幽香さんと霖ちゃん (犬猫)
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幽香さんと霖ちゃん
注意!!
・この作品は東方二次小説です。本家の上海アリス幻樂団様等には一切関係ありません。
「……ん、ここ……は?」
僕が目を覚ますとそこは僕の知っている香霖堂の風景……ではなかった。
「あらあら……。目が覚めたのね?」
「そ、その声は……、幽……香?」
僕が困惑して辺りを見回していると、不意に声が聞こえた。
ぼやけていて全く顔が見えなかったがその声はたまに店に来ていた幽香の声だと僕は確信した。
「い、一体……何の真似だい?」
「あらあら、そんな睨みつけないの。『霖ちゃん』」
幽香に対して睨みつけるように言ったはずなのだが幽香は平然とした顔で答えを返してきた。まぁ、僕に比べたら幽香は大妖怪であるから仕方ないのだが……。
しかし、僕にとって一つ引っかかる疑問があった。幽香が僕に対して『霖ちゃん』と言ったことだ。
一体、どう言うことだ? 僕は元々男の筈だ。いや、元からではなく実際そうであったのだから。しかし、幽香が言った台詞はどう言うことだ。普通、名前の後に『ちゃん』をつけると言うのは、女の子や年齢が3~6歳など小さな男の子に言うものであり、男のしかも何百年も生きている(幽香からしてみたら僕は若いのかもしれないがそんなこと彼女に言えるわけがない)僕に対しての言葉ではない。ましてや僕が女になった事実なんていうことは、『断じて無いはず』だ。
「ふふふ、まだ男の性格が残っているのね?」
幽香の足音がどんどんと僕の方へと近づいてくる。
『恐怖』
その言葉が僕の脳裏に過ぎる。一体何をされてしまうのか。どうなってしまうのか。僕はただひたすらその感情を受け入れるしかなかった。だから……動けなかった。けれど、近づいてきた幽香は僕を殴ることも蹴ることも無くただ……、
「怖がらなくていいのよ……?」
「……え?」
豊満な胸を僕に押し付けている事を全く気にせずに、彼女はだきしめてくるだけだった。僕にとってはなにが起こったのか分からず、ただ茫然と、幽香に抱きつかれたままだった。縄で手を縛られているのを忘れ、ただその状況に対して、茫然と……するだけだった。
――――――――――
しばらく幽香が僕を急に抱きしめてきた後……。
「もう……貴方が可愛いからよ?」
と、言いわけにもなっていない理由を言いながら幽香は僕を離さない。むしろさらに抱きしめる力が強くなっている気がした。
それにしても……、僕が、可愛い? そんなことがあるわけがない。なぜなら僕は男だからだ。可愛いなんて言われること自体ありえない。
「幽香、僕は『男』……だよ?」
その言葉を聞くと幽香は深いため息をついて、
「貴方……そう言えば貴方は寝てたから知っているわけもないわね」
そう言いいながら幽香は僕の眼鏡をかけさせた。最初に良く見えた物と言えば目の前に映る鏡だった。その鏡にうつされていたものは……、『いつも』の僕ではなかった。 顔や髪形は変わっていなかった。けれど、体格が全く違う。妖怪に襲われないために鍛えて出来た筋肉は衰えて、幽香には劣るが、ふっくらとしたものが胸に二つあり、さらに、 体格が若干丸くなった気がした。まるで……、
「お、『女』になってる……?」
「……正解よ」
恐る恐ると幽香に尋ねて返ってきたその言葉は、理解しがたいものだった。性別と言うものは変わることが無いものである。稀に性別を変える事が出来る薬を作った事があると言う話を永遠亭の医者の月の兎が来た時に聞いた事がある。それは月の材料で作られているため、幻想郷(ここ)で作ることまず不可能であると言うことだった。ならば一体だれがこのようなことを……。
「霖之助……、いや、霖。私がいるのに他の女の事なんて考えていないでしょうね?」
呼ばれたことに気づいて僕がの幽香の方を向くと、半目で僕を見つめていた。しかし、何故彼女は僕が犯人であろうと思って考えた人物を女性だと推定できたのだろう。そんな疑問も浮かんだが、今は幽香の不機嫌をどうにかしないと……。
「いや、僕は誰がこんなことをしたのか考えてただけだよ。それよりも……、このロープをほどいてくれないかな……」
「い、や、よ」
笑顔でその答えに対して否定の態度を示した。幽香らしいと言えば幽香らしいのだけれど……、
「僕としては店のこともあるし、これを霊夢に相談してどうにかしてもらわないと……」
「やっぱり、他の女の事を考えていたじゃない」
……やってしまった。僕は墓穴を掘った。さっきまで幽香は他の女性の話題が出るのを嫌っていたのに。
さらに幽香は言葉を止めることなく、
「私は、貴方の事が好きなのよ? 最初にバラの種やカーネーションを覚えているかしら? それなのに貴方はなにも気づいてくれなかったじゃない……だから、私はこうして私の気持ちを伝えたかったのよ。霖……あなたが、大好きよ!!」
それは……告白だった。幽香は綺麗だ。それは紛れもない事実だ。しかも力がとても強い。それなのに半人半妖であって力の無い僕に惚れることがあるはずがない。それでも、これは現実だった。
「ま、待ってくれないか。その……僕は今『女』だ。それに、君よりも弱いのに……だよ?」
「性別なんて関係無いわ。私は貴方に惚れたのだから……。それに、女性同士だからどうしたのかしら?」
幽香はクスクスと笑ないがら僕を見つめてくる。その言葉を聞いて僕の顔が紅く染まっている事に僕は気づいて無かった。幽香は何かさらに顔の距離を縮めてくる。幽香の呼吸の音が聞こえるまでに近い。あと一歩でも近づけば口づけが出来てしまう距離だ。僕の心臓の鼓動がどんどんと早まっていく。この気持ちはなんだろう。こんな感情生まれてこのかた無かったのに……。胸が苦しい。
「あらあら、どうしたのかしら?」
幽香は知っているのだろう。僕の今の状況を、そしてその原因を、答えを。
「……うっさい」
だから僕は冷たく彼女に接してしまう。それを知っている事が悔しくて。
「あらあら、冷たいのね」
彼女は驚きもせず予想通りだったのか、ただ笑ってくるだけだった。まるで、僕は彼女の掌で踊らされているというような気分だ。これ以上、彼女にからかわれるのは癪だ。だから僕は正直に、
「……胸が、苦しい。分からないけど、胸が苦しいんだ……」
彼女に打ち明ける。もしかしたら僕は彼女に対してずっと『恋』と言う物が内心に有ったのかもしれない。けれど、僕はそんなことは気づいてなんていなかった。けれど、彼女からの告白で僕はついに気づいてしまったのだろう。それが、どんな恋であれ、僕は受け入れる。
「そう……けれど、それは私に打ち明けて解決できるものなのかしら?」
彼女はその答えを知っている。ただ、僕が言わないから彼女は待っているに違いない。だから僕が言わなきゃ……。僕の答え……、いや、僕がずっと抱いていたこの気持ちを……、彼女に伝える。
「幽香……」
「今度はなにかしら?」
彼女は笑っているがきっと内心では怒っているに違いない。けれどそれは仕方ないことだ。僕が彼女の気持ちに対して気づくのが遅かったのだから。むしろ彼女がほかの人のことを好きにならなかったというのが不思議である。僕は恥ずかしさに耐えながら、
「す、好き……だよ?」
僕は恥ずかしさのあまり顔を伏せてしまった。けれど、ここまで人に対して、気持ちを伝えることに恥ずかしさを覚えるなんて、僕にとっては不思議な感覚だ。ただ、言いきったことによる達成感と、自分の秘密を相手に教えたことによる恥ずかしい気持ちが自分の心の中で葛藤している状態だけが残った。
「……霖、こっちを向いてくれない……かしら?」
幽香が僕の名前を呼んでくる。僕は恥ずかしいと言う感情を抑えつつ彼女に言われた通りに、彼女を見つめる。頬を真っ赤に染めて息も荒くなっていた。
「……き、気づくのが遅いのよ……。バカ……」
そして彼女は僕の唇にキスをして来た。柔らかい唇の感覚が僕に襲ってくる。そして、唇を離して、
「今夜は……寝かせないわよ?」
彼女は僕の耳元にささやいた後、僕の耳を甘噛みし始めた。今夜は確実に眠れないだろうと、僕は確信した。
今夜は僕にとって……、
一生の思い出になる夜になった。
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