんけどこちらに町長がお邪魔して…

居た居た、町長…何をなさって…」

説教を始めようとしたその来客…

年の若い女性が町長の異変に気付き春蘭に向かい

「あの…町長は一体…」

と不安げに聞くと

「今夜の宴の来賓代表の挨拶をお願いしたらこうなってしまい私にも何が何だか…」

と、春蘭が答えるとそれまで笑いを噛み殺していたユカも我慢の限界で

「町長さんにその様な場の挨拶をする経験は?」

そう町長を訪ねてきた女性に聞くと

「多分町長就任以来の晴れ舞台だと思います…」

と、答えると

「やはりそんなところだと思いました…

所で、肝心の町長がこの有り様では町長からの依頼が聞けませんが貴方からは聞く事は出来ますか?」

そうユカに問われ

「はい、越権行為かも知れませんが町長の秘書役を勤めてますから内容は把握しております」

そう答えると

「では、春蘭…話を聞きましょう」

と、言われたので

「承知しました…それでは私からご説明させていただきます」

そう前置きし

「私達の町に限った事ではありませんが女神の祭典が近いこの時期に豊作祈願の夏祭りをする所は例外無く賑わいません…

ですが今年は数日後に夏祭りを控えた今…

世界中から注目を集めていると言われる歌う人魚姫の命様がこの町にいらっしゃいました

私達はこの訪れを天恵と考え是非とも命様に祭りで歌って頂きたいのですが…」

そう祈るように言う女性に

「歌だけ等勿体無い話し、草の精様から指導を受け地の精霊への奉納の踊り、豊作祈願を覚えた命様に踊りを奉納していただきませんか?」

そう思いがけない申し出に

「その様な事をお願いしても宜しいのですか?」

恐る恐るそう聞くと

「それこそが本来の精霊の巫女の務めのはず?

勿論、命様も喜んでお引き受けしますよ」

そう拍子抜けする程あっさり引き受けて貰い思わず隣に固まったまま立っている町長の頬をつねり

「あいたっ…」

と、うめく町長の声で現実だと理解する女性に

「私は春蘭と言いますけど貴女は?」

そう春蘭に聞かれて

「私は稲…町長の姪です」

そう答えると

「わかりました、稲さん…明日から役場に伺いますから夏祭りを成功させましょう

勿論、命様が歌い踊られる事を発表して沢山の方に集まっていただきましょう」

そう春蘭に言われて

「はいっ、どうぞ宜しくお願いしますっ!」

そう言って春蘭の手を握る稲の目は感動から潤んでいた

役場の者達が飲み物や料理を持って来たのを皮切りに町の者達が集まり始めたが稲を見付けた同僚が

「例の件…お引き受けして貰えた?」

と、聞かれて

「喜んで、歌だけで無く踊りを奉納してくださるそうです」

そう答えると話を聞いていた他の者達に「本当なのか?」と聞かれて

「精霊の巫女の務めと仰って頂きましたからね」

そう話していると役場の者以外の者達もその話を聞き付け「本当なのか?」と騒ぎ出したので

「ホントだよ、みこお祭り終わるまで居るからね」

姿を表した命がそう告げると

喜んでその話しは次から次へと広まっていった為皆口々に

「今年は祭りが楽しみだ」

そう言って喜びあった

そしてその賑わいの中命が

「未だ早い時間だけど今から踊る水の精霊への奉納の踊りと地の精霊への奉納の踊りはあくまでも大樹と海斗にアクエリアス様とガイア様に踊りを奉納して祝福してもらう為の踊りなんだよ」

そう告げると二つの奉納の踊り舞うと

「さぁ、今から宴の始まりだよ…皆も二人の准騎士の昇任をお祝いしたげてね」

そう命が宴の始まりを宣言すると

「ではこの町を代表して町長からのお祝いの言葉を…」

そう言われた町長は手と足が揃うぎこちない歩きで皆の前に立つと

「魚釣りの名人の大樹と木登りの達人の海斗はこの町の有名人

今日は居ない炎を合わせた三人は子供達の人気者で親達からの信頼も厚い三人が准騎士になりこの先立派な英雄になってくれる事を信じている

そしてこんな喜ばしい宴を共に祝える事に感謝して…乾杯っ!」

そう言って乾杯の音頭を取ると一仕事を終えてヘタリ込む町長に

「お疲れ様です」

そう声を掛けて酒を注ぐと

「命様の到着が一日遅れたのは豊穣の女神様を目覚めさせてきたからなのだそうです

その女神様を依り代の元に案内した海斗の話では依り代は第二王子の婚約者で西の大公家の再興を望まれたそうですからいずれはこの町にも訪れるでしょう…」

そう教えられて

「昨日から作物が元気な気がすると言う声をよく聞いていたが…」

と、言って「う~ん」と唸る町長に

「関係性ははわかりません…

ですが命様が踊る姿を見て喜ばぬ者は居りませんからね…」

そう話している間も人々は次から次へと詰め掛け二人に祝辞を送った

「そう言えば町長さん、この辺りも魚影が戻ってきたみたいだね?

今日の釣果は結構久し振りの大漁だったよ?」

そう海斗に言われて

「そうなのか?最近余り釣りをする者は居らんし釣れたと言う話しも聞かんが…」

そう言って寂しそうに笑うと二人の取り巻きの中の一人が

「二人の姿を見て僕も竿を取りに帰って一緒に釣らせてもらったら初めて二桁釣れたんだよっ!」

興奮気味に話すその男の子は得意顔で別の女の子は

「私は尺上の鯉を初めて釣ったよっ♪」

と、嬉しそうに言うと

「町長さん、お魚釣り競争しようよ?

お舟や岬で兵隊さん達はいつも釣った数を競ってたよ?」

と、言われたので

「う~ん…」

と、考え込んでいると

「取り敢えずみこが歌ってる間に考えて…」

そう言っていつもの様に全十曲を歌い再び宴の輪に戻る命に

「命様に因んだ名の大会名にしても宜しいでしょうか?」

先程の提案にそう答えると

「うん、みこは全然平気だけど…」

そう言って春蘭をチラッと見ると春蘭も命を見て頷き

「人魚姫杯で如何ですか?

因みに大樹と海斗は参加させずに釣り教室を開いて小さい子達に教えてあげなさいね?」

その提案に喜びの声を上げる小さい子達と日頃釣りを教えてとせっつかれる父親達が喜んだ

「町長、湯の街に売りに出せる魚をワシに買い取らせてくれればそれを予算に回せるだろう?」

と、一人が言えば

「私達からも入賞商品を提供いたしますがこの件も明日からの話し合いで決める事に致しましょう」

と、春蘭も言い夏祭りと釣り大会と言う楽しみで町の活気は一気に高まった

その高まりをさらに高める為命は大漁祈願と豊作祈願を舞うと町長は

「確かに因果関係はわからんが…期待を抱かせる不思議な魅力がある踊りだ…」

そう呟くと大樹と海斗が

「命様と出会って以来釣果はいつも良いんだよな?」

と、大樹が言うと

「炎は薬師の里であれだけお宝をたくさん堀当てるなんて初めて経験したっていってたよ」

と、話すと

二人に釣りを教えて貰いながら初めて釣りをした子が

「僕も大樹さんに教わって初めて釣りをしたんだけど八匹も釣れたんだよ」

と、父親に言えば別の子は

「僕九匹」

と、言って父親達を驚かせると

「命様が私達の前に姿を現して以来漁港の市場が活気付いて来たってお父さんが言ってました」

留美菜がそう言えば

「海軍や海兵隊の方達も最近は良く釣れて釣りにも張り合いがあるって笑っていってるよね?」

りんもそう言って笑ってる

やがて夜も更け命を始め子供達の寝る時間になり町の達も帰り始めると汐が引くように皆帰り始めた

こうして二人の昇任を祝う宴は楽しいうちに幕を閉じたのだった

 

 

 

②朱鷺色の髪の少女

 

海斗達が命達に祝ってもらった様にチサや鬼百合達に祝ってもらった炎と翼の供の騎士として社交界で紹介された風華

勿論風華が天馬に股がる騎士なのは一部ではかなり有名な話故に皆…特に女性の風華を見る目は熱いものだった

純白の天馬を操る騎士様っ♪と…

その分翌日からの修業は激しく見ている一般兵達が顔を蒼くする程で

「俺達がしてきた訓練なんか二人の訓練と比べたらお稽古と言われても仕方無い…」

そう呻く様に言うと兵達が今まで以上に真剣な顔付きで訓練に励むようになり陸軍将軍を喜ばせた

そんなある夜の食事が済み各々の部屋で部屋付きの見習い侍女の小明とスエの三人で過ごす就寝前のお茶の一時の事…

チサの朱い霊玉で戯れていた翔がうっかり呑み込んでしまい鬼百合の腕を媒体にした時同様に朱い霊気の結界が翔の身体を包み込み…

その結界が解けて中から現れたのは裸の小さな女の子で背丈はおよそ二尺有るか無いかでおそらく媛より小さいのだろうけど媛を知らないチサ達には何とも言えない事で

「ボ、ボクの体…どないなってもーたんや?

ち、力が入らへん…

か、隠れなアカン…逃げな………に捕まったら……………迷惑掛ける…」

そう譫言を言いながら倒れるとそのまま意識を失ってしまった…

「私の責任ですから取り敢えずこの事は伏せておいて下さい」

チサに言に頼まれ見習い侍女達はこの事はチサが命に直接話すまで秘密にする事にした

その頃翼の部屋でもまた変化が起こった

雷精が目覚めて霊玉から抜け出ると弥空に向かい

ー弥空、私が風の精霊を主人とするように貴女もその巫女の翼を主人としその御心に従いなさい

そして…互いの主人と共に水の精霊とその巫女の為に生きませんか?

その意志が有るのなら私を受け入れ私の霊力を受け取りなさいー

そう言われた弥空は躊躇わず左手差し出し雷精を受け入れると力尽き倒れ込むのを見て

「サキ、沙霧か風華に来てもらってください

なみは観月姉さんにこの事を報告して弥空を休ませると伝えてください」

と、言う指示を聞いて起き上がれもしない弥空が

「いいえ、私は遅番で未だ仕事が残ってますから…

それに翼様にその様に気を使わせては申し訳有りませんし…」

そう言われた翼は

「弥空はりんの事をどう思ってますか?」

その意外な問い掛けに疑問に思いながらも

「真面目で頑張り屋の妹の様に思ってますが?」

そう答えると

「りんと同じくみこちゃんに命を救われた私とチサはみこちゃんや真琴の力になりたいと願い生きてます

つまりその意味では私とチサは貴女達の仲間なんですからね、遠慮はいりません」

そう話していると深潮が翼の部屋に現れて

「精霊の巫女になったばかりの貴女に無理させてまで片付けねばならない仕事は有りませんから休みなさい

これは観月様のご命令ですからね」

そう言われた弥空が

「貴女にだって悪いから…」

と、渋る姉に深潮は

「機会が有れば酔仙亭のランチで手を打つから心配しなくて良いからね」

そう笑いながら言う妹に苦笑いで答える弥空だった

その弥空の身体を呼ばれた風華が従者の弥空のベッドに運ぶとすぐに寝入る弥空の様子を見て安心する一同だった

秘密にされた変化、観月や王妃に知らされた変化…

歌の女神救出に向け確かに色々な事が動き始めていた

 

人の…女の子の姿の翔は一切の魔力を失っていた

思うように動かない手足に苛立ちは募り

魔力と翼を失い翔べなくなった翔に出来るのはただ空を日長眺めるだけでぼんやりと日々を過ごす翔の耳にはチサの声も届かず

「魔力も翼も無いボクに価値なんか無いんやからはよほかしてんか…」

時折呟いてはベッドから降りようともがくけど身動ぎも出来ない状態の翔を見捨てられるチサではない

「みこちゃんか真琴ちゃんに相談してみては?」

そう言ってはみるのの翔の答えはいつもたったの一言で

「いやや…」

で、食事も摂らず眠っている気配すらない…

かと言って別に拒否してる訳でも無いけど食事を摂ろうともしないしない翔

どうすれば良いのかさっぱり解らないチサがもうひとつ悩んでいるのが翔の着替え

当然ながら合うサイズの服等は有る筈もなくどうしたら…

と、悩んでいたら小明が

「チサ様…これ何かはどうでしょうか?」

そう言いながらチサに見せたのは小明が妹の小夜によく人形の服を作って上げてた特技を活かし作った服で

「命様の好きな服を真似て作ってみましたけど…」

と、言って渡されたそれは確かに命が好んで着ている海兵隊の制服で見た感じかなりしっかりしている

「有難う…ちょっと試しに着せてみますね」

そう言って着せてみるとサイズは合っているようだけど心を閉ざした翔の反応は無い

ただ…やはり観月や王妃、真琴や翼に美月のスタッフ達はいつまでも誤魔化せず

「チサ、それは何?」

いつもの様に口を開けない翔に小さく千切ったパンを食べさせようとしても反応の無い翔に気を取られ真琴に全く気付けなかったチサは

「ま、真琴ちゃん…何で…?」

そう言って戸惑うチサに

「何でじゃないよ、チサ…

微弱とはいえ魔力を持つ…得体の知れない者と二人きりでいるなんて一体何考えてるのさっ!」

と、叱りつける真琴に

「そ、そんな…内緒にしてたのは謝りますけど…」

チサの言葉を遮り

「ほれみてみぃ、真琴もゆーとるんやからボクの事なんか風華に持たせてどこぞにでもほかしてくるか…

あーっ、もっと簡単な手ぇが有ったわ…

真琴の黒炎竜に食わせてもーたら綺麗さっぱり無くなるやん、真琴ちょい頼むわ…」

抑揚感の無い声だけど

「その変わった訛り…翔ですね?チサ、一体どう言う事なのかキチンと説明しなさい」

真琴続いて現れた観月がそう問い詰めるとその後ろで見守る王妃に向かい

「この子は翔です…お母様もご存知のみこちゃんの使役獣の翔ちゃんだった子が誤って私の霊玉を呑み込んでしまいこの姿に…」

そう聞いた真琴が改めて翔を改めて見ると

「…確かに翔の魔力を僅かに…

そう、まるで翔の魔力はチサの霊力に封じ込められているように感じますね…」

翼がそう言うと

「大公領に居た頃のみこの状態と重なるよ…

魔力も霊力も涸渇していたあの頃とね」

考え込みながら言葉を選ぶ真琴に

「ボクのちっぽけな魔力をみこと一緒くたにされたらかんなんわ…堪忍したってんか?

ほれ、真琴…別にボクなんか居らんかて誰も困らんのやからさっさと始末しいや」

そうせかす翔に

「確かに困りませんけどみことチサ、ユカとユウは泣きますよ

まぁ、困ると言えばその四人を宥める者達が大変でしょうけどね、鬼百合?」

そう話を振られた鬼百合が苦い顔で観月にむかって

「確かにな…」

と、言って目だけでユウを見ると溜め息を吐く鬼百合

「ともあれ貴女の主人はみこなんですからみこが帰って来るまでは大人しくチサの言う事を聞きなさい

何ならユウに貴女の躾役を任せても良いんですよ?」

観月がそう言うとユウの眼がキラーンと光り翔の顔から血の気が引き

「ち、ちさ様のユー事をちゃんと聞きます…」

そう小さく呟くとユウの舌打ちが聞こえ

「本来ならもっと大きな声でと言いたいところですけど今はそれで許しましょう

所で翔に着せている服はどうしたのですか?」

そう観月に言われて小明がおずおずと

「家に居た頃妹達の人形の服を作って上げてた特技を活かし私が作りました…」

と、答えると

「その様な特技を持っているのならもっと早く教えなさい…

チサの身の回りの世話は他の者にさせますから貴女は翔をモデルにしてファッションの勉強をしなさい…ユウ、任せますよ」

観月に言われて

「承知しました」

翔を見てにこりと笑いユウが答えると首を竦める翔を見ながら

(翔にゃ悪いがユウが翔を構ってくれてりゃアタイが気楽だぜ)

等と思われてるとは気付かぬユウと翔に

「明日からの予定は明日の朝食の時指示しますから翔も連れてきなさい」

そう言われて

「無理、ボク起きとれへんし食べモンも咽通らへんから…」

と、翔が言うとチサも

「もう何日も水の一滴も飲んでません…」

そう言い足したので

「構いません、顔見せに呼ぶだけですし具合が悪く動かせない訳でも無いのでしょ?

ユウ、貴女が翔の迎えに来なさい」

それで決まりだった

その夜はそれで解散になり眠れず身動きもままならない一夜を過ごす翔だった

 

 

 

③人魚姫杯

 

昇任の宴の翌日から早朝は命と媛は踊りの稽古ので霊力を高める修行をして過ごしその後他の巫女達と朝食迄の間お祈りをした

朝食の支度はユカの指揮の元にマイとスーが中心になって見習い侍女達と作業し勿論後片付けも彼女達の仕事

大樹と海斗は釣り教室を開いて小さい子達に教えながら食材の調達をして朝食前までに帰り食事の後修行を始める

食事の後各々の指導者の元で修行を始める二人と見習い騎士達は昼食まで激しい修行を受けた

主に体力作りの見習い騎士達と右手、左手、両手での素振りを繰り返す大樹と海斗

くたくたの身体は食欲が減るどころか倍増し昼食は追加で作らねばならない程だった

勿論疲れ果てた彼等は昼食の後は午睡で指導者達は自らの稽古時間に当てた

命の午前中は謡華の指導を受け歌の稽古で媛はミナ、春蘭、留美菜、りんの踊りの指導で残りの巫女達の指導はマイが受持った

昼食の支度を始めるまで見習い侍女達はユカの指導で勉強時間になり

昼食が済むとミナと春蘭以外の命と媛他の巫女達も午睡でミナと春蘭は各々に創作活動でライは見習い侍女達と礼儀作法の指導を受ける事に

午睡が終わると命は歌の自習で媛は数珠の山の前で霊力を高める修行をしていた

ミナと春蘭は引続き創作活動で留美菜とりんは朝大樹達が釣ってきた魚を捌き夕食の支度を始め…

見習い侍女達と巫女達は礼儀作法の指導を受け大樹と海斗は薪割りで見習い騎士達は風呂の水汲みを夕暮れ前後に魚釣りする為の時間調整をした

日暮れ近くに命を始めとする巫女達は入浴を済ませておき大樹達は帰ってすぐに入浴…そして夕食

夕食後命は竪琴の手入れをしながら同じく三弦の手入れをする謡華と過ごしミナと春蘭達はそれぞれの創作活動

美輝は春蘭にお茶の淹れ方を習い春蘭達が習って作ったお菓子のレシピ帳を写し残りの巫女達は午前中してない勉強をして過ごした

二日目は歌の稽古と自分の踊りの稽古はアクエリアスの結界で済ませてから結界の外に出て

媛と踊りの稽古をして いると

ー何のつもり?自分の稽古は結界で済ませたから私の稽古を着けてる気で居るの?ー

そう媛に言われて

「そこまでは言わないよ、手本見せてるだけ」

そう言われてムッとしなからも

ーなら明日からは私もアクエリアスの結界でお稽古させて、精霊の巫女としての修行と共にー

媛にそう言われて苦笑いを浮かべ

「うん、わかったよ…それで媛が納得するのなら…



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油断大敵

自然は隠れ潜む危険が一杯で常に牙を潜め狙った獲物を逃さない?


で、相談なんだけど今日から春蘭達のお稽古を結界内でさせようと思うんだけど媛はどう思う?」

命がそう問い掛けると媛は

―良いんじゃないの?特にミナと春蘭にお姉ちゃんとりんはね…

でもその四人をみこが教えるなら私はライと澪、つぐみの稽古を着けても良いんだよ?ー

命の問い掛けにそう答えると

「他の巫女達は?」

そう聞き返すので

ー霊力の高まりが違うよ、他の巫女達は巫女としての修行をみこが着けてあげなきゃね?ー

媛にそう言われて

「留美菜や澪の様にはやってあげないの?」

命のその言葉に

ーみこ、貴女が指導者でしょ?私は二人の霊力に干渉して使い方を教えただけなんだからねー

そう冷たく言い放つと

「媛の出来ることなら…」

―…何寝惚けた事言ってるの?

巫女達はみこの元に集まったんだから代わりの者がして良い事は任せても良いけどこれは貴女の役目のはずでしょ?―

命の言葉を遮り厳しく言うと言葉を失っている命に

「命様、そろそろ朝のお祈りをしませんと…」

春蘭にそう言われて我に返った命は巫女達に向かい

「じゃあ朝のお祈りをしよっか…」

そう声を掛けて祈り始める命と巫ら女達

その巫女達に向かい

ー今夜から夜眠る前にアクエリアス様の結界内で踊りの稽古をして貰おうって思うけど良い?ー

そう一同に問い掛けると媛以外がはいと返事したので

ーミナ、春蘭、留美菜、りんは自習でつぐみ、ライ、澪は媛が指導しますー

つぼみ、しずく、麦、澪、美景、蛍は私が踊りのお稽古を通して精霊の巫女としての修行も行うから頑張ってね

媛もお手伝いよろしくねー

そう声を掛けると媛も

ーはい、わかりましたー

と、穏やかに答えるのを聞いてホッと息を吐く命

その後は前日と同じく過ごし就寝時間前になり寝床に就いた巫女達の霊体を呼び出し結界内での修行を始めた

命が朝言った通りにミナ達は自習だけどミスが有ればすぐに媛の指摘が飛ぶ

三人の指導の傍ら四人への気配りが出来るらしい媛に驚く七人に

ー余所事考えてちゃだめでしょ?ー

そう注意されて無心に踊りの稽古に集中し始めた

ーまずは踊り始めず各々の精霊を感じなさい私からの踊りの指導はそれからですー

そう言って命が巫女達の霊力を刺激し活性化すると精霊の声を聞き対話始めた…

その様子を見て

ー巫女達よ、踊り始めなさいー

そう声を掛けると踊り始めた巫女達は勿論踊り自体は未々でも踊りにより霊力を高めるコツを覚えた様で少しずつ霊力を高め始めた

 

巫女達の修行を終え命と媛は

ー自分達の修行をするから―

そう言って巫女達の霊体を生身に戻すと再び結界内に隠った

一方二人はユカに

「命様からの伝言です

巫女達の踊りのお稽古はアクエリアス様の結界内でするから留美菜達のお勉強再開して…との事です」

と、伝えると

「わかりました、留美菜とりんは自習させて春蘭…貴女は傍らで質問に答えてあげなさい私は他の子達に勉強を教えますから」

と、言われて

「私は手伝わなくても宜しいのですか?」

春蘭にそう聞かれたユカは

「未だ今の人数なら問題有りませんから刺繍の作業を進めなさい」

と、答えるユカに

「承知しました」

そう言ってミナと共に作業を始めることにした

三日目の朝結界内で自らの歌の稽古の間春蘭達の航海の無事の感謝の気持ちを捧げる踊りを始める事にし

媛にはライ達見させ

その後春蘭達に自習させて歌の稽古を終えた命が麦達、ライ達自習を媛が見守り朝の稽古は終わり

朝食後はその他の巫女達の稽古を着け媛は踊りの自習

ミナと春蘭各々の創作活動で留美菜とりんは自習で見習いの巫女達はユカの指導で勉強をしこの日は春蘭、留美菜、りん、マキで昼食の支度

午睡の後は前日までと変わらず四日目もこの日と同じく一日を過ごしそして釣り大会当日

早朝にも関わらず多くの参加者が集まり開会の時を待っていた

町長の挨拶とルール説明が行われ命の大漁祈願の踊りが終わると大会開始、各自思い思いの釣り場に散って行った

名人の呼び声高い大樹とそのライバルの海斗の二人は大会運営委員として参加

参加者への指導…初心者への指南も含めて会場を走り回った

ユカと春蘭は同じく運営委員として大会運営そのもののお手伝い

本部に詰めミナとマイとスーは本部で海斗と大樹が知らせる途中経過を記録したり来客の応対をしたりするのが役目

留美菜とりんは鍋を作って屋台で参加で後の巫女や見習いの侍女と見習い騎士達は初めての休日

勿論見習い騎士達は釣り大会に参戦したし他の巫女達や見習いの侍女達は初めて訪れた北の町の散策を楽しんでいた

なので阿は命を連れ大樹達同様釣り大会の会場内の巡回で忍は大会本部詰め

瑞穂は休みの少女達の引率役に振り分けられ媛は美輝に抱かれ行動を共にする事になり各々に一日を過ごす事になった

と、言っても特にの観光地でもなく特産品が農作物のこの然程大きくない街に少女達が喜んで見て回る所は少なかった

なので少女達は早目の昼食を摂ると留美菜とりんの屋台の手伝いをする事にして二人に休憩するように言うと

「じゃあユカ様達が詰める本部の人数確認と大盛り希望者の確認をお願い出来ますか?」

留美菜にそう言われて麦は

「わかったよ、留美菜ちゃん…蛍と…」

「私とつぐみ、しずくの四人で交代に入るから任せて下さい」

と、蛍に代わってこずえが言うと

「後の子達はユカの側で本部に詰めて居る者の食事の交代等しながら勉強しなさい

媛、私達は大樹の元に行きましょう…案内して下さい

彼から食事をさせますからね」

と瑞穂に言われて美輝を見ると美輝に頷かれて瑞穂の肩に止まると

―こっちだよ―

そう指示される方向に駆け出す瑞穂を見送り四人に屋台の説明をする留美菜とりんだった

 

午前中は何事もなくのどかな釣り大会でたけとりゅうと街一番の釣り名人の老人が三つ巴優勝争いを演じていたけど地の利で先行する老人を二人が追い掛ける展開だ

運により易い型は鯉の部門ではれんが二尺近い良型を釣り上げ川衣ではたかが尺近い物を釣り上げていた

初心者達も大樹や海斗の指導よろしく優勝には縁遠くてもそこそこの釣果上げ楽しんでいた

特に女の子達は参加賞の若月のエプロンは皆貰えるから釣りに血眼になる必要はない

参加費が要らない代わりに釣り上げた魚は主催者である美月が引き取りその代金を大会運営費に充てる事になっているからだ

因みに子供を含めた男性参加者にはつぐみが編んだ竹製の魚籠が配られる事になっている

なので上位入賞を狙わない者達は初心者の子達にコツを教えたりと和気藹々の光景があちこちで見られていた

 

(何だろう?嫌な気配がする…)

―瑞穂…―

媛の呼び掛けに

「何者かが潜んでる気配…ですね?」

そう聞かれた媛は

―気のせいかと思ったけど貴女も感じてたんだ…

私も注意して探知するけど気を付けて―

媛に言われて

「承知した」

短く答える瑞穂に

―右斜め前方から微かな気配がした…―

そう伝え

―大樹、異常無い?―

そう問い掛けると

(嫌な気配を感じるけど周りの子には気付かせて騒ぎにならないよう距離を開けるようにしてる)

と、答える大樹に

―そう、そちらに注意が向いて私達の接近に気付けない程度の者なんだ…

もう暫く頑張って、今瑞穂とそいつを退治るからね―

そう伝えてから

―あれは水牛蛙?なんかすごく大きいけど…―

媛の素朴な疑問に

「この先の大湿地帯の固有種ですね…私も実際に見るのは初めてですが」

瑞穂の話に

―人間の子供なら楽に呑み込む事が出来そうだね?―

そう問い掛けると

(あまり想像したくはありませんが…媛は特に気を付けなさい)

その瑞穂の思念にムッとしながらも確かにあれだけの数が居たらかなり厄介であるのは間違いないから

ーわかったよ、注意するー

と、答えて頷く瑞穂を見ながら

ーどのタイミングで仕掛ける?ー

そう問い掛けると瑞穂の答えは

(大樹達があの岩影に入ったら仕掛けましょう)

そう言われたので

ー大樹、大樹達が前にある岩影に入ったら仕掛けるからー

と、伝えると

(わかった、岩影の先は開けた川原になってるからみんなを走って逃げさせる

どうやら異様な気配に気付いてるけど怖くて言い出せないみたいだから任せて)

そう返事を返すと

ー大樹があの先は開けた川原だから皆を走らせるって大樹が…ー

そう瑞穂に大樹の考えを伝えると

(それは丁度良いですね、大樹達が岩影に入ったら一気に攻め込みましょう)

瑞穂も了解してそう媛に言うと二人で大樹達を見守った…

後ろの敵の気配に気を配りながら小さな子達を誘導する大樹が岩影に入ると

「皆、走れっ!何者かは解らないけど敵はここで俺達が食い止めるからとにかく走れっ!」

そう叫ぶとほぼ同時に媛の氷の矢が何体かの敵を貫き横から瑞穂が斬りかかった

―瑞穂、退いて…氷の矢を乱射して足止めして皆が逃げる余裕を作るから―

媛がそう叫ぶと瑞穂が飛び退きそのすぐ後に数十本の氷の矢がその場に降り注いだ

(低温に弱いカエル達は遠回りしなきゃ進めないはず…)

媛の期待通りに氷の矢の直撃を受けなかった水牛蛙達は氷の山を避ける為遠回りを余儀なくなり町の子達はその間に無事逃げ切り引き返してきた大樹を加えた三人で殲滅した

無論逃げ出した者に対しては追撃は行わず逃げるに任せてではあったけど…

「操られていただけでしょうから全滅までさせる必要は無いでしょう…」

と、言うと大樹が水牛蛙達死骸を見ながら

「闇の汚染は見られないから弔いを兼ねて回収して売りに出しましょう

その見た目通りに水牛の肉に似た味で結構珍重されてるんですよ」

その大樹の言葉に

「畜産が盛んでかった頃はかなりの地域で食べられてたそうですね?」

と、瑞穂に聞かれた大樹は

「未々肉は贅沢品ですからね」

そう言って溜め息吐くと作業を始めることにした大樹だった

 

「阿…熊だよね?アレ」

命に言われるまでもなく気付いた阿が

「はい、ですが妙ですね…

海斗が見回りしている辺りならともかくこの辺りには熊が迷い込むような餌場は無いはずかですが?」

そう言って首を捻る阿に

「取り敢えず様子を見よう、あの子を刺激しないでできれば山に帰って欲しいから…」

祈るように言う命に阿も

「そうですね、無用な殺生は避けたいものですね…」

そう静かに答えたけど二人の願いも虚しく熊は人里目指しておりしかも釣り大会の会場に向かっている

「不味いよね…」

そう言って暫く考え込んでから

「止まりそうにないから行ってくる…」

そう阿に告げるとスーっと降下して熊の進路に立ちはだかると両手を広げ

「このまま進んじゃダメだよ、お願いだから引き返して」

命が穏やかに頼むけど熊は命が目に入らないかの様にその歩みを止めないばかりか立ち上がると右の手を大きく振り上げ命を睨むとその手を降り下ろした

「命様っ!」

絶望的な悲鳴にも似た叫び声で呼び掛ける阿が驚く光景が見えた

命の手の先に現れた水の盾と言うよりはクッションに遮られた熊の手は水に捉えられて身動きが出来ないでいる

「よ、良かった…じゃ有りません

もしもの事が有ったらどうするつもりだったんですか!?

全く、取り敢えず春蘭には黙っておきますがもっとご自愛下さいっ!」

と、言われて不思議そうに

「みこちゃんと受け止める自信有ったんだけどな?」

そう命に言われて

「はぁっ…やはり春蘭に…ひいては真琴様に報告します…」

と、溜め息を吐きながら言われて

「えっ?何で…」

そう呟く命のその反応が悲しく

「ご自分でお考えください…」

そう言われたけど訳のわからない命は考えるのを止めて(まっ、いっかぁーっ…?)

と、いつもの諦めの結論で落ち着く事にした

その間放置されていた熊が暴れまくっていたけど腕が抜ける気配は微塵もない

命様、この者は一体どうするおつもりですか?」

痛々しい者を見る目で熊を見ながら問い掛ける阿に

「今さっき気がついたんだけどこの子もう死んでる…

酷い事するよね?殺して操るなんて…せめて操り人形の状態から解放してあげないと可哀想だよね?」

命に聞かれた阿が頷くと怒気と共に霊力が膨れ上がり

ー青竜牙っ!ー

呪文によって現れた青竜が熊の斜め上にその牙を剥いた…何も無いはずの空間に…

しかし阿の目には見えなかっただけで確かにそれは居た…

恐らく死霊使いだろうそれの断末魔の思念が阿の耳(?)にも聴こえたのだから

熊の遺体を見下ろしながら考え込む命の耳に調子外れの歌声が響いてきた

その…あまりにもの耳障りな歌声に眉を潜めながら近付きつつある声の主が現れるのを待っているとその男は二人の前に現れ

「ぃよぉーっ、別嬪さん達っ♪」

そう声を掛けて来たけどその第一声に白けた命と阿は男に構う事無く

「この子どうしようか?取り敢えず他の敵も居るかも知れないから見回り続けたいんだけど…」

命の言葉に阿も目を閉じ考え込んでいると

「この熊は仲間と獲物のどっちなんだい?お嬢さん方」

男がそう聞くと

「そのどちらでもない、この者は死霊使いだろう男に殺され使役されていたのだから…

言わば犠牲者だろうからな」

淡々と語る阿に男は

「なら俺に譲ってくれないか?勿論ただでとは言わない

こいつらと交換でどうだ?」

と言って見せられたのは下処理を済ませた大鴨だろう生肉の塊が三つ

それを見た阿は命を見ると命は黙って首を横に降り

「みこ、そーゆーのわからないから阿に任せる」

そう言われたので

「わかった、交換しよう」

そう答えが返り阿に肉の塊を渡しついで男も熊を担ぐと

「あばよっ!」

そう声を上げ山に帰って行くのを見送り

「良かったのですか?熊は売ればかなりの額になるんですよ?」

そう聞かれたけど

「それはちゃんと処理したらでしょ?あの子には悪いけど肉は固いし独特の癖が有るって聞いた事有るよ

皮だってちゃんと処理して鞣さなきゃ売り物にならないだろうしね

それに悪い予感するんだ…阿に運んで貰ってる余裕はないし置いといたら持ってかれちゃうよ?どうせ最初に見付けた誰かにね」

と、言う命の言葉に溜め息を吐きながら

「多分そうなるでしょうね…」

そう呟く阿に

「ならまだ妥協できる取引した方がましでしょ?」

命に言われて

(確かにそうだな…)

そう頭の中で考える阿だった

その阿に向かい

「暫く気配を探ってみるから警戒の方は阿に任せるね」

そう告げると祈り始めることにした命は探知の結界を意識的に張り巡らせると蠢く大群に気付き

「居たよ、案内するから連れてって」

阿に手を伸ばしそう告げると阿も命の脇の下を抱えると両肩の上に股がらせて座らせ案内してもらう事にした

「やっぱし媛もそこに向かってるみたいだよ…

勿論シーホースも気付いてる感じだし…」

そう言われ山肌を駆ける阿も次第にその気配を感じ始めやがてその気配の主が何者か気付いた

「何で"あんなの"がここに…」

そう呟く阿の視線の先に居る生き物は竜蛇…竜邪とも言われる大怪蛇で本来歌の国は棲息域ではない大蛇

それがいつの頃からか度々目撃されては人や家畜を襲っているとの報告も有るのだが用心深く捕物で捕獲された試しが無い

(命様…どうしますか?)

目でそう聞いてくる阿に命は

ー今媛と共同で張った結界を狭めてるからもう少し待ってー

と、告げられ様子を見ていると大蛇もこちらに気付いたようでしきりに威嚇してくるけど警戒してるせいか近付く気配はないらしい

相手は十尾居るらしいけど未だ視認できてない

媛の冷気で攻撃力を下げても生け捕りは叶わず全滅させるしかなかった

供養になるかはわからないけど遺体は町の人達が回収して料理して食べるそうで蛇の代金はユカと交渉してる

それと先程の鳥肉の塊三個は総合ランキング上位三名の副賞として命からの提供品として委員会に提供された

結局亀の甲より年の功…

総合優勝は釣り名人の崔という老人で最後の最後まで追い掛けるたけとりゅうの二人から逃げ切った

部門別では鯉はれん、川衣はたかがそのまま逃げ切った

数年ぶりの町の釣り大会は命とその従者達の裏表の活躍で大盛況の内に幕を閉じたのだった

 

 

④夏祭り

 

そして待望の豊作祈願の夏祭りの当日が訪れた

実際は数日前から町に住む親類縁者を頼って泊まり掛けで遊びに来てる者が沢山居て賑やかになってはいた

それでも皆その高まりつつある興奮を抑えて我慢していた

自ら主催の釣り大会とは言うものの結構名前を貸しただけ、みたいな主催者も少なからず居る中

参加者の為予定してなかった大漁祈願の踊りを舞いただでさえ盛り上がりを見せていた大会をいやが上にも盛り上げたのだ

それに聞いた話によると

「大好きな踊りを見てもらうのが嬉しいから踊るのだ」と…

そして聞いた

「楽しそうに踊る…歌うように舞う舞姫が舞い降りた様な錯覚を感じた」

と言う老人達の言葉を…

町の集会場に集まり町長の夏祭りの開始の宣言が有り命の豊作祈願の踊りと地の精霊への奉納の踊りが奉納されて夏祭りは始まった

当初の計画では春蘭は命の代理人として夏祭りの実行委員と命と実行委員とを繋ぐパイプ役

ユカとミナは若月のブースを出し参加者として数名の巫女達と参加

命は瑞穂に担がれ、供の巫女達と祭りの参加者や訪問客と触れ合いながら会場内を散策

そして阿は大樹と海斗の二人と見習い騎士四人を指揮し会場内の警備班の協力をするはずだった

しかし、既に海斗が霊獣シーホースに股がりし霊獣の騎士なのはかなり知れ渡っている

当然海斗に白馬の王子を重ねる女の子は相当数居たし用事で海斗に案内される巫女達を羨望の眼差しで見詰める子達が居たのを知っていたから阿も

「海斗は警備班から離れシーホース様の協力を仰ぎ希望者を空に案内しなさい」

そう指示したからそれを聞いて主に女の子達が順番待ちの列を作り祭りを盛り上げるのに一役買い町長を始め祭りの実行委員達を喜ばせた

勿論主役は命で命が町が村だった遠い昔から在る村の鎮守の守り神様を祭った社の前で豊作祈願と地の精霊への奉納の踊りを奉納し見物人の為に水の精霊への奉納踊りと大漁祈願と大漁の感謝の気持ちを奉納する踊りを舞い

暫しの休憩の後歌も披露して祭りを大いに盛り上げた

それに命が豊作祈願を会得し踊るようになって以来湯町から北の町にかけての田畑の生育状態が目に見えて良くなり始め町に活気が出始めていた

巫女たちや見習いの侍女達も若月やその他の屋台の手伝いで祭りを盛り上げ祭りは大盛況の内に幕を閉じた

なので反省会の名で行う実行委員達の慰労会は翌日に持ち越され屋台の参加者も顔を出した

当然ながら店の手伝いで列に並べなかった子達が寂しそうに話してるのを聞いた海斗が

「なんだ、そんな事位言ってくれたらお安いご用なのに」

そう言って昨日より長い時間案内してもらい本人達は勿論その事を気にしていた両親達も喜ばせた

その様子を見ながら町長はユカに

「端から引き受けていただける訳ないと決め付けずお願いして良かったですよ」

そう話し掛けられ

「命様達が秘密裏に対処した異変も知らずに惨事が起こってから知らされる所でしたから…

全てはなるようになっただけなのかもしれませんね…」

そう言って町長に酒を勧めるユカ

命の今回の旅も折り返しとなり今まで北に取っていた進路は明日からは東に向け王都目指す事になる

ミナや春蘭は勿論留美菜やりん達の成長とこの旅で命の元に集いし少女達も各々の特技など頼もしい存在

(最初はどうなる事になるのか不安の内に送り出しただけにこの成果は観月様もお喜びでしょうね)

そう考えながら春蘭が淹れてくれたお茶を啜るユカだった

 

 

 



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オアシスの町

舞の女神の部の民と新しい踊りとの出会い…


お嬢

 

①羊祭り

 

早朝の出発にもかかわらず大勢の人達が見送りに集まり

男女合わせて二十人が供を願い集まった

その為益々の大所帯になった一行は6人掛けの馬車二台を譲り受け命が乗る特別車を映見が

紋章入りの馬車を大樹、湯下の町で譲り受けた馬車と荷馬車にはたけ、りゅう、れん、たかがそれぞれ馭者を担当

北の町で譲り受けた馬車は新たに加わっコウとトンが馭者を担当する事になり

命の馬車は媛、美輝、謡華、水樹、かがみ、なつき、冬実

阿、春菜、美景、ユカ、紫帆、ミナモ、美帆、小雪

明菜、きみ、マイ、澪、少女四人

スー、菜月、瑞穂、サク、ケン、カン

忍、蛍、ライ、ナン、シャー、ペイ

しずく、春蘭、つぐみ、つぼみ、ミナ、麦の割り振りで出発する事となった

(この増えすぎた今の人数…取り敢えずしずく、つぐみ、つぼみの三人から王都で腰を落ち着かせ…

創作活動や勉強に精霊の巫女としての修行をさせた方が良いのかもしれませんね…)

そう観月に相談したら

ーしずく、つぐみ、つぼみ、きみの四人を海斗に送らせなさいー

そう指示があり四人に荷物を纏めさせて海斗に送らせる事になった

王都に案内された四人は観月から

「しずく、つぼみは私付き、つぐみときみはユイ付きになりますが精霊の巫女の修行はチサと翼の二人に任せます

後の作法や勉強は他の見習い侍女と何ら変わり有りませんが創作活動を応援して上げなさい」

四人の待遇はそう決まった

昼食後、ミナ達創作活動班の馬車に新しく入った少女達三人が移動する事になったけど緊張したままの少女達は何の変化も無くその夜宿泊予定の馬借の無人宿に到着した

この先暫く荒野が続く為早目に宿泊準備に入り海斗は瑞穂、大樹は忍、阿はそれ以外の見習い騎士達の修行を見ることにしたのだけど…

取り敢えず蛍、麦、ライが次の候補に上がっている等の噂が飛び交う中の宿の到着で立ち消えになった 

無人宿着いた一行は海斗と大樹が薪割りを始めるとたけ、りゅう、れん、たかも始めるのを見て少年の一人が

「そんなに沢山薪が必要なのですか?」

そう尋ねると

「要らないよ、でも割っておけば後の人が助かるし何より俺達は体を鍛える目的でやってるんだからやらせてもらってるんだよ」

大樹が笑ってそう答えるのを聞いて

「見てみな、俺達が両手で懸命にやってるのを准騎士のお二人は片手…しかも利き腕じゃない方だけでやってるんだぜっ♪」

そう言われた海斗は

「鍛えていただいたからね、僕達だって最初から出来た訳じゃないよ

確かに強くなるのは腕力だけじゃないけど最後にモノをゆーのは体力

疲れて敵にやられ命様をお守りできませんでした…何て言い訳だけは絶対にしたくないだろ?

だから少しでも強くなるための努力は惜しまないし薪割りをすれば誰かの役に立つ」

照れながらそう話すと

「海斗さんこれ」

そう言ってりゅうが投げた稽古用の木刀を斧と持ち替え振り下ろすと続けて振り降ろしたりゅうが

「な、木刀が風切る音が全然違うだろ?

これが俺と海斗さんとの修行の差って奴で別に特別技を使ってる訳じゃない

つまり頑張って鍛えりゃ俺やお前達だって目指せば出来る事なんだぜ?

だったら頑張っきゃないだろ?」

「俺達の先を行ってる大樹さんと海斗さんが頑張ってるなら後に続いてこうって俺達はもっと頑張らなきゃいつまでも追い付けないぜ?」

そう言って薪割りを再開すると北の町からついてきた少年達も薪割りを始めあっという間に宿の取置きの薪はすぐに使える様に割られ

次いで風呂場に水を汲み入れると風呂を沸かし命と媛、澪、美輝、ミナ、謡華

阿、春菜、美景、ユカ、

春蘭、明菜、麦、水樹、かがみ、なつき

蛍、瑞穂、りん、冬実、新入り二人

マイ、ライ、留美菜、新入り三人

忍、スー、菜月、新入り三人

少年達の順で風呂に入り各々に汗を流し疲れを癒した

少年達が風呂を沸かす間命は謡華に稽古を着けてもらい春蘭、ミナ、麦は各々の創作活動

スー、マイ、りん、留美菜は夕食の準備

巫女達は踊りの稽古

見習いの侍女達はユカに礼儀作法を習っていたそして夕食後は早目に就寝して早朝から朝食とお昼のお弁当作りをの支度をスー、マイ、りん、留美菜が中心になり見習いの侍女達に手伝わせ用意した

そして未だ暗い内から出発してその日も早目に宿泊場所を決め

その後は前日同様に過ごし更にその翌日の昼過ぎ頃に次の目的地、遊牧民達が集うバザーの街に着いた

まずは宿屋を決め荷を下ろした一行は海斗と大樹の案内で命、ユカ、春蘭、忍がある人物に会いに行く事になりその人物の屋敷に着いた

「歌う人魚姫の命様が元締めに挨拶に来たけど元締めの都合を教えて欲しい」

そう告げられた二人の門番が

「お前達がついていると噂で聞いていたから大丈夫とは思っていたがさすがだな

街に入り宿屋を取りその後すぐに案内するとはな」

「元締めがお待ちかねだ、勿論お嬢もな」

「そーゆー訳だからぐずぐずしてないで王女をさっさとお嬢の元に案内しな

待たされてお嬢が機嫌を損ねる前にな」

二人の門番が掛け合いの様に言ったがそう言われて気性の激しい元締めの一人娘の顔が浮かび蒼くなって命達を案内した

命を見た元締めの第一声は

「なんだ、人魚ではないのか?」

だったから

「命様が人魚のお姿になるのは水や湯に浸かったらだから俺達も未だそのお姿は見てません」

大樹の言葉に続き海斗も

「もし覗きでもしようものなら…」

そう言ってユカ達をチラッと見て

「命は無いですよ、間違いなく」

それを聞いた元締めの周りの若い衆も声を上げて笑い

(確かに人魚になる条件がそうなら俺等もお嬢のあられもない姿を覗きやがる野郎を生かしとく気はないからな…)

そう考えながら

「ちげーねえな」

そう言って笑い声を上げる中

「元締めのおじさん、海斗と大樹の二人がこの街で歌ったり踊ったりするならこの街で一番偉い元締めってゆー偉い人の許可が要るんだよって…

だからみこ、おじさんに会いに来たの」

そう声を掛けるとお嬢と呼ばれる女性が

「人魚姫の命様が何人かの供と家に泊まる事、それが条件だよ」

そう言われてすぐに言われた事を理解できない命がユカを見ると

「せっかく知り合いになったんだから家に泊まらないですか?そう仰ってるんですよ、あの方は」

そう言われた命は

「みこ、お泊まりしていーの?」

命にそう聞かれて驚く人々だが

「勿論、逆にアタシの方が泊まって欲しいんだからねっ♪」

そう言われてホッとした命は

「じゃあみこ、お姉さんのお家にお泊まりして良い?」

そうすがるような目で見られ溜め息を吐いて春蘭は

「忍さん、私とユカ様は戻って幼い娘達の指導せねばなりませんからミナさんに命様をお任せしますから彼女がこちらに来るまで命様をお願いします

大樹は忍さんがこちらに詰めますから指導を受ける貴方もこちらに詰めて下さい

海斗は宿からこちらまでミナさんの案内を頼みますよ?」

そう春蘭が指示すると

「それではユカ様と春蘭様の案内をする者が…」

大樹がそう言うのを聞いて

(ファッションに疎いアタシだってユカとゆー名は知ってるしそのユカが黙って見守る春蘭と言うこの娘はそれだけ公女殿下から期待されている証し…)

「大樹、お二人のこれからの予定はどうなってるんだい?」

そう言われ

「北の町から同行した子達に必要な物の買い出しと春蘭やミナ、麦が創作に必要なものを買い付けに行きます」

そうユカが答えるとお嬢が背の高い男に向かい

「お嬢様方の案内を頼むよ、大樹もそれなら安心だろ?」

そうお嬢に言われて

「若頭にそんな事お願いしてもいーのですか?」

そう大樹が聞くと逆に

「それ程の方なんだよ、このユカ様とゆーお方はね」

そう言われて

「私は観月様にお仕えする侍女の一人に過ぎません」

ユカがそう答えると春蘭に向かい

「あんたはどう思う?」

そう聞かれた春蘭は

「確かに侍女の一人には違いありませんけど私達の憧れであり目標のユカ様達は私達とは違って一人に過ぎませんと言ってしまう存在の方じゃ無いと思います」

春蘭にまでそう言われて

「春蘭までその様な事を言ってどうするのですか?

まぁご厚意には甘えさせて頂きましょう」そう言って立ち上がる所作はやはり思っていた通りに優雅なもので

(ここいらの田舎貴族なんか足元にも及ばないよ)

そう感心しているとユカには未々遠く及ばないものの春蘭の十分に洗練された立ち居振舞いはさすがだと唸るものだった

 

「んとね、お姉さん…みこ今日は未だあんまし踊りのお稽古してないから今からしても良い?」

命との会話の糸口に迷っていたお嬢ことアリエスはそう聞かれ

「あたしが見てても良いのかい?」

そう聞かれた命は

「人に見せられない秘密の踊りとかそーゆー踊りはみこ知らないから見ても平気だよ」

そう言うと中庭に降りて踊りの稽古を始める命

航海の安全祈願、航海の無事に感謝の気持ちを捧げる踊り、大漁祈願、大漁に感謝し海の幸を司る女神に感謝の気持ちを捧げる踊り

豊作祈願に豊作に感謝し豊穣の女神に感謝の気持ちを捧げる踊り

そして水の精霊への奉納の踊り、地の精霊への奉納の踊りと舞い一息吐くと忍から水筒を受け取りお茶を飲みもう一度頭から踊る命に

(何故だろう?)

そう疑問に思い踊りと踊りの合間に

「命様は何故その六つ踊りしか稽古をされないのですか?」

そう聞かれのだけど何も答えない命に代わり

「貴女が命様と呼ぶのが嫌なのですよ命様は…」

忍に苦笑いを浮かべそう言われ益々わからないアリエスに

「命様は命様と呼ばれるのがお好きでないのですよ

勿論私達がそれをハイそうですかと言う訳にはいきませんが貴女の様にそれなりの立場の方ならそれも許されると思うのですが?」

忍にそう言われ

「では私は何とお呼びすれば…」

戸惑いながらそう聞くアリエスに

「みこちゃんで良いと思いますよ?命様に歌の指導をしている謡華さんもそう呼んでますからね」

そう言われ

「みこちゃんで良いのですか?」

アリエスがそう声を掛けるとニッコリ微笑んで

「みこはみこなんだよ?それとみこは未々知らない事が一杯なんだよ…

歌も踊りも…この国の事も他所の国も何も知らないからそれを覚えるために今旅をしてるんだよ」

そう言うと再び稽古を続ける命を見ながら

「あたし等は牧場を持ち定住化の生活の道を選らんたが舞の女神への信仰心を忘れたわけじゃ無い

だからどっちかとゆーと歌の女神の寵児とも言われる歌う人魚姫より最近呼ばれる水の精霊の舞姫の訪れを歓迎する気持ちが強く是非とも舞姫に舞っていただきたい踊りがあるのですが…」

呟くアリエスに

「それは命様ご自身がお決めになる事ですが…

先程命様が仰った筈?何も知らないからそれを覚えるために今旅をしてるんだよ…と

そして私は踊りと謡華さんに歌を習い始める時に立ち会いましたがどちらも命様が興味を持たれ踊りたい

歌いたいから習いたい、教えてほしいと願い叶えられました」

そう言われたアリエスは

「つまりみこちゃんが興味を持つか否かはわからないけど見てもらうのが早いと?」

そう聞かれた忍は

「それ故勉強には一切興味を示さないようです

他の三人の王女達や仲の良い見習い侍女達がどれ程勉学に励もうとも関心を示さないそうです…」

忍にそう言われて

「わかりました…興味を持つ事をを祈り明日案内しましょう」

そう話していると海斗に案内されミナが到着したのは夕食の支度を始める前で色々食事に制約の多い命の食事の支度に間に合いホッとしたミナだった

しかしその事情を知らない元締め宅の飯炊き女達は事情を聞くまでかなり不機嫌だったけど

「お口の小さな命様は基本的に食材を小さく刻まなくてはお口に入りません

お腹の弱い命様は消化の良い食事、味付けは薄目で香辛料も極力控えないと直ぐにお腹を壊します

又、かなりの猫舌の命様は少々冷めたくらいがちょうど良いので他の方から先に召し上がっても差し支え有りません

実際、命様とお茶を飲む場合命様のを冷まさねば命様は飲めませんがそれを待つと言うことは他の皆の分は冷めてしまうことになりますからね

小さく刻む事に関してはは召し上がられる際でも構いません」

ミナに言われた事は確かにどれひとつ取っても特別な事は何も無かったけど命…即ちゲストを迎える者が気をつけねばならない事

だからその事を知った女達は大いに恥じ入ったし逆に命が喜んで食べたラム肉のシチューのレシピをメモしながら真剣に聞くミナに好感を持ったくらいだ

又食卓では命の歓迎の宴なのに隣室の別卓に着く男達を不思議に思った命が

「何でおにーさん達はこっちに来ないの?」

そう聞かれて

「俺達の面見てたら人魚姫様の食欲が落ちるからですよ」

一人がそう答えると

「あはは、大丈夫だよっ♪観月お姉さんが怒ったらすんごく怖いんだよ?内緒の話だけどね

それにみこは元々皆からもっとしっかり食事を取りなさいって怒られてるから余り食べないのはいつもの事なのだからねっ♪」

そう言って舌を出して笑うと言われたミナは

「命様の仰るその通りですけどそれを笑って仰るから観月様や真琴様、ひいては春蘭さんからお説教されるんですよ?」

そう言って

「王宮から供をしているりんと、留実菜と言う少女達の父親達は網元と舟頭

その二人をりんちゃんのお父さん、留実菜ちゃんのお父さんと呼ぶ命様が気になさるわけはありません」

そうミナが言うとアリエスも

「酒場の女以外でお前達の事をお兄さんなんて呼ぶ娘は初めて見たよ?」

そう言ってミナを見て

「アンタは大丈夫なのかい?」

そう聞かれて

「幼い頃から大公邸でお勤めしていた私は騎士様や戦士の皆様達と接してましたから…」

そう答えるとアリエスが

「魔物の住処の監視役、魔物との小競り合いの絶えない大公家の騎士や戦士なら酷い傷跡の者も居るんだろうね?」

そう溜め息混じりに言うと

「はい、気の弱い娘はその方達に会うたびに泣いてましたから…

今の私もあの頃を思い出すと申し訳ない気持ちで一杯です」

そう詫びる様に言うと

「名誉の負傷も幼い娘は理解できないからねぇ~っ…」

その話を感慨深げに頷き命の招きを素直に受け入れる若い衆だった

彼らを喜ばせたのは命が彼等をお兄さんと呼ぶその一言だったのは間違いなく優しい心根と裏腹な強面のせいで寂しい青春を送ったものは少なくない

そんな彼等に他の者と変わらぬ笑顔でお兄さん達と呼ぶ命はお嬢の次に可愛い存在になり…

そのアリエスも妹の様に可愛がってる様子を見てお嬢の妹として扱えば良いんだと考えた

いつもは厳めしい表情の男達にこんな顔も出来たのかと元締め父娘を驚かせたけど悪い事じゃないな…とも思えた

命の歌で、華やいだ夕食だった

 

 

 

③毛刈り祭

 

一夜明け大樹は忍の指導の元に修行をし命は謡華の歌の指導の歌のお稽古

大樹の忍の指導の元気合いの入った稽古をすると男達の態度は今までの馬借の小倅から未々若いとは言え(准)騎士として扱うのに何の拘りもなくなっていた

剣は使わないけど場合によっては帯刀者とも戦う彼等の目にもそんじょそこらのへなちょこ剣士が束になっても敵うまい

そう思わせる位に力を着けていたから元締めの家で働く女達は結構大樹に好意的で顔を合わせると頬を赤らめる者も居たし海斗もユカに

「命様がお世話になっているのだから」

そう言われて元締めの使いを積極的にこなし飛び回っていたから海斗にシーホースに乗せて貰った者達は大喜びし吹聴して回った

そのお蔭?で祭りの当日は乗せていただけるよう騎士様とその主人の命王女様に頼んで欲しいと元締めの所に陳情書が集まり…

元締めが命にその事を話すと命も

「うん、じゃあ当日は炎と風華の二人も呼んで手伝ってもらおーよ?」

そう答えると阿にその旨を観月に相談してもらうよう伝言すると

「前日の夕方そちらに向かわせます、との返事を頂きました」

その答えを阿が命に伝えたから二人が喜んだのは言う迄もなく

その事を元締め発表と祭りがいよいよ盛り上がっていった

 

話は戻り元締め宅で初めて迎えた朝、謡華に朝の稽古を着けてもらった後に朝食となり食後の休憩の後にアリエスに誘われ出掛ける事にした命と供のミナ

その三人を見た若頭が

「この街の地理に明るくない命様とミナさんのお二人と方向音痴のお嬢が供の一人も連れずにどちらへ?」

そう聞かれたアリエスは一寸面白くなかっなかったものの

「耳貸しな」

そう言って命に聞かれないように伝えたら

「おい、ちょっと来な」

そう呼ばれたのは背だけなら阿も凌ぐ男が呼ばれ

「お嬢がお二人をご案内したいそうだから任せる」

そう言われて驚いていると更に命にじっと見詰められて両手を伸ばされて意図が見えないミナ以外の者達に苦笑いのミナが

「多分推測されてる通りの事をして欲しいのですよ、背の高い貴方に肩車していただいて見える景色をきっと気に入ると思いますよ?」

そう言われて

「あっしなんかで宜しいのですか?」

そう聞かれた命は

「ヤなら頼まないよ?だから早くして…」

そう言われて命の脇の下を壊れ物を扱うように慎重に掴み頭を越え肩に座らせると

「スッゴーいっ♪」

そう命の嬉しそうな声が頭の上からして耳元に口を寄せると

「おにーさん、きょーはよろしくおねがいします」

そう言われてみっともない位に顔が緩んでいたがその事をからかわれても気にもならない位に幸せを感じる男った

実際露店商の小道を歩くアリエスとその男は目立っていたけど命を肩車して顔を緩ませ後からついてくるミナを見て

(きっと結婚して子供が出来たらかみさんにはこうして三歩下がらせ子供…特に娘にはアマアマな父親になるんだろうね、今みたいに…)

見ている者にそう思わせるくらいに緩みきっていたし本人も幸せそうだからあえて突っ込むものはない

と、ゆーよりは人々の関心は命に有るしアリエスが命を見る目は年の離れた妹を見るそれで命の方も漏れ聞こえる会話から姉に甘える妹のそれだったから

(勘違いだ、あれはアリエス様の幼い頃に重なる

当時の若頭にやはりあーして肩車させて市を廻って居たな…)

アリエスの幼い頃を知る者達はそう感じると命に対する親近感が急に高まりをみせ

また、物腰が柔らかく穏やかな笑顔を絶やさないミナも市の者達に中々好感を持たれていた

何しろ命の好みをほぼ把握している者の一人のミナが味見して命に食べさせて自分の財布から代金を支払い命の為の物を買い物して歩く姿をみて悪く思うものはないだろう

そんな一行がある一軒の邸の前で立ち止まりちょうど命の顔の高さに在る天窓から中を覗くとその中は踊りの稽古場らしく

命には初めて見る踊りを稽古する師と弟子達の姿が見えた

食い入るようにその様子を眺めていたら

「ソコの窓から覗いている貴女、興味があるなら遠慮要りません…中に入って見学しなさい」

そう言われてアリエスとミナを見ると二人が笑顔で頷いたから

「お兄さん、みこ自分の足で歩いて入らなきゃいけないから又帰り道お願いしていーい?」

そう聞かれたので

「勿論、お供させていただきますよ」

そう笑顔で答えてもらい命の方も

「約束だよっ♪」

そー言って中に入る事にした

 

「命様っ!」

そうミナに小さな声で叱責され慌ててぺこりと頭を下げ継いでアリエス、ミナと道場に入り

「慣れぬ事とは言え失礼しました」

そうミナが命の非礼を詫びると

「いいえ、貴女の身のこなしはさすがと言うべきモノ

貴女、踊りの経験は?」

そう聞かれた命が指折り数えていると

「おおよそ二月になる頃でしょうか?」

そう聞いて鼻で笑う少女達に

「身体の動きだけで相手がどれ程の踊り手かもわからぬ愚か者でしたか」

そう師に言われてシュンとなる少女達に

「その方はその短い間に大漁と航海の無事を祈る踊りに加え忘れ去られし豊作祈願と豊作の感謝の踊りを甦らせ

水の精霊への奉納の踊りに続いて地の精霊への奉納の踊りを会得した方なのですよ」

そう言われて

「えっ、あ…竪琴を背負った蒼い髪の少女ってまさか人魚姫様っ!?」

その声で道場内がざわついたけど

「どうですか、踊ってみませんか?」

そう声を掛けられた命がなんとか無事踊りきるの見て

(もしかしてお嬢は…)

そう思いアリエスを見るとアリエスも真剣な面持ちで頷くのを見て

「命様、宜しければ今年の祭りに奉納の踊りを舞われませんか?

もしもその気ならば私が指導致しますが」

そう言われてにこーっと笑顔を浮かべ

「うん、覚えたいし踊れる様になったら見て欲しいからみこに教えてください」

そう言って頭を下げるとミナを見て

「宜しいのですか?」

そう聞くと

「お止めしなければならない事ならともかく芸事に詳しくなく大公領出身の私でもその様な踊りが有るのは存じてます

それに女神の祭典後諸外国を歴訪予定の命様は他国の牧羊を生業にされる方と交流する事も有りましょう

その命様が自国の文化を理解せずに他国の文化を理解出来ましょうか?逆に是非とも命様をご指導していただけますようお願いします」

そう言って頭を下げるミナに

「貴女の立場は良いのですか?」

重ねて問われ

「観月様からみこがどうしたいか、みこの気持ちを優先して物事を判断しなさいとの御言葉頂いてます」

その答えを聞いてアリエスを見ると

「この方の踊りの才能なら毛刈り祭当日に十分間合いますから私に任せていただけますか?」

そう問い掛けると

「才能は勿論熱中すると寝食を忘れ体力の限界までお稽古をされますから私や共に周りに仕える者…

王妃様や観月様…三人の王女様達の心配の種です…」

そう言って嘆息するミナに

「確かに…既にイメトレに没頭してるこの方の集中力は半端なモノではありませんからね…」

そう聞いたアリエスが

「誉めて良いのか悪いのか微妙な話だね?それは…」

溜め息を吐くアリエスに

「あまり誉めないでください、そーでなくても無茶ばかりされる方が余計調子に乘って無茶ばかりなさいますからこれ以上…」

そう嘆くミナに

「そうだね、昨日踊りの稽古を見せてもらったけど僅か二月足らずであの精度の高みで踊るにゃかなり無茶したんだろうね?」

そうミナに聞くと

「少し前からはアクエリアス様の結界に隠られて時を気にしないで踊りの稽古をなさってますから…」

そう言って嘆息するミナを見て

「そろそろ稽古を始めて宜しいですか?」

そう聞かれたミナは

「そうですね、私のつまらないくり言でこれ以上稽古を遅らせるわけにも参りませんからよろしく宜しくお願いしますそー言って新しい踊り習得の稽古が始まった」

命が毛刈り祭りの奉納の踊りを習得中で早くもかなり踊れると聞いて又ひとつ祭りの楽しみが増えた人々だった

 

そして祭り前夜訪れた風華は翼と沙霧を伴い炎はチサと修羅を伴って来た勿論六人も元締め宅に泊まり

祭り前日、政治的、軍事的に屈してはいたけど融和にはほど遠かった王家と騎馬の民が話し合いを持つ気運を育み始めていた

勿論王家にはそんな意図は無いが逆に王家が望んで迎えた四人の王女

特に国王がメロメロと噂され今回の旅立ちに際し血の涙を流して送り出したと言われる命を自分達に預けているその事実は政治的な甘言等にはない誠がある

打算、計算の無い誠が

そんなわけで早朝の開会宣言は三人の中でも社交の場で活躍する翼が代表で挨拶し今年の毛刈り祭りが始まった

三人の霊獣の騎士達も平和的な活躍…霊獣の力を借り人々を短いながらも空へと誘い



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羊(毛刈り)まつり

畜産の神に感謝を捧げるための羊(毛刈り)祭りの踊りを祭りで奉納する水の精霊の巫女は水の精霊の舞姫と呼ばれ始めていた


巫女や見習い侍女達は屋台の手伝い…勿論若月も出店している…と言う形で祭りを盛り上げるのに貢献したし何より

「私達もみこちゃん同様に妹…そう思って扱ってくれたら嬉しいのでそうお願いします」

それが翼のした挨拶の言葉で既に街中にも広くて伝わっていたしアリエスもそう扱っていたし二人も姉を慕う妹として振る舞っていた

そして祭り本番…

三人の中でも観月の代理も務めた実績を持ち社交界でも活躍する翼に開会の宣言とスピーチが任され祭りが始まった

オープニングの地の精霊への奉納の踊りに豊作祈願の踊りが奉納され命はフリーになりミナとスーを従えいつもの様に肩車で散策

今回これなかった真琴や先に王都に向かわせた巫女たちや留守番の見習いの侍女達が皆で食べられるお菓子等を買いながら散策を楽しんだ

霊獣の三騎士は短いながらも霊獣の力を借り少女や少年達を大空へと誘い祭りを盛り上げる一大イベントになっていた

マイと麦、冬実他八人見習いの侍女は若月の手伝い

特に麦はパッチワークや着回しのアドバイスに買ったワッペンを借り止め等大活躍しお客の少女達は勿論見習いの侍女達も尊敬の眼差しで麦を見た

留美菜とりん、ライと蛍に美景は各々に屋台を手伝って祭りを盛り上げ頑張る少女達

勿論見習いの騎士達も祭りの見物客の整理などの裏方の手伝いで奮闘し混雑緩和に一役買った

そして翼も純白の翼を背負いしその女神か天使の如き姿を惜しむ事無く人々に披露したからその姿を見て拝む者も少なくなかった

メインの毛刈り祭りの踊りを奉納して盛り上がる中いよいよクライマックスに向かうべく水の精霊への奉納の踊り

祭りのフィナーレを飾る命の歌が流れる中奇跡は祭りで賑わう人達の前で起こった

ー私は陽炎の精、なつきその名に相応しく熱く生きなさいー

ー私は蜃気楼の精、かがみよ私と共に見えぬ物映し出す鏡になりなさいー

ー私はオアシスの精、荒野のオアシスの様に潤いを与える者になりなさい,良いですね?水樹ー

ーさぁ、我が主人達の為ひとつになる時です…私達を受け入れるなら左手を掲げなさいー

精霊達の受け入れを求める声に応え北の町からついてきた少女達が左手を差し出すと精霊達はその手に口付けを落とし少女達の身体に吸い込まれていった

感動的な奇跡が祭りを締め括った

勿論屋台は皆用意してきた商品を売りつくしてからその後は客として楽しんだし元々店を構えている者達は折角の機会だからと在庫が残ってるうちは…

と、営業を続けたから未々盛り上がり続けていた

お祭り騒ぎの熱が…夢が覚めてしまうのを恐れた人達が足掻き続けていた

 

翌日は祭りの関係者達を労う宴が開かれ勿論翼やチサも招かれ予想以上の人出に警備を手伝ったけど沙霧や修羅は勿論風華や炎達も労う…

そのハズが命からして率先して歌い踊り三人の霊獣の騎士達も

「昨日お手伝いしながら並んでる娘達を羨ましそうに見てましたね?」

そう言って風華が一人の少女に手を差し出すと海斗と炎も思い思いに手を差し出し少女達を空へと誘った

だからそう、少女達の羊祭りは未だ終わってはいなかった…

元締めもそんなつもりで誘ったわけではないけどその主従の気遣いが嬉しかったから敢えて水を挿す様な詰まらない発言は控えた

特にアリエスはその立場上痛い程少女達の気持ちがわかるだけに彼女達への気遣いが我が事の様に嬉しかった

更に一夜が明け…

翼はライと共に一足先に帰り炎は蛍と美景を連れ海斗は沙霧と麦を乗せて翼に同行して王宮で一休みの後に命とチサの元に帰り

ライはそのまま翼の部屋付きになり蛍は勿論チサの部屋付きに決まり留守を預かるマキ、スエ、小明が蛍の到着を歓迎したのは言うまでもない

麦は観月の部屋付きでファッションに関してはユウが指導する事になり美景は当面真琴の部屋付きになり各々の修行に励むことになった

オアシスの街にとり一年で最大のイベントを無事に終え落ち着きを取り戻しつつあった

 

慰労会の翌日翼達を見送チサは命に

「みこちゃんに謝らなきゃいけないことがあります…」

そう言ったチサの真剣な面持ちに

「翔の事?」

いきなり核心に触れられビクッとするチサに

「大丈夫、翔の身に何が有ったのか教えて?」

そう言われて修羅を呼び

「私の霊玉戯れてた翔ちゃんがうっかり飲み込んじゃって…」

そー言うと修羅に抱かれた翔が命の前に姿を表すと

「力が貯まらないみたいだね?それに身体も思う様に動かないんだ…チサちゃん、翔を見守ってくれる?」

そー言われて涙ぐみながら

「当たり前だよ、みこちゃん…私のせいだし少なくとも翔ちゃんが私の霊玉を受け入れたのは紛れも無い事実なんだから…」

そー言って修羅を見ると

「心配要らない、真琴様は勿論翼様に観月様、王妃様もこの姿を歓迎してるしユウを始め美月のスタッフも大喜びで受け入れているし…」

「いるし?」

そう命に聞かれた修羅は苦笑いを浮かべ

「鬼百合の奴等はユウが翔を構ってくれるお陰でユウから開放されてると他の者とは異なる意味で歓迎している」

そー話すのを聞いて命とミナ迄苦笑いを浮かべその雰囲気から察したアリエスも苦笑いするしかなかった

その夜遅く命に呼ばれたたけ、りゅう、れん、たかの四人とかがみ、チサ、夏樹、水樹、りんが集まり

「いよいよ貴方達を導く時が来ました…勿論貴方達にその覚悟はありますね?」

そう問われた少年達は

「勿論っ!」

短くはあるけど力強く応え

「チサちゃんはみこがする事を見てて

りんは女神の祭典後の事も有りますから今日は貴女の霊力に干渉し彼らを導きますから貴女もそれを学びなさい」

そう言って取り出した霊玉と勾玉達はたけの元に向かったのは白い勾玉で朱い霊玉はれんを選び

りゅうを選んだのは黄色と緑のマーブル模様の霊玉(春蘭の霊玉)で白銀の霊玉(媛の霊玉)が向かったのはたか

 

翌日は見習い騎士達と巫女達に休暇を取らせその夕方炎と海斗に四人を王都に送らせたがその際火炎剣をれんに渡すのを見て修羅も炎の剣を炎に渡した

その様子を見ていた命は修羅に

「修羅にはこれ渡すね、紅蓮竜ってゆーんだよっ♪」

そう言って渡したのは深紅の黒炎竜とも言うべき一振りだ

翌日の早朝チサは修羅と帰還

その三人に付き従い海斗はなつきとかがみの二人を連れて王都に向かう事に

なつきとかがみは真琴の部屋付きに決まった

 

アリエスを始め多くの人達に見送られまた…

オアシスの町からも供を願う少年9人少女13人を受け入れ旅立っていった

いよいよ最終行程に入った命の旅だった

無人宿に二度宿泊して最後に立ち寄る村がそろそろ見えてきた

 

 

 

②謡華

 

最後の昼食を取る一行は間も無く終わる旅の思い出に浸っていた

「師匠…」

その謡華の呟きを聞いた命が

「師匠って先生の先生?」

そう聞かれて頷く謡華の表情は何処かを寂しげで

「この先の枝道に入ると師匠の庵が在るのですが…」

そう言い淀む謡華にユカが

「顔を合わせ難い?」

そう聞かれて

(さすが美月の情報網)

そう内心舌を巻きながらも

(ですが…そうやって得た情報で政治不介入の公女宮を守ってきたのでしょうね)

独自の騎士団を持たない公女宮には情報こそが唯一身を守る武器なのだから…

「ええ、ご存知かもしれませんけど師匠と喧嘩別れで師匠の元を飛び出してきましたからね

今更どの面下げて会いに行けば良いのかわかりませんから…」

そうユカ問い掛けに答えるけど命の耳には全く入っておらず

「みこ、先生の先生に会ってお願いしたい事有るんだけどなぁ~っ…」

そう呟く命に謡華の答えは

「多分会ってくれないと思います…

不肖の弟子と会うほど暇な方ではありませんからね…」

そう答えると

「不肖の弟子…って何?」

命のその言葉に苦笑いを浮かべる謡華に代わって春蘭が

「それより命様、謡華さんの師匠に会われて何をお願いなさるのですか?」

そう聞かれて

「うん、このまま先生にお歌を習いたいから月影の国についてきて欲しいんだ

だから先生の先生に会って先生に月影の国についてきてもらってもらって良いですか?って…」

そう言われて難しい顔をする謡華に

「どうかしましたか?」

と、ユカが聞くと

「それこそが喧嘩の原因ですから…海外で腕試ししたい私とそれを許さない師匠との意見の食い違いで…」

そう聞いたユカは暫く考え込んで

「取り敢えず命様を伴い師匠を訪ねてみませんか?

会っていただけるかは私の決める事ではありませんから何とも言えませんが逆に言えば貴女の師匠が決める事を今私達が話し合って結論が出る事でも無いと思いますが?」

それが今この場に居る者に出せる結論ではないか?

ユカがそう言っているのがわかり目を閉じて考えて

「わかりました、会っていただけるかはわかりませんが本気で袂を別ちたいなどとは思わない以上いつかは会いに行かねばならないのなら…

今がその時なんですね?ゆかさん…みこちゃんが私の背中を押してくれる今この時こそが…」

そう自分に言い聞かせるように問い掛けてくる謡華に

「少なくとも私はそう判断します」

「指導者としても姉弟子に譲り庵を結び隠遁生活に入られている師匠の住む庵は然程広く有りませんから…」

そう言い淀むと

「忍が御者で命様、謡華さんにマイとスー、留美菜、りん、冬実だけで庵を目指してもらい私達は先に村に入り今夜の宿をとっておきますね」

そう言って馬車を走らせる様に指示するユカだった

馬車を止め馬車から降りると大声で

「お邪魔しまぁーすっ!」

と叫ぶ命は良くも悪くも謡華に迷う暇を与えずそのまま母家から離れた門の潜り戸を抜け石段を上がって行くとその人は玄関て待っていた

「お帰りなさい、謡華さん待っていましたよ…

早速ですが旅の成果を聞かせてもらいます、宜しいですね?」

そう言って稽古場に案内され三曲歌うと

「随分上達しましたね?」

師匠にそう言われて

「稽古の量は減りましたのに?」

そう不思議そうに答えると

「人に教えることにより初めて気付くことや改めて気付くこと

教えるにはより深く理解せねば人に理解させることが出来ない事を学んだはず

ですから無駄に稽古の時間を取る以上の稽古が出来たはず

命様に教えながら貴女もまた学び直していたのですよ?」

師のその言葉に考え込む謡華を他所に

「命様、宜しかったら謡華に習った歌の成果を聞かせて頂けますか?」

そう言って歌う事を促された命が謡華の歌った同じ三曲を歌うとじっくり聞き入る謡華の師

歌い終えた命に謡華の師は

「命様は女神の祭典後月影の国を皮切りに他国を歴訪されると伺っておりますが差し支えがなければ私の弟子の謡華の同行をお許しを願えますでしょうか?」

師のその言葉に驚いた謡華が師に

「お師匠様、私が国を出るのに反対だったのではありませんか?」

そう尋ねると

「やはり私の話をちゃんと聞いていませんでしたね?

私は貴女一人で海を渡る事に反対したのであって他国に行って歌う事自体は見聞を広げる意味でも大いに行うべきです

が、今この国以上に平和な地がない現状では安心して送り出せません

ですが…もし命様の旅に同行を許されるなら私も安心して貴女を送り出せますからね?」

そう話す師弟に命は

「違うよ、みこが先生についてきて欲しいんだ、未々先生に習いたい事は沢山有るし一緒にお歌も歌いたいんだ、だから先生の先生…

謡華先生がみこと一緒に国を出る事を許してくださいっ!」

そう言って頭を下げると

「本当に良い出会いをしましたね?羨ましい位です、命様…謡華の事を宜しくお願いします

貴女達も仲良くしてくださいね?」

そう言われて驚いた留美菜が

「いいえ、謡華さんに教えを頂いてるのは命様だけじゃ有りません…私達も着物の着付けや立ち居振舞いを習ってますから私達にとっても素敵な先生なんですっ!」

そう言うとりんもも共に旅する仲間…みこちゃんが大好きって言う仲間なんですからね?

そう言って積極的に私達の指導をしてくださりますからユカ様からの信頼も厚い方で私達にとっても素敵なお姉さんなんです」

そう言われて嬉しそうに

「謡華も貴女達を可愛い妹達の様に思ってるのでしょうね…」

そう言って微笑みながら

「命様が謡華から習った歌を聞かせてもらえませんか?」

そう言われて一番最初に習った曲を含め三曲を歌うと

「最後に二人で歌うようにアレンジしたと言う曲を聞かせてもらえますか?」

そう言われてやはり三曲歌い

「謡華はあまり他の音楽に引き摺られ無いように気を付けなさい

命様は臨機応変に基本通りに歌う時と自由に歌う時を区別出来る器用さが有りますから細かい決まりに囚われず自由に楽しんで歌うと良いでしょう」

師の言葉に謡華も

「私もみこちゃんと出会いその一番大切な事を思い出しましたから…」

そう答えるのを聞いて

「楽しんで歌ってきなさい、いつか土産話を聞かせに来なさいね

責任者のユカさんや陛下にも宜しくお伝えください」

そう言われて見送られた一行はユカ達が取った宿を探して合流した

その夜命は

「いよいよ女神の祭典が近いから忍には黒龍双牙に大樹きにはこの大太刀を預けるからお城に帰ったら今持ってる武器はまこちゃんに預けてね」

そう言って取り敢えずの陣容を固めた命は最後の夜は小さな村の宿屋で最後の公演を務め旅の終わりを締め括り早朝の出発故一睡もすること無く出発の時を迎えた

早朝のの出発にも関わらずまるで村人総出?みたいな見送りを受けての出発

徹夜の命、春蘭、ミナの三人は馬車が走り出すと眠りに落ちた三人は命は夢の中からアクエリアスの結界で引続き歌と踊りの稽古をし春蘭とミナは朝食迄の仮眠

以後はいつもの様に過ごし王宮に帰り着いたのは既に夜半を少し回っていたが多くの者達が起きて待っていた

夢現の命を瑞穂、媛を抱いたミナ、ユカと謡歌が同行春蘭が帰還報告を行い命と媛は王妃の寝室で眠り

春蘭は妹達と薬師の里の少女達(美輝を含む)と翼の従者の部屋で眠り留美菜とりんは岬の仲間と命の従者の部屋

眠り湯下の街と峠の街から来た少女達はチサの従者の部屋でスーは王宮の見習い侍女達と真琴の部屋

残りの少女達は四階の侍女達の大部屋で眠り見習いの騎士達は三階の騎士の部屋に暫定的に決まり

命の国外訪問旅立ちの際の正式な配置までその状態を維持することになった



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歌の女神の解放
前夜祭、そして決戦の時は間近


祭典はもう目の前まで迫り巡礼から戻ってきた水の精霊の舞姫は許されたわずかな時を楽しみ事に…


前夜祭、そして決戦の時は間近

 

 

 

①ただいまっ!

 

命の帰還で賑やかさを取り戻した朝の王宮

日の出より遥かに早い時間から駆け回る命とその後をついて飛ぶ媛の姿が至るところで目撃されたけど声を掛ける間もなく走り去っていた

二人が真琴の部屋に向かう中、翼の部屋から漂うお茶の香りに誘われた二人は風通しを良くする為少し開いたドアの隙間から中を覗いていると

「みこちゃん、お行儀悪いですからそんな所から覗いてないでちゃんと入ってきなさい」

翼にそう言われて

「はい、おねーちゃん…」

そう神妙に答える命をクスッと笑う媛にも

「行儀悪いのは貴女も同罪、何他人事みたいに笑ってるんですか?」

そう言われてシュンとする命と媛が見たのは未々思う様に身体が動かない翔が顔をひきつらせてユウの膝の上に座る姿だった

王妃の寝室を黙って抜け出したのは寝間着を着たままの二人を見れば一目瞭然だから命も翔を笑えず

媛も最近頭が上がらない美輝がいるから笑えずにいると

「おはよう、みこ…」

そう声を掛けられびくびくしながら振り返ると目が笑ってない笑顔の王妃に朝の挨拶をされたけど当然の事ながら黙って王妃の寝室を飛び出した命が王妃の顔をまともに見れるはずもない

そんな命の様子に呆れたた翼が

「みこちゃん、お母様はみこちゃんに朝の挨拶をされたのだけど?」

そう言われて

「おはよう…ママ…」

その一言にやっと溜飲を下げた王妃は命に

「みこと媛ちゃんのこれからの予定は決まっているのですか?」

そう聞くと

 「踊りの稽古とみこのお歌のお稽古はすんだし今朝はお稽古はお休みにしますって先生がゆったからこの後の予定はないよ」

との命の答えに

「ではユウ、予定通りに媛ちゃんのお洋服頼みますよ

取り敢えず朝食用のに着替えさせ食後に本格的に」

そう言って命を見ると

「みこはご飯の後先生をみこのお稽古場に案内したり皆に紹介したりしたいから…」

そう言われて

「スー、口下手なみこの代わりに謡華さんの事…任せますよ」

そう言われて苦笑いを浮かべ

「承知いたしました」

そう答えるスーの旅での成長を見た王妃だった

食卓に現れた媛はまさしく可愛らくしい天使の様でこの日の為に準備してきた美月のスタッフ達の表情も誇らしげで六花を愛でる国王の目は優しい父親のそれだった

 

食後の謁見の場で正式な命の帰還報告がなされ今夜は王女達四人揃っての公式の御披露目のパーティーが開かれると発表があり国中が沸き返った

当面の体制として

観月の部屋付きにこずえ、つぼみ、しずく、麦、きみ、小明、鬼百合、ユウ、翔

ユイの身辺警護に千浪

翼の部屋付きに弥空、ライ、沙霧、風華

真琴の部屋付きはマユ、白浪、美潮

チサの部屋付きにスエ、蛍

命の部屋付きに春蘭、ミナ、阿、忍、瑞穂、留美菜、りん、澪、美輝、雪華に決まり…

マイ、留美菜、美輝、雪華が媛の担当になりミナはその三人の指導役を兼任することになっている

又侍女ではないものの謡華も命の部屋に滞在してもらうことになっている

これが現段階の人員配置と国王からの発表で後日精霊の巫女以外の見習い侍女達の配置と命月影の国訪問の同行者も発表する発表があった

もっともその性質上王女の正装で出席せねばならない真琴と自由な空気を吸った命には苦痛以外の何物でも無かったのだけど

それでもこの夜社交界デビューを果たすライ、麦、澪、美景、蛍、七人の精霊の巫女達

美輝達四人の見習い侍女達がお披露目のドレスを身に纏い社交界デビューを果たし…

その間は二人も我が儘を言わず王女の務めは果たした

命や真琴、チサが妖精なら翼と媛、翔は天使と呼ばれこの時ばかりはユウから解放される翔が一息吐けるとき

未だに身体が思うように動かない翔は依然ダンスが得意でないご婦人方の格好の玩具

翔の噂を聞き付けた貴婦人、令嬢達に招かれる王妃や翼が翔の同行を請われ方々に出向いているためかなりの有名人

既に噂が先行する媛と四人の王女達と共に歌の国の六花と呼ばれ始めている翔は王女達に負けない人気を博している

皆がその手を求める王女達や手は取らなくても共に踊りに興じたい媛と異なり世話を焼きたい構いたい…

そんな女性達が翔の周りに集まっているのはいつもの光景で訪問先でも社交界デビューが未だ先の娘達が喜んで迎えたのは言うまでもない

特に最近は掴まり立ちが出来る様になりよたよたっと歩き始めてるからその様子を見ては皆騒いでいる

その社交界らしからぬ賑わいも皆それぞに楽しんでいたがまぁ当の翔本人はユウから逃げ出したい一心で歩く稽古してるから面白いはずもないのだけど

二人の女神の依り代に四人の王女達と精霊の巫女達に翔、そして美月のスタッフ達とおそらくは今世界でもっとも華やかな王宮なのは間違い無く来賓達が皆思うことだったろう

その席で正式に命の歌の指導者の要請を受け畏まる謡華に王妃の言葉は

「この国の歌を命が歌う事に重要な意味があります

その歌を命に教えて下さる貴女を私達は最大の敬意をもって迎えましょう」

だったので更に畏まる謡華に

「これからも王女様ではなくみこちゃんと呼んであげてください」

との直接の言葉に

「それこそが私にとっての最大の栄誉ですから…」

その言葉に微笑みながら頷く王妃とユイだった

夜の早い翔が真っ先に眠りに落ち伯爵夫人が翔の退出迄膝枕で寝かす権利を獲得しついで媛が眠りに落ち…

幼い巫女達の退場時間になり翼の挨拶で退場する事になり

精霊の巫女で最後まで出席するのは春蘭、ミナ、弥空の三人だが若い男達にはやはり恋愛対象のその三人が残ってくれれば良いとは決して口には出来ない本音ではあるのだけど

 

いよいよ明日は女神の祭典の前夜祭

あらかじめ宣言されていた通りに命をモデルにしたファッションコンテストが開催される日だ

既に明日の本選出場作品も決まり本番の命の着替えの手順も命以外は皆把握している

命の今日の予定は翠蘭太夫の踊りの師を訪ねる事で謡華も己の師とも親交の有る彼女に挨拶に行くことにして同行する事になった

供をするのは鬼百合と忍で翔を抱きかかえながら指揮するユウは一瞬同行する事が出来ない事を恨めしそうな表情を見せたけど

翔の身体を抱え直して気分を変え作業に打ち込むことにした

 

「こんにちは、お姐さんの先生っ!」

命が元気よく挨拶し謡華も

「ご無沙汰しております」

そう尋常に挨拶すると

「師と和解したのですね?」

そう問われ

「はい、その節は皆様にもご心配お掛けして恥ずかしい限りですが…

縁有ってみこちゃんに歌の指導をする機会を得まして師匠の気持ちを考えてみようと思えるようになりましたから…」

そう答えると

「そうですね、とても不思議な娘ですからね」

そう言って苦笑いする鬼百合と至極真面目に頷く忍を見る水蓮に

「今日はみこの踊りを見てもらいたくて来たんだ…(次に会える保証はないのだから)」

命のその思いはみこ本人すら気付かないものでみこの表情に陰りはない

途中食事の休憩を挟み九つの踊りを舞い終え水蓮に

「貴女なら私が敢えて言わずとも実践できてますが自ら楽しんで踊りの精進をなさい」

とのお言葉をいただき王宮へと帰っていった

そして夜が明け前夜祭が始まった

前回の命に代わり媛が屋台の受け付けに座り噂の天使の姿を見て既に会場は大盛況

そして留美菜とりんは仲間達の鍋の店に来ていて

「母さんこれ…」

「おばさんこれ」

そう言って渡されたのは未々真新しい若月の服で

「私達にはもう小さくて着れないから皆に着てもらおうって持ってきたの」

そう言って渡す二人は確かに命の供で旅立つ前より背も伸びていたが

「良いのかい?こんな高そうな物を貰っても?」

そう聞かれた二人は

「大丈夫だよ、この事をユカ様に話したら今のサイズの新作を頂けた上に

未だそれ程時は経ってませんが私達は新作に力を入れたいから…

岬のお友達の皆が今日の前夜祭で着て屋台の仕事を頑張ってくれたら良い宣伝になりますから着てもらってね

そう言って頂きましたから」

留美菜がそう言えば

「着れないからと粗末に扱われたら服だって可哀想でしょ?

サイズが合わないだけなら着れる娘に譲ってあげてね

そう言って頂きましたから」

そう言われて

「さすが美月のスタッフ…言うことが違うね…

ほらっ、アンタ等もぼーっと見てないで取りに来な

それと二人は仕事に戻らなくても良いのかい?」

そう聞かれてかおを見合わせてクスッと笑い

「私達の今日の仕事は屋台のお手伝いで前夜祭を盛り上げる事だから

鍋は私達が見てるから着替えてきて」

留美菜にそう言われても躊躇う少女達に「少々のほつれや汚れは何とかしてやるから着替えてきな

りんはこの間頂いたばかりの新品を着てやってたのにお下がりのアンタ等がビビってどうするんだい?」

そう言われてやっと

「着替えて来る」

そう言って銘々に服を選び着替えてきて屋台を始めた

今日は朝から握り飯やまんじゅうやらをセットで販売しているし蕎麦屋は王宮の許しを得て人魚姫も大好きな蕎麦

と銘打って営業し事実岬で蕎麦を楽しんでるのを見たものは少なくないのでその一角は群を抜いて大盛況

その為前回より多く準備したにもかからず夕方まで持った者は居なかった

つぼみ、つぐみ、しずくの三人は親達の手伝いに行き

麦、小明、スー、スエ、スズは若月のお手伝いでその一角で蛍はジャム、きみは蔦細工を売っていたけど

きみの作品は若月のブースのレイアウトを見て欲しいと思わせ蛍のジャムは美月のスタッフ達が交代で休憩する際これ見よがしに蛍のジャムをお茶に落とし香りを撒き散らした

その効果で用意した分はあっという間に売り切れた

嬉しい誤算は留美菜やりんから服を貰った少女達達が着ている服

前回より割り引いて売ってはいるものの販売の手伝いをする巫女達の着る新作ほど目立つ扱いをしてないにも関わらず

「漁師の娘達の屋台の方でお前達の服の問い合わせが凄いことになってるぞ」

と鬼百合に言われミナが対応に向かい

(何かしらのお礼を考えましょう)

と、思うユカだった

春蘭は観月の指示で会場の総指揮をとり朝からてんてこ舞い

命の今日の担当はマイで三人の王女は王妃と共に他国の大使のガイドを務め

午前中は何かと予定が遅れがちながらも何とかこなせ昼食時間にずれ込み遅い昼食になった

更に食欲の無い命的にはフレッシュジュースだけでも良いのに

「飯を食え飯をっ!」

そう口喧しく言う鬼百合のお陰で今だ屋台巡りになっていたが間が悪く売り切れか丁度次の料理の仕上がり待ち状態でなかなか見つからないまま休憩時間が終わりそうだった

そんな命達に「命様っ!」と、声を掛けたのは留美菜で彼女が手伝う店を見て

「アンタ等どっから来たんだい?」

そう聞かれて思わず身構える出店者達に構わず

「月影の国から歌を学びに来てるって聞いてます」

そう聞いて目を光らせる鬼百合に益々怯えたのだけど

「月影の国のハムならアレは有るのか?侯爵領の辛炎ハムは?」

そう聞かれて恐る恐る出すと

「アタイにゃ分厚く切ってその二人にゃ蜂蜜漬けを薄切りで軽く炙ってくれ」

その注文通りに出すと

「うめえっ、やっぱうめえぜっ!留学生だってな?異国じゃ何があるかわからねえから金に困ったらこいつ持って王宮の…鬼百合ってゆーんだがアタイん所訪ねてきな、力になってやるからよ」

そう言われて

「良かったねお姉さん達、鬼百合さんは国王様も一目置く方でその方に気に入ってもらえて」

そう話しているのとは別に旨そうにハムを食べる鬼百合に

「姐さん、そいつはそんなに旨いのかい?

そう聞かれた鬼百合が辺りを見回して

「マイ、済まねぇが握り飯を買ってきてくれ無いか?」

そう言って小銭を渡し

「辛い物好きならこれだけでも十分旨いが握り飯一緒に食えばなお旨いっ!」

そう言って右手に串焼きのハムと左手に握り飯を持って交互に食らい付く鬼百合の姿を見て生唾を飲み込み

「俺にもそのハムをくれないか?」

そー言ってハムを買い握り飯買いに走り鬼百合の様にかぶり付くと苦笑いの鬼百合が

「握り飯も良いんだがやっぱアレだな?」鬼百合の言葉に男達が頷くと不安気に見守る留学達だったけど

「だな、やっぱ一杯やりたくなるんだよなぁっ♪」

そう笑って言うと男達も

「やっぱり姐さんもそー思うかいっ!」

そー言われて

「あぁ、みこの休憩時間が終わって控え室に送ったら又買いに来て一杯やるつもりだぜっ♪」

そう言って笑う鬼百合に

「今更じゃ無いですか?そんな事を気にしたって…」

と、留美菜が言えば命も

「お風呂上がりくらいしか鬼百合からお酒の臭いしない時無いからね…」

命に迄ぼそっと言われ苦笑いの鬼百合に

「大丈夫、お酒の臭いさせない鬼百合は偽者ってわかりやすいから…」

そう言われた鬼百合もさすがに微妙な表情になり少しだけ考え込んだが

「そうか、軽く引っ掻ける程度なら構わんのだな?」

そう命に聞くと

「みこをちゃんと時間までに送ってくれれば問題ないよ

少々の酒で任務を忘れる鬼百合さんじゃあないよね?

それと飲みすぎて観月お姉さんとユウ…それと春蘭に怒られてもみこ知らないからね…」

勿論忘れるつもりは更々無いが…それに関しては想像もしたくない事態だから

「時間が無いから二杯が限界だな」

そう話していると

「ほれ、姐さんっ♪」

そう言って徳利瓢箪を投げて寄越すと受け取った鬼百合に

「人魚姫様のお許しも出たんだから軽く一杯いきましょう」

そう言って自分達も徳利瓢箪に口を付けグイッと煽りハムをかじると

「う~ん、旨いっ!」

と、異口同音に唸る男達につられて鬼百合もグビグビッと酒を煽りハムをかじって

「侯爵領の爆酒との相性が又合うんだぜっ!」

そう言って暫くの酒談義後

「じゃあ、アタイはみこを控え室に送ったら又来るからよっ♪」

そう言って命を肩に担ぐと颯爽とその場を立ち去った

午後の衣装はカジュアル部門で御法もエントリーしている部門で命も楽しみにしていた事のひとつだ

そして受賞式になり人魚姫部門とカジュアル部門の入選作と佳作共に三作品が選ばれ特別審査委員長賞が選ばれ

明日の女神の祭典が終わりその翌日、すなわち明後日の午前中に契約を結ぶので大公宮に集まるようにとの事

そして閉幕の挨拶に観月は

「これ迄の宮廷ファッションはそのままですが若月を始め新しく芽吹いた新芽を大切に守り育て…

更に芽吹く新芽に期待し今回のイベントを企画しました

この先この様なイベントを度々行いますから今回選に漏れた方にも光るものを感じました

ですからこれからも精進を重ねて頂くと共に次の企画の為皆さんの得意ジャンルなどを問うアンケートに協力をお願いし新しい美月の力になる方を随時募集して行きます

我こそ美月に新風を巻き起こすのだっ!の気概で次の機会を待ってください」

それが閉幕の挨拶で選に漏れた大抵のデザイナー達は得意ジャンルではなかったからだと自らも納得し次の構想に思いを馳せた

 

 

 

 

②女神の祭典

 

一日モデルをこなした命は出番終了後眠りに落ち朝を迎え本格的な実戦が初めての翼とチサに准騎士を初めとし見習い騎士達に王家の騎士、戦士達は眠れぬ一夜を過ごした

無論真琴とても今なら唄う人魚姫と称えられる命と代わり魔剣士の自分こそ歌の女神の救出部隊に加わりたい真琴も眠りに付くまでは思い悩んだ

それでも水の精霊と和泉の女神の要請であり何より命には今年の出場権が無いのだ

持回りで審査員を行いその年の審査員の弟子は参加できない決まりが有り命の師のアリア女史が今年の審査員であるからだ

だからやはり根っからの戦士である真琴にどうしようも無い事をいつまでもグダグダ言う気はないから早めに眠りに就き万全の体調で挑むのが今の自分が為すべき事だから…

そして祭典同日の朝緊張する翼やチサの心を解きほぐしたのは思わす脱力するほどの寝惚けた顔で

「お姉ちゃん、お腹すいた」

そう言われて苦笑いしながら

「春蘭かミナに用意させますね」

そう言って二人に伝えようとしたら春蘭はお茶、ミナはお粥を持って現れ翼やチサにさすがと唸らせた

人員配置はロイヤルボックスに媛と翔に春蘭、留美菜、りん

部隊周りにミナを始め精霊の巫女達と大樹率いる見習い騎士達

会場外壁に千浪は命から預かった魔弓黒炎竜で吽、モリオンが真琴が錬成した黒い勾玉の弓…魔弓焼炎竜を持ち待ち構え

会場周辺に騎士団も弓を装備

迎撃部隊に翼、沙霧、斬刃、炎と海斗

救出部隊一班は命、忍と瑞穂

救出部隊二班はチサ、鬼百合、修羅

救出部隊三班は嵐、阿、喧火

救出部隊後詰め班風華と騎士団で海軍は海上警戒

出発の支度をする救出部隊を不安気に見守る春蘭達巫女とマイ達侍女に真琴が

「二人共、そんな顔しないの…鬼百合さん達じゃあ頼りないってゆーの?

ボクはみこがちゃんと女神様を解放して帰えってくるのは当たり前だって思ってるけど?

それに貴女が不安そうにしてたら下の子達の不安が大きくなるんだよ?」

そう言われて畏まる二人に

「春蘭、水筒に茶を頼む

時間との戦いでもあるこの作戦…お前の淹れてくれ茶で頭を冷やさにゃならん事もあるだろうからな」

そう言われて

「わかりました、弥空…お茶の支度、手伝ってください」

姉にそう言われて給湯室に向かう姉妹を見送り

「真琴に不安はないのですか?」

観月にそう聞かれ

「全く無い訳じゃ無いけど…みこが又無茶するんじゃないかってね

でも、僕は不安より不満の方が大きいのだから…何で戦士のボクに歌を…みこと一緒に戦えないのさっ!て不満の方がね」

そう言って溜め息を吐くと

「祭典の優勝候補に名を連ねているのに?」

笑いながら面白そうに問う観月に

「それ自体が滑稽なんだけど?歌の経験の浅い僕なんかがさっ!」

そう吐き捨てる様に言う真琴に

「確かに歌自体はそうかもしれませんがレムに聞きましたよ?

魔導戦士の貴女に幼い頃から呪文の詠唱をさせていたと…

貴女に女神の祭典出場が託された時点で既にちゃんと下地作りはされていたのかもしれませんね…とも」

そう言われて苦々しい表情で

「そんな事を言われても少しも嬉しく無いけどね…」

真琴はそう言って溜め息を吐くと憂鬱そそうに

「鬼百合さんだって立ちたく無い戦場くらいあるでしょ?尻尾巻いて逃げはしなくても…ね」

そう言って再び溜め息を吐く真琴に

「選ばれし乙女にのみ生涯にただ一度きり立つ事の許された特別な舞台なのを忘れないようにしなさい」

観月がそう諭すとユカも

「来年以降…命様と同じ年に出る子達が可哀想なんですよ?

女神と共にをソロで歌いこなせる命様に叶う者などそうそう居ないはず」

と、言えばユウも

「そう言った意味では命様が出られては祭典自体が盛り上がりませんから歌の高まりでハーモニー様の救出が叶わなくなりましょう」

と、漏らすと

「だな、何でもそーだが強すぎる奴の居る武道大会は白けるからな…

まぁ歌と躍りの稽古以外の全てをうっちゃらかしてるみこに練習量が叶うわけ無いからなっ♪」

そう笑って言う鬼百合に

「笑い事では有りませんよ、鬼百合様っ!最近は謡華さんのレッスンや巫女達に着ける踊りの稽古以外はアクエリアス様の結界に籠ってなさってますからどれ程の無茶をなさってるのか…

そう言って春蘭やミナと頭を抱えてるのですからねっ!」

そう言って睨むと観月が

「やはりみこは甘やかし過ぎたようですね?伯父様」

と、命に一番甘い国王を睨むとばつの悪い国王が姪から目を反らすのを見て溜め息を吐く王妃だった

そんな和やかな時も終わりを告げ

―持っていけっ!―

とばかりに花の娘から突き出された乾いた木の実を入れた袋を持たされ救出部隊が旅立った

隠れるように口を開く洞窟内に入るといきなり通路がよっつに別れていて取り敢えず右から命班、チサ班、嵐班と探索することにし先に進んだ

鬼百合の肩に乗るチサと瑞穂の肩に乗る命は微妙ではあるけどそんな命に

「命様鬼百合さんではなく私で良かったのですか?

瑞穂さんは未だわかります、貴女の霊玉を…修羅さんはチサ様に呼ばれた戦士なのだから…

ですが…何故命様が選んだのは私なのですか?」

そう聞かれた命は

「忍はみこ以外のチサちゃんやお姉ちゃんと親しくなれる時間有った?それにチサちゃんは初陣なんだよ?

そんなチサちゃんを託せるのは一緒に過ごした時間が一番長い鬼百合じゃない?

それに鬼百合ならいざとなったらチサちゃん抱えたまま戦えるよね?」

そう笑って答えると

「ならば嵐様のチームは?」

それまで黙って聞いていた瑞穂にそう聞かれた命は

「救出部隊で一番賢い嵐お姉さん、外にいる吽と連絡取れる阿と徒手空拳の喧火は狭いとこを苦にしない」

「臨機応変を求めたチーム編成?」

そう忍に聞かれた命は

「うん、みこ達はまこちゃんの出番に合わせなきゃいけないんだからね?

ただ敵をやっつければ良いって戦いじゃないからそれなりの対策立てとかないとダメだし接近戦を得意とする瑞穂と忍は逆に接近戦がペケなみこの側に居てみこを守って欲しいんだよ」

そう命に言われて

「運命は又しても私達に命様の側で戦えと言ってるんですね?」

そう言われてやっと納得出来た忍、誰が優れ劣っているではなく全体の戦略…おそらくは公女観月の発案だろうが命が嫌なら入口で勝手に再編してるはずなのだから

改めて気合いのはいる瑞穂と忍だった

忍が露払いを務め奥へ奥へと進む三人の前に現れた分岐点

暫くは通路の奥を睨んでいたものの溜め息を吐くと水球を飛ばし

「右に入って…」

とだけ告げる命に

「命様…今のは一体…」

そう呟く忍に

「あの水球は何も無ければ一里程飛んで消滅行き止まりならぶつかり破裂し又分岐点ならその場で暫くは漂ってるんだ

で、左は破裂して右は消滅したから取り敢えず右に行く事にしたんだよ」

と言ってる本人も余り理解して無さそうだからそれ以上の質問は止めて

「何故最初の分岐点では使わなかったのですか?」

その質問には

「迷宮を簡単に複雑化するならどうしたら良いかわかる?」

質問を質問で返され顔を見合わせる忍と瑞穂に答えを待つことなく

空間をねじ曲げて別の迷宮をくっつけちゃえば良いんだよ

そしてハーモニー様を封印する魔力に満ちたこの迷宮の中はみこでも元からの付け足された迷宮の区別が着かないから多分間違いなく四個とも消滅したか漂ってるかだよ

だって相手は救出のタイミング逃せば…時間稼ぎすれば良いんだからその為の工夫をしてあるんだろうからね

そー言って口をつぐみ見えない闇を睨むように視る命が

「おかしい、変…」

と、呟くと瑞穂も

「一本道の筈なのに同じ所をぐるぐる回ってるような…」

瑞穂のその言葉にやっと合点のいった命が

「歓迎のお出迎えも来たみたいだよ?」

そう言われ周囲に気を配る二人が同時に声を上げた

「黄泉蜂っ!」と…

だから命も

「近寄らせたら面倒だから…」

そう呟き

―八叉の黒竜炎っ!―

命の外見にそぐわない禍々しく凶悪な呪文を放つと

黒炎竜に喰らわれた通路の壁?に穴が開きさっきまで無かった道が見えた

「先にすすもー…」

そう呟くと忍と瑞穂も頷き進路を変えることにした

「あれは歌の国に生息するものではないはず?」

忍のその言葉に

「今のこの迷宮に外の常識なんか関係無いよ…忍」

そう言われて思い出し詫びる忍に

 

 

 

 

 



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歌の女神の封印解きし時

歌の女神の封印を解くために人々は持てる力を尽くし有るものは新たな力に目覚める、寝不足なだけですから


「そんな事より周囲に気を配って、反省会は女神様を救出してからで良いからね」

そう命に言われて気を引き締めて歩く忍だった

しばらく三人が先を進むと命が溜め息を吐き

「又面どーなのが来た…」

そう呟くと

「忍、瑞穂…止まって」命の指示を不思議に思いながら立ち止まって様子を見る忍と瑞穂

すると自分達が今まさに踏み込もうとしていた所に泥人形達が湧き出て来るのが見え

「囲まれると面倒だから…」

―八青龍神っ!―

一気に泥人形達を浄化した命が難しい顔をして考え込んで居るのを見て瑞穂が

「浮かない顔をしてどうなさいましたか、命様?」

そう尋ねると

「どうやらハズレ引いたみたいだね?このルートは…」

そう言って目を閉じると霊気で周囲を探り始めたのを漠然と感じたから黙って見守っていると

ー八叉の黒竜炎っ!ー

と、呪文を放ちその先の通路に大きな空洞が現れると

「最後の通路、探索を始めよう…」

命にそう言われ先に進むことにした瑞穂と忍の二人に

「調査報告の通りこの迷宮にハーモニー様が封印されて居るのはわかりましたがそれが何故かわかりますか?」

その命の問い掛けに暫く考えてみたものそれでわかるのなら命に問われるまでも無い事

「黄泉蜂と泥人形、もう少し通路が広ければ良いですが本来黄泉蜂はホールにたむろし迷い込んだ獲物を襲うもの…

おかしく有りませんか?わざわざ自分達が不利になる狭い通路を飛び回るなど…

そして泥人形達不意を突かれ取り囲まれれば厄介な敵でも決められた範囲しか動けないし然程強いわけでも有りません

では、両者の役割はなんだと思いますか?」

再びの問い掛けにやはり答えられない二人に命は

「それは耳障りな音、黄泉蜂の羽音や泥人形達が動く時に発する泥が蠢く音

それらがハーモニー様のリズムを狂わせひいては神力の低下を招いたのでしょうから…」

そう言われて

「では、黄泉蜂と泥人形達が封印の鍵なのですか?」

そう逆に問い掛けると首を横に降り

「いいえ、そこまでの力は有りませんがいくらでも補充の効く両者は厄介な存在

封印の施術者の封印の一助に過ぎませんがたかが黄泉蜂たかが泥人形と言う油断で足元を掬われたのでしょう…」

命の話しを聞きながら歩く瑞穂と忍に

「どうやら番人らしい歓迎のお出迎えの登場の様ですね…」

嘲笑うように言う命に気分を害したその者達が

「精霊の巫女だかなんだか知らんがこんな小娘の相手を押し付けられるとは随分舐められたものだ…」

そー言って鼻を鳴らす土竜達に

「お前達の様に無自覚の愚者共にその様な事を言われる私は尚悲しい…と、しか言えぬ…」

そう言われていきり立った土竜が命に飛び掛かったけど

「私の拳は見てもらえたか?」

忍にそう言われた土竜は殴り飛ばされ白眼を剥いてるから勿論返事はないが言葉の出ない他の者達が目で捉えきれなかったのも言うまでも無いだろう…

怖じ気付く土竜達に苛立ちを隠す事無く

「鬱陶しい…」

と、吐き捨て睨むとさすがの土竜達のプライドも傷付いたらしく

「適当にあしらってやるだけのつもりがもう容赦せんっ!」

と、喚く土竜達とは対照的に

「私はお前達の相手をしてやるほど暇ではないのだから逃げるなら今のうちだ…」

そう声を掛けてから今日二発目の八叉の黒炎竜の高まりを感じる忍にも命の焦りが感じられ

(それほどまでに時間が無いのですか?命様…)

その忍の問い掛けに命も言葉ではなく

ー八叉の黒炎竜っ!ー

呪文の発動で答えた

黒炎竜の八首が絡まり合うように土竜達を平らげたけど浮かない表情で周囲の警戒を解く事はない

命の背後の空間が揺らめき中から現れた土竜に背後を取られたものの振り向くことなく右腕を突き出し

ー黒炎竜っ!ー

その呪文の発動が僅かに遅れた為命の右腕は土竜に噛み千切られ血を流していたけどそれには構わず勾玉を使い応急措置しながら

「囲まれた…」

命のその呟きに周囲を見回すと再び現れた土竜達に取り囲まれていたが更に土竜達の身体に変化が起こった

額に角が現れより凶暴に…より醜悪に姿が変わっていったのだ

「み、命様…あ、あれは一体…」

そう瑞穂が呻くと

「あれは土竜鬼、土竜が心の中の闇を解放した狂戦士

一度あの姿になると二度と元には戻れず命尽きるまで破壊の衝動にに突き動かされ荒れ狂う哀れな姿

それを哀れと感じるならば闇に囚われた肉体から魂を解放してあげなさい…

少なくとも私には現世であの者達を救う術を知らないのだから」

そう言って

ー八青龍神っ!ー

八首の青龍が土竜鬼達を呑み込み押し流して行き削り取られた壁面が崩れ落ち隠し部屋の様な巨大ホールが姿を表した

地を覆う泥人形達飛び交う黄泉蜂の群れを見て躊躇うことなく八青龍神の連射で間髪入れずに青竜牙を放ち

「その角に掴まると掴まりなさい、一気に飛び越します」

そう言ってホール中央の社前に降り立つと

「私はここで女神と共にを歌いハーモニー様の目覚めを促しますから後の事は任せます」

そう言って歌い始めた命は全くの無防備な状態を晒しているから泥人形も黄泉蜂も容赦なく襲い掛かってきた

無論瑞穂と忍もただ手をこまねいていた訳ではないが元を叩かねば無限に再生する泥人形とどれ程いるのか不明な黄泉蜂の前には多勢に無勢

頑張って何とかなるレベルの戦力差ではない命の身体に容赦無く食らい付く黄泉蜂の牙

守ろうと足掻く忍と瑞穂を遮る泥人形達を前に傷付いていく命を守れない己達の無力さを呪いながら戦い続ける二人だった

 

 

 

 

③媛と翔…花の娘とメイプル

 

祭典前の予想通りに優れた歌唱力を見せる雅の歌声にハーモニーも微睡み揺り動かされた

そして真琴の出番が訪れると闇の者達が動いた

ロイヤルボックスに現れた邪鬼達は王族達の護衛を見て鼻で笑うと

それを見て媛と翔も鼻で笑い返し

「王妃ハン、任しときアホなボクから見てももっとど阿呆な連中、ボクだけで十分やけど媛怒らしよったからちょチョイのチョイやわっ♪」

そう陽気に言って先頭に立つ邪鬼に一気に詰め寄るとその胸に左手を添え

「アンタら呼ばれとらんくせに何黙って入ってきとんねん?

人様んち入るとき入るはちゃんとお邪魔しますゆえてお母ちゃんにゆわれてへんのか?」

その翔の物言いをへらへら笑って聞いていた邪鬼達は気付けなかった

春蘭達が翔の喋くりで緊張感から解放された事を

「味噌汁で面洗って出直してこんかいっ!」

そう叫ぶと邪鬼の身体は一瞬で凍り付き砕け散ると媛の氷の矢を受けた邪鬼達も砕け散りそれを機に春蘭達の反撃が始まり形成は一気に逆転し邪鬼達を駆逐し始めた

その引き金を引いた翔が媛を見て

「媛、まさかたぁ思うけどさっきの技…あれが限界ちゅー笑えん冗談は言わへんやろね?

せやなかったら今歌っとる真琴の景気付けにでっかい氷の花火打ち上げたろやないの?

祭典を盛り上げたる為にもっ♪」

そうおどけて言う翔に頷くと窓の外に飛び出し魔力を高めると氷の大豪弓を錬成し翔も小鳥の姿に代わり媛の前で息を吸い込み始め…

それにより急激に低下した媛の前の空気により媛の魔力の高まりは加速して氷の矢はミサイルの如く巨大化していった

ーほなボチボチかましたろか?ー

翔の呼び掛けにーうんー媛がそう返事すると音も無く放たれた矢

巨大な矢ではあるけど愚か者達は容易にかわせるつもりだった

目前迄迫る矢が炸裂する迄は

そう、翔が花火と言った通りにまるで花火の様に炸裂しその破片が闇の者達を襲い触れた者達を凍結し砕け散り雪となって舞い落ちた

それを見て迎撃分隊が一斉に動いた

黒炎竜黒い炎を纏った矢を矢継ぎ早に矢を放つ吽、モリオン

先陣を切って敵の群れに飛び込む海斗と炎の火水コンビ

その若き騎士達のバックアップの翼、沙霧、斬刃

それでも敵の数は多かった

個々の戦力差を引っくり返す程の数の違いが有った

ーアカンな、あっちもそっちも

ボクは迎撃部隊の応援行くさかい媛は真琴のほー頼むわっ!ー

そう叫ぶ翔に向かって

―駄鳥…許す、けものを濃き使えっ!獣、駄鳥のゆー事ちゃんと聞いてたまには役に立てっ!―

そう言われて

―馬花の娘煩いっ!―

そう笑いながら返事を返す翔だった

そう言いつつ翔が向かった先は大樹の元で

ー大樹、ボクの背に乗れる度胸あんなら迎撃部隊の所案内したる

ボクと一緒に戦えるかっ!?ー

その翔の呼び掛けに

「逆に俺の方が頼む事じゃないのか?海斗と炎の居る所に連れていってくれっ!とね…ヨロシク頼む、翔」

そう言ってその背に飛び乗ると迎撃部隊に合流した

更なる進化を遂げた翔と騎乗の修行と剣の修行を平行してこなさければならなかった海斗と炎に比べて剣の修行に専念した大樹

まして手綱を持たねばならぬ二人に比べ両手がフリーの大樹の加勢で形成は逆転した

翔の参戦は翔の槍の参戦も意味し自在に飛び回り敵を切り裂き魔力や熱を奪い時にはその蓄えた熱で敵を焼き払った

そうなれば数を頼みの団結力の無い軍に耐性はなく一気に態勢は逆転し侵略者達は散り散りに逃げ始めた

勿論油断は禁物でも一応舞台を守りきれたようだった

しかしそうなると問題は真琴でやはり時間が足りなかったのは門外漢の媛にも女神を揺り起こすどころか雅にも敵いそうになかった

真琴の魔力、歌の…祈りの力が高まりを見せず既に歌の後半に入っていたけど作戦が失敗する…そんな焦りに支配される真琴

ーどうすれば…どうしたら…あっ…ー

有ることを思い出し雅の元に行き

ー歌って、貴女の歌声を響かせてー

そう頭の中に響く声を聞き

「私が歌えば彼女は失格になってしまいますよ?」

雅のその言葉に

「そんな事っ!」

何の前触れもなく発した自分の声に驚きつつ

「そんな事、と言っては申し訳ないけど真琴達の目的は祭典による歌と祈りの高まりの力で歌の女神、ハーモニー様を解放する事

勿論優勝を狙えるだけの力が無きゃ女神様を揺り起こせないけどここに来て経験不足が出てしまいこのままじゃ…」

納得仕切れない雅の説得を諦め真琴の頭上を舞い

ー今こそ歌の女神、ハーモニー様の復活の時

戦士達も封印されし地に赴き闇の者との戦いを繰り広げてるはず

私達は今ここで歌の力、祈りの力を集結しハーモニー様を縛る闇の者の封印を打ち破る時

だからお願いっ!皆祈って、祈りの力を巫女達に貸して、ハーモニー様の為に、この国に守り神が帰ってきてくださる為に

皆自身が祈らなきゃダメなんだよっ!ー

その媛の訴えにロイヤルボックスに居る花の娘が…春蘭達が、舞台周りのミナ達が…見習いの侍女や見習い騎士達が祈り始め徐々に会場全体に広がり祈りの力が高まりつつあった

 

(来たっ…)

歌の力、祈りの高まりを力に変えハーモニーを縛る封印を打ち破ると解放されたハーモニーの力により迷宮内の闇は払われ

ーアクエリアスとその巫女…そしてその従者よ感謝しますが私は急ぎ私のせねばならぬ事をしにいきます

従者よこれを預けますから巫女に渡しなさい、頼みますよー

そう言って慌ただしく消え去ると同時に崩れ落ちた命

ハーモニーが残したドレスは長く日の目を見ることはなかった

 

真琴、媛、雅の三人の歌姫の声が響き渡る会場に奇跡が…女神がついにその姿を人々の前に現した

ー雅、真琴、媛、三人の歌声と皆の祈りの力が私を封印から解き放ってくれました、感謝すると共に雅よ…我が依り代となりて歌声を響かせなさいー

その突然すぎる女神の指名に戸惑いを隠せない雅が

「わ、私にその様な大役務める自信は有りません…」

呟く様に答える雅に

ー人は自信が有るから使命に挑むわけではありませんし同様に真琴は命を守る自信が有るから守るのですか?ー

そう問われた真琴は首を横に降って

「違います、私が命を守りたいから守るんです」

そう答える真琴を見詰める雅に

ー中途半端な自信は慢心の元、私はそれが元で闇の者に封印されると言う憂き目を見たのですからね?

ーそう告げられた雅が考え込むと更に

ーそれに雅、貴女は決して一人ではないのですよ?

そうですね?二人の依り代達よ?ー

その問い掛けにロイヤルボックスから降りて来た観月とユイが

「私達は勿論精霊の巫女達やその守護者の戦士達も貴女を守る力になってくれますよ、そうですね?」 観月の問い掛けに舞台周りの巫女達や見習い騎士達が頷くと

「勿論私達も…」

そう言って舞台に降り立つ翼と戦士達に凖騎士達に翼に抱かれた翔に一同の視線が集まるの気付き

「ぼ、ボクみたくどんくっさいのんが守るとかゆーたらめっさ嘘臭いやん?

まぁゆーてくれたらパシり位ならしたるでゆーてや」

その翔の言葉に

「ぷっ、ヨチヨチ歩きの翔にお使い?」

吹き出して笑う真琴に

「華やかな舞台に野暮やから翼…お姉ちゃんに抱っこしてもろてるだけで…チョイ来てんか?」

そう言って呼び出した槍に横座りしてまるで魔法の箒の様に宙を滑って見せる翔に

「えーやろ?みこ…お姉ちゃんにもろてんねんで?」

そう言われて溜め息吐く真琴と異なる溜め息を吐くユウとユカ

「まぁそーゆー訳やからボクの事は翔って呼んだってや、歌のお姉さん」

そう言って笑うと

ーわかりましたね?皆、貴女を既に依り代として受け入れてます

それに貴女の歌声にはそれだけの力があると認めての判断だと言う事を忘れるのではありませんよ?ー

その言葉に観月が

「私とて依り代としての自信などありませんよ?」

そう話し掛けるとユイも

「それを言うなら私はもっとありませんよ?観月様の様に生まれた時からの宿命を持った者でも無ければ雅様の様に特別な才能を持ってもいません

そんな私でも必要と言ってくださる方達や守ってくださる方達もいます

ですから貴女もその一人になれば良いのです

歌による祈りの力を感じませんでしたか?

歌の女神の依り代…要するにリードボーカル…そう思えば良いのではありませんか?難しく考えずとも」

その言葉に雅も

「私の才能とて特別な物ではありませんが…廻り合わせとしか言い様が無いのでしょうね…

ハーモニー様の依り代として私を         お導きください

観月様、ユイ様、先輩の依り代として私のご指導をヨロシクお願いします

そして皆様の力を私にもお貸しください」

そう言って頭を下げると

ー我が依り代となり運命を受け入れた乙女の為に祈ってください

雅、歌いなさい…真琴と媛も共に…お願いできますね?ー

ハーモニーの言葉に答え会場に三人の歌声が流れる中人々の祈りが再び高まりを見せると

ーさぁ左手を高く掲げなさいー

そう言われて差し出す手に口付けを落とすと雅の中に吸い込まれていったハーモニー

ー受け取りなさい依り代と私の認めし歌姫達よ、私の祝福のドレスをー

そう言って舞い降りてきたドレスを三人の歌姫が受け取るとアリアが舞台に上がり

「今より審査を始めますから歌姫達は今頂いたドレスに着替えて来なさい」

そう言われて一旦退場する三人の歌姫達だが話し合うまでもなく結果は決まりきっていた

ただ単に祝福のドレスを着た三人の姿が見たいからそう言っただけで三人の再登場を待ち発表された

女神の依り代の雅が優勝、真琴に最優秀賞が与えられ他人事の媛が吽の頭にもたれ寛でいると舞台に呼ばれ

「出演者では有りませんがこの歌姫の呼び掛けがあればこそのハーモニー様の復活、違いますか?」

そう真琴に問うと真琴も

「その通りです、私一人ではまだまだ実力不足でしたから…」

そう答えるのを聞き

「今回は特別審査委員賞とし声が本調子に戻り出場する日を楽しみに待ちますよ」

そう言われて目をしばたかせる媛を優しく見守るアリアだった

 

 

 

 

④後夜祭?

 

守護神、歌の女神の降臨と依り代と女神の祝福を受けた二人の歌姫達の誕生により大盛況の内に幕を閉じた女神の祭典の表舞台

その一方で一般の国民には全く知らされる事の無い闇との真の闘いとその闘いで命が大ケガを負ったこと等知らせる訳にはいかないことだった

極秘裏に王宮に運ばれた命は王妃の部屋で寝かされている

国王への帰還報告を終え戦士達を労う王妃に少々気掛かりなことがあり一同を集めていた

嵐と忍、瑞穂の三人の様子が気になったからで自ら口を開くのを待つ王妃を見て三人は頷きあい

「このみこの状況で報告をすべきか迷いましたが私がぐずぐず言った所でみこの状態が良くなるわけでも無いので報告を致しますが…

基本的には公女宮の騎士ですから観月様への報告となります

私は先程の闘いの最中に鋼の精様の巫女に選ばれ精霊の巫女となりました

私の場合どちらかと言えば精霊の騎士、巫女達の騎士に近い存在かもしれませんが…」

その報告を聞いた王妃は

「精霊の巫女ならばもっと積極的にドレスを着るよう依り代様よりご指導願えますか?」

王妃の言葉にこもる皮肉が勿論嵐に向けられてる事位わかる観月もまた

「これまでの巫女達と異なるタイプの巫女ゆえモデルをしてもらう機会も多いでしょうからご期待ください」

そう言って嵐に頭を抱えさせた

そして忍と瑞穂の番になり

「本来であれば真琴様も私達からより命様ご自身の口から聞きたい話だとは思いますが…」

躊躇い言葉の途切れた瑞穂に代わり

「特に口止めされた訳では有りませんから私達の判断でお話しします

皆様も気になっていた媛の正体…それは二人に別れた命様の片割れで言われてみれば…ですね?」

忍の言葉通りで記憶喪失の媛には隠す意図がないから少し見ているとわかる程に命と同じ癖を持っている

それに歌の踊りの才能も媛の出現した時期を考え合わせれば命の時に習得しているのだから何の不思議もない

ましてや真琴が感じた他人とは思えない親近感もやはりそう言うことかと納得するだけの事

「命様が仰るには媛はまこちゃんと共に育ったオリジナルの命であり黒魔導師の前世を持つ魔女

だから媛の記憶が戻ると言う事はまこちゃんのみこが帰ってくる事なんだから楽しみにしてと言われました」

ここで一息忍と代わり瑞穂が

「みこは精霊の巫女として在るべき存在でありみこはみこなんだよ…

と、命様ご自身の事は余りよくわからない説明しか聞いてませんが媛についてはこうも仰いました

闇の者達の中には私の前世の黒き魔女の霊と血を欲していると

ましてや吸血鬼共からしたら今の私はあれらの好む穢れを知らぬ生娘にして精霊の巫女

事実はともかく私達を精霊ごと喰らえば精霊の力を得られると信じる等とふざけた思想が広がっている今魔女の霊と血を隠す必要があります…」

その説明に頷き

「その為の氷雨の精…なんだね?」

そう聞かれて二人は頷き

「氷雨の精の冷気で閉じ込めましたが結果は媛から記憶と声を奪ってしまい何と詫びればよいのかわかりません」

その言葉に真琴は

「そんなこと謝られるよりせめて僕にだけは教えて欲しかった、僕にだけは…

理屈はわかる、アクエリアス様も交えて話し合って決めたんだろうしね…」

そう言ってキツく拳を握りしめ肩を震わせる真琴に

「命様は話の最後にこうも仰いました

最悪でも巫女とアクエリアス様は逃げて頂きますから二人もそのつもりで頼みますよ…と

それが私達に話してくださった全てであり命様をお守り出来なかった私達の懺悔です」

そう言って俯く二人に

「誰も二人を責め無いから気にしないでむしろ責められるべきはみこで貴女達には詫びるべきかもしれないんだからね…」

そう済まなそうに言う真琴に

「反省も大事ですが真琴に問いますがこの先の媛の扱いをどうするつもりなんですか?」

そう王妃に問われた真琴は

「僕はこれからも変わらず媛と呼ぶけどそれは媛を否定するからじゃなくその方が混乱しなくて済むからでどっちも僕のみこであるのは間違い無いんだからね」

その真琴の答えに笑顔を浮かべ

「では私達ももう貴女達同様に一人の娘として扱いましょう」

そう言って観月を見て

「貴女はどうしますか?観月」

王妃の言葉に考え込む観月は

「飛べるからといつまでも裸足でいさせるのは可哀想ですから靴を何とかしてあげたいですね」

そう答えるのを聞いた真琴が

「観月姉さん、そう言う問題じゃ無いはず…」

そう責めるような口調の真琴に

「真琴、観月は媛を媛として受け入れるからこそ媛の靴…ファッションを気にするのですよ?」

そう笑って言うとチサも

「十六夜お兄さんとユイお姉さん達の婚約披露宴や婚礼の儀の際にまた今回のように媛のファッションコンテストを開いてはどうでしょうか?」

そのチサの提案を聞いて

「特注品が必要なのは翔も同じであの娘も一緒に募集してはどうですか?」

その二人の意見を聞いた観月は

「そうですね、今回も有望なデザイナーがいましたし未々この先の成長を期待できそうな者もいましたからね」

そう笑顔で答える観月に

「だけどみこ以上に不器用な翔が服貰っても仕方無い気もするんだけど?」

そう笑って言う真琴に

「それはユウさんの前で言っちゃダメだよ、真琴ちゃん…

翔ちゃんベッタリのユウさんはまるっきり翔ちゃんのママみたい振る舞ってますからねっ、鬼百合さんっ♪」

そうチサに振られた鬼百合は苦々しそうに

「みこにとってのミナ以上に甘いからな、真琴が心配しなくてもユウの奴が喜んで世話するさ…」

と、鬼百合が呆れて言うのを聞いた観月が

「翔のお陰でユウから解放されてる貴女がそれを言いますか?」

そう笑って言われて益々苦い顔の鬼百合だがその一同の目線の先を命の診察を終え帰る医師と宮廷医の見送る春蘭が歩くのが見え暫くの後に命の元に急ぐ春蘭を見掛けた観月が春蘭を呼び止め

「先生はなんと仰いましたか?」

そう問い掛けると

「相変わらずの自己治癒力で怪我自体は問題有りませんが右手の完治は時間が掛かるかもしれないと…

ですがそれ以上の問題は皆様もご承知の貧血の悪化で出血や傷の再生で又多くの血を失ったみたいだと言っておられましたから…

後はやはり怪我から来る発熱の為の解熱剤を処方して頂きましたので飲ませるのと水分補給をこまめにするように言われました」

そう報告を受け

「伯母様は公務にお戻りください、何かあれば連絡します

真琴、翼、チサは晩餐迄休みなさい

特に真琴には雅さんの接待役を任せますから頼みますよ

春蘭はミナと晩餐迄休み今夜は二人でみこを頼みますよ

熱については媛に協力してもらいなさい」

そう指示を受け真琴と春蘭は

「はい、わかりました」

そう素直に答えたのに対して翼とチサは観月を見ながら

「疲れて居るのは観月姉さんも同じ…いえ、観月姉さんこそが一番お疲れのはず…」

そう言われて

「私もみこの様子と雅さんの受け入れの指示を出してから休ませてもらいますし夜も早めに引き上げさせてもらいます

明日こそ私が抜けるわけにはいきませんから今夜は翼に私の代理を任せますし媛と翔の事はチサに任せます」




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 よろしければこれからもお付き合いのほどよろしくお願えたします


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後夜祭、戦勝祝い

戦いの爪痕は決して小さくなかったけれども水の精霊の舞姫の歩みは止まらない


そう言われても未々納得はしきれないけど観月なりの譲歩はわかったので二人も承知して「わかりました」そう答える二人だった

「後、伯母様…いえ、王妃様にお願いと言いますか歌の女神の依り代の雅さんの専任にマサミをしたいのですが?」

そう言われて

「その辺りのことは貴女の判断に任せますが貴女にそう言ってもらえる成長をしてくれたんですね?マサミも…」

その王妃の呟きに

「マイやマキ達を羨ましがりいじけるより自分だって…そう言って頑張った結果ですからね」

そう答え春蘭を見て

「私も王女宮に戻りますからついてきなさい」

そう言って春蘭を伴いその場を後にする観月の後ろ姿を心配そうに見送る翼とチサだった

 

「命が眠る王妃の部屋の従者の控え室には雪華が自習しながらなみと美輝の勉強を見ていた」

観月の入室に気付いた雪華が

「命様の容態は落ち着いてますから待機の私達は自習しながら待ちなさいとマイさんが…

ミナさんも翔ちゃんのエプロン作ってますし」

そう言われて

「翔のエプロン?」

そう聞き返された雪華は

「お手伝いの為ではなく食事の時に着けさせたいってユウ様が言ってましたからってミナさんに話してたら

マイさんが命様は私が見てますからミナさんは私達の出来ないことをお願いします…って」

そう話を聞いていると完成品を持って現れたミナが観月に差し出したそれは麦が媛に初めて作ったワンピースの発展系

洒落たデザインのレースで縁取られた可愛いくお洒落な物で

「赤は翔に青は媛に渡しなさい、それと命の分も頼みますよ

勿論若月から出して良いですね?」

そう問われたミナは畏まって

「はい、それは勿論です」

そう相変わらず固い口調のミナに

「貴女はもう立派な美月の一員なのだからもう少しくだけなさい…」

溜め息を吐きながらそう観月が言うと

「その生真面目なところがミナさんの良い所ですから…

旅の途中ユカ様にも敬語を何度も指摘されてましたから…」

と、春蘭にまでも苦笑いしながら言われるミナ

「取り敢えずミナは春蘭と晩餐まで休憩を取り今夜はみこを頼みますよ」

そう告げるとなみが

「観月様にお願いがあります」

そう言って頭を下げるなみに

「なんですか?頭を上げ言ってみなさい」

そう言われて頭を上げたなみが

「今日の晩餐は祭典の成功と女神様の無事解放出来たお祝いであり慰労の物って聞いてます

なら精霊の巫女として頑張ったミナさん、春蘭さん、媛ちゃんが出席できないのは変です」

そう一気に話すなみに感謝しながら

「私達見習いの侍女は晩餐の間は自習ですから勉強しながら命様を見守りますから三人も晩餐の出席をお許しください」

そう言って頭を下げる三人に

言葉に詰まる春蘭とミナに

「姉さん、ミナさん、私達は仲間…なんでしょ?」

その雪華の言葉に

「良く言ってくれました、二人の成長を嬉しく思います

私には指示を待つだけの者は必要ありません

状況は刻一刻と変わるもの…

私が最善と考えた物がいつまでも最善とは限りませんからその時々に応じ正しいと思う事を提言しなさい

ミナ、媛と翔のお揃いの姿を楽しみにしてますからね

それと美輝は媛に付き添い春蘭は美輝をミナは媛を見守りなさい

翔は王妃が手元に置くでしょうからね

春蘭とミナは留美菜とりんに手伝わせ精霊の巫女達のドレスを用意し手伝いなさい

みこの事は晩餐が終わってから任せますし媛と留美菜の二人の氷雨の精を控えさせるようにします

今日は兵達の労をねぎらいますから侍女達の手も空いてませんから貴女達に期待します、みこの事頼みますよ

私は王女宮に行きますから後は任せます」そう言って部屋を出る観月だった

 

観月が王女宮の五階の茶室に入ると雅が翔の頭を撫でながらお茶を飲んでいた

「あ、観月様…」

そう言って立ち上がろうとする雅に

「観月はんはそないケチ臭ないし、本人かてお茶の一杯も飲みたいからお姉さんにここに来てもろてんで?」

そう言われて

「そう言う事ですからお掛けください今新しいお茶が来ますから」

そう言うとの自らも腰を下ろし

「翔は宮廷に慣れない雅さんのガイドの役目を頼みますよ?」

魔力が戻り翔べるようになった翔が大人しく晩餐に出るわけ無いから雅には悪いがダシになってもらっている

「お姉さんもボクが居った方がえーて思う?」

そう聞かれて話しやすい翔が側に居てくれた方がありがたいから

「ええ、居てくれたら嬉しいですよ?」

そう答えられたから

「ボク皆とちごてお行儀悪いんは勘弁したってや?」

と言われ驚く雅と

「だから…小さな貴女は気にしなくてよろしい、本当に気にして欲しい方は他に居ますからね

まぁ、言うだけ無駄でしょうから言いませんが…」

そう話しているとお茶を持って来た深潮と化粧箱を持って来たユキが部屋に入ってきてついで部屋の支度を終えたマサミが入ってきた

「観月様お茶の支度が整いました、雅様もお代わり如何ですか?」

深潮がそう二人に尋ねると

「ユキとマサミ…それに自分のも淹れて一息入れなさい」

そう言われて雅にも

「よろしくお願いします」

そう言われて五人分のお茶を淹れると暫しのティータイムで飲み終えた観月がまず

「ユキ、用意した物を雅さんにお渡ししなさい」

そう言われて化粧箱を渡すと受け取った雅が箱を開けて中を見ると明らかに美月のイブニングドレスが入っていて

(このドレス、私の何年分の収入になるのでしょうか?)

そう考えながら

「このドレスがどうかしましたでしょうか?」

そう尋ねる雅に観月は

「今夜の晩餐で貴女に着ていただくため用意した物でこれは貴女であって貴女ではない

女神の依り代に贈る物なんですから遠慮は要りませんから是非着てください

それがこのドレスの製作者の喜びでも有り願いでも有るのですからね」

そうあらかじめ断りの言葉を封じておき見せられたのは小さな女の子用の袖無しのワンピースらしくその元は白かっただろうその一着

持ち主が余程気に入っていたらしく無作為に貼られたワッペンは補修の跡らしいけどそれを差し引いてさえ宮廷には不釣り合いな地味なデザインで…

観月の意図が見えない雅が首を捻っていると

「これは命が未だ水の精霊の巫女である事を伏せ又若月が計画段階だった頃に試験的にユカが命の為に作った物のひとつ

それを気に入っていた命が踊りを習い始めてからは練習着のひとつとして着ていた物で恐らくみこが一番よく着ていた物でしょうね…

勿論これを着て王宮内を歩き回ってたんですから雅さんも…」

その言葉に慌てて

「観月様、私が王宮内を歩き回るとか意味がわかりません…」

狼狽えて観月に訴える雅だけどユキが笑いながら

「観月様、ちゃんと順序だててお話ししなければ雅様もお困りのようですよ?

雅様に王女宮のご用意致しましたから今日より王女宮の最上階の一員として生活していただきたいのです

そうしていただく事により女神の依り代の貴女の身の安全を確保したいのです」

そのユキの説明についていけない雅が

「祭典も終わりましたから王都を離れ郷里にでも帰ろうかと思ってましたのに…」

そう答える雅に

「郷里に帰らねばならない理由をお聞きして良いですか?」

そう聞かれて特に理由はなく

「物価の高い王都の滞在で貯えも底を尽きそうだから田舎で歌の指導でも始めようと漠然と考えていただけですから…

両親も既に他界してますから特に郷里に拘りはありませんが…」

そう答えると

「貴女に仕事の依頼を致します、王女宮代表の私と王妃より要請しますが見習いの侍女および幼い精霊の巫女達の歌の指導をお願いします…特に見習いの侍女達に」

そう言われて更に焦る雅は

「ま、真琴王女様がご指導なさらないのでしょうか?」

その予測の範囲内の問い掛けに

「雅さんがそう仰ってますが王女の考えを聞いて良いですか?」

そう観月に言われて苦笑いを浮かべ部屋に入ってきた真琴が雅を見て

「本来の僕は魔剣振るって戦う魔導剣士で祭典が終わった今は剣の修行を再開したいし前から興味の有った踊りの修行も始めたい

僕の中では歌は既に一区切りついてるんですよ

それにね、雅さん…貴女が教えることに意味が有るんですよ?女神の依り代の貴女が教えることにね

だってこの国は歌の女神の部の民が住まう地なのだからね」

そう言われて女神の依り代と出会い共に歌う事を夢見た幼い頃を思い出し

「わかりました、歌の指導の経験はありませんが私なりに頑張ります

ですが、未熟な指導者の私は…」

そう言って顔を曇らせる雅に観月は

「精霊の巫女達は皆美月のモデルスタッフですから勿論貴女にもモデルを務めてもらいますが

命も他国への訪問行脚が始まりますから公式行事の歌の奉納などの歌姫の仕事もこなしていただきますから心配無用ですからね」

そう言われて

「最後にこのマサミが貴女のお世話担当する者です、マサミも頼みますよ

早速部屋に案内し部屋の説明の後に晩餐の支度の手伝いをしなさい、よろしいですね」

そう指示を受け

「雅様、未々至らぬ所はありますが誠心誠意お仕えしますのでどうぞよろしくお願いします」

そう頭を下げるマサミに

「私も新たに学ばねばならない事が急に増えましたから共に成長して行きましょう」

そう言われて感激し声をつまらせるマサミに

「雅さんの荷物は僕が持つから案内よろしくね」

そう言って退出を促し観月も暫しの休憩を取ることにした

 

自室に戻る観月を見送り雪華達の元にユキが現れ

「観月様が貴女達の事を喜んでましたよ、ユウとユカも喜んでましたしね

ですから今夜はそのご褒美に私達四人が貴女達の夕飯に腕を振るいましょう

四人でフルコースとまではいきませんが私達の気持ちです」

と、言われ

「私達は皆様の教えて頂いたことをなんとか頑張ってみただけですから…」

そう答える雪華に

「それでも出来ない者は出来ませんし貴女達もいつの日か指導をする側になれば今の私達の喜びが理解出来ます

ですから今夜は深く考えずに料理を食べ又明日からの勉強を頑張りなさい、よろしいですね?

私達は王女宮の四階厨房に居ますから何かあったらそこに連絡しなさい」

そう言って部屋を出ていったユキの足取りは軽かった

 

「歌の女神の依り代と女神の祝福を受けし二人の歌姫に乾杯」

命の負傷を苦にする戦士達を気遣い国王がそう乾杯の音頭を取ると

「風華、ちと付き合いな」

鬼百合にそう声を掛けられ何事かと身構えるのを見た陸軍将軍に

「下士官達が貴女が来るのを待っているだけだ」

笑って告げると

「爺さん、そいつは秘密の約束だろうが?」

そう言って肩を竦め

「言っちまったもんはしょーがねぇ、天馬に跨がり戦うお前の姿は下士官や兵士達の目にはまさに戦の女神なんだからよ

今日頑張った奴等にとり今夜の宴にお前が顔を見せる以上の褒美はねぇ、だな?爺さん」

そう言われた将軍も笑いながら

「背を預け共に戦える程若くないこの身が恨めしく若い者達が羨ましい

が、翼王女様…貴女の騎士殿を我が兵達にお借りしてよろしいかな?」

そう尋ねられた翼は笑顔を浮かべ

「勿論、兵士の皆さんを労ってくださいますね?」

そう告げると真琴も

「僕達がみこの笑顔の為に戦う…その思いが彼等にとり貴女の笑顔がそれならそれ以上の褒美は確かに無いだろうね」

と、言い

「うむ、私に代わり皆を労って欲しいからよろしく頼む」

国王も告げたから

「ほれ、国王も言ってるんだからここで尻込みしてちゃ女が廃るぜ?」

そう笑って風華を連れて退けする鬼百合が出て行くと暫くは静かだった晩餐

何処からともなく白銀の光が現れ

ー美輝、可愛い媛の為に霊力(ちから)が欲しいとは思いませんか?

もし霊力(ちから)を望むのなら私を…霊力(ちから)を受け入れなさいー

ー留美菜、可愛い媛の為私も受け入れ更に強力な冷気を身に纏いなさいー

二人の氷雨の精が受け入れを求めて現れたが勿論迷う理由等何も無い二人の返事は決まっていて左の手を掲げ

「お導きください、氷雨精様…」

そう言って受け入れの要請に応える留美菜の手を取ると契約を交わした氷雨の精は留美菜の中で融合し氷精へと進化

それに触発された媛の氷雨の精も氷の精へと進化を遂げた

その一方で左の手を上げながらも不安は拭えない美輝を勇気づけたのは媛の小さな手が自分の手を握ってくれたから

その手の温もりを失いたくない、守りたい…そう思ったからその手を握り返すと

「媛を守りたい、媛と共に居たいから私に霊力をください

媛と居られるよう私をお導きください」

そう言って強く願って目を閉じた

氷雨の精は微笑を浮かべ契約を交わすと美輝の中に入っていき氷雨の精の巫女が又一人誕生した

 

時を同じくして料理を作るユカ達の元に菜月駆け込んできた

「命様に何か?」

その落ち着いたユカの問い掛けに菜月も深呼吸を数度してから

「いいえ命様にではなく潮溜まりの精と花の精と名乗られた精霊様が深潮さんとはなちゃんの前に現れて…」

泣き出しそうな顔で話す菜月に

「二人が巫女に選ばれたんですね?」

そう聞かれて頷くと

「二人ともそのまま倒れちゃって意識も無いみたいだから私心配になって…」

そう訴えるとやはり落ち着いた声で

「雪華はなんと言ってるのです?」

そう聞かれて

「雪華さんは脈拍は正常だし呼吸に乱れも無いから大丈夫って…でも…」

そう涙ぐむ菜月に

「わかりました、私が様子を見て大丈夫でなかったらお医者さんを呼びますから落ち着きなさい

ユキはこの事を王妃様に報告して、その間料理を頼みますよ、ユウ、ユミ」

そう言って菜月を連れて出るユカと王妃の元に向かうユキが王妃の元に来たのはようやく美輝が落ち着けた頃で王妃にそっと近付き

「ご報告します」

命の容態の急変を懸念する王妃に微笑みながら

「いいえ、命様の事ではなく深潮とはなが潮溜まりの精と花の精の巫女に選ばれました

ユカが二人の様子を見に行ってますから私も未だ詳しくは存じませんから必要なら後程ユカに報告させますが?」

と、言われ

「貴女達の判断に任せます」

そう観月に言われ

「たった今ユキから重大な報告が有りました

未だ詳しくは聞いてませんが春蘭、弥空、貴女達の妹の深潮

そしてりんと留美菜、貴女達のお友達のはなの二人が精霊の巫女に選ばれた…と」

そう発表すると国王も興奮し

「なんと更に二人の巫女が遣わされたのかっ!」

そう叫ぶほどで

「更に?」

と、呟くユキに観月が

「こちらでは留美菜が二人めの氷雨の精を受け入れ氷の精の巫女となり美輝が新たに氷雨の精の巫女に選ばれました」

そう説明されたユキは

「それで美輝が腰掛けていたんですね?休ませるために…」

そう言って納得すると

「わかりました、ユウに言って精霊の巫女のドレス急がせます

モタモタしてたら私が代わりにデザインしてあげようか?ってハッパ掛けときますねっ♪」

そう笑って言い

「では私は戻り見習いの子達の料理を作りますから失礼します」

そう言って頭を下げると国王と観月が頷き王妃が

「頼みますよ」

そう声を掛けるともう一度頭を下げて退出した

 

 

 

⑤二人の人魚媛

 

医師の見立て通りに深夜近くになる頃熱が出始めかなりの高熱になったものの春蘭とミナの献身的な看護と媛と留美菜が交代で熱を冷ましたお陰で明け方にはすっかり回復した命

春蘭とミナには休ませマイに手伝わせて服を着替えると

「お兄ちゃん誘ってお散歩しよっ♪」

そう声を掛けると二人で出掛けた

そんな二人が真琴の部屋に着いたのは部屋に未だ佐馴染めず落ち着けない雅を部屋に招き入れる所で

「ふーん、お兄ちゃん誘って散歩しようって思って来たけどお邪魔みたいだから二人でいこ、媛」

そう言って方向を変える命と媛に

「ばっ、バカっ!僕は鬼百合さんじゃない

だからね」

(今お兄ちゃんって?)

命の言葉と真琴の反応に驚いた雅が二人をそっと見守っていると

命の顔をじっと見詰めながら心配そうに

「そんな事よりもう起きても平気なの?」

そう言葉を続けると

「春蘭とミナ、媛と留美菜のお陰だよ…」

そう言って固定された腕を見る表情は寂しそうで

「治るのに時間掛かるんだってね?」

そう言われて

「ちゃんと治るのかな…手の感覚全然無いんだけど…」

そう呟く命に

「そう感覚が無いんだ…」

そう言われて

「うん…こっから先が無いみたい感じなんだよ」

そう言って命が指差したところは土竜鬼に噛みきられた所で土竜鬼の呪いとでも言うのか神経組織の回復がはかばかしくないからだ

医者は怪我その物は問題なく完治するだろうが見た目とは裏腹に冷えきって反応が無い右手の機能が回復迄は確信が持てない

人智を超えた精霊の巫女の事を決めつける程愚かでも傲慢でも無いからだ

例え無責任だと言われようと治るだろうが時間が掛かるかもしれないと言うのは医者としての経験からくる勘としか言い様が無いのだ

そんな訳だから右手を見る表情は暗く悲しみに満ちていた

だから取り敢えず気分を変えようと

「みこ、この方は雅さんと言って歌の女神の依り代になられた方だよ、ご挨拶は?」

そう真琴から紹介された命は

「真琴お兄ちゃんの妹のみこです、よろしくお願いします」

そう言ってペコリと頭を下げたのだけど雅の方は

(真琴お兄ちゃん?)

と益々混乱したまま

「お初にお目にかかります、命様」

そう言って頭を下げる雅だったけど何故か命は不機嫌そうで訳がわからない雅が

「如何なさいましたか命様…」

そこで雅の言葉は遮られ

「雅さんは観月お姉さんとおんなし女神様なんだからみこ、でいーんだよ?

まこちゃんの事も真琴様ってゆってるの?チサちゃんや翼お姉ちゃん事も?」

そう命に聞かれ

「いいえ、まだお二人とはお話ししてませんし真琴様の事は真琴さんで言いと仰っていただいてますから…」

そう答えると真琴が笑って

「みこ、いきなり呼び捨ては難しいから僕も真琴さんで妥協したんだからみこも先生や姐さんが呼んでるみたいにみこちゃんなら良いんじゃ無い?」

そう言って雅を見て

「雅さんもみこちゃんなら大丈夫でしょ?」

そう真琴に聞かれ命も期待の眼差しで自分を見詰めているから

「みこちゃん…」

そう呼んでみたら

「なぁに、雅お姉さんっ♪」

今度はちゃんと笑顔で答えてくれその笑顔がとても愛しく

(命様が人から愛されるのは王女様でも人魚姫だからでも無く私でも守りたいと思わせるこの笑顔なんですね…夕べの真琴様のお言葉、今ならよくわかる気がします…)

そう思ったもののふと気になったのが

「真琴さんの仰った先生や姐さんとは?」

そう聞いてみると

「みこ、散歩なら先生にも会稽古も兼ねて」

そう聞いてみると

「うん、昨日はお稽古してないから…」

そう答えたから

「もしかしたら名前くらいはご存じかもしれないけど民謡歌手の謡華さんでみこの民謡の先生

姐さんは酔仙亭の翠蘭大夫でみこの踊りの師で僕もその方に踊りを習う約束なんだ、昨日話した通りにね」

そう教えられ

「確かに面識は有りませんが名前は存じ上げております

私も四六時中讃美歌を歌う訳じゃ有りませんから謡華さんは注目してましたよ

翠蘭さんの事は芸処と言われた歌の国の芸の発展の為に日夜研鑽に励む方と伺ってますから尊敬に値する方と思っていましたが…」

そう答えると

「なら話は早い、みこが王宮に来て以来のお気に入りの練習場所で謡華さんも三絃を持って出掛けるのを見掛けたからもう居るはず

みこ、雅さんを先生に紹介してあげてね」

そう言われて命も

「先生にも雅お姉さんの事紹介させてね」

と嬉しそうに答えたから二人も嬉しくなり

「なら早速行こう、お茶は?」

真琴に聞かれた命は

「マイにゆったら今日はチサちゃんが支度してくれるってゆってたよ?

春蘭は寝てもらってるし深潮はチョーし悪いから弥空がママに用意するからなんだって」

そう言われて成る程と思いながら

「みこ、雅さんと手を繋いで…雅さんもみこの歩くペースわからないだろうから手を繋いでみこに合わせてください」

そう言われて成る程と思っていると命もその小さな手を差し出してくれているからその手を握り三人で歩き始めた

 

手入れされた美しい庭園を歩き池の畔が見えてきて東屋から三絃の音色と歌声が聞こえてきた

張りがあり力強い歌声が…

「センセーっ!」

命が叫ぶとこちらを見て歌い続けたまま微笑んで見せたのはさすがだな…

そう感じる雅は歌の最中に声を掛けられても反応出来ないし調子が狂って歌い続けられない

曲の区切りがついた謡華が命を見て

「みこちゃん、起きても大丈夫なの?夕べお熱出たんでしょ?」

そう聞かれた命は

「春蘭とミナの看病と留美菜と媛の冷気のお陰でもーへーきだよっ♪

今日は岬に…出来たら泳ぎたいしね」

そう寂しそうに言う命に真琴は

「大丈夫だよ、水の精霊の巫女であるみこが海に入れば霊力を高める事に繋がり怪我の回復が早まるんじゃないの?

みこの今霊力、今かなり低下してるんじゃないの?」

そうズバリ言われた命が

「う、うん…」

と口ごもるの聞いて

「取り敢えずみこは岬に行くんなら今のうちにお稽古しておいたら?謡華さんもよろしくお願いします」

そう真琴に言われてレッスンを始めた

(不安定だった霊力が安定してきた…)

歌を聞きながらそう感じているとお茶の支度…道具などはマイが持って来たが支度を整えたチサと翼がユウ、ユカ、ユキ、ユミと風華を伴い現れてチサがお茶の支度を始めた

命のレッスンが終わりお茶の時間となり

「先生、翼お姉ちゃん、チサちゃんにユカ達…歌の女神の依り代の雅さんだよ

雅お姉さん、みこのお歌の先生の謡華さん、翼お姉ちゃん、チサちゃん、ユウ、ユカ、ユキにユミ…これで全部じゃないけどみこの大切な人達…

皆、雅お姉さんは真琴お兄ちゃんと親しいみたいだから皆も仲良くしてね」

と、言われて焦る真琴と意味のわからない雅の二人を見てふーん…と言うような視線を真琴に向ける一同だった

 

お茶の一時を終え一旦部屋に戻り着替えを済ませ朝食に集まった一同を見た観月はまずチサに

「翔はどうしましたか?」

そう聞くと苦笑いのチサは

「日ノ出と共に翔の槍で翔んでいきました…お土産楽しみにしとってやーっそう叫んで…」

そう言われて

「何か手を打つ必要がありますね…誰かと同じで目を離すと何処に行くのかわかりませんからね」

そう言って命を見るけどそれが自分の事だとは思わない命

食事が始まりいつもより積極的に食事を摂る命に観月が

「そんなに食べてお腹は大丈夫ですか?」

そう聞かれ命は

「うん、このスープ飲んだらご馳走さまだから平気

今夜はちゃんと観月お姉さんのゆー事大人しく聞いてお着替えするから岬に行って…泳いでいーい?」

観月の顔色を伺いながら聞く命に観月は拍子抜けするくらいにあっさりと

「良いですよ」

と、許可は出したけどその後に

「但し又漂流しないようりんを見張りにつけますからそのつもりでいなさい」

と、言われてしまい

「みこ、漂流って何の話し?僕は何も聞いても無いんだけど?」

と、真琴に聞かれたら不味い事をばらされ

「え、えっと何の事?みこわかんない…」

そう辛うじて答えたものの命の目はまともに真琴を見れないばかりか完全に泳いでいたから溜め息を吐いて

「いつかちゃんとみこの口から聞かせるんだよ、わかったね?

でも何故?僕もみこも反対されるとばかり思ってたけど…」

そう言われて溜め息を吐いて

 



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水の精霊の舞姫と歌の女神の依り代の出会い

二人の出会いは新たな目覚めてくるの予兆、そして人々は人魚媛達の戯れを見る



「仮にも和泉の女神の依りの私に対し失礼だとは思わないのですか?

水の精霊の巫女の命が海に入れば霊力が活性化するくらい判断できますし今の命の霊力が著しく低下しているくらい気付きますよ?」

そう言われた真琴は

「そうですね、聡明な観月姉さんならみこをよく見てくれているから依り代でなくても推測したでしょうね

みこも観月姉さんの言うことを少しも聞かないから反対されるって発想しか出来ないんだよ?」

真琴にそう言われてぷくっと頬を膨らましむくれる命をやれやれと思いながら見て

「真琴、翼、チサは同行するとして謡華さんは同行しますか?」

そう聞かれた謡華は

「勿論同行します、旅の途中によく岬の話は出てきましたので一緒に行けるのを楽しみにしてましたからね」

そう答える謡華に

「ユキ、謡華さんに涼しげな服を用意しなさい

雅さんの本日のご予定は?」

そう聞かれた雅は

「宿を引き払い少ないですが荷物を取りに行くつもりです」

そう答えを聞いたので

「わかりました…マサミ、宿の支払いを済ませ荷物を纏めるお手伝いをなさい

馭者は海斗にさせますから終わり次第雅さんを岬にご案内するように

精霊の巫女達も同行して楽しんできなさい

但し、春蘭とミナは巫女達の引率でりんは前科の有るみこの見張りを頼みますよ?これは人魚媛の貴女にしか頼めませんから」

その話を聞いた春蘭が

「媛にも空から見張りをしていただいた方がよろしいかと思います」

と言う春蘭の意見を聞いた瑞穂も

「昨日の今日で然程の危険があるとは思えませんがりんが危険だと判断したら先に返しますから媛にも頼んだ方が良いと私も思います」

二人にそう言われて頬を膨らましむくれる命には構わず

「媛、りん、みこをしっかり見張ってください、頼みますよ

後、見習いの侍女達は昨日のご褒美です、みこと休暇を楽しみなさい

マイ、マキ、マナ、マユ、サエは見習い侍女達の引率をしユウ、ユカ、ユキ、ユミはそのフォローを任せます

鬼百合はいつもの通りに漁の手伝いですね?」

そう観月に聞かれた鬼百合は

「みこ、お前の兵士の白狐と鼓の二人に漁の手伝いさせて良いか?

夕べ結構気が合って誘ってやる約束をしたんだがな…」

そう聞かれた命は

「うん、いーよっ♪未だあんまし知り合い居ないだろーから鬼百合に任せるねっ♪」

そう命が笑って言うと

後詰めの風華達の助っ人として戦った二人を知る風華も

「お二人も鬼百合様を姐さんと呼んで慕ってましたからね」

そう笑って話した

「准騎士と見習い騎士達に馭者をさせますし映見さん勿論同行するし他の人達も勿論ですね?」

と、聞かれたヒバリ達も頷くと

「ではそう言う事ですから支度を急ぎなさい…

もっとも…みこの目覚めを聞いて予想してたからある程度支度はしてたのでしょう?」

そう笑ってユカ達を見ると笑って頷く四人ん目を丸くして驚く真琴と命に

「まぁ、予想の範囲内ですから反対しなかったんですけどね」

そう言って笑う観月だった

そんな明るい笑い声の響く中、国王が妻に

「お前は行かなくても良いのか?」

そう聞かれた王妃は夫に

「そう言う貴方こそ良いのですか?」

と、言い返すと

「観月、私は今日の閣議で成長著しく昨日の戦いでも活躍した准騎士の四人を準備中の王女宮騎士団の准騎士

准騎士候補の四人を准騎士として迎えることを閣議に提案すると共に一同の正騎士と准騎士昇任を求め

それが通れば正式な任承式と披露するパーティーを開催するつもりだが?」

そう言われて風華を見て

「だそうですよ?これで貴女達も正騎士、これからも翼やみこ達王女達にその力を貸してくれますね?」

そう言われて感無量の風華はただ頷くだけしかできず頷くだけだったが鬼百合達も嬉しそうに頷いていた

「そう言う訳だから今日明日は忙しいだろうがみこ、明日は座敷で踊るつもりなんだろう?」

そう言われて頷く命に頷き返し

「なら私は明日の夕方までに仕事を片付けて命に合流したいのだがね?」

そう笑って言うと

「そうですね、先方も期待してるでしょうし真琴もいよいよ踊りを習い始めるのでしょう?」

そう聞かれた真琴も

「はい、そう言う話なら明日も楽しみですけど取り敢えず今日はお母様も一緒に行きましょう

僕達は勿論非番の兵士達も喜んで供をしますしりんや留美菜達のご両親達も歓迎してくれますよ」

そう言われてやっと王妃が頷き出掛ける事でになった

 

今日の岬はいつにも増して大騒ぎになった

久し振りの命の訪れに加え王妃迄訪れたし留美菜の母親とも気さくに話すのを見て驚き王女達の薦めで自分達と同じ屋台の料理を食べるのを見て目を丸くした

だがその一方で

「国王様も酔仙亭じゃあ普通に店の料理を召し上がられてたし命様を膝に乗せてるお姿は普通に娘に甘い父親してたって見た者が言ってたぜ?」

「だから明日か明後日は又酔仙亭が賑わうだろうな、王妃様が今日いらっしゃったんなら陛下も命様を愛でながら寛がれるんだろうからな」

そう噂しあってた

真琴の周りには少女達が群がり陸海と海兵隊の非番の者達が大樹達と共に釣糸を垂れ釣果を競い

命やチサ達同様に海を知らない巫女や見習い侍女達に海を教えながら共に楽しんだ

 

「ただいま、お母さん」

泳げないはずの娘が海に居ることに驚き更に人魚になっている事に驚いたけど顔には出なかったが喜んでいた

そして海岸でも嬉しい驚きが有り何と澪がついに人魚媛の姿になりその姿を人々に披露したのだ…だから真琴が

「留美菜、媛を呼んでみこの元に案内させてあげて」

そう頼まれた留美菜が媛を呼び三人の人魚媛の手伝いで漁があっという間に終わったのは言うまでもないこと

だがそれ以上に海女達が喜んだのは海で戯れる三人の人魚媛の姿を間近で見られるのは海女ならではの特権だろうと感じていた事だろう

そんな三人が気持ち良さそうに泳ぐ姿が羨ましく足先をちょんちょんと水に浸ける媛に気付いたりんの母が

「良かったらお嬢ちゃんの翼を見せてくれるかい?」

そう言われてりんのお母さんだから大丈夫だよね?

そう思って身を委ねると媛の羽をしげしげと観察して

「大丈夫、お嬢ちゃんの翼は水鳥の翼だから水に入っても平気だよ」

そう言われてそれまでは恐怖心に押さえられていた好奇心がついに恐怖心に打ち勝ちゆっくり水に入っていった

初めて入る水の中は静かで色とりどりの魚達が舞い泳ぎ水中ならではの不思議な動きをする者達に美しい珊瑚…

媛もゆったり水の中を漂うと嫌な気配を感じその方向を見ると細長いモノが海女達に牙を剥いて向かっていた

「!」

それに向けて放った氷の矢が氷の中に封じ込め氷の塊にして浮き上がらせた

勿論場違いな氷山の出現に海女達が驚いたのは言うまでも無いが更に驚いたのは氷の中に閉じ込められたもので…

海の魔王とアダ名されるその大海蛇は毎年数十名の犠牲者をだす恐ろしい害獣で海女にとっても脅威のひとつとされている

しかも恐らくは優に十間を超えるこのクラスのサイズならば大魔王級と言われるものだ

が、それ以上に仕留められたこれは逆にグロテスクな物にも美味が有りと言われる美味なる食材

しかも強壮作用があるとされその意味からも珍重される高級食材だがその狂暴さから捕獲が命懸けなのも値の張る理由なのだが…

「どうだろうか、これを仕留めたのは恐らく雪の精の巫女の媛ちゃん

こいつを競りに出しその売り上げを鬼百合さんに預け媛ちゃんに渡してもらっちゃどうだろう?

あたしらはこれが売れりゃ今日の一位は固いからその褒賞金で食材買って皆で楽しもうじゃないか?」

その意見に皆賛成しりんにその事をユウに報告させることにした

その巨大すぎる高級品は結局蛇皮と身を扱うふたつの業者が共同で買い付け

期待通りに本日の漁獲高1位に輝き褒賞金で買い物をしたが予定通り鬼百合に売り上げ代金と命の漁獲高とを預け鬼百合はそれをユウに預けて管理は多分王妃になるだろがそこまでは鬼百合が口を挟むつもりはない

自分達が釣った魚を留美菜の母親達に預けて酒と肴を受け取り軽く煽ると釣竿を受け取り今度は陸釣りを始めユウを呆れさせた

翼から昨日の活躍を聞いていた白狐と鼓の二人が鬼百合の伴をして帰ってきたのを見て

「みこに仕えてくれる戦士だって聞いてるし昨日の活躍も風華から聞いた

褒美と言うほどじゃないけどこれでこれからもみこを守ってほしい」

そう言って白狐に渡したのは蒼い霊玉を埋め込んだ剣鉈と白い勾玉を埋め込んだ牛刀

鼓に渡したのは白い勾玉を埋め込んだ戦斧と蒼い霊玉を埋め込んだ柳包丁で鼓の方は早速それを片手に魚を捌く手伝いを始めた

最初は訝しげに見ていた海女達も鼓が元は結構腕の良い職人だったらしいと思える包丁裁きを見て歓迎した

陸に上がった命も二人に

「昨日と今日のご褒美だよっ♪」

そう言って大小ふたつの霊玉をひとつずつ渡して二人を喜ばせた

喜ばせたと言えば魔力が未々不安定な翔が疲れてチサの元に帰ってきた所を翼に翔の槍を取り上げられ…

魔力の低下し身動きの叶わない翔は今日も少女達に取り囲まれていた

渚で戯れる三人の人魚媛、真琴王子に三人の霊獣の騎士

その一人の海斗に案内されて岬を訪れた歌の女神の依り代の雅は勿論歓迎されたし雅自身漁師達のざっかけない鍋を喜んだのもある

民謡歌手の謡華も勿論歓迎された

命が海にいる時に留美菜の母親達や王妃に請われ歌っていたので今日は午前中から大盛り上がりだった

その最中に命は修羅を呼び霊剣紅蓮竜と言う大太刀を渡し炎の剣を炎に譲らせ炎も火炎剣をれんに受け継がせ

モリオンにはアサシンブレード妖刀黒龍爪を渡し小太刀をたけに渡させたけは忍刀をりゆうに渡した

霊獣の騎士達は今回も少女達を中心に空に案内して喜ばせ賑わいの中時は過ぎていった

日暮れに間に合うよう帰る為早めの出発になり帰り着くと急いでパーティーの支度を始めた

今夜は美月主宰の真琴の慰労のパーティーだったのを雅の歓迎のパーティーも兼ねることになった

もっとも歌の女神の依り代のお披露目のパーティーは王家主宰で行うべきものなので後日行われる

久し振りに命の歌声で始まるダンスパーティー

命、りん、澪は人魚姫のドレス、媛は翔とお揃いのドレス、チサと翼は着物姿、春蘭、ミナ、留美菜達は精霊の巫女のドレス

謡華はユミがデザインの着物ドレスで雅は謡華と色違いで真琴王子にエスコートされての入場だった

見習い侍女はお披露目のドレスを着て社交界デビューを果たし准騎士達は准騎士の礼装に候補の四人は准騎士の正装を着ての参加だったが…

国王から非公式ながら王女宮騎士団の設立と准騎士の四人を正騎士として、准騎士候補の四人を准騎士として残りは見習い騎士として迎えることを発表した

その為益々大樹、炎、海斗の三人の注目度が上がり迎えた最初のパートナー指名の時

命は風華、翼は炎、チサは大樹、春蘭は国王、ミナが十四夜、雅は真琴、謡華は帆風、ユウはたけ、ユカがりゅう、ユキはれんにユミはたか

弥空は陸軍将軍に深潮は海軍将軍に媛は海兵隊提督をそれぞれに指名し

最初の三曲が終わり指名権は男に移り真琴は命

十四夜は春蘭で帆風はミナ、風華はユカで国王が雅を誘ったが後の七人は場の雰囲気に飲まれ戸惑っている…

その姿に焦れた令嬢達が観月を見ると苦笑いを浮かべ頷いたから

まぁ勝ち気な令嬢達が先を争い七人の手を取りに群がった

ここ暫く社交界を賑わせていたのが美少女達と男装の麗人ばかり

だから今回名乗りを挙げた若き英雄達と本気の恋を夢見る乙女も少なくないし婿養子にと望む親達もいた

そしてそれはそう言う運命の出逢いを待つ者も居ることは勿論未だ誰も知るはずもないが少なくとも世界はまず命周りから変わり始めた

 




 シリーズ第一部、最終輪になります

 既に第二部も数話用意してありますから近日公開予定ですので読んでいただけると嬉しいのですが… 


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帝国の恥

王公貴族にも情けない人もいるのが世の中です


 

 美月のスタッフとなられたミサさんならどこの誰が見初めたって不思議じゃないんですよ?

 

 ましてあの三バカ公子に目を付けられてしまったら嫌な思いをするのはミサさんなんですよ、アーレスさんっ!?

 

 ミサさんの事を守ってあげないと言うのですか?」

 

 シューのその言葉に顔を歪ませ

 

 「帝国の恥…あの連中の事だから呼ばれなくても涌いて出るんでしょうね…全く鬱陶しい

 

 ですが、あの連中なら私がミサに目を配っておけば私の目を盗もうとなどという度胸もなければ素面で私やユカ達の前に顔を出せる勇気は持ち合わせてませんからね」

 

 そう言って鼻で笑うユウに

 

 「ユウ様、それは一体どういう意味なのでしょうか?」

 

 そう問い掛けられたので

 

 「私達は観月様に対するいかなる無礼な振る舞いは許しませんからあの連中が観月様にちょっかいを出した数だけ私達に投げ飛ばされてます」

 

 そう言われて驚くシューに

 

 「独自の騎士団を持たず美月のスタッフだけで他国を訪れていた観月様の身近で仕える方達なのだからな…

 

 山賊退治の話も伺ってますよ?」

 

 そう言われて嫌な顔をして

 

 「つい条件反射で投げ飛ばしましたが鬼百合様にお任せし大人しくしていれば良かったと後悔してます…」

 

 そう言って嘆き

 

 「元からそれなりに名の通ったデザイナーですから女性からも憧れの目で見る方はいましたが…

 

 あの件がしれわたってからはまるで女騎士を見るような目で見られるのは辟易します」

 

 そう言われた一同は複雑な想いをしたが顔には出さずに

 

 「で、ですが今まで良くご無事で…」

 

 そうシューに言われて

 

 「二言目には、男の面子を口にするあの連中が女の私達に投げ飛ばされたなど口が裂けても言えませんし…

 

 仮に誰がその事を国許に報告したらどうなると思いますか?」

 

 そう言われてもわからないシューに代わってアーレスが

 

 「知られたくない恥を国許にばらしたその者を逆恨みする恩を平気で仇で返せる恥知らず…

 

 だから余程の事態にならねば関わりを持ちたく無いから見て見ぬふりなのだ」

 

 アーレスにそう言われて

 

 「痣くらいで止めておきますからその場に居合わせている方達は自業自得としか思ってませんが…

 

 それでも因縁をつけてくるようなら観月様に類が及ばぬよういつでも喉を突く覚悟で私達はお仕えしてます」

 

 そうキッパリ言い切ると

 

 「…許さないし観月様だって喜ばないよ、そんな事されたって…」

 

 涙をにじませたりんにそう言われて

 

 「りん様だって命様の為ならいつでも命をなげうつ覚悟を持ってますよね?」

 

 そう言われて頷いたけれども

 

 「それでも今の話なら絶対相手が悪いのに…って思いますから…」

 

 そう言われてりんの頭を抱きながら

 

 「貴族の誇りが僅かでも有れば良いのですが連中には貴族の驕りしか有りませんからね

 

 ですが心配は要りませんよ、次のパーティーで連中が絡むのは女の子ではありませんからねっ♪」

 

 そう面白そうに笑うユウを見て不思議そうにしているシューら若手に

 

 「大樹様の事ですね?」

 

 アーレスに言われてやっと気付いたシューが

 

 「確かにっ!今あの連中が一番面白くない存在は大樹様でしょうが大樹様ならあの連中には近寄る事すら出来ませんでしょうからねっ♪」

 

 そう嬉しそうに言うのを聞いて

 

 「どのみち侯爵家のお嬢様が一人も居ない現状とウルズ様とヴェルサンディ様の事は同日の同時刻位に発表した方が良いと思います

 

 ですから、ヴェルサンディ様の帰国後にパーティを開いて女神の依り代のりん様のお披露目、ヴェルサンディ様と大樹の婚約発表及び大樹の侯爵家移籍の公表

 

 歌の国では十四夜様とウルズ様の婚約発表が行われていることの報告とウルズ様とスクルド様が精霊の巫女となられた事を発表しては如何かと思いますが…

 

 勿論私達も喜んでお手伝いさせていただきますよ」

 

 そう言うことで話は落ち着きミサのパートナーの話はあやふやなまま立ち消えたけど

 

 (あと三ヶ月すれば15になる僕にだってパートナーを指名する権利はあるんだからいつまでもぐずぐず言ってたら僕だって遠慮しませんよ?アーレスさんっ!)

 

 そう心に誓うシューだった

 

 

 鬼百合が王城に着くと翔は調理場でパンや焼き菓子をどんどん焼いているが昼が近いこともあり昼食の準備が始まりそちらの手伝いも始まっている

 

 午前中の勉強が終わり、翔の元に来たセレナは酔仙亭で貰った童の衣裳でお手伝いする事にして春蘭に指示を受け賄いのパンとスープの食事を摂っていた

 

 自分達を見守ってる鬼百合に気付いた翔は辛炎ハムを炙り、爆酒の小壺を渡すと喜んで受け取り辛炎ハムをかじりながら爆酒の小壺を煽っている

 

 それを境に調理場の者達も代る代る翔に賄いの串物を焼いてもらいさっと済ませたのと翔のお陰で冷たい飲み物は事欠かないので暑い調理場の仕事がいつもより格段と楽だった

夕方になり出番を待つ料理の山の前に満足気に微笑む翔に嫌な笑みを浮かべた鬼百合と媛歌が近寄ってきて

 

 控え室に連れられていき白銀の第一正装の忍と媛歌に手を引かれて連れられて現れた青い旧型の第一正装のドレス(勿論紋章は着いてない)を身に纏った翔

 

 当然の事ながら、作製に当たり事前に王家の了承は得ている

そして家臣達は養女として迎えては居ないもののそれに準ずる扱い… 娘の様に可愛い、そう思っていると解釈した

 

前回は不機嫌そうな顔をしてただじっとしていた翔だったが、今回は命や媛歌同様に宙を舞う姿は天使か妖精の様ではあるけど顔を真っ赤に染め恥ずかしそうにしている姿は女の子だったし

 

 その様子を見ながらなみがいった言葉を思い出していた

 

 翔の事を 『 お嬢様 』 と、言ったことを

 

 城の外ではセレナも給仕の仕事を頑張っていたので翔と別行動は寂しかったけどいずれ命と共に旅立つ翔との別れは避けられない事…

 

 そう思っていたのに胸が苦しいのは何故だろう?

 

 (私はどうしたら…一体何がしたいのだろう?)

 

 セレナはようやく見えない答えを探し求め手を伸ばし始め、自分の本音と向き合う事にした… いや、せざるを得なくなったと言えよう

 

 

 

 

 命の今回の訪問は前回より短く上陸の挨拶代わりに踊りを奉納し大公の胸に「ただいまっ!」

 

 笑顔でそう言って飛び込む姿はひたすら可愛かった

嵐と海斗の二人に

「准騎士候補達を国境警備隊に預け代わりにケンとコウは女神の騎士団の准騎士となりますから海斗…二人の面倒を見てあげてください

今夜四人の任官式の後明日の昼位に、サクとコウにきみを王宮に送ってもらい…

観月お姉さんの元では何人まで預かってもらえますか?」

そう命に聞かれて

「志帆、ミナモ、美帆、小雪の四人共私の元で育てましょう

勿論美景も手伝ってくれますね?」

そう言われた美景も

「勿論喜んでお手伝いします」

そう力強く答える美景を嬉しそうに見ながら

「後程きみと美景は水の精霊への奉納の踊りを見てもらいなさい」

観月がそう二人に言うと

「後程と言わす今ここで…」

命が言い大公も頷いたので二人が水の精霊への奉納の踊りを舞うと四人の新米巫女が二人を尊敬の眼差しで見ているので照れていると

「貴女達にご褒美です…それと後程二人には新しい踊りを覚えてもらう為暫し結界にて稽古を着けてもらいますが宜しいですね?」

青い霊玉が飾られたバレッタをた渡しながら命がそう言うと

「わ、私達ももっとお稽古したいです」

そう言われて頷き

「わかりました、慌ただしくなりますがお茶の後踊りの稽古をしてもらい夜見習い騎士達の儀式を行います

きみ、美景、志帆、ミナモ、美帆、小雪も手伝ってくれますね?」

そう言われて

「はい、喜んでっ!」

そう答える六人を見ながら微笑む命に

「伯父様と海軍将軍と海兵隊提督に鬼百合を交えて話し合いお父様の了承を得て王女宮水軍を創設します

それに当たりお百合の船と海兵隊の巡視船が新型船を購入しましたから中古ではありますが王女宮に一隻譲っていただきます

それに伴い鬼百合の仲間達に鬼百合の船とに分かれてもらいケンとカンと海軍と海兵隊の見習い兵から募った見習い兵も鍛えてもらおうと思ってます」

その観月の言葉を受け

「その話を聞いた私も鬼百合殿を通じ陛下や元帥の許しを得て見習いの乗組員に希望者を募り

同数の若者達も両国の王女、精霊の巫女様達を守る栄誉を果たすべく鍛えていただきたいと思います」

二人の話を黙って聞いていた命は頷いて

「うん、そーゆー事はみこわかんないから観月お姉さんにお願いするしケンとカンも頑張ってっ♪

みこに出来るのは頑張ってってお願いするのと応援することだから会った時にちゃんとお願いするねっ♪」

そう言って笑顔を見せる命

午後のお茶の後に二人に教える踊りは当然の事ながら豊作祈願で新米の巫女達は未だ足さばきの段階

なので明明後日の出港までに美景には後は自習で高められる位には覚えて欲しいし志帆、ミナモ、美帆、小雪は足さばきを終え航海の安全祈願の触りくらいは教えておきたいから頑張ってほしい命

夕方からは美月主催のパーティーに招かれパーティーの開催に先立ち准騎士候補のケン、カン、サク、コウの准騎士昇任の認証式を行い

今夜のパーティーが命の歓迎と四人の若者達の前途を祝うものだと言われ四人の国境警備隊基地指令から四人の実積報告が読み上げられ乙女達の注目を集めた

特に観月の女神の騎士団所属になるケンとカンの二人が凄まじく本気で婿養子にと望む一人娘の親達が少なくなかった

そして見習い騎士達に試練の時が訪れた

剣斗を導くのは保冷の勾玉で赤松を導くのは蓄熱の勾玉でタヅナを導くのは朱鷺色の勾玉で陸人を導くのはスチームエクスプロージョンの魔玉

ロッドを導く蒸気の魔玉にてつを導く熾火の勾玉にそらを導く給水の魔石、さいを導く火怒雷の魔石、しんを導く飛火蜥蜴の魔石と千を導く飛雷蜥蜴の魔石が選び

きみの霊力で見習い騎士を導き美景を頂点に新米巫女四人の霊力を併せて五芒星で結界を作り見習い騎士を導きを受け午前中を休みにして午後の時間に身体測定を受け

翌朝巫女達は踊りの稽古の後一日休日となり命は朝食後に准騎士候補達を見送りユマの案内で絹の紡績業を営む紡の家を訪れ一日を過ごし

夜は大公漁騎士団の為に剣舞と水の精霊の癒しの舞いを踊り騎士達を労った

その翌日は木綿の元締め宅を訪れ一日を過ごし夜は夜は地の精霊への奉納の踊りから豊作祈願に豊作に感謝の気持ちを捧げる踊りを舞い花の舞で締め括り…

早朝の結界内の修行で命は歌と踊りのお復習に舞姫から韋駄天疾風陣の舞いを習い

美景の踊りも豊作祈願を奉納しても良いとお墨付きを渡し

「自習でもっと高みを目指し四人の踊りの指導お願いするね」

そう告げて基本の足さばきを終えた四人に航海の安全祈願の触りの部分を教え嵐も剣舞を修得し終えたので美景に教えて欲しいと頼んで解散

夜が明け食事の後に大公に出港の挨拶をして港で航海の安全祈願、大漁祈願、剣舞、水の精霊への奉納の踊りを舞い最後の命が柳水と乗船して出港した

鬼百合の船の陣容は鬼百合の分身、白狐、けん、召喚戦士10人に海軍、海兵隊各二名の20名

柳水が指揮する巡視船は鼓、カン、召喚戦士20人

志願兵各四名35名の配置となり命達の乗る船に訓練を兼ねて随伴航海をする

因みに大公領の都合により貨物船二隻を所有する事になった美月は大公領の輸出品を満載し月影の国に同行

商人達は二手に分かれて一方は伯爵領を抜け可能なら白夜の国で商いしたいが無理ならば侯爵領の商人経由で輸出したい…

なのでこちらは未定グループと侯爵領のグループは商品の販売も去ることながらやはり爆酒などの輸入がメインだったりするのでそちらの商人が主力ではあるのだが…

いずれにせよ世界の経済は歌の国と月影の国を中心に回り始めたのだけは確かだった

命が同行する一団は相変わらずの爆釣で各船はせっせと干物や塩漬けにしているし命が釣った魚のご褒美は旅の軍資金

他の供の者達は各々の小遣いになるから皆張り切っている

因みに出港して暫くしてから柳水、鬼蓮の元にはシーホースが現れカンの元には炎雷馬(えんらいま)ケンの元には黒炎馬(こくえんば)が現れ従う事になり

遊軍の活動範囲を広げ又戦略の幅も広がった

 

新米巫女達の踊りの稽古は航海の安全祈願はなんとか踊れるようになり後は自習で高めさせ上陸後は航海の無事に感謝の気持ちを捧げる踊りを始める事に…

王城で朝食の仕度を終えた翔を迎えに来た鬼百合共に鬼百合の船に向かい朝食用の焼き魚を焼き

薫製を作り干物にしたりしたので月影の国の海軍や同行の商人が喜んで買い求めてくれ翔の小遣いにもなった

いよいよ上陸準備が始まり翔も鬼百合に同行し王城城に戻り昼食の支度の手伝いをした

 



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望まなくても表舞台に立たされる者がまた一人…


 

 「私達の部屋を覗いたら、余程疲れたのか床で丸まって寝てたから取り敢えず私のベッドに寝かせておいて…

 

 って、そう思って抱き上げたら寝ながら涙を流してましたから…」

 

 そうりんに言われて命と媛歌をベッドに寝かし付け

 

 「留美菜、りん、今夜の事は暫く伏せておきなさい

魔力に対する抵抗力は注意して何とかなるものでもありませんから皆を…

 

 特に、ミサを苦しめるだけに過ぎないのはわかりますね?」

 

 そう言われて頷くと

 

 「今夜は、このまま私が三人を見守りますから貴女は休み早朝交代しましょう、頼みますよ?」

 

 そう、二人に指示を与えて休ませると明かりを消して三人を見守る事にする忍だった

 

 翌朝!忍と交代すべく起きて来た留美菜とりんが部屋に入ると翔を抱いた忍がミサと話しているのを見て

 

 「命様は未だお目覚めになりませんか?」

 

 そう、ミサに問い掛ける留美菜に忍は

 

 「翔も気にして見に来ましたが…未だ、目を覚ます気配はありません」

 

 そう!言って首を横に降る忍に

 

 「忍様、外やと余りお稽古する時間取れんやろ?ボクがアクエリアス様にもろた結界ん中でお稽古しぃひん?

 

 ボクは毎朝修行しとるんよ…ボクもう嫌やねん、足手まといやゆわれんのは

 

 あんまし戦いに役立つ術は身に付かへんけどその内にて思て頑張ってるんよ…」

 

 そう言われて

 

 「そうですね、私達はまず習った踊り位は自習で高めないとダメですね?結界に案内してください」

 

 そう、留美菜が答えたのでりんも頷き翔の結界に隠り四人は各々の修行をして自らの踊りを高めた

 

 その日の昼、頃劇団員と共に公邸に着いた鬼百合は劇団員と共に公邸で昼食を取り…その後、王城まで送ると一角獣で公邸に戻り

 

 侯爵から女王と観月の三人で話し合った事を聞かされたので、翌朝船に戻り出港準備をさせ王城によると

 

 「劇団とミナのデザイン契約に関する手続きが終わりましたから私も一先ず公邸に戻りますのでご一緒して宜しいでしょうか?」

 

 そう言われて、ユウを連れ共に公邸に戻る事にした

 

 「お父ちゃんお帰りぃ~っ♪」

 

 そう言って、飛び付いて来た翔の小さな身体を受け止めると

 

 「翔、いい子にしてたか?」

 

 そう鬼百合に聞かれてビクッと身体を震わせ

 

 「お姉ちゃん達守れんかったボクはお母ちゃんに又お尻叩かれてもしょんない…」

 

 そう言って、溜め息を吐く翔の頭を撫で

 

 「お前はお前で頑張ってたのは聞いてる…お母ちゃんだってちゃんと知ってるし女王だってお前を褒めてたんだからよ

 

 町の者に被害がないのはお前のお陰ってな」

 

 そう言って、翔を慰める鬼百合と侯爵と話し合うユウは

 

 「予定通り、鬼百合様の船で大樹とヴェルサンディ様に歌の国に赴いて頂き大樹には自らの報告

 

 ヴェルサンディ様にはウルズ様の事を理解していただく努力を頑張って頂くのみです

 

 ただ、ヴェルサンディ様には申し訳ありませんが船はとても小さな船だと言うことです」

 

 ユウにそう言われて、自分の名前が出たヴェルサンディが

 

 「大好きな大樹様と鬼百合様の二人の霊獣の騎士様と鬼百合様の船でしたら鬼百合様が仲間と認める方達なんですね?

 

 その様な船になんの不満がありましょう?」

 

 そう話しているの所に観月が訪れて

 

 「お久し振りです侯爵様、私もそう思いますよ…公女と言う堅苦しい肩書きを忘れて振る舞える素晴らしい空間でしょうからね…

 

 ユウが同行するのが一番ですがさすがに色々不都合がありますから…王城に居る見習い侍女の中から二名選んでヴェルサンディの世話をさせなさい

 

 その人選はユウ、貴女に任せます」

 

 そう言われたユウは

 

 「お任せ下さい…」

 

 そう答えるのみで

 

 「みこについては色々予定が変更になり、未だ月影の国に滞在中の上ユカが不在中ですから十六夜とユイの婚約披露宴出席の為一時帰国させますが…」

 

 名も知らぬ少女(セレナ)の反応を見ながら

 

 「翔に関しては、町から害虫駆除を望まれ婚約披露宴にまで出ねばならない迄の関わりはありませんから…

 

 侯爵様ともご相談してみこが旅を再開する迄こちらに預かって頂けるよう検討しますが…」

 

 そう言ってセレナと三人組を見て

 

 「何かと世話を焼かせる子ですから、貴方達には色々手間を掛けさせますが助けてやってくださいね」

 

 観月にそう言われて顔を真っ赤にしながら

 

 「任せて下さい…私達は勿論この町の皆から愛されてますからね、私達の翔は」

 

 そうノーランに言われて照れ臭い翔が顔を真っ赤にしながら

「そないな訳無いやん?ボクみたいなんをそない思てるとかあり得んで?」

その翔の言葉に

(相変わらずそんな事ばかり言ってるのですか?)

そう思い溜め息を吐く観月に苦笑いして頷く一同だったけど

「しかし…春蘭もですがミナもこちらに来てこれまで垣間見えていた才能が一気に花開いた様ですね?」

その観月の問い掛けに

「はい、ユカの手伝いをしてた時もそうですが漠然としたイメージを書き起こしデザイン化する才能…

座長さんも専属契約を結びたいと言われる程ですから次の舞台が成功すればそちらの関係者の注目を集めるのは間違いないでしょうね…」

我が事の様に喜ぶユウを驚きの目で見るセレナに

「血の繋がりこそ有りませんが共に大公様の元で育ったミナやミサ、ミチは妹…

その妹の努力が認められたのを喜ぶのは姉として当然ではありませんか?」

ユウのその言葉に

「私は世界のファッションの最先端を行く美月はもっとぎすぎすしてるって思ってましたから…すいません」

そう言って頭を下げるセレナに

「そう言った凌ぎ合いで高め合う組織も在りますが私の公女宮、美月はそう言ったタイプではありませんし幸い得意分野が被ってませんから…」

「私達が互いの足の引っ張り合いをして喜ぶ方ではありませんし…

常に仕事をいくつも掛け持ちする私達は後輩の成長待ちでしたから仕事を任せられる後輩の成長を歓迎するのは当然ではありませんか?」

そう言われて

「そうですね、頭の良いノーランに手先が器用なウエスと力自慢のイースに不器用な翔ちゃんの着替えや食事の手伝いをする私が三人を羨んでも仕方無いと言う感じでしょうか?」

そう聞かれて頷くと

「その通りで食事の世話はともかくいくら器用でも男の子のウェスに私達の大事な娘の着替えを任せたくはありませんし…」

そう言ってセレナを見て

「そのコーディネートは貴女が選んだのですか?」

そう聞かれてセレナが頷くとユウと観月も頷き

「ファッションに関する事なら何でも聞いて来なさい、遠慮は要りませんからね

貴女のそのセンスは見逃せ無い物ですが何より翔ちゃんが心を許してる貴女は大切な娘のお友達…

常に手元に置いて置きたいですがそれは叶わぬ願いですから託せる相手…貴女に託したいのですがお願いしてよいですか?」

そうユウに言われて

「私なんかで…」

そう言い掛けるセレナにユウは

「そんなセリフは翔ちゃんに任せなさい

翔ちゃんは言われれば言うことは聞きますが理解しようとはしませんから託せる人間は自ずと限られ貴女は託せる人間と判断したからお願いするのです

頼めますね?娘の親友の貴女には他の三人とは違う意味で…」

そう笑顔で言われて

「は、はい…私翔ちゃんの親友なんですね?」

嬉しそうに聞くセレナの頭を撫でながら

「特殊な存在の翔との距離感が掴めない巫女達はどう接したら良いか迷ってたからな…だろ?雪華…」

そう言われて曖昧に笑う雪華に対し

「私はもう迷ってないですよ?鬼百合さんをお父ちゃん、ユウ様をお母ちゃんと呼ぶ翔ちゃんは言って見ればお嬢様…

だけどグリエ、ケベック、スチーマーを駆使して料理の手伝いを喜んでする翔ちゃんは岬の仲間だよ…留美菜、りん

私にはあの日屋台を手伝いに来てくれたチサ様と重なるよ」

そう言われて

「……そうですね、チサ様の霊玉を飲み込んじゃた翔ちゃんの事を妹の様に接してたチサ様とやたらとお姉ちゃん風を吹かせる媛歌様

翔ちゃんの事を弄ってる真琴様と翼様のご様子はついつい構いたくなる妹…でしたからね」

そう言って身動きのできなかった頃の翔を思い出していた雪華は

「そう…ですね…翔様と呼んでもいい気もしてきましたけどそんな呼び方して喜ぶ子じゃないですよね?六人の王女様達同様に」

そう雪華が言うと

「伯爵様も孫のお嬢様達同様に接してましたからね、十分お嬢様って呼んでも良い位ですよ?」

そう言って夫人の膝に座っておやつ代わりの蜂の子の空炒りを摘まんでる翔を見て微笑むなみと一同

そんな和む雰囲気の中観月が思い出し笑いをしながら

「取り敢えず大樹とヴェルサンディ、ウルズの事を伯母様に話してありますし真琴にも大樹の事は頼んでありますから修行頑張りなさい、守りたい者の為に」

 

 そう言われて、力強く頷く大樹を嬉しそうに見詰めるヴェルサンディを見ながら

 

 「みこの一時帰国の際の同行者の人選も任せますから頼みますよ」

 

 そう告げると、海斗を促し大公領に帰っていく観月だった

 



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囚われ人

異世界で意識を取り戻したとき翼を失い別人と化した媛歌…彼女の目に映る水の精霊の舞姫は別人で姉と呼んでいた


①大人の事情

 

 いつまでも領地を留守には出来ない侯爵は、命の一時帰国に併せ領地に帰るが堅苦しい王城の暮らしを厭う翔を見ながら

 

 「セレナ、祖父殿に翔ちゃんと供回り二人が泊まる宿を紹介して欲しいと伝えてもらえないだろうか?」

 

 そう言って頭を下げると

 

 「ソウさんとミチさんですね?そのお二人なら翔ちゃんと共に家に泊まっていただいても良いって思いますよ?

 

 と、言うより翔ちゃんが家に泊まって欲しいのが私の希望です」

 

 そうセレナが答えると

 

 「その場合も考慮してご相談しなくてはいけないだろ?」

 

 そう侯爵に言われて

 

「わかりました、帰ったらお祖父さんに聞いてみますね」

 

 そう言って、帰っていくセレナを見送る翔は今朝目を覚ました命と媛歌に感じる違和感がどうにも気になって仕方なかった

 

 微妙に異なる二人の雰囲気に…

 

 だから、命の一時帰国に同行しなくて良い事を知ってホッとして昼過ぎにウルズ、ヴェルサンディと大樹と謡華と映見と共にスクルドとアリスを連れて王城に戻っていった

 

 鬼百合は明日の出港に併せ侯爵夫妻を翔はユウを連れ見送る予定で見送った後は侯爵とユウは王城に向かい翔は夫人を連れて公邸に戻る予定…

だけど命と媛歌の二人にどんな顔をして会えば良いのかわから無くて頭を悩ませる翔

(なぁ馬花の娘…彼奴等一体何者や?)

そうぼんやり考えていると

―駄鳥、煩い…頭悪いお前は考えるだけ無駄だしいずれわかるからきにするな、後もう呼び出すな―

そう苦々しそうに言われたので

取り敢えず翌朝もアクエリアスの結界で修行…勿論忍達も呼んで彼女達は踊りの稽古をして朝食の後予定通りに見送りに行きなるべく二人と顔を合わせず逃げるように公邸に戻った

霊獣とは異なる空の旅を楽しんだ夫人は乗る前にいだいた命に対する翔の態度への疑問はすっかり忘れ去り迎えに来ていたセレナに引き渡して虫取に行かせた

虫が減ってきたある日の事、臭いを嗅いだことの有る草を見付けた翔が公邸に戻り雪華に話し案内するように言われて雪華を案内すると

「翔ちゃんの言う通りで母さんのお茶に使われてる香草ですけど…

一旦お屋敷に戻り姉さんにお使い頼めますか?」

そう言われて手紙を預かると春蘭の元に使いに行くと手紙を受け取って女王に

翔が野生の香草の群生地を見付けた事を告げると翔に案内させ採取に行かせる事になり

採取され持ち帰られた薬草と翔がその付近で集めた木の実も持ち帰ると喜ばれ女王に褒美を渡したいと言われ最初は要らないと断っていたけどミナの姿を見掛けた翔が

「せやったらちょこっと我が儘ゆーてもええかな?

ピンキーエンジェルゆーたっけ?あれ欲しいんやけど…セレナとお揃いで着てみたいんよ」

そう言われてあらかじめ用意してあったそれを見せられた翔が顔を曇らせ

「それボクの持っとった奴ちゃうやん?高い方なんやろ?そんなんボク貰われへんしセレナももろてくれへんよ?」

そう言って断る翔に

「ユウママが用意した物ですがそれでも断るんですか?」

ひっと小さな声をあげ声と共に息を吸う翔は小さく震え

「は、はい…お母ちゃん、ボクちゃんとゆー事聞くえーこしますからそないに怒らんといてください…」

そう訴えると小刻みに身体を震わせる翔になんと声を掛けたら良いのかわからない春蘭だった

「この手紙をセレナのお祖父さんにに渡しなさい」

そう言われて受け取ると公邸に戻るとセレナがいつものように待っていて

「その…あんな、セレナ…荷物とセレナの爺さん宛の手紙を預かってきとるんよ…」

そう言って風呂敷包みをセレナに渡すと

「?」

と首を傾げたものの受け取り

「丁度良いから家に寄って行きましょう」

セレナにそう言われてホッとして息を吐き出した翔がセレナにドレスを渡し祖父に手紙を渡すとそれを読んだ祖父は溜め息を吐き

ドレスを手に申し訳なさそうに俯く翔と同じく困り顔でシルクのドレスの受け取りを拒むセレナに

「セレナ…受け取ってあげなさい

翔ちゃん自身絹のドレスを受け取り出来ないしセレナだって受け取ってくれないと断っていたけどユウ様に逆らえず渋々持ってきたのだから…」

祖父にそう言われて

「…そうですね、物を貰って喜ぶ翔ちゃんじゃないのに人にこんな高そうなドレスを平気で人にあげられるわけ無いよね…」

セレナのその言葉に

「ごめんやで、セレナ…ボクがアカンかったんよ…

おんなしデザインの安い方のつもりで欲しいゆーたらこっちの高いのをくれよったんよ…

ボクもーパーティーなんか出た無いんやからね…」

そう嫌そうに言う翔だけど

(多分命様の一時帰国中は嫌だじゃすまないでしょうね…)

そう思うと切なくなるセレナだった

 

ヴェルサンディの初めての船旅は快適だった

気さくな鬼百合仲間達に必要最低限の物は装備された船

出される料理は味付けが異なるもののどれもとても美味しいのはやはり魚の鮮度が違うからか?

大樹と鬼百合は釣果を競い合い釣れ過ぎた魚は入国前に顔見知りの漁師に出荷して貰うことにして鬼百合、大樹、ヴェルサンディと見習い侍女二人が王宮に向かい残りの者達は前衛基地で待機することにした

王女宮で謁見迄の時を過ごす間に王妃宛の侯爵の手紙を渡し書いてはあることだけど自らの口でヴェルサンディに恋をして婿入りを条件に結婚を許されたことを話すと

「わかりました、私も姉がそう言う立場でしたから全くの他人事とは思えませんし…十四夜は未だウルズの事を気にかけてます」

そう言い切る王妃に

「何故そう言い切る事が出来るのですか?」

そう王妃に聞くヴェルサンディに

「私があの子の母親だからですよ」

そう笑らって答える王妃

真琴は大樹に

「黒炎竜は進化したみたいだね?」

そう問い掛けると

「はい、未だ全貌は明らかにしてませんが命様は黒煙熔岩竜…そう呼んでました」

その二人の会話を聞きながら

「真琴様は王女様と言うより王子様って感じで大樹も王子に対する感じなんだ…」

そう思っていた

王女達も手紙を読み終え

「話しはわかりました、最終的には十四夜兄さん次第だけどお父様の説得には私達も応援しますし修行頑張ってヴェルサンディさんを実家に案内しなさいね?」

そう言われてホッとして大樹に抱き付くヴェルサンディの頭を撫でながら慈しむ様に見る大樹に

「あまり見せつけないようにお願いしますよ?僕達はそう言うのは見慣れてないんから」

そう真琴に注意されその後謁見の間にて国王に報告と要請を行うと暫く考えた後に

「あい、わかった…ならばその想いとやら口先ではなく態度で見せてもらう事にしよう…誠の気持ちと共にな」

そう答えたので

「アタイが一角獣で使いに行こう、みこの一時帰国の船に間に合いそうだからな…」

そう言って大股で出ていくと堅苦しい話しは終わりで命の様子を二人に聞きながらお茶を飲むことになり手の空いている者が集まってきた

「伯爵領の慰霊祭では…」

命と翔が大いに盛り上げミサのアクセサリーや若月の服が評判だった事を話し侯爵夫妻は命と翔の二人を孫のように可愛がり特に翔に対する夫人は…

「こんな感じです」

そう言っていつの間にか入ってきた観月が見せた絵は例の鬼百合と侯爵が酌み交わし夫人の膝に座り何やらを摘まんでいる翔の絵で

「鬼百合に酌をしているのがウルズです」

そう言われて

「これは丸切り里帰りした娘夫婦と孫娘ですね…奥様が孫を愛でる様子が伺えますね…」

そう言ってヴェルサンディを見ると

「大丈夫です、父の部下もそう言ってますし母自身気にしてませんから」

そう言って苦笑いするヴェルサンディ

こうして大樹の修行が終わるまで滞在が許される事になった

 

鬼百合のもたらした朗報により命の一時帰国に同行する事になったウルズ

今回謡華と映見は同行せず書き溜めた構図を元に絵を描き進め謡華は月影の国の酒場で歌う事にした

同行者は、ユウ、媛歌、春菜、菜月、秋菜、こうめ、紗綾、小絵、小夜、アリス、鬼百合に見習い騎士のさい、シン、千、そらの15名に五名の侯爵家の小姓が同行することになった

命はいつもの様に振る舞っていたけど翔の感じた違和感を拭えない鬼百合

だからと命と媛歌では無いとでは言えず最近翔が命の事を避けているみたいだと瑞穂が溢していたがその原因がわかった気がした

命の予定外の一時帰国に沸く王都市民

謁見の間にて期間報告の後に精霊の巫女となったスクルドを紹介して次いでウルズの紹介…緊張の一瞬の後に

「そなたの想いが誠のモノであるのを期待する

観月、二人の令嬢の世話係に誰を…」

その王の言葉にスクルドは

「お言葉を返すようですが陛下…私は命様の導きを受ける巫女の一人ですから特別扱いはご容赦願います」

それに触発されたウルズも

「まず身の回りの事もこなせぬ者が認めていただけるとは思えません…」

そう言って辞退する二人に穏やかな目で

「ウム、承知したが第二王子の婚約披露宴等の為の正装の手伝いは付けて良かろう?」

それに対しては

「はい、よろしくお願いします」

そう答えるウルズに対してスクルドは私は短いとはいえ色々好みの話をしたこうめさんがお手伝いしてくださいますからご安心ください

そう言ってあくまでも他の巫女達と同じ扱いを望むスクルドの決意も又好もしかった」

 

 

 

②囚われ人

 

ーみこ、ここはどこ?ー

その問い掛けに対する答えを残念なが持ち合わせていない命には答える事は出来ないから取り敢えず

「何者かの張った結界としか言い様がないよ、今んとこね」

そう言って

水球を四方に飛ばし様子を見たけどの方向も手応えを感じることなく消滅した

ー動くモノの気配も感じないね?ー

媛のその言葉に

「今度はこれ…」

そう言って姿を表したの翔の槍そっくりな槍で唯一の違いは無地の数珠玉が飾りとしてついてくる位

そしてその数珠こそが吸収した熱や魔力を蓄える蓄熱の勾玉と吸った魔力、霊力を錬成するものでくすんだ黒い勾玉が錬成されたけど変化はない

少なくとも媛歌の目にはそう見えたけど翔の成長を見続けてきた命の目にははっきりとその違いが見てとれたから

命が巾着袋から出した物を見て

ー折り鶴と翔の羽根に翔の勾玉?そんな物をどうするの?ー

媛歌にそう言われた命は笑いながら

「こーするんだよ」

そう言って折り鶴に翔の羽根と勾玉を埋め込むと

「少し時間掛かるから」

そう言ってリュックから水筒を取り出すとお茶を一口飲み媛に渡して先程のとは別の巾着袋から砂糖菓子を取り出し頬張るとお茶を飲み終えた媛歌にも渡し

ー様子を見れば良いんだね?ー

そう言って砂糖菓子を頬張るのを見て暫く待っていると

「始まった…」

命のその言葉通りに折り鶴は仮初めの命を吹き込まれ見たこともない二羽の鳥になりそれを見て頷いた命は

ー八青龍神っ!ー

呪文を放ち神剣はその姿を変え

「この先何が有るかわからないから持ってて」

そう言って霊刀雪媛と吸魔刀を渡し自らも霊刀水切と黒魔刀を腰に差し

「それに乗って…直に塞がるのだから」

そう言って八青龍神があけた孔をみるとじわじわと塞がり始めていたから

「さぁ行くよっ!」

そう声を掛けると確める事無くその魔鳥?霊鳥に飛び乗りそこから飛び出すと媛歌もそれに続いて飛び出した

 

(意識を失っていた?それにしても今日も暑い……私は暑さ寒さを感じない筈?)

そう思い焦って

「ここは何処?」

そう声が出たことにさらに焦り辺りを見回すと自分の隣には命に良く似た少女が眠っていて更に混乱していると

「絃刃…寝付け無いの?でも身体の弱いアンタは私でも辛いこの日差しの中の移動は無理なんだから昼間は寝てないと夜が辛いよ?」

そう言われた媛歌?は

(仕方無い…眠れるかわからないけど…)

そう思いながら横になると目を閉じて今の訳のわからない状況を考えることにした

(あ、暑い…一体どうなってるの?

南国の歌の国は暑かったし夏真っ盛りの月影の国も暑かったけどこの暑さは狂気だ…私の体力を徐々に削ぎ落としていく凶器以外の何者でもない)

私がそう考えていると

「食欲はありますか?絃刃」

(絃刃?さっきも私をそう呼んだけど…)

そう考えながら首を横に降り

「琴羽姉さんは先に食べてください、私は出発前に軽くつまむ物で良いですから…」(琴羽…姉さん?)

自分の口から出た言葉に驚いていると

「相変わらずの食欲だね?まぁ自分から食べると言ってくれたんだから今はそれで由としよう

取り敢えずお茶だけでも飲んでおきなさい」

そう言われて渡された水筒のお茶は春蘭達が淹れてくれるお茶よりは苦かったけど美味しく気分をスッキリしてくれた

日が暮れて少しは暑さも和らいだ気がする頃オアシスを後にした私達にお約束の様に姉さん?を口説いてくる男達の視線を釘付けの姉さんに対し

路傍の石みたく顧みられる事の無いぺったん娘で血色の悪い発育不良の私は全くとは言わないけどそう言った男達に見て欲しいとは思わないけど…

「仕方無い…私は私、姉さんは姉さんなんだ…」

そう言って諦めるのは悲しいけど慣れているし慣れるしかなかったのだから今更うだうだ言ってもね…

そう考えながら見守もっていると

「お前達見慣れない格好をしてるがこんな夕暮れ時に何処に行くつもりだ?」

そう下碑た笑いを浮かべ舐め回すように姉さんの身体を見る目はおぞましく自分が見られてる訳じゃ無くても鳥肌が立ったけど

「お前達に教える必要はないし義理もない、目障りだから消え失せろっ!」

そう声を荒げる事無く言い捨てる姉さんに顔色を変えたが別の男に肩を掴まれ

「えらく自分達に自信を持っているようだが階層を言ってみな」

そう言われて鼻で笑いながら

「この世紀末とも言うべき世界で未だそんなものにしがみつくお前らに答える必要はない」

そう言って深紅の羽根飾りの付いた扇子をひらひらさせると掴まれていた肩の手を振りほどいて姉さんに掴み掛かったけどその手を叩き落とし両頬を何度か知らないけど打ち据えると

「これでも手加減してやったんだからこれ以上絡んで来るなら次は急所に入れるから覚悟するんだね…行くよ、絃刃」

そう言って絃刃の手を取るとその場を立ち去る二人を呆気に取られていたが我に帰った男達が二人の後を追おうとするのを

「止めておけ、あの女は激流の舞姫琴羽…俺達の手に負えるような玉じゃないしその女が絃刃と呼んだあの娘…

あれは幼い見掛けと裏腹にもっと恐ろしい紅い霧の妖絃刃(ようしじん)…その名を知らんとは言わせんぞ?

それの本名が絃刃と言い足元を見ろ」

そう言われて男達が足元を見ると編み上げのブーツの紐が左右の紐同士で結ばれており言われずに駆け出していれば無様に倒れていたのは間違いない

「絃使いは自ら持つ絃に限らす紐状の物全てを操るから髪の毛も例外じゃなく見ろ」

そう言って失神している男の髪の毛は海中の海草の如く畝っていた…

 

「全く鬱陶しい…」

吐き捨てる様に言う琴羽を見ながら

(魂の形はみこなのに真琴とみこの違い以上に別人のこの人は…

それになぜ私は翼を失い声が出るの?背丈だって普通の人間の…まぁ小柄な部類じゃあるけどみこよりはある

多分雪華より少し高いだろうけど…それにあの鳥は…)

わからない事だらけの媛歌は取り敢えず琴羽について行く以外どうしようも無いので状況に身を任せることにした

店仕舞い間近の店で食料を買い取り敢えず今夜のの宿を捜すと姉さんは食事の支度をして私は絃を使い防御の結界を張り巡らせると

「絃刃はこれを食べなさい」

そう言って刻んだ木の実を渡してくれ姉さんは燻した肴をかじりながら酒を煽って…いる

「明日手持ちの薬草や薬を売って部屋を借りるけど何か希望はありますか?」

そう聞かれたけど特に無いから首を横降り

「姉さんに任せます」

とだけ答えると後は静かに食事をとる二人

一組しかない布団に

「結界を張っているのだから身体は休めなさい」

そう言って飲み続ける琴羽が絃刃を見る目は優しく絃刃を安心させるモノで暫くする内に穏やかな寝息を立て眠る絃刃

二人で生きてきた二人にはそれが当たり前の夜だった

翌朝私が目覚めた時には既に朝食の支度を終え荷物の整理も終えた姉さんはじっと私の寝顔を見詰めていた

私が目覚め二人で朝食を取り夕べ姉さんが言って言ってた通りに薬や薬草を売って暫くの間の拠点にする部屋を見付けると

姉さんはこれだけは取っておいた薬そばの実を挽いて粉にしている

「蕎麦、打つんだ…手伝えること有る?」

そう私が聞いたら

「明日早朝から薬草取りに行くから貴女は身体を休めてなさいこれは私の酒代を稼ぐ程度にしかならない量しかないか無いのだから心配要らない」

その言葉通りに夕方前には打ち終わり再び薬蕎麦を売りに行き酒と肴と私のご飯を買ってきてくれた

吟遊詩人のスキルを持つ私は久々に気分と体調の良いから姉さんのリクエストに答え歌を披露した

私自身は余り歌が得意でないのは自覚してるから滅多に人前では歌わない

魔導舞踊家(武踊家)で舞姫ともアダ名される姉さんとは違い私のレベル位の歌い手はいくらでもいるのだから

こうして私達は暫くは薬草を採りに山に入り薬草を加工して薬や薬膳料理の食材を作っては卸し

姉さんは時々酒場で踊ってるけど私は酒場に行く事自体が嫌いだから一人部屋で寝ている…

そんなある日の夜の事…明日情報屋の報告が有るけどその報告によっては股旅に出るからそのつもりでいなさい

そう言われて頷いて眠ることにしたけど言葉足らずな姉さんは聞いても答えてくれないし理解出来ないことが多いから何も聞かなくなっている

何日振りかに外の空気を吸う私の顔色は相変わらず悪い

薬蕎麦、黍団子、茹でると挽き肉みたいな肉擬きの実、疲労回復、解毒剤、痛み止、傷薬、怪力の薬、加速薬等を卸し代金と欲しい物のリストを受け取り店を出ると

「待ち合わせの時間には未だ早いから団子ても食べながら待つ?」

そう言われて私が頷くと待ち合わせの団子屋に入り一皿二本の串団子を二皿頼んで一皿分を分けあって食べ…

もう一皿は持って帰って午後のお茶の時に食べる予定で包んでもらうつもり

私がお団子を食べ終わる頃情報屋の男が現れ姉さんに報告書を渡すとその情報量の多さに溜め息を吐いて

「持ち帰り用の肉饅頭とお茶のお代わりを頼みます」

そう言って出されたお茶を飲みながら二人の話が終わるのを待ったけど結局話が終わったのは私がお昼ご飯の代わりにお団子をもう一本食べ終わってから

店を出るとすぐに姉さんは

「やはり股旅にでなきゃいけない」

そう言って

「私は部屋の解約と借りてた道具を返しに行くから貴女は部屋で休みなさい」

そう言われて二人で部屋に戻り

私は一人待つ間染めていた糸を干していた

 

 

 

③得られなかっもの

 

翌朝早く駅馬車の駅にいる私達は間が良く姉さんが薬膳の店に旅に出る話をしたら

「アンタ等の最初の目的地の街に有る店に荷を運んで欲しい」

って頼まれ個室を取ってくれたんだ…勿論必要経費だから私達はお金を払ってない

そんな私達が荷物を運び込んでもらってると騒がしい声が聞こえてきたから駅員に

「どうかしましたか?」

そうお節介焼きの姉さんに聞かれて

「個室が空いてたら乗りたいと言われてた客人に空いてないからと断っているようです…」

そう答えるのを聞いて

「女性のようですけどどんな方ですか?」

そう重ねて聞かれた駅員は

「何でも屋の女で頼まれて孤児を協会につれて行くそうです」

それを聞いてしまった私は溜め息を吐いて

「私に構わないなら…」

そう小声で姉さんに言うと

「荷物を積み込んでも余裕がありますからこの娘、私の妹を構わないならその何でも屋込で受け入れます」

そう伝えるとその人達に伝えに走り連れてきたから

「私の妹は他人に構われるのが嫌いだから構わない約束を守れるなら一緒に行きましょう」

そう説明するのを後ろに聞きながら荷物の積込が終わったと告げられた私は先に馬車に乗り込む姿を見ながら

「わかりましたね?約束を守りなさいせっかく明日を待たずに乗せてもらえるのですからね…

まぁお前達も余り人と関わるのが好きじゃないから心配はないとは思うが…」

そう言われて

「はい、約束を守ります」

姉が言うと頷く妹を見て

「宜しくお願いします」

そう言って頭を下げる何でも屋に

「何か有れば私に言いなさい、それがお互いの為ですからね」

そう姉さんが言うと

「理解有る言葉に感謝する」

そう話を終え馬車に乗り込む四人に気付かない振りで窓の外を眺めていた

馬車がゆっくり走り始め暫くすると豪快な虫の鳴き声がして頭を掻く何でも屋と余り顔色の良くない二人の子供を横目に見て

「姉さん、アレ良いから」

そう小さく言うと何でも屋には黍団子を渡して

「貴女はこれで飢えを凌ぎなさい」

そう言って子供達には堅焼きのパンを渡し

「貴女達はこれを食べたら少し休みなさい」

そう言って水筒と共に受け取ると

(焼いた私がいうのもなんだけど余り美味しいは言えないけどあの堅焼きパンを貪る様に食べるなんて…

さすが協会に送られるだけはある、ろくな扱いを受けてこなかったんだろうな…)

「姉さん、二人にはあれも良いから」

私がそう言ったら驚いて

「アレは貴女の…」

そう言葉を詰まらせる姉さんに

「確かに中々手に入らない…でも、協会に行ったらその二人にはその機会は当分無い…食べさせてあげて

その代わりにお礼は要らないからどうしてもっていうなら姉さんが聞いといて」

姉さんにだけ聞こえる小さい声でそう私が言うと頷いて鞄から取り出すと餡豆を渡すと二人の目は真ん丸に開いて何でも屋を見るから

「大丈夫、確かに売れば良い金になりますが私達は魔導薬師と薬膳魔導師で自分達で山に入り取ってきたのだからただですから気にしなくてもよいです」

そう言われて小さな声で姉さんにお礼を言っているが私はそれに構わず外を眺めていた

轍の音に紛れて聞こえてくる寝息を聞きながら私は思っていた

六歳違う姉妹の私にとり記憶に無い両親などでも良く姉さんが全てで姉さんさえ居ればそれで良かった

だからそんな人と関わろうとしない私にお節介な者達は必ず言う

「今は一緒に居るから良いけど琴羽ちゃんがお嫁に行っちゃったらどうするのさ?あんだけ別嬪さんなんだから引く手数多だろうにねぇ~っ…」

(このこぶさえなきゃーね…)

そう思っているのがみえみえな目で見る者を見て育った私が他人と関わりたい等と思う筈も無いしそもそも長生き出来無いくらい私にも理解出来ていた

夜中胸の奥がざわざわし意識的に息を吸っても息苦しく日頃から迷惑掛け通しの姉さんに申し訳無い私…

だからどんなに苦しくても姉さんを起こせず一人苦しみに耐え涙する夜の寂しさを知らぬ者に話す言葉は持たない

最初の内は怖い夢を見たと嘘を吐いてたけどすぐにバレて泣きながら叱られた夜の事は忘れられない

でもゴメン、姉さんより先に逝かない約束だけは守れない…

私には15歳以降の未来は見えず姉さんは40歳までは確実に生きるのが私の占いで解る未来…

だから努力はしてみるけどまず望みはない神話の悲劇の王女程ではないけど悪い占い結果ほどよく当たるのだから…

私の15歳の誕生日まで既に百日を切って居るのだからソコから先の未来はもう見えない

そう考えながらぼんやり過ごす内に最初の休憩場所に辿り着いた

私達は取り敢えず寝てる子達を置いて一旦馬車から降り身体を伸ばし大きく息を吸ってゆっくり吐き出していると抜け目無い姉さんは

 



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熱砂の出会い

見慣れない装備の少年騎士はバカだった…


「袖すり合うも多生の縁、私達はこれからお茶を飲みますが皆さんご一緒に如何ですか?」

そう声を掛けるのを聞いて空になった水筒を投げ渡して「私の分はこれに容れて冷ましておいて、子供達を見てますから」

何でも屋に手伝いをさせているのを見て私は必要無いのがわかったのだから

部屋に戻り未だ寝てるのを確かめ私は外の気配を探った

腹の内を読ませぬ商人達に古兵の傭兵達と出稼ぎの労働者達…取り敢えず私達が警戒しなきゃいけない様な魔力持つ者は居ない)

そう言ってホッと息を吐いた途端に

(一体誰が…どこから私を見ていると?えっ…)

その視線と魔力すぐ側から感じていたので振り向くと視線は姉と魔力は二人からだけど妹の方からはより強く感じていたから

(お姉さんはこの力の事知ってるの?)

そう聞いたら妹は

(薄々感ずいてる…お姉ちゃんだから…)

そう答えるから

(妹にもこの力があるのは気付いてますか?)

姉の方にはそう聞くと

(お姉さん程じゃないけど私よりは強い力があるのは…)

そう答えたので

「貴女達は協会に行くと言う事がどういう事か承知してますか?」

妹の方は生身は未だ寝ているで姉にそう問い掛けると今にも泣き出しそうな顔をして

「詳しくはわからないけどやな予感しかしないけど私達にはそれしか…行くとこも居場所も在りませんから…」

そう答えたので

「少なくとも私にはお勧め出来ない…

協会に引き取られた力無き魔女がどんな扱いを受けるか身をもって知る私達にはとてもじゃないけどお勧めしかねる

だから貴女達が望むのなら私についてきなさい…妹を守りたいのなら、妹を守る力が欲しいのなら…」

そう問い掛けると

「構われたく無いんじゃ…」

そう不安顔で聞く姉に

「私は私が相手をしたくない者に構われたく無いから初対面はまず拒否して居るだけ…

貴女達は私から関わろうと思うのだから構われても平気ですがそう簡単に答えられるものではありません…

ですから協会の在る駅に着くまでに答えを出しなさい…良いですね?」

私にそう言われて考え込む姉だけどさすがに私が決めて良いものではないし何でも屋でもそれは同じ…垢の他人なのだから

再び馬車が走り始め暫くすると姉さんにお茶を分けて欲しいと言う者が来たから有料で分ける姉さん

勿論妥当な料金でだけどね…

でもその慌ただしさで最初の予兆を私達は見落としてしまった

異常気象と言われ始めてどれ位になるのだろうか?

もっとも…私達からしたら姉さんですら物心つくくらいから始まったこの異常気象だから私からしたら異常じゃなく通常なんだけど…

幼い微かな記憶で海と両親を知る姉さんと海も両親も知らない私異常な熱気が更に空気を異常に乾燥させていたけど気付けなかった

そのゾッとする悪寒に気付くまで…

「姉さん…そして貴女に聞きますが本気でこの二人を協会に送るつもりですか?

少なくとも姉の方には出来れば行きたく無いと言う意思が有るのを聞きました」

そう問い掛けると

「確かに賛成しかねますがそう言った子は…」

「私も好き好んで連れてはいかない」

二人の答えを聞き

「私は反対します」

そう言って姉の方を見て

「どうやら貴女の決断を待てる状況ではなくなりました

貴女達に招かざる客が…不愉快極まりない愚者が来たのだから…」

私がそう言った途端に馬車は大きく揺れて急停車し個室の開き戸が開いて

「その不愉快な愚者ってのはもしかしなくても俺達の事か?」

等とわかりきったことを聞く愚者に

「このタイミングで現れたお前達以外に誰が居るの?

そんな事も理解出来ない愚者の癖に私達に人がましい口をきくな、大貍の分際でっ!」

私がそう言い捨てると驚いて私を見る何でも屋と姉妹の三人だけど姉さんだけは薄く笑っている

「黙って聞いてりあゃこん糞ガキがぁ~っ…てめぇこそちんけな魔女の分際で何ほざきやがるっ!」

そう喚き立てるから

「暑苦しいから喚くな、大きな声を出さなくたってちゃんと聞こえてるんだから

もっとも聞こえてたって意味を理解出来ないお前達には関係無いのでしょうけどね…」

嘲りを込めて鼻で笑い

「大貍の飼い主に告ぐ、こいつらに大恥を掻かせたく無くばいつつ以内に姿を表せ

ひとぉつ、ふたぁつ、みいっつ、よぉっつ、いつつっ!」

魔力を一気に解放し糸を放ち

「二人は目を閉じなさいっ!」

そう言い付け固まっている二人の目を何でも屋の手が塞ぎその次の瞬間何でも屋の口はあんぐりと開き

「未だ乗り続けなきゃいけないんだから大貍の血で汚す気はないから貴女だって不快なアレを二人には見せるべきじゃないでしょ?」

そう言われた大男は服は切り裂かれ頭髪は勿論殆んどの体毛を失い呆然としているから

「確かに私はちんけな魔女だけどお前程度に遅れはとらない位の力を持っていることも理解出来ぬ愚者のお前は既に飼い主に見捨てられ…

地響き…不味い…何も無いこの辺りじゃ逃げ切れない…仕方無い、か…」

私は溜め息を吐いて

「ゴメン、私から言っておきながら貴女達を守れるのはこれで最後…

私が降りたら馭者に全速力で逃げるように言いなさい」

そう言ったら馭者を助けに行ってた姉さんが

「ムダ、馭者はアレに気付いて呆けてるから馬車は動かない」

そう言われてもう一度溜め息を吐いて

「ムダは承知で戦おうせめても暫しの行動力を奪えば逃げられよう…」

そう言って馬車を降りると何でも屋も降りてきたから

「貴女が降りてきてどうするのさ?」

そう言ってやったら

「貴女の姉に託してきた…」

そう言われて

「物好きな人…少なくとも私の命運を断つのはあれじゃないから未だ死ぬ時でないけど貴女の命の保証はない」

そう言ってやったら

「命の保証がいるならとっくに何でも屋を廃業してるぜっ♪」

そう言って不敵に笑う何でも屋に

「それが貴女の素なんだ…」

そう聞いたら何でも屋は

「今のお前と同じでさっきまでのは営業用だ」

そう笑って言うから

「ある意味違う…今の私は枷が外された私で貴女の様に意思で解放できない

貴女、弓は使える?使えるならこれを預けるけど?」

そう言って弓と矢筒を渡すと受け取り

「あれ位デカイ的なら急所を外さない自信はあるが…」

そう言って苦笑いする相手に

「なら問題ない、当たり前に弓引く腕力要るから私には無用の長物だけど託せる人待ちだったこの闘魔弓…

貴女の闘気で破壊力が上がるからアイツの皮膚も貫けますから頼りにします

私の生死に関わらず今から貴女の物だからこの弓で二人を守りなさい」

受け取った矢筒から矢を取り出し検分する何でも屋に

「そうは言っても私の方も…なんとか間に合った様です…眉間の鱗を剥がしましたから頼みます」

私がそう言うと黙って頷き一気に弓を引き絞りその時を待つ何でも屋…

そして矢は放たれ…二本三本と突き刺さり苦痛の叫びを上げたその瞬間を狙い糸を口から心臓を狙い浸入させ何とか仕留めた私達

でも…さすがしぶとく生き延びた人達だけある…

恐ろしい捕食者も命尽きればただの肉の塊にすぎず早速商人達が私達に取引を持ち掛けてきた…肉を売ってくれってね

だから何でも屋と姉さんが取引に応じてくれ取り敢えず五人分の肉を切り分けて貰い残りの分を解体手数料をを差し引いた額で譲ることになり

その交渉をしている間私も

「どうするのアンタら…見捨てられのは理解してるんでしょ?」

私にそう言われた大貍達は情け無い表情で

「どうするのと言われても…使い捨てられたわし等にはどうしようもない」

そう言ったから

「ならちょうど良い、私に仕えなさい…取り敢えず手付け代わり私の分の肉をあげるけどどうする?」

そう言われた二人は顔を見合わせ

「アンタに手も足も出ないわしらに何をしろと?」

そう聞いてきたから

「別に難しい事は言わない、苦手な力仕事をやってくれれば良いだけの事

ただし、姉さんはアンタらを信じないから私と魔導の契約を交わしてもらわなきゃいけないけどね…」

私にそう言われて

「わしらに選択肢はないその話受け入れよう」

そう答え契約のナイフを受け入れると切り裂いた服も取り込んだ光に包まれその光が薄れると二人のあだっぽい女にその姿を変えていて

「姉さん…これなら文句無いでしょ?」

私にそう言われて溜め息を吐いて

「やむを得ない…今から焼き肉パーティーをするそうだから貴女達も来なさい

私やこの子は食べると言っても量は知れてるし私達の互いの妹は肉を食べないから代わりに貴女達が食べれば良いしその姿なら歓迎されるでしょうからね…」

そう言われて余り嬉しそうではないけど

「イケる口なんだろ?一人は我慢してもらうがもう一人は私とやってもらうけどどうする?」

そう姉さんに言われて

「お前が飲みな…お前の忠告を聞かずこの様だ…」

そう言われた方は

「わかった…次の機会にはアンタが飲めば良い」

そう話は決まり

「絃刃、アンタの歌を聞きたいってリクエストがあるから来なさい」

そう言われて

「舞姫の姉さんが居るのに………仕方無い、前座を務めさせていただきます」

そう答え私達もパーティーに加わることにした

昼も近い事もあり解体を手伝った者達の現物支給の手数料の一部の焼き肉パーティーが始まった

魔力の封印が解けた私はマジックアイテム給水筒と製氷器を呼び出し美味しい水と氷で冷たい水を希望者に振る舞い勿論

姉さんがロックで飲むのを見て他の男達も真似て飲み始めた

勿論酒を商う者が酒を売り出したので姉さんは酒を買い肉を食べない私と妹は取って置きの残りの木の実を練り込んだパンを分け合って食べ妹を休ませ…

私は瞑想行で魔力を貯めているとその間にお腹一杯になった姉も眠りに落ち何でも屋が運んで来て寝かし付けてから肉を食いに戻った

その後五人分の肉を塩漬けにして私と妹の分をサキナとサトナに譲り私達の部屋に運んで貰いたっぷり飲み食いした後今夜の停車場まで皆泥の様に眠る事に

そして夜は夜で今度は有料で焼き肉パーティーになり私はビスケットを買い妹と二人で食べる事にして大人達が酒を飲むのを傍観していた

   

 

 

③お調子者

 

翌朝馬車は通常運航に戻り昼の有人の停車場に着いて皆それぞれに必要な物をかいある者は肉を卸売りしている

私達も乾パンや干した木の実、草の実や野菜を買いあっさりしたソバを昼食に摂り馬車に戻り他の客が居ないのを確かめ

「私は魔導舞踊家で薬膳魔導師の琴羽、この子は吟遊詩人で魔導薬師の絃刃です

姉さんがそう名乗ると」

何でも屋が

「貴女達があの噂の薬膳薬師美人姉妹か…

噂に違わぬ美貌の持ち主だな

私は何でも屋のフィヨルド、フィーと呼んでくれれば良い

で、この二人は姉のヴァニラと妹のミント…」

そう紹介され

「未熟な魔女の姉妹…」

そう私がポツリと漏らすと

「だからなんだね…貴女がこの二人に自ら関わる理由は…

わかりました、そういう理由なら私もこの二人の行く先に不安がなかったと言えば嘘になる

私も二人の力になりましょう」

そう姉さんが告げるとフィーも

「アンタら二人が手伝ってくれるなら私も腹が決まった意に沿わない仕事はキャンセルだ

二人には申し訳ない話だが依頼人達は協会に申込みしてある訳じゃなくそれ込みの依頼…

つまり厄介払いで私に預けたんだから二人のその後は興味ないはず

私達が引き取って面倒見たって文句を言われる筋はない

私達にも二人に堅気の暮らしは与えてやれないけどそれで良ければついてきなさい」

そう言われた二人は泣きながらフィーに抱きついて「はい」と答えると暫く泣き続けて泣き疲れて眠りについた

私達の運命はこうして交わった

「袖すり合うも多生の縁、私達はこれからお茶を飲みますが皆さん一緒に如何ですか?」

そう声を掛けるのを聞いて空になった水筒を投げ渡して「私の分はこれに容れて冷ましておいて、子供達を見てますから」

何でも屋に手伝いをさせているのを見て私は必要無いのがわかったのだから

部屋に戻り未だ寝てるのを確かめ私は外の気配を探った

腹の内を読ませぬ商人達に古兵の傭兵達と出稼ぎの労働者達…取り敢えず私達が警戒しなきゃいけない様な魔力持つ者は居ない)

そう言ってホッと息を吐いた途端に

(一体誰が…どこから私を見ていると?えっ…)

その視線と魔力すぐ側から感じていたので振り向くと視線は姉と魔力は二人からだけど妹の方からはより強く感じていたから

(お姉さんはこの力の事知ってるの?)

そう聞いたら妹は

(薄々感ずいてる…お姉ちゃんだから…)

そう答えるから

(妹にもこの力があるのは気付いてますか?)

姉の方にはそう聞くと

(お姉さん程じゃないけど私よりは強い力があるのは…)

そう答えたので

「貴女達は協会に行くと言う事がどういう事か承知してますか?」

妹の方は生身は未だ寝ているで姉にそう問い掛けると今にも泣き出しそうな顔をして

「詳しくはわからないけどやな予感しかしないけど私達にはそれしか…行くとこも居場所も在りませんから…」

そう答えたので

「少なくとも私にはお勧め出来ない…

協会に引き取られた力無き魔女がどんな扱いを受けるか身をもって知る私達にはとてもじゃないけどお勧めしかねる

だから貴女達が望むのなら私についてきなさい…妹を守りたいのなら、妹を守る力が欲しいのなら…」

そう問い掛けると

「構われたく無いんじゃ…」

そう不安顔で聞く姉に

「私は私が相手をしたくない者に構われたく無いから初対面はまず拒否して居るだけ…

貴女達は私から関わろうと思うのだから構われても平気ですがそう簡単に答えられるものではありません…

ですから協会の在る駅に着くまでに答えを出しなさい…良いですね?」

私にそう言われて考え込む姉だけどさすがに私が決めて良いものではないし何でも屋でもそれは同じ…垢の他人なのだから

再び馬車が走り始め暫くすると姉さんにお茶を分けて欲しいと言う者が来たから有料で分ける姉さん

勿論妥当な料金でだけどね…

でもその慌ただしさで最初の予兆を私達は見落としてしまった

異常気象と言われ始めてどれ位になるのだろうか?

もっとも…私達からしたら姉さんですら物心つくくらいから始まったこの異常気象だから私からしたら異常じゃなく通常なんだけど…

幼い微かな記憶で海と両親を知る姉さんと海も両親も知らない私異常な熱気が更に空気を異常に乾燥させていたけど気付けなかった

そのゾッとする悪寒に気付くまで…

「姉さん…そして貴女に聞きますが本気でこの二人を協会に送るつもりですか?

少なくとも姉の方には出来れば行きたく無いと言う意思が有るのを聞きました」

そう問い掛けると

「確かに賛成しかねますがそう言った子は…」

「私も好き好んで連れてはいかない」

二人の答えを聞き

「私は反対します」

そう言って姉の方を見て

「どうやら貴女の決断を待てる状況ではなくなりました

貴女達に招かざる客が…不愉快極まりない愚者が来たのだから…」

私がそう言った途端に馬車は大きく揺れて急停車し個室の開き戸が開いて

「その不愉快な愚者ってのはもしかしなくても俺達の事か?」

等とわかりきったことを聞く愚者に

「このタイミングで現れたお前達以外に誰が居るの?

そんな事も理解出来ない愚者の癖に私達に人がましい口をきくな、大貍の分際でっ!」

私がそう言い捨てると驚いて私を見る何でも屋と姉妹の三人だけど姉さんだけは薄く笑っている

「黙って聞いてりあゃこん糞ガキがぁ~っ…てめぇこそちんけな魔女の分際で何ほざきやがるっ!」

そう喚き立てるから

「暑苦しいから喚くな、大きな声を出さなくたってちゃんと聞こえてるんだから

もっとも聞こえてたって意味を理解出来ないお前達には関係無いのでしょうけどね…」

嘲りを込めて鼻で笑い

「大貍の飼い主に告ぐ、こいつらに大恥を掻かせたく無くばいつつ以内に姿を表せ

ひとぉつ、ふたぁつ、みいっつ、よぉっつ、いつつっ!」

魔力を一気に解放し糸を放ち

「二人は目を閉じなさいっ!」

そう言い付け固まっている二人の目を何でも屋の手が塞ぎその次の瞬間何でも屋の口はあんぐりと開き

「未だ乗り続けなきゃいけないんだから大貍の血で汚す気はないから貴女だって不快なアレを二人には見せるべきじゃないでしょ?」

そう言われた大男は服は切り裂かれ頭髪は勿論殆んどの体毛を失い呆然としているから

「確かに私はちんけな魔女だけどお前程度に遅れはとらない位の力を持っていることも理解出来ぬ愚者のお前は既に飼い主に見捨てられ…

地響き…不味い…何も無いこの辺りじゃ逃げ切れない…仕方無い、か…」

私は溜め息を吐いて

「ゴメン、私から言っておきながら貴女達を守れるのはこれで最後…

私が降りたら馭者に全速力で逃げるように言いなさい」

そう言ったら馭者を助けに行ってた姉さんが

「ムダ、馭者はアレに気付いて呆けてるから馬車は動かない」

そう言われてもう一度溜め息を吐いて

「ムダは承知で戦おうせめても暫しの行動力を奪えば逃げられよう…」

そう言って馬車を降りると何でも屋も降りてきたから

「貴女が降りてきてどうするのさ?」

そう言ってやったら

「貴女の姉に託してきた…」

そう言われて

「物好きな人…少なくとも私の命運を断つのはあれじゃないから未だ死ぬ時でないけど貴女の命の保証はない」

そう言ってやったら

「命の保証がいるならとっくに何でも屋を廃業してるぜっ♪」

そう言って不敵に笑う何でも屋に

「それが貴女の素なんだ…」

そう聞いたら何でも屋は

「今のお前と同じでさっきまでのは営業用だ」

そう笑って言うから

「ある意味違う…今の私は枷が外された私で貴女の様に意思で解放できない

貴女、弓は使える?使えるならこれを預けるけど?」

そう言って弓と矢筒を渡すと受け取り

「あれ位デカイ的なら急所を外さない自信はあるが…」

そう言って苦笑いする相手に

「なら問題ない、当たり前に弓引く腕力要るから私には無用の長物だけど託せる人待ちだったこの闘魔弓…

貴女の闘気で破壊力が上がるからアイツの皮膚も貫けますから頼りにします

私の生死に関わらず今から貴女の物だからこの弓で二人を守りなさい」

受け取った矢筒から矢を取り出し検分する何でも屋に

「そうは言っても私の方も…なんとか間に合った様です…眉間の鱗を剥がしましたから頼みます」

私がそう言うと黙って頷き一気に弓を引き絞りその時を待つ何でも屋…

そして矢は放たれ…二本三本と突き刺さり苦痛の叫びを上げたその瞬間を狙い糸を口から心臓を狙い浸入させ何とか仕留めた私達

でも…さすがしぶとく生き延びた人達だけある…

恐ろしい捕食者も命尽きればただの肉の塊にすぎず早速商人達が私達に取引を持ち掛けてきた…肉を売ってくれってね

だから何でも屋と姉さんが取引に応じてくれ取り敢えず五人分の肉を切り分けて貰い残りの分を解体手数料をを差し引いた額で譲ることになり

その交渉をしている間私も

「どうするのアンタら…見捨てられのは理解してるんでしょ?」

私にそう言われた大貍達は情け無い表情で

「どうするのと言われても…使い捨てられたわし等にはどうしようもない」

そう言ったから

「ならちょうど良い、私に仕えなさい…取り敢えず手付け代わり私の分の肉をあげるけどどうする?」

そう言われた二人は顔を見合わせ

「アンタに手も足も出ないわしらに何をしろと?」

そう聞いてきたから

「別に難しい事は言わない、苦手な力仕事をやってくれれば良いだけの事

ただし、姉さんはアンタらを信じないから私と魔導の契約を交わしてもらわなきゃいけないけどね…」

私にそう言われて

「わしらに選択肢はないその話受け入れよう」

そう答え契約のナイフを受け入れると切り裂いた服も取り込んだ光に包まれその光が薄れると二人のあだっぽい女にその姿を変えていて

「姉さん…これなら文句無いでしょ?」

私にそう言われて溜め息を吐いて

「やむを得ない…今から焼き肉パーティーをするそうだから貴女達も来なさい

私やこの子は食べると言っても量は知れてるし私達の互いの妹は肉を食べないから代わりに貴女達が食べれば良いしその姿なら歓迎されるでしょうからね…」

そう言われて余り嬉しそうではないけど

「イケる口なんだろ?一人は我慢してもらうがもう一人は私とやってもらうけどどうする?」

そう姉さんに言われて

「お前が飲みな…お前の忠告を聞かずこの様だ…」

そう言われた方は

「わかった…次の機会にはアンタが飲めば良い」

そう話は決まり

「絃刃、アンタの歌を聞きたいってリクエストがあるから来なさい」

そう言われて

「舞姫の姉さんが居るのに………仕方無い、前座を務めさせていただきます」

そう答え私達もパーティーに加わることにした

昼も近い事もあり解体を手伝った者達の現物支給の手数料の一部の焼き肉パーティーが始まった

魔力の封印が解けた私はマジックアイテム給水筒と製氷器を呼び出し美味しい水と氷で冷たい水を希望者に振る舞い勿論

姉さんがロックで飲むのを見て他の男達も真似て飲み始めた

勿論酒を商う者が酒を売り出したので姉さんは酒を買い肉を食べない私と妹は取って置きの残りの木の実を練り込んだパンを分け合って食べ妹を休ませ…

私は瞑想行で魔力を貯めているとその間にお腹一杯になった姉も眠りに落ち何でも屋が運んで来て寝かし付けてから肉を食いに戻った

その後五人分の肉を塩漬けにして私と妹の分をサキナとサトナに譲り私達の部屋に運んで貰いたっぷり飲み食いした後今夜の停車場まで皆泥の様に眠る事に

そして夜は夜で今度は有料で焼き肉パーティーになり私はビスケットを買い妹と二人で食べる事にして大人達が酒を飲むのを傍観していた

   

 

 

③お調子者

 

翌朝馬車は通常運航に戻り昼の有人の停車場に着いて皆それぞれに必要な物をかいある者は肉を卸売りしている

私達も乾パンや干した木の実、草の実や野菜を買いあっさりしたソバを昼食に摂り馬車に戻り他の客が居ないのを確かめ

「私は魔導舞踊家で薬膳魔導師の琴羽、この子は吟遊詩人で魔導薬師の絃刃です

姉さんがそう名乗ると」

何でも屋が

「貴女達があの噂の薬膳薬師美人姉妹か…

噂に違わぬ美貌の持ち主だな

私は何でも屋のフィヨルド、フィーと呼んでくれれば良い

で、この二人は姉のヴァニラと妹のミント…」

そう紹介され

「未熟な魔女の姉妹…」

そう私がポツリと漏らすと

「だからなんだね…貴女がこの二人に自ら関わる理由は…

わかりました、そういう理由なら私もこの二人の行く先に不安がなかったと言えば嘘になる

私も二人の力になりましょう」

そう姉さんが告げるとフィーも

「アンタら二人が手伝ってくれるなら私も腹が決まった意に沿わない仕事はキャンセルだ

二人には申し訳ない話だが依頼人達は協会に申込みしてある訳じゃなくそれ込みの依頼…

つまり厄介払いで私に預けたんだから二人のその後は興味ないはず

私達が引き取って面倒見たって文句を言われる筋はない

私達にも二人に堅気の暮らしは与えてやれないけどそれで良ければついてきなさい」

そう言われた二人は泣きながらフィーに抱きついて「はい」と答えると暫く泣き続けて泣き疲れて眠りについた

私達の運命はこうして交わった

 

 

 



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スイッチバッグ

死ぬハズの私の運命が変わった…アイツ自らの命と引き換えに…


そろそろ今日の夜の停車場に着く頃にそれは姿を現した

ーほぉーっ、すっかりその姿が馴染んだ様だな?ー

そう言われたサキナが

「余計なお世話っ!」

そう低く唸ると

ーもそっとらしく振る舞える様になったら可愛がってやらぬでもないわー

そう言って喉で笑う陰険爺いに

「私達はそう言ったサービスは受け付けないし少なくとも仲間に無理強いする事もしない

ましてやアンタみたいなエロ爺いにヴァニラとミントは渡さない」

その言葉を聞いて互いの身体を抱き締め身体を強ばらせ怯える二人に私は笑顔で

「殺られちゃったらゴメンだけど命有る限り二人を守るからね」

そう言うと

ーわしに異論はない故精々気を付けてやる事だ

わしには二人の命を断たねばならん理由はないでの…主等の命と共に娘達の命、預けようー

そう言われて考えながら

「わかった…つまりアンタの用は別件な訳なんだね?ヴァニラとミントを諦めても良い位のさ?」

私のその言葉に

ー主なら気付いていよう?わしの言いたいことは?ー

そう言われて私は薄く笑い

「多分ね…でも余り賢いとはお世辞にも言えない私はアンタが納得する答えを返す自信はない」

笑顔で私にそう言われて

ー既にアレと接触しておるのだろう?ならばもちっと真剣に考えよっ!ー

そう非難するのを聞いた姉さんの

「絃刃っ!アレとは何ですか?隠し事はしない約束したでしょ!」

そう怒られたから

「アレと接触したのはその変態が現れるホンの少し前で姉さんに何て説明したら良いのか悩んでたんだよ?無い知恵絞ってね…」

そう言って大袈裟に溜め息を吐いてみせたらヴァニラとミントの二人がクスリと笑ってくれたから

「可愛い笑顔だね…」

そう言って爺いを見て

「私は絃でアレに接触してみたけど何の反応も無い…私は趣味でないらしく全く反応がなかった」

そう言って肩を竦めて見せたら

「アレとは何なの、絃刃っ!」

又しても怒鳴られたから

「知らない…私に言えるのはかなり大きい障壁でその先が見通せないし私の絃では突き破れなかった…

まぁ、それに関しては然程珍しくはないけど付け入る隙も無いのは恐れ入った…」

おどけて言う私を睨む姉さんに

「辛気臭く言ったって事態は変わんないんだよ?姉さん…」

私にそう言われて渋い表情で言葉に詰まる姉さんに

ー姉であるお前さんはそう言って納得する事は出来んだろうが一理あるのだから妥協せよ

確かに大きな障壁だろう…町ひとつをすっぽり包む結界のようだからの…ー

そう言われて

「やっぱり…」

そう溜め息混じりに呟くと姉さんが

「なら何故そう言わないんですかっ!?」

そう言われて

「言えなくしたのは姉さんでしょ?私の直感を常々否定されてちゃもっと確証を掴むまで言えるわけ無いでしょ?

直感に理屈付けなんてバカみたいな事要求してきたのは姉さんなんだよ?」

私は堪らずにそう声をあげ

「まぁ良い…今この状況でそんな事言っても意味無いんでしょ?」

私は爺いを見ながらそう聞いたら

ーわしが他人事に口を挟むのもなんだがもそっと姉の意を汲んでやろうとは思わんのか?ー

爺いのその言葉に鼻で笑い

「アタシだってその努力はこれ迄してきたさ…でもその結果がいつも予感が有っても事前に話せなくなったんだ

特に牙を抜かれた状態のアタシには姉さんに反論なんか出来やしないんだからねっ!」

苛立ち紛れに私がそう叫ぶとやれやれ…と、言った表情で溜め息を吐くフィー

の顔がみえたけどアタシには関係無い

「で、結局何が言いたいのさ?爺いさんはさ

少なくともアタシが見える範囲の見透しじゃアタシには何の関わりもないんだけどね?」

鼻面にシワを寄せた私の問い掛けに

ー当たり前じゃ、この世界その物に影響を及ぼすモノなのじゃ…

直接的に関わりを持つ個人等どれ位居ると思うね?ー

そう言われたアタシは

「そんなモノアタシにはどうだって良い…私が気にすれば良いのは姉さん、ヴァニラとミント、フィーとサキナにサトナこの六人だけなんだからさ」

そう言って爺いさんをせせら笑ってやったら

ー主には目上の者を敬う気はないのか?ー

爺いにそう言われたから

「目上だからってだけで敬う気は更々ないね、敬う事の出来る人にはちゃんと態度で示すけどアンタを敬う理由は微塵もないんだけど?」

そう嫌味っぽく言ってやったら

ー全く親の顔が見たいわ…ー

とか抜かすから

「どうぞご自由に、姉さんすらおぼろげにしか覚えてないのに私が知るわけ無いんだからさ

まぁ良い取り敢えず馬車はその結界に向かってるんだから何かわかったら報せるで良いんでしょ?

それがアンタの役に立つか立たないか迄は知らないけどさ」

そう言って溜め息を吐いて見せると

ーよかろう、わしも取引出来る者とは取引して少しでも娘に危害が及ばぬ様働き掛けよう…では又のー

そう言って気配を消したんだ

「そろそろ次の停車場がある町が見えてくる頃だけどどうなってることやら…」

そう思っていたら再び大型の肉食爬虫類が現れて…

(あれ?何かと闘ってる?)

私がそう思っていたら

「変わった装備ですがアレはどうやら人間の男の様ですね?」

誰に聞くともなく呟くフィーに

「アイツ何やってるんだろうね?」

呆れてそう呟く私に

「さぁ、狩りの様にも見えますが…どうやら今の一撃が脳を貫いたようですね…」

そのまま様子を見ている馬車に気が付いたそいつが馬車に接近してきたので私達から肉を買い取った男が馬車を停めさせるとそいつも地にさざ降り立ち

「おっちゃん、ボクに何の用や?今メッチャ腹ペコで機嫌悪いんやけど?

あのど阿呆のせーで狩りの獲物逃げられもーたんやから又まんま食いそびれそーやねんからな…あー腹へった…」

そう言いながら上げられた面頬の下に隠されていたその素顔は予想以上に若く幼さを残した少年…

そう思っていたら嫌な顔をして睨まれたからふんっと鼻を鳴らしてやったら

そいつが何かを言う前に腹の虫が盛大な鳴き声を上げたから顔が真っ赤に染まりヴァニラとミントに笑われているのを見て

「あ、あんなーっー…こーゆー時は気ぃ付かん振りすんのがレデイーの嗜みっちゅうもんやで?」

そう情けなそうに言ったら益々二人に笑われている…バカなヤツ

そう思っていたら

「君はアレはどうするのかね?」

そう聞かれたそいつは

「どうするもなにもあないなモンどないせーちゅんよ?」

そう聞き返すから商人は目を光らせ

「アンタさえ良ければわしが買い取る(名一杯安く買い叩いてやると言った目で)がどうするよ?」

そう言われて

「別にかまへんで?」

そう言って姉さんを見て

「アンタ薬膳魔導師やろ?良かったらこれとなんか食いモン交換してくれへん?」

そう言って隠しから取り出したの小さな巾着袋一杯の餡豆で

「もろたはえーんやけど一個食うて見たら苦手なんよ…この味…

せやからはっきりゆーて要らんのやけど食いモン粗末にしたらアカンけど食う気なれへんしどないしたらえーんかわからへんのよ…」

そう言って姉さんに巾着袋ごと渡すと受け取った姉さんも

「取り敢えずこれを食べてなさい」

そう言って渡したのは温か草を練り込んだ堅焼きのパンで結構苦くて辛いにも拘らず平然と食べてるから

「それ、辛くないわけ?」

アタシがそう聞いたら視線を逸らして

「別に…ボク、辛いの好きやし魔女に食わされとったもん食うとったボクがゆーのもなんやけど人間の食いモンや思いた無いもんやったから…

まぁちょい苦いかな?思わんでもないけど久し振りの人間らしい食いモン食えて涙出てくる程嬉しいて敵わんわ…」

ってマジ涙出てるしヴァニラとミントも笑ってる…

 

 「はーっ…食うた食うた、ごっそさんやな」

 

 呆れた事に普通の人間なら一個で一日分に匹敵する堅焼きパンを四個も…

しかもあの残念な味は薬膳魔導師としても名の通った姉さんのファン達すらダンジョンの外で食いたいとは思わない…

そう言わしめるモノで慣れない者だと臭いを嗅いだだけで食欲を失うのに…

私がそう思っていると

「ほたらボク先急ぐさかいアレ、アンタらが処分しといてやっ♪」

そう言って私から逃げる様に立ち去ろうとするから

「フィー、捕まえてっ!」

そう言われて首根っこ押さえてくれたから

「アンタ、何企んでるの?私に対し何か疚しい事でも有るの?さっきから私を視界に入れない様にしてるけどさ?」

そう詰問されたそいつはあからさまに私から視線を逸らして

「やや、そないハズい事等言いとおないっ!昔苛められてた近所のお姉ちゃんに似とるなんてゆえるわけ無いやろ?」

そのそいつの無意識に発した独り言を聞いた姉さんが…

「トラウマになった訳ですね?」

そう聞いたら

「と、トラウマってなんやねんな?いきなし…な、な、な、何の事かわからへねけど?」

そう言って顔を真っ赤にして焦りまくってるし…

(それになんだろ?姉さんに話し掛けられて照れた表情浮かべてるの見てたらムカつくんですけど?)

そう思ってる私にフィーが私にも聞こえる様に

「君の装備は変わってますね?」

そう言われて気を取り直した奴が

「まあね…元々異世界から来たボクの世界の物をこの世界風にアレンジして魔法具ちゅーかマジックアーマーっちゅーかそんなとこやろ?

メインパーツのシールドに吸魔の槍に吸熱の槍に可変取り外し可能のウィングソード

ガンヘルム、鉤爪とハンドボウガン付手甲に鉤爪スパイクシューズ

これらを駆使して魔力と身体能力の劣るボクがなんとかかんと一人前のフリしとるんよ…」

そう苦笑いで答えるそいつに

「君の目的は何?」

フィーの質問に

「いや、そない大袈裟なモンはないで?魔女のパシりやらされとってこの塩の入った魔法のツボを食肉加工場に持って行くんがボクの用事やねんけど…

自分でゆーのもなんやけど迷子になってもーたみたいで…なんぼ探しても工場が見付かれへんのよ、どないしたらえーんやろ?」

溜め息を吐いて悄気るそいつはやっぱり私には視線を向ける気はないらしくその態度が私をムカつかせる

「まぁ、ここで愚痴っとったかてしゃーないからそろそろ探しに行くわ…ほな皆さんお達者で、ほなサイナラ」

そう言って飛び立とうとする遠くに見える土煙にそいつも気付き

「あ、アレてメッサヤバイんちゃう?」

そう言って初めて私を見ながら聞いてくるから

「飛んで逃げられるアンタには関係無い」そう言ってやったら

「はぁ~っ…そう言われてはいそーですかほなさいならって逃げられるんならとっくに逃げとるわっ!

ってまぁえぇわ…これ持っとったってや…」

そう言って姉さんに魔法のツボを渡すとヴァニラとミントの頭を撫でて

「そない顔せんで宜し…ボクが何とかしたるさかい…」

そう言ってフィーに

「二人を守ったり、大切なおひいさんなんやろ?ちゃんと守ったるんやで」

そう言ってそいつは

「行くでフライングアーマーっ!」

そう言って手甲鉤に手を突っ込み飛び上がると爬虫類の群れに向かい一旦上昇し霧揉み状態で急降下すると砂塵を巻き上げ再び急上昇

何処までかは知らないけどかなりの高層迄上昇したそいつが何をするのかわからない

ー大気に潜みし魔力を糧に熱を夢を、希望を奪え吸魔吸熱の槍よ?大空から自由と光を奪い全てを闇に閉ざ最終氷河っ!ー

霧揉み状態で急上昇して巻き上げた地表の熱い空気と砂塵を巻き上げる上昇気流を作りそれらから一気に熱を奪い上昇を終えた砂塵がゆっくり舞い降り始めた

砂塵はやがて雪を纏い荒野に雪が降り始めると静かに降り積もりやがて低温に弱い爬虫類達の足を止めやがて全ての爬虫類を覆い尽くした

「…」

その代わりに朝飯はごちゃごちゃ言わず食べさせなよ?

身体自体は未々思う様に動いて無いんだからさ、良いねっ!?」

今度は私の意見に頷くアタシと翔は二人に言い様に操られている事に気付けなかったんだ…

私達を下ろし荷物を渡すと

「琴羽姉さん迎えに行ってくるさかいおひいさんの事は姉さんに任せるで」

そう言って飛び去るのを見送ってから私達は木陰で休みながら皆を待つ事にした

姉さんを乗せ荷物かり連れて来たから食事の支度を初めてもらい商人、サキナ、サトナ、フィーの順に連れて来たからフライングアーマーを解除させて休ませる事にして座らせてたら

「翔ちゃん喉乾いて無い?」

「翔ちゃん汗拭いてあげるねっ♪」

そう言って甲斐甲斐しくお世話する二人の翔の扱いはほぼ同世代の男の子…と言うかヴァニラはどうも年下の男の子の扱いでお姉さん気取りに見えるから思い切り笑えたアタシは

「両手に花、モテモテだね?翔ちゃん」

そう皮肉って姉さんの手伝いをしにいきながら三人を気にするアタシはやっぱり素直じゃ無いんだろうね…

これからの善後策は姉さんとフィーに任せ昼寝する三人を見ながら魔力を高め再調査に備える事にした

その後目を覚ました翔に案内された私は町の在るはずの場所に飛んでもらいその間は姉さんにはヴァニラとミントを見守りを頼み

他の四人は廃屋の手入れで当面の拠点にする準備をしてもらう事にした

絃を展開して周囲を探る私に負担にならないようホバリングで空中停止する翔の息は大分荒くなってきてる

私とミントの何とか二、三日日分位の食事の分位は確保できたから皆の元に戻る事にして…

無理をさせた翔は食事中にうとうとし始めあっという間に眠りに落ちてすっかりなつかれたヴァニラとミントに挟まれ寝ている…

「絃刃…朝から翔と組んで再調査…頼めますか?」

そう言われて

「私は別に構わないけど翔が嫌がるんじゃないの?」

私がそう言うとフィーが面白そうに

「ベストカップルに任せりゃ私達も安心できるんですけどね?」

そう言われて

「私はアンナ馬鹿アタシは大嫌いだっ!」

そう答えると

「良いのかい?そんな事言っててヴァニラとミント…特にヴァニラは本気で翔に好意を寄せてるんだからね?」

そう言われたけど自分の気持ちがよくわからなくなってきてる私は

「物好きな…それに翔なら琴羽姉さんに気があるみたいだけど?」

そう言ってやったら

「そうかね?私の見る限りじゃ翔が琴羽を見る目めは大好きなお姉ちゃんなんだけどね?」

そう言われてさえ

「そうだとしてもアタシには何の関係もないことのはず?」

そう答えると溜め息を吐く姉さんとフィー

「仕方無い…そちらはともかく飛行能力を持つ翔と高感度の感知能力を持つ貴女の組み合わせが調査活動向きな事までは否定しませんね?」

そう言われればさすがに否定出来ないから渋々頷くと真剣な顔で姉さんが

「アレって一体何なのかな?」

そう呟くけどアタシにはその呟きには答えられそうもなかった…私もそれをずっとそれを考えていたのだから

それに忘れていたけど私の誕生日がいよいよ間近に迫って来ている終わりの時が近付いてきた…

翌日の調査中襲撃を受けた私と翔はその火蜥蜴の火の息を浴びかなりのダメージを負ったけどただではやられてない

火蜥蜴が吐く火の熱や魔力を吸った吸魔と吸熱の槍は巨大化し翔は…意識が朦朧としている

多分これ迄扱った事の無い魔力の量と熱量を扱ったせいだろうけどやっぱりバカだ…

アタシなんか庇わなくても良いのにさ…

翔の火傷も私を庇った結果なのにこのバカの説明は全部自分のせいだと言い張っている…

半死半生の大火傷を負ってるくせに私の火脹れ程度の火傷を姉さんに死んでお詫びする…そう言って聞かなかった

もっとも…そこ迄話せたこと自体が奇跡的な事で侘びを繰り返すうちに意識を失ってしまっていたのだから

私ですら感知出来なかった敵襲だから誰のせいでもないでもないのにさ…

わかってる翔の気遣いなの位は…ヴァニラとミントが不安にならないようにって考えての事なの位はね

気が付いたら私は長らく封印していたカード占いを始めていた…堪らなく嫌な予感がしたから…

そしてその予感は私を裏切らない…悪い予感は悪い占い結果同様に決して外れない… 

私の寿命が延び翔が間も無く死ぬ…全てを生け贄にし何一つ残さず私の前から消えてしまう…決定事項だった…不可避な近未来の…終わりが見えた

そして占い通りに翔だった物は私達の目の前でフライングアーマーごと塵ひとつ残さず燃え尽きた…

ヴァニラとミントの絶叫がいつまでも耳から離れなかった…



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人魚媛たち

新たに覚醒した人魚媛達、そして国事で盛り上がる歌の国は明るく華やいでいた


「なら近くの漁港で航海の安全祈願と大漁祈願の踊りを奉納したいです」

そう答えると

「その後漁港に隣接する市場でご飯とか買ってって楽しくお喋りしながら食べたいよね?」

「湖の側が良いとやっぱりお鍋は自分達で用意したいです…」

そう留美菜が言うと

「湖の側なら水遊びの後身体を温めるお茶を淹れたいですね」

そう雪華も言い

「疲れているでしょうに…」

そう言われて雪華が

「そうですね、全く疲れてないと言えば嘘になるけどだからこそ私達の元気の源のみこちゃんを思い浮かべる事が出来る場所に行きたいんです

私達の大好きなみこちゃんを思いながら過ごしたいんです」

そう言われて成る程と思い

「アーレス様、明日私は非番ですから私がご案内し私の部下に手伝いを頼みましょうか?」

シューにそう言われて

「わかった、巫女様達と相談し必要な物は言いなさい」

そう言って許可を出し明日早朝精霊の巫女様達による大漁祈願の踊りを奉納して頂く旨の通知をして夕食時を迎えたのだが…

不快感も露のメイド達を見ながら考え込み

「侯爵様、今の方達を化粧室に呼んでください、アーレスさんとシューさんも来てくださいね?」

そう言って案内されたメイド達にいきなり

「ここに座ってくださいっ!」

そう言って鏡の前に座らせメイド達が

(えっ?何この展開?)

そう戸惑っている内にメイクを済ませ

「ほう、成る程…全く印象が違う…お前達、確かそろそろアレク様に面談のお客様が訪れる筈ではないのか?」

そう言って仕事に戻らせ戸惑いながら化粧室をでる三人を見送りながらアーレスが

「さすがです、よい勉強になりましたが…面白いのはこれからでしょうね?」

そう笑って言うアーレスの言葉の意味がわからないのはシューも同じだった

そして侯爵が訪問者との会談を終え見送りも済ませてアーレス前に行き

「す、凄いですっ!いつもなら全く見向きもされない私達なのに中には私達見て頬を赤らめる方まで…」

そう興奮気味に話すメイド達に

「幼くてもあの方達はあの美月で鍛えられ観月様に命王女様の供を認められた方達なのだからね」

そう言われて

「はい、私達が愚かでした」

そう言って小姓頭のアーレスすら見た事の無い素直さに内心驚きながら

「期間は未定ながら暫くこちらに滞在する巫女様達はやはり幼い少女達で習った事以外は未々知らない事が多い

皆さんは南国の歌の国生まれなのだから雪深いこちらの事を色々教えて差し上げなさい

私は巫女様達の勉強を見させていただいているが知らない事を知らないと素直に言うしこちらに来るまでの間も初めて見る物を素直に驚いてた

辛炎ハムも命様の御付きの騎士の方が悪戯に食べさせ辛そうにしていたがお父さん達にお土産に持って帰ったら喜びそうだねっ♪と、言ってらしたのだからね」

そう言われて嬉しそうに

「はい、他の子達も私達を見て驚いてたし羨ましそうな視線を感じましたから…

私達の知ってる事で喜んで頂ける物が有るのなら…」

そう言ってはにかむメイド達に

「氷の精の巫女の留美菜様はその精霊様の霊力で調理場でお手伝いしていただき代わりに料理長から侯爵領風の料理を基礎から真剣に習われてますよ?

それはそれでお前達は明日休みだった筈だが予定はあるのか?」

その初めてされた質問に驚きながら

「いえ特に、予定はありませんが?」

そう正直に答えると

「そうか、明日巫女様達は早朝漁港にて航海の安全祈願と大漁祈願の踊りを奉納してくださりその後市場で買い物をして湖で水遊びの後に食事をなされるそうだから興味があるなら早起きしなさい」

その嬉しいお誘いに驚きながらも楽しい予感に旨膨らませる三人のメイド達だった

漁港の関係者もはっきり言って忍以外の巫女様達の幼さに失望し

(まぁお遊戯レベルじゃ期待しん方が良いようだな?)

そう思いながらみていると

(おいおい、誰だよお遊戯レベルなんだろう?何て言ったのはよ?)

そう言って驚き目を見開いて踊り終えた忍に

「貴女は我が国の王女になられたからわかりますが何故他の他国の巫女様達まで私達の為に?」

そう問い掛けられ

「一人は違いますが三人は漁師の父と尼海女の母を持つからでは理由になりませんか?」

そう答えると

「成る程、巫女様達には私達は父親と同じ職業の人間だからみたいな感じでな良いのだろうか?」

そう言われて

「人魚媛のりん様は首都で命様がお留守の間もう一人の人魚媛と踊っていたいたしもう一人の人魚媛は今も首都の漁港で踊っておられるが…

命様が白夜の国に訪れた際その途中賑わって無い豊作祈願の祭りを見て豊作祈願の踊りと地の精霊への奉納の踊りを舞いたいと申し入れ

歌の国では貴女が踊りを奉納して以来作物の生育状態が良くなったと言う噂を聞きますが私達もその恩恵を受けても良いのでしょうか?

そう命様にそう聞いたそうだ」

シューのその言葉に何も言わず先を促すと

「みこは伯母様と月光お兄さんが好きだしみこにそんな力が有るなら奉納の踊りを舞ったら喜んでくれるよね?と…

勿論あの方達もアレク様と奥様が好きだしお嬢様達とも仲が良いのだからそれ以上の理由が要るならそれが精霊の巫女の本来の役目ただそれだけだし…

命様に至っては覚えた踊りを見てもらいたいだけなのだそうだからね?」

そう言われて

「政治的な思惑はないと?」

その問い掛けには忍が

「人前でお気に入りの侍女や場所こそわきまえますが国王様の膝に座り料理を食べさせてもらう子ですよ?

まぁ喜んで食べさせてる国王様にも問題が有る気もしますが…

前衛基地や長期間の航海任務を終えた海軍の兵やその家族を労う宴なのだから微笑ましく思う者しかいません」

その様子を想像して

「確かに余りその様な事は考えては居られない様ですね…」

そう感慨深げに呟くと苦笑いを浮かべ

「いいえ、余りではなく理解出来ないあの子は全く考えてないと言っても構いません

ですから命様に説明する時には観月様すら難しい言葉は使わずざっくりと説明してますよ?

それに何より命様を始め周りにいる子達は基本的にお祭り騒ぎが大好きで楽しみたいのだから歌や踊りに意味はあっても歌い踊ること自体には意味も理由も有りません

強いて理由付けするならただ歌が好きだから歌い…踊りが好きだから踊るただそれだけです」

そう話している間に着替えを終えたりんと留美菜と二人を手伝ったなみと雪華が忍とシューの元に戻ってきたのでメイド達を呼ぶと私服姿の彼女達が現れ各々に

「リリー」

「ロゼ」

「ともえ」

と名乗り奉納の踊りを見て魅了された三人は巫女様達のファンなり年下の巫女達に様を付けるのに何の抵抗もなくたった

だがそれは今日付き合わされた非番の騎士達も同じで最初は

(精霊の巫女だかなんだか知らんが何で折角の休みに何で子守りをせにゃならんのだっ!)

そう思って不機嫌だったのが奉納の踊りを見てその態度は恭しいモノへと変わりシューに満足させ買い物に付き合うことに

買い物をしながら

「あ…この魚って大樹君達が釣ってきた魚に似てるね?」

そう留美菜が言うと

「うん、北の町で大樹君と海斗君が准騎士になったお祝いした時だよね?私達がアライにしたもんねっ♪」

そう話していると

「大樹様は釣りが好きなのですか?」

そうシューに聞かれたので

「好きと言うか私達は知らなかったけど海軍の兵隊さんやお父さん達は知ってたみたいだったよね?名人って」

留美菜がそう答えると

「あー、たけ君も大樹君の事師匠って言ってたね…鬼百合さんと張り合える位上手なたけ君が…」

等と話ながら魚を見ていると

これ初めて見るけど余り可愛くないよね、どうやって食べるのかな?」

そう話しているの聞いて

「その魚を使った惣菜も有りますから見に行きませんか?」

シューに背中を押されメイドの一人がそう声を掛けると忍が

「そうですね、軽く何かお腹に入れておくのも悪くないですね?お昼まで大分時間有りますからね」

そう言って惣菜コーナーに案内すると色々な惣菜が並んでいて勿論虫料理も色々有り

「す、凄いですね?シューさん…翔ちゃんがこちらに来たら絶対に連れてこなきゃですね?大喜び間違いなしっ♪」

そう話していると店主が

「その翔ちゃんっていうのはもしかしてあれかな…歌の国の六花と謳われる中で唯一王女でない少女の事かい?」

そう聞いてきたから

「はい、その翔ちゃんが侯爵様の公邸でお世話になってた時に侯爵様がお召し上がりなっているイナゴを欲しがり喜んで食べるのを聞いた料理長さんが色々お出ししてくださり…

その翌日から公邸周辺の畑で虫取してて今もお友達の家でお世話になりながら命様の一時帰国からお戻りになるまで虫取をして過ごしてます」

そう話すと

「女の子なだろう、虫は平気なのかい?」

そう聞くと

「本人の言葉で言えばイナゴ欲しいけどどん臭いボクがイナゴ捕まえられる訳無いやろ?

そう言って芋虫を指先で弾いて袋に入れてるそうで苦手なのは蜘蛛らしいです

その…お調子者ですから何度もお化け蜘蛛の巣に絡まってっは大騒ぎしてますからキモい、キモいっ!って…」

そう言って苦笑いするりんをみながら

「ははっ、是非とも連れてきてくれると嬉しいな

今の時代虫料理を食べる女の子は少ないからね」

そんな事話ながらサンドイッチや煮物等を買い求め鍋の具材を買い騎士達の為の酒(勿論爆酒)も一壺買い騎士達を驚かせた

勿論支払いは財布を預かるミサが支払いお金を出そうとするシューには

「私達の我儘で来てますからそこまでは甘えられませんっ!」

そう言ってきっぱりと断った為帰城後侯爵に相談すると

「総額がわかっているのならその額を妻に預け巫女様達の有事の際に使えるように貯めておけば良い」

そう言われて胸を撫で下ろした

 

湖の畔で軽い朝食を取り一休みしていると雪華がりんに

「りんちゃんはそろそろ湖に行きなさい」

そう言われて納得出来る筈もなく

「何で私一人だけなんですか?」

そう雪華に聞くと留美菜も

「気付いてないの?私達って結構注目集めてるんだよ?」

そう言われて周りを見ると確かにあちらこちらから自分達の方をチラチラ見ている人達が居た

「あの人達が何を求めてるかわかる?あの人達の視線に見覚え無い?」

そう留美菜に聞かれて暫く考えて

「あっ、岬で…」

そう声に出すと

「そう、あの人達は誰が人魚媛なのか知らないから私達を見てるけど人魚媛に会いたい…

それが無理なら一目だけでも人魚媛の姿をみたいって思ってるんだよ、かつて命様がそう望まれたようにね」

「噂の人魚媛の一人が自分達の近くに来たのだからそう期待するのは当然ですね?」

朝の公務を終えた侯爵夫人がそうメイド達に問い掛けると

「はい、私達もそう思いますから…」

そう言ってメイド達からの熱い視線を受けるりんに

「人魚姫の噂が広まる前に命様の元に行った貴女にはわからないでしょうけど私達も本当に羨ましかったのよ?貴女が

命様の訪れには未だ時間がある今あの人達の期待に応えられるのはりん、貴女しか居ないのですからね?」

そう言われてりんが頷くと

「申し訳有りませんが忍様と貴女…ともえさんはりんちゃんを見守ってください

騎士の皆さんは火の支度が出来たらのんびり飲みながらお過ごし下さい

留美菜ちゃんとなみちゃんは鍋の下拵えを一緒に始めましょう

勿論リリーさんとロゼさんは色々教えてくださりますよね?」

そう雪華に言われて頬を染め

「はい、勿論ですとも…」

そう答え夕べの事を知らない夫人を驚かせた

馬車の中で服を脱ぎタオルを身体に巻いて湖に行き人魚媛の姿になると人達に手招きすると喜び勇んで集まった

待望の人魚媛との出会いを喜ぶ少年と少女達

下拵えを終えて手酌で飲んで居た騎士達に酌を始めた留美菜が騎士達に

「私達は命様にだけはこの様な事はさせませんが何故だかわかりますか?」

その突然の謎掛に首を捻りながら

「我々が平騎士だからでは当たり前すぎて謎掛にならんな?」

一人がそう言えばもう一人も

「わざわざ命にはと言う所に意味が有りそうだが…わからん、何故ですか?理由をお教え下さい」

と言われ笑いながら

「それは命様が半端なく不器用だからです…悲しい位にですがご本人は仕方無いよね?

笑いながら平気でそう言って王妃様や観月様の頭痛の種です…」

そう言って溜め息を吐くと

「稀代の踊り手で竪琴の名手と聞きますが?」

留美菜の言葉に驚いてそう聞くと

「私達は漁師の娘達…その中でも特に私は網元の娘だからもっと小さい頃から当たり前にお父さんの下で働く漁師の皆さんに労いのお酒を注いでましたから慣れてますけど…

そういう経験無い命様が出来なくても仕方無いですし好きな踊りや竪琴のお稽古はとことんのめり込んでしますけど普通はお酌の練習なんかしませんよね?

可愛い命様がお酒を溢されても怒る人は少ないでしょうけど見ている私達が申し訳ないですからね」

そう留美菜が言うと

「命様の事を溺愛する国王様でも命様には酌を頼みませんからね、さすがに…」

なみも言い

「多分お身体の小さな媛歌様にも頼まないとも思いますけどお酒の苦手な忍様はお酒を勧めらるのが嫌で嫌でお酒の席から逃げてますしね

後のお三方は私のお父さんの下で働く漁師達にもお酌してくださりますから一国にお仕えする騎士様にお酌出来ない訳はありませんよ?」

そう言って笑うと不思議そうに

「我儘な方だと噂に聞きますが?」

今度の質問にも笑いながら

「確かに我儘ですよ?未だ王女様になる前の命様は人魚姫様や命様と呼ばれるのが嫌いで国王様すら初対面の時に

みこお魚さんになってりんちゃん助けたけどお姫様じゃないんだよ?

そう言って国王様を苦笑いさせたそうです」

苦笑いの留美菜に

「重臣の方々や警護の騎士もさぞかし驚いたのでは?」

そう聞き返すと

「いえ命様の舌っ足らずな喋り方と容姿があいまって皆様笑いをこらえるのが大変だったようだと聞いてます

命様の方はこんな話を聞きました

ある方が次に命様って呼んだら返事しないよ、そう言われ冗談だと思ってたら…

その方のお知り合いの方が命様とお呼びすると聞こえない振りして無視されてるのを見て苦笑いしてみこちゃんとお呼びしないとお返事して下さらない様です

そう言われてみこちゃんと呼んだらやっと話に応じてもらえたそうです」

「私達も命様が王女様になるまではみこちゃんと呼ばせていただきましたから今でも今みたいな公式の場以外のプライベートな話の場合親愛の情からみこちゃんと言ってます」

懐かしそうにそう語る留美菜に

「不思議な…だが可愛らしいお姫様なんですね?」

そう言われて

「はい、私達の可愛いみこちゃんです」

そう言われて

(早くお会いしたいものなだな…)

そう思う騎士達だった

その日の夕方の事夕食に未だ時間があるのでヘアメイクやメイキャップに興味を持つ小性達と昨日とは違うメイド達を呼んで貰い

その三人のメイドをモデルにメイクの実演講習が行われて夕食の配膳を行うメイド達の表情の変化に驚きながらも

(メイド達は変わるかもしれんな…巫女様達のお陰で)

そう思いながら見守るアーレスはメイド達の心境の変化が本物であることを祈るばかりであった

 

同行した二人の騎士は残った爆酒を部屋に持ち帰り気の合う仲間達と今日有った話を肴に飲んで居た

聞いている男達は話し半分に聞きながらも爆酒一壺等自分達の給金で買える物でもないのだけは紛れもない事実

(まぁどうせすぐにはっきりするだろ?)

そう思いながら爆酒を味わっていたが確かにすぐにわかる事だった

食事の後侯爵の元に訪れた来客が有り一組目は近在に住む少年と少女達の親達の代表者で

「人魚媛のりん様にお仕えしたいと子供達が言っているのですがお聞き届け出願えないでしょうか?」

と言われると

「巫女様達は歌の国の王女宮の責任者である観月様よりお預かりしているだけにすぎず

現状は彼女達の主人の水の精霊の巫女様の訪れを待ってもらう他はないが…

その時には私からもお願いするから気を落とさず待ちなさい」

そう言って帰らせ二組目の来客は漁協の責任者達で

「今日巫女様が大漁祈願の踊りを舞った後に漁をした船の漁獲が上向き始め今日出漁した船は皆最悪でも酒代位は上がっており何年か振りに大漁旗を拝ませて頂きましたよ…しかも五隻の船がですよ?

ですから明日も巫女様大漁祈願の踊りを奉納していただければ…

と、言うこえが集まりお願い上がった次第です」

そう言われて巫女達の年齢の幼さから渋る侯爵をりんが嗜めた

「私達の踊りで大漁になったかはわかりませんけどもしその可能性があるのなら私達はその期待に応えなくちゃいけないと思うんです

命様が最初に公式の場で踊りを舞ったのは大好きな海軍や海兵隊の皆さんの航海の無事を祈りたいから

その次は私達のお父さんやお母さん達の大漁を願って踊ってくれましたから命様と共に有りたい私達は命様の行いに倣いたいんです

明日は航海の安全祈願と大漁の感謝の気持ちを捧げる踊りと大漁祈願を踊ったらお城に帰ってきますからどうか精霊の巫女としてのお勤めを果たさせてくださいっ!」

そう言ってりんが頭を下げると他の巫女達も頭を下げるのを見て漁協の責任者と三人のメイド達も感激するのを見て

「貴方の負けです…いいえ、貴方こそ率先して巫女様達にお願いすべきはずでは?」

そう言われて溜め息を吐いて

「アーレス、明日巫女様達の護衛の人選を任せる…」

そう言ってもらった漁協の責任者達は喜んで帰っていった

そして深夜に近い夜更けに訪れたりんの運命

「りん、こんな夜更けに一体どうしたのですか?明日の朝も早いのですから早く寝さない」

そう忍に言われて

「はい、それはわかっているのですが…すいません、誰かに呼ばれた様な気がしましたから…」

そう申し訳なさそうに言うりんに

「少なくともここに居る方は誰も…」

ー大海原の精の巫女のりん、貴女とこうして言葉を交わすのは初めてですね?ー侯爵の家の者達が見守る中そう言ってりんの前に現れたのは

「はい、地の精霊ガイア様…では私を呼んだの貴女様なのですか?」

そのりんの問い掛けに驚いた侯爵が忍を見ると忍も静かに頷くだけで

ー貴女をガイア様に呼んでいただいたのは私、大海原の女神です

私の願いはただひとつ、私と貴女と貴女を導く大海原の精と共にこの地の内なる海の守護者となり侯爵領と共に沿岸諸国を導き…

それが月影の国の安寧となりひいては歌の国の安寧へ続くのですー

そう言われても今一理解出来ないりんに微笑みながら

ー侯爵のアレクに問いますが歌の国から見た時この地は鬼門に当たりますが間違い有りませんね?ー

「その通りです、大海原の女神様」

そう侯爵が答えると

ー私が貴女を依り代とし貴女を守り導くのは水の精霊の巫女様の願いでも有ります…

私を受け入れ私の依り代となってくれますか?ー

そう言われて

「大切な祖国、大好きな侯爵家の皆様の為…何より大好きなみこちゃんとみこちゃんの力になりたい自分自身の為お導き下さい」

そう言って左手を掲げるとその手を取り

ー貴方達の前でりんに受け入れを求めたのはりんがその務めを果たすための助力を頼むため、お願いして良いですか?ー

その女神の言葉に

「勿論お任せください…女神様よ巫女様達は私達夫婦に取り娘の様に可愛い存在なのだからその娘の使命を果たすために助力は当然かと…」

そう侯爵が答えると

ー尚、今の貴方の懸案ですが私の公表は美月の使者…霊獣の騎士鬼百合の案内で来るだろユウの到着を待ち公表し侯爵家の仕来たりに触れぬ方法を提示するでしょうからそれを待ちなさいー

そう言ってりんと契約を交わしりんの中に入っていくと

「りんが女神の依り代に…」

そう留美菜が呟くと

「そう言う訳なんだりんが見当たらないから気になって探したらこんな事になってたんだ?」

そう言って

「女神の依り代りん様…どうか私達をお導き下さい」

そう二人に言われ寂しそうな表情のりんとその様子を見ながら難しい表情で考え込む忍と雪華…そして侯爵が

「大海原の女神の依り代のりん様…我等が女神よ、私は貴方に誓いを捧げ貴方の導きに従おうっ!」

そう言って誓いを捧げると居合わせた小性達も誓いを捧げるとそれらを受け取り侯爵に

「私は女神様の器の依り代で女神様とは違いますよ?」

そう告げると侯爵は

「我等人の子に取りその両者にどれ程の違いが有りましょうか?」

興奮気味に話す侯爵に苦笑いを浮かべ夫人が

忍と雪華と頷き合い

「留美菜、なみ、依り代様をよろしく頼みますよ」

そう言って三人に退出を促し雪華と頷き合い三人の後をついていかせ見守らせた

侯爵家の運命は本格的に動き始めた

 

翌朝約束通りにふたつの踊りを奉納して帰っていったが踊りを見た漁師達は今日も、今日こそは大漁だっ!

そんな期待を胸に勇んで出漁していきその日の大漁旗は十棹上げられ漁港は更に活気付いたの言う迄もない

その夜遅くに鬼百合と共に訪れたユウは侯爵に

「明日の朝の大漁祈願のと大漁の感謝の気持ちを捧げる踊りを奉納を舞った後に女神様の降臨とりん様が依り代となられた事を公表し…

りん様の騎士志望の少年は侯爵様の預かりで侍女志望の少女は美月の臨時出張所の見習いと言う形で受け入れるのはどうでしょうか?」

そう言われてその案を受け入れる事にし鬼百合は明日の漁の手伝いに行きたいのでトンボ帰りで歌の国目指した

 

 

 



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婚約の契り

水の精霊の舞姫と媛歌から感じる違和感に気付くものは少なかった…


邂逅

 

 

①姉妹

 

今夜のパーティーは色々な意味で注目を集めていた

元から十六夜とユイの婚約披露宴に集まった他国の大使達の関心は豊穣の女神の依り代

そしてその女神を揺り起こしたのが水の精霊の巫女である命王女だと言う事実

本来豊穣の女神や大海原の女神の様に直接人間界に影響を及ぼす神々は女神達と呼ばれ豊穣の女神の場合だと農耕民族の集落ごとに依り代と呼ばれる乙女が居るとされ

その数だけ女神が居たと言われていたから真偽のほどはともかく少なくとも未々眠りに就いている女神が居るはず…

その期待感がこれまで疎遠になりがちだった歌の国への訪問国を増やしていたのたが命の予定外の帰国

月影の国の侯爵令嬢であるウルズが王妃の側に控え次女のヴェルサンディーは大公家の客分騎士と寄り添い出席し末娘は命王女の側に控えて居るのを見て色々想像を掻き立てられていた

 

久し振りに会った命の違和感に気付いた真琴に翼とチサの三人だけど何も言わずに様子を見る事にした

その三人の様子に気付いた鬼百合が

「やっぱお前らも感じるか…みこと媛の違和感…」

そう言われて

「お前らも…って?」

真琴がそう聞き返すと

「翔だ…訳有って真琴、お前の霊玉も受け入れたアイツは限り無く霊獣に近く精霊に近い存在だ…

その感性が他の誰一人気付かない二人の違和感を感じ二人を避けていた様だ

違和感に気付かない瑞穂が翔がみこ達避けているみたいだとぼやいてたがな…」

(久し振りに聞くみこの歌声はやはり微妙に違いお母様や三人の女神の依り代達も何か引っ掛かっているみたいだと…

いや、逆に言えばそれ以外の人間には気付けなかったんだ…その違和感に

一体二人に何が有ったって言うのさ?)

命を見ながら一人考える真琴に

「真琴…どうします?二人の事…」

そう聞いてくる翼と不安げな視線を向けるチサに

「退場の直ぐ後ボクの部屋に呼び出し問い質す」

そう言って美月主催のパーティーであるにも関わらずドレスでの出席の真琴は当然退場時間も同じなだから…

 

真琴に呼び出された二人には何故呼ばれたのか見当がついていたけど敢えて何も言わず真琴達の言葉を待つことにした

「お前達は何者だっ、何が目的なんだ?僕達のみこと媛を返せ」

そう問われた命が薄く笑い

「私達が何者だろうと貴女達には関係無いが間も無く二人が帰ってくるのだから少し位なら構わないだろうから私達が気に食わなければさっさと消しなさい」

そう命?に挑発するように言われた真琴がまんまとその挑発に乗りそうなのを嗜める様に

「焦らないで、真琴…その人の言葉に惑わされてはダメ、未だ何ひとつ信じる根拠が無いのですからね…」

そう言われて大きく息を吐き

「確かにね…」

そう答えた真琴に代わり

「貴女達が何者であれ二人が何処に居るのか答えなさい」

そう問われた命?は

「正確な事は私達が知るよしも無いけど間も無く私達役目…

魂が留守の二人の肉体の留守番と言う役目も終わり安息が待っている私達の事は気にしなくても良い…」

そう命が答えると

「嘘ばっかし言ってる…未だこの世界に未練残ってる癖に…

でも私はもう痛いの怖いのもヤだからまこちゃん…貴女がそうしてくれるなら私の最後の望みを叶えて…私を一思いに消して

勿論この身体を媛歌に返してからだけどね…」

そう言われて唖然とする真琴達と

「バカっ、みこっ!そんなこと言ったらバレちゃうでしょ?」

そう言ってしまったっ!と、言う表情を浮かべ三人を見て諦めた命?は翼とチサに向かい

「先程から言ってる通りに貴女達も感じてるはず?二人の魂がこちらに向かっているのを…

二人の魂がこの身体に戻るまで貴女達に預けると共に私達の懺悔と共に私達の知る限りの事を語りましょう」

命?が言うと二人の身体身体吹き出した煙が人の姿になり

ー私はかつて歌姫と呼ばれていた者ー

ー私は舞姫って呼ばれてた…その呼ばれ方は嫌いだったけど…ー

ー私は水の精霊の巫女と呼ばれ二人の姫様達を守りたいと願っていた者です…

色々疑問に思う事も有るでしょうから信じろとは言えた義理ではありませんから申しませんが話をする機会を下さいー

そう断りをいれた上で

ー私達は見ての通りに肉体を失いし亡者ですが先程指摘された通りに未練がましい私の思いがこの世界に引き寄せられました

ですから悪いのは私、他の二人は許してやってくださいー

そう詫びると

ー違うっ!人魚姫と貴女の人生を狂わせたのは私、二人じゃない…

私が諸悪の根源、私があの時死んでれば悪い事何か起こらなかった…

私を慕ってくれて人達だって私を庇い苦しんで…

自分達が死ぬ寸前なのに舞姫様がご無事で良かった…そう言って弱々しく笑いながら息を引き取ったその死に顔が忘れら無いし忘れちゃいけないって思う

あの時死んでれば里の者達に憎まれ疎まれながら生きなくても良かったし貴女た達の人生を狂わせる事もなかった?ー

そう言われても話の見えない真琴が

「とにかく事情を話してよ?でなきゃボクも判断の下しようがない」

そう言われて

ーわかりました順を追ってお話ししましょうー

そう歌姫と名乗った者に言われて二人から感じた違和感の正体に翼とチサが気が付いた

(みこちゃんから感じるのは真琴に近く媛から感じるのはみこちゃんの気配…)

と言う事実に

ー私達は貴女達精霊の巫女達が気付いている通りにこの世界の者ではありません

私達の世界は闇の者侵攻により既に滅んしまったのだから…ー

命の身体から抜け出た霊体の言葉を受け精霊の巫女を名乗った者が

ー私達が生きていた世界は魔王と呼ばれし男とその配下達により四大精霊の全てが封じられ

私達がそれに気付いた時には全てが手遅れでしたがそれでも依り代の二人は諦めること無く魔を祓い人々を光に導かんと日々舞い歌い続けましたー

霊体が溜め息を吐くと

「君、水の精霊巫女って名乗ったのに四大精霊が封じ込められた後っておかしくない?」

真琴に問われた精霊の巫女の霊体は

ー深い理由は有りません…

封印される寸前のアクエリアス様に霊力の譲渡を受けた大海原の精様…

新しい水の精霊に昇華の時を待つ方に導きを受けていましたからー

そう言われて

「…」

黙り込み続きを促すと

ー当然の事ながら魔王やその配下の闇の者達がいつまでも放っておくわけも無く私達の支援者も一人また一人闇の者の手に掛かって逝きましたー

その言葉に更に続けて

ーそんなある日の事魔王はとんでもない事を私達に言ってきました

他の奴には興味ないから見逃してやる代わりに舞姫を差し出せっ!と…

ですがそんな事信用できますか?いえ、貴女だって人魚姫を犠牲にしてまで助かりたいとは思わないはず?

だから私は反対したのに…ー

媛歌の身体から抜け出た霊体を睨むと

ーそれでも私達を慕う者を守り導く義務があるはず?

私一人の犠牲で愛する者達を守れるのなら躊躇う理由はありません力無く守られてるのだけだった私に出来る最後のご恩返しなのだから…

ーそれでは本末転倒です私達は貴女達を守りたくて貴女達の元に集った者達なのにっ!ー

そう叫ぶ大海原の精=水の精霊の巫女に

向かい

ー皆は充分守ってくれたしあれ以上傷付き倒れていく貴女達を見たくなかった

それに私にも狙いがありましたから…

魔王の完全な封印は無理でも私達の陣営に取り込み魔王の完全な復活を妨げる試みが…ー

そう言って大きく息を吐き出し

ー目論見は巧くいき確かに奴に呪いを掛け過去の私に封印しました

愚かな私はそれが闇の計略とも知らずに闇の御子を世に生みだし闇の精霊の復活を目論む…

闇の道化師の目論見だとも知らず踊らされた愚か者でした

これで私が何者かわかったでしょ?

人魚姫のまこちゃん…

貴女達三人の運命を狂わせ媛歌に苦難の運命を背負わせたのは愚かなみこのせい…

それで私の罪が消えるとは思いませんがそれで少しでも気が晴れるなら私ごと神玉を壊しなさいー

「その人は又一人で全てを背負おうとしているよ、二人のまこちゃん…

その人の狙いは神玉を壊す霊力を利用して闇の精霊の道連れ…封印の鍵になること」

その目覚めた命の言葉を聞いた異世界の真琴が自分の命に

ー貴女は又私を置いて独りで逝ってしまうつもりだったの!?ー

その悲痛な叫びを聞いて

ーみなさい貴女が余計なことチクってくれるからややこしい事になっちゃったでしょ?ー

そう言われて

「すぐにバレるようなことしようとするからだよっ!」

そう言い返すと

ー貴女だって自分一人我慢すればって思ったらなんだってするでしょ?貴女も私なんだからっ!ー

そう叫ぶと

「みこべつに我慢とかしてないもんっ!」そう言い返すと背後からの禍々しい気配に恐る恐る振り返ると

ーみこっ!ー

「みこっ!」

二人の真琴が怒鳴り歌姫の真琴が舞姫の命の目の前で手を叩き驚いた命が神玉に戻るとそれを拾い上げ

ー私達は万が一の為に備え各々の神が私達の魂の一部を切り取り神玉に封じ込めた者

ですから神玉の神力も尽きかけ霊力と言うのもおこがましい霊力しか持たない私達はもう限界ですが…

貴女達が私達の罪を許してくれ受け入れてほしい

霊力こそ有りませんが今の貴女達より長く生き女神の依り代の舞姫、歌姫として生きてきましたし舞姫ならば人魚姫に火の精霊への奉納の舞いや風の精霊への奉納の舞を教え人魚姫を舞いの女神の依り代へと導けるはず…

ですが…そちらの三人の巫女様の誰か一人でも私達の罪を許せないと仰るなら

せめてお聞き届け頂きたい最後の希望…せめて最後位はみこと一緒に…何度もみこにおいてけぼりされた私の最後の願いをお聞き届けて下さいませ…ー

その歌姫の真琴に

「まさか今度は貴女が封印の鍵になろうって言うんだ?⁉んじゃないだろうね?」

そう言われて苦笑いを浮かべ

ー私にその様な力はありませんから望んでも仕方ない事…確かにそれが叶ならばそうしますが…

それが出来ない私はもうみこと離れ離れはいやなんです…ですから最後は共に生まれたみこと共にー

そうすがる歌姫の真琴に

「チサも良いね?」

そう聞くと頷いたので

「貴女のみこちゃんもなんだね?真琴や私達がどれ程心配してるか全く理解してくれないのは?

血の繋がらない私達が貴女や真琴と同じようにとは言えませんが血の繋がらない家族、妹のみこちゃんを心配する私達には

『あー、貴女もなんだな…全くみこちゃんときたら』

と、そう感じられるのだから…

真琴…みこちゃん、勿論二人を受け入れてあげますね?」

そう言われて真琴は

「勿論喜んで受け入れるさっ♪ボクと歌姫はかなり違うけど変わらない大切な想いがある…ボク達にとり譲れないモノがあるっ!

それはみこが好きっ!」

ーみこが好きっ!…ですがたぶん貴女がそう言う貴女になったのはみこを守りたいっ!

その思いが今の貴女に影響を及ぼしたのかもしれません…その事も…ー

「謝らなくて良い、確かに歌姫が言う通りかもしれないけどみこを守りたい…

その気持ちがぶれなかったからみこを責めたりしなくて済んだんだからね、まぁ色々注意はしたけどさっ♪」

そう笑って言われたので

ー媛歌様は良いのですか?貴女こそ最大の被害者かもしれないのですけど?ー

そう言われて

ー悪い事ばかりじゃない、貴女達の干渉のお陰で私達はミナや翼、チサと出会えた

この三人に限らず貴女達の知らないみこの従者は沢山居るはず?

それを無視して貴女達の事を責めたらその人達の存在も否定することになる…

そうじゃない?真琴

少なくとも私はミナやお姉ちゃんと出会えた事を感謝してるし最初のうちは嫌いだった大樹だって今は許せてる

みこ以上にお馬鹿な翔は生意気だけど可愛い妹…だよね?ー

そう言って真琴達四人に改めて問い掛けると頷く四人を見ながら

「何故かついつい意地悪したくなる妹…私にとっての翔はそんな存在ですが私自身そんな感情を持ち合わせていた事に驚いてますけど…」

そう言って苦笑いを浮かべる翼に出会った時から妹みたいに可愛がっていたチサは笑顔を浮かべ頷くのを見て

ー有り難うございます、精霊の巫女様達…皆様が私達の姫達を受け入れてくれましたから私は思い残すこと無く最後の戦いに赴けます…

お父さんやお母さん、優しく時に厳しく導いてくれた王家の皆様…共に戦った仲間や友達が眠る私達の故郷に帰ります…ー

「そんなの私達が認めると思ってるの?歌姫や舞姫の気持ちは考えたげないの?

貴女迄居なくなったらホントに二人ボッチになっちゃうんだよ…

どんだけ私達が受け入れたってヤッパし異邦人なんだ、三人は…

三人でも寂しいのにその内の一人が居なくなる…

その辛さを知ってる癖に又その辛さを二人に味合わせたいの?りんっ!?」

そう問い詰められたりんは

ー何故私とわかったんですか?ー

そう聞かれた命は

「不思議な運命の糸で結ばれたりんちゃんをみこが見分けられないとでも思ったの?」

そう言われて

ーそう、ですね…私達は全く正反対の出会いをしましたけどこちらの私と同じく危なっかしい舞姫=みこちゃんは目が離せない人…ー

その異世界のりんの呟きに

「そうですね、だから私は春蘭さんにみこちゃんの事をお願いしました…

私には私の果すお務めがありますから託せる人にみこちゃんを見守って欲しかったから…」

そう懐かしく語るチサに

ー春蘭ってみこの口煩い家庭教師みたいなもんだったもんね、大好きだけど…苦手とゆーか頭の上がらない人?みたいな感じだよね?ー

そう媛歌に言われて

「よ、余計なお世話だよっ!」

そう言って咳払いをして

「まぁそれは媛と一緒にどっか遠い所に置いといて貴女は自分自身の変化に気付いてないの?」

そう命に聞かれて

ー私の変化?ー

そう言って首を傾げる異世界のりんに

「かつて貴女を導いていた大海原の精と融合する事により時空を越えた貴女はこちらの世界の大海原の精を招き寄せ取り込んだ貴女達は大海原の女神と昇華し既にこの世界の住人となりました

ですから貴女はこの世界の新たな使命を果たしなさい」

突然すぎるその言葉に

ー世界どころか二人の姫様達さえお守り出来なかった私に出来ることなんか…ー

そう言って涙ぐむ異世界のりんに

「その痛み、辛さを私達のりんにも味合わせたいの?後悔させたいの?そんな事無いよね?

弱く幼かった貴女は大海原の精と融合して時空を越える力を手にしこちらの世界の同じ大海原の精をも取り込み女神となり…

私達のりんちゃんを守り導きなさい再び後悔しないため、もう一人の自分に後悔させないため…

そして守りなさい、依り代の愛する者達を…異世界の貴女だって受け止めてくれる人達だよね?だって…りんちゃんのお父さんとおかあさんでしょ?」

そう言ってりんの霊体を優しく抱き締めると命に抱き着いてこれ迄ずっと堪えてきた泣きたい気持ちが決壊し大粒の涙を流して泣きじゃくった…

 

「落ち着いた?」

そう聞かれた霊体のりんが恥ずかしそうに

「はい、落ち着きました…早速この世界の私に会いに行きます…」

そう告げる大海原の女神に

「アクエリアス様の結界内に入り地の精霊を呼び出し貴女の案内を任せます」

そう言うと

ーお騒がせしました…ご縁が有りましたら又お目に掛かる事をお許し下さい…

宜しくお願いします、人魚姫様…ー

そう言って大海原の女神は真琴達の前から姿を消した

 

 

 

 

②人魚媛達

 

今まで張られていたチサの結界が解かれたと同時に入ってきた王妃に抱き締められて

「やっと私達のみこが帰って来たのですね?」

涙を滲ませ問い掛ける王妃に

「みこ、ママに心配ばかり掛けさせてる悪い子だね?」

そう言って悄気かえる命に

「今夜も私の部屋で寝なさい、媛はどうしますか?今夜もみこと一緒に私の部屋で寝ますか?」

そう尋ねられ首を横に降り

ー今夜はお兄ちゃんと一緒、明日はお姉ちゃんで明後日はチサちゃんと一緒に寝たい…良い、媛とねてくれる?ー

そう聞かれた三人は

「勿論歓迎します、血は繋がらなくても貴女も翔も可愛い妹ですからね」

そう翼が言うとチサも

「いつか六人でパジャマパーティーしましょうね…う~ん無理かな?翔ちゃん相変わらず夜弱いんでしょ?」

そう聞かれた媛は

ー弱い、日が沈むと欠伸ばかりしてるし夜目も効かないから日が暮れると部屋から殆ど出ない…

と、言うか一人で出歩けないから食事は誰か迎えに行かないとだめだよ…ー

その話を聞いて…

「魔力はどうなってるの?大分回復してるんでしょ?」

そう真琴が聞いてみると

ー相変わらず安定しない…特に日が暮れると低下が著しい

今の翔はさっきも言ったけど夜目が利かないんだけどそれは魔力の低下も意味してるから夜使える術はグリエ、ケベック、スチーマーのみっつに限定されてるー

その名前を聞いた王妃が

「まるで調理器具の様な名前ですね?」

と、聞くと

「まるでじゃなくて翔はそれでお料理のお手伝いをするんだよ…」

「みこ以上に不器用な翔がどんなお手伝いするのさ?」

そう吹き出して笑う真琴に

「真琴、想像力低っ…お母様が調理器具の様な名前って言いましたよ?

そうでしょ?みこちゃん、媛」

そう翼に聞かれ

「グリエとケベックで煮たり焼いたりしてスチーマー蒸し焼きや蒸し物料理が出来るから月影の国の伯爵様や侯爵様達も物凄く可愛がっていたんだよ?」

そう言われて

「そうですね、それはヴェルサンディからも聞きましたけど何故翔を養子に欲しいって話が出ないのでしょうか?」

そう不思議そうに聞く王妃に

「まぁこう言った感じですからね…」

そう言っていつのまにか部屋に入ってきた観月があの絵を王妃に渡すと受け取った王妃は呆れた顔で

「鬼百合までが一体何をやってるんですか?全く…」

そう呟き真琴達にも見せると

「真琴も気を付けなさいね、貴女もあんまり他人事と言い切れないんだから」

翼に言われてチサにまで

「うん、巫女達ですら真琴ちゃんの笑顔でポーってしてるんだからね?」

と言うと観月に

「そうですね…真琴に男装させて喜んでる私達も大差有りませんからね…」

そう言って溜め息を吐きながら

「まぁ翔の場合侯爵夫人は私も直接お言葉を交わしてますが娘と言うよりやはり孫娘ですから外孫と思えば済む事を改めて事を荒立てずとも翔の訪問を要請すれば良いだけ

そうユウや鬼百合にたまには孫の顔を見たいから連れてきなさいと言う祖父母の様にね…」

そう観月が話すのを聞きながら

「翔の事に関することなんだけどね…闇の道化師ってヤな奴に目を付けられちゃったんだ

特殊な存在の翔はあの小さな身体で既に三種類の霊玉を受け入れてるんだ…

そんなあの子を闇の者達が放っておくわけ無いでしょ?

それとまこちゃんにはこの子達を預けるよ

まずみこの黒い勾玉にケベックの余熱を吸わせた熾火の勾玉、みこの霊玉にケベックの余熱を吸わせた蒸気の魔玉

 



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実演show

翔の得意術を舞台での初お披露目は大盛況で酔仙亭は今日満員御礼


 「かめへんで、ボクはお手伝いさしてくれさえしたら場所に拘り無いんやからねっ♪」

 

 そう笑顔で答える翔を連れジュースとデザートを運ぶ仲居に続いて座敷に入り

 

 「私の名はユキ、公女宮にて観月様にお仕えする者の一人ですが皆様にお願いがありお座敷に参りました」

 

 そう言って頭を下げるユキだけど公女宮と言うか観月に仕えているユキと言う名を聞いて美月のデザイナーとして知らぬ者は居ない

 

 少なくと聞いたことの無い者は居ない

 

 美月のデザイナー四天王の一人と呼ばれているのだから

 

 そのユキがいきなりランチのデザートとアフタードリンクを持った仲居に続いて自分達の座敷に現れて

 

 「ユキおばちゃん、ボクナニしたら…」

 

 おばちゃん呼ばわりされたユキがまさに暗黒闘気を吹き出すのを見て怯える翔に

 

 「大丈夫ですよ、お父ちゃんかきいてますからね…ユカおばちゃんって言わせてるみたいだって

 

 お母ちゃんが私達はママのお友達だからおばちゃんって呼べば良いですからねっ♪みたいな事を言われたんでしょ?

 

 なら悪いのはそんな事翔ちゃんに言わせたママですからね

 

 そんな事より翔ちゃんお得意の吸熱魔法でジェラートとシャーベットをこちらのお嬢様方にお出ししてほしいの、お願いできるかしら?」

 

 そう言われた翔は

 

 「なんや…そないな事やったんか、任さしといてっ♪」

 

 そう陽気に言ってジュースをジェラートに変えて木の実、草の実をシャーベットにして味を見てもらうと

 

 「スゴい食感…幸せぇ~っ♪」

 

 「うん、スゴい贅沢だよね?」

 

 「味がいつもより濃厚だよねぇ~っ♪」

 

 と、好評なようで三人の誉め言葉を聞きながらエヘヘと照れ笑いしている翔に

 

 「下拵えの時間が未だ掛かりますからその間に別のお手伝いをしましょうねっ♪」

 

 そう言って頭を撫でながら

 

 「じゃあこの後もお手伝い頑張ってね」

 

 そう言われて恥ずかしそうに

 

 「えへへ…お姉ちゃん好きっ♪」

 

  と、笑いながらユキに抱き付き

 

 (この子もすっかり変わってしまいましたね…)

 

 そう考えながら

 

 「皆様お見苦しい所をお見せして申し訳ありません…」

 

 そう言って頭を下げるユキに女将が

 

 「その…ママと言うのはやっ張りユウ…」

 

 その名を聞いてビクっと震えて身体を強張らせる翔と苦笑いを浮かべるユキを見て

 

 

 

 (はぁーっ、観月様の頭もさぞかし頭の痛い事なんだろうね?

 

 にしても…あの翔ちゃんもこのままうちに残ってほしいよ、ホントにさ…)

 

 そう思って二人を見送る女将だった

 

 演舞台で何か始まるらしいと興味津々で見ている客の前で焼鳥屋が下拵えした串が宙に浮き

 

 ーグリエっ!ー

 

  そうスペルを唱え人々が見守る中焼鳥の焼ける芳ばしい香りが漂い始めたのでいよいよ興味津々で見ていると

 

 「おう女将、早速10本頼むぜっ♪」

 

 その言葉を聞いた翔が嬉しそうに

 

 「お父ちゃんが来たんやったらはよ焼かなアカンね?」

 

 そう言うのを聞いて

 

 (やっぱりお父ちゃんは鬼百合さんかい)

 

 そう思いながら

 

 「そうだね、じゃんじゃん焼いとくれっ♪」

 

 そう笑って答えてもらった翔は焼鳥を更に20本をグリエで焼き

 

 海鮮串も30本焼き始め今度は焼鳥を30本で更に海鮮串を30本を焼き始める頃には最初の30本をあっという間に売り切れるのを見て慌て串に刺し始める店主達

 

 空いたグリエに焼鳥と海鮮串を焼き始める頃には海鮮串も焼き上がり完売し焼けるのを待つ状態

 

 そのお蔭で板場に余裕が出来て夜の支度まで始められた

ビーフ、チキン、ホーク、ラム肉等をローストにしてもらいそれを素材に料理すれば良いのでかなり楽

 

 他にはユキの提案でスモークウッドを一緒に入れて薫製料理にしてもらい明日以降の余裕に…

 

 因みに料理を終えた低温ケベックの煙を吸わせた黒い勾玉は煙玉で持続性の高い煙幕であり臭いにつられた魔獣系の敵を一網打尽に出来るしこれは魔力、霊力がなくても勾玉にある程度の衝撃力を加えれば良いのでこの日以降大量に求められる事になる

 

 着付けを終えた命達が太夫に挨拶を済ませてまずは翼、チサが大漁祈願、豊作祈願、水と地の精霊の奉納の踊りに羊祭りをお復習し

 

 真琴は水と地の精霊への奉納の踊りと羊祭りを共に踊り

 

 命と媛歌の花の舞い、温泉の女神の奉納の踊りに雪の精霊の奉納の踊りに剣舞を舞い太夫を驚かせた

そして太夫に

 

 「月影の国の少女で今翔ちゃんがお世話になっている家の娘さんで親友のセレナちゃんです」

そう言って太夫にを紹介すると真っ赤な顔で

 

 「私なんかが本当に踊りを習って良いのでしょうか?」

そう聞かれた太夫は

 

 「私達が貴女に問うのは貴女に本気でやる気が有るのか?だけです」

 

 セレナの本気を聞いてきた太夫に

 

 「はい、踊りたいです…どれだけ時間が掛かるかはわかりませんけど観ていただいて喜んでいただける…そんな踊り手になりたいですっ!」

 

 そう答えるセレナに

 

 「今日のところは基本的な足裁きだけになりますけど良いのですか?」

 

 「はい、国に帰ったら女王様の所にいらっしゃいます巫女様達から習いなさいと仰っていただいてますから」

 

 セレナのその答えに満足そうに頷き

 

 「取り敢えずみこちゃん達も軽く食事をとりますから貴女もゆっくりしなさい」

 

 そう言われて翔をちらっと見ると焼き鳥共に用意出来た百本が売り切れて両店主達は懸命に串に刺しているところ

 

 代わりに板場から鬼百合が持ってきた夕べの釣果の魚を店に卸した物の内の焼き魚用を串に刺して翔の元に届けてもらったから焼き魚を焼き始めている

 

 そろそろ昼時と言う時間にも関わらず既に酒と肴が結構売れているがそれ以外はランチしか注文がなく

 

 翔が命の従者で命に同行するから次いつ店に来るかは命次第と言われて話の種にと注文が相次ぎ

 

 今日のファションアドバイザーはチサ、翼、真琴、ユキで本来のランチの時間帯が終わる頃ランチだけのお客が帰り客の入れ替わりがあり

 

 第二陣も到着し留守番の深潮にこずえとつぼみにしずくと螢、かがみとなつき

 

 帰還組のこうめ、春菜、菜月、秋菜、ユミとスクルドが到着

 

 各々に踊りを見てもらいその後媛歌は真琴達に剣舞の指導し命はこうめに春菜、菜月、秋菜に地の精霊へ奉納の踊りを指導し残りの巫女達はその間見学で交代でで媛歌と命で指導が終わる頃早目に公務を済ませた国王を含む第三陣が来た

 

 同行したのは十六夜とユイ、大樹とヴェルサンディ、観月と海斗に嵐と剣斗は騎乗に同行

 

 その剣斗を見た命の瞳が怪しく光り太夫にこっそり耳打ちし後はその伝令が伝わる頃命が

 

 「媛の為に見習い騎士の剣斗にお手伝いして欲しいこと有るからそのお姉さん達についてって指示に従って」

 

 そう言われて案内された先は芸妓達の控室で、その理解出来ない状況に呆然としている内に着付けを終えられていて恥ずかしさの余り顔を真っ赤に染め俯いて歩く剣斗

その剣斗には申し訳ない話だけど事情を知らない女将が本気て欲しがるくらいだったので店の中は色々な意味で大騒ぎだった

 

 特にその事情を知る者達程

 

 「やっぱり人魚姫の訪れは面白いっ!」

 

 だったからこの状況を大いに楽しんでいた

 

 「み、命様…これは一体何の冗談でしょうか?」

 

 そう問われた命は真面目な顔をして

 

 「訪問先や状況によっては侍女のみを同行して面談しなきゃいけない時に剣斗が侍女の服を着て媛の側近くに居てくれたら心強いよ?」

 

 そう言って微笑まれ返す言葉の無い剣斗に真琴も

 

 「安心して、ドレスを着てパーティーで会えたら絶対ダンスに誘うからねっ♪」

 

 と、完全に他人事と言うか男装を楽しんでいる真琴が似合う剣斗の女装を否定する気は無いし状況を楽しんでいるが国王は

 

 (みこがどこまで本気かは知らんが確かにそれは一理はある…)

 

 剣斗が聞いたら

 

 「陛下迄何を言い出すんですかっ!」

 

 と叫びたくなることだったろう

 

 命達の早目の夕食が始まり翔はグリエではなくケベック、スチーマー、レンジをフル稼働で大車輪の活躍で店を手伝い焼く、蒸すの料理は下拵えすれば翔が引き受けてくれるから…

命について帰る翔が帰る迄に余裕を作っておけばよかったし食材も昼過ぎに市場で買い集めたし漁師達も鬼百合を通じて干物や塩漬け等を持ってきてくれた

酒も夕方に邪魔になるくらい仕入れたはずが翔の吸魔吸熱魔法で冷たい方がより美味しい酒が面白いように売れ恐ろしい勢いで消費されていく

演舞台では自習したい巫女達と剣斗を加えた初心者の指導を芸妓達が教えてくれていて夜の舞台が始まった

命がメインで残留組が航海の安全祈願と航海の安全祈願と航海の無事の感謝の気持ちを捧げる踊りに大漁祈願を踊り

帰還組は大漁の感謝の気持ちを捧げる踊りに豊作祈願と豊作の感謝の気持ちを捧げる踊りを舞い

翼、チサは真琴、命に媛歌と羊祭りの踊りと剣舞を温泉の女神への奉納の踊りを舞い

 

 真琴は命と媛歌と水の精霊への奉納の踊りを舞い最後命と媛歌で花の舞いと地の精霊への奉納の踊りで締め括った

 

 毎度の事ながら命へのご祝儀やらお捻りやらは物凄いが今回は翔も負けてない不思議な術と美味しい料理を出しお人形の様な容姿とちょっと(?)抜けた愛嬌の有る喋り方の翔は多くの者の心を捉えた

 

 因みにそれらは翔個人の物として王妃が預かることになっている

 

 その後踊りを終えた巫女達と童の衣装を貰って着替えて一階の配膳を手伝い踊りの稽古をつけてくれた感謝の気持ちを示した

 

 お茶を飲む為休憩する命達をを見たくてこっそり覗いている(つもりの)子達を国王自らが手招きして呼び入れるとそれぞれのお目当ての周りに集まり親達も招き入れ

 

 「無礼講のこの場で堅苦しい挨拶は要らない」

 

 国王のその言葉に

 

 「そっ、それでは私の用な者のお酌を受けていただけるのでしょうか?」

 

 恐る恐る聞くのを女将が笑いながら

 

 「王女宮の騎士達の母親達や海軍の一般兵の母親や女房の酌も喜んで受ける方なんだからそんな心配無用だよっ♪」

 

 そう言われて国王を見ると穏やかな笑みを讃え頷かれたので顔を真っ赤にしながらお酌しし終えると亭主の元に帰り喜びを伝えると

 

 今度はユミやユキ、マイやマユにサエが父親達にお酌して周り更に驚かせた

 

 そしてクライマックスは命の歌で女神と共にで始まり全十曲を歌い上げ帰り支度を始めた翔は凍りつかせた木の実、草の実と氷

 

 媛歌と美輝は雪をたっぷり残して帰りは着物のまま帰るはめになった剣斗に代わり海斗が騎乗で帰ることになったけど剣斗の受難は未だ始まったばかりだった

 



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告知

水の精霊の舞姫はりんの母にりんが女神に依り代になったことを告げた…


強いて言えば踊りを習った子達はお手伝い用の着物を着て配膳の手伝いをするくらいで酒場を苦にしないのならば遠慮は要りません

国に帰ってからは春蘭かミナに指導が受けられる様に手配しておきます」

観月がそう言って会話が途切れたのを見て

「後はお留守番の巫女達と踊りを習ってる侍女に…着付けとか習ってる人も居るんでしょ?その人達も連れてく

あーっそーそー、退屈かもだけどスクルドもついてきてね」

そう命に言われて

「私も踊りを習わせていただければ退屈な訳有りませんっ!何故私だけ踊りを習わせていただけないのですか!?」

そうスクルドに聞かれて

「え、えっと…だって侯爵様に申し訳無いから?だよ」

命のその言葉を聞いて悲しそうな顔をするスクルドに代わり

「命様、それは違います…スクルドは精霊の巫女として精霊様の導きに従い貴女と共に生きること選び父もそれを認め貴女のお供を認めました

それに陛下が王女様達にお許しになっている事なのですからスクルドも問題無い筈ですよ?」

ウルズにそう言われて

「ヴェルサンディ様もそう思う?」

上目遣いでそう聞くと

「はい、私もそう思いますよ…ですからスクルドも習わせてあげてください」

そうヴェルサンディに頭を下げて言われて

「うん、明日の朝から結界でのお稽古呼んであげるね」

その望んだ答えをやっと言って貰いホッとするスクルドを見ながら

「先程の続きになりますがみこだってお金を払ったこと有りませんよ?

その分お店で歌い、習った踊りを披露してますからね

国に帰った後の事は私から瑞穂に言っておきますから巫女達が貴女の指導してくれます

それに貴女が豊作祈願と豊作の感謝の気持ちを捧げる踊りを舞ったらお祖父様やご両親、町の人も喜ぶしそれで少しでも収穫量が増えたら女王様もお慶びになりますよ?」

そう笑顔でセレナに言いながらあれこれと先の事を思い巡らす観月を見て

(又何か企んでますね?)

そう思う王妃と命以外の王女達に美月のスタッフ達

「それと折角海に行くのですから水着を用意してありますから…

ウルズは十四夜を、ヴェルサンディは大樹を悩殺してがっちりハートを掴んでおきなさい」

そう言いながら横目で自分を見る観月の視線とその視線の意味することに気付いた媛歌が自分を見てニヤっと笑ったその笑顔が怖くなり

「あ、あはは…ボクお腹痛くなってきたから行くの止めよかな?」

と、言い出したので

「お腹が痛い…そう、それは残念ですね?貴女が好きそうな物を出そうと用意してましたのに…」

そう言って蓋付きの小鉢の中身の蚕蛾のサナギの佃煮を見て

「だ、大ジョーブ…お腹痛いのあっチュー間に治ったさかいそれチョーダイ、観月様っ♪」

そうお願いして小鉢を貰うとニコニコ顔で摘まむ翔に呆れる一同だった

 

今朝の結界でのお稽古はいつもの様に歌の自習、命と媛歌の自習に舞姫からは歌姫を合わせた三人が剣舞の指導を受け

真琴達には羊祭りを媛歌が指導し命はスクルドに基本の足捌きに留守番の巫女達は歌姫が指導を受け持ち

翔はアットレーのコントロールの修行

を黙々としていたが…

「あ、あんな…みこお姉ちゃん…又新しい術出来たんとグリエとケベックがバージョンアップしたみたいなんよ

せやから岬で見たって欲しいんよ」

そう言われた命は

「うん、わかった…楽しみにしてる

翔も色々頑張ってくれてるからご褒美だよ、チサちゃん、翔をお願いだよ」

そう言われたチサが両手を広げるとチサの胸に飛び込む翔だった

 

早朝漁港に立ち寄り航海の安全祈願と大漁の感謝の気持ちを捧げる踊りと大漁祈願を奉納

軽く朝食を取ってから岬に行く事になり同行者は王妃と真琴、翼、チサ、媛歌、スクルド、深潮、しずく

他に風歌、炎、剣斗が騎乗で護衛で同行する事になり王妃の訪れに感激した漁港関係者達に漁師達は

「王妃様や踊りを奉納してくれた巫女様達のお陰で大漁が出来そうだっ!」

そう言って喜び勇んで出漁し市を見てから食事を済ませ岬に向かう途中

「何で深潮としずくを選んだかわかる?」

そう言われてわからない二人は身体ムズムズしない?」

その命の言葉を聞いて

「二人にもその時が来た?」

王妃にそう聞かれて

「うん、来たんだよっ、その時がねっ♪」

命が嬉しそうに答えると

「岬が賑わいそうですね?」

そう話すのを聞いて二人もやっと気付いたから

「今日は二人が沖に付き合ってねっ♪」

その会話を羨ましそうに聞いているスクルドに

「何他人事みたいな顔してるの?

出水の精の巫女の貴女だっていずれはその仲間入りするんたがらね?」

そう言われて驚いてると

「その時を待ってるからね」

命が言うと深潮としずくも微笑みながら

頷いた

馬車が止まり真琴が最初に降り王妃、チサ、翼、スクルドと下ろしタオルを巻き付けた命、深潮、しずくに水着姿のスクルドが降り海に向かい人魚になった三人からタオルを預かり一旦上がり

命達は沖へと向かい媛歌は空から三人を追ったのでホッとして油断したのが間違いで危うく水に引きずり込まれる所だったけど屋台が開店の準備を始め

(あっ、甘薯に玉蜀黍…)

そう思いながら見ている翔に少女達が

「翔ちゃんお腹すいたの?」

そう話し掛けるのを聞いて真琴が笑いながら

「多分違うよ…翔の特技見せてよ僕がお店の人に頼んであげるからさっ!君達もついておいでっ♪」

そう言って焼き玉蜀黍の前に行き話し終えると手招きして翔を呼び

「取り敢えず論より証拠見せてあげなよ?」

真琴にそう言われた翔は

「アットレー、集合っ!」

そうスペルを呟き現れたアットレーを一本手に取り玉蜀黍の芯に刺そうと悪戦苦闘の翔に呆れ声で

「翔、そーゆーのは僕に言いなよ?取り敢えず何本要るの?」

そう聞かれて

「グリエならこんだけ…」

そう言って両手を広げて見せる翔に

「翔ちゃん、それはいくつですか?」

王妃に聞かれた翔は得意気に

「沢山っ♪」

そう答えると溜め息を吐いて

「わかった」

そう言ってアットレーを刺し翔を見ると頷いた翔は目を閉じると玉蜀黍に刺さったアットレーを操り宙に浮かせ横一線に並べると

ーグリエっ!ー

そうスペルを唱えたが魔力を持たない者には何の変化も無いけど真琴がほおっと感心するのを見て自分達じゃわからない何かが起こってるんだ…

そう思って様子を見ていると玉蜀黍が焼け始めたので店主を呼んで

「タレ塗らんでエエの?」

翔がそう言って一本抜き出して見せると慌ててタレを塗るとそれをグリエに戻し順にタレを濡らせ何度か繰り返し

「はい…まこお兄ちゃん、味見したって…おじさんも」

そう言われて渡された焼き玉蜀黍は香ばしい香りが漂い思わずかぶり付く二人が無心に食べるのを見て

「翔ちゃん、私達にも頂けますね?」

王妃にそう言われたので頷いた翔は王妃、翼、チサ、ウルズ、ヴェルサンディの順に渡し頷く十四夜、十六夜、雅の順に配ると最初に食べ終えた店主が

「翔ちゃん…だったね?どんどん焼いてくれないかな?」

そう言われた翔は

「うん、でも焼き玉蜀黍は今の数で一杯やし待っとる人もぎょーさんおるやろ?

せやから蒸し玉蜀黍はどやろか?

そっちやたらタレ塗らんでエエのんちゃう?」

そう言われた店主が

「そっちだと一度にどれだけ用意できるんだい?」

そう聞かれた翔は

「イッコのスチーマーで今の分とこんだけ出来る」

そう言って再び両手を広げる翔に

店主と風華と炎に剣斗がアットレーに刺すのを見て隣の見て焼き甘薯の店主が

「家のも焼いて貰え無いだろか?」

そう聞かれて

「焼くだけで蒸かさんでもエエの?」

そう翔に言われて

「一度にそんなに沢山大丈夫なのかい?」

そう心配そうに聞くと

「術自体はよゆーよゆーっ♪なんやけど焼き玉蜀黍は出したり入れたりしなアカンから今のボクにはイッコのグリエで一杯一杯なんよ…」

そう言って苦笑いすると

店主も宙に漂うアットレーを掴むと串に刺し始めたので吽、喧火、修羅、沙霧も手伝いに加わり

「炎はりんのお母さん達と山に入り色々探して来なさい期待してますがチサ様もそれで宜しいですね?」

そう聞かれてチサが頷くとユキも

「海斗は見えますね?あの木の実を取りに行きなさい」

そう言われて頷くとシーホースに飛び乗って木の実を取りに行くのを見送ると溜め息を吐いたヴェルサンディが

「大樹も釣りに行きたいんでしょ?我慢しないで行って来れば?」

そう言われて

「ありがとー、大物期待してっ♪」

そう言って竿を馬車から持って岩場に向かう大樹をもう一度溜め息を吐いて苦笑いで見送りヴェルサンディを苦笑いで見守る一同だった

スチーマーで玉蜀黍と甘薯を蒸かしグリエで焼き甘薯と焼き玉蜀黍を焼いてると早速大物を釣った大樹が持ってきたクロベニダイを見た王妃が翔に

「氷を頼めますか?」

そう聞かれたので

「アライに使うんやったら氷水の方がエエのんちゃう水入れて持ってきたらちゃっちゃっと済ますけど?」

会話を聞いていた甘薯屋の店主が

「俺が汲んでこよう」

そう言ってバケツを持って水を汲みにいきユミは早速クロベニダイを捌き始め大樹は再び釣りに戻った

「ん~…アットレー全然足らんな…又みこお姉ちゃんに頼んで増やしてもらわなアカンな?」

そう呟く翔に

「みこの霊玉や勾玉を埋め込んで作るんだろ?ならアットレーを買ってくれば僕がみこの代わりに作るよ?まぁチサや翼にだって出来るけどねっ♪」

そう言われて

「お兄ちゃんがやってくれるゆーたんやからお兄ちゃんがやってーな」

そう言われて驚く真琴に

「口の悪さは照れ臭いのを誤魔化す為のもので恥ずかしがり屋の甘えん坊のくせに素直じゃ無いから益々憎まれ口を叩くんだよね…」

そうチサに言われて真っ赤に染まって

「なっ…絶対内緒にしといてって約束したやん…」

照れてるせいかいつもの勢いを失ってる翔に

「私の事嫌いになっちゃった?」

瞳を潤ませたチサにそう言われて

「ぼ、ボクにとっては重要な事やけどチサ様に比べたら大した事無いからかめへん…」

そう答えたから

「そのアットレーが有れば未々術は使えるのかい?」

そう聞かれた翔は

「同時発動出来るんは10個やから楽ショー楽ショーっ♪」

そう答えたから

「それなら家のを使って貰いこの烏賊を焼いて欲しいのですが…」

そう言うと他の者も言う中

「家は串は使わんからな…」

と呟くの聞いて

「おっちゃんの売り物は何なんよ?」

そう聞いたら

「大アサリや牡蠣等貝だから…」

そう呟くのを聞いて笑いながら

「なんや、それやったらグリエの上に乗せれば焼けんで?」

そう言われて乗せてみるとすぐにじゅうっという音がして大アサリが焼ける芳ばしい臭いがしてパカッと開くと

「味付け要らんの?」

そう言われて慌てて特性の出汁を入れて王妃に出すと驚きながらも

「良い味だしてますね?」

と言われ店主は

「王妃様にお誉め預かり光栄です」

と言われ

「この場においてそのような堅苦しい言葉は要りませんよ、今日の主役はみこと二人の人魚媛達…そして翔ちゃんのはず?」

そんなやり取りにお構いなしの翔が

「結構丈夫いけど発動時間に制限有るんやから焼くんなら早せなアカンよ?」

翔に言われて慌てて焼き始めた店主

甘薯玉蜀黍が蒸かし終わり次々に売れていき

「あ、あんな…お父ちゃんと二人のおっちゃんは焼いた甘薯好きやし兵隊さん達は蒸かした玉蜀黍好きやってゆーとったから…」

「そう話すのを聞いた二人の店主が

未々有るから心配しなくて良いよ」

そう言われて安心した翔は

「ならエーねんけど烏賊は大きいから…

ーケベックっ!ー」

その様子を見ていた他の串物屋もアットレーを真琴に渡し錬成してもらい食材を串に指して焼いてもらい

竹串はレンジで調理してどんどん売られていった

命は海女の潜れない深場で自分の漁と海女達の手伝いをし深潮としずくは留美菜となみの母親達の手解きを受け漁の手伝いをして楽しい一時を過ごした

媛歌は媛歌で海女漁の規制対象にならないないと言うよりは危険な鮫等を仕止め市を賑わせたが海女達にはそれ以上に久し振りの人魚姫達の独占…

共に漁をする海女ならではの水中で戯れる人魚姫達の姿を見れたの何より嬉しかった

漁を終えた命達は浜に戻ると胸まで水に浸かったスクルドが待っていた

「お疲れさま、命様…人魚媛様達」

そう言って出迎えたスクルドに

「あんまし疲れてないけどありがとー……」

そう答えた命の声には覇気が無く

「…来なきゃよかった」

ぽつりと漏らした命の呟きに顔を見合わせる深潮としずく

「楽しく無かったのですか?」

穏やかな口調で聞いてくるスクルドに

「そんな事無いけどね…りんが居ないんだよ…振り向いても居ないし見回して探しても何処にも居ないんだよ…

知らなかった…りんと一緒に泳いだのはたったの二回なのにりんが居ない海がこんなに寂しいなんて…」

そう言って肩を震わせ涙を流す命を見た媛歌が

ーみこを抱き締めて…みこは人が思ってるような強い子じゃないんだ…

勿論凶悪な呪文と聖なる呪文とを操るみこは強いよ…でも人の強さってそれだけで決まるの?ー

そう言われて何と答えてよいのかわからないスクルドは

「私には…分かりません」

そう答えると媛歌も

ーそんなの私にもわからないよ、でも私達はそのわからない答えを探してるんだからね?ー

そう答える媛歌に答える代わりに命を抱き締めるとその小さな身体に改めて気付き震える身体をぎゅっと抱き締めた

(私がこの方を…いいえ幼児の魂を持つこの子を守らななきゃ…)

やっとその想いに気付けたスクルドがその時を迎えた

ーす、スクルド…そ、それ…ー

慌てる媛歌が何かを指さしその方向を見ると見覚えのある布切れがプカプカ浮いていて恥ずかしさのあまり真っ赤に染まっていると

ーそんな布切れより貴方自身の身体の変化に未だ気付かないの?ーそう言われ改めて自分の身体を見下ろすと

「え、下半身が…」

そう言って言葉に詰まったものの頭を降って気持ちを切り替えて

「命様、私にはりんちゃんの代わりにはなれないでしょう…私は私でりんちゃんはりんちゃん

ですがりんちゃんに代わって水の中までもお供をする位の代わりにはなれますよ?」

そう言われて

「じゃあもう少し一緒に泳いで…」

そう言ってスクルドの手を取り沖に逆戻りする命を見て溜め息を吐き

ー私はスクルドの水着を持ってこの事を伝えてくるからみこが暴走しないよう見張っててー

(まぁ新米の人魚媛には荷が重いだろうけど…)

「人魚媛になったばかりのスクルド様にあまり無理はさせないと思いたいですが何とか努力します」

そう答えるのを聞いてスクルドの水着を手に取り浜に戻った

「媛が一人で戻ってきたけど…あ、あれスクルドの水着じゃ…」

そう言って驚きを隠せない真琴に

ー大丈夫、予想外に早い人魚媛の目覚めを迎えただけだから…

安心してとは言え無いけど取り敢えず深潮としずくの二人の人魚媛になったばかりのスクルド様に無理させないよう見張りを頼んである

じゃあそれ報告に来ただけだからみこ達を追うー

そう言ってスクルドの水着を投げ渡すと沖に向かった

その水着を受け取り王妃に掻い摘まんで話しスクルドが水に上がる際の支度をしてもらって待つことにした

が、心配する程長くは掛からず命達は帰ってきて

「スクルド…これを貰って」

そう言って自らの髪を飾る蒼い霊玉の髪飾りを外すしスクルドの髪に髪飾りを留めると

迎えに来た吽にスクルドを任せ深潮はモリオンにしずくは斬刃に任せ

「大丈夫、人魚化は解けないから…」

探るように命を見て

「わかった」

その答えを聞いた命はまずユキの元に行き

「これ、新しく人魚媛になった三人に食べて貰って…

で、こっちの二つはママとまこちゃん達と雅お姉さんに食べて貰ってみっつは鬼百合達とユキとユミで食べてね

後のふたつはパパ達へのお土産だよ」

そう言って沖アワビの入った魚籠を預けると人魚姫の姿ままで宙に浮き大漁を感謝の気持ちを捧げる踊りを奉納

明日の漁のりんの母親グループの大漁祈願の踊りを奉納し人魚媛達とお茶を飲み…

いつもの様に冷たいお蕎麦を啜りながら鍋が冷めるのを待って居ると留美菜の母親達が市場から戻り翔の術に驚きながらも岬では初めての焼き魚を味わった

ただ…男達にとり目のやり場に困るのが深潮とスクルドで二人の特に深潮の胸の膨らみは…

その二人の姿を見て思わず見惚れた十四夜、十六夜、大樹が各々にウルズ、ユイ、ヴェルサンディに叱られたのは言うまでもない事

 

今日鬼百合と漁の手伝いをしたのは鼓と白狐に海軍、陸軍に海兵隊から二人ずつでいつもの様に仕分けの間に釣りをしていると鬼百合の竿に大物の引きが…

一間級の大マグロと三尺の花鰹を二本釣り上げ白狐は二尺五寸の花鰹に尺級の大アジ四本

鼓は二尺の桜鯛二本と島アジ三本とで兵達は飛び魚やホシカイワリ等30本

で、いつもの様に花鰹二本を王宮に持ち帰り代わりの酒を貰い白狐達には花鰹と桜鯛は岬に持たせ残りは漁師の魚と交換で岬に運んでもらうのはお約束

酒壷はいつもの様にりんの母親に預け未々活躍中の翔を誉めにいった

「えへへ、お父ちゃんに誉められてもーたやん?」

そう照れ臭そうに笑う翔に

「ホレ、食え」

そう言われて口を開ける翔に煮干しを食べさせると嬉しそうに食べさせてる

「姐さん、翔ちゃんが姐さんに食べて欲しいって取っておいた奴です」

そう言われて受け取る翔の頭をわしゃわしゃ撫でていると

「翔、翔の言ってた新しい術見せて…」

命にそう言われて頷くと

ーレンジっ!ー

そう唱えると焼き魚がグリエやケベックより短時間に仕上がり受け取った鬼百合がふうふう言いながらかぶりついては煽る酒をセレナが注ぎ

漁の手伝いしていた者達も鍋を分けて貰いに行くと

「今日の漁のお手伝いしてくれた皆さんからはお金は取れませんっ!」

そう言われて驚いた兵達に

「可愛い事言ってくれるだろ?今日ん所はゴチになって本職頑張って国を…この子等を守りゃ良いし明日からの活力になる笑顔だろ?」

そう言われて

「そうですね、勤務表見て王女達様にお供出来る者を皆羨みますからね」

留美菜とりんになみの父親が戻り三人の両親が揃ったのを見て

「皆さんにお話ししなきゃいけない事があるんだ…」

そのいつに無い命を見て

「伺います」

そう留美菜の母親が

答えてくれたので

「りん…りんちゃんは大海原の女神に選ばれて依り代になって内なる海の守護者になったんだ…

だからりんちゃんは勿論多分りんちゃんを守り助けたいって言ってくれるだろう留美菜となみの帰国も儘ならない」

その命に向かい

「このりんの新しい運命を命様がどう思ってるいるのか命様のお気持ちをお聞かせ願えませんか?」

そうりんの母親に聞かれ唇を噛み締める命に

「正直に仰りなさい、今までずっと一緒にいたりんちゃんの姿をつい探してしまい見付からなくて泣いていたのは何処の誰ですか?」

そうスクルドに言われて

「りんちゃんが初めてじゃないしみこは甘えていちゃいけない立場なんだ…

だから使命を…運命を受け入れたりんちゃんの門出を祝わってあげなきゃいけないんだよ…」

その命の独白に

「初めてのお友達のりんちゃんは特別でしょ?私だって寂しいんだからみこちゃんが辛くないわけ無いよ…

それにりんちゃんが女神の依り代になったのみこちゃんがこちらに帰ってきてからの事でその事を未だ整理出来てないんだもの…」

チサにそう言われて俯いて肩を震わせる命の身体を抱き締め背中を撫でられているうちに本格的に泣いていた

声を出さずにただひたすら涙を流し続けていた

その命の涙に応えた精霊達が現れ

ー私は海風の精…なびき、人々に天候の変化の前触れを報せる潮風の様に人々に危険な兆候を報せる者になりなさいー

「はい、潮風の精様のお導きを喜んでお受けいたします」

ー私は霙の精…アラレ、私と共に焼けた大地を冷ましなさいー

「はい、霙の精様のお導きを喜んでお受けいたします」

ー私は霧雨の精…カスミ、霧雨が乾いた大地をゆっくりと潤すように人の心を潤わせなさいー

「はい、水の事が原因のいさかいを見て育ちましたから…お導き下さい、霧雨の精様」

ー私は陸風の精…凪、沖に向かう船後押しをする様に水の精霊の巫女達の後押しをしませんか?ー

「はい、私が命のお力になれるのならば喜んで…お導き下さい浜風の精様」

そう四人が答えて精霊達を受け入れた

日が暮れてきたけど未々飲み足りない鬼百合と明日非番の者達が入れ替わりに岬に現れたので

「もうちょい残って料理したるわ、お父ちゃんのダチやねんからなっ♪」

そう言って魚を焼き始めたので

「じ、じゃあ私も翔ちゃんと居たい」

そうセレナ迄言い出したので溜め息を吐いて吽が

「頃合いを見計らって二人は連れて帰る、それで良いな?」

そう言われて不満顔の翔に

「うんと言わんと今すぐに連れてかれるぞ?」

そう言われた翔が顔を蒼くして

「は…はい、わかりました…吽様」

そう答える翔に

「確か瑞穂や忍、阿は呼び捨てだった筈?」

そう聞かれて

「今はちゃんと忍様、瑞穂様て呼んどります」

翔にそう言われてセレナを見ると

「そう言われてるお二方の方が微妙な表情をなさってましたよ?阿様と言う方はお会いした事が有りませんから存じませんが…」

セレナにそう言われて複雑な表情の吽は命達を見送ると翔とセレナを見守った

 

 

 

④悪戯三度

 

早朝の結界内の稽古はいつもと違い命の歌の自習で始まりその間に真琴、翼、チサは精霊の巫女の修行に翔はアットレーのコントロールと媛歌は冷気を操る修行をし歌姫は羊祭りのお復習を中心に自習をしていた

その後命と媛歌と歌姫は剣舞の続きで真琴、翼、チサは自習

その後留守番の巫女達とスクルドも結界に呼ばれ媛歌が真琴達に羊祭りを指導し命は留守番の巫女達を各自のレベルに応じて指導しスクルドは歌姫が指導する事になった

稽古が終わる頃翔は真琴に

「熾火の勾玉、焔の勾玉、蒸気の勾玉、スチームエクスプロージョンの魔玉、蓄熱の勾玉に朱鷺色の勾玉に煙玉ってゆーんよ」

そう言って各20個ずつ入った鞣し革の巾着袋を渡し

「お姉ちゃんが渡してゆーたから受け取ったってや」

そう言われて受け取ると

「有り難う、大切に使わせてもらうよ」

そう言って翔の頭を撫でると

「えへへ、お兄ちゃんに誉めてもろたっ♪」

そう照れ臭そうに笑う翔の身体を真琴が抱き締めると益々真っ赤に染まる翔だった

第一陣で向かうのはユキ、命、真琴、チサ、翼、媛歌、サエ、マキ、マユ

それと修羅がセレナと翔を乗せ同行しようとしたら

「私が修羅様に乗せていただきますから二人は馬車に乗りなさい」

マキにそう言われても

(五人の王女様と一緒なんて)

そう言って尻込みするセレナに

「遠慮しないで良いからお出で…」

真琴王子に微笑まれ真っ赤に染まる真琴王子の隣に座らされ俯いたまま顔が上げられないセレナだった

到着後ユキはまず女将に翔の特技を見せ

「宜しかったら厨房のお手伝いをさせてあげるわけには…」

と言われた女将は

「いや、ソイツは勿体ないから串焼き屋達に食材を持って上がらせこの串を使わせりゃ良いんだね?

それを演舞台でやってもらったらその奇跡に魅了されるのは間違いないからさ

翔ちゃんもそれで構わないかい?」

そう聞かれた翔は笑いながら

 



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赤子が空から降ってくる夜に

水の精霊の舞姫の前に現れたた運命のこ…その赤子の正体とは?


運命の子

 

 

①小旅行

 

ユウが侯爵家に来てから三日目の朝…漁港に訪れたのはりんとなみに喧火だけで

「ごめんなさい、今日から九日間は私となみしか来れませんし奉納し終えたら私達もこちらの霊獣の騎士様に案内していただき…

北東平の豊作祈願祭行脚に向かわれる侯爵様の後を追っていただきますのでこちらで奉納している時間以外は留守になるのをご承知ください」

そう言って奉納し終えると喧火の焔馬に乗せてもらい侯爵の後を追って宙を翔ていく焔馬を見送る漁港の者達だった

 

侯爵の行脚の同行者は地の精霊の巫女の忍、水草の精の雪華、氷の精の巫女の留美菜、美月スタッフのミサ、侯爵家のメイドのリリー、ロゼ、ともえ

それと遅れて合流する大海原の女神の依り代のりん、小波の精の巫女のなみ喧火の10人で六人乗りの馬車二台に分乗しての移動だ

騎馬でアーレスとヨーゼフが護衛として同行

シューは残念ながら命の出迎えの為首都に向かっている途中でミサの側から離れるのがかなりショックだったりする

 

最初の街には何とか祭りの開会宣言に間に支度を整え祭り役員達すら知らされていないサプライズ

女神の依り代と四人の精霊の巫女達の地の精霊への奉納の踊りと豊作祈願を無事に奉納しで人々を大いに驚かせた

踊りを終えたりりんや留美菜、なみ達はあまり盛り上がってない祭りの様子を気にして

「お祭り全然盛り上がってないよね?」

そう留美菜となみに声を掛けると二人も頷いて

「私も気になってましたが本当に元気無いですね…」

「はい、盛り上がってませんね」

留美菜となみも答え

「ここはやっぱり私達が屋台のお手伝いして盛り上げるしかないよね?」

そう言ってりん、留美菜、なみの三人は各々お気に入りの若月の服に着替えミサからお小遣いを貰い屋台を巡り未々盛り上がらない祭りを屋台の手伝いをして盛り上げるための店選びをしているのだ

その結果りんが選んだのは角豚肉饅頭の店でなみは侯爵領風の焼きソバ屋に留美菜は炙りハムと酒を売る店を手伝う事にして各々の店に行き…

(せっかく美味しそうな臭いがしてるのになんで…)

そう思いながら見回したけど店番をしてる爺さんからしてやる気が全く感じられないし…

通行人もこう言ってはなんだけど生気が感じられず行く宛もなく彷徨くその姿はさなが亡霊の群の様にも見えた…

だから取り敢えずまんじゅうを買い自分で味を確かめてから

「おじさん、なんでお客さん呼ばないの?せっかく美味しいお饅頭が食べ頃になってるのに…」

見知らぬ少女にそう言われて余計なお世話だと思いながら

「しょうがなかろう?わしゃそうゆーのは苦手なんだよ…」

そうぼやきながら酒を煽るじいさんに呆れたりんが

「じゃあ私がお店手伝っても問題無いよねっ♪」

そう言って振り返ると

「美味しいお饅頭が食べ頃になってるよぉ~っ!食べなきゃ勿体無い美味しさだよぉ~っ!」

活気の無い祭りの会場に透き通る様に響くりんの明るく可愛い声に人々が振り返り

「ほう、そんなに美味しいのかい?」

それを聞いた通行人の一人の男がりんに聞くと

「うん、私も初めて食べたけどスッゴク美味しかったしさっきも言ったけど蒸かし具合が今一番丁度食べ頃の状態なんだよっ♪」

そう言われて店番の爺さんに向かってそうなのか?と言った視線を向けると爺さんも驚いて

「お前さん…よくわかったね?」

そう感心して言うじいさんに

「この味は初めてだけど近所のお饅頭屋さんのお饅頭はよく食べてたしお店の手伝いをした事も有るからねっ♪」

そう言って笑い再び声を上げ客を呼び込むりんを見ながら

「親爺、こんな可愛い売り子さんを一体何処で見付けてきたんだよっ!?」

笑いながら聞く男に

「なんや知らんが饅頭を食って手伝うと言って声を上げとる…」

そう言って不思議そうに見ていたが仕込みが終わり注文を取り出したソバ屋もなみの呼び声で人が集まっていたし…

いつの間に現れたのか留美菜が手伝う串焼き屋には辛炎ハムをかじりながら爆酒を煽る鬼百合がいてそれにつられた男達と酌み交わしている

りんの手伝う饅頭屋はじいさんが用意した分は全て蒸かし終わりそれも残り少なく様子を見ていると夫婦者らしい二人が台車を台車を押してきたの見た爺さんが二人に向かって

「わしが用意した分はじきに売り切れるから準備してはよ蒸かせ」

そう言われて

「はぁ、何言ってるんだよ?親父にそんな事…「おじさん、おまんじゅう蒸かした分は売り切れたから蒸かし終わったから呼んでねっ♪私はちょっとおソバ食べてくるからねっ♪」

そう言って駆け出すと強い風が吹きつけりんが被っていた麦わら帽子が飛ばされりんの独特な色の…

マリンブルーの髪が人々の目に晒されようやく目の前で売り子をしていた少女の正体に気付く者が居た

「えっ、まっ、まさか女神の依り代のりん様?」

店番のじいさんの孫娘ベルの呟きで他の者達も気付き饅頭屋の爺さんが

「なんで女神の依り代様が…」

そう呻くと

「祭りが盛り上がっていなかったからだろうな…」

アーレスが言うと共に見守っていた忍も

「折角の祭りを楽しまなきゃ勿体無いのに…と、言ったところですね?そう言ってましたから」

そう答えると再びアーレスが

「見なさい、あの様子を…」

そう言われ指差された方を見ると豪快に酒を煽る女美丈夫と見知らぬ少女(留美菜)に注いで貰いながら酒を飲んでおりその二人に引き摺られる様に他の物達も明るい笑い声を上げながら飲んでいて

「折角の祭りを女神の依り代様と地の精霊の巫女様が奉納の踊りを舞って下さったのに辛気臭い顔をしていてどうする?

アレク様達にお酌している少女も氷の精の巫女様でその手前の焼きソバ屋の手伝いをしているのは小波の精の巫女様

その幼い依り代様や巫女様達が祭りを盛り上げようと頑張ってくださっているのに恥ずかしくないのか?お前達は…」

そう言われた饅頭屋の爺さんは

「そうですね、少なくともわし等は女神の依り代様のお陰で饅頭がよう売れたのだからいつまでも辛気臭い顔をしていては申し訳無いですな…」

そう言ってりんが落としていった麦わら帽子を拾い上げると孫のベルに渡し

「りん様にお届けしなさい」

そう言ってベルの背中を押すと

「はいっ、わかりましたっ!」

と答え笑顔でりんを追うベルの後ろ姿を見送る一同だった

最初ソバを買うための客達の列の最後尾に並んでいたりんを見た他の客達が先を譲り順番になり

「焼きソバ下さい」

そう言ってソバを受け取ろとするりんになみが

「中に入ってその椅子に座って食べたら良いですよ」

その距離の開いた口調に寂しさを感じながらソバを啜るりん

その後りんは饅頭屋親子の知り合いの金平糖(命と媛歌の好物)を売る店の手伝いをしながら

「命様と媛歌様が大好きなんですよね、こう言った甘い砂糖菓子って」

と、客の会話を聞いた店主が

「お二人の王女様はそんなに甘い物が好きなのかい?」

そう聞かれたりんが

「好きと言うかお腹の弱い命様に食べさせて良い物にはかなり制限ありますから…おまけに猫舌ですし」

そう笑いながら言い溜め息を吐くりんに向かい

「だがその分好き嫌いがはっきりしているのでは?」

そう言われて

「命様はお肉よりはお魚が好きみたいですし辛いの酸っぱいのは苦手みたいですけど媛歌様は辛いの以外平気ですけど逆に言えば特に好きな物が無いみたいです」

そんなことを話していると侯爵が命、媛歌、翔の為に土産物を買っている

命と媛歌には甘い砂糖菓子に翔にはイナゴのつくだ煮を始めとする虫料理を…

そんな感じで全く盛り上がっていなかった祭りをりん達の活躍でもり上げ今夜の宿泊地に向かう一行の前に饅頭屋の父娘が現れ

「侯爵様にお願い申し上げます…私達の娘のベルがりん様に様にお仕えしたいと申しておりますがお許し願えますでしょうか?」

そう言われて忍を見ると忍も頷いたので「受け入れるのは構わないが人数によっては馬車に乗り切らんが?」

そう言って饅頭屋の父娘の後ろに控える親子を見ながら答える侯爵に

「希望者は七人の様ですから私はヨーゼフ様の後ろに乗せていただき雪華は喧火…頼めますね?」

そう言ってミサを見ると

「私は乗馬に馴れてませんから…馭者席の隣で宜しいでしょうか?」

そう答えると

「私は乗馬に…私自身は乗れませんが父や兄達に乗せてもらってましたから…アーレス様、宜しいでしょうか?」

そうリリーに言われてアーレスも頷き

「では私がもう一台の馭者の隣に座りますから…」

ロゼもそう言ってりんを見ると

「命様にお仕えしたいと言って命様の元に集まった私達は美月のスタッフの皆様から礼儀作法を始め…勉強やお菓子作り等を習いましたし霊獣騎士になった男の子達も鬼百合様達に鍛えていただき正騎士や准騎士になりました

ですから私に言えるのは皆さんも頑張ってください…だけです」

そうりんに言われて力強く答える少年少女達に忍が

「わかりました、荷物は用意してありますね?」

そう言って荷物を見せる少年少女を見て

「りんと ベル…でしたね?と侯爵様に留美菜と貴女と貴女はその馬車に同乗し後の子達はなみとともえと同乗しなさい

ご両親と別れの挨拶をしたら馬車に乗り込むように」

忍にそう言われて両親に別れを告げると馬車に乗り込む少年少女達に手を振り見送る両親達に

「お子様達は確かにお預かりします」

そう言って頭を下げヨーゼフの手を借り馬に乗ると馬車はゆっくり走り出した

 

移動中の馬車の中でうとうとし始めたりんと留美菜になみ…

「早速お前達に出来る事だ、りん様に留美菜様が揺れる馬車の中ずり落ちないよう支えて上げなさい

確かに特別な事ではない、だが今そうしてお二人の身体をお支え出来るのは一緒に馬車に乗っているお前達だけなのだからね」

そう侯爵に言われベルはりんのさとは留美菜の頭を膝に乗せなみはともえが

「さぁ小波の精の巫女様…なみ様が馬車の揺れでずり落ち無いように支えて上げなさい…」

そう言われてやはりなみの頭を膝に乗せて抱き締めるササだった

翌朝結界での修行の後喧火に送って貰い漁港で奉納の踊りを舞い侯爵家で馬車を回して貰い食事のを済ませ

明日の豊作祈願祭の会場に向かい翌日無事二ヶ所目の祈願祭で踊りを奉納の踊りを舞い屋台の手伝いで祭りを盛り上げた

 

 

 

 

②弥生

 

ケンとカンと先に上陸した命は航海の無事に感謝の着物を奉納する踊りと水の精霊への奉納の踊りを舞い出迎えた

上陸後伯爵領班には独鈷杵と錫杖を持つ金剛とケンと五人の准騎士候補が同行する為馬車の手配をして手配をして出発した

侯爵領に向かう班は命に同行する為首都で商いをする班と共に女王に挨拶に向かう為命と共に入城する事に

昼食の支度の手伝いをする翔は相変わらず忙しく命の訪問によりいよいよ翔の旅立ちが近い現実を突きつけられた

夜は命の再訪問と忍と媛歌のと王女としてのお披露目と忍の地の精霊の巫女としてのお披露目を兼ねたパーティーが催されるはずだった…

春蘭達に土産を渡し王妃から預かった忍と媛歌への贈り物と女王と王太子への土産を渡しそろそろ支度に掛かろとした時の事

舞姫がその気配に気付き

ー人魚姫、お願いします…あの娘を助けてっ!ー

そう言われて命も気付いていたその赤子らしい気配とそれを追って近付いて来る闇の者の気配に

「ライラ、一緒に来てっ!」

命のその声に闇の者の気配に気付いた戦士達だけど既に命はライラと共に上空に翔んでいたのでその後を追って紫煙、カン、柳水、鬼百合、鬼蓮が霊獣と共に飛び立ち

媛歌は准騎士候補達に翼を与えてから翔の槍に座った翔と共に命の後を追い春蘭とミナはユカ、澪と共に女王の警護に回り見習い騎士達に警戒を促し瑞穂と阿の指揮下に入らせ王城の防衛に当たらせた

 

手続きが済み忍と媛歌の二人を正式に養女として迎えたことを報告し今更ながら忍の地の精霊の巫女としてのお披露目も発表された

月光もその場を借りて改めて瑞穂にプロポーズして瑞穂も頬を紅く染めながらそれを受け入れ

二人を祝福するね…瑞穂お姉さん、口笛を吹いて」

命にそう言われて頷くと思い切り口笛を鳴り響かせると瑞穂の為のシーホースが二人の前に舞い降り

「今日はもう遅いから初乗りは明日暇な時に二人で楽しんでね」

その様子を見ていた人々は皆『姫騎士(瑞穂の敬称)が霊獣の騎士になった』と、この事実を喜んでいた

又、瑞穂が女王で親衛隊隊長の兄の子爵と養子縁組をする手続き中であることも併せて報告された

その裏では命が救いだした赤子は授乳期の子を持つ下働きの女に乳を分けて貰い飲んでいるが従来の王城のしきたりでは産休産後の者は子供がある程度育つまで仕事を外される事になっていた

それがたまたま裁縫が上手くそれがユカの目に止まりミナの手伝いを始め産後は身体に無理の無い範囲でいわゆるパートタイマーの様な感じで働いていた

それを見た他の休職者達が羨ましがりユカに訴えて裁縫のテストを受け合格したので今度はユカが女王に休職中の下働きの女達を預かって良いかを聞き…

了解を得たので十人の下働きの女達を若月のお針子として契約し暫くはエプロン作りをしてもらい

若月専用のアトリエが与えられてからはミシンを十台買い更に効率アップした

更に裁縫が得意でない女達を裁縫する者達の子を一緒に見させる為に集め手当てを払っている

歌の国の六花を改めて新たに歌の国八花は観月、ユイ、雅の女神の依り代達

そして精霊の巫女の翼、真琴、命、チサに王家の者ではないが翔も選ばれ本人は厭な顔をしていた

継いで月影の国は瑞穂、ウルズ、忍、ヴェルサンディ、スクルド、媛歌に伯爵家の孫娘八人が加わり14花となりその両国の乙女達を歌の国と月影の国の花々と呼んではどうだろう

と言う声があがりこの場では名前が上がらなかった春蘭達等両国の友好に貢献している乙女達が居る事

鬼百合達は戦姫と呼び兵達から敬われている等が語られた…

翌朝の結界内は大賑わいで媛歌、翔は最初から参加し媛歌は自習に翔はアットレーのコントロールを最初から最後まで

命の歌と踊りの自習が終わると媛歌と二人舞姫から手解きで韋駄天神速の舞を習い

忍とスーは羊祭りに春蘭とミナに澪は自習で

新米巫女達は航海の無事に感謝の気持ちを捧げる踊りを媛歌と共に指導

瑞穂には剣舞を習って欲しいので基本の足裁きを稽古してもらうことに

稽古終えた翔は命に頼みガーディアンの勾玉を埋め込んでもらい魔鎧ガーディアンを纏った姿を現して皆を驚かせ命を羨ましがらせ

「みこもそれ欲しい」

そう言われて

「ガーディアンの勾玉ならもう一個有るから要らん甲冑もろて朱鷺色の勾玉と一緒に埋め込めばみこお姉ちゃんのは出来んで?」

そう言われて

「ホントに?」

そう言って確かめると

「うん、チサ様の霊玉ん中のフレア様が教えてくれたから大丈夫っ♪」

そう言って笑ってガーディアンの勾玉を翔から受け取り以前貰った甲冑を呼び寄せ埋め込むと翔とお揃いの魔鎧ガーディアンに変わり命の身を被うと…

その背に生えた羽を羽ばたかせて二人の身体を宙に浮かせて暫くの間飛行訓練をし

「明日からはこれを使いこなすお稽古もしなきゃ、だね?翔」

そう笑って言われ翔も

「うん、ボクも又戦力としてちゃんと認めてもらいたいから頑張んでっ!

それとあんな、春蘭様…今の進化でボクの服消えてもーたらしいんよ…せやから…」

そう言って口ごもる翔に

「わかりました、セレナに言って着替えを用意させます」

そう言ってもらいホッとした翔だった

そして結界の外に出て翔は朝食の仕度を手伝いに調理場に行き春蘭達は持ち場に行き己の仕事に取り掛かる事にして

命は中庭で久し振りに謡華に稽古を着けてもらっていると王妃を連れて真琴が来て厳しい表情で女王陛下の執務室に来るように告げると先に女王に挨拶に向かった

謡歌とのお稽古を終えた命は

(あの娘の事…だよね?)

そう舞姫に聞くと

ーおそらくはそうでしょうね…ー

そう言って執務室を訪れると王妃が問題の赤子を抱き抱えていた

ー人魚姫、弥生…なんですね?ー

他の誰が命に問い掛けるよりその気配に気付き霊体で姿を現した歌姫が問い掛けると

「みこは何も知らない…舞姫からあの娘を守って欲しいとしか聞いてないけどとても大事な娘だとは感じてる」

そう答えると

ー…やはりそうでしたか…私は何をしてきたのでしょうか?私は何の為ここ迄わざわざ…ー

そう言って涙する歌姫に

「泣いてるだけじゃわからないから事情を話してよ、歌姫…その弥生と言う子は貴女の何?」

そう真琴が優しく問い掛けると

ー弥生は私がお腹を痛め産んだ愛しいあの方の忘れ形見…愛しい愛娘ー

そう言われて

「なら何故舞姫とやらは先に命に告げなかったのですか?」

女王に問われた命は

「その真実は歌姫自らの口から話すべき事だから…それに歌姫は気が付いちゃったんだよね?歌姫…」

そう命に言われて頷き

ー時空を越えてまで探し求めた娘との再会…なのに私は乳を与えてやる事はおろか抱き締める事さえ出来ないどころかそれ以前に触れることすらも出来ません…ー

泣きながら告白する歌姫に

「その娘の父親名を告げるのなら貴女の願い叶えますが?」

遅れてきた観月がそう問い掛けると

ーその名を告げる事によりこの世界(真琴)にどのような影響を与えるかわかりませんから答える訳にはいきません…ー

そう答えるのを聞いて

「わかりました、その判断は私がしますから私にのみ告げなさい」

そう言われて溜め息を吐き観月に触れその想い人の名を告げた

「その姿は生前の貴女の物なんですね?成る程…確かに貴女はその男の好むタイプではありますがその男に教えてやる必要はありません

春蘭、鬼百合をこの場へ連れて来てください」

そう言われて調理場の控え室で食事を摂っている鬼百合に

「鬼百合さん、観月様がお呼びですから陛下の執務室にお越しください」

そう言われて口の中に入っていた物を飲み下してから

「わかった」

と答え翔も

「春蘭様、お湯沸いとりますけど…」

そう小さな声で言われて溜め息を吐く春蘭に

「ポットはアタイが持つが翔、お前もついてこい」

そう言われて

「こないな格好で女王様の前に出てもエエの?お父ちゃん」

そう言われて笑いながら

「みこと真琴が揃ってるしアタイも居るんだから良い子で居られるな?」

鬼百合がそう言えば

「最近とみに仲良しになった月光お兄ちゃんもいらっしゃいますからね?」

そう春蘭に言われて

「えへへ…兄ちゃん優しいしボクのボケに乗ってくれるから好きなんよっ♪」

そう答えたので飛んでついてこさせポットを持つと連れだって執務室に向かう三人が執務室に入ると

「鬼百合、早速ですけど隠し腕を分けて貰えますか?」

観月に言われて

「代わりに他の腕も使って新しい仲間を呼び出してくれるならな」

鬼百合にそう言われて

「舞姫はどうしますか?」

そう観月に問われた舞姫は暫く考えた後に

ー任せます…ー

そう答えたので

「真琴は歌姫の神玉を命は舞姫の神玉を埋め込んで…」

「残りの腕は翼お姉ちゃんとチサちゃんの魔玉を埋め込んで…」

観月の言葉を継いで命が言って鬼百合の左腕に舞姫の神玉を埋め込むと真琴ももう一本の左腕に歌姫の神玉を埋め込み二本の右腕には各々に翼とチサの魔玉を埋め込むと…

魔玉はすぐに二人の戦士を召喚したけど歌姫と舞姫は変わりきれず見兼ねた音の精が歌姫に

ー異世界から訪れし歌姫よ…私では女神の代わりにはなれませんが私の霊力を受け取りなさいー

そう告げると

ーその申し出に感謝し力を受け取りますー

そう答えて鬼百合の腕が宙に浮くとその腕に口付けを落とすと腕は発光に包まれた

ー異世界より訪れし舞姫様、水の精霊の舞姫様を導く貴女の力になりたい私をお受け入れくださいー

そう申し出ると舞姫も

ー力を持たなかった弱い私をお導き下さいさいー

そう言って歌姫同様に鬼百合の腕を浮かせると鏡の精も又舞姫と契約を交わし真琴を小さくしたような妖精の羽を持つ舞姫と命が大きくなったような天使の翼を持つ歌姫が姿を現した

共にビキニタイプの甲冑を身に纏っており歌姫は薙刀に舞姫は一対と戦舞用の扇子を持っている

「取り敢えず休ませるか?」

鬼百合のその呼び掛けに真琴も

「そうだね…、みこ、二人は任せるから僕はお母様を連れて国に帰るよ」

そう言うと

「国を出て嫁いで以来に再会する妹ともう少し話したい…そう思うのは私の我が儘ですか?」

女王がそう言うと

「夕べの埋め合わせで今夜開く美月主催のパーティーに王妃様と真琴様にご出席していただいては如何でしょうか?」

春蘭がそう言うと

「貴女達の経験以上に長い年月を離れ離れに過ごした姉妹の気持ちを全くわからぬ真琴ではありませんね?」

観月にまで言われて

「ですが僕達は霊獸と共に訪れた非公式の訪問…」

そう言い訳すると

「我が国においてその様な気遣いは無用、山賊達を一蹴に臥した大樹の英雄譚とたけと言いましたね?

怪力無双の男との力比べの話は既に国中に広まり霊獸の騎士は我が国においても既に当たり前の…憧れの存在なのですから」

そう言うと楽しそうに笑うと王妃も立ち去り難い表情を浮かべているのを見て

「滞在中男装で居る事が許されるのならお招きに預かりますが?」

溜め息を吐き答える真琴に笑いながら

「それは微妙だね、君のドレス姿を見れない男達は落胆し男装の君を見て頬を赤く染める乙女達…

どちらかには諦めて貰う他はないのだからね?」

翔と結構気の合う月光が面白そうに言うと

「面白がり屋の月光様は翔に兄ちゃんと呼ばせて翔を可愛いがってますからね」

そう春蘭も笑いながら言うと

「可愛い末っ子だからね、真琴王女が嫌で無ければだけど?」

そう言われて溜め息を吐き

「そう思われるならボクの事を王女と呼ぶのは止めてください、みこの事だってみこって呼んでるんじゃないですか?

なら僕の事は真琴で良いですし翼やチサもそう言いますよ?

翔は僕達の可愛い妹なんだからお母様と伯母様もそう扱ってあげてください…

僕達の事は五人の兄さん達もそう呼んでますからね」

そう言われて

「五人の?」

そう呟いて首を傾げる月光に

「兄の如月の海軍士官学校時代の親友の帆風と言う者で四人の兄の様に振る舞ってます」

そう言われて驚いた月光は

「その男は翔ちゃんの事は?」

そう聞かれた観月は

「いいえ、翔は間が悪く一度も会ったことは有りません…帆風は大公家の海兵隊の者で王家の海軍の者ならば王都の陸上勤務も有りますが命が大公領に立ち寄った際も海上勤務の為顔を合わせてませんから…

それにこちらを訪れる前の翔は人見知りが激しくごく一部の者にしか気を許してませんでしたからね…」

その話を聞いて

「確かに入城の際も姿を隠していましたしあまり人前にも出たがりませんでしたね…」

女王もそう言ってしんみりする空気の中

「陛下、明日のパーティーの際に夕べの騒ぎで活躍した准騎士のカンを正騎士に…

准騎士候補の者達を准騎士に昇進させ正式な認証は伯父様の花押を頂いた上で認証式を行います」

そう宣言がなされ盛り上がる中

「所で何故翔もついてきたのに姿を見せず鬼百合の背に隠れているのですか?」

そう観月に言われて

「武装状態で女王の前に出るのを申し訳無いって躊躇っているんだ…」

そう言うと振り返り翔の姿を一同に見せると

「翔、着替え無かったの?」

そう命に聞かれた翔は

 

 

 



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61話

ナニを求めて?

 

 

① 収穫祭

 

帰還後の命は慌ただしく王城近辺の集落の収穫祭に参加することになりその間に出発の準備を整えた

その慌ただしい合間を縫って芝居見物などを真琴共に過ごす二人

その一方でセレナは命から

「一度実家に戻り翔と共に旅立つか否かを考えなさい、期限は私達の出発の朝までです」

そう告げられ翔に送られその事はセレナ経由でノース達にも伝わり各々に考える事になりそして最後の祭り

翌日に控えたセレナ達の村の収穫祭を最後に侯爵領に旅立つので期限は明日の祭りが終わるまでに決めなくてはいけないのに…参考までにノース達にも聞いてみると

「翔個人についていきたい私達は命様にお仕えするわけにはいかないのだから付かず離れずの距離を保ちながら命様の一行についていきます」

そう言われたセレナは

(私には言えない…今の私には自信も覚悟も無いんだから…でも、このままお別れなんてそんなのだけは嫌だよね?)

夜が弱い翔は既に熟睡中でその寝顔を見ながら考え続けた…でも、答えは見えない…

不意に涙が溢れて声を押し殺して泣くセレナの身体にすり寄る翔の身体に腕をまわして抱き締めそのひんやりする感触感じながらいつしか眠りに落ちたセレナだった…

開墾以来初めての豊作に沸く村人に代わり真琴、命、歌姫、舞姫の競演による豊作に感謝の気持ちを捧げる踊り、地の精霊への奉納の踊り、来年の豊作を願い豊作祈願の踊りを舞い祭りが始まった

翔は得意術で加熱料理の手伝いでコードはスチーマーの応用術の大釜を発動し小枝と紗綾に準備してもらった鍋を作りその放射熱でパンケーキを焼いてもらい

二個は翔の前で発動させて使わせ自身はスーに用意してもらったホットサンドを焼きポップコーンを作りケベックの中で弾けて踊るコーンが大ウケで祭りを賑わせ…

最も人々を驚かせたのがわたあめで命を大喜びさせたので更に注目を集めた

後はコード自体は何もしないけどリンゴ飴を知らない事と自分の知識に有るリンゴに比べ酸っぱいことに気付いたのでセレナの祖父に教え試食してもらった結果…

期待外れの残念なリンゴ達にも光が当たり祭りでも人気の逸品となりあんず飴も教えたので双璧をなし巫女達の奉納の踊りを観に集まった人達の人気商品になり売り切れる迄行列は絶えなかった

若月の…ミナがデザインし月影の国で作製された服やエプロンは好評で代理店に指名した店の入荷待ち状態

そして祭りも終盤に入りコードが気を利かせ翔に

「仰山世話になったセレナと祭り見て回らんかいっ、ちゃんと巫女様達のお許しもらっとるんやからさっさと去ねっ!鬱陶しいうすらトンカチがっ…」

そう叫んで二人を店の外に追っ払い(翔に対しては実際店から蹴り出している)

「ホンマ難儀なやっちゃな…ついてきて欲しいくせに…まぁぇーか…後は二人の問題でボクには何も関係あらへんのやから…」

そう誰に聞かせるともなく呟き肩を竦めて作業に没頭する事にした

他者との不要な関わりを忌み嫌い避けて歌姫に対してさえ飼い主以上の感情を持つ事を厳に戒め歌姫と出会う前の…

スラグと呼ばれていた頃の無機質無気力な荒んでいた頃の状態に戻りつつあったコード…

良くも悪くもそれが迷いを断ち切り魔術の目覚めを促しその時は確実に近付いていたが歌姫とユカの不満を募らせていった

翔とコードの売り上げ利益は二人の収入で他には手間賃代わりに貰った炭の相当額

二人の術に対する御祝儀等も二人の収入で支出の無い二人…

主食が虫の翔と草の実が主食のコードは翔が集めて来るし体格的にも量を必要としない食費は安いと言うか自給自足どころか

衣装に無頓着な二人は与えられた物を着るだけで当然の事ながら試作品なのでタダで使い途の無い翔

更に根本的な問題なのが引きこもり気味のコードは城から出たがら無いのもユカの不満の元

そんな状態なので極端な話し王女でない翔は雫やリンに仕えたいと思う者達と同じく王女の侍女、騎士ではない為翔に直接仕える事も出来るし…

リン達が王女宮の設立迄は公女宮所属の命担当を経て王女達担当になっていたように翔の担当になれば良い

そう観月は考えていたのだけどいかんせん当人達の思い込みだけで好ましくない結論出してしまっている

そして命の前に集められた四人と翔を前に

「今答えを聞いて良いですか?それとも明日の朝まで待ちましょうか?」

命に問われた四人は

「私は王女様達が嫌いじゃありませんけど翔ちゃんの側に居たい、不器用な翔ちゃんの手伝いをしたいだけで王女様にお仕えしたい方達の様には振る舞えません」

セレナがそう答え

「私達も同様に考えますから付かず離れずの距離で翔の事を見守ります」

そう告げられ俯く翔は

「そんなんややっ!なんで側に居ってくれんの?…何で一緒に来るってゆーてくれへんのっ!?

ボクがみこお姉ちゃん一杯お手伝いするから皆にご飯食べさせたってもろて一緒に馬車乗ればエーやん?」

そう言って泣きながら四人に訴える翔を横目にコードは

「ボクかて出来る範囲で色々お手伝いしたる…ボクは彼奴で彼奴はボクやからボクに何とか出来る事やったら何とかしたるけど…

せやけどなっ…ショーミの話しホンマあんた等四人にはガッカリやわっ!所詮何の関わりもない無いボクはもう何も言わん、勝手にさらせっだぁほっがっ!」

声を荒げる事なく四人を睨み付け言いたい事だけ言って持ち場に戻って行くコードを見ながら溜め息吐いて

「全く…翔ちゃんにあんなこと言わせて情けない…

王女様達と違い翔ちゃんやコードちゃんの二人に専属で仕えるのは容易い事でひとつには王女宮ではなく魔導師の命様に仕えてもらい命様が貴女達に翔の事を任せますと言えば良いだけの話し

もう一度問います翔の側に居たい…ついてくる意思はないのですかっ!?」

そう問い詰められた四人はユカに抱かれ肩を震わせて泣く翔を見ながら

「私は…ちゃんと向き合ってませんでした…翔ちゃんが私の前から居なくなる事の重大さから目を逸らしてました…」

そう言って言葉を途切らせるセレナに翔の身体を差し出すとその身体を受け取り改めて抱き締めると

「わ、私も出来る限りのお手伝いをします…ですから私も翔ちゃんと一緒に連れて行ってください…翔ちゃんの側に居たいです…

だからこれでさよならなんて嫌すぎますっ!」

涙ながらに訴えるセレナを見て溜め息を吐いて

「待ってたんですよ?貴女のその言葉を…貴方達はも具体的な待遇はユカから聞きなさい…翔を頼みますよ?」

そう告げて王女に帰る支度を始めさせる命だった

侯爵領に向かう陣容は何故か三台の荷馬車の先頭に命と馭者のシュー幌付の荷台にはセレナ、翔、ミチ、ソウ、ノーランが乗り込みニ台目の馭者はイース三台目の馭者はウェスが務めることになり

「命様のお供…私達には無理なのでしょうか?」

一人の馭者の問い掛けに無表情に

「一見荒事と無縁そうなシュー様とイースとウェス…命様の狙いは山賊狩りですね」

質問ではなくそう言い切るノーランに笑いながら

「その通りですから三名は馭者としてではなく兵として同行をお願いしたいのですが?」

命に変わってユカがそう答えると溜め息を吐いて

「ノーランって言ったね?君が弓を得意だと翔から聞いた…破魔矢で翔を守ってほしい」

そう言って渡し三人の馭者に蒼い霊玉の短槍を渡して

「みこ達を頼みます」

そう言って頭を下げる真琴に驚き

「とんでもありません、我等の方こそその様な大任を与えていただき光栄です」

そう言って他国の王女への儀礼で返す馭者達に穏やかな笑みを浮かべ応える真琴だった

そしていよいよミナの元から巣立つ時が訪れた

「今まで甘えてばかりでゴメン、そして有難う…壊れちゃってまこちゃんに甘えられなかったみこをいつも側で見守ってくれた

春蘭…アマアマなミナお母さんのフォローするみたく厳しいお姉さんみたいだった…

大丈夫、みこや翔、コーデみたいに面倒な子なんてそうそう居ないから皆のお姉さんになって導いてあげてねっ♪

そして媛を守ってあげて…この先の鍵を握るだろう媛と翔をひとつ所には居させられないから…伯母様、月光お兄さん、瑞穂お姉さんそれに駐留組の皆、媛の事…お願いします」

そう泣き笑いで告げる命に同行する者達

「行きますよ」

そう言ってシューの手を借りて隣に腰を下ろすと馭者を務めるシューの荷馬車を先頭に一行の荷馬車は王城を出発し侯爵領に在る侯爵の居城目指し旅立った

 

商家の使用人になり済ました線の細いシューと少年達の乗る荷馬車は盗賊達には格好の獲物に見えた…が、彼らの正体に気付けぬ愚者達は次々に捕らえられ裁きを受けるその時まで翔用のアクエリアスの結果結界内に幽閉される事になった

夜遅くまで馬車を走らせ翔、セレナ、ミチが食事の仕度を担当するから強行軍も割合楽しい旅になっている

これから先はかつてミナが命、サエが翼について運命へと旅立ったように翔と共に旅立ったセレナとミチ

ミチは当面先輩の侍女としてセレナに指導させることにし命はセレナに踊りの稽古をつけていた

古関跡付近でこれまでで一番な山賊の一味が襲うタイミング測っていたが既にバレバレでまんまと誘き出されたことを知らぬ哀れな愚か者達

馬車に向け矢を放ち威嚇しながら追い掛けてくる山賊の様子を震え笑いを堪える命を勘違いしたシューの

「かなりの勢力ですがご安心ください、命様っ!」

静かに、だけど力強く宣言するのを聞いて一瞬意味がわからずキョトンとしたけど

「あぁ大丈夫、余りにも簡単に誘き出される山賊達の事を思ってたら可笑しくって笑うの我慢して身体が震えちゃってただけなんだからねっ♪」

微笑みながら言う命に

「それなら良いのですが…」

そう真剣な顔で言うものだから益々笑いが止まらない命は俯いて身体を震わせていたけど

それをシュー同様に勘違いした山賊が侮りシュー達に馬車を止めるよう恫喝してきたがされなくてもそろそろ頃合いだと思っていたシューが止まらない理由はなく後続の馬車に停車の合図を送った

停車させた馬車に近寄り

「痛い目に遭いたくなければ大人しく荷とを女達を置いていけっ!」

そう叫ぶ頭目らしき男が命の素顔を隠すフードを上げながら口笛を吹く男に

「荷は諦めるしかないがお嬢様をどうする気だ?お前達はっ!」

そうシューに問われた頭目はげひた笑いを浮かべながら

「そんな事お前達が知る必要ねえよっ」

が、その声と同時に

ー皆、一味は全部出揃ったから遠慮は要らんさかいちゃっちゃっと片してんかっ♪ー

そう陽気に言ってセレナとミチを守るようにマジックアットレーを二人の周りに展開して戦士達を見守っていた

だが所詮数だけが頼りの俄山賊達に勾玉や霊玉の力を宿した武具に選ばれし戦士に歯が立つわけもない

圧倒的な戦力差の前にほどなく鎮圧され結界内の牢獄の入り口であるに馬車に放り込まれていきそれが終わり走り出すと暫くの後に

「それ以上近づくなっ!近寄れば射つっ!」

そう威嚇する声がして警戒する命達に

「こいつは驚いた…山賊崩れにアタシ等の警告ができる知能が有るとは思わなかったぞ…

だが、アタシ等の前からさっさと消えろ、闇の狗っ!お前達にくれてやる物は何一つも持ち合わせちゃいないんだからなっ!」

そう叫び声を上げる相手に

「そうですか、別に私達も名前も存じない方に差し出されて受け取る理由はありませんしそろそろ主人様に休んでいただきたいので貴女達等に用はありませんが?」

シューが挑発的に言い返すと

「アタシ等だってあんた等にゃ用はないんだよっ!」

そう言い返しながら睨むのだけど

「どーでもえーねんけどあんた等会話成立しとらんて気ぃ付けへん?」

寝ぼけ眼の翔が呆れ気味に言えば

「翔に言われても気付いてませんから言うだけ無駄かもしれませんよ?」

そう呆れ気味に話すノーランの口調は冷めており

(ノーランの機嫌悪いのな…)

(うん、相当にね)

イースとウェスが目でそう話し合っていると

「あの…ノーラン?」

恐る恐ると、言う感じでセレナが声を掛けると

「全く…少しは落ち着きなさい、シュー様っ!」

そうノーランの注意を受け悄気るシューを他所に

「私はノーランと言う者で私達は水の精霊の巫女様と共に山賊狩りを行いながら侯爵様を訪問する者です」

そうノーランが名乗ると

「ノーラン…ってま、まさかアンタ…賢者の弟子と言われるあのノーランかっ!?」

一人が驚きの声を上げると

「えーっ、まぁ確かに私が師と仰ぐ方は賢者と呼ばれてますが私は未々未熟者に過ぎませんし…

我等の幼い主人様と私達の可愛い翔がそろそろ眠りに落ちますからお静かに願えますか?」

そう声を掛けると穏やかな声で

「そうだね、この清浄な霊気に気付けぬとは私も焼きが回ってたようだ…案内するからついてきな」

そう言われ騎馬の少女達についていくよう仲間達に指示してミチには命、セレナには翔を見守る様に指示して目を閉じ周囲の気配に気を配るノーランだった

 

「まさか他国の王女様が僅な手勢だけ率いて山賊狩りをするなんてね……」

驚くやら呆れるやら感嘆の声を漏らす女戦士に喜平が

「そーゆー方なんですよ、安全な後方で守られてるより自らが矢面に立って立ち向かう人なんだからわし等も喜んでお供するんだよ」

そう誇らしげ語る喜平の表情は自国の王女を褒め称えている騎士のそれだった

その後命の代理としてノーラン、侯爵の名代として対山賊の自衛団との話し合いとなりその結果は翌朝話し合いの結果を伝えられた命は

「翔、イースを導いて上げて…んで伯母様にお使い頼んでもいーい?」

そう言われた翔は不思議そうに

「何でみこお姉ちゃんがしーひんの?」

そう問い掛けると命は笑みを浮かべて

「絆になるから…翔とイースの…勿論ウェスやノーランの時も翔が導いて上げるんだよ」

そう告げられた翔にその意味は理解できないけどそうすべきだと言うことだけは漠然とではあるがそうなのだと思えたから

「イース、指笛吹けるんなら思いっきし響かせてんか?」

そう翔に言われて思い切り響かせると天空から一体のゼブラが現れイースの前に降り立った…まるでイースの騎乗を待つように控えるのを見て戸惑うイースに向かい

「イース、これを王城の陛下の元に頼む、翔…イースの案内を頼めますね?」

ノーランがそう告げると命も頷いたのでそれを見た翔も頷いて

「うん、えーで…任しといてやっ♪せやけどメッチャ懐かしいわ…」

そう言って照れ臭そうに笑う翔に

「そだね、海斗達にお使い頼んだ時も一緒に行ってもらったもんねっ♪」

そう言って笑う命に

「な、何で一番年下の俺なんですか?」

そう問い掛けるイースに

「さぁ?みこが決めた訳じゃないし大樹達も一番年下の海斗から選らばれたんだからそんな事気にするより息を合わせて翔を守れるようになって」

侯爵家に着くまでに総勢二百名を越える山賊達を捕らえたけど結界内の牢獄に待ち構えていたまさに獄卒長の閻魔(勿論名前の由来はあのお方から頂いてます)率いる仲間達にきっちり矯正されている為改めて罰を与える必要はないが一応形式的に侯爵の判断に委ねる事にした

早朝の訪問者に驚きながら先頭荷馬車の馭者が変装したシューである事に気付いた門番が慌てて荷馬車の入城を認め中庭で待機する命一行だけどイースと共に一足先に侯爵夫人の元に飛んだ翔を胸に抱いた夫人とその後に侯爵その人とリンと忍達が出迎えてくれた

命を出迎え謁見の間にてシューからの報告を受け閻魔を紹介すると侯爵夫人の胸に抱かれる翔を見て

「野宿の旅やったゆーたら先に風呂はいるよー言われたんやけど…」

そう命に報告する翔に

「命様は侯爵様にご報告を済ませてから行きますからミチはノーラン達に手伝ってもらいミチとセレナは翔の着替えなどを用意したら翔と一緒に入浴を済ませなさい

他の方達は侯爵様宛の荷物の引き渡しの後に休んでください」

そう告げて侯爵との会談を始めた

会談…と言うよりは伯爵家の月夜が女神の依り代となり地の精霊の巫女に仕える霊獣の騎士たけが守護者に名乗りを上げてその二人の婚約が認められ祝福された事

闇の口に関わる騒動や海の異変に山賊狩りの結果等とその対応とその後の対策をユカがまとめたレポートを元にユウに報告させ侯爵領での対策の検討を提案して報告を終えた

場所を変えお茶を飲んで一息ついてるところにりんと雪華が訪れ命を入浴に誘うが

「お風呂は未だ良い(入れば寝ちゃうから)、それよりりんちゃんは命様禁止だからね…もし今度「命様、そんな事…」前はみこちゃんって呼んでくれてたよね?りん様」

そう言われて唖然とするりんに雪華が

「今の貴女ならわかりますね?あの頃の命様の気持ちが…人魚姫や様を付けて呼ばれるの嫌っていたのかを

大海原の女神の依りとなった今の貴女も共に育った留美菜やなみにまでりん様と呼ばれて寂しいのでしょ?

ならもうみこちゃんって呼んであげなさい、勿論公の場で必要な場合は命王女と呼べば良いと思います

命様も命様より命王女の方が宜しいでしょ?」

そう問われて

「うん、その呼び方はみこが偉いんじゃなく王女の肩書きが偉いって思えるからそんで良いと思う」

命にそういわれてやっと

「うん、わかったよ…みこちゃん…だから一緒にお風呂入ろっ♪久し振りに」

納得は出来なくても今なら命の気持ちはわかる気はしてきたりんだからその気持ちに応えたいりんだったから命と一緒にお風呂に入りたい気持ちに応えて欲しいりんだった

 

夜が明けて明るくなってから領内に入ると待ち構えて居る者逹がいた

「霊獣の騎士大樹様、お待ちしておりました」

どうやら村長らしき人物が口を開き人質にされていた少女が両親と共に近寄ってきた

「やぁ、君はあの時の娘だね…最近山賊が増えたと聞いていたから昨日命様が山賊狩りを行ったのだけど…」

あれから悪い事は起こって無いかい?」

と優しく聞くと

「いいえ、悪い事は起こってませんが毎日が不安で仕方有りません…」

と不安を訴えた

「そうか…ヴェル済まないが命様の従者の皆様を侯爵様の元へ案内してはくれないかな?」

と言うと

「大樹様っ!」

叫び声を上げるヴェルサンディを苦笑いで宥めながら

「村長、対策を父に立てさせる間騎士の大樹様とヴェルを置いて行きますが宜しいでしょうか?」

と申し出ると

「私達は構わないどころか恩人である大樹様とヴェルサンディー様に滞在していただけるのなら皆が喜んでお迎えしましょう」

興奮気味に話す村長に

「それならヴェルも構わないよね?

着替えとかの荷物は後で持たせるから」

とスクルドが言うと

「ではその役目は私が引き受けましょう」

と引き受けたライラに

「有難うライラさん

ヴェル、要る物が有るなら持って来てもらいますが?」

と言われ

「いえ、特に有りません」

と答えると

「わかりました、大樹様…ヴェルの事お願いします」

と言われて

「うん、侯爵様に宜しく伝えて下さい」

 

 

「そう言った訳で取り敢えず大樹様とヴェルを残して来ましたので後の事はお父様にお任せします」

そう報告の言葉を結ぶスクルドに

「ひとつだけ良いか?」

父の問い掛けに

「私の知っている範囲ならば…」

「媛歌様と同じように羽を持つあの歌姫と舞姫と名乗る二人はは何者なのだ?」

と聞かれ

「音の精と鏡の巫女と聞いているのみです」

としか聞かされてないのでそう答えると

「では、命様の従者の精霊の巫女の一人として扱えばよいのだな?」

と、問うと

「事実そうなのですからそれで構わないと思います

後他に無いようでしたらヴェルの着替えを用意して騎士のライラさんに持たせたいので宜しいでしょうか?」

この話題の終わりを告げられ

「ああ、済まなかった…宜しく頼む」

ユウが命に

「近々美月主催で大海原の女神の依り代のりん様お披露目パーティーを開く予定ですが命様のご意見は?」

特に何も無いから

「みこには無いからユウに任せるよ

大樹の事は取り敢えず明日にでもに後任を任せてはと思うけど…

たけは地属性の騎士…地の精霊の巫女の騎士なのだから忍お姉さんの判断に任せるべきかも…」

と言うと

「たけ、行ってくれますか?」

と言われ

「忍様が俺の誓いを受け入れてくれるのならお命じ下されば良いのです」

たけの誓いを受け入れ

「たけ、大樹に代わり侯爵様のお手伝いお願いします」

忍にそう言われて

「はい、我が誓いに掛けてお引き受け致します」

と応えたたけの事を

「ユウ、たけも正騎士に昇格したからね」

と報告する命に

「命様、明日りん様は侯爵様と豊作祈願祭に行かれますが命様はどうされますか?」

言われて

「みこは邪魔にならないの?」

と聞くと

「そんな事無い、久し振りにみこちゃんと踊りたいし指導もして欲しい」

そう聞いて

「うん、でもそれだけなら後で練習みてあげるよ?

みこも新しい踊りをお稽古中だから」

と言われ

「同じ舞台で踊りたいのっ!」

と怒って言うりんに

「そうなの?」

と聞くと

「私達だって命様と一緒に踊りたいのです

そうですよね?忍様」

と振られた忍は

「私や雪華は貴女と踊った事が殆ど無いのだから…」

と答えた

「解ったよ…じゃ代わりにりんちゃんに覚えて欲しい事が有るんだけど」

と言われ

「それは…私に出来る事なのでしょうか?」

と聞くと

「りんちゃんもすべき事だよ」

と言われて

「解りました、お導き下さい…」

と答えた

「じゃあ…食事の後で貴女を慕って集まった子逹に会わせてね」

と話していると

「みこちゃん…それは私もいつかすべき事ですか?」

と聞くと

「その一人だよ」

「命様、我々はそれに立ち会わせて頂くわけにはいかないのだろうか?」

と問われ

「大丈夫だよ、雪華の時は伯母様…女王様が立ち会ったんだからりんちゃんを見守ってね

りんちゃん来て

「りんちゃんのお友達のみこだよ、皆よろしくね」

とあっさりした挨拶に驚いていると

「りんちゃんの試練の為に皆の力が必要なんだけど…応援してくれるよね?」

 

 

 

 

「②花の娘とコーデ

 

―おい、そこの駄鳥擬き…駄鳥はどこ行ったんだ?―

その失礼きわまりない呼び掛けに反応したのは歌姫で

「いきなりなんですか?失礼な…姿を表しなさい、何様のつもりなんですか?」

そう声を上げると

―あんたにゃ関係無いが駄鳥は私を馬花の娘呼び他の者達は花の娘と呼ぶ者だが私は私自身を知らぬゆえそうとしか言えぬ…

で、駄鳥はどこに行ったんだ?折角彼奴が好みそうな手土産を持ってきてやったものを…

まぁ良いのだが…擬き、駄鳥に会ったら渡しとけ…もう帰る、否…もう行くと言うべきか?まぁバカと言われてる私にはどうでも良いのだが…―

そう言って思考の中断した花の娘がコードに向かい

―お前にもこれをくるてやる…―

そう言って何かの詰まった袋を渡すと姿を現すことなくその気配は消え

(アレ、一体なんやったんやろ?)

誰に聞けばいいのかわからないコードだけど実のところ認知度の低い花の娘の存在を知る者は少なく既にミナと春蘭も側に居ない現状では直接花の娘を知る者は皆無だがコードにはそれすらも知らない事だった

首都を出発後合流した大樹とヴェルサンディと共に侯爵領を目指す一行は宿泊先の街の盛大な歓迎で迎れながら侯爵領を

目指した

れた

が…コードは勿論歌姫、舞姫が目立つことを厭い裏に引っ込んでしまい気配すら消してしまいスクルドは頭を抱える事になった

そして一行が訪れた古関近くの村での事…村の入り口で村人達が待ち構えていて

「皆様のご到着をお待ちしておりました」

 

 



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バーサーカーアーマーと守護者の鎧

水の精霊の舞姫の悪い癖、人が持っている物を欲しがります


 「うん、その…調理場のお手伝いするのに動き回るんには案配エエから思て終わったら着替えたほうがえーやんか?って…」

 

 そう答えたので

 

 「アタイは全然問題無いと言ったんだが…所で翔よ、鬼蓮のとはちょいと違うが同じ物の様だが未だその勾玉は残ってるのか?」

 

 そう聞かれた翔は

 

 「そん人のはバーサーカーの勾玉やね、観月様が一個変わったのが欲しいゆーたから渡したんよ

 

 ガーディアンの霊玉とバーサーカーの勾玉は二個ずつしかなくてガーディアンはボクとみこお姉ちゃんがつこて…

 

 後は、バーサーカーならもうもう一個有るけどどないするん?」

 

 そう聞くと

 

 「アタイもそいつが欲しいからみこ、頼めるな?

 

 そう笑って言うと

 

 「残りの手足もいつものように?」

 

 そう聞くと

 

 「ああ、頼む」

答えたので

 

 「うん…でも今日は春蘭にやってもらうね、春蘭もアイテム錬成出来る様になった方が良いからね」

話を聞いていた真琴が

 

 「翔、その勾玉はもう錬成しないの?」

そう聞かれた翔は

 

 「ん~っ、あの勾玉と霊玉はボクの力だけで出来るんちゃうんよ

 

 まこお兄ちゃんも知っとるやろか?侯爵様んとこのキラービー騒ぎ

 

 結構大規模な侵攻やったから巣ごと退治せなアカン思て蜂の子大好きなボクは誉められて心苦しかったんやけど…

 

 あれは、みこお姉ちゃんの勾玉と霊玉がある程度の規模のキラービーの巣を守るガーディアンズとバーサーカー達を取り込んで生まれた勾玉と霊玉やから…

欲しいからユーていつでも作れるもんちゃうんよ…残念やけど」

 

 そう言われて溜め息を吐き

 

 「仕方無い、当分諦めるけどキラービーが現れたら翔を呼ぶから任せて良いのかな?」

 

 そう真琴に言われて嬉しそうな顔で

 

 「うん、さっきもゆーたけど蜂の子欲しいから呼んだってくれたら嬉しいし蜂の巣の駆除は得意やねんから任しといてっ♪」

 

 そう得意気に胸を反らして言う翔を見ながら笑顔で見守る一同だったが

 

 「甲冑は無理でもみこや貴女が持つ羽を模した飾りの着いた衣装の羽で翔ぶことは出来ませんか?」

 

 その観月の問い掛けに

 

 「それは面白い発想力だな?夕べの騒ぎで翔が魔力を奪った竜魔鬼と風蜥蜴は共に風属性の飛行能力を持つ者達…

 

 公女の言われる事を試すには丁度良い勾玉が手に入ったが衣装はあるのか?」

 

 魔女の命にそう言われてミナが

 

 「こちらに」

 

 そう言って差し出したのは、翔はフェアリーと命の水の妖精で受け取った魔女の命がその羽の中央に押し付けると勾玉の魔力が羽に行き渡り

 

 「済まないが王太子には暫し席を外してもらいたいのだが?今から私と翔が着替えるゆえな」

 

 そう言ってニヤリと笑う命に溜め息を吐き

 

 「んんんっ」

 

 瑞穂の咳払いで我に返り

 

 「あっ、す、済まない… 気が利かなくて申し訳無い」

 

 そう言って出ていくのを見て

命はミナ、翔は呼ばれたセレナが用意下肌着を持って現れ着替えを手伝い着替えの最中に入れ替わり意識を取り戻したみこと翔の二人が試着する事になった

 

 朝の魔鎧の稽古である程度のコツを掴めていた二人にはゆっくり翔ぶくらいなら造作も無いことだったから

 

 「明日の朝の修行でこれも修行しないとねっ♪」

 

 そう笑って翔に話し掛ける命を見ながら

 

 「ミナ、取り敢えず真琴、翼、チサの分の水の妖精を作りなさい

 

 真琴も取り敢え当面はずそれで我慢しなさい」

そう言われた真琴が苦笑いしていると

 

 「観月様が本当の間に合わせで良いと仰るのなら飾り羽を作り縫い付けても差し支えない服に縫い合わせてはみては如何でしょうか?」

 

 それとその系統の服のデザインは御法さんが得意でしたからそう言った服の原画を預からせ頂ければ真琴様や命様、翼様とチサ様に翔ちゃんの分を作製とサイズ別の型紙を用意を致しますが?」

 

 その以前のミナからは想像のつかない積極的な発言に驚いていると

 

 「やはり差し出がましい口を利いてしまったのでしょうか?」

 

 そう言って悄気るミナに

 

 「いいえ、逆です…以前の貴女からは想像つかない成長に驚いただけですし、貴女の提示した二案は私も思い至りませんでしたが成る程と思いました

 

 貴女もこれから色々忙しくなりますが…頼みますよ、ミナ」

 

 そう言った観月の顔はミナの成長を心の底から喜んでいたが執務室の戸が叩かれて

 

 「食事の支度が整ったと知らせが来ましたが?」

 

 そう言われて追い出していた月光の事をすっかり忘れていた一同は笑いながら

 

 「みこと翔はそのままで良いですね?」

 

 そう女王に言われて翔と顔を見合わせて

 

 「えっ、と…あのエプロンはダメ?」

 

 そう命が聞くと

 

 「食べる時に着ければ良いです」

 

 そう言われてホッとした二人

 

 その二人が宙を舞い食堂に向かうのを見て見惚れ、真琴の騎士姿にうっとりして見詰める侍女達を見て苦笑いを浮かべる女王だった

 

 少し遅れた朝食の席で相変わらずミナに世話される命と、美輝に世話させる媛歌に新たに加わった翔の世話をするセレナ

 

 食事のが終わり、後片付けの手伝いを終えたセレナは見習い侍女達と勉強に参加し

 

 翔は保存食用に干物や薫製作りに、ビスケットや乾パンを焼いて一日を過ごし女王と王妃と観月は今後の予定を話し合い真琴は騎士達を鍛えていた

 

 朝食を済ませ手伝いを終えたセレナは真琴に踊りを習い

 

 翔は取り敢えず歌姫と舞姫の様子を見に行くとぼんやりとしていたけど二人とも目を覚ましていたので観月に報告

 

 調理場の手伝いに戻り冷たい水を用意して二人の元に届けて貰った

 

 二人の元には観月に王妃と女王が訪れると五人の話し合いがなされ

 

 「差し支えなければ貴女達の話を聞かせて下さい」

 

 観月にそう言われ戸惑う舞姫の頭を撫でながら

 

 「お久し振り…と、そう言って良いのでしょうか?

 

 観月さんとおば様方…私達の両親は皆様のご推察の通り最後の祭司長と呼ばれる父とこの世界では最後の舞姫と呼ばれる咲夜…貴女方の従妹です…」

 

 「そして貴女が観月を観月さんと呼んだのはあの児の父親が如月なのだから…ですね?」

 

 そう王妃に言われて

 

 「その通りで私にとり如月様は初恋の人で幼い頃夢見た王子様…

 

 私とお腹にいた弥生の命を擲い守ってくださった如月様には弥生を見せることが出来ませんでした…」

 

 力無く項垂れる歌姫に

 

 「如月に会いたいですか?」

 

 観月にそう聞かれた歌姫は

 

 「はい、お会いしたい…私が恋し弥生の父親である如月様にもう一度お会いしたい…それは決して叶わぬ願いでしょうが…」

 

 そう言って自嘲気味に笑う歌姫に

 

 「取り敢えずその弥生ですが幸い乳を与えてくれる者に馴染んでいるようですからその者を乳母にし私が預かりますが?

 

 咲夜の娘である貴女の娘ならば垢の他人ではありませんからね」

 

 そう言われて

 

 「多分生前より若返っている今の私には乳を与える事は出来ませんし私のみこ…舞姫と共に人魚姫に仕えるべき私が連れ歩く訳にもいきませんから宜しくお願いします…」

 

 そう言って頭を下げる歌姫に倣い頭を下げ舞姫は頭を上げると

「私は精霊の巫女としての修行と人魚姫に踊りを教えこの世界の舞の女神の依り代目指してもらいますし私自身も精霊の巫女でなかった頃には習得出来なかった踊りに挑みます」

そう言って口をつぐむ舞姫

戸を叩く音がし控えめな声で

「あ、あのぉーっ…翔やけど入ってもエーですか?アカンかったらお二人さんに渡してほしいもん渡してもろたらそんでもえーんですけど…」

そう言われて観月が

「入れても良いですか?」

そう問われた二人は

「あの娘なら構いません…舞姫も良いですね?」

そう歌姫に言われて頷いたので戸を開けて

「入りなさい」

そう言って招き入れられた槍と一緒に入って来た翔は二人の前に着くとポテッと床に落ち両手を着いて

「あん時はえろー失礼いたしました…これつまらんもんやけどお詫びにもろて欲しいんですけど…」

そう言って手渡された手提げを受け取り改めて見る翔の顔や手足の至る所に引っ掻き傷…パッと見でわかるほどの深い傷がある事に気付き溜め息を吐いた舞姫が

「観月様、傷薬をお願いします…」

そう言うのを聞いて焦った翔が

「こん位唾つけとけば平気やから…舞姫様にそないな事さしたら罰当たりますよってボクの事なんか気にせんでエーですから…」

そう言われて

「黙りなさいっ!薬師である私が目の前に居る怪我人を放っておけるわけ有りませんっ!大人しく治療を受けなさいっ!」

その舞姫の気迫に恐れをなした翔が頭を抱え涙をポロポロ溢しながら

「堪忍したって下さい…ちゃんと大人しゅうえー子にしとりますからそない怒らんでもえーやないですか…」

そう言って震える翔の背中を撫でながら

「貴女が嫌いで言ってる訳じゃないのですからもっと聞き分けなさい、貴女に何かあったら…そう思ったら貴女のお友達だって悲しいのですよ?」

そう言われて力無く頷く翔に観月から受け取った傷薬で手当てをすると

「私達も貴女同様に人魚姫様にお仕えする者なのだから変な遠慮は要りませんよ」

そう言われても

「せ、せやけど…」

そう言って口ごもる翔に

「なら私達の事もお姉ちゃんと呼びなさい…王女達の事をお姉ちゃん、そう呼んでいるのでしょ?」

舞姫にそう言われて

「えと…そんなら舞姫お姉ちゃんと歌姫お姉ちゃん?」

そう照れ臭そうに名前を呼んでみると歌姫も翔の頭を撫でてくれるのを見て

「えへへ…」

そう照れ笑いする翔だった

その後訪れたのはミナで戸を叩き入室許可を得て

「観月様、歌姫様と舞姫様のお二方の衣装を急ぎ仕立てましたが?」

そう言われて見せられた服はワンショルダーワンピースとホルターネックのワンピースで

「シンプルだとは言え随分早い仕上がりですね?」

そう言われて

「はい、作り方を一工夫しまして…一枚布を使用していますしフリーサイズ仕様になっていますから…

お二人の体調が宜しく陛下のお許しを得られましたらそれをお召しになっていただき昼食をご一緒にと思いまして即席で拵えました」

そう言われて

「媛歌にも麦のワッペンで飾りを付けて作り当然若月でも出しましょう…いいえ、おば様…お国の服飾業者に頼みこちらでも生産販売を開始しても宜しいでしょうか?

その際ミナを若月支店の責任者にして勿論春蘭達にも手伝ってもらいますが?」

そう尋ねられた女王が

「それは巫女達がこの地に腰を据えて我が国に残ってくれるのですか?」

そう嬉しそうに聞かれ

「取り敢えずその方向で人事調整しますがミナは引き受けてくれますね?」

そう言われて一瞬寂しそうな表情を浮かべたが気持ちを切り替え

「承知しました、陛下と観月様のご期待に沿えますよう精進致します」

淀み無くそう答えるミナを見て

(これを機にみこ離れができれば良いのですが…)

そう思いこっそり溜め息を吐くとミナの手伝いで着替えを終えた二人の姿を見た女王が喜び

「早速お昼から食事を共になさい

それとミナ、二人の今夜のドレス期待してますよ」

そう誉められ

「お誉めに預かり光栄です、それでは私は作業に戻りますのでこれにて失礼致します」

そう言って退出しようとするのを見た翔も

「ほたらボクもお昼の支度お手伝いに行きますよって失礼します」

そう言ってミナ共に退出していった

 

昼食に招かれた舞姫が

「何故翔ちゃんは同席しないのですか?」

その疑問を口にすると

「私達は同席して欲しいのですけど本人が調理場の仕事が残っとるからと言い訳してこういった場に来るのを嫌がり頭を痛めてます」

そうあが言うと

 

「うん、その…調理場のお手伝いするのに動き回るんには案配エエから思て終わったら着替えたほうがえーやんか?って…」

そう答えたので

「アタイは全然問題無いと言ったんだが…所で翔よ、鬼蓮のとはちょいと違うが同じ物の様だが未だその勾玉は残ってるのか?」

そう聞かれた翔は

「そん人のはバーサーカーの勾玉やね、観月様が一個変わったのが欲しいゆーたから渡したんよ

ガーディアンの霊玉とバーサーカーの勾玉は二個ずつしかなくてガーディアンはボクとみこお姉ちゃんがつこて…

後はバーサーカーならもうもう一個有るけどどないするん?」

そう聞くと

「アタイもそいつが欲しいからみこ、頼めるな?

そう笑って言うと

「残りの手足もいつものように?」

そう聞くと

「ああ、頼む」

答えたので

「うん…でも今日は春蘭にやってもらうね、春蘭もアイテム錬成出来る様になった方が良いからね」

話を聞いていた真琴が

「翔、その勾玉はもう錬成しないの?」

そう聞かれた翔は

「ん~っ、あの勾玉と霊玉はボクの力だけで出来るんちゃうんよ

まこお兄ちゃんも知っとるやろか?侯爵様んとこのキラービー騒ぎ

結構大規模な侵攻やったから巣ごと退治せなアカン思て蜂の子大好きなボクは誉められて心苦しかったんやけど…

あれはみこお姉ちゃんの勾玉と霊玉がある程度の規模のキラービーの巣を守るガーディアンズとバーサーカー達を取り込んで生まれた勾玉と霊玉やから…

欲しいからユーていつでも作れるもんちゃうんよ…残念やけど」

そう言われて溜め息を吐き

「仕方無い、当分諦めるけどキラービーが現れたら翔を呼ぶから任せて良いのかな?」

そう真琴に言われて嬉しそうな顔で

「うん、さっきもゆーたけど蜂の子欲しいから呼んだってくれたら嬉しいし蜂の巣の駆除は得意やねんから任しといてっ♪」

そう得意気に胸を反らして言う翔を見ながら笑顔で見守る一同だったが

「甲冑は無理でもみこや貴女が持つ羽を模した飾りの着いた衣装の羽で翔ぶことは出来ませんか?」

その観月の問い掛けに

「それは面白い発想力だな?夕べの騒ぎで翔が魔力を奪った竜魔鬼と風蜥蜴は共に風属性の飛行能力を持つ者達…

公女の言われる事を試すには丁度良い勾玉が手に入ったが衣装はあるのか?」

魔女の命にそう言われてミナが

「こちらに」

そう言って差し出したのは翔はフェアリーと命の水の妖精で受け取った魔女の命がその羽の中央に押し付けると勾玉の魔力が羽に行き渡り

「済まないが王太子には暫し席を外してもらいたいのだが?今から私と翔が着替えるゆえな」

そう言ってニヤリと笑う命に溜め息を吐き

「んんんっ」

瑞穂の咳払いで我に返り

「あっ、す、済まない… 気が利かなくて申し訳無い」

そう言って出ていくのを見て

命はミナ、翔は呼ばれたセレナが用意下肌着を持って現れ着替えを手伝い着替えの最中に入れ替わり意識を取り戻したみこと翔の二人が試着する事になった

朝の魔鎧の稽古である程度のコツを掴めていた二人にはゆっくり翔ぶくらいなら造作も無いことだったから

「明日の朝の修行でこれも修行しないとねっ♪」

そう笑って翔に話し掛ける命を見ながら

「ミナ、取り敢えず真琴、翼、チサの分の水の妖精を作りなさい

真琴も取り敢え当面はずそれで我慢しなさい」

そう言われた真琴が苦笑いしていると

「観月様が本当の間に合わせで良いと仰るのなら飾り羽を作り縫い付けても差し支えない服に縫い合わせてはみては如何でしょうか?」

それとその系統の服のデザインは御法さんが得意でしたからそう言った服の原画を預からせ頂ければ真琴様や命様、翼様とチサ様に翔ちゃんの分を作製とサイズ別の型紙を用意を致しますが?」

その以前のミナからは想像のつかない積極的な発言に驚いていると

「やはり差し出がましい口を利いてしまったのでしょうか?」

そう言って悄気るミナに

「いいえ、逆です…以前の貴女からは想像つかない成長に驚いただけですし貴女の提示した二案は私も思い至りませんでしたが成る程と思いました

貴女もこれから色々忙しくなりますが頼みますよ、ミナ」

そう言った観月の顔はミナの成長を心の底から喜んでいたが執務室の戸が叩かれて

「食事の支度が整ったと知らせが来ましたが?」

そう言われて追い出していた月光の事をすっかり忘れていた一同は笑いながら

「みこと翔はそのままで良いですね?」

そう女王に言われて翔と顔を見合わせて

「えっ、と…あのエプロンはダメ?」

そう命が聞くと

「食べる時に着ければ良いです」

そう言われてホッとした二人

その二人が宙を舞い食堂に向かうのを見て見惚れ、真琴の騎士姿にうっとりして見詰める侍女達を見て苦笑いを浮かべる女王だった

少し遅れた朝食の席で相変わらずミナに世話される命と美輝に世話させる媛歌に新たに加わった翔の世話をするセレナ

食事のが終わり後片付けの手伝いを終えたセレナは見習い侍女達と勉強に参加し

翔は保存食用に干物や薫製作りにビスケットや乾パンを焼いて一日を過ごし女王と王妃と観月は今後の予定を話し合い真琴は騎士達を鍛えていた

朝食を済ませ手伝いを終えたセレナは真琴に踊りを習い

翔は取り敢えず歌姫と舞姫の様子を見に行くとぼんやりとしていたけど二人とも目を覚ましていたので観月に報告

調理場の手伝いに戻り冷たい水を用意して二人の元に届けて貰った

二人の元には観月に王妃と女王が訪れると五人の話し合いがなされ

「差し支えなければ貴女達の話を聞かせて下さい」

観月にそう言われ戸惑う舞姫の頭を撫でながら

「お久し振り…と、そう言って良いのでしょうか?

観月さんとおば様方…私達の両親は皆様のご推察の通り最後の祭司長と呼ばれる父とこの世界では最後の舞姫と呼ばれる咲夜…貴女方の従妹です…」

「そして貴女が観月を観月さんと呼んだのはあの児の父親が如月なのだから…ですね?」

そう王妃に言われて

「その通りで私にとり如月様は初恋の人で幼い頃夢見た王子様…

私とお腹にいた弥生の命を擲い守ってくださった如月様には弥生を見せることが出来ませんでした…」

力無く項垂れる歌姫に

「如月に会いたいですか?」

観月にそう聞かれた歌姫は

「はい、お会いしたい…私が恋し弥生の父親である如月様にお会いしたい…叶わぬ願いでしょうが…」

そう言って自嘲気味に笑う歌姫に

「取り敢えずその弥生ですが幸い乳を与えてくれる者に馴染んでいるようですからその者を乳母にし私が預かりますが?

咲夜の娘である貴女の娘ならば垢の他人ではありませんからね」

そう言われて

「多分生前より若返っている今の私には乳を与える事は出来ませんし私のみこ…舞姫と共に人魚姫に仕えるべき私が連れ歩く訳にもいきませんから宜しくお願いします…」

そう言って頭を下げる歌姫に倣い頭を下げ舞姫は頭を上げると

「私は精霊の巫女としての修行と人魚姫に踊りを教えこの世界の舞の女神の依り代目指してもらいますし私自身も精霊の巫女でなかった頃には習得出来なかった踊りに挑みます」

そう言って口をつぐむ舞姫

戸を叩く音がし控えめな声で

「あ、あのぉーっ…翔やけど入ってもエーですか?アカンかったらお二人さんに渡してほしいもん渡してもろたらそんでもえーんですけど…」

そう言われて観月が

「入れても良いですか?」

そう問われた二人は

「あの娘なら構いません…舞姫も良いですね?」

そう歌姫に言われて頷いたので戸を開けて

「入りなさい」

そう言って招き入れられた槍と一緒に入って来た翔は二人の前に着くとポテッと床に落ち両手を着いて

「あん時はえろー失礼いたしました…これつまらんもんやけどお詫びにもろて欲しいんですけど…」

そう言って手渡された手提げを受け取り改めて見る翔の顔や手足の至る所に引っ掻き傷…パッと見でわかるほどの深い傷がある事に気付き溜め息を吐いた舞姫が

「観月様、傷薬をお願いします…」

そう言うのを聞いて焦った翔が

「こん位唾つけとけば平気やから…舞姫様にそないな事さしたら罰当たりますよってボクの事なんか気にせんでエーですから…」

そう言われて

「黙りなさいっ!薬師である私が目の前に居る怪我人を放っておけるわけ有りませんっ!大人しく治療を受けなさいっ!」

その舞姫の気迫に恐れをなした翔が頭を抱え涙をポロポロ溢しながら

「堪忍したって下さい…ちゃんと大人しゅうえー子にしとりますからそない怒らんでもえーやないですか…」

そう言って震える翔の背中を撫でながら

「貴女が嫌いで言ってる訳じゃないのですからもっと聞き分けなさい、貴女に何かあったら…そう思ったら貴女のお友達だって悲しいのですよ?」

そう言われて力無く頷く翔に観月から受け取った傷薬で手当てをすると

「私達も貴女同様に人魚姫様にお仕えする者なのだから変な遠慮は要りませんよ」

そう言われても

「せ、せやけど…」

そう言って口ごもる翔に

「なら私達の事もお姉ちゃんと呼びなさい…王女達の事をお姉ちゃん、そう呼んでいるのでしょ?」

舞姫にそう言われて

「えと…そんなら舞姫お姉ちゃんと歌姫お姉ちゃん?」

そう照れ臭そうに名前を呼んでみると歌姫も翔の頭を撫でてくれるのを見て

「えへへ…」

そう照れ笑いする翔だった

その後訪れたのはミナで戸を叩き入室許可を得て

「観月様、歌姫様と舞姫様のお二方の衣装を急ぎ仕立てましたが?」

そう言われて見せられた服はワンショルダーワンピースとホルターネックのワンピースで

「シンプルだとは言え随分早い仕上がりですね?」

そう言われて

「はい、作り方を一工夫しまして…一枚布を使用していますしフリーサイズ仕様になっていますから…

お二人の体調が宜しく陛下のお許しを得られましたらそれをお召しになっていただき昼食をご一緒にと思いまして即席で拵えました」

そう言われて

「媛歌にも麦のワッペンで飾りを付けて作り当然若月でも出しましょう…いいえ、おば様…お国の服飾業者に頼みこちらでも生産販売を開始しても宜しいでしょうか?

その際ミナを若月支店の責任者にして勿論春蘭達にも手伝ってもらいますが?」

そう尋ねられた女王が

「それは巫女達がこの地に腰を据えて我が国に残ってくれるのですか?」

そう嬉しそうに聞かれ

「取り敢えずその方向で人事調整しますがミナは引き受けてくれますね?」

そう言われて一瞬寂しそうな表情を浮かべたが気持ちを切り替え

「承知しました、陛下と観月様のご期待に沿えますよう精進致します」

淀み無くそう答えるミナを見て

(これを機にみこ離れができれば良いのですが…)

そう思いこっそり溜め息を吐くとミナの手伝いで着替えを終えた二人の姿を見た女王が喜び

「早速お昼から食事を共になさい

それとミナ、二人の今夜のドレス期待してますよ」

そう誉められ

「お誉めに預かり光栄です、それでは私は作業に戻りますのでこれにて失礼致します」

そう言って退出しようとするのを見た翔も

「ほたらボクもお昼の支度お手伝いに行きますよって失礼します」

そう言ってミナ共に退出していった

 

昼食に招かれた舞姫が

「何故翔ちゃんは同席しないのですか?」

その疑問を口にすると

「私達は同席して欲しいのですけど本人が調理場の仕事が残っとるからと言い訳してこういった場に来るのを嫌がり頭を痛めてます」

そう女王が言うと



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63話

「月影の国の女王陛下ですね?我々は水の精霊の浄化の霊気により闇の支配から脱した者にしてその霊玉の力の恩恵を授かりし者故に水の精霊の巫女様に忠誠を誓いの受け取りを望む者

 

 そんな我等に巫女様が命じ、陛下が我ら受け入れて下さるなら国防の一端を担わせて頂く所存だがどうでろうか?」

 

 他国の王族に対する礼を取る四人に

 

 「 あ、あの…取り敢えず皆を呼び出したんはボクなんやけど? 」

そう言って控え目に抗議したのだけど

 

 「 煩いっ、ガキは黙ってろっ! 」

 

 そう言って一人が睨むと、他の三人にも無言で睨まれ怯えた翔はセレナの背中に隠れて泣いていたけど少しだけ穏やかな表情になり

 

 「 案ずるな… 水の精霊の巫女様が妹の様に扱うお前が後方で大人しくしている分には主の妹御としてバーサーカートと共に守ってやる

 

 いずれお前の出番が来るその時まではな… 」

そう呟いたけど感情の起伏の激しい今の翔の耳には届いていなかった

 

 命はガーディアンズの誓いを受け入れ女王も四人を受け入れたので命も四人の為霊獣イヴーチを呼び出し四人を主人として受け入れた

 

 「当面は首都近郊の海と伯爵領唯一の港を二人一組で守る故にシーホースの騎士を中心に戦力を増強していただきたい」

そう言われて

「うん、だけど…まこちゃん、四人の名前考えて欲しいんだけどな?」

そう命に言われた真琴は四人を見て多聞天、広目天、増長天、持国天と名付け「うん、だけど…まこちゃん、四人の名前考えて欲しいんだけどな?」

そう命に言われた真琴は四人を見て多聞天、広目天、増長天、持国天と名付け

「みこの守護者の君達四人に相応しい名前だと思うけどどうかな?」

そう言われて多聞天が

「名前負け等と言われぬよう精進しましょう、光の精霊の巫女よ」

そう答える四人に

「あ、あんな…これ、持ってって欲しいんやけど…」

そう言って四人の前に一人10本の蒼い霊玉のアットレーが姿を現して指示待ち状態で待機させると

「お前は良いのか?」

多聞天にそう一言聞かれた翔は

「うん、ボクの方は元々数増やしたかったからまこお兄ちゃんとみこお姉ちゃんに又作って貰うつもりやったから気にせんでえーよ

それで女王様や月光兄ちゃん…伯爵様ンたぁ守ってくれるのに役立つんやったらボクの方も嬉しいんやから」

そう言って笑う翔に

「わかった、そう言う話なら感謝すると共に有り難く受け取り力を貸してもらう事にしよう」

そう言って四人は二人一組に分かれアットレーを従えると各々に姿を消した

今目の前で起きた不思議な物語を見て呆然とする人々に向かい

「何ボーッとしとるンよ?料理、焦げ臭なってきとるで?」

そう言って顔をしかめる翔の言葉に月光が笑いながら

「翔の言う通りだね、折角の料理が食べれなくなる前に食べさせてもらえると嬉しいのだが?」

そう言われて慌てて自分が焼いていたちゃんちゃん焼きを器に盛ると熱々のそれを渡し受け取った月光が息を吹き掛け焼きたてのそれを頬張り

「うん、美味しいね」

そう言って微笑むと頬を上気させて喜ぶ紗綾の母親

「あぁ、全くだ…こいつは酒が進みすぎる旨さだぜ」

そう言って酒を煽る鬼百合に呆れた観月が

「全く…口煩い女房が居ないからと言って羽目を外しすぎないように…」

そう言われて苦笑いを浮かべる鬼百合と翔を見て首を傾げ

(変ですね?こんな時に翔がツッコミを入れないなど体調でも悪いとでも言うのですか?)

そう思っているとあきが

「観月様、実は…」

そう小声で伯爵家の孫達とピクニックに行った時の一幕を話して

「…そう言った事情が有りますから口をつぐんでるんだと思います…

又調子に乗って喋ってるのをユウ様に聞かれてお尻を叩かれたく無いのでしょうから…」

そう言われて更に深い溜め息のでる観月だった

翔、命、媛歌が眠りに落ち帰り支度をしている春蘭に紗綾の母親が

「私の娘達が王女様達にお仕えしたいと願った様に私の知り合いの娘が人魚媛の澪様のお力になりたい、そう申しておりますが…」

そう言われて観月を見ると

「大海原の女神の依り代となったリンの元にも人が集まり始め侯爵様の家人の協力を得て受け入れを始めました」

そう言って頷くシューを見て

「私自身多くの方の力をお借りしているのですから私より幼く経験の浅い巫女達が力を貸して下さる方が必要なのはおわかりですね?

待ち合わせ場所は漁港が近ければ毎朝踊りを奉納に来てますからそれに合わせ荷物を持たせて来ていただけれは良いですがそうでない知り合いの方の場合は…

あき、馭者を務めて下さる方に同席いただいて都合の良い場所を決めなさい」

そう言われて澪専属の馭者を務める矢治を見ると

「勿論喜んでお引き受けします」

そう答える矢治の顔は本当に嬉しそうで同僚の馭者達も矢治の身体を心配ではなく

「たまには俺達と代われっ!」

と、言う理由から休みを進めるが元々飲めない訳ではないが然程酒が好きでない矢治にとり早朝勤務を理由に酒の誘いを断り

女王に願い出て澪達の送り迎え以外の任務解除の日を設けてもらっているので取り敢えず休暇は必要無かった

 

王城に戻り女王、王妃、真琴、鬼百合が集まり

「真琴、明日から暫く伯爵家に行って欲しいんだが…」

鬼百合が言いにくそうにそう言って王妃に一枚の紙を渡しそれを見る王妃に

「ユウの奴が勝手にその絵の衣装を真琴様にと依頼しちまいやがった

しかも王妃に真琴の訪問要請もすると…」

「真琴、行ってきなさいっ!」

鬼百合の言葉を遮りその一言で決まり女王に手渡して

「この衣装を着せてパーティー会場に出したらどんな騒ぎになるんでしょうね?お姉様…」

そう言われて苦笑いする女王だけど乙女達は勿論男達も太陽王の再来と言って歓び誓いを捧げる者も少なくないのだろうと思ったし…

何より侯爵家と異なり王家との距離を置く伯爵家との融和を望む女王は下世話な話をすれば真琴を利用してその切っ掛けを作りたかったので自分の方から真琴に頼みたい位の話と考えていると

「春蘭様の金糸と銀糸を使った刺繍を白夜の国の王妃様が楽しみにされているとユウ様から伺ってますが…」

そう言われて完成はしたものの未だ自身の持てない春蘭が隠していたもので金糸は勿論真琴を描き銀糸は媛歌を描いた物で

二枚ずつ完成しており王妃と女王が真琴と観月と白夜の国の王妃に媛歌と振り分け

真琴に同行するのは翔にセレナ、剣斗と媛歌に鬼百合と伯爵領派遣予定の四人の准騎士の10人に決まった

(あの子だね?)

そう聞いて闇の者のよりいち早く水の鞭を使って赤子の安全を確保すると

「紫煙、この子を瑞穂に預けて来て…ライラにはこれを預けます」

そう言って渡されたのは聖剣青龍牙で霊獣の騎士達と竜魔鬼と風蜥蜴の空中戦が始まったます

当初は空中戦に慣れない騎士達が押され気味だったのを翔が相手の魔力を吸い取り機動力を落としたので一気に形成逆転し

命が自らを的にして隙が生じた魔物達を一体又一体と撃墜してゆき一刻程の攻防戦は圧倒的勝利を納めると

「野暮用でパーティーの時間が遅れた事をお詫びすると共に今暫く準備の時間を頂けるようお願いします」

そう詫びて支度のため一旦下がるのを見たユカも女王に目配せをした後に

「は命様のお支度を手伝いなさい、は」

 



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ニブイ男

えぇもうニブイ男でホレた女性は大変ですよ


①にぶちんは気付いたか?

 

非公式ながらも真琴…王子(?)の初訪問に大喜びの伯爵家(主に孫娘達を中心にメイド達)の上に翔も来てくれたのだから嬉しくないわけがない

しかも…翔が着ているのは前回の訪問時譲り受けたフェアリーのドレスでただの飾り羽が魔力により本物の羽の様に羽ばたかせ翔んでいるのだ

鬼百合は再会の挨拶もそこそこに剣斗(女騎士の正装)と媛歌を伴い白夜の国に向かい暫しの滞在

因みに剣斗が持たされた滞在中の服は王女宮の侍女の制服で途中ユカ達の馬車から麦についての事情を説明と剣斗の事情を話し…

「ほなみ、鬼百合様に同行してケイティのサポートをしなさい

麦は到着後に鬼百合樣と共に帰国し草の実の精樣と共に聖霊とその巫女を目指す修行をなさい

デザイナーの勉強については当面はユミに相談すれば良いと思いますがいずれ観月樣から何らかの指示がありましょう」

そう言って見送られた

 

白夜の国に降り立ち

「アタイは麦を送るついでに王妃も連れて帰る」

そう言って飛び立った鬼百合と麦を見送り控え室で侍女の制服に着替えほなみに髪を整えてもらったケイティ

媛歌を先頭にほなみ、ケイティと続いて謁見の間に入室し献上品を国王の近習に手渡すと

「………」

口をぱくぱくする媛歌の代わりに

「お初にお目に掛かります…そう申しております」

ユミに読唇術を学んだほなみは霊力を使わなくてもその程度の事は聞き取れたからそのまま通訳を買って出た

「貴女は三度目の訪問ですね?」

王妃の問い掛けに

「はい、ユカ様の訪問に際し同行者の中では命様にお仕えさせていただくのが長いのと…

麦や小明と言う者達の様にデザイナーの助手として同行する為ユカ様の側を離れられない者でない私は侍女のお務めの経験の浅い少女騎士の手助けを任されました…」

そう言われて頭を下げるケイティを見て

「確か霊獣は二騎翔んできて一騎は折り返し飛び去ったのは何故?」

そう聞かれ

「未々未熟者の私の指導と道中の媛歌樣の護衛を兼ねて同行くださいまして落ち着く間すらも惜しんで次のお役目を果たしに行かれました」

そうケイティが告げると

「あの方は中途半端に休むよりお役目をさっさと済ませてゆっくり勤務後のお酒を楽しみたい方ですから私達からしたらお茶の一杯でもと思いますが…」

そうほなみに言われて

「もしかするとユウ様と親しい鬼百合樣と言われる方ですね?お酒好きと言う事は」

そう王妃に聞かれ

「命様の従者の騎士様でお酒好きと言われるのはあの方しかいませんから…

勿論お強い方は他にもいらっしゃいますが…皆様口を揃えてこう仰います…

鬼百合と一緒にするなっ!と…」

そう言って溜め息を吐くなみに

「愉快な方…でも尊敬してるのでしょ?」

そう聞かれたほなみは

「それは勿論です、命様のお側に行きたい…お仕えしたい、でもそれにはどうすれば良いの?

そう悩んでいた私達の手を取り私達を命様の元へ案内してくださった方で

なんか悩みが有ったら聞いてやるからいつでも言ってきなっ!

そう笑って言ってもくださりました鬼百合様を私達は姉の様に思ってますし尊敬もしてます」

そう誇らしく語るほなみを可愛く思う王妃だった

 

謁見の間において顔合わせと四人の准騎士候補達の同行理由を告げたけの正騎士の承認が決まり命から預かった大樹と同じギャフと大樹から預かった木工ナイフと彫刻刀セットを渡し昇進を祝福した

 

その後に真琴は衣装作りの打ち合わせに入り翔とセレナは昼食の支度の手伝いをするため厨房につめている

厨房のお手伝いをしていると酒屋を始め慰霊祭で知り合った者達が翔の訪れを聞き付け厨房に集まり再会を共に喜びあっていた

伯爵家の料理の他、下働きの賄いや兵達の食事の支度もあらかた終わり…

気は進まないけど月夜以外の孫娘に取り囲まれた真琴が迎えにきたのを見てぷくっと頬を膨らませ顔を背けるのを苦笑いしながら翔頬を両側から人指し指で押して

「ぷっ…」

と、頬を膨らませていた空気を噴き出させて真っ赤になった翔が言い訳を始める前にダイニングへと連行した

 

伯爵家及びその周囲の者のたけに対する評価は高く若くして霊獣の騎士のたけは幼い子達には夢であり憧れの存在だから人気者

独学ではあるけど横笛が得意で月夜にねだられ夜毎笛を吹くたけとその音色にうっとりする二人を温かく見守る周囲の者達

そのたけと再会の准騎士候補の四人の前で翔が真琴に向かい

「あ、あんな…まこお兄ちゃん差し置いて気ぃ引けんねんけど…」

そう申し訳なさそう言ってからロッド、サイ、シン、千に向き直り

「あ、あんな…あんたら指笛吹けるんやったら吹いて呼んだりぃや…」

そう言われて顔を見合わせた四人は

「あ、あれ…だよな?」

ロッドがそう呟き他の三人も頷いて指笛を吹き鳴らすと四人の前に炎馬が降り立ち

「あ、あんなみこお姉ちゃんからの伝言やからよー聞いてや

ユカ達が着いたらサイとシンはシャーとペーと交代してユカの護衛して

シャーとペーはロッドとタヅナと共にたけの指揮下に入ってこの地の守護に当たってね…ってゆーとった…」

そう言われ頷く四人に

「ユカの到着迄は僕とたけの二人で修行を見るけど翔、修行場所として結界内借りたいんだけど良いかな?」

そう真琴に言われ

「そない水臭い事言わんでもお兄ちゃんがつれてきたらエーからね、んで後で頭をえー子やゆーて頭撫でくりまわしてくれたらそんでえーんからねっ♪

霊獣も呼んでお稽古してかめへんからねっ♪」

そう笑って言われたから

「そうゆー事だから暫くは僕がちょっとしごいてあげるよっ♪」

そう笑顔で言われ大樹の修行の後の様子を見ていた四人の顔は軽くひきつっていた

「取り敢えず早速お稽古しなはれ、ボクも魔鎧で飛ぶお稽古するさかい…」

そう言って結界の扉を大きく開き中に招き入れ魔鎧を呼び出し装着して飛行訓練とアットレーの操作を始め真琴も指導を始めることにした

いつに増して旺盛な食欲のたけを見て驚くやら呆れるやらの伯爵が

「何かあったのかね?」

そう問われたたけに代わり

「折角こちらに来ましたから魔剣白炎竜の正当な主になってもらうための修行を始めてもらいました」

そう言われて驚き真琴を見て

「貴女が指導をなさるのか?」

そう伯爵に問われて

「未々修行中の身ではありますけどこれでも魔剣士の先輩として大樹の修行もみましたよ?」

そう言って笑うと

「真琴様の走り込みにようやく追い付けるようになりましたから…

もっとも…息ひとつ乱れない真琴様に比べ俺達の修行不足は…」

そう言って苦笑いするたけに

「まぁ魔導師として、戦士として物心着く前から修行をしてきた僕との差はやむを得ないよ」

そう言って再び笑顔を見せ翔の真琴頭を撫でる真琴と気持ち良さげに目を閉じている翔は時折リクエストに答えて飲物を冷やしている

厨房の仕事をあらかた終えダイニングに運び始める頃真琴が迎えに来て何も言わずに翔の頭を撫でると撫でられた翔の顔はへにゃっ…と緩み

「さぁお着替えして食事のお招きに預かるよ?」

そう言われニコニコ顔で頷く翔の身体を抱いて部屋に運びシルクのピンキーエンジェルに着替えさせて連れてきたのだ

しかし、在る意味前回の訪れよりもっとも変わっていたのが食べ物の嗜好でお父ちゃん(鬼百合)の影響丸わかりな酒の肴を好む様になっていたことだ

ただ…困ったことに咀嚼の意味を理解出来てない翔は基本的に丸呑みが多く何度注意しても元魔鳥の翔が理解する気があるはずもない

そもそも鳥の姿の時は強力な顎の力は少女の姿の時はからかい過ぎて癇癪を起こした翔に何度も噛みつかれた真琴曰く

「本人は力一杯噛み付いてるみたいなんだけど全然痛くないんだよねっ♪

まぁその姿が可愛いから余計に構っちゃうんだけどさっ♪」

と、その真琴の報告を受けた為命と違う意味で食事の世話をする者が気を付けねばならない悩みの種である

たださすがに本能的に小魚の煮干しは口の中でふやかしてから飲み込んでいるらしく小魚によるトラブルはなかった

 

夏が短い伯爵領は実りの秋を迎えようとしていた

命の訪れより作物の成育もよくなり今年は実りの秋と呼ぶに相応しく白夜の国に回せる量が増え

その分加工品の材料となる鉱物資源の輸入量や白夜の国の特産品である馴鹿の肉や皮、皮製の輸入量が増え加工品を歌の国への輸出は勿論首都でも売れる為景気は上向き始めている

そもそもの発端の歌の国の大公領の経済の牽引役となった繊維業界と好漁続きの漁業と突然現れた四人の美少女達が商人達を呼び滞っていた物流と人を動かし

人魚姫、水の精霊の命が沈滞していた歌の国の人を目覚めさせ冬眠から覚めた獣の身体の血流が活発になるように経済と言う名の血が巡り始め

最初は留美菜の父親とその下で働く漁師が受けた恩恵が徐々に広がり翠蘭太夫との出会いで王都の漁師達が…

翠蘭太夫との出会いは界隈の酒場とその酒場界隈の関係の深い者の懐を潤わせその状況を見て放っておかない他国の商人達

彼等が売りた物を持ってきて持ち帰れば売れるものを買い更に循環がよくなっていった

命が巡業で通った町…残した足跡からはその土地土地により異なるが様々な恩恵がもたらされて芽吹いていたしその時出会い命の元に集まった少年少女達は着実に力を着けつつあった

 

 朝食が終わり、魔鎧を呼び出し装着した翔は何か良い物無いか探し回っていてそれと出会った

 

 ズタボロのハルピュイアと、散乱する風蜥蜴の遺体と怯える少女達を見付けた翔は少女達の前に降り立ち

 

 「 動くなっ! これ以上好き勝手なことはさせたらんっ! 」

 

 そう言われたハルピュイアは翔を一瞥して、ゆっくり起き上がると明らかに折れているだろう両翼で浮き上がり飛び去ろうとしたけれどそれは叶わず墜落して身体を強かに打ち衝け再び意識を失うのを見た少女の一人が 

 

 「 だ、大丈夫!? 」

 

 そう言って駆け寄るのを見て

 

 「 え、あれ? ソイツもコイツらの仲間なんちゃうの? 」

 

 そう問い掛けると聞かれた少女は

 

 「 よくわからないけど今にも襲ってきそうな風蜥蜴にいきなり飛び掛かったの… 」

 

 そう言われて理解出来ない翔が

 

 「 え、何で? 」

 

 そう呟いて戸惑っていると

 

 「 魔族だからって皆が皆、闇の者に従う訳じゃないしね… それにその子をよく見てみなよ?

 

 その子は亜種?変種?雑種?とにかく本来持ってるはずの闇の魔力を全く感じ無い… 悲しいくらいにね 」

 

 そう言って治癒魔法で傷を塞ぎ痛み止の処置と骨折の治療を済ませると少女達を見て

 

 「 家まで送るけど歩ける? 」

 

 そう言われたけど真琴に見惚れていた少女達の反応は一拍遅れて

 

 「 え、あ、はい… その子が助けてくれなかったら 」

 

そう呟く少女に

 

 「 別にアンタ等助けたわけやない、恨みのあるコイツらに仕返ししたっただけなんやから礼を言われる筋わ無い

 

 それと… あのまま死にたかったボクの命助けてもろてほーんま要らん事してくれて感謝しとるわっ! 」

その恨みがましい物言いに顔色を変えた翔に

 

 「 翔、落ち着きなさいっ! 」

 

 そう翔に声を掛け

 

 「 君は人間は嫌いじゃないの? 」

 

 そう問い掛けると

 

 「 ほたら何でアンタさんはボクの怪我直してくれたんよ? 同族達にすら仲間と思うことさえ許されへん出来損ないのボクなんか?

 

 まぁ別に隠しだてせなアカン様な秘密の話や無いから話したるわ…

 

 以前心優しい人間に飼われてた… 生まれてこのかた唯一のボクの理解者、ボクをかわいごーてくれた方がおったんよ…

 

 勿論基本的には人間なんか… 光の側の者なんぞ信用しとらんし大嫌いやったけど今は嫌いな奴に人間とかの種族や光とか闇とかの所属とかなんかそんなんどーでもえーやろ?

 

 光の側の者からは闇のもンやゆわれ追い回されハーピィスラグて呼ばれて下等な魔物達にまでバカにされてたボクに仲間なんかおらへんのやからね…

 

 まぁそんな訳やからどっちゃでもえーわ… おひいさん守ったってゆわれとってその約束ひとつ果たせんかった役立たずは生きとる資格無い…

 

 でも… 自殺とかしたらあの世で説教… は、あり得んやろな? あの方は天に召されとるやろしボクは間違いなく地獄に落ちるんやからね…

 

 まぁえーわ、話の続き聞きたかったら後でしたる… 又死にぞこなってもーたんやから取り敢えずちぃーとばっかし寝る 」

 

 そう言って、あっという間に眠りに就いた自称ハーピィスラグの身体を抱き上げると取り敢えず翔の結界内で休ませる事にして少女達を村まで送り届けてから戻る事にした

 

 ー なぁおいアンタ、あのお人って精霊の巫女なんやろ? 大切な話し有るから伝えてもらいたいんやけどえーか? ー

 

 そう言われて

 

 ( はぁ? なんでお前みたく敵か味方かもわからんよーな奴に顎で使われなアカンのや? )

 

 そう言われて笑いながら

 

 ー あはははっ、アホやなっ♪ ボク自慢や無いけど動かれへんし直接話し掛けられる程の魔力無いんやから誰かに頼むっきゃ無いやろ?

 

 それからゆーとくけどボクは元々この世界のモンちゃうし塵カス扱いされて生きたボクには闇のモンにゃ恨みしか無い

 

 おまけに光のモンから塵虫みたく忌み嫌われ生きてきたボクが紛れ込んだこの世界の光と闇のどっちにも与する義理はないばかりか己れの無能さで死なせてもーた弥生媛の仇…

 

 一匹でも多くの闇のモン道連れにしたんねんっ!

せやけどアンタかてわかるやろ?ボクにそないな事出来るよーな大した力無いんは… せやから敵の敵のアンタ等に遺体から読み取った情報を教えたんねん…

 

 ただまぁ自分でゆーのもなんやけどボクの読み取れんのははっきり言ってザコしか無理やし…

 

 はっきり言ってアホなボクには読み取った情報の意味わからへんから誰に聞いてもらわなおそらくは役に立つかどうかもわからんのよ… ー

 

 ( ……… )

 

 そう言われて考え込む翔に

 

 ー翔、何か弥生って名前が聞こえたんだけど何で今この場でその名前が出てるのさ? ー

 

 そう言って両者の念話に割って入ってきた真琴に

 

 ー ボクの唯一人の理解者、歌姫様から預かった大切なおひいさんの弥生様や …

 

 この世界に紛れ込んできたボクがおひぃさん守るんに手ぇ貸してくれはりそうな魔力感じてこの地の上空で探し回っとたらいきなし竜魔鬼と風蜥蜴が襲ってきて逃げ回っとる内に …

 

 所詮は出来損ない… スラグのボクには命より大切やゆいながら守れへん… ホンマ最低の塵くずなんや

 

 せやからボクはアイツ等が闇の口から出てくる瞬間を狙ーて自爆したんねん

 

 あそこやったら種火 ( 自分の自爆 ) 放り込むだけで大爆発引き起こせるからかなりの数を道連れににしたれる… ざまぁみろやで ー

 

 そのハーピースラグの言葉が聞こえた真琴が

 

 ー その歌姫の名は真琴ってゆーんじゃないの? ー

 

 そう言われて大きく目を見開いて暫く黙り込み

 

 ーな、何でそん名を …ー

 

 そう言って驚きを隠せないハーピィスラグに

 

 ー 弥生は生きてるしこの国の王家で手厚い保護を受けて暮らしてるし歌姫と舞姫も蘇った… 精霊の巫女として新たな命と霊力を得てね…ー

 

 そう真琴に言われて

 

 ー…そっか… これで思い残すことは何も無くなったんやね…

 

 せやったら派手な最後飾ったれるな… 塵カスの最後っ屁や

 

 歌姫様とおひいさんの事、ホンマよろしゅー頼んます… お二人の事助けたってください…

 

 それとボクの事は絶対に歌姫様には言わんといてください… もう歌姫様に会わす顔無いよって…

 

 アンタ等がボクの事忘れてさえいてくれさえしたら、そんで全て丸く収まるんやからホンマ頼んます

 

 歌姫様にはもうボクみたいな疫病神の塵カスなんぞ近寄らせたらアカンてアンタ等かて思うやろ? ボクかてそう思う、つかボクやったら絶対に近寄らせへんのから… ね?

 

 まぁそんな事よりボクがアンタ等とおうた所からちょい行ったとこに口を開く予定らしいんよ…ー

 

 魔界側から掘り進めとるみたいらしいんやけど… 勿論下っ端のソイツは詳しいことは知らんかったみたいなんやけどなんやこの地の闇の口が塞がれて使い物にならんらしいんやわ…

 

 って事が今んとこわかっとる情報で後わかっとるキーワードは… 月夜 ( つきよ ) …なんやけどボクには何の事やらさっぱり… ー

そう言って溜め息吐くと

ー それはつきよじゃなくつくよ… じゃないのかな? ー

そう言われて

ー ……う~ん… せ、せやった… 最初聞いたんはつくよ… やった… まぁボクには大した違いわ無いからてテキトーに覚えとったけどつくよってなんやねん、夜に何突くんよて一人ボケ突っ込みして笑てたん思いだしたわー

そう言って笑うハーピィスラグに構わないで

( どうやら伯爵様は勿論女王様に報告しないとダメみたいだね… )

そう考えながら

ー わかった、その件に関しては急いで体制を整える…で、君は今からどうするつもりの? ー

そう真琴に聞かれたハーピィスラグは

ー 魔力をちいとでも溜めといてボクの身体をボム化してそん時を待つ…

んで、後ひとつ頼みたいんけど闇の口めがけて放り投げて欲しいんやけど…

多分… つか間違いなくボム化したら二度と身動きとれへんよって放り込んでもらわな何ともならん思うんよ ー

そう言って初めて言い辛そうに口ごもるがそんなのお構いなしに

ー それはボクに任しとき ー

そう翔に言われ

ー うん、頼むわ… 最後位は派手に飾らせたってや… ー

そう笑って言って眠りに就くハーピィスラグを冷ややかに見る翔と溜め息を吐く真琴の二人

 

未確認の情報ではあるけれどという前置き付きで伯爵は勿論その日の内に女王にも報告がなされ当然の事ながら歌姫の耳にも入り…

真琴に同行して伯爵領を訪れると

「 翔っ、問題のハーピィスラグに会わせなさいっ! 」

物凄い剣幕の歌姫を連れてきた苦笑いの真琴に「案内してあげて 」 と言われて怯えてチラチラ見ながら案内する翔の視線を気にすることなく

「 起きなさいっ、翔っ! 」

そう歌姫が叫んだが深い眠りに落ちているもう一人の翔… ハーピィスラグは目覚める気配がなくそれを見て溜め息を吐く歌姫に

「 こいつも翔って名前なんやね? 」

その不思議そうに呟く翔の問い掛けに

( やはりこの娘は気付いてませんでしたか… )

そう思っている歌姫に代わり

「 歌姫がボクで有り舞姫がみこであるように歌姫の翔なんでしょ?同じ訛りの言葉で喋る二人の翔は(同一人物)? 」

そう言外の意味も含めて真琴に聞かれた歌姫は

「 はい、私達は一目見てすぐにわかりました… 姿形は違えど根本的なモノの考え方に相違ありませんから… 」

そう悲しそうに答える歌姫に

「 歌姫の翔は気付いてたし翔、お前も気付いてるんだよ… 自己嫌悪でもう一人の自分を否定してるんだからさ 」

そう真琴に言われて驚いた翔が

「 …せやね… 一目見た時からなんやよーわからへんけどこいつが嫌いやった… まるで自分を見てるようでメッサムカついてた… そっか… 通りでこいつ初めて見た時からムカついた訳や… 」

そう話していると歌姫の気配に気付いたハーピィスラグの翔が目を覚ましてもぞもぞと動き出すのに気付いた歌姫がその首根っこを掴むと自分の顔の前に持ってきて

「 何処に行くの? 翔… でもそうですね、紛らわしいですから今から貴女の名前はコードになさい、そう呼びますがそれで宜しいですね? 」

そう歌姫に言い渡されコードには拒否権は認められて無いらしくあうあう言いながら頷いていた

そのコードを見ながら歌姫が真琴に

「 真琴… この身体じゃもう長くありませんね? 鬼百合さんが私達にしてくれたみたいにみたいに勾玉か霊玉を埋め込みこの壊死し始めている両翼を切断したらどうなりますか? 」

「 両翼がどうなるかはわからないけど本体は新しい力と姿をを得るだろね 」

そう答える真琴に

「 コードどうしますか?新しい力を得て強くなりたいとは思いませんか? 」

そう聞かれたコードは

「 ちょこっと考えさせて欲しいんやけど… 」

 

 そう答えると

 

 ( ボクにとって翼失うて死ぬんと変わらんやん? どない力目覚めたかて翼の代わりにはなれへん… そんなんやや… 絶対ややっ! )

 

 そう結論付け

 

 「 ボクが死んだらボクの身体勝手使えばえーやん? ボクは翼失のーてまで生き延びたい思わん… 歌姫様、今までホンマお世話なりました

 

 一族からも見捨てられた、出来損ないのボクを生きててえーって… そーゆうてくれはったんは後にも先にも歌姫様だけ…

 

 せやから残りわずかなこの命… 歌姫様の為最後の一花咲かせてもらいます

 

 多分、これが今生の別れになりますよって… お達者で、今度こそ幸せになれるとえーですね 」

 

 そう答えると再び魔力を蓄える為眠りにに就くコードに

 

 ( バカっ… 貴女が私達を最後まで支えてくれたからここまでこれたのよ?

 

 お願いだから、少しで良いから私の気持ちを考えてよっ! )

 

 そう心の中で叫ぶ歌姫のその想いはコードに届く事は決して無くその時は無情に近付いてきた

 

 未だ月夜の想いに気付かないたけと、侯爵家の姉妹の様に積極的に自分の想いを相手にぶつけられない月夜なので二人の関係に進展は無い

 

 勿論、たけとて可愛い月夜に騎士の誓いを捧げるのは吝かではないけど月夜に対する気持ちに個人的な感情はない

 

 強いて理由を上げるなら好感の持てるお姫様を守るのも騎士の役目… そして今闇の者から狙われている月夜を守れなくて何が騎士だよ?と…

 

 だからと言ってたけが月夜に無関心と言うわけでもないが、やはり三歳年上でたけから見たら大人な月夜が好意的なのはやっぱり弟みたいな感じなんだろう…

 

 そう勘違いし、お姉さんを守れなきゃダメだろ?

 

 そう考えてるたけが、月夜の悲しくもちょっぴり嬉しい現状…たけの鈍さには溜め息しかでないけど誠実さの無い美辞麗句をつらつら並べ立てる軽薄な輩よりは遥かに好感が持てる

 

 何より供の騎士として自分に恥を掻かせない様に暇を見付けては騎士長の指導を受け寸暇を惜しんで努力するたけを悪く思う者はない

 

 そう、それは月花とて同じで最初は妹の恋を冷ややかに見ていたけど孫達の中で一番聡明で…

 

 聡明すぎて祖父の自分に対する期待がなんなのか嫌になるくらいわかりすぎてしまう自分が嫌いだった月花もたけの登場が自分の運命をも変えるかもしれない

 

 たけが義弟になれば運命が、なにかが変わりそう… その思いが日増しに強くなってきているだけにグズグズしている月夜がじれったい月花だった

 

 その日の夕方、若月の営業を終えて戻る途中のユカの一行が到着しユカに現状を伝えた真琴と

 

 シャーとペーに命の伝言を伝えた翔

 

 二人に吹かせた指笛に応えたのは水馬で、広目天と増長天とチームを組み伯爵領の港の治安が任され暫しの休暇の後に港町に赴任することとなった

 

 取り敢えず、帰還者達を労いの料理を出してゆっくり休んでもらうことにした

 

 明けて、翌日の朝早く結界の中で修行する騎士達と踊りの稽古をする巫女達

 

 そんな中、真琴にこっそりと

 

 「 ボクが憎まれ役やるけどボクが熾火の勾玉埋め込んでもちゃんと出来るやろか? 」

 

 そう言われて

 

 「 翔の中に居るフレア様とチサの霊力を信じなよ? そしてその二人に信じてもらい力を貸してもらえる自分をね、歌姫にはボクから伝えておく

 

 コードは治癒魔法で癒してる間なら気付かないから頼むね 」

 

 そう言われてその隙を狙い熾火の勾玉を本体に埋め込み壊死した翼は簡単にもげ落ち片翼熾火の勾玉に吸収された

 

 生まれ変わったコードは翔より更に二寸ほど小さく不器用で魔力は内在しているけど塞き止められた様に全く使えない状態

 

 ( 切っ掛けさえ有れば変わるんだろうけど… )

 

 そう言って見守る真琴だったけど取り敢えず伯爵家の孫達には 「 翔の妹のコード 」 と紹介し様子を見る事に

最初はぶちぶちと文句たらたらなコードも真琴に

 

  「 歌姫にはコードが了解したって教えてあるからね… 」

 

 そう言われて事実歌姫にはそう教えてあるからコードの心変わりを歓び

 

 「 私の気持ちをわかってくれたのね? 」

 

 そう涙を流して喜んでいたのでその現状を受けいれるしかなく

 

 翔と真琴を睨んでたけど徐々にその事を忘れていったが翔曰く

 

 「 所詮アイツもボクとおんなし鳥頭やねんからねっ♪ 」

 

 そう笑って言われた真琴とても複雑だった



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翔とコード

 決戦への備えとして騎士達を鍛え巫女達は焦っても仕方ないので踊りの指導をして翔はマジックアットレーの兵器強化版の修行を始める事にした

 

 もっとも… 殺傷力は低いので主に撹乱や牽制用だけど実用性についてはぶっつけ本番と言ったところか?

 

 いずれにせよ翔に関しては不確定要素が多い上戦力より月夜の精神安定剤的な役割が大きく翔を抱き締めることにより心を落ち着けてもらうのだ

 

 同様に怯える月美にコードを渡し心を落ち着けさせて嵐が去るのを待つ事にした伯爵家

 

 仕掛けたのは真琴で、翔から預かったスチームエクスプロージョンの霊玉を埋め込んだアットレーを開かれる闇の口に撃ち込んだ為

 

 大半の尖兵達は、自分達の身に何が起きたのか気付く事無く消滅したし難を逃れた者達も全くの無傷で済んだ者は少なく先制攻撃は大成功だった

 

 なにしろ、全くの予想外の奇襲を受けて雑兵達が混乱し… 爆発の衝撃で開いた口に鬼百合達が放つ矢の洗礼に晒されその数を減らしていき完全に出鼻を挫かれた闇の者達

 

 一旦退却し、第二陣の到着を待とうと指示を出そうとしたが時既に遅し

 

 体制を整えようと集まったところを、命の八青龍神の洗礼を受け壊滅状態になり生き延びた少数の者が辛うじて後退して逃げ延びた

 

 勿論、月夜の拉致を目論む別動隊も熱烈な歓迎を受け城に近付く事すら叶わなかった

 

 戦勝に沸く伯爵領は空からの侵攻の為一般兵達の中で弓士隊と弓士隊所属ではなくても鬼百合の忠告を受け入れた弓が得意な者達が武勲を上げた

 

 その戦果を聞いた真琴と命の二人は、伯爵の許しを得て彼等の持つ弓と矢筒を霊玉と勾玉で強化しそれを与えた

 

 最初は遠慮していた兵士達に鬼百合が呆れて

 

 「 オメー等よぉーっ… 変な遠慮してねぇでその弓で伯爵を… 故郷守りやがれっ! それが精霊の巫女達の望なんだからよっ! 」

 

 そう言われて互いに顔を見合わせると慌てて弓と矢筒を受け取り改めて伯爵に忠誠を誓う兵士達だった

 

 翌日、事態を理解しない第二陣が闇の口から闇蜂を送り込もうとしたけど逆にマジックアットレーに仕込まれた勾玉、霊玉が闇蜂を取り込んでしまい闇の者にとり計算外の事態を招いてしまった

 

 勿論その事を知らされた真琴は大喜びして甲冑を錬成して

 

 光の霊玉を取り込んだ招杜羅と毘羯羅と火の霊玉宮毘羅と迷企羅の四人が監視役を務める事になり

 

 その夜戦勝を祝い兵士達を労う宴が繰り広げられ、翔とケベックの力に目覚めたコードの活躍で盛り上がる伯爵城内

 

 その騒ぎの中、闇の精の従神月代(つきしろ)の女神が目覚め、勿論依り代に選らばれたのはその名が指し示す通りに月夜で

 

 ー 月夜、定められし宿命を受け入れますか? ー

 

 そう問われた月夜は

 

 「 結ばれたい、そう思う人と出会ってしまった私はもう… 」

震える声で答える月夜に微笑む女神は

 

 ー 私は依り代に純潔であり続ける事は強制しませんし、同様に歌の国の豊穣の女神の依り代達は代々西の大公を始めとする集落の代表者の元に嫁いでいましたよ

 

 そして、今一人の依り代が婚約し嫁ぐ日を待ちわびてます

 

 それに、光と水の精霊の巫女達に問いますが月夜の恋は祝福出来る物ですか? ー

 

 そう問われた真琴は

 

 「 鈍い男と思いを告げられない月夜様… まずはその二人がはっきりしない事には未だ応援するとしか言い様がありません 」

 

 と、真琴が答えるとみこではなく精霊の巫女の命も

 

 「 大樹と言いたけと言い… 全く世話のやける男の子達で月夜様には申し訳無くて仕方がありません 」

 

 そう言って頭を下げるのを見てユカが溜め息を吐いてたけを見て

 

 「 未だ月夜様の気持ちがわからないのですか?この唐変木っ! 」

 

 そう言われて驚いたたけが

 

 「 えーっ、だって身分が… それに月夜様みたいな綺麗な人には俺なんかじゃ… 」

 

 そう言い訳するたけに

 

 「 全く… 身分がどうとか言い訳まで大樹と同じ様なことを… 」

 

 そう言って深い溜め息を吐く命を見ながら

 

 「 他国とはいえ、れっきとした正騎士の貴公が役不足な訳がありません

 

 逆に霊獣の騎士たる貴公に、特別な宿命を背負いし娘を支えて頂きたいと思いますぞっ!」

 

 そう月夜の父に言われて

 

 「 す、すいません… 」

 

 そう言って詫びるたけの言葉を聞いてビクッと震え身体を強ばらせる月夜に気付かずに

 

 「 俺、言い訳してました… 命様のお供するまで口を利いた事の有る女の子は妹のきみだけで…

 

 その後は、兄貴分の大樹さん達の背中を追い掛けるので一杯一杯で… そうゆー事考えた事無いから勝手に弟みたいに思われてるって決めつけてました

 

 素敵な人だけど、俺なんかじゃ迷惑だからって言い訳してました…」

 

 そう言って月夜の前に方膝を付き大樹がヴェルサンディにしたように

 

 「 我が剣我が為に在らず、お守りしたい貴女の敵に振るい貴女を護る盾となる事を誓いこの誓いを疑われし時我が命で身の潔白の証しとするこの誓約をお受け取り下さい 」

 

 そう告げるたけに、その頬に口付けで応える月夜に

 

 ー この祝福された恋路を邪魔するは野暮と言うもの

この想い生涯貫きなさい、良いですね? たけは精霊の巫女達の恥になる振る舞いはせぬであろう? ー

 

 そう問われた二人は

 

 「 勿論私も受け継がれし月夜の名にかけて誓います 」

 

 「 巫女様達だけじゃありません、俺の不義は取り立てて下った和泉の女神の依り代の観月様や鍛えて頂いた阿様達を裏切る行為

 

 何より、俺自身そんなの格好良い騎士じゃないから絶対嫌ですっ!」

 

 そう二人が答えると

 

 ー これで貴女が躊躇う理由はなくなりましたね? 私を受け入れ自らの宿命に生きなさい、きっと貴女の騎士が守ってくれますよ? ー

 

 そう女神が告げると月夜の母が

 

 「 女神の依り代と若き英雄の恋物語… 新しい伝説の幕開けですね? 」

 

 嬉しそうに語ると月夜も覚悟を決め

 

 「 私を私の運命にお導き下さい月代の女神様… 私をお守り下さい私の恋する騎士、たけ様… 」

 

 そう言って左手を掲げるとその手を取り口付けを落とすと月夜の中に入ってゆきひとつになった

 

 意識を失い崩れ落ちる月夜の身体を受け止め抱き上げるたけに

 

 「 月夜様を寝台にお連れしなさい、ユカと… 」

 

 そう言って月夜付きのメイドを見て

 

 「 ユカと月夜さんを楽な服に着替えさせて身体を休ませて差し上げなさい 」

 

 真琴にそう言われ伯爵を見ると頷いたので

 

 「 お任せ下さい、真琴様 」

 

 そう答えたので真琴も微笑みで応えてメイド達を喜ばせると

 

 ( 真琴様… どんどん王子化が進んでますね… )

 

 真琴を見ながらそう思って、苦笑いを浮かべるユカだった

 

 その翌朝から翔に加え、コードも修行に加わる事になりライバル意識を燃やすコードとコードに対しては余裕綽々の態度をとる翔の態度が益々面白くないコード

 

 実のところ修行開始当初はコーデにとって唯一の取り柄、自慢は単独飛行なら音より早い飛行能力だったけど翼を失った今の自分には唯一誇れる物を失った自分の存在する意義を見いだせなかった

 

 ケベックと言う術を覚えた後もコード的には、翔のパクりとかバッタもんとしか感じないし喜んでお手伝いする翔の気持ちがさっぱり理解出来ないコードにとっては無用の長物に過ぎなかった

 

 夕べの手伝いも

 

 「 別にボクおらんでも良くね? 」

 

 としか思わなかったけど、他に出来る事も無いからイヤイヤ翔の手伝いさせられただけにすぎない

 

 そんな精神状態のコードには歌姫に褒めれても少しも嬉しくないばかりか、褒めれてる気が全くしなかったし他人事のようにも感じていた

 

 そんな訳だから、修行と言われてもヤル気等微塵もないコードは結局歌姫にミッチリお説教を受けるハメになって翔に嘲笑わる結果になり

 

 余計に意固地になっていったが、その悔しさがマジに修行に取り組む切っ掛けだったりもする

 

 既に完成された術を勾玉により継承したコードが本気で取り組んだ結果、翔がそれなりの時を要したケベックをあっという間に使いこなすコード

 

 取り敢えず同時発動がいきなり三個になり皆を驚かせても翔の能力コピーしてるだから当たり前じゃん?

 

 そう考えるコードには何の感慨もないのでつまらなさそうな表情のコードに

 

 「 あんな、新しい自分だけの術編み出したいんならイメージ膨らまし

 

 魔法って結局は想いの強さ柔軟な発想が大きく物を言うんやで? 」

 

 そう翔に言われて

 

 ( 想いねぇ~っ… )

 

 等と考えながらぼーっと眺め

 

 (何かおもろいもんないかな~っ…)

 

 そう思いながら物思いに耽っていたが

 

 「 あっ、あった… うん、イメージ固まったから後は実践有るのみやねっ♪ 」

 

 そう呟き、結界から出ると厨房に直行し料理長にそれを話して手伝ってもらい料理長始め厨房の者に試食してもらい

 

 「 我々にはなかった発想で面白いし何より美味しいから伯爵様もお気に召すでしょうし何より私達が可愛いと思いますよ? コードちゃんの事 」

そう言われて泣きそうな顔をして

 

 「 ボク… スラグなんやで?そう言われて生きてきたボクみたいな塵カスが可愛いわけないやん? 」

 

 寂しそうに笑い

 

 「ボクの本性はお馬鹿な化けモンなんよ… せやから歌姫様すらもボクの事馬鹿な子程可愛いて感じで可愛ごうてくれてたわ… でも、そんでも嬉しかった…

 

 最初はな、ボク見張りやったんよ? 歌姫様達の動向探る為の

 

 もっとも全くヤル気無いからサボってばっかしで適当でえー加減な報告ばっかしとったんやけどねっ♪

 

 おまけに隠れたり誤魔化したりしとらんかったからバレバレで逆にボクの行動つか考えが読めないって頭悩ませとったんやてっ♪

 

 いやーっ、今度はどない報告したろ? とか美味しい木の実どっかに無いかな? 位しか考えとらんかったんやけどね 」

 

 そう言っててへっと笑うコードに

 

 「 そんな事してて… 」

 

 と、心配顔で聞く料理長に深刻な表情で

 

 「 うん、上のモンにバレてマジ殺され掛けたんよ…

 

 んでそんなズタボロで半死半生のボク拾ってくれて手当てしてくれたついで餌付けされたんよ

 

 なんや知らんけど他の連中みたく餌にかぶりつくのややったから餌もあんまし食えんくていつも腹ペコやったんよ…

 

 舞姫は最初、ボクの事全く信用しとらんかったけどまぁそないな事は生まれた時ゆーか記憶の有る範囲で他者に信頼とかされてへんつかおバカすぎてあてにされとらをかったんよ、正味の話

 

 そんなある日思い出してもーたんよ、ボクの前世は別の世界から来た人間の男の子やったって…

 

 さぁお喋りはもうこの辺で止めてお仕事の時間やね 」

そうコードに言われた料理長が

 

 「 伯爵様、今日はコードちゃんが変わった術を披露してくれますからお楽しみに 」

 

 そう言って恭しく頭を下げると

 

 ー ポップアップっ♪ ー

 

 と、唱えるとスライスされパンが縦に並んだ状態で宙に浮き暫く待つと何処からともなくチンっと言う音がしてパンが持ち上がり料理長がトングで掴み皿に乗せてメイドに渡し

 

 メイド達は各々の主人の好みのバターやらジャムを塗り手渡すと受け取った物、即ち焼けたパンの香りに誘われて一口かじると皆喜んでくれ伯爵が

 

 「 ずいぶんユーモラスな術だね? 」

 

 そう言われて喜んでくれたので本人も嬉しくなり

 

 「 あはは… 別にボクが考えた訳ちゃうんよ、ただの真似しいやからっ♪ 」

 

 笑いながらそう答えるコードを見ながら歌姫が

 

 「 どんどん焼いて下さいね 」

 

 そう催促するとコードも頷いて

 

 ー ポップアップっ! ー

 

 ーケベックっ!ー

 

 と続けざまに唱えトーストが焼け続いてホットサンドに次のケベックでホットドッグを焼いていきそのペースが上がるのを見てメイドの一人に

 

「コードちゃんがどんどん焼いてくれるのなら使用人達も手の空いてる者達から順次食事にさせようと思うのだが宜しいかな?」

 

 そう問われたコードは

 

 「 うん、エーよっ♪ ボクに出来る事やからねそれにボクの方こそ一杯一杯お世話になっとるんやから変に遠慮せんといてください 」

 

 そう言いつつ実のところユウとユカ… 特にユウを苦手としていたコードが恐る恐るユカの顔色を伺っていると歌姫が笑いながら

 

 「 コードは大人な女性が苦手なんですよ、ユウさんやユカさんみたいな方達が… 勿論観月様等も苦手なタイプですね 」

そう言って苦笑いの歌姫を見ながら

 

 ( 多分この歌姫と言う人は表現を変えてる… コードちゃんは若干私に対し苦手な素振りを見せてるから気の強い、押しの強いタイプが苦手とみた )

 

 そう思いながら観察してると積極的に自分から話し掛けるタイプで無いらしく基本的に視線を合わせようしたがらない

 

 自己嫌悪が翔ちゃんより酷いと聞いているからそのせいだろう… 小さく幼い見た目と裏腹に色々あったらしいって聞いている 」

 

 多分私には想像もつかないことなんだろう… 位にしかわからない

 

 二人が何か言い合いながらお手伝いしているけど仲が悪いようには見えない

 

 敢えて言うのなら素直じゃない姉妹… 多分翔ちゃんとコーデちゃんの二人を言い表すにこれ以上に適切な言葉は無いだろう

 

 そう思いながら二人を見ていると

 

 「 ねぇみこ、翔と違いコードの属性は風と雷なんじゃないのかな? 」

 

 真琴にそう聞かれた命は頷いて

 

 「みこもそう思うけど… 春蘭が良いのかな? それとも翼お姉ちゃんに見てもらった方が良いのかな? 」

 

 そう聞きかえされた真琴が

 

 「 そうだね…取り敢えず春蘭にみさせたら良いんじゃないのかな?」

 

 その真琴の言葉に鼻面にシワを寄せ

 

 「 属性? そんなん知らんわ… ボクの能力はトップスピードが音を超える飛行能力だけで後は何も無いんよ?

まぁ今は借りモンの力が有るみたいやけどね… 」

 

 そう言ってまるっきりの他人事のコードに

 

 「 魔力の全てが翼に集中してたのがその翼が無くなって新しい力が目覚めつつあるんだよ… 」

 

 そう言われても全く実感の持てないコードにはやはり他人事に過ぎなかった

 

 朝食の後ユカは一行を引き連れて首都に向かい命と翔にセレナは鬼百合に送られ一足先に戻り鬼百合は折り返し白夜の国に戻り暫く共に過ごす事にした



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セレナとコード

ナニを求めて?

 

 

① 収穫祭

 

 帰還後の命は慌ただしく王城近辺の集落の収穫祭に参加することになりその間に出発の準備を整えた

 

 その慌ただしい合間を縫って芝居見物などを真琴共に過ごす二人

 

 その一方でセレナは命から

 

 「 一度実家に戻り翔と共に旅立つか否かを考えなさい、期限は私達の出発の朝までです 」

 

 そう告げられ翔に送られその事はセレナ経由でノース達にも伝わり各々に考える事になりそして最後の祭り

 

 翌日に控えたセレナ達の村の収穫祭を最後に侯爵領に旅立つので期限は明日の祭りが終わるまでに決めなくてはいけないのに…参考までにノース達にも聞いてみると

 

 「 翔個人についていきたい私達は命様にお仕えするわけにはいかないのだから付かず離れずの距離を保ちながら命様の一行についていきます 」

そう言われたセレナは

( 私には言えない… 今の私には自信も覚悟も無いんだから… でも、このままお別れなんてそんなのだけは嫌だよね? )

 

 夜が弱い翔は既に熟睡中でその寝顔を見ながら考え続けた…でも、答えは見えない…

 

 不意に涙が溢れて声を押し殺して泣くセレナの身体にすり寄る翔の身体に腕をまわして抱き締めそのひんやりする感触感じながらいつしか眠りに落ちたセレナだった…

 

 開墾以来初めての豊作に沸く村人に代わり真琴、命、歌姫、舞姫の競演による豊作に感謝の気持ちを捧げる踊り、地の精霊への奉納の踊り、来年の豊作を願い豊作祈願の踊りを舞い祭りが始まった

 

 翔は得意術で加熱料理の手伝いでコードはスチーマーの応用術の大釜を発動し小枝と紗綾に準備してもらった鍋を作りその放射熱でパンケーキを焼いてもらい

 

 二個は翔の前で発動させて使わせ、自身はスーに用意してもらったホットサンドを焼きポップコーンを作りケベックの中で弾けて踊るコーンが大ウケで祭りを賑わせ…

 

 最も人々を驚かせたのがわたあめで、命を大喜びさせたので更に注目を集めた

 

 後はコード自体は何もしないけどリンゴ飴を知らない事と自分の知識に有るリンゴに比べ酸っぱいことに気付いたのでセレナの祖父に教え試食してもらった結果…

 

 期待外れの残念なリンゴ達にも光が当たり祭りでも人気の逸品となりあんず飴も教えたので双璧をなし巫女達の奉納の踊りを観に集まった人達の人気商品になり売り切れる迄行列は絶えなかった

 

 若月の… ミナがデザインし月影の国で作製された服やエプロンは好評で代理店に指名した店の入荷待ち状態

そして祭りも終盤に入りコードが気を利かせ翔に

 

 「 仰山世話になったセレナと一緒に祭り見て回らんかいっ、ちゃんと巫女様達のお許しもらっとるんやからさっさと去ねっ! 鬱陶しいうすらトンカチがっ… 」

そう叫んで二人を店の外に追っ払い ( 翔に対しては実際店から蹴り出している )

 

 「 ホンマ難儀なやっちゃな… ついてきて欲しいくせに… まぁぇーか… 後は二人の問題でボクには何も関係あらへんのやから… 」

 

 そう誰に聞かせるともなく呟き肩を竦めて作業に没頭する事にした

 

 他者との不要な関わりを忌み嫌い避けて歌姫に対してさえ飼い主以上の感情を持つ事を厳に戒め歌姫と出会う前の…

 

 スラグと呼ばれていた頃の無機質無気力な荒んでいた頃の状態に戻りつつあったコード…

 

 良くも悪くもそれが迷いを断ち切り魔術の目覚めを促しその時は確実に近付いていたが歌姫とユカの不満を募らせていった

 

 翔とコードの売り上げ利益は二人の収入で他には手間賃代わりに貰った炭の相当額

 

 二人の術に対する御祝儀等も二人の収入で支出の無い二人…

 

 主食が虫の翔と、草の実が主食のコードは翔が集めて来るし体格的にも量を必要としない食費は安いと言うか自給自足なだけでなく

 

 衣装に無頓着な二人は与えられた物を着るだけで当然の事ながら試作品なのでタダで使い途の無い翔とコード

 

 更に根本的な問題なのが引きこもり気味のコードは城から出たがら無いのもユカの不満の元

 

 

 

 そんな状態なので極端な話し王女でない翔は雫やリンに仕えたいと思う者達と同じく王女宮のの侍女、騎士ではない為翔に直接仕える事も出来るし…

 

 リン達が、王女宮の設立迄は公女宮所属で命担当を経て王女達担当になっていた… その様に翔の担当になれば良い

 

 そう観月は考えていたのだけどいかんせん当人達の思い込みだけで好ましくない結論出してしまっている

 

 そして命の前に集められた四人と翔を前に

 

 「 今答えを聞いて良いですか? それとも明日の朝まで待ちましょうか? 」

 

 命に問われた四人は

 

 「 私は王女様達が嫌いじゃありませんけど翔ちゃんの側に居たい、不器用な翔ちゃんの手伝いをしたいだけで王女様にお仕えしたい方達の様には振る舞えません 」

 

 セレナがそう答え

 

 「 私達も同様に考えますから付かず離れずの距離で翔の事を見守ります 」

 

 そう告げられ俯く翔は

 

 「 そんなんややっ! なんで側に居ってくれんの? …何で一緒に来るってゆーてくれへんのっ!?

ボクがみこお姉ちゃん一杯お手伝いするから皆にご飯食べさせたってもろて一緒に馬車乗ればエーやん? 」

そう言って泣きながら四人に訴える翔を横目にコードは

 

 「 ボクかて出来る範囲で色々お手伝いしたる… ボクは彼奴で彼奴はボクやからボクに何とか出来る事やったら何とかしたるけど…

 

 せやけどなっ…ショーミの話し、ホンマあんた等四人にはガッカリやわっ! 所詮何の関わりもない無いボクはもう何も言わん、勝手にさらせっだぁほっがっ! 」

 

 声を荒げる事なく四人を睨み付け言いたい事だけ言って持ち場に戻って行くコードを見ながら溜め息吐いて

 

 「 全く… 翔ちゃんにあんなこと言わせて情けない…

王女様達と違い翔ちゃんやコードちゃんの二人に専属で仕えるのは容易い事でひとつには王女宮ではなく魔導師の命様に仕えてもらい命様が貴女達に翔の事を任せますと言えば良いだけの話し

 

 もう一度問います翔ちゃんの側に居たい… ついてくる意思はないのですかっ!? 」

 

 そう問い詰められた四人はユカに抱かれ肩を震わせて泣く翔を見ながら

 

 「 私は… ちゃんと向き合ってませんでした… 翔ちゃんが私の前から居なくなる事の重大さから目を逸らしてました…」

 

 そう言って言葉を途切らせるセレナに翔の身体を差し出すとその身体を受け取り改めて抱き締めると

 

 「 わ、私も出来る限りのお手伝いをします… ですから私も翔ちゃんと一緒に連れて行ってください… 翔ちゃんの側に居たいです…

 

 だからこれでさよならなんて嫌すぎますっ!」

 

 涙ながらに訴えるセレナを見て溜め息を吐いて

 

 「 待ってたんですよ? 貴女のその言葉を… 貴方達も具体的な待遇はユカから聞きなさい… 翔を頼みますよ?」

 

 そう告げて王城に帰る支度を始めさせる命だった

 

 

 侯爵領に向かう陣容は何故か三台の荷馬車の先頭に命と馭者のシュー幌付の荷台にはセレナ、翔、ミチ、ソウ、ノーランが乗り込みニ台目の馭者はイース三台目の馭者はウェスが務めることになり

 

 「 命様のお供… 私達には無理なのでしょうか? 」

一人の馭者の問い掛けに無表情に

「一見荒事と無縁そうなシュー様とイースとウェス…命様の狙いは山賊狩りですね 」

 

 質問ではなくそう言い切るノーランに笑いながら

 

 「 その通りですから三名は馭者としてではなく兵として同行をお願いしたいのですが?」

 

 命に変わってユカがそう答えると溜め息を吐いて

 

 「 ノーランって言ったね?君が弓を得意だと翔から聞いた… 破魔矢で翔を守ってほしい 」

 

 そう言って渡し三人の馭者に蒼い霊玉の短槍を渡して

 

 「 みこ達を頼みます 」

 

 そう言って頭を下げる真琴に驚き

 

 「 とんでもありません、我等の方こそその様な大任を与えていただき光栄です 」

 

 そう言って他国の王女への儀礼で返す馭者達に穏やかな笑みを浮かべ応える真琴だった

 

 そして、命がいよいよミナの元から巣立つ時が訪れた

 

 「 今まで甘えてばかりでゴメン、そして有難う… 壊れちゃってまこちゃんに甘えられなかったみこをいつも側で見守ってくれた

 

 春蘭… アマアマなミナお母さんのフォローするみたく厳しいお姉さんみたいだった…

 

 大丈夫、みこや翔、コーデみたいに面倒な子なんてそうそう居ないから皆のお姉さんになって導いてあげてねっ♪

 

 そして媛を守ってあげて… この先の鍵を握るだろう媛と翔をひとつ所には居させられないから… 伯母様、月光お兄さん、瑞穂お姉さんそれに駐留組の皆、媛の事… お願いします 」

 

 そう泣き笑いで告げる命に同行する者達

 

 「 行きますよ 」

 

 そう言ってシューの手を借りて隣に腰を下ろすと馭者を務めるシューの荷馬車を先頭に一行の荷馬車は王城を出発し侯爵領に在る侯爵の居城目指し旅立った

 

 商家の使用人になり済ました線の細いシューと少年達の乗る荷馬車は盗賊達には格好の獲物に見えた…が、彼らの正体に気付けぬ愚者達は所詮ザコに過ぎず

 

 次々に捕らえられ裁きを受けるその時まで翔用のアクエリアスの結果結界内に幽閉される事になった

 

 夜遅くまで馬車を走らせ翔、セレナ、ミチが食事の仕度を担当するから強行軍も割合楽しい旅になっている

 

 これから先はかつてミナが命、サエが翼について運命へと旅立ったように翔と共に旅立ったセレナとミチ

 

 ミチは当面、先輩の侍女としてセレナに指導させることにし命はセレナに踊りの稽古をつけていた

 

 古関跡付近でこれまでで一番な山賊の一味が襲うタイミング測っていたが既にバレバレでまんまと誘き出されたことを知らぬ哀れな愚か者達

 

 馬車に向け矢を放ち威嚇しながら追い掛けてくる山賊の様子を震え笑いを堪える命を勘違いしたシューの

 

 「 かなりの勢力ですがご安心ください、命様っ! 」

 

 静かに、だけど力強く宣言するのを聞いて一瞬意味がわからずキョトンとしたけど

 

 「 あぁ大丈夫、余りにも簡単に誘き出される山賊達の事を思ってたら可笑しくって笑うの我慢して身体が震えちゃってただけなんだからねっ♪ 」

微笑みながら言う命に

「 それなら良いのですが… 」

そう真剣な顔で言うものだから益々笑いが止まらない命は俯いて身体を震わせていたけど

それをシュー同様に勘違いした山賊が侮りシュー達に馬車を止めるよう恫喝してきたがされなくてもそろそろ頃合いだと思っていたシューが止まらない理由はなく後続の馬車に停車の合図を送った

停車させた馬車に近寄り

「痛い目に遭いたくなければ大人しく荷とを女達を置いていけっ!」

そう叫ぶ頭目らしき男が命の素顔を隠すフードを上げながら口笛を吹く男に

「荷は諦めるしかないがお嬢様をどうする気だ?お前達はっ!」

そうシューに問われた頭目はげひた笑いを浮かべながら

「そんな事お前達が知る必要ねえよっ」

が、その声と同時に

ー皆、一味は全部出揃ったから遠慮は要らんさかいちゃっちゃっと片してんかっ♪ー

そう陽気に言ってセレナとミチを守るようにマジックアットレーを二人の周りに展開して戦士達を見守っていた

だが所詮数だけが頼りの俄山賊達に勾玉や霊玉の力を宿した武具に選ばれし戦士に歯が立つわけもない

圧倒的な戦力差の前にほどなく鎮圧され結界内の牢獄の入り口であるに馬車に放り込まれていきそれが終わり走り出すと暫くの後に

「それ以上近づくなっ!近寄れば射つっ!」

そう威嚇する声がして警戒する命達に

「こいつは驚いた…山賊崩れにアタシ等の警告ができる知能が有るとは思わなかったぞ…

だが、アタシ等の前からさっさと消えろ、闇の狗っ!お前達にくれてやる物は何一つも持ち合わせちゃいないんだからなっ!」

そう叫び声を上げる相手に

「そうですか、別に私達も名前も存じない方に差し出されて受け取る理由はありませんしそろそろ主人様に休んでいただきたいので貴女達等に用はありませんが?」

シューが挑発的に言い返すと

「アタシ等だってあんた等にゃ用はないんだよっ!」

そう言い返しながら睨むのだけど

「どーでもえーねんけどあんた等会話成立しとらんて気ぃ付けへん?」

寝ぼけ眼の翔が呆れ気味に言えば

「翔に言われても気付いてませんから言うだけ無駄かもしれませんよ?」

そう呆れ気味に話すノーランの口調は冷めており

(ノーランの機嫌悪いのな…)

(うん、相当にね)

イースとウェスが目でそう話し合っていると

「あの…ノーラン?」

恐る恐ると、言う感じでセレナが声を掛けると

「全く…少しは落ち着きなさい、シュー様っ!」

そうノーランの注意を受け悄気るシューを他所に

「私はノーランと言う者で私達は水の精霊の巫女様と共に山賊狩りを行いながら侯爵様を訪問する者です」

そうノーランが名乗ると

「ノーラン…ってま、まさかアンタ…賢者の弟子と言われるあのノーランかっ!?」

一人が驚きの声を上げると

「えーっ、まぁ確かに私が師と仰ぐ方は賢者と呼ばれてますが私は未々未熟者に過ぎませんし…

我等の幼い主人様と私達の可愛い翔がそろそろ眠りに落ちますからお静かに願えますか?」

そう声を掛けると穏やかな声で

「そうだね、この清浄な霊気に気付けぬとは私も焼きが回ってたようだ…案内するからついてきな」

そう言われ騎馬の少女達についていくよう仲間達に指示してミチには命、セレナには翔を見守る様に指示して目を閉じ周囲の気配に気を配るノーランだった

 

「まさか他国の王女様が僅な手勢だけ率いて山賊狩りをするなんてね……」

驚くやら呆れるやら感嘆の声を漏らす女戦士に喜平が

「そーゆー方なんですよ、安全な後方で守られてるより自らが矢面に立って立ち向かう人なんだからわし等も喜んでお供するんだよ」

そう誇らしげ語る喜平の表情は自国の王女を褒め称えている騎士のそれだった

その後命の代理としてノーラン、侯爵の名代として対山賊の自衛団との話し合いとなりその結果は翌朝話し合いの結果を伝えられた命は

「翔、イースを導いて上げて…んで伯母様にお使い頼んでもいーい?」

そう言われた翔は不思議そうに

「何でみこお姉ちゃんがしーひんの?」

そう問い掛けると命は笑みを浮かべて

「絆になるから…翔とイースの…勿論ウェスやノーランの時も翔が導いて上げるんだよ」

そう告げられた翔にその意味は理解できないけどそうすべきだと言うことだけは漠然とではあるがそうなのだと思えたから

「イース、指笛吹けるんなら思いっきし響かせてんか?」

そう翔に言われて思い切り響かせると天空から一体のゼブラが現れイースの前に降り立った…まるでイースの騎乗を待つように控えるのを見て戸惑うイースに向かい

「イース、これを王城の陛下の元に頼む、翔…イースの案内を頼めますね?」

ノーランがそう告げると命も頷いたのでそれを見た翔も頷いて

「うん、えーで…任しといてやっ♪せやけどメッチャ懐かしいわ…」

そう言って照れ臭そうに笑う翔に

「そだね、海斗達にお使い頼んだ時も一緒に行ってもらったもんねっ♪」

そう言って笑う命に

「な、何で一番年下の俺なんですか?」

そう問い掛けるイースに

「さぁ?みこが決めた訳じゃないし大樹達も一番年下の海斗から選らばれたんだからそんな事気にするより息を合わせて翔を守れるようになって」

侯爵家に着くまでに総勢二百名を越える山賊達を捕らえたけど結界内の牢獄に待ち構えていたまさに獄卒長の閻魔(勿論名前の由来はあのお方から頂いてます)率いる仲間達にきっちり矯正されている為改めて罰を与える必要はないが一応形式的に侯爵の判断に委ねる事にした

早朝の訪問者に驚きながら先頭荷馬車の馭者が変装したシューである事に気付いた門番が慌てて荷馬車の入城を認め中庭で待機する命一行だけどイースと共に一足先に侯爵夫人の元に飛んだ翔を胸に抱いた夫人とその後に侯爵その人とリンと忍達が出迎えてくれた

命を出迎え謁見の間にてシューからの報告を受け閻魔を紹介すると侯爵夫人の胸に抱かれる翔を見て

「野宿の旅やったゆーたら先に風呂はいるよー言われたんやけど…」

そう命に報告する翔に

「命様は侯爵様にご報告を済ませてから行きますからミチはノーラン達に手伝ってもらいミチとセレナは翔の着替えなどを用意したら翔と一緒に入浴を済ませなさい

他の方達は侯爵様宛の荷物の引き渡しの後に休んでください」

そう告げて侯爵との会談を始めた

会談…と言うよりは伯爵家の月夜が女神の依り代となり地の精霊の巫女に仕える霊獣の騎士たけが守護者に名乗りを上げてその二人の婚約が認められ祝福された事

闇の口に関わる騒動や海の異変に山賊狩りの結果等とその対応とその後の対策をユカがまとめたレポートを元にユウに報告させ侯爵領での対策の検討を提案して報告を終えた

場所を変えお茶を飲んで一息ついてるところにりんと雪華が訪れ命を入浴に誘うが

「お風呂は未だ良い(入れば寝ちゃうから)、それよりりんちゃんは命様禁止だからね…もし今度「命様、そんな事…」前はみこちゃんって呼んでくれてたよね?りん様」

そう言われて唖然とするりんに雪華が

「今の貴女ならわかりますね?あの頃の命様の気持ちが…人魚姫や様を付けて呼ばれるの嫌っていたのかを

大海原の女神の依りとなった今の貴女も共に育った留美菜やなみにまでりん様と呼ばれて寂しいのでしょ?

ならもうみこちゃんって呼んであげなさい、勿論公の場で必要な場合は命王女と呼べば良いと思います

命様も命様より命王女の方が宜しいでしょ?」

そう問われて

「うん、その呼び方はみこが偉いんじゃなく王女の肩書きが偉いって思えるからそんで良いと思う」

命にそういわれてやっと

「うん、わかったよ…みこちゃん…だから一緒にお風呂入ろっ♪久し振りに」

納得は出来なくても今なら命の気持ちはわかる気はしてきたりんだからその気持ちに応えたいりんだったから命と一緒にお風呂に入りたい気持ちに応えて欲しいりんだった

 

夜が明けて明るくなってから領内に入ると待ち構えて居る者逹がいた

「霊獣の騎士大樹様、お待ちしておりました」

どうやら村長らしき人物が口を開き人質にされていた少女が両親と共に近寄ってきた

「やぁ、君はあの時の娘だね…最近山賊が増えたと聞いていたから昨日命様が山賊狩りを行ったのだけど…」

あれから悪い事は起こって無いかい?」

と優しく聞くと

「いいえ、悪い事は起こってませんが毎日が不安で仕方有りません…」

と不安を訴えた

「そうか…ヴェル済まないが命様の従者の皆様を侯爵様の元へ案内してはくれないかな?」

と言うと

「大樹様っ!」

叫び声を上げるヴェルサンディを苦笑いで宥めながら

「村長、対策を父に立てさせる間騎士の大樹様とヴェルを置いて行きますが宜しいでしょうか?」

と申し出ると

「私達は構わないどころか恩人である大樹様とヴェルサンディー様に滞在していただけるのなら皆が喜んでお迎えしましょう」

興奮気味に話す村長に

「それならヴェルも構わないよね?

着替えとかの荷物は後で持たせるから」

とスクルドが言うと

「ではその役目は私が引き受けましょう」

と引き受けたライラに

「有難うライラさん

ヴェル、要る物が有るなら持って来てもらいますが?」

と言われ

「いえ、特に有りません」

と答えると

「わかりました、大樹様…ヴェルの事お願いします」

と言われて

「うん、侯爵様に宜しく伝えて下さい」

 

 

「そう言った訳で取り敢えず大樹様とヴェルを残して来ましたので後の事はお父様にお任せします」

そう報告の言葉を結ぶスクルドに

「ひとつだけ良いか?」

父の問い掛けに

「私の知っている範囲ならば…」

「媛歌様と同じように羽を持つあの歌姫と舞姫と名乗る二人はは何者なのだ?」

と聞かれ

「音の精と鏡の巫女と聞いているのみです」

としか聞かされてないのでそう答えると

「では、命様の従者の精霊の巫女の一人として扱えばよいのだな?」

と、問うと

「事実そうなのですからそれで構わないと思います

後他に無いようでしたらヴェルの着替えを用意して騎士のライラさんに持たせたいので宜しいでしょうか?」

この話題の終わりを告げられ

「ああ、済まなかった…宜しく頼む」

ユウが命に

「近々美月主催で大海原の女神の依り代のりん様お披露目パーティーを開く予定ですが命様のご意見は?」

特に何も無いから

「みこには無いからユウに任せるよ

大樹の事は取り敢えず明日にでもに後任を任せてはと思うけど…

たけは地属性の騎士…地の精霊の巫女の騎士なのだから忍お姉さんの判断に任せるべきかも…」

と言うと

「たけ、行ってくれますか?」

と言われ

「忍様が俺の誓いを受け入れてくれるのならお命じ下されば良いのです」

たけの誓いを受け入れ

「たけ、大樹に代わり侯爵様のお手伝いお願いします」

忍にそう言われて

「はい、我が誓いに掛けてお引き受け致します」

と応えたたけの事を

「ユウ、たけも正騎士に昇格したからね」

と報告する命に

「命様、明日りん様は侯爵様と豊作祈願祭に行かれますが命様はどうされますか?」

言われて

「みこは邪魔にならないの?」

と聞くと

「そんな事無い、久し振りにみこちゃんと踊りたいし指導もして欲しい」

そう聞いて

「うん、でもそれだけなら後で練習みてあげるよ?

みこも新しい踊りをお稽古中だから」

と言われ

「同じ舞台で踊りたいのっ!」

と怒って言うりんに

「そうなの?」

と聞くと

「私達だって命様と一緒に踊りたいのです

そうですよね?忍様」

と振られた忍は

「私や雪華は貴女と踊った事が殆ど無いのだから…」

と答えた

「解ったよ…じゃ代わりにりんちゃんに覚えて欲しい事が有るんだけど」

と言われ

「それは…私に出来る事なのでしょうか?」

と聞くと

「りんちゃんもすべき事だよ」

と言われて

「解りました、お導き下さい…」

と答えた

「じゃあ…食事の後で貴女を慕って集まった子逹に会わせてね」

と話していると

「みこちゃん…それは私もいつかすべき事ですか?」

と聞くと

「その一人だよ」

「命様、我々はそれに立ち会わせて頂くわけにはいかないのだろうか?」

と問われ

「大丈夫だよ、雪華の時は伯母様…女王様が立ち会ったんだからりんちゃんを見守ってね

りんちゃん来て

「りんちゃんのお友達のみこだよ、皆よろしくね」

とあっさりした挨拶に驚いていると

「りんちゃんの試練の為に皆の力が必要なんだけど…応援してくれるよね?」

 

 

 

 

「②花の娘とコーデ

 

―おい、そこの駄鳥擬き…駄鳥はどこ行ったんだ?―

その失礼きわまりない呼び掛けに反応したのは歌姫で

「いきなりなんですか?失礼な…姿を表しなさい、何様のつもりなんですか?」

そう声を上げると

―あんたにゃ関係無いが駄鳥は私を馬花の娘呼び他の者達は花の娘と呼ぶ者だが私は私自身を知らぬゆえそうとしか言えぬ…

で、駄鳥はどこに行ったんだ?折角彼奴が好みそうな手土産を持ってきてやったものを…

まぁ良いのだが…擬き、駄鳥に会ったら渡しとけ…もう帰る、否…もう行くと言うべきか?まぁバカと言われてる私にはどうでも良いのだが…―

そう言って思考の中断した花の娘がコードに向かい

―お前にもこれをくるてやる…―

そう言って何かの詰まった袋を渡すと姿を現すことなくその気配は消え

(アレ、一体なんやったんやろ?)

誰に聞けばいいのかわからないコードだけど実のところ認知度の低い花の娘の存在を知る者は少なく既にミナと春蘭も側に居ない現状では直接花の娘を知る者は皆無だがコードにはそれすらも知らない事だった

首都を出発後合流した大樹とヴェルサンディと共に侯爵領を目指す一行は宿泊先の街の盛大な歓迎で迎れながら侯爵領を

目指した

れた

が…コードは勿論歌姫、舞姫が目立つことを厭い裏に引っ込んでしまい気配すら消してしまいスクルドは頭を抱える事になった

そして一行が訪れた古関近くの村での事…村の入り口で村人達が待ち構えていて

「皆様のご到着をお待ちしておりました」

 

 



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67話

ナニを求めて?

 

 

① 収穫祭

 

 帰還後の命は慌ただしく王城近辺の集落の収穫祭に参加することになりその間に出発の準備を整えた

 

 その慌ただしい合間を縫って芝居見物などを真琴共に過ごす二人

 

 その一方でセレナは命から

「一度実家に戻り翔と共に旅立つか否かを考えなさい、期限は私達の出発の朝までです」

 

 そう告げられ翔に送られその事はセレナ経由でノース達にも伝わり各々に考える事になりそして最後の祭り

 

 翌日に控えたセレナ達の村の収穫祭を最後に侯爵領に旅立つので期限は明日の祭りが終わるまでに決めなくてはいけないのに…

 

 参考までにノース達にも聞いてみると

 

 「翔個人についていきたい私達は命様にお仕えするわけにはいかないのだから付かず離れずの距離を保ちながら命様の一行についていきます」

 

 そう言われたセレナは

 

 (私には言えない…今の私には自信も覚悟も無いんだから…でも、このままお別れなんてそんなのだけは嫌だよね?)

 

 夜が弱い翔は既に熟睡中でその寝顔を見ながら考え続けた…でも、答えは見えない…

 

 不意に涙が溢れて声を押し殺して泣くセレナの身体にすり寄る翔の身体に腕をまわして抱き締めそのひんやりする感触感じながらいつしか眠りに落ちたセレナだった…

 

 開墾以来初めての豊作に沸く村人に代わり真琴、命、歌姫、舞姫の競演による豊作に感謝の気持ちを捧げる踊り、地の精霊への奉納の踊り、来年の豊作を願い豊作祈願の踊りを舞い祭りが始まった

 

 翔は得意術で加熱料理のお手伝いでコードはスチーマーの応用術の大釜を発動し小枝と紗綾に準備してもらった鍋を作りその放射熱でジャガイモのパンケーキを焼いてもらい

 

 二個は翔の前で発動させて使わせ、自身はスーに用意してもらったホットサンドを焼きポップコーンを作り… ケベックの中で弾けて踊るコーンが大ウケで祭りを賑わせ…

 

 最も人々を驚かせたのがわたあめで命を大喜びさせたので更に注目を集めた

 

 後は、コード自体は何もしないけどリンゴ飴を知らない事と自分の知識に有るリンゴに比べ酸っぱいことに気付いたのでセレナの祖父に教え、試食してもらった結果…

 

 期待外れの残念なリンゴ達にも光が当たり、祭りでも人気の逸品となりあんず飴も教えたので双璧をなし巫女達の奉納の踊りを観に集まった人達の人気商品になり売り切れる迄行列は絶えなかった

 

 また、ブライドポテトはあるがポテトチップスがない事を知ったコード

 

 王城の料理長にポテトチップスの事を話て鬼百合に試食させるとそれを肴に飲み始めるのを見た命がつまんで食べるとサクサクとした歯応えが楽しくついつい

 

 そんな感じで二枚目、三枚目と手を出して周囲を驚かせた

 

 若月の…ミナがデザインし月影の国で作製された服やエプロンは好評で代理店に指名した店の入荷待ち状態

そして祭りも終盤に入りコードが気を利かせ翔に

「仰山世話になったセレナと祭り見て回らんかいっ、ちゃんと巫女様達のお許しもらっとるんやからさっさと去ねっ!鬱陶しいうすらトンカチがっ…」

そう叫んで二人を店の外に追っ払い(翔に対しては実際店から蹴り出している)

「ホンマ難儀なやっちゃな…ついてきて欲しいくせに…まぁぇーか…後は二人の問題でボクには何も関係あらへんのやから…」

そう誰に聞かせるともなく呟き肩を竦めて作業に没頭する事にした

他者との不要な関わりを忌み嫌い避けて歌姫に対してさえ飼い主以上の感情を持つ事を厳に戒め歌姫と出会う前の…

スラグと呼ばれていた頃の無機質無気力な荒んでいた頃の状態に戻りつつあったコード…

良くも悪くもそれが迷いを断ち切り魔術の目覚めを促しその時は確実に近付いていたが歌姫とユカの不満を募らせていった

翔とコードの売り上げ利益は二人の収入で他には手間賃代わりに貰った炭の相当額

二人の術に対する御祝儀等も二人の収入で支出の無い二人…

主食が虫の翔と草の実が主食のコードは翔が集めて来るし体格的にも量を必要としない食費は安いと言うか自給自足どころか

衣装に無頓着な二人は与えられた物を着るだけで当然の事ながら試作品なのでタダで使い途の無い翔

更に根本的な問題なのが引きこもり気味のコードは城から出たがら無いのもユカの不満の元

そんな状態なので極端な話し王女でない翔は雫やリンに仕えたいと思う者達と同じく王女の侍女、騎士ではない為翔に直接仕える事も出来るし…

リン達が王女宮の設立迄は公女宮所属の命担当を経て王女達担当になっていたように翔の担当になれば良い

そう観月は考えていたのだけどいかんせん当人達の思い込みだけで好ましくない結論出してしまっている

そして命の前に集められた四人と翔を前に

「今答えを聞いて良いですか?それとも明日の朝まで待ちましょうか?」

命に問われた四人は

「私は王女様達が嫌いじゃありませんけど翔ちゃんの側に居たい、不器用な翔ちゃんの手伝いをしたいだけで王女様にお仕えしたい方達の様には振る舞えません」

セレナがそう答え

「私達も同様に考えますから付かず離れずの距離で翔の事を見守ります」

そう告げられ俯く翔は

「そんなんややっ!なんで側に居ってくれんの?…何で一緒に来るってゆーてくれへんのっ!?

ボクがみこお姉ちゃん一杯お手伝いするから皆にご飯食べさせたってもろて一緒に馬車乗ればエーやん?」

そう言って泣きながら四人に訴える翔を横目にコードは

「ボクかて出来る範囲で色々お手伝いしたる…ボクは彼奴で彼奴はボクやからボクに何とか出来る事やったら何とかしたるけど…

せやけどなっ…ショーミの話しホンマあんた等四人にはガッカリやわっ!所詮何の関わりもない無いボクはもう何も言わん、勝手にさらせっだぁほっがっ!」

声を荒げる事なく四人を睨み付け言いたい事だけ言って持ち場に戻って行くコードを見ながら溜め息吐いて

「全く…翔ちゃんにあんなこと言わせて情けない…

王女様達と違い翔ちゃんやコードちゃんの二人に専属で仕えるのは容易い事でひとつには王女宮ではなく魔導師の命様に仕えてもらい命様が貴女達に翔の事を任せますと言えば良いだけの話し

もう一度問います翔の側に居たい…ついてくる意思はないのですかっ!?」

そう問い詰められた四人はユカに抱かれ肩を震わせて泣く翔を見ながら

「私は…ちゃんと向き合ってませんでした…翔ちゃんが私の前から居なくなる事の重大さから目を逸らしてました…」

そう言って言葉を途切らせるセレナに翔の身体を差し出すとその身体を受け取り改めて抱き締めると

「わ、私も出来る限りのお手伝いをします…ですから私も翔ちゃんと一緒に連れて行ってください…翔ちゃんの側に居たいです…

だからこれでさよならなんて嫌すぎますっ!」

涙ながらに訴えるセレナを見て溜め息を吐いて

「待ってたんですよ?貴女のその言葉を…貴方達はも具体的な待遇はユカから聞きなさい…翔を頼みますよ?」

そう告げて王女に帰る支度を始めさせる命だった

侯爵領に向かう陣容は何故か三台の荷馬車の先頭に命と馭者のシュー幌付の荷台にはセレナ、翔、ミチ、ソウ、ノーランが乗り込みニ台目の馭者はイース三台目の馭者はウェスが務めることになり

「命様のお供…私達には無理なのでしょうか?」

一人の馭者の問い掛けに無表情に

「一見荒事と無縁そうなシュー様とイースとウェス…命様の狙いは山賊狩りですね」

質問ではなくそう言い切るノーランに笑いながら

「その通りですから三名は馭者としてではなく兵として同行をお願いしたいのですが?」

命に変わってユカがそう答えると溜め息を吐いて

「ノーランって言ったね?君が弓を得意だと翔から聞いた…破魔矢で翔を守ってほしい」

そう言って渡し三人の馭者に蒼い霊玉の短槍を渡して

「みこ達を頼みます」

そう言って頭を下げる真琴に驚き

「とんでもありません、我等の方こそその様な大任を与えていただき光栄です」

そう言って他国の王女への儀礼で返す馭者達に穏やかな笑みを浮かべ応える真琴だった

そしていよいよミナの元から巣立つ時が訪れた

「今まで甘えてばかりでゴメン、そして有難う…壊れちゃってまこちゃんに甘えられなかったみこをいつも側で見守ってくれた

春蘭…アマアマなミナお母さんのフォローするみたく厳しいお姉さんみたいだった…

大丈夫、みこや翔、コーデみたいに面倒な子なんてそうそう居ないから皆のお姉さんになって導いてあげてねっ♪

そして媛を守ってあげて…この先の鍵を握るだろう媛と翔をひとつ所には居させられないから…伯母様、月光お兄さん、瑞穂お姉さんそれに駐留組の皆、媛の事…お願いします」

そう泣き笑いで告げる命に同行する者達

「行きますよ」

そう言ってシューの手を借りて隣に腰を下ろすと馭者を務めるシューの荷馬車を先頭に一行の荷馬車は王城を出発し侯爵領に在る侯爵の居城目指し旅立った

 

商家の使用人になり済ました線の細いシューと少年達の乗る荷馬車は盗賊達には格好の獲物に見えた…が、彼らの正体に気付けぬ愚者達は次々に捕らえられ裁きを受けるその時まで翔用のアクエリアスの結果結界内に幽閉される事になった

夜遅くまで馬車を走らせ翔、セレナ、ミチが食事の仕度を担当するから強行軍も割合楽しい旅になっている

これから先はかつてミナが命、サエが翼について運命へと旅立ったように翔と共に旅立ったセレナとミチ

ミチは当面先輩の侍女としてセレナに指導させることにし命はセレナに踊りの稽古をつけていた

古関跡付近でこれまでで一番な山賊の一味が襲うタイミング測っていたが既にバレバレでまんまと誘き出されたことを知らぬ哀れな愚か者達

馬車に向け矢を放ち威嚇しながら追い掛けてくる山賊の様子を震え笑いを堪える命を勘違いしたシューの

「かなりの勢力ですがご安心ください、命様っ!」

静かに、だけど力強く宣言するのを聞いて一瞬意味がわからずキョトンとしたけど

「あぁ大丈夫、余りにも簡単に誘き出される山賊達の事を思ってたら可笑しくって笑うの我慢して身体が震えちゃってただけなんだからねっ♪」

微笑みながら言う命に

「それなら良いのですが…」

そう真剣な顔で言うものだから益々笑いが止まらない命は俯いて身体を震わせていたけど

それをシュー同様に勘違いした山賊が侮りシュー達に馬車を止めるよう恫喝してきたがされなくてもそろそろ頃合いだと思っていたシューが止まらない理由はなく後続の馬車に停車の合図を送った

停車させた馬車に近寄り

「痛い目に遭いたくなければ大人しく荷とを女達を置いていけっ!」

そう叫ぶ頭目らしき男が命の素顔を隠すフードを上げながら口笛を吹く男に

「荷は諦めるしかないがお嬢様をどうする気だ?お前達はっ!」

そうシューに問われた頭目はげひた笑いを浮かべながら

「そんな事お前達が知る必要ねえよっ」

が、その声と同時に

ー皆、一味は全部出揃ったから遠慮は要らんさかいちゃっちゃっと片してんかっ♪ー

そう陽気に言ってセレナとミチを守るようにマジックアットレーを二人の周りに展開して戦士達を見守っていた

だが所詮数だけが頼りの俄山賊達に勾玉や霊玉の力を宿した武具に選ばれし戦士に歯が立つわけもない

圧倒的な戦力差の前にほどなく鎮圧され結界内の牢獄の入り口であるに馬車に放り込まれていきそれが終わり走り出すと暫くの後に

「それ以上近づくなっ!近寄れば射つっ!」

そう威嚇する声がして警戒する命達に

「こいつは驚いた…山賊崩れにアタシ等の警告ができる知能が有るとは思わなかったぞ…

だが、アタシ等の前からさっさと消えろ、闇の狗っ!お前達にくれてやる物は何一つも持ち合わせちゃいないんだからなっ!」

そう叫び声を上げる相手に

「そうですか、別に私達も名前も存じない方に差し出されて受け取る理由はありませんしそろそろ主人様に休んでいただきたいので貴女達等に用はありませんが?」

シューが挑発的に言い返すと

「アタシ等だってあんた等にゃ用はないんだよっ!」

そう言い返しながら睨むのだけど

「どーでもえーねんけどあんた等会話成立しとらんて気ぃ付けへん?」

寝ぼけ眼の翔が呆れ気味に言えば

「翔に言われても気付いてませんから言うだけ無駄かもしれませんよ?」

そう呆れ気味に話すノーランの口調は冷めており

(ノーランの機嫌悪いのな…)

(うん、相当にね)

イースとウェスが目でそう話し合っていると

「あの…ノーラン?」

恐る恐ると、言う感じでセレナが声を掛けると

「全く…少しは落ち着きなさい、シュー様っ!」

そうノーランの注意を受け悄気るシューを他所に

「私はノーランと言う者で私達は水の精霊の巫女様と共に山賊狩りを行いながら侯爵様を訪問する者です」

そうノーランが名乗ると

「ノーラン…ってま、まさかアンタ…賢者の弟子と言われるあのノーランかっ!?」

一人が驚きの声を上げると

「えーっ、まぁ確かに私が師と仰ぐ方は賢者と呼ばれてますが私は未々未熟者に過ぎませんし…

我等の幼い主人様と私達の可愛い翔がそろそろ眠りに落ちますからお静かに願えますか?」

そう声を掛けると穏やかな声で

「そうだね、この清浄な霊気に気付けぬとは私も焼きが回ってたようだ…案内するからついてきな」

そう言われ騎馬の少女達についていくよう仲間達に指示してミチには命、セレナには翔を見守る様に指示して目を閉じ周囲の気配に気を配るノーランだった

 

「まさか他国の王女様が僅な手勢だけ率いて山賊狩りをするなんてね……」

驚くやら呆れるやら感嘆の声を漏らす女戦士に喜平が

「そーゆー方なんですよ、安全な後方で守られてるより自らが矢面に立って立ち向かう人なんだからわし等も喜んでお供するんだよ」

そう誇らしげ語る喜平の表情は自国の王女を褒め称えている騎士のそれだった

その後命の代理としてノーラン、侯爵の名代として対山賊の自衛団との話し合いとなりその結果は翌朝話し合いの結果を伝えられた命は

「翔、イースを導いて上げて…んで伯母様にお使い頼んでもいーい?」

そう言われた翔は不思議そうに

「何でみこお姉ちゃんがしーひんの?」

そう問い掛けると命は笑みを浮かべて

「絆になるから…翔とイースの…勿論ウェスやノーランの時も翔が導いて上げるんだよ」

そう告げられた翔にその意味は理解できないけどそうすべきだと言うことだけは漠然とではあるがそうなのだと思えたから

「イース、指笛吹けるんなら思いっきし響かせてんか?」

そう翔に言われて思い切り響かせると天空から一体のゼブラが現れイースの前に降り立った…まるでイースの騎乗を待つように控えるのを見て戸惑うイースに向かい

「イース、これを王城の陛下の元に頼む、翔…イースの案内を頼めますね?」

ノーランがそう告げると命も頷いたのでそれを見た翔も頷いて

「うん、えーで…任しといてやっ♪せやけどメッチャ懐かしいわ…」

そう言って照れ臭そうに笑う翔に

「そだね、海斗達にお使い頼んだ時も一緒に行ってもらったもんねっ♪」

そう言って笑う命に

「な、何で一番年下の俺なんですか?」

そう問い掛けるイースに

「さぁ?みこが決めた訳じゃないし大樹達も一番年下の海斗から選らばれたんだからそんな事気にするより息を合わせて翔を守れるようになって」

侯爵家に着くまでに総勢二百名を越える山賊達を捕らえたけど結界内の牢獄に待ち構えていたまさに獄卒長の閻魔(勿論名前の由来はあのお方から頂いてます)率いる仲間達にきっちり矯正されている為改めて罰を与える必要はないが一応形式的に侯爵の判断に委ねる事にした

早朝の訪問者に驚きながら先頭荷馬車の馭者が変装したシューである事に気付いた門番が慌てて荷馬車の入城を認め中庭で待機する命一行だけどイースと共に一足先に侯爵夫人の元に飛んだ翔を胸に抱いた夫人とその後に侯爵その人とリンと忍達が出迎えてくれた

命を出迎え謁見の間にてシューからの報告を受け閻魔を紹介すると侯爵夫人の胸に抱かれる翔を見て

「野宿の旅やったゆーたら先に風呂はいるよー言われたんやけど…」

そう命に報告する翔に

「命様は侯爵様にご報告を済ませてから行きますからミチはノーラン達に手伝ってもらいミチとセレナは翔の着替えなどを用意したら翔と一緒に入浴を済ませなさい

他の方達は侯爵様宛の荷物の引き渡しの後に休んでください」

そう告げて侯爵との会談を始めた

会談…と言うよりは伯爵家の月夜が女神の依り代となり地の精霊の巫女に仕える霊獣の騎士たけが守護者に名乗りを上げてその二人の婚約が認められ祝福された事

闇の口に関わる騒動や海の異変に山賊狩りの結果等とその対応とその後の対策をユカがまとめたレポートを元にユウに報告させ侯爵領での対策の検討を提案して報告を終えた

場所を変えお茶を飲んで一息ついてるところにりんと雪華が訪れ命を入浴に誘うが

「お風呂は未だ良い(入れば寝ちゃうから)、それよりりんちゃんは命様禁止だからね…もし今度「命様、そんな事…」前はみこちゃんって呼んでくれてたよね?りん様」

そう言われて唖然とするりんに雪華が

「今の貴女ならわかりますね?あの頃の命様の気持ちが…人魚姫や様を付けて呼ばれるの嫌っていたのかを

大海原の女神の依りとなった今の貴女も共に育った留美菜やなみにまでりん様と呼ばれて寂しいのでしょ?

ならもうみこちゃんって呼んであげなさい、勿論公の場で必要な場合は命王女と呼べば良いと思います

命様も命様より命王女の方が宜しいでしょ?」

そう問われて

「うん、その呼び方はみこが偉いんじゃなく王女の肩書きが偉いって思えるからそんで良いと思う」

命にそういわれてやっと

「うん、わかったよ…みこちゃん…だから一緒にお風呂入ろっ♪久し振りに」

納得は出来なくても今なら命の気持ちはわかる気はしてきたりんだからその気持ちに応えたいりんだったから命と一緒にお風呂に入りたい気持ちに応えて欲しいりんだった

 

夜が明けて明るくなってから領内に入ると待ち構えて居る者逹がいた

「霊獣の騎士大樹様、お待ちしておりました」

どうやら村長らしき人物が口を開き人質にされていた少女が両親と共に近寄ってきた

「やぁ、君はあの時の娘だね…最近山賊が増えたと聞いていたから昨日命様が山賊狩りを行ったのだけど…」

あれから悪い事は起こって無いかい?」

と優しく聞くと

「いいえ、悪い事は起こってませんが毎日が不安で仕方有りません…」

と不安を訴えた

「そうか…ヴェル済まないが命様の従者の皆様を侯爵様の元へ案内してはくれないかな?」

と言うと

「大樹様っ!」

叫び声を上げるヴェルサンディを苦笑いで宥めながら

「村長、対策を父に立てさせる間騎士の大樹様とヴェルを置いて行きますが宜しいでしょうか?」

と申し出ると

「私達は構わないどころか恩人である大樹様とヴェルサンディー様に滞在していただけるのなら皆が喜んでお迎えしましょう」

興奮気味に話す村長に

「それならヴェルも構わないよね?

着替えとかの荷物は後で持たせるから」

とスクルドが言うと

「ではその役目は私が引き受けましょう」

と引き受けたライラに

「有難うライラさん

ヴェル、要る物が有るなら持って来てもらいますが?」

と言われ

「いえ、特に有りません」

と答えると

「わかりました、大樹様…ヴェルの事お願いします」

と言われて

「うん、侯爵様に宜しく伝えて下さい」

 

 

「そう言った訳で取り敢えず大樹様とヴェルを残して来ましたので後の事はお父様にお任せします」

そう報告の言葉を結ぶスクルドに

「ひとつだけ良いか?」

父の問い掛けに

「私の知っている範囲ならば…」

「媛歌様と同じように羽を持つあの歌姫と舞姫と名乗る二人はは何者なのだ?」

と聞かれ

「音の精と鏡の巫女と聞いているのみです」

としか聞かされてないのでそう答えると

「では、命様の従者の精霊の巫女の一人として扱えばよいのだな?」

と、問うと

「事実そうなのですからそれで構わないと思います

後他に無いようでしたらヴェルの着替えを用意して騎士のライラさんに持たせたいので宜しいでしょうか?」

この話題の終わりを告げられ

「ああ、済まなかった…宜しく頼む」

ユウが命に

「近々美月主催で大海原の女神の依り代のりん様お披露目パーティーを開く予定ですが命様のご意見は?」

特に何も無いから

「みこには無いからユウに任せるよ

大樹の事は取り敢えず明日にでもに後任を任せてはと思うけど…

たけは地属性の騎士…地の精霊の巫女の騎士なのだから忍お姉さんの判断に任せるべきかも…」

と言うと

「たけ、行ってくれますか?」

と言われ

「忍様が俺の誓いを受け入れてくれるのならお命じ下されば良いのです」

たけの誓いを受け入れ

「たけ、大樹に代わり侯爵様のお手伝いお願いします」

忍にそう言われて

「はい、我が誓いに掛けてお引き受け致します」

と応えたたけの事を

「ユウ、たけも正騎士に昇格したからね」

と報告する命に

「命様、明日りん様は侯爵様と豊作祈願祭に行かれますが命様はどうされますか?」

言われて

「みこは邪魔にならないの?」

と聞くと

「そんな事無い、久し振りにみこちゃんと踊りたいし指導もして欲しい」

そう聞いて

「うん、でもそれだけなら後で練習みてあげるよ?

みこも新しい踊りをお稽古中だから」

と言われ

「同じ舞台で踊りたいのっ!」

と怒って言うりんに

「そうなの?」

と聞くと

「私達だって命様と一緒に踊りたいのです

そうですよね?忍様」

と振られた忍は

「私や雪華は貴女と踊った事が殆ど無いのだから…」

と答えた

「解ったよ…じゃ代わりにりんちゃんに覚えて欲しい事が有るんだけど」

と言われ

「それは…私に出来る事なのでしょうか?」

と聞くと

「りんちゃんもすべき事だよ」

と言われて

「解りました、お導き下さい…」

と答えた

「じゃあ…食事の後で貴女を慕って集まった子逹に会わせてね」

と話していると

「みこちゃん…それは私もいつかすべき事ですか?」

と聞くと

「その一人だよ」

「命様、我々はそれに立ち会わせて頂くわけにはいかないのだろうか?」

と問われ

「大丈夫だよ、雪華の時は伯母様…女王様が立ち会ったんだからりんちゃんを見守ってね

りんちゃん来て

「りんちゃんのお友達のみこだよ、皆よろしくね」

とあっさりした挨拶に驚いていると

「りんちゃんの試練の為に皆の力が必要なんだけど…応援してくれるよね?」

 

 

 

 

「②花の娘とコーデ

 

―おい、そこの駄鳥擬き… 駄鳥はどこ行ったんだ? ―

その失礼きわまりない呼び掛けに反応したのは歌姫で

「 いきなりなんですか? 失礼な…姿を表しなさい、何様のつもりなんですか? 」

そう声を上げると

― あんたにゃ関係無いが駄鳥は私を馬花の娘呼び他の者達は花の娘と呼ぶ者だが私は私自身を知らぬゆえそうとしか言えぬ…

で、駄鳥はどこに行ったんだ?折角彼奴が好みそうな手土産を持ってきてやったものを…

まぁ良いのだが… 擬き、駄鳥に会ったら渡しとけ… もう帰る、否… もう行くと言うべきか? まぁバカと言われてる私にはどうでも良いのだが…― そう言って思考の中断した花の娘がコードに向かい

―お前にもこれをくるてやる…―

そう言って何かの詰まった袋を渡すと姿を現すことなくその気配は消え

(アレ、一体なんやったんやろ?)

誰に聞けばいいのかわからないコードだけど実のところ認知度の低い花の娘の存在を知る者は少なく既にミナと春蘭も側に居ない現状では直接花の娘を知る者は皆無だがコードにはそれすらも知らない事だった

首都を出発後合流した大樹とヴェルサンディと共に侯爵領を目指す一行は宿泊先の街の盛大な歓迎で迎れながら侯爵領を目指した

 

 が… コードは勿論歌姫、舞姫が目立つことを厭い裏に引っ込んでしまい気配すら消してしまいスクルドは頭を抱える事になった

そして一行が訪れた古関近くの村での事…村の入り口で村人達が待ち構えていて

 

 「皆様のご到着をお待ちしておりました」

 

 



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