ブラコン•ブレット (ふんぼぼぼ)
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現代
朝起きるの辛いのってなんなんだろうねあれ
カーテンから差し込む柔らかな朝日を顔に浴び、何度か布団の中でモゾモゾと、来たる一日を拒絶せんと無駄な抵抗を続け、五分ほどして、ようやく里見蓮太郎は布団から顔を上げた。
蓮太郎は天童民間警備会社で働いている高校生だ。そう、彼は民警なのだ。
だから仕方ないのだろう。
たとえ日付が変わろうという夜の十二時に「久々の依頼よ!」なんて電話で叩き起こされるのも。
真夜中に、どこにいるかもわからない猫一匹探さなきゃいけないのも。
挙句、その報酬が一万円札一枚なのも。
「こういう地味な活動が、ボデイブローのように効いてくるのよ!」とか、アホかと。
確かに効いてくるだろう。主に蓮太郎の目の下のクマに。
ついでに蓮太郎の胃に。
生まれついての不幸顔にダブルパンチである。
テクニカルノックアウト寸前である。
天童民間警備会社の社長であり、容姿も優れた木更が、労いの言葉とお茶の一つでも勧めてくれるならば、頑張る気概も湧くというのに。
すゝめてくるのは学問である。六十近いおじさんである。
心底、民警はブラックだと思う。これに比べたら、あのWATAMIも真っ白に思えてくるから不思議だ。
おかげで蓮太郎は今日もまた、どんよりとした気分で行動を開始した。
まずやることは朝食の準備だ。
お湯を沸かし、豆腐を投入。味噌汁を作るのと同時に、フライパンに油を引き、ベーコンをいれ、卵を二つ、重ならないように落とす。
白身が固まり始めたら水を入れ、蓋をすることで、水蒸気で卵の上の方にも熱を伝わるよう蒸していく。
蓮太郎的には、目玉焼きの黄身は固めが好みなのだが、同居人的には、半熟以外認められないのだとか。
ちなみに、二人ともソース派。塩?知らんな。
実はゆずぽんも結構好きだったりする。ケチャップは邪道。
醤油は・・・まあ普通。
閑話休題。
出来上がった目玉焼きを皿に移し、ベーコンを添える。
味噌を溶かし、ネギを入れたら、完成した味噌汁をお椀によそう。
既に炊き上がっているお米を盛り付け、ご自由にどうぞとばかりに納豆と海苔を並べると、あっという間にゴキゲンな朝食の完成だ。
もうそろそろ延珠を起こすか...。
「延珠、そろそろ起きろ。遅刻するぞ。」
同居人であり、民警としてのパートナーである藍原延珠の肩を揺らす。
かなりの早起きであるはずの彼女がまだ目覚めていないのは、ひとえに昨晩の夜更かしにある。
女子児童から大きなお友だちまで、広くファンを持つ赤穂浪士魔法少女萌え系アニメ、「天誅☆ガールズ」の大ファンである彼女は、暇を見つけては天誅☆ガールズのBlu-ray版を鑑賞している。
現在セカンドシーズンも放映しており、ファーストシーズンも合わせればそこそこの数の円盤が好評発売中である。
昨日も、蓮太郎が猫を探しに家を出るときから帰ってくるまでの間、ずっとテレビの前に座り、第一話から四話までが収録されている天誅☆ガールズ Blu-ray第一巻(初回生産限定版)を鑑賞していたようなのだ。
赤穂浪士と魔法少女という謎の掛け合わせに加え、マジックアイテムとは名ばかりの、鈍器や刀剣の類いでもって繰り広げられる、討ち入り上等復讐メインの血なまぐさい群像劇のどこに女子小学生がハマる要素があるのかは分からないが、とにかくそういう訳で、彼女はいつもより遅いこの時間まで眠っていたのだった。
「んぅ・・・んん?れんたろぉ?」
「おう、おはようさん。朝飯できてるぞ。」
「うむ・・・」
のそりのそりと起き上がった延珠は、寝ぼけ眼のままふらふらと、洗面所へ向かって歩いて行く。
・・・なんとも危なっかしいが、まあ顔を洗い始めれば目も覚めてくるだろう。
そう結論付けた蓮太郎は、自らも学校へ向かう準備を始めた。
またしばらく消えます
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表舞台の裏の裏
「また失敗したみたいだな」
暗闇に、低く嗄れた声が響く。
全身を黒のスーツに覆ったその男は、部屋の一面に取り付けられた大きなモニターを眺めていた睡蓮に向かって続けた。
「これで何度目の失敗だ?もういい加減に諦めようぜ。そろそろ五翔会の連中も勘付き始めてるだろうしな」
モニターの中では恐らくステージ2ほどであろう、馬と鹿の入り混じったような姿形をとるガストレアが暴れ、自身を取り囲む檻を破壊せんとしていた。
「
「もう聞き飽きたぞ、その御託は。
そら、早く行かんとまたガストレアに逃げられるぞ」
ふと画面を見ると、今まさに鉄の檻をぶち破りそのまま扉を破壊して逃げようとするガストレアの姿があった。
「いっそバラニウムの檻に入れて、失敗したら始末したほうが楽かもね」
「馬鹿野郎。ガストレアの生け捕りがどんだけ大変だと思ってやがる」
「ステージ2だし?」
ガストレアのいる部屋を目指し、照明の少ない廊下を走りながら、二人は話を続ける。
「おクスリ代も馬鹿にならなくなってきた。俺たちの他にもトリヒュドラヒジンを買い漁る奴らがいるらしくてな」
「・・・何のために?」
「さあな。もしかしたら俺たちと似たようなことを考えてる変態が他にもいるのかもしれん」
「ただのパーティ目的であると願いたいね」
「今時トランスパーティなんて流行らんだろう」
走り始めて数分経つ頃には、目の前に機械的な扉が見えていた。
恐らくあの奥にガストレアがいるのだろう。時折、爆発にも似た衝撃音が聞こえてくる。
「ここまで来て聞くのも何だけど、いつもの子供は?取り押えるのがあの子の役目でしょ?」
「今日はお休みらしい。なんでも、友達と赤穂浪士物の映画を見に行くらしい。ウキウキしながら出て行ったぞ」
「・・・あの子、友達とかいるのか。しかも渋めの」
「お前とは違って社交的だからな」
「・・・なんか虚しくなってきた。早く終わらせて
「そんなこと言ってるから嫌われるんだぞお前・・・」
その時、ドゴォォン!という轟音を立てて扉が破られた。
立ち昇る煙の中からゆっくり現れる、馬とも鹿とも分からぬ姿のガストレア。
まるで血を求めるかの如く、その双眸は赤く染まっている。
身構える二人の間を何度か視線が行き来したかと思うや否や、狙いを定めたのか、頭を下げ、その獰猛な角を前に向け、今にも突進せんと、そのしなやかな脚部を怒張させていた。
「そういえば、生でお前の戦闘を見るのはこれで2度目か。まだあの恥ずかしい口上は続けてるのか?」
「もちろん我が最愛の弟である蓮太郎に倣って続けてる。あと、巻き込まれないよう気をつけて」
言うが早いか彼おんなの纏う雰囲気が一変した。
身体は相手の斜向かいに、腰を落とし、構えるは百載無窮。攻防一体の型
「天童式戦闘術皆伝」
スッと細められた眼が赤く染まっていく
「ステージI ガストレア モデル”ヒューマン”」
口上は高らかに、己が身体を化外へと変貌させる。
「里見睡蓮、尋常にお相手仕ろう」
斯くして観客は独りごちる。
「やっぱ厨二チックだなそれ」
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たまに急に不安になるよね。
ここでオリキャラ投入。わっしょいわっしょい。
里見蓮太郎は勾田高校に通う高校一年生である。
通学には主に自転車を使用しており、雨や雪が
降らない限りはそのスタイルは変わらない。
そして後部席に延珠が座ることも、また変わらない。
蓮太郎の借りているアパートと勾田高校の間には、延珠の通う小学校が建っている。そのため、蓮太郎にしてみれば一石二鳥ということで、毎朝延珠を乗せて高校へ向かうのだ。
二人乗りは禁止ですよーという常識は彼方に消え、
二人は今日もまた、いつもと変わらない通学風景の一部となる。
勾田高校へ向かって進む蓮太郎の自転車は下り坂に差し掛かっていた。この坂を下ると、すぐに小学校が見えてくる。
風を切って進む自転車。
それが心地よいのか、気分良さげに延珠が声を上げる。
「ローマだ!何と言ってもローマなのだ!」
妾がアン王女!と声高々に、蓮太郎の自転車の後部座席で延珠がはしゃぐ。
前に見た映画、「ローマの休日」の影響だろう。
アン王女と新聞記者ジョーのランデブーは、延珠にとっては憧れるような素晴らしいラブロマンスなのかもしれない。純愛なのだろう。マセてるとはいえ、まだまだ恋に恋するお年頃なわけだし。
あの名作を「要は出会って1日で即ハボだろ?純愛とかwwスイーツ脳ワロスww」と考える汚いオトナにはなって欲しくないものだ。別に、蓮太郎がそう思ってる訳ではない。ないったらない。身近な変態がそんなようなことを言っていただけだ。
「危ないから、あんまりはしゃぐな。」
まだ楽しそうに「ローマ♪ローマ♪」と言っている延珠に注意する。はしゃぎすぎだろう。そのうち
「何を言う!良い日とは良い朝から始まるのだぞ!」
おはよう!と、見知らぬサラリーマンにまであいさつをしながら延珠が言う。
「ご教示どーも。」
素っ気なく答えながら、自転車を漕ぎ続ける。
延珠はいつでも明るく元気だ。だからこそ、不安に思うことがある。無理してるんじゃないだろうか、とか。辛いのを隠してたりするんじゃないだろうか、とか。自分じゃ頼りないかもしれないけど、そういうの、あるなら話して欲しいと思っている。『家族』だと思っているから。
なんとなく、不安に思ったことを聞いてみる。
「延珠。」
「む?」
「その、学校は楽しいか?」
「もちろん、最高だ!!」
延珠は満面の笑みを浮かべていた。
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坂を下った先、延珠の通う小学校にはすぐに到着した。
「それじゃ延珠、俺と離れて泣きべそかくなよ?」
延珠はフフン、と鼻を鳴らし、
「蓮太郎こそ、妾が近くにいないからって寂しがるなよ?」
「寂しがんねーよ。それと、いつも言ってるけど人前ではくれぐれも「わかっている。決して妾が呪われた子供たちだとバレないようクラスでは配慮している。」
「そうか・・・なら、いいんだけどよ。」
延珠を思ってのこととは言え、余計なお世話だったかもしれない。呪われた子供たちが社会でどんな扱いを受けているかなど、延珠本人が一番よく知っている。それが発覚した時の周囲の態度も。
「・・・スマン。」
「良いのだ。妾を思って言ってくれているのだと分かっている。」
むしろ妾はその心配が嬉しいぞ!と笑ってくれた。
(・・・延珠は強いな。)
俺なんかより、全然強い。
「あー延珠ちゃんだー。」
「おはようございます。」
なんとなく暗い雰囲気になりかけたとき、後ろの方から二つ、あいさつが聞こえた。
「おお!おはようだ舞ちゃん、天ちゃん!壮健そうで何よりだ!」
「相変わらず変な喋り方〜。」
「私には分かりますよ、延珠。それは天誅ガールズ、赤穂四十七士である大石内蔵助良雄が、久々に再会した足軽寺坂信行と再会した時の挨拶ですね。密命を受け、無事使命を遂げた彼を労う言葉。素晴らしい、やはり延珠はよく分かっている。」
「天ちゃんは相変わらずだねー。」
「そこが良いところなのだ!・・・ところで天ちゃん。ランドセルからはみ出しているその刀はどうしたのだ?」
「私の心は常に赤穂義士たちと共にある、ということです。」
「昨日の天誅ガールズ最新話で、『義士たるもの、己が魂たる刀は片時も離さず。』って言ってたんだってー。」
「・・・それとこの刀がどう繋がるのだ?」
「つまり、そういうことです。」
「まるで意味がわからんぞ!?」
女三人寄れば姦しいとは言うが、それは子供でも当てはまるらしい。
見ているこちらが微笑ましくなるような(内容はちっとも微笑ましくないが)様子を見ていると、先ほどの不安も薄れていくように感じた。このぶんなら、本当に楽しくやっているのだろう。
「じゃ延珠、俺行くからな。」
「うむ、何かあればすぐ呼ぶのだぞ!」
へいへーいと手を振り、小学校の校門を抜ける延珠たちを尻目に自らの通う高校へと進む。
ああ、本当に憂鬱だ。どうせまた『奴』は校門のところで待ち伏せしているのだろう。最初は台所で料理を作って俺が起きるのを待っていた。
なんで合鍵持ってんのとか、色々気にはなったが、とりあえずやめて欲しいと頼むと、今度はアパートの前に立っていた。近所の目が色々ヤバいからやめろと脅すと、毎朝通学路ですれ違うようになった。段々恐怖を感じてきて、最終的に、頼むからやめてくださいと言った結果、今の形になった。次何か言ったら、今度はきっと教室の前にいるのだろう。最近は諦めもついてきている。安西先生は諦めたら
設定変えるよ!姉にね!
やっぱ姉だよ、姉。姉サイコーだよ。
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