テラフォーマーズ~凶星に挑む獣~ (スペル)
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00 PROLGUE 原点

第四作目です!!
難しい内容ですが、完結できるように頑張ります
あと、第一作がメインなのでどうしても更新は遅いと思います
ご了承ください

楽しんもらえたら、嬉しいです


俺は一人だった。

意味もなく、このごみ溜めで勝手に生きて勝手に死ぬと思っていた。

同族(ヒト)からは、害獣(ゴミ)を見る様な目で見られ、人として見られた事など無かった。

別段それに不満はなかった。生まれてこの方、ずっとその目線で見られ続けていたのだ。

それが普通だと思っていた。

だからこそ…

 

「君が此処の最強君かな?」

 

その言葉の意味が分からなった。

何故害獣(おれ)に話しかけるんだ?

生まれて初めての状況。戸惑う俺を前に…

 

「俺の名前は、小町小吉(こまちしょうきち)。俺達には・・・・・いや、人類には君の能力(ちから)が必要だ。だから、力を貸してくれ」

 

小町と名乗った男は腰を曲げ深く頭を下げる。その光景は俺だけではなく、小町の横に控えていた人物すら驚かせる。

 

「君の生い立ちは知ってる。自分を害虫…いや害獣(・・)として、こんな治外法権のスラムで住んでいる事も知っている」

 

頭を下げたまま喋る小町の言葉は、なぜか俺のナニカに深く差し込まれる。

 

「だが、君は害獣でも何でもない。俺達と同じ…」

 

ああ、その言葉を聞いたらダメだ。それを聞いたら、害獣(おれ)害獣(おれ)でなくなる。

背をひるがえし、その場を去ろうとした俺の肩を…

 

「おい。なに、逃げてやがる」

 

もう一人の人物が掴み、俺の動きを止める。美しい金色の髪をした女性。そう言った事に縁のない自分でも、彼女が美しく強い存在だと直感できる。眼鏡のレンズ越しでもわかるまでに、強い瞳をしていた。

 

「生まれて初めの優しさ(・・・)が恐いか?自分が弱くなりそうで恐いか?」

 

言い返せない。全てがその通りなのだから。此処では強さが全てだ。弱者は地に伏し、強者が地に立つ。

これからもここで生きていくためには、その言葉をその優しさを受けてはいけない。理由など無い。ただ、自分の本能がそう告げた。

しかし、俺の考えを…

 

「それでいいんだよ」

 

彼女は肯定し否定する。さっきまでと違って、強い瞳の中に優しさを見せながら、まっすぐと俺を見つめている。

 

「それこそが…」

 

瞬間、小町の言葉と彼女の言葉が…

 

「「お前(ヒト)だ」」

 

重なった。

二人のセリフを聞いた瞬間、俺の目から初めて涙がこぼれる。今までの全ての感情が(カタチ)となって溢れた。

 

「もう一度問わせてくれ。俺達人類に、君の力を貸してくれないか?」

 

差し出された手に、俺は…

 

「…………」

 

無言で答える。手から伝わる温かさが、無性に嬉しかった。涙を流しながら声を上げて泣く少年の姿を、小町小吉とミッシェル・K・デイヴズの二人は、温かい表情で見ている。

まるで、その出会いを少年の誕生を祝福するように、ただ優しく見ていた。

 

これが俺の始まりの記憶

害獣(おれ)人間(おれ)になった記憶

人としての最初の記憶

 

 

 

     『今、少年が獣から人へ。そして、少年の宿命が動き出す』

 




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01 SYMPTOM 変異

まさかの連続投稿です!!
実はまた一時間後にもう一話投稿予定です

楽しんでもらえたら、嬉しいです


西暦2619年 タイの首都バンコクの郊外にあるコンサートホール。そこに黒い一台の車が停止する。車から現れたのは、黒いサングラスを付た小町小吉と金髪の美女 ミッシェル・K・デイヴズの二人。

 

「タイか‥来るのは初めてだな」

 

そう呟く小町の視線は、目の前のコンサートホールに向けられている。コンサートホールからは、離れているにも拘らず僅かに熱気の籠った声が聞こえる。

 

「もう始まってるのか‥急ぐか」

 

そう言ってコンサートホールに向かって歩くと思われた小町の視線が後ろに在る車の助席に向けられる。

 

「だから、早く起きてくれない?」

 

呆れる様に車の助席に座っている青年の肩を揺らす。しかし、眠っているのか全く起きる気配がない。小町は諦めた様に控えていたミシェルにバトンを渡す。

 

「ミッシェルちゃんお願い」

 

「おう」

 

小町からバトンを受け取ったミッシェルは、拳を握り大きく振り上げ…

 

「起きろッ!!」

 

「ッ!!??」

 

青年の頭に叩き落しす。ゴツンと言う鈍い音と共に青年の目が激痛と共に覚める。

 

「痛って~~」

 

「着いたのに、何時までも寝てんじゃねえよ、バカ」

 

頭を抑えながら青年は車から姿を現す。黒い髪を小町と同じヘアスタイルにしている。目はツリ目で若干目つきが悪い。黒いスーツと相まって、どこぞのマフィアやヤクザを連想させる。

 

「さて、そろそろ行くか。本格的に時間がヤバイ」

 

そう言ってコンサートホールに向かって歩き出す小町とミッシェル。

 

「おい、リョウ。何してんだ、いくぞ」

 

「あ、はい」

 

ぼうっとしていたリョウにミッシェルの声が届く。リョウは、急いで二人の後を追い始める。

このリョウと呼ばれた青年こそ、昔二人によって拾われた少年である。彼らはある目的の為にこの場所を訪れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンサートホールの地下闘技場。そこは人の熱気であふれている。

 

「決勝戦だ――――ッ!!」

 

「お!どうやら間に合ったか」

 

司会の声を聞いた小町は、若干安堵の声をこぼす。そこはそれこそ漫画で描かれている様な場所だった。金持ちたちの娯楽の為に作られた非道なショーと言った感じだ。

 

「マジか‥漫画で百回は見たことあるシーンだぞ」

 

「こんな金があるなら、U-NASA(うち)に寄付しろってんだ」

 

ミッシェルとリョウも互いに思った言葉を口にする。

 

「それで、俺達の目当てってどれですか?」

 

「もう出て来る」

 

リョウの問いに小町は簡潔に答える。そしてその言葉通り膝丸燈(ひざまるあかり)と言う青年が現れる。司会が燈の紹介をしている。

 

「お前の目から見てどう映る?」

 

「強いですね。並の相手なら難なく倒せるでしょう」

 

小町の質問にリョウもまた簡潔に答える。その言葉にミッシェルは、感心した様な声を漏らす。

そして三人の視線が再び闘技場に向けられる。燈の対戦相手は、人食い熊だ。それを見た瞬間、ミッシェルは、悪趣味な成金どもがと悪態をつく。

 

「小町さん」

 

「どうした?」

 

「あいつ死にますよ」

 

そんな中で熊と燈を見比べていたリョウが不意にそう告げる。

 

「あれは飢えすぎる。体格差とか抜きにしても、生に対する執着が限界を超えてる。絶対に勝てない」

 

その言葉に小町は答えない。目線を逸らさずにただ燈を見ている。そして戦いは始まった。直後燈は、フェンスを上り宣言する。

 

「観客ども…沸けィ。今から、この絵にかいたような理不尽を叩き潰すッ!!」

 

燈の宣言にリョウは薄く笑みを作る。自分的には結構好ましいタイプだ。しかしその笑みは直後に憐れみに変わる。

 

「その覚悟は買うけどよ、それじゃそいつには勝てねえよ」

 

リョウの言葉通り、燈はあっさり地面に叩き付けられ、捕食される。

 

「普通じゃねえな。まさかこんな殺人ショーを見せる為に来たって言うのか?」

 

「あいつって死なれたら困るんですよね?だったら、俺が行ってあの熊殺して助けましょうか?」

 

二人の言葉に小町は静かに告げる。曰く、普通じゃないのは膝丸燈の方だと。その言葉に疑問を持ったミッシェルが問おうとするよりも早く、リョウが変化を感じ取った。

 

「これは‥まさか」

 

そのリョウの呟きと共に、さっきまで喰われていた燈が起き上がり熊の目を潰す。そこからは燈が圧倒的な力で熊を殺し、勝敗を決した。

それを見ていたリョウは驚きの表情をしていた。

 

「今のって、ミッシェルさんと同じ‥」

 

「ああ、確信した」

 

そう言って小町は闘技場を後にする。向かうのは、選手の控室。その後をミッシェルとリョウが追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人が目的の部屋の前に来た。小町がゆっくりとドアノブに手をかけ開けようとした時

 

「んだとコラッ!!」

 

燈の怒りの声が聞こえる。しかし小町は構わずに扉を開けた。扉の先には、地に伏す二人の男と燈に詰められている男の光景が映りこんだ。

それと同時に、詰められていた男の指が小町に向けらて告げる。

 

「‥そいつに売った…」

 

男の言葉を聞いた燈が小町に詰め寄る。ただ返せと俺の大切な人を返せと詰め寄る。それを小町は痛ましそうに一度目を伏せたのち

 

「死んだよ…手は尽くしたが一昨日に」

 

残酷な現実を告げる。瞬間、燈の表情が消え失せる。そして小町の言葉を理解しすると、スーツの襟をきつく握る。それを見たミッシェルと若干殺気だったリョウが動こうとするが、それを小町が静止する。

直後

 

「そっ‥つくんじゃねえええ!!」

 

鋭い蹴りが小町の顔面に放たれる。その攻撃を小町は黙って受ける、それが遅れた自分の役目だと言わんばかりに。

そしてミッシェルは、逃げようとする男を踏みつけようとするがそれをリョウが止める。

 

「すみません‥こいつは俺がやっとくんで、あいつのとこに行ってやって下さい」

 

「…わかった」

 

リョウの言葉にミッシェルは頷く。ミッシェルが燈の方に行った事を確認したリョウは、ゆっくりと男を見据える。

 

「ま、待ってくれ…俺はただ言われた通りに動いただけだ、だから悪くねえ」

 

リョウの姿に怯えた男が言い訳を口にするが本人は全く聞いていない。リョウの耳が聞いているのは、先ほどと同じ燈の返せと言う言葉だけ。しかし先ほどは煮えたぎるほどの怒りが感じられたが、今は悲しみと失意の感情しか感じられない。

すうっとリョウの足が持ち上げられ、ズンと男に頭を踏みつける。男は、余りの威力に床に叩き付けられ、痛みの余り声も出せない。

そうやってリョウが男に制裁を下しているその傍らで、小町が燈を仲間に誘う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膝丸燈は今日何度も驚愕を体験していた。命を掛けてでも救いたい幼馴染は既に死んでいたと告げられ、そしてその幼馴染を殺した病気は地球産のモノではないと言う。それを自分に告げたのは、国際航空宇宙局(U-NASA)の火星探査チームの小町小吉とミッシェル・K・デイヴズの二人だ。ふざけているとは思わなかった、二人の言葉には妙な説得力があった。

だからこそ、燈は彼の手を取り、協力すると決めたのだ。間に合わなかった償いの為に、これ以上彼女の様に苦しみ人達を減らすために。

 

「よし、それじゃあ行こうか」

 

小町の手を借りて立ち上がった燈は、その肩を借りてどうにか立つ。

 

「おいリョウ。お前も肩を貸して…」

 

そう言って後ろを向いた小町の言葉が止まる。どうした?と燈がそちらの方を向こうと首を動かした瞬間、燈は喰われた(・・・・)

 

――――は?

 

勿論それは、錯覚だった。しかしあまりにもリアルすぎる。

 

――――い、一体何が‥

 

そう思いながら振り向いた先には、先ほど小町たちと一緒にいた男が足で、自分がボコっていた一人を踏みつけていた。

 

「た、たすけ‥て」

 

頭から血を流し、涙と鼻水で顔を汚している。しかし、それでもリョウは力を緩めない。

 

「‥わかった。助けてやるよ…痛みと恐怖からな」

 

そう言った刹那、燈は察した。彼はあの男を殺すつもりだと…確信はないそれでも確信した。その足が、男の頭を踏みつぶそうとしたその時

 

「やめろ、バカ」

 

「いった~~」

 

ミッシェルがリョウの頭に拳骨を叩き込む。

 

「こんなクズの為に、お前が手を汚す必要はねえよ」

 

「全くもってその通りだ。それ此処にはもう用はない、さっさと帰ろう」

 

ミッシェルと小町の言葉。リョウは頷き、燈に肩を貸す。

四人は、扉をから出て車を目指す。

その道中燈は泣いた。現実を受けいれ、そして前に進みと決めたが故に再び込みあがて来る悔しさに涙を流す。三人はただ泣かせた。涙は堪えねばならない時もあるが、流さねばならない時もある。今は後者だ。

涙を流し終えた、燈はふと左肩を貸す、リョウと呼ばれた男に視線を向けて問う。

 

「そう言えば、アンタの名前‥」

 

聞いてなかったと言いう前に、リョウは小町に向かって吠えた。

 

「まさか、俺の紹介してないんですか?」

 

小町は答えない、リョウと視線を合わせよとしない。ミッシェルも同じだ。

それで察したリョウは、そんな~と呟き、燈に視線を向け、名乗る。

 

「俺の名前は、小町(・・)リョウ。そこにいる小町小吉の義理の息子だ。小町さんと被ってややこしいから、リョウでいい」

 

そう言いながら燈に空いた方の手で拳を差し出す。それに対して燈も拳を作り、コツンとリョウの拳にぶつける。

それを見て満足したリョウは

 

「これからよろしくな、燈」

 

新たな仲間の名を呼ぶ。燈もそれに答える

 

「ああ、此方こそよろしく」

 

 

『宿命と運命に導かれ、戦士がまた一人と‥集う』




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02 ECOUNTER 道標

本日三度目の更新です!!
此処から先の更新は、完全に不定期になると思います

楽しんでもらえたら、嬉しいです!!


アメリカ合衆国ワシントンD.C. U-NASA敷地内病棟。その一室に火星に向かう為の手術を終えた膝丸燈が目を覚ましていた。そこにミッシェルが現れる。

 

「気がついたか」

 

「え~と確かアンタは、ミッシェルちゃん?」

 

この場にリョウが居れば、何て命知らずなと驚愕していただろう。それほどのセリフだ。

燈の発言に対してミッシェルは、ただ冷静に告げる。

 

「なめんな。お前は年下だろう」

 

「‥すみません」

 

ミッシェルの言葉に燈はただ謝罪する。呆れた表情のままミッシェルは、近くのパイプ椅子に腰を据える。そこで燈は、衝撃の事実を告げられる。自分達の二人の様に先天的(・・・)に必要な物が宿っていると言う例外を除けば、手術の成功率は僅か40%未満だと。

そんな人体実験の様な手術をもうすでに百人を超えるメンバーが受け、現在火星探査チームには、幹部(オフィサー)と呼ばれる者達を含めて90人ちょっとが集まっていると言う。

その数字に驚く燈にミッシェルは冷静に告げる。

 

「今の世の中、人間だけは溢れてるからな。売り手は腐るほどいる」

 

ミッシェルの言葉が指すように、いつの世も開拓者とは意思と覚悟を持って集まる方が珍しいのだから。

 

「そう言えば、リョウも火星に行くんですか?」

 

「ああ?当然だ。それと、あいつ一応お前の上司(・・)に当たるからな。呼び捨て止めろよ」

 

「え?」

 

何気ないミッシェルの一言に燈の思考が一瞬止まる。

 

「特別戦闘選考幹部(オフィサー)。それがあいつの肩書きだ」

 

「マジですか?」

 

「おう。まあ、帰ってきたら本人から詳しく聞きな」

 

「帰ってきたら?」

 

ミッシェルの言葉に違和感を覚える燈。そしてミッシェルが燈の感じた違和感に答える。

 

「あいつには放浪癖があってな。今も何処かにフラっと出かけてる」

 

「なんすかその、猫みたいなやつですね」

 

ミッシェルは燈の言葉に手に持ったジュースを口に含んだ後、若干悲しそうに告げる。

 

「猫か‥だったらどれだけ可愛い奴だろうな」

 

「??」

 

「あいつは言うなれば、獣だ」

 

ミッシェルのその一言に燈は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリフォルニア州東部の町「サニープール」アメリカ一治安の悪いその街にリョウはいた。

 

「…」

 

夜ビルの屋上でリョウは、何も言わずただ空を見ている。一般的に路地裏と言われる場所にあるビル。屋上につけられたフェンスの上に足を掛け、上を向くその表情は誰にもうかがえない。

 

――――火星か‥

 

夜空に映る星たちの中、リョウはその惑星だけを見ている。U-NASAの屋上からでも見える事には見えるのだが、リョウは何と言うかあの人間じみた場所が少し苦手だった。勿論あの場所こそが、自分の帰るべき場所だと思っているし、嫌いではない。

だが、たまにこうして人らしい場所から、獣じみた場所に来たいと思うようになるのだ。その点で言えば、こう言った路地裏は期待に添えている。まだこう言った場所の方が、人間と言う獣が居座っていると感じると言う意味で、U-NASA(あそこ)とは違う、安心感があった。

そして決まって、そう言った場所に来たリョウは、誰に言われるまでもなく火星と言う惑星(ほし)を眺める。

そん中ふと、リョウの視線に煙が映りこむ。普段ならば、全くもって気にもならない筈なのに、どう言う訳か今回は無性に気になっている。

なぜ?と、うだうだ考えるのは自分の生に合わない。

 

「‥行ってみるか」

 

そう言うとリョウは、フェンスの内に手を置き、四足動物の様な体型を取った直後、跳んだ。目指すは、煙が上がっている場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不法入国者であるアレックス・カンドリ・スチュワートとマルコス・エリングラッド・ガルシアの二人は、ピンチに陥っていた。生きる為にギャングになったマルコスだが、昔ともいた幼馴染の事を思い出し、ギャングの作戦を裏切り彼らに戦いを挑んだ。そしてその悪友と縁を切ったつもりで見捨てる事が出来ず、結局心配になり見に来たアレックスはギャングと戦うマルコスの姿を見て、共に戦う事を選んだのだ。

しかし

 

――――くそッ。数が多すぎる‥

 

数の暴力の前にだんだんと追い詰められ始めている。

 

「おい、どうするよタコ野郎」

 

「うるせい、今考えてんだよイカ野郎」

 

軽口をたたきながらも二人の顔色は悪い。

 

「くくっく。簡単には殺さねえぞ。、ガキども」

 

ギャングのボスである男が怒り沸騰と言う表情で二人に告げる。万事休すかと二人が思ったその時、二人を囲っていた一人の男が轟音と共に消える。

 

「「は?」」

 

その場にいた誰もがその音のした方を向けば、そこには一人の男 リョウがいる。男の背を踏みつけその場に立っている。

 

「ててめえ、何処から現れやがった!!」

 

突然の乱入者にボスが鉄砲を向けながら怒鳴る。しかし、リョウはその言葉に反応を示さずに、アレックスとマルコスに視線を向ける。刹那、言いようの無い緊張感が二人を包む。そして今まで培ってきた全てが告げる。逃げろ、今この場において最も危険な者は奴だと。

天より跳んできたリョウは、即座に聞く(・・)

 

 

――――なるほどね

 

ある程度の事情を察したリョウは、視線を二人の少年に向けて告げる。

 

「そこの二人。此処は俺に任せて逃げな。後で話がるから、俺の方から会いに行く」

 

その言葉を受けた二人は、訳が分からずに混乱するが、それよりも早く蚊帳の外にされたギャングたちが襲い掛かろうとするが

 

「止まれや」

 

リョウのその一言で動きが止まる。いや、止めさせられた。

 

「行け、後で会いに行く」

 

「すまねえ」

 

「お、おい。アレックス!!」

 

リョウの言葉を聞いたアレックスが、マルコスの服を掴んでその場から立ち去る。それを見届けたリョウはギャングたちに告げる。

 

「もういいぜ」

 

その言葉と共に恐怖で足がすくんでいたギャングたちの自由が戻る。

 

「へへ。今のご時世で、正義の味方気取りか‥バカだろお前」

 

心の内から湧き上がる恐怖を隠すためにギャングのボスが吠える。しかし、リョウからすればそれは余りに虚しい行為だ。

 

「なあ、お前ら知ってるか?」

 

「ああっ!!?何がだよ」

 

「『狼』って獣は、地上の獣の中で、最上級の『速さ』と『持久力』を持つ獣らしいぜ」

 

瞬間、ギャングのボスである男を残し、全員が地に伏した。余りの早業にボスの思考が追い付くよりも先に、リョウが俄然に現れ、その顔を掴まれる。数センチ地面から浮かされる。

 

――――な何なんだよ、こいつ

 

恐怖の中で男は、リョウの姿が分かっている事に気がつく。黒い髪が白く染まり、顔には黒い毛皮が生え、その瞳は赤く染まっている。そして何より自分を掴むその手が黒い毛で覆われ、爪が生えてる。

 

――――ば化け物っ!!

 

「お前が頭ぽいから聞くわ。後ろの屋敷で起きてる暴動、お前らが主犯らしいな。何か謝罪の言葉はあるか?」

 

リョウの言葉に男は必至になって答える。

 

「ゆ許してくれ‥もう二度とこんな真似はしねえし、ギャングも止める‥だから」

 

助けてくれと告げるよりも早くリョウが口を開く。

 

「俺は命乞いを求めたんじゃねえよ。謝罪を求めたんだ‥そしてそれがお前の答えと言うなら…」

 

「ま待って‥」

 

「零点の答えだ」

 

直後、信じられない激痛が男を襲った。その痛みに意識は自然とシャットダウンさせる。地面に伏した男に目もくれず、リョウは先ほどの少年たちを探すために匂いを嗅ぐ。

 

「あっちか」

 

その言葉と共にリョウはその場を後にする。残ったは、地に伏す弱者のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャングたちから逃げおうせた二人は、路地裏で座り込んでいた。

 

「なあ、あいつ何者だと思う?」

 

「俺が知るか」

 

だよなと告げるマルコス。二人の視線は自然と空に上がった。見据えるのは、かつての記憶の少女の言葉。

 

「あ―――ったく‥どっかに差別もギャングもなくて、金払いのいい場所ねえかな」

 

地球(ここ)よりもマシな‥」

 

「何処かが‥」

 

二人の視線が深緑の惑星に向けられる。

 

「いくか‥やっぱ」

 

「ああ、あの人に悪いが、元々ダメ元なら少しでも可能性のある方にだ」

 

そう言って二人が立ち上がって向かおうとしたその時

 

「何だ話が早いじゃねえか」

 

リョウが二人の後ろに現れる。二人は驚き後ろを振り返る。

 

「よう、さっきぶり」

 

「あんた‥」

 

「あいつらは‥」

 

「ああ、ギャングどもだったら寝てるぜ。ま、一生寝たきり生活って所か」

 

二人の疑問にリョウは気楽に答える。

 

「あんた一体何者なんだ‥」

 

「俺は小町リョウ。U-NASAの職員で、火星探査チームで幹部をやってる」

 

リョウの言葉に二人は驚く。リョウは冷静にお前らの名前は?と尋ねる。

 

「アレックス・カンドリ・スチュワート」

 

「マルコス・エレングラッド・ガルシア」

 

「そうか、アレックスとマルコスか。で、ちょっと話が聞こえたんだが、火星に興味あんのか?だったら、推薦してやろうか?うちも人手不足だしな」

 

明るい表情で頷こうとする二人。しかしそれよりも早くリョウが告げる。

 

「だが実際、此処にいた方が長生きできるぞ。火星に向かうって事は、ある意味地獄行きの片道切符を買う様なもんだ。それでも行きたいか?」

 

そう言いながら二人の前に手を差し出す。

 

「言っておくと、これは誘いじゃねえ。お前らの人生の一つの道標だ。このまま路地裏(ここ)に残って弱者として生きるもよし。火星に向かい力を得て強者になって戻って来るも、お前らの人生だ。お前らが決めろ」

 

ただとリョウは告げる。

 

「火星に向かうには力がいる。あらゆる理不尽を前にしてなお、屈しない力がいる。俺にはお前らにその力があると思う。その強さを使うか使わないか‥そう言う意味で決めな」

 

その言葉の直後、アレックスとマルコスは、決意の瞳と共にリョウの手を握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

U-NASAの玄関。そこにリョウたち三人がいた。アレックスとマルコスは、U-NASAのデカいさに驚いている。

そんな二人の反応を気にせず、リョウはさっさと進む。その後を二人が追う。

 

「あ、リョウ君。帰ってきたのかい?後ろの子達は…」

 

進んでいると一人の職員がリョウを呼び止める。そしてその後ろに居る二人に気がつく。

 

「この二人は志願兵。俺から推薦するから、説明してやって」

 

「え?」

 

突然の言葉に職員の言葉が止まる。

 

「ちょ、困るよ」

 

「何で?まだ人足らないでしょ」

 

「そうじゃくて‥」

 

あれこれと二人が言い合う中、二人はただじっと待っている。約束したら、絶対に入れてやるとリョウと約束したから。

そんな騒ぎを聞きつけたのか、小町が現れる。

 

「うぉい、どうし‥って、リョウ帰ってきたのか」

 

「うす」

 

「あっ!小町館長。実は急にリョウ君がこの二人をクルーに入れろって言うんですよ、確かに空はまだありますけど、志願兵なんて初めてでどうするべきかと」

 

「小町さん。この二人を推薦します。きっと力になる」

 

「うーん?そっか‥」

 

リョウの言葉にしばし悩む小町、しかし答えはほとんど出ている。そんな最中、近くの部屋から一人の少女が出て来る。瞬間、時間が止まる。そして即座に、アレックスとマルコスの二人が、少女シーラに突撃する。

 

「‥知り合い見たいっすね」

 

「これはまた‥どうします」

 

「だから、入れるって言ってるじゃん」

 

「いや、そう簡単には‥」

 

「良いんじゃねえの」

 

言い争う二人を止める様に小町が告げる。その表情は何処か思い出している様に明るい。

 

「前例がないわけじゃない、20年前にもいたぜ。バカな志願兵が‥」

 

「そうっすか。会ってみたいっすね、そのバカに」

 

「そうだな」

 

そんなやり取りをしながら二人は、アレックスとマルコスそしてシーラ達に視線を向ける。

 

「彼らの手術が成功すれば、バグズ3号改め『アネックス一号』の定員ジャストだ」

 

 

『人生の道標を選び、彼らは遂に揃う』




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03 PORPOSE 全貌

お待たせしました!!
今思ったんですが、四話目にしてまだ奴らが登場しない
速く出したいな

楽しんでもらえたら、嬉しいです!!


作戦の隊長である小町の後押しもありアックスとマルコスの二人は無事に作戦に参加することが出来た。

そして今、先ほど再会した幼馴染であるシーラを交えて、リョウも交え小町より詳しい話を聞いている。

 

「テラフォーミングが始まって約500年。予定通り火星は暖まり、酸素も作られているが、まだ完全じゃなく地球の環境には及ばない。そこで君たちには、『手術』を受けてもらう。現在の火星の環境に適応し長期間の活動を可能にするための手術だ。現時点でのその手術の成功率は…」

 

そこで一度小町は言葉を切る。そして重くその数字を告げる。

 

「およそ36%」

 

告げられた言葉に一瞬の沈黙。その沈黙を感じ小町は目を伏せるが…

 

「3.6じゃなくて36ですか…案外高いんですね」

 

「俺らの地元で公務員になって退職金貰うよりも全然高いな」

 

「……あんたらって、本当に緊張感ってものが無いよね」

 

余りにも軽い反応に唖然となる。リョウは面白うだと笑みを浮かべている。

 

「でもなんで、火星を開拓するためにそんな改造手術みたいなの受けないといけないんですか?大気が薄いんだったら、マスクだの宇宙服とかでも足りるんじゃ」

 

何気ない言葉に小町の表情が一瞬変化する。しかしそれも一瞬でリョウを除く面々はその変化に気が付かない。

 

「それについては順を追って説明しよう」

 

そう言って小町がタブレットをいじくっていると…

 

「あ!アドに…アドルフさん!!」

 

「おっ!ドイツのアドルフじゃん」

 

リョウが嬉しいそうに、その場に通りかかった男に声をかける。その声につられ、小町もその方角を見れば、口元まで隠すような服装をした金髪の男の姿。その右腕には、隊服に不釣り合いなミサンガをつけている。

 

「ああ、小町艦長にリョウ」

 

「こっちに来てたのか」

 

「後ろの子は、誰っすか?」

 

アドルフが小町達に近づいてくるとそれについてくるように一人の少女が付いてくる。リョウの質問にアドルフは、冷たい声で正体を明かす。

 

「ユーロからの最後の補充兵だ」

 

「エヴァです」

 

「おお、じゃあこいつらと同じだな」

 

アドルフのセリフに小町は、後ろの三人を指さす。紹介された三人のうち、アレックスとマルコスの二人は、美女の登場にかっこつけた自己紹介を始める。

 

「この人はアドルフ。ドイツ支部から来た幹部乗組員(オフィサー)で、お前らの上司に当たる人だ。で、アドルフさん此処にいるのが…」

 

リョウがアドルフの紹介を告げ、今度はマルコスたちを紹介しようとするが…

 

「別にいい。覚えるつもりは全くないから」

 

冷たく拒否するアドルフ。

 

「つまり、此処にいる四人が最後か、リョウ」

 

「そうすけど」

 

「そうか。つまり確率でいえば、お前らのうち二人が死ぬわけだが…まあ、せめて麻酔が効いているうちに死ねることを祈るんだな。まあ、生き残っても任務じゃ大して役に立たないだろうな」

 

冷徹なその言葉に、マルコスたちは怒りを露わにする。

 

「お前なあ、もう少し言葉を選べよな」

 

「自分は事実を言ったまでなので。それじゃあエヴァ(それ)の事頼みますよ。まだ仕事があるので」

 

小町からの言葉に対しても冷たく対するアドルフはその場を去る。その時アドルフとリョウが交差し、小さく――――

 

「相変わらず、優しい(・・・)ですね」

 

「ふん…」

 

呟かれた言葉にアドルフは鼻を鳴らし、その場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小町も説明のためにその場を去り、リョウと四人だけがその場に残っている。

 

「さて、俺も少し準備があるから席を外すわ。お前らは此処にいてくれ」

 

それだけ告げると、リョウも席を外す。再び沈黙が場を支配する中で、エヴァが小さく問う。怖くないのかと。実際六割の確率で死ぬのだ。それに対する恐怖はないかと。その余りのネガティブさにアレックスとマルコスは戸惑いを覚える。

そこへタイミングよく燈とミッシェルの二人が現れる。その姿を見た二人は、幸いにと明るく勇気づけるが、燈のセリフに白けたと言わんばかりに馬鹿にする。そしてそのままに三人はバカ騒ぎを始める。

それを横目に見ながら、シーラはエヴァの手を握る。

 

「私もエヴァさんと同じだったけど、あいつらに会って一人じゃないって思えたの。だから祈るよ。生き残ってみんなで仲良くなりたいもん」

 

優しく呟かれた言葉にエヴァの沈んでいた心が浮かび上がる。

 

「エヴァでいいよ。きっと年齢(とし)近いから…」

 

「うん」

 

エヴァの言葉にシーラは嬉しいそうに笑みを浮かべる。その後意気投合し、楽しそうに話す二人。

 

「あ、ごめん。ちょっとお手洗い行ってくるね」

 

「うん」

 

一度席を外したシーラ。しかしいくら待ってお帰ってこない。それを不審に思いエヴァはシーラを探しにその場を離れる。

そしてその数分後、リョウが戻ってくる。

 

「何してんだ、お前ら?」

 

「あっ!リョウさん」

 

「用件は終わったんすか」

 

燈で遊んでいた二人が、その登場に遊ぶのをやめる。

 

「帰ってきてたのか」

 

「あ、うっす」

 

「あんまり遠くに行ってんじゃねぇぞ」

 

「いてっ!」

 

久しぶりの再会。ミッシェルはいつもの様に窘める様に軽くリョウの頭を殴る。

 

「お、燈も目を覚ましたか」

 

「ああ、おかげさまでな」

 

「なら、丁度いいな」

 

「うん?」

 

不意につぶやかれた言葉にミッシェルが反応する。

 

「いや、そこにいる二人の入隊を記念して軽く鍋パーティしようと準備してたんですけど、丁度いいし燈の退院祝いも兼ねるか。どうだですか、ミッシェルさんも?」

 

「ああ、同行しよう。そういうわけだ、行くぞ燈」

 

「うっす」

 

「マジで!!」

 

「よっしゃ―――!!」

 

リョウの言葉にミシェルも燈の同意する。そして肝心の二人は本当に嬉しそうにする。

 

「あれ?二人は?」

 

「そういえば居ないな」

 

「どこ行ったんだ?」

 

リョウの言葉にその場にいた面々は、シーラとエヴァの姿がない事に気が付く。

 

「二人なら少し前にどっかに行ってたぞ」

 

「そうっすか。じゃあ、俺が読んでくるんで、先に始めておいてください。場所は…」

 

「わかった」

 

ミッシェルに場所を伝えたリョウはその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

U-NASAに施設をあらかた回り、リョウをある程度当たりをつける。そこはUーNASAの施設の中でも裏方であり人目の少ない場所。

そこに彼女たちはいた。建物の影からシーラを見つめているエヴァ。そこに…

 

「何してんだ…えっと、エヴァだっけ?」

 

「きゃっ!?」

 

探しに来たリョウが後ろから声をかける。

 

「リョ、リョウさん」

 

「リョウでいいぜ。どうも敬語はなれねぇんだ。で、何見てんだ?」

 

エヴァが見ている先をリョウが見れば、そこにはシーラの背を優しく押す小町の姿。それを見てリョウは状況を察する。

 

「なるほど、丁度いい。あの二人も誘うつもりだったんだから、行くぞエヴァ」

 

「え?え?」

 

エヴァの手を取り小町達の方へ向かうリョウ。ほぼ初めて異性に手を引かれたエヴァは顔を朱色に染める。

 

「小町さん!!」

 

「おお、リョウとエヴァか。どうした」

 

「実は今から、マルコス達の入隊祝いと燈の退院祝いで、鍋パーティしようと思うんで、一緒にどうですか」

 

「おっ!いいなそれ。うん?」

 

リョウの言葉に楽しそうな顔をする。そんなとき、小町がある事に気が付く。

 

「丁度いい。ついでに、もう一人任務の鬼の素顔を見てから行くか」

 

「あ!いいっすね、それ」

 

小町の言葉にリョウは面白そうに同意する。その反応に疑問を持つ二人も戸惑いながら、そうっと二人に続く。

そこには、先ほどの冷たい言葉とは違い気遣う言葉を妻に告げるアドルフの姿。その姿に二人は驚きを露わにする。

そん唖然とするエヴァに、

 

「な、優しい人だろ。だから、大丈夫だよ」

 

リョウが優しく告げる。そのセリフにエヴァは一瞬だけ驚いたあと…

 

「うん」

 

笑みを浮かべた。その笑顔にリョウはよかったと小さく呟く。そして小町とリョウは、互いに笑みを浮かべ

 

「「イッヒ リーベ ディッヒ」」

 

一言ちょっかいを出して、四人はその場をさる。一人残ったアドルフは…

 

「か、艦長…リョウ。最悪だ…」

 

困ったように小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アドルフをおちょくったのち、リョウたち四人は鍋パーティに参加する。楽しく過ごしたのち、、小町は説明し損ねたものを説明する。

 

「手術を受ける理由は、先ほど言ったが、火星に長期間の活動を可能にするため。そして………火星に住むある生物に対抗するためだ」

 

「ある生物?」

 

「あっ!私、その話知ってる」

 

小町の言葉にマルコスとシーラが反応する。

 

「500年前までは、火星に生物はいなかった。それどころかとてつもなく寒かった。大気もなく、太陽光も全然吸収できなかった。だが、幸いなことに火星には大量のCO2が眠っている。それを気化すれば、十分火星を覆える」

 

「「???」」

 

 

小町の説明に全く理解の追いつかない二人の男子。そんな二人にわかりやすくエヴァが説明を試みるが、シーラが試みる前に諭す。

 

「まあ、まだ理解しようと頭を使ってるだけ、マシだぞ」

 

「「「「へ?」」」」

 

冷めた反応でミシェルが、ある方向を指さす。指さされた方向を見れば…

 

「ぐぅ~」

 

爆睡しているリョウの姿がある。

 

「こいつ、難しい話になると数秒で寝やがるからな」

 

「あはは…」

 

ミッシェルの言葉に誰もが苦笑いをこぼす。

 

「まあつまり…火星のCO2さえ溶かせれば、温室効果もあって勝手に火星は温まってくれるわけだ。じゃあ、どうすれば火星は温まるおもう?」

 

小町の問いにアレックスとマルコスは、自信満々に己の考えを答える。

 

「核爆弾を落とす!!」

 

「バカが…科学ってのは単純ながらも複雑なんだよ。そうだな、でかい鏡を周りに置いたんじゃないか」

 

その提案に女子たちは引き美味だった。しかし意外にも小町は肯定する。

 

「そういう意見もあった訳だが、放射能汚染とか当時の技術じゃ実現不可って事で結局…黒い苔のような原子的な草と厳しい環境でも生きれて、苔を食べる黒い生物を放って火星を黒くすることになったんだ」

 

小町の言葉を聞いていたシーラが、少し嫌そうな顔をしながら、その続きを口にする。

 

「知ってる…艦長…その生物って…ゴキブリ(・・・・)でしょ」

 

シーラの言葉に誰もが嫌悪感の顔をする。誰もがその存在にあるの納得を覚える中で…

 

「いやいや、別にゴキブリを捕まえる訳じゃないでしょ。それこそ、毒とか薬とかで…いやでもしぶといか」

 

シーラが何気なく呟かれた一言に小町とミッシェルの雰囲気が一瞬で変化する。そしてそれに呼応するようにリョウが自然と目を覚ます。

 

「いや…君たちが受ける手術は、そのゴキブリから身を護るためだ」

 

その小町のセリフに誰もが信じられないといった表情を見せる。しかし次ぎ次に語られる小町の言葉に誰もが表情を硬くする。

 

「まあ、そこからは実物(・・)を見て説明させた方が早いな」

 

「そうだな」

 

そう呟いたのはミッシェルは、燈とアレックスを連れていく。そして小町はマルコスとシーラを連れていく。

そしてリョウは…

 

「じゃあ、俺達も行くかエヴァ」

 

「え、うん」

 

エヴァを連れてその場所に行く。その中で小町がミッシェルが彼らに任務を説明していく。そしてそれはリョウもまた同じ。

 

「まあ、簡潔に言えば、火星にあるモノを調べてウィルス?を見つける仕事だ」

 

「えっと、そんな適当でいいのかな?」

 

「まあ、もっと詳しく知りたかったら、他の幹部に聞いてくれ。でも一番重要なのは、こいつだ」

 

ある部屋で話しながらリョウは部屋のスイッチを押す。すると、下からカプセルが上がってくる。そしてその中の存在を見てエヴァは顔を青ざめる。

 

「なに…これ」

 

「こいつが火星に一億匹いるとされるゴキブリ。通称テラフォーマ―。俺たちの敵だ」

 

カプセルに入った、それを指さしながらリョウは淡々と告げる。

 

 

害悪(テラフォーマー)の姿に、無知なる者はただ怯えるだけ』




如何でしたでしょうか?
次回からはちゃんと奴らを登場させたいなと思っています

よかったら、感想をお願いします


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04 EXPERIMENT 事件

お待たせしました!!
今回はジャンプの読み切りとなった話を元に作りました・・・・そのせいか、リョウの活躍が全くないです
楽しんでもらえたら、嬉しいです


ねぇ、知ってる?ゴキブリのスタートダッシュって、人間大の大きさに直すと、一歩目で時速320㎞になるんだって…

 

「マジで?ドドンパの倍じゃん」

 

いきなり振られた話にアレックスは驚きの言葉を口にする。

 

「どどんぱ?」

 

「確か伝説のジェットコースターの名前だよ。それにシーラ、それってゴキブリが人間みたいな大きさだったら、圧縮空気でブッ跳ぶのと同じ位のスタートダッシュを持ってるって話だろ?前にテレビで見たぜ」

 

「うへ~。それは、ぶつかったら死ぬな」

 

アレックスの言葉に続く様に燈が更に詳しく説明を口にし、そして続く様にマルコスも続けるように言葉を発する。

そこには燈やアレックス、マルコス、シーラ、エヴァそして八重子が一人の研究員の後ろをついていきながらそんな他愛もない世間話を話している。

だが、研究室の一室に入ると、女性の研究員は燈たちの方を振り返り、ボタンを押す。

すると壁がスライドし、ある生物(・・)を登場させる。

 

「――――で、これが人間大に成長したゴキブリです。平均身長2m平均体重110kg。通称『テラフォーマ―』です」

 

現れたのは大柄な男性が鍛えたようなガッチリとした体に短いパンチパーマを思わせる髪型(?)に触角を生やした生物。

それこそが火星に生息するただ一種の生物であるゴキブリの現在の姿。

改めて見せられるその姿に燈たちは、何も言えずに先ほどの軽口もない。そんな姿に女性研究員は、苦笑をこぼす。

 

「では、事前に説明したように、皆様にはこれと闘って貰います」

 

「無理です」

 

研究員の言葉に八重子が間髪入れずに否定する。

 

「これと闘って貰います」

 

「………無理…ですって」

 

ならばと間髪入れずに女性研究員が全く同じ言葉を告げる。八重子は、二度目は強く言えなかった。

 

 

西暦2619年 ANNEX(アネックス)一号クルー『マーズ・ランキング』確定テスト当日

 

火星探査チーム特別研究棟の一室にクルーたちは集まっていた。

 

「わ冷たっ…うぅ、あのゴキブリ星人と会うのに何で、消毒しないといけないんでしょうね」

 

消毒用のシャワーを浴びながらエヴァは疑問を口にする。

 

「念の為だそうよ。あんなキモイ生物だから、どんな菌を持ってるか分からないじゃない」

 

エヴァの言葉に隣にいたエレナが冷静に答える。その近くでは――――

 

「でも、こないだの体力テストで少なくとも30位以下が確定した人は闘わなくていいんですよね………よかった~~死ぬかと思った」

 

八重子が安堵を零し――――

 

「か……加奈子さんは、闘うんですよね?やっぱり…その…不安ですか?顔色が…」

 

「いや…それもあるけど………何の順番だコレ?……偶然か?偶然かコレ?」

 

シーラと加奈子が、何気ない会話をしている。

そしてそれは男性陣も変わりなく、マルコスとアレックスの二人は緊張感のない会話をしている。

その中で燈は、先ほどの女性研究員の話を思い出す。自分たちに施された手術によって得た地球上の生物の能力。それを駆使すれば、先のゴキブリ(テラフォーマー)に対抗できると。

そして全員が記し合わせたようにシャワー室を後にし、隊服を身に纏い合流する。

 

――――確認しますが、試験(能力テスト)はテラフォーマーとの実践方式。存分に能力(ちから)を発揮してください。火星でゴキブリたちに殺されない様に。

 

――――因みに、今回のテストで相手となるテラフォーマーは、地球で培養されたもので、急所である胸部には、小型爆弾が埋め込まれており、君たちが殺されそうになったら、レフェリーストップ(・・・・・・・・)が掛けれる様になっていますが、当然火星ではそうはいきません

 

――――それでは、後ほど

 

「……無茶をやらすぜ、全く」

 

話を思い出し、燈は冷や汗を流す。既に目の前にはテラフォーマーの姿。迷う間も恐怖する間もない。

テストを開始した者達は、全員が迷うことなく動く。

 

――――人為変態(じんいへんたい)!『M.O.手術(モザイクオーガンオペレーション)』!!

 

瞬間、ある者には触角が、またある者には翼が、ある者には複眼が、ある者には甲羅が現れる。

実験が、今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景が少し離れたモニタールームでも視認された。

 

「――――始まりました」

 

一人の研究員は、少し疲れを吐き出す様に息を吐く。

 

――――人間大になったゴキブリに対抗するための……人間を動物化して戦う実験…か

 

少し思うところがあるのか、一人の研究員が今回の内容を復習する。そこで部屋の扉が開かれる。

 

「あっ艦長。ちょうど今、クルーたちの戦闘テストが始まった所で…」

 

当然研究員は、次項にもあった艦長である小町の来訪だと思ったが―――

 

「す……」

 

現れたのは、先ほど燈たちに説明をしていた女性研究員の亡骸を持った一匹のテラフォーマー。

瞬間、部屋の空気が凍る。いち早く意識を取り戻した研究員の一人が非常ベルを鳴らす。それが合図となった。

小町だと思って声を発した研究員が、一撃でこの世を去る。

それは先ほど彼女が説明したとおりの能力が発揮される。

 

――――一歩目から320㎞。人とゴキブリでは筋肉の付き方も構造も違うが、テラフォーマー達は、先ほどのゴキブリの説明に相違ない速さで動ける

 

「ヒィ…っ」

 

「何で…!!」

 

「け、研究用のヤツが脱走したのか…早く、早く銃をォォオオ!!」

 

距離が数百とあったにも関わらず、約二秒でテラフォーマーは彼らの前に現れた。

 

――――更に、全身がエビの尻尾の様な軽くて硬い甲皮に覆われています。おまけに痛みを感じません。腕の一・二本それどころか頭が取れても、そのまま襲い掛かってきます

 

銃をもって狙撃するがテラフォーマーは全く意に返さない。

 

――――力も当然強く、人間を粘土模型の様に簡単に引きちぎれます。厄介な事に知能が高い

 

射撃が厄介だと把握したのか傍にあったタブレットを投擲し、銃を撃っていた研究員の息の根を殺す。

 

「ク…クルーだ!!戦闘員(クルー)に来てもらえ!!今、クルーと闘っているゴキブリの爆弾を全て作動!!そしてクルーたちにこちらに来てもらうんだ」

 

一人の研究員の言葉を受けそのように動くが…

 

「……っ!?だ…っダメです!!安全装置(小型爆弾)が作動しません!!このままではこの個体が止まらないばかりか、今能力テストを受けているクルーたちも戦闘で殺されてしまう可能性が…!!」

 

その言葉に誰もが絶望を覚える。

 

――――素早く、キモく、死なない。そして、一匹見たら三十匹いるという繁殖力が、人間大でそのまま持っている

 

それを証明するように、更に多くのテラフォーマーたちが扉から現れる。

 

「お……終わりだ……。大体こいつら何で、人を殺すんだよぉ……。うち等が、何をしたって言うんだよぉ……」

 

目の前に映る光景に絶望し、涙を流して一人の研究員が地面に座り込む。そんな研究員にテラフォーマーが手を伸ばした瞬間――――一本のクナイがテラフォーマーの胸部に刺さる。

そして研究員の後ろの扉から影が現れ―――

 

「消えろ」

 

呟くと同時に、青白い光が影の指先とクナイを繋ぐように奔った瞬間、雷音が響きテラフォーマーが力なく倒れこむ。

 

ロシア(ウチ)若者(クルー)たちの初めての発表会を……隊長(オヤジ)としてハリキッて応援しに来てみれば…」

 

「どいう事だ。この大参事は…」

 

扉から現れたのは――――

 

「っけ……研究用のゴキブリが脱走しました。理由はわかりません。30匹位いると思われます……今、軍隊に救援要請を…」

 

先ほどの研究員が今までの状況を説明する。

 

「顔を上げて、大丈夫さ。軍隊なら今来たよ(・・・・・・・・)

 

「…………………」

 

「たっく、リョウのバカを待ってたらこれとはな…あのバカあとでボコる」

 

――――か……勝てるのか!?この数に、如何に火星計画加盟国各国の代表者たち……たった六人で

 

―――幹部(オフィサー)

 

「全員ただちに、こちら側に避難しろ。ゴキブリ退治は俺たちの仕事だ」

火星探索チーム総隊長『アネックス一号』艦長小町庄吉(日本)

 

「野郎共。薬は待ってるな」

副館長ミッシェル・K・デイヴス(アメリカ)

 

「………」

幹部アドルフ(ドイツ)

 

「一足早く、六か国協力プレイといきますか」

ミッシェルの言葉にいち早く答えたのは流麗ながら幼さを残す顔立ちで一団の中で一番幼く見える男。

幹部ジョセフ(ローマ連邦)

 

「あんま他国の研究員に自国(じぶん)の能力見せるなって言われてんだけど……ま、緊急事態だしな」

次に答えたのは燃える赤い髪と髭を生やしたスーツの上からでも鍛えられら肉体がわかる大男。

幹部アシモフ(ロシア)

 

「確かに……ではこうしましょ」

アシモフの言葉に同意を述べたのは、一団で最も背の高い髭を蓄えた男。

幹部(りゅう)(中国)

 

劉は未だに唖然とする研究員たちに指を一本立てながら不敵に告げる。

 

「当ててみてください。僕ら幹部(オフィサー)が、ゴキブリを畳むのに、一体何の生物の特性(のうりょく)を使っているかを」

 

その言葉に誰も何も言えない。絶対の自信が其処には隠されていた。それを感じ取り、誰も何も言えない。

そもそもこんな状況下でも冷静に普段通りな彼らに僅かな安心すら覚える。

 

――――人為変態(じんいへんたい)!!

 

最初に駆けだしたのは小町。テラフォーマーが仕掛けて来るよりも早く、その拳を連撃で叩きこむ。その拳より姿を見せた針が、連続で叩きこまれ、テラフォーマーは地面に伏せる。

 

小町庄吉。その戦闘スタイルは、空手(からて)×大雀蜂(オオスズメバチ)

 

次に動いたのはミッシェル。小町の影から襲いかかろうとしたテラフォーマーの頭を容易に掴むと、100キロオーバーのテラフォーマーを片腕で持ち上げ、息を吹きかける。

瞬間、テラフォーマーが内部より破裂し死に絶える。

 

ミッシェル・K・デイヴズ。その戦闘スタイルは、プロレス×(アリ)

 

ミッシェルの隣ではアシモフがテラフォーマーの口を掴み豪快に投げ飛ばす。

 

シルヴェスター・アシモフ。その戦闘スタイルは、柔道(じゅうどう)×大蟹(タスマニアキングクラブ)

 

そしてその後ろではアドルフがクナイを連続でテラフォーマー達に投擲。そして指先から青白い雷光が、テラフォーマーを貫く。

 

アドルフ・ラインハルト。その戦闘スタイルは、対テラフォーマー受電式スタン手裏剣(レイン・ハード)×電気鰻(デンキウナギ)

 

信じられない速度で幹部(オフィサー)達はテラフォーマーたちを駆除していく。その姿に先ほどまで絶望していた研究員たちは安心を覚える。

 

「これが、人間の技術と魂だ」

 

30匹ほどいたテラフォーマーたちを既に全部駆除された。誰もが安堵する中で、一般戦闘員の事を思い出し、急ぎ確認するが、そこに多少の疲労はあれど全員がテラフォーマーを倒している姿が映っている。

その事実に研究員の誰もが任務に対する希望を持つ。その中で幹部たちは――――

 

――――しかし、これは…

 

――――そう、問題はゴキブリが何億匹いることじゃない

 

――――本当に事故だったのか…?

 

――――まあ、人為的なものだろうな。能力も見られちまったし

 

――――チィ、めんどくさい

 

――――今日の様に人類が側が手を取り合い協力する気はないという事か

 

それぞれが今の事件の事を考える。

そんな最中、一人の研究員がモニターを確認してると

 

「た…大変です!!」

 

「どうした」

 

「こ、此処だけじゃなかった。他にも脱走したゴキブリたちがいます。それも非戦闘員クルーの待機場所近くです」

 

「なんだと…!!?」

 

研究員の言葉に小町を含めた幹部たちに嫌な汗が流れる。急ぎ大モニターにその映像を移させると、そこには待機しているクルーたちの部屋のすぐ近くに十匹を超えるテラフォーマーの姿が映っている。

それを確認し、小町やミッシェルたちが駆けだそうとした瞬間

 

「待ってください。艦長」

 

アドルフが待ったをかける。

 

「なぜ、止めるアドルフ!!急がなくては…」

 

「どうやら行く必要はないようです」

 

「なに…?」

 

アドルフの言葉に小町は疑問を持つ。しかしアドルフは、小町を視ずにモニターの端を見ている。

最初に気が付いたのは、劉だった。

 

「成程、確かに僕たちの出る幕はないですね。いや、不幸中の幸いというべきでしょうね」

 

「全くだ」

 

アドルフと劉の言葉に誰もが疑問を持つが、その答えがモニターに現れる。瞬間、小町は安堵の笑みを浮かべ、ミッシェルは深くため息を吐く。

その中でアシモフが豪快に笑う。

 

「ハハ。寝坊しくれて助かったな」

 

幹部たちの目線の先には、困ったように髪を掻くリョウの姿が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は大事なテストがある。だから幹部は時間内に集合。そう言われていたリョウだが、モノの見事に寝坊してしまった。急いで時間を確認して見れば、集合時間を15分もオーバーしている。

理解した瞬間、リョウの顔が青く染まる。前日に小町とミッシェルとアドルフにきつく釘を刺され、アシモフと劉には寝坊するなと言われていたのにこの失態。

どんな罰が待っているか、想像するのも恐ろしい。

急いで研究棟に向かっている途中、本来なら聞くはずのない声を聞き、その場所へと向かった。

するとそこには―――――

 

「何でいるの、お前ら?」

 

「……………」

 

十匹を超えるテラフォーマーの姿。

 

「脱走したのか、それとも脱走させられた(・・・・・・・)か?全く、面倒な事をしすぎだろ」

 

十を超える目に見つめられながらもリョウは、ゴキブリたちには脅威を持たず、その背後にいるであろう影に呆れを見せる。

 

「まあ、俺の立場上。お前らは野放しには出来ねぇな」

 

そういうリョウの手には一本の注射器。その注射器をリョウは迷うことなく首に差し込む。

 

人為変態(じんいへんたい)!!」

 

火星探査チーム『アネックス一号』特別選考戦闘幹部(オフィサー)小町リョウ。

 

結末は、語る必要もなく小町達がたどり着いた時には、既に躯とかしたテラフォーマー死体の上にリョウが悠々と座っていた。

 

その姿を見た研究員は…

 

――――かっ勝てる!!彼らと彼が手を組めば火星でも…あの火星に一億匹以上いるとされる人間大ゴキブリ(テラフォーマー)に…!!

 

 

 

『準備は出来た!!さあ、戦士たちよ、(とき)を待て』




如何でしたでしょうか?
テラフォーマーって、どうして特別版の読み切りコミックスに乗せてくれないんだろう

良かったら、感想をお願いします


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05 ENCOUNTER 会遇

お待たせしました!!
八月中に更新したかったのですが、無理でした

そして今回から火星への任務が開始します
そのため、かなり長いです
違和感とかあったら、教えてくださるとありがたいです

楽しんでもらえたら、嬉しいです!!


『マーズ・ランキング』確定テストから約半年の2620年3月4日。大型宇宙船『アネックス1号』出発日。

その日はリョウは、朝早く自然と目を覚まし、U-NASAの屋上で空を見上げている。

 

「……………………………」

 

何か理由があるわけでもなければ、なんとなくという訳でもない。意思を持ちながらもリョウは何か説明できないモノを胸に抱きながら、空のある方角を見ている。夜と朝が入れ替わる境界が合間なその時間、片方では星が輝き、もう片方で太陽が空を照らしている。

あと数十時間後、自分たちはあの空の上にいるのだ。恐怖がわき上がった訳でもない、むしろ決意をさらに固める。

 

「よし…もう一回だけ寝るか」

 

何処かぼんやりとした意識のままでは多くの事は考えられないのか、決意を固めるとリョウは自室へと向かう。

普段と変わらない何気ない日常の行動。とても今日地球を発つとは思えない。しかしそれが小町リョウなのだ。

たとえ今日死ぬと言われようが、きっとリョウはいつもと変わらない日常を送るだろう。彼にとっては死など日常の背に常にあるもののだから。

次にリョウが目が覚ましたのは、昼頃。窓からは太陽が丁度頂上に昇るか昇らないかの位置だ。移動時間は確か昼の三時だったはず。ならば、時間はまだ十分にある。朝方のぼんやりとしたものはもうなく、頭も普通に働く。そう判断したとたん、急にお腹がすいてくる。

 

「まずは飯を済ませよう」

 

そう予定を決め、リョウは部屋から食堂を目指すため、ベットから起き上がりその場を後にする。

 

 

食堂は多くの隊員たちでにぎわっているが…

 

――――やっぱ、表情が硬いな

 

迫る日にどこか空気が固いように感じる。まあ、それでも食堂の傍らで騒いでいるマルコスやアレックスに燈たちがいるから一概には言えないが。普段なら燈たちに混ざるが、今日はそういう気分でもなく、適当に肉食系のメニューを受け取り、皆の意識が最も薄いであろう場所を見つけ、こっそりと席に座り飯を食べ始める。

食べ始めてから、少し時間が経っただろうか、突然背中に背中に衝撃が走る。

 

「はははは。おう、元気そうじゃねぇかリョウ」

 

「アシモフさん。脅かさないでくださいよ」

 

「嘘つけ。お前さん、俺の存在に気が付いてたろう(・・・・・・・・)

 

「む……」

 

リョウの隣に座ったのは、ロシア幹部のアシモフ。

 

「っていうか、ロシア支部の方はいいですか?明日ですよね、出発」

 

「なぁに、今更怯えるような腑抜けは、俺の班にはいねぇから楽だぜ。向こうで合流する予定になってる」

 

俺の班ですか(・・・・・・)…」

 

アシモフの言葉に肉を口に含みながら、周りを見渡す。その視線の意味に気が付いたアシモフは笑みを浮かべ、リョウの肩を掴む。

 

「まっ!お前さんがいればどうにかなるだろ。期待してるぜ、リョウ」

 

まるで孫に絡むおじいちゃんの様にリョウに接するアシモフ。当の本人は、全くその事を意に関しないといった表情で

 

「それはこっちのセリフです。しっかり頼みますよ。俺機械類全然だめですから。ミッシェルさんに怒られたくないんで、マジで頼みます」

 

告げるが、言葉を発するうちにミスした自分を想像したのか顔が青くなる。その事が面白かったのかアシモフは笑みを浮かべながら「おじさんに任せとけ」と告げる。そんな感じで話しながらリョウは食べ終え、アシモフに別れを告げてから食堂を後にした。

 

 

食事を終えたリョウは、医療棟の屋上で空を見上げている。その中でリョウの聴覚が燈の声を拾う。何か気になり、見聞を強め(・・・・・)つつ会話に耳を傾ける。燈の他に誰か聞き覚えのない声があるが、恐らく前にミッシェルが言っていた、燈が仲良くなったという入院患者だろう。

 

「今は希望をもっていい。凄く小さく細く遠い希望(もの)だけど、今はそれが正しく行える手段がある。だから、その人形はお前が持っておいてくれ。俺の帰還(かえり)を待ってろ!!」

 

聞こえるのは決意の籠った燈の言葉と拳と拳を合わせる音。そして続く様に燈と少年は

 

「またな」

 

笑顔を見せる。その決意を知り、リョウは笑みを浮かべる。そう、そういった様々な想いが、あの惑星(ほし)を中心に集まるのだ。悲しみの元を断たんとする者。人生をやり直す者。敵を討たんとする者。救わんとする者。あまたの想いが集う。なればこそ、自分もまた想いを乗せなければならない。

そして小町リョウ(・・・・・)の想いは一つ。

 

「行くか」

 

ゆっくりと四肢から力を抜く。そして重力に従うように落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決意を新たにする。原点と対話し、その意味を理解をさらに深める。先を行くミッシェルに燈は告げる。

 

「俺は―――必ず、この悲しみの輪の元を断つ。そうしなければきっとやり直せない。どこかで間違った――――自分の人生の何かを」

 

一度言葉を切る。そしてサラリ決意を込めて告げる。

 

「そしてそれは、仲間の誰もがそう思ってるはずだ!!」

 

燈やミッシェルに続く様に続々とクルーたちが集う。

 

乗組員(クルー) 94名

 

幹部乗組員(オフィサー) 5名

 

艦長(キャプテン) 小町小吉

 

そして――――

 

アネックス1号に進まんとした瞬間、上空から何かが落下してくる。誰もがそれに驚くが、小町は笑みを浮かべる。

 

「今日は寝坊しなかったみたいだな」

 

土煙が晴れるとリョウが立っている。

 

「当然」

 

――――特別選考戦闘幹部乗組員(オフィサー) 1名

 

リョウの言葉に小町は笑みを消し、重く告げる。

 

「行くぞ」

 

大型宇宙船『アネックス1号』人員計101名―――――地球を発つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間を多くの記者たちが納めんと集まっている。時間にすれば、僅か30秒。その時間にアネックス1号は宇宙へと飛び立った。

 

『アネックス1号よりワシントンへ。地球の重力圏は脱した。これより安瀬飛行に入る』

 

『了解。現状、障害物は見られない。そのまま自動操縦で火星へ向かってくれ』

 

小町は本部との連絡を終えると室内用のマイクに取る。

 

「あ~あ~あふん。『えー乗組員諸君。シートベルトは外してくれて大丈夫だ。あとは火星に着くまで用意した居住エリアで過ごしてもらう。エリア内は人工的な低重力を作ってあるが、任務が始まるまで、体が訛らないように日々の鍛錬を続けてくれ』

 

小町のアナウンスを聞きながらクルーたちは各々に動き始める。

 

『幹部エリアは基本特別選考幹部(リョウ)のスペースを除いて立ち入りは禁止だが、困ったことがあれば、内線で何でも気軽に俺たちに相談してくれ。ちなみに、独身の幹部はミッシェルとジョセフとリョウと…そして艦長(おれ)だ!!遠慮なく…なっ!』」

 

小町の言葉にクルーたちから笑いがこぼれるが…

 

「だってさ、シーラ」

 

「えっ……なんで、そんな事私に言うのよ」

 

「………………あのオッサン」

 

「あの~ミッシェルさん?俺の頭、さっきからミシミシ言ってるんですけど…ってぎゃ~!!」

 

一部はそうではないらしい。

 

「それにしても、緊張感のない艦長だぜ」

 

「ああ、全くだ」

 

「そうだよな。これから、命がけの任務が始まるってのによ……」

 

おとなしい反応を見せる燈たちだが…

 

「無理せずに探検してきていいわよ、3バカ(あんたたち)

 

シーラがそう言った瞬間、子供のような事を言いながら走り出す。その姿に呆れながら、シーラは周りを見渡す。

 

――――明るい人とそうじゃない人は半々ってところかな

 

総当たりをつけ、エヴァと共にシャワー室を見に行こうとすると…

 

「お!シーラにエヴァじゃん」

 

「あ!リョウ…さん」

 

「敬語じゃなくていいぜ。背筋が痒くなるし」

 

偶然リョウと鉢合わせる。リョウの言葉にどこか安心した様に息を吐くシーラ。そして疑問を口にする。

 

「どうしてここに。幹部スペースからだいぶ離れてるよ?」

 

「何かあったの?」

 

シーラとエヴァの言葉にリョウは冷や汗を流しながら…

 

「いや…ちょっとミッシェルさん()から逃げてきただけだから…心配すんな。そう言えば、どこに行こうとしてたんだ?」

 

「そうなんだ…」

 

「あはは…えっと今からシャワー室を見に行こうかなと思って」

 

リョウの言葉に何も言えないエヴァに変わり、シーラが乾いた笑みから目的地を告げる。

 

「お!いいんじゃねぇか。確かその辺の衛生面にはミッシェルさんが女性としての意見を加えてるから、かなり快適なはずだぜ」

 

「ホント!!エヴァ、速くいってみよう」

 

「うん!!」

 

「じゃあな~」

 

シーラとエヴァを見送ったリョウはミッシェルの怒りが収まるまでどこに逃げるかを考えながら辺りをうろつき始める。

そうしてアネックスでの生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球を出発してから20日が経過。その日あるいざこざが起きた。

 

「もういっぺん言ってみろや、テメェ!!!」

 

「優しいね。侮辱されても1回目は見逃してくれるなんて」

 

クルー同士のいざこざ。何度かあったが、今回は明らかに意図的に絡んでいる面が強い。自然と視線が其処に集まる。その場には偶然燈たちも居合わせた。

 

「あの金髪の方、お前の班員じゃねぇのか、マルコス」

 

「やれやれ。みんな妊娠した動物並みに気が立ってるよな」

 

「ねえ、止めに入った方がよくない?」

 

燈たちがどうするかと悩んでいるうちに、事態が動く。絡んだ方が、更に金髪のクルーを挑発する。その言葉に金髪のクルーのタガが完全に外れている。その拳がぶつかろうとした瞬間、別のクルーがその一撃を顔面で受け止めた。

 

「「「「……誰?」」」」

 

突然の乱入者に誰もが毒気を抜かれた中で――――

 

「どうしたんだ、お前ら?」

 

リョウが現れる。

 

「リョウさん」

 

幹部クラスの登場に誰もがまずいとその場を慌ただしく去り、そして当事者たる男もその人ごみに紛れ、リョウの隣を通過するが、その一瞬――――

 

「あんまりくだんねぇ事すんなよ。何も得る事ねぇぞ」

 

「ッ!!?」

 

ボソリとつぶやく。その言葉に驚き表情を歪めるが歩は止まらずにその場を去る。それを見送ったリョウは――――

 

「じゃあ、シーラ同じ班員の起こした不始末だ。そこで少し伸びてる奴の手当してやれ。俺が運んでやるから」

 

「えっ!はい」

 

シーラたちに命令しながら床に座っている男を米俵を運ぶ要領で持ち上げる。その動作に誰もが驚きで手が止まる。

 

――――すげぇ。170cmあるのに、片腕で軽々持ち上げやがった

 

「どうした早くいくぞ」

 

そう言ってリョウはその場からたったとさる。

 

手当自体は簡単にすむレベルであり、今シーラが謝罪と共に行っている。

 

「ごめんね。うちのチームメイトが…えっとロシアの」

 

「あっ!自分はイワンっす。いやー大丈夫ですよ、この程度。自分はいつもこんな感じですし、姉ちゃんからもただのアホって言われてますから」

 

ロシア班の言わんと名乗ったのは額から左頬にかけて傷が特徴的な好青年だ。そんなイワンの言葉にシーラはクスリと笑みを浮かべ――――

 

「でも、誰にだって出来る事じゃないよ。凄く勇気があるんだね」

 

最期にガーゼを当てる。瞬間、イワンの顔がゆで上がったように赤く染まる。その変化に誰もが驚きの声を上げる。

 

「熱っ!」

 

「ははは。わかり易いな、イワン」

 

「人が恋する瞬間を初めて見た」

 

「おお!って感じだな」

 

その言葉にイワンは照れながら小声で何かを言っている。その中で燈は――――

 

「でもな~~~イワン。シーラは強敵だぞ。なんたってシーラの好きな人は館長だからな」

 

その発言に空気が死ぬ。そこまで来て自分が何を言ったか悟った燈は顔を硬直させる。

 

「あ…え~~~っと、最後のはオフレコで。これがばれたら終わります、うちの会社」

 

「もう遅いよ」

 

どうにかと言葉を発した燈だが、シーラの言う通りすべてが遅い。その発言に誰もが慌てる。

 

「ってかなんで知ってんだっ!!」

 

「いや、前にミッシェルさんが…あれ?そういえば、なんであの人知ってたんだ。というか、そうなるとシーラがリョウさんのお義母さんになるのか?」

 

「おい!!マルコス、イワン!!大丈夫か!!!」

 

その中でリョウは――――

 

「そっか、シーラは小町さんが好きなのか」

 

どこか悲しそうにそして縋るように表情でシーラを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球を出発してから39日目。その時がついに来る。

 

『こちら館長。あと少しで火星の重力圏に入る。総員は二時間後にAエリアに集合すること』

 

告げたのは艦長である小町の連絡。先ほどまでのワイワイとした空気が一転緊迫したものへと変わる。

そして――――

 

「うん?」

 

自室にて寝ていたリョウはその案内とともに目を覚ます。そして寝ぼけた顔からスウッっと目つきが鋭くなると、あたりを見渡し――――

 

どういうことだ(・・・・・・・)?」

 

疑問を持ちながらも、たったと用意を済ませる。

 

「…急ぐか」

 

そう呟いてリョウは部屋を後にする。

そして少し遅れて小町が異変に気が付く。

 

「ミッシェル。一部カメラに異変が起きたすぐに調べてくれ」

 

モニターには何も映らなくなったものがいくつか見える。ミッシェルに任せると自身も用意を済ませる。

 

「ただの機械の故障ならいいんだが…」

 

そういいながらも言いようのないものが、胸の中に湧き上がる。

そしてその不安は最悪の形で的中する。

 

居住区内の広場。そこに集まった誰もが残された安寧の時間に思いをはせながら不安と戦っていた。その中でふと、扉が開かれる音が聞こえる。誰もがその音に反応し、それで終わる。しかし今回ばかりは、相手が違った。

最初に気が付いたのは、扉に一番近くにいたクルー。

 

「え?なんで…」

 

ふと顔を見上げた先にいたのは――――

 

「じょう」

 

一匹のゴキブリ(テラフォマー)の姿。その腕が迫り――――

 

「え…?あれ…」

 

そのクルーの上半身がちぎられる。それが合図。

 

「う、うわぁぁぁあああああああああああああああ!!!」

 

関を切ったように悲鳴と恐怖があたりに広がる。そんな声を聴きながらもテラフォマーは、全く動じない。手に持っていたクルーの顔をつぶし、次なる獲物を求めんとあたりを見渡す。

そして虐殺が始まった。

次に標的になったのは、果敢にも銃を持ってテラフォマーに挑んだ、あの日イワンが止めに入った男だった。体を貫く銃弾など気にせずに距離を詰めると、頭をつかみ圧倒的な力で引き抜く。そしてつながった背骨の骨を鞭のようにしならせ、ほかのクルーたちを殺してゆく。

あまりの虐殺の光景にエヴァは腰が抜け、その場にへたり込んでしまう。そして運悪く、次なる標的に選ばれてしまう。徐々に近づく死への足音。シーラたちが何かを言っているが、全く理解できない。体から何かが流れた気もするが気にすらできない。

そしてその足がおよそ、二歩で自分を殺そうとした足が止まった。

 

――――え?

 

先ほどから全く止まらなかった歩がここにきて完全に止まる。そのことにその場で離れていたほかのクルーたちも疑問に思う中で、突然テラフォマーが後方に視線を向けた。

そこには――――

 

「よくもまぁ、ここまでしてくれたもんだよ」

 

「あ…」

 

ガシガシと頭をかきながら歩いてくるリョウの姿。

 

「リョウさん!!!」

 

その姿にアレックスが叫ぶ。誰もがその場に現れたリョウの存在に視線を向ける。当の本人であるリョウはあたりを見渡すと――――

 

「ここは俺に任せて、生きてるメンバーはここから離れろ。もう少ししたら艦長から連絡が来るはずだ。全員落ち着いて対処し、行動しろ」

 

テキパキと指示を出してゆく。まるで目の前の虐殺の光景が目に入っていないようだ。そして自分から視線がそれたのを感じたのか、エヴァに迫っていたテラフォマーがリョウに意識を向ける。それを察したアレックスが―――――

 

「リョウさ…」

 

「じょうじ」

 

吠えるよりも早くテラフォマーが迫る。が…

 

「え?」

 

「たっく気が早えな。心配しなくても、役目を終えたら(・・・・・・・)しっかり相手してやるから、ちょっと待ってろ」

 

アレックスたちに移りこんだのは――――

 

――――嘘だろ…生身だろ、あのひと

 

容易にテラフォマーを地面に押さえつけるリョウの姿。と当時に爆音と衝撃があたりに広がる。

 

――――堕とされたか?これは悠長に構えてる暇はねぇな

 

「アレックス、お前ら!!そこで固まってねぇで早く動け!!ここは俺一人で十分だ」

 

「は、はい!!みんな行くぞ」

 

リョウの二度目の言葉にようやく全員が動き始める。全員が部屋を出たのを確認すると、リョウは抑えていた腕を開放する。

 

「さて、時間は少なくなったが、約束通り相手をしてやる。だから、そこに隠れてる一匹も出てこい」

 

そのリョウの私的と同時に、扉からもう一体のテラフォマーが姿を現す。

 

「全部で二体か…まあ挨拶にはちょうどいいか」

 

「じょうじ」

 

「じょう」

 

リョウとテラフォマーが静かに向き合う。

 

「さて、人さまの巣穴(いえ)をここまで汚したんだ。覚悟できてるよなぁ、テラフォマーども」

 

 

        『宿命のコングが今鳴る』




如何でしょうか?
いよいよ、次回からが本番となっていきます
・・・・シーラとかどうしよう
そして自然に出番が減ったジョセフさんすみません

よかったら、感想をお願いします


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06 MERIT 継承

お待たせしました!!
PCのクラッシュに加え、大学のテストとレポート、そして部活動の幹部の引継ぎなどが重なり、更新できませんでしたが漸くできました!!

今回でリョウのベースが判明します
まあ、何型かはヒントがあったので、わかると思いますが・・・・
楽しんでもらえたら、うれしいです


アレックス達が、その場を離れた居住区の広場。そこには無残なる死体と…

 

「まあ、こんなもんか」

 

上半身と下半身を両断された二体のテラフォマーの死骸の上に腰を据えるリョウの姿のみ。どこか調子を確かめるように呟いくリョウ。そんなリョウの耳に小町の連絡がスピーカーを通して、届く。

 

「プランδっていうと……確か班別行動だっけか?」

 

厳密には少し違うのだが、概ね間違っていない。それならと、自分も早く行動すべきだと腰を上げた瞬間…

 

「あ?」

 

そのノイズが頭に響く(・・・・)。嫌悪感と目的という、本能で動く生物らしからぬ思考。それをなす(せいぶつ)をリョウは、二つしか知らない。

 

「—————」

 

なぜ?とは考えない。侵入を許している以上は考えられる事態。おそらくまだ、誰も気が付いていない事態。

どうするかと思考する。取れる選択肢は二つ。一つは合流し、小町に伝える。そしてもう一つは…

 

「まあ、そっちが俺の仕事(・・・・)だよな」

 

たぶん、それを選べば小町やミッシェルは怒るだろうし、悲しむかもしれない。それでもその選択肢が最善であると、信じて動くだけ。

 

「行くか」

 

小さき呟き、リョウはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アネックス一号に小町の指令が届くと同時、誰もが指定された場所へと駆ける。テラフォーマーの奇襲により、いつ襲われるかわからない恐怖が彼らの足並みを崩すが…

 

「おーちーつーけー、一卒兵ども」

 

「この速度なら落下まで40分。落ち着けば、全然間に合うからね」

 

「内部侵入したゴキブリは全部で七体らしいな」

 

「ちょうど幹部(ぼくら)と同じ数ですね」

 

「っていうか、ジョー。なんでお前は手ぶらなんだよ」

 

「いや~リョウ君に全部取られまして」

 

「それで…肝心のあいつは…?」

 

「まあ、あいつならほっといてもすぐに来るだろう」

 

「また遅刻か、あの野郎…後で〆る。ともかくだ、お前ら…」

 

その声が届くと同時に足並みが止まり、視線が集中する。

 

「「「「「「脱出()るぞ。隊列(なら)べ!!」」」」」」

 

テラフォーマーの死体を持った幹部たちの姿(ジョセフを除く)。その台詞に従い、全員が隊列を終えると同時に、アシモフの状況説明。そして小町から作戦が伝えられる。

 

「小町リョウが合流次第。緊急プランδに従い、六機の『高速脱出機』により火星への着陸を開始するものとする」

 

小町が言い終えるとお同時…豪快な音と共に扉が破壊され、リョウが小町の前に着地する。

 

「セーフ…」

 

『—————————』

 

あまりに予想外の事態に誰もが唖然とする中で、顔に怒りマークを付けたミッシェルが、安どの息を吐いていたリョウの頭をガッチリと掴む。

 

「お・ま・え・は、どうして扉が開くまでも待てないんだ、あぁぁん?」

 

「痛い!!痛い!!ミッシェルさん、割れる!!頭が割れる!!」

 

「お、落ち着けミッシェル!!」

 

アイアンクローを喰らいもがくリョウ。怒り心頭のミッシェルを小町がなだめる。その姿にアドルフとアシモフそして劉は、呆れたようにため息をこぼし、ジョセフはどう反応していいのかわからずに、ポリポリとほほを掻く。

一騒動ののち解放され、リョウは別の意味で安堵の息を吐く。リョウの登場で隊員たちの緊張が僅かに緩んだことを確認した小町は、僅かに気を引き締めるために、再び声を出そうとするが…

 

「はい、お前ら~。人の不幸で安堵すんのはそれぐらいにして、さっさと脱出機に乗り込めよ~」

 

それよりも早くリョウが指示を出す。気楽な声に、幹部の誰もが注意を喚起しようとするが…

 

「早くしないと、招かねざる客(・・・・・・)が来ちゃうぞ~って……もう遅いか」

 

その台詞の意味を幹部たちが即座に問おうとするよりも早く…

 

『じょうじ』

 

「艦長。悪い知らせなんすけど、侵入してきていたのは七体だけじゃなかったんすわ。あいつら、俺たちが一か所に集まる(・・・・・・・)のをまってやがったみたいで…足止めもできませんでした」

 

奴ら(テラフォマー)は現れる。安全だと気を抜いていた状態での最悪の状況へ。恐怖が尋常でない速度で伝染していく。その中でリョウは事実をただ告げる。

そして…

 

「待て!!リョウ!!」

 

隊員たちを飛び越え、テラフォマーたちの前へと立つ。パン!と乾いた音がその場に響く。その音とリョウの行動に誰もが視線を集める。

 

「ここは俺が食い止める。だから全員、各幹部の指示に従いつつ、脱出機に乗って脱出しろ」

 

その指示に誰もが驚愕を示す。ミッシェルが小町が何かを言おうとするが…

 

「ミッシェルさん。ここはリョウ君に任せましょう。僕らには僕らの役目がある」

 

「ですね、艦長。それに彼ならば、この中で一番生存できる確率が高い」

 

ジョセフと劉の二人が静止する。それでもという表情を見せる二人だが…

 

「大丈夫っすよ。ちゃんと後追いますから。約束です。だから、ください、命令(オーダー)を」

 

「艦長…」

 

殺伐とした状況に似合わない笑みに、二人は何も言えなくなる。アドルフは、ミサンガに視線を向け、リョウを見て、小町を見る。そして小町が一度、瞳を閉じて…

 

「俺たちが脱出するまでの護衛及びテラフォマーたちを駆逐したのち、小型脱出機を使い、どこかの班と即座に合流しろ!!」

 

「了解!!」

 

その小町の命令にリョウは嬉しくて仕方がないという表情で答える。そして、まるで警戒するように動きを止めていたテラフォマーたちのほうを向く。

 

「そういうわけで、ここから先は通さねぇぜ」

 

宣言と同時に首に注射器を刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年前、U-NASA研究病棟。その廊下をミッシェルが書類を持ちながら、ある部屋に入っていく。

 

「おい、検査の結果が出たぞ」

 

「おっ!漸くか」

 

ミッシェルが部屋に入ると小町が到来と報告に反応する。

 

「お待ちかねだな、リョウ」

 

「……うっす」

 

小町の言葉にベットの上にいたリョウは、小さな声で返す。そんな反応にため息を吐きながら、ミッシェルは書類を、ベットの上に散乱させる。

 

「検査の結果。どういう訳か、お前には地球上の全ての生物に適応できる(・・・・・・・・・・・・・・・)ようだ」

 

「っ!!??」

 

「やっぱりすっか」

 

その報告に小町は驚きを隠せない。対するリョウはどこか納得といった表情を見せる。

 

「ミッシェルちゃん…それって冗談?」

 

「ちゃん付けで呼ぶな、おっさん。セクハラで訴えんぞ。報告書を見たときは、私も驚いたが事実だ」

 

そう言いながらミッシェルはパイプ椅子に腰を下ろす。ミッシェルの言葉を確かめるように、小町はベットの上の資料に目を通おし、その言葉が事実であると理解する。

 

「……つまりだ。お前の希望はほぼ100%通るわけだが、どの生物(ベース)にする。まあお前の特性(・・・・)を考えれば、昆虫か植物だとは思うが…」

 

「……………………」

 

極めて感情を押さえつけてミッシェルがリョウへと問う。しばしの沈黙。すでに答えは出ていた。話を聞いた時から。ただそれは自分だけで決めていいものではないとも、得て間もない(・・・・・・)理性が察していた。

だからこそ、リョウは重い表情をしていた小町の方に視線を向け、その瞳を見据える。

 

「小町さん…俺は――――———を希望します。だから小町さん、俺に―――――」

 

その言葉にミッシェルが小町が驚愕を見せる。その言葉の意味を真意をくみ取った小町は、しばらく目を伏せ考えたのち

 

「わかった」

 

ただ、そうとだけ告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻、地球 日本 埼玉県字浦市(あざらし)にある一軒のBAB『海豹』。そこで二人の男が向か合っていた。一人は、国際航空宇宙局『アネックス一号計画』副指令そして日本国航空自衛隊三等空佐であり、20年前の生き残りである蛭間一郎(ひるまいちろう)の弟でもある蛭間七星(ひるまひちせい)。そしてもう一人は、名前を変えた元プロフェッサーであり、20年前の『バグズ計画』最大の裏切り者本多晃(ほんだこう)

失踪していた彼を七星たちが見つけだし、『アネックス一号計画』とその裏の陰謀を告げるため、そして自分たちの陣営に加わってもらうために、話し合いをしていた。

そのなかで…

 

「マーズランキング?」

 

「ええ、『火星環境下におけるゴキブリ制圧能力ランキング』略して『M.A.R.S(マーズ)ランキングです。まあ、101人もいれば、否応なしに序列ができるということで、数値化して数字にあらわしたものです」

 

聞きなれない単語に本多博士はオウム返しのように問う。その問いに七星がその概要を説明する。

 

「特にランキング上位10位クラスともなれば、兵器といっても差し支えないでしょう。一人の例外の除き幹部(オフィサー)全員が、その上位に名を連ねています。そして()も」

 

「彼?」

 

「ええ、別名『惑星の子(Child of the earth)』と称されるのが、その彼です。先ほども言いましたがそれを含めて、全てを話しましょう」

 

火星と遠く離れた地球で、別の戦いが本格的に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変異が終わると同時にリョウは、持っていた注射器を捨てる。その姿は、いうほどに変化していない。頭から触覚が伸びているのと、足が異様に変化した以外はそれほど変異前と差異はない。

だからこそ、逆に隊員たちは不安に駆られる。大丈夫なのかと。しかし一部の者たちは、異変に気が付いている。特に幹部たちは、心配もせずに己の役目の為に班員たちを集める。

そしてその後ろ姿に小町だけが、一瞬目を伏せた。

 

――――人間(おれたち)を見たら、躊躇なく襲ってきていたゴキブリたちが警戒して動かない。やっぱり、あの人はすごい。

 

――――触覚にあの足……リョウさんのベースは、飛蝗(バッタ)か?

 

ざわつく中、リョウはその感情を感じ取りながらも、目の前に群れる30匹ほどのテラフォーマーたちを見据える。

 

「さてっと、行くか」

 

瞬間、リョウは10メートル以上離れていた距離を詰める。

 

「じょ!!??」

 

自分たちが察知するよりも早く間合いを詰められ、リョウの近くにいたテラフォーマーが驚きの声を上げる。と同時…

 

「シィ」

 

息を吐く音と共に、そのテラフォーマーの躰が両断される。僅かな驚愕もなく、ただその事実を確認したテラフォーマーたちが一気にリョウへと迫る。

しかしリョウは全く動じずに、思いっきり地面を蹴り、前方のテラフォーマーへと肉薄し、飛び膝蹴りと共に沈めると、落下するよりも早く、死骸を踏み台に跳躍。テラフォーマーたちが密集しているところへ

 

「オラァッ!!」

 

連続で蹴りを打ち込む。着地すると同時、手短なテラフォーマーの頭をつかみ、膝を打ち込む。

脅威に感じていたテラフォーマーたちが迅速に制圧されていく姿に誰もが驚愕を覚える。

 

――――すげぇ。あんな動きが人に可能なのか…いやでも、蹴りとかの時に見せるあの動きは…

 

武人として燈は、リョウの動きの異常さに驚きを隠せない。それでも僅かに感じ取れる動きは…

 

――――ムエタイ(・・・・)

 

リョウの進撃にテラフォーマーたちが距離を取る。それを見たリョウもまた、同じく距離を取った。

 

「はい、そこから辺の奴ら。唖然としてないで、早く脱出してくれよ。じゃないと、俺も脱出()れねぇ」

 

少し困ったようなリョウの言葉に、唖然としていた隊員たちがせわしなく、脱出機へと乗り込んでいく。

人間が逃げていくのに、テラフォーマーたちは動けない。目の前の人間(ムシケラ)から視線を逸らせない。

そうこうしている間に、六機の脱出機がアネックスから飛び立つ。それを確認したリョウは目の前で動かないテラフォーマーたちに告げる。

 

「いいのかい?逃がしてもって言っても、この感じだとしっかりと対策してんだろうけど…まあ、あの人たちなら大丈夫だろう」

 

まるで自分で確認するような言葉。その間もテラフォーマーたちは動けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脱出機で火星へと飛び立った小町は、あの時のリョウのセリフを思い出していた。夕暮れの病室で、よく見せるようになったまっすぐとした人としての瞳で告げられたその言葉を。

 

『俺は自分のベースに「バグズ2号(・・・・・)の隊員と同じ(・・・・・・)(べ―ス)を希望します。だから小町さん、俺にあの人たちの(のうりょく)を受け継ぐ許可をください』

 

その因縁を自分も背負うと告げるような言葉。それが自分には必要だという決意。それがその言葉には籠っていた。

 

――――死ぬな、リョウ

 

特別戦闘選考幹部(オフィサー)小町リョウ。

その戦闘スタイルは、ムエタイ×飛蝗(バッタ)

そしてそのランクは……

 

「さて後々のことも考えて、お前らにはここで終わってもらうぜ。というわけで、来いよ、テラフォーマーども」

 

小町リョウ。 自由国籍(本人は日本かアメリカもしくはドイツを希望)

      22歳(自己申告) ♂ 180㎝ 90kg

      『マーズ・ランキング』4位

M.O.手術(モザイクオーガンオペレーション) ”昆虫型”

      砂漠飛蝗(サバクトビバッタ)           』

      

不敵に告げるその言葉が、テラフォーマーたちには己の命の音に聞こえた。

 

       『人類最古の厄災(サバクトビバッタ)、宣戦布告』




というわけで、リョウのベースは『サバクトビバッタ』です
ティンさんに本郷さんに続く三人目です
自分の中では、ティンさんはかなり好きなキャラなので、その面影でも出したいなと思い決定させてもらいました

それにしてもテラフォーマーズの醍醐味の一つの厨二的な異名は、あれでよかっただろうか?

次回ももう少し早く更新出来たらいいなと思ってます


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07 START プランδ

お待たせしました!!
リアルが忙しすぎて、創作威容が全くわかなかったのですが、落ち着いてきたので更新できました!!

今回は視点が何度も動くので少し読みずらいかもしれません
物語が落ち着けば、それもなくなるのですが・・・自身の技量不足ですよね

楽しんでもらえた、嬉しいです!!


変異した姿でリョウが、目の前に立つテラフォーマーたちへと宣戦布告を告げる。その言葉に感情を持たないはずのテラフォーマーたちの足が確かに一歩下がる。

 

「どうした?恐怖なんて脳機能(かんじょう)テラフォーマー(おまえら)には無縁だろ?」

 

その真意を悟りながらもリョウは、指をクイクイと上下させながら、不敵に俄然に黒い壁として立つテラフォーマーたちを挑発する。その意味が分かったのかは、定かではないが自分たちがなめられている事を察したのか、血管を浮き上がらせテラフォマーたちがリョウへと迫りくる。

もはや、黒い濁流としか形容できないものを前にしてもリョウは、先ほどと変わらずに

 

「返り討ちだ」

 

不敵な宣言と共に地面を蹴って、濁流の中へと飛び込んでいく。テラフォーマーたちを悉く片付けていくリョウ。まさに一騎当千の実力でテラフォーマーを倒しているリョウだが、結果とは裏腹に、その眉にはしわが寄り、悪人面がより際立っている。

 

――――ちゃんと全員を脱出させた。それに班には一人づつ、あの人たちが付いてる。心配する要素はないはずだが、なのになんだ?この胸騒ぎは…

 

その胸騒ぎが起きる直前、腕にロープを巻いた(・・・・・・・・・)テラフォーマーを倒したリョウ。その圧倒的な実力差が、その胸騒ぎの正体に気が付く機会を逃させてしまった。

そしてその胸騒ぎの正体(・・)に気が付くのは、少し後の事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アネックス一号』の計画に記されている対緊急用プラン『プランδ(デルタ)は、100名のクルーを六つの班に振り分けて『高速脱出機』を使い、全滅を避けるため六つの方向に別々にそして同時に火星へと脱出し、その後アネックス本艦へと集合。アネックスへと向かうさなか、幹部(オフィサー)の判断の元、他班との合流やサンプル回収を行い。約40日後に来る地球からの救助艦によって、火星を脱出する。

その間最も重要な事は一つ―――――

 

日米合同第一班:幹部(オフィサー)小町(こまち) 主な班員:マルコス、慶次

 

「チィ…やっぱクスリがすくねぇ」

 

日米第二班:幹部(オフィサー)・ミッシェル 主な班員:膝丸燈、アレックス

 

「よし。レーダーにゴキブリの影はない。一度、出るぞ」

 

ロシア・北欧第三班:幹部(オフィサー)・アシモフ 主な班員:アレキサンドル、イワン

 

「ふふ…計画通りだな(・・・・・・)

 

中国・アジア第四班:幹部(オフィサー)(りゅう) 主な班員:ジェッド、(バオ)

 

「ふぅ…とりあえずいきなり待ち伏せの心配はなさそうだね」

 

ドイツ・南米大五班:幹部(オフィサー)・アドルフ 主な班員:エヴァ、イザベラ

 

「………行くぞ」

 

ヨーロッパ・アフリカ第六班:幹部(オフィサー)・ジョセフ 主な班員:マルシア

 

「あちゃ~、こりゃあ貧乏くじ引いたかな?」

 

――――テラフォーマー(ゴキブリ)たちに殺されてはいけないこと。

 

「…‥‥…………………」

 

六班が火星に降り立つとほぼ同時、作業していた手を止めたスキンヘッドのテラフォーマーが、ピク!と一度触覚を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは文字通りの奇襲。日米第一班の高速脱出機に張り付き、脱出し安堵しする僅かな気の緩みを付く奇襲。

そのテラフォーマーの攻撃が人間(シーラ)を狙ったわけではなく、人間(かれら)の命綱である薬を狙っている。

だからこそ小町は、薬を節約することをなく全力で一匹を叩くことを決める。時を同じく班員を一人失ったアシモフたち第三班は、網による捕獲を決行する。

しかしそんな人間たちの思惑を嘲笑うようにテラフォーマー(やつら)は――――

 

「シーラァああ――――――」

 

「ねえ…ちゃん――――?」

 

自分たちが奪った技術(えたもの)をもって先手を取る。

第一班には、『小さき爆発魔(ミイデラゴミムシ)』の魔手が。

第三班には、『弾丸列車(メダカハネカクシ)』の速度が。

瞬時に理解する。20年前に会得した技術『バクズ手術』はテラフォーマーに奪われたのだと。

そしてその死を悲しむ間も悼む間もなく、テラフォーマーたちが動き出す。

 

――――このゴキブリが単体だったのは、単体だったからではない。能力持ちだったことといい…奴らには階級と役割がる。つまり…

 

――――火星中にいるゴキブリどもは…

 

――――予想以上に統率が取れた軍隊になっている

 

――――そしてばれている。俺たちが六つに分かれていることも…。どこかの班が待ち伏せを受けている可能性もある。

 

幹部(オフィサー)たちが瞬時に状況と敵戦力を把握する。それは同時に生き残りをかけた人間VSゴキブリの戦いのときが近づいている事をしめしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠く離れた惑星(ほし)で戦いが始まっているその中で、その場所はまさに準備段階といった雰囲気を持っている。

 

「それで今回も当然受けさせているんでしょう?バクズ手術を」

 

「ええまあ。我々にもいろいろな思惑がありますからね」

 

七星の言葉に晃博士は何かをこらえるように目を閉じる。

 

「しかし今はその名で呼ばれていません」

 

「なんですって?つまりそれは…」

 

七星の言葉に驚きをはらんだ声で晃博士は言葉をつむぐ。

 

「はい。昆虫以外の生物でも可能になってます」

 

「20年前も技術的には一歩手前まで来ていた。しかしそれではバクズ手術の恩恵が受けれないのでは」

 

「それを克服したのです。今の名称は――――」

 

七星は告げる。逃げていた晃博士に空白の20年間を伝えるために。そうしなければ、そもそも彼と話し合いができないと知っているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーラからの無言のメッセージを受けた小町は、その死に一度瞳を閉じる。そして次に目を開けると、そこには隠し切れない怒りの感情。

 

「害虫どもが…一種類から数十種類になっただけで、粋がるなよ。時代遅れの技術にせいぜい頼ってやがれ」

 

小町の言葉が告げられると同時、二班、三班、五班でも同じ動きが起きる。

 

服薬(つか)うぞ!お前ら」

 

「燈とアレックスは、脱出機(くるま)の警護。ここは私一人で十分だ」

 

「イザベラ。脱出機(くるま)を警護しろ。俺が片を付ける」

 

マーズランキング30位クラスの戦闘員たちが、その能力(ちから)を開放する。

 

 

――――M.O手術(モザイクオーガンオペレーション)!!

 

「つい百年ほどま前までよ、砂漠だった火星(ほし)だった虫けらがよ…!!125万種以上の生命の炎が燃え盛る…『地球生物(ちきゅう)』をなめんなよ」

 

リョウに続く様にクルーたちを代表するように、膝丸燈がテラフォーマーへと宣戦布告を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上にて戦いのゴングが鳴る。その時、すでに戦いが始まっていたアネックス内では、その戦いに区切りがつこうとしている。

 

「じょうじ」

 

「シィッ」

 

鋭く放たれる回し蹴りがテラフォーマーの半身を容易く両断する。ドサという音と共にテラフォーマーの死骸が地面に落下する。それにも目をくれずにリョウはあたりを見渡す。

 

「今ので最後か。思ったより、少なかったな」

 

ガシガシと頭を掻くリョウの足元には軽く50匹ほどのテラフォーマーたちの死骸が散乱している。

 

「つうか、体液がベトベトする。シャワー室ってまだ使えたっけ?」――――杞憂だったか?

 

軽口をたたきながらも、先ほど感じていた胸騒ぎの事を考えるリョウ。しかし時間が経てどもその胸騒ぎは消えるどころか、大きくなっていく。

 

「(急いだほうがいいか)さて小型航空機って、どこに格納されてたっけか?」

 

決めれば早くと自身の記憶を呼び起こすリョウ。そんなとき重い衝撃があたりに響く。

 

「うおぉ!!遂に墜落(おちた)か。まあ、速度もだいぶ落ちてたし、そこまでひどい衝撃(もの)じゃなかったな。お前らのおかげか?」

 

僅かに驚きながら上空の窓に見える黒い影にそう告げるリョウ。しかし次の瞬間違和感に気が付く。

 

「あ?」

 

先ほどまでいたはずの膨大な数のテラフォーマーたちが一斉にどこかへと飛び立っている。

 

――――どういうことだ?ここにいる意味を無くした?確かに六つに分かれたが、アネックス(ここ)人間(おれたち)の拠点には変わりない。ここを制圧する利点に気が付かないほど知能が低いわけじゃないだろ

 

敵側の予想外の動きに困惑するリョウ。落下すると同時にアネックスの緊急システムが発動し、外へと続く扉が強制的に閉められているはず。その為、中で好き放題させないために、侵入したテラフォーマーたちを全滅させたが、外からの介入をあきらめるとは考えにくい。

 

「何が目的だ?戦力を集めてから、再度攻めるつもりか?だが、一匹ぐらいは情報係として置いていくだろ、普通」

 

矛盾点。どう考えても道理に合わない。そもそも種族が違うのだから、当然かもしれないがいささか妙だ。

 

「うん――――なんだ?」

 

考えを中断し、早く合流し、情報を共有しよう。そう思考がまとまり始めていたリョウの表情が変わる。

一匹のテラフォーマーがアネックスの前に現れている。それだけならば、驚きはしない。しかし聞こえる感情が問題だ。

 

「求めてんのか?敵を…」

 

嫌悪感を覆い潰ぶさんとするほどの闘志に欲求。明らかに今まで聞いてきたテラフォーマーの感情とは乖離している。

リョウの直感が告げる。そのテラフォーマーを放っておいてはいけない。大変なことになると。他には気配はない。ならば…

 

「招待するか」

 

一対一の戦いをするのが得策。それもアネックス内でだ。外は奴らのテリトリー。何が起きるかわからない。それならば多少艦内が壊れるリスクを背負えど、外界から遮断された艦内で戦うのが吉だろう。

 

「確か緊急脱出用のハッチを開けるのは、これだったよな」

 

おぼろげな記憶を頼りにボタンを押し、外に待つ敵を艦内(なか)へと招待する。入ってこない可能性もあるが、聞こえる身としては断言できる。外にいる奴は、必ずこの誘いに乗ると。

 

「さて何が来る―――」

 

しばしの沈黙。それを引きつれるように一つの影が現れる。

 

「なっ!」

 

その姿を見た瞬間、リョウは胸騒ぎの正体に気が付く。その形状(すがた)は、既存のテラフォーマーたちとは似ても似つかない。

両拳が肥大化しており、その甲の先からは一本の針が出ている。更に背には二枚対の翅が計四枚。そして短めの触覚が生えており、顎付近には鋭い牙がある。

僅かな驚愕で硬直するリョウの隣を悠々と通り過ぎると、そのテラフォーマーはその場所のほぼ中央で静止し、リョウの方へと振り向く。

 

「じょうじじ」

 

「――――なるほどね…」

 

どうした。と言いたげなテラフォーマーの言葉にリョウは、その胸騒ぎの正体に納得がいったというべき声音で、後ろに立つテラフォーマーへと振り返る。

 

「俺たち人間側の武器は、テラフォーマー(おまえら)の武器でもあったわけか」

――――胸騒ぎの正体は、これか。もしも何の情報もなく、これと初見で会っていたら…いかにあの人たちといえど…護り切れない。すでに何人かは…

 

死んでいる。その考えが頭をよぎる。しかしそれも一瞬のこと、それを超える感情が沸き上がる。

 

「一応聞くけど、死体を(つか)ったのか?」

 

「…‥‥」

 

リョウの言葉にテラフォーマーは何も言わない。むしろなぜ聞くのかわからないといった表情をしている。

 

「まあ、そこから辺はいいわ。俺もそこまで(・・・・)怒れるわけじゃねぇし。だた…それは(・・・)いただけねぇな」

 

一度言葉を切り、怒りの感情をもって目の前の虫けらをにらみつける。

 

「『大雀蜂』は、俺の――――小町さんの能力だ。だから…」

 

そう目の前に立つテラフォーマーは、明らかに雀蜂の能力を持っている。恐らくというか、確実にバクズ手術のノウハウは奪われ、それを利用して得たのだろう。素材は死体から奪え(とれ)ばいいのだから。

だが、リョウが怒りを感じているのは、もっと独善的で独りよがりな怒り。

 

「お前ごとき虫けらが、我がもの顔でその力を使ってんじゃねぇよ!!あ”あ”ぁん」

 

 

瞬間、まるで暴風のように圧ともいえるものがリョウを中心に吹き荒れる。

 

「じじ‥?」

 

それを受けてテラフォーマーの身体は無意識に震える。

 

「来いよ、すぐに駆除してやる」

 

「じょうじ」

 

しかしその震えも一瞬の事無理やり震えを抑え込む。テラフォーマーはリョウが構えたのを確認すると、自身もまた構えを取る。

 

『その怒りは、人としての怒り』




結局原作では出てこなかったオオスズメバチ×テラフォーマーという敵を登場させてみました!!
なんで出てこなかったんでしょうね?毒に適応できなかったから?それともパーツが少なすぎたから?



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08  FEELINGS OF THE ANGER 生存競争

お待たせしました!!
色々事件やらがあり、遅れましたが更新です!!

なんかチート的に書きすぎた気がするけど、まあタグにある力を使っていると思えば…‥…‥‥問題ないよね!

久しぶりなので、おかしなところがあったら教えてくださると、嬉しいです


大雀蜂のテラフォーマーがリョウの出す、威圧感からくる知らない脳機能(きょうふ)を抑え込み構えを取った瞬間、リョウはバッタの脚力を使い一気に間合いを詰める。

両者の間合いはおよそ10メートル。バッタの脚力を持つリョウにとっては、無いに等しい間合い。

 

「シィ!」

 

今まで多くのテラフォーマーを両断してきたリョウの蹴り。尾葉のセンサーにすら反応するか怪しい鋭い始動。普通のテラフォーマーならば、反応不可避の必殺の一撃。

その一撃を…

 

「じぃ」

 

「ッ―――!!??」

 

大雀蜂型のテラフォーマーは、いなして見せる。考えもしなかった結果に、リョウの動きが一瞬止まり、隙となる。

その隙を狙いすましたかのように、強力な毒を含んだ針を持った拳がリョウめがけて振るわれる。

 

「しまっ―――ぐぅ!!」

 

「じじぃ」

 

リョウがガードするよりも早く、テラフォーマーの鋭い一撃が体に直撃した。体格さゆえに宙へと跳んでいたリョウは、踏ん張る事も出来ずに壁まで吹き飛ばされる。

 

「じぃ」

 

リョウが吹き飛ばされた方向を見据えながら大雀蜂型のテラフォーマーは、先ほど感じた知らない恐怖(かんかく)を忘れて、人間(ムシケラ)を潰せた満足感に押しつぶされた。

 

そしてリョウだけではなく、他のメンバーにもバグズ手術を施したテラフォマーたちが牙をむく。

が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火星の上空。高速脱出機が空を飛行する中で、膝丸燈はサバクトビバッタ型のテラフォーマーの一撃の前に脱出機の壁に叩きつけられていた。

 

「じじぃ」

 

膝丸燈(ムシケラ)が死んだと思いこんだサバクトビバッタ型のテラフォーマーは、己が(リーダー)に言われた通り、脱出機を手に入れようとするが…

 

「ピクっ!」

 

ガタと何かが起き上がる空気振動を尾葉(センサー)が察知する。今のでもまだ潰れていないのかと、疑問を持ちながら振り返る。

そこには、図々しくも先ほどの人間(ムシケラ)が立っている。

 

「ハァ…不思議そうだな。バッタの脚力をもって何で、この人間(ムシケラ)は潰れていないって所か…」

 

人間(ムシケラ)の言葉になど興味はない。だからこそ、無視して仕掛けようとした瞬間

 

「ゴキブリのお前じゃ、飛蝗の脚力(その能力)は、使いこなせねぇよ。悪いが、俺は……ハァ、本物を知っている(・・・・・・・・)。ハァ…だから断言してやる!あの人の蹴りの方が凄かったし、何より確信的に言える…バグズ2号に乗っていたバッタだった人の方が、お前より強い」

 

その言葉と共に人間(ムシケラ)の背後に、二人(二匹)人間(ムシケラ)の姿を幻視した。

 

テラフォーマー(ゴキブリ)たちは、知らない。人間(かれら)の怒りを…そしてっその強さを…

 

 

赤き腕を持つ帝王(タスマニアキングクラブ)を宿すシルヴェスター・アシモフは、多くのテラフォーマーたちに囲まれながらも全く動じない。

 

「なぁ、ゴキブリども…俺の娘がよぉ。お前らのせいで病気なんだわ。俺よぉ、あの子が産まれたときに決めたんだわ…あの子がいるべき祖国(くに)(まも)…その為なら人間だって辞めるし…一部の国民から裏切り者と呼ばれ、石を投げられよとも敵わん。

 それを脅かす奴は、テロリストだろうが、ゴキブリだろうが、古代文明だろうが、何だろうが――――」

 

言葉を紡ぐ度に無意識にアシモフの腕に力が籠る。テラフォーマーたちの攻撃など、押しとどめても沸き上がる感情の前では、焼け石に水だ。

 

「必ず――――見つけだし、何処までも追い詰め…例え便所の裏に隠れようが、息の目を確実に止める」

 

それはテラフォーマーたちが、経験ない(しらない)感情。そして初めての脳機能(かんじょう)。それを抱いた時点で、テラフォーマーたちの結末は決まった。

 

 

テラフォーマー(ゴキブリ)どもよ、人間(おれたち)怒り(ちから)を思い知れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リョウを吹き飛ばした大雀蜂型テラフォマーもまた、サバクトビバッタ型のテラフォーマー同様に、アネックス一号を手中に収めんと動き出すが…

 

「おいゴラッ!!、何処に行こうとしてんだ」

 

後方より聞こえた声に、反射的に振り返る。そこには、服は破けているが無傷のリョウ(ムシケラ)の姿。

自慢の毒針(こぶし)を喰らってなぜ、立てる?まあいい、立つならばもう一撃喰らわせればいいだけの事。

そう判断し、拳を構えるが…

 

「折れちまった毒針ほど、哀れなものはねぇな。気が付いていないなら尚更だ」

 

人間(ムシケラ)は、地面から何かを掴み上げると、ポイっと宙へと投げる。それを見た瞬間、大雀蜂型テラフォーマーは、「じょっ!!??」と驚愕の声を漏らす。

 

「痛覚を持ってねぇってのも考えもんだよな」

 

リョウが放り投げたのは、大雀蜂型テラフォーマーの拳に付いていたはずの毒針。テラフォーマーが慌てて自の拳をみれば、自慢の毒針を含んだ拳はひび割れている。

 

「武装しなければ、ヤバかった。認めるよ、お前の拳を強い…だけどよ」

 

それは宣言。今まさに大雀蜂型テラフォーマーは、小町リョウにとっての敵へと認識したという事実。

だが同時に、リョウには気に入らない事がある。

 

「誰かが流したのか……それとも偶然か、必然か――――確かに実例がある。雀蜂と一番相性がいいのは、紛れもなく空手なんだろうな……だが、それをお前が使っている事が気にらねぇ!!」

 

バキィ!と投げた毒針を砕きながらリョウの体に変化が起きる。バッタの足に鱗と鋭い爪が覆い、腕を黒い羽毛と毛が覆い、顔は鳥を思わせるクチバシに爬虫類を思わせる牙と鱗が現れる。

 

「これは身勝手な怒りだ。正当性はない。が…俺はお前を赦さない」

 

そこには最早『人』は立っていない。今大雀蜂型テラフォーマーの目の前にいるのは、嫌悪感を感じさせる人間(ムシケラ)ではない。紛れもなく人間ではない怪物(ナニカ)が立っている。

 

「小町さんは俺の恩人だ。その力を研鑽を、ゴキブリ風情が、他の誰かが使っている。その事実が気に入らねぇ」

 

リョウの言葉と怒りに呼応するように、足元が大きくひび割れる。

 

「来い!格の違いを教えてやる!!」

 

武装色覇気×砂漠跳飛蝗×大猩々(ゴリラ)×火喰い鳥(ヒクイドリ)×(クロコダイル)

 

「じじぃ!!じょじ!!」

 

目の前に突如として現れた外敵に、大雀蜂型テラフォーマーは、沸き上がるそれを無視して中段の構えを取る。

 

「行くぞ!!」

 

「じぃ!!」

 

短い言葉と共に両者一気に地面を蹴る。一方は蜚蠊(ゴキブリ)の瞬発力×蛋白質(タンパクしつ)の加速。もう一方は、火喰い鳥(ヒクイドリ)の脚力×大猩々(ゴリラ)の筋力×バッタの脚力の合わせた加速。

必然。リョウの一撃が先に直撃する。ドガンッ!ともはや、人が放ったとは思えぬ轟音が辺りに響く。

ヒクイドリの鋭い爪をもって、テラフォーマーの間合いの外から放たれる蹴りは、問答無用にテラフォーマーの腕を切断する。

が…

 

「じぃ!!」

 

「あ?」

 

それは如何なる反応か。自分の腕が切断された瞬間、テラフォーマーは無事な方の腕で切断された腕を掴み上げると、まるで槍を扱うように切断された腕の端を、自慢の筋力をもってぶん殴る。

殴られた腕は加速し、蹴りを放った状態であるがゆえに一本足で立つリョウの膝に直撃する。

 

「うおっ!」

 

重心が一方に集まっていたがゆえに堪えることは出来ず、リョウは膝をついてしまう。その隙を逃さず、テラフォマーは残った腕でリョウのがら空きの頭めがけて、拳を振るうが…

 

「あめぇ!!」

 

腕を掲げることでリョウは、テラフォマーの一撃を防ぐ。しかし防ぐだけでは終わらない。

 

「じ!!」

 

「このまま握りつぶしてやんよ」

 

握撃。ゴリラの筋力に物を言わせ、テラフォマーの拳を砕かんとする。自分の自慢の拳が砕かれている事を察したテラフォーマーは、もう一つの武器である大顎を伸ばし、リョウへと噛みつかんとするが…

 

「読めてラァ!!」

 

黒く染まったクロコダイルの顎とヒクイドリのクチバシの力を使い、逆に大雀蜂の顎をかみ砕く。

 

「じじ!!??」

 

驚きの声。リョウが勝ったと確信した瞬間、ピィっとテラフォーマーが足元の毒針の破片をリョウの目にめがけ放つ。

 

「っ!!??」

 

勝利の確信。それゆえに見聞は緩み、その動きを読み切ることは出来ない。ほぼ反射的、如何なる人間であろうと反応してしまう反射的行動。ある意味で人間以上に野生的であるリョウの反応は著しい。

瞬きによる眼球の防衛。それにより視界が一瞬暗黒に染まる。そしてその一瞬の隙を突く様に、テラフォーマーは迷いも躊躇いもなく、もう片方の腕も自らへし折る。そして大雀蜂の翅を使い、上空へと飛び立つ。その瞬間、リョウはテラフォーマーが何を行ったのかを理解し、掴んでいた腕を離す。刹那、宙をういた腕をテラフォーマーは足を使い器用に掴み、上空へと身をひるがえす。

が、それを易々と逃すほど相手(リョウ)は甘くない。

 

「逃がすかぁ!!」

 

大外から弧を描く蹴り。しかし「じじぃ」とテラフォーマーも反応しせ見せる。が、完全には躱せずに片足の膝から下が切断させる。

 

「チィ」

 

仕留めきれなかったことに舌打ちをこぼしながら、リョウは人間の弱点である頭上を飛ぶテラフォーマーの姿を追う。

 

――――跳ぶか?いや、宙じゃ他の獣の能力(ちから)を使わないと有利に進められねえ。かといって、切り替えにはコンマの隙がある。迎え撃つしかないか…

 

視覚ではない、見聞をもってテラフォーマーの姿を捉えながら、その時を待つ。

 

 

「——————」

 

「—————」

 

テラフォーマーの羽音だけが辺りに響く。その中で、その時が来る。

 

「じょ!!」

 

「おらぁ!!」

 

加速し、昆虫ならではの不規則なホバリングからの特効。狙いは、人間(ムシケラ)の共通の死角、頭上。

しかしそれは強襲の奇襲だからこそ意味がある物。読まれていた時点で、その攻撃は半分以上意味を無くす。

動きを読んでいた(きいていた)リョウは、踵落としを放つ。タイミングはわかせない必殺。だが、此処でテラフォーマーは、更に一手打つ。

 

「じ――――じょ」

 

「にっ!!??」

 

折った腕に付いていた毒針を口の中に含み、射出する。大きく足を挙げているため、攻撃をやめる以外に回避の手段はない。しかしリョウはそれでも攻撃を選択する。

そうなれば、必然的に放たれた毒針はリョウの膝に襲い掛かり、突き刺さる。

ニヤリ。とテラフォーマーは勝利を確信する。大雀蜂の毒は並ではない。少なくと毒の侵入による痛みで、攻撃は打てない。あとは、毒が回るのを上空で待ちながら、削ればいいと考えていたが…

 

「フン!!」

 

ドゴン!とテラフォーマーの上半身を押しつぶす、踏みつけが炸裂する。

 

「じじぃぃ!!??」

 

その一撃の重さに上半身の一部がはじけ飛び、テラフォーマーは地面を派手に転がる。

 

「悪くはなかったが…あいにく様、生まれつき毒性が全く効かない体質(・・・・・・・・・・・)で、ある程度テラフォーマー(おまえら)と同じで、痛覚を無視できるんだよ」

 

地面に無残に横たわりながらもまだ文字通り虫の息のテラフォーマーに対して、リョウは淡々と知らないであろう事実を告げながら近づく。

 

「じ…じぃ…じ」

 

まるでリョウから逃げるように残った余力で、逃げようとするがそれで逃げれるはずもなく、リョウがテラフォマーへと辿りつく。

 

「じぃぃぃぃいいいいいいいい!!!」

 

「断末魔としては、無様だな」

 

その声の意味を聞いたリョウは、それこそ子供が無意識に無邪気に虫を踏み潰すかのように、先ほどの怒りを感じさせない無表情さで、大雀蜂型のテラフォーマーの息の根を潰した。

 

「さて、急ぐか」

 

テラフォーマー(ムシケラ)の事など即座に捨て置き、リョウは己の役目を果たさんと動く。

 

 

『怒りとは原動力。(ケモノ)の次なる選択肢が、戦士たちの未来を変える。』

 




せっかくの大雀蜂のテラフォーマーさんに活躍の場なく、退場させてしまった…
武人的なキャラで書いたのに、戦闘描写にそれポイことしただけで、終わったような
次に登場する奴は、もう少し活躍させてあげよう、うん!!


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