ある日のアーサー (仮面の男)
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ある日のアーサー

「ふわぁ…………ん?」

 

 アーサーが目を覚ますと、世界評議会の椅子に座っていた。

 

 周りを見渡すが、誰もいない。

 

「よぉ、目は覚めたか」

 

 すると、背後から懐かしい声と共に王冠を被せられる。

 

「愛しのサンタクローズはクリスマスでなくとも来るのか?」

 

 どこか既視感を感じながらアーサーは背後に立っている男に問いかける。

 

「今日はお前だけだ。ほら、プレゼントだ」

 

 サンタクローズはそう言うと、担いでいた大きな袋を置く。

 

「何だ、それは?」

「俺も中身は知らねえよ。じゃあまたな」

 

 それだけ言うと、サンタクローズは去っていく。

 とりあえず渡された袋の中を見てみる。

 

「これは……」

 

 中には手紙の入った封筒と大小様々な箱が入っていた。

 

「郵便はどこかの神の仕事じゃなかったか?」

 

 以前、ロキが送りつけてきたどこかの騎士王のコスプレを思い出しながら中身を全て確認する。

 

「いったい誰から送られたものやら」

 

 封筒は各々の個性を示すように様々なシールで封をされていた。

 オレンジ、釘差し金髪藁人形、桃色のうさぎのぬいぐるみの顔、そして最後に亀裂の入ったハート。

 

「今日は何か特別な事でもあるのか?」

 

 そう言いながらオレンジのシールで封をしてある手紙を開ける。

 

『アーサーさんへ

 お元気ですか?私は今日も元気です

 お父さんが「サイズ間違えた」

 と、服を押しつけてきたのでアーサーさんもどうぞ

 追伸:これからはお兄さんって呼んだ方がいいですか?

                     ヒカリより』

 

「それで、これがその服か」

 

 オレンジ柄の箱を開け、中に畳まれていた服を広げてみると、どこかで見たような魔法科高校の制服だった。

 

「たしか、あの小説の主人公はよく『流石です!お兄様!』と言われていたな。なら、追伸はそれに合わせた冗談だろう。しかし、今はいったいいつ何だ?」

 

 今日は聖暦だと4/1。つまりエイプリルフールなのだが、アーサーはその事に気づいていない。

 

「そもそもヒカリの父親は……」

 

 父親に貰ったというのも恐らく嘘だろう。アーサーは顔も知らぬ相手の事を考えながら首を傾げていた。

 

「まあ、いい。次を開けてみるか」

 

 誰の仕業か大体予想がついてしまう藁人形のシールで封をしてある手紙を開く。

 

『■■■■へ

 何か書こうと思ったが、やっぱやめるわ

 プレゼントの中にあるモノは絶対に食えよ

 追伸:いつか絶対殺す』

 

「………フッ」

 

 手紙の内容を一瞥して、鼻で笑いながら仕舞う。

 

 プレゼントの箱の中には食べ物があるみたいなのでアーサーは慎重に開けた。

 

 中には小さいチョコレートケーキが入っており、真ん中に『いつもありがとう!』の文とアーサーの似顔絵がチョコで書かれたプレートとがあった。

 

 そして、その周りを取り囲むように12個のチョコが置いてある。ベディヴィアはハート形、ユーウェインは獅子の顔、トリスタンはブランデー、ブルーノはかき氷、ガレスはティーカップ、ケイはキウイ、ラモラックは乙女座のマーク( )、ランスロットはドライバが刺さったミニチュアサイズの王冠、パーシヴァルはダーツの的、モルドレッドは折り紙の鶴、パロミデスは葉巻、ガウェインはうさぎのぬいぐるみの顔、どれも各々の趣味や好物を表していた。

 

 なお、シンプルなベディヴィアのハート型以外は表面にステンドガラスのようなイラストが描かれた飴が乗せてあるだけなのだが、ランスロットのだけはチョコやグミ、飴などを混ぜて細部までこだわったパティシエもびっくりなクオリティとなっている。

 

 どうやら真ん中のプレート以外は12人で分けて作ったらしく既に12等分されて、それぞれ個性的なケーキになっていた。

 

「これは嬉しいな」

 

 アーサーは早速ケーキを食べ始める。

 

 それぞれが仲間になった日の事を振り返りながら、順に食べていく。ミレンに始まり、ブラウンや他の皆へと続く。

 

「……しょっぱい。さては何か仕込んだな?」

 

 最後にライルのケーキを食べ終えてからアーサーは呟く。

 

 彼の右目から涙が流れていた事には気づいていなかった。

 

「次は……ガウィのやつか?」

 

 桃色のうさぎのぬいぐるみの顔をしたシールを剥がして、手紙を見る。

 

『世界で一番格好いい私のパパへ

 友達と皆の絵を描いてみたよ!

 上手く描けたと思うから見てね!

          フェリスより』

 

「ガウィの特技は似顔絵だったな。どれどれ?」

 

 そしてうさぎ柄の箱の中にあったスケッチブックを取り出す。

 

 ページをパラパラとめくると、アーサーと円卓の騎士の似顔絵が出てくる。更にページを進めると、似顔絵から全身イラストに進化していた。

 

「懐かしいな。これは『ユーがパーシに塩と砂糖を間違えて渡した時』の絵か」

 

 ちなみにパーシヴァルの好物は塩で嫌いな物は砂糖である。

 

「こっちは『じーさんが間違えて、モルにコーヒーを飲ませたら不機嫌になった時の顔』だな」

 

 パーシヴァルの件と同じでモルドレッドの好物はココアで嫌いな物はコーヒーだ。

 

「これは『ケイに使えない男呼ばわりされて落ち込んでるユーとチビとパーシ』で、こっちは『トリスがドライバに癒されてるのを見て苦笑してるケイとモルの絵』。これは『俺が、来たばかりで慣れてないデコすけのデコをぺちぺちした時』の絵。こっちは『俺が昼寝しすぎて疲れたから寝ようとした所にアイツが来て遊んでやった時』の絵か」

 

 アイツとは言うまでもなくランスロットの事である。

 

「プッ……!」

 

 ページを捲り、次の絵を見たアーサーが吹き出す。

 

「これは『俺がベディに馬の被り物をさせた時』の絵か!くくくっ、駄目だ!お腹が……ハハハッ!」

 

 当時の事を思い出してか、お腹を押さえて笑うアーサー。

 

「こっちは『おっさんとアカネやアオトが相撲をしてる時』の絵だな」

 

 再びページを捲ると、最後に皆で肩を組んでいる絵だった。あとは白紙のままだ。

 

「懐かしい。そして俺は――俺は……?」

 

 そこで頭を押さえるアーサー。自分が何をして、何故今ここにいるか思い出せないようだ。まるで夢を見ているかのように記憶が曖昧になる。

 

「――ん?」

 

 頭を押さえた時にスケッチブックの隙間からパサリと何かが落ちる。薄めの本だ。

 

「これは何だ?ガウィのではないな」

 

 恐らく手紙にあったガウェインの友達のモノだろう。

 

 拾って開いてみると、それは漫画になっていた。

 

『目次――――――――――――――2

「僕だけの王様」―――――――――3

()()()()()死す」 ――――――――18

「メガホンを持った猫」――――――20

「命逆の獣竜、巻き込まれる二人」―40

「美女と風呂桶とストーカー」―――57

「暇を持て余した神才の遊び」―――77』

 

 ご丁寧に目次付きだった。

 

 既視感を感じる題名が幾つかあるが、アーサーは最初の『僕だけの王様』を確認すると、即座にページを捲る。

 

『アーサー。君はまだ僕の王様になってくれないのかい?』

『俺は……お前に従うつもりはない!』

『残念だね。でも、僕は諦めないよ。アーサー!』

『何をするっ!?』

『いいじゃないか。いいじゃないか。君もこういう漫画には数多く登場して――『――俺はやっていない……!』――え?』

『俺はそんな事やっていない!』

『なら、堕ちるとこまで堕ちるといいよ!』

「………。」

 

 そこまで読んでからアーサーは本を閉じた。読んでて頭が痛くなったからだ。自分の登場する漫画など、見てても変な気分にしかならないだろう。おまけにBでLなアレだったのだから。

 

 そのまま本をスケッチブックに挟んで仕舞い、亀裂の入ったハートのシールを剥がして最後の手紙を開封する。

 

 そこには宛名も送り主もなく、ただ一言だけ記されていた。

 

『風紀委員長へ

 パパのモノを没収しに行くからアンタも手伝いなさい』

 

「………誰だ?」

 

 身近に「パパ」と呼ぶのはガウェインことフェリスだけで、アーサーには全く覚えがなかった。

 

 一緒に袋に入っていた小さな箱を開けてみると鍵が入っていた。

 

「どこの鍵だ?」

 

 鍵を手にした途端、目の前に扉が現れる。

 

「行くしかないようだな」

 

 そして、アーサーはその鍵を使って扉の先に向かった。

 

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

 

「ここは……?」

 

 アーサーが扉の先へ出ると、見覚えのない景色が広がっていた。目の前には『聖学』と書かれた建物が見える。

 

「この格好は何だ?」

 

 いつの間にかアーサーの服装が変わっていた。聖王としての隊服は聖門学園の制服に変わり、『風紀委員長』と書かれた腕章を身につけて竹刀を握っていた。

 

「やっと来たわね」

「ん?」

 

 振り返ると、アーサーとあまり歳が離れていないように見える長い銀髪の女性が立っていた。彼女はアーサーと同じ制服を着て、片手には『天界饅頭』と『常界饅頭』を持っている。

 

「手短に話すわ。これから帰宅部顧問が部室に持ち込んだ物等を没収するの。全てね。だから風紀委員長のアンタも手伝いなさい」

 

 それだけ言うと彼女はアーサーの手を引っ張って走る。

 

「お、おい!」

 

 理解が追いつかないアーサーは名前も分からない女性に引きずられるように聖門学園の方へ向かう。

 

(姉がいたらこんな感じだったのか……?)

 

 親友に連れられて天界を歩いて回ったあの日の思い出と重ねながら、アーサーは考えていた。

 

「俺はアイツが学園長だという事を認めねえ!」

「もぉ、やめなよお兄ちゃん!」

 

 走る途中、件の親友にそっくりな男が校舎の窓ガラスを割っていたのが見えたのは何かの間違いだろう。

 

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

 

「ここよ」

 

 女性に連れられて、着いた先は帰宅部の看板が立て掛けてある部室だった。

 

「失礼する」

 

 扉を開けて、アーサーが先に部屋の中を確認する。

 

「………。」

 

 まず目に入ったのは布団にくるまった黒髪の男だった。

 

 部屋のど真ん中で枕元に大量の饅頭タワーを築いて、食べ散らかした饅頭の包みを放置したまま寝ている。

 

 その他には壊れた目覚まし時計や長めのロープ、何故か串刺しになってる魔界饅頭、『兄様の』『↑僕のは?』『↑あるけど、あげない』とペンで書かれた竜界饅頭、同じ様に『僕のだから食べないでね? 学園長』『↑買ってきたのは俺だ』『↑お米パンは?』『↑売ってません』と書かれた評議会饅頭と『教祖様の』『パイモンの』『わたしの』『オレの』『ロジンの』『アリトンの』と書かれたグリモア饅頭があった。

 

 饅頭ばかりなのはきっと、この男の好物なんだろう。明らかな盗品ばかりなのは気のせいではない。

 

「Zzz」

 

 部屋の中を物色していると、男がいびきをかく。

 

 すると窓ガラスがピカッと光り、雷が落ちたような音がする。

 

「俺の白百合達がぁああああああっ!」

 

 窓の向こうで用務員の叫び声が上がった。

 

 さっきの光で花壇に咲いていた白百合が散ってしまったようだ。

 

「何だ、今のは?」

「パパはこの部室を占拠してずっと寝てるの。朝14時に学校に出勤して、昼15時に饅頭を食べ散らかして、夜16時に家に帰って寝るの」

「………。」

 

 とんでもないスケジュールにアーサーは絶句していた。

 

「それで、どうすればいいんだ?」

 話を戻して、これからの予定について問いかける。

「まず、部室にあるモノを全て奪っ……没収して、パパの好物の饅頭を全てパパの嫌いな天界と常界のモノにすり替えるの」

 

 子供の悪戯みたいだな、と思ったアーサーだったが、口には出さない。本能がそれは危険だと訴えかけてきたからだ。

 

「教師の問題は風紀委員長の俺より学園長の仕事じゃないのか?」

「アタシがやりたいの。それに、学園長は『あぁ、彼の事なら心配いらないよ?彼の知り合いを二人ほど雇ったからね』って、使えないわ」

 

 学園長に対して酷い言い様だが、学園長の自業自得である為、ここでもアーサーは何も言わない。

 

「とにかく、アタシが饅頭をすり替えている間にアンタはこの部屋にあるモノを没収するの。勿論、パパを起こさないように。分かった?」

「あぁ」

 

 そして二人は手分けして、行動を開始する。

 

 アーサーは布団を踏まないように部屋に散らかった饅頭の袋や壊れた目覚まし時計を捨てて、その他の物品を仕舞う。

 その間にモルガンは口角を上げて八重歯を見せながら、饅頭をすり替える。

 

「ねみぃ」

 

 男が寝言を呟きながら寝返りをうつと、開いた掌に咲いた闇色の花が散る。

 

 そして、散った花びらが全てアーサーに襲いかかる。

 

「っ!?」

 

 咄嗟に竹刀(えくすかりばー)で弾き、捌ききれないものは体を逸らして避ける。

 

「はぁ……はぁ……」

「Zzz」

 

 急に激しく動いた事で襲ってきた疲労に、アーサーは息を荒らげて男を見据える。

 

 しかし、当の本人は何事も無かったように寝息をたてている。再び窓の向こうが光って悲鳴があがったが、気にしたら負けだろう。

 

「こっちは終わったわ」

「こっちも……何とかな……」

「それじゃあ、パパが起きる前に退散しましょう」

「そうだな」

 

 ここにいたら身がもたない。

 

 一刻も早くこの場から立ち去りたかったアーサーは賛成して、扉を開く。

 

 ――その時だった。

 

「ふぁあ……よく寝た」

 

 あくびをしながら、男が目を覚ましてしまった。

 

「「………!?」」

 

 二人の顔に冷や汗が流れる。

 

 下手に動けず、二人はどうしたものかと悩んでいると、扉の先にいた誰かに引っ張られる。

 

「俺の饅頭は――あった。ん……?」

 

 目を覚ました男――オベロンは枕元の饅頭タワーを確認した後、部屋の異変に気づく。

 

「これはどういう事だ。ヴラド?」

 

 オベロンは真っ先に目に入った扉の前にいる顔色の悪い養護教諭ことヴラドに寝ぼけ眼で問いかける。

 

「オマエがいつまでも片付けねえからだ。ほら、目覚まし時計買ってきたぜ」

 

 ヴラドは後ろ手に二人を隠し、片手に持った新品の目覚まし時計を差し出しながら答える。

 

「要らない。()ぐ壊れ()()

 

 それに対しオベロンは饅頭タワーから饅頭を1つ取って口に含みながら返す。

 

「それはオマエの寝相が(わり)いからだろ」

 

 いつまで経っても変わらないオベロンにヴラドは呆れて呟く。

 

「……不味い。昔食べた天界の饅頭の味がする」

 

 ヴラドの呟きを無視して、オベロンは不機嫌そうに呟く。

 

「あー、盗んだ饅頭ならオレが全部返しといたぜ?」

 

 特に悪びれずにヴラドは嘘をつく。それはエイプリルフールだからではなく、二人への優しさによるものだった。

 

「死にたい?」

 

 それを聞いて、オベロンは完全に目を覚まし、右手に闇色の花を咲かせる。

 

「やる気か?いいぜ。表に出な」

 

 対するヴラドも上着を脱いでネクタイを外し、右手を煌めかせる。

 

 二人は肩を揃えて校庭に出た。

 

 その後、校舎を半壊させたオベロンとヴラドは肉まんに釣られていたある数学教師の仲裁によって止められ、二人揃って生徒会長に「めっ!」されたとか……。

 

 

 

 

 

『楽しんでもらえたかな?アーサー』

 

 意識が薄れていくアーサーの脳裏で悪戯な神の声が響いた。

 

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

 

 俺が目を覚ますと、目の前にロキが立っていた。

 

「おはようアーサー。僕が用意した夢はどうだったかな?」

 

 俺が起きた事に気づくと、ロキはそう言って笑った。

 

「またお前の仕業か」

 

 質問には答えず、表情を変えずに返す。

 

「昨日はエイプリルフールだったからね。でも、僕が嘘をつく前に君が眠っていたから面白い夢を見れるように細工しといてあげたよ」

 

 ロキは手を横にやっておどけてみせる。

 

「また随分と余計な事をしてくれたな」

「つれないなぁ?これは君が『神の道』を選択してくれたお礼でもあるんだ」

 

 俺が人として過ごした忘れる事のない永遠の思い出と妖精の血による繋がりを捨てたからだろう。

 夢に俺と関係のある人物ばかり出てきたのもそのせいに違いない。

 

 だが、誰が何と言おうとも、俺がこの選択をした事に後悔はない。

 

 

 

 

 

 ――俺はこの世界を愛し抜くと決めたのだから!



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