目が覚めたら能力者になってた件 (千草流)
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1.転生は理解できる、ただし憑依、テメエは駄目だ

 ふと思い付いたとある勘違い物


 へい皆ご機嫌かい? ちなみに俺は全くこれっぽっちもご機嫌じゃない…

 

 まあ俺の気分はどうでもいい、そんなことより皆は超能力(エスパー)って知ってるか? 知ってるって? おーけーおーけー、超能力(エスパー)ってのは今皆が考えたようなスプーンを曲げたり、壁を透かして見えたりするちょびっとエッチだったりする凄い力ってことでまあ間違いない。

 

 ただ、実際はもっとなんでもありのとんでも能力の事を言うんだ。なんでそんな事知ってるかって? そりゃあお前、俺が今現在超能力者らしいからだ。おっと、勘違いしないで欲しいが超能力者っていってもピンキリでそれぞれ使える力ってのは違ってるらしいんだ。だから俺は皆が想像したようなスプーン曲げたり、透視したりできる素敵な能力じゃあないから、間違ってもエッチなことはしていない。

 

 ところで俺がさっきから自分の事なのにらしいらしいとばっかり言ってるのには訳があるんだ。

 

 いや、訳があるというか訳が分からないというか……って、さっきから俺はいったい誰に向かって語り掛けてんだろうなぁ……

 

 よし、というわけで脳内一人芝居は終了。観念して現実に目を向けてみよう。

 

 俺イン銀行、シャッターイズクローズ、覆面男キャッチ俺、最後に拳銃タッチマイヘッド。

 

 ふう、やれやれだ、状況は把握した。これで冷静に対処が……出来るわけねええええええ! え、何なんなの、なんでちょっと銀行来ただけで強盗いんの? というかなんで俺を人質にとったのこの強盗さん!? 治安悪いとか聞いたことあったけど真昼間から銀行強盗とかどこの世紀末だよ。ここは本当に日本かよ!

 

 「おい、金はまだか! 早くしねえとこいつの頭ぶっ飛ばすぞ!」

 

 銀行員さああああん、早く早くお金用意したげてハリーアップ! このままじゃ俺の頭から真っ赤な花が咲いちゃう! とりあえず強盗の死角から手招きっぽく早くして催促してるけどそろそろ限界だから、ばれたらパァンしちゃうから!

 

 「おい! そんな小銭持ってきてねえで早く札持ってこい! そんなんで時間稼ごうすんじゃねえ!」

 

 おいこら銀行員! なにやってんの!? 強盗のマニュアルとかないのかよこの銀行!? こういう時は大人しく金を渡して命大事にが基本だろうがああああ!

 

 あれ、拳銃の感触が消えたぞ? これはチャンスか今なら逃げ出せるか? と思った俺は実に浅はかだと言わざるを得ない。

 

 「いい加減にしねえと次はこいつの頭の番だからな!」

 

 とか言いつつ小銭が集めらていた袋に向かって強盗さんがパァンと一発。盛大に弾け飛ぶ小銭達、というか中身全部一円玉じゃねえか、せめて五百円玉くらいいれとけ! どんだけ守銭奴なんだよこの銀行!

 

 ああ、それにしてもこの調子じゃあ俺の頭が目の前で弾け跳んだ袋と同じ結末を迎えるのにそう時間は掛からないだろうなあ。死ぬの怖えなあ…でもそれよりもこの体の持ち主に申し訳ないだろ。あ、今更だけど俺この体の持ち主ちゃいます、あれだ俗に言う憑依ってやつだ。

 

 目が覚めたら何故か知らない天井で、鏡を見るとどこの誰かも分からないフェイスがこっちを見てた。すわ、これで俺も二次創作の主人公かと喜びそうになったが、普通に考えてみるとまず俺が憑依したと思われる体の本来の持ち主に申し訳ないって気持ちになったんだよなあ。とりあえず、本来の持ち主にこの体が返せるかどうか探す必要もあった。もし返せた時に知り合いとかとややこしい事態にならないように本来の持ち主のロールプレイをしようと思って、なんか本来の持ち主の事が分かるもんがないかと探してたら、なんとびっくり、よくわからん身体検査表みたいな紙切れに超能力がどうとか大真面目に書いてあるんだよ。

 

 まじかこれ? 最初はそう疑問に思ったんだけど、暫くいろいろ部屋を調べてみたらこの街が学園都市って言う名前だと知ったんだよ。それを聞いてピンときた。確か友人が学園都市で科学が魔術で超能力でとかアニメかなんかの話をしていたのを。

 

 つまり、ここはアニメの世界だったのだ! 普通なら考えられないような発想だろうが憑依なんて経験している俺には今更な出来事だった。つまり、この体の持ち主はマジもんの超能力者である訳だった。

 

 いろいろと困惑しながらも、財布が空っぽなの発見してとりあえず暫くはこの体と付き合っていく必要があるから、その間の資金として財布に入ってたカードで金を下ろそうと思ったんだ。

 

 しかし、俺、もといこの体の命も風前の灯のようだ。あ、でもあれだ、目が覚めた時に『知らない天井だ』が咄嗟に出来てしまった俺にはあんまり悔いは無いきがする。思わずその瞬間を思い出して口元が緩む、ってこれじゃあ本来の持ち主に失礼だな。そういえばその本来の持ち主さんの名前が財布の中に入っていた学生証に記載されてたな。あーっと、確か、介、介旅初矢君だったかな。すまない介旅君、君にこの体を返すことは出来そうにない。

 

 嗚呼、最後に見る景色が飛び散る一円玉達かあ、なんかキラキラして奇麗だけど所詮一円、貧乏くさい気がする……ってあれ? なんか一円玉が萎んでいってない? いやたぶん気のせいか、もういい目を瞑って大人しく最後の時を待とうかな。

 

 グッバイ現世!

 

 と思ったところで、俺の後ろで何かがボンッと爆発したような音が。

 

 気になって目を開けてみるといつの間にか強盗の拘束が解かれていた、後ろを見ると強盗が倒れている。そしてこれまたいつの間に開いたのか入口のシャッターが開いていた。

 

 「動くなッ!アンチスキルだ! 大人しく手を頭の後ろに……ってもう伸びてるみたいじゃん…」

 

 なんか重装備した巨乳のお姉さんがいた。もしかして俺、助かった?

 

 

 

 

――end

   

   start――

 

 

 

 

 「チッ! そんなに金が大事じゃん!?」

 

 装甲車のような重厚な外観の車の中にあるディスプレイに映像が映っていた。映像では覆面姿の男が拳銃を片手に何やら怒鳴り散らしている姿が映し出されていた。そんなディスプレイと幾つかの計器やコンピューターの明かりだけの薄暗い車内で、黄泉川愛穂は苛立ちの声を上げた。

 

 銀行強盗事件、それが発生したのが二十分程前である。学園都市の治安維持組織である警備員(アンチスキル)は既に被害にあった銀行を取り囲み突入体制を整えていた。しかし、未だに突入出来ていないのには訳があった。

 

 一つに、正面入り口のシャッターが降ろされ、中の様子が正確に確認出来ないこと。

 もう一つ、犯人が人質をとっていること。

 

 言うまでもなく、犯人を不用意に刺激すれば人質の命はない。しかし、強盗犯が人質をとることは想定の範囲内であり、それに対処するためのマニュアルも存在している。ここで問題となるのはシャッターが降りてしまっていることだった。

 

 本来この銀行の緊急時のシャッターは犯人を逃がさない為の物ではなく、外部からの攻撃から内部を守るためのものである。営業時間中に押し入ってきた強盗を閉じ込めてしまえば客と従業員に被害が及ぶ可能性があるからだ。だが、実際にはシャッターは閉まっており内部で客と従業員が危険に晒される事になってしまってる。

 

 黄泉川の苛立ちの理由はそこにあった。まるで客や従業員の命よりも強盗に金を持ち去られる事を恐れているような銀行の態度にその苛立ちを隠すことはできなかった。

 

 なんとか外部から侵入することの出来た監視カメラの映像から大まかな状況は把握することは出来たが、人質がいる以上はアンチスキルも慎重にならざるを得なかった。

 

 「ん? なんじゃんこいつ?」

 

 苛立ちを抑えきれない様子の黄泉川の視界が、監視カメラの映像から不審な動きを捉えた。人質である学生が犯人の死角となってる側の手を動かしていた。犯人に捕まってる事からぎこちない格好ではあったが、手を後ろに伸ばし手のひらを外側に向けているように黄泉川には見えた。あまり鮮明ではない監視カメラの映像からは、人質である学生が銀行員を急かすために手を動かしていることは見て取れなかった。

 

 「これは・・・ハンドシグナル? ただの学生が何でそんなもんを知ってるじゃん?」

 

 その手の動きを黄泉川はハンドシグナル、手信号だと判断した。手を伸ばし手のひらを外側に向けるその信号の意味は、待て、軍隊などではよく使われる物であった。

 

 「これは誰に・・・、銀行員に向けて送る意味はない、金の用意を遅らせることは犯人を刺激するだじゃん。」

 

 なら一体誰に向けてのメッセージなのか、と黄泉川が考え始めたところで映像の中の人質と黄泉川は目線があった。

 

 「まさか私らに向けてじゃん? 何か策があるのか、もしかしたら高位の能力者? 子供に任せたくはないけど、こっちも八方塞がりじゃん、少しだけ様子を見させてもらうじゃん」

 

 何か人質の側にこの場を攻略できる策があるのでは?と考えた黄泉川は少しだけ待つことにした。本来は教師でもある彼女が、自分の受け持つ生徒達と同年代程の子供に任せるのは、教師として、大人として彼女の矜持を揺るがすものだったが、突入し犯人を刺激し人質が殺害されてしまう結果に陥るよりはもっと最善の可能性があると、子供を信じることにしたのだった。

 

 いつでもシステムに強制介入し、シャッターを開く用意は出来ていた。それに合わせ、黄泉川を含めた警備員達も万全の体制を整えていた。

 

 痺れを切らした犯人が人質とは別方向に発砲する。それを見て、限界だ、と突入を決意した黄泉川は犯人の発砲により飛び散った硬貨の雨の中で人質の学生が笑うのを確かに捉えた。

 

 「ッ!!!突入ッ!!」

 

 拳銃を突きつけられた中で、笑う人質など異常と呼べる。黄泉川はそれが自分達に向けての合図だと理解し、慌てて車から飛び降り突入の合図を出す。

 

 勢いよく開くシャッターの向こうでは、犯人の頭上で飛び散っていた一円玉が異常を見せていた。急激に渦巻くような圧縮されていくそれらは点になる程に圧縮された途端、音を立て破裂した。

 

 一つ一つを威力は小さいが幾つものその一円玉の爆弾は犯人の手から拳銃を落とさせ、顔の目の前で爆発したものは犯人の聴覚と視覚を強く刺激した。それにより立っていられなくなった犯人が倒れ伏す。

 

 そこには一円玉の雨の中で瞑っていた瞳をゆっくり開く人質だった学生のみが立っていた

 

 そして犯人はアンチスキルに捕縛された。

 

 黄泉川としては功労者である人質であった学生に労いの言葉と、危険な事を仕出かしたことの説教を行いたいと思っていたが、件の学生は自分は何もしていないの一点張りで、彼が能力を使った証拠の記録などは残っていなかったのでうやむやのままに逃げられてしまった。

 

 「あれ? 黄泉川先生なんの資料ですか?」

 

 「ああ、アンチスキルの関係の資料じゃん」

 

 後日、彼女の勤務する学校の職員室で銀行強盗事件の時の資料を広げていた黄泉川に同僚の教師が声を掛けていた。

 

 「ちょっと面白い奴を見つけたじゃん。 銀行強盗を1人で制圧したからてっきり高位の能力者かと思ったら、なんとレベル2だったじゃん」

 

 「へえ~凄いですね、何か変わった能力だったんですか?」

 

 「まあ、珍しい能力ではあったじゃん。でもとてもじゃないけどレベル2じゃ戦闘には使えないじゃん。

でもあいつはそれを使った、自分の出来ることを理解して、それを最大限に生かせる方法を模索していたように見えた、これはきっと鍛えればいいとこまで行きそうに思えるじゃん」

 

 そんな会話がされていることを、介旅初矢に憑依した人物が知る由もなく。別の場所で大きくくしゃみを一つしていた。




 というわけでとある世界でも屈指の脇役である介旅初矢さんに憑依しますた。
 量子変速なんてロマン溢れる能力を持ってる彼を活用しないなんてことがあるだろうか、いやない


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2.俺は二次創作のオリ主にはなれそうにない

にわめー


 HAHAHA、実に爽快な気分だ。

 

 聞いてくれよマイク、実はついさっき銀行強盗にあってな。なんと拳銃を持った犯人に人質にされちまったのさ、笑えるだろ?

 

 それでどうなったかって? そりゃあここにこうして無事でいる姿を見れば分かるだろ? 俺がこりゃ駄目だと思った時にな、颯爽と現れた巨乳で美人なお姉さんがあっと言う間犯人を捕まえたのさ。 え、俺がなんかしたんじゃないかって? おいおいマイク、人が笑える話をしてる時に、そんな愉快なジョークを挟まないでくれよ。 俺みたいな奴が強盗に立ち向かえるわけない、そうだろ?

 

 と、あまりにも気分がいいもんだからいつの間にか脳内でアメリカンなコメディ劇場が発生してたみたいだ。誰だよマイクって。

 

 まあそんなことはどうでもいいな、いやぁそれにしても凄い清々しい逮捕劇だったな。人質の俺を傷つけることなく瞬時に犯人を無力化して逮捕とか、どんなアクション映画だよ。しかも逮捕してた、あーなんだっけか・・・・・・ああ、そうだアンチスキルだ。アンチスキルのお姉さんも美人だったし、実は本当に映画の撮影でしたって言われても信じれたな。

 

 というかお姉さんになんか褒められたんだけど俺なんにもしてないし、人質に捕られてむしろ足手まといだった思うんだけど。まあ話が長くなりそうだったから適当にはぐらかして逃げてきた。

 

 よし、気分一新。まずは当初の予定通り、この体の持ち主である介旅君のロールプレイをするとしよう。

 

 「そうと決まれば携帯電話召喚、電話帳オープン」

 

 さてさて、介旅君の交友関係はどんなもんだろうか。友達一杯リア充君だったらロールプレイ難しいなあ。介旅君にへ悪いけどあんまり友達が沢山いませんようにっと。

 

 「まずはあ行該当無し、か行無し、おうふっ、思った以上に少ないな・・・。 気を取り直してさ行いくぜ!さ、し・・・、一件発見! 実家! ・・・うん、まあ介旅君一人暮らしみたいだしね、実家の番号は必須だよね」

 

 さ行はそれだけ、そこからも連絡先は殆ど無く学校への連絡先と父、母、の合計4つだけ。

 

 くっ、介旅君、君ってやつはなんて孤高な存在なんだ! 目から汗が出てくるじゃないか! 俺だって友達は少ないけど一桁はいたのに、それなのにっ! 世界は、なんて残酷なんだ! すまない介旅君ッ!! 俺にはどうすることも出来ないッ! 例え俺がッ…この体でッ……友達を作って上げたとしてもッ! それは君の友達じゃないッ…!

 

 「おいおい…大丈夫か?」

 

 俺はなんて無力なんだッ! 何が憑依だッ、何がオリ主だッ! 一人の少年も救えない俺にこんなッ…こんな二次創作の主人公のような役割なんて勤まるはずがない!

 

 「えっと、もしもーし大丈夫なんですか?」

 

 涙が止まらない、なんて惨め、なんて情けない。もしも、この世界に神様なんてモノがいるならこんな平凡な男に憑依体験なんてつまらないことさせるなよ。 そんなことよりも一人の人間に救いでも与えてみろよ。

 

 「あー、肩触れますよー、驚かないでくださいねー」

 

 ッ!! 誰だッ!

 

 「うお、びっくりした。 急に振り向くなよな」

 

 誰だこのツンツンヘヤ―は? ウニか、ウニなのかその髪型は? 受け狙いなのか? 悲しみに沈んだ俺をその髪型でおちょくろうっていう魂胆かっ! ってそんな訳ないか。 でもほんとに誰だこいつ、いきなり気安く肩を叩いてきて話しかけくるなんて…

 

 「あーっと、大丈夫か?」

 

 はっ! そうかこの気安いフレンドリーな感じッ! こいつは…介旅君の友達かッ! そうか、そうだったのか君は孤独では無かったのか…すまない介旅君、勝手に君に失礼な事を考えてしまっていた。 もし体を返す時に君に会うことが出来たなら、全力を持って謝罪しよう。

 

 「ああ、大丈夫、俺は大丈夫だから…」

 

 「いやそういわれても大丈夫そうに見えないですけどぉ!」

 

 そうか、携帯を片手に往来で涙を流していた俺を心配してくれていたのか。こいつ、良いやつだなあ。介旅君、友達なんて少なくてもいいんだ、たった一人でも自分の事を心配くれる友がいるのならそれ以上に嬉しいことはないんだ。今それがよく分かったよ、ありがとう介旅君、君のおかげで俺は人として一歩成長出来たような気がするよ。

 

 「もしかしてなんか聞いちゃいけないような事だったか? だとしたら悪かった」

 

 「いや、いいんだ。 もう終わってしまったことだから…」

 

 涙を拭いながら目の前の少年の少年に、介旅君に友達がいないなんて問題は解決した、いやむしろ初めからそんな問題は無かったことを伝える。

 

 「ッ! そうか…悪かった」

 

 なんか驚いた顔してるけど納得してくれたみたいだ。そういえばこの少年の名前が分からない。これでは気安く名前も呼べない。非常にまずい、このままでは介旅君と彼の友情に傷が入ってしまうかもしれない。なんとかさりげなく名前を聞きださねば。

 

 「まああれだ、俺なんかに言われたくないかもしれないけど人生いろいろあるからな。 なんなら上条さんも力になっちゃいますよ」

 

 自分で言ってくれました。というか上条って、どっかで聞いたことがあるような…ああそうだ、いま現在俺が憑依して存在している世界、もともと俺がいたところじゃあライトノベルだったかアニメだったかの世界なんだよな、確かその物語の主人公も似たような名前だったきがする。俺自身はアニメもライトノベルも見てないから友人に聞いた話だが、確か主人公の名前は神浄乃討魔とかいってたかな? いったいどこの二次創作の最強系オリ主だよと思うが、普通に考えたらカミジョウってそこまで珍しくはないかな。でも、この世界の主人公と同じ名字なんて凄い偶然だなあ。

 

 

 

 

 

――end

 

start――

 

 

 

 

 

 多くの学生にとって待ち遠しいと感じられる夏休みが目前に迫ったある日の夕方、ここ学園都市の一生徒である上条当麻は浮足だっていた。その理由は明日から夏休みだから、ではない。彼はあまり学校の成績が良くなかった、そのおかげで夏休みも学校に補習を受けに行く必要があったので、夏休みと聞いてもそこまで嬉しいとは思えていなかった。

 

 では彼が鼻歌交じりに帰宅している理由はなんなのか、それを説明するにはまず彼の特異体質から説明していく必要がある。

 

 簡単に言うと、彼は不幸なのだ。彼が生まれたその時から彼は不幸だった、一日一回はほぼ必ずなんらかの不幸な事態に会っていた。幼少期はその不幸体質の為に厄病神のように扱われることもあり、何度も心が折れそうになっていた。それでも彼は今ここで楽しそうに過ごすことが出来ている。それは単に両親の愛故だろう。彼に心無い言葉を浴びせかける者達から彼を守り、彼の不幸に巻き込まれた者達に彼に代わって頭を下げた。そんな両親のおかげであった。

 

 そして今日、珍しい事に彼の身に不幸と呼べるようなことは何一つ起こっていなかった。それ故に彼は喜んでいた。

 

 「ん…?」

 

 そんな彼の視界に道端に立ち止まり、携帯を握りしめ涙を流す男が映った。往来には他にも沢山の人がいたが、多くの人達は全く気が付いてないという風にその男の隣を素通りするか、嫌悪感の籠った目で一瞥して去っていくだけだった。そんな彼らを責めることは出来ない、その男に何があったか気にならない訳ではない、なにか困った事になっているのかもしれない。だが、道端で泣きわめく男は、現実的に言って異常なのだ。人は厄介事を避けるもの、故に内心では少しばかり心配しても、皆その男を避けた。

 

 だが、上条は違った。不幸の悲しみを身に染みて知っていた彼は、その男を見て自分が不幸でなかった分、他の誰かが不幸になるのかもしれないと、科学の街に住んでいながら非科学的な思考を妄想した。流石に自分のせいで彼に不幸が舞い降りたと本気で思っていた訳ではない、ただ特異体質である自分が不幸でないのに、他の誰かが不幸になるということに耐えられなかった。

 

 「おいおい…大丈夫か?」

 

 上条が声を掛けるが、男は視線を上げない。他人の声に気が付けない程の悲しみがあったのかと上条は考え、もう一度声を掛けた。

 

 「えっと、もしもーし大丈夫なんですか?」

 

 二度目の声にも彼は顔を上げなかった。普通なら心配して声を掛けたとしても二回も無視されれば誰だって気分はよくないだろう。だが上条はお人善しであった。声で駄目なら直接触れて見れば流石に気が付くだろうと彼の肩をそっと叩いた。

 

 「あー、肩触れますよー、驚かないでくださいねー」

 

 後ろから触れた上条に対して、男は勢いよくグルんと首を回し振り返った。

 

 「うお、びっくりした。 急に振り向くなよな」

 

 上条は口ではお道化た調子で驚いた風に言ったが、内心ではその男の瞳に呑み込まれていた。まるでこの世界全てに絶望しているような、底の見えない闇のような感覚に陥れられていた。

 

 涙を流しながら、大丈夫だという男の様子に上条は納得出来なかった。まるでこのまま自分の命を絶ってしまいそうなその男を放っておけなかった。

 

 「もしかしてなんか聞いちゃいけないような事だったか? だとしたら悪かった」

 

 「いや、いいんだ。 もう終わってしまったことだから…」

 

 男の終わってしまったという言葉と握られた携帯から、上条は男の親しい者の訃報があったのだと推測した。それはあまり他人が軽く口を出していい話ではないだろうと、上条は謝罪の言葉を口にする。だけれども、このままにしておけばもっと悲しい事になると、男の親しかった誰かもきっとそんな事は望んでいなかった筈だと、上条は再び道化を演じる。

 

 「まああれだ、俺なんかに言われたくないかもしれないけど人生いろいろあるからな。 なんなら上条さんも力になっちゃいますよ」

 

 これが学園都市の天災、上条当麻と、介旅初矢に憑依した男との出会いであった。天災と憑依が交差したここから物語は始まる。




介旅君に友達がいないなんて現実がそげぶしちゃいましょうねー


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3.オリ主にありがちな特典というやつは俺にはないらしい

今回は勘違いっぽくない
勘違いにありがちなご都合主義の偶然はある


 終わりよければ全てよし、なんていうが昨日は正にそんな1日だった。初めは憑依なんて訳わからん状態になって不安だったし、そっから銀行強盗に襲われるなんてハプニングもあった。だがしかし、そんな憂鬱な気持ちも全て上条君のおかけで吹っ飛んでしまった。

 

 彼のように心の底から友達を心配することが出来る少年が、果てして今の世の中どれほどいるだろうか。実に清々しい、まるでヒーローのような少年だった、彼のような少年がいる内は日本の未来は明るいだろう。

 

 加えてだ、なんとか上条君の連絡先を知っておくべきだと考えて、遠回しに聞き出そうとしてたら、上条君はまるでこちらの意図を理解したかのように向こうから連絡先を教えてくれた。上条君まじ聖人。

 

 

 と、まあなんやかんやで無事今日という日を終える事が出来たわけだが、ひとまず落ち着いたらやってみたいことがあった。というわけでまずは台所に立ちます。カップ麺なんかのインスタント食品やレトルト食品が多い、独り暮らしの高校生ならまあこんなもんかもしれないが、もう少しバランスの取れる食事にしたほうがいいんじゃないね介旅君や。

 

 それはひとまず置いておいて、目標物の確保には成功した。

 

 ロール状になっているそれをビーっと引っ張りだして適当な長さで千切り取り、グシャグシャに丸める。はい完成、アルミホイル製アルミ玉。

 

 介旅君の部屋に転がってた資料に書いてあった通りなら、介旅君は超能力者であるらしい。レベル2の『量子変速』、なんか小難しい理論が並んでいて読む気が失せる資料だったが、要はアルミを爆弾に変える能力らしい。平凡な大学生だった俺に量子がうんたらかんたらなんか分かる筈がない、精々が量子的なミクロの世界ではマクロな視点とは異なる物理法則が成り立つ((`・ω・´)キリッ)くらいのことしか知らん。

 

 因みに正確には重力子をどうのこうのするらしい。超能力だとか量子だとか異なる物理法則だとか重力子だとか考えてると俺の心の奥底に封印されたチュウ二・ビョウが解き放たれてしまうのでここらで辞めておく。

 

 もっと純粋に好奇心で超能力を使ってみたい、というわけで介旅君の超能力の基点となるアルミを、どこの家庭にも大抵あるであろうアルミホイルから作成してみた次第である。

 

 準備は万端、早速やってみようではないか。技を借りるぜ介旅君!

 

 「……」

 

 とはいったものの超能力の使い方なんぞ全く分からん、ひとまず爆発しろ~と念じながらアルミ玉に熱い視線を送ってみる。

 

 「…………」

 

 暫くたっても全く変化は見られない、やはり超能力というくらいだから肉体ではなく魂的な何かにエネルギーを依存しているのだろうか、だとしたら介旅君の意識か魂か、そういうものが無いこの体では発動しないということか。

 

 「…全てを呑み込む渦よ、永遠の闇よ、世界に終わりを! 『量子変速(グラビトロン)』ッ!」

 

 おっと、あまりにもじれったくなって内なる封印が解けかかったか。危ない危ない封印封印っと。ちなみに詠唱のイメージは重力子ということでブラックホールである。

 

 「しかし、まさか封印を解いても発動しないとは、やっぱり本人じゃないとダメなのかぁ……」

 

 ええい、まったく持ってがっかりだ。

 

 「こんちくしょー!」

 

 ちょっとだけイラついた勢いで思わず手に持っていたアルミ玉を開いていたベランダから投げ捨ててしまった。

 

 「あっ」

 

 と思った時には既に手遅れ、アルミ玉は夜の闇に消えていった。流石にどこに飛んでいったか探すのは困難だろうな、幸いにも学園都市はハイテクシティだ自動掃除ロボットがあちこち巡回してるからすぐに片づけてくれるだろう。誰かの頭に当たっても軽いアルミ玉だ、怪我なんかしようもない。

 

 「うん、まあしょうがない。 皆はポイ捨てなんてしちゃ駄目だぞ!お兄さんと約束だ!」

 

 自分を誤魔化すように誰もいない部屋で虚空に向かい語り掛けてみる。誰かに見られたらただの頭おかしいやつだな。まあ、考えてもしょうがない、明日からは介旅君の学校も夏休みで、介旅君も休みらしいからこの憑依の原因を探る時間は十分ある。というわけ今日の所は風呂に入って寝る。グッナイ!

 

 

 

 

 

 

――end

 

start――

 

 

 

 

 

 人気もなく、街頭もないような静かで真っ暗な路地裏に、足音が侵入してきた。短い間隔で響き渡る足音は、その主が走っていることを示していた。息を切らしながら走っているその人物は、学園都市では名門と呼ばれるとある女子中学校の制服を身に纏っていた。制服と外見を見れば彼女が確かに中学生程の年齢の少女であることが分かるだろう。時間と場所を考えると、彼女はただの不良中学生なのではと大抵の人が想像するだろう。ただそれは彼女が頭に着けている物とその手に抱える道具に目を向けなければの話だ。

 

 彼女が頭に着けている物はお洒落な帽子などではない、それは近年流行りのVRゴーグルと呼ばれる物のような形状のゴツゴツした金属の機体に不透明の板が全面に取り付けられたゴーグルである、それも軍用の物であった。そして彼女が手に持つのは制服に会わせた無難なデザインの学校指定のバッグではない、人を殺した数が世界で一番多いなどといわれるほどに量産され、耐久性の高い銃、AK47であった。彼女が時折背後に向けて放つその光と音が、それ決して玩具などではないことを証明していた。

 

 服装さえ違えばどこかの戦場にでも立っていそうな彼女は、背後から迫ってくるナニかから距離を取ろうと闇雲に走り回っていた。

 

 「どこまで鬼ごっこ続ければ気が済むンですかァ!」

 

 彼女の背後からゆっくりと彼女を追いかけるナニカは、まるでこれが本当にただの遊びのように余裕を持って嗤いながら彼女を追っていた。彼女が時折放つ銃弾をそのナニカは物ともせずに弾幕の中を歩く。彼女にははっきりと認識できていなかったが、銃弾はナニカの表面に触れる寸前に弾かれるように角度を変えあらぬ方向に飛び去っていた。

 

 「こンだけにたよォなことやってるといい加減めんどォになってくるもンだな。そろそろお開きといこうぜェ!」

 

 ナニカが意識を変えようとした、その言葉を聞いて彼女は危険を予知した。生命としての本能がそのナニカに行動させてはならないと訴えていた。単価にして十八万、果たして本当に生命と呼べるかも定かではない彼女が、明確に死を感じた。効率的に実験を行うという思考を廃棄し、死ぬために生まれてきた筈の彼女は、生きるためにに弾を放った。

 

 頭ではなく体が、生きたいと願って咄嗟にとった行動はしかして誤りであった。ナニカは思考を切り替える、ナニカの脳内に広がっていた複雑な数式はナニカが瞬きするよりも早く、その形を変えようとした。僅かな係数のみが変わるその数式は、数値の上では僅かな違いだったが、現実には大きな影響を与える。ナニカ表面にあるチカラの膜が、数字で表される力の方向を変える。入射角に対して鈍角の範囲に反射角を変動させていたそれは形を変え、平角に返すようになる。

 

 放たれた銃弾は、時間が戻るように進行方向とは逆向きに真っすぐ進む。当然戻ってきた銃弾は、銃弾が往復した時間を考えるとわずかにずれるが、ほぼ確実に彼女の持つ銃に帰って来る。力の大きさは、空気などの抵抗による減衰のみでほぼ変わらず、その向きだけが反って来る。その銃弾はまず彼女の持つ銃に喰らいつき、続けて放たれた幾つもの弾丸が、続くように彼女の体を貪り尽くす。

 

 そしてその場には無残に引き裂かれた彼女と、ナニカのみが残る、その筈であった。

 

 ナニカが計算式を完成させる寸前、まさに刹那と呼べる僅かな時間に、ナニカに妨害が入らなければ確かにそうなる筈だった。

 

 ナニカの感知しえない上空から小さな弾が落ちてきていた。ある人物が投げたその玉は偶然にも風に煽られ、ビルの壁面にぶつかり、丁度ナニカの耳元に落下してきた。そして丁度、そのタイミングでその玉が破裂した。投げた人物が想定していたタイミングからは大きくずれていたそれは、まるで図ったかのようにナニカの耳元でその現象を起こした。

 

 「ッ!!」

 

 ナニカは咄嗟に耳を抑えた。その小さな爆発に大した威力は無かった、例えあったとしてもナニカには通用しない物であった。ただその癇癪玉のような物の爆発から唯一、ナニカの守りを抜けたモノがあった。

 

 音である。ナニカは自身の害となる力からは守られていた、ただし音は違った。普段から音を遮ってしまえば耳が聞こえないのと同じである。それ故、ナニカは音を自身に害を為すものと設定していなかった。ナニカが音を警戒していなかったわけではない、ただスタングレネードのような物で聴覚を刺激する要素があれば瞬時にそれを害と設定することが可能であった為、普段は設定していなかったのだ。

 

 それが油断となった。

 

 ナニカの全く予想だにしないその音は、ナニカの脳に揺さぶりを掛け、僅かに数式に狂いを生じさせた。それにより、真っすぐ逆方向に返る筈だった銃弾は僅かに軌道を変えた。彼女の中心部を捉え、致命傷を与える筈だったそれは致命傷になりえない部分に数発撃ちこまれたのみであった。

 

 その隙を彼女は見逃さず、全力で駆けだす。肉体の反射的な行動ではなく頭脳での思考で感じるモノをもって。死なない為に、生きる為に、死ぬための存在が生きたいという矛盾した感情を持って。

 

 「チッ……」

 

 ナニカは揺さぶられた脳を正常に戻すために、数秒を費やした後、謎の爆弾が降って来た上空を一瞥し、舌打ちをすると再び彼女を追いかけ始めた。

 

 次にナニカが彼女に追いついた時、今度こそ彼女は自らの放った銃弾にその命を落としてしまうだろう。ほんの少しだけ彼女の命が延びたことに意味があったかどうかはまだ分からない。

 

 ただ彼女がほんの少しだけ生き延びたことにより、本来は反射的な肉体的行動として流れる筈の無かった、彼女が持った『生きたい』という感情がとあるネットワークを通じて、一万近い個体に拡散されたことだけは確かだった。




アクセラレータ口調がめんどい


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4.創作物の中なんかじゃない、だって彼女は確かにそこで生きているじゃないか!(転生者テンプレ)

いまさらどの面下げて投稿した、言え!

スランプ怖い


 俺はロリコンじゃない。

 

 例え独り暮らしの外身高校生、中身大学生の部屋に女子中学生がいたとしても俺はロリコンじゃない。そう、それだけでロリコン認定されてしまうなら世の中の中学生を教えている家庭教師は皆ロリコンだということになってしまう。

 

 だから重ねて言うが俺はロリコンじゃない。

 

 

 決して誤解無きようにしてもらいたい、俺が幼気な女子中学生を騙して部屋に連れ込んだとか、家出少女を匿っているだとか、無理矢理拉致しただとかそんなことは一切ない。

 

 だから何度も言うが俺はロリコンじゃない。

 

 ここまでしっかりと念押しした上で現状を説明したい。いいか?最後にもう一回だけ言っておくが俺はロリコンでもないし犯罪に走った変態でもない。

 

 まずはここが俺の、もとい介旅君の自室であることは明らか。次にその部屋に俺イン介旅君ボディーがいるのも不可解な現象ではあるがひとまず良しとしよう。そして最後に、小さなテーブルを挟んだ俺とは反対側に行儀よく正座し、俺の出した麦茶を飲んでる少女が一人。当然、彼女は全くの見ず知らずだ。

 

 よし、異常しか見当たらない。

 

 え、まじで誰だよこいつ、というかこいつが部屋にいるのがばれてみろ。介旅君を見る周囲の視線が一気に氷点下まで下降するぞ。

 

「この熱い夏日に生ぬるい麦茶かよ、とミサカは遠まわしに冷たい麦茶を出せと要求します」

 

 冷たい飲み物よりも常温の飲み物の方が好きな俺が、自分用に用意してた麦茶をわざわざだしてやったのになんて言いぐさだろうか。というか随分と変わった喋り方だな。

 

「とはいえ飲み物を頂いた事実には感謝します、とミサカは素直にお礼を述べます」

 

 ふむ、ちょっとばかし変わってるけど、素直にお礼を言えるのは良いことだ。ただそれを差し引いてもかなりぶっ飛んでる状況だけどな。

 

「ところでここはどこでしょうか、とミサカは問いかけます」

 

 ここがどこであるが、説明しようと思えば住所でもなんでも言えばいいのだろうが、ここが俺からしたら創作物の中の世界であることを考えるとそれは途端に難しくなる。果たしてここは本当に創作物の世界なのか、よく二次創作なんかで言われるように、創作物の世界によく似た平行世界なのかもしれない。この場所の住所は分かるが、もっと大きな視点で言えば、どこの世界のどこどこという座標というように語る必要が出てくるかもしれない。

 

 まあ、それっぽいこと考えてみたけど、実際に目の前のこの電波ゴーグル少女(仮)が欲しいの現在地の住所的な物なんだろうな。

 

「どこかとは非常に難しい質問だな、君と私の主観が異なればそこにある風景もまた異なる物になる。そうなってしまうとここという場所もまた見え方によって異なってくるのではないだろうか?」

 

 誰だこいつ、と自分でも困惑するような台詞が口から飛び出た。

 

「それっぽい哲学的な命題を提示してくるこの感じはオサレと呼ばれるものである、とミサカは脳の片隅にあった謎の知識を披露します。それとその口調はとてもあなたには似合ってるとは思えません、とミサカは明らかな嫌悪感を丸出しにします。話の論点をすり替えて誤魔化そうとしているのでは、とミサカは考えます」

 

 バレテーラ

 

 だって仕方ないだろ? 昨日別人の身体に憑依したばかりの俺がその人の住所言えるわけないじゃん。住所自体は部屋に転がってた身体検査っぽい資料に記載されていたのは見たけど、そんなすぐに覚えられるか! 流石に自分の家の住所知らない変なやつとか思われたくないから誤魔化すしかないじゃん。といわけでカッコつけて適当に誤魔化そうとしたけど敢え無く看破されてしまった俺でした、まる! 

 

 こうなってしまっては最終手段に手を染める必要があるな。

 

「それで結局のところここはどこでしょうか、とミサカは質問を繰り返します」

 

 再びその質問を投げかけてくる彼女をまあ待てと制止し、俺は最終兵器を取り出した。片手でそれの表面を何度かタッチし目的の動作を開始させる。正しく動作したことを確認しそれを耳元に持っていく、そして数秒後、それは世界を短縮させた。俺の声が距離という概念を超越しヒーローの元へ届く。

 

「助けてくれ上条君、なんだかよく分からないんだが俺も何が起こってるのか分からない。目が覚めたらベランダに電波ゴーグル少女が干されていた」

 

『え?お前もか? 俺も朝起きたらベランダでシスターが干されてたんだけど?』

 

「なん……だと……!?」

 

 介旅君のソウルフレンド(心の友とも言う)でありヒーローと呼べる程の広い心をもった上条君に連絡を取った。彼ならばきっと有益な助言をもたらしてくれるだろうという淡い期待の上の行動だったが、上条君の返答は俺の予想の斜め上をいった。

 

 シスター、それは神聖なる存在。

 

 シスター、それは限られた存在。

 

「つまり、どういうことだってばよ?」

 

『なんか口調がおかしくないか? とにかく、朝起きてベランダに出たら干した覚えのない布団が干されててよくみたらシスターだったんだよ』

 

 まさかそんな、上条君だけは介旅君の味方であると思っていたのに……

 

 まさか上条君が選ばれた存在だったとは。

 

 

 

 

 (シスター) 持 ち だ っ た な ん て !

 

 

 

 

 妹、それは一握りの限られた存在のみが得る事の出来る至宝。実に困ったことにその至宝を持つ者達はそれにどれ程の価値があるか全く理解していないのである。彼らは一部の例外を除いて、その存在を疎む。

 

 ふざけるな! 俺は声を大にして言いたい、持てる者が持たざる者を嘲笑うかのようなその言葉に対して怒りすら湧いてくる。さあ持たざる者達よ! 想像するのだ! 自らの元に妹がいるリアルを! 君たちだけの、自分だけの現実を!

 

 お兄ちゃん、兄貴、にいにい、にいちゃん、お兄様、君たちはどれを選択する? 因みに俺はお兄様一択だ! 朝、なかなか布団から出る事が出来ない俺の部屋の扉がそっとノックされる。それに応えることなく、俺は再び夢の世界へと旅立とうする。そうしているとゆっくりと気遣うように静かに扉が開かれる。 「お兄様、朝です」 その言葉が部屋の入口で聞こえる。非常に腹立たしいことに空想の中の俺はその声さえも無視する。そうするとどうなる?静かな足音が俺のベットに近寄ってくる。俺はまたもそれを無視する。そして体が揺らされる振動で俺は半分ほど目を覚ますわけだが、まだ脳が完全に覚醒することはない。今度は耳元で天使のような囁き声が聞こえてくる。 「お兄様、起きて下さい、朝ですよ」 それで俺の脳は覚醒する。これで後は目を開け体を起こせばいいだけのはずだが、空想の中の俺はいまだ目を閉じたまま布団から出ようとしない。 「お兄様?」 その声が再び耳元で囁かれる。だが俺は動かない。やがて数十秒程してそっと布団が開かれる 窓から差し込む太陽の光に体を起こしてしまいたい衝動に駆られる。だがまだだ、俺は耐える。 「お兄様、お兄様」 何度か掛かるその呼び声を無視して俺は狸寝入りを続ける。やがて諦めたのか、布団がそっと降ろされる。しかしここで奇妙なことに気が付く。暖かい布団の内側が更に暖かくなったかのように感じる。それになんだか圧迫されていた空間に広がりが出来ているようにも感じる。 その段階になって薄っすら目を開け布団の中を確認するとだな、そこにいるわけだ。

 

 妹が!

 

 柔らかく微笑んで目を閉じた妹が! 俺の布団の中で俺と一緒に寝ているんだ! 時折天使の囁きが聞こえる。「ふふ、お兄様、暖かい。」 超絶な破壊力を誇るその囁きを聞いて、俺はまさに天にも昇るような心地を覚える。全ての生命に感謝を、妹という存在を産み出してくれた両親に感謝を、妹に感謝を!

 

 だがしかし! 至極残念な事に俺には妹なんてものはいない! この世界はなんて残酷なんだ、欲する者の元には決して訪れず、欲しない者の元にのみ妹は存在する。なんて理不尽!

 

『おーい、もしもーし。聞こえてるか?』

 

 おっと、電話口から上条君の声が聞こえる。 取り合えず落ち着くんだ俺、まずは彼の状況を詳しく知ろうじゃないか。 持てる者への罪状はそれからでも遅くはない。 いったいどういった経緯で上条君(妹)は上条君の部屋にベランダから侵入することになったのか。 初めに思いついたのは夜這い、という言葉だ。 だが待って欲しい、妹は神聖な存在である、それが夜這いなどという下品な行為に勤しむことがあろうか、否、ありえない。 そうであるならばきっと上条君(妹)はきっと何かのサプライズを予定していたのではないだろうか。 兄を喜ばすためにダイナミックにもベランダから侵入しようとする活動的な妹、俺の好みからは外れるが十分にありだと言わざるを得ない。

 

「もしもし、それで詳しい状況を教えてもらおうじゃあないか?」

 

 とにかく向こうの情報を知る、それが今の俺の使命だ!

 

 え? 介旅君のロールプレイ? 知らない子ですね。

 

 今はとにかく(シスター)だ!

 

 

 

―――end

 

start―――

 

 

 彼女は考える、ここはどこか?

 

 答えは出ない。

 

 彼女は考える、自分は誰か?

 

 答えは出ない。

 

 彼女の知識の中には、この場所が学園都市と呼ばれる街であることはインストールされている。それでもここがどこであるか、それを彼女は分からない。知ったかぶり、という言葉があるように知識だけではその事実を知ったことにはならないのだ。知識ともう一つ必要な物である経験が彼女には不足していた。

 

 自分は誰なのかと彼女は自身に問いかける。これもまた知識にはある。自分を認識する個体名が彼女の知識の中に確かに存在する。彼女は自分が誰であるか分からない、故に個体名、もとい個体番号が何を意味するものなのか分からない。ミサカという単語と一万に届きそうな謎の数値の組み合わせ。ミサカという単語は、成程、人名のような響きであると彼女は納得出来る。だが後ろの数値は何を意味する物なのか彼女は理解出来ない。彼女の知識は、それを人の名前にはふさわしくない物だと判断した。そこから彼女は二種類の推測を建てた。

 

 一つに、暗号のような物、もしくは偽名やそれに類する何か。

 

 二つに、自分はそのような番号で呼ばれるべき、人ではない何か。

 

 彼女はその二つの推測のどちらが正しいのか、知識を総動員して結論を求めた。前者が正解であるならば大きな問題は無い、少し特別な仕事をしている何かだと結論付けることができる。だが仮に後者が正解であったならば、それは自己というものを揺るがす物になる。生憎と彼女の知識の中にそれが倫理的な問題であることを指摘する者は存在していない。また、それを指摘出来たかもしれないしれない人物と面識があったという経験は彼女の脳には欠けていた。元から知識がある中で経験が欠如していたことに彼女は疑問を感じない。それが普通なのだと彼女の知識が判断を下していた。

 

 彼女は後者のもたらす残酷な未来を予想出来ないままに思考を進める。

 

―――(シスター)……だと……!?

 

 そんな呟きが彼女の耳に届いた。彼女の経験が新しくスタートしたその一番初めに、彼女が出会った青年の声だった。その声を聞いて彼女は思考を一度止める。

 

 『(シスター)』、その言葉を彼女は覚えていたのかもしれない。彼女は根拠もなく経験もなく理論もないまま、自分は誰かの妹であったと、そう思った。自分が誰かの妹であるなら、その誰かが人でない限りは自分も人であると結論付けた。

 

 それに……、と彼女は目の前の青年、先ほどから見ていて何やら愉快な性格をしていそうなその青年を見て、それから自分の姿を見て、自分は人である、と結論付けた。

 

 目の前の青年が人であることは彼女の知識が裏付けていた。ならば性別や年齢こそ違えど、同じような存在である自分は人である。そのように理論を展開していた。

 

 もし彼女の素性を知る人物がその判断を聞けば、きっと一部の例外を除いてその考えを嘲笑う。だがそれでも、彼女が自分を人だと認識したのならきっとそれでいいのだろう。彼女は人なのだ、誰が何と言ったとしても彼女が自分自身を人だと認識したのだ。

 

 そこで彼女は人間として今の状況をどう処理すればいいかを知識から検索する。一般常識と呼ばれる知識から考えるならば、記憶喪失(・・・)である自分は誰かに助力を頼むべきだと彼女は判断した。

 

 一先ずは、目の前で電話から口を話、ぶつぶつと妹がどうだお兄様がどうだと呟いている少年、対外的には介旅初矢と呼ばれる彼に助けを請うために彼の電話が終わるのを待った。

 

 彼女は知らない、自分が実験動物として生み出された存在であることを。

 

 彼女は知らない、自分が殺されるためだけに生み出された存在であることを。

 

 彼女は知らない、生きるという生物的欲求に駆られ実験を放棄したことを。

 

 彼女は知らない、逃亡中に介旅の住む建物の屋上に飛び移ろうして失敗したことを。

 

 彼女は知らない、その時に頭を打ったのが原因か、精神摩耗によるものか、経験を司る記憶を忘却したことを。

 

 それでも彼女は、ミサカ9951号は今を生きようとする。




久方ぶりの更新、言い訳はしない。ただ書けなかった。

感想の返信とか出来ていなかったけどちゃんと見てます。

あと本文で妹について熱く語ってるけど作者はシスコンではありません。リアル妹が存在しますけどシスコンとかではありません。というかこんな気持ち悪い妄想の妹はリアルには決して存在していません。というかシスターと聞いてまず最初に妹を想像するような気持ち悪い存在も存在しません。一般的な認識ではシスター=修道女であることが常識であると信じています。或いはシスター=姉妹ならばありえるかもしれません。


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5.記憶喪失で誤魔化せるのは創作の世界の主人公だけだろう

 「なん……だと……!?」

 

 自分でもビックリ本日二度目のなんだとである。もっとも一度目の上条君の妹事件よりかは驚き加減は低めだったがそれでも驚きであることに変わりはない。もっとも、妹の件は俺の誤解であったわけだが、今回のことは結構真面目な案件だ。

 

 俺の部屋、もとい介旅君の部屋のベランダに干されていた謎の少女は記憶喪失だそうだ。なんだそれはと一瞬だけ呆けた、お前は二次創作に出てくる身分を誤魔化す主人公か何かなのかと。だが生憎と彼女はマジの記憶喪失であるらしい。取り合えず彼女と呼び続けるのも何だかなあと思ったのでこれからはミサカと、彼女が一人称として使っている物を使用する。ただ何となく人名っぽいそれが本当にミサカの名前なのかは分からないが、一先ずは呼び名が無いと会話もし難い。

 

 「ミサカには先ほど目覚めた以前の経験というものが存在しません、とミサカは説明します。 ただ知識は脳にインプットされているのでミサカの脳は所謂記憶喪失、エピソード記憶が欠如している状態であると、ミサカは推測します」

 

 とは彼女自身の言である。エピソード記憶とはなんぞやと問い詰めたいところではあるが、詳しく聞くと難しい話になりそうなのでやっぱり止めておく。つまりは記憶喪失であることが分かるならばそれでいい。

 

 兎にも角にもそれを聞いて、病院に連絡しようと思った俺はふと思った。

 

 もし病院に連れて行くとして、俺は一体どういったポジションになるのか。自分の部屋のベランダに干されていましたと説明したところで信じてもらえるかは微妙な所である。むしろ俺とミサカの間の関係性を疑われてしまうのではないだろうか。もしもだ、俺がミサカに何らかの形で乱暴な事を行おうとしてそのショックでミサカは記憶を失ってしまったと、そんな風に疑われてしまったらどうなるか。世間は確実にミサカを擁護するのではないだろうか、そしてそこからマスコミに話が広がり俺はいつの間にかロリコンの汚名を着せられ、証拠不十分にも関わらず逮捕に繋がってしまうのではないだろうか。

 

 そうならない可能性の方が高いの間違いないことかもしれないが、現代では痴漢などでは圧倒的に男性が不利な風潮がある。一概に無いとは言い切れないのが恐ろしいところだ。そうなってしまえば俺は介旅君に身体を返す時に何と言えばいいのだろうか。

 

 冤罪の罪で捕まっちゃった、ごめんねテヘペロ。とでも言えと? 無い、これではあまりにも介旅に申し訳なさ過ぎて首を吊りたくなってしまう。

 

 「おーけー、おーけー、ビークールだ俺」

 

 そうならない為に何かいい案を考える必要があった。そこで思いついたのがこれまた上条君を頼ることだった。介旅君の心の友(ソウルフレンドとも言う)である上条君に病院まで着いてきてもらおう。一人より二人である、俺一人では怪しさ満点で信じてもらえずとも、聖人にも勝る上条君の言葉もあればきっとお医者さんもお巡りさんも納得してくれる筈である。上条君マジヒーロー。

 

 そうなれば話は早い、シスターが妹では無く修道女であったことの誤解を解いた俺は上条君にその案を打診した。

 

 『分かった、だけどこれから補習で学校にいかなくちゃならないから終わるまで待ってもらってもいいか?』

 

 あなたが神か。まさかの即答である。

 

 『いや、こっちから頼んでるんだからいつでもいいよ。取り合えず終わるころに上条君の家まで行ってそこから病院に行くってことでいいかな?』

 

 『ああ、それでいいぞ。じゃあ終わったらまた連絡する』

 

 これでこの件は解決したも同然だろう。なんたって神に等しい上条君の助けがあるのだ、今なら誰にも負ける気がしない。上条イズヒーローである。

 

 「と、いうわけで上条君と合流するまで暫し待機だ。電波ゴーグル少女もといミサカ(仮)よ」

 

 「ミサカカッコカリカッコトジル、とは随分と変わった名付け方ではないでしょうか、とミサカは知識の中にある一般常識をドヤ顔で披露します」

 

 と彼女は顔色を全く変えることなく言い切る。

 

 「どこら辺がドヤ顔なのかは分からんが、それなら取り合えずは勝手だがミサカと呼ばしてもらうぞ」

 

 「それで構いません、自分の誰かも分からない現状の呼び名としては妥当であると、ミサカは納得します。それと、あなたの事は何と呼べばいいでしょうか、とミサカは名前の交換を要求します」

 

 「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺は……まあ介旅初矢だ。好きに呼んでくれ」

 

 少しだけ自分の名前で悩んだが、身体が介旅君である以上は介旅君の名前を名乗るのだ正しいだろう。それにもし介旅君にこの身体を返すことが出来た時に別の名前で呼ばれることがあれば、介旅君に迷惑だろう。

 

 「それでは……初矢お兄様と呼称することにします、とミサカはどこかその呼び方にしっくりしたものを感じます」

 

 「なん……だと……!?」

 

 お兄様……だと……!? 爆弾発言ってレベルじゃあないぞ! どうしてそうなった!?

 

 「おーけーおーけー、本日二度目だがビークールだ俺。さてミサカ、一体どういった経緯でお兄様になったか懇切丁寧に説明してくれはしませんかね?というかその呼び方だと社会的に危ない気がするんで出来ればやめてほしいですおねしゃす!」

 

 「先ほど、シスターやお兄様と呟いていたお兄様を見ていて、その言葉が何故かしっくり来たので自分は誰かの妹であったと推測したためです、とミサカは要求通りにお兄様に懇切丁寧に説明します」

 

 「なん……だと……!?」

 

 本日四度目のなんだとである、便利だなこの言葉。

 

 それはともかくとしてだ、まさか俺の妄想が垂れ流しになっていたとは、一生の不覚である。ミサカが誰かの妹であったかもしれないとか重要そうな発言もあったが、そんなことよりも俺の妹妄想が漏れていたことが恥ずかしすぎてヤバい、なんかもうヤバいを越えてやびゃい。

 

 「分かったお前が誰かの妹であったかもしれなくて俺の妹妄想を聞いていたことはよおく分かった、分かったから俺の発言の事は忘れてもう一度新しく俺の呼び名を考えてみようじゃなあないか、な?」

 

 「だめ…でしょうかお兄様…、とミサカは知識の片隅にあった上目遣いと呼ばれるものを試してみます」

 

 「大丈夫だ、問題ない」

 

 気が付けば俺はそうそう応えていた。上目遣いには勝てなかったよ。もしこれが漫画の世界であったなら俺はたった二コマで堕ちていただろうよ。

 

 仕方ないだろ? ミサカがどこの誰かは分からないが、容姿端麗であることは俺でも分かる。それに加えて記憶喪失という庇護欲を誘う属性に、少し変わっているが丁寧な口調、そこにお兄様呼びプラス上目遣いだ。少しばかり表情が死んでいるのが人によってはマイナスポイントになるかもしれないが、俺にとってはそれすらもプラスである。これは堕ちる(真顔)

 

 念のため釈明しておくが、ミサカに対して性的な欲求を覚えたわけではない。あくまでも妹を愛でる兄の心境である。断じて俺はロリコンだとかシスコンだとかではない。

 

 「やりました、とミサカは拳を上げ喜びを表現してみます」

 

 介旅君すまない、もし君がこの身体に戻った時にロリコンの汚名を着せられてしまうかもしれない。だがそうならないように、その時までには必ずその汚名は返上してみせる。

 

 「それでお兄様、上条とは一体誰のことでしょうか、とミサカは話を戻します」

 

 やっぱり無理かもしれない、お兄様は俺の夢だったんだ。すまない介旅君、すまない。もしもの時は土下座でもなんでもするから、今だけはこの幸せに浸らせてくれ。

 

 

 

 

―――end

 

start―――

 

 

 

 電話口の向こうから微かに漏れる声を上条は聞いていた。

 

 『分かっ……妹……、俺の……事は…忘れて………新しく……』

 

 電話から口を話して会話している為にその音は途切れ途切れにしか聞こえてこなかったが、上条は電話の向こうの人物、介旅の発言を注意深く拾っていた。そこから聞こえてきた幾つかの単語を拾い集め上条は推測する、介旅は謎の電波少女などと呼んでいたが向こうの声を聞く限りその少女は介旅の妹ではないかと。

 

 『だ……お兄様……、…は………す」

 

 恐らく妹の物である声も上条の耳は捉えていた。介旅は恐らく電話が既に切れていると思って妹と会話しているのだと、上条は考えた。先ほどまでは電波ゴーグル少女よ呼んでいた者を妹と呼んでいるのだ。恐らく他人には知られてはいけない事情があるなのだと上条は考えた。盗み聞きをしているようで罰が悪かったが、上条はその会話が気になってしまっていた。

 

 上条の推測では向こうの会話は次のようになっていた。

 

 『分かっていなかったのか妹よ、俺の事は忘れて新しい人生を歩めといったはずだ』

 

 『駄目ですお兄様、私はお兄様の事を忘れたくないんです』

 

 まるで少女漫画のワンシーンのような現実にはあり得そうもない一コマだが、介旅にはきっと何か特別な事情があるのではないかと勘ぐってしまっていた上条にはそう考えられた。そうなると記憶喪失というのも本当の事ではないだろう。何故わざわざ記憶喪失などとと嘘をつくのか、上条には分からなかったが、それでもきっと二人の間には悲しい何かあるのだと考えた上条は思わず歯を食いしばった。

 

 自分は不幸であったつもりだった。でも世の中には自分の何倍も不幸な人達がいる。上条はそのことを分かっていた、分かっていたつもりになっていた。だが実際に目の前にそういった人たちが現れると、そんな儚い幻想はあっさりと壊された。自分では想像もつかないような不幸、それを感じ取って上条は惨めな敗北感を味わった。

 

 だが、上条は決して下を向かない。不幸を知る上条はそれの悲しさを知っている。だから前を向く、そんな理不尽な不幸は認めないとばかりに拳を握り閉める。

 

 介旅とその妹の間にどんな関係があるのか、上条は知らない。だけど遠まわしに助けを求めてきたということはそれを解消したいと彼らが思っていることは間違いないのだ。一先ずはなんで記憶喪失などと言っているのか知る必要があった。もしかしたら本当に記憶に欠如がありその事が原因で何かの不幸が起きているのかもしれない。幸いにしてこれから上条が向かう学校にいる担任は脳に詳しい。その人に記憶喪失とはどういったものか聞いてみようと上条は考えた。

 

 そして未だに会話が漏れ聞こえてくる携帯電話の通話を切り、学校へと上条は向かった。




 かなり無理矢理な勘違いな気がするが細かいことは気にしない。

 前回に引き続いて妹ネタだが、作者はシスコンでもロリコンでもないので悪しからず。


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6.自己犠牲というのは究極の自己中であると沢山の主人公たちが物語っている

 火事が起きた時、普通はどんな行動に出るだろうか。火事の規模にもよるがまず初めに行うのは消火であることに間違いはないだろう。方法はなんだっていい、水をぶっかけてもいいがこれは時と場合により更に被害を増す可能性が高いので止めたほうがいいだろう。やはり最も一般的な方法としては、火が起こる元である酸素の供給を絶つことではないだろうか。一般的な赤いボンベの消火器の消火の仕組みを見てもそれは分かる。あれは泡状の物や粉状の物で火から酸素を絶っている。

 

 つまり火事の時は慌てず騒がず、冷静に消火器に手を伸ばすのが正解である。正解の筈なのである。

 

「無駄だ!その程度で魔女狩りの王(イノケンティウス)の炎を消すことなんて出来ない! だからやめろ、その消火器を降ろせ、魔女狩りの王(イノケンティウス)から外れた泡がさっきから僕の顔面に掛かってるのが分からないのか!? やめろっていってるだろ!」

 

 目の前で放火魔(仮)がなんか叫んでるけどそれどころじゃない。まさか消火器先輩を持ってしても消せない火が存在するとは予想外だった。一先ずはあの火を出している張本人である放火魔(仮)を妨害しているおかげか、放火魔(仮)改め中二病(仮)の出した物らしい魔女狩りの王(イノケンティウス)(笑)はそれ以上範囲を広げることはない。

 

 その意味は必ず殺す(キリッ)だってお。

 

 これはもう笑うしかない。いや目の前になんかヤバそうな炎の塊が迫ってるのは確かに怖いよ。俺の隣にいるミサカなんかもうほんとにヤバい、不思議クール電波妹系キャラはどこへいったのか、しゃがみこんで頭抱えて震えてる。ただミサカには悪いんだけど魔女狩りの王(イノケンティウス)はないだろと、放火魔(仮)もきっとこの街に住んでる能力者なんだと思うけどさ、そのネーミングセンスはない。確かに介旅君の量子変速と書いてシンクロトロンと読む能力名もちょっとカッコつけてる感じがあるけどさ、こっちはなんていったらいいのか学名?とでも言える感じだしたぶん能力に相応しい名前なんだと思うよ?

 

 対して魔女狩りの王(イノケンティウス)は特に意味なくカッコつけてる感じがもうね、炎系の能力が使えるなら普通にパイロキネシスじゃ満足できなかったのだろうか。放火魔(仮)も見た感じ介旅君と同い年か少し上ぐらいの年齢なんだろうからさ、もうそういった過去は黒歴史として心の奥底に封じ込めるべきじゃあないかね。それで夜寝る前に布団の中でふと思い出して叫びたくなるとこまでがテンプレでいいだろ。

 

 

 あ、そんなこと考えてたら消火器の泡の出が悪くなってきた気がする。これはマズイ……

 

「ぺっ、ちょっと口にはいったじゃないか。まあいい、どうやら燃料切れのようだね、なら大人しく死にゆくがいい! 祈りは捧げてあげるよ!」

 

「お前みたいな変人に祈られたくないよ! それよりお前のほうこそ自分の心配をした方がいいんじゃないのか?」

 

「なんだと?」

 

「まさかその異能が自分だけの専売特許だとでも思っているんじゃあないだろうな。だとしたらあまりにもバカらしくて笑えてくるぞ」

 

 嘘です。さっきまでは確かに馬鹿らしくて笑えていたけど、今はなんか恐怖で笑いしか出ない感じ。消火器先輩が役に立たなくなった今、冷静に目の前の炎の塊が怖い。どのくらい怖いかっていうと、となりのミサカと同じようにブルブル震えたいくらい怖い。まるで自分も異能者のように言ってみるけど、異能者なのは介旅君であって俺ではない。ハッタリもいい加減にしろといいたくなる。

 

「まさか貴様、魔術師!? この街に僕ら以外の魔術師が入っているなんて報告は受けていないぞ! 禁書目録(インデックス)が狙いか!? だとしたら容赦は出来ないぞ魔術師!」

 

 オーマイガッ、俺の台詞の何が琴線に触れたのは分からないけど、どうやら火に油を注ぐ結果になってしまったようだ。まさにその言葉の通りに目の前の炎の火力も増したような気がする。というか今度は魔術師か、妄想も大概にしないと将来痛い目を見るのは自分だということが放火魔(仮)にはいまいち理解できていないらしい。若さ故の過ちというやつか。

 

「やれ!魔女狩りの王(イノケンティウス)ッ!!」

 

 まさか介旅君に憑依してからこんな短期間の間に二度目の生命の危機に陥るとか、俺の魂的な物と一緒に死神でも憑依してるんじゃないだろうな。というか熱い!熱いよイノケンティウスさん! 出来ればもうちょっと離れてくれたら嬉しいんですけど、と思ってもイノケンティウスは段々と近づいてくるわけでこりゃあもうダメなんじゃあないだろうか。ここまで絶望的だといっそ清々しいくらいに冷静になってくる。介旅君すまない、ほんとにすまない。土下座したくらいで許されることじゃあないだろうけど君の身体の命はここまでのようだ。

 

 どうしようもないこの状況だが、ふと隣で震えるミサカの姿に気が付いた。ミサカはもともとは介旅君の部屋に転がり込んできた赤の他人で、助けを求めてきたのも向こうだ。でもこんな状況に陥っているのは間違いなく俺のせいだ。だったら、ミサカをここで死なすわけにはいかない。ミサカにはきっとまだ見ぬ家族だっているはずだ。それは介旅君にも言えることだが、時すでに遅しなので介旅君には諦めてもらうほかない、すまない、もし出来るなら俺の元の身体でもなんでもプレゼントしてあげよう、すまない。だからさ介旅君、死ぬ前にちょっとだけカッコつけさせてくれ。

 

 狭い通路では、俺も隣にいるミサカも間違いなく炎の塊に呑み込まれてしまう。だが俺が前に出れば、この身で炎を受け止めてみせるなんて言えないが、俺が先に死ぬことで放火魔(仮)が満足してくれれば。ミサカに到達するよりも前に放火魔(仮)は魔女狩りの王(イノケンティウス)とやらを消してくれるはずだ。あとはその隙をついて俺とミサカと放火魔(仮)の他にいるもう一人の人物にミサカを連れて逃げてもらえばいい。

 

 だから……

 

「あとは頼んだ、上条君」

 

 少ない言葉だが、上条君ならきっと理解してくれるだろうと信じて、俺は足を踏み出す。

 

 炎が迫る。

 

 一歩、感じる熱が増える。

 

 止まらない。

 

 二歩、肌が焼け焦げているように錯覚する。

 

 止まらない。

 

 三歩、死が見えた。

 

 

―――キイン

 

 

 と、その音で俺はふと我に返った。目の前にはあり得ないくらい頼もしい背中が見える。上条君だ、上条君が素手で炎の塊を受け止めている。

 

 やっぱり上条君はヒーローだったようだ。というか冷静に考えると超恥ずかしい、さっきまでの俺はいったいどこの二次創作の自己犠牲上等偽善主人公だと言いたい。死が見えた(キリッ)じゃあねえよ、また一つ黒歴史が増えたじゃあないか。死んでる場合じゃあないだろ俺。介旅君すまない、さっきは絶望の中で冷静になったとか考えてたけどあれ間違いだ。テンパってただけだったみたいだ。

 

 兎に角、無事生きていることを喜ぼう。

 

 上条君が素手で炎の塊を抑えつているけど大きな火傷を負っているようには見えない。やっぱり上条君は奇跡を起こせる聖人であったか。上条君ならきっと水の上を歩いたり出来るに違いない。

 

 これは勝ったな。安心して後ろを振り返るといつの間にか震えを止めたミサカがこっちを安心した目で見ていた。なんか勘違いしてそうだけど、この場で一番活躍しているのは上条君だからね? 俺なんもしてないからね? さっきまでのはただのハッタリでテンパってただけであることを説明しとかねばならない。万が一、俺と上条君を同列に扱われるようなことになっては堪らないからな。

 

 

 

―――end

 

start―――

 

 

 

 ミサカの目に映るのは明確な死であった。実際に目の前にあるのは巨大な炎の塊であるが、ミサカはそれを通じて濃密な死を感じていた。全ての生命が息絶える灼熱の炎。何人たりとも抗うことは叶わない。

 

 ミサカの本能が危険を感知した、逃げろと、生きろと、脳内で警鐘を鳴らす。しかし彼女の身体が動くことはない。理性が死に対して何も感じようとしなかった。彼女の知識には死が恐ろしい物であるという記述は存在しえなかった。誰もそれを教えてくれなかった。だが、彼女の本能は確かに死から遠ざかろうしている。

 

 この理性と本能の対立が、彼女をその場に縫いとめていた。本来、死ぬための実験動物として生まれた彼女に、死という現象はただの生物学的な現象としてしかインプットされていなかった。ただ彼女が記憶を失う少し前に、死という感情を経験した。そして生きたいという感情も経験した。だが彼女の中からその経験は失われてしまっている。その筈なのに、ただ知識だけで行動に起こせば、目の前の死に何ら感慨を覚える筈はないのに、彼女は死を恐れていた。理性が死ねと囁く、失われた筈の経験が死にたくないと囁く。ミサカはどうしていいか分からずに思わず頭を抱えた。

 

 彼女はその場に座り込み、頭を抱えたまま、理屈の合わない恐怖に震える。轟轟と燃え滾る炎の熱が、彼女の肌を刺激する。その熱は死そのものだ。死が近づいてくるにも関わらず彼女は未だ動けない。

 

 誰かが何かを話している、それも彼女の耳には明瞭には届かない。雑音の一つでしかない。何も感じられない、熱も音も、全ては死に上書きされていた。

 

 彼女にとって、死に震えていたその時間は那由多の時間にも感じられた。無限ではない、終わりはやって来た。目の前の死の気配が少しだけ薄らいだように彼女は感じた。それは間違いではない、彼女が死として感じ取っていた熱量が、彼女の前に障害物が出来たことで確かに僅かに薄まったのだ。

 

 そに事に気が付いて、彼女はいつの間にか伏せていた顔を上げる。そこには背中があった。半ば冗談半分で彼女がお兄様と呼んでいたその人物の背中があった。

 

 ミサカのお兄様、介旅は臆することなく、まるで解けた靴紐を結びなおすかのような当たり前の行動を取る様子で、炎に向かって歩みを進めていた。

 

 どうして?

 

 彼女は考える。知識はそれを可笑しなことだとは考えていない、本能が、知識と理性を抑え込み、駄目だと叫ぶ。何故彼は死を恐れないのか、何故彼は自分なんかを庇うようにして前に出ているのか、自分にそんな価値は無いのだと知識が訴えてくる、死んではいけないと本能が訴えてくる。

 

 またもや知識と本能がせめぎ合い、彼女は硬直した。

 

 動け、動くな、動け、動くな。死ね、死ぬな、死ね、死ぬな。

 

 自然と、知識は介旅を助けて自分が死のうする。対して本能は、介旅を犠牲にしてでも生きたいとする。

 

 介旅が死に近づいていく、何故? 答えは出ない。彼女には自分が死ぬか、自分が生きるかの二つしか存在しなかった。そこに彼女の意志は存在しない。もし彼女が真っ当な人間であったならば、誰かを生かす、その答えに辿り着けていたかもしれない。彼女にはその答えを出す事はまだ出来なかった。

 

 やがて、介旅に迫っていた死が、死すらも上回る幻想に打ち消されている様子を見て、彼女は安心した。死ななくてよかったと。

 

 彼女自身の意志が芽生えた、知識から基づく理論ではなく、本能によってもたらされる生存欲求でもない。人間という存在が持つ確固たる意志だ。それが人間を人間足ら占めている物であることを彼女は未だ理解出来ない。

 

 ただ、介旅が生きていたこと、それを喜んでいた。魔術師と勘違いされ、上条が超絶凄い聖人であると勘違いしているような介旅には、ミサカのそんな心境はこれっぽちも理解するこはできていなかったが。それでも彼女は介旅が生きているという事実を喜んだ。




 なんか原作キャラのイメージがいまいちつかめなくなってきたから、『とある魔術の禁書目録たん』で復習してきた。ミサカ妹のイメージが更に分からなくなった。


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7、あまりにも鈍感な主人公を見てると脳の障害を疑いたくなる

今回はアルコールの入った脳味噌で勢いに任せて書いたから後から修正するかも



 こんばんは皆さん、今俺は学園都市のとあるボロアパートに来ています。ボロという表現を用いるのは些か失礼であるかもしれないので、古びたとでも言い換えておきましょうか。それは兎も角、このアパート、少しSF入ってるような学園都市の中にあっても、なんというか趣を感じる佇まいをしていますね。周囲が高層ビルやお洒落なアパートに囲まれている中であってもその存在感を失わない、強烈な個性というものを放っている気がします。年季の入ったその様子は一目で惚れてしまいそうな魅力を持っています。

 

 さて、それでは本日このアパートを訪問した理由を説明したいところですが、俺にも何故だかよくわかっていません。

 

「どうしてこうなった?」

 

 謎のお宅訪問的なナレーションにも疲れた所で、現状を考える。

 

 俺氏アンド上条君、恐ろしき放火魔(仮)を撃退する→謎の少女が血まみれで命がマッハ→救急車カモン!と思ったところで上条君が謎の少女(服がほぼ白一色だったので以下ホワイト少女)を抱えてダッシュ→なんか十万三千冊とか魔術とかよくわからない会話が上条君とホワイト少女の間でなされる(なお俺氏全く理解出来ず)→古びたアパートに到着→謎の幼女のお宅訪問→ホワイト少女の怪我を直すためには謎の幼女の力が必要らしい→とりあえず邪魔だから追い出される←今ここ

 

 とりあえず理解できたのは、ようじょのちからってすげー!ってことだけである。

 

「なあ、いまさらなんだがなんか雰囲気がいつもと違うけどお前ってビリビリ、じゃなかった、えっと御坂だったよな?」

 

「あなたのいうビリビリがなんであるかは分かりませんが、ミサカの個体名には確かにミサカという単語が含まれています、とミサカは初対面のウニ頭に律儀に返答します」

 

 それにさらによくわからないけど、どうやら上条君はミサカの事を知っているようだ。これでミサカの身分も判明しそうだ。それにようじょのちからでホワイト少女も治るようだし、めでたしめでたしといったところか。と思っていたがどうもそう簡単な話ではないらしい。

 

「初対面って……まさか記憶喪失ってのは本当だったのか? 超能力者(レベル5)のくせして無能力者(レベル0)の俺にいつもちょっかい出してきてたじゃないか?」

 

「どうやらミサカとあなたの間では認識の違いがあるようです、とミサカは推測します。確かにあなたの言う通りミサカはミサカですが、ミサカが超能力者(レベル5)であるという知識はミサカの脳にインストールされていません、とミサカは説明します。あなたの言う御坂とミサカは恐らく別人である、とミサカは断定します」

 

「えっと、ミサカミサカってわけが分からなくなりそうだけど、つまりお前はいつものビリビリ中学生とはよく似た赤の他人だってことか?」

 

「そこまではミサカにも分かりかねます、とミサカは自らの知識不足を吐露します。経験が欠けているミサカには、あなたの言う御坂と血縁関係などがあったかどうかは分かりませんので、とミサカは自らが記憶喪失であることを理由として説明します」

 

「そうは言ってもよく似ている、というかほんとに御坂そっくりだからなあ。もしかしたら双子の姉妹とかそんなのかもしれないな。取り合えず御坂に今度会った時に確認しといてみるよ」

 

 ふむ成程、つまりミサカはミサカだけど御坂じゃなくて、御坂はビリビリな中学生でミサカはその姉妹かもしれないと、そういうことか。ミサカ御坂ってこれ文字にしないと何言ってるか分からなくなるな。

 

「たぶん上条君の言ってるので正解だと思う。ミサカも記憶喪失だけど誰かの妹だった気がするとか言ってるから」

 

「そうか、ならほんと今度聞いとくよ」

 

「頼むよ上条君」

 

「そうは言っても俺、御坂の連絡先とか知らないからな。まあ事あるごとにしょっちゅう俺に突っかかってくるからすぐに会えるとは思う」

 

「まあ慌てることもないんじゃないかな、ミサカもそんなに困ってる風には見えないし」

 

「その通りです、とミサカはお兄様の意見に賛同します。正しいかどうかは兎も角、ミサカはすでに身元が判明したようなものであるので慌てることはない、とミサカは考えます。それよりも今は、禁書目録(インデックス)と呼ばれたあの少女のことを気にするべきなのではないでしょうか、とミサカはこういった時乗りかかった船という表現を用いるのだと考えます」

 

 インデックス?目次?と一瞬だけ思い浮かべるが、よく考えてみればあのホワイト少女の事だろう。変わった名前だけど外国じゃあ案外メジャーだったりするのかもしれない。そもそも綴りからしてindexとは限らないだろうしな。

 

 兎にも角にも、話の流れ的にミサカのことは一先ず置いておいて、ホワイト少女改めインデックスの事だ。さっきまではなあなあで上条君に着いてきたけど、よくよく考えれば上条君とインデックスの事情とかさっぱり分かっていなかった。まあ聖人たる上条君が間違いなんて起こすとは到底思えないから、着いてきたこと自体にはなんら疑問を挟まない。

 

「そうだな……ここまで来ちまったんだ、取り合えず話すだけ話すよ。ただそれを聞いてどうしたいかは自分で考えてくれ。これは俺の我儘なんだ、だからお前らを巻き込もうとは思わない」

 

 そう前置きして上条君は語り始めた。なんでもインデックスの脳には十万三千冊の魔導書が記憶されており、それを狙う魔術師から逃亡している最中に上条君と出会ったそうだ。魔術?え、まじで?とは思ったが上条君の言う事だ、間違いないのだろう。というか超能力なんてオカルトが普通にあり得る世界だから魔術があっても不思議ではない。話を戻す。一度はインデックスの手を取れずに別れてしまった上条君だったが、自分のせいでインデックスがケガを負ったことを理解し、もう一度、今度はその手を取ることにしたらしい。

 

「俺は決めたんだ、あいつを、インデックスを地獄の底だろうがなんろうが引きずりあげてやるって……」

 

 上条君マジヒーロー、かっこよすぎだろ。

 

 そこまで言われたなら俺も黙っているわけにはいかない、きっと上条君の親友である介旅君も同じ気持ちであると信じて、俺は口を開いた。

 

「そんな事情を聴いて黙っていられるほど俺は薄情じゃあないぞ。是非協力させてくれ上条君!」

 

 当たり前のようにそう言い切る俺。さっき会った放火魔(仮)が上条君の話によるとインデックスを狙う魔術師らしい、それを考えるとあの炎とまた対峙する可能性がある。それは確かに怖い。だけど俺には上条君が付いている。それなら誰にも負ける気がしない。

 

 と、そう思った時、ふと俺の服の裾が誰かに引かれた。誰だ?と思ったがこの場にいるのは俺と上条君ともう一人しかいない、ミサカだ。

 

「なぜですか、とミサカは理解できない感情を抑え込めずにいます」

 

 ミサカの表情は相変わらず無表情だが、どこか辛そうに見えた。なぜといわれてもなんのことだかさっぱり分からん。何が何故なんだ?

 

「あ…、とミサカは思わず伸ばした手を引っ込めます。ミサカの事は気にしないで下さい、とミサカは釈明します」

 

 何がしたかったのか分からず首を傾げていると上条君が助け舟を出してくれた。

 

「怖いなら無理についてこなくてもいい。さっきも言ったけどこれは俺の我儘だ。だから無理しなくてもいい」

 

 成程、流石上条君、心の機微にも敏いようだ。ラノベにありがちな鈍感系ではない。パーフェクトだ。

 

 そりゃあ確かに、さっき放火魔(仮)と対峙して怯えていたミサカにはまたあの恐怖を味わうのは酷なことだろう。記憶が戻るまでの期間限定だが、仮にもお兄様なんて呼ばれてるんだ。兄として妹を危険に晒すわけにはいかない。

 

「そうだな、じゃあミサカは病院……はこの時間じゃもう急患しか受け入れてないかな。それなら取り合えず、俺の部屋にでも泊まっていくといい、俺は適当にその辺りのファミレスかなんかで夜を越すから」

 

 そういって俺の部屋、正しくは介旅君の部屋の鍵をミサカに渡そうとする。

 

「……」

 

「どったの?」

 

 鍵を差し出してもミサカは受け取ろうとしない、まさか俺が部屋に連れ込んでミサカを襲うとかそんなことでも考えているのだろうか? 何をバカな事を、まず俺は中学生くらいの女の子を襲ってしまうようなロリコンではないし、第一、仮にも妹ポジションであるミサカを襲うなどと、天地神明に誓ってありえない。兄とは妹を守る物だ。妹を襲うような兄がいるとすれば、それはもはや兄ではない、ただの畜生だ。血縁関係だけが兄を兄として足ら占めるのではない。例え義理であろうが、例え妹に嫌われようが、鋼鉄の意志を持ってして妹を守るのが兄の役目だ。

 

 まあ、実際に妹がいるわけじゃあないから全国の兄がどんな心境で妹と接しているかは分からないが、とにかく俺は兄とはかくあるべしと思っている。

 

「いえ、ミサカも協力します、とミサカは理解出来ない不安を抑えて強がります」

 

 どうやらあまり俺は信用されていないようだ、まあ当然か。お兄様なんて呼んでるのも冗談半分だろうし、今日会ったばかりの他人を信用しようとすることがそもそも間違っているんだ。

 

 

 

 

―――end

 

start―――

 

 

 

 

 勘、と呼ばれるものがある。時にそれは非科学的な理論によって説明されるが、それは正しくない。

 

 勘とは即ち、経験からもたらされる予測であり、立派な脳の機能の一つだと言える。例えば、土砂降りの雨で視界の悪いある日、交通事故にあった者がいるとしよう。その人物は事故ではなんとか一命を取り留めたが、それから先、雨を見ると嫌な予感がして仕方がない。これは一種の防衛本能だろうが、雨の日は外出することに危険を感じているのだろう。雨の日に事故にあった経験が、脳に警鐘を鳴らしているのだ。これが勘だ。

 

 またネガティブな表現だけでなくポジティブな表現を考えると、所謂職人と呼ばれるような人物の勘が例に取れるだろう。何千何万回と同じ作業を繰り返した果てに、彼らは正解となる形を知る。時に失敗し、時に成功した時の、気温や湿度、果ては僅かな音の波長の違いを肌で理解し、それを持って成功を手繰り寄せる。これも経験の積み重ねによる勘だろう。

 

 経験が無ければ勘はないと言えるだろう。

 

 だが今、ミサカは自らの勘で、言い知れぬ不安に襲われていた。経験が脳から欠如している筈のミサカが、経験を必要とする勘を冴えわたらせていた。それが何であるかミサカには理解出来ない。一般的な感性を持ってすれば、それは誰かが死ぬ恐怖であると分かるだろう。だが、命の価値という物に対する価値が歪んでいるミサカにはそれが分からない。

 

 ミサカネットワーク、そう呼ばれる通信網とも言える物が存在する。これは超能力による特定の電気的波長を持つ者たちが互いの脳波をリンクすることにより形成されるネットワークである。ミサカもそのネットワークの一端を担う者であったが、無意識的に電気的波長を遮断しているミサカは今はそのネットワークからは外れている。

 

 そのネットワークの特徴としては、ある意味でほぼ同一の個体である人物のみで構成されていることが挙げられる。この特徴のために、ネットワークの構成者であり接続者でもあるミサカは他の個体からの情報を、まるで自分が経験したかのように、知識として蓄積することが出来た。だがこれによりある弊害がミサカの中で発生した。

 

 ある個体の接触した事象に対して、それがまるで自らの経験であるかのように錯覚することで、その事象が経験であるか知識であるかが曖昧となった。その結果が今のミサカの心の現状である。経験が欠けた彼女の脳には、その事象が中途半端な知識としてだけしか存在していないのだ。それが恐ろしき何かであると、知識は訴えかけてくるが、確かな経験のない彼女には、それが本当に恐ろしい物だと証明できない。前例の無い事象にたいして勘が働いているのだ。それはどうにも、気持ちの悪い状況だろう。

 

 分かっているのに分からない。それがミサカの心情だ。

 

 死、それが彼女が分かるが分からない物の正体だ。彼女はネットワークから切断される少し前に、そこからその情報を収集した。彼女はもし自分が死に直面したとしても、それを恐れることはあってもそれから逃げるは出来ない。もし経験としての情報が残っていたなら、彼女は一目散に死から遠ざかろうした。だが今の彼女にはそれが出来ない。経験が欠けているからだ。それが確かに恐ろしいものだと理解できるまでは逃げることが出来ない。

 

「そんな事情を聴いて黙っていられるほど俺は薄情じゃあないぞ。是非協力させてくれ上条君!」

 

 

 そんな感情をどうしていいか分からないミサカの前で、介旅ははっきりと、再び死に立ち向かうと宣言した。

 

「なぜですか、とミサカは理解できない感情を抑え込めずにいます」

 

 ミサカはその背中が自分から遠ざかっていくように感じられて、思わず手を伸ばす。ミサカの知識が正しいのなら、普通は人は死から遠ざかろうするものである。それを目の前の人物は否定してみせた。ミサカはその事にさらに疑問を膨らます。なぜ彼は死を恐れないのか、そして何故自分は彼に縋りつくように手を伸ばしたのか、どちらも彼女には理解できない。

 

 それのどちらもが人の意志であるということを、彼女は理解できない。誰かを死なせたくない、自分よりも他人を心配するような生物としては有り得ない思考回路が、彼女には理解出来なかった。

 

「あ…、とミサカは思わず伸ばした手を引っ込めます。ミサカの事は気にしないで下さい、とミサカは釈明します」

 

 自分でも理由の分からない衝動的な行動であったことに気が付いて、ミサカは手を放す。

 

 介旅が死に立ち向かおうする事をミサカは止めることは出来ない。それの危険性を論理的に説明出来る自信がミサカにはなかった。

 

 だから、ミサカは隣に立つ。

 

 介旅が向かう先の恐ろしさを知っているミサカは、介旅がその恐ろしきモノに飲まれてほしくないと、自分の意志を持ってして協力を申し出る。

 

 介旅に死んでほしくない。その感情が、命の価値観が歪んでいるミサカが命を確かに尊い物であると認識したことによる物だと、彼女は未だ理解出来ない。




え?ステイルさんじゅうよんさいはどうなったのかって?スプリンクラー師匠にはイノケンさんも勝てなかったよ(原作通りともいう)



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