マイ「艦これ」(第9部)「提督暗殺」 (しろっこ)
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序章<提督の思い出と共に>

これは志半ばにして倒れた美保鎮守府司令官の暗殺に関する報告書である。


 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:序章<提督の思い出と共に>

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提督暗殺に関する報告書

 

 

報告者

 

美保鎮守府所属 重巡洋艦 青葉

 

 

司令が亡くなってから早くも半年が過ぎようとしています。

 

まだ私の気持ちの整理が付きませんが、秘書艦……いえ、今は司令になっています。祥高さんの指示でこの記録をまとめているので立ち止まるわけには参りません。私も記者ですから人情と任務はキッチリ区別します。

 

☆☆☆☆☆☆

 

「兵士とは死へ向けた行軍だ」

私が一番最後に聞いた、司令の言葉だったと記憶しています。

 

今思えば私もあの時、ちょっと嫌な予感がしたんです。悪天候の中を司令が車で外出するのを、もっと強引にでも止めるべきだったと後悔しています。

 

あの時は寛代ちゃんや金剛さんまで引き止めていたんですよね。でも司令官は「大丈夫だよ」と言って単独で出られて……ああ、せめて私だけでも同乗すればよかった。

 

こんなとき日向さんが居たら恐らく強引にでも助手席に飛び込んで居たでしょうね。後からこの記録を見た彼女が横須賀から電話をしてきたときはお互いに絶句して……私も辛かった。

 

でも……。ダメですね。事実は事実ですから。悔やんでも始まりません。

 

定型の報告書はこういった重大な事件後は一週間以内に海軍省への提出の義務付けられています。祥高さんと大淀さんと協力して埋まらない部分は私が調査して、何とか文書に仕上げました。

 

裁判の記録もそうですが役所に提出する書類って淡々と事実だけを記述していくんです。過不足無く文章を組み立てていくために何度も何度も同じ箇所を繰り返して修正していくと……だんだん苦しくなるんです。その推敲作業が……。

 

私もこの事件の当事者の一人ですから、普通ならサラサラ書けるペンが、全然進まない。何度も祥高さんや大淀さんに叱責されながら……ああ、ごめんなさい。また涙が……。

 

☆☆☆☆☆☆

 

とりあえず司令のログファイルや日記、日報。さらに周りの艦娘たちの証言、そして陸軍や地元マスコミなどの協力も得て、何とかまとめあげました。

 

今となっては出来ればもう、あまり思い出したくないです。でももう一度、可能な限り詳細に再現して欲しいと命令が下りました。

 

その目的として

1)美保鎮守府の歴史の一つとして残すこと。

2)同時に今後の防衛対策としての資料とすること。

 

特に私たちに対する敵対勢力が

・深海棲艦

・シナ

この二つは分かれていたり、協力し合ったり。それぞれがバラバラで来たのです。

 

また後から分かったのですが

・この国の中にある私たちに強固に反対し暴力すら辞さない勢力

 

そういった集団があることを明白化し、同じつてを踏まないこと。

 

そして……祥高さんはハッキリ仰らなかったけど。流れを整理すると見えてくるものがあるという内容も含めて点検するために。

 

そう、あの事件のあと、報告書からは祥高さんの指示ですべて削除した項目があるのです。

 

それはあの大井さんが娘と一緒に消えたことです。

彼女が実は敵対勢力と関係があるのか?彼女はもしかしたら拉致されたのか?

しかし祥高さんはなぜ、彼女の項目を文書から削除するように命じたのか?

 

そこで改めて私、青葉が筆をとることになりました。

 

なお、この作業の過程では新しい事実や、別の報告書としてまとまる資料も出てくることと思います。それらの作成も平行して行って参ります。

 

また私自身、本来の業務もありますので、不定期に報告書としてまとまる事になるでしょう。そこは祥高さんにも了承を頂いています。新しい司令は、これは美保鎮守府が独自にまとめるものなので、焦らなくてもいいと仰っていますから。脚色してはいけないけれど、事実をなるべく詳細に、やり方は任せるとのことでしたので、私も司令に捧げるつもりで、しっかりまとめて参ります。

 

青葉記す




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※これは「艦これ」の二次創作です。
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「美保鎮守府:第九部」の略称です。


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第1話<電:故障直後>

豪雨の中、電は故障した軍用車の中で救援車の到着を待っていた。


「……なぜですか?」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第1話<電:故障直後>

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 さっきから凄い豪雨となっている。よりによって、こんな日に……と電は思った。

 

「夕張さんはまだかしら……」

 

車内で一人、取り残された電は、それでもダメもとで何度かエンジンを起動させようと試みるが、ウンともスンとも言わない。まったく反応がないのだ。

 

「ついさっきまでは走っていたのに……なぜですか?」

 

この新車の軍用車が美保鎮守府に納車されてから、ほとんど電が一人で運転を担当してきた。だから愛着があるだけに、不思議でならなかった。

 

 そんな電も最初に別の軍用車を運転したときには、ほとんど運転できなかった。それは司令の実家を訪問したときだった。あの時は霞ちゃんも激怒していたなあと、状況が思い出されて思わず首をすくめた電だった。

 

「それでも司令は私にこの車を任せてくれたのです。だから最後まで責任を持つのです」

 

雨の中、薄暗い車内で電は一人、呟いていた。司令の期待に応えようと努力した結果、今では電も目をつぶってでもできるくらい軍用車の運転が得意になっていた。

 

 本来は電の仕事ではなかったが、整備担当の夕張に教えてもらいながら可能な限りメンテナンスも自分でやっていた。だから、なおさら今日に限ってトラブルが起こることが不思議でならなかった。

 

≪電ちゃん、お待たせ。もう直ぐ着くからね≫

 

 無線で夕張の声が聞こえ、ホッとした電。すぐに後方から車のヘッドライトが近づいて来た。鎮守府のトラックに乗った夕張と、多分……霞ちゃんも来ているなと電は思った。

 

やがて軍用車に並行する形でトラックが止まる。電が出ようとすると無線が入る。

 

≪良いよ出なくて。とりあえずボンネット開けて。こっちで見るから≫

「はい、すみません」

 

電はボンネットのロックを解除した。直ぐに二人の人影……一人はやや長身の夕張さんと、もう一人は小柄な霞ちゃん……傘を持っているのです……そんなことを思っていた。

 

無線がオープンになっているらしく、夕張の呟く声が電にも聞こえた。

 

≪えーっと……あれ? 何コレ≫

 

 嫌な予感がしていた電だったが、やはり軍用車は普通ではない感じだった。夕張もちょっと考え込んでいる様子だったが直ぐに無線が入った。

 

≪聞こえる電ちゃん?≫

「はい……」

≪ここじゃ直せないからさ、もう引っ張るから。前のウインチ出してくれる?≫

 

えーっと、ウインチ……あまり使わないのでどれだっけ。そう考えていると直ぐに無線が来た。

 

≪左下の……信号みたいなボタンが並んでいるでしょ?≫

 

ああ、これだ。思い出した。緑のボタンを押すと、軽い振動があった。

 

≪電ちゃん、サイドブレーキ確認。あと私が良いというまでブレーキ踏んどいて≫

 

 テキパキと指示が出てくる。この豪雨の中を申し訳ないと思いながらサイドブレーキを確認してからフットブレーキを踏む。バックミラーには、尾灯が付く気配がした。それを見て電はふと思った。バッテリーは生きているのか……あ、でも軍用車だから、いくつか予備の系統があるのかな?

 

 いつも一緒に整備をしながら夕張さんがあれこれ教えてくれたっけ。そのときは訳が分からなくても、こういう非常時になると思い出すんだな。電は意外な効果にちょっと驚いていた。

 

≪お待たせ! じゃ引っ張るから、ワイパーは動くか分からないから雨で前が見にくいかも知れないけどトラックにぶつからないように注意してついてきてね≫

「わかりました……ありがとうございます」

 

思わずお礼を言った電。

 

≪良いのよ≫

 

夕張さんはいつも明るいよな。電は思った。

 

「霞ちゃん……でしょ? ありがとう」

≪……≫

 

反応はなかったけど霞ちゃんで間違いない。電には、そう思えるのだった。

 

「あの……司令は無事に戻られましたか?」

 

 つい心配になって聞いてしまった。夕張は驚いたように答える。

 

≪ええ? 司令? ……まだだけど。空軍の美保基地まで行ってたんだよね。確か≫

 

 まだ戻っていない? 空軍の定期便の出発が遅れているのだろうか? それともこの豪雨だから? なるべく良い方に解釈したいのだがダメだ。どうしても別の不安が電の心をよぎるのだった。

 

そもそも今日は、この車からしてオカシイ。いや、これは偶然だ。必死になって悪い考えを打ち消そうとする電。でも……ついには不安と情けなさで涙が出てきた。

 

≪とりあえずゆっくり出すよ。ハンドル操作とブレーキ、気をつけてね≫

 

夕張の声に改めてハッとする電。

 

「はい……なのです」

 

半分泣き声で答える。何となく霞ちゃんが呆れているような空気を感じる電だったが夕張は敢えて無視してくれているようだった。

 

 軽い衝撃があって、車はゆっくりと前へ進み始める。一部の電装品は生きているようで、車幅灯や尾灯などは点灯する。電はトラックに衝突しないように慎重にハンドル操作を始める。

 

 豪雨は激しさを増し、滝のように叩き付ける音が辺り一面に響いていた。その普通ではない音と状況が一層、電を一層不安にするのだった。

 

「司令……大丈夫ですよね?」

 

思わず呟いてしまった。無線は……閉じてるはずだけど。また涙が止まらなくなった。だめよ、しっかり前を見ないと……そう言い聞かせた。

 

 




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第2話<当日朝:女王陛下>

当日の朝。美保鎮守府は防衛次官と、ある来訪者を迎えていた。


「先生、お久しぶりです」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第2話<当日朝:女王陛下>

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 時間は当日の朝に戻る。その日は早朝雨で、気象観測によると夜には荒れる模様だ。

 

 その日、美保鎮守府には来客があった。防衛次官が付き添っていたから普通の取材や、いつもの視察の類ではないらしい。

 

 電の運転で美保空軍基地から定期便でやってきたという来客は女性だった。年齢を重ねた銀髪が美しい……階級はかなり上のほうだ。

 

真っ先にロビーに下りた金剛が言う。

 

「Oh!女王陛下様ネ」

 

堅苦しい相手であれば金剛のこの発言は極めて失礼に当たるだろう。しかしその女性はニッコリ微笑むと応えた。

 

「貴方が金剛ね。武勇は中央にも響いているわよ」

 

……ただそのひと言だけだったが、なぜか金剛は彼女の笑顔や雰囲気に圧倒されたようだ。思わず直立不動になった金剛は、珍しく敬礼をしている。

 

相手がただ者ではないことを感じたのだろう。何かを言いかけた比叡まで揃って敬礼……結局、ロビーに居た艦娘たち全員が敬礼をした。

 

「あら……良いのよ、改まって敬礼なんて」

 

その女性は微笑んだ。軍人独特の雰囲気は持ちながらも母親のように大きな包容力を感じさせる品の良い感じ……金剛の言う女王陛下というのが英国のそれを指しているとすれば、決して失礼ではないだろう。

 

「先生、お久しぶりです」

 

 美保鎮守府の司令が直々に玄関ロビーまで出迎えている。他の艦娘たちは遠巻きに見ている。女性は言った。

 

「あら、ホントね……次官が強引につれてきた理由は、あなたのことね」

 

横にいた防衛次官は少し驚いている。

 

「え? あ。お知り合いだったんですか?」

 

その女性は少々怪訝な顔をした。

 

「あら、今回の訪問はそういうことじゃなかったの次官……でも良いわ。お元気そうね貴方も」

 

彼女に声をかけられた司令は手を差し出した。二人は握手をする。

 

「ありがとうございます……でも、毎日軍人らしからぬストレスで一杯です」

 

女性は握手をしたまま微笑んだ。

 

「ホホホ。あなたの性格で艦娘を中心とした日本初の部隊じゃ無理も無いわ。でもほらケッコンすればいろいろ変わると言うわ。特に艦娘とはね……お互い極と極ですから」

 

いきなりケッコンの話題? 

 

「そうなんですか?」

 

握手を解いた二人。女性はニコニコしている。

 

「そうでしょ? 貴方。普段からストレスでいっぱいって言ったじゃない? でもそれは貴方がまだ独身だったからよ……でもこれから変わるわ。孤独ではないから。どんなことでもお互いに相談したら良いわよ」

 

防衛次官はきっちりメモを取っている。

 

「そもそも夫婦は対立したり葛藤するべき関係じゃないの。最高のパートナーよ。1たす1は2というのは唯物論ね。でも夫婦は違う。合わさった結果は4にも5にもなる。人間、いえ艦娘も含めてケッコンは無から有を生み出すことの出来る唯一の権限が与えられることよ。それが艦娘となれば……分かるわね?」

 

さすが教官という感じだ。言葉の内容だけでなく、その語り口も説得力がある。

 

「あなたが興味本位で伴侶を選んだのではないことを信じているわ」

 

あれ? という表情の艦娘たちが多い。少しざわついている。もしかして司令は結婚したの? いつの間に、いったい誰と……? 

 

でも司令は何食わぬ顔で応えた。

 

「そうでした。お恥ずかしい限りです」

 

本省から次官と共に来た女性武官は、もちろん艦娘ではなかった。そして彼女は司令官のよく知った人物だった。彼女は兵学校時代の教官であり、いわゆる恩師であった。そして彼女はこの美保鎮守府にとっては重要な人物なのだ。

 

次官がようやく口を開いた。

 




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第3話<数日前:面接>

事件数日前、美保鎮守府の提督は、ある艦娘との面接を行っていた。


「秘書艦と一対一ですか?」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第3話<数日前:面接>

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 事件のあったさらに数日前。お昼過ぎの執務室。提督は仕事が落ち着いた秘書艦、重巡:祥高に聞いかけた。

 

「祥高さん、相談なんだけど」

「何でしょうか?」

 

彼女は書類を整理しながら答える。

 

「あの大井の件でね」

「はい。彼女が何かありましたか?」

 

 提督は駆逐艦寛代に『クソ提督』と呼ばれ、その単語が大井の娘から来たことを伝えた。

祥高はちょっと怒ったようだ。

 

「司令をそう呼ぶのはダメですね。私も姉に叱られます。寛代には私からもよく言い聞かせますから」

「あ……ああ」

 

提督自身は別にクソ呼ばわりされても何とも思わなかったが、姉……寛代の親の手前もあったなと納得した。ただ、このまま話題が終わりそうだったので彼は慌てて追撃した。

 

「えっとね……それだけじゃなくて」

 

だが彼女は応えた。

 

「はい、大井さんの心の問題のことですね。その件も私が対処しましょう」

 

分かっていたか。ホッとした。

 

「基本的には本人と面談するのが早いですが、それでもよろしいですか?」

 

直ぐに彼女は提案する。

 

「ああ、問題ない」

 

答えると同時に、彼女は次々と畳み掛けてくる。

 

「時間があれば直ぐにでも大井さんを呼び出しますが、面談は私がしますか? それとも司令がなさいますか?」

 

提督は一瞬躊躇した。

 

「え~っと」

 

複雑な女心は分からないからな……。彼は答えた。

 

「君に一任しても良いかな?」

「分かりました」

 

言うが早いか彼女は直ぐに無線連絡を始める。しばらくすると相手からの反応があったようだ。ブツブツとやり取りがあり、やがて彼女は報告をする。

 

「これから面談ということでよろしいでしょうか?」

「ああ」

 

この彼女のフットワークの速さはさすがだと、いつも思う。

 

「場所はここの応接室を使ってもよろしいでしょうか?」

「いいよ」

 

答える間もなく誰かがドアをノックする……多分、大井だろう。彼女も反応が早いよな。

 

「はい、どうぞ」

「失礼します……」

 

 ものスゴく暗い形相で大井がオズオズと入ってくる。ああ……何だろう、この異様な雰囲気は。提督はかつて自分が舞鶴に居た頃の彼女の姿を思い出していた。

かなりビクビクした雰囲気の彼女だったが提督の心の反応を察したのだろう。執務室の彼の顔を見ると急にホッとした表情を見せた。

 

「あの……お呼びですね? 秘書艦」

「はい」

 

秘書艦は立ち上がった。

 

「では大井さん、隣の部屋で私と面談を……」

 

彼女がそう言うと大井は急に怯えたような顔をした。

 

「あの……秘書艦と一対一ですか?」

「そうですが」

 

祥高、その言い方は怖いなと提督は思った。

 

「……」

 

また何かに怯えるような大井のこの目……提督には彼女の言いたいことは直ぐ分かった。

 

「祥高さん、私も同席して構わないかな?」

「はい、それは構いませんけど……」

 

そう言いながらも祥高は、提督の言葉で大井がまた明るい表情に変わるのを見て納得したようだ。

 

「分かりました。では二人で面談しましょう」

 

頭を下げる大井。

 

「済みません……」

 

 その雰囲気は提督が舞鶴に居たときとまったく変わらなかった。彼は思う。大井、これも何かの縁だ。出来ればこの美保に居る間に心の底から生まれ変わってくれ。

 

提督は切にそう願うのだった。

 




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第4話<数日前:面接2>

面接が続く。最初は躊躇していたような大井だったが、徐々に心を開き始めた。


「でも信じて司令……」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第4話<数日前:面接2>

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 提督があれこれ考えをめぐらせている間にも、祥高は大井に問いかける。

 

「寛代ちゃんから聞いたのですが、貴女の娘さんが司令を侮辱するような汚い言葉を使っていたそうです」

 

 目を丸くして驚いた大井。そして直ぐにオドオドした表情を見せ始める。祥高は先ほど提督が話をしていた内容……娘が提督を侮辱するような汚い言葉を使っていたという説明をした。

 

大井はビクビクしながら聞いていた。それはかつて艦娘たちを苦しめた無慈悲な敵だったのが、まるで嘘のようだな……と提督は思っていた。

 

やがて彼女は言葉を選ぶようにして聞いてきた。

 

「あの……それは一体どのような言葉でしょうか?」

 

え? まさかそれを具体的に聞くわけ? まあ、仕方ないか……提督がそう思っていると祥高はちょっと躊躇したようだった。彼女は横に居る提督にちょっと気兼ねをするように慎重に言った。

 

「く……そ提督です」

 

 曙や霞ならイザ知らず、まさか真面目な祥高の口からその言葉を聞くとは予想外だったなと提督は思った。ところが大井は首をかしげている。

 

「スミマセン……よく聞き取れなくて。もう一度オネガイします」

 

改めて困惑した表情の祥高、もう一度ゆっくりと言う。

 

「ク・ソ・テ・イ・ト・クです」

 

 若干控えめな口調で、わざと区切るような言い方をした。だからボーっと聞いていると分かり難いかも知れない。案の定、大井は再度リクエストしてきた。

 

「あの、本当にスミマセン、もう一度……」

 

 何かに怯えて逃げ出しかねない表情の大井だから……ワザと言っている訳ではないだろう。だがさすがに何度も聞くと正直、傷つく……大井のことを想って同席したとは言うものの、これは私にとってもきつい面接だなと、改めて提督は感じ、知らず知らずのうちに額に手を当てていた。

そんな彼の仕草を見ながらも、秘書艦も腹をくくったのだろう。今度はハッキリと言い放った。

 

「クソ提督です!」

 

そう言い切った後で、さすがの祥高も真っ赤な顔をしてうつむいてしまった。だが彼女以上に大井はもっと真っ赤な顔をしている。

 

「あの……それはスミマセン。もうなんてお詫びをしたら良いのやら」

 

 応接室には、しばし気まずい空気が流れた。窓の外からは、演習をする艦娘の艦載機のエンジン音が響いている。やがてポツリと大井は言った。

 

「でも信じて司令……私はそんなこと教えてませんから」

 

彼女の表情や瞳には嘘はない……提督は、その言葉を聞いただけでもホッとするのだった。祥高も安堵したようにふっとため息をついてソファにもたれかかる。

 

 だが提督は思う。大井親子はずっと敵の勢力圏で生活していたのだ。そこから見れば帝国海軍は憎むべき敵だ。その司令官を見下すような思考で常に固まっているから、そういう発言をするのは至極当然だろう。

 

確かに提督自身は普通の人間であり、聖人君主でも何でもない。とはいえ普通の人間だからこそ正面からクソ呼ばわりされれば傷つく。まして、それが艦娘の幼い子供からとなれば、なおさらであろう。

 

 実はここ美保鎮守府でも駆逐艦の曙が、たまにそういった言葉を使うことがあった。でもなぜか彼女の場合には愛嬌を感じさせる。それは個性なのか? ちょっと不思議だなと提督は思った。

 

 ところが寛代のような表裏の無い生真面目な駆逐艦がそういう言葉を何気なく言うと、意外に傷つく。なぜか? それは考えすぎなのだろうか? 提督はちょっと腕を組んで考え込んでしまった。

 

 秘書艦の祥高も、ちょっと考えていたようだったが……この問題には、さほど深刻な意図は無く、徐々に解決していく。今後も注意はするとしても、鎮守府の運営にはさほど大きな問題にはならないだろう。そう判断したようだ。

 

 これで一件落着だろうか? 提督と秘書艦は互いにそう思い目配せをするのだった。

 

「だいたい分かりました。ありがとう、大井さん」

 

そう言いながら彼女は事前に準備していたメモ帳をしまい始めている。それを見た提督も、やれやれといった感じで組んでいた腕を解く。応接室には若干、安堵の空気が漂い始めた。

 

 ところが先ほどからうつむき加減にテーブルのコーヒーカップを見詰めていた大井が、またひと言呟く。

 

「でも……今でも私の心の奥には司令に対する恐れの気持ちがあると思います」

「え!」

 

 思わず声が出た提督。彼は、それはただならぬ発言だと思った。案の定、祥高も再び身を乗り出して大井に問いかける。

 

「それはどういうことですか? よかったら聞かせてくれる?」

 

秘書艦の表情は先ほどよりも柔和になっていた。大井は祥高の穏やかな表情を見ながら言った。

 

「はい……」

 

 彼女は改めてコーヒーを口にした。少し間をおいてから、ポツリポツリと語り始めた。

 

「舞鶴に居る頃、司令と私は同じ部隊に居たことはご存知だと思います」

 

提督と祥高は軽くうなづく。

 

「あの頃は北上さんも居て……私もまだ幼くて分からないことだらけで失敗ばかり。でも楽しかった」

 

遠くを見るような目をした彼女はフッと明るい表情をした。本来は素直で元気な良い艦娘なんだろうな……提督も秘書艦も、そう思わずには居られなかった。

 

「でも作戦参謀、特に新人の彼だけは嫌いでした」

 

率直だなと提督は思った。

 

「それは……今の司令ですね」

 

祥高が確認すると、大井はやや微笑んでうなづく。

 

「はい。もちろん参謀も一生懸命にやっているのも分かりましたけど……反りが合わなかったんでしょうね。私も幼かったし」

 

珈琲カップに目を落としながら思い出すようにして語る彼女。窓の外からは相変わらずエンジン音が散発的に聞こえてくる。

 

やがて彼女は提督の顔色を伺うように続ける。

 

「今でもちょっと怖いんです。立場とかそういうんじゃなくて……でも娘が生まれて私も寂しくなくなったから。以前より心が安定したと思うの」

「そう……」

 

そう言いながら祥高は珈琲を口にした。

 

「でも……」

 

 何かを言いかけて大井は口を閉じた。躊躇しているようだった。

 

祥高は、それに気付いて優しく声をかけた。

 

「大井さん、無理に話さなくても良いです。もし必要なら司令に席を外して頂いても……」

「いいえっ!」

 

その『司令に席を外して』という言葉を聞いたとき彼女は突然激しく反応した。提督と秘書艦は驚いた。

 

「その……スミマセン取り乱して」

 

大井自身、必死に呼吸を整えているようだった。

 

「でも、司令にもここに居て……その、聞いて貰いたい……です」

 

振り絞るようにして語り続ける大井だった。核心に迫ったか。

 

 彼女も辛いだろう。しかし提督にとっても、それは古傷をえぐられる様な嫌な感覚があった。

だがこれを通過しないと大井の心の棘(とげ)は、永遠に抜けないのではないか? 今がその棘を少しでも抜くことができるいい機会ではないのか?

 

彼は、そう思うのだった。

 

 




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第5話<数日前:面接3>

大井の告白は徐々に核心に迫る。艦娘の苦悩を共有すること、それは指揮官として大切な勤めだ。


「……ああ私って本当は」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第5話<数日前:面接3>

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 しばらくの沈黙のあと、大井は口を開いた。

 

「参謀って新人で何も分からないから、私にもあれこれ押し付けてくるんだなって……それは分かっていたの。だけどやっぱり、すごく嫌だったの」

 

ああ、心が痛いと提督は思った。しかし秘書艦の祥高は表情をあまり変えずに大井の話を聞いている。

 

 大井は淡々と続ける。

 

「だからあたし何度も思ったわ……北上さんみたいに自然に参謀と接することが出来たらどんなに楽だろうって。でも分からない。参謀の前に立つだけで怒りに似た嫌な気持ちが湧き上がって来るの」

 

ここまで話すと彼女はテーブルの珈琲をすすった。しばしの静寂。時おり美保湾から演習の砲声が聞こえてくる。

やがて彼女は続ける。

 

「でも……なぜだろう。司令とは私が舞鶴で沈んだ後も何度かお会いした気がします」

 

大井は改めて、提督を見詰めた。彼は答えた。

 

「ああ、私もそんな気がするな……」

 

 彼は何度か見た悪夢や幻での大井(仮)のことを思い出した。しかし祥高の手前、それらの話はしなかった。何となく秘書艦もそのことには気づいている感じもするのだったが……それでも特に彼女からの突っ込みは無かった。大井は続ける。

 

「記憶がおぼろげで良く分からないけど……私、この美保鎮守府にも何度か来たような気がするの。もし本当なら多分敵の姿で攻撃していたでしょうね……ゴメンナサイ、そうだったら謝罪します」

 

急に立ち上がって、二人に深々と頭を下げた彼女だった。提督と祥高は顔を見合わせた。なるほど深海棲艦になっているときの記憶はハッキリ残っていないのか。それに答えるように彼女は続けた。

 

「ううん、でも私の娘のこととか参謀……いえ、司令のことだけはハッキリと覚えているの。でも不思議とそれだけで……後のことは全然分からない。何でかな……」

 

 彼女は立ち上がったまま窓の外を見詰めた。応接室からも時おり艦娘たちの艦載機が飛んでいるのが見える。大井は静かに続けた。

 

「でも、美保湾かどこかの海で北上さんに何かを言われた言葉は覚えているの……そこで私、初めて気付いたの」

 

その言葉を聞きながら提督は珈琲を口にした。ややうつむいて大井は呟くように言った。

 

「……ああ本当は私、司令のことが好きだったんだなって」

「ごほっ!」

 

提督が吹いた。

 

「大丈夫ですか!」

 

慌ててハンケチを取り出す祥高。

 

「だ、大丈夫だから」

 

提督は手を振る。しかし彼の内心は穏やかではなかった。いきなりここでそれを言うかな? 

 

 だが提督が自分のハンケチで珈琲を拭きながら正面を見ると意外にも大井は窓枠を背に振り向いて笑っていた。すべての重荷を解き放ったようにスッキリした彼女……逆光の窓辺で初めて見る大井の自然な笑顔に彼はドキッとした。

 

「うふ……ごめんなさい司令。でも今なら貴方のそういうドジなところも自然に受け入れられるの。舞鶴の頃だったら、ただ嫌悪感しかなかったわね」

 

「そうか……」

 

大井も変わったんだなと彼は思った。

 

 だが彼女は再び寂しい表情になって窓の外を向いた。

 

「出来ればそのまま、ずっと沈まないで……艦娘のままで今の私になれていたら良かったのに……そうすれば北上さんや司令とだって……」

 

 大井はそこで詰まって窓枠に手をかけてうなだれた。それを聞いた祥高はソファから立ち上がると大井の隣に立ち彼女の肩に手を置いた。

 

「誰しもがそう思うわ。だけど過去は変えられないの。今の貴女を形作っているのも、そういう全ての過去が積み上がって出来たものなのよ」

 

「はい……それは分かるんですけど」

 

うつむく大井の手を、祥高はやさしく包んだ。

 

「でも嬉しいわ。あなたの心の想いを話してくれて本当に有り難う。私はこの鎮守府では壁は作りたくない。何でも話し合える関係を作りたいの。艦娘同士、あるいは司令が嫌いだったらそれでも良いのよ」

 

秘書艦は少しかがんで、大井の顔を見詰めた。

 

「でもその想いも含めて、お互いに認め合える関係……皆が一つのファミリーでありたいと思っているの。私たちは家族なのよ」

 

 大井は肩を震わせている。どうやら泣いているらしい。祥高は大井をソッと抱き寄せた。

 

「あなたの気持ちは分かるわ……私も以前、向こう側へ行ったことがあるから」

 

それを聞いた大井は一瞬、ビクッと反応した。でも大井を見詰める祥高の眼差しは母親のようだった。

 

「誰も貴方を責めないから安心して。いつまでも私たちは一緒よ」

 

 再び大井は祥高にしがみ付くようにして泣き始めた。そんな彼女の背中を両手で抱き寄せながら祥高は続ける。

 

「私の方こそゴメンナサイね大井さん。あなたをブルネイで救出してから、まだ一度もキチンとお話していなかったわ……もっと早く、無理してでも時間を作るべきだった。これからは何か困ったいつでも良いから私に相談してね」

 

 提督は黙って窓辺で抱き合う二人の艦娘を見詰めるだけだった。ただこれで大井の心が少しは解放されたことを信じるばかりだった。

 

だが改めて彼は、秘書艦のお陰でまた助けられたと思った。

 

 艦娘たちは様々な過去を抱え、戦いながらも精神的には常に苦悩と葛藤の狭間に居るのだ。それは大井一人に限ったことではないだろう。青葉も言っていたように、あの強気の霞だって何か重い過去を引きずっているのだ。だからこそ無理に強がるのだろう。

 

 いや普段から、あまり強く出てこない電チャンだって遠慮して何かを我慢しているかも知れない。だからこそ彼女たちの心の壁を突破して一つになって行くこと。それが指揮官の務めである。そんなことを思う提督だった。

 

そのためには仲間の兵士のために命を落とすくらいの覚悟は必要かもしれない。

 

「兵士とは死へ向けた行軍だ」

 

彼はかつての恩師ともいえる指揮官の言葉を思い出していた。

 

 




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「美保鎮守府:第九部」の略称です。


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第6話<電と神通:故障>

軍用車が停車する。慌てる電。しかし……。


「……はい、エンストで」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第6話<電と神通:故障>

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 踏み切り前でそれは起こった。電は思わず呟いた。

 

「あれ?」

 

電が運転していた軍用車のエンジンが止まった。おかしい。クラッチを踏み間違えたハズはないんだけど。

 

「どうした?」

 

本省の防衛次官が後ろから声をかける。

 

「すみません……エンジンが止まってしまったので」

 

そう言いながら電は何度も再始動を試みるが反応がない。

 

「珍しいわね……」

 

後ろの『女王』が呟くように言った。もちろん電には、その呼称は大げさで相手に失礼に当たることは分かっていた。しかし心の中ではつい、そう称してしまうのだった。他の艦娘たちもそう呼んでいたから。

 

「あなたがこの車のメンテもしているの?」

 

『女王』が聞いてくる。

 

「は、はい! 始動しないので、エンジンを見て参りますなのです」

 

慌てすぎて変な日本語になった。恐らく司令よりも次官よりも、ずっと上の立場に居る『女王』に声をかけられて、つい焦ってしまう電だった。

 

助手席に居た神通が口を開いた。

 

「電ちゃん、点検は5分で終わらせなさい。それで無理なら直ぐに言って。私が秘書艦に連絡するから」

「はい」

 

軽く敬礼しながら電は自分一人だったら慌てて、パニックになっていただろうなと思った。すぐにボンネットのロックを解除すると、傘とライトを片手に豪雨が降り付ける車外へと出て行った。

 

 外の雨は冷たい。それでも早くしなきゃ……5分か。呟きながら電はボンネットを開けてライトで照らした。ええ? ありえない状況だった。

 

 車内では神通が女王と次官に詫びながら、取り急ぎ司令部へ無線を打つ。彼女は極秘の緊急無線周波数を持っていた。電は持っていない。

 

神通には今回、車に乗る前から嫌な予感がしていた。恐らくこのトラブルは電のミスではない。そしてVIPでもあるこの女王と次官を絡めて、誰かが何かを狙っている。だから点検も5分で切ったのだ。

 

珍しく胸騒ぎがする。こんな感覚は……遥か昔の記憶を呼び起こすかのようだ。

 

 ただ自分には秘書艦のように物事の裏まで見通すだけのスキルが無い。それは悔しかった。いや、今は任務を果たすことに集中しよう。そう思った。

 

 無線が通じた。彼女は秘書艦と話し始めた。

 

「秘書艦ですか? 済みません神通です。……はい、エンストで境線の手前で止まっています。時間がありませんよね……はい。代車を出してください。……え? いえ、何となく……そうですね。はい、分かりました」

 

 思わず即断で代車を要請した。恐らくこの車はもう動かない。そしてこの緊迫感は秘書艦も感じていた。彼女も直ぐに同意して鎮守府から代車が出る。

 

 空軍の定期便のフライト時間も迫っている。今日は悪天候だからなおさら急いだ方が良いだろう。下手をすると欠航になる可能性もあるのだ。

 

「あの……」

 

電から無線が入る。音が少し割れる。

 

「ごめんなさい、神通さん……」

 

やっぱりダメだな、神通はすぐに返事をした。

 

「電チャン、ご苦労さん。もう良いわ、早く戻って。代車を要請したから」

「……」

 

 一瞬絶句している電だった。あなたの気持ちも分かるけど今は優先順位があるのよ。そう思いながら神通は少し苦しくなった。その感情には自分でも驚いた。すると急に後ろから声を掛けられた。

 

「神通さんでしたか? 的確な判断よ。貴女が気に病む事はないわ」

 

女王だった。この人はかなりの高官らしいけど艦娘の気持ちも直ぐに汲んでくれる。理想的な指揮官の一人なんだな。神通は改めてそう思った。そしてなぜ司令を降りたのか? ちょっと疑問にも感じたのだった。

 

 すぐにボンネットを閉める音がして電が戻ってきた。全身ずぶ濡れだった。

 

「ご苦労さん」

 

直ぐに神通は持っていたハンドタオルを差し出した。すると女王もハンカチを差し出してきたので、神通は丁重にお断りした。すると意外にも次官が言った。

 

「俺もハンドタオルあるよ、使いな」

 

そう言ってやや大きめのタオルを出してきた。準備が良い人なのね。

 

「ありがとうございます……」

 

 エンジンを止めた責任感と、上官たちの優しさに電は何かがこみ上げてきた。タオルを受け取って濡れた上着を拭き、頭や顔を拭ったが涙は止まらなかった。でも少し恥ずかしかったので、しばらくタオルで顔を抑えていた。

 

神通はその姿を優しく見つめていた。この艦娘もイロイロな経験と人の心に触れて成長していくのね。

 

 素直な電の姿は頼もしくもあった。一人ひとりの成長が、私たちの鎮守府を支えていく伝統になるんだ。私も戦闘能力だけでなく、心も成長させていきたいな……ふとそう思う神通だった。

 




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第7話<当日朝:初代提督>

提督とは深い縁のある女性のことを、まったく知らない次官だった。


「でも美保鎮守府……懐かしいわね」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第7話<当日朝:初代提督>

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「まさか美保の司令と顔見知り……いや、師弟関係だったとは」

 

防衛次官はアゴに手をやりながら感心している。

 

「だから君は優秀だったのか」

「それは言い過ぎだよ」

 

次官に持ち上げられた司令は慌てて否定した。だがその女性は言った。

 

「うふふ、でも貴方たち美保鎮守府の武勇は全国に鳴り響いているわよ。いえ、もはや世界規模でしょうね」

 

司令は頭をかいている。女性は続けた。

 

「このタイミングでの艦娘量産化成功も大きいわね。普通なら彼女たちは単なる工業部品としてしか扱われなかった。海軍でもそう見る向きは多いの。その艦娘の地位向上にも大きく寄与したから、もう言うこと無いわね」

 

その言葉に、意識のある艦娘たちもうなづいている……とはいえ、青葉と霧島と、その周辺の艦娘くらいだった。イマイチ、ピンと来ない艦娘は他の艦娘に聞き直したりしている。

 

 その女性は改めて鎮守府本館のロビーを見上げ遠い目をしていた。

 

「でも美保鎮守府……懐かしいわね」

 

司令は確認するように言う。

 

「先生は確か、ここに居られたのですよね」

 

それを聞いて驚く次官。

 

「ええ?」

 

女性は微笑んだ。

 

「あら? やっぱり知らなかったのね、次官は」

 

慌てる彼。

 

「す、スミマセン」

 

次官は珍しく少し赤くなっている。艦娘たちの手前、少々ばつが悪いのだろう。案の定、島風や夕立が指を差して近くの艦娘たちに何か言っている。

 

「いいわよ……貴方も忙しいでしょうし」

 

 女性は改めてロビーの艦娘たちに向き直って、一人ひとりの姿をざっと見ている。彼女たちもまた姿勢を正していた。艦娘たちを見る女性の表情はとても優しかった。

 

「私はね、皆さん。ここ美保鎮守府の初代司令だったのよ」

 

へえーっと感心する艦娘たち、そしてまた驚く次官。

 

「ええ! 参謀長官が?」

 

 司令は次官のその言葉で恩師の女性が今、本省では参謀長官という位置にいることを初めて知った。つまり祥高の姉の技術参謀や妹の作戦参謀の上に立っていることになる。

 

「そうよ、驚いた? 私、兵学校で教員もやっていたし同じ女性だからってコトで選抜されたのでしょうね、きっと……だからここには懐かしい顔も見えるわ」

 

参謀長官と呼ばれた女性は数名の艦娘と目配せをし合っている。

 

 この鎮守府の開設から居る艦娘にとって……特に美保は最初、設立の趣旨からも駆逐艦を中心に構成されていたから小型の艦娘ほど彼女を知っているようだ。

 

逆に金剛や赤城など後から着任した大型の艦娘たちには馴染みがない。それはちょっと変わった構図でもあり、美保鎮守府の特殊性を改めて垣間見るようだった。

 

 司令は改めて長官に声を掛けた。

 

「先生、ロビーで立ち話も大変でしょうから」

 

彼女は振り向いた。

 

「そうね……じゃあそろそろ案内して頂こうかしら」

 

その笑顔は、秘書艦のそれよりも更に大きく包み込むような……そんな印象を改めて受けた司令だった。人間だから当然か……。

 

 彼は大淀を呼ぶと彼女たちを応接室まで案内をするように指示した。大淀は直ぐに次官と長官を応接室へと案内する。

 

「……?」

 

司令は長官は足が少し不自由なことに気づくのだった。

 




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第8話<チラシの裏、心の裏>

※ 記録年月日不明、青葉のメモより再構成。

なお青葉本人は記録に残すことを否定するが重巡または戦艦以上のみ閲覧制限を付けるなら、という条件付きでようやくオッケーが出る。



「オフレコですが……」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第8話<チラシの裏、心の裏>

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 青葉が静かな空間で実況をしている。

 

「はい、こちらはとても静かです」

 

 そこにやってきた提督は彼女に声を掛けた。

 

「お、青葉か?」

 

振り向いた彼女は提督に近づくとマイクを差し出した。

 

「司令、一言よろしいですか?」

「ああ」

 

提督は答えながら近くの机に寄りかかる。

 

「どうですか? 初めてチラシの裏へ来られた感想は?」

「お前が今、言ってたのと同じだ。ここは静かで良いな」

 

 彼も答えながらその空間を見ている。何処を見ても、ひっそりとしている。青葉もまたキョロキョロと辺りを見回しながら続けて言う。

 

「そうですね。私も、ここは初めてだったので少し驚いてます」

 

 提督は帽子を脱いで、軽く扇ぎながら言った。

 

「もっと早くこっちに着たら良かったかもな」

 

青葉も、しみじみとした表情でその言葉を受ける。

 

「はい。何となく裏って言うから後ろめたいかと思ったのですが、意外と良いかも知れませんね」

 

 チョッと間を置いて、意味ありげな表情をした彼女は手に持ったマイクのスイッチを切った。そのまま持っていたマイクやテープレコーダー、取材バック一式を机の上に置き始める。それを不思議そうに見詰める提督。

 

ひと揃い、取材用具類を置いた青葉は改めて彼を見た。

 

「オフレコですが……」

 

そう言いながら彼女は続ける。

 

「個人的見解ですが司令、この鎮守府でも、あれこれと心配し過ぎですよ? もう少し気持ちを緩めても、よろしいかと思いますが」

 

 何が始まるかと少々構えていた提督は、安堵したように肩に手をやる。

 

「そうだな、お前の言う通りだ。だから最近、肩こりも激しくて。これってやっぱりストレスかな?」

 

青葉は笑った。

 

「きっとそうですよ」

 

提督は、なおも腕を回している。

 

「あ、そうだ司令!」

 

急に思い出したように彼女は言った。

 

「ちょっと、そこのソファに腰掛けてください」

 

不思議に思いながらも提督は、帽子を机に置くとソファに腰を下ろした。

 

「そのまま向こうを向いていて下さいね」

「?」

 

 提督が彼女の言う通りにしていると直ぐに青葉はソファの背もたれの側に移動した。そして彼の双肩に、彼女の両手が添えられた。

 

「……あれ?」

 

提督が反応すると同時に、直ぐに肩揉みが始まった。思わず彼の顔から笑みがこぼれる。

 

「ほう」

 

笑みと同時に、後ろからため息。

 

「あー、これは確かに酷い肩こりだなぁ」

 

そう言いながら青葉は意外に上手に肩揉みをしている。提督は目を閉じている。

 

「なかなか……良いな。誰かに肩揉みしてもらうなんて初めてかも知れない」

「ええー、そうですか?」

 

 そう応えながらも彼女は美保司令のプロフィールを思い返していた。確か、舞鶴の失敗に始まり艦娘のために陰口を叩かれ続けてきた彼。海軍内でも恐らく誤解から中傷を受け続け敬遠されて来たに違いない。

 

「イイねえ、上手いな青葉は」

 

提督は言う。

 

「えぇー? そうですかぁ?」

 

 そう言いながらも青葉は想いを巡らせていた。彼の辿ってきた孤独な道。海軍でも同性の友人は、ほとんどいなかったのかも知れない。ただ一部の理解ある者を除いて……。

 

 そんな彼が美保鎮守府では艦娘たちに少しずつ理解されブルネイでは一つの結果を出した。それらを思い起こしながら青葉は肩揉みを続けた。

 

「司令に褒められるとは光栄ですね、うふっ」

 

 一方の提督は、まさか艦娘に肩揉みされるとは意外に思っていた。しかも青葉がそれをしているのもまた珍しい状況だろう。

 

「ねえ司令?」

「なんだ?」

 

二人そろって同じ方向を見ながら青葉は続ける。

 

「ホントに独りで悩まないで下さいね。大変だったら直ぐに秘書艦でも私でも……金剛さんでもいいですから、何でも相談してください。私たちは皆、司令の味方ですから……」

「ああ、そうだね」

 

 良く見ているな青葉は。記者だから基本的に彼女は知的だ。英語も操り観察力も分析力も並みの艦娘以上にある。

 

 だから……取材以外のプライベートでは、正直ちょっと近寄りがたい雰囲気があったのも事実だ。

 

 提督がそう思っていたら、彼女は続けた。

 

「私も記者やっていますけど……取材以外のことは不器用なんですよ」

「そうか?」

 

ちょっと手を緩めた青葉。

 

「でも司令にはいろいろお話したいですし、司令ご自身のことだって……」

「そうか」

 

 提督は想像していた。考えてみたら彼が彼女を敬遠するのと同じように他の艦娘たちも彼女を敬遠しているのかもしれない。そう思うと青葉も実は孤独なのだろうか?

 

 彼がそこまで考えていると青葉の手が止まった。

 

「疲れたのか? だったらもう良いぞ」

 

提督が振り向いて声をかけようとしたとき、青葉はそのまま後ろから提督の胸元に両手を回してガッシリと抱きしめた。

 

「……すみません司令」

 

この感じは、提督はブルネイの海岸での青葉とのやり取りを思い出した。

 

「私たち艦娘は皆、司令が頼りなんです。司令を通さないと結局、私たちは生きていく術が無い……戦闘能力だけあっても、やっぱり感情的な世界は人間である司令官や時々来られる防衛次官みたいな人と接することで初めて啓発されていくんです。人間なら誰でも良いわけじゃないんです……だからブラック鎮守府なんて最悪で」

 

 そうか、この艦娘もいろんなものを抱えているんだ。彼は改めてそう思った。

 

「ごめんなさい。ホントは『私たち』っていうよりも私個人の問題かも知れませんね。司令がそうであったように私もずっと誤解を受け続けて来て」

 

 青葉はそれ以上何も言えなかった。提督には彼女がこみ上げる物を必死に抑えているようにも感じた。彼には彼女の抱える世界が痛いほど理解できた。

他人と違う道を行く者、或いは特殊な能力を持つ者は、それと引き換えに多くのものを失う。だがそれが他から必要とされるなら敢えて自分を犠牲にすることも必要なのだ。

 

 別にそれは軍人などの公人にはに限らない。個人であっても当てはまる。そして人であれ艦娘であれ要求されるもの、そして失われるものは等しいに違いない。そう感じるのだった。

 

 物事には表と裏がある。そして目に見える表の顔がすべてではない。だから裏側は、なかなか常人には理解されない。でもそんな事情を汲んでくれる人は必ず居るものなのだ。

 

 さきほどから言葉を失って涙をこらえているような青葉。彼女に提督は語りかけた。

 

「分かるよ青葉。お前も辛かったんだな」

 

 提督は彼女の手に軽く触れた。青葉は、あのブルネイの海岸のときのように彼の背中に頭を押し付けてきた。

 

「スミマセン、司令。私もしばらく充電させて」

「そうだな。戦士にも休息は必要だ」

 

 青葉はアタマを背中に付けたまま提督の手を強く握り返してきた。その手は暖かかった。

 

少し時間が経って青葉が呟くように言った。

 

「司令」

「なんだ?」

 

ちょっと間を置いてから彼女は言った。

 

「男女間の……いえ、男性と艦娘との間でも友情って成り立ちますよね?」

 

 少し考えてから提督は答えた。

 

「ああ。私は十分にあり得ると思うよ。むしろ人間同士よりも、それは強いかも知れないな」

 

彼女は提督の背中で、少し顔を上げたようだった。

 

「……はい。青葉も、そう思います」

 

 強そうな艦娘ほど実は内面は繊細だと思うのは、こういった瞬間だと提督は思った。青葉もそんな一人だった。思えば艦娘なんて、そんな事情を抱えている娘ばかりではないか?金剛も、赤城も、あの霞だって……。

 

 人間社会、いや海軍内でも浮いていると感じることが多かった提督だった。しかしこの時間を通して、美保鎮守府に推挙してくれた中央の判断は、意外と的確だったのかも知れないなと。そんなことを思うのだった。

 




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第9話<電の葛藤:直感>

地上勤務の多い電チャンは、珍しくイロイロ考え込んでいた。


「でも、そういうことにしておくのです」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第9話<電の葛藤:直感>

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 午後から雨が激しくなった。鎮守府の窓からも激しく雨が降っているのが見える。

 

「最近は地上勤務が多いのです」……と電は内心呟いた。軍用車の運転もかなり馴れて最近では司令が信頼してくれるようになったのは嬉しい。

 

「でも……やっぱり私は駆逐艦なのです」

そう思わずには居られなかった。

 

 最初は軍用車の運転がうまく行かなくて少し意地になって練習したこともあった。結果的に運転は上達したけど、それが果たして良かったのか悪かったのか? 電は、ちょっと考えてしまうのだった。

 

「他の第六駆逐隊のメンバーは良く海に出ているのに私は出ないのです」

 

そう思いつつも、さすがに今日みたいな嵐の日は嫌だ……でも、やっぱり時には皆と一緒に海に出たいなと思うのだった。

 

「戦うのはあまり好きじゃないけど、やっぱり私は艦娘だから」

 

改めてそう呟いた。

 

 窓から見える日本海……埠頭内だけど強風のために白波が立っている。今日は荒天だから哨戒も最小限。さすがの敵も、こんな日には大規模な奇襲上陸作戦でもしない限りは攻めて来ないだろう。

 

 だが荒れる日本海から仮に奇襲しても、ここ山陰には重要な拠点もない。だからそもそも地上への攻撃もあり得ないと思うのだった。

 

 ところが……だ。こんな日に海軍省からの『奇襲』である。防衛次官と、あの女王。彼女には参謀長官という立場もあるようだが、美保の艦娘たちの間では既に『女王』で通っていた。

なぜこの時期、こんな日に来るのか?……いや、天候は、たまたまだろうけど。

 

 次官はともかく彼女だって本省の役人で軍人だ。しかも初代の美保鎮守府司令である。決して悪い人ではないと思う。でもなぜか電には、あの女王を心の底から信頼する気にならなかったのだ。

 

「なぜなのでしょうか?」

 

電は自問するが分からない。ただ……人間的に言うなら『直感』としか言いようがない。

 

 電も美保開設当初から居るメンバーであるが、あの初代司令(女王)とは、ほとんど接点がなかった。当時は海へ出ることが多かったからだなと思った。その頃の美保にはまだ今のように戦艦も空母もほとんど居らず駆逐艦を中心とした小さな拠点だった。

 

 今日は、お昼ごろに司令と秘書艦を交えて彼らの昼食場所へ送迎をした。軍用車2台で送迎したのだが、そのうち女王と次官を電が担当し、司令と秘書官は霞が運転したのだった。

 そういえばVIPの送迎は、今ではほとんど電の担当になっている。

 

「私が大人しいからでしょうか?」

 

と、司令に聞いたことがあるが、彼は笑うだけでハッキリとは答えて貰っていない。

 

「でも、そういうことにしておくのです」

 

 電は窓から見える荒れた日本海を見ながら思わず呟いた。

 

「何かあったの?」

 

いきなり背後から声がした。

 

「はわわっ」

 

油断していた電は慌てた。声の主は神通だった。さすが気配を消して近づく能力は川内に次ぐよな、と電は思った。

 

「驚かせたらゴメンナサイね、電チャン」

 

神通は優しく微笑んでいた。電は神通が好きだった……しかし彼女は直ぐに軍人の顔に戻る。

 

「事情があって無線は使えないから私から直接、司令部の指令を伝えるわ」

「はい」

 

電は姿勢を正した。無線が使えない……そうか、私は通常無線しか持って居ないからだ。何気なくそう思った電だった。

 

「あの本省から来たお二人を空軍の美保基地まで送るから準備して頂戴。今日の夕方、入間までの定期便が出るから、それに間に合うように16:30で準備をお願いします」

「了解なのです」

 

敬礼する電。神通は特殊な任務に付くことが多いので確か、特別な周波数の無線を持っていたはずだ。軽くうなづいた神通は、付け加えた。

 

「私も同行するから」

 

その言葉に、ちょっと驚いた電。でも逆に神通が一緒なら何かあっても(……ないとは思うけど)安心かな? ふと、そう思った。

 

「これも鎮守府の大事なお仕事だから頑張るのです」電はそう心の中で言い聞かせると、いそいそと車庫へと向かった。そのとき荒れた空の向こうからゴロゴロという遠雷が聞こえてきた。その空からの響きは電にとって、何となく胸騒ぎがして不安な気持ちになった。

 

「大丈夫なのです、神通さんも居るし何も無いのです」

 

そう自分に言い聞かせながらも、なぜか動悸が早くなる電だった。

 




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第10話<当日朝:長官の過去>

応接室で長官は過去について語り始める。


「司令、気をつけなさい」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第10話<当日朝:長官の過去>

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 大淀に案内されて応接室に入るご一行。続けて司令と秘書官が入る。司令は長官の足が不自由なことに気付くが、まだ黙っていた。秘書艦祥高は大淀にお茶を人数分、鳳翔に準備するよう指示。全員が着席した後に大淀は礼をして退室する。開口一番、司令が長官に聞く。

 

「先生、足が」

 

長官は微笑んで答える。

 

「ああ、これね。最初に美保に着任する数年前かしら? 横須賀から出撃したときに艦が沈んだの。九死に一生を得たけど、さすがに身体まで五体満足というわけには行かなかったわね」

 

それを聞いて司令は驚く。

 

「先生も横須賀沖の戦いに?」

「そうだけど……何か?」

 

司令は秘書艦を見ながら言う。

 

「あ、いえ。その時、確か祥高型と横須賀の提督が……」

「あら、あなたもその話を知っていたのね?」

 

長官は少し意外そうな顔をした。司令は説明する。

 

「はい……秘書艦から聞きました」

 

長官は秘書艦に目配せをしながら言う。

 

「説明が遅れたけど祥高型三姉妹のことは私も良く知っているわ。次官が裏で何をしたかもね」

 

次官は苦笑した。長官は続ける。

 

「そう、あの戦いがあるまでの海軍はもっと一枚岩だったわ。それが、あの負け戦がきっかけで勢力が入れ替わって艦隊運用方法、特に艦娘の扱いが変わったわね」

 

司令は意外な顔をした。

 

「そうなんですか?」

 

長官は微笑んでいる。

 

「そうよ。それを期に祥高型が封印されて……いえ彼女だけではないわ。結果的に海軍が二つの派閥に割れてしまった。艦娘そのものを部品として使ういわゆるブラック鎮守府と呼ばれる流れが生まれるキッカケになったわね」

「そうなんですか?」

「ええ。貴方はご存じないでしょうけど。あの当時、横須賀に居た人間と艦娘なら知っていることよ」

「なるほど」

 

そのとき「失礼します」と言って鳳翔と霞が入ってきた。長官はお茶を配る艦娘たちに会釈をしながらも話を続けた。

 

「ただ今では当時のことを知る者も語る者も少ないし艦娘も量産化が進んできたわね」

「はい」

 

そこで長官は口をつぐんだ。珍しく次官も黙っている。

 

 やがて「失礼しました」と言って鳳翔と霞が退出する。それを見計らっていたように長官は、やや声を潜めて続けた。

 

「司令、気をつけなさい」

「はい?」

 

いきなりの語り掛けに彼はちょっと驚いた。長官は続ける。

 

「どの世界でも出る杭は打たれる。それは味方であっても変わらないの。私だってここを降りるきっかけはそれだったから」

「そうなんですか……」

 

長官はお茶に手を伸ばした。

 

「もう陰口に嫌がらせ、何でもあったわね。さすがに命までは狙われなかったけど、それ以外のありとあらゆる中傷に妨害工作。知り合いが中央に居たから、まだ何とかなっていたけど……もうこれ以上迷惑は掛けられないと思って三ヶ月もしないうちに私から降りたわ」

「はあ……」

 

 長官はお茶を手にしたまま窓を見る。雨が激しく打ち付けている。

 

「軍人としては自ら降りることは最大の屈辱よ。でも私は耐えた。美保鎮守府の未来のために。だから今こうして美保が華開いているのは私も嬉しいわ」

 

お茶を口にする長官。やや重い空気が流れる。

 

「ただ私が心配するのは今の貴方。日本に帰還するのも大変だったのでしょう?」

 

問われた司令は、祥高を見ながら思い出すように答える。

 

「はい。シナと関係する部隊や深海棲艦に何度も襲われて……」

 

ようやく次官が口を挟む。

 

「最後は米軍が助けてくれましてね」

 

長官は答える。

 

「それは私も報告書で見たわ……でも米軍については数行しか書かれて居なかったけど」

 

長官の問い掛けに司令は補足した。

 

「はい。実はフィリピン海軍の元帥と駐留米軍が手助けを……彼らとはブルネイで既に面識があったのですが、ブルネイの司令もいろいろ裏で調整してくれたようです。ただこの件は次官のアドバイスもあって敢えて報告書では……」

 

次官もちょっと微笑む。長官はうなづく。

 

「そうね……それが賢明よ。軍部では米軍に対して、あまり快く思わない派閥も少なくないから。そういえばブルネイの司令って兵学校では貴方と同室だったわね」

 

長官は彼のことも覚えていたのだなと司令は思った。

 

「はい」

 

 




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第11話<数ヶ月前:航空戦艦と次官>

提督の遺したログファイル:ブルネイから戻ってしばらく経った日付:から防衛次官が再構成したもの。


『でも次官の独断もかなり入っていますね』

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第11話<数ヶ月前:航空戦艦と次官>

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 ブルネイでの量産実験によって建造された航空戦艦『伊勢』と航空巡洋艦『最上』。以前、美保に居た日向の推挙で試作型でありながらも敢えて日本へ連れて来られた。

 さらに彼女たちは、美保鎮守府にはオリジナルが居なかったこと。また試作実験で生まれた為、もともと艦籍が無かったことを幸いとして、そのまま美保での建造登録及びそのまま着任となった。

 

 実質的な戦艦クラスの艦娘の移動にも拘らず本省や艦隊司令部からは、特に物言いは付かなかった。恐らく試作型だから軽く見られたのだろう。

 

 しかもこの移行の背後には、日向の個人的な想い入れも強かったと想定される。相手が試作型であっても彼女にとってはブルネイで共に戦った仲間である。特に姉妹艦でもある伊勢に対しては、普段から物言わぬ彼女が格別な想いを抱くのも無理も無い。

 このような感情的な結びつきが見られるのも、また艦娘の大きな特質といえる。

 

 その期待に応えたのか、来日してからの彼女らは短期間で驚くべき成長を見せた。気が付けば直ぐに実戦でも投入できる練度にまで到達していた。これには当時の提督や秘書艦も驚いた。

 

 彼女たちは通常の戦艦や重巡と同等の基本性能を有しながらも航空機運用スキルも加えた『ハイブリッド』型である。基本的に艦娘本人にある程度の器用さがないと、とてもこなしきれない。

 後に航空戦艦となる扶桑や山城がその火力は絶大ながら、いまひとつ戦果が伸び悩むのは、こういったバランス感覚にあるとも解釈できる。もちろん、これは本人たちの前では絶対に口に出来ないことではあるが。

 

 いずれにせよブルネイにおける試作段階では駆逐艦を除いて不安定な試作型艦娘が多かった。そんな中で彼女らが現行量産型やオリジナルと同等の安定性を有していたのは先天的なスキルが高かった事もあるのだろう。

 

 また日向の功績が大きい。彼女が推挙した手前もあるだろうがスキルアップの機会にも恵まれた。

1)ブルネイでの防衛戦:艦娘が少ない中、参戦。

2)本土への帰還作戦(通称:オデッセイ作戦)において日向が小隊長となり彼女たちを逐次指導しながら積極的に参戦した。

3)本土帰還後:日向が美保を経つ直前まで彼女たちに集中して鬼のような特訓を実行。

特に3)におけるシゴキにもしっかり耐えた結果であろう。美保鎮守府において横須賀へ移動した日向の置き土産とも言うべき彼女らは戦力の要となっている。

 

 総括:ブルネイの量産化技術は試作実験の段階で既に高いレベルに達していたと考えられる。ただ『あと一歩』という何かが足りなかった。それが本省の技術参謀と美保の艦娘たちが合流した段階で突如、完成へと至った。そこに何があったのか? 実はこの点については不明である。

 いずれにせよ完成されたレシピは習得された。その情報は直ぐに主要鎮守府に伝達され艦娘量産化は速やかに実行に移された。

 当時敵である深海棲艦側に押され気味であった、わが国の防衛ラインは、この量産化技術により勢力を盛り返すことが出来た。

 

 結論:ブルネイ及び美保鎮守府の功績は大である。

 

防衛次官 記す

 

 

 読み終えた大淀は顔を上げた。

 

「いつもの次官の雰囲気に似合わず、文章は、お硬いですね」

 

次官はニヤけた。

 

「だろ? オレだって文書作るときは役人のフリをするんだよ」

 

 ああ、この人には何を聞いても、いつも人を煙に巻くような感じなんだ……本当は嫌味も込めて『次官の独断がかなり入っていますね』

って言おうとした大淀だったが聞くだけ無意味な気がした。

彼女はちょっとため息をつくと机の上の書類をまとめ始めた。

 

「まぁ私も人のことを、とやかく言える立場ではありませんから」

 

つい感想とも独白とも取れる台詞が出た。あれ? 私は何を言っているのだろう……と思った。

 しかし窓の外を見ていた次官は何食わぬ顔で振り返る。

 

「でも、いつも貰ってる美保の報告書って君や祥高か、或いは霞ちゃんの三人が交替で書いてるんだろ? だいたい文面で誰が書いているのか想像付くからオレ、本省では勝手に誰が書いたか一人クイズしてるけど」

 

 もう悪趣味な……何処まで人を小ばかにするのかしら? この人は。半分呆れた大淀は軽く咳払いをして応えた。

 

「最近は青葉さんにも書いてもらうことがありますけど」

 

軽い反撃のつもり。でも次官は構わず腕を組んでニヤニヤしている。

 

「いや、それでもね、一番硬いのはやっぱり……」

 

 そこまで言って次官はハッとした。大淀が上目遣いで睨んでいるのに気づいたのだ。さすがに本人を目の前にして、これ以上言うのは不味い。

 正直このマジメな大淀を更にからかいたい。ウン、この堅物な大淀も好きなんだが……いや止めておこう。この娘は切れると怖いから。彼はそう思った。

 

「……あ、そうそう。司令のメモから、こんなのも作ったんだよ」

 

慌てて話題を変える彼だった。

 

 次官に差し出された文書を受け取る大淀。あら意外とこの人はマメな所もあるんだな。そう思いながらも改めて書類に目を通し始めた大淀。でも内心彼女は思った。

 

『こうやって彼のペースに乗せられてしまうのもいつものことか』

 

 この次官とのバカみたいなやり取りも大淀にとっては新鮮であり、いつの間にか楽しいひと時になっていたようだ。

だが今は文書に集中しよう。その内容は、まだ提督が亡くなる一ヶ月以上前の日付になっていた。

 

 艦隊司令部及び軍令部から共同指令が下された。いよいよ美保鎮守府は正式に大規模作戦に合流する。

 これまでは弱小ということで大規模な遠征作戦があっても軍令部からは自動的にスルーされていた。だが今回は一定の基準を満たすと判断されたようだ。

 美保も以前より錬度はもちろん戦艦や空母も増えた。全体的な打撃力や防御力もかなりアップしている。また実力のある艦娘たちも順調に育っている。これでようやく美保も普通の鎮守府としての実力と位置を認められたのだ。今回はブルネイから来た伊勢や最上たちもギリギリ参加出来そうだ。

 

 あともう一つ驚くべきことがあった。これもまた即戦力である。呉から軽巡『那珂』という新しい艦娘が移動してくることが急きょ決定したのだ。神通によれば姉妹艦である。着任する彼女は初めから「改2」ということ。着任早々作戦に投入できるレベルだ。

 

 ただ神通に言わせると那珂は相当自己中心的で感情の上がり下がりが激しいようだ。改2と言っても実際は差ほどでもないらしい。

 

 最近は轟沈率も鎮守府の評価基準に入るらしい……おや? この最後の文章は提督のものではないと大淀は感じた。

 

 大淀は今度こそ言った。

 

「でも……次官の独断もかなり入っていますね」

「そうか?」

 

それは否定しない。次官は思った。祥高が音頭を取って編纂しているこの一連の文書は、恐らく本省にはフィードバックされないだろうという彼なりの読みもあった。

 

「赤城さんのことには触れませんか?」

 

大淀はつい聞いた。次官は窓の外を見ながら応えた。

 

「ああ……そうだね、断片から少しずつ書き起こしているんだけど」

 

 その時大淀は、初めて次官が真剣な顔をしているのに気づいた。赤城轟沈の件は亡くなった司令も前線でかなりショックを受けていたと聞いていたが……その一報を受けた次官も実は同じだったのか?

 

 大淀は赤城の件は聞くべきでなかったと反省した。

 

 




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第12話<轟沈と絆、崇高なる者>

提督や青葉のメモと関係者への取材により、遠征初参加の際に起きた赤城轟沈の合同作戦司令部での美保司令の状況が、かなり再現された。なおこの文書には閲覧制限がかけられている。同時に本件については関係者への追加取材ならびに質問は一切禁止である。


『だから提督も、絶対にワタシを待っててネ』

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第12話<轟沈と絆、崇高なる者>

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美保鎮守府の赤城轟沈!

 その知らせは意外な反応を以って速報として海軍内を駆け巡った。

 

 しかし正規空母が轟沈しても戦闘は終わらない。鎮守府単独の沿岸等で行われる防衛戦とは違う。これが合同作戦の特徴だ。

 実際、今回の作戦においても轟沈したのは赤城だけではなかった。他の鎮守府所属の艦艇も決して無傷では無かった。ただ後に確認したところによれば、その戦闘において正規空母が轟沈するほどの被害を出したのは美保鎮守府だけであった。

 

 戦闘はなおも継続していた。重要な艦娘が犠牲になったとしても戦闘が終結するまではウカウカ落ち込んでは居られないのが指揮官の辛いところだ。

 

 その後も美保鎮守府の艦娘たちは軒並み被弾し負傷する。その日は敵地への上陸一歩手前まで行ったので当然、敵の反撃も激しい。美保の艦娘たちが見たこともない敵機も飛んでいた。

ついには最前線に出ていた電が大破との報告が入る。さすがにこの報告を聞いた司令を始め無線を傍受できる重巡以上の艦娘たちには緊張が走った。だがここまで敵陣に食い込んだ以上もはや撤退は不可能だ。後はただ武運長久を祈るばかりだった。

 

 次第に戦況は消耗戦となってくる。お互いの艦娘や深海棲艦も傷つき他の鎮守府の艦娘にも轟沈する者が相次ぐ。辛いのは我々だけではない。ある意味、敵も辛いのかも知れない。

 

 やがて最高司令官である横須賀鎮守府の司令が撤退を決断して戦線が後退を開始する。敵も今回は被害が大きいのか追撃はしてこないようだ。本日の海上作戦行動は一時、打ち切りとなった。艦娘たちにも逐次帰還命令が出される。

 

 各部隊それぞれの旗艦である艦娘に指示が出る。観測班によれば、やはり敵からの追撃は無い。そうなれば後は司令室からは特に指示は出さなくても良い。気の早い各鎮守府の指揮官たちはヤレヤレと言った表情でリラックスしている。

 

 ただ美保鎮守府の関係者だけは緊張が解けなかった。唯一主軸空母を轟沈させ、また誰もがその重さを分かっているから。何となく周りの指揮官たちも、よそよそしい。

 

「この期に及んで主力空母を轟沈とは……」

 

美保の司令も内心、呟いていた。撤退命令が出て、それまでの緊張が一気に解けたが今度は気分が重い。正直、数年ぶりの事態に半ば放心状態だ。

 

 彼の様子を心配した呉と神戸の作戦参謀が近寄ってきた。彼らは以前、美保鎮守府に視察に来たメンバーだった。

 

「気落ちするな」

 

通称『呉おじさん』と呼ばれる参謀は軽く司令の肩を叩いた。

 

「そうですよ、私も恥ずかしながら今日2隻ほど沈めましたから」

 

これは神戸の参謀。相変わらずドライだ。しかもそれは駆逐艦だろう……とは分かっていたが誰も突っ込まなかった。

 

「有難う」

 

司令は虚ろな心ではあったが形式的に答えた。

 

 同行していた秘書艦は帰還する艦娘たちを迎えに岸壁へと向かった。別室には今回、出撃しなかった艦娘が控えている筈だが皆、司令に遠慮しているのか様子を見ているのか誰も入ってこない。

 

 やがて二人の参謀たちは会釈をして立ち去る。他の多くの参謀や指揮官たちも退出し始める。作戦司令室には数名の参謀たちと中継通信の技術スタッフが機材の調整をしているのみだ。

 

 司令はまだボーッとしていた。彼にとっても久し振りの最前線である。美保鎮守府には荷が重かったということか。十分に訓練を重ねたつもりでも実戦は何もかも違う。ちょっと見通しが甘かったかと彼は反省していた。

 

 ただ正直言って周りの鎮守府の艦隊が華々しい戦果を上げているのを見ると、どうしても焦りの気持ちが出て来る。慢心もあったか。

 

ふっと本土出発前に防衛次官が寄こした私信を思い出した。

 

「無理はするな」

 

まったくその通りだった。あいつは、おちゃらけてはいるが言うことは的を得ている。だてに本省勤務ではないなと司令は思った。

 

 そのとき急に誰かが凄い勢いで廊下を走って来る。そして半分開いていた作戦司令室のドアから脱兎の如く駆け込んできた。室内に、ちょっとしたざわめきが広がる。それでも司令は反応せずボーッとしていた。

駆け込んだ者は司令に接近すると彼の背後からガバッと抱きついた。周りの者は何事かと思って振り返る。彼女は前線帰りらしく服はボロボロ、髪はボサボサだった。

 

司令は後ろに居る者の硝煙と潮の香りを感じた。

 

「金剛……お前か」

 

胸に回された手を取りつつ彼は言った。彼女は司令の背中でモゴモゴ言った。

 

『ワタシね全速力で戻ってきたんだよ。そうしたら、こっちで待機している彼女の呟きがうるさくてネ……』

 

英語だった。何かを悟ったように司令も英語で聞き返した。

 

『彼女は何て言ってた?』

『私が出ていれば……って』

 

そこまで言って金剛は、何かがこみ上げてきたのか後が続かなかった。

 

司令は言った。

 

『あいつもそのうち、ここに顔を出すだろうけど』

 

途中まで聞いて金剛は彼の言葉を遮るように首を振った。

 

『ウン分かってる、分かってるヨ! ワタシ怒ってるンじゃないから』

 

彼女にもその声の主が一番苦しんで居ることが分かっていた。

 

 しばらくジッとしていた二人だったが、やがて金剛は言葉を選ぶようにして話し始めた。

 

『提督? 今後何があっても……他の全員がもし轟沈してもネ、ワタシは貴方を信じているから。だからワタシ絶対に、絶対に沈まないから。向こう側にも行かないで絶対に戻ってくるから……だから提督も絶対ワタシを待っててネ』

 

彼女は頬も服も手も真っ黒だ。いつしか司令のカッターシャツも黒ずんでいる。だが彼もまったく気にしていない。

 

『私もお前を信じているよ金剛。いつまでも待つよ』

 

彼も彼女の手を握って英語で答えた。

 

『うん』

 

そう言うと金剛は、再び司令をしっかりと抱きしめるのだった。

 

 ボロボロの艦娘と受け止める司令……周りに残っていたスタッフも彼らの姿を咎めるものはいなかった。いやむしろ作戦当初には周りの参謀たちは美保の弱小ぶりを嘲笑さえしていた。

 

赤城を轟沈させ他の艦娘たちも危うく沈めそうになった美保。ブルネイで響いたあの武勇は結局偶然だったのか。一見、良さそうに見える指揮官や艦娘たちの関係もとどのつまり単なる仲良しクラブ程度に過ぎなかった。

 

ところが今、この二人の様子を見た彼らは、その判断が間違っていたことに気付いた。

 

 ブルネイでシナを追い返し本土帰還の際にも数々の絶望的な状況を打破してきた彼ら。そこにあるのは数字だけの外的な戦力ではない。艦娘量産化で、ややもすると見失ってしまいがちな何か。それは今ここにある。

 

司令と艦娘との絆。それは単なる男女の関係を越えた絶対的な信頼感。

 

ああ、これが噂の美保鎮守府の真の姿なんだ。

 

その結びつきを軍人である周りの者たちは、むしろ羨ましいとさえ思うのだった。

 

 残っていた他の軍人たちは我知らず敬礼をしていた。崇高なるもの、その前に人は自然に頭を垂れるのだ。

 

 

 




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第13話<電:いつ何が起こるか>

カミナリを聞いて不安を一層募らせる電だった。



「牛乳が飲みたいのです」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第13話<電:いつ何が起こるか>

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 午後からの雨は、さらに激しくなった。遠雷も響いている。電は名前と裏腹にカミナリが嫌いだった。

 

 物知りの青葉が『イナヅマっていうのは稲作をする農家には、とてもありがたい物なんだよ』と教えてくれたことを思い出していた。いつも食べているご飯は地上で農家の人が作ってくださっていることは良く分かっている。でもピカッとかゴロゴロというのは電には、やっぱり苦手だった。

 

「私は海軍なのです」

 

そう言い聞かせていた。

 

 でも海上でも悪天候ほど奇襲作戦はしやすくなるという話も……青葉さんだったかな? 電は記憶を手繰り寄せた。

 

「地上なら良いけど海上ではやめて欲しいのです」

 

電はいつも思っていた。

 

 今の司令は、そういう無理な作戦は立てないと思う。でも今後、美保鎮守府が前のような大規模な合同作戦に加われば、どうなるか分からない。

 

前回の合同作戦でも久しぶりに大破して大変だったけど。でもあれは昼間の戦闘で雨も降っていなかった。それがもし激しい雨になったら……ゾッとする。

 

 そういえば以前、利根さんと日向さんの部隊が日本海で雨の中、対潜作戦を実施したことがあった。あの時は利根さんがとても大変そうだった。重巡や戦艦でも大変なのに……でもやっぱり身長と体力も必要か。

 

「牛乳が飲みたいのです」

 

そう言いながらあの大山の牧場を思い出しながら車庫に着いた電だった。

 

 そこで改めて自分が乗るはずの軍用車を見た。少なくとも地上では車に乗れば直接雨に濡れることも無い。車外に出ても傘も差せる。合羽もある。

 

「あれ?」

 

そこまで考えて電は恥ずかしくなった。

 

「それでは、この車が可哀相なのです」

 

そのときだった。

 

「ええ?」

 

地面の方から声がした。夕張さんだなと電は思った。

 

「なぁに? 電ちゃん」

 

作業中らしい夕張の声が聞こえた。電は応えた。

 

「あの本省から来た、お二人を空軍の美保基地まで送るから準備をするのです。今日の夕方、入間までの定期便が出るから、それに間に合うように16:30で準備をお願いします」

 

電が言うと、また下のほうから声が聞こえる。

 

「OK、どれも問題ないから、基本的なチェックだけして」

「はい」

 

電は自分が乗る軍用車の周りを確認してから運転台に乗り込んで、計器類、電装品のチェックをした。いつもなら庫内でエンジンもかけるのだが、今日は雨も降っているし、夕張さんも問題ないって言っていたから……。

 

「エンジンはかけなくても、きっと大丈夫なのです」

 

そう言ってボンネットは開けなかった。運転台を降りると、夕張が立っていた。

 

「今日は天気が悪いから、ちょっと早めに出たほうが良いかもね」

 

油で汚れた手をタオルで拭きながら夕張は言った。その姿を見て電は言った。

 

「そうなのですか?」

 

夕張はうなづいた。

 

「作戦と同じだよ。ダメな場合を想定して、いろいろな方法を考えておく。まあ空港に送るだけなら問題ないだろうけど今日の相手は要人だからね。しかも入間へ飛ぶ飛行機が本当に出るのか? 欠航しないか? ってことも考える」

 

電は目を丸くした。

 

「夕張さん、凄いのです」

 

褒められた彼女はちょっと恥ずかしそうな顔をした。

 

「ううん、私も誰かの受け売りだよ」

 

そして夕張は続ける。

 

「ここには普通のが2台とトラックだけど……例えば電チャンが出るとしても、残りの2台もいつでも出せるようにしておくんだ。いつ、何が起こるか分からないから」

 

彼女は普通に言ったのかも知れない。だが電には、夕張の最後の言葉が妙に心に引っ掛かるのだった。

 

『いつ、何が起こるか分からないから』

 

頭の中で、その台詞だけが何度も繰り返していた。

 




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第14話<当日午前:指揮官の心構え>

長官は司令と次官に教え諭すように様々なことを語る。それは同時に指揮官としてあるべき姿を語っているようだった。


 

「今後、艦娘と仲良くできるかどうか」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第14話<当日午前:指揮官の心構え>

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長官は続ける。

 

「彼は元気でしたか?」

「はい。艦娘の技術実用化のために苦労していました」

 

それを聞いて長官は懐かしそうな顔をした。

 

「そう……彼、ああ見えて真面目だものね。でも彼の功績は大だわ。そういえば彼も今回の成果が認められて少将になって転勤するようね」

 

え? ……と思った。

 

「栄転ですか」

「そう。今度は内地に来るらしいわ。もちろん艦娘のスペシャリストの一人として横須賀辺りで特型関連の改良などを担当するようね」

 

それを聞いて私もホッとした。

 

「そうですか」

 

 アイツも意外と艦娘たちには好かれていたからな。きっと新しい任務も立派にこなしていくだろう。しかし結局アイツとは昇進も同じペースで揃って上がるんだ。不思議な縁があるものだ。

 

 長官は続けた。

 

「量産化も軌道に乗ってブルネイでは大勝利。この鎮守府にはまさに追い風が吹いているわ。私が着任した頃はまったく逆だったわね。私がここに居た頃はもう向かい風で……美保は風前の灯だったわ」

 

長官は、お茶を口にした。

 

「それは恐縮です」

 

 気がつくと窓の外は茶碗を取る音が聞こえないほど激しい雨になっている。今日は荒れるな……長官は言う。

 

「でも全ては巡りあわせ。特に貴方は人に恵まれるわね……ブルネイの彼が居なかったら貴方、今頃は東シナ海で海の藻屑と消えていたかもしれないわよ」

「それは否定しません」

 

彼女は茶碗を置いてこちらを見た。

 

「でも貴方、美保ではうまくやっているようね……この祥高さんを始めとして艦娘たちには、とても支えられているでしょ?」

 

私は秘書艦や青葉、金剛……それに電や寛代たちを思い出してうなづいた。

 

「はい……助けられています」

 

長官は、そんな私を見て笑った。

 

「ウフフ、貴方の雰囲気で分かるわよ。まあ貴方の性格からして艦娘たちに擦り寄られても意外にフラフラしないでしょ? 結局、そこが不器用ではあるけど艦娘だけの鎮守府の司令としては良かったのね」

「はあ?」

 

イマイチ分かっていない私に、彼女は続ける。

 

「だいたいブラック鎮守府とかいうところはね、艦娘をこき使うって言うだけじゃないのよ。司令官が中身もないのに偉ぶってね。ほら艦娘って従順でしょ? 何か勘違いするよね。結局最後は変に艦娘をえこひいきするからダメになるのよ」

「ほほう、なるほど……」

 

おや? 今度は次官が応えている。でもそうなのか?

そもそもブラック鎮守府というものがよく分かっていない私に長官は改めて説明する。

 

「ある意味、艦娘は人間よりも扱いがデリケートなのよ。それをね、人間の勝手な想いで普通の女の子として扱うと、艦娘としての総合能力が著しく下がるのよ。もちろん戦果にはさほど差は出ないから、これは公式なデータではないけど……私には分かるわ。それは徐々に蓄積されてある日突然……」

 

そこまで聞いて私はハッとした。それは試作型の最期の姿では無いか?

艦娘を単なる兵器、あるいはツールとしてしか扱わない。気に入るのも嫌うのも人間の都合で決めてしまう。もちろんそれは法的にはまったく問題がないのだろう。しかし……艦娘を人間と同等にしか感じられない私には到底、出来ないことだ。

 

次官も同様に何かを悟ったようだった。そんな私たちの姿を見て長官は軽くうなづくと軽くため息をついた。

 

ちょっと空気が重くなった。だがその件について彼女はもうそれ以上、何も言わなかった。

 

そういえば彼女の姉である技術参謀たちが艦娘のケッコンについて法整備をしたことを思い出した。その背後にある計り知れない想いをフッと垣間見たような気持ちになった。

 

 我々人類にとって分からないことだらけの艦娘、そして深海棲艦。それは単なる外的な戦闘に収まらない、もっと大きな流れ、或いは意思のようなものがあるのではないか? そんなことをも感じさせた。

 

 長官は無言で窓を見ている。そこには、たくさんの雨滴が流れていた。人の人生、或いは歴史というものは、ひょっとした窓を流れる水滴に過ぎないのかもしれない。

 

 彼女はおもむろに口を開いた。その表情は少し明るかったが内容はまた重かった。

 

「私も足が悪いのは海戦だけじゃないの。その後も美保提督時代とか本省に移ってからも何度も暴漢に襲われたのよ」

 

その言葉は次官も驚いたようだ。今度は彼が口を挟む。

 

「それは……初耳です」

 

長官は次官を向いた。

 

「今さら仕方ないけど……でも本省付きの担当官として貴方も今後は各司令官の警護について、十分に検討する余地があるわね」

 

次官が頭を下げた。

 

「はい、検討いたします」

 

長官は再び私たち……特に秘書艦を見た。

 

「秘書艦の貴女……」

「はい」

 

長官は微笑んだ。

 

「貴女の妹さん……本省のあの作戦参謀よね。彼女と羽黒には実は私、何度も助けられているの。彼女たち、ああ見えて滅法強いから」

 

そうなんだ……あの作戦参謀、やっぱり強いんだな。私はブルネイの廊下で寝巻き姿で次官に素手で攻撃を仕掛けた姿を思い出した。でも羽黒も強いって……線は細いのに意外だな。

 

 そんな深刻な話にもかかわらず長官はニコニコして秘書艦を見た。この肝っ玉の太さは、やはり立場に比例するのかと思った。長官は改めて私を見る。

 

「だから貴方も気をつけなさい。安心できるのは鎮守府内に居るときくらいよ。戦場もそうだけど何事も確実に流れが変わったと見極めるまでは常に狙われ続けていることを用心しなさい」

 

その言葉に私も次官も言葉を失った。

 

「だからこそ艦娘たちとうまくやっていける貴方は貴重なの。今後、艦娘と仲良くできるかどうか、それが問われる時代に入る。私はそう思っているわ」

 

これはきっと爆弾発言だな。

 




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第15話<赤城さん:おやつ紛失事件>

轟沈した赤城さんの取材をしていたら技術参謀が情報をくださいました。ブルネイでの出来事でしょうか?
かなり盛っている疑いがアリます。でも、こんなこともあったのですね。


「バカ……ですか?」

 

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:第15話<赤城さん:おやつ紛失事件>

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 赤城が暗い顔で司令に近づく。

 

「司令(美保の赤城は提督とは呼ばない)」

 

「はい?」

 

司令は冷や汗をかいているのか? 馬鹿にしか見えない。

 

「あの……気のせいかも知れませんが私の……その、オヤツが」

「……(脂汗)」

 

あいつ(司令)は何をドギマギしているんだ。

 

「昨日から減っているような気がします。司令はご存知ありませんか?」

「な、ないよ。ないなあ(よそ見)」

 

 ここで赤城はガシッと美保司令の腕をつかんだ。おお、痛そうだな!

 

「司令?」

 

 赤城が目をウルウルさせて問いかけているが司令は答えない。フフフ、答えられまい。何しろお前が隠して……おお、だんだん腕がプルプルと痙攣している。

 

正規空母だから馬力はでかいぞ……でも、赤城は優しいからな。さすがに血が止まるほどの力ではない。

 

 チッ、どうせならもっとグイグイいけ!

 

これがあの日向なら容赦なくあいつの腕をプレスするんだろうけどな……。

 

お?

 

司令がロボットのようにぎこちなく振り向いて……絶句してるぞ。面白いなあ。

 

「……」

 

赤城のやつ、メソメソと涙を流していやがる。あぁ、どうしてお前は一航戦なのに、そんなに優しいんだろうな? 少しは加賀を見習え!

 

硬直していた司令が片手で赤城の手を取った。そしてゆっくり振り向いた。さて、なんて言うかな?

 

「申し訳ない赤城さん! この通り謝る。どうしても緊急接待でオヤツが必要になったので……」

「……」

 

なんだ直ぐに自白したのか。つまらないな。

 

だが彼女の泣き顔は金剛や比叡の泣き方とは明らかに違うな。五月雨に近いタイプだ……などと感心している場合ではない。

 

 そもそも赤城も問題だ。たかが『おやつ』如きで、なんだ? このざまは。

やれやれ……司令のやつが頭を下げているぞ。10秒近く最敬礼をしていただろうか?

 

 赤城はまだ無言だな。さすがに無言の彼女を前にしたら、ちょっと怖いかも知れないが……司令が恐る恐る頭を上げると赤城は涙を拭きながら言った。

 

「ゴメンナサイ。つい感情的になってしまいました。仰って頂ければ喜んで、お出ししましたのに……ウフッでも深夜ですから無理でしたね。私も寝ていましたから日向さんも声を掛け辛かったのでしょう」

 

哀しみの表情から笑顔に戻る。瞬間湯沸かし器みたいな印象だな。

 

フッ……バカ司令め、彼女の笑顔で悩殺されているぞ。私は思わず隣の駆逐艦に語りかけた。

 

「いいか五月雨、あれが馬鹿というものだ」

 

五月雨はまじめにうなづく。

 

「バカ……ですか?」

 

司令が振り返る。

 

「何、教えているんですか!」

 

 




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「美保鎮守府:第九部」の略称です。


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第16話<轟沈と絆:テイトクと金剛>

赤城轟沈状況の続き。なお引き続き、この文書には艦娘への閲覧制限がかけられている。また関係者への赤城に関する質問は一切禁止である。


『ぱそ……なに? それ』

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第16話<轟沈と絆:テイトクと金剛>

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 さすがに周りから敬礼をされていることに気付いた美保の司令と金剛は、ちょっと気恥ずかしくなりお互いに離れた。最初、美保鎮守府のメンバーに対して周囲から腫れ物を障るような雰囲気だった。それがいつの間にか軽蔑どころか尊敬されるムードに変化していたことに二人は驚いていた。

 

金剛は司令に耳打ちするように小声で言った。やはり周りに配慮してか、英語だった。

 

『どうなっているネ?』

『わからん』

 

 なお海軍の指揮官ともなれば、英語は当たり前のように話せるので金剛が英語で喋ったところでバレバレである。この技が使えるのは鎮守府内の艦娘か、兵学校を出ていない一般兵や職員に対してくらいである。今回のような前線基地では、ほぼ意味がない。

 

 さすがの金剛も気恥ずかしくなったのか『じゃあネ!』と言って、司令を離れ別室へと向かった。待機していた艦娘を見に行くのだろう。そういえば前線メンバーを出迎えに出た祥高さんは、まだ戻らない。

 

「やれやれ」

 

司令は軽く伸びをすると、ため息をついて再びデスクに向かう。

 

 美保の司令は艦娘を轟沈させない指揮官で通っていたから、まさかの事態である。しかも沈めたのは正規空母だ。艦娘とはいえ大型艦を沈めたら責任は追及されると彼は思った。

 

「やれやれ、まずは始末書か……」

 

 始末書と言うのは通り名であり、要するに赤城轟沈の報告書を上げなければならない。轟沈に至った経緯と原因、そして今後二度と同じ過ちを犯さないための資料にするためである。

 

 司令にとって轟沈の始末書を記入すること自体も久しぶりだった。だが彼が居る場所は前線の司令部だったから鎮守府の秘書艦はいるが、彼女も事務系のスペシャリストではない。そのためどうしても彼自身が書類を仕上げる必要があった。

 

 久しぶりの轟沈、しかも正規空だからショックも大きい。とはいえ落ち込んではいられない。戦闘はまだ継続するのだ。

 

 以前の彼は艦娘を沈めると寝込むくらいに落ち込んでいた。激しい良心の呵責に襲われるのだ。ところが今回は意外にショックは小さかった。なぜだろうか?

 

 彼はふと轟沈直後に戦場から全速力で帰還して、すぐさま指令室に飛び込んできた金剛を思い出した。彼女はストレートな性格であり、どことなく島風に近い。だが戦艦だけあって性格的には金剛の方が大きくて深いものを感じる。

 

 司令と金剛がやり取りをしている光景は、傍から見ればイチャついているようにも見えるだろう。だが彼自身としては彼女が決して短絡的な感情で接しているのではないことを感じていた。それは金剛独特の感覚とでも言うべきか。

 

 そもそも彼女は他の艦娘……姉妹艦はもちろん駆逐艦たちに対しても、とても面倒見が良い。そして落ち込んでいる艦娘がいれば直ぐに気が付いて声をかける。実に良く気がつく。だから司令に何かあれば真っ先に飛んでくる。そういう艦娘なんだ。正直、たまに行き過ぎることもあるが、その気持ちはありがたい。

 

『そうだ、艦娘たちが私に気を遣ってくれているんだ』

 

 彼はそう思った。ややもすれば指揮官というのは組織内で浮いてしまうことがある。司令にもそういう経験はあった。

 だが美保鎮守府では、それがまったく無かった。毎日、ドタバタしていたが、良く考えたら彼自身、孤独だと感じたことは無かった。だから今回も衝撃が少なく癒えるのも早いのか?

 

 取り敢えず感慨に耽っている暇はない。報告書は作らなければ……彼は司令部にある一台のパソコンに向かった。電源は入っているので基本的な操作から……えっと、メモがないと良く分からないな。

 

 彼がブラウン管とにらめっこをしていると、背後から英語で声をかけられた。

 

『テイトクゥ、何やっているネ?』

 

いつの間にか金剛が戻って来ていた。チラッと振り返ると、ああ、服を着替えて手も顔も洗ったようだな。髪の毛も治っている。彼女は彼の真後ろに他の車輪つきイスをゴロゴロと引っ張ってきている。司令は前を向き直りながら応えた。

 

『パソコン……』

 

それを聞いて不思議そうな顔をした金剛。まだ英語か?

 

『ぱそ……なに? それ』

 

 金剛は背もたれにアゴを乗せて逆向きにして座っている。相変わらずラフだよな、お前は。彼は思った。でも作戦指令室にはもう他には技術者くらいしか居ないから好きにしてくれ。

 

『コンピューターだよ』

 

司令はブラウン管に浮かんだ緑色の文字を追いかけつつ応えた。金剛は言う。

 

『はあーん。計算機か』

 

あながち間違いではない。

 

『何を計算しているネ』

 

しつこいな。

 

『お前の知能指数……あ痛ァ!』

 

背中から平手打ちを食らった。おいおい、戦艦が半分本気か? かなり痛いぞ。司令は痺れてしばらく動けなかった。

 

『もう! 最近のテイトクは意地悪ネ!』

 

不機嫌そうな声が響く。残っている技師たちが驚いている。

 

『だったら邪魔するな。英語で会話すると気が散るし疲れるんだよ』

 

司令は憮然として答えた。すると金剛は司令の背後から軽く腕を廻してしがみ付くと今度は日本語でこう言った。

 

「ごめんね。紅茶か珈琲でも入れようか?」

 

ヤレヤレ。

 

「ああ、そうして貰えると嬉しい」

 

このギャップ感が相変わらずだよなと彼は思う……ン? コーヒーって?

 

「任せるネ!」

 

腕を解いた金剛が何となく後ろでガッツポーズみたいな腕まくりをしている雰囲気が伝わってきた。

 

 金剛も人の心に敏感な艦娘だ。不思議な距離感というか、気が利くようでもあるが時にはそうでない事もあるし。イマイチ解せない部分も少なくない。

 

 もちろん不思議なのは青葉も似ている。だいたい艦娘って全般に、個々に謎めいた部分が多いよな。改めて司令は思うのだった。

 




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第17話<数ヶ月前:榛名と瑞穂>

数ヶ月前の執務室の様子。提督のログファイルより再構成。なお、後半部分は司令部付きの艦娘以外への閲覧制限あり。


「二人とも頑張ってくれ」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第17話<数ヶ月前:榛名と瑞穂>

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 ブルネイから戻って驚いたのは、わずか十日ほどの間に美保でも着任が相次いでいたことだ。量産化の目処が立ったということで、美保へ大量に送り込んだのだろうか?

 

大淀さんからの報告でも聞いていたがまずは貴重な戦艦榛名だ。日本に帰った翌日の朝、早速提督執務室に秘書艦と共にやって来て挨拶をする。

 

「榛名と申します。よろしくお願いします」

 

うわっ! 戦艦に似つかわしくないこの初々しさはなんだ?

 

「お姉さまたちが既に着任して居られるので榛名は心強いです。提督を支えて一生懸命頑張りますね!」

 

 彼女の語る言葉は勇ましいが特筆すべきはその雰囲気だ。明らかに上の二人とは違う。ニコニコしている榛名さんを見て思わず今までにない新たな戦艦の魅力にクラクラしてしまう。

 

 そういえばブルネイで運用実験中に建造されたのも彼女だったな。あっちでは防衛戦闘中のゴタゴタと、その後のセレモニーに紛れて良く分からなかったが落ち着いてみると印象が違う。見事なまでの本当の大和撫子である。

 

やや長身で服装は確かに金剛や比叡と同じだけど性格は全然違うな。本当に金剛型か? ……って思うくらい金剛や比叡と違う雰囲気だ。

 

 だいたい今までの戦艦って大概やたら元気なんだ。あるいは扶桑姉妹のように静かであっても結局は押してくるんだよな。武蔵様だって静かだけどにじみ出る迫力があった。そういう強い戦艦ばかりだから、こういうホントに本当に静かで大人しいタイプには弱い……あれ? 何となく祥高さん、こっち見て呆れて無いか?

 

 すみません。バカ司令である。

 

その祥高さんがもう一人の新人艦娘に挨拶を促す。ああ? 居たんだ。静かだから気付かなかったなあ。一瞬ボーっとしていた彼女は、なかなかスイッチの入らない蛍光灯のようにまったりと挨拶をする。

 

「あの……瑞穂です。不束(ふつつか)者ですが宜しくお願い致します」

 

また榛名さん以上に輪をかけて静かな彼女だな。衣装から何から、すべてが古風だ。

 

「……」

 

あれ? 黙ってしまった。ひょっとして挨拶はもう終わり? ……まあ良いか。

 

「二人とも頑張ってくれ」

 

 私も立ち上がると握手をするために二人に近寄った。「はい!」と言いながら元気に握手をする榛名さん。そして「……」って感じで静かに握手をする瑞穂さん、しかも握手の後、はにかんだように赤くなっているし……対照的だなあ。

 

 私は少し離れて立っている大淀さんに聞く。

 

「私が留守の間にも大淀さんの方で少しずつ演習をしてくれていたんだよね?」

「はい」

 

私は彼女が作った演習の成果表(成績表)を見る。

 

「正直、二人ともまだ直ぐに実戦投入できるレベルではないな」

「そうですね……」

 

大淀さんも答える。榛名さんは戦艦で金剛型だから基本的な戦力が高いけど瑞穂さんは、まだまだって感じだな。

 

「でも、榛名は頑張りますから!」

 

いきなり叫ばれたのでビックリした。前向きだな、この娘は。

 

「うん、期待しているよ」

 

私は笑った。

 

 それから半月ほど経った頃、横須賀や呉、佐世保といった国内主要の鎮守府では相次いで艦娘建造のための工廠が設置され、すぐに量産化に入った。

 

思い返すとブルネイからの帰還作戦中も激しい戦闘が相次いだ。正直フィリピン駐留米軍の大規模な支援が無ければあの戦線を突破できたか怪しい。

 

その米軍について。実はトップシークレット事項だと断りながら防衛次官が教えてくれた。

 

最近、米国でも艦娘が出現したらしい。そこで内々に日本政府に米国政府から艦娘についての問い合わせがあったという。そういう背景があったからフィリピンの特使やネイビー何とかの特殊部隊が私に近づいてきたのかも知れないと改めて思った。

 

このことは美保鎮守府では誰にも話していない。

 

 しかし、かつての敵国にも艦娘が出現とは複雑だ。だが美保鎮守府を激震させる新たな艦娘の着任がその後、発生するのだった。

 

 




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第18話<電:不安と欲望>

電はずっと運転台で考え込んでいたが夕張が心配して声をかけてくれた。



「今日は妙に慎重だね?」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第18話<電:不安と欲望>

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 雨が激しい。車庫の屋根にも叩き付けるように降り注いで、轟音を立てている。しかし電は、なぜか車庫から上がる気がしなくて、さっきからずっと軍用車の運転台に居た。

 その様子を見て最初は「変なの」と言っていた夕張だったが、電のただならぬ気配に以後は何も言わなくなった。そして心配して声を掛けてくれた。

 

「外に出てから何かあったら、すぐに連絡するんだよ」

 

 夕張の声かけが嬉しかった。軍用車は、ほぼ毎日使っているから問題はないと思ったけど念のために電は、車と自分自身の無線機もチェックした。

 

 やっぱり心配した夕張が声をかけてきた。

 

「どうしたんだい? 今日は妙に慎重だね?」

「……」

 

電は『何となく』と言おうと思ったが馬鹿にされるかと思って黙っていた。でもそれを察したのか夕張は言った。

 

「そういう理由も無く心配になるとき。私も時々あるけどさ」

 

夕張は、隣の軍用車に寄りかかりながら言った。

 

「でもさ、そういう時って大概、何も無いんだけどね」

 

夕張は笑ってくれた。電もホッとしたけど……でも不安は消えなかった。車が故障するとか、その程度なら良い。何かもっと大きなこと。鎮守府にとって大変な事件が起きるのではないだろうか? それだけが心配だったのだ。ただ自分ではどうしようもないから仕方無しに運転台に座っているだけだった。

 

 夕張もそんな電を心配して、ずっと車庫に居てくれる。電は『もういいのです』と言ったが夕張は『良いよ、付き合うよ』と応えてくれた。

 

 そのうち天気はどんどん悪くなり空は真っ暗。雷鳴と同時に滝のような雨が降り注いできた。屋根の轟音と雨どいから流れ出る水の音が続いていた。

 

「大荒れの海を連想するね……」

 

フッと夕張が言った。

 

「そう……なのです」

 

電はボーっとしながら応えた。でも、どんなに大変でも海の嵐よりは陸の大雨の方がよっぽど良い。そんなことを考えていた。ただ艦娘である自分が海を否定するようなことを考えても良いのだろうか? そんな罪悪感があった。

 

「もし何なら運転、私が変わろうか?」

 

夕張が提案してくれた。でも電は断った。

 

「いえ、でもやっぱり私の任務なのです」

 

電は必死に応えたのだが、それを聞いた夕張はなぜか笑顔になった。

 

「うん任務か……そうだよね。私たちが生きる意義は、まさにそれだよね」

 

夕張は腕を組んだまま噛み締めるように言った。

 

「任務……」

 

言った電、本人が繰り返して呟いた。

 

「そうなのです。私には『にんむ』があるのです」

 

 ハンドルを握ったまま呟く電を見て安心したような表情になる夕張だった。

 

「16:00か……」

 

壁の時計を見て夕張が呟いたとき、神通がやってきた。

 

「電チャンは、ここに居る?」

 

彼女が声をかけると電は返事をした。

 

「はい!」

「そろそろ出発だけど……」

 

 神通は出かける雰囲気だが……彼女の腰に拳銃のホルスターが下げられているのを電や夕張は見逃さなかった。二人は改めて緊張した。だがそんな二人を見た神通は言った。

 

「うふふ、大丈夫よ。中央の長官クラスに随行する場合は規定で短銃の所持が義務付けられているだけだから」

 

 VIPの送迎機会が多い電もそれは知っていた。だが……そういう神通ですら、いつもよりも緊張している雰囲気があるのだ……昼間よりも。

 

「電チャン、そんなに緊張しなくて良いわよ」

 

 そういう神通自身もまた妙な胸騒ぎがしていた。いつもと違うVIPだから? それとも初代の提督だから? ……いや違う。そういう自分が緊張する類の胸騒ぎではない。なんだろうか?

 

 その時ふと彼女は思った。これはきっと『人の想い』なのだ。

 

艦娘である神通には人間の気持ちが分かるはずがない。ただ彼女は最近秘書艦と話した際に『人の想い』について説明を聞いたのだ。どちらかといえば受身が多い艦娘には人間の『主体的な気持ち』言い換えれば『欲望』というものが分かりづらい。

 

 ところが秘書艦が言うには艦娘でも欲望は持て居るし人の気持ちを理解できるという。

 

 実はあの深海棲艦は欲望が強い。しかも人間の欲望に近い感情を持っているという。それはどちらかといえば反抗心として現れるため彼らは攻撃的であり侵略性を持つという。

 

 なぜ秘書艦はそんなに詳しく知っているのか? 単なる知識ではない雰囲気があった。そういえば秘書艦は普通の艦娘とは違う。だからだろうか? ちょっと疑問に思った神通だったが彼女の説明には納得がいった。

 

そしてあの戻って来た大井にも、その感情が強いことも何となく分かっていた。だから避けるとか仲間はずれにすることは無かった。それにあの娘は、まったく普通の少女だ。そんな感情は全く感じられない。

 

「でも……」

 

その『欲望』という感情は紙一重の相反する心そのものではないだろうか? 神通はそう思った。

 

 そしてちょうど今、自分が感じているこの不安がまさしく戦闘中に深海棲艦の群れの中に居るのと似た感覚なのだ。ただ、これはまったく同じではない。もっと強い、そして深い。

 きっとこれは『人間』の誰かが何か考えている。しかもそれは、かなり強いレベルだ。何となくそう思った。ただ、いろいろな種類があるようで単独ではないのかも知れない。その多さと深さは、もはや自分独りでは太刀打ちできない。

 

 もっと早く気付いていれば秘書艦に相談できたのだけれど。彼女は後悔した。だが今は時間がない。何事も無く無事に帰れたら秘書艦に報告しよう。彼女はそう思うのだった。

 




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第19話<当日昼前:アドバイス>

長官との話し合い、さまざまなアドバイスは昼前まで続いた。



「常に護衛艦を傍に張り付かせても良いわね」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第19話<当日昼前:アドバイス>

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 窓の外は雨は降っているが、さほど荒れては居ない。既に時刻は10:50になっていた。

 

長官は司令の顔を見た。

 

「貴方はホントお人よしだから……もう少し人を疑いなさい」

 

そうだな、そこは反省点だと司令は思った。

 

「特に軍人は常に仮想敵国を思い描いて、いついかなる時も、あらゆる作戦を組むくらいの意識付けが必要よ」

 

次官は相変わらずメモを取っている。

 

「敵は深海棲艦やシナだけじゃない。この国にも反対勢力は居るし大きな声では言えないけど陸軍にも、そしてこの海軍の中にも敵対勢力は居るのよ」

 

その言葉に司令は驚いた。

 

「まさか?」

 

長官は軽くため息をつくと真剣な表情で続ける。

 

「あなたは鎮守府の司令よ。たくさん艦娘がいるんだから常に護衛艦を傍に張り付かせても良いわね」

「はあ、でも……」

 

司令はちょっと引いた。彼の気持ちは直ぐに伝わったようだ。長官は苦笑した。

 

「誤解を受けるって? おバカさん、何を心配しているの? 軍隊の指揮官というのは象徴的な立場よ。敵にとっては象徴的な中心人物を倒すだけでも意義がある。私が教えたことよ? 貴方もう忘れたの」

 

ああそうか……司令は思わず頭を下げた。

 

「スミマセン」

 

長官はフッと笑みをこぼした。

 

「いい加減、止しなさい。謝るのは……威厳が必要なんだから」

 

顔は怒っていないけど、この威圧感は凄い。真剣に反省してしまう。

 

「戦場は海の上ばかりではない。そして敵は身近にも居るのよ」

「はい」

 

次官はまたメモを取っている。

 

「とにかく用心ね。あの小さな運転手の艦娘、志は立派だけど護衛としては不十分ね。まだ精神が弱いわ」

 

電チャンか、それは否定しないと司令は思った。

 

「的確な判断が出来て防御的な戦闘能力がある艦娘……そうね、貴女(祥高)が駆逐艦か軽巡だったら良かったのにね」

 

秘書官は、はにかんだように会釈した。

 

「重巡ではだめですか?」

 

思わず司令は聞いた。

 

「ダメではないけど機敏性に欠けるわ。もちろん祥高さんの機動力はクラスとしては最高位よ。でも護衛は火力よりも対応能力が重要なの」

 

次官がまたメモしている。

 

「特に祥高型は戦艦並みの火力を始め艦隊戦では有利なスペックが多いわ。ただ逆に護衛任務……特に地上での要人護衛任務に就くには、いまひとつなのよ」

「はあ」

 

難しいんだな。

 

「そうね、美保では川内型あたりね。中でも戦闘能力的には川内だけど護衛としてのバランスは神通の方ね」

 

確かに神通は性格も出しゃばらないし良く気がつく。それは納得できると彼も思った。

 

「あとは駆逐艦の夕立かしら? あの子そそっかしいけど意欲と能力バランスは他の引けを取らないわ」

 

司令は夕立の意外な評価に驚いた。

 

「夕立はブルネイでも良くやっていたでしょ}

「はい」

 

そういえば、かつてお盆に実家へ行った時、彼女が護衛に付いたこと……それを推薦したのも祥高さんだったことを彼は思い出した。艦娘の細かい情報まで長官が持っていることにも驚いたが。

 

「軍隊は組織力よ。適材適所、誰が抜きん出てもいけない。全体のバランスを見て同時に敵も見る。そういった総合的な判断力ね。貴方も早く艦娘を目的に応じて見極めて使いこなせるように努力しなさい……幸いここの艦娘たちには受け入れられているんだから」

「はい」

 

なるほど強制でもなく艦娘に振り回されるでもなく。きちっと押さえるべきは押さえた上での艦隊運営か。彼は感心していた。

 

「でも……金剛とか青葉とか、ちょっと振り回されているでしょ?」

「はい」

 

彼女は、ふっと穏やかな笑顔になった。

 

「でもそういう艦娘こそ大事にしなさい。なかなか本音を言わない艦娘も少なくないから」

「はい」

 

次官はメモばっかり取っているな。そのうち長官語録でも作れるんじゃないか?

 




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第20話<轟沈と絆:午後の珈琲>

合同作戦の指令室にて、テイトクと金剛のやり取り。


「テイトクと会えなかったかもしれない」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第20話<轟沈と絆:午後の珈琲>

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「はあ~」

 

司令は画面から離れてちょっと伸びをした。

 

「まあ、艦娘は神秘的だからまた、良いとも言えるな」

 

司令が呟くと金剛が向こうの給湯室から突っ込みを入れてくる。

 

「何か言った?」

「いや、独り言」

 

笑うような声が聞こえる。

 

「年寄り臭いね」

「ほっとけ」

 

司令は頭の後ろで腕を組んだ。そういえば今回も選抜メンバーで前線基地に来ているがブルネイの遠征を思い出すな。そう思っていたら金剛も同じようなことを言う。

 

「ねえテイトク、こういう遠征みたいなのって私好きだよ。楽しいネ」

「ああ……実は私も嫌いじゃない」

「へえ、そうネ」

 

金剛はカチャカチャと食器を準備している。

 

「戦闘がなければね……」

 

司令は付け加えた。

 

「私もネ、それには同意するヨ」

 

珈琲を注ぎながら彼女も答えた。

 

「ワタシが言うのも変だけどサ、戦争が無い世の中に生まれていたらワタシってどうなっていたかなって時々思うヨ……でも、そうなっていたら」

 

そこで彼女はちょっと詰まった。

 

「やだな……テイトクと会えなかったかもしれない」

 

ボソッと呟いた金剛。その横顔は妙に美しく見えた。

 

「でもっ、今日のワタシの珈琲は貴重品だからネ!」

 

そう言いながら二人分の珈琲を盆に乗せて持ってきた。確かにいつもは「紅茶が……」って言うし、実際姉妹同士では紅茶が多い。

 

「はいテイトクの分……ブラックだよネ」

 

司令は椅子を回転させると珈琲を受け取った。

 

「うん、ありがとう」

 

 金剛も司令の対面の椅子に再び座った。オイ私の目の前で足を組むな。思わず太ももに目線が行ってしまうじゃないか(^^; だが焦る司令に構わず金剛は綺麗な足を見せつつ珈琲をすする。

 

「Oh~ここの司令部の豆は、なかなか高級品みたいね」

 

確かに美保鎮守府で買っている豆よりも美味しい感じがする。いや……これは美味いな。ブルネイの迎賓館には負けるが、美保鎮守府でいつも飲む珈琲よりは美味しい。

 

 司令はちょっと静止。それを見た金剛がこちらを見て言う。

 

「何か?」

「うん、美味しいのはお前とこうやってリラックスして飲めるからかなぁってね」

 

金剛は黙った。あれ? また何か言うのかと心配したが大丈夫そうだった。

 

「……」

 

 でも少し間を置いてから、彼女はそっと呟いた。

 

「私……あんな事やこんな事しなくたって、今のままでも十分幸せだからネ。だから私、絶対命がけでテイトクを守るから。うん、鎮守府の皆も守りたい」

 

そう言いながら彼女はちょっとうつむいた。司令は言った。

 

「赤城のことか……済まなかった」

「ううん、いいの。戦いは命がけだから。むしろ今までが奇跡だったんだよ、テイトク」

 

 そう言ってこちらを見上げた金剛はとても綺麗だと司令は思った。この娘の為にも私も頑張ろう。そう思えるのだった。

 

「あ……」

「あ」

「Oh~」

 

 振り返ると青葉が立っていた。その後ろには背後霊のような艦娘が居た。やだな~やめてくれよ赤城さん。司令の気持ちを察したのだろう。彼女は静かに微笑んだ。

 

「ごめんなさい、驚かせて」

 

 




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第21話<数ヶ月前:演習と出撃命令>

新たに着任した榛名たちの演習を見学する提督。そしてついに前線海域への出撃命令が司令部より発令される。


「大淀さんが二人?」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第21話<数ヶ月前:演習と出撃命令>

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「どう考えても榛名さんの方が進捗が早いよね」

「そうですね」

 

 司令は秘書艦祥高と共に鎮守府の埠頭埠頭にパイプイスを持ち出して双眼鏡で演習の模様を見ていた。

今日は快晴で風も弱く演習にはもってこいのコンディションだ。漣がマメにお茶を取替えに来てくれる。頼むからメイド服で給仕するのは止めて欲しいなと司令は思っていたが……本人が嬉々としてやっているので止めづらかった。

 

 そんな美保湾の沖合いでは、金剛に指導されて榛名が演習をしていた。

 

「違う!もうっちょっと右ネ!」

「はい!」

 

司令は頭につけたヘッドセットで艦娘の通信をモニターしている。しかし榛名って一生懸命な感じが良いよなと彼は思っていた。

 

 ちょっと離れた沿岸に近い海域では瑞穂が最上と伊勢の指導を受けていた。共に新人の面倒見が良い二人だったが瑞穂はキャーキャー言うばかりでイマイチ。彼女はあまり最前線向きではないなと司令は思っていた。

 

 この頃は美保鎮守府も艦娘の着任が相次ぐ。その本人に聞くと彼女たちの多くは量産型だった。もう各地に廻されているんだなと司令は思った。美保に着任しただけでも千歳、球磨、鳥海、祥鳳(敬称略)。みんな量産型らしいが中央で気を遣ってくれているのか? 新人ではなく全員が(改)での着任だった。

 

 その日は比叡も美保湾に出て彼女たちを指揮して模擬戦闘訓練を行っていた。艦娘は個々に独特だが、さっきから「クマー」とか「私だって空母です!」とかその他諸々いろんな発言が聞こえていた。今回初めて艦娘の演習風景を間近で見ている司令は改めて不思議な光景だなと思っていた。

 

とはいえ新しい艦娘たちは即戦力で助かる。同時に司令は嫌な予感がしていた。ここまで事前の底上げをするのは、きっと裏がある。たとえば大規模作戦が近く発令されるだろうと予想されるのだ。

 

 ただ大淀が溜め込んだ資材のお陰で美保でも訓練時間が増えて全体的な錬度が上がっていた。それ以上にブルネイの一件があってからは美保鎮守府も、ようやく一人前の鎮守府として認知されつつあるようだった。それは軍隊としてはベストだが今まで実験部隊ということですり抜けてきた遠征にも駆り出されるのだろう。

 

 そんなことを考えていた司令の後ろから「司令……」と声がした。彼が振り返ると大淀が青い顔をしていた。珍しい。

 

「どうした?」

 

聞くまでも無く彼は目を疑った。

 

「はぁ?」

 

彼女の後ろに隠れるようにして立っていたのは、もう一人の大淀だった。

 

「大淀さんが二人?」

 

祥高も絶句している。

 

「司令~、ほら!見てください」

 

長い髪を揺らしながらニコニコして走ってくる赤城も二人居た。それはシュールな光景だった。

 

 ……これは、また悪夢か?

 

 大淀は、やや青ざめた表情のまま軍令部からの着任指令書を司令に手渡す。珍しく手が震えている。そこには美保鎮守府新規着任命令書とあり、

 

(一)大淀

(一)赤城

 

司令部機能も持つ大淀と、まさかの赤城? しかも共に量産型か? 防衛次官もついにネタ切れでダブリで寄こして来たのか? と司令は思った。

 

だがこの組み合わせは明らかに実戦を意識している……。

 

 青ざめている大淀と、やや隠れ気味の大淀2号……こっちは性格もおとなしそうだ。一方の量産型の赤城を従えてニコニコしている二人とは、対照的だった。

 

 司令は新しい2人に声をかける。

 

「私が美保鎮守府の司令だ。よろしく頼む……そうだな、これから一緒に昼食を食べようか?」

「はい」

 

明るく返事をしたのは赤城ペア。大淀ペアは、うなづくのが精一杯だった。

 

 昼食後、艦隊司令本部より新たな指令が発令された。美保鎮守府への北太平洋前線海域への出撃要請だった。

 

それを聞いた司令は思わず愚痴った。

 

「日本海側から出撃か?」

 

祥高も応える。

 

「かなり大遠征になりますね」

 

 今までは弱小かつ実験隊的な位置づけで原則的に作戦行動からは除外されていた美保鎮守府だったが、ついに正式に出撃命令が下ったようだ。軍人は戦うのが本分だから命令に従うばかりである。

 

 艦隊司令本部も量産化技術の実用化のめどが立って油断したのかオリジナルの艦娘を美保に廻しすぎだと司令は思っていた。それは他の鎮守府の艦娘たちが減っていることになる。

 

だが量産化が実用化され各鎮守府には相次いで工廠が設置されていた。この美保にもいずれ建造のための工廠が設置されるのだろう。それが、いつになるか不明だったが。

 

 さて本部の命令と併せて防衛次官からの私信も届いていた。「無理はしなくて良い」との但し書きがあった。彼的には可愛い艦娘が犠牲になるのは忍びないという下心も見え見えだけど本来の任務を越えて私信をくれる気持ちが嬉しいと司令は感じた。

 

……いや実は彼だけではない。最近何度も作戦参謀や技術参謀も心配して私信をくれていた。それによると今回は複数の鎮守府が合同で戦闘を行う。原則他の鎮守府と入り乱れることはない。艦隊の編成はすべて各鎮守府の提督に一任される。当然、勝つための編成が絶対だ。

 

 遠征の場合は基本的に、すべての経費は艦隊司令部が直接管理する。チェックも厳しいが運用の実務面で不足すると言う心配は不要だ。今回は大淀も二人居るので、後方支援は彼女たちに任せて祥高も一緒に前線司令部へ一緒に行くことになりそうだった。

 

 第一作戦海域では連合艦隊を編成し制海権を奪取する事が求められる。また戦闘の結果によっては新たな資材や資源、そして何よりも仲間を取り戻すことも可能だ。これは量産化実用化に伴って散見されるようになった現象でブルネイでの『復活現象』を連想させるが、あれとは違って『ドロップ』と呼ぶ。

 

 他の鎮守府では、美保よりも前線での戦闘回数が多いため、必然的に『ドロップ』して来る艦娘が多い。しかもなぜか工廠での建造同様、既に所属しているはずの艦娘が重複して『ドロップ』してくることも多い。

司令は、こんなに美保に着任が相次ぐのは、その影響かと思った。

 

 そこで彼はハッと気づいた。

 

今回着任した榛名や瑞穂は、もしかしたらその『ドロップ』組ではないか? そういえば他所から来たにしては経験値が無さ過ぎる。何となく変な感じはしていた。

 ただ本人に改めて確認するのは可哀相な気もするし……でも、別に彼女たちは気にしないのかな? それはまた祥高に相談してみるかと司令は思うのだった。

 

 今回、榛名はまだ戦艦としては練度が低いため出撃しないが赤城2号は最初から練度が高く、二人の赤城が揃って出撃することになった。

 

 それは司令には、ちょっと不安もあったのだが……。

 

 




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第22話<故障と失踪:最後の姿>

電がエンストしているとき、美保鎮守府ではまた別の大事件が密かに発生していた。


『もっと強引にでも止めるべきだったと後悔しています』

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第22話<故障と失踪:最後の姿>

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防衛次官のメモより。

 

 その日、夕方になっても雨は止まなかった。一日中雨が降り続けるというのは恐らくこの山陰でも極めて珍しいことだろう。その上、雨足は強くなり日本海もシケていた。鎮守府の窓からも埠頭内に白波が立っているのが良く見えていた。

 

 その日は海軍省からの『奇襲』……防衛次官とあの女王、もとい参謀長官が訪問して鎮守府全体がバタバタしていた。昼ごろには食事のため軍用車2台で送迎。そして夕方に例の美保空軍基地へ送る際に起きた電のエンジントラブル。その一件で鎮守府内はバタバタしていたのだが……その陰で、また別の事件が静かに起きていた。

 

 その日の朝から天候が崩れるのは分かっていた。だがある艦娘が買い物と約束があるからと外出許可証を提出していた。大井親子である。

 

彼女たちについては防衛次官や本省の技術参謀、作戦参謀、そして祥高と美保の司令の口あわせで本省には一切その存在が伏せられていた。もともと深海棲艦であった彼女である。もしこれが本省にバレたら全員確実に軍事裁判モノかも知れない。

だが敵であったと言うのは状況証拠に過ぎない。深海棲艦自身を戦場で捕虜にしたわけではない上に現在の彼女の容姿は艦娘そのものである。

 

 そもそもあの『復活』という現象。その概念が本省の頭の固い連中に説明できるわけも無い。面倒くさい。あ、これは報告書であるから訂正。説明は困難である。結局うやむやにして誤魔化しているのである。ただ実は女王こと参謀長官も彼女のことは次官を通して認知していた。彼女も事の重大さ、複雑さは承知し黙認していた。

 

 大井の外出許可証は複雑な事情を鑑みて大抵は祥高が許可を出した。美保の司令もそれは了承済みだ。その日も祥高は直ぐに許可を出した。だが普段の祥高だったら、こんな日に外出許可を出しただろうか? むしろ心配して止めていたのではないか?

 

 だが親子は少ない荷物をまとめるとタクシーでどこかへ向かった。その日、豪雨のため路線バスが動いていなかったのだ。実はこのタクシー代も祥高が現金で出した。なぜ軍から支給される祥高の個人用のチケットを使わなかったのか? 

 

 結局その日を最後に大井親子は美保鎮守府から消えた。もちろん居心地が悪いと言う理由は当たらない。他の艦娘たちは、とても親切だった。あの娘もよく駆逐艦たちと遊んでいた。たまに天龍も相手をしていた。だから親子が消えて一番嘆いていたのは彼女かもしれない。

 

 大井はやはり敵対勢力と関係があったのか? あるいは彼女はもしかしたら敵に拉致されたのか? すべては謎である。なにしろ祥高を始め、関係者全員がその後、彼女のことには一切触れなくなったからだ。

 

祥高に至っては公式文書からもすべて大井の記録を削除させた。だからこの文書もそのうち消える可能性は高い。

 

 祥高の解せない行動と言えば、当日夕方の運転の件だ。電の運転する車が空港へ向かう途中でエンストし直ぐに代車を出すことになった。これになぜか美保の司令が直接出たのだ。最初は青葉が出るはずだったのだが、それを変えさせたのが祥高だという。青葉によれば本省のVIPであるからという良く分からない理由だった。だが青葉はむしろVIPの応対も得意なハズだ。それをなぜ敢えて変えさせたのか? 

 

『今思えば私もあの時、ちょっと嫌な予感がしたんです。悪天候の中を司令が車で外出するのを、もっと強引にでも止めるべきだったと後悔しています』

 

これは青葉の談。

 

 実は司令が出るとき、特に司令と縁が深そうな寛代や金剛までが引き止めていた。女の勘であろうか? その金剛の引き止め方は尋常ではなく最後は自分が同行すると主張して比叡が引くほどだった。

 

美保の司令も、そこまでの艦娘関係を作っていたのかと後から聞いて感心した。

 

 結局、司令は「大丈夫だよ」と言って単独で出た。意外と青葉が大人しかったのは祥高に直接変わるように言われたためだろうか? 

最後にロビーで司令は青葉にひと言、話していたようだった。ただ彼女は非常に悔しそうな顔をしていたのが印象に残っている。

 

そして雨の中を司令は出て行った。少し遅れて電の軍用車の救援トラックが霞を助手に付けた夕張の運転で出発した。これがこの鎮守府で見た司令の最後の姿となった。

 

追記:

 

実は後から知ったのだが、監視役としてだろうか? 大井親子には、あの秋雲が付き添っていたらしい。ところが……である。彼女もまた消えた。

 

彼女の場合は前科があるため脱走したのではという疑いも強い。

 

その後、陸軍の協力を得て調査をするも彼女は行方不明のままである。まさか大井親子に何かされたとは考え難い。事故に巻き込まれた可能性も否定できない。その後、秋雲は失踪として処理された。

 

いや、絶対に何かあると思うのだが。

 

 




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第23話<当日昼過ぎ:本日貸切>

長官の案内で提督たちは境港にある喫茶店に向かった。


「ええ……おあつらえ向きにネ」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第23話<当日昼過ぎ:本日貸切>

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次官は時計を見た。

 

「そろそろお昼になりますが」

 

参謀長官は応える。

 

「そうね……」

 

司令と秘書艦が、食事をどうするか聞くまでも無く長官は応えた。

 

「気遣いは不要よ。実はね、境港市に私が知っている良い店があるの。貴方たちは車の手配だけ、お願いするわ。貴方たち二人と私たちだから、2台居るわね」

 

祥高はうなづくと、すぐに大淀を呼び電と霞に車の準備と運転をするように指示を出す。ほどなくして大淀が「車の準備が出来ました」と、連絡をしてきた。

 

「では車庫までご案内します」

 

全員が立ち上がると応接室を出て祥高を先頭に1階の駐車場へと向かう。廊下から見える窓の外は相変わらず雨模様だった。

 

長官は歩きながら呟く。

 

「今は敵も変わったわね……以前は、こんな天候でも平気で攻めてきたものよ。深海棲艦側も、いろいろ考え方が変わるのかしらね」

 

その発言はとても興味深いものだと、その場の全員が思ったことだろう。敵の心理まで分析すると言う発想が、そもそも現場の指揮官や次官にも無かったからだ。

ただ秘書艦だけは敵地へ行った事もあるためか何か考えているようだった。

 

 電の運転で長官と次官、霞の車には司令と秘書官が乗った。少し小康状態になった雨の中を、2台の軍用車は境港市街地方面へと走り出す。長官の案内で水木しげるロードの手前路地にある、ちょっとお洒落な感じのお店の前で軍用車は止まった。店の軒先にはランプの飾りが灯り壁には船のレリーフがある。

 

「ここよ……」

 

長官の案内で車を降りて、素早く店の中に入る。電や霞は一旦、鎮守府へ戻ることになり、2台の軍用車は直ぐに走り出した。店の入り口には『本日貸切』と札が下がっていた。

 

「いらっしゃい」

 

白髪交じりで大柄ではあるが、品の良いマスターが声をかけてくる。

 

「おお! お出でなすったな、長官様!」

 

彼は長官を見るなり言った。

 

「久しぶりね……」

 

長官はコートを脱ぎながら言った。

 

「今日は酷い雨になったな」

 

マスターはグラスを準備しながら言う。

 

「ええ……おあつらえ向きにネ」

 

長官は応えている。彼らは知り合いのようだ。

 

「ほら、皆上着を脱いで座って。今日は貸切だから、皆リラックスしてね」

 

どんどん仕切る長官。次官がたまらず聞く。

 

「ここは? お知り合いで」

 

早々と上座に座った長官は微笑みながら言う。

 

「そうよ。そしてこの店は帝国海軍OBのアジトみたいなものね。彼はかつて横須賀にも居たことがあるのよ」

 

その言葉に、一同はちょっと感心した。

 

「よせやい、昔のことだ」

 

そんな彼は、司令の顔を見た。

 

「おお、お前も凛々しくナったな……やっぱり父親似かな?」

 

その言葉に驚く司令。

 

「父を、ご存知ですか?」

 

マスターは軽くうなづく。

 

「ああ、彼は空軍だがな。腕の良い操縦士で、海軍にも指導に来たことがある。彼のタッチアンドゴーは空軍……いや海軍や陸軍でも、あそこまでの名手は、そう居ないな」

 

彼は遠い目をして言った。司令にとっては初めて聞く父の実力。普段から寡黙で自分のことは、ほとんど喋らないから彼も知らないことだった。このマスターは生き字引のようだなと司令は思った。

 

「おお!」

 

 突然マスターが素っとん狂な声を出すのでビックリした。

 

「祥高! なんだ、お前美保に居たのか?」

 

 呼ばれた秘書艦は、軽く会釈をした。そうか、彼も横須賀に居たのなら彼女を知っていておかしくない。

 

「何しろお前の活躍は全国に鳴り響いていたからなあ……で、寛代は元気か?」

 

なんだ、寛代も知っているのか。

 

「はい」

 

祥高は応えた。マスターは続ける。

 

「あれだ……ほら、アイツは?」

 

名前が出てこないらしい。直ぐに祥高が助け舟を出す。

 

「姉……技術参謀ですか?」

 

直ぐに指を刺すマスター。

 

「そうそう、それだ。当然、元気だろうな? アイツは簡単には死なんからな」

 

言いたい放題だなと司令は思った。祥高も苦笑いをしている。

 

「はい。最近は艦娘の量産化に成功して、相変わらず多忙なようです」

 

マスターはフフンと鼻で笑った。

 

「あいつも横須賀に張り付いてないで、こっちに来れば良いのにな」

 

ボソッと呟くマスターだった。

 




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第24話<数ヶ月前:2号の追憶>

美保鎮守府への見学が相次いでいる件と、赤城さん2号の思い出について。


「スミマセン。私……」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第24話<数ヶ月前:2号の追憶>

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(提督暗殺事件の数ヶ月前……司令のログファイルより再構成)

 

 美保鎮守府はシナを撃破した鎮守府として他の鎮守府や泊地ほかマスコミからも取材や視察が相次いでいる。対外的な窓口のタワーを青葉にしているが案内など実務はPR部隊の吹雪が担当している。以前は県外へ出て不在がちだった彼女も近頃では美保に居る時間が多い。

 

 今も鎮守府内では時おりゾロゾロと視察団を従えて「はい!こちらが食堂です!」とか言っている。そのハツラツ振りを見ているとついブルネイの可愛そうな吹雪を連想してしまって涙が出そうになるから困るよな。

 

 他にも小学校や幼稚園の見学まである。こっちの担当はなぜか天龍だ。よく分からないが龍田さんの勧めらしい。本人も最初は首を振っていたのにイザやらせてみると嬉々としているし意外と要領が良い。艦娘は見かけによらないな。

 

今も向こうの広場で保育士さんにまじって大きな声を出している。その雰囲気は『保育士天龍先生』だよな。ちょっと離れたところで龍田さんが笑っている。

 

天龍といえばブルネイで救出した大井の娘の面倒も良く見てくれる。繰り返すが艦娘は見かけに拠らないものだなと思う。

 

 さて美保は艦娘が百名に満たないコンパクトな鎮守府であるが、それでも一部の例外を除いて人間と同じ食料を消費する。日々の食料の消費量も半端ではない。最近では戦艦などの大型艦娘も増えたため、以前よりも何割かは増加したようだ。

 

ただブルネイの一件があってからは本省や本部の印象もよくなったのか食料や燃料に関する予算は、こちらから上申する前に枠が拡大された。

 

一番喜んだのは事務の大淀さんかもしれない。ブルネイ遠征期間中の留守も彼女のお陰で備蓄が増えた上に美保での演習の回数まで増えて練度が増した。一番の功労者は彼女だろう。

 

 そんなある日、事件は起きた。

 

大淀さんが青い顔をして報告に来た……この気弱な雰囲気は2号の方か。

 

「どうした」

 

彼女は震える手で、まず隣に居る秘書艦に報告書を提出した。しばらくジッと見て居た彼女は報告書を私に手渡しながら言った。

 

「食品倉庫の在庫が著しく合わないそうです」

「はぁ?」

 

私は報告書の数字を追いかける。確かに数個と言うレベルではない。2桁? 単なる数え間違えという次元ではないぞ。

 

「最初は在庫の数え間違えかと思い担当する駆逐艦娘を交代させてみたりしたのですが誰が数えても誤差が出ます。しかもなぜか一定量で……」

 

大淀さん2号はプルプル震えている。いや、そんなに怖がらなくても良いんだけど。祥高さんが声をかけた。

 

「大丈夫よ大淀さん。こうなってくると貴女の責任ではないわ。良く報告して下さったわね、有り難う」

 

その言葉に緊張の糸が切れたのか彼女は立ったまま顔を押さえて泣き出してしまった。うーむ、2号さんはドロップ組だから純粋だな。祥高さんはどこかに無線連絡をしてから立ち上がると大淀さん2号を抱き寄せてソファに座らせた。

 

「落ち着いて。今お茶を入れたから」

「……はい」

 

ソファに腰をかけながら祥高さんは振り返る。

 

「でも司令、どうなさいますか?」

「そうだな……」

 

 そのときドアをノックする音がして鳳翔さんが入ってきた。あれ? その後ろになぜか赤城さんが二人。もしかして?

 

「お茶が入りました……あと赤城さんが司令にお話があると」

 

鳳翔さんが言うと赤城さんが2号の手を引いて入ってきた。その姿を見て私も祥高さんも何となく事情を悟った。赤城さんも私たちの顔を見てうなづく。

 

「食糧倉庫の在庫が最近、合わないと駆逐艦娘から伺いまして、もしやと思い良く聞いてみたら、この子が食べてしまっていたようです」

 

 ああ、やっぱり。私も祥高さんもため息を付いた。大淀さん2号は呆気に取られたような顔をしている。鳳翔さんも退出する機会を失って困惑した表情だ。

 

「す、スミマセン。私……」

 

赤城さん2号もオリジナルよりは少し控えめな感じだよな。ただ大淀さん2号ほど弱々しく感じないのは、やはり一航戦のベースがあるからだろう。

 

赤城さんが言う。

 

「私からも謝罪します司令、本来は私がきっちりと躾(しつ)けるべきでした」

 

いや、犬じゃないんだからさ……。祥高さんが私に聞く。

 

「どうなさいますか? これだけ在庫が合わないと恐らく月次棚卸しの際、本省に報告書を提出する必要がありますし、原因……この場合は当事者である赤城さん2号の名前を出すことになります。そうなると……」

 

彼女はハッキリとはいわなかったが赤城さん2号や美保鎮守府が何らかの処分、あるいはペナルティを課せられる可能性が高い。

 

「そうだな……ただ、今回は2号も事情が分からなかっただけだからなあ」

 

思わず私は呟いた。そのとき大淀さん2号が口を開いた。

 

「司令……もしよろしければ時間はかかりますが、在庫調整を繰り返せば数ヶ月かけて帳尻を合わせることも可能かと思います」

 

意外な提案。

 

「それは……出来るのか?」

 

大淀さん2号は明るい表情でうなづく。

 

「原因もハッキリしていますし、もし司令のお許しがあれば……」

 

私は祥高さんを見た。彼女もうなづいている。今度は赤城さんたちを見た。2号は泣き出しそうだが赤城さんはため息混じりに言った。

 

「この子の気持ちも分からなくはありませんし……司令が宜しければ」

 

決まりだな。私は言った。

 

「分かった。この件については私の責任で処理しよう。本省には普通に報告し、実務での細かい帳尻合わせは大淀さん2号にお願いする。赤城さんにも指導のほう、よろしく頼む」

 

大淀さん2号と赤城さんはうなづいた。そのとき鳳翔さんが手を上げて言った。

 

「あの……もし宜しければ私のほうでも『指導』を兼ねて赤城さん2号に厨房とか庶務を手伝っていただければ」

 

これには一同、笑った。そう言った鳳翔さん自身、真っ赤な顔をしている。でも一気に場が和んだ。

 

「そうだな……そうしてもらおうか。休息時間が多少削れるが」

 

私が赤城さん2号を見ると彼女は敬礼をした。

 

「はい! 一生懸命、頑張ります!」

 

その挨拶の雰囲気は、ややたどたどしいながらも赤城さんそのものだった。

 

 敬礼を直ると赤城さんと2号は手を取り合って喜んでいる。その2号の笑顔はとても印象的だった。赤城さん2号が振り返る。

 

「司令……私、何も分かりませんが粉骨砕身、全力で頑張りますっ!」

 

 オリジナルの赤城さんとは違う、ちょっと初々しい笑顔に正直ドキッとしてしまった。こういう瞬間が時々あると艦娘って不思議な存在だなと感じる。

 

私も指揮官としては十分ではないが、この美保も徐々に良い鎮守府になってきたんだな……そう思わずにはいられなかった。

 

 その後の赤城さん2号は演習の合間には庶務の手伝いも一生懸命頑張った。やがて彼女は美保鎮守府の主軸空母の補佐として、きっちり成長していった。

 

 だが赤城さん2号はその後、美保鎮守府の初陣となる北太平洋前線海域への出撃に赤城さんと出陣。運命の『あの日』を迎えることになるのだった。

 

だからだろうか? この時の赤城さん2号の笑顔が未だに忘れられないのだ。それはきっと彼女自身にとっても思い出の一日となっていたに違いないだろう。私はそう信じる。

 

 ブラック鎮守府と言われる拠点も結局は、ただ艦娘をこき使う以上に彼女たちの純粋な気持ちを踏みにじる行為がまさに『ブラック』なのではないか?

 

 もっともそれは我々人間社会においても同様であるとも言える。

 

人間だって小さな存在だが、それ以上に小さいかも知れない艦娘たち。それでいて我々と同様の感情を持つ。それが人間と比べてどうなのか?

 

 まだまだ分からない事だらけだ。

 

ただ艦娘を通して実は我々人間も成長出来るのではないか? いや……考えすぎか?

 

 

 司令のログファイル:終わり。

 




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第25話<電と神通:乗換え>

エンストした電のもとにやってきた軍用車を運転していたのは司令だった。電は驚く。


「へえ。そりゃ慕われたものだな」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第25話<電と神通:乗換え>

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 ほどなくして雨の中を代車がやってきた。車の無線が感応する。

 

「こちら美保司令、代車として到着しました」

 

一瞬ビクッとした電。内心『なぜ司令が直々に……?』と思った。

 

「了解しました」

 

助手席の神通が車内の無線で応える。ミラーでもハザードランプを点けた軍用車が後方につけているのが見えた。

 

 電は疑問に思ったが車内の誰も司令が直接来たことについては別に不思議とも何とも思っていないようだった。相手がVIPだから? 電はそう思った。

 

幸い雨が少し小康状態になった。神通が言う。

 

「じゃ電チャン、私たちは移動するから……あとは夕張さんが来るはずだから」

 

電はうなづいた。

 

「分かったのです。司令にもよろしくお伝え下さいなのです」

 

【挿絵表示】

 

 

それと同時に全員が、きびきびと動き車の移動を開始する。

 

「ありがとうな電チャン」

 

出掛けに次官は軽やかに言うが『女王』はちょっと微笑んだのみ。電は一瞬『あれ?』という違和感を感じた。ただそれは今朝から天候が悪いせいで、ずっと自分が不安に思っていたからだろうと自分に言い聞かせた。

 

 やがて電の車の横を司令の運転する軍用車が通り過ぎた。その尾灯が遠ざかるのをみながら電はなぜか胸騒ぎがしていた。

 

「ここからなら空軍基地までは10分と掛かりません」

 

ハンドルを握りながら司令は言う。

 

「済まなかったわね、あなた直々に出させて」

 

長官は詫びた。司令は答えた。

 

「いえ……ただ、艦娘たちが異常に私を引きとめたので参りましたけど」

 

この話題に食いついたのは次官だった。

 

「へえ、例えば誰が?」

 

司令はちょっと恥ずかしそうに応える。

 

「あの大人しい寛代と金剛……こいつに至っては背中に妖怪の『コナキジジイ』みたいに張り付いて比叡や祥高さんと引き剥がすのが大変でしたよ」

 

それを聞いた次官は喜んでいる。

 

「羨ましい……もとい、へえ。そりゃ慕われたものだな」

 

そして長官も微笑んでいた。

 

「それは良かったわ。あなたはもう立派な司令官ね」

「いえ、恐縮です」

 

 だが無責任に喜ぶ人間たちとは裏腹に艦娘である神通は違和感を覚えていた。さっき車庫で覚えたあの変な感覚だ。

 

人間がどういった感情を持っているのか彼女には正直、良く分からない。だが艦娘には人間の感情に反応する部分だけでなく、超自然的な現象の前触れに対しても人間以上に敏感なことが多い。個体差はあるが平均値では人間以上だ。

 

この司令に対する不穏な空気。重圧というのだろうか? ドス黒いもの感じたのは神通だけではなく寛代や金剛も感じていたのだと……特に金剛は普段の言動から大雑把な印象が強いが実際に彼女は人や艦娘の感情の動きにとても敏感な艦娘だ。

 

『金剛さんがそこまで司令を止めようとするのは、何かあるに違いない』

 

そう思った神通は自然に腰のホルスターに手をやるのだった。

 

『出来れば、これは使いたくないけど……』

 

 そうこうしているうちに空軍美保基地のゲートに到着。既に連絡してあるのでナンバープレートと顔パスだけで通過できた。

 

「空軍基地の本館玄関で降ろしてもらえば後は良いわよ。すぐに戻って」

「ハッ」

 

 車は滑るように本館前の正面玄関に到着。そこには庇があるので長官と次官を見送るために司令と神通も一旦車を降りた。玄関前には美保基地の司令も顔を出していた。彼と長官は簡単に挨拶をしていた。

 

「そうだ」

 

 長官を見ていた次官が急に司令に何かを手渡した。

 

「俺の愛用の銃だが……念のために渡しておくよ。お前、今丸腰だろ?」

 

神通が居るからと言いかけて司令はハッとした。丸腰もそうだが寛代や金剛のあの止め方だ。ひょっとしたら何かを察知したものか? 鈍感な彼もさすがに不安が脳裏をよぎった。

 

「お前にくれてやっても良いし良心の呵責があるなら今度来るときに返してもらっても良いよ」

「有り難う」

 

二人のやり取りを見ていた神通はホッとした。彼女もずっと不安を抱いていたが、さすがに寛代や金剛ほど激しく止めることはしなかった。ただ司令が丸腰なのは事実であったし正直、自分ひとりでは司令を守りきれない。そんな不安があったのだ。

 

 この次官はやはり信頼できる人だわ。神通はそう思うのだった。空軍司令と話をしていた長官が振り返る。

 

「フライトはちょっと遅れるみたいだから一旦上に上がるわ。あなたたちここで良いわ。雨の中、本当に有り難うね」

 

長官は敬礼をした。司令と神通も敬礼をした。そして二人は敬礼を直ると、軽く会釈をしてから車に乗り込んだ。

 

それを見送りながら次官も、言い知れぬ不安を感じていた。あの短銃は特注品だから精一杯、美保の指令を守ってくれ。そんなことを考えていた。

 

 




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第26話<轟沈と絆:これが『みほちん』>

前線指令室では控えていた赤城が司令と話をしていた。そこで彼女が受信した内容を話すのだった。


「ソウだよ、司令は……」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第26話<轟沈と絆:これが『みほちん』>

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 司令は立ち上がった。

 

「赤城さん、済まなかった」

 

頭を下げる司令に赤城は慌てた。

 

「お止めになって下さい司令、誰も司令を責めたりしませんから」

 

金剛も加勢する。

 

「ソウだよ、司令は……」

 

 そこで彼女は言葉に詰まって静かに泣き出してしまった。赤城が静かに彼女を背中から抱きしめた。今回の戦闘中、司令もずっと無線機と海戦図を通して逐一、彼女たちの動きを俯瞰していたが、彼女たちの想いは痛いほど伝わってきた。だが無線機だけではどうしても壁のような限界を感じる。

 

『やはり前線に出ていた者にしか分からない世界があるな』と司令は思った。

 

 青葉が今回の戦闘記録をめくっている。

 

第一艦隊

 比叡(改2)が指揮

 赤城(改)→大破。そのまま作戦を強行して轟沈。

 鳥海(改)→中破

 龍田(改)

 漣(改)

 山城(改)

 

第二艦隊

 金剛(改)が指揮

 那珂(改2)

 北上(改2)

 長月(改)

 吹雪(改)

 祥鳳(改)

 

青葉は顔を上げた。

 

「今回は第二艦隊は、無傷だったの?」

「……」

 

金剛は応えなかった。ただ第二艦隊には大きな被害が無かったからこそ彼女はダッシュして司令部に戻ってきたのだろう。

そこで司令は思った。轟沈を出した第一艦隊の比叡の方がショックは大きいかもしれないなと。

 

「艦隊は、そろそろ戻ったかな?」

 

司令が聞くと赤城は応える。

 

「そうですね。帰還の無線が少し前にいくつか入っていました」

 

司令は金剛に聞いた。

 

「金剛、比叡は大丈夫か?」

「……」

 

 またしても金剛は無言だった。ただその問いかけの直後、彼女はやや苦渋の表情を浮かべた。

 

第二艦隊の北上はしっかりしているから仮に金剛が抜けても無事に戻るだろう。ただ第一艦隊の比叡のことが司令も心配になった。

 

「……ソーリー、テイトク」

 

 金剛が呟くように言った。続けて彼女は英語で言った。

 

『私の悪いクセだよね。周りが見えなくなってしまって』

 

すると資料を戻して腕を組んだ青葉が英語で返す。

 

『貴女の司令を支えようとする気持ちはとても崇高だと思うけどさ。部隊組織は上下だけじゃないんだ。左右の横の繋がりも大切だよ』

 

 記者目線で冷静な青葉らしいけど、それはちょっとキツイ言い方かな? 司令は思った。金剛は目を伏せたまま呟くように英語で言った。

 

『そうだよね……私いつも先頭を突っ走ってきたから左右には誰も居ないんだヨ。ただ先頭を走る司令か秘書艦くらいしか見えない』

 

そこで金剛は顔を上げた。

 

『でも青葉も赤城も、ううん比叡だって、みんな居るんだよね……』

 

急に日本語に変わる。

 

「もう私、独りじゃないんだよね」

 

 英語は分からないであろう赤城も、そこまでの雰囲気は伝わったようだ。背中から金剛を抱きかかえるようにしながら言った。

 

「金剛さん、もう一人で悩むのはやめましょう。戦いは皆でするものでしょう?」

「そうだね」

 

 その時、慌ただしく艦娘たちが戻ってきた。比叡に北上、そして那珂だった。

 

「お姉さま! 酷いですぅ、置いていくなんて!」

 

開口一番、小言を言う比叡。その表情は意外と明るかった。北上も言う。

 

「でもさぁアタシには『後は頼んだ!』って言って走って行ったよ」

「聞いていないもん!」

 

脹れているのは……那珂だった。

 

「ねえ司令! どう思いますかぁ? 旗艦が先に帰還……なんちゃって! きゃは!」

「ああ……そうだな」

 

 その妙な明るさにタジタジとなる司令だった。赤城も微笑みながら言う。

 

「那珂ちゃん許してあげて。金剛さんも反省しているから」

「ふーん」

 

意外と元気そうな第二艦隊を見て司令は少し安心した。続けて赤城は言った。

 

「それにあの子……2号は最期に『悔いはないから、司令に有り難うって伝えて』……そう言ってました。きっと深海棲艦になんか、ならないと思う」

 

 そこまで言うと赤城は顔を伏せた。すると金剛が立ち上がり赤城をそっと抱きしめた。

 

「そうだよね。わたしたちは戦うだけじゃなく戦い切らないとダメだよネ。悔いを残すような戦い方をしたらダメね」

 

その言葉に、その場に居る全員が何かを悟らされる心地だった。

 

 やがて秘書艦が戻ってきた。

 

「司令、全員戻り……あ」

 

そこまで言いかけて彼女は言葉を止めた。だが赤城は顔を上げて微笑んだ。

 

「祥高さん『全員』無事、帰還ですね」

 

一瞬、考えた秘書艦だったが、直ぐに微笑んだ。

 

「そうですね。全員無事に帰還。負傷した者は直ぐに入渠および休息に入ります」

 

司令もうなづいた。

 

「ああ、ご苦労。みんな有り難う」

 

 司令が敬礼をすると同時に、その場に居た艦娘たち、そしてごく自然に指令室に残っていたスタッフも改めて敬礼をした。一人のスタッフが先輩に呟いた。

 

「美保鎮守府って、独特ですけど良い感じですね」

 

先輩は応えた。

 

「ああ、決して優秀ではないが壁が無いというか、お互いの結びつきの強さは感じるな」

 

後輩は言う。

 

「それって絆ですか?」

 

先輩は笑う。

 

「そうだな……そうとも言うか」

 

後輩は続ける。

 

「でもこういう関係があれば轟沈しても心配ないでしょうね」

 

後輩の言葉にちょっと驚いた表情の先輩スタッフ。やがて腕を組んで続ける。

 

「……そうだな。美保は小さいことが逆に強みなんだろう。大きい鎮守府になるとどうしても目が行き届かなくなって寂しい想いを抱く艦娘が少なくない。それがいわゆるブラック鎮守府なんだ。結果的に敵を量産しているのは我々だと陰口を叩かれる一因だよな」

 

後輩も肩をすくめた。

 

「でもボクも一回、視察に行きたいですね、美保」

「今度、一緒に行って見るか?」

 

先輩は笑った。

 




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第27話<当日昼過ぎ:期待と関門>

さまざまな期待と不安、それは新しい世界への入り口なのか? 考える司令だった。


「若い子を惑わすようなことを言うなよ!」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第27話<当日昼過ぎ:期待と関門>

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「はい、お待たせのコーヒー」

 

マスターは4つのカップをテーブルに置くと、コーヒーサーバーごと持ってきて手際よく淹れていく。

 

「メニューは原則、お任せだからね」

 

 そう言いながらカウンターに戻ったマスターは調理を始める。

その姿を見ながら司令は言った。

 

「境港にこんなお店があったとは知りませんでした」

 

長官は少し微笑んだ。

 

「そうね、あなたは地元だったわね」

「はい」

 

しかし彼女は意味ありげに言う。

 

「でもね、地元出身だからこそ教えなかったということもあるのよ」

 

その言葉の意味は、司令には正直分かりかねた。それは次官も同様だった。

 

「そんなものですか?」

 

思わず次官は、そんなことを言った。

 

「おいおい、若い子を惑わすようなことを言うなよ!」

 

 マスターがカウンターから叫ぶ。微笑む長官。これはOBならではの独特の世界だなと司令は思った。長官は改めて次官や司令に向き直ると微笑みながら言う。

 

「ごめんなさいね……でもあなた達には国家も期待をしている。それは間違いない」

 

次に彼女は秘書艦を見た。

 

「特に祥高さん、あなたは恐らく艦娘としても、また海軍の一員としても今後とても重要な位置に就く事になるわ」

 

また意味ありげなことを言う長官だった。意外にも秘書艦は動じることなく応えた。

 

「はい。心得ています」

 

これはどういう意味なのだろうかと、ますます困惑した顔の次官だった。

しかし司令には思い当たる節があった。

 

 ただ、このことを知っているのは恐らく長官だけ。この雰囲気では、このマスターも知っているのだろう。だがそのことについては長官からは何も切り出さないし、祥高さんも黙っているから、彼もあえてその話題には触れないことにした。

 

 むしろ司令は長官が言う『国家』という言葉に一瞬たじろいだ。だがその話題も含めて今後自分たちが大きな流れに組み込まれていくことを想像して思わず身震いをするのだった。するとカウンターから声がする。

 

「まあ、そんな深刻な顔をするなよ、若者!」

 

マスターは料理をしながら言う。

 

「お前たちが武者震いしたくなる気持ちも分かるぞ」

 

やはりこのマスターも何か知っているなと司令は思った。それは祥高も同様らしかった。次官はまだ少々困惑顔だ。

 

「オレからひと言、言わせて貰うとだな」

 

彼はそう言いながら、ガチャガチャとお皿を準備している。

 

「何か大きなコトを成そうと思ったらな、どうしても関門みたいな狭い道を通らないといけない……まあ、出産の産道と同じだな。産みの苦しみって奴だ」

 

まるで人生論だなと司令は思った。次官は早速メモをしている。

 

「ただ、そういう狭い場所に追い込まれても運命ならば逃げようが無い。そうなったらジタバタせずに流れに身を任せて自然体で居れば良い。いざとなって慌てるのは馬鹿者だ。日頃の鍛錬が大切だ」

 

分かったような、分からないような……と司令は思った。

 

「オレの個人的な見立てだと、お前は多分、大丈夫だよ。安心しな」

 

そう言われて、彼はちょっと安心した。

 

「出来たぞ。ちょっと手抜きだが今日は境港らしくシーフードバスタだ」

 

マスターは大声で言った。いや、声が大きいだけか? 司令がそう思っていると目の前に大皿に盛ったシーフードパスタが出てきた。艶々しくて、とても美味しそうだった。

 

「おお!」

 

メモ帳を閉じた次官も感嘆の声を上げた。マスターは取り皿とフォークを持ってくる。

 

「昨日、食材を仕入れて置いて良かったよ。今日は海が荒れているからな」

 

 その時、壁の無線機が何かの信号を傍受していた。司令はちょっと気になった。それには長官も反応した。

 

「まあ……来ているようね」

 

マスターもちょっと聞き耳を立てて言った。

 

「フフ、天候は無関係だからな」

 

これは一体、何のことだろうか? 司令は考えていた。

 




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第28話<当日夕刻:神通の決意>

空軍基地を出たところで司令と神通は運転を代わる。それは秘書艦の指示だったが……。


 

「精一杯、司令をお守りします」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第28話<当日夕刻:神通の決意>

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 空軍美保基地のゲートを出たところで神通は無線を受ける。ややあって彼女は司令に言った。

 

「司令官、秘書艦より『もし司令が運転をしていたら私(神通)と代わって下さい』との伝達です」

 

司令は「そうか?」と言いながら軍用車を一旦道路際に寄せて停車。

 

「君は運転は出来るんだよね」

「はい、十分ではないと思いますが」

 

 司令は彼女は本当に控えめだよなと改めて思った。ただ、そういう人ほど実力があったりするものだとも思った。

 

二人は運転を交代した。雨は小康状態になっているが遠雷は続いている。まだまだ雨は降りそうな気配だ。司令は神通と運転を交代する際に彼女が腰から下げたサブマシンガンにカートリッジを取り付けるのを見た。また予備のカートリッジも点検している。

 

「まさか運転しながら撃たないよね?」

 

司令は苦笑した。神通は少し微笑んで言った。

 

「状況に拠ります」

 

つまり神通は本気を出せば片手でも撃ちかねないことになる。ただならぬ彼女の気配に司令も次官から貰った銃を改めて取り出した。それを見た神通は言った。

 

「それは……かなり高性能の銃ですね」

「あ、そうなの?」

 

小火器類には疎い司令だが、神通はそこそこ知識があるようだ。彼女は続ける。

 

「護身用としてだけでなく特殊部隊のバックアップ用としても用途があるタイプで信頼性と汎用性、そして速射性にも優れています。確か雨天でもそこそこ撃てるようです」

 

パッと見ただけでそこまで見てしまうんだと司令は驚いた。なるほど長官が彼女を護衛艦として推薦する理由がわかった気がした。

 

彼は改めて聞いてみた。

 

「さっきの祥高さんからの指示……君も何か思い当たる節はあるのか?」

 

ちょっと間を置いて周りの気配を探るような素振りを見せながら彼女は言った。

 

「はい……今、一時停止していますが恐らくこの車は監視されています。もし私たちが発車すれば相手側にも何らかの動きがあるはずです」

 

 神通はかなり思い詰めたような表情をしていた。彼女は何かを感じているようだ。その尋常でない雰囲気に司令は改めて出発前の鎮守府ロビーでの寛代や金剛たちの引き止める姿を思い出していた。

 

 いや、それ以前に朝から電も妙な雰囲気だったことを彼は思い出していた。ただ何かを察しているはずの秘書艦は普段通りだったことが逆に違和感を覚えた。

 

「どうなさいますか司令? ここは基地の前ですから、ここに留まっていれば相手も手出ししてこないでしょうから、しばらく時間稼ぎが出来ます。その間に夕張か誰かをこちらに向かわせますか?」

 

司令は腕を組んでしばらく考えた。ハンドルを握ったまま神通は言った。

 

「海上での練度はまだまだの私ですが、せめて地上では精一杯、司令をお守りします」

 

抑えた声ではあったが決意を感じさせる声だった。

 

「ああ……」

 

次官にもらった銃を握ったまま司令も答えた。恐らく……これから何か起こる。それは時間の問題なのだろう。

 

「神通、私に何かあったらよろしく頼むよ」

 

司令の言葉に彼女は微笑んだ。

 

「その台詞は私が言うべきですよ、司令」

 

神通の表情にフッと安心感をおぼえた司令は言った。

 

「良いよ。ゆっくり出してくれ」

「了解です」

 

軍用車はゆっくりと発車した。

 




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第29話<当日昼過ぎ:志と共に生きる>

昼食をとりながら、マスターから赤城について質問を受ける司令。だが秘書艦が応えるのだった。


「祥高は前線での判断力に長けるな」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第29話<当日昼過ぎ:志と共に生きる>

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マスターが作ったシーフードパスタを各自、取り皿に盛って食べ始める。

 

「やっぱり境港は港町だからシーフードが美味しいですね」

 

次官のひと言で司令の様々な疑問はかき消された。彼がそれまで考えていた色々な考えが全部吹き飛んでしまった。

 

「……まあ、良いか」

 

司令は独り言のように呟いた。

 

「なに?」

 

次官が突っ込んでくる。

 

「いや、自分の地元でも知らないことはあるんだな……って」

 

次官はパスタをほお張りながら言う。

 

「そんなものさ。オレだって足元の海軍省でも知らない部署ばっかりだぞ」

 

その言葉に一同、ちょっと場が和んだ。

 

「そういえば……」

 

タオルで手を拭きながらマスターが言う。

 

「先回の太平洋戦線では美保が唯一、大型艦の赤城を沈めたらしいな」

 

司令は一瞬、言葉を失う。マスターはナゼそんなことまで知っているのだろうか? 場がちょっと凍りつく。だが彼は和やかな表情になって続けた。

 

「いやいや誤解しないで欲しい。責めている訳じゃないよ。艦娘は兵士。常に死へ向けた行軍をしているようなものだから」

 

そう言いつつマスターは前掛けを外した。

 

「冷酷なようだが指揮官ってのは部下をどれだけ殺したかで評価が決まる。とても、まともな人間がやることではない」

 

その言葉は重かった。彼はカウンターに寄りかかりながら続ける。

 

「問題は前線の兵士たちが喜んで戦っているか? あるいは彼らが迷うことなく一直線に死んでいけたかどうか? ってことだよ」

 

長官と祥高がうなづいていた。男性陣である次官と司令はちょっと驚く。マスターは腕を組んで問いかける。

 

「指揮官のせめてもの務めはそこだが……司令、その赤城は苦しんで死んだのか? それとも?」

 

司令が躊躇していると祥高が応えた。

 

「彼女は喜んで死んでいきました……とても立派でした」

 

言い切る秘書艦。司令はそのことにもちょっと驚いた。改めてマスターが確認する。

 

「それは祥高が無線で確認したことか?」

 

祥高は一瞬、躊躇したが記憶を手繰るようにして応える。

 

「いえ……無線ではありますが、かなり近い距離です」

 

そう言いつつ彼女は司令に向き直る。

 

「済みません司令。あの作戦では前線司令部から最前線まで距離があったことと、かなり電波の状態が悪かったため、私と寛代で自主的に前線基地の沖合い12キロまで出て無線中継と情報収集をしていました。勝手な行動を深謝します」

 

司令はまた驚いた。それで美保の無線だけ妙に通りが良かったのかと彼も思い出していた。

 

 しかしマスターと長官は目配せをしてうなづいた。彼らの反応には何か意味があるのだろうか? と司令は思った。

 

マスターは腕を組んだままアゴに手をやりつつ応えた。

 

「それで良い。やはり祥高は前線での判断力に長けるな」

 

すると長官もうなづく。

 

「そうね。もう少し司令と秘書艦の連携が上手くいっていたら赤城の轟沈は無かったかもしれないけど……」

 

そこで思わず司令と秘書官は声を揃えるようにして言った。

 

『すみません』

 

だが長官は頭を振った。

 

「ううん、良いのよ。もちろん祥高はちょっと突発的な行動に出る傾向はあるにしても今回は貴女の活躍で帳消しね」

 

彼女は微笑みながら言った。司令たちはホッとした表情になる。長官は祥高の性格も良く知っているんだな……と。

 

するとマスターもそれを受ける。

 

「戦場ってのはキレイごとでは済まされない。単なる兵士が勝手な行動をとることは問題だが祥高は提督代行も出来る立場だからな……」

 

そこまで言うと彼はコップの水を一杯飲んだ。そしてかみ締めるようにして続ける。

 

「だが戦争において誰のために命を捧げるか? それが重要なんだ。個人ではなく国家の為に命を散らすことは兵士にとって最高に名誉なことだ。それを喜んで受け入れることが永遠の魂の輝きとなって残る。全体の為に自分の命を捨てんとする者は結果的に、その志と共に永遠に消えることなく生き続けるわけだ」

 

 深すぎて分からない、と司令は思った。でも次官はメモを取っている。秘書艦もうなづいている。

 

ある程度、食事を済ませた長官が微笑みながら言う。

 

「祥高さん、貴女もよく司令を支えてくれましたよ。今回、赤城が悔いなく最期を迎えることが出来たのも貴女の助力ゆえのことと思います」

 

それを聞くと彼女は恥ずかしそうにして応えた。

 

「いえ……私はほとんど何もしていません。大淀さんや霞ちゃん。他にも金剛さんや、それこそ赤城たちが支えてくれたからです」

 

 あくまでも謙遜する祥高だった。それを見てマスターと長官は目配せをしながらうなづいている。艦娘とはいえ経験の差は大きいなと司令は改めて秘書艦には脱帽する思いだった。次官もメモする手を止めて感心しているようだった。

 

マスターが口を開く。

 




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第30話<当日夕刻:追跡>

提督と神通は空軍基地を出た後で謎の車に追跡される。一度は逃げたが、運悪く……。


「だから……絶対にお守りしたいのです」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第30話<当日夕刻:追跡>

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 軍用車を運転しながら神通は聞いた。

 

「司令、青葉さんが言っていたのでご存知でしょうけど、今私たちを狙っている集団は美保鎮守府の人気を妬んだ勢力か、あるいは私たち艦娘が伸びることをよく思わない軍事産業なのか、陸軍省か、よく分からないようです」

 

さすが青葉だけど、それを記憶している神通も大したものだと司令は思った。運転しながら彼女は続ける。

 

「あとブルネイ以降は熱烈な艦娘のファンクラブが出来て、艦娘各自にも手紙とか追いかけとか……青葉さんが仮の事務局になっていますが今度、那珂ちゃんが総括の事務局長になるということです」

 

え? 那珂ちゃんの事は聞いてないぞと司令は思った。

 

「最近は制服で町に出ると大変なので、私服で出る子も増えていますけど……以前は制服で出ても見向きもされませんでしたのに」

 

神通は少し微笑んだ。この状況で笑顔が出るとは、なかなかだなと司令は思った。

彼女は続ける。

 

「でもマスコミも前に騒ぎましたが赤城さんを沈めたことを不平に思うファンや政党、政治団体が動いているそうです」

 

司令は腕を組む。赤城さん轟沈はいろんな影響を与えたのだなと彼は思った。

 

「実際に実力行使をしてくる組織となると限られてくるだろうけどね」

 

そのとき神通は後ろから数台の車が追跡してきていることに気付いた。

 

「司令……後ろから」

「ああ、用心しろ……」

 

二人は小火器の安全装置を外した。司令は実力行使をする組織について考えていた。

 

シナの差し金という話もあるが、パパラッチに紛れたどこかの集団か?

ブルネイの流れで深海棲艦がシナと組んでいる可能性もある。

 

過激なオタクファンクラブも怪しいが彼らは実力行使まではしないだろう。陸軍省内部で海軍省を快く思っていない派閥もある。

 

 ただ一番厄介なのは海軍省内部でも艦娘に反対的な一派が動いていると言う噂をチラホラ聞くことだ。長官はそれに嫌気が差して司令を降りたという話もある。

 

「ちょっと鎮守府には戻らずに反対方向の路地に入ります」

「ああ」

 

ハンドルを切る神通。何度か路地に入ると後続の車は見えなくなった。二人は少しホッとした。だがこの状態ではしばらく鎮守府には戻れそうに無いな。司令がそう考えていると神通が言った。

 

「あと司令……こんな状況で言う話題ではないかもしれませんが、おめでとうございます」

「え?」

 

訝(いぶか)しがる司令に彼女は応える。

 

「あの……秘書艦と……」

 

ああ、その件かと彼は思った。

 

「誰かから聞いたのか?」

 

神通はちょっと顔を赤らめる。

 

「やはり間違いではないのですね。何となく……そう感じましたので」

 

その洞察力はさすがだなと司令は思った。

 

「ありがとう」

「だから……絶対にお守りしたいのです」

 

ハンドルを握りながら彼女は決意したように言った。その気持ちはありがたいなと司令は思うのだった。美保鎮守府の艦娘が全員そういう姿勢であれば嬉しいが……ふと、そんなことを考えた。

 

 軍用車が境港市の市役所に近い大通りに出たとき運悪く謎の車と鉢合わせした。お互いが一瞬、驚いたが間髪を居れず神通はアクセルをベタ踏みして相手の間をすり抜けた。慌てた相手は大通りで、まごついている。

 

 司令はふと日向を思い出した。神通も意外とやるな。だが果たして何処まで逃げ延びることができるだろうか? 

 

つくづく海軍は地上では弱いなと思うのだった。

 

 




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第31話<当日昼過ぎ:艦娘と信頼>

提督は秘書艦の行動についてお店のマスターや長官に確認を求められる。それは何か意味があるのだろうか? 彼は疑問に思うのだった。


「はい、信じてください」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第31話<当日昼過ぎ:艦娘と信頼>

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マスターが口を開いた。

 

「司令官、美保の秘書艦は太平洋戦線で、お前を通さないで勝手な判断をした上に、寛代まで連れて情報収集を行っていた。もちろんそのお陰で美保鎮守府としては無線連絡が容易になったという利点はあったが軍としては統制に問題があるな」

 

彼は司令の表情を確認するように言った。

 

「司令官として、それはどう思うか?」

「……」

 

まるで試験か尋問のようだなと思いつつ彼は一瞬考えてから答えた。

 

「もちろん軍の統制という面では問題です。しかしそれは私がまだ至らぬ為でもあり秘書艦にそういった行動を取らせる遠因を作った私自身の不甲斐なさを反省すべきです」

 

そう言いながら彼は以前、艦娘たちに押し切られて大山登山を勝手に行った自分を思い出していた。あの時は逆に司令が秘書艦に叱られていた。まだまだ指揮官として不足な自分を痛感していた。

 

 司令官が上官の前で自らを否定することは下手すれば降格あるいは解任の恐れもある。しかし司令の性格なのだろう。秘書艦を責めるより先に自らの首を差し出したのだ。

 

さてどうなるのか? 防衛次官も固唾を呑んで見守っている。だがマスターは長官を見ながら言った。

 

「オレは現役ではないからな。長官はこれをどう思う?」

 

それを受けて彼女は言った。

 

「軍としては問題です。しかし艦娘を司令の格下ではなく同等な位置で捉えた場合、美保では参謀の位置にある祥高が判断したことは結果も含めて的確でした。そして今、司令が自分の至らなさを認めた点。これは私は個人的に評価します」

 

マスターは微笑んだ。

 

「決まりだな。司令に秘書艦は、お互いに非を認め反省するということだな。ではこの件はこれで閉めて構わないな」

「異議なし!」

 

突然、次官が手を叩く。相変わらず反応が良いなと司令は思った。だが彼のリアクションには救われる想いだった。それは秘書艦も同様だろう。さらに長官は続ける。

 

「美保はいろいろな意味で今、実験的かつ先駆的な位置にあります。パイオニアとしての二人には大変だと思います」

 

司令と秘書艦は顔を見合わせた。長官は続ける。

 

「今後も艦娘相手に今までの軍の常識を越える決断を迫られるでしょう。それでもお互いに信頼し合って艦娘と一つになり乗り越えて下さることを期待します」

 

『はい』

 

司令と秘書艦は揃って敬礼をする。マスターは長官に声をかけた。

 

「大体終わりで良いかな?」

「そうね」

 

長官もうなづく。何かを知っているらしい秘書艦を除いた男性二人は結局、この時間はキツネにつままれたような心地だった。

 

 やがて再び軍用車が2台お店に呼ばれた。ここに来るときと同じく長官と次官は電の車に、司令と秘書艦は霞の車に分乗した。

 

マスターは玄関まで見送りに出て言った。彼は軽く手を上げて言った。

 

「また来いよ……生きてたらな」

 

一般の人相手であればこの言葉は失礼だろうが生死と背中合わせの日々である軍人には普通の挨拶言葉であった。司令たちは軽く敬礼をして別れた。果たしてまた来ることが出来るか? そう考える司令だった。

 

 雨は相変わらず強い。軍用車はライトをつけて走るが、時おり激しい水しぶきを上げながら走る。帰りの車内で司令は秘書艦に聞いた。

 

「祥高さんは太平洋戦線に関して、まだ私に黙っていることがあるのかな?」

 

秘書艦はその問いに、あまり表情を変えずに応えた。

 

「はい司令……わけあってまだお話できないことが幾つかあります」

 

なるほど、と彼は思った。

 

「司令にもそれは言えないことか?」

 

このとき初めて秘書艦は苦しそうな表情をした。

 

「はい。姉と妹から口止めされてますので」

 

司令は腕を組んだ。あの二人の指示なら仕方ないか。何か考えがあるのだろう。さらに秘書艦は苦しそうに続けた。

 

「話せる時期が来たら必ずお伝えしますが……今はスミマセン」

 

彼女は頭を下げた。それを聞いた司令は応えた。

 

「ああ、私は君を信じているから」

 

その言葉に秘書艦はうつむいて少し赤くなって言った。

 

「はい、信じてください……壁を越えるまでは」

 

意味深な……だがそれは置いておいて改めて司令は確認する。

 

「私たちのことはまだ艦娘たちには言わない方が良いのかな?」

「はい。それも、もう少し待てと姉から……」

 

司令はため息をついた。やれやれ……制約だらけだな。ただ自分の背後で何か大きなものが動いている。そういう感覚だけはあった。

 

 運転席からそのやり取りを見ていた霞は二人の関係を察した。だがそれは他の艦娘には黙っておこうと彼女は思った。勘の良い艦娘は気付いているだろうけど時期が来たら秘書艦が自ら告知するだろうと思ったからだ。

 

 道中、彼らの車を監視する黒い車が居るのを長官や秘書艦は見逃さなかった。だが司令は気付かなかったようだ。やがて2台の軍用車は相次いで美保鎮守府に到着した。

 

だがその事実は最後まで司令に報告されることはなかった。また秘書艦は美保鎮守府の他のどの艦娘にもそれを伝達しなかった。寛代という例外を除いて。

 

 寛代は執務室へ上がる司令の後姿を無言で見詰めていた。もともと表情の乏しい彼女は何かをブツブツとつぶやいていた。それが無線なのか彼女の独り言なのかは誰にも分からなかった。

 

 




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第32話<当日夕刻:来ないで!>

突然謎の車に追われる提督たちだったが神通が運転をしながら反撃をする。



「衝撃に備えてください」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第32話<当日夕刻:来ないで!>

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 司令たちが境港市の細い路地から旧道に出ると、また別の車がいた……それらはライトを点けると軍用車へと突進してきた。神通は直ぐにブレーキを踏んでシフトチェンジをする。

 

市役所側の旧道は片側一車線の細い道路にも拘らず2台の車が並んで向かって来る様は少々恐怖感があると司令には感じられた。やはり海ではなく地上だから距離感がつかみにくい。

 

一方、艦娘の神通が恐怖感を覚えるかどうかは不明だ。彼女は何かをブツブツ言いながら激しく後退しつつ必死にハンドルを切っていた。

 

神通は「来ないで!」と言っているらしく徐々にその声は大きくなる。

 

車はやがて旧道にあるバス停……道幅が広くなった場所で180度ターンをした。雨なので回転しながらタイヤがスリップして水しぶきが飛ぶ。これが日向なら『ベルトを締めてください』とか何か言ってくれそうだが神通はとにかく逃げるのが精一杯だ。日向に比べて若干、余裕の無いところがそうさせるのだろう。

 

車が転回する直前に相手の車を見た司令は、さっきの連中とはちょっと違うと感じた。要するに今回襲って来ている敵は単独ではなく複数いるらしい。

 

「司令、衝撃に備えてください」

 

 初めて神通が何かを言ったと思った次の瞬間、彼女はいきなりブレーキを踏むと同時に車道で後退を始めた。『そう来たか』と司令が思う間もなく後続の2台が激しく軍用車の後部にぶつかる。

 

ガツンという鈍い音と衝撃に耐えながら司令は神通は一体どこでこんな技術を覚えたのだろうか? と不思議に思った。

 

「伊勢さんです」

 

司令の考えを悟ったかのように応える神通。伊勢? 日向ではなくて……そうか。あの姉妹は量産型であっても先天的に、そういうスキルを持っているのだろう。司令はそう考えた。

 

 一瞬、敵の攻撃が緩んだと思うとガタンと言う衝撃があった。振り返ると後ろのスペアタイヤとその周りを固定していた部品が道路にガラガラと落ちた。あれが無かったらもっと衝撃を受けていたに違いないと彼は思った。とりあえず相手には、かなりのダメージを与えたようだ。

 

 敵は軍用車ではないらしい。その1台はラジエターが破れたのか白煙を上げた。あれはもう駄目だなと司令は思った。神通もそれをチラッと確認しつつ素早くシフトチェンジをしてアクセルを踏み込む。

 

あれだけの衝撃を受けながらも軍用車は何事も無かったように旧道を島根半島方向へ走り出す。

 

 新手の敵は一旦は押さえ込んだが、このまま逃げ切るのも限界だろう。だが美保鎮守府のクセなのか司令も神通も相手が発砲してこない限りは撃つ気にならなかった。

 

 神通は何かを呟いていた。美保鎮守府に無線連絡を取っているようだ。援軍でも来れば少しは……と思った司令は直ぐに苦笑した。もう一台の軍用車は電チャンがエンスト中。残りはトラック……援軍には厳しいな。

 

「司令!」

 

 神通が小さく叫ぶと前の道路から新手の2台の敵らしき車両が向かってくる。雨なのでハッキリとは見えないが、やはり狭い旧道を2台並んでくるから普通の車ではない。最初の連中だろうか?

 

 神通は間髪を居れず直近の交差点を右折する。ちょっと広い直線道路で後ろから敵がもの凄い勢いで追いすがってくる。この敵も軍用車ではないが、その分足が速い。あっという間に追いつかれ左右から挟まれた。

 

 まだ夕方なので道路には他の車も走っている。そんな中での追跡劇とは、かなり強引だ。しかも雨天……他の一般車両が避けながら気が付くと通過するそばから周りに接触事故を量産していた。また美保鎮守府の印象が悪くなるなと司令は心配した。

 

 やがて追いすがってきた左右の車が幅寄せして接触してくる。両サイドからキリキリという金属音。だがこちらは軍用車なので簡単には壊れない。

 

「もう来ないでって言ったのに!」

 

ついに神通が切れた。ハンドルを握りながら彼女は叫ぶ。

 

「司令! 発砲許可を!」

「許す!」

 

 司令が言うが早いか彼女は片手で窓を開けるとチラッと右の車を見る。窓から雨が吹き込んでくるが神通は気にしない。相手はスモークか何かだろうか? 敵の運転している車両では中の人物はシルエットしか見えない。向こうの車の足は速そうだが防弾ガラスかどうかは分からない。

 

 神通は左手でハンドルを保持したまま右手でマシンガンをつかむと、やおら窓の外に差し出し相手の車体下部目がけて連射する。小刻みに振動するハンドルと車体。よくも片手で……さすが艦娘だなと司令は思った。そういえば秘書艦はもっと大きな機銃を素手で撃ってたよな。

 

 神通はとにかく頭に来ているようだ。切れた艦娘は怖い。ましてや彼女のように普段大人しい子ほど切れたら何をしでかすか分からない。

 

 飛び散る薬きょうが車内や車外にバラバラと散乱する。その弾けるような金属音がキンキンと響く。射撃の反動で軍用車は少し左へ逸れる。敵の車に左右から挟まれていたので右側の敵には連射し反対の左側の車には、こちらの車体を押し付けるような形になった。

 

 その時ちょうど、陸橋に差し掛かる。

 

連射するうちに相手のタイヤに命中したらしく右側の車は突然進路を変えて中央分離帯に乗り上げた。あっという間に激しくジャンプした後に横転する。

対向車線にはみ出した敵の車に反対車線を走ってきたどこかのトラックがぶつかった。ああ……司令はゴメンナサイと思った。怪我するなよ……無理か。

 

射撃を止めた神通は片手運転を続けているが、左側の車はずっと道路の柵に左側を激しく擦り付けられたまま陸橋の頂上を越えてガードレールが僅かに途切れた隙間に車体前部を引っ掛けた。当然、軍用車にプレスされているから引っ掛けた勢いで激しくスピンをし、そのまま軍用車の後ろに放り出された。

 

 ああ、またごめんなさい……司令は思った。最初の車と同じように敵の車は横転して回転したところに後続車両が何台か衝突している。

ただ激しい追跡劇に誰もが驚いているから、ぶつかった車も速度はあまり出ていないのが幸いだった。

 

神通はマシンガンをシートの右側の隙間に押し込みながら言った。

 

「司令、お怪我は?」

 

彼は苦笑する。

 

「多分、無い」

 

神通は微笑んだ。

 

「スカッとしました」

「それは良かった」

 

司令も笑った……が、直ぐに表情が固まった。遥か前方の広い交差点に新たな敵……今度は装甲車が現れたのだ。しかも2台も居る。

 

「簡単には逃がしてくれないな」

「そのようですね」

 

応えた神通がハンドルを切ろうとした瞬間、そいつらが発砲した。

 

 




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PS:「みほ9ん」とは
「美保鎮守府:第九部」の略称です。


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第33話<当日夕刻:ロビー騒動>(改)

故障した電の代わりに提督が軍用車で出ようとすると、艦娘が引き止める。だが……。


「提督……行かないで」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第33話<当日夕刻:ロビー騒動>(改)

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 神通からの緊急無線を受けた秘書艦は直ぐに司令に伝えた。長官を空軍基地に送った電の軍用車がエンストしたらしいと。

 

「どうされますか? 青葉か他の艦娘に行かせましょうか」

「いや……私が出よう」

 

司令はすぐに立ち上がる。

 

「もう一台は直ぐ出せるかな?」

「はい、昼の戻りもありましたし夕張さんがスタンバイしています」

 

 片手を上げると司令はロビーへ降りた。だが青葉や金剛など神通の無線を傍受できる艦娘が司令の前に立ちふさがった。

 

「どうした?」

 

ロビーで立ち止まる司令。金剛は不安そうな顔をして訴える。

 

「提督……行かないで」

 

珍しく日本語で……司令は困惑する。

 

「どうしたんだ? 単なる送りだよ……天気は悪いけど」

 

金剛は頭を振る。

 

「違う、今日だけは行っちゃダメ」

 

いつもの能天気な金剛とは違って鬼気迫る雰囲気に司令はちょっと引いた。

 

そのとき誰かが司令の腕をつかんだ。

 

「うわ!……ビックリした」

 

振り返ると寛代だった。彼女は無言で頭を振る。

 

「おいおい、どうしたんだ? みんな……」

 

すると青葉が近づいてきて言う。

 

「司令が出なくても……私で構わなければ……」

 

すると2階から降りてきた秘書艦が言う。

 

「いえ、今日は司令に出て頂きます。これは命令です」

 

その言葉に青葉も引き下がるが、金剛だけは抵抗した。

 

「No!」

 

そう言うなり彼女は司令の背中に張り付いた。危うく倒れかけた司令は踏ん張った。

普段だったら笑いが起きそうな場面ではあるが金剛の真剣さに誰も笑うどころではなかった。

 

「おお……お姉さま?」

 

比叡もどうして良いのか分からずオロオロする。

 

「比叡さん、手伝ってください。時間がありません!」

 

秘書艦に言われた比叡は、お姉さまゴメンナサイと言いながら秘書艦と一緒に金剛を引き剥がしに掛かる。

 

「Nooo!」

 

結局青葉も手伝って、やっと金剛が剥がれた。さすがに剥がれた彼女は恨めしそうな目をしながらも抵抗するのは諦めたようだった。

 

司令はそんな金剛の肩に手を当てて言った。

 

「有り難うな、金剛……」

「……」

 

彼女はまだ口惜しそうに唇をへの字にして司令を見ている。ただ皆がいる手前か涙を必死に堪えているようだ。それが彼女のせめてものプライドなのだろう。

 

司令は顔を上げてロビーに居る艦娘たちに言った。

 

「みんな……本当に君たちには感謝している。少なくとも美保の艦娘は全員、私にとっては家族以上の存在だよ」

 

それは司令からの最大の賛辞だろう。数人の艦娘たちは感極まっていた。ただそれでも送りに出掛けようとする司令に向かって青葉は念を押すように言った。

 

「司令……でも、本当によろしいのですか?」

 

彼は制帽を被りながら言った。

 

「ああ『兵士とは死へ向けた行軍だ』ともいうけどね。でも大丈夫だ。私は絶対に帰って来るから……」

 

そこでふと立ち止まった司令は再び皆を振り返る。

 

「そう、這ってでもね」

 

青葉は反論しようと思ったが止めた。時間がないのは事実だから。

 

車庫へ向かう司令の後姿を見送りながら彼女は横須賀へ行った日向を思い出していた。あの人ならきっと無言で運転を代わるか、あるいは強引にでも軍用車の助手席に収まっていただろう。

 

でも自分は皆が居る場では理性が邪魔して、とてもそこまで出来ない。そんな点で彼女にとっては金剛は羨ましかった。

 

「はあ」

 

彼女は涙を堪えてジッと立ち尽くす金剛を見ながらため息をついた。もし自分が艦娘でなかったらここまで葛藤しなかっただろう……そんなことも考えるのだった。

 




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第34話<当日夕刻:電と霞と夕張と>

新たな敵の攻撃を受ける提督と神通。そして少し前に時間は戻り、電と霞と夕張の状況を伝える。


「電……頑張れ」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

第34話<当日夕刻:電と霞と夕張と>

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 神通は思わず急ブレーキを踏む。軍用車は陸橋の下り坂の途中でスリップしながら停車し若干スピンをした。それが幸いして装甲車の放った砲弾は直撃はせず軍用車の手前と横の道路に相次いで着弾した。

 

司令たちの目の前に一瞬、火柱が立ち上った。同時に激しく揺れる地面。辺りは水しぶきと白煙と舞い上がった土砂で混沌とした。

 

車にはバラバラとコンクリートや砂やら色々なものが降り注ぐ。周りの車も相次いで急停車している。その後続車が軒並み接触事故を起こす。

 

 ハンドルを保持したまま神通が呟くように言う。

 

「あれは確かシナの上陸艇だったと思います」

 

 確かにどこかで見た形だと思った。さすがに国籍は隠しているがシナ単独か、あるいはこの嵐に乗じて深海棲艦と手を組んで強襲をしてきたか? 

 

 だがいくら豪雨とはいえ高尾山の電探にも一切引っ掛からなかったところを見ると敵は航空機で上陸したのではないだろう。やはり海から……深海棲艦だろうな。

 

 しかしブルネイでも上陸まではしなかったシナも思い切ったことをするな。以前、境港に上陸した戦車も、ひょっとしたらシナの車両だったかも知れない。いずれにせよ装甲車まで持ち出されると、もはや機銃如きでは太刀打ちできないな……そう思う司令だった。

 

 時間はその少し前に戻る。

 

 境港市の旧道を鎮守府に向けて走っていた軍用車とトラックは2台の黒い車に強引に追い越された。前を走るトラックも少し驚いている様子だが、その車を見た電は胸騒ぎを覚えた。

 

 それから数分後。電の無線には神通の声が入ってきた。極秘の軍用周波数ではなく緊急支援要請だった。これはきっと司令と神通が襲われているのだと彼女は直ぐに悟った。だがこの軍用車は動かないから悔しい。

 

でも一部の電装品が生きていると言うことは、もしかしたらまた走るかもしれない。そんなことを思った電はダメもとでエンジンの再起動を試みる。

 

 同じ無線は夕張や霞も聞いていた。

 

「どうするの?」

 

霞は夕張に聞いた。

 

「どうって……まだ鎮守府から命令が無いからねえ」

 

夕張はバックミラーを見ながらわざと悠長に応えた。でも彼女には分かった。

 

 電……あなた行く気なのね。彼女にはそう思えた。だが敢えて車のことは黙っておこう。電の軍用車のエンジンにはちょっとした小細工がしてあったけど……なぜか完璧ではなかった。つまりその気になればエンジンが再び掛かる可能性がある中途半端なものだった。

 

 だから夕張は電の事故直後にそれを見ても手を触れずに置こうと思った。何となく何か意図があってこんな細工をした者が居るのだ。その中途半端さに彼女は悪意と言うよりは、なぜか善意を感じた。

 

 誰が何のために?

 

そこまでは洞察できなかったが、彼女は自分でも理由は分からずに放置した。ただ事故の振り……実際エンジンは動かなかったし、だからこそ、騙された振りをして救援隊として出てきたのだ。

 

「電……頑張れ」

 

思わず呟く夕張。

 

「……」

 

いつもなら直ぐに厳しい突っ込みを入れるはずの霞も、このときばかりは何も言えなかった。なぜか黙って見ておこうと思ったのだ。

 

 鎮守府からはまだ何も言ってこない。無線は届いているはずだ。秘書艦は何をしている? イラつく霞。

 

 その時バックミラーに突然、明るい光が反射した。後ろの軍用車のライトだ。ああついにエンジンが再起動したんだな……夕張は思った。同時にトラックには何かに激しく引っ張られるような反動が来た。

 

 夕張は無線で小さく叫んだ。

 

「……ワイヤー……」

 

わざと断片的に……誰に聞かれても、分かりづらいように呟いた。

 

「あ……」

 

 電の何かに気付いたような叫びが入り、あとは無音……無線を切ったらしい。夕張と霞は顔を見合わせた。あの子は意図的な命令違反をするつもりだなと。

 

 やがて何かの操作をした電が徐々にトラックから離れていく。ワイヤーを逆転させて切るつもりか?

 

「ああ……じれったいね」

 

そう呟くと夕張はトラックのギアをシフトダウンさせて急加速した。一瞬、衝撃があり続いて何かがゴンと言う音と衝撃と共に勢いよく外れる反動があった。

 

 ワイヤーが切れた電の軍用車は一瞬まごついたような動きをした後で、直ぐにトラックの右側から急加速をして追い抜いていった。その時、一瞬敬礼をしながら電がこちらを見たことに夕張は気付いた。

 

「電……頑張れよ」

 

夕張は減速しつつ微笑んだ。

 

「どうするの?」

 

霞は夕張に聞いた。

 

「どうって……やっぱり鎮守府から命令は無いけどねえ……」

 

そう言いながらも霞が葛藤していることを彼女は見抜いていた。

 

 何かを言いかけて、でも止めて……霞は悩んでいた。電に付いて行きたい自分と規律を守りたい自分が激しく心の中でバトルをしていた。

 

そんな霞を見ながら夕張は思った。私独りなら直ぐにでも電の後に付いて行くんだけどねえ……霞は真面目だから。そして微笑んだ。

 

霞ちゃん早く決断しないともう直ぐ鎮守府に着いてしまうよ……夕張は霞を見ながらそう思っていた。でも判断は霞に任せようと。

 

美保の司令は幸せ者だよね。彼女はふと、そんなことも考えていた。ほとんどの艦娘たちが自らを省みずに司令を守ろうと一斉に動き始めている。

 

それはただ単にプログラムされた機械のように反応しているだけだろうか? 否、命令違反は本来、艦娘にとって絶対にあってはならないことだ。それを超える力とは何だろうか?

 

 さすがにそれが何であるかは夕張にも分からなかった。でも今は霞自身の判断に任せよう。彼女はそう思ってハンドルを握っていた。

 

「ねえ……」

 

ようやく霞が聞いてきた。

 

「なあに?」

 

相変わらず間延びした返事をする夕張。しかし霞は思い詰めたような表情をしたまま前を見据えていたが、やがて決意したように言った。

 

 




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第35話<境港市街戦:陸橋付近>

境港市の陸橋付近では提督を狙う敵とのバトルが続いていた。そして艦娘たちも必死に抵抗する。


「やはり陸のことは陸軍ですね」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第35話<境港市街戦:陸橋付近>

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 雨は断続的に降ったり止んだりしている。何をするにも最悪だ。

 

そんな中、交差点に現れた敵の装甲車は、なおも陸橋に近づきながら発砲を繰り返す。前は戦車だったけど今度は装甲車か?

 

 司令が思う間もなく軍用車の近くに何発も着弾し、その度に地面が揺れてコンクリートやら土砂が飛び散る。巻き込まれた周りの一般車両の人たちも車から出るに出られず立ち往生している。

 

 それを見ながら神通は言った。

 

「取りあえずこの車はまだ動きますから、陸橋の反対側に逃げます」

「ああ」

 

 さっき窓からの射撃で吹き込んだ雨のため彼女は半身が少し濡れていて艶(なまめ)かしい。だが妄想に耽っている暇はない。

 

それ以前に激しい運転で彼女も汗をかいている。雨で濡れた服も直ぐに乾いてしまいそうな熱気だ。神通はゆっくりとギアを入れると立ち往生している一般車の間を縫って走り始める。

 

 なおも敵の砲撃は続いているが意外と砲手の腕は悪いのか装甲車の性能が悪いのか着弾はかなりズレている。

 

 やがて軍用車は陸橋を乗り越えて反対側へと走り出した。そういえばさっきこの陸橋で2台ほど大破させたなと司令が思っていると、まず頂上で大破している一台を確認した。

 

そこで彼が気付いたのは陸橋の反対側には既に陸軍や憲兵が来ていたことだ。彼らは手際よく車両の誘導や整理、そして大破した敵の車両に乗っていたシナ人らしき人物を連行していた。

 

 その光景を見て司令はおや? と思った。以前、米子駅から鎮守府まで乗せてくれたあの親切な憲兵も雨の中で作業をしていたのだ。彼は司令の軍用車をチラッと見て軽く敬礼をした。目ざといと言うか相変わらず人懐っこい人だなと司令は思った。

 

 神通もそれを見ながら司令に言った。

 

「やはり陸のことは陸軍ですね」

「そうだね」

 

 陸橋を降りると神通はハンドルを右に回転させ、陸橋の側道から島根半島方向の路地へ逃げ込もうとした。

 

 だが陸橋の側道に通ずる橋脚の陰から、もう一台の敵の装甲車が現れた。こちらも驚いたが相手も隠れていて予想外だったのか、お互い一瞬、凍りついたような感覚になった。

 

 咄嗟に神通はアクセルをベタ踏みする。敵の脇をすり抜けようとしたようだ。だが敵も慌てたように機銃を発砲する。少し薄暗い陸橋の下で発砲の火花が妙に目立つ。軍用車の脇に、かすめるように次々と銃弾が飛んでくる。その光跡はまるで花火のようにキレイだった。

 

 神通は一瞬、躊躇しブレーキを踏む。軍用車は少しスリップして停車。だが銃弾が運転席側の天井をかすめてゴンといった感じの鈍い音が車内に反響する。司令がまずいと思った次の瞬間、敵の軍用車の真横から見覚えのある軍用車が猛スピードで突っ込んできた。

 

『電?』

 

 司令と神通が同時に叫んだ瞬間、ガシャンと言う金属音と共に敵の装甲車の向きが強制的に歪められる。勢いで手元が狂ったのか敵の機銃は軍用車とは全く関係の無い陸橋の土留めに着弾して火花やコンクリの破片が飛び散る。

 

「境港の地図を覚えて置いてよかったのです」

 

 突然、電の無線が軍用車の無線機に入る。そうか艦娘の無線の周波数と合わせてあるのか。だが電、気持ちは嬉しいが、ぶつかっただけでは後が続かないぞ……おまけに電は伊勢や神通ほどの運転技術は無いだろう。司令がそう思っていると案の定、敵の装甲車は俯角を取って電の車両に機銃の狙いを定める。

 

「電! 逃げてっ」

 

叫ぶ神通。だが次の瞬間、敵の装甲車の機銃が電の軍用車目がけて火を噴いた。

 

「伏せろっ、電!」

 

司令が叫ぶと同時に無線機からは叫び声のような悲鳴が聞こえてくる。電の軍用車の天井が瞬く間に蜂の巣になっていく。反射的に運転席から車外に飛び出した神通はシート脇に押し込んでいたマシンガンを取り出すと敵の装甲車目がけて叫びながら乱射する。

 

「電チャン!」

 

その時無線機からは電のかすれるような声。

 

「逃げて……早く」

 

良かった、まだ生きていた……司令が思うそばから敵の装甲車は神通の攻撃に気が付き、一旦電への砲撃を中止すると今度は銃口を神通に向ける。一瞬顔面蒼白になる彼女。

 

「伏せろ!」

 

司令が叫ぶと同時に反射的に地面に伏せた神通。直ぐ敵の機銃掃射が彼女を襲う。

 

「神通!」

 

思わず車外に飛び出す司令。無意味と思いつつ次官から貰った短銃を装甲車に向けて発砲するが……パンパンと言う乾燥した音。豆鉄砲とはこのことか? 悔しさにまみれる司令。神通は大丈夫か?

 

 その時、激しいエンジンの回転音がして電の軍用車がボロボロになりつつも再び敵の装甲車に体当たりをする。見ると電の車の天井は半分めくれたようになり明らかに怪我をして血まみれになっている電が必死にアクセルを踏んでいる姿が見える。

 

「もう止めろ、電!」

 

司令は呻くように呟く。再度、機銃の銃口を電に向けた装甲車は改めて機銃を電の車へ連射する。だが電の車はギリギリ相手の機銃の死角に潜り込んでいるようで天井を通り抜けて反対側の地面に火花が散っている。

 

「電チャン!」

 

司令が振り返ると若干かすり傷は負っているようだが神通が道路で上体を上げた。良かった無事だったか。彼はすぐに駆け寄って神通に手を貸した。

 

「大丈夫です……少し足を痛めた程度です」

 

力なく微笑む彼女。それでも神通の片足からは血が流れていた。そうか艦娘も赤い血が流れているのかと司令は思った。

 

 なおも装甲車と力比べをしている電に押されて敵の車体が少しずつ動かされている。空回りする軍用車の車輪から白い煙が立ち上がっている。司令に肩を抱きかかえられながら立ち上がった神通が呟くように言う。

 

「電チャン……」

 

敵は機銃を撃ち続けているが、もはや電には当たらない。やがて電は敵の装甲車を強引に押し続けて側道脇の畑にまで来た。

 

車輪が道路から外れたと思った次の瞬間、空目がけて機銃を撃ちながら畑に転落していく装甲車。ズズンと言う地響きがする。だが押した勢いで電の軍用車も一緒に落ちる。

 

「電!」

 

司令は叫んだ。装甲車よりも軽い軍用車は転落したあと、一回転半ほど畑の中でグルグル回ってから止まった。

 

「電……?」

 

一瞬声をかけた神通は、直ぐに明るい表情で司令を振り返った。

 

「電チャン、ちょっと負傷していますけど無事のようです」

 

司令は安堵した。

 

 陸橋脇の側道には数台の陸軍の軍用車両と装甲車がやって来る。それを見て改めてホッとした二人だった。

 

 だが次の瞬間、陸軍の先頭車両が突然、何かに弾き飛ばされたようにしてひっくり返った。

 

「あっ」

 

 神通が叫ぶと、路地からもう一台の装甲車が出てきた。なんてしつこい奴らだ。陸軍の車列は先頭車両が邪魔をして身動きが取れなくなった。

 

「司令、早くお車へ!」

 

神通が叫ぶ間もなく新手の装甲車は二人目がけて機銃を撃ってくる。

 

 




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第36話<境港市街戦:バカと通う心>

なおも攻撃してくる敵だったが、艦娘たちも必死に抵抗をする。すると意外な援軍が現れた。それは新しい風だった。


「そちらの艦娘も手当てしましょう」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第36話<境港市街戦:バカと通う心>

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逃げる司令と神通の両脇を敵の機銃の弾痕が通り抜ける。

 

「あっ」

 

という叫び声と共に司令の後ろを走っていた神通が倒れた。司令の盾になる形で敵の機銃の一部か破片が体のどこかに当たったらしい。

 

「神通!」

 

振り返る司令に神通は「逃げてぇ!」と叫んだ。

 

 一旦、止まった機銃が再び火を噴くかと思われたその瞬間、ガツンという鈍い音が陸橋下に響き渡る。

 

「あっ?」

 

見ると美保鎮守府のトラックが全速力で装甲車に体当たりをしていた。ああ結局は外に出ていた艦娘が全員来てしまったのか?

 

 秘書艦が代理で抵抗する命令を出していなければ艦娘の行動はすべて明確な命令違反であるが……

 

『お前たち皆、バカだよ』

 

司令は内心呟いた。それがどっちにせよ艦娘たちの想いに胸が熱くなった。

 

 トラックでは助手席で衝撃に備えていた霞が顔を上げた。ハンドルを握っている夕張が何かを叫んでいる。彼女は激しくシフトチェンジをしてトラックを後退させる。もう一回行くのか?

 

 その間に司令は神通のそばに駆け寄り彼女を抱き起こした。

 

「スミマセン」

 

傷が痛むのだろう。神通は痛みを堪えると同時に恥ずかしそうな表情をした。妄想は後回しにして司令はどこか安全な場所は無いかと見回した。ここは取りあえず軍用車に戻るか?

 

そう思った彼が見上げるとトラックは再び体当たりを仕掛けたが……あれれ? 装甲車は慌てたように走り出した。そうだ装甲車には車輪がついている。この場は逃げるが勝ちか。

 

すると直ぐにトラックは停車して助手席のドアが開いて霞が出てきた。彼女は何かを抱えて飛び降りた。

 

あれは? 

 

霞は道路に片膝を着くと肩に乗せた長い筒を構えた。おいおい、それってもしかしてロケットランチャー? そんな物騒なもの一体、何処から持ってきたんだ?

 

 ……あ、夕張か。

 

司令が思う間もなく狙いを定めた霞は装甲車目がけてミサイルを発射。白煙と火花と共に筒を飛び出した砲弾は逃げ出した装甲車の後部排気口辺りに見事に命中。直ぐ大きな火柱と黒煙が上がりエンジンから火花を散らして白煙を上げる装甲車。乗員が慌てて逃げ出す。

 

「はあ……」

 

その光景を見ながら司令はため息をついた。気が付いたら自分を中心として境港で市街戦か……どうしていつもこうなるのかな。

 

 ランチャーを下ろした霞は不敵に笑っている。ああ、あの子も筋金入りの兵士だよ。そう思わざるを得なかった。

 

 神通を軍用車に連れ戻しながら司令は、ただ感謝するしかなかった。

地上戦とはいえ艦娘たちが必死に彼を護ろうとする姿には頭が下がる。しかも命令無視……この軍隊は心でもつながるんだ。

 

それは人間だけでなく艦娘でもあり得る。美保鎮守府は素晴らしい拠点だ。彼は改めてそう思った。

 

 直ぐに陸軍の兵士たちが司令たちの周りにやって来る。その中に陸軍の将校がいた。彼はテキパキと指示を出して破損した敵の装甲車を確保、乗員の武装解除をする。

命令を出した後で彼は司令に近寄ると敬礼をした。司令も神通に肩を貸したままではあったが敬礼を返した。

 

将校は言った。

 

「対応が後手後手に回って申し訳ない」

「いや、助かりました」

 

将校は電の軍用車が突っ込んだ畑を見ながら言う。そこには引っくり返った装甲車と軍用車があった。憲兵たちと担架を持った軍の救護班が向かい軍用車から半身血まみれとなっていた電を救出した。それを見ながら将校は続ける。

 

「僭越ながら司令がよろしければ負傷者も陸軍病院で面倒を見ますが?」

 

司令は一瞬考えた。実は海軍省の方からも陸軍に恩を着せられるようなことはするなと言う通達が毎月のように来るのだ。しかしそれは中央での話だ。

 

 致命的ではないにしろ血塗れの電を見ると一刻も早く手当てしてやりたい。だが美保鎮守府に行くには足が無い。それに鎮守府よりも陸軍病院のほうが施設も充実しているだろう。

 

また美保鎮守府では既に陸軍の『まるゆ』の面倒も見ている。ここはお互い様だろう。司令は将校に答えた。

 

「そうして頂けると助かります」

 

将校は軽くうなづきながら微笑んだ。

 

「恩を売ろうなんて世知辛いことは考えていません……ここは山陰です。中央とは違う世界を見せ付けてやりましょう」

 

へえ、意外と話の分かる将校だなと司令は思った。

 

「そちらの艦娘も手当てしましょう。衛生班!」

 

将校が叫ぶと直ぐに担架を持った隊員が駆け寄ってくる。さすが陸軍だ。

 

「司令……」

 

神通がやや不安そうな表情をする。司令は応える。

 

「大丈夫、ここの陸軍さんたちは信頼できるよ。それに電チャンも収容されたから君が付き添ってもらえると電も安心だろう」

 

それを聞くと彼女はうなづいた。司令は続ける。

 

「中央では知らないけどね。地方では目と鼻の先に相手が居るのに対立したら疲れるだろ?」

 

その言葉で神通は安心したようだった。

 

「分かりました……ではお願いします」

 

救護班に会釈をして担架に乗せられた神通は救護車へと向かった。それを見ながら陸軍将校は腕を組んで言った。

 

「この悪天候に……仮想敵としてシナの上陸も立案はしていましたが、まさか本当に来るとは」

 

それを受けて司令も答える。

 

「いえ、シナ単独ではないです。連中の車両輸送は深海棲艦が担当しています。それに……」

 

シナ以外の敵もあると言い掛けて司令は黙った。想像だけでモノを言うのは止めようと思ったのだ。だが将校は何かを悟ったようにして応えた。

 

「いずれにせよあなたが狙われていることは確かなようです。鎮守府まで護衛しましょうか?」

 

司令もそうした方が良いかと思った。だが、さすがにそこまでしてもらうのは組織的に中央からお咎めが来て、ややこしいことになりそうな気がした。

 

「いえ、お気持ちは有難いですが」

 

将校も苦笑してうなづいた。複雑な事情は分かっているようだった。

 

「分かりますよ。お互い立場がありますからね……でも何かあったら遠慮なく呼び出してください。直ぐに馳せ参じますから」

 

将校は手を差し出した。握手をする二人。パチパチと拍手……その場に居た兵士たちや艦娘……夕張と霞が拍手をしていた。

 

山陰は海軍と陸軍が一つになって……あとは空軍かな? 司令はふと父親を思い出していた。

 

 




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第37話<境港市街戦:思い出は心の中に>

陸軍の協力もあって敵の攻撃から何とか逃げ延びた提督は艦娘の一途な想いに胸を打たれる。


「いつまでも一緒だからね……」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第37話<境港市街戦:思い出は心の中に>

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 直ぐに現場には陸軍病院の搬送車がやってきた。電と神通が担架で運ばれる。司令はその作業を見守っていた。雨は若干小降りになり空も少し明るくなってきた。

 

血塗れの電チャンは痛々しいが、よく頑張ったと司令は思った。すると電が司令を見て弱々しく手招きをする。担架の傍に立っていた陸軍の軍医が司令を見るので彼は直ぐに近寄った。

 

「どうした? 陸軍病院に連れて行ってもらうから大丈夫だぞ?」

 

司令の声掛けに電は首を振った。

 

「ううん違うの……私、司令と出会えて本当に良かったと思っているから」

 

そうして彼女は手を差し出した。司令もその手を握った。それは乾いた血とオイルで汚れてはいたが、とても暖かかった。彼には何となく電の気持ちが伝わってきた。

 

「司令……いつまでも……いつまでも一緒だからね

「ああ……」

 

 電の純粋な気持ちは司令にとって衝撃的ですらあった。これが本当に兵士なのだろうか? 今回は防御のために主体的に戦ったとはいえ多少は恨みがましいことをいってもおかしくない状況だ。こんな軍隊、いやこれほどまでに心を通わせてくる軍隊組織は初めてだ。

 

 それと同じ気持ちを傍に居る軍医や兵士たちも感じていることだろう。艦娘と言う不思議な存在。単に兵器や兵士と呼んでしまうには余りにも感情的で一途で深い。

 

「はあっ」というため息と共に安心したような表情になった電。彼女が軽く目を閉じたので司令は手を離すと軍医に目配せをした。彼もうなづくと兵士に命じて担架を持ち上げ搬送車へと運び入れる。

 

 続いて神通……彼女は横になりながらも軽く敬礼をした。司令も返礼した。

それが合図のように付近に居た手空きの兵士たちが軒並み敬礼をする。あの陸軍将校も敬礼をした。

 

 中途半端な兵士よりもゲリラよりも遥かに誇り高く純粋な兵士。それが艦娘なのだ。もしこの場に青葉が居れば、しっかり記録してくれたことだろうけど……まあ良いさ。大切な思い出は心の中に刻んでおくべきものだ。司令はそう思うのだった。

 

「司令官!」

 

夕張がやって来て軽く敬礼した後、言った。

 

「報告します。電の車両は大破、陸軍の協力で鎮守府まで搬送して頂けます。トラックともう一台の車両は何とか自走可能です。ただ神通と電が負傷したため運転手が2名となりトラックは私、もう一台は霞が運転します」

 

そうか……そうだったなと司令は改めて確認した。

 

「あと秘書艦より、まだ司令を狙う残党が潜んでいる可能性あり直短距離で鎮守府に戻るのは危険なため岸壁沿いに大回りするようにと」

「そうか……」

 

夕張は続ける。

 

「個人的にはトラックの方が安全な気もしますが、秘書艦の指示で司令は霞の運転する軍用車で戻るようにとのことです」

 

夕張の隣に霞がやってきて敬礼をした。

 

「よろしくお願いします」

 

あれ? 霞がまじめに敬礼している姿を初めて見た。司令は思わず微笑んだ。

 

「あと……」

 

夕張が続ける。

 

「陸軍が情報提供してくれて、境港市内……特に市街地に敵の装甲車はすべて制圧されて動けるものは無いようです。ですから敵が来たとしても軍用車程度なら私たちでも何とかなるでしょう」

 

そこで額に指を立てながら考える夕張。

 

「司令……提案ですが、霞の車と一緒にトラックも随走しましょうか? そのほうが何かあってもガードできそうですし」

「そうだな」

 

だが霞が口を挟む。

 

「でも秘書艦は岸壁沿いに大回りするように仰ったからトラックが付くと逆に目立たないかしら? ここは軍用車単独で行った方が……」

 

それを聞いた司令も、なるほどと思った。

 

「どちらも一理あるが……」

 

だが霞はさらに加える。

 

「それにこれ以上、車両の破壊が続くと今後の鎮守府の運営にも影響が出ます」

 

 事務方らしい意見だなと司令は思った。だがそれももっともだ。また監査で嫌味を言われるのは面倒だ。既に装甲車も鎮圧されたらしいから、あとは何とかなるだろう。

 

 そのとき夕張が受電する。何度か応対してうなづいている。やがて通信を終わった彼女が報告する。

 

「司令、秘書艦からで今、美保湾と境水道に艦娘数名を配置したそうです。これから夜なので若干見えにくいですが彼女たちがガードするので海岸沿いを走ってください……とのことです」

「そうか」

 

夜間……夜戦好きの川内なら喜んで出撃しそうだけど他の艦娘たちは嫌がるだろうなと思う司令だった。

 

 




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第38話<境港市街戦:霞の決意>

霞の運転する軍用車に新たな追っ手が掛かる。それでも必死に逃げる彼らだった。



「海軍は……海です」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第38話<境港市街戦:霞の決意>

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「暗くなると地上でも厄介だ。早々に帰るとしよう」

『はい』

 

司令の言葉に夕張と霞は応えた。そして夕張はトラックに、司令は霞の運転する軍用車に乗り込んだ。まだ作業をしている陸軍に敬礼をして美保鎮守府の車両はそれぞれの方向へ向かって走り出す。

 

 雨は上がり気温が上昇する。むっとした気配が辺りを包む。走りながら司令は夜戦についての疑問を霞にぶつけてみた。

 

「お前たちにとって海の上の夜戦ってのは、どうなんだ? 何か見えるのか」

 

ハンドルを握る霞はちょっと考えて答えた。

 

「電探があれば夜でもある程度は見えますが……それでも昼間より戦いにくいことは確かです」

「感情的にはどうなんだろうか?」

 

その質問に霞は怪訝(けげん)な顔をした。

 

「感情?」

 

司令は質問を変えた。

 

「つまり恐怖心と言うか怖いって言う感覚はあるのかな……」

「……」

 

 霞は急に黙ってしまった。

 

ふと司令は以前、自分の実家に泊まって電チャンと一緒に寝ていて魘(うな)されていたのが目の前の霞だったことを突然に思い出した。あわわ……まずい! 下手したら地雷を踏んでしまう。

 

彼は慌てて否定する。

 

「あー、いやいやゴメンごめん。無理に答えなくて良いから」

 

 だがハンドルを握ったまま霞はポツポツと答える。

 

「いえ、個人差はあると思いますが……私は怖いです」

 

無表情で応える霞。

 

「……」

 

それ以上聞くまいと司令は反省した。何か深い過去を持っている艦娘は少なくないが霞もその一人に違いない。意図的に穿(ほじく)り返すことも無いだろう。

 

「……」

 

霞は押し黙ってしまった。いや……気まずい。お互いに無言のまま軍用車は港方面へ走行する。

 

「もうすぐ岸壁に出ます」

 

霞は淡々と報告する。その直後、霞は急ブレーキを踏んだ。

 

「な……」

 

 声を出しかけた司令はすぐにその理由が分かった。やはり敵が居たのだ。駅前通りの向こう……ちょうど岸壁に出る通りに黒い車が3台も並列に並んで、まさに通せんぼをするような状態で停まっていた。

 

「まさか……?」

 

 今回の敵は直ぐに襲ってくる気配は無い。ただ司令たちを岸壁に行かせまいとしているのか?

 

「やつら無線傍受していたのか」

 

司令が言うと霞が応える。

 

「その可能性はあります……とりあえず手前の道を迂回しますか?」

「そうだね……」

 

 これが霞以外の艦娘だったら岸壁に出れば艦娘が居るわけだから強引にでもこじ開けて突破しただろうが……慎重派の霞では、ちょっと厳しい。

 

 軍用車は岸壁の手前の道を右折して市街の幹線道路を走り出した。まだ多少は対向車がある。さすがにこの状態では襲っては来ないだろう……と思っていたが甘かった。

 

後ろから急速に接近してきたまた別の黒い車が突然発砲してきたのだ。慌てて伏せる司令。そして霞はハンドルを左に切って路地に入る。流れる景色を見ながら、ここは実家に近いなと司令は思った。だがこんな状態で実家に寄るどころではない。

 

 ただ、このまま道路を直進すれば境水道の岸壁に到達するはずだ。そうすれば艦娘が待っている……と思う間もなく前方からライト。そして発砲される。

 

「前から……挟まれたか!」

「捕まっていてください!」

 

霞は必死にハンドルを切る。今度は右に……細い路地を何度かハンドルを切っているうちに、ようやく敵は撒いたらしかった。

 

 気のせいか霞の表情が硬い……少し震えているのだろうか?

 

「大丈夫か?」

「……」

 

そう言いながら司令は愚問だったと反省した。見れば分かる。この子は運転は電よりも上手だが度胸は、さほどでもない。それは彼女の特質というよりも何か過去の体験が引っ掛かっているようだった。だからこの子は我知らずにすべてに慎重になってしまうのだろう。

 

「司令……」

 

霞が思い詰めたように言う。もともと表情が硬い子だけどさらに硬直している。

 

「今なら……私が囮になります。せめて岸壁まで何とか逃げてください」

 

こういった判断は苦手そうな霞。だが彼女なりに必死に考えた結果だろう。かすかに顔面蒼白で震えているのが分かるが……普段の霞から考えるとそれは意外でもあった。

 

司令は応えた。

 

「分かった。適当なところで停めてくれ」

「……海軍は……海です」

 

霞が振り絞るように言った。そうだよな……困ったことがあれば、まず海に出る。あるいは海に戻る。それが海軍の生きる道だ。

 

「霞よ、お前の判断は正しい」

 

思わず応えた司令。

 

「……」

 

少し硬直していた霞はホッとしたような表情になり肩の力が抜けたようだった。そしてハンドルを握ったまま、ちょっと司令を見て初めて笑顔を見せた。

 

「司令……私も艦娘ですから」

「ああ、そうだったな」

 

司令は反省した。この子も一途な艦娘だ。人間的に判断してはいけない。

 

 やがて細い路地で軍用車が停車して司令はサッと降車した。ハンドルを握った霞が敬礼をした。司令も返す。

 

「霞……お前のためにも生き残るぞ」

「はい」

 

 薄暗い中ではあったが彼女の瞳は澄んで綺麗だった。そうだ、生きねば。今はそれが私のミッションだ。司令は改めて決意した。

 

 




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第39話<最期の戦い:刺客と爆音>

霞のことを思いながら境港の路地を歩く提督は、敵と出会うのだった。


「……やはり金剛かな?」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第39話<最期の戦い:刺客と爆音>

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 これ見よがしにエンジンをふかすと霞の軍用車は大通りへと抜けていく。通りを曲がってしばらくすると、すぐに敵らしき車に追いかけられて行ったようだ。

 

「はあ……」

 

思わず司令はため息をついた。急に荒野に投げ出されたような孤独感を覚えた。そういえば着任以来、ほとんど艦娘と一緒だったなと思った。

 

 軽く制帽を持ち上げて被りなおすと彼は歩き始めた。今居る場所は実家の近くだからほとんど岸壁に近い。15分も歩けば海に出るだろう。

 

 まだ夕食時であるが、この時間帯になると表通りから入ったこの辺りは人も車もほとんど来ない。司令は歩きながら考えた。電や神通、あるいは夕張などは多少温度差はあるとしても、いずれも一生懸命さがにじみ出ている。ところが霞は、どちらかと言うと冷静だ。悪く言うと醒めている印象を受ける。

 

大淀も含めた事務方ならそれでも良いのだろう。ただ艦娘である以上は有事の際には前線に出る必要がある。秘書艦もブルネイで前線に出た。また以前、境水道付近に敵が来た際にも、あの大淀が自ら部隊を率いて出たくらいだからな。

 

だが霞は自尊心の高そうな子だから自分から誰かに相談するとか自分から心を開くことはしなかったのだろう。何かのトラウマか真面目過ぎるゆえの葛藤。誰かに聞いてもらいたいが言い出せない悩みがあったのか?

 

彼女は司令部に居てずっと孤独だったのか? もしそうなら申し訳ない。仮にそうなら、それは何となく分かると司令は思った。彼もそんな部分はあるから。あの大井のように霞もいろいろ考えていたのだろう。ただその気持ちを誰にも打ち明けられなかった。彼女が他の駆逐艦と交流している姿もあまり見なかったな。

 

 そうこうしているうちに商店街のある通りに出た。ここは時々自動車が通り抜ける。そういえばここは一方通行だ。日向や夕立と逃げ込んだな……そんなことを思い出しながら彼は通りを横断してハタと気づいた。

 

 秘書艦は知ってるだろうか?

 

司令が軍用車を降りて歩いて岸壁に向かっていること。霞が囮になっていること。

 

司令は艦娘ではないから無線機は持っていない。連絡手段が無い……どこかに公衆電話でもあれば別だが、そもそも彼は美保鎮守府の電話番号を覚えていなかった。いつも艦娘が連絡してくれるから。

 

やれやれ……彼は苦笑した。鎮守府に戻ったら私からも秘書艦に謝って叱れれば済むか。彼は肩をすくめた。

 

 そして裏路地に入ったときだった。急に異様は雰囲気……殺気のようなものを感じた。見ると路地の反対側に妙な雰囲気の人間が居た。

 

「シナ……ではない。刺客か」

 

彼が呟くと相手も軽くうなづく。司令は鳥肌が立った。やみ雲に襲って来ない相手と言うのはむしろ厄介だ。そういう連中は明確な思想や目的観に徹して攻撃してくる……いうなれば十字軍みたいな集団だ。無差別ではないが下手に説得して通じる相手ではない。

 

やれやれ……この期に及んで厄介な敵……結局人間相手か。司令は思った。

 

 お互いに今、間合いを取っている。彼は日向を思い出した。彼自身は短銃を持ってはいるが、それを取り出す間に相手は襲ってくるだろうか。

だが敵はゆっくりと体勢を整えると腰の辺りから刃物を取り出した。なるほど……丸腰の相手は襲わないと言うことか。それを悟った司令もまた、ゆっくりと銃を取り出した。

 

 敵は刃物を構えて祈るような格好をした。司令はやはり日向を連想した。

ああ、日向か龍田さん相手に格闘技の練習でもしておけば良かったな……彼がそう思った次の瞬間、敵は刃物を持って襲い掛かって来た。

 

 迷わず発砲する司令。命中したはずだが敵は怯むことなく突っ込んでくる。さすが暗殺者。彼は銃の即射性……神通の言葉を思い出して銃を連射した。相手も武器は持っているとはいえ刃物相手に銃とはフェアじゃないなと彼は一瞬罪悪感を覚えた。

 

数発の銃弾を受けた敵は一瞬立ち止まった。彼の体からは血が流れている。ああグロい。だが彼はやや長い刃物をもう一度振りかざして襲って来た。

 

なんてタフな奴……当然か。だが敵もそれなりにダメージを受けたらしく動きは鈍い。振り下ろされた刃物を避けた司令は必死に相手の腕をつかんだ。

 

お互いに武器を持ちながらも取っ組み合いながら均衡した。敵の顔はマスクされているが瞳が見えた……やはり根っからの悪人ではない。妙に澄んだ瞳……ただ主義思想が違うだけなのだろう。そう考えた司令。

 

 撃たれながらもこの怪力……銃が無ければ一発で殺られていたな。彼がそう思った瞬間、突然岸壁の方から爆音が響いた。

 

 艦娘に何かあったか?

 

その気の緩みが二人の均衡を崩す。相手が有利な体制になり、司令の銃が手から落ちる。すぐさま刃物が振り下ろされるが間一髪で司令は避ける。

その弾みで敵は刃物を司令の背後にあった石塀のスキマに挟んでしまう。一瞬抜けなくなった。怯む間もなく司令は敵に廻し蹴りを入れた。相手は暗殺者だから司令ごときの蹴りでは致命的ではない。それでも、ある程度の効果はあったようだ。

 

 彼は刃物を手放した状態で反対側によろめく。司令が地面に落ちた銃をチラッと見ると同時に敵は体勢を整えて司令に突進してくる。

 

 そのとき再び岸壁から爆音……何が起こっているのか?

 

考える間も無く司令は再び敵と取っ組み合いになる。今度はお互いに素手だ。その間にも立て続けに爆音……境水道で戦闘が行われているようだ。

 

 そっちも気になる……

 

そのとき司令は『おや』と思った。変な臭い。火薬のような……まさか境水道の爆発の匂いがもう漂ってきたのか? いや、雨上がりで風は無い。

 

ハッとする司令。ニタリと笑う刺客。まさかと思った司令は日向のように脚で思いっきり相手を蹴飛ばした。

 

 次の瞬間だった。

 

相手が爆発した。司令は目が眩むと同時に、それが突然起きたたた身構える間もなく爆風で吹き飛ばされた。それに呼応するように境水道からは何度も爆音が響いていた。遠のく意識の中で彼は艦娘を心配していた。

 

「境水道に居るのは……やはり金剛かな?」

 

彼は彼女のかん高い声を思い出した。

 

 




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第40話<最期の戦い:艦娘の呼び声>

刺客にやられた衝撃で混乱する提督。だがもっと困惑することが彼を襲う。


『皆待っているから』

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第40話<最期の戦い:艦娘の呼び声>

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 吹き飛ばされたショックで意識が遠のく司令。その脳裏に金剛の声が響く。

 

『テイトクは大バカ者ネ!』

 

アイツは相変わらずだな……彼は無意識に苦笑いして思わず答えた。

 

「ああ、どうせバカ者だよ!」

 

そこで彼の意識が戻った。気を失っていたのは一瞬だけのようだ。何となく金剛の幻聴に助けられた心地だった。

 

彼は落ち着いて周りを確認する。暗殺者は自爆して粉々……辺りが夕方で暗くて良かったとつくづく思った。自爆した辺り一面には、あまり言葉では表現したくない物がたくさん散乱している。まさに修羅場……地獄絵図だ。明日この付近は大騒ぎだろうな。

 

何となく司令の服も泥や血糊のようなものがベットリと……ああ、グロい。

 

彼も艦娘が実用化されてから前線に出る機会が少なくなった。だが海軍と言えども戦場に入れば修羅場もある。つくづくこれが艦娘でなくて本当に良かったと思う。想像するのもおぞましい。

 

 彼にとっての艦娘は家族以上の存在だった。だから彼女たちが傷つく姿は二度と見たくはなかった。たとえそれが心の傷であっても同様だ。霞や大井の如く心に傷を負わせることが無いように。

 

艦娘が外的に日本を護るのなら私は艦娘の心を護ろう。彼は改めてそう決意するのだった。

 

 そのとき彼は急に艦娘の叫び声を感じた。

 

それはまるで海上で待機していた艦娘が急に深海棲艦の不意撃ちを受けたような慌て振りだ……これは何だろう。幻聴か?

 

 私は爆発のショックで頭でも打ったのだろうか? 

 

彼は改めて落ち着いて自分の体の様子を確認する。打撲傷はあるようだが外傷は特に無い。頭部の痛みも無いから特に衝撃も受けては居ないようだ。

 

だが再び彼の脳裏には艦娘の叫びが聞こえ始める。今度は、お互いに励ますように回避させたり攻撃目標を指示している。それは戦闘中の声らしい。

 

 彼が艦娘の声に耳を傾けていると突然、かん高い声がカットインしてくる。

 

『テイトク、絶対に死んじゃダメだからネ!』

 

はあ? 彼は困惑した。何だこれは……リアルな幻聴だな。

 

『テイトク……早く海へ出て来てっ、プリーズ!』

 

今度は明らかに彼を名指しで発せられた金剛の声……もともと霊感のような感性など全く無い司令にとって、この現象は理解しがたい症状だった。

 

ついに私もアタマがおかしくなったに違いない。まずいな。人は死期が近くなると幻を見聞きすると言う。

 

だが『金剛』の言うとおり今は海へ出ることが先だ。彼は歩き出そうとして足を痛めたことに気付いた。やれやれアタマではなく脚を負傷したか。

 

境水道では今もなお断続的な爆発音が続く。一方は明らかに艦娘だが相手は深海棲艦だろうか? 或いはシナかその他のどこかだろうか?

 

先ほどから聞こえる幻聴によれば状況は五分五分のように感じられた。何となく彼はブルネイ沖の戦いを連想した。だがこれは何の声だ?

 

 彼は無線機は持っていない。

 

必死に岸壁を目指して必死で歩く司令。片足が痛いのでまともに歩けない。もしまた刺客に襲われたら今度はヤバイな。

 

『テイトク……負けないで!』

 

まただ。さっきから何だろう? あまりにもタイムリーな幻聴だ。

 

 ようやく最後の路地を過ぎて、ついに岸壁と船が見えた。

 

「ああ……岸壁が見える」

 

彼は呟く。

 

『良かった……ヨカッタよ、テイトク』

 

いい加減にして欲しいな。この幻聴。ちょっとウザい。

 

 だが次の瞬間、彼は再び硬直した。最悪の事態……目の前に第二の刺客が現れたのだ。さっきの奴とはちょっと雰囲気が違う。何だろうか? あまり筋肉質ではなく、むしろ紳士のような感じだ。

 

手には何か武器のようなものを持っている。そして当然だが相手は彼が海へ出るのを阻むつもりらしい。

 

ウッカリしていた。こちらへ向かうときに短銃を拾っておくべきだった。相手が手にしているものは銃だろうか……手を上げて降伏したら助かるだろうか? そんなことを司令が考えていると、前の奴が何か目配せらしき動作をした。ハッと気がついて彼が振り向くと後ろにも似たような奴が現れた。挟み撃ちだ。

 

「もう駄目か」

 

海軍の指揮官としては下手に降伏はできない。今、境水道で戦っている美保鎮守の艦娘たちの手前もある。指揮官として下手に行動して前線兵士の士気の低下を招くことは避けるべきだ。

 

ああ……どうせ散るなら正々堂々、彼女たちにも軍神にも恥ずかしくないように散ろう。彼はそう思って腹をくくった。

 

『テイトクぅ……早く出て来て! 皆待っているからサ』

 

恐らくまだ戦闘中らしい金剛の声が頭の中で響く。分かっているが……悪いな金剛。もうお別れだ。彼はそう思った。

そして、やや片足が不自由ではあったが敵に向かって堂々と前進を始めた。

 

 敵は特に進んで攻撃はして来ないようだった。ただ彼が攻撃範囲に来るのを待っているらしい。やがて相手の攻撃範囲に達した頃、前の敵と後ろの敵が司令に接近し何かの武器を彼の身体に押し当てた。一瞬、衝撃が彼を襲う。

 

そこで彼の意識は途絶え、その体は岩壁を目前にして地面に倒れた。

 

その瞬間、金剛や寛代、青葉を筆頭に彼と縁の深い艦娘たちには何かが途切れた感覚が伝わった。

 

一斉に顔を上げたり、周囲を見回す艦娘たちだった。

 

ただその感覚には、あまり深刻なイメージが無かった。それが一体何を意味するのか?

彼女たちは全く悟らぬまま時が過ぎた。

 

 初夏の雨上がりの夕刻、境港の岩壁手前にて美保鎮守府提督、暗殺される。享年33歳。

 

 なお、物語はまだ続く。

 




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第41話<最期の戦い:搬送>

境水道で戦闘が続く中、司令を暗殺した者たちが闇夜でうごめいていた。


 

「予定より少し遅れているぞ!」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第41話<最期の戦い:搬送>

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 既にあたりは真っ暗になっている。境港の岸壁では砲声を背景に二人の男が周りを気にしつつ美保の司令の身体を運び出す準備をしていた。路地には既に無地のライトバンが停まり荷台が開いている。

 

「急げ」

「ハッ」

 

 境水道からは相変わらず艦娘と深海棲艦と思われる敵の砲声が響く。時おり爆音と共に島根半島が砲火に染まってその姿を浮かび上がらせる。岸壁一帯にはサイレンが鳴り憲兵や班長が住民に避難を呼びかけていた。

 

数発の流れ弾が岸壁沿いの建物に降り注いぎ振動と共に火の手が上がる。消防車や消防団が走り回って消火活動を開始している。

 

路地ではボスらしき男が叫ぶ。

 

「積み込み完了! 直ぐ出せ」

「了解!」

 

軽く敬礼した手下の男は運転席へ。ボスは助手席に座る。周囲では人々が逃げ惑い町中が混乱している。ライトバンは旧市街の路地を走り抜けると幹線道路へと向かう。

 

やがて数分も走ると直ぐに幹線道路に出た。車は左折して東方向へ向かう。助手席のボスはタバコを取り出して呟くように言った。

 

「……最期は、堂々としてたな」

 

ハンドルを握りながら手下は言った。

 

「いろいろ言われてましたが美保鎮守府の司令官としては十分、立派な最期だったと言えますね」

 

タバコに火をつけたボスは、ため息をついて応えた。

 

「そうだな。最期まで海軍として誇りを失わなかった彼の姿は立派だ」

 

車は431号線に入る。手下は境水道大橋へと進路を取ると再び言った。

 

「まさか無いとは思いましたけど……万が一命乞いされたらどうしようかとビクビクでしたよ」

 

ボスは灰を捨てながら言う。

 

「フフ……もしそんな恥ずかしいことをする奴だったらオレは即刻……」

 

そのときボスの腕時計のアラームがなる。チラッと見た彼は少し慌てた。

 

「予定より少し遅れている! 時間がないぞ」

 

そのとき手下は「あっ」と小さく叫ぶ。ボスもその理由……大橋の入口ゲートが境水道での戦闘のため通行止めになっていることを視認した。

 

手下は少し恐れるようにしながら確認してくる。

 

「突破……ですね?」

「当たり前だ」

 

直ぐに決意したような手下はシフトチェンジするとアクセルを踏み込む。簡易ゲートの前で警告灯を振っていた係員が慌てて逃げ出す。バキッという鈍い音と共にゲートが飛び散りライトバンは境水道の戦闘を眼下に見下ろしながら高速で大橋を渡っていく。手下は戦火をチラ見しながら『このくらいで潰れるなよ』と思っていた。

 

無言でタバコを吸っている助手席のボスも恐らくは同じことを考えていたに違いない。

 

やがて大橋を渡り切った車は島根半島で大きくカーブを曲がると国道のT字路で出雲方面へと進路を変える。少し走ってから直ぐに手下は山道へとハンドルをまわす。後は道なりだ。

 

ようやくホッとした二人。ボスは吸殻を処理しながら手下に言った。

 

「お前、車を取りに行く途中で短銃を拾っただろう?」

「あ……」

 

ハンドルを握りながら手下は苦笑した。

 

「バレてましたか?」

「オレを舐めるなよ……まだお前らに負けるつもりはない」

 

手下は恥ずかしそうな表情をする。ボスは続ける。

 

「何だ? 証拠隠滅か?」

 

手下は運転しながら応える。

 

「それもありますけど……」

 

手下は答えに躊躇している。ボスは少し笑いながら言った。

 

「良いよ……オレはお前が何をしようと責めるつもりはない。そもそもオレは軍人ではないし、お前だって今この瞬間は独立した立場だ。自分で最善だと思った判断をすれば良いさ」

「ハッ」

 

ボスはバックミラーでチラッと司令の身体を見て言った。

 

「……なるほどね」

 

手下も軽くうなづいた。

 

「気持ちです」

「……」

 

ボスは頭の後ろに手を組んで言った。

 

「とにかく急げ」

「ハッ」

 

ライトバンはさらに加速しつつ島根半島の山間部を突き進んで行った。

 

 




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「美保鎮守府:第九部」の略称です。


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第42話<最期の戦い:司令部の葛藤>

美保鎮守府の司令部では秘書艦を中心にして情報収集に努めていたが情報は錯綜していた。


「大淀さん!」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第42話<最期の戦い:司令部の葛藤>

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 美保鎮守府の作戦指令室では秘書艦の祥高と補佐艦の大淀と同2号が詰めていた。司令を乗せたはずの霞はまだ戻らず先に夕張が鎮守府に戻った。霞は司令を乗せたままどこかを走っていることしか分からない。

 

 何度か無線で呼び出しをかけるが霞からの応答は無い。司令は無事なのかそれとも無線に出ることもままならないのか?

 

司令を出迎えるべく境水道や美保湾に展開した金剛姉妹や伊勢、扶桑姉妹からも司令確認の報告は入らない。霞は何処を走っているのか?

 

 やがて境水道に達した金剛たちの救援部隊は大破状態だった敵の上陸艇を撃沈した上で、その場に展開していた敵駆逐艦と交戦状態に入った。境水道の敵は金剛たちを待ち伏せしていた。それは無線傍受を許した秘書艦の作戦の立案ミスでもあった。

 

 ただ解せないのは数時間前から美保や境水道に展開していた敵の上陸艇がなぜ1隻を残してすべて轟沈していたのかということだ。悪天候ぐらいで沈むはずは無い。

 

 一体誰が? 陸軍か? だが陸軍には敵に対抗できる火力は無いはず……もしかしたら陸軍は強力な対艦ミサイルでも開発したのだろうか?

 

 祥高はやきもきしていた。焦っても仕方が無いのだが情報が足りない。

青葉が先ほどから主体的に指令室に来て部屋の隅に設けられた特殊無線傍受端末をいじっている。その脇では寛代が外部無線および外部アンテナと自分を接続して、その他の情報が拾えないか検索を繰り返している。

 

 この二人は恐らく半分は指令室に入り浸る目的があるだろう。それでも自発的に動いてくれるのは助かる。

 

逆に大淀さんは2号が着てからちょっと落ち着かないと祥高は思った。特に今は霞が音信不通状態だから、なおさら焦っているのかも知れない。

 

とはいえ司令部は人体で言えば頭脳だ。感情的なことで任務の遂行が左右されてはいけない。

 

「祥高さん、すみません」

 

大淀が秘書艦に声をかける。

 

「美保湾と境水道に展開していた敵の艦船ですが……」

 

祥高は振り返る。

 

「どうしました?」

 

メモを見ながら大淀は言う。

 

「まず敵の上陸艇です。美保湾と境水道に2隻ずつ居たはずですが私たちの部隊が展開する頃には美保湾では全滅。そして境水道では1隻が既に轟沈、もう1隻は大破していました」

 

祥高は思った。美保湾の敵には距離もあるため陸軍は手出しはできない。そこが全滅したのか……境水道は島根半島もあるので、まだ陸軍が挟み撃ちで攻撃した可能性はある……黙って聞いていると大淀が続ける。

 

「上陸艇以外に境水道には敵の駆逐艦も多数展開していて金剛さんたちと交戦状態になりました。駆逐艦は撃退したのですが境水道にはさらに敵の潜水艦が数隻潜んでいたようで比叡さんが魚雷を受けて中破。続けて金剛さんも狙われたのですが敵の潜水艦が謎の爆発……状況から考えると上陸艇を失って焦って自爆した可能性もありますが……」

 

そこで祥高が制止した。

 

「大淀さん個人の分析ではなく事実だけ伝えてください。また報告は同じことは繰り返さず要点だけを簡潔にお願いします」

 

釘を刺された大淀は慌てたらしく、あたふたした。

 

「す、済みません……」

 

すると壁の端末に向かっていた大淀2号が振り返る。

 

「秘書艦は、ご存知でしょうが先ほどから司令が消息不明です」

 

祥高は2号を向いて応えた。

 

「知っています」

 

2号は軽くうなづくと続ける。

 

「第三部隊が最上を中心に探照灯と索敵機を飛ばして岸壁をくまなく探しているのですが司令は何処にも居ません。境水道で戦闘が始まったため海上や上空からの索敵も限界がありますが……実は陸軍からの協力の打診があったためこれを受諾。一緒に探索してもらっていますが……」

 

ここで2号も詰まった。

 

「どうしました?」

 

祥高がその先を促すと今度は大淀が応える。

 

「岸壁に近いところで多数の散乱した遺体が……いえ、司令かどうかは分かりませんが……」

 

ここで秘書艦は机を叩いた。

 

「大淀さん!」

 

1号はビクッとして直ぐに頭を下げた。

 

「はっ……済みません」

 

事実だけを……と、自分に言い聞かせるように呟く大淀。

 

 そのとき陸軍の無線を傍受したらしく青葉と寛代が慌ただしくなる。青葉が振り返りつつ叫んだ。

 

「霞ちゃんは敵に追われていたようですが陸軍の応援で制圧されたようです。なお霞ちゃんの車両は431号線で信号機と接触して大破、自走不可です。司令は同乗していません。陸軍からは怪我をした霞ちゃんをいったん陸軍病院へ収容して宜しいですか? ……との確認無線が来ています」

 

祥高は応える。

 

「青葉さん、陸軍には直ぐ返事……病院への搬送を依頼して下さい」

 

青葉は軽く敬礼。

 

「了解! あと大破した美保の車両は陸軍が搬送して下さるそうです」

 

青葉の返事のあとで秘書艦は、ため息をついた。今回は陸軍に恩を受けてばかりで海軍としてはちょっと悔しい思いだった。それでも彼女はテーブルのお茶を含んだ後で呟くように言った。

 

「結局、今の今まで霞からは何も言って来なかったのですか? 大破するまで」

 

記録を取っている大淀2号が直ぐに答える。

 

「はい……」

 

それを受けて秘書艦は大淀に言った。

 

「大淀さん、霞ちゃんは報告をし無さ過ぎます。しっかり指導して下さい」

 

ややイラついたように言う祥高。大淀は泣き出しそうだった。すると後ろ向きで他の無線傍受や受信記録の整理をしていた大淀2号が振り返って大淀の手を握った。大淀は応えた。

 

「ありがとう……うん、もう大丈夫だから」

 

それを見ていた青葉は呟く。

 

「ああ……私も助手が欲しいなあ。期待していた秋雲は蒸発しちゃうし」

 

それを聞いた祥高は表情を変えずに黙っていた。

 

 青葉はそんな秘書艦をチラッと見た。彼女は時おりステルスモードよりもさらに特殊な周波数の無線を受信しているらしい。しばしば目を閉じて何かに聞き耳を立てる……そのしぐさは寛代も同様だった。

秘書艦と二人でほぼ同じタイミングで耳を傾けている光景は興味深い……だがそれに気付いているのは青葉だけだった。

 

情報知りたがり屋の彼女は、ふと『私もあの無線……欲しいな』と思うのだった。すると急に秘書艦が青葉に言った。

 

「青葉さん」

「はひ!」

 

突然指名されて驚く青葉。

 

「貴女に任務です」

「はい!」

 

何となく面白い気配……青葉はワクワクした。

 

 




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第43話<最期の戦い:陸軍の協力>

美保の陸軍は海軍に協力的であり、青葉は少し反省するのだった。


「皆さん、丁重に出迎えましょう」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第43話<最期の戦い:陸軍の協力>

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 秘書艦は青葉に言った。

 

「青葉さんは陸軍病院へ様子を見に行ってください……大淀さん、すぐに陸軍に連絡をして霞の収容時間と病室を確認してください」

 

青葉と大淀は直ぐに敬礼をした。

 

『了解しました』

 

そのとき秘書艦は寛代がジッと見ていることに気付いた。

 

「あなたも行きたい?」

 

寛代はうなづく。祥高はちょっと微笑んで言った。

 

「青葉さんの邪魔にならないようにね」

 

それを聞いた寛代は何度もうなづいた。大淀が心配そうに確認する。

 

「でも車が……電チャンも霞ちゃんも車を大破させましたけど……トラックですか?」

 

祥高は少し残念そうな顔をして応えた。

 

「もう少しすると陸軍の担当官が報告に来られます。その帰りに病院へお連れしましょうかと打診がありました。あまり陸軍にばかり頼るのも心苦しいですが同じ美保地域の防人として今回は甘えることにします」

 

そう言いながら最後に微笑んだ秘書艦の表情を見て青葉と大淀はホッとした。今までの彼女だったら陸軍に協力を仰ぐということはあり得なかっただろうが今回は非常事態だ。単独ではどうしようもない。

 

 やがて屋外からバタバタとした雰囲気が伝わってきた。窓から見ると陸軍の車両が鎮守府の前に付けている……電と霞の乗っていた車両だ。

 

伝令管で陸軍が到着したことが伝えられ秘書艦は直ぐに降りて対応する旨を返答していた。

 

「皆さん、丁重に出迎えましょう」

 

 秘書艦が玄関に下りると、そこには陸軍の将校が立っていた。彼女は直ぐに彼が司令とよく出会っていた人物だと分かった。

 

彼が敬礼をしたので秘書艦も敬礼をした。

 

「米子駐屯地の司令です。今回はいろいろ出しゃばって申し訳ない」

 

なるほど司令の言うとおり腰の低い人だと彼女は思った。

 

「いえ、何から何までお世話になりっ放しでこちらこそ恐縮です」

 

将校はちょっと微笑んだ。

 

「なるほど……いや失礼、貴女が艦娘の秘書艦と言う噂は伺っていましたが美保鎮守府がこういう状況でも揺ぎ無い理由が分かります」

 

これは褒め言葉なのだろう。だが秘書艦は普段通りに微笑んだ。

 

「いえ……私はあくまでも補佐です。やはり司令が居てこその鎮守府です」

 

そこで二人は現在司令が行方不明なことを思い出してちょっと気まづくなった。すぐに将校は付け加えた。

 

「大丈夫です。希望を持ちましょう……今回の簡単な報告を兼ねて参りました。急で申し訳ないのですが少々お時間を取って戴ければ幸いです」

 

秘書艦は直ぐに答える。

 

「構いません。素早い対応感謝いたします……大淀さん」

 

秘書艦は振り返って指示を出す。

 

「鳳翔さんに接待の準備をお願いします」

「はい」

「あと夕張さんを呼んで事故車両の受け入れ手続きをして下さい」

 

将校はテキパキと指示を出す秘書艦を見て軽くうなづきながら続けた。

 

「あと陸軍病院へは別の車でこちらの者がご案内します」

 

 そこに立って敬礼をしていたのはあの憲兵だった。青葉と共に降りてきた寛代は彼を見ると微笑んだ。それを見た青葉は驚いた。この子が外の人間に笑顔を見せるとは?

 

「お嬢ちゃん、お久しぶりだね」

 

 憲兵はざっくばらんに寛代に声をかけた。憲兵にしては優しい感じの人だった。それを聞いた青葉は内心苦笑した。一応、この子も兵士なんですけどね……でも寛代が心を開いているから良いか。

 

秘書艦が指示を出す。

 

「ではこちらも急ですが青葉さんと寛代チャンは陸軍病院へ向かって下さい」

「了解」

 

敬礼をする二人……寛代は相変わらず無言で敬礼をした。

 

 その憲兵の案内で外に向かう二人。歩きながら青葉は、陸軍も捨てたものでは無いなと思った。むしろ自分が数年来この美保に居て勝手に敬遠していて現地の陸軍の様子を全く知らなかったことを反省していた。

 

 そういえばこの憲兵のことは司令からチラッと聞いた事があった。それを自分の先入観が邪魔をしていたのだろう。思い込みや先入観は偏向報道につながることをジャーナリストとして反省する青葉だった。

 

 だからこうしてみよう……皆と一緒に外に出た青葉は陸軍の車の前で憲兵に笑顔で言った。

 

「病院まで……よろしくお願いします」

 

憲兵もニッコリ笑った。ああ、やっぱり笑顔は良いなと彼女は思うのだった。

 

 




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第44話<最期の戦い:送り人>

提督の『遺体』を運ぶ謎の二人組は島根半島の北側にある小さな港へとやってきた。


「おい、無事に確保したぞ」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第44話<最期の戦い:送り人>

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 島根半島の山間部を走っていたライトバンはやがて半島の北側へと出た。しばらく走ると海と港が見えてきた。夜なので人影は無い。またこの時間帯は漁船の出入りも無い。雨上がりの後で気温は高く風は無かった。

 

 港の岸壁の周りは人家もまばらで街頭もほとんど無い……特にここ美保関地域は敵の上陸を防ぐ為に灯火管制が敷かれているため、なおさら暗いのである。

 

 車は港湾部を滑るようにして岸壁につけた。乗っていた二人の男性は無言のまま降車すると後部扉を開けて、そこに横たわっていた美保の司令の身体を担架のまま運び出した。

 

 ボスは手下に聞いた。

 

「銃は大丈夫か? そのまま海底に落下……なんてことは無いか?」

 

 手下は応える。

 

「大丈夫です、きちんと結んであります。ただ海で濡れますから……弾は自前でお願いしますよ」

 

彼は司令の身体を軽く叩いた。ボスはフフフと笑った。

 

「……三途の川の六文銭みたいだな」

「何ですか? それ」

 

手下は不思議そうな顔をする。

 

「餞別ってやつだ」

「なるほど……」

 

 やがて司令の身体を運んだ二人は船着場に着いた。司令の身体をいったん下ろして周りを警戒する。

 

「早く来ないかな……憲兵に見つかると厄介だ」

 

心配そうな手下だがボスは平然としている。

 

「大丈夫だ。巡回時間は調べてある。それに今夜、この辺りの憲兵は謝恩会だ」

「さすがですね……」

「当然だ」

 

 そのとき港の中央付近の海面から不自然な波の音が聞こえ始めた……まるで人が居るような音……そこは海の上なのだが。

 

やがて手下が海上に何かの影を発見して小さく叫んだ。

 

「来ました!」

 

ボスは暗闇に目を凝らすと軽くうなづいた。

 

「よし、海に降ろすぞ」

「あの……」

 

手下が不安そうに確認する。

 

「海に……このままですか?」

「当たり前だ。良いか? ソッとだぞ……なるべく水音を立てないように」

 

 ボスは司令の身体を起こしに掛かる。手下はまだ心配そうだ。

 

「そのまま『轟沈』なんてことになりませんかねえ?」

「……」

 

ボスは無言で作業を続けるので手下も黙って従った。そして司令の身体は水際に安置された。

 

「よし、降ろせ」

「ハッ」

 

 二人はなるべく水音を立てないように慎重に司令の体を港の水面に下ろした……というより、ほとんどそのまま投げ入れたのだが。

 

ダブンという水音がして司令の身体は港の海へ投下された。

 

 人体は基本的には水に浮くというが意識の無い状態の人間をそのまま海へ投下すれば、下手したら死んでしまう可能性もある。手下には、ただそれが心配だった。だがボスは全く心配していないようなので今は大人しく従うしかなかった。

 

 手下が固唾を飲んで見守っていると司令の身体は普通の遺体のように暗い海面にプカプカ浮かんでいる。シュールな構図だなと彼は思った。

 

「おい、岸壁から少し離れろ……周りからも怪しまれないようにな」

「ハッ」

 

 二人はゆっくりと車へ戻る。ふと振り返ると海面に浮いている司令の身体らしき物体と……それに近づく人影のようなもの。あれは何だ?

 

何となく予測はつくが果たしてボスに聞いて良いものかどうか手下は悶々としていた。そこでカマをかけることにした。

 

「なぜわざわざここに身体を運んだんですか?」

 

ボスは車に、より掛かりながらタバコを探している。

 

「境港周辺だと死体を発見される恐れがある。シナは当然だが美保の連中にも発見されるのはまずい。それに境水道に転落したと思わせておけば、かなり時間が稼げるだろ? あそこに落ちた死体は早い潮の流れで、なかなか上がらないんだ」

 

エグい……聞くんじゃなかったと手下は思った。するとボスが言う。

 

「おい、あれ無事に確保したようだぞ」

 

慌てて海面を見ると、その黒い人影が司令の身体を運んでいく。

 

「あれは?」

 

ちょっとビクつく手下。

 

「安心しろ。これで我々のミッションは完了だ」

 

 手下の質問には答えずボスは安心したようにタバコに火をつけた。謎は多いが……とりあえず手下もホッとして口も軽くなる。

 

「まるで水葬みたいですね」

「ああ、この俗世界からはサヨナラだな……あっちへ行っても頑張れよ」

 

 ボスは遠ざかっていく司令の身体を見送りながら機嫌よく答えた。手下は車のドアを開けて運転席に座ると、そのまま窓を開けた。少し間を置いてから彼は星空を見上げて言った。

 

「でも司令が羨ましいですね」

 

 ボスは少し肩をすくめて言った。

 

「まあ……な。彼の場合は今回ちょっと強引だったんだが……軍人は国家の命令があれば何でもするものだ」

 

 手下はその男にも、いろいろ突込みどころがあったのだが……敢えて黙っていた。正式な階級も分からない、ボスはすべて謎めいている。

 

 まだボスがジッと暗い海を見詰めているので手下は何気なく無線機のスイッチを入れた。美保の無線が入る……そして大淀だろうか? 境港の戦闘は美保の勝利ですと呼びかけていた……そうか。まだ美保湾や境水道には艦娘たちが展開していたな。

 

その音声を聞いたボスもタバコを始末しながら言った。火の粉が散った。

 

「お前にはまだ使命がある。美保の提督がシナに襲われて境水道に落ちたと情報を流せ。陸海軍共同で捜索するも遺体は上がらないとしてだな。あと出来たら明日の朝刊に間に合うように中央政府から発信させろ」

 

ちょっと間を置いてまた続けた。

 

「直ぐ陸軍の憲兵にも連絡して自爆した暗殺者を調査させ、その犯人が分かっても政府の許可があるまでは公開させるな。わが国としてもこの暗殺を最大限に利用させてもらう」

 

 だが手下は直ぐに答えなかった。ボスはちょっと不思議そうな顔をした。

 

「なんだ?」

 

手下はハンドルを握りながらニヤリとした。

 

「貴方も相当なワルですよねぇ」

 

彼も笑った。

 

「ああ、帝国海軍……いやこの国のためだ。そのためなら幾らでも悪人に為れるさ」

「現役引退しても続けるんですか?」

「引退なんて言葉は無いさ。生涯現役だ」

「へえ……」

 

手下は今度、時間があったら、またこいつの料理を食べに行ってやろうと思った。どうせ時々手伝うことになるだろうから……興味もあるし。彼は窓枠に肘をついて星空を見上げながら呟いた。

 

「オレの銃、六文以上の価値があるからな、大切に使ってくれよ」

 

そう思ったとき、どこかで司令が応えたような気がした。彼とは不思議な縁だよな。

 

「ああ。また、どこかで会おうぜ」

 

手下は思わず呟いた。

ようやくボスは振り向いた。

 

「そろそろ戻るか」

「ハッ」

 

手下はエンジンをかけた。

 

 

物語は、もうちょっと続きます。

 

 




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第45話<戦いの後:陸と海の軍隊>

陸軍との協力体制を模索し始める美保鎮守府、やがて新たな情報が次々と入る。


「司令は……もしや?」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第45話<戦いの後:陸と海の軍隊>

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 夜になると雨は上がり星空も出てきた。境水道と美保湾の戦闘は終結し金剛や扶桑を中心とした戦闘部隊はいったん鎮守府へ引き上げた。今回は比叡が中破のみで後は何とか持ちこたえることが出来た。

 

まだ油断は出来ないため夜間の哨戒部隊として鎮守府から川内や那珂を旗艦とした部隊が新たに出撃する。それと前後して最上を中心とした索敵部隊もいったん引き上げた。

 

 境港での市街戦では陸軍が大活躍をした。特に美保鎮守府の破損車両を牽引してきた彼らは艦娘たちにも、とても感じが良かった。彼女たちは、これもブルネイ効果だろうと思った。

 

今回の地上戦の結果についてはその日のうちに陸軍の司令でもある少将が直接出向いてきた。これも今までには無かったことだった。直ぐに秘書艦は応対し美保鎮守府の応接室にて両軍の持つ情報の突合せを行った。

 

 今まで海と陸で連携をしてこなかっただけに今回の打ち合わせはとても有益だった。また司令が行方不明という緊急事態にも拘らずテキパキと指示を出す秘書艦の姿に美保駐屯地の陸軍少将は感心していた。

 

彼は予め憲兵に調べさせていたが艦娘は不思議な存在だと思った。特に祥高と呼ばれる目の前の艦娘は中央でも活躍していたらしいが、なぜこんな優秀な艦娘が僻地に居るのかも不思議であった。

 

しかも目の前の秘書艦は美人で聡明。そういえばここの司令が大山で遭難しかけたとき、電話でやり取りをしたのも彼女だったのだろう。

 

 艦娘は工業製品だと陰口を叩く者も少なくないが実際に目の前にした彼には信じられない思いだった。もちろん秘書艦は特に優秀なのだろうが、その他の艦娘たちもその存在感は人間よりも強く思えた。

 

美保鎮守府の司令が縁で陸と海の軍隊が協力し始める。それは山陰の防衛にも有益だろう。思わず笑みがこぼれる陸軍少将。目の前の秘書艦はちょっと不思議そうな顔をした。

 

「どうかなさいましたか?」

「あ……いえ、こうやって海軍と打ち合わせが出来る時代がこんなに早く来るとは思っていませんでしたので」

 

秘書艦もちょっと手を休めた。

 

「そうですね……あ、すみません緊急通信が入りましたので」

 

目の前の秘書艦は少し横を向いて耳を傾けている。その間に書類の整理やお茶の交換を補佐の大淀がしてくれる。女性型ということもあるが艦娘と言う存在と軍隊……不思議なマッチング感だ。

 

 最初は難しい表情だった秘書艦は直ぐに明るい表情になった。その変化に少将はドキッとした。艦娘たちの見せる表情は一般の人間のそれとは明らかに違う。やはり兵士であり志が高いこともあるのだろう。

 

「良い報告ですか?」

 

つい少将は私的な感情で聞いてしまった。しまったと思ったが彼女は別に気に留めない様子だった。

 

「はい」

 

すると今度は少将の緊急無線機が反応する。

 

「あ、失礼!」

 

秘書艦がうなづく中、彼も無線を取る。しばらく応対した後、彼は無線を気って向き直る。

 

「今受けた情報……美保の司令のことですが、貴女が先ほど受けた情報も恐らく同じでしょう」

 

秘書艦は微笑んだ。

 

「多分そうですね……シナの上陸部隊および刺客により司令が逃走中に境水道へ転落。日本政府はシナへ激しく抗議するもシナ政府は否定……これがたった今、政府から公式に発表された内容です」

 

今度は大淀が目を丸くしていた。だが秘書艦はそんな深刻な内容にも拘らず意外に落ち着き微笑んでいた。

 

恐らく彼女は別の情報をつかんでいると陸軍少将は察した。ただそれは最高機密なのだろう。それでも何となく探りを入れてみた。

 

「司令は……もしや?」

 

少将は問いかけた。秘書艦は、やはり明るい表情で返した。

 

「はい」

 

彼女は少しはにかんだような表情を浮かべた。やはり普通の人間よりも美しい……なるほど美保の司令はこのギャップ感で苦労したのだろうなと彼は思った。そして何となく司令と秘書艦の関係も薄々感づき始めていた。

 

海軍には艦娘とのケッコンと言うシステムがあると聞いたことがある。もし可能であれば将来、陸軍の若い兵士と交流して……と、想像する彼だった。

 

二人の無言の会話を見てポカンとする大淀。やがて大淀2号が新しいお茶とつまみを持ってきて言った。

 

「ご報告は長引きそうですのでおつまみです……あと、もし陸軍司令がよろしければ夕食もご一緒にいかがでしょうか? と食堂から伝言です」

 

少将は驚いた顔をしたが直ぐに頭をかいた。

 

「それは……有難いことです。ちょっとお電話をお借りできますか? 自宅の妻に夕食は要らないと伝えますので」

 

その場にいる全員が笑った。山陰の海軍と陸軍が一つになる日……今日は記念すべき一日になるだろうと大淀には感じられた。

 

 




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第46話<戦いの後:陸軍病院>(改)

陽気な憲兵の運転する車で陸軍病院へ向かう青葉と寛代。時代は変わったなと思う彼女だった。


「遠慮なく連絡を下さい」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第46話<戦いの後:陸軍病院>(改)

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 その頃、青葉と寛代は陽気な憲兵さんの運転する車で米子市郊外にある陸軍病院へと向かっていた。

 

気さくな憲兵さんも艦娘は知っていた……というより提督着任の際、司令と寛代を駅から鎮守府前まで送ったのが、ほかならぬ彼だった。

 

ただそのときは彼も寛代が艦娘だという認識は無かった。もし知っていてもにわかには信じられなかっただろう。

 

 だが今ではブルネイの戦闘をきっかけに艦娘も広く認知された。その上でこの陸戦である。しかも今回は2回目……司令着任時の空爆や第一回目の上陸に当たる岸壁での戦い以後、陸軍も必死で対応策を練っていた。その苦労が今回ようやく報われて対処出来たことになる。

 

「もう訓練続きで大変だったんですよ」

 

相変わらず軽い憲兵さんだった。

 

「最初の空爆は仕方ないとしても2回目の攻撃……戦車が上陸したあれもゴテゴテでしたからね。何しろ高尾山の電探は空軍管理で、あそこもなかなか非協力的でして」

 

この憲兵さんの饒舌振りには、さすがの青葉もちょっとタジタジであった。

 

「へえ、空軍って陸軍さんにも厳しいんですね」

 

かろうじて返す青葉。しかし陸軍にもこの憲兵みたいに、いろんな人がいるんだなと思った。

 

「そうですよ。でもあのブルネイの戦いがあってからですね……空軍が情報を提供し始めたのは……ああ、これは海軍も同じらしいですね」

 

やっぱり圧倒される青葉だった。彼女は苦笑するばかりだった。

 

 やがて車は夜の陸軍病院前に付いた。病院は3階建てで三柳にある陸軍の駐屯地の敷地の横にあった。夜なので分かりづらいが、そこは皆生の海岸線のそばだった。

 

「本当はもう面会時間は過ぎていますけど司令の勅令が出てますから皆さんは今日は特別にOKです……帰りはまた受付からでも遠慮なく私に連絡を下さい」

「ありがとう」

 

青葉と寛代は降車して敬礼をした。本当に陸軍は変わったな。それもブルネイの効果……防人は戦って勝ってこそだと痛感した。

 

 病院の入口から入ると広いロビーになっている。ブルネイの病院よりは落ち着いた感じだ。面会時間は過ぎているので閑散としている。

 

受付に行くとカーキ色の制服を着た女性職員が軽く敬礼をした。

 

「艦娘の皆様ですね。どうぞ……2階の208号室です」

「ありがとう」

「……」

 

 青葉は自分と寛代の記名をしてから階段へ向かう。2階の廊下を歩いていると何やら笑い声がする……あれ? もしかして……と思ったら案の定、208号室からだった。

 

個室らしいけど……病院で騒ぐのはちょっとね……と思いつつ青葉はノックせずに扉を開けた。中で振り返ったのは……やっぱり金剛だった。

 

「Oh、来たね」

 

戦闘直後なのに金剛さんは元気だな……青葉は呆れるやら感心するやら。

 

「金剛さん、もっとクールダウンしましょ……陸軍の病院ですし」

 

思わず釘を刺してしまった青葉だった。

 

「yes、ソーリーね。ついつい……」

 

さすがに金剛も反省した……でも、どうやって来たの? 青葉が思うと直ぐに金剛は悟ったように話し始めた。

 

「ウフフ……軍用車を搬送してきたレッカー車ね。あれに便乗させて貰ったヨ。ここは陸軍の基地の隣だからね。同じ方向でしょ?」

 

少し得意げに説明する金剛。こういう機転はすごく速いんだ。青葉は感心した。

 

 改めて病室を見ると、ここは個室で病人は電に神通。そして見舞いは金剛と青葉と寛代だ。ふと青葉は疑問に思った。

 

「あれ? 霞ちゃんは」

 

金剛が答える。

 

「霞ちゃんの怪我は大したコト無かったんだけどネ。モノすごく取り乱しちゃって……精神的に大変じゃないかってことで、別室でカウセリングして……」

 

続けて神通が受ける。

 

「かなりストレスが溜まっていたらしいわね。安定剤を飲んで別の個室で休んでいるわ」

 

青葉は腕を組んだ。

 

「うーん、何となく分かる」

 

電が不安そうに言う。

 

「それは知らなかったのです……大丈夫なのですか?」

 

神通は微笑んだ。

 

「大丈夫よ……むしろ入院して良かったかもしれないわ」

「……なのですか?」

 

霞を心配する電を見て青葉と金剛は顔を見合わせた。電らしいな……。

金剛は直ぐに青葉に顔を寄せる。何事かと思う青葉に少し声のトーンを押さえて話し始めた。

 

「青葉は知ってる? テートクがシナに暗殺されたって」

「あ……」

 

 なるほどねと青葉は思った。電を心配したのか……実は青葉もその無線を受けていた。つい先ほどステルスモードで海軍省から突然、一斉に配信されたのだ。金剛は窓の外を見詰めて言った。

 

「ワタシ信じないからネ! これはね、陰謀に違いないヨ」

 

暗い窓ガラスに自分の顔を写しながら彼女は言った。

 

「陰謀?」

 

怪我の程度が軽い神通がベッドから応える。電は何のことかサッパリ分かっていない。

 

「司令が暗殺されたという偽情報を誰かが流したと言うことですか?」

 

金剛は腕を組んだ。電はちょっとビックリしている。ゴメンネ電チャン……青葉は内心詫びた。

 

「英国ではね、諜報機関が発達しているから戦う前に情報戦だヨ。そうでなくてもワタシ分かるヨ。絶対にテートイクは死んでない」

 

すると頭に包帯を巻いた電も決意したように少し唇をかんで神通の隣のベッドから言った。

 

「私も同じなのです。司令は生きている感じがするのです。いえ……」

 

ここで電は間を置いて何かを思い出すような顔をした。

 

「実は一瞬、司令の存在が消えた感覚はあったのですが……今は、またどこかで生きておられる感じがするのです」

 

それには何となく青葉も同意できた。恐らく美保の艦娘は全員が同じ感覚だろう。なぜか司令はどこかに居るはずだと……金剛もしきりに腕を組んでうなづいている。

 

 電が言ったように、表舞台から意図的に姿を隠しているような感覚を覚えるのは確かだった。あまり疑いたくは無いが美保の秘書艦・祥高がきっと何かを知っている。あとは……

 

「カヨ!」

「……」

 

突然金剛が無表情の寛代を振り返る。

 

「アナタいろんな無線受かるでしょ? 何か知らない?」

「……」

 

そもそも寛代に質問すること自体、意味が無いような気がすると青葉は思った。この子の口は天然的に堅いから……青葉は言った。

 

「寛代チャンは知ってても言わないと思うよ。でもさ、未来のブルネイに行った時、確か未来の司令と入れ替わったんだよね」

 

その言葉にハッとした一同だった。特に実際に行った金剛の反応は強かった。彼女は手を叩きながら言った。

 

「それ、ソレだよ!」

 

続けて神通も呟いた。

 

「もし……未来が変わらなければ」

 

一同はその言葉に、ちょっとしんみりした。

 

 

 

 




(あれ? まだ続くの?)

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第47話<戦いの後:危険な艦娘>(改)

電と神通を見舞った金剛と青葉は、艦娘が地上戦に不向きなことを悟るのだった。


「地上戦はデンジャラスって」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第47話<戦いの後:危険な艦娘>(改)

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金剛が質問する。

 

「そういえばさ、霞は仕方ないとして何で神通や電は病院なの? 入渠じゃだめなの?」

 

二人が応え難そうだったので青葉が代わりに応えた。

 

「海上での怪我は入渠すれば治るけどさ、陸上の怪我はちょっと違うみたい。想像だけど……」

 

言いながら青葉は思わず頭をかいた。

 

「アタシもこの分野は良く分からないんだ……何ていうのかな?」

 

すると神通が答える。

 

「私の感じでは今回はシナの通常兵器でしょ? あれは致命傷は与えないけど、やっぱり海で受ける場合とは衝撃が違う感じがするの」

 

直ぐに電も続けて言う。

 

「そうなのです。地上だと地面とか軍用車の車内とか、いろいろぶつけるとすごく痛いのです」

 

地上戦の経験が無い金剛は絶句する。

 

「それって……艦娘にとって地上戦はデンジャラスってこと?」

 

包帯を巻いた電を見ながら金剛は震えるように言った。確かに艦娘が血塗れになるなんてことは海上ではめったに無い。ましてや包帯を巻いた姿も珍しい。

 

「いや……」

 

青葉は困惑する。

 

「地上で攻撃されてもさ、いちおう私たちには人間よりは耐久力はあるらしいけど……」

 

さすがの青葉も地上戦の経験はあまりないので困っている。見かねた神通が応える。

 

「私の感覚だと海上での闘いは海面がクッションになる感じがあって全身で敵の攻撃を受けられるわ。でも地上だと攻撃を受けて転んだら地面に直撃でしょ? 何か……感覚が違うわね」

 

その言葉に青葉や金剛は身震いをした。金剛は言う。

 

「最初の境港の地上戦で日向とか夕立がバトルしてたネ。あの子たちやっぱりクレイジーマックスね」

 

青葉は苦笑した。海上ではあなたも十分クレイジーでしょ?

 

 金剛は腕を組んで言った。

 

「でも人間の病院だって時間かかるよね。鎮守府で入渠してもトータルでは治る時間は同じか、高速で治せばむしろ入渠の方が早くない?」

 

神通は応える。

 

「そうかもしれないけど……」

 

彼女はちょっと言い難そうだった。電が恥ずかしそうに応える。

 

「でも陸軍さんたちの気持ちが嬉しかったのです。人間の暖かい気持ち……それって司令の感覚にとても近い気がしたのです」

 

神通と電は顔を見合わせて微笑んだ。それを聞いた金剛は、ようやく納得したようだった。

 

「フーン……何となくネ、分かったヨ」

 

ここで金剛は無線を受けたようで「あ……」と言って窓の方を振り返った。

 

「ソーリ祥高さん……うん、アーミーさんが送ってくれるみたい。ウン、もう直ぐ戻るから大丈夫」

 

 無線を終えた金剛に、やや心配そうな顔をして電が聞く。

 

「祥高さん……なのですか?」

 

金剛は微笑みながらうなづいた。

 

「ウン……でも大丈夫だよ。別に怒ってなかったから」

 

そこで何かを考えていた金剛は、青葉に言った。

 

「ねえ青葉……鎮守府に戻るのは夜の海から行ってみない?」

 

ちょっと驚いた青葉。だけど窓の外を見てなるほど、とうなづいた。

 

「そっか。雨も上がったし、今夜は星空か」

 

金剛は寛代を見た。

 

「カヨはどうするネ? 一緒に行く?」

 

寛代はうなづいた。それを見て金剛は病室の二人に言った。

 

「ソウだ……秘書艦からの伝言だけどサ。病院の二人は人間の治療に合わせて、ここでゆっくりしても良いってヨ」

 

それを聞いた二人は顔を見合わせた。電はいう。

 

「それはでも……申し訳ないのです」

 

神通もうなづいた。

 

「お気持ちは嬉しいのですが……やっぱり私たちは艦娘ですから」

 

金剛はウインクをしてうなづいた。

 

「フフ……どうするかは任せるネ……じゃ、そろそろ帰るヨ」

 

金剛は青葉と寛代を見た。寛代は無言でうなづき、青葉も言う。

 

「時には休養も必要だよ。これも任務と思って……じゃあね」

 

すると電が手を伸ばす。金剛は近寄ってその手を握った。電は真剣な顔で言う。

 

「ありがとうなのです……金剛さん大好きなのです」

 

突然言われた金剛は柄にも無く真っ赤になっている。照れ隠しで神通を見てひと言。

 

「神通も……早く治してね」

 

神通は微笑んだ。

 

「そうね、有り難う……しっかり休養して、直ぐに復帰するわ」

 

彼女もまた金剛の手を握った。

 

 金剛たちは退室して階段を下りる。ロビーの受付の前を通ると係員が立ち上がって言う。

 

「あの、お送りの車は……宜しいですか?」

 

金剛は振り返りながら笑って言った。

 

「ワタシたち艦娘だから……海から帰るヨ」

 

一瞬、目を丸くしていた受付の担当者は直ぐに納得したようで外を指差して言う。

 

「この玄関を出て左へ行くと川沿いの細い道があります。そこを川に沿って川下へ行けば直ぐに海へ出ます……では」

 

 そう言って担当は敬礼をする。艦娘たちも敬礼をした。

 

歩きながら青葉は呟くように言った。

 

「霞ちゃんも顔を見たかったけど……精神系だとちょっと微妙だな」

「それはネ、仕方ないよ」

 

意外とものわかりの良い金剛だった。

 

 三人が病院を出ると満天の星空が広がっていた。病院がある三柳の海岸は陸軍の演習場と松林くらいしかないので晴れた日の夜になると星空がきれいなのだ。

 

『わぁー』

 

思わず声を上げる艦娘たちだった。

 

「金剛さん……」

 

声のトーンが大きくなりがちな金剛に思わず釘を刺す青葉。ここは夜の病院の前だ。大声を出すのはさすがに気が引ける。金剛も慌てたように口を押さえた。そのしぐさは可愛らしいなと青葉は思った。

 

すると無言だった寛代がいきなり病院を指差す。二人はその方向を見ると……三階の病室の窓から見覚えのあるシルエットが見えた。

 

「あれ霞ちゃんだよね」

「ほら……小さく手を振ってる」

「……」

 

何となく霞のその素振りで元気そうな印象を受けた彼女たち。青葉と金剛は声は出さすに病院の前で大きく手を振った。何となくホッとするのだった。

 

「霞ちゃん、泣いてない?」

「ウン、隠れちゃったね……でもダイジョウブだよ」

「……」

 

そして三人は川縁の道を歩き始めた。

 

 

 

 




(で、まだ続く)
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第48話<フィナーレ:いつか戻る約束>

夜の海へ出た金剛たちは、寛代の行動に驚きながらも……。


「私は信じるのです」

 

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オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)

:第48話<フィナーレ:いつか戻る約束>

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「何か……星空って久しぶりだネ」

 

 川べりで立ち止まった金剛が夜空を見上げて言った。同じく星空を見上げた青葉もそれに応える。

 

「そうだね。アタシたち、ずっと正面ばっかり見て突っ走って来たんだね」

 

二人の真ん中を歩いている寛代は相変わらず無言だった。

 

 しばらく三人で川縁を歩いていると、やがて受付の人が言っていた小さな港のある海辺に出た。早速、岸壁から海に下りようとする金剛を青葉は呼び止めた。

 

「ねえ金剛さん」

「なぁに?」

 

珍しく金剛は立ち止まって振り返った。いつもなら海を向いたまま背中で返事するよね……と青葉は思った。

 

「さっきは何か感じたんでしょ? だから海から帰ろうって……」

 

暗くて分かり難いけど多分金剛は笑っているだろうと青葉は思った。案の定、明るい声で返事をする金剛。

 

「そういう青葉も感じたんだよね?」

「うん……」

 

ちょっと間を置いてから金剛は急に言った。

 

「コラっ! 寛代も隠してないで白状しな!」

 

 寛代が返事するはずないと青葉は思っていたが、この時ばかりは意外にも寛代は無言のままサッサと岸壁から海へ入って行った。これには金剛も青葉も慌てた。ただ寛代は別に怒っているわけでも無さそうだった。

 

 事実を一番知っているはずの寛代が率先して海へ行くということは、やはり何かあるのだ。二人はそう確信した。金剛は両腕を擦りながら青葉に言った。

 

「ねえ青葉……ワタシ鳥肌が立っているヨ」

「うん、それ分かる……」

 

返事をした青葉も同様だった。二人は一瞬暗がりで顔を見合わせた。

 

「早く行こう……あの子、珍しく先に行っちゃうから」

「そうだね」

 

 二人は慌てて岸壁から海へ降りた。寛代は迷うことなく夜の海を進んでいく。まるで水先案内人だな。人は見かけに拠らないしアタシも記者だけど、まだまだ知らない事だらけなんだ……青葉はそう思った。

 

 三人が小さな港の外郭のテトラポットを越えると直ぐに夜の美保湾に出た。暗く広がる外洋では電探かコンパスが無ければ本当に空間の感覚を失う。逆に言えば星が降って来るような夜の海は、まさに三次元の宇宙空間をも思わせた。

 そして今夜の海は、まるで吸い込まれるような感覚に陥った。思わず絶句する金剛と青葉。

 

「ワタシ、この夜空を忘れないヨ」

「うん」

「……」

 

考えたら不思議な取り合わせの三人だ。でも、これも司令を中心とした縁だよな。青葉はそんなことを考えていた。

 

そういえば司令は必ず戻るって言ってた。せめてアタシだけでもそれを信じよう。

 

「ワタシ今でも信じるよ。司令は必ず戻るって」

「あ……」

 

金剛も同じことを考えていたんだ……青葉は暗闇でうなづいた。

 

「そうだね……そうだよね」

 

なぜか自分に言い聞かせるように繰り返す青葉。

 

二人の少し先を行く寛代……この子は最新の通信装置に電探を装備しているけど、それ以上に何かの確信があって暗闇を率先して進んでいるんだ……そうだ。信じるものがあれば、どんな暗闇でも、無知であったとしても決して迷うことが無いんだ。そしてこの子が先導するだけで、私たちはどれだけ進み易いことだろうか?

 

先導する者、すなわち水先案内人か……あ、それは司令や秘書艦の姿じゃないか?

青葉にはそう感じた。きっと金剛も同じことを考えているに違いない。だから二人は決して寛代を追い越そうとはせず大人しく少し後ろから付いて行くのだった。

 

(中略)

 

その後、金剛たちは無事に鎮守府に到着した。二人にしては珍しくボーっとしていたので周りの艦娘たちからは『寛代が写った』と笑われた。ただ、そう言われても金剛も青葉も苦笑するばかりだった。

 

 

 その後、海軍省主催で司令の葬儀が執り行われた。彼は二階級特進で最終的に大将となった。秘書艦の祥高が少将に昇進し再び提督代理としての任についた。

 

 シナから日本を護った司令の功績を称え美保鎮守府では以後司令の位置は永久空席となり代理の艦娘が実質の司令の任を勤めることになった。だから、ことあるごとに電は言うのだった。

 

「司令は絶対に死んでいません。私は信じるのです。司令の席が空席なのは、いつか戻る……そのためじゃないのですか?」

 

 その頃、鎮守府では祥高より大井と秋雲は転属したと発表された。もちろん誰も信じなかった。大井は行方不明で秋雲は脱走では無いか?

 

だが一部の艦娘は知っていた。それは正しい発表なのだ。

 

「だってね……」

 

言いかけて慌てて口を塞ぐ金剛と青葉、そして寛代は相変わらず無口だった。

 

「いつか……分かる日が来るよね」

「うん」

 

二人はそう語り合うのだった。

 

 

 美保鎮守府のストーリーはこれでいったん終わる。

 

 

以下:オフレコ by 青葉。

 

 報告書は以上です。

 

……で。

 

祥高さんのチェックが入って、大井さんに関する記述は後に削除。

 

あの夜、陸軍病院へ見舞いをした後にアタシと金剛さんで、実に信じがたい意外な体験をしたのです。

(中略)と書いてある部分ですよね。そこも削除されました。

 

そこで驚いていたのはアタシと金剛さんだけ。寛代チャンやっぱり知っていたんです。もちろん秘書艦にも、やられた! って感じ。

 

でもこれは海軍の最重要機密事項であり冒頭ではあんなこと書いてましたけど表向きはそう演じています。これは金剛さんとアタシと秘書艦の約束……ごめんね電チャン。

 

対外的な防衛……金剛さん的に言うと諜報戦ですね。それも必要だと学習しました。だからしばらく表では書きません。その話題にも触れません。

 

でも記者魂がうずくのか……何らかの形で残しておきたいです。

 

人物の名前も舞台(部隊)も入れ替えて発表するかも知れません。もちろん秘書艦の許可を得てから……。

ある程度、文書がまとまったら上申して許可を求めるつもりです。それまでのお楽しみ……かな?

 

 

(みほ9ん完結)

 




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