宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!! (チェリオ)
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異世界人と敗戦からの進撃!!
第01話 『彼は宇宙世紀に舞い降りた』


始めましての人も他の作品でお会いになった方もこんにちわ、チェリオです。
我慢できずにガンダム作品を書きたくなって投稿してしまいました。
楽しんで頂けたら幸いです。
最初っから長々とここで話してもなんですので本編へどうぞ。


 無数の閃光が行き交い、数多の命が輝きと共に消えて行く戦場。

 

 UC:0083

 地球連邦軍に独立を訴えていたサイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦軍に対して独立戦争を挑んだのは皆の記憶に新しいだろう。未だ地球・宇宙問わずに戦争の傷跡が強く残っている。

 戦争当初こそは数で負けていたものの、新兵器『モビルスーツ』を所持していたジオン公国が優勢に物事を運んでいた。だが時が経ち連邦軍も開発に成功。同じ土俵に立たれ、物量に攻め立てられたジオンには勝機は一気に薄くなった。その上で宇宙では得られない鉱物資源を産出していた『オデッサ基地』ならびにその周辺の鉱山地帯を奪われ、地上侵攻部隊の『ジャブロー攻略戦』においての敗退などにより士気は著しく下がり、多くの将兵が死んでいった。ここら辺りで未来が見えた者は分かっていただろう。ジオンに勝機あるかないかではなく勝敗が決したと…

 その後の戦いは苛烈を極めた。ジオンの宇宙要塞である『ソロモン』を攻略され、最後の要であった『ア・バオア・クー』も落とされた。それだけでは終わらなかった。この戦いでジオンを導いていたデギン・ソド・ザビ公王を始めとする血族、ギレン・ザビ総帥、キシリア・ザビ突撃機動軍司令官、ドズル・ザビ宇宙攻撃軍総司令官、ガルマ・ザビ地球方面軍司令官などの戦死などで上層部が消滅。ジオンはもはや継戦は不可能となった。

 確かに戦争は終わった。しかし戦いが終わったわけではない。

 ジオン公国が開拓した小惑星『アクシズ』は被害を受けておらず多くのジオン兵が逃げ込み、地球に残された者達もいつの日か再び立ち上がることを夢見て抵抗を続けている。

 この戦場も同じである…

 

 「くぅ…」

 

 すでに一部の装甲は剥げて、飛んでいるのもやっとのモビルアーマー『ノイエ・ジール』。その中には腹部を負傷しつつも連邦軍に向かって戦い続ける男がいた。

 彼の名はアナベル・ガトー。ジオン公国軍ドズル・ザビ中将の宇宙攻撃軍第302哨戒中隊隊長を勤めたジオンのエースパイロットの一人である。二つ名は『ソロモンの悪夢』。彼はソロモンで司令官であるドズルを守りきれず、ア・バオア・クーの部隊と合流。攻め立てる連邦軍に挑んだが容赦の無い流れ弾により目立った活躍も出来ないままギレン・ザビ親衛隊のグワジンに着艦したのだ。時同じくして総帥であったギレン・ザビは戦死。その一報を聞いた親衛隊長エギーユ・デラーズはガトーを説得し戦闘宙域を離脱、その後ジオン残党軍『デラーズ・フリート』を組織。連邦軍に戦争の続きを行なったのである。

 デラーズの目論見は成功した。したのだが結果は悲惨である。味方の裏切り、自身の戦死、そして…

 

 「一人でも多くの者がアクシズ艦隊に合流する為にも…」

 

 血が流れる腹部の痛みを歯を食い縛り耐え抜く。

 任務を終了した『デラーズ・フリート』はすでに退路を断たれ、何十倍もの艦隊とモビルスーツに囲まれていたのである。

 生き延びる為には囲いを突破し、向こう側に居るアクシズ艦隊へと合流しなければならない。

 正直に言おう。不可能であると…

 大艦隊の遠距離射撃を抜けてもこちらよりも機体性能が上の連邦軍モビルスーツ隊。すでに弾切れやオーバーヒートを起こしている機体が多々居るこちらでは抜くことは出来ないだろう。

 

 「それでも!!」

 

 力を振り絞りスロットルを全開にする。残った推進力をすべて使い切る速度で艦隊へと向かって行く。

 そのモビルアーマーを目印にしてジオン残存兵力も突っ込む。当たり前のように連邦軍の攻撃も集中する。

 

 「ぐうううううう!!」

 

 機体がミサイルを受け大きく揺らぐ。大きく揺れるモニターの中で自分を庇うようにドラッツェがミサイルを受け止める。他にも守るようにジオン歴戦の勇士達が辺りを飛ぶ。

 すでに覚悟は決まっている。もうこの機体では抜くことも出来ない。ならば少しでも多くの者が辿り着ける為に道を作る。

 

 「うおおおおおおおおおお!!」

 

 喉奥から叫び声を挙げて一隻のサラミス級宇宙巡洋艦に向かって速度を上げていく。徐々に近づくモビルアーマーの意図を理解してか回避行動を行なおうとするがすでに遅すぎた。

 モニターに映されたサラミスが大きくなり、モニターから消えた。…消えた?

 ガトーは信じられなかった。爆発に飲み込まれて視界が消えるのなら分かる。しかし自身は依然健在でモニターを見つめている。消える原因としてはサラミスが回避した事だがそんな事はありえない。どう考えてもそれこそ不可能である。

 モニターに大きな光が飛び込む。

 光の方向を見ると先ほどのサラミスが爆発炎上していたのである。それも彼の機体の下方でである。船体の中央から真っ二つに折れ曲がり、先端と末端が斜め上へと持ち上がっていた。

 

 「馬鹿な!?」

 

 これはつまりどういう事だ?何かの衝撃を受けたサラミスは折れ曲がっただけではなく、衝撃だけで避けるほど移動させられたと言うのか!?そんな兵器に心当たりは無い。戦艦の主砲でさえ貫くだけでこんな事は起こらない。

 着弾地点から発砲位置を探す。

 

 「なんだあれは?」

 

 視界に入ったのは薄い水色を基準とした一つ目のモビルスーツであった。ザクのような機体だが自分の知識の中にはあのような機体はない。もしかするとザクのバリエーションの一つか試験機なのかもしれない。それならば機体に対して大きすぎるあのブースターユニットも分かる。あのような物を最大加速させたらパイロットどころか機体が持たないだろう。

 これがアナベルト・ガトーと彼の最初の出会いである。

 

 

 

 

 2016年03月21日 01:00

 加東 鏡士郎は凝り固まった肩をニ、三度まわした。

 辺りには本や雑誌が所狭しと並んでいた。どれもこれも『機動戦士ガンダム』関連の物である。壁を見てみても『劇場版機動戦士ガンダム』のポスターやイベントで入手したジオン女性キャラのポスターを飾っていた。

 そして目の前にはゲーム機が置いてあった。中身は最近発売された『ガンダムブレイカー3』である。

 1も2もプレイした彼だがそれほど盛り上がれなかったのである。理由は自分のお気に入りの機体が登場しなかった為である。しかし今回は違う。

 画面に映る機体は『EMS-10ヅダ』。

 その機体を見るときだけは目を隠しているぼさぼさの髪の下からキラキラと輝いているのが分かる。

 アニメで見た時から一目惚れしてしまい、いつの日か使ってみたいと恋焦がれていたのだ。まぁ、アビリティはすでに魔改造しているが… 

 

 

 「えーと…阿頼耶識システムは昨日組み込んだから後いるのはなんだっけ?脳量子波管制制御だっけか。いんやアレは4.5%アップだから数値反映されないんだっけ」

 

 頭を掻き毟りながら画面に表示されたエリアを行ったり来たりする。アバターが立ち止まると同時に思い出し声を挙げた。

 

 「そうだよ!リュース・サイコ・デバイス!ってことはサイコザクか!ザクからだよな?」

 

 ゲーム機を操作してザクからの派生で調べるがパーツが足りずに手が止まる。多分ショップに行けばパーツは手に入るのだがこの機体をオール22まで挙げた為に金欠なのである。ならばと出撃エリアを調べる。ホットスポットにサイコザクの名があり、何の躊躇いも無く任務を受注する。

 機体レベルも熱意も十分…しかし睡魔には勝てない。

 

 「むぅ・・・眠い。やっぱり2日連続徹夜はキツイか・・・いっちょ気合入れますか!!」

 

 眠気に負けそうな身体に気合を入れるために立ち上がり、おもむろに服を脱ぎだした。そしてクローゼットの中に大事そうに仕舞われていた一着の服を取り出す。緑色をベースにした軍服で襟元や肩には金色の装飾が施されている。

 ガンダムを知っている人が一目見れば気付くだろう。鏡士郎が取り出したのはジオン公国軍の軍服である。背には背中中央まで垂れたマントがついており、模様から左官クラスだと言うことがわかる。ちゃんと身分証明書もありそこには『総帥直属特務試験化部隊所属キョウシロウ・カトウ少佐』と書かれていた。これは買ったものではなく自分で手間暇とお金をかけて作った彼の手作りである。

 

 「よし!キョウシロウ・カトウ少佐。ヅダ、出るぞ」

 

 出撃ムービーに合わせて声を上げ戦場へ向かう。

 確かに彼は大好きなジオン軍服を着て気合を入れたのだが睡魔には勝てずに寝落ちしてしまうのであった…

 「はぅあ!?寝てません!寝てませんよ!!」

 

 口元から涎を垂らしながら飛び起きた鏡士郎は寝惚けた眼で辺りを見渡す。

 暗い。

 当たり前である。時刻は深夜1時なのだから暗くて当たり前…そこまで思考して停止した。時間帯的に暗いのは当たり前だが別に外でプレイしていたわけではない。室内、しかも自分の部屋の中でやっていたのだ。電気もつけていた。ならば停電かと思うが目の前のコンソールが光っている事から違うと判断する。

 

 「・・・はれ?コンソール?」

 

 そうコンソールである。モビルスーツのコクピットでお馴染のコンソールに今自分が握り締めている左右のレバー。リニアシートに360度モニター。足元のペダルを踏み倒せば視界が動き、機体が動いているのが分かる。

 

 「はにゃ?・・・・・・・はにゃ!」

 

 やっと意識がはっきりしたのか辺りの異常性に気がついた。いきなり部屋からモビルスーツのコクピットに居るのだ。訳が分からなく、驚きパニックに…

 

 「すんげ~!!何これ!何これ!」

 

 …ならなかった。ペダルを踏み倒して機体を加速したり武装をチェックしたりと喜々して行なっている。

 

 「良くわかんないけど動かせるっぽい!っぽい?」

 

 気が高まったようでコクピット内を調べようとした時に背中が何かにぶつかった。リニアシートに三つの突起物が出ているのだ。もしかしてと思い、首をギリギリまで捻って自身の背を見てみる。

 今までには無かった突起物が三つ出てた。心当たりはあった。

 

 「阿頼耶識システム」

 

 『鉄血のオルフェンズ』でお馴染のパイロットとモビルスーツを繋げるシステム。異物を身体の中に組み込むことに違和感を持つ人もいるだろう。拒絶して吐く人もいるだろう。彼には関係ないだろうが。

 

 「マジで!!阿頼耶識システムキタ―――!!!!」

 

 ほらね。

 興奮状態の加東 鏡士郎はペダルを踏み込み機体を加速させていく。あの戦闘宙域へ向けて…




 どうでしたでしょうか?楽しんでいただけたでしょうか?
 駄文であったり誤字が多かったりと問題は多々あると思いますがご容赦ください。
 この作品は一週間に一話程度で投稿できたらなっと考えています。
 あと感想を頂ければ凄く嬉しいです。

 次回『その機体とパイロットは異常』
 「MSの性能の違いが、戦力の決定的差であるということを教えてやる」

 ではまたお会いしましょう。


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第02話 『その機体とパイロットは異常』

現在もガンダムブレイカー3をプレイ中のチェリオです。
今更ながら阿頼耶識システムとリユース・サイコ・デバイスをとっても同じ効果なら重複しない事を知った。
…鏡士郎も知らないもよう…


 連邦軍とジオン残党である『デラーズ・フリート』が最後の戦いを行なっている宙域近くで一機のモビルスーツがデブリ帯を飛び回っていた。

 ランダムに配置された隕石や戦艦やモビルスーツ残骸…少しのミスで機体とパイロットはデブリの仲間となる。そんな危険地帯を飛び回っているのだ。正気の沙汰ではない。頭のネジがニ、三本外れているレベルではない。イカれている。これを見た人間は誰しもそう思うであろう。

 ま、実際ネジが全部ぶっ飛んでいるのだが…

 

 「うほおおおおお!!」

 

 間抜けな声がコクピットを満たす。これが頭のおか…コホン。先ほどからデブリ帯を神懸かり的な操縦で回避する加東 鏡士郎である。

 今の段階でも腕の良いパイロットでも難しいギリギリの軌道を描いているはずなのにペダルをさらに踏み込む。

 

 「のおおおおお!!Gすげええええ!!」

 

 速度がさらに上がり、デブリが急接近するが難なく回避して行く。デブリ帯から抜けたところで機体を急停止させる。

 顔は青ざめ手で口元を覆う。

 

 「うえ…酔った…Gが痛い」

 

 当たり前である。尋常ではないGを受けながらさらに速度を上げたのだ。肉体が千切れてないことこそが不思議である。

 エチケット袋を探していた鏡士郎はモニターに何かが点滅している事に気付いた。

 

 「なんだあれ?モニター最大望遠っと」

 

 コンソールを弄って光の下をズームアップする。

 そこには手持ちのマシンガンを乱射するザクが映った。

 

 「うっほ!あれザクⅡじゃね!?あのフォルムから見て後期生産型か…カッコイイ!!」

 

 急ぎコンソールを動かし辺りを見渡す。

 

 「お!あれはドラッツェにリック・ドムⅡ!ムサイ級巡洋艦最後期型までいるじゃん。ここは僕にとっての天国か何かですか!!」

 

 大好きなジオン系モビルスーツが目の前で戦っている所を見てご満悦になったがある事に気がついた。キラキラと光るソーラーパネルが配置されていることに。

 宇宙要塞を焼いた連邦軍の兵器『ソーラーシステム』。見間違えようがなかった。アレによってソロモン戦で多くのジオン将兵が焼き殺されていったのだ。『ガンダム』の作品はモビルスーツが活躍してこそと考える鏡士郎はあんな大量殺戮兵器が好きではなかった。もちろん『ソーラーレイ』も含まれる。

 

 「寝惚けてたとしてもリアル過ぎるよなぁ。ガンダムの世界と仮定したとしてここは何処だろう?ソーラーシステムがあることからあの艦隊はティアンム艦隊かな?」

 

 ソーラーシステムの辺りを拡大すると確かに艦隊は存在した。しかし予想とは異なり過ぎていた。ジム、もしくはジム・コマンドが居るものだろうと思っていたのだがそこにはジム改を主力としたモビルスーツ部隊だった。それにソーラーシステムはボロボロで機能しないと分かるほど壊れていた。そこから推測して0083『スターダストメモリー』の世界と判断した。

 

 「ちょっと待てよ?ソーラーシステムが壊れているって事はデラーズ・フリートが撤退中…だったよね」

 

 先ほど見ていた場所を拡大するがそこにはあのザクⅡは居なかった。あったのはザクマシンガンを握り締めたままの腕が一本…

 戦争も戦いもゲームの中でしか知らない人間がいきなり戦争に参加できるかと聞かれれば無理だと判断する。誰だって自分の命が大事だ。普通は逃げる。この少年も…

 

 「突貫します!!」

 

 …まったくこの少年は考えなしに…コホン。

 モニターには大破状態の大型モビルアーマー『ノイエ・ジール』が残ったジオン軍モビルスーツ隊を率いて連邦艦隊へ突撃をしようとしていた。

 連邦軍は大きな壁のように部隊を配置していた。戦力が広がっているから一点集中で突破しようという考えなんだろうが戦力差が激しくて抜けない。しかも狙っている一点以外からも砲撃が行なわれている。生き延びるには反対側にまだ居るアクシズ艦隊に合流しなければならない。その艦隊だってその内、退避勧告が通達される。

 ペダルを思いっきり踏み締める。

 鏡士郎は武装やシステムを確認している内にある事に気付いた。装備やシステムが自分がプレイしていたヅダと同じことを。もしかしたらその通りなのかもしれない。ヴァリアブルフェイズシフト装甲だってあったはずだがゲーム内では物理耐性20%アップでアニメなどの性能とは違う。過信は出来ない。

 ノイエ・ジールが加速してサラミス級に突っ込む。

 

 「当たれ!!」

 

 ヅダの装備の一つである対艦ライフルを構えて迷う事無くトリガーを引く。ライフルから発射された弾丸は狙った通りの軌道を描きサラミス級に直撃した。船体が大きな衝撃を受けて折れ曲がりながらノイエ・ジールの下方へと沈んでいく。

 驚いた。

 撃った本人が一番驚いている。たった一発のモビルスーツの攻撃であんなになる描写なんて無かった。ガンダムでも無理だろうと思っている。

 だがこれが当然の結果である。鏡士郎が使った対艦ライフルはレベル22まで上げたものだ。ガンダムのビームライフルが1500以下の威力に対して6倍近くの8800手前である。これだけでもどれだけ規格外の品物であるかは理解できるだろう。

 

 「はにゃ~♪すげい…」

 

 驚きのあまり戦場で停止する。

 先の一撃を目撃した両軍の兵士の視線が集まっている。同時に複数の銃口が向いている。

 『後ろから来る』

 よくわからないがそんな気がした。スラスターを吹かして今居た位置から飛び避ける。後方に周ったジム改の銃撃が通り過ぎて行く。

 軌道修正して頭部にライフルを押し当ててトリガーを引いた。膝から下を残してジム改が散った。

 オープンチャンネルを開いてモビルアーマーのパイロットに呼びかける。これがあの世界ならばパイロットは…

 

 「ノイエ・ジールのパイロットさんご無事ですか?」

 『ああ…』

 

 おお!痺れるようなボイス。ソロモンの悪夢『アナベル・ガトー』の声だ。

 心の中で感動しながら会話を続ける。

 

 「まだ行けますか?」

 『いや、もうノイエ・ジールでは突破は難しい。だがアクシズ艦隊へ味方が辿り着く手助けぐらいは…』

 「分かりました!そこのリック・ドムⅡのパイロット君。ガトー少佐をコクピットから救出して」

 『は?自分ですか』

 「イエース。早く早く」

 『待て!?この状況下でそんな事…』

 

 戦場のど真ん中で停止すると言う事はただの的になるという事。それを理解している者は不安な声を出す。だが…

 

 「シールドビット展開!」

 

 ヅダのバックパック右側に取り付けてあった3枚の緑色の板が遠隔操作により動き出しノイエ・ジールを狙った攻撃を弾いていく。

 

 『これはいったい…』

 

 驚きの声を漏らすガトー少佐をリック・ドムⅡがノイエ・ジールより助け出す為に鏡士郎はここを死守する事を決める。

 

 「行けファンネルたち」

 

 両肩に設置された『ヤクト・ドーガ』に装備されていたファンネル6機が飛び立ち、近づく連邦モビルスーツを蜂の巣にして行く。そして高威力を見せ付けた対艦ライフルが何機も貫通して…いや、何機も粉々にして行く。

 コクピットに収納された事を確認すると先程より大声を上げる。

 

 「勇敢なるジオンの有志達よ。僕に続いてください!!道を切り開きます」

 

 オープンチャンネルで叫ぶと同時に腹部に設置しているメガ粒子砲を正面へとぶちまける。直撃を受けたり、近くに居て溶解したモビルスーツが爆発し、真っ直ぐと伸びた道が出来た。

 

 「MSの性能の違いが、戦力の決定的差であるということを教えてやる」

 

 赤い彗星の異名を持つシャア・アズナブル少佐…大佐の台詞を言い換えてただ突っ込む。

 近づく物はグフのヒートサーベルで切り裂き、中距離戦を挑んでくる者は6機ファンネル達が打ち抜き、長距離で構えている者には対艦ライフルで木っ端微塵にして行く。その後ろをシールドビットに守られつつ残ったジオンモビルスーツ達が続いていく。

 一隻のサラミス級巡洋艦が正面より突っ込んできた。特攻してくる気だ。そう理解するとコンソールを操作してバックパック左側に設置していた6連装ミサイルポッドを放つ。放たれたミサイルはぶつかる前に散開して四方八方よりサラミスに命中して爆発を起こす。艦は機能停止したのだが進行方向にあって邪魔だったから体勢を変えて両足で踏みつける。寸前でスラスターをより強く吹かしてぶりをつける。残骸と化したサラミスは蹴られた方向へと飛ばされていく。そこに居たモビルスーツを巻き込みながら。

 あまりの無双っぷりに連邦軍の方から道を譲っていく。

 

 「やった!突破したどー」

 

 連邦軍の壁を突破したジオン軍はアクシズ艦隊へと向かって前進して行く。鏡士郎は自ら殿として援護攻撃を行なう。そして最後に何とか抜けれたムサイ級に着艦して戦場を離脱した。

 この戦闘により連邦軍は一機の機体により多大な被害を被ったのだが、デラーズ紛争と共に歴史の表に出さないように封印したのであった。ただし兵士の噂として『水色の閃光星(すいしょくのせんこうせい)』の異名と共に流れていくのであった。

 




 デラーズ・フリート残存兵力とガトー少佐生存!!
 この兵力と共に鏡士郎は地球圏外へ向かっていく。あの戦いを見たジオン兵は彼に何を見るのか?

 次回『ジオンの新星』
 『ザクとは違うのだよ。ザクとは』

 
 ではまたお会いしましょう。


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第03話 『ジオンの新星』

 やっと書けたけど前回より文字量が少ない。さて、今回は戦闘無し回です。感想で書かれていたアビルティ&パーツの話が出たので今回書かせていただきました。


 アナベル・ガトー先ほど自身が目撃した戦闘を思い返す。

 ジオンの流れを汲んでいるが見覚えのない機体が現れたと思ったらたった一機であの艦隊を突破して我らの脱出支援してくれた。今でも夢や幻想なのではと疑いたくなる。

 アクシズ艦隊に追従するデラーズ・フリート残存艦隊。あの戦いでムサイ級巡洋艦後期生産型が三隻とリック・ドムⅡが3機、ザクⅡF2型が5機、ドラッツェが9機が何とか合流できたのは奇跡だろう。多くの者が散った。もしくは捕まったりしたのだろう。

 ガラス越しに見える宇宙を見つめつつ思う。

 『また生き残ってしまった』

 ソロモンではドズル中将を、そして今度はデラーズ閣下を失ってしまった…

 

 「私はこれからどうしたら…」

  

 止まりかけた足を再度動かしモビルスーツ格納庫へ向かう。あのパイロットに一言かけねばならないと思い。

 

 

 

 連邦艦隊を突破した加東 鏡士郎は脱出したデラーズ・フリート残存艦隊であるムサイ級巡洋艦最後期型『アルト・ハイデルベルク』に着艦したのだ。ちなみに他のムサイは『パルジファル』と『モルゲンローテ』と言う名が付けられているらしい。

 コクピットから降りようと立ち上がろうとした時、モニターに映り込んだ背中の異様に盛り上がった突起物に目がいった。それは服の上からでもはっきり分かった。

 生体接続式有機マン・マシン・インターフェイス『阿頼耶識システム』。機体とパイロットを繋げる為に脊髄に埋め込まれた『ピアス』と呼ばれるデバイス。

 

 「少しグロイかなぁ?」

 

 自分ではそうは思わないのだけど。『オルフェンズ』の作中で見てから吐いた人がいた。名前は…『チョコレートの隣の人』

 ?駄目だ。思い出せない。

 とりあえずパイロットスーツを着たままで居れば問題ないよね。しかしジオンの軍服を隠すのは嫌だったのでパイロットスーツについていた部品を無理やり外す。着た時に『ピアス』を覆うような白い楕円形のパーツがある。これをピアスに当てて機体と接続するのだ。それを付けた上で服を着る。三つの凹凸から滑らかな曲線になった。まだ違和感はあるがさっきよりはマシだろうとコクピットを開いて外へと飛び出す。

 初めての無重力に驚きつつも、心はまたしても歓喜に包まれていた。

 ガンダムファンの方々なら分かってくれるだろう。特にジオン好きの人は分かってくれる。

 自分の目の前にアニメで見てきたモビルスーツが原寸大で存在しているのだ。ザクが!ドムが!ドラッツェが!そして振り向けばヅダが!!興奮しない訳がないでしょ。出来れば操縦したい。駄目なら今すぐに触りたい。いや、むしろ舐めたい!

 

 「子供!?」

 「嘘…」

 

 少しは落ち着いたのか周りの声が耳に届いた。皆それぞれ口にしているがどれもこれも驚愕のものだった。モビルスーツを扱っているのが中学生だったらそんな扱いになるよな。

 辺りが驚いている中、一人の男が近づいてきた。

 髪は白銀で型はポニーテール。背筋は真っ直ぐと伸び、その視線は鋭い。彼はノイエ・ジールを『まるでジオンの精神が形となったようだ』と言ったが僕は彼を『まるでジオン軍人の精神が形となったようだ』と称する。

 『ソロモンの悪夢』ジオンエースパイロットが一人、アナベル・ガトー少佐その人であった。

 

 「君があのモビルスーツのパイロットか?」

 「は、はい!そ、そ、そうでしゅ…そうです」

 

 真剣な表情を変えずに一言呟いた言葉に緊張しすぎて少し噛んでしまった。恥かしくて赤面する鏡士郎に手を差し出す。

 

 「先ほどは助かった。デラーズ・フリートを代表して礼を言わせて貰おう」

 「いえ、そんな…あははは」

 

 握手を交わしながら照れて、開いた片手で頭を掻く。

 ガトー少佐は少し微笑んだまま軽く頭を下げる。

 

 「私はアナベル・ガトー少佐。君は?」

 「僕は加t…キョウシロウ・カトウです」

 「キョウシロウ・カトウ…か。階級は?」

 「え?」

 「ジオン兵なのだろう?」

 「あー…えーと」

 

 ジオン系の機体を操りジオン兵を援護したジオン軍服を着た者。当たり前のようにジオン兵と思うだろうが鏡士郎は違う世界よりガンダムの世界に入ったのだ。階級どころか軍籍、いや戸籍自体が無い。

 どうしよう。なんて言えばいいんだ?と悩んでいると何かに気付いたのか手を伸ばしてきた。

 

 「失礼」

 「あ…それは」

 

 手を伸ばして取ったのは降りる時に一緒に持って降りてしまった身分証明書だった。マジマジと目を通すガトー少佐の目が怖い。真剣に作ったと言えどもお遊びの品。怒られる…そう思ったのだがそうなることは無く、結果はビシッと決まった敬礼が教えてくれた。

 

 「総帥直属!!しょ、少佐!?」

 

 少佐の敬礼を見た近くに居た兵士も書類内容が見えたのだろう。信じられないと言いたげな表情のまま敬礼をしてきた。対する鏡士郎は最初に敬礼された時点で反射的に敬礼を返していたがまさかそれが通るとは。

 

 「その歳で少佐とは…いや、失礼したなカトウ少佐」

 「いえ、そんな…僕の事はキョウシロウと呼び捨てでも構いませんよ?」

 

 敬礼を止めたガトー少佐はヅダを見上げた。つられて鏡士郎も見上げる。

 

 改めてみるとオプションパーツが凄いことになっている。両肩には第二次ネオ・ジオン抗争で登場したヤクト・ドーガなどに使用されていたファンネルが三つずつ、合計で6基ついている。腹部には同じく第二次ネオ・ジオン抗争に登場したサザビーの腹部についていたメガ粒子砲発射装置。バックパックには右側にシールドビット、左側には六連装ミサイルポッド。後ろの腰にはGNフィールド発生装置。右腕にはブリッツのロケットアンカーと時代がバラバラのパーツが取り付けられていた。

 

 外見はヅダそのものなのだが中身のアビリティもおかしな物ばかり。高精度ガンカメラ、ハイパーデュートリオンエンジン、阿頼耶識システム、エイハブ・リアクター、パワーエクステンダー、AGEシステム、ナノスキン、MFE型ガンディウムFGI複合装甲、ヴァリアブルフェイズシフト装甲、ツインドライヴシステム、ミノフスキー・ドライブ、チョバムアーマー構造、ラミネート装甲、ヤタノカガミ、高出力ホバーユニット、バイポッド、ダブル・パック、エネルギー供給システム…

 

 今更ながら何この機体と思ってしまう。

 

 「始めて見る機体だ。ザクのバリュエーションか?」

 「ザクとは違うのだよ。ザクとは」

 

 まあ、ジオンの機体はザク系のバリエーションが多いからそう思ったのかもしれないけどその言葉だけは聞き逃せない。今、ラルさんの台詞を言えて内心喜んでいる鏡士郎は言葉を続ける。

 

 「この機体はヅダ。コストは高いわ、速度を上げ過ぎたら空中分解するという欠陥を持った『欠陥機』と言う事でザクⅠに正式採用で敗北した機体です」

 「そんな初期の機体なのか…」

 「ヅダは正式採用されませんでしたがそれでもこいつを作ったツィマッド社は諦めずに開発を続けて再び日の目をみたんです。ジオン軍のプロパガンダではありましたが舞台に立ったのです。欠陥は残ったままでしたが連邦のジムが追いつく事さえ出来なかった機動性を見せました。オデッサの敗残兵の救出やア・バウア・クーでも友軍が脱出するまでの時間を稼いだりと確かにこの世界で活躍した機体です。馬鹿にされても、主を失っても何度でも諦めずにこの戦争の舞台に立った…」

 「馬鹿にされても…主を失っても…」 

 「って、僕は何を言ってるんでしょうね?兎も角、ザクと一緒にしないで貰えますか」

 「ああ…分かった。すまなかった…そしてありがとう」

 「はにゃ?…どうもいたしまして?」

 

 首を傾げた鏡士郎に何かが取れたように微笑んだガトー少佐は来た道を帰っていった。

 

 「生き恥をさらすか…それでも私は」

 

 強い意志を持った呟きは誰にも聞かれることなく彼の心の奥だけに響いていった。 




 ゲームだから出来る設定。
 さて次回はアクシズに向かう道中に発見した輸送艦の話…

 次回『運が悪い遭遇戦…もちろん相手が』
 『素人め、間合いが遠いわ!』

 
 ではまたお会いしましょう。


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第04話 『運の悪い遭遇戦…もちろん相手が』

今更ながら気付きました。
アクシズについたらどの派閥に入ろうかな?と思考錯誤していたのですが調べたら三ヶ月前にマハラジャ・カーン亡くなっていたんですね。どうしよう…


 デラーズ・フリート残存部隊旗艦ムサイ級後期型軽巡洋艦『アルト・ハイデルベルク』

 その佐官専用の個室で加東 鏡士郎は疲れ果てて深い眠りについていた。夢のガンダム世界でジオン公国の戦艦に乗れたのだ。興奮しない訳が無い。案内を頼んで興奮状態でいろいろと見て周ったのだ。最後に部屋に案内された後は『寝て起きたら元の世界に戻っているんだろうか』と不安で眠らないようにしていたのだが、連日徹夜していたのと今日一日でいろいろありすぎたことで抵抗むなしく寝てしまったのだ。

 ベッド脇にあるモニターに光が灯り、まだ幼さが残る青年が映る。軍帽をきっちりと被った細目の彼はアルト・ハイデルベルク艦長のエイワン・ベリーニ大尉である。

 元々は副官だったのだが艦長が戦死してからは艦長として指揮を執っている。一年戦争時には22歳で大尉になった。と言っても彼が特別優秀だったのでなく彼の家が軍人家系にあったのと猛烈なザビ派であったことからとんとん拍子に上がっていったのだ。

 

 「カトウ副隊長。起きていらっしゃいますか?カトウ副隊長」

 「う…ん?……はにゃ~♪」

 

 呼びかけで目を覚まして大きく背伸びをする。

 いまエイワン大尉が言った副隊長はデラーズ・フリート残存部隊の副隊長と言う意味である。先の戦いで大まかな上官も失ってしまったのとまだアクシズに組み込まれたわけではないので指揮権を誰が持つのかと言う話になったのだ。もちろん隊長は満場一致でガトー少佐だった。そして副隊長に選ばれたのがガトー少佐以外で実力があり佐官クラスの鏡士郎だったと言う訳だ。ここでも総帥直属特務試験化部隊所属少佐の肩書きが発動してしまったのだ。

 

 「おはようエイワン兄」

 「その呼び方はお止めください副隊長」

 「呼びやすくて良かったと思ったんだけどな」

 

 軽くストレッチをしながら身体を解しながら起きてもこの世界に居た事を喜んでいる。

 

 「で、何かあったの?」

 「はい。至急ブリッジまでお越しくださいますか?」

 「すぐに行くよ」

 「では」

 

 通信を切った後はお気に入りの軍服に袖を通して鼻歌交じりにブリッジへと向かって行く。曲名は『颯爽たるシャア 』である。ブリッジには随時詰めている兵士以外にはガトー少佐とカリウス軍曹が先に着ていた。

 カリウス・オットー軍曹。ガトー少佐の部下で先にアクシズ先遣艦隊と合流した生存者の一人。穏やかな性格の青年なのだが腕前はリック・ドムⅡ単機でジム部隊と交戦しても勝てるだけの実力を持つ歴戦の勇姿である。

 カリウス軍曹もガトー少佐も年下の鏡士郎をぞんざいに扱う事無く対等に-カリウス軍曹は上官なので敬って-扱ってくれる。

 

 「お二人ともお揃いで…何かあったんですか?」

 「まずはこれをご覧頂けますか?」

 

 モニターに映された周辺マップには多くの点滅が存在していた。アクシズやデラーズ・フリートのジオン艦隊はもちろんレーダーに引っ掛かったデブリの群れやミノフスー粒子の濃さも表示されていた。その中でデブリの中に色の違う点滅があった。

 

 「あの点滅は…」

 「救難信号ですね。それもジオンの物です」

 「ってことは生存者が?」

 「それは何とも言えませんが…可能性はあるでしょう」

 「すぐに偵察部隊を送りましょう」

 「いや…」

 

 エイワン大尉の顔色が曇った。何かを悩んでいるようだった。口が重いのか中々開かない為にカリウス軍曹が代わりに説明してくれた。

 

 「現在我々はアクシズ先遣艦隊と合流してアクシズに向かっています。副隊長ならお気づきだと思いますが救命信号を発しているのはデブリ群の中にあります。索敵から生存者の救出まで行なっていればかなりの時間がかかってしまいます」

 「こんな宙域に長時間艦隊を待機させれば下手をすれば連邦軍の攻撃を受ける可能性があります」

 「そこでだ。私としてはカトウ少佐の意見が聞きたいのだ」

 「もちろん助けに行きましょう!ジオン軍人が味方を見捨てることなんてありえないでしょう?あと僕のことは呼び捨てで良いって言ったのに…」

 

 むーと唸る鏡士郎を余所にガトー少佐は嬉しそうに笑う。なにやら褒めてくれているようで凄く嬉しかった。少し間を置くといつもの真面目な表情に変わった。

 

 「エイワン艦長はアクシズ先遣艦隊に通達。我々は救難信号を発する友軍の救出に向かう」

 「了解しました。グワンザンとの通信回線を開いてくれ」

 「索敵・救出部隊はモビルスーツ隊で行なう。指揮はカトウ少佐、副官でカリウス」

 「はにゃ!?僕がモビルスーツ指揮官ですか!!」

 「不服か?」

 「いえ、ヤル気十分!やって見せます。宜しくお願いしますねカリウスさん」

 「ハッ!…さん付けは無くても宜しいですが」

 「じゃあカリウス兄で良い?」

 「公の場ではちょっと…」

 

 苦笑いを返してくるカリウス軍曹と共にモビルスーツデッキへと向かった。

 

 

 

 デブリ群に向かってザクⅡF2型二機とカリウス軍曹のリック・ドムⅡ、そして鏡士郎のヅダが救難信号を発する場所へと向かっていた。

 本当はもっと多くのモビルスーツ隊で行った方が良いのだが現宙域にはデラーズ・フリートのムサイ級三隻とアクシズ先遣艦隊に所属しているムサイ級が一隻の合計四隻が待機しているのだ。もしも敵が攻めて来た場合にはモビルスーツは必須の為に4機のみの作戦となったのである。本来ならどこかに隠しておきたかったがデブリ群の中に艦隊を突っ込ませるわけにも行かず、それにデブリ群の中では小回りの利かないドラッツェも使用できない。

 アクシズ先遣艦隊司令のユーリー・ハスラー少将は案内役権アクシズからの護衛と言う事で一隻置いて行って下さったのだ。

 徐々に目標地点に近づきモニターを見渡すとすぐに発見できた。

 双胴型の船体を特徴のジオン公国軍が使用していた補給艦『パプア級補給艦』。モビルスーツ20機も搭載できる艦でリビング・デッド師団の母艦にもなっていた。

 艦体に刻まれている筈の番号はデブリ群によって削り取られており、下に突き出ている筈の艦橋もデブリの直撃を受けたらしく潰れていた。

 

 「艦橋がへしゃげてる」

 「どうやら敵の攻撃で動けなくなった訳ではないようですね…」

 「じゃあ索敵を開始しようか。ザクⅡは熱源を探して僕とカリウス軍曹は格納庫に向かうよ」

 「「「ハッ!!」」」

 

 ゆっくりと下部に設けられた大型のハッチへと向かって行く。電気が通ってなかったのか開かず人用のハッチより進入する事にする。ちなみに鏡士郎のパイロットスーツはこの前破いており使い物にならず、アルト・ハイデルベルクにあった一回り大きいパイロットスーツを着ている。

 

 「うわぁ…」

 「これは…」

 

 格納庫に入った二人が見たものは死体の数々だった。デブリ群に突っ込んでしまった際に空調システムをやられてしまったのだろう。ノーマルスーツを着てない者ばかりだ。これが生々しい死体だったり臭いが漂っていたら吐いていただろう。死体と言うかミイラに近かった。結構年月が経っているのだろう。

 艦内には多くの人が居る為、遺体は持って帰れない。二人はせめてドックタグだけでも回収していた。すると白衣を着た者を発見した。

 

 「フラ…ン機関?間が汚れてて読めないな」

 「それってもしかしてフラナガン機関じゃない?」

 「なんですかそれは?」

 「あれ?カリウス軍曹は知らないのか。フラナガン機関とはジオンのニュータイプ研究機関の事だよ」

 「ニュータイプ…噂で聞いたことがあります」

 「ジオンで言うとシャア・アズナブル大佐にララァ・スン少尉、シャリア・ブル大尉にマリオン・ウェルチ…あとはクスコ・アル中尉ぐらいかな」

 「よくご存知なのですね」

 「まぁね♪」

 

 実際はアニメや本で得た知識なのだが褒められると言うのは何にしても嬉しいものだ。にやける鏡士郎を余所にまたカリウスは発見してしまう。

 

 「ではあの一機だけあるザクも知っておられますか?」

 「どれどれ?」

 「あの白い…あ、足が…」

 「ぶっほっ!?」

 

 興奮しすぎて拭いた。

 通常のザクよりも大きくて指は太く、腰周りはドムのスカートのようになっている。通常の足ではなく大推力の熱核ロケットエンジンが搭載された白い機体。

 

 「サイコミュ高機動試験用ザク!!ニュータイプ用の機体だぁ♪」

 

 舐めるようにサイコミュ高機動試験用ザクを見た鏡士郎は大きく頷いた。

 

 「これを持って帰ろう。残っているデータも」

 「このザクもですか?」

 「うん。これは彼らの戦果なのだから」

 「っ!?…そうですね…了解しました」

 

 出る前に格納庫全体に向かって敬礼をして入ってきたハッチより自分の機体に乗り込んだ。

 

 「副隊長、ザクⅡより通信です。熱源なし…生存者は居ませんでした」

 「そう。よし、撤収しよう」

 「りょうか…」

 『こちらエイワン大尉です!聴こえますか!?』

 

 突如通信にエイワン大尉の慌てた声が入ってきた。

 

 「こちら鏡士郎少佐です。何事ですか?」

 『索敵していたモルゲンローテより敵艦発見したとの報が』

 「数は?」

 『サラミス改級宇宙巡洋艦2…まだ敵はこちらに気付いていない模様です』

 「つけられた…いや、遭遇戦でありましょうか?」

 「むぅ…ガトー少佐は?」

 『当艦防衛の為に格納庫で待機しております』

 「良し!カリウス軍曹はサイコミュ高機動試験用ザクを持ってモビルスーツ隊と共に先に帰還して」

 「副隊長はどうなさるので?」

 「奴らの相手♪」

 「お一人でですか!?危険です!!」

 「大丈夫、大丈夫。行って来る!」

 

 カリウス軍曹の制止も聞かずにスラスターを噴かす。デブリ群を物ともしない動きと速度に驚きつつ、冷静に自分では追いつけない事を理解する。

 

 「積荷のモビルスーツを回収して撤退する!」

 

 ザクⅡを引き連れてハッチを抉じ開けるリック・ドムⅡをちらっと見ると後ろは振り返らなかった。目指すサラミス改級宇宙巡洋艦はまだヅダには気付いていない。しかしモルゲンローテは見つけたらしく、発進したモビルスーツ隊を確認する。

 

 「ジム改が合計で六機か…まずは射程の長い戦艦をやりますか♪」

 

 後退するモルゲンローテに主砲を向け始めたサラミス改は二隻並んでいた。デブリ群を抜けた所でやっと補足したのだろう。弾幕が張られるが戦艦一隻の弾幕如きで止めれるほどこのヅダは甘くない。回避しつつも速度を落とす事無く接近したヅダは右手のロケットアンカーを先端へと打ち込む。そのまま通過してスラスターペダルをより強く踏み込む。強化されすぎたスラスターによりサラミス改が引っ張られ、もう一隻の前まで無理やりに移動させられる。主砲を撃とうとしていた前に味方が現れ攻撃が出来なくなった。

 

 「もらったよ」

 

 二隻が重なった所で対艦ライフルを放つ。横向きにされたサラミス改が真ん中から圧し折れてた。弾丸はそのまま貫通してもう一隻のサラミスを先端から中央付近まで潰して行き、二隻のサラミス改級宇宙巡洋艦が同タイミングで大爆発を起こした。

 

 「二枚抜き成功っと…よしよし、こちらに来い来い!!」

 

 あの大爆発に気付かぬわけは無く、ジム改隊がヅダに向かって戻ってきた。

 慌てる事無く六連装ミサイルポッドを対艦ライフルを撃ちながら放つ。六連装ミサイルポッドは命中率・誘導性能はかなり高いのだが一機しか狙えない事が難点である。こんな事になるならマイクロミサイルランチャーを装備すれば良かったかなと少し思う。

 そんな事を考えている間に二機を対艦ライフルで粉々に消し飛ばし、途中で分裂した六つのミサイルが他方向から襲い掛かり一機を爆発させる。

 仲間が次々とやられた事で焦ったのか一機がブルパップ・マシンガンを乱射する。心の乱れた弾は一発も掠る事なく通り過ぎて行く。ゆっくりと狙いを定めてトリガーを引いた。コクピットを直撃して胴体そのものが無くなる。ちかくに居た一機が今やられた仲間の方向を向いている事を良い事に狙いを定めようとする。

 

 『よくも俺の部下を!!』

 

 オープンチャンネルで通信が入ると同時に一機が突っ込んでくる。狙っていた一機を撃つとすぐに突っ込んでくる最後の一機に砲身を向けて放つ。

 直前に盾とブルパップ・マシンガンを投げ捨てて加速したジム改は何とか回避した。手はビームサーベルの柄に伸びていた。盾と銃を捨てることで機動力を上げてきたのだ。こちらの装備的に盾で防げない事を理解したのだろう。

 

 「思いっきりが良いパイロットか…ならせめて!!」

 

 腰に提げてあったグフカスタムが装備しているヒート・ソードを手に取りジム改に向かって前進して行く。

 

 『ジオンの亡霊がぁ!!』

 

 怒り狂った一撃は力がこもり過ぎたのかビームサーベルはヅダに当たる事無く振り下ろされた。

 

 「素人め、間合いが遠いわ!」

 

 そう叫ぶと振り下ろされた腕を踏み締めコクピットにヒートサーベルを突き刺した。あまりの熱量に触れた胴体が溶けていった。肺に溜まった空気を一気に吐き出すとヘルメットを取った。そのままパイロットスーツを脱ぐと通信を入れる。

 

 「こちらキョウシロウ。任務完了、帰還します」

 『こちらアルト・ハイデルベルク。了解しました少佐殿。一杯用意して待ってますね』

 「あー…僕未成年なんで」

 『ふふ、分かっていますよ。ジュースを宜しいですね』

 「あ、はい」

 

 通信を終了した鏡士郎はアルト・ハイデルベルクに向かってスラスターを噴かす。




 アクシズに向かうデラーズ・フリート残存部隊。その道中でのお話…

 次回『ソロモンの悪夢と水色の閃光星』
 『ここは・・・俺の距離だ!』

 
 ではまたお会いしましょう。

 


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第05話 『ソロモンの悪夢と水色の閃光星』

 一週間も遅くなりすみませんでした。
 次回は来週内目指して投稿しようと頑張ってます。では本編へどうぞ。


 アクシズへ向かうデラーズ・フリート残存部隊副隊長になった加藤 鏡士郎は士官室で徹夜で指示を出していた。それに付き合わされている士官は嫌な表情どころか嬉しそうに手を動かしていた。

 

 「で、ここの兵装なんだけど…」

 「しかしそれでは出力が…」

 「むう…やっぱり出力は落ちちゃうか…」

 「失礼します。こちらに…何をしておられるのですか?」

 「はにゃ?」

 

 ノックしてドアを開けたカリウスの前には士官室には10名近くの兵士と鏡士郎が居り、ひとつのパソコンを覗き込んでいた。気になったカリウスも覗き込むと何かの設計図のようだった。

 

 「これはドムの設計図なのでしょうか?しかしドムにしては形が違いますね」

 「それもその筈です。これは我々と副隊長のアイデアですから」

 「副隊長の?」

 「ドムをベースとしてサイコミュ高機動試験用ザクのブースターを流用して機動力を通常のドムより高い物にします」

 「そしてサイコミュに連動する有線式5連装メガ粒子砲を装備させるんだけど、これはニュータイプ用ではなくて通常パイロットによる一対多数戦闘を行なう機体なんだ♪出来ればガトー少佐やカリウス兄に乗ってほしいんだけどね」

 「おお!自分にでありますか」

 「でもフラナガン機関の実験データの動きをオートでさせるプログラムに造れないから稼動データがねぇ…」

 「ここでは限界がありますからね。基礎までしか…ですが簡単なシミュレーションではですね」

 

 嬉しそうに説明する士官はデラーズ・フリートでドラッツェの設計に関わっていた人物で他の兵士も整備士やモビルスーツに詳しい連中を集めてきたのだ。

 皆、嬉しそうな表情なのだが目の下のクマが気になった。

 

 「まさかとは思いますが徹夜されたんでしょうか?」

 「ん~、平気平気。僕、三徹までなら余裕だから」

 「いえ、そういう問題では…」

 

 加藤 鏡士郎はパイロットであり指揮官である。何が起こるか分からない状況下では休む時に休んで万全の態勢にしなければいけないと告げようと思ったのだが鏡士郎も設計者と同じ目をしていた。言うに無駄だろうと判断する。

 

 「この後予定していた訓練はどうするのですか?」 

 「訓練?………あ!!後何分?」

 「10分前になりましたね」

 「急ごう。じゃあ『ブラオシュネー』は任せたね」

 「了解しました副隊長」

 

 カリウスに連れて行かれる形で格納庫へと向かう。

 艦隊に合流してから六ヶ月余りが経った。その間に副隊長としてもパイロットとしてもやるべき事が出来たのだ。その一つとしてこの残存部隊のパイロットの育成が増えたのだ。

 デラーズ・フリートの兵士は一年戦争から実戦の経験を積んできたジオン兵士であり、一年戦争で三ヶ月前後の戦闘経験を積んでほとんどの者が訓練止まりの連邦兵士とは違う。とは言っても中には上手い・下手な者が居る。全体的に操縦技術を向上させる為カリウスを教官として訓練をしている。鏡士郎とガトーはたまにその訓練に付き合っている。

 

 「そういえばそろそろアクシズに着くんだったよね?」

 「はい。そのように聞いてはいますが…」

 「楽しみだなぁ…早く合いたいな」

 

 鏡士郎はアクシズに到着するのが待ち遠しくて仕方がなかった。アクシズには提督のマハラジャ・カーンにのちのアクシズを率いるハマーン・カーン、ドズル・ザビ中将のご息女であるミネバ・ラオ・ザビ様。そしてジオンのエースパイロットで『赤い彗星』の名を持つシャア・アズナブル大佐。合って見たい人がこれだけ居るのだ。

 鼻歌を歌いつつ格納庫へと急ぐ。ちなみに曲は『サイレント・ヴォイス』である。

 格納庫ではすでにガトー少佐を始め何人かのパイロットが待機していた。

 

 「遅いぞカトウ少佐!!」

 「ひぃっ!すみません」

 「すぐに始められるか?」

 「勿論ですよ」

 

 そう言ってヅダに乗り込む。コンソールを操作してシミュレーションを作動させる。

 これから行うのは最終訓練として行なう手加減無しの戦闘訓練である。ただモビルスーツを宇宙空間で戦わせるのは時間がかかり、アクシズへの到着が遅れてしまうためにモビルスーツ同士のシミュレーション映像を繋げる事で行なう。

 データ化された機体を選び操縦桿を握り締める。モニターの景色が格納庫から宇宙空間へと変わる。

 辺りには広い宇宙空間以外にはデブリが少し見えるぐらいである。いや、青く塗られたゲルググが見える。

 

 「ガトー少佐!」

 

 名を呼ぶと機体を寄せる。気付いたようにモノアイがこちらをちらりと見た。

 

 「やはりカトウ少佐はその機体を選んだか」

 「何処か変でしたか?」

 「いや、らしいなと思っただけだ」

 「ふふーん♪お気に入りですからね」

 

 嬉しそうに笑う鏡士郎の機体はヅダであった。

 このデータのヅダは元々無かったのだが無理を言ってプログラムしてもらったのだ。と言っても改造してあるヅダではなく、そのヅダに入っていたヅダの基本データを基にしてあるから通常の機体の数値である。

 下手をすれば空中分解も起きるんだけど実機なら兎も角、ヅダ以外の選択肢は無かった。

 

 《模擬戦を開始します》

 

 モニターに文字とスピーカーからの音声で模擬戦が始まった事を知らされる。

 速度を合わせて周辺索敵を開始する。模擬戦の相手は15機。2対15では数は圧倒的に負けている。ならば腕で押し返すのみだ。

 『上から来ます』

 脳内で声がした気がした。慌てて回避行動を取ろうとすると少し遅れてゲルググも回避行動に入る。二人の間を大型のバズーカの弾が通過した。大きさからしてジャイアント・バズーカの弾だろう。

 思ったとおり二機のリック・ドムⅡが頭上から迫ってくる。しかし当てようとする訳ではなくヅダとゲルググをバラバラにしようとしている。

 

 「援護します」

 「では行くか!!」

 

 対艦ライフルを構えると何の疑いも無く二機へと突っ込んでゆく。二機のドムは二手に分かれてゲルググを挟み撃ちにするつもりだろう。

 

 「まず一機!!」

 

 放った弾丸は吸い込まれるようにコクピットを打ち抜く。爆発が起こったが目もくれずにもう一機にビームを叩き込み二機があっという間に落ちた。

 コクピットの外からこの模擬戦の映像を見ている兵士達の歓声が上がったのが分かった。

 

 「にゃはは♪さっすがソロモンの悪夢ですね」

 「それを言うならばカトウ少佐もではないか」

 「ニヒヒ、それほどで『左から』もっと!!」

 

 モニターで確認するよりも早くペダルを踏み、その場を離れる。と同時に弾幕の嵐が通り過ぎた。

 ザクⅡが一機、ゲルググが二機迫ってきていた。対艦ライフルを構えずにとりあえず回避に専念する。

 

 「こっちに三機来ました」

 「そっちもか!?こちらも三機だな」

 

 モニターにはリック・ドムⅡ3機に追われるゲルググが見えた。

 彼らの作戦に嵌ってしまったらしい。しかし回避に専念したヅダには当たらなかった。でたらめのような回避は先読みしたかのように弾丸から避けて進む。三機が逃すまいと追いかける。

 

 「付いて来たな。では反撃開始と行きますか!!」

 

 進む方向へと対艦ライフルを構えたヅダはあまりにも無防備だった。だからこそザクのパイロットは気付いたのだろう。

 

 「もらった!!」

 「散開!!」

 「なにを?うわー!!」 

 

 ヅダに標準を合わせていたゲルググが爆発した。攻撃したのはヅダではなくこちらに向かって来ていたガトー少佐のゲルググだった。同じようにガトー少佐を追い回していたリック・ドムⅡを弾丸が次々と打ち抜いていた。そんな光景を見ているうちにヅダを追撃していたもう一機のゲルググが撃墜された。

 

 「馬鹿者共目!!言わんこっちゃない。あの少佐方は俺達が想像していたよりも強いんだ。その事を理解せずに突っ込みやがって…」

 

 追撃していた合計4機がやられた瞬間にザクⅡは残りの仲間と合流する為に逃げ出した。

 

 「もう一機は任せます!ザクは僕が」

 「あい分かった」

 

 ザクに狙いを定める。すでに射撃範囲ギリギリであったが焦りは無い。何故ならば…

 

 「ここは・・・俺の距離だ!」

 

 何も根拠は無かった。多分台詞も言いたかっただけなのだろう。しかしその弾は逸れることなくザクを貫いた。

 軽く息を吐き出した頃にはビームナギナタで残りの一機も仕留めた後だった。これで残りは7機。一番手ごわそうな人も残っている。

 案の定デブリ帯より隠れていたザク・ドム・ゲルググを含んだ7機が現れた。その内、リック・ドムⅡが前に出てきた。

 

 「やはりお二人には小細工は通用しませんか」

 

 声しか入らないが向こう側で苦笑いをしているカリウス軍曹の顔が思い浮かぶ。

 

 「ふっ。二機で撹乱して六機で各個撃破。もしくはデブリ帯に誘い込んで集中砲火と言った所か」

 「ええ、作戦ではそうでしたがこうも簡単に壊されるとは思いませんでした。ですので…」

 「正面からと言う訳か?」

 「小細工が通用しないなら正面より挑ませてもらいます!!」

 「良いだろう。カトウ少佐」

 「カリウス兄は任せました。残りの六機はこっちで?」

 「4機は任せた」

 「了解しました!」

 「全機散開!!」

 

 バラバラに散らばり四方八方から攻撃してくるモビルスーツを相手にこちらも反撃する。さっきは一対一の状況や互いに相手を奇襲する事で隙が出来ていた為に簡単に勝てる事が出来たが今の彼らは隙も無く、全身全霊を持って挑んでくる。さすがのガトー少佐も鏡士郎も手強い部下達に手を焼いている。それでも二人は他者を圧倒して行く。

 中距離過ぎて使い辛い対艦ライフルを迷う事無く投げ捨てて、シールドに取り付けられたシュツルムファウストを放って近くに居たゲルググを巻き込み爆発する。足に取り付けられていたヒートホークを握ると身体を軸にしてドムⅡのコクピット目掛け投げつける。最後に二機の弾幕を右に左へと回避行動を取り、シールドに備えられている打突用のピックを展開しながら突撃をかける。

 弾幕を回避して接近するヅダに対してマシンガンを投げ捨てヒートホークを手に取ろうとしたがすでに懐まで接近されてしまい打突用のピックがコクピットへ――――突き刺さらなかった。それどころか動きが完全に止まったのだ。マシントラブルかと周りが思い始めた頃に一言だけ呟いた。

 

 「何かが来る…」

 

 艦内に警報が鳴り響いた…

 

 

 

 鏡士郎が搭乗している『アルト・ハイデルベルク』の艦橋では大騒ぎになっていた。

 今日も今日とてアクシズへと誘導してくれるムサイ級に続いて進路を取っていた。あと一週間以内にはアクシズ入り出来ると予想され、ここまで地球圏から離れれば連邦軍に襲われる心配も無いと多少ながら油断していた。

 艦長であるエイワン・ベリーニ大尉はモニターを睨みつつ怒号を上げていた。 

 

 「索敵班何をしていた!!」

 「す、すみません。ミノフスキー粒子の影響で…」

 「いい訳はいらない!照合まだか!?」

 「現在最大望遠ですが距離が…あと30秒お待ちください」

 「待てるかっ!!モビルスーツ隊にスクランブル!発進準備急がせろ!!」

 

 苦虫を潰したような顔で大型モニターを睨み付ける。確かに戦艦が居るらしき所はミノフスキー粒子が濃く、レーダーによる発見は無理だっただろう。ならばこそ熱源探知や目視での索敵、艦長に進言するなりすべきだ。今回発見できたのは向こうが移動中だった為にメイン・ノズルの噴射により発せられた光を偶然捉えることが出来て発見できたのだ。これが移動中ではなく待ち伏せだったらと思うとゾッとする。

 

 「全艦第一種戦闘態勢!!」

 「艦長!カトウ副隊長が攻撃するなと」

 「攻撃するな?どういう事だ」

 「いえ、そこまでは…!?アンノウン艦より通信!これはジオンの通信コードです!!」

 「ジオンのだと!?」

 「映像解析終了しました。アンノウン艦は『グワンバン級大型戦艦グワンザン』です!!」 

 「そのグワンザンより『我々アクシズは諸君らを歓迎す』との事です」

 「そうか…ハハ…そうか!第一種戦闘態勢解除。モビルスーツ隊の発進もだ」

 

 新たな命令をオペレーターが伝える中、エイワン大尉は艦橋のガラス越しにグワンザンが居るであろう宙域を見つめる。

 

 「やっとここまで来たんだな…」

 

 この二時間後、ムサイ級後期型軽巡洋艦『アルト・ハイデルベルク』を始めとしたデラーズ・フリート残存部隊はグワンザンと複数のムサイ級に守られるようにアクシズに入港したのであった。




 フラナガン機関のデータとモビルスーツ、そして独自の設計図を持ってアクシズへと合流を果たした鏡士郎達デラーズ・フリート残存兵力を待ち受けていたものとは!?

 次回『小惑星アクシズ』
 『暑っ苦しいなぁ…ここ。出られないのかな?おーい、出して下さいよ。ねえ』

 
 ではまたお会いしましょう。


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第06話 『小惑星アクシズに辿り着いたんですけど…』

ぎりぎり週内投稿できたー!!



 小惑星アクシズ

 アステロイドに位置する小惑星でソロモン(現在コンペイトウ)やア・バウア・クー(現在ゼダンの門)を地球圏へと送り出す中継基地として使われていた。今は一年戦争で敗北したジオン兵の多くがこのアクシズに集まっており、ジオンの最大勢力となっていた。

 そんなアクシズに加藤 鏡士郎を含んだデラーズ・フリート残存部隊が合流したのだ。ここからが大変だった。

 到着するとまずどの部隊に所属していたかを聞かれ、アクシズにあるデータの中から参照する。

 調べたい事があるとの事でシミュレータを使った試験を受けた。途中、機械の故障と言う事で4回も乗り換えた。

 ヅダのデータを取りたいとの事で『壊さないなら』との条件で書類にサインした。

 知っているジオンの将校から一般兵まで書いてくれと言われたから思い出せる名前を全部書いたら1枚じゃ足りなかった。

 他にもいろいろテストのような物をいっぱいして疲れましたよ。でも全部ガンダム関係の事だったから飽きることはなかった。

 ・・・・・・・・・そして閉じ込められました。

 ジオン軍服のおじさんに連れられてこの殺風景な部屋に早三日。何も言われぬままここに閉じ込められたままなのだ。

 何度目になるか覚えてないが部屋を見渡す。執務室にあるような立派な机。隣の部屋にはベッドとシャワー室がある。暇をつぶせるような物は…無い。

 ムゥと唸りながら机に突っ伏す。

 

 「何か悪い事でもしてしまったのだろかな?」

 

 思い当たる節はある。あの『総帥直属特務試験化部隊所属キョウシロウ・カトウ少佐』って書いた身分証明書だろうな。らしくしたけどあれは趣味で作った物。本当にどうしよう…

 でも拷問や事情聴取する気配はない。ついでに言うと食事は毎日三食とちゃんと出ている。

 のそのそとドアの前に立ち大きく息を吸う。

 

 「暑っ苦しいなぁ…ここ。出られないのかな?おーい、出して下さいよ。ねえ」

 

 ドアの向こうからは何の返答も無かった。食事を持ってきてくれるとき以外は人の気配がないのだ。

 

 「はにゃ~…カミーユの台詞も駄目かぁ」

 

 眉間に指を当てながら考え事をしていると人の気配を感じた。感じたと言ってもドアの前ではない。もっと離れた場所である。なぜそんな事が分かるのか?鏡士郎事態分かってないというか気がする程度の物である。

 でもこれで暇をつぶせる。その人がここに来るように誘導する。っと言っても遊びなのだ。いつもはすぐに気配が消えるのだが今日は消えずに指示に従って動いている。気のせい…なのだろうか?

 とりあえずここまで誘導してみたのだがなんだろうかこの感覚は本当にドアの向こうに誰か居るような気が…

 

 「貴様か私を呼んだのは?」

 「はにゃ!!」

 

 凛とした声が部屋の中へと響く。まさか本当に誰かが来るとは思って無かっただけに本気で驚いている。

 僕にも『ララァ・スン』のようにニュータイプの力があったのか!?いや!偶然と考えよう。うん。その方が良いと思うし…

 …何を思っているんだろうかこの少年は。自分がヅダに付いていたファンネルを脳波コントロールで使用した事をすっかり忘れてやがる。

 

 「もう一度聞くぞ。貴様が私を呼んだのか?」

 「は、はい」

 

 とりあえず返事を返す。相手が誰なのか理解せぬままに…

 

 

 

 部屋の大半を大きな楕円形の机が占めている会議室にてジオンの高官らしき人物達が席につき何かを待っている。この場にはジオンの高官だけではなく白衣を着た老人も席についている。

 扉の前で待機していた兵士が同時に扉を開いた。会議室へと入ってきたのは20にも満たない少女であった。少女は待っていた相手に目もくれずに上座に座った。容姿にはまだ少女らしさを残してはいたが雰囲気に表情は大人びていた。

 この少女こそミネバ・ラオ・ザビの摂政であり、アクシズを率いているハマーン・カーンである。

 

 「さて報告を聞こうか」

 

 冷たくも凛とした声にその場に居た者達が反応した。一人の高官が立ち上がり、一礼してから自分が持っている資料を見つめながら口を開いた。

 

 「まずは彼の所属していた部隊の事ですが調べたところ『総帥直属特務試験化部隊』などと言うものは存在いたしません」

 「…ではあの証明書は偽者なのか?」

 「それがそうとも言えません。あの書類にはギレン閣下のサインもありました。アレを偽装だと早々に判断することは出来ません」

 「しかし存在しなかったのだろう」

 「…言葉が足りませんでした。『我々が所持している情報には存在しなかった』というのが正しいです」

 

 ふぅむと口に手を当てて考える仕草をするハマーンに皆の視線が集まる。すると立ち上がった高官以外の者が口を開いた。

 

 「そのカトウ少佐の件なのですがデラーズ・フリートよりこちらに入った者達は閉じ込めている事に異議を唱えております」

 「主に誰がだ?」

 「主立っているのはアナベル・ガトー中佐であります」

 

 ソロモンの悪夢で知られたガトーの名を聞いて場がざわめいた。ここアクシズには多くの兵士達が集まっており名の知れたエースパイロットは彼らにとってスーパースター以上の存在である。その発言力も知名度に連れて高くなる。

 皆様お気づきになられたでしょうか?本来アナベル・ガトーは少佐である。ここアクシズに来て星の屑などの功績を鑑みて階級を少佐から中佐へと上げたのだ。

 階級・知名度共に高いガトーに異議を唱えられるのは良い状況ではない。彼を支持しているのは同じくデラーズ・フリートにて戦場を駆けたベテランパイロット。もし彼らに抗争など起こされてはアクシズがまた二分されるかもしれない。それは避ける為に早期に決着せねばと思考する。

 

 「総帥直属とは二階級上なので大佐。そのような方をずっと閉じ込めると言うのは…」

 「それは総督府の者達の話では?それにあの身分証明書自体が怪しいではないか」

 「しかしガトー中佐が動いている事を無視することは出来まいよ」 

 「次の報告を」

 

 話し合いが始まっていたがハマーンの一言で周りが黙った。続いて次の者が立ち上がる。

 

 「ハッ!次にカトウ少佐が乗っていたヅダですがあれはとんでもない物です」

 「抽象的に言われても分からん。具体的に述べよ」

 「外見はツィマッド社で製造されたヅダですが中身は別物です。性能は既存のMSを寄せ付けることは無く、たった一機で艦隊を相手にすることも可能でしょう」

 「誇張しすぎではないか?」

 「誇張するならばあの一機さえあればジャブローは落とせていたでしょう」

 「それほどの物か…ならば徹底的に調べ上げ量産せよ」

 「その事なのですが…不可能なんです」

 「どういうことか?部品が足りないのか?」

 「いえ、技術的に無理なのであります。理論は理解してもどうやって作ったのか分からないのであります。それにあの機体を操るとなると普通の人では無理です。速度を出すだけでも身体が持たないでしょう」

 

 早期に決着を、と思ったらコレだ。いったい何者なのだカトウという者は…ここで疑問が過ぎった。

 『身体が持たない』

 ならばあの者はなぜ身体に異常が無いのだ?考えられる事は二つ。ひとつは測定の仕方に誤りがあるか、何かしらのトラブルで間違った数値を測定した。もうひとつは強化人間である。

 人体を弄くり常人とは比べ物にはならない身体能力、もしくは強制的にニュータイプと変貌させる事もある。デメリットも多くあるが…

 

 「そういえばフラナガン機関にも詳しかったと言っていたな?」

 「はい。知っているジオン関係者を書き出してもらった中にはフラナガン機関関係者も居ました」

 

 名簿には目を通した。『赤い彗星』や『青い巨星』などの有名パイロットやザビ家のように誰でも知っている者から『バーナード・ワイズマン』や『ジーン』などの兵士の名も書かれていた。中には極秘作戦に参加させられていた者も…。しかも何処で亡くなったとか何処で活躍したなど細部渡り書き込まれていた。

 その名の数々をすべて調べさせたが一名を除き一致した。

 『クスコ・アル』。ニュータイプ能力では『ララァ・スン』を超えると記されていたがそのような者は確認が取れなかった。フラナガン機関が秘密裏にしていたなら話は別だが。だからこそ奴がフラナガン機関出身者ではないかと思えたのである。

 ハマーンの考えを理解したのか白衣の老人が立ち上がる。

 

 「どうしたマガニー」

 

 マガニーと呼ばれた老人はアクシズでニュータイプ部隊の研究員である。フラナガン機関に属していたと言う経歴を持つ。

 

 「彼、キョウシロウ・カトウ少佐は強化人間ではありませんよ」

 

 それだけ言うと資料を取り出し、兵士を介してハマーンへと渡す。資料は鏡士郎を調べた結果が詳細に書き込まれていた。その資料に目を通したハマーンは眉間にしわを寄せた。資料の内容に対してではなく、この資料を見たことにより昔にフラナガン機関で調べられた過去を思い出したのだ。それは決して良い思い出ではなく嫌悪感を今でも抱くに値するものだった。

 マガニーはそんなハマーンの心情には気付かず調べた成果を話し始めた。

 

 「確かに身体能力は常人よりも優れた物でした。あのヅダを操縦する為に生まれてきたと言っても過言ではないほどに。されど彼の身体には強化手術を受けた痕跡はありませんでした」

 「…見逃した可能性は?」

 「絶対に無いと断言できます。これ以上調べるとなると一度開かなくてはいけませんが…」 

 「開くのはしなくてよい。ニュータイプ能力はどれ程だ?」

 「被検体02以上の能力値だと予測されます」

 「予測、と言ったのか?」

 「はい。測定数値が上限を突破した為に測定できなかったのです」

 「そうか…」

 

 これ以上会議を続けても進展は出ないだろう。とりあえず調査の命令を続けるように命令を下して会議を終了させる。

 警護の兵士が二人追従する中で鏡士郎の事を考えながら歩き続ける。このままにしておくか、それとも早くいち兵士として組み入れるか…どちらにしても不安要素は残る。むしろ危険であるか…

 

 『そこを左に曲がって』

 

 声が聞こえた。振り返り兵士に向き直る。

 

 「何か言ったか?」

 「いえ、何も言ってませんが…どうかなさいましたか?」

 「なんでもない。気にするな」

 

 気のせいだろう。最近いらん悩みの種が増えたせいで疲れたのだろう。そう思い込み止めた足を進める。

 

 『左に曲がって』

 

 また聞こえた。どうやら耳にではなく脳に直接伝わってくるようだ。気になりその指示に従う。予定のルートと違う事に気付いた兵士達であったが何一つ言わずに追従する。

 

 『そのまま真っ直ぐ』

 『ここで右に曲がって次の角を左へ』

 『左に…あ!ごめんなさい。右でした…』

 

 どうも不安が残る誘導であったがちゃん辿り着いた。そこは鏡士郎が居る部屋である。兵士達には誰も来ないように通路の角で待機させた。

 

 「貴様か私を呼んだのは?」

 「はにゃ!!」

 

 …はにゃ?今、そう言ったのか?

 呼んだのは鏡士郎だと判断していたハマーンだったが自分の判断が誤りだったかと考えたくなった。

 

 「もう一度聞くぞ。貴様が私を呼んだのか?」

 「は、はい」

 

 もう一度確認を取ると肯定が返ってきたので話を進める。

 

 「何用で私を呼んだのだ?」

 「えーと…頼みたい事がありまして…」

 「頼み?」

 「はい。僕の…アルト・ハイデルベルクで使用していた部屋に対複数戦を想定した機体の設計図があるんです。それをマハラジャ・カーン提督にお渡し頂けれませんか?」

 「…おt…提督は亡くなられた」

 

 お父様と言わずに提督と言ったのはハマーン自身理解していなかった。無意識に言ってしまったのだ。それに対して鏡士郎は驚いているのだろう。何か奇声を発している。

 

 「そうで…もしかしてハマーン様ですか!?」

 「――っ!!」

 

 今度はハマーンが驚かされた。名を名乗っていない上に扉はロックしたまま開けてないので姿も見られていない。なのに疑問系ではあるが声色は本人であると確信しているようだった。

 

 「ああ、私がハマーン・カーンだ」

 「おお!でしたらどうかあの機体をお役に立てて下さい。お願いします!!」

 「…それで貴様は何を望む?」

 「はにゃ?」

 「設計図を私に渡すことで貴様は何を望む?」

 

 興味が湧いた。ただそれだけの事だ。奴が何を望むのかでどんな人間なのか分かるだろう。

 悩んでいるのだろう。中から唸り声が聞こえてくる。しかしそれほど時間はかからなかった。

 

 「出来た機体をカリウス兄…じゃなかったカリウス軍曹かガトー少佐に乗ってもらって下さい」

 「…それで良いのか?普通は出してくれとか言うと思うが?」

 「はうあ!たしかに…でも二人とは約束したしなぁ。うん!乗ってもらう方向で」

 

 約束を優先して自分の事を忘れていたのか…余程の馬鹿なんだろう。だが面白い。気が付くと笑っていた。大声でないにしても笑っていた。笑ってしまうなど久しぶりだ。

 

 「キョウシロウ・カトウ少佐だったな?」

 「はい。そうですけど…」

 「明日、迎えを寄越す。その者と私の所まで来てもらう。異論はあるか?」

 「え!?直にハマーン様と会えるんですか!!行きます。異論なんてあるわけ無いじゃないですか」

 「ッフフ。そうか」

 

 ハマーンは笑っていた表情を隠し、いつもの凛とした表情に戻してその場から去って行った。




 自身のニュータイプ能力を理解せぬままにハマーン・カーンと扉越しに接触した鏡士郎はハマーン様の前に!

 次回『少女の悲しみと憎しみ』
 『生き延びるんなら、信じあわなきゃ』

 
 ではまたお会いしましょう。


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第07話 『少女の悲しみと憎しみ』

 遅くなって申し訳ない。
 次回は来週中に書こうと頑張ってます。


 アクシズの軍事区画であるはずの通路で鼻歌が響いている。

 それは銃火器を装備した兵士に監視されながらハマーン・カーンの執務室に向かっている加藤 鏡士郎からであった。

 鏡士郎はガンダムに登場する組織の中で何が好きか?と聞かれれば迷う事無くジオン軍と答える人間である。モビルスーツも戦艦も同様である。そのジオン軍の一つであるアクシズのハマーン・カーンは特に好きな人物である。

 ニュータイプとして上位に入る技量を持ち、戦闘に関してもかなりの力を持つ。カリスマ性も高く、多くの兵を従えている。そして美しい!!ほんとに綺麗で大人って感じがするのだ。シャアが頭を下げたときのドヤ顔なんてすごく可愛かった。

 そんなハマーンに直に会えるのだ。浮かれるのはしょうがないだろう。

 …と思うのだが浮かれ過ぎである。監視の兵達の視線が『変な動きをしたらどうしてやろうか』と威圧的だったのが『こいつ本当に大丈夫か?』と哀れんでいるような視線になっている。ちなみに鼻歌はシャアが来るって執務室に着く前に止める事を強くお勧めしたい。

 そんな兵士達の視線を感じてあまり自分が信用されてない事を知る。

 

 「生き延びるんなら、信じあわなきゃ(ぼそぼそ)」

 

 アマダ少尉の台詞をぼそぼそ呟く。まぁそれでも鼻歌は止めないが…

 なんだかんだ歩いているうちに執務室に着いた。執務室の扉付近で待機していた警備の兵士が鏡士郎が来た事を確認して二度ノックする。中より許可を得たのだろう。扉がゆっくりと開き鏡士郎だけが執務室内へ入って行く。執務で使う大きな机に大きなソファが向かい合って置いてあった。それ以外には豪華そうな飾りが少数置いてあった。

 

 「し、失礼いたひます!!」

 

 夢にまで見たハマーンを直に見て声が上ずっている。あと噛んだ。恥かしくて顔を真っ赤にしつつ敬礼する鏡士郎を一瞥しただけで別に何の反応も無かったのは救いであったろう。

 

 「かけろ」

 「はい」

 

 指示された通りに向かい合うソファに腰を下ろした。

 

 「今日ここに来てもらったのは貴様に2、3聞きたい事があるからだ」

 「はぁ…」

 

 何を聞きたいのか分からない為、生返事で返してしまった。それを咎めること無かったがずっと向けられている視線が痛い。とこれは発言に対してではなくただ単に観察しているだけである。

 ハァ…とため息を付いて資料を出す。

 

 「あの機体の事だが何処でメンテナンスを行なっていた?もしくは誰がメンテナンスをしていた?」

 「へ?メンテ?いらないですよ」

 「はぁ?」

 「ひえぇ…」

 

 顔が歪んだ。表情から驚きではなく哀れみに近い。

 

 「メンテナンス無しで動いたと?」

 「(コクコク)あのヅダは弾薬も耐久値もスラスター燃料も秒単位で回復しますから…」

 

 表情が変わった事で青ざめた鏡士郎は連続で頷きつつ答える。ハマーンはその答えではすぐには納得できなかった。現代の技術力を超えた兵器でもメンテナンス無しに動くものなど無い。ある場所は埃が積もり、ある場所は錆び、ある場所は老朽化するものである。それを不要な物などこの世にあるはずが無く、有ってはならないのだ。なのにいらない?秒単位で回復?ありえない。だが納得もしてしまう。デラーズ・フリート残存兵力からの報告では使ったはずの弾薬が知らない内に補填されていたり、戦艦を貫いたロケットアンカーに付いた傷も瞬間的に直っていたと言う。

 

 「ではアレの開発者は?」 

 「えー…あー…居ません」

 「連邦に捕まったのか?」

 「いえそういう訳では…」

 

 この世界には居ない科学者達をどういったら良いんだろうかと思い言葉を濁して答えたのだが機密漏えいを恐れて処理されたのかと一人納得された事を知らない。

 この時点でもうあの機体の量産もしくは応用した機体の生産は諦めた。ならばと目の色を変える。

 

 「貴様はミネバ様の為に戦うと誓うか?」

 「誓います!!」

 

 即答だった。素性もはっきりと分からない為にいろいろ説得する案を複数考えていたんだが不要になった。信用はしていないが。逆にこうもあっさりと答えられた事で信用は低くなった。少しでも素性が理解できていたら納得できる事もあったのかも知れないが…

 

 「あ!少しお願いがあるのですが…」

 「願いだと?」

 

 願いか…これで少しはどのような者かが分かるか。多少視線を強くして観察する。

 

 「そのぉ…聞いてもらえれれば…ありがたいなぁ…なんて」

 「良いだろう。言ってみるが良い」

 「はい!ぜひ他のMSにも乗せて貰えませんか!!」

 

 なに?

 もはや声も出なかった。あれだけの別次元の機体に乗っておいて他の機体に乗せろ?何か思惑があるんだろうか?

 

 「特にガザ…はまだなかった。リック・ドムやゲルググ…あとドラッツェも乗りたいです!!」

 「あ、ああ…良いだろう」

 「本当ですか!?ありがとうございますハマーン様!!」 

 

 嬉しさのあまりに前に乗り出した鏡士郎は手を取って喜びを表す。突然のことで反応も出来ず手を振られるままになったが興奮した鏡士郎が冷静になったことで振られることは止んだ。

 慌てながら恥かしそうな表情をして飛び退いた。

 

 「はにゃ///すすすすす、すみませんでしたぁ!!」

 

 前にも聞いたがあの『はにゃ』と言うのは何だろう。大きくため息を付き目の前の少年を見据える。頭の中で決まった。この少年は馬鹿なのだろう。別に何かを企てたり、先を考えて行動していないのだろう。警戒するのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。

 

 「かまわん。それに先程の件だが機会があったら許可しよう」

 「はい、ありがとうございます!!」

 

 本当に嬉しそうに礼を言う。少し頬が緩むとそのまま用意させた彼の部屋に行かせようと思ったがひとつ気になった事がある。

 

 「貴様は他人の心を見たことはあるか?」

 「心を見る?心理的な?」

 「いや、そうではない。相手の心の風景を見たことはあるのかと言うことだ」

 「う~ん…ないですけど出来るんでしょうか?」

 「話によれば私よりもニュータイプ力は高いという結果が出ている」

 「…え?え?え!?僕、ニュータイプなんですか?」

 

 頭が痛くなる感じを感じた。こいつはフラナガン機関関係者ではないのか?自分が受けた時の事を思い出して苛立ちながら再びため息を付こうとしたら異変に気付いた。

 なんとも言えない表情で固まったまま動かないのだ…

 

 

 

 自分がニュータイプと聞いて冷めた興奮が熱を持って来た。

 『相手の心の風景を見たことはあるのか』

 意味が分かった。ニュータイプ同士の共感みたいなものだろう。もしくはあの不思議空間。出来るのなら少し体験してみたいと思って意識を集中した。期待の混じった行為だったのだが実際に何かが見えてきた。

 眩しい…

 いきなりライトを当てられている映像が脳内に流れてきた。そこには15歳ほどの女の子がほとんど下着姿で台の上に固定され白衣を着た研究者に囲まれていた。身体にはいくつものコードが延びてそれぞれのモニターに接続されていた。

 研究者はやらしい視線は一切無く。ただ単に目の前の対象の観察と数値の確認に徹していた。

 凄まじい嫌悪感が襲って来た。これは自分が感じたものではなくあそこの彼女が感じている物だろう。

 嫌悪感で身体の隅々まで包まれると映像が変わった。そして映像は次々と変わっていく。まるで走馬灯のように…

 アクシズに帰還した少女の心は死に掛け、それを心配する父親。

 自分を本当に心配して心の底から信頼の置ける女性との出会い。

 憧れを持っていたシャア・アズナブルとの出会い。

 少女の心を満たしていく彼に対する恋心。

 初めての実戦に死の恐怖。

 小さな子供としか扱ってくれなかったシャアとは違い、優しく接してくれる男との出会い。

 優しく接した彼によるレイプ未遂。

 最愛の父の死亡…

 心の底から信じていた女性が自分が恋していたシャアとの子を授かったと言う事実。

 自分の行動によっての彼女の死。

 自分を…アクシズを捨てるように去って行ったシャア…

 負の気持ちが心を塗り潰していく…

 

 「おい!鏡士郎少佐!!」

 「はにゃ…」

 

 声をかけられてはっとした鏡士郎は視界がぼやけていることに気が付いた。

 

 「お前は何故泣いているのだ…」

 

 そういわれて自分が泣いている事を理解した。止めようとしても止まらない。崩れ落ちるように床に腰を付ける。

 

 「ひぐっ…貴方が泣かないから僕が泣くしかないじゃないですか…」

 「まさか貴様…私の心を!?」

 「うぐ…ふにゃあああああああ」

 

 押さえることが出来ずに本気で泣き出すと部屋の外で待機していた兵士が何事かと中に入って来た。ないてる鏡士郎を見て困惑したがハマーンが退室を命じると短く返事をして部屋の外へと戻って行った。

 困ったような表情をしたハマーンは泣き止むまで鏡士郎を見続けた…

 その後、泣き止んだ鏡士郎はいきなり地球行きの許可を取ろうとした。理由は『シャア大佐を殴りつけてきます!!』とのことだったのでそのまま兵士に取り押さえられたと言う…




 アクシズの一員となった鏡士郎であったが彼のことをよく思わない者達が動く…

 次回『鏡士郎vsアクシズのパイロット達』
 『当たらなければどうという事は無い』

 
 ではまたお会いしましょう。


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第08話 『鏡士郎vsアクシズのパイロット達』

一週間で一話って言ってましたがいつの間にか二週間になりつつある現状について


 ハマーン様の謁見から一週間が経ちアクシズに迎え入れられた鏡士郎は嬉しそうに通路をスキップしていた。

 最近の出来事で注目すべき点は二つある。

 一つ目は彼の階級である。現在は『元総帥直属特務試験化部隊所属少佐』でも『デラーズ・フリート残存戦力副隊長』でも無くなり『大佐』となっているのだ。これは彼の武勲ではなく総帥直属と言う所が大きい。一年戦争時にあった総督府の者は二階級上の扱いであり彼もそうなのだとアクシズ上層部で意見が出て大佐にしたのだ。

 二つ目は彼に副官が付いたことだ。名をイリア・パゾムと言って腕の良いモビルスーツパイロットである。これが今スキップしてまで喜んでいる原因なのだ。『機動戦士ZZガンダム』でゲルググの改修機であるリゲルグでZZガンダムとも互角以上に渡り合ったパイロットで副官などではなくエースとして扱われるのが普通である。そんな原作キャラの彼女が自分の副官と言う事ではしゃいでいるのだ。彼女の視線など気にも留めず…

 鏡士郎に視線を向けているのは彼女だけではない。デラーズフリート救出時の話が広がっており興味や尊敬の視線を向ける者もいるが多くの者が嫉妬や疑いを持ったものである。

 

 「嬉しそうですね」

 「うん。すっごい嬉しいよ♪」

 

 ニッコリと笑う鏡士郎に対しため息を付くイリアはただ付いて行く。

 

 「あ!そう言えばさぁ。イリアちゃんって軍服着ないの?」

 「何か問題でも?」

 「う~ん…無いかな」

 

 本人が良いんだから良いんだろうけどイリアの服装は良い意味でも悪い意味でも目を引いてしまうのだ。上は黒い服を着ているのだが胸より上しか面積が無く、その上で鎖骨の辺りが開いており十字架のネックレスをかけている。ピンク色の上着を着ているものの背中の真ん中より少し上ぐらいから下が無いのだ。下なんて超が付くほどミニスカに白ブーツ、しかもミニスカからは二本の黒い紐が腰の辺りで支えている。どう見てもぜかましだよねって言いたくなる。さすがの鏡士郎でも『軍内でへそだしファッションって良いの!?』って突っ込みそうになったぐらいだ。

 それにしても健康そうな褐色の肌に薄紫の髪と瞳、そして大胆すぎる露出高めのファッション…ついつい見てしまうんだよねー。

 

 「…何か?」

 「はにゃ!?にゃ…何でもないです」

 

 視線に気付いたイリアの刺す様な視線に対して肩を震わして怯えるのであった。

 《加藤 鏡士郎》階級:大佐に対して《イリア・パゾム》階級:少尉…

 《加藤 鏡士郎》年齢:15才に対して《イリア・パゾム》年齢:13才…

 二才差と言えど年上の威厳なしの上に階級社会である軍にて下に見られる。

 まぁ、原因はこの馬k…鏡士郎にあったのだが…

 しょげたままだが歩幅は変えずにモビルスーツデッキへと進む。がその前に立っていた士官が下卑た笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。

 

 「カトウ大佐ですよね。少し時間良いですかね?」

 「ほえ?」

 

 男の思惑などまったくと言って良いほど気付いてない鏡士郎は警戒心皆無で話を聞くことに…

 

 

 

 イリア・パゾムは大きなため息を付いた。何で自分はこんなのの副官をしているのだろうか?簡単だ。ハマーン様の命だからだ。信用は出来ても信頼できてない鏡士郎の監視。それが命じられた内容だ。その重要性などは理解しているのだが…本当に必要なのか疑問視してしまう。

 数日前、ハマーン様は謁見の間にてアクシズ上層部のお歴々が並ぶ中、新たな階級章を授与された時に「少佐から大佐ですか!?僕まだ死んでませんよ」なんて言い出す始末…

 私が副官になった時には「イリアさんが副官ですか!?イヤッホオオオウ」と突然叫びだし、歳も近いからとちゃん付けしてくるし、気楽に呼んでくるし…

 はぁ…再びため息を付く。

 今も「モビルスーツが見てみたい!!」と言ってモビルスーツ格納庫へと向かっているのだ。道中にスキップしたり服装の話をしたり最後には「はにゃ」ときた。ハマーン様も言っていたがあれは何なのだろう。

 そんな事を思っている中に鏡士郎がある男と話していた。相手を下卑た笑みを浮かべた30歳前後の男は多分『反対派』の者なのだろう。

 鏡士郎については彼をアクシズの兵士と認めるか認めないかで賛成派と反対派と言うのが出来たのだ。賛成派にはガトー中佐をはじめとする『デラーズ・フリート残党部隊』に最近になって認めたハマーン様、そしてNT研究関係の者達だ。反対派は上層部の大多数を秘めていたがハマーン様が賛成派に入ったことでかなり勢力は落ちたがそれでもあの男のようにまだ諦め切れてない連中も居る。

 

 「模擬戦ですか?」

 「ああ、そうさ。どうだい?やるだろ大佐殿?」

 

 相手を挑発するように言うがまったく気にしてない。と言うか乗り気満々なのだが…

 苛立ちを見せながらも二人でモビルスーツ格納庫へと向かって行く。止める気はないが副官と言う役職柄ついては行かなければならないだろう。

 

 「で、ルールはどうするの?」

 「そうだなぁ…あのデブリ辺りでの戦闘なんてどうだ?もちろんペイント弾だがな」

 「ならやろう!今すぐやろう!!」

 「何をしているお前達」

 

 ノーマルスーツも着ずに宇宙空間に飛び出しそうな鏡士郎に声をかけたのはイリアよりも褐色の色が濃く、ガタイの良い男だった。見覚えはあった。男の名は『ラカン・ダカラン』階級は中尉。一年戦争を生き延びた実力派のパイロットである。噂ではソロモン撤退時にはヒート・サーベル一本で切り抜けたとか…

 睨み付けるように見ていたが相手が分かるとすかさず姿勢を正して敬礼をする。

 

 「これはカトウ大佐でありましたか!!」

 「え?え!?えー!!もしかしてラカン・ダカランさんですか」

 「は?ハッ!そうであります。自分はラカン・ダカラン中尉であります」

 「始めましてお会いできて光栄ですよ♪」

 「は…はぁ」

 

 食い付く様に話しかけてくる為に若干引きつつ上官に対しての態度は崩さない。と言ってもその態度には尊敬などの感情は含まれておらず形式的なものだが。

 

 「それで大佐は何をなさっていたのですか?」

 「これから彼と模擬戦をする話になってね」

 「模擬戦ですか…」

 

 軽く睨みを効かされた男はばつが悪そうな顔をする。これは何かがあるというのは誰の目にも分かる。がそれと咎める気もなかった。ラカンとしても新しく大佐として入った鏡士郎の実力が知りたいと言う気持ちがあった。

 多少であるが心配になって来たイリアを余所におもむろに携帯電話を取り出しどこかにかけ始めた。

 

 「もしもしハマーン姉?あ!待って、切らないで!!」

 

 本当にこの人は何をしているのだろうか。年齢的に二才差と近いが相手はアクシズを率いているハマーン・カーン様。対してこの男はまるで友人に接するように…

 模擬戦の話をしているらしいが内容は聞こえないから待つしかないのだが徐々に頭痛が頭痛がしてきた気がするのだが…

 電話を切った鏡士郎は笑顔で「許可出たよ~♪」と対戦相手となる男に手を振るう。

 

 「じゃあ、機体を選んでくれ」

 「選ぶ?僕のヅダは?」

 「まさか大佐殿は自分専用の機体じゃないと戦えないと?」

 

 一々相手を挑発するように言ってはいるがそろそろその相手に効いてない事に気付けば良いのに。

 目をキラキラさせ辺りの機体を見て周りある機体の前で足を止める。

 

 「これにします」

 「これって…おいおいマジかよ?」

 「マジですよ。大マジですよ」

 「あー…俺はゲルググで行くけど良いよな?」

 「もちろん。はぁ~♪早く乗りたいな」

 

 今にもスキップしそうな勢いでその場にあった解体前のMS-05『ザクⅠ』に駆け寄っていった…

 

 

 

 コクピットで各部異常が無いかチェックする鏡士郎は外より覗き込む二人に気が付いた。

 

 「どうしたの?」

 「いえ…本当に良いのですか?相手はゲルググ。で、こっちは解体前のオンボロですよ」

 「何か理由が大佐にはあったのですか?それとパイロットスーツを着た方が良いかと」

 「だって乗ったこと無かったしね」

 「「はぁ?」」

 「リック・ドムⅡやザクⅡにはアクシズに来る前に乗って来たし、だったらザクⅠにも乗らなくちゃ♪ああ、パイロットスーツは着ないんじゃなくて着れないの。まだ僕専用のがって何してるの?」

 「いえ…少し頭痛が…」

 「右に同じく…」

 

 答えに対して本気で頭が痛くなってきた二人を心配しつつチェックを済ます。

 

 「さてと、動くから避けて貰えるかな?」

 

 ため息を付きながら離れた二人に首をかしげながらザクⅠを移動させていく。

 

 「少し重いかな?…阿頼耶識が使えないから情報少ないなぁ…ま、何とかなるでしょ。キョウシロウ・カトウ大佐、ザクⅠ出るぞ!!」

 

 カタパルトで発生したGを身体で感じながら久しぶりの宇宙空間を舞う。っと始まりを決めてなかった為にオープンチャンネルで開戦を開く。

 

 「模擬戦って何時始める…にょわ!?」

 

 最後まで言い終わる前に下より何かが来る感じがして咄嗟に回避運動を取る。ギリギリかすめる事無く銃弾が通り過ぎて行く。下方にゲルググの姿を捉えた。

 

 「もう始まってんだよ大佐殿!!」

 

 加速してくるゲルググに対して距離を離そうとしたが遅すぎる。むぅと唸りながらデブリに突っ込んで行く。男はニヤリと笑いながら無線を開く。

 デブリを避けつつ身体を左右に揺らす鏡士郎は楽しそうに笑っていた。

 

 「ふふん♪ヅダと違って遅いから操作しやすいかも。それにやっぱり宇宙を飛んでこそだよね」

 

 デブリの影に何か居るような気がして躊躇い無く三発ほど発砲する。当たった箇所にピンク色の液体がこびり付く。当たったのはMSだった。しかしそれはゲルググではなくリック・ドムだった。

 

 「あり?ゲルググじゃない?うーん…ま、いっか」

 

 相手は模擬戦と言っただけで一対一など言ってない。そんな言葉を弁解として用意したいた手段の一人がいきなり消失した。焦りつつもほかのメンバーに指示を出す。

 まだ付近には二機ほど隠れているのだ。ターゲットであるザクⅠが現れるとペイント弾を乱射する。が、弾の軌道を読んでいるかのように回避される。さすがに驚きを隠せなかった。さっきの一体目はまぐれで片付けたかったが、背後からの攻撃もどうやって回避したのかが理解できない。前と後ろからの同時攻撃だったのに…

 

 「ニュータイプとの噂は本当か…」

 

 ドムがまた出てきたことに驚いたが別に気にする事無くペダルを踏み込み加速する。

 ドム二機が追尾するが…

 

 「なんて速さだ!!追い付けねぇぞ!?」

 「死ぬほど早ぇ!!」

 

 デブリと最小限で避け、時には踏み台として加速に使っているザクⅠに負けていることに焦り、無理な加速をしたドムはデブリとぶつかり死にはしなかったものの行動不能になってしまった。

 当の本人は『死ぬほど遅ぇ…』と呟いていた。

 気分が乗ってきた鏡士郎は鼻歌ではなく、歌を歌い始める。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』の『THE WINNER』だ。

 皆も無いだろうか?車の中や自分の部屋の中などの自分だけの空間で音楽をかけているとノリノリで歌うことが。現状その状態なのだ。感情を込めて身体を揺らしながら歌を歌う。まだ気付いてないのだろう。

 

 『聞こえますか大佐…』

 「ななな、何かなイリアちゃん?」

 「…聞こえてますよ」

 「へ?」

 「オープンチャンネルのままです…」

 「………にゃああああ!?」

 

 恥かしくて悶え、急に軌道がおかしくなったザクⅠをゲルググがようやく発見した。デブリ内では追いつけないのならデブリ外より追いかければ良い。見つけ次第マシンガンの弾を撃ちまくる。しかしわずかに機体をずらすだけで簡単に避けられてしまう。

 

 「馬鹿な!?そんな馬鹿なああああ!!」

 「当たらなければどうという事は無い」

 

 左腕を肩に水平に上げ、身体をそこへ捻りいれるようにしてゲルググに銃口を向けた。ガンダムがビットを打ち落とす時のポーズを取れたことに興奮しつつ引き金を引いた。吸い込まれるように銃弾はゲルググの頭部に命中して行き、最終的には頭部だけピンク色のゲルググが出来上がった。

 

 「勝ったのはいいんだけど…ほんとにどうしよ?」

 

 勝敗よりも先程の件について考えて赤面して行く。どうしようも無いのだが…




ザクⅠに乗れたうえに原作に登場したパイロットに出会えた鏡士郎は思いもしなかったやるべき事を与えられていく。

 次回『鏡士郎のお仕事』
 『我が世の春が来たぁー!』

 
 ではまたお会いしましょう。





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第09話 『鏡士郎のお仕事』

 


 無数のデブリ漂う宙域をただひたすら飛んでいた。耳に届くのは仲間の声よりも自分の心臓の鼓動と吐いた息の音のほうが多かった。

 デブリの影から新たなデブリが出て来る度に目で追ってしまう。

 

 「くそ…何処だ」

 

 ハッと我に返り、頭を左右にふるっていったんリセットする。

 

 「私としたことが…焦るなど」

 

 焦った心を落ち着かせるように言い聞かせようとした時、モニターの端で閃光を確認した。それはスラスターの光でもなければ味方からの信号でもない。紛れもない爆発。しかもあの位置には第二小隊が居た筈である。

 

 『ど、何処からの攻撃だ!?』

 「立ち止まるんじゃない!!」

 

 味方がやられた事で立ち止まったザクが次の瞬間にはコクピットを打ち抜かれ爆発した。同じように立ち止まった奴が撃たれて行く。

 

 「だから言ったと言うに!!」

 

 マシュマーはデブリを盾にするように身を守る。射撃の方向から大体の位置を確認するが登場しているザク改の装備では有効手段が無いことに舌打ちする。せめてビーム兵器さえあればと嘆くところであったが今はそれど頃ではない。最初の爆発を含めて三つ目の爆発が起こったと言うことは第二小隊が壊滅したと言う事だ。残るはマシュマーが居る第三小隊とイリア少尉が指揮を執っている第一小隊、そして…

 

 『何時までそこに居るんだいマシュマー』

 

 隠れていたデブリを横切ったドム…第四小隊のキャラ・スーンがデブリを盾にしながら移動して行く。

 

 「敵の位置さえ不明なんだ。迂闊だぞ!!」

 『ハン。手柄はあたしが頂くからな。お前達付いてきな』

 

 指示された第四小隊のザクⅡが同じようにデブリを盾にしながら追従して行く。「これで何度目だ」と呟き、本日二度目の舌打ちをする。

 

 「第四小隊を援護するぞ。回り込め!!」

 

 本来なら第一小隊のイリア少尉が到着するまで足止めが良いのだろうがそんな事をしていれば間違いなくキャラは落とされているだろう。ジオンの騎士として仲間を見捨てることは出来ない。

 デブリの中だから最大速度で行けないが出来るだけ速度を上げていく。ふと後ろを見てみると後続のザクとドムが離れていることに気付き、距離を修正して離れすぎないようにした。

 そうしている内に第四のザクが一機仕留められた。慌てて回避運動に入ろうとしたザクはデブリとぶつかってしまう。

 

 『こ、こんな所にデブリが!あ、うわっ!?』

 「もう5機もやられたのか!?戦闘が始まってから5分も経ってないんだぞ!!」

 

 叫びながらも射撃位置を特定したマシュマーは敵機をモニターに映し出した。

 遠距離用の対MS用狙撃ライフルを構えたMS-06R-2P『試製高機動型ザクⅡ後期型』がデブリを下半身を隠した状態で狙いをつけていた。

 

 「させるかぁ!!」

 

 当たらなくても良いから敵の狙撃を邪魔しようとマシンガンを撃ちまくる。トリガーを引く前に目が合った敵機は狙撃銃をその場に残り、後ろに取り付けていたザクマシンガンを構えた。長距離から中距離戦に移行してくる事を理解する。

 

 『アハハハ、さっきはありがとよ』

 「礼はいい。来るぞ!!」

 

 茶色がかった試製高機動型ザクⅡ後期型は速度を上げつつ接近してくる。何とか当てようと四機のMSが集中放火するがまるで弾の方が避けて行っているように一発も掠りもせずに接近される。

 ザクマシンガンから火が三連射ずつ放たれる。正確な射撃に変則的な射撃が合わさり回避しようと直撃を許してしまう。一瞬の間にドムとザクが閃光へと変わった。次は自分が狙われていると理解したマシュマーは急ぎ回避したがマシンガンだけは回避できず直撃した。キャラは回避が間に合わず機体を撃ち抜かれていく。

 天と地ほどの格上の相手に射撃武器を失った自分に勝ち目が無い事は理解した。理解しても諦めることは出来なかった。ヒートホークを抜き、最高速度で突っ込む。敵機は一瞬撃ち抜こうとしたようだがザクマシンガンを投げ捨てて同じくヒートホークで突っ込んでくる。

 振るったヒートホークが容易く避けられコクピットに近付く黄色に輝く刃が迫ってくる事でマシュマーの視界がブラックアウトする。

 

 『貴方は撃破されました。貴方は撃破されました』

 

 機械的なアナウンスがコクピット内に響き、大きく息を付く。ヘルメットを外して汗を拭いつつも今到着したイリア少尉のケンプファーと撃ち合いを始めた試製高機動型ザクⅡ後期型…キョウシロウ・カトウ大佐を見つめる。

 

 

 

 

 「馬鹿者が!!」

 「ひう!?」

 

 格納庫に響き渡った怒鳴り声とそれに続く鈍い音に鏡士郎は肩を震わせる。

 

 「戦場のど真ん中で立ち止まるなと何度言えば理解するのだ。立ち止まればいかに連邦の雑兵と言えど当ててくるぞ!!」

 

 戦場で立ち止まった第二小隊のパイロット二名を殴り飛ばしながらガトー中佐は怒鳴り声を上げる。

 現在、加藤 鏡士郎は訓練兵の教官役として仕事をしていた。本人としてはまだ乗ったことの無いMSに乗れるし原作キャラと話せるので「我が世の春が来たー!!」って叫ぶほど喜んでいる。

 先程の戦闘は実際に宇宙空間を飛んでいるものの攻撃や爆発はすべてデータを合成した物で実際には死者はゼロである。現在進行形で怪我人は増えているが…

 

 「貴様は周りを見ておらんのか!!あれほどのデブリに気付かないとは!!」

 「も、申し訳ありませんでした!!」

 

 殴られつつも姿勢を正して謝る。いつもの光景だ。いつもの光景だが鏡士郎はなれることは無かった。

 一人端っこで小さくなっているとガトー中佐がお疲れ様でしたと労いの言葉をかけてくれる。この人は階級の上下関係以上に接してくれるから本当に嬉しい。たまにカリウス曹長…あ!僕が部屋に閉じ込められていた時に階級上がってたんだよね。まぁいつもはカリウス兄って呼ぶから関係無いけど。ああ、話が変わってしまった。ガトー中佐がカリウス曹長と一緒に飲みに誘ってくれたりする。でも僕はまだ15歳なのでコーラだ。

 ガトー中佐との話が終了すると次の仕事へと移動なのだが…

 

 「だ~れだ?」

 「むぐ!?」

 

 後ろから抱きしめられた鏡士郎はジタバタと手足を振るって暴れるがまったく相手には効果が無かった。しばらく動いていたが途中からぷらーんとぶら下がってしまう。

 

 「おい!大佐に何しているんだ!?」

 「ん?お前もやるかい?」

 「むぅ…」

 

 注意されたが決して止める気が無いキャラは抱きしめたまま頬ずりする。ため息を付きつつマシュマーが下ろす様に言ってくれる。前に二人と会話した時に『もっとラフにいこうよ』と言ったらこんな扱いになってしまった。

 マシュマーより深いため息を付いたイリア少尉は不機嫌そうな顔のまま袖を引っ張る。

 

 「そのままで良いですから行きますよ大佐。時間が無いんですから」

 「はーい。では発進!」

 「りょーかい」

 

 本当に抱きしめられたまま進んで行く。行き先はレコーディング用に改装された部屋である。前にあった模擬戦で歌って以来、娯楽の少なかったアクシズ兵士が食い付いたのだ。元居た世界では有名な曲なのだがこちらの世界には存在しないらしい。ちなみに売り上げは鏡士郎の提案でアクシズの為に少しでも役に立つのならとハマーンに献上している。

 しかしいつもと違うのは部屋の前に親衛隊が待機している事だ。レコーディング室に入る前に静かにするようにと指で指示すると警備をしていた親衛隊に敬礼して通過する。中に入ると音楽が流れていた。

 ここは鏡士郎が使っているレコーディング室で本来は誰も使うことのない。先の親衛隊と言いなにかおかしい事に気付きながらマシュマーは続いていく。中では機材を操作している兵士が数人と親衛隊が詰めていた。

 

 「~♪」

 

 中には音楽が流れていた。曲はガンダムZZのサイレント・ヴォイスである。透き通った声の元を辿るとマシュマーもキャラも膠着した。

 無理もない。ガラスの向こうにはハマーン・カーンが居るのだから。

 歌い終わりこちらと目が合ったハマーンは鏡士郎を軽く睨み付ける。何があったか知っているイリアは深いため息を付いてポケットに常備していた薬を口に含んだ。

 

 「その薬よく飲んでいるけど病気?」

 「…最近頭痛が酷いもので」

 「そ、それはお大事に…レコーディングは終了?」

 「いえ、これから録音をする所であります大佐殿」

 

 近くに居た親衛隊隊員に聞いてみたがまだまだ時間がかかるなら仕方がないが次に行った方が良さそうだ。

 それにしてもひとつ気になる事がある。親衛隊員もそうだがイリアちゃんも丁寧に接してくれるのだがどことなく怒気と言うかなんと言えば良いのか分からないが兎も角そんな感じのものが含まれているのだ。なんでだろう?

 

 「イリアちゃんあと任せるけど良い?」

 「はぁ…了解しました。ではあとで」

 「大佐はどちらに?」

 「他にもやることがあるの。ああ!二人はここに居てね。じゃね」

 

 それだけ言い残すとさっさと部屋を出て行ってしまった。残された二人は事情を知っているであろうイリアを見つめる。

 

 「自分達はここで何をすれば良いのでありますか?」

 「あなた達をハマーン様に紹介します」

 「あたし達を!?」

 「カトウ大佐の頼みで…『成績優秀でジオンの未来を担ってくれる存在だから会って欲しい』と」

 「大佐がそんな事を…。これは精一杯精進せねば」

 「あたしもそうさ」

 

 やや興奮気味の二人はそこでひとつの疑問を口にした。

 

 「イリア少尉。どうしてハマーン様は歌っておられるんですか?」

 「…カトウ大佐がド…ドゲザ?とか言う方法で頼み込んだらしいですよ。数年戻れないからどうしてもって」

 「戻れない?大佐はどこかに赴かれるんですか?」

 「地球圏へ。それしか聞かされていない。何をするかまでは聞かされてないのだけど」

 「でもそれって大丈夫なの…ですか?」

 「どういう意味だ?」

 「だって大佐って素性も分からなくて謎が多いから実は連邦軍のスパイなんじゃないかって噂あるじゃん」

 「な!?馬鹿な事を言うな!!大佐に限ってそんなことあるはずないだろう!!」

 「あたしだってそう思ってるさ。でもさ」

 「その点は心配ない。すでに対策は練られている」

 

 キャラはその時、何かを決意されたイリアの顔に一抹の不安を覚えた。

 

 

 

 レコーディング室を後にした鏡士郎は急ぎ足でMS開発部へと向かった。これから一週間は準備で忙しいらしいから今のうちに頼み事や頼まれ事を済ませておかなければならないのだ。まだ今日中にしなくちゃいけない事が後二件ほどあるからさっさと済ませたいんだよな。

 開発部に入ると多くの作業服姿の兵士の視線を集めてしまう。その視線から早く逃げたくて目的の人物を探す。奥の机で資料に目を通している堀が深い兵士を見つけた。髪はオールバックで固めており年齢からか左右に白いラインが目立っていた。

 

 「ヴィクトル大尉」

 「ん?これはカトウ大佐。予定されてた時間より少しお早いですな」

 

 書類に目を通していたヴィクトル大尉は声をかけてきた人物を見ると席より立ち上がった。他の人の作業の邪魔にならないように近付いていく。

 

 「どうですブラオシュネーは?」

 「いやはや、大佐はその事ばかりですなぁ。設計はおおよそ出来上がっていましたので設計図上の微調整とパーツによる性能のアップは済んでおります。後はハマーン様に開発のご許可を頂ければ問題なく」

 「やった♪」

 「それと大佐が要望された対宇宙拠点用MS兵装はすぐにでも用意できますが数の方はいか程に?」

 「う~ん…最低でも15…出来れば30程かな?」

 「畏まりました。他には何かありますか?」

 

 頼んでいたのはその二件だけなのだけどもうひとつ頼みたい事があった。

 

 「ジムの件なんだけど…」

 「ああ…例の件ですか?」

 

 これから地球圏へ向かうのは良いのだがジオン残党である自分達が見つかれば戦闘は避けられないし避ける気もない。ティターンズとエゥーゴの戦闘にも介入しようと思っている。その際に「私ジオン兵です」と言わんばかりのジオンMSに乗ってエゥーゴを援護したらエゥーゴ=ジオン関係なんて構図を作られたら笑い話にもならない。だから連邦系のMSがあればいいなぁと頼んでいたんだ。アクシズには前に入手したとあるシステムを積んだジムがあるらしいのでそれを高機動に仕上げてもらいたいのだが中々許可が出なかったのだ。

 

 「やっぱり駄目でしたか?」

 「ハマーン様から許可を頂けましたよ。ご希望通りコクピットはジオン仕様に変更したしましたし、高機動への改修は三日ほどで完了いたします」

 「なら間に合いますね。良かった」

 「ただあの阿頼耶識システムは解析もまだなので搭載できませんでしたが…」

 「そんな暗い顔しないで下さいよ。何とかしますから大丈夫ですよ」

 

 ヴィクトル大尉は別に鏡士郎のことを心配して言った訳ではなく、アクシズの力を持ってしても未だ解明し切れていない事を言ったのだが別に訂正するほどではないから黙っておく。

 しばらく話すと今日最後の仕事へと向かう。場所はNT研究を行なっている部署である。ドアをノックする事無くドアを開ける。

 

 「お爺ちゃん来t「プルプルプル!!」ふにゃ!?」

 

 ドアを開けたと同時に猛烈な抱き付を腹部に喰らい、そのまま通路へと転がって行った。頭は打たなかったが背中の阿頼耶識が地面にぶつかり背中に痛みを生じさせる。

 痛みにもがきながら抱きついてきたオレンジ髪の少女に視線を向ける。

 

 「久しぶり、お兄ちゃん。何して遊んでくれる?」

 「ごめんね。今日はお仕事なんだ」 

 

 満面の笑顔を向けてくるプルを抱きしめるように抱えて立ち上がる。答えを聞いて剥れるのだがそれが可愛いと思う。

 

 「これ、お止めなさい。大佐にご迷惑だろう」

 「迷惑じゃないですよ。懐かれる事は嬉しいんですけどね…さすがに痛かった」

 

 部屋の奥から出てきたのは頭の天辺が禿げた白衣を着た老人だった。彼はマガニーと言って元フラナガン機関に居た人物で現在はアクシズのNT研究の責任者である。そしてここにはクローンとして生み出されたプル達が待機している。

 

 「これは大佐…」

 「大佐~♪」

 

 鏡士郎に気付いたエルピー・プル以外のプル達が駆け寄ってくる。同じく抱きついてくる者から袖を引っ張る者まで随分と懐かれたものだ。始めてあった時からNT同士ということで共鳴する事も懐かれた要員のひとつだが一番の要因は暇さえ見つけては遊びに来ていたことだろう。

 まだ乗った事のないMSに乗りたいのだが乗るにしても費用がかかるし、何の理由もなく乗る事は許可されなかった。知り合いは年上ばっかりで一緒に遊ぶことはなかった。歳が近い者は15歳のマシュマーに19歳のキャラが居たが二人ともまだ訓練生で寮生活の為にあまり遊びにいけない。他は13歳のイリアと18歳のハマーンだが多忙すぎて遊ぶ暇さえなかった(誘いはしたが速攻で断られた)。と言う事でまだ6歳のプル達の相手をするようになったのだ。

 一番懐いたのがエルピー・プルで懐いた中で尊敬しているのは今も敬礼してくる二人だろう。天真爛漫なプル達の中でツンがある一人はプルツーだろう。そしてもう一人は何故か『マスター』と呼ぶことからマリーダさんなのだろうか?どこで尊敬されたのかは鏡士郎本人が分かってない。二人とは実験を兼ねた模擬戦で相手をしたことぐらいだ。

 

 「まったく…」

 「ははは…じゃあ、測定始めましょうか?」

 「ええ、お願いします」

 

 12人のプル達と共に奥の脳波コントロールの測定器へと向かって行く。今回はこれだけだが以前はいろんな機器で計られたものだ。その時の研究者としてのマガニーの顔は忘れない。あまりの熱心さに解剖までされるんじゃないかと恐怖を覚えたほどだ。

 まだ敬礼をするプルツーとマリーダの頭をひと撫ですると鏡士郎は観測機が置いてある奥の部屋へとマガニーと共に消えていった。




 地球行きの為に準備を進める鏡士郎の最終日の話…
 
 『アクシズとの暫しの別れ』
 

 ではまたお会いしましょう。


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第10話 『アクシズとの暫しの別れ』

 アクシズ内で一番厳重な所は何処だろう?

 機密文書の保管場所?

 違う。

 アクシズを仕切っているハマーン・カーンの部屋?

 違う。

 

 「早く。早く」

 

 その部屋の中では幼い少女の声が響いていた。周りに居る侍女達ははらはらしながらその様子を見守る。

 部屋の主は今は亡きジオン公国デギン公王の三男であり、宇宙攻撃軍総司令官であり、宇宙要塞ソロモンの指揮をしていたドズル・ザビを父親に持つミネバ・ラオ・ザビである。

 いつもと違う賑やかさに首を傾げつつハマーンはノックをする。

 

 「ミネバ様。失礼いたします」

 

 二度ノックするとゆっくりと扉を開ける。その時の衛兵の表情が少し強張った様な気がしたのだが気にせずそのまま中へと入って行く。

 

 「あははは♪」

 「ヒヒーン!」

 

 思考どころか身体が固まった。

 ハマーンの視界にはオロオロと慌てる侍女達と楽しそうに笑うミネバ…そしてミネバの下で馬の真似をしているであろう鏡士郎が居た。

 そのままミネバを乗っけて進んでいたが視線に気付いたのか振り向いた。驚きと言うよりイタズラを見つかった子供みたいな表情をして固まった。少し経つと近くの侍女を手招きしてミネバを下ろしてもらい正座する。

 

 「何をしている?」

 「……遊んでました」

 「楽しかったか?」

 「…はい」

 「で、出発の準備は?」

 「あと少し…」

 「さっさとやれ」

 「了解しました!!」

 「ミネバ様の御前だぞ。走るな」

 「はひ!」

 

 走ろうとしたが注意される事でゆっくりとされど慌てて去って行く。その様子を呆れつつも微笑んで見つめる。

 

 

 

 加藤 鏡士郎は肩を大きく揺らして荒くなった息を整える。まさか見つかるとは思わなかった。初めて会わせて貰ったのが三日前。地球圏にて行なう任務をミネバ様にご報告すると言う事で会えたのだ。こんな理由でもなければ会えなかっただろう。なんだかその時の表情がつまらなそうと言うか窮屈そうと言うかそんな感じがしたのだ。アニメでもあまり笑っているシーンがなかった様なのでハマーン様に内緒で会いに行ってから目を盗んで遊ぶようになったのだが…

 

 「はぁ~、もう駄目だよな」

 

 肩をがっくりと落としたがすぐさま復活する。これから自分が乗るジムを見に行くのだ。ちょっと改修が間に合わずに今日になってしまったのだ。今度はスキップするように通路を駆けて行く。

 機体はジムコマンド。外見は通常機となんら変化無いのだがバーニアを強化してあったりと宇宙戦に適した機体となっている。一番の目玉はアムロ・レイのデータを元に作ったプログラムだろう。この機体を使えば射撃戦であれば赤い彗星の攻撃だろうとかなりの高確率で回避できたりする。以前アクシズを襲った連邦軍より鹵獲した機体でデータを取り終え倉庫に眠っていたのだ。

 ジオン仕様に改修を頼んだのだけどどんな感じになっているのかはまったく聞かされていないし見にも行ってない。

 本来ならモビルスーツ格納庫へ向かう所なのだが今回は積み込み中のはずなのでドックの方だろう。ドック内には入らず一番近い通路の窓ガラスより見つめる。

 第11番ドックでは地球行きの旗艦を勤めるザンジバル級機動巡洋艦『ブレーメン』がMSを積み込み中であった。 ザンジバルに詰め込めるMSの数は最大六機なのだが燃料や食料など大量の物資を積む為に積み込むMSは三機である。ケンプファーに深緑色の胴体以外は青くペイントされた高機動型ゲルググ、そして鏡士郎がのr…

 

 「…なにあれ?」

 

 そんな感想しか漏れなかった。確かに基本はジムコマンドなのだが肩は機体の機動力を上げる為か三方向にスラスターを付けたケンプファーの肩、足は高機動型のパーツを取り付け、バックパックにはプロペラタンクを増設されてある。しかも水色に塗装されてある。

 

 「こんな所に居られたのですか」

 「え?あ、ガトー少…中佐」

 「まだ慣れてないようですね」

 「うぅ…すみません」

 

 寄って来たガトーに頭を下げつつ顔を見る。

 地球圏行きのメンバーでアニメにも登場しているのは3人である。鏡士郎と同じ『ブルーメン』に乗り込むアナベル・ガトーにイリア・パゾム。ムサイ級巡洋艦後期生産型『アルト・ハイデルベルク』にはカリウス・オットーが乗り込む。ちなみに地球行きの艦隊には『アルト・ハイデルベルク』と同じムサイ級巡洋艦後期生産型『パルジファル』と『モルゲンローテ』もいる。

 微笑んでいたガトーだったがケンプファーを視界に納めると険しい顔になった。

 

 「気付いているか?」

 「何をです?」

 「監視されている」

 「……はい?」

 

 意味を理解できずに聞き返してしまった。監視?なんで?

 表情からして理解できていないのを承知の上で話を続ける。

 

 「私もだが大佐が一番だろうな」

 「へ?僕に監視?」

 「今回地球行きはデラーズ・フリートに参加していた者がほとんどだがリストの中に親衛隊の名があった」

 「えー…別にそれで監視してるのは疑いすぎじゃあ…」

 「リストには元の所属とは別の部署を書かれていた。あとは右の曲がり角をチラッと見てみると良い」

 

 言われた通りチラッと…ではなく思いっきり見てみたら曲がり角からこちらを窺っていた男と目が合った。ニッコリと笑いつつ手を振るとさっさと向こうに行ってしまった。

 

 「居ましたねぇ…」

 「それに副官のイリア・パゾムも親衛隊だ。気をつけたほうが良い」

 「そんな!イリアちゃんは良い子ですよ!!」

 「ニュータイプの勘か。思い過ごしなら良いんだが…では、私はこれで」

 

 軽く敬礼して去って行くガトーを見送る。

 俯きながら何故自分が監視されているかを考えたか曲がり角を曲がった辺りで考えるのをやめていた。

 機体も積み込まれたことで最後の仕事もなくなりアクシズ内のバーに向かう。薄暗がりな店内にはまだ誰も居なかった。普通なら15歳の子供が入ってきたら叩き出すところだが店主は一瞥すると冷蔵庫から一本のビンを取り出した。

 最初に来た時は「ガキは帰んな」と言われたがガトーとカリウスと一緒だった為に叩き出されなかった。それから何度か来ている内にひとりでも叩き出さなくなった。ガキ扱いはされるが。

 カウンター席に座ると肘を付いて両手を重ねる。

 

 「マスター。いつもの」

 「格好付けなさんな。コーラで良いかガキンチョ」

 「むー…せめてグラスで」

 「分かったよ。ほらよ」

 

 膨れっ面でジト目で睨む鏡士郎だったが店主はニヤリと笑いながら視線をかわしつつグラスに注いだコーラを目の前に置く。

 

 「いつまでもそんな顔しなさんな。明日から居ないんだろ?奢ってやるから」

 「ほんと!?やったー」

 

 機嫌を直して喉を通す。そして首を捻りながら店主を見つめる。

 

 「なんかいつもと違う気がする…」

 「んあ?んなこたぁねぇって」

 「うーん…」

 

 首をかしげたままチビリ、チビリと喉を通して行く。すると扉が開かれ本日二人目のお客が来る。「いらっしゃい」といつも通り声をかけようとした店主は振り返った時点で止まった。

 

 「ここに居たか」

 「あー!20歳以下は来ちゃ駄目なんですよ」

 「貴様は私より年下だろう」

 

 いつも通り軽く睨むように一瞥するとハマーンは隣に腰掛け足を組む。先程と違い背筋をピンと伸ばす店主は気が気ではなかった。居た事に今気付いたように目を会わせて一瞬悩みつついつもの表情に戻る。

 

 「適当に頼む」

 「ハッ!畏まりました」

 

 店主が緊張しながら飲み物を用意している様子を見ながら鏡士郎は残っていたコーラを飲み干した。

 

 「マスター。おかわり」

 「分かっ…畏まりました…」

 

 いつものように答えようとしたのだが今は口調を変えて話す店主をクスリと笑う。鏡士郎には先と同じコーラが注がれ、ハマーンの前には飲み口に輪切りされたレモンが付いたオレンジ色の飲み物が出される。

 

 「シャーリー・テンプルで御座います」

 

 会釈をする店主は頷いたハマーンを見るとほっとして胸を撫で下ろした。そして奥に引っ込む。それを確認したハマーンはグラスを鏡士郎の方へ傾ける。

 

 「…乾杯」

 「あ!かんぱ~い♪」

 

 グラスとグラスが軽くぶつかり音を立てると二人とも飲み物を口に含んだ。

 

 「貴様がアクシズに来て七ヶ月か…」

 「もうそんなに経ちましたかね?」

 「いろいろと仕出かしてくれたな」

 「そうですねぇ…歌手デビューしちゃいましたね」

 「初めて顔を会わした時は大泣きしたな」

 

 アハハと笑う鏡士郎をみて微笑むがその表情には影があった。

 

 「三ヶ月…」

 「はい?」

 「奴が最後に連絡してから三ヶ月が経った」

 「………」

 「奴は帰っては来ないのだろうな…答えてくれ…貴様も」

 「えい」

 

 言葉を遮るように頬を痛くない程度に引っ張った。いきなりの事で反応できずに呆然としていると手は頬から頭へと移動して頭を撫で始めた。

 

 「僕は絶対帰ってきますから。まだ乗りたいMSや遊びたい事がたたたたた!!」

 

 今度は逆に頬を引っ張られる。手加減なしでだ。

 

 「ひはいははーんはま(痛いハマーン様)」

 「真面目に悩んでいた私が馬鹿だった。貴様は帰ってくるなと言っても帰ってくるのだろうな」

 「ほひろん(勿論)」

 「そうか…」

 

 一瞬だが満足そうに頷くと撫で続けていた手を払い除けた。払い除けられた手を擦る鏡士郎を横目で見てから出て行った。

 苦笑いを浮かべ、二杯目のコーラを一気に飲み干して明日の為に早めに就寝するべく部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、頭が痛いことと昨日のコーラの味がおかしい事をイリアに伝えると何も言わずに薬をくれた。なんでそんなに薬を常時持っていたかは教えてくれなかった。




 出発してから数ヶ月。月面都市に到着したガトー達は任務を始める。ひとりで行動していた鏡士郎は予想もしなかった事件を引き起こそうとしていた。 
 『月は危険と出会いが凄かった』
 

 ではまたお会いしましょう


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第10.5話 『キャラ紹介&機体紹介』

●加藤 鏡士郎

年齢 :15歳(0084時点)

誕生日:一月十七日  

身長 :160cm

性別 :男

階級 :総帥直属特務試験化部隊所属少佐→デラーズ・フリート残存戦力副隊長→大佐

容姿 :顔は童顔で女顔だが散髪に行くのがめんどくさくて髪は鼻上まで伸びていて瞳は隠れてしまっている。身体も細く、女装したら少女と変わらない。

 

 ガンダム大好きっこでジオンが好き。特に『EMS-10ヅダ』がお気に入りの機体である。ジオンの制服も身分証明も作ってたりもしていた。

 ガンダムブレイカー3をプレイ中にいつの間にか機体と一緒に宇宙空間に居た。

 夢のガンダム世界に居るのだから自分が好きなようにしようと行動を開始したのだが…

 肉体は鏡士郎専用ヅダを操れるように変化している。

 背中には阿頼耶識システムが組み込まれており独特の凹凸がある。周りの人に不快感を与えぬように専用のパイロットスーツの丸っこい取り付け口をいつも装着している。

 「はにゃ」が口癖だったのだが周りからあまり良く思われてないので使わないようにしている。それでも驚いたときなどに素が出てしまうが…

 イリアの頭痛の種…

 

 

 

●『EMS-10ヅダ』

 ジオンのツィマッド社が開発した機体でザクⅠとの正式採用で負けた機体。背中の土星エンジンと機体強度から最大速度を出し続けると空中分解してしまう。

 が、鏡士郎の機体はガンダムブレイカー3でカスタムしていた機体で

 オプションパーツは両肩には第二次ネオ・ジオン抗争で登場したヤクト・ドーガなどに使用されていたファンネルが三つずつ、合計で6基ついている。腹部には同じく第二次ネオ・ジオン抗争に登場したサザビーの腹部についていたメガ粒子砲発射装置。バックパックには右側にシールドビット、左側には六連装ミサイルポッド。後ろの腰にはGNフィールド発生装置。右腕にはブリッツのロケットアンカーと時代がバラバラのパーツが取り付けられていた。

 中身のアビリティは高精度ガンカメラ、ハイパーデュートリオンエンジン、阿頼耶識システム、エイハブ・リアクター、パワーエクステンダー、AGEシステム、ナノスキン、MFE型ガンディウムFGI複合装甲、ヴァリアブルフェイズシフト装甲、ツインドライヴシステム、ミノフスキー・ドライブ、チョバムアーマー構造、ラミネート装甲、ヤタノカガミ、高出力ホバーユニット、バイポッド、ダブル・パック、エネルギー供給システム…

 ブレイカー3の世界で強度を計ると通常機がレベル一から十までの機体でヅダは23で圧倒的にすべてのステータスで凌駕している。



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第11話 『月面』

  本当は第十話に予告したように『月は危険と出会いが凄かった』とサブタイトルだったのですが内容がいつもの二倍になったのでサブタイトルを変えて投稿させていただきました。


 宇宙世紀0085.06

 アクシズを出発して半年が経ち、加藤 鏡士郎が指揮をする艦隊は月へと到着した。月面にある連邦軍基地の索敵範囲外より小型艇で入ってから都市部まで来た訳だが…

 

 「半年振りの街だぁ」

 

 軍服ではなく白いシャツにジーパン、ダボダボのコートを着た鏡士郎は腕を思いっきり伸ばして凝り固まった身体を解す。そんな光景をため息を付きながらイリアが見つめていた。

 ガトーとエイワンは任務の為に別行動を取り、自由行動に出た鏡士郎の監視としてイリアは着いて行く。

 

 「で、これから何をするんですか?」

 「勿論、観光」

 

 この半年で何度目になるか分からないほど習慣になってしまった眉間を押さえながら視線を向ける。

 

 「観光って、中s…じゃなかった、ガt…はいけなかった。あの二人は任m…仕事をしているというのに貴方は遊びにいくつもりですか?」

 「ここ行ってみたいよね。あ、でもその前に食事かな?この料理美味しそうだ」

 「聞いてないし…」

 

 目をキラキラさせながら地図を見つめる鏡士郎に対して大きなため息を付きつつ思考をチェンジする。

 

 「最初は何処に行くんですか?」

 「あれ?止められると思ったんだけど…」

 「どうせ止めた所で聞かないでしょう」

 

 アハハと笑い歩き始める。任務を完遂しようと後ろを着いていくが行き先を聞くのを忘れていた事に気付く。

 

 「そういえばどちらに?」

 「ここに書いてあるジオン兵の慰霊碑に行こうかな」

 「―っ!?……」

 「なんですか、その目は?」

 「意外だなぁ~って思って」

 「むぅ…」

 

 頬を膨らませ不満を向けるが初めて彼女が笑ったことにて一気に気分が良くなる。二人並んで慰霊碑に向かっt………その前にこの半年で切れた胃薬を買いに行くのが先になった…

 

 

 

 アナハイム・エレクトロニクス社

 北アメリカのカリフォルニア州アナハイムに本社を置く複合企業で主な拠点は月にある。一般家電製品の製造を主としていたのだが一年戦争を起点に軍需産業にも手を出して宇宙世紀で多大な影響力を持つことになる。キャッチフレーズはスプーンから宇宙戦艦まで。正直に言うとスプーンより宇宙戦艦やMSなどの兵器を製造していた方が今は有名だろう。

  アナハイム・エレクトロニクス社の会長であり、実質的なトップに立つ人物メラニー・ヒュー・カーバインは自分の執務室で深く腰を椅子に降ろして葉巻に火をつける。皮膚も垂れた60を超えた老人ではあるがその瞳にはまだまだ力強さが残っていた。

 一年戦争が終結してもまだ敗北を認めていないジオン残党が暗躍している今はまだ火種がある。ジオン残党狩りを名目にしているティターンズという地球連邦の組織はエリート意識が強く増徴して連邦内でも火種が生まれつつある。こんな好機を商売人であるメラニーが見逃すわけは無かった。そんな時に反地球連邦組織エゥーゴと接触は渡りに船だった。スポンサーにはなったが向こうもこちらの思惑には気付いているだろうがそんな事は関係ない。向こうは活動資金を欲しくて、こちらは兵器を売れる場がほしい。思想云々は無視して利害も一致しているだろう。しかしまだ生まれたばかりの雛では鋭い爪を持った鷹には勝てない。

 それをどうするか悩みつつ肺に溜まった煙と共に大きく息を吐く。そんな時にドアがノックされた。

 

 「どうぞ」

 

 視線を向ける無く言い放つとドアを開けて秘書を勤める男性が背筋を伸ばして入ってきた。手には封筒を携えていた。

 

 「会長。カイト・マディガン様と名乗る方が面会を求めておりますが」

 「カイト・マディガン?知らん名前だな」

 「この資料をご覧頂ければ解って貰えるとの事で」

 「どれ…」

 

 秘書が持っていた封筒を受け取ると口に蝋で止められまだ開封されてない事を認識して、封筒を天井の光に照らして中を確認する。薄っすらと空けたのは紙で危険物では無さそうだ。一応秘書には見えないように開封して中身を取り出す。その紙を見て驚いた。中に入っていたのは『RX-78GP02A』の設計図にオサリバンとニック・オービルと言う元アナハイム社員写真であった。

 

 「ここにお通ししろ」

 「は?宜しいので?」

 「構わん」

 「警備の者を待機させますか?」

 「いらん。カイト・マディガンが帰るまで誰も通すな」

 「ハッ!畏まりました」

 

 深々と頭を下げる秘書に目も向けないまま頭をフル回転させる。

 『RX-78GP02A』はジオン残党であるデラーズ・フリートに奪取された機体でオサリバンは繋がりがあり、ニック・オービルはそこのスパイとされている。この情報を持っていると思われる組織は二つ。だが、片方の連邦なら突然のアポなどではなく事前に連絡を入れて来るだろうし、今更蒸し返すような事もしないだろう。だとすれば思い当たる組織はひとつになる。

 再びドアをノックされ秘書に言ったように「どうぞ」と言う。ただ今回は立ち上がり相手を見据えるように向き直った。

 

 「お初にお目にかかります、メラニー・ヒュー・カーバイン会長。私は…」

 「言わなくても知っておるよ。ソロモンの悪夢の名は」

 

 眼前に立つ黒いスーツにサングラスをかけた男には見覚えがあった。デラーズ・フリートに参加していた『ソロモンの悪夢』アナベル・ガトー。ここからどう運ぶかを考えつつ椅子ではなくソファに腰を降ろして向かい側に座るように薦める。

 

 「それにしても行方不明と聞いてから1年以上が経って現れるとは…」

 「私は世間では死んでいる事になっているようですね」

 「ああ。無論デラーズ・フリートそのものもだが…」

 

 ガトーが腰を降ろすのを確認してから葉巻の火を消して背もたれに全体重を押し当てる。

 

 「で、そのデラーズ・フリートに参加していたガトー少佐がなに用で私に会いに来られたのかな?私も何分忙しいみでね。あまり時間は取れないが…」

 「では単刀直入に。実は頼み事がありまして」

 「私に頼み事ですか?」

 「まずひとつは茨の園を返して頂きたい」

 

 茨の園…

 デラーズ・フリートが拠点にしていた所で連邦ですらその場所を知らない。繋がりがあったオサリバンが自殺した後の彼のオフィスに座標が残っており、アナハイムとしては極秘に出来る開発エリアとして使えるとして頂戴したのだ。

 メラニーは頷きもせずにガトーの目を真っ直ぐ見つめたまま動かなかった。先程「まずひとつ」と言った。と言うことはまだ他にも何かあるのだ。それを聞く事無く頷くことなど出来なかった。

 

 「この者達が欲しいのです」

 

 懐から差し出された三枚の写真に目を通す。首より下は消しているがジオン関係者と見て間違いないだろう。

 男の子とも女の子ともとれる御河童の子供。

 前髪の一部だけ垂らして残りは後ろで纏めているのだがそれぞれがあらぬ方向を向いている奇抜な髪型をしている目が鋭い女性。

 真ん中だけ髪を残して眉にかからない程度に前に倒しているゴーグルを付けた男。

 アナハイムに勤めている全社員は覚えていないがこの三名は別だった。

 

 「茨の園はまだ良いとして彼らは駄目ですね。彼らほど優秀なテストパイロットは居ませんのでね」

 「どうしてもですか?」

 「条件次第ですな」

 

 商人が無条件で何かを渡すわけは無い。渡すとすれば自分に利益がある時だけだ。デラーズ・フリート自体に今のエゥーゴ並みの戦力は無いとは思うが関係は持った方が良いとして茨の園を渡すことには頷くが彼ら三名となると別である。

 断られる事は想定内だったらしく何の表情の変化も無く次の物を取り出してきた。出てきたのはスティック型の記憶媒体であった。

 

 「これはなにかな?」

 「我々が入手した連邦のMSに搭載されていたアムロ・レイの戦闘データと、サイコミュ高機動試験用ザクのデータが入っております」

 

 確かに欲しい所ではある。嘘か真かは分からないがあのアムロ・レイのデータがあればまた違った機体などが作れるだろう。それよりジオンのサイコミュ機の方が気になる。アナハイムは連邦と同じようにMSや戦艦を作れるがNT兵器となるとアナハイムとしては手が出なくなる。ジオンが研究していたNT研究は一年戦争後に連邦も手に入れたがアナハイムには情報すら貰えなかった。頷きたくなるがまだ何か隠し持っている気がする。その自分の勘を信じて頷かずに渋った演技をする。

 

 「貴方が出資している者への支援の約束…」

 「―っ!?」

 

 何故知っていると叫びたい所をグッと押さえて表情を崩さない。少し侮っていたのかも知れない。彼らは敗北した敗残兵の敗残兵と…。しかし彼らはこの時期で知っているとはかなりの情報網を持っているようだ。

 

 「支援の約束とはどの程度のものですかな?」

 「大々的な支援とは行きませんが護衛や支援攻撃になります」

 「ふむ…良いでしょう。後、貴殿のパイロットデータも頂けますか?」

 「構いません」

 「では、交渉成立ですな」

 「ええ」

 

 立ち上がったガトーとメラニーはやんわりと笑い、握手を交わす。お互い良い結果になるように願いながら…

 

 

 

 サングラスをかけなおしたガトーはアナハイムの正面入り口より表に出て辺りを見渡す。路上に止められている一台のエレカの横に立っている男より手を振られ、軽く手を振ってから近付いて行く。

 男はガトーと同じようなスーツにベレー帽を深く被っていた。助手席に腰を降ろしたのを確認した男は運転席へと向かった。ゆっくりとエレカを発進させ移動を開始する。

 

 「どうでしたかガトー中佐」

 「概ね問題は無かったが…パイロットデータを求められた」

 「大佐は別に気にしないような気がしますが?」

 「だろうな…で、そちらの首尾はどうだったエイワン少佐」

 

 名を呼ばれたエイワン・ベリーニ少佐はベレー帽を視界の邪魔にならない程度に深く被り直す。

 

 「順調の一言ですよ。全員問題なく目的地へ向かっているはずです」

 

 カトウ艦隊の主な任務は二つ。

 ひとつは先程ガトーが交渉した茨の園の入手。そしてもうひとつは世界各国に身を潜めているジオン残党に合流して味方に引き入れることだ。

 アナハイムとの交渉中にエイワンは月面に居る同士より偽装パスポートを受け取り、それをそれぞれの地へ赴く兵士に渡して見送った。尾行されてる気配もなかった。何も問題は無いはずだ…

 

 「どうした?難しい顔をしているが気になることでもあったか?」

 「あ!い、いえ…」

 

 バックミラーで確認すると確かに難しい顔をしていた。何でもないように装おうと表情を変えようとしたが止めた。気になることが無いわけではない。

 

 「……ハマーン様から受けた命令は各国のジオン残党軍を合流させよと言うものでした」

 「ああ、そうだな」

 「それ事態は問題ではありません。問題は大佐です」

 「カトウ大佐がなにか?」

 「ヘルマン・キリマイヤー大尉を覚えておられますか?」

 「覚えていない訳が無い。彼はあの戦いで一人も補充人員を出さなかったキルマイヤー小隊の隊長だ」 

 「キリマイヤー大尉の居場所が分かりました」

 「なに!?」

 「サイド1の25番地に居るそうです」

 「そうか…彼が」

 

 話を聞いたガトーは安堵したがエイワンは暗い表情のままだ。

 

 「どうやって大佐はこの情報を知ったのでしょうね?」

 「…これは大佐からの情報なのか?」

 「他にも地球連邦軍第100MS飛行中隊隊長ブロイ・リゲラ、出来れば連邦軍第202技術試験大隊ユーマ・ライトニングとの接触にアフリカに居るであろうカークス隊との合流などこれらの情報をアクシズに居ながらどうやって入手したのでしょうか…もしかして大佐は…」

 「止めろ」

 「しかしガトー中佐はおかしいと思いませんか!?」

 「思うが私は大佐を疑わないだろう」

 「何故ですか?」

 

 言葉に詰った。別に確たるものがある訳ではない。初めて会ったときに彼が熱く語った言葉によりガトーは精神面から救われた。再びジオン再興の為に立ち上がることが出来た。そんな彼を疑いたくなかったと言うのが本音だろう。

 

 「私は二度死んだのだ。一度目はア・バオア・クーで。二度目は星の屑で。その度に私は救われた。デラーズ閣下に…カトウ大佐に…。

 だからカトウ大佐を疑いたくないのだ。私は甘いのだろう。だが私は彼を信じてジオン再興の為にただ駆けるのみ」

 

 暗く不安に塗れていたエイワンだったが真っ直ぐな瞳のまま答えたガトーに大きく頷いた。

 ピピピ、と機械音が鳴った。それはガトーが持っていた携帯電話の着信音だった。素早く取り出して小声で二、三口にして切った。

 

 「進路を変更する。霊園に向かってくれ」

 「この後はホテルに向かうはずでは?」

 「イリア少尉からカトウ大佐が行方不明になったと連絡が入った」

 「っ!?霊園へ急行します!!」

 

 二人は何もない事を願いつつ霊園へと急ぐのであった…




 行方不明の一報を受けたガトー中佐とエイワン少佐は霊園へと急ぐ。イリア少尉と鏡士郎に何があったのか!?
 『月は危険と出会いが凄かった』
 

 ではまたお会いしましょう
 


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第12話 『月は危険と出会いが凄かった』

 月面都市の霊園正面。

 そこでは月周辺で散っていった英霊達を祀っている。連邦軍が主であるがジオンの慰霊碑も距離を置いて建ててある。これはスペースノイドにも友好的ですよって言うだけのアピールだけの物で、現在ここに来る人は少ない。

 誰も居なかったジオン兵の慰霊碑の前に加藤 鏡士郎は立っていた。イリアも近くに立っておくべきなのだが1時間以上鏡士郎と共に掃除を行なっていた為に疲れて近くのベンチに腰掛けている。

 ずっと慰霊碑と向き合っているだけだったが突如として歌を歌い始めた。最初は騒ぎになるかもと思い止めようかとも思ったのだが途中から聞き入ってしまった。

 透き通るような声にあんな悲壮感溢れる表情で歌う曲が心に響いた。歌声が少し距離を取った連邦の慰霊碑の辺りまで届き、耳にした人が集まってくる。敵意は感じない。彼ら、彼女らも聞き入っているのだろう。

 周りの事など知らずに夢轍~ユメワダチ~を歌い続ける。

 この時の二人は慰霊碑の意味合いが変わっていた事に気付いていなかった。建てた当初は上記の通りだったのだがデラーズ・フリートの星の屑などがあってから結束されたジオン残党狩りを目的としたティターンズにとっては隠れているジオン兵の炙り出しに使っている。何か行動を起こそうとする者や久しく思い出した戦友の名が刻まれた慰霊碑を見に来るものが居る。それらを尾行したり、時には捕縛して仲間の居場所を吐かせるのだ。

 歌い終わる前に黄色い鳥のマークが入った黒服の連邦仕官が人ごみの中を掻き分けて鏡士郎に近付く。後ろから見ていたイリアは気付いて先に近付こうとするが人が多すぎて近寄れない。

 歌い終わり「ふぅ」と一息ついた鏡士郎の腕が掴まれた。

 

 「こっちだ!」

 「へ?はにゃ!?」

 

 何が何だか理解できずに腕を掴んだ男に引っ張られるまま駆け出す。人ごみを分けて連邦仕官が追いかけてきた事で何が起こっているか理解する。男はどうやらこの辺に詳しいらしく狭い路地を上手く利用して撒いたようだ。 

 息を切らしながらこちらを心配している男の顔を見ると見覚えがある顔に驚いた。

 

 「ファビアン少尉?」

 

 急に名を呼ばれた男は神妙な顔をした。

 ファビアン・フリシュクネヒト少尉。

 アクシズの強硬派に属していたモビルスーツパイロット。爽やかな美青年顔をしている為に当時の強硬派のリーダーだったエンツォ大佐の密命を受け、ハマーンを篭絡しようとした男。篭絡と言うか最終手段で無理やり襲おうとした所をシャアに殴られ未遂で済み、アクシズ追放処分を受けた。

 未遂とは言え許せないから殴りかかろうかと思ったのだが今助けられた手前殴りにくい。腕を組んで考え込む鏡士郎をファビアンは睨むように観察する。

 

 「君はいったい?」

 「あ!すみません自己紹介がまだでしたね。僕はキョウシロウ・カトウ大佐と……あ…」

 「大佐?君が?」

 「すみません!今のは聞かなかったことに!!」

 

 わたわたと慌てて訂正するのを見て苦笑いする。

 最初はいろんな疑問を抱いたのだがどうも思っていたものと違う感じしかしない。

 

 「で、大佐君は何をしてたんだい?」

 「ええと、ハマーンsむぐ!?」

 「それ以上はストップ」

 

 口を手で覆われ喋ることが出来ない為に何度か頷いて了承する。左右を見渡し路地裏をそのまま連れて行く。

 

 「私がどんな人物かも知らないのに何でもかんでも話すもんじゃないよ」

 「(コクン、コクン)」

 「あと周りの状況を確認して話す言葉は選ぶ事」

 「(コクン、コクン)」

 「……頷かなくて喋っても良いんだよ」

 「…ぷはぁ!!」

 「息まで止めていたのかい君は?」

 

 クスリと笑いつつ空気を必死に取り込む鏡士郎を連れて路地の奥にある酒場へと入って行く。狭い店内であるが中のカウンター席もテーブル席もほとんど埋まるほど人が多かった。そんな彼らは新たな客に視線を向ける。鏡士郎はアクシズのバーでなれているから良いものの相手にとっては年齢制限ガン無視で子供が入ってくるのだから注目してしまう。

 カウンターの奥でグラスを磨いていた中肉中背の男がガンを飛ばしてきた。目付きは悪く、顔には多くの傷跡を残しており厳つさが半端なかった。怯えつつファビアンの後ろに隠れる。

 

 「おいファビイ。そのガキはなんでぇ?」

 「警戒しなくていいですよマスター」

 「テメェのガキか?」

 「子供を持った覚えは無いんだが」

 「これだからもてる男は…だったら何でここに連れて来た?」

 「彼、ジオンの慰霊碑の前で鎮魂歌歌ってたんだぜ」

 

 辺りの皆の視線が異物を見るような奇怪なものから何か尊敬や驚きを持ったものへと変わっていった。後ろから追い出すように押し出された鏡士郎は不安の眼差しをファビアンに向ける。

 

 「ここに居るのは全員ジオン軍人関係だから安心していいぞ」

 「本当に?」

 「本当だって」

 「おいガキ。何か飲んでけ」

 「良いんですか?じゃあコーラで」

 「あいよ。ところでおめーさんは誰の為に歌ってたんだ?」

 「うー…散って行ったジオン将兵全員の為って言ったらそうなんだけど。やっぱり一番はマレットさんですかね」

 

 マレット・サンギーヌ。

 キシリア・ザビ麾下の直属部隊『グラナダ特戦隊』の隊長で階級は大尉。プライドが高く傲慢な性格でいろいろと衝突の多かった。MSの操縦技術は高く、エースパイロットの一人だろう。グラナダが降伏しても最後まで戦い続け戦死した…

 差し出されたコーラを口に含みつつあのプレイした戦場を思い出す。もす何年も前だったけど…

 

 「なぁ、坊主。儂らにも聞かせてもらえんかの」

 

 声をかけたのは奥で酒を飲んでいた作業服を着た優しげなお爺ちゃんだった。快く頷き、カウンター前で再び夢轍~ユメワダチ~を歌い始める。

 奥でベレー帽を深く被った男が何やらほくそ笑んだのに気付かずに…

 

 

 

 歌い終わり、戦友や戦いの記憶を思い返したのか店内がしんみりとした空気が漂った。

 その空気を打ち破ったのはドアを蹴破って突入してきた黒服の連邦軍だった。

 

 「動くなスペースノイド共!!」

 

 突然の事に反応できずに銃を向けられたまま膠着するしかなかった。真ん中に立っていた指揮官らしき男が下卑た表情を浮かべる。

 

 「この月にこれだけの残党が居たとはな。これで俺の昇進は決まったな」

 「旦那。俺のこと忘れちゃ困りますよ?」

 

 銃を向けられた中で一人の男が連邦軍に向かって歩み寄って行く。

 ジャケットを着た男はベレー帽のつばを軽く上げる。褐色の肌に左目の傷を見て驚いた。見間違えるはずも無い。シーマ艦隊所属の兵士のクルト。ガトーの戦友で星の屑に参加しようとしたケリィ・レズナーにシーマがケリィのヴァルヴァロにしか興味がない事を口走り、最後はシーマに責任を取れとザクⅡ一機でヴァルヴァロと対峙して戦死したはずだ。

 死んだはずのクルトはニヤリと笑って指揮官の横に並ぶ。

 

 「貴様!宇宙を漂流していたところを助けてやったとゆうに、恩を仇で返すのか!!」

 「ヘヘ、あの時はありがとよ。けれどこれとそれは別さ。故あれば、寝返るのだよ」

 

 下卑た笑いを向けるクルトの足に押し付けるように銃が向けられると何の躊躇いも無く引き金は引かれ押し付けられた事でくぐもった銃声が響いた。唸り声を上げて撃たれた右足を押さえて転げまわるクルトは驚きの表情を隠せなかった。

 

 「何故とでも言いたそうだな?貴様も歴としたジオン残党軍ではないか。しかも札付きのシーマ艦隊のな」

 「ぐぅうううう…大尉、キサマァ!!」

 「故あれば、寝返るのだったら早めに排除しといた方が良いしな」

 

 興味を失ったようにクルトから鏡士郎に視線が向けられる。

 

 「さてと、では掃除と行きますか」

 

 手を軽く振り上げると同時に周りの兵士が銃を構えてトリガーに指を近づける。

 撃たれると思った鏡士郎は腕を前に出して無意味だが自分を守ろうとした。

 店内を響き渡る銃声はいつまでたっても鳴らずに変わりに空気が抜けるような音が数回と同じだけ何かが地面に落ちたような鈍い音が店内を満たした。

 恐る恐る腕を元に戻しつつ瞑った目を見開く。

 

 「ご無事ですかカトウ大佐」

 「中佐?ガトー中佐ああああ!!」

 

 そこに居たのはサプレッサー付きの拳銃を構えたガトーとエイワン、イリアの三人が立っていた。安堵した鏡士郎は泣きながらガトーの胸に飛び込んだ。苦笑いをしながら優しく撫でて落ち着かせようとする。

 

 「もう大丈夫ですよ大佐」

 「グズっ…ありがとう…」

 「間に合ってよかったですよ。イリア少尉が発信機を付けてくれてたおかげですね」

 

 エイワンの棘のある一言にイリアはばつが悪そうに顔を背ける。エイワンとガトーはハマーンよりイリアが監視の意味を込めて副官をしている事を知っているから別にそれ以上言う気はないが…

 

 「ガトーってもしかして『ソロモンの悪夢』のアナベル・ガトー大尉ですか!?」

 「ああ、そうだが…君は?」

 「私はファビアン・フリシュクネヒト元少尉であります。ここに居る彼らもジオン関係者です」

 「そうか。君らはこれからどうするのだ?」

 「ここを離れようと思います」

 「これだけの騒ぎが合った後だと脱出も難しいだろうな」

 「ですね。一番にスペースポートに検問所が置かれて、次に連邦軍の監視が厳しくなるでしょうね」

 「ガトー中佐」

 

 ファビアンとガトー、そしてエイワンが話しているとまだウルウルと瞳を濡らしたままの鏡士郎が話に入ってきた。

 

 「どうしましたか?」

 「皆を(安全な所まで)連れて行けないの?」

 「っ!?彼らを(アクシズの兵士として)我らと共にですか?」

 「それは無理ですよ大佐。彼らを我々の艦に乗せるとしてもそこまでの足を確保できませんよ。確保するにしても月に駐留している連邦軍とやりあうはめになりますよ。どう考えてもモビルスーツの数が足りませんよ」

 

 意味を取り違えている事は置いといて半ば呆れ口調でイリアが答える。

 月には駐留している連邦軍が居る。主な目的は治安維持や防衛で大戦力と言うまでもないが戦艦4隻とMS12機で何とかなるものではない。しかもこちらは旧式が主で向こうは最新型。脱出どころか全滅もありうるだろう。

 

 「MSがあれば良いのかお嬢ちゃん」

 

 話し合いに参加してきたのは聞かせてくれんかと頼んできたお爺ちゃんだった。

 

 「え?まぁ、ないよりはだけど…」

 「なら儂らに任せろ。こう見えても儂は戦争博物館の館長をやっておってな。そこにあるMSを使えば良いザクⅠにグフ合わせて4機ほどなら今すぐにでも動かせるぞい」

 「4機ってそれだけじゃあ…」

 「おお!なら儂も手伝うぞ。ジャンク屋ってのはいろいろと部品を集めやすくてな。旧式だが使えるで」

 

 奥に居たお爺ちゃん方がヤル気に燃えていた。

 彼らが言っているMSは旧式というよりもスクラップ寸前の物だろう。それでは連邦の新型に太刀打ちできるか危うい。慌てて何とか止めようとする。

 

 「ま、待って!MSの数は良いとして貴方達の中で操縦できる人居るの?」

 「儂らは元整備兵で操縦はからきしじゃな」

 「私は手伝っても良いがパイロット一人じゃ意味が無いな」

 「パイロットが居なきゃMSが有っても意味が無いよ」

 「当てはあるがな…月の収容所」

 

 パイロットが居ない事で静まりかけていた場が再び熱を持ったのだが余所から着たばかりの鏡士郎たちは何のことか理解できてなかった。

 

 「去年この月周辺で事を起こそうとした連中が居たんだ。腕の立つパイロットが何人かここに収容されているって話だ」

 「そういえばお前さんマレットさんと言っておったが、もしかして『グラナダ特戦隊』のマレット・サンギーヌのことかえ?」

 「はい、その通りですけど…」

 「事を起こしたのはそのマレットの部下なのじゃ」

 「え…マジで」

 「他にもその件に関わって居たと言う事で月に連れて来られた連中が居たな。確か『闇夜の…」

 「『闇夜のフェンリル』ですか!?」

 「うむ。確かそんな部隊名じゃったな。そこの隊員二名が居る筈じゃ」

 

 マレット隊とも闇夜のフェンリル隊とも関わりが無かった三人は先程まで涙目だったが今はキラキラと目を輝かせている鏡士郎に説明を求めた。

 

 「マレット隊も闇夜のフェンリル隊も一年戦争を生き抜いた部隊で隊員ひとりひとりがかなりの技量を有してますよ。彼らならザクでジムⅡだって落とせますよ♪」

 「それほどの腕前なら是非とも欲しいな」

 「救出してもここから脱出する足が無ければ意味がありませんよ!!こちらの艦で入港する気ですか?」

 「…足なら何とかなるぜ」

 

 自分のジャケットできつく縛って止血するクルトが痛みを堪えつつ立ち上がる。

 

 「二日後に連邦軍の月駐留基地より戦艦が入港する。名目は月面都市の警備の強化と言うことだが連中遊び呆けに来ているって話だ」

 「貴様!連邦に俺達を売っておいて…今度は何を企んでおる!?」

 「ま、待てよ。俺はあんた等に罪滅ぼしに情報を教えてんだけだぜ」

 「…それでさっきのを帳消しにしてくれって事?」

 「そういうこった。謝礼も貰えると嬉しいんだが…そこまで強欲じゃないんでね」

 「分かった」

 「大佐、ほんとにするんですか!?」

 「僕たちは二日後にここに居る人と収容所の仲間を助けて月を離脱する!!」

 

 満面の笑顔で宣言した鏡士郎にこの場に居るほとんどの者が熱い視線を送った。例外のひとりであるイリアはため息を付いて胃の痛みを抑える為に慰霊碑に向かう前に買っておいた水入らずの胃薬をなれた感じで飲み込んだ。

 




 イリアの胃が悲鳴を上げるような事を行なおうとしている鏡士郎はその前にアナハイムへ向かうことに…
 『模擬戦と謎の少女』
 


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第13話 『模擬戦と謎の少女』

 アナハイム模擬専用施設

 今日はここで模擬戦が行なわれるということで待機していた。名目はジオン軍が使用していたMSのデータチェックである。ゆえに今回乗って居るのは試験機や試作品を積んだ機体ではなくドムである。

 パイロットのバネッサ・バーミリオンは付近の地形を何度も見渡す。大型倉庫が付近にあるだけの市街地。何度も使った事あるフィールド。その筈なのに嫌な予感がする。

 

 「なぁ…」

 「どうした?」

 

 声をかけたのは二号機とペイントされた二機目のドムのパイロットを務めるガイウス・ゼメラだった。いつも通りの笑みを浮かべているのだろうが無線越しに聞こえる震える声でも緊張しているのが分かる。それだけでも嫌な予感に拍車をかける。ガイウスはバネッサと同じく親衛隊MS部隊で実力も確かなパイロット。そんな彼が声を震わすほど緊張しているなど異常事態以外のなんでもなかった。

 

 「この状況ってあんときだよな…」

 「ああ、そうだな」

 

 思い出す…

 雪が降り注ぐサイド3での最後の戦闘を…

 あの時と同じ大型ランスに円形シールドを眺めつつ嫌な予感を振り払うように頭を振るう。意識を変えて模擬戦に集中させようとする。

 

 「この模擬戦には何かあるだろうが…今は目の前のことだけに集中するぞ」

 「了解した。――っ!?来るぞ!!」

 

 アラーム警報が鳴り響く中、上空を見上げる。7発ほどの砲弾が降り注ごうとしていた。言葉など交わす事無く二人はそれぞれの回避行動に移っていたが砲弾は地上に直撃する事無く空中で爆発した。同時にレーダー系が幾つか使えなくなった。

 

 「金属反応と熱源センサーが!?」

 「気を付けな!!」

 「分かっている!!」

 

 『分かっている割には脇ががら空きだぞ!!』

 

 無線から聞こえた訳ではない。脳内に刻まれた男の声が頭の中だけで響いた。

 そうだ…確かこの時に…

 5年前の光景を思い出す。センサー類が狂わされ事で生まれた一瞬の隙を付いて接近されて蹴飛ばされた。思い出しながらそちらへとモノアイを向けるとそこには5年前のサイド3で見たグフカスタムが居た。

 反応する暇などなく蹴りを喰らわされ転倒する。起き上がろうとスラスターを盛大に噴かすがヒートサーベルで両足を切断された上、杭のようにして右腕を貫通させ地面に刺した。盾に収納してあったヒートサーベルを抜き、右腕を貫いていたヒートサーベルを引っこ抜き二刀を構えたままバネッサに向かって歩き出す。最後の抵抗に落としたマシンガンに手を伸ばすもまだ動いた左手首を狙って踏み潰された。

 目の前で起こった過去の出来事を見てバネッサは距離を取る。同時にランスと盾を放棄してマシンガンを撃ちまくる。最小の動きで回避したグフカスタムは建物の影へと消えて行った。追う事はせずに近くの大型倉庫の中へと入り込む。MSが動き回れるほどの高さと広さを持った倉庫は入り口は空いていたが反対側は締まっていた。

 荒くなった息を整えながら入り口を睨みつける。

 

 「まさか…いや、ランス・ガーフィールドは死んだ…」

  

 この機体、この装備、この地形、この倉庫、あの敵…この模擬戦はあの時の再現を行なうのが目的なのだろう。だがそんな説明も受けてない。ならばあの時と同じ行動を取る事も無い。

 あの時は締まっていた扉から剣を貫かれ慌てて飛び出した所でやられた。ならば!!

 ドムを加速させて入り口から飛び出した。このタイミングで裏に回れば背後をつく事が出来るだろう。

 甘かった。飛び出した先にはグフカスタムが待ち受けていた。ホバー走行ですぐには止まれず回り込むように動く。視線は奴から離さなかった。

 何を思ったのか徐に右手のヒートサーベルを横に投げ捨てたのだ。一瞬、コンマ単位で目を離した。離してしまった。視線を元の位置に戻すとそこには奴の影は有っても形は無かった。

 

 「その目のよさが命取りだ」

 

 無線より少年の声が響いた。影に気付き上へと視線を上げた時には飛び上がっているグフカスタムから伸びたヒートロッドがドムへと触れる直前だった。機体に電流が流されてドムが動かなくなった。何も映らなくなった真っ暗なコクピットが衝撃で揺れた。再現なら胸部にヒートサーベルで貫かれた所だろう。

 

 「あとはお願いします。フィーリウス様…」

 

 機体が死んだ事を理解したバネッサは急いでコクピットを開けて外に出る。この後の戦いを見る為に。

 

 

 

 「はひゅ~…」

 

 体内にあった空気を全部吐き出したんじゃないかと言うぐらい息を吐いた加藤 鏡士郎はモニター越しに見えるドムを見つめた。

 今回の模擬戦は無理を言って機体や装備を揃えて貰って、サイド3で首都防衛大隊が決起した際の再現みたいにしてもらったがさすが親衛隊のエース部隊。ひと縄筋では行かなかった。

 

 「さすがですな。彼が押すだけの事はある」

 「ははは、褒められるとちょっと照れますね」

 

 無線よりこの模擬戦を見ているメラニー氏からの言葉に素直に喜びながら刺しっぱなしのヒートサーベルをドムより引き抜く。

 

 「短時間でうちのエースパイロット達を倒してしまうとは…ドム二機の修理費は痛いですがね」

 「あー…すみません」

 「いえいえ。おかげで良いデータが撮れましたよ。次はもっと良いデータが撮れそうだ」

 

 メラニー氏の言う通りだった。ゆっくりとこちらにとある機体が歩いてくる。茶色系のカラー染め上げられ、ギャンとゲルググの流れを汲む『ガルバルディα』。パイロットはフィーリウス・ストリーム。鏡士郎が仲間にしたい凄腕のパイロット。

 予定通りにパネルを操作してメラニー氏との無線を切断する。

 

 「フィーリウス少尉ですよね?」

 

 返事は返ってこなかったがそのまま言葉を続ける。

 

 「僕はキョウシロウ・カトウと言います。階級は大佐で今はとある部隊の指揮官をやっています」

 

 一定の距離をとったフィーリウスはビームサーベルとザクⅡの右肩の盾を構えつつジリジリと微かにだが距離を詰め始める。

 

 「僕は貴方に参加して欲しいと考えてます。メラニー氏からは許可は得ましたが貴方の意思を尊重しようと思います」

 

 左手のヒートサーベルを構えたまま、右腕のヒートロッドをいつでも放てるように準備する。

 

 「僕は貴方の血筋を欲してない。ランス・ガーフィールドさんが見込んだ貴方が欲しい。一緒に新たな時代を駆ける同士になって欲しいんです」

 

 ガルバルディαが動いた。迎撃するように放たれたヒートロッドを回避して距離を詰める。繰り出される突きを弾き、回避して凌ぐ。ガルバルディαに避けられたヒートロッドは目標だった投げ出されたヒートサーベルの持ち手に引っ付きそのまま放たれた右手へと帰っていく。勢いをつけて帰ってきたヒートサーベルを右手で受け取り攻勢に転じる。 

 

 「もし参加して頂けるなら明日――」

 

 鏡士郎は無線で叫びながら斬り合う。

 ビームサーベルがグフカスタムの肩を掠める。

 ヒートサーベルがガルバルディαの腕を掠める。

 盾とサーベルがぶつかり合い火花を散らす。

 二人の模擬戦はメラニー氏に止められ決着が付く前に終わらされた。コクピットから顔を覗かしたフィーリウスは真面目な表情で見つめ、鏡士郎は楽しそうな笑顔で答える。

 

 

 パイロットスーツを脱いだ鏡士郎は昨日と同じ格好をして外で待っていたイリアと合流する。

 

 「良いんですか?無理にでも誘うべきでは?」

 「アレで良いんだよ。無理やりはあまり好きじゃないしさ」

 「甘いですね…」

 

 本当ならガトー中佐も来る予定だったのだがここを発つのが明日に変更された事で今日中にやる事が有るとの事でそちらに行っているのだ。本人はこちらを優先すると言ったが鏡士郎が行くようにと説得したのだ。

 隻腕になっても昔のように時代を駆けようと声をかけた戦友が暮らしていた場所へ…

 会長室で待っているであろうメラニー会長の元へ向かう通路でとある女性と出くわした。

 黒く艶やかな髪は腰まで届いており、身長は180で鏡士郎より高い18歳ぐらいのお姉さんだった。一瞬アナハイムの社員かと思ったが彼女が連邦軍に似た真っ白の軍服を着ていることでその考えを破棄した。

 

 「連邦軍!?」

 

 とっさに反応したイリアが短いスカートの中から何かを取り出そうとするがその前に女性が微笑みながら両手を上げる。

 

 「フフフ、早とちりなお嬢さんね。私は連邦軍じゃないわ。元連邦軍ではあるけれどね」

 「・・・」

 「いつまでもこんな所でスカートの中に手を入れてたら変な目で見られるわよ?」

 

 スカートから覗かした拳銃を元の位置に戻して行く。隣の大佐殿はビックリした顔でそんなところに隠してたの!?と聞きたがっている顔をしているがとりあえず無視する。

 彼女が着ている軍服には連邦軍のマークは無く、代わりに青い炎をバックにニヤリと笑った南瓜が描かれていた。

 微笑んだ彼女は手を差し出して握手を求める。

 

 「アナハイムの警備を任されている『ウィルオーウィプス』代表のナオミ・ウミゾラよ」

 「あ、えと…カトウ・キョウシロウです」

 

 握手を返すした鏡士郎は間違ってもアクシズや自分の身分を言わないように気をつけながら喋った。

 ナオミは興味深そうに顔を見ると二度ほど頷いて手を離した。

 

 「そう…君が…」

 「えーと、何か?」

 「いいえ、またね。カトウ・キョウシロウ君」

 「は、はい。また…」 

 

 何とも言いがたい感覚に包まれた鏡士郎は振り返り出て行こうとする彼女の横顔を見つめた。そこに居た彼女が微笑ではなく楽しそうに笑いながら「13番目ね…」と小さく呟いたのを見逃さなかった…

 後でイリアから聞いたのだがナオミ・ウミゾラとは連邦軍の有名なパイロットで、赤い彗星のシャアと互角にやりあったと言う。イリアの記憶には一年戦争時の話しか情報はなかったので本人かどうかは保障できないとか。

 まったく知らないキャラクターに違和感を覚えながら鏡士郎は明日の予定を考える。




 月面都市からの脱出前日の模擬戦を終えた鏡士郎達は作戦行動の為に動き出す。
 『月からの脱出』


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第14話 『月からの脱出:前編』

 一話完結しようと思ったら前段階で一話投稿できるという事で前編・後編に分ける事に。もしかしたら中篇もあるかも…



 何度目かのため息をつきつつベッドへと転がる。大柄な身体はベットの弾力で押し返されることなく沈む。

 相も変わらずの殺風景な壁にベットとトイレしかない簡素な室内を見渡す。扉だけは頑丈そうな特別房での暮らしは暇で仕方なかった。

 ジオン公国軍特殊部隊『フェンリル隊』に所属していた頃が一番生き生きしていたように感じる。あの時には共に戦場を戦い抜いた戦友が居た。自分を求める戦場があった。己の手足となるモビルスーツがあった。

 それが今やジオンの軍服を引っぺがされ粗悪な囚人服を纏ってこの一室で数ヶ月も食っては話して寝るだけの生活だ。

 何でも俺達が参加した『狼の鉄槌』が行なった『シルバー・ランス作戦』の事で連邦軍自身が聴取を取りたいと言う事だけで移送先であったジオン共和国からこの月へと移送された。取調べはジオン残党狩りを行なっているティターンズ。良い噂は聞かない組織だが共和国からの監視の目があるからあからさまな事はまだ行なってないだけでいつ何があるか分からない。とは言っても出来ることなどもはや…

 瞼を閉じて寝ようとした時に銃声が響き渡り飛び起きた。

 暴動かと思い耳を済ませるがそれにしては銃声が多い。一発や二発ではなく、時々爆発音まで聞こえてくる。これは収容所の暴動なんてレベルではなく戦闘だ。それも銃声が近くなってくる。

 扉に取り付けられた小さな小窓が開かれ誰かが中を覗いてきた。

 

 「優先人物確認しました!扉から離れていてください!!」

 

 指示されるがまま扉から離れてベットの脇へと隠れる。小さな爆発音が発せられると扉の一部が壊され、電子ロック式の扉が手動にて開け放たれた。

 扉の外には小銃で武装した男が三人に幼いシスターが立っていた。

 

 「ジオン公国軍特殊部隊フェンリル隊のレンチェフ少尉さんですね?」

 「ああ…そうだが」

 

 声を聞いて少女ではなく少年という事を理解した。少年は広めの袖よりジオン軍服一式を取り出して差し出してきた。

 

 「僕はカトウ・キョウシロウと言います。もし良ければ僕たちと一緒にジオン独立の為にもう一度戦場を駆けませんか?」

 「―っ!!…いいだろう。何度でも駆けてやる」

 

 こいつが何処の誰でも構わなかった。

 引っ手繰るように軍服を手に取ると袖を通す。

 俺が俺の為に戦う戦場があるのなら!!

 少年に導かれ久しぶりの外の空気を吸う。しみったれた収容所の空気では無く、人工的に作られたコロニーならではの空気を肺いっぱいに吸い込む。そして体内に溜まった空気を体外に吐き出す。

 レンチェフの視界には片腕のないザクⅡに下半身はジムで上半身がザクⅠがザク・マシンガンを構え、護送車を支援していた。護送車には同じ戦場を駆けたソフィ・フランは勿論、多くの捕まったジオン兵の姿があった。

 

 

 

 同時刻月周辺デブリ群内

 

 大小のデブリを牽引しつつ姿を隠しながらムサイ艦がスラスターを停止させて待機していた。

 カトウ艦隊所属ムサイ級巡洋艦後期生産型『アルト・ハイデルベルク』。艦長であるエイワン・ベリーニ大尉はブリッジの艦長席にて腕を組んで一報を待っていた。

 通信士がヘッドホンに手を当てた。「来たか」と呟き視線を向ける。

 

 「入電《笛吹き男より音楽隊へ。笛は鳴り響いた》繰り返す《笛は鳴り響いた》です!!」

 「了解した」

 

 エイワンは気合を入れて立ち上がる。ブリッジの兵士たちが今か今かと発せられるであろう命令を期待の眼差しと共に待つ。

 

 「これより作戦名《演奏会》を行なう。牽引ワイヤーカット!!モビルスーツ隊は切り離したデブリを押し出せ!!僚艦の『パルジファル』と『モルゲンレーテ』打電。作戦通り主砲準備!!」

 「主砲エネルギー伝達確認」

 「牽引ワイヤーカット!!モビルスーツ隊によりデブリ押し出しまで20秒」

 「僚艦が射撃命令を求めています!!」

 

 デブリを切り離しブリッジからの視界がクリアになっていく。連邦軍は当然焦っているだろう。コロニー内部では収容所に連邦軍駐屯所、入港ドック、発電所に奇襲をかけられて部隊の立て直しに時間と部隊がいるのに急に月周辺に三隻だけとは言え艦隊が現れたのだから。

 

 「目標、地球連邦軍月面基地の宇宙ドック!!月面都市とは離れているとは言え絶対に誤射するなよ!!主砲一斉射………てぇー!!」

 

 ムサイに搭載されている三門の主砲から黄色に輝く主砲が月へと向かって伸びて行く。次々と放たれるメガ粒子砲は戦艦用のドックに直撃し、大きな爆発を起こす。

 その光景に満足しながら席に腰を降ろす。

 

 「射撃止め!!全艦反転。戦域を離脱する」

 

 戦艦用ドックは潰したがモビルスーツ用のドックは別だ。いずれ体勢を立て直した月面基地は一番に足を奪う為にこちらに向けて発進させるだろう。そうなればモビルスーツ9機だけでは三隻ものムサイを護りきれまい。作戦通りに戦艦用ドック破壊したのだ。後は大佐達の無事を祈るばかりである。

 戦域の離脱を開始したムサイを追う力は混乱状態の月面基地には無かった。

 しかしそれは月面基地の話であってパトロールに出ていたサラミス級二隻には関係のない事だった。

 サラミス級は三隻のムサイを逃がさまいと追う。主砲を向け射程内に入った瞬間に撃てるように準備して。

 

 「させるかぁ!!」

 

 先行していたサラミスの主砲が爆発した。その現場を見ていた者にとってビーム兵器でやられた事は明白だった。続いてモビルスーツ格納庫、エンジン部がビームの直撃を受け、内部にあった弾薬や燃料に引火して戦艦一隻を内部から覆うほどの大爆発が起こった。二隻目のサラミスが爆発を回避しつつ索敵の結果見つけることの出来た青いゲルググに各砲座を向けるがそのゲルググとは別に青いモビルスーツが横を駆け抜けた。気を取られていたとしてもあっさりと抜かれ、通過と同時に撃ち込まれた何発もの実弾によりあっけなく撃沈されてしまった。

 通り過ぎたモビルスーツ『ケンプファー』に青い高機動型ゲルググがゆっくりと接近する。

 

 「近衛隊の名も伊達ではないと言う事か」

 

 先程のイリアのケンプファーの戦闘を思い出しながらガトーは回線を開いた。

 

 「カリウス。ムサイの護衛は任せる」

 『了解しましたが中佐は?』

 「私はブルーメンと共に脱出援護の為に残る」

 『御武運を』

 「ああ!!」

 

 カリウスのリック・ドムⅡがムサイを護衛しながら戦域を離脱するのを確認して、ザンジバル級機動巡洋艦『ブレーメン』と合流するべくスラスターを噴かす。追従するイリアもスラスターを噴かして移動を開始する。

 

 

 

 今作戦の総指揮を執り、艦隊の総司令を勤める加藤 鏡士郎は泣きそうになるのを必死に堪えて移動中の護送車の端で体育座りしていた。

 『闇夜のフェンリル隊』や『グラナダ特戦隊』の皆さんに会えて嬉し泣きしている訳でもファビアンさんが大佐という事を皆に言って顔を顰めたり驚きの反応をされた事に対してショックを受けた訳でもない。

 服装が原因だ…

 救出作戦を行なう際に収容所に潜入するなら変装した方が良いという案が出たのだ。そこで一番最初に言われたのが教会関係者だった。教会関係者なら軽いチェックだけで収容所に入ることが出来るからだ。そこで当日にイリアが用意したのが手に入ったものでサイズが合った物がこれしか無いと言う事でシスターの格好をしているのだ。しかも救出作戦に参加する兵士が集合したら皆が連邦軍の制服に急いで作った偽造身分証明書を持っていた。イリアに嵌められたと分かった時にはイリアはパトロール艦隊を強襲する為にザンジバルに戻っており何も言えずに作戦に参加した。しちゃったのだ…。

 

 「そう落ち込まないで下さいよ大佐。似合ってますぜ」

 

 連邦軍の軍服を着たクルトの嫌味を含んだ軽口に余計に気分が沈んだ。ちなみに運転席に座っているクルトの横に座っているファビアンの方から笑いを堪える声が聞こえる。

 じわりと視界が滲むとそっとソフィ・フランに抱き寄せられ、慰めるように頭を撫でられる。体温の温かみに落ち着きを取り戻し涙が引いて行く。

 

 「まるでガキだな」

 「いや、どうみてもガキだろう」

 

 ギュスター・パイパーとレンチェフに何か言われている感じがするがそれは気にせず抱きしめられる感覚を味わう。護送車が大きく揺れ目的地に到着したことを理解した。したが動きたくない…

 

 「大佐。時間が無いんだから動いた、動いた」

 「おっと、例のお客さん来てるぜ」

 「ほんと!?」

 

 ガバっと立ち上がり外へ出ようとした鏡士郎をファビアンが首根っこを掴んで止めた。

 

 「そのままの格好で行くんですか?ってかいつまで着ているんですか?」

 

 そう言われてシスター服のしたには普段着を着込んでいたことを思い出し、気分を沈ませる前にシスター服を急いで脱ぐ。飛び出した先にはアナハイムで模擬戦を行なった少年、フィーリウス・ストリームが無表情でこちらを見つめていた。後ろには巨漢のガイウス・ゼメラに冷静な表情をしているバネッサ・バーミリオンが姿勢を正して待機していた。

 

 「フィーリウス少尉!!来てくれたんですね。良かった。本当に良かった」

 

 ただ見つめ返してくるだけで返答はないが鏡士郎はただただ喜んだ。これで予定していた以上の戦力が集まった。飛び跳ねて喜んでいるのを微笑ましく眺めていた老人に気がついた。

 彼はこの目的地である戦争博物館の館長で鏡士郎に協力してくれている人である。

 

 「はっはっはっ。大佐殿は元気が良くていいですな」

 「無邪気なだけでしょ…。急ぎますよ」

 「は、はい。って待ってよぉ~」

 

 昨日の内に博物館内に隠したケンプファーの元へ急ぐファビアンを追う様に館内に入って行く。中では元ジオン整備兵がここにおいてあるモビルスーツの最終点検を行なっていた。

 現在行なっている作戦はすでに最終段階に近付いていた。

 第一段階として宇宙ドックから都市へと遊びに来ていた連邦軍士官などを元ジオン兵が経営していた酒場へと案内して泥酔、もしくは催眠薬入りの酒類で眠らせる。第二段階として発電所などの施設を元特殊部隊が爆破。同時に月面都市にある連邦軍施設と収容所、戦艦が入港しているドックをモビルスーツを含んだ部隊で奇襲した。残る第三段階は月面都市内戦力でドックにある戦艦を奪取して逃げるとだけだが一番難しい。時間をかければ連邦軍も立て直し脱出は困難となる。

 それにモビルスーツと言っても収容所を襲った隻腕のザクⅡに下半身ジムのザクⅠ、連邦軍駐屯地を襲ったザクバズーカを二つ持った下半身ガンタンク系ドムにショルダー無しのザクⅡに中身ジオン系のジム、ドックへ向かった主力がザクⅠで両腕がジムなのと下半身ザクⅡに上半身ゲルググと原型から変わり果てた機体ばかり。

 博物館の目玉になっているモビルスーツを展示している場所には連邦のジムにジム・コマンド、量産型ガンタンクがあり、ジオン系だとザクのⅠとⅡが一機ずつにグフ、ドム、ゲルググの準備が進められていた。他にも数機あるのだがそこまで整備の手が回らなかったのである。

 

 「あぁ…大佐。ちょっといいかな?」

 

 館長に手招きされるがまま通路の奥へと着いて行く。

 

 「連邦軍が性能を図る為に再度作ったジオンのモビルスーツがあっての。測定後は廃棄する予定じゃッたが話を聞いたわしが基地司令に大金を払って譲ってもらった機体があるんじゃ」

 「へぇ~、そんな事出来るんですね」

 「普通は出来んはずじゃがな。連邦がどれだけ腐っとるかと言うだけの話じゃ」

 「ハハハ…。で、何て言う機体なんですか?」

 

 進んだ先には関係者以外立ち入る禁止の壁紙を貼られた大きな扉があり、館長の合図を受けた人がボタンを押してゆっくりと開けた。

 現れたのは青をベースとしたザクであった。肩はザクとは違い丸みがあり、尖っていてゲルググの物に近かった。あとザクⅡにはあった腰や太ももから脹脛へ伸びていた動力パイプが無くなっていた。

 この機体を目にした鏡士郎より遠目だが機体を認識したリリアのほうが驚いていた。

 

 「アクトザク…」

 

 グラナダ特戦隊のマレット・サンギーヌ隊長が使用したモビルスーツ。関節各部にマグネットコーティングが施され、ザクⅡとは桁違いの高い機動力と性能を誇る。

 月でこの機体を扱うと思うと気持ちが引き締まり、なんとしても皆を脱出させて見せると意気込む。




 歴戦の勇士達とアクトザクなどのモビルスーツを得た鏡士郎は宇宙ドックへ急ぐ。

 次回『月からの脱出:後編』(もしくは中編)


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第15話 『月からの脱出 中編』

 やはり後編じゃなくて中編になってしまいました…


 深夜を過ぎた月面都市の大通りをジム改二個小隊。つまり六機が隊列を組んで闇夜を進んでいた。

 月面都市もコロニー同様で時刻によって灯りを調節して夜にする。が、今日の夜はいつもとは違う。発電所と変電所を爆破されたおかげで病院や軍施設など発電施設を持たない施設はすべて停電になっているのだ。

 月面都市第三駐屯地所属のMS部隊は攻撃を受けたとされる第四駐屯地へ向かっている最中だ。

 

 『た、隊長!!』

 「…なんだ新米」

 

 索敵を厳にしてモニターを見つめていた静寂を破ったのは最近編入された第一小隊三番機のリド准尉だった。

 声色より不安や恐怖を感じ取った隊長であるロイル大尉はため息を付きつつ視線を向けずにめんどくさそうに反応した。

 自分が訓練学校を卒業して戦地へ向かう道中は身の丈に合わない妄想に期待を浮かべたりして意気揚々と出撃して行ったのを思い出す。当時の戦友の多くはそうだったし、同じ隊に配属された奴らは皆そうだった。准尉みたいに怯える奴なんて一人も居なかった。

 相手を見下すように考えていた思考を破棄して思い出す。あの頃はオデッサを奪還してジャブローでは返り討ちに合わせて戦況は連邦軍に有利でジオンは風前の灯と言う心的余裕を生む要因があった。今の状況はそのときとは一変していた。本部である月面基地は混乱状態にあり、これから向かう第四駐屯地は半壊状態だと言う。現地の味方はボロボロで敵の武装から数まで全てが不明、頼みの月面基地からの援軍は望み薄。怯えるなと言う方が無理か。

 

 『じ、自分達は勝てるのでありますよね?』

 「准尉、戦場で絶対なんてものは無い。勝つも負けるも分かるわけねぇだろ?ルウムを思い出してみろ。連邦軍は勝てる勝てるて言ったけども事実は間逆でジオンの勝利だ。絶対なんて無い」

 『そんなぁ…』

 「ハハハ、そうビクついてんじゃねぇよ。逆にチャンスだと思えよ。ここで手柄を上げたらお前さんが入りたがってるティターンズの目に止まるかもしんねぇんだからな」

 『あ、そ、そうですよね』

 

 まぁ、無理だと思うがなとは言わずに気丈そうに振舞おうとする新米に笑いかけた。ここで不安のまま戦われてもめんどうだしな。

 

 「敵なんてどうせデラーズ・フリートの残党かなんかだぜ。残党の残党なんかに何が出来るんだっての。だからな、新米…」

 

 元気付けようと語りかけてくるロイル大尉の声はそこで止まった。同時にコクピット内まで轟音と振動が響き渡る。

 驚き目を閉じてしまったリド准尉は恐る恐る目を開けると頭を吹っ飛ばされた隊長機が映った。さっきまで話していた隊長が死んだ。正確にはメインカメラをやられただけで死んではいないのだが戦場を知らない彼が勘違いをしてパニックになるまで時間はかからなかった。

 

 『う、うわあああああ!?』

 

 訳も分からず後ろに下がりつつ銃を何処に向けて良いかも分からずに向ける。図らずも相手はその銃口の先にいた。ザクとは容姿が違う青い機体が猛スピードで突っ込んでくる。モニターが機体照合を済ませて機体名である『ケンプファー』と表示する。機体名が分かった所で彼には理解する事も無理であったろう。狙いをつける事無く装備していたマシンガンを乱射する。相手は避ける動作も行なわず持っていたバズーカを放つ。当てずっぽうの弾が当たる事は無く、放たれたバズーカの弾頭が横に居た二番機の胴体を吹き飛ばす。

 

 『慌てるな陣形を…』

 

 咄嗟に指揮を執ろうとした第二小隊の隊長の声が途絶えた。敵は目の前の一機だけでなく横道にもう一機居たらしい。横合いから突き出されたヒートサーベルがコクピットを貫通していた。

 逃げようと振り返った時には後方はグフが退路を塞いでおり、足元には一撃で仕留められたジム改が横たわっていた。自分以外に残っていたもう一機はケンプファーに至近距離からショットガンを放たれ撃破された。

 情けない話だが銃を向けられた時にはマシンガンを手放しに命乞いをしていた。隊長を撃った相手に。

 

 

 荒々しく鼻を鳴らしながらレンチェフはつまらなそうに生き残ったジム改を見つめた。

 本来なら止めを刺すところだが指揮権を預かるファビアンがそれを良しとしなかった為にとりあえずこのままと言う事だ。

 

 『さて、これで時間稼ぎにはなるだろう』

 『後はあちらが上手くやっているかですね』

 

 ファビアンとソフィが言っているのは第四駐屯地へ向かった部隊のことである。艦隊の攻撃を受けた月面基地は立て直し中でまだ時間はあるとの事で問題となったのがこちらに向かっているMS部隊と半壊したといえまだ力を持っている第四駐屯地である。

 脱出の要であるドックは中古品のMSと廃品の盾や鉄材を装備したプチモビを主軸とした主力部隊で何とか制圧は出来た。他のエリアの制圧までは手が回らなかったが通路を塞いだり、兵士を配置したらで凌いでいるらしい。運が良いのか悪いのか目的のドックにはサラミス改級宇宙巡洋艦二隻が入港していた。燃料・弾薬も十分でここにいる仲間を連れ出すには十分すぎる品物だ。だが、当初の予定では一隻だった為に急いでもう一隻を動かす人員とシステムのハックが必要となった。人員と機材の積み込み以上に時間がかかる。

 

 『そろそろ俺は行かせて貰うな』

 「ああ、いろいろ助かった。礼を言う」

 『なぁに、すべてはあの大佐殿に言ってくれ。じゃあな。健闘を祈ってる』

 「そっちこそ」

 

 通信を終了したファビアンはこの場を離れる。なにやら事情があって俺らとは行動できないらしい。これ以上騒ぎが大きくなる前に独自の脱出ルートでここを離れるらしい。スラスターを噴かして去って行くケンプファーを見送る。

 

 『こちらもドックに急ぎましょう』

 「そうだな。…ん?」

 

 ドックへと移動を開始しようと歩み始めようとした時に手を挙げるジム改以外に立ち上がっている機体に気が付いたのだ。初撃で頭部を吹き飛ばされたジム改が銃口を向けようとしていた。

 

 『貴様らジオンが…何人…何十人…何百人…何万人も殺しといて…まだ殺したり無いか畜生共めが!!』

 

 軽く舌打ちをして転がるように動き、落ちているマシンガンを拾う。射線上に手を挙げたままのジム改がいることで敵は撃てずに動きが止まる。そんな隙を悠々と見逃すほどレンチェフは甘くなかった。ジム改の頭部を掴んで盾にしたまま頭無しにマシンガンの弾を撃ち込む。無残に蜂の巣へと変わって行くことに頬が緩む。

 

 「アースノイドが何千、何万死のうが知ったことじゃねぇんだよ」

 『た…隊長!!』

 「あー…一人殺すのに一発使うのは勿体無いって言われたっけな」

 

 空になったマシンガンを捨てて無抵抗のジム改のコクピットにヒートサーベルを突き刺した。思いっきり引き抜くと力を失ったのかその場に崩れ落ちた。

 

 『…レンチェフ』

 「行くか」

 

 6機の残骸をその場に残してグフとドムは本隊との合流するべく移動を開始した。

 倒れたジム改からは血のようにオイルが漏れ出ていた…

 

 

 

 「何だこの有様は!!」

 

 基地の主だった能力を奪われた第四駐屯地で唯一無傷だった5階建ての司令塔司令室ではここの指揮を預かっていたグラス中佐は顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。それを聞かなければならない各部署担当者は内心うんざりした気持ちを抑えて真剣に聞いている振りをいていた。

 

 「貴官らがしっかりしてないからこうなるのだ!!」

 「お言葉ですが今回の奇襲は相手が十分な戦力と情報分析を行なった用意周到なもの。それを防ぐというのは…」

 「黙らんか!!」

 

 理不尽な怒りに意を唱えた仕官は怒り狂っている中佐に殴られ地面に転がった。口を切ったらしく垂れる血を袖で拭きながら元居た位置へと戻る。

 

 「確かにそうだろう。難しいんだろう。だがな!!その結果、駐屯地の機能を奪われ、ドックを制圧されたなど上層部に言えるわけが無いだろう!!」

 

 ひびが入った窓際に立ったグラス中佐は忌々しく駐屯地入り口に集められたMSに目をやる。ここには三小隊が配置されていたが、格納庫も襲われ無事だったのは練習用のザクⅡが二機にジム改が一機。

 

 「たった三機では追撃も出来やしない!!こんな無様な結果を私はどう報告すれば良いのだ…」

 

 自分の地位の事しか考えてないグラス中佐に心の底から苛立ち今すぐ殴りたい気持ちでいっぱいだった士官らは入り口から入ってきたMS部隊に気付いて歓喜の声を挙げる。グラス中佐だけは気に入らなさそうだったが。

 

 「これで今回の手柄は第三に盗られる訳か…つまらん」

 「あれ?第三はジム改を揃えてたんじゃなかったか?」

 

 一人の仕官が言ったとおり、第三駐屯地MS部隊はジム改で統一されておりそれ以外の機体は無い。しかし今入ってきたのはジムにジム・コマンド、量産型ガンタンクである。

 抱いた違和感から起こった嫌な予感はすぐに現実のものとなる。

 最初に動いたのはジム・コマンドだった。ジム改のコクピットを顔も向けずに撃ち抜き、ザクⅡのメインカメラを頭部バルカンで潰した。行き成りメインカメラがやられた事で動揺したパイロット達はそのままコクピットを撃ち抜かれた。ジムはMSの横で待機させていた装甲車や61式戦車など戦闘車両に対して攻撃を開始した。

 

 「な!?何をやっとるか!!」

 「中佐!!あれは第三の連中じゃありません。ジオンです!!」

 「なんだと!!」

 「ガ、ガンタンクの砲がこちらに!!」

 

 残った駐屯地建造物に攻撃を開始したガンタンクの砲により司令塔が吹き飛び。第四駐屯地は文字通り壊滅したのである。

 任務を終えたフィーリウスはガイウスとバネッサと共に撤退を開始する。

 

 

 

 ファビアン隊とフィーリウス隊が時間稼ぎで戦闘を開始した頃、加藤 鏡士郎はアクトザクに乗り街中を歩いていた。

 

 「僕たち…コホン、我々はジオン軍所属の者です。月面都市にお住まいの方にはご迷惑をかけます。戦闘が終わるまで建物から出ないで下さい」

 

 外部スピーカーを通して民間人に呼びかける。この戦いはジオンと連邦のもので民間人には怪我人一人出したくないと考えている。ゆえに建物から出ずにいて欲しいのだ。へたに道端を歩かれると踏んでしまいそうで怖いのだ。

 アクトザクの後方にはリリアのゲルググにユンマイのザクⅠ、ギュスターのザクⅡが続いている。機体的に宇宙戦闘も行なえるので鏡士郎の部隊はこの後、戦艦の護衛を行ないつつここを離れる予定となっている。外の追撃には多分MS隊が出てくるだろう。それの排除が自分の役目だと理解している。

 それはそうと民間人への呼びかけももう良いだろうと判断して気を楽にする。それとドックに向かうだけなので音楽でも聴こうと音楽プレイヤーへと手を伸ばす。もう前のような失敗をしないように今日はヘッドホンを用意したのだ。これで音漏れの心配は無い。無線が聞こえるようにヘッドホンを耳より上の位置にセットして再生する。曲は『Zips』である。本当は本人の声で聞きたいのだがこの世界にはない曲なので自分で歌った曲である。歌詞に合わせて口を動かしながらMSを操作する。

 ふと、通行人が目立ち始めたことが気になった。何故か家から出て来てこちらを見ているのだ。それも恐怖なのではなく楽しそうに。疑問を抱いて首を傾げていると無線が入った。

 

 「カトウ大佐」

 「あ、はい。なんでしょうかリリアさん?」

 「今、何か音楽を聞いてますか?」

 「はい…聞いてますけど…」

 「音が漏れてます」

 

 言われた言葉が一瞬理解できなかった。だって音が漏れないようにヘッドホンを用意したのだと慌てて音楽プレイヤーを見るとコードが刺さりきっておらず音が駄々漏れであった。しかも外部スピーカーのままで。

 

 「にゃあああ!?」

 「た、大佐!?」

 「忘れて!!忘れてくださいぃ!!」

 

 顔を赤面させる鏡士郎は今すぐに駆け出したい衝動を抑えつつゆっくりとドックへ向かうのであった。

 




 月からの脱出を開始した鏡士郎達の前に月面基地MS隊が立ちはだかる。

 次回『月からの脱出 後編』


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第16話 『月からの脱出 後編』

 投稿が二週間も遅れてしまい申し訳ない。どうも忙しく過ぎてこちらまで手が回りませんでした…
 次回は来週中に書く……予定


 月面都市宇宙港

 連邦軍の戦艦が入港しているドックがジオンに制圧されてから30分が経とうとしていた。すでに物資と人員の積み込みは終了しており後は脱出のみとなった。

 ドック出入り口には鏡士郎のアクトザクを始め、リリア達、元グラナダ特戦隊が待機していた。

 

 「状況はどうなっていますか?」

 『現在月面基地よりMS隊8機が発進しておりますがこちらは問題ありません』

 「僕らは問題ありですね…突破しましょうか。リリアさんは僕と一緒に来てください。ユイマンさんとギュスターさんは艦を護衛しつつ出来れば援護をお願いします」

 「「「了解」」」

 

 ドックの入り口を開いて行く中、自身の機体であるアクトザクに違和感を覚えた。頭を捻りながら考えていると手にしているザクバズーカに目が行った。射撃武装として渡されたザクバズーカなのだが漫画で装備したところを見てないからか違和感が半端無い。

 振り返った先には同じくザクバスーカを装備しているリリアのゲルググが映る。

  

 「リリアさんこれを」

 「え…あ、は…い」

 

 アクトザクがゲルググにザクバズーカを渡したそれだけだった。

 『俺のバズをやる。敵の艦を沈めて来い!!貴様ならやれるな!!リリア・フローベール』

 風景が変わる。宇宙空間で目の前のリック・ドムⅡが自身のバズーカを渡してくる。

 

 「…隊長」

 「へ?どうしましたリリアさん」

 

 呟くと風景はドック内に戻っており目の前には先ほどと変わらぬアクトザクが立っていた。

 

 「…いえ、なんでもありません」

 

 なんであんな子供と隊長が重なったのだろうと疑問を抱くが機体が隊長が使っていたアクトザクだからと結論付ける。

 ドック内から外へと身体の向きを変えながら二本のヒートホークを両手に持ちモノアイだけをリリアへと向ける。

 

 「では、行きます!!」

 

 リリアが鏡士郎とマレットの幻影が重なっている事など知るよしのない鏡士郎は最高速度でドックから飛び出して行った。行き成りすぎて唖然としていると「何をしている!!」とユイマンに言われて我に返って後を追う。

 ドックへ向かって月面基地より発進した黄色い鳥らしきマークを所々に描いた黒いジムカスタム八機がかなりの速度で接近している。

 月面基地には他にも多くのMSがいるはずなのに八機程度なのには疑問を覚えたが機体を見て理解した。

 ジオン残党軍掃討部隊『ティターンズ』の主力MSであるジムクゥエル。同じ階級でも連邦軍とは二階級上とされて優遇される『ティターンズ』はエリート意識が高く、連邦軍を見下す傾向があるのを原作で知っていた。

 

 「狩りか何かだと思ってんのかなぁ…ま、良っか。では、エントリイイイイイイ!!」

 

 雄叫びを上げながら馬鹿正直に正面より突っ込んでくるアクトザクにジムクゥエルのビームライフルが集中する。すでに馴れて鼻歌交じりに回避しつつ至近距離へと向かってただ突き進む。

 モニターの端にスラスターの光が目に入るが勘で敵ではないと理解出来た。

 

 『援護します』

 

 無線から声が聞こえたと同時に先のスラスターの光より数発のバズーカの弾頭が飛んで行く。アクトザクに注意が行き過ぎていて誰一人リリアの攻撃には気付いていない様だった。回避もする事無く2機が直撃を受けて爆発する。

 

 「さすがですリリアさん。僕も!!」

 

 突如起こった爆発で驚きで陣形を崩し、注意を削がれた一機のコクピットをヒートホークで切り裂く。近くに居たもう一機の頭部へ一撃を喰らわせる。注意がアクトザクへ戻り攻撃が集中するが頭部だけを破壊したジムクゥエルを盾にして被弾を防いだ。その間にリリアがもう一機を撃破する。

 残り三機になったが彼らは撤退する事無く突っ込んできた。対象はアクトザクでもリリアのゲルググでもなくドックから出航したサラミス改であった。

 連邦軍やティターンズ的には全員を捕まえるか撃破するのが一番良い結果だろうが今回の敵には無理だと判断したのだ。敵機は凄腕のパイロットで旧式MSで新型MSを軽く捻れるほどの技量を持っている。こちらは難しくともMS三機もあれば戦艦は落とせる。敵の逃亡を許しただけでなく地球軍所属の艦艇が敵に盗まれるなんてことはあってはならない。ついでに敵MS部隊の足を無くせればもっと良かったのだろうが最初にジオン艦艇より攻撃が加えられたことからまだこの宙域に潜んでいるだろう事からそこまでは無理だ。

 

 「敵に背中を向けるとは武人として恥を知れ!!」

 

 アクトザクを無視してサラミスへと向かう事を良しとすることもなく振り返り様に投げつけられたヒートホークが一機一本ずつバックパック突き刺さる。刺さった所から火花を散らしてバックパックが爆発し、発生した光に包まれ機体までも巻き込んで大爆発を引き起こした。

 コクピット内で一息付きつつ微笑む。

 

 「ガトー少佐ならそう言うでしょうかね?」

 『そんな事言っている場合じゃないでしょう!!』

 「はにゃ!?」

 『早く追わないと…』

 「大丈夫ですよ。ほら」

 

 鏡士郎が言ったとおりにサラミスに向かって行ったMSは護衛についていたユイマンとギュスターによって撃破された。

 それより問題だったのは鏡士郎とリリアの方だった。ティターンズ機が全滅したことで月面基地よりMS隊が発進した。

 

 「さて、逃げますか」

 『ええ』

 

 撤退しようとスラスターを吹かそうとペダルを踏み込みサラミスへと戻ろうとする。が、後ろの方から鈍い音が響くと同時に計器に異常を示す警告が点滅していた。どうやらバックパックが止まったらしい。サラミスまでは距離があり、戻るには時間がかかり月面基地を出たMS隊を連れて行くことになってしまう。

 

 『どうしましたか大佐?』

 「バックパックに不調が…」

 『な!?すぐにこちらへ』

 

 ゲルググの手をコクピットへと近づけてくれがコクピットから出ることは無かった。いや、出れなかったが正しい。

 

 「リリアさんはサラミスへ。僕はあいつらを撃退してから追いかけます」

 『武装も無しでは無理です。急いでください!!』

 「…ごめんなさい」

 『えーと…』

 「パイロットスーツ着てないんです…」

 『何で着なかったんですか!?』

 「背中の阿頼耶識が普通のノーマルスーツじゃあ邪魔になって…」

 

 泣きそうなのを堪えて答える。状況は最悪の一言だった。何とか離脱しようとアクトザクを引っ張って移動を開始する。

 

 「無理ですって。一機を引っ張ってだったら追いつかれますよ!?」

 

 無言で引っ張られ続け徐々にサラミスに近付くがそれよりも相手の足の方が速い。早ければ30秒もあれば有効射程距離に入ってしまう。無理にでも振り払おうとした時叫び声が聞こえた。

 

 『うおおおおおお!!』

 

 叫び声と共にビームが連邦軍MSに直撃して行く。ビームが飛んできた方向を見ると青いゲルググとケンプファーが突っ込んできた。

 ケンプファーはゲルググにアクトザクが引っ張られている事から理解してゲルググ同様引っ張って移動させる。

 

 「イリアちゃん!?助かったよぉおおお(泣き」

 『お礼は後で、今はブルーメンへ』

 

 どうやら二人はザンジバル級『ブルーメン』と共に月面近くに潜んでいたらしい。その方向に押し出されるとイリアはガトーの援護の為に戻って行く。何とか作戦が成功したことにほっと胸を撫で下ろし。無事に敵機を撃破して帰ってきたガトーとイリアを出迎えた。ひとサイズ大き目のノーマルスーツを着て…

 

 

 

 月面戦闘宙域を離脱しようとする鏡士郎達を連邦軍は易々と見逃す気はなかった。

 月面上に残存MSの中で長距離攻撃や中距離攻撃を可能とするジムズナイパーⅡ三機にジムキャノンⅡ四機が護衛のジム改六機と共に展開していた。狙いはサラミス改級宇宙巡洋艦。今からではMSの足では追いつけないので離脱する前に撃ち落せとの命令を受けた部隊指揮をとっている仕官は苦虫を潰したような顔をしていた。

 

 「射程ギリで二隻とも撃ち落せとか無茶言いやがって…」

 『隊長、射撃許可を』

 「ああ…目標、敵に鹵獲されたサラミス級。先頭を行く奴を集中砲火する」

 

 指示された目標へとスナイパーライフルとキャノンが向けられる。あの艦は弾薬・燃料を補給した後に奪われたのだから弾薬庫か燃料タンクに一発でも当たってくれれば大爆発を起こす。それで後続艦が足を止めれば二隻目も落とせるだろう。

 

 「まぁ…そう上手くはいかんだろうがな。全機、攻撃かいs…」

 

 最後まで言う前に距離を置いて横に並んでいたジムスナイパーⅡから爆発が起こった。

 

 「―ッ!?散開しろ!!」

 

 生死を確認する暇もなく命じたがモニターに爆発の光が映し出される。が、MSの爆発にしては小さ過ぎる気がしたがそれどころではなかった。

 

 「何処からの攻撃だ!?」

 『どうすれば宜しいのですか隊長!!』

 「とりあえず回避を…馬鹿!!足を止めるな!!」

 

 報告しようとしたジム改の頭部のみが吹き飛ばされた。おかげで敵の射線が分かったのは幸いとでも言えば良いのだろうか。スナイパーライフルのスコープからの映像で射線の先に居る機体が判明した。

 ジオンMSのゲルググを指揮官専用の高性能カスタムして一年戦争時最高クラスの性能を持つ機体であるゲルググJ型。しかしデータと違って両肩に丸みを帯びた大型スラスターとバックパックからも二つの大型スラスターが取り付けられていた。

 

 全身をシルバーメタルで塗装しており、周りの月面表面を反射していて擬態能力は高いと見れるが射撃を行なって移動しない事で位置を知らせてしまっていた。

 ……いや、分かっても手出しは出来なかったのだが。

 

 『ヤロウ!!』

 「撃つな!!撃つんじゃない!!」

 『何故ですか!?』

 「奴が居るのはアナハイムの敷地内だ!!」

 

 もし一発でもアナハイムに直撃すれば連邦軍との間で問題となるだろう。そうでなくてもアナハイムにはあの人が…

 ゲルググJのスナイパーライフルとスコープが重なった。

 不味いと察して急加速で回避する。相手の射線を確める余裕もなく、ただひたすらに急加速で発生したGに耐える。放たれたビームが近付いてくる。機体には当たらないとほっとしたのも束の間でコクピット内は爆発の光で照らされた。アラームが鳴り響き装備していたスナイパーライフルが爆散していた事に気づく。

 まだ戦闘可能だったMSに目をやるとその全てが武装や頭部、肩を撃ち抜かれていた。

 

 「ありえない…ありえないだろうこんな事…」

 

 月面アナハイム工場敷地内から現宙域はどう考えてもあのスナイパーライフルでは射程圏外のはずだ。ゲルググJは

高い射撃精度を誇っているが狙撃に特化している訳でもない。

 この距離でピンポイトを撃ち抜いてMSを無力化するなど人間業ではない。

 考えを巡らしていると背筋にぞくりと凍りつくような感覚が訪れた。

 

 

 

 月面都市から離れた月面にはアナハイムの工場の一部と実験場を行う為の施設が並んでいる。敷地内で大きくスペースをとっている実験場に銀色一色のゲルググJがスナイパーライフルを構えながら宇宙を見上げていた。

 ベースはゲルググJ型だが腕とバックパックはゲルググ本来の物ではなかった。肩から腕パーツはガーベラ・テトラでバックパックはゼフィランサスフルバーニアンの物となっている。

 

 「はふ~」

 

 おかっぱ頭の少女は身体中の空気を吐き出す勢いで空気を吐き出すと脱力感でぐったりとする。ヘルメットのバイザーを上げて座席の後ろに置いといたジュースの入ったボトルへと手を伸ばす。

 

 「はぁ…緊張したぁ」

 『終わったかしらアリスちゃん』

 「ひぅ!?」

 

 急に声をかけられた事で驚き奇声を上げ、落としそうになったボトルを何とキャッチして安心する。

 

 「きゅ、急に声をかけないで下さいよぉ…」

 『まったく…いつになったら無線にもなれてくれるのかな?まぁ、それは置いといて良くやったわね』

 「は、はい」

 『連邦軍からは何をやっとるかって抗議の連絡があったらしいけどね』

 「ふぇええ!?待って下さいよ!私、スナイパーライフルのテストで目標である機体を無力化しろってブリーフィングで…」

 『そんなこと言ったかしら?』

 「ナオミさん!?」

 

 涙目で抗議の視線をモミターに映るナオミ・ウミゾラに向けるがクスクスと笑われるだけで流されてしまった。

 

 『大丈夫よ。私が少し話したら黙ったから』

 「なんて言って脅したんですかぁ」

 『脅したなんて人聞きの悪い。私はただそこで戦闘すると射線上にあるアナハイムの敷地に向こうの攻撃が直撃したらどう責任取るの?と、連邦の司令官さんに言っただけ』

 「本当にそれだけですか?」

 『あとは…そうね、『ウィルオーウィプスと戦争でもしますか?』ぐらいね』

 「脅してるじゃないですかぁ!!」

 

 いつもの事だけどどうしてこの人は…いや、考えるのは止めよう。考えたところでこの人は自分の思うがままにしか動かないだろう。

 ため息を付きつつアリスは『ウィルオーウィプス』の戦艦が待機しているドックへと向かってゲルググのスラスターを吹かし始めた。




 何とか無事に脱出した鏡士郎一行は茨の園に到着しアクシズへ…連絡を…

 次回『茨の園よりアクシズへ』


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第17話 『茨の園よりアクシズへ』

 アクシズの執務室でハマーン・カーンはジッとモニターを見つめていた。予定では鏡士郎より報告がある日である。

 もしかしたらシャアのように連絡してこないかもしれない…

 茨の園にたどり着く前に何かに巻き込まれていないか…

 そんな事を抱きつつこの最近はあまり寝れていない。この執務室にはまだ幼いミネバ様とミネバ様の侍女達も待機していた。鏡士郎が居なくなった当日は一日中泣き続けるのではないかと言うほど泣いていたものだ。まだ5歳の幼子なのだからまだ良いがもう少し大きくなったらそこらへんを抑えるように教育しなければ。

 モニターにノイズが走り薄っすらと何かが映り始めた。

 

 『お久しぶりです』

 

 笑顔でこちらを向いてるキョウシロウが映ると少しの間を開けて侍女達が噴出した。

 レッドカーペットが敷かれた先の椅子に腰掛けていた。後ろにはジオンのマークがあり、横にはギレン・ザビの銅像が置かれている。多分だがそこにはデラーズが座っていたのではないだろうか。大の大人が座っても余裕のありそうな装飾品を施された椅子に子供がちょこんと座っているのだ。しかも堂々としている分、滑稽に見える。

 侍女だけでなくハマーンも少し笑ってしまった。その反応を向こうのモニターから見た鏡士郎が顔を真っ赤にしてモミターに駆け寄ってきた。

 

 「わ、笑わないで下さいよ」

 「ふふふ、いや、あまりに滑稽だったものでな」

 「滑稽!?…酷いよぉ…」 

 

 その場でいじけるキョウシロウに突っ込まずに話を戻そうと咳払いをする。

 

 「では、報告を…」

 『あ!ミネバ様元気ですか?馬さんやってた鏡士郎ですよ~』

 

 モニターに貼り付いて必死にミネバ様に手を振っている。ミネバ様も嬉しそうなのだが…

 

 「報告を進めて貰おうか?」

 『ひえ…は、はい』

 

 殺気の篭った目を向けると肩をぴくりと揺らして姿勢を正す。

 

 『えーと…アナハイムとの話し合いの結果、茨の園を返還してもらいました』

 「向こうからの条件は?」

 『手土産が役立った他はこちらからとある時に支援を行なうってものでアクシズに迷惑がかからないもので済みましたよ』

 「軍事企業だからな。ジオンに支援して儲けると言う考えもあるだろうがあっさりと飲んだな。まぁ、それならそれで良いが茨の園の設備はどうだ?」

 『アナハイムが追加で作った施設をそのままくれたので前より良くなっているそうですよ。MS研究の施設に拡大された生産施設、食物生産から加工まで行なう施設まで…さすがにレジャー施設はありませんでしたけど。

  システム内にウイルスや仕掛けがないかは一週間かけてチェックしましたし、危険物の有無はもう少し時間がかかるらしいですが』

 

 それなら茨の園を拠点に地球圏に潜むジオン軍にいろいろ出来るなと現状に満足する。

 これで第一段階が終了した。だからと言って安心は出来ない。相手はキョウシロウなのだ。何を仕出かすか分からない存在なのだ。

 

 『これでひと段落ですね』

 「茨の園に着くまで何もなかっただろうな?」

 『・・・・・・』

 「おい」

 

 あからさまに目を逸らされてやっぱりかと軽く頭を押さえる。想定していた分頭痛はなかったものの監視としてつけたイリアの気苦労は絶えなかっただろうなと想像できる。

 聞きたくないが聞かねばなるまい。

 

 「で、何があった?」

 『えーと…そのぉ…月面都市で連邦軍と戦った…ぐらいですかね』

 

 聞くんじゃなかった。本気で頭痛がしてきた。

 

 「被害状況は?」

 『アクシズより発進した艦隊には弾薬・燃料が減った以外は何も…むしろ増えたかにゃ~』

 「・・・」

 『本当にごめんなさい!!そんなに冷たい目で睨まないで』

 

 怒るのも悩むのも馬鹿馬鹿しくなってきた。それに顔の前で両手を合わせて謝ってくる奴を見て怒るどころかほっとしてしまう。らしいと言えば奴らしいか。

 

 『聞いてくださいよ。月に収容されていたジオン兵に燻っていた人達と脱出したんですけどサラミス改二隻に連邦のMSにジオンMSが数機。それにジオン公国軍特殊部隊フェンリル隊にグラナダ特戦隊、親衛隊MS部隊所属の名パイロットも参加してくれたんですよ』

 「ふむ」

 『あ!今MS製造も動かして一機ですけど作ってますし、アクトザクも手に入っちゃいましたし』

 「落ち着け!…はぁ。ところで何を作っている」

 『ヅダですけど?』

 「はぁ?」

 『だって何か落ち着かなくて…』

 「…そのうち送ってやる」

 『本当ですか!!』

 

 アクシズで管理していたがあの機体からは結局、何のデータも解析する事は出来なかった。解析出来ないだけでなくアレはキョウシロウでしか扱えない機体と言う事がはっきりと分かった。阿頼耶識とか言う背中のシステムはキョウシロウしか持ってない為に性能はフルで使えないし、フルじゃないとしてもあの驚異的加速だけで常人なら死んでしまう。正直持っていても仕方がないと言ったところか。

 

 「今後の予定はどうなっている?」

 『今後ですか?そうですねぇ…まずガトー少佐にはソロモン宙域に潜伏している部隊の勧誘してもらってフェンリル隊のレンチェフさん達がロンメル隊と共闘した過去があるので地球へ向かってもらう事になってます。後、親衛隊MS部隊のフィーリウスさん達とグラナダ特戦隊のリリアさん達には資金調達と物資の補給を頼もうかと。と言ってもデブリ回収と傭兵みたいな事になりそうですが…』

 「それでお前はどうする」

 『僕はイリアさんとサイド1の30バンチコロニーへ向かう予定です』

 

 そこまで報告を聞くとキョウシロウの後ろに並ぶジオン軍人の中にイリアが居ない事に気付いた。

 

 「イリアはどうした?」

 『あぁ、イリアさんなら協力してくれたクルトさんのお見送りと言うか護衛に出てますけど…』

 

 

 

 茨の園宙域

 

 クルトが乗るランチの周りを3機のモビルスーツが護衛をしていた。

 イリアのケンプファーがランチの操縦席で大金が入ったトランクケースを大事そうに持っている下卑た嗤いを浮かべるクルトをメインカメラでとらえる。

 ケンプファー以外にはリック・ドムⅡとザクⅡが居るがそれらのパイロットは親衛隊だ。これから事を行なっても漏れる心配は無い。

 護衛終了ポイントが近付き無線を使用する。

 

 「もう少しで護衛を終了する」 

 『おう、後はこっちでなんとかすらぁな』

 「なんとかねぇ…」

 

 ケンプファーを加速させてランチの前に割り込ませる。急に目の前に出てきたケンプファーとぶつからない様にクルトは急停止させる。回避と言う手段もあったがここは茨の園周辺のデブリ帯。下手に動けばぶつかって自分がデブリの仲間入りしかねない。

 

 『いきなり何しやがる!!…ておい、どういう事だこりゃあ…』

 

 怒りを露にして怒鳴り散らすと周りの異変に気付いた。三機ともがランチに銃口を向けていた。

 

 「味方を売ろうとした貴方をそのまま逃がす訳ないでしょう」

 『ま、待て、約束が違うではないか!!』

 「確かに大佐は約束されました」 

 『だったら…』

 「それは一兵士の約束であって私達アクシズには関係無い」

 『待て!!』

 

 トリガーを引こうと指をかけた瞬間、レーダーがMSの影を映した。デブリの中を賭けて来たのだろう。ここまで接近を許すとは…

 近付く機体はガトー中佐の青いゲルググだった。ランチを庇うように背を向けて停止した。

 

 「中佐!邪魔しないで下さい」

 『そちらこそ手を出すな』

 『た、助かりましたちゅうs…』

 『私が殺る』

 

 見向きもせずにビームナギナタでランチを貫いた。イリアのメインモニターにはナギナタの熱量により蒸発するクルスを確認した。

 

 『…ケリィ…すまなかった。しかし、これで…』

 「?中佐…」

 『茨の園に戻るぞ』

 

 ガトーが呟いた言葉は聞き取れなかったが何かを感じ取って黙って茨の園へ帰るのであった。

 

 

 

 軍事施設が稼動し始めたグリーンノア、通称グリプスのティアターンズ執務室にひとりの仕官が向かっていた。

 扉の前に立つとティターンズの制服に乱れがないか確認して鼻の下のみに生やした髭を整え、髪が乱れてないかをチェックする。一通り確認を終えると軽く二回ほどノックする。

 

 「ジャマイカン・ダニンガン少佐です」

 「うむ、入れ」

 「ハッ!失礼致します」

 

 返事が返ってきた事で扉を開けて中に入る。執務席に腰を降ろしていた上官であるバスク・オム大佐に向けて深く一礼をする。

 小さな水温が聞こえて音がしたソファの方へ視線を向けると真昼間から酒ビンを煽っている連邦軍仕官の姿が目に入った。小さく舌打ちをする。それが耳に入ったのか顔を向けて軽く手を挙げる。

 

 「よう、久しぶりだなぁおい」

 「馴れ馴れしくするな」

 

 ジャマイカンはこの男が嫌いである。

 ソウジロウ・ミヨシ中佐。連邦軍最強のパイロットと呼ばれる男でその腕は他の追従を許さないほどである。しかし、上官の言う事は聞かない。勝手な行動はする。軍機違反は日常茶飯事。味方殺し数回などとっくに死罰されていてもおかしくない存在なのだ。

 そんな彼がこうして生きているのは彼が行なってきた功績ととある者達への抑止力になるからである。

 

 「冷てぇ反応だな」

 「気安く話しかけるな」

 「それが上官に対しての言葉かね?」

 「ティターンズは連邦軍より二階級上なのだ。つまり連邦軍で言うと私は大佐なのだよ」

 「はっはー♪なら俺は准将だな」

 「なんだと!?」

 「本日付けでティターンズ配属したッからな」

 

 唖然とするジャマイカンとくっくっくと意地の悪そうな笑みを浮かべるミヨシの会話が終わった事を確認したバスクが咳払いをする。ジャマイカンは背筋を伸ばすがミヨシはだらんとソファでくつろいだままだった。

 

 「貴官らにはこれからある作戦の為にサイド1・30バンチコロニーへ向かってもらう。命令書は現地に到着後開封するように。決して誰にも見られるな」

 「ハッ!!」

 「へ~い」

 「…ミヨシ中佐。貴官はこれをどう見る?」

 

 軍人らしからぬ態度と返事に注意する事無くデスクに置いてあったパソコンを回して見せる。見慣れないザクがティターンズのジムクゥエルと戦闘している映像が映し出されていた。

 

 「つい先日月面都市で行なわれた戦闘だ。私はこれは『イレギュラー』が関わっているのではないかと考えている」

 

 『イレギュラー』

 その単語が出た瞬間、ジャマイカンが苦虫を潰したような顔をした。

 

 「このザクのパイロットかが?機体レベルは低そうだが腕は…良いな」

 「君達が狩った『イレギュラー』が生き残って居た可能性はあるかね?」

 「ねぇな。あんたも知ってんだろ?俺の戦闘記録を見てただろうが。今生きてんのはあんたの目の前に居る俺と月にいる『ナンバー0』と『ナンバー7』だけだ。あいつらはほとんど傍観者に徹してっから危険性は低いけどな」

 「では『13番目のイレギュラー』と言う訳か…」

 「そいつは分からねぇけどな。そいつが『イレギュラー』でジオン兵だってんなら…」

 

 そこまで言うと立ち上がり尻に敷いてたティターンズの制服を取ってドアに向かう。

 

 「次に何処を狙うか分かっているのか?」

 「もち。『イレギュラー』の行動は分かり易いからな」

 

 部屋から出る直前にミヨシは振り返りニヤリと嗤う。

 

 「『イレギュラー』は俺の獲物だ。他に手を出させねぇでくれよ」

 

 告げるだけ告げて彼はMSデッキへ向かう。獲物を狩る為に…




 アクシズへの報告を済ませた鏡士郎とイリアは30バンチヘと艦隊を率いていく。敵の罠があるとは知らずに…

 次回『死神と呼ばれた黒きガンダム』


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グリプス戦役前…
第18話 『死神と呼ばれた黒きガンダム』


 サブタイトルを変更しました。
 前回(すでに変更済み)に予告では最初に『黒いガンダム』としようとしたらマークⅡと被ったので『死神と呼ばれたガンダム』にしました。するとガンダムWのサブタイトルに…
 と言う事で二つを合わせたサブタイに変更しました。


 漆黒で覆い尽くされたとある宇宙空間を艦隊を組んで進む一団が居た。

 アクシズより地球圏に到着し、月で事件を起こしたカトウ艦隊である。月での一件はジオン残党が起こしたテロで連邦軍の不手際が露にされたのが一般人の知っているニュースだろう。ティターンズが参加していたなんて事実は隠蔽されてそれを知っている月に在住していた上の者は全員責任をとらされるのを免除される代わりに口を閉ざしている。中には発表しようとした者が居たが発表する前に行方不明となった。

 艦隊指揮を執っている加東 鏡士郎はMSデッキでニタリと笑っていた。その締まりのない笑いを冷めた目でイリアが見ていた。

 艦隊構成はムサイ級巡洋艦後期生産型『アルト・ハイデルベルク』を旗艦として『パルジファル』と『モルゲンローテ』、そして新たに戦列に加わったパプア級補給艦『ヘンゼル』と『グレーテル』である。

 『星の屑』最終作戦の際に使える物は茨の園よりもって出たデラーズ・フリートだったがさすがに戦闘で使えない物は置いていったようでパプアニ隻を放棄して行ったのだ。その後はアナハイムの方で使用されていたので手入れも行き渡っており、危険物やウイルスの有無も確めたのでそのまま艦隊で使うことに。特に今回の作戦では多くの人を乗せる事になるだろうから。

 ちなみに使える艦船はパプアニ隻を除いて無かったが大破中破状態でデブリ内を漂っていた初期型のムサイ二隻とチベ一隻を修理している。資源に困っていたデラーズ・フリートが内部のパーツをいくらか他の物に使ったらしく完璧な状態に戻すまで時間がかかるらしい。

 

 「いつまでその顔をするつもりですか大佐…」

 「むふふ~、だって嬉しいんだもん♪」

 

 鏡士郎のニヤケ面を見飽きたイリアが声をかけるとそのままの面でこちらを向いてきたのでアイアンクローを喰らわす。

 

 「は、はにゃあああ!?痛いってばイリアちゃん!!」

 「整備の人たちの迷惑です。静かにしましょうね」

 「りょ、了解だから止めてててて」

 

 少尉が大佐に手を挙げるなんて普通の軍隊では考えられない事ではあるがこのカトウ艦隊所属ではもはや日常の風景であった。今までは胃薬を飲む事と相手は上官と言う事で我慢していたイリアだったが我慢には限界がある。ゆえに暴力と認識されるほどではなく周りから見たらじゃれ合い(一方的)程度の力加減で手を挙げる事にしたのだ。鏡士郎も別に文句を言う事無く受けているから黙認と言う事で周りに浸透したのだ。

 

 「ったく、どれだけ好きなんですかアレが…」

 「だって好きな物は好きなんだからしょうがないじゃん」

 「しょうがないで済ませないで下さい。あれは軍の資材で製作されたのですよ。ならばゲルググとかドムを生産した方が戦力にもなってたでしょう?」

 「いはいいはい、すみばぜん(痛い痛い、すみません)」

 

 むにむにと頬を引っ張られる鏡士郎の背後にはその機体が最終調整に入っていた。

 EMS-10『ヅダ』の改修機。材質や構造のほとんどそのままで姿勢制御バーニアを多数取り込んで機動性を上げて、マグネット・コ-ティングで反応速度を上げた機体だ。今はコクピット周りを鏡士郎使用に弄っている。

 放された頬を擦りながらヅダをまた見やる。イリアは大きくため息をついて諦めたような笑みを浮かべる。

 

 「そんなに見ても作業は早まりませんよ」

 「んー…そうなんだけどさ」

 

 ヅダから目を放してジュースでも飲もうかと休憩室へと向かう。当然イリアも付いて行く。

 

 「ガンダムと戦うだろうから」

 「え!?今なんて言いました!大佐!!」

 

 30バンチ事件は反連邦政府デモを鎮圧する為に密閉空間であるコロニーで毒ガスを撒いたと到底世間に公表できない内容の作戦である。この作戦の指揮を執っていたバスク・オムや一部の人間は毒ガスの事を知っているだろうが知らされてない者も居る。その中にはアレキサンドリア級アスワンも居り、ガンダムへイズルが運用されている。

 さすがにガンダムとの戦闘は初めてなので多少焦っているのだ。

 

 『大佐。カトウ大佐』

 

 艦内放送で呼びかけられ休憩室へ向かう前に近場の受話器をとって艦橋へと繋げる。最初は使い方を記したメモを見て行っていたのがもう何も見ずに行なえるほどに慣れた。

 

 「もしもしエイワン兄?」

 『友軍を確認。共同戦線を申し込んできていますが』

 「確認は終わった?」

 『照合は終了しました。乗組員のデータリストに不審な点はありません。ですが念の為に担当場所を分ける事を進言します』

 「ん、じゃあそれで行こう」

 

 本当ならガトー中佐にも参加して貰いたいのだがキルマイヤー大尉の部隊の勧誘を命じたと言うか頼んだ為に参加させれなかったのだ。早くしないとアスワンの部隊と交戦して大尉は捕まってしまう。だから艦隊で一番足の速いザンジバル級機動巡洋艦『ブレーメン』で向かってもらったのだ。カリウス曹長にもそちらの応援を頼んだ。今頃は次の任務であるガブリエル大尉達を探しにソロモン宙域へ向かっている頃だろう。

 正直にカトウ艦隊は人材が不足しているのだ。いや、初期の任務だけを考えると月面で仲間を増やした分、有り余っているはずなのだが如何せん歴史を知っている為にそこに人員を裂いてしまい足りなくなったと言うのが正しい。

 リリア小隊とフィーリウス小隊にはアナハイムから買い取ったコロンブス級宇宙輸送艦『シュトーレン』にてデブリの使えそうな廃材回収と傭兵みたいな事をして貰って資金を稼いでもらっている。アナハイムからテストパイロットを頼まれている話があるとか無いとか…

 何にしても手持ちの部隊で何とかしなきゃ…と気合を入れようとした瞬間に警報が鳴り響いた…

 

 

 

 元ジオン公国軍ガブリエル・ゾラ大尉は後期生産型ザクⅡのコクピット内の映像を艦とリンクさせて現れた味方の艦隊に目をやる。

 

 「まだアレだけの力を持っている奴らも居るのだな」

 

 ただの独り言だった。過去のジオン軍を思い返し懐かしむ。ただそれだけだった。

 

 『どうした?また思い出していたのか?』

 

 聞かれていたのだろう。後ろのリック・ドムに乗っている一年戦争時からの戦友であるカザック・ラーソン大尉が無線を入れてきた。

 

 「ソロモンが我々の手から離れて五年も経ったのだな」

 『ノルスタジーか?くだらん』

 「あぁ、そうだな…」

 

 今は感傷に浸っている時ではない。ティターンズと名乗る組織が行なおうとしている作戦を何としても阻止せねばならない。その為に我らはここに来たのだ。

 戦力は乗艦しているザンジバル級機動巡洋艦にMSが五機とこの作戦阻止の為に呼びかけたジオン残党軍のムサイ級軽巡洋艦とその部隊が駆けつけてくれた。これで守りきれるかと言うと不安が強かった。だが、同じ目的でこの宙域に来た艦隊を見て少しほっとした。まさかムサイ級三隻にパプア級二隻も引き連れてくるなど誰が想像できたか。

 もうじきサイド1・30バンチが望遠モニターに映し出されるだろう時になって警報が鳴り響いた。どうやら正面にMS隊が展開しているらしい。

 

 「ハッチを開けろ。ガブリエル・ゾラ出るぞ」

 『ゾラ大尉!?まだ出撃命令は…』

 『ここはもうティターンズの作戦宙域だ。十中八九奴さんだろうよ』

 「ショーターはザクⅡ隊と艦の護衛、または予備戦力として待機しろ」

 『なら俺とお前で正面を突破するか?』

 「ああ…」

 

 ザンジバルのハッチが開放されたことでゾラとラーソンのMSが飛び出していった。

 モニターにはあの艦隊より発進したであろうMS隊が映し出されていた。水色のザクをスリムにした機体とケンプファー、他にはムサイに積んであるだけのリック・ドムⅡが出撃した。

 すでに先行していたムサイよりザクⅡ一機とドラッツェ4機が発進していた。

 レーダーを確認してみると戦艦とMS反応が示されていた。しかしどちらもデータに該当するもの無しでたったの一隻と一機だけだった。

 

 『全機後退!!奴に近付いちゃあ駄目だ!!』

 

 先行部隊が敵機に接触するであろう瞬間に無線から少年の声が響いた。その声色から嫌な予感がした。

 

 「―っ!?散開!!」

 

 何かが飛んで来るのが見えて部隊を指示を出す。一瞬何か丸い物が機体の側を通過した。目で追ったそれは手裏剣のように回転しながら追尾してきた。機体を安定させて銃を構えるが先に先ほどの水色の機体が撃ち落した。

 

 「助かった」

 『いえ、お怪我がなくて何よりです。それよりも…』

 

 先行した部隊はと視線を向ける前にモニターに閃光が映し出された。

 

 

 

 「敵はドラッツェ4にザクが1か…しょぼいなぁ、おい」

 

 ソウジロウ・ミヨシはコクピット内で呟いた。戦闘前だというのに肩を落としてため息が出るほどあからさまにがっかりしていた。

 

 『何を言っているミヨシ中佐!後続が来ているのだ。そんな事も言ってられまい!!』

 「うるせえぞ髭芋。後ろってもドムにザクに…ヅダなんかじゃあ相手にならねえよ」

 

 バスク大佐の命令であのジャマイカンを乗艦に乗せたが今からでも降ろしてやろうかと思う。

 ミヨシの部隊の戦艦は特別にあしらえて貰った戦艦だ。

 マゼラン級高速戦艦『ホワイトチャペル』

 全体を白く塗装したマゼラン級にペガサス級強襲揚陸艦の四連装熱核ハイブリッド・エンジン・システムを機関熱核ロケット四機の左右に設置して速度を上げた艦である。連装メガ粒子砲は従来の正面側の物と四連装熱核ハイブリッド・エンジン・システムの上下横とで主砲副砲合わせて12門搭載している。ただ燃料や弾薬など積む為にMSデッキなど無くメインデッキ下のサブデッキ裏に置けるスペースを作っているだけだ。ミヨシにとって『ホワイトチャペル』は足の速い馬であり戦力として考えてないのだ。

 

 『こちらは護衛が居ないのだ。貴官が発進したらこの場を離れるぞ!!』

 「へいへい、迎えだけは頼むぞ」

 

 ったく、これだから腰抜けは。先駆けは戦士の誉れだろうが。

 決して口からは出さないが心の中でジャマイカンに対する評価を何段階も下げた。

 理性的な軍人であるならばジャマイカンの考えが正しいだろう。現在この宙域にいるティターンズは『ホワイトチャペル』以外に居ないのだから。アレクサンドリア級のネームシップのアレクサンドリアも同じくアレキサンドリア級アスワンも宙域到着までは時間がかかる。もしここで艦が襲われたら撃沈される恐れすらあるのだ。

 白い艦体上で黒いマント羽織った黒いMSが立ち上がった。赤い二つの眼が戦場を睨みつけていた。

 

 「ソウジロウ・ミヨシ行くぜオラァ!!」

 

 軽く跳んだ機体が背中から赤く輝く粒子を放ちながら真っ直ぐMS隊に突っ込んで行く。とりあえず後続の足を止める為にザクとドムを葬る為に両腕に装着されていた武装『トライブレード』を起動させる。中心の円盤から伸びた三本の刃が回転しながら向かって行く。これで後方の足は止まるだろう。視界の端でトライブレードが撃ち落されるまでは…

 

 「かぁ~、やるじゃねぇか。こりゃ面白そうだ」

 

 先行してきていたドラッツェ一機とザクⅡの足が止まったが残りの三機は射撃しながらそのまま突っ込んでくる。避ける事もせずにそのまま突っ込むが機体にダメージは無し。近付いて一機の頭部を握りつぶして盾にする。

 二機は横に逸れようと機体を動かす。

 

 「そんな前だけに早い欠陥機に乗ってっと…」

 

 ドラッツェはガトル戦闘爆撃機の推進機関を転用している為にリック・ドム同等の速度を持つ。だが運動性はそれほどではない。補う為に肩にスラスターポッドを設置しているがMSには遠く及ばない。高速機動中に急停止や機敏な急旋回が出来ないのだ。

 握っていたドラッツェを左に投げ捨てて持っていた刃までも黒く塗りつぶされた太刀を右に突き出す。急な方向転換が出来なかったニ機は飛び出されたドラッツェとぶつかり、出された太刀に自ら突っ込んで爆発した。

 

 「こうなんだよ。良い勉強になったか?…って聞いちゃあいねえか」

 

 背後の爆発の閃光で黒い機体が浮かび上がる。

 この世界には存在しないガンダムの姿が…




 サイド1・30バンチを巡ってティターンズとジオン…ガンダムと鏡士郎がぶつかる!!

 次回『イレギュラー』


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第19話 『イレギュラー』

 荒くなった息を整える。

 メインモニターに映る機体をジッと観察する。

 胸部には赤い球体が付き、肩は異様なほど鋭く飛び出ている。マントを羽織っている事からバックパックは見えないが粒子を放っている事からGNドライブ搭載機である事は明らかだ。顔には広がったV字アンテナに二つの目。顔と脚部はエクシアのパーツを使用している。

 この世界には無い機体。となれば自分と同じ異世界の住人…

 腕から何かが飛んだのを見て120mmザクマシンガンは連射する。飛ばされたドライブレードが小さな爆発を起こした。

 

 「奴の相手は僕がします。その隙に皆は30バンチへ!!」

 『援護します大佐』

 「駄目だ!!イリアちゃんはヘイズルを探して」

 『ヘイズル?』

 「ここに向かっているガンダムタイプ。敵の主力も来るからガンダムと護衛を任せます!」

 

 返事を聞く事無くヅダをガンダムタイプに向けて加速させる。

 主武装はあの太刀。ガンダムバルバトスの太刀を黒く刃を染め上げた物。他の武装は腰にショートとロングのGNブレイドに左腰にはガーベラストレート、両腕にはドライセンのトライブレードと接近戦メインの機体だ。エクシアの足と言うことはGNビームダガーもあるだろう。

 120mmザクマシンガンを腰に取り付けて肩にかけてあった135mm対艦ライフルで先行した部隊を援護射撃を行なう。

 

 『っか!やるねぇ欠陥機風情が』

 「ヅダは欠陥機じゃない!」

 

 共通の回線で話しかけてきた相手は回避しつつドラッツェを擦れ違い様に真っ二つにしてザクのコクピットに右手を添える。次の瞬間、コクピットから背中まで何かが貫通した。

 パルマフィオキーナ。

 デスティニーガンダムの武器で手の平からビームを放つ事。これであの機体の腕パーツが解った。

 

 『欠陥機じゃないなら…って邪魔すんじゃねぇよ!!』

 「何で前に出たんですか!!」

 

 先行していたのはMS部隊だけでなくやられた部隊を積んでいたムサイもだった。罵声を放ちながら太刀を交互に斜めに振るう。現実ではありえないだろうが斬撃がムサイへと放たれた。コムサイや主砲が破壊され中身がむき出しになる。次に太刀にビームが纏わりつきビームの刃が伸びて急加速しながら側面に回転斬りを喰らわせた。

 スラッシュテンペストにスラッシュペネトレイト。どちらもガンダムブレイカーのEXアクション技。あの機体は100%ガンダムブレイカーで作られた機体。

 

 『そ、総員退艦!!』

 『今更おせぇんだよ雑魚が!!』

 

 見落としていた。あのガンダムの右側の背中にソードストライクの大型対艦刀が装備されていたことに。何の躊躇も無く構えられた大型対艦刀はメインブリッジから先端まで真っ二つにした。

 獲物を狩り尽くしたガンダムの視線はヅダではなく抜けて行く艦隊へ向けられていた。

 

 『どこに行こうってのんかなぁ?』

 

 腕を突き出してトライブレードを放とうとしている。その腕に135mmが直撃する。腕の直撃の反動とトライブレードの爆発で腕が動き、反対の腕から放たれたトライブレードと接触する。その隙を逃さないように頭部に三発、胸部に二発ほどぶち込む。衝撃は伝わっただろうが機体は無傷だった。

 

 『へぇ~おもしれぇ』

 「こっちに来い!ガンダム!!」

 

 弾切れになった135mm対艦ライフルを投げ捨てて120mmザクマシンガンと240mmザクバズーカを装備する。赤い粒子を放ちつつ漆黒のガンダムが接近してくる。目など所々を赤く輝かせて赤い残像を残す。

 肩から飛び出たパーツを外して放ると腰から何かを投げつけてきた。投げつけた物を回避して放られた物に標準をつける。あれがデスティニーならば放られた物はフラッシュエッジ2と予測した。ブーメランのように回転しつつ円弧を描くように接近して来たそれはまさしくそうであった。軌道が分かっているのなら落とすのは簡単だ。一発ずつ120mmと240mmで撃ち落した。

 

 『はっはー♪お前『イレギュラー』か!?』

 「『イレギュラー』?何のこと…だよ!!」

 

 急に加速したガンダムの横薙ぎの一撃を何とか回避してバズーカとマシンガンの雨を喰らわせる。トランザムを使わずであの速度。そしてあれだけの直撃を受けての無傷と言う耐久性。勝ち目は無いが行かせる訳にもいかない。

 

 『言い方を変えてやる。異世界人だろうお前』

 「っ!!」

 『動きが止まってんぜ』

 

 太刀でバズーカを斬られた。手放すだけでなく投げつけて残りの120mmを全段叩き込む。ザクバズーカ内に残っていた残弾の爆発に巻き込まれたガンダムは追っては来ずに太刀を構えていた。

 

 『おらおらどうした?射撃兵装はもう終わりか?』

 「ひとつ聞きたい…」

 『ああ?』

 「これから何が起ころうとしているのか知っているんですか?」

 『毒ガスでコロニー内の人間の殺害。いんや、虐殺か。それがどうした?』

 「解っているのに何故!!」

 『それが元でエゥーゴは躍起になってティターンズと争う。良いじゃねぇか。また大きな大きな戦争の時代が来るんだ』

 「貴方は…」

 『一年戦争時はMSの性能差がありすぎて勝負にならなかったけど今回は多少は楽しめんだろ』

 「僕は…」

 『あん?』

 「僕は貴方を討つ!!」

 

 ヒートホークとシールドの白兵戦用ピックを展開してガンダムに突っ込む。

 

 『上等じゃねぇか!!欠陥品の13番目!!』

 

 二機のMSは斬り合う。一方は怒りに身を任せて、もう一方はただ楽しんで…

 

 

 

 『そんな事が…』

 「これが事実です!早く住民を避難させてください!!コロニー内のシャトルでも何でも良い!!」

 『しかし当コロニーのシャトルなどだけでは…』

 「パプア補給艦を二隻連れて来ているんだ!!それに出来るだけ乗せろ!!」

 

 アルト・ハイデルベルク艦長をしているエイワン・ベリーニ少佐はブリッジで怒鳴り声を上げながらコロニーの上層部に事態を伝えていた。向こうも半信半疑だがもしもの事を考えて動くそうだ。

 通信を切ったエイワンは手で顔を覆う。

 

 「情けない…目の前にあるというに全員を助けてやれると言えないなんて…」

 

 自身の無力感に苛まれている場合では無いのは分かっている。だが言わずに、思わずには居られなかった。ブリッジ内の兵士が心配そうな視線を向けているのを感じて顔を上げる。

 

 「これより救出作戦を開始する。『ヘンゼル』は近場のコロニードックへ。『グレーテル』は第二へ。『アルト・ハイデルベルク』『パルジファル』『モルゲンローテ』で護衛を行なう」

 「艦長。イリア少尉よりカトウ大佐の援護に向かわせてくれと言ってきてますが」

 「却下だ。あのニュータイプである大佐がガンダムタイプが来ると言っているんだぞ」

 

 こちらの手札は少ない。エースである大佐はガンダムタイプとの死闘で手が離せない。後はイリア少尉のみ。それにムサイとパプア合計5隻を守るのに合計7機のリック・ドムⅡと四機のザクⅠだけでは心もとない。そもそもザクⅠは収容の作業用として持ってきた為に戦闘用として数に入れてない。

 すでにパプアには話を聞いた人々が駆け込んでいる。ザクⅠはコロニー内で人々を運んでいる。作業終了までどれぐらいかかるのだろう。時計を見るとまだ20分しか経過していない。

 敵が来たら撤退を第一に考えねばならない。これから相手は公に出来ない事をやる為に少数精鋭部隊で事に挑むのだろう。

 

 「エリート部隊の中での精鋭って冗談でも笑えんな」

 「レーダーに感!!木馬?いえ、もっと大きい!!」

 「大佐が言っていた『頭でっかち』か?」

 「―っ!!恐らく」

 「了解した。レーダーに映った艦を『アレキサンドリア級』と推測する。イリア少尉に連絡」

 「なんと?」

 「『アレキサンドリア級』より発進したMS隊の足止め、出来れば迎撃だ!!あのザンジバル級も向かわせろ!!」

 「宜しいので?」

 「宜しいも宜しくないも無い。疑っている状況では無くなったのだ。信じるしかないだろうが!!」

 「なおもレーダーに感!!同じく『頭でっかち』です!護衛艦確認!!」

 「数が多いな…イリア少尉には護衛付きの方へ行かせろ!!艦隊の護衛にザクⅠ二機を戻してドムは全機イリア少尉と共に二つ目の『アレキサンドリア級』の方へ向かわせろ!!」

 「りょ、了解!!」

 

 何も出来ず命令しか出す事の出来ないエイワンはイライラを募らせる。

 MS隊同士の戦闘が開始されて30分が経過した。こちらは足止めと迎撃の為に攻めに転じれず、向こうは向こうで突破し辛いのだろう。どうやら地球育ちのエリートさん達は模擬戦ばかりで実戦経験が浅いようだ。最初に現れた『頭でっかち』の方はそうでもなかったが。

 

 「さすがはガンダムを運用しているチームと言う訳か…」

 

 ザンジバルの部隊は優秀な奴らだったらしく戦況はガンダムが居るにも関わらずやや優勢だった。どちらかと言えば数で押されるイリア達の方が問題だった。

 片腕を破損したリック・ドムⅡがこちらへと帰ってきた。

 

 「補給を終えたドムを入れ替わりに向かわせろ」

 

 素早く指示して戦況に食い入る。パプア級の物資エリアのみならずMSエリアにまで人を収容するように支持を出している。それに各ムサイからコムサイをコロニードックへ向かわせて出来るだけ人を詰め込んでいる。

 もう少しで一時間が経とうとしていた。外の戦闘で半信半疑だった住民も押し寄せて収容人数は跳ね上がった。しかし収容するにも1500万人は多過ぎる。

 何とかかれこれ一時間以上ガンダムとの戦闘を続けている大佐の援護、もしくは補給も行ないたい。機体も肉体もぼろぼろだろうと推測できる。

 ふと、戦列を離れている船を見つけた。こちらからコロニー影に隠れている。そこにザクモドキがMSが入りそうなタンクを…

 

 「―っ!!パプア級やコムサイをコロニーより出せ!!毒ガスが注入される!!」

 「え、は?…え?」

 「馬鹿者早く打電しろ!!」

 

 急な事に対応できない兵を動かさせ船を睨みつける。もう少し早く気付いていたらと後悔が襲ってくる。

 閃光が横切った。

 イリア少尉達の部隊の限界が来たのだろう。敵が徐々に突破しつつあった。余裕を持った戦艦がこちらに砲撃を開始したのだ。再び閃光が近付き着弾した。

 

 「『モルゲンローテ』の主砲ニ門大破!」

 「これ以上は危険か…」

 

 舌打ちを打ちつつパプア級の『ヘンゼル』と『グレーテル』が出てきたのを確認する。

 

 「『モルゲンローテ』に『ヘンゼル』と『グレーテル』は先行して当宙域を離脱!『アルト・ハイデルベルク』と『パルジファル』は残存MS隊を収容後撤退!それまで主砲で援護するんだ!!ザンジバルにも伝えろ!!」

 

 七機居たリック・ドムⅡは四機まで減らされケンプファーも満身創痍だった。相手は模擬戦のみの戦場の素人とは言えMS21対8でよく持ち応えたと思う。普通なら全滅しててもおかしくないだろう。

 『アルト・ハイデルベルク』も急いでこの場を離れる。大佐を収容する為にも。

 

 

 

 一時間も戦闘をしているとパイロットは疲弊する。ただあのヅダに乗れるように身体が変化した鏡士郎は例外であった。恐らく目の前のガンダムのパイロットも。パイロットは良くてもすでにヅダは悲鳴を上げていた。鏡士郎の反応に元々追いついてなかった事もあり機器がオーバーロードを始めていた。

 迫り来る太刀を受け止めることは出来ない為にヒートホークで受け流す。少しでも触れている時間が長引けば肩ごと持っていかれる。そんな気がしていた。何かが来ると勘で解ったが機体が動かなかった。左腕の殴りが右肩にヒットしたのだ。文字通り砕けた肩のパーツが散乱する。

 距離を開けようとブースターを噴かす。

 

 『誰か助けて…』

 

 声が聞こえた。恐怖を感じている声が。それもひとつやふたつではない。

 十…百…千…万…十万…百万…壱千万もの嘆きと悲しみと恐怖の感情が流れ込んできた。

 

 「ああ…あああ…ああああああああああ!!」

 

 心が締め付けられ頭が割れそうに痛い。

 手が操縦桿から離れた。動きが止まった敵を見逃すわけも無く、高速接近からの回転斬りのスラッシュペネトレイトが決まり、胴体より脚部が離れたヅダをバックに立ち止まる。

 

 『はぁ…呆気ねぇ…もうちっと楽しめると』

 

 残念そうに呟いた瞬間、背中から衝撃が響いた。後ろのカメラで確認すると盾の先端がこちらに向けられていた。

 

 「スラッシュペネトレイトは…使用後…立ち…止まる…」

 

 鏡士郎はあまりのショックに胃の内容物をぶちまけて意識を失った。

 

 『ハ…アハハハハ!!やってくれたなぁおい!』

 

 止めとばかりに太刀を振り上げたガンダムにビームが直撃する。避ける事もせずに見上げると青いゲルググにリック・ドムⅡ、そして後期生産型ザクⅡが三機ほど乱射しながら突っ込んでくる。

 

 『―っ!!』

 

 機体性能と腕で圧倒出来る筈の相手なのにミヨシは距離をとった。

 ほとんど胴体だけとなったヅダを守るかのように立ち塞がったゲルググの気迫に押されたのだ。

 

 『へっ、お楽しみはとっとくもんだよなぁ。作戦も終わったみてぇだしな』

 

 撤退したガンダムを追撃する事無くヅダを乗艦であるザンジバルに運び、鏡士郎は急ぎ医務室へ搬送されたのであった。




 わずかではあるが助けれた命と共に負傷した鏡士郎を乗せた艦隊は茨の園へ向けて進路をとる。

 次回『新たな仲間とこれからの作戦』


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第20話 『新たな仲間とこれからの作戦』

 規則正しく鳴り続ける機会音が耳を通じて頭の中に響き渡る。

 

 覚醒していない意識はそのままに瞼をゆっくりと開ける。眩い光に目が眩み、眉の間にしわをよせてでも目を開き続ける。 

 

 白い天井に蛍光灯を視認してから辺りをゆっくりと見渡す。

 

 腕に刺さったチューブの先には点滴を行なう為の器具が置いてある。

 

 胸に取り付けられたパットから伸びるコードに心電図モニター。

 

 消毒液や薬品独特のにおいに簡易的な白いシーツとベット、緑のカーテンで区切られた狭い空間。

 

 ここが医務室とか何故ここに居るのとかそんな事はどうでも良かった。

 

 ベット脇に置かれた椅子に腰掛けたイリアがベット脇で交差して重ねた両腕の上に頬を乗せて寝ていた。短い寝息とあどけなさ全開の寝顔を聴覚や視野が捕らえた。

 

 動きが目で追えない。

 

 チラッと服を見て自分が薄い病衣に着替えさせられている事を認識して舌打ちする。次に額から電流が流れるような感覚が起こると同時に見向きもせずに斜め後ろに置かれている棚の上の貴重品置き場へと手を伸ばす。何の迷いも無くその中からカメラを取りイリアに向けて連射した。

 

 かかった時間は1秒にも満たなかったと言う。なんという無駄な動き…

 

 回数ぶんのフラッシュとシャッター音がイリアを覚醒させた。ゆっくりと眠気眼のまま顔を上げて静止する。まだ寝起きの状態で視界はぼやけて脳は正常に働いてないのだろう。

 

 「おはよう」

 「…おは…よう」

 「よだれ出てるよ」

 「…ん」

 

 再びシャッター音が鳴る中、袖でよだれを拭きながら思考を正常化させる。

 

 カメラを持った加東 鏡士郎と目が合った…

 

 「あ……ああ…ああああ///」

 

 今日一番大きなバチーンと渇いた音が医務室内どころか通路にまで響き渡った。

 

 ザンジバル級機動巡洋艦『ブレーメン』

 

 食堂に集められた面々が興味深そうに艦隊総指令である加東 鏡士郎を見つめる。総司令が子供だと言う奇異な視線より不思議そうに頬を見つめていた。

 

 「えー…ではまず総司令である大佐の紹介をしたいのだがその顔は何とかならなかったのですか?」

 

 背筋を伸ばして立っているガトー中佐が呆れ顔を向けてくる。

 

 頬に出来た真っ赤なモミジに初対面の方々は固まり、エイワン兄とカリウスは笑いを堪えていた。

 

 「何ともならないです…はい」

 「せめてガーゼで隠すとかあったのでは?」

 「ハッ!?その手があった!!」

 

 ついに堪え切れなかったのか爆笑し始めた。中佐に至っては難しい顔をしながら頭を押さえている。何とも言えずに固まっている方々に姿勢を正しながら口を開く。

 

 「えーと、僕がこの艦隊の総指揮を執っているキョウシロウ・カトウと申します。階級は大佐です」

 

 腫れた頬を隠すことなく敬礼をする。階級と立場を聞いて集められた全員が敬礼を返す。

 

 ここに集められたのはガトー中佐が迎えに行ったジオン公国軍キルマイヤー小隊の隊長ヘルマン・キルマイヤーに隊員のヒルデガルド・スコルツェニーと二名のパイロット。そして30バンチ事件を阻止しようと行動していたガブリエル・ゾラ大尉とカザック・ラーソン大尉を主軸とするジオン残党部隊である。

 

 「キルマイヤーさんの部隊は我が方と合流すると言う事で宜しいんですよね?」

 「ええ、すでにガトー中佐に伝えたように彼女達の戦場を与えてくれるというのなら」

 「勿論ですよ。共に駆けましょう」

 

 車椅子に座っているキルマイヤーと左手で硬い握手をする。報告は受けていたがすでにガトー中佐との交渉に承諾しており後は確認だけだったが問題ないようだ。問題はゾラ大尉達だが原作知識ではジオン再興に執念を燃やしていた為に問題はないと思う。

 

 「少し質問宜しいかな?」

 

 問題ないと思っていたゾラ大尉が口を開いた。

 

 彫りの深い顔に灰色に染まった髪、鋭い眼光を向けるガブリエル・ゾラの表情に少し怯える。それだけの凄みが彼にはあった。ゴクリと唾を飲み込みジェスチャーで続きを促す。

 

 「我々としてはジオン再興の為ならそちらの指揮下に入ることも考えている。だが相手がどのような手段を用いて連邦と戦っていくか具体的な話を聞かない限りは素直に指揮下に入ることは出来ない」

 「僕達のこれからの事ですか…」

 

 口元に手を当てて悩む素振りを行なう。これは決して振りではなく実際に悩んでいるのだ。だいたいの未来図は出来ているがまだ大雑把なものだ。もう少し内容を詰めてから話したほうが良いのだが今彼らに話さなければ彼らはここを離れるだろう。

 

 意を決して集まっている面々を見据えて話し始める。

 

 「僕らが現在行なうべきはジオン残党として各地で戦う部隊を纏め上げることです。現在各地で各々が好き勝手にゲリラ戦やテロ紛いの攻撃をしかけて多くの部隊が消えていきました。これ以上同胞である彼らを失うことを避けます」

 

 これは本当に最もやりたいことである。

 『星の屑』を成就させたデラーズ・フリート、『水天の涙』作戦を実行したインビジブル・ナイツ、失敗した『シルバーランス』作戦に参加したジオン残党部隊。

 

 もしこれらが一斉に事に当たっていたら歴史は大きく変わっていただろう。大々的な作戦を言ったが今現在も行動している小部隊が多くいる。これ以上戦力を減らす訳にはいかない。

 

 「カトウ艦隊の主任務は地球圏の情報収集と各部隊を味方に引き入れての下準備、その後にジオン再興のための戦争が開始される予定です」

 

 正直に命令されたのは情報収集だ。味方交渉の類は鏡士郎の独断だ。だけどアクシズ艦隊がダカールに降り立つ際に近場のジオン残党を抑えていたらどうなると思う。アクシズ艦隊の攻撃と同時に各地で地上戦に慣れた現地部隊の奇襲で連邦軍は大混乱し、その間だけでもジオンは大戦果を飾れるだろう。短期間でのダカール奪還ありえなくなる。地上は一度放棄するだろうから地上部隊を回収する時間は余裕で出来る。戦力は大いに増やせる。

 

 「と、言ってもまずは30バンチの方々の方が先ですがね。彼らの居住区や食糧施設の増設などが優先するつもりです」

 

 助けれたサイド1・30バンチの5000名もの人員をまかなえるほど裕福ではない。だからと言ってティターンズの極秘作戦の内容を知っている彼らを何処かのコロニーに送れば、生き残りとしれた瞬間に殺されてしまうだろう。生産エリアを拡充するまでは食事制限をして何とか回さないと…

 

 「とりあえず0087の3月辺りまでには終わらせたいですね。暮らしの方も勧誘の方も」

 

 別に計算した訳でもなんでもない。その頃には自由に動いてとある作戦を開始したい。ただそれだけ…

 

 考えていたすべてを話した鏡士郎はゾラ大尉に視線を向ける。

 

 「当分は施設に力を入れますがジオン残党狩りを称してスペースノイドの弾圧を行なうティターンズを放置ばかりも出来ませんしやる事はいっぱいです。我が艦隊は一人でも多くの同胞を求めています。どうでしょうか?」

 

 ゾラ大尉は三度ほど頷き手を差し出した。

 

 「理解も納得もした。我が隊はカトウ艦隊と合流しよう」 

 「ありがとう御座います大尉」

 

 鏡士郎は微笑みながら握り返した。手が離れると出入り口へ向かって歩き出だす。

 

 「この後、豪華には出来ませんが皆さんの歓迎会をするんでここに居てくださいね」

 「大佐はどちらに行かれるので?」

 「少し部屋に…すぐ戻りますから」

 

 部屋を出て行く姿を見送ったイリアは違和感を感じながら何も言えずに新たに参加した皆と話をする。

 

 自室に戻った鏡士郎は鍵を閉めて電気をつける事もせずにその場に座り込む。時間が経つにつれて思い出したあの時の事が脳内でフラッシュバックする…

 

 「ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…」

 

 頭を抱えて震えながら歓迎会が始まる直前まで呟き続けた…




 新たな仲間と辛い経験をした鏡士郎達は茨の園へと帰還する。

 次回『カトウフリート』


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第21話 『カトウフリート』

 アクシズの執務室ではハマーン・カーンがモニターに向かって難しい顔をしていた。

 

 今日は月一であるキョウシロウ・カトウからの報告がある日だ。またあの馬鹿の相手をしなければならないのかと思うと少し頭が痛くなる。が、自然に笑みが漏れていた。

 

 今回報告された事は30バンチでティターンズが行なった作戦で救出した5000名の民間人をどうしたかの報告を聞いていた。半分以上がジオン兵士を志望した。これはティターンズにあのような手段を執られた事と家族や親友など親しき人を虐殺されたことが大きいだろう。残りの半数弱は茨の園での食料生産や肉体労働を行なって働くそうだ。そもそも生きていることがばれたらティターンズに始末されるだろうから他のコロニーに行くことがない時点でカトウの元で暮らすほかないのだが。

 

 「新兵のほうは今仕分けしていますからもう少しかかりますかね」

 「訓練の方はどうするつもりだ?こちらから支援したほうが良いか?」

 「いえ、こちらで何とかできます。整備の方はおやっさん達が居ますし、パイロットにはアナベル・ガトー中佐とカリウス・オットー曹長に、指揮官育成はヘルマン・キルマイヤー大尉にお願いしています」

 

 新しく参入したメンバーの名を耳にしたときから少し違和感があった。ヘルマン・キルマイヤーも含めてカトウが仲間に取り入れた者達はどれも熟練した名パイロットを始めとした優秀な人材ばかりであった。それも彼ら自身は姿を隠して独自に動いて諜報機関でも見つけ出すのが困難だったはず。なのに意図も簡単に居場所を突き止め探し出すカトウには何かがあると思っていた。が、今はそれを問うつもりはない。

 

 「以前より総司令としてちゃんとしてきたな。上出来だ」

 「えへへへ、そうですかぁ♪」

 「その締まりのない顔を止めろ」

 「了解です。ハマーン様」

 「ふむ、報告ご苦労だったな」

 

 通信ボタンを切ろうと手を伸ばすと画面にぐいっとカトウが乗り出してきた。ぶつかりそうと言うか鼻先が少し当たっている。

 

 「ちゃんと僕出来てますよね?」

 「…まだまだ及第点だがな」

 「でも出来てるんですよね?」

 「……ああ」

 「じゃあヅダを送っ「却下だ」ええええええ!?」

 「当たり前だろう。MS一機送るのに輸送艦から護衛艦隊にMS隊、それだけの人員に食料にエネルギーとどれだけかかると思っている」

 「えー…良いじゃないですかぁ。そのままこっちで面倒見ますからぁ」

 「却下と言えば却下だ馬鹿者」

 「べー、だ。ハマーン様のケチ」

 「なっ!!」

 

 膨れっ面のまま向こうから一方的に切られた。その光景を見ていたミネバ様御付の侍女達は青ざめながらハマーンへと視線を向ける。位置的に表情までは見えないがわなわなと震えている肩が感情をもろに語っていた。

 

 無邪気なミネバ様は侍女のひとりに「ケチとはなんだ?」と質問して余計にこの場を凍らせる。

 

 「帰ってきたらどうしてやろうか…」

 

 そんな呟きを聞いた侍女達は彼の事を身を案じるのだった。

 

 

 

 0083.12

 

 30バンチ事件より4ヶ月が経った。世間ではあの事件は原作通り激発的な伝染病と公表され、ティターンズが使用した毒ガスやジオン軍との戦闘なかった事にされた。ジオン軍が関わったことで毒ガスの罪を擦り付けて公表するかと思っていたのだがどうやらその手は使わなかったようだ。

 

 あれから仮居住区を設置してようやく5000人の救助者達の一息つけ、食料エリアの拡張も済んでこれから軍事にも力が入れれるようになる。

 

 現在のカトウ艦隊はザンジバル級機動巡洋艦『ブレーメン』ムサイ級巡洋艦後期生産型『アルト・ハイデルベルク』『パルジファル』『モルゲンローテ』サラミス改級宇宙巡洋艦『ポッペンブルク』『ヴェーザー』パプア級補給艦『ヘンゼル』『グレーテル』に加えてパーツが届いて修理を終えたチベ級重巡洋艦『プリンツ・オイゲン』ムサイ級軽巡洋艦『ライプツィヒ』『ニュルンベルク』が復帰、ゾラ大尉達が乗っていたザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』が参加、アナハイムからは注文していたコロンブス級宇宙輸送艦『シュトーレン』が届いて艦数13隻まで膨れ上がったが肝心のMS隊は20機前後と少なすぎた。ゆえにMSの製造は急務だった。

 

 急務なのだけど…

 

 「なんで正座させられているか理解してますか?」

 

 加東 鏡士郎は仁王立ちするイリアの前に申し訳なさそうに正座させられていた。それをチラッと見た整備兵はまたかとさして気にする様子もなく通過して行く。

 

 「…すみません」

 「理解してますかと聞いているんです」

 

 理解せずに謝っていたのだろう回答が返って来ない。大きくため息を付いて肩を落とす。

 

 「今の艦隊には防衛するにも攻撃するにもMSの数が足りません」

 「新しい艦を動かす人員もまだ育ってないから足りないね」

 「それもですが!!まずはアレから説明してもらいましょうか!!」

 

 怒鳴りながら指差した先には新品のヅダが組み立てられていた。「おお」と手を叩きながら反応した鏡士郎がやっと理解したのだと思った。

 

 「イリアちゃんもヅダが欲しかったんだね?」

 「ちっがーう!!」

 

 あまりの大声に驚いて「にゃ!?」と肩をビクリ跳ねた鏡士郎に対して新人の整備士達が首を傾げる。すると年老いた整備士が「気にするないつもの事だ」と言って作業に戻した。一気に周りが注目したことに恥かしくなって顔を赤らめるが今は怒りの方が勝っていた。

 

 「なんでヅダを作るように指示出したかな!!」

 「いや、だってヅダだし」

 「理由になってない!!ヅダは下手したら空中分解する機体なんを知っているでしょう?」

 「知っているに決まっているじゃないか。なに言ってんですか?」

 「なに言っているかと言いたいのは私なの!!」

 

 襟首を掴んで眼前まで引き寄せて視線を合わせる。怯えた子猫のような瞳で見つめ返してくるが関係ない。

 

 「ヅダを操縦するには高い技能を持った熟練パイロットじゃなきゃ駄目でしょう。新兵に死ねって言う気なんですか!!」

 「いやいや、アレに乗るのは僕だよ。新兵には乗せられないって」

 「解ってます!解っているんです!!でも生産ラインの方にはなにを量産するか伝えるとか言っておいて『ヅダを頼んだ』だけ言ったら量産化しちゃうでしょうが!!」

 「ははは、そんなまさか…」

 「現に私が止めなかったらヅダを量産してたんです!!」

 

 ぶんぶんと左右に振ってようやく気が治まったのか襟首を放して開放する。ぐるぐると目を螺旋状に回して鏡士郎は「ふにゃ~」と言いながらその場に倒れる。

 

 何とか生産ラインを止めたから良かったもののすでにヅダが合計で四機も作られてしまった。誰が乗るかも分からない機体に資材を使いましたなんてどうハマーン様に報告したら…

 

 思い返すと胃がキリキリと痛み始めて懐から水入らずの胃薬を素早く飲み込む。

 

 『第一ゲートにザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』が入港します。ゲート内で作業している作業員は待機エリアまでの退避を。繰り返します。第一ゲートに…』

 「帰ってきた!」

 

 放送を聴きつけた目を回していた鏡士郎は立ち上がり駆け出していった。

 ザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』はゾラ大尉達が新装備受諾の為に使っていた。それが帰ってきたと言う事は…

 

 「どうしますかイリア少尉?」

 

 名前を呼びながら近付いてきたのはジオン公国軍キルマイヤー小隊のヒルデガルド・スコルツェニー少尉だった。優しげな微笑を浮かべた彼女はパイロットスーツに着替えて待機していたのだろう。

 

 「ゾラ大尉達が帰還したからには私達も動く」

 「反撃ですか?」

 

 彼女の方が年上だし同階級なのだからもっと馴れ馴れしくても良いと思うのだが彼女は一行に敬語を止める気はなかった。それが喋りやすいのなら良いのだけど…

 

 「借りは返す…だそうよ」

 

 30バンチ事件から帰ってからずっと計画していた。スペースノイド狩りを行なうティターンズへの奇襲攻撃艦隊。部隊名『カトウフリート』。大佐にゾラ大尉の部隊を主力にした少数精鋭で事に当たるらしい。たぶんあのガンダムとも戦うことになるのだろう…

 

 量産化MSはゲルググタイプを採用することを伝えてからイリアはヒルデと共に出撃準備に取り掛かるのであった。




 攻めに転じようとする加東 鏡士郎は戦場へ向かう。

 次回 『静かな戦場』


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第22話 『静かな戦場』

 暗礁宙域、サンダーボルト宙域…

 

 宇宙にも人類が作り出したゴミが溢れていた。使えなくなった電子機器から戦争によって破壊されて放棄された戦艦まで有りとあらゆる物が漂っている。その中でも壊れた大型機の磁力や重力や様々な要因が重なりデブリ帯や暗礁空域なるものが生まれた。

 

 宇宙空間を自由に行き来する航路はたくさんあるが目的の為にはデブリ帯を突き進む物も居る。特に表沙汰出来ない任務や物資の移送なら尚更だ。そういった場合に入り組んだデブリ帯は移動するに困難だが発見されにくいと言うメリットが大きい。ただしそれは己のみの事ではないが…

 

 第130物資輸送艦隊はとある荷物を輸送する目的でデブリに紛れて航行中だった。艦隊はコロンブス級二隻を中心に配置して周りを三隻のサラミス級が護衛する形で展開されていた。搭載されているMSの合計は21機でそのうち3分の一の七機は周辺警戒で出ていた。

 

 長年指揮を執っている艦長は今回の任務に嫌な予感を感じていた。

 

 知らされない積荷の中身。

 

 渡された何かから隠れるように設定された航路。

 

 最後にティターンズ上層部からの命令書…

 

 十中八九ろくでもないものが載っている。簡単な説明によると自分達の艦隊以外にも複数の艦隊が動いており、その半数が囮と言う事だった。

 

 上層部からの命令と言う事で辞退出来ず、こうやって航行しているが今すぐにでも積荷を捨てていつも通りの仕事に戻りたい。艦橋に居る連中は気になっているのかそわそわしている。

 

 「気になるか副長」

 

 30になる連邦軍の制服をきっちりと着こなしている屈強そうな男は少し困ったように笑い顔を向けた。

 

 「多少…」

 「嘘をつけ、嘘を。さっきからそわそわしながらこっちを見ていたのは誰だ?」

 「そんなに挙動に出てましたか」

 「ワシが警官なら職質をかけるくらい挙動不審じゃったよ」

 

 まぁ、それは艦橋のほとんどの者に当てはまるが。

 

 冗談めいて言った台詞を聞いた連中を少しだけ笑うが内心続きを聞きたくて仕方がないと見た。艦長ならどんな物かは普通教えられる。普通はな… 

 

 意地悪く笑っていた表情から真面目な表情へ変わった事に全員が気付いて気を引き締める。

 

 「お前さん家族は居たな?」

 「ええ、二年前に結婚した女房に子供が二人です。それが何か?」

 「こういう仕事を何度か行なったがひとつだけ言っておく。要らぬ詮索をするな。家族に悲しい思いをさせたくないなら尚更だ。ワシらはアリだ。ただ荷物を運ぶだけ。下手なことしても厄介ごとに巻き込まれるだけだ。良いな?」

 「…了解しました」

 

 副官はもう何も言わずに軍帽を深く被った。

 

 何もなければ良いのだが。

 

 そんな事を思った矢先、艦が大きく揺れた。艦長席で踏ん張って転げ落ちないように気をつける。この揺れに爆発音からただの事故では無い事はすんなり理解出来た。が、理解できない事もある。

 

 「なんの攻撃だ!?」

 「索敵班なにをしていた!!」

 「すみません…デブリが多くて…」

 「謝るよりも先に敵の位置出しをしろ!!」

 

 索敵のレーダーにも警戒していたMS部隊も発見できないまま相手の攻撃を許してしまう。

 

 

 

 細長い光がデブリに掠る事無くサラミス級に向かって直進して行き閃光を発せさせる。

   

 『スナイパー2、ターゲット3のエンジン部破壊を確認』

 『了解。スナイパー2は待機。スナイパー3はターゲット3の艦橋を、スナイパー4はターゲット4の足止めを』

 『スナイパー3、了解』

 『スナイパー4、了解』

 

 機械のような淡々とした声が無線の中を飛び交う。指示された通りに新たな閃光が別のサラミスへと伸びて行った。

 

 カトウフリートはこのデブリを隠れ蓑として連邦・ティターンズに対する攻撃を実施していた。っと言っても少数の戦力しか動かせない現状であるからして奇襲の一手ぐらいしかないのだが…

 

 デブリ内に配置した台座付き大型スナイパーライフルとリック・ドムⅡ四機とザクⅡ一機を五箇所に配置して狙撃にて相手の足である戦艦に攻撃を行なっている。

 

 この作戦はサンダーボルト宙域の戦いを知っている加東 鏡士郎が命じた作戦であり、これまで5回も成功を収めた必殺の戦略である。この作戦でデラーズフリートの残存部隊を撤退させる為に連邦の包囲網を単騎で突破したなど数々の功績を冗談か何かだと思っていた後から合流した兵士達は素直に鏡士郎の実力を認めた。

 

 …が、作戦立案した本人は…

 

 「イリアさん」

 『何でしょうか大佐』

 「暇です」

 『………で?』

 「暇なんです」

 『そんな事を言う為に無線を繋げたのですか?撃ち落しますよ』

 「だって僕やる事がないんですよ。暇、暇、ヒマァ!!」

 『そんなに暇なら歌でも歌ってれば良いじゃないですか』

 

 冷たくあしらわれた艦隊総司令官殿はむぅと唸って新機動戦記ガンダムWのオープニングである『Just Communication』を熱唱し始めた。

 

 『本当に歌いますか普通』

 『お上手ですね大佐』

 「えへへへ♪」

 『ヒルデ少尉、調子に乗るから下手に大佐を褒めないで』

 

 無線をつけたままなのでいつもの事ながら仲間全体に聞こえ渡っていた。少し前なら胃が苦しくなっていたが今ではこれぐらいでは何ともなくなった。胃が丈夫になったのか、精神が鍛えられたのか…どちらにしても理由が理由なだけに喜べないイリアであった。

 

 『大佐。出撃お願いします』

 「やった。やっと動かせる」

 『最新の宙域データを送ります』

 「ありがと。じゃあヅダ《サンダーボルト仕様》出るよ!!」

 

 MSを一機隠れる事の出来るムサイの残骸より飛び出したヅダは速度を増しながら突っ切って行く。

 

 ヅダ《サンダーボルト仕様》

 ヅダをサンダーボルトで登場した兵装を取り付けた仕様でバックパック上部左右からアームが伸びてジムの盾を機体を守るように展開している。リビングデッド師団の機体のようにアームに銃火器を持たせて戦いたい気持ちもあるが、連邦のムーア同胞団の兵装の方がデブリの中を突っ切る事に向いている。ただ諦めきれずにアームを一本増やしてザクマシンガンのリロードをさせたり攻撃も可能としている。パイロットにそれだけの余裕があればだが。

 

 サラミスのエンジン部と艦橋をやられて動けなくなっており防衛に周ったジムをデブリの間より射撃して次々と被弾させていく。勿論反撃してくるがヅダに当たる訳はなかった。ここはデブリ群の中。周囲に設置したセンサーにより10分おきに更新されるデブリ群の詳細なデータで速度は出せて、身をほとんどデブリで隠している者に当てられる者などエース中のエースだろう。それにヅダは一機ではなかった。

 

 「ヒルデさんは左方から、ジルさんとウルドさんは下方よりお願いします」

 『了解しました』

 

 ヒルデことヒルデガルド・スコルツェニー少尉にジル軍曹、ウルド准尉の三人もヅダ《サンダーボルト仕様》に搭乗していた。これらのヅダは鏡士郎が間違って作らせた機体である。

 

 ヅダは操縦する人を選ぶ。その優れた機動性能に圧倒的加速によって生まれるG、そして下手をすると空中分解を起こしてしまう恐怖。Gに耐え機体を制御する技術を持っている腕利きでないと操れない機体。それを彼ら・彼女は鏡士郎ほどではないが使いこなせていた。ジル軍曹、ウルド准尉は腕が良いから選ばれたが彼らは鏡士郎を監視する為にイリアと共に送り込まれた近衛隊所属のパイロットである。

 

 機動力の高いヅダに腕利きのパイロットに詳細なデブリのデータと三役揃えば並みの敵では相手にならなかった。最後のジムを行動不能にして最後に通告する。

 

 『我らはこれ以上君らの命まで取ろうと思わん。十分以内にこの場を立ち去れ』

 『そんなたった十分だと!?』

 『十分後に動けなくなったサラミス一隻とコロンブス二隻の破壊を行なう。分かったらさっさと失せろ』

 

 ザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』からの指示に従うかどうかを見る為に再び鏡士郎達は隠れて見守る。まだ動けるMSや脱出用のランチが大慌てて移動を開始し始めた。それを見て多少安心するが最後まで気を抜かない。反撃に出る者だって居るかも知れないのだ。今回は何も無く二隻のサラミスが戦線を離脱していった。

 

 離脱を確認した鏡士郎はヒルデと共に撤退を開始した。その途中で人員を乗せたランチ艇とザクⅠ四機と擦れ違う。十分と言うのは余計な罠や工作を施さないように設定した時間だ。逃げれるか分からない設定をされれば誰だって余計なことをしないと思う。死の覚悟や執念がある奴は別だが。擦れ違った部隊には危険物の処理からシステムチェックのエキスパートも乗っており安全を確保してから行動不能となった艦より物資の調達を行なえる。

 

 ようやくザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』を旗艦としたカトウフリートの艦隊を集結させているデブリ中枢に到着した。辺りにはムサイ級軽巡洋艦『ライプツィヒ』に『ニュルンベルク』、パプア級補給艦『ヘンゼル』が艦隊を組んでいた。

 

 シュトゥッツァーを受領したゾラ大尉に艦隊の護衛を行なってもらっている事からあの時のガンダムでもない限り中隊程度ではこの部隊を倒す事は出来ないと信じている。

 

 だから鏡士郎は望んでいる。

 

 あのガンダムとの戦いを。

 

 今度こそ倒して見せると決意を胸に宿して。

 




 小さいながらも攻撃を開始したカトウフリートに謎の機体が近付く。

 次回『追われる者』


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第23話 『追われる者』

 デブリ内に隠れているカトウフリートの回収班はやっとの事で行動不能になったコロンブス級より離脱した。すでに物資や弾薬は移動していたが、中々厳重にロックをかけられたコンテナがあって開けるのに時間が掛かったのだ。中身はキャリーバックサイズの鉄の容器にアタッシュケースが入っていた。

 

 「それにしても厳重だったよな」

 「コンテナの中に大型金庫、またその中に一回り小さい金庫ってマトリョウシカかってな感じだったな」

 「マトリョウシカ?何だよそれ」

 「知らないの…ちょっと待て!!」

 

 ザクⅠに乗っていたパイロットは相方と他愛のない会話をしていたらあるものを見つけた。焦った声色から何かあったのかと心配する。ザクⅠが指差した先へとモノアイを動かして調べる。

 

 白をメインカラーにした機体。

 目は二つに、でこにはV字のアンテナ。

 左腕に備わっている盾にはでかでかと連邦のマークが入っている。

 

 「ガ、ガンダム!?」

 

 ジオンにとっては悪鬼と呼ぶべきMSがこちらに顔を向けていた。

 

 【連邦の白い悪魔】

 連邦軍が実戦に投入したテスト機でその性能はザクを軽く凌駕していた。初戦闘で赤い彗星の猛攻を跳ね除け、地球に降下してザビ家の御曹司で地球方面軍指令であるガルマ・ザビ、青い巨星のランバ・ラル、黒い三連星のガイヤにオルテガにマッシュなど数多くのエースパイロットにザビ家の方々を手にかけた忌まわしき機体。あのMSのせいでジオンはどれほどの損害を被った事か。

 

 目の前に現れたガンダムに恐怖してザクマシンガンを向けたザクⅠを相方のザクⅠが止める。

 

 「何で止めるんだ!!」

 「馬鹿!ガンダム相手にザクマシンガン程度じゃ意味がないって知っているだろう!少し冷静になれ!!」

 「だけど…」

 「それによく見てみろ」

 

 焦っていたパイロットは相方の言葉を聞いてガンダムを観察してみると相手はまったくと言っていいほど動いていなかった。止まっているのではなくただ漂っている感じだ。不用意かもしれないが近付きガンダムに触れる。やはり何の反応も無かった。

 

 「なんだコレ」

 「廃棄物にしては綺麗だな」

 「パイロットが死んだかなんかか?」

 「分からん。とりあえず持って帰って調べるか」

 

 二機のザクⅠがガンダムを支えながらパプア級補給艦『ヘンゼル』へと帰還した。ハッチを閉めて空気が充満し始めた中でハンガーへガンダムを降ろしているとノーマルスーツを着た整備兵を掻き分けてイリアが近付いてくる。

 

 「貴方達は何をしているの!!」

 

 怒鳴り声に驚いてガンダムを手放しそうになったのを何とか支えてモノアイをむける。

 

 『こ、これはイリア少尉!私達は外を漂っていたこの機体を回収しただけであります!!』

 

 年齢は下だが二人の階級より上のイリアに対して見えないだろうが姿勢を正して答える。その答えを聞いたイリアは鏡士郎に対するときより怒りを露にした表情で睨みつける。

 

 「機体のチェックは行なったのか!!」

 『こ、これからであります』

 「この馬鹿!!もし爆弾や奇襲の為の罠だったらどうする気なの!!」

 『も、申し訳ありません!!』

 「イリア少尉。コクピットが!」

 

 新米のパイロットの怒りを向けている途中だったが整備兵が伝えてきた方が重要だ。コクピットが開いているという事はパイロットが生きていると言う事だ。しかし、コクピットを開けるとは奇妙だ。ガンダムは連邦の機密中の機密で民間にはまず流れていない。つまりは連邦軍の所属であることは間違いないと考えられる。だが、あのガンダムのパイロットはザクⅠやジオン軍服を着込んだ者に囲まれていることからジオン系の勢力内と分かるだろうに。

 

 警備を担当している兵がマシンガンを構えたままコクピットへと向かう。イリアも腰に提げられていた拳銃を構えて地面を蹴った。無重力に設定されているエリアなので地面を蹴ったイリアはふわふわとガンダムのコクピット付近に飛びついた。銃を構えながらコクピットを確認すると民間用のノーマルスーツを着用した男性らしき人物がぐったりとしていた。

 

 「…らが……って………ない」

 

 小声で呟かれた一言を聞き取れず銃を構えたまま近付いた。

 

 「貴様は何者だ?何処の所属だ?そして何と言った?」

 

 質問を投げかけられた男はゆっくりと頭を上げて虚ろな瞳にイリアを映して再び口を開いた。

 

 「…腹が減って力がでない…」

 「……はぁ?」

 

 疑問符を含んだ声を出すと男の腹からぐぅうううとお腹がすいたと腹の虫が鳴いた。

 

 

 

 パプア級補給艦『ヘンゼル』の個室で鏡士郎は報告を受けたガンダムのパイロットと個室で護衛無しで合っていた。本人の意思と肉体がチートヅダに合わせるように強化されている鏡士郎は白兵戦でも結構な成績を出した事もあり、護衛無しという条件が通ったのである。もしもの時は近衛は大佐ごと対処する気でいるが…。

 

 目の前の山のように重ねられたトレーを眺めて、呆れや驚きよりも感心していた。

 

 「よく食べますね」

 「もぐもぐ…ゴクン。すみませんね、三日間も何も食べてなくて」

 

 新たに宇宙食の入ったトレーを手に取りながら、ガンダムのパイロットは頭を下げる。見た目の年齢は60歳前後の中肉中背の優しそうなおじさんは勢い良く五つ目の宇宙食を口の中にかきこんでいく。先の戦闘で航行不能にした戦艦から食料も大量に入手しており、食糧事情に関しては余裕がありまくっているからこれぐらいどうって事ないから良かったが食糧難でこんなにも食べさせていたらイリアちゃんになんて言われてたか…。

 

 数分で食べきったトレーを横に重ねられていた一番上に乗せると大きく息をついてお茶をゆっくりと流し込み始めた。

 

 「えーと、そろそろ話をしても」

 「え、ああ、これは申し訳ありませんでした。私はコウタロウ・ヤマダと申します」

 「僕はアk…ジオン公国残党部隊カトウフリート総司令官キョウシロウ・カトウです」

 

 アクシズと名乗りそうになったのを堪えてカトウフリートと言う部隊名を名乗る。すると何か気になる点があったのか首を傾げながら唸り始めた。

 

 「デラーズフリートではなく…うーん…」

 「あの、なにか?」

 「失礼ですが貴方………イレギュラーではないですよね?」

 

 まさかここで聞くとは思わなかった単語に目を見開いて反応するとヤマダは椅子より転げ落ちるように離れた。怯えながら壁にへばりつく彼の行動は異様だった。

 

 「ま、ま、ま、まさか私は殺されるのですか!?」

 「へ?ちょっと落ち着いてくださいヤマダさん。殺すってどうして」

 「き、君はソウジロウ君の仲間じゃないのかい」

 「ソウジロウって誰ですか?」

 

 震えていたヤマダは荒くなった息を整えつつ、落ち着きを取り戻しつつあった。

 

 「そうだな…そうだよな。彼ならティターンズに居るはずだよな」

 

 安心したように息をつき転がした椅子を戻し、席に座ってジッと鏡士郎を見つめる。

 

 「いやぁ、すまなかったね。みっともないところをお見せした」

 「い、いいえ、それより貴方もイレギュラーなのですか?」

 「ああ、そう呼ばれていたよ。それより貴方もって事はやはり」

 「らしいですね」

 「名前からして貴方も日本産まれですよね。いやぁ、久しぶりに同郷の人に会えました。貴方は一年戦争時にはジオンに?」

 「僕はデラーズ・フリート撤退時に」

 「ほう!それは良かったと言うべきですかね」

 「ヤマダさん。貴方はイレギュラーに詳しいんですか?」

 「それなりにはですけれどね」

 「教えてくれないですかイレギュラーと言うものについて」

 

 鏡士郎の真剣な頼みにヤマダは快く返事をして彼が体験した事とイレギュラーについて語ってくれた。

 

 コウシロウ・ヤマダは20歳の頃に放送されたガンダムを生で見て以来、ガンダムの世界観にはまってしまった日本人だ。漫画や小説、ビデオテープやDVDなどが主に給料の使い道でその中にはゲーム類も含まれていた。その趣味であるガンダムのゲーム、2016年に発売された『ガンダムブレイカー3』を買った事が彼の運命を変えた。

 

 買って一ヶ月も経たない内にこのガンダムの世界に飛ばされたヤマダはレビル将軍直属の諜報部隊に丁重に出迎えられ、一週間以内にレビル将軍と引き合わされた。時期としてはホワイトベース隊が地球に降下した頃だった。

 

 レビル将軍はジオン公国軍のザクと突如現れた異世界人…『イレギュラー』の攻撃に頭を悩まされていた。だから彼は人道的概念を説いたり、地位やお金、戦争終結後元の世界に帰る為の方法を連邦軍の総力を持って探すなど条件を出してきたが、戻っても独り身だし、大好きなガンダムの世界にいるし別に帰りたいって言うほどでなかった。けれど、直に見る為に連邦軍に入るのは悪くなかった。

 

 地球連邦軍レビル将軍直属対イレギュラー部隊に所属するとすぐさま『8』と言う番号を付けられた。これは出現したイレギュラーの順番で付けられるらしい。部隊には他に最初に現れたナンバー0にナンバー7、そしてソウジロウと名乗るナンバー3の少年が居た。

 

 情報ではイレギュラーのナンバー12まで確認されており、どれもが一機で戦場を掌握するほどの圧倒的な性能を誇っていた。圧倒的な性能差を持つイレギュラーはイレギュラーでしか倒せない。

 

 ジオンについたイレギュラーズは6名で無所属で活動している者が3名。無所属と言うのは傭兵や平和に生きる者ではなく己の力を証明するかのように暴れる賊のような奴らだった。

 

 イレギュラーとの戦いは熾烈を極めた。その中でイレギュラーの事が分かった。まずイレギュラーズ単体は不死と言う事だ。例え撃たれようとも刺されようとも死にはしない。イレギュラーを消滅させるには機体を撃破する事が大前提である。ナンバー11との戦闘で先に機体を《完全》に撃破して白兵戦を行なった結果、撃たれたナンバー11は粒子となって消滅した。

 

 

 

 話を聞き終えた鏡士郎は目を閉じる。

 

 「で、戦争終結まで生き残った私の話のオチとしては私の忠告を聞かなかったレビル将軍の戦死で約束が反故にされた事と私の愛機ごと撃破された事かな」

 

 聞き捨てならない発言に閉じていた目を見開いてヤマダを見つめる。

 

 「今撃破されてって言った?」

 「ああ、その通り。私が乗っていたガンタンクは完全に破壊されました」

 「と、言うことは…幽霊!?」

 

 今度は鏡士郎が壁際まで飛び退いた。その様子を見たヤマダは愉快そうにと笑った。

 

 「これはソウジロウ君達も知らないと思うんだけど…機体を二体セーブしていた者は片方を撃破されるともう一機の方に転送されるらしいんだよ」

 「幽霊ではないんですね?ね?」

 「ええ、もちろん。このことは私以外では確認されて居ませんでしたからもしかしたら何処かに潜んでるか、隠れて生活しているんでしょうね」

 

 大きく頷いた事に安堵して席に戻る。と、ここでまたも疑問が浮かんだ。戦争終結と言うことは戦いが終わった後だ。なのに撃破されると言うのは…。

 

 「何で撃破されたのか?と聞きたそうな顔ですね」

 「表情に出てました?」

 「簡単な話ですよ。私がバスクに疎まれていたからですよ」

 「バスクってティターンズの」

 「そうです。次の戦いを楽しむ為にバスクにソウジロウ君に付いて、危険を察知した0は7を連れて去って行った。で、残った私はバスクの手法を好んでおりませんでしたので二個大隊のMS部隊とソウジロウ君にやられたと言う訳だよ」

 「うわぁ…大人気ない。いや、人として卑怯すぎません。後、ばれたらまた追撃されますよね」

 「ですよね。今のところは見つかってないから逃げれるので良いのですがね」

 

 そう言って二人は同時にお茶を啜る。

 

 「それで今は何をしているのですか?ジャンク屋でも」

 「今はあるものを探しています」

 「あるもの?」

 「ナンバー12の…」

 『大佐!キョウシロウ大佐!!』

 

 話の途中だが割り込んでいた艦内放送の声が妙に慌てている事に鏡士郎自体が焦りつつ通信機器の元まで駆け寄る。

 

 「どうしましたか!?」

 『この前のガンダムタイプを確認しました』

 

 やっと来たかと気合を入れてMSデッキへとヤマダをその場に残して駆け出し始めた。




 同じく異世界より渡って来たヤマダとであった鏡士郎にイレギュラー達が襲い掛かる!!

 次回「イレギュラーズ対イレギュラーズ」


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第24話 『イレギュラーズvsイレギュラーズ』

 すみません。先週投稿するのを忘れておりました。


 カトウフリートが活動しているデブリ帯に接近するMS部隊が居た。六機のジム・クゥエルに黒いガンダムタイプ、そしてゲルググJが編隊を組んでいた。これは異常なことだった。ジオン残党狩りを掲げているティターンズがジオンMSと肩を並べている。

 

 戦艦やコロニーの残骸を近場で見る少女はため息をつく。

 

 「なんで私こんな所に居るのかな…」

 

 ゲルググJに乗るアリスは今日の予定を思い出す。いつも通り朝7時に起床して朝食、昼からは外出してウインドウショッピングやお気に入りのクレープ屋さんへ寄ろうと思っていた。

 

 再びため息をついた。

 

 『辛気臭いため息してんじゃねぇぞクソ餓鬼』

 「ひぅ!?」

 

 無線が入っていた為に聞こえたソウジロウの乱暴な声がアリスを驚かせる。何度聞いても自分だけしか居ないスペースで人の声がするというのは慣れない。

 

 月面のアナハイムに雇われている『ウィルオーウィプス』のアリス・キタガミがここに居るのは訳があった。一年戦争時にレビル将軍が組織した直属部隊に所属して、多くのイレギュラー達と死闘を繰り広げた。中には誰かを守る為にだとか後々のジオン残党を作らない為にとか理想や信念を持った者も居たが、大半が力に酔い痴れた暴君ばかりだった。ゆえにティターンズに所属しているイレギュラーと『ウィルオーウィプス』のイレギュラー間で協定が結ばれた。もし他のイレギュラーが現れた際には協力して排除すると。

 

 『折角のイレギュラー狩りだ。少しは楽しめや』

 

 無理ですぅ…。私、貴方みたいに戦闘狂じゃないんです。出切れば平穏でのんびりとした日々を送りたいんです。

 

 望んだ所で周りがそうさせてくれないのだがと諦め、ゼフェランサスのバックパックにガーベラ・テトラの腕部の調子を確認してスラスターを噴かしてデブリ帯へと突入する。

 

 『さぁて、今度こそ狩らせてもらうぞ』

 

 歪んだ笑みを浮かべるソウジロウ・ミヨシは太刀を片手にガンダムジャックを突入させる。

 

 

 

 敵機の接近を知った鏡士郎は部屋を飛び出してヅダ《サンダーボルト仕様》で飛び出した。何故かその後を付いて来たコウタロウ・ヤマダもガンダムで出撃していた。

 

 「どうしてついて来たんですか?」

 『一泊…は、してませんが食事の恩はありますんで』

 「相手はイレギュラーですよ」

 

 聞いた話ではレビル将軍の直属部隊以外のイレギュラーは死んだ。と言うことは今向かって来ているのは彼の元同僚と言うことだ。戦い辛いのではと想ったのだが返事にはそんな感情は見られなかった。

 

 『問題ないですよ』

 「問題ないって…」

 『イレギュラー倒すのはイレギュラー…私もイレギュラーですので覚悟はありますよ』

 

 あまりに普通に言うもので呆気に取られているとモニターに光が映し出される。慌ててその方向を見ると固定していた狙撃銃が爆発していた。構えていたリック・ドムⅡが無事離れるが次の瞬間には頭部を撃ち抜かれて戦闘不能になる。

 

 『今のはアリスちゃんですね』

 「アリス?…イレギュラーですか?」

 『ええ、戦闘を好まない普通の女の子ですよ』

 「これが普通の女の子のする事ですか!?」

 

 とてもそうは思えずに突っ込んでしまう。そのアリスちゃんと言う子はどう考えても射程外からの狙撃に次々とMSが撃たれて行く。

 

 「旗艦へ。撤収準備!!」

 

 イレギュラーのガンダムタイプ一機に対する準備だけで、イレギュラー二機を相手にすることは不可能と判断して撤収準備を進めるように指示を出した。このヅダでは遠距離戦は無理と考えて一気に突っ込む。送られるデブリのデータがなくても鏡士郎は苦ともせずに突っ切る。

 

 『よう、久しぶりだな』

 

 何かが来るのを感じて機体を回転させるようにして軌道を逸らす。すると直進していたら居たであろう位置にガンダムジャックの太刀が振るわれた。後一瞬でも遅かったら真っ二つになっていただろう。そう思うと冷や汗が流れた。

 

 「この前の黒いの!!」

 『黒いのとは失礼だな。ちゃんと名乗っただろうが!!』

 「聞いてないですよ!!」

 

 機体を回転させてニ撃目を振り抜いてきたのを身を低くして回避し、コクピット辺りに蹴りを入れる。これは相手にダメージを与える事を考えて行なったのではなく、接近戦でやり合うのは非常に不利な為に距離を離そうと蹴ったのだ。ガンダムジャックはビクともしなかったが反動でヅダが離れる。

 

 『またコクピット狙いかよ』

 「当たり前でしょう。そこが弱点なんだから」

 『ったく…まぁ、いいさ。俺はソウジロウ・ミヨシ。テメェの名を聞いとこうか』

 「キョウシロウ。キョウシロウ・カトウだ」

 『はは、キョウシロウか。じゃあ…行くぜ!!』

 

 正面には機体スペックが異常なガンダムジャックにジム・クゥエル六機が左右を固め、遠距離には腕が良すぎるスナイパー。なんとかスナイパーだけでも排除したい所だが…。

 

 『キョウシロウ君。避けて!!』

 「―っ!?ひゃい!!」

 

 ソウジロウの視点からしてみれば奇妙な動きに見えた。

 

 スナイパー狙いで突破を計ろうとしたヅダが急停止と同時に下へ退いたのだ。通常機でその動きはスラスターなどに負担が大き過ぎる。

 

 『なぁにぃ!?』

 

 ヅダに気をとられて背後に居たガンダムに気づくのが遅れた。ガンダムは身体を捻ってガンダムハンマーを振りながら伸ばしてくる。通常のガンダムなら気にも留めなかったが、大型のデブリを木っ端微塵にしながらこちらへ振られるハンマーの異常性に通常機ではない事を察した。デブリの破片で二機が巻き込まれ、迫ったハンマーの盾に近くに居たクゥエルを前に放り出す。直撃したところから砕けてバラバラになった。よく見るとバラバラになった機体には緑色のオーラが纏わりつき、腐食させていた。

 

 『ディゾルプか!!』

 『その通りですよ。ソウジロウ君』

 

 緑色のオーラを見た瞬間、ガンダムブレイカー3にあった毒属性のディゾルプと言う物を思い出した。それを隠す事無く正解だと告げる声には懐かしさと苛立ちを覚えた。

 

 『その声…山田のおっさんか』

 『ご名答』

 

 再び振られるハンマーを回避しながらEX技のスラッシュテンペストで六つの斬撃を飛ばすが、あっけなく回避されてビームライフルの反撃を許してしまう。舌打ちをしながらガーベラストレートで弾きながら接近戦に持ち込もうと突っ込む。

 

 『君はやはり分かりやすいね』

 

 背後から戻ってきたハンマーに気づくのが送れて左肩に直撃する。スペック的には破損まで行かないが久しぶりの機体ダメージに笑みを浮かべながら、両腕のトライブレードを連続で射出する。ハンマーが帰ってきたのを確認したガンダムはデブリを盾にしつつ距離を開けていく。

 

 『クッソ狸ジジイが!!まさか生きてやがったとわな。どうやってなんてきかねぇぜ』

 『君なら戦いに集中したいから訊いてこないと思ってましたよ』

 『あん時の借りを返させてもらうぜコラァ!!』

 『ガンタンクと違って機動力がありますので、そう簡単にはいかせませんよ』

 

 ハンマーを伸ばしたところで懐に潜り込まれるだけと理解したヤマダはハンマーを握ったままで、殴りつけるように使う。それをソウジロウは楽しそうに斬り捌いていく。余波に巻き込まれてデブリやジム・クゥエルが噴き飛ばされていく。

 

 遠くでガンダムジャックと互角に戦っているガンダムにアリスは狙いを付けていた。ジャックと渡り合える機体ならばイレギュラー機で間違いない。そして今までファーストガンダムを扱っていたイレギュラーは居なかった。ガンダムを13番目と断定して援護をしようとした時、悪寒を感じて辺りを見渡す。

 

 『私を狙って!?』

 

 デブリを駆け抜け、ゲルググの死角よりバックパックに盾四つを付けたヅダの接近に気付いてライフルを放つ。が、直撃はならずに盾を吹き飛ばす程度で終わった。

 

 『なんて反応速度!?』

 「凄い。完全に避けたと思ったのに…」

 

 キョウシロウはライフルを危険視して、二発目の前に切りかかろうとヒートホークを手に取る。

 

 デブリをものともせずに急接近してくるヅダに恐怖を感じながら、ライフルをゆっくりと手放す。眼前まで迫ったヒートホークを腰より抜いたGNビームピストルを重ねてガードする。

 

 「それは…身持ちが硬いな。ガンダム!!」

 『おとめ座の人!?』

 「あはは。それに反応したって事は…」

 『そのの台詞を知っていると言う事は…』

 『「貴方がイレギュラー!!」』

 

 ガンダムジャックほどではないがヅダよりもパワーのあるゲルググはヒートホークを押し退ける。距離をとろうとスラスターを吹かしたヅダにビームピストルの乱射が放たれる。乱れ撃ちに近いようだが一発一発が正確な射撃で避けるだけで手一杯…。

 

 「ってか、このままじゃあ機体が壊れる!ふにゃ!?」

 『こ、来ないでくださーい!!』

 

 接近戦は不得意なアリスの射撃を必死になって避けているキョウシロウはデブリを盾にしながら距離を開けるしかなかった。盾をパージしてバズーカとマシンガンで撃ち合いを始める。マシンガンは良かったのだが、バスーカは届く前に弾頭を撃ち落され、全部撃ち終わる前にバズーカ本体を撃ちぬかれる。慌てて話すが爆発の余波で軽く押される。

 

 「もう!機体は現地使用みたいなのに勝てない」

 『これは借り物なんです。傷つけたら怒られちゃいますぅ』

 「機体のレベルは低いのに腕は凄すぎるでしょう!」

 『ふぇ?今、私のこと褒めました?』

 「当たり前だよ。こんなに避けるので精一杯になるなんて今まで無かったよ」

 『褒められる事あまり無くて…嬉しいですね』

 「は、はぁ…。それは良かったです」

 

 嬉しそうに言ったアリスは銃撃を止めて、こちらをただ見ていたのでつい攻撃を中止して見詰め合ってしまう。

 

 『てめぇら戦う気あんのか!!』

 「はにゃ!?」

 『ひぅ!?』

 

 ガンダムから距離を開けて向かって来るソウジロウの怒声に二人は奇声を上げて驚く。ヅダに何をするでもなくゲルググの腕を掴んで距離を開けさせる。ヅダの前には遅れて到着したガンダムが庇うように前に出た。

 

 『大丈夫ですかキョウシロウ君』

 「はい、そちらも…いえ、結構やられてますね」

 

 ボロボロに傷ついたガンダムを見つめながら答えたが、笑みを浮かべているであろうヤマダの弾んだ声が返ってきた。

 

 『問題ないですよ。この程度の傷なんて自動回復で何とでもなりますよ』

 

 言われた通りでよく見ると一秒が過ぎる度に傷が治っていく。これがゲームの自動回復かと感心する。同じくボロボロになっているガンダムジャックは確かに治っている所もあるが緑のオーラが付着している所だけは治るどころか溶けている様に見える。

 

 『ど、どうしたのですかその傷は?』

 『うるせえよ。今日のところは撤退するぞ』

 『本当ですか♪…でもどうして?』

 『アレが見えねえのか?』

 

 指差す方向にはこちらを狙っているチベを先頭にするジオン艦艇が距離を保って待機していた。

 

 『あの二機相手にして艦砲射撃まで避けれる訳がねぇだろ』

 『分かりましたから手を離してえええ!!』

 

 引っ張られながらゲルググとガンダムジャックはデブリ帯から急速に離脱して行く。残ったキョウシロウは現れたジオン艦隊をモニターの中央に映す。

 

 『あれは私の迎えなのですよ』

 「貴方の?」

 『ええ…とりあえず船に戻ってからもう一度会いましょう』

 「良いですよ。では、後で」

 

 機体の修理も必要なので言われたまま艦帰るヅダをガンダムはじっと見つめていた。



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第25話 「影に潜む者」

 ソウジロウ・ミヨシにアリス・キタガミのイレギュラーズ二人との戦闘後、カトウフリートはデブリ宙域からの撤退を開始した。ここでは敵部隊を有利に攻撃出来、尚且つガンダムジャックを誘い込んで撃滅する目的があった。だが、敵のイレギュラーは増え、今回は倒す事も出来なかった。次の戦闘時にはどれだけの戦力で踏み込まれるか分からない為に、デブリ宙域を撤退する事にしたのだ。ヤマダが仲間と言った艦隊と共に。

 

 カトウフリート旗艦としているザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』ではなく、パプア級補給艦『ヘンゼル』に着艦した鏡士郎はMS格納庫を真剣な眼差しで見つめる。その傍らには今回の損害を記した書類を持ったイリアにヒルデ隊の面々が集まっていた。

 

 「イリアちゃん…被害どれくらい?」

 「リック・ドムⅡ四機にザクⅠ一機が戦闘不能。デブリに固定されていた大型スナイパーライフルの全てを破壊。大佐のヅダは外傷は盾や武装を失っただけですが、内部機構は大佐についていけずにオーバーロードを起こしています」

 「そっか…」

 

 たった一回の戦闘でMS六機も使用不能になったが、相手はイレギュラーズ二人なのを考えれば軽傷以外の何物でもなかった。それも人的被害はゼロときた。

 

 戦闘が終了してからあのアリスという少女の事が気になっている。正直あのゲルググJ型に恐怖は感じなかった。むしろ温かい感覚すら覚えた。機体は腕パーツにガーベラ・テトラ、バックパックにフルバーニアンと機動力に優れた物ではあったが、現状のMSでも十分に対処できるレベルだ。銃武器ですら通常の狙撃用ビームライフルより威力が高い程度でとてもイレギュラーの機体とは思えない。にも拘らず彼女の射撃は正確すぎた。射程と言うのはその範囲内でなら有効な一撃を与えられるというもの。彼女は射程外でMSを貫くほど威力を持たないビームを関節部分や頭部のモノアイなど脆い部分に当てる事で戦闘不能状態にしたのだ。

 

 接近戦を仕掛けた時、アリスは一撃もコクピットや胴体を一発も狙ってなかった。人を殺す事に抵抗があるのか、キラ・ヤマトと同じ考えなのか。 

 

 「もう一度会ってみたいな…今度は戦闘抜きで」

 

 つい思った事を漏らすとヒルデ少尉が意外そうな顔をしたので、振り返って首を傾げて訊いてみる。

 

 「なにか可笑しな事言いました?」

 「イリア少尉から聞かされていた大佐なら『また戦ってみたい』なんて仰られるのかと」

 「戦いたい気持ちは黒いガンダムの方で、ゲルググタイプは違いますから…って、イリアちゃんからなに聞いたの?」

 「それはいろいろなこt―」

 「わー!!わー!!」

 

 笑顔で答えるヒルデに大声を上げて何とか止めるイリアは顔を真っ赤にして睨みつける。勿論『にゃ!?』と変な声を出して睨まれた事にびびっている鏡士郎に対してだ。

 

 「私は総指揮官である大佐の事を話しただけです!!先に話しておかないといろいろ不味いですから。ただそれだけです!!ヒルデ少尉はそろそろ哨戒ではないですか?」

 

 肩を大きく揺らしながら急かすイリアにニコリと笑みを浮かべた後、背を伸ばして敬礼をしてMSデッキへ向かって行った。今はゾラ隊がシュトゥッツァーに慣れる目的もあって先に哨戒任務についている。

 

 イリアは手元にあったタブレットを操作して外の艦隊の映像を映す。チベ級重巡洋艦を先頭にしてムサイ級軽巡洋艦が二隻追従している。付近にはザクⅡF型が警戒を行なっていた。

 

 「彼らはどうするのですか?」

 「どうするって引き込むかどうかって事なんだよね」

 「はい。誰がどう見たところでジオン残存部隊ですよ。まだナンバーや乗員は調べてませんが、大佐なら引き込むでしょ」

 「あの艦隊指揮官次第かな」

 『ガンダム着艦します』

 

 艦内放送で知らされたように発進したヒルデ隊と入れ違うようにヤマダのガンダムが入って来た。コクピットを開けてパイロットスーツ姿で現れたヤマダに鏡士郎が居る格納庫を眺めれる通路に誘導してもらう。数分後に現れたヤマダはニッコリと笑顔を浮かべて歩み寄ってくる。

 

 「良い腕でしたよキョウシロウ君」

 「ヤマダさんこそ凄かったですよ」

 

 お互いに手を差し出して称えるように握手する。握手した後のヤマダが少し困った表情になったのを見逃さなかった。

 

 「…なにかあったのですか?」

 「あー…実に言い難いのですが…この辺りで連邦軍の艦隊を沈められましたか?ここ数日内に」

 

 ここ数日内と言われればヤマダが来る前に落とした連邦軍の艦隊ぐらいである。思い当たる節があったので素直に頷いて見ると、目をくわっと見開いたヤマダに肩を掴まれた。一瞬驚いて振り払おうとしたが何か必死そうな彼の顔を見て手を止めた。

 

 「その艦隊から物資を取りましたか?」

 「ええ、獲りましたけど」

 「中には厳重に保管されたトランクケースがありませんでしたか?もしあるのであればお譲り頂けませんか」

 「お、落ち着いてくださいヤマダさん」

 

 興奮気味に肩を揺さぶられ、頭が前後にがくがく動かされて抗議すると、我に返ったヤマダは失礼しましたと大声で謝りながら距離を置く。それを見ていたイリアは肩を掴んだ辺りから拳銃を握っていた手を緩めた。

 

 「どうしても欲しかったもので…」

 「何か大事な物が入っているんですか?」

 「知り合いの遺品が入っております」

 「遺品?」

 

 ヤマダが語ってくれたのはひとりのイレギュラーの話だった。番号12の少年はまだガンダムブレイカー3を始めたばかりで、低レベルのストライクで戦場に立っていた。所属はジオン軍と言う事で対峙したヤマダ達は戦闘となり、彼を捕虜にする事に成功したのだ。

 

 同じ異世界人と言う事もあって気になったヤマダは何度も少年の牢へと足を運ぶようになって、いつの間にか仲の良い有人のような関係になったのだと言う。

 

 その関係が崩れたのは捕虜にしてから3ヶ月が経った頃になる。対イレギュラー部隊と言っても、戦況は連邦の不利であった事もあって世界各地を転々としなければならなく、会う事すら困難になっていった。それから連邦軍は破竹の勢いで連戦を重ね始め終戦を迎える。その間に一度も会うことは出来ずに、少年が収容されている施設に行けたのは終戦して一週間が経ってからだった。施設に着いたヤマダは絶句した。

 

 施設には少年自体に機体がなくなっており、実験室と名付けられた部屋にはこびり付いた血で溢れ返っていた。後になって調べてみると世界を転々とし始めた頃から表に出せないような人体実験や拷問を行なっていたらしいのだ。その当時はとても混乱していて情報もしていたらしい事ぐらいしか掴めずに終わった。それが最近になって所属する組織が少年関係のデータを偶然発見して、せめてその遺品だけでも回収に来たのだ。ただ用意もする時間も無く飛び出した為に腹ペコで鏡士郎に出会ったのだ。

 

 話を最後まで聞いた鏡士郎はイリアがドン引きするほど涙腺を崩壊させており、とても人に見せれるような顔をしていなかった。元々前髪で眼元は隠れて見えないが…。

 

 「グス…えっぐ…イリアちゃん」

 「………何でしょうか大佐」

 「トランクケースをヤマダさんに」

 「宜しいのですか?中身が何かもまだわかってませんが」

 「うん…ヤマダさんが持っているべきだから…」

 「ありがとう。本当にありがとう」

 

 ヤマダはパイロットスーツが汚れる事など気にせずに、少年の為に泣いてくれる鏡士郎を優しく抱き締めた。言われたイリアからケースを渡されたヤマダは仕切りに頭を下げて仲間の元へと帰っていった。

 

 「で、これからどうするんですか」

 

 未だ泣き続ける艦隊総指揮官に冷たい視線を向けながら窺う。

 

 「ひっく…今度は場所を変えつつ奇襲を行なう…けど、何処かで休める場所を確保したいね」

 「了解しました。付近に艦隊が隠れれる場所を探します」

 

 仕事モードに入ったイリアは鏡士郎の手を引いてブリッジへと向かう。

 

 

 

 

 鏡士郎と別れて迎えに来たチベに着艦したヤマダは、ガンダムを収納スペースに立たせると無言でブリッジへと向かう。その表情には優しげで紳士的な笑みはなく、歪んだ笑みを浮かべていた。

 

 ブリッジにで仕事を行なっている旧ジオン兵は手を止めて敬礼する。同じように敬礼を返して艦長席の横にある自分の席に腰掛ける。

 

 「お帰りなさいませ。コウタロウ・ヤマダ中佐」

 「少し遅くなって心配かけたかな?」

 「まさか。中佐をどうにか出来る敵なんている筈がありませんから」

 

 艦長の言葉を聞いて軽い笑みで返して、腰を降ろしたばかりだと言うのに立ち上がる。

 

 「氏とは連絡は?」

 「帰還時刻は伝えたのでもうすぐかと…」

 「着ました!暗号通信受信。解除コード…OKです。メインモニターに出します」

 

 通信士が言ったとおりにメインモニターに人影が写り始めた。長距離の通信の為にぼやけていた映像が徐々に鮮明になっていく。そこにはてっぺんは髪が薄くなり、左右と顎鬚だけはまだ残っている老人が映っていた。年齢の割には背筋をしゃんと伸ばして、しっかりしている事が雰囲気だけで分かる。映像がハッキリする前に艦長を含めたブリッジクルーは退席していた。それが決まりなので。

 

 老人の名はホルスト・ハーネス。生粋のジオニストで現在はアクシズの高官として働いている。スターダストメモリーやZZ外伝でも登場した人物だが、逆襲のシャアで登場した連邦政府とアクシズ買収の折衝を行った文官と言えば解り易いだろう。

 

 『久しぶりだね中佐』

 「ええ、ご無沙汰しております」

 『早速だが成果を聞こうか?途中でジオン艦隊と出会ったと聞いたが』

 「共闘もしましたがアレはアクシズ艦隊の一部でしょう」

 『ほう。それは本当かね?』

 「まさか私も情報を疑いになるのですか」

 『それこそまさかだな』

 

 ホルストはジオン再興の同志として疑っていない。彼が持っている情報もだ。

 

 ヤマダと出合ったのはジオン共和国がまだジオン公国だった頃に出会ったのだ。会った時は驚いた事を良く覚えている。第二次地上降下作戦を行なっている最中にサイド3に潜入してきたのだ。十人以上居たSPを物音ひとつ立てずに気絶させ、自分の邸宅に侵入してきたのだ。自分は死ぬのかと覚悟をしたが彼からただ話を聞かされただけだった。

 

 自分はヤマダ・コウイチロウと言う異世界人だと言う事。

 この世界でこれから起きるであろう大きな事柄とその結果の予言。

 

 いきなり異世界人がどうとか予言などを聞いた所で最初はまったくと言って良いほど信じてはいなかった。あのガルマ・ザビが戦死するまでは。情報が回ってきた時はたまたまの偶然で済ませたが次にオデッサの大敗に原因などがピタリと当たっていると信じるほかなかった。彼の情報は他にジャブローの攻略戦失敗にソロモンやア・バオア・クーを攻略される事、ザビ家のほとんどが亡くなる事だった。

 

 これ以上彼の予言どおりにならないように手を回そうとした。声をかけて何人かの高官に強力を要請したが馬鹿な話と一蹴され相手にされなかった。そして予言通りにジャブローは失敗して、ソロモンは落ちてドズル・ザビは戦死した。誰一人信じてくれない現状を打破できないと諦めていた自分の元に再びヤマダは現れた。

 

 彼が次に話した事はこれからジオン公国の先の話だった。そこでジオンの再興は尽く失敗する事を予言された。がっくりと肩を落としていると、再興の為に知識を貸そうと申し出てきたのだ。それからは彼の言うがままに動いて現在に至る。アクシズに居るのは今後の事を考えての下準備の為だ。

 

 『ティターンズとエゥーゴが潰し合い、ジオン残党のアクシズが台頭してくる…だったな』

 「しかしアクシズは二分され、反乱が起きて結局連邦が勝利する」

 『再興はその後か』

 

 二人はお互いに笑みを浮かべる。ヤマダがキョウシロウに話したイレギュラーの事は本当だったが、12番目との関係と自分が討たれた理由はほとんど嘘だった。連邦について内情を調べたり、ホルストの下準備のフォローを行う為だ。自分を死んだと思わせて動く為に自分がジオンのスパイだと言う証拠をワザと残して討伐させたのだ。それももうしなくて良くなったが。

 

 笑んだ二人だった少し不安事項を持っていた為に聞いてみることにした。

 

 『そう言えば君と同じイレギュラーだと思われる少年が居るのだがそれは良いのか?我々の計画の邪魔にはならないか?』

 「アクシズにイレギュラー?もしかしてキョウシロウ・カトウと言う少年ですか?」

 『その通りだ。知っていたのか』

 「会ったジオン艦隊がそうだったので…まぁ、あの少年程度では小さな流れは変えれても、大きな歴史の流れは変える事は出来ないでしょう。目の前の事柄にしか見えない子供では」

 『君がそう言うのなら大丈夫なのだろう』

 「彼の事は置いといて引き抜くメンバーの選出をお願いしますよホルスト氏」

 『分かってるよ。君にはマイッツァーとの交渉は任せたよ』

 「はい。では、また」

 

 区切りが付いたと通信を切ったヤマダは手に持っていたトランクケースを見て言い忘れたことに気付いた。

 

 「懐かしいですね。12番目」

 

 自ら実験した少年の事を思い出しながら、トランクケースから取り出した中身を大事そうに抱えた。

 

 液体漬けでビン納められた三つの金属の突起物を見つめる。機体を破壊すると同時に無理やり引き剥がした阿頼耶識システムを…。




 敵のイレギュラーを撃退し、ヤマダと別れた鏡士郎は奇襲戦法を主として戦い続ける。そして時は流れ…いよいよグリプス戦役へ

 次回『月での会議』


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グリプス戦役突入!
第26話 『月での会議』


 U.C.0086 2月1日

 

 カトウ艦隊がアクシズを出て一年と少しが経った。一年の間にもいろんな出来事があった。月面での同胞救出作戦に30バンチでのイレギュラーと名乗る同じ異世界の者との戦闘…。

 

 多くの仲間を迎えながらも少なかれ死者を出す事もあった。そんなカトウ艦隊は月面都市『フォン・ブラウン』にてエゥーゴの顔を合わせる事となった。向こうの総指揮官とエースパイロットとの会合。この期を加東 鏡士郎が逃すわけは無かった。

 

 茨の園にある一般仕官と比べて豪華な総司令官室でリリア・フローベールはコーヒー片手に椅子に腰掛けていた。久しぶりの休日なのだが娯楽施設の少ない茨の園ではなにをして良いのか分からなかった為にここにいるのだ。普通は総司令の部屋に遊びに行くことなどありえないだろうがここの総指揮官は違った。

 

 「は~な~し~て~」

 「駄目です」

 

 総司令官である筈の加東 鏡士郎大佐は椅子に座らされたまま、ローブで何重にも縛られていた。それをイリアが目も向けずに即答で答えた。

 

 15歳になるイリアはこの一年で大きく成長した。身長が伸びて成長しない鏡士郎よりも高くなり、兄妹のような感じだった二人が歳の離れた姉と弟のように見えてきた。そんなイリアはユイマン・カーライルとチェスを打って忙しそうだった。討ってなくても軽く流されていたとは思うが…。

 

 「月面に行ってなにをするんでしたっけ?」

 

 チェスを観戦ギュスター・パイパーが笑みを浮かべながら聞いてみた。

 

 現在月面ではエゥーゴの上層部とカトウフリートが話し合いを行なっている。大佐曰く、歴史が動くらしい。なんのことを解らないが自分達も大きく動く事だけはわかった。今まで一度も使わなかったサラミス改級宇宙巡洋艦 『ポッペンブルク』と『ヴェーザー』、そして連邦系MSの整備命令が下った。ザンジバル級とムサイ級巡洋艦後期生産型も出撃準備に入った。残りの艦艇は全て茨の園への帰等命令も…。

 

 月面でカトウフリートから会議に参加しているのはアナベル・ガトーを代表して、ガトーの護衛でカリウス・オットー、月面の案内役としてフィーリウス・ストリームにバネッサ・バーミリオンにガイウス・ゼメラの三人、艦隊護衛としてガブリエル・ゾラとカザック・ラーソンの部隊が参加している。

 

 カザック・ラーソンはゲルググ・シュトゥッツァーのパイロットを務めていたか、年々落ちていく腕前に「寄る年並みには勝てない」と言ってゲルググをガブリエルに渡して、自身はザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』の艦長として参加はしてくれている。

 

 「シャ……ある人物を殴りに」

 「駄目でしょうそれじゃあ」

 

 名前は伏せているがエゥーゴのとあるパイロットを殴りに行くんだと息巻いている大佐を絶対に行かせる訳にはいかない。と、いう事で縛られているのだがそんな理由を惜しみなく言う大佐はなんというからしかった。

 

 「むぅ~…ん?どうぞぉ」

 

 ノック音も何もなかった筈だが大佐が許可を出すと同時に扉が開かれてひとりの少女が入って来た。総司令官が縛られているというのに表情ひとつ変えずに、姿勢を正して敬礼をする。

 

 「マルコシアス隊のアンネローゼ・ローゼンハイン准尉。陽動作戦から帰投致しました」

 

 アンネローゼ・ローゼンハイン。

 カトウフリートが吸収したジオン残党軍に居た女性パイロット。一年戦争ではエース部隊であるマルコシアス隊に配属し、サイコミュ試験用ザク『ビショップ』に搭乗して多大な戦果を挙げた。ア・バオア・クーではマルコシアスの面々と共に連邦の新型と思われるMSと交戦後、行方不明と記録ではなっていた。

 

 何があったとか身の上話を一切しないが大佐は全てを知っているらしく、多大な信頼を置いているらしい。あのハマーン・カーンを説得して、アクシズからサイコミュ高機動試験用ザクを送ってもらったぐらいだ。後になって自身のヅダも頼めば良かったと後悔していたのは笑い話だ。

 

 「お帰り。怪我はなかった」

 「はい。機体に損傷はありません」

 「機体じゃなくてアンネさんの事を言ったんだけど…」

 

 彼女の戦い方は死に場所を探しているようにも見える。敵を討つことに拘りすぎている。時には上官の命令さえ無視する事がある。しかし、何故か大佐の命令には従順のようだった。総司令官だから当たり前と言えば当たり前なのだがそういうのとは何か違う。

 

 「次の作戦は…」

 「ストップ!次の作戦の前に休暇だよ」

 「しかしこれから我々も動くという時に休んでなど」

 「休息もパイロットの大事な大事なお仕事だよ。ゆっくり休んでよ」

 「了解しました。失礼致します」

 

 再び敬礼をして踵を返すアンネローゼに声をかける。

 

 「ヴィンセント・グライスナーの生存が確認されたよ」

 「―っ!!」

 

 今までに見たことない無表情以外の表情を窺えた。驚きとも喜びとも取れない表情に微笑みながら言葉を続ける。

 

 「現在もジオン残党として活躍しているらしいと確認しただけで、接触は出来ていないけどね」

 「そうですか…。ありがとうございます」

 「どういたしまして」

 

 礼を言って退出したアンネローゼを見送った。名が挙がった人物の事が気になって聞いてみることにした。

 

 「ヴィンセントとは誰なのですか?」

 「ん?ああ…彼女を目覚めさせてくれる鍵…かな」

 「鍵ですか」

 

 それ以上教えてくれる事はなかったが何かあるようなのは確かだ。少しだけだが思い詰めた表情をした鏡士郎はまたドアの前に居る者に気付いて許可を出す。入ってきたのはヒルデガルド・スコルツェニー少尉だった。

 

 「連邦製MSの搬入終了したしました」

 「よし、じゃあ行こうか。という訳でこのロープ解いて」

 「了解しました。では首輪と紐を用意しましょう」

 「僕は犬ですか!?」

 「猫でしょう。よく鳴きますし」

 「そんにゃ~…」

 

 いつも通りのやり取りに笑ってしまう。ここに居ると本当に心が安らぐ。安心を心から感じながら一日を過ごすのだった。

 

 

 

 月面都市 フォン・ブラウン

 

 エゥーゴの代表を務めるブレックス・フォーラ准将と共に来ていた私は月の出資者達との勧めでとある組織との会合に向かっていた。話では地球圏に存在するジオン残党軍で最大勢力を誇る連中らしい。

 

 「カトウフリートと言ったか…」

 「はい。子供が指揮官と言うのはほんとでしょうか」

 「冗談だろうな」

 「ですよね。規模で言ったら今のエゥーゴよりあるらしいですからね」

 

 軽い感じでアポリーは笑うが少し気がかりではある。もし少年でそれだけの艦隊を率いる事が出来るとなると…ザビ家の血筋か異常なほど優れた人物なのだろう。下手をするとティターンズよりも厄介な相手になるかもしれない。 

 

 案内役の男はただ正面を見つめて高級ホテルの通路を誘導し続ける。用がある部屋以外の部屋から視線を感じる。どうやら井たる所に兵士を待機させているらしい。

 

 (これは不味いかもしれないな)

 

 歩く振動でずれたサングラスをかけ直しながら気を引き締める。ようやく辿り着いたらしく扉を開けて、中に入るように誘導される。中には懐かしくもあるジオン制服をコートの隙間から覗かした男が立っていた。

 

 「まさか…ソロモンの悪夢!?」

 

 アポリーが興奮気味に叫ぶ気持ちは分かる。相手に見覚えがあった。ジオン公国のエースパイロットのひとりである『ソロモンの悪夢』、アナベル・ガトー。ジオン公国敗戦後は地球圏最大のジオン残党組織デラーズ・フリートに所属し、最後は連邦の包囲網にあって戦死したと聞いていたが生きていたのか。

 

 「カトウフリートより交渉役として来たアナベル・ガトーだ」

 「私はエゥーゴのMS部隊を預かっているクワトロ・バジーナ大尉です」

 

 差し出された手を握り返しながら自己紹介をするが、私の心は穏かなものではなかった。初の会合として相手に力を示す為に彼のような人物を送り込むのは理解する。が、逆にカトウという司令官は彼ほどの人物を率いる事の出来る人物と言う事になる。噂で聞いた程度だが彼は金や権力で動くタイプではない。それは目にして察する事が出来る。先の予想を肯定するようではないか。

 

 握手を交わした事でお互いに腰を降ろして会合を始める事にする。この部屋の警備はガトーを除いて褐色の青年がひとり。こちらに気遣って少なくしたのか、それとも別の理由があるのか。

 

 何時までも考え込んでいる訳にもいかないので持っていたトランクケースを机の上に置いて開く。中にはこれから行なう作戦の書類が入っていた。これを見せるのは軽率な行動のような気もするが出資者達からが是非とも参加してもらうと聞かないので准将もしぶしぶ許可したのだ。

 

 「それが例の…」

 「ええ、そうです。カトウフリートにも協力して頂く作戦です」

 「拝見しても?」

 「どうぞ。こちらはそのつもりで渡している」

 

 資料に軽く目を通したガトーは書類を後ろで待機していた青年に渡した。

 

 「了解したが、コロニー内での戦闘になるな」

 「だから少数精鋭で事にあたる」

 「ゆえに追撃艦隊を撃退する為にこちらの戦力を使う…か」

 「そうなるな」

 

 話をするなか真剣な眼差しでこちらの見極めているようだ。サングラスでこちらの眼は見せないだろうが、確実に見られている気でならない。

 

 「大佐の事だからすぐに許可は下りるだろう」

 

 書類を受け取ったら立ち上がり出て行く素振りを見せる。今回、会合と言ったが正直に話し合いはすでについていた。用は顔を見て相手を見極めたい所が大きいかった。本当に短い時間だが相手のことはそれなりに分かった。

 

 「分かっていると思うが我々がジオンとつるんでいると大衆に思われるわけにはいかない」

 「承知している。すでに大佐は連邦製の部隊の用意をしていらっしゃる」

 「早いな」

 

 まるでこちらの動きを知っていたようだ。話をしていたといっても共同で作戦を行なうという事だけでそこまで手を回しているなど用意周到すぎる。

 

 不安を掻き立てるクワトロにガトーは去り際に一言伝えていく。

 

 「地球圏に降りる時には艦隊規模で撤収を援護するそうだ」

 

 この時はその一言の意味を理解できなかったが、大気圏よりジャブロー降下作戦を行なう話が出た際には鳥肌が立ったという…。




 勢力を拡大させたカトウフリートは後にグリプス戦役と呼ばれる時代に介入し始める。

 次回『ガンダム強奪作戦』


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第27話 『ガンダム強奪作戦』

 無音と底の見えない深淵なる闇に覆われた宇宙空間…。 

 

 宇宙世紀となり宇宙には人類の第二の故郷となるスペースコロニーが多く建設されていった。中には住処ではなく兵器と使用されたり、軍事拠点として使用された物も多くある。

 

 一年戦争で活躍したホワイトベースがガンダムを積み込む為に入港したサイド7は、ジオンのエースパイロットである『赤い彗星』から受けた傷痕を癒し、主に軍事関係者が住まうコロニーになっていた。名前はサイド7の居住用コロニー・グリーンノア1となっていたが…。

 

 そんなコロニーに三機のMSが取り付いていた。ドム系をベースに開発されたエゥーゴの新型MSであるリック・ディアス二機と水色に塗られたジム・コマンドがコードの先に取り付けられたカメラを設置して内部の様子を窺っていた。現在グリプス1ではティターンズの新型ガンダムの飛行訓練を行なっていた。

 

 水色のジム・コマンドに搭乗している加東 鏡士郎は唸りつつも作業に集中する。ガンダムが初めて動いたサイド7に行く事も『機動戦士Zガンダム』の第一話シーンに立ち会える事も飛び跳ねるぐらい嬉しい。が、ひとつだけ残念な事がある。それは赤い服を着たグラサンを殴れない事だ。

 

 『もしエゥーゴの誰かを殴ったと報告が来れば、水増ししてアクシズに報告しますので』

 

 こんな脅しをイリアにかけられ手が出せなくなったのだ。ハマーンともミネバとも仲良く居たいと望んでいるのが大きい。ゆえに今は殴らない。諦めたわけでもない。とりあえず今は目の前の仕事をこなすのみだ。

 

 …あ!Mk-Ⅱに赤いのが捕捉されてる。バルカン当たらないかなぁ…

 

 鏡士郎の期待を裏切るように避けきった赤いパイロットスーツを着たクワトロ・バジーナ大尉はコロニー外延部へと続く通路へと入って行った。追えない事を理解した黒いガンダム、ガンダムMk-Ⅱ(ティターンズカラー)は来た方向へと引き返し抵抗飛行をして建物へと突っ込んだ。

 

 「ロベルト中尉」

 『どうしました大佐?何かありましたか?』

 「コロニー内の建物に黒いの突っ込みましたよ」

 『うわぁ…新型のMSで何をやってるんだか…』

 『それだけ相手に腕がないと思えば楽じゃないか』

 

 ははは、と軽く笑いながら返してくれた二人だが本気でそう思っている訳ではない。確かに一対一であろうと一対三であろうとアレぐらいの技量の持ち主なら圧倒できるだけの実力はある。が、実戦の経験も積んでない素人同然の相手は何を仕出かすか分からないという不安要素を作り出す。

 

 一年戦争でジャブローに潜入した闇夜のフェンリル隊は狭い通路で二列に密着して並ぶ四機のジムと対峙した事がある。常識的に考えてありえないような行動だ。案の定彼らはバズーカ一発で前の二機が倒れて後ろの二機を押し倒す形で行動不能になった。こんな都合のいい物もあれば、コロニー内でザクの動力炉をビームサーベルでたたっ斬って大爆発を起こした事例もある。

 

 『どうだアポリー。ロベルト』

 

 建物に突っ込んだガンダムを観察していると赤く塗装したリック・ディアスが接近して来た。殴りたい気持ちを押さえ込んで平常心を保つ。

 

 『ガンダムを発見しました。よく動かせないようですが』

 『だろうな』

 『同じガンダムタイプがもう一機確認できました』

 『そうか…では手筈通りで行こう。宜しいですね大佐?』

 「構いません。頼みます」

 

 アポリー中尉のリック・ディアスの目が光を放ち、コロニーにクレイ・バズーカを向ける。勿論居住スペースなんかではなくミラー部分をだ。弾頭が発射されミラーにMSが通れるだけのスペースが出来上がる。

 

 『行くぞアポリー』

 『ハッ!お供します大尉』

 

 赤いリック・ディアスとアポリー中尉のリック・ディアスが、墜落したガンダムMk-Ⅱの方へと向かって飛んで行く。

 

 「ロベルト中尉。援護頼みます!」

 『お任せを!!』

 

 対して鏡士郎とロベルト中尉のリック・ディアスは市街地近くへ向かって飛んで行く。市街地には多くの軍事関係者の住宅が存在する。そこにMSが現れれば防衛の為に多くのMSが割かれるだろう。ようは陽動である。市街地近くに降りた二機は当てないように基地の方へと発砲する。今頃アラームを鳴らして急ぎMS部隊を発進させているだろう。

 

 「―ッ!!思ったより早いですね」

 『六…いや、八機は居ますね』

 

 基地の方からジムⅡがこちらに向かって来ているのが見えた。敵さんが優秀なのかたまたまなのかは分からないが展開が早い。が、それだけだ。数が多いから二手に別けて包囲・殲滅などの手段を行なわずただ突っ込んできている。

 

 「なるべくコロニーへの被害は抑えたいですね」

 『出来るなら…ですが』

 

 戦場では絶対などありえない。素人でもベテランを倒す事だって起こりえるのだから。ア・バオア・クーで出撃したガトーのゲルググが出撃してすぐ腕をなくしたように。

 

 スラスターを噴かして突っ込む。後ろからリック・ディアスがついて来るが追い抜く事はなかった。鏡士郎が乗っているジム・コマンドはただのジム・コマンドではない。中身はジオン式に改修され、足には高機動型のブースターにショルダーをケンプファーの物と交換してリック・ディアスにも劣らない速度を得ているのだ。

 

 そんな高機動型ジム・コマンドに対してビームが放たれる。左右に機体を動かして最小限の動きでかわして行くのだが、その表情は驚きのものであった。

 

 「自らのコロニー内でビーム兵器を使うの!?」

 

 敵の技量より自らのコロニーで、しかも居住区でビーム兵器をなんの躊躇いもなく使用するなど正気の沙汰ではない。これは急いでかたをつける必要がある。ブルパップ型マシンガンを三発ほど放つとすかさず銃口をずらしてまた三発ほど放つ。ビームライフルを掴んでいた右手首を打ち抜かれたジムⅡは、反応する事無くそのまま頭部に弾丸を撃ち込まれて停止、背中から倒れて動かなくなった。

 

 少しでもコロニーと居住区への被害を減らすために敵機を行動不能にする戦法をとる。一方でロベルト中尉はクレイ・バズーカで敵機を爆発させていく。だからといって戦い方を強制する事はない。下手にするとかえって危険に晒す事があるがゆえに。

 

 次々と行動不能にしていくが増援部隊が殺到する。クワトロ大尉達よりこちらが危険視されているようだ。陽動としては良いのだが…。

 

 トリガーを引いたが予定より発射された弾丸が少ない事に焦る。

 

 「弾切れぇ!?」

 

 それに気付いた一機が斬りかかって来たが間合いが取れてなく回避は余裕だった。千載一遇のチャンスを逃したジムⅡは通り様に振り抜かれたビームサーベルにより両足を切断された。斬り終わると同時にサーベルをしまって予備のマガジンと空のマガジンを交換する。

 

 「こんな戦いが出来るのはキラ様とフリーダムだけだよ。ほんとにもう!!」

 

 半笑いで呟きながらきっちりとジムⅡの頭部に弾丸を撃ち込んでいく。アムロみたく『たかがメインカメラがやられただけだ!!』と言って戦おうとする者は居らず、すぐにMSから降りて逃げ去っている。

 

 爆音ではなく建物を崩すような破砕音に気付き振り向くとリック・ディアスが尻餅をついて民家の半分を潰してしまっていた。その正面には二機の銃口が…。

 

 「こなくそおおお!!」

 

 機体の向きが反対方向であったが各部に増設したスラスターを噴かして姿勢変更してビームライフルのみを撃ち抜く。主としていた攻撃手段を失った二機は途惑って固まる。その隙を見逃すほどロベルト中尉は甘くはない。素早く背中からビームピストルを取ると容赦なくコクピットへと放つ。上半身を爆発させたジムⅡを蹴飛ばして、リック・ディアスへと手を差し伸べる。

 

 「大丈夫ですか!?」

 『ああ…すまない。いや、助かりました大佐』

 「無事なようで何よりです」

 

 付近の敵機が粗方片付いた事を確認しつつ、手を掴んだリック・ディアスを立たせようと引っ張る。立ち上がったところで異常がないか外部から確認しようとした時、コロニーが揺れた。

 

 『…時間切れですか』

 「これ以上は不味いですね。撤退しましょう」

 『しかしクワトロ大尉がまだ』

 「来ましたよ」

 

 モニターでガンダムMk-Ⅱを支えるリック・ディアスとその後ろを飛んでいるもう一機のガンダムMk-Ⅱと赤いリック・ディアスを確認した。作戦成功を喜びつつ合流する為にスラスターを吹かす。

 

 「――っ!?………これが…カミーユ・ビダン」

 

 クワトロ大尉と並んでいるガンダムMk-Ⅱのパイロットと惹かれ合うような感覚を得てこれがニュータイプ同士の共感感覚かと感じる。

 

 出切れば赤いのとはしたくないがと付け加えておこうと鏡士郎は心の中で呟いた。




 ガンダムMk-Ⅱ強奪を成功させた鏡士郎達。しかしティターンズも黙ってはいない。

 次回『予期されていた襲撃』


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第28話 『予期されていた襲撃』

 三重の意味ですみませんでした。
 ひとつは前回の誤投稿の件について。
 ふたつめは投稿が遅れた件…
 三つ目は今回いつもより少ない事です。
 まことすみませんでした。


 グリプス・2バンチコロニー、グリプス2のティターンズ本部の一室でバスク・オム大佐は書類やコーヒーが入ったカップを気にも留めずにデスクを思いっきり殴りつけた。

 

 モニターを注視しながら動向を随時報告していた兵士達は振り返るがすぐに手元のキーボードやモニターに目を戻す。

 

 「いったいどういう事なのだ!!」

 

 苦虫を潰したような渋い顔をしながら呟く。目の前の大型モニターを睨みつける。黒色MSが防衛に当たっているジムⅡが撃破されていく。見覚えは無いがドム系に類似点が見られるがカスタム機や改修機ではないだろう。

 

 「ジオン残党には見えないねぇ。と言う事はエゥーゴですかね大佐」

 「ん?シェリー少佐か。そうだろうな!クソ」

 

 横に並んだ女性仕官に目を向けたがすぐに前に戻した。女性仕官の名はシェリー・ペイジ。元は連邦競技大会で4年連続優勝した機械体操の選手で、高い身体能力を活かしてすぐにパイロットとしての適正を、頭角を現した。が、効率を重視するあまりの独断専行、作戦無視、そして友軍を捨て駒に使ったりと問題が多い。それでもバスクの腹心でありソウジロウの直属部隊に属する程だ。

 

 「まるで赤い彗星だ…」

 「誰だ!今言ったのは!!」

 

 ぼそっと呟かれた一言が耳に届いた。怒鳴り問うが誰も身動きすらしなかった。忌々しく睨みつけながら舌打ちをする。

 

 「赤い機体だからと言って赤い彗星なんて事は…」

 「それよりも私が気になるのはあの水色の機体です」

 「あのジムか」

 「多分改修機だろうけどジムであれだけの腕前となると…噂の水色の閃光星みたいですね」

 

 その名を聞いて鳥肌が立つような感覚に襲われた。

 

 艦橋のモニターから見ていた。たった一機の水色のザクもどきが戦艦を真っ二つにし、MS一機を相手にではなく数十機単位で撃破していき、その一機に群がるようにデラーズ・フリートの残党共が駆け抜けていく。護衛のMS隊を行動不能にされて丸裸にされた自艦に迫ってきた。モノアイで睨まれた気がした。死の覚悟すらした。

 

 「その名を口にするな!!二度とな!!」

 

 あの時の事を決して忘れない。奴は絶対に討ち取ってやる。歯軋りして怒りを露にするバスクを鼻で笑う。

 

 「バスク大佐!グリプス1のゲートが破壊されました!!」

 「なんだと!?警備の者はなにをしていたのだ」

 「MS隊が発進できません。追撃部隊の指示は?」

 「防衛部隊のほとんどが大破状態で部隊のほとんどが回収作業に…」

 「大佐ご指示を―」

 「騒ぐな!!」

 

 グリプスより撤退する機影を見つめながら立ち上がる。こんな時にソウジロウが居れば何とかなったのだろうが。

 

 現在、イレギュラーのソウジロウはジャミトフ・ハイマンに呼び出されていた。ジャミトフはバスクほど信用していない為にここ数年の作戦の失敗により自由に行動できなくなっていた。一般兵にでも任せれば良いほどの簡単な仕事を任されていたのだ。

 

 奴が居ない代わりに奴はいろんなアドバイスを残してくれた。グリプスが襲撃される事も示唆していたが、まさかありえないと思っていても用意はさせた。

 

 「手痛い損害を被ったがここまでは計画通りである。グリプス2機密エリアの追撃隊の発進許可を出せ!」

 

 機密エリアには戦闘準備とMSの搭載を終えたサラミス改が六隻にアレキサンドリアが待機していた。中にはジムⅡではなくハイザックを満載してだ。パイロットも連邦軍の兵士ではなくティターンズの兵士で揃えた。シェリー少佐もそのために呼び寄せたのだ。

 

 イレギュラーであるソウジロウの直属隊は性格や経歴を問わずにソウジロウに認められた腕前のパイロットのみ所属できる部隊である。彼からもルナツーで待ち伏せているだろう。

 

 全ては計画通りだ。何の問題もない

 

 「早く貴官もアレキサンドリアへと行け」

 「ハッ!了解しましたバスク大佐」

 

 部屋を出て行くシェリーを見送ったのちに受話器を取る。ソウジロウの指示で急いで呼び出さないといけない者達が居るのだ。

 

 「繋がったか。私だ。バスク・オム大佐だ」

 『大佐!?し、失礼致しました』

 「挨拶はいい。最重要命令でとあるパイロット達を第十三ゲートへ向かわせよ」

 『最重要命令!ハッ!受けたわまります。それでどなたを向かわせれば?』

 「ジェリド・メサにカクリコン・カクーラー、エマ・シーンを急ぎ向かわせろ」

 『了解いたしました』

 「どんな命令よりも最優先でだぞ」

 

 一応ファイルには目は通したが奴が選ぶほどのパイロットには思えなかった。確かに腕は良いのだろうがエースと呼べるほどではない。

 

 「まぁ、良いわ。フン」

 

 鼻を鳴らして背もたれに全体重を任せて、少し気を楽にする。後は成り行きを見守るだけだ。

 

 アレキサンドリアを旗艦とした艦隊に背後を取られ、前にはソウジロウの直属隊にライラの所属する艦隊も向かって来ている。まずは突破できる筈はない。もしあるとなればそれはイレギュラーに他ならない。

 

 

 

 鏡士郎はコロニーから離れながら振り返る。

 

 今回の作戦は原作にあったものだ。ならばティターンズのイレギュラーも気付いて準備していると思っていたのだが、別にそれらしい反撃もなかった。

 

 モニターに映るガンダムMk-Ⅱとリック・ディアスを見つめる。自分の背後から何かが来るのを感じて振り返ると同じくジム・コマンドの改修機が三機接近してくる。どれも基本の白ベースではなく、灰色がベースカラーとなっている。

 

 三機は敵ではなくフィーリウス・ストリームを隊長とした部隊で、グリプス1の宇宙港ドックを破壊任務を遂行したのだ。破壊と言ってもせいぜい使用出来ないようにする程度だが。

 

 「なにはともあれこれで……何か来る?」

 『どうした?遅れているぞ』

 「何か来る気がします。急ぎ撤退しましょう」

 『追撃部隊にしては早すぎるぞ』

 「読まれていたのかも…兎も角、急ぎます」

 

 アーガマと自分の艦と合流すべく急ぐ。背後より迫る艦隊から逃げるように…。

 




 知らぬうちに囲まれている鏡士郎達はこれからの事を話し合う。が、バスクの作戦は始まっていた。

 次回 『カミーユと鏡士郎』


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第29話 『カミーユと鏡士郎』

 アーガマ

 反地球連邦組織エゥーゴが建造した新造戦艦である。連邦で使われているサラミス系ともジオン系の艦船とも酷似せず、一年戦争中にアムロ・レイが乗っていた戦艦のペガサス級をベースに設計さている。

 

 そんな見慣れない戦艦の一室でカミーユ・ビダンは落ち着かない様子でコーヒーを飲んでいた。民間人でありながらこうして軍艦に乗っている訳を思い出す。グリプス内で出会ったティターンズに自分の名前を聞かれた事から始まったのだ。

 

 『女の名前なのに・・・なんだ男か』

 

 カミーユという名前は女性的でかなりの劣等感を持っていた。言われた瞬間は相手が誰だろうが形振り構わず殴りつけるほど怒ってしまった。結果、捕って怒鳴り散らす警務官にいろんな事を聞かれた。少ししてから母が迎えに来た事で釈放になったのだが先の警務官と一悶着して、ガンダムMk-Ⅱが落下するという事故の隙に逃げ出した。後は起動前のガンダムMk-Ⅱに乗り込みグリプスにMSで侵入していたクワトロ大尉にくっ付いて来たのだ。

 

 「ビダン君。ビダン君?」

 「え?」

 「ビダン君は砂糖いらないの?」

 「あ、頂きます」

 「はい、どうぞ」

 

 小さな長机を中心にして周りに置かれたソファに腰掛けているカミーユの隣には年下らしい少年が砂糖やクリープが載ったお盆を持って腰掛けた。

 

 整えられてないぼさぼさの髪に大きめのジャンパーを羽織り、前髪で目を完全に隠している少年。この船に来て一番驚かされた。どうみても年下にしか見えないのに自分より年上なのだという。それだけではない。この艦内で彼の呼び方が『大佐』なのだ。冗談か何かと思って本人に聞いてみたら本当に大佐なのだという。

 

 マジマジと眺められているキョウシロウはコーヒーを少し吹いてから口に含むが苦かったらしく渋い顔をして砂糖を追加して行く。

 

 「で、話を続けてもいいかな」

 「はにゃ?あー、はい」

 

 向かいに座っているのはヘルケン・ベッケナーと名乗った人物でこのアーガマの艦長を務めている。最初は強面だったので少し怖がったのだが性格までも外見どおりではなく、豪快だが話しやすい人だった。

 

 「観測班の報告では敵の追撃隊は少なくとも三隻だった」

 「グリプスから出た艦隊は確か七隻でしたよね?」

 「ああ、どうやらこちらの先回りに分散させたらしい」

 「待ち伏せですか。…コース変えます?」

 「コース変更はすでにさせてもらったよ。少し気に入らなかったしな」

 「だったらこちらの艦隊は陽動の為にルナツー方面に展開させますか」

 「いや、危険すぎるから却下だな」

 

 二人でこれからの行動予定を決めていくのだがそんな日常会話をするような感じで話合っているのだが、それに僕みたいな一般人が参加しても良いのかと不安に思いながら聞いてしまう。

 

 キョウシロウ大佐はエゥーゴと違う組織から合流…いや、どうも協力しているらしく、こうやってこまめに作戦や方針を決めている。何故この場にアーガマMS隊の隊長を務めるクワトロ大尉が居ないのはキョウシロウ大佐に対する配慮と要らぬいざこざを起こさせないようにする為だ。

 

 『はじめましてカミーユ・ビダン君。僕はキョウシロウ・カトウ大佐。嫌いなものは赤い軍服着てサングラスをしている人。宜しくね』

 

 挨拶で最初に言われた言葉だ。赤い服にサングラスってクワトロ大尉以外に居ないのですが…。嫌いと言っても作戦中は別段そんな風には見えなかったのだけどあの二人には何かあったのかな?

 

 キョウシロウ大佐との話合いは終わり、ヘルケン艦長はブリッジに戻らなければならないので話が終わればすぐに退室した。残っている大佐は何か気になったのがジーとこちらを見つめてくる。

 

 「なにか?」

 「うー…やっぱり鍛えたほうが良いのかな?」

 「鍛える?」

 「ビダン君って空手で鍛えてるんだよね。凄くたくましそう」

 「そうですか?自分ではよく分かりませんが」

 

 そう言いつつ袖をまくって腕に力を入れて力瘤を見せる。おおぉと感嘆を漏らして腕に飛びついて力瘤の感触を確めて、満足して離れると今度は頬を膨らませて羨むような視線を向けてくる。

 

 「ふぅむ…鍛えたほうが男らしい…よね?」

 「まぁ…一概には言えはせんけど、そうだと僕は思ってますよ」

 「よし!だったら僕も鍛えてイリアちゃんに子ども扱いさせれないようにしよう!」

 

 なんだかこの人とは仲良くなれそうだ。夥しく変わった非日常の中で少しだけ安心を心に宿すのであった。

 

 

 

 「どうでしたか彼は」

 

 カトウフリート所属サラミス改級宇宙巡洋艦『ポッペンブルク』に戻った鏡士郎は仕官室でフィーリウス・ストリーム少尉と少し話していた。彼に話しかけられる事など作戦の事以外にはないだろうと勝手に思い込んでいた鏡士郎は少し驚いている。

 

 「どうって…うーん、話しやすかったかな」

 「それだけですか?」

 「えと、どんな答えを期待してたのかな?」

 「・・・いえ、別に」

 

 ただソファに腰掛けて再び手に持っていた本に目を移したのを確認して自分の続きを行なおうと腕に力を入れる。

 

 「ふぬぬぬぬ…」

 「ところで大佐」

 「な、なに?」

 「突然腕立て伏せを始めたのにはどんな理由があるのですか?」

 

 視線を本からずらす事無く問う。聞かれた鏡士郎は顔を真っ赤にしつつ腕立てを続けながら顔を向ける。カミーユ・ビダンと話してから鍛えなきゃ以外に何も考えずに戻り、皆に作戦やこれからの事を伝えるよりも先にここで腹筋・スクワットを行なって腕立てをしているのだ。効率なんて考えずに思い浮かんだ筋トレを何でも良いから行なっているのだ。

 

 「少しでも鍛えてイリアちゃんに子供扱いされないようにするんだ」

 「でしたら身長を伸ばすほうが先では」

 「はぐにゃ!?」

 

 ガンダムのビームジャベリンよりも鋭い言葉の槍が深く心を抉った。ここに来て数年立つけどいっこうに伸びない身長を気にして、最近ではコンプレックスになりそうなぐらいなのに。その事を知ってか知らずか突いてきた。思わずその場に倒れこんでしまう。

 

 「あと、その『にゃ』と言うのを止められたら良いのでは?」

 「うぐ………ん」

 

 続いてガンダムハンマー並みのダメージを負った目をうるうるさせていたがふとあることに気がついて振り返る。視線に気付いて本にしおりを入れていったん机の上に置く。

 

 「なんですか?」

 「もう一回言って」

 「…その『にゃ』というのを止められたら」

 「僕の真似した所だけ」

 「…にゃ」

 

 今度は目を輝かせて頬を弛ます。スススーと床を統べるように近付いてきた鏡士郎は胸ポケットからカメラを取り出す。

 

 「もう一回して♪」

 「……嫌です」

 「そんな事言わずにお願い」

 「辞退させて頂きます。それになんでカメラを構えているんですか?」

 「だって凄く可愛かったんですもん」

 「余計に嫌になりました」

 「えー!!お願いお願いおねがーい!!」

 「そういうところが子供って言われるんじゃ…」

 「それとこれは別!もう一回言ってくれないとずっと続けるよ!!」

 

 フィーリウスはだたを捏ねる総司令官に対して大きくため息をついて諦めてカメラを構えられた前でもう一度言う事にした。少しばかり仕返しにこの事はイリアに報告した。




 カミーユやフィーリウスに絡んでのほほんと過ごしていた鏡士郎。彼らが居る宙域に白旗を掲げたガンダムとカプセルが到着する。

 次回『時間稼ぎ』


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第30話 『時間稼ぎ』

 グリプスから追って来ている艦隊を振り切れないまま移動するアーガマの一室は喧騒に包まれていた。理由は数分前に来たバスク・オムからの特使と名乗ったエマ・シーン中尉が持って来た親書だ。

 

 内容は簡単なものだった。カミーユ・ビダンと鹵獲したガンダムMK-Ⅱを返さなければカミーユの両親を殺すと言う脅迫。軍隊が行なうような手段には思えない内容を、知らずに渡したエマ中尉もあまりの事に驚きを隠せないでいる。ブレックス准将にヘンケン艦長、クワトロ大尉とエゥーゴメンバーと一緒に立ち会っていた鏡士郎は真面目な表情はしているものの内心は原作のワンシーンに立ち会えたと興奮気味であった。

 

 現在アーガマには白旗を揚げたままのガンダムMK-Ⅱにハイザックがカタパルト上で待機、そして待機している二機を奪われないように警戒しているハイザックが居る為に警戒レベルが引き上げられている。アポリーもロベルトも自身のリック・ディアスで待機しているし、索敵班も辺りに接近する機影がないかモニターを凝視していた。

 

 設置されていた受話器が鳴り響いてクワトロ大尉が出るとサングラス越しでも眼つきが鋭くなったのが分かった。

 

 「不審な浮遊物を見つけたらしい」

 

 その一言を聞いた全員は艦橋へと移動する事になった。すでに正面の大型モニターには例のカプセルが映し出されていた。中身を見せるように強化ガラス張りのカプセル内には人の姿があった。カミーユ・ビダンの母親で地球連邦軍材料工学の技術中尉のヒルダ・ビダンだった。艦橋内でアレが本人かどうか、映像の類だとか話が出されたが関係なくその場を飛び出す。

 

 「何処へ行くのかね!?」

 「どちらにしても対処しなければならないでしょう」

 

 時間が無い。このまま原作通りに進めば無断出撃したカミーユが近付いて目の前で母親を殺されるという悲劇を見させてしまう。白旗を上げたガンダムMK-Ⅱとエマ・シーン中尉が来た事で思い出してはいたがカプセルがどの方向から来るかは分からず、そもそも原作と襲撃タイミングがズレがあった為に原作と違う事が起きるのではないかと動けなかったのだ。

 

 艦橋から飛び出して真っ先に特注のノーマルスーツに着替えてMS格納庫へ向かう。アーガマに移動する際に使用したジム・コマンドに乗り込もう向かう途中にはガンダムMK-Ⅱが発進していた。直感と言うより原作知識でアレがカミーユという事は理解出来た。軽く舌打ちしながら起動させる。モニターにはアーガマの格納庫内が映されて赤いリック・ディアスに乗り込む人物が一瞬映った。

 

 「あの人もう追いついたの!?早すぎでしょうに…ってそれよりもビダン君を」

 

 カタパルトを使用せずに飛び出すと目の前に、急発進したガンダムMK-Ⅱに銃口を向けるハイザックが立っていた。横合いから左腕を振り下ろしてマシンガンを下に下ろさせ、メインモニターを右腕で殴りつけて宙を漂わす。奇襲に衝撃で何が起こっているか分からないハイザックのコクピットに一発だけ撃ち込んで黙らせる。完全に沈黙したかなど確認もせずにカプセルの方向へと向かう。

 

 高機動に主軸を置いてカスタムされたジム・コマンドでもガンダムMK-Ⅱに追いつくには無理がある。あとから発進したエマ中尉のガンダムMK-Ⅱとの距離が詰る。間に合わないと分かっても諦める訳にはいかなかった。これからカミーユに待ち受ける悲劇を考えたら少しでも負担を減らしたい。しかしそう思っている間に何か嫌な感覚が脳裏を過ぎった。

 

 やっと追いついたかと思えばカミーユのガンダムMK-Ⅱの付近にはガラス片らしき物が漂っていた。間に合わなかった…。っと足を止めている場合ではなかった。MS同士の取っ組み合いが始まっていた。何とか二機を離そうとエマ中尉が頑張っている。参加しようとした矢先に通信が入った。

 

 『キョウシロウ大佐』

 「どうしたの?」

 『追跡していたアレキサンドリア級よりMS隊の発進を確認。アーガマに対して艦隊が砲撃戦を開始』

 「状況はどうなってる?」

 『良くも悪くも。長距離より撃ってくるだけでMS隊は接近する様子もなく』

 「了解。そっちの対応は任せます」

 『もうひとつ報告なのですが…赤いリック・ディアスが単機でティターンズ艦隊に向かって行きましたが』

 「はい?…あ!あー!!」

 『どうしましたか?』

 「そっちはこっちで何とかするよ」

 

 先ほど見たリック・ディアスに乗り込んだのがクワトロ大尉ではなくカミーユの父親であるフランクリン・ビダンであったのだろう。この同タイミングで母親と父親の悲劇なんて…。

 

 「劇場版の方か!?にしても」

 

 ガンダム二機の前に出てハイザックに蹴りを入れる。距離をとってカミーユとの接触回線を開く。

 

 「ビダン君!!」

 『止めないで下さい!!こいつがッ!こいつが母さんを…』

 「君のお父さんがMSを奪って行ったんだ」

 『父が!?』

 「クワトロ大尉のリック・ディアスに乗ってティターンズ艦隊に向かって行っている」

 『―ッ!!僕が止めます』

 「頼むよ…」

 

 頼むよ…。

 母親は救えると思った。だがあの父親は救えない。カミーユが行かなくても誰かの攻撃でやられる。ならば頼むほうがいい。知らない所で肉親が死ぬより知っていたほうが…ここはそう判断する。

 

 『カミーユ!!』

 

 オープン回線でハイザックがマシンガンを撃ちながら突っ込んで来た。その声には覚えがあってすぐにジェリド・メサ中尉だと分かった。

 

 「行ってビダン君。あいつの相手は僕が」

 『はい!』

 

 リック・ディアスへと向かって行くガンダムMK-Ⅱを見送ると加速を駆けて突っ込む。ジェリドの意外に正確な射撃に感心しつつ距離を詰める。

 

 『なんだってジムなんかに!!』

 「遅いよ!!」

 

 近づいた事でヒートホークを構えるが遅すぎる。ブルパップ型マシンガンで手だけを撃ち抜く。ヒートホークごと片手を失った為に残った手でマシンガンを手にするがその前に撃ちぬいた。次に両膝関節、両肘、メインカメラを撃ち抜いて行動不能にして蹴りを入れる。

 

 「それで理由が出来ただろう。帰れ!!」

 

 肘膝から先を失ったほぼ胴体のみの機体はバックパックのスラスターを吹かして移動を開始する。あの状態だったら逃げ帰るしかないだろう。

 

 鏡士郎がアーガマに戻った頃には艦隊による砲撃戦も終了しており、元通りの追われる者と追う者の状態に戻っていた。ただカミーユの内心までは元に戻るはずはなかったが。

 

 

 

 「はぁ……第一フェイズは終了か」

 

 アレキサンドリアの艦橋でジャマイカンは、大きく息は吐きながら背もたれに身体をすべてを預けてもたれかかる。もう少しこの状態でいたかったがそんな訳にもいかずにすぐに身体を起こしてモニターを見つめる。

 

 「MS隊に帰投命令。帰投後、再び距離を保って追行する」

 

 指示を受けると急ぎオペレーター達が通信を送り始める。本当なら相手の殲滅・捕縛を行ないたいところだが、相手は油断ならないだけの力を持っている。ゆえに注意に注意を重ねてことに及ばなければならない。

 

 向こうの損害はほとんどない。あっても弾丸ぐらいのものだろう。まぁ、被害が出ないように射程外からの砲撃戦を仕掛けたのだが…にも関わらずこちらはハイザック一機を失い、ジェリドのハイザックは戻って来たものの状態としては撃破と変わらない。それにエマ・シーン中尉と共にガンダムMK-Ⅱは帰ってこなかった。戦力を減らすどころか増やしてしまった。

 

 「バスク大佐になんと報告したものか…」

 

 今からどう報告するか悩むが第二、第三フェイズが成功すれば後の第四フェイズで殲滅出来るのだから問題ないかと考えを放棄した。

 

 「シャトルの状況はどうだ?」

 「例のシャトルですか?問題なく」

 「そうか…それならいい」

 

 自分の役目は奴らから目を放さずに追い、時間を稼ぐ事のみだ。バスク大佐が言うには奴らは30バンチに向かうとの事なのでそこで襲撃、ブライト・ノアが一緒に連れた者達と乗っ取ったシャトルが合流などで時間を稼げば分かれた艦隊とルナツーより発進して先に待機している艦隊で包囲・殲滅できる。

 

 「MSの収納終了しました」 

 「うむ。では、行こうか」

 

 

 

 カミーユ・ビダンは自分の部屋で静かにただ座り込んでいた。どうすれば良いのか何をすればいいのか分からずただただぼーとしていた。

 

 「失礼しまーす」

 

 声がしたので一様視線を向けるが顔を向けるまでには至らなかった。

 

 「入る前にノックぐらいしてくださいよ…」

 「三回ほどしたんだけどね。返事がなくて心配したよ」

 

 棘のある言い方をしたというのに優しげのある喋り方でキョウシロウ大佐は僕が腰掛けているベッドに腰掛けた。

 

 「なんですか…慰めにでも来たんですか?」

 「慰めるのは僕には難しいかな」

 「ならひとりにしといてください」

 

 突き放すように言い放っても彼は隣に腰掛けたまま動こうとはしない。何を考えているのか分からない。

 

 「少しお話しない?」

 「………」

 「君のお父さんやお母さんのお話してくれないかな?」

 「お話って…」

 「どんな人だったの?」

 「……母も父も仕事優先の人で―」

 

 何もする事もなく、言われたまま父や母の事を話している内に嫌な面だけでなく記憶の奥底に留めていた記憶まで蘇えり、気付いたら涙を流していた。人前だし止めようと思ったのだが止まる所か余計に流れ続ける。大佐に見守られながら泣き続けて疲れたのか知らない内に寝てしまっていた。そこには大佐の姿はなくシーツがかけられていた。



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第31話 『シャトル』

 両親を目の前で失ったカミーユを何とか落ち着かせてから一日が経ったアーガマの一室で鏡士郎は頭を抱えて悩んでいた。

 

 あの戦闘で大きな選択を行なった。母親を救えなかったのは自分ミスで、父親が目の前で戦死するのを見せたのは自分の指示だ。自分が減らせれたであろうカミーユの負担をわざと担がせてしまった。アフターケアとして彼には少しでも気が楽になるように接したがどれほど効果があったかは分からない。それよりも悩んでいるのは殺し損ねた…いや、わざと殺さなかったジェリド・メサのことである。

 

 プライドが高くてエリート意識の塊みたいな彼を好いていない。そもそもグリーン・ノアの一件から嫌っている。住宅街を避けたから本部ビルに突っ込んだというが、その原因は自ら無茶な飛行を行なったが為だ。落ちた本部ビルでは大勢の怪我人に死者が出たというに気に留めることもなく『始末書程度じゃすまんな』の一言で片付けている。他にもアポリー中尉やフォウ・ムラサメの件もあって、撃破したほうが良いと判断できた。だが、実際は手足と頭部を破壊するだけに済ませた。別に今更人を殺す事に躊躇ったなんて理由じゃない。というか人を殺すという感覚が薄いのだ。眼前で人を拳銃で撃ったり、ナイフで刺したりしと相手を見て殺人を犯したのなら実感していただろうが、相手自体を見る事無くMSを撃破しただけなので実感が湧かないのだ。元々精神が異常だった可能性もあるけど…。

 

 ライバルキャラ…で、なかったにしろメインキャラのひとりである彼を撃つ事を躊躇ったってのもある。が、一番に脳裏を過ぎったのはダカールでの戦闘でティターンズを悪役として引き立てたのは攻撃を強行した彼でもあった。後々の事を考えると対処しなければならないが同時に大きな分岐点であるダカールの事を考えると生きていてもらったほうが良かったりする。今更悩んだところでどうなる事もないが。

 

 唸りつつ、ベッドでジタバタと足を動かし続ける鏡士郎の耳にノック音が聞こえてきた。誰だろうと顔を上げてベッドから跳び下りた。

 

 「大佐。カミーユですけど」

 「ビダン君?開いてるよ」

 「失礼します」

 

 ドアを開けてぎこちないがはきはきとした敬礼をしたカミーユは、ゆっくりと鏡士郎の下まで歩いてきた。客人が来たことで転がっていた体勢から座って姿勢を正す。

 

 「何かあったのかな?……って、いろいろありすぎたよね」

 「はい…その件はいろいろとありがとうございました」

 「いや、僕は何も出来ていないから」

 

 そうだ。僕は君の母親を救えずに、父親の死に行く様を見させた張本人なのだ。困った表情で返答した僕に対してカミーユまでも困った表情をしてしまった。

 

 「そんな事ありませんよ。大佐のおかげで落ち着けましたし」

 「うん…」

 「大佐こそ何かあったのですか?」

 「んー……たくさんあるけどとりあえず保留!!」

 

 ベッドから跳び下りて腕を大きく伸ばして背筋を伸ばして筋肉を解す。

 

 やるべき事はたくさんあるのだ。原作通りだと起こってしまうキリマンジャロのフォウの戦死対策やジャブローへの降下作戦時のカトウ・フリートの動き、イレギュラーとの戦闘など考えなければならないことが山積みなのだ。出切ればヅダを送って欲しい所だけれどね。

 

 っと、そこでカミーユが何で部屋に来たのかを聞いてない事を思い出す。

 

 「ところで僕に何の用だったの?」

 「あ!そうでした。クワトロ大尉が呼んでいるので僕と一緒に来てください」

 「赤いのが?わざわざ呼びに来てくれたんだ」

 「何でも大佐の部屋に繋がらなかったらしくて」

 

 言われて何度か鳴っていた様な気がする。考え事や悶えていていたりして放置してしまったのだろう。でも、あの赤いのからだとしたら出なかったかも知れないが。

 

 「じゃあ、行こうか」

 

 向こうもこちらが嫌っている事を知っているだろうから無意味な呼び出しではない。合流する為に部屋から出たのだが、出た直後に足を止める。振り返ってカミーユを見つめながら口を開いた。

 

 「何処に?」

 「最後まで話を聞きましょうよ」

 

 そう笑みを浮かべたまま言われて、ついて行くとクワトロ大尉以外にもヘンケン艦長達も居る艦橋へといたった。艦長はだいたい艦橋に居るが今回はブレックス准将も居て、どうやら待っていたようだ。

 

 「ようやく来ましたか。何度も呼んだんだがね」

 「すみません。考え事しちゃってて」

 「時間も押している事だし話に入ろうか」

 

 大型のモニターにはアーガマを含んだ戦艦三隻の航路と周辺のコロニーや月、地球などが映し出されていた。そしてその航路外に点滅する物があった。点滅する色から救難信号を発していることが解る。発している事は解っているのだが解らない。原作にこんなシーンがあっただろうか?

 

 「その点滅はなんですか?」

 「これこそ今回の議題なのだよ」

 「ティターンズに襲われて行動不能になったテンプテーション…」

 「テンプテーションってブライトキャプテンの?」

 「知っているのかい?」

 「はい。ホワイトベースの艦長をしていたブライト・ノア中佐です」

 

 ブライト・ノア

 一年戦争で活躍したホワイトベースの艦長。戦後はテンプテーションのキャプテンを務めている。原作ではエゥーゴに合流してからアーガマの艦長となってエゥーゴの中核を支えた人物。確か原作では…

 

 「そのブライト中佐のテンプテーションより通信が合った。グリーン・ノアより民間人数十名と脱出してティターンズに襲われたのだと」

 「でしたらすぐに…」

 「彼は救出部隊を送らないでくれと言って来たのだ」

 「え?それってどういう事ですか?」

 「テンプテーション付近には最低でも二隻のサラミス改級が待ち伏せをしているらしいのだ」

 「しかもその進路を取ると別方向に分かれていた艦隊が合流。今追撃している艦隊と待ち伏せの艦隊で前後を挟まれるだけでなく左右まで挟まれてしまうのだ」

 

 テンプテーション内は原作通りなのに原作通りの展開じゃない。確実にソウジロウの罠だよね。だからと言って放っておく訳にもいかないし。

 

 「助けに行くしかないじゃないですか!!」

 「カミーユ君。そういう簡単な話ではないのだよ。のこのこ出て行けば全滅する可能性が高いのだよ」

 「近くに居るエゥーゴの艦艇では間に合わないし何より兵力が足らん」

 「そこで大佐のほうで何とか出来ないかな?」

 「無理ですね。近場に展開している部隊が存在しません」

 「ならここは…」

 「待ってください!!」

 「准将。自分は救出に行くべきだと思いますが」

 「しかし、それではみすみすやられに行くようなもんじゃないか!!大尉はどう思うかね?」

 「リスクが高すぎて危険です。が、放っておく訳にもいかないでしょう」

 「大佐はどう考えておられるか?」

 

 ブレックス准将は助けたいが行った時のリスクを考えて救出反対なのだろう。しかし、クワトロ大尉もヘンケン艦長も賛成派でこちらの意見を聞いてきたのだろう。生憎ながらご期待には添えないのだが。

 

 「行きましょう」

 「罠と知っていてもかね?」

 「罠であるなら食い破りましょう」

 

 満面の笑みで告げられた言葉に力強い表情で頷いた顔を見た准将は大きく息を付きながら諦めたような表情を見せた。

 

 「皆の考えは分かった。ではこれよりテンプテーションへの救出作戦を決めよう」



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第32話 「罠の中の救出作戦」

 行動不能になった多くの民間人を乗せたブライト・ノア中佐のテンプテーションを救出する為に、アーガマを中心にした艦隊はティターンズの罠と知りつつその宙域に到着した。エゥーゴの戦力はアーガマ級強襲巡洋艦『アーガマ』にサラミス改級宇宙巡洋艦『モンブラン』、カトウフリートのサラミス改級宇宙巡洋艦『ポッペンブルク』と『ニュルンベルク』の四隻でテンプテーションの向こうで潜んでいると報告を受けた艦隊より一隻有利であった。左右から三隻ずつと後方の三隻の合計9隻を除けばだが。

 

 囲まれる事を嫌うなら前方の艦隊を突破して逃げれば良い。しかし今回の作戦は救出作戦。エンジン部を被弾しているテンプテーションを戦闘中に回収しなければならない。時間のかかる任務だが時間をかければティターンズ艦隊に包囲されて袋叩きにあってしまう。この作戦の鍵は時間だ。短時間で突破しなければエゥーゴの主だったパイロットとトップのブレックス准将を失ってしまい、エゥーゴは死に体になってしまう。

 

 『全艦、艦隊戦用意!!MS隊発進急がせろ!!』

 

 ヘルケン艦長の声がコクピットに響き渡る。カミーユ・ビダンは操縦桿を握り締めて、順番が来るのをただ待つ。すでにアポリー中尉にロベルト中尉の黒いリック・ディアスはカタパルトデッキより出撃した。

 

 『エマ・シーン。ガンダムMk-Ⅱ、出ます』

 

 ティターンズのパイロットだったエマ・シーン中尉はヒルダ・ビダンを人質として作戦を行なったティターンズには戻らず、エゥーゴにMk-Ⅱごと留まったのだ。その後は30バンチ事件の映像を見て余計にティターンズに不信感を持ち、クワトロ大尉とヘルケン艦長の推薦もあってエゥーゴの一員となったのだ。

 

 『ほらカミーユ、なにしてんの!』

 「あ!すみません。カミーユ・ビダン、ガンダムMk-Ⅱ行きます」

 

 カタパルトにより加速させられたMk-Ⅱが射出される。身体にかかるGに耐えながら後ろを振り返ると胴体を主に緑色の塗装が施されたエゥーゴカラーのジムⅡにネモと呼ばれるMSが急いで発進している。同時に艦隊の砲撃が始まった。

 

 「始まった。アポリー中尉は――あそこか」

 

 相手からも撃ち返される砲撃を見つつ、アポリー中尉のリックディアスを探す。多少離れていたがすぐに見つけれれたのは運が良いのだろう。スラスターを吹かして斜め後ろに移動する。

 

 『ほお!もう編隊が組めるのか』

 「まぐれですよ」

 『この一戦でまぐれかどうか分かるさ』

 『あんまり煽てるなよアポリー。調子に乗られて早死にされたらたまったもんじゃない』

 『それはそうだな。では予定通りに行くぞ。俺とロベルトがMS隊を率いて敵MS隊の排除を行なう。カミーユとエマ中尉はテンプテーションを回収する部隊の護衛を』

 『了解』

 「了解しました」

 『死ぬんじゃないぞ。――っ散開!!』

 

 こちらを狙って放たれたメガ粒子砲を回避する為に散開すると紅色のMSが突っ込んで来た。モノアイがこちらを見つめつつ光った。直感的にスラスターを吹かして後方へ下がった。目の前を放たれたビームが通過するまで生きた心地がしなかった。

 

 「危なかった…」

 『戦場で止まっては駄目よ!』

 「は、はい!くそっ、当たれ!当たれよ!!」

 『前に出ないの!あれはライラ隊のガルバルディよ』

 「ライラ…」

 

 二機のMk-Ⅱの攻撃を回避した機体を睨みつつ、前進させるとエマ中尉の怒声で立ち止まる。ボスニア所属ガルバルディは知っていたカミーユだがパイロットの名にはピンと来なかったが、相手が只者で無い事は理解した。ビームライフルを構えて狙いをつけようとしたが、急転回して移動し始める。何事か理解できなかったエマだがガルバルディに牽制射を入れつつ移動する。

 

 『どうしたの急に!?』

 「テンプテーションに敵が取り付こうとしてます!」

 『見えるの!?』

 

 モニターで見てなくとも分かる。そんな感じがするのだ。テンプテーションにモニターで捉えるとハイザック三機がテンプテーションを盾にしつつ、回収に来ていたネモに攻撃をしていた。素早く狙いをつけて撃ったが、わずかにながら標準がずれて一機の肩を掠めた。錬度が高い奴だったのだろう。こちらをモノアイで捉える前に回避運動に入られて、二発目は完全にかわされた。

 

 三発目を放とうと構えるがネモ隊を突破した一機のジム・コマンドから目が離せなくなった。テンプテーションを盾にして展開している部隊と同じくテンプテーションを盾にする。攻撃しようとしたガルバルディだったが、テンプテーションを破壊すればこちらが負ける事を理解して手を止めた。すると横合いより別のジム・コマンドが現れて一機のコクピットを撃ち抜いた。いきなりの閃光に驚いた一機は撃ったジム・コマンドとは別方向から接近してコクピットだけを撃ち抜いた。残ったハイザックはライフルを構えるが、遅すぎた。最初に接近していた一機がもう目の前まで迫っていたのだ。射撃は間に合わないのは目に見えていた。が、ジム・コマンドはライフルではなくビームサーベルを構えていた。それならばと後方へと逃れようとする。普通なら逃れれた間合いだが逃げる速度よりも踏み込んだ速度で接近して真っ二つに切り裂いた。

 

 『こちらカトウフリートのフィーリウス・ストリーム少尉。ここは任せても宜しいか?』

 『ええ…援護感謝するわ』

 『行くぞバネッサ、ガイウス』

 

 淡々と喋ったパイロットは用は済んだと言わんばかりに部隊をつれて進路を右翼を包囲しようとしている艦隊へ向けた。

 

 一機一機が相手の注意を引いて反撃の隙さえ与えずに殲滅した彼らのコンビネーションに驚いたカミーユは戦場だと言うのを忘れて少し興奮していた。キョウシロウ大佐といいカトウフリートと言うのはどういった連中なのだろうかと本気で気になって来た。

 

 『ちょっとカミーユ!まだ戦いは終わってないわよ』

 「了解です。危ないエマ中尉!!」

 

 言われたのが早かったのが幸いしたのか動けたエマ機はライフルを失うだけで済んだ。エマ機はバルカンで、カミーユはライフルで応戦するが突如現れたガルバルディに当てる事が出来ずにいた。

 

 

 

 ルナツー駐留の巡洋艦ボスニア所属のガルバルディ隊を率いているライラ・ミラ・ライラ大尉は、なかなか落とす事の出来ないガンダムMk-Ⅱを睨みつける。

 

 一機はかなり訓練を積んだパイロットのようだがまだ何とかなる。しかし、もう一機のMk-Ⅱは気持ちが悪かった。動きは素人っぽいのに勘はかなり良い。今も完全に背後を取った筈なのにまるで見えていたかのように回避してこちらを狙う。

 

 「くっ!奴は何者だ」

 

 苦虫を潰した表情で忌々しそうに呟きながら反撃するが、やはり当たらない。一瞬接近戦に持ち込んで一気に決着をつけようとも考えたが相手は二機いるゆえに危険すぎる。そもそも時間稼ぎが作戦目的なのだ。

 

 「無理をする必要もないか」

 

 こちらが引く事を納得しなかったのか何発も撃ち続けてきたがエネルギーの無駄だと理解したのか向こうも後退を始めた。ひと息を付きつつ自分の部隊と合流する。四隻の艦隊による砲撃をボスニアを旗艦とした艦隊に向けられているが、向こうはテンプテーションを守るのと牽制の意図である為に当たっていない。艦隊付近には自分の隊のガルバルディ以外にもハイザック隊が展開していた。

 

 『大尉!?ご無事でしたか』

 「ああ、私とした事が少々迂闊だった…。状況は?」

 『状況は最悪ですね。すでにこちらのMS隊の大半を失って今は我々を含めて6機です』

 

 部隊が無事なことにほっと胸を撫で下ろしたが現状の報告に顔を歪めた。まだ戦闘が始まってからさほど時間が経ってないと言うのに自分の隊以外は壊滅状態と言う事実はあまりに衝撃的だった。しかしそれで今の配置に納得した。艦隊の援護を受けつつ敵機を遊撃するはずだったのが、艦隊付近まで後退して火力を増やしているのはそれが原因なのだろうと。エゥーゴのMS隊も迂闊に近づけずに居る。今のうちに包囲が完成すればこちらの勝利だ。

 

 「包囲の具合はどうなっている?」

 『右翼の艦隊はMS隊の攻撃を受けて足止めを。少し遅れていますが左翼は…』

 「後方のアレキサンドリアからの援軍はどうした?」

 『まだ射程圏内に到達していないと』

 

 聞こえないように舌打ちをする。こちらがティターンズじゃないからこちらに消耗させて美味しいところをだけを奪う気なのだろう。

 

 「これだからティターンズは…」

 

 そう言っても任務を全うしなければならず、近付いてこようとするジムⅡに狙いをつける。あのMk-Ⅱとは比べ物にならないほどあっけなく落ちた。

 

 今は何とか持ち堪えているがテンプテーションを回収し終えたら、突破は止むを得ないのは分かりきっている。つまり相手は早々にこちらを突破したい筈なのに悠長にギリギリ射程圏内からの撃ち合いを続けるのか?

 

 モニターで敵MSや艦隊の位置を確認しているうちにあることに気付いた。

 

 「おい、報告にあった赤いMSと水色のMSは見たか!?」

 『ハッ!自分は見ておりません』

 

 ボスニアに連絡を取ろうとする前に左翼艦隊の方で閃光が上がったのが見えた。エゥーゴのほうが上手だったかと悔やむがこちらからは何も出来ずに再び輝く閃光を見つめるのであった。




 次回は26日に投稿しようと思います。すみません…。


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第33話 『赤と水色の共同戦線』

次回の投稿は二週間後の日曜0時になります。以降は二週間ごとの投稿となります。


 「始まったなぁ…」

 

 ジム・コマンドのコクピット内のモニターに飛び交うビームと幾つもの閃光が映る。その閃光が映るたびに皆の心配ばかりしてしまう。戦争なのだからと言えば簡単なのかも知れないが言い切れない。今までも敵機を落としてきた自分が言えた事ではないが…。

 

 加東 鏡士郎はまだ作戦時間より早い事を確認してシートの後ろに忍ばせていた音楽プレイヤーに手を伸ばす。音楽を再生する前にちゃんと接触回線以外は切れているかチェックする。すぐにチェックを済ませて曲を再生する。曲は『シャアが来る』。

 

 時間を気にしながらノリノリで歌っていると接触回線より咳が聞こえてきた。

 

 『大佐…』

 「なんでしょう『元』大佐」

 『それは置いておこう。それよりその曲は…』

 「『シャアが来る』ってタイトルの曲ですよクワトロ大尉」

 『どうも私は嫌われているようだな』

 「気のせいじゃないですか(棒読み)」

 

 言葉の中に棘を含んだ事を隠す気もなく向け続ける。モニター端に映る赤いリック・ディアスのモノアイが光る。今鏡士郎はクワトロ大尉の二人で作戦行動中であった。本来ならフィーリウス少尉とが良かったのだが、この作戦はエース級ではなくエースと呼ばれる腕利きのパイロットが少数で行なうもので、数が少なければ少ないほど成功率が上がる。フィーリウスには敵翼への足止めの指揮を執ってもらわねばならない為に断念するしかなく、結果敵に鏡士郎とクワトロのセットになったのだ。

 

 接触回線越しにため息のようなものが聞こえるが気にしなーい。予定時間よりも早いがMS隊の発進が始まったようだ。レーダーに映る機影は15つ。艦隊の守りは三機で残りはアーガマに向ける方向で動いている。

 

 「ではどうします?」

 『普通なら行く事さえ躊躇われる作戦なのだがな』

 「ボクはアーガマに向かったMS隊を」

 『そうなると私は戦艦三隻に護衛MS三機か』

 「一年戦争時にザクで三隻落としたんですからリック・ディアスなら簡単でしょうに」

 『さて、何の話かな?』

 

 無駄口を叩いている間にMS隊は二人の脇をすり抜けて飛んで行く。そしてまったく気付かないのはリック・ディアスとジム・コマンドがデブリを盾にしてスラスターも無線も使用せずに惰力だけで移動している事に他ならない。

 

 「じゃあ、行きます」

 『ああ!幸運を』

 「勝利の栄光を…君に」

 『――ッ!?』

 「なんてね」

 

 クワトロ……シャア自身がガルマ・ザビに言った台詞を聞かされコクピット内で困惑の表情を浮かべている事だろう。満面の笑みを浮かべながらアーガマに向かうハイザック群に突っ込む。デブリから離れて移動するスラスターの熱量なんかで気付いたのか数機の頭部がこちらに向けられる。しかし遅すぎた。すでにこちらは標準を定めてトリガーを引いていた。発射された弾丸が吸い込まれるように頭部に向かって行く。

 

 「ザクタイプの機体だからあまり攻撃したくないんだけどさ」

 

 そう言いつつも仲間がやられた事で動揺したままこちらに背を向けているハイザックのバックパックに銃弾を叩き込んでいく。スターダストメモリーのゲイリー少尉が「連邦に下ったのか。その姿は偲びん」と言った時の気持ちがなんとなしか理解出来た。通過する瞬間にビームサーベルを抜いて頭部を破壊したハイザックの足を切っていく。

 

 ようやく敵襲だと理解してマシンガンを集中してきたが、その僅かな間をすり抜けていく。確かに数は多いものの腕前はテストパイロットのような基本通りと言うか硬い印象を受ける。しかもハイザックに乗り慣れてないのかスラスターの吹かしようが激しい。自ら体勢を崩して無様な姿を晒されたときには驚きすぎて動きを止めてしまいそうになるほどだった。

 

 原作でもクワトロ大尉が第一話で言っていたようにまだティターンズという組織は出来上がったばかり。一年戦争を戦い抜いた前線兵士で組んだ部隊なら兎も角、地球生まれの士官学校出たてのエリートを碌な実戦なしで出してきたのだ。圧倒的な数も腕の差で押されていく。特に鏡士郎とクワトロ相手では差がありすぎると言うしかない。

 

 「三つ…四つ………ここのーつ!!」

 

 どんどん敵機を損傷させて行動不能にしていく。弾切れは早かったが数機腕を撃ち抜いた為にハイザックのマシンガンが浮いてあるのでさっと拝借する。撃ってみると中々精度が高くて驚いた。

 

 「整備だけは一流か。でもパイロットは生かしきれてない感が半端ないなぁ」

 

 次々とバックパックや頭部、足を破損させられ行動不能機が増えていく。一機たりとも撃破しないでいるのは時間稼ぎを兼ねているからである。中途半端に直る機体は修理する。行動不能な友軍は回収する。そうなれば追撃の手が緩くなる。旗艦のアレキサンドリアなどの主力は無視して行くかも知れないが両翼に展開した艦隊などは回収に勤しむ事になるだろう。

 

 また拾ったマシンガンを両手に構えて撃ち抜いていく。残った三機は焦りすぎてて下手に回避したほうが当たりそうな勢いである。そんな三機の相手をしながら艦隊へ視線を向ける。弾幕を張っている艦隊の間を赤い機体がすばしっこく動き回っていた。あれだけの砲火を避け、大爆発や有爆させないようにスラスターや攻撃手段を損傷させていく腕前は見惚れるほどだ。やはり赤い彗星の名は伊達ではない。

 

こちらも負けてはいられないと思い、弾切れになったマシンガンを捨ててひたすらに突っ込んだ。見ながらではあったが動ける機体は一機のみ。撃っても撃っても当たらない敵に恐怖しつつヒートサーベルを振り上げた。左手で軽くその手を止めて右手を素早く頭部に叩き込む。モノアイを保護していたガラスは砕け、モノアイがあっけなく潰れた。今までのこいつらの腕前で考えると急に真っ暗になったことでパニックを起こして、予備カメラでモニターを何とかしようとはしていないだろう。弛んだ手よりヒートホークを奪って足をぶった切り、頭部に叩きさした。

 

 「終了かな?」

 『ほう、そちらも片付いたか』

 「さすが赤いのは伊達ではないようで。援護しようかと思っていたんですけどね」

 『こちらこそそう考えていたのだがな…っと主力隊が来たな』

 

 合流したリック・ディアスが示した方向からまだ無傷のアレキサンドリアが率いた艦隊が向かって来る。二機ともすでに武装らしい武装がなく、素手で艦隊を相手に出来るとは思ってない。出来れば一刻も早くテンプテーションを回収してこの宙域を脱出したのがアーガマからは何の連絡もない。

 

 『仕方ない。一旦アーガマに戻って補給だ』

 「ですね…さすがに機体が持たない」

 『パイロットもだ。――ちょっと待ってくれアーガマより連絡が入った。回収し終わったそうだ』

 「それは良かった。だったらさっさと逃げますか」

 『急いでアーガマと合流する』

 

 アーガマに帰還すべくスラスターを吹かして二機は加速する。MS隊にかなりの被害が出たが何とか切り抜けることの出来た一行は月へと向かう。ウォン・リーなどエゥーゴの支援者達との会合の為に…。

 

 「やっとアレを探せる」

 

 原作を知っている鏡士郎はその後にジャブロー攻略戦の流れになることを知っている。すでにカトウフリートも動かしている。エゥーゴに頼まれている事とは別でだ。

 

 「もしアレを手に入れたらミネバ様にハマーン様は喜んでくれるかな?」

 

 褒められるイメージを勝手に膨らましてだらしない笑みを浮かべる鏡士郎はアーガマへと着艦した。

 

 



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第34話 『マクダニエル』

 グリーン・ノアからの追跡してきた艦隊を退けたエゥーゴ艦隊は月の支援者達との会合の為に入港していた。勿論カトウフリートのサラミス改級宇宙巡洋艦『ポッペンブルク』と『ニュルンベルク』も同様に入港していた。

 

 エゥーゴのアーガマ内は大変な忙しさを見せていた。この間救出したシャトル『テンプテーション』のキャプテンであるブライト・ノアにアーガマの艦長を頼んだり、ブレックス准将はグラナダに向かったり、カミーユのガールフレンドであるファ・ユイリはカミーユと一緒に居ると言い出したのでどうするかを悩んだりといろんな事が立て込んで起こり、その処理に追われている。一番忙しいのはエゥーゴの整備士たちだろう。テンプテーション救出での戦いでMS隊の大半が損傷しており、その修理に追われているが人数が足りずに働き続けている。

 

 対して大きな損害を被らなかったカトウフリートは通常通りの仕事をこなしていた。加東 鏡士郎は除いてだが…。

 

 「えっと何処だっけ?」

 「確かマクダニエルっていうハンバーガーショップだったと思いますよ」

 

 エゥーゴの出資者であるウォン・リーより次の作戦の打ち合わせを行なうとの事で指定された店に向かっているのだ。ちなみに一緒に居るのはカミーユである。彼は民間人でいきなりエゥーゴに参加するようになって心の整理が追いついてない。それに両親の死もあったら余計にだ。だから息抜きになるかなと思って連れて来たのだ。本当はファも連れて来ようと思ったのだが彼女はアーガマ内での仕事をエマ達より教わっていたので誘えなかったのだ。

 

 背中の阿頼耶識システムを隠す大きめのコートを着た鏡士郎は英語でマクダニエルと書かれたハンバーガーショップに着いた。店内には誰も居らず、眼つきの怖い店員一人だった。何の迷いもなくレジに向かい口を開いた。

 

 「店員さん、スマイル下さい」

 

 黄土色の制服を着ている店員……ヘンケン艦長は苦笑いを返し、隣でそれを聞いたカミーユは思わず噴出してしまった。

 

 「そんな怖い顔していたらお客さん逃げちゃいますよ」

 「逆に居ない方が良いでしょうが」

 「僕達的には良いですけど店の売り上げが底についちゃいますよ」

 「なら、貢献しますか?」

 

 軽口だった一言だが鏡士郎はそれもそうだとメニュー表を見つめ考え出す。その動作に「え?」と声を漏らしたのはカミーユとヘンケン両者同時だった。何しろここには打ち合わせで来ているのに本当に食事を取る気でいる。

 

 「大佐、良いんですか?」

 「今は大佐じゃなくてキョウシロウで良いよ。まだ赤いの着てないんでしょ?」

 「確かに着てないがですが…」

 「だったら僕はバーガー2つとオレンジジュース。ポテトは一番大きなやつで」

 

 注文して品を待つ間はカミーユと他愛もない話をしつつ、本当に作る破目になったヘンケンは大慌てで慣れない作業に従事していた…。

 

 

 

 クワトロ・バジーナを名乗っているシャア・アズナブルはウォン・リーの指定された場所に向かっていた。自分用の赤いエゥーゴの制服ではなく黒いコートに愛用のサングラス姿でマクダニエルに入ったシャアは店内で食事を行なっているキョウシロウを見つめた。あちらもこちらを見つけて見つめ返してくる。加えていたバーガーを口に含んでジュースで流し込む。

 

 「ほう、カミーユと一緒だったか」

 「ンクッ!…プハァ。そりゃどこかの大佐と違って放任主義ではないですからね」

 「…それはさておきカミーユ君も参加するのかね?」

 「どうする?この辺りで時間潰してても良いけど」

 「参加しても良いんですよね?なら参加します」

 「じゃあ行きましょうか」

 

 レジに居るヘンケンの元へ向かうと「まさか大尉も注文する気じゃないでしょうね?」と問われ、口元にケチャップをつけたままのキョウシロウを見て「ああ…」と声を漏らして納得した。

 

 「では、バーガーとコーヒーをお持ち帰りするとしようかな」

 

 困ったような表情でため息をついてレジから奥の扉へ誘導する。扉を開けて中に入るとウォン・リーを中心に出資者四名がテーブルを挟んで座っていた。

 

 「待っていたよクワトロ大尉。それとキョウシロウ大佐ですな。随分とお若いのですな」

 「お初にお目にかかりますウォンさん」

 

 握手を交わして席に付くとキョウシロウ大佐にヘンケン、そして私も腰をかける。カミーユは元より来る予定になかったので大佐の斜め後ろで待機している。

 

 「では早速だが次の作戦について説明を」

 「ハッ!次のエゥーゴの攻略目標は地球連邦軍総司令部でもある南米ジャブローです」

 「ジャブロー…」

 

 その名を聞けば嫌でもあの一年戦争の記憶を思い出してしまう。地球連邦の本拠に対して55機前後のMS隊で行ったジャブロー攻略戦。地球最大のジオンの鉱山基地オデッサを失って士気も低下していたジオン公国が行なった一種の起死回生の作戦。ジャブローの制圧・攻略は無理でも戦艦の建造ドックや宇宙ドックさえ破壊できれば、連邦の宇宙に対する攻略作戦も遅延させられ軍の再編を図ることだって出来ただろう。自身も二度に渡り潜ったが結果は失敗。オデッサに続く大敗北に地上戦力の多大な被害により士気は悪化の一途を辿った。

 

 これからエゥーゴはそこに向けて攻撃をする。あの時の二の舞にならなければ良いが…。もし同じく敗退すればティターンズに対抗する戦力はカラバのみになってしまう。カラバだけの戦力だけではティターンズに対抗するのは到底不可能。頼みの綱になるのはキョウシロウ大佐のカトウフリートだが、彼らがどう出るかは本当に不明。

 

 『地球圏に降りる時には艦隊規模で撤収を援護するそうだ』

 

 あのアナベル・ガトーより伝えられた伝言は確実に我々がジャブローを狙う事を知っていたようじゃないか。あの時にはまだジャブロー降下作戦の話などは一切出ていない。なのに何故?疑問と意も知れない不安を感じながら話を聞く。

 

 「ここからアーガマを除いた二隻とグラナダより六隻の計八隻が出る。MS隊は八十機に及ぶ」

 「かなりの大部隊ですね」

 「カトウフリートにもこの降下作戦に是非参加して欲しいのだが」

 「参加はしますが、MS隊の降下はしません。カトウフリートは地球に基地を持たないので」

 「何ならカラバに連絡して打ち上げてもらう手筈を整えるが?」

 「ジオン製のMS隊の参加は両者にとってデメリットしかないでしょう」

 「という事は参加できるのは現在入港中の部隊のみですか」

 「大気圏突入時のみの支援はそれだけですね」

 「大気圏突入時のみと言う事は他の支援がある?」

 「MS隊を全部出した艦隊の撤退援護は別艦隊で行ないます」

 「数は?」

 「八隻以上の艦隊と詰めるだけのMS隊」

 「ほう!そんなに戦力を出して頂けるのなら帰りは安心ですな」

 

 シャアは疑いの眼差しを向ける。MS隊を出払った艦隊を守る為の戦力はありがたい。しかしティターンズの戦力は現在追撃している艦隊、もしくは地球衛星軌道に近い艦が数隻程度だろう。それに対して大艦隊とは戦力の過多ではないか?何かカトウフリートには別の目的があるのではないか?そんな疑いを込めた視線に気付いたキョウシロウは振り返り笑みを向けた。

 

 「ジオン残党狩りを謳っているティターンズを僕たちは敵対関係。同じ敵を見ているのに背後から撃ったりはしませんよ」

 「ああ、そう信じたいな」

 「クワトロ大尉。さすがに失礼だろう」

 「いえ、このぐらいの距離感のほうが良いですよ」

 

 言われた本人はニッコリと笑っているから良いもののカミーユ君のほうがこちらに嫌な顔を向けてきた。大佐は本当に気にしてないのは雰囲気で分かるがカミーユ君の反応はあまり良くないか。少し気にかける必要があるか…。

 

 降下作戦の話はその後無事に終了したが帰り際に『グリプスを叩きたいのは我慢してくださいね』と告げられたのは本当に驚いた。確かにジャブローを叩くよりはグリプスを潰す事を考えていた。しかしそれは自分の胸中のみの話でまだ誰にも話していないものだ。彼は何処まで見えているのか…。私は彼が本当に恐ろしく感じる。

 

 まぁ、本人は原作を知っているから出資者のジャブロー攻めよりグリプス攻めを押していた事を思い出して言っただけなのだが。



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第35話 『巨人の攻撃準備』

 月面アナハイムの戦艦ドックに四機のMSが降り立った。二機はルナツー駐留の巡洋艦ボスニア所属ライラ・ミラ・ライラ大尉とシェリー・ペイジ少佐のガルバルディ、残りの二機はジェリド・メサとカクリコン・カクーラー両中尉のハイザックだった。四機がアレキサンドリアMSデッキに降り立つと整備士達がMSに取り付いて整備を開始する。シェリー少佐に続いて四人はMSデッキを後にする。

 

 パイロットスーツを脱ぎ、それぞれの軍服に袖を通すとラウンジに集合した。シェリー少佐とライラ大尉は着替えで遅れているから今はカクリコンとジェリドのみだ。カクリコンは飲み物を買いに行っているがジェリドは浮かない顔をしてただ座っていた。

 

 四人は先ほどまでシェリー少佐と模擬戦を行なっていたのだ。内容はペイント弾を使用した実戦に近い形でシェリー少佐のガルバルディと三人で戦うというもので結果は少佐の圧勝。何とか奮戦しようとしたのだがあっけなく落とされてしまった。訓練でもかなりの好成績を出してきたのに実戦ではこうも違うのかと本気で悔しがっている。もしこれであのカミーユとかいうガキと相対したらどうなるか?今度は悔しさより怒りが露になる。

 

 「もう揃っているね」

 

 ライラ大尉を連れたシェリー少佐がラウンジ内に入った事で立ち上がり敬礼する。敬礼を敬礼で返されると真っ先に指を刺される。

 

 「ジェリド中尉は目先の事に捕らわれ過ぎ。もっと視野を広く持ちな」

 「自分はしているつもりなのですが」

 「出来てないからこうやって言ってるんだよ。訓練ではどうだったかは知らないけど実戦なら確実に死んでる。宇宙空間は地球と違って360度全方位を気にしなくちゃいけないんだ。身体の気を辺りに張る感じで周りを気にしな!」

 「ハッ!了解しました!」

 「次にカクリコン中尉はジェリド中尉よりも周囲の認識は出来ているけど頭で考えすぎ。だから対処が遅くなる。考え無しも考え物だけど考えすぎなのも問題」

 「ぜ、善処いたします!」

 「ライラは前に言った事をよく実践してたね」

 「ありがとうございます」

 「けどまだまだだね。もっと腕を磨きな」

 「ハッ!」

 

 ひとりひとりに今回の模擬戦の評価と注意点を告げている時のシェリー少佐はかなり不機嫌そうな顔をしていたが、返事を返すと満足そうに頷いた。

 

 『シェリー・ペイジ少佐。ライラ・ミラ・ライラ大尉。ジェリド・メサ中尉。カクリコン・カクーラー中尉は至急アナハイム第四ドックへお越しください。繰り返します―――』

 「呼び出し?しかもアナハイムのドックに?」

 「第四っていったらアレキサンドリアが入港しているドックの隣か」

 「兎も角行くしかないね」

 

 第三ドックからエレカに乗って第四ドックに移動するのだが道中に苦虫を潰したような顔をしたジャマイカン少佐が乗るエレカと擦れ違い、これは何かあると顔を顰める。逆に心当たりがあるのかシェリー少佐はにたりと笑った。

 

 「第四ドックに何かあるんですかね少佐?」

 「なんで私に聞くんだい?」

 「いえ、何か心当たりがありそうに見えたので」

 「はん!こんなときばっかり周りが見えるのかい?まぁ、当たっているけどね」

 「では―」

 「そう急くんじゃない。行けば分かるさ」

 

 それ以上は答えてくれる気はないのか腕を組んで目を閉じた。それからは一言も話す事無く第四ドックに入る事になった。出入り口の警備官にラウンジに行くように指示されてそこからは徒歩で向かう。沈黙で包まれた一行だったがドックに近付き、通路の窓から見えたドックの光景に声を挙げてしまった。それはジェリドのみではなくカクリコンとライラもであった。

 

 ドックにはペガサス級強襲揚陸艦の4連装熱核ハイブリッド・エンジン・システムをマゼラン級の左右に取り付けられた世界で一隻しかないマゼラン級高速戦艦を目の当たりにし、興奮していたのを誰が咎められようか。話が本当なら連邦最強のひとりと呼ばれたパイロットと現行のMSを圧倒する技術を積み込まれたガンダムがここにあるのだから。ホワイトチャペル以外にはマゼラン級戦艦にコロンブス輸送艦、サラミス改級宇宙巡洋艦が並んでいた。

 

 「凄いな。まさかホワイトチャペルをこの目で拝めるなんてな」

 「なんだカクリコン。興奮してんのか?」

 「テメェだってガキのように目を輝かせて人に言えるかよ」

 

 ホワイトチャペルの存在性は異常だ。今や戦艦は単体の攻撃力よりもMSの搭載能力と展開能力を求められている。その中でホワイトチャペルはたった一機のMS運用の為だけに作られた。逆に言えば現在求めているものを捨ててでもその一機の輸送を優先する。それはあの『白い悪魔』とジオンに恐れられたニュータイプのアムロ・レイでも有り得なかったMSパイロットの名誉。たったひとりのパイロットが戦況を左右すればこその戦艦…いや、輸送艦。

 

 「俺の船は案外人気があるようだねぇ」

 

 どこかに噂のガンダムがないか探していた二人にティターンズの制服を着た青年が現れた。歪んだ笑いを浮かべ青年に片目を吊り上げながら振り向いたが、首の階級章が大佐の物であることから慌てて敬礼をする。先ほどの歪んだ笑みは一瞬で消え去り、スッとした真剣な表情で敬礼を返された。

 

 「やはり大佐でしたか」

 「おお!シェリーにライラ!久しいな、おい!」

 「お久しぶりですミヨシ大佐。ティターンズに配属されたんですね」

 「別に連邦やティターンズに拘ってねぇが戦いやすそうだったからな」

 

 久しぶりの再会らしい光景を見つめていたジェリドはライラが言ったミヨシと言う名に反応した。記憶違いで無ければそれはホワイトチャペルのガンダムのパイロットの名ではないか?と…。

 

 「まさかソウジロウ・ミヨシ大佐でありますか?」

 「おう!俺がソウジロウ・ミヨシだ。ジェリド中尉にカクリコン中尉は初めましてかな?」

 「ハッ!お会いできて光栄であります!」

 「じ、自分もであります」

 「そう硬くならなくて良い。もっと楽に行こう」

 「は、はぁ…」

 「とりあえず続きはラウンジで良いか?呼んだ理由も話とかならねぇし」

 

 そう言われてラウンジについて行くと自分達以外には誰も居らずに貸しきり状態になっていた。辺りを見渡しているとシェリー少佐とカクリコン、そして俺にあるMSの資料を渡された。

 

 「これは新型ですか?」

 「少しはアナハイムに顔が効くもんでな。早急に回してくれるように頼んだんだ。それを預けるから相応の戦果をだしてくれや」

 

 資料にはハイザックの流れを組んでいると思われるオレンジ色の『マラサイ』と書かれた機体のデータがびっしりと書かれていた。ハイザックとは性能は別格であり、ガンダムMk-Ⅱと同等かそれ以上のものだった。

 

 「『機体を与える』という事はという事は今回の作戦のMS隊の指揮は…」

 「俺が執る事になったよ。だけど二人は知ってると思うけど俺は作戦指揮は苦手でな。ほとんどはシェリーとライラに任せる」

 「つまりはいつも通りですね」

 「ライラの言う通りだ。大まかなのは決めんだけどね。これでジャマイカンからあれやこれや言われんで済むから楽だしな」

 「今回はどうやって指揮権奪ったんです?」

 「人を悪人見たく言うんじゃねーよ。ただジャミトフ閣下からの命令書と連邦軍から集めた援軍を見せ付けただけさ」

 

 悪人見たくと言う割りにはくくくと笑う大佐の顔は悪人そのものだった。その考えが読まれたわけではないだろうが目が合った。

 

 「ジェリド・メサ中尉。貴官には援軍で集めた中のハイザック二個小隊を預ける」

 「は?じ、自分に二個小隊をですか!?」

 「あぁ、それらを使ってガンダムMk-Ⅱを片付けろ。カクリコン中尉はシェリーと共に金色の牽制ヨロ」

 「金色とは何でありましょうか?」

 「見れば分かる成金機体がエゥーゴにあるんだよ。相手はエースだから下手に落とすなんて考えんな。時間を稼げば十分だから」

 「ハッ!大佐に頂いた機体に見合う活躍をさせて頂きます!」

 「だからきばんなって…ライラには自由に動いてもらおうかな」

 「好きに動いていいんだね?」

 「ああ、また大戦果を期待してるよ。っと、詳しい説明は出撃前のブリーフィングで済ませるからこれぐらいで良いだろう」 

 気は済んだとばかりに胸元を緩めて退席しようとする。途中方をポンと叩かれ敬礼しながら顔を向ける。

 

 「俺は期待してるぜ。ジェリド中尉」

 「ハッ!ありがとうございます」

 

 ニヤリと笑って出て行った大佐の背を見送るとシェリー少佐に背中を思いっきり叩かれ体制を崩す。何事かと振り向くと面白そうに笑っているシェリー少佐と目が合った。逆にライラ大尉は気に入らないと言わんばかりに顔をゆがめていた。

 

 「アンタは特に気に入られたね」

 「は?気に入られた?」

 「大佐は気に入ったパイロットには作戦前に会いにくんのさ。それでもあんな事言われたパイロットはあんたが初めてだよ」 「まったく光栄なことだね」

 

 英雄に認められ、屈辱を晴らす為の機会に新たな力を与えてくれた大佐の想いに答える。そして今度こそあのカミーユをやっつけてやるとジェリドは闘志を燃やしていた。 



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第36話 『地球への降下作戦と降下阻止作戦』

 地球連邦軍の最大の拠点で一年戦争時にはジオン軍の攻略対象として侵攻を受け、物量で見事払い除けた密林地帯を利用した自然の要害、地球連邦軍総司令部ジャブロー…。現在エゥーゴはそのジャブローに対して大規模な大気圏外よりの降下作戦を実行しようとしていた。すでにアーガマを中心にサラミス改級が八隻も展開していた。合計で三十八機のMSが運用出来る艦隊だがそれぞれが無理にMSを二機ほど牽引しているので五十六機のMSが待機している。ほとんどが地球降下用のパラシュートのように展開するバリュートなる装備品を装備していた。降下機体は四十五機で残りの十一機はカトウフリートのサラミス改とMS隊と共に降下時の援護に回っている。

 

 次々と艦隊よりMS隊が地球に向けて発進して行く。スラスターを吹かせて進んで行く様子を鏡士郎は自機から見つめていた。原作通りならジャブローはエゥーゴの戦力を削る囮として扱われ、核爆弾を使用しての自爆を行なう。ジオン残党軍であるアクシズの一員としてはこれは良い機会である。この作戦を行う事でもうティターンズもエゥーゴも引けない戦いに発展する。エゥーゴとティターンズの戦力が低下すればするほど自分達は動きやすくなる。が、知り合ってしまったカミーユ君の安否だけは不安である。

 

 アーガマのカタパルトへ視線を向けるとちょうどカミーユのガンダムMk-Ⅱが発進しようとしていた。この物語でのカミーユは原作と多少違っていた。鏡士郎が精神が不安定になったカミーユを支えた事により余裕が生まれたのだ。出撃前にはファ・ユイリがカミーユが死ぬかもしれない事に癇癪を起こした時には無視や放置するのではなく、優しく抱き締めながら話して落ちつかせたなど原作からの変化を見せていた。これが大きな流れを変えるような事態ではないけれど多少なりとも変化をさせたことを鏡士郎は気付いていない。

 

 『MS隊の展開を終了しました大佐』

 「了解だよ。さぁて、ティターンズは何処から来るかな?」

 

 カトウフリートの八機のジム・コマンドが防衛の十一機と共に周囲を警戒する。と言っても追撃してくるのはアレキサンドリア級とサラミス改が三隻のMS二十四機程度。こちらはMSの数は五機ほど負けてはいるが十一隻もの艦隊がいるんだ。それにこの前の戦闘で強いのはライラ大尉とジェリド中尉達だろう。ならば鏡士郎とフィーリウス隊で何とでも対処できる。

 

 『敵機確認!』

 「来たね。どっちから?」

 『艦隊の後ろを突く形ですが…その…』

 

 

 ついにきたかとレーダーに目を向けるがMSのレーダーではまだ捉えられず、艦よりの報告を待つがどうも歯切れが悪い。首を捻りつつ待っていると声を震わしながら答えた。

 

 『四十機前後のMS隊が接近中!!』

 「……はい?」

 

 予定していた数より多いMS隊に驚きつつ頭の中で何かが走った。まだ見えないが奴がいる…それに別からも何かが来る…。

 

 「フィーリウス少尉!迎撃の指揮を任せるよ」

 『了解しました。して大佐はどうされるので』

 「ちょっと迎撃に出なくちゃいけなくてね」

 『では護衛を―』

 「いや、単機じゃないといけない。それと右翼から早いのが来るってエゥーゴに伝えて」

 

 伝えるだけ伝えると鏡士郎は感じ取った方向へと向かう。この機体でどこまでやれるか分からないがやるしかないと腹を決めて…。

 

 

 

 

 

 

 エゥーゴ艦隊を何とか超望遠だが発見したティターンズ艦隊は次々にMS隊を発進させた。追撃してきたアレキサンドリアにボスニアを含んだサラミス改三隻に加えて、ミヨシが援軍として連れて来たコロンブス級とマゼランにサラミス改、ホワイトチャペルが合流していた。MSはマラサイ三機にガルバルディ四機、ハイザック二十機とジムⅡ十九機と三個中隊規模にまで脹れていた。

 

 MS隊中央に位置するガンダムジャックに乗るミヨシは楽しそうに微笑んでいた。手首や首をコキコキと鳴らして短く息を吐く。

 

 「さぁて、テメェら。戦争の時間だ。エゥーゴを嫌っている奴に戦友を討たれた仇を討ちたい奴、立身出世を望んでいる奴といろいろ思惑を持った奴がいると思う。自分の欲を満たす為にもこの戦争を楽しめや」

 

 味方MS隊に伝えるとクククと笑い声を漏らす。正直この中で一番楽しもうとしているのはミヨシ本人なわけなのだが…。と、モニターにバリュートをつけたジェリドのマラサイが目に入った。隣に居たシャリー少佐青色にペイントされたマラサイの肩を掴んで接触回線を開く。

 

 『何でしょうか?』

 「アイツは地球に降りんのか?」

 『本人の強い意志で降りた奴も追撃するそうです』

 「仕事熱心だぁね…カクリコンやライラは?」

 『大佐の指示通りですから降下用のバリュートは装備しておりませんが』

 「なら、いいさ」

 

 別に原作キャラが死のうが生きようが気にしないっちゃあしないミヨシだが、だからと言って無理に殺そうとは思わない。ゆえにカクリコンには一個小隊と共に敵艦隊の足止め、ライラには防衛MS隊の排除を命じた。

 

 『それで上手くいきそうですか』

 「さぁな。でも面白いだろ?殲滅戦はよ」

 

 ミヨシは先のことは考えずにこの場でエゥーゴを殲滅しようと画策している。降下したら地上の連中に任せるが宇宙に残る連中は確実に殲滅する。その為に降下阻止作戦には間に合わないがアレキサンドリア級の『ハリオ』と旧式だがサラミスを三隻ほど向かわせている。ハリオが積んでいるMSはジムキャノンと機体性能差があるが艦対戦を想定しているのだからなんら問題は無い。それにこの敵右翼に木星帰りのパプティマス・シロッコを向かわせた。これで負けるなどありえない。しかも自身が居る事で完璧だと信じきっている。

 

 微笑を浮かべて眺めていたモニターに閃光が映し出される。ビームの光ではなくあれはMSの爆発……命が消えた光…。微笑みはそのままで操縦桿に力を込める。

 

 『敵が先手を打って来たようですが…たったの一機。近くのハイザック隊を向かわせ―』

 「止めとけ。無駄だよ」

 

 ため息混じりに告げるがそでに遅く、襲われたジムⅡ一個小隊とハイザックの一個小隊の反応が消えた。

 

 『たった一機のMSに六機が瞬殺!?本当に水色の閃光星とでも言うの?』

 「アイツの相手は俺がする。誰も近付けんじゃねぇぜ」

 『しかし…奴は普通ではありません!』

 「まるでニュータイプみてぇな台詞だな。ま、いいさ。MS隊の指揮は任せる。それと成金趣味の金色MSには手だすなよ」

 

 突っ込んで来たMSはあのイレギュラーだと確信して楽しむ為だけに迎撃に出る。ただ楽しむ為に。

 

 

 

 

 

 

 道を切り開く為に展開していたジムⅡ小隊と迎撃に来たハイザック小隊を撃破した鏡士郎は損傷はしてないだろうが一応自機のチェックを行なう。損傷は無く、エネルギー消費も抑え、各部に異常は認められなかった。

 

 「ふぅ……―ッ来た!?」

 

 感じ取った通りに回避すると感じたように銃弾が通過して行く。口径は通常のザクマシンガン同様の物だが威力は段違いであっただろう。発射した方向を睨みつけると身体はウイングガンダムプロトゼロで腕はデスティニーガンダム、エクシアの頭部と脚部を持ち、背にはABCマントを背負ったガンダムジャックと名付けられた黒いガンダムが向かってきていた。

 

 太刀を構えて突っ込んでくるがもしビームサーベルで受けてしまったらビームごと真っ二つにされてしまう。それだけの圧倒的にな差がある。距離を取りつつブルパップ・マシンガンを撃つ。回避しようとしているのだがこちらからしたら動きはまだ予測できるから対応できて直撃をしているが、機体の装甲が硬すぎてまったく効いてない。

 

 『良い腕してるなキョウシロウ!!』

 「やっぱりミヨシさんですか!!」

 

 直撃しても掠り傷さえ受けないジャックは避ける事をせずに突っ込んできて太刀を振るう。ギリギリのところでかわして頭部バルカンを擦れ違い様にコクピットにぶち込む。

 

 『かっはっ!テメェコクピットばかり狙いやがって…化けもんが!』

 「こちらの攻撃がまったく効いてない化け物機体に乗っといて何を!!」

 『違ぇよ!テメェの腕の話だよ』

 

 放たれたトライブレードを撃ち落して少しでも艦隊より距離を取るように飛ぶと思惑に気付かずに馬鹿正直について来る。

 

 『イレギュラーは己のメイン機体に合わせた肉体を持つ。アリスは狙撃能力が高く、俺は機体レベルが低い為にそこまでじゃないが刀の腕が良い。だがお前は機体を操る操縦技術に反応速度、射撃の命中率の高さとかなり高スペック。その上ニュータイプ適性まであるだろお前!贅沢すぎんだよテメェ!!』

 「そんな事言われたってさぁ!」

 『って言うかテメェの機体を出しやがれ!!』

 

 怒号を発し続けるガンダムジャックを引き付けて少しでも時間を稼ごうと戦い続ける。勝てることの無い戦いを…。



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第37話 『目には目を。歯には歯を。銃には銃を。ならチート機体には?』

 地球降下作戦を進めるエゥーゴと降下作戦を阻むティターンズとの戦闘はティターンズが有利に事を運んでいる。戦艦十一隻とMS六十四機に対して戦艦八隻にMS四十六機とエゥーゴの戦力の方が数的には有利なのだが、降下用のバリュートを装備している為に機動力も落ちている。それにこの状況でも降下作戦は続けているのだ。

 

 「降下隊の状況は!?」

 『半数が降下準備ラインに到達。四十機は行かせたいところだが…』

 「きっついですよね。これじゃあ」

 『余所見とは余裕なんだな。オイ!!』

 

 何とか生き残っているスラスターを吹かして無理やり体勢を動かして銃弾を回避する。すでに鏡士郎のジム・コマンドは左腕に右足を失って、各部に異常をきたしている。残っているのは手にしているマシンガンひとつ。マガジンを交換する事も出来ずに、ビームサーベルで接近戦を仕掛けるわけにも行かずにただ注意を引く事のみを目的に戦闘を続ける。

 

 「せめて阿頼耶識でもあればなぁ…なんていってられないか」

 『大佐!』

 

 飛び込んできた声に反応して振り向くと試作の降下用のフライングアーマーという飛行機に似た乗り物に乗ったカミーユのガンダムMk-Ⅱがビームライフルを放ちながら突っ込んでくる。対峙していたガンダムジャックはビームを掠りながらも距離を取る。

 

 『大丈夫ですか!?』

 「僕は大丈夫だけど機体がまずいってこっちに来て大丈夫なの?」

 『フライングアーマーの速度があれば…何とか』

 「ごめんね。時間稼ぎはこっちの仕事なのに」

 『いえ、…来ます!』

 「奴と接近戦は避けて。パワーの差がありすぎて掠っただけでも腕の一本は軽くもげるから」

 『―ッ!了解』

 

 ガラクタ寸前の機体と新型のMSがチート機に挑む中、エゥーゴは陣形を乱され始めていた。降下隊に入っていたクワトロ大尉とアポリーとロベルト両中尉はギリギリまで戦闘に参加。カクリコン隊を含むMS隊を退けたが途中で参加した初の可変型MS…木星帰りのパプティマス・シロッコのメッサーラと対峙して足止めされ、バリュートを破損させて防衛組みに参加させられたエマ・シーンはライラ隊の攻撃に晒され、防衛隊はシェリー少佐の隊に押され始めていた。

 

 鏡士郎の頭の中では勝機はまだあった。それは自身のカトウフリートからの援軍。ガンダムジャックは驚異的な機体であるがパイロットの腕はそれほどではないと思う。エースパイロットと呼ばれる者には技量で負けて、機体性能で押し切っている感がある。今だってフライングアーマーの速度を生かした射撃戦術でカミーユが優勢で戦闘を続けている。腕の良いパイロットを数人掛りで仕掛けさせるか数で攻めれば絶対に勝てるのだ。かなりの犠牲は覚悟しなければならないが…。

 

 しかし艦隊が到着する予定時刻までまだ少しある。このままだと守りきれずにエゥーゴ艦隊は壊滅。最悪の場合はエゥーゴを劣りに撤退を開始しなければならない。

 

 『―さ』

 

 無線より聞き覚えのある声が聞こえたような気がした。気がしたってだけだと判断して戦闘を続ける。カミーユに追われるガンダムジャックに数発撃ち込むと反撃を貰ってしまい、残っていた片足を失ってしまった。

 

 『キョウシロウ大佐!!』

 「え?イ、イリアちゃん!?」

 

 先の声が気のせいではなく実際に聞こえたものだった事とここに居るはずのないイリアちゃんの声が聞こえた事の二つで驚き、危うく操縦桿から手を滑らしそうになった。

 

 『ちゃん付けで呼ばないで下さい』

 「いや、そんな事より何故?なんで?どうして?」

 『同じような疑問用語を三つも並べないで下さい。ハマーン様より預かった物をひと先早く持ってきたんです』

 「持ってきたって何を―――ッ!!」

 

 理解した。

 

 『何か』なんて聴く必要はない。ただ感じた。あの機体を…。

 

 「カミーユ君!三分もたして!!」

 『え!?りょ、了解です!』

 『何処に行きやがる!?』

 

 残った燃料を使い切るようにスロットルを入れて、バックパックよりスラスターが一気に噴出される。機体が壊れようともそこまで持てば良い。何事か理解はしていないが、戦闘から逃れる鏡士郎を追ってガンダムジャックも追撃してくる。何とかカミーユが足止めだけでもと踏ん張っているが突破力はあっちのほうが上だ。

 

 多少の攻撃は無視して標準をこちらに向ける。マシンガンだけでは避けられると学習したのか太刀を構えて『スラッシュテンペスト』を放とうとしていた。

 

 『逃げてんじゃね―――っチィ!?』

 

 撃ってくるはずのないジム・コマンドが向かった先よりビームが放たれる。主砲ではなくMSサイズだがここに展開するエゥーゴは居なかったはずだ。なのに何故と疑問に思いながらモニターを望遠に切り替えると、ショルダーが巨大化した赤いゲルググがビームライフルを向けていた。

 

 『リゲルグだと!?ジオンの機体じゃねーか!!』

 『そこの白いガンダムタイプ!黒いのを挟み撃ちにする。手を貸せ!!』

 『言われなくとも!!』

 

 前後から撃たれるビームを回避しようとするが二機とも妙に当たってくる。狙いが正確なだけではなく、こちらの回避先を多少ながら感知している感がある。ミヨシは軽く舌打ちをして忌々しげに睨み付ける。

 

 『ニュータイプってやつぁ本当ーに厄介だな!』

 

 斬りつけようかと距離を詰めようとすると距離をとられ、もう一機の援護射撃によりバックパックを破壊される。破壊されようとも多少の損傷ならリペアスキルで秒毎に回復するから気にしなくても良い。それよりなにより今はあのジム・コマンドを見つける事が最優先だった。

 

 「…久しぶりだね。僕のヅダ」

 

 鏡士郎はジム・コマンドのコクピットより跳び出して、イリアのリゲルグが牽引してきたヅダに優しく触れる。モノアイが輝き、主を受け入れる為にコクピットを開いた。久しぶりのヅダのコクピットに喜びながら、ハッチが閉まると同時にノーマルスーツを脱いで背中の阿頼耶識を接続する。比喩としては頭の中にピリッと電流が流れる感覚を味わい、大きく息を吐き出す。

 

 「―行こうか」

 

 今まで乗った機体で感じた物足りなさを感じない加速を行い、一気にガンダムジャックとの距離を詰める。反応も出来なかったジャックは通り過ぎたヅダを見送る事しか出来なかった。

 

 『おいおいおい!早いだけの欠陥品じゃねーか!?つーかどんな速度を出して…』

 

 自分が気付けなかっただけと甘く見たミヨシはジャックの右腕が斬りおとされている事に気付いて口を閉じる。機体の性能もそうだがあの一瞬で斬りつけたなんてありえない。

 

 「カミーユ君は降下地点へ!イリアちゃんは本隊と合流を!アイツは僕が相手をするよ」

 『だからちゃん付けをしないでください!』

 『…凄い。………了解しました。御武運を』

 「そっちもね…って逃げるな!!」

 

 二人に指示を出した隙にガンダムジャックは踵を返して逃走を回避した。ミヨシは戦いを楽しむが自身のチート機体でも歯が立たないチート機体&チートパイロットを殺しきれない装備で戦おうとは思わなかった。一時撤退して対策を考えなければと彼なりの苦渋の撤退だった。だけどやられっぱなしだった鏡士郎がそれを許すはずもなし。

 

 『なんつぅ早さだよ。おい、お前ら!アイツの足を止めやがれ!!』

 『ミヨシ大佐!?どうされたので。ここは――』

 

 距離を取ろうと向かった先にはハイザック隊が居り、ヅダの足止めを命じたのだが足止めをする間もなく通り様に真っ二つに切り裂かれて爆散した。

 

 「逃がさないと言った!!」

 『はっはー!どこのキラ様だテメェはよ!!』

 「パイロットを生かす器用な戦い方は僕には出来ないよ」

 

 ミヨシは逃げる事も戦って勝つ事も諦め、大気圏の近くを航行中のアーガマを目指す。あれを人質にして奴の足を止めればと考えたのだ。防衛戦は無視して突破して左手で太刀を艦橋に向ける。右腕はあと3分もしたら完全回復できるだろうと確認だけして視線をヅダに向ける。

 

 『サーシェスの言葉を借りるならこのアーガマは物質って奴だ。大人しく――』

 「堕ちろガンダム!!」

 

 先ほどまで外見はただのヅダだったはずなのに両肩にはサザビーのファンネル、腹部には同じくサザビーのメガ粒子砲発射装置、バックパックには右側にシールドビットなどのオプションパーツが展開され、次に左側に展開された六連装ミサイルポッドから躊躇いもなくミサイルが放たれた。迎撃の為に太刀を手放してマシンガンを放とうとするが腹部から撃たれたメガ粒子砲で腕ごと焼かれ、直前に飛ばしたドライブレードはファンネルによってすべて撃ち落された。圧倒的性能差を見せ付けられ身動きできなかったガンダムジャックにミサイルが分裂して直撃する。パーツ外し効果を上げているので胴体以外のパーツだけに直撃して爆発して言った。いわゆるダルマ状態となったガンダムジャックの胴体にヅダが突撃をかましてきた。今まで出せる事のない加速とGに身体を締め上げられるミヨシは薄めを開けてモニター越しに睨みつける。

 

 「ここから…」

 

 殴りつけるようにぶつけられた右腕にブリッツのロケットアンカーが展開される。

 

 「ここから出ていけぇええええ!!」

 

 右腕が伸びきると同時にロケットアンカーが発射されてガンダムジャックは成す術もなく地球へと吹き飛ばされた。

 

 『覚えてやがれよ鏡士郎!次に会ったときにはテメェをぶったおしてヤラァ!!』

 

 大気圏の摩擦に焼かれる機体より発せられた言葉を聞いて、鏡士郎は踵を返す。まだエゥーゴとの任務中なのだから。 



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第38話 『地球へ』

 エゥーゴ降下作戦阻止の指揮を執っているジャマイカンは苛立ちを隠せないでいた。艦隊の数もMSの数も同等だとしてもエゥーゴは降下するために戦力を割いていて全軍を対応させれない。それにこちらはイレギュラーズであるミヨシが居るのに戦況はティターンズが劣勢に立たされていた。

 

 「ええい!何をやっているのだ。何を!」

 「て、敵のMSが強すぎまして突破が出来ず…」

 

 アレキサンドリアのモニターには戦場を駆ける水色のMSが映し出されていた。一年戦争時に欠陥機として知られたヅダだという機体の情報はすぐに検索できた。が、目の前に映る光景はその情報とかけ離れたものだった。

 

 ハイザック隊のマシンガンを容易く避けたと思ったら目が追いつかないような速度で直角に移動し、気がついたら二機を切り裂いていた。残った一機が背後から襲い掛かるとまるで後ろに目でもあるかのような反応で回避して流れるように斬り返していた。

 

 「くそお!!たった一機のMSごときに……ミヨシは何をしている!!」

 「そ、それが…先ほどから反応が無く……」

 「何だと!?MS隊の指揮権を寄越せと言ってこの様か!!奴が言っていた援軍はまだか?」

 「はっ、もうすぐ到着予定です」

 

 ジャマイカンはミヨシの事を好いてはいないが今回は準備の良さに奴の手腕を認めざる得ない。ブライト・ノアのテンプテーションを使った罠を張り、時間を稼ぐ事で援軍の到着を間に合わせた。そして間に合わなくとも艦隊だけでも潰そうと旧型のサラミス級三隻とジム・キャノンを積み込んだアレキサンドリア級ハリオがこちらに向かって来ている。すでに降下部隊を大気圏に突入させ、防衛にまわしていたMS隊は損傷、もしくは疲弊している。

 

 「これでハリオが合流すればエゥーゴの艦隊は壊滅させれるな」

 

 MS隊を逃した事は痛いが、すでにジャブローには仕掛けが施されている。引越しの終えた基地の一部を核爆発させるという…。これによりエゥーゴの降下部隊は壊滅。宇宙艦隊は自分の指揮の下で殲滅。ジャブローを核攻撃したという情報を流して信用を落とせばブレックス・フォーラひとりでは何も出来まい。後はカラバさえ叩いてしまえば主立って反抗活動をするものはいなくなる。

 

 「ジャマイカン少佐!艦隊を確認しました」

 「やっと来たか。これでエゥーゴの宇宙艦隊は終わったな」

 「しかし妙です。数が合いません」

 「なに?何隻だ?」

 「四…いえ、六……十五隻!?」

 「多すぎるな。モニターに映せ」

 「距離があって荒れますが」

 「かまわん」

 

 戦場を映していたモニターが真っ暗な宇宙空間を映し、ハリオを含めたサラミス級三隻が映っていた。味方の艦隊にホッと安堵するとモニターが光に包まれた。何事かと険しい顔つきで睨みつけるとサラミス級の一隻が大爆発を起こした。背後より戦艦の主砲らしきビームが飛び、ハリオがMS隊を発進して迎撃させようとしていた。

 

 「こ、後方を映せ!!」

 

 席を立ち上がり怒鳴りつけたジャマイカンの指示に従いさらに奥を映し出す。そこにはグワジン級を中心としたジオン艦隊の姿があった。

 

 「後方の艦隊はジオン艦です!!」

 「見れば分かる!」

 「ハリオより助けを求められております!」

 

 ジャマイカンは指示を飛ばすことよりも目の前の現実に呆然とした。何故こうなったのか?何故奴らは…と。

 

 

 

 

 

 グワジン級大型戦艦『グワリブⅡ』の艦橋からアナベル・ガトー中佐はエゥーゴとティターンズの戦闘宙域である地球降下ラインを睨みつける。

 

 「よもや再びここに来るとは…」

 「何か?」

 

 デラーズ・フリートの時に行なった星の屑を思い出して呟いた独り言に艦長のエイワン・ベリーニ少佐が反応した。少し困ったような表情をして答える。

 

 「いや、星の屑を思い出してな」

 「それは…」

 「感傷に浸っている場合ではないか。攻撃開始を」

 「ハッ!全艦対艦砲撃戦よぉい!!」

 「くれぐれもエゥーゴの艦隊には当てるなよ。掠めるぐらいでいいんだ」

 「了解です。撃ち方始め!!」

 

 グワリブⅡを中心にザンジバル級機動巡洋艦2、チベ級重巡洋艦1、ムサイ級巡洋艦後期生産型3、パプア級補給艦2、ムサイ級軽巡洋艦2のカトウフリートの艦のほとんどが主砲を眼前の援軍らしき艦隊に砲撃を開始した。

 

 カトウフリートは徐々に勢力を拡大して大規模なMS隊を手にする事も出来たが未だ物資不足なのは変わりない。今回の作戦はカトウフリートの力を見せつけティターンズの行動を制限する目的もある。こちらがこれだけの戦力を持っていると知れば早々手は出せないし、エゥーゴの件もあり宇宙軍は動き辛くなるだろう。

 

 「続いてMS隊発進!!」

 『リリア隊発進します』

 『マルコシアス隊出ます』

 

 各部隊が発進する掛け声を耳にしながら戦況を見つめる。『頭でっかち』より発進されたジム・キャノンをマルコシアス隊のアンネローゼ・ローゼンハイン准尉が乗るサイコミュ試験用ザク『ビショップ』と元マレット隊のリリア達ベテラン勢に瞬殺される。

 

 カトウフリートのMS隊にはリック・ドムⅡや高機動型ゲルググなども見受けられるが大半がザクかドラッツェである。これはMS建造の物資不足が原因である。ただドラッツェに関してはキョウシロウの指示で従来のバルカン砲からガトリングガンに変更されて火力と射程の強化を計られている。最新鋭気と言えばアクシズより贈られたイリア少尉のアクシズの最新技術で改修されたリゲルグとこのグワリブⅡぐらいなものだ。

 

 「ガトー中佐!大佐より通信が」 

 「繋いでくれ」

 『お久しぶりですガトー中佐』

 「ご無事で何よりです大佐。久しぶりのヅダはどうですか?」

 『もう最っ高だよ。手足より馴染む感じ』

 「それは何よりです。で、これからの指示を頂きたいのですが」

 『うん。艦隊はその場でエゥーゴ艦隊の撤退援護を。任務完了後撤退。道中で別ルートで帰るフィーリウス少尉達と合流してね……ってちょっと待って』

 

 通信が切られると望遠で映した映像には襲い掛かったジムⅡ隊の相手をしていた。その動きに見惚れてしまう。人とは思えない超反応にスラスターの光が伸びて宇宙空間に線を引くような加速。決して他のパイロット、機体では再現しようのない動き…。見とれているのは何もガトーだけではない。この場に居るほとんどの者がそうだろう。

 

 しかしそのヅダが妙な動きを開始した。何故かエゥーゴ艦隊の横を通り過ぎて降下ポイントに向かって行く。

 

 「大佐。キョウシロウ大佐。応答してください」

 『あ、ガトー少佐。行って来ます』

 「まさかとは思いますが地球へですか?大気圏突入装備も無しに無理です」

 『大丈夫ですよ。時間経過で回復しますし、装甲だって厚過ぎですから。それにヅダも行けるって言ってくれてますし』

 「…………」

 『行って来ます』

 「本当に出来るんでしょうね」

 『うん。僕はまだ死ぬきないよ。まだまだやりたい事いっぱいあるんだから…その為に降りてくるよ』

 「……分かりました。留守の間は私がなんとしても守りましょう。ですから地上はお任せします」

 『じゃあ、行って来るよ』

 

 気軽に出かけるような感じで言っていた感じから自信に満ちた言葉に変わった事でガトーは諦めた。どうせ止めてもやるだろう。ヅダの大気圏突入時のデータ収集だけを命じてヅダを見つめる。

 

 大気圏に突入して赤く染まって行く機体を見つめるが問題ないと確信する。なにせあの機体は自分達の常識を外れた機体なのだから。また大佐のむちゃが始まったかと微笑む艦橋内で通信士だけが緊張の色を濃くした。

 

 「キョウシロウ大佐はどちらに向かって降りられるので?」

 『んー…ジャブローかな』

 「だとしたら大分ずれていますよ!?」

 『え、どっち!?』

 「え!?どっちとも言われても降下時の軌道計算は…」

 『大まかで良いから教えてぇ!』

 「ひ、左です!!」

 『こっちだね』

 「そっちは右です!あ…」

 

 方向を間違えて降下している大佐との通信が切れて、顔を青くする通信士はどうガトー少佐に報告しようか頭を痛めた…。




 


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第39話 『重力の井戸へ』

 第195物資集積所。

 

 アフリカ大陸にある砂漠の真ん中にぽつんとある連邦軍の物資集積所。アフリカ大陸は一年戦争で地球へ降下したまま残った…宇宙に上がれなかったジオン残党が多く潜む地だ。ゆえに中規模程度の基地にしてはMS配備数は多い。警戒にあたっている砂漠使用に改修されたジム改が1個小隊に量産型ガンキャノンが一個小隊。MS格納庫には同じく改修されたジム改二個小隊にデザートザク一個小隊が収納されていた。物資集積所というより大隊指揮所と呼んだほうが正しいような基地である。

 

 そんな基地を遠くの丘から望遠鏡を使って眺める一団が居た。望遠鏡を持っているのは二人。ひとりは髪を後ろで纏め上げた大柄で見るからに武人を連想させるような男。もう一人は頭にターバンを巻き黒ずんだマントをつけている褐色の男。両者とも歴戦の戦士の風格を漂わせ、ジオン公国軍の制服を着用していた。

 

 「いつ見ても忌々しい位置に陣取っているな。あの基地は」

 「アースノイドが忌々しいのは今に始まった事じゃないが、それに輪をかけて忌々しいな」

 

 望遠鏡で覗いていたのはキョウシロウ・カトウによって救出され、そのままカトウフリートの一員となったレンチェフ少尉と一年戦争時に降下作戦で地球に降りてから今日までジオン残党の部隊を率いてきたデザート・ロンメル中佐であった。丘には他にも付近を警戒しているジオン兵とレンチェフと共に地球へと降りたソフィ・フラン少尉の姿もあり、丘の裏にはMSが見えないように屈んで待機状態になっている。機体はロンメル中佐のドワッジ改にレンチェフ少尉のグフ・カスタム、ソフィ少尉のドム・トローペンの三機。後は数台の装甲車があるだけだ。

 

 ロンメル中佐率いるジオン残党軍『ロンメル隊』はカトウフリートの助力を得てMSの補充や拠点の確保に成功したが食料や弾薬の確保には事欠いていた。というのも以前から使用していたルートにあの第195物資集積所が建てられたからだ。建てられる前から阻止作戦を展開したが当時はもう一個大隊とビック・トレーまで張り付いており、阻止が出来なかったのだ。完成してMS数は減ったものの拠点の守りもあり攻略にはロンメル隊だけの戦力では不可能なのである。

 

 「で、なんといったか貴様の指揮官は?」

 「キョウシロウ大佐ですよ」

 「本当にやれるのか?」

 「大丈夫ですよ。なにせソロモンの悪夢のお墨付きのですから」

 「フン。何にせよ拝見させてもらおうか」

 

 鼻を鳴らしてから基地から視線を外す。丘からそう遠くない地点に窪みがあり、ロンメル隊を待機させているのだ。デザート・ザク2機にドム・トローペン1機、そしてカトウフリートより贈られた新品のドワッジ2機にドラザク改3機の合計8機のMSを。

 

 ドラザク改とはドラッツェの上半身とザクⅡ改の下半身を繋ぎ合わせたものである。カトウフリートはMS不足をドラッツェ強化型で補おうとしている中でロンメル隊への補給として急遽組み合わせたものだ。ドラッツェの軽装甲とザクⅡ改の下半身に取り付けられたスラスターによって足場がある戦場での機動力は確保できている。しかし、上半身は本当に軽装甲なのでロンメル隊が改修を行なったが…。

 

 MSの数は15対11で何とかなりそうだが長距離用の砲台5基と中距離支援MSの砲撃から数を保ったまま近づけるかと聞かれればノーである。なんとしてもあの基地を排除して補給路を確保したいところではあるが手出しできない。そんな状況が続いていたが…。

 

 「さて、時間だな」

 

 腕時計を確認して基地へ視線を向けると同時に大きな銃声が響き渡った。MS用の射撃音が…。

 

 

 

 

 

 

 ロンメル隊よりも離れた位置から第195物資集積所を見つめる一機のMSが居た。岩場で身を隠し、対艦用ライフルを構えている。この距離では最新の連邦・ジオンの狙撃用MSでも届く事のない射程外。だが、彼と彼のMSになんの関係もなかった。

 

 「さぁてとお仕事お仕事っと」

 

 作戦時刻が来たことで楽にしていた姿勢から起き上がり、狙撃用のスコープを覗き込む。ターゲットスコープに映るのは警戒中のMSでも長距離用の砲台でもない。狙いはMSが格納されているであろう格納庫の装甲車二台分上ほど。

 

 「これぐらいっと。――加東 鏡士郎。狙い撃つぜぇ!なんてね」

 

 ロックオン・ストラトス風に叫ぶと同時にトリガーを引く。放たれた弾丸は風を無視して突き進んでいったが重力の影響で下へと落ちる。が、威力が強すぎて装甲車二台分ほど下に落ち、格納庫の屋根中心を削いでいった。中心の支えを失った格納庫の屋根は崩壊し、内部へと落ちていった。

 

 「良し。次々♪」

 

 狙い通りに直撃した事に笑みを浮かべながら残り二つの格納庫を同じように狙撃した。屋根は崩れて瓦礫の山がMS隊に降り注ぐ。これで三個小隊は動けなくなり、残りのMSは二個小隊のみとなった。

 

 対艦用ライフルを背に止めてヒート剣を取り出しスラスターを吹かす。地面を歩くとか、スラスターの出力でホバー移動するのではなく、大気圏内で飛行したまま向かっていた。

 

 ようやく警報を鳴らして大砲を向けてきたが向かっている鏡士郎とヅダを止めるには弱すぎた。

 

 ショルダーシールドに装備されたシュツルムファウストを放って吹き飛ばしながら速度をさらに上げる。量産型ガンキャノンの砲撃も加わるがまったく当たらない。ジム改が格納庫のほうに移動した事から瓦礫の撤去作業を行なおうとしているのだろう。

 

 無意味であるが…。

 

 ダメージをまったく受ける事無く基地に突入したヅダは通りざまにガンキャノンの頭部を刎ね、勢いで転倒させる。他の2機は慌てて対応しようとするが1機はロケットアンカーで胴体をつかまれて右腕のパワーのみでジム改の方向へと放り投げられた。どうなったかを確認しないまま残った1機に近付いて左拳をコクピットへと打ち込む。打ち込まれたコクピットは大きくへこんで機体は動かなくなった。

 

 ガンキャノン小隊を潰して今度は残っている4基の砲台を見つめる。基地内に入られた事で向けても撃つことの出来ない砲台へと六連装ミサイルポッドを撃ちまくった。良すぎる誘導性能を持った弾頭により砲台辺りだけが爆発を起こして基地の攻撃能力を無力化した。

 

 残るはジム改一個小隊だけだがそのうち1機は投げ飛ばしたガンキャノンの下敷きとなって動けずにパイロットが脱出していた。残る2機はマシンガンを向けて応戦しようとしたがその前に腕ごとマシンガンを切り落していた。あまりの速さに目が追いつかなかったパイロットは呆然とする。

 

 「これで全部かな?……連邦軍に告げます。降伏してください。命と身の安全だけは保障します。もしまだやるというのなら…」

 

 ここまで一方的にやられた連邦軍は抵抗などせずに降伏をした。満足気に笑みを浮かべて鏡士郎は地球に降りてからの初仕事達成を喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 第195物資集積所で起こった戦闘と呼べるか怪しいものを見たロンメル隊の面々は口を大きく開いて唖然としていた。隊長のロンメルを除いてだが。

 

 「何をしている!向こうが仕事を終えたんだ。次はこっちの仕事だぞ!!」

 

 ロンメルに怒鳴られて慌ててMS隊と装甲車部隊が動き出した。ロンメル自身もドワッジ改のコクピットへと飛び乗る。

 

 「あれがキョウシロウ・カトウか…」

 

 ぼそっと呟きながら先の戦闘を思い返す。人間業でない動きと殺人的加速、物理現象をほとんど無視したような性能。今まで何人かのイレギュラーと呼ばれた戦友を目にしたがその誰よりも強力で圧倒的。馬鹿馬鹿しく思える力にくつくつと笑みがこぼれる。

 

 「レンチェフ達がついて行くことだけはありそうだな」

 

 今回の基地襲撃は急な事だった。手違いとかで地球に降下したキョウシロウ大佐より連絡を受けたレンチェフを通じて合流したいと伝えられたのだ。前々から話は聞いており、少し試してやろうと基地の話をしたのだ。すると…

 

 「物資確保も出来るから一石二鳥だね」

 

 とほざいて襲撃すると言って来たのだ。最初は悪い冗談か何かと思ったが本人がやるというのだから見届けてやろうぐらいの気持ちだったのにこうまでされるとは。

 

 ロンメル隊のMSが無力化された基地を包囲し、歩兵たちが建物内を確認に動き始めていた。連邦の兵は皆殺しにしてやろうかと思ったがすでにキョウシロウ大佐の指示で非武装のトレーラーと二週間分の食料と水を渡されて逃がす事が決まっており、レンチェフとソフィ両少尉が動いていた。

 

 ならば、基地に置いてあるMSを回収して物資を奪って逃げる準備を急がせる。援軍が来てもあのヅダなら何とか出来るだろうがもしものことがある。やるべきことは完了したのだから逃げるに限る。

 

 ロンメル隊とキョウシロウは移動する。彼らの基地へと…。

 



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第40話 『アフリカ・ジオン』

 キンバライト基地

 

 一年戦争前にはダイヤモンドが取れる鉱山で、一年戦争後はアフリカに取り残されたジオン残党によって基地として構築された。『星の屑』作戦の為にも宇宙に帰らなければならなかったアナベル・ガトーを取っておいたHLVで打ち上げ、時間稼ぎをする為に死を覚悟で戦い散った男達の住処。そして連邦に一時的に管理された基地。

 

 地球連邦軍はジオン軍を倒した組織で倒し続ける存在。これが大多数の地球市民の考えのひとつだ。だが、地球連邦軍の一部上層部はそうではない。ジオンを『倒しつつ存続させる』事を目的に動いている。軍隊を維持する人員も戦闘能力を誇示する兵器も莫大な資金と資源が必要となる。国々のトップとしては少しでも規模を小さくして余った資金を別に使いたい考えがある。しかし、現場指揮官としてはそんな事をされてしまえばいつ自分たちがお払い箱になるか分からない。他にも与えられた資金で甘い汁を啜っていた者もそれは阻止したかった。ゆえに『存在』させるのだ。それなりの戦果を出しつつも『ここにはジオン残党が居て軍を凝縮できない』とアピールする。特に海軍は物資や弾薬、資金の一部も流しているところがあるという。

 

 アフリカの地に残ったジオン残党軍『アフリカ・ジオン』の本拠地としてこのキンバライト基地はアフリカの地球連邦軍が『放棄した』と言う事で譲渡してくれたのだ。『アフリカ・ジオン』と名乗ったのはカトウフリートのレンチェフだが。

 

 何にせよ鏡士郎はキンバライト基地で用意された士官室で爆睡していた。

 

 ジャブローに向かおうとした大気圏突入は見事失敗してアフリカに来たときにはどうしようかと頭を抱えた。積んでいた非常食も水も少なく、お金も然程持っていなかったものだからレンチェフと連絡が取れなければ餓死するところだった。

 

 そんなキョウシロウはガンガンと頭に響く痛みを堪えながら冷たい床より起き上がる。痛みを堪えながら辺りを見渡すとそこらかしこで倒れているジオン兵でいっぱいだった。喉が水を欲していた為に水場へと足を向けながら昨日のことを思い出す。

 

 たった一機で基地を制圧したキョウシロウの武勇伝にキンバライトのジオン兵が湧き、久しぶりの潤沢な食料を含めた物資に大喜びして宴会が催されたのだ。息を潜めるように過ごしてきた日々で、娯楽も少ない彼らには絶好の楽しみとなった。酒蔵から大事にとっておいた酒を出し、余裕があると食料からつまみを調理して朝までドンチャン騒ぎしていたのだ。

 

 酒は一滴たりとも飲んではいないのだが周りの酒気に当てられてしまった。ロンメル中佐もレンチェフ飲んだくれて転がっている。ソフィはここにいないことから自室に戻ったのだろう。ふら付きつつも水場まで辿り着いて蛇口を捻る。勢い良く流れ出した水に口をもっていって水を飲む。喉の渇きが消え去り、大きく息を吐きながらその場に腰を降ろす。

 

 「これからどうしようか?」

 

 小さく呟くと痛む頭で悩みだす。先も書いたように本来はジャブローに向かおうとしたのでアフリカに来る予定は無かった。ゆえに何をすれば良いのか分からないのだ。

 

 とは言いつつもお願いはしたのだが。

 

 キンバライト基地はキリマンジャロ基地にも近く、ティターンズの動向を窺うには条件が良い。内部構造の情報も欲しいが入り口や物資の移送ルートだけで良しとしよう。するしかないが正しい。だから監視を頼んだのだ。

 

 これからティターンズの地球最大規模の拠点のキリマンジャロを相手にするにはアフリカ・ジオンは弱すぎる。ロンメル隊の9機に同じ目的で集まったジオン残党軍合計10機程度では圧倒的に数が少なすぎる。カークス隊や様子見をしていた一部ジオン残党軍もこちらに合流したいと意図を見せてくれたが合流しても真っ向から攻めるのでは割に合わない。アフリカ民族解放戦線とも提携を結んだところでも同じだ。手を出さずともエゥーゴがなんとかしてくれるんだろうけどね。

 

 「行けるとこまで行ってみようか」

 

 オーガスタかムラサメ研究所でも潰そうか。何にしてもアフリカ・ジオンの戦力を高めるほうが先か。

 

 先の事に対して満足そうに笑いながらキョウシロウは夢の世界へと落ちて行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 大西洋海上に大型の空母を中心に五隻もの艦が陣形を組んで航行していた。彼らの任務は未だに活動しているジオン残党軍の捜索しているフリである。実際に捜索はしているが情報も無く、何の価値もないような地点を重点的に調べている。下の者は気付かずに仕事に専念しており、士官たちは薄々気付いており、命令を下した上官らは分かって命令を下していた。

 

 海中に視線を向けている中で甲板上に立つ男は分かっていても気にする事無く海を眺めていた。

 

 加東 鏡士郎とヅダにより愛機であるガンダムジャックを大破され、宇宙から地球へと落とされた三好 宗次朗だ。彼は大気圏を突破してそのまま海に落下。衝撃で気絶していたが運良く近くを航行中だったこの艦隊に拾われたのだ。

 

 艦隊の所属は地球連邦軍で、エリート思考の高いティターンズを嫌っている者は多い。ここの者らは宗次朗に礼儀正しく接しているものの、内心では厄介者や邪魔者と罵っていた。が、当の本人が気にもしていない。彼の思考の先には鏡士郎の事しかなかった。

 

 圧倒的な操縦技術に圧倒的な機体性能。自分とジャックでは決して到達し得ない領域にいる存在。ある者なら絶望し、あるものは悲嘆にくれるだろう。しかし宗次朗はそのどちらでもなく、楽しみで楽しみで仕方がなくイライラしている。

 

 「ったく、いつまでこんな無意味な作戦やんだろうな。とっとと陸にあげてほしいぜ」

 

 この艦隊の装備では寄港する以外にガンダムを持って移動することは出来ない。ゆえに任務が終わって寄港するまでここで待機なのだ。今すぐ飛んで行きたいがジャックでは陸地までは届かない。

 

 大きくため息を吐き出して、瞼を閉じるとヅダにやられた光景が鮮明に蘇えってくる。あまりに勝機が見えなさ過ぎて笑えてくる。だからといって一度の敗北程度で諦める精神は持ち合わせていなかった。負けたのなら何度でも挑んで勝機を見つけるのみ。それでも駄目だったら知恵を絞ったり、数少ない戦友と共に戦いに行くのも良い。

 

 想像するたびに頬が弛むが瞼を開けると青い海しか映らない。

 

 「暇すぎる…はやくつかねーかな」

 

 また大きくため息を吐き出して肩をすくめてその場に寝転がるのだった。



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第41話 「アフリカ・ジオン2」

 「熱い……」

 

 キンバライト基地から出た鏡士郎はアフリカの灼熱の大地をデザート・ザクも搭乗していた。外に出ても良い様に頭にはターバンを巻いて、服は長ズボンに半袖を着た上にマントで身体を隠して太陽の光を出来るだけ抑える服装を着ていた。しかしこのデザート・ザクはキンバライト基地にあったものを借りたので。戦闘に差し支えないように整備はされているが温度調整は最低限の旧型しか着いておらず、この暑さに慣れてないものからしたらサウナ以外の何物でもない。

 

 砂漠のど真ん中とはいえさすがに連邦軍の目があるかも知れない地でザクを走破させるわけに行かず、砂漠でも物資を運べるホバートラックの荷台に乗せてカバーで隠している。トレーラーの運転手兼護衛はフード付きのローブを着たソフィである。

 

 『出る前までは楽しみでしかたがないようでしたけど』

 「だって熱いんだもん」

 『もう少しです。我慢してください』

 「うー…ジュース飲みたい。扇風機欲しいよ」

 『無理ですよ』

 

 汗を瀧のように流しながら俯きながら歩は進めるがこちらに着てから茨の園や戦艦、基地内で感じる事のない暑さ滅入るのも無理はないだろう。人工的に管理された人工物内でわざわざ自然の暑さ合わせるよりは人が過ごしやすい温度に合わせるだろう。

 

 キンバライト基地に集まったアフリカ・ジオンは付近の連邦軍と本格的に戦争をするにしても足りないものが多すぎた。一年戦争からこの地で暮してきたから地の利や砂漠地帯での戦闘経験は十分だが、一番に戦力が足りないのだ。MSの数も兵士の数もだ。他には各地点に隠れている同胞との連絡方法や情報共有を計るシステム、陸上戦艦などなど。

 

 鏡士郎は今回はジオン残党軍の『カトウフリート』代表ではなく、傭兵部隊『サーペント・テール』のひとりとして、向かっている先に取引先となるジャンク屋から廃棄されたビックトレーを買い付ける事になっている。戦闘行為が不可能なほど破壊され連邦軍に回収されることなく、その場に放棄された艦を動ける程度には修復して売ろうというのだ。陸上戦艦も欲しているアフリカ・ジオンにとっては願っても無い話だが、買うにあたって『私達ジオンが買います』なんて言える訳はない。ゆえの傭兵部隊『サーペント・テール』という会社を設立したのだ。地球圏の届け出が簡単でよかった。お金は積んだけど…。

 

 ようやく見えてきたビックトレーにやっと休めると安堵しながら近付くとゴテゴテといろんなパーツで組み立てたホバートラックが停車していた。付近には背に二枚のプロペラで浮力を得るように改造した装備を取り付けたグフと、陸戦型ガンダムに似ているがV字の角が無いガンダムモドキが周囲を警戒していた。無線を用いてソフィが向こうの業者と連絡を取り合っている間、外部カメラで付近の様子を観察する。

 

 だだっ広い砂漠が広がる場所にMS2機が展開していれば規模の小さい盗賊は襲ってこないだろうが、力のある部隊なら攻めてきてもおかしくない。その為に二機のMSと向こうのホバートラックより気球が打ち上げられ、観測要員が高高度より警戒している。ジャンク屋と聞いていたがかなり手馴れているようで軍隊経験者かかなりこの仕事でのベテランと見える。

 

 『話は通りましたよ。後はお金を確認するだけだそうです』

 「了解しました。今行きます」

 

 ソフィより連絡を受けて金が詰められたアタッシュケースを二つ持ってコクピットより出る。目の前に広がるカバーをどけながら荷台に着地して太陽の下へ出る。

 

 「あづい…」

 

 サウナ状態のコクピットより熱い熱線に項垂れながらケースを運んで行く。ソフィの前には小太りのおじさんが頭の上のカウボーイハットの位置を直しながらにやっと笑っていた。

 

 「これが代金になります。確認をお願いします」

 「おう。重かったろう坊主」

 「いえいえ、これぐらいなら」

 

 ケースを渡しながら顔を見ると鼻が潰れており、鼻の穴が下ではなく正面を向いて広がっていた。どこかで見たような気がするが思い出せない。さっきから上空を飛行して離れない鷹もそうだが…。

 

 確認中におじさんとソフィの会話から彼らはジャンク屋ではなく『砂鼠』と呼ばれる者だという事が分かった。『砂鼠』とはこの砂漠地帯で無許可にMSの残骸や売れそうな鉄を回収し、業者に売りつけて換金して自分達の生活費に変える人々らしい。

 

 「確かに受け取ったぜ。こいつはおたくらのもんさ」

 

 そう言われてビックトレーを見上げるが三門の主砲は曲がり、左右の砲等はぎりぎり使えそうな損傷具合。艦橋はザクマシンガンを受けたのか穴だらけ。彼らが直したエンジン周りと操縦関係の部品以外は全部手を加えなければならない。ぱっとみ超大型の粗大ゴミにしか見えない。鉄材で売ったほうが楽な気も…。

 

 「何だって!まじかよそりゃあ…」

 

 突然インカムを耳に押し付けおじさんが焦り始めた。見ている方向から気球の観測要員より緊急の連絡が来たんだろう。

 

 「ボクは準備を始めます。状況が分かり次第―」

 「連絡いたします」

 「お願い!」

 

 急いで荷台へと戻り、カバーと機体の間を進んでコクピットへと入る。各部の異常がないかチェックしながら外の様子チェックする。すでにグフとガンダムもどきが交戦の準備を始めている。

 

 『大s……状況を報告いたします』

 「あ、お願いします」

 『現状こちらへMS5機に61式戦車と戦闘車両の混成部隊が接近中。どうやらジムが主力らしいです』

 「って事は連邦軍?こちらの動きが見張られていたのかな」

 『いえ、どうやら盗賊の一種らしいです』

 「盗賊にしては物持ち良すぎない?MSが5機もいるんでしょう?」

 『彼らによると近くの基地に所属していた部隊が装備一式持って盗賊になったそうです』

 「えー……それ本当?」

 『よくあるらしいですよ。士気の低い部隊の盗賊化というのは』

 「頭の痛い話だね。連邦軍にとってはだけど…。で、彼らはどうするって?」

 『盗賊達は装備を置いていけば命は取らないと勧告しているので逃げるそうです。足を止めるべく多少の応戦はすると』

 「了解。ソフィさんはホバートラックで一時退避を。ボクが何とかしてみます」

 『近くで待機しているレンチェフにも連絡しておきます。―――ご武運を』

 「うん、行って来ます」

 

 カバーを吹き飛ばし、姿を晒したデザート・ザクを立たせて相手を睨みつける。61式戦車が九両にバギーにバスーカを抱えた夜盗の乗せたのが4台、砂漠仕様にカスタムされたであろうジムが三機と上半身がジムキャノンで下半身が量産型のガンタンクの――ジムタンク?…が2機。

 

 「グフとガンダムもどきのパイロットさん聞こえますか?」

 『聞こえてるよ』

 「失礼ですけど腕の自信のほどは?」

 『私はそれなりにですけどショーンのほうはかなり』

 『これでもリビングデッド師団の生き残りなんでね!』

 「リビングデッド師団のショーン…あ!そういう…」

 『何だよ?』

 「いえ、とても心強いと思って」

 『心強いってこの状況で…』

 「良い様に考えましょう。これで勝てたらMS五機の残骸と多数の車両のパーツが手に入ると」

 『それは良い商売が出来そうだな。出来たらだけど!』

 「ははは、では行きましょうか!」

 

 デザート・ザクを中心に三機のMSは戦闘を開始した。鏡士郎は戦闘よりもサンダーボルトのキャラクターに出会えた事に喜びながら。



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