孤高の牡牛と星の灰被り姫 【完結】 (シエロティエラ)
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最初に言っておく。これは設定だ。

えー、一応この小説の設定を書いておきます。
その方が読むか読まないかの判断がしやすいと思いましたので。




◎ 櫻井侑斗(20歳)人間

 

 本作品の主人公。大学生で「仮面ライダー電王」に登場した櫻井侑斗の生まれ変わり。

 輪廻転生の果てにデレマスの世界に生まれたが、魂の洗濯が不十分だったため、「櫻井侑斗」としての記憶を宿したまま転生した。

 奇しくも転生前と同じ名前であり、母親は前世の妻である野上愛理の、並行世界の存在。また、母親はこの世界の野上良太郎の叔母という立ち位置にいるため、この世界の良太郎とは従兄弟同士である。

 前世で死ぬ前に、相棒であったデネブと再会する約束を交わし、死後に魂がこの世界の櫻井侑斗に宿った。故に、アイドルのライブ会場にてデネブと再会するまで侑斗の体では、前世の膨大な体験を長い時間をかけて馴染ませていた。

 ライブ会場にてデネブと再会したことにより、魂が完全に体に適合し、櫻井侑斗として完成した。

 初めて変身して以降、彼がカードを使うときは何故か346のアイドルが必ず一人いる。メンバーはランダム。

運命の悪戯か妹が一人おり、名前は前世の娘と同じ「ハナ」である。

 

 

◆能力

 

 ・仮面ライダーゼロノス

 前世から使用していた力。イマジンであるデネブと契約を交わしたことにより、この世界でも変身できるようになった。

 前世では未来の自分と自分の記憶を代償に変身していたが、本作では記憶ではなく存在を代償としている。

 何が違うの? と思っている人に述べるが、あくまで接してきた人には侑斗の記憶は残る。しかし、全てのカードを使ったあと、侑斗はその世界からは消滅してしまう。

 わかりやすい例えで言えばFF10のティーダ、FF7の死んでライフストリームとなった人たち。

 侑斗が全てのカードを使って消滅するとき、彼がカードを用いて助けた者、彼が大切に思っている者はそれを知覚できる。

 アルタイル、ゼロ、ベガの全てに変身できる。アルタイルとベガ、アルタイルとゼロが裏表形式になっており、それぞれ20枚近くある。

 

 

◆性格

 

 前世のことや持ち前のクールな性格もあり、余り率先して友人を作らなかった。

 が、デネブに対しては我が儘な子供のように接することも多々ある。椎茸嫌いとコーヒー嫌いは健在。

 

 

 

 

 

◎ 野上良太郎 (20歳)人間

 

 この世界の良太郎。名前か同じだけで全く別人…のはずだが、容姿性格、共に「電王」の野上良太郎と酷似しており、持ち前の不運さも同じである。

 侑斗の数少ない友人の一人。

 電王には変身しない。

 

 

 

 

 

◎ デネブ (?)イマジン

 

 イマジンの一人。侑斗の前世では相棒として、時にはオカンとして侑斗が死ぬまで共にいた。

 体のいたるところに「デネブキャンディー」なる飴を持っており、「侑斗をよろしく」という言葉と共に配っては、侑斗にプロレス技をかけられている。

 戦闘面では申し分ない強さを有しており、全ての指先から放たれる銃撃を用いた中距離、格闘を用いた近接もできる。

 前世での侑斗が、自分の記憶を残すことが出来ないことを人知れず悲しみ、その孤独を糧に力としていたことを知っていたため、彼とはいつも一緒に戦うことを己に誓っている。

 前世では記憶、今世では存在を代償に戦う侑斗を心底案じており、少しでも彼が楽しい人生を過ごせるようにと独断で東奔西走する。具体的に言えば、

 

「最初に言っておく。侑斗をよろしく‼︎ これはお近づきの印のデネブキャンディー」

 

尚、侑斗の両親からは普通に受け入れられ、櫻井家の家政婦的立ち位置にいる。

 

 

 

 




一先ずこの通りです。
気に入らない方々はブラウザバックを、読んでくださる方々はよろしくお願いします。




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番外編
Счастливый bardey к вам




サブタイが違いますが、一応本編のつもりです。
ではどうぞ。


 

 

 さて、俺は今何をしているのだろうか。

 目の前には万の数は収容できそうな建物。ビルではなく、ドームのようなもの。そしてその周りに列をなして並んでいる、数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの人々。皆それぞれ飾り付けた団扇やら光る棒やらを複数携え、入場用のピンクのチケットを片手に持ち、興奮したような面持(おもも)ちで並んでいる。

 それを敷地の端から、黒の革ジャンの胸ポケットに金色のチケットを入れ、片手に小さな袋を下げてただただ眺めている俺。本当に俺はなんでここにいるのだろう。

 

 

 

 

 

 ---------------------

 

 

 

 

 

 思い返すのは一週間前。

 その日は346の手伝いもなく、自宅でゼミの準備とカフェの手伝いをしていた。一番忙しい時間帯も過ぎ、テーブルを拭いて次の客に備えている時だった。

 

 

「いらっしゃいませ、お一人です…か…?」

 

「あっ。ユウトさん、こんにちわです!!」

 

「こんにちは、侑斗さん」

 

 

 店の扉が開く音がしたため、自分に出来る限りの営業用の顔で応対したが、目の前にいたのはまさかの人物たちだった。

 まずはアナスタシアと新田美波に。

 

「あれ? 桜井さん?」

 

「あっ!! 桜井さんだ!!」

 

「アーニャちゃんの言った通りでした!!」

 

 

 ニュージェネの三人に。

 

 

「あら、侑斗さんじゃない」

 

「あっ、本当だ★」

 

「ここってユー君の家なんだね☆」

 

 

 速水奏に城ケ崎姉妹の計8人が入店した。

 突然のことで頭の対応が追い付かず、思考を停止してしまう。いい加減なれるだろうって? 俺はそもそも厨房がメインで、接客なんて片手で数えるほどしかしてない。

 

 

「…? ユウトさん、大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ。大丈夫だ、問題ない」

 

 

 とりあえず現実に戻る。

 

 

「八人なら…この二つを付けるがいいか?」

 

「はい、大丈夫です。あっ、私手伝いますよ」

 

「ああ、助かる島村」

 

 

 幸い店内にほかに客はいなく、閉店までもあと一時間ほどだったため、母親の許可のもとに立札を『CLOSED』にかえ、島村と共に机を繋げる。

 繋げた机に椅子を八脚並べ、メニューを置く。

 

 

「注文が決まったら呼んでくれ」

 

「はい!!」

 

「ねぇねぇ、何がおいしいの?★」

 

「お勧めはねぇ…」

 

 

 和気藹々(わきあいあい)と自分たちの注文を決めるアイドル達。その楽しげな声を聴きながら俺は人数分の飲み物を用意する。流石に城ケ崎妹はジュースのほうがいいか。

 人数分のドリンクを用意し、机に向かったころには皆注文が決まったらしく、それから十分ほどで全員分の料理が用意された。

 …のだが。

 

 

「…なんで一人分多く用意されてるんだ?」

 

「何でって、侑斗も一緒に食べてきなよ」

 

「おい待て」

 

 

 この妹は何を考えている。俺にあの女子だけ空間に行けと? 待て、なぜお前たちもこっちを見ている。

 仕方なくトレーを持ち、机の端につく。皆がしゃべる様子をうかがいながら一人箸を進めていると、横から服を引っ張られる感触がした。視線を向けると、隣に座っていた城ケ崎妹がこちら見上げていた。

 

 

「…どうした?」

 

「うんっとね。ユー君は一週間後は暇?☆」

 

「来週末か? たしか何も予定はないはずだが」

 

「そっか、じゃあ好都合だね!!☆」

 

 

 好都合とはどういうことだ?

 そう思っていると城ケ崎妹とは逆側の袖、隣に座る本田未央が引っ張ってきた。

 

 

「じゃあはい、これどうぞ!!」

 

 

 そういって差し出してきたのは金色に光るチケット。見ただけでわかる、ライブのチケットだった。俺の記憶違いでなければ、普通のチケットはピンク色だったはずだが。特別なライブだからか?

 

 

「おー、これは私たちから、です。ユウトさんへのプレゼント、です」

 

 

 向かいに座るアナスタシアからプレゼントだと言われた。これを渡すということは、ライブに来てほしいということだろう。

 

 

「…わかった。見に行こう」

 

「「やったー!!」」

 

「よかった、です」

 

 

 俺の返答に各々反応を示すアイドル達、これは行かなかったときが恐ろしいな。

 

 

 

 

 

 --------------------

 

 

 

 

 

 といったことがあったのが一週間前。結局ライブ会場に訪れたのだが、目の前の喧騒に参ってしまっている。せめて良太郎かハナがいれば何とかなったのだろうが、残念ながら今はいない。どうやら一人でこの場を切り抜けなければならないようだ。

 

 

「…いい加減覚悟を決めるか」

 

 

 黙っていてもしょうがないため、チケット確認の場に向かう。しかし半分もいかないうちに係員に呼び止められた。

 

 

「…すみませんお客様、チケットはお持ちですか?」

 

 

 なぜこの場で聞くのだろうか? 疑問に思いつつもポケットのチケットを取り出す。ついでに周りを見渡すと成程、あまりにも人が多いために先に確認し、通行証のようなものを付けられている人が大勢いた。

 確認した後に係員のほうに顔を戻すとその係員はチケットを見たとたん顔面を蒼白にし、口を半開きにした。

 

 

「こ、ここ、こ、これは…ッ!!」

 

「…なにか不都合が?」

 

「イエイエイエイエイエイエイエッ!! 滅相もございません!! どうぞこちらへ」

 

 

 妙に焦った声を出しながら案内された先は、メインの入り口から離れた場所に通された。このチケットはそんなに特別なものなのか?

 疑問に感じながら案内通り進むと、一般観客席とは異なる特別席のような場所に出た。他の観客の陰に隠れることなく、ステージを一望できる座席だった。

 成程、この金のチケットはこの特別席用のチケットだったのか。なら普通のとデザインが違うのも頷ける。荷物を座席のわきにおき、椅子に座って開演を待つ。アイドルのライブは前世の記憶を取り戻した時以来だ。今回も場が盛り上がることだろう。

 そうこう考えていると会場内のライトが落ちた。そろそろ開演か。ならば今は余計なことを考えず、静かに観るとしよう。

 

 

 

 ライブ中にイマジンが発生するという無粋なことも起こらず、ライブも終盤へと差し掛かる。

 LiPPS"から始まり、"LOVE LAIKA""CANDY ISLAND" 其々のソロ曲と続いて最後数曲の全体曲を残すばかりとなった。皆生き生きとした表情を浮かべ、歌い、踊っていた。灰被り姫(シンデレラ)はステージに立つことで光輝く姫(シンデレラ)へと変わる。346で一緒に仕事していた人の言葉だ。的を射ている表現だろう。

 

 

「…侑斗」

 

「…イマジンか?」

 

「ああ、ここから少し遠い」

 

「なら急ごう、せっかくこの席をとってくれた彼女たちのためにも」

 

「うん」

 

 

 荷物を手に取り、急いで外に出る。出口には既にゼロライナーが待機しており、中に入る。

 

 

「さて、早く済ませるぞ。変身!!」

 

≪Altair Form!!≫

 

 

 ベルトのチケットから形成されたエネルギーの鎧を纏い、仮面をつけてバイクにまたがる。

 

 

「デネブ、飛ばすからな」

 

「了解」

 

 

 ライナーを一気に加速させ、目的地に向かう。恐らく車で三十分ほどの場所にそいつはいた。

 前世ではもう一人の自分と野上と共に倒したレオイマジン、そいつがアウトレットの様な場所の広場で三体の手先と共に暴れていた。

 

 

「…そこまでだ、その辺にしておけ」

 

「あぁん? 誰だ貴様…まて、そのベルトは」

 

「今回は時間がないからな、端っから全力で行くぞ!!」

 

 

 ガッシャーを剣に変え、逆手に持って駆け出す。対するレオイマジンも部下三体を連れ、俺の四方を囲むように襲い掛かってきた。

 

 

「そらぁ!!」

 

「死ねぇ!!」

 

 

 各々ハルペーやらウォーハンマーやらを構え、俺にとびかかってくる。しかしあまり統率がとれておらず、チームワークがなっていない。

 

 

「しゃらくせぇ!!」

 

「ふんッ!!」

 

「ガァッ!?」

 

「何だと!?」  

 

 

 三人の部下はデネブと共にのし、手早く始末してからレオイマジンへと向かう。奴もモーニングスターを構え、こちらに対峙する。前世では奴に辛酸を舐めさせられたため、今回は油断を持たずに対応する。

 

 

「デネブ、行くぞ!!」

 

「了解!!」

 

≪Vega Form!!≫

 

 

 チケットを差し替え、ベガフォームへと変化する。やつに対応するには、これぐらいは必要である。

 

 

「そうか、お前はゼロノスか!! ならば丁度いい!!」

 

「そう簡単にやられるわけにはいかない!!」

 

 

 デネブ主導でイマジンに切りつけていく。奴の攻撃は一撃一撃が重たいが、一つ一つが大振りであるため避けるのはたやすい。しかし奴は前世でフルチャージの攻撃を二度も耐えた。用心にこしたことはない。

 何度も切りあい、何度も攻撃を防ぎあい、互いに傷をいくつも作りながらぶつかり合う。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

 

 互いに息をつく。お互いにボロボロで、奴は体中の傷口から塵を。俺は鎧の下で血を流している。前世と同じく、もう二度もチャージ攻撃を放ったが、やはり耐えた。

 

 

『ふぅ…こいつで最後だ』

 

「ぜぇ…何度やっても同じだ」

 

 

 流石にしぶとく、傷だらけながらもこちらを冷たくにらみつける。これは、使うしかないだろう。

 

 

『…デネブ、すまない』

 

「!? 侑斗、なにを!!」

 

 

 有無を言わさずに変身を解除する。突然変身を解いた俺にいぶかしげな視線を向けるレオイマジン。しかしそれを無視し、新たにカードを取り出す。そのカードには赤い文字が書かれている。

 

 

「悪いなデネブ。変身!!」

 

≪Charge and up!!≫

 

「侑斗!! まさか二枚目を!! 侑斗!?』

 

 

 銃に変化したデネブを構える。銃を構えた俺を見て警戒の色を濃くするレオイマジン、モーニングスターを構え直す。

 

 

「さぁ、行くぞ!!」

 

「そんなこけ脅しは通用しない!!」

 

 銃を構え、俺はイマジンに突進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

「…? どうしたの、アーニャちゃん?」

 

 

 突然胸に去来した衝撃。嫌な予感が体を駆け巡る。ライブは成功に終わり、ファンたちも大盛り上がりであった。ただ途中で特別席をみたとき、最後のほうには侑斗さんの姿はなかった。

 もしかしたら、彼はまた変身しているのかもしれない。彼は変身による弊害はないと言っていたが、あれは嘘だろう。恐らく、私たちに心配させまいと嘘をついたと思う。

 

 

「もしかして…また侑斗さんが?」

 

「ミナミ…」

 

 

 ミナミは私の次にユウトさんに関わっていると思う。でもどうも私と違い、胸騒ぎというか、衝撃というか、そういったものがないみたいだ。

 

 

「…アーニャちゃん。桜井さんを信じよう。あの人は大丈夫」

 

「そうそう!! なんてったって桜井さんは強いから!!」

 

「リンさん、ミオさん。…そう、ですね」

 

 

 そうだ、彼を信じよう。彼の嘘はいずれ話してくれると信じて、今は彼の無事を祈るだけである。約束は守り、今日のライブにも来てくれたから。

 

 

「もし桜井さんをみつけたら、打ち上げに誘いませんか?」

 

「おっ、卯月ちゃんグッドアイデア!!★」

 

 

 確かに、それはいい考えだ。なら早く後片付けを済ませよう。

 それから十分ほどで片づけは終わり、今回のライブの関係者たちにプロデューサーと挨拶を済ませ、会場を後にする。既にファンは帰っているため閑散としていたが、たった一人、そこには人影があった。

 

 

「ユウト…さん」

 

「ん? …ああ、やっぱ終わっていたか」

 

 

 少し残念そうな顔をするユウトさん。あまり目立たないが、微妙に服のあちこちが赤い滲みができており、顔にも傷や腫れが確認できた。やはり戦っていたのだろう。

 欲を言えば彼にこれ以上戦ってほしくない。彼が傷つくのを見るたびに。彼が変身するのを見聞きするたびに不安になってしまう。いつか彼が永遠にいなくなってしまうのではないかと。

 

 

「侑斗さん、あれ持ってる?」

 

「…あれだけ言われたら持ってくる」

 

「よっし!! じゃあ今わたしちゃいなよ★」

 

 

 何やらミカさんとユウトさんが話した後、私にユウトさんが近寄ってきた。その手には一つの包みが握られている。

 

 

「ユウトさん?」

 

「あーその、なんだ。むぅ…」

 

「ほーら、はやく★」

 

 

 ユウトさんの後ろでミカさんが急かしている。そして一つ大きな息をつくと頬を掻きながらこちらに荷物を差し出してきた。

 

 

「あーうん…」

 

「ユウトさん?」

 

「…これ」

 

「え?」

 

 

 差し出してきた包みを受け取る。とっても小さな包み、しかしながら確かな重みを感じるものだった。

 

 

「…()()()()()()()()

 

「えっ!?」

 

 

 今彼はなんといった? 誕生日おめでとう? まさか、私の誕生日を祝っているのか?

 何でだろう。とても、とても体が、心が、温かいもので満たされていく。

 

 

「え? あ、おい。なんで泣いている」

 

「あ、え」

 

 

 目から溢れてくる暖かなもの。しかし胸の内にあるものは悲しみではなく、喜び。顔は自然と笑みが浮かび上がり、私は泣きながら笑っている。

 

 

「ありがとう、ございます、ユウトさん。これ、開けてもいいですか?」

 

「…ああ」

 

 

 ユウトさんの許可をもらい、包みを開ける。中に入っていたのは髪留めとブローチ。両方ともスバル星団をモチーフにされていた。

 

 

「…星が好きみたいだったからな。安直かもしれなかったが」

 

「いいえ、嬉しいです。とても、とてもうれしいです」

 

 

 恐らく、私は一番の笑顔を浮かべているだろう。自分でもわかる、ライブでも浮かべたことのない笑顔を浮かべてる自分がいることを。

 私は忘れないだろう。自分が慕っている人からのプレゼントが、これほどにも幸福を与えてくれるとは。

 

 

「アーニャちゃん16歳になったから、日本だと結婚できるね★」

 

「あっ本当だ!!」

 

「「えっ?」」

 

 

 ミカさんとシューコさんの言葉が聞こえる。

 結婚。ユウトさんと、結婚。それは…

 

 

「…ウフフ」

 

「え? あ、おい。アナスタシア、トリップするな戻ってこい」

 

 

 なんて幸せなことだろう。

 でも今はまだ思いを成就させることはできないだろう。彼は戦いに身を置く立場であり、他のことに気を回すことはできないだろう。そして私達はアイドル、彼にとっての所謂"表の世界"にいる人。

 でももし、このささやかな願いが叶うのなら。

 

 

「あれ~? 侑斗さん赤くなってる~?」

 

「ユー君真っ赤っか?☆」

 

「ぐ…そんなことはない」

 

 

 いつか、皆と、彼と、幸せな人生を歩めますように。

 

 

 

 

 

 --------------------

 

 

 

 

 

 То, что они от времени рельса в оригинальной звездой счастья , я надеюсь .

 

 

 






以上です。
あと数話で牡牛は完結する予定です。
ではまた。いずれかの小説でお会いしましょう。




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С Рождеством


駆け足ですがギリギリ間に合いました。
それではどうぞ。





 

 聖夜のひと時、なんてあるはずもなく、俺は今日も天文台で研究をしている。ここ最近はイマジンも湧かず、残り少ないチケットも消費せずに済んでいる。平和なのはいいことだ。

 

 

「お疲れ様、桜井君」

 

「あっ、お疲れ様です」

 

 

 同じ職場の先輩研究員に話しかけられる。彼の両手にはそれぞれ湯気の立つカップが握られていた。香りからして紅茶だろう、詳しい種類は知らないが。

 

 

「最近頑張ってるね」

 

「ええ、まぁ……新人ですから」

 

「そうかい」

 

 

 彼からカップを受け取り、中の紅茶を一口飲む。温さと熱さのちょうど中間になっているそれは飲みやすく、彼の万人への気遣いが窺える。しばらく無言のまま二人で紅茶を飲んでいると、先輩研究員が先に口を開いた。

 

 

「そう言えばば桜井君、今日はお互い昼までだけど何か予定はあるかい?」

 

「予定……ですか」

 

 

 クリスマスの予定、ハッキリ言うとある。仕事が終わり次第、久しぶりに実家に帰ってきてくれと母から言われている。なんでも家でクリスマスパーティーを開くとか。どうやら家族で晩餐でもするらしい。

 

 

「……ええ。申し訳ありませんが、今日は久しぶりに実家に戻るので」

 

「そうか。それじゃあ家族を優先させないとね」

 

「すみません」

 

 

 大丈夫大丈夫、と笑顔を浮かべる先輩。少し罪悪感が襲う。

 しかし彼の楽し気な表情を見て罪悪感から懐疑心へと変わる。彼は誰かをいじる時、どんなことを言われても笑顔でいる。

 

 

「……どうかされましたか?」

 

「ん~? いや別に、何でもないよ」

 

 

 これまた楽しそうな表情で言葉を紡ぐ先輩。絶対何か企んでいる。その証拠に周りの同僚も何かを察した表情を浮かべている。

 

 

「それより早く仕事終わらせたほうがいいんじゃない? 可愛いお客さん待たせちゃだめだよ」

 

「ん? 可愛い……お客さん?」

 

 

 まさか……頼むから違うと言ってくれ。おいそこの同僚たち、色めき立つんじゃない。

 

 

「コンニチハ!! ユウトさん!!」

 

「こんにちは。桜井さん、お久しぶりですね」

 

「……ああ。ご無沙汰しております」

 

 

 先輩が指し示した方向、そこにはアーニャと付き添いであろう武内さんがいた。そして武内さんの後ろに見えてる何人かの少女たち。ああ、あの頃まだ小学生だった子らか。確か佐々木に橘、赤城だったか? あの子らももう高校生か中学生なのだな。

 

 

「……いい加減、机の下に隠れるのは卒業しろ、森久保。もうすぐ成人だろうが」

 

「そんなこと……い、言われても……人が多くて……むーりぃー……」

 

「いいから、出ろ。そこは俺のデスクだ」

 

「わわッ」

 

 

 極度の人見知り少女を机の下から連れ出し、残りの仕事を片付ける作業に入る。その間のアイドル達の相手は、ほかの先輩研究員たちがしていた。どうやら仕事終わりに立ち寄ったらしく、赤城とアーニャ以外はこのまま事務所に戻るらしい。残りの二人はというと、母とハナから晩餐に誘われているらしい。

 ああ成程、ハナが愉快そうな声を出していた理由がようやく分かった。彼女らが来ることは俺には秘密だったのだろう。

 

 

「さて、これでいい。じゃあ二人とも、行くぞ」

 

 

 時刻にして一時頃、ようやく本日ぶんの仕事も終わり、先輩がたに挨拶をして研究所を後にする。武内さんに挨拶をした後に自家用車に乗ると、当たり前のように助手席にアーニャが座り、後部座席に赤城が座り込んだ。実家までの道中も二人が中心に話し、おれはそれに相槌を打つだけだった。

 

 車を走らせて数分、「ミルクディッパー」に着いた俺たちは"CLOSED"と書かれた扉を開けた。中は既に賑わっており、何人かのグループに分かれて室内の飾りつけを行っていた。

 

 

「あっ侑斗、久しぶり」

 

「……なかなかの大所帯だな、野上」

 

「うん、僕も驚いた」

 

 

 二人でそう話しながら室内を見渡す。窓の飾りつけはニュージェネが行っており、机の整理等はトライアドの残り二人が。ツリーな飾りつけは新田やデネブ、モモタロスやリュウタロスなどが行っていた。

 今回いない人間は仕事の都合や、そんなに親密ではない人たちだ。高垣さんや姫川、城ケ崎姉妹などは仕事でいないらしい。

 

 

「あーッ!! 桜井さん帰ってきた!!」

 

「本当です!!」

 

 

 相変わらず騒がしい本田と島村、女三人寄れば姦しいとはよく言うが、彼女らの場合一人で二人分補っている気がする。机の整理をしてる神谷と北条はイマジンを見るのは確か初めてか、モモタロスとデネブをまじまじと見つめている。アーニャとともに飾りつけを始めた新田は、すっかりこの環境に馴染んでいる。

 

 

「……本当に大所帯になったものだ」

 

 

 自然と口から出る言葉。しかし、以前までと違ってそんなに嫌な気分ではなかった。暴走しそうになっているリュウタロスとそれを抑えるモモタロス。ナンパを始めたウラタロスを諫める野上、それを見て笑うアイドル達と家族たち。

 未だこの手をイマジンたちの塵/血()で汚している俺とは違って光輝いて見える、眩しくも暖かな世界。

 

 

「ユウトさん、どうしました?」

 

 

 空のように蒼い眼をした彼女が、俺の顔を覗き込んでくる。汚れを知らない、夜空のように美しいその瞳は、真っすぐに俺の目を見つめる。まったく、本当に俺には眩しすぎる。

 

 

「何でもない」

 

 

 仮令この先この身が果てることになろうとも、この笑顔を護ったことに意味が出来るだろう。今はそう信じて戦うだけだ。せめて今は、安らかなひと時を過ごそう。そう思った俺は、料理をしているキッチンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウトさんがプロデューサー助手をやっていたころに比べると、私やミナミはもっとずっと忙しくなった。それでも私は時間を見つけてはユウトさんの許に出かけた。ここ数年で料理も上手くなったから、たまに晩御飯を作りに行った。

 ユウトさんが事務所を辞めていくとき、私は自分の思いの丈を伝えた。返事はもらっていない、というより私が効かなかった。断られるのがわかっていたから、本当に安心できる日まで彼は答えを出さないから。

 彼は気づいていないだろう、彼の嘘に私が気が付いていることを。彼は知らないだろう、彼の家族が彼の異変に気付いていることを。それでも彼は隠し続ける、彼にとっての大切な人たちを心配させないために。自分の命がなくなる前に、全てを終わらせるため。

 

 だから私は知らないふりをする。そして少しでも彼が日常に平穏を感じてもらえるように。彼が一日でも早く、幸福な時間を得られるように。

 

 

「ユウトさん。これ、とても、おいしいです。ユウトさんが作ったのですか?」

 

「ああ、それか。そうだが、よくわかったな」

 

「Да!! ユウトさんの味でした!!」

 

 

 こんな他愛のない話ができる、それだけで私は幸せを感じる。彼自身は気づいていないだろうが、私や他の人と話しているとき、柔らかい表情を浮かべるようになった。そんな彼の顔を見ると、私まで幸せな気持ちになる。

 ふとバッグの中に意識を向ける。そこには長い長方形の箱が入っている。いつのタイミングで渡すのか、正直私は迷っている。皆がいる場で渡すのは恥ずかしい。

 

 

「……ユウトさん。あとで、時間ありますか?」

 

「……解散になったら俺は自宅に帰る。その時なら」

 

「Да」

 

 

 約束はできた。あとは渡すだけ。

 クリスマス・パーティーも終わり、ユウトさんがミリアを送っていったあと、私はユウトさんの部屋にいた。

 室内は片付いている。綺麗すぎもせず、かといって取り立てて汚れてもいない。せいぜいいくつかの洋服が干されたままになっているぐらい。私はそのうち一つを手に取り、畳んだ。長く、大切に使われていることがわかる。

 

 

「……帰ったぞ」

 

「あっ……ユウトさん、お帰りなさい」

 

 

 部屋主が帰宅したようだ。洗濯ものを畳み終わった私は、その時お茶の準備をしていた。私は急いで箱を取り出し、後ろ手に隠してユウトさんに駆け寄る。

 

 

「それで、どうしたんだ?」

 

「あの…その……」

 

「ん?」

 

 

 恥ずかしい。いざ渡すとなると、恥ずかしさと同時に不安が募る。もしかしたら彼が気に入らないかもしれない、そんな不安が私を襲う。

 ふと視線を上げると、ユウトさんと目が合った。彼の優しい視線を認識した途端、私を襲っていた様々な悪い感情が一気に取り払われた。一つ深呼吸をする。そして手に持っていた箱を取り出した。

 

 

「あの……これを」

 

「ん? これは……おお…」

 

 

 渡したのは腕時計。超高級というわけではないが、彼に似合うと思ったものを渡した。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 ぼそりと呟かれた言葉。その言葉だけで私は救われる。ああ、彼のために選んでよかったという気持ちになる。

 ふと目の前に包みが出された。顔を上げると、ユウトさんが顔を赤くして横を向いていた。包みは小さく、しかし確かな重さがあった。

 

 

「その……なんだ。……プレゼント」

 

 

 受け取ったプレゼントを開く。そこには銀に輝く懐中時計が入っていた。中で歯車が回る音が確かに聞こえる。まるで心音のように、私の体に染み渡る。

 

 

「……いいのが思いつかなかった。気に入らなかったら捨てt…」

 

 

 彼はその先を言葉に出せない。私が抱き着いているから、私の顔が近くにあるから。

 私の口が、彼の口を塞いでいるから。

 

 

「ッ!! ……おまッ!?」

 

「……」

 

 

 唇を放した後も、私は彼を抱きしめた。彼が愛おしくて仕方がなかった。彼に愛されたいと思った。

 彼はしばらく硬直していたが、やがて腕をそっと私に回した。夜空の暗闇を包み込む、無限の星々の輝きのように。

 そして私はその夜、(しょうじょ)から(じょせい)になった。

 

 

 

 




甘めに作りましたが、いかがでしたでしょうか?
次はハリポタのほうを更新します。




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Feel sad, feel cold, miss you




「桜井侑斗さん、残念ながらあなたは亡くなりました」

「それは分かってる」

「私は日本担当の女神です。それで貴方には……い、いくつかの……ププッ…せ、せん、たく…し、ブハッ!!」

「……おい」

「アハハハッ、もうダメ我慢できない!! なんでこんな変な死に方したのよ、笑うなってのが無理よ、プークスクス!!」

「……」

「自滅で死ぬなんて、時代錯誤にっも程があるでしょッ、アハハハハ!!馬っ鹿じゃないの……ね、ねぇ。なんで無言で手をボキボキ鳴らしながら近寄ってくるの? なんか目が殺意を湛えてるし、ほ、ほら!! ちょっとした女神ジョークよジョーク!!」

「……」

「ごめんなさい私が悪かったから拳を振り上げないでお願いしますビェ~~ン(泣)」






 

 

 

 春。

 桜が満開になり、美しく花弁を回せている昼日中。

 小高い丘にポツンとある一つの墓石の前に一人の女性と大きな真っ黒な人型が佇んでいた。女性の髪は美しい白、肌も日本人とはかけ離れた白さを湛えている。人型は金色に輝く烏天狗のような面をつけており、手甲を付けた腕には花と水の入った木の桶があった。

 女性は墓石の周りを一通り掃除した後、花を墓石の前に置く。周りにはその墓石以外に墓はなく、丘のふもとまで花や桜木で埋められていた。麓にはいくつかの墓石が認められることから、ここも墓地の一角なのだろう。

 無言で墓を見つめていると、二人の後方から駆け寄る小さな影があった。女性と同じ真っ白な髪に、女性とは異なる鋭い、しかし大きな眼。そして薄い唇に少し高い鼻。十中八九世間でイケメンとカテゴライズされる容姿を持った少年である。

 少年と二人は少し話すと一度墓前に手を合わせてこの場を去った。誰もいなくなった墓には、桜の花が一輪、静かに墓石の上に佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五年前……

 

 

「それではただいまから、アーティスト・アナスタシアさんの引退会見を始めます」

 

 

 司会の声と共に、多数のカメラのフラッシュが焚かれる。女性とその隣にいるスーツの男性が立ち上がり、マイクを手に取った。

 

 

「この度は、お集まりいただいてありがとうございます。引退につきましては、彼女のほうから直接話があります」

 

「私アナスタシアは、一か月後の紅白を最後に、芸能生活を引退することを決めました」

 

 

 二人から言葉が発せられると、先ほど以上にカメラのフラッシュが焚かれる。鳴りやまぬシャッター音の中、二人は椅子に座り直し、記者の質問に応える姿勢となった。すると早速一人の記者が手を上げる。

 

 

「○○新聞のものです。いきなり核心を突く質問になりますが、何故芸能界引退されるのですか?」

 

 

 記者の質問に対し、アナスタシアはマイクを取り上げる。そしてゆっくりと話し始めた。

 

 

「元々引退は考えており、数年前から社長やマネージャーと相談してました。そして今年の初め、年末を最後に引退するという形で話が付いたのです」

 

 

 そこで彼女は言葉を区切り、水を一口飲む。

 

 

「……数か月前、私に子供が生まれました。まだ小さい子供を残して、今まで通り仕事をすることは出来ません。子供を育てる以上、芸能界という収入が不安定な職業を続けるわけにはいかないためです」

 

「失礼ですが、話を聞く限りアナスタシアさんに旦那がいないようにも受け取れますが」

 

「……今は、いません」

 

 

 その言葉を皮切りに、会見会場は騒然とした雰囲気になった。当然である。引退に加え、彼女がシングルマザーであることも発覚したのだから。

 当然、ゴシップ紙や週刊誌、テレビはその話題に食いつく。そして根も葉もない悪質な記事に仕立て上げたり、本当は聞かれたくない不躾な質問も行う。今もそれらの記者たちは、未婚だの逃げられただの妙な憶測を立てては、彼女に対して質問を重ねていた。

 流石にこれ以上は収拾がつかないと判断したのか、隣に座る男―恐らくはマネージャー―や他の会社の上層部の人員が止めようとしたとき、アナスタシは机を叩いて立ち上がった。

 

 

「夫を……ユウトさんを貶めないでください!!」

 

 

 その叫び声、悲痛さも含むような声に会見場は静寂に包まれた。埃が地面に着く音さえも響きそうなほど、会場は静まり返っていた。

 

 

「何も知らないのに……彼が今までどのような思いでいたか知らないのに……何故会ったこともない人をそこまで悪く言えるのですか!!」

 

 

 彼女の叫びに答える者はいない。

 

 

「ユウトさんが……夫がいなかったら今頃私たちは、一年前から今のような生活を送れなかったんです!! 皆さんも覚えているでしょう、ショッカーの世界征服宣言を!!」

 

 

 彼女の言葉によって、一年前の恐怖を殆どの者が思い出した。中にはその時の中継に映っていた、数十人の仮面の戦士たちを思い出すものもいた。そしてそれらを思い出したものは、殆どが事情を察してしまった。彼女の夫はその戦士の一人であり、もしかしたらあの日に戦死してしまったということを。

 

 

「夫とその友人たち力がなければ、今頃私たちはどのようにして生きていたかわかりません。勿論誰が戦っていたかなど知ったことではないと思う人もいるでしょう。それは分かっています、ですが……」

 

 

 そこで言葉を区切り、記者たちを、主に彼女の今は亡き夫を貶めるような発言をした者達を睨みつけながら、言葉を続けた。

 

 

「でもあなた達は今知った。誰があの怪人達と戦っていたか知ることになった。それでもあなたたちは、私の夫を悪く言うつもりですか?」

 

 

 彼女の問いかけで、何とも言えない空気が出来上がってしまった。大衆に興味を引いてもらう面白い記事をつくるため、そして自社の利益のために行った質問や推測が、ここまで失礼極まりないことだったとは誰も思っていなかった。睨まれた記者たちも、ばつが悪そうに、後悔するような表情を浮かべている。

 そのような空気の中、記者会見は終わった。

 

 

 

 

 

 --------------------

 

 

 

 

 

 そして引退会見から3か月経過した、紅白歌合戦当日。彼女の最後のステージを観ようとテレビをつけるファンや会場に来た客はたくさんおり、放送前にも関わらず視聴率は爆発的に上がり、会場も人がひしめき合っていた。

 彼女が待機している楽屋では、かつての同期や世話になったもの、後輩たちなどが集まっていた。

 

 

「アーニャちゃん、大丈夫?」

 

 

 一番親交のある東方美波、旧姓名新田美波はアナスタシアを案ずるように問いかける。あの会見の後、世間はアナスタシアに同情する姿勢が強かったが、やはりというべきか誹謗中傷を行う者もいた。それによって今の住居を暴かれ、アンチの便箋が自宅や事務所に届くことも少なくない。彼女の精神的な負荷は計り知れないものだろう。

 

 

「大丈夫。ユウトさんはもっと辛かった。それに私はもうお母さんだから」

 

 

 そう言いながら、腕の中で眠る我が子を愛おしそうに見つめる。母は強しとは言うが、彼女の精神面はとても強いのだろう。まだ子供の後輩たちの相手をする様子を見ながら同期達は優しい目で彼女たちを見つめた。

 

 歌合戦が始まりいくつかのグループが歌い終えたところで、ついに彼女の順番が来た。煌びやかな服ではなく、赤錆色の衣装を身に纏った彼女は、マイクを持ったままステージの中央に立った。

 ライトがあてられる。それによってイヤリングとネックレス、左手の指輪が小さく煌めく。彼女の腰には、銀に輝く懐中時計が下げられている。

 

 

「それでは本日が芸能活動最後のアナスタシアさん。今回紅白で歌われる曲は今後販売されない、最初で最後に世に出される歌だそうです」

 

 

 司会の説明に、会場内の空気が動く。ラジオにて解説している席も、動揺を隠せていない。

 

 

「彼女は語りました。この曲は今は亡き夫と、今もどこかにいる仲間たちへの想いが込められていると」

 

 

 それはもう届かない想い。でも彼女は前を見つめ、先を歩いていくと目で、体で語っている。

 

 

「それではお聞きください、アナスタシアさんで”Action-Zero(ballade ver.)”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~貴方が帰ってこなくなって、桜が何度も咲いては散りました。

 貴方と私の子は大きくなり、今やミルクディッパーを切り盛りしているベテラン店主です。もうすぐ、私たちの孫娘に代替わりするでしょう。

 貴方は世界から消えたとき、時計の針はいくら電池を取り換えても動かなくなりました。それはまるで、貴方が帰らぬ人になったことを証明するかのように。でも貴方の護った世界は、今も尚平和に過ぎています。

 外では、私たちの曾孫が駆け回っています。どうやら歌が好きなようで、私に歌ってくれとせがんできます。

 ハナさんやお義母さんとは会えましたか? 二人とも、そちらで貴方に会えたら椎茸ご飯を山盛り食べさせると意気込んでましたよ。

 デネブさんは子供が成長した後、時の列車と共にこの世界を去っていきました。モモさんも一緒にこの世界から去りました。二人とも、ユウトさんが生まれ変わっても、戦わなくていいように願ってましたよ。~

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 もう何枚目ともなる届かない手紙を書く手を止める。最近は体に力が入らなくなることが多くなってきた。視界も霞むことが多くなり、そろそろ自分の寿命が来たのではと悟る。入れ歯を入れたりはしてないが、固形物を食べると咽ることもある。

 曾孫たちが部屋に入ってきた。どうやら自分たちの家に帰るらしい。気づけば外は夕闇に染まっていた。先ほど書くのを辞めたときには日は高かったのだが、どうやら随分と長くぼうっとしていたらしい。孫夫婦と共に帰路に就く様子を、窓から眺める。こちらに手を振る孫と曾孫に手を振り返し、手元の書きかけの手紙に目を向ける。

 書き上げるのは明日にしよう。そう思った私は、手紙を折りたたんで便箋にしまい机の引き出しに入れる。今日はもう疲れた。少し早いけど、もうベッドで休むとしよう。

 ゆっくりとした足取りで自室に向かう。ベッド小脇の小さな棚には、自分の結婚式のときの写真と物言わぬ懐中時計が置いてある。いつもの日課でそれらの一日の埃をふき取り、体を横たえる。

 明日は晴れるだろうか? 桜はもう葉桜にかわるのだろうか?

 彼が守った世界が続くことを願いつつ、私は静かに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アナスタシアさん。残念ながらあなたは……」

 

 

~To be continue?~

 

 

 






はい、遅くなりましたがIFルートエンディングです。
既に皆さまは察してらっしゃると思いますが、真エンディングはハッピーエンドとさせていただきました。
それではこの話を以て、「孤高の牡牛と星の灰被り姫」は真に完結とさせていただきます。





もしかしたら続編書くかも?



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本編
君の声を聞いた気がして/見上げた夜空、涙とけた雫


最初に言っておく。この作品の悠斗もよろしく‼︎
デーネーブー‼︎ お前また余計なことを‼︎
ええ〜? だって悠斗、最初の挨拶は大切だぞ? 友達をたくさん作っとかないと。
いいから、そういうのは‼︎


始まります。




 

 

 

 いつからだったか。

 夢を見るような感覚で、一人の男の物語を見ていた。

 その男は未来から来たという烏天狗のようなやつと一緒にいた。そして機械じみたベルトとカードを使い、また機械じみたスーツを纏って戦っていた。

 戦う度に自分の存在を忘れられていくにも関わらず、男は相棒と共に戦った。時にはもう一人の男の連れと争うこともあったが、最後まで戦い続けた。

 未来の娘、婚約者を守るため。旅を続けた先に出会った三人の戦士。真っ赤なスポーツカーを運転する男に、そいつを兄と慕う白いバイクに乗っている男。ダイヤとクワガタを模した仮面をつけていた男。もしかしたらもう一人のいたかもしれない。

 人を守るために戦い続けた男は、相棒と再開の約束を交わしてこの世を去った。

 

 

「……またこの夢か」

 

 

 ここ数年本当に、高校入学ぐらいからこのような夢を見る。男の名前は……わからない。ただ何処かしっくりとくる名前だった。

 

 

「侑斗〜、良太郎くんが来てるわよ〜」

 

 

 母の呼ぶ声がする。そういえば今日は出掛けるのだったか。

 野上良太郎と俺、櫻井侑斗はあまり興味は無かったが、他の友人の誘いでアイドルのライブを見に行くのだった。

 確か美城?プロダクションのアイドルがたくさん出るらしい。誘ってきたやつは目を輝かせていたのを覚えている。

 

 

「おはよう、侑斗」

 

「……ああ」

 

 

 適当に他所行きの服を着て外へ出る。そこには少し薄幸そうな顔をした青年が立っていた。野上良太郎、昔からの馴染みであり、夢に出てくるもう一人の青年に非常によく似ていた。

 

 

「そろそろ行こうか。待たせちゃ悪いし」

 

「……そうだな。正直あまり興味はないが」

 

「あはは……」

 

 

 野上の苦笑いを聞き流しつつ、ふと空を見上げた。阻むものが何もない青空。一筋伸びる飛行機雲。レールを敷きながら空を駆ける、牡牛の頭を模した列車。

 

 ……ん?

 まて、列車だと?

 

 慌ててもう一度その方向を見たが、そこには何も無かった。

 気のせいか?

 

 

「……侑斗? どうしたの?」

 

「なんでもない。それより野上」

 

「なに?」

 

「足元気をつけろよ」

 

「え? おろ〜⁉︎」

 

 

 俺の忠告もむなしく野上は転び、そのままゴミ箱に衝突した。本当に漫画のようなコケかたをするやつだ。子供の頃からこんなことを繰り返していた。

 結局予定時刻ギリギリに待ち合わせ場所に到着し、計三人でライブ会場に入った。

 それにしても人が多い。昔から人混みを避けていたが、まさかこんなに辛いものとは思わなかった。周りはなんだか妙な笑みを浮かべたり、声を出したりするものが多い。

 

 そんなことを考えていると、会場のライトが暗くなり、ステージが照らされた。そこには三人三色の服を着た少女がいた。桃、黄、蒼の服を着た三人は軽快な音と共に、歌い踊る。

 夢に出てくる紫の存在とはまた異なる、軽快な踊りをする三人。その三人の後からも出てきた多人数の少女達。皆が皆、踊りと歌を楽しんでパフォーマンスし、会場は飲み込まれていた。

 

 

 

 

 

 --------------------

 

 

 

 

 

「いや〜やっぱ凛ちゃん最高だわ」

 

 

 俺たちを誘った友人は感無量とでも言いたげに声を上げた。現在俺たちは、ライブ後の握手会とやらに向かっている。俺は正直早く帰りたいのだが、せっかくだからと押し切られ、渋々握手会へと向かっている。

 案の定だが、やはりここも人だかりが物凄く、正直人酔いしてきている。

 

 待つ時間も長いので、俺は最近見る夢について考えてみる。

 死ぬまで戦い続けた男。名前は覚えていないが、あの男は満足そうな顔をして死んだ。あの男と共に歩んだ烏天狗は、列車に乗って世界から去っていったはずだ。再び出会うことを信じて。

 そういえばその列車は、牡牛の頭を模した形をしていた。それはまるで、昼間に空で見たような……

 

 

「きゃああああ⁉︎⁉︎」

 

 

 突然悲鳴が鳴り響いた。有名人に出会ったときに出すような、黄色い悲鳴ではない。非常事態を知らせる耳を劈くような悲鳴だ。

 

 

「な、なんだ今の? っておい‼︎ 櫻井どこに行くんだ⁉︎ 櫻井‼︎」

 

「侑斗‼︎」

 

 

 後ろから二人の呼ぶ声が聞こえたが、俺はそれを無視した。体が勝手に動き出し、悲鳴の聞こえた方角に走り出した。

 現場に着いた時、俺は唖然とした。

 

 両の手にはドリルのような機構が付いた、モグラのような異形。

 ウサギのように大きな耳を持ち、剣を振り回す異形。

 顔や腰まわり、肩口から蛸のような触手を生やした、鞭を振るう異形。

 

 夢で見た異形達が目の前にいた。人々は必死に奴らから逃げようとしているが、パニックに陥って冷静な判断ができていない。

 視界の端に少女が写りこんだ。泣きじゃくり、トボトボと前を見ずに歩いている。少女の向かう先には異形達。

 異形達も少女に気がつき、鞭を持った奴が少女目掛けて飛び出した。少女は気がついていない。このままでは少女が死んでしまう。

 

 

 気がつけば俺は異形を殴り飛ばしていた。

 追撃の手を緩めず、異形の硬い身体を殴り蹴る。そしてようやく一人を蹴り飛ばした。

 

 

「……なぜだ。何故俺は……」

 

 

 奴らと渡り合い、あまつさえ交戦できている。特に戦ったことなどないのに、まるで体が覚えているかのように動く。

 そう、まるで夢の中の男のように……

 

「ヒック……おにいちゃん?」

 

「ッ‼︎」

 

 

 ふいに少女から声をかけられ、現実に引き戻された。

 そうだ、今は考え事をしている場合ではない。この少女を安全な場所へと行かせねば。

 

 

「お嬢さん、いいか? すぐにここから逃げるんだ」

 

「でも……ママがいない……」

 

「君がこのままここにいたら、二度とママに会えなくなるぞ? 向こうに行けば警察がいるだろう。そこで保護してもらうんだ」

 

「……うん…‼︎ おにいちゃん⁉︎」

 

 

 目の前の少女の声に反応して振り向くと、二体の異形がこちらに攻撃を仕掛けてきていた。反撃するにはすでに遅い。

 だがせめて少女だけでも守ろうと、俺は少女を抱き抱えるようにして庇い、襲いかかる凶刃に備えた。

 

 だが銃声が数発聞こえ、こちらを襲う気配はなくなった。それどころか、痛みに苦しんでいる声さえも聞こえる。

 気になって目を開けた先、少女の遥か後方、人差し指をこちらに向けて一人佇む黒衣金面の烏天狗。そしてその背後には牡牛の列車が、堂々たる姿で佇んでいた。

 

 

「……デ…ネブ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、新田美波はアーニャと一緒にライブ後の握手会に出ていた。ファンのみんなの笑顔は、私達アイドルにとっては一番勇気付けられるものである。だから私達も笑顔を送る。

 ふと会場の向こう側が騒がしくなった。稀にだけど、暴走される方がいらっしゃるから、今回もそうなのだろうか?

 

 

「? どうしたんだろう?」

 

「ダー、アーニャもわからないです」

 

 

 初めはファンの暴走かと思ったけど、どうにも様子が違う。会場にきた人達は一目散にこの場から逃げ出そうとしていた。もしかして相当不味い状況なのではないだろうか?

 そう思った矢先、近くで大きな音がし、周りはパニックに陥った。

 そして私とアーニャは見てしまった。

 たくさんの触手を生やした、まるで怪物のようなものを。

 

 

「ヒッ⁉︎ み、ミナミ……」

 

「あ、アーニャちゃん…逃げないと‼︎」

 

 

 一刻も早く逃げないといけない。咄嗟にそう思った私は、アーニャちゃんを先に行かせながら避難しようとした。

 でもそこで目の端に固まって動けない女の子達、アーニャちゃんと同世代ぐらいの女の子達が入った。

 何も考えずに私は彼女達に駆け寄った。でもそのせいで怪物に気づきかれてしまった。

 

 嗚呼。

 もし私が駈け寄らなければ、彼女達は助かっていたのかもしれない。

 私を追ってきたアーニャちゃんも無事だったのかもしれない。

 急いで駆け寄ってくるプロデューサーが目に入ったけど、人混みのせいで間に合わない。せめて、せめて「ありがとう」を言いたかった。

 

 私は降りかかる死を覚悟し、目を閉じた。

 

 

「オラァッ‼︎」

 

「ヌゴォッ⁉︎」

 

「フンッ‼︎」ドドドン‼︎

 

 

 でも不思議なことに、鞭は一向に襲ってこなかった。それどころか、殴るような音と銃声、何かがのたうちまわる音が聞こえた。

 

 

「み、ミナミ」

 

「アーニャ……ちゃん?」

 

「アーニャ、大丈夫。ミナミは?」

 

「私は……大丈夫。でもだれが?」

 

 

 疑問の尽きない私は、周りを見渡した。女の子達はどうやら逃げることができたらしく、この場にはいなかった。

 

 

「美波さん、アナスタシアさん‼︎ 大丈夫ですか⁉︎」

 

 

 そこにプロデューサーさんが駆け寄ってきた。スーツのズレなどを気にすることもなく、私達の心配をするプロデューサー。

 

 

「なんとか大丈夫です」

 

「ダー、アーニャもです」

 

「よかったです。さあ避難しましょう。他のメンバーも避難しています」

 

「はい‼︎」

 

「お前たち、何してる‼︎」

 

 

 プロデューサーと安全確認をしていると、一人の青年が近寄ってきた。腰にはとてもゴツゴツした、機械じみたベルトをつけている。

 

 

「さっさとここから逃げろ‼︎ あいつらに殺される前に」

 

「え?」

 

 

 この青年はなんと言った? あいつら?

 急いで怪物の方向に目を向けると、そこにはさらに二体の怪物が増えていた。

 

 

「あ、ああ……」

 

 

 アーニャちゃんの怖がる声が聞こえる。かく言う私も腰が抜けてしまって動けない。ただプロデューサーさんは私達をかばうように立っている。

 それでも怖い。とても怖い。

 

 

「チッ、動けないのか。デネブ‼︎」

 

「わかってる侑斗。この人たちを守るんだな?」

 

 

 いつの間にか私達の目の前には、黒衣の烏天狗が立っていた。怪物達は苛ついたように叫び声を上げて罵っている。

 

 

「まったく、一度死んで尚こいつらの相手をするのか。本当に迷惑」

 

 

青年はベルトの横のホルダーらしきものから、一枚の黒いカードを取り出した。気のせいか、そのカードからは塵のようなものが出ては消えている。

 

 

「あんたらに言っておく」

 

「…なんでしょう?」

 

「今から起こるのは全て真実だ。その目でしっかりと見ていろ」

 

「は、ハイ‼︎」

 

「そこの男はライブの関係者らしいな。その二人以外にも伝えろ、あんまりウロウロするなとな」

 

「わかりました」

 

 

 プロデューサーがそう返事するや否や、突然音楽が鳴り出した。横笛をなめらかに演奏した音が、辺りに響き渡る。そしてその音の発生源は、青年のつけていたベルトだった。

 

 

「行くぞ、変身‼︎」

 

《Altair form》

 

 

 彼がそう言ってベルトにカードのようなものを差し込むと、次の瞬間、メタリックグリーンの鎧と仮面をつけた外観になった。

 原理は知らないけど、昔のアニメや特撮のように、変身を終えたらしき場所には一人の騎士がいた。

 

 

「「最初に言っておく‼︎」」

 

 

 緑色の騎士と天狗さんの気迫に、怪物たちは恐れをあらわにしていた。

 

 

「「俺たちは」かーなーりッ強い‼︎」

 

「その通り‼︎」

 

 

 大剣を構えて威風堂々とメンチを切る彼らの行動に、私とアーニャちゃんは、思わず頬を染めてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 




はい、申し訳ありませんが、息抜きでやっているので、更に亀更新となりますので、お待ちいただけると嬉しいです。

次は必ずハリポタを更新するので、お待ちいただけると幸いです。

それでは今回はこのへんで。

感想お待ちしております。





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失われた時間彷徨う/ひとりにしないで

では二話目、更新します。
どうぞ。





 私は夢を見ているのだろうか。目の前で起きていることは映画の撮影と言われても納得してしまう。

 私とミナミ、プロデューサーさんの目の前で一人の騎士(ナイト)に変わった彼は、戸惑うことなく三体の怪物(モンスター)に立ち向かっていった。手に持つ大きな剣を振るう度に、怪物達は火花を散らして苦悶の声を上げる。彼の後ろから襲い掛かろうとした怪物も、目の前に立つ真っ黒なヒトに何かされて彼に攻撃できないでいた。

 

 

「…ミナミ」

 

「…アーニャちゃん、あの人は」

 

「恐らくライブに来ていたのでは、しかし彼は一体…」

 

「それに関しては話せない。フンッ!!」ズドム!!

 

 

 プロデューサーさんの疑問に、目の前のヒトが攻撃の手を緩めずに応答した。そんな会話をしている間も、彼と怪物たちの攻防は続いている。あんなに大きな剣を持っているとは思えないほど身軽に動き、舞うように剣を振るう。不謹慎にもその姿はすごく。

 

 

прохлада(かっこいい)……」

 

「? アーニャちゃん?」

 

「な、なんでも、ないです」

 

 

 口から言葉が出ていたらしい。ただ使い慣れたロシア語だったようで、意味は分かっていないみたいだ。不謹慎だけど安心した。これを聞かれたら、恥ずかしくて明日からミナミやプロデューサーの顔を見ることができない。

 

 

「むぅ、このままでは侑斗がまずい」

 

「えっ?」

 

 

 真っ黒な人の言葉に反応してふと顔を上げると、目の前の戦況は動いていた。騎士は三人の怪物相手に苦戦していた。黒い人が援護しているとはいえ、攻撃を受けている。本当なら、この黒いヒトも駆けつけたいのだろう。でも私たちがいるために、下手に近寄ることができない。

 

 

「……行ってください」

 

「む?」

 

「プロデューサー、さん?」

 

 

 私とミナミの前に立つプロデューサーさんの言葉に、黒いヒトは驚いていた。かくいう私も驚いている。

 

 

「ここに我々がいても、邪魔になるだけでしょう。あなたもこのままでは彼の加勢にいけない」

 

「だが…むぅ…」

 

「大丈夫です。私たちはできるだけあなたたちから離れます。それより今は彼に」

 

「……感謝する。侑斗!!」

 

 

 プロデューサーの説得を聞いた黒いヒトは一言つげ、騎士さんの加勢に向かった。私たちは彼の邪魔にならないよう、怪物たちに気づかれないようその場を離れた。そして少し離れた物陰に隠れたとき。

 

 

≪Vega form≫

 

 

 二度目の笛の音と突風が私たちのもとに届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クソッ。

 いくら経験がプラスされているとはいえ、三人相手は少しきつい。だがアイドル達がこの場にいる限り、デネブの加勢は望み薄だろう。

 

 

「おおーい、侑斗ー!!」

 

「デネブ!?」

 

 

 なんでデネブが? あのアイドルの三人を守っていたのでは?

 とりあえず今相手をしているウサギ型イマジンを切り飛ばし、デネブに駆け寄る。

 

 

「デネブ!! お前、なんで!!」

 

「侑斗が心配で。それにあの三人は大丈夫だ、ほら」

 

 

 デネブの指示した方向をみると、あの三人は近くの物陰に隠れていた。なるほど、それなら一先ずは安心だな。ならば遠慮することはない。

 

 

「よし。デネブ、来い!!」

 

 

 ベルトからカードを引き抜き、再びスイッチを入れなおす。再び笛の音が鳴り響き、デネブが後ろに立つ。そのタイミングで俺はカードを裏返し、ベルトに差しなおす。

 

 

≪Vega form≫

 

 

 デネブと融合し、ゼロノス・ベガフォームとなる。今度はデネブが戦うことになる。

 真っ黒なマントを纏い、胸にはデネブの顔があしらわれ、仮面は星のような形になる。

 

 

「最初に言っておく!!」

 

「今度は何だ!!」

 

「生まれ変わっても、やっぱり胸の顔は飾りだ!!」

 

「「「はぁ?」」」

 

 

 お、お前はぁーー!! こんなときに何を言ってるんだ!? あそこのアイドル達も呆れてるぞ!! 敵にまで呆れられているし。

 

 

『馬鹿っ!! こんなときに何言ってるんだ!!』

 

「ええっ? だって勘違いさせたら悪いし…」

 

『そういうのはいいから!! 早く片づけるぞ』

 

「うむ、わかった!! そういうわけだから…」

 

≪Full charge!!≫

 

 

 エネルギーを充填させたゼロノスカードを引き抜き、大剣状のゼロノスガッシャーに差し込む。高密度のエネルギーを刃が纏い、やがて『V』の字の形をなす。

 

 

「いきなり決める!!」

 

「見せかけだ!!」

 

「こんの、こけおどしがぁ!!」

 

 

 デネブの発言に怒り狂った三体のイマジンはそれぞれの武器を構え、こちらに走ってきた。しかしデネブはゆっくりと余裕を持ちながら剣を構える。そして三人のイマジンが一列に立ち並ぶように位置どった。そのまま俺たちに猛スピードで肉薄してきた。

 

 

「騎士さん!!」

 

 

 後方から声が聞こえた気がした。白銀の髪の少女と同じようなトーンの声だったような気がする。。

 声に反応するかのように、デネブは剣を一閃する。V字の剣戟は狙いを寸分違わずにイマジンたちを切り裂き、三体を貫通して止めを刺した。黄色に輝くV字が眩い光を放ったとき、三体のイマジンは爆散した。

 周囲には誰もいない。イマジンの気配もない。大丈夫と判断した俺たちは変身を解除した。解除した瞬間眩暈が起こり、全身の力が抜けて倒れそうになる。

 が、地面に倒れる前にデネブに支えられた。

 

 

「ぐっ、これが…今回の代償か」

 

「…侑斗。出来るだけ変身しないようにするんだ。もしカード使い切ったら…」

 

 

 デネブが語り掛ける。本当にこいつは…

 

 

「気にするなデネブ、これは俺が選んだことだ。それに忘れられないだけマシだ」

 

「……」

 

 

 デネブは、しかし表情を暗くしたままだ。本当に昔からこいつは、心配性だな。

 物陰から二人のアイドルとスーツの男が出てくる。さて、近寄る三人もそうだが良太郎や母さんたちにはどう説明しようか。

 

 

 

 




はい、ここまでです。
次はハリポタを更新します。

それではまた。





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存在さえ忘れられた/声に出せたなら

どうも、久しぶりに「ロード・オブ・ザ・リング」を見ていて年甲斐もなくはしゃいでました。
二日ぶり、ですかね?
では更新します。

サブタイトルと内容は合致していません。これから先もこういうことが多々ありますがご容赦を。





 そんなことがあったのが一週間前。

 あのライブの日以来イマジンの騒動はなく、俺とデネブは速攻であの場からゼロノスライナーで後にした。直感で面倒なことになると考えたためである。まぁそのあと間違えてデネブを伴ったまま家に帰ってしまい、良太郎と母親、妹のハナに対する説明が面倒臭かったが。

 というか警察にイマジンが暴れていたといっても信じてもらえない。頭が逝っちゃってる人と判断されるのが関の山だろう。だから俺はあの場から去ることを選んだ。あの場にいた三人、特に銀髪の少女が何か言っていたが、生憎俺は英語以外の外国語は分からん。

 さて、そろそろ現実逃避はやめるか。

 

 

「おー? Красный демон(赤鬼)さん、プリン好き、ですか?」

 

「ん? おう、プリンは大好物だ。それと俺は鬼じゃねぇ!! 俺はモモタロスだ」

 

「モモタロスさん、ですね」

 

 

 俺のキャラではないかもしれないが、敢えて言わせてもらう。

 どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は今朝だ。

 家が経営している喫茶店の食材が切れてしまい、急遽買い出しに行くことになった。それに関しては別に構わない。俺もこの家に生まれて以来店の手伝いはするし、むしろこの世界に生まれ変わってからは料理も趣味の一つだ。椎茸を使わないな。

 まぁそれは置いといてだ。問題はそのあとだ。

 近くのスーパーに行った時にそれは目に入った。ものすごく怪しい格好をした、ものすごく見覚えのある真っ赤な奴がプリン売り場の前に佇んでいた。

 

 

「…どう見てもモモタロスだよなぁ」

 

 

 あの特徴的な二本の真っ赤な角は見間違えようがない。だがここは一つ、他人のふりをして…

 

 

「侑斗~、忘れ物だぁ~。買い物袋忘れてるぞ~」

 

 

 あ、あの馬鹿デネブゥーー!? なんでこんな時に限って出でくるかなお前はぁー!!

 と、そんなことを思っていると、後ろから肩をたたかれた。叩かれてしまった。恐る恐る振り返ると、そこにはいい表情をしたモモタロスがいた。

 

 

「よう、久しぶりになるのか?」

 

「……はぁ」

 

 

 俺は知らないふりをあきらめた。

 

 

 あれから買うものを買った俺たち、俺とデネブとモモタロスは場所を移し、公園のベンチでモモタロスの話を聞くことになった。

 こいつによると、俺が死んでからしばらくは時の運行も問題なかったらしい。だが最近何やら怪しい動きがあるらしく、オーナーは会議に出ているそうだ。

 幸い今はイマジンが湧くだけに生じており、それも俺が今いる世界・時間軸なため、早めに原因を突き止め、解決すれば問題ないらしい。

 

 

「悪いが俺は今回ばかりは手伝えない。亀や熊、小僧はそれぞれの場所にいるし、(もと)よりオーナーの許可が出ていない」

 

「そうか」

 

「だからこの世界のイマジンは、基本お前とおデブが対処することになる」

 

「うむ、わかった。モモちゃんわざわざありがとう」

 

「気にするな。まぁオーナーの許可が出れば、俺も手伝いに行くからよ。安心しろ」

 

「半端にウロウロするなよ?」

 

「うるせぇ」

 

 

 その後、しばらく家路につきながら互いの今までを話した。というかデネブがうちの店に誘ったため、そのまま三人で向かっているのだが。

 

 

「おー? あなたはこの前の…」

 

「え? あ……」

 

 

 だが俺の運はないのか、一週間前に助けたアイドルと出会ってしまった。

 

 

「えー、あー。じゃあ俺はこれd「待って、ください!!」うん?」

 

 

 この場を後にしようとしたら呼び止められてしまい、思わず止まってしまった。向こうも向こうでとても真剣な表情をしているから引くに引けない。

 

 

「…なんだ?」

 

「その…この前は助けてくださって、その…Большое спасибо(ありがとうございました)。あっその、ありがとうございました」

 

 

 助けたお礼、ということはやはりこの間のライブか。

 

 

「…別に、気にしなくていい。たまたまだ」

 

「それでも、です。私アナスタシア、言います。アーニャと呼んでください」

 

「そうか、覚えとく。じゃあな」

 

「あ、あの…」

 

 

 後ろから呼び止められる声がしたが、一応無視して家に向かった。ここまでは良かった、良かったんだ。モモタロスがついてくる分には問題ない、デネブもいることだしな。

 だがいつの間にかアナスタシアも「アーニャです」…俺についてきていた。しかもその手にはものすごく見覚えのある棒付きキャンディーが握られている。で、だ。そのままなし崩し的にアナスタシアも「アーニャです」…店に来た。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 そんなこんなで開店前の店には二人のイマジン、そして一人のアイドルが母と談笑している場面が出来上がっている。まったく、デネブはともかく、モモタロスは帰らなくても大丈夫なのか? オーナーに怒られても知らないぞ?

 ……ん?

 

 

「星……好きなのか?」

 

「え? あ、はい。趣味がАстрономические наблюдения。あっ、天体観測なんです」

 

「そうか…」

 

 

 アナスタシアが見ていた先、そこには俺が使わなくなった天体分野の教科書やそれに関した書物が置いてある棚だった。

 

 

「いつか…」

 

「うん?」

 

「いつか新しい星を見つけて、自分の名前をつけたいです」

 

「……」

 

 

 この子の夢を語る目。それは本当に澄んでおり、純粋なものだった。

 きれいな目だ。無意識にそう感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、忘れてました。お名前は、なんですか?」

 

「…侑斗。桜井侑斗だ」

 

「ユウト、さんですか。今度からユウトさんと呼んでも、いいですか?」

 

「……好きにしろ」

 

「да!! ユウトさん、Большое спасибо заранее.(よろしくお願いします)!!」

 

 

……この子とは長い付き合いになりそうだ。

 

 

 

 




はい、以上になります。
侑斗ですが、愛理はあくまで前世の妻であり、この世界の侑斗として過ごした期間が長いので、そこは割り切っていることにしています。
サブタイトルですが、察する人は察するんではないでしょうか?
次はハリポタの方を更新します。

ではまた。




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この思いは何処へ続くの/素直になれたなら

お久しぶり?です。
大学が一年目なのに本当に忙しい。なんでレポートが一気に4つも出るんでしょうかね。しかもお題がものすごく複雑なんですよ。憲法九条て、理想主義現実主義て、知るか!!って言いたいです。
では更新します。





 桜の花も散り、時期が梅雨に差し掛かろうとしたころ。

 桜井侑斗と野上良太郎は大学の中間試験を終えただった。二人は日ごろから勉強を怠らなかったため、追い込みをせずとも余裕でノルマをクリアできた。しかし彼ら二人を346のライブに誘った友人は追い込みをする側の人間だったため、二人はその友人の試験勉強に付き合うことになったが。

 まぁその甲斐あってか、三人は無事に試験をパスした。そして現在、学生三人と侑斗の妹であるハナ、そして何故かデネブを交え、三日ほど温泉旅行に出ている。

 

 

「いやー、やっぱ人が多いなぁ」

 

「うん、そうだね」

 

「……酔いそうだ」

 

「侑斗、大丈夫か? デネブキャンディー舐めるといい。今回は飴玉だ」

 

「いらねぇよ」

 

 

 酔い止めにキャンディーってなんだよ。というかハナ、お前はさっきから何個食ってるんだ?

 

 

「んー? わかんないし、おいしいからいいじゃん」

 

「美味しいって言ってくれたから、俺も嬉しい」

 

「デネブ……」

 

 

 だが酔いが酷く、デネブにプロレス技をかける気力もない。そのまま初日は五人で主な観光地を回り、旅館へと向かった。というかどれだけ人がいるんだよ。俺の大学は休みだが、世間では一応平日だぞ?

 

 

「まぁまぁ侑斗、楽しかったからよかったでしょ?」

 

「そうだよ侑斗、そんなんだと彼女できずにお母さんを悲しませるよ?」

 

 

 俺が悪いのか? 野上やハナにこう言われるってことは俺が悪いのか?

 

 

「とりあえず寝よう。明日は早いからな」

 

 

 そうだな。今はデネブの言うように寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、俺はデネブと共に宿周辺に繰り出した。今日は各自自由行動にしている。ハナは近くの町に出てるが…まぁ良太郎がいるから安心だろう。

 で、だ。

 俺は落ち着いた場所を見つけたら読書する予定だった。この世界に生まれてからというもの、読書は比較的好きな部類に入る。そのため俺は旅行には最低一冊は持参している。

 で、丁度いいベンチを見つけたからそこに座っていたんだが、気が付けば隣に少女がいた。

 ショートカットの黒髪であり、その前髪は目にかかっている。群青のスカーフを体にかけており、静かに読書するさまは一つの絵画のようだ。正直俺は見とれてしまっていた。

 

 

「侑斗ー、そろそろお昼ごはんだ。ライナーで作ってきた」

 

「デネブ……椎茸入れてないよな?」

 

「大丈夫だ侑斗。好き嫌いは駄目だからしっかり入れておいた!!」

 

「デネブー!!」

 

「アイタタタッ!! 侑斗タイム、タイム!!」

 

 

 椎茸を入れるとは、椎茸をいれるとは!! デネブ許すまじ。

 

 

「あの…」

 

「ん? ああ、悪い。五月蠅かったか」

 

 

 デネブにかけるプロレス技を解き、隣に座っていた少女に謝罪する。前髪の隙間から見える少女の目は、アーニャとはまた違った澄んだ眼をしていた。

 

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そうか。じゃあ俺たちはこのへ『文香さん、ここでしたか』んで…え?」

 

「え? おや、あなた方はこの間の……」

 

「? プロデューサーさんの知り合いですか?」

 

 

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえたので、デネブと二人して思わず振り返った。その先には、いつかのライブで会ったアーニャたちのプロデューサーだった。この人、いったい何人担当してるんだ?

 

 

「いえ。あの問題のライブの時、新田さんとアーニャさんの避難を手伝ってもらいまして」

 

「そうだったんですか。鷺沢(さぎさわ)文香です、よろしくお願いします」

 

「あ、ああ。よろしく」

 

 

 このプロデューサー、確か武内さんだったか、うまい具合にイマジンやゼロノスのことを誤魔化しているな。まぁ普通なら到底信じられない話だし、仕方がないか。

 

 

「デネブです。そして侑斗をよろしく!! これはお近づきの印のデネブキャンディー『クォラ、デネブゥ!!』アイタタタ、侑斗痛いぞ」

 

「あはは、お二人は仲がいいですね。ああそうだ、この後時間はありますか?」

 

「え? ありますが、理由をお聞きしても?」

 

「ええ。あの時のライブの件で、うちの専務がお礼を言いたいと」

 

 

 せ、専務が直接? いくらなんでもぶっ飛びすぎだろ?

 

 

「なら行こうか侑斗。なに心配するな、俺がついてる!!」

 

 

 お前が一番の不安要素なんだ…

 

 

「キャァァァァァアアアア!! 怪物ゥゥゥウウウ!!」

 

 

 ッ!?

 突如聞こえた悲鳴と感じた振動。方角は繁華街、確かハナと良太郎がいたはずだ!!

 

 

「!! あっちは確か専務が…!!」

 

「そんな!!」

 

 

 なるほど、武内さんのボスもあっちにいるのか。

 

 

「武内さん、あなたはそこの子と非難を。デネブ、行くぞ!!」

 

「おう!!」

 

「あ、君!!」

 

 

 武内さんが呼び止める声が聞こえたが、俺たちは無視をして走り出した。頼むから無事でいてくれよ!!

 

 

 

 

 

 




はい、短いですがここまでです。
次回はバトルパートと専務との対話です。そして今回は鷺沢文香が出てきました。
では今回はこの辺で。





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俺に立ち向かう全てを/息をひそめて、淋しさにたえたのなら

ようやくひと段落着いたリアル生活。
では更新します。




 

 私は朝から良太郎と繁華街へと出かけていた。兄の侑斗は今回単独行動を…いや、デネブがいるから単独じゃないね。

 そんなわけで今はとあるお土産屋さんにいる。

 

 

「お母さんにはこれでいいかな?」

 

「あっ、これなんか叔母さんにどうかな?」

 

「ええ~? 良太郎センスなーい」

 

「おろ~?」

 

 

 お母さんにお土産を買うために品定めをしてるんだけど、どうしてこう、良太郎は美的センスがないのかなぁ。なんでそんな不細工な置物をたのむかなぁ。お母さんにだったらこのコーヒー豆のほうがいいに決まってる。

 支払いを済ませ、二人で近くのレストランに入ることになった。私たちの入ったレストランはご当地限定メニューが存在するため、二人してそれを注文した。料理が来るまでの間、しばらく良太郎と談笑していると、私たちの近くの席に一人の凛とした女性と、見たことのある二人の女の人が座った。

 どこかで見たような…

 

 

(ねぇねぇ良太郎。隣の人たち…)ヒソヒソ

 

(うん…僕も見覚えがある)ヒソヒソ

 

(どっかの有名人かなぁ)

 

(さぁ、わからない)

 

 

 良太郎とヒソヒソ声で話していると、私たちの料理が運ばれてきたので、隣の三人組を気にしつつも料理を食べ始めた。と、そこに件の三人組から会話が聞こえてきた。

 

 

「ふむ、たまには現場を見てみるものだな。報告書だけでは把握できない部分も理解できる」

 

「そうですか」

 

「それにさっき武内から連絡がきたが、アナスタシアと新田。鷺沢を呼びに行った際、お前たちの恩人に偶然出会ったらしい。これからこちちに来るそうだ」

 

「それは本当ですか、専務!?」

 

「ユウトさんも、いるんですか?」

 

 

 ユウト? へぇーこの二人って、一度ユウトって人に助けられたんだ。偶然だと思うけど、侑斗と同じ名前だね。って、

 

 

(ちょッちょっと良太郎!?)

 

(ん? どうしたの?)

 

(隣の二人、346のアイドルだよ!? で凛とした人は346のボスだよ!?)

 

(え”!? そ、それ本当?)

 

(間違いないよ!! いまアナスタシアと新田って言ってたし、その名前であの外見と声って本人だよ絶対!!)

 

(…そういえばライブで見たことがあった)

 

 

 ま、まさかこんな旅行先で有名人に出くわすことになるだなんて、私一生分の運を使っちゃったのかもしれない。

 

 

(ねぇ、サインもらえるかな?)

 

(駄目だよ。もしかしたらプライベートで来てるかもしれないし、控えておこう。少なくとも向こうから話しかけられない限り)

 

(ちぇっ)

 

 

 良太郎に注意されたから渋々我慢する。まぁ言ってることは正論だから仕方がない。でもマナーがなってないのは自覚してるけど、話をちょっと聞くだけならいいよね。

 

 

「アーニャちゃんはオフの日に一度会ってるんだよね?」

 

「Да!! そのときお家のカフェにも招待されました!! 他にもデネブさんやモモさんとも出会いました」

 

「そうか。なら私も顔を合わせるとするか」

 

「専務が、ですか?」

 

「無論だ。346(うち)のアイドル、お前たち二人が助けられたのだ。お礼をするのが普通だ」

 

「専務も、きっとユウトさんを気に入ります」

 

 

 隣の三人は楽しそうにはなしを続けている。というかそのユウトって人、アナスタシアさんに相当気に入られいているなぁ。その人の話をするとき、若干うっとりとしてたし。

 

 

(ね、ねぇハナちゃん)

 

(ん? どうしたの)

 

(い、今ね? とっても聞き覚えのある名前が聞こえたんだけど…)

 

(え? どういうこと?)

 

 

 聞き覚えのある名前? そんなの一言も……あ。ああ!?

 

 

「す、すみません!! 今デネブに会ったと言いました!?」

 

「ええ!? な、なんですか!?」

 

「す、すみません!! とても聞き覚えのある知り合いの名前が聞こえたもので」

 

 

 思わず身を乗り出して声をかけたことを謝りつつ、デネブに関する情報を照らし合わせていく。そして桜井家の家政婦と化しているデネブイマジンと合致した。

 

 

「おデブちゃん、何してるのホント? 家に招いて、剰えデネブキャンディ―を配るなんて、良く侑斗に技をかけられなかったものね」

 

「あはは…まぁデネブらしいね」

 

 

 私と良太郎が二人合点していると、専務の人が声をかけてきた。

 

 

「話を聞く限りでは、君はこの子らの恩人の関係者みたいだな」

 

「たぶんそうです」

 

「ユウトって人は多分うちの兄かと」

 

「ユウトさんの、妹ですか?」

 

「ええ、そうで『キャァァァァァアアアア!! 怪物ゥゥゥウウウ!!』!? 怪物!?」

 

 

 突如外で悲鳴が上がり、次いで大きな衝撃が伝わった。窓の外で舞う砂塵の隙間に目を凝らすと、そこには蜘蛛っぽい特徴を持った怪物のような存在が雄たけびを上げていた。

 

 

「み、ミナミ。あれは…」

 

「ライブの時と…同じ…」

 

「なに!? ライブの時あれがでたのか!?」

 

 

 おデブちゃんの胸元と同じような模様を全身に入れた怪物はところかまわず攻撃を仕掛けていた。ここに攻撃が来るのも時間の問題だろう。

 

 

「三人とも、伏せてください。そのほうが少しは安全です」

 

「どうやらそのようだ。二人ともふs『オラァ!!』なんだ!?」

 

「えっ、侑斗!?」

 

「ユウトさん!?」

 

 

 窓の向こうで何かを殴る音が聞こえ、そちらに目を向けると信じがたい光景が目に入った。我が兄、桜井侑斗が妙なベルトを着けて怪物を殴り飛ばしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町で暴れていたのはスパイダーイマジンだった。前世では俺の酷い戦い方で苦戦してしまったが、二度も同じ轍を踏まない。

 

 

「二度目の相手だ」

 

「何言ってんだてめぇ!! 俺の邪魔をするな!!」

 

「やかましい!! 変身!!」

 

≪Altair form≫

 

 

 ベルトにカードを差し込み、変身を完了させると同時にボウガンで数発撃ちこむ。

 

 

「最初に言っておく!! 俺はかーなーりッ強い!!」

 

「既に攻撃してるだろ!?」

 

「やかましい!!」

 

 

 更に数発打ち込み、ゼロノスガッシャーを剣に変形させる。そして奴の起き上がりざまに数発斬りつける。

 

 

「この、舐めるなぁ!!」

 

 

 スパイダーイマジンが糸を飛ばしてくるがそれを避ける。俺の後方に人がいないのは確認済み、被害が広がる心配はない。というよりだ。

 

 

「二度も同じ手は食わないと、そう言っただろう!!」

 

「な、何故あたらないんだ!?」

 

「てめぇのやり方で、こっちは一度痛いめを見てるんだよ!!」

 

「ゴバァッ!?」

 

 

 更に数撃叩き込み、奴を吹き飛ばす。毒針を三本ほど飛ばしてきたが、手に持つ剣ではじく。以前はデネブに助けられたが、今回は一人で対処する。冷静に的確に、更に飛ばしてくる毒針を確実に薙ぎ払う。

 

 

「なんだよ…なんなんだよ、おまえ!!」

 

「貴様に名乗る名前はない」

 

「くっそぉ!!」

 

 

 自棄になったのか、毒針と糸を連射してくる。流石に剣で薙ぎ払うのは難しくなり、果たして剣に糸が絡みついて動かすことができなくなった。

 

 

「ケヒャヒャヒャヒャッ!! 俺を馬鹿にするからだ!!」

 

 

 右手に持った剣を動かそうとしたが、やはり動かない。このままでは、毒針にやられるだろう。デネブがまだ来ていないが仕方がない。

 

 

「死ねぇ!!」

 

「まだだ!!」

 

≪Charge and Up≫

 

 カードを差し直し、ゼロフォームへと変化する。緑の鎧は変色し、錆び付いたような赤銅色に変わった。それを利用しガッシャーを再びボウガンにし、奴の放った毒針をすべて撃ち落とす。目の前で起こったその光景に呆然とするスパイダーイマジン。

 

 

「悪いな。まだ死ねない」

 

「き、貴様…」

 

「さっさと終わらせる」

 

≪Full Charge≫

 

 

 エネルギーをチャージしたカードをガッシャーに差し込み、狙いを定める。

 

 

「ま…待て‼?」

 

「オォォォォォオオオオッ!!」

 

 

 引き金を引き、圧縮されたエネルギー談をイマジン向けて射出する。弾はそのまま直進し、イマジンを貫いた。

 

 

「……ふう」

 

 

 一度は不覚をとったスパイダーイマジン。今回もゼロフォームを使うことになった。俺は、まだまだのようだな。さて…

 

 

「侑斗、これどういうこと?」

 

「君はいったい…」

 

「ユウトさん、こんにちわです」

 

 

 一人マイペースな奴を除いて、どう説明するかな。

 

 

 

 




五日ぶりでしょうか?
まぁ何とか課題をこなしてようやく一段落したところです。
次はハリポタを更新しますね。





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相手は後悔するだろう/あの日のように

約一週間ぶりの更新です。
今回はバトル描写がありませんので悪しからず。
ではどうぞ。


 

 場所は移ってゼロライナーの中、本来なら俺とデネブ以外は入れてはならないのだが、あのまま現場に残すと面倒なことになるのは目に見えているため、良太郎とハナ、そして美城の専務と武内さん、仕事で来ていたラブライカの二人と鷺沢には特別に乗車させた。

 そして現在、なぜか花の前で正座している俺。それ以外のメンツはデネブの作った昼食やデザートに舌鼓をうっている。俺も飯はまだなんだが。

 

 

「侑斗、こっち向いて」

 

「……」

 

 

 さて、ここでハナに逆らい、俺も飯に手を付けたとしよう。そうなるとどうなるか。

 答えは至極簡単、ハナのイマジンをもダメージ込みで吹っ飛ばす飛び蹴りを食らうことになる。即ち、怒っているハナには逆らわないのが一番。

 

 

「ねぇ侑斗、さっきのはどういうこと?」

 

「…さっきの、とは」

 

「とぼけないで。この電車といい、おデブちゃんが悪くなったような異形といい、挙句の果てに変身する侑斗。事細かには無理だろうけど、納得のいく説明はしてもらうからね」

 

 

 さて、どう説明するか。仮にこの場にハナだけしかいなければ、ある程度の事情は話すことが出来ただろう。ハナは聡い妹だ。だが346プロの人たちなどがいるこの場では、どこまで話すのか迷っていしまう。

 …そうだな。

 

 

「…ある程度分かっているだろうが、イマジンたちがこの時間に発生しているんだ。イマジンの説明はデネブを紹介するときにしたから割愛するぞ」

 

 

 それから俺は簡単に今の俺の状況を説明した。ゼロライナーのこと、ゼロノスのこと、現時点で大量発生したイマジンの被害を留めるには、俺ゼロノスになって奴らを倒す以外ないこと。本音を言えば戦わないに越したことはない。しかし全てのイマジンがデネブやモモタロス達のようではない。寧ろ、今回のバットイマジンのようなものが大半である。

 およそ一時間ほどかけて事情説明を行った後、俺はようやく昼食にありつけた。精神的にも肉体的にも披露していたこともあり、今回ばかりは嫌いな椎茸も残さずに食べた。

 そして食後のお茶を飲んでいるところに、良太郎から話しかけられた。

 

 

「ところで侑斗」

 

「なんだ?」

 

「ゼロノスってその、チケットっていうのを使うんでしょう?」

 

「ああ、そうだが」

 

 

 まさか良太郎から爆弾を投げてくるとは予想だにしてなかった。

 

 

「話を聞いた限り、チケット使うには何かしら対価が必要なんじゃないの?」

 

「……」

 

 

 完全に失念していた。前世の野上よりもこいつは頭の回転が早い。

 

 

「さっき変身を解除したとき、目元を抑えてよろけたのが関係してる?」

 

「……」

 

 

 野上の質問に興味を、或いは疑念を抱いた皆がこちらに視線を向ける。特にハナと、なぜかアナスタシアの視線が一番突き刺さる。二人とも強い疑念を込めた目でこちらを見つめる。助けを求めようにも、デネブはキッチンに籠っているため、ここにはいない。

 俺のこの世界における変身の代償、それは俺の存在そのもの。

 変身後、もしくはチケットを全て消費しても皆から俺の記憶は消えない。しかし、俺はチケットを使用するたびに世界から認識されなくなる。そして今あるチケットをすべて使用した暁には、俺の存在はこの世界から焼失し、魂は輪廻の輪に戻っていく。

 しかしそれを話すわけにはいかない。俺が早くて今年中に死ぬと話してみよう、パニックどころではなくなるのは目に見えている。

 

 

「……確かにあるが、そんな大層なものではない」

 

「というと?」

 

「ええ、変身の代償は俺の生命力。一回の変身で失った分は良く寝てよく食べれば回復する」

 

「本当に?」

 

「ユウトさん。嘘じゃない、ですよね?」

 

 

 俺の返答に反応する美城の面々、特にアナスタシアが強く確認をとってくる。専務は先ほどから黙りこくっているが。

 

 

「…ユウトさん?」

 

「ああ、本当だ」

 

「……そうですか、良かったです」

 

 

 そういって邪気のない、無垢な顔でほほ笑むアナスタシア。その純粋な笑顔を見ると、嘘をついたことに心が痛む。だが無駄に心配させるよりかはいいはずだ。嘘も方便、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気が軽くなったところでライナーを操縦し、イマジンを倒した直後時間帯、宿の近くにライナーを停車させ、皆を下した。どうやら彼らが使っている宿も俺たちと同じだったらしい。というわけで、今は俺たちの部屋で皆で茶を飲んでいる。ちなみにいうと、残り一人の同級生は、急用だとかで帰った。

 それにしても……

 

 

「~♪」

 

 

 いやに機嫌のいいアナスタシアが俺の左隣に座っている。そして俺の向かいには新田と鷺沢、良太郎。右隣にはハナが座っており、なぜかアナスタシアに対抗心を抱いているような様子。お前そんなキャラじゃあ無かっただろう?

 専務は何やら電話のために席を外し、武内さんは打ち合わせなどでこれまた席を外している。デネブは…皆の茶や茶菓子を補充したりしている。ここでもお前は家政夫になるのか。

 と、専務と武内さんが戻ってきた。

 

 

「お待たせしました。まずは三人の仕事の方針について説明します」

 

「あ、はい」

 

「?」

 

 

 説明を始める前に退室しようとしたが、なぜか武内さんに止められた俺含めた一般人の三人。聞かれちゃまずいのでは?

 

 

「今回の仕事ですが、続行することが決まりました」

 

「「ッ!?」」

 

「あれほどのことがあったのにですか?」

 

 

 普通怪物が暴れるようなことがあればニュースになるし、仕事も中止になるだろう。だがこの世界に蔓延るイマジンの場合、その限りではなかった。彼らが影響を及ぼすのは時間だけと言っても過言ではなく、原因となるイマジンを倒した場合、その時間は修復されるため、塵にされた人以外は全て修復される。そしてイマジンに殺された人間は、殺されたことや存在がなくなったことすら認知されない。要するに、何事もなかったかのような扱いになる。

 

 

「ええ。先ほど現場を見に行きましたが、まるで怪物騒動が無かったかのような状態です。そもそも怪物が出なかったような状態で、向こうさんも怪人のことは知らないようでしたから」

 

「…わかりました」

 

「私も、仕事をします」

 

「Да、アーニャもです」

 

 

 三人は仕事をすることにしたようだ。精神面はとても強いらしい。

 

 

「そして桜井さん、あなたにはお礼を」

 

 

 専務と武内さんが居住まいを正し、俺の前に座ったので、自然と俺も背筋が伸びる。

 

 

「この度はうちのアイドル、そして私たちのことを二度も救ってくださり、ありがとうございます」

 

「こうして仕事を行えるのも、貴方が騒動を解決してくれたおかげ。本当に感謝しております」

 

 

 頭を下げる二人の大人、それに合わせるように頭を下げる、三人のアイドル。前世を含め、ゼロノスに変身した後に感謝されたことはあまりなかった。そのせいか、今のこの状況に脳の処理が追い付かない。

 しかし確実に、自分の胸に去来する一つの感覚・感情が存在した。

 嗚呼、なんと心地よいのだろうか。

 

 

「いえ…お気になさらずに。俺がそうしたかっただけなので」

 

 

 自然とこの言葉が出てきたのも、この胸中のぬくもりが発端なのだろう。

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。
グダグダになってしまい、申し訳ありません。そしてついでに言えば、次話はまた時間が飛びます。
その語られない帰還に武内Pと専務から、侑斗は何度もスカウトを受けました。二十歳とはいえ、彼は大学三年生ですので、就活なども来ますしね。侑斗は答えを保留にしている、という状況から次話は始めたいと思います。


それではまた。次回はハリポタの更新をします。




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半端にウロウロするのなら/笑顔に会えるのだろうか


はい、更新です。
ではどうぞ。




 

 

 あの旅行での一件から早数ヶ月、世間でも俺の周りでも色々なことが起きた。

 あれ以降346の専務や武内さんからスカウトがきた。どうもプロデューサーとして俺を雇いたいらしく、結構な期間説得をされた。そして余りの熱心さに折れてしまい、来年の就活に見込みがなければ雇ってもらうことで話が付き、現在は週末のみ事務作業を手伝っている。

 イマジンも湧き、俺が出張って解決することも、たまにモモタロスが手伝いに来て解決すること十数回。頻繁に戦いを続けていたため、残りのチケットの枚数も半分ほどになった。

 

 そしてこれは結構大きな事件だったのが、346のあるプロデューサー、武内さんではない、が担当アイドルとの熱愛プライベートを週刊誌に撮られ、スキャンダルとなって世間を揺るがせた。

 しかしこれには意外な結末が待っていた。

 なんとその翌日に346が記者会見を開き、専務と社長がとんでもない発言をしたのだった。

 

 

「わが社では一度も”アイドルは恋愛禁止”とは言っていませんが。世間が勝手にそういう押しつけのような観念を持っているだけです」

 

「もしアイドルが恋愛をすることによってさらに魅力を増すなら、私たちは喜んで彼女たちの恋愛を推奨します」

 

「そもそも彼女らはアイドルである前に一人の女、自らの感情まで抑圧されては、それこそただの”偶像(アイドル)”、人形と同じです」

 

「彼女たちは人間だからこそ、出せる輝きがある。その輝きに魅せられたからこそ、ファンの人たちが集う。真にファンになるのなら、彼女らの恋愛事情など関係ないでしょう」

 

 

 なんとも強気な発言が繰り出されたこの会見は、一気に茶の間の話題となり、全国に広まった。そしてその発言は世論をも動かし賛否両論を招いた。ネット、雑誌などにも取り上げられ、最終的には346は恋愛公認という形に収まった。

 芸能業界ではこのような問題が取り上げられた際、プロダクション的にもアイドル達の仕事が少なくなり、打撃を受けるのが普通である。しかし先の記者会見のインパクトが強かったのか、逆に多くの仕事が入ってくるようになった。件のアイドルも注目を集め、一人、またはプロデューサーも稀に共演をするようになった。

 

 そんなことがあって数週間が経過したとある週末。今日は346の事務処理もなかったため、自室でゼミの準備をしつつ、カフェの手伝いをしていた。たまにハナの受験勉強を手伝いつつ、自分の仕事をしていると、何やら階下のカフェから楽しそうな声が聞こえてきた。

 時間帯もまだ昼になっていないため、客が賑わう時間ではない。仕事も丁度きりがよくなったので、休憩がてらハナと一緒に階下に降りた。

 そして降りてすぐに自室に戻りたくなった。

 

 

「そうなの、今日はお仕事で」

 

「Да。近くの美味しいお店、紹介するお仕事、です」

 

「アーニャちゃんに紹介されて以前来たとき、私もここの料理が好きになって」

 

「ここを選んでくれるなんて嬉しいわ」

 

 

 な・ん・で、ラブライカの二人がここにいる。鷺沢は本棚の本に夢中になっているし、おいそこの自称世界一可愛いチビ中学生、いい加減自己アピール辞めないならゼロライナーからバンジーさせるぞ。

 というか本当になんで(ここ)にいる。いや、仕事という単語は聞こえていた。だがプライベートでも散々来ているのに、わざわざ仕事でまでくる必要ないだろう。いや、来るのはいいんだが…ああー考えがまとまらない。

 

 

「あっ!! 皆さんいらっしゃいです!!」

 

 

 ハナ…なんでこういう時に限ってお前は…

 

 

「こんにちは、ハナちゃん」

 

「こんにちはです、ハナさん」

 

 

 よし、俺には気づいていない。このまま自室に行けば…

 

 

「侑斗、休憩か? 何か飲むか?」

 

 

 デネブ…お前ぇ…

 

 

「あっ!! ユウトさん、こんにちはです!!」

 

「おや、桜井さんもようやく可愛いぼくに気づいたんですか?」

 

「……」

 

 

 頼むから二人とも、俺を見つけるたびに大声を出さないでくれ。特にアーニャ、少し落ち着け。鷺沢は顔すら上げずに静かにしているぞ。ほら、ディレクターさんもアシスタントさんも生暖かい視線を向けているし、挙句武内さんも苦笑しているし。

 当のアーニャは目をキラキラと輝かせ、俺をじっと見ている。頼むからその純粋な目で俺を見ないでくれ。ハナも15の時はこんな純粋ではなかった気がする。あと輿水、お前のドヤ顔はうざい・

 

 

「あ、ああ、いらっしゃい。仕事か?」

 

「Да!! 今日はお仕事で、この後ここのレポートを、するんです」

 

「愛理さんのコーヒーと料理、おいしいですから是非」

 

 

 あの時の記者会見以来、アーニャは俺に対して積極的に関わってきた。イマジン騒動の時も8割がたアーニャが巻き込まれていたし、プライベートでも出くわすことが多かった。そのせいか彼女にどうやら気に入られてしまったようで、会うたびに純粋な視線を向けてくる。オーナーによれば、アーニャは特異点ではないが。

 俺は正直後ろめたさが勝り、どう対応すればいいかわからない。俺は戦いに身を置いている。イマジンは未来人の精神が肉体を持ったもの。怪人とはいえ、生きているのと変わらない。人を守るためとはいえ、奴らを殺している俺は、奴らの()に染まっているのだろう。

 そして最近だが、周囲に認知されないことが増えてきた。チケットが半数近くになったから覚悟はしていたが、やはり少し来るものがある。家族やなぜか346のアイドル達はその傾向がないが、いずれは皆から認知されなくなるだろう。できればチケットを使い切る前に、このイマジン騒動は終わってほしい。

 

 

「ユウトさん? どうしました?」

 

「…いや、なんでもない」

 

「そうですか。あー、ユウトさん、難しい顔、してます」

 

「わかりました!! ぼくの可愛さに魅了されて動けなかったんですね!! なんて罪なぼく」

 

 

 いや、それはない。少なくとも輿水は俺の好みではない。

 

 

「…本当に何でもない。大丈夫だ」

 

「え? あれ、無視ですか?」

 

「本当に、ですか?」

 

「ああ」

 

 

 これだけは悟られるわけにはいかない。ゼロノスの代償は今まで隠し通してきた。これから先も話すつもりはない。だがアーニャは勘が鋭いらしく、何度かバレそうになった。今もなぜか俺の心の機微を察知してきた。

 

 

「ではそろそろ始めましょうか。位置についてください」

 

「あっ、じゃあ二人とも、お店手伝って」

 

「「はーい(わかった)」」

 

 

 おしゃべりはここまでにしよう。母に呼ばれていることだし、厨房に回りますか。

 

 

「あっ、侑斗とハナはホールお願いね。おデブちゃんはキッチンお願い」

 

 

 ……解せん。

 

 

 





はい、ここまでです。
冒頭でスキャンダルについて触れましたが、件のアイドルはデレステはおろか、モバマスにも出ていないアイドルにしていますゆえ、名前も設定していません。
それにしても、恋愛描写は不得手です。自分で書いていて、こんなにもグダグダになるとは思っていませんでした。

では次回はハリポタを更新いたします。


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何もせずにじっと見ていな/Baby I'm thinking about you.

Twitter始めました。作者ページにてアカウントアドレスを書いておりますので、登録したい方はどうぞ。
更新予定等をTwitterにて報告したいと思います。

アンケート結果ですが、ディケイドに一票が入っていたので、あと4話ほど進んだら出そうと思っております。

では更新します。





≪Full Charge!!≫

 

「ハァァァァァアア……ウァアラァッ!!」

 

「ウボアァァァァアアア……!?!?」

 

 

 ゼロガッシャーの斬撃を受け、爆発しながら散っていくモールイマジン。今日もまた一枚チケットを使った。残るはベガが十二枚、ゼロが八枚。

 チケットがベルトから抜け、塵に還る。そして同時に俺を襲う浮遊感と意識が遠のく感覚。いい加減このチケットを使い始めてから長いので、もう慣れてしまった。他人から気づかれないことにも慣れた。

 

 

「侑斗、もうイマジンはいないぞ。そろそろ帰ろう」

 

「そうだな」

 

 明日は事務所の手伝いがあるし、早く帰って寝よう。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 あのあとテレビレポートは無事に終わり、テレビでも全国放送されたことにより、うちのカフェは連日大賑わいとなった。また一見さんのつもりで来店した客も、今や常連となっている者が何人もいた。

 そして今回店に来た4人に触発されたのか、ほかの346アイドル、何故か765のアイドルも来るようになり、ある意味うちの店は有名になった。まぁ母のおかげで、変に騒ぐ輩は今のところでていないが。

 

 まぁ何はともあれ、無事にことが済んで早二週間。試験も終わり、今日は346の事務所で仕事の手伝いをしている。

 近々大きなライブを控えているためか、事務所だけでなく、建物全体がそわそわと落ち着きがない。まぁそれでも俺は事務員助手のような立場なためあまり深い事情までは知らない。俺はただ次から次へとデスクに重なる書類を処理するだけである。

 とはいえ、流石に疲れた。同じ部署の人は皆休憩をとったし、今度は俺が休憩に入らせてもらおう。

 先輩に一言告げ、階下のロビーに向かう。そこの自動販売機はコーヒー以外の缶ジュース類もあるので、俺はここで仕事をするときは重宝している。

 で、お茶を購入してベンチで飲んでいると、

 

 

「あっ、桜井さんおはようございます」

 

「? ああ、楓さんおはようございます」

 

「お仕事には慣れましたか?」

 

「ええ、ぼちぼちですね」

 

「それは良かったです♪」

 

 

 高垣楓、346のなかでもトップクラスのアイドルである。アイドルになる前はモデルをしていたらしい。そしてこの人、超を付けていいほどの酒好きであり、加えて酒に強いため、飲みに誘われたときは気を付けなければならな…

 

 

「ところで桜井さん。今晩どうですか?」

 

 

 言葉を聞くだけなら、俺と彼女に間にただれた関係があると勘ぐるだろう。だがここに一つの動作が入ればどうだろうか? たとえば猪口を持ったような手を口に近づけ、一口飲むような動作とか。要するに今晩一杯? どうかと誘われているのだ。

 

 

「仕事がいつ終わるかわかりませんので」

 

「なら待ってます」

 

「いえ、そこまでしてもらわなくても…」

 

「もしかして、私と飲むのが嫌ですか?」

 

 

 上目遣い込みでこちらを見つめる楓さん。だが正直今この状況で飲みに行くのは立場的にもきつい。正社員の方々の中では、徹夜している人もいるという。いくらアルバイトのような立場とはいえ、大それた行動はできないだろう。

 そんなことをウダウダと考えていると、楓さんは何かを思いついたような顔をし、手のひらをパンと打ち合わせた。

 

 

「そうだ!! 桜井さんの家で飲みましょう」

 

「ちょっと待てどうしてそうなる」

 

 

 思わず年上であることを忘れて突っ込んでしまったのは許してほしい。それもこれも高垣楓さんが突拍子もないことを言いだしたせいだ。

 

 

「だって外で飲むのは嫌なのでしょう? なら桜井さんの家なら問題ないですよね♪」

 

「問題大ありです。実家で俺以外の人がいるとはいえ、アイドルがそうあっさりと一般人の家を訪れるのはどうかと思います。店のほうならいいですが、夜は開いてませんし」

 

「なら私から愛理さんに聞いてみますね」

 

 

 そういうや否や、携帯を操作しだす楓さん。というか何故母のアドレスを知っている。そして母も、なんでそう簡単に自分のアドレスをアイドルとかに教えるかな。

 

 

「ああ、桜井さんのアドレスも知ってますよ」

 

「はい?」

 

「愛理さんとハナちゃんに教えてもらいました♪」

 

 

 俺の個人情報が本人の与り知らぬところで広がっている。しかもハナまで味方につけるとは、俺の逃げ道をふさぎにかかっている。

 そして無情にも母から許可が下ろされ、今晩は楓さんと家で飲むことになった。しかもつまみはデネブが張り切って作るとのこと。完全に外堀を埋められたため、俺もあきらめることにした。

 そして夕方になり仕事も何とか終わらせたので、荷物をまとめてロビーに向かった。果たしてそこには変装した楓さんがいた。そして何故か姫川と新田もいた。

 

 

「あっ、桜井さんこっちです」

 

「おおー!! 侑斗くんやっほー」

 

「侑斗さん、お疲れ様です」

 

 

 予定では楓さんだけのはずだが。

 

 

「安心してください侑斗さん。私はただ居合わせただけなので」

 

「そうか…」

 

「じゃあ早速行きましょうか!! 美波ちゃん、お疲れ様でした」

 

「はい!! また明日」

 

 

 とりあえず新田は帰宅、問題は姫川だが。

 

 

「まさか姫川もですか?」

 

「大丈夫!! 愛理さんに許可とってるから!!」

 

「……」

 

 

 拝啓海外の天文台にいる父へ。どうやらあなたの息子は齢二十一にして、女に振り回されるようです。

 帰りにスーパーによって酒を買い(その際大量購入しようとした二人に牽制をかけ、焼酎瓶二本に留めさせた)、そのまま二人を伴って「ミルクディッパー」へと向かった。

 

 カフェの看板は「CLOSED」になっていたが、明かりはしっかりとついているため、みんなカフェにいるのだろう。

 

 

「こんばんわ―!!」

 

「お邪魔します♪」

 

「……ただいま」

 

 

 二人が先に入り、ノロノロと後に続く俺。カフェには既にハナが待ち構えており、デネブと母は厨房から夕食を運んでいる最中だった。

 

 

「二人ともいらっしゃい。でもお酒の前に夕ご飯食べましょう」

 

「侑斗、風呂が先か? それともごはんが先か? 今日も侑斗の好き嫌いを治すために、椎茸をたっぷりと使ったぞ!!」

 

 

 デネブ……お前ぇえ!!

 

 

「イタイイタイ!? 侑斗、イタイぞ!?」

 

 

 構うものか、椎茸入れてなければ……椎茸を入れてなければ!!

 

 

「侑斗ー、ご飯食べないのー?」

 

「……食う」

 

「アイタタタ、今日も中々強烈だ…」

 

 

 辞めよう、諦めが肝心だ。これ以上精神的にも疲労させるのは得策じゃあない。幸い明日は休日だし、多少飲みすぎても大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 と思っていた時期が俺にもあった。夕食の後、用意された軽いつまみを食べながら酒を飲んでいたが、明らかに姫川と楓さんのペースが速い。加えて楓さんはともかく、姫川は既に酔いが回っている。

 

 

「姫川、そこまでにしておけ」

 

「ああー、ユートくんがまたー姫川って言った―」

 

「うふふ♪」

 

「明日はお前も休みってのは分かるが、明らかに飲みすぎだ。お前はまだ二十歳だろう」

 

「うるひゃ~い、苗字じゃなくてユッキってよべ~」

 

「……」

 

 

 これは、イマジンよりもたちが悪い。あちらは特に被害を及ぼす個体だけを撃破すればいい。だが酔っ払い、絡んでくる性のタイプは面倒である。

 というか楓さん、見てないで手伝ってくれ。ハナは寝てしまったし、デネブは今母と明日の仕込みをしているため、助力は頼めない。よってこの場は俺がどうにかするしかない。

 

 

「これで明日起きれなくなって、試合観れなくなっても知らないからな」

 

「ッ!? ダメッ!! 試合は見る!! 明日はキャッツの優勝が決まるかどうかのゲームだから!!」

 

「なら帰るか泊まるか選べ」

 

 

 俺はこれほどにまで甘い男だっただろうか。前世から鑑みても、これほど他人を気にかけたことは、良太郎と前世の妻、娘以外にはほとんどなかった。にも関わらず、こうして酔っぱらいの相手をしている光景をみたら、モモタロス達は何というだろうか。

 

 

「ううー……泊まったら迷惑かも『あら、うちは大丈夫よ』愛理さん?」

 

「まさか…」

 

 

 まさかの母の登場。

 

 

「幸い部屋は余ってるし、一日ぐらいなら大丈夫よ。楓ちゃんもどう?」

 

「いいんですか?」

 

「ちょっとまっ「大丈夫!!」…まじか」

 

 

 こうなった母は梃子(てこ)でも動かない。

 

 

「じゃあ…」

 

「お願いしてもよろしいですか?」

 

「ええ、もちろん!!」

 

「はぁ…なら部屋の用意してくる」

 

 

 俺は一つため息をつき、彼女らの寝室の用意をしに向かう。空き部屋に向かいつつ、前世に比べると非常に人として充実した生活を送れてると感慨にふける。

 だが俺は戦う者、この騒がしくも平穏も長くは続かない。この先一年以内か、それとも何年も先の話になるかわからないが、この時間をかけた戦いが必ず起こるだろう。それまで俺は生きているのか、それともチケットを使い果たしてしまうのか。

 脳裏にとある人が浮かぶ。俺が消えた後、あいつはどんな顔をするだろう。諦めた表情か、それとも悲しさに歪めるか。いずれにしても、笑顔が一度消えることは間違いないだろう。それは俺の望むところではない。チケットが全てなくなる前に、事態が全て解決することを野損ばかりである。

 

 

「侑斗くーん、どうしたのー?」

 さて、シンデレラ達がお呼びだ。早く準備を終わらせるとしよう。

 

 

 

 




はい、ここまでです。冒頭前書きにも書きましたが、Twitterを通じて更新情報等を報告しようと思っております。無論活動報告もアンケート等で使用していきます。

さて、次回はハリポタを更新しようと思っています。更新日時はTwitterで前日にお知らせします。
それでは今回はこのへんで。


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誰もが信じている真実それだけが/今も覚えてる心に溶ける星の声

今回はこちらを更新しました。
後書きにも書いてますが、前話から結構な時間が経っている設定です。その間に変化した人間関係は、完結後に番外編として書いていく予定です。

ではどうぞ。




 

 デネブと再会して、俺は24歳の社会人となっていた。最初の心配からは外れ、既に4年の月日が流れている。ライブの日のレオイマジンの出現以来、イマジンの出現頻度は確実に減少し、ここ半年は変身していない。

 

 

「侑斗、そろそろ時間じゃないか?」

 

 

 自宅、つい一年ほど前に一人暮らしを始めたアパート、のソファで寛いでいると、何故か朝から部屋に来ていたデネブから話しかけられた。今日は昼からの出勤のため、部屋で寛いでいたところにデネブが部屋に来て、掃除を始めた。

 元々ものをあまり持つ主義ではなかったため、部屋はさほど散らかったりしていない。せいぜい同年代の男性に比べたら随分と綺麗である程度だ。だからデネブが来てもすることはないはずだが。

 

 

「そういえば侑斗」

 

「どうした?」

 

 

 珍しく、と言えば失礼だろうが、デネブが真剣な声音で話しかけてきた。もしかして、最近成りを潜めたイマジンの行動について分かったことでもあるのだろうか。

 

 

「うむ。最近イマジンの気配はないが、何かしら別の問題があると、デンライナーとゼロライナーのオーナーから連絡があった」

 

「? 異変が起こっていると?」

 

「うむ」

 

 

 重々しく頷くデネブ。一体どんな問題があるというのだろうか。

 

 

「それは…どれほどの規模のだ?」

 

「干渉してきているのは二つ。一つは以前確認した波長と同等のものだったために、気にしなくていいらしい。せいぜいその者と協力することになる程度だそうだ」

 

 

 デネブの口調からして、そいつは俺も知っている存在らしい。ただ俺が知るうえで、時空や世界を超える存在など二人しかいない。あとはせいぜいそいつらと共にいる二人程度だ。

 

 

「ということは、またそいつら関連の騒動が起こるんだな。はぁ、もう一人のために交渉材料用意しておくか」

 

 

 二人のうち一人は『お宝』とやらさえ用意すれば、何とかなる。まぁ奴が気に入ればの話だが。

 もう一人は正直わからん。最初の出会いは覚えていないが、どうやら俺の存在がかかった出来事で手助けしてくれたらしい。次に会った、というか接触したのは3号の事件のときだ。まぁその時もたいして会話はしていないが。

 

 

「それともう一つ、オーナーたちでも物申すことが出来ない存在がいるらしい。過去に一度、その者が俺たちの世界に来たそうだ」

 

「なに? それは元の世界か? それともここか?」

 

「…両方だ」

 

 

 その言葉に衝撃を受けた。俺たちが時に干渉する際には、必ずと言っていいほど許可を取らねばならないオーナー達。そのオーナー達でも逆らうことが御法度な存在が世界には存在するというのか。

 

 

「ユウトさん? いますか?」

 

 

 玄関の外から声が聞こえる。今住んでいるアパートはインターホンが付いていないボロアパート。寧ろ風呂とトイレが個別についてるだけマシなものだ。むしろ1Rの物件で家賃が5万とは、破格すぎる物件である。

 まぁそれはさておき、現在玄関外にいる人物。誰かわからないという惚けは使わない。というより以前使ってガチ泣きされたことがあるため、それ以来使わなくなった。

 

 

「いらっしゃい、侑斗ならいる。でもすぐに出かける」

 

「デネブさん、こんにちわです」

 

 

 こちらに聞くまでもなく勝手に招き入れるデネブ。そしてそれに応じる来訪者。頼むから、一応家主は俺なんだから、俺に許可を得てほしい。

 

 

「あっ!! ユウトさん、こんにちわです!!」

 

「…ああ」

 

 

 部屋に入ってきた途端嬉しそうな表情を浮かべる銀髪の美少女。ここ数年で日本語は違和感ないほど上手くなったが、やはり所々つまるしゃべり方をする彼女は、2年前まで世話になっていた事務所に所属するアイドル。

 

 

「で、アーニャ。お前今日は仕事と聞いていたが?」

 

「Да, 今日のお仕事先は特別です」

 

「特別?」

 

「Да!!」

 

 

 より嬉しそうにほほ笑むアーニャことアナスタシア。ああ、このパターンは何回か経験した。この後にくる言葉は…

 

 

「「今日の仕事場は、侑斗さん(俺)の仕事場の天文台です!!」…だと思った」

 

 

 予想通り、俺の仕事場に来るらしい。はぁ、同僚からいじられること間違いなしだな。ただでさえ、二年前俺が346から出ていく際に大勢の前でアーニャから告白された。だが正直当時は連戦で疲弊しており、彼女らをこれ以上巻き込むわけにはいかなかったため、俺は彼女の想いを受け取らなかった。

 だがアーニャは諦めず、何度も俺に接触してきた。仕事の終わり、休日、仕事行く前の朝など、時には母やハナとのコネクションを用いて接触してきた。戦闘後に怪我の治療を受けたり、家に帰るといつの間にか食事を用意してデネブといたりと、離れていくどころかより近づいてくる彼女に俺は諦めた。

 だが正式に付き合っているわけではない。最低な男と思われるだろうが、俺のイマジンとの戦いが終わるまで保留にしてもらっている。それが俺なりのけじめである。生きているうちに終わればいいが。

 

 

「はぁ…なら行くか。どうせそのつもりだったんだろう?」

 

「Да!! ではデネブさん、行ってきます!!」

 

「うむ」

 

 

 特にスーツの類を着る必要はないため、私服のまま仕事場に車で向かう。助手席に座るご機嫌なアーニャの鼻歌を聞きながら思考をめぐらす。

 あの二人が来るということは、近々あいつらを目の敵にしているあの男も接触してくるだろう。幸いなことにこの世界の『ライダー』は俺一人、あの男の言い方をするならば、ここは『ゼロノスの世界』ということになるのだろう。

 例の三人への思考を巡らせていると、いつの間に仕事場についていた。時刻は午後3時、まだ1時間ほど時間がある。

 

 

「ここにいたか、この世界の『ライダー』」

 

 

 後方から声をかけられた。この気配は…

 

 

「…やはりお前か、『鳴滝』」

 

「? ユウトさん?」

 

 

 アーニャが俺の袖をつまむ。顔を向けると、少々不安げな表情を浮かべていた。こういうところは、出会った当初から変わらない。

 

 

「…大丈夫だ。先に行ってろ」

 

「…はい」

 

 

 察してくれたのだろう。途中何度も振り返りながらだったが、集合場所に向かった。見届けた上で、俺は『鳴滝』に向き直った。

 

 

「話は…まぁわかりきっているな」

 

「ならいい。破壊者を始末しr『だが断る』…なんだと?」

 

 

 俺は以前から決めていたことがある。たとえ破壊者が来たとしても、俺自身が奴と接触してから今後の判断をする、と。

 俺の返答に『鳴滝』は顔を歪めた。

 

 

「それは…お前はこの世界が破壊されてもいいというのか!!」

 

「破壊なら既にされている」

 

「何だと?」

 

 

 そうだ、破壊なら既にされている。過去に『ライダー』と呼ばれていた俺がこの世界に生れ落ち、そして生前と同じ力を振るっている時点で、この世界には『ライダー』が生まれ、『破壊』されている。

 この世界には『ライダー』はいない。『始まりの1号』もいないし、今後も『ライダー』が生まれることはないだろう。

 

 

「…そうか。ならばせめてディケイドに破壊される前に、お前を消してやろう」

 

「…やってみろ」

 

 

『鳴滝』の後方に灰色のオーロラが形成される、同時に俺もベルトを巻き、チケットを用意する。バックルを操作していつでも変身できる状態にする。

 

 

「辞めたほうがいい。それを合わせて、あと変身できるのは十回も満たないだろう?」

 

「ああ、これ入れてあと5回と少しだな。だがこうも考えてみろ。あと確実に5回はお前の妨害を阻めるとな」

 

「強がっちゃあいけないよ。この数を独りでどうにかすると?」

 

 

 そう言う『鳴滝』の後方から、20を超える怪人達が姿を現した。イマジン、ロイミュード、オルフェノク、アンデッド、御叮嚀にショッカーの雑兵まで30人ほどいる。確かに一人ではきついかもな。

 

 

「数で押すのか? 相変わらず自分で戦おうとはしないようだな『鳴滝』」

 

「破壊者を始末するため、私は死ぬわけにはいかんのだ」

 

「それは俺も同じだ、変身」

 

≪Altair form!!≫

 

 

 メタリックグリーンに輝く鎧を纏い、ガッシャーを剣状に組み合わせる。『ライダー』の登場に、怪人たちは一様に闘志を挙げ、威嚇してきた。ついでに言えば、雑兵たちはイーイー五月蠅い。

 

 

「てめぇは死ねないって言ったな。俺もな死ねないんだよ。あの子らを残して、あの子らが生きる世界を守るためにな」

 

 

『ライダー』だからとかなど問題ではない。俺は俺自身のために。

 

 

「オワ!? っととと…いってぇ~」

 

 

 しかし、互いに士気を上げているところに、思いもよらない乱入者が現れた。まるで空間を割るように生じた虹色の裂け目から出てきた少年は、出てきたと同時に尻餅をついていた。

 少年の出で立ちは、ぱっと見どこかの世界の私立探偵に似ている。だが髪は短めであり、何よりも目を引いたのがその髪と目の色。

 髪はまるで雪のような白でありつつも、角度によっては朱色に輝く、朱銀色と定義すべきかと思わせる色。目は血の様で、しかし尊い輝きを内に秘めた紅色をしていた。

 少年はのっそりと起き上がると、俺よりも背が高い、周囲を見渡した。

 

 

「うーん。なぁあんた」

 

「!? …なんだ」

 

「あれって…ほっといたらヤバい感じ?」

 

 

 少年は怪人たちを親指で指しながら問うてきた。

 

 

「あ、ああ。少なくとも、通常は人に被害が出る」

 

「そっか。ったく、移動した先で早速これか。こりゃあのハッチャケ爺さんが機嫌悪くなるのも頷けるな」

 

 

 うんうんと頷く少年。俺や『鳴滝』たちは完全において行かれている。

 

 

「んじゃまとりあえず――投影開始(イミテーション)、――鋼の二重槍(デュアル・ランス)

 

 

 少年はなにか自己完結すると、どこからともなく短槍と長槍を取り出した。俺たち(ライダー)が武器を取り出すのとは違う、一から作り上げるように。そして少年の服装は変化しており、黒のノースリーブのレザーアーマーに黒のベルトで所々縛ったズボン。そしてその首に巻かれている、髪の色とそっくりな色のロングマフラー。一本だけ伸びるマフラーの端は、風にはためいている。

 少年は二本の槍を鳥の広げた翼のように構え、怪人たちと対峙する。そこで俺もようやく自分のリズムを取り戻し、ガッシャーを構えた。『鳴滝』たちも気づいたらしい。こちらに向かって構え直す。

 

 

「…最初に言っておく、俺はかなり強い」

 

「おおっそりゃ頼もしいね。んじゃあそこのおっさん、あんたはあんたで罪を数えな」

 

「その言葉、そっくりそのまま返そう」

 

 

 




久しぶりに更新しました。
そして思いっきり時系列が飛んでしまいました。でも後悔はしていません。
さて、今回最後に出てきたキャラクター。わかる人は分かるのではないでしょうか?
それから鳴滝とライダーには『』をつけさせていただきました。理由としましては、ライダーを名乗るには資格が必要なのではと思ったこと。
またライダーも鳴滝も、その言葉だけで一つの概念になると思っているためです。

では、次回はハリポタを更新します。



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正しいとは限らないのさ/頬につたう光

今回はあの二人が登場します。







「――"壊れた幻想(コラプス)"!!」

 

 

 青年が一言叫ぶと、ショッカー戦闘員や怪人どもに刺さった槍や剣が、勢い良く全て爆散した。同時にショッカーの戦闘員は、居る者すべてが爆散し、消滅した。怪人たちも消滅こそはしないものの、種類を問わずおおきくダメージを受けている。

 普通なら、それぞれの怪人たちに対応した力をぶつけることが必要である。しかし青年はそのことを無視するかの如く、怪人たちにダメージを与え、重傷を負わせている。

 ライダーや怪人の力も異様だが、この青年の使う力は、それ以上に異様だ。まるで言葉一つ一つに生命力が宿り、攻撃的な力として行使されていると感じる。

 

 

「ふぅ。あとはこの怪人たちだけだな」

 

「イマジン…あの鬼のような奴らは俺が相手をする。奴らは俺の専門分野だ」

 

 

 俺が指し示す先には、モールイマジンが三体、スパイダーイマジンが二体いた。流石にレオイマジンや他の強力なイマジンはいないらしく、デネブが来れば何とかなる数である。先ほどアーニャから連絡が来たが(小型通信機のようなものを耳に入れているため、携帯の着信を手を使わずとることが出来る)、もしもの時を考えてデネブを呼んでくれたらしい。

 

 

「了解。じゃあ俺はあっちの番号が書かれてるのと、なんか果物の特徴を持ってるやつ、あとなんか魔力持ってるやつ」

 

「恐らく、いや、確実に他の奴らも襲ってくるだろう。担当を撃破しつつ、他のも撃破する形で」

 

「あいよっと!!」

 

 

 其々目標に向かって走り出す。モールイマジンは連携を組んで俺に襲い掛かり、青年のほうにはミノタウロスとヒドラのファントムが襲い掛かった。が、その進路は複数の銃弾が撃ち込まれたことにより、阻まれた。

 

 

「『鳴滝』に言われてきてみれば、早速変なことになってるな」

 

「確かにね。でも僕はどんなお宝が貰えるか楽しみだな」

 

 

 そう言いながら俺たちの後方から歩いてくる二人の青年。一人は黒を基調とした蒼と金のラインの入った大型の銃を握っており、一人は腰に大きなバックルをつけ、まるで本のような形の銃を構えている。

 ”破壊者ディケイド””仮面ライダーディケイド”こと門矢士(かどやつかさ)と、”盗賊””仮面ライダーディエンド”こと海東大樹のふたり。

 

 

「…お前たち」

 

「へ? 誰だ、この二人?」

 

 

 二人の登場に怪人どもと『鳴滝』は色めき立ち、緊張が走った。しかしそれを意に介さぬかのように、二人は俺たちの隣に立つ。

 

 

「『鳴滝』だと? なら奴はなんだ?」

 

 

 俺は目の前にいる『鳴滝』を指差す。しかし海東と門矢は何事でもないかのように首を振った。ちなみに名も知らぬ青年は、何事かわかっておらず首をかしげていた。

 

 

「あいつは偽物さ。『鳴滝』に似たような力が使えるな」

 

「どうやって彼のような力を持ったか知らないけどね。なぁ、アポロガイスト」

 

 

 二人が偽『鳴滝』に問いかけると、偽物は灰色のオーロラをくぐり、真の姿を現した。赤の(のこぎり)刃のついた円盾(バックラー)細剣(レイピア)、盾と同じ色の仮面をつけた怪人、アポロガイストへとなった。

 

 

「よくぞ分かったな、破壊者と泥棒よ」

 

 

 仰々しく言葉を発するアポロガイスト。流石というべきか、ほかの怪人たちと比べると気迫が違う。

 

 

「あー盛り上がってるとこ悪いけど」

 

 

 今まで黙っていた青年が口を開く。

 

 

「あの偉そうな奴って誰だ? 魔術師じゃなさそうだが。あと仮面がダサい」

 

 

 最後に余計な一言を添えて、青年がアポロガイストについて聞いてくる。軽く青年に奴に関する説明をし、今の状況を門矢たちに伝える。彼らの銃と俺のボウガン、そして青年の二丁の銃、確かキャリコM900とトンプソン・コンテンダーだったか、で牽制をかけつつ、話を進める。

 

 

「そう言えばお前誰だ? "ライダー"じゃなさそうだが」

 

「それに、この世界にそんな力はないはずだけど」

 

 

 俺も疑問に思っていたことを、二人が青年に聞いた。ちなみに青年の銃弾は特別な力を持っているらしく、燃えたり、風に刻まれたり、全身から鋼の槍を生やしたりしている。

 

 

「あー、俺は衛宮・E・剣吾。こことは違う、並行世界の出身で魔術使い。元の世界では育った街を護るために、日々戦っている」

 

「へぇ、左翔太郎のような人だな」

 

「それにしても魔術師、そして並行世界とはね。いつか訪れてみたいものだよ」

 

「だが今は…」

 

 

 俺たちは全員怪人とアポロガイストと向き合った。奴らも体制を整え、こちらに相対する。牽制攻撃も功を喫したのか怪人の数は減っている。

 

 

「イマジンは任せろ」

 

「じゃあオルフェノクとグロンギ、ファンガイアは任せろ」

 

「なら僕はワームとドーパント、グリードだね」

 

「んじゃあ番号付きと果物、魔力持ちは俺がやろう」

 

 

 門矢と海東はライドカードを取り出し、青年、衛宮は槍兵の書かれたカードを取り出した。

 

 

「…このままでは分が悪いな。体制を立て直そう。お前たち、ここは任せた」

 

「ッ!? 待て!!」

 

 

 門矢が向かおうとするが、既にアポロガイストはオーロラの向こうに消えていた。命令された怪人たちは、各々武器や体の一部を撫でまわし、闘志を高めている。

 

 

「まぁとりあえず、目の前の敵をかたずけましょうよ。ちょっと奥の手の一つ使うんで、時間稼ぎお願いします。クラスカード」

 

「奥の手か。面白いものみせてね」

 

「仕方ないか。行くぞ、お前等」

 

「「変身!!」」

 

 

 構えたカードをベルトと銃に差し込む二人。

 

 

≪KAMEN Ride≫

 

≪DECADE!!≫ ≪DIEND!!≫

 

≪Charge and up!!≫

 

 

 音声と共に二人の周囲に複数の幻影が形成され、二人に重なる。そして門矢にはマゼンダの、海東には海色の複数のエネルギーの板が頭に刺さり、全身にエネルギーをいきわたらせる。そして俺たちの間に二人の”ライダー”が姿を現す。

 マゼンダの仮面ライダーディケイドと、ブルーの仮面ライダーディエンド。

 俺自身もゼロフォームへと変わる。デネブはまだ来ていないため、武器はガッシャーのままだ。

 

 

槍兵(ランサー)夢幻召喚(インストール)クランの猛犬(クー・フーリン)の力、お借りします!!」

 

 

 衛宮の足元に魔法陣のようなものが形成され、衛宮の体を透過する。そして次に瞬間、彼の手には禍々しいほど(あか)い槍。そして体を包む鎧は、海のように深い群青色に変わっていた。

 

 

「――我求めるは、安息の地なり」

 

 

 続いて詠唱を始める衛宮。彼の周りには、微弱だが竜巻が発生している。

 

 

「それじゃ、彼のために時間を稼ぐか」

 

「「了解(わかった)」」

 

 

 各々武器を構え、担当の怪人たちに向かっていく。一人でも取り逃がしてはいけない。何より一番近くにいる同僚たち、そしてアーニャの身が危険である。彼女らのためにも。ここで食い止めねばならない。

 

 

「――正義を持たず、光と闇を抱いて我は地に立つ」

 

 

 竜巻は突風となり新緑の色を纏う。足元には焔の円が走り、風に紛れて鋼の粉が輝く。

 

 

≪ATTACK Ride, Blast!!≫

 

≪ATTACK Ride, Slash!!≫

 

 

「彼はまだかい!?」

 

「知るか!! 俺に聞くな!!」

 

 

≪KAMEN Ride, FAIZ!!≫

 

≪KAMEN Ride, SKULL!!≫

 

 

「とりあえず、まずはこいつだ」

 

「君たちはこれで遊んでいるといい」

 

「食らえ!!」

 

 

 銃口が火を噴き、刃が輝き、矢が飛ぶ。怪人の体から火花が吹き、煙が漂い、爆発が起こる。流石にこれ以上は不味い。アーニャにバレるのは兎も角、同僚までも巻き込むわけにはいかない。

 怪人たちは減ったが、それでも半数以上が残っている状況。流石に一度に複数の怪人を相手にするのは、いくら戦い慣れているといってもきついものがある。

 

 

「…いいぞ!! みんなこっちに来てくれ」

 

 

 微かに俺たちに聞こえた声、その声に応え、俺たち三人は衛宮のもとに駆け寄る。怪人たちも俺たちを追い、全員近づいてきた。

 そして…

 

 

「――蒼き星よ、蒼き宇宙(そら)よ。その尊き光で世を包め。”天地連なる花の蒼穹(セレスタル・ガーデン)”!!」

 

 

 詠唱のようなものが終わった瞬間、世界は破壊、再生された。

 満天の星、地を覆う色とりどりの花々、地平線の果てに見える大きな蒼き月、そして地に立つ無数の槍。

 まるで魔法のように、数秒の詠唱で新たな世界が作られた。

 

 

「…ここなら現実世界に被害はない。思いっきり暴れても心配ない」

 

 そう告げる青年の瞳には、見る者を魅了するような輝きを湛えていた。

 

 

 

 




ここまでです。
あと数話。あと数話でこの作品は完結します。
前回も言いましたが、完結後に空白期間の描写ともしもの結末を番外編で書いていこうと思います。
あと補足ですが、衛宮剣吾というキャラクターは、私の小説に登場するオリキャラです。メインで執筆しているハリポタの小説に登場しております。
彼のモデルは左翔太郎のため、今回こちらにゲスト出演させました。


ではこのへんで。次回はハリポタを更新します。




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その目で確かめろ/線で結ぶ星座のよう



更新です。
ちょっと纏まりのない回で、かつちょっと加速気味の回です。
ではどうぞ





 

 

 蹂躙。目の前で起こっている状況を表現するには、その言葉が一番しっくりくる。

 其々が担当した怪人たちを相手にしているんだが、ロイミュードとインベス、そしてファントムは無数の槍によって蹂躙されていく。無数の槍は持ち手はおらず、一人でに空中に上がり、雨のように怪人たちに降り注ぐ。

 

 

「こいつは…」

 

「世界を作っただけでもすごいのに、本当に魔法の様だ」

 

 

 ディケイドとディエンドの二人がつぶやく。だがその気持ちもわかる。

 ウィザードのように指輪を使って魔法を使うのならともかく、この青年、衛宮は詠唱と手の動きだけですべてを行う。本人は自らを魔術師と言い、魔法使いではないと腫脹しているが、俺たちからしてみれば、こいつのやってることこそが魔法使いだと思える。

 

 

「さぁお片付けだ。――壊れた幻想(コラプス)!!」

 

 

 衛宮が一言唱えると、怪人たちに刺さった槍は一斉に爆発し、怪人たちに大きなダメージを与えた。ロイミュードやファントムたちは痛みに呻き、インベスはのたうち回っている。

 と、ここで衛宮は少し後ろに下がり、クラウチングスタートのような態勢をとった。途端禍々しい輝きの増す朱槍。その毒々しいまでの輝きは見る者を魅了し、貪るように何かを食らっていく。そして輝きが最高潮に達したとき、衛宮は俯けていた顔を上げた。

 

 

「…行くぜ。この一撃、手向けとして受け取るといい」

 

 

 そうつぶやくと同時に、555のアクセルモードに比肩するほどのスピードで駆け出し、俺たちライダーを軽く超すジャンプ力で空中に飛びあがった。彼はそのまま体を弓のように逸らしながら反転し、足に槍を持って頭を下にした。

 昔、幼少のころに呼んだ神話で見たことがある。ある槍の名手は、投擲の際に足で投げていたと。

 

 

「なるほど。だからクー・フーリンなのか」

 

「じゃああの赤い槍はアレで間違いないね」

 

 

 全身の筋肉が盛り上がり、血管が浮き、槍先に得体のしれない力が凝集する。

 

 

「〆の一つ、喰らいやがれ。――突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

 

 そしてまるで矢のように放たれた朱槍。槍は怪人たちに向かって真っすぐ飛んでいく。そして槍は10になり、20になり、30に分かれて怪人たちの心臓部や核を一寸たりともズレずに穿った。

 爆発も起こさず、末期の声を上げることもなく、怪人たちは全て塵へと還った。圧倒的、としか言いようがない。俺たちライダーが複数人いないと苦労する怪人の集団が、ほんの数分で、たった一人によって駆逐されてしまった。

 

 

「……まるで破壊兵器だ」

 

「ライダー以上の脅威になりそうだね」

 

 

 衛宮のオーバーキル気味の攻撃を目撃し、怪人、ライダーともに動きを止めてしまっていた。槍がひとりでに衛宮の元に戻ると、衛宮から光るカードが排出され、元の真っ黒の出で立ちに戻った。

 同時に先に気づいた俺たちライダーが攻撃を再開し、怪人たちは後退を始める。怪人の数も随分と減り、残るはグロンギ2体、ファンガイア5体、バーナクルオルフェノクにグールが数体、モールイマジンとスパイダーイマジンが1体ずつと、もうすぐに殲滅できる。

 

 

「それじゃあ、片づけるか」

 

「そうだね。彼ほどは派手じゃないけど」

 

≪Final Attack Ride,≫

 

≪DE-DE-DE-DECADE!!≫ ≪DI-DI-DI-DIEND!!≫

 

≪Full Charge!!≫

 

 

 俺たちは其々が必殺技を放つ準備に入る。大技を放った衛宮は流石にガス欠らしく、今は世界の維持だけに勤めていた。ディケイドの担当怪人たちの周囲をエネルギーの複数の壁が取り囲み、ディエンドの銃口の先にカードの集まった特大の砲台が形成され、俺のガッシャーの矢じりと弓にエネルギーが凝集する。

 

 

「…ハァ!!」

 

 

 まずはディケイドがアクションを起こす。壁の内一つに飛び込むと、瞬間移動を繰り返すがごとく壁と壁を移動し、エネルギーを纏った蹴りを怪人たちに浴びせる。蹴りを何度も浴びた怪人たちは断末魔の声をあげ、爆散する。

 ディエンドが担当した怪人たちも、ディエンドの極大の砲撃によって爆散し、イマジンたちも俺の連射によって全て爆散した。

 全ての怪人たちが爆散すると同時に世界は再び壊れ、最初にいた天文台の近くに戻ってきた。相当エネルギーを使ったのだろう、比較的ピンピンしている俺たちライダーとは異なり、衛宮は地面に座り込んで大きく息をついていた。

 

 

「…大丈夫か?」

 

「ハァ…ハァ…ああ、問題ない。飯食って休めばいいぜ」

 

「そうか」

 

 

 一応門矢が確認をとるが、とりあえず心配はなさそうだ。だが一つ違和感がある。

 

 

「お前、そのしゃべり方は素じゃないな?」

 

「……まったく、やっぱ父さんほど上手くはいかないか。とりあえず少しだけ言っておく。改めて俺は衛宮・E・剣吾。並行世界出身の魔術師で22歳だ」

 

 

 本人はうまくやってるつもりだったろうが、しゃべり方に違和感があった。どうやらわざとおちゃらけた態度をとり、相手に自分を悟らせないようにしていたらしい。

 まぁとりあえず、一旦の危機は去ったため、一息つくことにした。最初にドンパチ戦ったのは時間干渉によるものではないため、もしかしたら同僚が通報をしているかもしれない。

 

 

「侑斗~!!」

 

「ユウトさーん!!」

 

 

 建物の陰からデネブとアナ…アーニャが走り出てくる。他の職員の影がないことから、まだ大事にはなっていないようだ。

 

 

「デネブ。状況は」

 

「とりあえず今回の騒動についてはまだ気づかれていない。だからアーニャと侑斗には普段通り仕事をしてもらう」

 

「わかった。その間門矢たちはどうするんだ」

 

「彼らはゼロライナーに乗って、オーナーと会ってもらう。デンライナーのオーナーが呼んでる」

 

「わかった」

 

 

 とりあえず俺とアーニャはいつも通り仕事をし、その間門矢たちはデンライナーで双方確認をとることになったため、それぞれの場所に向かった。が、仕事中アーニャやそれ以外に来ていたCP(シンデレラプロジェクト)古参のアイドル達、当時年少組、の視線によってやはり同僚からからかわれることになった。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 アーニャたちの仕事も終わり、俺が今日すべきだった仕事も終え、俺は自宅へと戻った。やはりというべきか部屋の電気はついており、中でせわしなく誰かが動いているのが窺えた。恐らくデネブかアーニャあたりがいるのだろう。まぁ多少の人は入るようになっているため、問題はあまりない。

 しかし扉を開けると、予想外の量の靴があった。自分のもしもの時のためのスーツとアーニャの靴はまだわかる。だがそれ以外に5人分の靴が玄関にあった。いや、3人分は見覚えがある。なにせ少し前に共闘したのだから。

 残り2人分の靴の持ち主を知るべく部屋に入ると、狭い部屋に所狭しと人が座っていた。既に皆は夕食を済ませているらしく、食後のお茶となっているようだった。というか、ここ俺の部屋なんだが。

 

 

「ああ桜井侑斗、部屋借りてるぞ」

 

「このコーヒーおいしいね。この世界のお宝はこのコーヒー豆の調合レシピに決まりだ」

 

「ちょっと二人とも、まずは挨拶が先ですよ」

 

「そうだね。俺は小野寺ユウスケ、一応ライダーの一人だ」

 

 

 いや、いっぺんに喋られても困る。というかお前等人の部屋で寛いでんじゃない。

 

 

「ユウトさん、ご飯食べましたか? まだなら作ってますよ」

 

「……食べる」

 

「Да♪」

 

 

 とりあえず飯を食う。腹が減ってはなんとやらである。

 鼻歌を歌いながら夕食の準備をするアーニャの後ろ姿を見て、柄にもなく感慨にふける。初めて出会ったときはまだ15歳の少女だった。日本語もたどたどしく、コミュニケーションをとるにも時間がかかった。

 それが今や純粋な日本人と遜色のない日本語を喋り、トップアイドルとなって歌以外の活躍も増え、俺がプロデューサー助手をやっていた当初よりも仕事が増えている。"LOVE LAIKA"としての活動も盛んに行っており、新田共々多忙な毎日を過ごしているらしい。

 俺よりもハードな毎日を過ごしているのに、時間を見つけては俺のところに来るアーニャを、俺はどう思っているのだろうか? 健気な少女から大人の女性へと変わりゆく彼女を、親と仲間の次に近くで見てきた。

 彼女が俺に好意を持っているのは伝わっている。それが子供心による懐きではなく、本当の親愛の情であることを。そんな彼女に、俺は未だに変身の代償について、本当のことを話していない。恐らく彼女は気づいているだろうが、それでも俺の口から離さねばならない。俺は臆病な人間なのだろう。己が信実を放すことが出来ず、また彼女の想いにもこたえることが出来ず。だが予感がする。今回のアポロガイストの一件で俺たちの何かが変わると。

 

 

「ユウトさん、どうぞです」

 

「…すまんな」

 

 

 とりあえず今は食べよう。話はそれからだ。門矢と海東以外の二人のことも並行世界の魔術師の話も、全ては夕食の後にしよう。

 

 

 







はい、ここまでです。
次回以降情報の照らし合わせと、クライマックスに向けて話を進めていきます。そして侑斗とアーニャの関係も描写していこうと思っております。
そしてメイン小説のキャラである剣吾君ですが、今回の世界移動の出来事は、今連載中の4巻から7巻までに起きたことです。
ですので、素の状態の彼は、メイン小説の時よりも落ち着いた人間になっています。

それではまた。




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強き者に強き力/Just alive 星のシルエット


えー久しぶりにこちらを更新します。
それではどうぞ。





 

 

 

 俺の食事も終わり、茶を呑んでいるときに話し合いが始まった。

 門矢士によると、この世界は数年前からアポロガイストによって目をつけられていたらしい。ライダーのいない世界として、自分の目的を邪魔する存在がいないため、本来ならば円滑に計画が進むはずだった。

 しかし計画第一段階として派遣した三人のイマジンは、偶然記憶を取り戻した俺によって倒されてしまった。いきなり最初から躓いてしまったアポロガイストは、その後も慎重に敵戦力を把握するために幾度もイマジンや怪人を送り込んだ。そしてその過程で、この世界のライダーは俺一人と結論付け、計画を練り直して今回行動を起こした。

 その際、俺に違和感を可能な限り持たせないよう鳴滝に変装したのはいいが、本物の目はごまかせなかったようだ。事前にアポロガイストの動きを察知した本物の鳴滝が、自らの目的よりも世界の救済を優先し、ディケイドとディエンドに協力を依頼したらしい。

 

 

「……だいたい分かった。しばらくお前らはこの世界にいるのか?」

 

 

 滞在するのは構わないが、その場合こいつらの拠点はどうするつもりなのだろうか? 流石に俺のこの部屋や実家は難しい。だからと言って路上生活させるわけにもいかない。

 

 

「あ、大丈夫です。私の家があるので。光写真館という建物です」

 

「そうなのか? ならいいのだが」

 

 

 どうやら拠点はあるらしい。そして彼らの話を聞いている限りこの部屋から近い場所にあるらしい依。どうも世界移動をするたびに、建物ごと移動しているみたいだ。ゼロライナーみたいなものか?

 

 

「俺たちとは違ってお前は社会人なんだろう? 昼間の調査は俺たちでやっとく、定期的に連絡はする」

 

「昼間は基本的に俺たちに任せとけ!! これでも俺強いから、クウガだし」

 

「貰ったお宝分の仕事はするさ」

 

 

 どうも彼ら昼間の怪人対処を受け持つことは確定らしい。まぁこちらとしてもこれから一人で対処するとなると、明らかにチケットの数が足りないため、大いに助かる。夜間や休日の警らは彼らに任せよう。

 

 

「……すまない、助かる」

 

「……どこかの欲望の王が言っていたが、『ライダーは助け合い』だそうだ。だから気にするな」

 

 

 門矢のその言葉を締めに、今夜は解散となった。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 夜の道、アナスタシアの護衛のために俺は彼女の帰路に同行していた。変質者は言わずもがな、今日以降しばらくはアポロガイストたちの心配もあるため、いつも以上に警戒している。

 その日は杞憂だったのか、変質者や怪人に出くわすことはなかった。だが、だ。なぜここで彼女の両親に出くわすかねぇ。いや、たぶん旅行か何かだとは思うが、予想外にもほどがある。

 

 

「貴方が桜井侑斗さんですか?」

 

「娘がお世話になってます。いつも桜井さんのことを話してて」

 

 

 さて、事情が事情であるとはいえ、告白を保留にしている男と娘が一緒にいる光景を見て、一般的にどうみられるだろうか? 大多数が良い印象を持つことはないだろう。というか最低男というレッテルを張っていてもおかしくはない。

 ならばこの状況は何なのだろうか?

 

 

「この子ったら手紙でもメールでも桜井さんのことばかりで」

 

「私の両親も、これならひ孫の顔も見れると」

 

「ちょっ、папа(お父さん)!! мама(お母さん)!!」

 

 

 両親が余計なことを言い、子供が焦る様子。ああ、よくハナや母が見るようなドラマでもこんな場面があった。自分とは無縁で憧れもしないと、無関心を貫いていたが、まさか自分が体験するとは思わなかった。

 さて、いつまでも黙りこくっているわけにもいかないか。

 

 

「あーその……初めまして、桜井侑斗です。アナスタシアにはお世話になっております」

 

「あら~仲がいいのね~」

 

「あぅ……」

 

 

 む? 俺は何か間違えたのか?

 何故か俺が挨拶をすると母親の方は面白いものを見る、というか微笑ましいものを見る表情になり、アナスタシアの方は顔を赤くしてうつむいてしまった。どうも俺には少し理解できない事態になってるみたいだ。

 だが両親がいるなら、一先ずは安心だろう。俺は帰って明日の準備でもするか。残りのチケットの枚数確認や仕事の準備もある。

 

 

「では私はここで失礼します。ご両親がいらっしゃるのなら、変質者等の心配はないでしょうし」

 

「あっ、ユウトさん……」

 

 

 背後でアナスタシアが何か言っているのが聞こえたが、残念ながら俺の耳には何を言っているのかわからなかった。それよりも視界の隅に映った、明らか人間社会に不相応なものが気になり、家ではなくそちらに足を向けた。

 暗い夜道のなか、その存在は右へ左へと進路を変更し、時には家々の屋根を飛んだりと俺を撒こうとしていたが、こちらもゼロライナーに乗ってるデネブを経由して場所を把握しているため、見逃すことはない。

 そして数分の追跡の末、ついにそいつを追い詰めた。姿かたちはラビットイマジンなのだが、どうも様子がおかしい。へらへらとした言動、覚束ない足取り、まるで薬でも打ち込んだように言動が一定しない。

 

 

「とりあえず、お前はここで退場してもらったほうがよさそうだ」

 

 

 腰にベルトを巻きチケットを取り出しながら確認する。残り八枚、うちゼロフォームは三枚。本当ならデネブがいたほうがいいのだが、そうもいかないのが現状である。ここは仕方がないが、ゼロフォームのチケットを使う。

 

 

「……変身!!」

 

≪Altair Form!!≫

 

 

 鎧を纏い、すぐさま組み立てたガッシャーでエネルギー弾を数発撃つ。しかしイマジンは飛び跳ねてそれを避けると、また屋根伝いに姿をくらました。ゼロノスになっている間は身体能力も強化されているため、追いかけることは造作もない。

 俺も跳躍し、屋根伝いにイマジンを追いかける。だが奴はやはり普通ではないらしく、通常のラビットイマジンよりも格段に早いスピードで逃げていく。牽制として先ほどから弾を撃ってはいるが、当たっても意に介さないかのように逃げ続ける。あれは恐らく、何らかの影響で感覚が麻痺しているのかもしれない。

 

 

「いい加減、落ちろ!!」

 

 

 全速力で走って奴に追いつき、地面に切り伏せた。しかしいつものような手応えはなく、寧ろ頑丈なものに刃を突き立てた感触がした。

 

 

「アヒャヒャヒャヒャ!! 喰ぅらわねぇよ、そんな鈍らぁ!!」

 

 

 狂った声と共に奴の体がうごめき、いつものラビットイマジンに戻った。しかしその手には、USBメモリのようなものが握られていた。

 

 

「それは……まさかガイアメモリ!?」

 

「俺ェはぁ、最強だぁ!! ヒャヒャッヒャハァ!!」

 

≪Rabbit!!≫

 

 

 大きな音声と共に、メモリが起動する。本来なら接続部に挿入しないと使えないガイアメモリだが、怪人ならばどうであるか分からない。しかし先御どのように元々のスペックから更に強化されることは自明の理なので、奴にメモリを使わせないようにすることが第一である。

 俺はメモリを指そうとする奴の手に弾を撃ち、メモリをはじいた。俺はダブルやアクセルではないので、メモリブレイクは出来ないが、目盛れさえなければイマジンは対処できる。

 

 

≪Full Charge!!≫

 

 

 ベルトのスイッチを押し、カードにエネルギーをためる。普通のイマジンならこの時点で逃走しているが、どうやらメモリの弊害で、正常な思考が出来ていないらしい。オロオロとして周りを見ている。

 カードを差し込み、エネルギーのたまった剣を振りかざしてイマジンに止めを刺す。ラビットイマジンは断末魔の声を上げることなく、爆散して消滅した。

 変身を解除し、撃ち落としたガイアメモリを拾う。恐らく、アポロガイストらへんから受け取ったか強奪したのだろう。メモリは門矢か海東に頼んでメモリブレイクしてもらうしかない。

 帰宅が遅くなるが仕方ないと割り切り、解散する前に教えてもらった光写真館へと足を運ぼうと、その場で法王転換をした。そして俺は悟った、俺にはどうしてこうも運がないのかと。

 

 

「……ユウトさん」

 

「い、いまのは……」

 

「……」

 

 

 どうしてこう、イマジンが関わるところにこの子は居合わせるのか。しかも今度はご両親まで一緒とは、どう説明しよう。

 

 

 

 





本当に久しぶりにこちらを更新しました。こんなペースで年度内に終わるのやら。
まぁ頑張ります。
それではまた次回、いづれかの小説で。




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言っておくかなり強いぜ/手を振ったあの日を

ああ、ようやく。ようやくここまで来た。
それではどうぞ。





 

「……というと、君はずっと戦ってきたのか。たまに国際ニュースで騒がれていた、日本のモンスター騒動を解決していたのは君なのか」

 

 

 現在俺はアーニャの両親と共に、ホテルの待合室で話をしている。まぁ娘の関係者が、まさか死と隣り合わせの戦闘をやっているとは夢にも思わないだろう。言わば自分たちの娘が、いつ何時俺の事情に巻き込まれるか、一切安心できない。

 さて、アーニャは門限等の問題もあるために寮に帰し、俺たち以外いないロビーは全員黙ったことでより静けさを体感することになった。この静寂の中、アーニャの両親はこちらを見つめつつも何かを考えていた。

 

 

「……あの」

 

「うん? 何かね?」

 

 

 お互い黙っていては埒も開かないため、俺から口を開いた。

 

 

「アナスタシアが……彼女が巻き込まれたことには少なからず自分に責任があります。そのことについて、私は否定することはありません」

 

「ちょっ!? ユウト君、何を……」

 

「本来であればこのような立場に身を置いている時点で、日常の世界にいる者の近くにいるべきではなかった。今からでも……」

 

「ちょっと待ちなさい、落ち着いて!!」

 

 

 すぐにでもアーニャの許から去るようにしようと、彼女の安全のために申し出ようとしたが、父親の方に止められてしまった。見ると、ご両親ともこちらを驚愕の目で見ている

 俺は何か間違えた判断をしたのだろうか?

 

 

「ユウト君は何か勘違いしていないかね? 私たちは別に君を娘から離そうとは思ってないよ」

 

「……は?」

 

「寧ろ私たちはお礼を言わないと。あなたがその仮面の戦士であるのなら、あなたは何度も娘を救ってくれたのだから」

 

 

 そう……なのか。

 うん? 今何といった?

 

 

「すみません……まさかあの子は怪人のことを話したのですか?」

 

「ええ、ユウト君のことは伏せて」

 

「それとこうも書いてましたね。何か君が隠し事をしていると、それも何か重要なことを」

 

「ッ!?」

 

 

 やはりというべきか、彼女は気づいているのか。このまま戦い続ければ、いずれ俺が――のを。

 

 

「まぁいいさ。君はちゃんと話すつもりなのだろう?」

 

「ええ……必ず」

 

 

 父親からの問いかけに、俺はハッキリと返事をする。いずれ話すことに関しては、前々から決めていた。今回はその時期が少し早くなっただけだ。どのみちアポロガイストの計画を阻止しなければ、生き残ったとしても意味がないだろう。

 

 

「……ところで侑斗さん」

 

「何でしょうか?」

 

 

 彼女の母親から話しかけられた。その顔は微笑みを浮かべており、いったい何を考えているかわからない。ただひとつ言うとすれば、目が楽しそうに光っていた。

 

 

「式はいつかしら?」

 

「……は?」

 

 

 この人は何を言っているのだ?

 

 

「孫の顔が早く見たいわぁ」

 

「話が急すぎませんか?」

 

「私は娘夫婦と孫と一緒に住むのが夢でねぇ。そのためなら日本に越すことも厭わないよ」

 

「夫婦揃って何を言っているんだ!?」

 

 

 この人たちは自分らが何を言っているのかわかっているのか? いつ死ぬかわからない俺に何故娘を任せようとしている?

 

 

「再度言いますが、俺はいつ死んでも可笑しくない。なのに何故?」

 

「あの子が選んだからさ」

 

 

 余りにも簡潔になった答えに俺は絶句した。娘を大切に思っている、俺の近くにいると危険である。それ以外にも様々な要素が絡む中で、この夫婦は娘と俺が共に在ることを望んでいるのだ。

 自然と態度が改まり、彼らの顔をまあ正面から見つめる体制になる。彼らも俺の態度が変わったことを察したのか、自然と改まった姿勢を取った。

 

 

「確かに娘のことは心配だ」

 

 

 父親のほうが先に口を開いた。

 

 

「危険なことが無いのが一番だ。余程性根の腐った人間でなければ、仮令子供を捨てるとしても、子供の幸せを願わない親はいない」

 

「あの子は危険を承知で君と共にいる。その覚悟がわからない侑斗さんじゃないでしょう?」

 

「……はい」

 

「それに、貴方はあの子に危害を加えさせるつもりはないでしょう?」

 

 

 母親から信頼を寄せるような言葉をかけられる。というか今日初めて会うのに、随分と俺を信用しているようだ。いや、あの子の親と考えるとこれが自然なのか?

 

 

「それに、今のままの中途半端な関係ではなく、何かしらの形で今の関係性に区切りをつけたほうがいいと思うよ。身を固めれば、自分の身も大切にできるのではないかな?」

 

「帰る場所があるというのは、それだけで人は生きる目的が出来るものよ?」

 

 

 父親はあくまで冷静に、母親は絶えず微笑みを浮かべて俺を諭す。いや、わかってはいた。こうもいつまでもウダウダト中途半端な関係をつづけるわけにはいかないことを。しかし仮に俺とあの子の関係が変わるとして、俺は兎も角彼女はアイドルだ。どのように転がろうと、仮令346が恋愛推奨だったとしても、少なくない世間の心無い言葉の襲撃を受けることになるだろう。

 だが……はぁ。

 いい加減そろそろ腹を括るか。

 

 

「……覚悟は決まった様だね?」

 

「……はい」

 

「わかった。よければ聞いてもいいかい?」

 

「俺は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 季節は移って半年ほど経過した春。桜の花も散り、紫陽花が咲き誇るころ頃、晴れ渡る空のもとに一つの教会で鐘が鳴り響いていた。花婿は真っ白なタキシードにダークグリーンのポケットチーフを着用し、花嫁は所々雪と星の刺繍があしらわれたドレスに身を包んでいる。花婿の顔は緊張に固まっており、花嫁は幸福を隠そうともせぬまま、教会の中から出てきた。

 二人の前方ではたくさんの人々が――女性が多い――二人に祝福の言葉を送っていた。そよ風が吹く中投げられたブーケは、彼女の後輩の手に渡る。そしてその後輩を軽く揶揄ってはいるものの、周りの者も、主役の二人も幸せそうに微笑む。

 集団から少し離れたところには赤、青、黄、紫、白の者達が並び眺めており、そのそばには一人の壮年から中年ほどの男性が、これまたその場にあるはずのない電車の前に立っていた。

 

 

「……記憶こそが時間。そして、それこそが人を支える。誰の記憶を頼ることはない、彼が共に過ごした記憶と時間は、彼をこの世界に存在させる」

 

 

 小声で呟かれた男性の言葉は、果たして誰かに聞こえたのだろうか。

 小さく微笑みながら男性は電車に乗った。そして動き始めた列車は一度大きく汽笛を鳴らし、空間に生じた隙間へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――全世界の人間よ、聞こえるか。今我々は全世界のあらゆる回線をジャックし、この映像を送っている。

――我々はスーパーショッカー、この地球の支配者となる組織である。

――我々はこれより、地球の制服を始める。生半可な兵器では、我々を鎮圧は出来ないと思え。

――まずは手始めに日本から征服する。開始は一週間後、抵抗は無駄だ。

 

 

 

 




今回過程等が省かれて、いきなりこのような結果になりました。
次回からクライマックスに入る関係上、どうしても省かざるを得ませんでした。省いた部分はいずれ番外で書きます。
そしてこれの後ですが、実は本作の続きとした案が出来ていたり。
しかしまぁこれが終わると、暫くは他二作品に集中するので、書き始めるのはまだまだ先です。


では今回はこのへんで。また次回。




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極めつけのVega Altair/もっともっと抱きしめて



最終章第一幕
それではどうぞ。





 

 

 スーパーショッカーによる世界征服宣言より早五日。この世界のライダーたちは光写真館に集まっていた。具体的には二日後の奴らの進撃に対する最終確認のようなものだ。

 奴らからまた律儀に襲撃場所まで俺たちにしてきたため、当日どのような編成で行くかの話し合いである。幸い実家のカフェや新居には遠い場所で戦闘が起こるため、家族が巻き込まれる心配はないだろう。だが戦場近くの住人等はそうもいかないため、出来るだけ被害が出ないようにしなければならないのだが。

 

 

「そう言えば、お前のその魔術ってやつでは隔離できないのか?」

 

「隔離は出来ると思う。だがそれでも範囲があるし張った後に出てきた奴は無理だ。それに張ってる最中は外の様子がわからん」

 

「そうか」

 

 

 流石に全く違う世界の力と言えど、そこまで都合よくはいかないか。

 

 

「それに結界内に入れたとしても、俺たちと同じ力持ってるやつがいれば簡単に脱出できるぞ?」

 

「うん。僕らの世界を渡る力はその場からの離脱にも使えるから」

 

 

 そう言えば、奴らはディケイドやディエンドと同じように世界を渡ることが出来たのだったな。ならば結局できることと言えば、数が増えすぎる前に雑魚を撃破していき、最後に出張ってきた幹部を撃破。そして可能であるならばスーパーショッカーの組織自体を壊滅させる。これが俺たちの今回のミッションだ。

 そして本物の鳴滝曰く、今回の首謀者であるアポロガイストは、過去にXライダーと戦ったり、ディケイドと戦ったやつとは全くの別者らしい。見てくれや扱う武器、戦い方はアポロガイストのそれだが、別人のようだ。

 その証拠というわけではないが、地獄大使やイカデビルなどショッカーの有名どころの幹部と争うことはしばしば会ったらしく、今回のスーパーショッカーというのは、大元のショッカーから出て行ったアポロガイストが新たに作り上げた組織らしい。そのためか、真ショッカーとでもいうべき組織からは敵視されているそうだ。

 

 

「新造の組織とはいえ、作られてから結構な時間が経過している。相手の戦力は未知数、決して少なくないだろう」

 

「僕と士はこれからちょっと出てくる。二日後に現地で落ち合おう」

 

「ユウスケと夏ミカンは現地の地理把握をしといてくれ」

 

 

 海東と門矢はそういうと、灰色のオーロラの向こうに消えていった。しかし出かけるとはいったいどこに行くのだろうか? まぁ当日に間に合うのであれば問題ないか。

 とふと並行世界の魔術使い、エミヤの方に顔を向けると、何やら掌大の虹の宝石に向かって何やら話しかけていた。どうやら重要なことを話しているらしい。しばらく黙って見つめていると、やがて宝玉は一度眩い光を放ち、一枚のカードを輩出した。

 

 

「……クラスカード・アーチャー。確かに受け取った、師匠」

 

 

 一言ぼそりと呟くと、そのカードを持ったまま彼は立ち上がった。ポケットにカードを入れ、背もたれにかけてあった灰色の薄手のロングコートを羽織ると、出口に写真館の出口に向かっていった。

 

 

「俺も現地集合で頼む。今は早くアーチャー(こいつ)に慣れないといけないから」

 

 

 そう言ったエミヤは、足早に写真館から出て行った。そのタイミングでお盆を持った館長、光栄次郎殿がやってくる。彼は死神博士の人格を有しているが、今回は表層化していないために人畜無害な年配といったところだろう。

 

 

「コーヒー入りましたよ。おや、三人ほどいない?」

 

「あっ、栄次郎さんありがとうございます」

 

「おじいちゃん。士君や海東さん、衛宮さんは今日から二日は帰ってこないみたいです」

 

「そうなのかい? 残念だねぇ」

 

 

 軽い会話をしながらコーヒーを配膳してくださる栄次郎殿。彼のコーヒーはアーニャや母のと同様、砂糖を入れなくても飲むことが出来る。そんなコーヒーを飲んでいると、ポケットの携帯が振動する。俺の番号を知っているのはアーニャと職場の人間、あとは家族だけだ。職場の同僚からだろうか?

 

 

「はい?」

 

『あっ、ユウトさん今大丈夫ですか?』

 

 

 アーニャからだった。結婚してもこの呼び方は変わらず、そしてアイドルから女性歌手へと転身して芸能活動を続けている。相変わらず所属は346だが、アイドルは卒業しても後輩や同期と仲良くなっているみたいだ。

 

 

「ああ、大丈夫だ」

 

『Да, 今晩ミナミとミクが来るのですが、いいですか?』

 

「わかった。買ってくるものはあるか?」

 

『えっと、――と――と――いいですか?』

 

「問題ない」

 

 

 それから軽く言葉を交わし、電話を切る。まぁ二日後には戦いが迫っているのだ、一人でいるよりも気心が知れている間柄のものと一緒にいるほうが、精神的にも楽だろう。

 一人そう考えながら残りのコーヒーを啜っていると、何やら視線を感じる。顔を上げると光夏美が羨ましそうに、小野寺ユウスケがニヤニヤと、そして栄次郎殿は微笑ましそうに俺を見ていた。

 

 

「……なにか?」

 

「いえいえ、奥さんとは上手くいってるようで」

 

「……ええ」

 

 

 成程、先ほどの会話のことか。どうでもいいが、小野寺のニヤニヤ笑いは少々イライラする。まぁいい。妻の頼みもあるし、そろそろお暇するとしよう。

 

 

「栄次郎さん、コーヒーご馳走様でした」

 

「お粗末様。またいらっしゃい」

 

「ええ、必ず」

 

 

 挨拶も程々に、俺は写真館を後にした。さて、帰りにスーパーにでも寄ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーニャちゃん、元気?」

 

「お邪魔しますにゃ」

 

「ミナミ、ミク。いらっしゃい」

 

 

 今日は結婚式の日ぶりに友人に会う。二人とも私がアイドルだった時からの付き合いだ。もう7年の付き合いになる二人には、本当にお世話になった。

 ミナミとのユニットは解消されたけど、彼女と歌ったり一緒の番組に出たりすることは今でもある。ミナミもミクもアイドルを卒業し、ミナミは女優に、ミクはタレントになって今でも活躍している。

 今日は二人ともオフだそうで、遊びに来ることになった。顔を合わせることは結構あるけど、お互いに遊びに行くことはここしばらくなかった。だから今日は食事も一緒にしようと思う。

 

 

「それで、どんな感じにゃ?」

 

「おー?」

 

「桜井さんとはムフフなのかにゃ?」

 

「ちょっと、みくちゃん!?」

 

 

 ミナミが慌ててミクを止める。このやり取りも懐かしい。私たちは楽しくおしゃべりをしながら、夕食の準備に取り掛かった。ユウトさんに頼んだ材料は最後の仕上げに必要なもののため、途中までは作ることが出来る。私たちは三人でそれぞれ一品ずつ作ることにし、それぞれ下拵えに取り掛かった。

 

 午後七時ごろ。ユウトさんも無事帰宅し、全員で料理に舌鼓をうった後、私たちは女性だけで会話をしていた。ユウトさんは報告書を仕上げに書斎に行ったため、この場にはいない。

 

 

「そう言えばアーニャちゃん」

 

 

 ミナミが真剣な顔をしてこちらを見つめてきた。たぶん明後日のことだろう。ミクも真剣な顔をしている。

 

 

「その……明後日侑斗さんは……」

 

「Да. ユウトさんは、明後日も戦います」

 

「そう……なんだ」

 

 

 スーパーショッカーという団体の電波ジャックがあった後、自宅でユウトさんとゆっくりしていると、明後日の侵略に関する通知のような手紙が届いた。その日はその団体が攻めてくるということで、ほとんどの人は自宅で待機するように国からの通達があった。

 そしてその直後、ショッカーがどこから攻めるかを部下を通じて知らせに来た。それほど勝つことに自信があるのだろう。堂々と今後の行動を知らせに来た。

 

 

「アーニャちゃんは、不安だよね?」

 

「はい。正直に言うと、帰ってこなくなるのではと、不安です」

 

「そう、だよね」

 

 

 また三人とも黙りこくり、お茶を飲む音だけが部屋を支配する。暫くちびちびとミルクティーを呑んでいたが、私は一息ついて口を開いた。

 

 

「でも、だいじょうぶ。ユウトさんは、帰ってくるって、言ってました」

 

「「え?」」

 

「だから私は、ユウトさんを信じます」

 

 

 確かに不安だ、でもだからと言って夫を信じることをしないのか。それは違うと思う。不安であるからこそ、彼と交わした約束を、彼が言った言葉を、彼を信じるのだ。

 私は戦えない。仮令ついていったとしても、足手まとい以下の邪魔にしかならない。ならば私は彼が安心できるように、安らげるように支えることが大切だと思う。二日後の戦いに、万全の状態で臨めるように支えることが私のすべきことだ。

 

 

「だから私もユウトさんも、大丈夫です!!」

 

「……そっか」

 

「アーニャちゃんはすごいね」

 

 

 二人は微笑みながら私を見つめる。それから私は二人と楽しくしゃべりながら、夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残り枚数は……ベガが1枚にゼロが一枚。この半年は敵襲が多かったからな」

 

 

 チケットの残り枚数が非常に心もとない。ハッキリ言ってしまえば、この二枚が俺の命を握っている。

 アーニャには俺の変身の代償は話した。勿論その時彼女は泣いた。しかし俺にかけられた言葉は凶弾ではなく、謝罪だった。自分じゃ肩代わりできないと、一緒に背負うことが出来ないのが悔しいと言っていた。その言葉だけで十分だった。それに、当時は彼女が笑顔を浮かべてくれるのならば、それだけで命を懸ける理由は十分だった。

 しかし半年前から、俺は戦いつつも自身の生存を優先するようになった。彼女の両親の言う通り、帰る場所が、待ってくれる人がいるだけでこうも自分が変わるとは思わなかった。

 

 

「……感謝の言葉しかないな」

 

 

 闘いは二日後。俺一人ではなく、心強い味方もたくさんいる。スーパーショッカーなんざにこの世界を、彼女が笑顔でいれる世界を失わせはしない。

 

 

 

 






――アーニャちゃん、どうしたの?
――吐き気!?
――大丈夫?
――侑斗さん呼んでくる?
――呼ばなくていいの?
――でもどうして突然吐き気なんか。
――待って。これってもしかして。




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繰り出すAttack/奇跡を集めて



昨日、スーパーショッカーと言われる組織から、総理に直々襲撃開始場所が通達されました。場所は国会議事堂前だそうです。
また、再び全世界の電波がジャックされたのち、自らの戦力を示すかのような映像が流されましたが、防衛省は陸上自衛隊部隊を周辺に配備させ、警戒させております。周辺に居住されている市民は避難を完了させております。
それでは中継です。現場の加藤さん。
はい、私は今ヘリコプターの中から現場を中継しております。果たしてスーパーショッカーは議事堂のどこから出てくるのでしょう……
あれは、一般人!? しかも6人も!?






 

 

 

 俺たちは今国会議事堂敷地内、正面門の近くにいる。何故か俺を真ん中正面に立たせ、両脇を門矢と海東、その更に外に小野寺と光、更に俺たちのわずか後方にエミヤがいる。

 昨晩の内に周辺住人の避難は済んでいるらしいため、多少派手にやっても問題はないだろう。懸念事項があるとすれば、上空を飛んでいるヘリだろう。恐らくどこかの局が中継でもしているのだろう。最近のカメラのズーム倍率や解像度は目を見張るものがあるため――この世界の住人じゃない門矢達は兎も角――俺は下手すると個人が特定される可能性がある。チケットの残数からして今後変身することはないが、平和に暮らすことは難しくなるかもしれない。

 

 

「桜井、大丈夫か?」

 

「僕たちの目的は厭くまでスーパーショッカーの幹部だ」

 

「雑魚は極力俺たちが相手する。余り最初から飛ばさないようにな」

 

 

 分かってはいる。残り二枚のチケットの内、一枚で必ず決着を着けなければならない。だが、許容範囲外ダメージを受けたりエネルギーを使いすぎると変身が解除されてしまうため、慎重に事を運ばなければならない。

 

 

「それにしても、この二日間士たちは何していたんだ?」

 

「なに、もう少ししたらわかるさ」

 

「お楽しみってね」

 

 

 暫く警戒しつつも喋りながらその場に佇んでいると、目の前に大きな灰色のオーロラが広がった。それは門矢達が広げるものよりも遥かに大きく、そして横に広かった。そしてオーロラの中から何人もの、何種類もの怪人たちが出てきた。

 そしてその先頭にいるのは、アポロガイストとジェネラル・シャドウ、ドクトルGの三人がいた。恐らく出張ったのはこの三人、本部にはまだ幹部や人員がいるのだろう。奴らが全員オーロラから出終わると、自然と俺たちも奴らも身構える。

 

 

「久しぶりだなぁ桜井侑斗、そしてコソ泥に破壊者。生きていたのだなぁ」

 

「お陰様でな。しぶとく生き残っているよ」

 

「まぁ、貴様らの命も今日限りだ。時期に悟るだろう、あの時死んでおけばよかったとな」

 

「そんな日は来ねえよ」

 

 

 この会話を皮切りに俺たちはベルトを出現させて腰に巻く。ショッカーはそれぞれの武器を構える。しかしまぁ、まさか三人も幹部が出張ってくるとは思わなかった。ここは真っすぐ三人のうち誰かに突貫すべきだろう。

 

 

「みんな、準備はいいな?」

 

「「「「「「変身!!」」」」」」

 

「――夢幻召喚・弓兵(インストール・アーチャー)、第六天魔王・織田信長!!」

 

 

 それぞれが戦闘準備を終え、武器を構える。ショッカー兵も今にも飛び出さんと身構える。

 と、俺たちの後方からエミヤが一人歩み出てきた。

 

 

「悪いが先達は譲ってもらう。なに、悪いようにはしない」

 

 

 全身に膨大なエネルギーをたぎらせ、黒い軍服と赤い外套に身を包んだエミヤは。俺たちの少し前で立ち止まり、そしてゆっくりと浮き上がった。人一人分の高さまで登ると、今まで以上のエネルギー、それこそ以前槍を投擲した時ほどのエネルギーが場を支配した。

 俺たちは似たような状況を以前見ているため、さして驚かない。しかし敵方はそうもいかないようで、いきなり膨れ上がり、圧迫される空気に動揺を隠せていない。

 

 

「三千世界に屍を晒せ……天魔轟臨!」

 

 

 エミヤが声を張り上げると、エネルギーの爆発と共に彼の周囲の空中に無数の火縄銃が召喚された。その全ての銃口はショッカー側を向いていた。

 

 

「蹂躙せよ!! これが魔王の『三千世界(さんだんうち)』だァ!!」

 

 

 剣を指揮するように振ると、担い手のいない火縄銃の全てから弾丸が発砲された。この絨毯銃撃により、ショッカーの雑兵は軒並み撃滅。残りの怪人たちも決して軽くはないダメージを受けている。

 一斉射撃を終えたエミヤからはカードが排出され、虚空へと消えていった。あの様子からして、もう使えないのだろう。

 

 

「さて、残りの雑兵は俺たちが受け持つ。幹部たちはあんたらでどうにかしてくれ」

 

 

 長槍と短槍を構えたエミヤはそう言うと、残ったショッカーの構成員に向かって飛びだした。それに合わせるように、小野寺の変身したクウガDF(ドラゴンフォーム)と光が変身したキバーラも飛び出し、怪人に向かっていく。

 しかし奴らの後方にまたオーロラが形成されると、新たに構成員や怪人が補充された。これでは(きり)がない。アポロガイストたちに向かいつつ、立ち塞がる怪人や構成員を撃破していると、俺たちの後方にオーロラが生成された。

 まさか、後ろに回られたか。

 そう感じた俺は、後方に意識を向けた。しかしショッカー構成員達も慌てている。ということはまさか第三勢力だろうか。仮に出てくるのが敵だった場合は、今回の戦いで死ぬことを覚悟しないといけない。

 襲ってくる敵を薙ぎ払いつつ何が出てくるか警戒していると、全く以て予想外のものが出てきた。ディエンドとディケイドは何が来るか分かっていたらしく、淡々とオーロラを見つめていた。

 

 

「よう、待たせたな。ディケイド」

 

「先輩ライダーの頼みとなりゃ、俺たちは駆けつけるぜ。並行世界人ともダチになりたいしな」

 

「人の未来を護る闘い。そのために力をかそう」

 

 

 緑と黒の戦士が、ロケットのような頭をしたものが、まるで神のように神々しい輝きを放つ戦士が。

 

 

「ライダーは助け合いだから。先輩を手伝います」

 

「結構多いな。まっ、鍛えてるから問題ないね」

 

「この世界の未来を護った先に多くの夢があるなら、俺も戦おう」

 

 

 赤黄緑の三色をした欲望の王が、極限まで己を鍛えた鬼が、闇夜に輝く黄色い双眼と赤い模様を張り廻らす戦士が。

 

 

「あんたがこの世界の希望なら、俺はあんたの最後の希望になろう」

 

「仮令地を這ってでも……子供たちの夢を護り、希望の光を照らし続ける」

 

「仮令孤独でも命ある限り戦う」

 

 

 ルビーの輝きを纏った魔法使いが、何物にも染まらない漆黒を纏う戦士が、右腕が機会となっている蒼い仮面の戦士が。

 そして最後に出てきたのは。

 

 

「我らは何度でも、どの世界でもお前たちの前に立ちふさがる!!」

 

「人々の自由を守るために、何度倒されても立ち上がる!!」

 

「それが俺たち、『仮面ライダー』だ!!」

 

 

 最後に一際圧倒するようなオーラを発する参人の戦士。トンボを模した戦士と、二人のバッタを模した戦士が出てきた。

 見間違えようもない。見違えるはずがない。彼らは歴戦の勇士たち、『仮面ライダー』の名を冠する戦士たち。一号から名も知らないゲーム機のような戦士まで。総勢32人のライダーが並んでいた。

 そして俺の周りの怪人を跳ね飛ばすように空間から電車が出現した。停車した電車からは赤、青、黄、紫、白、そして緑のイマジンが降りてきた。

 

 

「やぁ、待たせたね」

 

「ようやく、オーナーの許可が下りた」

 

「ねぇねぇ、暴れていいんでしょ?」

 

「下々の未来を護るのも私の務め」

 

 

 モモタロスとデネブ以外は、それぞれすでに変身を済ませている。デンライナーは全員を下すと、再び消えた。

 

 

「侑斗、大丈夫か? 俺が変わらなくてもいいか?」

 

「大丈夫だ、心配いらない」

 

 

 相変わらずデネブは心配性だ。俺も伊達に戦い続けているわけではない。

 

 

「なら問題ねぇな。そんじゃあ、ここから先は超クライマックスだぜ!!」

 

≪Sword Form!!≫

 

 

 モモタロスの変身が完了すると、自然と俺たちは一列に並んだ。デネブはデネビックバスターになり、俺もゼロフォームに変わる。と、俺の隣に来たとダイブが口を開いた。どうやら彼は、泊進ノ介本人らしい。

 

 

「久しぶりだな。今度はこっちが助ける番だ」

 

「ああ、頼む」

 

 

 言葉少なく、皆各々武器や拳を構える。ショッカーも危険を感じたのか、更に敵を増やした。先ほどの何倍もの敵が前方で蠢いている。下手すれば、この議事堂の敷地全てを埋め尽くし、溢れださんばかりの人数がいる。

 だが関係ない。今の俺たちは負ける気がしない。人数が少なくても、それが敗因に直結するわけではない。

 何故なら。

 

 

「最初に言っておく俺たちはかーなーりッ強い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 






事務所のロビーにある大画面テレビに映る。
愛しい人が仲間と共に戦うのを見つめる。
アナウンサーの声は耳に入らない、ただただ手を組み、今はもう動かなくなった銀の懐中時計を握りしめて祈る。
両隣りに座る親友たちも、同僚も後輩も、一心に画面を見つめる。
どうか神様がいるのだとしたら、彼らを、彼を守ってください。
そう願いながら時計を両手で握る。
一つ、歯車が回る音が響いた。




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Action-Zero!!/Staring only you



一体彼らは何なんだ?
たったあれだけの人数で立ち向かってるのかい?
ここって日本の会議場だよな?
クレイジーだぜ、よく立ち向かえるなぁ
これって実は自演なんじゃね?
馬鹿言うなよ、演技だったら全世界の回線を全く同時にジャックできないだろう?


 

 

 

 

「はあ!!」

 

「トゥアッ!!」

 

「タアッ!!」

 

 

 拳の足の、一撃一撃に夢を希望を乗せて、ライダーたちはショッカーに挑む。ただ上に命じられるがままに、闘争本能に従うままに戦う構成員や怪人たちに、俺たちライダーが負ける要素はない。

 何度も拳を叩き込み、何度も蹴りを繰り出し、何度も剣で切り裂き、何度も銃で撃ちぬく。どんなに構成員や怪人が増員されても、それを上回るスピードで俺たちはショッカーを蹂躙していく。

 

 

「ちぃっ、状況が悪いか。いったん戻って立て直そう」

 

 

 アポロガイストはそういうとオーロラを出し、戦線から離脱した。続くようにしてドクトルGやジェネラル・シャドウもオーロラの向こうに消えていく。前回の天文台での襲撃同様、部下に時間稼ぎをさせて自分たちは逃げる算段の様だ。

 

 

「ゼロノス!! ディケイド!! そしてディエンド!! 奴らを追うのだ!!」

 

「ここは我らが受け持つ!!」

 

「この世界を真に守るのは、お前たちだ!!」

 

 

 一号ライダーに二号ライダー、V3ライダーの言葉に後押しされ、俺たちは直ぐにオーロラが閉じる前に飛び込んだ。周りの怪人たちが妨害してきたが、最低限切り払うのみをし、最高スピードで駆け抜ける。

 オーロラに飛び込んだ先は、どこかの地下研究上のような施設の中だった。ずっと置くまで続く薄暗い通路の先には、恐らくスーパーショッカーの研究施設か本部があるのだろう。

 

 

「慎重に行こう」

 

「何があるかわからないからな、用心に越したことはないか」

 

 

 俺たちは後方と前方に警戒を怠らないようにして通路を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな!! 各々の最強技で決めるぞ!!」

 

「「「「おうッ!!」」」」

 

 

「超変身!!」

 

「変身!!」

 

≪Survive!!≫

 

≪555 blaster, Complete!!≫

 

≪Absorb Queen, Evolution King!!≫

 

「響鬼装甲!!」

 

≪Hyper Cast Off!!≫

 

≪Super Climax Form!!≫

 

≪Wake Up Fever!!≫

 

≪Extreme!!≫

 

≪タカ!! クジャク!! コンドル!! タ―ジャードルー!!≫

 

≪Cosmic On!!≫

 

≪Infinity!! Please!!≫

 

≪Fire All Engine, Drive Type Trydron!!≫

 

≪チョーカイガン!! ムゲン!! Keep On Going!!≫

 

≪レベルマーックス!! 最大級のパワフルボディ!! ダリラガン!! ダゴスバン!! マキシマムパワーX!!≫

 

 

 俗に平成ライダーと呼ばれる者達は、各々最強フォームへと変わる。そしてすぐさま必殺技を放つ準備に入る。昭和ライダーたちも各々必殺技を放つ準備に入る。

 

 

「行くぞ!!」

 

「「「「「オールライダー・キック!!」」」」」

 

 

 ライダーたちはいっせいに飛び上がり、右足左足両足に己が全エネルギーを集約して蹴りを放つ。その蹴りは敵を一体もうち漏らすことなく、全ての構成員と怪人たちを撃滅した。

 煙が荒れた後、周りを見渡す。もはや敵は一人もいない。この場でやるべきことは済んだ。

 ライダーたちの後ろに大きな灰色のオーラが形成され、エミヤケンゴの足元には虹色に輝く魔法陣が形成された。

 

 

「あとはお前たちの役目だ」

 

「この世界の人の未来は頼んだよ」

 

 

 言葉少なに、ライダーはオーロラを通って自分たちの世界に帰っていった。最後に残ったエミヤは魔法陣を通過し、完全にこの世界からいなくなった。

 

 

「夢を、希望を照らせ。守るべきものがあるならそれを守り抜け、この世界の抑止力よ。その先には、間違いなく光り輝く未来があるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 随分と先を進んだが、未だ景色に変わりはない。警戒しながら進んでいるのもあり、不通に比べたら進むペースは遅いがそれでも広すぎる。

 だがそれも終わりらしい。とうとう通路の端に着いた。目の前にはショッカーのマークの付いた大扉がある。

 

 

「……ここみたいだな」

 

「らしいな。気を抜くなよ?」

 

「ああ」

 

 

 最大限の警戒心を持ち、扉を開けると中にはアポロガイスト達以外にジャーク将軍、シャドームーン、仮面ライダーネガ電王の姿もあった。

 成程、この六人がスーパーショッカーの幹部なのか。

 

 

「……よくぞ来たな、仮面ライダー達よ。歓迎しよう」

 

 

 仰々しく言葉を発するアポロガイスト。周りの幹部連中は嫌な笑いを浮かべたり、発していたりしている。また俺たちが入った後、後方は今回表に出ていなかった構成員や怪人に囲まれてしまっている。

 どうやら俺たちは誘い込まれていたらしい。流石のディケイドやディエンドも少し焦っているようだ。

 

 

「お前に歓迎されても嬉しくないな」

 

「まぁよいではないか。どうせあと幾ばくかの命なのだから、な」

 

 

 ジャーク将軍が指を鳴らすと、いつの間にか設置されていた機会と怪人たちの腕からエネルギー波が発せられた。そのエネルギー波は真っすぐ俺たちに飛び、俺達は大きなダメージを受ける。普通の攻撃とは違う、明らかに殺しにかかってきている攻撃によって、俺たちは変身が解除されてしまった。

 

 

「クハハハハハ!! どうだねライダー諸君、我が科学の味は!!」

 

 

 将軍が何か言っているが、耳に入ってこない。変身が解除された後もダメージが残り、痺れや痛みが俺達を襲う。そしてもがいているうちにデネブはネガ電王に羽交い絞めにされ、俺たちは構成員に武器を向けられていた。

 将軍とアポロガイストを始めとして、全幹部が俺達に歩み寄ってくる。

 

 

「何故そうまでして我らに歯向かう? 何故命を削ってまで我らと戦う?」

 

 

 奴らが問いかけてくる。

 決まってる。単純だ、その答えはたった一つだ。

 

 

「何聞いてやがる。そんなもん、人の夢と希望、そして笑顔のためだ」

 

「それを実現するのが我らスーパーショッカーだ」

 

「違う!!」

 

 

 奴らの創り出す世界は、洗脳のうえで成り立つ世界である。その世界で見られる笑顔は、一部を除いて心からの笑顔ではない。そのような世界、夢も希望もありはしない。

 

 

「だいたい貴様一人で何ができる!! そもそも人一人が守れるものなど多可が知れている!! 一人で戦ったところで、貴様は誰も守ることは出来ない、何も助けることが出来ない!! 手を伸ばせず、絶望するのが落ちだ!!」

 

「だからこその我らスーパーショッカーだ!! 我らスーパーショッカーが世界を統べてこそ、世界は幸福を実感するのだ!! 貴様がもたらすものなど、全くの無意味無価値なのだ!!」

 

 

 ショッカーは俺の答えを全否定した。まぁそもそも意見が対立しなければ、このような争いなどは起きることがない。たとえどんなに否定されても、俺が信じるもの、信じたもの、信じていくものを貫かなければ、彼女にも前世の娘や野上たち、そして今回の戦いに助力に来てくれたライダーたちにも顔向けができない。

 

 

「それは違うな」

 

「何だと?」

 

 

 しかしそこで門矢が口を開いた。そしてゆっくりと、しかし確実に立ち上がっていた。

 

 

「この男は勝ち目のない戦いでも、味方がいない孤独の中でも、決して自分を曲げずに立ち上がってきた」

 

「誰も泣かなくていいように、愛しき者の笑顔を守り抜くために、戦い抜いてきた」

 

「愛しき者、そんなちっぽけなものを……」

 

「ちっぽけだからこそ、守り抜くのだろう!!」

 

 

 門矢と海東の言葉が入ってくる。そしてそれは、俺を再び立ち上がらせる力となる。

 

 

「俺たちのこの手は、誰かの手を握ることが出来る。絶望から引き上げることが出来る!!」

 

「彼が愛しき者、そしてこの世界の希望なら、僕たちはこいつの希望だ。彼を後押しする支えとなる!!」

 

「貴様ら……何者だ!!」

 

 

 ジャーク将軍がこちらに問いかける頃には、俺たち三人は既に立ち上がっていた。そしてそれぞれの腰にはベルトが巻いてある。

 

 

「「「通りすがりの(この世界を護る)『仮面ライダー』だ。覚えておけ」」」

 

「ッ!? 侑斗ッ、それは……」

 

「……すまないアーニャ。変身!!」

 

≪Altair Form≫

 

 

 俺たちは三人同時に変身し、ついでに同時に周りの構成員や弱い怪人を直ぐに攻撃し、爆散させる。いきなりの反撃にはやはり対処できないらしく、俺たちは更に数体の怪人を屠る。

 だがそこは流石の幹部陣、いち早く正気に戻り、各々武器を構えてこちらに向かってきた。

 

 

「こうなった以上温存する必要はないな」

 

「思いっきりやっちゃいなよ」

 

「そうだな。デネブ、来い!!」

 

「……仕方がない」

 

≪Vega Form≫

 

 

 もはやあとはこの拠点を破壊するまで火力で押すのみ。手の内を温存する必要はない。

 

 

「……最後に言っておく。侑斗をよろしく!!」

 

 

 その掛け声とともにガッシャーを横になぐ。すると三人ほどの怪人がすぐさま爆散した。三人とも力にものを言わせ、次々に怪人や構成員を屠る。ものの数分の内に残るはアポロガイスト、ジャーク将軍、ネガ電王のみとなった。

 

 

「……貴様ら」

 

「ここで終わらせる」

 

 

 アポロガイスト達はそれぞれ武器にエネルギーをためだした。それに応じるように俺たちも最後の力を振り絞る。

 

 

「「「死ねぇ!!」」」

 

「「「ハァッ!!」」」

 

 

 剣が、弾が、エネルギーがぶつかり合う。互いに押し合い、混ざり合わないよう互いに潰すように動く。

 その時互いに想定外のことが起きた。

 地盤がもろかったのか、敵の足元が崩れ始めた。そして三人ともそちらに気が向いてしまった。

 

 

「ッ!! 今だ!!」

 

「最後の一絞りだ!!」

 

≪Full Charge!!≫

 

 

 更にエネルギーを加え、後先考えない一撃を叩き込む。その攻撃に相手は成す術なく攻撃を受けた。

 

 

「ウッ……グゥ……」

 

「スーパーショッカー……大万歳!!」

 

「くッ……くそがぁ……」

 

 

 そして三人は爆散し、ついにスーパーショッカーは壊滅した。だが施設をこのまま残しておけば、また誰かが利用したりして二の舞になってしまうだろう。

 

 

「……門矢、海東……デネブ」

 

「皆までゆうな」

 

「分かってるさ」

 

≪≪Final Attack Ride≫≫

 

≪Full Charge≫

 

 

 全員武器を構え、それぞれ三方向に銃口を向ける。これですべてが終わる。この施設を還付無きにまで破壊して、終わらせる。

 

 

「「「ハァッ!!」」」

 

 

 三つの銃口から特大のエネルギー談がいくつも発射され、施設を破壊していった。弾は壁を貫き、施設の奥まで破壊していく。何度も何度も弾を打ち込み、ついにすべてを破壊しつくした時に、エネルギーも底が尽きた。

 自然と変身も解除される。

 俺のチケットは塵と還り、これで最後の一枚がなくなった。ああ本当は欲を言えば、ちゃんと帰って安心させたかった。彼女の笑顔をもう一度見たかった。

 もう何度めかもわからない浮遊感に身を任せたまま、俺は意識を手放した。

 

 

 

 






次回、最終回≪You're the stars shine on me≫




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You're the stars shine on me



スーパーショッカーの進撃から今日で十六年になりました。
彼らの進撃を止めた謎の戦士たちは、あれから一度も姿を現すことがありませんでした。しかしながら彼らによって混乱は止められました。
特徴的な仮面をつけた彼らの足跡を追う人も未だいますが、我々政府の見解では、あのような事態にならない限り、再び姿を現すことはないでしょう。
尤も、あのような事態を再び起こすわけにはいきません。我々日本は、今後も世界各国との絆を重んじ、力による支配を行わないよう注意して国を動かさなければなりません。
現在アメリカとの会談を予定しており……





 

 

 

「皆さん、ご入学おめでとうございます。春は桜のほかにも美しい花が咲き、また新たな命の芽吹く季節でもあります。新たな誕生、新たな出発としてこの上なく適している春は……」

 

 

 大きな体育館に新入生が集められ、恒例となる校長のありがたい話を聞く。流石に高校生ともなればボーっとして聞かない生徒はいても、他人を巻き込んで新年度早々恥をかく生徒はいない。しかし校長の話が長いのもまた事実。最初は真面目に聞いていても、次第に飽きてボーっとしだす人がほとんどである。

 校長もそれはいつも通りで慣れているのだろう。調子を崩すことなく話を続け、祝いの言葉で締めくくった。式も終わり、校歌斉唱も終了した後、それぞれ教室に戻っていった。

 

 

「あー校長先生の話長かったー。おーい桜井~」

 

「「なんだ(どうしたの)?」」

 

「あっ、すまん。梨穂子の方じゃなくて京介のほう」

 

「なんだ?」

 

 

 高校生になる前からの知り合いなのだろう、一人の男子生徒が別の生徒に声をかけた。どうやら双子なのか、男女の二人が反応したが。

 

 

「それで? どうした?」

 

「いや、この後暇かなって」

 

「……いや、すまないが今日は無理だ」

 

 

 友人の誘いを聞いてしばらく考えた後、青年は拒否の答えを出した。青年とは昔からの付き合いなのだろう、友人はその答えに特に悲しむような反応を見せることなく、ただ一言「そうか」と返した。

 そのタイミングで担任教師が入ってきたことによって、生徒同士の会話は一旦切られた。

 

 

「皆さん、改めまして入学おめでとうございます。私はこのクラスの担任の山田真耶です」

 

 

 担任と名乗る女性は、大人には見えない外見をしている。場合によっては高校生でも通じるだろう、小柄で童顔な教師だった。ただその容姿のおかげか、多少緊張で支配されていた教室内を弛緩させ、リラックスするような空間に仕立て上げた。

 だがそのような空気も一変、担任から自己紹介するように言われた瞬間、再びクラス中が、いや、二名を除いて全員が緊張した。何を話すか、どう話せば周りに引かれないかなど、各々頭の中で内容を組み立てている。

 

 

「……では次は桜井さん。あ、男の子のほうからお願いしますね」

 

「はい」

 

 

 呼ばれた青年はゆったりと立ち上がり、教室全体を見渡すように一望した。容姿は日本人離れしたものであり、身長は低く見積もっても175cmはあり、頭髪もまた日本人離れした銀色、極めつけはサファイヤのように透き通っている青色の目。目立つ要素を幾重にもはらんでいる青年であった。

 

 

「桜井京介、母はロシア人で父は日本人だ。無愛想な感じになってすまないがこれが俺の素だ、気にしないでくれると助かる。来年また同じ組になるかはわからないが、これからもよろしく」

 

 

 それだけを一息に言い切った後、青年京介は椅子に座って目を閉じた。それを見た担任はオロオロとしだすが、諦めて次の生徒に順番をまわした。

 次に呼ばれた女生徒が立ち上がった。

 担任と同じようにおっとりとした雰囲気を醸し出し、頭髪と虹彩は茶色、セミロングの髪は背中に流している。少し丸みを帯びた顔に女子が羨みそうなそうな体系をした彼女は、先ほどの青年のように教室を一望できるように姿勢を変えた。

 

 

「初めまして、桜井梨穂子です。先ほど紹介した桜井恭介の双子の姉です。弟の容姿は母親似で私は父親似ですね。趣味はお菓子作りです。これからよろしくお願いします」

 

 

 ぺこりとお辞儀をする少女に女子は可愛さを感じ、男子はポゥッとした表情で見とれていた。しかしそれに気づくことなく、少女は前に座る青年に話しかける。

 

 

「もぅ~ちゃんと挨拶しなきゃダメだよ京ちゃん。みんな困っちゃうよ」

 

「いいだろう、別に。俺はちゃんと自己紹介したろ」

 

「そうやって投げやりだからみんな困っちゃうんだよ~。駄目だよ?」

 

「あ~はいはい」

 

 

 注意する姉にそれにおざなりにする弟。教室内であってもそれは変わることなく、次の生徒が自己紹介するまでこのやり取りが続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手に教科書が多量に入った袋を持ち、男女二人が夕焼けに染まる空の下で歩いている。同じ高校の制服を着ているのだが、傍から見ると身長差からして兄妹であるような印象を受ける。二人とも着かず離れずの距離を保ちながら帰路についている。

 

 

「えーっと、確か今日は私がキッチンだったっけ?」

 

「俺がホールだな。まぁキッチンにはデネブと婆さ……愛理さんがいるし、大丈夫だろ」

 

「む~私って信用ないの?」

 

「少なくとも、俺は姉さんが食べているとこしか見たことがない。菓子作りが上手いし、料理もできるのは知ってるが」

 

「あっ、ひどーい」

 

 

 どうやら二人は実家の方でアルバイトをやっているようだ。そのためか、帰る方向も同じらしい。車の通りが多い道から、住宅街へと景色は変わっていく。そして道の一角にあるカフェ”ミルクディッパ―”へと到着した。

 

 

「「ただいまー!!(ただいま)」」

 

「二人とも、お帰り。入学式は大丈夫だったか? 京介はちゃんと挨拶できたのか?」

 

「ああもう、これで何回目だよデネブ!!」

 

「アイタタタ、この技の切れは侑斗そっくりだぁ」

 

 

 帰るなりデネブという、カラス天狗のようなお面をつけた人物にプロレス技をかける少年。幸い今の時間に客はいないらしく、誰にも迷惑は掛かってなかった。

 

 

「も~京ちゃん、早く準備しないと。お客さん来ちゃうよ?」

 

「んあ? ああそうだな」

 

 

 青年はプロレス技も程々にし、店を手伝う準備に入った。その後すぐにポツポツと家族連れや仕事帰りの人やらで席が満たされる。元々カフェとして経営している店であるため、席はそんなに多くない。そして最低でも30年は続くこの店には暗黙のルールがあり、食事中はほとんど会話が行われない。

 このことはどの公共の場でも共通事項なのだが、この店では本来騒ぐはずの幼児ですらも、店に入ると退店するまで大人しくなるほどである。それによって、食事のマナーを身に付けさせるために、幼子をこの店に連れてくる家族連れも多い。

 人気の一端を担っているのが。

 

 

「はい、ご注文のから揚げ定食です」

 

「焼き飯定食、お持ちしました」

 

「こちら、ご注文のボルシチです」

 

 

 接客している店員の容姿のレベルの高さである。日本人離れした青年に、三十年も店を切り盛りしているとは思えないほどの女主人。そしてこちらもおよそ子持ちとは思えない美貌を兼ね備えた、青年よりも更に白い肌に頭髪をもった女性がいた。今はホールにいないが、キッチンにいる少女もレベルが高いため、それ目当てで来る客も少なからずいる。

 

 

「お客様、あと十分でラストオーダーとさせていただきます。注文される方はお願いいたします」

 

 

 時計の短針が七を指そうとするころ、女主人の声が響いた。その声と共に、食後のコーヒーやデザートを注文する声が殺到する。しかし慣れたものなのか、それらの注文をそつなく熟す店員たち。ほとんど客を待たせることなく、最後の注文が運ばれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ての業務が終わり、客も最後の一人が帰宅し、明日の下拵えと後片付けをしていると、カフェの入り口が開いた。

 カラリとベルが鳴る音が響く。キッチンで仕込みをしていた銀髪の女性が顔を出す。その顔は笑顔で輝き、元々二十代前半と思われても可笑しくない容姿が、更に若々しくなる。

 扉近くまで迎えに行き、入ってきた人物の許に女性は駆け寄る。その時に手を洗うことを忘れない。

 扉から入ってきた男性も口元に小さく笑みを浮かべる。そして来ていた茶色いコートと鍔が広く深い帽子を取る。

 

 

「おかえりなさい」

 

「……ああ、ただいま」

 

 

 

 





彼女に宿った二つの命。その二つの命が俺を繋ぎとめてくれた。死ぬべき運命にあったオレを掬い上げた。
生成された二枚のチケットは、俺と彼女が作ったお守りにそれぞれ入れて、子供たちに渡している。彼らは何であるかは分かっていないが、大切なものであることは分かっているのだろう。肌身離さず持ってくれている。
あれ以来、一度もイマジンや怪人はわかない、ショッカーも出ない。平和な十六年だった。
もう今生で、俺が変身することはないだろう。もう俺が、命を張って戦うことはないだろう。
世界は回る。時の針は規則的に刻まれる。
俺が……俺たちが今乗っているレールは、光ある未来へと続いている。


~Fin~




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