ARC THE LAD -生き残ったもう一人のいにしえの七勇者- (妄想プリン)
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いにしえの時代
第一話 あいつは化け物みたいに強かった
小説を書くのは初めてなので、拙い表現等で違和感のある日本語になっているところがあります。そのような箇所を見つけた場合ご指摘をいただけるとうれしいです。
亀更新となると思いますがプロットは作っているので完結できるよう頑張っていきます。
あいつは化け物みたいに強かった。
人間王なんて世間や精霊たちから呼ばれてはいるが、闇の力を手にして同じく精霊から力を与えられた俺たち七勇者と互角の戦いをひろげるアイツはもはや人間を超えているとしか言えなかった。今思い返せば科学の力だけで精霊や神をしのぐ力を手に入れて、全ての世界を手に入れようと神に挑戦したっていう思考自体も人間離れしてた。
これらはおいといて、改めてアイツ姿を見てみる。
そこには半径5メートル近い目玉があった
こ れ は ひ ど い
人間王?あれをどうみれば人間に見えるんだよ!?まだ魔族の方が人間らしいよ!妖怪の目玉オ○ジですら胴体や手足はあったぞ。
と、心の中で俺は盛大に突っ込みつつも隣のゴーゲンさんと共に超高熱の大爆発を起こして敵を炎で包み込むエクスプロージョンを唱える。
ちなみにアイツは最初からあんな姿であったわけではない。以前に対峙した時は威厳あふれる(ムカつくことに)イケメンのおっさんの姿であった。おそらく闇の力を手にした結果あのような姿になったのではないかと考える。
ゴーゲンさんは俺の師匠である。自他共に認める魔導師であり、世界で唯一「大魔導師」を名乗ることが許されている。あらゆる属性の魔法を使い、テレポートというオリジナル魔法も使いこなす。
そしてその大魔導師とその弟子によるフルパワーの魔法を直撃されてもアイツは全く大きなダメージを受けているようには見えない。アイツは俺たちに反撃を行おうとするがバルダさんとハト、そしてグラナダさん達前線メンバーがその余裕を作らせない。
「ソルよ。」
ゴーゲンさんは新たに魔法をうつべく魔力を練り上げながら俺、ソル・ファイ・ウルトゥスに話しかける。その表情は先ほどの魔法が大きな効果を示さなかったことに対する動揺はない。まあ、ゴーゲンさんの眉毛と髭があまりに立派すぎて顔を覆い尽くしているせいで表情が分かりづらいっていうのもあるかもしれないが、ここは師匠の顔をたてておくとする。
「人間王はまだ余裕を残しているようじゃ。」
・・・・は?
なんとおっしゃいましたか?
「だから人間王はまだ本気ではないと言っているのじゃ。」
一度では言葉を理解することができない弟子に対しあきれたかのように言う。だが俺にはその言葉はすぐには信じられない
一振りで10体の機神兵をなぎ倒す戦士バルダさんや「この牙に噛みきれぬものなどあんまりない」を実践する犬でかつ癒し係のハト、「これはトルネードではない。ウィンドスラッシャーだ。」どこかの大魔王様のような言葉を放つ魔術師ノルさん、隣にいる大魔導師のゴーゲンさん、心臓さえ動いていればどんな怪我も治療してしまう巫女ワイトさん、単独で千体のモンスターを相手にし勝利してしまう聖騎士グラナダさん、そしておまけの俺。
この7人と互角に戦っているアイツがまだ本気じゃないなんて。そう簡単に信じられることではない。
「この戦いは長期戦になることは間違いなかろう。だから魔力量が多いお前さんがワイトの補助をおこなうのじゃ。ワイトの魔力がきれたら勝ち目がなくなるからのう。」
ゴーゲンさんはいつものようなヒョウヒョウとしたどこか楽しそうな声ではなく、真剣身を帯びた苦しそうな声で俺に話しかける。その真剣さに嫌でもゴーゲンさんが本気で言っているということを理解させられる
各分野で最高峰の実力を持つ七勇者の中で、おれが誇れることは少ない。ゴーゲンさんの弟子として魔法を学び魔導師となった俺ではあるが、魔法を学び始めてから5年ということもありゴーゲンさんやノルさんほどの魔法を放てない。七勇者の中では経験、知識、才能、思考力という戦いにおいて大事な要素が一番低い(ここで大事なのは七勇者の中には犬であるハトがいるということだ)。
俺がこの7人の中で誇れることが二つだけある。そのうち一つが魔力量である。ここでいう魔力量とはMP的なものを想像してくれればいい。高威力の魔法を放つには長い時間をかけて修行しなくてはならないので俺にはできない。魔力量に関しては俺はゴーゲンさんの3倍近く持っている。
ちなみに魔力量を調べるためにエクスプロージョンをうちまくり俺が気絶してしまったことと、ぼやける意識の中で目に写ったエクスプロージョンの嵐によって荒野と化したサルバ草原は俺の頭に強く残っている。ちなみにゴーゲンさんからの師匠命令で俺はサルバ草原に訪れるのを禁止されている。
「そうね。あなたが回復を手伝ってくれるなら私も余裕を残して戦えるわ。」
ワイトさんにもゴーゲンさんの声が聞こえたようだ。ワイトさんは前線メンバーに回復魔法キュアをかけながら話す。
俺たちの中で回復魔法を使えるのは俺とワイトさんとグラナダさんの3人だ。しかしグラナダさんが前線に行き、ワイトさんの魔力が尽きると俺一人で回復を行わないといけなくなる。俺は自慢ではないが回復魔法は体力回復、それもワイトさんの3分の1程しか効果はない。
「話は決まったの。ソルはワイトのサポートに回って、余裕があれば攻撃を行うのじゃ。」
ゴーゲンさんのその言葉を境に俺はポジションを変えワイトさんの補助を行うべく魂から聖なる力を引き出す。
「思った以上にやるではないか。忌々しき精霊から力を与えられし勇者どもよ。私の力で跡形もなく消し去ってやるわ。」
口が無いくせにどこから声を発しているのだろうか、とどうでもいいことを考えながら俺はこの後にくるだろう魔法に備える。
「モラル崩壊」
七勇者の名前ですが、大図書館に乗っている名前はグラナダ、ソル、バルダ、ワイト、ゲニマイ、ハト、ゴーゲンの七人。しかし七勇者についてのほかの記述ではウルトゥス、ノルという人物がでてきます。よってこの作品ではソル・ファイ・ウルトゥス、ノル・ゲニマイと勝手にくっつけ(捏造し)ました。
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第二話 旅の終焉へ
その後はストックがなくなるまで週一ペースで投稿していきます。
「・・・・終わった。」
ついさっきまでの戦闘による轟音がうそのように静まり返っている神殿内にグラナダさんの声が響き渡る。
俺はその事実を確かめる意味でワイトさんの方を向く。ワイトさんは俺の意図を察してうなずく。
精霊から力を授けられた七勇者の中でもグラナダさんとワイトさんは特別な存在である。グラナダさんは「勇者の力」、ワイトさんは「聖母の力」を聖柩から与えられている。その力によって二人は闇の力を感知することができる。
つまりこの二人が闇の力が封印されたと言うのならば、それは間違いない。
アイツは・・・封印された。
俺たちはアイツと長時間における戦いを繰り広げていた。実際かなりギリギリの戦いであった。戦いの最中にアイツを追い詰めたと思ったらまさかの変身をして強くなるという緊急事態もあった。この時に「私はその変身をあと二回残している。この意味がわかるな?」と言われなかったのは不幸中の幸いだったのだろう。
ゴーゲンさんの指示通り余力を残さなければまともに戦うことすらできなかった。変身したアイツと闘いながらゴーゲンさんは俺達が戦いを行っていた神殿の外に用意していた聖柩をテレポートで取りに行き、その聖柩の力によって弱ったアイツを封印した。
「暗黒の支配者は封印されました。少なくともこれによって神の怒りによる大崩壊が再び行われることはないでしょう」
大崩壊という言葉に俺は顔をゆがませる。
アイツは神に挑戦なんてことをしたあげく、神々の怒りを買った。その怒りにより大地は震え、津波が起こり、雷が鳴り、炎が世界を覆った。これが大崩壊である。
そんな大崩壊においてもアイツは大した被害を受けず、被害を受けた者の多くは罪もないただの一般人であった。神々からすれば、科学の恩恵を受けているという点で同罪だったのかもしれない。
神々の意思はともかく精霊はそのことを憂いだ。精霊たちは俺たちに聖柩をたくし、俺たちは七勇者となった。俺たちはアイツの意思である闇の力を封印するために聖柩をこの国に、スメリアに運んだ。
そして闇の力は封印された。だがこれで世界が救われたわけではない。
「よし、聖柩を解放するぞ。」
そうこのままでは世界が滅んでしまうのは変わりない。人間が生み出した科学と神々による大崩壊により、多くの生命は死に絶えている。このままでは生き残った人間や動物も時期に滅びるのは目に見えている。
そこで聖柩の力を解放することにより、世界を滅びの道から救うのだ。。本来ならこの神殿で精霊による守護が働いているこの神殿で聖柩の力を解放するはずだった。しかし闇の力を手に入れたアイツはこの神殿に侵入し、結果的にアイツごと闇の力はこの神殿に封印された。
「しかし聖柩の力を解放してしまえば、同じ聖柩の力による闇の力の封印が不安定になってしまうかもしれません。」
グラニダさんの言葉にワイトさんが疑問を呈す。
「しかし聖柩を封印する場所なんてそうあるもんではないぞ。それに我らも今戦いで力を使い果たしている。遠くまで運ぶとなると一度休息する必要がある。」
バルダさんは立っているのもつらいのか片膝をつきながらしゃべる。バルダさんの鎧の胸についているチャームポイントである(少なくとも本人はそう思っている)アーマーストーンが半分にかけていることからの彼が受けたダメージの一端が垣間見える。
「ええ。じゅうぶん分かっているつもりです。」
めずらしくワイトさんの顔には疲れが見える。クールビューティであり自らの感情や状態ををめったに顔に出すことのない彼女だが、アイツを封印したことで気が抜けているのかもしれない。
「この近くに精霊の山があるのは皆さんも知っていますね。その山の奥にはサルバシオの滝があります。あそこは暗黒の支配者を封印する地の候補の一つでしたが、暗黒の支配者が封印された今となっては問題ないでしょう。」
俺は周りを見渡すが異論はなさそうだ。ちなみに俺は精霊の山があることを知らなかった。
「どうやら復習が必用らしいですね。」
俺の心の中は筒抜けだったらしい。俺の魔法の師匠はゴーゲンさんであるが、ワイトさんも知識や常識を俺に教えることがある。ワイトさんからの冷めた目に冷や汗を流しながら俺は最後の希望を保ちハトを見る。精霊の山のことを知らないのは俺だけではないよな、ハト!?
「わうぅ。」
ハトは気まずそうに俺から視線をそらす。
俺は絶望した。
神殿の外に出るとそこには十数体の機神が俺たちを出迎えてくれた。機神とは闘うことを目的に作られたロボットの総称である。周りを見渡すと50体近くの機神の残骸がひろがっている。
「機神団よ。我らが暗黒の支配者と戦っている間に、よくぞ聖柩を守り通してくれた。あなたたちのおかげもあり闇の力は封印された。礼を言う。」
先ほど神殿の外に聖柩を置いていたと言ったが、もちろんポツンと聖柩を置いて行ったわけではない。俺たちが一番信用しているこいつら、機神団に護衛をしてもらっていたのだ。機神団もこのたびの中で数を減らしていって、この神殿に来るころには15体ほどしか残っていなかったが機神団は3倍近くの敵の機神を相手に見事に聖柩を守り抜いたようである。
しかも残骸を見る限り相手にしたのはSA-100やSA-200、そしてCAA-5等の敵の機神兵の中では上位の機神のようである。
見事に役目を果たしてくれた頼もしい仲間たちに対しグラナダさんが俺たちを代表して感謝の言葉を述べる。
「くくく、さすがは最強の機神ジャッジメント。有象無象の機神とは格が違うようだな。」
機神団の先頭にいる機神、ジャッジメントに向かって大魔王口調で語りかけるノルさん。それがあまりにも似合いすぎて、ぶっちゃけこの人が裏ボスだと言われたら俺は何の迷いもなく納得するだろう。
「私は最強の機神の一角として作られた。私と互角の力を持つ機神は機神兵の中にはグロルガルデだけだ。」
最悪最強の機神グロルガルデ。俺たちが七勇者として聖柩を運ぶために旅立ったときに、俺らや精霊に逆恨みしたアイツが作ったのがグロルガルデである。いや、マジで強かったんだよ。俺たちが旅立ったの3年前、俺が魔法学んだのは5年前。2年しか修行していない俺はもちろんのこと、旅立ったばかりで精霊の力も使いこなせていなかった七英雄のメンバーはグロルガルデにフルボッコにされた。
その時に助けにきてくれたのが機神団であり、最強の機神のジャッジメントであり、機神団の長である機神ヂークベックであった。機神団はその後も俺たち七英雄の護衛をしてくれた。今の七英雄とグロルガルデが戦ったら苦戦はしても倒せる自信がある。しかし機神団がいなければ俺たちは実力が付く前に殺されていただろう。
ちなみにグロルガルデはその後も何度も闘うことになり、神の塔でヂークベックと相討ちとなり機能停止となった。
「くくく、そうであったな。改めて聞くがこの戦いが終えた後、余のものとなる気はないか?」
・・・。世界征服とかでもする気か?まあ、もしそんなことになったら今度は六英雄(一人減っているところが大事!)がノルさんの前に立ちふさがるのは目に見えているけどな。
ノルさんのジャッジメントの勧誘はいつものことなので、ジャッジメントを中心とする機神団や他のメンバーはスルーして話を進めていく。
俺たちがこの後にすることは、まずサルバシオの滝にて聖柩を解放する。そして後世のため、また聖柩が悪用されないようにするため聖柩を封印し、サルバシオの滝に近寄れないようにするために精霊の山に結界を作る。
これにより世界は救われ、俺たち七英雄の使命は果たされる。
そう。
つまり俺たちの旅は終わりを迎えようとしていた。
作者はゲームは無印と2.3しかやったことがありません。一応wikiやサイトでアークシリーズの他作品の設定なども見ていますが、勉強不足ゆえにそれらと矛盾が生じる可能性もあります。その時は暖かい目で流してくれるとありがたいです。
ちなみにこの作品は2の終わりまでしか考えていません。
早く原作に入りたいです(>_<)
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第三話 消えない不安
それが起きたのは突然であった。
俺たちに油断が無かったとは決して言えない。闇の力を封印し、敵の機神兵も機神団たちが倒したのもあり、いつもに比べれば気が抜けていた。いや、自分たちが力を使い果たしているのを知りながら警戒ランクを最大にしなかった時点で、相当気が抜けていたんだろう。
精霊の山に入りサルバシオの滝を目指して進んでいた俺たちの地面から吹きあがる炎に対応する間もなく、俺たちは炎に包まれた。
「ダイヤモンドダスト。」
炎が俺たちを覆い尽くす中、ゴーゲンさんの声が聞こえる。それと同時に俺たちの周囲に氷の塊が降り注ぎ炎が消える。
「い、今のはヒートウォール。」
「グルルル。」
不意打ちに対し動揺する俺の隣で、ハトがうなり声をあげながらある方向をみる。
そこには腰から上しか存在しないが、10メートルもある青の巨人がいた。胴には顔についている二つの目とは別の第3の目があり、その巨人から感じるオーラにより嫌でも強敵であることが理解させられる。
「あいつはラリュウキ。強力な魔法を操り、エレメンタル系のモンスターを生み出す力を持っているぞ!」
険しい顔で剣を構えるバルダさんが全員に聞こえるように叫ぶ。俺たちはこのハプニングに対応するべく、それぞれ構える。その時であった。
ゾクッ
戦闘の構えをとった瞬間に俺が感じたのは、本能からの警鐘であった。しかしそれは視線の奥にいるラリュウキに対するものではない。確かにラリュウキは強いだろうが、今の俺たちでもじゅうぶん倒しきる自信があった。
俺が、俺たちが感じた警鐘はラリュウキの後ろに浮かんでいたガーゴイルに対するものであった。
「なぜ、こんなところにアークデーモンが・・。」
ガーゴイルの方を睨みながら、グラナダさんが苦々しくつぶやく。
それもそうだろう。俺たちは以前にアイツが本拠地として使っていた城で、一度アークデーモンと戦ったことがある。その時も死力を尽くして戦うことになったのだ。
以前と今では俺たちの強さが異なるとはいえ、力を消耗した俺たちではアークデーモンとラリュウキに勝利するのは容易ではない。いやむしろ困難だと言えるだろう。
さらに厄介なのが2体ともモンスターを生み出す力をもつということだ。ラリュウキはバルダさんが言ったとおりにエレメンタル系モンスター(炎のような外見のモンスター)を、アークデーモンはグレーターデーモンというというモンスターを生み出す。
「機神団は新たに生み出されるモンスターを頼む。ジャッジメントと我らはアークデーモンとラリュウキを相手する。聖柩を死守するぞ。」
「いえ、二手に分かれましょう」
グラナダさんが全員に指示を出すが、ワイトさんがまったをかける。
「片方が聖柩を解放し、片方がモンスターを足止めする。これが最善手です。問題はだれがのこるかですが・・・。」
ワイトさんの言葉に俺は衝撃を受ける。全員でも勝てるか分からない敵に対して、メンバーが欠けた状態では足止めとは言え命を落とす確率がきわめて高い。しかしこの方法以外に世界を救う方法が、・・・この地上を救う方法がないのだ。
頭を使うのが苦手な俺だってわかるのだ。他のメンバーも理解し、納得しているのだろう。
「ふむ、ではわしは残ろうかの。」
そして真っ先にゴーゲンさんが前に出る。
「ラリュウキならわしのものすごい魔法でなんとかできるぞい。」
「奇遇ですね。私はアークデーモンを封じるすべがあります。私の方は補助が一人必要ですが。」
自信満々に対応策の存在を公言するゴーゲンさんとワイトさん。もし二人の言う通りであれば、三人だけでアークデーモンとラリュウキを対処できることになる。
「信じるぞ、二人とも。もうしゃべっている時間もない。」
そう、こうして話している間にもモンスターたちは近づいてきている。相手も不意打ち以外で、足止めもない遠距離攻撃が当たるとは思っていないのか攻撃をしてこない。しかしあと数十秒でモンスターたちによる魔法の弾膜がくるのは目に見えている。
もう、二人を信じて動くしかないのだ。
「補助はソル。あなたにお願いします。」
そう、ゴーゲンさんとワイトさん、そして俺が・・・・。って俺!?
「というより補助はあなたしかできません。いいですね?」
俺がワイトさんの言葉に驚いている中、ワイトさんは続ける。ワイトさんは俺たち七勇者の参謀役だ。聖柩から知恵を与えられているワイトさんであるが、聖母の力関係なくワイトさんは頭がいい。知識では長生きしているゴーゲンさんの方が多いだろうが、作戦立案や先読みはワイトさんにかなうものは七勇者にはいない。
「ワイトさんが言うならそうなんでしょう。任せてください。」
残れば高い確率で死ぬだろう。しかし俺には死ぬ覚悟なんてない。しかしワイトさんは俺しかできないと言った。なら残るしかない。
逃げるわけにはいかない。
死にたくないと思う気持ちは強い。旅を始めたばかりの頃なら、逃げていたかもしれない。この3年の旅で人間に対する失望と絶望を何度感じたか覚えていない。だがそれ以上に人間の尊さを見てきた。人間に対する希望を見た。仲間たちの使命にかける思いを知った。
そしてなにより、俺は自分の命よりもこの美しい地上が大切なのである。
「よし、3人ともここは頼む。俺たちは聖柩の解放を必ず成し遂げて見せる。」
俺が了承したのを見届けるとグラナダさんが決意を込めた目で俺たちを見てしゃべる。
「安心してください。生き残る自信はあります。」
「そうか。」
ワイトさんの言葉にうなずくとグラナダさんはノルさん、バルダさん、ハト、ジャッジメントの方に視線を移す。
「行くぞ!」
グラナダさんの声をきっかけに3人と1匹と1体は走り出す。彼らはこちらを振り返ることはない。こちらを振り返る暇があるのなら、一瞬でも早く聖柩を解放するべきだと知っているからだ。
こうしてこの場には3人と機神団が残った。
「ゴーゲン。あなたと私はおそらく同じ方法を考えているはずです。私にはソルがいますが、あなたにはいない。どう補うつもりですか?」
ワイトさんはモンスターの群れから目を離さずにゴーゲンに話しかける。というか同じ方法?そして俺?
「ふむ・・・。これよ。」
何についてしゃべっているのかよくわからないが、話しかけてきたワイトさんにゴーゲンさんは自身の手に持つどこか見覚えのある数珠を見せる。
「確かその数珠は前にソルが魔力を込めたものですよね?納得しました。ですがそれでは・・・。」
ワイトさんの言葉に俺は数珠について思い出す。半年も前のことになるが、それは確かにゴーゲンさんに頼まれて、俺がありったけの魔力を込めたものであった。ワイトさんはどこか納得のいったという顔になるが、それもすぐに元に戻る。そして何かを言いかけて、言葉が詰まる。
「ふぉふぉふぉ。百も承知じゃよ。」
そんなワイトさんに対しゴーゲンさんはいつものように気楽そうに笑って答える。
「さてソルよ。」
ゴーゲンさんはワイトさんの方から俺の方を向く。
「おぬしは今後も永遠に近い時を生き続ける。本来ならわしもその隣でしばらくは教えを続けるつもりだったんだがのう。」
「ゴーゲンさん?」
突然の話題に俺はどこか不安を感じながら声を出す。
「元気に暮らすのじゃよ?」
「どうしたんですか?俺だけが生き残って、ゴーゲンさんが死んでしまうような言い方は。どうせなら3人全員で生き残りましょうよ。」
どうしようもない不安で心が押しつぶされそうになる。ワイトさんは何か知っているのか口を挟まない。
「安心するのじゃ、わしは死ぬつもりはないぞい。」
死なない、と絶対の自信を持って言うゴーゲンさん。あふれる自信は俺にも伝わって来るものの、俺の不安は消えない。
「さあ、来るぞ!わしはラリュウキをテレポートで引き離す。アークデーモンは頼むぞい?」
ゴーゲンさんはそう言い残すと俺たちの前から消え、ラリュウキの前に現れる。そして次の瞬間、ラリュウキとゴーゲンさんは消えた。
原作から3000年前のいにしえの時代は10話で終了する予定です。その後は原作までのイベントがちょくちょく入ってくるためにキンクリしていくことになりそうです。
いつになったら原作に入れるのか^^;
では今後もよろしくお願いします。
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第四話 使命の達成
真っ当に勝負して勝てない敵に対する方法。
それは封印であった。
ワイトさんは聖柩の力を使いはしたが、聖母の力によりアイツの闇の力さえ封印できる能力を持つ。つまり聖柩の補助なしにアークデーモンくらいなら単独で封印できるのだ。しかし、力を使い果たしたワイトさんにはすでに魔力が無い。つまり俺の役目はワイトさんに魔力を渡すことであった。
「ロブマインド」
「ぎゃあああああああああああ!」
ワイトさんの精神的ダメージを与えて対象の魔力を奪う特殊能力、ロブマインドによって枯渇しかけていた俺の魔力はほとんど空になった。精神的なダメージにより限界を迎えた俺は膝をつく。
「暗黒の支配者との戦いであれだけ魔法をつかってこれだけの魔力が・・・。ふざけているとしか言えないわね。」
心なしか先ほどより肌がテカテカしているワイトさんは俺の方を向き、ため息をつく。本来は敵に使用する魔法であるロブマインドを躊躇なく仲間である俺に使用したこと、そして魔力をうばわれた俺に対する言葉は、とても3年間苦楽を共にした仲間に対するものではなかった。
目から心の汗が流れそうになるのを必死にこらえる。
以上が魔力を渡した(奪われた)時の回想である。
俺から奪った魔力を使用しワイトさんは呪文を唱える。するとアークデーモンは突然動きがピタッと止まりその場から動けなくなった。動けなくなったアークデーモンを俺がビシビシ叩いている間にワイとさんが唱えた呪文によって四肢の動きの自由を奪われる。
ラリュウキがいなくなりアークデーモンの自由が奪われたことにより、敵のモンスターたちは疲れを知らない機神団によって倒された。
ワイトさんは完全にアークデーモンを封じるために、長い呪文をさっきからブツブツ唱えている。俺は体力と魔力の回復に専念し、機神団はアークデーモンが暴れないように取り押さえている。
「主と戦った後の状態で、我をこうも容易く封じることができるとは。」
怨念がこもった言葉に俺は内心ドキドキしながら、アークデーモンをにらむ。ワイトさんが最初の呪文を唱えるきるまで、ワイトさんの盾として攻撃を受け続けた俺はすでに指一本すら動かす力はない。今の俺に出来ることはアークデーモンを見張ること。そしてこの後のために魔力を蓄えること
「準備は整ったわ。ソル、一気に魔力を放出して!」
ワイトさんの声に合わせて、一気に魔力を放出する。万全には程遠い状態だが、エクスプロージョン3発分くらいはあると思われる。
「次にそれをアークデーモンの周辺に移動させて。」
指示通りに魔力を移動させる。ワイトさんは再び何かをブツブツつぶやくと、自分の魔力と俺からうばった魔力を使用し、俺が放った魔力を包むように展開する。
「アークデーモン。この時をねらって襲ってきた貴方は確かに正しい判断ね。」
パッと聞いただけでは、相手を褒めているかのように聞こえるが俺には分かる。ワイトさんはぶちぎれている。
「だけど運が無かったわね。貴方の身は聖柩の封印に使用させてもらうわ。・・・永遠にね。」
「なっ!?」
今までふてぶてしい態度を崩さなかったアークデーモンは、ワイトさんの言葉に動揺を見せる。
「怨むなら自分の浅知恵と私達を敵に回した愚かさを怨むのね。さようなら。」
ワイトさんとアークデーモンの周りから青白い光が放たれる。ワイトさんの周りから放たれる光はどんどん少なくなってきているが、それとは反対にアークデーモンの周りから放たれる光は強くなっていく。そしてアークデーモンの体が完全に光に包まれる。
そして・・・・・アークデーモンは消え去った。
「私達の方はもう、問題ないわね・・・!」
ワイトさんが安堵の息をつくのと同時に北の方から巨大な魔力を感じた。しかもそれは。
「これはソルの魔力ね。」
魔力を感じた方に顔を向け、ワイトさんがつぶやく。
「・・・・なるほど。ゴーゲンさんは直接俺から魔力を奪うんじゃなくて、俺が魔力を込めた数珠から魔力を引き出したのか。そしてその魔力を利用してラリュウキを封印するつもりだったんだ。」
「そうね。訂正するとするならば、奪ったという表現くらいね。」
ワイトさんは俺の言葉を肯定する。しかし、あれを奪ったと言わずに何と言えばいいのか問い詰めたい。
「どうやらゴーゲンも封印に成功したようね。後はグラナダたちを信じて待つだけ。」
ワイトさんの言葉を信じるなら、ゴーゲンさんはラリュウキを封印できたようだ。しかしそうだとしたら、なぜゴーゲンさんは分かれる前にあのような言い方をしたのだろうか?
それになぜワイトさんはそんな悲しみを押し殺したような顔をしているのだろうか?
「ワイトさん、どうし・・・・。」
俺がワイトさんに声をかけたその時であった。
世界が変わった。
大崩壊とアイツの力によって地上から消えつつあった生命の息吹が一気によみがえった。人や動物が増えたわけではない。しかし確実に地上に生命の力が溢れだしてきている。これが意味することは一つしかなかった。
―聖柩は解放されました―
「声が・・・。」
直接頭に語りかけるような声。俺だけでなく、ワイトさんにも聞こえているようだ。突然の事態ではあるが、その声からは俺たちに対する害意は感じられないので戦闘態勢をとることはしない。
―私はこの山の精霊―
今まであった五大精霊のように姿を現すことはないが、声から感じる力は間違いなく精霊のものであった。
―聖母の力を持つ巫女ワイト、魔の体を持ち異なる魂を持つ魔導師ソル―
山の精霊が俺たちに語りかけると天空から俺たち二人の体に光がはなたれる。その光に包まれた瞬間、俺たちの体の傷は癒され、魔力も回復した。
―聖柩が解放されたことにより自然はよみがえり、精霊の力も元に戻りました。これは使命を果たした勇者たちへのささやかなお礼です―
精霊は自然と表裏一体であり、自然が失われると精霊の力も失われる。3年前、精霊たちは自分たちの力が完全に失われる前に七勇者に精霊の力と聖柩を与えた。もし1年でも遅れていたら、力を失った精霊たちは人間に救いの手を授けることはできなかっただろう。
「ありがとうございます。山の精霊よ、聖柩の解放を行った者たちは今・・・。」
ワイトさんが山の精霊に礼を言い、グラナダさん達について質問する。
―勇者の力を持つ聖騎士グラナダを始め彼らは全員、傷はあっても命に別状はありません。その傷も五大精霊たちが癒しているはずです―
「そうですか。」
ワイトさんはグラナダさん達が使命を果たした上に、無事であったことに顔をほころばせる。これはなかなかレアなシーンであることは言うまでもない。
―これは本来聖柩を解放した際に五大精霊が貴方たち全員の前で行うはずでしたが、このような状況なのであなた達には私が行うことになりました―
聖柩を解放した時に精霊が俺たちに行うもの。思い当たるものなど一つしかなかった。
―七勇者よ。あなた達は精霊に選ばれ力を手にし世界を救う使命を背負いました―
―そしてあなた達は人間の王の闇の力を封印し、聖柩を解放し滅びの道へと向かっていた世界をすくいました―
―これを以てあなた達七勇者に課された使命は達成されました―
俺たちの使命は果たされた。
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第五話 別れと旅立ち
俺たちがいる丘には6人の人物と何体かの機神が集まっている。
すでに日は沈み、魔法でつけた火を中心に俺たちは円をつくっていた。灯りは俺たちと隣に存在している巨大な石柱を照らし出す。
「ここで七勇者は解散だ。各自、達者で暮らしてくれ。」
俺とワイトさんは精霊からのお告げがあった後にグラナダさん達と合流し、ゴーゲンさん以外のメンバーは数珠の魔力が感じられたオルニスの丘にまで来ていた。
そこにはクレーターのような跡がいくつもあり、激しい戦闘が起きていたことが容易に想像できる。そして丘には巨大な石柱が立っていた。しかしそこにゴーゲンさんはいなかった。
「ゴーゲンは自らの身ごとラリュウキを封印したのか。」
丘の状況から大体の事情を予測したグラナダさんの顔は悲しさを隠し切れていない。
「馬鹿な・・・。魔力が足りずに自らの生命力を使用したのか?」
ノルさんは自身以上の魔法の使い手であるゴーゲンさんの力が及ばなかった、というのを想像できないのであろう。
「魔力は数珠から引き出した分があるわ。ただその膨大な魔力を扱いきることは、力を使い果たしたゴーゲンにはできないわ。」
ワイトさんの言葉に、ゴーゲンさんとの最後の会話が思い出される。
―わしは死ぬつもりはないぞい―
確かに死にはしなかった。封印されるということは、一切の自由を奪われるが生命の危機になることはない。
「数珠から引き出した魔力を操ることはせず、自分とラリュウキを中心に魔力を漂わせる。そして、自らごと魔力の中心にいたラリュウキを封印。そしてゴーゲンはこうなることを分かってて一人で戦ったのよ。」
おそらくそうなのであろう。ゴーゲンさんの分かれる前のあの言い方は自分だけは無事に戻ってこれないという前提でしか言うことはない。それにゴーゲンさんが扱えきれないような力だ。他に闘う人がいれば、その人も封印に巻き込まれただろう。
「この封印は破ることはできないか?」
バルダさんはこの中で封印に一番詳しいワイトさんの方を向いて尋ねる。
「封印を解くことは可能よ。しかし解くことはできないわ。」
封印を解くことは可能だけど、解くことはできない?明らかに矛盾した言葉を放つワイトさんにバルダさんはいぶかしげな顔をする。
「本来ならソルの魔力を使ったこの封印は、同じくソルが魔力をぶつけることで解くことはできるわ。しかしそれだけではこの封印は解くことができない。」
「なるほど。何か他の力も混じっている、そういうことだな。」
どこか納得したようなグラナダさんの言葉にワイトさんがうなずく。
「ええ、その通りよ。この封印にはさらにゴーゲンと精霊の力が入りこんでいる。つまり封印を解くには精霊とゴーゲンの協力が必要ってことよ。」
精霊とゴーゲンの協力が必要?それってつまり・・・。
「ゴーゲンと精霊はこの封印を解くつもりがないのか。」
「どういう意図があるかは私にも分からない。やろうと思えば力技でこの封印を破壊することもできるわ。」
グラナダさんの言葉にワイトさんはうなずき、言葉を続ける。
「でもゴーゲンや精霊が酔狂でこんな選択をしたのでないことは分かっているつもりよ。」
確かにゴーゲンさんが何の考えもなく自分を封印し続ようなんてしないだろう。
「封印を解こうと思ったら解ける。だけどゴーゲンさん達の意図が分からない以上、安易に解くことはできない。ワイトさんはそう言いたいんですね?」
俺が頭を使って答えを出したのがよかったのか、満足そうにうなずくワイトさん。
「少しは成長しましたね。この3年のときは無駄ではなかったようです。」
俺がヘマをするたびに殴られることで破壊されていった、あの脳細胞たちは無駄な犠牲ではなかったようだ。ちなみにゴーゲンさんと出会ったころの俺の戦闘方針は、レベルをあげて(レベルなんて実際はないので体を鍛えて)物理で殴るだった。
「私はトウヴィルに残ります。」
その後俺たちは日も暮れていたので、オルニスの丘で一晩過ごすことになった。使命を果たした俺たちは今後についての話し合いを行っている。そして最初にワイトさんが自分の今後について話し出した。トウヴィルとはアイツを封印したあの神殿がある場所のことだ。
「あの神殿は地中に封印し、精霊の山も封印します。私が死んだ後も私の子孫に封印を守り続けさせます。」
ワイトさんは七勇者の使命を果たした後も、世界を守り続ける道を選択した。
「余はアララトスに戻るつもりだ。」
ノルさんは光の精霊が住んでいる地、アララトス出身である。
「大崩壊を生き残った者たちがアララトスに集まっているという話を聞いた。ならば王たる余はそこで民を率いる義務がある。」
もはや何を言っているか分からないノルさん。ノルさんのオヤジさんに会ったことがあるが、王どころか貴族とも程遠い魚屋のおっちゃんであったのは鮮明な記憶として残っている。
「我もアララトスへ向かう。ただ、アララトス一か所にいるつもりはない。アデニシア大陸全体を回っていくつもりだ。・・・ノルに何されるかわからんからな。」
実はバルダさんとノルさんは幼馴染だ。だからノルさんの性格を理解しているのだろう。ノルさんとアララトスにいたら近いうちにノルさんの下僕1号にされるのが目に見えている。
ちなみにもう知っているだろうが、バルダさんの一人称は「我」。俺が内心でバルダさんが十分汚染されていると思っているのは墓場まで持っていくつもりだ。
まあ、グラナダさんも「我」って言っているからこの時代ではめずらしくもないのかもしれないが。
「私は自らを封印する。」
機神ジャッジメントは機神団を代表して答える。自らを封印。その言葉に俺の頭にゴーゲンさんが一瞬出てくるが、それを振り払う。
「機神は時代を動かす存在になってはならぬ。大崩壊の後の時代を動かすのは人間だ。機神ではない。」
ジャッジメントの決心はかたいようだ。それを分かっているのかだれも止めない。・・・。いや、ノルさんがむっちゃ落ち込んでいる。まじで勧誘するつもりだったようだ
「わう。」
ハトは一種族一体のモンスターだ。白クマと犬を足したような外見をしているが理性を持ち、優しい心を持っていた。長年を生きてきたゴーゲンさんでも心当たりが無いらしいので突然変異で生まれたのだろう。
モンスターの心を持たないモンスター。それはとても辛いことなのだろう。モンスターの心は持たないがゆえにモンスターとして生きられない。モンスターの体を持っているがゆえに人からは受けいられない。・・・おれはその気持ちが少しだけ分かる。
なぜハトが七勇者に選ばれたのかは精霊しか知らない。しかしハトはその牙で敵を貫き、その巨体で敵をぶっ飛ばしてきた。そしてそのもふもふとした毛皮で俺を癒してきた。4足歩行のハトに2足歩行である俺の身長が負けているという事実さえなければ、ハトは最強の癒しマスターになっていただろう。
話はそれたがハトはモンスターであろうと俺たちの大切な仲間である。そしてハトは、機神団と共に道を歩むことに決めたようだ。ハトは自分を封印するのでなく、ジャッジメント達を守るための番犬?となるようだ。
「俺は世界を旅します。」
俺は旅をする道を選んだ。俺はもっと世界を、地上を見たかった。
「我はスメリアに国を作る。」
グラナダさんのとんでもない宣言に俺たちは目を丸くする。しかしその後のグラナダさんの言葉に納得する。
グラナダさんの説明によると、国を立ち上げてワイトさんとその子孫の役目を国を挙げて補助をしていくようだ。確かにこのスメリアは放置するには不安要素が大きすぎるのだ。
まずこの島には五大精霊の一角である火の精霊、精霊の山の山の精霊がいる。それに加えてオルニスの丘のゴーゲンさんとラリュウキの封印に、精霊の山のアークデーモンの封印。そして最後に、トウヴィルの神殿の闇の封印とサルバシオの滝の聖柩。
こうして俺たちはそれぞれの道を語り合い、各自歩むことを決めた。ゴーゲンさんも自分の意思で封印を続けている。もう七人全員が集まることはないだろう。
「ここで七勇者は解散だ。各自、達者で暮らしてくれ。」
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第六話 魔の体に異なる魂
今日の朝の時点で俺たちは各自の目的地へと出発していた。
そして俺はというと
精霊の山に来ていた。
「俺は早速、スメリアを出発して、各地をまわるつもりだったんですけど・・・・。」
旅に出るはずだったのに、なぜかまだスメリアにいることになってしまった元凶に俺は白い目で見つめる。
「だから申し訳ないけど我慢してって言ってるじゃない。」
物凄い棒読みで俺をあしらうワイトさん。俺は島であるスメリアを発つために、バルダさん達と一緒に船に乗るはずだったのだ。しかしワイトさんに強制的に連行されてしまい、船に乗ることはできなくなった。
俺がワイトさんに引きずられていくのに対し、同情の眼差しでおれの方を向いていたバルダさん。
思わず「同情するなら助けをくれ」と俺が叫んでしまったのも無理はない。
精霊の山まで連れて行かれた俺はワイトさんの指示に従って作業を行う。何を行っているかといえば、精霊の山に誰も入ってこれないようにするために結界を張っているのだ。本来なら聖柩を解放してすぐ行うべきであったのだが、モンスターの奇襲やゴーゲンさんの封印などでそれどころではなくなっていたので今行っているのだ。
ついでにアークデーモンの封印も結界と連動させるようだ。
どういうことかというと、
①悪いやつ結界を解除する
②悪いやつ精霊の山に侵入
③結界の崩壊と同時にアークデーモン復活
④悪いやつアークデーモンと戦う
⑤その隙にワイトさんorワイトさんの子孫が結界を復活
⑥悪いやつ結界からはじかれる。結界が復活したことでアークデーモン再び封印される。
ということらしい。俺の分かりやすい理解の仕方にワイトさんは何か残念なものを見る目つきでこちらを向く。・・・・???
とりあえずそういうことなのだがワイトさんはアークデーモンの封印をいじって、アークデーモンに封印を解いたものを殺さないと完全に解放されないようにしている。つまりアークデーモンはワイトさんが宣言していたように永遠に利用され続けるようだ。
ちなみに結界に入ることができるのは結界を張ったワイトさんの血筋か、結界をより強固なものとするために魔力を提供した俺くらいしかいないらしい。
また結界の媒体を先ほどワイトさんが即席で作った社の炎にすることで、結界の管理をしやすくした。つまりこの炎が消えれば結界が解け、炎をつけることで結界が復活する。
「はあ、はあ、はあ。・・・・もう仕事はないですよね?」
散々こき使われ、魔力も結界にささげてしまった俺は息も絶え絶えに確認する。
「そうね。今日は終了よ。」
「良かった。・・・・・今日?」
一瞬聞こえた不吉な単語を俺は聞き逃さなかった
「明日は神殿の封印よ。」
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
精霊の山に俺の声が響き渡り、俺の状態を知った山の精霊が涙したとか、してないとか。
ワイトさんは悪魔に違いない。俺みたいなガキをここまでこき使うなんて悪魔と言わずになんて言うんだ。
「私もあなたみたいなかわいげがないやつは、子供とはみとめないわ。」
いつもどおりに心を読んで俺にクリティカルヒットを与えるワイトさん。生まれてからまだ12年しかたっていない俺の体は、決して大柄の体格ではないはずのワイトさんの体の半分の大きさもない。
「話があるわ。」
精霊の山に結界を張った次の日に神殿の封印も行い、再び魔力&体力切れで倒れている俺にワイトさんは話しかけてきた。
「どうしたんですか?突然」
俺は状態だけ起こして話を聞く体制をとる。
「あなたは覚えているかしら?山の精霊が私達の体力や傷をいやしてくれたときに、山の精霊がなんて言ったかを。」
「???・・え・・・と。精霊の力が戻ったとか、そんなんですか?」
正直あんまり覚えていない俺はかすかな記憶を頼りに答える。
「魔の体に異なる魂を持つ魔導師、ソル」
ああ、確かにそんなことを言ってた気がする。・・・あれ?
「あっ!?」
「気付いたようね。」
そう、あの時はスルーしてしまったが改めて考えると明らかにまずい。俺の事情を知っているゴーゲンさんはともかく他の5人に聞かれたらまずかったのだ。
「魔の体・・・。貴方の馬鹿魔力で満ちている体のこととも解釈できるけれども違うわね。だから私がまず考えたのが、あなたがハトと同じモンスターの体を持つ可能性よ。」
やばい。むっちゃ近い。ナメていたつもりはなかったけど、やっぱりこの人は半端ない。というかはたから見たら今の俺は動揺しすぎて、もはや不審人物にしか見えないだろう。
「や、やだなぁ。俺がモンスターだなんて」
「そうね。あなたはモンスターではないのは分かっているわ。あくまで疑っただけよ。」
「そうですよ。もう、びっくりさせないで下さいよ。」
なんとかごまかせそうな空気になったことで俺は安堵の息をつく。
「あなたは魔族。しかも魔界からやってきた正真正銘の魔族ね。」
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第七話 体は子供、頭脳は大人
「あなたは魔族。しかも魔界からやってきた正真正銘の魔族ね。」
「ぶほっ。」
完全にばれていた。
この世界には魔族という種族は2パターン存在する。一つが魔物になり果てた人間のことを指すパターン。この世界で魔族を指す時はたいていこのパターンだ。実際に俺たちもこのパターンの魔族とは何度か闘ってきた。前に闘った例としてはカサドールというやつがいた。カサドールは七勇者となる前のグラナダさんのライバルであった。カサドールはは魔族となり、精霊から力を与えられて聖柩から勇者の力を与えられたグラナダさんと互角に戦っていたのだから魔族の力の強さがわかってもらえるだろう。
そしてもう一つのパターンが魔界という異世界出身のものを指すパターンだ。
「ヒントはいくつもあったわよ。まずその膨大な魔力。人間として最高峰であるノルさえあなたの半分の魔力すらなかったわ。」
俺はワイトさんの話を遮ることはしない。というよりもうすでにバレてしまっているのだ。ごまかす段階はすでに過ぎてしまっている。
「二つ目に思考力。あなたは確かに単純思考だけどとてもじゃないけど12年しか生きていないはずの者の思考力ではないわ。ましては出会った時にはまだ9歳。・・・あなたが見た目通りの年齢でないのは前から疑っていたわ。」
「それを確信したのは精霊の山でのあなたとゴーゲンとの会話よ。」
ワイトさんの言葉に俺はゴーゲンさんの言葉を思い出す。
―おぬしは今後、永い時を生き続ける―
確かゴーゲンさんはそう言った。
「永い時。普通に考えれば、まだ子供であるあなたの未来が長いことを指すのでしょうね。しかし、あなたの年齢のことを疑っていた私にとってはその言葉は別の意味にしか聞こえなかったわ。」
俺にとって永い時というのは単純な長い短いを表すものじゃない。
「永い時。それは永遠の長さ。魔族の寿命は無いに等しい。外敵によって危害を加えられない限り死ぬことが無いあなたの今後を指していたのよね?」
魔族は前者、後者のパターンに限らず寿命がない。大人になるまでは成長を続け、基本的に老いることはない。
「どうしてワイトさんは俺が魔界出身の魔族だとおもったんですか?」
俺はワイトさんの言葉を肯定も否定もせず、質問で返す。
「異世界出身の魔族はその身体は戦いを極め、その魔力は計り知れないと聞くわ。すくなくともあなたの魔力はそれを裏付けるには十分だと思わない?それに、あなたは何回かこの『世界』のことを『地上』というふうに表現していたわ。これはあなたが地上以外の世界を知っているからじゃないの?」
完敗だった。いや、勝負していたわけではないが完敗としか言いようがなかった。ここまで根拠がそろって、説明されたら俺はもう認めるしかなかった。
「さすがですね、ワイトさん。確かに俺は魔界からやってきた魔族です。」
「認めたわね。これでも認めなければさらに追い詰めるつもりだったから、少々あっけないわね。」
まだあるのかよ。
「例えばあなたは通常の子供が知っているような常識をいくつも知らないわ。最初は情報が閉ざされた村にでもいたのかと思ったけど、今思えばそれはあなたが魔界にいたからこの世界の常識を知らなかったのでしょう?」
「・・・その通りです。」
「こんな感じにあなたの出自を裏付ける証拠はいくつもあったのよ。一つだけ分からないことがあるわ。」
俺に理詰めで魔族であることを認めさせてしまったワイトさんは俺の方から視線をそらさずに言葉を続ける。
「山の精霊の言っていた魔の体っていうのはあなた魔族である、という意味よね?じゃあ、異なる魂っていうのはどういう意味なの?」
ワイトさんの言うことはもっともだ。精霊がそのような言い方をしたのは理由があり、それはおそらく俺に以外にはとうてい知ることはできない事情に関することについてだったのだから。
ワイトさんの説明はほぼ完璧であったが、一つだけ勘違いがあった。その勘違いの原因が精霊が言う『異なる魂』のせいだから仕方が無いのであるが。
「・・・それを説明するには先ほどのワイトさんの推理に一つ修正が必要ですね。」
「何か間違いでもあった?」
ワイトさんの顔には困惑が浮かんでいる。
「俺の年齢は12歳です。これは本当ですよ。」
そう、俺は12年前に魔界で生まれ、7歳のときに地上にきた。
「でもワイトさんの言っていることも間違いではありません。俺は12歳としては異常でしょう。」
だいたいこんな敬語を使いまくる12歳(ゴーゲンさんに敬語を使い始めたのは7歳)なんて明らかに不自然である。
「俺の頭には生まれたときから知識がありました。」
「・・・生まれたときから?」
ワイトさんが初めて怪訝そうな顔を見せる。
「自分でもメチャクチャなことを言っているのは理解しています。でも俺は生まれたときから知識を持っていました。」
そう、おれは生まれたときから知識をもっている。いや、正確には生まれる前から知識を持っていた。
「・・・それは母親の中にいた頃から意識があったという意味ですか?」
「違いますよ。」
ワイトさんのことば俺は苦笑する。さすがに母の中にいた頃とか全く覚えていない。
「ワイトさんは前世って信じますか?」
俺がこの世界に生まれた時、俺の意識が目覚めた。それと同時に知識が頭の中に流れ込んできた。それは魔法も精霊もいない科学が発達した世界。犯罪事件は各地で起こり、海を渡れば紛争もあった世界だが、平和な世界であった。そして俺はその世界で暮らしていた。
そうして様々な知識が入ってくる中、俺の頭は限界を超え意識を失った。魔族というちーとボディーを持っていたがゆえに俺はなんとか脳が無事であったが、もし普通の人間であったら障害が残ったか、死んでいたのではないかと思う。いや、俺も完全に無事ではなかったのかもしれない。俺は生前の自分についてほとんど覚えていない。名前、性別、年齢・・・。意識を失った際に知識が無くなったのか、もともとそれについての知識を受け継がなかったのかは分からない。確かなのは俺は中途半端に知識を持っている、ということだ。
とりあえずその知識のおかげで俺の精神年齢は見た目以上に高いはずだ。精神が体に引っ張られているところもあるので『精神年齢=前世の年齢+現在の年齢』とはならないが。
「ということです。」
「前世・・・この場合は転生とでもいうのかしら?確かにあなたの知識のアンバランスさ、年齢と精神年齢の違いは説明はつくわね。まさか・・・異なる魂って!?」
さすがワイトさん。最後まで説明しなくても自分で答えを見つけたらしい。
「俺が転生してきたことを指すんでしょう。異なるっていうのは魔族の体に人間の魂が入ったことに対して言ったのか、異なる世界の魂が入ったことに対して言ったのかは山の精霊しか分かりませんが。」
「・・・なるほど。」
山の精霊の言葉に対する解釈はともかく、魔族の体に人間の魂というのは明らかに異常であるのだ。だから俺はこの体を完全に使いこなすまでとても時間がかかった。正確にはまだ使いこなせてはいない。膨大な魔力をただの魔力タンクとしか使えていないのが、その証拠である。
「あなたの事情は分かったわよ。正直信じられない話だけど旅をしてきた仲間であるあなたが言うなら信じるに値するし、それによって今まで謎だった部分が説明できるのだから、否定するつもりはないわ。」
「ワイトさん。」
俺はワイトさんの言葉に感動していた。普通なら頭の異常をも疑われない内容なのにここまであっさり信じてくれた仲間を持てたことに関して感謝をしたい。
「むしろ都合がいいしね。」
えっ?
「転生云々はともかく、あなたが今後も生き続けるなら封印を見守ってくれるだろうし、闇の力に対する抑止力にもなるし。」
「あ・・あの。」
「それに何か起きた時に5大精霊とすぐに連絡が取れるように、定期的に5大精霊のもとに訪れるという役目も果たしてもらえるしね。」
気づいたら俺の仕事がどんどん増えていた。
「ワイトさん、もしかして今日わざわざこの話をした理由って。」
「あなたが魔族なら、寿命なんてないようなもんでしょう?そしたら私が死んだ後のことも含めて仕事を押し付けられるから、確かめる必要があったのよ。アークデーモンですら一生を封印にささげるんだから、あなたもこれくらいはがまんしてよね。」
俺の中から先ほどの感動と感謝はどこかへ完全に飛んでいってしまったようだ。
「ソル、頼んだわよ。」
めったに見ることができない彼女の笑顔は悪魔の微笑みにしか見えなかった。
主人公は原作知識は皆無です。
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第八話 機神団の長ヂークベック
ワイトさんとの俺の出自に関する話を終えた次の日、ついに俺が旅立つ日が来た。世界中を旅するつもりなので大崩壊によって飛行機や定期船などがなくなったこの世界では、ワイトさんに再び会えない可能性もある。会えるとしても相当先の話だろう。しかしそんなことは関係ないとばかりに俺たちの別れはあっさりしたものであった。
トウヴィルを去った俺はあらかじめ機神団が用意してくれた船に乗ってスメリアを去った。いまのところ世界中を回る予定の俺は終着地を決めてはいない。しかし最初に行くところはすでに決めていた。
「ちっ。・・・瓦礫だらけで全くみつからねえ。」
俺はアルディア大陸の南部にあった神の塔の跡地にいた。神の塔とは世界を監視するためにアイツが各地に作った塔の一つである。そして俺たち七勇者と機神団が敵の機神兵と決戦を行った場所でもある。あの時の決戦でこの神の塔は機能停止となった。特に決戦を行った最上階は戦闘の影響により瓦礫の山となっていた。なぜ俺がそんな場所にいるかというと。
「ん?あ、あった!」
残骸が散らばる中、俺は目的のものを発見し周りの瓦礫をどけていく。それはところどころ傷付いているものの元の原型からは全く崩れていなかった。
「こんなにボロボロとなって瓦礫だらけ中でもちゃんと原型を残しているっていうのが驚きだよな。」
見た目はCAA-5の色違いとしか言えないほどにそっくりであるそれは、機神団の長であるヂークベックであった。
ヂークベックは機神の中でも特殊な存在である。純粋な性能では機神グロルガルデや機神ジャッジメントにはヂークベックは遠く及ばない。もともとがSA-100を改造したものであるCAA-5を基準に作られたわけだから仕方が無いのであるが。
そのヂークベックがジャッジメントをも指揮する立場にある機神団の長に任命された理由はパワーユニットと呼ばれる部品にあった。パワーユニットとは取り付けることで効果を発揮するパーツのことだ。機神は通常それ自体で完成しているのだがヂークベックはパワーユニットを取り付けるような構造を有していて、パワーユニットを取り付けることで起動できる。逆を言えばパワーユニットが外されてしまえばヂークベックは動くことすらできない。つまりヂークベックにとってパワーユニットはコアであり、弱点である。
しかしそんなデメリットをものともしないほどのメリットがパワーユニットには存在した。パワーユニットは20個存在する。そのそれぞれに異なる力が込められていて、ヂークベックはパワーユニットを入れ替えることであらゆる属性の特殊能力を使いこなしオリジナルの能力まで使うことができる。またパワーユニットを取り付けることによってヂークベックの基本性能も上昇するのだ。ヂークベックは同時に二個のパワーユニットを取り付けることができる。取り付けるパワーユニット次第ではグロルガルデやジャッジメントの基本性能をも上回るのだ。
特殊な機神であるヂークベックは敵に合わせて様々な戦闘を行うことができるように思考回路が他の機神に比べて大きく発達している。つまり指揮官向きでもあるということで、ヂークベックは機神団の長に任命された。
そしてヂークベックはここでグロルガルデと相討ちになって、機能停止となった。ヂークベック優位で続いていたグロルガルデとの戦闘は、最後の最後でグロルガルデの一撃がヂークベックの弱点でもあるパワーユニット構造に届いてしまった。予備のパワーユニットはいくつもあるが、取り付ける構造にまで届いていた傷を修理することをできるのは科学で世界を手に入れようとしたアイツの配下か大崩壊によってなくなってしまったヂークベックを作りだした研究所ぐらいしかないだろう。
俺には何百年かけても修理なんて無理だろう。俺に出来ることはヂークベックが誰かに利用されないように封印するぐらいだ。そして俺はそれを実行するためにここまで来たのだ。
俺はヂークベックを完全に掘り起こした後、四苦八苦しながら作製したリアカーでヂークベックを運び出した。その後ここから比較的近いヤゴス島の洞窟の奥にヂークベックを封印した。そしてヂークベックを封印した場所の更に奥にパワーユニットも五つ封印した。
パワーユニットとヂークベックを同時に封印するかは相当迷った。パワーユニットを使用すればヂークベックの封印は簡単に解けるのでヂークベックの封印を誰にも解けないようにするという点で見ると明らかにまずい。
しかし未来の人がヂークベックの力を必要とする可能性があることを俺は否定しきれなかったのだ。ワイトさんもグラナダさんも闇の力が復活しないように行動している。もしそれによって封印が続くのならそれはそれでいいんだと思う。しかいアイツが復活してしまう可能性もある。その時に七勇者は俺しか生き残っていない可能性もある。
断言しよう。
無理だ。
どうやっても一人でアイツを倒して封印なんて無理である。いやアイツを倒すどころか聖柩の封印を解くのに必要なアークデーモン撃破でさえきわどい。俺が今後鍛錬を続けたとしても一人でアイツに勝つのは無理である。だから復活してしまった時のことも考え、行動しておく必要がある。
なぜ俺がこんなにアイツが復活してしまうことばかり考えているかというとゴーゲンさんの封印のせいである。ゴーゲンさんが自分を封印し続けている理由、それは未来に自分の力が必用になる可能性があると考えているのではないか?ゴーゲンさんは通常の人よりも長生きで、まだまだ長生きしそうであるがさすがに何百年、何千年も生きられない。だから自分の力が必用な時になるまで封印の眠りについたのでかないか?
これだけならゴーゲンさんの深読みの可能性もあるが、ゴーゲンさんの封印に精霊が一枚かんでいることが嫌な予感を増幅させる。全てのものに対してできるわけではないが、運命や未来を見ることができる精霊が未来に対する対策をとっているのならば、ほぼ確実にアイツが復活すると考えていいのだろう。
ということでアイツが復活した時の対抗手段としてヂークベックの復活を行えるようにしときたいのだ。悪用された時のことも考えてヂークベックといっしょに封印したパワーユニットはパワーユニットの中でも初期に作られた性能の低い5個にしている。もしヂークベックの能力を上げたいなら他のパワーユニットを探さなければならないのだが、他のパワーユニットの存在はヂークベック自身が話さなければバレルことはないだろう。
ヂークベックが信用してパワーユニットを話すような人物なら信用して他のパワーユニットを渡してもよい。まあ俺が直接渡すことができないような状況にある可能性もあるので、世界各地にパワーユニットを封印するつもりなのだが。
世界各地に封印するには途方もない時間がかかるだろうが、俺の時間はまだまだたくさんある。それに長い船旅生活は魔法の修行にはとても向いているのだ。永遠と同じ景色を見続けることで魔法を制御するのに必要な精神力を鍛えることができる。そして進行方向とは逆方向に魔法を撃ちまくることで船の速度を上げることもできる。・・・まえにやりすぎて船が転覆しかけたこともあるのだが、それは気にしない方向で。
ちなみにスメリアを出発してからすでに2年以上経過している。別に寄り道していた、とかではなくなるべく最短距離で来てこれなのだ。スメリアから見てアルディア大陸は星の裏側にあることを考えれば仕方が無いだろう。むしろ前世の知識を用いて方位磁針を作らなければもっと時間がかかっていたに違いない。
この世界は魔法や精霊、魔界なんて前の世界からは考えられないことだらけなのだが、意外な共通点が存在する。まず天体である。太陽、月は一つずつで、ちゃんと季節に合わせた十二星座も存在する。そして地形である。この世界の大陸や島の場所は地球の大陸や島の位置とだいたい一致している。
俺は地球の地理に関して隅々まで覚えているわけではないので細かいところにまで自信があるわけではない。しかし前に見たこの世界の地図は地球の大陸の地図と似たように見えた。ノルさんやバルダさんの故郷であるアララトスがあるハルシオン大陸はユーラシア大陸、バルダさんが向かう予定のアデニシア大陸はアフリカ大陸、現在俺がいるアルディア大陸は南アフリカ大陸そしてスメリアは日本。はじめて地図を見たときはここが過去か未来の地球じゃないかと思ったくらいだ。
それはともかく俺の今後の方針は世界を旅して各地でパワーユニットを封印。そして魔法の練習を行いゴーゲンさんの弟子として胸が張れるレベルにはなりたい。あとグラナダさんに頼まれていたことで、大崩壊で生き残った人がいたらスメリアに誘うっていうのも忘れないようにしないと。
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第九話 ちーとぼでぃ(笑)
前に説明したことがあるが魔界の魔族という種族は、ぶっちゃけるとチート種族である。寿命という概念が存在せず、とんでもない魔力を持ち、肉体的にも最高のスペックを持ち、そして全属性の魔法を使いこなすというのだから否定のしようがない。
そして魔界の魔族である俺もとんでもない魔力を持っているのは既に周知の事実だ。そして特に触れていなかったが俺は打たれ強さ七勇者の中でトップクラスを誇る。アークデーモンの戦闘のときに魔導師である俺がワイトさんの盾となれたのは魔族の体補正による恩恵があったからだ。
しかし俺が魔族同士で戦闘を行ったとしたら、まず俺は勝つことができない。なぜなら俺は魔族の体を使いこなすことができないからだ。その理由が俺の魂が人間のものであったからか、魔法なんて存在しない世界の魂だからか、それとも他の事情のせいなのかは分からない。少なくとも俺は魔族の中では戦闘のセンスというのが完全に欠如していた。
俺が魔界に住んでいたころ中の良かった友達が一人いた。ちなみにあらかじめ言っておくが、魔族は全体数も少なく寿命の関係もあり子供というのがほとんどいない。よって俺に友達が一人しかいなかったのは決してハブられていたというわけではない。その友達は女の子であったが魔族の素質を十分に受け継いでいた。年が近い俺たちは何回か模擬戦を行っていた。しかし肉体を使った直接戦闘では肉体的なスペックではほとんど同じ、いや性別の関係から俺の方がやや上のはずなのに、テクニックの差によって俺はフルボッコ。魔法による勝負ではゴーゲンさんに出会うまで魔法を使用することができなかった俺では話にならなかった。ちなみにその友達の女の子は俺と同じ年齢に関わらず複数の魔法を使いこなし、さらに使用したら相手が死ぬという、それなんていうエターナルフォースブリザード!?という魔法まで習得していた。
その女の子は魔族の中でも才能はあったほうなのだが、決して特別な存在というレベルではなかったらしい。つまり俺が弱かったのだ。魔法に関しても本能的なもので自然に使えるようになるはずなのに俺はできなかった。感覚で魔法を使う魔族達は魔法の使い方を教えるなんてことはできない。つまり俺ができるのは体を鍛えて格下相手に物理で殴る、ということぐらいだった。
その後いろいろあって地上にきた俺はゴーゲンさんの弟子となり魔法を使用できるようになった。ちなみに1年近くかけてエクスプロージョンを習得した。そして七勇者となってアイツと戦った時点で俺が使えた魔法はエクスプロージョンとキュアと封印魔法だけである。
どうやら俺は人間と比べてもセンスが無いらしい。
それはともかくもう一つ俺が普通の魔族ではないと証明するものがある。それは俺が回復魔法を使用できるということだ。本来、回復魔法は絶対的な弱者である人間に対して神々が与えたものだ。だから基本的に強者であるモンスターや魔族は回復魔法を使用することはできない。遺跡や神殿に住みつくことで神性を帯びた聖なる魔人のようなモンスターや人間をベースとしたデスプリーストのようなモンスターは回復魔法を使用することができるがやはりそれは例外だ。
俺が回復魔法を使えるのは俺が人間の魂を持っているからだと考えている。前にゴーゲンさんが「もしかしたらお主は神々から弱者だと思われているかもしれんのう。」とか言っていたような気もするがそれはスルーの方向で。
ちなみに俺は最終的な戦闘スタイルは魔法使いにするつもりはない。魔法使いの戦闘スタイルでは魔族の肉体的な強さを生かしきれないし、今後も一人で旅をするので前衛がいなくても問題ない戦闘スタイルが必要なのだ。
いままで俺が魔法だけを鍛えていたのかというと、魔法使いなら敵の攻撃をよけることさえできれば経験不足でも何とかまともな戦いになると判断したからだ。急いで実力を身につける必要が無い今、俺は魔法と同時に接近戦の訓練も行うつもりである。二兎追うもの一兎も得ずというが、時間だけは相当あるのでやれることはやりたいと思う。
とりあえず目標は友達の女の子に勝つことだ。過去の模擬戦の結果が全戦全敗というのは勇者の誇りに代えても何とかしなくてはならない(`・ω・´)キリッ
七勇者として与えられた精霊の力はまだ残っているし、数々の修羅場をくぐってきた俺は魔界にいた頃とは実力の桁が違う。それでも魔法戦くらいしかできない俺ではまだ彼女には勝てるかどうかはわからない。その魔法戦でも勝てるかどうか分からないのが悲しいところであるが。それと問題はもう一つある。
彼女のお父さんは魔族の中でもトップクラスの実力を持っていて、魔王とも呼ばれている。ノルさんみたいな口調や性格だけの似非大魔王と違って本物の魔王だ。魔族の平均身長が2メートルくらいなのに対し、彼女のお父さんは3メートル近い身長を持っていた。その外見からは予想もできないが基本的に自然を愛し魔族の中では珍しく戦いを好まない人であり、厳しくもやさしい人だ。
しかし俺は彼がただの温厚な魔族ではないのを知っている。俺が戦闘では決して勝てなかった彼女に対し行った作戦の一つ『G弾連射』で彼女を泣かしてしまい、彼の中の魔王を呼び起してしまったからだ。
あの時のことはあまり思い出したくないので置いておくが何を言いたいかというと、卑怯な手段で勝つと親馬鹿が何か言ってくる可能性があるのだ。だから俺が彼女に勝つにはあくまで正々堂々と彼女の実力を上回らなければならないのだ。
俺に出来るのは今まで通り魔法の修行を行い、各地のモンスター相手に接近戦の練習を行うことだ。多少はミスもするし、危険もあるだろうがこのちーとぼでぃのおかげで命にかかわるようなことにはならないだろう。
それともう一つ。俺はまだ魔族として一人前になっていない。正確には完全に魔族として覚醒していないのだ。魔族は生まれた時は人間との外見での区別は難しい。しかしある程度成長すると、完全な魔族として覚醒する。覚醒すると角と羽根が生え、いかにも魔族ですって感じの外見になる。俺はまだ覚醒することはできない。人間の社会で生きることを考えると覚醒する必要はあまり感じられないが、覚醒すると今のちーとぼでぃ(笑)からホントのチートボディになることができる。もしずっと先の未来でアイツと戦うのならその力は絶対に必要になるはずだ。
といっても覚醒の方法なんて良く分からないので、特に俺がどうこうするわけでもない。いつか覚醒しさらなる力を手に入れた時に、力に振り回されないように技術を高めるくらいだ。覚醒の方法はともかく、自分が覚醒した時の姿を思い描く。自分の頭に双角が生え、天使を想像させる純白の羽根。・・・・やばい、完全に厨二病の発想だ。魔法の呪文を思いっきり叫んでいる時点で手遅れかもしれないが、前世の常識がこれはイカンと主張する。とりあえず精神の衛生上、覚醒のことは考えないようにしよう。
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第十話 世界と人間のために
ヂークベックを封印してからすでに10年が経過した。人間は思った以上にたくましい生き物であった。各地にパワーユニットを封印しつつ世界を回っていた俺はノルさんとバルダさんの故郷であるハルシオン大陸西部に存在するアララトスに立ち寄った。そこには七勇者の使命が果たされる前の大崩壊によって絶望の中暮らしていた人々の姿は存在せず、生活物資が足りない中でも懸命にそして希望に生きる人々の姿があった。
アララトスは街として復活していた。この調子では文明ができ、国として復活する年も近いのかもしれない。こんなにも早くアララトスの復興が進んでいるのは実はノルさんのおかげであったりする。
この世界でモンスターを倒す実力がある人間はほとんどいない。モンスターというのはもともと科学によって人為的に生きる兵器として作られた生命体のことである。兵器として生まれたものだから戦闘力は普通の人間では大きく隔たる。兵器として生み出されたモンスターたちだが当然人間に管理されていた。一部のモンスターは脱走し人間に被害をだすこともあったがそれは少数であった。それまでモンスターとは人間の代わりに使われる戦争の道具というのが世間の認識であった。
それを変えてしまったのが大崩壊である。大崩壊の際に大多数のモンスターたちは人間の支配下から離れ、世界中に自分たちの縄張りを築いていった。もともと兵器として生まれたせいか繁殖力も高いようであった。そして今現在は外を出歩けばモンスターと間違いなくすれ違うと言ってもいいくらい、モンスターたちは勢力を広げた。
つまりこの世界で生きるための最大の障害はモンスターであるということだ。水や食料を調達するのも、住みかを確保するのも、仕事を行うにも、何かにおいてモンスター脅威は存在し続ける。しかし先ほど説明したとおりモンスターを倒せる人間なんて数えるほどしかいない。科学に頼り切って生きていた人間たちではどうしようもなかったのだ。
そこで出てくるのがノルさんである。ノルさんはアララトスに存在した当時の集落を守護した。そしてもうすでにいないようであるが、バルダさんもアララトス周辺のモンスター退治を行っていたようである。バルダさんと共にモンスター掃討を行いバルダさんがアララトスを出発したのちに、ノルさんは有志の人を募り護衛団を作り上げた。もともと大崩壊の生き残りが集まっていたアララトスであったが、護衛団のうわさを聞き更に人が集まった。それが続くうちに町としての体裁ができてきたらしい。
「なるほど。そしてこの街を作り上げたと言っても過言ではないノルさんはこの街のリーダーのようなものなんですね。」
「うむ。余としては王国を作り上げて国王という形で臣民どもを守護したかったのだが、いかんせんそこまでたどり着くには時間と労力がかかりすぎるのだ。」
やっぱりノルさんはノルさんであった。確かに王国を作り上げるとなれば大臣やら軍隊やら政治やらとやることは多い。特にやっと街らしくなってきたここでは国を作るのはまだ先のことになりそうだ。
もう説明しなくても分かると思うが、俺が今話しているのは七勇者の一人であるノルさんだ。アララトスにやってきた俺はせっかくなのでノルさんに会いにきた。今いるのは街の入り口にある護衛団の詰め所の一室である。
「それに余も既に40を超えている。国が出来上がる頃に余の命が続いているかは分からん。」
スメリアで別れた頃は30過ぎであったノルさんはすでに40を超えている。この世界の平均寿命は決して低くはない。科学力でいえばロボットやモンスターを作りだすくらいなのだから、前世の世界よりも発達している。・・・いや、していた。大崩壊によってほとんどの技術が失われた今、医学も衰退していた。つまり重篤な病気にかかった時に対処法が存在しないである。
「この10年間でもこの地で多くの臣民がガンや心疾患で死んでいった。余の見立てでは今後の世の中では50を超えれば長生きとされるはずだ。」
魔術師であったノルさんは勉強するのが仕事というのもありゴーゲンさんには劣るが様々な知識を持っている。その中には医学的な知識も多少はあったらしい。しかし所詮は少ない知識だけであり、専門的な知識や治療の経験が無いノルさんでは簡単な病気くらいしか対処できないらしい
「そうですか。ちなみにこのアゼンダ高地に街を作った理由ってやっぱり・・・。」
「お主の予想通りだ。高地だとモンスターの接近を把握できるし、なによりもここには光の精霊がいる。」
ノルさんの言葉に俺は、やっぱりかと納得する。アゼンダ高地には五大精霊である光の精霊がいる。五大精霊とはこの世界を形作り、動かしている精霊たちの代表であり、火、水、風、土、光の5要素のそれぞれを司る。そして光の精霊最も人間に対する理解が深い。光の精霊は大崩壊によって人間が滅びに瀕している時にまっさきに動き始めた。他の五大精霊と協力し、七勇者を選定し聖柩を与えた。人間のせいで自分たちの力が失われたにも関わらずだ。
「光の精霊の加護によってこの街は豊作と守護が約束されている。」
いつのまにそんな約束を・・・。
「ソル、余は人間だ。だから過ぎゆく時には勝てない。」
俺が魔族であることはすでにノルさんには伝えている。ワイトさんと別れたばかりのようやく10歳くらいに見えなくもない外見は13,4歳の第二次成長期を迎えたくらいの外見となった。つまりどう見ても22歳には見えないので一発でばれたのであらかじめ全部話したのだ。
「だから余は永遠に等しい時間を生きるお主には人間を見ていてほしいのだ。」
「ノルさん?」
突然語りだしたノルさんに俺は声をかける。
「余は他の七勇者とは異なり、最も人間らしい人間だ。」
人間らしい人間。これの意味するところは俺には良く分からないが、ノルさんが何かを訴えようとしているのは伝わってくる。
「だから七勇者の誰よりも人間という存在を分かっているつもりだ。」
俺はノルさんが何を言いたいのか分からない。
「くくく。何を言っているのか分からないって顔をしているぞ。そもそも余とお主では人間という存在に対する考え方が違うのだから仕方がないのだがな。」
そう言って笑うノルさんに俺は何も言えなかった。
「分からないならそれでもいい。お主は今後も旅を続けるのだったな?」
「はい。」
「お主が何をその目で見て、何をその耳で聞くかは分からない。それによってどのように成長していくかわからない。しかし感情だけで動いてはならぬぞ。お主が真剣に考え、悩み、導きだした答えなら例え世界が滅ぶようなことになっても余は何も言わん。余だけではない、他の七勇者もおそらくは同じ考えのはずだ。」
完全に俺は言葉を失った。俺たちは自分たちの全てを以て世界を救った。だから世界が滅ぶなんて冗談であっても軽々しく口には出さない。そしてそれを容認するのは七勇者の存在をも揺るがすことであるのに、ノルさんは例えであっても俺の選択次第ではそれを否定しないと言った。
「どうしてそこまで俺を。」
「使命の旅でお主と余たちは同じものを見て、同じことを体験した。そんなお主が答えを出したのならそれはお主だけの考えではない。そういうことだ。」
俺はノルさんといくらか話した後、護衛団の詰め所を出て街をでた。俺の心中は先ほどのノルさんの会話のことで頭が埋め尽くされていた。
ノルさんや他の七勇者が俺に期待してくれているのは分かったが、どうしてそこまで期待してくれているのか分からない。それに人間という存在に対する考え方についてもノルさんは自分の意見は最後まで言わなかった。おそらく自分で答えを見つけろ、という意味なんだろう。
「もうワケわからねえよ。」
(俺にしては)あまりに頭を使いすぎたせいか、ブツブツと考えていたことが言葉に出る。
「それにしても光の精霊は大崩壊から俺たちに力と聖柩を与えてくれたのに、そこから更に光の精霊の加護を求めるのはちょっと厚かましくないのかな?」
―ソル、それは問題ないよ。―
いつかのように直接頭に語りかけられるような声が響き、空間に光が集まる。そしてその光から光の精霊が姿を現した。
「光の精霊!」
―久しぶりだね。君が僕のことを思ってそう言ってくれるのはうれしいよ。でもノルに頼んで人間たちをここへ呼んだのは僕なんだ。―
それは初耳であった。てっきり俺は光の精霊の人間に対する姿勢をあてにしてノルさんがここに人々を連れてきたのだと思っていた。
―世界が崩壊した時に君たち七勇者と神で約束が交わされた。―
大崩壊が起きた時、神は完全に世界を崩壊させるであった。しかし精霊によって選ばれた俺たち七勇者と神の間で約束を交わすことで、完全に世界を崩壊させることは想いとどまってもらった。そしてその約束とは以下のとおりである。
再び人類が栄えた時、過去と同じ過ちを犯す事があれば今度こそ世界を崩壊させる。二度と間違いを起こさぬよう自然と共に生きる事。
―ノルはね、不安なんだよ。誰かが見守ってやらないと人間が同じ過ちを犯してしまうんじゃないかと。―
その光の精霊の言葉に俺はあれだけ王にこだわっていたノルさんの真意に気付いた。ノルさんはおそらく人間を放置していると再び自然を、精霊を無視して過ちを犯してしまうと思っているのだろう。
だからこそノルさんは人間の中でも人間を統治する存在である王にこだわったのではないのだろうか?人間が過ちを犯さないように見守って、時には道をただそうとするために。
―ノルのその気持ちを知っていた僕はノルに協力するためにここに呼んだんだよ。―
「そう・・・だったのですか。」
ノルさんの考えを知った俺は過去の自分を恥じた。ノルさんが王にこだわっていた理由をただの野心や欲が強いだけと思っていた過去の自分を。
―君のその考えは間違えていたわけではないよ。ノルの野心と欲は確かに強い。でも彼はそれ以上に『七勇者』であっただけだ。―
「七勇者ですか?」
―七勇者は使命を果たした。でもやっていることの本質は7人とも何も変わっていないんだ。世界のために、人間のために君たちは生きている。―
確かにそうかもしれない。闇の力が復活しないように動いているワイトさんとグラナダさん。機神が悪用されないように番犬?となったハト。人間を見守ろうとするノルさん。少しでも多くの人間を救うために旅をし続けるバルダさん。未来のために自分を封印し続けるゴーゲンさん。そして俺もアイツが復活した時のために行動をしている。
―ソル、僕はうれしいんだよ―
光の精霊はいつも以上に穏やかな顔で俺に語りかける。
―人間の王が倒され、闇の力が封印された今、君たちの力は強力すぎる。それこそ第二の人間の王になることもできるほどの。―
光の精霊の言うとおり今の世界での俺たちの強さは強力であった。科学の力がない今の世の中では、生き残った人間が全員で束になっても七勇者にはかなわないだろう。
―でも君たちは変わらなかった。七勇者を選んだことは間違ってなかったし、君たちが七勇者でよかったと強く思えた。―
光の精霊がうれしいと言っているが、本当にうれしいのは俺の方である。七勇者の中で最も実力が低い俺が本当に世界を救えるのか?人間ですらない俺が人間を救うための勇者でいいのか?
これらは旅の間に何度も思ったことである。しかし精霊は俺たちが勇者で良かった。と言ってくれた。この言葉に喜びを感じないはずがない。
―僕は今後もこのアゼンダ高原で人間を見守り続けるよ。僕に用事があるのならここにいつでもおいで。―
「分かりました。ワイトさんにも言われたのですが、緊急事態の際にすぐに対応できるように定期的にここには訪れる予定です」
―なるほど、どれくらいの周期かな?―
「他の五大精霊の元にも行く予定なので、100年に一度くらいと考えています。」
―分かったよ。また会うのを楽しみにしているよ。―
光の精霊はそう言うと光と共に姿を消した。俺はそれを見届けると次の目的地へと行くために歩き始めた。
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空白期
第十一話 再生の名を持つパワーユニット
アララトスを旅立ってからすでに1000年近く経過している。
1000年というときは人間であった自分からしたら長い時であったが、魔族として生まれた自分は1000年をあっというまに感じている部分がある。永遠を生きる魔族にとって人間のような時間間隔は己の崩壊を招きかねない。脳にあらかじめ刻まれている魔族としての本能が俺の精神の摩耗を防いでいるのが分かる。
すでにグラナダさん、ワイトさん、ノルさん、バルダさんの4人は寿命を迎えて亡くなった。
ノルさんは王国こそ作れなかったものの、自然と人間が共存して暮らしていけるような体制を作ることができた。アララトスは国として復活し、大崩壊の後の最初の人類の文明が生まれた場所となって現在も繁栄し続けている。それもあって人類発祥の地とも言われている。ノルさんが亡くなった時はアララトス中の人が、悲しみと感謝の気持ちを示したらしい。
バルダさんはアデニシア大陸中で人助けを行っていた。バルダさんがどこで最期を迎えたかは調べても分からなかった。しかしバルダさんの行いは間違いなく人々の心に刻みつけられて今なおも語り継がれている。
グラナダさんはスメリアに建国した。もともと七勇者となる前から聖騎士として名高かったグラナダさんの人望は厚く各地から人は集まったらしい。グラナダさんはその剣で人々の安住の地を作り、自らが王として国を作り上げた。
ワイトさんはトウヴィルで小さい集落を作った。そしてなんとグラナダさんと子供を作り、片方をスメリアの王子として、もう片方はトウヴィルの巫女として育てられていた。ワイトさんが聖母の力を持っていたことからワイト家は神の血を引く一族とされていた。そして今現在、ワイトさんとグラナダさんが子供を作ったからなのかワイト家の娘はスメリアの王子と結婚しなくてはならないというおきてができていた。
生まれた時から運命が決まっていることに対して俺も何も思わないわけではないが、王子と結婚できるのは女の子の夢であるのは理解しているし、なぜかワイト家と王族の結婚は夫婦仲が良く家族円満になることが多いことから、特に否定をしようとは思わない。
4人ともすでに命は残っていないものの決して少なくないものを残していった。俺は4人の最後に立ち会ってないのでその表情を見ることはできなかったが、心残りはあるかもしれないが決して後悔を残して死んだのではないのだと思う。みんな自分のやるべきことを行い、結果をだしたのだから。
ちなみに1000年かけてショタボディーからようやく15、6くらいの姿にまで成長した俺は外見だけでなく魔法の腕も成長した。攻撃魔法は空気中の水分を氷の結晶に変えることで、吹雪を起こして対象に水属性のダメージを与えるダイヤモンドダスト、鋼の鎧をも切り裂くつむじ風をおこし、対象に風属性のダメージを与えるウィンドスラッシャーを習得した。そして俺が最も必死に練習して覚えようとしたゴーゲンさんのオリジナル魔法、テレポートをついに習得した。
1000年かけてこの三つだけとは言わないでほしい。俺に魔法を教えてくれる人がいない中、自力で、しかも大魔導師のオリジナル魔法を習得できたのだ。少しくらいはいい気分でいさせてほしい。
テレポートは距離と連続使用回数に比例して物凄い莫大な量の魔力を使用する。ゴーゲンさんですら便利な魔法であったテレポートを頻繁に使用できなかったが、魔力量に関しては自身がある俺は比較的気軽にテレポートを使用することができる。今までは大陸を渡るのに約1年かけて船で移動していたのが今ではほとんど一瞬で移動できるようになった。
目的の場所にテレポートで移動するには一度は行ったことがある場所か視界に写る場所でなくてはならない。またこれは相当の荒技になるが自分の魔力を込めたものを頼りにして移動することもできる。例えばゴーゲンさんの数珠には俺の魔力が込められているので、ゴーゲンさんのもとにはテレポートすることができる。この方法の使い道は案外少ない。仲間に自分の魔力を込めたものをあらかじめ渡しておいて、仲間のもとに移動するときくらいしか俺には使い道が思いつかない。
なぜ俺がテレポートの話をしているかと言うと、まさに今ちょうど自分の魔力を込めたモノを目印にしてテレポートを行ったからだ。
俺は今、ジークベックを封印したヤゴス島から少し離れた海の海底に存在する海底神殿の中にいた。もともとここに移動しようと思ったわけではない。そもそもこんな場所に神殿が存在するのも俺は知らなかったのだ。
「まさかこんな場所に移動するなんて。」
俺がそうつぶやき、ため息をついた時であった。突然後ろのほうからすさまじい衝撃が加わり俺は顔から床にたたきつけられる。殺気や敵意が全く感じられなかったので完全に油断していた。
「わう!」
そして俺を床にたたきつけたソレはとどめとばかりに上からのしかかってくる。
「ごふっ。」
そして俺の視界と意識は真っ黒に染まっていった。
もうお分かりであろうが、俺は以前に魔力を込めたハトの首輪を目印にしてテレポートを行った。そして俺に多大なるダメージを与えてくれたのもハトである。俺を侵入者と間違って攻撃を加えたとかでなく、ハトなりの愛情表現によるタックルによって俺は気絶したようだ。
「くーん。」
「分かってるよ。わざとじゃないくらい。気にすんな。」
ハトはどこか申し訳そうな声をだし俺にすり寄ってくる。もともとそこまで気にしていなかった俺はハトの頭をなでながら、笑いかける。1000年ぶりのハトのカラダは相変わらずのモフリ具合で俺の心は癒されつつある。
「にしても、ハトがまだ生きているなんて思ってもなかったよ。」
そう、ハトと別れてからすでに1000年経過しているのだ。モンスターといえども、既に寿命を迎えてもおかしくはない。どうやら突然変異であるハトは寿命もかなり延長しているようだ。
「ソル、あなたがそれを言うのか?人間であったはずのあなたが1000年生きている事の方が異常だと思えるが。」
「ジャッジメント・・・。」
ハトのとなりから聞こえる低い機械音声。その主は最強の機神ジャッジメントであった。
ジャッジメントは最後に別れた時からなんら変わらない姿でそこに存在していた。
ジャッジメントの言うことももっともである。1000年前に別れた人間が例え当時子供であったとしても生きているはずがない。
俺はワイトさんやノルさんに話した内容と同じことをジャッジメントやハトに伝えた。多少驚いていたハトに対しジャッジメントは全く驚いたそぶりを見せなかった。ジャッジメントを始め機神団のみんなは俺が普通の人間でないことは薄々分かっていたようだ。というより機神達の最高峰の頭脳回路は俺がたまにおかしてしまったミスを見逃すことなく記録として保存していたらしい。
俺の体について一通り話し終えたので、今度は俺の疑問をジャッジメントにぶつけてみた。
「他の機神もだけど自分を封印するっていうからてっきり機能停止状態になっているのかと思ったんだが・・・特にそういうわけではないんだな。」
「最初はその予定であったが、この神殿にいれば特に誰かに見つかるわけでもない。ならば想定外の事態に備えて私たちは稼働したままでいることにした。」
ジャッジメントのいうことも最もである。俺もテレポートでハトを目印にたまたま来れたのだ。普通はここにやってくるどころか、この神殿の存在すら知るはずがない。
この神殿ははじめから海底にあったわけではないらしい。地上に建てられた神殿が大崩壊による地殻変動で海のそこに沈んで、海底神殿となったようだ。そしてこの海底神殿には海竜は住み着いているらしく、その海竜が神殿を守護する役をになっている。
どうやらここは俺の目的を果たすのに最もふさわしい場所であるようだ。
「ソル、お前はここに何の用できた?」
「・・・本来はジャッジメントが封印されていると思っていたから、そこにお前たちと一緒にコレを封印するつもりだったんだ。」
そう言って俺は背中に背負っていた袋から機械の部品を取り出す。それは1000年前の旅で俺たちが日常のように見ていたものだ。
「パワーユニット、それもPリバースだな。」
ジャッジメントの言うとおり俺が取り出したものは機神ヂークベックの力の源であるパワーユニットであった。
しかもこのパワーユニットは20あるパワーユニットの中で最後に作られた最高傑作であり、これをつけたヂークベックはジャッジメントやグロルガルデと互角以上の戦闘能力をもつ。Pリバースの最大の特徴は回復魔法を使用できることにある。以前にゴーゲンさんが言っていたとおり、回復魔法は弱者のために神が与えた魔法である。神が与えた魔法を人間の手によって機神が使えるようになる。ヂークベックを作り出した科学者はアイツとは別の意味で神に挑戦をしていたともいえる。
「俺は今までパワーユニットを世界中に封印してきた。そして残った最後のパワーユニットがこれだ。」
俺はそう言って手元のパワーユニットに目を移す。
「このパワーユニットは特別だ。他のパワーユニットも簡単には手に入らないようにしているが、これは更に慎重に封印する必要がある。」
パワーユニット、Pリバースによって使用できる回復魔法はキュアなどの一般的な回復魔法だけではない。回復魔法の奥義であるリザレクション。回復魔法のスペシャリストであり、聖母の力をもつワイトさんは相手の心臓さえ動いていればどんな状態であっても、いや例え心臓が止まっていても死んでさえいなければ蘇生させることができた。
そのワイトさんが使う切り札がリザレクションであった。
つまりPリバースをもったヂークベックが悪用されることは、それはワイトさんが敵にまわるようなものであった。
だから再生の名をもつこのPリバースの扱いは他のパワーユニットよりも慎重にならざるをえなかった。
「お前たちなら偶然出会っても他の人たちに見つからないような場所で眠るはずだと思ったから、ハトを目印にしてテレポートしたんだ。」
そういうわけで俺はここにやってきた。ハトが生きていることやジャッジメント達が稼働しているのはかなり予想外であったが。
「・・・ソル。」
「わう。」
おっと。いつの間にか俺は昔のようにハトのふさふさボディーでモフモフしていた。膨大な魔力によって精神抵抗が強い俺が気づかぬままにモフモフしてしまうとはなんて魔力だ(`・ω・´)キリッ
冗談はここまでにし、俺は予定を変更しPリバースを封印するのではなくジャッジメントに預けた。俺はテレポートできたからよくわからないのだが神殿の入口は封印しているらしいので、ここに置いておくだけでもはや封印されているといっても過言ではないらしい。
用事が済んだ俺は神殿にいる意味がないので出発しようと思い、その旨をジャッジメントに伝えた。そこで俺は衝撃の事実を聞くことになる。
俺が海底神殿にやって来てからすでに一週間たった。その間俺は1000年の時を埋めるが如くハトとじゃれあっていた。そして更に3日後、俺が海底神殿に到着してから十日目、ハトが息を引き取った。
俺が来た時にはハトはすでに息を引き取る寸前であったらしい。俺にそんな素振りは見せなかったし、ずっと一緒にいたジャッジメントもあんなに元気なハトの姿を見るのは久しぶりであったようだ。俺がハトの最後に立ち会えたのが偶然なのか、それとも何かに引き寄せられたのかは分からない。
ハトは俺がいる間は最後まで幸せそうな顔でいてくれた。モンスターでありながらモンスターの心を持たないハトと、魔族でありながら人間の魂を持つ俺。普通の境遇でない俺たちだがハトは自分の歩んできた路に後悔はなかったのだろう。俺はそんな生き方が出来る自信はない。
俺はハトの最後を見届けた後、ジャッジメント達に別れを告げ地上へとテレポートした。
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