ペコの大冒険in東方 (もちもチーズ)
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第1幕

 幻想郷。忘れ去られたモノ達が集う世界。そんな摩訶不思議な世界を管理する者。管理者、八雲 紫。そしてその式である八雲 藍。

 

 外の世界と幻想郷の狭間に存在する彼女らの空間は決して何者にも侵されることのない空間である。である、はずだった。

 

「「────────!」」

 

 結界で隔離されているこの場所に万が一誰かが入ってきた場合、彼女らはそれを察知することが出来る。動いたのは、式の藍だった。

 

「紫様。いかがいたしますか?」

 

「とりあえず無力化して連れてきなさい。処するかどうかはここにきた目的を聞いてからでも遅くないわ」

 

「御意」

 

 スッと藍の姿が消える。

 1人となった空間で紫は思案に更ける。

 

(この空間に足を運べるということはそれなりの力の持ち主ということか)

 

(荒事になった場合は、藍1人じゃ厳しいかもしれないわね)

 

 犯人の目的は。能力は。様々な疑問を思い浮かべながら藍からの知らせを待つ紫の背後から藍が現れた。

 

「思ったより早かったのね。で、何があったのかしら?」

 

「そ、それが・・・」

 

 その先を一向に口にしない藍を訝しげに思い、紫が振り替えると、出ていった時と変わらぬ藍がそこにいた。脇に目を回した少年を抱えながら。

 

「え?」

 

「ご、ごはん・・・」

 

「行き倒れみたいでして」

 

「あ、あらあらまぁまぁ」

 

 流石の展開に紫も動揺を隠せず扇子で口元を隠しながらほほほ、と笑うしかなかった。

 

 それから数時間後、ものすごい勢いで食べ物を腹に詰め込んでいく少年の姿がそこにあった。

 

 その量は明らかに少年の体積を越えていたが、少年が食べる手を止めることは一向にない。

 

「藍お姉さん。おかわり!」

 

「ま、まだ食べるのか?流石にそろそろ・・・」

 

「次いつご飯食べれるかわからないから今食べときたい!藍お姉さんのご飯美味しいし!」

 

「そ、そうか?仕方ないな」

 

「藍、乗せられてるわよ。君、名前は?」

 

 話が一向に進まない為、紫が話を切り出す。

 

「ないよ!」

 

「・・・・・どうやってここに?」

 

「んー覚えてない!気付いたら藍お姉さんに抱えられてた」

 

 紫の眼がスッと細くなる。それは強者の眼だ。幻想郷の管理者である紫はこの少年が如何様な目的でここへと訪れたかを確かめなければいけない。例えそれが少年の心の尊厳を踏みにじる"最低な行為"だとしても。

 

「─────!? 」

 

 数拍置いてから、紫が動揺を見せる。

 

「どうしたの?紫お姉さん」

 

 少年に悟られるほどに動揺を隠せきれなかった紫だが、今は"そんなこと"は気にしていられなかった。数百年、もしくは数千年生きてきた紫にとってそれは初めてのことだった。

 

(私の能力が効かない!?)

 

 紫の能力は万能であり、弱点と呼べるものはほぼ存在しない。それは長年生きてきた紫の中で経験に基づいて言える確かなことだ。

 

 唯一その特性上、明と暗、白と黒をはっきりつけるという、物事をあやふやとする紫に対して正に天敵とも呼べる能力をもつ閻魔だけが紫は苦手だった。

 

 だが閻魔に対しても能力が効かない、ということはなかった。無論に能力を行使されれば紫の能力は上書きされ、消えてしまうが通じることは通じるはずだ。

 

 だが目の前の少年には効かなかった。最初からなかったようにかき消された。

 

(この子、もしかして能力を無効化する能力でもあるの?)

 

「紫様?」

 

 藍の声に紫はハッとした。どうやら思案に更けすぎていたようだった。

 

「あ、あぁ。ごめんなさい。少し考え事をね」

 

「それでこの子の処遇ですが・・・」

 

「そうね。もう少し身柄を保護するわ。その後は・・・霊夢にでも任せようかしら」

 

「そうですね。そうしましょう」

 

 人、それを丸投げといった。

 

(とりあえずこの子の正体がわかるまでは預かるしかないわね)

 

 そうして名も無き少年は幻想郷の管理者の元への居候が決まった。

 

(二人とも何の話をしてるんだろう?)

 

 本人を差し置いて。

 



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第2幕

なんかシリアス風に進みますが最初だけです。伏線とかは後々回収にあがります。


 八雲邸に突然現れた謎の少年。名前は無く、紫の能力が効かなかった。紫はとりあえず少年の正体がわかるまで八雲邸に住まわせることにした。(前回のあらすじ)

 

 それから1週間が経った。その間にも紫は能力で様々な干渉を行ってきたが、どれか1つでも成功することはなかった。

 

 藍は少年の素性を聞いた。曰く、親はおらず、今までは野宿で生活を送っていた。人食いの妖怪が蔓延る中で、生きていられたのは偶然か必然か。

 

 そしてその日の晩だった。

 

 藍がものすごい形相で紫の寝室を開けた。

 

「紫様!あの子が消えました!」

 

「・・・なんですって?」

 

 寝てる中を起こされ、不機嫌そうに目を細めぐしぐしと目をを擦る紫。

 

「場所は掴める?」

 

「はっ!・・・っ!?」

 

 藍がぴくりと肩を揺らす。

 

「どこにいるの?」

 

「南の────離れです」

 

「っ!急ぐわよ!」

 

 そこにはかつて紫と闘争を繰り広げ、紫によって封印された妖怪がいる。自らの思うがままに力を振るい、妖怪とはこうあるべきと紫に説いた妖怪。人と妖怪の暮らす紫の理想郷を鼻で笑った妖怪。厳重な結界に守られているはずのあの場所に、何故少年が入れたのか。

 

 自らの能力で空間と空間を繋ぐ。空間には割れ目が走り、中からは無数の目が紫を覗く。だが紫に躊躇いはなく、藍も続きその中へと入る。

 

 目玉だらけの気味の悪い空間を一瞬で抜けると、そこには少年の姿があった。

 

「よ、よかった。間に合───」

 

「遅かった!」

 

 藍の安堵の言葉を遮って紫は歯噛みした。少年の中に既にヤツはいる。

 

『おいおい何年ぶりだよ八雲。ちっとも変わってねえなぁ俺もお前も』

 

 元気に走り回っていた少年の姿はそこにはなく、ゆらりとただただ暗く笑う少年の姿がそこにはあった。

 

『あの夢物語をまさか本当に実現させちまうなんてなぁ。流石は俺を封印しただけのことはあるぜ』

 

「今更ね。その子の身体を乗っ取ってどうするつもりかしら?」

 

『あん?決まってんだろうが。俺の妖気を徐々に慣らしていって俺の器にすんだよ!』

 

「させると思うかしら?」

 

『こいつは幻想郷の住人だ。いわばてめえの家族みたいなもんだろう?攻撃できるのか?てめえに?』

 

「っ!」

 

 読まれている。動かそうとした手を止める紫。

 

『また弱くなったんじゃねえかぁ?』

 

「貴様ぁ!!」

 

「やめなさい!藍!」

 

 激昂する藍を紫が止める。ここで藍が少年を攻撃してしまえばこの楽園は終わりを迎える。それは紫の夢が潰えることに等しい。

 

『くっくっく。まぁいいさ。今はこいつの身体を乗っとるのが第一だ。じゃあな、しばらくはこいつの中でゆっくりさせてもらうぜ』

 

 その言葉を皮切りにパタリと少年が倒れる。

 

「どうやら気絶しているだけみたいですね」

 

 少年を抱えながら藍が言う。

 

「そう」

 

 藍の抱える少年からは抑えきれんばかりの妖力が溢れだし、あの妖怪が少年の中に確かに存在することを証明していた。

 

「藍・・・」

 

「どうしました?」

 

「私は、弱いのかしら?」

 

 その直後、ハッとした紫はなんでもない、忘れてと藍に告げ寝室へと戻っていった。

 

「紫様・・・」

 



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