紅美鈴には秘密がある (テッソルムリア)
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第一章 突撃!はくぎょくろー
「そうです私がメアリーです(泣)」


「……あの」

「……」

「美鈴さん」

「メアリー」

「………メアリーさん。その……私達はいつまでここにいれば良いのでしょうか……?」

「……」

「……」

気まずい雰囲気が流れる白玉楼門前

白玉楼剣術指南役兼庭師、魂魄妖夢はチラッと隣に立つ人物を見やる。

 

昨日、紅魔館門番から妖怪の賢者の知古へと豹変した人物がそこにいた。

じっと前を見つめる面持ちからは、隙といったものが伺えない。

―――いったいその内で、何を考えているのか―――

 

 

 

(あ、お腹すいた)

……何を、考えているのか……

 

 

 

 

 

 

side 美鈴

―――前夜 博麗神社―――

 

みなさんこんにちは。紅美鈴です。

今日は博麗神社で宴会ということで、紅魔館メンバー総出でやってきました!(メイド妖精はお留守番です)

館の警備はパチュリー様に結界を張ってもらいました。長持ちしないのが欠点らしいですけど。

久々の宴会ということもあって、みんな乗り気でしたね。

特にフラン様は初めての宴会ですから目を輝かせていましたし。

宴も半ばに差し掛かって盛り上がり、良い雰囲気です。

妖怪の山や迷いの竹林、白玉楼のお嬢様なんかも来ていますね。

 

パチュリー様は魔女談義でしょうか?人形遣いといますね。

咲夜さんは最初お嬢様についていましたが、「自由に楽しんでこい」と言われて会場を周っているようです。

当のお嬢様は最初こそ山の神とかと何やら話していましたが、いつの間にか飲み比べが始まっちゃってますね。

フラン様は氷の妖精たちと遊んでいますね。仲が良さそうで安心しました。

私ですか?そんな光景を見ながら一人ちびちび飲んでるのが一番です。えへへ

 

「みなさん、ちょっといいかしら?」

おや我らが幻想郷の賢者殿が出てきました。何かあるのでしょうか。

 

「今日は皆さんに紹介したい人物がいますの」

珍しいですね。誰でしょうか?

 

「何だい?新しく幻想入りした奴でもいるのかい?」

鬼の伊吹萃香がそう言っています。

それに対し八雲紫は首を横に振ると続けました。

 

「いいえ、そう言うわけじゃないわ。ちょっと事情があって今まで出てこれなかった人物なのよ」

何か訳ありの人物みたいですね。少し興味があります。

 

「彼女は私の昔からの知り合いで……」

ふんふん

 

「紅魔館のレミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットの実の母親」

……ん?あれ、ちょっと待って

 

「メアリー・スカーレットよ」

……

……

アイエエエエ! ユカリン!? ユカリンナンデ!?

それ言わないでってこの前言ったじゃん!

あ!ゆかりん酔ってるな!?酔ってるだろう?酔ってる!

な、何とかしてあの妖怪の賢者(笑)の口を塞がないと。

ででででも今ここで立ち上がったら「そうです私がメアリーです」って言ってるようなもんだし一体どうすればいいんだあばばばばb

 

「ねぇ、もう茶番は止したら?紅美鈴」

オワタ

 

 

 

 

 

 

side レミリア

 

私は目の前で起こったことが一瞬、理解できなかった。

―――私の…私達の母親が生きている?しかもそれがあの門番?

以前の私だったら「何を戯れ言を」と思ったかもしれない。

しかし今は一笑に付すことが出来ず、じっと門番を見つめる。

 

……あれは本当にあの門番か?八雲紫が一言発してから、奴の周りの空気が尋常じゃない。

目つきも鋭く、普段の人懐っこい笑みは影も形もない。

 

「だいたい私は以前から……」

「―――紫」

尚も続けて喋ろうとした八雲紫を奴が制す。

 

―――瞬間 とてつもない威圧感が私達を襲った

目を見開き、信じられない面持ちで凝視する。

 

―――何だあれは……?そこらの妖怪などお話にならない。

事実、蛍の妖怪や夜雀などは、隅のほうで震え上がっている。

私と同格……いや下手したらそれ以上の……

 

その時、奴が静かに……しかし断ち切るように、言った

 

「…少し…頭冷やそうか…」

 

 

 

 

 

 

side 美鈴

 

やった!言えた!言えましたよあのセリフ!一回言ってみたかったんですよね!

勝手にバラされたんだからこれくらいの意趣返しはいいでしょう。

ゆかりんの方を見てみれば驚いたような顔をしていますが、瞳にイタズラっぽい光が宿ったのは見逃しませんよ?

ノリのいいゆかりんが大好きです。

 

「ま、待って。ちょっとした冗談よ」

ゆかりん。何かそれ死亡フラグっぽいけど大丈夫?

 

「もう遅いわ」

「ちゃ、ちゃんと話し合いましょう?」

気分はダークサイドに堕ちた何とかみたいな感じで。意識して冷たく言ってみよう。

 

「話すなら……然るべき時と場所があるでしょう」

ゆかりんの部屋でアニメ見ながらとかさ。

 

そう言って周りを見渡すと「ヒッ」とか言いながら震えられるか、すっごい警戒されてる視線を向けられる。

ゴメンね?ネタに付きあわせちゃって。でももうすぐ終わるから。

 

「……そうね」

そう言うとゆかりんは周りに向き直って声を張り上げる。

 

「皆様、お騒がせして申し訳ありませんでした。彼女の紹介はまた後日に。私と彼女はここでお暇させていただきますが、どうぞ続けてお楽しみ下さい」

楽しめるかなー無理じゃないかなーでも責任は取らない(キリッ)

 

「待ちなさい」

そんなこんなで抜けだそうとした私達を呼び止める声。

おや、お嬢様(レミィ)ではないですか。

ずいぶんと恐い顔をしていますね。

 

「ちゃんと説明しなさい」

そう威圧的に言ってきますが、よく見ると少し震えてますね。

説明したいのはやまやまですが、ここはゆかりんと話を合わせるのを優先しましょう。

 

「何で門番の貴女が……」

「レミィ」

私が愛称で呼ぶと、驚いたように固まって口を閉ざすレミィ。

 

「後でちゃんと話すから、待ってて。ね?」

そう言ってお嬢様(愛娘)に微笑みかける。未だ固まったままのレミィを置いて、ゆかりんの元へ向かう。

 

「面倒なことしてくれたわね(小声)」

「やっちゃったものはしょうがないじゃない(小声)」

 

そんなことを囁き合いながら、私達はスキマに入っていった。

 

 

 




紅 美 鈴 母 親 説

「美鈴の弾幕、七色で綺麗だなー」

「そういえばフランの羽も七色だ」

「紅って英語にしたらスカーレットじゃん」

ってな感じでウチの美鈴はこうなりました




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「美味しそうね」

ここのパッチェさんは超長生きです


side パチュリー

―――紅魔館 大図書館―――

 

「まだ帰ってこないの?……門番は」

「そんな焦らなくても大丈夫よレミィ」

 

あの後宴会もお開きとなり、各自帰宅した人妖たち。

帰ってきてからずっとソワソワしている親友に、パチュリーは溜息を吐く。

 

「それにもう門番じゃなくて、貴女の母親でしょう?」

「……まだそうと決まった訳じゃないわ。八雲と二人で共謀しているだけかも知れない」

「はいはい、そうね」

 

この意地っ張りの吸血鬼はどうにかならないものだろうか。

彼女は、門番が母親であることを期待している。

その一方で「そんなはずはない」という気持ちもある。

妹様のようにすんなり納得してくれれば良いのだが、多少なりとも母親との記憶があるレミィには難しいのかもしれない。

 

「……パチェが何か仕掛けたんでしょ」

「あら分かるのね」

「あまりにも急で不自然だったもの。出掛ける時に紅魔館に結界張ったのも下準備か何かだったんでしょう?それに約束もあったじゃない……それで、何をしたの?教えてくれるのよね?」

「そうね、そういう約束だったわね。正直ここまで効果が出るとは思ってなかったけど」

「いいから早く話しなさい」

せっつく吸血鬼を横目に、私は話し始める。

 

「門番の謎についてはもういいわね。図らずも八雲紫が暴露してくれたもの。本当は何か手がかりでも得られれば 位の気持ちだったんだけども」

そこで紅茶に口をつけ、一息入れる。

 

「……私が行なったのは意識の転換よ」

「意識の転換?」

「そう。例えばレミィは幻想郷の大半の人妖からすれば、『紅魔館当主の吸血鬼』という認識でしょう」

「そうね。それで?」

「でも妹様から見れば『自身の姉』となり、私から見れば『腐れ縁の吸血鬼』となる」

「ちょっと待ちなさい。それはどういうことよ」

「説明の途中よ。とにかく多数の者達の印象の裏に、少数が抱く人物像もあるってこと。それをひっくり返すものよ」

「……」

「本来は特定地域の洗脳とかに使われる魔法よ。そんなことしたら八雲紫が黙っていないでしょうけど。だからそれをちょっと改良して対象を個人に、洗脳ではなくちょっと勘違いさせる程度にしたの。黙っているべきことを話してもいいって感じにね……掛ける相手からしてそれくらい制約を課さなきゃ掛からなそうだったし」

「……八雲紫に掛けたということか。なぜ奴に?直接門番でも良かっただろう」

「立場の問題よ。胡散臭さはともかく、門番が自己申告するのと妖怪の賢者が証言するのではまるで意味が違う。加えてそれを行なった場が数多くの有力者が集まっていた宴会。そこで下手な嘘は言わないと皆認識してるでしょうし」

門番の謎を八雲紫が知ってるかは賭けだったけどね と言って締めくくる。

 

「……なぜ八雲は知っていたのかしら」

「さあそこまでは暴露してくれなかったから分からないわね。聞いてみたら?」

もっとも重要なのはそこではないのだけれど

 

「……門番が帰ってきたら問い詰めよう。八雲も」

一筋縄ではいかないと思うけどね

まぁ黙ってた方が面白そうだから余計な口出しはしないでおきましょう

 

「そうね。そうしてみたらいいんじゃないかしら」

適当に相槌を打っておく

ここからはティータイムと読書に専念させて貰おう

そう思い、私は紅茶と本を手に取った。

 

 

 

 

 

 

side 美鈴

―――白玉楼 門前―――

 

こんにちは。紅美鈴改めメアリー・スカーレットです。

あの後宴会を抜けてゆかりんの家に行こうとしたんだけど、いつの間にか西行寺幽々子が後ろにいました。

「私も混ぜてくれない?」的なことを言ってニッコリしてましたが、あれですね。「連れてかなかったら分かってるわよね」な空気を感じました(冷や汗)

 

そして「場所が必要なら白玉楼をどうぞ(ニッコリ)」に逆らえず、冥界までやってきてしまいました。

……なのになぜ私(と妖夢ちゃん)だけ門前に取り残されてるんでしょうか。

ゆかりんは「幽々子と話をつけてくる」って言ってましたけど、同席しちゃダメなんですかね……

 

あーお腹すいたなー

何かもう雲が食べ物に見えてきました。

あれなんかアイスクリームみたいですね。

 

「美味しそうね……」

あ、いけません。つい口に出してしまいました。

 

すると今まで微動だにしていなかった妖夢ちゃんが動く気配がしました。

見るとこちらをじっと見つめています。

……もしかして妖夢ちゃんもお腹が空いているんでしょうか。

……これはこの話題で気まずい雰囲気を吹き飛ばすチャンス!

さっそく話しかけてみましょう!

 

 

 

 

 

 

side 妖夢

 

「美味しそうね……」

私がどうしたら良いものか思案している時、その言葉は聞こえてきました。

 

見るとメアリーさんは前ではなく空を見ています。

一体何を……?

そしてそれが分かった時、思わず私は後ずさりしてしまいました。

 

彼女が見ていたのは雲でした。しかしその形が問題だったのです。

 

……それは私の半霊にそっくりな雲でした。

そして彼女は今、私のことをじっと見つめています。

 

(く、喰われる!?)

じっと私を見つめる彼女から気迫のようなものを感じて、その言葉が脳裏によぎりました。

あのスカーレット姉妹の母親ということは吸血鬼なのでしょう。

吸血鬼が半人半霊を食べるのかは知りませんが、あり得ない話ではありません。

……何とかしてそらさないと…!

 

「……(私は)冷たいから止めておいた方が良いと思いますよ?」

まずは欠点を伝えてみる。これで諦めてくれないだろうか。

 

「……あら、冷たいのがいいんじゃない」

まさかの欠点を肯定される事態。

吸血鬼は冷たい血の方が好きなのかっ……!

 

「ゆ、幽々子様が認めてくださるかどうか……」

幽々子様の名前を使わせて貰おう。同じく紫様の知古である幽々子様なら……

 

「幽々子も好きかもしれないわよ?」

そんな馬鹿な!

いくら幽々子様が健啖家とはいえ、まさか私の半霊まで食べるはずが……

食べる…はずが…

……

……否定しきれません!幽々子様!

 

「い、今は紫様と幽々子様をお待ちしている状況ですし……」

「なら、後でなら問題ないのね?」

ぎゃあああ墓穴掘った!

万事休すだ……どうするっ……!

 

「二人ともおまたせ……あら、どうしたの?」

あっ 幽々子様!

やった!助かった…!

 

「い、いえ何でもありません」

「そう?それじゃあ門番はもういいわ。通常業務に戻りなさい」

「かしこまりました!」

良かった、幽々子様が来てくれて。これで一安心だ。

……そう思って門をくぐろうとした私の耳に、小さな声が届いた。

 

「……また今度、ね」

……それはまさに悪魔の囁きで…きっと逃れられないんだろうと私は悟ってしまいました……

 

 

 

 

 

 

side 幽々子

 

……どうしたのかしら妖夢は。メアリー・スカーレットと何か話していたようだったけど……

私が声をかけるとパッと表情を輝かせたかと思うと、今度は何か諦めたような面持ちで庭に戻って行ったわ……

 

「ねぇメアリーさん……でよろしいかしら」

「メアリーで構わないわ。それで何かしら?」

「……じゃあメアリー。妖夢と何を話していたの?」

「なんてことはない世間話よ」

「……そう。とりあえずお待たせしたわね。中にどうぞ」

「失礼するわ」

そう言って門をくぐるメアリーを背後から見つめる。

 

……世間話って言ってたけど、あの妖夢の様子からはそうは思えないわ。

紫の話もあったから一応は招き入れるけど……

じっくり観察する必要がありそうね……

そう考えながら、私はメアリーと紫と共に、白玉楼の中に入っていった。

 

 

 

 

 



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「信用できるかどうかは問題じゃないの」




誰かドレミー・スイート主役で「悪夢探偵」的なの書いてくれないかな(言い出しっぺ)


side 紫

 

―――八雲家―――

 

「スカーレットニードル」

「ルグ」

「グレートホーン」

「……ンジグオ・ンアッボ?」

「……合意と見てよろしいですね?」

「黙ってなさい淫藍狐」

 

ふわふわとした空気が流れる八雲家。

八雲紫はメアリーとの暇つぶし(しりとり)に乱入してきた式神を黙らせる。

 

 

「ね~ゆかりん」

「なにかしら?」

「この前うやむやになった自己紹介っていつやるの?」

「ちょっと待ってなさい。今、手はずを整えてる所だから」

「あ、そうなんだ。分かったー。あと私紅魔館に帰んなくて大丈夫?そのまま来ちゃったけど」

「大丈夫よ。手紙を送っておいたわ」

「そうなのかー」

 

だらだらと過ごす午後のひととき。

そんな中、八雲紫は昨日の幽々子との会話を思い出していた。

 

(さて、幽々子はどう出るのかしらね)

 

 

 

 

 

 

side 幽々子

 

―――白玉楼 門前のメアリーを迎えに行く前―――

 

「……ねぇ紫。彼女は何者なの?」

私は早速気になっていた彼女について聞いてみる。

私も紫と知り合って長いけど、彼女のような存在について言われたことはなかった。

 

「昨日言った通りよ。吸血鬼姉妹の母親」

「そういう意味じゃないわよ……じゃあ何で教えてくれなかったの?」

「親友の貴女にも言わなかったのは悪かったわ。でも彼女に口止めされてたからね……もっともじきにバレてたでしょうけど」

つまり彼女には私と同格、もしくはそれ以上の優先順位があるということね……

一体いつ知り合ったのかしら。

 

「それなら何で昨日は紫から話したのかしら?」

「そう、それが問題なのよ」

「あら、そうだったのね」

「ええまったく」

なるほどね。昨日の発言は意図したものではなく、何らかの力が働いていたと。

紫に影響を与えられるほどの力を持ち……かつ何か秘密があることまで調べられ、それを紫が知っていることまで分かる人物……それほどの力を持つ人物はある程度限られるけど、さて誰かしら。

それはともかく今は……

 

「もう一ついいかしら?紫」

「なんなりとどうぞ。お姫様」

少しおどけたような様子で返す紫に、鋭い目線を向ける。

 

「……彼女は信用できるのかしら。私が出会ったばかりだからかも知れないけど彼女は―――」

「―――幽々子」

「……何かしら?」

私の質問を遮る紫。彼女は真剣な顔でこう告げた。

 

「信用できるかどうかは問題じゃないの」

「……何ですって?」

 

 

 

「問題は、裏切らないかどうかよ」

 

 

 

 

 

 

side 美鈴

 

最近ゆかりんと対戦ゲームかアニメ鑑賞ばかりだったので、たまにはレトロな遊びでも ってことでしりとりやってみましたけど続きませんね。

やはり文明の利器に囲まれた現代っ子(妖怪)には無謀でした。あとで今季のアニメをチェックしておきましょう。

 

ゆかりんが自己紹介の手はずを整えてくれるって言ってましたね。

あれでしょうか、新入生が「遅刻遅刻ー」って言って、曲がり角で誰かとぶつかるパターン。

その後教室で「○○です。よろしくお願いします……あっあの時の!」って感じですかね。

よし食パンを用意して置きましょう。

 

それにしてもファーストコンタクトはこの門番フォルムで良いんでしょうか。

二回目だからセカンドインパクトって感じですけど。

さっきの流れで炎髪灼眼……はマズイですかね。贄殿遮那ありませんし。

素直に本来の姿で行くことにします。

 

あとは第一印象も大事ですし、折角の機会ですからね!

しゃべる(ネタの)内容も考えておかねば。

今季のアニメの前に今までのおさらいもいいかも知れません。

そうと決まれば善は急げです。

 

「ゆかりん~後で昔のアニメ見よー」

「あらいいわね。分かったわ。夕食後に用意しておくわ」

「さすがゆかりん」

 

これで今日の予定は決まりましたね。

あとは夕食までおとなしくお風呂に入るなりなんなりしておきましょう。

 

皆さんに自己紹介しに行くのが待ち遠しいですね。

 

 

 

 

 




ゆかりんとメアリーが真剣な顔した時はフラグ(ネタの)

この幻想郷には主人公と深く関わるほど(色々な意味で)ダメになってしまうウイルスが蔓延しています。
八雲家は手遅れです




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「幻想郷有力者会合(一部)」

みなさんこんにちわ。稗田阿求です。

今日は我が稗田家に幻想郷の有力者たちが集まることになっています。

 

というのも以前、幻想郷の新勢力の代表をお招きして、対談をしたご縁から声がかかったんです。

内容は今、幻想郷で噂になっている吸血鬼姉妹の母親。その顔合わせのようです。

かく言う私も、この機会に幻想郷縁起への加筆をさせて貰おうと思っています。

 

参加者は前回の対談と同じく八坂神奈子さん、聖白蓮さん、豊聡耳神子さんに加え、八雲紫さんと件の吸血鬼となっています。今回は顔合わせと私の個人的な聞き取りだけなので、司会の魔理沙さんはいません。

 

一介の門番から、突如パワーバランスの一角である紅魔の母となった人物。

一体どんな人物なのか今からワクワクしています。

早く皆さん集まらないでしょうか。

 

「ごめんくださーい」

 

あ、誰か来たみたいですね。早速お招きいたしましょう。

 

 

 

 

 

 

side レミリア

 

―――紅魔館―――

 

「……何だこれは?」

「手紙ね」

「そんなことは分かっている!この内容は何だと言っているんだ!」

「まぁ大変。レミィったら耳まで真っ赤よ。今日はもう休んだほうがいいんじゃないかしら」

「あまり今の私を茶化さないほうがいいぞパチェ……」

そういって私はパチェを睨みつけるが、相手は気にした様子もない。

 

私達の話題に上がっていた手紙。これは八雲からのものだ。

……が、その内容が問題だった。

 

「『貴女の母親は預かったわ』だとっ……!言うに事欠いてそれだけかっ!」

「しかもご丁寧に人里の稗田家で行う顔合わせの日程も同封されてるわね」

手紙が入っていた封書をひっくり返しながら、静かにパチェがそう言う。

 

「……今度こそ黙って見ているわけには行かないぞ!私は稗田家に向かう!」

「待ちなさいレミィ」

「止めるなパチェ!確かに罠の可能性もあるが、いくらパチェの頼みでも今度ばかりは……」

「そうじゃないわよ」

 

 

「私も行くわ」

 

 

 

 

 

 

side 神奈子

 

私は今、人里の稗田家にいる。

というのもこの前の宴会で一騒動起こした吸血鬼が、顔合わせを望んでいると通達があったからだ。

宴会で奴が話した時、私は少し離れた所にいたが、あの威圧感はハッキリと感じた。

……奴の力は強大だ。

だからこそ、こちら側に利する存在なのかそうでないのか見きわめねばなるまい。

人里で、しかも他の勢力もいる状況なら滅多なことにはならないだろう。

そう判断したからこそ赴いたのだ。

 

さて、この場にはすでに私の他に、聖白蓮、豊聡耳神子、そして御阿礼の子が揃っているが肝心の主役二人が見えない。

呼びつけておいて待たせるとはとんだ奴らだが、幻想郷では案外普通かもしれないな。

 

そんなことを考えていると、ようやくお出ましになったようだ。

さてじっくり吟味させて貰おうじゃないか……

 

―――そう思っていた私の目にまず飛び込んできたのは……金、だった

まるで金糸もごときその艶やかさは、見るものを惹きつけて止まない美しさを讃え。

対比するかのような漆黒のドレスは、吸い込まれるかのような深さだ。

隣に立つ八雲紫も金髪のせいか、姉妹のように見える。

その場の全員、身動きを止め、口を出せずにいた。

 

「……遅れてしまい、申し訳ありません」

その鈴が鳴るような声にハッとする。

一番最初に応対したのは御阿礼の子だった。

 

「い、いえ、それ程待っておりません。どうぞお座りください」

「失礼します」

そう言って空いていた所に座る二人。

気を取り直した御阿礼の子が話を進める。

 

「えー本日はお忙しい中お越し頂き、誠にありがとうございます。本日はお三方とメアリー・スカーレットさんの顔合わせということでお集まりいただきました」

そこで少し間をおき、私の方を見る御阿礼の子。

 

「それでは八坂様から順番に紹介をお願いします」

一番手か。まぁ普通にいかせて貰おう

 

「八坂神奈子です。妖怪の山の神社を経営しています。どうぞよろしく」

こんなものだろうか。次は聖白蓮か。

 

「聖白蓮です。命蓮寺で住職をしています。よろしくお願いします」

表面上は穏やかな感じだね。最後に豊聡耳神子はどうかな。

 

「豊聡耳神子です。道教の仙人をしております」

こっちも見た目は普通だね。何考えてるかは分からないけど。

ん?ああ御阿礼の子と八雲紫も一応やるのか

 

「ひ、稗田阿求です。九代目稗田家当主をしています。本日はよろしくお願いします」

「じゃあ私も一応。八雲紫です。どうぞよしなに」

……さて、最後の大取があいつか。どうくるか。

 

「……メアリー・スカーレットよ」

……

……

……それだけか?

何とも反応しづらい奴だ。見ると他の参加者(八雲紫以外)もなんとも言えない顔をしている。

 

「……この後はどうするんだ?まさかこれで終わりじゃないでしょう?」

もしそうだったら色々と拍子抜けだ。

 

「あ、この後はお三方も含め、幻想郷縁起の加筆にご協力頂きたいのですが……」

御阿礼の子がそう言う。

ふむ……まぁその中で分かることもあるだろう。

私含め、聖白蓮と豊聡耳神子も参加を表明する。

 

「あら、それならちょうどつまむのにいいものを持ってきたのよ」

そう言って懐から何か取り出す八雲紫。

サンドイッチか?

……正直あいつの持ってきたものは胡散臭くて堪らないのだが。

ま、流石にこの場で何か入っているものは出さないだろう。

軽く見てみたがその痕跡もないようだしね。

 

「それなら一つ頂こうか」

私が手に取るのを見て、聖白蓮と豊聡耳神子も手を伸ばす。

私は毒見役では無いのだがな。

……うん、味は普通に美味しいな、

 

「……本当に食べてしまったのかしら?」

「何……?」

唐突にそう言う八雲紫。

まさか本当に何か入っていたのか?

 

「フフフ、冗談よ」

「そうよ。こんな所で倒れられても困るじゃない」

口元に扇子を当てながらそう言う八雲紫とそれにツッコむメアリー・スカーレット。

まったく……あいつらは漫才でもやっているのだろうか。

その時まではそう思っていた。……メアリー・スカーレットの、あの言葉を聞くまでは。

 

 

「腹が減っては戦は出来ぬって言うから持ってきたのに」

 

……!

その言葉ににわかに緊張が走る。

どういう意味だ……?まさかそのままの意味ではないだろう。

今この場で…人里で戦争を起こすほど愚かなはずはない。

ではそういった心持ちでかかってこいという意味?

馴れ合うつもりはないということか。

そうなった場合、こちらは三、あちらは二か……

自然と聖白蓮と豊聡耳神子をこっち側に数えていたが、それがあながち間違いとも思わない。

数の上ではこちらに利がある……

いや、待て……本当にそうか?

確か最初は西行寺幽々子も来るという話ではなかったか。

彼女はどこにいる?

 

「……そういえば西行寺幽々子はどうしたのかしら。彼女も来ると聞いていたけど」

「……ああ、幽々子なら別件があると言っていたわ」

 

……!

やられたっ……!

おそらく西行寺幽々子はバックアップ要員……

先ほど人里で戦争を起こすはずがないと考えたが、そもそも前提が間違っていた……

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

これではカゴの中の鳥……逃げ出すことすら出来ない!

豊聡耳神子も気付いたのか表情を固くしている。

どうする…どうすればいい!

 

 

 

「待ちなさい」

 

その時思ってもみなかった声が聞こえた。

 

「失礼だけど、呼びかけても返事がなかったから上がらせてもらったわ」

そう発したのは紅魔の魔女。

何故彼女がここに……?

そう思う間に彼女は部屋に入るとこう言った。

 

 

「その姿で会うのは初めてね、メアリー・スカーレット。私はパチュリー・ノーレッジよ」

 

 

 

そうして魔女と吸血鬼の視線が交錯した―――

 

 

 

 

 




パチュリーとメアリーが交差するとき、物語は動く(禁書風)

冗談はこれくらいにして真面目な話、パッチェさんはこの物語では珍しい、シリアスを引っ張って来れる人物なので重要です。
彼女の活躍に期待しましょう。





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「あとは貴女が決めることよ」

side パチュリー

 

―――人里 稗田家―――

 

さて、乗り込んではみたけれど、どう動いたものかしら。

場の空気を察するに、またメアリーが何かしでかしたんでしょうね。

まったく…母娘揃ってどうしょうもない吸血鬼らだわ。

 

私(とレミィ)の目的を達成するには場所を移したほうが都合が良いわね。

欲を言えば、紅魔館まで連れ帰りたい所。

そのためにはあの三人と稗田阿求をどうにかしないといけないわ。

 

八雲紫は手助けしてくれるかしら。

これ以上険悪になるのは本意では無いはずだから、可能性は高いと思うけど。

なら先に動いたもん勝ちね。

 

「突然お邪魔して悪かったわ。でもレミィがどうしても会いたいって言って聞かなかったから」

「ちょっと!私はそんなこと……むぐっ」

ここはレミィをダシに使わせて貰いましょう。余計なこと言わないうちに口を塞いでおくのも忘れずに。

 

「それで自己紹介は滞り無く終わったのかしら?」

そして続けてこう言えばおそらく……

 

「ええ、つつがなく終了しましたわ」

そう八雲紫が言ってくれるでしょうね。

それじゃあ最後の詰めね。

見た感じ、あの三人はこの場から退くことを考えていたようだし同意してくれるはずだわ。

 

「そうなの。それなら次は私達にも顔合わせの場をくれないかしら?やっと会えたんですもの。母娘で積もる話もあるでしょうし。もちろん紅魔館一同も心待ちにしているわ」

「(むーっ んむーっ!)」

もう少し大人しくしていてちょうだいレミィ。

 

「……そうですね。家族の団欒も大切でしょう。今日はここ辺りでお暇させていただきましょうか」

八坂神奈子がそう言うと、他の二人も異論は無いようだ。

じゃあ最後は……

 

「ま、待ってください」

やっぱり来たわね御阿礼の子。

貴女には悪いけど連れ帰らせて貰うわ。

私は彼女のそばに寄り、そっと囁く。

 

「……今日はこのまま帰らせて頂戴。このままでは貴女の為にもならないわ。大丈夫、幻想郷縁起の加筆についてはきちんと穴埋めさせて貰うから」

「………分かりました。必ずですよ」

「ええ」

脅し混じりの言葉に、少し迷ったようだけど渋々納得したようね。

 

 

「紅魔館の門前までスキマを繋いであるわ」

ちょうどいいタイミングね。やっぱりことメアリー・スカーレットに関しては協力的になるみたいね。妖怪の賢者は。

 

「あら、ありがとう」

そう言いつつレミィをスキマに押し込む

「(パ~チェ~!!)」

何か聞こえた気がしたけど気のせいね。

さて本命を連れて行きましょう。

 

「……さぁ行きましょうメアリー・スカーレット。紅魔館のみんなが待ってるわ」

「……ええ、分かったわ」

思った以上に素直ね。まぁ下手に抵抗されなくて良かったけど。

 

 

そうして私達は、じっとこちらを見つめる山の神たちの視線を感じながら、スキマを潜ったのだった。

 

 

 

 

 

 

side メアリー

 

―――紅魔館門前―――

 

……ずいぶんと目まぐるしかったですね。

急に雰囲気が重くなったと思ったら、パチュリーとレミィが乱入。

あれよあれよというまに紅魔館まで戻ってきてしまいました。

 

あれ、これもしかして母娘の対面的な雰囲気?

ま、待って!まだ心の準備が!

助けてゆかりん!

 

「(いい加減腹くくりなさい)」

 

ゆ、ゆかりーん!(絶望)

ど、どうしよう。宴会の時は何か雰囲気で「レミィ」とか「愛娘」とか言ってた気するけど、いま素面だから恥ずかしい!メッチャどもりそう!

というかずっと「お嬢様」呼びしてたからそれが出ちゃいそうになるのが怖い。

うわっ レミィすっごい睨んでるし!

あっ こっち来た

 

「……(ボソボソ)」

「え?」

レミィが何か言ってますが聞き取れません。何て言ってるんでしょう。

 

「……だから!……私はあんたのことを母親なんて認めない!って言ったのよ!」

 

レ、レミィー!(満身創痍)

うぅ、そうだよね……今までずっと騙していたようなものだもんね……

その間、親としては関わっていないってことだし……

 

真っ白になった私を置いて、レミィは一目散に館に入っていってしまいました……

ああ、空が綺麗だな……

 

若干魂が抜け出ていた私の所に、今度はパチュリーが近寄ってきました。

 

「……大丈夫かしら。表情は変わってないけど結構効いたんじゃないかしら」

「……大丈夫よ。ご心配なく」

いや、大丈夫じゃないです。

 

「まぁ貴女も知っていると思うけど、レミィは相当な意地っ張りよ。あれが本心とは限らないわ」

慰めてくれてありがとうパチュリー……

すごく身にしみるよ……

 

「……まぁそれはともかく。紅魔館へようこそ、メアリー・スカーレット。紅魔館は貴女を歓迎するわ。これから誤解を解くのも、レミィたちの母親として過ごすのも、はたまた今までのように過ごすのも自由……出来るかは分からないけどね。とにもかくにもあとは貴女が決めることよ。私達は場所を提供するだけ」

 

……ウェイ!?

え、パチュリーあれ知ってんの?それとも偶然?

そんなことを聞く暇もなく、パチュリーも館に入っていってしまった。

 

……どうしたものかな

とりあえずみんなに話しかけて……それから考えても遅くはないかな。

じゃあ早速……

 

「あ、言い忘れてたわ」

うわぁぁぁ!!?

パチュリー行ったんじゃなかったの!?

 

「……何かしら」

もう驚かさないでよパチュリー……

 

そんなことを考えていた私は次のパチュリーの言葉に……本当に思考が停止してしまった。

 

 

 

「……おかえりなさい。貴女の家はここよ、メアリー」

……

……

……そうして私が再起動したのは、パチュリーが館に入り、紫から声を掛けられた時だった。

 

 

 

「……良かったわね、メアリー」

「……うん、本当に」

 

 

 

 

……今までの時間を取り戻せるわけじゃない。

でもこれからを出来るだけ、メアリー・スカーレットとして彼女たちと過ごせたら良いな……

そう思いながら私は、紫に別れを告げ、紅魔館(我が家)に入っていった。

 

 

 

 

 




さて、これにて第一章終幕となります。

次回からは紅魔館住人とのあれやこれやですね。みんなどんな反応をするんでしょうか……


※追記 シリアスさんはしばらくお休みです





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第二章 紅魔館より、愛をこめて
「メアリー・スカーレット矯正計画」


side メアリー

 

―――紅魔館 大図書館―――

 

「こんにちわ、フラン、レミィ」

「駄目よそんなんじゃ」

「……駄目?」

「ダメ。もっと表情を柔らかくしなさい」

「……緊張するのよ」

「何で今更緊張する必要があるのよ。というか門番の時はもっと自然だったじゃない。その時を思い出して、笑顔で、フランクにいきなさい」

「にぱー☆」

「は?」

「あ、すいません調子のりましただからロイヤルフレアはやめてくださいお願いします」

「……まったく」

 

あ、どうも。メアリーです。

今パチュリーに色々と指導されてるところです。

何でこうなってるのかって話なんですけどね。

 

ゆかりんもいますけど隣でニヤニヤしてるだけです。

そう、見てるだけです。助けてくれません。

ゆかりんだったら乗ってくれるネタも、パッチェさんには通用しません。

この前のセリフからパチュリーもこっち側かと思いましたけど、偶然だったみたいです。

 

あ、何でこうなったかって話でしたね。

まぁちょっと最初の一歩(紅魔館住人との顔合わせ)を失敗しまして……

その時の皆さんの反応がこちら。

 

 

 

 

 

―――レミリア・スカーレットの場合―――

「だからあんたは母親とは認めないって言ったでしょ!分かったらさっさと行きなさい!」

 

レミィは相変わらずでした。何かきっかけがないとレミィを納得させるのは難しいかもしれません。

 

 

 

―――十六夜咲夜の場合―――

「……お嬢様が認めないと言うならば、私はそれに従うまでです。よってそのように振る舞います」

 

咲夜はレミィの判断に沿う って感じですかね。まぁあくまでレミィの従者であって私の従者ではありませんからね。そこあたりは従者としての矜持なんかもあるんでしょう。

 

 

 

―――フランドール・スカーレットの場合―――

「だ、大丈夫だよ!私は信じるから!だから気落ちしないで?お母様」

 

フランは一筋の光でした。天使です(悪魔ですけど)。でも娘に慰められる母親ってのもどうなの……

 

 

 

―――小悪魔の場合―――

「まさか美鈴さんがお嬢様方の母親だったとは……ああ今はメアリー様でしたね。これは失礼致しました……いえ(わたくし)など下級の悪魔ですから……お声を掛けて頂けただけでも光栄です……」

 

……あれ?小悪魔ってこんな感じだったでしょうか……何となく……ニヤニヤじゃないですけど常に微笑を浮かべているような雰囲気なのが気になります。今度しっかり話してみましょう。

 

 

 

―――とまぁ、こんなことがありまして。

どうしたもんかと思っていたらゆかりんが現れたんです。

そのまま連れられるがまま大図書館へ。

 

どうやらゆかりん、パチュリーにはある程度本当のことを話した模様(ネタやってるだけってこととか)

いつの間に話したんでしょう……その御蔭でパチュリーとはすごい打ち解けたんですけどね。

それはともかく、パチュリーが「まずは見た目から」と色々レクチャーしてくれることになりましてこうなった次第です。

 

 

「まったく……どうして貴女たちはそうふざけたがるのかしら。それが勘違いの元でしょうに」

呆れたように言うパチュリー。

 

「あら、面白さは全てにおいて優先されるのよ」

「異議なし」

さっすがゆかりん。全面的に同意です。

 

「……もういいわ。あと、まずその威圧感をどうにかしなさい。というより何でそんなに威圧感あるのよ」

「いやーそれは修羅の国を生き抜くために必須条件だったからでしてね……」

本当に。あの頃(メアリーとして過ごしてた頃)とか力こそ正義な世界だったからね。吸血鬼フォルムだと自然と出ちゃうんですよね。身体に染み付いてる感じで。

 

 

 

 

「それもどうにかしていく必要があるわね。……まぁ貴女たちの悪ふざけに巻き込まれない限り、協力はするわ。少し練習してからまた来なさい」

「あら?何を言っているのかしら?魔女さん」

「そうだよパチュリー」

「……何ですって?」

パチュリーがピタッと停止してこちらを振り向く。

 

「ここまで私たちの秘密に踏み込んでおきながら、無関係は無理でしてよ。貴女にもこっち側に来てもらいましょう」

「そーそーパチュリーも勇者パーティーの仲間入りだよー」

吸血鬼と賢者しかいないけど。

 

「歓迎いたしますわ、盛大に」

「っ!……ならないわよ。そうするメリットもないわ」

そう身構えるパチュリー。でもねーそれはゆかりんに対しては悪手だよ。

 

「そうかもしれないわね。……でもならないが故のデメリットはありましてよ?」

「!………」

まぁゆかりんなら(ほぼ)何でも出来るし。

この図書館丸ごと人質とかも出来るんじゃない?

ここに私たちを招き入れた時点で詰んでいたんだよパチュリー。

 

「大丈夫、そんなに無茶なことは言いませんわ。私たちの秘密に対して口をつむってくれるのと、有事の際にちょっと手を貸してくれればいいの」

「……」

これは追い込みにかかってるね。憐れパチュリー(でも反省しない)

 

 

「……分かったわ。でも本当に必要な時だけよ。嫌な時は容赦なく拒否するから」

「ええ、それで構いませんわ」

 

ぱちゅりーが なかまに なった!

これで運命共同体が三人になりました!

これから先が楽しみですね!

 

 

 

 

 




あぁー貴重なシリアス要員のパッチェさんが二人に侵食されていくー(棒読み)






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「私だって悪魔ですから」





シリアスはしばらく休みだと言ったな。あれは嘘だ。



side メアリー

 

―――紅魔館 大図書館―――

 

「さて、これからどうしようか」

パチュリーは秘密を知ってしまったので(ゆかりんのせいな気もしますが)運命共同体になって貰いましたけど。

別にみんなに言う必要はありませんね。ネタも出来なくなっちゃいますし。

パチュリーは以前からネタへの反応がイマイチだったのでいいでしょう。

 

「そうね……練習は継続するとして、少しづつでも慣らしていくべきね」

「それなら、まずは一番反応が良かったフランドール・スカーレットの所に行ってみたらどうかしら」

そう言うパチュリーとゆかりん

 

そうですね。ちゃんと話していかないと良くならないですよね。

まずはEasyモードってことでしょうか。

 

「そうだね。じゃあ最初はフランの所に行ってみるよ」

「なら良い時間だし、私はこの辺りでお暇させていただくわ」

どうやらゆかりんはもう帰るみたいですね。

 

「またね~」

「ええ、また」

「……」

流石にパチュリーは無言ですね。まぁおいおいどうにかなるでしょう。

私も行くことにしましょうか。

 

「それじゃあねパチュリー。色々ありがとう」

「……ええ、いってらっしゃい」

 

さて、まずはフランと何を話しましょうかね~

 

 

 

 

 

 

side パチュリー

 

メアリーは実に軽やかな足取りで大図書館から出て行った。

その後ろ姿を見やったあと、一つの本棚に視線を向ける。

 

「……出てきなさい、小悪魔」

「……あれ、バレちゃってましたか」

「これでも契約者よ。あまりナメないことね」

「あはは、パチュリー様には敵いませんね」

そういって苦笑を浮かべながら出てくる小悪魔。

 

「……相変わらずそういった小細工は得意なのね」

「それだけが取り柄なので」

若干自嘲気味に言う小悪魔だが、その技術は目を見張る物がある。

あのスキマ妖怪でさえ欺く隠密術は、卓越した一つの技と言えるでしょうね。

私自身、契約者でなければ気付くことは出来なかったと思うわ。

その意味ではとても優秀な使い魔と言える。

 

「……今度は何を企んでいるのかしら?」

「……あはは。企んでいるなんて……滅相もないですパチュリー様」

……この性格でなければ、なのだが。

 

「……そう言うところも相変わらずね」

「私だって悪魔ですから」

開き直ってそう言う小悪魔。

何というか小悪魔は……とても()()()()()悪魔なのだ。

それこそレミィよりもずっと。

もちろん指示すればしっかり仕事は行なってくれるし、普段はそんな様子は見られない。

しかし一旦スイッチが入ると途端に悪魔的な面が顔を覗かせる。

どうなるかというと、自分の心に従って愉悦を求めるようになるのだ。

それがどんなものかは決まっていないが、大抵ロクなものじゃない。

止めた所で止まるものでもない。まったくはた迷惑な使い魔である。

 

「……あんまり余計なことするんじゃないわよ」

「分かってますよ。限度はわきまえてますから」

それでも一応ストッパーはかけておく。

この小悪魔、自分にもとばっちりが来ないように上手いこと抑えるので心配はいらないでしょうけど。

我が従者ながらしたたかなものだと思う。

 

おそらく最近の様子から見て、ターゲットはメアリー・スカーレットかしらね。

先ほど無理矢理仲間にされた恨みもあるから本人には言わないでおきましょう。

私の怨念もまとめてくらうが良いわ。

―――と、いつもならここで話は終わって傍観に移るだけなのだが今日は違った。

 

「……パチュリー様は気付きましたか?」

「……何にかしら」

小悪魔は妙に頭が回る時がある。大抵は悪ふざけに対してだがはたして……?

 

「彼女の言動の不自然さにですよ」

「……彼女とはメアリーのことかしら」

まさかこの子も感づいたのかしら。あり得ない話ではないけど。

 

「そうです。メアリー様の話にはあるものが欠落しています」

「……それは?」

これは間違いないわ。小悪魔も気付いたようね。

 

Why(なぜ)? つまり理由ですよ」

「理由は一応言ってたけど」

「自分の楽しみの為にネタをやる。なるほど、分かります。それを知られたからパチュリー様も巻き込む。まぁまだ分かります。しかし肝心の話がないではないですか」

「……」

「なぜ彼女は自分が()()()()()()()をこんなにも長く隠していたんでしょうか」

「……」

「ネタの為?いや違うでしょう。現にこれからもネタには走るようですが、今は積極的に紅魔館の皆さんに自分を知ってもらおうとしています。……今までずっと隠してきたのに。八雲紫にバラされてしまったから仕方なく行動している?確かにそれなら今の状況には当てはまりますが、結局隠していた理由は明かされていません」

「……確かにそうね」

「一体彼女は何を隠しているんでしょうか。何故言わないんでしょう。何故門番として過ごしてきたんでしょう。……とても興味は尽きませんね」

そう締めくくる小悪魔。

……今 小悪魔が言ったことは私も違和感を感じていた所だ。

私はメアリー・スカーレットとして、紅魔館に馴染んでいく間に引き出せればと思っていたけど……

 

「フフフ……久しぶりに腕がなりますね……」

……小悪魔はそんな悠長に待つつもりはないようだ。

ここは小悪魔に託してみるのも一興か。

うまく調べられれば御の字だし、完全に分からなくとも手がかりくらいは掴めるだろう。

 

「……ま、適度に頑張ってちょうだい」

「仰せの通りに。我が主」

そういってスルリと大図書館を抜け出す小悪魔。

 

 

 

 

そうして静かな空間が訪れる。

「貴女は何者なのかしらね。メアリー・スカーレット……」

パチュリーが呟いた言葉は、一人きりの大図書館にただ吸い込まれていくだけだった。

 

 

 

 

 




このお話の小悪魔はトリックスター的な役割を担うかもしれませんね。
吉と出るのか凶と出るのか






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「笑顔とオールドファッションは基本」

side メアリー

 

―――紅魔館 廊下―――

 

「さて、じゃあ行きますか」

といってもフランの所に向かっているわけじゃないのですけど。

今向かっているのは厨房です。

理由としてはただお話するだけってのも味気ないので、ここは一つお菓子でも作ってから行こうかなーと。

ちょっと母親らしいところを見せられるかもしれませんしね。喜んでくれるでしょうか。

 

こう見えて意外と料理は得意なんですよ。

門番として過ごしていましたから、あまり皆さんの前で披露する機会がなく、知られていないと思いますけど。

 

意外と料理が得意と言えば、ゆかりんもそうですね。

以前ご馳走してもらったことがありますけど、ビックリするくらい美味しかったです。

見た目も綺麗でどこの料亭かと思いましたよ。

 

まぁ長く生きてると暇を持て余しますからね。

時間はタップリあるから色々手を出してみるんです。

人間が極めるのに50年掛かるとしたって、そんなの私たちにとっては一瞬ですからね。

そもそも効率とか手際も違うでしょうから50年も掛からないかもしれませんね。

 

そう考えると咲夜は凄いですね。

能力があるとはいえ、人間、しかもあの若さであれだけ家事が出来るのは驚異的だと思います。

料理も掃除もパーフェクトですし。

 

肝も結構座ってますよね。

人間が吸血鬼の食事を用意するのって、常人はなかなか厳しいと思いますけど咲夜は平然とこなしてますからね。

他にも自分の主(レミィのことです)に対しても物怖じしない所があったりしますね。たまに変なお茶淹れてますし。あれは物怖じしないっていうより天然なのかもしれませんが。

 

物怖じしない繋がりでいくとパチュリーも挙げられますね。ちょっとベクトルは違いますけど。

さっきの大図書館での勧誘(脅し)のときもそれ程動じていませんでしたし、とても頼もしいです。

またゆかりんも交えてお話しましょう。

 

っとそろそろ厨房が見えてきましたね。

おや、あれは……?

あの後ろ姿は咲夜でしょうか。

何か考え事をしてるみたいでこっちには気付いていないようです。

……

……フフフ。ちょっとイタズラしてみましょうか。

気配を消して……そーっと近づきましょう。

……

……

近くまでやって来ました。まだ考え事をしてますね。

じゃあ後ろから声を掛けてみましょう。

 

……あっといけない。パチュリーの言ってたことを忘れてました。

笑顔笑顔。

 

……こんな感じでしょうか。うん良いでしょう。

それでは更に近づいて……よしっ今だ!

 

 

「咲夜」

 

 

 

 

 

 

side 咲夜

 

私、十六夜咲夜は考える。

 

……例えば、例えばの話である。

自分の同僚……仮にMとしておこう。

同僚Mは外勤で……自分の方が役職的に立場は上であるとする。

意図的にキツく当たったわけではないが、それでもそれなりの態度を取ってきた。立場的に。

まぁ彼女が時たま居眠りしていたことも一因と言えるが、それは今は置いておく。

 

……その同僚が急に己の主の親だとカミングアウトされたらどうだろうか。

ハッキリ言って最初は訳がわからなかった。何を言っているのだろうかと。

……だけど、その後のことが強烈すぎて吹き飛んでしまった。

あの宴会の席での暴露。沈黙、威圧、緊張。

そう流れるように場の雰囲気は変わっていった。

私は……動けなかった。

それが単に驚いていたからなのか、あの威圧感に屈してしまっていたのかは分からない。

 

その後、彼女はスキマ妖怪に連れられて姿を消し、数日間紅魔館から離れていた。

その間の紅魔館住人の反応は様々。

パチュリー様はほとんど普段と変わりない様子だった。小悪魔も。

妹様は純粋に彼女の帰りを待ちわびているようで、ウズウズしているような感じであった。

……お嬢様はそれと対照的にというか、同じようにというか。

傍目からも待ち遠しいように見えたが、それを誰かが指摘すると即座に否定するといった反応だった。

私は……その時もまだどうしたら良いか、ハッキリとは分かっていなかった。

 

彼女が帰ってきてから。

みんなの反応は概ね変わりなかった。しいて言えば小悪魔が少し変わったくらい。

パチュリー様は受け入れ、妹様も歓迎した。

お嬢様は突っぱねた……意地を張っているようにしか見えなかったが。

私は、お嬢様の意思に沿うと言った。……どうしたら良いかわからなかっただけなのに。

 

……私はどうしたら良いんだろうか?

お嬢様が態度を変えるまでそれに従う?私だけでも主の母として扱う?

それとも……

 

 

「咲夜」

 

 

その時思ってもみなかった声が掛けられた。

―――瞬間、全身の毛が総毛立つような感覚に襲われる。

……全く気配を感じなかった。そのことに戦慄しながら振り返る。

 

―――そこには満面の笑みを浮かべた彼女がいた。

……声を掛けられるまで、存在を認識出来なかった。

にも関わらず、今の彼女は圧倒的な存在感がある。

だが私が一番恐れを抱いたのはその笑み!

かつて門番だった時の屈託のない笑みでも、八雲紫と帰ってきた時のどこか澄ましたような胡散臭い笑みでもない。

純粋な笑顔。しかしどこか目だけは笑っていないような印象も受ける笑みだ。

何かに意識を集中させ続けている……そんな迫力のあるものだった。

 

「何で……何かしら美鈴」

先ほど考えていたことから自然と敬語が出てしまいそうになり、慌てて言い直す。

……少なくともお嬢様が変えない限り、私も『紅美鈴』として彼女を扱おう。

 

すると彼女はますます笑みを深くし、私に話しかけてくる。

 

「いえ、後ろ姿が見えたから声を掛けただけよ。……ちょっと厨房を借りてもいいかしら?」

「構わないけど……何するつもり?」

「フランにお菓子を作ってあげようと思ったのよ」

そういってウインクを投げかける彼女に呆然とする。

……何だこれは。

まだあの胡散臭い笑みの方がマシだった。それなら八雲紫と同じように対処すればある程度はどうにかなった。

これでは本当にどうしたら良いのか分からない。

彼女は紅魔の母なのか?それとも同僚で良いのか?

以前のようなフランクさを垣間見せる彼女に、判断が付かない。

 

「じゃあ使わせて貰うわね」

「……ええ、どうぞ」

そのまま厨房に入って行く彼女を見送り、厨房の扉が閉まると同時にその場を離れる。

 

……駄目だ。自分一人でどうにか出来る問題じゃない。

誰かに相談するべきだろう。

 

そうすると誰にするべきだろうか?

……実の娘(かもしれない)お嬢様に相談する?

それとも一番冷静そうなパチュリー様?

……

……

ここは……パチュリー様の所に行こう。

お嬢様はまだ母親と認めきれていないだろうから、話がややこしくなるかもしれない。

パチュリー様なら冷静に、第三者視点で見てくれるだろうし。

ある程度仕事を片付けたら、大図書館に向かうことにしましょうか。

そう考え、私は仕事を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

side メアリー

 

私は鼻歌交じりに厨房に入る。

やった!やりきったよパチュリー!

ちゃんと笑顔で挨拶出来たし、咲夜も以前みたいに接してくれましたよ!

これはもう咲夜もお仲間で良いんじゃないかな?こんな感じでレミィとも話せたらいいですね!

 

さて、それはともかく。

何のお菓子を作りましょうかねぇ……

幸い材料はたくさんあるので作れないものは少なそうですが、逆に迷ってしまいそうですねぇ

どうしましょうか……

 

 

(フロッキーシュー?何じゃこれ、あり得なくない?)

 

 

……ハッ。今、異世界の同族の声が聞こえた気がしました(ただの妄想)

……作るのはドーナツにしましょう、そうしましょう。

同族も喜ぶかも知れません。

リクエスト通りフロッキーシュー……あとオールドファッションは基本ですね。

とうふドーナツっていうのも面白いでしょうか。何か和風でいいですね。

さて、作りましょうか。

 

 

()()料理中……

 

 

出来ました!こんな感じでどうでしょう!

 

(ぱないの!)

 

喜んでくれたみたいですね。ありがとう、遠い異世界の同族。

では寸劇はこれくらいにして、フランの所に行きますか。

 

 

 

 

 




え?主人公の能力ですか?
全て(の雰囲気)を破壊する程度の能力とかじゃないですかね(適当)






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「ごめんね。ありがとう」



最近の悩みは紅魔館編を書いているのに、永遠亭編とかのネタが先にポコポコ湧いてくること。助けてください(無茶振り)





side メアリー

 

―――紅魔館―――

 

……さて、やってきましたフランの部屋。

あとは目の前の扉をノックすればいいだけなのに、何時になく緊張しますね。

 

……覚悟を決めましょう。大丈夫、フランは私のことを受け入れてくれていました。

その娘にお菓子を持ってきた、ただそれだけ。

何も心配することはない……ハズです。

 

では、行きますか

 

コンコンコン

 

「誰?」

ノックを三回。するとすぐに可愛らしい声で返事がしました。

 

「私よ。メアリー」

「っ!お母様!?」

驚いたような声がした後、駆け寄ってくる音がする。そして―――

 

ガチャ

 

「……いらっしゃい、お母様!」

満面の笑みで出迎えてくれる我が娘。

ああ、私は幸せです。まる。

 

 

 

 

 

 

 

「お菓子を作ってみたんだけどどうかしら。食べる?」

「え!食べる食べる!」

「そう。良かったわ。それじゃお邪魔するわね」

喜んでくれて良かった。

部屋に入り、中央に設置されている机にトレイを置く。

 

「今日はね、フランとお話がしたいなって思って来たの」

「私と?」

「そう……今まで私は貴女達を騙していたようなもの。だから対話が必要だと思ったの」

「……」

「フラン、貴女は私のことを素直に受け入れてくれた。それはとても嬉しかったわ……でも、きっと納得出来ないこともあったでしょう。それを思う存分吐き出して欲しいの。それに何より……」

「……何より?」

 

 

 

「……娘と一緒に過ごしたいなって」

「……!!」

そう言うと、フランは驚いたような顔をし、次いでその顔に涙を浮かべ……おっと。

 

「……お母様!!」

私の胸へと飛び込んできたフランを優しく抱きとめる。

 

「……よしよし」

フランの背中に左手をまわし、右手で頭を撫でる。

 

「わたしっ……寂しかったっ……!!!物心ついたころにはお母様もお父様もいないんだもの!私だってお話したかった!遊んで欲しかった!でも、それでお姉様に迷惑をかけちゃったから……!だからずっと地下室で『良い子』にしてたの!その時だってずっと寂しかったんだから……お母様……」

「……ごめんね。そしてありがとう……こんな母親を受け入れてくれて……」

「……お母様っ…お母様ぁぁぁ!!!」

そう叫んで更に強く抱きしめてくるフランを、私もギュッと抱きしめ返す。

しばらくの間、泣きじゃくるフランをそうして抱きしめ続けていた……

 

 

 

 

 

 

「……落ち着いた?」

「うん、ありがとうお母様」

そういって目元を拭うフラン。その仕草も可愛いと思うのは親バカかな

 

「……ねぇお母様」

「うん?」

「…私も聞きたいことがあるの」

「何かしら。遠慮せずに言ってみて?」

今だったら何でも答えてあげたい気分。可愛い娘の質問だもの。

 

「……どうして今まで門番として過ごしていたの?」

「……それは」

……答えたいけど答えられない質問が来た場合はどうすればいいのだろう。

この質問に答えることは出来る……でもその答えはフランにとって良きものだろうか。その判断がつかない。

だから……

 

「……私がいつから門番として紅魔館にいたか知ってる?」

「え?それは……知らないけどお母様とお父様がいなくなった時からじゃないの?」

「そうじゃないのよ。実はね……私が…メアリー・スカーレットがいなくなってからしばらくの間、私という存在はここにいたわけじゃないの。紅美鈴が紅魔館の門番になったのはもっとずっと後のこと……数百年後かしら」

「え……?でもパチュリーとかは……」

「パチュリーやレミィが『紅美鈴はずっと昔からいた』と思っているのは、この紅魔館にそういう魔術がかけられていたからよ……今はもう存在しないけどね」

「何でそんな魔術が?」

「それは私が数百年いなかったことと関係するのだけれども……いなかったというより帰って来れなかったっていうのが正しいかしら。その魔術をかけたものによってね」

「……!!……誰?お母様にそんなことをした奴は…!」

表情を険しくし、こぶしをギュッと握りしめるフラン。

それを見て私は苦笑しながらこう言った。

 

「もうこの世に存在していないわよ。だからそんな怖い顔しないで?フラン」

「……あっ……ごめんなさいお母様……」

シュンとしてしまったフランに目線を合わせ、頭を撫でる。

 

「そんなに落ち込まなくてもいいわよ。フランが私のために怒ってくれたのは嬉しいもの。……まあでも、この話はここでお終いね?せっかくお菓子を作ってきたんだもの。今度は食べながら楽しくお喋りしましょう?」

「……!!うん!!」

そういってニコニコ笑顔で席につくフラン。

私も机上のお菓子を配り、対面の席に座る。

 

「一応紅茶も入れてきたわ。お菓子も紅茶も咲夜ほど上手くないかもしれないけど……」

「ううん、私はお母様の作ってくれたものを食べれるだけで幸せだよ!ね、早く食べようよ!」

「ふふふ…ありがとうフラン。それじゃあ……いただきます」

「いただきます!」

勢い良く私の作ったお菓子にかぶり付くフランを、微笑ましく見守る。

 

……そう、これでいいのよ。フランが幸せなら。

私は嘘は言っていない……ただちょっと口をつぐんだだけ。

それで娘達が幸せなら、それは良きことでしょう。

そんな考え事をしていた私は、じっとこちらを見つめる影に気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

「ふふふ、仲睦まじそうですねぇ……さて、私はもう一人の娘さんの所に行ってみましょうか……」

そう言って廊下を去る、一つの影があった。

 

 

 

 

 

 




謎の影……一体、何悪魔なんだ……

まぁそれはともかく。
ココらへんで一回人物紹介とかしようかなーって思ったんですけど、それで一話使うのも勿体無いんで数回に分けて後書きに載せてきます。とりあえず今回登場した人物をば。



メアリー・スカーレット/ジョブチェンジお母様
本作主人公。何かとネタに走る。でもやるときはやる。
八雲紫とは親友同士。でもネタなどの諸悪の根源も八雲紫。
昔は結構ヤンチャだった様子。今は娘の為に良いお母様になろうと努力中。
が、大抵勘違いされる。


フランドール・スカーレット/悪魔の妹(天使)
主人公の心の拠り所。素直で母親思いで可愛い(重要)
でも昔はヤンチャしてた。そこは母親譲り。
天真爛漫で、よくある狂気設定に関しては
「狂気?何それ?おいしいの?」状態


小悪魔/トリックスターデビル(偽)
悪魔。正に悪魔。
悪戯がとっても好きな大図書館の司書さん。
悪戯のレベルか疑わしいものもあるが、本人は悪戯と言い張る。
座右の銘は「人の不幸は蜜の味」





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「惑う従者と魔女の受難」

side 咲夜

 

―――紅魔館 大図書館前―――

 

ようやく仕事が一段落ついた私は、再び大図書館へと戻ってきていた。

 

あの後しばらく経ってから厨房を覗いてみたが、彼女はもういなかった。

その後は、時間もちょうど三時頃だったから、あらかじめ用意しておいたデザートをお嬢様の元へと運んだのよ。

妹様の分もあったのだけど、彼女がお菓子を作ると言っていたから必要ないと判断したわ。

お嬢様は何か物思いに耽っていたようだけど、私がデザートを持って行くと「しばらく下がっていていい」と言われたわ。

その様子に少し違和感を感じたけど、表情には出さず恭しく一礼して退室したのよね。

それから大図書館の二人にも持って行こうとした所で、小悪魔に出会ったわ。

デザートはいらないのか聞いたけれど、「パチュリー様にあげてください」とにこやかな笑顔で言われてしまった。

 

そして今、私は大図書館に来ている。

いつもどおり三時のおやつを持ってきただけ

……なのに何時になく緊張するのは彼女のせいか。

ふぅ、と一息入れて顔をあげる。

そしてノックをしようとした。

 

(今日―――貴女―――たのは―――よ―――)

(貴女―――に?―――いうの?)

 

話し声が聞こえる。

……話し声が聞こえる?

 

おかしい。

件の彼女と妹様はまだ部屋にいるはず。ここに来る際通りかかった時、楽しそう談笑する声が聞こえてきた。

お嬢様は自分の部屋。小悪魔はさっきすれ違ったばかり。

……では誰が?

一人はパチュリー様だとしてもう一人は?

 

そんな疑問が渦巻く中、私の手は意思に関係なくノックをしていた。

 

と―――聞こえていた会話が途切れる。

黙っているわけにもいかないので、用件を口にする。

 

「咲夜です。デザートをお持ちしました」

「……入っていいわよ」

パチュリー様から返事が返ってくる。

静かに扉を開け奥まで進むと、意外な人物がそこにはいた。

 

「お邪魔しているわ。ご機嫌いかがかしら?メイド長さん」

 

そう言って、妖怪の賢者 八雲紫は妖艶に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「……何で貴女がここにいるのかしら」

表に出そうになった驚きを隠しつつ、鋭く尋ねる。

 

「メアリーに会いに来たのよ。でも忙しそうだからこちらの魔女さんとお話させて貰っていたわ」

「……通した覚えはないのだけれど?」

「あら、うっかりしてたわ」

「……貴女がうっかり?もっとマシな言い訳はないのかしら」

「ビタミンが足りないわね」

「何の話よ」

「もっとマシな言い訳」

「ただの話逸らしよ、それ」

「あら、うっかりしてたわ」

「…………」

 

……このまま話を続ければこれの繰り返しなのかしら。

もう八雲紫は放置して、本来の目的を果たしましょう。

何やら複雑そうな顔をしているパチュリー様の方に向き直る。

 

「パチュリー様、こちらが本日のデザートと紅茶でございます」

「……ありがとう」

「それと小悪魔から、彼女の分のデザートをパチュリー様にとの言付けを預かっております」

「あら、そうなの?そうしたら……」

 

そう言って少し考え込むパチュリー様。

そしてその口から発せられた言葉は、再度私を驚愕させるものだった。

 

「じゃあそれは八雲紫にあげて頂戴」

「っ!?」

 

……どういうこと?

以前のパチュリー様だったら、被害を被らない限り八雲紫の存在を無視する位のことはしたはずよ。

それなのに今日になって突然もてなす気になったりするかしら。

そもそも八雲紫はメアリー……美鈴に会いに来たはず。

ならば何故パチュリー様と話している?

先ほど言っていた時間つぶしが理由とも思えない。

それならパチュリー様が付き合う必要は無いはずだもの。

と、そこまで考えた後、一つの推測に行き当たり戦慄する。

……まさか!?

私はバッと音がしそうなくらい素早く八雲紫の方を見る。

奇しくも八雲紫もこちらを見つめており……

その顔には先ほどと変わらず、妖艶な微笑みが浮かんでいた。

……

…………

やられたわ……

おそらくパチュリー様はもう()()()()なのでしょうね……

仮に私が八雲紫を排除しようとしても、パチュリー様が阻止しようとするわね。

……パチュリー様を引き戻そうとしても然り。

その場合は八雲紫が立ちはだかるのでしょう。

……まとめて相手にするのは流石に無謀ね。

ならば私がやることは一つ。

現状戦力をまとめ上げること。

一刻も早く、お嬢様にこのことを知らせなければ!

今のこの状況では母親がどうのこうの言っていられないわ。

 

「……それでは、失礼致します」

そう言って私は、素早く大図書館を後にする。

……後ろから感じる視線に慄きながら。

 

 

 

 

 

 

side パチュリー

 

「悪趣味ね」

「あら、自分の事を棚に上げるのかしら」

「……貴女がやれと言ったんじゃない」

「私の言葉に従ってくれるなんて嬉しいわ。パチュリーは身も心も私たちの仲間になったのね」

「……誤解を招くような言い方は止しなさい。……私も思う所があったから貴女の提案に乗っただけよ」

「そう。まぁメイド長には気の毒だけど、今しばらく勘違いしておいてもらいましょう」

「……そんなこと、思ってないくせに」

「……ふふふ」

 

咲夜がいなくなった大図書館。

目の前の妖怪の賢者は、本当に楽しそうに笑う。

 

結論から言うと、一芝居打ったってこと。

いや、実際八雲と結託したのは事実だから、芝居でもないわね。

まぁでも、わざわざ咲夜の目の前であんな様子を見せたのや、大図書館の外まで会話を聞こえるようにしたのはそういう理由から。

咲夜はまだこちらに引き込むべきではない。

むしろ逆の立場にいるからこそ出来ることもある。

八雲紫が現れたのはそういう目的もあったんでしょうね。

 

「……で、八雲紫。貴女何か見せたいものがあるって言ってなかったかしら?」

「あぁ、そうだったわね。え~と……」

そう言ってスキマをゴソゴソと探り始める八雲紫。

やがて目当てのものを見つけたのか、私の目の前に引っ張りだした。

 

「私たちの仲間になったのなら、まずはこれを見ないとね」

「……これは何かしら」

スキマからやけに大きな箱を出した八雲紫。

なぜだかすごく嫌な予感がするのは気のせいかしら。

 

「ふっふっふ……これは私(とメアリー)オススメのアニメDVDよ!まずはこれで調教……もとい教育してあげるわ!さあ、テレビも持ってきてあげたんだからさっさと見るわよ!」

「……は?」

 

ま、マズイわね……

あにめでぃーぶいでぃーとやらが何か分からないけど、絶対ロクなもんじゃないわ……

というより調教とか何か不穏な単語が混じってる時点で論外よ!

と、とにかくこの場から逃げ……

 

「あら、面白そうじゃありませんかパチュリー様。是非見ましょうよ」ガシッ

「こ、小悪魔!?……貴女いつの間に……!?」

 

急に後ろから肩を掴まれ、振り返るとそこにはとても良い笑顔の小悪魔が。

しまった、しっかり探知しておくんだった……!

 

「じゃあ準備も整ったし始めるわよ~」

 

そうこうしているうちにそんな八雲紫の声がする。

あぁ……今日は厄日だわ……

 

 

 

 

 




本当は今回、伝統の幻想ブン屋さんが登場する予定だったんですが、長くなってしまったので分割(許せブン屋)

今回も人物紹介は三人です。



十六夜咲夜/瀟洒で天然な従者
メイド長。貴重な人間分。
今のところ勘違い要員としてしか出番が無い不憫な人。
彼女の勘違いが晴れる日はいつか!(晴れるとは言っていない)



パチュリー・ノーレッジ/アクティブ大図書館
動かない大図書館とか何やかんや言われてる魔女さん。
この世界では打って変わってアグレッシブ。
自分で稗田家に乗り込んで行ったりしちゃう。
でも最近は八雲紫と主人公に翻弄されっぱなし。



八雲紫/割と困ったちゃんな賢者
主人公がネタまみれなのも、
周囲の勘違いが凄まじいのも大体このお方のせい。
本人たちは楽しければいいんだとか。
近頃新しい標的(パチュリー)を見つけて上機嫌。





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「だから私は愚者でいい」

side レミリア

 

少し遡り、咲夜が大図書館に向かっている頃

 

―――紅魔館 レミリアの私室―――

 

 

ゆるやかに流れていく午後の一時。

先ほど咲夜が淹れていった紅茶を一口。自然と息が漏れる。

紅魔館のメイド長の仕事は変わりなく、今日も完璧だ。

 

……だが、その心持まで完璧、とは言えない様子だったが。

咲夜は上手く隠しているつもりだったかもしれないが、何かに動揺しているのは感じ取れた。

これでも何百年と生きてきたのだからな。それくらいはわけなかった。

 

……まぁおそらく、ウチの母親が何かやらかしたのだろうな。

厨房でフランのためにお菓子を作っていたと咲夜は言っていたし、その時に何かあったのかもしれない。

……私には作ってくれないのだろうか。

 

それはともかく。

咲夜はそのまま下がらせたが、彼奴が素直に休むとも思えない。

―――お母様、がフランの部屋にいるなら、咲夜は恐らく大図書館に向かうだろう。

七曜の魔女に会うために。

 

 

コンコンコン

 

 

そこまで考えたときノックの音が部屋に響いた。

 

「入っていいわよ」

誰が来たのか見当がついていた私は、入室の許可を出す。

 

「失礼しますね」

 

そう言って入ってきたのは小悪魔だった。

彼女は私の側までススッと寄ってくると、ニッコリ笑顔を浮かべた。

 

 

「その様子を見るに、上手く事は運んだようだな」

「ええ、もちろんです。パチュリー様は()()()()八雲と結託いたしました。……若干強制でしたが」

「強制であろうとなかろうと構わん。結果あの三人が結びついたのならそれでいい」

「……そうでした。私としたことが」

 

そういってテヘッと笑う小悪魔。

表面上は可愛らしいが、こいつの本性を知っていればそんなことは言えん。

そのまま笑顔であざとい仕草を続けながら奴は言う。

 

「それにしても、レミリア様も悪いお方ですねぇ。まさかパチュリー様まで」

「悪魔だからな、当然だろう。必要なことなら手は抜かん」

「そうでしたそうでした……それに私も悪魔でしたね……フフフッ」

 

そういってさっきとは一変し本当に楽しそうな、それでいて底意地の悪そうな笑顔を浮かべる小悪魔。

 

……恐らく今の幻想郷での私に対する評価としては、『紅魔館の主の吸血鬼』が一般からのもの。

ある程度知っている人物ならそこに『でも少し子供っぽいお子様吸血鬼』が加わる。

……もちろんそれは紅魔館の住民も例外なく。

あのパチェでさえ、私のことをそう思っているだろう。

それでいい。

 

そのために今まで行動してきたし、お母様に対してもあれほど反発したのだから。

 

……賢者が動けば警戒される。

だが愚者が動いたところでどうこうする者はいない。

 

賢者の役割はパチェにやってもらおう。

その間にお子様吸血鬼が癇癪やワガママを言ったとしても、周りの反応は「いつものことか」で済むのだ。

その基盤……思い込みを作るために、『お子様吸血鬼』を数百年演じるのはなかなか骨が折れた。

 

私が本当に知りたいことは、賢者として目立ってしまっては辿りつけないものなのだ。

何しろ動きにくい。悪目立ちは避けたい所だ。

それに加え当時のことを知っているものは少なく、そもそも結界で分かたれた外での出来事。

幻想郷に手がかりがあるのかすら分からない。

本人に直接聞いたところで真実は得られないだろう。真実を知っているかも分からん。

 

唯一可能性のあるものとしては妖怪の賢者か。

だが彼奴に与するのは先ほど言った理由から諸刃の刃となりかねん。

何百年も待ったのに、そんなことで私の努力を崩されては敵わん。

しかし、得られるならその可能性も得たい。

だからその席はパチェに譲ったのだ。

 

「パチュリー様も不憫ですねぇ。親友と思っているお方に利用されて」

「何を言っている。私だってパチェのことは親友だと思っているぞ」

「あれ?そうなんですか。ならば何故その親友にあんな役目を?」

「親友だからこそ、だ」

「……なるほど。本当に信じられる者だから、ということですね」

「信じてなんかいないぞ?」

「えぇ……何なんですかホント」

「知っているだけだ」

「え?」

「私はパチュリー・ノーレッジという魔女を知っている。それだけだ」

「……信じてはあげないので?」

「信じる?なんだそれは?裏切られてもいいということか?私はそうはならん。だから信じん。知るだけだ」

「…………そうですね。確かにそうかも知れません」

 

「……さて、用件は済んだな?そうしたらこれが報酬だ。それを持って大図書館に戻るがいい」

「……確かに頂きました。それでは今後ともご贔屓に」

「ああ、よろしく頼む」

 

そうして小悪魔はまた、ニッコリと笑顔を浮かべるとスーッと溶けるように立ち去っていった。

 

 

 

部屋には静寂が戻り、一人の空間が広がる。

やはり小悪魔で正解だったな。

こちらもあちらもお互いの性質を理解している。

これが他の者だったら、ああまですんなりとはいかないだろう。

悪魔には悪魔、ということか。

 

 

とはいっても同じ悪魔とはいえ、フランを巻き込むわけには行くまい。

あの子はまだ経験が少なすぎる……いい意味でも悪い意味でも。

悪魔とは思えないほど無邪気に育ったフランなら、私や小悪魔とは違った道もあるだろう……

 

 

さて、恐らくこれからあの三人組は仕掛けてくるだろうな。

『ワガママなお子様吸血鬼』を納得させるために。

自分で言うのも何だが、私のワガママはなかなかだぞ?

果たしてあの三人はどう出てくるか……

なかなか楽しみじゃないか。

 

そんな考えに至り、私は一人クスクス笑いを漏らす。

早く仕掛けてこないだろうか。

そう思いながら手に取った紅茶には、意地の悪そうな悪魔が写っていた。

 

 

 

 

 




「レミリアのカリスマ性は表現したいな」

「でもそうすると(所謂)カリスマブレイクはどうしたものか…」

「周りを欺くための愚者の演技ってことにしよう」


といった感じになりました。






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「モケーレムベンベ(母娘)突撃取材」




結構、紅魔編(第二章)は長くなりそうな予感。
やっぱり、メインキャラ達ってのもありますけど、一人ひとりにスポットを当てていくとどうしても多くなっちゃいますね。
だが続ける






side メアリー

 

―――紅魔館 フランの部屋―――

 

「あれ?もうこんな時間?」

「ん…?あら本当ね。随分時間が経つのが早いわ」

 

お喋りに夢中になっていた私は、フランの一言で我に返った。

気が付くともう夕暮れのようだ。

部屋に窓がないため気が付かなかったか―――あるいはそれ程フランとの会話が楽しかったか。

 

 

 

「そうね……一回私は大図書館に戻ろうかしら」

「え……もう行っちゃうのお母様……?」

 

何の気なしに呟いた言葉に反応したフランが、不安気な顔でそう尋ねてくる。

 

グハァ!

駄目だよフラン!その顔は危険だ!

涙目になりながら上目遣いとか……

そんな顔されたらお母様どこにも行けなくなっちゃう!

 

 

「大丈夫よ。ここからいなくなっちゃう訳じゃないんだから」

「……でも…」

「……また、お菓子を作ってお話にくるわ。もちろんフランが私の所に遊びに来るのも大歓迎よ。……それでいい?」

「!……うん!」

 

とまあそんな娘への溢れる愛情はおくびにも出さず、再開の約束を取り付ける。

フランも納得してくれたみたいだしよかったよかった。

 

 

 

 

 

「じゃあまたねフラン」

「うん、またねお母様」

そう言いながら部屋の扉を開ける。

 

「こんにちわメアリーさん!清く正しい射命丸です!本日は貴女に取材しにきま―――」

バタン

 

 

 

扉を閉める

部屋には沈黙が広がり、私とフランは顔を見合わせる。

 

 

……扉を開ける

 

「ちょっといきなり締め出さないでくださいよ!喋ってる途中じゃないですか!あ、それでですね。最近噂の貴女がようやく紅魔館に帰ってきたということで取材に来ました!以前はレミリアさんに突撃しましたが今回はその母親の貴女に!まずは簡単に自己紹介から―――」

 

 

扉を閉め―――

 

「おっと、させませんよ!」

 

ガシィ!と音を立てて閉じようとした扉を掴む鴉天狗。

 

 

「せっかくここまで来たんですから何が何でも取材させて貰います!覚悟してくださいね!」

 

 

 

 

 

……どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

「待ちなさい鴉天狗。……色々聞きたいことはあるけど、少し落ち着きなさい」

「あややや、これは失敬。それにしても以前と全然話し方が違いますね?前のように『文さん』で良いですし、何なら呼び捨てでも構いませんよ!」

「じゃあ文。まずはその口を閉じてからゆっくりそこの椅子に座りなさい」

「……まさか本当に呼び捨てで呼んでくれるとは。随分と変わられたようで……あぁいえいえ座りますよ。だから睨まないでください」

 

やっとこさ静かになった新聞記者を眺めて溜息を吐く。

 

……さてどうしたものか。

どうやってここまできたのかとか許可は取ったのかとか色々言いたいことはあるけどそれは割愛。

どうせ言った所で無駄だもの。

無理矢理追い返してもよかったのだけど、そうすると後々面倒なことになりかねないわね。

それに何の対処もせずにこの場から離れて、フランに迫られても癪だし。

適当に付き合って、ある程度満足してから帰ってもらったほうがいいでしょうね。

 

「……それで、何が聞きたいのかしら?」

「おや、素直に答えてくれるんですか。ありがたいですね」

そう言いつつ、懐からペンと手帳を取り出す射命丸。

 

「ではまず、なぜ今まで門番を?」

……まぁそれは質問されるわよね。

フランに答えたのと同じ感じでいきましょうか。

 

「実は私は結構長い間紅魔館から離れていたのよ。そしてその間紅魔館には『紅美鈴』が存在しているように認識させる魔術が掛けられていた。そうして私はしばらく経ってから紅魔館に戻り、そのポジションについたのよ。今までは全てを明らかにする機会を伺っていたのだけれど……誰かさん(八雲紫)が暴露してくれたからね」

そういって苦笑する。

 

「……その魔術を掛けた人物は?」

「もういないわよ」

「……流石に教えてくれませんか。いえ、今はそれで結構です。それでは次の質問を。八雲紫とはどのような関係で?」

「彼女は親友―――というより腐れ縁かしら。何かにつけちょっかいを掛けられてるうちに仲良くなったって感じかしらね。出会ったのは私が紅魔館に来る前―――あ、紅美鈴として来る前じゃなくて、前当主と結婚する前ってことね。そう考えるとかなり付き合いは長いわね」

「ふむ。今、前当主という単語が出てきましたが、その妻であった貴女が紅魔館の当主を引き継がれるので?」

「そのつもりはないわ。この幻想郷で『紅魔館の当主』だと認められたのはレミリアだから。私は隠居でもしたことにしておいて欲しいわね」

「なるほどなるほど。……母娘で写真も頂きたいのですがよろしいですか?出来ればレミリアさんも入れて3人で」

 

写真か……フランは頼めば一緒に撮ってくれそうだけどレミリアは……

今の私はメッチャ嫌われてる感じだしどうだろうか……

……いや、逆に考えよう。

 

「……フラン?いいかしら」

「うん。私は良いよ」

 

やっぱりフランは承諾してくれたわね。

一応文にはレミリアのことも言っておきましょう。

 

「文。一応レミリアにも聞いてみるけど……承諾するかどうかはレミリアに委ねるからそのつもりでいて頂戴」

「いえいえ十分ですよ。ありがとうございます」

「じゃあ二人が良ければレミリアの所に向かいましょう」

「「はーい(ええ)」」

 

……よし、これでいいでしょう。

恐らくレミリアは私に反発するはず……紅魔館のメンバーしかいなかったら。

レミリアとの関係をどうしたらいいか考えていた所に、文という新しい風が吹き込んで来てくれた。

その風が吉と出るか凶と出るかは分からないけど、少なくとも今まで通りということはないでしょうね。

良い方に転ぶように祈りましょうか。

 

 

 

 

 

 




やっとブン屋が出せましたね。
書いてみて分かりましたけど、彼女は書きやすい―――というより話に絡めやすいですね。
これから要所要所で使っていくかも知れません。


あと今更ですけど、この小説において勘違いをする人物にはあるパターンがあったりします。
軽微な勘違いはみんなにかかっているので、ここでの勘違いとはものっそい勘違いをしてる人たちのことですね。
次の章に入ればそのパターンもある程度見えてくるかな?って感じでしょうか。







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「それぞれの思惑」




紅魔編は長くなると言ったな。あれは嘘だ(二回目)







side メアリー

 

―――紅魔館 廊下―――

 

やあやあ皆さん。メアリーです。

 

ただいま私たちはレミィの部屋に向かって移動中。

そんな遠いわけでもないんですけど、文が私やフランに話しかけたり寄り道してるせいで予想以上にかかってます。

フランはニコニコして付き合ってますけど、私としては早く行きたいんですけどねぇ…

というより早くしないと緊張で胃が……

 

え?何で緊張してるのかって?

そんなのレミィに会いに行くからに決まってるじゃないですか。

…娘に緊張するなんて変?

そういうのはあのレミィと対峙してから言ってください!

娘にあんな視線を向けられたら私は……私はぁっ!(泣)

 

 

でも私はこうも思いました。

『このままじゃいけない』と。

 

いきなりあの状態からフランのような感じになるのは無理があるかな、と思います。

そもそもフランは最初の印象がそんなに悪くなかったですからね。

でも少しづつ、一緒に過ごすことで変わっていけるんじゃないかと。

そのために勇気を出して向かいます。

 

……でも一人だと不安なんでフランと一緒に…あと文も………

 

 

 

 

と、そんなことを考えているうちにレミィの部屋の前に着きましたね。

ノックする前に深呼吸。

……よし行きますか。

扉に手を伸ばして―――

 

 

バターン!

「こんにちはレミリアさん!!!清く正しい射命丸です!!突然ですが取材しに来ました!!」

………

……

って、オイィィィィ!!!

何してんの!?ブン屋何してんの!?

 

そうしている間にも、文はズンズンと部屋に入っていってしまう。

 

 

「おい、ブン屋。いきなりご挨拶……なぜ門番がここにいるのかしら」

 

ああっ!私に気付いたレミィが、一変して険しい顔を向けてくる!

文が入った時はそこまでじゃなかったのにいきなり空気が重くなったよ!?

フランはそんな空気に当てられたのか、私の服の裾を掴んで後ろに隠れちゃってるし。

 

……これは覚悟を決めるしかなさそうですねぇ……

 

お母様モードONです!

 

 

 

 

 

 

side レミリア

 

やはりやって来たわねお母様。

……他二人はちょっと予想と違ったけれど。

 

てっきりお母様、パチェ、八雲紫の三人で乗り込んでくると思ったのだがな。

フランはまだしもブン屋とは……いやはや驚かせてくれる。

さて、どう出てくる?

 

「昨日ぶりね、レミィ。元気そうで何よりだわ」

そう言って微笑みかけてくるお母様。

 

「……だから私は貴女を認めないって言ったでしょ!その呼び方は止めなさい!」

こちらもいつも通り(お子様吸血鬼)の感じで返す。

いつもならしばらく言い合いが続いてからどちらともなく有耶無耶になる。

が、この状況ならおそらく……

 

「……あややや?これはどうしたことでしょう」

ブン屋が反応するだろうな。

当事者二人(主に私だが)が火花を散らしているためか、ブン屋はフランにヒソヒソと話しかける。

 

(もしかして二人はあまり仲がよろしくないので…?)

(うん……お母様は普通なんだけど、お姉様が拒絶してる感じ…)

 

全部筒抜けだがな。

まぁ、いい。

私とお母様の関係がこうなるようにしたのは私自身だが、ブン屋を連れてきたのはお母様。

……どうするのかな?

 

「それで、何しにきたのかしら」

私から一歩踏み込む。

それに答えたのはお母様……ではなく、サッと近くに寄ってきたブン屋だった。

 

「そうでした!実は先程までメアリーさんとフランさんに取材をさせて頂いておりまして!写真を一枚撮りたいのですがどうせなら皆さんで撮りたいと思った次第です!」

 

この天狗もなかなかしたたかね。

レミリア・スカーレット(お子様吸血鬼)が怒りそうな単語を避けているあたり、考え無しってわけじゃないようね。

だからといって素直に従うわけじゃないけど。

私のワガママ(戯れ)を舐めないでほしいわね。

 

「私はやらないわよ。そうする必要性を感じないもの」

「あややや……そこを何とかお願いしますよ~」

 

ブン屋が情けない声を出しているが無視だ。

私はお母様の出方が見てみたいのだから。

先程から沈黙しているが、そろそろ何かしらのアクションは起こすだろう。

 

「ねぇレミィ」

ほら来たわね。

 

「……何よ」

私はすこぶる機嫌悪そうに言葉を返す。

さて、ブン屋と共に説得にくるか?諦めるか?

 

「さっき久しぶりにお菓子を作ったのよ。レミィの分も持ってきたの。これを食べながらでいいから私たちに付き合ってくれない?」

 

……!

これは……気付かれているのか?

確かにお子様吸血鬼だったら乗りそうな誘惑だ。

単にそう考えて言ったのか……

 

それともお子様吸血鬼(カリスマブレイク)が演技だと気付き、()()()()()()()()()()()()と分かっていてやっているのか……

………

……

…いや、どうも素っぽいわね。

ニコニコと、若干得意げな顔でお菓子を差し出してくる我らがお母様。

その顔を見ていると、何だか邪推していた自分がバカらしくなってしまう。

 

「し、しょうがないわね。そこまで言うんだったら特別に……特別によ!その話、乗ってあげるわ!……だから早くそれを寄越しなさい」

ならば私も今まで通り。

これが彼らの望んだ姿。

予想通り、ブン屋は呆れたような苦笑をもらしている。

フランは純粋に喜んでいるけど、ナチュラルに受け入れているのがなんか複雑ね。まぁそうなるようにしたのは私自身だからいいのだけど。

 

「ありがとう、レミィ」

そう言って微笑むお母様にふくれっ面を向ける。

 

「……いいからさっさと終わらせるわよ」

「?」

「写真!……撮るんでしょ」

「!ええ、そうね」

 

 

 

 

そして全員が集まった所でブン屋が合図をする。

 

「良いですか皆さん?それじゃあ撮りますよー」

 

 

 

 

……そう、これでいい。今は。

然るべき時が来るまでは、しばらくこのままで……

 

 

 




いやーまさかメイトリックスさんの迷言を二度使うとは思いませんでした(多分また使う)

ホントはもっと書きたいものあって迷ったんですけど、第二章が恐ろしい長さになりそうなのと、話の本筋にはあまり関係ない(日常話的な)ものだったんでカットしました。
あと次の章が書きたかった。

お子様吸血鬼の演技させようとしたら何故かツンデレになるレミリア。不思議。


次回から永遠亭編ですね。
紅魔編がちょいちょいシリアス入ってたんでその反動を受けて貰います。
多分ネタまみれです。
次に犠牲になるのは誰でしょうかね……



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第三章 月と竹林と美少女と
「パチュリーのはじめて」





まぁ落ち着いてください。
(今回のタイトルがアレだからって)陰陽玉を突きつけられては落ち着いて話も出来ません。
この先どうなるかは貴方達次第です。無事パチュリーを取り戻したければ私達に協力しろ。OK?





「さぁ、早く言いなさい」

 

場によく通る、冷徹な声が響く。

辺りを照らす月明かりは厳かに、されど訪問者を祝福するかの如き優しさを秘めている。

 

だというのに。

 

額からツゥ…と汗が一筋、流れ落ちた。

 

対面する者から放たれる気配に、自然と身体が緊張する。

月を背後に背負ったその者は、まるで後光の如き月明かりによって逆光となっている。

その逆光と距離もそれなりにあるため、表情は定かで無い。

 

が、明らかに。

放たれる気配は「殺気」であった―――

 

 

 

 

 

 

時は遡り…レミリアと写真を撮った後

―――紅魔館―――

 

side メアリー

 

レミィと写真を撮り終えた私は大図書館へと帰ってきました。

え?ブン屋とフランはどうしたって?

 

文は「ネタは新鮮なうちに」とかなんとか言って飛び出していきました。

フランは一緒に出てきたんですけど、「魔法の練習の時間」ということでフランの部屋の前で別れました。

また夕食の時にも会えますしね。

 

 

 

……で、この惨状は何なんですかね(困惑)

 

 

「ふっふっふ…さぁ覚悟しなさいパチュリー!次はこれよ!」

 

「む、むきゅー!こ、小悪魔!離しなさい!」

 

「良いじゃないですか~パチュリー様♪可愛いですよ♪」

 

 

えー……

ゆかりんがリリカルな魔法少女服を持ってパチュリーに迫り

パチュリーは逃げ出そうとするも何故かノリノリな小悪魔に捕まっていると。

 

……どうしてこうなったん

 

 

「あっ、メアリーいい所に!早く助けて!」

「あら、駄目よパチュリー。往生際は良くしないと♪」

 

私に助けを求めてくるパチュリーに取り付くゆかりん。

あれは魔法繋がりで選んだ服装なんですかね。

まぁそれはともかく……

 

ガシッ

 

「め、メアリー……!?どうしてっ…」

 

いや、そりゃー私はこっち側ですよ

パッチェさんの魔法少女が見てみたいです(ゲス顔)

 

「流石はメアリー。解ってるわね♪」

ゆかりん相変わらずですね。

それに便乗する私も私ですが。

さてちゃっちゃと着せちゃいましょうか。

 

「む、むきゅー!!」

 

そうして紅魔館大図書館に、魔女の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「いやーなかなか良かったわね」

「そうね。貴重なものが見れたわ」

「パチュリー様も今度からいろいろ試してみたらどうです?」

「……」

 

あらら、拗ねちゃいましたかね。

あからさまに不機嫌な顔でそっぽを向くパチュリー。

しかしいかんせん服装が魔法少女のままなので、あんまり怖くありませんね。

お話(物理)とかされたら逃げますけど。

 

 

「じゃあメアリーも来たし、おふざけは止めにして本題に入りましょうか」

あ、あれが主目的じゃなかったんですか。

 

じゃあ最初からやるな と言わんばかりのパッチェさんの冷たい視線をものともせず、ゆかりんは続けます。

 

「前回の人里での顔合わせにより、とりあえず三陣営のトップにはメアリーの人となりを知ってもらえたわ」

結構中途半端だった気もしますけどね。

 

「でも幻想郷にはまだまだたくさんの人妖が内在しているわ。先の三人だけでは周知というには不十分」

確かにそうかも知れませんね。ここまできたらやるだけやってもいいでしょうし。

 

「そこで他陣営も籠絡……ゲフンゲフン!良き理解者となってくれるよう、こちらから働きかけていきましょう」

ゆかりん今 籠絡とか言わなかった?

 

「でもどこから行けばいいか正直分からないわよね。そんなときに使うのがこれよ!」

ゆかりんがスキマをごそごそやって何か取り出しましたね。

 

「……何かしらこれは」

あ、パチュリーが復活したみたいですね。

不機嫌そうなのはそのままですが、興味が勝ったようです。

 

えーっと…ゆかりんが取り出したのは…幻想郷の地図?それと…ダーツ?

……まさか。

 

「幻想郷一周、ダー〇の旅よ!」

やっぱりそれですか!!

というより、え!ホントにこれで決めるの!?

 

「記念すべき第一回は魔法少女パチュリーちゃんにお願いするわ!」

「……ロイヤルフレアと賢者の石どっちを食らいたいのかしら?」

パッチェさんが魔法書開き始めちゃったよ!!

 

「パチュリー落ち着いて」

すかさず間に入って止めに行く。

 

「……元はといえば貴女が八雲紫に加担するから……!」

しまった。藪蛇でした。

 

「はいはい。いいからさっさと投げる」

「むきゅっ!?」

あ、なんかデジャブ。

またしてもゆかりんに無理矢理やらされ、むきゅむきゅ言ってるパチュリー。

それを尻目に飛んでいったダーツは見事地図に刺さりました。

えーっと刺さったのは……

 

「迷いの竹林辺りね」

竹林かぁ……

確かに永遠亭の住人とは宴会以来顔を合わせてないし、良いかもしれませんね。

 

「じゃあ行くわよ」

「えっ?」

ちょっと待ってゆかりん。

今すぐ行くんですか?

 

「また後日とか面倒だもの」

いや、相手の都合とかあると思うんですけどね。

まぁこれが良くも悪くも幻想郷クオリティですよね。

思えば人里で集まった時も、全員の予定を考慮したっていうより人里でやることに意義があったのかも知れませんね。

あとは宴会から時間を置くためとか。

 

「……行ってらっしゃい。レミィには私の方から言っておくわ」

「何言ってるの。貴女も行くのよ」

「なっ……!?」

 

留守番になろうとしたパチュリーですが、いけませんね。

パーティーメンバーだって言ったじゃないですか。

一蓮托生ってやつです。

驚いたような顔をしたパチュリーは、そのままゆかりんにスキマへと引きずられて行きます。

 

「ま、待って!!せめて着替えさせて!!」

必死に叫ぶパチュリー。

そういえばまだ魔法少女でしたね。

まぁそんなことをゆかりんに言った所でおそらく……

 

「大丈夫よ。何とかなるわ♪」

「ならないわよ!!!」

聞くわけないですよね。

ズルズルと入って行っちゃいました。

じゃあ私も着いて行きますか。

 

「行ってらっしゃいませ。片付けはしておきますので」

あ、そういえば小悪魔もいたんでしたね。

パチュリーのインパクトが強くて忘れてました。

 

「ええ、お願いするわね」

「お任せください!」

おや?以前(門番だった頃)のような反応に戻っていますね。

何か心境の変化でもあったんでしょうか。

単に気持ちの整理が出来ただけかもしれませんが。

まぁ変わらぬ接し方をしてくれるなら、それに越したことはありませんから良いんですけどね。

 

さて、それじゃ行きますか。

 

 

 




さぁこれより第三章です!
宣言通りネタ入れつつやっていきたいと思います。

お話全体としては、この第三章が終われば折り返し地点くらいですかね。
というわけで、これからもどうぞ宜しくお願いします!






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「月の兎は何見て笑う」




今回はちょっち短め。
その代わり、次話までもそんなに掛からない予定です。






私、鈴仙・優曇華院・イナバには一日の決まったサイクルというものがある。

 

 

朝早く起き、当番であれば朝食の支度を。

そうでなければ掃除、洗濯などの家事を執り行う。

 

 

朝食の片付けが済んだら家事の続き、またはお師匠様の手伝い。

昼食は皆食べないことが多いので、用意するのは稀だ。

 

 

午後はお師匠様の手伝いが多い。

偶に人里へと薬を売りに行くこともあるが、あまり気乗りはしない。

が、言われれば行くしかないのでどの道関係はない。

 

 

薬売りから帰ってくれば夕食の準備、または湯殿の用意。

これも当番制だ。

それらが済み、諸々の後始末が終われば一日の終わりも近い。

 

明日の下準備を済ませ、自室で今日学んだことのまとめをする。

それから就寝する。それで終わり。

あとはそれの繰り返しだ。

 

 

もちろん当番の有無や買い出しの日程、お師匠様や姫様からの急な頼まれごとなどによってある程度変化はある。

……そして今日はそんな変化があった日であった。

 

 

今日は人里へと薬売りに行く日。

いつもであれば夕刻には帰路についているのが普通だ。

 

 

しかし既に夜の帳が下り、月が辺りを照らしている。

こんなに遅くなれば普段だったらお叱りは免れないだろう。

 

 

それなのに何故未だ悠然と歩いているのか。

何てことはない。『頼まれごと』があったからだ。

そのため今日の分の家事は免除されている。

もっとも……成果を上げなければ結局は叱られるのだが。

 

 

だからこそ、ここまで遅くなったとも言える。

叱られるのは元より嫌だが、どうせなら最上の成果を上げたい。

そう行動した結果、思ったより時間が掛かってしまった。

 

 

だがその甲斐もあって、概ね満足のいくものは得られた。

後は永遠亭に戻り、報告を完了させるだけである。

 

 

……今日行なったのは、いわゆる聞き込みである。

どうやら先日、人里で何やら動きが有ったようだ。

お師匠様は何か感じる所があったようで、その事について調べてくるようにと頼まれたのだ。

私は薬を売る合間に、世間話のような感じで情報を集めた。

 

 

結果としては、大当たりだった。

お師匠様の勘が見事的中したことに、密かにほくそ笑んだことは秘密だ。

いつもならしないような、世間話をした甲斐があったというものである。

 

 

人里の者たちの話をまとめるとこうだ。

昨日、稗田家に数人の者が入っていくのを目撃した。

それらの者達の特徴を照らし合わせると、誰が現れたのか判明した。

その内訳はこうなっている。

 

 

山坂と湖の権化 八坂神奈子

妖怪寺の魔住職 聖白蓮

聖徳道士    豊聡耳神子

 

 

……この時点でもう面子が凄まじい。

が、更に紅魔館のレミリア・スカーレット、パチュリー・ノーレッジ。

そして……八雲紫とメアリー・スカーレットらしき人物もいたようだ。

 

 

メアリー・スカーレット。

宴会の席で巻き起こした衝撃は、今も記憶に新しい。

あの威圧感は生半可な妖怪が出せるようなものではない。

思わず臨戦態勢を取ってしまった私は悪く無いだろう。

 

 

―――まさかあの門番がああなるとは。

いや、彼女からしたら門番の方が偽りの姿だったのだろうが。

そう思うと、あの人懐っこい笑みも演技だったのかと疑いが湧いて出てくる。

 

 

一応、波長を読み取ってある程度分析しようと試みた。

が、安定しない。

閻魔様のように位相がずれているわけでもない。

結論としては『よく分からない』としか言い様がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

とにかく警戒するに越したことはないだろう。

今は早く戻ることが先決だ。

 

 

そう思って足を早めようとした私はピタリと止まる。

 

 

……先程言ったように、私は人の波長を読み取ることが出来る。

その中でも極端に短かったり、長かったりする特徴的な人物は近くにいるとすぐに分かる。

 

 

そして今。私が感じている波長は。

()()()()()()()()()()()()()ものだった。

 

 

冷や汗が流れる。

思わず膝が笑ってしまいそうだ。

 

 

 

なぜなら

 

 

感じた波長は一つではなかったから。

 

 

 

 

後ろを向く

そこには

 

 

 

 

 

「あら、兎さん。こんばんわ」

 

 

 

艶やかに

妖艶に

微笑む

 

 

 

賢者達の姿があった

 

 

 

 

 

 



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「制服姿のバニーガール(捕獲)」




筆が乗るときは乗るもんですね





―――迷いの竹林―――

 

 

side メアリー

 

 

ゆかりんの作ったスキマを通り抜けると、そこには竹林が広がっていました。

無事着いたみたいですね。

 

 

ゆかりんとパチュリーはちょっと離れたところでまだギャーギャー言ってますね。

(主にパチュリーが、ですけど)

 

 

さて、迷いの竹林に来たとすれば行くところは限られます。

やはり永遠亭でしょうね。

藤原妹紅の所、という線もないわけではありませんが、そこには彼女一人しかいませんしね。

 

 

永遠亭ならば有力者が何人もいます。

パワーバランスという意味で考えるなら、こっちの方が適切ですね。

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ未だにわちゃわちゃしてる二人組に介入しましょうか。

早く帰りたいですし。

 

 

「二人共、そのあたりにしておきなさい」

私がそう言うと、ムスッとした顔をしながらもパチュリーは騒ぐのを止めました。

 

 

「あら?諦めたの?」

「……これ以上は不毛だし時間のムダよ。どうせ変えさせてくれないんでしょう?」

「よくわかってるじゃない♪」

「……だからサッサと終わらせるわよ」

 

 

相変わらず調子のいいゆかりんと、諦観混じりのパチュリー。

でもなんかパチュリーは『後で覚えてろ』的な視線送ってますけど(冷や汗)

 

 

まぁ先に進めるなら私は構いませんし。

パッチェさんの可愛い姿も見続けられて役得ですし。

 

 

そんなどうでもいいことを考えていると、ゆかりんが何かに気付いたようです。

 

 

「誰か居るわね」

そんな呟きにパッチェさんはいち早く反応。

表情を引き締めて身構えます。

でもやっぱり締まらない。魔法少女だもの。

 

 

「……あれは……妖怪兎?」

「鈴仙ちゃんね。ちょうど良かったわ。彼女に案内してもらいましょう」

そう言って近づいていくゆかりん。

私達もその後を追います。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、兎さん。こんばんわ」

そう鈴仙に話しかけたゆかりんの後ろに付く私とパチュリー。

どうでもいいけどこの配置だとゆかりんが悪の女幹部で、私とパッチェさんが下っ端みたいじゃない?

あながち間違ってないかもしれませんけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 鈴仙

 

 

 

 

マズイ。

それに尽きる。

 

 

今、私の目の前には件のメアリー・スカーレット。

そして八雲紫とパチュリー・ノーレッジがいた。

 

 

先頭に立つのは八雲紫。

だが、その背後からじっとこちらを見つめてくる視線。

それに思わず後ずさりをしそうになった。

 

 

この三者と一人で対峙してどうにかなるとは思わない。

が、まともに話を聞いた所で碌なことにならないのは容易に想像できる。

 

 

八雲紫がいる時点であまり関わりあいになりたくない。

それに加え、あのメアリー・スカーレットまでいるのだ。

迂闊に接触したくなかった。

 

 

 

ならばすることは一つ。

三十六計逃げるに如かず。

能力を使って永遠亭まで撤退する。

 

 

……この三人じゃ長くは保たないでしょうけど……

時間が稼げればそれで十分……!

 

 

話しかけてきた後の一瞬の隙。

そこを突いて私は狂気の瞳を発動する。

 

 

……よしっ、掛かった!

これでしばらく私のことは認識出来ない筈。

今のうちに逃げ―――

 

 

!?

 

 

どうして!?

何でメアリー・スカーレットだけ狂気を操れないの!?

 

 

他の二人とは対照的に、彼女だけは冷静に私を見つめ続けていた。

そのことに衝撃を受けた私は、思わず硬直してしまった。

 

 

私が身動きを取れずにいるうちに、八雲紫とパチュリー・ノーレッジも復活する。

 

 

パチュリー・ノーレッジは鋭い目線を。

八雲紫はとても()()笑顔を向けてきた。

 

 

 

 

 

そして……

彼女は。

メアリー・スカーレットは

変わらず冷静な視線を私に向け続けていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side メアリー

 

 

 

何か鈴仙がとっても恐い顔で睨みつけてきたので、こっちも真面目な顔をしていたらアタフタし始めたでござるの巻。

あれかな?にらめっこ的な。

私の真面目顔が勝ったんでしょうねおそらく。

 

 

そんな下らないことを考えているとゆかりんが更に前に出ました。

 

 

「……兎さん。ちょっと聞きたいことがあるのだけれども、いいかしら?」

あーあー駄目だよゆかりん。

笑顔だけどそれ怖すぎですよ。

ほら、鈴仙も顔面蒼白になっちゃってるじゃないですか。

仕方ないので私が取りなしましょう。

 

 

 

 

 

「待って。紫」

そう言うとこちらに向く視線が三つ。

 

 

それを尻目にゆかりんより前にでて、優しく鈴仙に語りかける。

 

 

「驚かせてしまってごめんなさいね。私たちは永遠亭に用事があったの。それでここまで来たらちょうど貴女の姿が見えたものだから声を掛けさせてもらったの。こんな夜分に申し訳ないのだけれど、案内してもらうことは出来るかしら?」

 

 

あくまで優しく、しかし一息にそこまで言い切る。

最後にニコッと笑顔を浮かべることも忘れない。

 

 

鈴仙は私の言葉にコクコクと頷くばかりだ。

 

 

ほらーゆかりんが怖がらせるから、すっかり警戒しちゃってるじゃないですか。

 

 

そんな思いを込めて、後ろに視線をやると、

ゆかりんは満足気に、パッチェさんは若干呆れたようにこちらを見つめていました。

 

 

ゆかりん反省してないね?まったく……

まぁ案内はしてくれるようなので良いですかね。

早く永遠亭に行きましょうか。

 

 

 

そうして私たちは、一人増えた仲間とともに永遠亭を目指して歩き始めた

 

 

 

 

 

 




はい、というわけで次の犠牲者は鈴仙さんです。


何か最近は結構変わってきたらしい鈴仙さんですが、作者がそこまで把握しきれてないので………こういう感じにしました。
紺珠伝?知らない子ですね……


もうちょっと真面目に話すと、月の方々出しちゃうと永遠亭編が崩壊するので。
なので純狐さんやサグメさんはまだ出てないってことで。


そもそもキャラ崩壊激しい、って言われると何も言えないんですけれども。
まぁ取れそうなところは原作設定を。
取れなさそうなところは独自設定で。


といったようなフワッとした感じでやって行きたいと思います。







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「天才と天然は紙一重」

―――永遠亭―――

 

 

月夜の光が満ちる永遠亭の縁側。

私こと蓬莱山輝夜はじっと夜空を見上げる。

 

 

―――と

誰かが近くに寄ってくる気配がしたかと思うと、音もなく現れる者がいる。

 

 

「輝夜。そろそろ中に入ったほうが良いわ。身体を冷やすわよ」

 

 

八意永琳。

以前は私の教師であり、今は部下のような形を取っている。

表向きは。

 

 

そのため公の場では私のことを「姫様」と呼ぶが、今のような二人きりのときは名前を呼んでくれる。

……月にいた頃のように。

 

 

「相変わらず、永琳は心配症ね。大丈夫よこれくらい」

 

 

いつものごとく、私のことを案じる言葉をかけてくる永琳に、苦笑交じりにそう返す。

呼び名は変わっても、そういうところは変わらない。

そもそも、私も永琳も蓬莱人なのだから。

これくらいの寒さだったらどうってことないのだけれど。

 

 

「……ハァ」

 

 

私に動く気が無いことを悟ったのだろう。

永琳は更に近寄ってくると、私と同様に縁側に腰掛けた。

 

 

「………」

「………」

 

 

二人の間に沈黙が漂う。

しかし、この沈黙は嫌な感じの類ではない。

互いを信頼しているから。

 

 

 

 

言葉にすると陳腐な印象を受けるが、なんとも言えない安心感のようなものがある。

それはきっと私の勘違いではないはずだ。

 

 

だって……

今までも。これからも。

私の隣にずっといてくれるのは永琳だから。

 

 

そして

永琳の隣にずっといるのも私だから。

 

 

きっとそのために永琳は蓬莱の薬を作ってくれた。

彼女もそれを飲んでくれた。

 

 

だったら私はそれに応えないとね。

何故なら私は永琳の元教え子で、現主人だもの。

 

 

 

 

 

そんなことを考えていた私は、いつの間にか永琳が立ち上がっていることに気付く。

よく見ると外……いえ、竹林かしら?

そちらの方角をじっと見つめているようだ。

表情も心なしか険しいものへと変化している。

 

 

「どうしたの永琳?そんな顔をして」

「……姫様」

「ッ!!」

 

 

私は永琳から返ってきた言葉に驚愕し、息を呑む。

永琳が私のことを姫様と呼ぶのは公の場。

そしてもう一つ。

 

 

「……少し、出てきます」

 

 

()()()()()()()だ。

 

 

「一体誰かしら。こんな時間に」

()()吸血鬼のようです」

「!……分かったわ。気をつけてね」

「ええ」

 

 

そう言うやいなや、永琳はその場から姿を消した。

 

 

残された私はまた、夜空を見上げる。

 

 

 

 

 

「……本当に気をつけてね、永琳」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side メアリー

 

 

どもども。清く正しいメアリー・スカーレットです。

え?

それはお前のじゃないだろって?

 

 

ごもっとも。

何でこんなことしてるかっていうと、軽い現実逃避ですね。

 

 

何で現実逃避してるのかって?

それはですね……

 

 

「さぁ、早く言いなさい」

 

 

月の頭脳殿が殺気振りまきながら、詰問してくるからです(焦り)

 

 

(いやぁ~どうしてこうなったんですかね~)

(ね~)

(絶対貴女たちのせいよ!)

 

 

ひそひそ話で怒って叫ぶって、何気に難易度高いことしますねパッチェさん。

 

 

ああ、何でこうなったかなんですけども。

鈴仙の案内で竹林を歩いていると、いくらも行かないうちに永琳とエンカウントしまして。

 

 

出会ったらアイサツするのが基本。古事記にもそう書いてあります。

あれ?永琳って古事記以前の方でしたっけ。

 

 

まぁそれはともかくアイサツしたわけです。「ドーモ。エイリン=サン。メアリーです」って感じで。

言った後に『これイクサ前のアイサツだった』と気づきましたが時すでに遅し。

 

 

永琳はアイサツを返しませんでした。

それどころか敵対する姿勢をとり、私たちに目的を尋ねてきました。

 

 

そして今に至るわけです。

 

 

(どうすんのよこれ!)

(そういわれても…)

(ね~)

 

 

こういうとき私(とゆかりん)が取る行動はだいたい決まってます。

 

 

 

 

一つ目。そのまま戦闘に移る。

あれですね。河原で殴り合って

「なかなかやるじゃねえか」

「へっ、お前もな」

方式の解決法です。

 

 

 

 

二つ目。逃げる。

戦って勝ってもメンドクサイ相手にはこちら。

ゆかりんは閻魔様にはこの方式をとることが多いです。

 

 

 

 

そして三つめは……

 

 

 

 

……うん。これにしましょう。

若干嫌な予感はしますけど、その程度で私たちのリビドーは止まりません!

 

 

素早くゆかりんに目くばせをします。

私の意図を理解したゆかりんは頷くと、ブツブツ言っていたパチュリーを拘束。

 

 

「えっ、何よ!」

 

 

パチュリーが驚き、拘束から逃れようともがきますが構わず次に移ります。

 

 

いやー実はですね……

パッチェさんの魔法少女姿を見たときからやってみたいことがあったんですよね。

そしてこのシチュエーションはなかなかおあつらえ向きです。

ゆかりんにやりたい()()を伝えると、一瞬ニヤッとしました。

 

 

なかなかレアなんじゃないでしょうか、ゆかりんのにやけ顔。

どっちかというと胡散臭い(神社の巫女談)笑顔の方が多いですしね。

 

 

そうして暴れるパチュリーと共に私たちは光に包まれ―――

 

 

―――セーラー服を纏って現れた。

 

 

ポカンとし、固まったパチュリーの腕を取るゆかりん。

スキマを器用に使い、ポーズを取らせます。

私はパチュリーの背後に隠れると、渾身の声真似(パチュリーの)であのセリフを言う。

 

 

「月に代わって、お仕置きよ!(パチェ声)」

 

 

そうしてパチュリーがハッと気が付いた時には私もゆかりんも両隣でポーズを取っていました。

ここまでセリフ抜きで約0.2秒です!

 

 

名付けてセーラームーキュリーなんてどうですかね。

セリフがムーンのだろというツッコミは無しでお願いします。

いやぁこれが出来て私は満足です。

 

 

「そう……そういうことね」

 

 

あ、永琳が反応しました。

月と絡めるのはブラックジョークが過ぎましたかね。

まぁしっかりと冗談だと説明すれば大丈夫でしょう。

 

 

 

 

 

―――そう思っていた時期が、私にもありました。

 

 

あれ?いつの間に永琳は弓を取り出したんでしょう。

あれ?どうして無言で弓を構えるんでしょう。

あれ……?

 

 

次の瞬間、私たちのいた場所が爆発四散しました。

バックステップで回避する私とゆかりん(と引っ張られたパチュリー)

 

 

爆発する弓とかラ◯ボーですか!

これはいけない流れです。戦闘はもはや避けられないでしょう。

やってしまいましたね(テヘッ)

 

 

 

 

……さて、とりあえず永琳を説得(気絶)させましょうか。

話はそれから―――

 

 

 

 

 

―――その時私は、確かに永琳が笑うのを見ました。

何故笑ったのか一瞬分かりませんでしたが、次の瞬間理解しました。

 

 

 

 

 

 

 

背中に人差し指()を突きつけられたから。

 

 

「動かないで。動けば心臓ぶち抜くわよ」

 

 

……あぁなるほど。

あの爆発はブラフだったんですね。

当たれば儲け物くらいには考えていたかもしれませんが。

 

 

永琳の存在が大きかったとはいえ、鈴仙を一瞬でも意識から外したのはマズかったですね。

私はこの通り動けない。

ゆかりんとパチュリーは迂闊に動けばラン◯ーの餌食でしょう。

 

 

普通に考えればこれで降伏して終わり。

捕らえられて尋問されるのがオチですかね。

まぁそれでも目的が達成できるのなら別に良いのですが……

 

 

―――私たち勇者パーティーはそんなモンじゃないですよね?

 

 

 

 

 

「そこまでよ」

 

 

その時、場に新たな声が響きました。

ほら、やっぱり来ました。

 

 

「……なぜ貴女がここに……っ!」

 

 

来てくれると信じてましたよ。

さて、ここから巻き返しといきましょうか。

 

 

「西行寺幽々子……!」

 

 

ね、幽々子?

 

 

 

 

 

 




あれ…?何かヘタしたら輝夜さんにヤンデレフラグが立ちそうな……
いや、よそう。私の勝手な推測でみんなを混乱させたくない(目そらし)







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「仲間になりましょう」



戦闘はカットしました(技量不足)






―――永遠亭―――

 

 

side メアリー

 

 

やあやあ、メアリーさんだよ。

今、永遠亭の一室にいるのさ。

 

 

と、いうわけで。

 

 

あれから少し経ち、場所を永遠亭内部に移しました。

鈴仙はお茶を淹れるために席を外しています。

 

 

正面に八意永琳。

そこから時計回りにパチュリー、私、ゆかりん、幽々子と並びます。

そして―――

 

 

「やっぱり貴女は飽きさせませんねぇ!その調子で私の新聞に一役でもいくらでも買ってくれると有り難いのですが!ああいえいえ。他御三方もどうぞ文々。新聞をよろしくお願いします!もちろん永琳女史も。さて今回は永琳女史との対談?ですか?バッチリ記録させて頂きますよ!記事のために!メアリーさんは先程も撮りましたが、まずは全員分のお写真を―――」

 

 

「「「ダメ(ね)(よ)」」」

 

 

「あややや……」

 

 

(自称)清く正しいブン屋―――文がいた。

 

 

なぜブン屋がいるのかですか?

私も聞いてみましたよ。

そしたら『ネタのニオイがしたので!』らしいです。凄いですね(棒)

 

 

幽々子に関してはちょっと長くなるんですけどね。

実は大図書館で話していた頃からもともといたというか聞いていたというか……

 

 

宴会で一騒動起こした後。

私は人里での会合が開かれるまでの数日間、ゆかりんの家でお世話になっていましたよね。

あの時暇だからってゆかりんとゲーム三昧してたんですが……

遊びに来た幽々子が興味を持ちまして。

一緒になってスマ◯ラとかマリ◯ーとかやってるうちにスッカリ染まっちゃったんですよね。

 

 

んで、すっごく仲良くなったんで人里での会合にも誘ったんですけど、

「メタ◯ギアだったらカズのポジションがいい」

とか何とかで、サポートにまわるようになりまして。

以来、なんやかんや通信(スキマ産)でコッソリ参加してるんですよね。パッチェさんは知らないでしょうけど。

むしろ魔法少女パッチェさんの写真とかお願いしてたんで、知られてなくて良かったです(ニッコリ)

あとで焼き増しして貰いましょう。

 

 

「いえ!諦めませんよ!この程度で私の熱い報道への思いは止められません!為せば成る!記事のネタになりそうな情報と写真を頂くために、決死の思いで強硬な取材を―――」

 

 

「鴉の焼き鳥って美味しいのかしら~?」

 

 

「時には諦めも大事ですよね自重します」

 

 

そんな回想をしているうちに、ブン屋が亡霊姫の前に撃沈したようですね。

あの流れるような撤退の仕方は逆に尊敬しますね。

いくらブン屋でもこの面子相手に無理はしないでしょう。

 

 

「と言うとでも思いましたかー!パシャっとな!」

 

 

そんなことなかったみたいですね(白目)

目にも留まらぬ早業で写真を撮ると、素早く窓から飛び出していきました。

ああ…そんなに自分から死亡フラグを立てなくても……

 

 

「あやややー!?」ドゴッ!

 

 

ブン屋の悲鳴と何かがぶつかるような音がすると、辺りはシーンと静まり返りました。

 

 

 

 

 

「で、話を戻すけど」

何事もなかったかのようにしゃべりだすゆかりん。

絶対ブン屋を沈黙させたのゆかりんですよね。

 

 

すると途端に永琳は鋭い視線をこちらに向けてくる。

 

 

「何が目的なのかしら」

「あら、もうちょっと他愛のないお話でもしましょうよ」

「生憎、私にはそれに付き合う義理も理由もないわ。用がないんならサッサとお暇してくれないかしら」

「もう、せっかちねぇ……じゃあ単刀直入に言うわ」

そこで一旦口を噤むゆかりん。

そしてゆっくりと再び口を開く。

 

 

 

「私たちに手を貸してくれない?」

「嫌よ」

 

 

あらら。バッサリ。

まぁこの反応はゆかりんも想定内でしょう。

 

 

「手を貸して欲しい理由くらい聞いてみない?」

「そんなのはどうでもいいのよ。とにかく嫌なものは嫌。そもそも手を貸す理由がないし、私にメリットもないわ」

 

 

そう言ってこの話は終わりだと言わんばかりの永琳に、ゆかりんが静かに告げる。

 

 

「理由ならあるわ」

「……何かしら?」

 

 

 

「蓬莱山輝夜」

「……!」

「少しは話を聞いてくれる気になったかしら?」

「……姫様に何かするつもり?だとしたら止めておいた方が良いわね。息の根を止められたくなければ」

「あら、恐いわね。でもそんなことはしないわ。むしろ何かするのは貴女かもしれないわよ?」

「……何ですって?」

「ふふふ……私たちは手段を提示するだけ。それを利用するかしないかは貴女次第、ということよ」

「………」

「理解できたかしら?永琳(レディー)

「……貴女にレディー呼ばわりされる謂れはないわね。それで?貴女は何を提示して、私が何をするっていうのかしら?言っておくけど私が姫様に反することはあり得ないわ」

「……ククッ…アッハッハ!」

 

 

永琳のその言葉を聞いた途端に、まるで耐えられないとでも言うかの如く、声を上げるゆかりん。

 

 

「……何がそんなに可笑しいというのかしら?」

更に視線を鋭くする永琳。

それに対しゆかりんは、笑みを浮かべたまま言葉を綴る。

 

 

「姫様に反することはない?フフッ、貴女がそう思うんならそうなんでしょうね。貴女の中では」

「……何を」

「ここまで言われてまだ気付かないの?いえ、違うわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のかしら?」

「………」

「沈黙は肯定と受け取らせていただきますわ」

水を得た魚のようなゆかりん。

そのまま一気に追い詰めにかかる。

 

 

「ねぇ?これらは姫様とやらに反することではなくて?もし彼女が知ったらどうするかしら」

そういってゆかりんは永琳に”証拠”を突きつける。

 

 

「………!」

「”どうやって”って顔してるわね。あまり妖怪の賢者をナメないほうがよろしいかと。それに―――」

 

 

そういうとこちらにチラッと視線を寄越す。

 

 

「―――私一人ではありませんもの」

ゆかりんが締めくくる。その手には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――寝ている輝夜に抱きつく永琳の写真が。

 

 

「……」ピクピク

「ああ、別に私自身は非難しないわ。むしろ良いと思うわよ?ただ……このやり方はいただけないわ。彼女にバレてしまうかもしれないもの。現に、私にはバレてるし」

「……」プルプル

「そんな貴女に朗報よ」

「……」ピタッ

お、出番かな?

 

 

 

 

 

 

「「「私たちは全てを受け入れる(わ)(わよ~)」」」

 

 

ゆかりんのアイコンタクトを受け、一瞬で横に並び立つ私と幽々子。

流石に年季が違いますね。ピッタリです。

 

 

「私にかかれば、隠密 隠蔽 隠し撮り。アレもコレもやり放題よ?今ならメアリー謹製、コスプレセットも付けて―――」

「仲間になりましょう」

 

変わり身早っ!!

先程までピリピリしていた二人は、ガッチリ握手をしています。

果ては私と幽々子も交えて肩を組みだしました。

端でポカーンとしているパチュリーが何かシュールです。

 

 

 

 

 

「失礼致します、師匠。お茶をお持ち―――」

襖が開き、入ってきたと思ったら固まる鈴仙。

おや、どうしたんでしょう(すっとぼけ)

 

 

 

 

 

 

「……ナニコレ」

 

 

 




輝夜がヤンデレっぽい…どうしよう…
そうだ!永琳を(変態)淑女にしてしまおう!
そしたらギャグ時空でなんやかんや何とかなるはず!


……うん、済まない。
私の技量では永琳を仲間にするには、最初からどっか飛ばしておかないと無理だった(言い訳)


ちなみに勇者パーティーはパッチェさんとゆかりん含めて六人になる予定です。
ただ最後の一人がちょっと迷い中。
もう一人候補いるんですよねぇ……







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第四章 そこに(妖怪の)山があるから
「幻想郷の少女たちは話を聞かない」


 

 

大切なものが二つあって(Important things there are two)

どちらか一つしか掴めないのなら(Only available one either)

私はどちらを手にするのだろう(Which I put in the hands)

 

 

 

 

 

 

 

 

―――紅魔館 大図書館―――

 

 

「ねぇ」

「なにかしら」

「どうするの?」

「予定通り行なうわよ」

「予定通りって?」

「予定は未定ね、今のところ」

「じゃあ決めないと」

「そんなこともあろうかと用意したプランがここに」

「あらまあビックリ。未定は何処へ」

()()決めたのよ」

 

 

「そう。じゃあ()()()()()

「ええ。もちろん」

 

 

「メンバーは?」

「私と」

「私?」

「そう」

「バリエーションが少ないわ。もっと増やして」

「今なら大特価で四季のフラワーマスターが。オプションで閻魔様、ブン屋もありますわ」

「このままで十分ね」

 

 

 

「他のメンバーは?」

「呼ぶだけ無駄よ」

「無駄使いは良くないものね」

「環境にやさしい暮らしをモットーに」

「ついに幻想入りしたかやさしい環境殿」

 

 

 

「上手くいくかしら」

「上手くいかせるわ」

「そのための?」

「私たちだもの、ね」

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

「「ククク……」」

「「ハハハ……」」

「「(゜∀゜)ハーッハッハッハーーー!!!」」

 

「やかましい」ゴスッ

 

「あべし!!」

「ひでぶっ!!」

 

 

振り下ろされる魔女の一撃(通称パチェチョップ)

ちなみに本の角である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side メアリー

 

ゆかりんとフザケていたらパッチェさんに叩かれました。本で。

ひどいですね。こっちは真面目にフザケていたというのに。(意味不明)

アレですよ、一見わけ分からない会話でも当事者だけ通じあってるようなやりとりって何かカッコよくないですか?

知的というかツーカーというか。

黒幕的なカッコ良さがありますよね。くろまく~

 

 

永遠亭ではちゃんと協力体制を築くことも出来ましたし。

時間も遅かったし(というより日付越えてましたし)

あわよくば、お泊り出来ないかなーって思ってたんですけどね。

 

パッチェさんは激おこでしたし、鈴仙は挙動不審だし。

果ては前払いとして渡した()()()を抱えて自室に引きこもる永琳。

もうお泊りとかそんな感じじゃ無かったんで帰って来ました。

ただいま夜明け前。眠いです。

眠いのに騒いでたのかって?徹夜明けって妙にハイになりません?

深夜テンションってやつです。

 

 

それにしてもいいチョップでしたね。

もしかしたらパッチェさんが大鎌を持ってお前の魂いただく展開に……はならなさそうですね。

鎌持ちは三途の船頭だけで十分です。

ちなみに西洋ではぎっくり腰のことを魔女の一撃って言うんですよ(誰得情報)

 

 

え?予定のことですか?

次どこ行こうかなーって話ですよ。

まぁもう決まってるんですけど。

さっきのがやりたかっただけです。

 

 

次にメンバーに関して。

呼ぶだけ無駄ってのは本当ですよ。

ただし、呼んでも来ないから無駄ってわけじゃなく、

呼んでも呼ばなくても勝手に来るからです。

本当に幻想郷の少女たちは話を聞かないですね。

 

 

あ、少女にツッコむのはNGです。

ツッコんでしまった方はご愁傷様。

スキマツアーへどうぞ。

 

 

「行く場所も訪ねる人物も決まってるけど、いつ行きましょうか。流石に今すぐは面倒ね」

「サッサと終わらせたいって言ったのは誰よ」

「貴女でしょ。まぁ私も同意したけど」

「じゃあ明日ね明日。明日っていうかもう今日だけど」

「明日ありと 思う心の仇桜」

「行きたいのか行きたくないのかどっちなのよ」

「早く終わらせたい。動きたくない」

「怠惰の極みね」

「冬眠する人に言われたくありませんー」

「居眠り門番が何を言うのかしら」

「「むむむ…!」」

 

 

「騒ぐなら叩きだすわよ」

ジロリとこちらを睨むパチュリー

 

 

「あら、やれるものならやってみなさい」

「そーよそーよ」

「幽々子?知り合い全員連れて人里で好きに食事してきて良いらしいわよ。紫のツケで」

「ごめんなさい勘弁してください」

 

 

あ、ゆかりんが陥落した。

するとパチュリーの視線がこちらを向く。

い、いえ負けませんよ!

 

 

「小悪魔ー?レミィとフラン呼んできてー」

「すみませんでしたァ!」

間髪をいれずジャパニーズ土下座を繰り出す。

娘は……娘達だけはご勘弁を……

 

 

「分かったらそこで少し大人しくしていなさい」

「「……はい」」

 

 

そう告げるとパチュリーは再び本を読みだす。

どんな本だか知りませんけど、あれってゆかりんが持ってきたものなんですよね。

パッチェさん竹林でのコスプレ大会をやはり根に持っていたようで。

ゆかりんに対価を要求したんですよね。

転んでもただでは起きないってやつでしょうか。

おそらくあれは滅多にお目にかかれないような貴重な魔道書とか何かなんでしょうね。

先ほどからまるでかじりつくように熱心に読みこんでいますし。

 

 

それはそうと大人しくしていろってどうしましょう。

というかもう土下座止めてもいいですかね?

足がそろそろ……

あっ、ダメだわ崩そうとしたらパッチェさんに睨まれたわ。

 

 

「あら、咲夜。いい所に。紅茶のおかわりをもらえるかしら?」

そういったパッチェさんにつられて扉の方を向くと、咲夜の姿が!

もう何でもいいです!咲夜はんヘルプミー!

 

 

そんな思いを乗せて熱烈な視線を送る私に、驚いたような顔を見せる咲夜。

そうですよね驚きますよね主人の親がこんなことしてたら!

でももう限界なんです(足が)

だから…早く……

 

 

「咲夜?」

「……かしこまりました。ただいまお持ち致します」

 

 

さ、咲夜ー!?

早くって紅茶じゃないよ!?

 

 

パチュリーに再度促された咲夜は、踵を返して紅茶を淹れに行ってしまいました……

うう……早く戻ってきてください……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 咲夜

 

 

 

 

大図書館から出た私は、止まった時の中で大きく息を吐く。

 

 

 

今しがた見た光景が、未だに信じられない。

 

 

昨日彼女と―――”紅美鈴”と会った時……私は言いようのない恐れを抱いたはずだ。

私一人では手に負えない問題だと思い、大図書館に向かった。

―――パチュリー様もあちら側だったわけだが。

結局あの後すぐにお嬢様に相談は出来なかった。

またもや彼女が―――何故か鴉天狗と共に―――お嬢様の部屋に押しかけたからだ。

 

 

色々とゴタゴタはあったが、結局彼女は夜になると何処かに姿を消した。

八雲紫とパチュリー様も共に。

 

 

彼女らがいない間に私は、お嬢様に進言した。

あの存在は脅威だと。このままでは紅魔館がバラバラになってしまうと。

 

 

もちろん言い方はもっと丁寧にオブラートに包んだ形だったが、ハッキリと申し上げたのだ。

 

 

……しかし、望んだ答えは得られなかった。

確かにお嬢様は強大な力を持つ吸血鬼で、幻想郷でも有力な勢力のトップだ。

一方で”家族”のこととなると意固地になるところもある……良い意味でも悪い意味でも。

 

 

外敵から家族を守るために、立ち上がる姿は吸血鬼にあるまじきものであった。

しかし少なくとも―――紅魔館には、お嬢様のそんな面に惹かれたものが集っている。そのはずだ。

 

 

だがその意固地が悪い意味で出ることの方が圧倒的に多い。

 

 

妖怪の精神年齢は外見に準拠するとどこかで聞いたことがある。

 

 

そんな戯れ言を真面目に信じているわけではないが……

お嬢様の我儘を常日頃聞いていると、あながち間違いでもないんじゃないかと思ってしまうこともある。

 

 

言ってしまえば―――お嬢様本人には口が裂けても言えないが―――子供の駄々のようなのだ。

 

 

進言した結果もその通り。

私の話した”恐れ”は受け入れられず、

なおも食い下がろうとすれば、そんな話題を続けるなと一喝されてしまった。

 

 

……とりあえず、そのことに関しては今はいい。

いや、いいわけではないがお嬢様がすぐに豹変するとも思えないし、それまでに私個人でも出来ることはある。

 

 

問題は先程の光景だ。

私があれほどの”恐れ”を抱き、お嬢様に進言するまでに至った彼女がひざまずく光景。

 

 

しかもその相手があろうことかパチュリー様という事実。

 

 

てっきり私は彼女が総大将で―――八雲紫はその協力者。

パチュリー様は彼奴等に引きこまれた犠牲者だと思っていたのに。

先程は八雲紫でさえパチュリー様に畏まっている様子だった。

ワケがわからない。

 

 

しかもその光景を私に晒した理由は?

困惑させるため?

まさか本当にパチュリー様が黒幕だとでも?

それなら私に話さない理由は―――?

 

 

考えれば考えるほど、思考は絡まり迷走を始める。

 

 

あぁ―――これはいけない流れだ―――と考えを中断させる。

 

 

そう、一人では考えが纏まらないのなら……

誰かに相談しに行けばいい。

 

 

奇しくもちょうど良い”場”が―――

直近で思い当たるアテとも言うべきものがある。

 

 

そこで話してみればいいだろう―――紅魔の異常について

 

 

自分の中でそう判断を下した私は、厨房へと歩き出す。

 

 

まずは紅茶を用意しないと、ね。

 

 

止まった時の中で、私の足音だけが静かに響き渡った。

 

 

 

 

 

 




英語は適当です。あまり深く考えないで下さい。

わ、私は悪くねえ!私は悪くねえ!!翻訳サイト先生がそう言ったから―――!!

というわけで間違っていても私の責任ではありません(言い逃れ)







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「幕間 従者の集い in幻想郷」




今回、今までで一番難産なお話でした。
これからちょこちょこ幕間入れようと思ってたんですが、恐ろしくなってきました(難産的な意味で)





―――人里 とある店―――

 

 

「……さて、今日集まって貰ったのは他でもないわ」

 

昼時も過ぎ、閑散とした雰囲気のとある飲食店。

普段ならばほぼ誰もいないであろうその空間に、今日は三つの影があった。

 

 

「えぇ、もちろん分かっているわよ」

「全員共通の話題ですものね」

 

 

最初に言葉を発したのは蒼いメイド服を着た銀髪の少女。

 

それに追従するかのように、兎耳紫髪の少女と二振りの刀を携えた少女が反応する。

 

 

「まずはそれぞれの発端と現状を共有しましょう……誰から話す?」

「では私から」

 

 

ぐるりと周りを見渡しながら提案したメイド服の少女に、刀の少女が応える。

刀の少女はスーッと息を吸い込むと、静かに語り始めた。

 

 

「……おそらくこの三人の中で()()()()に出会い、言葉を交わしたのは私が一番最初でしょう。もちろん私は以前の彼女とも会話したことがあります。というよりも以前の彼女に関してなら私よりも詳しい人がいますしね」

そこで一旦切り、メイド服の少女に視線を向ける。

 

 

「確かに私は会ったことがあるどころか、同じ場所で暮らしていたものね」

その視線にメイド服の少女は頷きを返す。

 

 

首肯を以て同意を示した刀の少女は、さらに言葉を紡ぐ。

 

 

「―――神社での宴会の後、彼女は白玉楼に来ました……紫様と共に」

「それは西行寺幽々子の計らいなのかしら?」

「えぇ、そうです。あの時声をかけなければ、紫様とどこかに行ってしまいそうだったので」

「なるほど。で、白玉楼ではどんな感じだった?」

 

そうメイド服の少女が問いかけた途端、今までの饒舌は何処へやら押し黙ってしまう刀の少女。

不思議に思ったメイド服の少女が覗き込み……ハッと気が付く。

 

 

―――刀の少女は小刻みに震えていた。

 

 

「―――妖夢」

そこで初めて、メイドは少女の名を呼んだ。

 

 

「……ッ、すみません。少し…嫌なことを思い出しまして…」

「……その気持ちは分からないでもないわ。無理しなくていいのよ?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

 

 

「―――幽々子様が彼女と紫様を連れ、白玉楼に赴いた後。幽々子様の命で、私は何故か彼女と門前で二人っきりになりました」

「!……それで一体何が起こったの?」

「……”喰われそう”になりました」

「!?」

「もちろん比喩表現です。その時は本当に喰われるかと思いましたが……」

そうして刀の少女―――妖夢は事の瑣末を説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それはまた何とも……」

「えぇ、恐ろしく感じました―――しかし今になってみると、どうも気味の悪さを覚えます」

「というと?」

「彼女は何故わざわざ言葉に出したのでしょう」

「……」

「本気で喰うわけではなかった、と今では推測出来ますが、あの威圧感や存在感は本物です。では何故あんな事をしたのか?……そればかり考え続けていました」

「―――どんな結論に至ったの?」

「はい。彼女は―――何か探っている…いえ、確認している?……上手く表現出来ませんが、とにかくこちらを観察しているような気配があったように思われます」

「……そう」

「それは私も思い当たるフシがあるわ」

 

 

メイド服の少女がスッと横に視線を向ける。

思い当たるフシがある、と同調したのは兎耳の少女だ。

 

 

「それは本当?―――鈴仙」

「ええ。私は先日の夜……薬売りの帰りね。竹林の入り口で()()()()と出会ったわ」

「―――彼女たち」

「そう―――紅魔の魔女と妖怪の賢者を合わせた三人、にね」

「……」

「まぁ私なりに抵抗もしてみたんだけどね。そんなに効果はないだろうと思っていたけど、目眩ましくらいにはなるかと思って狂気の瞳を使ったのよ」

「……結果は?」

「ちょっとばかし怯んでくれたわよ―――彼女以外は」

「!!……それはつまり」

「彼女だけは微動だにしなかったわ。それどころかこっちを真っ直ぐ見つめてくるんですもの。そのせいで動くことすら出来なかったわ」

「……聞けば聞くほど末恐ろしい事実が浮かんでくるわね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、最後は私だけれども……」

そこまで言って口ごもるメイド服の少女―――十六夜咲夜。

 

 

「?どうしたの?」

 

 

「―――私の話の前に二人に聞きたいことがあるのよ」

「なに?」

「……貴女たちの主人。彼女と会った後はどんな感じだった?」

 

 

その質問に顔の表情を強張らせる二人。

 

 

「……幽々子様は最初―――宴会の直後です―――私に”気をつける”ようにとおっしゃいました。しかし彼女と紫様が度々白玉楼を訪れるようになってからは……その……彼女たちに同調するようになってしまい―――」

「私の師匠はもっと早かったわ。竹林で相対した時は一触即発って感じだったのに、永遠亭で私がお茶を淹れて戻ってきたら肩を組み合っているんだもの………正直言って、私の理解を超えているわ」

 

 

「つまり二人共、自分達の主人が()()()()に組み込まれてしまったと、そういうことね?」

「?ええ」

「……私もそう思っていたわ。パチュリー様は彼女らに囚われてしまったのだと。しかし私は見てしまったのよ。パチュリー様に跪く、彼女の姿を」

「……え?」

「どういうこと?」

 

 

「……さて、ね。本当にパチュリー様が裏で糸を引いているのか、はたまたこちらを撹乱するための策なのか……私には判断がつかなかったからこの場に持ち込んだのよ。私が言えることとしては、彼女だけに焦点を当てるのはもしかしたら危険かもれないということよ」

 

 

「―――それは幽々子様や八意様が元凶の可能性のある、ということですか」

「まさか…師匠に限ってそんな―――」

「無いと言い切れる?」

「……」

「これからはその面も留意していきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、これからはどうしますか?」

「そうね。それは決めておきたいわ」

妖夢と鈴仙はそう言いつつ、咲夜を伺う。

 

 

「今のところ、新たな動きは無いわ。でも、このまま終わりだとも思えない」

「何か先手を打つべきでしょうか」

妖夢が若干不安気にそう言う。

 

 

「そうね。彼女たちの目的は未だ掴めないけど、何もしないままは嫌だし」

「何か策があるの?」

「そうね……まず今までの事例を考えてみると、まず一つ目。彼女一人で他の勢力には接していない。宴会の時から少なくとも八雲紫は共に行動している。二つ目に今まで行った場所が白玉楼、紅魔館、永遠亭。あぁ、人里での会合も有ったわね―――で、これらから次の目的地がある程度予測出来る」

「なるほど。うーん、その他勢力だと……博麗神社、守矢神社、命蓮寺などでしょうか」

「仙人たちのいる道場もあるかも知れないわね。それで?」

鈴仙からの問いに咲夜は続ける。

 

 

「私たちは皆、彼女が各勢力を仲間にしたその瞬間を見ていないのよ。全部なった後。だから現場を押さえて何が起こったか知りましょう。まずそこからよ。はい、これ」

 

 

そう言いながら、妖夢と鈴仙に球のようなものを手渡す咲夜。

 

 

「これは?」

「以前の異変の際、パチュリー様から頂いた通信機よ。持っているもの同士で会話が出来るわ」

「便利なものね。ありがとう」

「もし紅魔館で何か動きが有ったら連絡するわ。貴女たちも西行寺幽々子や八意永琳に動きがあったら教えてちょうだい」

「えぇ、分かったわ」

「もちろんです」

 

 

二人は受け取ったものを懐にしまう。

咲夜は懐中時計にサッと目をやると、二人の方に振り返って告げた。

 

 

「今日はここまでにしましょう。あまり長居するのも考えものだし。頻繁に集まると怪しまれる危険があるから、何か渡したいものでもない限り、その通信機で情報共有しましょう」

 

 

そうして頷きあうと三人して立ち上がり、手早く会計を済ませるとそのまま声も掛けずにそれぞれの「家」へと帰っていく。

彼女たちの顔に迷いは見られない。

それぞれにやるべきことを成し遂げようというのだろう。

 

 

―――果たしてそれが、どのような結果となるか。今はまだ、知る由もない。

 

 

 

 

 




はい、今回は従者オンリーの回でした。
前書きの通り、難産でしたので端折ったり、変更した点も多いです。

ちなみに妖夢は真面目系ではなく、辻斬り妖夢に豹変する予定だったんですが踏みとどまりました(チッ






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「ちょっとお手伝いをね?」

―――妖怪の山―――

 

side メアリー

 

 

「ねぇ紫」

「何かしら幽々子」

「あとどれくらいかかるの」

「まだ麓に来ただけよ」

「えぇーまだ着かないのー?」

「もう少しよ」

「面倒だから紫のスキマでパッと行っちゃいましょうよ~」

「それは何回も聞いたわよ。偶には景色を見ながら行くのもいいでしょう?」

「……仕方ないわね~」

 

 

 

あ、どうも。メアリーです。

先の会話の通り、妖怪の山の麓に来ています。

 

 

この前(永遠亭に行った時)からしばらく経ったので、今度は妖怪の山……にある守矢神社に行くことになりました。一度人里で八坂神奈子には会いましたけどね。

会っただけで碌に言葉も交わしてなかったですし、やっぱり大事な話は他勢力なしでしたいですしね。

こっちは三人、あっちも三人でちょうど良い感じですし。

 

 

そうそう。三人で思い出しましたけど、今回パッチェさんは来てないです。

私とゆかりんと幽々子の三人ですね。

パチュリー曰く、「毎回引っぱり出されるなんて冗談じゃない。この前付いて行ったのだから今回はお休みよ」だそうで。

あのゆかりんが負い目を感じるとは思いませんけど、今日は無理強いはしなかったですね。

 

 

え?永琳ですか?

蓬莱山輝夜が動かない限り、そうそう出てこないんじゃないですかね。

まぁゆかりんは「本当に必要な時は動いてくれるわよ」って言ってたんで心配はしてないです。

 

 

それに対し、今回訪ねる八坂神奈子はアクティブ!

日輪の力を借りて核融合したり、ロープウェイ作ろうとするなど大変行動的!

もし上手くいけばその行動力を遺憾なく発揮してくれる頼もしい仲間となるでしょう。

 

 

幽々子は……うーん。行動的って言えば行動的なんですけど……

何というか自分の欲求に素直というか…

やりたいことに一直線!って感じなので期待しすぎは良くないですね。

行動原理が「面白そうだから」みたいなものですから。

それに関しては私とゆかりんも人のことは言えませんけれども。

 

 

そんなことを考えていたらいつの間にか、前方の二人が立ち止まっていました。

どうしたんでしょう?

 

 

「誰か見ているわね」

「……えぇ」

「呼んでみる?」

「誰だか検討はついているの?」

「何となくね。じゃ、やってみましょうか」

 

 

どうやら誰かが盗み見ているようです。

あ、ゆかりんが動いた。

 

 

「そこで隠れてるやつー貴方は完全に包囲されているわー大人しく出てきなさーい」

 

 

ゆかりん、それで出てくる犯人はいないと思うよ。

実際、辺りは静まり返って何かが出てくる気配はないですし。

木がそこそこ生えてるから隠れ場所は多そうですね……

 

 

 

「ま、出てこないわよね。はい、ダイナミックエントリ~」

 

 

そう言ってゆかりんがスキマを開くと中から誰か出てきました。

というかどこにいるか分かってたんですかい。

さて、誰でしょうね?

 

 

 

 

 

「―――あやややややや~!」

 

 

 

 

…………おっと、そう来ましたか。

まぁ好都合っちゃ好都合です。

 

 

 

 

「あら鴉天狗さん。奇遇ね」

ニッコリと微笑むゆかりん。

 

 

「あやや……き、奇遇ですね御三方とも」

若干引き攣った顔のブン屋。

この前の永遠亭でのことがトラウマなんでしょうか。

 

 

 

 

 

「ち、ちょっと用事を思い出しましたのでこれで……」

そう言って後ずさりを始めたブン屋の右肩をゆかりんが、

左肩を幽々子が掴みます。

というかこういう時は動きが素早いですね二人共。

 

 

「ちょうど良かったわ。私たちこれから守矢神社に行く所なのよ」

「道案内をお願いしてもいいかしら~」

 

 

うわぁ二人共いい顔しますね。

絶対道案内なくても平気だと思うんですけど。

ま、面白そうなんで余計なことは言わないでおきましょう。

 

 

おや?ブン屋が私に必死そうな目を向けていますね。

あの二人から助けて欲しいってことでしょうか。

よし、なら私が救ってあげましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めも大事よ、文」

「貴女もですかメアリーさん……」

 

 

ガックリと肩を落とすブン屋。

まぁまぁ。何回かの取材で気心も知れていますし、悪いようにはしないですよ。多分。

 

 

 

肩を落としたままの状態で、二人に連行されるブン屋。

私はその三人の後ろからゆっくりと付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――紅魔館―――

 

side レミリア

 

 

今、紅魔館は非常に静かだ。

理由として挙げられるのは、やはりお母様がいないことだろう。

自然とその周りに集まってくるもの……八雲紫もいないし、フランも大人しい。

 

 

だが―――だからこそやりやすくなるものもある。

 

 

コンコンコン

 

 

「開いてるわよ」

ノックの音に応える。いつか見た光景だ。訪問者も同じだろう。

 

 

「遅くなって悪かったわね」

 

 

入ってきたのはパチェだった。

小悪魔じゃないわよ?

奴に動いて貰うのは必要なときだけだもの。

 

 

「いえ、それ程待ってもいないわよ……それで目的の物は?」

 

 

手早く本題に入らせて貰う。

お母様はスグには戻ってこないだろうが、時間を掛ける理由もない。

むしろ今後の動きを早めに考えたいところだ。

 

 

「………これよ」

 

 

パチェがスッとそれを差し出す。

 

 

それは本だった。

視線を送り、説明を促す。

 

 

「これは約500年程前の家系図……を無理矢理本の形にまとめたものよ。八雲紫から頂戴したわ」

「……あいつは何て?」

「別に何とも。使用目的も聞かれなかったし、彼女(メアリー)にも言ってないようね。正直言って不気味だけど気にしすぎてもしょうがないわ」

「そうね。理由は分からないけど協力してくれたのだから、利用できるうちに利用しておきましょう」

 

 

そういって手元の本に視線を落とす。

まだ中身は見ていないが、パチェの表情から察するに何か掴めたのだろう。

パチェは本を手に取ると、ページをめくりながら説明を再開する。

 

 

「さっき家系図といったけれどただの家系図じゃないわ……レミィも予想はついてると思うけど」

「まぁね」

「……これは私たちのようないわゆる裏の存在の家系図よ。様々な種族のものがあるわ」

「よくこんなに集めたわねぇ……パチェのもあるの?」

「あるけど今重要なのはそれじゃないわよ……ほらここ」

 

 

今までページをめくっていた手を止めると、一箇所を指差す。

それは吸血鬼の家系図が載っているページだった。

見ると私の名前も載っているし、その上にはお父様の名前もある。

だが―――

 

 

「………お母様の名前がない」

 

 

そう、お母様の名前が無かった。

正確には、お父様の名前の隣に何か文字があった形跡はある。

しかし、その文字は掠れてしまったかのように判別がつかないものだった。

 

 

「その通り。何故この部分だけ読めなくなっているのか……たまたま消えてしまったのか、意図的に消されたのかは分からない。でも一つだけ言えることがあるわ―――言えるっていうより疑問提起だけど」

「……何かしら」

 

 

 

「メアリーは本当に貴女の母親なのかしら?」

「………」

「今のところ、確たる物的証拠はないのよ。八雲紫の証言とか曖昧なものばかり。もちろん全部が嘘とは言わないけれども。それでも疑わしいのは確か。それに例の洗脳的な魔術のこともある」

「…………そうね」

「……大丈夫かしらレミィ?」

 

 

そうパチェが心配してくれたが、私はそのページを見た時からほぼ上の空だった。

 

 

「まぁ……レミィがそうなるのも無理ないわ。私も―――最初に見た時は呆然としたもの。それから無我夢中で他のページも読み漁ったわ」

 

 

―――なるほど。パチェも少なからずショックを受けたのだろう。

言葉尻から必死さが伺えた。

だが……その表情から見ると、見つからなかったようだ。

 

 

 

 

お母様の名前?

違う、それじゃない。

それもショックを受けたが、ある程度予測はしていた。

 

 

私たちは全く予想していなかったものにショックを受けたのだ。

何でかって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜなら

 

 

 

パチェの持ってきた家系図

 

 

 

そのレミリア・スカーレットの隣に

 

 

 

フランドール・スカーレットの名が無かったから

 

 

 

 

 

 

 




さて物語もそろそろ佳境。
これまでバラマキまくった伏線をきちんと拾えるか……


まぁ大丈夫でしょう(のんき)








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「来たるべき日のために」

―――妖怪の山 守矢神社―――

 

 

side メアリー

 

 

「………」

「………」

「「「………………」」」

 

 

こんにちは。メアリーです。

 

 

突然ですが、今すごく修羅場ってます。

いや、主に緑の巫女さんが殺気立ってるんですけどね。

何故こうなったかと言うとですね。

 

 

 

 

ブン屋をお仲間に加えてから実に平和的に山を登ってきたんです。

途中、他の天狗も見かけましたが特に何も言われませんでした。

むしろ見かけたらスグにどこか行っちゃいましたね。

これも文のおかげ……いや、ゆかりんの威光でしょうか。

まぁ通れたんで何でもいいです。

 

 

問題はその後で……察しはつくと思いますけど。

えぇ、緑の巫女さんに出会ったわけです。

 

 

いや彼女がなかなかどうして、人の話を聞かない子だったもんで。

こっちの面子を見ただけで何やら奮起したようでした。

むしろこの面子に向かってくるのが凄いです。

 

 

それで適当に相手してたんですけど……

なんやかんやありまして―――文には人身御供………いや、肉壁…………えー尊い犠牲になって貰いました。

紅(に染まった)ブン屋さんありがとう(棒読み)

スキマで永琳の所に送っておきました。

 

 

そこからはゆかりんお得意の胡散臭い笑顔で有耶無耶にする技能と

幽々子のコンビネーションが光り、何とか緑の巫女さんを連行……もとい説得することが出来ました。

 

 

で。

 

 

境内で洩矢諏訪子に出会い、当然の如く警戒される。

が、例の二人の手腕によってなし崩し的に神社に突入しました。

もう全部あの二人だけで良いんじゃないですかね。

若干、東風谷早苗が人質っぽくなってしまいましたが多分大丈夫でしょう。

 

 

そして神社の中で八坂神奈子と遭遇し、ようやくお互いスリーマンセルで対面しているわけです。まる。

 

 

 

 

「―――用件を聞こうか」

 

 

あ、いま威厳ある声で沈黙を破ったのが山坂と湖の権化、八坂神奈子です。

あくまで洩矢諏訪子と東風谷早苗は側に控えることに留めるつもりでしょうか。

こっちも用があるのは八坂神奈子ですし、好都合ですけどね。

というより誰が答えれば良いんでしょう?

私ですかね?それともゆかりんが言ってくれるんでしょうか。

 

 

「まあまあ、そんなに急がなくてもいいじゃない」

「このお茶菓子美味しいわね~おかわりが欲しいわ~」

 

 

ゆかりんと幽々子が答えてくれましたね。いや、答えてないですけど。

 

 

「いいから早くしろ。こちらが穏便に話を聞いている内にな」

「あら?貴女に私たちをどうこう出来るほどの力があるのかしら?」

 

 

表情を崩さない八坂神奈子と胡散臭いニヤニヤ笑いのゆかりん。

何かどんどん険悪になっていっている気がしますよー……

 

 

 

 

「ね~そこの………えーと、おじやさんだったかしら?」

「東風谷です!東風谷早苗です!」

「あ~そんな名前だったわね~。ま、何でもいいわ~」

「よくありません!」

「お茶菓子のおかわり持ってきてくれない~?」

「何で私が………」

「え?おじやさんってここの家政婦さんじゃないの~?」

「東風谷です!………違いますよ。私は風祝。守矢神社の風祝です」

「へーそうなのね。あれ?巫女じゃないの?」

「厳密には巫女と風祝は違うのですが………」

「まぁどっちにしろ神の小間使いみたいなものよね」

「違います!!!」

 

 

………幽々子は何やってるんでしょう。

八坂神奈子そっちのけで東風谷早苗に絡んでますが。

おかわりが欲しいだけな気もしますけどね………

あ、結局幽々子の相手をするのに疲れたのか、東風谷早苗がお茶菓子を取りに出て行きました。

 

 

 

 

―――その瞬間、空気が一変しました。

あれほど言い合いを続けていた八坂神奈子は姿勢を正し

ゆかりんは口元で開いていた扇子を閉じました。

………おっと、これは

 

 

「全く……下らん茶番に付き合わせるな」

「あらごめんなさい。でも必要なことでしょう?」

「でなければ最初から乗らん」

「ま、あの子に聞かせるわけにはいかないものね」

 

 

 

――――も、もちろん分かってましたよ?

だから余計なこと言わなかったんですしねいやー空気の読める女は大変ですねー(超早口)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話を始める前に一つだけ確認させて頂戴ね。貴女たち―――守矢神社としては、私たちの行動をどのように把握しているのかしら?」

「―――何やら幻想郷でも力を持つ者共を集めて廻っている、といった認識だ」

「なるほど。それなら私たちが来た理由も分かってるわよね」

「………私も仲間に勧誘しに来たか」

「その通り」

 

 

そこで一旦会話が途切れ、沈黙が場を支配する。

はたして、先に口を開いたのは八坂神奈子だった。

 

 

 

「―――何故?」

 

 

 

それは当然の疑問。

何ゆえそんなことを―――力を持つものを集める必要があるのか。

パワーバランスとは、力が上手く分散しているからこそ、その均衡を保っていられるのだ。

それを一箇所にまとめてしまえば、それだけで破滅を招きかねない。

 

 

 

 

 

だが―――それが解らないほど、冥界の管理者も月の頭脳も、妖怪の賢者も馬鹿ではない。

当然の疑問が湧いてくるそこには、当然の理由もあるのだ。

 

 

「………最初は信じられないかもしれないけど、最後までちゃんと話を聞いて頂戴」

 

 

先ほどとは打って変わって、真剣な面持ちで話す妖怪の賢者。

八坂神奈子の雰囲気もまるで別人のよう。

 

 

そうして場に、張りつめた糸のような緊張感が漂い始めた時、彼女は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このままだと幻想郷は崩壊するわ。たった一人の妖怪によって」

 

 

 

 

 

 

 




「何故、この作品の射命丸文は毎回酷い目に遭うのか?」


今回はおそらく本編では話す機会が無いであろうこの題材を、後書きで解説?したいと思います。
まぁ理由が裏設定的なものなので、本編で機会がないのは当たり前ですかね。


あ、ちなみに文さんが嫌いだとかそういったものじゃないです。
文さんのキャラソートは4位ですし(誰得情報)


簡単に言ってしまうと、立ち位置的な問題ですね。
この作品のブン屋はそこそこ頭が良い、という裏設定があります。
原作でもそんな感じはありますけれども。
少なくとも、あの従者ーズよりは良いです。


しかしそこで問題が。
そこそこ頭の良い文さんが、ゆかりんとメアリーの勧誘の場に最初から最後までいると
「勘のいいガキは嫌いだよ」展開になりかねません。


よって早急にご退場してもらうためにゆかりんの力技が使用されています。
ですが、文さんもただで転ぶ妖怪ではないでしょう。
その描写はもしかしたら、今後あるかもしれません(ない可能性も高いですが)


といった感じの理由となっています。






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「東風谷早苗の独白」




今回、早苗さん視点オンリーです。






ザッザッザッ

 

 

人里の喧騒の中を一人、雑踏を縫いながら私は前に進む。

 

 

「今日は卵!卵が安いよー!」

「一息つきたい方、茶屋に寄って行きませんかー」

 

 

いつもだったら足を止める。

そんな安売りの声も、甘味処の誘惑も今の私には効果がないようです。

 

 

 

 

 

 

ザッザッ……ピタッ

 

 

通り過ぎ、しばし歩いてから足を止め

店を見るでもなく、そのまま空を見上げる。

 

 

雲一つない澄み切った青空。

 

 

 

 

 

 

ああ……でも、あぁ―――

 

 

私の心はまるで曇天。

そのうち雨が降り出しそう。

 

 

頭を振り、そんな考えを払って再び歩き始める。

 

 

別に目的地があるわけでもないんです。

アテのない歩み。

あの場に居たくなかったから。ただそれだけ。

 

 

 

 

 

 

フフフッ……と微かに笑いが漏れる。

こんなセンチメンタルな気持ちになるのはいつぶりでしょう。

 

 

幻想郷に来る前―――外の世界ではしょっちゅうだった気もします。

こちらに来てからはもっとホームシックになるかと思ってたんですけどね。

割りきってきたからかむしろ少なく―――

 

 

………いえ、敢えて見ないようにしていただけでしょうか。

そういった気持ちを。

そんなものを抱えたままではやっていけそうになかったからかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

―――私は風祝。守矢神社の風祝。

その役目を全うするためにこそ、私はこちらの世界(幻想郷)へとやって来ました。

 

 

あちらの世界(生まれ育った場所)を捨てて。

神奈子さまと諏訪子さまについて。

 

 

お二人は決して、私に強要しようとはしませんでした。

むしろ私が外の世界で、幸せに暮らせる方法を模索していたようです。

 

 

―――それでも、私はお二人についていくことを選びました。

その理由は先ほど行った通り、風祝だから……というだけではありません。

 

 

外の世界に嫌気が差した、お二人と離れたくなかった、違う世界を見てみたい、自分の力を示せる場所を―――

私自身も、様々な要因が混じり合ってどれが本当かなんて分かりません。

 

 

確かに外の世界にいたい、もしくは帰りたいという気持ちも無くはなかったのかもしれないです。

しかし、その気持ちを押し殺せるほど、お二人の側が心地よかったのは間違いないと思います。

 

 

願わくば、その幸せがいつまでも続くことを―――

そう、思ってもいました。

 

 

 

 

 

 

 

―――事の発端は本当に唐突で

 

 

私は以前の彼女とそれほど関わりがあったわけではありません。

せいぜい宴会でたまに見かけるくらい。

 

 

それがあの日は違いました。

いつもの博麗神社での宴会。

その最中、紫さんから語られた衝撃の事実。

 

 

そして―――蹂躙。

あの時の彼女の気迫を、他の人はどう捉えたか分かりませんが、私はそう感じました。

それはとても強力で……ともすれば飲み込まれてしまいそうなほどでした。

 

 

 

 

 

 

 

それでも私には神奈子さまと諏訪子さまがいます。

だから大丈夫。

……そう、思ってしまったんです。

 

 

 

 

 

 

そんな幻想は、彼女らが守矢神社にやって来たことで終わりを迎えました。

 

 

妖怪の山で出会った時、私はそこまで危機感を抱いていませんでした。

紫さんに丸め込まれ、守矢神社に彼女らと赴いたときも

神奈子さまと諏訪子さまに彼女らが対面した時も

「きっとお二人が上手く収めてくれる」

と考えていました。

 

 

―――出来ることなら、その時の自分を殴ってやりたい。

 

 

私が博麗神社の宴会の時点で動いていれば―――

そのあとでも行動を起こしていれば―――

何が何でも神社に入れなければ―――

結末は違ったのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

でも、それこそ文字通り後の祭り。

 

 

私が追加の茶請けを取って、戻ってきた時には全て終わっていました。

―――神奈子さまは彼女らの仲間となっていました。

 

 

幻想郷にきて、妖怪の山の天狗たちと事を構えたときも

博麗の巫女と対峙したときも

地底にエネルギー革命を起こそうとしたときも。

 

 

利用することはあれど、迎合することはあらず

敗北することはあっても、その下に下ることはなかったのに。

 

 

私は何故彼女らに与したのか尋ねましたが、終ぞ教えてはくれませんでした。

そのときの私はどんな表情をしていたのでしょうか。

 

 

我慢できず、そのまま飛び出してきてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

百歩譲って仲間になるのはいいかもしれません。

でも、その理由くらいは知りたいと思うのは私の我儘でしょうか。

 

 

神奈子さまには神奈子さまなりに、考えがあったのだとは分かります。

しかし、それを割り切ることは出来ませんでした。

 

 

 

 

 

百歩譲って、と言いましたが本当は仲間になって欲しくもないのです。

―――三人の空間に割り込まれたように感じるから。

 

 

それに加え、理由を教えてくれないことに疎外感を感じてしまったのです。

我ながら子供っぽいとは思いますが、この感情を抑えきることは出来ない と思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

諏訪子さまは……神奈子さまより一歩引いた立場のように感じました。

 

 

完全にあちら側というわけでもなく

かといって私に味方してくれるわけでもありません。

―――結局、理由を教えてくれないことには変わりありません。

 

 

 

 

 

また立ち止まり、空見上げ

今日何度めかの溜息をつく

 

 

………はぁ………憂鬱ですね―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ちょっといいかしら?」

 

 

その時、誰かが背後から声を掛けてきました。

聞き覚えのあるこの声は―――

 

 

 

 

「―――咲夜さん」

 

 

そこには紅魔館のメイド長である咲夜さん

そして妖夢さんと鈴仙さんがいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あぁ―――何てことでしょう。

私、気付いてしまいました。

 

 

彼女たちの瞳に宿る色に。

それが意味するものに。

 

 

 

 

 

 

―――貴女たちも()()()()なんですね―――

 

 

そう、理解した私は

薄く笑いながらこう言いました。

 

 

「私になにかご用でしょうか―――?」

 

 

―――私もそちらに入れて下さるのですよね―――

そう思いながら。

 

 

 

 

 




何か書いているうちにとんでもないキャラになってしまったぞ早苗さん


心理描写ってこれで良いんでしょうか。分かりません(今更)







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第五章 人里は今日も平和です()
「紅美鈴な一日」


―――紅魔館 大図書館―――

 

side レミリア

 

 

 

「………まだ帰ってこないの?」

「焦りは禁物よ、レミィ。それでは私たちが手に入れたいものも取り逃がすわ」

「分かってるわよ!それくらい!!」

「………はぁ。やれやれね」

 

 

吸血鬼と七曜の魔女の声のみが響く大図書館。

いつも―――白黒の魔法使いが突撃してくる時以外だが―――その空間は静かである。

だが、今は紅魔館全体が殊更静まり返っていた。

 

 

それは何故か。

 

 

なぜなら今この時、紅魔館の主要メンバーが私とパチェ以外存在していないからである。

 

 

お母様は八雲紫と出て行ってからまだ帰っていない。

 

 

咲夜は人里へ買い出しに行かせるのと同時に自由時間も与えてあるため、しばらく帰ってこないだろう。

仕事はキッチリこなすが、そういう所はしたたかな人間である。咲夜は。

 

 

小悪魔はフランの子守……もとい、連れ立って外出してもらっている。

こちらの事情も把握している小悪魔なら、上手いこと気をそらしてくれているはずだ。

 

 

妖精メイド達もしばらくの間、大図書館近くに近づかないようにしてある。

 

 

そこまで念入りに人払いをしているのはどうしてかって?

 

 

決まっている。

これより私たちが踏み込む話は、他人に聞かれると非常にマズイ可能性もある。

 

 

フランは当事者だが、その内容如何によっては聞かせるべきではないかもしれない。

少なくとも今すぐは。

 

 

だからこそ、私とパチェでそれを聞き出し吟味してやろうと思っていたのだが………

 

 

「……本当に帰って来ないわね」

「……だから言ったじゃない」

 

 

問題はその当事者たちが帰ってこないことだ。

このままでは咲夜やフランの方が先に帰って来かねない。

すぐに戻ってくる的な事を言っていたらしいが………

彼奴等の言葉を信用したのが間違いだったか。

 

 

「―――あら?」

「……どうしたの?パチェ」

 

 

親友のあげた不思議そうな声に聞き返す。

 

 

「結界に反応があったわ。何の気まぐれか知らないけど、律儀に門から入って来たようね」

「………スキマ妖怪ね―――待って。()()()()()

「………三人ね。行くときと変わらないわ」

「―――そう」

 

 

ということは、お母様、八雲紫、西行寺幽々子の三人だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた時が、私にもあった。

 

 

 

「はぁーい、御機嫌いかが?吸血鬼さん♪」

「………お母様は何処だ」

「あら、恐い顔。大丈夫よちょっと別行動してるだけだから」

「何処にいるのか聞いているんだ」

 

 

―――大図書館に姿を現したのは八雲紫と西行寺幽々子。

そしてお母様ではなく、八坂神奈子だった。

 

 

………やってくれる。

パチェが気付かなかったということは、認識阻害やら何やらしていたのだろう。

どうせすぐにバレるというのに、何のためにそんなことをしたのだろうか。

もっとも、コイツだったら「その反応が見たかった」とか「面白そう♪」やらの理由だけでやりかねん。

 

 

「そんなに急かさなくてもちゃんと教えるわよ~」

 

 

間延びした声で西行寺幽々子が言ってくる。

口ではそう言っていても裏では何を考えているのやら。

なまじ、声の調子も表情も変わらないから予測出来ないわね。

八雲紫と比べたらどっちがマシ?

どっちも碌なもんじゃないわよ。

 

 

そんなことを考えているうちに、ようやく八雲紫がお母様の居場所を教える気になったようだ。

さっきから黙ったままの八坂神奈子も気になるが……後でそれも聞き出すか。

 

 

「そうそう、貴女のお母様だけどねー………多分今頃は人里にいると思うわ」

 

 

………お母様は人里か。どうする………

帰るのを待つか、人里に向かうか……

それともこいつらに話を聞くか―――

 

 

 

「―――――紅美鈴としてね」

 

 

 

 

 

 

 

―――――なに?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――人里―――

 

side 紅美鈴

 

 

いやぁ、人里はいつ来ても活気がありますねぇ。

あ、どうも。紅美鈴です。

今日は門番スタイルでやってきています。

 

 

 

それにしても、そんな長いこと門番休業していたわけではないのに随分久しぶりに感じますね。

それだけメアリーとして過ごした期間が濃かったってことでしょうか。

 

 

 

まぁ何にせよ、これで八雲紫の指令其の一「紅美鈴の姿でくる」は達成ですね。

 

 

さて、お次は……

あっ、あそこで威勢よく客引きしている甘味処にしましょう。

 

 

「すみませーん。お団子とお茶1つずつ」

「はいよー」

 

 

店の奥に入っていくおばちゃんを見つつ、縁台に腰掛ける私。

そのままぼんやりと空を見上げます。

 

 

あーいい天気ですねー。

ボーッと見ているだけで心が洗われそうな快晴ですし。

また何かの形の雲とか探してみましょうか。

 

 

 

 

「お待ちどう!団子と茶だよ」

「あ、どうもありがとうございます」

 

 

そう思っているうちにお団子が来たみたいです。

じゃあいただきましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁーあったかいお茶が身体に染み渡りますねぇー

え?年寄りくさいですか?

年寄りで何が悪いんですか(開き直り)

 

 

 

 

 

んー十分休憩しましたし、そろそろ行きましょうかね……

いや、あと五分………おや?

 

 

 

通りの向こうからやって来るのは………早苗さんでしょうか。

何だかうわの空のような……

ちょっと気配遮断(光学迷彩レベル)して見つからないようにしつつ、観察してみましょう(ワクワク)

 

 

………何か急に立ち止まって空を見上げたと思ったら、またぼんやりと歩き出したり挙動不審ですね……

どうしましょう。お勘定しちゃって付いて行ってみましょうか。

いや、八雲紫さんの指令もありますし………

 

 

 

 

 

そんな風に逡巡していると、新たな人影に気付きました。

早苗さんが通りすぎてからしばらくすると現れた三つの影。

 

 

 

 

あれは……咲夜さん?

それに妖夢さんと鈴仙さんですね。

三人とも早苗さんの後を付いて行ってる様子。

 

 

よし、それなら私もその後を『ちょっとメアリー?』そ、その声は!?

ゆ、紫さん!?

 

 

『いま貴女の脳内に直接語りかけているわ。……それよりも。私が指示したことはどうなったのかしら?』

い、嫌だなあー分かってますよー

『そ。ならいいわ』

 

 

そう言うと紫さんの声は聞こえなくなりました。

………どうやらしっかり見られてたみたいですね。ははは………

それじゃあ非常に気になりますけれども、付いて行くのは諦めて当初の目的地に行きましょうか。非常に気になりますけども。

と、その前に。

 

 

「すみませーん。このお団子、お土産用にいくつか包んでくださーい」

「一包で良いのかい?」

「ええ」

「よし……はいよ、団子一包ね」

「ありがとうございます。お代はこれで」

「ちょうどだね。毎度ありー」

 

 

甘味処のおばちゃんの声を背に、目的地に歩き始めます。

これで八雲紫の指令其の二「お土産を手に入れる」もクリアです。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、目的地に歩き始めるとは言ったものの、実はすぐ目の前なんですよね。

もう着きましたし。

そこそこ立派な山門と、その奥まで続く石畳の参道。

そう、命蓮寺です。

 

 

 

 

 

「ごめんくださーい」

そう言いながらも足は止めず、どんどん中に入っていきます。

縁日の時には大層賑わっていたこの場所ですが、今はひっそりとしています。

何故なら―――

 

 

「あっ、参拝希望の方ですか?すみません今日は――――――おや?貴女は紅魔館の………」

「どうも、こんにちは。紅美鈴と申します」

奥から出てきた毘沙門天の代理……寅丸星さんに挨拶を返します。

 

 

「これはご丁寧にどうも。寅丸星です」

「これ、お土産のお団子です」

「あ、わざわざすみません」

「いえいえ、お構い無く」

そんな感じに会話を続け、ほんわかとした空気になったところで寅丸星さんが困ったような顔をしました。

 

 

「あの~お土産まで持ってきて貰って申し訳無いのですが………今命蓮寺には聖や他の子達がいない状態で………私だけなのですが………」

なるほど。私が聖白蓮さんに会いに来たと思っているようですね。

そういえば以前稗田家で行なった会合で一度会いましたね。

ですが―――

 

 

「いえ、大丈夫ですよ」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が会いに来たのは寅丸星さん。貴女ですから」

 

 

 

 

 

 




正直、書くべきか迷ったこの章。
第四章の最後に何話か付け加えて、そのまま最終章行っても良かったんですけどね。


思った以上に「書いた方が良いかな」ってものがあったので個別で章を分けました。


後は……そうですね。
ギャグ要素入れられる役割の側面とか


何となく予想はついてると思いますけど、後々シリアスブッ込みます(テヘペロ)






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「共同戦線」




レミリアの口調が安定しない今日この頃





side レミリア

 

 

今こいつは何と言った………?

紅美鈴として、だと?

何故だ。

 

 

最近はようやくメアリー・スカーレットとしての姿も認知されてきたところだ。

お母様も自然にその姿で過ごしていた。

別にメアリーの姿が嫌なわけではないだろう。

そもそも、メアリー・スカーレットとしての姿を広め始めたのは目の前の妖怪の賢者だ。

そんな感情的な理由ではないはず。

 

 

それならば門番の―――紅美鈴の姿でなければならない用事があるのか………

 

 

「………お母様は人里で何をしているの?」

「さぁ、ね。私は知らないから直接聞いてみたら?」

 

 

そう言う八雲紫に疑わしげな視線を向ける。

本当に知らないのかしら?

こいつ相手だと言葉を額面通りに受け取れないから困るわね。

 

 

「まぁそれはどうでも良いのよ。そこまで重要なことでも無いし」

「……何だと?」

 

 

そう考えているうちに続けられた八雲紫の言葉に、今度こそ口から言葉が漏れ出てしまった。

お母様が”紅美鈴”として行動していることがどうでも良い?

流石に何も言わないわけにはいかない。

その返答如何によっては………

密かに心の中で決意する。

が、しかし。

 

 

「貴女達………私が渡した本は見たでしょう?」

「………」

 

 

次いで掛けられた言葉にスッ…と目を細め、沈黙するしかない私たち。

もちろん本の中身は見た。しかし理解は出来なかった。

その情報こそ、私たちが問い詰めようとしていたもの。

故に。

そのまま目線で話の続きを促す。

 

 

「私の言葉を信じるかどうかは貴女次第だけれど、あの本は本物よ。私が偽造したわけでもなんでもないわ………それで何か聞きたいことは?」

「………何故私たちにあの本を?」

 

 

核心からは突かない。まずは此奴らの思惑から探っていきましょう。

 

 

「簡単なことよ。私の目的のためには、貴女たちに知っておいてもらった方が都合がいいから」

「………その目的は?」

「そうね―――何から話そうかしら」

「………」

「まず―――家系図に名前がなかったのは確認したわね?」

 

 

八雲紫の問いに首肯で返す。

意外とすぐに本筋へと入ってこられたわね。

八雲紫のことだからもっと焦らすと思ったのだけれど。

まぁこっちにとっては好都合ね。

 

 

何故、家系図にはフランの名がなかったのだろうか。

あの子は紛れもなく、私の妹であるはずなのに―――

 

 

「それは書き忘れだの単純な話ではないの」

―――そうであったならどれだけ良かったか

 

 

「信じられないだろうし、あまりにも話が飛躍しているように感じるかもしれないけど」

―――家系図を見た時から、私の常識は吹っ飛んでるわよ

 

 

「過去に起こった出来事が原因であり、それは未だに解決していない……むしろ危険な状態」

―――つまり?

 

 

「放っとくと幻想郷が崩壊するわ」

「………」

 

 

 

 

―――まぁ、何となく話の途中からは察していた。少々規模がデカすぎるが。

この面子が勢揃いしているのだ。

全くもって協力しあっている姿が想像出来ない此奴らが。

まさか紅魔館が吹き飛ぶ程度の話では無いだろうと思っていたが………

家系図に妹の名前が無いことが、どうやったら幻想郷の崩壊に繋がるのだろうか。

あの子がこの世界で暴れまわるとでも?

確かにあの子の能力は強力だけど………

あんなに優しい娘がそんな事をする事態こそ、想像出来ないわ。

―――でも、私が想像出来ないのと、実際何が起こるのかが一致するとは限らないのよね。

 

 

 

 

「事の詳細はこれから話すわ。それを理解してもらえたら、貴女にやって欲しいことがあるの」

「私にやって欲しいこと?」

 

 

 

 

何故かしら。まだ何も聞いていないのに嫌な予感しかしないわ。

具体的に言うと、パチェと小悪魔がイイ笑顔でこっち向いた時くらい。

 

そんな風に私が寒気を感じているうちに八雲紫は、そのニヤケ顔を隠そうともせずにこう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レミリア・スカーレット。貴女には”異変”を起こしてもらうわ」

 

 

 

―――あぁ 本当に碌でもない――――――

 

 

 

 

 

 




そしてパッチェさんのこの空気具合である







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「時間がないよ、賢者さん」





活動報告(という名の生存報告)をした方がいいかなと考え始めました(今更)





 

 

―――幻想郷のどこか 八雲紫の住居―――

 

 

 

 

幻想郷のどこかに存在すると言われる八雲紫の屋敷。

今も尚、その正確な場所を知っているのは八雲家の住人だけである。

 

 

―――そして月明かりに照らされた屋敷、その縁側に一つの影が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう?用事は済んだのかしら」

 

 

縁側に座り、前を見つめたままそう言い放ったのは妖怪の賢者、八雲紫。

その流れるような金髪が、月の光を反射して輝いている。

対して、じっと前を見つめるその面持ちからは、感情を察することが出来ない。

 

そのまましばし、沈黙が場を支配するが八雲紫は動かない。

やがて………

 

 

 

 

 

 

「―――ええ、もちろんです」

 

 

そう言いつつ現れる影が、また一つ。

艶やかな紅髪を腰ほどまで伸ばし、緑色の華人服のような衣装を見に付けている少女。

 

紅魔館門番、紅美鈴の姿がそこにあった。

 

彼女が現れても前を向いたまま目もくれない八雲紫を一瞥すると、スッと縁側に腰掛ける。

 

 

 

「………ここまで、長かったわね」

「そうでしょうか?思ったより短かった気もしますが」

 

 

珍しく何処と無く深刻そうな、しんみりとしているような雰囲気で話す八雲紫。

それとは対象的に、あっけらかんといった様子の紅美鈴。

そんな正反対の空気を纏い二人が座る縁側は、歪で、されど調和しているような不思議な空間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、あまり時間は残されていないようですよ」

 

 

そう呟くように放たれた紅美鈴の言葉が、月夜の空に溶けていく。

やはり言葉の内容とは裏腹に、深刻さはない。

 

 

「………そう。でも随分仲間も集まったし、レミリアの協力も得られた。もう準備はほぼ整っているわ」

 

 

こちらが正反対なのも変わりなく。

自信なさげな八雲紫という珍しい姿を晒している。

 

 

「それじゃあ、そろそろ始めましょうか」

「………ねぇ本当にやるの?メアリー。貴女がそこまで―――」

 

 

八雲紫がそこまで言った瞬間、その口元にスッと人差し指が添えられた。

 

 

 

 

「紅美鈴です」

「………あくまでそのスタンスを貫くのね。いいわ美鈴。貴女がそうあるというのならば、私は最良の結果を引き寄せられるようにするだけ―――良いわね?」

「ええ、もちろんです」

「じゃあ早速動くことにしましょうか」

「はい。ちなみに次の機会はいつ頃だと皆さん言ってました?」

「早ければ明日。遅くとも一週間以内にはあるだろうと言っていたわね」

「分かりました。一週間程ならば、まだ保つでしょうね」

「そうね」

「それじゃあ動きがあったら、紫さんはお嬢様に異変開始の合図をお願いします」

「ええ、手筈通りに、ね」

 

 

そう八雲紫が言うと紅美鈴は立ち上がり、いつの間にか開いていたスキマへと入っていく。

振り返りはしない。

八雲紫も声をかけることはない。

 

 

そうして紅美鈴がスキマに消えていき、また静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうね。始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――数日後 人里―――

 

 

「―――それじゃあ今日はここまでね。お疲れ様」

「あ、お団子追加で~」

「私もー」

「………ちょっと」

「ん?」モグモグ

「何かしら」モグモグ

「二人共、何のためにこうして従者どうしで集まってるか覚えてるのかしら?」

 

 

若干目を吊り上げながらそう言ったのは、紅魔館のメイド長十六夜咲夜。

対する二人―――魂魄妖夢と東風谷早苗は少し思案するような顔をしてから答えた。

 

 

「主人の愚痴を話す?」

「いわゆる女子会ですよね」

「ち・が・う・わよ!あの最終戦争でも起こせそうな面子への対処法を話し合うためでしょう!」

「え~そうは言っても………」

「正直言って話し合えば話し合うほど、どうにも出来ないような気がしてきて………」

「最終戦争というより第三次大戦って気もしますが」

「確かにドンパチ始まりそうですよね~」

「………?何よそれ」

 

 

聞きなれない単語を聞いた十六夜咲夜が二人に聞き返す。

 

 

「あ、これは幽々子様が見ていたてれび?とやらでやっていまして………」

「私は神奈子様と」

 

 

のほほんとした様子で二人が答える。

そのとき

 

十六夜咲夜の額あたりでブチッと何かが切れる音がした。

 

 

「貴女達まで毒されてんじゃないわよォォォ!!!」

 

 

先ほどまでの女子会(仮)は何処へやら、にわかにすったもんだし始めた三人。

 

 

それを少し引いたところで見ている鈴仙は、一人冷静に思考していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ、最初に気付いた。

 

 

自分たちのすぐ横に立った人影に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?貴女は………」

 

 

鈴仙がそう呟くと、大騒ぎしていた三人も気付いたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寅丸、星さん?」

 

 

 

 

 



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「そして動き出す色々な」




遂に次話から最終章へと突入します。
なのでギアをあげていくことにしました。

覚悟はいいか?私は出来てる(震え声)





―――紅魔館 謁見の間―――

 

 

side レミリア

 

 

最近はめっきり使わなくなった謁見の間。

以前使ったのはパチェとお母様について話し合った時だったか。

そんなに時間は経っていないはずなのに、随分と昔のことのように感じるな。

あの時、深刻そうにパチェと話し合っていた私が、今の私を見たら何というだろうか………

 

 

今この場にいるのはあの時と違い私一人―――ではない

 

 

「ねぇーお姉様?一体何があるっていうの?」

「もう少し待ってなさい。あと二人………いや、一人来るから」

「はーい」

 

 

そう、今ここにはパチェではなく、我が妹のフランがいる。

―――もちろんそれは、これから起こることに大きく関わっているからだ。

対するパチェは、今頃八雲紫たちと共に行動しているだろう。

だからこそ私たちは私たちの役目を果たさねばな。

 

 

そこまで考えた時、謁見の間の重厚な扉がギィィ…と音を立てて開き始めた。

 

 

「あれ?誰か来たみたい。お姉様が言ってたもう一人?」

「………そうね」

 

 

そうして完全に開ききった扉の先にいたのは――――――

 

 

「あれ?お母様?」

「……………」

 

 

不思議そうな声をあげるフラン。

そこに立っていたのはにこやかに微笑むメアリー・スカーレットだった。

 

 

「なんだ。お姉様が言ってたのはお母様のことだったのね。それなら勿体ぶらずに教えてくれればよかったのに」

そういって自身も微笑みながらメアリー・スカーレットに近づいて行くフラン。

扉の前に立ったままだったメアリー・スカーレットも微笑んだまま近づいて来た。

 

 

そしてフランが抱きつこうとした瞬間――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッ!

 

 

 

 

()()()()()()()手を伸ばしていたメアリー・スカーレットの間に、何かが割って入った。

 

 

 

 

「―――――――え?」

何が起こったのか分かっていない様子のフラン。

そんな我が妹を尻目に、私は割って入った影に声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と遅かったな?また、居眠りでもしていたか」

「あはは………こんな時くらい勘弁して下さいよ()()()

 

 

 

紅魔館門番、紅美鈴の姿がそこにあった。

 

 

 

「え?え?お母様がいて美鈴もいて………?」

「申し訳無いのですがフラン様。今は一刻を争います。まずは――――」

 

 

混乱しっぱなしだったフランに声をかけると、途端に鋭い目になる紅美鈴。

その目線は、メアリー・スカーレットへと向かっていた。

 

 

「アレに対処してしまいましょう」

 

 

 

 

 

その言葉が皮切りとなったかのように、微笑みを浮かべたまま再びフランへと飛びかかるメアリー・スカーレット。

先ほどと同じように美鈴がそれを受け止め、動きを止める。

今度はそこに、私が一撃叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

入ってきた扉の辺りまで吹っ飛んだメアリー・スカーレット。

その隙に美鈴が早口で情報を伝達する。

 

 

「紫さんたちとパチュリー様は既に待機しています!アレをフラン様に近づけず、紫さんたちの元へと追いやってしまえば取り敢えず一段落です。その後、お嬢様は異変の開始をお願いします!」

 

 

そう言うやいなやメアリー・スカーレットへと向かっていく美鈴。

未だ固まったままのフランをチラッと確認してから、私もメアリー・スカーレットへと走り出した。

 

 

 

 

 

さて、一仕事始めるとしようか。家族のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――霧の湖 湖畔―――

 

 

 

「―――つまりなにか?メアリー・スカーレットは”病”に侵されている。それを封じ込め、隔離するために生まれたのが”紅美鈴”という人格だと」

「そうね。正確には病ではないけど、侵されてるのは確かね。いつかはどうにかしないといけないと思っていたけど、思いがけずメアリー・スカーレットが前面に出てきてしまった。あの宴会によってね」

「お前さんが暴露したんだろ」

「そうとも言うわね。とにかくメアリー・スカーレットとしての人格が出てきてしまったが故に、封じ込めていたものも出てきかけてしまった。幸い紅美鈴としての人格が消えた訳じゃないから、すぐさまどうにかなる訳じゃなかったけどね。でもそれも時間の問題だったから………」

「私たちを集めたということね」

「そういうことよ」

 

 

霧の湖の畔には、五つの人影があった。

妖怪の賢者    八雲紫

華胥の亡霊    西行寺幽々子

月の頭脳     八意永琳

山坂と湖の権化  八坂神奈子

動かない大図書館 パチュリー・ノーレッジ

 

 

その五人は一箇所に固まりつつ、話を交わしている。

 

 

「まったく。こっちはたまったものではないわね。お陰で余計な知識ばっかり増えてしまったわ」

「あら?貴女も意外とノリノリだったじゃない」

「………そんなことないわよ」

 

 

不満げに言葉を漏らしたパチュリー・ノーレッジ。

しかし直ぐに西行寺幽々子によって茶化されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――紅美鈴が封じ込めるための人格だというならば今、紅魔館にいる紅美鈴は何だ?何故、紅美鈴とメアリー・スカーレットが別々に存在している?」

 

 

先ほどから八雲紫を質問攻めにしていた八坂神奈子が、新たな疑問を呈する。

 

 

「あれはね、残り滓みたいなものよ。侵食しているものの割合が大きくなっていった結果、本来なら塗りつぶされているところを弾き出された……………というより自分で飛び出してきたのかしらね。そうしてメアリー・スカーレットと紅美鈴の同時存在という奇妙なことになってるわけ。彼女は協力的だし、何より自分が相手ですもの。自分のことは良く解ってるはずでしょう?だからあの侵食メアリーの追い出しを担当して貰ったわ」

「なるほどな。それで紅魔館から追い出した後はどうするんだ?」

「あれを見て頂戴」

 

 

そう言って八雲紫が扇子で指した方向には、湖があった。

今宵は見事な月夜で、湖面にも月が綺麗に映っている。

 

 

「彼女はあそこに行くはずよ。そうしたら私たちも追いかけて向こうに行くわ」

「何?湖面の月に飛び込むのか?」

「いいえ違うわ月になんか行きませんわええ行きませんとも」

「………紫?」

「失礼、少し取り乱しましたわ。そちらではなくて……ほらあっちに」

 

 

 

見ると霧の湖には月だけでなく、逆さになった紅魔館も写り込んでいた。

 

 

 

「あそこを通って()()()()の紅魔館へと赴きますわ。向こうに行けばこちら側に被害を出すこともないし、乱入者を制限することも出来る」

「………そうか、だからレミリアに異変を起こさせるのだな?今回の異変はスペルカードルール無用の殴り合いとなる。そんな異変に人間の解決者………博麗霊夢や霧雨魔理沙だな。それが来てしまっては色々とマズイ。というより死者が出かねない。だからこそ偽物の―――フェイクの異変をレミリアが起こす。私たちが殴り合いでメアリー・スカーレットを打ち倒すまで、()()()()()()はそちらに引きつけておく。そういうことか」

「そういうことよ」

「じゃあそろそろ準備しておこうか」

「いえ、少し待って。あと一人呼んでいる人がいるわ」

 

 

 

そう言った紫に八坂神奈子が「誰だ?」と問いかけようとした時

騒騒しい音を立てながら、命蓮寺の住職、聖白蓮が降り立った。

 

 

 

「おや、貴女だったか。会ったのは人里での会合以来かな?」

「……………」

「これで六人揃ったね。それじゃあ行こうか」

「……………」

「うん?どうした?」

「………まさか貴女がそちらの一味だったとは…誠に愚かで自分勝手であるッ!」

「!?お、おいどうした!?紫!何て言って呼んだんだ!!」

「別に普通に呼んだわよ~?『寅丸星は預かった。返して欲しければ、一人で霧の湖まで来い』って」

「それは!誘拐犯の普通だァァァ!!」

「いざ、南無三──!」

「「ぬわーっ!」」

 

 

 

 

 

三人がドタバタし始めたところで、紅魔館から上空へと何かが飛び出してくるのを八意永琳が確認した。

飛び出してきたものは一瞬対空すると、一目散に湖面の紅魔館へと飛び込んでいった。

 

 

「ほら、お客様がお出ましよ。さっさと行きましょう」

 

 

そう声を掛けるとパチュリー・ノーレッジと共に湖へと向かってしまう八意永琳。

 

 

「紫~?置いてっちゃうわよ~?」

「いたたた!そ、そうだ!あいつ!誘拐したの湖に飛び込んだあいつだから!だから早く追いかけよう白蓮!」

「そ、そうそう!」

「………本当ですか」

 

 

ドサッと音を立てて開放される八雲紫と八坂神奈子。

息を整えた聖白蓮はクルッと振り返ると笑顔で言った。

 

 

 

 

「行きましょうか皆さん!」

「………はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく全員で湖に映る紅魔館に向かうことになった六人。

その道すがら、ふと気になった八坂神奈子は八雲紫に問いかけた。

 

 

 

「なあ紫」

「何かしら?」

「先ほどメアリー・スカーレットは病に侵されていると言ったが、正確には病ではない。とも言っていたな?だったら正確には何なんだ」

「ああ、それね。確かに戦闘になる前に言っておいたほうがいいかしら」

「そうね。知っておきたい」

「じゃあ言うわね。彼女を侵食しているもの、それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狂気よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一体いつからメアリーが勇者パーティーだと錯覚していた…?
メアリーさん魔王枠です。
なので勇者パーティが紫さんとパッチェさん入れて六人てのは間違ってません。


月とか儚月抄とか紫さんの策略に関しては、自分の理解したもので合っているのか不安。
というわけでギャグテイストに。






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終章 495 years ago
「異変解決者の方々が出動されるようです」







大変遅くなりました(土下座)
エタるところでしたが何とか復活した次第です。


それでは「紅美鈴には秘密がある」最終章、始まります。







「おーい、霊夢~。おーい!」

「………何よ五月蝿いわね、聞こえてるわよ」

 

 

宵闇に包まれている博麗神社。

月明かりが照らすその境内には、快活な声の白黒魔法使いと面倒くさそうな声の紅白巫女が存在していた。

状況から見るに、白黒魔法使いが突撃してきたところのようだ。

 

 

「霊夢!空を見てみろ!」

「紅いわね」

「霧も出ていますわ」

「デジャブね」

「異変だぜ」

「そうね」

「………異変だぜ?」

「分かってるわよ」

 

 

畳み掛けるような白黒魔法使いの物言いに比べて、紅白巫女の対応は随分とおざなりな物だ。

そんな紅白巫女に対して、まるで異変ならやることは決まっているだろうと言わんばかりの表情で白黒魔法使いは告げる。

 

 

「だったら解決しに行くべきじゃないか?」

「別にすぐに行かなくてもいいでしょ。そこまで悪影響なさそうな霧だし。あと2、3日してからでも―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいや。今すぐ解決に行ってもらうぞ。博麗霊夢」

「―――何の用かしら………藍」

 

 

神社に乗り込んできた霧雨魔理沙に対し、気怠げに対応していた博麗霊夢。

そんな霊夢を制したのは八雲紫の式、八雲藍であった。

突如現れた彼女に対し、博麗霊夢は胡乱げな目を向ける。

 

 

「何、暇を持て余してそうな巫女に個人的なお仕事を、と思ってな」

「よく言うぜ。絶対紫の差し金だろ」

「同意ね。そんなすぐバレる嘘は止めときなさい」

「やれやれ………酷い言われようだ」

「何だ?違うのか?」

「いや、当たりだ」

「ほらやっぱり紫の差し金じゃないの。嫌よ、そんなので行かないからね。私は」

 

 

ツイっと視線を逸らした博麗の巫女に対し、妖怪の賢者の式はニヤリとする。

 

 

「お前ならそう言うだろうということで、紫様からこれを預かってきている」

 

 

八雲藍は流し目で霊夢を見やりつつ、懐から一枚の紙を取り出した。

大体御札くらいの大きさと形の紙で、見ると裏側に何か書いてある。

 

 

「何だそれ?」

「ふむ、これは何と言えばいいかな………そうだな、これは『無料券』だ」

「無料券?何のさ」

 

 

八雲藍が取り出した紙に興味を持ったのか、魔理沙が尋ねると藍は無料券と言う。

更に聞き募る魔理沙に対し、藍は再度ニヤリとすると言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()さ」

 

 

その言葉に魔理沙が反応するより速く、ガタッと音を立てて起き上がる霊夢。

分かりやすい態度に呆れた表情をしつつ目を細める藍。

 

 

「まぁ、あくまで叶えられることに限るが………おや?どうした霊夢?」

「―――それは異変解決の報酬なのかしら?」

「そうだ。()()()()()に与えられる報酬だ」

「―――あら、こんなに霧が出ていては大変ね。博麗の巫女である私が今すぐ、迅速に、確実に解決してくるわ」

 

 

そう言うやいなや、霧の湖―――紅魔館の方角へと飛び去ってしまう霊夢。

藍はその背中に向けて笑顔で手を振りつつ、先程から黙したままであるもう一人の異変解決者に視線を向ける。

 

 

「………なぁ」

「何かな魔理沙」

「それは異変解決者に与えられるんだよな?」

「私はそのように仰せつかっているが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なら別に、異変解決者は博麗の巫女でなくてもいいよな」

「ふふふ―――そうかもしれないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そうして八雲藍は彗星の如き速度で飛んでいく白黒魔法使いを手を振りつつ見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 霊夢

 

 

 

(………おかしい)

 

 

まるで欲に目が眩んだかの()()()神社を飛び出してきた霊夢。

しかし、その心のうちには様々な疑惑、疑念、不信感などが湧いて出てきていた。

 

 

まず、八雲藍が神社に来た時点で不信感を持った。

別に来たことがないわけでも、異変解決の催促が今までなかったわけでもない。

しかし、あそこまで吟味されるかのような視線は初めてであった。

 

 

魔理沙は気づいていなかったかもしれないが、()()()()()()()()()()()()()

だからこそ、あえて魔理沙の誘いに乗らず、気が向かないような態度を取った。

そしてそれを間髪いれず制止してきたのも、らしくない。

 

 

あとはあの露骨な報酬も疑惑の的だ。

無料券?しかも何でも?

正直に言うと何の冗談かと思った。

紫は確かにおちゃらけた所もあるが、そういった線引きはしっかりとしている人物だ。

だからこその妖怪の賢者なのである。相手が博麗の巫女でもそれは変わらない。

まぁ仮に本当だとしてもあの妖怪なら、口八丁でどうとでも出来そうだが。

 

 

しかし、らしくないのは事実である。

藍のあの態度が本当に余裕がないのか、それすらも演技なのか―――そこまでは分からなかった。

しかし、確実に言えることは一つ。

 

 

 

 

「今回の異変は、何か違うわね………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 魔理沙

 

 

 

博麗神社を彗星の如き速度で飛び出した魔理沙は、現在紅魔館に向かっ―――ていなかった。

八雲藍が取り出した紙―――無料券とやらには確かに妖怪の賢者の残滓とも言うべきものがあった。

 

 

しかし魔理沙はそこに()()()()()()も感じたのだ。

その力に見覚えがあった魔理沙はとある場所を目指し、そこに降り立つ。

 

 

 

 

 

そこは妖怪の山に存在するもう一つの神社―――そう、守矢神社である。

だが、目的地に降り立ったというのに魔理沙の表情は険しい。

何故なら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――いない………)

 

 

いつもなら境内で掃き掃除をしている東風谷早苗も

縁側で座っていることが多い八坂神奈子も

それらを見てのんびりしている洩矢諏訪子も

 

 

姿どころか気配すら一切感じられない。

 

 

しかし魔理沙にとっては予想外ではなく、むしろ予測に近づく結果であった。

 

 

 

 

 

 

 

(―――やっぱりそうか………あの報酬には紫以外も関わっていそうだな)

 

 

魔理沙は藍の「異変解決者に与えられる報酬」という言葉に引っかかりを覚えていた。

異変を解決したものに与えられる報酬―――なるほど分かりやすい。

では、()()()()()()のは誰だ?

八雲紫?

 

 

 

 

 

 

―――いいや、藍は一言も紫が与えるなんて言っていない。

()()()()()()()()()()()()と言っただけだ。

そして紙に込められた紫以外の者の力。

 

 

最初は楽観視していた今回の異変が、一気にきな臭くなってきた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

それらを確認した魔理沙は次の目的地に向かうことにする。

 

 

「お次は………ちょいと面倒だが、あの妖怪の親友とやらの所に行ってみますかね―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――桜が咲き誇る冥界の楼閣、白玉楼へ

 

 

 

 

 







今回は異変解決組(原作主人公)サイド。


やはり腐っても主人公、何も考えなしじゃありません。
―――と、いう感じだと私個人的には考えています。


霊夢と魔理沙、着眼点は違いますが二人が気づいたことから起こす行動は終章でもキーポイントになる予定です。
そのために敢えて今までのお話で出さないようにしていたってのもあります。
主役は遅れてやってくるってやつです(本編主人公とは言ってない)


それではもうしばらくの間、お付き合い頂ければ幸いです。






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「Stage1 半霊夜行絵巻」



先に言っておきます。
従者組はかませもいいとこなくらいの尺です。
申し訳ありません。

まぁメインは紅魔館組なので………
従者組の活躍?は(書けたら)短編で。







side パチュリー

 

 

―――湖に映る紅魔館へと向かった私と八雲紫ら5人

 

 

湖面をくぐり抜けた私達を待ち受けていたのは、同じく()()()()の紅魔館―――ではなく。

鬱蒼と生い茂る暗い森であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――湖面に映る、という所から鏡合わせのような………裏側のような場所だと思っていたのだけれども。

 

 

そしてそれはあながち間違いでもないようだけれども。

 

 

同じ場所に出るわけではないようね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りを見渡せばあれだけ馬鹿騒ぎをしていた5人組が嘘のよう。

 

 

今ではすっかり真剣な、それでいて余裕も感じさせる雰囲気になっている。

 

 

何よ。若干乗せられていた私がバカみたいじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さて、ここからは何が起こってもおかしくはない。そして私達にとっては時間勝負でもある」

 

 

ぐるりと全員を見渡して、八雲紫がそう言う。

 

 

対して他の4人はまるで分かっているとでも言わんばかりの表情で頷く。

 

 

 

「では。ここからは見敵必殺。()()()()()()()()()()()彼女の元に辿り着くことを第一として行動しましょう」

 

 

そう締めくくると、一斉に森から抜け出すために動き出す5人組。

慌てて私も置いていかれないように追いかける―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――止まりなさい」

 

 

 

―――ことは出来なかった。

 

 

 

「ここから先には行かせません。()()()の命によりここで消えて頂きます」

 

 

「………あらあら~」

 

 

 

 

 

 

 

あれは魂魄妖夢ね。どう考えてもまともな状態じゃないけど。

西行寺幽々子の呆れたような声から察するに、彼女の言う主とは幽々子のことではないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一種の洗脳状態………

驚くようなことでもない。

私やレミィにあれだけ長い期間術をかけていられる力量の持ち主なのだ。

半人半霊の庭師に抵抗しろというのは酷だろう。

 

洗脳した所であの状態では意味がなさそうなのだけれどもね。

この6人組に一人で向かってくるのは流石に無謀よ。

そのあたりの考慮がなされていないのはやはり狂気のせいかしら。

 

 

 

 

 

 

 

「―――紫~あの娘の相手は私に任せてくれない?」

「―――珍しくやる気ね幽々子」

「ここでやる気出さなきゃ主失格じゃない」

「たしかにそうね。ならお願い」

「お願いされたわ~えーと、サーチアンドデストロイ?」

 

 

何時になく張り切った様子で西行寺幽々子は魂魄妖夢に向かっていった。

そして本当に一瞬で終わってしまった。

………まぁ あんなに盲目的になってたんじゃ、幽々子が相手じゃなくても勝てやしないでしょうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………魂魄妖夢がどのような目にあったかは彼女のために伏せておきましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

敢えて表現するならば―――実にルナティック(狂気的)だった。

といった所かしら。

 

 

 

 

 

 

時間勝負と言っていたのは伊達ではなく、私達は驚くほど迅速に森を抜けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 霊夢

 

 

 

 

神社を飛び出し幾許か。

私は紅魔館にたどり着いた。

 

 

 

 

 

―――そう、たどり着いてしまった。

誰にも会うことなく。

 

 

別にこうした視覚的に分かりやすい異変の時に人間に出会わないのは然程おかしくはない。

魔理沙や咲夜のように対抗手段がある人間ならともかく、普通の人間は異変と分かっていて出歩くことは少ないだろう。

 

 

おかしいのは普通じゃない奴等―――

ここらへんなら妖怪とか妖精とかそういった類いの者たちまでめっきり出会わないということだ。

 

 

こういうとき―――異変が起こるときには、だいたい妖怪の活動が活発化する。

異変の空気というか余波のようなものに影響を受けるからだろう。

そしてその影響を受ける度合いは、数の多い弱小妖怪ほど大きい。

 

 

つまり―――騒がしくならない訳がない。

音ではない。空気感のようなものがザワザワする感覚だ。

それがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり―――何か今回の異変はおかしい

 

 

 

 

 

そんなことを考えつつ、紅魔館の中に入っていく。

()()()()()門番はいない。

このぶんだと咲夜もいないのかしら?

 

 

明らかに紅魔館もひっそりとしすぎている。

とても以前と同じように紅霧を発生させている場所とは思えない。

 

 

―――なら早いとこ、()()()()()()とやらに会いに行きましょうか。

そんなことを思いながら私は、紅魔館の正門をくぐり抜け足早に歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







最終章は一話これくらいの長さで話数多めな感じでお送りいたします。






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「追憶:彼女がスカーレットになった日」




今回含め、追憶話は前作「紅の系譜」における昔語りとリンクしている所もあります。
時系列もそっち寄りです。


具体的にはレミリアが生まれる前~()()()が門番になるまでくらいの間ですね。


一応、前作を知らなくても大丈夫な作りにはなっていると思います。






 

side とあるメイド

 

 

 

「♪~」

 

 

 

私はあの日と同じく、軽く鼻歌交じりに紅魔館近くの林道を通っていました。

 

 

 

 

 

 

あの日―――

私が街へ買い物に出かけ、帰り道で彼女と出会った日。

ここで彼女と出会ったからこそ今のような日々があるのかもしれません。

 

 

 

最初出会った時は身が竦むような気持ちでした。

半分脅されたようなものでしたからね。

その後の騒動の方が大変だったかもしれませんが………

 

 

 

 

 

 

 

今でも信じられないというか実感が湧きませんね。

旦那様が彼女と結婚されることになるとは。

初めて顔を合わせた時は問答無用で殺し合いに発展したというのにですよ。

あれですかね。

そうやって本気でぶつかりあった方が結果的に仲良くなるのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ………それよりも。

彼女が私に興味を持ったことの方が驚きました。

だってただのメイドですよ私?

旦那様と張り合うほどの力を持った吸血鬼様が目をくれるなんて思いもしないじゃないですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからはさらに激動の日々でしたね―――

何だかんだあって彼女のことが気に入った旦那様が紅魔館に滞在する許可をお出しになり。

彼女に気に入られた私が彼女付きのメイドになって。

 

 

 

そして彼女は驚くべきことに―――私を「友人」にしてくれたんです。

普通じゃ考えられません。

何故なら彼女は吸血鬼―――それも数多の悪魔を率いることが出来るくらいの力を持った強大な吸血鬼です。

それが私みたいなメイドを使役するならともかく、友人になろうと言ってくれるなんて。

余りにも考えられなさすぎて、最初は疑っちゃいましたよ。

何か企んでいるのではないかって。

 

 

 

私がそうやって疑っているのは彼女も分かっていたでしょうけど。

それでも彼女は気を悪くした様子もなく、友人として接してくれました。

 

 

 

そこでようやく、あぁこの人(吸血鬼)は他の人達とは違うんだなって思ったんです。

だって他の吸血鬼にそんな態度をとったら、その場で引き裂かれてもおかしくないですもんね。

それなのにそんな態度をとるあたり、私も結構うっかりしているのかもしれません。

 

 

 

でも―――結果的にはそれで良かったのかもしれません。

私は彼女の友人になれましたし―――

友人としてとても楽しい時間を過ごすことが出来ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし―――そんな日々も、ある意味ではこれまでかもしれません。

何故なら彼女は結婚するのですから―――旦那様と。

 

 

つまり彼女もこれからはご主人様という訳です。

もちろん彼女はそんなこと関係無しに接してくれるかもしれませんが………

全て今まで通りということはないでしょう。

 

 

少なくとも他の人達の目がある所では主人とメイドという立場になるべきでしょうね。

私と彼女の関係を受け入れてくれる人もいるでしょうが、余計な口出しをしてくる人もいるでしょうし。

彼女―――メアリーも、それは分かっているでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………あぁ、違いましたね。

 

 

 

 

彼女の名前はメアリーだけではありません。

 

 

 

 

そう、今日からは。

 

 

 

 

彼女の名前はメアリー・スカーレット。

 

 

 

 

 

 

 

 

私のご主人様であり――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――かけがえの無い、大切な友人です。

 

 

 

 

 







最終章に入ってから追憶させるスタイル







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「Stage2 湖上の魔兎」



まぁ落ち着いて下さい。
霊符を突き付けられてはビビってお話も出来ません。
美鈴は無事です異変解決者の皆様、少なくとも今のところは。
この先どうなるかはあなた達次第です。
無事取り戻したければ・・・私に協力して下さい、OK?



何が言いたいかというと

遅くなって大変申し訳ございませんでしたァ!


side 魔理沙

 

 

 

 

「―――――着いたか」

 

 

 

箒を駆り、紅霧の中飛び続けていた魔理沙は

 

突如として開けた視界に目を細め、立ち止まる。

 

 

眼の前を桜の花弁が通り過ぎる―――

 

―――幽玄なる冥界が、其処に有った。

 

 

 

だが彼女は厳しい表情を崩さない。

 

 

 

(―――何か変だ。いつもと変わらないはずなのに)

 

魔理沙は何時も通りの風景に何処か違和感を感じた。

 

 

一方で、何が可笑しいのかと問われると言葉に詰まるような

 

もどかしさも同時に感じていた。

 

 

(取り敢えず……先に進んでみよう。何か見つかるかもしれない)

 

 

そう自分を納得させた魔理沙は冥界の道を先へと急ぐ。

 

 

―――だが魔理沙のそんな思いは真逆の形で裏切られるのであった。

 

 

 

(―――可笑しいぞ……何も無い!

いつもならいるはずの幽霊も、気配すら無い!

あるのは桜だけだ!)

 

 

「……おいおい、随分とキナ臭いな。紅霧異変かと思ったら

春雪異変の再来かい?しばらく桜尽くしは勘弁して欲しいんだがね……

幽々子も懲りないなぁ――」

 

 

仕方ないか、と溜息を一つ吐いた魔理沙は白玉楼へと向かう。

 

 

――――しかし、其処で異変解決者を待ち受ける者は誰一人としていなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 霊夢

 

 

 

 

「――――やっぱり見通し悪いわね この湖」

 

 

博麗神社より飛び続け、霧の湖へと辿り着いた霊夢は相変わらずの霧に人知れず溜息を吐く。

 

……尤も、紅霧異変の時分より大分ドス黒い霧ではあったが。

 

 

「こんなに見えないと迷子になっちゃうわ。何処かにこの湖を案内してくれる、心優しい妖精(⑨チルノ)はいないものかしら」

 

 

「――――心優しい兎(狂気の兎)ならいるわ」

 

 

大幣を肩に乗せながら、面倒くさそうに呟いた霊夢への返答は

 

背後から飛来する銃弾型の弾幕であった。

 

 

「あら、それは嬉しいわね。早く案内してくれる?」

 

「ええ、今すぐ案内して(叩き落として)あげるわ」

 

 

何でも無いことのように会話を重ねながら

 

少女達は弾幕を飛ばし合う。

 

挨拶ナシの奇襲(アンブッシュ)であったが

 

其処は博麗の巫女、一撃で殺られるようなヘマはしない。

 

 

最初こそ押していた狂気の兎であったが

 

今や場を支配しつつあるのは博麗の巫女であった。

 

「…くっ 速い……!」

 

「貴女は逆にいつもより遅いわね。そのくせ威力だけはいつもの2倍……いえ、3倍はあるかしら。一体どんなドーピングをしてるのかしらね」

 

 

余裕綽々といった様子の霊夢は、弾幕バトル中にもかかわらず

 

弾幕の分析まで垂れ流し始めた。何て奴だ。

 

 

「貴女に教える義理は無いわ……!!」

 

「そう。ならもういいわ」

 

「え―――」

 

 

今まで無感情に弾幕を捌き続けていた霊夢が急に距離を詰める。

 

あまりの速さに瞬間移動かと錯覚するほど。

 

思わず兎は防御姿勢を取り、目を瞑ってしまう。

 

 

「―――ツマラナイわね。貴女本当に竹林の兎かしら」

 

「……なんですって?」

 

 

決定的な一撃が訪れず、恐る恐る目を開く兎。

 

其処には気怠そうに大幣を担いだ博麗の巫女がいた。

 

 

「いつもの冷静さが無い。動きも弾幕も直情的で真っ直ぐ過ぎる。何より―――全然狂気が感じられないわ、今の貴女」

 

「―――私が雑魚だと言いたいのかしら!?」

 

「そういうとこだって言ってるのよ。はぁ……埒が明かないわね。ある意味、タチが悪いわ」

 

「私は負けない!いいえ!ここから一歩も貴女を進ませないわ!あの御方の」

 

「あーはいはい、分かったわお疲れ様」

 

「ふぎゅ」

 

 

一瞬で背後に回った巫女が、兎の首筋に手刀を叩き込む。

 

恐ろしく速い手刀……私でなければry

 

 

 

 

順調に兎を失神させた巫女は、兎を地面に置き目を細める。

 

そのまま湖の畔を歩いていく巫女は思索へと耽り出した。

 

異変解決に向かった時から感じている違和感の正体に

 

何となく予想がついてきたからだ。

 

 

「上書き―――いえ、再編の類かしら。異変を巻き戻し再び起こすのが目的?何かを変えようとしている?やり直し?」

 

―――誰が。何の為に。

 

最後は言葉に出さず、心の中で反芻する。

 

結論は直ぐに出た。

 

―――誰が黒幕にしろ、これだけ霧が紅いのだ。

 

段々と見えてきたあの紅い館に行けば自ずと答えは見つかるだろう。

 

 

そう判断した巫女は

 

もう何度も訪れているせいで通り慣れた館の門を潜り抜ける。

 

 

何時もなら門扉横で居眠りしている

 

門番の不在に一抹の寂しさを覚えながら。

 

 




???「まだ鈴仙は残っているか」

???「兎だけです」

数学でマイナスとマイナス掛けたらプラスになる的な



前書きでもお伝えしましたが
大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
暫く執筆から離れておりましたが、この度復活することが出来ました。
これも支えて下さった皆様のおかげだと思っております。

拙作ではありますが、今までお付き合い頂けて感謝しております。
よろしければ今後とも宜しくお願いいたします。



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