デート・ア・ライブ 王花ディバイナー (メカレン)
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王花フリーダム
1章


時間軸は十香封印当たりぐらいです



私は他の人よりは恵まれた人生を送っていたはずだ……常人をはるかに超越する豪運と容姿を

持っているのだから間違いなく幸運だろう。

ただ、私の人生に不幸があるとすれば、それはおそらく生まれてきた性別を間違えたことだろう。

いや、正確には――

 

「この(外見は)超絶美少女であるこの私の性別を【男】にするなんて、

 神がおかした最大の過ちといっても過言ではないわね。」

 

「むしろお前が間違えてるんだよ。」

 

失礼な……というか、この周り一面が白色で覆われているこの空間に、

私以外の人間がいたなんて――

 

「正確には【人間】ではなくて【神】なんだがな。」

 

声に出してないはずなのに、私が思っていることに対しての回答が帰ってきた。

まるで心を読まれているような……そのまえに【神】?

いや、そもそも私は()()()()()()。とすれば、ここは天国なのかしら?

 

「まず、心を読んでいるかに対しての答えだが、Yesだ。

 あと、確かにお前は死んだ。そしてここに来た、しかしここは天国ではない。」

 

「乙女の心を覗いたことを今は不問にするわ。じゃあ、ここはいったいどこなの?」

 

「魂を次の世界へと送り出す場所だ。もっとも死んだ人間全員ではない、お前は特別に選ばれて

 ここへ運ばれたのだ。ちなみに選定方法は抽選な。」

 

さすが私の豪運。死してなお私を良き方へと導くなんて、さすがだわ!

 

「得意顔になっているところ申し訳ないが、次の世界へ送り出すためにやらなければならないこと

 が二つある。」

 

「どんなことかしら?試練とかでもやるの?」

 

「いや、そういうのではない。選ばれた人間には必ず神が力を授けなければならないのだ。

 そして、送りだす人間の願いを一つ叶えてから送り出さなければならない。これは必ずだ。」

 

「じゃあ、私の体を女にしなさい。」

 

「もう少し悩んでもいい気がするが……わかった、次の世界では君の体を女性のものにしよう。それで君に授ける力だが、君はとても幸運だ。故にその運に関係する力を君に与えるとしよう。使い方は頭の中に直接入ってくるから説明は不要だろう。」

 

「あらやだ便利。まぁ、何はともあれ、私の夢に一歩近づきそうだから感謝するわ。

 ありがとう。」

 

「どういたしまして。あぁ、そういえば君を送る世界なのだが君とは別の世界、

 つまりはパラレルワールドで小説になっている世界なんだ。もっとも、君にはあまり関係のない事だが。まぁ、これで準備は整った、それでは新たな世界へと旅立つものよ、

 君の旅路に【神】の祝福を。」

 

「あなたにも良き祝福を。」

 

そう言い合って私は新たなる世界へ旅立っていた。

そう、私はこの新しい世界で夢を叶えるのだ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】という夢を!

いざ、新世界!私の希望にレッツゴーよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして夢と希望にあふれた私の新世界の第一歩はまるで巨大隕石でも降ってきたかのような、

クレーターができていた町並みだった。というかもしかして世紀末だったりするのかしら?

確かにどんな世界かは言ってなかったけども、まさか私の人生始まる前に世界が終わってたりなんかしないわよね……というか、本当に人ひとりいないわね。

それに、このクレーター私を中心に広がってるみたいな……とりあえず移動しようかしら、情報がなきゃどうしようもないのだし。

 

そういって私は目視で確認できる一番高い建物であろうデパートに向かおうとした瞬間、武装をした者たちに囲まれてしまった。

 

「隊長!包囲完了しました!」

 

「油断するな!一気に奴を叩くわよ!」

 

どうやら、私は彼らにとってあまり歓迎されてないらしいわね。少しでもいいから話を聞きたいのだけど……どうやら話し合いの余地はないらしいので神様から貰った力を早速使ってみることにしましょうか。というか、この力強すぎる気が……まぁ、神様から貰った力だからある意味当然と言えば当然なのだろうが。

では、ここで一つお見舞いしてやりましょうか――

 

紫をベースとしたフード付きのドレスである〈神威霊装・小径(パス)〉を身に纏いながら、

私はただこう言った

          「――〈神秘創造〉(ラドゥエリエル)

 

そう言った私の周りにはまるでタロットカードの大アルカナをイメージさせるような26枚のカードが現れて、私を囲んでいた。私はその中の一枚を手に取って

 

「【死神(デス)】 〈停止〉」

 

そういって私がカードに秘められた意味を解放した瞬間、私を囲んでいた者たちはまるで時が止まったかのように動かなくなった。

どうやら私の力は、タロットカードの大アルカナをベースとしており、それぞれのカードの意味に対応する力を使うことができるようだ。もちろん正位置だけではなく逆位置の意味も使うことができるし、対象は自分だけではなく相手や無機物など様々なものに使える。ただし使うカードまた意味によって霊力の消費は異なる(強い力ほど多くの霊力を消費)らしい。

 

「どうやら、一応の危機は脱出したらしいけど……精霊?とやらに私はなったらしいわね。」

 

力を使ったことにより、おぼろげだった私の中の知識がハッキリとしてきたようだ。

私は精霊という超常的存在になり、おまけに「霊装」と呼ばれる霊力で編まれた鎧を身に纏い、それに対を成す最強の武装である「天使」私の場合は〈神秘創造(ラドゥエリエル)〉という矛を手に入れたようだ。

その他、現界や消失そして隣界など精霊に対しての知識は手に入れたが、いまだこの世界がどのような世界かはまだわからないけど……

 

「とりあえず停止させてる間に逃げましょうか。」

 

退屈しなさそうな世界であることは間違いない。




書いてるときは意識してなかったんですけど、ものすごくふてぶてしい主人公ですね。
果たして運命の相手は見つかるのか……(ちなみに男の娘じゃなくなったから魅力が下が【検閲不可】)
あと霊力なんですが本人の素質と能力の関係上かなりの霊力を持っているという設定があります。


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2章

日下部 燎子はAST天宮駐屯地の隊長であり、ASTとは空間震という大規模災害を伴ってやって来る【精霊】という強大な力を持つ特殊災害指定生命体を武力でもって討滅するために人類が極秘に結成した特殊部隊である。

そんな彼女が部下を引き連れてある現場へと急行しているしているということは、そこに精霊が現れたということに他ならない。そうして現場に到着した彼女であるが、あるものを見た瞬間大きく動揺していた。

それは、一見するとただの少女に見えるがそうではないということが、彼女にはわかっていたからだ。

 

(新種の精霊!)

 

少し前までは<プリンセス>という精霊一体でも、歯が立たなかったのにもう一体増えるとなると絶望的な状況である。

もっともその<プリンセス>は力を封印され、今は【ある男の子】と一緒に同棲生活を送っているのだがそんなことを知らない彼女には絶望的状況に見えるのだろう。とはいえ、例え一人だとしても厄介なことには変わりはないのだが。

 

(とりあえず今はあの精霊だけみたいね。)

「全員配置につきなさい。包囲完了次第一気に叩くわよ。」

 

「「「了解!!」」」

 

いつ他の精霊が来るかわからないのだ。彼女としてはほかの精霊が来る前に早く倒してしまおうという判断だった。無論間違った判断ではなかったが……あまりにも相手が悪すぎた。

新種の精霊は紫色のフード付きのドレスを纏い、まるで【占い師】ような格好をしていて、武器のようなものは一切手に持っていなかったのや、いつも戦っていた<プリンセス>に比べると戦うような格好をしていなかったのも判断の決め手の一つであろう。無論、どのような衣装であろうと大差がないのだが……

 

 

「隊長!包囲完了しました!」

 

 

「油断するな!一気に奴を叩くわよ!」

 

そうして攻撃を仕掛けようとした瞬間、精霊が何かを呟いたと思ったら、精霊の周りにはいつのまにかカードのようなものが現れていた。

そして、精霊の周りをグルグルと囲んでいるカードの一枚を精霊が手に取り、銀色の長い髪をなびかせてながら赤い瞳でこちらを捉えて、ただ一言呟いた。

 

「【死神(デス)】 <停止>」

 

 

 

――その瞬間私たち全員の世界は止まった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈side 王花 〉

無事、私を狙う者たちから逃れたのはいいもののこれからどうしようかと、私はこれからの行動を考えていた。

とりあえず安全な場所、この地域の情報などを目標の一つとしていこう。前者はこの後、町を探索して探すしかないだろう。ならば後者を第一目標として行動しよう。

 

「この町の情報を得るなら図書館が一番の近道かしらね。」

 

今の世の中は大抵インターネットを使えばどうにかなるが、今は、そのインターネットに繋ぐツールがない以上紙媒体を頼るほかない。とはいえ図書館にもパソコンがあるかもしれないがこればかりは行ってみないとしょうがない。

 

「何か有益な情報があればいいのだけれど。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と探し回ろうと歩いたら、意外とすぐ早くに見つかってしまった。そういえば、私が昔から探し物とかするときは、ものすごい早さで目的のものが見つかってきたが今回も運が味方をしてくれたようだ。

とりあえず中に入ってみるが、どうやら誰もいないようだ。図書館の中にはパソコンがあり、ちゃんとネットに繋がるようだったので早速調べてみることにした。

 

「なるほど、どうりで人ひとりいなかったわけね。まぁ、武器を持った人たちは一応いたけれども。」

 

ここは天宮市(てんぐう)という街であり、南関東大空災という大規模な空間震で焦土と化してしまった、東京都南部から神奈川県北部の一帯を再開発して建てられた街だということが分かった。ちなみに、【空間震】とは名前の通り()()()()()という私の世界では考えられなかった災害の一種である。その空間震に対応するために街には多くのシェルターがあるようだ。おそらくこの街の人々はシェルターに避難しているのだろう。だから人の姿が見えなったのだと私は確信した。

 

そして、私の持っている知識と今手に入れた知識を合わせてみると、空間震とは精霊がこっちに現界にするときの合図のようなものなのだろう。そしてこれらのことから推測するに、あの武器を持った人たちは精霊が空間震を引き起こすことを知っているために、原因であろう精霊を倒すことによって対処しようとする組織なのだろう。

とはいっても、どうして精霊が現れると空間震が起こるのかはまだ分からないが一通りの知識は手に入れたはずだ。

あとは、図書館にあるこの町の地図を一つ拝借しておこう。大丈夫、いずれちゃんと返すつもりではある。いつ返すかは不明であるが……何はともあれ目標の一つは達したのだ。あと図書館でやることはないだろうと思い、私は図書館を後にした。

 

「次にすることは安全な拠点を探すことよね。とは言っても……あぁ、そういえば〈神秘創造(ラドゥエリエル)〉の中の一つに【隠者(ハーミット)】というカードがあったわね。」

 

隠者(ハーミット)】というカードに込められてる意味の一つに<秘匿>というものがあったはずだ。

これで安全に隠れれるはずだ、あとは拠点を探して【隠者(ハーミット)】で隠れればいいだけだ。とりあえず当面は凌げるはず。ならば――

 

「〈神秘創造(ラドゥエリエル)〉 【隠者(ハーミット)】 〈秘と―― 」

 

 

 

そう言おうとした瞬間、私の前に【ウサギの耳のような飾り物のついたフードを被った少女】がひょこっと現れた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

これが【隠者(ハーミット)】のカードを持つ精霊と〈ハーミット〉と呼ばれた精霊の初めての出会いである。

 

 



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3章

雨がいまにも降り始めようとしているこの街に独りぼっちの女の子がいた。

その女の子は、フランス人形のように美しく、海を幻想させるような色をしているふわふわの髪に、蒼玉(サファイア)のように綺麗な瞳を持っていた。

そんな少女は一体何者なのか、何故ここにいるのか、など様々な疑問が普通は湧いてくるだろうが、そんな疑問を吐き出そうとする前に、彼女がこちらを見つめて今にも泣きそうな顔をしだしたのだ。

 

(えっ、何?私、彼女に何かしたかしら。確かに霊装という怪しい恰好をしているけど、そんな泣かれるほどかしら……というか、初対面でしかも年下の子に泣かれるなんて、かなりショックなんだけど……とりあえず――)

 

「あのー、初めまし――「ひっ!」………(大丈夫。私の心はこんなことじゃ折れないわ。)」

 

 

実際のところ、結構折れかかっているのだが彼女が尋常ではない怯え方をしているのは何か理由があるはずだ。

ならば、優しくそして根気強く彼女に話しかけてみよう。

 

 

「大丈夫よ。私はあなたに危害を加えたりしないわ。私の名前は【橘 王花(たちばな おうか)】っていうのよ。よろしくね。」

 

「あっ……よ、四糸乃(よしの)で……す。」

 

「四糸乃ちゃんって言うのね、とてもいい名前ね。ところで、すごく怯えてるみたいだけど何か怖いことでもあったのかしら。もしそうだとしたら、あなたがよければだけど私に話してみない?できる限りの力になるわよ。」

 

こういう怯えてる子には頼りになる味方が必要なのだ。

それに、こういう可愛い子に怯えた顔は似合わない。似合うのはとびっきりの笑顔だろう。

そうして彼女の返答を待ってる私に、彼女が勇気を振り絞りこう言った。

 

「いたく、しません……か?」

 

「大丈夫、最初に言ったようにあなたに危害は加えないわ。それで、そういうことを聞くってことは誰かに痛めつけられてるの?」

 

「は……い。」

 

許せないわね。こんな幼気な少女を痛めつけるなんて万死に値するわ。

というか、こんな少女に誰が危害を……親か兄弟、あるいはクラスメイトかしら。

 

「ねぇ、あなたを痛めつけてる人はどんな人なのかしら?」

 

「そ、れは……いっぱい武器を……持った人たち……が。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……武器を持った人たち?もしかしてその人たちって私を襲った組織かしら?もしそうだとするならば、その組織が狙うのは精霊、つまり彼女は――

 

「ねぇ、あなた?【精霊】言葉を聞いたことはないかしら?」

 

「えっ!そ、れは……」

 

どうやら聞き覚えがあるらしい。というより微かだけど彼女から霊力を感じることができる。とはいってもまだ力を使い慣れてないせいで、意識しなければわからなかったが……おそらく彼女の奇抜な格好も霊装なのだろう。というか、今まで気づかなかった私って……

とにかく、彼女が【精霊】であることはほぼ確実だろう。あれっ?ということは――

 

「えーっと……その人達なら私が退治しちゃったわ。というか私も精霊なのよ。」

 

「!?……お、姉さんも……ですか?」

 

「えぇ、そういった反応をみるにあなたも精霊みたいね。でも私、この街に来たの初めてなのよ。だから私と一緒に行動してくれればとても嬉しいのだけれども。」

 

「あっ、……わかりました。」

 

 

どうやら同じ精霊だということと、会話をし続けた結果、少しは彼女の怯えも和らいだみたいだ。

私としてもこうして話ができるような人間……もとい精霊ができて少し安心している。

正直このまま、一人見知らぬ土地で武器を持って追いかけられるのはあまりにも辛すぎる。

 

 

『いやー、【よしのん】もしかしてナンパされちゃった?よしのんモ・テ・モ・テ!』

 

「いえ、ナンパしたつもりじゃないんだけど。むしろ私がされたいというか、正直このまま白馬に乗った王子様あたりでも連れ去ってくれれば……ふ、腹話術!?」

 

『どうしたのー、あっ、もしかして緊張してるの?いやー、実はよしのんもこうして誰かとどこかに行くのは初めてなんだよねぇ~。これが噂の初体験!?』

 

 

それ絶対違うと思うわ。それよりも、いきなり四糸乃ちゃんがパペットを使って腹話術を始めてきた。というか、このよしのん?とかいうパペット、四糸乃ちゃんと代わってすごい馴れ馴れしいわね。まぁ、こういう態度は嫌いではない、むしろ好きな方だ。

しかし、こうもガラリと性格が変わるとなるとこのパペットに喋らせてるのが彼女の本心なのだろうか?それとも二重人格か……どちらにせよ、あまり触れない方がいいのは確かだろう。

私の直感(適当)もそう囁いてるし。

 

 

「とにかく、行きましょうか。あんまり時間が経つと――『あー……ごめんね。もう時間切れかも』……?それって――」

 

そういった瞬間、四糸乃とよしのんはまるでテレポートしたかのようにどこかへ消えていった……

 

「あぁ、これが消失(ロスト)なのね初めて見たわ……いや、ちょっと待ちなさい。せっかくあそこまで仲良くなったのにもうお別れ!?早すぎないかしら!?」

 

そうやってあたふたしてるうちに、どうやら例の組織に掛けていた【死神(デス)】のカードの力も解けかかっていることに気付いた。もう一度あの組織と対面なんて面倒くさすぎる。

とりあえず、さっさと【隠者(ハーミット)】のカードを使うとしよう。

 

「〈神秘創造(ラドゥエリエル)〉 【隠者(ハーミット)】 〈秘匿〉 」

 

これで、隠れることができたはずだ。あとはゆっくりと拠点を見つけよう……いっそ、本当に王子様か何か私をさらってくれたほうが、気が楽になる気がする。

などと考えている彼女には、実はこの出会いこそが王子様フラグ、もとい旦那様フラグだとはこの時はまだ気づいてはいなかった……



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4章

日下部燎子は拠点である陸上自衛隊・天宮駐屯地に部隊全員を引き連れて帰還していた。

あの新種の精霊が私たちに何かした瞬間、いきなり目の前から精霊が消えたのだ……いや、それだけではない、時間を確認してみると私たちが精霊と戦闘を開始しようとした時刻からかなりの時間が過ぎていたのだ。

まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……気分としては狐に――いや、精霊につままれた感覚だ。

すぐさま、新種の精霊を追跡しようとしたが、街の中からは精霊の反応が出なかった。おそらく、もう"消失"してしまったのだろう。一応、空間震による被害は出たがそれ以外は特に大きな被害はなかったため、ある意味実質的な目的である精霊による被害を抑えるという目的は果たされてはいたのだが……

 

「被害はなかったとはいえ、何もできなかった……か。」

 

とはいえ、「何もできませんでした」では報告はできないのである程度きちんとした報告はさっき上層部にはしておいたのだが。それよりも今私がすべきことは――

 

「何も……できなかったっ!!」

 

この荒れている部下を落ち着かせることだろう。

いつもは冷静で感情をめったに出さない彼女ではあるが、こと精霊に関しては憎悪を露わにするのだが……どうやら、今回のことに関してはなおさららしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女、【鳶一 折紙(とびいちおりがみ)】は荒れていた。それもそうだろう、いままでASTに入って精霊と戦ってきたのだ。〈プリンセス〉だって、消滅させるまでには至らなかったものの精霊と戦ってきたと彼女は自負していた。しかし、今回の精霊には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まるで、立っているステージが違うかのようなそんな感覚に彼女は襲われていた。

 

「一応言っておくけれども折紙一人の責任じゃない。あんまり、思いつめると潰れるわよ。」

 

「問題ない。初見だから対処はできなかったが、次こそは……」

 

「だから……はぁ、まぁいいわ。――っと、そういえばついさっき新種の精霊の名前が決まったわ。識別名は〈()()()()()()〉に決定したわ。」

 

「〈()()()()()()〉?……占い師ということ?」

 

「えぇ、まぁ見た目やカード使ってる姿からそう決められたらしいわ……安直よね。」

 

「例え、どんな名前だろうと私には関係ない。今度こそ必ず……。」

 

そう必ず倒す。それこそが私がASTに入り、そして精霊をと戦う理由なのだから……

しかし、そんな彼女が闘志を燃やしている精霊は今――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「念願の拠点をゲットしたわ!()()()空き家があってよかったわ……しかも、家具まで残っているなんて最高だわ!さっすが私ぃ!!」

 

拠点を手に入れてはしゃいでいた。

とはいっても、さすがに電気や水は通ってはいなかったが拠点としては十分だろう。

えっ?不法侵入?そんなことは知らんなぁ……とはいわんばかりに彼女はくつろいでいた。

 

「正直この一日でいろんなことが起こりすぎよ……疲れたわぁ。」

 

この見知らぬ世界にやってきて、武器を持った連中に追い回されて、妙に怯えている精霊にで会ったのだ。なかなかに濃い一日であっただろう。

 

「とりあえず、今日はもう寝るとして当面の問題はお金かしら。どこか雇ってもらえるところを探さないと。」

 

とはいうものの、精霊の力を行使すればほとんどの問題が解決できるのだが頼りすぎると自分の中の論理感が崩れてしまいそうな気がしたのだ。そもそも不法侵入してる時点でもう手遅れだって?……気にしない気にしない。

 

「というわけで、おやすみなさい――」

 

と彼女は誰に言うわけでもなくそう呟いて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃えるように赤い髪をした少女は今、まるでSF映画やアニメに出てくるような艦の中で部下からの報告を受けていた。

 

「新たに精霊が出現したようです。それで、つけられた名前は〈ディバイナー〉だそうです。」

 

「〈ディバイナー〉ねぇ……ちなみに、その精霊の画像とかはないのかしら?」

 

「それが今のところないようです。ただ紫色のフード付きドレスを纏っているとの報告が。司令……彼にこのことは?」

 

「話してないわ。ただでさえ今は〈ハーミット〉だけで精いっぱいなのにもう一人となるとさすがにきついわ。それにその〈ディバイナー〉は好戦的な精霊ではないのでしょう?」

 

「えぇ、ですが噂によれば総合危険度はAAAだと判断されたようです。」

 

「十香と同じ総合危険度……とりあえずこの件、()()には内緒にしておきなさい。今は〈ハーミット〉に対象を絞るわ。もちろん、あとで〈ディバイナー〉には必ず対処するわ。」

 

「わかりました。それでは司令これで失礼します。」

 

「えぇ、お疲れさま。ゆっくり休みなさい。」 「あと司令、寝る前に罵倒してくれま――」

 

そう部下の男が言い終わる前に通信を切った。いつものやり取りなのだが、どうしてこいつはこうなのだろうか。有能である=まともな人間ではないのを神様あたりに文句をつけそうになった……しかし、新しい精霊とは。どうにも私には悩みの種は尽きそうにないらしい。

 

 

 

そんな各々の決意や悩みをよそに夜は深く更けていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、当然夜が更ければ、いずれ夜は明ける。

そんな濃い一日から数日たったその日、各方面で話題になっていた精霊はいま――

 

「3番のアジフライ定食できましたー!」

 

定食屋さんの厨房で料理を作っていた。なぜこんなことをしているかというと、無論お金のためである。

数日前に定めた、お金を稼ぐという目標のため私は働き口を探していたのだが、当然ながら戸籍がないのだから身分すら証明できないのだ。雇ってくれる所などどこにもあるまい……一応、精霊の力には頼りすぎないつもりでいたが、今の私にはこの精霊の力以外に持ってるものはなかった。

なので、今回は定食屋さんの店主さんに精霊の力――【悪魔(デビル)】の〈誘惑〉の力を使ってバイトの面接をしてもらったのだ。誤解のないように言っておくが、あくまでバイトの面接をしてもらっただけなので受かったのは自分の実力と公平な面接の結果である。

あと厨房という裏方担当なのであの組織の人間がお店に来ても気づかないだろうし、霊力は【隠者(ハーミット)】の〈秘匿〉により霊力だけを隠してる状態なので、おそらくあの組織にばれる心配はおそらくないだろう。

 

(そういえば、霊装を解除すれば代わりに服を構成できるのよね……私、何気に衣食住の全てがそろってないかしら?)

 

実はそうなのだ。霊装を解除することにより『衣』服を作れる、定食の賄や給料などで『食』料を確保、『住』居も……確保?しているが、一応、この世界に生活基盤を構築できたのだ。……しかし、生活基盤が整ったいま、冷静に考えてみると私にとって大変な深刻な問題が浮上してきたのだ。それは――

 

「私、戸籍がないと結婚できないんじゃ……いえ、そもそも今の状態じゃ碌に運命の相手を探すことすらできないわね……。最悪精霊の力を使って……えぇ、大丈夫よ悪いことするつもりはないんだから、むしろ一人の乙女が幸せになれるのだからむ問題ね、えぇ……。」

 

などと、"やっぱり論理感が振り切れてるのでは?"と疑いたくなるような事を口走っている最中、外からけたたましいほどの空間震警報が鳴り響いたのだ。空間震が起こるということは精霊が出現したということだろう……つまり――

 

「四糸乃ちゃんが現れたのかしら?……なら――」

 

「お客様!危ないのでシェルターの中に!王花ちゃんも危ないから早くシェルターに避難しな!」

 

「わかりました!いま避難しまっ――!」

 

シェルターの中に入ってあとで抜け出して四糸乃ちゃんの所に行こう。そう思ってシェルターの中に入ろうとした瞬間、店が……いや、店だけではない()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

こんなことができるのは超常的存在である精霊しかいないだろう。あの四糸乃ちゃんが自らの意志でやったとは考えにくい、つまり四糸乃ちゃんがこれを使わざるをえない状況に陥ってるか、もしくは他の第三の精霊のしわざか……どちらにせよ、あまり時間はなさそうだ。ならっ――!

 

「すいません店長さん並びにお客様方……〈神秘創造(ラドゥエリエル)〉【(ムーン)】〈()()〉……いまから、私はシェルターに入らずにあるところに行きますが、みなさんは気にしないでシェルターに避難を。」

 

正直使いたくなかった力の一つではあるが、背に腹は代えられない。

今は一刻も早くこの騒動の原因を探り対処しなければならない。そう考えた私は周りに人がいないことを確認したのち霊装を纏って人間離れしたスピードで騒動の中心へと向かっていった……そんな私と同じく、この騒動を止めようとしている少年のことなど知らないままに――



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5章

橘王花は焦っていた。徐々に下がっていく気温、凍っていく街、そしていま危機に陥ってるかもしれない四糸乃のことを考えると、悠長にはしていられなかった。もし四糸乃のことが単なる杞憂ですむのなら、その方がいいがそうでない場合を考えると一刻も彼女を早く救わなければならない。

 

(どこ!いったいどこに……あれは氷のドーム?……いえ、吹雪が渦巻いてそう見えるだけね。でもおそらくあそこが今回の騒動の中心!ならっ――!)

 

そう考えた私は、吹雪のドームがある方向に全速力で向かって行った。そして、ようやく目的の場所に到達した私だが、予想外の状況にかなり困惑していた。なぜならそこにいたのは、例の組織の隊員達だけではなく、【()()()()()()()()()()()()()()()()()()】と【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】がいたからだ。

 

(少女の方はおそらく精霊ね。ならあの子が今回の騒動の原因かしら?いえ、おそらく違うわね。どちらかというと、明らかに今回の騒動の中心はあのドームの中にあるわ。それにあの組織の人たちもまるであの少女の存在が予想外だという反応をしているし……なら、少年の方かしら?でも、あの子は人間のようだし、やはりあの中には別の精霊が……四糸乃ちゃんがいるはず……えっ?)

 

 

 

 

 

 

そう思考を巡らせていた最中、突如少年がドームに近づいて行ったのだ。あの中に入っていくのは単なる自殺行為である。無論人間はおろか精霊ですら無事ではすまないだろう。

そんな少年の行為を止めようと思ったが、私が止めるより少年がドームの中に入る方が早いと判断した私は焦って――

 

「――っ!?ら、〈神秘創造(ラドゥエリエル)〉【悪魔(デビル):逆位置】〈回復:付与〉 並びに 【(ストレングス)】〈不撓不屈:付与〉——って!一体何を考えてるのよあの少年は!?」

 

なんとか少年がドームの中に入る前に、カードの力を少年に付与することができたが、()()()()()ではいずれ力尽きて死んでしまうだろう。そうなる前に少年を救わなければ。そう思い、ドームの中に突入しようとしたが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「おまえも、奴らの仲間か?とにかくシドーの邪魔はさせんっ!」

 

「どきなさい!急がなければあの少年が――」

 

「少年?……シドーのことか?とにかくシドーは四糸乃という娘を助けに行くために頑張っている。その邪魔は「――ちょ、ちょっと待ちなさい!」……む、なんだ?」

 

「そのー……シドーとかいう少年は四糸乃ちゃんを助けるためにドームの中に入っていったのかしら?」

 

「む、おまえはあの娘の知り合いか?」

 

「えぇ、そうよ。ということは、やはりあの中には四糸乃ちゃんが……」

 

「大丈夫だ!きっとシドーが必ず何とかしてくれる。私のときのようにな!」

 

"大丈夫"、そう言い切った彼女の顔はどこか誇らしげのある顔をしていた。そんな誇らしげな顔をしている彼女を見ていると、私も彼がきっと四糸乃ちゃんを救ってくれると信じてみたくなるような気分になっていた。

実際のところ、おそらく策はあるのだろう。精霊の彼女ではなく、人間である少年の方がドームの中に入っていったのだ。どちらの方がより長く耐えれるかといったら、もちろん前者だ。しかし、わざわざ少年の方が入っていったということは、あの少年には吹雪の中を耐えれる策があるのだろう。そして四糸乃ちゃんの方にも……

 

「わかったわ、そのシドーくんのことを信じるわ。四糸乃ちゃんには力になるって約束をしたから……私にも何か貴方達の手伝うことはないかしら。」

 

「おぉ!手伝ってくれるのか。ならば奴らを止めるのを手伝ってくれ。」

 

「了解した――」

 

"了解したわ"そう言い終わる前に白いショートカットの髪をした少女が、光の刃を握りこちらへ突っ込んできた。

おそらく狙いは剣を持った彼女ではなく、私だろう。

 

(〈ディバイナー〉は直接戦闘するタイプではないはず。ならば、何かする前に一気に仕掛け――っ!?)

 

「甘いっ!」

 

こちらに向かってくる少女が刃を振るう前に、私は少女の懐に潜り込んで刃を振るおうとしていた腕を抑え、少女の胸に掌底を叩き込んだ。しかし彼女もわざと後ろに吹き飛ぶことにより、衝撃を流したようだ。とはいえ相応のダメージは負ったみたいだが。

 

「う、くっ……」

 

「あなた、少し油断してたわね。接近戦に持ち込めば何とかなると思ったのかしら?私、武術の経験はそれなりにあるのよ。それに、そちらも武術の経験があるみたいだけど、まだ私の方が腕は上みたいね。」

(けれども今日は【(ムーン)】に【悪魔(デビル)】それに【(ストレングス)】と3枚もカードを使った上に、店を出るときに使った〈洗脳〉で霊力を大量に消費したし、少年に付与した力がフル稼働でしているから、前回のように〈停止〉させるには難しいわね。それにできたとしてもあまり長くは止めることはできないでしょうし……)

 

それならば、あとはこの身一つで対処するしかない。

それに、私だけではなく頼もしい味方もいるのだから。少年が四糸乃ちゃんを助けるまで頑張るだけだ。

 

「というわけでよろしくね。あぁ、ちなみに私の名前は橘王花っていうのよ。よろしくね。」

 

「うむ、私の名前は【夜刀神 十香(やとがみ とおか)】という名だ。シドーが名付けてくれたのだぞ。」

 

「そう、十香っていうのね……とてもいい名前ね。さて、それじゃあ、私たちの戦争を始めましょうか。 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果を言うと、しばらく例の組織と戦っていたら、氷のドームは徐々に勢いを失い消えていった。おそらくシドーくんが四糸乃ちゃんを救ってくれたのだろう。その証拠にドームが消えた一瞬、少年と四糸乃ちゃんの二人が無事でいるのを確認できた。但し、四糸乃ちゃんが半裸状態なのは気になったが……それはともかく、いつの間にかシドー君と四糸乃ちゃんそして十香が消えていたので、私も組織に追われないようにさっさとその場から立ち去った。……といっても、十香ちゃんが白い髪の少女を相手取ってる間に、組織の人間を私がほとんど叩きのめしていたので追手などは対して来なかったが。

そんなわけで、私の濃い一日は終わりを迎えた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方、最新鋭空中艦である〈()()()()()()〉に士道たち、三人は無事帰還していた。

そこでは、十香、四糸乃そして士道の三人が顔を合わせて会話を始めていた。が、どうやら士道の陰に隠れている四糸乃を見ると十香に苦手意識を持っているらしい。

 

「大丈夫だ四糸乃。こいつは十香。俺と一緒に——お前を助けてくれたんだ。」

 

「……いや、私だけではない王花も一緒に手伝ってくれていた。」

 

「王、花さん……も?」

 

「王花?一体誰なんだ、その人って。」

 

「わ、たしと同じ……精霊で、す。」

 

「――っ!?……そういえば、結界の中に入っているとき俺の回復能力とは違う……まるで、心と体が暖かさに包まれたような不思議な感じがしたけど、もしかしてそれも……もし、そうだったらお礼をしないとな。」

 

「うむ、礼をする前にここに来てしまったからな。今度会った時は、必ず礼をしよう。」

 

そして、彼らの濃い一日もようやく終わりを迎えたようだった……もっとも、士道が一日を終えたのは、妹にたっぷりと説教されてからだったが……




とりあえず、2巻の大まかな内容はこれで終わりましたね……疲れましたが結構満足してます。
ちなみに、本編で書ききれなかったので補足しておきます。
まず、王花は四糸乃の霊力を読み取れなかったのか?ということなんですが、霊力を帯びていた雨が多数降っていたせいで、まるでチャフのような働きをしていた。ということに加え、まだ霊力探知に慣れていなかったせいだと考えてください。もしかしたらどこかで矛盾するかもしれませんがその時は……まぁ、王花も徐々に慣れることでしょう。

一応なんですが王花は精霊になってるので身体能力は通常の人間に比べると格段に上がっていますの。それに加えて王花の元々の戦闘技術が合わさって……ということでとても強くなっております。王花強すぎない?と思った方はそういう理由だと納得してくだされば幸いです。ツヨクシスギタカナー


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王花フリーダム:エピローグ

二日前に〈ハーミット〉を取り逃がしたASTメンバーは、本拠地である天宮市駐屯地でブリーフィングを行っていた。

その内容は、人員の補充……といっても、たった一人だけ。しかも、まだ年端もいかぬ少女のようだが実力は相当なものだろう。その証拠に、彼女は単独で()()()()()()()()()()()()()()。その衝撃の事実に他の隊員が色々と質問を投げかける前に、隊長である燎子は少女に対する話題を中断させて、話題を二日前の戦闘の件へと移していった。

 

「さて……と、前回私たちはハーミットをおしくも取り逃がしてしまったわ。そして、その原因が……」

 

燎子が操作したスクリーンに映っていた画像の中には、〈プリンセス〉と〈ディバイナー〉の二人の姿が映し出されていた。

特に〈ディバイナー〉には多くの隊員がやられたため、ほとんどの人間が画面に移る〈ディバイナー〉に視線を集中させていた。

 

「前回苦汁をなめさせられた〈ディバイナー〉なんだけど、みんなに報告しなければならないことがあるわ……〈ディバイナー〉の総合危険度をAAAからSへと上げるそうよ。」

 

その報告にASTの隊員たちのみならず、補充要因である少女も動揺を隠せないでいた。

 

(あいつと同じくらい危険だってことですかっ!……厄介なことになったじゃねーですか。)

 

(私には関係ない……危険度が上がろうとやることは同じっ!)

 

これで大まかな報告は終わったらしく、あとは些細な報告を伝えた後に彼女たちのブリーフィングは無事終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。〈ディバイナー〉こと橘王花は二日経った現在、一体何をしてるかというと銭湯へと足を運んでいた。しかも、かなりの上機嫌だということが窺える……

 

(しかし、毎度のことながら銭湯のことを考えると気分が高揚するわ。確かにお風呂に入れるのは嬉しいし、私自身もお風呂が大好きだけども、肝心なのはそこじゃないのよ……私にとって一番重要なのは【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】)

 

もし、この少女が前世では男だということを知っているものがいれば、どう考えても変態のそれであるが、どうやらそうではないらしい。

 

(前世では、当然ながら女湯には入れず男湯に入るしかなかったから男湯に入ろうとしたら、周りから「えっ?男なの?」という反応が毎回返ってくるから行きづらかったのよねぇ……しかし!今の私は女なので、堂々と入ることができる。あぁ、感謝するわ神様!)

 

おそらくこんな感謝をされた神様も困惑してるだろう……「こいつに感謝されてもあんまり嬉しくねえな……」などと、どこからともなく声が聞こえてきたが気のせいだろう。()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四糸乃の封印も無事終わったことだし、次は〈ディバイナー〉……いえ、橘王花をどうにかしなければならないわね。」

 

「ふむ、しかし十香達と同じようにうまくいくとは限らんぞ。」

 

「それは重々承知してるわ。今回のことだって四糸乃を救うという利害の一致で共闘したわけで、次も同じように……とはいかないでしょうし。ただ、あまり好意的ではないようだし、どうにか穏便にことを進めたいわね。」

 

などと、どこか気だるげな女性と赤い髪の少女は、精霊である王花についての話し合いをしていたようだ。

 

「まぁ、結局のところシンに任せるしかないわけだが。」

 

「えぇ……でも、今度は絶対無茶なんてさせないんだから。」

(そう、もしもの時は私が……)

 

「とはいえ、逆にこちらが無理をして倒れたら本末転倒だぞ。」

 

「わかってるわ、夜遅くまでありがとうね。それじゃあ、おやすみなさい。」

 

「あぁ、おやすみ。」

 

精霊である王花について話し合っていた二人だが、この精霊はとんでもない曲者だということには、まだ誰も気づいていないまま、【時計の針は時を刻んでいった……】

 

 

 




というわけで次から……どうしましょうかねぇ?
とりあえず、狂三ちゃん可愛いっ!


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王花デスティニー
1章


私の目の前には少女がいた――その少女の格好を、もし普通の人が見たら"おかしな格好をしている"と思うだろう。

しかし、普通ではない精霊の私には、その格好の意味がすでにわかっていた……

 

「では、自己紹介致しましょうか。初めまして橘王花さん、私は【時崎 狂三(ときさき くるみ)】と申します。

()()()()()()()()()()()……それで、会ったばかりで悪いのですが――」

 

そう私に挨拶をした少女は黒と赤のドレスを身に纏い、手に持った銃をこちらに向けて――

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう言い放った瞬間、一つの弾丸が私の胸を貫いた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四糸乃ちゃんの事件から時は流れ、気づけば梅雨が多くなってくる六月へと突入していった。

 

「少し、暑くなってきたかしらね?」

 

そう言いながら、定食屋さんでの仕事を終えた私は銭湯へと歩いている最中だった。

定食屋で働き、銭湯で汗を流し洗って家へと帰る……少しばかりだがこの生活にも慣れてきたようだ。

 

(でも、こうしてこの世界にいると前の世界が少し恋しくなってきたわね……ふふっ、ホームシックかしら?)

 

そう冗談を思えるほど、この世界でも余裕ができたようだ……ただ、さっきからどうにもこちらを見つめる視線を感じる。

例の組織の人間かと思ったが周りには、老夫婦と男子高校生が二人そして、親子連れが一組歩いているだけだった……

 

(少し、人気のない裏路地にでも入ってみましょう。一応、〈神秘創造(ラドゥエリエル)〉の起動と【アレ】を先にを仕掛けておいて……カマでもかけてみましょうか。)

 

そう思い、人気のない裏路地へと入っていったが、まだ視線を感じるので私は――

 

「いいかげん、こそこそするのはやめてもらえないかしら?もしこれ以上するというのなら、こちらもそれなりの対応をさせてもらうわ。」

 

もし、あの視線が勘違いだったとしたら、私は誰もいない空間に話しかけている痛い子になってしまう。お願いだから勘違いではないように……その願いが通じたのか、私の目の前には少女が現れた。黒と赤のドレスを身に纏い、二丁の銃を手に持ちながら……

 

「(精霊っ!)――例え、同じ性別でも人をつけ回るのは感心しないわよ。」

 

「正直ばれているとは思いませんでしたが……やはり、只者ではないようですね。」

 

「あなたもね……」

 

こちらも私服に変えていた霊装を〈神威霊装・小径(パス)〉に戻して相手の対応をうかがっていた。

正直、四糸乃ちゃんとは違いどこか得体のしれない相手だ……

 

「では、自己紹介致しましょうか。初めまして橘王花さん、私は【時崎 狂三】と申します。()()()()()()()()()()()……それで会ったばかりで悪いのですが、貴方を食べさせてもらいますわ。」

 

そう言いながら、彼女は手に持った銃でこちらを狙いを定めて、迷うことなく引き金を引いた。

そして、銃口から出た弾丸は見事に私の胸に突きささり貫通していった……そして、私は血を流しながらそのまま地面に倒れた——

 

「……やけにあっけないですわね。もしこれで終わりだとしたら正直、興が覚めまし「じゃあ、これはどうかしら?」――っ!?」

 

そう少女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

「――ぐっ!……ど、どういう手品を使ったのか教えてほしいですわね……」

 

「自分から手品の種を教える手品師なんていると思うかしら?」

 

とはいえ、その手品の種は、私が裏路地に入るときにあらかじめ仕掛けておいた【(ムーン)】の〈幻惑〉で作った()()()()というだけなのだが……裏路地に入った私は〈幻惑〉の力で幻影を作り出して、本物の私は【隠者(ハーミット)】のカードを使って姿を隠して、幻影で彼女と会話をしていただけという種さえ知ってしまえば何ということはないものだった。

 

「きひひ、ひひ、確かにその通りですわね。メインディッシュをいただく前に前菜を……などと軽い気持ちで挑んだわけではありませんが、どうやら【私】ではかなわないようですわね。」

 

「メインディッシュ……?一応聞いておくけど、私が前菜としてそのメインディッシュとやらは一体誰なのかしら?」

 

「秘密ですわ……ただ、そうですわね。ヒントを差し上げるとしたら――とても()()()()()()ですわ。」

 

「魅力的……ね。一度でいいから私も会ってみたいわね。」

 

「大丈夫ですわ。貴女もいずれその方と出会うはずですわ。とはいえ、先に私が食べてしまうかもしれませんが。」

 

?……彼女には何か確信めいたものがあるのだろうか。まるで、私がその人と会うのが必然だというような顔をこちらに向けている。というか、そんな魅力的な人ならぜひ会いたいが……まずは、目の前にいる彼女をどうにかしなければならない。

 

「あらあら、とても怖い顔をしますわね。そんな、怖い顔では殿方が逃げてしまいますわよ。」

 

「そうね、あなたが私に倒されればこんな怖い顔をしなくても済むのだけど。」

 

「それはいけませんわね。でも、私もやることがあるので倒れるわけにはいきませんの……それに、そろそろ日も落ちてきたころですし……ここらへんで失礼いたしますわ。」

 

「くっ!待ちな――」

 

私がカードを使って動きを止めようとする前にその場を立ち去られてしまった……

しかし、彼女が言っていたメインディッシュとは一体誰のことなのだろうか。私を狙ったことから考えて精霊がらみなのは間違いないだろうが、女性なら同じ精霊である四糸乃ちゃんや十香などは思いつくが男性で心当たりのある人物といえば……シドーくんとやらだろうか?

 

(ただ、そのシドーくんがどこの誰だかすらわからないのよね……四糸乃ちゃんのときに見かけたとはいえ顔は確認できなかったし。吹雪のドームが晴れた時も一瞬だったからほとんど確認できなかった……そもそも、本当にシドーくんとやらが狙われてるのかすら、本当かどうかわからないわけで――)

 

完璧な手詰まりだ……というか、何故私はこんな厄介ごとに巻き込まれてるのだろうか……明日は気分転換にどこかに遊びに行こうかしら?幸い明日はお暇を頂いたからリフレッシュするにはちょうどいいだろう。

……けど、何か忘れているような、何かしら?

 

 

「あっ、そういえば銭湯に行く途中だった……急がないとっ!?」

 

そんなわけで、このあと無事に銭湯へとたどり着いた私は、今日の一日の疲れを銭湯のお湯で洗い流すのだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方のメインディッシュは何をしていたかというと……

 

「トリプルブッキングなんて無理だろこれ……」

 

明日行われる十香、狂三、折紙の三人とのデートのことで頭を抱えていたのだった――




狂三ちゃん可愛いっ!
でも、あなたのテンション上がるとセリフが非常に書きにくいんですよね……
でもそんな狂三ちゃんも可愛いっ!
それに四糸乃も十香もみんな良い子すぎて、作者にダメージが……グフッ!


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2章

結局、昨日現れた精霊が何の目的で私の前に現れたのか。メインディッシュとは一体誰のことなのかという謎が残されたまま、明日を迎えた私は現在『天宮クインテット』という大型複合商業施設でショッピングを楽しんでいた。

 

「あぁ、このバックも中々……でも少し高いわね。でも、こっちのじゃ少しデザインが――」

 

などと、傍から見れば休日に女子高生が一人で買い物に来たようにしか見えないだろう。しかも、外見はかなりの美少女だ。なので、時折王花にナンパしてきた者たちも多くいるが、その大半が柄の悪い男達だった。

さすがに、王花も男なら誰彼構わずというわけではない。無論、突っかかってきた相手もいるがその持ち前の技術で相手を組み伏せていた。

 

 

(ナンパされるのは悪い気分ではないのだけれど、少し目立ちすぎたわね……私としてはもっとゆっくりと休日を過ごしたいのだけれど。)

「しかし、一人でショッピングするのも味気ないわね。どうせなら……「なら、私と一緒にいかがですか?」――っ!?」

 

「どうも、昨日ぶりですわね。」

 

「……時崎狂三。せっかくの休日なのよ、だから少しはゆっくりさせてもらえないかしら?」

 

「そう、警戒なさらないでください。今日、貴女に会いに来たのは戦う為ではなく、話をするためなんですから。」

 

 

どこかで聞いた声に振り向いてみれば、そこにいたのは昨日私に問答無用で銃をぶっ放してきた精霊(くるみ)だった。一応、霊装ではなく私服を着ているため、一見こちらもただの少女にしか見えない。

そのため、周りからは少し仲の悪い女子高生同士が会話しているようにしか見えないだろう。

 

 

「会っていきなり銃をぶっ放してきた貴女がそれを言っても信用できるわけないでしょう。」

 

「なら、ここで昨日の続きを始めましょうか?私はもちろん構いませんが……貴女にできるでしょうか。」

 

「私が周りの被害を考えないで、貴女に手を出す可能性だってあるわよ。」

 

「それはありえませんわね。とはいえ、被害を出さぬよう戦えるのかもしれませんが、別にそれならそれで私は構いませんもの。」

 

 

彼女の言う通り私は手を出す気はなかった。無論、精霊の力で被害を出さぬように戦うこともできるが万が一もある。それに、周りには買い物や観光で賑わっている大勢の人たちがいた。

おそらく、もし私が手を出せば彼女は周りの人間を積極的に巻き込んで戦うだろう。それに最後の彼女の物言いは、まるで私に対抗手段でもあるか……もしくは倒されても特に彼女の不利益にはならないような言い方だった。

 

 

「はぁ……わかったわ、話でもしましょうか。でも、なんで私なのかしら?」

 

「興味を持っているから……では駄目でしょうか?あとは……一種の意趣返しですわね。

もちろん、あなたに対してという意味ではありませんわ。ただ、私の意中の人が私とのデートの最中に、他の相手ともデートをしているようなのでそれに対してですわね。」

 

「勝手に人を意趣返しの為に巻き込まないでくれないかしら。というか、その相手もすごいわね。どうやってほかの人とデートしてるのかしら?あと、その人が例のメインディッシュなのかしら?」

 

「どうやら縦横無尽に走り回ってるようで……それと、質問の答えですがその通りです。」

 

「それより貴女、私と一緒に行動してていいの?その人戻ってくるんじゃない。」

 

「あぁ、それは大丈夫ですわ。そちらは『私』がきちんと対応してますもの。なので、今は【私】があなたと話してても問題ありませんわ。」

 

「そう、用意周到なのね。ところで話をしたいって言ってたけど何についてかしら。」

 

「そうですわね……色々と聞きたいことがあるのですけど、今は貴女について知りたいですわね。正直あなたについてはほとんど何も知らないので。」

 

「……わかったわ。ただこちらからも一つ質問をさせてもらうわ、いいかしら?」

 

「構いませんわ。でしたらこちらも質問は一つだけにしましょう……対等な関係でいたいですから。」

 

 

対等な関係については何をいまさら、と突っ込みたかったが今は無視することにする。

正直、今は情報が一つでもほしかったので、こちらとしてはこの展開は願ったり叶ったりだ。

 

 

「では、私から一つ……あなたのその力は一体()()()()()()()()()()()?」

 

「……そうね、真面目に答えるとしたら【()()】かしら。」

 

「ふざけてるわけでは……無いようですね。」

 

「えぇ、至って大真面目よ。じゃあこちらも一つ……そのメインディッシュとは一体誰なのかしら?」

 

「……都立来禅高校2年生の【五河 士道(いつか しどう)】という方ですわ。」

 

 

これで繋がった……おそらく、十香の〈シドー君〉と『五河士道』は同じ人間なのだろう。

ただ、何故彼が狙われているのか、狂三は何を目的としているのかはまだ分かっていないが――

 

 

「とりあえず、互いに質問を終えましたし、これで私は失礼させていただきますわ。」

 

「そうね、私もそろそろゆっくりと買い物をしたいし。」

 

「それでは、さようならですわ。」

 

「えぇ、……あと、最後に一つ言っておくけど、私あなたのことそんなに嫌いじゃないわよ。」

 

「――えぇ、私もです。」

 

 

そう言いながら、彼女は人ごみへと紛れて消えていった……

そして、私はここに来た本来の目的を果たすためにショッピングを再開するのだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、結局一人でショッピングするのよねー……」

いつになったら。運命の相手を捕まえれるのか皆目見当がつかないまま、私はトボトボと店を渡り歩いていった。



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3章

結局、狂三との会話を終えた後は特に問題も起きずに、私は無事に帰路へとついていた。

ただ、あの会話を終えてから、どうにも狂三のことが頭から離れなかった。

 

「五河士道くん……か、どんな人なのかしら。まぁ、狂三に狙われている時点でただの人間ではなさそうだけど。」

 

とはいえ、彼が何故狂三に狙われているのかは不明だが、とりあえず彼が通っている高校がどこなのかわかったのだ。なら、明日は彼と接触するために来禅高校に行くことにしよう。

とはいえ、彼の後ろ姿しか見たことがないので、接触する前に彼がどんな人物なのか調べる必要はあるだろう。それに、霊装で高校の制服を作って紛れ込むか、【隠者ハーミット】のカードを使って潜入するなどして調べればいい。

 

(それに、彼が2年生だってことはわかっているし、最悪2年生のクラスを探し回ればいつかは彼に辿り着けるはず――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――と、思ってたのに……まさか、学校に狂三がいるなんて思わないわよ。」

 

昨日、そう考えながら帰路に着いていた私だが、ここまで厄介な事態になっているとは思ってもみなかった。

学校に到着した私はこれからのどう行動しようか迷っていたが、なにやら霊力反応を感じたので調べたところ、どうやら狂三の霊力だということが判明した。これでは制服を着て侵入しても、狂三に見つかれば厄介なことになるのは間違いない。

 

(最悪、狂三に学生全員を人質に取られながら戦う可能性も……となると、【隠者(ハーミット)】のカードで潜入しかないけど……一応精霊である狂三にも効いたとはいえ一度は見せた手札、バレてはいないはずだけど万が一もあるし……ここは、遠回りでもいいから安全に行くべきね。)

 

一応、狂三も学生として過ごしているみたいなので、放課後にはいなくなるだろう。

なので、放課後や夜間などにでも職員室に潜入して、クラス名簿などを確認すれば彼の所属しているクラスぐらいは分かるはずだ。もし、そのまま彼の顔などが確認できれば次の日の放課後にでも接触すればいい。

 

とりあえず、どのみち放課後まで待機しなければならないので、私は学校を見て思い出した遠い昔(前世)の記憶に思いを馳せることにした――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もっとも、それは放課後に()()()()()()()()()により中断せざるをえなくなったが――

 

(広域結界ね、この感じ方から見る結界の中にいる人間を衰弱させる者みたいだけど……これを行ったのは、間違いなく精霊である狂三しかいないはず。幸いにも精霊である私には効かないけど、昨日の今日で何かあったのかしら?まさか、今日行動を起こすなんて……)

 

とにかく今は狂三を探し出すべきだ。最悪もうすでに、五河 士道(メインディッシュ)が襲われているかもしれない。一刻も早く狂三の居場所を見つけ出さなくては……そう考えて、狂三の霊力反応を探していた彼女は現在困惑していた。

 

 

(――っ!?狂三の霊力反応がいくつもある……これはダミーかしら?あまり時間がないっていうのに面倒ね。とはいえ、どれが本物かわからないんだからしらみつぶしに――)

 

 

などと、思考をしている最中に自分の背後から九つの影が現れて、こちらに弾丸を撃ち込んできた。

しかし、背後から現れていたとはいえ、気づいているのなら避けることは造作もなかった。ただ、私は大いに困惑していた……無論それは、背後を取られたことにではなく、私の背後に現れた陰の正体についてだった。

何せそれは、今私が探し当てている狂三に他ならなかったからだ……しかも、九人全員が狂三という異常な光景だった。

 

「困りましたわ……今回ばかりは誰にも邪魔されるわけにはいきませんので。」

 

「……九人に増えるなんてマジシャン顔負けの手品ね。できれば、仕掛けても教えてほしいのだけれど。」

 

「自分から手品の種を教える手品師なんていると思いますか?」

 

「その通りね……なら、力づくでも教えてもらうわよ!!」

 

「「「「「「「「「 できるものならっ――!! 」」」」」」」」」

 

そう、九人の狂三が同時に叫びながらこちらへと向かってきた。ついに戦いの火蓋は切られた――

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

そして、王花と狂三達の戦闘が開始されてから少し経った頃、屋上では王花の探し人である士道がそこに立っていた。

その他にも十香や折紙、それに()()()()()()()()()の【崇宮 真那(たかみや まな)】、そして、いま王花と戦っているはずの狂三がいた……それも()()()()()()()()()()()()()

 

「さぁ――終わりに、いたしましょう。」

 

大量にいる狂三達の中の一人がそう言い終わると同時に、他の狂三達もいっせいに士道たち目掛けて襲い掛かってきた。

真那も襲い掛かってくる狂三達に反撃するべく、纏っているCR-ユニット起動し――

 

「……ッ!舐めんじゃ――ねーです……ッ!」

 

と力の限り対応するが、すでに全身から血が流れているせいか、徐々に狂三達の動きに対応できずに押されていった。さらに狂三は、発顕した〈刻々帝(ザフキエル)〉という巨大な時計の形をした天使の前で銃を握り、相手の時間を止める【七の弾(ザイン)】を装填して真那に放つと、真那の身体は停止し、その間に無数の狂三達が真那に群がってきた。

 

「か、数が多すぎるぞ……ッ!」

 

「せめて装備が万全なら――」

 

士道を守りながら、そう声を上げる十香と折紙だったが、十香は精霊の力を十全に発揮できる状態ではなく、また折紙も本人が言うように万全な装備ではない上に、あまりにも多すぎる狂三達の数の暴力に押されて最後はその場に取り押さえられてしまっていた。

 

そして士道も両腕を捕まれ、地面に押さえつけられてしまった。

それに、最後の手段として自分を狙っている狂三に"自分の舌を噛み切る"という脅しを言おうとするも、士道の口の中に細い指を入れて顎と舌を抑えこんできた。

 

「舌を……?どうするんですの?」

 

そう言った狂三は笑いながら、右手を握った。すると周りからは耳障りな高音が響き始めた……おそらくこれは空間震が起こる前触れのようなものだろう。狂三が空間震を起こすと気づいた士道は、指を突っ込まれながらも止める様に懇願するが、狂三はそれを無視して右手を振り下ろしてけたけたと笑った。

 

「あ――ッははははははははははははははははははははははははは――っ!!」

 

そうして彼女が笑っている最中、来禅高校の周囲の空からは大きな耳障りな音と地震のような空気の揺れに包まれていった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ――はァ……?」

 

とはいえ、その笑いも彼女の疑問符によってかき消されたわけだが。

本来彼女の予定道理ならば、ここはもう空間震によって辺り一面が消失しているはずなのだ。しかし、起こったのは耳障りな音と空気が震えただけで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「これは……どういうことですの……?」

 

「――知らなかった?空間震はね、発生と同時に同規模の空間の揺らぎをぶつけると――」

「相殺することができるのよ。今度からはキチンと覚えておくことね。」

 

その疑問に答えたのは二人の少女の声だった。

狂三にとって片方は聞いたことのない声。しかし、もう片方はつい最近聞いた覚えのある声だった。

 

「それに……私を止めるには少なすぎたんじゃないかしら?」

 

「――ッ!貴方は……それにもう一人の方は何者ですの?」

 

狂三が……いや、士道を含む誰もがその光景に驚いていた。

何せ、上を見上げれば空は赤く染められ、そこにはまるで太陽を思わせる様に炎の塊が浮遊していたのだ。

そして、その炎の中には士道達にとって見覚えのある少女がそこにいたのだ。

 

「琴、里……?」

 

そう、そこには()()()()()()()である【五河 琴里(いつか ことり)】がいたからだ。

しかし、その最愛の妹はいま、炎を纏わせながら天女が着る羽衣のような恰好をしており、頭には鬼を思わせる純白の2本の角が生えていたのだ。

 

 

 

 

そしてもう一人の少女を見ると、琴里と同じように宙に浮かんで大胆不敵に笑みを浮かべながら、

琴里が纏っている炎の光を受けて、少女の持つ長い銀色の髪は鮮やかに光を反射していた。

外見年齢は16,7歳ほどだろうか?その少女は紫をベースとしたフード付きのドレスを纏いながら、紅い瞳で狂三を捉えていた。

 

そんな神秘的な姿を見て士道は――

 

「……綺麗だ。」

 

と、素直に思ったことを吐き出してしまうほどに、見惚れていた。

妖しげな雰囲気を漂わせて、どこか大人びた印象を受けながらも触れたら壊れてしまうような繊細さを彼女から感じたからだ。

これまで十香や折紙などの美しい少女を見てきたが、それに負けないぐらいの美しさを彼女は持っていた。

 

そんな見惚れている士道に琴里は少し不機嫌になりながらも、

徐々に高度を下げながら士道へと目線を落として彼にこう言った。

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その言葉の意味がわからずに困惑している士道だったが、そんな士道を無視しながら琴里は――

いや、二人は自分達にとっての最強の矛たる"天使"を呼び出した――

 

「――焦がせ、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉」

 

「――導け、〈神秘創造(ラドゥエリエル)〉」

 

そして、琴里は自分を纏う炎から作った巨大な戦斧を手に取って構えた。

もう一人の少女の周りには光の球がいくつも現れて、その形をカードに変えて少女の周りを飛び回っていた。

 

今ここに最強の矛たる"天使"とその身を護る絶対の盾たる"霊装"の二つがそろったのだ。

ならば、やることはただ一つ――

 

「「さあ――私たちの戦争(デート)を始めましょう」」

 




一応これで3巻までは終わりとなりました


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4章

いま、来禅高校の屋上では三人の精霊たちが睨み合っていた。

 

一人目の精霊はこの事件の首謀者であり、黒と赤のドレスを纏って巨大な時計の形をした〈刻々帝(ザフキエル)〉を背にしながら歩兵銃と短銃の二丁を構えている【時崎 狂三(ときさき くるみ)

 

二人目の精霊は天女を思わせるような美しい霊装を纏いながらも、巨大な炎の戦斧である〈灼爛殲鬼(カマエル)〉を悠々と持ち上げている、いつか五河士道の妹である【五河 琴里(いつか ことり)

 

そして最後の精霊は紫色のフード付きのドレスを纏い、タロットカードの形をしている〈神秘創造(ラドゥエリエル)〉を自身の周囲にに飛び回らせている【橘 王花(たちばな おうか)】 

 

いま精霊同士の対決という、前代未聞の戦いが始まろうとしていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王花さァん……それに、そちらはどォなたですのォ?」

 

などと二人の精霊に質問する狂三は、先ほどまでのように余裕を含んだ顔から不機嫌そうに眉を歪めながら、この場に現れた精霊たちに警戒をしていた。

 

「邪魔をしないでいただけませんこと?せっかくいいところでしたのに。」

 

「貴方も私の邪魔を散々したでしょ?それに、何回も邪魔したんだから一発ぐらいは覚悟しておきなさい。」

 

「まぁ、そっちの方はよくわからないけどそういうわけにはいかないわね。貴女は少しやりすぎたわ。――跪きなさい。愛のお仕置きタイム開始よ。」

 

「く、くひひひ、ひひひひひひひッ……面白い方ですわねぇ。できると思いますの?貴方が?」

 

「えぇ、お尻ぺんぺんされなくなかったら、天使と分身体を収めて大人しくしなさい。」

 

「まぁ、私の方はお仕置き程度では済まさないつもりだけどね……覚悟はしておくことね。」

 

「ひひひ、ひひッ、貴方達にできると思いますのォ?残念ながら貴方達では――」

 

などと狂三が私たちに何か言おうとする前に私たち二人はそろってこう言い切った。

 

 

「「御託はいいから早く来なさい 狂三(黒豚)」」

 

 

……く、黒豚といったのは私じゃないわよッ!などと内心自分に言い訳するが、隣にいる少女が結構キツイ言葉を放ったのには少し驚いた。可愛い顔をしておいて何気に黒いわねこの子。

それに、どうやら狂三もその言葉にはカチンと来たようだ。あと、十香と白い髪の子を分身体に気絶させらしい。

どうやら拘束に回していた分身体含め、全ての分身体をこちらにぶつけるようだ。

 

「上等ですわ。一瞬で食らいつくして――差し上げましてよォッ!」

 

予想道理に無数の分身体がこちらに迫ってきた。このままでは十香たちと同じく数の暴力で徐々に押されていくことだろう……もっとも私たちが普通の人間だったならの話だが。

 

「【死神(デス)】 <停止>」

 

私がただ一言呟くと、無数の分身体がその場に停止してしまった。さすがに本体を止めるにはもっと霊力を込めなければならないが――

 

「まぁ、数だけ多くいたって止まってればただの木偶よね……」

 

「感謝するわ。止まっている的なら目隠ししたって当たるわ――〈灼爛殲鬼(カマエル)〉」

 

そう言いながら赤い髪の少女が炎の戦斧を凄まじい勢いで振りぬくと、その場で止まっていた多くの分身体が一斉に両断されていた。あるものは腕が、足が、あるいは上半身が宙に舞い、地面に落ちる前に炎に包まれて燃え尽きてしまった。

 

「――っ!?私の【七の弾(ザイン)】と同じッ!それにこの威力は……」

 

これにはさすがに狂三だけではなく私も驚いたが、赤い髪の少女は特に動じずに少年の方へと降りて行った。

おそらく、あの少年が【五河 士道(いつか しどう)】という少年なのだろう。

果たしてどのような人物なのかすごく気になってその顔を覗き込、ん……で……………

 

 

 

 

 

 

「――――えっ」

 

 

 

 

 

――突然だった、その少年を見た瞬間、私は何も言えなくなった。何もできなくなった――

 

――私の頭の中が空っぽになったみたいだった。私の人生で初めての事だった――

 

――だって彼を……五河士道を見た瞬間、私は――

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

〈side 士道〉

 

自分を抑えていた狂三達も先ほどの琴里の一撃により消滅したおかげで、何とか身体を自由に動かせるようになったので慌てて体を起こす。しかし、琴里の攻撃によりできた火の粉が自分に降りかかるので叩き落としていると、琴里が〈灼爛殲鬼(カマエル)〉を構えながら自分と狂三との間に割って入り、まるで自分を守るように立っていた。

 

「こ、琴里……これは一体、それにあの精霊は――」

 

「説明は後、今はおとなしくしていなさい、士道。そして可能なら狂三の隙をついて逃げて。幸い、〈ディバイナー〉もこちらに加勢してるようだし。それに今のあなたは――簡単に死んじゃうんだから。」

 

その返答に士道は困惑していた。なぜなら、士道の持つ力により致命傷などの怪我を負っても炎と共に再生する能力があるのだから。

なのに、簡単に死ぬということは――

 

「ひひ、ひひひひひひひ……ッ!やるじゃありませんの。でも、これならどうでしょうかァ!」

 

そう言い切ると同時に狂三が持っている短銃の中に〈刻々帝(ザフキエル)〉の『Ⅰ』から漏れ出した影が装填されていき、そのまま自身のこめかみに【一の弾(アレフ)】打ち込んだ。

一の弾(アレフ)】は撃った対象の時間を早めることのできる弾である。そのため、先ほどまでとは比べ物にならないほどの速度で動いている。

しかし、琴里も俊敏に〈灼爛殲鬼(カマエル)〉を目にも止まらぬ振り回して狂三の攻撃を悉く防いだ。

そして、もう一方の精霊は……

 

「――いま、私は非常に……いえ、とにかくアレ(くるみ)をなんとかしないとね。

 おそらくは能力の底上げか何かかしら?まぁ、それならやりようはあるわね。」

 

そして、その精霊は自身の周りを飛び回っているカードを一枚手に取った。

おそらく、あのカードがあの精霊にとっての『天使』なのだろう。しかし、一体何をするつもりなのだろうか?

 

「【悪魔(デビル):逆位置】〈リセット:付与〉」

 

あの精霊がそう言い終わった瞬間、狂三達の速度が急に遅く……いや、()()()()()()()

おそらく、狂三の速度を言葉通りにリセットしたのだろう。

まさか、こんな方法で対応されると思ってなかった狂三は驚きの表情を隠せなかった。

 

「ひひひ、ひひ、相変わらず出鱈目な能力ですわね。

 でしたらこれはどうでしょうかっ!【七の弾(ザイン)】!」

 

すると、今度は〈刻々帝(ザフキエル)〉の『Ⅶ』から影が飛び出して、銃口へと吸い込まれていった。

そして、その銃口から放たれた弾丸は琴里ともう一人の精霊に迫っていった。

どちらもその弾丸を防ごうとしたが、この弾丸は触れた瞬間に対象を停止させるという恐ろしいものだ。

 

「ふふ、あはははははははッ!」

 

やがて、狂三の笑いとともに二人はピクリとも動かなくなってしまった。

手足も、長く美しい髪も美しい霊装の何もかもがその場で停止していた。

 

「ふふふッ、如何な力を持っていても止まっていれば単なる木偶ですわよ?」

 

木偶呼ばわりされたことを気にしてたのか、停止している二人に狂三はそう言い返した。

そして、周囲に残っていた無数の狂三達も一斉にこちらへと銃を構えて、引き金を引こうとしていた。

そんな狂三に"やめろ"と士道が制止しようとするが、その言葉を言い切る前に狂三は――

 

 

 

 

 

 

「それでは、ごきげんよう――」

 

 

 

 

 

 

 

「――には、まだ早いんじゃないかしら?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。他の狂三達もそれに驚き、すぐさまそちらへと銃口を変えていった。

しかし、あの精霊は狂三の能力により停止させられていたはずだ。

現にいまも琴里と一緒に止まっている……あ、あれ?消えてる!?

 

「あの時と同じッ……油断しましたわ。」

 

「私も二度同じ手は通じないかと思ってたけど……案外使えるものね。それと勝ち誇るのが早すぎたわね。」

 

そして、その攻防の間にに琴里の停止も解けていたようだ。

すぐに自分の身に何が起こっていたのかを把握したところを見ると、さすが〈ラタトスク〉の司令官といったところだ。

 

「あら、何もしなかったの?それとも……できなかったのかしら?」

 

などと狂三に嫌味を言っている間に、無数の狂三達が琴里へと接近し撃ち込んできた。

しかし、琴里はまるでよける必要などないといったようにその弾丸を受けながらも狂三達を両断していた。

そして受けた傷からは焔が噴き出し、傷を修復していった。

そしてそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「一体――なんなんですの……あなた達はァッ!」

 

 

狂三もそろそろ分身体が尽きてきたらしく、最初の頃と比べると一目でわかるくらい減っていた。

さすがに狂三も2体同時の相手となると厳しいようだ。しかも、どうやら二人とも狂三との相性はいいらしく、この戦いでも常に狂三を圧倒していた。

 

 

「ひひッ、ひひひひひひひッ、、まさかこれを使う羽目になるとは思いませんでしたが……いいでしょう、思う存分にお見舞いしてさしあげますわッ!〈刻々帝(ザアアアアアアアアフキエエエエエエエエル)〉……ッ!!」

 

 

その瞬間、狂三の左眼が今までよりも早く回転し始めた。

どうやら狂三も奥の手を出してきたようで、

それに気が付いた二人は狂三が何かする前に阻止しようとするが――

 

「――ぁ」

 

「こ、琴里!?」

 

琴里が小さな声を発したと思ったら、その場に膝をついて何かを抑える様に頭に手を当てていた。

その反応に狂三は好機を見出したのか、クスリと笑い。もう一方の精霊は突然のアクシデントに驚きながらも、狂三の行動を止めようとする。

そして、それは琴里の窮地であることがすぐに理解できたので、すぐさま琴里を狂三から守るために琴里に駆け寄った……最悪自分が盾に……などと考えていると、琴里は何事もなかったかのように立ち上がり――

 

「〈灼爛殲鬼(カマエル)〉――【(メギド)】」

 

と琴里が声を発した瞬間、琴里の手に持っていた戦斧が大砲へと変形し、右腕に着装されてた。

戦斧が大砲へと変形したことも驚きだったが、何よりも驚いたのは琴里の雰囲気の変化だった。

琴里とは長い年月を過ごした自分だったが、琴里のこんな表情は初めて見た。そして、なによりその表情に恐怖や旋律を感じたことが何よりも驚きだったのだ。

 

そんな自分をよそに、琴里は狂三に〈灼爛殲鬼(カマエル)〉向けて、狂三は琴里の行動に危険なものを感じたのか残っている全ての分身体が狂三の盾になるように間に割り込んできた。

そして琴里が静かに口を開くと

 

「――灰燼と化せ、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉」

 

その声は長い年月を共に過ごした自分でも聞いたことのないような、冷たく平坦のものだった。

そしてその瞬間、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉から凄まじい炎熱の奔流が放たれた。

まるで、アニメや漫画などで出てくるビーム兵器を想像させるような、炎熱の光線が狂三へと放たれていった。しかも、光線が周囲の空気を焼き尽していために空気をまともに出来ず、目も開けるのも困難な状況だった。

 

「く――ぁ……」

 

狂三の方も、盾になった分身体も全て灰になり、天使も『Ⅰ』から『Ⅲ』の部分が焼き尽されて、何より狂三自身が左腕を損失していた。もはや、狂三も戦う力も気力も残ってないほどボロボロなのは誰が見ても明らかだった。

しかし、琴里はそんな狂三に〈灼爛殲鬼(カマエル)〉を突き付けた。

 

「まだ闘争は終わっていないわ。まだ戦争は終わっていないわ。

 さぁ、もっと殺しあいましょう狂三。あなたの望んだ戦いよ。あなたの望んだ争いよ。

 ――もう、銃口を向けられないというのなら、死になさい。」

 

「ま、待ちなさい!すでに十分に決着はついたはずよ!これ以上は単なる虐殺になるわ。それに、もう狂三には戦う力は残っていないわ、これ以上やると本当に死んでしまうわよ!」

 

「そうだぞ琴里!それ以上やったら本当に死んじまうぞ!精霊を殺さずに解決するのが〈ラタトスク〉なんだろ!?」

 

しかし、琴里はそんな周囲の声を聞かずに再び〈灼爛殲鬼(カマエル)〉を放とうとしていた。

そんな琴里の前に回り顔を見たが、明らかにいつもの琴里ではないとすぐにわかるくらいに今の琴里は変わっていた。それに気づいた瞬間、狂三の方へと駆け寄り、庇うように狂三の前へと立ちはだかった。

 

それと同時に〈灼爛殲鬼(カマエル)〉から紅蓮の咆哮が放たれた。

兄の行動により琴里も我に返り、軌道を変えるために構えた〈灼爛殲鬼(カマエル)〉を上空へと上げるが、

完全には変えられず――

 

「おにーちゃん……ッ!避けてっ!」

 

目の前が赤く染まる中、一つの影が士道へと迫っていった。

それは、士道を庇おうとする一人の精霊の姿だった――

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

〈side 王花〉

 

先ほどまで共闘していた少女の様子が変わったかと思えば、いきなり好戦的になり、

もはや虫の息当然の狂三に向けて攻撃を放とうとしていた。

 

狂三ももはや避ける気力もないのか、その場に力なく膝をついていた。

 

そして、彼……五河士道は狂三を庇うために彼女の元へと駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

"彼が危ない"そう思った私は、何も考えられずにただひたすらに彼に対して手を伸ばし続けた。

 

 

 

――突然だった、その少年を見た瞬間、私は何も言えなくなった。何もできなくなった――

 

――私の頭の中が空っぽになったみたいだった。私の人生で初めての事だった――

 

――だって彼を……五河士道を見た瞬間、私は―― 

 

 

 

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()――

 

 

 

 

 

そして私の手が彼に届いた瞬間、辺り一面が紅蓮の業火に包まれていった――




ここまで読んでくださった方々、大変ありがとうございます。
正直読みづらかったのではと内心ヒヤヒヤしております。

そんなわけで、王花さんのプロローグも残り少しのところになりました。
いやぁ~、最初はイチャラブを書きたかったんですが随分と遠回りになりました。
王花さんは、何回か士道を目撃していますが顔をみたのは今回が初めてなんですよね。

あと、王花さんは狂三に対して非常に有利に立てます。
なんせ、バフやデバフが悉く無効化される上に、霊力が多い本体はともかく分身達は停止させられてしまいますから……

しかし、そんな王花さんですが、実は琴里に対してはかなり不利です。
琴里自身かなり霊力が強い方なので停止があまり効かず、ダメージを与えたとしてもすぐに回復されてしまう。あまり、王花は火力がある方ではないので現段階では決めきれないかなと思います……まぁ、その問題も物語が進んでいくにつれて解決するのですが。



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5章

私、橘王花が目を覚ましたのは紅蓮の業火に包まれた学校の屋上……ではなく、ベットの上だった。着ているものも霊装ではなく病衣になっており、周りは白いカーテンに覆われていたため、ここがどこなのかはわからなかった

結局あの後はどうなったのか、彼は……五河士道は無事なのか、狂三は、赤い髪の精霊は……などと少しベットから身を起こして考えていたら、白衣を纏った女性がカーテンを開けてこちらに話しかけてきた。

 

 

「ふむ、意識を取り戻したのかね?しかし、急に身を起こしてはいけないぞ……こちらも調べたとはいえ、まだまだ安静にしていなければならないのだから。」

 

「……とすると、あなたが私をここに運んでくれたのかしら?」

 

「正確には私ではないのだが……まぁ、そこらへんは置いておくとしてだ……私は〈ラタトスク〉で解析官を務めている【村雨 令音(むらさめ れいね)】だ。そしてここは、〈フラクシナス〉の医務室。勝手に運んでおいてすまないが緊急事態だったのでな。」

 

 

〈ラタトスク〉……たしか彼もその言葉を口にしていたはず。

それに確か、"精霊を殺さずに解決するのが〈ラタトスク〉"と彼が言っていたはずだ。となると、こちらには危害を加えない……いや、すでに加える気ならやられているはずだ。なにせ、今まで気を失っていたのだからどうにでもできるはず。

その前に自己紹介されたのだからこちらも返さなければ失礼にあたるというものだろう。

 

 

「私の名前は橘王花よ。手当をしてくれたことには感謝をするわ……でも、貴方達はいったい何者で何の目的で動いてるのかを教えてくれると嬉しいのだけど。不躾な質問だと思うけど、何分こちらも事態を把握できていないのよ。」

 

「あぁ、……私たちは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"精霊との対話による空間震災害の平和的な解決を目指した秘密組織"ねぇ……」

 

 

どうやら、それが彼ら〈ラタトスク〉の目的であり、同時に精霊の保護を目的とした組織でもあるらしい。前に私が推測したように、精霊が【隣界】からこの世界にやってくるときに空間震が起こるようで、それを対処するのが彼らの役割のようだが……

 

 

「――でも、私の場合は常にこちらの世界にいる……というより、そもそもその【隣界】とやらに行けないから、私の場合は無意識的に空間震が発生する心配はないのよ。」

 

「……それはどういう――」

 

 

令音がこちらに質問しようとした瞬間、突然誰かがこの部屋に現れてこちらへと近づいてきた。

そしてその誰かとは彼……私が一目惚れしてしまった人、五河士道その人だった。正直、心の準備などしていなかった私は完全にパニックに陥ってしまっていた。

 

 

(えっ?……あっ!?き、着替えないと!いま、わたし病衣だし……いえ、その前に髪のセットを……あぁ、彼が来るとわかってれば少しでも身形を整えていたのに~~ッ!)

 

「あ、あの~?「はっ、はいっ!?」……い、いえ、そこまでかしこまらなくても……あの、俺【五河 士道(いつか しどう)】っていいます。昨日は助けてくださって、ありがとうございました!」

 

「い、いえ、あれは私が勝手にやっただけで……私は橘王花といいます。気軽に王花って呼んでください。」

 

「わかりました王花さん。こちらも気軽に士道と呼んでください……ところで、俺たちは――」

 

「あぁ、そのことならさっき彼女(令音)から訊きました。〈ラタトスク〉がどういう組織なのか、なにを目的とした組織なのか。ただ……私の場合は隣界から来るわけではないので空間震は起きないというか………とはいえ、私自身がこの前の狂三みたいに自分の意志で発生できるから必ずしも無関係ではないのだけれども……」

 

(空間震が起きる心配はないって、それはつまり……封印する必要がないってことに――)

 

(いや、シンそういうわけにはいかないぞ……)ボソッ

 

そんなことを考えていた士道に令音からのフォローが入っていた。どうやら士道がどんなことを考えているのかがハッキリと顔に出てたらしい……確かに、空間震に限れば無理に封印する必要もないだろうが……

 

(彼女の言う通りならば、十香達のような無意識的な空間震は発生しないだろう。しかし、さきほど彼女は意識すれば自分で起こせると言っていた。精霊というのは世界を滅ぼすほどの大きな力を持つ存在だ……例え、彼女がその力を振るう気がないとしても存在するだけで脅威になる。)

 

(……会ってまだ少しだけども、彼女がそんなことをする人じゃないっていうのがわかるぐらい優しいのに……世の中っていうのは理不尽ですね。)

 

(しかし、シンが精霊の力を封印すれば、そういった理不尽な扱いを受けなくなるただの女の子になる。とはいえ、彼女が私たちに封印されてくれるかが問題……といいたいんだが)

 

(?……何かあったんですか?)

 

 

そう言いながら令音の方を見ると、令音が少し戸惑っている姿が見えた。いや、戸惑っているのかは分からないが少なくとも驚いているのはたしかだった。

 

 

(シン……驚かないでよく聞いてくれ。いま彼女の……橘王花の好感度を調べたんだが、正直いまシンが彼女にキスをしても封印することができるぐらいに高くなっている。)

 

(……えっ?い、いや自分で言うのもなんですけどまだ会ったばかりだし――)

 

(しかし事実だ。……とはいえ、いきなりキスなんてしたら好感度は下がり、精神状態も不安定になって霊力が逆流する可能性がある。それに、いきなり精霊の力が消えたら彼女は困惑するだろう。最悪、こちらを敵として捉えられかねん。事情を話せればいいが……だからといって士道の封印の力を喋るのも危険であるのも変わりない。)

 

(でも、どのみちキ……封印しないといけないんですよね。だったら最初から事情を話した方がいいんじゃ。)

 

(そこらへんは琴里の判断にゆだねる……と言いたいが、いま琴里はそれどころでじゃないのはわかるだろう。だから、現在私が彼女の対応についての指揮を任されている。)

 

 

令音が言う通り、〈ラタトスク〉の司令【五河 琴里】は現在、頑丈な別室に隔離されていた。

というのも、前回の狂三との戦闘で士道に封印されていた霊力を完全な形で取り戻してしまったために、精霊の状態を維持していたためである。もっとも、隔離されている理由はそれだけではないのだが……

 

 

(――というわけで、シン……説明するかの判断は君に任せよう……実際に彼女とやるのはシンなのだからね。)

 

(そんな無責任な……それに、なんであの人(神無月)が指揮しないんですか?一応、副指令ですよね。)

 

リミッター(琴里)が外れているがそれでも構わないのならいいが……とはいえ、私はあくまで彼女(王花)だけだ……琴里のときの指揮権はそちらが対応する。アレでも琴里から信頼されてる一人だからね。それとだシン……君は今まで十香達と誠心誠意向き合い、そして成し遂げた。だからシンに任せるのだよ。)

 

 

こう言われてしまっては、士道も何も言えなかった。

いや、むしろ覚悟を決めてしまっていた。王花が十香たちの様に世界から理不尽な殺意を向けられないように、いまこの人に何ができるのかをを考えて、士道はハッキリとした口調で王花に話しかけた。

 

 

「王花さん、話したいことがあります――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が……士道さんが私の方を向いている。

真剣な眼差しでこちらを見つめ、緊張を帯びた声色で私へと話しかけてきた……

あぁ、この目だ……この目に私は――

 

 

「……何でしょう士道さん。」

 

「さっき、王花さんも聞いたと思いますが俺たちは精霊の保護を目的として活動しています。俺はそんな中で世界から理不尽に殺意を向けられた精霊(少女)と出会いました……」

 

「…………」

 

「その少女は世界を滅ぼすほどの恐ろしい力を持っていました。……でも彼女は世界を滅ぼそうなんてことは考えていなかった……けれども、精霊の力を持っていたせいで周りからは恐怖と殺意、そして敵意を向けられ続けていました。」

 

「それは、もしかして……十香のことかしら。」

 

「その通りです。……そんな中で俺にはある力が……【精霊の力を封印することができる】力があるというのがわかりました。十香が力を持ったせいで恐れられるなら、力を封印してただの人間として生きれば彼女に敵意や殺意を向ける必要はなくなる……彼女を救えると思って俺は彼女の力を封印しました。」

 

「……だから、私の力も封印すると?……確かに、私たち精霊は人間をはるかに超えた力を持っているわ。そして、それが恐れられているというのも理解できる……でも、それは同時に私たちを守る盾にもなっているということよ。この前の狂三の様に……」

 

「わかっています……救うなんて言葉は傲慢に聞こえるかもしれません、俺が必ず守ると言っても信じてもらえないかもしれません……それでも、あなたが誰かに傷つけられるのは……敵意や殺意に晒されるのは嫌ですから……少しでいいんです、俺を、俺たちを信じてくれないでしょうか。」

 

 

彼が本気で言っていることがわかる。目が、顔が、声が、彼が真剣に私と向き合っているということを教えてくれる。けっして自惚れではなく、私のことを思って言ってくれているのだ……

そして、そんな彼だからこそ私は心を奪われたのだ――

 

 

「……一つ賭けをしましょう。もし、その賭けに勝ったのなら私はあなたに封印されます。」

 

「その賭けの内容って?」

 

「私はあなたにまだ三つの秘密があります……もし、私があなたに三つの秘密を打ち明けたのなら、その時は封印を受け入れます。それと期限は……そうね一年以内にしましょうか。もし、がこの賭けに負けた時は――」

 

「ま、負けた時は……?」

 

 

 

「あなたの一生を私が貰います」

 

 

 

「……えっ?……えぇ!?あ、いや別に賭けに乗らないというわけではなくて――」

 

「ふふっ、冗談ですよ……とはいえ、そのくらいの覚悟はしておいてくださいね。なにせ、乙女の秘密を暴くのですから。それから士道さん……いえ、士道……そういった堅苦しい言葉はお互い止めにしましょう。私のことも呼び捨てで構わないわ。これからは長い付き合いになりそうだし。」

 

「……わかったよ王花、こちらこそよろしくな。」

 

「えぇ、よろしくね士道。」

 

 

そしてこれが、彼……五河士道との初めての会話であり、私にとっての本当の始まりであった――




あやうくプロットが崩壊しそうだった……いや、そんなもの元からなかったような(主人公を見て)
とにかく無事に士道君と会うことができましたね。

それと何故、王花は士道君に対して賭けをしたのか……それはいつか明かされるはずっ!タブンッ!


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6章

結局この会話の後で彼は私たちと別れてしまった。どうやら彼もまだ目覚めたばかりらしいので、令音が大事を取って今日は休ませることにしたらしい。今日初めて想い人との初会話をした私だったが、彼からは良い印象を持たれたと思っていいだろう……

 

私も一応、あの精霊の攻撃のおかげで少し体が痛かったが、彼と別れる際に赤い髪の精霊からの攻撃を庇ったことにちての礼を言われた嬉しさで、そんなものはどこかに吹き飛んでいてしまった。それに、まだ令音とは話さなければならないことが多く残っていたので少しばかり体に無理をさせて、令音との会話を続けていた。

 

 

「ところで令音……そろそろ、あなたたちとの立場を明確にしたいのだけれども。」

 

「?……あぁ、そういうことかね。」

 

「察しがよくて助かるわ。私はあなたたち〈ラタトスク〉の敵になるつもりはないわ……でも、完全にあなたたちの味方になるわけじゃない……」

 

「まぁ、そこらへんは理解できるが……ならば、君はどのような関係を望むのかね?」

 

「まぁ、ここまで言っておいてなんだけど味方にはなるつもりよ。ただ、無条件で味方になるということは、逆にいえば無条件で敵になりうる可能性があるってことだから……」

 

「つまりは、契約することによる制限か……君が我々に望んだ条件を満たしていれば、君は味方で居続ける。逆に満たさなければ――」

 

「まぁ、満たさなかったら敵に……ってわけじゃないけど、その方が互いにやり易いでしょう?」

 

 

別にこうしなければ味方にならないというわけではないが、令音が言うように契約することによって心理的な拘束力を互いに持たせることができるからだ……まぁ、単純に私自身があちらに要求したいものがあったからというのもあるのだけれども……

 

 

「とりあえず、私からあなたたちに出す条件は三つ……まず、一つ目は『私の戸籍を作ること』

 二つ目は『衣食住が最低限度以上は整っている環境を用意すること』……そして三つめは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、どうかしら?そして、こちらは『私が出した条件をのんでいる限りはあなたたちとは敵対はしない』また『そちらが困難な状況に陥ったときには、私は手を貸すこと』というのは」

 

「ふむ……それならば構わない……と言いたいところだが私の一存では決めることができなくてね。」

 

「?……あぁ、そういえば令音は解析官だったわね。それじゃあ、この組織の司令官は誰なのかしら。」

 

「……一応、君も見たことがある人物だよ。」

 

 

私の質問に答えた令音は、どこか言いづらそうにしていた。

しかし、私が見たことがあるというがそんなのは……いや、一人だけ該当する人物がいたはずだ。

しかし、もしそうなら彼女のとった行動には疑問を生じるが……

 

 

「狂三との戦いに現れた、あの赤い髪の精霊(少女)がそうなのかしら?」

 

「その通りだ……だがいまは彼女は会うのが難しく――」

 

「――その前に少し質問良いかしら?その子の事なんだけど、途中から急に人が変わったかのように雰囲気が変わったわよね……あれは一体なんなのかしら?」

 

「……それを話すには私一人の判断では……いや、その質問に答えよう。答えたうえで、もし君の力でそれが解決できるのならば解決してもらいたい。正直、今は藁にも縋る思いだからね。」

 

「随分と深いわけがありそうね……わかったわ、できる限りことは尽くしてみるわね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――というわけで、あなたに会いに来たのわ。」

 

「何がというわけなのかしら?そもそも、なぜ今連れてきたのかしら令音?」

 

 

私の目の前にいる少女【五河 琴里(いつか ことり)】は少し不機嫌そうに眉をひそめながら令音へと尋ねた。

この少女は間違いなく、狂三との戦いのときにいた赤い精霊だった。少なくとも、あの時感じた霊力が彼女から確認できる……しかし、それよりもまだ幼い彼女が司令官であるということの方が驚いたが……そんな私をよそに令音は彼女からの質問に答えようとするが――

 

 

「……それは――「私があなたの抱えている悩みを解決できるから。」……だそうだ。」

 

「――ッ!?……詳しく聞かせてくれないかしら?」

 

「まぁ、解決できるとは言ったものの、あくまで一時しのぎにしかならないかもしれないわ……あなたの『破壊衝動』を収めるにはね……」

 

「私の独断だが、彼女に事情を説明したよ。その代わりに、条件を飲むことにしたがね。」

 

「まぁ、大した条件ではないから安心しなさい……とりあえず物は試しでやってみましょうか。

 〈神秘創造(ラドゥエリエル)〉ッ!!」

 

 

いつものように現れたカードは私の周りを飛び回っていたが、私の方のはあまり本調子ではないが……とはいえ、泣き言は言ってられないので彼女がいつ破壊衝動に飲まれるかわからない以上、早めにやることを終わらせよう。

 

 

「【節制(テンパランス)】<自制:付与>……とりあえずこれで一時的には収まるはずよ。」

 

「たしかに楽にはなったわね……ところで条件のことを詳しく聞かせてもらえないかしら?令音が認めたということは問題が無い程度の条件だろうけど、私は立場上把握しなければならないしね。」

 

「まぁ、大したことではないわ……とりあえず私の出す条件は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――この三つが私の出す条件。無論、最後の条件に関しては私の能力で誤魔化すから。」

 

「なるほどね、そういった意味ではこちらにもメリットがあるか……それと、助けてもらって失礼かもしれないけど一つ聞きたいのよ。私たちに条件を飲ませるためだけに私を助けたのかしら?」

 

「……別に条件を飲もう飲むまいが、どちらにしても手を貸すつもりだったわよ。一応、狂三との戦いでは手を取りあったんだし。それに――」

 

 

そして彼女が五河士道の妹であるから――というわけではない。

正直、彼女がどこの誰であろうと助けるつもりではいたのだ。まぁ、ただ単純に言うとするならば。

 

 

「琴里ちゃんのことが単純に気に入ったから……では不足かしら?」

 

「ちゃん付けはしなくていいわ……どうやら、長い付き合いになりそうね。」

 

「えぇ、というわけで迷惑かけるわね琴里。それと、こちらも王花で構わないわ……とにかくよろしくお願いするわね。」

 

「こちらもね……それと、私も王花のことは嫌いではないわよ。」

 

 

しばらく見つめあった後に、どちらからともなく互いに手を差し出して握手を交わしていた。

やっぱり兄妹というだけあってか、精神的な部分がどこか彼と似ていると感じつつ、今日という一日は終わりを迎えた。



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王花デスティニー:エピローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――墜ちていく、何もできずに深い闇へと墜ちていく――

 

――過去(前世)から現在(現世)へ墜ちていく、自分の横を記憶が通っていく――

 

――【変えられない過去】【受け入れられなかった自分】【何も確定していない未来】――

 

――過去は変えられない?未来は変えられる?……じゃあ、自分は変えられる?変わった?――

 

 

 

 

――不安と絶望でもがく自分に救いの手を差し伸べる人は果たして……――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ!!……なんて悪夢かしら……できれば二度と見たくはないわね。」

 

 

医務室のベットの上で悪夢から覚めた私は、ベットから体を起こして汗を拭っていた。

何もできずにもがくしかない身体、そして浅ましく希望に縋りつこうとする自身。

 

これはあくまでも(アクム)だ……ただ、この夢はいずれ私が直面し、見なければならない問題なのでは?そんな考えが私の頭をよぎったが、すぐさま頭を横に振ることでその考えを振り払った。

 

 

「弱気になってるのかしらね……そうだとしたら原因は――」

 

 

おそらくは彼……五河士道だろう。別に私は彼のことが嫌いではない。むしろその逆だ……しかし、好きだからこそ、期待してしまっているからこそ抱いてしまう不安……彼ならば私を――

 

 

「彼と話したのが二日前か……いますぐにでも話をしたい気分だけども。」

 

 

士道と話したのが一昨日。では一体、昨日は何をしていたかというと〈ラタトスク〉による検査を受けていた。一応、命に別状はないが病み上がりということもあって、数日は大事を取って安静にという結果を言い渡されてしまった。

 

そして、士道の方は現在、義妹である【五河 琴里(いつか ことり)】を封印するためにデートを行っているのだった……少し寂しく感じるが、今は一刻も争う事態らしく、早めに封印をしなければ琴里の精神が破壊衝動に飲まれるらしい。

 

一応、私の力でなんとか抑えてるものの、正直のところいつまで持つかは私にもわからない。私自身の怪我に加えて、彼女を飲み込もうとする破壊衝動があまり強すぎるために、私が現在持つ全ての霊力を使っている状態だ。

 

 

「何事もなければいいのだけど……まぁ、何かあっても今の私だと足手まといにしかならないわね。」

 

 

正直、嫌な予感はするのだが、同時に嫌な予感を吹き飛ばしてくれるような安心感も感じている。

嫌な予感とは何なのか?安心感を感じるのは何故なのか?誰かに質問しても、返ってこないような疑問を胸に抱きながらも私は――

 

 

「とりあえず、ベットの上にある書類と格闘しましょうか……私が言い出したことだから、責任を持ってやらないと。」

 

 

そう言ったあと、私はベットの上にある書類と睨めっこしながらペンと手をひっきりなしと動かしていた。

これも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるからしょうがない。そんな風に考えながら今日という一日は過ぎていった……一人の少女(琴里)が救われた一日が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日に照らされたビルの屋上には、一人の少女が……時崎狂三が屋上の縁に腰かけていた。

 

先日に琴里と王花と戦った彼女だが、現在はビルの中にいる人間達の『時間』を吸い取っていた。

とはいっても、死んでしまうくらいに『時間』を吸い上げて大量死をさせてしまったら、すぐに自分の仕業だと嗅ぎ付けられるだろう……そうすれば、ASTや赤い精霊そして王花ともう一度戦わなければならなくなる。

 

 

「さすがに万全の状態ではない現在では戦いたくありませんし……それにして、さすがにあの(精霊)二人は出鱈目でしたわね、さすが、精霊……といったところでしょうか。」

 

 

先日に起こった戦闘では、琴里と王花の二人には『時間』を大量に消費させられてしまった。

さすが精霊という名は伊達ではない……などと考えていると、突然背後から『誰か』の気配を感じたのである。

警戒して慌てて後ろを振り返るとそれが誰なのかがわかったため、狂三は警戒を緩めて肩の力を抜いた。

 

 

【――どうだった?彼は】

 

 

そういって、こちらにそう尋ねてくる『誰か』だったが、その正体を狂三は掴めていなかった。

まるでノイズがかかっているように輪郭があいまいなために正体がつかめず、こちらにかけてきた声も言葉の内容は理解できるが男か女か、低い声なのか高いのか、それすらわからないような奇妙な声色をしていた。

 

 

「えぇ、あなたに教えてもらった通り素晴らしかったですわね。こうなったら、是が非でも士道さんを手に入れなければなりませんわね。」

 

【それはよかった。それじゃあ…………()()()()()()

 

「王花さんですか……あまり大した情報は得られませんでしたわ。ですが……彼女はその(精霊)力を 【()()】から貰ったらしいですわ……」

 

【神様か……ありがとう、これで取引は成立だ】

 

「えぇ……あなたが士道さんについての情報を与える代わりに王花さんについて探ってくる……確かに完了しましたわ。とはいっても、結構な痛手を負いましたが……」

 

【それはすまなかった……とはいっても彼女の方はこちらにとってもイレギュラーな存在でね。その為に君に探ってもらったんだ。】

 

 

この取引の為に王花と路地裏とデパートで相対しなければならなかったために、屋上では彼女と相対することになったが、彼女も士道と同じく自分の望みを叶えるために必要な存在だろう。

 

 

「士道さんも王花さんの持つ霊力は【一二の弾(ユッド・ベート)】を使うためには必要ですから。」

 

【時間遡行の弾……【一二の弾(ユッド・ベート)】か。そんなものを使って君は何をするつもりなんだい?】

 

「【一二の弾(ユッド・ベート)】の力を何故知って……いえ、それよりも私が何をするかですか。そうですわね……過去を変えるためですわ。」

 

【過去を……?】

 

「えぇ、私は30年前に初めて世界に現れた精霊……全ての精霊の根源となった精霊を『最初の精霊』をこの手で殺すために過去へ飛びますわ。そして、この世から精霊がいたという事実を消し去り、今この世界にいる全ての精霊をなかったことにする――」

 

 

――――それこそが私の悲願ですから――――

 



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王花ライフ
1章


今回の王花ライフはなんというか、4巻と5巻の間くらいの小話的なものです。
ちょっとだけ短い日常?を楽しんでいただければ幸いです。


「――ハァハァ……どうして、どうしてこんなことに。」

 

 

五河士道はそう呟きながら、校内を走り回っていた。

後ろから迫るクラスメート達から聞こえるのは、士道の制止を呼びかける声。そして、男子からは嫉妬、女子からは好奇の視線を浴びながらだ。

 

そして、そんな自分の隣で走っているのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった――

 

 

「……これが恋の逃避行っ!」

 

「いや、それ意味違うんじゃ……って、うぉ!?人に物を投げるなよ!!」

 

 

「うるせぇー!なんで、お前だけモテるんだ!」「十香ちゃんというものがいながら……」

「士道、詳しい説明を求める」「俺達は校内ベストカップル2位じゃないか!裏切るのかっ!?」

「安心しろ、クラス全員でちゃんと墓穴は掘ってやる」「大丈夫!当たっても少し死ぬだけだ!」

 

 

「いや、だから誤解……って、最後の奴らが不穏すぎるっ!?」

 

「……なんだか、個性的な学校ね?」

 

 

"個性的ってレベルじゃないような……"そんな言葉を胸に秘めながら、士道は今日のことを思い出していた。

少なくとも、登校するまではいつも通りのだったはずだ。朝に朝食を食べ、十香たちと一緒に学校に向かったところまではいつもと同じだったのだ……学校のホームルームが始まるまでは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は朝のホームルームへ戻り、教室では出席簿を持ったタマちゃんの挨拶が始まった。

 

 

「はい、みなさんおはよぉございます。では、早速出席を……といいたいところですが、その前にみんなに転校生を紹介したいと思います!」

 

「またうちのクラスに転校生なの?タマちゃん先生。」

 

 

クラスメイトの一人がそんな疑問をタマちゃんにぶつける。それもそうだろう、十香、狂三と続いて再びこのクラスに転校生がくるのは少し不自然に感じるのは当然だろう。そもそも、この時期に転向するなんてそうそうないはず……そう考えてるとタマちゃんがその回答に答えた。

 

 

「私も詳しいことは知らないんですが、とにかくこのクラスへと言われたんですよ。」

 

結局、タマちゃんもあまり詳しいことは知らないようだった。まぁ、気にするほどの事ではないだろう……そして、今度は殿町がタマちゃんへと質問をしていた。

 

 

「はいっ!質問です!転校生は男と女のどっちですか!?」

 

「みんなもやっぱり気になりますか……なんと!転校生は女の子です!」

 

『うぉおおおおおおおおおおお!!?』

 

 

と、クラスの全員……特に男子が大きな歓声を上げる。確かに自分も転校生は気になるが、あまりにも浮かれすぎている気がする。まぁ、確かにうちのクラスはお祭り好きな人間が多いから当然かもしれないが……

 

 

「さ、入ってきてくださぁい――」

 

 

その一言でクラスの全員が一瞬で静まり返り、教室の扉へと注目していた。

そんな静まり返った教室へと入ってきたのは自分が知っている少女だった。その少女は自身が持つ銀色の髪で背中を覆いながら、教卓の前へと歩いてきた。

 

本来なら色めき立つクラスメート達だが、少女の鮮やかな髪、宝石のように紅い瞳、そして整った顔立ちとスタイル抜群な美少女にクラスメート達は言葉を失っていた。かくゆう自分も別の意味で言葉を失っていたのだが、そんな自分をよそに少女は黒板に自分の名前を書き終え、呆けているクラスメート達へと体を向けて静かな声でこう言った。

 

 

「――皆さん、初めまして。私の名前は【橘 王花(たちばな おうか)】といいます。家庭の事情で一人でこの街へと引っ越したばかりなので、わからないことが多々ありますが温かい目で見守ってくだされば嬉しいです。それでは皆さん、これからよろしくお願いします。」

 

 

見惚れるような笑顔で挨拶をし終えた王花に、クラスメート達は拍手を送る。

ただ、王花の笑顔が自分に向けられているのには気になったが、おそらくは気のせいだろう。

そして、王花が挨拶を終えた後、タマちゃんは教室を見回しすように視線を巡らせた。

 

 

「えぇっと、それでは橘さんはあそこの空いている席へ――「先生、そのことで少しお話が……」――は、はい、なんでしょうか?」

 

「私がこの街に引っ越したのは家庭の事情だと先ほどお話ししましたが……実は私がこの街へとやってきた理由はある人と会う為なんです。」

 

「ある人……?」「どんな関係?」「というか誰?」

 

 

亜衣、麻衣、美衣が王花に対して質問をする。

いきなりタマちゃん……もとい教師の話を遮ってする話なのだ。このクラスにいる誰もが、彼女がこの街へと引っ越した理由を知りたがっていた。

そんな自分たちの問いに答えるかのように、王花は口を開いた。

 

 

「……その人はこの学校の……このクラスの生徒で、そして何より――()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『え……えぇーーえええええっ!』

 

 

王花が答え終わった瞬間、クラスメート達からは驚きの声があがっている。

自分も驚いている……というか、精霊である王花に許嫁がいたというのはおかしな話だ。

おそらくは琴里達の仕業だろう。そう考えれば王花が学校へと編入できたのもうなずける。

 

しかし、王花の爆弾発言に驚いているクラスメート達とは別に、士道は何か嫌な予感を感じ取っていた。

まぁ、最近はずっとこんな調子なので、ある意味いつも通りではあるのだが……

 

「というわけでして、できればその方の近くの席に座りたいのですが……」

 

「ま、まぁ、たぶん大丈夫ですけど……」

 

 

「うわぁー、漫画みたい!」「ロマンチックーだね。」

「まさか、俺が彼女の許嫁……親父とお袋はなぜ言ってくれなかったんだっ!」

「「たぶん、お前じゃないっ!!」」 「一体誰なんだ……羨ましい。」「許嫁ってだれー?」

 

 

 

「その、私の許嫁の方の名前は……――」

 

 

『――……名前は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【五河 士道】という名前なんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………えっ?」

 

 

『……はぁーーーぁあああああ!!?』

 

 

 

「正直、美少女が来たからなんとなくそう思ってました。」「くっそ!またあいつか!」

「十香ちゃんだけでは飽き足らずに王花さんまで……」「許すまじ、五河士道!!」

「私、五河君の前の席だから席替えオッケーです。」「三角関係……いや、折紙さんも入れて四各関係っ!?」

 

 

 

「いや!待てって!俺は何も知らないっ――」

 

「なぁ、シドー。許嫁とは一体なんなのだ……?」

 

「――士道。キチンとした説明を求める。場合によっては……」

 

「何するつもりなんだ一体!?……って、王花もなんでこんなことを――」

 

 

そういいながら王花を見るが、こちらに向けてるのは満面の笑みのみ。

そんな笑顔を浮かべながら、王花はどこか悲愴な雰囲気を醸し出している。

一体、何をするつもりなのか……そんな風に考えていると王花は目に涙を滲ませていた。

 

 

「許嫁とはいえ、所詮は親の決めたこと……だけど、少しでも士道君のそばにいたいと思ったんですが……すみませんでした。迷惑をお掛けしてしまって。」ジワッ

 

「いや、そういうことじゃ……(というか、周りからの視線が痛い)――とにかく、すこし落ち着いて話をしよう!というわけで、先生ちょっと席をはずしますっ!!」

(一刻も、早くこの場から立ち去らないとクラスメート達から何されるかわからんし……)

 

「あっ――い、いきなり私の手を取るなんて……少し恥ずかしいわ///」

 

 

 

「あっ!逃げたぞ!追えっ!」「シドー!結局、許嫁とは何なのだ!?」

「いきなり二人きりなんて不潔よっ!」「陸上部から逃げれると思うなよっ!」

 

 

「だから誤解だって!?……くっ、とにかく今は逃げるしかない!」

 

 

そう言いながら、士道は王花の手を取って教室から出ていった。一応、今はホームルーム中だがそれどころではない。いろんな意味で自分の危機なのだ。

そして、そんな二人を追うようにクラスメート達も教室を出ていってしまった。

 

 

「い、いまはホームルーム中……って、みんないないですし……」

 

 

そんなタマちゃんの寂しげな声のみが教室へと響き渡っていった――




今回のお話は、4巻でも5巻のどちらもベースにしてないのですこし時間がかかりました。
ちなみに、今回の王花さんはクラスメート達の前なので言葉遣いが丁寧になってました。
(あれ?こんな話し方じゃなくね?)と思った方はその通りです。


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