須賀京太郎が逆行するお話 (通天閣スパイス)
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プロローグ(前)
人間五十年、というのは戦国時代の話。
医療技術の発達、食料事情の改善、戦争の非日常化。その他様々な要因によって、人間の寿命は伸び続けている。
それによって様々な問題が起きていたりするのだが、そこらはまあ、置いといて。
平成に生まれ、高いレベルの医療と衣食住の恩恵を享受していた自分もまた、ご多分に漏れず。
九十二年という長い寿命を生き、働き、楽しんで――今は自宅の日本家屋の一軒家、その自室の畳の上にいた。
「………………」
長年慣れ親しんだ布団に仰向けで寝転び、年金で買った割りと高級な掛け布団に包まれながら、思考を巡らせる。
……思えば。この人生、幸せに生きてきたと思う。
長野の片田舎に生まれた俺が、高校を出た途端に地元を飛び出し、東京に来て。色々な困難はあったけれど、知り合いの助けもあって、手に職をつけることが出来た。
それだけでも幸運と言えるのに、何の因果だろうか、その仕事の業界で成功と言える結果を出すことが出来て。標準以上の環境で日々過ごし、学生時代に出会った妻とも幸せな生活を送ることが出来たのだ。
その妻は十年前に既に鬼籍に入り、妻との間に設けた子供達は外国や地方に行ってしまって、もうこの家には自分以外の誰もいないけれど。
彼女達と過ごした思い出が、自分が今まで生きてきた証が、この家には詰まっている。だから寂しい、という感情は全く沸き起こらない。
……本音を言えば、最後くらいは誰かに看取って欲しい、という思いはあるが。
ここ数日で一気に身体が衰弱し、もう上体を起こすことすら出来ないこの状況となっては、誰かを呼ぶことも出来ない。
これなら意地を張らず、子供達の勧めに従ってお手伝いでも雇えばよかっただろうかと、そんな冗談混じりのことを考えた。
「……ゴホ、ゴホッ」
咳が出る。
その音を聴いて、自分の身体がもうどうしようもないくらいに弱りきっていることが、よく分かった。
老衰か、あるいは何らかの病状か。この状況になった原因に一瞬興味が沸いて、どのみち死ぬんだから関係ないかと、すぐに頭の中から消し去る。
……こんなつまらないことを考えるなら、俺の意識もそろそろ限界、ということだろうか。
事実、先程から凄まじい眠気が襲いかかってくる。
それと同時に力が更に抜けて、もう手足の感覚が徐々に薄れつつあった。
ああ、ダメだ。眠い。
意識が、俺が、消えてゆく。
視界が白に染まって、頭の中に靄がかかったようになって。もうなんだか、何を考えているのかすら分からなくなってきた。
『――――京ちゃん』
ふと。脳裏に浮かんだのは、中学高校と一緒だった、女友達の姿。
そういえば、彼女とは数十年顔を合わせていないなぁ、等と。
薄れゆく意識の中、そんなことを考えて――――
「――ちゃん。起きてよ、京ちゃん」
……声が聞こえる。
懐かしいような、よく慣れ親しんだような。そんな不思議な、少女の声。
いったいどこで聞いたものだったかと、混濁とした意識を動かして、思考を巡らせる。
「もう、勉強教えてって言ったの京ちゃんなのに……。言い出しっぺが寝てどうするのさ、このこの」
ツンツンと、頬を触られる感触。
反射的に頬に当たっている何かを手で掴むと、右後ろから「ひにゃぁ」、というなんとも可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。
……これは、なんだろう。
未だ覚醒しない意識のまま、寝ぼけ眼を開いてその“何か”を手で掴んだまま、見る。
色は、肌色だ。形状は細くて、根本の部分は大きい何かに繋がっている。
触った限りでは、すべすべして、柔らかい。先っぽに付いている半透明なものは固いが、それ以外は肉のように柔らかい。
「な、にゃ、なななななな……!」
先程の声がまた聞こえるが、今は無視しておく。
だんだんとハッキリしてきた意識によると、この何かは指、手に付いている指に酷似しているようだ。
手、手か。成程確かに、この感触も手を握っている時にそっくりだ。
はて。それならこの手は、いったい誰ものであろうか。
どう考えても俺のものではないし、手の根本から腕らしき肌色のものが伸びている以上、俺以外の誰かのものだと考えるのが自然だろう。
ならば、と顔を回転させて、その腕が伸びる方へと視線を向けてみる。
するとそこにはやはりというか、一人の少女がいて。
黒髪を肩口まで伸ばし、シックな雰囲気の私服に身を包んでいるその少女は、何故だか顔を赤くして口をパクパクと開けていた。
「うう、ん……?」
――見覚えが、ある。
何処で会ったかは分からない、しかし確実に見覚えがあるこの少女のことを、俺は絶対に知っていた。
見たところ十代くらいの少女だから……はてさて、いったい何処で出会っていたのだろう。
年齢的には曾孫と同じくらいだから、それ関係だろうか。しかし曾孫の友人などには会ったことないし、その線は違うと言っていい。
仕事の客、も多分違う。これでも記憶力はいい方だが、仕事場でこんな少女を見た覚えはない。
思い出せ、俺。思い出せ須賀京太郎。
喉まで出かかっているこの少女の正体を、何とかして思い出すんだ……!
「きょ、京、ちゃんっ! 寝惚けてないで手、手ぇ離してよぉ!」
再び、少女の声が聞こえる。
もう一度無視していようかとも思ったが、彼女が言った言葉の中の、『京ちゃん』という単語。それがどうにも引っ掛かり、思わず彼女をまじまじと見つめていた。
京ちゃん。俺のことをそんなあだ名で呼んでいた奴が、何人かいる。
それは親戚だったり、友人だったり、様々で。その中で一番印象に残っている奴と言えばやはり、あの女友達だろう。
中一の最初の頃に知り合って、その時はあわあわしてる小動物チックな文学少女だと思ってて。でも高校になって麻雀部に入ったら、隠してた才能で俺なんか手も届かない高みに昇ってしまった、あの少女。
中学の時はいつも一緒にいたくらいなのに、麻雀で活躍しだしてからはだんだんと疎遠になっていった、あの少女。
咲。
宮永、咲。
記憶にあるその少女の姿と、目の前の彼女の姿は、寸分違わず重なっていた。
「……咲?」
え、いや、待て待て待て。
咲? ほんとに咲? いや、えっと……どういうことだ。
とりあえず、あれだ。一旦落ち着こう。
俺は須賀京太郎で、歳は九十二歳。学生だったのは数十年前の頃の話のはずだ。
で、目の前にいるのは、俺の記憶が正しければ宮永咲。俺の同級生で、見たところの姿は十代。
うん、おかしい。
「……咲。お前、いつの間に若返った?」
「何の話っ!? それよりもほら、手、握ってる、握ってるからぁ!」
「いや、だって、なんで俺と同い年の奴がそんな若い姿でいんの?
もしかしてあれか、お前麻雀のしすぎでとうとう人間やめちゃった? 小鍛治元プロを鼻で笑うくらいに進化しちゃった?」
「ほんとに何の話しだしてるのーーーーっ!?」
バタバタと、俺に手を掴まれたまま、暴れている咲。
その姿があまりにも記憶のそれと一致していて、目の前のこれが正真正銘本人であるということを、ありありと分からさせられる。
……いや、しかし、これは。
もしかしたらこの状況は、所謂あれというやつなのかもしれない。
小説とか、ゲームとか。そういう創作物でよく題材になる、あれだ。
「……」
周りを、見渡す。
先程から視界に映っているこの景色にも見覚えがあって、俺の記憶によれば今いるこの場所は、学生時代の咲の自室だったはずだ。
沢山本が詰まった本棚もあるし、可愛らしいぬいぐるみとか、少女らしい飾りつけだってされている。間違いなく、この部屋は咲のものだろう。
まあ、その辺りはひとまず置いといて。
その部屋にある姿見、それに視線を合わせると、鏡面に映り込んでいる俺の姿を見つめる。
皺の入ってない、若々しい顔。
若い頃と同じ、短めに整えられた金髪。
曲がっていない背中に、老眼鏡の必要がない視力、みずみずしい肌。
その鏡には、十代の頃の若々しい俺の姿が間違いなく映し出されていた。
「……ああ、うん。成程成程」
なんというか、やはり。
これは、あれらしい。
昔にタイムリープしてるじゃないですか、やだー。
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プロローグ(後)
『宮永咲』。麻雀を少しでも知っているなら誰でも聞き覚えがあるであろう、日本、いや世界で五指に入る程の麻雀の打ち手である。
彼女の名前が初めて世に出たのは、彼女が高校一年だった時のインターハイだ。
当時は無名だった清澄高校の大将として麻雀の団体戦に出場し、風越、龍門渕等の強豪を撃破して『魔境』と呼ばれる長野地区の予選を勝ち抜き。全国大会では惜しくも白糸台に敗れたものの、初出場で全国ベスト4という記録を打ち立てたのである。
その年の個人戦はとある要因で散々な結果に終わっていたが、翌年からは団体、個人戦ともに彼女の無双とも言っていい快進撃が開始して。彼女の姉であり、彼女と同じくらいに優れた打ち手であった『宮永照』を彷彿とさせる圧倒的な強さを全国の舞台で知らしめていた。
その後、高校を卒業した彼女は、姉と同じように麻雀のプロリーグに参加。
宮永姉妹、そして彼女達の世代で多く見られた優れた打ち手達を牽引役として、以降日本の麻雀界のレベルと熱気は急激に上がっていくのだが……それはまあ、置いておいて。
「……なあ、咲。いい加減に機嫌を直せって」
「…………怒ってないもん」
「いや、怒ってんだろ? なあ、確かに、寝惚けてお前の手を掴んでたのは悪いと思ってるけどさ……」
「だからっ、怒ってない! そうじゃなくて……そうじゃなくてっ、もー! もー!」
「うぉあっ!? いって、いきなりポカポカ殴ってくんなって、この!」
「うっさい京ちゃんのバーカ! ばーか! どーせ手を握ったことなんてなんとも思ってないんだろこんちくしょーっ!!」
そんな彼女も、高校に入るまではただの可愛らしい少女であったなぁ、と。
頬を紅潮させて俺をぽかすか叩く彼女を見ながら、そんなことを思い浮かべていた。
さて。俺が謎のタイムリープを果たしてから、少し経った後のこと。
俺が手を握ってしまったからだろうか、半ば狂乱していた咲の攻撃を逃れ、手近にあったジャケットと鞄――どちらも、俺が学生時代に使っていたものである――をひっ掴んで咲の家を後にして。
昔の記憶と照らし合わせながら歩き、視界に映る風景が記憶のそれと変わらないことを確かめてから、散策がてらに家路を歩いていた。
咲の家から俺の家まで、大体徒歩で二十分程度。
その短いとも長いともつかない距離を歩きつつ、懐かしい風景――学生の時に見た景色そのままを見て。
「……ホントに。俺、昔に戻ってるんだなぁ」
ポツリと。そんな言葉が、思わず口から漏れ出ていた。
正直に言えば、俺は、今の今まで夢見心地だった。と言うより、いきなりのことで思考が追い付かなかった、とでも言うのだろうか。
それが咲の家を離れ、一人になって考える余裕が出来てからは、どうしても現状についてのことに思考が巡らせてしまう。
先程の咲の手の感触が、涼しい空気の感触が、この現状はまごうことなき“現実”であると、俺の思考に突きつけてくるのだ。
夢。これが夢なら、話は早い。死ぬ寸前の俺が見せている妄想、それで話は片付く。
しかし現状、五感が正常に稼働しているこの現実は、どう考えても夢ではない。夢だとしたら、あまりにもリアルすぎる。最先端技術のVRだ、と言った方がまだ信じられるだろう。
そして咲の姿、見覚えのある風景を実際に見てみた限り、昔に戻っているというのもまた確かなようで。
ジャケットのポケットに入っていた携帯を取り出してみると、その画面には『20XX/09/16』、俺が中三の時の年月が表示されていた。
ここまで証拠が揃ってしまえば、俺は昔に戻っているのだと、無理矢理にでも自分を納得させた。
「しっかし、ねぇ。昔に戻ったっつったって……俺に何やれっていうんだか」
独り言を呟きながら、ぶらぶら歩く。
これが小説とかなら、俺はこういう場合、未来知識を活かして活躍したりするんだろう。
未来で生まれる技術を先取りしたり、災害に備えたり、はたまたハーレム作ったりなんかして。俺が以前読んでいたタイムスリップものの小説では、大体そんな感じで主人公が無双していた。
じゃあ、そんな主人公達と同じような目に遭っている俺も、彼らに右へ習えするのか。
正直に言って――――不可能だ、そんなことは。
「未来知識って言っても、一般人の俺じゃ、そんな大したことは知らねぇし。戦争とかだって、この国じゃあ俺が死ぬまではなかったし、災害は個人でどうにか出来るレベルじゃない。
……まあ、創作物はあくまで創作物ってことかな、うん」
そもそも、俺に英雄願望なんぞはないし。
未来のことを知っているからといって、わざわざ面倒なことに首を突っ込むつもりは、俺にはこれっぽっちもない。
一瞬脳裏をよぎった『未来から来た人間の責任(笑)』なんぞは、そこらの溝にでも投げ捨てることに決めた。
未来知識や蓄積した経験なんて、自分のために使うくらいでいい。
ちょっと勉強とかで楽をして、将来を楽に出来る。大好きだった妻と、また会える。諦めた初恋を、もしかしたら成就させられるかもしれない。
俺にとって、過去にやって来たというのは、そんな感じだ。
……まあ、気楽でも別にいいだろう。多分。
変に気負うくらいなら、そっちの方がよっぽど俺に合ってる。
そんなことを考えながら、俺は歩みを進めて。
気がつくと、もう家の近所にある公園の横を通りかかるところまでやって来ていた。
「お。……懐かしいなぁ、ここ」
幼い頃、この公園でよく遊んだ記憶を思い出して、懐かしい気持ちになる。
思わずちょっと寄り道してみると、未来では既に取り壊されてしまっている遊具などがあって、懐かしさがさらに増してきた。
そういえば、親が死んでから実家の近くには寄ってなかったから、この公園に来るのは単純計算で半世紀ぶりになるのか。
ならこんなに懐かしいはずだと、内心一つ頷いて。公園でわいわい遊んでいる子供達を避けつつ、奥の方へと足を進めていった。
奥まで来ると、ちょうど公園全体を見渡せる位置に、一つのベンチがある。
それに腰かけよう、と思った瞬間、ふと視界の端に自動販売機を捉えて。どうせなら飲み物でも飲むかと、下ろしかけた腰を再び上げて、某飲料メーカーのロゴが側面に描かれている自動販売機へと近づいた。
財布から百円玉と十円玉を二枚取り出して、それを投入口の中へと入れつつ、ラインナップを見つめる。
やはり、ここはコーラだろうか。でも紅茶も捨てがたいし、一息吐くのならお茶もいいかもしれない。勿論コーヒーという選択肢もある。
うむ、ううむと少々悩んで、指をボタンの前で左右させて――――
「えいっ」
「……あっ」
横から伸びてきた手によって、強制的に中断させられた。
その手があるボタンを押すと同時に、ピッと電子的な音が響いて。ガタンガタンと音を鳴らしながら、取り出し口にペットボトルが落ちてくる。
それを手に取ったのは、先程の手の主――シンプルな装いの衣服を纏い、どこかぽわぽわした雰囲気を持つ紫色の髪の少女。
彼女は俺へと向き直ると、その手に持ったペットボトルを俺へと差し出していた。
俺はいきなりのことに、思わず少々呆然としていて。
目の前の彼女は誰だとか、なんで勝手に押されたんだとか、ひょっとして俺は怒るべきなんだろうかとか。そんなことを考えながら、彼女をじっと見つめていた。
数秒ほどの間、俺たちは無言で見つめあって。やがて彼女はこてん、と首を可愛らしく傾げると、手に持ったペットボトルを小さく左右に振りながら、口を開いた。
「……いらないの?」
「えっ?」
「……」
「……あー、えっと、はい。いただきます」
少女の手から、ペットボトルを受け取る。見てみると、それは『新発売!』とパッケージに大きく描かれている紅茶で、後にベストセラーの仲間入りを果たす人気飲料だった。
俺も結構好きな味だから、嬉しいことは嬉しい。……嬉しいのだが、他人が勝手に選んでしまったということで、どうも素直には喜べなかった。
そんな俺の心境を知ってか知らずか、少女は財布を取り出して小銭を自動販売機に投入すると、俺と同じ飲料を購入しようとしていた。
……声をかけようかとも思ったが、どうも面倒そうな予感がビンビンして、俺はそっと彼女から離れる。
確かに一言言ってやりたい気持ちはあるが、自動販売機で他人が買おうとしている時に勝手にボタンを押すような奴は、どう考えても子供か変人だ。
彼女の年齢は見た限り高校生くらいだったし、子供でない以上変人確定である。経験則上、変人は見て見ぬふりをするのが一番なのだ。
自動販売機の近くのベンチではなく、そこから少し離れた場所にあるベンチまで行って、そこに腰掛けて。
とりあえずさっきの少女のことは記憶から追いやってしまおうと、紅茶を飲もうとペットボトルに口をつけて、
「……」
「何?」
「……いや。なんでわざわざこっちに座ったのかなぁ、と」
当たり前のように俺の隣に腰掛けてきた少女に向けて、つい問いかける。
すると少女はきょとん、と呆けた表情を浮かべた後、何やら考えるように顔を上に向けて。「何となく」という、なんとも言えない答えを数秒後に返してきた。
そうか、何となくですか、そうですか。
……やっぱり面倒くさそうな人じゃないですか、やだー。
「ねぇ」
彼女が、口を開く。
いっそ無視してしまおうかと考えかけて、さすがにそれは失礼すぎると思い直して。彼女に視線と顔を向けると、言葉の続きを待った。
「今日――――は。ここには、旅行で来たんだけど」
「旅行? でもここら辺、観光地って訳じゃ……」
「昔、ここの近くに住んでたから。観光のついでに、もう一度見にきた」
へぇ、と相づちを打つ。
確かにそういう理由でもなければ、わざわざこの辺りまで来はしないだろう。自分で言うのもなんだが、我が地元は残念ながら一般的な田舎の住宅街である。
どうも彼女の姿が記憶に引っ掛かる気が先程からしていたが、その辺りに原因があるのかもしれない。
「で、もう帰ろうかと思ってたけど。その前に、貴方の姿を見かけて」
「……見かけて?」
「その。……ちょっと、気になった」
そう言って、彼女は下を向く。
恥ずかしがっているのか、耳を少し赤くして、顔をうつむかせている彼女の姿は、控えめに言っても可愛らしい。
もしこれを端から眺めていたり、俺の精神が身体通りの若い青少年のものだったら、俺も彼女に見とれるぐらいはしていた。
しかし俺は、彼女がちょっと変人だと知っていて。可愛らしいとは思うが、ドキドキ等の胸の高鳴りは全く沸き起こってこない。
正直な話、そんな態度を見ても、その。
困る。
「……変な意味じゃない。一目惚れとか、そういうのじゃなくて。
その、興味を持ったというか。いや、いきなりとかじゃ……そうじゃなくて……」
何やらぶつぶつと、誤魔化すように呟いている少女。
しどろもどろという形容が一番相応しいだろうか、ぐちゃぐちゃな言葉を無理矢理紡いでいるのだという様子が、ありありと見てとれる。
……ああ、もう。
めんどくさい。ホントにめんどくさい。
いきなり過去に遡って、正直こっちもいっぱいいっぱいなのに。今のこれが現実だということすら、まだ完全に受け入れきれている訳ではないくらいなのに。どうして俺は、こんな少女に絡まれているんだろうか。
別に怒りの感情が沸いてくる、という訳ではないけれど。それでも辟易とした感情を、彼女に対して少々抱かずにはいられない。
が、それでいて、しかし。
「――――名前」
「……えっ?」
「ですから、名前。何か話があるのは、分かりましたけど。
それよりもまず、貴方の名前を聞かせてもらってませんよね?」
彼女をついつい構ってしまったのは、俺の生来のお人好しが原因だろうか。
妻や咲には「それがいい」と言われた俺の長所の一つではあるのだが、それでもこういう時には、もう少し冷徹になってもいいかもと思ってしまう。
名前を聞かれた少女は、一瞬驚いた表情を浮かべると、すぐに綻んだ笑顔を見せて。「うん」と一つ頷くと、俺の目をしっかりと見つめて、自分の名前を口にした。
「照。私の名前は――――宮永、照」
えっ。
………………えっ?
Q.続き書くんだよ、おう早くしろよ
A.ぶっちゃけ息抜きに書いてるだけなので、基本亀更新です。何でも(ry
Q.照チャー挙動不審すぎね?
A.伏線。照がこの時おかしい理由はある。
Q.逆行前の京太郎の妻って誰なん?
A.シロとかじゃね?(すっとぼけ)
Q.百合はよ
A.SOA。
Q.入水はよ
A.SOA。
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一話
※【Kyo】さんがログインしました
【Kyo】:こんちゃー
【ほっしー☆】:お、こんちゃー
【†あたら†】:こんにちはー
【きぬごし】:おいすー
【クララ】:こんにちはっ!
【Kyo】:おー、皆さんお揃いで。出遅れちゃった感じ?
【きぬごし】:いやいや、私達もついさっきインしたばかりやでー
【きぬごし】:早速打つ?
【Kyo】:うい、お願いします
【きぬごし】:ほいほい。みんなはどうするんー?
【ほっしー☆】:んじゃ、私もー
【†あたら†】:私もやりますー
【きぬごし】:はーい、二名様ごあんなーい
【クララ】:私も入るよっ
【クララ】:出遅れたぁ……
【きぬごし】:www
【†あたら†】:www
【Kyo】:どまですwww
【ほっしー☆】:どまwwwww
【きぬごし】:んじゃ東風一回で、ラス抜け交代ってことでええか?
【Kyo】:はいっすー
【ほっしー☆】:おけおけ
【†あたら†】:いいですよー
【クララ】:ありがとっ! いよっ、この女神!
【ほっしー☆】:きぬごしちゃんマジ女神!
【Kyo】:きぬごしちゃんマジ女神!
【†あたら†】:きぬごしちゃんマジ女神!
【きぬごし】:やめぇやwwwやめぇやwwwwwww
パソコンの画面に映る、チャット画面。
俺が今現在プレイしている、とある大手のネット麻雀ゲーム。それに備え付けられているチャット機能で繰り広げられている掛け合いを見て、俺は苦笑を漏らしていた。
【ほっしー☆】、【†あたら†】、【きぬごし】、【クララ】。そして俺こと、【Kyo】。
幾億もいるネット麻雀プレイヤーの中で、偶然出会い、偶然集まって、そのままなんだかんだで纏まるようになった俺達五人は、出会って数ヵ月ながらも、既に友人と言ってもいい距離感に至っている。
夜九時、それぞれの用事が終わるであろう時間帯に、俺達はほぼ毎日集まって。駄弁ったり、麻雀を打ったり、コントのような掛け合いをしたりしていた。
以前では――麻雀にのめり込むのが遅かった逆行前においては、持てなかった繋がり。
逆行前との“相違点”の一つであるこのコミュニティーは、俺が逆行してよかったと思えるくらいには、俺の生活に潤いをもたらしていた。
【きぬごし】:よーし、部屋出来たでー。部屋名とパスはいつものやー
【ほっしー☆】:のりこめー!
【†あたら†】:目指せ、Kyoを飛ばして一位!
【Kyo】:ちょっwww
【きぬごし】:前回の恨みがwww
【†あたら†】:私の四暗刻を潰してまくられた恨みは忘れない
【ほっしー☆】:私のダブリーを中のみで流された恨みは忘れない
【クララ】:ほっしーさんもwww
【きぬごし】:じゃあ私も、満貫直撃された恨みは忘れない
【クララ】:wwwww
【Kyo】:俺フルボッコ確定じゃないですかーやだー
ちなみに。今の俺の実力は、そこそこ強い。
プロではなかったとはいえ、これでも俺は半世紀を越える年月で麻雀をやって来ているのだ。あくまで趣味の範疇でやっていたものの、アマチュアの大会で上位に入った経験だって何度もある。
少なくとも、逆行前のこの時点の俺の実力――役も全部把握してないド素人よりは、格段に力が上だと言えた。
……まあ。それでも咲達を初めとした“本物”に勝てるとは、言えないのだけれど。
そこまで俺も、自分に自信はない。自惚れることは出来ない。
絶対に負けるとも、プライドの関係上言いたくないが。
【Kyo】:今日は宿題が多くて疲れてるんで、勘弁してくださいよー
【きぬごし】:私かてあったわ! 提出一週間後やからやっとらんけど!
【ほっしー☆】:私だってあったよ! 全然分からなかったからやってないけど!
【Kyo】:おいwww
【きぬごし】:(アカン)
【†あたら†】:それでいいんですかwww
【ほっしー☆】:私は高校百年生だから! 大丈夫だから!
【Kyo】:wwwwwww
【†あたら†】:wwwwwww
【きぬごし】:あんたいくつやwwwwwww
【クララ】:私より先輩……だと……っ!?
でも、とりあえず、そんなことは忘れて。
上を見て絶望するよりも、今この場の楽しい一時を存分に楽しもうと、俺は再びパソコンの画面に意識を集中させた。
「――――で。寝るまでネット麻雀に夢中になってた、と?」
「……おう」
「へー、ほー、ふーん。だから私からの電話に出なかったんだー、私何回もかけ直したのにー」
「いや、あのですね、咲さん。それは確かに俺が悪いんだけど」
「何?」
「いや、その、さ。なんでそんなに怒ってるのかなぁ、って……」
「何?」
「……いや、あの」
「何?」
「……」
「何?」
「俺が悪かったです、はい! なんでもするから許してください!」
その翌日の、学校の教室にて。
俺は咲を相手に、綺麗な土下座を決めていた。
時期は、初夏。俺が高校へと進学して初めての、夏の頃のこと。
逆行前と同じく地元の高校、後に全国区で名前が知れ渡る『清澄高校』に入学した俺は、疲れた顔をして廊下を歩いていた。
その隣で微笑みを浮かべ、両手で本を抱えながら歩いているのは、咲。
俺と同様に清澄高校へと進学した彼女は、中学から続いて四年連続のクラスメイトとして、変わらず俺との親しい関係を続けている。
電話やメールのやり取りは当たり前。昼飯を一緒に食べたり、宿題を一緒にやったり、放課後の遊びに一緒に付き合ったりと、正直逆行前に比べてベタベタしすぎなんじゃないかと思うくらいに親しくしていた。
いや、まあ、別に文句があるわけではないけれど。
今の咲は控えめに言っても美少女だから、俺としても満更ではないし。彼女に対して恋愛感情がある訳ではないが、彼女が楽しそうにしている姿を見るのは、俺としてもそう悪くはなかった。
『なんでもするから』という言質を取られ、放課後の図書室に無理矢理連れていかれた後、彼女と一緒に本を探しまわるはめになったこの状況でも。
疲れている表情とは裏腹に、俺の内心は、少なくない幸せを感じていた。
「……えへへ。ありがとねっ、京ちゃん。京ちゃんのお陰で、読みたかった本見つけられたよ」
先程の怒りは何処へと。本を借りた辺りから急に笑顔になり、上機嫌で口端を弛めていた咲は、そう言って俺への感謝を示した。
今回のことは俺への罰ということになっているのに、態々こういったことを口にするのは、こいつが俺以上にお人好しな証拠だろうか。あるいはそんなことなど忘れてしまうくらいに嬉しくなるほど、こいつの活字中毒者具合は上がっていたのだろうか。
そんな益体もないことを考えつつ、俺が適当に返事をすると、彼女は「にへへ」と嬉しさを隠しきれない笑みを溢していた。
曰く、この作者はマイナーだけど文章力が物凄いとか。恋愛ものに定評があって、胸が切なくなる微鬱展開を書かせたら日本一だとか。前作の幼馴染みものが大好きで、読んだ時には一晩中泣きはらしてたとか。
小説に対する熱い思いを語る彼女の話を半分程度に聞き流していると、やがて満足したのだろうか、彼女は再びの俺への感謝で話を締めて。
「いやー、もー、ホントにこれ読むのが楽しみっ!
……あ、そうだ京ちゃん。付き合ってくれたお礼にさ、学食で何か奢ってあげる!」
熱く語っていた時の高いテンションのまま、普段では見られないような行動力を発揮すると、俺の手を掴んで学食へと引っ張っていった。
そのまま咲に引っ張られて、数分後。
皆空いた小腹に何か入れたいと思っているのか、放課後ながらも人影が多少見受けられる学食に、俺達は無事辿り着く。
女が男を引っ張って入ってきたものだから、学食に入った瞬間に奇異の視線が集まってきていたが、どうも咲の目には映らなかったようで。
「日替わりのレディースランチでいいよね?」と尋ね、それに俺が頷いたのを見た少女は、俺に席取りを頼むと同時に注文口へと向かっていった。
で。俺はといえば、普段とはあまりに違った咲の様子に思わず気圧され、何か言うこともなくついつい流されてしまって。
ここまで来たならどうしようもないかと、一つ溜め息を吐いて彼女の言葉通りに席の確保へ向かえば、
「――――よっ。随分と尻に敷かれてんじゃねーの、京太郎くん」
空いてる机を見つけ、そこに腰かけた直後。
クラスメイトの男子が、ニヤニヤと面白そうに笑みを浮かべて、俺の肩を叩いてきた。
「んだよ、おめぇか。……ってか、尻に敷かれてるってなんだ、尻って」
「べっつにー、言葉の通りだけどー? 京太郎くんは奥さんの宮永ちゃんに逆らえないみたいだなぁ、おい」
「誰が奥さんだ、誰が。咲とはそういうんじゃねーっつーの」
「照れんなよー、このこのっ!」
からかうように、俺の肩を肘で軽くつついてくる、このクラスメイト。
名前は確か『山田』だったろうか、逆行前でもこうして俺と咲の関係を揶揄してからかってきたのを覚えている。
逆行前の俺はまだ子供だったから、こいつの言葉を真に受けて、照れたりしたこともあったが。
俺と咲の将来を知っている今となっては、彼の言葉に何ら動揺することもなく、ドライに返事を返せていた。
そんな風にこのクラスメイトと絡んでいると、数分後、注文通りのレディースランチを手に持った咲がこちらへとやって来て。仲良く談笑している俺達の姿を見つけると、「何してるの」と問いかけてきた。
それに対して俺は、ただ雑談していただけだと答えようとして――――
「お、咲ちゃん。今さ、咲ちゃんはイイ嫁さんになるなぁ、って話してたとこなんだよ」
割り込むようにして口を開いたこの男に、それを潰された。
「……よめぇっ!?」
それを聞いた咲は、見てそれと分かるほどに体をビクリと震わせると、頬をリンゴのように紅潮させる。
溢さないようにレディースランチのトレーを机に置いた後、彼女はぐるぐると目を回して、必死に思考を巡らせて。やがて言葉を纏め終わったのか、彼女は俺達に向き直ると、その言葉に対して反論を始めた――――
「よ、嫁さんっ、違いますし! 中学が同じクラスだっただけで、別に、彼女とか、そんな関係じゃないんですっ!! 」
――――ひどく慌てて、わたわたと手を軽く振り回しながら、声の端々を裏返させつつ。
「べ、別に、京ちゃんの嫁さんじゃないもん! いや誰の嫁でもないけど、将来的にはなりたいけど、でも今は未だ早くてっ!」
「……いやあ、別にこいつの嫁だなんて言ってないんだけどなぁ」
「ひえぅっ!? ……あ、こ、言葉の綾だし! 別に京ちゃんは関係ないもん、なんとも思ってないもん!」
「なんとも?」
「な・ん・と・もっ! 京ちゃんのお嫁さん違いますー!」
「ふーん……。じゃああれか、京太郎のこと嫌なの?」
「……えっ?」
「そっかー、嫌なんじゃしょうがないなー。俺としてはお前らお似合いだと思ってるんだけど、京太郎のことが嫌ってんならしょうがない」
「え、いや、あの。別に嫌って訳じゃ……」
「ああ、でも京太郎の方は問題ないかなー。俺、この前三組の片岡と京太郎が仲良くしてたの見かけたしなー」
「…………えっ?」
「あいつとも、よくよく考えればお似合いって感じだったし。あいつが嫁さんなら京太郎も幸せだろうなー」
「……」
「いや、からかって悪かったな咲ちゃん。嫌な相手と夫婦扱いされて、正直迷惑――――」
「そこまでにしとけ、山田」
ずい、と。言葉を交わしていた二人の間に、体を割り込ませる。
咲の方を背に、山田の視線を遮るようにして。突然視界に割って入った俺を見て、山田は驚いた表情を浮かべていた。
からかってただけだろ、と悪びれなく口にした彼の言葉を聞いて。
俺は無言で体を動かすと、後ろに隠れていた咲――無言で目に大粒の涙を浮かべていた、彼女の姿を見せる。
それを見た山田は、さすがに自分がやり過ぎたのに気づいたのか、慌てて咲に謝りだした。
「い、いやっ、悪い! 俺が言い過ぎたって、マジごめんッ!」
「……べ、べつっ、に。山田くんは、悪くない、しっ」
「あーあー、いいから涙拭いて鼻かめ、咲。ほらちーんしろ、ちーん」
咲の方に向き直り、ズボンのポケットからちり紙を取り出すと、優しく彼女の涙を拭き取る。
その後新しく一枚取り出して、彼女の鼻に当てていれば、ちーんという音と共に彼女の鼻水がちり紙の中に飛び出してきた。
それで多少は落ち着いたのか、咲はぐじぐじと鼻を鳴らしながらも、目をしっかりと開けてこちらを見つめてくる。
その彼女の頭をポンポンと撫でながら、俺は山田の方に視線を向けて。申し訳なさそうな表情を浮かべてくる彼に向けて、口を開いた。
「……山田。こいつは俺が慰めとくから、お前はもう帰っていいぞ」
「え? いや、でも」
「いいから。俺は別に怒ってねーし、こいつも怒ったってよりはショック受けたってだけだろ。こっちは平気だからよ、もうほっとけ」
「……お、おう」
チラチラとこちらを見ながら離れていく彼を尻目に、俺は再び咲へと向きなおる。
涙ぐんだ瞳で、不安そうに俺の服の裾を掴み、上目使いでこちらを見上げる彼女の姿は、正直堪らないくらいに可愛らしい。
それでも俺はその欲望を表に出すことなく、彼女の頭を優しく撫でたまま、出来る限り紳士的に接して。
「……落ち着いたか?」
「……うん」
時間にして、三十秒ほど。俺に頭を撫で続けられた咲はようやく泣き止むと、その表情を笑顔に戻して、そっと俺から離れていった。
「ったく……。なんでいきなり泣き出してんだよ、お前」
「あはは、ごめんごめん。でもほら、もう問題ないから。……うん、問題ない」
「そうか? ならいいんだけどさ」
ニコリと、なにか安心したように、微笑む咲。
その表情の中身は俺には分からなかったが、彼女の笑みは本心からのものだということは伝わってきて。
泣き止んだならまあいいかと、それを深く考えることもなく、さっさと思考を切り替えていた。
「んじゃ、さっさと飯くっちまうか。……あ、お前の分はどうする?」
「私? 私は……うーん、いいや」
「そか。それじゃ、座って本でも読んでろよ」
「うん。そうするね、京ちゃん」
そう言うと、咲は俺の対面へと座り、鞄から先程借りたばかりの本を取り出す。
しかしすぐには読み出さずに、何が面白いのか、彼女はニコニコと俺の顔を見つめていて。
その視線を受けながら、俺はパンと両手を眼前で合わせ、奢ってもらったレディースランチに箸を進めだした。
ちなみに、それから結局。
俺がレディースランチを食べ終わるまで、咲が本に視線を落とすことは、一度もなかった。
この作品の咲は、こんな感じ。咲ちゃんぐうかわ。
Q.ハーレムあるん?
A.ヒロインはたぶん三人くらい。番外編みたいなのとかやればいくらでも増やせますが。
Q.結局元妻だれなん?
A.怜じゃねーの(棒)
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ニ話
「――――リーチ」
ツモってきた{二}を、手牌の右端に置いて。その代わりに一番左端の{一}を、横の状態で自分の河へと置く。
それと同時に手元の点棒置き場から、1000点を表す棒を一本、卓上に突き刺すようにして置いた。
所謂、『リーチ』と呼ばれる行動である。
麻雀で見られる一般的な、おそらく最も目にする回数が多いであろう行為。千点棒を委託し、自分のテンパイを宣言して、上がり牌以外のツモ切りを強制させられる代わりに、一翻の役を得るというものだ。
この宣言をしたということは、『こいつはあとたったの一枚で上がる』というプレッシャーを相手に与えるということでもあって。
現に、俺がリーチを宣言した今も、俺と卓を囲んでいる三人――対面の原村和、下家の片岡優希、上家の染谷まこは、皆少なくない反応を見せていた。
「……三巡目リーチ、ですか。随分と早いですね」
「うぬぬ、京太郎のくせに……。ええいっ、今が南場でさえなければー!」
「おうおう、落ち着かんかい優希。ええからはよツモれ、次はおんしじゃ」
三者三様、様々な反応を見せる三人。
生粋のデジタル打ちで、素の実力は全国でもトップレベルの少女、原村和。
東場の爆発力は凄いが南場は失速してしまう、タコス命の元気少女、片岡優希。
実家が雀荘を経営している、染め手大好きな広島弁の先輩、染谷まこ。
俺が再び入部した清澄高校麻雀部の面々は、わいわいがやがやと雑談を交わし合いながらも、俺のリーチに対する警戒を少しも揺らがせることはしなかった。
「……ま。これなら通るだろ、普通に」
そう言ってオタ風を切る、優希。
逆行前では俺が初心者だったということもあって、こいつが俺に対して上から目線で絡んでくることがかなり多かった。
なのに、俺がこいつに対して隔意を抱くこともなく、むしろ世話を焼くようにして色々と相手をしてやったのは、こいつに不思議な魅力があるせいだろうか。
可愛らしい容姿と、フレンドリーな雰囲気と態度も相まって、友達を作るのが非常に上手かったことを覚えている。
まあ、逆行した今でも俺に対する態度があまり変わらない辺り、上から目線の態度の原因は雀力と関係はないんだろうが。
その辺りのことは未だ、残念ながら分かっているわけではない。
「……」
無言で、字牌を落とす和。
俺の初恋の相手であり、俺が初めて憧れた麻雀の打ち手でもある彼女は、後に咲の無二の親友になる少女だ。
あまりにも咲と彼女が仲良くなりすぎて、咲がだんだん俺から離れていった遠因ともなる彼女ではあるのだが、そんな未来のことはひとまずおいといて。
真剣に牌を見つめ、部活であっても麻雀に対して真摯に向き合っている彼女の態度は、今の俺から見ても憧れと好意を禁じ得ないものだった。
「おい京太郎、なーに和に熱い視線を送っとんじゃあ。粉かけるんなら、部活が終わってからにせんかい」
そんなことを考えていると、ついつい和の顔を見つめてしまっていたらしい。
まこ先輩の言葉でふと現実に立ち返れば、彼女の手がちょうど{①}を捨てたところだった。
まこ先輩。そういえば、逆行前では彼女に随分とお世話になった。
清澄が全国で優秀な成績を修めて、麻雀部全体が熱に浮かれてしまって。その結果、初心者である俺の肩身が狭くなってしまった時、色々と世話を焼いてくれたのはまこ先輩だ。
自分も忙しいだろうに、よく俺に麻雀について教えてくれて。部室では打ちづらいだろうと、彼女の実家の雀荘で特別に打たせてもらったりしていた身としては、正直彼女に頭が上がらない気持ちでいっぱいである。
翌年になって、麻雀部に大量の女子部員が――やはり男子は活躍しなかったからだろうか、男子部員はほぼいなかった――入り、本格的に部内に居場所がなくなってきた時、逃げ場所を作ってくれたのもまた、まこ先輩で。
彼女が教えてくれた雀荘を巡ったり、たまに彼女の知り合いのプロと打たせてもらっていたあの頃は、俺の麻雀歴の中でも特に楽しかった頃の一つだった。
まあ、逆行前とは色々と条件が違う以上、今回も彼女が同じように世話を焼いてくれる保証はないけれど。
それでも彼女に対する敬意は、大人になっても、逆行した今であっても、決して薄れることはなかった。
「あ、それロンっす。リーチ一発三色イーペードラドラ……お、裏も乗ってドラ4っすわ」
「――うげっ」
だからといって、手は抜かないけど。
「……しっかし。新入部員、もう一人ぐらい来んかのぅ」
対局が一段落して、休憩を挟んでいた時のこと。
コーヒーを啜りながら一息吐いていたまこ先輩が、ふとそんなことを漏らした。
「新入部員、ですか?」
「おう。部活を続けるだけなら、今のままでも問題ないんじゃが……せっかくだし、どうせなら大会で団体とかやってみたいじゃろ?
京太郎は男子じゃけん、団体はこの状況じゃあ厳しいがの。うちら女子はあと一人で出れるんじゃよ」
ひぃ、ふぅ、みぃ、よと指を折って数えながら、和の問いに答えるまこ先輩。
清澄高校麻雀部の人員は、現時点で五人。俺と優希、和、まこ先輩、そして部長の竹井久。
団体戦に必要な五人には、女子部員の数がもう一人足りなかった。
それを聞いた和は、「確かにそうですが」と彼女に答えて。腕に抱いたペンギンのぬいぐるみを優しく撫でつつ、現実的な彼女らしい、自身の非楽観的な推測を口にする。
「しかし、それは難しいかと。もう春も終わりましたし、殆どの方は既に何らかの部活に入っていらっしゃるでしょうし。新しく募集するにしても、麻雀は初心者には取っつきにくいものですし……。
なにより、そんなことをしてまで新入部員を加えたとしても、初心者がいる状態で勝ち抜けるほど、大会は甘くありません」
「……そこは、ほら。実は隠れた実力者がまだこの学校に隠れてたりー、とか」
「そんなオカルト、ありえません」
キッパリ、と。半ば冗談だった希望的観測を斬って捨てた和に、まこ先輩は苦笑を浮かべていた。
まこ先輩とて、本気でそんな夢物語を言っている訳ではない。
ただ彼女は、麻雀部の仲間の実力を知っていて。麻雀に対する姿勢を知っていて。そんな彼女達が大会の華とも言える団体戦に出られない現状を、少し残念に思っただけなのだ。
だからだろうか、彼女は一瞬だけ寂しげな笑みを浮かべると、次の瞬間には不敵な笑みへと表情を変えた。
「ま、そーいうもんかの。……ほれっ! もう一局打つぞ、おんしら!」
休憩の終了を告げた彼女の言葉に従って、俺達は各々の憩いの場から離れると、部室の真ん中にある自動卓へと集まって。
わいわいと雑談しながら先程と同じ席に座り、早速対局を始めようと、起家決めのサイコロを振ろうとして――――
「あ、あのー、すいませーん。須賀京太郎は、いますかー?」
そっと開けられた扉の隙間から聞こえた声に、その手を止めた。
思わず全員が扉の方に視線を向けると、そこには一人の、扉から上体だけを出してこちらを窺う少女がいて。
その少女に見覚えがあった俺は、つい反射的に、少女の名を口にしていた。
「……咲?」
「あ、京ちゃん! ……よかった、やっぱりここにいたんだ」
俺を姿を見つけて、ホッと安心したように一息吐いた、咲。
彼女はとてとてと俺に歩み寄ると、この部屋にいた俺以外の先客の視線に気づいたのか、「あっ」と短く声を漏らす。
そしてあうあうとテンパりだしたのを見て、俺は小さく溜め息を吐くと、何か言いたげに俺の方に視線を向ける三人に対し、彼女に代わって紹介をした。
「あー……。えっと、こいつは宮永咲って言いまして。俺とは中学からのクラスメイトなんですよ、はい」
そう言いながら椅子から立ち上がり、咲の背に回って頭を軽く押すと、ようやく正気に戻った彼女が「初めまして」という言葉と共に頭を下げる。
それに対して一番に反応したのは、やはりというか優希で。
彼女はその人懐っこい笑みを咲へと向け、興味津々といった風に話しかけていた。
「ほほう、咲ちゃんか。京太郎のクラスメイトを何年もとか、苦労してそうだじぇー」
「え? いや、そんなことは、全然」
「ホントかー? 別に我慢する必要なんかないじょ、私がタコスパワーでこいつを懲らしめてやるからなっ!」
「た、タコス……?」
「おい、優希。あんまこいつに変なこと吹き込むなよ、こいつがお前に毒されたらどうしてくれる」
「あっはっは! ちなみに、私は一年三組の片岡優希だ。よろしく頼むじぇー、咲ちゃん」
そう言ってウインクとピースをして、自らの自己紹介を終える優希。
続いて咲へと話しかけたのは、何かを考えるようにして彼女を見つめていた、和。
優希との会話で多少落ち着いたのか、当初のビクビクとした雰囲気を薄くした彼女に対し、その口を開いた。
「宮永さん、でしたか。私は原村和、優希と同じ一年三組です。
……ところで宮永さん、先日川辺で本を読んだりしてました?」
「え、あ、はい。そうですけど……うひ、あれ見られてたんですか」
「ええ、まあ。……ああ、ただ気になっただけですので。別にそれがどうという訳ではありません」
和の言葉に、少々恥ずかしそうに頬を染める咲。
一方の和は、本当にそれがただ気になっただけなのだろう。彼女の返答を聞くと、すぐに興味をなくしたように彼女から視線を移していた。
次に、というより最後に声を発したのは、何やら先程からにやにやと面白そうに笑みを歪めている――先日の山田と同じような笑みを浮かべた、まこ先輩で。
彼女は「ほほぅ」と言葉を漏らすと、俺と咲の間で視線を往復させること、数回。
「おう、ワシは染谷まこ。学年はおんしらの一個上じゃ。
……しかし、成程。京太郎の彼女さんは、随分とめんこい娘じゃのぅ」
からかうような声の調子で、そんな言葉を口にしていた。
「――――んにゃぁっ!?」
「なぬっ!?」
「……へぇ」
それに対して反応したのは、顔全体を真っ赤に染めて全身をビクリと震わせた、咲。そして盛大に驚いた優希と、何故か納得したような声を漏らした和だった。
まるで先日の焼き直しのように、あうあうとひどく慌てだした咲の姿を見ると、俺は再び溜め息を吐いて。
てい、と彼女に軽くチョップを当てて正気に戻しつつ、咲達の反応を見て盛大に爆笑しているまこ先輩へと鋭い視線を向ける。
すると彼女はくっくと笑いをこらえつつ、悪い悪いと手でこちらに謝って。
未だ恥ずかしいのか、顔の熱をとるかのように手でパタパタと扇いでいる咲に向けて、軽い謝罪を告げた。
「かっかっか、冗談じゃ、冗談。すまんかったのぉ、宮永」
「……も、もう。私、京ちゃんの彼女じゃ、ありませんからね?」
「おう、おう、分かっとる分かっとる。……そんで、おんしはここに何しに来たんじゃ?」
けらけらと笑いながら、咲に問いかけるまこ先輩。
それを聞いて、ようやく咲が部外者だということを思い出したのか、有希と和も興味を持ったように彼女へと視線を向けた。
今は放課後、部活動の時間である。
何の用もない人間が、態々自身の所属していない部活、しかも活動中の部活の部屋を訪ねる筈もないというのは、少し考えれば分かることだ。
ならば、いったい何の用で彼女は来たのだろうかと、彼女達は探るような視線を向ける。
つい先程の会話を全員が覚えていたこともあって、その眼の奥底には、「もしや」という希望の炎が灯っていて――――
「えっと、大したことじゃないんですけど。京ちゃんと一緒に帰りたいなぁって思って、それで、その、部活がいつ終わるかを聞きに……」
呆気なく鎮火したその炎に、思わずがくりと頭をうなだらせていた。
「……ええっ!? な、なに、私なんか失礼なこと言っちゃいました!?」
「あー、気にすんな。ちょっと色々あってな、お前が入部希望者かもしれないって期待してただけだから」
軽くショックを受けている三人に代わり、俺が今の事態の原因を咲へと説明してやる。
それに合わせて麻雀部の現状、女子部員が一人足りなくて団体戦に出場出来ないという話も彼女に伝えると、彼女はどうにも複雑な表情を見せていた。
何かを悩むように、迷うように。そんな表情を浮かべた彼女の頭を、俺はポン、と優しく叩いて。
「ま、お前が気にすることじゃないさ。それより、部活が終わる時間だったっけ? たぶんあと半荘一回くらいだろうし、それなりにかかるぞ?」
「え? ……あ、そ、そっか。じゃあ私は――」
「そだ、どうせなら打ってくか? お前ん家で麻雀の本見たことあるしさ、少しくらいなら出来るだろ?」
何気なく、“何も知らない”ように――――彼女に誘いをかけた。
「……えっ!?」
「――何ッ!? 宮永、おんしまさかの経験者か!?」
「ひゃわっ!? ちょ、急に復活しないでくださいよ、染谷先輩!」
「よーしよーしそうかそうか、でかしたぞ京太郎! 確保じゃ優希、宮永を最大限のおもてなしで迎えてやれ!」
「あらほらさっさーっ!」
「うわ、ちょっ、服掴まないで片岡さん! わ、動かさないで、無理矢理席に座らせないで!?」
「……宮永さん」
「あ、原村さん! ちょっと助け――」
「とりあえず、実力を見ます。東風三回でいいですか?」
「予想外に乗り気ーーーーーーっ!?」
ぎゃあぎゃあと騒がしい麻雀部の面々に、ついつい流されるまま。あっという間に俺に代わって卓を囲むことになった咲を見て、その様子の面白おかしさに、思わず笑いを堪える。
俺の知っている流れとは随分違うけれど、それでもこうして、そもそもの切欠を俺が作らずとも麻雀部と関わりを作った彼女は、本当に麻雀に愛されているらしい。
きっと、これから再び、彼女の物語は始まって。彼女と、そして清澄高校麻雀部の英雄譚は、今この時から紡がれてゆくのだろう。
そう考えると、なんだか、凄く。
――――淋しい、気持ちがした。
Q.照チャースルーっすか?
A.次回は照チャーのターン。たぶん。きっと。メイビー。
Q.やっぱりハーレムじゃないか(憤怒)
A.え? アラチャーもヒロインにしたい?(難聴)
Q.これは修羅場やろなぁ……
A.修羅場のレベルくらいなら選べるんじゃないっすかね(震え声)
Q.結局嫁は(ry
A.エイスリンなら京太郎を幸せにしてくれると思った(小並感)
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三話
『Sky-talk』を知っているか――――と現代人に問い掛ければ、ひょっとしてそれは一種の侮辱だろうか、などと勘繰られてしまうかもしれない。
『Sky-talk』、某有名ソフトウェア開発会社が提供する技術を利用したコミュニケーション・ソフトウェアは、それほどまでにこの世の中に浸透している。
使用料は基本無料。機能はチャット、ボイスチャット等の非常にシンプルなものばかり。
しかしそのシンプルさが逆に通信、パフォーマンスの軽さと高いクオリティを生み、『Sky-talk』は世界中で愛用されるコミュニケーションツールの一つとなっていた。
逆行前の記憶においても、俺を含めた周囲の人間のほとんどが利用していたのを覚えている。
特にボイスチャット――文字ではなく、実際に声でやり取りを行うモードのチャットは、『Sky-talk』を他のプログラムと平行して使用してもあまり重くならないこともあって、オンラインゲームでのやり取りによく利用されていた。
で。逆行後の今回も、俺は『Sky-talk』を利用している。
前回はなんとなしに入れてみたのが始めた切欠だったが、今回これを利用しだしたのはちゃんとした理由があって。
以前に知り合った、県外に住んでいる知人。普段は中々実際に会うことは出来ないがために、また電話やメールよりは顔を合わせた方がいいと、このツールの導入を勧められたのだ。
そして、とある日曜日の夜。
宿題も、風呂も飯も終わり、済ませておくべき用事が全て終わった後のこと。
普段ならいつものメンバーと打つためにネット麻雀にログインしている時間だが、その日課は日曜だけはない。
その代わりに入っている予定を消化するべく、俺はパソコンの電源を入れて。数分後、完全に立ち上がったパソコンのデスクトップから『Sky-talk』のアイコンを選び、それをクリックした。
すると数秒もしないうちにログイン画面が出て、その項目の入力を即座に終えてログインすると、今度はショートカット登録してある通話先の一覧が表示される。
そのうちの一人、これからの予定の相手がログイン状態になっていることを見ると、俺は頭に着けたヘッドセットとディスプレイに設置したカメラを確認。どちらも異常がないことを改めて確かめて、その相手の名前をクリックすると、その人への通話を飛ばした。
数瞬の間の後、通話を受諾する返答が来て――――
「すいません、照さん。少し遅れました」
『……ううん。私も、ついさっき来たところだから』
カメラの向こう側、ディスプレイにリアルタイムで映る映像の中で。
宮永照が、俺に笑みを向けていた。
照さんと会ったのは、俺が逆行したついその日のこと。長野に旅行に来ていた彼女と、近所の公園で偶然に出会ったのが彼女との始まりだった。
彼女に対する第一印象は、正直あまりいいものではない。
しかし彼女の名前を聞いて、彼女が何者であるかを知って。そのために興味を抱き、彼女と本腰入れて話をしてみれば、いつの間にか当初の悪印象は消え去っていた。
いや、より正確に言えば、方向性が変わったと言うべきだろう。彼女が色々と常人と違うことは同じだが、その捉え方が『変人』というマイナスイメージから、『天然』というプラスイメージへと変化したのだ。
せっかくだからと聞いてみた麻雀の話や、以前長野に住んでいた頃の思い出話、好きなお菓子の話などで盛り上がって。すっかり意気投合した俺達は、別れ際に携帯の連絡先を交換しあった。
それから彼女と、電話やメールでやり取りをしあって。そのうちに彼女から『Sky-talk』をやろうと誘われたのは、俺が清澄へ進学することを決めた冬の頃だった。
その目的を彼女に聞いてみると、やはり顔を見ないで話すのは寂しい、というのが一つ。
もう半分は、俺が麻雀をやっていると話の中で聞いた彼女が、せっかくだからと提案してくれたもので――――
『――で、ここで{三筒}をツモった、でしょ? ここは手変わりして三色狙いじゃなくて、さっさと早上がりした方が、いい』
「そうですか? でもほら、タンピン三色目前ですよ、これ」
『うん。でもこういう場面では、下手に高い手よりも、くず手で流した方が相手のショックが大きくなる。
部活ではあまり役立たないかもしれないけど、大会とかなら、心理戦は武器になるから。これまでに教えたのと合わせて、覚えておいた方がいい』
俺の対局の牌譜をメールで彼女に送り、それを見た彼女からの、麻雀指導。
毎週日曜日に行ってもらっているそれは、時間的にはそこまで長いものではないけれども、俺の雀力のアップに一役も二役も買っていた。
なにせ彼女は、現役の高校女子のチャンピオンで。後にプロでも大活躍する、現時点でも日本でトップレベルの選手である。
そんな彼女が、わざわざ細かいところまで、親身になってアドバイスしてくれるのだ。
長い年月を重ねたとは言っても、ほぼ我流で磨いていた俺の麻雀は、まだ粗削りと言ってもよかった。
それが彼女に教えを受けて、どんどん細かいところから修正され、思考の方向性すらも多少の指導を受けて。
すっかり彼女によって改造された俺の打ち筋は、以前のものよりも遥かに安定した、完成度の高いものとなっていたのである。
……俺の数十年より、照さんとの数ヵ月の方が効率いい気がするなぁ、とか。
そんなことを考えて少々落ち込んだりもしたが、それはひとまず、おいといて。
「……あ。そういや、インターハイの予選まであと二週間くらい、ですよね」
指導が一局分終わり、その次の牌譜に移るまでの、合間の時間。
とんとんと手に持った牌譜の束を整えている彼女に、俺はふと、思い出したように話を振った。
『え? ……ああ、確かに、もうそれくらいだっけ。京ちゃんは出るの?』
「ええ、個人戦に出ると思いますよ。照さんは……言うまでもないか」
『……ふふっ。これでも、チャンピオンですから』
クスリと、和らいだ表情で笑う、照さん。
雑誌で見るような満面の笑顔とはほど遠いが、あちらと違って作ったような印象がない分、こちらの彼女の方が随分と魅力的である。
そんな可愛らしい、自然に出た風の笑顔を浮かべたまま。彼女は『そうだ』と呟いて、話を続けた。
『せっかくだし、もし京ちゃんが全国に来れたら、観に行って応援する。男子と女子は日程が違うから、時間もとれると思うし』
「え、ホントですか? いやー、それなら頑張らないとですね。どうせなら全国優勝目指しちゃいますよ、優勝」
『そう? そしたら……うん。私と京ちゃん、二人で優勝、だね。
……ふふ。そう考えると、楽しみになってきた』
そう言って照さんは、ニコニコと、本当に嬉しそうにはにかむ。
……言外に『自分は当然優勝する』と言っている辺り、自分の力をよく分かっているのか、それともただの天然なのか。
どっちにしろ悪意とかはないのだろうと、ここ半年で彼女の日常の姿――ドジで、麻雀やお菓子以外のことでは何処かぽわぽわしている彼女の姿を見た俺は、彼女の言葉に笑って返した。
「あはは。まあ、それも俺が予選を突破出来れば、の話ですけどね。
龍門渕の天江さんみたいなのが男子にもいたら、正直自信を持って勝てるとは言えませんし」
『天江? ……ああ、去年の龍門渕の大将の。
京ちゃんって、ああいうオカルトみたいなのは、苦手?』
「苦手っていうか、こっちじゃどうしようもない時とかありますからね。相手に殆ど聴牌させないとか、カンしてツモって責任払いとか、力業でこられるとキツいんですよ」
今でも記憶に残る、高一のインターハイ長野地区予選、女子団体決勝――咲とあのチビッ子中二病魔王が戦った怪獣大決戦の模様を思い出しながら、そう返す。
相手が人の土俵で戦ってくれれば、まだなんとかなる。食らいつける自信は、十分にある。
それでも相手を聴牌させないとか、そういう麻雀の根底に関わる部分をどうにかされてしまうと、常人が相手をするのはキツいなんてものじゃない。
あの戦いだって、最終的に天江衣を倒したのは咲だ。咲がオカルトの領分で、自身の不思議な力を利用した上で、彼女を下したのだ。
名前は忘れたが、彼女達以外の二人――風越と鶴賀の大将が天江衣を倒すことは、ほぼ不可能だったろう。
もし清澄がいなければ、あの時全国に行っていたのは、間違いなく龍門渕である。それは断言してもいい。
あまりに強すぎるオカルトは、腕の差を容易に、勝負と関係のないものにしてしまうのだ。
照さんも、その事実はよくよく承知しているようで。
俺の言葉に苦笑しながら頷くと、『でも』と一言前置いて、俺に言葉を返した。
『彼女レベルのオカルトは、日本でも十人いるかどうか、くらい。殆どの人は、京ちゃんでも対抗は出来る、と思う』
「そっすか?」
『うん。例えば、去年のインターハイで同卓した選手で、鷲宮って人がいたんだけど。彼女のオカルトは、自分に筒子が集まりやすい、って感じだった。
それくらいなら、別に倒せないことはない、でしょ?』
……まあ。それくらいなら、確かに。
筒子が来にくいというのは結構なディスアドバンテージだが、挽回不可能なほどではない。小手先の技術と、それなりにある指運を活かして、対抗するのは十分に可能だ。
それからいくつか聞かせてもらったオカルトの具体例は、確かに強力なものばかりだったが、決して勝負をそれだけで決めてしまうものではなく。
全国という舞台であっても、怪物と呼ばれる人外が出没することはそう多くはないのだと、他ならぬ全国を一番見てきたであろう人物に教えてもらった。
だから、俺には必ず、全国に来てほしい。
話の最後に、照さんは微笑みながら、そう言った。
「……全国、っすかぁ」
『うん、全国。……東京、来たくない?』
「あー、いいっすね、行きたいですね東京。ディズーニーとか、スカイツリーとか、お台場とか行ってみたいっす」
『ディズーニーは、正確には千葉、だけど。大会期間中にも、何もない日が何日か、あるから。そういう観光とかも、出来る』
「マジですか? うわー、やっべ、本気で行きたくなってきた全国。原宿にクレープ食いに行きてぇ」
『……ふふっ。そうなったら、私が色々、案内してあげるね』
クスリと、楽しそうに笑って。照さんは、じっと、目を細めて俺を見つめる。
その仕草に、何の意味があるのか。何の感情を込めた瞳を、俺に向けているのか。
そんなことが分かるほど、俺は感情に機敏じゃない、けど。
あの時。最初に会った時、俺が彼女に咲のことを尋ねてから――――
『……咲を、知ってるか?』
『ええ。俺の友達に、宮永咲って奴がいるんですけど。ひょっとして、そいつと何か関係があったりしないかな、って』
『ふぅ、ん。……仲、いいの?』
『え? まあ、仲のいい女友達ですって感じですけど』
『……』
『……えっと、照さん?』
『ん? あ、ごめんね、咲の話だっけ。……うん、知ってる。だって、私の妹だから』
『あ、やっぱそうなんすか。咲、きっと、照さんのこと――――』
『――――でも。私のことは、咲には、ナイショ。そうしておいて』
きっと、子供のような好意で俺によくしてくれている訳ではないのだろう、と。
何らかの感情を俺に隠している彼女に対し、俺は、そんな印象を持っていた。
照チャーだって女の子です。女なんです、ええ。
Q.京ちゃんオカルト身につけないの?
A.悩み中。最初はアカギチックにやらそうと思ったんですが、もうそういう小説があるっていう。しかもレベル高い。
Q.大会を男女混合にしたら?
A.化け物の数が増えちゃうじゃないですかーやだー。
Q.元妻が実はアラフォー説
A.アラサーだよ!
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四話
「――――京ちゃん。あのね、ネット麻雀のやり方、教えてほしいんだけど」
放課後の、部活が終わった後の時間。
俺と咲、二人並んで帰宅路を歩いていた際に、咲がそんなことを言った。
「……ネト麻?」
「うん。確か京ちゃん、ネットで麻雀やってたよね?
私、合宿までの課題だって、部長に『ネット麻雀やってみなさい』って言われたじゃん。でも私、そういうの全然分からないから。……その、京ちゃんに教えてほしいなぁ、って」
先日の入部騒動から色々あり、細部は違えども大筋は逆行前のものと変わらない経緯を辿って麻雀部に入部を決めた、咲。
彼女が加入したことによって団体戦への出場が可能になり、部長、三年の竹井久先輩は夢であった全国優勝へと本気で動き始める。
そんな逆行前の記憶と同じく張り切っていた久先輩の手によって、今日の部活の際、『麻雀部超強化合宿』の開催が告げられた。
この合宿は逆行前でも行われたものであり、特に特筆すべきことはない。
週末に校内の合宿棟に泊まり込み、麻雀を打つ。それによって各個人の力を仕上げ、大会までに出来るだけ万全のものにしようという、普通の合宿である。
その合宿を行う前に、久先輩は麻雀部の面々それぞれの弱点を推察、その弱点の克服方法を教授して。
逆行前、そして今回もまた同様に咲が言われた弱点は、『リアルで読み取れる情報に頼りすぎていること』。その対策として挙げられたのが、咲の言うネット麻雀であった。
が。逆行前と今回で全く同じなのか、と言われるとそうではない。
逆行前では、俺は初心者ということもあってほぼ雑用としてのみその合宿に参加し、久先輩からのアドバイスも特にはなかったが、今回は違う。
他の面々と渡り合えている実力を持つ今の俺なら、ちゃんと久先輩のお眼鏡にかなったらしい。俺にも弱点、そしてそれに対する対策が、きちんと彼女から伝えられた。
そしてもう一つ、相違点があって。
俺の記憶が確かなら、逆行前の咲も確かにネット麻雀での特訓を行ったが、それは部室にあるパソコンを使っての話である。
しかし今回は、どうやら彼女は違う場所での特訓をご所望のようで――――
「あ、でも、私パソコンとか持ってなくてさ。だから、えっと、これから数日くらい……その、きょ、京ちゃんの家に行っても、いい?」
途中で何度か吃りながら、視線を四方八方にそらしつつ、俺にそう願ったのだ。
「え? ……俺の、家?」
「う、うん。京ちゃんの家なら結構私の家から近いし、夜遅くなっても平気だし。京ちゃんだったらお父さんも知ってるから、ひょっとしたらお泊まりだって許してくれるかもしれないし。
そ、そしたら、ほら。いっぱいネットで麻雀、出来るじゃん」
「いや、まあ。それはそうだけどさぁ……」
「……それとも、京ちゃん。私が京ちゃん家に行くの、嫌?」
きゅっ、と。咲は両手を胸の前で祈るようなポーズにさせながら、雨の日に捨てられた子犬のような目で、上目使いで俺を見上げる。
待ったをかけようと口を開きかけていた俺は、そんな彼女の瞳を見ると、思わず言葉を詰まらせて。
そのまま十数秒、二人でお互いを見つめ会った結果、気恥ずかしくなって先に目を逸らしたのは俺の方だった。
……いくら精神的にはそれなりの年とはいえ、俺だって男だ。男なんていくら年を取ろうが、根本的な部分は変わらない。変えられない。
しかも今の俺は若い少年の身体で、どうにも若い肉体に精神も引きずられてしまって。可愛らしい少女の姿を見て、魅力的だと素直に感じられるくらいには、俺の精神は若返っている。
まあ、つまり。ついグッときてしまうような彼女の姿を見て、何とも言えない気恥ずかしさを覚えてしまったのは、しょうがないことなのだ。
「……ったく、分かったよ。別にこれが初めてって訳じゃないし、な」
結果として、彼女が俺の家に来ることをあっさりと承諾したことも、また。しょうがないこと、なのである。
……たぶん。
シングルベッドと、大きな衣装棚と小さな本棚。シンプルな勉強机と、その隣のパソコンデスク。
壁には有名なサッカー選手のポスターが貼ってあり、棚の上やデスクの隙間には、以前飲み物に付いてきたおまけのフィギュア等が飾られている。
そんないかにも年頃の男子といった感じの、特別なところもないこの部屋こそ、俺の自室だ。
「……」
咲は、その俺の部屋に家族以外で入ったことのある、数少ない一人である。
中学以来の付き合いである彼女とは、たまにお互いの家を訪れることもあって。彼女が俺の部屋にやって来たのは、逆行前と回数が同じであるならば、これで七回目くらいだったはずだ。
とはいえ、さすがに他人の自室で簡単に寛げるほど、彼女の精神は図太くはなく。
七回目とはいえ、まだ慣れたわけではないのだろう。彼女は多少緊張した様子で、部屋の真ん中に置かれた小さなテーブルの前に、そわそわと忙しなく部屋のあちこちを眺めながら座っていた。
俺が飲み物とお菓子を取りに一階のリビングまで降り、そこから自室へと戻った時も、彼女は変わらず緊張していて。
扉を開け、俺がテーブルに近づいてからやっと、俺が戻ったことに気づいたのか。彼女は驚いたように顔をこちらに向けて、誤魔化すように「えへへ」とはにかんだ。
「お、お帰り、京ちゃん。飲み物とお菓子、持ってきてくれたんだ」
「おう、お待たせ。アイスティーとアルフォード持ってきたから、好きに食べろよ。
……って言うか、お前さ。何でまだ緊張してんの?」
「えっ!? ……や、やだなぁ。緊張なんてしてないです、よ?」
「あー、はいはい、そういうのいいから。俺の部屋に来るの七回目だろ、いい加減そろそろ慣れろよ」
俺がそう言うと、咲はうぐぅと言葉を詰まらせて。
恥ずかしさをまぎらわせるためか、彼女は俺が持ってきたグラスの片方にアイスティーを注ぐと、それをちびちびと飲み始める。
咲は恥ずかしがりやというか、メンタルが弱いというか、図々しさが足りないというか。
逆行前では麻雀に関わり出してから大分改善されていたが、関わりだして間もない今現在では、彼女の精神はお世辞にも強いとは言えない。
だからといって、俺がどうにか出来ることではなし。今の時点でどうにかしてやるメリットも、あまりない、というより彼女のインターハイ無双が一年早まるぐらいしか思い付かないこの現状では、実際に何かをするつもりもない。
どうせ、時間が経てば勝手に解決するのだ。……俺が変に弄って咲のメンタルが悪化するのも嫌だし、からかうぐらいにして放っておくのが一番だろう。
そんなことを考えながら、俺もアイスティーをグラスに注ぐと、それをグイと口にして。
ほぅ、と一息ついた様子の咲に向けて、さっさと本題を切り出すことにした。
「で、ネト麻だったっけ。ネト麻って言っても色々あるけど、サイトはどれでもいいのか?」
「え? あ、うん。私はそういうの全然分からないし、部長からも特に指定はなかったし。とりあえず、ネット麻雀が出来れば何処でもいい、かな」
「おう、オッケー。じゃあ最大手の『天龍』にすっか、俺もやってるやつだし」
咲に確認をとってから、俺はパソコンデスクの上のデスクトップパソコンの電源を点ける。
一分も経たない内に立ち上げを終えたそれのマウスを動かし、デスクトップ上のアイコン――『天龍』というネット麻雀ゲームへのショートカットをクリックすると、数秒後に『天龍』のトップページが表示された。
普段ならここでログインボタンをクリックするところなのだが、生憎と今回プレイするのは俺ではなく、咲。
ログインボタンの上、『新規登録』と書かれたボタンをクリックすると、俺の作業を背後でポカンと見つめている咲へと振り返った。
「んじゃ、まずはこの画面で色々入力してくれ。IDは自動で配布されるから、決めるのはパスワードと登録するメルアドぐらいだから。
色々な機能とか使いたいなら個人情報もいるんだけど、麻雀打つだけならこれだけでいいし。……出来るか?」
「えっ? ……え、えーと、ゴメン。そもそも出来るって、何を?」
「……いや、いい。何でもない。
パスワードはとりあえず俺が決めといて、後で紙に書いて渡してやるよ。メルアドは『Yahhoo!』で捨てアド取っとくから」
最初の入力画面くらいは、咲にやらせようとも思ったが。
彼女の目が得体の知れないものを見つめるそれであるのを見て、パソコンのいろはを教えることを即座に諦める。
まあ、彼女はネット麻雀が打てればいいわけで。マウス操作やネット麻雀の基礎、長考防止の時間制限や捨てる牌はクリックすること等だけを教えればいいだろう。
その他のことについては、俺は知らない。めんどくさい。未来で出来る(かもしれない)彼氏にでも教えてもらえばいい。
新しいタブを開いて某有名検索エンジンを開き、そこで新しくメルアドを作ってから前のタブの入力画面へと移動。
手早く入力を済ませて『天龍』の新規アカウントの取得を終え、自動的に割り当てられたIDナンバーと適当に決めたパスワードをしっかりとメモに写し取ってから、その新規取得したアカウントでログインする。
そうして画面が『天龍』のスタート画面に変わり、一回クリックして今度はメニュー画面へと変わったのを見ると、俺は席を立って。
「よし、咲、座れ。とりあえず、麻雀の打ち方だけ教えてやるよ」
いつの間にか背後から画面を覗き込んでいた咲の肩を掴むと、彼女が何か言うよりも早く、俺と入れ替わりにパソコン前の席へと座らせた。
「え、ええっ!? ちょ、京ちゃん、いきなり!?」
「いやだって、実際にやらせながら教えた方が覚えるだろ、お前の場合。
んじゃまずは、この『全国対戦』って書かれたとこをクリック――――あ、咲、クリックって分かるか? クリックってのはな、このマウスってやつの」
「いや、さすがにそれくらいは分かるから! 私だってそこまで機械音痴じゃないもん!」
「あ、そう? じゃあほら、ここをクリックして。そうすると次の画面に移るから、今度はこの『マッチング戦』を選んでみろ」
「……う、うん」
「そうすると、今のお前のレート――始めたばかりだから±0の初級者レベルか、それくらいの相手を自動的に選んでくれるから。あとは相手が決まるまで待って、同卓する相手が決まったら対局開始って訳だ」
デスクの前の椅子に座る咲の右後ろに立ち、ネット麻雀についての簡単な基礎を教えていく。
対局を始めるまでの流れから、対局中の操作まで。彼女がほぼPC初心者だということを考慮して、出来るだけ丁寧に教授を行った。
最初は言われるままに俺の指示に従っていた咲も、最初の一局が終わった頃には操作方法を把握したようで。
次の動作を俺が口にして伝えずとも、彼女は自分で対局を行えるようになっていた。
「……うし。んじゃ、もう一人で出来るな?」
「うん、大丈夫。とりあえず、一通りは分かったから」
「ん、そか。じゃあ俺は宿題やってるからさ、一段落ついたら声かけてくれ」
「うん。……ありがとね、京ちゃん」
咲はそう言ってこちらに振り向き、えへへと俺に笑みを見せる。
俺はそれにヒラヒラと手を振って、「気にすんな」と返して。
パソコンへと向き直り、真剣な表情でネット麻雀の画面を見つめ出した彼女の背中を、一瞬だけ見つめて――――
(……うん。やっぱり、これが咲、だよなぁ)
俺のよく知る、俺がいつも見ていた背中は、こんな感じだったと。目の前で麻雀に打ち込んでいる彼女の姿を、ふと昔の記憶と重ね合わせた。
「…………きょう、ちゃん」
「ん? なんだ、どうし――――って、何涙ぐんでんのお前」
「だ、だって、この麻雀、おかしいんだもん。牌とか、全然、見えなくてっ……!」
「……あー、あー、うん。とりあえず泣き止め、ほら鼻かんでー」
「ちーんっ! ……それでね、カンしても全然嶺上開花出来ないし、ツモもバラバラになっちゃってね。
何回もやってみたんだけど、私、全然……」
「…………あー、うん。見事に負けまくってるなー、これ」
「こんな麻雀、私、知らないよぉ。……これって、ホントに麻雀なのかな、京ちゃん」
「………………」
その後、ネットではオカルトが一切通じないためにネット麻雀でボロ負けし、咲が俺に泣きついてきたのを見て。
やっぱり、少しくらいはこいつのメンタルを今から鍛えた方がいいだろうか、と。
咲の背中を優しく擦って宥めながら、そんなことをついつい考えた。
咲がネト麻やって涙ぐむのは原作通り。この時点の咲ってホントにメンタル弱いですよね、ぶっちゃけ。
Q.麻雀描写いらなくね?
A.やっぱり軽く入れたいなぁ、とは思ってます。細かく描写するのではなく、少年誌的な感じになるかもですが。
Q.番外編ならわた、衣もチャンスがあるな!
A.あります。ハッピーエンドかは知りませんが。
Q.やっぱ元妻はちゃちゃのんですよね!
A.そんなん考慮しとらんよ……。
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