elona 死に戻り不可の不思議世界 (アームズ)
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elona 死に戻り不可の不思議世界

新人のelona民でございます。
(時間的には数十時間程
やり始めは二、三年前から。)

楽しめる作品を書けるように頑張ります。
あと、目の前に広がる大地はノースティリスではありません。
そこのところ、よろしくお願いします。


やあ、おはよう。

まあ、取り敢えず水でも飲みながら聞いてくれ。

うん、マスターなんだ、すまない。

お前がかよって何回も言われたよ。

でも、この店に来たとき、古風

みたいなのを感じられたと思う。

こんな殺伐とした世界でも、それを忘れてほしくなくて、今日も水を出しているんだ。

さあ、依頼しようか。

 

 

■■■

 

 

 相変わらず、妙なことを喋るマスターだと思いながら、あなたは酒場を後にした。依頼は特に貰っていないが、まだ生活には困らない程度の金はあるので、気にしない。

 

 歩いていると、ポツポツと雨が降り始めた。すぐに強くなるのだろうと思い、少し離れた場所にある自宅へ走る。

 

 

 雨が強くなってくるが、あなたは気にせず走り、ほどなくして、自宅へ到着する。

 家に着くなり、お帰りなさいと言う四つの声が聴こえてくる。

 

 一人は金髪の少女

 

 一人は少女より更に若い、幼女…いや、正確に言えば妹

 

 一人は金髪でお嬢様っぽい女の子

 

 最後に、白髪で見るからに科学者だが、ヤバそうな雰囲気を醸し出しているマッドサイエンティスト

 

 扉を開けた向こう側から聴こえた声は、この四人の物だった。

 

 あなたはただいまと言って、背中に背負っていた大剣や、連弩を置いたりしてから、少女の作ってくれた食事を口に運ぶ。少し、雨で体が冷えていたところだったので、料理の熱が体に染み渡る。少女は、自分の作った食事を食べてもらっているその様子をニコニコしながら眺めている。

 

 食事を食べ終え、席を立つと、お嬢様が手招きで部屋へ誘ってきて、あなたはそれにしたがい、部屋の中へ入っていきます。

 

 「久しぶりに、一緒に弾かない?」

 

 目の前には、あなたがいつも使っているピアノとお嬢様の使っているピアノが、向かい合って置いてありました。あなたはおもむろに自分のピアノのイスに座ると、それに合わせてお嬢様も座る。

 

 二人でなんの曲を弾くか30秒程話し合い、あなたが、雨の日にしか弾かない曲を弾こうと言うと、それに彼女は頷いて肯定します。

 

 二人が息を合わせて演奏をすることしばらく、空が夕焼け色に変わるのが、窓から見えた。

 

 「やっぱりこの曲だと晴れるわね。」

 

 二人は何度目かわからない、晴れ空にする曲を弾き終わると、眠気が襲ってきた。

 

 翌朝食べる食事を用意してから、寝るために寝室に向かう。

 

 寝ようとベットに向かうと、少女とお嬢がベットに入っていた。あなたはいつものように、二人と添い寝をする。

 

 はたから見れば、おかしな光景かもしれないが、ここら辺ではよくある光景である。

 

 おやすみ、と一言言って、あなたと二人は眠りにつく。しかし、すぐに寝れる訳もなく、二人の頭を撫でたり、抱きしめてあげたりしながら、ゆっくり眠る。

 

■■■

 

 一日が終わり、再び訪れる朝。誰よりも早く起きて朝食を食べる。朝食を食べ終えると、食器を水に浸けておき、愛用の大剣等を背負い、家を出る。

 

 あなたは家を出るときに、久々に大仕事だな…と呟き、いつものように最寄りの町へ向かう。

 

 

■■■

 

「お、おはようございます」

 

 町へ入ると、後方から突然声をかけられる。声のする方を見てみると

 

「リーダー、今日も訓練に付き合ってくれませんか…?」

 

 と、20代程の女性からお願いされる。

 

 あなたは、北西に存在する大きな町《リグシェリア》に本部を置いている《傭兵ギルド》のリーダー、そしてマスターをしている。先程声をかけてきた女性は、あなたのギルドの副リーダーのアイリアだ。

 

 良いよ、朝御飯はしっかり食べてきたかい、と聞くと。元気な声で「はい!」と彼女は答えた。あなたはよろしい、と一言言ってギルド本部を目指して歩く。

 

 

■■■

 

 

「では、参ります。」

 

 ギルドの地下、鍛練場にて

 

「初手…!」

 

 アイリアは左手で盾を持ち、右手でレイピアを構え、あなた目掛けて突進してくる。

 

 あなたはそれに対して、大剣で攻撃を逸らしながら、アイリアの左側にまわる。

 

「くっ…!」

 

 アイリアは避けられた後の隙を無くすように、盾で体当たりをする。

 

 あなたはそれを大剣で防ぎ、そのまま押し返す。そしてその直後、連弩でアイリアを撃つ。

 

「…!」

 

 アイリアは体勢を崩しながらも、襲いかかる矢を回避、もしくは盾で防いだ。

 

 アイリアが防ぎきったのを確認すると、あなたは大剣を構え、突進していく。そして、間合いに入ったところで、左から右にかけて切り上げる。

 

 アイリアはそれを転がって避ける。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 アイリアの息が切れているが、攻撃は仕掛けない。もし、ここが戦場ならば、またとないチャンスだが、訓練なので、相手のペースに合わせて戦う。

 

「はぁ…はぁ…まだまだです、いきます!」

 

 再び、あなたはアイリアと剣を振る。

 

■■■

 

 あなたは、何人かギルドメンバーが訪れているギルドロビーに来ていた。

 

 …アイリアを背負って

 

「はぁうぁぅぅ…」

 

 あなたはアイリアとの訓練の時、大剣を使っていたが。それがアイリアの兜に当たってしまい、強い衝撃によって、彼女が朦朧状態になってしまったのだ。

 

 あなたは心の中で、使っていたのが模造刀で良かった…と、呟いた。

 

「うう…すみません…」

 

 アイリアは、渡された水を飲んで、少しすると、回復した。

 

「はっはっは…こりゃまた、手酷くやられたな?アイリア。」

 

 そう言いながら、男が一人近付いてくる。あなたは男の顔をよく知っている、その男は…

 

「はぁ…昔からずっと勝てずじまいですよ、シュートもそうでしょ?」

 

アイリアが呼んだ、シュートと言う言葉。それが男の名前だった。そして、傭兵ギルドのNo.3でもある。

 

「コイツ、強すぎんだよなぁ…っとと、そろそろ報告が来るから、お前は部屋で待っとけ、アイリアは俺が見てるから。」

 

 あなたは、シュートから言われた通りに、ある部屋で待つ。部屋で待つ理由。それは、今日が1ヶ月に1度、月の始めにある、ギルド支部からの報告会なのだ。

 

 数分すると、各支部のリーダーがやってきて、十個ある椅子が次々に埋まっていく。そして、最後の椅子に支部のリーダーが座ると、エーテル風の吹く三の月の報告会が始まった。

 

■■■

 

 結果から言うと、三の月の最終的収入は、過去最高だったが、死亡者が数名出てしまっていた。

 

 生き返りなど、高位の神官か神様でも居ない限り不可能であるうえに、そう何度も生き返れるなどと、都合のいい話などあるわけもなく、一つの命につき、1度しか生き返れず、そのうえ、大量の供物を必要とするらしい。

 

 そのため、ギルド側でも、

 

 第一に自分の命

 

 と、優先順位の最上位を自分の命としている

 

 更に言うと、死亡者が出るときは、ある共通点が見つかる。

 

 一つ、それはエーテル風の吹く、三の倍数の月。

 

 これに関しては、広く知られていることで、エーテルに長時間晒され続けていると。エーテル病なるものにかかり、体に異常が発生し、いつしか死んでしまう。

 

 三の倍数の月は、高濃度のエーテルが風になってやって来るので、死亡者がどうしても出てしまう。そして、もう一つの理由がある、それは…

 

 

 

 『ノースティリスと言う所から来たと言う冒険者達であると言うこと。』

 

 何故か、彼らはすぐに突っ走るような性格のせいで、ギルド内でも、かなり死亡している。強者ともなれば、死ぬことはあり得ない、とさえ言われるほど強く、実際に、そう言われる者達は一人として死んではいない。

 

 しかし、そうではない者達はすぐに死にそうになる。

 

 そして、彼らが喋る不思議なことがとても気がかりである。その内容は…

 

『どうせ死に戻り出来るし平気平気』

 

 と言うものである。

 

 死に戻り…この言葉はそのままの意味なのだろう。しかし、そのような事が出来るなど、あなたは知らない。

 

 とにかく、ノースティリス出身と言う彼らは、特にギルド内でも死亡率の高い者達として記憶されつつある。

 

 第一にノースティリスなど、何処にあるのだろう…ここ、《グラナリア大陸》に、その様な場所など存在していないし、別の大陸が存在するのかもしれない。

 

 あなたはそこまで考えたが、仕事があるのを思い出して、急いでギルドマスターの部屋を出ていく。

 






《グラナリア》
未開の地がまだまだ残っている大きな大陸。
あなたの設立した傭兵ギルドは北西のリグシェリアに本部が存在する。

《リグシェリア》
多くのギルドが支部を置く、大きな町。
ここに本部が存在するのは傭兵ギルドだけである。
また、変わった店、変わった物等が数多く存在する町でもある。

《ノースティリス》
ティリスという大陸の北側にあるのでノースティリスらしい。
南はサウスティリスらしい。

《傭兵ギルド》
傭兵を生業とする者達が所属するギルド。
人手を要求される場所へとギルドメンバーを送り、金銭等の報酬を受け取り、それと引き換えに仕事をこなすのが、傭兵ギルドの主な仕事である。
傭兵の名の通り、戦争に駆り出される様な事があるかと言うとそうではなく、大体は、商人や店の店主、一般の人からの依頼や、町の方からの依頼だったりを請け負う。

《酒場》
( ´・ω・`)<やあ、おはよう。
その名の通り、酒を飲む場所。
お酒を売ってたりもするので、ギルドメンバー用のお酒なんかも、ここで仕入れている。
また、仕事の依頼をする掲示板が必ず置いてあり、その場所その場所での、人々の依頼を受けることが出来る。

(傭兵ギルドとの違いは、その土地に依頼主が居るか、遠くの町からの依頼か、等。)

《ギルドマスター》
そのままの意味で、ギルドの長である。
一年に一度、ギルドマスター同士の、報告会の様なものなどもあったりする。


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elona 四の月最初の仕事

 あなたは行きつけの魔道具店(ただし屋台形式。)の前で、依頼主と会う。

 

「やあ、いつも世話になってるね、傭兵ギルドのマスターさん。」

 

 今回の依頼の依頼主と挨拶を交わす。

 

 何度も依頼をこなしていた過去があったので、今ではすっかりお得意様みたいになってる。

 

「今回は南西の方へ食料を持っていくんだ、報酬はいつもより少し多めだよ。」

 

 依頼主から、依頼内容を聞きながら、あなたは道具のチェックをおこなっている。

 

 いざという時の回復系ポーション

 長距離移動向きの腐らない食べ物

 (パン類とアピの実や薬草)

 すぐに家に帰る為の帰還の巻物

 仕事の途中でも寝れるように、寝袋

 酒・酒・酒・酒・酒

 

 これらの道具を持っていることを確認し終えるのと同時くらいに、依頼主からの話も終わった。

 

「まあ、いつもと同じ距離なんだけど、この時期だと言う事だけは忘れないでくれ。大事な商品を持ってかれるわけにはいかないからね。」

 

 …と言う言葉を聞き、あなたは思い出します。

 

 四の月や、七の月など、エーテルの風が吹いた後は例外なく、荷馬車が盗賊団に襲われるのです。

 

「確かに、エーテルの影響で辛いのは分かるが、だからと言って盗みなんかされちゃ、こっちが困る。それを分かってやってるのかねぇ…」

 

 依頼主は、少し悲しげな表情をした。あなたは、無性に悲しくなった。

 

「…さ、シケた顔してないで、仕事しようか。護衛、よろしく頼むよ。」

 

 依頼主とあなたは馬に乗り、南西の町…リグシェリアから真南に存在する《王都シルベリナル》へ向かう。

 

■■■

 

パカラッ パカラッ パカラッ…

 

 馬の蹄が鳴らす音と、馬車の車輪が回る音だけが、延々と耳に入ってくる。

 

 周囲に人影はなく、あなたは持ってきた食べ物と酒を楽しんでいた。

 

「相変わらず…大食いだね、君は。」

 

 何度も食べている姿を見ているからこそ、口から出た想い。お得意様はいつもあなたの食べている姿を見ていて、飽きてすらいます。

 

 あなたは、酒を一気に飲みながら、周囲の警戒を怠りません。

 

 今までに何度も通った道なので、楽しげもなく、警戒を続けているあなた、すると…

 

 ガサガサ…と近くの草むらが揺れて、何かが現れる。

 

 なんとそこから現れたのは、ちっさな野うさぎ。

 

「…なんだ、ただの野うさぎか、盗賊団じゃなくて良かった…」

 

 お得意様はつまらなそうな顔をしながら、そう言いました。あなたはそれを見て、盗賊団の方が良かったか?と、つい聞きました。

 

「いや、結構、盗賊団はこりごりだ、何度も襲われてるから、もう会いたくない。あれだし、最近じゃ襲われたらもう仕事辞めようかなって…」

 

 あなたが聞くと、急にペラペラと口が動くようになり、何度目か分からない、盗賊団との想い出話が繰り広げられ始めました。

 

 よほど、嫌な想い出でもあったのか、途中、少しだけ涙目になってました、あなたはそれを見て見ぬふりをして、話を聞き続けました。

 

■■■

 

「いやぁ…お疲れさま、取り敢えず食べようか。」

 

 あなたは、暗闇の中、一つだけポツンと置いてある焚き火の近くに座って、依頼主とご飯を食べていた。

 

 あなたと依頼主は道中、山の近くを通り、そこに偶然あった洞窟で一夜を過ごそうとしている。洞窟の中なので、月や星の光も入ってくることは無い。

 

「やっぱり、出来立てのご飯は美味しいね、君が護衛で良かったよ。」

 

 あなたは、持ち前の料理スキルで料理を作り、依頼主と一緒に食べている。

 

(因みに、腕前的には、王都の王様専属コックが唸る程である。)

 

■■■

 

「ご馳走さま、またよろしくね。」

 

 あなた達は食事を食べ終え、再び街道を馬に乗っていく。

 

「もう夜だ、いつも通り交代でいこうか。」

 

 そう言いながら、依頼主は荷馬車の中で睡眠を始める。あなたはそれを見た後、あなたと依頼主の間で決めたローテーションで王都を目指す。

 

 交代で寝て、起きて、干し肉を食べながら、ゆっくり目的地に向かう。

 

■■■

 

「はぁ…着いたよ、起きてくれ。」

 

 あなたは薄手のマントを被って寝ていたところ、依頼主に起こされた。そして、到着したとの言葉を聞き、伸びをする。

 

「いやはや、今回は襲われなかったね、誰かが全滅させてたか…他の荷馬車が狙われてたか…まあ、幸運だったかな。」

 

 あなたは、リグシェリアを離れて、四日後に王都シルベリナルに到着した。依頼主は荷馬車から袋を取り出してくる。

 

「はい、お疲れさま、これが報酬の金、後お望みの物を入れてある。また、向こうに着いたらよろしく。」

 

 あなたは袋を受け取り、了解の旨を伝える。そして、シルベリナルに居る友人の元へ歩いていく。

 

■■■

 

 あなたはおもむろに、王都にある傭兵ギルドの支部に入っていく。

 

「いらっしゃい。」

 

 と言う野太い声と共に、スキンヘッドで浅黒い肌の大男が、傭兵ギルドにあるバーのコーナーに出てくる。

 

 あなたは、その男にビアを注文する。そして、出てくるまで手をほぐしている。

 

「どうぞ、ビアです。」

 

 男からビアを受け取り、少しだけ飲む。微量しか飲んでないため、すぐに酔いが回ってきたりはしていない。そして、あなたは男にピアノを弾いても良いかと聞く。

 

「良いですけど…石を投げられても知りませんよ。」

 

 あなたは、構わないよと言って、ピアノの椅子に座る。先程の男が手を叩く。

 

 その音に反応して、何人か静かになる。

 

 あなたは、少し、深呼吸をしたのち、演奏を開始する。

 

■■■

 

 数分後、あなたの回りはチップ等で埋め尽くされていた。量で言うと、駆け出し冒険者の4ヶ月分の税金位はありそうである。

 

 そして、演奏を聴いていた者達は、手を叩き何かしら喋っているが、あなたはそれを気にせずにある人物を探す。

 

「…………」

 

 居た、割りと近い所に居た、どれくらい近いって目の前の席くらい近い、多分一番あなたに近い。心なしかその人物は頬を赤くしながらあなたを見ている気がするが、あなたはそれに対して大いに心当たりがある。

 

「…なんで普通に呼んでくれないのかなぁ…?」

 

 若干恥ずかしそうにしながら、あなたに近付く女の子。またかと言わんばかりにため息を漏らすその女の子を連れて、ギルドの外にあなたは出る。

 

 …足下のチップを回収しながら。

 

■■■

 

 後ろから何か視線を感じていたが、それを気にせずにギルドの外に出てきたあなたは、女の子の方を向く。

 

「…はぁ…久しぶり、会いたかった…」

 

 女の子はあなたに抱き付いてきた、あなたは飛び込んでくる女の子を抱き締めたら、頭を撫でてやる。

 

「んん…ふにゃぁ…」

 

 撫でてやると、猫みたいな声を出しながら、頭をあなたに擦り付ける。スリスリしてる、結構な時間。

 

「…んで、今日は何か用?」

 

 さっきの猫はどこへやら、と思いながら、あなたは女の子に用件を話す。

 

「ふーん…本部に来ないかー…ね。」

 

 そう、あなたはその女の子…名前を「ユンナ」と言うのだが、その子を本部に引き入れたいと思っているのである。

 

 理由はいくつかある、まず一つ

 

※いつでも会えるように

 

 二つ目は

 

※心配だから

 

 あなたが彼女を誘う理由としては、これぐらいである。その他理由はあるが、大体これが理由だ。

 

「確かにそうだけどさぁ…うーん…そろそろ時期なのかなぁ…」

 

 んー…と唸っているユンナ、あなたは無理に連れていく気は無いと言う事を伝え、答えを待つ。

 

「うん…うー…一緒に…行きたいかなぁ…」

 

 あなたはユンナにそれで良いのか?と確認を取る。

 

「うん…ここにはお世話になったけど、やっぱりあなたの近くにいたい…おとーさん…」

 

 ユンナはついてくると言ってくれて、あなたは一安心した。

 

 そして、最後に言った言葉はそのままの意味で、あなたが彼女の父親である。

 

 …最初に『義理の』と付くが。

 

 あなたはユンナに身支度をするように言った。

 

「うん、持ち物持ってくるから待ってて!」

 

 そう言い、ユンナはギルドの中にある部屋に走っていく。あなたはその様子を後ろから見ながら、ハーブを口に放り込む。(口に放り込んだハーブはモージアである。)

 

 数分後、ユンナは軽装備を身に纏い、バッグを両手に持ち、ギルドから出てきた。

 

 あなたは出てきたのを確認したのち、荷車を置いた場所に向かう。ユンナもそれを見てついてくる。

 

■■■

 

 あなたは、荷車にユンナの荷物を乗せ、リグシェリアに戻ろうとします。しかし、ユンナは少し振り返り立ち尽くしていました。

 

 あなたは、そんなユンナを見て、寂しいか、と聞きます。それにユンナは黙って頷きました。

 

 ユンナは暫くその場から動くことはなく、あなたも、それを待ち続け、ユンナがあなたの方を向くと、少しうつむきなから、抱き締めてきました。あなたは、そんなユンナを抱き締めて、ゆっくりとした足取りで、リグシェリアに帰っていきました。






《盗賊団》
ゲームでは、プレイヤーに遭遇すると、持ち金と交易品等を奪う。
ただし、逆に殲滅することも可能で、倒すと、盗賊団が溜め込んでた交易品を回収できるので、意外と美味しい。

《王都シルベリナル》
その名の通り、王都である。
多くの交易品、武具、珍品、珍味、あらゆる物が集まる場所。闘技場もあるし、色んな神様を奉ってる教会がある。

(ただし、様々な神の信徒が集まるせいで
信徒同士での暴力沙汰や信仰的問題が発生する。)

《ビア》
酒、他にも「クリムエール」「ウィスキー」と言ったような酒もある。
飲むと当然酔うのだが、他人に飲ませて、ある選択肢を選ぶと…?

また、呪われている酒類は、何故か他人に連続で投げつけられる事がある。

《演奏・演奏スキル》
そのままの意味で、演奏をするためのスキル。
演奏をすると、おひねりとして、金を投げられたりする。また、何か物等も投げられたりする事がある。

金庫、結婚指輪、結婚首輪、食べ物に武器、防具、果てにはアーティファクトまで、様々な物を投げられる。

ただし、演奏スキルが低いと 石を投げられる。
世界のどこかには、投石で、頭をパーンさせる人が居るらしい。

《ハーブ類》
モージア、キュラリア等のステータスに
大量の経験値が入る食べ物。
それがハーブである。
(味は激マズの模様)

キュラリア
全ての主能力の経験値が特大

ストマフィリア
全ての主能力の経験値大、満腹度は特大

マレイロン
魔力と意思の潜在能力上昇、経験値超特大

スペンスウィード
器用と感覚の潜在能力上昇、経験値超特大

モージア
筋力と耐久の潜在能力上昇、経験値超特大

アルローニア
習得と魅力の潜在能力上昇、経験値超特大


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elona 第六十五回 終末狩り

 あなたが王都シルベリナルから、ユンナと共にリグシェリアに戻ってきて、約二ヶ月が経った頃の話。

 

 六の月、ギルドリーダー集会にて

 

「今月だな。」

「ああ…またやるのか…」

「こちらのギルドからも、選りすぐりの強者どもを出そう。」

 

 集会所にて、あなたを含めた、十一人のギルドリーダーが話し合っている。その内容は…

 

 『第六十五回 傭兵ギルド主催 終末狩り』

 

 簡単に言えば、ギルド側で、危険認定した神器。

《ラグナロク》を用いて、意図的に終末を引き起こし、その際に出てくるドラゴン等を狩ると言うものである。

 

 主な目的として、ドロップ品の収集、ステータス向上、これらが目的となっている。

 

 六の月に行う理由は、十二の月は雪国の《アインスルーナ》で、聖夜祭が行われるので、多くのメンバーがそっちに行ってしまい、終末を起こすと、戦力不足で全滅するから。

 

 三の月は、二の月にチョコレート渡すの遅れて、参加できない、なんて事故を防ぐために無いのである。

 

 そんなこんなで、例年、六の月、または九の月に行う。因みに、三の倍数の月でしかやらないのは、エーテル風が吹くタイミングに合わせて、終末狩りを行う為である。

 

(終末を引き起こすと、エーテル風が吹き荒れる事になる特典付きでいて、エーテル風は有害なので、できる限り、エーテル風による被害を抑えるために、元々、エーテル風の吹く三の倍数の月だけでしか行わない。)

 

「こちらの支部では、人材は足りてますが、終末に堪えられるものが少なく…」

「同じく、こちらの支部も終末に堪えうる人材がおらず…また、比較的安全な土地のため、人材も最低限しかおりません…」

「我が支部には堪えうる人材は居ますが、人材不足でして、そう数は揃えられませぬ…」

 

 各支部から、様々な情報が出揃い。あなたは頭を悩ませた。

 

 去年よりも、圧倒的に数が足りないのだ。

 

 四の月最初の日の報告会で聞いていたが、死者が多くおり、その分、数が減ったのだ。歴戦の猛者だとしても、気を抜けば一瞬で死んでしまうような世界…そのうえ、イケイケな性格、その二つが組合わさると、一気に死亡率が上がると言うのに、丁度そんな感じの性格の人間が多すぎたのだろう…

 

「これは、本部から人員を出すしかねぇだろ、リーダー。」

 

 そう言ったのは、あなたの後ろに居た、傭兵ギルドNo.3のシュートだった。

 

「どうせ、悩んでたって意味ねぇし、どのみちやるんだ、選りすぐりのメンバーと武器を用意して、死ににいくしかねぇだろ。」

 

 あなたはその言葉を聞いて、覚悟を決めることにした。

 

 あなたは、今月の終末狩りを強行することにした。

 

 そして、ギルドメンバーに命令を下した。

 

 ・死ぬな

 ・自分の全ての力を引き出せ

 ・利用できるものは利用しろ

 ・神にすがるのも忘れるな

 ・最後の一人になっても戦い続けろ

 

 あなたは、そう命令した。

 

 死ぬな、は、あなたのギルド優先度最優先の、自分の命の事である。

 自分の全ての力を引き出せ、とは、肉体復活、精神復活のポーションを使ってのドーピングや、ステータスアップの出来る魔法、スキルを使いまくれと言う意味である。

 利用できるものは利用しろ、これは、使えるものは全て使え、全財産を注ぎ込み、ポーションを買うなり、武器の強化をするなり、どんなものでもいいからより強くなれと言う思いである。

 神にすがるのも忘れるなとは、己の力だけでなく、己の信仰する神の力さえ、利用して、戦えと言うことである。

 

 

 最後の一人になっても戦い続けろ

 

 終末狩りとは、常に命がけの狩りであり、皆、死を覚悟しながら臨む。

 人によるが、遺書を書くものだっている。

 死ぬ可能性があっても戦う、その理由とは…

 

 もっと強くなる

 

 ただそれに集約される。

 

 実は、傭兵ギルドの、ある呼び名がある。

 

『何かを失った者達の溜まり場』

 

 互いに、何かを失なったことがあると、何となくわかってしまう、だからこそ。

 

 誰でもいい、必ず生き残れと臨む。

 

■■■■■

 

 

「なあ、お前、今回の成功すると思ってるか?」

 

 あなたは静かに頷く。

 

「そいつぁ良かった、どうにも弱気になっちまって仕方ねぇ…」

「らしくないですね、シュート、いつものあなたならもう少し、」

「あー、はいはい、わかってますよー」

「はぁ…」

 

 あなたの目の前で、アイリアとシュートが会話している。あなたはそれを見ながら、大剣を磨く。

 

 あなたの愛剣である大剣は、力の無いあなたが、片手で持てるほどに軽く、それでいて力の増強、スピードの強化がされる、特殊な武器である。大剣以外には、連弩を使っていて、あなたが一番使っている武器である。矢の本数に物を言わせて、一気に群れを殲滅したり、矢の先端に塗られた毒で、ドラゴンを一気に弱らせたり出来る。

 

「なぁ、どこでやるんだ?」

「えーっと、確か…」

 

 シュートの問いに、アイリアが答える。

 

「リグシェリアの北にある、山岳地帯でやるみたい。」

「んー…上で引き起こして、谷底召喚になるかな…?」

「確かに、発動地点から少し離れた場所ってなると、谷底だったりするかもね。それを利用すれば、近付いてくる前に、半分ぐらい倒せるかも…」

 

 あなたは二人の会話を聞き流しながら、大剣を磨き終える。磨き終えた大剣は、不思議と輝いて見えていた。

 

■■■■■

 

 

 

「良いか!殲滅しろ!死者を出すんじゃねえぞ!」

 

 あなたの目の前で、シュートが大声で叫び、それに答える様に、集まったギルドメンバーが武器を掲げ、叫び返す。

 

 あなたは静かに大剣を抜き、地面に刺す。そして、腰から、一本の長剣を引き抜く。

 

 あなたの手に握られた剣こそ、終末を呼ぶ危険性から、危険神器判定を受けた剣《ラグナロク》である。

 

 剣を構えていると、遠くから、腹を空かせたドラゴンが1匹、飛んでくる。

 

「起きてきたか…リーダーから離れないように行動して!」

「リーダー、ラグナロクはどうだ?行けるか?」

 

 あなたは、無言で頷く。

 

 あなたの目の前に降り立ったドラゴンが、咆哮を放つと同時にあなたは斬りかかる。

 

 ドラゴンはそれに反応し、爪で薙ぎ払うが、あなたはそれをたたっ切り、ラグナロクで体を切り刻んでいく。

 

 そして、幾度か体に切り傷を付けた時だった。

 

 

 突如として、あなた達を突風が襲う。

 

 それを皮切りに、次は周囲を火柱が埋め尽くす。そして、火柱が消え、そこにあったのは…

 

 大量のドラゴンである、数はあなた達の三倍近くあるだろう。

 

「ほら出たぞ!射撃部隊、一斉射撃開始だ!」

 

 シュートの合図で遠距離攻撃を専門としているクラスのメンバーが攻撃を開始する。

 

 弾丸、ボルト、矢がドラゴンの群れに降り注ぐ。

 

 中には、追加射撃をする者、連弩による毒矢攻撃をしている者も居た。あなたも、負けじと使い込んだ連弩で攻撃する。

 

 多くの弾や矢は、ドラゴンの体に傷を付けていった。そして、それにやって倒れるのも、少なくはなかった。

 

「よし、射撃続けろ!アイリア!」

「わかってる!詠唱完了したわ、魔法部隊、お願い!」

 

 魔法部隊は、射撃部隊の攻撃中に詠唱を完了し、一斉に魔法を発動する。

 

 発動する魔法は様々で、広範囲に渡って、ドラゴンが殲滅されていく。

 

 そして、あなたはラグナロクを鞘にしまい、地面に刺していた大剣を引き抜く。そして、ドラゴンの群れに、正面から突撃する。

 

 それを見た近接職のメンバーが後ろから続く。

 

 射撃や、魔法で傷付いたドラゴンを、あなたは片っ端から切り伏せ、殲滅していく。

 

 

■■■■■

 

 

「あぁぁぁぁ…疲れた…」

 

 最後の一匹を倒し、終末狩りを終えると、シュートを始めとして、多くのメンバーが疲れからか、その場で倒れる。

 

「相変わらず…大変…リーダー、シェルターを…」

 

 あなたは、汗を拭いながら、シェルターをその場に設置し、メンバーと共に避難した。

 

■■■

 

 

「リーダー、まだか?」

 

 あなた達は、シェルターの中で、エーテル風が止むのを待っていた。

 

「早いとこ、武器類を回収して町へ戻りたいぜ…」

 

 あなたは、そう言っているシュートに、トレーニングマシンを使うことを提案する。

 

「やだよ!?疲れてんのにトレーニングとか殺す気か?!」

 

 さも当然のように拒否された、あなたは若干しょぼくれながらラムネを飲む。

 

 外の様子は、シェルターに付いている小さな窓からでしか確認出来ず、中々に待つのが辛い。

 

「まあ、仕方ないことだろうな、まずスタミナ切れで寝てるやつらも居るし。」

 

 あなたとシュートはすぐそばで寝ているアイリアを見ながら会話をする。

 

「ま、死者が出なかったのは良かったぜ…」

 

 あなたはその言葉に、深く頷いた。

 

 




★《ラグナロク》
神器(アーティファクト)の一つ。
不確定名は《全てを終結させる剣》である。
様々な固定アーティファクトの中でも、終末を呼ぶ類いのアーティファクトである。

《終末》
終末とは、特定の武器で攻撃していると発生する、恐怖のイベント。
初心者がこれに遭遇すると、まず生き残れない。
至るところで火柱があがり、高濃度のエーテル風が吹き荒れ、ドラゴン等が大量に湧くそれは、まさに終末である。

しかし上級者は、あえてそれに立ち向かい、モンスターを殲滅し、己を鍛える。
これが終末狩りと呼ばれるものである。
(作者は、これに遭遇したら死ぬ)

《アインスルーナ》
雪原に存在する、中規模都市。
クリスマスツリーや、スノーマンなど、他には無い交易品があり、商人なら、確実に大金を稼ごうとすると、ここは避けて通れないとさえ、言われている場所。

また、ここでは《聖夜祭》なるものが行われる。

《聖夜祭》
十二の月に行われる祭事。
十二の月は、全ての神が生まれた月とされ、日々の感謝として行われるのが、聖夜祭である。
多くの屋台等が出ており、多くの観光客が集まったりする。

《二の月》
二の月は、好きな人、お世話になっている人にチョコレートを送る文化がある。
一体どこの文化だったかは、遠い昔に忘れられたが、文化そのものは、根強く広まっている。

《ラムネ》
アインスルーナの聖夜祭時に出る屋台で売っている飲み物。シュワシュワしていて、仄かに甘いため、中々の人気を誇る飲み物。不思議とスタミナが回復する。難点は、とても冷たい事。


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elona 真夏のビーチ開拓依頼

 あなたはリグシェリアにある、傭兵ギルド本部のギルドマスターの部屋で寝ていた。あの終末狩りから2ヶ月後の事である。

 

 それは突然やって来た。

 

 不穏な気配を漂わせながら。

 

 コンコン、とドアがノックされ誰かが入ってくる音であなたは目が覚めた。

 

「失礼しまーす…って、また寝ずに仕事してたの?」

 

 入ってきたのは、あなたの義理の娘ユンナだった。

 

 まったく…と言いながら、あなたに近寄ってきて。

 

「これ…特殊大型依頼っぽくない?」

 

 そう言いながら、ユンナは一枚の依頼の紙を渡してきた。そこに書かれていた内容とは…

 

 王都シルベリナルより南、ビブラ海岸にビーチを作りたい、人員求む!

 

 …と言ったものだった。

 

 あなたはコーヒーを飲みながら、依頼が明らかなまでに、大人数で行くべき依頼だと判断した。

 

 特殊大型依頼…過去にあったものの例としては、町中で発生したバブルの殲滅や、突如発生した終末の対応等があった。

 

 あなたは、ギルドの依頼掲示板に紙を貼りに行った。

 

■■■

 

「おはようございます、マスター」

「おう!おはよう、リーダー!」

「…おはよう」

「おはよう、ところで、シュートはどこだ?金を返してもらわないと…」

 

 あなたが、ギルドの掲示板前に行くまでに何人にも声をかけられながら、掲示板前にたどり着いた。

 

 あなたが紙を貼り付けて、ダンッと言う音と共に特殊大型依頼の判子を押すと、周りのメンバーが掲示板に寄ってきた。

 

 あなたが紙を貼り付けてから、数分もすれば、掲示板の前が人だかりで大変なことになっていた。

 

 依頼を受けるかどうかの相談や、内容はどんななのか、そして、人だかりに紛れて女性メンバーにセクハラしてる男が居たり。(直後、男は数名の女性に連れられ、個室へ入っていった。)

 

 あなたは、依頼を受けずに、報告を聞くだけにしようと思い、そそくさとギルドマスターの部屋に戻っていった。

 

■■■

 

 あなたは、目の前の壁を、ツルハシを使って掘っている。

 

 特殊大型依頼、『ビブラ海岸の開拓』を、掲示板に貼り付けてから数日、多くのメンバーが開拓に向かい、ギルド内は随分と寂しくなっていた。

 

 あなたは、話す相手も居なかったので、『鉱石採掘』の依頼を受けていた。

 

 あなたは、開拓されたビブラ海岸がどうなるのか、想像しながら、ひたすら壁を掘り続けていた。

 

 そして、依頼がそろそろ終わる頃、あなたの下にメンバーの一人がやって来た。

 

「マスター、海岸の開拓が出来たので、見てくださいよ。女の子いっぱい居ますよー?」

 

 あなたは、海岸の開拓が終わったと言う事を聞き、仕事を早めに切り上げて、海岸に向かった。因みに、女の子目当てではない。

 

■■■

 

 あなたは、ギルドの転送魔方陣でビブラ海岸までやって来たが、あなたはとても驚いた。

 

 あなたが最後に見たビブラ海岸は、ゴツゴツした岩場が多く、黒い土、砂ばかりで、南国のビーチ、と言うイメージとは、ほど遠かったが、あなたの目の前では、黄色の砂浜が広がり、黒い岩場は無くなり、何故か家っぽい物も出来てた。

 

「あ、リーダー!」

 

 あなたのそばへ、一人のメンバーが駆け寄ってくる。

 

 …やけに大きめな胸を揺らしながら。

 

 よく見ると、普段下ろしてる長い髪を後ろでまとめているアイリアだと気づいた。

 

「リーダー、どうです?大分イメージが変わってるでしょう?」

 

 あなたはその問に頷く。(内心、お前のイメージも随分と変わってるぞ、等と思ったのは内緒である。)

 

「そりゃそうだ、集まったメンバー数三十人ぐらい居たはずだぜ?」

 

 後ろからあなたに声をかけてきたのは、何故か手に謎のパンを持ったシュートだった。

 

「お前も、一泳ぎしてきたらどうだ?水が冷たくて良いぞー?」

 

 あなたはそれを聞き、海に入ろうか悩むが、悩んでいたら…

 

「入らねぇのか?ならば無理矢理!」

 

 等と良いながら、シュートが掴みかかろうとするので、それを回避すると、シュートはそのまま海へ飛び込んで消えていった。

 

「…シュートはいつも通りだね…」

 

 アイリアは呆れながら、海を見つめていた。

 

 あなたは、それにならい、海を見つめる。

 

 そして、砂浜には、シュートが持っていたパンが置かれていた。

 

■■■

 

 結局あなたは、海に潜ったりせず、眺めてるだけにして、シュート作の焼きそばパンを食べていた。

 

(なお、置いてあった焼きそばパンは、シュートが責任をとって、美味しく頂きました。)

 

 あなたは、焼きそばパンを食べ終えると、ギルドへ戻り、あることを始める。

 

 ビブラ海岸の宣伝である。

 

■■■

 

 あなたは、ギルドメンバー数名に、宣伝をするように言って、あなたも、行きつけの魔武具店に宣伝するように頼みに行く。

 

 カランカランと言う音と共に、その魔武具店に入る。

 

「いらっしゃいませー、ようこそルナの魔武具店へ。」

 

 と言う言葉と共に、店主の『ルナ』があなたを出迎える。

 

「あ、あなたでしたか、今日は何をお求めですか?」

 

 常連客に接するようなしゃべり方だが、あなたはまさに常連客である、しかも開店初日の最初の客ってぐらいに常連客である。

 

 そんなわけで、あなたはこの店と共に成長したようなもので、ある種の愛着がわく店となっている。

 

 買い物をしに来たわけではないと言う事を言ってから、あなたは本題を切り出す。

 

「え?宣伝ですか?…しかもビブラ海岸の?」

 

 当然のように、ルナは疑問符を浮かべる。

 

 ルナはビブラ海岸を自分の庭の様に言うのだが、その実、彼女は数少ないビブラ海岸を歩いている人物なのだ。

 

 そのため、ビブラ海岸がどんな場所なのか、誰よりも知っているのだ。

 

 あなたは、半月ほど前に出た、特殊大型依頼の事と、それによってビブラ海岸がどうなってるのかを、ルナに話す。

 

「へー…海岸を…」

 

 ふーん、と言いながら何かを考えてるルナ、大体こう言うときはふざけるのが、ルナの特徴なのだが…

 

「んー…あそこが黄色い砂浜だらけのビーチに…どんな風に言えば良いかなぁー…」

 

 …やけに真面目に考えている、あなたは少しビックリしている。

 

「んー、まあ考えておくけど時間をください、明後日ぐらいには宣伝を始めるので。」

 

 あなたは、ルナの事を信用して、この一件を任せることにして、店をあとにした。

 

■■■

 

 そして、一週間程過ぎた後のビブラ海岸には、人が溢れていた。

 

 男子グループで来てたり、女子グループで来てたり、基本的に同性で来て、なんかお見合いとかしてる人もいる。

 

 戦いのストレスを発散しようとか書いたと言う報告は受けていたのだが…何を書いたらこんなことに?

 

「あ、おはようございます、宣伝しておきましたよ。」

 

 あなたの目の前に、魔武具店の店主、ルナがやってきた。

 

 他の女性と同じような水着を着て、上から一枚服を羽織った姿で、所々健康的な肌色が見え、妙に危ない感じがした。

 

 また、控え目な性格のせいで、可愛らしく思える。

 (胸の辺りはしっかり主張しているが。)

 

 実際に彼女は、男どもの視線を独り占めしている。

 (彼女は気にしていない様だが。)

 

「え、えーと、なんでしょうか?」

 

 ルナはあなたの視線に何か感じたようだ、あなたは不快な思いにさせたかと心配になって聞いてみる。

 

「い、いえ、なんか…ちょっと恥ずかしくて…///」

 

 ルナは少し頬を赤くして恥じらっているが、あなたの耳には、周囲の男どもの舌打ちが聞こえてしかたがなかった。

 

「と、取り敢えず、ビブラ海岸の宣伝をしておいたので、これからもここに訪れる人は増えると思います、これで良いんですか?」

 

 あなたは頷き、ルナに感謝の言葉を贈る。

 

「い、いやこれぐらい良いんですよ、いつも買い物に来てくれてますし、日々の感謝と言いますか、まあそんなものだと思っていてください。」

 

 ルナはあなたにそう言うと、恥ずかしそうにしながら、あなたと分かれて、海に泳ぎに行く。

 

 あなたはそれを見たあと、ギルドメンバー全員との休暇でビーチに来るのも悪くないかなと思った。

 

■■■

 

「やっぱりあの二人良い雰囲気じゃん、早くくっつけば良いのに。な、アイリア。」

 

「あぁ…リーダーが遠くに…」

 

「…シュートです、アイリアに意見を聞いたら死にそうになってました。」




《特殊大型依頼》
大型モンスターの討伐、大人数を要求されるような、特定の依頼の事を言う。

《ビブラ海岸》
黒くゴツゴツした岩場に、黒めの土って言うか泥って言うか、ビーチって言うよりは潮干狩りに向いてそうな場所。
時おり綺麗な貝殻が落ちていたりするが、人はまったく来ない。

《転移魔方陣》
ギルドに備え付けされている魔方陣。
急ぎの用事等があると、使うことがある。
特に、終末狩り、報告会の時は使われている。
因みに、動力は普通に魔力なんだが、魔力自体は暇なギルドメンバーがチャージしている。
(MPを転移魔方陣に!いいですとも!)

《焼きそばパン》
おい、焼きそばパン食わねえか
が、何故かキャッチフレーズのよくわからないパン。
焼きそばとやらがなんなのかは、開発者のシュートしか知らない。

「焼きそばがなんなのかって?
 …気にするな!」

~傭兵ギルドNo.3シュートの言葉~


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elona 赤い液体を吐きたくなるほど不味い飯

「…えっと、美味しいですか?」

 

 あなたは、作られた料理を一口食べ、美味しいと感想を述べる。

 

「や、やったぁ!やりました!やっと褒めてもらえましたぁ!」

 

 あなたの感想を聞いて、目の前の女性…ルナは大喜びしている。

 

 事の発端は二週間前…ビブラ海岸であなた達を密かに見ていたシュートを絞めたあの瞬間から約二日後の出来事。

 

■■■

 

「りょ、料理を教えてください!」

 

 吹いた、お茶を、ルナに向かって。

 

「…あの、えっと…」

 

 あなたが吹いたお茶でびしょ濡れになったルナは、困惑しながらあなたを見つめる。

 

 あなたは少しすまなそうにしながら、風呂をすすめる。

 

「…はい、お借りします、覗かないでくださいね。」

 

 あなたはそんなことしないが、一応頷いておく。

 

 何故、突然家に来て料理を…などとあなたは考えながら、一応お茶を飲む。

 

 …なんか少し苦い。

 

■■■

 

 あなたは風呂あがりのルナから事情を聞いているところだが、話によると「食べ物が無かったので料理しようとしたら、料理が出来ないことに気づいた。」だそうだ。

 

 あなたが、女性なのに料理出来ないのは致命的なのでは、と指摘すると。

 

「だ、大丈夫です、問題ありませんから。」

 

 と、妙に自信満々に答えられた。

 

 しかし、教えてくれと言われた以上断る理由等無いので、普通に教えようと決心した。

 

■■■

 

「え、えーと、これかな?」

 

「あー、待って待って、焦げないでぇ…」

 

「味薄い…これくらい追加しよっと。」

 

 …何が起きているのだろう。

 

 あなたは、外から適当に摘んできた山菜で、簡単な炒め物を試しに作ってほしいとお願いしたのだが、なんか凄いことになりそうで、あなたは寒気が止まらなかった。

 

「で、出来ましたー!」

 

 目の前に、盛り付けされた、山菜の炒め物、あなたはこう思った。

 

 不味いな、黒い、食っても大丈夫か?

 

 等と心の中で思った。

 

 しかし、折角作ってもらったのだから、少しぐらいは食べよう、と言う使命感で口に運ぶ。

 

 直後、あなたの口に訪れる驚愕。

 

 苦くない、しかし、塩辛い、パッサパサ、焦げてるから、地味な苦味も感じなくは無いけど、これは酷い。

 

 正直、炭を食わされてないだけましだと思っていたら、塩辛いが故に辛かった。

 

「ど、どうですか…?」

 

 食ってから数瞬、ピクリとも動かないあなたに対して、ルナが声をかける。

 

 それに、あなたは最大限の笑顔と嘘で対応した。

 

 こ、個性的な味ですね。

 

 もう、それが限界だった、これ以上無い笑顔で、必死に本音を隠した。

 

「そ、そうですかー?え、えへへ…」

 

 心なしか、彼女の顔が嬉しそうに見えて、あなたは心から安心した。

 

 …本音がバレて無いと言う意味と、ルナを傷つけてない意味である。

 

 取り敢えず、あなたは基礎的な事から、ルナに教えることにした。

 

 …これから大変になりそうだ。

 

■■■

 

 二日後

 

 五日後

 

 一週間後

 

 ルナは少しずつ腕を上げていった。

 (相変わらず味付けは下手だったが。)

 

 それでも、焦がす事や、パッサパサになることも少なくなってきた。

 

「今日は何を作るんですか!先生!」

 

 …この様に、先生と呼ばれるようにもなった。

 

 今日も山菜の炒め物です。

 

「えー…」

 

 えーじゃありません、と言ったやり取りをしながら、特訓開始から二週間後の今に至る。

 

■■■

 

「これで私もいっぱしの料理人ですね!」

 

 そんなわけ無いでしょう。

 

「えぇ!?」

 

 あなたは頭が痛くなった、料理人なら、この程度では無い、作るもの全てが美味しくなくてはならないと言うのに、彼女は山菜の炒め物しか出来ていない、他の料理を作ったときに、問題ありと判断したら、再び特訓である。

 

 …こんなことなら、他の料理も作らせれば良かったかもしれないと、あなたは後悔した。

 

 

 

 …そして、案の定ダメダメだった。

 (ほうれん草とベーコンのパスタをつくれと言ったら、何故かパスタが焦げてたり、ベーコンのサイズがバラバラだったり、あげくの果てには、よく分からないソースが作られ、パスタにかけられていた、当然の様に美味しくなかった。)

 

 



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elona 悲劇は雪降る夜に

 料理教室から四か月半後の今。

 

 ギルドマスターの部屋の窓から見る町は、真っ白になっていた。

 

 気温はマイナス3度、いつもの光景である。

 

 リグシェリアでは、冬場絶えず雪が降ると言う性質を持ち、例年は気温が零度だったりするのだが、今年は少し低めだ。

 

 しかし、冬故に来る仕事もある。

 

 …大体が、雪かきか、雪で倒壊した家屋の修復、または撤去だが。

 

 そんなわけで、ギルドメンバーは中々ギルドに来ない、好き好んでこのくそ寒い中、家の残骸の撤去をやるやつなんてそうそういないからである。

 

 あなたは、火産みの魔法を使い、お湯を沸かす、そして棚からココアの粉を取り出し、ココアを作り始める。

 

 あなたは、魔法が得意ではないが、魔法を作る才能があったため、一般人でも使えて、なおかつ利用価値のある魔法をいくつか作り出していた。

 

 その一つが、今使っている火産みの魔法である。

 

 あなたはある種の感慨深い何かに包まれながら、温かいココアを飲んで、時を過ごす。

 

■■■

 

 昼時、昼食を食べる時間帯だが、あなたはスコップ片手に、ギルド前の雪かきをしていた。

 

 一応、あなた以外にも、二、三人が雪かきをしているが、中々雪かきが進まない。

 

 時おりギルドに来るメンバーは、皆共通して寒そうにしている、そのせいか、雪かきを手伝おうとするものは中々にいなくて、更に時間がかかる。

 

 因みに、二人は完全防寒装備で、もう一人に至っては、昼間っから酒をがぶ飲みして寒さを凌いでいる。

 

 そんなとき、昼時の美味しそうな料理の匂いが漂ってきて、それはあなたのお腹に空腹を訴えさせる、あなたは雪かきを中断し、昼食を食べに、町へ歩いていった。

 

■■■

 

 あなたは基本自分で料理を作って食べるタイプなので、外食をするような事はあまりなく、どの店が良いのか分からないが、以前ルナに教えてもらった店があったことを思い出し、その店に向かってみる。

 

 その店は、古い木で作られた椅子やテーブルが特徴の、落ち着いた店で、名物が新人吟遊詩人等が演奏する曲と言う店だった。

 

「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

 

 あなたはそれに頷く。

 

「かしこまりました、こちらへどうぞ。」

 

 案内されたのは一人用の席、まあ、一人で来ているので当然だが。

 

 案内された席に座って、あなたは暖かいスープとパンを注文した、そして届くまで、外の景色を眺めることにした。

 

 そう言えばもうそろそろか、と昔起きたことを、あなたは懐かしむように思い出した。

 

 そう、それは遠い…遠い記憶。

 

■■■

 

 どれだけ前の記憶だっただろうか、もうそれも思い出せない。

 

 しかし、あれだけは思い出せる、リグシェリアを襲った寒波、今では《天災もたらす大寒波》と呼ばれる、過去最高の寒波が迫ってきていた頃の事だ。

 

 その時、まだ十にも満たない歳だったあなたは、父の後ろについていき、雪山の上へ向かっていた。

 

 どうやら、遭難者が居るらしいとの話で、十二人の救出隊を編成し向かっていたのだが、父は救出隊の一人だった。

 

 子供だったあなたは、危険であることなど分からず、父の後ろについていこうとした、当然止められたが、あなたは駄々をこねたのだろう、父の後ろについていっていた。

 

 吹雪が吹き荒れる中、父親と共に遭難者を探していたあなたは、奇妙な音を聞く、そして、父はそれを聞き顔を青ざめさせて、あなたを抱き抱え、急いで音から離れようとした。

 

 しかし、数秒後、轟音と共にやってきた雪崩があなたたちを襲った。

 

 あなたは、ひたすら冷たい雪に震えながらも、父の温もりを強く感じながら、目を閉じた。

 

■■■

 

 あなたは料理が出てくるまで目を閉じて、昔の事を思い出していた。

 

 あなたは、出された料理を食べ始める。

 

 因みにこれは後に聞いたことだが、その時の雪崩でリグシェリアの半分は雪に埋もれ、救助隊のメンバーは「誰一人として」戻らなかったらしい。

 

 その事を思い出しながら食べた、少し濃いめでいて、辛さを少し含んだ豆スープは、あなたの体を温め、不思議な、幸せな気持ちになった。

 

■■■

 

 あれから三日後、町は吹雪に見舞われていた。

 

「こりゃ…何軒か潰れるだろうな。」

 

「こんなに降ってればね…」

 

 あなたは、いつも通りギルドマスターの部屋でココアを飲んでいたのだが、シュートとアイリアがあなたにココアをたかりに来たのだ。

 

 そして、今リグシェリアには、数十年前の大寒波に匹敵すると言われている、寒波がやってきていた。

 

 なんだか、不安が頭をよぎっていると…

 

「リーダー!今、行商人の連中が…!」

 

 突然、あなたの元に来た連絡。

 

 よく聞くと、遠くから来た行商人が、丁度寒波の影響で降っていた雪の中を歩いていたらしく、雪崩で何人か埋まってしまったらしい。

 

 探すにしても、広すぎるので、ここまでなんとか来た、とのことだった。

 

 あなたは、急いでギルドメンバーにその事を伝え、タダ働きになるかもしれない事を伝えながらも、十人以上のメンバーを連れて、行商人を探しに行った。

 

■■■

 

「タダ働きは勘弁だが、今回ばかりは仕方ねえ、急ごうぜ、リーダー。」

 

 メンバーの一人に促され、雪崩が起きた地点へ急ぐ。

 

 到着した時には、既に雪崩発生から10分近く経っていた。

 

 すぐにギルドから連れてきた雪狼、「シルバーウルフ」達で行商人を探す。

 

 そんなとき、あなたは昔の事を思い出した、雪崩に呑まれた時の事を、冷たい雪に包まれたあの日を。

 

 あんな冷たいのは嫌だと言う思いから、ある狩人と共同で開発したある魔法があるのを思い出し、それを発動する。

 

 「熱感知の魔法」

 

 狩人には、獲物を探すための魔法として、そして今のあなたにとっては…

 

 発動させた魔法により、視界が黄色に染まる、そして

何ヵ所かに人の形をした白く写る何かがあった、そこを掘るようにメンバーに指示し、少しすると…

 

 真っ白の雪の中から行商人らしき人物達が掘り起こされていく。

 

■■■

 

「カンパーイ!」

 

 直後、至るところから聴こえてくる歓喜の声。

 

 あなたは、ギルドメンバーと救出した行商人、合わせて三十人程と酒場に来ていた。

 

「いやぁ…ホントに助かりました、なんとお礼を言えば良いか…」

 

 隣には、雪の中に埋もれていた行商人達のリーダーが酒を飲みながら話してる。

 

 因みに、行商人は全員無事に助かり、荷車も無事だった。

 

 あなたの隣で酒を飲んでいる行商人からそう言われると、あなたは行商人達が今回の酒代を払うことについて言った。

 

「いやいや、今日の酒代だけじゃ、お返しになってませんって、私達は命を助けられたんですから。」

 

 あなたは右手に持ったグラスを傾け、酒を飲む。

 

 昔自分が経験したが故に、今回救うことが出来た、その事をあなたは複雑に感じた。

 

「いやはや…皆笑顔のままここに再び集まれて良かった…」

 

 あなたは行商人のその言葉を聞き、昔起きた大変だったと感じた事も、何かの糧になるのではないかと、ふと感じた。

 

 昔起きた…悲劇や、流れた血が…糧になるのなら…




《創作魔術・創作魔法》
あなたや、一部魔術師が作り出した魔法等の呼び名。
魔術ギルドが作られてから、新たに作られた魔法等がこう呼ばれる。

《家庭用魔法》
あなたが作り出した、火産みの魔法、水産みの魔法等の、一般人でも使え、生活に使える魔法の事。

《天災もたらす大寒波》
あなたが幼いときにやってきた大寒波。
異常なまでの大雪が降り、その結果、家の倒壊や雪崩など、全国で様々な被害が出た。
大雪が降り、吹雪が止んだ後の景色は、まさに白一色だったと言う。

《熱感知の魔法》
ある狩人と共同で開発した魔法。
元々狩人が、狩りに利用しようとして、開発したが上手くいかなかったところを、あなたが手助けして作った魔法。


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elona 赤い月、赤い湖、赤い、赤い…part1

 

 あなたは、ギルドマスターの部屋で居眠りしていた。

 

 そんなあなたは、ある音で起きることになった。

 

 ゴドンッ、と言う、重量のある何かが落ちた音が部屋に響いた。

 

 あなたはその音を聴いて起き、それを目視して確認した。

 

 それは、『かつてあなたの愛銃だった』物。

 

 あなたがこれを使わなくなって、既に数十年。

 

 壁にかけてあったのだが、支えが外れてしまったようだ、直すのも手間だし、まだ眠気がとれてないので、もう一眠りしてから直すことにした。

 

 あなたは、もう一度ソファで寝る事にして、ゆっくりと眠りに落ちていった。

 

■■■

 

##*※×

 

×*#前 ×※#野営地

 

※*部* コード▽▲ム『9』

 

記録

 

■■■

 

 ……、起き…、お…い…、おい起きろ。

 

 あなたは何者かに呼ばれ、眠りから覚める。

 

「よーう、そろそろ時間だぞ、仮眠はそれまでにして仕事の準備始めろよー」

 

 あなたの事を呼んでいた男は、銃を担ぎ、あなたの前から消えた。

 

 あなたはそれを見終えた後に、一緒に眠っていた『愛銃』を拾い上げ、装備の確認をする。

 

 あなたが使う武器は、『愛銃』、グレネード、持続燃焼型グレネード、スモークグレネード、C4やグレネードランチャー等、それらを迷彩服のいたるところに装備する。

 

 あなたが装備の確認をしていると、隣から突然

 

「いよっ、元気かい、坊主。」

 

 と言う声が聞こえてきた。

 

 そこには、頭部が寂しげで、ちょっとの白髪があるだけの、また、ヒゲも白い、歳めいた老人がいた。

 

 あなたは挨拶を返し、その老人を『No.8』と呼んだ。

 

「おーおー、徹底してるねぇ、ならワシも『No.9』って呼ばせてもらおうかのぉ。」

 

 あなたは頷き、装備の確認を再開する。

 

「お主の武器は、ワシらの部隊の中でも、一番に強いとされる銃じゃ、その力、見させてもらうぞぉ。」

 

 No.8は慣れた手付きで、銃の分解、組み立てをして、銃のコンディションを良くする。

 

 あなたも装備の確認を終えて、部隊の集合場所に向かう。

 

■■■

 

「来たか、No.9、…No.8は?」

 

 後少しだ、すぐに来るだろう。

 

「了解した、No.3、No.9にも例のを。」

 

「は、はいNo.1、どうぞ、作戦指令書です。」

 

 あなたよりも年は上だろうが、弱気な性格の女性、No.3から作戦の概要が書いてある紙を貰う。

 

「ほっほっほ、待たせたの、ワシが最後かな?」

 

「そうだNo.8、作戦指令書をNo.3から貰ってくれ。」

 

「ど、どうぞ…」

 

「ほっほっほ、すまんのぅ、嬢ちゃん。」

 

 あなたを含め、9人のメンバーが全員集まり、作戦説明が始まる。

 

「よし、これより説明をする、よく聞いてくれ。

 

 まず敵陣営は、先の攻撃…大部隊による連続狙撃により、バリケードを作り、その裏に立てこもる形で避難をした。

 

 そこで我々がグレネードを持ち、敵に一気に近づき、グレネードで一気に殲滅。」

 

「発言良いか、No.1」

 

 突然手をあげ、喋り始めたのはNo.7

 

「発言を許可する。」

 

「それは狙撃専門の俺もか」

 

「いや、お前には後方で観測主(スポッター)をして貰う、あと、時々でいい、敵の狙撃だ。」

 

「了解した。」

 

「…先程も言った通り、グレネードを持ち、一気に近づく、その為にお前らには強制脚力増強剤を渡す、こいつで一気に近づき、グレネードで殲滅だ。」

 

「その後のプランは?流石にグレネードだけじゃねぇだろ?」

 

 次に声を出したのはNo.5と呼ばれている男だった。

 

「当然…と言いたいが、殆どがグレネードだけで殲滅するように言われている、必要に応じて銃撃戦を…と言うぐらいだ。」

 

「な…」

「それ、かなり危険じゃないか?」

「ふざけんなよ、一部隊だけで特攻して全滅させろとか、どんな指令だよ!」

 

 部隊のメンバーが各々(おのおの)に思ったことをぶちまける、そしてそれに対しNo.1は…

 

「お前たちの言いたいことも分かる、だが傭兵である以上、命令は絶対だ、違うか?」

 

 その言葉に全員が黙りこむ。

 

「…リーダー、提案をしたい、許可をくれ。」

 

 沈黙を破って喋ったのはNo.6だった。

 

「…良いだろう、提案を許可する。」

 

 その言葉を聞き、No.6は綺麗な髪をかきあげながら立ち上がり、作戦提案をする。

 

「まず、敵陣営のスナイパー、見張りを早急に狙撃、奴等の目を奪い、その後、合図とともに散開したメンバー全員で敵陣地を一気にグレネードで破壊する…

 

どうだろうか、リーダー、この作戦は効果的だと思うが。」

 

「…狙撃要員はどうするんだ。」

 

「それに関しては…No.7とNo.8にしてもらいます、あとNo.9に狙撃をしてもらい、その後グレネードによる爆撃に参加して貰おうかと。」

 

「No.9、出来るか。」

 

 あなたは無言で頷き了承する。

 

「…よし、では今の作戦通りに進めるぞ。」

 

 その言葉を聞き、メンバーが全員立ち上がり、それぞれの愛銃を拾い上げ、No.1が一言言う。

 

「各自に命令だ、死ぬな、以上、準備にかかれ!」

 

 それを合図に、メンバー全員が準備を始める。

 

■■■

 

『こちらNo.2、指示を。』

 

「そのまま前進、突き当たりを左へ行って、十字路みたいになってるところの手前で止まって。」

 

『了解』

 

 No.7はスナイパーライフルのスコープを覗きながら、メンバーの通信に答えていく。

 

『こちらNo.6、指示をお願いします。』

 

「No.6はその場で待機していてください、しばらくしたらそちらにNo.1が合流するので、その後No.1と行動してください。」

 

『了解、待機します。』

 

「敵のスナイパーが潜んでおる、No.9、狙撃を頼めんかのぉ。」

 

 あなたは頷き、スコープを覗いてターゲットを探す。

 

「透明レーザーサイトを飛ばすから、ゴーグルを着けえ。」

 

 あなたは指示に従い、ゴーグルを着ける。

 

 すると、赤く光る1本の線が見え、その先に人と思わしき何かを見つける。

 

 あなたはスナイパーライフルの引き金(トリガー)に指をかけ、照準を定める。

 

 狙いを定め…一秒…二秒…三秒…時間がゆっくりと流れ、照準が相手の頭を捉えたその瞬間に。

 

 引き金を引き、敵の頭を撃ち抜いた。




《強制脚力増強剤》
無理矢理、脚の筋肉を増強させ、足を早めたりするための薬。

ただし、当然のようにデメリットもあり、薬の成分の影響で寿命が縮むと言われている。


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elona 赤い月、赤い湖、赤い、赤い…part2

 遥か遠方、ギリースーツを纏っていたスナイパーの頭に風穴があいたのを確認した貴方は、ゆっくりと息を吐き、スナイパーライフルのスコープを覗くのを止めた。

 

「ヘッドショット、相変わらずの腕じゃ、敵わんのぉ。」

 

 No.8がそんなことを言っているが、貴方からすると嘘にしか聞こえない、彼は見た目通り、中々の歳の筈なのに、そんな状態でも、バリバリに走れるし、スナイピングの腕はかなりのものだ。

 

 実際に比べると分かるが、貴方は敵の頭に100%の確率で当てる、百発百中のスナイピングだが、しっかり狙うので、時間がかかる、射程次第じゃ貴方の愛銃で撃った方が早い、それに比べNo.8は、敵がまばらに散ってれば一分に十人(ギリースーツを着てないことが条件だが)、密集してるなら、一分に20ちょっとは殺せるそうだ、聞いていると、味方ながら末恐ろしい話である。

 

「お疲れさまです、No.8、No.9、おかげさまで下準備が出来ました、No.8は引き続きスナイプを、No.9、これをどうぞ。」

 

 貴方が手のひらを差し出すと、強制脚力増強剤と何か、不思議な物を受け取った。

 

 ───────これは?

 

「片方は分かるだろう?そしてもう一つは…俺のお守りだ、前線に行く…恐らく一番危険な役回りのお前に渡しておく、俺は遠くから撃つしか能がないからな、持っていけ。」

 

「ワシらは後ろで援護しか出来んが、頑張れよ、坊主。」

 

 あなたは、二人の言葉に頷き、狙撃地点から走って、特攻かける。

 

「…No.7からNo.ALL、爆破開始!」

 

 合図が送られ、あなたの目の前で、相手の陣地が爆炎に包まれ始める。

 

■■■

 

「早く水持ってこい!消火を…」

 

 その言葉を発している途中で、背後から爆発が起き、喋っていた男は命を落とす。

 

「何なんだよおい!偵察してた狙撃班連中はどうした!」

 

 怒号が飛び交いながらも、爆発音は止まない。

 

「遠距離砲撃の可能性は!?」

 

「砲弾がとんでくる様子はない、敵に入り込まれてるんだ!」

 

「なんだとぉ!?」

 

「ここは撤退しよう!このままじゃ全滅だぞ!」

 

「お前、死にたいのか!?戦果が挙げられてないまま戻っても、お上に殺されるだけだぞ!」

 

「ならどうしろって言うんだ!」

 

 突然起きた、陣地襲撃、余りにも突然過ぎて、司令官連中も、頭が真っ白になってしまう。

 

「し、死神だ…死神が来たんだ…」

 

 一人の兵士がそう呟いた。

 

「そんなこと…そんなことあってたまるか!」

 

 その言葉を聞いた上官は声を荒げる。

 

「…撤退だ、どのみち全滅する可能性が高いんだ、逃げて体制を立て直してから、もう一度攻撃しよう。」

 

「だが!」

 

「それでもだ!…死神がいるなら、尚更さ、全員に撤退命令だ!急いで後退しろ!」

 

 その命令に、部下たちは従い、撤退用の合図を打ち上げる。

 

■■■

 

「撤退用の合図、確認できました。」

 

「よし、手筈通りだ、死神どもに補給物資でもくれてやれ、その場に留まるようにもな。」

 

「はっ。」

 

■■■

 

「おーい、お主ら、補給じゃぞー。」

 

「No.8、ちゃんと運転してくれ…」

 

「ほっほっほ。」

 

 あなたを含めた7人は、元は敵の司令室だった部屋で休んでいた。

 

「No.8…何が届いた?」

 

「食料と水、煙草、弾丸やグレネードじゃ。」

 

「ふむ…配布を頼む、平等にな。」

 

 皆、疲れからか、その場から動かず、No.8とNo.7が配って回った。

 

 あなたも、水と食料を受け取り、口にする。

 

「…なんか、これ変な味しないか?」

 

「あぁ、普段通りのレーションなら美味しくもないだけの食料なんだが…」

 

「…私…なんだか眠くなってきました…」

 

 何故か、水などを口にした途端に、全員の体調に変化が起きた、眠気によって、何人か倒れる様に眠り始める。

 

「これはまさか…薬か…?」

 

 そう言っているNo.1も眠りに落ちる。

 

 あなたは、他のメンバーが眠るのを見て、水を飲むのを止めた、が、貴方も次第に眠気に襲われる。

 

 しかし、あなたは眠らないようにしようと、立ち上がり、部屋の外に出る。

 

 

 

 

 しかし、幸か不幸か、視界には、恐ろしい物が見えた。

 

 あなたはそれを見て、眠気が無くなる、そして咄嗟に、持っていたハンドガンを取り出し、銃声を響かせる、すると、部屋からメンバーが飛び出てくる。

 

「な、なんだ今の銃声は!No.9、何が…あっ…た…」

 

 メンバーも、貴方が見たものと同じものを見て、眠気がとぶ、それもそのはずだ、何故なら…

 

 

 自分達の雇い主である筈の味方が、大量の戦車を連れてきて、こちらに向かっているからだ。

 

「おい、待ってくれよ、仕事はもう終わったんだよな?上の連中はここを潰したら、暫く(しばら)動かないって…」

 

「なのに戦車を連れてきて…何をすると言うんだ…?」

 

「…まず、戦車があるならそれで砲撃すれば済む話だった筈だぞ、なのになんで…」

 

 メンバーは、戦車が迫ってくるその様子を呆然として見ていた、すると突然、戦車の動きが止まった。

 

 何故か止まった戦車を見つめていると、砲身が上に上がっていく。

 

「…あ…あ、あぁ!」

 

「どうしたNo.7!」

 

「…逃げろ…皆逃げろ!あの戦車、『俺ら』を狙っている!」

 

 その言葉が終わると同時に、戦車の砲身から、砲撃音が響く。

 

 ──────次の瞬間

 

 爆炎によってメンバーのほぼ全員が、吹き飛ぶことになった。

 



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elona 赤い月、赤い湖、赤い、赤い…part3

 

 パチパチ…と、何かが燃える音がする、全身が激痛を訴え、脳が現状の理解を拒む。

 

 それでもあなたは地に伏していた顔を上げ、周囲の状況を確認する。

 

 

 目の前には、辛うじて意識のあるNo.7とNo.8、そして、二人のそばで声をあげているNo.3がいた、それ以外には、もう立ち上がる事の無いであろう、メンバーの死体だけだった。

 

 よく見るとNo.1の死体が無いと思い探せば、上半身だけになっている、No.1と思わしき死体も見受けられた。

 

 位置から見るに、直撃を受けたのだろう、吹き飛ぶことなく、上半身はそこに横たわったいた

 

 あなたは、砲撃の衝撃でクラクラしながら、三人の元に歩いて行く。

 

「う…ぁぁ…足…がぁ…」

 

「耳が…痛い…」

 

「お二人ともしっかりしてください!あ、No.9、回復は使えますか、お二人の治療を…!」

 

 No.3は焦っている様子で、あなたに話しかけるが、言われずともあなたは二人に回復を施すつもりだった、同僚を失うなど、あなたからすればトラウマものなので、全力で治療する。

 

「ワシらなんぞ置いて…はよう逃げんさい…」

 

「でもっ!」

 

 あなたはそのやりとりを聞きながら、No.7の治療をする。

 

「お前は…なんともないのか…No.9…」

 

 あなたはその問に首を横に振った、実際に、誰よりも軽傷に近かったNo.3と同じぐらいの軽傷ではあったものの、まだ頭にダメージが残っている。

 

 あなたがNo.7の治療を始めて一分、その頃にはあなたを含めて四人とも自由に動けるようになった

 

 そのことを確認したあなたは、愛銃を持ち、歩き始めた。

 

「坊主…どこへ…」

 

 決まっている、と、言わんばかりに、ある方向を向く、その先にあったのは戦車の列。

 

「まさか…一人で行くのか…」

 

「そ、そんな無茶な!」

 

 しかしあなたは、自分達が居ることを承知で、いや、自分達しか居ないことを知っていて(故意に)砲撃した事を許せない。

 

 戦いが終わって、さっさと家に帰り、また、仕事を見つけて、戦地に赴く、それが続くと思っていた。

 

 ただの傭兵仲間…知り合って長くもない仲間を失う様なことなどだが、それでもあなた自身が強く拒んだ。

 

 あなたは、自分の世界を、日常と友と呼べる仲間を奪った者達を許せなかった。

 

 あなたは、余っている強制脚力増強剤を飲み、走り始める。

 

「待て!お前───」

 

■■■

 

 あなたが、後ろに居た三人の声が届かなくなる距離まで走るのに、大した時間はかからなかった。

 

 あなたは、愛銃を右手に、左手にはグレネードを持ち特攻をする、戦車相手では愛銃の弾が貫通する事など無いと分かっているが、それでも突き進む、そして、全ての砲塔がこちらを向く。

 

 あなたは、息を飲み、愛銃で戦車を撃つ。

 

 そして、放った数発の弾丸が戦車に当たり、戦車からあなたへ砲弾が放たれた次の瞬間、世界が固まり、時計の音が響く。

 

 あなたは、止まってしまった世界を疾走する

 

 戦車は無視し、歩兵にめがけてグレネードをお見舞いする。

 

 そして、あなた以外の全ての動きと言う動きが止まってから数歩後、もう一度世界は動き始めた。

 

 あなたの背後からは、戦車の砲弾が弾着した音が響き、周囲の歩兵は、突然のグレネードの爆発に巻き込まれ死亡、あなたは手に持ったいた愛銃、マシンガンを滅茶苦茶に撃ち始める。

 

 戦車に当たっても弾かれるだけだが、弾かれ、跳弾した弾は兵士に突き刺さる。

 

 そして、滅茶苦茶に撃った弾の幾つかは、確実に兵士の数を減らしていた。

 

 そして、本陣となってる天幕目指している途中に、再び、時が止まる。

 

 あなたはその瞬間を使い、グレネードを一気にばらまき、ナイフを抜くと同時に天幕に飛び込む。

 

 愛銃を目の前に向けると時が動きだし、周囲から爆発音が連続する、そして、目の前に居た、元雇い主(裏切り者)は、恐怖で引き攣った顔を此方に向けていた。

 

「そ、そんな…ば、バカな…!」

 

 あなたは、目の前に居る男に聞いた。

 

 自分達の噂を知ってて、雇ったのではないのかと。

 

「しっ、知ってどうすると言うのだ。」

 

 死んだ仲間の為になる、そして、こんなことになった理由が分かるかもしれない、と告げた。

 

「ふ、ふん、死神風情に分かるものか!」

 

 あなたは、呆れたようにため息をつき、愛銃を撃つ。

 

「がっ…!あぁぁぁぁ!!!足がぁぁ…足がぁぁぁ!!!」

 

 涙目になってる殺害対象()に、あなたは再び問いかけた。

 

 殺害対象は、足の痛みに苦しみながら、他所からの依頼で殺そうとしたと伝えてきた。

 

 あなたは、あまりにもくだらないことで仲間が死んだと知り、怒りが収まってきた。

 

 あなたは、愛銃の引き金に指をかけながら、殺害対象にこう伝えた。

 

 次、殺しに来るのなら、俺だけを狙え、死神と呼ばれるようになったあの部隊の本当の死神は、自分だ、と。

 

 そう言って、男に引き金を引き、撃ち殺す。

 

 あなたは、後でボイスレコーダーにでも録音して伝えておこうかなと、殺したことを悔やんだ。

 

 しかし、殺したことの罪悪感は、一切なかった、あったのは、損をした、それだけだった。

 

 あなたは、姿をくらませる為に、天幕を出てすぐのところに居た兵士に、偶然ではなく、確実に時を止める、時止弾を撃ち込み、そこらの兵士から拝借したスモークグレネードを撒きながら、森に入り、姿をくらませた。

 

 結果、死神部隊などと呼ばれた部隊は全滅、戦車は無傷だったが、多くの兵士を失い、戦地は、荒れ果てた大地になった、と言われた。

 

 死神部隊メンバーの死体数が、メンバー数と合わないと言うことを知る者は、口止め、ないし暗殺された。

 

 本当の歴史を知る者は、ごくわずかになっていった。

 

■■■

 

 あなたは、久しく見てなかった夢を見ていたが、いつの間にか目が覚めていた。

 

 どこで夢が終わったか、どこから見てたか覚えてないが、この事を誰にも話すつもりは無い。

 

 あなたはソファから起き上がり、落ちていた銃を拾い上げ、机に置く。

 

 支えはもう放置して、ここに置いておこうと、あなたのめんどくさがりが発動し、考えてから、数瞬で即決した。

 

 さて、また今日も仕事だと、昔を懐かしみながらも、仕事を始める。

 

 昔、共に傭兵として戦った者は、もう二人しか残っていない。




《死神部隊》
戦場に現れたとき、必ずと言って良いほどに、敵に大損害を与える、恐怖の部隊。
タイマンで彼らに勝てるものは少なく、また、彼らは一人ひとりが何かしらの特技に特化している。
メンバーは9人で構成され、中でもNo.9と呼ばれた男は、とてつもない戦闘能力を持っていると言う。

《死神部隊殲滅戦》
あまりにも強すぎるが故に、秘密裏に排除するように命令が下った死神部隊の、最期の戦闘。
不意打ちで戦車の砲撃をしたが、一人が生存、特攻され。
大きな被害を出しながら、なんとか殲滅したと言う。

しかし、特攻してきた男の殺害をしたと言う兵士は、一人としておらず。
また、その男を含め、四人分の死体が足りないとされる。

そして、戦場となった地は、兵士の血と肉で、赤く染まっていたと言われた。


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elona 赤い液体を吐きたくなるほど不味い飯 2

 うっわマズ、超マズイ、とか言えねえ。

 

 と、久々に食べたルナの御飯は相変わらず酷かった。

 

 事の発端は、暖かくなり始めた四月の中旬の出来事。

 

 何故かこの前、「普段のお礼です!今度食べに来てください!」等と店の中で言われ、周りの人間から視線が飛んできて痛かった、と言う出来事があり、三日後の今日訪れたのだが…

 

 …何故こんなに不味いのか、ちょっと気になるあなたは、ルナにバレないように、トイレを借りると言って席を立ち、トイレに向かう振りをしてキッチンに向かった。

 

 

 

 目の前に広がっていたのは地獄絵図だった。

 

 ところで、あなたが食べた料理は、極東に伝わる味噌汁なる物と、白米なるものだった。

 

 あなたも自分で作って食べてみたが、とても美味しかった、なんか物凄く落ち着く味だった。

 

 …が、何故かやけに黒い味噌汁のスープ、そして、何故か置いてある砂糖の容器、白米も確認してみたら、水にヒタヒタになっていた、そして、何故か置いてある『食べかけ』ではなく『使いかけ』と思われる綿菓子。

 

 あまりにもあなたは衝撃的過ぎて、数分ほどその場で固まってしまった。

 

 そして…後ろから音がしたと思い振り向くとそこにはルナがいた。

 

 口を開け、呆然とした感じになっていたが、あなたと目が合うと、音の早さを越えんばかりに後ろに向かって猛然とダッシュ…が、それを見越して動いていたあなたに捕まり、離せーなどと言いながらルナはバタバタする。

 

 あなたは問う、何を作っていたと。

 

「わ、和食です。」

 

 和食は甘いか?

 

「美味しいです!」

 

 ふむ、それは同意する、だが…と少し力を抜き…

 

 背後から、禍々しい魔力を放ち始める。

 

「ひっ…っ!」

 

 思わず素で怯えた声を出したルナに対してあなたは。

 

 もう一度、特訓、しようか

 

 と、威圧しながら再特訓するスケジュールをたて始めた。

 

(何故綿菓子が?と聞いたところ、甘いの好きじゃないですか、等と言われ、だからと言って味噌汁を甘くするんじゃないと怒っておいた。

 

甘い味噌汁は好みでない、と言うかあるのだろうか。)

 

■■■

 

 あなたは、一週間漬けでルナを鍛え上げる事にした。

 

 泊まり込み強制で。

 

 それを聞いたルナが思わず、え゛っ。

 等と声を出していたが無理矢理である。

 

 み、店の経営が…と言われたら、明日から休みの予定だったでしょ?しかも十日、と入手している情報を突きつける。

 

 ルナの退路を絶ち、最期にトドメを刺す。

 

 そんなんじゃ嫁さんになれないぞ。

 

 

 …直後、ルナが「ごはぁっ!!」などと言いながら、盛大に吐血し、あなたは慌てて回復魔法をかけることになった。

 

■■■

 

 あなたは、町の食料店で料理の材料を買っていた。

 

 様々な材料を買い、店主に金を渡してその場を後にする、その時あなたは思いふけっていた。

 

 ここ最近、町の空気がピリピリしてるように感じる、理由は恐らくだが、何処かの国が戦争を企てていると言う、根も葉も無い噂によるものだろう。

 

 当然のように、あなたもその噂を耳にしたことはある、しかし、気にしてもどうしようもないと言うことで、特に気にしてはいなかった。

 

 しかし、あなたは戦争になることを恐れた、なぜなら、あなたは傭兵ギルドの面々が、戦争に駆り出される事を恐れているからだ。

 

 再び仲間を失う恐怖が、背中を撫でて消え去る。

 

 かつて死神であったその心臓は、大きく跳ねた。

 

■■■

 

 あなたは、家に帰り、ただいまと言いながら家に上がる。

 

 そんなあなたを待っていたのは、エプロンを着けて台所から出てきたルナである。

 

 あなたは、今いる別宅とは別の家に居る少女を思い出した。

 

 今はどうしているだろうか、と思いながら、昼食をルナに作らせる。

 

 いっそのこと、一ヶ月とかに期間延長しようかなと、考えながら。

 

■■■

 

 あなたがルナの料理を改善し始めてはや一週間、大分マトモに作れるようになった。

 

 パスタ類や山菜の炒め物等の料理は、普通に作れていたので、ある程度、料理のバリエーションが出来てきて、もう特訓の必要も無いだろう。

 

 …無いといいなぁ、とあなたは願った。

 

 これで、ルナが自炊など出来ると言う武器を得たので、これでましな嫁さんになるだろうと、まるで彼女のお節介をしていた気分になった。

 

 しかし、実際に付き合いは長いので、彼女の幸せは、あなたの望むところである。

 

 あなたは、ギルドの雑務をこなしながら、今日も料理を作った。

 

 




《魔力暴走》
感情の起伏によって、また、保有限界魔力量を越えると、魔力が暴走を始める。

現象は様々で、魔力の影響により周囲の生物の意識、精神を蝕んだり、周囲の物が動き出す、魔力がランダムに魔法化したりすることもあり、それにより火事になったりもしばしば。

《綿菓子》
極東の食べ物、砂糖を使って作るらしい。
極東ではどうやって作るのか分からないが、グラナリア大陸では火生みの魔法で砂糖を溶かし、風魔法でそれを細い糸にしながら冷やし、球形にしていくと出来る。

高熱過ぎると砂糖が焦げるので注意、あと、風魔法は風力が強すぎると何処かに飛んでくので注意。


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elona 戦争と傭兵ギルド、死神の復活

 あなたは、傭兵ギルドのけたたましい警報音を聞いて、起きることとなった。

 

 思わず飛び起きたあなたが耳を澄ませると、他のギルド支部からも警報音が聞こえてくる。

 

 何事かと思い外を見ると、遠方に警報を鳴らさなければならない正体が見えた。

 

 戦車 歩兵 戦闘ヘリ

 

 グラナリア大陸には存在しない、大陸外から来た兵器が列を作って迫ってきていた。

 

 アコマド大国。

 

 銃、機械の開発に初めて成功した国で、機械産業で栄えている国である。

 

 そして、多くの国を滅ぼし、土地を得てきた強国であった。

 

 あなたは、ギルドマスターの部屋を抜けて、ギルドロビーへ向かう、すると、メンバーの大半が集まっていた。

 

 騒ぎを聞き付けて、集まってきたメンバーの視線を集めるために、あなたは手のひらを叩き、パンパンと音をたてる。

 

 あなたは、口を開き、メンバーに話しかけていく。

 

───何人かは聞いているかもしれないが。

   アコマドが侵略してきた。

 

   数年前には死神部隊を

   連れての侵攻だったが…

   今は殲滅され、一人として

   生き残りは居ないらしいから、その点は

   気にしなくて良い。

 

   これより、傭兵ギルドは

   侵攻してきたアコマド大国の

   迎撃に出る。

 

   最善を尽くせ、以上。

 

 

 あなたはメンバーに対して、命令を下し、自身も準備を始める。

 

 メンバーの多くがギルドを出て、迎撃を開始する…

 

 そして、あなたも迎撃に出る…

 

 そのはずだった

 

 突然の轟音と共に、窓の外から強烈な光があなたの元に届く。

 

 そして…

 

■■■

 

 気がつくと、あなたが居た筈のギルドマスターの部屋はどこにもなく、ギルドそのものが姿を消していた。

 

 いや、【消し飛ばされた】と言うべきだろう。

 

 ところどころでパチパチと木が焼ける音がする、あなたはアコマド大国の戦車隊からの砲撃に巻き込まれたのだ。

 

 幸い、メンバーが巻き込まれた様子は無く、あなたは安堵する。

 

 あなたの装備していた薄手のマントはビリビリに破けていたので捨てていき、そして、大剣を背中に担ぎ、連弩を腕に着ける。

 

 そうこうしていると、視界の端に一つの銃が落ちていたのを見つける。

 

───死神部隊は殲滅された

 

 あなたは自分が言った言葉を思い出した。

 

 かつて自分達を裏切った、軍の連中が、今度は自分の町を攻めてきている。

 

 あなたは目を閉じ、おもむろに、懐に銃を閉まった。

 

■■■

 

 あなたは、町の大通り近く、町の入り口に一人で立つ。

 

 目の前から、ギルドメンバー達の隙間を縫って町を襲撃しに来た兵士が迫る。

 

 兵士があなたに気づくと、アサルトライフルで一斉に射撃してきた。

 

 あなたはそれに対して、背中の大剣を前に構え、弾丸を弾く、いくつかの弾丸は体を掠めて後ろへ飛んでいく。

 

 直後、あなたは大剣を担ぎ、一気に接近し、一息で切り捨てる。

 

 返り血は体、服、大剣を汚すが、あなたはそれを無視して走り出す。 

 

 次から次にやってくる兵士を切り捨てていると、どういう原理で飛んでいるのか分からない戦闘ヘリがやってくる。

 

 キュィィィィと言う音と共に、ヘリの武装と思わしき銃器が高速回転し始め、あなたは警戒しながら走り続ける。

 

 すると、回転していた銃器から多数の弾丸が大きな音をたてて射出され飛来してくるので、あなたは走るスピードを上げてそれを回避していく。

 

 あなたは、反撃をしようとしたが、あなたが全力で飛んで大剣で切り裂こうにも、恐らく目標を切り捨てる前に、飛来する弾丸があなたの体に穴を開けて死に至らしめる事は、容易に想像できた。

 

 しかし、あなたは魔法が得意ではないので、魔法で落とすのは出来ず、また、連弩では装甲を貫けず、毒の効果も無いので、落とせない。

 

 どうすればと考えたあなたは、ある方法を思い付いた。

 

 懐に手を伸ばし、あるものを手にする、それは、かつてあなたが使い続け、ある種の死を迎えたあの日以来使っていない、大事な愛銃だった。

 

 走りながらあなたは、愛銃に時止弾を装填し、ヘリに向けて撃つ。

 

 時止弾はヘリに当たり、一瞬時が止まっている間にあなたは大剣に手をかけ、ヘリの目の前まで飛ぶ。

 

 ヘリの目の前まで飛んだところで再び動き出したが、そんなのは関係無い、あなたは背中の大剣を叩きつける様にして、ヘリの操縦席を潰す。

 

 ゆっくりと、ヘリのプロペラが回る速度が落ちてきて、ヘリは重力に従って落下していく。

 

 そんな中、ヘリが落下してくるよりも早く落下したあなたは、足に多少のダメージを受けながら着地し、ヘリの予測落下地点から少し離れた場所で、あなたが使える数少ない魔法、《壁生成の魔法》を唱える。

 

 ヘリが地面に接触し、爆発と共にあなた目掛けて熱風が襲ってくるが、すんでのところで地面からせり上がってきた壁によって、あなたは無傷で済んだ。

 

 あなたは、熱風がおさまると同時に一気に前線へ向かう。

 

 そして、魔術師ギルドのメンバー達の横を走り抜けていき、更に、普段は陽の目を見ない盗賊ギルドのメンバーと傭兵ギルドのメンバーによる混成部隊を隙間を縫うように避けていく。

 

 そして…

 

■■■

 

「くっそ、敵が多すぎて捌ききれねぇ!」

 

「こ、こっちも…魔力が…足りなく…」

 

「おいっ!しっかりしろアイリア!」

 

 シュートは意識が朦朧としてふらついてるアイリアに声をかけながら周囲の敵を撃ち抜く。しかし、物量に押され、少しずつ敵が迫ってくる。

 

 そこに、突如として何者かが現れ、数名の兵士を切り裂き、弾丸を敵兵にお見舞いしていた。その者の顔を見ると…

 

 あなたが、血にまみれた体で、そこには立っていた。

 

「な、リーダーっ?!」

 

「その…血は…」

 

 あなたは、二人に背を向けたまま敵を切った時の返り血であることを説明した。

 

 あなたは、二人に回復魔法を使い回復させ、敵の方を見つめる。

 

─────シュート、弾薬箱を。

 

「弾薬箱?でもお前は連弩を使ってるんだから、弾薬箱じゃ…」

 

 そう言うシュートに対して、あなたは愛銃を見せる。

 

「銃なんて使えたのか?」

 

 あなたは、それに頷きながら、シュートから手渡された弾薬箱を受け取る。その場でリロードなんてしてたら格好の的だが、徐々に周囲を傭兵ギルドのメンバーが取り囲む様に、前線を押し上げて行っていたので、安心して特殊弾を補充する。

 

 あなたは、時止弾を補給し、立ち上がる。

 

 

 

 あなたは防具の類いを外し始めた、そして、同じ様に、連弩と大剣も外す。

 

「ちょ、お前何をっ?!」

 

 シュートが驚いた声で止めにくるが、それを無視して愛銃に時止弾を装填する。

 

────行ってくる

 

「っ……!」

 

 あなたは、最大限の殺意と敵意を侵略者(アコマド)に向けて走り出す。

 

■■■

 

 あなたは、多くの兵士を殺しながら疾走していた。

 

 銃を撃ち、兵を殺す。

 

 兵士の死体からグレネードを回収し、戦車に投げる。

 

 ヘリが来たなら銃で殴り付ける。

 

 時止弾は数が限られているので、あまり使わず、自慢の速さで翻弄しながら倒していく。

 

「銃を持ってこい!奴を止めろぉ!」「グレネードを投げろ!当たらなくても良いから足を止めろ!」「当たらねぇ!?」「くっそ…弾詰まりかよ…!」「アイツの銃はなんなんだ!」「ヘリを殴り付けて落とすとかどうなってやがる…っ」

 

 敵の混乱を確信したあなたは、残りの時止弾を駆使して一気に突破する。撃って、止めて、走って、殺して…

 

───見つけた。

 

 走っていると、敵の野営地を見つける、そしてそこへ向かって走っていく。最後の時止弾を兵士に撃ち込み、一気に走り抜けていく。

 

 チク

 兵士に弾丸を

 

 タク

 スモークを焚いて姿をくらます

 

 チク

 やけに大きな天幕に飛び込む

 

 タク

 目の前にいた男に銃を構える

 

 時止弾の効果が切れ、時間が動き出す。

 

 目の前に居た男も動き出し、あなたに向けていた背中が微妙に動きながら、何かを呟いている。

 

 あなたは、背後からその男を脅迫する。

 

「なっ…貴様どこからっ?!」

 

 あなたは、突然の事で驚いている男に動くなと言いながら銃を後頭部に突き付ける。

 

「っ…ふん、殺せるものか、殺したとしても、私の部下が貴様を殺して見せるぞ。」

 

 あなたは、出来るものならしてみるといいと、挑発する。

 

「きっさまぁ…!」

 

 男が怒りに震えていると…

 

「失礼します、司令か…っ、貴様何者だ!」

 

「侵入者だ!射殺しろ!」

 

 定時報告にでも来たであろう兵士に見つかってしまい、仲間を呼ばれた、しかし実にどうでも良い。

 

 どうせ、全員殺す

 

 あなたは、兵士の眉間に一発鉛玉をぶちこむ、それを聞き付けて兵士が来るが同じ様に殺す、司令官らしき男が逃げ出そうとしたが、頭に回し蹴りを当てて気絶させる。しばらくすると、天幕の周りが足音で騒がしくなるのをあなたは聞き、耳を澄ませる、すると…

 

「……ぇ!一斉射撃…やれっ!」

 

 天幕に向かって聞こえる掛け声が聴こえたので、あなたは這いつくばる、すると無数の弾丸が貴方の頭上を通っていく。天幕の布を破り、穴を作り、ボロボロにしていく。

 

「やったか…?」「仲間が居たのに撃つなんて…」「戻ってこないんだぞ?恐らくもう…」

 

 あなたは、敵に見えてない事を利用して、スモークを一気に焚く、すると…

 

 天幕内が一瞬のうちに、スモークでなにも見えなくなり、天幕の隙間、穴から外に漏れていく。

 

「これはっ…スモーク?」「ぶら下げてたのに当たって発生したのか?」「何かが燃えてるのかも…」

 

 外から声が聞こえてくる、混乱しているようだとあなたは感じて動き始める。

 

■■■

 

「くそっ…リーダーは…アイツはどうなったんだ…!」

 

 前線、傭兵ギルドのNo.3、シュートは考えていた。

 

「あの大軍に一人で突っ込むとかどうかしてやがる!早く戻ってこい畜生!…お前はなんなんだよ…っ!どうしてそんなに強いんだよ…」

 

 かつて、家族を殺され、力ばかりを追い求めたシュートでさえ、彼には届くことはなかった。

 

 殺意、敵意、それらだけは勝っていたつもりだったのに、アコマドに向けられた彼の殺意を肌で感じた時、思わず動けなくなった、それはまるで、絶対に勝てない相手と対峙したときのような…

 

 そこまで考えるが、目の前の敵がそれを許さず、次々に弾丸が飛んでくる。

 

 流石に避けるには弾丸が速すぎるので、前もって当たらないように動く。

 

 弾丸を避けたら、手に持った機関銃で敵を撃ち抜き、一気に近づいたら今度は背中に背負っているショットガンで頭を吹き飛ばす。周囲に敵がいなくなったら、スナイパーライフルで狙撃をし、かなり近く、しかしショットガンの間合いの外の兵士には二丁拳銃で戦う。

 

 銃を巧みに使い分け、敵を倒していると、敵の部隊後方から煙があがる。

 

「退却だ!退却だー!」

 

 突如として、敵は撤退を始める。

 

 それを見ていたシュートは、思わずその場で座り込み、息を吐く。

 

「な、なんとかなったな……もしかして、アイツが…?…一体…」

 

 シュートの脳裏には彼が浮かぶ。

 

 大剣で敵を切り裂き、連弩で的確に敵を撃ち抜く彼が、銃だけで突撃し、まさか本陣まで襲いに行ったとでも言うのだろうか。

 

 そんな考えが頭から離れなくなってしまった。

 

■■■

 

 あなたは、武器庫に来ていた。

 

 そして、グレネードランチャーを両手に取り、上に向けて撃つ。

 

 何処かへ飛んでいったグレネードランチャーの弾塊(だんかい)は破裂し、スモークをばら蒔く。

 

 何度も撃ち、すぐに野営地はスモークで包まれた。

 

 そして、新たな弾塊を装填し、移動を開始する。

 

 野営地から離れた場所に、高い場所に移動して野営地を見下ろす。

 

 スモークのお陰で見つからずに済み、敵が追ってきてない事を確認したあなたは野営地に弾塊を撃ち込む。

 

 しかし、今度はスモークではなかった

 

 

 空中で破裂したそれは、炎を撒き散らし、野営地を燃やし始めた。

 

 焼夷弾だ

 

 繰り返し、何度も撃ち込む、野営地は次々と焼けていき、兵士の叫びが聞こえ、物が焦げる臭いが鼻孔に刺す。

 

 何から何まで焼けていく、全て焼けていく、眼前に、眼下に広がる敵が、アコマドが、かつての依頼主(裏切り者)が焼けていく。

 

 そしてあなたは、全てが焼けるまで、その場で立ち尽くした。

 

 

 かつての復讐を果たした

 

 

 これで死神は、本当に死を迎えた

 




《アコマド大国》
機械産業で繁栄した大国
実力主義で周りの小国を戦争によって吸収、大きくなり、グラナリア大陸内でも有数の軍事力を持った国になった。

最近では、巨大人型兵器なる物も作っているらしく、レイヴンとかネクストとかリンクスとか色々な単語を町で聞くことが出来る。

《壁生成の魔法》
文字通り、壁を生成する魔法
用途は様々で、視界を遮ったり、通路を塞ぐなどが挙げられる。

《特殊矢弾箱》
矢弾の特殊弾を補充できる、特殊なアイテム。
しかし、意外と重い。

《リグシェリア決戦》
リグシェリアにて起きた、アコマド侵攻阻止の作戦。
町には砲撃が行われ、多くの死者を出しながらも、各ギルド支部、傭兵ギルド本部から戦力を出し、アコマドを退けた。

この作戦中に、傭兵ギルドのギルドマスターが単独で敵野営地を襲撃し、大損害を出したと言う記録が残っているが、真相は不明のままである。

そして、敵の野営地はその全てが焼け、何も残っていなかったと言う。

あったのは、死体と銃、佇む傭兵ギルドのマスターだけだったと言う。


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elona 戦いのその後

 ある日、夢を見た

 

 炎の海が眼下に広がる

 悶え苦しんでいる『何か』に右手の銃を向け

 引き金を引く

 

 弾丸は銃から流れ落ちようとしている血を纏い

 飛翔体となって空を駆ける

 

 赤の弾丸

 

 全ては、かつての復讐の為に

 奴らに死を叩き込む。

 

 

■■■

 

 ふと、目が覚めた

理由は分からない、しかし、体に貼り付く服の汗の量が、それとなく何かを示していた。

 

 ベタベタと貼り付く服を脱いで机の上に置く。

 

 汗の臭いがこもった部屋の空気を入れ替えるために窓を開ける、すると、涼しい風が部屋を満たしていく。

 

 今いるのは、久々の自宅

いつも寝泊まりしていたギルド本部は無くなってしまった為に、久々の帰宅となった。帰る前に損害確認や、他ギルドとの相談などで遅くなってしまったのだが。

 

 深夜だったのもあって、皆寝ていたが、少女だけが起きていた。明日の朝にでも食べられるようにと、料理をしていたらしく、エプロンと三角巾を身につけて台所に立っていた。

 

 音をたてないようにドアを閉めた、筈なのだが、少女の方に向き直るとこちらを見て微笑んでいた。表情は変えずにそのまま、お帰りなさいと言われたので、あなたはそれに応じて、

 

 ただいま と、言った

 

■■■

 

 そのあと、作っていたスープを貰ってから、体の汚れを落とし、眠りについていたが、先程起きてしまった、と言う訳なのだが。

 

 しばらく仕事をすることは出来なくなっていて、久々に牧場に行くことにした。

 

 仕事が無いのだし、たまにはゆっくりするのも良いだろうと、近くの牧場に向かう。

 

 こうして、『ごく普通の生活』をおくるのは、いつぶりだろう。

 

 珍しく、武器の一つも持たずに出掛けた。

 

■■■

 

 時おり強い風が吹く、夏空のような青い空、それはあなたの体を撫でるように吹き、昨日の出来事を忘れるようだった。

 

 長い坂道を上り、小屋へ入ると何体ものプチが小屋の中で過ごしていた。あなたはひとつの大きな桶に幾らかのご飯を放り込み、プチたちの前に差し出す。

 

 すると、多くのプチが群がってきて、一斉にご飯を食べ始めた。それを見ている間にも、もう二つ程の桶にご飯を放り込み、同じようにプチの前に置いてあげる。

 

 ふと、考えが頭をよぎった。あれだけの命を奪ったこの手で、生き物を育てていると言う違和感が。しかし、育てたプチたちも、最後には売り払うか肉にするかのどちらかぐらいのものだと気付くと、根っこの部分はやはり何も感じず殺すことのできる人でなしだと実感した。

 

 そして、昨日侵略してきた彼等と自分の差違を考え、ただ侵略したか、されたかの違いしかないことに気付き、ふと、苦しくなったような気がした。

 

 プチに餌をやった後、小屋の中に散乱している卵、乳、フンなどを掃除、回収していた。卵は料理として出し、乳は拒食症になった際の対策として取っておく。あなたが作業を終える頃には昼を過ぎており、最も太陽が高くなる時間を過ぎていた。

 

 あなたは一食抜いたぐらいではなんともないが、少女からちゃんと食べるように厳命されているので、家に帰り、昼食を食べることにした。

 

 長い坂道を、今度は下っていく。その最中、頭の中でふと感じたことがあった。それはまだ今ほど強くなかった頃の話。

 

────昔は、命のやり取りをしていない日の方が多かった、と

 

■■■

 

 その日、町へ向かうとそこには今までの町の面影は無くなっていた。

 

 痛みによって呻き声を上げる負傷者

 

 それをなんとか治療している医者、魔術師

 

 邪魔になっている瓦礫をどかしたり

 死者、負傷者を探している傭兵ギルドメンバー

 

 足の速さを利用し、町の損害を確認

 報告する盗賊ギルドメンバー

 

 

 今まで見たことのないような光景がそこには広がっていた。

 

「…んっ?おい、アンタ!」

 

 突然あなたは声をかけられ、声のする方を向く。

 

「アンタ、傭兵ギルドのリーダーだよな?よかった、来てほしい所があるんだ、ちょっと来てくれ」

 

 あなたは、そのお願いに応え、後をついていく。

 

■■■

 

 あなたが連れられてきたのは、急造と思われる建物。近場の木を木材に加工して作られたのであろうその小屋は窓すらなく、中の様子を伺うことはできない。

 

「失礼します!傭兵ギルドのリーダー殿をお連れしました!」

 

「入れ」

 

 ドアの前で、あなたを連れてきた人物は大きな声を出し、それに対して部屋の中から入室を促す声が聞こえると。ドアを開けて入るように促される。

 

 

「あぁ、久しぶりだな、昨日の活躍は伝聞だが伝わってきているよ。」

 

 そこには、盗賊ギルド、魔術師ギルドのリーダーが居た。




《牧場》
なんらかの方法で捕まえてきたペットを繁殖させる施設。

プチ等の肉に効果のあるペットを繁殖させて、その肉を食べて主能力を鍛える事も出来る。バージョン、ヴァリアントによっては大型ブラシを使うことによって肉の質を良くしたり出来る。

長い時間をかけて育てられた者ほど、良い肉、皮などを落とし、その売却額は野良の比にはならない程の金額になる。


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