ストライカーズ・オーシャン【ジョジョの奇妙な冒険 Part6異聞】 (オレの「自動追尾弾」)
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プロローグ~夢~

炎に包まれた、船の機関室と思われる場所。

 

 

 

そこに、二つの人影があった。

 

 

 

一人は、左肩に「星形のアザ」が見られる大男。

もう一人は、小柄な老人だ。

 

その老人が、一抱えもあるガラスケースを掲げた。

 

 

 

なかには、ガラスケースを満たす液体と、金髪の男の「生首」が入っていた。

 

 

 

ふいに、生首の目がかっと「開かれる」と、ガラスケースは勢いよく破裂する。

生首は切断面から無数の太い「血管」を伸ばし、大男に襲いかかる。

 

 

 

生首は血管の数本を首に巻き付け、数本を突き刺すと、止めと言わんばかりに、男に突進してくる。

 

ズドン、と重い音とともに、機関室の至る所で爆発が起こった。

 

爆発した破片が男の元へ飛んでくると、男はその破片を掴み、突進してくる生首に突き刺した。

 

 

 

瞬間、機関室を大爆発が襲い、船は爆発とともに、ゆっくりと沈没した――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――んぁ?」

 

気が付くと、見知った天井に窓からの陽の光が差し込んでいる。

青い髪を短く切りそろえたボーイッシュな少女―――スバル・ナカジマは上半身を起こすと大きく伸びをして、軽く目をこすった。

 

「うーん………なんだか、変な夢だったなぁ………」

 

妙にはっきりと覚えている夢の内容に、スバルは首を傾げた。しばし不思議に思っていたが、もうすぐ朝の訓練の時間になるので起きて準備をする事にした。

 

(それにしても………)

 

練習着に着替えようと服を脱いだスバルは、姿見に映った下着姿の自分の姿を見た。

 

 

 

 

 

(あの男の人、『()()()()()()』があったなあ………)

 

 

 

 

 

スバルの左肩には、夢にでてきた大男と同じ『星形のアザ』が見えていた――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

《古代遺物管理部機動六課》

スバル・ナカジマの所属するこの部署は、旧文明の遺物『ロストロギア』を回収することを目的とした部隊である。

ロストロギア『レリック』に関した事件を発端に起こった大規模な事件、通称『JS事件』から約半年、1年間の試験運用期間終了を間近に控えたある日、高町なのは分隊長率いる『スターズ分隊』は、部隊長『八神はやて』に呼ばれ、部隊長室に来ていた。

部隊長室にははやての他にライトニング分隊隊長であるフェイト・T・ハラウオン、そして、部隊長補佐リインフォース(ツヴァイ)がいた。

 

「…捜索任務?」

「第97管理外世界に…ですか?」

 

着いて早々、はやてから告げられた内容を聞き返すスバルと、相棒のティアナ・ランスター。彼女らに告げられたのは、なのはやはやて達の故郷でもある次元、第97管理外世界、またの名を『地球』へのロストロギアの捜索任務であった。

 

「うん。みんなに探してほしいんは…」

 

そう言いながらはやては、コンソールを操作し、全員の前に画面を出す。画面には、古めかしい『石の矢』が映し出されていた。

 

「この『矢』なんやけどね、数日前に『聖王教会』から盗まれたものなんよ。」

「聖王教会から……!」

 

はやての話を聞き、スバル達は驚く。

 

「この矢、かなりの曰くつきでなあ………まあ、ロストロギアなんて大抵は「曰く」が付き物なんやけども………」

「数年前にこの矢を見つけた時、教会の人が2人、矢の「鏃」で手に怪我をしたんだけど、その後、二人は原因不明の病気に感染して死んじゃったんだ…」

 

はやてに次いで話すフェイトの説明に、息をのむ3人。

 

「二人は全身に水泡のような腫瘍ができて、四十八時間以内にトマトソースのようになって死亡したって報告があった。医師団は『矢』でついた傷口から血液に『なにか』が入り、二人にウイルスを感染させたんじゃないかって断定したそうだよ。」

「うげ………」

 

思わず顔をしかめるティアナ。なのはとスバルも、顔をしかめていた。

 

「しかも、二名中一名は、信じられない事に意識のない状態で突然、指先からスタンガンのような火花を放電し、治療する医師の指を焼き切ってしまったって報告も残っている…

この事件から、この『矢』には『人の肉体を変質させる』力があるのではと考えられて、ロストロギアとして認定されているんだ…」

 

フェイトの話を聞き、黙り込む3人。ふと、ティアナはある事に気が付いた。

 

「…ちょっと待って下さい!その矢が盗まれたって事は、盗んだ犯人は…」

「うん、『矢の使い道を知っている』可能性が高いねん!そして、どう言う訳か犯人は、わざわざ足取りを『残しとる』!」

 

はやてはそういうと、再びコンソールを操作し、画面を切り替える。

切り替わった画面には、三つの映像が映し出されていた。

 

一つは顔写真で、網のようなものの付いた帽子をかぶり、顔に奇抜なメイクをした若い男のものだ。

 

後の二つは、多分監視カメラの映像と思われるもので、写真の男が写っていた。

 

「男の名前は『オエコモバ』!爆破テロをいくつもの世界で起こしたテロリストや!何故こいつが矢を盗んだかは本人を捕まえてから聞けばいいとして、やつはわざわざこれを残したうえに、行き先も既に分かっている!しかも!向かった先は管理局にとって重要な場所で、97管理外世界にいくつかある『魔力溜まり』ポイントの一つなんや!」

「魔力溜まり………」

 

はやての言葉に、スバル達は気を引き締める。

 

「あと、あまり公表はされていないが、97世界では2年前、小規模の『次元震』が観測されとる………関連はあるかわからないけれど、念のために頭にいてれおくように。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

いつの時代も、昼休みの学食とは賑やかなものである。特に女子校ともなれば、尚更の事であろう。

『第97管理外世界』は日本の麻帆良学園では、一棟が大きな学食棟となっており、そこの一席では、2人の女生徒が向かい合って昼食をとっていた。

 

「………ん?」

 

向かい合っていた2人のうち1人は、震えた携帯電話を開くと、受信したメールの内容を見た。もう1人の眼鏡の女生徒は、彼女の表情が変化したことに気づき、聞いてみた。

 

「ん?どうかしたか?」

「いや、なんかオヤジが、近いうちに日本(こっち)来るらしい。」

 

その答えに、眼鏡の女生徒は怪訝な顔になった。

 

「本当かそりゃ?なんでまた………?」

「そこまでは書いてないわ。まったく、来るのはいいけど、いつも突然なのよねぇー、あのオヤジは………」

 

少女はウンザリしたように言う。すると、眼鏡の女生徒は、少し顔を曇らせた。

 

「………それでも、会えるのは今だけなんだから、話せることは話したほうがいいぞ……?」

「あっ………」

 

少女はしまった、と慌て、眼鏡の女生徒に謝る。

 

「ご、ゴメン千雨、アタシ………」

「いや、気にしなくていいぞ?私が余計な気使われるの嫌なの、知ってるだろ?」

「けど………」

 

千雨と呼ばれた眼鏡の女生徒はそういうが、もう一人の少女はだけど、と言いよどむ。すると、彼女の背後から3人の女生徒が近づいてきた。

 

「やっほージョジョ!」

「隣、いいアルカ?」

「あいあい♪」

「うお!?お前ら………」

 

3人の女生徒はそれぞれそう言うと、ドカドカと空いていた席に座り始めた。

 

「ねえジョジョに千雨ちゃん、聞いた?来週、新しい先生が来るんだって!」

「え?そうなのか?確かに高畑先生って、何だか出張が多いし、ちょうどいいとは思うけど、イキナリだな………」

 

千雨はそう言うが、ジョジョと呼ばれた女生徒はムキになり、

 

「おい、ジョジョって呼ぶなって何度言えばわかんだよ!!」

「うぇ!?ご、ゴメン………」

「いい加減、そこは譲ってやれよ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徐倫(ジョリーン)

 

 

 

 

 

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イギリス メルディア魔法学校

 

 

ここでは、まさに卒業式が行われていた。

そして、卒業した生徒たちは、卒業証書に書かれた修行先で修行を行い、『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』を目指すのだ。

 

さて、その内の一人、赤毛でメガネをかけた少年――ネギ・スプリングフィールドの修行内容は…

 

「ええー!? に、『日本で先生をやること』ぉぉおお!?」

であった。

 

 

 

「こ、校長!!いくらなんでも先生なんて!何かの間違いでは!?」

 

ネギが姉と慕う女性――ネカネ・スプリングフィールドは、校長に取り合う。

確かにネギはまだ10歳である。慌てるのも無理はない。

 

が…

 

「…しかし、すでに決まったことじゃ。立派な魔法使い(マギステル・マギ)になるには、頑張って修行してくるしかない…」

 

校長は、そう答えるしかなかった。

 

「ああっ」くらっ

「あっお姉ちゃん!」

 

校長の答えに倒れかかるネカネを心配するネギと、幼なじみのアーニャ。

 

「――まあ、安心せい。修行先の学園長はワシの友人じゃからの。まあ、がんばりなさい。」

 

不安そうなネギに、校長は、優しく励ました。

 

「…はい!」

ネギは決心し、力強く答えた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

スバルは知らない。自分の『星形のアザ』の『因縁』を――

 

徐倫は知らない。自分が巻き込まれる『事件』を――

 

ネギは知らない。『黄金の意志』を持つ者たちとの『出会い』を――

 

そして、「彼女」たちは知らない。『自分たち一族』の『宿命』を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、一世紀以上にわたる、ディオとジョースター家の因縁の物語である…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ストライカーズ・オーシャン

【ジョジョの奇妙な冒険 Part6異聞】

 

始まります。




スバルの夢はOVA版のOPが、「矢」の被害を受けた職員は第5部が元ネタです。後、以前とは麻帆良に行くメンバーを変更しました。


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第1章 ぼくの夢は立派な魔法使い(マギステル・マギ)
#01/出席番号11番 空条 徐倫


2007年 2月末

 

第97管理外世界『地球』

 

日本 埼玉県 麻帆良市 麻帆良学園

 

『聖王教会』から『矢』を盗んだオエコモバの足取りが途絶えたこの地は、明治中期に創設され、幼等部から大学部までのあらゆる学術機関が集まってできた都市である。大きな湖の湖畔を臨むヨーロッパ風に統一されたレンガ造りの街並みは美しく、学生向けとは思えない程の充実した施設を完備されている。そのため非常に広大な敷地を有しており、毎年迷子が出るとのこと。

 

しかし、その実態は『魔法使いによって造られた街』であり、東西の『魔法使い』の生徒や教師たちが多く在籍し、街の中心にそびえ立つ魔力溜まりの巨木「神木・蟠桃(しんぼく・ばんとう)」を保護しつつ、日々、魔法の修行や学園の治安維持に従事しているのだ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

『グリーンドルフィンストリート麻帆良』

 

このマンションの206号室は、今回の任務がどれほどかかるのか不明であるためにスバルたち六課の拠点として、麻帆良学園学園長・近衛 近衛門に提供された部屋だ。2階の角部屋を相場の半額以下の家賃で良いと言われて提供されたので、少し申訳がないとは、なのはの弁だ。

フェイトとティアナ、そして、スターズ分隊副隊長――赤い三つ編みおさげの少女ヴィータと、捜索任務のサポートとして来たリインフォースⅡと眼鏡の女性――シャリオ・フィニーノは、運んできた荷物の整理を行っていた。

 

「……ふう、とりあえず、必要な荷物は運べたかなー」

 

大き目の段ボールを置いたフェイトが、一息ついてそういった。ふと見ると、ティアナが少し不安そうな表情でいる事に気が付き、フェイトは声をかけた。

 

「……やっぱり心配?スバルが」

「……ええ。まあ、年齢的に、スバルが『適任」なんだっていう事は、分かっているんですけれど………」

 

今この場にいない相棒がいるであろう女子校エリアの方を見ながら、ティアナは心配そうに呟くのであった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

長谷川 千雨がルームメイトと共に通学路を歩いていると、そのルームメイトがふと前の方を見て声を上げた。

 

「―――お、ありゃぁ明日菜に木乃香じゃねーか。あんな所で何してんだ?」

 

千雨もそちらを見てみると、確かにそこにはクラスメートの2人が、担任の高畑先生と話しているのが見えた。よく見ると、明日菜はなぜか大荷物を抱えた『10歳くらいの男の子』につかみかかっており、木乃香はそれを止めようとしているようであった。

 

「………徐倫、早く教室に行こうぜ?」

 

それを見た千雨は何かを感じ取ったのか、つかつかと早足になりながら言う。追ってきた徐倫は声をかけた。

 

「どうかしたか、千雨?」

「なーんか知らんが、今あいつ等に関わるとロクな事が起こらない気がするんだよ………朝っぱらからトラブルに巻き込まれるのは、ゴメン被るっつーの………」

 

顔を引きつらせながら、千雨は説明した。徐倫は苦笑しつつも、それに着いていった。

 

「キャーーーッ何よコレーーーーッ!!??」

「………なあ、千雨………」

「気にするな。巻き込まれるの嫌なんだよ、私は。」

 

後ろに明日菜の叫び声が聞こえたが、気にしないようにしながら2人は教室を目指した。

 

 

 

 

 

#01/出席番号11番 空条 徐倫

 

 

 

 

 

 

麻帆良学園女子中等部 学園長室

 

 

今、ここには3人の男女がいた。

 

一人は、人とは思えないくらい後頭部が長い老人、麻帆良学園学園長にして関東魔法協会理事、近衛 近衛門である

そして後の二人は――

 

 

 

「管理局より参りました、高町 なのはです。」

「お、同じくスバル・ナカジマです。よ、よろしくお願いします!」

 

そう、戦技教導官の制服を着たなのはと、麻帆良学園中等部の制服に身を包んだスバルだ。

麻帆良学園都市の最深部に当たるこの「女子校エリア」でオエコモバが目撃された事を受け、スバルはこの麻帆良学園女子中等部に『転入生』として潜入し、オエコモバの捜査と生徒の護衛の任に着くことになったのだ。

 

「大変な任務になるだろうけれど、ワシらもサポートするでのお。さて、スバルくんには『2年A組』に入ってもらうんじゃが、実は今日、『新任の先生』が来るんじゃ。」

「え?」

「新任の…先生?」

 

学園長の発言に、二人は学園長に顔を向ける。

 

「うむ、そろそろ来る頃と思うg」バアァン!

 

学園長が言い終わる前に、ドアが勢いよく開いた。

 

「どう言うことですか学園長ォオーーーーーーー!新任の先生はともかく理由(わけ)を言ってくださいぃぃーーーーー!!」

 

入ってきた少女――ツインテールに、右が緑、左が青のオッドアイ、後何故か制服ではなくジャージ――は、思いっきり叫んだ。彼女の右手には、やたらと荷物が多く、少し困惑した表情の赤毛の少年を『持っている』。

 

「アスナー、少し落ち着きー。おじいちゃん、失礼しまーす………ってあれ?お客さん?」

 

ツインテールの少女の後ろから、おっとりとした黒髪の少女が入って来る。彼女の目の前には、ツインテールの少女に驚いたスバルとなのはがいた。

 

「おお明日菜くん、こちらはわしの知り合いのなのはくんと、今日からこの学園の生徒になるスバルくんじゃ♪」

「は、初めまして、スバル・ナカジマです。」ペコリ

「あ、そうなんだ。『神楽坂 明日菜(かぐらざか あすな)』です。こちらこそよろしく。」ペコリ

 

少女――明日菜は少年を下ろし、スバルと挨拶をする。

 

「はわー、先生と転入生がいっぺんに来たんかー。

初めましてスバルちゃん、ウチは『近衛 木乃香(このえ このか)』や、よろしゅーなー♪」

 

おっとりとした少女――木乃香も、明日菜に続き挨拶する。

 

「あ、よろしく。ってあれ?近衛って…?」

 

ふと、あることに気づくスバル。

 

「うん、このかは、学園長の孫なのよ。」

「そうなんだー………(おじいちゃんに似ないで、よかったね………)」

 

明日菜に説明されて、割と失礼な事を考えるスバルであった。

 

「まあ、二人の紹介はこれ位にして、ネギ君には、まず教育実習という形で『2年A組』の担任になってもらうかのう。今日から3月までじゃ。」

「…はあ。」

「え?担任?しかも2年A組って…?」

 

スバルが、今聞いたことに疑問を持ち、少年を見る。どう見てもエリオくらいの年の子だ。

この子が先生?しかも、先ほど自分が行くことになったクラスの担任??

 

「あ、自己紹介がまだでしたね。この度、この学校で英語の教師をすることになりました、『ネギ・スプリングフィールド』です。」

「えぇーーーーーーーーーー!!?」

 

スバルの叫びが、学園長室にこだました。

 

「まあ、驚くのも無理は無いがのう。では指導教員の『ブルーマリン先生』を紹介しよう。ブルーマリン君。」

「…はい。」

 

学園長が呼ぶと、明日菜が開けて、そのまま開けっ放しのドアから、背の高い男がぬっと入ってきた。よく見ると『爪先立ち』だ。

黒いスーツはボタンを全部はずし、ネクタイはしていない。白い髪は円柱型に盛るようにセットしてあり、角が生えている。…角?

 

「指導教員の『ウェス・ブルーマリン先生』じゃ。分からないことがあったら、彼に聞いてくれ。」

「ウェス・ブルーマリンだ。生徒や親しい者からは『ウェザー』と呼ばれている。」

「は、はい、よろしくお願いします。(あの角はいったい…?)」

「ああ、一応言っておくが、ウェザー先生のそれは帽子じゃよ。」

「「「あ、そうなんだ。」」」

 

安心する三人だった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

十分後

 

麻帆良学園中等部 廊下

 

 

「へえ、スバルさんも魔導士なんですかー。」ひそひそ

「うん、ネギくんも、『こっちの』魔法使いだったんだね。」ひそひそ

「いえ、まだ修行中の身でして…」ひそひそ

 

ウェザー先生に聞かれないように小声で話す二人。

 

あの後、先に教室へ向かった明日菜達と別れた二人は、ウェザー先生に連れられ、自分たちの教室へ向かっていた。

 

「…ここだ」

「えっあ、どうも…」

 

いきなりウェザーに話しかけられて、驚く二人。この人は、基本的に無口らしい。

ネギは、廊下の窓から教室の様子を覗く。

 

(…あれ?)

 

ふと、スバルは気配のような『何かを』感じ取る。教室の方からだ。

スバルは、ネギと一緒に教室を覗いてみた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

2年A組

 

 

「ん?」

 

スバルと同じ『何かを』感じ取った徐倫は、読んでいたライトノベルから目を離し、廊下の方を見た。

 

「…?どうした?」

 

斜め前に座る千雨が徐倫の様子に気づき、声をかける。

 

「……いや、何でもない。(何だ?今のは…?)」

「?」

 

いつの間にか『何か』が消えたため、ライトノベルをまた読み始める事にした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

(消えた…何だったんだろ?今の?)

 

『何か』が消えたため、スバルは六個くらい疑問符を浮かべ、首を傾げる。

 

「どうしました?スバルさん?」

「あ、ううん、何でもないよ!」

「……?」

 

心配するネギに答えるスバル。エリオ達位の子に心配されては情けない。

 

「じゃ、じゃああけますよ。」

「う、うん。」

「……」

 

ガラガラッ

 

「し、失礼しま――」

 

ネギがドアを開けた。すると、上からチョークの粉たっぷりの黒板消しが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱしっ

 

「「「「「「「!!?」」」」」」

(((と、止めた……!?)))

(((できる………!)

 

「…ふう、危ない危ない。大丈夫ネギくん?」

「あれ、スバルさん?」

 

――ネギの頭上に落下する前に、黒板消しをキャッチするスバル。なかなかの反射神経に、何人かの生徒が感心した。

 

が、

 

「すいません、全然気づきませんでじだばっ!?」

ズゴッガボンパスパスパスッゴガガガガッ

 

メメタァ

 

「ドベェーッ!?」

「ネ、ネギくーーん!?」

「「「「「「「あははははは!」」」」」」」

 

黒板消しには気づいても、他にトラップがあるのには気づかなかったらしい…

 

「ってあれ?子ども!?」

「「「「「「「えぇっ!?」」」」」」」

 

そこで、やっとネギが子どもである事に気づく生徒たち。いや、遅いよ。

 

「ごめーん!新任の先生かと思ったから…」

「いや、そいつが新任の先生だ。」

「え?ウェザー先生?」

「全員席に着け!ネギ先生、自己紹介をしてくれ。」

「あ、はい。」

 

全員が席に座ると、ネギはこほんとせきをした。

 

「きょ、今日からみなさんに英語を教えることになった、ネギ・スプリングフィールドです。よ、よろしくお願いします。」

 

緊張でガチガチになりながらも、ネギは自己紹介を終える。

 

「で、こっちが転入生の――」

 

ウェザーはスバルを紹介しようとするが、

 

「「「「「「「かわいいーー!!」」」」」」」

「え?え?」

「お、おいお前ら…」

「うわーー!?」

 

生徒たちの声に遮られてしまった。

 

「ねえ、君頭いいの?」

「どこから来たの?」

「ほんとにもらっていいんですかウェザー先生?」

 

次の瞬間、ネギは生徒たちにもみくちゃにされていた。

 

「あー、おまえ等のじゃないからなー。食うんじゃねーぞー?」

 

一応注意するウェザーだが、生徒たちは九割近く聞いてなかった。

そこに、

 

「いいかげんになさい!」

バン!!

 

「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

騒がしいクラスを静めたのは、机を叩く音と、高めの怒声だった。

 

「皆さん、もうおやめになって。先生がお困りになっているでしょう。」

 

声の主――2年A組委員長・雪広 あやかは、クラスメート達に言う。

 

「それに、」

 

言いながら、あやかはスバルに手を向ける。

 

「「新しい」クラスメートの紹介がまだでしょう?」

「「「「「「「あ……」」」」」」」

「えーと、あ、あははー、どうもー………」

「「「「「「「す…すみません」」」」」」」

 

クラスの全員が困惑するスバルに気が付き、一斉に謝るのであった………

 

 

 

「改めて、このたびこのクラスに転入してきた、スバル・ナカジマです。よろしく!」

「「「「「「「よろしくーー!!」」」」」」」

 

ようやくスバルの紹介が済み、クラスにある程度の落ち着きが戻った。

 

「それじゃあ、ナカジマは長谷川の後ろの席に座ってもらおう。ちょうど空いてるしな。」

「あ、はい。」

 

ウェザーがスバルの席を指示する。中央の列の最後尾、そこの廊下側の席だ。

席に着き、ふと、席の隣の生徒を見た。

 

まず、背が高い。座っているが、170cm以上はあるのではないだろうか。

肌は白く、欧米の方の血が混ざっていると思われる。髪は、前髪は金髪で、後は黒。左右で団子にし、前髪の一部を後ろに回し、三つ編みにしている。瞳はブルー系で、スタイルも良い。

個性豊かなクラスでも、結果目立っている部類に入るのではないだろうか。

 

 

「スバルです、よろしく。ええっと…」

 

スバルが挨拶すると、少女はスバルに顔を向け、自己紹介をする。

 

空条 徐倫(くうじょう ジョリーン)よ。よろしくスバル。」

「うん、よろしく。(空条さんか…変わった名前だなぁ。)」

 

 

 

これが、スバル・ナカジマと空条 徐倫の出会いだった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

放課後 麻帆良学園女子中等部 校内

 

「どうだ?慣れてきたか?」

「うん。…でも大丈夫かなネギ君…」

「…まあ、自信をなくさなきゃいいけどな…」

 

校内を話しながら歩くスバルと徐倫、そして徐倫のルームメイトの『長谷川 千雨(はせがわ ちさめ)』の3人。

 

あの後、明日菜とあやかがケンカをするわ、他の生徒があおるわで、結局授業らしい授業を出来なかったネギ。初日の授業がこんな調子で、本当に自信をなくさなければいいが…

 

そして放課後、校内を案内してやると徐倫たちに誘われたスバルは、こうして案内してもらっていた。まあ、二人には『別の目的』もあったが。

 

「あ、この先が音楽室で―――」

ガラッ

「やあ徐倫。ん?その子は誰だい?」

 

不意に廊下の窓が開き、長髪にトゲつきの帽子をかぶった男が顔をだす。徐倫はその男の登場に、非常に嫌そうな顔をすると、踵を返してそそくさと歩き出した。

 

「…こっちが第二理科室だ。」

「え?これスルーしちゃうの?」

「ナカジマ、関わらない方がいいぞ…」

「ま、待ってくれよ徐倫(ジョリ)――――――ン!」

 

スルーする徐倫に驚くスバルと、スバルを男から遠ざける千雨。あわてた男は窓から乗り出してくると、初めて男の全身がわかった。

見た感じではスバルたちより3~4歳年上で、背は180位あるだろうか。体格はいい方で、陸上選手のように引き締まっている。網シャツを着込み、下はレザーのズボンだ。

 

徐倫に追いつき、肩を掴む男だが、

 

「オラァ!!」

ドグォ

「ぐぼっ」

 

振り向いた徐倫に殴られ、情けない声を上げながら廊下に倒れる。

 

「『アナスイ』!!てめぇ懲りずにまた堂々と不法侵入しやがって!!『高畑』にでも通報されたいか!?」

 

男――アナスイを怒鳴りつける徐倫。

 

「またって…なんなのあの人?」

「…あいつは麻帆良大学2年の「ナルシソ・アナスイ」ってやつでな、徐倫のストーカーなんだよ…」

 

アナスイについて説明する千雨。大学生が中学生をストーキング…なるほど、変態以外の何でもない…

 

「ち、違うんだ徐倫!実は、これを君に渡してくれって!」

 

そういうとアナスイは、ポケットから手紙を出し、徐倫に渡す。

 

「手紙?誰からだ?」

「ああ、『財団から』だ。中身は知らないがな。」

「財団…!」

「…そう、わかったわ。」

「?」

 

手紙の差出人を聞いた徐倫と千雨は、険しい表情をする。スバルはそんな二人をみて、首を傾げる。

 

「じゃあ徐倫、オレはこれで!今度食事にでも行こうな!」

 

そう言って、アナスイは来たとき同様窓から外に出る。

そしてスバルは、あることに気づく。

 

 

 

 

 

「…あれ?ここ『3階』じゃなかったっけ?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ふう、さすがに『3階』からは派手すぎたか?」

 

着地して、そう呟くアナスイ。

徐倫たちがいたのは、『3階の音楽室の近く』だった。そこまで登るのに、彼の『能力』なら可能だ。

使い方を制限されているが、ばれなければ問題ない。そう判断したアナスイは、『能力』を使ったわけだ。

 

 

 

が、

 

 

 

ガシィ

「うおっ!?」

 

ズドォ!

「んがっ」

 

世の中、上手いこといかないものだ。

立ち去ろうとしたアナスイの足を「雲」が掴み、彼は盛大にすっ転んだ。

 

「イッテェ!なんだよ一体…」

「アナスイ、あれほど目立った『使い方』はするなと言ったはずだが…?」

 

転ばせた張本人――ウェザーは、アナスイに話しかける。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

校内 噴水前付近

 

 

「まったく、『財団』からの手紙なら、俺に渡せばいいものを…そんなアプローチしても、空条はお前にたなびかないぞ?」

「うるせぇ!お前に徐倫の何が分かるってんだ!?」

 

注意をするウェザーに反発するアナスイ。

 

「…そのセリフ、お前にそのまま返すぞ…それより、『財団』から連絡が来たってことは…」

「…ああ、恐らくは『矢』についてだな。」

 

ウェザーの言葉に答えるアナスイ。

彼らが言う『矢』とは、スバルたちが探しているものと同一なのだろうか…?

 

「となると厄介だな、少し警戒した方が…ん?」

 

ふと、ウェザーは階段の方を向き、そこにいた者に気づく。

 

「あれは…ネギくんか?」

「あん?知り合いかウェザー?」

「ああ、2年A組の担任だ。」

「………は?」

 

アナスイは疑問を持つ。まあ、仕方ないことだが。

 

「どういうことだよ担任って?まだガキだぞ?」

「まあ、頭はいいらしいからな、問題ないだろ。」

「いや、そうじゃなくt」「きゃぁぁぁあああああ!」

 

アナスイの言葉は、少女の悲鳴によりかき消された。振り向くと、階段から少女と無数の本が落ちていく真っ最中だ!

 

「な、何ぃ!」

「く!間に合うか!?『ウェザー・リポ――――』」

 

『能力』を発現させようとするウェザーだが、

 

 

 

 

 

フワァア

 

「「!!?」」

 

 

 

 

突然、少女の体が「浮いた」!

 

 

 

 

驚く二人だが、すぐさま、『浮いた原因』にたどり着く。

 

ガシィ

ズシャアアア

 

「あたた…だ、大丈夫ですか『宮崎さん』…?」

 

浮いた原因(と思われる)ネギは、少女をキャッチすると、2mほどスライディングして止まる。そして少女――宮崎 のどかは、どうやら気絶してしまったらしい。

 

「ああ、気絶してる!?ど、どうしよう…」

「あ………あんた……」

「!?」

 

声がして、ネギはびくりとする。恐る恐る振り向くと、驚愕の表情の明日菜がいた……。

 

 

 

ぱしっ

「へ?うわぁぁあああ!!?」

 

その場でネギを掴んだ明日菜は、そのままネギをどこかへ連れ去ってしまった……

 

 

 

 

 

「「………」」

 

一部始終を見ていたアナスイとウェザーは、ただ呆然とその場に立っていた。

そして、最初に口を開いたのは、アナスイだった。

 

「あ……あのガキ、まさか!?」

「ああ、多分『手紙の内容』はこれだ。『ネギ・スプリングフィールド』!彼は――――」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

数分前

中等部 3階 女子トイレ

 

 

「つまり、この麻帆良で『矢』が目撃されたっていうんだな?」

『ああ、しかも何人か『射ぬかれている』らしい。』

 

女子トイレの個室で、「糸」を指で摘み話す千雨。相手は徐倫だ。

 

二人は現在、『手紙』の内容を確認するため、スバルと別れ、このトイレにいた。わざわざ『糸』で話しているのは、ほかの者に怪しまれないためだ。

 

 

「…内の一人が『2年A組(うちのクラス)』にいるってぇのが気になるな。だれだ?そいつは?」

『……それが、「宮崎」らしいんだ…』

「な!?」

 

思いもしなかった名前を聞き、千雨は立ち上がる。

宮崎?あいつが射ぬかれた?あいつが『矢』に「選ばれた」??

 

「…それは、マジなのか?徐倫?」

『確証は得られない。だから、今後「確認を」とる!とりあえず、これは決定だな。』

「ああ…で、誰がやるんだ?」

『私かお前のどっちかだな。ウェザー先生は彼女に近すぎるし、アナスイはアレだ…』

ガチャリ

「まあ、確かにな。でも、私はパスだぞ!メンドイし。」

「…まあ、お前はそうだろうな。」

 

それぞれ個室から出て、最終確認をする。

 

ム゛ー、ム゛ー、

 

「っと、どうやら『むこうの準備』が出来たらしい。」

 

携帯のバイブを聞き「準備が」出来たと確認した徐倫は、千雨と共に女子トイレを出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よお、悪いなスバル、待たせちまって。」

「あ、大丈夫だよ空条さん。長谷川さんも。」

 

外で待っていたスバルと合流する二人。

 

「…あれぇ~~?ごめん二人とも、私『定期入れ』教室に忘れちゃった~~。一緒に取りに行ってくんない?」

「え?別にいいけど…」

 

少しわざとらしく言う千雨と、同意するスバル。徐倫は、千雨の大根役者っぷりを見て、つぶやいた。

 

「…はあ、やれやれだわ。」

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

同時刻

 

校庭

 

 

「う…ううう~」ずーーーーん

「す、すいません……」

 

落ち込む明日菜と、謝るネギ。

あの後、問いただす明日菜に対して『記憶消去魔法』を明日菜に行おうとしたネギだが、何がどうしたのか、記憶を消そうとして明日菜のパンツを消してしまった。

しかも間が悪い事に、そこへ高畑が来てしまい、明日菜は高畑にノー○ンを見られてしまう結果となった。

 

「どーーーしてくれるのよーーーーー!!魔法使いなら今すぐ時間を戻しなさいよーーーーーー!!!」

「あああ、本当にごめんなさい~~~」

 

嘆く明日菜に、ネギは謝るしかなかった。魔法使いといえど、万能ではないのだ。

 

ガシィ

「うひぃ!?」

「――――で、何でそのちびっ子魔法使いが麻帆良(こんな所)まで来て…しかも先生なんてやることになった訳……?」

 

いきなりネギの襟を掴み問いただす明日菜。仕方なく、ネギは語り始めた。

 

 

 

 

曰く、「立派な魔法使い(マギステル・マギ)」になるための修行として、麻帆良(ここ)で先生をする事になったとのこと。

「立派な魔法使い」とは、世のため人のために陰ながら力を使う、魔法界でも尊敬される仕事のひとつだそうだ。

今は仮免期間のようなもので、魔法がバレたら仮免没収の上に本国へ強制送還されるらしい。

 

「だ、だから皆さんには秘密に―――」

「………だったら、私のこと、ちゃんと責任とってよね…!」

「…へ?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

2年A組 教室前

 

 

「あれ?明日菜にネギ……先生。」

「あ、本当だ。おーい。」

 

教室前で、明日菜たちに気付く徐倫たち。なお、徐倫が呼び捨てにしようとしたことについては流しておく。

 

「あれ?徐倫に千雨ちゃん、それにスバルも…」

「皆さん、どうしたんですか?」

「ん?明日菜も『メール』来たから教室に来たんじゃないのか?」

「『メール』?……あ、そうか!」

「「?」」

 

『メール』と聞いて思い出す明日菜。だが、ネギとスバルには何のことだかわからない。

 

「ま、教室入れば分かるよ。」

「そういうことだ。ネギ先生、ドアを開けてくれ。スバルも。」

「え?あ、はい…?」

 

未だに何か分からない二人だが、言われた通り教室のドアを開けると―――

 

 

 

 

 

 

 

パパパパァーーーン!

「「「「「「「ネギ先生!スバルちゃん!ようこそーーーー♪」」」」」」

「「へ?」」

 

クラッカーの音と、明日菜たち三人以外の生徒たちが二人を出迎えた。

 

「二人の歓迎会をやることになってね。これ買出しね。」

「その間、二人を教室に近づけないように遠ざけてたのよ。」

 

説明する明日菜と徐倫。そう、徐倫と千雨は、スバルを教室に近づけないよう、校内を案内していたのだ。

まあ、予想外の事態はあったが…。

 

「ほらほら、主役は真ん中に!」

「飲み物何飲む~~~?」

「わ、あ、どうも。」

「わ~、ありがとう。コーラある?」

「瓶ので良ければあるよ~。」

 

席に誘導される二人。相変わらずネギはもみくちゃにされているが。

 

「はは、大人気だなネギくんは。」

「見た目可愛いからな。」

「ま、オレの魅力には適わないだろうがな。」

 

そんなネギを見て感想を述べる高畑、ウェザー、アナスイの三人。

 

 

 

 

 

…………アナスイ?

 

 

 

 

 

「って何でお前がいるんだぁぁぁあああ!!!!!」

 

アナスイを見つけた徐倫は、近くにあった瓶のコーラを手に持つと、

 

ドン

「ギャアアアス!!」

 

コーラのふたを『発射して』、アナスイの額に当てた。ふたには手を触れずに。

 

(え?何今の!?魔法!?)

(魔力は全然感じなかったのに!?)

 

驚く明日菜とスバルをよそに、徐倫は手に持ったコーラを豪快にグイっと飲んだ。

 

「…空条、こいつは俺が呼んだんだ。だから、いるのには何の問題もない。」

「な!?正気かよ!?こいつが何するか分かったもんじゃねーぞ!」

「ジョ、徐倫、そんな人を変質者みたいな言い方しなくても…」

「「「「「「「変質者じゃん」」」」」」」

「なっ………」

 

クラス全員に言われ、落ち込むアナスイ。それを見て、全員が笑った。

 

 

 

 

そんな光景を見て、スバルは思った。

 

――――この笑顔を守るためにも、『矢』を見つけなければ――――と

 

 

 

ナルシソ・アナスイ――精神的に再起不能

スバル・ナカジマ―――この後、肉まん83個を完食し、クラスに「大食い」を認識させた。

 

 

←to be continued…




1話です。以前の1話と2話を合わせています。
・サブタイトルの元ネタは、『囚人番号FE40536空条 徐倫』から。サブタイトルの通り、徐倫の出席番号が11番なので、釘宮以降の番号が1個ずつずれます。

・何で2007年が舞台かというと、第六部時の徐倫の歳を逆算したら、ちょうど2007年に徐倫が15歳になるからです。アニメ第二期とかぶったのは、偶然です(笑)

・今回からしばらくは、魔法使いVSスタンド使いの構図が続きます。

では、また次回。


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#02/教師スプリングフィールドの秘密

女子寮 徐倫と千雨の部屋

 

 

「はぁ!?あの子供先生が!?」

「ああ、『ウェザーとアナスイ』が、能力らしきものを使った所を見たらしい。見ただけだと、『風を操る』能力らしい。」

 

歓迎会もお開きになり、帰宅した二人は、ウェザーたちが見たネギの「能力」について話していた。

 

「……つまり、しばらくは先生に『警戒』しろってことか?」

「そうだ。どっちにしろ、ネギが『矢』に関係している可能性がないとは言い切れないからな。『みんな』にも、連絡は入れえてある。まあ、危険な能力じゃなけりゃいいが…」

 

そう言う徐倫。だが、彼女らは知らない。

 

ネギが、自分たちの『想像』を超越した力をもつことに………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

翌日 成田空港

 

 

観光客やビジネスマンで賑わうここに、ある男が降り立った。

 

「…やれやれ、久しぶりの日本だな。」

 

 

 

 

 

#02/教師スプリングフィールドの秘密

 

 

 

 

 

 

同日 2年A組

 

 

「き、起立ー、きおつけー、礼ー」

「「「「「「「おはよーございまーーーす!!」」」」」」」

 

「えー、では1時間目を始めます。教科書の27ページを開いてください。

“Two men look out through the same bars: One sees the mud, and one the stars.”……」

 

(お、今日は頑張ってるね~~。)ヒソヒソ

(昨日失敗続きだったからな。)ヒソヒソ

 

昨日の失敗を挽回すべく、頑張っているネギを見て、小声で話す徐倫とスバル。

 

「―――じゃあ、今のところ、誰かに訳してもらおうかなーー?」

 

そう言うと、クラス中を見渡すネギ。だが、誰一人目を合わせようとしない。

すると―――

 

「じゃあ、アスナさん。」

ズルッ

「な、なんで私なのよ!?」

「え?だってアスナさん『ア行』だし…」

「私は『カ行』よ!」

「それに、感謝の意味とかも兼ねて…」

「どんな感謝よ!?」

 

文句を言う明日菜だが、はたから見たら漫才をしているようだ。周りからくすくす、と笑い声が聞こえる。

 

「―――もうっ!分かったわよ!やるわよ!やればいいんでしょ!?」

 

そう言って、席を立った明日菜は、英文を訳し始めた。

 

「えーっと…『2の男たちが』……『見る』?『外の棒たちを』………?えーーっと?」

「―――アスナさん、英語ダメなんですね。」

 

ネギが言った瞬間、クラス中が爆笑した。

 

「………やれやれだわ。ネギ、そういうのははっきり言わないほうが良いわよ……」

「え?あ、す、すいません…」

 

謝るネギだが、明日菜は震えている。

 

ガシィイ

「ひっ!?」

「こ、こんのガキイィイ!!」

「な!ちょっと明日菜さん!」

 

ネギに掴みかかる明日菜と、止めようとするあやか。

 

だが、

 

「ふ、ふぁ…」

「げ……」

 

掴みかかった事で明日菜の髪がネギの鼻をくすぐり、そして――――――

 

「はっくしょん!!」

ブワアァァァ

「き、きゃぁあああ!」

 

ネギは『くしゃみ』をしてしまう。そして、『くしゃみが』原因で「風の魔法」が暴発してしまい、明日菜は下着姿になっしまう。

 

(((((!!?)))))

「きゃーー!」

「ちょっと、何やってんのアスナ!!?」

 

騒ぐ生徒たちだが、誰も、スバルすらも気付かない。

 

この現象に異変を感じたものが『5人』いたことに………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

商店街 スーパー前

 

 

「えーっと、後買う物はありませんね。」

「うん、じゃあ、帰ろっか。」

 

買出しに出たなのはとティアナは、両手に買った食材や日用品の入った袋を下げ、拠点であるマンションへと向かっていた。

 

「いやー、安く買えてよかったねー。」

「はい……」

「……やっぱり心配?スバルが」

「……ええ。まあ、たった『2日』でバレるなんてドジやらかすとは思えませんが。」

 

そんな風に話していたため、自分の前に『地図を見ながら歩く男』がいるのに、なのはは気づかなかった。

 

「!!なのはさん!前!」

「え?」

ドシィン

「きゃっ」

 

ティアナが注意するも間に合わず、なのはは男と衝突してしまい、買い物袋の中身をぶちまけながら転んでしまう。

 

 

 

 

 

だが!

 

 

 

 

 

ドキュ!ドキュ!

「え!?」

「あ! !?あれぇ~……?」

 

なんとなのはは『立っていた』!袋の中身も『無事』だ!

 

「お、おかしいな…今ぶつかって『転んだ』と思っていたのに…?」

「い…今のは…?」

 

「余所見しててすまなかったな……この町の地図を見ていたんでな。」

 

男に謝られて、2人は男の方を見る。

 

見たところ、30代後半くらいだろうか。190cm以上はある身長にガッシリとした体系ながら、その顔立ちは整っている。

服装は、襟に鎖のようなもののついた黒いコートに、星のマークの入ったシャツ、ズボンは蛇のウロコのような柄だ。そして、もっとも目を引くのが、男のかぶった帽子だ。これにも星のマークが入っており、『左手形』のアクセサリーがついている。それはいい。だが、よく見ると、後ろのほうが、髪と『一体化』しているように見える。どういう原理なのだろう?

以上のように、風貌はワイルドだが、知性と、物静かな態度がある男だった。

 

「い、いえ。こちらこそ、余所見をしてすいませんでした…。」

 

なのはは、男の射抜くような眼差しに一瞬ビクついたが、何とか平常を保ち、男に謝った。

 

「…ま、お互い不注意だったってトコか。ところで、ひとつ尋ねたいんだが…『麻帆良学園』はこの先でいいのか?」

「え?…ええ、そうですが……?」

「…そうか、すまないな。」

 

ティアナに道を教えられた男は、指された方向に歩いていった。

 

「……なんだったんだろう?今の人…」

「………ティアナ、とりあえず帰ろう?ね?」

 

疑問に思うティアナとなのはだが、とりあえず、買ったものをマンションに持って帰ることにした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その日の放課後、麻帆良学園都市のある建物の屋上で、双眼鏡を手にした男が学校から出てくる女子中学生を見ていた。

その中で、目的のグループを発見した男は、携帯電話を開いて電話を掛けた。

 

「―――私です。お嬢様、空条 徐倫と長谷川 千雨、それと他2名を確認しました。」

[わかったわ。予定通り、『初音』にあの公園まで誘導させるわ。後はアナタの出番よ、『サルシッチャ』。]

「了解しました。」

 

男、サルシッチャ・アーリオは電話を切ると、この辺の周囲の地図を取り出した。

数拍置いて、サルシッチャの姿は屋上から消えていた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

校庭 『慈愛の女神像』の前

 

「はあー、またアスナさんにひどいことしちゃった…」

「うーん、こっちの魔法は誰でも使える分、制御が難しいって聞いてたけど…」

[まさかここまでとは思いませんでしたね。]

 

落ち込むネギと、何て言っていいか分からないスバル、そして呆れる彼女の相棒――『マッハキャリバー』。

あの授業中、昨日のように授業が中断するようなことはなかったものの、明日菜が睨み付けてくるため、彼女の視線が痛かったネギ。今は、明日菜以外でネギの事情を知るスバルが、何とか慰めようとしているところであった。

 

[まあ、『我々の魔法』は、プログラムを元に作られた術式を発動しますからね。例えるなら、自動車と自転車くらいの差はあると言えます。]

「……自分の性能の良さ自慢してない?」

[いえ、そんなことは。それより相棒《バディ》。]

「ん?何?」

 

マッハキャリバーの自慢にツッコミを入れるスバルだが、マッハキャリバーが何かに気づいたらしい。

 

[先ほどから誰かが我々のやり取りを聞いておりますが…]

「「え?」」

 

 

「……2人で何話してるのかなぁ〜って思ったら…『そういうこと』だったのね〜」

 

『慈愛の女神像』の陰から、明日菜が出てきた……

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

数十分後、グリーンドルフィンストリート麻帆良

 

この部屋には今、フェイトとスターズ分隊副隊長――赤い三つ編みおさげの少女ヴィータと、リインフォースⅡにシャリオ・フィニーノに加え、ネギと明日菜がいた。

 

今、リビングではスバルとネギは正座をさせられ、2人の前ではヴィータが仁王立ちしている。

 

「まったく!何やってんだお前等は!!」

「「すみません……」」

 

ヴィータに怒鳴られ、縮こまる2人。

 

「…ねえ、あのちっちゃい子の方が偉いの?」

「うん、スバルたちよりは…」

 

明日菜の質問に、苦笑しつつ答えるフェイト。

そこに、リビングのドアが開かれる。

 

「ただいま帰りました。」

「どうかしたのヴィータちゃん?大声何か出して。」

 

入って来たのは、買い出しから戻ってきたなのはとティアナだった。

 

「おう、なのは!このバカ、やらかしたんだよ!」

「…や、やらかしたって、何を…?」

「じ、実は………」

 

スバルは、事の経緯を2人に話した。

 

「……つまりこういうこと?『潜入2日目でいきなり魔法がバレた』?」

「Exactly(そのとおりでございます)……」

 

目の前でネギと共に正座をするスバルに、顔を引きつらせながら聞くティアナ。汗をだらだら垂らしながらスバルが答えると、

 

ドグシャア

「ぎゃあアアァ!」

 

ティアナの跳び蹴りが飛んできた。すぐさま、ティアナは『海老固め』をかける。

 

「この馬鹿!私をナメてんのッ!何たった2日で!バレるようなことしてんのよ!この!ド低脳がァーッ!」

「痛たたた!ギブギブギブゥ〜〜!!」

 

『!』ごとに『海老固め』を強めるティアナと、痛がるスバル。先ほど自分が「やらないだろう」と信じたことを、あっさりと裏切ったのだ。怒るのも無理はない。明日菜やネギは、ただ呆然と2人のコントのようなやり取りを見ていた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――ねえ千雨?私たちさぁー、確か「女子寮」に帰るために、「駅」に向っていたはずよねぇー?」

「………ああ、そうだな………」

「それが、なーんでまた、()()()()()()()()()()()()に来ちゃってるワケぇ~?マジわかんないわぁ~………」

 

一方、徐倫達4人は、いつの間にか麻帆良公園の中央広場にまで来ていた。無意識のうちにここまで誘導されたようであった。すると、徐倫の後ろにいた2人が、口を開いた。

 

「何らかの「攻撃」を受けたって事?」

「無意識の内にこちらを誘導してくるなんて、それ以外考えられないけれど………」

「だとしたら、なにが目的だ?………まあ、心当たりは、指五本で数えられるくらいはあるけど………」

 

4人は話しながら、周囲を警戒する。広場に人影はなく、普段の騒がしさとは裏腹に、不気味なほど静かであった。

背中合わせで固まっていると、次の瞬間、頭上に青いカプセル型のマシンが出現し、4人に迫った!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズパッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[――――――――――!?]

 

瞬間、マシンは左右に斬り裂かれた!別れた半身は徐倫達に落下し迫ってくるが、

 

ドグシャァッ

 

強い力で殴られたのか、装甲に『拳の形をしたヘコミ』を作り、吹っ飛んで行った!哀れ謎の機械は、何が起きたのか理解する間もなく破壊されてしまったのだ。

 

「……やれやれだわ。今の感触、ホンモノの機械のようね………」

「けれど、高いところから落ちてきたって感じじゃねぇーなぁー………まるで瞬間移動のように突然現れたようだ………」

 

背中から『一対の腕』を出した徐倫と千雨が、破壊されて、火花を散らしながら転がる青い機械を見ながら言う。

 

「あ、ありがとう徐倫に千雨ちゃん………私の『グロウン・キッド』じゃあ、今のに反応できなかったよ~……」

「まあ、急に現れたし、それに、グロウン・キッドの性質上、仕方がないよ………」

 

それより、と一点を見る少女。すると、先ほどと同型の機械や、大型の球体型の機械が合わせて20機近く、何の前触れもなく出現した!

 

「さっきのは小手調べってトコみたいだなぁあーーー!」

 

機械は中央のランプを光らせると、そこから光線を発射させた!4人は散開して回避をすると、徐倫と千雨は一気に距離を詰めた!

 

「オラオラオラオラオラオラァアーーーッ!!」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「…つまり、その『矢』を探すために『麻帆良(ここ)』に来たってこと?」

「うん、何人か犠牲者も出ているみたいで…」

 

ティアナがようやく海老固めからスバルを解放し、明日菜はスバルたちが麻帆良に来た理由を聞き出していた。『六課』にも、犠牲者が出ているという情報は入っているようだ。

 

「まあ、こんな派手なカッコしたやつなら、すぐ見つかりそうね!」

 

手元に差し出された『オエコモバ』の写真を見てそういう明日菜。だが、

 

「いや、普段からこんな格好な訳ないでしょ…」

「え?」

 

呆れるティアナと頷くスバルたちに、明日菜は不思議そうな顔をする。なのはたちは苦笑いだ。

 

 

 

そんな時だった。急に、部屋のすみに設置されたアラートが鳴り響いたのは………

 

 

 

 

←to be continued...

 




2話です。
・サブタイトルは『看守ウエストウッドの秘密』から。

・今回ネギが明日菜に訳させた英文は、ジョジョ一巻に書かれていた、フレデリック・ラングブリッジの「不滅の詩」の原文です。中学生には難しかったかな?

・リブートに伴い、暗躍するサルシッチャとスタンド使いVSガジェットの戦闘シーンを追加。サルシッチャはイタリア語でソーセージ、アーリオはニンニクから。苗字は今回が初登場です。

・次回は、魔法使いVSスタンド使い戦になります。

では、また次回!


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#03/グロウン・キッド①

「この先を左だったわね!アスナ!?」

「ええ!それが一番『近道』よ!」

 

先頭を走る明日菜は、ティアナに聞かれて振り返りながら返答をする。彼女は麻帆良(ここ)の地理に詳しくないティアナたちのために、道案内をしていた。ネギは、明日菜いわく『おまけ』みたいなものだ。

 

先ほどのアラートは、「麻帆良公園」に機動兵器――通称『ガジェット』が20機近く現れたというものだった。麻帆良の「魔法使いたち」はガジェットとの『戦い方』を知らない。そのために、スバルたちフォワードが出動した訳である。ヴィータも、上空から向かっている。

 

「いい!?さっきも言ったけど、あんたたちは到着次第、どっかに隠れてんのよ!」

「は、はい!」

「分かってるわよ!相当『危ないん』でしょ!?」

 

ティアナは、確認をとるように、明日菜とネギに言う。

ネギは「魔法使い」とはいえ、ガジェットの『AMF(アンチ・マギリング・フィールド)』の対抗策を知らないし、明日菜は一般人であるためだ。

 

「ほら!この道を左よ!」

「分かった!」

 

明日菜に言われて曲がる4人は、「麻帆良公園」へと駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

『グリーンドルフィンストリート麻帆良』 206号室

 

 

カーテンを閉め、証明を落としたリビングは、「司令室」と化していた。

中央にはモニター、テーブルにはコンソールが『浮かび』、そこにリインとシャーリーがついている。

なのはとフェイトは、後ろからガジェットの動きをみていた。リインは今、どこかと連絡しているようだが。

 

「フォワードの皆さんと明日菜ちゃんたちは、最短距離で『麻帆良公園』へと向かっています。ガジェットたちは、公園の『中央広場』へと集まっているみたいですが……」

「…そこに、『レリック』級の『ロストロギア』があるってことかな?」

「多分…まさか『矢』がそこに?」

 

憶測を立てる二人。そこに、通信を終えたらしいリインが、なのは達に言う。

 

「なのはさん!『学園側』が、麻帆良公園に『結界設置』を承認してくれたです!」

「ありがとう。シャーリー!スバルたちに連絡を!」

「はい!……え?」

 

振り向き、通信をしようとしたシャーリーは、信じられないものを見た。

 

「そんな……どうして……!?」

 

 

 

 

 

#03/グロウン・キッド ①

 

 

 

 

 

麻帆良公園 中央広場

 

 

「やれやれだわ……何だったのこいつら?」

 

徐倫は、自分たちを襲ってきた機械の『残骸』を見て呟いた。周囲にいた千雨や、中等部の制服を来た「二人」も機械を倒したらしく、徐倫の周りに集まってくる。

 

「はぁ、『矢』のこともあるのに、何かスッゲー面倒なことに巻き込まれたんじゃないか?私ら」

 

かったるそうに、千雨は手に持った『透けている小太刀』を弄びながら愚痴る。

 

「……長谷川、そう言わない方がいいよ。こいつら、『矢』が絡んでいるかもしれないし。」

 

制服の少女のうち、黒髪の少女が千雨に注意する。彼女の両手には、野球のボールほどの大きさの『鉄球』が二つ、『回転』していた。すると、もう一人の少女――髪を左右で留めている――が、左手の平を見て、何か話し始めた。

 

「どうしたの………え!?うん、わかった………徐倫!誰かがこっちに向ってきているって………5人くらい!」

「何………?」

「…『こいつら』のご主人様か?」

 

話を聞いて、機械の残骸をつま先で小突きながら千雨が言う。

 

「どうする?全員で出迎えるか?」

「……いや、『こいつ』で十分だろ。」

 

徐倫は、髪を左右で留めた少女を指しながら言った。

 

「え?私!?」

「ああ、おまえの『グロウン・キッド』なら、「5人」くらい楽に倒せるだろ?一応、ウェザー先生に連絡は入れておくからよぉー」

「………う~~、わかったよ~。」

 

渋々承諾した少女は、鞄から『布』を取り出した。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

この時、徐倫たち4人は気づいていなかったが、彼女らを陰で見ていた者たちがいた。

 

「もしもし、リーダー?」

「聞こえる、リーダー?」

 

黒い服を着た少年と、白い服を着た少女は、1台の携帯電話を2人でもって、交互に話す。

 

[―――聞こえている。]

「「ガジェットは、みーんなやられちゃったよ!」」

 

少年と少女の二人が、同時に言う。完全に息がぴったりだ。

 

[それは確認済みだ。私の『アンダー・ザ・レーダー』の能力を、忘れた訳ではあるまい?]

「それはそうだけどさ、」

「監視をしている私たちも、任務を果たさないといけないからね。」

「「………おや?」」

 

そう話していた2人だが、ふと、少年の右手に握られていた『矢』が、何かに引っ張られるように先端が持ち上がり始めた事に気が付いた。

 

「リーダー、『矢』が反応したよ!」

「リーダー、近くに「才能」を持った人がいるよ!」

[そうか………誰を指すのか、見てくれ。]

「「了解!!」」

 

2人はそういうと、矢の先端が指す方を探す。すると、遠くのほうからこの公園に向けて駆けてくる一団を見つけ、更に、その中の『1人』を指したのを見て、2人は意外そうな顔になった。

 

「………おやおや、これは………」

「………あらあら、これは………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

司令室

 

 

「フェイトさん…わ…私はち…ちょいと目を離したんです…………あなたもそばにいました。リイン曹長やなのはさんもそばにいました。でも……誰も見ていないんです…」

 

シャーリーは言い終わると、気を落ち着かせようと、ガタガタ震えながらコーヒーを飲もうとする。だが、

 

「飲んどる場合ですかシャーリーッ!」

ガシャン

 

何故かリインに怒鳴られ、カップを落としてしまう。

 

「リ、リイン、落ち着いて、ね?」

「……どうなってるの?」

リインを宥めるフェイトと、シャーリーに聞くなのは。

 

「ほ…ほんの少しの間でした……私が目を離していたのは、たったの数秒だったんです……でも、あそこで何が起こったのか分かりません!信じられません!

ほんの数秒目を離したうちに!『20機近くいた』ガジェットが!1機残らず『破壊されていた』んです!!」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

麻帆良公園 中央広場

 

 

「な……何だよこれ…?」

「誰がこんなに沢山のガジェットを……?」

 

スバルたちの目の前に広がるのは、破壊されたガジェットが『散らばる』中央広場だった。

 

何発も殴られたようなヘコミがあるものや、輪切りや袈裟掛けに斬り裂かれたもの、何か『球体』をぶつけられたものに、強い力で『締め付けられた』ようなもと、様々な壊され方をしていた。

 

「…これだけ『壊され方』が様々なのは、『集団で戦った』ってことでしょうか?」

「多分ね。それも、『魔力を持たない連中の』ね。」

 

推測するネギと、それに付け足すティアナ。そこに、明日菜の疑問が飛ぶ。

 

「え?なんで『魔法使いじゃない』って分かるの?」

 

明日菜の質問に、球状のヘコミのついたガジェットⅢ型の装甲を拾うヴィータが応えた。

 

「…ガジェットには、「AMF」という、魔力を消すフィールドを発生させることができんだ。『こちらの』魔法使いたちは、AMFの環境に慣れていないから、『魔力強化していないただの刃物や拳でこれをやってのけた』ことになる………」

「……ふ、ふ~~ん…?」

「……その様子じゃあ、あんま分かってないわね……」

 

明日菜の反応に、ため息をつくティアナだった。呆れながらもガジェットの残骸を見ていると、ふと、視界の端で動くものを見つけた。

 

「ん………?」

「ティア?どうかしたの?」

「?」

 

スバルが声をかけると、ティアナの視線の先を見た。ヴィータ達もそれに気が付いて、視線を追った。

 

 

 

見つけたものは、『緑色の布』であった。

 

 

 

大きさはおよそ2.5m四方と、意外と大きい。それが、バサバサと音を立てながら、ヴィータたちから少し離れた場所に落ちた。

いきなり現れた布に警戒するスバルたち。一番近い位置にいたネギとヴィータは、ゆっくりと布に近づいて行った。

 

「……何か妙ですね。誰かに見られているような…」

「確かに……だが、周りに隠れるような場所はない!だが…まさかだよな……!」

 

そう言って、ヴィータが布に手をかけて、めくってみる。

 

 

 

布の下には――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何もなかった。

 

「……だよなぁ~~~」

「そんなことありませんってぇ~~~気のせいですよ~~」

 

ヴィータが布をポイッと放ると、ほっとしたのか、笑い出す二人。

 

だが!

 

 

 

「二人とも!後ろ!」

 

ドギャァアン

「え?うわっ」

「なんだ!?」

 

いきなり、二人の間を『パンチ』がすり抜け、思わず避ける二人!そのままパンチは近くのガジェットの残骸に突き刺さる!

 

「こ、これは!?」

「何だよ!この『腕』は……!?」

 

そこにあったのは「緑色の右腕」だった。肩の付け根に穴があいており、中は『空洞』だ。

 

ふいに、肩が『ほどけた』と思うと、みるみるうちに腕は『布』になってしまった。よく見ると、中央にはエジプトの壁画のような「一つ目」が浮き出て、ぎょろりとこちらを睨んできた。

 

その目のあたりがボコッと膨らんだかと思うと、布はまるでてるてる坊主のような形になり、そのまま頭にあたる部分が「右手」になり、そこから下が腕、二の腕、肩と変形していき、布は再び『右腕』になる。

 

「まさか!?さっきの『布だと!?』」

「他のガジェットも、こいつがやったの!?」

 

変形をした布に、驚愕する4人。右腕は器用に指を地面につけて『立って』おり、今にも飛び出しそうだ。

 

 

ふと、スバルの耳に「バサッバサッ」という音が聞こえた。恐る恐る周りを見ると―――――――

 

 

 

 

 

 

 

「………………嘘でしょ?」

 

スバルの声を聞いたティアナたちは、周りを見て、戦慄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちの周りは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「6枚の緑色の布」に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『囲まれていた』!――――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

麻帆良公園 入り口付近

 

 

「―――ありゃ~~、バレちったか~~」

「……あれに気づいたのか…やろうと思えば、野生のコウモリにさえ気づかれずに近づける『グロウン・キッド』に対して『妙だ』と思うとはね…」

「勘のいい奴がいるのかもな…」

 

少女が左手の平に浮かんだ『エジプトの壁画のような「一つ目」』を見て言う。『グロウン・キッド』が気づかれたことに感心する徐倫たち。だが、彼女らは冷静だった。

 

「しかし、ネギ君だけじゃなくて、アスナやスバルまでいるなんて………」

「あいつらも『グル』だったのか………?とにかく、連中から遠ざかりながら、目的を聞き出せるようにしておけ。」

「うん、わかったよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女ら」と魔法使いたちの戦いが、ついに始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

能力名―――――グロウン・キッド

 本体―――――不明

 

 

 

←to be continued…

 




3話です。
・メンバー変更に伴い、割と大幅に変更しています。(前はエリキャロもいたけど、六課のメンバーがほとんどいなくなる+あまり絡まなかったからお留守番させてますし(^_^;))

・グロウン・キッドは本体へのダメージがない設定だったのですが、弱点がないのは少しズルいので、左手の平に『本体』を設けました。これで、音声のみですが遠くでの状況を把握できます。

では、次回をお楽しみに!


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#04/グロウン・キッド②

司令室

 

 

「こちらロングアーチ、スターズ、応答願います!」

 

司令室と姿を変えたリビングに、シャーリーの悲痛な声が響く。

ガジェットの反応がなくなってから、スバル達と連絡がとれないでいた。

 

「ダメです!公園内に奇妙な『電磁波』が流れていて、みんなに通信ができません!」

「そんな……!」

「もしかして、妨害電波の類?……だったら、麻帆良の「魔法使い」の方に頼んで、確認を……」

「そ…それが………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

麻帆良公園から西方100m離れた道

 

 

公園に結界を張るためこの道を走っていた金髪に黒い肌のシスター――シャークティは、目の前に「カエル」が落ちてきたため、急停止をしていた。

 

「な、何でカエルがこんな時期に?もう『冬眠』から目覚めたの?ん……?」

 

カエル嫌いな彼女は、ふと、体の色があざやかなこのカエルを、ずいぶん前に図鑑で見た覚えがあった。

 

「このカエルの体の色は…「ヤドクカエル」じゃあ…?たしか吹き矢に使われ、ひとかすりしただけで致命傷になる猛毒が皮膚のすぐ下にある…」

 

そう思っていると、カエルが2匹、シャークティから少し離れた所に落ちて、彼女はそちらを見る。

だが、そのあたりにはカエルが上れるような場所はない。

 

そう思っていると、次から次へと、カエルが道に落ちてくる。不思議に思って、空を見上げた彼女が見たのは――

 

 

 

「な…………!」

 

空から大量の『ヤドクカエル』が、彼女に向かって『降ってくる』光景だった。

 

 

 

「嫌ァァァあああ!」

 

 

 

さすがのシャークティもこれを見て平常を保てず、回れ右をして、泣きながら『全力疾走』するしかなかった……

 

 

 

 

 

#04/グロウン・キッド ②

 

 

 

 

 

麻帆良公園から南方150m離れた道

 

 

「いや、参ったねー、これは。」

 

応援に駆けつけようとここまで来たタカミチは、困ったようには聞こえない風に電話をかけていた。相手はなのはだ。

 

「公園に誰も近づけないつもりらしいよ…近づくものなら、容赦なくカエルが降り注ぐ。」

 

そういいながら、道を見るタカミチ。

彼の見た先には、大量の『ヤドクカエル』が道でうごめいていた。どうやら、カエルは「公園に近づいたもの」にしか降らないらしい。

 

[……カエルが『降ってくる』んじゃあ、上空からも近づけない…なかなか頭のキレるやつですね…!]

「ああ、多分『天候操作魔法』の応用だね。相当な実力者だよ。こうなったら、もう無事を祈るしかないね……」

[……]

 

公園の方を見ながら、そう言うタカミチだった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

麻帆良公園 中央広場

 

 

6枚の緑色の布と、緑色の右腕に囲まれたスバル達は、動けずにいた。いきなり現れた布に対する『恐怖』もあったし、何よりも、先ほどの右腕のこともある。

そう思っていると、急に「右腕」が『跳んだ』!

腕を足で跳ぶように曲げ伸ばしして、指で地面を勢いよく弾いて、布のいるあたりまで跳躍した!

 

「うぅっ」

「こいつら、何を…」

 

驚いた明日菜とティアナがそう呟いていると、他の布にも動きがあった。

 

布の1枚が『左腕』に変わり、他の2枚がそれぞれ右脚、左脚になり、それが合わさって『下半身』になる。先端が尖り、反り返った靴を履いたような下半身だ。

 

そして、1枚が一番大きい変化を遂げた。

まず浮き上がったのは『頭』だ。口と鼻のないのっぺりとした顔に、目が一つ、口にあたる部分にはくるりと巻かれたどじょうヒゲを生やし、頭にはターバンを巻いている。

次に胴体だ。こちらは、まるで甲冑のようなデザインだ。

 

そして、それら4つの部品が一カ所に集まり、それぞれが合わさると、一つ目にターバンを巻いた『緑色の魔神』の姿になる!

最後に残った2枚が『剣』に変わり両手に収まると、『魔神』は剣を構える。

 

「が、『合体したぁ』!?」

「……向こうは敵意むき出しって感じね。」

「確かに、仲良くはなれそうにないね…」

 

そう感想を述べるティアナとスバル。こちらも、戦闘態勢だ。

 

『……フム、ナカナカイイ構エダナ。イクツモ『修羅場』ヲクグッタ構エダ。』

 

不意に、魔神から声が発せられ、驚くスバル達。

 

「喋った!?」

「………お前、何者だ?」

 

鉄槌――グラーフアイゼンを突きつけて魔神に問いただすヴィータ。相当機嫌が悪い様子だ。

 

『フム、タシカニ名乗らナイノハ失礼ダ。我が名ハ「グロウン・キッド」!見テノ通リ、タダノ『布キレ』ダ。』

「………いや、ただの布きれは喋ったり合体したりしないから……」

 

魔神――グロウン・キッドにつっこむティアナ。だが、当の本人は気にしてない様子だ。

 

『マア、挨拶ハコレ位ニシテ、私ハ君達ニ、聞キタイ事ガアルノダ。』

「何?」

 

グロウン・キッドは右手の剣の切っ先を向けて、5人に聞いた。

 

『フム、キミ達ハ私と『同じヨウナ能力(チカラ)ヲ持ッテイルノカ?』

「あん?」

 

グロウン・キッドの言葉に、眉をひそめるティアナとヴィータ。

 

「………妙な質問だな?アタシらとお前は、まったく『別の力を持っている』とでも言うのか……?」

『……フム、「話シタクナイ」ノカ、ソレトモ「本当ニ何モ知ラナイ」ノカ、マア、戦ッテミレバ分ルコトダ。悪イガ、行カセテモラウゾ!!』

 

言うや否や、ヴィータに襲いかかるグロウン・キッド!

振り下ろされた剣をヴィータがアイゼンで受け止めるが、押されている。

 

「ぐ………っ、こいつ、何てパワーだ……!」

『フム、コノママ一人目を――』

「はああ!」

 

グロウン・キッドがもう一方の剣を下ろす前に、スバルが右手にはめた籠手『リボルバーナックル』のナックルスピナーを回転させて殴りかかる!狙うは頭部!

 

ドガァッ

「手ごたえありッ」

 

拳の感触から、グロウン・キッドに大ダメージを与えたことを確信するスバル。しかし、

 

『アア、確カニ「命中」ダ。』

「はっ」

 

よく見ると、グロウン・キッドの頭が「左手になり」、スバルの右拳を受け止め、掴んでいた!

 

そして、左の剣が『右腕』、左手が『胴体に』に変わり、

 

『タダシッ!!』

ドグシャア

「ぐわっ」

 

スバルは殴られ、吹き飛んでしまう!

 

『「私ノ拳」ガナ!』

「スバル!!」

「あいつ、何でもありなの!?」

 

首の位置から左手を、左腕から胴体と右腕が生えている奇妙な姿をした「グロウン・キッド」を見て、ティアナはそう漏らした。

 

ガギィン

「ぐっ」

『フム、ダガ、今の『一撃』ハナカナカ良カッタゾ。ホメテヤロウ。』

 

ヴィータを払い除け、スバルの一撃を誉めるグロウン・キッド。かなり余裕だ。

 

「くっ、態度が紳士なのが、逆にムカつくわね!でも!」

 

ティアナは、魔法弾の発射準備にかかる。

 

「これならどう!!」

 

発射された魔法弾は、一斉にグロウン・キッドに襲いかかる。

 

が、

 

バララァ

「なっ!!?」

 

なんと、グロウン・キッドは再び部品(パーツ)に分離し、魔法弾を避ける。

 

『フム、危ナイ危ナイ。』

「このお!!」

 

胴体の一部をクモの脚のように変えて着地し、あまり危機感のないように言うG・キッドに、飛び上がったスバルが拳を振り上げる。

 

『オット。』

 

が、ひらりとかわされてしまう。スバルは諦めず追撃しようとするが…

 

「!?……え??」

 

追おうにも、(グロウン)・キッドの姿が『見当たらない』。キョロキョロとあたりを見渡すスバルだが――

 

 

 

 

 

『ドコを見てイル?』

「はっ!」

ガシィ

 

いきなり『地面から』腕が生えて、スバルに掴みかかる!

それがG・キッドだとすぐに気づくが、色が「緑」ではなく、地面と同じ「薄茶色」だった。だが、指先からみるみるうちに緑に戻っていく。

 

「ほ……『保護色!!』カメレオンみたいに体の色を変えて!地面に『なりすましていた』のか!?」

 

ネギが、グロウン・キッドが消えた理由に気づくが、そう言っている間にもG・キッドは再び合体して人型になり、武器――布2枚が合わさってできた『鎌』――をスバルに突きつける。

 

『フム、安心シロ。アル程度ダメージヲアタエル位デ許してヤル。』

 

そう言って鎌を振りかざす。そして―――

 

 

 

 

 

 

 

「ちょいやあああぁぁぁ!!」

バグォオ

『フムォァア!?』

 

明日菜の跳び蹴りを喰らった!

 

胴体と、鎌を持った右腕だけが吹っ飛ばされるG・キッド。先ほど同様に胴体の一部をかぎ爪に変化させて、無理矢理ブレーキをかける。

 

だが!

 

魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾・雷の17矢(セリエス・フルグラーリス)!」

ズババァッ

 

「クロスファイヤー!!シューート!!」

バシュゥウン

 

『ナ!?グァアッ!!』

ドババァッ

 

ネギとティアナの技を喰らい、燃え上がるG・キッド!

 

『……フ…フム、ナルホド………君タチノ力ガコレホドトハナ……驚いたヨ………』

 

体を燃やされながら話すG・キッド。口調は変わらないが、かなり無理をしているようだ。

 

『……ダガ、忘れテ………イナイカ?私ハ…』

 

G・キッドは、最後の言葉を言い終わる前に燃え尽きてしまう……

 

 

 

 

 

 

『………コウイウ事ガデキルノヲ。』

『!!?』

 

声がした方を見る7人。

 

そこは先ほどまでG・キッドがいた場所で、今は、左腕と下半身しかないはず!

だが、下半身が見あたらず、変わりに『頭と胴体』、そして両腕があった!足の変わりには、胴体の一部が変形したものを代用しているため、上半身のみだが…

 

『フム、ダガ戦ッテ分カッタ事ガアルゾ。キミ達ハ私トハ『別系統ノ能力』ヲ持ってイルヨウダ。ソレガ分カッタダケデモ、収穫ダナ。』

「別系統だと………?」

 

グロウン・キッドの言葉に、疑問の声を出すヴィータ。すると、グロウン・キッドはネギ達に質問をした。

 

『最後ニ、聞いてオキタイ………キミ達ハ、『古メカシイ石ノ矢』ニツイテ、何か知ッテイルノカ?』

『!?』

 

「石の矢」と聞いて、ネギ達は息を飲んだ。まさか、この『布の魔神』は、あの『矢』について知っているのか!?

 

「あ、あんた!『矢』の事を知っているの!?一体、何で………!?」

『……フム、ヤハリ『知ッテイタ』カ………ダガ、ソコマデ詳しくハ分ラナイヨウダナ………』

「答えなさい!あなたは、一体何を知っているというの!?」

 

ティアナはグロウン・キッドに詰め寄るが、当の魔神は顎に手をやって考えているようであった。

 

『フム、コレ以上キミ達ニ聞イテモ、情報ハ得ラレソウニナイナ……目的ハ果タセタ事ダシ、今日ハコノ辺デオイトマサセテイタダコウ。』

「待ちなさいよ!まだこっちは………」

『フム、デハ、サラバダ少年タチ!機会ガアッタラ、マタ会おうデハナイカ!!』

 

ティアナが止めるのも聞かずに、グロウン・キッドはまた元の布に戻って、ひらひらと飛んでいった。追おうとするヴィータだが、『空の色』に色を変えられてしまい、見失ってしまった……

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

女子寮 入り口付近

 

 

「―――グロウン・キッドは、もうすぐ戻ってくるよ。」

「分かった。………まさか、スバルが『矢』を狙っているとはな………」

 

女子生徒から報告を聞いた徐倫は、千雨と共に部屋に向いながら考え事をしていた。

 

「向こうは、敵対しようって雰囲気じゃなかったな………どうするよ?」

「取りあえずは、先に『宮崎』と接触するぞ。もしも戦力になるなら、スバル達と敵対する事になっても大丈夫だろうよ。」

 

徐倫は歩きながらそう言って、女子寮に帰っていった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

麻帆良公園から東方150m離れた道

 

 

「いや~、スゴいの見られちゃったな~~♪」

 

赤い髪を後ろで束ねた少女は、手に持ったデジカメの画像を見ながら、ウキウキとしゃべる。

 

「それにしてもあの『布』……やっぱり『私の能力』と似ていたなぁ。……これは記事にしないで、『カエル事件』だけにしよう!」

 

そういうと、彼女は女子寮への帰路についた。

 

 

 

後ろに「腕の生えたカボチャ」を引き連れて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の名前は『朝倉 和美(あさくら かずみ)

 

 

 

彼女がスバルや徐倫達と関わるのは、まだ先の話である。

 

 

 

 

 

住みよい街づくりをしよう!

 

麻帆良学園都市 名所その① 「カエルが降ってくる道」

場所:麻帆良公園近くの道一帯

 

2月某日、麻帆良公園近くの道一帯で南米原産の『ヤドクガエル』が雨のように降ってくるという事件が発生。

振ってきた原因は不明だが、「公園の『ヌシ』が降らせている」、「突発的な竜巻に飛ばされた」等、多数の意見が出ている。麻帆良公園の近くを歩いている時に、『ケロケロ』とカエルの鳴き声が聞こえたら要注意!

(麻帆良学園新聞部発行『まほら新聞』より抜粋)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「くそっ!何だったんだあいつは!!」

 

ヴィータは地団太を踏みながら、悪態をつく。相当お怒りのようだ。

 

「……ねえ、あいつから『魔力』を感じた?」

「えっ?そ、そういえば……!」

「全然しませんでした……」

 

ティアナの質問に、スバルとネギは、はっとする。

魔力を持たない未知の存在、『グロウン・キッド』あれは一体何なのだろう………?

謎は深まるばかりだ。

 

「――ま、とりあえずもう帰っていいわよね?あ〜〜、私汗かいちゃった〜〜。」

「ア、アスナさん……」

「………のんきでいいわよねあんたは…………」

 

明日菜の一言に、ティアナたちは脱力してしまう。まあ、おかげで緊張はほぐれたが。

 

「そうだね〜〜、あ!そうだ!一番近い「206号室(うち)」でシャワー浴びるついでに泊まっていかない!?ネギくんも!」

 

なんかスバルまで明日菜に賛同してしまう。そして、誘われたネギは…

 

「えっ?いや、僕は……その………」

 

いきなりしどろもどろになってしまった。

 

「ん?どうしたの?」

「じ…実は……ごにょごにょ」

「「?」」

 

急にスバルに耳打ちし始めたネギ。ティアナと明日菜は不思議そうに見ている。

 

 

「え?『風呂嫌い』?」

「!!」

プッツーーーン

 

それを聞いた明日菜は、ネギに詰め寄った。

 

「何言ってんのこの子供(ガキ)ィィイイーー!!」

「「「ビクゥ!」」」

「来なさい!うちで全身『丸洗い』よ!!」

「うわーーん!?」ずるずる

「………」

 

明日菜のあまりの気迫に、ヴィータたちは驚き、スバルとティアナは黙ってしまう。

 

二人が去って数秒、ようやくスバルが口を開いた。

 

「…………2人とも、先に帰っているそうです。」

「「そのよう(だな/ね)……」」

 

 

 

 

 

グロウン・キッド――本体不明

――再起可能

ネギ・スプリングフィールド――ただでさえ心身ともに疲れているのに、さらに疲れた。

リインフォースⅡ――何故あそこでシャーリーを怒鳴ってしまったんだろう?と反省。

シスター・シャークティ――今回の事がトラウマになり、しばらくの間外に出られなかった上、『カエル嫌い』から『カエル恐怖症』に昇格(ランクアップ)してしまった。

 

 

 

←to be continued…

 




4話です。

・話の流れは以前とさほど変わっていませんが、互いに『矢』の事でピリピリさせています。

・この後徐倫達はのどかと接触して、スタンド使い陣営に加え、ネギ達を警戒することになります。

では、次回をお楽しみに!


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#05/居残り授業を受けよう!

「---成程、彼がねえ………」

「ミャ~」

 

どこかの、ホテルらしき部屋。

渡された写真を見てその少女は、膝に乗った猫を撫でながらそう呟いた。

 

「どうするの?あのコ、今結構注目浴びているみたいだよ?」

「どうするの?あのコ、矢で射貫くの?」

 

黒と白の双子の兄妹は、その少女に聞いた。そうね、と少女は呟くと、背後に控えた男に写真を渡した。

 

「彼の件は、サルシッチャ、あなたに任せるわ。なるべく人目の少ない時を見計らってちょうだい。」

「了解しました。」

「ソルとルナには、『田中 かなた』の監視をお願いするわ。あの女子、メイドがいつも一緒だから、気を付けて。」

「「分かったよ、お嬢さま♪」」

 

ソルとルナの兄妹はそう返事をすると、仲良く手をつないで退出していった。少女は紅茶を一口飲むと、夜の麻帆良学園都市を見下ろした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

『グロウン・キッド』との戦いから3日後の金曜日

 

昼休み

麻帆良学園職員室

 

 

「『居残りさんリスト』?」

「ああ、高畑先生は、たまに小テストをやっていてな。あまりにも点数の低い生徒は、放課後に『居残り授業』をさせるんだ。それを、君に引き継いでほしいそうだ。」

 

そう言ってリストを渡すウェザー。リストには、6人の名前と点数が載っていた。その中には……

 

「あ、アスナさんもいる。アスナさん英語ダメだからなぁ。」クスクス

「本人は居残り授業を楽しみにしていたみたいだがな……だが3学期に赤点とる生徒が出るのは、『実習生』として問題だぞ?」

「う……た、確かに。」

 

ウェザーに言われ、反省するネギ。

 

(うーん……でも、アスナさんにはずっと迷惑かけちゃったから、これでお返しが出きるかも……よし!)

 

「分かりました!やらせて下さい!『居残り授業』の引き継ぎ!」

「…よし、分かった。『6人』には、オレから伝えておこう。」

 

そういうとウェザーは、職員室から出ていった。ネギは、早速居残り授業の準備を始めることにした。

 

 

 

 

 

#05/居残り授業を受けよう!

 

 

 

 

 

放課後2年A組

 

「――というわけで……」

 

今、教室内には『7人』の生徒が居残り授業を受けるため、残っていた。

 

 

両サイドを三つ編みにし、後ろは二つに束ねた小柄な少女――綾瀬 夕映(あやせ ゆえ)

 

 

徐倫と同じくらいの身長の、細目の少女――長瀬 楓(ながせ かえで)

 

 

金髪、色黒の中国系の少女――古菲(クーフェイ)

 

 

髪を左右で束ねた少女――佐々木 まき絵。

 

 

そして、明日菜と徐倫、スバルの7人だ。

 

 

「A組の『バカ5人衆(レンジャー)』+αがそろったわけですが…」

「誰がバカ5人衆よ!!」

「てか、私は小テスト当日に熱でブッ倒れたから『再テスト』受けるだけだろうが!!」

 

意義を唱える二人。楓と古菲は気にしてない様子で徐倫に

 

「ジョジョ、そう言わないで欲しいネ。」

「そうでござるよ司令官(コマンダー)ジョジョ。」

「誰が司令官だ!!後ジョジョって呼ぶなっつってんだろ!!」

 

火に油を注いだ。徐倫は、二人に怒鳴り散らすと、ぜーぜーと肩で息をする。ふと、ネギが首を傾げた。

 

「ジョジョ?」

「ああ、徐倫のアダ名よ。ほら、「空“条 徐”倫」で、『条』と『徐』が続いてるでしょ?」

「ナルホド………」

 

明日菜の説明に納得をするネギ。そこで、

 

「………で、何で私まで居残り授業を?」

 

口を開いたのは、今まで座って黙っていたスバルだ。彼女の名前は、リストには載っていないはずだ。なのに、帰りのHRに、急にネギに残るよう言われたのだ。

 

「あ、僕スバルさんの学力がどの位か知らないから、いい機会だし、ついでに知っとこうかな~~って思って。」

「ってそれ要するに、私たちと比べるってこと!?」

「うわ~~ん、ネギくんが先生みたいなこと言うよ~~」

「実際先生だがな……」

 

こうして、居残り授業が始まった。

 

 

 

 

 

「では、これから10点満点の小テストをしますので、『6点以上』取れるまで帰っちゃダメです。」

 

言うと、ネギはテストのプリントを配り始める。

 

「えーっと、全員に行き渡りましたね?じゃあ、始めて下さい。」

 

ネギの号令と共に、全員が一斉に問題を解き始める。

 

 

 

☆そして5分後★

 

 

 

「できましたです……」

「私もーー」

「ほらよ。」

 

夕映、スバル、徐倫が、ネギに解き終わったテストを渡す。

 

「えーっと、綾瀬さん9点、スバルさんが8点、そして空条さんが10点!皆さん、合格です!」

「おっし!」

「まあ、こんなもんよ。」

「……」

 

三者三様でリアクションをする、一抜け組3人。夕映は普段と変わらないが。

 

「綾瀬さん、全然できるじゃないですか?」

「……勉強キライなんです。」

「「へ………?」」

 

リアクションに困るネギとスバルだった。

 

「………夕映、あんたいい加減ちゃんと勉強しなさいよ。」

「嫌です。」

「……やれやれだわ。」

 

徐倫のツッコミも、意味がなかった…

夕映は、待っていたのどかとメガネにアホ毛の少女――早乙女ハルナと共に、教室を後にした。

 

「できたアルよー」

「できたよネギくん♪」

「んー」

 

楓、古菲、まき絵も、終わったらしい。

 

 

 

 

採点結果

  楓――3点

 古菲――4点

まき絵――3点

 

 

 

「「「……」」」

「「「ナハハ………」」」

 

散々な3人だった。

 

「―あれ?アスナさんは?」

「う…」

 

言われて、ぐいっとプリントを出す明日菜

 

 

 

明日菜――2点

 

 

 

「「「………」」」

「あんたたちねえ……」

 

もっと散々な明日菜。3人は黙り込んでしまい、徐倫は呆れてものを言えない。

 

「じゃ、じゃあ、ポイントだけ教えますね!終わったらもう一回やってもらいますから!」

「はーい。」

「がんばれ~~」

 

ネギは、残った4人にテストのポイントを教える。スバルと徐倫は、残って見守るようだ。

 

「えっと、ここがこうなってこうなるから……」

「ふんふん。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

一時間後

 

 

楓、古菲、まき絵も帰り、残るは明日菜のみだが……

 

 

 

「「「……………」」」

「……もういいわよ…私バカなんだし………」

 

並んだテストの点数――1~4点――に、何て言ったらいいかわからない3人。明日菜はもういじけていた……

 

「おーーい、調子はどうだいネギ君。」

 

そこに、高畑がやってくる。様子を見に来たようだ。

 

「お、例によってアスナ君かーーー。あんまりネギ先生を困らせるんじゃないぞー。」

「た、タカミチ」

「た、高畑先生!!こ、これは……!」

 

明日菜が弁解しようとするも、高畑は「じゃあがんばって」と言い残して、行ってしまった。

 

「…………」

「ア…アスナさん…」

「アスナーー?」

 

ぷるぷると震えている明日菜に、何とか声をかけるネギとスバル。徐倫は黙ったままだ。

 

 

次の瞬間。

 

 

 

「うわあああーーーーーーーーーーーん!」

「ああ!?」

「お、おい!?」

「アスナ!?」

 

いきなり教室を飛び出す明日菜。追おうとする3人だが…

 

ドヒューーーン

「「って速っ!?」」

「アスナさーーーーん!!」

 

本当に人間か!?というスピードで、既に教室2つ分位遠くまで行ってしまった明日菜。ネギは『杖を持って』明日菜を追いかける。スバルも一緒だ。

 

 

 

 

 

「………もう帰っていいわね?」

 

1人教室に残った徐倫はそう呟くと、帰る準備を始めた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

麻帆良学園湖の西側の道

 

 

ジョギングをする人たちのコースにもなっているこの道を、男は歩いていた。

 

特に意味はない。単なる気分転換にだ。

 

『矢』のことでこの街―――麻帆良に来たが、なかなか良い街だと、男は思っていた。自然も豊かで、街の雰囲気もいい。やはり、『娘』をここに入れたのは、正解だったな。

 

男がそう思っていると……

 

 

 

 

 

ドヒューーーーーーン

「!!?」

 

『世界陸上出たら世界新記録出るんじゃね?』というスピードで、目の前を女子中学生が通り過ぎ、

 

シュバーーーーーー

「アスナさーーーーーん!!」

「待ってよアスナーーーーー!!」

 

後を追うように、『杖に乗った少年と女子中学生』が通り過ぎた。

 

「……やれやれだぜ…………」

 

男は誰に言うでもなくそう呟くと、彼らを追うことにした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

湖湖畔

 

 

「あ…あんた……私の足に追いつくなんて…なかなかやるわね…」

「こ……この『杖』……自動車くらいの速度……出るんですけど…」

「……マジ?」

 

どれだけ足が速いんだこいつは?という目で明日菜を見る2人だが、相当疲れたらしく、明日菜と共にその場に座り込んでしまう。

 

「…あんた、何でそんなにがんばるのよ?」

「え?」

 

ふと、明日菜はネギにそう聞いた。

 

ネギは未だ10歳だ。何でこんな歳の子供がそんなに頑張るのか、明日菜には不思議だった。

 

「……僕、憧れている人がいるんです。」

 

ネギは語り始めた。自分が頑張る理由を…

 

「……ただ、みんなはその人は死んだんだって言います。でも…僕にはあの人が死んだとは思えない!あの人は……千の魔法を使いこなす最強の魔法使い……『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』は…この世界を旅しながら、たくさんの不幸な人を救ってるんです…!」

 

ネギはそう言って、自分の……あの日、父から授かった杖を見つめる。

 

「……だから僕は、あの人のような立派な魔法使いになりたいんです!そうすれば、この広い世界のどこかであの人に会えるかも知れないから…!」

 

ネギは、力強くそう答えた。

 

 

スバルは思った。ネギのこの憧れは、自分のなのはに対する憧れに近いものだと。

 

 

明日菜は、力強く答えたネギを見て、言いようのない感情が沸いてきた。そして…

 

 

「あーーーーーーーーーーー!!もう!!分かったわよ!!やればいいんでしょ勉強!!」

「え?」

「アスナさん……」

 

いきなりそう叫ぶ明日菜に驚く2人。明日菜は、何故か持ってきてしまったプリントを解きはじめる。

 

「あんたがそのマギ……何とかになるには、今の先生の仕事をうまくやんなきゃいけないんでしょ?………協力するわよ。」

「ア……アスナさん……」

「アスナ…」

 

ネギとスバルは、明日菜の一言に、涙腺が緩む。なんだか、うれしい気持ちでいっぱいだった。

 

「ありがとうアスナさん!!……あ、もうこんな時間だ!今日の続きは帰ってからに――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスゥウ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

何が起こったのか分からなかった。

 

 

 

 

明日菜にも、

 

 

 

 

 

スバルにも、

 

 

 

 

そして、ネギにさえも……

 

 

 

 

「ネ………」

 

 

 

 

ネギが立ち上がった瞬間、

 

 

 

 

 

古めかしい『石の矢』が、

 

 

 

 

 

ネギの胸を『貫いていた』……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネギィィィイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

明日菜の悲痛な叫びが、湖に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

←to be continued…

 




5話です。

・サブタイトルは「『狩り(ハンティング)』に行こう!」から。

・話自体は原作と大して変わっていませんが、暗躍するお嬢様陣営の様子や、『ジョジョ』のあだ名の解説等を追加しています。

・ネギ『スタンド使い化』。
 二つの勢力に、三人の主人公、片方に二人いたんじゃあバランスが悪いと思い、ネギは中間ですw

では、次回をお楽しみに!


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#06/空条 承太郎!ネギ・スプリングフィールドに会う

麻帆良学園 とあるビル 屋上

 

 

ガチャリ

「……どうだった『サルシッチャ』?『矢』は彼を射抜いた?」

 

屋上のドアから入ってきた少女は、先に来ていたサルシッチャに話しかける。

 

「問題ありません。わが能力、『アンダー・ザ・レーダー』は正確無比!確実に少年の胸を貫きました!」

 

サルシッチャは先ほど少年を射抜いた『矢』を構えながら、自信たっぷりにそう言った。彼の近くには、このあたりの『地図』があり、それを覆うように、彼の能力が立っていた。

 

「そう……彼の能力、私たちの役に立てばいいけど……」

 

そういうと彼女は、少年がいたであろう「湖」の方を見た。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ネギが射抜かれてから2時間後

 

麻帆良総合病院 集中治療室前

 

 

今、集中治療室の前には、3人の人物がいた。一人は明日菜、もう一人はスバル。そしてもう一人は……

 

 

 

「スバルッ!」

「アスナーー!」

 

ふと、二人を呼ぶ声と、ドタドタと騒がしい足音がした。そちらを見ると、A組のクラスメートたちに加え、ティアナとフェイトが駆けてくる所だった。

 

「ネギ先生が矢に刺されたって、本当なんですのっ!?」

「ネギくん、大丈夫なん!?」

「アスナ!?どうなの!?答えてよォオオオ!!」

 

あやか達に問いただされる二人。全員、ここが病院という事を忘れて、ギャーギャーやかましく話している。

 

そこへ

 

「やかましいッ!!病院内では静かにしやがれッ!!」

 

先ほどからいた男が怒鳴り、やかましいA組の面子がピタリと黙った。

 

ふと、ティアナは気づいた。この男は、先日会った人物だ。

 

「あ、あなたはこの間の……」

「なッ!!何で親父がこんな所にいるんだよ!?」

 

ティアナが言い終わる前に、徐倫が叫んだ。

 

 

 

「「「「「「「ってえぇーーーーッ!?」」」」」」」

 

徐倫の言葉に、明日菜やスバルたちは驚く。

 

「じ、徐倫のお父さんッ!?」

「マジで!?何この偶然!?」

「ていうか、失礼だけどあんまりジョジョに似てないじゃん!?」

 

男の正体を知り、再び騒ぎだす明日菜たち。だが、男がギロリと睨むと、再びピタリと止んだ。

 

「……彼はまだ治療中だ。運び込まれてからまだ1時間だが、そう長くはかからないだろう。」

 

男はそう彼女らに言い聞かせる。それを聞いて、全員つらそうな顔をする。

 

そんな時、『治療中』のランプが消えた。

 

ガチャ

「!!先生!ネギは……!?」

 

医師が出てきて、全員が詰め寄る。全員、不安そうな面もちだ。

 

「……矢は心臓近くを貫いていたみたいですが、一命はとりとめました。回復も早いので、数日中には完治するでしょう。今はまだ目覚めないので、今日は入院したほうがよろしいかと………」

 

それを聞いて、全員に笑顔が戻る。今にもハシャぎそうな勢いだが、徐倫の父にまた怒鳴られそうなので、我慢する……

 

 

 

 

 

#06/空条 承太郎!ネギ・スプリングフィールドに会う

 

 

 

 

 

麻帆良総合病院 待合室

 

 

「……それで、ネギくんを射抜いたのは、あの『矢』だったのね?」

 

みんなが帰った後、フェイトは明日菜とスバルに聞いた。もしもあの『矢』だったら、犯人たちはあれを使った犯罪を、今も続けていることになる。

 

「うん…でも、回収はできなかった。」

「……?」

「いや、回収しようにも、できない状況にあって……あ…ありのまま、起こったことをはなすよ!『私たちが気付いたときには、『矢』はすでに、ネギくんの胸から消えていた』……」

 

スバルの話を聞いて、フェイトは絶句した。

 

「な…何を言っているか分からないと思うけど、私たちにも、何が起こったのか分からなかった。魔法だとか、超スピードだとかそんなチャチなものじゃあ断じてない……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……」

 

明日菜も、スバルに続く。どうやら、ネギを射抜いた犯人は、自分たちの魔法に関する常識を超越した『能力(ちから)』を持っているらしい…

 

そこに、トイレに行っていたティアナがやってくる。

 

「フェ………フェイトさん!!」

「どうしたの?そんなにあわてて?」

「い……今トイレの方で、徐倫さんたちが……」

「「「???」」」

 

 

 

ティアナの話では、徐倫とその父、そして、顔は影で見られなかったが、あと『6人』が、『矢』について話していたという。しかも、話の内容から察するに、徐倫たちは矢について詳しく知っている様子だったらしい。

 

「それって……!!?」

「……い、いや、ありえないわよ!!だって、徐倫は、ずっと同じクラスだったのよ!!そんなことするような子じゃあ……!」

 

話を聞いて、信じられないという面持ちの明日菜とスバルだった。

 

「……いずれにしても、彼女たちについて調べる必要があるわね。明日にでも、問いただして見ましょう。」

 

フェイトがそう決定し、明日菜たちは帰宅することになった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

翌日

 

ネギの病室

 

 

「いやー、皆さん、すいません…僕のために色々としてもらって。」

 

ネギは、見舞いに来た明日菜、木乃香、スバル、ティアナたちに、申し訳なさそうに感謝する。

午前中は他のクラスメートたちが見舞いにきたらしいが、ものすごく騒がしくなってしまったため、婦長さんに追い出されることになったらしい……まあ、あの面子なら仕方ないが。

 

「いいのよ。それより、胸のほうは大丈夫なの?」

「はい、回復のスピードがあまりにも速いって、お医者さんが驚いていましたが…」

「そうみたいやな~、月曜日にはもう退院できるんやろ?」

 

花瓶に花を生けながら、木乃香が言う。

矢が胸を貫通するほどの重傷だったにもかかわらず、ネギの回復力は凄まじく、もう月曜日には退院とのことだ。

 

「ええ、アスナさんとスバルさんが、早くに救急車を呼んでくれたおかげですよ。」

「えっ、いや、私たちなんて……ねぇ?」

 

ネギにお礼を言われ、複雑そうな顔をする二人。

 

「…………私たち、あの時、何が何だかわからなくなって……『承太郎さん』があの時来てくれなかったら…………」

「……『ジョータローさん』?」

 

知らない名前に、首を傾げるネギ。その謎は、すぐに解ける事となった。

 

コンコン

「うぃーっす。って…」

「なんだ、神楽坂たちも来ていたのか。」

 

入ってきたのは、徐倫と千雨だ。だが、後ろにはネギの知らない大男がいた。

 

「あ、承太郎さん、ちょうどいい所に。ネギくん、この人がさっき言ってた―――」

「初めましてネギ君、娘が世話になっているみたいだな。俺の名は空条 承太郎(くうじょう じょうたろう)。ま、名前の通り、徐倫の父親だ。」

「えっ?く、空条さんの!?は、初めまして……」

 

意外な人物の登場に驚くネギ。とりあえず、こちらも挨拶する。

スバルの話によると、偶然通りかかった承太郎が、的確な指示をしてくれたらしい。

 

「……それで、胸はもう大丈夫なのか?」

「えっ………ええ、月曜日にはもう退院できて……」

 

承太郎にいきなり言われて慌てるネギ。

何故か明日菜たちも、少し苦手そうな顔だ。承太郎から、無言の圧力(プレッシャー)が掛かってくる。何だか、叱られている気分だ。

徐倫と千雨は平気そうだが……

 

(……あー、全員親父の無言に耐えきれそうにないなぁー。)

(初めてじゃあ仕方ないな。)

 

意外とのんきだ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

徐倫たちが退室し、木乃香が売店へ行くと、『魔法使い組』は、先ほどの空条親子たちについて話し始めた。

 

「矢について、あまり話しませんでしたね…もっと聞いてくると思ったのに……」

「向こうも警戒しているのかしら?」

「さあ?でも、矢に射抜かれる事が重要だったみたいだよ?」

「……やっぱり、あの『矢』には、何かあるみたいね………」

 

全員がそれに頷く。考えれば考えるほど、『矢』の謎は深まった。

 

 

 

 

 

 

 

チュミィィ〜〜ン

 

 

「ん?」

 

ふと、ネギは何か声のようなものを聞いた気がした。

 

「……?どうしたのネギくん?」

「……今、何か聞こえたんですが………」

「え?……………何も聞こえないけど?」

 

全員耳をすましてみるが、何も聞こえない。だが、

 

 

チュミ……チュミィィ〜〜〜ン

 

 

「ほら、また!!」

「………ここって、『出る』の?」

「いや、そんなこと聞いたことないけど………」

 

引きつった顔のティアナが明日菜に聞くが、明日菜はそんな噂聞いたことなかった。

ふと、スバルは気づいた。ネギの肩に、何かが乗っている!

 

「……!!ネギくん、それは!?」

「えっ?」

 

スバルに言われ、自分の肩を見たネギが見たものは

 

 

 

 

 

『チュミィィ~~~ン』

 

ウサギのような姿の、精霊のようなものだった。

 

全長は15cm前後、色は全体的にピンク色で、体のあちこちに星マークが浮かび、目は困ったような形だ。鼻は尖っていて、先端が額の大きな星マークと糸のようなもので繋がっている。胴体はクリオネのようで、足に当たる部分には、四本の短い触手らしきものが生えている。

 

そんな、一見かわいいようなものが、まるで歯医者のドリルのような、それでいて動物のような鳴き声を発していた。

 

「うわっ!?な、何これ!?」

 

驚いて後ずさるネギ。『精霊のようなもの』は、その場にふよふよと浮きながら、ネギを見ている。

 

「な、何かウサギっぽいけど……」

「さっきまでこんなのいた?」

 

明日菜とスバルは、不思議そうに精霊をまじまじと見る。

そんな三人の様子を見ていたティアナは、少し怪訝そうな顔で尋ねる。

 

「……ねえ、ウサギなんてどこにいるの?」

 

ティアナの一言に、三人はティアナを見る。その顔は、『驚愕』だった。

 

「え?ティア、『これ』が見えないの?」

「……てか、あんた達には何が見えてるの?」

 

ティアナは、三人が何を見ているのかが不思議だったし、三人には、ティアナに精霊が見えないのが不思議だった。

ふと、スバルはあることに気づく。

 

「もしかして、『矢』に射抜かれたのが原因?」

「「「「あッ!?」」」」

 

全員気がはっとする。なるほど、これがあの『矢』の力なのか。

 

「………問題は、あんた達に見えている『精霊(それ)』が何なのかってことよね。」

「そうね……それに、徐倫たちが何でそれを知っているのかもね……」

 

矢の能力は分かったが、新たな謎が生まれたのだった……………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ネギが退院した日

 

午後6時過ぎ

 

クラスメートの一人、超・鈴音(チャオ・リンシェン)の経営する飲茶屋「超包子(チャオパオズ)」で、クラス全員参加のネギの退院祝いをした後、ネギ、明日菜、スバル、ティアナ達は帰路についていた。

 

「いや〜、本当に盛り上がったねぇ〜♪」

「スバルは食べてばっかだったけどね……本当に、あんたの胃袋どうなってるの…………?」

「まあ、前衛ってカロリー消費激しいらしいし……ん?」

 

スバルの暴飲暴食っぷりを思いだし呆れていると、道の100mほど先に、徐倫と千雨、そして、長い髪をポニーテールにした、背の高い少女――大河内 アキラ、さらには、まき絵と承太郎までが、何か話しながら歩いているところであった。

 

「………徐倫たち、だね………」

「何か話しているみたいだけど………追いかけてみる?」

 

明日菜とスバルが提案をするが、それにネギが反論する。

 

「だ、ダメですよ!クラスメートを疑うなんて………!話せばきっと分かりますって………!」

「それは、そうだけどさぁー………」

 

慌てて言うネギに、少し困ったように返事をする明日菜。眉をしかめながら再度前方の一団の方を見た。

 

「はッ!?」

 

そこに来て、明日菜は気づいた。一団の中に、『千雨がいない』!?

 

「ち、千雨ちゃんは……!?さっきまでいたのに………千雨ちゃんはどこに行ったの………!?」

 

 

 

 

 

「一つ、言わせてもらうが……」

「「「「「「!!!???」」」」」」

 

急に、後ろから声がする。振り向くと、100m先にいたはずの千雨が、彼女らの『後ろ』にいた!!!

 

「そんなお粗末な『追跡』じゃあ、私らは追えないぜ………!」

 

道の方を振り向くと、徐倫たちもこちらに向かって来ていた。後50m位だろうか。

 

「まッ、待って!!私たちは別に……」

 

そんな時、ティアナのもつ『クロスミラージュ』から、通信音がした。ティアナは回線を開くと……

 

[みんな!!今、そっちの方にガジェットが……!!]

「ん?何だよそれ……?」

 

だが、千雨が質問し終わる前に、ガジェットたちが彼女らを囲んでいた。『転移魔法』の反応もなしに、だ。

 

「な!?いきなり現れた!?」

「こいつらは……!」

 

スバル達は戦闘態勢に入ろうとして、躊躇った。

 

(どうする?このまま行く?)

(でも、それじゃあ徐倫たちに……)

 

そうこうしている内に、ガジェットたちが千雨に迫る。だが、千雨は動こうとしない……

 

「はッ長谷川さん!!」

「あんたッ!早く逃げ――」

 

ティアナが言い終わる前に、

 

 

 

 

 

 

 

ガジェットが、一瞬で『輪切り』になった。

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

切り刻まれたガジェットが爆発する中、呆けた表情のティアナ。だが、ネギ、明日菜、そしてスバルの三人には、『見えていた』!

 

千雨がいつの間にか握っていた「二本の小太刀」で、ガジェットを『斬り裂いた』のを!!!

 

 

 

 

 

「…………お前等との話は『後』だ。」

 

千雨は、小太刀を構えて言う。左手を逆手に持ち、前方で縦に交差させる、独特の構えだ。

 

「今は!!」

 

瞬間、千雨に迫っていた一機のガジェットを、左で逆胴、右で唐竹割りと、交差するように斬る。

 

「こいつらを全部『ぶった斬る』!!!」

千雨は、十数機いるガジェットに向かって、かけていった。

 

 

 

 

←to be continued...




6話です。

・サブタイトルは「空条承太郎!東方仗助に会う」から。

・ネギのスタンドが「タスク」なのは、今後魔法拳士の道を選んだ際に役立つと思ったからです。カモにスタンドが見えていたら、マスコット枠を争いかねませんがw


では、次回をお楽しみに!


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#07/精霊 その正体!

麻帆良学園近くの大通り

 

 

「ねえ、今千雨ちゃんの近くにいるのって………!」

「ああ、『この間の』ヤツらだ!何故かスバルたちもいるみたいだが、恐らくは『能力者』だろう!」

「そして『ネギ君』!彼がいるということは!恐らく連中は『矢』の関係者!」

「……とにかく、やつらを『ぶちのめす』!聞き出すのは、それからだ!!」

 

徐倫たち4人は、立て続けにそう話しながら、千雨たちの所にかけていった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

同時刻

 

大通り近くのビル

 

「戦闘が開始されました。」

 

自分の能力――『アンダー・ザ・レーダー』で様子を見ていたサルシッチャは、後ろで椅子に座りながら猫の背中を撫でている少女に報告する。

 

「そう……『彼の能力』を知るには、やはり『戦闘』をさせるに限るわ………」

「…………しかし『ルル・ベル様』、もし、彼が能力に目覚めていなかったら……?」

 

ルル・ベルと呼ばれた少女は、少し不機嫌そうな顔をする。猫はそんな彼女を察し、むずがった。

 

「……何を言っているの、サルシッチャ?『矢』が彼を『選んだのなら』、確実に「目覚めている」わ……さっさとガジェットを追加で『転送』しなさい。」

 

ルル・ベルはそういうと、テーブルに置いておいた紅茶を飲む。……が、

 

 

 

「もう温くなってる…はぁ………」

 

 

 

 

 

#07/精霊 その正体!

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁあああああ!!!」

 

叫びながら、千雨はガジェットに斬撃を喰らわせる。その動きは、まさに『目にも留まらない』!

だが、何機か撃ち漏らしてしまい、それが千雨の後ろに回りこむ。が、

 

「おおおおおおおおお!!」

 

それを、『リボルバーナックル』を装備したスバルが『ぶん殴り』破壊する。

 

「!!ナカジマ…なんだよその格好!?」

 

スバルのバリアジャケット姿―――ジーンズの短パンに黒いへそ出しノースリーブでコート裾のような形の長い腰布と、肌着と同じくへそまでの高さの長袖ジャケットで露出が多く、ローラーブレードを履き、右腕には巨大な籠手をはめている―――を見た千雨が、驚いた様子で質問をする。

スバルはニッと千雨に笑みを見せると、

 

「……長谷川さんが『小太刀(それ)』のこと教えてくれたら、私も教えてあげるよ。」

「…………へっ、言うじゃねーか……よっ!!」

 

皮肉っぽくそう言いながら、近くのガジェットを袈裟懸けに斬ると、背後にいるネギと明日菜に怒鳴った。

 

「お前ら!こいつらと戦う術がないんなら、私たちから離れるんじゃねーぞ!」

「え!?う、うん………」

 

そのとき、攻撃が『上から』来た。見上げると、空戦用の『ガジェットⅡ型』が攻めてきていた。さすがの千雨も、上空からでは手が出せない。

 

 

『千雨は』……だが。

 

 

ドグシャァ

「「「「「「!!?」」」」」」

 

いきなりⅠ型が飛んできたと思ったら、Ⅱ型に激突し、両方とも破壊される。Ⅰ型が飛んできた方向を見ると、徐倫と承太郎、空条親子がいた。

 

「じょ、承太郎さんたち!?」

「い、今のはいったい……?」

 

ティアナには、何が起こったのかさっぱりだったが、ネギたちには見えていた。承太郎と徐倫の側に、『誰か立っている』!!

 

 

 

 

 

承太郎の側には、黒い髪を逆立てた、青い肌に筋肉の『鎧』を纏った古代ローマの拳闘士のような男が立ち、

徐倫の方は、水色で、どこか無機質な印象の肌をした、サングラスをかけた亜人だ。

 

「……ネギ君、君には『見えるか』?俺の「スタープラチナ」が…………徐倫の「ストーン・フリー」が……!」

「……ええっと、2人の側に立っている人……?なら見えますが…………?」

「……やれやれだぜ……ま、「これ」については後で話すとして、徐倫!」

「ああ、今は先にこいつらを!」

 

空条親子は、ガジェットに向き直ると、ガジェットに向かって指を刺す。

 

「「全員ぶちのめすっ!!!」」

 

言った瞬間、ガジェットたちが二人に迫る。だが、二人には何の問題もなかった。

 

「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアーーーーーーー!!」」

 

彼らの側に立つ『守護霊』のようなものが、ガジェットたちを殴る!

 

殴る!!

 

ぶん殴る!!!

 

まさにそれは拳の(ラッシュ)!殴られたガジェットはそのボディを拳の形に凹ませて、次々に吹っ飛ばされる!!そして、吹っ飛ばされた先にいたⅡ型はその『とばっちり』を受け、次々に破壊されていく!

 

「な……………何よあれ……!?ガ、ガジェットが……独りでに壊れていく……!?」

 

ティアナは呆けた顔をしている。彼らの『守護霊』が見えない者からすれば、「ガジェットたちが空条親子に近づいたら、独りでに凹んで吹っ飛んでいく」ようにしか見えない。

 

だが、そんな時でも、ガジェットは襲ってくる。いち早く復活したティアナがそちらを向くと…

 

ドガァ

「「!!?」」

 

『鉄球』が飛んできて、ガジェットに命中する。鉄球は回転を続けながら、ガジェットにどんどんめり込んでいき、最終的に、ガジェットは機能を停止した。

 

パシィッ

「よそ見は禁物だよ?まあ、あれ見たら仕方ないけど……」

 

バウンドしてきた鉄球をキャッチしたアキラが、ティアナに言った。

 

「い、今のは……?」

「……我が一族伝統の『鉄球の回転』!原理や回し方は門外不出ゆえに、詳しくは話せないけど……はぁっ!!」

 

アキラは照れくさそうに話すと、鉄球を別のガジェットへ投擲する。

 

「そう……なら聞かないわッ!!」

 

ティアナも魔法弾を放った。

 

「な、何なのよ、コレ………?何が、どうなっているのよ………!?」

 

クラスメートとその親が、謎の機械をばったばったとなぎ倒していく様を目の当たりにして、明日菜は呆然と呟いた。ネギは杖を握る両手に力を込めた。

 

(………せめて僕にもガジェットに対抗する力が……)

 

AMFの無効化に対処できない自分の非力に、歯がゆい思いをするネギ。その時、2人の背後からⅡ型が三機、特攻してきた!

 

「!?アスナ!」

「しまった……!こいつらどきやがれ!」

 

気が付いたスバルと千雨だが、彼女たちの行く手をⅠ型とⅢ型が阻む!

 

「クッ!アスナさん!早く逃げて!」

「ネギ!?」

 

ネギは、杖を構えて明日菜の前に立った。そして呪文を詠唱し、防御しようとする。

 

「!?ダメだ!障壁が出な―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フム、少年ヨ、君のソノ『精神』、私ハ敬意ヲ賞スル!』

 

 

 

 

 

「「え?」」

 

背後から声が聞こえたかと思うと、急に背中を引っ張られて宙に浮かぶネギと明日菜!

ネギ達がいなくなった地点にⅡ型が突っ込んで爆発を起こすのを見て、2人の飛んで行った地点を目で追うと………

 

「なッ……あ、あなたは………!!?」

『フム、ダガ、何ノ対抗策モ無しニ立チ向カウノハ、勇敢トハ言い難いゾ?』

 

自分たちを引っ張ったその人物を見て、ネギが驚愕の表情となる。

 

 

緑色の体、一つ目にどじょうひげ、そして頭に巻いたターバン!

 

 

そう、こいつは!こいつは!!

 

 

「「「「グロウン・キッド!!!!!」」」」

 

『YES,I AM!! チッ♪チッ♪』

 

ネギと明日菜を下し、某炎の魔術師みたいなポーズとセリフで、魔神――『グロウン・キッド』は返事をした。

 

「おーーーい、ネギ君たち大丈夫ーーー?」

 

そこに、リボンを持ったまき絵がやってきた。

 

「あ、ってまきちゃん!?」

「まき絵さんっ、何であなたまで!?」

『……フム、まき絵ヨ、コチラハカタヅイタ。ダイブ数も減ってキタシ、ソロソロ徐倫タチト合流シヨウ。』

「OK!!」

 

グロウン・キッドの提案に、賛同するまき絵。そして、行こうとして、

 

ガシィ

「待ちなさいよ!何であんたがまきちゃんと顔見知りなのよ!!?」

『フム?』

 

明日菜に止められた。まあ、確かにこんな得体の知れないものがクラスメートと顔見知りだったら、疑問に思って正解だが……

 

「あーーーー、そのことなんだがな、神楽坂。」

 

そこへ、同じくガジェットを倒した千雨や徐倫たちが、集まってきた。

 

「G・キッドの『本体』はまき絵だからな。別に何にも不思議じゃあない。」

 

明日菜たちに説明する徐倫。だが、明日菜は首を傾げたままだ。

 

 

 

「………その『本体』について、詳しく説明してもらえるかな?」

 

声が聞こえて振り向くと、なのはとフェイト、そしてヴィータの三人がいた。

 

「結構な数がいたから応援に来たんだけど……いらなかったみたいだね?」

 

少し困ったように、フェイトは言った。周りには、ガジェットだった大量のスクラップが散らばっていた。

 

「……その前に、お前たちは何者なんだ?俺たちのような『能力者』ではないようだが……?」

「……そうですね、あなたたちの前に、私たちから説明させてもらいます。」

 

承太郎に聞かれて、なのはたちは、説明しだした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

承太郎たちから少し離れた草陰

 

 

「どうやら、あんたを追ってきた魔導師は、あいつらで全員みたいだな。」

「ああ、相手は強敵ぞろいだが、オレとあんたのコンビなら勝てる!!」

「へへっ久しぶりだぜ!あんたみたいなパートナーとめぐり合えたのは!行くぜ!」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「魔法使いだぁ!!?」

 

なのはたちの話を聞き、自分の予想の斜め遥か上をいった内容に、千雨はすっとんきょうな声を上げた。まき絵だけは「すごーい!」と目を輝かせていたが、承太郎は帽子の鍔を直して「やれやれだぜ」と呟き、アキラは困惑した顔になった。

 

「……え、何?アンタ達、マジで自分が『魔法使い』だって言ってるのぉー?飛んでるじゃあーん!マジでクールだわあーーーッ」

 

若干おどけたように言う徐倫。ティアナと明日菜、ヴィータに少し冷めた目で見られている事に気が付くと咳ばらいをした。

 

「……あー、バカにしているように見えたのなら、謝るわ…………イキナリ『魔法使い』なんて言われても、信じられないもの………」

「だが、納得のいく部分もある………俺たちと同じような『能力(ちから)』を持っているとしたら、割と『多彩』な使い方をしていたからな………それこそ、「魔法」としか言いようがない………」

 

承太郎がそういうと、確かに、と納得をする徐倫。困惑していた千雨も少し落ち着いたのか、ネギの方を見た。

 

「……ナルホド、あたしらとは別の、『魔法』という力を持っていたから、先生は『矢』に射抜かれた訳か………」

「じゃあ、やっぱり空条さんたちは『矢』の事を………!」

 

千雨の言葉を聞き、スバルは徐倫達に聞いた。

 

「…ああ、私やまき絵は、あの矢に射抜かれて、この「能力(ちから)」に目覚めたんだからな……2年前の事だ………千雨やオヤジみたいに、ある『キッカケ』で目覚めるやつもいるけれど………」

 

徐倫の言葉に、全員が驚く。承太郎が、話を続けた。

 

「………先に言っておくと、矢は複数ある。そのうち1本は破壊されたらしいがな……あの矢は人を選び、そして、眠っている力を目覚めさせる………これは、生命エネルギーが作り出す、パワーある(ヴィジョン)だ!俺たちはこれを『立ち向かうもの(スタンド)』と、そう呼んでいる!」

立ち向かうもの(スタンド)……」

 

立ち向かうもの(スタンド)……それが、自分たちが探していた矢の秘密…!

恐らく盗んだ「オエコモバ」も、この秘密を知っていたのだろう………

 

「ネギ君が矢に刺されて『生きている』以上、スタンドに目覚めている事は間違いないだろう……まき絵君の『グロウン・キッド』のように、物質に融合したタイプなどは別だが、スタンドは『スタンド使い以外には見えない』………何故スバル君や明日菜君にも、俺の『スタープラチナ』や、徐倫の『ストーン・フリー』が見えているかは不明だが、もしかしたら才能があるのやもしれない………」

「スタープラチナやストーン・フリーって………さっきの守護霊みたいな奴のこと?」

 

承太郎の説明に、明日菜が首を傾げる。その時、ティアナが「あ!」と声を上げた。

 

「ねえ、まさかとは思うけれど………病院でスバルたちが見たのって………」

「ああ!あの時の精霊………!?」

『チュミミ~~~ン………』

 

スバルが声を上げると、あの時と同じ鳴き声がした。見ると、あの時の精霊らしきもの、ネギのスタンドの象が、肩の辺りに乗っていた。

 

「…って、ネギの肩に乗ってる、ソイツの事か?」

「あ、うん、これこれ。」

「あ、何かカワイイ~」

「やはり、スタンドに目覚めていたか………」

「よ、よく分らないけれど………ネギ君も、承太郎さんたちと同じ能力に目覚めているんだね……?」

 

スタンドを視認出来ないなのは達にはさっぱりであるが、自分たちとはまた違う『異能力』の存在を知って驚いていた。

これは、自分たちでは判断しきれないとフェイトが思ったその時、

 

「………む!?」

 

突然、承太郎が弾かれたようにフェイトの方に振り向いた。突然の事で驚くフェイトには見えていないが、承太郎は背後から飛んで来た『スタンドの銃弾』を、『スタープラチナ』の裏拳で弾いたのだ!

 

「じょ、承太郎さん……!?」

「い、今のって………スタンド、ですか……?」

「近くに、敵スタンド使いがいるようだ………しかも、さっきのあの弾丸は………!」

 

弾いた弾丸に心当たりがあるのか、承太郎は周囲に聞こえるように大声を出した。

 

「『ホル・ホース!!』いるのは分かっているんだ!さっさと出てこいッ!!」

 

承太郎が言うと、草陰から男が出てくる。

テンガロンハットをかぶり、口には禁煙パイプ、薄茶色のシャツを着込みブーツには滑車が着いている、カウボーイ風ファッションの40代くらいの男性だ。

 

「よぉ、久しぶりだな承太郎!」

「ホル・ホース…?(確か、承太郎さんや『父さん』と同じ、「大アルカナカード」の暗示の……!?)」

 

聞き覚えのある名前に反応する千雨だが、同時に承太郎は気づく。ホル・ホース(ヤツ)が『一人で掛かってくる訳がない』!!

 

「気をつけろ!どこかにヤツの仲間がいるぞ!!」

 

承太郎の言葉に、全員警戒する。

 

そして、ヴィータは気づいた。なのはの後ろのガジェットの陰から、『腕が伸びている』ことに!!

 

「なのはッ!!」

「!?」

 

なのはは慌てて飛び退く。

陰から出てきたのは、奇抜なメイクに、網の着いた帽子、そして帽子から飛び出た髪の毛――オエコモバだ!

 

「オエコモバ!」

「まさか、自ら出てくるなんて……!」

 

「……ちっ、まあいい。高町 なのはは『始末した!』後はてめぇらだけだ!」

「…?」

 

なのははオエコモバの言葉の意味が分からなかったが、気づいたことがあった。自分の左手に、時計のようなピンが、数個着いている!

 

それがピンッと音をたてて外れると……

 

 

 

 

 

ドグォォオオオン

 

『!?』

 

なのはの左手が『爆発』したッ!!

 

左手の爆発が、体にもダメージを与える!

 

 

「か…………はっ………」

 

 

「なのはッ!?」

「そんなッなのはさん!!」

「なのはぁぁぁああ!?」

 

全身から爆煙と血を吹き出しながら倒れるなのは。

彼女が薄れていく意識の中で聞いたのは、親友と教え子たちの、悲痛な叫びだった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

←to be continued...

 




7話です。
・サブタイトルは「悪霊 その正体!」から。

・グロウン・キッドの本体はまき絵でした。まき絵=リボン攻撃=布製のリボンで攻撃=布操作という感じで思いついた能力です。

・魔法使いとスタンド使い、双方の反応やスタンドの詳しい解説を追加。徐倫なら、こんな反応になると思って入れてみました。

・なのはさん退場。一応言っておくと、まだ生きてますのでご安心を(汗

では、次回をお楽しみに!


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#08/遠い世界(くに)から来たテロリスト

薄暗い廊下を、一人の『男』が歩いていた。

 

室内だというのにコートを着込み、顔以外を頭巾で覆い、頭頂部に開いた小さな穴から、髪を一房だけ出した、垂れ目の男だ。

 

彼は、目的の部屋の前に着くと、ノックをして、部屋に入った。部屋には、数人の男女がいた。

本を読むもの、仲間とトランプをする者、『角砂糖』を食べている者など、各々が好きなことをしていた。

 

「すいませェん奥様、オエコモバが勝手な真似をしているようですが…」

 

男に『奥様』と呼ばれた女性は、読んでいた本から男へと目を移した。他の者達も、男を見ている。

 

「全く、しょォがねェなァァっあいつもよォー!」

「何ならオレが始末するが…どうする?」

 

トランプをしていた二人が『奥様』に聞くが、彼女は『右手』をあげて、制止のポーズをとった。

 

「いいえ、『彼』の方が適任よ。送り込んできなさい『ブラックモア』」

 

男――ブラックモアに命ずると、彼は頷き、静かに部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「あれは………確かオエコモバ!」

 

『アンダー・ザ・レーダー』で様子を見ていたサルシッチャは、出てきた男に驚いた。

 

 

――確かあいつは、『あの人』の配下で、「矢」を盗んだ張本人!それが何でッ!?

 

「……オエコモバは『あの男』といるみたいね?…これは使えるわッ!『ガジェット(おもちゃ)』じゃあ、彼のスタンドはみられなかったし、あいつらを利用するのよ!」

 

ルル・ベルは興奮気味にそう言って立ち上がった。膝から猫が落ちたのも気にせずに……………

 

 

 

 

 

 

#08/遠い世界(くに)から来たテロリスト

 

 

 

 

 

「なのはぁぁぁああーーーッ!!」

 

オエコモバの攻撃を喰らい倒れるなのは。フェイトの悲痛な叫びが響く中、千雨はある事に気づいた。

 

(……あれ?あいつ……………?)

 

 

 

 

 

 

「オエコモバッ!テメェ!」

 

ヴィータが叫びながらオエコモバに向かっていく。だが、振りかぶったアイゼンが、後ろから引っ張られるような感覚を得て『止まった』。見てみると、アイゼンに「糸」が絡みつき、それにより引っ張られていた。

 

「バカッ!むやみに近づくな!!」

「徐倫!?何しやがる!!あいつは、あいつはァ!」

 

糸を持った徐倫が制止しようとするも、ヴィータは頭に血が上って、冷静な判断が出来なくなっていた。

そんな時……

 

 

 

 

『…………フム、モウ少し君ハ「落ち着く」トイウ事ヲ覚えた方ガイイナ。』

 

グロウン・キッドの声だ。なのはの方から聞こえる。

 

見てみると、なのはの体の一部が徐々に「緑色」になっていき、ちょうど腹のあたりからG・キッドが頭を出した。

 

「グロウン・キッド!?」

「な……なのはさんの………『体の色に化けて』……防御したのッ!?」

『フム、イカニモ。オカゲで、胴体ト左腕ガ犠牲ニナッタガナ……』

 

全員が驚き、なのはの近くに行く。グロウンキッドが離れると(所々少し焼け焦げていた)、承太郎がなのはの容態を見る。

 

「……グロウン・キッドのおかげで命に別状はないが、『重傷』には変わりないな。」

「じゃあ、今すぐにここから離れて………」

「させると、思うかい?」

 

ホル・ホースは言うと、右手をスバルたちに向けて伸ばす。すると、右手から奇妙な形状の『拳銃』が姿を現し、ホル・ホースの右手に収まった。

これこそ、ホル・ホースのスタンド!タロット四番目のカードの暗示!

その名は、『皇帝(エンペラー)』!

 

「オレは女は傷つけない主義なんだが、これも仕事でねぇー!」

(……!私には『スタンドは見えない』けど!あの「手の形」!そして「動作」!まさか………!)

 

スタンドが見えないティアナだが、ホル・ホースの「右手」をみて、どんな『スタンド』かを理解した!

 

「やばい!何か撃ち出すスタンドッ!」

 

ティアナが叫んだのと、ホル・ホースが『皇帝』の引き金を引いたのは、ほぼ同時だった。

 

(くっ……弾丸まで『見えない』なんて!でも、手を見れば『軌道を読める』はず!)

 

そう思ったティアナは、弾丸の軌道と思われる所の「正面」に、シールドを張る。だが、

 

「ティア!!」

ボゴォ

「ッ!?」

 

ティアナは、「右側から」足を被弾した!!

 

「そ……………そんな……!ぐうッ!」

「悪いなぁ~~お嬢ちゃん、スタンドってのは、そんなに甘くない訳よォ!『弾丸もスタンド』って事は、「軌道を変えてもおかしくない」って考えなきゃなぁ~~!」

(そ………そうよ……『スタンドはスタンド使いにしか見えない』ってことは、スタンド使い以外は倒せないって意味じゃないッ………!)

 

ホル・ホースの言葉に、ティアナは唇をかむ。初めて、スタンドの恐ろしさを思い知った瞬間だった。

 

「………やつの言うとおり、甘く考えない方がいい。…………このなかで、『こいつが』見えるヤツはいるか?」

 

承太郎は、自分の背後を親指で指しながら聞いた。手を挙げたのは、スバル、明日菜、ヴィータ、そしてネギの4人だ。

 

「よし、今手を挙げたヤツは残れ!後の奴らはまき絵たちと怪我人を運び出せ!」

 

徐倫は、全員に指示をする。

 

「は、はい!」

「くっ……情けないけど、後はあんたらに任せるわ……」

 

ティアナは、悔しそうにそう言う。

まき絵は『グロウン・キッド』のパーツを分解して、布に戻すと、なのはとティアナを乗せる。このまま病院まで運ぶようだ。

 

「逃がしはしねえ!」

 

ホル・ホースは再び弾丸を放つ。今度は三発だ。

 

「ストォオーーン・フリィイイーーー!!」

シュババァ

「何ぃい!?」

 

だが、弾丸は徐倫のスタンド――『ストーン・フリー』が体の一部を「ほどいて」、それを何重にも編み込んだ『防弾チョッキ』ではばかれる。

 

 

 

『糸』――――これが『ストーン・フリー』の能力らしい。

 

 

 

徐倫に逃がされたまき絵たちは、グロウン・キッドの『魔法の絨毯』で戦線から離脱する。護衛に千雨とアキラも着いていった。

 

「ちぃ!逃がしたか!!」

「仕方ねぇ……行くぜホル・ホース!」

 

オエコモバが、杖型デバイスを構えてそう言うと、周りにいくつもの魔法陣が現れ、ガジェットが転送されてきた。中には大型ガジェットのⅢ型が8機もいた。

 

「Ⅲ型まで!?」

「ちぃッ!まずは私が…」

 

ヴィータが向かおうとするが、承太郎が制した。

 

「俺が行く。離れていろ。」

「承太郎さん!?」

 

承太郎にⅢ型が1機迫ってくる。承太郎は背後を親指で指さし、自分のスタンドを『呼んだ』。

 

星の白金(スタープラチナ)!!オラァアッ!!」

 

承太郎の背後から現れた『スタープラチナ』は、Ⅲ型をぶん殴った!だが、

 

ピンッピピンッ

「!!」

ドグオォオン

 

殴った反動で、ガジェットから『部品(ピン)』が飛び出し、爆発した。

 

「承太郎さん!?」

「『ヘルズ・マリア』……ガジェットにピンをつけた!まずは一人!」

 

オエコモバは、勝ち誇ってそう言った。彼の側には、ボロ切れをまとったカラスのようなスタンドが立っていた。

 

「やれやれだわ。あんた、親父のこと、何も知らないみたいね?」

「……?」

 

だが、徐倫が余裕そうなのをみて、疑問が浮かんだ。なぜ、そんなに余裕なのか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、てめぇの能力は、『ピンをつけて、外れたら爆発する』って訳か………」

 

不意に、背後から声がして振り向くオエコモバ。彼の後ろには、承太郎が『無傷で立っていた!!』

 

「吉良を思い出す、胸くそ悪い能力だ………やれやれだぜ。ま、無傷ってわけじゃないがな。4万円もするコートが破けちまったぜ。」

 

見ると、確かにコートの袖が一部破けていた。

 

「な……今、何をしたの?」

「!!?アスナさん!」

 

驚く明日菜だが、ネギの叫びに我に返った。彼女の背後から、Ⅲ型が2機、迫っていた。ネギは明日菜を守るように前に立つ。だが、AMFに慣れていないネギには、ガジェットを相手するのは危険だ。

 

しかし、ネギには考えがあった。魔法が使えなくても、勝てるかもしれない考えが。

 

(僕には、奴らを倒す魔法は持ち合わせていない……だけど、君なら!君が、僕の能力なら!………だから頼む!力を貸してくれ!僕の『生徒たちを守る』力を!!)

 

ネギがそう願っている間にも、ガジェットは迫る。ネギは、一か八か、呪文を詠唱する。

 

「魔法の射手!」

 

だが、魔法の射手は出ない。しかし!

 

 

 

 

 

 

スパァ

「「!?」」

 

 

 

ネギが『右手を』上げた瞬間、Ⅲ型のアームが『斬り裂かれた』!!ネギと明日菜だけでなく、徐倫たちも驚いている。

 

 

ふと、ネギは右手からシルシルという音を聞いた。手の『指先』からだ。不思議に思い、手をひっくり返すと………

 

 

 

 

 

爪が『回転』していた。

 

まるで、フリスビーや円ノコのように!指から離れて、回転していた!

 

「ぼ……僕の手………爪が……………何だこれ…………!?爪が回転している!!」

「これは……まさか…………これがネギ君の!」

「スタンドか!!」

 

驚く一同だが、ネギは理解した。これが、あの『精霊』の力だと!

 

ネギは依然と迫るガジェットに向けて、右手を振り下ろすと、回転する爪が、カッターのようにガジェットを斬り裂く!

だが、もう1機も迫る。ネギは、今度は左手を向けて弾丸のように爪を5発『発射』した!着弾した爪は、ガジェットを貫通し、そのまま5m後ろにいたオエコモバにまで迫った。

 

「何ィ!?」

ズドドォ

「グゥウ!」

 

オエコモバは、何発か避けるが、2発腕に喰らった。他のガジェットを差し向けようとしたが………

 

「デヤァアアッ!!」

ゴシャァアッ

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

ドゴッバァアアア

 

ヴィータと承太郎により粉々、あるいはボコボコにされて破壊されていた!

 

「くそっ!」

 

オエコモバはナイフを数本取り出すと、投げる体制に入る。ピンを付けて爆弾に変えようという魂胆だが、

 

ブワワワワワ

「………え?」

ガシィ

 

いきなり周りを『ロープ』が囲い、そのまま近くの木に縛り付けられてしまう。ロープを握っているのは……徐倫!

 

「よし!ジョセフじいちゃん直伝のロープマジック成功!………悪いな、ネギに気をとられているうちに、ロープを張らせてもらった!後は頼むぞ、スバル!」

 

徐倫が言い放ったと同時に、スバルは円を描くような構えを取った。円の中心には、空色の魔力が『溜まる』!

 

「この一撃はッ!なのはさんとティアの分だ!!ディバイィイイーーン!!」

「うわぁああああ……」

 

オエコモバが悲鳴を上げるが、スバルはお構いなしに、解き放つ!!

 

「バスタァァアアアーー!!」

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

徐倫たちから300m離れたあたり

 

 

ドグオォオン

 

「わっ!なにあれ!?」

 

いきなり後方が爆発したため、まき絵は振り向いた。だが、ティアナは呆れたように言った。

 

「あー、多分スバルね……あの様子だと、勝ったみたいだけど………」

「ガジェットも追ってこないし、任務完了かな?」

「後は、この人だな…」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「……スバルよぉ、確かに私は『頼んだ』って言ったわよ……でも………」

 

徐倫は、スバルの『ディバインバスター』の破壊跡を見て、呆れたように言った。

 

「明らかにやりすぎでしょ……」

「い、いやぁ〜………ちょっと気合い入りすぎちゃって………てへっ」

「『てへっ』って何『てへっ』って!?こんだけ破壊しといて『てへっ』ですませちゃったよこの子!?」

「というか、これだけの威力を喰らって大丈夫なのか、あいつは………?」

 

明日菜が叫び、承太郎はオエコモバの安否を気にした。

 

「……まあ、『非殺傷設定』だから大丈夫だろ。つーかこれ、あいつのスタンドの『暴発』が原因なんじゃないか?」

 

ヴィータはオエコモバがナイフを投げようとしていた事から、『ヘルズ・マリア』のピンがスバルの攻撃のはずみで飛んだのでは、と予想する。

 

「さて、後はてめぇだけだぜ!」

 

ヴィータはホル・ホースに向かってそういうが………

 

 

 

 

 

ダッダー

「「「「って逃げてるしッ!?」」」」

 

脇目も振らず、すたこらさっさと逃げていた。ホル・ホースは走りながら振り返り、

 

「悪いなぁーお嬢ちゃんたちッ!ここは出直させてもらうぜ!オレは誰かとコンビを組んで実力を発揮するタイプだからなぁー!『一番よりもNo.2!』これがホル・ホースの人生哲学!文句あっかー!!」

 

言い訳みたいな捨てぜりふを残して逃げていった………

 

「ほっておけ。どうせあいつ一人じゃあかかってこないしな。今はオエコモバってヤツが先だ。あいつには、『矢』をどこに隠したのか聞かにゃあならないからな。」

 

承太郎はやれやれとかぶりを振ってそう言うと、近くの噴水まで飛ばされてピクピクしているオエコモバに近づいていった。

 

「!!」

 

だが、ネギは気づいた。噴水の水面から、『サメの背鰭』が出ていることに!

 

「承太郎さん!スタンドです!噴水に『サメがいます』!」

「「「「「!!」」」」」

 

承太郎たちも気づいたが、一手遅かった。サメは、オエコモバに襲いかかり、のどを喰い破った!!

 

「ぐえッ………」

「な………なんだとぉぉおーー!?」

「くっ!『爪弾』!!」

 

ネギがサメに爪弾を放つが、サメは噴水にすでにおらず、爪は噴水に沈んだだけに終わった。

 

「消えた!?」

「くっ、恐らく『水から水へ移動する』遠隔操作スタンド!オエコモバは『捨て駒』か!」

 

徐倫は理解した。オエコモバなど、単なる下っ端という事に。

承太郎はオエコモバの様子を見るが…

 

「…死んでいる……即死だな。」

 

承太郎の言葉に、全員が戦慄した。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

逃げるため街道を走っていたホル・ホースは、いきなり『ビルの床』に倒れ込んだ。

 

「いったぁあ〜ッ!おいおいサルシッチャさんよぉ〜〜、呼び出すんなら、もう少しタイミングを考えてくれよぉ〜!」

 

ホル・ホースは、自分を『連れてきた』男に目をやる。

 

腰まで伸ばした銀髪に、鋭い青い瞳、藍色のスーツに、黒いコートを着込んだ男――サルシッチャだ。

 

「……ホル・ホース、君が動き回るから我が『アンダー・ザ・レーダー』で捉えにくかったんだ。文句を言うな。」

「……はっ相変わらず冷たいねぇー」

「二人とも、話はすんだ?さっさと行くわよ。」

 

声がした方を見ると、銀髪というよりも、白髪に近い色の髪を縦ロールにした、勝ち気そうな翠色の目の、ゴシックロリータ服を着た14歳位の少女――ルル・ベルがいた。足元には、ロシアンブルー種の猫もいる。

 

「はい、ルル・ベル様。」

「仰せのままに、お嬢様。」

 

三人は、先ほどまでいた部屋から、静かに出ていった。

 

 

 

 

 

オエコモバ――スタンド名:ヘルズ・マリア―――死亡 再起不能

ホル・ホース――スタンド名:皇帝――再起可能

高町 なのは――デバイス名:レイジングハート・エクセリオン――重傷 全治2ヶ月半

ティアナ・ランスター――デバイス名:クロス・ミラージュ――全治2週間

 

 

 

←to be continued...

 




8話です。
・サブタイトルは「遠い国から来たテロリスト」から。読みは一緒なのに違う意味になっています。

・これを『にじファン』で連載していたころはオエコモバのスタンド名は不明だったので、ALI PROJECTの楽曲から取ってあります。今は判明しているけれどオエコモバの名前そのままなので、このままにしてあります。

・今回、爆発が大げさだったので、オエコモバの能力が暴発したことにしましたw自分のスタンドで死ぬ間抜けはいないでしょうけど、割と制御難しそうなので、あのスタンド。

では、次回をお楽しみに!


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#09/学園長からの第一指令;『学年最下位を脱出せよ!』

オエコモバの襲撃から数時間後

 

ミッドチルダ 機動六課隊舎 部隊長室

 

 

「なのはちゃんが重傷でティアナが負傷、おまけにオエコモバは『始末』されて、矢の行方もわからない、か……」

 

フェイトからの通信を受け、八神 はやてはため息をついた。

管理局でも認知していなかった能力――「スタンド」。今回の事件は、このスタンドが関わっているという……

 

[うん……なのはの輸送とその話をするのに、承太郎さんと明日ミッドチルダ(そっち)に向かうことになったよ………]

 

ティアナの傷は幸い浅かったが、なのはは左腕を含む重傷だ。麻帆良では手に負えないらしく、ミッドの病院に輸送されるらしい。

 

「……分かったわ。じゃあ、そん時にな。」

 

そう言って通信を切ると、はやてはさらに山積になった問題に、再びため息をついた……

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

3日後

 

麻帆良学園 学園長室

 

 

「そうか、ネギ君はうまくやっとるのか。」

「はい、生徒とも打ち解けていますし、授業内容も頑張っています。この分なら、指導教員の俺としても、合格点を出してもいいかと……」

 

ネギについて話す学園長とウェザー。どうやら、四月から正式な教員として採用されそうだ。

 

「ご苦労じゃったウェザー君。(例の「スタンド」の件にもくじけないとは、さすがと言うべきかのお)――――ただし、もう一つ……」

「?」

 

 

 

「彼には『課題』をクリアしてもらおうかの。――才能ある『立派な魔法使い』の候補生として……」

 

 

 

 

 

#09/学園長からの第一指令;『学年最下位を脱出せよ!』

 

 

 

 

 

「ネギ君、あんなことあったのに頑張るね~」

「ああ、普通あの歳でアレ見たらトラウマだぞ。」

「実際私はトラウマになったわ……」

「……大丈夫か?」

 

昼休み、食堂でスバル、明日菜、徐倫、千雨の4人は、木乃香が自分の料理を取りに行っている間、この間の話をしていた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

あの後、『魔法先生』たちが事後処理を行い、オエコモバの死体やガジェットは片づけられ、この事件は『無かったこと』になった。

 

「―――さてと、あなた達には、スタンドについて話を聞かせてほしいのだけれど………」

 

予想していた通り、徐倫たちはスタンドについて知っている事を話すようフェイトらに求められた。ここで事情聴取を引き受けたのが、承太郎であった。

 

「俺はこの中で一番スタンドについて詳しい。「矢」の事についてもだ。それに、学生は『学業』を優先させるべきだろう?」

「………そうですね、解かりました。」

 

そして承太郎は、『矢』の調査を、彼らスタンド使いを全面サポートする『スピードワゴン科学医療財団』のエージェントに任せ、フェイトと共に『ミッドチルダ』へと向かったのだ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「……まあ、『期末』近いから助かったっちゃあ助かったがな。」

「う゛……イヤなこと思い出させないでよ……」

「うへー、この忙しい時に〜?」

「ま、学生だから仕方ないだろ。」

 

そう、来週から『期末試験』なのだ。

 

当然のことながら、それは教員であるネギの耳にも入っていた……

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

同時刻

 

 

ネギは、日直であるまき絵と、その友人――髪を右側でサイドテールにした明石 裕奈(あかし ゆうな)と歩いていると、ふと、他のクラスに目が止まる。

 

「何か、他のクラスの皆さん、ピリピリしてますね……?」

「あー、期末テストが近いからね〜。来週の月曜からだし。」

「へー、大変だなぁー………………って!2‐A(うち)もそうなんじゃあ!?」

 

のんきに言う裕奈とまき絵に対し、呆れの入った突っ込みを入れるネギ。当の2人は頭をかきながら、

 

「あー、麻帆良学園女子中等部ってエスカレーター式だから、あんまり関係ないんだよー。」

「特に、うちのクラスはずーっと『学年最下位』だけど大丈夫大丈夫。」

 

笑いながらいうまき絵たちに、ものすごく不安になるネギだった。

ふと、あるクラスに置いてある花のようなトロフィーを見つける。裕奈に聞いたら、期末学年トップに送られるらしい。

 

(うーん、何とかした方がいいのかな…あんなトロフィー欲しいけど、無理かな?……無理だよなぁ………いや、確かそういう時に効く魔法が……)

「ネギ君。」

「わっ、ウェ、ウェザー先生ッ!?」

 

いきなりウェザーに話しかけられて、ネギは驚く。まあ、彼の場合は仕方ないかもしれないが……

 

「これを。学園長からだ。」

「えっ?学園長から?」

 

ウェザーから封筒を受け取るネギ。封筒には、『ネギ教育実習生への最終課題』と書かれていた。

 

「えぇっ!?僕への『最終課題』!?」(こっ、こんなのがあるなんて……最終課題って何をやれば…………?)

 

『最終課題』の文字に驚き、どのような内容なのか予想される内容を頭でぐるぐる渦巻いた。恐る恐る封筒を開けて、中身を見てみると……

 

 

 

 

 

ネギ君へ。

A組が次の期末試験で学年最下位から脱出したら、正式な先生にしてあげる。

近衛 近衛右衛門

 

 

 

 

 

「が、…………学年最下位脱出ぅううーー!?…………な、なーんだ!意外と簡単そうだー!」

「!?そ、そうだな……」

 

ネギは簡単そうでホッとするが、一緒に見ていたウェザーは微妙な表情だ。

 

(……言えない!ものすごく難しいなんて言えない!)

 

無邪気に笑うネギと、正式な教員になれる事を知って喜ぶまき絵と裕奈を他所に、不安しかないウェザーは顔を曇らせた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

HRの時間

 

 

「ええっと、今日のHRは期末試験に向けて大・勉強会にします!今回A組が学年最下位だと、(僕が)とても困ることがあるので皆さん、頑張りましょう!」

 

(どうしたんだろうね、急に……?)

(さあ?)

(学園長に何か言われたんじゃね?)

 

ネギの提案に、何があったのかと話す徐倫たち3人。千雨はあながち間違ってはいないが。

 

「はいはーい!私にいい考えがありまーす!」

「あ、はい、桜子さん。」

 

手を挙げたのは椎名 桜子(しいな さくらこ)。A組屈指の能天気少女だ。

 

「ここは「英単語野球拳」がいいと思いまーす!」

 

「おおー!」「それだー!」

 

「なっ、ちょっと!皆さん!?」

 

桜子のぶっ飛んだ提案に、悪ノリするクラス一同。しかし当のネギは………

 

「(なるほど、『野球』を取り入れた勉強法かな……?何となく面白そうだし、普通に勉強するよりも覚えやすそうだ………)分かりました!やりましょう!」

「こらーー!?」

 

「…………アイツ、『野球拳』って何か知らないでOK出したな……」

「だな………」

「おー、楽しそーー!」

「「お前も悪ノリするな!」」

 

目を輝かせるスバルに突っ込む二人。なんだかんだで仲がいい3人だ。

 

 

 

 

 

結局、勉強らしい事は何一つできなかったそうな……

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

放課後 慈愛の女神像付近

 

 

「はぁ、どうしよう……」

 

元気なく、とぼとぼと歩くネギ。どうしたら、学年最下位から脱出できるのだろう……?さっきから、そればかり考えている。

先ほどの光景を見て、この『課題』がどれだけ困難なものか、はっきりと理解した。あそこまで能天気な人たちとは、思っても見なかった。

 

ふと、ネギはあることを思い出す。

 

「………そうだ!3日間だけとても頭の良くなる『禁断の魔法』があったんだ!それをつかえば……!」

 

思い出すと、早速杖を取り出して詠唱にかかる。

 

「副作用で1ヶ月ほど頭が『パー』になるけど……仕方ない!……ラス・テル マ・スキル……」

「「何をやってんだぁぁぁぁああああああああああ!!!」」メメタァ!

 

詠唱しようとしたら、偶然通りかかった明日菜と徐倫に飛び蹴りをお見舞いされた。

 

「あ……二人とも…」

「おめーよー、いい加減魔法に頼るのやめろよな!今までどうだったかはしらないけど…」

「そもそもバレたら即刻帰国なんでしょ!?使いすぎよヘボ魔法使い!!」

「あう……でも、このまま最下位(ビリ)だったら、僕………」

 

二人にぼろくそに言われ、ヘコむネギ。明日菜は、そんなネギに、ぼろぼろのノートを渡す。

中には、小テストの答案が挟まっていた。

 

「あっ…まあまあできてる!まだ悪いけど……」

「こいつだってアレからちょっとはがんばったんだよ。まだ悪いけど……」

「二人してまだ悪いって言うな!!……まったく、マギ……何とかを目指してるのか知らないけどさ、そんな風に中途半端な気持ちで先生やってる奴が担任なんて、教えられる生徒だって迷惑よ!」

「!!!」

 

明日菜が去っていくと、徐倫はショックを受けるネギを見て、

 

「アスナの言うことはよぉー、私も賛同するぜ?生徒の『信頼』は、魔法なんかで得られるもんじゃないだろ?」

 

徐倫はそういうと、明日菜を追いかけて行った。ネギは2人の言葉で、動けないでいた……

 

「……うん、さすがは明日菜さん達だ。安易に魔法に頼ろうなんて、甘い考えだった!…よし!期末テストまで、魔法を封印しよう!」

 

そして、決心をしてそう言うと、ネギは人目につかない場所に移動する。

 

誓約の黒い(トリア・フィーラ・ニグラ・プロミッ)三本の糸よ(シーワ・ミヒ・リーミタチオーネム・)我に三日間の制約を(ペル・トレース・ディエース)!」

 

呪文を詠唱すると、ネギの右腕に黒い三本の黒い線が現れる。それと同時に、ネギは自身の身体から魔力が消えていく事を感じ取った。

 

「よし、これで僕は三日間『ただの人』だ!―――さて、明日の授業の準備を……」

『チュミ?』

 

ふと、声がして振り向くと、自分の『精霊(スタンド)』がいた。どうやらこのスタンドには『自我』のようなものがあるらしく、時々こうして勝手に発現することがよくある。

 

「あ、そうか……魔法が使えないから、今は「スタンド使い」って事になるのかな?」

 

そう言いながら、ネギは寮に向かって歩く。そして思った、この『スタンド』の名前を早く決めなければ、と。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その日の夜

 

女子寮 大浴場

 

 

「えぇーーっ最下位のクラスは解散〜〜!?」

「うん、あくまで噂なんやけどな…」

 

大浴場で木乃香が話した事は、あくまで噂だが、信じられない事だった。しかも、特に悪かった生徒は『留年』どころか『小学生からやり直し』などの噂も立っていた。

 

「いやっさすがにそれはないでしょーー!?」

(…いや!昼間ネギも言ってたし……『大変な事』ってこれのことじゃあ……?)

 

 

 

「……さすがにそれはないよな?」

「全く、くだらない噂を真に受けやがって……」

 

バカレンジャーから離れた場所で湯船につかりながら、尾びれ背びれのついた噂で盛り上がる彼女らのやり取りを見ていた徐倫と千雨は呆れていた。

 

しばらく聞いていると、『図書館島』にある『読めば頭が良くなる「魔法の本」』なる物を探しに行ってはどうか、という話になっていた。

 

「いや、さすがにそんなのは………あ」

「……実在するんだったな………『魔法』…やれやれ、それで真に受けたのかアスナは…」

 

千雨と徐倫は、明日菜の考えを察した。魔法使いや異世界人がいるため、『魔法の本』とやらも『本当にあってもおかしくない』という推測で判断したのだろう…

 

「………やれやれだわ。そういうバカは―――」

「徐倫………?」

 

徐倫は湯船から出て、明日菜たちに近づく。

 

「放っておけないのよね!」

「徐倫!!」

「ジョジョ!!」

「「司令官(コマンダー)!」」

 

やれやれと、仕方なしげに見下ろす我らが司令官を見て、バカレンジャーは期待の眼差しを向けた。

 

「………やれやれ、メンドー見がいいのか、同じ馬鹿なのか………」

 

千雨は一人、徐倫の行動にあきれるのであった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

午後10時

 

麻帆良学園 図書館島

 

 

今、ここの裏手にある秘密の入り口には、バカレンジャーの5人と司令官・徐倫、図書館探検部の3人、そして、ネギがいた。

 

「これが『図書館島』か……」

「でも、大丈夫かな?下の階は危険なトラップがあるから、中等部部員は立ち入り禁止なんだよ……?」

「なんで図書館にそんなものが……?」

「大丈夫、それは『アテ』があるから。」

「へー?」

 

明日菜のアテ―――ネギは、寝ぼけ眼でついてきていた。明日菜に呼ばれて、ふらふらとネギが歩いていくのを後ろから見ていた徐倫は、こっそりのどかに話しかけた。

 

「宮崎、悪いが頼む。」

「は、はぃ~………」

 

のどかは少し戸惑いながらも、『背中から異形の左腕』を出して、それをネギに向けた。

 

(ほらネギ!いざという時は、魔法で守ってね!)

 

一方、明日菜はネギを頼ってそういう。昼間ネギに行ったことは忘れているらしかった。しかし、当のネギは……

 

「あの……魔法なら僕、『封印』しましたよー?」

『チュミ。』

 

のん気に言うネギと、頷くスタンド。

 

「………えぇーーっ!?」

 

明日菜の悲鳴が、閉じていく扉の中に響いた………

 

 

 

 

 

←to be continued...




9話です。
・サブタイトルは「ボスからの第二指令;「鍵をゲットせよ!」」から。

・承太郎さんミッドへ。これがどう物語に影響するか、お楽しみに。

・今回、原作通りであまり進展はありませんでしたが、承太郎との会話やのどかの行動などを追加しています。

では、次回をお楽しみに!


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#10/ウルトラセキュリティ図書館 ①

麻帆良学園の湖に浮かぶ『図書館島』は、明治の中頃、学園創立と共に建設された、世界でも最大規模の『巨大図書館』!

 

二度の大戦中、戦火を避けるべく世界各地から様々な貴重書が集められたここは、蔵書の増加に伴い、『地下』に向かっての増改築が繰り返され、現在ではその全貌を知るものは誰一人いない!

 

 

 

「―――そこでこれを調査するため、麻帆良大学の提唱で発足したのが、私たち、『麻帆良学園図書館探検部』なのです!」

「中・高・大合同サークルなんよ。」

「「うわーっ!?」」

 

夕映に解説されながら一同がたどり着いた扉を開けると、目の前には本、本、本―――見渡す限りの巨大な本棚と、それに収まった大量の本だった。

 

 

 

 

 

#10/ウルトラセキュリティ図書館①

 

 

 

 

 

「私たちがいるここが地下3階、中学生が入っていいのはここまでです。」

 

夕映が、『抹茶オレンジ』という謎のジュースを飲みながら、説明する。そんなとき、ネギはある本に目が留まる。

 

「わ、見てください!すごく珍しい本が!」

「ん?……「緋色の研究」?……あ、“初版”じゃねーか!こんな所に………」

「あ、先生、ここは「貴重書」狙いの盗掘者を避けるため―――」

 

夕映が言い終わる前に、『バシュッ』という音とともに、『矢が』飛んできた。

 

ガシィッ

「うわッ!?」

「あ、………危ねーーーー!」

「―――罠がたくさん仕掛けられていますから、気をつけてくださいね。」

「え゛え゛え゛え゛ーーーーー!?」

「ウッソーーーーッ!!??」

「いや、死ぬってそれーーー!」

 

間一髪で徐倫が矢を掴んだから良かったが、今度は何が起こるか分からない…………全員の気が引き締まった。

 

 

 

 

 

「えぇ!?読めば頭の良くなる魔法の本!!?」

「そーらしーえー。」

「手伝ってネギくーーーん。」

 

ようやく自分が置かれている状況を聞いたネギは、明日菜と徐倫の元に駆け寄る。

 

(あ、明日菜さん、僕に「魔法に頼るな」ってあんなに言ってたのに……!空条さんも……!)

「「うっ……」」

 

言葉に詰まる二人。明日菜は謝るポーズをとって、

 

「ゴメン……でも、今回は『緊急事態』だし、許してよ……」

「学年最下位だと、大変なことになるらしいしな。」

 

『大変なこと』と聞いて、自分の「最終課題」のことであると気付いたネギは、少しウルッとした。実際は違うのだが…………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「うひゃーー、広っ!?」

「こんなに本あってどうするんだよ…?」

 

ある部屋に着いたネギたちは、無駄に広い部屋に大量の本を見て、そう感想を漏らした。

 

「へー、「本棚の上」を歩くんですかー?」

「何考えて作ったんやろね、ホント。」

「ここ、結構高いよー……落ちたら怪我じゃすまないんじゃ…」

「そこ気をつけてです。」

 

夕映が注意をするのと、

 

バコンッ

 

まき絵のいる「本棚と本棚の間の足場」が開いたのは、ほぼ同時だった………

 

「えっ……キャーーーーーーー!」

「まき絵!!?」

「まき絵さーーーーん?」

 

落ちていくまき絵を見て、驚くネギたちだが………

 

 

 

 

 

 

「えいっ」

シュルルルル…ビンッ

 

まき絵は、袖の下に装備していた「新体操のリボン」を振るうと、リボンはインディー・ジョーンズよろしく、天井の「ハリ」に巻きついた!

 

「あわわわわ~~~~~、びっくりしたーーーー」

 

キリキリとリボンを巻き取り、本棚の上まで上ってくるまき絵。

一同がホッと胸をなでおろす中、ふとネギはあることに気付く。まき絵の持つリボンが緑色なのだ。

 

(あの、空条さん、もしかしてまき絵さんのあの「リボン」って……)

(……ああ、お察しの通り、『グロウン・キッド』が取り付いている………)

 

そう、あのリボンは「布製」だ。それなら、あんな芸当ができてもおかしくはない。有効に使っているのか、無駄な使い方なのか……ネギと、肩の辺りを浮かぶ「スタンド」には分からなかった。

そんな風に考え事をしていると、足元で「カチリ」という不吉な音と、ほんの少し床が下がる感覚が………

 

「え?」

 

一拍置いて、頭上の本棚が倒れて中に詰められていた本と一緒に落ちてくる!

 

「ハイヤァアーッ!!」

ドガァッ

「うわぁあ!?」

 

しかし、倒れかけた本棚は古菲の飛び蹴りで元の位置に戻り、落ちてきた本は楓が素早く受け止めた!

 

「まあ、アタシ達アタマ悪い代わりに、運動神経は良いアルから♪」

「は、はぁ………?」

 

余裕そうに言う古菲と、笑顔で本を下す楓に、ネギは茫然としながらも相槌を打つ。

 

「……ねえ徐倫?本を受け止める時、楓の腕が『4本』あるように見えたんだけど、もしかして………?」

「……ああ、楓もスタンド使いだ。近いうちに紹介するつもりだったんだけどな………」

「マジで…?」

 

後ろで明日菜と徐倫がそう話すが、ネギには聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

☆2時間半後★

 

 

 

 

 

魔法の使えないネギをかばいながら、何とか目的地までたどり着いたネギたちバカレンジャー。

 

 

そこは、今まで通って来た道と比べると、『神聖』な場所に思えた。

上座にあたるところは台になっており、左右には3m以上はある「石像」が、中央の『本』を守るようにたっていた。

 

「つきました!ここが『魔法の本の安置室』………!!」

「「「おおーーーーー!」」」

「……なんでこんな場所が学校の地下に………?」

「今は深く考えないでおこうな……」

 

驚きを通り越して呆れている明日菜と徐倫。ネギは、石像が守っている本を見て、それが何かに気づいた。

 

「あっ……あれは!?伝説の『メルキセデクの書』!?何であれがこんな所にっ!!??」

「え?って事は本物!?」

「ええ!!確かにあれなら、ちょっと頭を良くするくらい簡単に!!」

「ネギ君詳しいなぁー。」

 

ネギの言葉に、ハシャギ出すバカレンジャー。そして、我先にと本へ向かい走り出した。

 

「あ、待って下さい!あれだけ貴重な魔法書です!絶対罠があります!」

 

ネギが注意するも、台の前にある橋が左右に開き、5人はそこへ落ちてしまう。

 

ズテーン

「うわっ!?」

「キャアッ!?」

 

だが、橋の下にはまた『足場』があったため、打ち身程度ですんだ。足場には、64個の円と、文字が描かれていた。

そう、これは――――

 

 

 

 

 

「………………ツイスターゲーム?」

 

そう、ツイスターゲームだ。

 

全員が疑問に思っていると、本を守るように立っていた石像が『動き出した』!

 

『ふぉふぉふぉ、この本が欲しくば、わしの質問に答えるのじゃー!』

「うっ、動いたーっ!?」

(ご、『動く石像(ゴーレム)』!?)

(………アレ、何だかスッゲー聞き覚えのある声が………?)

 

石像が動いた上にしゃべり出した事に驚く一同だが、徐倫は石像の声をどこかで聞いた事があるような気がした。

 

『では第一問、“difficult”の日本語訳は?』

「えぇー!?」

「何それぇー!?」

 

ゴーレムの質問、というか問題に文句を言うバカレンジャー一同。だが、ネギが全員に言った。

 

「みなさん、落ち着いて下さい!ちゃんと問題に答えれば、罠は解けるはずです!落ち着いて“difficult”の訳をツイスターゲームの要領で踏むんです!」

「ええーっ!?そんなこと言っても!?」

「デ、『ディフィコロト』って…何だっけ!?」

 

だが、相手は所詮バカレンジャー。英単語訳が簡単にできる訳がなかった………

 

「ええっとだなぁ……」

『乗っていない者が答えを教えたら『失格』じゃぞー。』

「うぇ!?い……“easy”の反対です!」

「ええっと、『簡単じゃない』!!」

 

「そ、そうだ!えーと『む』」

「そうそう!」

「『ず』!」「『い』ね!」

 

『「むずい」……まあ、いいだろう………正解じゃ。』

「ヤッター!」「本ゲットーー!」

 

正解に喜ぶ一同。だが、彼女らは忘れていた。さっきゴーレムは『第一問』と言っていたことに。

 

『第二問“cut”』

「「「「「ってまだあるんかい!?」」」」」

 

 

 

その後も、

 

 

 

『第七問“remember”』

「あ、これわかるよ!『お』…」

「なんかキツいわよこれ…『も』」

 

 

 

バカレンジャーたちは

 

 

 

『第十一問“baseball”』

「うぐぐ…『や』」

「きゅ…『きゅ』〜」

「『う』!」

 

 

 

問題を解き続けた。

 

 

 

『第十九問“massacre”』

「いや、それ中学で習わないだろ!!」

「どこの『灰の塔』!?」

 

 

 

※massacre:皆殺し

高校でも習いませんでした(byオレの「自動追尾弾」)

 

 

 

その結果、ブリッジや右手と左足を上げたりと、めちゃくちゃキツい体制になったが、全員耐えた。

 

(も、問題に『悪意』を感じるです………)

『では最終問題!!“dish”!』

「あ!分かった!『お皿』ね!『お』!」

 

夕映が『お』を踏む。

 

「『さ』!」

 

楓が『さ』を踏む。そして、

 

「「『ら』!」」

 

まき絵と明日菜が『る』を踏んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………『()』?

 

 

 

 

 

「……………おさる?」

 

 

 

 

 

『残念ーー!』

バガァッ

 

 

 

ゴーレムが、手に持ったハンマーを振り下ろし、ツイスターゲームごとネギたちを落とした!

 

「イヤァァァアア」

「アスナのおさるーー!」

「……やれやれ、やはりこうなるのか……」

「何でジョジョは冷静アルかぁあー!?」

 

各々がリアクションを取りながら、下へ、下へと落ちていった………

 

 

 

←to be continued...




10話です。
・サブタイトルは「ウルトラセキュリティ懲罰房」から。

・冒頭のナレーションはジョジョっぽさを意識。大川透さんの声で再生されると幸いですw

・まき絵のスタンド活用術や、楓の能力がチラリと登場。楓のスタンドはもう少しお待ちください。


では、次回をお楽しみに!


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#11/ウルトラセキュリティ図書館 ②

翌朝

〈期末試験まで後2日〉

 

2年A組

 

 

教室に入ってきたスバルは、隣の席に徐倫がいないことに気づいた。

 

「おはよー。……あれ?長谷川さん、空条さんは?」

「それが、昨日『図書館島』行ったきり、帰ってこないんだよ。……まあ、あいつなら大丈夫だろうけど………。」

 

特に心配していない様子の千雨。彼女と、彼女の『ストーン・フリー』を信頼しているからだろうか。

そんな時、雪広 あやかの叫び声が聞こえた。

 

「何ですって!?A組が最下位脱出しないとネギ先生が『クビ』にぃいーー!?どーしてそんな大事なこと言わなかったんですの裕奈さんッ!?」

 

見てみると、あやかが裕奈に掴みかかっていた。ふと、千雨は昨日の事を思い出した。

 

「……なるほど、『大変なこと』ってこれか……」

「ね、ねえ、ネギ君がクビってことは、ネギ君もう………!?」

「………まあ、バカレンジャーがいるとはいえ、学年トップが三人もいるからな、うちのクラス………成績のピンキリが極端すぎだろって毎回思うけど………」

 

大丈夫だろと言いかけた千雨だが、突然ドアが勢い良く開いたため、途中で途切れてしまう。

 

「みんなーーッ大変だよーーーッ!!」

「ね、ネギ先生とバカレンジャー達が「行方不明」に………!!」

 

 

 

 

 

 

 

「……………すまんナカジマ……やっぱダメかもしれない……………」

「えぇ〜〜ッ!?」

 

 

 

 

 

#11/ウルトラセキュリティ図書館 ②

 

 

 

 

 

午後8時40分

 

グリーンドルフィンストリート麻帆良 入口付近

 

 

「ごめんね千雨、アンタにこんな事任せちゃって………」

「いや、こいつの事だから「先生たちを助けに行こう!」って言いだすとは思っていたし………」

 

あははー、と後頭部を掻くスバルを横目に、松葉杖で立つティアナは千雨に謝った。

放課後、スバルは自分と千雨で図書館島のネギ達を助けようと提案してきた。無論、千雨は「徐倫や佐々木を含めてスタンド使いが4人いるから」と難色を示したが、スバルは是が非でも助けに行きたいらしく、下手したら何の対策もなしに1人で行きかねなかったため、千雨は仕方なしに同行することとなった。

 

「でも、本当に2人で大丈夫?やっぱり私も……」

「ティアは安静にしていてよ。足、まだ痛むんでしょ?」

 

ティアナがホル・ホースから受けた傷は浅かったものの、松葉杖が必要であるためしばらくは前線に出られないでいた。

 

「そうだ。それに、徐倫が『予防線』を張っていてくれていたからな。大体の位置はつかめそうだ。」

「『予防線』………?」

「流石に私らだけで図書館島行くのは、水も地図もなく『砂漠』のど真ん中歩くようなもんだからなぁー、手の空いている「スタンド使い」に声をかけておいたよ。」

「!?スタンド使いを……!?」

 

千雨が振り向くと、そこには近づいてくる3人の男女の姿があった。

 

「…………長谷川、その紹介だと、黒いタンクトップで来ないといけなくなるぞ?」

「あ、な、ナカジマさんに長谷川さんー……と、後ろの方はー?」

 

そこにいたのは、ウェザーとのどか、そして…

 

「徐倫がピンチなんだってな!!」

 

サムズアップするアナスイだった。

 

「…………………アイツは呼んでないぞ……頼りになるっちゃあなるが……」

「そ、そう……で、でも、何で二人に……?」

「この二人は――まあ、アナスイもだが――『図書館探検部』な上に、『スタンド使い』だからだ。」

「「!!!?」」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

図書館島 裏手 「秘密の入り口」前

 

「え、…ええっとー、ナカジマさんも、スタンドに近い「能力」を持ってるって聞きましたがー?」

「まあ、ある程度期待はするぞ。」

「あ、うん…」

 

のどかとアナスイにそういわれ、スバルは返事をすると、隣の千雨にアイコンタクトを送った。

 

(二人には『魔法』のこと話してないの?)

(ああ、いきなり話しても、信じないだろうし…)

(そうだよねー………)

 

苦笑するスバルと、やれやれと肩をすかす千雨。魔法の事は、後でゆっくりと話した方が良さそうだ。

 

「よし、ここらで、『捜索手段』を話すぞ。宮崎。」

「はっ、はいー………イッ、『イノセント・スターター』!」

 

千雨に呼ばれたのどかは、自身のスタンドを発現させた。

 

現れたのは、人の女性とウミガメを組み合わせたような、機械的な『蒼い』スタンドだ。

頭にはバイザーのようなものが上げられており、耳に当たる部分はアンテナのように伸びている。

肩には、二の腕までを包むような亀甲型の肩アーマーがつけられ、左手には亀甲型の箱のようなものがあり、先端部分は、まるで換気扇やエアコンの口のようなシャッターになっていた。

 

「こいつの名は『イノセント・スターター』。つい一週間くらい前に『矢』に射抜かれて発現した。能力は、探査機になる『子亀』を発射することだ。」

「探査機?」

 

スバルの疑問に答えたかのように、イノセント・スターターの左手のシャッターが開き、中から何か飛び出した。

見ると、甲羅が片眼鏡(モノクル)のようになった小さな「ウミガメ」だった。

 

「ええっとー、こ、この「子亀」のレンズに映ったものや、聞いた事を、私が見たり聞いたりできるんですー。あ、後、子亀の位置を把握できますー。」

 

少しおどおどしながらも、自分のスタンドの説明をするのどか。

ふと、スバルはあることに気づいた。

 

「もしかして、ネギ君たちにも?」

「は、はいー、空条さんに頼まれて、『子亀』を一匹付けましたー。」

「そうか!!その位置をつかめば救出『可能』って訳だね!」

「ああ、おまけに、探検部の中等部顧問のウェザー先生が『地図』を持ってきてくれたからな。結構「深い」所にいるみたいだし、とっとと助けて試験勉強すんぞ!」

 

千雨の一同は図書館島へ入った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

数十分後

 

図書館島 地下5階 第78閲覧室

 

 

図書館島内部を歩いていた一同は、ふと、視線を感じていた。

 

(……ねえ、長谷川さん…)

(ああ、私ら以外に誰かいるな……オエコモバの仲間か……?)

 

だが、周りには人影がない。「イノセント・スターター」で探すことも考えたが、スタンド使いだったら警戒されてしまうだろう。

 

(………任せろ。『ウェザー・リポート』!)

 

考えていると、ウェザーの背後に「水蒸気」が集まり、人の形になった。

 

角が生えたような頭に、マスクをかぶったような外見。体のあちこちからは、『雲』のようなものが吹き出していた。

 

「先生のスタンドは『天候を操る』―――ウェザー・リポート!」

 

千雨が言うと同時に、周囲に『雨』が十数秒間降った。

 

「……………急に雨が降ったから、驚いてのぞき込んだな。」

 

見ると、水たまりに『男が』映っていた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

雨に驚いた男が気づくと、追跡対象はすでにいなかった。慌てた男は、対象たちを追うことにした。

 

 

カエルのような体制をとり、ヒタヒタと奇妙な歩き方のため少し遅いが、対象のうちの三人――青い短髪の少女と、眼鏡の少女と、変な帽子の男――に追いついた。

 

 

追いついた男は、青い短髪の少女に、ツバを吐きつけた。

 

 

しかし、角を曲がった際に、再び見失ってしまった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「…………何とか撒いたみたいだな。」

「何だったのあいつ…?変な歩き方だったけど……」

 

千雨たちは、本棚の『上』から、男が立ち去るのを確認して、降りた。

アナスイにのどかを任せて二手に分かれた彼女達は、スバルの固有魔法『ウィングロード』を使い、本棚の上に隠れたのだ。

 

「まあ、深追いは禁物だな。奴に立ち向かうのは、アイツの力を探ってからだ。」

「ああ、だが、本来の目的も忘れてはいけない。まずはアナスイと宮崎に―――」

 

そこでウェザーは、スバルの姿がないことに気づいた。

 

「……ナカジマ?」

「まだ降りてきてないのか?」

 

恐らく、本棚の死角にいるだろうと考える千雨。

だが、スバルは今、降りるどころではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっ………これはッーー!」

 

 

 

 

 

スバルは『宙に浮いていた』!いや、スバルだけではない。周囲にあった『本』も、一緒に浮いている!

 

スバルが本棚に捕まろうと手を伸ばすも、バランスが取れずに、その場で回ってしまう。

 

「わっ、わぁあ!な!これは……私が触れたものが…どんどん浮き上がって来ている!私自身も!これが、あいつの能力!?」

 

ふと、突然弾丸のようなものが飛んできたため、スバルは防御する。が、防御した反動で、さらに回ってしまう!

 

そして、スバルは気づいた。これは『浮き上がっているんじゃあない』!

 

「わ、私は今!漂っているんだ!上もしたもなくなっている!私の周りから!私の触れるものから『重力がなくなっている』という事ッ!これはッ!『無重力』だ!」

 

ふと、ヒタヒタという足音が聞こえ、そちらを向くと、さっきの男が、こちらまで来ていた。

 

円柱のような奇妙なマスクにゴーグル、ツナギを着て、何故か裸足に足首に靴を縛り付けた男だ。

 

男は、足に力を込めて、スバルまで一直線に『跳びかかった』!!

 

 

 

 

 

←to be continued...

 




11話です。
・のどかのスタンドお披露目。のどかはサポート系ですが、自分でも戦えるなど、若干変則的です。スタンド名は、無印のOPから。デザインイメージは、電王ロッドフォームを女性的にした感じ。

・ラング・ラングラー登場。ラングラーは図書館島だと絵が栄えるなぁと思いまして。


では、次回をお楽しみに!


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#12/ウルトラセキュリティ図書館 ③

図書館島 第62閲覧室 日本の文学エリア

 

 

「さてと、そろそろあいつらと合流するぞ。」

「は、はいー………」

 

アナスイが後ろに着いてくるのどかに言うと、発現した『イノセント・スターター』はバイザーを下げ、『索的モード』に切り替えた。千雨に付けた「子亀」を探知するためだ。

のどかの『前髪』の内側に「レーダー」が映し出され、千雨たちの位置を表示する。今の自分たちから、100mくらい離れているようだ。

 

「ルートは外れてないみたいだな…よし、そっちに向かうぞ!」

「は、はい………えっ?」

「どうした?」

 

のどかが何か感づいたらしく、アナスイは聞いてみた。

 

「あっ、あの……長谷川さんが―――」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「あー宮崎、聞こえるか?いや、私は聞けないから、一方的に話すぞ…」

 

子亀を掴んで、トランシーバーのように話しかける千雨。

 

「しばらく私らに『近づくな』!………ナカジマが、ヤバい状況にあるらしい……」

 

そういう千雨とウェザーの視線の先では、

 

 

 

 

 

天井まで届くような巨大な『本棚』が

 

 

 

 

 

『浮かんでいた』……

 

 

 

 

 

#12/ウルトラセキュリティ図書館 ③

 

 

 

 

 

「くっ、リボルバーシュート!!」

 

カードリッジを一発消費し、飛び掛ってくる男に衝撃波を放つスバル。男はスタンドの腕――筋肉質で、手首に球体が付いている――で防御するが、無重力下のため、後ろに吹っ飛んでしまう。撃ったスバルも同様で、本棚に叩きつけられてしまう。

 

「ちぃ、てめえはもう始末したが、今ので下の二人に気付かれたみたいだな……」

「?」

 

男の言うことが分からないスバルだが、ふと、自分の背後に気配を感じた。振り向くと、いつの間にかウェザーと千雨が『立っていた』。

 

「ふ、二人とも!?いつの間に!!??」

 

だが、二人は答えない。男がスタンドの全身を出したからだ。

 

まるで月面や火星のような無機質な肌に、ロケットのような模様が入った胴体。顔は円柱の一部をカットしたような形で、口に当たる部分に呼吸用の穴が数個あいており、目の部分にはベルトが巻かれている。

そして、先ほどの腕の球体が『回転』していた。

 

「『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』!」

 

「二人とも!こいつの能力は「重力」をなくす!重力がない場所でどんな攻撃や動きをしていいか分からない。それに、やつの飛ばすものに触れてはいけない!『無重力に』される!」

「なるほど…『ありがとな(メルスィ・ボークー)』!」

 

小太刀を構え、何故かフランス語で感謝する千雨。

 

「『無重力』……おまえらもスタンド使いなんだろうが、それがどんなことを意味するのか……お前らに見ることができるかな?」

 

男が言い終わると、回転している球体から、何かが「発射」され、ウェザーに迫る!

 

だが!

 

 

 

 

 

 

グオオオオオオオオオ

「「!!?」」

 

ウェザーの周囲に「雲」が発生し、弾丸の軌道を『逸らした』!

 

「飛ばしたのは………ガラクタの部品か……」

「く……空気の層で弾の軌道を……!?」

「ああ、そして、敵の『攻撃手段』が分かった!『遠心力』だ!『重さ』がないというなら、回転する力でどこまでも加速できる!」

 

今のをみて、即座に分析する千雨。

男は、ウェザーに近づき、戦闘体制をとる。そして!

 

 

 

「『ウェザー・リポート』!!」

「『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』ッ!!」

 

二人が、同時に拳を振るう!だが、男の腕がウェザーの雲に突っ込んだ瞬間、『炎上した』!!

 

「こ、この炎はッ!?『空気抵抗摩擦』か!マズイ!どんどん燃え移ってくる!『無重力解除』だッ!!」

 

ドグシャア

 

男が周囲の無重力を解除すると、浮かんでいたハードカバーの本が十数冊、一斉にウェザーに降り注いだ!

本の落下のダメージで、ウェザーは倒れ込んでしまう。男は、腕を振り、腕の炎を消すと、ウェザーに狙いを定める。

 

「とどめだッ!!」

 

そして、男は弾丸を放とうとすると――――

 

 

 

 

 

 

 

ドグオォオン

「「「!!??」」」

 

男の両腕が『爆発』した!

だが、爆発の原因はすぐに分かった。男に向かって、『子亀』が飛んできたからだ!!

 

ドガッドガガッ

「何っ!?くそッ!」

 

「あれって、『宮崎さんの』……?」

「ああ、『イノセント・スターター』の『子亀』だ!多分、私に付けた子亀で狙いを定めて!ほかの子亀を「ミサイル」みたいにあいつに当てたんだ!」

 

そう言う千雨の胸では、『子亀』の背中の片眼鏡がキラリと光っている。いつの間にか千雨の背中から移動したようだ。

 

「チィイッ」

 

男は派手に舌打ちすると、弾丸を推進材に上の階に飛んだ。

 

「逃げた!」

「マズいぞ…あいつが今飛び込んだ通路は………!」

 

ジリリリリリリリリ

 

ウェザーが言い終わる前に、非常ベルがけたたましく鳴り響いた。

 

「野郎……!『装甲防火扉』を閉めやがったッ!」

「「何でそんなものが図書館にッ!?」」

 

千雨とスバルがつっこむが、今はそんな場合ではない。

『装甲防火扉』という事は、そう簡単に開くようにはできてないはずだ。スバルの力なら壊せるかもしれないが、今スバルは無重力の支配下にあるため、力を出せない状況だ。

 

どうしようかとスバルが悩んでいると、

 

 

 

ガッシィィ

「!?」

「確か、お前が触れるものは、全て『無重力』にさせられる……だったな。」

 

ウェザーと千雨が、スバルを『掴んだ』。もちろん、二人もあのスタンドの能力の影響を受けて『無重力』になる。

すると、足元に『大気』が発生し、それを『推進材』に、三人は閉じていく装甲防火扉に突っ込んだ!閉じていくギリギリだったため、男がいると思われる部屋へ到着した際、スバルのハチマキが扉に挟まってしまう。

 

 

 

着いたのは、ほかの閲覧室に比べると小さい部屋だった。どちらかと言えば、普通の学校の図書室のような場所で、本棚と机がいくつもあり、壁一面本棚になっている。

入り口は四方の壁に一つずつあるが、どれも堅く閉ざされている。

 

「と…とりあえず、閉じこめられなかったけど…二人も『無重力』の支配を…」

 

ハチマキを外しながら、二人の心配をするスバル。

 

「…まあ、いずれあいつは私らも無重力にするつもりだっただろうよ。」

「それに、ここは非常時のシェルターになるようになっている部屋だ。そう簡単に扉を破ることはできない。逆に閉じこめられたのはあいつの方になる。」

 

ウェザーが説明するが、スバルは『別のこと』が気になった。

 

「一つ………さっきから困ったことがあるの……ギリギリで防火扉を通り抜けて、さっきの敵が今…ここのどこかにいる……こんな状況でちょっと言いにくいんだけど……個人的な事で…でも、結構切羽詰まったことでかなり困ってて……緊急に解決しないと………その……かなりマズくて……」

「「?」」

 

スバルが切羽詰まったように言うので、何事かと見る二人。

 

「私に…なぜ急に起こったかわからないんだけど……えと、その……どこの誰だって起こりうると思う!聖王だって絶対に自分ではコントロールできないはず!」

「いや、さっきから何の話を…………! な、なるほど!分かったぞナカジマ!!私も今『そうなった』!」

 

どうやら、千雨にも同様の問題が発生したらしい……

 

「?…どういう事だ?」

「だからさあ、『大きい方』と『小さい方』があって、「シ」で始まる下半身関係の言葉!もう漏らしちゃうよ!」

「いや、『大きい方』じゃなくて本当良かったって思うよ!きっと無重力と因果関係があるはずだ……すぐに解決しないと別な意味でかなり最悪!」

 

二人の言葉で、ようやくウェザーは言いたいことが分かったようだ。つまり、二人は――――――

 

「『小便』がしたいのか?」

「顔近づけて言うなや…すげーマジなんだよ…ガマンできない……どうしていいか分からない…」

「…その辺でするしかないな。」

「うぅ~相談しなきゃ良かった…」

 

ウェザーに相談した事を後悔する二人…

何というか、デリカシーがかけていた。

 

「オレはもう済ませた。今そこの空中でな。」

「「え?」」

 

ウェザーの爆弾発言に、信じられないという顔の二人。

 

「『無重力』になると、体内の血液は急に頭部にたくさん集まってくる。普段は『重力』があるから体の下のほうにある血液がな。」

 

解説するウェザーがスバルの額を指で触ると、ブヨブヨという触感が伝わった。

 

「触ってみろ…額の皮膚と骨の間が血液でブヨブヨに膨れている……『ムーン・フェイス』ってやつだ。だが、頭部に血液が行き過ぎると『危険だ』というので、君らの体内の腎臓は自動的に血の量を減らそうと活発に働き始める。それで利尿作用が激しく起こってるんだ。小便で塩分を出して、血を薄くさせようとな。確かにどうしようもない。空中へしろ。オレはもうそこの影でした。」

「おい!何でこういうことになったかは分かったが、今どこで何をしたって!!?」

「心配するな……雲が吸い取ってくれるよ。君らがパンツを下げるなら……」

 

千雨の言葉を無視して『雲』を出すウェザー。スバルと千雨は顔を見合わせて、仕方なく『する』ことにした………

 

「うおぉっ!ちょっ、ちょっとぉ!空中に浮いてるこれなにィィイ~~~~~!?」

「こぼれてる!雲からこぼれてるってこれぇぇ~~~~」

「………」

 

後ろから声がするが、見ないようにするウェザー。デリカシーがあるのかないのか…………

 

 

 

シュン!シュン!シュン!

「「……!?」」

 

ふと、二人は見た。空中に浮く「水滴」が、壁の溝に『吸い込まれた』!!?

だが、変化はそれだけではなかった。急に鼻血が出始め、溝に吸い込まれていった!

 

「こ!これは……いったい……!?」

「か……壁がおかしい……溝に…鼻血が吸い込まれていく!」

「オレの……さっきの怪我もだ……血が空中にどんどん吹き出していく…」

「「!!」」

 

見ると、確かに血がどんどん『溝』に吸い込まれている。それに、スバルは感じた。さっきから、なんだか息苦しい!

 

そのとき、スバルたちに向かって、弾丸が飛んできた!スバルはあわてて防御するが、腕にかすってしまう。すると、その『かすり傷』からも、血が吹き出していく!?

 

「き……『気圧』が下がっているッ!」

 

スバルは気付いた。

 

『自分が触ったものは全て無重力になる』……ならば、自分は『何に』触った?扉や床……壁にも触った。そして、さっきから触っているもの……「空気」!!

 

「わ……私、空気にずっと触れ続けている……空気は重力があるから、私の周囲にずっとある……でも、それが無重力になったら……『どこへ行くの』?壁も…床も無重力になっている!『無重力』に囲まれているとしたら……」

 

 

 

 

 

 

「周りの空気は、どこへ行ってしまうの!!?」

 

 

 

 

 

スバルの悲痛な叫びが部屋中にこだまするが、その問いに答えるものはいない。

 

 

 

 

その様子を、男はじっと、影から見ていた………………

 

 

 

 

 

 

←to be continued...

 




12話です。
・今回は基本的に、「サヴェジ・ガーデン作戦」のストーリーを、図書館島に置き換えただけです…

・のどかのサーチモードは、ディアボロやジャイロからの発想。一番見やすいだろうと思いまして。「小亀ミサイル」も結構お気に入り。『小亀』のダメージ=本体へのダメージではないので、そこに注目した攻撃です。

・ムーンフェイスのくだりは、本当はティアナにやらせたかった(笑)

では、次回をお楽しみに!


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#13/ウルトラセキュリティ図書館 ④

千雨の母「長谷川 百香(ももか)」は二十年前、ニューヨークに住む『リサリサ』という女性の元で、「波紋」と呼ばれる力の修行をしていた。

 

1990年のある日、彼女の息子の紹介で、ある「男性」と知り合った。

 

彼と何度か食事をしたり、彼の家へ遊びにいったりしているうちにお互い惹かれ合い、1992年に結婚。翌年には千雨を出産した。

 

だが、千雨は父親と遊んだ記憶などは、ほとんどない。彼はどういう訳か、家をよく空けていたからだ。

 

妻にも訳を言わないため、たまに帰れば口げんかが絶えない。そんな関係が長く続き、千雨が4歳の時、父親は『音信不通』となった。

 

その内、千雨が父親の顔を忘れてしまった頃、2001年の春、イタリアで父親が『変死体』となって見つかった。

 

父は、心臓付近に大きな『穴』を開け、死んでいたそうだ。

 

葬儀は、彼の祖国で、親族と親しい友人のみで行われた。

 

その中には、母の師匠とそのひ孫、

 

そしてその娘もいた。

 

 

 

 

 

これが、長谷川 千雨と空条 徐倫の出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

#13/ウルトラセキュリティ図書館 ④

 

 

 

 

 

 

そして今、千雨に「災難」が降り注いでいた…

 

 

 

 

 

「ふ……ふさがないと!!隙間をッ!目張りしないと!このままでは窒息してしまうッ!」

 

隙間に浮いてきた本やダンボールを当てながら、スバルは叫んだ。

栓を抜いた浴槽の水のように、空気が隙間へと流れていくためだ。

 

「いや、違うぞナカジマ…水の中じゃないんだ…窒息じゃない。」

 

ウェザーは、冷静にスバルへ言う。

 

「心配しないといけないのは、その前に体内の血液が沸騰して死ぬことだ…気圧がどんどん低くなると、室温なのに血液は熱湯のように沸騰する……無重力で真空なら、人間の体は窒息より前に、20秒で血液はカラカラに『干からびて』しまうらしい……」

 

ウェザーが話す中、弾丸が飛んできた。

スバルはシールドで、千雨はスタンドの『小太刀』でそれぞれはじき返すが、はじいた弾丸が、目張りしていた本やダンボールに着弾してしまい、空気が流れる量が増えてしまう!

 

「「うああああっ!!」」

 

 

 

「弾丸を……補給するかな………」

 

男は、持っていた箱からガラクタを腕の球体へ入れた。彼はすでに、勝利を確信していた………

 

 

 

「ナカジマ!扉から離れろ!ねらい撃ちにされる…とにかく、どこかに身を隠すんだ!」

 

千雨が、スバルに向かって叫ぶ。

男の弾丸は正確に自分たちを狙い撃ってくる。扉近くの広い場所では、いい的だ。

 

「でッ…でも!空気を止めないとッ!はー鼻血がこんなにッ!」

「……『ウェザー・リポート』!」

「「!」」

 

ウェザーがスタンド名を静かに言うと同時に、三人の体を『雲』が包み込んだ………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「!!」

 

弾丸を補給して、撃とうとした男だが、三人の姿が見当たらない。

どこかに隠れたのだろうか……?いや、有り得ない。

すでにあの傷だ。持って後1分、いや、30秒で死ぬはずだ。ならば、どうやって、そしてどこに行ったのか………?

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

「ハァー、ハァー…」

「あまり大きく呼吸するな…この部屋の残り少ない空気をとりあえず集めて、体の周りだけ『雲』で囲んで気圧を高めただけだ……部屋の中は真空に近く、この「雲」の量しかない……。」

 

近くの本棚の陰に隠れ、千雨とスバルに今の状況を説明するウェザー。

 

今、三人の体は『雲』に囲まれている。しかも、それは「服」の形をしていた。

たとえるならこれは―――

 

 

 

「く……『雲の、う…宇宙服』?これって………!」

「で…でも、どの程度『呼吸』もつんだ?これ?」

 

千雨の質問に、ウェザーは渋い顔をする。

 

「…答えたくない質問だが、2分程度ってところか……ひん死の『雲のスーツ』だ…」

「……その間に敵に近づいてあいつを倒さなきゃ、今度は確実に真空に放り出されるってこと?」

 

スバルは、周りを見るウェザーに聞く。鼻血は止まったようだ。

 

「そういう事だ。だが、くそ…ヤツもさっきの場所にいないぞ…隠れられた……」

「ちっ、探さないと、このままじゃヤツの攻撃は『完成』しちまうな……」

 

千雨とウェザーが話す。

だが、スバルは「ある事」に気づいた。

 

「ねえ、鼻血が止まった今、ひとつ気になる事があるんだけど。」

「……何だ?ヤツを探さなきゃあならないから、手短に話せ。空気ももたない。」

 

スバルは、ある一点を指さす。そこには、『角皮文庫』と書かれたダンボールが『山積み』になっていた。

 

そして、千雨とウェザーも気づいた。

 

 

 

『山積み』?『無重力』下で??

 

 

 

「私はこの部屋の扉と壁と床に触った…それで、部屋中が『無重力』になっていろんな物が浮き上がっている。空気もいすも本もゴミ箱も………でも、何であそこのダンボールは浮き上がらずに床に『ひっついて』いるの?そしてその向こうの本棚の本…ガムが底にひっついてるわけ?

それにあの敵…あいつはどうやってこの真空で『呼吸』をしてた?ヤツの血液だって真空中ではブクブクと沸騰するんじゃあないの?」

「…!そうかッ!あれは『射程距離』だッ!この「無重力」には射程距離がある!部屋全部じゃあないんだ!!」

「そう、私が今触っているこの本棚から20m弱!『無重力』はそこまで!あのダンボール箱の所は今…普通の『重力のある世界』!空気は私の周りからだけどんどん出ていき、無重力エリアの中に入ってくることはない。見えないけれど、囲まれているんだ……半径20mの外!敵も無重力の『外』だから今、呼吸を普通にできている!」

「……あそこまで行けば、真空が終わり、気圧も普通の空気があるという訳か………ならば!」

 

ウェザーが納得すると、千雨に向き直る。

 

「長谷川!お前のスタンドを『全開』にするんだ!お前の能力なら、『雲のスーツ』が飛んでなくなる前にヤツを倒せる!!」

「スタンドを……全開に?」

「……………」

 

ウェザーの言うことが分からないスバル。だが、千雨は『はぁ』とため息をつくと、すくっと立つ仕草をする。

 

「仕方ねぇ、『緊急事態』だからな……どっち道『呼吸』は必要になる………だがなナカジマ!これだけは最初に言っておく!これから見るものは、『誰にも言うな』!いいな!?」

「う……うん………?」

 

スバルに忠告した千雨は、自分のスタンドの『全身』を出す――――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

シュン

「……?」

 

自分の背後を何かが動いた気がして、男は振り向いたが、何もいない。

 

だが、直ぐに気のせいだと考えた。

 

自分の『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』は無敵だ!無重力の外には、自分以外誰もこれない!

 

そう考えた時、

 

 

 

 

 

 

コォォォオオオオオオ

 

「!!??」

 

奇妙な『呼吸音』が、背後から聞こえた!

 

振り向いた男が見たのは―――

 

 

 

 

 

「て…テメェ、何だよそのスタンドはッ!?」

「へっ悪いな、企業秘密だ!」

 

千雨は剣を構えて、壁を蹴る!

 

 

 

 

 

かつて、「柱の男」に敗れた『波紋の一族』の一部が、後に『日本』と呼ばれる地に逃げ延びた。

 

彼らは、チベットやヴェネツィアほどではないが、日本で『波紋』の一派を作り、修行に励んだ。(一説では、この修行僧の姿が天狗伝承の由来になったらしい。)

 

時が経ち室町時代、『波紋』と『剣術』を組み合わせた『仙道剣術』を生み出した者が現れ、徳川に仕えた。

 

後にこの剣術は時代の裏で活躍し続け、幕府に迫る妖怪の類を討伐したという………

 

その内の一つが、裏社会で京都の『神鳴流』と並び、『江戸の隠し刀』と謳われた流派、その名も『双燕天翔流仙道剣術』である。

 

(メッシーナ著「波紋世界史」 民明書房刊 税込み 3,850YEN)

 

 

 

 

 

 

「双燕天翔流仙道剣術、八大奥義が一つッ!」

「!?」

斬ッ

「疾風月華!!」

 

すれ違い様に男を何度も『斬りつけた』千雨は床に着地!同時に 自分の体を「重く」感じ、敵が能力を解除した事を確信した。

 

「ぐ………あっ、ぐ………」

「……と、どうやら無重力も終わりみたいだな………」

 

背後で短く声を上げて気絶したらしい男を見て、千雨はつぶやいた。

その時、

 

 

 

ドガガガァッ

「ん?」

 

 

 

 

「は……長谷川さん………無重力が解除されて助かったけどさぁ………」

「……いきなり解除させないでくれ………」

「ご……………ごめん………」

 

ただでさえダメージがひどいのに、無重力解除で本が降り注ぎ、さらにダメージを負った二人がいた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「こいつの財布に「免許証」があったぜ。名前は『ラング・ラングラー』……国籍はアメリカか…」

 

財布から男――ラング・ラングラーの身元を暴いたアナスイ。

直ぐ横ではラングラーを千雨が縛り、のどかはスバルたちの手当をしていた。

 

「あ、あのー、長谷川さんとスバルさんは、手当の方は-……?」

「ん?ああ、私は大丈夫!こう見えて、身体は丈夫だからさ!」

「私も、『波紋』の呼吸である程度「治癒」はできるし、先生らを探す分には平気だぞ。」

 

ラングラーを千雨が倒した後、アナスイ達が『装甲防火扉』を開き、どうにか脱出できたスバルたち。今はネギ達を探す前に、ラングラーの処置をどうするかを考えていた。

そこでウェザーは、自分達でラングラーを運び、残りでネギ達を探すことを提案した。

 

「こいつはSPW財団に引き渡して、誰の差し金か吐かせる。こいつらを頼めるか?アナスイ。」

「いいぜ。そっちこそ、任せたぞ。」

 

ラングラーを運ぶのはウェザーとのどか、残りはネギを捜索することになった。

 

「よしっ!早速行くぞッ!!」

 

意気込むアナスイに、手当を終えた二人が続く。

 

 

 

 

 

が、

 

 

 

 

 

カチッ

 

 

 

 

 

「「「…………『カチッ』?」」」

 

 

 

 

 

アナスイの足元から、嫌な音が聞こえ、

 

 

 

バクンッ

 

 

 

床に『穴』が開いた…………

 

 

 

 

「ウソォォォオオオ!!??」

「アナスイテメェェエエエ!!」

 

3人の叫び声は、閉じた穴の蓋により、聞こえなくなった…………

 

「だ……大丈夫ですかね?皆さん……」

「分からん………」

「えぇーー!?」

 

 

 

ラング・ラングラー――スタンド名:ジャンピン・ジャック・フラッシュ――再起不能

 

 

 

←to be continued...

 




13話です。
・千雨の過去をちらりと書いてみました。実は徐倫と千雨は幼馴染のような間柄でした。
 千雨の父親とスタンドは、いずれちゃんと書きます。

・ラング・ラングラー再起不能。ちょっとあっけなかったかな?民明書房ネタは原作でもちょっとあったので入れてみました。
 まあ、ネギま世界観ならあってもおかしくはないと思うけどw

では、次回をお楽しみに!


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#14/ウルトラセキュリティ図書館 ⑤

数時間後

〈期末試験まで後一日〉

 

 

「………………うん……?」

「あ、気が付いた?」

 

千雨が目を覚ますと、目の前にあったのは『女性の顔』だった。

まだ若く、二十代前半位だろうか。金髪のウェーブヘアーにぷっくりとした唇、背は小柄なほうだろうか。

 

「………どうも、えーと……?」

「ああ、私は図書館島の『司書見習い』で、この部屋は私が使わせてもらっている部屋よ。」

 

女性は起き上がった千雨に名乗る。起き上がった時に、乗っていたらしい「白いウサギ」がぴょこんと飛び降りて足元で丸くなった。

ようやく覚醒し始めた頭で回りを見てみると、部屋のソファにスバルが、床に敷かれた布団にアナスイが寝かされていた。

 

この時、千雨は気が付いた。『ラング・ラングラー』との戦闘で、自分とスバルは結構な傷を負ったはずなのだが、その傷が体にはなく、回復をしているのだ。

自分は波紋の呼吸で治癒ができるので治ったのかと思うが、スバルの傷も治っているのは何故だろうか?そう思っているうちにスバルたちも目覚め始めた。

 

彼女の話では、図書館島内を見回りしていた時に倒れていた千雨たちを見つけ、自分が手伝っている司書の人を呼び、自分が使わせてもらっているこの部屋に運んだらしい。

しばらくして軽く食事をもらうと、―――なお、この際スバルは遠慮したのか普段より少ない量を食べた。―――『人を捜している』ことを話した。

すると彼女は、「昨日から、この部屋の先にある図書室が騒がしい」と教えてくれた。

千雨はそらがバカレンジャーだと確信し、彼女に道を教えてもらうとそこへ向かうことにした。彼女に別れを告げ、3人はその図書室を目指す……

 

 

 

 

 

#14/ウルトラセキュリティ図書館 ⑤

 

 

 

 

 

「問題

『CONTRAST』の日本語訳は?

A 対称

B 対象

C 対照

はい、どれ?」

 

まき絵の目の前には、ABCとそれぞれ書かれた三つの箱があり、箱の反対側には、問題を出題した徐倫がいる。

 

「えっと……C…………かな。」

「…………………………………」

 

まき絵は答えるが、徐倫は黙ったままだ……

 

 

 

 

 

「正解!なんだ、結構できるじゃないか!!はい、ゆで卵。」

「わーい♪」

 

Cの箱から出したゆで卵をまき絵に渡す徐倫。

よく見ると、他の三人――古菲、楓、夕映も、ゆで卵をもぐもぐと食べていた。明日菜だけは、手に持った『セッケン(バラの香り)』を見つめていたが……

 

「―――って、何で正解したらゆで卵なんですか!?別に他の食べ物でもいいでしょう!?」

「うまいじゃん、ゆで卵。」パラパラ

「板○英二さんですかあなたはッ!?」

「てか私『セッケン』なんて食べれないわよッ!ていうか、食べたら死ぬからッ!」

 

つっこむネギと明日菜に対して、カラを剥いたゆで卵に塩をかけながら答える徐倫だった。

 

徐倫が提案した、問題に一問正解したら正解の箱の食べ物が食べられる『英単語クイズ』。徐倫によると、この方法で叔父の友人が英語のテストで百点満点を取ったらしいのでやっていたが、明日菜だけはやはりダメだった…………

 

 

 

 

 

今、徐倫たちがいるのは、夕映いわく『幻の地底図書室』という場所で、地底なのにあたたかい光に満ちて、数々の貴重品にあふれた、本好きにとってはまさに『楽園』!だが、ここを見て生きて帰ったものはいないとか……とにかく、今彼女たちは『脱出困難』な状況だった。

 

そんな中、ネギが諦めずに助けを待とうと励まし、期末に向けて勉強しようと言ったのだ。

幸いというか都合がよすぎるというか、テキストや食料があったため、勉強や食事には困らなかったため、ネギたち八人は何とか無事だった。

 

 

 

 

 

そして現在――

 

「よし、次正解したら『チーズ味のペンネ(木乃香作)』が食べれるぞ!がんばれ!

問題

『Hail to you!』の日本語訳は?

A 君に塀を

B 地獄を君に

C 君に幸あれ」

「えっと………B?」

「……………はずれ。正解はCの『君に幸あれ』だ。はい、Bの箱の「英単語カード」だ。」

「食べ物じゃない上にさらに勉強しろとッ!?」

 

 

 

神楽坂 明日菜――連続五問不正解+腹ぺこのため、さすがに可哀想だということで、「仕方なく」と徐倫にゆで卵を五個+塩小さじ一杯もらった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ん?何しているんだ、ネギ?」

「あ、空条さん。いや、ここの『本棚』の本について、気になって……」

 

休憩時間、「モロヘイヤ天然水」なる飲み物のパック片手に図書室内を散策していた徐倫は、水辺で本を調べていたネギを見つけて声をかけた。

 

「確かに…ずっと水に浸ってたはずなのに、全く本が『痛んでない』な……これも『魔法』なのか?」

「多分………一体誰がこんなモノを……?」

『チュミ~~ン?』

 

そう言いながら歩く徐倫とネギ。傍らには、『精霊(スタンド)』もいた。

 

 

この学園には、魔法先生や魔法生徒なる者がいることは、先日の『オエコモバ』の一件で分かった。となると、この『麻帆良学園都市』そのものも、『魔法使いたち』が作ったと考えれば、今自分たちがいるこの「地底図書室」や、この間のゴーレムにも、納得がいく……

 

 

「……あ〜、難しい事考えるのは後だ。

あ、そういえばネギ、お前の『スタンド』なんだが―――」

 

キャッキャッ♪

 

「「ん?」」

 

話しかけた徐倫だが、ふと、はしゃぐ声が聞こえ、そちらに気が向く。

声をしたほうを見ると―――

 

 

 

「「「ん?」」」

「へ?」

「あ〜……」

『チュミ?』

 

まき絵、古菲、楓の三人が、『裸』で水浴びをしていた……………

 

 

 

「やーん、ネギ君のエッチ〜〜♪」

「うわわ〜、ご、ごめんなさいーーー!」

 

慌てて駆けだそうとするネギだが、楓に捕まれてしまい、じたばたするだけになってしまう。

 

「くすくす、顔真っ赤にしちゃって、カワイ〜♪」

「ネギ坊主、10歳なのに、女の子の裸に興味あるアルか?」

 

三人にいじくられるネギ。だが、

 

「あのっ…僕、お姉ちゃんで見慣れてるしっ……女の人の裸とかには『全然』興味ないですからっ!英国紳士として…」

「「なっ………」」

「「………」」

 

ネギから衝撃の発言に、固まる四人。

 

「うわーん、ヒドいよネギ君ーーー!」

「ワタシたちよりも楓やジョジョみたいな体しか興味ないアルかーーー!」

「え、いや、そういうわけじゃあ…そ、その……………ごめんなさーーーい!」

「あ、おい、ネギ!…ったく、あんまりからかうなよな、お前らッ!」

 

大声で謝り、脱兎のごとく走り去るネギ。徐倫は、まき絵たちに注意して、ネギを追うことにした。

 

「くす、『興味ないですから』だって〜。」

「『英国紳士』アル〜〜♪」

 

まあ、あんまり反省はしてないようだが………

 

 

 

 

 

そんな風にふざけていたからだろうか。

彼女たちは、自分たちの背後に忍び寄る『陰に』気づかなかった…………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

数分後

 

 

「えっ?クラス解散とか、小学生からやり直しとかは?」

「いや、僕がクビになることしか聞いてないですけど……」

「………………やれやれ、やっぱデマだったのね……」

 

明日菜と二人は、『ネギの最終課題』の話になっていた。

まあ、留年はともかく、小学生からやり直しはあり得ないが……

 

「あぁーもうッ!それならこんな謎の図書館なんか来なかったわよッ!」

「えぇっ!?そんなぁ~」

「全く、あんたが来てから踏んだり蹴ったりよ!」

「明日菜、それはないだろ…」

 

なんかヒドいことを言う明日菜につっこむ徐倫。

 

と、

 

 

 

 

「「「ぁぁぁああああああーーー!」」」

「「「ん?」」」

ザッバァアーン

「「「なッ!?」」」

 

上から声が聞こえたと思ったら、近くに水柱が立った。

 

「あうー、変なとこ打った〜〜」

「よし、全員無事らしいな!」

「ッベボガベボベビガボッ!ベビブガババブボゲ!ビギバベビベベッ!(訳:っておまえのせいだろッ!ていうか早くどけ!息ができねえッ!)」

 

落ちてきたのは、スバルとアナスイ、そして2人の下敷きにされて水に沈んだ千雨だった…

 

「なッ!?何でスバル達が降ってくるわけ!?」

「あ、空条さんにネギ君に明日菜ー!みんな無事ー!?」

「ていうか千雨が無事じゃないぞッ!?早くどいてやれよッ!!」

 

 

 

聞けば、バカレンジャーを助けようと図書館島に来たが落とし穴に落ちてしまい、『司書見習い』の女性に介抱してもらって、道を教えてもらったらしい。

だが、『地底図書室(ここ)』まで来るのに、アナスイがまたトラップを発動させて、落ちるはめになり、現在にいたる………

 

「………どんだけ落ちれば気が済むのよ、あんたたち………」

「好きで落ちてんじゃねぇよッ!全部こいつのせいだよッ!!」

 

アナスイを指して叫ぶ、ずぶ濡れの千雨。本当に探検部なのだろうか、この男…?

 

「アスナー!!ってあれ?何でスバルちゃんたちまでおるん?」

 

と、そこへ木乃香がやってきた。

 

「あ、このか、それよりどうしたの?」

「あ、そや、大変なんよ!はよう!」

 

木乃香に連れられて走る一同が見たものは…

 

 

 

 

 

「誰か助けてーーッ!」

『フォフォフォーーー』

「「「「って何あのデカいのーーーッ!?」」」」

「またあいつ!?」

「ゴーレムッ!一緒に落ちてたんだ!」

 

ゴーレムにとらわれたまき絵だった。

だが、ピンチの時こそ冷静になる!それが空条家…いや、ジョースター家!

 

「スバル!(ク―)!ヤツの『脚を狙え』ッ!」

「えっ、う、うん!」

「アイよジョジョ!」

「というか、何故ナカジマさんがここに……?」

 

スバルと古菲に指示を飛ばす徐倫。二人は、ゴーレムの足元に近づく。

 

「アイ〜……ハイッ!」

「ウリィィャアアアッ!」

ドゴォ!

『フォオ!?』

 

左脚に強烈な一撃を喰らい、ゴーレムは倒れる!その衝撃で、まき絵は離され、それを楓がキャッチする。

 

ひゅ〜…ドサっ

「ん?何この本…?」

 

足元に落ちてきた本を拾うスバル。その本は……

 

「あ!そ、それは!」

「メル……何とかの魔法の書!?」

「ゴーレムと一緒に落ちてたんだ!」

「よし!それが手に入れば、こんなとこに用なんてないわ!」

 

メルキセデクの書を手に入れ、全員の志気が高まる。だが!

 

ズズーン

『逃がすと思うてかーーーッ!』

「キャー!」

「って、あいつまだ!?」

「どうすんのよ!?打つ手ないわよ!?」

 

ゴーレムが起き上がり、再びパニックになる一同。だが、徐倫は冷静であった。

 

「みんな!千雨たちがここからの『出口』までの道のりを、「司書見習い」の人から聞いているわ!それに、今のスバルと古の攻撃で、奴の脚はかなりのダメージだ!!おまけにあの『巨体』!!早く動けないはず!そこが『つけめ』だ!!」

 

徐倫の言うとおり、ゴーレムの脚はひび割れて、今にも崩れそうな感じであった。

 

「なるほど、だったら………」

「やるべき手段はたった一つ!」

 

全員顔を合わせて頷いた。いまいち分かっていない様子のスバルとネギは首を傾げ、徐倫に聞いた。

 

「え、ええと……みなさん、一体何を………?」

 

ネギが聞くなか、徐倫はアキレス腱を伸ばして、軽くストレッチをする。

これこそ、ジョースター家伝統の戦法、それは―――

 

 

 

 

 

クル

「逃げるんだよォ!ネギィーーーッ!」

ダッダー

 

「ってえええええええええええええええ!?」

「わあ〜ッ!!なんだこの人ーーーッ」

 

回れ右して走り出す徐倫と、それに続くバカレンジャー。ネギとスバルは徐倫達の行動に叫び、アナスイは某ドイツ軍人みたいな呆れ顔だ。

 

だが、ここで予想外の事態が起こる。ゴーレムが、高く『ジャンプ』したのだ!

 

「なッ!?あいつ、まだあんな力が!?」

「くッ…!」

 

ネギが『爪』をスタンバイするが、ゴーレムの後ろに『人影』があるのに気がついた。アナスイだ!しかも、スタンドを出している!

 

6つの穴が開いた仮面のような頭部にレギュレーターを噛み、酸素ボンベを背負ったダイバーのようなデザインをした銀色のスタンド。その名も!

 

「『ダイバー・ダウン』!!」

ズボォオ

『ふぉ!?』

 

『ダイバー・ダウン』の腕がゴーレムに「めり込む」!いや、『体内に潜入した』と言った方がいいだろうか…?とにかく、ゴーレムにダメージを与えたようだ。

 

(………むっ?これは…………?)

 

だが、ダイバー・ダウンを潜入させて、アナスイは『ある事』に気づいた。それは―――――

 

「アナスイ!」

「徐倫!こいつはオレにまかせて、先に行けッ!」

「わかった。」

ダッダー

「一切の躊躇も無く!?」

 

いつものこととはいえ、かなりショックを受けるアナスイだった。

 

「アナスイ…おまえの事は忘れない!………三分くらい。」

「「「短ッ!?」」」

「おいおい徐倫、三分はないだろ。五分くらいにしとけ!」

「「「それでも分単位なんだ!?」」」

 

何とも不憫な扱いのアナスイだった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「本当に行っちまいやがった………」

『………いやはや、あなたも不憫なお方だ。』

 

去ってしまった徐倫達を遠くに見るアナスイ。不意に、ゴーレムが話しかけてきた。

今までの低い声ではなく、若干高い感じの声であった。

 

「………それで、お前は誰なんだ?『ゴーレムの中の人』さんよぉー?」

『ふふ、話してもいいですけれど、その前にその腕を放してはくれませんかね?』

 

アナスイは『ダイバー・ダウン』を解除すると、ゴーレムの胸部分が開き、中からローブを着た、長髪の男性が現れた。

 

「どうも。図書館島の司書官をしている、『クウネル・サンダース』と申します♪」

「司書官?いるって噂は聞いていたが………」

 

アナスイは、クウネルと名乗った男をまじまじと見る。明らかに、自分と同世代ほどだ。

 

「(思ったより若いんだな………)で、何でその司書官さんが、ゴーレムにのって女子中学生追い回すマネなんかしてたんだ?返答次第ではよぉー、」

「いえ、実は学園長に頼まれて、彼女たちの勉強のお手伝いをしていましてね。」

「何考えてんだよ、あのジジイ………」

 

クウネルの返答に、呆れてため息をつくアナスイ。クウネルは意味深に笑うと、

 

「さて、彼女たちも無事地上に向った事ですし、私の住居でお茶でもどうです?久しぶりに、『外』の人と話もしたいですし。」

「……徐倫の方に行きたい所だが、まあ、少しくらいは良いぜ。」

 

 

 

 

 

バカレンジャー+数名――この後、無事脱出。だが、メルキセデクの書を落としてしまう…

ナルシソ・アナスイ――2時間クウネルと話した後、アパートに帰った。

 

 

 

 

 

←to be continued...

 




14話です。
・冒頭の『司書見習い』の正体は、分かる人には分かる人物です。

・徐倫の飲んでいたジュースの元ネタは、某戦う交通安全からwこれも結構マニアックですw

・クウネル登場。何気に10話の時に徐倫が反応していましたが、実は『承太郎と中の人が同じ』というネタでしたw

では、次回をお楽しみに!


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#15/チートコードなし!期末試験に挑め

翌日

〈期末試験当日〉

 

試験開始まで後5分

 

 

「「「「遅刻!遅刻ゥ!」」」」

 

明日菜たちバカレンジャーと図書館探検部四人に、徐倫と千雨、ネギ、そしてスバルは走っていた。

 

「あ〜ん!一時間で起こしてって言ったのに〜ッ!」

「思いっきり爆睡しちゃったアル〜ッ!」

「ごめーん!私も寝ちゃったぁーーーッ!!」

 

最後の足掻きにギリギリまで徹夜で勉強していた一同。一時間ほど仮眠するつもりが全員爆睡してしまったため、思いっきり遅刻していた………

 

「お…遅れてスミマセン………」

「ああ、君たちか。遅刻組は別教室の方で受けなさい。」

「は…はい、スミマセン…」

 

ちょうど通りかかった、眼鏡をかけた年配の先生――新田先生に連れられ、一同は別教室へ向かう。

寝不足と、昨日までの疲れでフラフラとした足取りの彼女たちを、ネギは後ろから心配そうに見ていた………

 

 

 

 

 

#15/チートコードなし!期末試験に挑め

 

 

 

 

 

[―――では始め。試験時間は50分です。]

 

試験が始まり、教室にはカリカリという書く音以外は聞こえなくなる…

 

普段から真面目に勉強をしているあやかや超などの面々も、今回はかなり真剣な面持ちで試験に挑む。そして、遅刻した明日菜たちは―――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

別教室で試験を受ける明日菜たちの様子をこっそり見るネギ。

 

「……うう、やっぱ難しい…」

「それに……眠いアル…」

「やっぱり徹夜は失敗だったかなぁ………」

「コラ、私語をしない!」

 

明日菜たちは、三日間の探検と勉強による疲労で、とても集中できていない様子であった。

 

(………よし、ようやく魔法の『封印』も解けたんだし!)

 

そう思うと、ネギは花を取り出し、それを『触媒』に呪文を唱える。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 花の香よ(フラーグランティア・フローリス)仲間に元気を(メイス・アミーキス・ウィゴーレム)活力を(ウィーターテム・)健やかな風を(アウーラム・サルーターレム)

活力全快(レフェクティオー)……」

 

 

 

ふぁあっ………

 

 

 

ネギが『詠唱』をし終えると、花の香りが教室中に漂った……

 

(………ん?)

(あれ……)

(…何か、頭すっきりしてきた♪)

(やる気出てきたアルよ~)

 

呪文の効果で明日菜たちの眠気と疲れが回復し、試験に集中できるようになった。

 

(僕にできるのは『活力全快(これ)』くらいだ………みんな、頑張って!)

 

全員の集中が戻ったのを見ると、ネギは教室から離れた。

 

(………やれやれだわ。ま、今回は目をつむってあげるわ。ありがとね。)

 

唯一気づいていた徐倫は、心でネギにそっと感謝した。

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

数日後

 

六課のマンション

 

「―――では、『ラング・ラングラー』は、依頼者について何も知らなかったのですね?」

[ああ。分かったのは、奴に依頼をしたのが「女」ということだけで、後は何も…」

 

悲痛な表情で、ウェザーと電話をするティアナ。

 

[分かった。手間をかけさせてすまなかったな。後は『SPW(スピードワゴン)財団』に任せて、調査をやり直そう。]

「はい…では。」

 

ウェザーがそうしめて、電話を切る。

 

リビングに戻ると、ヴィータとリィン――シャーリーは、フェイトについていったためいない。――が、モニター前に集まっていた。

 

「って副隊長たち、何見ているんです?」

「あ、ティアさん。ほら、クラス成績の『順位』が、もうすぐ発表なんですよ!」

「……あ。そういえば、そんなこと言っていたわね……『ラングラー』にかまってたせいで、忘れていたわ…」

 

そう、今日は『クラス成績発表日』、つまり、ネギの『最終課題の結果発表の日』でもあるのだ。

 

 

 

しばらくすると、発表が始まった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

麻帆良学園女子中等部

 

昇降口ロビー

 

[えー、次は下から三番目の『22位』――2―Pッ!!70.8点ッ!]

 

「ひいぃッ!」

「ま………マズいよ!次出てこないと、『最下位』決定に………」

 

ロビーで発表を聞いていたバカレンジャーとネギ、そして徐倫とスバルたちは、なかなか出てこないA組の名前に、ハラハラしていた………

 

「………」

「ネギ君…」

「ネギ………」

 

[次は下から二番目、ブービー賞です。]

 

そして、ついにブービー賞の発表が………

 

[えーと………これは………]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[『2―K』ですね。平均点69.5点。]

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……………」

「――――ということは……………」

 

 

 

「「「「「「「「「「最下位確定ィィィィ〜〜〜ッ!?」」」」」」」」」」

「………」

 

一同が『最下位』という結果に呆ける中、ネギは、静かに一同から離れた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

麻帆良学園中央駅

 

 

(お姉ちゃん…今から故郷(くに)に帰ります。『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』になる「夢」はダメだったけど………でも、みんな頑張ってくれて、嬉しかったな……)

 

課題失格を知り、少し悲しげな表情のネギ。まとめた大荷物を持ち、故郷へ帰るつもりだった………

 

『チュミ〜…』

 

傍らにはスタンドが漂い、ネギを心配そうに見ていた。

 

「ネギ!」

「ネギ君!」

 

そんな時、ネギがいないのに気づいたのか、明日菜とスバルが駆け寄ってきた。

 

「ご、ゴメンッ!本当にゴメンッ!私たちのせいで最終課題に落ちちゃって…」

「そ…それに、魔法の本もなくしちゃったし…私も……」

「いえ…そんなことないです…誰のせいでもないですよ。『魔法の本』なんかで受かってもダメですし……結局僕が『教師』として未熟だったんです。」

「ネギ君………」

「クラスのみなさん、特にバカレンジャーのみんなには感謝してます。短い間だったけど、すごく楽しかったし…………さようなら!」

タッ

「「あっ!」」

 

二人に背を向け、ネギは電車に向かい駆け出す。

 

「もうッ!」

バッ

「ってアスナ!?」

 

ガッシィイ

「ひゃ…!?」

 

いきなり、自動改札を飛び越え、ネギを捕まえる明日菜。いきなりの行動に、捕まえられたネギと見ていたスバルは、驚いていた。

 

「バカっ!行っちゃダメって言ってるでしょおぉー!…そりゃ、最初はガキでバカなことするから怒ったけど……私なんかよりちゃんと目的もって頑張ってるから感心してたんだよ!なのに………」

「ア…アスナさん…」

「アスナ……」

 

明日菜が思いをネギにぶつけ、ネギとスバルが驚いていると…

 

「ネギくーーんッ!」

「ネギ坊主ーッ」

「ネギーーッ待てェェェ!」

 

まき絵たちバカレンジャーや徐倫が走ってきた。心なしか、その顔は笑顔だった。

 

「ネギくーーんッ!私たち『最下位じゃない』よーッ!」

「むしろ『学年一位』だッ!!だから帰るなッ!!」

「「「………………えッ!?」」」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

学園長室

 

 

慌てて学園長室へ来たネギたち。学園長の話によると、バカレンジャーたち『遅刻組』の採点を学園長が行い、うっかり『2―A全体の合計』と合わせるのを忘れてしまったらしい。

そして、遅刻組の点数と合計すると、平均点が0.2点の差でA組が『学年一位』になった。

 

「え………でも、「魔法の本」がないのに、一体どうやって…!?」

「あ〜、これのことかの?」ひょいっ

「アァッ!?」

 

学園長が、『魔法の本』を取り出した。だが、本がここにあるということは…

 

「こんなもので簡単に頭が良くなったら苦労はせんて。今回のことはな、ぜ~んぶみんなの『実力』じゃよ。」

「え…じゃあ、『図書館島』でのことは全部……?」

「うむ。最終課題では、子供のネギ君が『今後も先生としてやっていけるか』を見たかったのじゃ。図書館島の数々のトラップにもめげずに、よう頑張ったのぉ。」

「めげずにって………結構キケンなのもあった気がしたんだけど……?」

「……うん、まあ、ちょっとやりすぎた感はあるがのぉ………(やっぱ、その辺を『アヤツ』に任せるべきではなかったかなぁー……)」

 

学園長は笑ってごまかすが、明日菜とスバルは冷ややかな目で見るのであった。

 

「ま、まあともかく、合格じゃよネギ君!これからは、さらに精進じゃな。」

「あ……はいッ!」

 

学園長から『合格』を言い渡され、力強く返事をするネギ。これで、正式に『先生』としてやっていけそうだ。

 

「ははっ、良かったねネギ君!」

「ま、とりあえず、新学期からよろしくね。」

「は、はいっ…よろしくお願いします!」

 

スバルと明日菜に言われ、すこし照れたように言うネギ。

 

そこへ……

 

 

 

バァンッ!!

「アスナーーーッ!」

「大変アルッ!じょ、ジョジョが……!」

「えっ…?」

 

扉が勢いよく開いたかと思うと、まき絵と古菲が入ってくる。かなり必死な表情だ。

 

「お、話終わった?」

「じょ、徐倫?」

 

と、彼女らに続いて、徐倫が入ってくる。が、何故かジャージに竹刀という装備に、明日菜は何やらいやな予感がした…

 

「…と、その前に………学園長先生、ネギは最終試験を『合格(パス)』したって事でいいんですよねぇ~?」

「う、うむ………モチロンじゃとも………」

 

徐倫の気迫に若干圧されながらも、学園長は肯定した。徐倫は学園長にありがとうと返事をすると、ネギに振り返った。

 

「―――『言は初めに神と共にあった。

すべてのものは、これによってできた。(ヨハネによる福音書 第1章2―3節)』」

「えっ?」

 

いきなり『聖書』の一節を口に出した徐倫に呆気に取られていると、徐倫はニッ、と笑顔を見せた。

 

「合格おめでとうネギ。正式に「先生」になったお祝いに、アナタのその『スタンド』に「名前」をプレゼントするわ。」

 

徐倫はネギと、いつの間にかその肩に乗るスタンドを見て言う。

 

「そうね………ネギのその『爪』は、もはや『爪』を超えている…………『爪を超越し、「牙」となった爪』………これからは『(タスク)』と、そう呼ぶといい!」

「『タスク』………はいッ!ありがとうございます!」

「タスク、ねえ………(カワイイ見た目の割に、何かカッコいい名前ね………)」

 

スタンド―――『タスク』を見つめ、徐倫に感謝するネギ。

 

「気に入ってくれたようで嬉しいわ。さて『明日菜』……お前たちバカレンジャーにも、私からプレゼントがあるわ。ちなみに『拒否権』はない!」

「え………?」

「「ひぃぃ〜〜〜ッ!」」

 

いきなり話しかけられて、一瞬ビクつく明日菜。まき絵たちが完全に怯えているのを見て、嫌な予感がした。

 

「今から、『勉強道具』をもって、私の部屋に集合だッ!!これより、『大・勉強会』を行うッ!!!」

「はあッ!!?」

「そもそも今回は、おまえら五人の日頃の成績が良かったら、こんなにハラハラしなくてすんだんだ!よって!反省会を含めた『勉強会』だッ!!全員できるまで帰れると思うんじゃぁねえぞ!!」

「「「ひぃぃ〜〜〜」」」ズルズル

 

器用にも片手で明日菜たちを引きずって退出していく徐倫。3人の悲鳴がドップラー効果で遠ざかっていく中、ネギたちはポカンと見ていることしか出来なかった………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

午後7時17分

六課の部屋

 

 

「――というわけで、私邪魔らしいから、しばらく厄介になるぞ。おかわり。」

「ってどういう訳よ!?後これご飯『三杯目』よ!」ポフポフ

「以外とご飯進むんだよ、この野菜炒め。」

 

文句を言いながらも、千雨の分のご飯をしゃもじでよそうティアナだった。

 

 

 

 

 

ネギ・スプリングフィールド――2007年4月2日付けで、A組の担任として正式に採用!「立派な魔法使い」としての第一歩を踏みしめる。

バカレンジャー――ヤバい「SWITCH」が「IN」!した徐倫により8日間缶詰めにされ、終了式も欠席した。

長谷川 千雨――結局、一週間スバルたちの部屋に泊まった。

 

 

 

 

 

←to be continued

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………そうですか……わざわざありがとうございます。…はい、それは、僕の部下にやらせますから。はい、では。」

 

電話を切った男は席を立つと、待ち合わせのレストランへ行くため、部屋を出た。

 

おそらく、あの「二人」はもう来ているだろう。ひょっとしたら、もう食べ始めているかもしれない。

 

そう思いながら店へ入ると、案の定、二人はもう食べ始めていた。

 

「お………遅かったじゃねーか?先に食べてたぞ。」

「すみません、ちょっと『電話』が入ってしまったものですから…」

 

二人のうちの一人――室内にも関わらず、『矢印』のついたニット帽をかぶった男に言われ、簡単に謝る。

 

「電話……?何かあったのか?」

 

金髪に、穴だらけのスーツを着たもう一人が言う。すでに料理は半分くらい食べたようだ。

 

「………『サルシッチャ』たち三人の居場所がつかめたようです。」

「「………!」」

 

「サルシッチャ」の名前を聞いた途端、二人の手が止まる。

 

「サルシッチャだと………ッ!?マジなのか『ボス』!?」

「ええ、何でもサルシッチャは『日本が好きなギャングランキング』第一位らしいから、日本を調べたようです。」

「どんな調べる理由だよ……?」

「ていうか、どんな情報?」

「そしたら、日本の『マホラ』という場所で目撃されたそうです。」

 

二人のつっこみを無視して、『ボス』と呼ばれた男は話を進める。

 

「どうやら、矢を使って『スタンド使い』を目覚めさせている様子らしい……そこで、何人か日本へ向かわせたいのですが………」

「………分かった。『サーレー』と『ズッケェロ』のコンビを調査に向かわせる。やばそうだったら、俺たちで向かわせてもらうぜ!」

「ええ、頼みましたよ『ミスタ』、『フーゴ』。」

「ああ、俺たちがいないからって、無理すんなよ、『ジョルノ』!」

 

その男、『ジョルノ・ジョバァーナ』は、2人に笑顔で返した。

 

 

 

 

 

←to be continued...




15話です。
・サブタイトルは「フライトコードなし!ボスの過去をあばけ」から。リメイク前とは少し変えています。

・ネギ、正式にA組の担任として任命。まあ、バカレンジャーもよく頑張ったけど、本当の地獄はここから……(笑)

・「(タスク)」命名シーンはグェスのオマージュ。タスクってカワイイ外見の割に名前はカッコいいんですよね。

・パッショーネ始動。情報元については、イタリア繋がりってことで(笑)

では、次回をお楽しみに!


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#16/長谷川 千雨は静かに暮らしたい ①

終了式の翌日

 

学園長室

 

 

「―――なるほど………確かにこの生徒が『スタンド使い』である可能性は、大いにあるのぉー………」

 

学園長は、1枚の資料を手に呟いた。前に立つ女生徒は黙って彼の判断を待った。

 

「よかろう『刹那』くん。今回の調査の件、君に任せよう。空条君にお願いすると良いな。………ただし、あくまで『秘密裏』に頼むぞ。」

「はい、ありがとうございます………」

 

女生徒、桜咲 刹那(さくらざき せつな)は一礼すると、学園長室を退出していった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

翌日 昼過ぎ

 

女子寮入口

 

 

「新任の先生?」

「はい。なんでも新田先生の紹介だそうで。明日挨拶に見えるから僕も来るようにって。」

 

徐倫とネギは、並んで歩きながら話していた。

 

あの後、バカレンジャーに大・勉強会をさせた徐倫。

8日後、バカレンジャーたちは一人残らず真っ白になり、しばらく機能停止状態に陥ったという。

実際、明日菜やまき絵などは、いまだに復活仕切れていない状態だった………

 

「そういえば、空条さんは今日どちらに………?」

「ああ、実はうちのクラスの桜咲が、来てほしいって電話が入ってな……私、アイツと全然話した事ないんだけどなぁー………」

「なんでしょうね…?」

 

2人が首を傾げていると、前からスバルとティアナが歩いてくるのが見えた。

 

「あ、空条さんにネギくーん!」

「あ、こんにちは、スバルさん、ティアナさんも。」

「どうしたんだ2人とも?わざわざ寮まで来て…」

「うん、千雨が忘れ物してたから、届けにね。」

 

徐倫にティアナが説明をすると、徐倫はそうかと頷いた。

 

「千雨なら部屋にいるぞ。鍵は閉めてないと思うから、勝手に入っちゃって。」

「うん、ありがと。」

 

そう言って、4人は分かれた。

 

だが、分かれた後に徐倫は気づいた。

 

「……………あ、あいつ『アレ』の最中だったか…………?」

 

 

 

 

 

#16/長谷川 千雨は静かに暮らしたい ①

 

 

 

 

 

女子寮

 

徐倫と千雨の部屋

 

 

「ふ…ふふふふふ………徐倫が『一週間』も部屋を占領していたからな………すっかり「ストレス」が溜まりに溜まったったらありゃしない………!」

 

鏡の前で、不気味に笑う千雨。端から見たら、完全にアブナいひとだ……

 

「特に最近は、『矢』のことや、『魔法』やらで、めちゃくちゃな日々が続いたからなァァァ…か〜〜な〜〜り派手にいかせてもらうぜッ!!」

 

そう宣言するとメイクと衣装をキメて、眼鏡を外す。そして…………

 

 

 

 

 

「おっけ〜♪今日も『ちう』は、綺麗だっぴょ〜〜ん♪」

 

『カワイい衣装』に身を包み、完全にスイッチが入れ替わった千雨………否、『ちう』の姿が、そこにいた………

 

『ちう』は早速パソコンのスイッチを入れて自分のホームページを開くと、チャットのページへとアクセスした。

 

「おハロー(・▽・)qみんなお久しぶりー!

ごめんね~、今まで顔出せなくて~(><)i

ちょっと用事があって、お家を離れてたんだぁ~(-.-;)」

 

しゃべりながらキーボードを打つという、ちょっとイタい感じを醸し出しながら書き込む『ちう』。彼女が打ち終わって数秒後、チャットルームに書き込みがされる。

 

ちうファンHIRO>気にしないでちうたん!待ってたよ!

通りすがり士>いや〜、一日千秋の思いでまっておりましたぞ!

無敵要塞>気にしないで!僕らはいつでも君を待っていたから!

 

「わー!ありがとみんなー(≧▽≦)/

今日はお礼に、ニューコスチュームお披露目するよ♪」

 

そう言って、自分を撮影し始める千雨。

 

 

 

これこそ、普段目立たぬように過ごす『千雨』が、『スタンド使い』以外に隠していた裏の素顔!

インターネット界を牛耳るスーパーハッカーにして、No.1ネットアイドル!『ちう』である!!

デジカメで『自己撮影』!フォトショップで『肌』を修正し!!FTPで写真を『アップロード』ッ!!!

己の『美貌』を画面の向こうの男どもに見せつける!これこそ、千雨の『至福の時』!

 

「よしッ!キタキタキタキタ北ァァァー!『ネットアイドルランキング』でも、ぶっちぎりの一位ッ!!ヒャホホホォォーッ!私は『女王』なのよッ!いずれはNET界のNo.1カリスマとなって!全ての男たちが!私の前に跪くのよォォォーーーッ!!!」

 

気分がノリに乗って、叫び出す千雨。彼女の今の気分は、最高に「ハイ!」ってやつだ。

 

だが、千雨の『至福の時』は、「ノックの音」で終了を告げた………

 

 

 

 

 

コンコン

「ノックしてもしもお〜〜〜し。ごめん、鍵あいてたから勝手に入っちゃったんだけどさぁ〜…」

 

いきなり『自分以外の声』がして、ビクリと停止する千雨。まるで油の切れたロボットのようにギギギと後ろを向くと………

 

「………あんた、普段そんなことしてるの…………?」

 

『なんて声をかけたらいいか分からない』顔のスバルと、呆れ顔のティアナがいた………

 

 

 

 

 

おっぱァアアーーッ

 

 

 

 

 

「ん?今なんか聞こえへんかった?」

「あー、多分、(x+1)(y−1)が室町時代で、二酸化アルミニウムな倒置法なんじゃない?」

「………アスナー、まだ寝ときー。今お粥さんできるからなー。」

 

 

 

 

 

「いっ………いいいいいいつからいたんだよッ!?」

「ええっと………『か〜〜な〜〜り派手にいかせてもらうぜッ!』のあたりから?」

「結構最初の方じゃねぇかァアアーーッ!」

 

顔を真っ赤にして叫ぶ千雨。自分のこの趣味を知っているのは、ルームメイトの徐倫だけだ。それ以外にバレる=自分も変人集団(2-A)の仲間入り!それだけは、絶対に避けたかった。

 

「うわー、何かすごいねこれ……」

「普段はこんなことするようには見えないのに、この趣味を隠して生活してたのね………」

「何でわざわざ隠してんの?」

「こんな趣味、人に話せるわけないでしょ……で、あんたはその『にんじん』で私たちに何をする気?」

 

スバルが振り向くと、大きなにんじんのクッションを持ち上げた千雨がいた。

見つかってぎくりと固まった千雨が、わなわなと震えたかと思うと…………

 

 

 

ガシィッ

「ひっ!?」「なっ!?」

「はなすなよッ!?絶対に誰にもはなすなよッ!?」

ブンブン

「わっ、分かったから!そんなに振るんじゃ………」

「あばばばばば………」

 

二人につかみかかり、ブンブンと振りだした。

 

10秒後、千雨が「はなすなよ」を13回いったあと、ようやく二人は離してもらった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

寮の近くの道

 

 

千雨は、二人が話さない代わりに、二人に昼食を奢ることになった。千雨は先ほどまで『話さない』ことに安心をしたが、今はスバルの暴食っぷりが不安だった……

 

「ほら〜、早く早くぅ〜♪」

「お前…あんまり食うんじゃないぞ……って、聞いてないな………」

「………こういう時は、諦めが肝心よ……」

 

さっさと先に行ってしまうスバルにうなだれる千雨を、一応は励ますティアナ。

 

「それにしても、あんたにあんな趣味があったとはねぇー………見かけによらないというか、何というか………」

 

ティアナは千雨にそう言う。徐倫の話ではフランス人とのハーフだと聞いていたが、中学生にしてはスタイルは良いようではあるし、中学生離れした面々の多いA組の中でも顔立ちはきれいな方だろう。眼鏡がなければ、軟派な男の2人3人や芸能プロダクションなんかは声をかけてくるに違いないと思う。

そう思っていると、うつむいていた千雨が半笑いでこちらを見てきた。正直コワイ。

 

「………生まれつきスタンド能力なんて持ってるとねぇ~………嫌でも『隠ぺい』がうまくなっちまうんですよぉ~………」

「え………?」

「自分の能力(チカラ)が「他の人には見えない」って分かってからは、特にひた隠しにしていたよ………ただでさえ父親がいない事、気にしていたのに………おまけに、小4まではひたすら『修行』させられていたせいで、『自分は他人と違う』って思い込みが激しくってよぉーーー………実家から逃げるように麻帆良(こっち)に来たら来たで、おかしな状況とお気楽な同級生(クラスメート)にイラつく始末よぉ………」

「あ、あの………?」

 

ここに来てティアナは、自分が千雨の地雷を踏んでしまった事に気づいた。相当溜まっているものがあったのか、ついに千雨は叫びだした。

 

「大体、ウチのクラスからしておかしいだろ!異様に『留学生』が多いし!中学生離れしたのとか!身長やスタイルの大小が『極端』すぎだろあれ!大体何で「ロボ」が中学通ってんだ!?何で誰も突っ込まないんだよ!?トドメにあの子供先生って!!いや、後で理由聞いたけど………それでも10歳(ガキ)が教師って無茶にも程があるだろぉがああああああああああああああああッ!!」

「お、落ち着きなさいよ………」

 

うがーっと叫ぶ千雨をなだめるティアナ。ひとしきり叫ぶと、千雨は荒く深呼吸をした。

 

「………フーーー、スッとしたぜ。悪いな、変な所みせちゃって………」スッキリ

「い、いやぁ、ヘンな事聞いた私も悪いし………」

 

スッキリした表情の千雨に苦笑いのティアナ。おそらくは異常な事に対して敏感であったが為に、麻帆良学園の異常性とそれに疑問を持たない周囲にストレスが溜まっていたのだろう。相談できる人物もいなかったようだし、ああやって発散していたのだと、ティアナには予想できた。

 

「………ん?」

 

ふとティアナは、草むらに何か、『棒のようなもの』が落ちているのに気がついた。

 

「何これ?」

「どーした、ランスター?」

 

拾ってみると、それは鞘に納まった「刀」だった。結構重く、『本物』ではないかというリアリティだ。

 

「ん?なんだそれ?『演劇部』の落とし物か?」

「多分……でも、それにしては結構リアルね………まるで本物みたいな重みよこれ…」

 

不思議に思ったティアナは、刀を抜いてみると、まるで冷たい水に濡れているような美しい刀身が現れた。

 

「!おいおい、こりゃあ本物だぞッ!!何でこんなとこにマジものの刀があるんだッ!?」

「わッ………私に聞かないで………よ…………」

「………?ランスター?」

 

ティアナの様子がおかしいことに気づいた千雨。何か、ぼーっとした感じだ。

 

「おーい、二人ともどうしたのーー!?」

 

そこへ、スバルが駆け寄ってくる。

 

その時ッ!

 

 

 

 

 

ドシュゥーーッ

「「!!?」」

 

刀を持ったティアナが、千雨に『斬りかかってきた』!!

千雨は何とか「スタンドの小太刀」で防ぎ、バックステップで下がる。

 

「ランスター!テメェ、何を………!」

 

ティアナに怒鳴る千雨だが、こちらを睨み付けるティアナの、射抜くような目つきを見て『ヤバい事』に気がついた。

 

「は、長谷川さん!一体……!」

「ヤベェぞ…………ランスターのやつ、『操られてやがる』!恐らく、原因はあの『刀』だッ!!」

 

千雨が仮説をたてると、ティアナは感心したようなそぶりをみせる。

 

「………ほう、初見でわたしの正体に気づくとは………貴様、できるなっ!」

「お前………『スタンド』か?」

「いかにもっ!!我こそは『エジプト9栄神』が一人ッ!冥府の神!墓地の守護神を暗示するカード!『アヌビス神』ッ!!」

「!!『アヌビス神』だとッ!?」

 

刀を構えて名乗るティアナ、いや、『アヌビス神』の名前を聞いて、驚愕する千雨。一瞬、ティアナの背後に『黒いジャッカル』の幻影を見たような気がした。

 

「知ってるの雷で…………長谷川さんッ!?」

「雷○って呼ぼうとした!?今明らかに○電って言いかけたよなッ!?……………『アヌビス神』って言えば、承太郎さんや『父さん』が戦って、再起不能(リタイア)したって聞いたが……」

「ん?貴様の『父』だと?」

 

千雨の話を聞き、疑問に思う『アヌビス神』。彼女の父親と自分が戦った………?

 

「……………お前は、『一度戦った相手は憶える』らしいな…………………なら、憶えているはずだ。」

 

千雨は、アヌビス神を見据えて、話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『(ジャン)(ピエール)・ポルナレフ』だ!」

「!!ポ……『ポルナレフ』だとぉー!?」

 

ポルナレフの名前に驚くアヌビス神。

確かに自分は、『銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)』のポルナレフと戦った。だが、今自分の目の前にいる少女が、そのポルナレフの「娘」だと……?

 

「……ふっ、面白いッ!貴様がポルナレフの娘というならばッ!!相手にとって不足なしッ!!」

 

アヌビス神は不敵に笑う。これから戦う相手に『悦び』を感じていた。

 

「このアヌビス神、絶対に、絶対に、絶〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」

 

『絶対』という言葉を、溜めに溜めるアヌビス神。そして……

 

「………〜〜〜〜〜対に!負けなァァァーいッ!!」

 

言い切ると同時に、千雨に襲いかかるッ!!

 

 

 

 

 

←to be continued...

 




16話です。
・サブタイトルは言わずもがな、「吉良吉影は静かに暮らしたい」から。

・冒頭で話し合うせっちゃんと、それに呼ばれる徐倫。誰がスタンド使いかはお楽しみに。

・千雨のネットアイドル活動。リメイク前に、千雨の心の叫びを追加しています。

・アヌビス神登場。今後の展開を考えて、ティアに憑かせました。

・今作の千雨はポルナレフの娘です。スタンドは彼から受け継ぎました。

では、次回をお楽しみに!


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#17/長谷川 千雨は静かに暮らしたい ②

「しっかしよぉー、随分と広い街だなぁーここは。」

 

その男は、地図を片手に住宅地を歩いていた。引越しもひと段落着いたので、明日の挨拶を前に周囲を散策しようと思ったのだ。

 

「『杜王町』と違ってヨーロッパ調でキレイだけど、下手したら迷子になっちまうぜ………えーと、この先は学生寮エリアか………?」

 

周囲と地図を見渡して自分の位置を確認していると、ふと、高いマンションの方を見上げた。

 

「――――!!!」

 

『あるもの』を見つけて、目を疑った。

慌て目をこすり、再度さっきの場所を見る。

だが、『あるもの』は実在していたため、見間違いではなさそうだ。

 

「………こりゃぁ、着任早々に厄介ごとに巻き込まれるのかぁー……?」

 

誰に言う出なくつぶやいた男は、さっきの見えたあたりまで走り出した。

 

 

 

 

 

#17/長谷川 千雨は静かに暮らしたい ②

 

 

 

 

 

時間は前後して5分ほど前。

 

 

「絶~~~~~~~~~~~対に!負けなぁぁあい!」

 

ティアナに取り憑き、千雨に『唐竹割り』を繰り出す『アヌビス神』。千雨はそれを受け流し、高く飛び上がると、空中で『前転』をしながら斬りかかる!

 

「双燕天翔流!弧牙車(こがぐるま)!!」

ガキィィン

「!!」

 

いきなり頭上からの攻撃に驚いたが、何とか防いだアヌビス神。そのまま千雨をはじき返すと、今度は横なぎに斬りかかってくる!

 

カィイイイン

「くっ!」

「なかなか面白い技を使うな………だが、今のは、もう『憶えた』ぞ!」

 

鍔迫り合いになるも、千雨が明らかに押されていた。

 

(ぐ…強い………さすが承太郎さんや父さんとやり合っただけのことはある………)「だがッ!!」

ドゴォッ

「!?」

 

無理矢理蹴りを入れて、アヌビス神から離れる千雨。すぐさま、左から突きを繰り出し、同時に右から袈裟掛けで斬りかかった!

 

「だからって負けられるかっ!」

 

慌てて防ぐアヌビス神だが、千雨の攻撃は止まらない!

左から逆袈裟、逆風、右切り上げ、右からは左薙、唐竹、突き、……ものすごいスピードで、連続で様々な方向からの斬撃を繰り出す!

 

ザシュウウ

「ぐううッ!」

 

そして、右からの袈裟掛けを喰らってしまうアヌビス神!たまらず後ろに下がった!

 

「双燕天翔流八大奥義!戦嵐月華!!」

 

構えを解かずに言い放つ千雨。

アヌビス神は、千雨の連続攻撃に驚いたものの、すぐに冷静な顔になる。

 

「なるほど…………目にも留まらぬ速さで連続攻撃を、しかも様々な方向から繰り出す技か………初見で見切るのは難しいが、確かに『憶えた』!」

「ちっ………今ので見切ったか……………!」

 

自分の渾身の技を初見で見極められて舌打ちをする千雨。恐らく、もう『戦嵐月華』は通用しないだろう………

 

「ならばッ!」

「!?」

 

すかさず後ろの木に飛び乗り、一気に蹴る!

そう、『図書館島』で『ラング・ラングラー』を倒した―――

 

「疾風月華!!」

 

すれ違い様に連続斬りを放つ!!

 

だが!

 

ガギギギギギィィィン

「何ッ!?」

ザシュウウ

「ぐわっ!」

 

全ての斬撃を受け止められてしまい、逆に一撃喰らってしまった!

 

「長谷川さん!」

「千雨と言ったな…………貴様のスピードと太刀筋は、さっきの技で『憶えた』!もう、貴様の技とスピードは、わたしには通用せんぞ!!」

 

スバルが千雨に駆け寄る中、アヌビス神はそう言い放つ。しかし、『冥府の神』の取り憑いた妖刀は、内心昂っていた。

 

(くくく………しかし、これは中々の実力者だぞ………ポルナレフの娘だけの事はある………これは、『ものをすり抜ける』我が能力を使っては『失礼』になるな………)

 

刀のスタンド故なのだろうか、強い者との闘いに、アヌビス神は血が滾っていた。刀の身体を持つ『スタンド』の『血が滾る』とは、何ともおかしい話なのだが。

 

「くっそ………純粋な『剣術』じゃあ、流石にかなわないか………」

 

流石は承太郎を本気で苦戦させただけの事はある。策や術を使わない『正統派スタンド』にして剣の達人であるアヌビス神は、かなりの強敵だ。

千雨が悩んでいると、ふと、スバルは『ある事』を思いつく。

 

「ねえ、長谷川さん、『アレ』を使えばいいんじゃあ………」

「!!」

「『アレ』?千雨、貴様何か『奥の手』でももっているのか?」

 

スバルの一言で、少し躊躇する千雨。

確かに『アレ』ならば、アヌビス神を倒せるかもしれない。だが、やつに『アレ』を憶えられたらヤバい!そういう考えが、千雨の頭を巡る。

 

しかし、

 

「大丈夫!長谷川さんならできるって!!」

 

『どこにそんな根拠があるんだ?』と聞きたくなってしまうような、スバルの真っ直ぐすぎる一言と、『明るい未来』しか見えないような輝く目で、千雨に言うスバル…

そんなスバルにため息を一つつくと、千雨は立ち上がる。

 

「お前みたいな生き方だと、気楽でいいかもな………おい、アヌビス神!」

 

小太刀の切っ先をアヌビス神に向け、言い放つ千雨。

 

「お前の言うとおり、私には『奥の手』がある。今からそれを拝ませてやるから、しかと見ろ!!」

 

言うと、深く踏み込む千雨。そして―――

 

 

 

 

 

ドンッ

 

 

 

 

 

「な!!にゃに~~!?」

 

跳んだ!

だが、『高さ』がおかしい。明らかに『10m以上』は跳んでいる!!

 

「ばっバカな!何だあの『跳躍』はッ!?」

 

アヌビス神が驚くのも無理はない。

 

『波紋』で身体能力を強化しているとはいえ、人間が『10m以上』も跳ぶのは不可能だ。

スタンドを使えばできるだろうが、千雨のスタンドは『小太刀』の(ヴィジョン)だ。承太郎の『スタープラチナ』のような『人型』なら可能かもしれないが、刀のような『道具型』では不可能なはず!

ならば、どうやって………!?

 

その謎は、すぐに解けた。高く跳んだ千雨が、『旋回』してこちらに向かってきたからだ!

その時、千雨の姿を見たアヌビス神は、全てを理解した!

 

「あ、あの『姿』はッ!!くっ!」

ガキィィン

「………ちっ、防いだか!」

 

突進してくると同時に一太刀喰らわせた千雨だが、刀身で防がれてしまい弾かれた。そのまま木にぶつかりそうになるが、手前で『急上昇』して回避、速度を緩めて降りてきた千雨を見たアヌビス神は、舌打ちをして睨み付けた。

 

「くっ………なるほど、今のは『()()()』のではなく、『()()()()()()()()()……!貴様………今までスタンドの一部だけを出して戦っていたな!」

「ああ、これが私のスタンド―――」

 

千雨は甲冑を、白金と金色に輝く「甲冑」を『身にまとっていた』!!

女性的なフォルムで、『騎士』というよりは『戦乙女(ヴァルキリー)』と言えよう。肩には『鍵穴』型の肩当てをつけ、肘当てや籠手、腰のバックルには、『蒼く輝く燕』―――双燕天翔流の紋である『卍燕』の装飾がある。頭には猛禽類のくちばしのような型をした水色のバイザーのついた兜を装着している。そして、その背中には白金に輝く『鋼鉄の翼』が生えていた。

これこそ千雨のスタンドの『真の姿』!その名を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『アニバーサリー・オブ・エンゼル』だ!」

 

 

 

 

 

甲冑(スタンド)―――『アニバーサリー・オブ・エンゼル』を身にまとい、高らかに千雨は叫んだ。

 

 

 

 

 

本体名―長谷川 千雨

スタンド名(命名:J・P・ポルナレフ)―アニバーサリー・オブ・エンゼル

 

 

 

←to be continued...

 




16話です。
・千雨の使う『双燕天翔流』の技名は、奥義は『風』や『雨』などの天候、それ以外は『数の単位』からとってます。『弧牙車』は『恒河沙(10の52乗)』から。

・千雨のスタンド『アニバーサリー・オブ・エンゼル』。名前はALI PROJECTの楽曲『Anniversary of Angel』から。『白アリ』の中では、特に気に入ってます。 デザインは、ポルナレフの『銀の戦車』を女性的にしたイメージです。

では、次回をお楽しみに!


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#18/長谷川 千雨は静かに暮らしたい ③

さかのぼること18年前―――

 

1989年

エジプト ナイル川の川岸

 

午前2時

 

 

ある川岸で、『奇妙』な出来事が起きた。

 

川岸に『カニ』が数匹上がってきたのだ。

いや、これはおかしな出来事ではない。川岸にカニがいるのはおかしくない。

奇妙なのは、そのカニたちが、『折れて、刀身のみになった刀』を運んできた事である………

 

(クッ、おのれ承太郎……!貴様のせいで、オレはナイル川の川底に沈む羽目になったのだぞ…………!!この恨み!必ず晴らしてみせるッ!!)

 

刀―――『アヌビス神』は、承太郎への恨みで、闘志をメラメラと燃やしていた。自分の不運で川底へ沈んだことを忘れて………

 

(……とりあえず、川底でサビる事は避けられたが、このままでは何もできない………誰かが拾ってくれるのを待つしかないか…………)

 

そう思い、誰かを待つ事にしたアヌビス神。そんな時、川岸に一人の少女が現れる。

 

マントを頭からかぶっているので表情は分からないが、肌は黒く、服装は薄手のワンピースを着ており、地元の者ではない事がわかる。恐らくは旅行者だ。

 

(むっ!こんな時間に女が………?いや、そんなことより、こいつを操って、承太郎に復讐だッ!!)

 

だが、彼女が『左手』でアヌビス神を拾ったとき、信じられない事が起きた。

 

(にゃ!!ニャニィ〜〜!?あ、『操れない!』この女を操ることができないィイーーッ!?)

「………残念ねアヌビス神………私の『左手』で触れたスタンド能力は、全て『無効化』される………これが私の『スタンド能力』。」

 

少女は静かに告げると、右手でアヌビス神に布を巻き始めた。

ふと、アヌビス神は自分の置かれている状況がおかしいことに気づいた。

 

(………あれ?オレは『左手』でこの女に持たれているのか?だが、これは明らかに『右手』だぞ?………!?まさか!こいつは『左手』が―――)

 

「だが、私のこの『無効化』の能力のみでは、ジョースターどもには勝てない…………集めなければ…………私の復讐のための軍団を…………」

 

ぶつぶつと呟くように言いながら、彼女はその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

現在

 

 

「あの時、アヌビス神を拾い、優秀な刀鍛冶に直させたのは正解だったわ。」

 

紅茶に砂糖を入れながら、妙齢となったあの時の少女は言った。

彼女の目の前のモニターには、アヌビス神と戦う千雨が映し出されていた。

 

「おかげでお兄様を殺した男………ポルナレフの娘にたどり着いたんですもの………帰ってきたら、磨いてあげようかしら…………」

 

そう言うと、彼女は紅茶を手元に持ってくる。

 

 

 

だが、彼女の手をみると、おかしいことに気づく。彼女の左手の『親指』は、手の甲を外に向けているのに、『下側』にあった。

 

 

 

そう、よく見なければ、誰も気づかない。

 

 

 

彼女の『左手』が、『右手』であることに………………

 

 

 

 

 

#18/長谷川 千雨は静かに暮らしたい ③

 

 

 

 

 

(こ………この『アヌビス神』!…………今まで様々なスタンド使いと戦ってきたが…………「スタンドを身にまとう」………こんなタイプ、初めて見るぞ!)

「さあ、決着をつけようか!アヌビス神ッ!!」

 

言うと同時に、高く飛び立つ千雨。そのまま木に飛び乗ると、アヌビス神に向かって飛びかかる!

 

「疾風月華・隼ッ!!」

「バカめッ!その技はすでに―――」

ズババァッ

「なッ!?」

 

見切っていると言う前に、全ての斬撃を喰らうアヌビス神。体のあちこちに斬り傷を負い、斬り裂かれたミニスカートから太ももと下着が見えているが、その顔は驚愕だ。

 

「バッ、バカな!………スピードが……………増しただと………………!?」

「…………『疾風月華・隼』は、私が『勝手に』作った、『疾風月華』の派生技だ。私のスタンド、『アニバーサリー・オブ・エンゼル』での戦闘を想定してな!」

 

説明しながら、『エンゼル』の翼をパタパタと動かす千雨。その時、アヌビス神は気づいた。

 

「!そうか……踏み出すと同時に『飛行する』ことで、先ほどよりもスピードが増したというわけか!!」

「ああ。『疾風月華』みたいな突進技は、『エンゼル』の『飛行能力』で加速できるからな。だが、もうお前に『憶えられた』…………次で決めるッ!私の最も得意とする奥義で!!」

 

そう言うと、両腕を後ろへ持っていき、飛び出すような構えをとる。

 

「………面白いッ!」

 

アヌビス神も、両手持ちの構えをとり、千雨の出方をみる。

 

 

 

 

 

緊迫した空気が辺りを包み込み、両者は全く動かない―――

 

 

 

二人の間に木の葉が、ひらり、ひらりと、何の前触れもなく舞い落ちてくる―――

 

 

 

だれが決めたでもない―――

 

 

 

二人が決めたでもない―――

 

 

 

だが、それが地面に落ちるのが、二人の合図となった!

 

 

 

ドン!

「ア!ホッ」

ビュオ!

 

かけ声とともに、千雨に斬りかかるアヌビス神!!

 

「双燕天翔流八大奥義!!時雨月華ッ!!!」

シバババババ

 

一方の千雨も、両手からの連続突き―――「時雨月華」を放つ!!

 

 

 

そして――――

 

 

 

 

 

 

 

ガギギィィィ……………ン

 

 

 

 

 

 

辺りに、刀と刀がぶつかり合う音が響く。

 

両者は、すれ違った形で動かない。

 

勝ったのは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………フッ、なるほどな…………貴様は剣術とスタンドを併用して……………戦うタイプか………………確かに………………憶えた………ぞ……………」

 

途切れ途切れに言いながら、アヌビス神は倒れていった……

 

「……ふう、ギリギリだったな…………」

「長谷川さんッ!」

 

『アニバーサリー・オブ・エンゼル』を解除し、アヌビス神に斬られた右わき腹を押さえながら言う千雨。そんなに深くはないようだ。アヌビス神に操られていたティアナの方は、傷だらけだが………

 

「長谷川さん、て、ティアは…………?」

「ああ、急所は外しておいたから大丈夫だろ。問題は、『アヌビス神』だな……」

 

そう言ってティアナの方を向くと―――

 

 

 

 

 

茶色い『ダイバースーツ』のようなものを着た男が、『アヌビス神』を握っていた。

 

「「!?」」

「千雨よ…………今回は引いてやる。だが、次に会うときは絶〜〜〜〜〜〜〜………対に負けないッ!!」

 

言うと、まるで水泳選手のように地面へと飛び込む。男が地面に接すると、地面は『泥化』して、そのまま潜っていった。

 

「な………今のは……?」

「ちっ!逃げたか………!(『エンゼル』を憶えられたのは厄介だな…………今度やり合うときは『アレ』を使う羽目になるかもしれないな…………)」

「と、とにかく、今は二人を病院に―――」

 

アヌビス神に逃げられ、ティアナと千雨を病院へつれていこうとするスバル。

 

その時だ

 

 

 

「『天使』が見えたと思ったらよおーー」

「「!!!」」

 

いきなり、背後から男の声が聞こえ、振り向く二人。

 

「すっげー戦いが見られたぜぇー。『達人同士の戦いは一瞬で決まる』ってよく聞くが、いやはや、見事な戦いだったぜー。」

 

木の陰から、やたらとデカい男が現れた。軽く190cmはありそうだ。

黒いスーツを着ているが、スーツの襟に『ピースマーク』のアクセサリーをつけている。ネクタイにも、ピースマークやハートの模様が入っている。

だが、男の身なりで最も目を引くのは、その『髪型』だ。まるで宇宙船や軍艦を彷彿とさせるリーゼントが、ビシッと決まっていた。

 

「…!あ、あんたは…………」

「よお千雨!久しぶりだなぁーおい!何年ぶりだ?」

「え?長谷川さんの知り合いなの?」

 

驚く千雨と、千雨に対してフレンドリーに話しかける男を見て、スバルは疑問を持つ。

 

「とりあえず、お前とそいつの「傷」、見してみろよ。」

「あ……ああ。」

 

男に言われ、千雨はティアナと自分の傷をみせる。すると―――

 

ズギャァアーーン

「!え!?え?!」

 

男から『腕』が伸びて、二人に触れたかと思うと、二人の傷が一瞬で『治った』!!

まるで、『最初から傷なんてなかった』かのようだ!

 

「……あれ?………私………??」

「ティア!!」

「よお、痛みはないか?」

 

ティアナが目を覚まし、駆け寄るスバル。ティアナはいつの間にかいる男に警戒するが、男に言われて、自分の体に異変がないか調べる。

 

「………痛みはないけど………私どうしてたの?刀を抜いたあたりから、記憶がないんだけど………」

「あの刀、スタンドだったんだよ。で、操られて私と戦っていたんだ。」

「えっ?」

 

千雨に事情を説明されて、驚きを隠せないティアナ。

 

「で、この人に傷を『治してもらった』所だ。」

「え?え?ていうか、誰この人!?」

「ああ、悪ぃーな。遅ればせながら、自己紹介させてもらうぜ。」

 

言うと、男は三人に向き直る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この度、『麻帆良学園女子中等部』で『数学』を担当することになった、『東方 仗助(ひがしかた じょうすけ)』ッス!以後、お見知りおきを!!」

 

 

 

 

 

アヌビス神――逃亡 再起可能

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

同時刻

 

麻帆良学園女子中等部 文芸部部室

 

 

通常の教室の半分ほどのこの部室には、長机2台にパイプ椅子が数個、大き目の本棚2つには純文学やライトノベルが詰め込まれ、棚にはお茶のセットや、あと何故かドラ○ン○ーザーの玩具が並べられていた。

 

「すいません空条さん、わざわざ文芸部の部室を貸していただいて………」

「気にしないでいいわ。どうせ春休み中は部活やらないし、部員も私含めて「3人」だけだしねぇー。しかも1人は春休み中、川崎の実家に帰ってるし。」

 

徐倫と刹那は、向かい合って話していた。刹那が「誰にも聞かれない場所で話がしたい」と言ってきたので、徐倫は自身が所属する文芸部の部室を提案したのだ。

 

「それで、話ってなんだ?」

「はい、実は、スタンド使いである空条さんに、お願いがあるんです………」

 

徐倫は驚いた。自分をスタンド使いと呼んだという事は、刹那は

 

「………お前、『魔法使いなのか』?」

「……はい。正確に言えば、『神鳴流』という、『気』を扱う『剣士』ですけれど、魔法使いサイドにいます。」

「……その辺の分類はわからないが………それで、お願いってのは?」

 

刹那は、胸ポケットから1枚の写真を取り出して、徐倫に見せた。写真には、アッシュグレーの髪の女子生徒が映っていた。

 

「お願いというのは、この人の事を調べてほしいのです………」

「ん~~~………?こいつ、見た事があるなぁー……誰だ?」

「………2年C組『田中 かなた』―――この生徒が、「スタンド使い」であるか否か、調べてほしいのです………」

 

 

 

 

 

←to be continued…

 




18話です。
・今回の黒幕、『左手が右手の女性』がちらりと登場。ルル・ベルとの関係などは、後々判明します。

・『アニバーサリー・オブ・エンゼル』は、シンプルに『飛行能力』を持つスタンド。後は、『銀の戦車』とあまり変わらないですね。
 千雨は『剣術』で戦うので、これくらいシンプルなのが丁度いいと考えての能力です。まだまだ隠し玉はあるようですが…

・仗助参戦。木乃香が覚醒するまでの間、『治療担当』が必要でしたので、出番は四部での承太郎くらいになるかもですが…

・ラストは徐倫と刹那の会話。次回は#05で名前が出てきた田中さんに関する『新作』になります。

では、次回をお楽しみに!


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#19/田中 かなた(ハイ・ステッパー) ①

グリーンドルフィンストリート・麻帆良

206号室

 

 

「「えぇーーーーーッ!!く、空条さんの『親戚』ぃいいーーーーーーーッ!?」」

 

部屋中に、スバルとネギの声が響いた。近くにいたリィンとティアナは、あまりの声の大きさに耳を押さえる。

 

「………あ…ああ。私のひいじいさんの『ジョセフ・ジョースター』が浮気して産まれたのが仗助おじさんだ。」

「複雑なのね、あんたの家族………」

(ジョセフ・ジョースター………聞いたことがあるぞ。結構有名なニューヨークの不動産王だ………)

 

ジョースター家の複雑な家系に哀れむティアナたち。ネギは、ジョセフの名前に聞き覚えがあるようだ。

 

あの後、仗助の事を簡単に紹介した千雨はその後、スバルやネギたち(ようやく復活した明日菜たち含む)に、『スタンド使い』としての仗助を紹介するため、ここへ集まっていた。

 

「ま、オレの紹介はこれくらいにしてよォ、次はそこのオレンジのやつ―――ティアっつったか?―――そいつの『後遺症』についてだな………」

「「後遺症」?」

「うん、実は、『アヌビス神』に操られたのが原因だと思うんだけど………」

「私、『スタンド』が見えるんです…………」

「「「「「えぇッ!?」」」」」

 

そう、ティアナには、「スタンド」が見えるようになっていた。

原因はアヌビス神だと、仗助たちは推測しているが、これには訳があった。

 

「―――『アヌビス神』の本体は、600年前に死んだ刀鍛冶『キャラバン・サライ』ということが判明していますわ。つまり、『スタンドのみが生きていて、刀を抜いた人物を本体にする』ということになりますわ。」

「つまり、ティアは一時的とはいえ、『スタンド使い』になったって事だ。だから、スタンドが見えるようになったって、オレたちは考えている。」

「なるほどーー。………って、ちょっと待って!!」

 

仗助たちの説明を聞いていた明日菜は、ある疑問が浮かんだ。ネギやスバルたちもだ。

それは―――

 

「何で『いいんちょ』が話に参加してるのよッ!?」

 

そう、仗助や徐倫の座る席には、『いいんちょ』こと、『雪広 あやか』も同席していたのだ。

 

「あ、そういえば、言っていませんでしたわね。」

「あやかのとこの「雪広財閥」は、「スピードワゴン財団」と深い関わりを持っていてな。有事にはあやかをエージェントとして派遣してくれるんだ。」

「「「「「「えぇーーッ!?」」」」」」

 

衝撃の事実に、スタンド使い側以外の全員が驚く。ふと、ヴィータはあることを思い出す。

 

「そういえば、財団のエージェントが『矢』について調べてるって聞いたけど………」

「ええ、わたくしの指揮下で働いている方々がおりますの。わたくし、スタンド使いではありませんが、みなさまのお力にはなりますわよーー。」

 

ホホホと優雅に笑いながら言うあやか。

そんな様子を、全員がぽかんと見ながら、全員同じことを考えていた。

 

『こいつが財団のエージェントをあごで使っているのか………』

 

 

 

 

 

#19/田中 かなた(ハイ・ステッパー) ①

 

 

 

 

 

翌日 午前13時35分

 

麻帆良学園女子中等部 職員室

 

 

「―――と言う訳で、来年度からお世話になります、東方 仗助です。まだまだ未熟者で至らぬ自分ではございますが、なにとぞご教導を賜りますようお願い申し上るッス!」

 

仗助が一礼すると、まばらに拍手が起こる。

広域指導員であり、絵にかいたような堅物教師の新田先生が紹介したと聞いていたのだが、いざ出てきたのが、絵にかいたような「昭和の不良」のような髪型の仗助であったため、かなり困惑しているのだ。

 

「いやー、よく来てくれたね、仗助君!」

「ういッス!新田先生も、お元気そうで!」

「よろしくお願いします、仗助さん!」

 

呼んだ本人である新田先生や、前日に会っているネギなどは別であるのだが……

仗助の隣に立つ学園長がワザとらしく咳払いをすると、教員全員が静かになった。

 

「さて、東方先生には、ネギ先生の受け持つA組の副担任を任せようと思っておるのじゃが、どうだろう?」

 

学園長の言葉に、真っ先に仗助が反論した。

 

「え?ちょっと、いいンすか?聞いた話じゃあ、ネギは今年から先生になったばかりらしいし………オレも去年教員になったばかりッスよ?センセーの「タマゴ」と「ヒヨコ」にひとクラス任せるって………」

「一応、ウェザー君が補佐してくれるでの。」

 

学園長に言われて一応は「はあ……」と返事を返したがいまいち納得していない様子の仗助であった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

13時50分

 

挨拶も終わり、仗助はネギに校舎を案内されていた。廊下を歩く中、ふとネギは、気になっていたことを聞いてみる事にした。

 

「所で、仗助さんは新田先生とどういうご関係なんですか?」

「ああ、オレのおふくろが、新田先生の元教え子でよォ、その『ツテ』で紹介されたんだよ。」

 

右手で後頭部を掻きながら説明する仗助に、ネギは納得したように頷いた。

 

「前の学校、生徒と校長をボコボコにしたせいで解雇(クビ)になって困ってたらよぉー、ちょうど空きがあるからって紹介されたんだよ。」

「………え?」

 

しかし、仗助が詳しい経緯を話すと、目が点になった。見た目は不良っぽいけれど、話してみて優しそうな人だなー、と思っていただけに、結構な衝撃だ。

どうしてそんな事を?と聞きたそうな顔をネギがしていたからだろうか、仗助は「だってよぉー、」と、自慢のリーゼントヘアーをビシッと指さした。

 

「アイツら、オレのこの髪に『ケチ』つけるんだぜー?髪型けなすヤローは、誰だろーと許せねぇータチなんだよ、オレ。」

「そ、そうなんですか…!で、でも!個性的でカッコいいと思いますよ僕は!はい!」

 

慌ててネギが褒めると、そーかぁ?と機嫌がよくなった様子の仗助。ネギは今の話を聞いて、仗助の髪型には触れないでおこうと、心に誓った。

ふと見ると、前の階段から3人の女子生徒が上がってくるのが見えた。

内2人は仗助の大姪である空条徐倫と学園長の孫である近衛木乃香、もう一人は、仗助の知らない生徒であった。

 

身長は徐倫と頭半分ほど低く、肩まであるアッシュグレーのくせっ毛の右側3か所を短い三つ編みにした個性的なヘアースタイルをした、中性的な顔立ちの生徒であった。

 

「お、ネギに、仗助おじさん。」

「ネギくん♪それと東方先生やね。おじいちゃんから聞いとるよー」

「コンニチハ、ネギ先生。」

「あ、空条さんに田中さん。」

 

ネギが「田中」と呼んだ女子生徒は、やや高めの声であいさつをした。

 

「ああ、仗助さん、こちら、2年C組の「田中かなた」さんです。田中さん、こちら4月から数学を教える東方仗助先生です。」

「どうもッス………と?」

「こんちにはぁ~」

 

挨拶をする仗助は、かなたの後ろに控えるメイドが挨拶をした。見たところ20代後半だろうか、黒いワンピースに白いエプロンとヘッドドレスというメイドの記号ともいえる服装に黒いショートボブに丸眼鏡をかけたメイドが、仗助たちに微笑んで挨拶をした。

 

「ああ、田中さんの付き人の、神矢 美佳(かみや みか)さんです。」

「よろしくお願いしますねぇ~」

 

美佳と呼ばれたメイドは、おっとりと間延びをした口調でお辞儀をした。

 

「じゃあうちら、新入生向けの部活紹介の打合せがあるんでー」

「文芸部と占い研究会は、部員少ないんですよ~」

「はい、気を付けて。」

 

徐倫たちはそう言って2人の後方に歩いていくのを見届けると、仗助はネギに聞いた。

 

「なあネギよォー、なんであの生徒、メイドさんなんて連れてるんだ?」

「なんでも、田中さんのお父さんが身の回りのお世話のために雇ったそうですよ。僕も最初は驚いたけど、特に授業等には干渉しないようなので。」

「ふぅ~ん………『田中』なんてヘーボンな苗字と思ったが、結構なお嬢さまなのかぁ?………本職(マジモン)のメイドさんなんて初めて見たぜぇ………」

 

メイド喫茶なんて行くの間田くらいだけど、と呟いた仗助は、3人の方を振り返った。

 

「………」

「?」

 

その時、丁度同じようにこちらを見るかなたと目が合った。しかし彼方は、こちらを睨むように目を細めていた。徐倫と木乃香に呼ばれて慌てて合流するかなたを見て、仗助は首を傾げた。

 

「………?」

「どうしたんですか仗助さん?」

『チュミ~』

 

後ろでネギが声をかけてきた。仗助は不思議に思いながらも、彼に着いていった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

14時15分 学園長室

 

 

「君たちも本当に忙しいのぉ………」

「はい、………私たちも、まさかこんな事態になるなんて………」

 

書類に目を通した学園長は、目の前のフェイトと承太郎を見た。承太郎は普段通りに無表情であるが、フェイトは少し申し訳ないような顔であった。

 

「今回の件、『矢』の調査と並行して「SPW財団」も調査を行う。あながち無関係とも言い切れんからな。」

「すまんのぉ……所で、「彼女たち」は……?」

「今は、スバルたちと一緒にいます……まだ、少し困惑しているようでしたが………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

14時55分

 

「結構話したなー、どっかでお茶のまへんー?」

「そうですねー、じゃあ、STARBOOKSCAFEにでも………」

 

打ち合わせをしていた徐倫たちは、内容を一通り終えたらちょうど15時前であったので、今日はこれで解散にすることにした。

 

(………今のところ、目立ったことはしてないな………桜咲の話が本当なら、能力(スタンド)を隠すのは普通だろうけれど………)

 

目の前で木乃香や美佳と話すかなたを見ながら、徐倫は考えていた。

今回の「打合せ」はいわば口実であり、(部員増やしたいのは本当だけど)実際はかなたの動向を探り、スタンド使いかどうかを調べるためであった。

今のところは怪しい動きはなく、木乃香と仲良く話している。

 

(もうしばらく様子を見るか………ん?)

 

ふと、階段の前を通りかかったとき、上の方が騒がしい事に気が付いた。木乃香たちも気づいたらしく、上の方を見上げると………

 

「うおおおお!?」

「待てコラぁアッ!!」

「「「な!?」」」

 

赤い短髪の少女が、リーゼントヘアーの大男に追いかけられていた。少女は踊り場から階段を飛び降りるが、着地しようとした時になって目の前に人がいる事に気が付いて驚きの顔になっていた。しかし、空中では軌道修正ができず、そのまま3人に突っ込んでくる!

 

「えっ」「あ!」

ドンガラガッシャァアーーン

 

少女は驚くかなたとぶつかってしまい、そのまま階段の向かいにあった空き教室に転がり込んでしまった。

 

「かなたさまーーー!?」

「え、えええええ!?ちょ、かなたちゃん、だいじょうぶー!?」

 

転がっていったかなたの心配をして、教室に駆け込んでいく美佳と木乃香。徐倫も突然の事に言葉を失っていたが、慌てて駆け寄った。

 

「いてて………」

「うーん………ん!?」

 

が、徐倫たちはその光景を目の当たりにして絶句した。尻もちをついたかなたのスカートの『中に』、「赤毛の少女が顔を突っ込んでいた」のだから。

 

「どんな状況!?」

 

あり得ない状況に、思わず叫ぶ徐倫。

 

 

 

同じころ、ハルナが「ラブコメの波動を感じる」と言って夕映を呆れさせたとかなんとか………

 

 

 

「うわわ!?」

「わーーー!?ご、ごめんなさい………!」

 

状況を認識したかなたは飛びのいて赤毛の少女の後ろに回り、少女は振り返ってかなたに謝った。

 

「………あ、あの………もしかしてその、み、『見ちゃいました』か………?」

「え、ええと………(て言うか今のって……こいつの『スカートの下』……)」

 

かなたの質問に少女がどもっている。しかし、

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

かなたの背後に立つ影を見て、驚愕した。かなたの後ろには、巨大な影が立っていたのだ!

 

頭巾をかぶったかのような頭部に丸いレンズ型の一つ目を持ち、巨大な左右の腕の指先が真っすぐに伸びていた。

 

「何!?(コイツ、す、スタンド使い……!!)」

 

そこで少女は初めて気が付いたのだが、その影の指先は『銃口』になっており、少女を狙っていた!

次の瞬間、スタンドの指先から『ミサイル』が1発、発射された!

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォオオオンッ

 

 

 

 

 

「!?」

「え?」

 

発射されたミサイルは教室の隅に着弾し、爆発を起こした。てっきり自分が狙われていると思っていた少女は何が起こったのか分らず、かなたも不思議そうにしていた。

 

 

 

 

 

「―――グレート!テメエ、スタンド使いだったのか………」

「―――やれやれだわ、いきなりミサイルなんて使う、普通?」

 

その疑問は、直ぐに解決した。リーゼントヘアーの大男・東方仗助と、空条徐倫が、スタンドの腕を押さえつけ、狙いをそらしていたからだ。

 

「『バッド・カンパニー』と違って威力はないようだがよォー!テメエ、教室でミサイルぶっ放すたぁーどーゆー了見だぁーーー!?」

 

ここでかなたは振り返り、少女も立ち上がって彼女の背後を見た。そして、スタンドの全体像が明らかとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『()()()()()()()ーーーー!」

「「!?」」

 

 

 

 

 

そこには、頭巾のような兜をかぶり、両腕に巨大な機械の籠手のスタンドを装備した、メイド―――神矢 美佳の姿があった………

 

 

 

「………あらあら、バレてしまいましたわね~………」

 

 

 

 

 

←to be continued…

 




19話です。
・いつまでも戦力外なのは可哀想なので、ティアナにスタンドが見えるようにしました。ちなみに見えるようになる過程は『シャーマンキング』の木刀の竜が元ネタ。

・『財団』のエージェント『いいんちょ』。雪広財閥くらいでかかったら、SPW財団と繋がってても何の不思議もないはず…と思ったのがきっかけ。

・オリジナルキャラのかなたと美佳さん。かなたがスタンド使い、と見せかけて実はメイドさんの方が、というオチ。美佳さんは最初もっとクールなメイドの予定でしたが、天然っぽい人の方がいいかなー、と思って変更しました。

では、次回をお楽しみに!


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#20/田中 かなた(ハイ・ステッパー) ②

長らくお待たせしてすいませんでした。


時間は少し戻って、14時50分

 

一通り、自分たちがよく使うであろう場所を紹介し終えたネギは、仗助と話しをしながら廊下を歩いていた。

 

「仗助さん、これから予定ありますか?僕この後、アスナさんたちに街を案内してもらいに行くんですけれど、仗助さんも一緒にどうですか?」

「うーん、今後の話もあるし、同席するべきなのかなぁー?」

 

ネギに誘われて、少し悩む仗助。ネギとは違い、なんとなく女子中学生と一緒に歩くことには抵抗があった。

 

「ネギならまだ大丈夫だろうがよぉー、オレみたいなのが一緒で肩身狭くなんないかなぁ………ん?」

 

ふと、仗助は何か『不思議な感覚』を、丁度『左肩の付け根辺り』に覚えた。まるで、すぐそこに何かがあるような感覚であった。

 

(何だ、この感覚………?今までにないような…?)

「あ、仗助さん!」

「え?」

 

仗助が不思議な感覚に首を傾げていたためか、目の前の小さな人影に気が付かずドンッ、とぶつかってしまった。

 

「うわッ!?」

「おっと?」ドギュンッ

 

ぶつかった小さな少女は衝撃で倒れそうになるが、咄嗟に仗助が『スタンドの腕』で引き寄せて、自身の腕で抱えたため事なきを得た。

 

「大丈夫か?悪かったな、考え事しててよぉー」

「え、………あ、ああ………」

 

仗助は抱きかかえた少女に聞くと、少女はきょとんとしていた。

見たところネギと同い年くらいだろうか。腰まである銀髪に金色の目を持ち、右目に黒い眼帯をつけていた。シャツの上から袖なしのパーカーを着て、下はスカートにニーソックスという服装であった。

 

「見た所、小学生くらいか?今日は中等部の見学か何かか?」

「いや、私は………」

 

仗助に聞かれた少女はむっと不機嫌な顔になった。ネギが不思議そうにしていると、

 

「あ、テメェ!『チンク姉』に何してんだッ!!」

 

いきなり背後から怒鳴り声がしたかと思うと、赤い短髪に同じく金色の吊り上がった目をして、黄色く太めのゴシック体で「6251」とプリントされた赤いTシャツにハーフジーンズの少女が、ズカズカと歩いてきていた。

 

(あれ、この人どこかで………?)

「悪りぃなぁ、ちょいとよそ見してて……ん?チンク()だと?」

「ノーヴェ、私は大丈夫だぞ。」

 

チンクと呼ばれた少女は仗助の手を離れると、ノーヴェと言うらしい赤毛の少女の元にトコトコと速足で行く。仗助は、明日菜たちくらいの少女が小さい少女を『姉』と呼ぶことに違和感を覚え、聞いてみた。

 

「あの~、失礼とは思うけどよぉー、そのちっこいのって、お前のねーちゃんなワケか?」

「あ?姉だと悪いのかよッ!」

「こら、ノーヴェ!すまない、妹は少し短気な所があってな………」

 

ケンカ腰に仗助に食って掛かるノーヴェをチンクがなだめる。仗助とネギは、顔を見合わせた。

 

「グレート………ま、アネキが知らない男に支えられてりゃ、警戒もするわなぁ~………変わった姉妹もいるもんだ………」

「確かに………けれど、そういうこともありますよ。」

 

ネギと仗助がそういうと、ノーヴェはむっと顔をしかめた。

 

 

 

この時、ノーヴェが仗助の事を知っていたら、この後起こった事にはならなかっただろう。

 

だが、起こってしまった事を後悔しても、仕方がない事だろう。

 

 

 

「何だよ!変わってるのは、アンタの頭も一緒だろうが!何だよその髪型!」

「ノーヴェ!」

「えッ」

 

チンクはノーヴェに注意をするが、ネギは今の一言に仗助の先ほどの会話を思い出し、嫌な予感がした。恐る恐る仗助の方を見ると―――

 

 

 

プッツーーーーーン

 

 

 

普段の温厚で人懐っこい雰囲気がなくなり、まるで封印を解かれた大魔神のごとく怒りを露わにした仗助が、そこにいた!

 

「じょ、仗助さん………!?」

「おいてめぇッ………今、オレのこの髪の事、なんつったゴラァッ!!」

「え!?」「何………!?」

 

仗助のただならぬ怒りにネギは完全に怯え、チンクとノーヴェは目を白黒させた。

瞬間、仗助の背後から『スタンドの腕』が出現、ノーヴェに向けて拳を打ち出した!

 

「!?」

 

ノーヴェとチンクは咄嗟にバックステップでそれ避けると、仗助は意外そうな顔になった。

 

「コイツ………スタンド使いだったのか……!」

「ほぉーう、てめぇスタンド使いかぁー?だが関係ねーぜ……オレのこの髪を『けなして』ムカつかせたヤローは、誰だろうと許さねぇーぜぇー………!」

 

なんかヤバい。ノーヴェが警戒をしていると、仗助の身体からスタンドの全身が飛び出した。

力強い印象を持つ筋肉質な身体にメタリックブルーのプロテクターを身につけたようなデザインで、兜の頭頂部や肩などのいたるところにハートマークがデザインされ、首から肩にかけて『動力パイプ』らしきものが六本つながっているスタンドだ!

 

「『クレイジー・ダイヤモンド』ォオッ!!」

ドギャンッ

「うおおおお!!??」

 

クレイジー・ダイヤモンドの拳が連続でノーヴェに迫った!ノーヴェはぎりぎりで避けると両の拳は壁をぶち抜いた!

 

「クッソ!」

 

仗助との距離を取ったノーヴェは悪態をつきながら懐を探る、しかし、すぐにあっ、と声を出した。

 

(そー言えば、『ジェットエッジ』はギンガに預けたままだった………ヤッベー!)

 

自身の『得物』がないことに気が付き、仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』に対抗できうる手段がない事に焦りを覚える。目の前には、怒りの形相の仗助が迫っていた。

 

「クッ………『逃げる!』」ダッ

「あ、コラ待ちやがれッ!!」

 

仕方なく、踵を返して逃げ出すノーヴェと、それを追いかける仗助。

 

「てめぇ!『学校の廊下は走らない』って教わらなかったのか!!」

「アンタだって走ってるじゃないか!?」

「オメーは『おもひでぽろぽろ』を観たことがねぇのかぁーーーッ!!」

 

2人はそんなやりとりをしながら、その場を走り去ってしまった。

 

「「………」」

 

取り残されたネギとチンクは、数秒唖然としていたが、はっと気づいて追いかける事にした。

 

「………あれ?ノーヴェとチンク姉、こっちにきたッスよね?」

「そのはずだけど………」

「どこ行っちゃったんだろう……ノーヴェはともかくチンク姉まで……?」

 

 

 

 

 

#20/田中 かなた(ハイ・ステッパー) ②

 

 

 

 

 

(―――なんて事があって校内を逃げ回っていたら、さっきの奴にぶつかってスタンド使いに襲われて、現在に至るわけなんだが………)

 

そして現在、14時59分

赤い髪の少女・ノーヴェは、今に至るまでを回想しながら、現状を再確認した。

 

現在、鎧のようなスタンドを身にまとったメイドを仗助と徐倫が押さえつけ、教室の入り口で木乃香と、追いついたらしいネギとチンクが何事かと覗き込んで驚いており、ノーヴェは困惑するかなたの後ろで尻餅をついていた。

メイド、美佳はスタンドを解除すると高くジャンプをして仗助たちから離れ、教室に並ぶ机の上に着地をした。

 

「なんて跳躍力!ただのお付のメイドとは思えない身体能力だ!」

 

徐倫が美佳の身体能力に舌を巻いていると、美佳は仗助たちを睨む。先ほどまでのおっとりした雰囲気は微塵もない、鋭い眼光だ。

 

「………『スタンド使いはぁ~』」

「?」

 

不意に、美佳が腰に左手を当てたポーズで口を開いた。

 

「『スタンド使いと、無意識のうちに引かれあう』………って、聞いたこと、ありますかぁ~?最近、麻帆良で『矢』を使ってスタンド使いを増やしている人がいるみたいでぇ~、私も仕事がしづらくて困りますぅ~………」

「そのしゃべり方よぉー、()でやってんのか?それとも演技か?この際どっちでもいいがよぉー………」

「何か、演技っぽくはないな………やれやれだわ……「田中かなた」()()()()()、メイドの方がスタンド使いだったとは………」

 

少し間延びした話し方をする美佳に対して、少しあきれ気味に言う仗助と徐倫。

 

(メイドさんが、スタンド使い………!?)

(ノーヴェを狙ったというのか?しかし、何故………!?)

「え?なにー?何がおこっとるのー………?」

 

一方、ネギとチンクは美佳に警戒とノーヴェを襲った事に疑問を抱き、木乃香は何が起きているのか分らない様子で、キョロキョロと美佳や仗助たちを見ていた。すると、同じように困惑していたかなたが、口を開いた。

 

「な、何が起こっているの………!?美佳さんや空条さんから()()()()()()()()()………!?」

「!?」「……え?」

 

突然の言葉に、木乃香以外の全員が反応を示した。

 

「何!?お前も………!?」

「かなた様……?いつの間にスタンド使いに……?」

「まさか………スタンド使いは()()()()………!?」

「え?え?」

 

戸惑うかなたに、各々が声を出す。すると、美佳はストン、と床に降りた。

 

「驚きましたねぇ~………今まで()()()()使()()()()()()()()はずなのにぃ~……まあいいです………」

 

そういうと、美佳はスタンドを発現させた。先ほどは突然の事でよく見えなかったが、今度は細部のデザインを見ることができた。

いぶし銀色の鉄板を(リベット)で留めた、本体の頭部を覆い隠す頭巾のような兜には1つ目を思わせる青いレンズがついており、美佳の顔がそこから覗いていた。肩から先を武骨な甲冑で覆い(よく見ると肩に『EotU』という赤いエンブレムらしき物が見える)肘から先は地面に着く程巨大な腕になっている。手の甲はサーフボードのような形の『盾』になっており、指は筒形の銃身だ。

 

「ひい、ふう、みい………7人とかなり多いいですがぁ~、我がスタンド、『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』で()()()()()()()、何の問題もないですからぁ~~」

「おいおいおいおいおいおい、何か物騒な事言ってやがるぜぇー、このお方はよぉー…!」

 

相変わらずおっとりとした口調で、物騒な事を口にする美佳。

 

「7人って……『このかさんも』入っているじゃないですか!?み、………美佳さん………!?」

「お前ら、こっちに集まれ……武器がミサイルってのは厄介だなぁ~~……物が破壊されていない所を見るに、人体にのみ作用があるのか?仗助おじさんよォー、この状況どう切り抜けるよ……?」

 

徐倫が、戸惑うネギやかなた達を自分たちの元に集める。仗助は徐倫の言葉に対して、不敵な笑みを浮かべた。

 

「『切り抜ける』?切り抜けるってぇのは、ちょっと違うぜぇー?」

「「「?」」」

 

すると、仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』の拳を振り上げ、

 

「ドララララァアーーーッ!!」

ドガァアンッ

「え!?」

 

拳の連打(ラッシュ)で床をぶち抜いて大穴を開けると、そのままネギたちを連れて下の階に降りて、というか『落ちていった!』

 

()()()()()()()……!」

「「「わーーーッ!?」」」

「だと思った………」

 

突然のことで悲鳴を上げるネギたちに対し、徐倫はやれやれと呆れ気味であった。困惑する木乃香やかなたを引き寄せて着地をすると、頭上で走る足音が聞こえた。美佳が追いかけてきたのだ。

 

「逃がしませんよぉ~!」

「駄目だ!追ってくる!!」

 

美佳が仗助の開けた大穴に飛び込もうとしている事を察知して、かなたが声を上げた。しかし、仗助は冷静であった。

 

「……いや、()()()()()()()()()()()()()ぜ………『遠回り』になるからよぉー……今のうちに逃げるぞ。」

「え?!」「?」

 

仗助がそう言った瞬間、美佳が大穴に飛び込んでくる。しかしその時、ネギ達にとって信じられない出来事が起こった!

 

ドシュッ

「!?」

ドシュドシュッ

「何!?」

 

なんと、クレイジー・ダイヤモンドによって破壊された床の残骸が次々に宙に浮かび、大穴の所に戻っていくではないか!そして、まるでビデオの巻き戻しの如く元の場所にくっついていき、美佳はそれの戻る力に押し返された!

 

「こ………これは………!! ??」

 

押し返された美佳は驚きの声を上げるうちに、仗助によって開けられた穴は、()()()()()()()()()()

 

「ゆ、床が!まるで『()()()()()()()()()()()()()()()()()………』直った……!?これが、あの人のスタンド能力………!!」

 

「オレの『クレイジー・ダイヤモンド』はよぉー、『破壊されたものを直す』能力なんだぜぇー!」

「は、破壊した床を()()()、……逃走ルートを作るとは………」

 

一方、下の階に逃げた仗助は、ネギたちを連れて廊下に出た。穴が開いていない以上美佳は遠回りしなければいけないので、今の内に校舎から出ようという考えであった。

 

美佳は短く舌打ちをすると、校舎を出ると予想して駆けだした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

15時05分

 

「………なあかなたちゃん………これ、一体なにがおこっとるのー…?」

「ぼ、ボクにも何がなんだか………」

「今は説明できません………とにかく、今は逃げる事が最優先です………!」

 

昇降口に向って走りながら、このかとかなたにそう答えるネギ。一方の仗助は、逃げながら美佳の目的について思考していた。

 

(ノーヴェが田中に『ソソウ』したから………ってぇのは、たぶん違うな……それなら、オレ達や田中自身を襲う理由にはならないもんなぁー………)

 

ちらりと、後ろを走るかなたを見る。

 

(あのメイド……一体何が目的だ……?)

「あ!ノーヴェとチンク姉、こんな所にいたッス!」

「もー、探したよ2人ともー!」

 

下駄箱の前まで来たとき、目の前に赤い髪を束ねた少女と水色のショートカットの少女が、ノーヴェの姿を見て声を上げた。

 

「ウ、ウェンディに、セイン……!?」

「もー勝手に行っちゃだめッスよー!!」

「フェイトさんも心配していたし、早く戻ろうよー!」

「すまん、今それどころじゃあ………」

 

ウェンディとセインと言うらしい2人にチンクがそう言うが、その時、昇降口の方で着地音が聞こえた。見れば、『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』を纏った美佳が、静かに近づいてきていた。

 

「あいつ……もう………!?」

「あれ、あの人………?」

 

仗助たちが息を呑み、ウェンディたち2人がきょとんとしていると、美佳は『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』の指先を向け、ミサイルを発射した!

 

「!?」

「マズイ……!?」

 

ノーヴェはミサイルを避けようとしたが、背後の木乃香たちに気づいた。このまま避けてしまっては彼女たちに直撃してしまう!そう思うと動くわけにもいかず、その場に固まってしまうノーヴェ。瞬間―――

 

 

 

 

 

「危ないッスノーヴェ!!」

ドンッ

「え!?」

 

ノーヴェはウェンディに突き飛ばされ、横に吹き飛ばされる。

 

ズドォオオオンッ

「ぅおッ………」

「ウェンディ!!」

 

瞬間、ウェンディの身体にミサイルが着弾して爆発、ウェンディは大きく吹き飛んでしまった!

 

「ヤロオ~~~!」

「向って来るんですかぁ~?まあ、私としてはぁ、大助かりですけれども~~~」

「こ、コイツ………!」

 

セインが気絶したウェンディに駆け寄り、怒りの声を上げるノーヴェに対し、美佳は何て事ないように返事をする。何処と無く天然っぽい喋り方だというのに、その言動は危機感を与えた。

 

(何で?なんでこんな事になっているの………?)

 

向かって行こうとするノーヴェをチンクが止める中、かなたは混乱する頭で何とか状況を理解しようとしていた。いきなり赤毛の少女にぶつかったかと思えば、メイドの美佳や徐倫が奇妙な幽霊のようなもので戦い始めた。これだけわけの分からない状況では、混乱しない方がおかしい。

 

「………大体、そもそもの原因は母さんじゃないか………ボクはこんな学校に通いたかった訳じゃないのに………もうヤダ………なんなの、この訳の分からない状況………」

「かなたちゃん………?」

 

俯いてぶつぶつとつぶやき始めるかなたに、木乃香は少し心配になり肩に手を置いた。

 

この時、スタンド使いではない木乃香は気づいていなかったが、美佳はちらりと見えたそれに気づいていた。かなたの両足に、『赤いオーラのようなもの』が集まり始めていたのだ。

 

「(かなた様のスタンドが目覚めようとしている……?ここでスタンドに目覚められては、少し厄介ですねぇ~………)今すぐ消させていただきますぅ~!」

 

美佳はそう言うと、10本の指先を伸ばして狙いを付けた。指先からはミサイルの先端(ご丁寧にサメの顔付き)が装填された。

 

「!?やばい……!」

「こんなの………こんな所………!」

 

ノーヴェが危機感を覚える中、かなたはこの状況に混乱し、涙目になって顔を上げて、叫んだ。

 

 

 

 

 

「もう逃げ出してやりたいィイイイイイイイイイイイイッ!!」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「それにしても承太郎さん、いつの間に帰ってきたんだろうねー?」

「さあなー?」

「元々、徐倫にもあまり話さない人でござるからなー………」

 

15時07分、昇降口に向かう階段を上るまき絵と千雨、楓は、話していた。承太郎から急に、学園長室に来るように呼ばれたのだ。

 

「徐倫は部活の話し合いあるって言ってたから、来れないとは言ってあるけど………」

 

千雨がそう呟いたその時、

 

 

 

 

 

ドォオオンッ

 

「「「!?」」」

 

突然、昇降口が大きく()()()!千雨たちが驚いていると、もうもうと立ち込める煙の中から1つの影が飛び出してきた!

 

「う、お、お、お、お、おおおおおおおおお!!??」

「きゃぁあああああああああああああ!?」

 

千雨たちの目の前に転がり込んできたのは、仗助と赤毛の少女・ノーヴェ、そして、C組の田中かなたであった。

 

「痛っててて………いきなり後ろから強い衝撃受けて、そのまま吹っ飛んじまったぜ………」

「仗助さん!?」

「いったい何が………む?」

 

その時、千雨はかなたの両脚に『まとわれているもの』を見た。かなたの両脚には、『赤いロングブーツ』のようなデザインのスタンドが、まとわれていたのだ!

 

丸みを帯びた赤い装甲で覆われており、ところどころに銀色の部品も見える。膝には楯のような形状の膝当てが付き、そして脹脛のあたりには、大きめのリボルバーのシリンダーと撃鉄(ハンマー)らしきパーツが見えていた。

 

「こいつ……スタンド使いか!?」

「え………?何これ………!?」

 

千雨に指摘されて、かなたは自身の脚に装着された、時折透ける赤いブーツに気づいた。

 

「透けている………何だ、このブーツのようなものは……!?」

「その様子だと、最近スタンドに目覚めた()()か………」

「仗助さーん!」

 

自身の両足のスタンドにかなたが困惑していると、煙の中から杖にまたがったネギが飛び出してきた。よく見ると、後ろに木乃香とチンクを抱えた徐倫もいた。

 

「あ、ネギ君に徐倫!」

「ネギ!さっきの2人は……?」

 

そばに着地したネギに聞く仗助。ネギが言いよどんでいると、木乃香が困惑と興奮の混ざったような様子で答えた。

 

「あ、あんなー、かなたちゃんが吹っ飛んで驚いとったら、水色の髪の人が、赤い髪の娘持って、床に()()()()()()………!」

「沈んだ……?」

「セインの『固有能力(インヒューレント・スキル)』だ。無機物に潜って移動できる……」

 

仗助が首をかしげていると、ノーヴェが説明した。いまだに何が起こっているのか分かっていない木乃香が徐倫やネギを問いただそうとしたが、その時、煙が晴れてガラスが割れて戸が破損した昇降口から、美佳が歩いてきた。

 

「けほっ、も~、びっくりしましたぁ~……かなた様ったら、いきなり跳び出していってしまうんですもの~………」

「美佳さん……!」

 

スタンド『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』をまとった美佳に警戒する千雨たち。美佳が再び指先にミサイルを装填した時、仗助はかなたを立ち上がらせた。

 

「おい、お前のスタンド、さっきみたく跳べないのか!?」

「え!?でも、これって一体、何なのか………!?」

「そこからか……仕方ねえ、『LESSON1』だ!こいつの名称()は『スタンド』!お前の具現化した生命エネルギーの(ヴィジョン)だ!つまり、お前自身の意思で動かすんだ!」

 

『クレイジー・ダイヤモンド』を出した仗助が説明をしたその時、美佳は『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』のミサイルを発射!仗助たちに迫った!

 

()()()()()()()()!!ドラララララララァアッ!!」

 

仗助は地面の石畳を『クレイジー・ダイヤモンド』で砕くと、それを『直して』ミサイルを防御!ミサイルは石畳の『防壁』に阻まれて爆発した!

 

「い、石畳を直して防御を!?」

「やはり、厄介ですねぇ~、あなたの能力(スタンド)は………」

 

美佳はそういうと、今度は接近戦に持ち込もうと一気に駆け出す!

 

「ボク自身が……動かす………」

 

一方のかなたは、仗助に言われたことを復唱し、自身の脚に装備されたブーツに意識を集中させた。すると、ふくらはぎの撃鉄がカチン、と起き上がった。

 

「ん?撃鉄が……(そういえば、あのデバイスのカードリッジみてーなパーツ……それに、さっきの跳躍力………もしかして………!?)」

 

撃鉄が起き上がったことに気が付いたノーヴェは、先ほどのかなたの跳躍力を思い出して、その能力に気が付いた。咄嗟にかなたの腕に捕まった時、撃鉄が作動した。

 

 

 

ドンッ

 

 

 

『!?』

 

瞬間、耳をつんざくような爆発音と共に、かなたとノーヴェは『跳び上がった』!!跳び上がった際に地面は少し陥没しており、その威力を物語っていた。

 

「かなたさまーーー!?」

 

跳んで行ったかなたに驚いて、思わず美佳が叫ぶ。

 

「うわ!?わ?わわわ!?」

 

一方、空中のかなた自身も、その跳躍力に驚き、慌てていた。腕を掴むノーヴェも離さないようにしながら、その能力を理解した。

 

「ま、間違いない………こいつのスタンド………爆発的な瞬発力を生み出して、驚異的なジャンプ力を………!」

「そ、それはいいんだけど………これからどうしよう………?」

「………それが問題だな………」

 

とりあえず美佳から離れることはできたが、空を飛ぶことのできない2人が重力に逆らう術を持つ訳もなく、直ぐに自由落下が始まった。そして、着地が予測される地点には教会があった………

 

 

 

 

 

←to be continued…

 




20話です。
・ナンバーズ、リメイク前より早く登場。今回はノーヴェとチンクがメインですが、後から他の娘も出番があります。

・元からスタンド使いだった美佳さんと、最近スタンド使いになったかなた。『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』は名前の響きがお気に入り。

・かなたのスタンドはシンプルに脚力強化。爆発力を付加して威力を上げる感じです。

では、次回をお楽しみに!


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#21/田中 かなた(ハイ・ステッパー) ③

今回が、たぶん年内最後の投稿になります。


15時10分

 

「おい美空(みそら)!ココネと遊んでねーでさっさと掃除終わらせろ!」

 

礼拝堂を掃除していた、赤毛を肩で切りそろえた修道女(シスター)は、同じく赤毛をショートカットにしたシスター・春日 美空に怒鳴る。後ろでは、黒い肌に大きな目の少女ココネが「怒らレタ……」と呟いていた。

 

「へーい。まったく、パンツ姐さんは口調キツイのにお堅いんだから………」

「誰がパンツ姐さんだ!苗字で呼ぶなっつったろ!」

 

気のない返事をする美空に、パンツ姐さんこと『ホット・パンツ』は再び怒鳴った。名前の事で言われることが多いらしく、なんでこんな変な苗字を名乗るようになったのか、先祖に小一時間問い詰めたいとは彼女の弁である。

 

「別にそんなに怒鳴んなくても………」

「シャークティが留守の間は、オレがお前ら見てろって言われてんだよ。ったく、『プッチ神父様』いた時は、そこまでフマジメじゃなかったろお前………」

「いやー、プッチ神父って何考えてるか分かんなくてコワイ人だったし………解放されたってゆーか………」

「……神父サマ、どこいっちゃったんダロ………」

 

ココネのつぶやきに、2人ははっとした。プッチ神父は2年前までこの教会に務めていたのだが、ある日突然、行方不明となってしまっていた。

 

「あー、ココネは神父に妙に懐いていたッスからねー………」

「あの人なら大丈夫だろ。ちょっと故郷に里帰りするって言ってたし、きっと帰ってくるって。」

「………ウン。」

 

ホット・パンツに諭されたココネは、小さく頷いた。その時だ。

 

 

 

グワッシャァアンッ

 

 

 

「うえぇ!?」

「何だ!?」

 

突然、礼拝堂の大きなステンドグラスが割れて、2人の少女が飛び込んできた!3人のシスターが唖然とする中、赤い髪の少女がうーんと唸った。

 

「………あー、すんません、懺悔したい事あるんですけど………懺悔室ってどっちですか?」

「まずはオレたちに謝れ。」

 

赤毛の少女・ノーヴェに、ホット・パンツがツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#21/田中 かなた(ハイ・ステッパー)③

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15時11分

 

「結構飛んでいきましたねぇ~………30m位は行ったんじゃぁないですか~?」

 

跳んで行ったかなたたちが教会のステンドグラスを突き破ったのを見た美佳は、感心したように呟いた。仕方なく、かなたは後回しにして仗助たちの方から『消す』ことにしようと振り返ったが、

 

「………あれ?」

 

いつの間にか、仗助や千雨たちの姿がなかった。慌てて周囲を見渡すと、宙を飛ぶ仗助と徐倫、そして杖で飛ぶネギ、チンク、木乃香の姿があった。

 

「くっ………ダメですね~、既にミサイルの射程距離外です………」

 

美佳は『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』の指先を構えるが、仗助たちとの距離が遠く、ミサイルが届かないことを知った。仕方なくスタンドを戻すと、かなたたちのいる教会まで走り出した。

 

 

 

 

 

「………行ったか?」

『フム、モウ大丈夫ダロウ。』

 

美佳が去って数秒後、石畳の一部が盛り上がったかと思うと『緑色に変わっていき』、その下から千雨たち3人が出てきた。『グロウン・キッド』の能力で隠れていたようであった。

 

「咄嗟に隠れちゃったけど、徐倫たちは大丈夫かなぁー?」

「まあ、大丈夫だろ。」

『フム、シカシ、毎度ノコト思うノダガ、私ト楓ノ『能力』ハ、相性ガ良イナ。』

 

やれやれと肩を下す千雨に対し、布と一体化していた『グロウン・キッド』が感心したように言った。

 

「一応、承太郎殿に伝えるべきでござろう。学園長室へ向かおう。」

「だな。」

 

3人は、学園長室へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

15時12分

 

「おーい、ノーヴェー!」

「あ、チンク姉たち………」

「げ、ネギ先生………」

 

ノーヴェが振り返ると、割れたステンドグラスの向こうから仗助たちがこちらに向かってくるのが見えた。仗助とネギが着地をして杖から降りると、仗助はクレイジー・ダイヤモンドでステンドグラスを修復した。

 

「!?ス、ステンドグラスが………!?」

「あんたたち、杖に乗ってなかったみたいだけど、どうやって………?」

 

ホット・パンツがステンドグラスが直った事に驚く中、ノーヴェが疑問に思ったことを聞いた。すると徐倫が、ノーヴェのジーンズから伸びる2mほどのロープを指さした。

 

「あれ、このロープ、いつの間に………?」

「こんな事もあろうかと、アンタのジーンズにロープの切れ端を結び付けておいたのよ。切れ端はクレイジー・ダイヤモンドで直すことができるわ………見失っても、追いつけるようにね。」

 

成程、と納得をするノーヴェ。

 

「あのー、このかサン?一体全体なにがどーなってんスかこれ?」

「う、うんー、それが、うちにもさっぱり………?」

 

何が起きているのか理解できない美空と木乃香がひそひそと話す。後ろでココネが「魔力は感じナカッタ………」と小さく呟いたが、だれも聞こえていない。その時、携帯電話の着信音が鳴った。徐倫が懐から携帯電話を取り出してみると、相手はスバルからであった。

 

「もしもし、スバル?」

[あ、空条さん?セインから聞いたんだけど、そっちにチンクとノーヴェいる!?]

「ああ、ちょいと厄介な事に巻き込まれてな………さっきの2人、大丈夫か?」

 

心配そうなスバルに答える徐倫。すると、電話口から不思議そうなスバルの声がした。

 

[セインもウェンディもケガとかはないけど………何か変なんだ………]

「変?」

[うん………セインの話だと、『スタンド使いに襲われた』らしいんだけど―――]

 

 

 

「………何だと………ッ!?」

 

スバルからの電話を聞いた徐倫は、思わず聞き返した。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

15時14分

 

()()()()()()()()………?」

 

麻帆良学園の学園長室でウェンディを診ていたセインとフェイトは、目覚めたウェンディの言った事に耳を疑った。

 

「ほ、本当に、何も覚えていないの………!?」

「うん、セインと一緒にいなくなったノーヴェとチンク姉を探してて、気づいたらここで寝てたッス。メイドさんなんて、()()()()()()()………?」

 

きょとんとして、フェイトたちに答えるウェンディ。フェイトとセインは、顔を見合わせて首を傾げていた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

15時16分

 

「何だと………!?」

 

電話を切った徐倫が、ウェンディが何も覚えていないことを知らせると、仗助とチンクが息を呑んだ。かなたが声を出す。

 

「も、もしかして……さっき倒れた時に、頭を打ったせいなんじゃあ……?」

「いや、()()()()はそんな『ヤワ』なつくりはしてねえ………ウェンディはアホな奴だけど、あんな目にあってそんな冗談を言うようなバカじゃあねー………いったい何があったんだ……?」

「何気にヒドイ言いようですね?」

 

なかなかヒドイ事を言うノーヴェにネギがツッコミを入れる。

 

「まさか………そういう事なのか………?」

 

その時、少し考えていた徐倫がある仮説を立てた。

 

「そのウェンディってヤツの状況と、私の知っている『情報』を合わせると………あのメイドのスタンド能力に、見当がついた………」

「何だと?」

 

全員の視線が、徐倫に集まった。

 

「あのスタンドのミサイルは、最初に思った通り、『人体にのみ』作用するんだ………ただし、()()()()()()()()()()()()()()………『記憶』だ………『記憶を()()()()()スタンド』なんだ………!」

「!」

「き、記憶を………!?」

「吹き飛ばす………!?」

 

息を呑むネギとかなた、そしてノーヴェ。しかし、仗助は納得したように頷いた。

 

「………なるほどな、あのメイドが「消す」って言っていたのは、オレたちの記憶を消すって意味だったのか………自分がスタンド使いだって知られたくなかったって事か………」

 

ネギやチンクは仗助の推測を聞いて、なんとなく納得をした。すると、今まで何のことか分かっていなかった木乃香が、おずおずと手を挙げた。

 

「あのー、さっきから、スタンドとかなんとかよー分らんのやけど………さっき徐倫ちゃん、『かなたちゃんじゃなくてメイドさんの方がスタンド使いだった』って言うてなかった?」

「え?」

 

木乃香の指摘に、全員が「あ!」と声を上げた。

 

「もしかして徐倫ちゃん、かなたちゃんがスタンド使いやって、知っとったん?」

「………まあな。実は、かなたがスタンド使いかどうか、調べてほしいと頼まれてな………」

 

徐倫の告白に、かなたはえ、と戸惑った。

 

「も、もしかして空条さん………『あの事』も知ってるの………?」

「……ああ。がっつり聞いている………」

「あぅう………」

 

ひきつった顔の徐倫に肯定されて、かなたは涙目でうつむいた。何故か、隣のノーヴェも、顔を赤くしている。

 

「あの事?」

「あの事って、どの事?」

 

聞いてくるネギと木乃香に対し、徐倫は話そうかどうか迷い、かなたと目を合わせた。かなたが小さく頷いたのをみて、徐倫は「やれやれ」とため息をついた。

 

「ま、木乃香も無関係ってわけじゃないし、こんだけ巻き込んじゃったからね………いいわ、話してあげる………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

15時20分

 

「かなた様………直ぐに記憶を消してあげますからね~………」

 

教会が目視できる距離となり、美佳は走る速度を速めた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

15時20分

 

「………なん、だと………!?」

 

礼拝堂は、静まり返っていた。ネギや木乃香は目が点になり、チンクと仗助は訳が分からないとばかりにわなわなと困惑する。告げた徐倫はやれやれと呆れ気味でかなたは耳まで真っ赤になり、ノーヴェも微妙な表情だ。

 

「お、おいネギ!今の聞いたかよ!?スタンドも月までブッ飛ぶこの衝撃…!今、オレの大姪っ子が、とんでもねー事を言ったぞ!?」

「い、言いましたね……とんでもない事を言いました……!」

 

混乱しながら話す2人。おずおずと美空が手を挙げた。

 

「あのー、徐倫サン?よく聞こえなかったんスけどもう1回言ってもらっていいっスか?」

 

美空に賛同するように木乃香とチンクがうんうんと頷く。徐倫はふう、とため息を付いた。

 

「………やれやれだわ。良いわ。何度も言ってあげる………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「田中かなた、コイツは『()』だって言ったのよ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!??!?!?』

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「『竹取物語』……って、ありますよね?」

 

徐倫と対面した刹那は、そう切り出した。

 

「竹取物語です。あの話で、かぐや姫は自分に求婚してきた5人の男性に、自分の言った品物を持ってこれた人と結婚すると、条件を出しました………」

 

その話は徐倫も知っていた。中学1年生の『国語』で習った内容だ。

品物はそれぞれ「仏の御石の鉢」、「蓬莱の玉の枝」、「火鼠の裘」、「龍の首の珠」、「燕の産んだ子安貝」、だったはずだ。

 

「ある者は偽物をつかまされ、ある者はわざわざ偽物を作り、またある者は大けがを負いました。かぐや姫は5人の誰とも結婚したくないので、無理難題を押し付けたのでしょうね………」

「………あー、そうだな。その気がないのに、その気にさせる『悪女』………って感じだよなぁ~~~………つーか、」

 

何故かイキナリ「竹取物語」の話をし始めた刹那に、徐倫が待ったをかけ、見せられた『田中かなた』の写真を突き付けた。

 

「私は!「何でこいつが女装して女子校通ってんだ?」って聞いてんのよ!かぐや姫の話なんか、この際どーでもいいのよ!」

「いえ、ですから………この生徒も「無理難題を押し付けられた男性」、という事なんです………」

「………何?」

 

刹那がそう言うと、徐倫は怪訝な顔になった。

 

「実は彼、木乃香お嬢様の「婚約者候補」の1人でして………本名は『篤緒 奏汰(あつお そうた)』さんというのですが………それなりに名の知れた魔法使いの家系の人でして………」

「婚約者って………そーいやーこのかのヤツ、学園長がお見合いを無理やり進めてくるーって、よく愚痴ってたなぁ………」

 

明日菜やのどか達に話しているのを聞いたのを思い出して、徐倫が言った。

 

「他にも何人か魔法使いの家系の人が自分の息子を、と申し込んできたので、学園長はある『条件』を突き付けたのです。」

「条件?」

「それは………」

 

 

 

 

 

「『女装して3年間女子中等部に通い、『男』とバレなかったら結婚していいよ』、と………」

「何考えてんだ、あのジジイ………」

 

思わず突っ込む徐倫。刹那も、遠い目をしていた。

 

「案の定、大半の立候補者は辞退をしたのですが、」

「コイツの親はその条件をのんだ、って訳か………けど、普通スグにバレちまうもんじゃねーのか?」

「そうなんですよ。学園長は「魔法の使用は禁止」と条件したにも関わらず、彼は2年間もの間、誰にもバレずに学園生活を送っているんです………何度か魔法を使っていないかの調査も行われたのですが、魔法の使用は確認されていません………」

 

そこまで聞いた徐倫は、刹那が何故、奏汰がスタンド使いであるかを疑った理由を察した。

 

「なるほどね、魔法を使っていないのなら、スタンド能力の可能性が高い、って言いたい訳ね……」

「はい。残念ながら、魔法先生や生徒の中にスタンド使いはいませんので………」

 

少し申し訳ない様子の刹那。徐倫は田中かなたこと篤緒奏汰の写真を持ってひらひらとさせた。

 

「………やれやれ、わかったわ、調べてあげる。」

「ありがとうございます。あ、あくまで今回の事は、秘密裏にお願いします。」

 

はいはい、と徐倫は返事をして部屋を後にした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

15時25分

 

「―――とまあ、そんな訳だ。」

『………』

「お前も苦労してんだな………」

 

徐倫の話を聞いて、ぽかんとする一同。仗助はかなた、もとい奏汰に同情した。

 

「あー、………とりあえず、学園長(おじいちゃん)には後でローキック入れるとして………」

「ローキック!?」

「結構アグレッシブだなお前………」

「その事とあのメイドさんが追ってくるのとで、何で記憶を消す能力やて、分かったん?」

 

木乃香が徐倫に聞くと、徐倫は答えた。

 

「考えてもみて?たとえ男だってバレたとしてもよー、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』なのよ?」

「「「あ!」」」

「なるほど………それであいつは、オレたちの記憶を消そうと躍起になってる訳か………」

 

説明を受けて納得をする一同。すると、奏汰はある事に気が付いた。

 

「………え?ちょっと待って………という事は………ボク何回も男ってバレたのに、忘れさせられていたっていう事ーーーーーーーーーー!?」

 

奏汰の叫びに、言われてみれば、と全員が気づいた。そうでなければ、2年間も女装して女子校になんて通えないだろう。

ついに奏汰は、おいおいと泣き崩れてしまった。

 

「もうヤダよ………母さんが無理やり決めちゃうし………父さんは父さんで婿養子だからそこまでの権限ないから謝るだけだし………この2年間でどれだけ心が折れそうになったか………」

「あーもー、そんなに泣くなって………」

 

泣き出した奏汰を慰める仗助。ふと、木乃香はノーヴェに聞きたいことがあった。

 

「ほんで、ノーヴェちゃん、やったっけ?えーと、かなたちゃん、いや、奏汰くん?が、その、男の子やって知ったのって、やっぱりさっきスカートの下、見たときなん………?」

 

木乃香に聞かれたノーヴェは、微妙な表情となり、

 

「いや、見たって言うか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「顔面に、こう、『むにゅ』っと………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神よ(ジーザス)………

 

涙目になったノーヴェをチンクと木乃香が慰める中、ホット・パンツは天を仰いだ………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

15時30分

 

教会の前にたどり着いた美佳は、『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』を装備した。

 

「さーてと、さっさと記憶を消さないとぉ………お給料、減っちゃいますからねぇ~………」

 

 

 

 

 

←to be continued…




21話です。
・ホット・パンツ登場。宗教繋がりで美空たちと絡めたいなーって思っていました。SBRの終盤では女らしくなってたけど、今作では初登場時からの男っぽい性格です。

・『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』は、記憶を消し飛ばすスタンド。最初思いついた時には、かなり凶悪な能力だなぁ、と思いましたね。

・かなたは男の娘でした、というオチ。竹取物語の話しはじめる刹那は、ジョジョリオンの絵柄なイメージw

では、次回をお楽しみに!


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#22/田中 かなた(ハイ・ステッパー) ④

あけましておめでとうございます!

新年1発目にして、田中 かなた編ラストです!


15時31分

 

校舎の見取り図を片手に校舎の屋上に立っていたサルシッチャは、田中かなたが慌しく逃げている事を察知していた。

 

(……田中 かなたを探っていた『ソルとルナ』が、何度も標的(ターゲット)を見失ったので妙だと思い来てみたが………あの双子が、見失うなどあり得ない話なのだが………何やら厄介な事態のようだな………)

 

見取り図に展開させたスタンド『アンダー・ザ・レーダー』には、逃げるかなたや仗助たちの姿が映っていた。八角形の板にそれより一回り小さい透明の球体がはめ込まれており、コンパスの針のような足が四本生えた、機械的なデザインのスタンドだ。

 

(今ならば、我がスタンドの『地図上のものを自在に転移させることができる』能力で彼らを助ける事も出来るが………今は見ているだけだ。非情かもしれないが、まだ正体を晒す時ではないための判断だ………)

 

既に、『時空管理局』が動き、自分たち『スタンド使いを増やす者』の存在に気づかれている以上、派手な行動はできなかった。同時に、田中 かなたのスタンド能力を探るのに丁度いいと思っていた。

 

(しかしあのメイド、どこかで見たような気が……?)

「おい貴様………どうやってこの場所にいる……?」

 

不意に、サルシッチャは背後から声をかけられた。振り返ると、金髪を腰まで伸ばした小柄な女子中学生が、鋭い目つきでこちらを睨んでいた。

 

「そこは私お気に入りの『サボりスポット』だ……何者であろうと、そこに無断で居座ることは許さん………」

「微妙にカッコ悪いぞ…?」

 

サルシッチャの鋭い突っ込みに少女はぐ、とたじろぐが、すぐに立ち直った。

 

「安心しろ、言われずともすぐに立ち去る。無断で入って申し訳が」

「待て。」

 

サルシッチャはすぐに去ろうとしたが、少女の放つ冷たい殺気が突き刺さり、その場に凍り付いた。

 

「ッ………!?(なんだ、この殺気は……!?ケツの穴にツララを突っ込まれた気分だ……!!)」

「ただで返してもらえると思ったか侵入者?昼間で力が弱まっているとはいえ、貴様をとっ捕まえるなど、たやすいのだぞ………?」

 

少女は静かにそう言う。内心『冷や汗』ビッショリのサルシッチャは、この少女からただならぬ雰囲気に危機を感じ取り、直ぐにその場から転移した!

 

「!?………魔力も氣も無しに転移するとは………スタンド能力か………」

 

少女は消えたサルシッチャの気配をたどるが、既に校内から出ているようであった。

 

「まったく、スタンド使いの相手までしなければいけないとは………「ナギ」も、厄介な呪いをかけてくれたモノだ………」

 

少女はけだるげにそういうと、その場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#22/田中 かなた(ハイ・ステッパー) ④

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15時35分

 

ピリリリ、と、携帯電話の着信音が鳴り響いた。奏汰のものであった。

画面を見てみると、『美佳さん』と、発信者の名前と番号が表示されていた。

 

「メイドからか?」

「は、はい………」

「貸せ。」

 

仗助は奏汰から携帯電話を受け取ると、通話ボタンを押して電話に出る。

 

「メイドか? 」

[あら~?かなた様の携帯にかけたはずなんですけど~………さっきのリーゼントの人ですかぁ~………?]

「お前の能力と目的は割れているぜ………今どこだ?」

[皆さんのいる、教会の前ですぅ~………私は別に熱心な信者じゃないんですけどぉ、出来れば教会を傷つけるのは気が引けるのでぇ、さっさと出てきてくださ~い。]

 

美佳がそう言うと、仗助は少し考えて口を開いた。

 

「………オメーがそうやって記憶を消そうと迫ってくるってことはよぉー、オメーが消せる記憶には『限界』があるってことだよなぁー?」

[!?]

「『限界』………?」

 

電話口の美佳が言葉に詰まった所で、ネギが聞き返した。

 

「口調から少し焦っているようだしよぉー、急がないと、『一番消したい記憶』が消せなくなっちまうんじゃぁねーかぁー?」

[………]

「沈黙は、『肯定』とみなすぜぇー?つまりよぉー、」

 

ここで仗助は言葉を切って、奏汰とノーヴェを見た。

 

「オレたちが奏汰とノーヴェを守り切れれば、オメーの『負け』って事になるよなぁー!?」

[………勝ち負けはともかくぅ、私が任務(おしごと)を失敗しちゃうことにはなりますねぇ………]

「だったら、話は早い。」

 

仗助は口角を上げて、こう言った。

 

「教会の外に出てやるぜぇ?『ノーヴェと奏汰を置いて』なぁー………『ここを通りたければ、オレを倒すことだな!』ってやつだぜ………?」

「仗助さん!?」

[………結構な自信で………]

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

15時38分

 

仗助は教会の外に出て、美佳と距離を置いて立ち止まった。その様子を、ネギや徐倫たちは教会の窓から覗いていた。

 

「大丈夫かなぁ、仗助さんだけで………?」

「何か策があるみたいだったけど………」

 

仗助を心配するネギと奏汰であったが、徐倫は心配そうにしながらも励ました。

 

「安心しろ、本気の『クレイジー・ダイヤモンド』は、オヤジの『スタープラチナ』のガードを破るくらい強いんだ。あのメイドの腕は丈夫そうだがよぉー、おじさんが簡単に負けるとは思えないわ………」

 

徐倫はそう言いながら、窓の外の仗助を見た。

 

仗助はスタンドを出さないまま立ち、『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』を装着した美佳と対峙していた。

 

「………あなたはぁ~、」

「ん?」

 

すると、美佳が不意に口を開いた。

 

「先ほど、私の記憶を消せるのには「限界がある」と言っていましたねぇ………正確に説明するとぉ、指先から発射されるミサイルが『1発』当たるとぉ、当たった地点から『1分』分の記憶が『消し飛ぶ』んですがぁ、1時間以上の記憶を消し飛ばすとぉ、何も覚えていない『廃人』になる可能性があるんですぅ~………」

「1発で1分の記憶が吹き飛ぶのか………1発でも当たればアウトだな………けど、何でわざわざ教えてくれんだ?」

 

表情を変えないまま、仗助はそう聞いた。

 

「どうせ『忘れてしまう』からですよ~………それとぉ~、」

「ん?」

「ついでに教えますけれどぉ~、実は私もかなた様と同様に偽名を名乗っていましてぇ~………本名は『レプラ・ハーパー』と申しますぅ~………裏稼業で『後始末屋』としてぇ、稼がせてもらっていますぅ~」

 

美佳、いや、レプラは相変わらずおっとりと間延びした口調で話す。

 

「スタンド………『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』………!!あなたに1発当てればぁ、一連の事に関する記憶を消すのに十分なミサイルを連続で着弾させることができるでしょう………」

「………」

 

仗助とレプラはにらみ合い、じりじりと距離を近づけ―――

 

 

 

「『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』ッ!!」

「『クレイジー・ダイヤモンド』ッ!!」

 

レプラは飛び上がると、眼下の仗助に向けてミサイルを発射!仗助は素早く石畳を破壊して修復、防御壁にしてミサイルを防いだ!

 

「はっ!?」

 

しかし、レプラはスタンドの右こぶしを振りかざし、仗助に向けて振り下ろさんとしていた!

 

「ドラァッ!」

ガギッ

「!?」

 

だが、仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』で腕を弾くと、スタンドの巨大な腕は地面に激突した。

 

「ドラララララララァアッ!!」

ドガガガガッ

「ぐふっ………!」

 

そのまま仗助はスタンドの両拳で胴体を殴る!兜の固い感触があったもののいくつかの『ヘコミ』をつくり、レプラは後方に吹き飛んだ!

 

「良し!」

「やはり腕がデカい分、動きが大ぶりだな………あのミサイルに気を付ければ、近接パワー型の『クレイジー・ダイヤモンド』で負けはしない!」

 

教会で様子を見ていた徐倫が、吹っ飛んだレプラを見て言う。スタンドを視認できない木乃香たちも、仗助が優勢であることは分かった。

吹き飛んだレプラは地面に倒れていたが、仗助が追撃してくるのを見て、再度指先を伸ばそうとした。

 

「!?ぐっ…………」

 

しかし、いつの間にか『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』の両手首に『ヒモ』が結ばれており、それはレプラの首に巻き付いていた!

 

「さ、さっきのラッシュの間にヒモを…!?か、構えたら首が絞まる………!!」

「よかったなー、自分で自分の首を絞めないでよぉー!!」

 

仗助はクレイジー・ダイヤモンドを出したまま走り、レプラにトドメを誘うとする!

 

「ま、マズい!負ける――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――なんていうと、思いましたかぁ~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レプラが不敵な笑みを浮かべると、『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』の両手甲が左右にガシュン、とスライドし、ビール缶を思わせる形状の大型ミサイルが左右5発ずつ、計10発発射された!

 

「何!?」

ズドドォオオオン

『!?』

 

不意を突かれた仗助は10発全てをその身に喰らってしまい、吹き飛んで倒れてしまった………!

 

「じょ、仗助さん………!」

 

ネギが悲痛な声を上げる中、レプラはスタンドを解除して巻かれたヒモを切り、教会に向けて歩き出す。

 

「大型のミサイルはぁ、1発で『5分間』の記憶を吹き飛ばす………つまりぃ、10発で「50分」分………記憶が消えていますぅ………追撃はぁ、もうできません………」

「くっ………」

 

徐倫は教会の外に出て、代わりに攻撃せんと構えた。レプラがスタンドを構えると同時に戦闘は始まるだろうと、すでに察していた。

 

「ん?50分………?」

 

ふと、ネギはレプラの言った『50分』という言葉が気になった。何か、50分前に何かあったような気がする………そう思って時計を確認しようとした、その時である。

 

「………」

「はっ!」

「あらぁ?」

 

仗助が立ち上がっていた。しかし、その目つきは鋭く、ただならぬ空気を発していた。

 

「お、おじさ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドグシャァッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブギャ!! ??」

「!?」

「え………?」

 

 

 

 

 

徐倫が声をかけるよりも早く、仗助はレプラの顔面に『クレイジー・ダイヤモンド』の拳を叩き込んだ!

レプラは訳が分からないまま、破壊されたメガネの破片も刺さった顔から血を吹き出したが、仗助の攻撃は止まらない!

 

「ドラララララララァアーーーッ!!」

ドゴドゴドゴバキドガッ

「ぶぎっ!?ぎ、ぐぎゃ………!?」

 

そのままラッシュを叩き込まれ、レプラは衝撃で吹き飛んでしまう!

 

「うおっ!?………っとお………」

「あーれーーー!?」

ドグシャァッ

 

ちょうど教会のドアの方に飛んできてしまったため、徐倫がレプラを避けると、レプラは教会の椅子につっこんで破壊した。

 

「ど………どうなって、るんですぅ………!?た、確かに、記憶を、消した、のにぃい………!? ?!」

 

レプラは顔面がぼこぼこになり、よろけながら起き上がると、疑問の声を出す。だが、教会の外の仗助は、まだ止まっていなかった。

 

ドガァッ

「きゃぁあ!?」

「どこ行きやがったァーーーッ!出てきやがれガキコラァーーーッ!!」

 

叫びながらドアを蹴破り、手当たり次第に周囲の家具を破壊し始める仗助。

 

「が、ガキ?いったい………、何の事だ…?」

「隠れてんじゃぁねーぞぉーッ!!」

 

その様子をみたホット・パンツは、首を傾げた。暴れまわる仗助に木乃香と美空が怯えているその時、時計を見たネギが、声を上げた。

 

「ああ!」

「どうしたん、ネギ君……?」

「い、今の時間は………『15時40分』過ぎ………つまり………その50分前は、『14時50分』………!」

「?それが一体どうした……?」

「「あ………」」

 

ネギの言っている事がわからない徐倫たちであったが、意味が分かった者が『2人いた』。ノーヴェとチンクだ。

 

()()()()()()()()()()()~~~()()()()()()()()()()()()()()()ッ!」

 

「ちょ、ちょうどその時間………ノーヴェさんが、仗助さんの髪形を『けなして』しまい……仗助さんが、激怒してしまったんです………」

『え?』

「………あー、そーいうこと………」

 

あっけにとられる一同であったが、徐倫には理解ができた。あのリーゼントヘアーに『誇り』を持っている仗助は、髪形をけなされると烈火のごとく怒り出すのだ。

 

「つまり、ちょうどその時の『ブチ切れ状態』のおじさんの時間にまで記憶が戻っちまったから、怒りのままに暴れている訳か………」

「何………ですってぇ………!?」

「ドララァアッ!!」

ドガァーンッ

 

それを聞いたレプラは、まさかの事態に信じられないという声を上げると、そのまま倒れた。

 

「だ……ダメですぅ………起き上がれそうに、ありません………あの人が起きた時にぃ、誤魔化せるようにと、『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』を解除していたのが、『アダ』となりましたかぁ………」

 

力なく倒れたレプラを見て、奏汰とノーヴェはほっ、と安心をした。

 

「とりあえず、これで一件落着ですね………」

「せやなー………」

「あー、教会の備品どーしよコレ………」

「も、もとはといえば、ボクたちの責任ですし、後で家に言ってみますね………」

 

仗助により破壊されていく教会の家具に嘆く美空に、奏汰が言う。すると、徐倫が口を開いた。

 

「………いや、まだ終わってねぇ……」

「え?」

 

徐倫は、ノーヴェの肩をたたいた。

 

「ノーヴェ、お前のおかげで助かったけど、おじさんの髪をけなしたのはお前なんだから、ケジメはちゃんとつけろよ?」

「へ?」

「そこにいやがったなあ!!」

 

ノーヴェが気づいた時には、仗助は拳を振りかざしてこちらにまっすぐ走ってきていた!

 

「とっととブチのめされやがれぇーッ!!」

「きゃぁあーーー!?」

「悪いがノーヴェ、今回はお前の責任だ……」

「まあ、せいぜい逃げ切れるように祈ってるから!」

 

ノーヴェを置いて退散したチンクと徐倫がそういうと、ノーヴェは悲鳴を上げて仗助から逃げる。教会内を駆け回るため、さらに家具が破壊され、懺悔室のボックスも粉みじんだ!

 

「何でこんな目にーーー!?」

「さてと、学園長に報告しに行くか。」

「あ、じゃあうちも行くわー」

「ひとでなしーーー!?」

「あの………誰か、救急車を………」

 

 

 

 

 

ノーヴェ―――10分後、駆け付けた承太郎に仗助が取り押さえられるまで走り回った。

神矢 美佳(本名:レプラ・ハーパー)―――全治1ヶ月

田中 かなた(本名:篤緒 奏汰)―――徐倫の報告から素直に退学届を提出。女装生活から解放されて喜ぶ。

近衛 木乃香―――宣言通り、学園長にローキックを入れた。

         スタンドの事はバレたが、魔法の事はまだ知らない。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その日の夜

 

「………ねえ、ホット・パンツに美空?うちの教会の家具って、こんなに『前衛的』だったかしら?」

「「えーと………」」

 

グネグネと曲がって絡み合ったり、棘が生えたようだったり、融合したような椅子やテーブルを見て呆然とするシャークティに、美空とホット・パンツは説明に困ったのであった。

 

 

 

 

 

←to be continued…




22話です。
・冒頭はサルシッチャVSエヴァンジェリン。直ぐに逃げちゃいましたけど、エヴァ相手では割と分が悪いかと………

・美佳さんの本名は『レプラ・ハーパー』。元ネタは荒木先生のデビュー作「武装ポーカー」のマイク・ハーパーから。

・ブチ切れた状態の仗助がレプラを撃破。実は今回、このオチのために各場面で時間が表示されていました。ノーヴェはちょっと災難だったけど、ドタバタした締めは結構好き(笑)

では、次回をお楽しみに!


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#23/ミッドチルダのジョジョ

承【しょう(じょう)】

①きき入れる、うけたまわる②うける、受けつぐ、伝える

 

仗【じょう】

①刀や鉾などの武器②たよりにする③まもる、護衛する

 

徐【じょ】

①ゆっくりと、しずかに

 

倫【りん】

①人の守るべき道②なかま

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

奏汰とレプラの騒動の翌日

 

昨日はゴタゴタがあった為に話し合いができなかったため、今日、改めて話し合いが行われる事となった。

 

ノーヴェたちがマンションの廊下を歩いていると、ちょうどエレベーターが開いた。

 

「あ。」

「ん?………あ………」

 

ふと見ると、そこには篤緒 奏汰の姿があった。

 

「え?誰…?」

「ほら、昨日ノーヴェとチンク姉が巻き込まれた………」

「ああ、女装の………」

 

ノーヴェの後ろでは、茶色い長髪を後ろで結わいた少女にスバルが説明し、気づいたらしいウェンディが口を開いた。

 

「………き、昨日は、どうも………」

「あ、うん………こちらこそ………(ま、まさかの『同じマンションーーー!?』)」

 

目が合ってしまった2人は少し気まずい感じとなったが、チンクが助け舟を出した。

 

「それで、篤緒殿、これから、どうするのだ?」

「あ、はい………とりあえず、『京都』にある実家に帰ります。しばらくは向こうで暮らす事になるかと………」

「そ、そうか………(言っちゃ悪いが、しばらくは顔合わせたくなかったし、ちょうどいい、のか………?)」

 

ノーヴェはそう考えていると、ある事に気が付いた。

 

「ところで、お前何で女物着ているんだ?」

「え?………あ!しまった!もう着なくていいのに!」

「無意識かよ………」

(全然違和感ないから、始末におえんな………)

 

指摘されて気づいたらしい奏汰。彼は今、白いブラウスに黒のスカートという服装であった。

2年間の女装生活がまだ抜けきっていない様子に、ノーヴェは肩を落とすのであった………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「“取引”だ、レプラ・ハーパー。」

 

病院のとある病室、包帯だらけベッドに横たわるレプラ・ハーパーに対して、東方 仗助を連れた空条 承太郎は、そう切り出した。

 

「徐倫やネギ君から聞いたのだが、お前は『この麻帆良でスタンド使いを増やしている者がいる』と言ったそうだな?そいつの情報を教えてくれ。」

「………それを教えてぇ、私に何の『メリット』があるんですぅ………?」

 

レプラは、腫れあがった顔で訝しそうに聞いた。自分をこんな目に合わせた仗助がいるせいか、若干不機嫌だ。すると、仗助が口を開いた。

 

「お前の傷を『治す』ぜぇ?」

「何ですって?」

「オレの『クレイジー・ダイヤモンド』ならよぉー、お前のその傷を治せるって言ってるんだ………全治1ヶ月だとよぉー、次の『職』探すのにも、一苦労なんじゃねーかぁー…?」

 

仗助がそう言うと、レプラは少し悩む。しばらく考えた彼女は、口を開いた。

 

「………正直ぃ、私ではお役に立てませんよぉ……?私はぁ、『矢』を持っている人を『見かけた』程度ですしぃ………」

「取引には応じると受け取るぞ?」

「ええ、どうぞ。顔は見ていませんけれどぉ、2人組の男の人とぉ、『変な双子』でしたよぉ……」

 

レプラがそう答えると、仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』でレプラの傷を治し始めた。数秒もしない内に、レプラの傷は『完治』してしまった。

 

「!?本当に、一瞬でしたねぇ………」

「この程度の傷、どうって事ねぇーぜ。で、そいつらの特徴は?」

「………1人はぁ、やたらと長い『銀髪』の男の人ですぅ………もう1人はぁ、金髪のカウボーイ風の男………顔も見なくても分かりますぅ………『ホル・ホース』のバカですよぉ………」

 

包帯を解きながらうんざりした顔になるレプラ。着替えを取り出すと、ベッドのカーテンを閉めて着替え始めた。

 

「奴と知り合いか?」

「ええ、何度か一緒に仕事を………まあ、『()()()()()()』とは思いますけれどぉ………」

「………覚えていない?ホル・ホース(あいつ)が?()()()()()()()?」

「………言われてみれば………双子の方はぁ、何故かかなた様、いえ、奏汰様をつけていたのでぇ、記憶を消して『撒いて』おきましたけどぉ………今思えばぁ、奏汰様を()()()()のが理由なんでしょうねぇ………」

 

レプラは話しながら素早く着替えを済ませてカーテンを開くと、メイド服に身を包んだ姿を2人の前にあらわした。

 

「……そのメイド服、普段から着てんのか?」

「ええ、使用人としての方が、標的(ターゲット)に近づきやすいのでぇ。」

 

レプラは荷物をまとめると、さっさと病室を出ようとした。

 

「私の知っている情報はぁ、これだけなんですよぉ………お役に立てなくてぇ、すみませぇん………けれどぉ、」

「ん?」

「『スタンド使いはぁ、スタンド使いとひかれあう』………いずれ、あなた方の前に現れるかも、知れませんねぇ………」

 

レプラはそう言い残すと、病室を後にした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#23/ミッドチルダのジョジョ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少しさかのぼり―――

 

 

ネギが「最終試練」の通知を受け取った頃―――

 

 

 

 

 

☆スタンドとは★

 

・スタンドとは、生命エネルギーが具現化したものである

 

・スタンドは、スタンド使いにしか見えない。(例外として、物質と融合したものは、スタンド使い以外にも見える。)

 

・スタンドが傷つけば、本体も傷つく。

 

・スタンドが消滅したら、本体も死ぬ。

 

・逆に本体が死ねば、スタンドも消滅する。(ただし、『アヌビス神』のような例外もある。)

 

・スタンドには、射程距離がある。(ただし、スタンドのもたらす効果はこの限りではない。)

 

・スタンドのパワーは、その距離に反比例する。本体から近ければ、パワーは強く、正確性もスピードもあるが、二つの距離が遠ければ遠くなるほど、動きのスピードも遅く、大雑把な動きになっていく。

 

・スタンドは、一人につき一能力である。

 

・スタンドの由来は、二つある

①『そばに立つ』ように現れることから(STAND BY ME)

②運命や困難に『立ち向かう』力(STAND UP TO)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――以上が、空条 承太郎氏より提供された異能力『スタンド』の情報になります。」

 

はやてが報告をし終えると、会議室は若干ざわついた。

 

ここは、ミッドチルダの地上本部内の会議室。現在、はやてとフェイト、承太郎による、今回の『スタンド使い』事件の報告会議が行われていた。

手元のモニターには、先日の戦闘データが映し出されており、『ガジェットドローン』が破壊された際に魔力が確認されていない事を数値が示していた。

 

「まさか………このような異能力が存在しようとは………」

「魔力を持たないで、これほどの力だとは………」

「現地の『SPW財団』は、長年この能力を研究しているそうだが………」

 

やはりというか、管理局の認知していなかった『スタンド』の存在を信じられない様子の局員たち。こうなるとだいたい予想をしていた承太郎はやれやれ、とため息をついた時、一番上座の席についていた男が口を開いた。

 

「―――まあ、『魔力溜り』があるとはいえ、管理外世界の異能力です。時空管理局(われわれ)が認知できなかったことも、頷けるでしょう。」

 

左右の前髪をひと房ずつ垂らした眼鏡の若い男がそう言うと、一同は少し腑に落ちない感はするものの静かになる。承太郎は、はやてに小声で聞いた。

 

「………誰だ?」

「『クルト・ゲーテル』代行………『レジアス少将』亡き後、地上本部再建の為に本部から派遣された、若き少将です………」

 

承太郎はゲーテルの方をちらりと見た。ゲーテルは気に留めず口の端を上げると、話を切り出した。

 

「しかし………今回のスタンド使いの事件を聞いて、私は『ある仮説』に行き着きました………例の『戦闘機人』に関してです………」

 

『戦闘機人』

 

その単語が出た瞬間、会議室は張り詰めた空気となった。

 

「ああ、知らない空条氏に説明をしますと、戦闘機人というのは、人造の人間に肉体の一部を機械化し後天的に高い戦闘能力を付与した、人体兵器の事です。」

「………人体兵器、ねぇ?そいつはまた、『倫理的』に考えてヤバそうだな。」

 

訝しむ承太郎に対し、ゲーテルは端末を操作してある資料を呼び出した。空中に浮かぶモニターには、誰かの『日誌』らしきものが映されていた。

 

「戦闘機人に関するデータに、ある事が書いてありましてね?目を通したときに一体何の事なのだろうと思いましたが、今回の事でつながりましたよ。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

40年前のある日、私は()()()()()()()『ブランドー』という男とその部下――『ヌケサク』と呼ばれていた――と出会い、仲良くなった。彼によると、部下を自分と同じような能力に目覚めさせたら、急に光に照らされて、気づいたら『ミッド(ここ)』にいたらしい。

彼に管理局の話をすると、部下の能力は『時空を超える』能力だと、彼は考えた。恐らく、能力が暴走したためだと、彼は言っていた。

彼は数週間ミッドに滞在し、部下の能力で帰っていった。

 

私は彼らの『能力』に憧れた。

そして、戦闘機人計画に、彼らの能力を再現した力――『インヒューレント・スキル』を取り入れた。

 

そして数週間前、偶然彼の『娘』の遺伝子を手に入れた私は、それを元に『戦闘機人』のプロトタイプを作り上げた―――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………(『ブランドー』………だと?)」

 

一瞬、承太郎は顔を強張らせた。『時を止められる』『ブランドー』という男など、たとえ異世界であっても()()()()()()()()()()()………

 

「この『時を止められる男』が何者か?それは置いておいて、この日誌の事が本当であるならば、『スタンド』は『インヒューレント・スキル』と密接な関係にあると考えられます。」

 

ゲーテルは続けた。

 

「恐らく、スタンド使いは今後も麻帆良学園で『生み出される』でしょうね………いったい誰が、何の目的で生み出しているのか?それも知る必要があるでしょうねぇ~………」

 

ゲーテルは少し芝居がかった風に言うと、はやてに向き直った。

 

「その調査のためであれば、現在この事件を受け持っている機動六課の運用期間の『延長』も視野に入れていますが、どうでしょうか、八神部隊長?」

「え?ええ、まあ………それはありがたいですけれど………」

 

はやては少し戸惑ったものの、ゲーテルの提案を受け入れた。ゲーテルは満足そうに頷くと、今後の予定などを簡単に話し合い、会議は終了となった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………妙やな。」

 

機動六課の隊舎に戻ったはやてが、部隊長室の椅子に座って一番に呟いた。机の向かいに置かれた応接用のソファーに腰かけた承太郎は、フェイトに淹れてもらったコーヒーのカップを片手にちらりとはやての方を見た。

 

「お前もそう思うか?」

「承太郎さんも?」

「まあな。いくら担当している部隊とはいえ、ちょいと『優遇』されている気がしてな………半年ほど前に起きたっていう事件の『功績者』であることを考慮してもな………」

 

承太郎はカップを置くと、先ほどの資料に目をやった。

 

「あのゲーテルって少将、なんか企んでるな………」

「一応、私達の知り合いに『そういう事』を調べるのが得意な人がいますので………後で頼んでみますね………」

「しかし、この『ブランドー』っちゅう人の娘って、何者なんやろか………?」

 

はやてが何気なくそう言った時、承太郎がぴく、と反応をした。

 

「………見分ける方法はある。」

「え?」

 

どういう事だろう?はやてがそう聞こうとした時、承太郎は服の襟をずらして左肩を見せた。

 

「そいつの娘の遺伝子を受け継いでいるのであれば、これと同じ『星形のアザ』があるはずだ………『ディオ・ブランドー』の遺伝子を受け継いでいるのであればな……」

「ディオ………?」

 

承太郎の首の付け根には、言う通り『星形に見えるアザ』があった。しかし、フェイトとはやては、承太郎の言った『ディオ・ブランドー』という名前が気になった。日誌には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「承太郎さん………もしかしてこの『時を止められる男』の事、知っとるんですか……?」

「………ああ、よおく知っているとも………こいつは()()()()()のだからな………」

「えっ………!?」

 

承太郎は語り始めた―――

 

自身の体験と、祖父や曾祖母に聞いた話を織り交ぜながら、―――

 

 

 

ディオ・ブランドーが100年以上前、『柱の男』と呼ばれる『究極生物』が作り出した『石仮面』をかぶり、『吸血鬼』になったこと―――

 

 

 

世界征服の野望を果たさんと、生きた人間や死体を『死屍人(ゾンビ)』に変え、軍団を作ったこと―――

 

 

 

承太郎の先祖であるジョナサン・ジョースターが、『波紋』と呼ばれる力でディオを倒したこと―――

 

 

 

だが、ディオは頭部のみで生き延び、海上でジョナサンの肉体を乗っ取り、100年間海底で眠っていたこと―――

 

 

 

そして22年前、トレジャーハンターにより、ディオの『棺桶』が引き上げられ、ディオが復活したこと―――

 

 

 

4年後、ディオの影響でスタンドに目覚めた承太郎と彼の母ホリィ。だが、ホリィはスタンドの影響に耐えられず、命の危機に陥ってしまったこと―――

 

 

 

母を助けるために、ディオのいるエジプトへ、仲間と共に旅に出たこと―――

 

 

 

エジプトへ着いたものの、ディオの配下のスタンド使いたちや、ディオのスタンド、『世界(ザ・ワールド)』の前に、仲間が次々に命を落としていったことを―――

 

 

 

「―――オレが奴と同じ能力に目覚め、奴を殺していなかったら、今頃奴は世界を支配していただろうよ。」

「!じゃあ、承太郎さんも時を……」

「ああ、『止められる』。最近止めてないから、2秒が限界だがな。」

「そんな体を動かす感覚で止められるものなの………?」

「ていうか、『時が止まっている』のに「2秒」……?」

 

二人の疑問は、的を射ていた……

 

「まあ、『人間の感覚で二秒くらい』って意味だ。しかし、あのヌケサクがこんなとんでもないスタンドを持っていたとはな………」

 

DIOの館で出会った吸血鬼の事を思い出して、承太郎はやれやれと呟いた。ふと、何か思い出したらしいフェイトが「あ」と声を出した。

 

「さっきの星形のアザ………どこかで見たと思ったら………スバルも、それと同じアザが………」

「何………?」

 

フェイトの言葉に、承太郎は麻帆良で出会ったスバルの顔を思い出した。あの、元気な少女にアザがあったということは……?

 

「あの子が……戦闘機人だと、いうのか………?」

「………ええ……『JS事件』での主戦力であった『ナンバーズ』のもとになった、初期型の戦闘機人………『タイプゼロ』………」

 

フェイトの説明を聞いて、押し黙る3人。承太郎が、その沈黙を破った。

 

「…………オレがあの子に会ったのは、ネギ君が『矢』に射抜かれて、気を失った時だった………」

「え?」

「その時、彼女はネギ君を救いたい一心で、自分にできることをしようと必死だった………あいつの目には、間違いなく『黄金の意思』があった………オレたちと同じ、『ジョースター』の意思を受け継いでいると言えるだろう………!」

「承太郎さん………」

 

承太郎の言葉を聞いて、ほっと胸をなでおろす2人。

その時、はやてに通信が入った。

 

ピッ

「はい…」

[八神司令!緊急事態ですッ!!]

 

モニターに映ったのは、青い髪をロングにした、18歳くらいの少女だった。

 

「ギンガ、どないしたんや?」

 

少女―――ギンガの慌て様に、少したじろぐはやて。彼女がこんなに慌てるとは、ただ事ではないことは確かだ。

 

[か、海上隔離施設からナンバーズ………ディードが、何者かに『誘拐』されました………!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

←to be continued…




23話です。
・サブタイトルは『ニューヨークのジョジョ』から。

・冒頭はレプラの事後処理。レプラと奏汰は、いずれまた出したいと思っています。

・ミッドでの承太郎の動向。ここでクルト出しましたが、彼はミッドサイドで結構えらい位置で出したいと思っていました。

・今作でのISは『疑似的なスタンド』という設定。『SBR』で解説された、「波紋」や「鉄球」と同じく「スタンドに近づくための技術」という立ち位置です。

・クイントさんはDIOの娘、つまり、スバルたちはジョースター家の血縁者になります。どちらかといえば、ジョナサン寄りですね。


では、次回をお楽しみに!


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#24/星のアザを持つ少女

1時間ほど前―――

 

 

 

ミッドチルダ 海上隔離施設

 

ここでは、数ヶ月前に起きた『JS事件』で保護された戦闘機人『ナンバーズ』の内、管理局に協力的な七人に加え、『レリックウエポン』とされた少女、ルーテシア・アルピーノと、『ユニゾンデバイス』アギトが、『更生プログラム』を受けていた。

現在は昼休み。ナンバーズとスバルの姉ギンガは、昼食をとっていた。

 

 

 

「そうか、スバルは今97管理外世界にいるのか。」

「うん………なのはさんが負傷したって聞いているし………心配で食事ものどを通らなくて…………」

「………いや、そんだけ食べられれば十分だと思うけど…………」

 

ギンガと同席する三人は、冗談のように山盛りになったナポリタンスパゲティを見て、そう呟くしかなかった………

 

「しかし、管理局も認知していなかった能力、『スタンド』か……」

 

銀髪の長い髪に、右目につけた眼帯が特徴のチンクが言う。

10歳ほどにしか見えないが、(チンク)という名前の示すとおり、更生プログラムを受ける七人の中では一番()()なのだ。

 

「私たちのインヒューレント・スキルは、スタンドを目指して生まれたっていうから、ドクターは知ってたのかな?」

「さあ………?今、フェイトさんたちが調べてるみたいだけど…………」

 

隣に座る、長い茶髪を後ろで止めた少女『ディエチ』に、少し曖昧な答えをするギンガ。

 

「まあ、知っていたにしろ、ドクターの場合は―――」

 

水色の髪のセインが言おうとするが――――――

 

 

 

ズドオオォォォン

「「「!!?」」」

 

突然発生した爆発により、遮られた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#24/星のアザを持つ少女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発の40秒前―――

 

三階 女子トイレ

 

 

ガチャ

「う〜〜ん………」

「ん?ノーヴェ、便秘ッスか?」

「ちげーよッ!!いや、なんか今朝変な夢見てさ〜……それがなーんか気になるんだよ…………」

 

トイレの個室から出たノーヴェは、今朝見た夢が気になっていた。

 

 

 

なお、後日談になるが、このことをスバルに話したところ、スバルが以前見た夢と同じ内容であることが判明した……

 

 

 

「夢ですか?」

「ああ…………なんか不気味でグロい夢だったんだが、全部覚えてんだよ………いやな夢なのに…………」

 

洗面台にいた短く切りそろえた茶髪のオットーと、オットーの髪を伸ばして、胸を大きくしたようなディード―――2人は『双子』なのだ―――にも話すノーヴェ。側には、赤い髪を後ろで束ねたウェンディもいる。

 

「で、どんな夢だったんスか?」

「出来れば食事の後に話させてくれ………思い出しただけで吐きそうだ…………」

 

ノーヴェが気持ち悪そうな顔をしていると、トイレのドアが開いた。

入ってきたのは、薄い紫色の髪をした、10歳位の少女だ。前髪を左右で止めており、額にはなにやら紋章のようなものが描かれている。表情は乏しく、見ただけでは感情を読みとることができない。

 

ルーテシア・アルピーノ

 

それが少女の名前だった。

 

「あ、お嬢様。アギトは?」

「先に食堂に行った。」

 

淡々と言い、ルーテシアが個室に入ろうとした時――――――

 

 

 

 

 

 

ズドオオォォォン

 

 

「「なああああッ!?」」

「「「!!?」」」

 

便器が爆発した!それも、全部の個室の便器がだ!

ノーヴェたちは咄嗟に身をかがめて難を逃れ、爆発から身を守った。

 

「……くっ、お前ら!無事かッ!?」

「だ………大丈夫ッス……」

 

爆発であたりに蔓延していた煙が窓から逃げていき、床一面水浸しになったトイレで、ノーヴェが全員の安否を確かめる。

 

「ディード、平気……?」

「うん…………お嬢様はッ!?」

 

ディードが気付き、全員がルーテシアのいたほうを見ると―――――――

 

 

 

 

 

 

「……………」

「「ってどういう事ォ!!?」」

 

便器が頭にすっぽりと『ハマった』ルーテシアがいた………

 

 

 

「いきなり爆発したと思ったら………うまい具合にトイレが飛んできて………そのままガポっと…………」

「あーー、言わなくていいッスよ……」

 

便器で顔が見えないが、心なしか涙声のルーテシアをなだめるウェンディ。ノーヴェは何とか便器を引き抜こうとするが、うまい具合にはまっているらしく、なかなか抜けない。

 

「だめだ、抜けねぇ……こりゃギンガを待ったほうがよさそうだな……」

「私………一生このままなの………?」

「いや、そんなことないから………ギンガなら一発で粉々にできるから……」

 

本来ならノーヴェがやったほうがいいのだが、施設内での『力の使用』は禁じられているため、現在施設内で破壊できるギンガを待つことにした。

 

ノーヴェがそう決定したときだった…………

 

「ん………?」

 

オットーは、水浸しの床に、何かを見つけた。それは、まるで『鮫の背ビレ』のようなものであり、その背ビレには、小さい『人間』らしきものが『掴まっている』が見える…………

 

「………?」

 

オットーが何だろうと思ったとき―――――

 

 

 

 

 

ガブゥッ

 

 

 

 

 

「「「「!!!?」」」」

 

鮫が飛び出して、ディードに『食らい付いた』!!

 

「が………こ………これは……………?」

「ディードッ!!」

 

オットーがディードを掴もうとするが……

 

ザブゥン

 

鮫に引きずり込まれて、ディードは水に『沈んでいった』!引き上げようと手を伸ばすオットーだったが、今度は鮫ごとディードが消えてしまい、救出が不可能となってしまった!

 

「そんな………こんな………『1mm』あるかないかの水に………?」

「ディード………ディードォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 

ギンガたちが駆けつけたのは、オットーの叫びが、狭いトイレにこだましたときだった…………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その後、はやてに通信をしたギンガは、ちょうど同席していた承太郎により、外観と能力から『オエコモバ』を始末した『スタンド』と同一である事が判明した。この事から、現在麻帆良で起きている『矢』の事件と関連していると考えられた。

 

そこで、六課にディードの捜索を依頼しようとしたのだが、ここで問題が起きた。『ナンバーズ』たちが、自分たちに捜索させてほしいと願い出たのだ。

 

「『妹』であるディードが連れ去られて黙ってはいれない」とは、ノーヴェの談だ。特にディードとは『双子』であるオットーは、自分の目の前で妹が連れ去られてしまった事が悔しいのか、その目には無表情ながら『怒り』が籠っていた。

 

はやてが上層部(うえ)に申請したところ、人手不足だからか、『更正プログラムの一環としての『奉仕活動』』という名目で許可が下りた。

 

こうして、ナンバーズ6名にルーテシアとアギト、そして『見張り役』を加えた計9名が、承太郎、フェイト、ギンガとともに、麻帆良に降り立った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

現在

麻帆良学園 学園長室

 

 

「まあ、そんなわけだ。こいつらの妹探しに協力してやってくれ。」

 

承太郎がそういってしめた。周りにはナンバーズや六課、そしてスタンド使い組やネギ、明日菜、あやかと、かなりの大人数だ。

普通ならガヤガヤとうるさいものだが、なにやら全員静かだ。特に普段からやかましいウェンディやセインは、借りてきたネコよりもおとなしい。

というのも―――

 

(え?あんたたちも承太郎さんに?)

(ああ…………うっおとしいって怒鳴られた…………)

(…………『うっおとしい』?)

 

まあ、承太郎が原因な訳で…………

 

「現在、麻帆良学園内外の魔法使いに加えて、スピードワゴン財団も動いている………ディードが発見出来次第、連絡が来るだろう。」

「よろしくお願いします………」

「で、『見張り役』ってのが―――」

 

千雨がそちらを向くと、ネギや明日菜もそちらを見る。

視線の先には―――

 

「………犬?」

 

そう、犬だ。

オレンジの毛並みで、額には宝石のようなものが着いている。大きさは子犬ほどで、床にべったりと寝そべっている。

その犬が、千雨たちに顔を向けたかと思うと、

 

「『狼』だよ!」

「あ、そうなの?ごめんね。…………………って!」

 

 

 

 

 

「「「「「喋ったァァァアアアアアッ!!?」」」」」

 

いきなり犬、いや、本人曰く狼が喋ったため、スタンド使い組+明日菜は、驚愕の声を上げた。

 

「あ、紹介がまだだったね。私の使い魔のアルフ。今回は見張り役ってことで、来てもらったんだ。」

「え?所●ョージ?」

「そっちじゃないよッ!!私メル○ック星人じゃないからッ!!」

「あ、アルフ、落ち着いて………」

 

明日菜のボケに律儀につっこむアルフ。

ふと、仗助はソファーに腰かけて俯くオットーが目に入った。

 

「……………妹、『ディード』っつったか?そいつのことが心配か?」

「………………………はい」

 

仗助はオットーの隣に座り話しかけると、小さく頷いた。

 

「………ま、SPW財団が動いてるんだ。すぐに見つかるぜ!」

バシィッ

「うっ………は…はい…………」

 

仗助はオットーの背中をたたき励ます。強すぎたのか、オットーは痛そうな顔をしているが………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「しっかし、なんだか賑やかになったわねー?」

 

帰りの道中、明日菜とネギは、スバルと話していた。

 

「せいたいへーき、って言われたときはびっくりしたけれど、みんな普通の人と変わりないじゃないのよー」

「そう、だね………」

 

ネギは昨日、奏汰との騒動にノーヴェやチンクと出会っていたが、聞かされるまでそのような事情があるとは知らなかった。スバルは少し困ったように笑ったが、ネギたちは気づかないでいた。

ふとネギは周囲を見渡して、寮へ向かうメンバーの中に徐倫の姿がない事に気が付いた。

 

「……あれ?空条さんは……?」

「ああ、何か、承太郎さんに呼ばれて、どこかに行ったみたいだけど………」

 

千雨が答えると、スバルと明日菜はふーん、と受け流す。答えた千雨も、少し不思議そうにしていた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「なんだって………!?」

 

一方、承太郎に呼び出された徐倫は、愕然としていた。承太郎から告げられた真実に混乱していた。

 

「スバルが、戦闘機人で………DIOの血が、流れているって………どーいう事だオヤジぃいいいいいいい!!」

「………言ったとおりだ。彼女とその姉ギンガの母、クイント・ナカジマは、ジョナサンの肉体を乗っ取ったDIOの娘である可能性が高い………」

 

冷静に告げる承太郎に対し、徐倫は困惑していた。脳裏に、2年前の『DIOの息子たち』とプッチの顔が浮かび上がる。

 

 

 

―――オレは『アポロ11号』なんだァーーーッ!

 

―――オレはこんなところで終わらない!オレだって幸せになる権利はあるんだッ!

 

―――「どこへ行かれるのですか(ドミネ・クォ・ヴァディス)?」おまえは磔刑だーッ!!

 

 

 

「………あたしはこの1ヵ月、スバルとクラスで過ごしてきた………あいつが、()()()()()であるとは考えたくない………」

「それは俺も同じだ………彼女たちには、少し『注意をしてほしい』という事を伝えたかった………彼女たちに、DIOのような「邪悪な精神」が宿らぬよう………」

「………」

 

承太郎の言葉に徐倫は頷くと、踵を返して寮に向かって歩き出した………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

退院手続きをしたレプラ・ハーパーは、駅に向かって歩いていた。今回の顛末の報告と『報酬』を受け取るために、京都の『篤緒家』へ行くのだ。

 

「………ん?」

 

ふと、自分の行く手の気にもたれかかる1人の男に気づいた。短く切りそろえた髪に、ワッフルや碁盤の目を思わせる剃り込みを入れた髪型とアゴヒゲをしており、白い丸に黒い丸を組み合わせた上着を着た男だ。

 

「レプラ・ハーパーだな…?」

「………どなた、ですかぁ~?私を、知っているなんてぇ………」

 

男にそう聞くレプラだが、男は答えない。レプラは攻撃しようと思い、『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』を出す体制を取るが、

 

「おっと、妙な動きはしないでくれよぉ?」

「!?」

 

背後から声がして、何かを突き付けられている事が分かった。レプラは、その声に聞き覚えがあった。

 

「よぉレプラ。久しぶりだなぁー?」

「………覚えていたんですね、ホル・ホース………私の存在は、『消し飛ばした』と思っていたのにぃ………」

「俺は女の顔は忘れない『タチ』なんだよ………美人の顔は、特になぁー」

 

ホル・ホースに苦い顔で言うレプラ。男はレプラに本題を話し始めた。

 

「君のおかげで『田中かなた』………いや、『篤緒奏汰』のスタンド能力を調べるのに、時間がかかってしまった………それを責める訳ではないのだが、君には我々に力を貸してほしい。これは、我々の「主」からの、正式な『依頼』でもある………」

「『依頼』………ですかぁ~?」

 

訝しむレプラに対し、男は1枚の封筒を差し出した。

 

「依頼の正式な内容と、成功報酬が書いてある……受けるかどうかは自由だ………連絡を待っている………」

 

レプラは封筒を受け取ると、男はすれ違うように立ち去った。レプラが振り返ると、ホル・ホースは『皇帝(エンペラー)』をしまい、帽子を深くかぶりなおしていた。

 

「『ウェカピポ』の旦那はああ言っていたが、俺としちゃぁまたお前さんと仕事がしたいって思っているぜぇー?」

「………まったく、調子のいい事を………」

 

ホル・ホースがウェカピポと去っていくのを、レプラは呆れながら見届けていた。

 

 

 

 

 

←to be continued…




24話です。
・サブタイトルは『星のアザを持つ男』から。

・ディード誘拐。それを探すためにナンバーズ(更生組)、麻帆良上陸。アルフ付き。

・スバルたちがDIOの血縁者であることを知る徐倫。プッチたちのセリフは印象的な物を選んだけれど、リキエルはやっぱりアレしかありませんでした(笑)

・ウェカピポ&ホル・ホースと会うレプラ。彼女があちらの陣営に入るかどうかは、今後の動向によります。

・今回で、第1章は終了となります。次回からはエヴァ編になりますので、お楽しみに。

では、次回をお楽しみに!


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STANDS ①

第1章に登場したオリジナルスタンドの解説になります。


スタンド名―グロウン・キッド

本体―佐々木 まき絵

破壊力―A スピード―C 射程距離―A

持続力―A 精密動作性―C 成長性―D

 

能力―◎布に取り付いて、実体化しているスタンド。

   ○佐々木まき絵の左手にスタンドの本体があり、布にスタンプのように押し付けることで発現する。

   ○完全な人型になるには、5枚の布が必要だが、分離して操作することも可能。部品(パーツ)がひとつやられても他の布で補える。

   ○自在に強度や形、さらには色を変えることができる。

   ○自動追跡パワー型スタンドに近い射程距離とパワーを持つが、本体と完全に離れている訳ではなく左手の本体を通じて状況を把握できる。

 

・コメント

 今作のオリジナルスタンド第1号。発想の原点は第2部に出てきたドノヴァン(初登場時のシーンも、ドノヴァンのオマージュ)、デザインのコンセプトは「ランプの魔人」。

自我を持っていて変幻自在で応用が利きますが、これはまき絵の性格から考えてサポートが出来るキャラにしたいと思ったからです。

 リメイク後は、まき絵の左手にスタンドの本体があるという設定にしました。元々「ベイビィ・フェイス」のイメージがあったので、それに近い感じです。

名前はSOUL’d OUTの楽曲「GROWN KIDZ」から。イメージ声優は江原 正士さん。

 

 

 

スタンド名―ヘルズ・マリア

本体―オエコモバ

破壊力―B スピード―C 射程距離―C

持続力―B 精密動作性―E 成長性―C

 

能力―触れた物に『部品(ピン)』を付ける。ピンが外れると、爆発する。

 

・コメント

 ぶっちゃけ、原作のオエコモバのスタンドに名前を付けただけです。スペックは「ジョジョベラー」のものを参考に再設定。

 名前はALI PROJECTの楽曲から。名前のダークなカッコよさに加え、ヴィジョンがカラスみたいだから「マリア・カラス」とかかっているのかも(笑)

 

 

 

スタンド名―イノセント・スターター

本体―宮崎 のどか

〈親亀〉

破壊力―B スピード―B 射程距離―C

持続力―C 精密動作性―C 成長性―B

〈子亀〉

破壊力―E スピード―A 射程距離―A

持続力―A 精密動作性―E 成長性―C

 

能力―スタンド本体である「親亀」の左手から、偵察機の「子亀」を発射する。

「子亀」の背中のレンズが見たものや聞いた音を、本体が見たり聞いたりできる。また、「子亀」の位置を把握することもできるため、探知機としても使える。

子亀のダメージ=本体へのダメージではない。

 

・コメント

 コンセプトは「母艦と偵察機」という、近接パワー型と遠隔操作型の各特性を併せ持つスタンド。この事からサポートタイプののどかのスタンドとなりました。たぶん、『勇者王ガオガイガーFINAL』の「ピア・ケデム」が元ネタだと思います。探査モードの前髪に映るレーダーは、ディアボロの『エピタフ』やジャイロの『スキャン』描写から着想したものです。

 亀がモチーフですが、デザインイメージは電王ロッドフォームです。名前は水樹 奈々さんの楽曲「Innocent Starter」から。

 

 

 

スタンド名―アニバーサリー・オブ・エンゼル

本体―長谷川 千雨

破壊力―B スピード―A 射程距離―C

持続力―A 精密動作性―C 成長性―B

 

能力―本体である長谷川 千雨が身に纏っている、甲冑のようなスタンド。背中に『翼』が生えており、空を飛ぶなどの機動力に優れている。また、翼や甲冑の一部を脱ぎ捨てることにより、防御力は低下するが、より素早い動きが可能になる。

 

・コメント

 千雨のスタンド。珍しい身に纏うタイプですが、当初の予定から千雨は戦闘に参加させる事にしていたので、このようなスタンドになりました。

 能力及びデザインは『銀の戦車』を女性的にして、翼を足した感じ。『ネギま!』のファンタジーな世界観に合わせて戦乙女(ヴァルキリー)的な見た目だけど、武器は日本刀(小太刀)というミスマッチ(笑)

 スタンド名はALI PROJECTの楽曲「Anniversary of Angel」から。リメイク時にポルナレフの命名と判明しましたが、娘のスタンドに天使(エンゼル)と名付けるあたりに彼の娘への愛が伝わります。

 

 

 

スタンド名―エッジ・オブ・ジ・アンノウン

   本体―神矢美佳(本名:レプラ・ハーパー)

破壊力―C スピード―C 射程距離―B

持続力―B 精密動作性―D 成長性―E

 

能力―本体であるレプラが装備している、巨大な籠手と兜のスタンド。籠手の指先が銃口になっており、そこからミサイルを発射する。仮面はターゲットスコープの役割を果たし、複数の標的をロックオンできる。

ミサイルに殺傷能力はないが、1発につき1分間の『記憶』を消し飛ばす。消し飛ぶ範囲は着弾した時間から1分間に限られるが、60発、つまり1時間以上消し飛ばすと、何も覚えていない廃人と化してしまう恐れがある。なお、腕の部分には5分分の大型ミサイルが5発ずつ隠されている。

籠手そのものも非常に丈夫であり、打撃や防御に適している。

 

・コメント

 最初に、「ゴツイアームを装備したメイドさん」というイメージがわいて、そこから組み立てた感じ。カワイイ女の子がゴツイ武器持っているの好きなんですよ(笑)兜は頭巾と一つ目で不気味な感じ。たぶん、「コスモス」のワロガや第4部の『ラット』のイメージがあるのだと思います。リベットはメカゴジラ(初代)、指先ミサイルはドラゴンシーザーからのイメージですね。

 スタンド名は堀江由衣さんのアルバム「ワールドエンドの庭」収録の「プロローグ ~edge of the unknown~」から。

 

 

 

スタンド名―ハイ・ステッパー

   本体―田中かなた(本名:篤緒 奏汰(あつお そうた))

破壊力―B スピード―A 射程距離―C

持続力―E 精密動作性―D 成長性―B

 

能力―本体である篤緒奏太の両足に装着された、機械製のロングブーツのようなスタンド。ふくらはぎに拳銃のシリンダーと撃鉄のようなパーツがついており、これを起動させることにより『爆発的な瞬発力』を発揮させる。

その力を数値化させると、ジャンプ力はひと跳び30m、キック力だと15tにもなる。

 

・コメント

 ぶっちゃけると、レプラの能力に合わせて考えたキャラなので、スタンド自体は割とシンプルに「身体強化」。奏汰が「男の娘」と決まったので「この現状から逃げ出したい」という気持ちが能力の元なんだと思います。

 スタンド名は水樹奈々さんの楽曲から、ジャンプ力とキック力のスペックはアギトグランドフォームを参照。

 

 

 

スタンド名―アンダー・ザ・レーダー

本体―サルシッチャ

破壊力―なし スピード―なし(転送するスピードはA) 射程距離―地図上ならどこでも

持続力―A 精密動作性―A 成長性―D

 

能力―地図上にあるものを自分の所に持ってきたり、逆に自分の所から地図上の好きな所に転移させたりできる。

ただし、本体が地図上にいないと発現しない。また、世界地図のような、範囲の広い地図では使えない(最低でも、1:500,000の地図でないと無理)

 

・コメント

 スタンド名はダニエル・パウターのアルバム名から。ぶっちゃけ、アルバム名聞いて思いついた能力ですが、魔法使いがわんさかいる麻帆良で「誰にもバレずにスタンド使いを増やす」には便利な能力だと思います。

 結構自由度が高い能力なので、若干の規制はかけましたが、サポートとして仲間になった場合は心強い事間違いないです。でも、『W』に出てきた「ゾーン・ドーパント」や「SBR」の『チョコレート・ディスコ』が似たような能力でちょっと凹んでいたりして………

 デザインが八角形なのは、地図上に展開するから八卦や遁甲盤のイメージがあったのだと思います。

 

 

 

スタンド名―コズミック・トラベル

    本体―ヌケサク(本名不明)

破壊力―C スピード―A 射程距離―C

持続力―C 精密動作性―E 成長性―E

 

能力―超高速で移動するスタンド。

詳しいヴィジョンなどは不明であるが、周囲の人物と一緒に移動できる。そして加速していった先には『別の次元』へと突き抜ける。ただし、別の次元世界まで行くとスタンドエネルギーを激しく消耗してしまう上に、何処に到達するのかはわからない(元いた世界への道のりはわかるらしい)。

非常に厄介な能力であるため、帰還後にDIOはプッチ神父の手を借りてこのスタンドをDISCにする事で封印した。

 

・コメント

 「ヌケサクって明らかに三下なのに、何でDIOは手元に置いておいたのだろう?」って考えた末に、「実はスタンド使いだったけれど、スタンドが危険だから封印されてその記憶もない。」と思いついた設定。ついでに、ナカジマ家の3人の「DIOの血縁」設定の裏付けにも活用しました。スタンド名はSOUL'd OUTの楽曲から。

 



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PRIVILEGE CARD ①

第1章に登場したオリジナルキャラの解説になります。


【出席番号11番】

空条 徐倫

 

1992年4月7日生まれ

血液型:B型

好きな物:ガトー・ショコラ、ライトノベル、ロープマジック

嫌いな物:親父、アナスイ

所属:文芸部

学年順位:21位タイ

スタンド名:ストーン・フリー

 

・コメント

 徐倫の生年月日は、何となく4月生まれっぽいからです(笑)好きなものがガトー・ショコラなのは、「私、地球が滅亡するとしたら、最後に食べたいものは絶対チョコレートケーキって決めてんのよねー」という徐倫のセリフから(『ストーン・オーシャン』12(75)巻より)

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

田中 かなた(篤緒 奏汰)

 

1992年12月25日生まれ

血液型:A型

好きな物:乳酸菌飲料、平穏

嫌いな物:女装

所属:占い研究部

スタンド名:ハイ・ステッパー

 

備考:麻帆良学園女子中東部2年C組所属。この1ヶ月以内に何者かに『矢』で射抜かれてスタンド使いになった。

実は近衛 木乃香の婚約者候補の『男子』。篤緒家は関西の呪術師の家系であり、『式神』の使い手として有名であった。一人息子の彼自身は魔法の才能が薄かったため一族からはあまり期待されていなかったため、彼の母はこれ幸いにと今回の学園長の提案に乗ってしまった。

この2年間の女装生活のストレスで若干やさぐれ気味。

 

・コメント

 ルル・ベル勢以外では初のオリキャラ。実は、にじファン時代に京都編の後に出そうと思っていたんですけど、ナンバーズと仗助の絡みをやりたいと思って、今回序盤に出しました。

 今の所、不運続きなままフェードアウトした彼ですが、京都編でまた出したいな、と思っています。

 偽名はまんま回文になっていますが、奏汰の名前もローマ字にすると回文になっています(Atuo Souta)。

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

レプラ・ハーパー(Repra Harper)

 

年齢:25歳

星座:おうし座

血液型:O型

出身:アメリカ

性格:おっとりと間延びした口調だが、仕事は着実にこなす冷静な人物。

備考:裏稼業で『後始末屋』をしており、能力を駆使して暗殺者等の目撃者の記憶を消していた。

今回は、その職業を聞いた篤緒家からの依頼で『神矢美佳』として奏汰に同行し、奏汰を『男子』だと知った者の記憶を消していた(篤緒家は、スタンドの事を知らなかった)。メイド服は趣味で着ており、使用人としてなら簡単に近づけるのが理由らしい。

 

・コメント

美佳さん、もといレプラさんは最初、クールなメイドさんを予定していましたが、おっとりしたキャラの方がやばい感じが出ていいかなって思ってこういうキャラになりました。

奏汰と同様に、本名は「武装ポーカー」のマイク・ハーパーの苗字から、回文になるように命名。



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#EX/竜と烈火の騎士

承太郎のミッドチルダでの活動を書いた番外編です。


#EX/竜と烈火の騎士

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、空条 承太郎が地上本部で報告会議を行う数日前の出来事―――

 

 

 

 

 

「キュクルー」

「ん?」

 

カフェテリアでコーヒーを飲みながら書類を見ていた承太郎は、自分の足元で聞いたことのない動物の鳴き声を聞いた。見下ろしてみれば、白く小さなトカゲのようであるが、翼を持った生物がいた。

気づいてもらえてうれしかったのか、その生物はパタパタと羽ばたいてテーブルの上に乗ってきた。

 

「キュ~」

「………」

 

本職が『海洋学者』であるためか、目の前の未知の生物に興味を持った承太郎。試しにと思い、人差し指でのどの辺りを撫でてやった。

 

「キュゥ……グッグゥウ~~~!」

「む!?」

 

すると、生物は少し嫌がってか唸り声を上げて首を振った。承太郎は少し驚き、首を傾げた。

 

「フリード!」

 

すると、こちらにピンク色の髪の少女と赤毛の少年が駆けてきた。フリードというらしい生物はパタパタと少女の元に飛んでいった。

 

「す、すいません!うちのフリードリヒが………」

「……いや、俺の方こそ、嫌がることをしちまったようで、悪かったな………」

 

フリードリヒを抱く少女に承太郎も自分に非があると謝る。

 

「あ、ええと、初めまして、ですよね………機動六課ライトニング分隊の『エリオ・モンディアル』です。」

「同じく、『キャロ・ル・ルシエ』です……この子は、私の竜の、フリードリヒです。」

「キュク~」

 

承太郎に自己紹介をするエリオとキャロ。だが、承太郎は目の前の生物が『竜』と説明されて、内心驚いていた。

 

(『魔法の世界』とは程遠い『近未来』な街並みだったから、魔法(ファンタジー)要素との初めての出会いだな………やれやれだぜ………)

「それにしても、フリードがあんな風に唸るなんて、珍しいなぁ………」

 

キャロが不思議そうに首を傾げる。フリードの喉を撫でてやった承太郎はある事を思い出した。

 

「もしかしたら、『逆鱗』ってやつに触れちまったのかもしれないな……」

「ゲキ、リン………ですか………?」

「なんですか、それ?」

 

エリオとキャロは、承太郎に質問をする。

 

「………中国の伝承によれば、竜には81枚のウロコがあって、その内あごの下の1枚は他とは逆さまに生えているらしい。これを『逆鱗』と呼ぶのだが、竜はコイツに触られると激昂し、触れた者を即座に殺すと言われているんだ………『逆鱗にふれる』という慣用句は、この伝承がもととなっている。」

「へぇ~、そうなんですか………」

 

承太郎の説明を聞いて、キャロに抱かれるフリードを見るエリオ。

 

「見たところ、フリードリヒは西洋の『ワイヴァーン』って種類に似ているが、まさか西洋の竜にも、逆鱗があるとは思わなかったぜ………」

「でも、97管理外世界の伝承なんですよね?

「というか、フリードってそもそもウロコがあるように見えないんだけど……」

 

「「「………………」」」

 

 

 

 

 

「あ、もしかしてこれかな………?」

「どれだ?」

「ほら、ここの所の………」

「いや、違うような………」

(3人とも、何やっているんだろう………?)

 

数分後、承太郎を呼びに来たフェイトが見たものは、フリードの首の下あたりをのぞき込む承太郎、エリオ、キャロの姿であった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その日の正午

機動六課 食堂

 

 

「ここ、座っても大丈夫か?」

 

昼食をとっていた承太郎の向かいの席から、女性の声がした。承太郎がそちらを見ると、何回かすれ違った女性だった。

 

ピンクの髪をポニーテールにし、『美人』とも言える整った顔立ちにつり上がった翠の目、そして、男が十人いたら十人の視線を集めるような巨乳の女性だ。

 

「………………別に構わんぞ。」

「ありがとう。」

 

だが、既婚者で子持ちな上に日本的な女性が好みの承太郎には、彼女のスタイルなど興味がなかった……

 

「そういえば、何回かすれ違っただけで、自己紹介をしていなかったな。ライトニング分隊副隊長の『シグナム』だ。」

「ああ、はやてから聞いている。」

 

女性―――シグナムに話しかけられても、相手にしないような態度で返す承太郎。

元々感情を表に出さないタイプなために、周りの隊士たちに圧力(プレッシャー)を与えていたが、そこは歴戦の騎士シグナム、ものともしていなかった。

 

「で、お前は『そんな話』をしに来たのか?」

「……ふふっ、さすがだな。」

「当たり前だ。目をそんなに輝かせていたら、誰だって分かる。まどろっこしいのは嫌いな『タチ』なんだ、さっさと用件を言え。」

 

先ほどよりも、いっそう強いプレッシャーを放つ承太郎。周りの隊士たちは、圧倒的なプレッシャーに耐えられず、承太郎たちからさらに離れていく。

 

「では、単刀直入に言おう。私と『手合わせ』してほしい。」

「…………手合わせ?」

「ああ。聞けば、お前は相当強いスタンド使いらしいではないか。いずれ私もスタンド使い達と戦う事になる可能性が高い。その時に備えて、特に強いお前と手合わせをしたいのだ。」

 

承太郎に説明するシグナム。だが、そんなものは建前であり、実際はただ単に承太郎と戦いたいだけである………

 

「別に構わんが………そういえば、お前はスタンドが見えるのか?」

「まあな………我ら『守護騎士』は、少々特殊な生まれなのだ………おそらくは、スタンドとの『波長』が合ったのかもしれないな。」

「………波長、ね………」

 

そういえば、『岸辺 露伴』はスタンドに目覚めた当初、自分と波長の合う人間の心を読んでいたと聞く。特殊な生まれゆえに、その『波長』が偶然合致したのだろうか………

 

「では、食べ終わって一時間ほどしたら、『訓練場』に来てくれ。」

 

手合わせの約束を済まし、二人は黙々と昼食を食べ始めた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

一時間半後

 

訓練場

 

 

今、六課隊舎の外、海上に浮かぶ訓練場は、『砂漠』と化していた。周りには大きめの岩が点々とあり、サボテンまで生えていた。

そして、中央には―――

 

 

 

「………『ピラミッド』………か…………」

 

あまり表情が変わらないため見分けがつかないが、承太郎をよく知る者が見たら、彼が『浮かない顔』をしているのに気づくだろう。

彼は砂漠、とりわけエジプトには、いい思い出がなかった。

 

 

 

『一晩中』照りつける『太陽』に襲われたこともあった。

 

砂に潜む『水』や『蜃気楼』、『電車』にも襲われた。

 

そして、『友』を失ったのも、砂漠だった…………

 

 

 

「さて、始めようか………」

「…………ああ、そうだな。」

 

ピラミッドの中腹にまで登り、騎士服に身を包んだシグナムが切り出した。

 

「改めて自己紹介させてもらおう。守護騎士(ヴォルケンリッター) “烈火の将”シグナム。そして――」

 

シグナムは、手に持った剣を鞘から抜き、承太郎に向けた。

 

「わが魂、『レヴァンティン』だ。」

[どうぞよろしく。]

 

シグナムの紹介に、レヴァンティンも挨拶する。

 

「…………海洋学者 空条 承太郎。そして―――」

 

承太郎も、『肉体』という鞘から、己の『(スタンド)』を抜く。

 

「タロット大アルカナカードの17番目、『星』のカードの暗示を持つスタンド!『星の白金(スタープラチナ)』!!」

 

スタンド―――『スタープラチナ』は、発現と同時に戦闘態勢をとる。

 

「『星』のカードか……確か意味は『希望と未来』、だったか?」

「ああ、オレのスタンドは、今までいくつもの『未来』を切り開いてきた。」

「ふふっ、それは楽しみだ。」

 

心底愉しそうな笑みを浮かべるシグナム。

承太郎の言う通り、彼の『スタープラチナ』は、多くの道を切り開いてきた。『運命の車輪(ホイール・オブ・フォーチュン)」の時とかね。

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

訓練場から少し離れた辺り

 

 

「あちゃー、シグナムめっちゃ楽しそうやなぁ。」

「完全にさっきの建前だったみたいだね……」

「2人ともがんばれー!」

 

二人の『手合わせ』を観戦しようと来たフェイトとはやて、は、ものすごく楽しそうなシグナムを見て呆れが半分、シグナムらしいなが半分の苦笑いを浮かべていた。

2人と一緒に、エリオとキャロも応援wしていた。

 

 

 

両者は、しばらくにらみ合っていたが、ピラミッドから瓦礫が落ちてきたのを『合図』に、お互い飛び出す!

 

 

「はあああァァーーッ!」

「オラァッ!!」

 

シグナムはレヴァンティンを振り下ろし、承太郎は『スタープラチナ』の右拳の一撃を放つ!

 

ガギィイン

「ぐっ」「むう…」

 

振り下ろされたレヴァンティンの側面を殴り、軌道をずらされた剣が石壁に突き刺さった!

だが、シグナムがレヴァンティンを『両手で持っていた』のに対し、承太郎は『右拳のパンチ』による一撃。

つまり!

 

 

 

 

 

「オラオラオラァーーーッ!」

 

承太郎は『スタープラチナ』の『左拳のパンチ』を放った!

 

「くっ!」

 

レヴァンティンを引き抜き、仕方なくバックステップで下がるシグナム。『スタープラチナ』の左拳はそのままピラミッドの側面へ向かい―――

 

 

バゴォッ

「!!」

 

ピラミッドの壁を『破壊』した!だが、破壊だけでは終わらない!

 

ズドドオ

「ぐうっ、こ、これが狙いかッ」

 

『壁の破片』が勢いよく飛んできて、シグナムを襲う!不意をつかれたため、シグナムは数発食らってしまう。

恐らく承太郎は、シグナムが左のパンチを避けるのを予想していたのだろう。ゆえに、最初から『壁』を狙い、破片を『飛ばした』のだ。

だが、『スタープラチナ』は攻撃の手を休めない!

 

ドン!

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」

「くっ……ハアァッ!!」

ドガガガガガガ

 

高く飛び上がり、シグナムに『スタープラチナ』の拳の連打―――『オラオラ』を放つ承太郎!シグナムも負けじと、攻撃を見極めて、レヴァンティンを振るう!

だが、承太郎は『飛行』している訳ではないため、滞空時間は短く、すぐに落下していく。

 

「そこだぁッ!」

[シュランゲバイゼン]

 

電子音とともに、レヴァンティンが蛇のようにうなり、連鎖刀形態『シュランゲフォルム』となる。そして、その刃が承太郎を襲う!

 

「む!?」

「飛竜一閃!!」

 

この時、シグナムは勝利を確信していた。

 

 

観戦していたはやてたちもだ。

 

 

だが!

 

 

 

 

 

ガシィッ

「なっ!ひ…………飛竜一閃を…………」

「『掴んだ』ぁぁああッ!?」

 

『スタープラチナ』が予想斜め上を行く行動を取ったため、「これで決まった」と確信していたシグナムとはやては驚き、フェイトたちにははスタンドが見えないため、空中で止まったレヴァンティンとはやてのセリフで、ようやく状況を理解した。

 

「やれやれだぜ。まさか『連鎖刀』になるとはな………『相手が勝ち誇った時、そいつはすでに敗北している』…………つまりッ!」

グオオン

「!!」

 

言いながら、承太郎はシグナムをシュランゲフォルムのレヴァンティンごと綱引きの如く『引き寄せる』!!

 

「最後まで油断するなって事だ!!」

 

そして、シグナムとの距離が1mまで縮まると、

 

「オラァ!!」

グオオン

「わああああ!?」

ズドオ

 

背負い投げの要領で、シグナムを地面に叩きつけた!

 

「くっ!まさかあんな荒技を…………」

「まあ、お前があれを出さなかったら、分からなかったがな。で、そいつをもとの状態に戻すのに何秒かかる?2秒か?3秒か?」

 

起きあがるシグナムに、着地した承太郎は問いかける。

 

「戻ったと同時にスタープラチナの拳をたたきこむ!かかってきな!決着をつけるぜ!西部劇のガンマン風に言うと、『抜きな!どっちが素早いか試そうぜ』というやつだぜ…………!」

「!!ああ…!」

 

言うと、シグナムはシュランゲフォルムのレヴァンティンを構える。

 

[シュベルトフォルム]

「紫電―――」

「オオオオオ…………」

 

カートリッジをロードし、レヴァンティンに炎を纏わせるシグナム。承太郎も、スタープラチナの右拳に力を溜める。

 

そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

「一閃!!!」

「オラァ!!」

 

二人の渾身の一撃が、同時に放たれる!

 

だが、シグナムはある事に気づく。スタープラチナの右拳だ。

 

スタープラチナの右拳は、人差し指と中指をまっすぐに伸ばした形をしている。

 

なぜ、そのような形をとるのか?

 

シグナムがそう考えた時――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦いを見ていた八神 はやては、後にこう語る。

 

 

 

「承太郎さんの『勝因』は―――

 

 

 

 

 

シグナムのおっぱいを『突っついた』ことやッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

流星指刺(スターフィンガー)!!」

ドギャン

「なっ!」

ボゴオ

「か…………はッ」

 

勢いよい指が『伸びて』、シグナムの胸を穿ち、シグナムはそのまま吹っ飛び、気絶してしまった…………

 

 

 

 

 

空条 承太郎VSシグナム

 

 

WINNER―空条 承太郎!

 

 

 

←to be continued...




番外編です。
・サブタイトルは「ハトと女の子」から。

・フリードと承太郎。西洋の竜って逆鱗があるのかなぁって考えてのやり取り。フリードって特にツルツルな見た目なので、ウロコあるのかなって思って(笑)

・承太郎VSシグナムはにじファン時代でお気に入りだったけれど、話の流れで今回番外編として掲載。シュランゲフォルムを引っ張るシーンがお気に入り。

・流星指刺は、原作では二回しか出なかった技なので、使っちゃいました。はやての語りは、間違ってはいません(笑)

では、次回からの第二章をお楽しみに!


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第2章 EVAの世界
#25/エヴァンジェリンが来る ①


男が目を覚ますと、そこは液体で満たされた、狭い筒状のガラスだった。

 

 

 

 

 

―――おかしい……オレはあの時死んだはずだ………なのに………なぜ………なぜ生きている………………?

 

 

 

 

 

男がそう思っていると、白衣を着た男と、制服を来た女が歩いてきた。どちらも、にたような紫色の髪をしていた。

 

 

 

 

 

何かを話しているようだが、自分から遠いので、よく聞き取れない。

 

 

 

 

 

だが、近づいてきた時、ある言葉を聞き取ることができた…………

 

 

 

 

 

―――実験は、成功したようだな。

 

 

 

 

 

それを聞いた途端、男は驚愕と同時に、怒りがこみ上げてきた。

 

 

 

―――『実験』だと?

 

 

 

―――まさかこいつらは!自分の「利益」のためにッ!オレを蘇らせたのかッ!!?

 

 

 

―――そんなことのためにッ!死者の眠りを!!魂を冒涜したのかッ!!?

 

 

 

―――許さねえッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

男は自分の『能力』を出して、叫んだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スティッキィィィイイイ!!フィンガァァァアアアアアズッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#25/エヴァンジェリンが来る ①

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新学期

『2年A組』改め『3年A組』

 

 

「―――という訳で、今日からこのクラスの副担任になる『東方 仗助』だ!どうぞよろしく!」

「「「「「「「よろしくお願いしまーーーす♪」」」」」」」

 

黒板に名前を書き、自己紹介をすませる仗助。全員が頭に好奇の視線を送るが、口には出さなかった。いや、出せなかった。

 

(副担任ってマジだったんだな………)

(まあ、木乃香やA組のダブルスピーカー(ハルナと和美)に頼んで全員に連絡済みだから、髪型については大丈夫だろ。)

 

既に、仗助の噂はクラスどころか学校中に広まっていた。1度ブチ切れて暴れたおかげで対策はばっちりであった事は、何とも皮肉である。

 

「ん………?」

 

ふと、隣の席の生徒が気になった徐倫。

 

明らかに自分よりも年下に見える容姿と身長。足下まで届くくらい長い、ウェーブのかかった金髪の少女―――『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』だ。

 

だが、彼女はあまり教室にいるときがないし、徐倫も話したことは少なかった。

 

その彼女が、何故かネギを強く睨んでいた………

 

 

 

コンコンッ

「ネギ先生、それに東方先生、今日は『身体測定』だ。A組も、すぐに準備をするように。」

「あ、そうでした。ここでですか?」

「わかりました。わざわざありがとッス。」

 

ウェザーが来て、二人に言う。すると、

 

グィイ

「わっ!?」

「聞いたなお前等。オレたちは『外出てるから』さっさと準備しろよ〜〜」

『は、は〜い……』

 

ネギの襟をつかみ、そのまま外へ出ていった仗助。どうやらネギをからかおうとしていたのが数名いたらしく、落胆していた……

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「あれ?今日まきちゃんは?」

「ん?そういえばいないね………?」

「身体測定アルから、サボったとちがうか?」

 

「…前から思ってたけど、スバルって……」

「スタイルいいです………」

「本当………何で毎日あんなに食べて、全然スタイルが崩れないんだろ……?」

 

身体測定が始まり、全員が下着姿となり、雑談をしながら体重計や身長計へ並ぶA組一同。

身長計を頭に強く「コンッ」と当てたり、体重を重くしたりするイタズラをする輩がおり、結構騒がしいことになっていたが………

 

「あれ?スバル、その左肩のアザ………?」

 

ふと明日菜は、スバルの左肩に『星形のアザ』がある事に気がついた。

 

「ああ、コレ?小さいころ、気づいたら付いていたの。」

「そのアザって、確か………」

 

明日菜がちらりと徐倫の方を見る。徐倫の左肩にも、同じ形状のアザがあった。

まあ、偶然似たようなアザが付いたのだろうと自分で完結し、身体検査に戻った。当の徐倫は、「指摘されたらどうしようか」と、内心焦っていたが……

 

(まだ時期じゃねーと思うし………教えるのもメンドーだからなぁ………)

「ねえアスナ、そういえば、最近寮で噂になってるアレ、どう思う?」

「ああ、アレね。」

「なんか胡散臭いよね~。」

 

ウェーブの掛かった長い髪の柿崎 美砂(かきざき みさ)が、桜子や、黒髪を短く切りそろえた釘宮 円(くぎみや まどか)と話すのを、偶然耳にするスバル。

 

「…………アレって?」

「ああ、スバルは寮暮らしじゃないから、知らなかったわね。」

「結構前からウワサになってるんだが、満月の夜に寮の桜並木に、ボロボロのマントを着た吸血鬼が出るらしいんだよ。まあ、よくある怪談だとは思うがな……」

 

スバルの疑問に、徐倫と千雨が答える。

周りでは、吸血鬼の話で盛り上がっているが、何故だか木乃香がチュパカブラの話をし始めていた。

 

「……バカらしい。吸血鬼なんている訳ないじゃない。」

「そうだよねぇ~」

 

明日菜も話に加わり呆れていると、スバルも賛同する。

 

だが、

 

「………いや、いるぞ吸血鬼。」

「「!!?」」

 

いきなり徐倫に言われ、明日菜たち二人は驚く。

 

「私ら『ジョースター家』の宿敵は、吸血鬼だったらしい………実際、親父や『ジョセフじいちゃん』は、戦ったことがあるしな。」

「私の『波紋』も、元々は吸血鬼と戦うための技術だ。まあ、私は戦ったことないけど。」

「「ま……マジっすか?」」

 

衝撃の事実に目が点になる二人。

 

 

 

実際、徐倫の曾祖父のジョセフ・ジョースターや、曾々々祖父にあたるジョナサン・ジョースターは、波紋を使い吸血鬼やゾンビを倒したし、さらには、それをも超える『柱の男』や、それから進化した『究極生命体(アルティミットシイング)』すら退けたという。

 

 

 

「……で、でも、確かに魔法使いや異世界人、超能力者(スタンド使い)までいたんだから、吸血鬼がいてもおかしくないわね……!」

「某世界を大いに盛り上げる団長が泣いて喜ぶような言い方だな………」

 

明日菜に対して、千雨が訳の分からないこと(少なくとも、スバルにはそう聞こえた)を言っていると、

 

「そのとおりだな、神楽坂 明日菜。」

「「「「?」」」」

 

いきなり幼い感じを残した声がした。

振り向くと、そこにはエヴァンジェリンがいた。

 

「ウワサの吸血鬼は、お前らのような元気で『()()』のいい女が好きらしい……十分気をつける事だ………」

「え……?」

「はあ…………?はい………」

(………珍しいな……エヴァンジェリン(こいつ)から話しかけてくるなんて……………)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

(あれ?何だろう……この感じ………)

「ん?どうした、ネギ?」

 

一方、教室の外で何かを感じ取るネギと、それを気にかける仗助。そんな時――

 

ダダダダダッ

「「ん?」」

「せ、先生ーーッ大変やッ!まき絵が…まき絵がーーッ」

 

保険委員の――髪と目の色素が薄い少女――和泉 亜子(いずみ あこ)がかけてくる。

 

「えーと、…『和泉』、だったか?」

「どうしたんですか和泉さ――」

 

まだ生徒の名前を覚えきれていない仗助が何とか名前を思い出し、ネギが亜子に聞こうとしたが、

 

ガラッ

「何!!?」

「まき絵がどーしたのッ!?」

「わあぁ〜〜!?」

「…………グレート」

 

突然教室のドアと窓が開き、目の前に下着姿のA組一同が現れた…………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

保健室

 

 

ネギと仗助、そして明日菜やスバルたちが保健室へ行くと、ベッドでは少し顔色の悪いまき絵が、すやすやと寝息をたてて眠っていた。

 

「ど……どーしたんですかまき絵さん!?」

「何でも、『桜通り』で寝ているところを見つかったらしいわ……まあ、軽い『貧血』程度で、何の異常もないわ。」

(『桜通り』で……?)

 

保険医の話を聞き、『桜通り』という場所に、先ほどの話を思い出すスバルたち。

ふと、スバルは自分の足に何か『つつかれる』感触がしたので、足下をみる。足下には、「緑色のハンカチ」が落ちていた。それが、角の所でちょんちょんとスバルの足をつついていた。

 

「……あ。」

「………」

 

徐倫や明日菜も気づき、スバルはハンカチを拾うと、ネギたちとアイコンタクトを取って保健室を出た。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

保健室前の廊下

 

 

「で、お前がやられる程の相手だったのか?」

 

徐倫はハンカチ―――否、ハンカチに取り付いた『グロウン・キッド』に話しかける。ハンカチに取り付いたため、手のひらサイズだが。

 

『フム、相手ハ「三人組」デ、一人ハ背ガ低く、ボロボロノマントヲ着テイタガ、後ノ二人ハ顔ガ良く見エナカッタガ、ソノウチ一人ハ『スタンド使い』ダ。近接パワー型デ、手強カッタ。私ハ、ソイツニヤラレタノダ。』

「三人組……それに、ボロボロのマントって、『吸血鬼』のウワサと一致するね………」

「犯人は『スタンド使い』か……」

『フム、能力マデハ分カラナカッタガ、他ノ二人モソウダト考えラレルな……』

「いえ、そうとも言い切れないんです。」

 

ネギの一言に、全員がそちらを向く。

 

「まき絵さんから、ほんの少しですが、確かに『魔法の力』を感じました。多分ですが、『魔法使い』と『スタンド使い』が手を組んで、何か悪いことを企んでいるかと思います……」

「………やれやれだわ。そうなると、かなりヘヴィーな状況ね……」

 

 

 

 

 

一応、ネギと仗助が『桜通り』あたりを見回ることになり、その場は解散となった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

夜の闇があたりを包み、街灯や、自販機の明かりのみが、狭い範囲を明るく照らすだけとなる。

 

夜空には月が浮かんでいる。今宵は満月だ。

 

そんな中、宮崎 のどかは、寮までの道を一人で歩いていた。

元々気が弱く、引っ込み思案な彼女は、『桜通りの吸血鬼』のウワサを思い出し、ビクつきながら歩いていた。

 

「こ…こわくない〜〜♪……こわくないです〜〜♪こわくないかも〜〜♪」

 

怖いのか怖くないのか、よく分からない歌を震えた声で口ずさみながら歩くのどか。

その時、

 

「ねえ」

「やひゃあッ!?」

ビクゥッ

 

いきなり背後から声をかけられて、思いっきり驚くのどか。話しかけた本人も、のどかの驚きぶりに、逆に驚いた。

 

「ご……ごめん、脅かすつもりはなかったのよ……?」

 

のどかが振り向くと、知っている女性だった。

期末試験後に、スバルやネギたちから『魔法』について聞いたときに、一緒にいたオレンジの髪をツインテールにした人だ。

 

「あ、りゃ、りゃんすたーしゃんッ!?」

「いや、ごめん。一人で歩いてたから危ないなぁって思って……」

 

まだ動揺しているのか、噛み噛みで話しかけた相手―――ティアナと話すのどか。

 

「な、なんなら寮まで送るわよ?」

「あ、ありがとうございま―――」

 

その時、二人はただならぬ気配を感じ取った。

 

 

 

――!何かいるッ!?

 

 

 

振り向くと、街灯の上にそれはいた。

 

絵本なんかの魔法使いがかぶるようなとんがり帽子に、ボロボロのマント、そしてたなびく長い金髪―――

 

「28番宮崎 のどかか……もう一人は知らないな……まあいい、悪いけど、少しだけその血を分けてもらうよ!」

 

いうと、ソイツは二人に向かって飛び出してきた!

 

「なッ!?」

「キャアアアア!い、『イノセント・スターター』ッ!!」

 

のどかは何とか『イノセント・スターター』を呼び出し、左腕から『子亀』を三匹放つ!

だが、ソイツはひらりと子亀をよけて、さらに近づいてくる!

 

「!?………スタンド使い!?」

「見えずとも、『気配』と『目線』で軌道くらいわかるわ!」

 

ティアナの叫びに答えるかのように、ソイツが叫ぶ。

 

その時!

 

 

 

 

 

「待てぇぇええッ!」

「ん?」

 

突然制止の声がして、踏みとどまる。のどかは完全に気を失い、ティアナがそれを受け止める。

 

「ぼ…僕の生徒に何をするだァーーーーッ(あ、噛んじゃった………)」

(噛んだ……)

(うわぁ、大事なとこで噛んだ………)

 

来たのは、杖で低空飛行するネギ!すでに呪文も唱えている!

 

「ティアナさん!」

「ええ!」

 

ティアナはのどかを連れて下がると―――

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)!!」

 

風の矢を吸血鬼に向かい放つ!

 

 

しかし!

 

 

「もう気づいたか………氷楯(レフレクシオー)……」

バキキキキィイイン

「「!!」」

 

薬品のようなものの入った小さなフラスコを放ると、ネギの放った風の矢が、すべて跳ね返される!

 

「あ、あいつ!」

「やっぱり犯人は………『魔法使い』ッ!?」

 

吸血鬼の正体に驚く二人。

その時、はじいた衝撃で、吸血鬼のとんがり帽子が飛ばされる―――

 

 

 

「こ、子供……?」

「えッ!?き、君はウチのクラスの…エヴァンジェリンさんッ!?」

 

 

帽子の下にいたのは、ウェーブのかかった長い金髪に、幼い容姿の少女―――エヴァンジェリンだ。

 

 

 

 

 

「ふふ…十歳にしてこの『魔力(ちから)』………さすがに『ヤツ』の息子だけはある………」

 

出血した自分の手をなめながら、エヴァンジェリンは怪しく笑う…………

 

 

 

 

 

←to be continued...




25話、そして第二章の始まりです。
・サブタイトルは『ブチャラティが来る』から。元ネタの通り、冒頭で来ましたが………

・手のひらサイズのグロウン・キッドはお気に入り。布ならリボンでもOKなので、ハンカチでも可です。

・「何をするだァーーーーッ!」は、途中で思いつきました(笑)

では、次回をお楽しみに!


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#26/エヴァンジェリンが来る ②

「ふふ…十歳にしてこの『魔力』………さすがに『ヤツ』の息子だけはある………」

(……『ヤツ』……?ネギくんのお父さんのこと?確か『サウザンド・マスター』って…………)

「な……何者なんですかあなたはッ!?僕と同じ魔法使いなのに、なぜこんなことを!?」

 

エヴァンジェリンに向けて杖を突きつけ、問いかけるネギ。ティアナも、待機状態の『クロスミラージュ』を取り出す。

 

「簡単なことだ……この世には……『いい魔法使い』と『悪い魔法使い』がいるんだよ……先生。」

 

言うと、エヴァンジェリンは懐から小さなフラスコと試験管を取り出す。中には、それぞれ違う『薬品』が入っている。

 

氷結(フリーゲランス)武装解除(エクサルマテイオー)ッ!!」

 

それを投げつけ、魔法を発動させる!

 

「うあっ」「きゃあッ!」

パキィィイイイン

 

『武装解除魔法』を何とか防ぐネギだが、服の一部が『凍り付き』そのまま砕けてしまう。ティアナはクロスミラージュを落としてしまい、それどころか―――

 

 

「て、ティアナさん、大丈夫で……ってわあっ!?」

「って!デバイスはともかく、何で服まで脱がす必要があるのよォォォオオ!?」

 

のどか共々、『全裸に』なってしまった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#26/エヴァンジェリンが来る ②

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜通り近くの道

 

 

「うちのクラスの出席番号26番『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』………そいつが『吸血鬼』の正体か!」

 

バイクを脇に止め、またがりながらネギからの電話で吸血鬼の正体を聞いた仗助。どうやら、エヴァンジェリンはこちらに向かって逃走中らしい。後から来た明日菜やスバル、徐倫たちにのどかとティアナを任せて、ネギも追跡しているとの事だ。

 

「分かった、オレもそっちに向かうぜッ!!」

 

そう言って携帯電話を切ると、桜通り方面へバイクを走らせる。

 

しばらく走らせると、歩道橋から『黒マントの少女』が飛び降りたかと思うと、そのまま飛んでいったのを見た。後ろからは、ネギも走ってきている。

 

「ムっ、あれだな!ネギッ!!」

「仗助さん!」

「そのまま杖で『飛べ』!オレも()()()()()()ぜ!!」

 

ネギは躊躇うも、言われた通りに飛んだ。心配になって仗助の方を見ると、彼はスタンド『クレイジー・ダイヤモンド』を出していた。

ネギは最初、仗助が『クレイジー・ダイヤモンド』を出した意味が分からなかったが、すぐに分かった。何故なら―――

 

「ドラァッ!!」ドン!

「ええッ!?」

 

バイクから、ネギの杖まで『跳び』、そしてそのまま杖をスタンドで『掴んだ』!操縦者を失ったバイクは、そのまま壁にぶつかり、大破する。

 

「うわっとと……な!何やっているんですかッ!?」

「ああ、バイクなら気にしなくて平気だぞ。中古だし。」

「ちっがーーうッ!!」

 

バランスを保ちながら、仗助の的違いな返答に思わず叫ぶネギだった。

 

「で、あいつ、エヴァンジェリンが吸血鬼なのか?」

「え、ええ。でも、何かおかしいんです………」

「『おかしい』?」

「はい……スゴ腕の魔法使いにしては、魔法の威力が弱かったんです。それに、さっきから魔法の発動にわざわざ魔法薬を触媒に使っていました……何でか分かりませんが、あの人は魔力が全然弱いんです………」

 

仗助には魔法のことは分からないが、力の弱さを理由に『勝利』を確信しているネギを心配する。ふと見ると、振り返ったエヴァンジェリンが不敵な笑みを浮かべていることに気が付いた。

 

「(こりゃ、何かあるな………)ネギよぉー、『魔力』とやらが『弱い』からって、油断したらケガするぜェ……ドラァッ!!」

ブオンッ

 

言うと、仗助はクレイジー・ダイヤモンドに『何か』を持たせて、それを投げさせた。

何かはヒュンヒュンと音を立てながらブーメランさながらに回転し―――

 

ゴキンッ☆

「タコスッ!?」

 

完全に油断していたエヴァンジェリンの脳天に命中し、エヴァンジェリンそのまま近くの建物の屋根へ落下していった。

 

「油断していると、ああなる………あいつ、何か企んでて、それにお前があっさり引っかかった事で油断してたみてーだ。」

「い、意外と無茶するんですね……」

 

 

 

二人はエヴァンジェリンが落ちた建物まで降りると、エヴァンジェリンは後頭部にできたマンガみたいなタンコブを、涙目で押さえていた。

周りには、割れた瓶やフラスコが散乱し、マントもどこかへ飛んでいってしまっていた。

 

「くっ……東方 仗助かッ!貴様、この私に何てことを………っ!?」

「へっ!不良生徒に『教育的指導』だよ!!『PTA』には内緒だからな?」

「内緒ならやるなよッ!?冗談抜きに痛かったんだぞッ!!」

 

さっきまでのシリアスな雰囲気はどこへやら、涙目で叫ぶエヴァンジェリン。完全に子供にしか見えない。

 

「え、……ええと、もう『マント』も『触媒』もないあなたに勝ち目はありません。教えてもらいますよ……何でこんなことをしたのかを……!」

 

少し入りづらい雰囲気だったが、エヴァンジェリンに再び左手の杖を突きつけるネギ。

だが、エヴァンジェリンは冷静な顔に戻ると――

 

「ふ……『これ』で勝ったつもりなのか?」

「!そうだ……ヤツには二人の仲間が……!」

 

仗助が言うと同時に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボンッ

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

杖を持ったネギの左手が『切断』された!いや、切断ではない!

良く見ると、断面に『金具』がいくつもついており、その先には『取っ手』らしきものもある。そう、これは―――

 

「じ…………『ジッパー』……?はっ」

 

見ると、建物の屋根にも同様に『ジッパー』がひっついており、そこから腕―――いや、『男』が出てきた。

 

おかっぱに切りそろえた黒髪に、両コメカミにはヘアピンをつけている。顔立ちは整っているが、一目で『日本人』ではないことが分かる。ジッパーがそこら中に付き、オタマジャクシのような水玉柄の白いスーツを素肌に着ている。見たところ、二十代ではないだろうか?

 

「てめぇ…………スタンド使いかッ!」

ドバババ!

 

返答を待たずに、仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』の拳を放つ!だが、男もスタンドを出して防御する!

まるで、目元まで帽子をかぶったような頭部に、拳や首、腰や足にまでついたジッパーが印象的なスタンドだ。

 

「ネギッ『(タスク)』だ!タスクで狙い撃て!!」

「は………はい!」

 

ネギは残った右手の爪を回転させて、エヴァンジェリンを狙う。

だが!

 

 

 

ガシィッ

「なっ!?」

 

いきなり後ろから右手を掴まれた。そちらを向くと、緑色の長髪に、機械的な耳飾り(?)をつけた少女がいた。

 

「き…………君はうちのクラスの…………」

「すみませんネギ先生…………『マスター』の命令なので…………」

「く……どういうことだてめぇら………」

 

驚愕する二人に、エヴァンジェリンの『勝ち誇った』声が聞こえた。

 

「ふふ、紹介しよう先生方。私の従者(パートナー)の『絡繰 茶々丸(からくりちゃちゃまる)』とブ」「『ブローノ・ブチャラティ』だ。エヴァたちが世話になってるみたいだな。」

 

エヴァンジェリンの言葉を遮るように、男―――ブチャラティは自己紹介をする。

 

「ってブチャラティ!私を差し置いて自分で言うなッ!!」

「文句を言うんじゃない。こんなことに付き合ってやってんだ。」

「こ………『こんなこと』だと…………?私はこいつの親父、『サウザンド・マスター』に魔力を極限まで封じられたうえに………もーーーーーー『20年』もあのお気楽なクラスでお勉強させられてんだよ!!どーしてくれるんだッ!!!」

「ええっ!?」

「って何でそこでネギに振るんだよ!?」

 

いきなりネギに掴みかかるエヴァンジェリンにつっこむ仗助。だが、これで事情は分かった。

 

「………つまりてめぇは、ネギに親父の尻拭いをしろってのか?」

「…まあ、そんなところだ。このバカバカしい呪いを解くには、『ヤツ』の血縁者の血が必要なんでな。そのために、わざわざ危険を冒してまで血を飲んできた。」

「で、俺はそれにつき合わされてるってわけだ。しかたなくな………」

「大変だな……だがなエヴァンジェリン、こんな言葉を知っているか?」

「?」

 

エヴァンジェリンを見据えて、仗助は言った。

 

 

 

「『相手が勝ち誇ったとき、そいつはすでに敗北している。』!」

「!!」

 

仗助が言い放った瞬間、エヴァンジェリンは『ある男』と仗助がかぶって見えた。そう、減らず口ばかり叩く、気に食わないあの『トッポイ男』と―――

 

 

 

 

 

「!マスターッ!!」

「!?」

 

茶々丸の叫びで我に帰ったエヴァンジェリンは、自分に向かって飛んできた『何か』を避けるも、そのせいでネギから離れてしまう。

飛んできたそれは仗助の元まで行くと、

 

カシィィイン

 

仗助の持っていた『グリップ』と合体して、ようやくそれが何なのかが分かった。

 

「ば………『バイクの』…………」

「『ハンドル』………?」

「ああ……さっきお前に投げたのもこいつだ。オレの『クレイジー・ダイヤモンド』は、『破壊されたものを直す』能力!だがなぁーー、こいつはお前に『攻撃するため』に直したんじゃぁーねーぜぇ~~~」

 

仗助の言うことがいまいち分からないエヴァンジェリンと茶々丸だが、ブチャラティはある仮説を立てた。

 

(『直す』能力?…………『バイクのハンドルを直した』……いや、()()()()()()()………?まさか!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウチの居候に何すんのよォーーーッ!!」

ドグシャァ

「へぶぅッ!?」

「マスター!?」

 

いきなり後頭部(しかもさっきコブができた位置)に跳び蹴りを喰らうエヴァンジェリン。蹴ったのは―――

 

「あ………『アスナさん』!?」

「大丈夫ネギくん…ってその腕!?」

 

来たのは、明日菜にスバル、そして、飛んできた『仗助のバイク』にまたがった徐倫だ。

 

「な、直したのは………「バイクそのもの」か………仲間を連れてくるために!」

「信じてたぜぇ~~徐倫~~!『ハンドルのないぶっ壊れたバイク』を見て!そいつでオレたちのとこに来るってよぉ~~~~~!」

「まあね、振り落とされないように踏ん張ったから大変だったわよ……で、あんたたち、覚悟はいい?」

 

エヴァンジェリンに向けて『ストーン・フリー』の拳を向ける徐倫。完全に、エヴァンジェリン側の旗色が悪かった。

 

「くっ、おのれ神楽坂 明日菜……!今日は引いてやる!!だが、次はないと思えよっ!!」

 

そう言って、ブチャラティが出てきた穴から退散するエヴァンジェリンと茶々丸。だが、ブチャラティは、ネギに近づいてくる。

 

「あ、あんた!ネギに何する気よ!?」

 

明日菜はネギをかばうように身構えるが、ブチャラティは、切断したネギの左手を拾うと、

 

「見せてみろ……今から引っ付けるから。」

「え?」

 

言うと、ネギの左手の切断面同士をくっ付けて、ジッパーを『閉じる』ブチャラティ。「すまなかったな………」とだけ言って、穴へ行くと、同様にジッパーを閉じた。

 

「な………何だったの…あいつ………」

 

誰に言うでもなく呟いた明日菜の声は、夜の闇に消えていった………

 

 

 

 

 

←to be continued...




26話です。
・ブチャラティはエヴァサイド。エヴァに付く理由等は、追々出す予定です。

・バイクに乗って援軍参上!は、「ハイウェイ・スター」を読んで思いついた展開です。結構お気に入りです。

では、次回をお楽しみに!


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#27/オコジョはネギ・スプリングフィールドが好き ①

グリーン・ドルフィン・ストリート麻帆良 206号室

 

 

「今、徐倫からメールがきた。エヴァンジェリンたちと交戦したが、逃げられたらしい………」

 

エヴァンジェリンに『全裸』にされたティアナを送り届けに来た千雨。一応自分の服を着せて玄関前まで来たが………

 

「………あのチビっ子がああああ………次にあったら…………次にあったらぁぁ……」

「…………気持ちは分かるが、とりあえず落ち着け、な?」

 

全裸にされた怒りで、全く聞いてなかった。若干、セインとディエチも引いている様子であった。

 

(しかし『吸血鬼』か……私の『波紋』が通用すればいいんだが…………)

 

千雨は吸血鬼相手の実戦経験がなく、そもそも、エヴァンジェリンが『石仮面』由来の吸血鬼であるかどうかすら怪しい。一抹の不安をかかえた千雨はふと、自分に刺さる視線に気が付いた。見ると、そこには自分を見つめる30cmほどの小さな影があった。

赤い髪を四カ所で止め、妙に露出の多い黒い衣装に蝙蝠のような翼と、長い尻尾らしきものを生やしたその少女は、確か最初の挨拶の時に『アギト』と紹介されたはずだ。(千雨はその名前を聞いて『どこかのラーイダみたいな名前だな。』と思ったものだ。)

 

「………なんだよオチビさん、人をジロジロ見て?」

「んー………いや、何かアンタ、チサメだっけ?「雰囲気が似てるなー」って思って………」

 

アギトは首を傾げるように答えた。

 

「………似てる?誰に?」

「うん、『ルールー』にさ………何となくだけど………」

 

千雨は最初、『ルールー』が誰の事なのかわからなかったが、その名前から今この場にいない1人の少女に行きついた。

 

「……ああ、あの『ルーテシア』って子にか……?けど、何でそー思うんだ…?」

「いや、本当に何となく、だよ………アタシ自身にもそれはわからないよ……」

 

アギトと千雨は、互いに首を傾げあった………

 

 

 

 

 

#27/オコジョはネギ・スプリングフィールドが好き ①

 

 

 

 

 

翌日

 

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは現在、屋上で授業を思いっきりサボっていた。

ネギの父親、『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』にかけられた『呪い』の影響で学校に来ているものの、正直20年も中学生をしているので飽き飽きしていたため、彼女はサボりの常習犯であった。

ついでに言うと、『吸血鬼』なので昼間は眠たくて仕方がないので(日光は平気らしい。)寝ぼけ中でもあった。

 

「………しかし、今のぼーやの周りは、妙に『強固』だな…」

 

寝ぼけながらも、ネギの『血』を狙うべく考えを巡らせるエヴァ。

改めてネギの周囲の状況を整理してみると、スタンド使い数名に『管理局』の魔導士たちが10人以上いる。その中には()()ジョースターの一族が3人もいるのが厄介だ。

 

()()()()は「侮れない」からな………ブチャラティと茶々丸だけで切り抜けられるか………む?」

 

その時、エヴァンジェリンは「誰か」が入ってきた気配を感じ取った。

サウザンド・マスターにかけられた呪いには『オマケ』が付加されており、関東の魔法使いの総本山といえるこの麻帆良学園都市を狙う者から守る『警備員』の役割を押し付けられているのだ。

この学園都市の周囲には『結界』が張られているのだが、たった今、その結界を破って侵入してきた者の気配を感じ取ったのだ。

 

「誰か、侵入してきたのか………仕方ない、調べるか………まったく、『ナギ』のやつめ………厄介な『呪い』をかけおって………」

 

ぶつくさ文句を言いながら、エヴァンジェリンは屋上から降りて行った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その日の昼休み カフェテラス

 

「あのブチャラティってやつ、ここ数年に麻帆良に来たようね。」

 

ドリンクのストローに口をつけながら徐倫と話をする『聖ウルスラ女子高』の制服を着て鳥の足跡模様のヘアバンドを巻いた女子生徒は、徐倫から聞かれた「ブローノ・ブチャラティ」に関する情報を教えていた。

 

「不良に襲われてる所助けてもらったりしてる子がいてさー、何か一部にコアな『ファン』がいるみたいねー………詳しくは知らないけれど、『桜が丘』の方に住んでる事は分かったわ。」

「ん、そんだけ分かればいいわ………ありがとうグェス。」

「また頼ってね♪」

 

グェスはそういうと、コーヒーのプラスチックカップを手に去っていった。

 

エヴァンジェリンの情報を集めるにあたり、『魔法関連』をネギやスバルたちに任せ、徐倫や千雨は『スタンド関連』、つまりブチャラティの情報を集めていた。

朝、グェスに名前と特徴を知らせ「コイツの事、知ってる?」と、何気なしにメールで聞いたところ、あっという間にウルスラ校中を聞きまわったらしく、昼休みにはブチャラティの情報を教えに来たのだ。以外にも、顔が広いらしい。

 

「現時点で、アイツは『スタンド使い』、『ジッパーを引っ付けて、開くことで切断・切開する能力』、『桜が丘に住んでいる』、『エヴァンジェリン側のスタンド使い』………って事は、分かったな………」

「よぉ徐倫。元気か?」

 

徐倫がブチャラティの情報を整理していると、アナスイが話しかけてきた。とたんに、徐倫は不機嫌な顔になった。

 

「この間は情けない姿を見せちまったなぁー………あン時の挽回は、絶対にするから………」

「ああ、期待してるよ。」

 

相変わらず口説いてくるアナスイに棒読みで返す徐倫。スタンド使いとして頼りにしているが、正直人間としては尊敬に値しない。

 

「そうだ、今度、食事でも一緒に………」

「それ以外口を開くなら、オヤジにチクるぞ?」

「あ、すいません………」

 

何度も冷たくあしらわれてもヘコたれないアナスイでも、さすがに承太郎には敵わない。そのまま立ち去る徐倫を見送るしかできなかった。

哀れなり、アナスイ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

同じ頃、中庭ではネギ、明日菜、スバル、千雨が話し合っていた。

なお、まき絵とアキラは裕奈たち、のどかは夕映とハルナに誘われているため、この場にはいない。

 

「魔法使いの世界の昔話に倣って、魔法使いは通常、サポートするパートナーとして従者(ミニステル・マギ) と契約を結んでいるんです。」

 

サンドイッチを片手に、話し始めるネギ。

 

「あまり戦いになる事はないので、今では恋人づくりの口実になっているみたいですけど………」

「どうやら、『魔法使いと従者(パートナー)』っていうのは、『前衛』と『後衛』の関係性になっているみたいだね。」

 

3個目の超包子特製・特大肉まん(通常の3倍サイズ)を手に、スバルが話し始める。

 

「昨夜はあのブチャラティって人と茶々丸さんに、ネギ君と仗助さんの魔法とスタンドの動きを封じられて、身動きが取れない内にエヴァンジェリンさんに接近されちゃったからね………本来は、従者が動きを封じている間に、魔法使いが呪文を唱えるっていう戦い方だと思うよ。」

「成程………」

 

ネギと千雨は、納得したように頷いた。明日菜だけは、いまいち話についていけている様子ではなかったが………

 

「よーするに、『多勢に無勢で襲ってくるヒキョーモノ』って事ね。」

「アスナさん………」

「うん、アスナはその認識でいいと思うよ………」

「あー、今バカにしたでしょー!」

 

微妙にズレた解釈をする明日菜に呆れる一同。

 

「けれどまあ、神楽坂の意見も、当たらずとも遠からずだな………今までネギ先生の関わってきた戦いは、殆どが『単身』で攻めてきていたからな………コンビネーションで攻めてくるのは、初めてのケースだ………」

 

思えば、『(グロウン)・キッド』も図書館島のゴーレムも、単身で攻めてくる相手ばかりであった。『数』で攻めてきたのはオエコモバくらいだろうが、あの時は承太郎たちもいたので、大した問題にはならなかった。

その時、

 

「ぅアスナさーーーーーーーーーんッ!!」

「わーーー!?」

 

突然、あやかが乗り込んできた。怒鳴りながら明日菜につかみかかると、ぶんぶんと揺さぶり始めた。

 

「ネギ先生が襲われたって聞きましたわよ!?あなたが付いていながら、何をしてますのッ!!」

「お、落ち着いてよいいんちょ………」

 

何とかあやかを落ち着かせる明日菜とスバル。あやかは明日菜から手を放すと髪を手櫛で整えた。

 

「まったく………ネギ先生や宮崎さんを『矢』で射抜いた輩もいるというのに………これ以上、ネギ先生に負担をかけたくはありませんわ………」

「それは私も同じだけど………」

「それで、相手は何者なんですの?」

「それが………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その日の夕方 グリーン・ドルフィン・ストリート麻帆良

入り口前

 

「あ、ギン姉!」

 

マンションに徐倫と明日菜と一緒に向かっていたスバルは、マンションの入り口でギンガとノーヴェを見つけ、大声で声をかけた。見たところ、大量の袋を持っているため、買い物の帰りなのだろう。

 

「あらスバル、今帰り?」

「うん。」

「って、あれ、ジョリーンに、アスナ、だっけか?」

 

まだうろ覚えな様子であったが、ノーヴェが2人の名前を呼んだ。

 

「所で、今日はどうしたの?」

「うん、ちょっと作戦会議を………」

 

入り口に入り、ギンガと話し始めるスバル。木乃香をはじめとして『魔法』の事を知らないメンツが寮には多いので、うかつに話ができないために、六課の部屋を使わせてもらおうというのだ。

 

ギャーーーー!?

そっちいったッスよ!

逃がすな!追ええーーーーー!!

 

206号室の前にまで来た時、一同は部屋が騒がしい事に気づいた。

 

「まったく、アイツら何騒いでんだよ………」

「なんか、チンクの声もするね………どうしたんだろう………?」

 

首をかしげながらも、玄関のドアノブに手をかけるスバル。

 

「待て。」

「徐倫?」

 

だが、徐倫がドアを開けるのを止める。どうしたのだろうと思っていると、徐倫は右手人差し指の指先から『糸』を伸ばし、先端を郵便受けから中に侵入させて、自分は親指を耳に当てた。

 

「?何してんの?」

「しっ………小さい『足音』がするな………人間のモノじゃあないわ………アルフのモノにしても小さすぎるし………ネズミかしら………?」

「え!?」

「い、糸から伝わる『音』を、聞いているの……!?」

 

徐倫のスタンド『ストーン・フリー』の応用法に感心する明日菜達。徐倫は素早くドアの付近に蜘蛛の巣のような『糸の結界』を張り巡らせると、スバルに指示を出した。

 

「玄関の方に駆けてきているようだったわ。スバル、とっ捕まえるから、合図を出したらドアを開けて頂戴。」

「う、うん………」

 

徐倫の指示でドアを開ける体制に入るスバル。そして、

 

「今!」

「OK!」

 

合図と共にバン!とドアを全開にする。瞬間、足元を小さく白い影が飛び出してきて、糸の結界に捕まり縛り上げられた!

 

「!?キュー!?」

 

捕まった白い影は、驚きの鳴き声を上げた。その正体は、白い毛並みの、長い胴体を持った『小動物』であった。何だろうと思い、明日菜が手を伸ばしたその時、

 

「わ~~~~~ストップストップ~~~~~!?」

「え?」

 

玄関の方から声がした。振り返るとそこには、こちらに突っ込んでくるティアナとウェンディの姿が………

 

ドガッ

「「「「ギャーーーーース!?」」」」

 

そのまま激突してしまい、小動物と明日菜は2人の下敷きになってしまった。

特に白い小動物の方は、明日菜、ティアナ、ウェンディ3人分の体重をその小さな体に受ける事となってしまい、押しつぶされて苦しそうな声を上げた。

 

「お、おい、大丈夫か………!?」

 

慌ててノーヴェとスバルが駆け寄り、3人を起こした。その時、激突した拍子に糸が緩んでしまったのか、小動物は素早くその場を去ってしまった!

 

「あ!アイツ!」

「意外と丈夫だな………ていうか、何でフェレットが………?」

 

もう見えなくなってしまった白い影に呆然としつつ、ティアナたちに事情を聴く事にした。

 

「ねえ……何があったの………?」

「う、うん………実は………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのフェレットっぽいのに、私たちの下着の大半を盗まれた………」

「まあ、寸前でパンツとかは全部取り返したッスけど………」

『………えッ?』

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「話によると、アルフが『()()()()のない臭い』に気が付いて、辿ってみたらティアナたちの下着を持ち出そうとしているフェレットみたいなのを見つけて、追いかけまわしていたらしいわ………」

「まあ、おかしな事もあるのですわね………」

 

その日の夜、女子寮の廊下を歩きながら、明日菜とあやか、ネギ、徐倫は、廊下を歩きながら話をしていた。

あやかはネギがエヴァンジェリンに狙われている事を知ると、「吸血鬼」関連で何かわかるのではと思い『SPW(スピードワゴン)財団』に連絡を取ると、心配になってネギに着いて回り始めたのだ。

 

(うーん、フェレット………?)

「ん、どーしたのよ、ネギ?」

「いえ、ちょっと………そのフェレットっていうのが気になって………」

 

首をかしげて考えるネギに明日菜が聞くが、ネギはうんうんと考えていた。

 

「あら、あれは………?」

「え?」

 

ふと、明日菜たちの部屋の前まで来た時、あやかはドアの前に何か『小さく白いもの』が落ちている事に気が付いた。見ると、胴体が細長く、毛がフサフサしている。しかも良く見ると、手足や尻尾まであった。

 

「あー!さっきのフェレット!?」

「いえアスナさん………あれは『オコジョ』ですわ………」

「何でそんなのが、寮の廊下に……?」

「え?『オコジョ』……………?」

 

オコジョと聞いて、ネギはそちらを見る。そして気づいた。

全身傷だらけだが、間違いない。あれは………いや、『彼』は!!

 

 

 

 

 

 

 

()()()()ッ!!?」

「ん?『カモ』?だれそれ?」

 

ネギがいきなり叫んで駆け寄ると、オコジョを抱き抱える。3人はネギの呼んだ名前に疑問を浮かべるが、ネギの手の中のオコジョはぐったりとしながら起き上がり、

 

「ネ………ネギの兄貴ッスか?へへっ……情けないったら………ありゃしないが…………これでお別れみたいでさぁ………………がくっ」

「か、カモくゥゥゥウウウんッ!!」

 

一通り喋ると、自分で『がくっ』って言って気絶した。

 

 

 

 

 

……………あれ?

 

 

 

 

 

「「「喋ったァァァアアアアアッ!! !?」」」

 

 

 

 

 

生涯で『2匹目』のしゃべる動物の衝撃に、3人は叫ぶのであった………

 

 

 

 

 

←to be continued…




27話です。
・サブタイトルは「猫は吉良吉影が好き」から。

・千雨とアギトの会話。この会話の意味はいずれ。

・グェス登場。この世界での彼女は高3です。原作でも『ミュー・ミュー』の時に普通の友達として接していたので、仲はそれなりに良好です。

・カモくん登場。今作でも変態紳士な彼ですが、今回は『相手が悪かった』としか言いようがないです………

では、次回をお楽しみに!


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#28/オコジョはネギ・スプリングフィールドが好き ②

5年前―――

 

イギリス ウェールズの山中

 

 

「くっ………『猫の妖精(ケット・シー)』にも並ぶ由緒正しい『オコジョ妖精』の(おとこ)のおれっちが、こんなチンケな罠にかかるなんて……情けねえ!」

 

草むらをのぞくと、誰かが仕掛けた罠に脚を挟まれて動けなくなった子オコジョがいた。そのオコジョは、脚を挟んでいる罠に手をかけると―――

 

「こんな事じゃ『漢の中の漢』にはなれねえべッ!一気に引っこ抜いてやんよぉおお!!」

 

気合を入れて、罠から脚を引っこ抜こうとし始めた。そんな様子を見てられなくなったのか、少年が草むらから出てきた。

 

「あっ!嘘です!ごめんなさいッ食べないでッ!!」

「大丈夫、罠を仕掛けた大人には僕が言い訳しとくからね。」

「………へ?」

 

オコジョは最初、少年が言ったことが分からなかった。少年は『治癒呪文』をかけると、オコジョに「もう引っかかっちゃダメだよ。」と言い、オコジョを逃がした。

 

 

 

 

 

しばらくすると―――

 

 

 

 

 

「コラッネギ!エモノ逃がしただろッ!!」

ポギャッ

「アイテッ」

「………………」

 

大人に叱られる少年―――ネギを遠くから見て、オコジョは思った。

 

 

 

――この人こそ……『漢の中の漢』だ………!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

現在

グリーン・ドルフィン・ストリート麻帆良 206号室

 

「―――っていうのが、おれっちとネギの兄貴の出会いなんでさぁー。その後も色々とお世話になりやして………」

「………へー?」

「『漢』……………ねえ………?」

 

ネギとの馴初めを話すオコジョこと『アルベール・カモミール』(通称『カモ』)の話を、冷やかな目で聞いていた明日菜と徐倫、ティアナ。

 

「………そんな兄貴の「友人」であるおれっちを()()()()、姐さん方はどうする気なんでさー?」

 

そんなカモは現在、徐倫の糸で縛り上げられて中吊りにされており、その下にはカセットコンロが置かれ、ぐつぐつと湯が煮えたぎる鍋が設置されている。

ネギは徐倫達の後ろで少し不安そうな面持ちであるが、千雨とあやかはネギの肩を掴んで「諦めろ」と言わんばかりに首を横に振る。さらに周囲を囲むように、スバルやチンク以下ナンバーズ一同が睨みつけていた。

 

「……かの大泥棒『石川五右衛門』は、『釜茹で』にされて生涯を閉じたそうだぜ?『下着泥棒』さんよォーーー?」

「ごめんカモ君………泥棒は『罪』だから………」

「ギャーーー!?オ、オコジョ虐待反対ーーーーー!?」

 

ジタバタと逃れようとするカモであったが、結構キツく締まっているらしく逃げ出せないでいた………

 

 

 

 

 

#28/オコジョはネギ・スプリングフィールドが好き ②

 

 

 

 

 

さて、カモ君ことアルベール・カモミールが何故、このような状況になっているのかを説明させていただこう。

 

意外とタフだったのか、翌朝には回復して元気に起き上がったカモ。しかし、前日の下着泥棒の犯人であるために、どこからか徐倫が用意したケージに閉じ込められてしまっていた。

 

トドメとなったのが、ネギが姉と慕うネカネから良すぎるタイミングで届いたエアメールだ。

内容としては、カモがイギリスで『下着泥棒二千枚』の罪で指名手配されているというものであり、ネギの所に来ていないか確認の手紙だったのだ。ご丁寧に、手配書も同封されていた。

 

詰まる所、カモは追手が下手に手を出せない『立派な魔法使い(マギステル・マギ)候補生』のネギの元へ高飛びしてきていたのだ。カワイイ顔して腹黒いオコジョである。

 

かくして、変態オコジョ妖精は吊るし上げられ、断頭台で判決を待つ羽目になってしまったのだ。

 

哀れなり、カモ。

 

 

 

 

 

「あ、兄貴の魔力の痕跡を辿って入った場所にギャルたちがわんさかいたんで……意気揚々と『コト』を起こしたのがいけなかったかぁ………まさか『管理局』がいたとは………」

「逃亡中なのに、下着泥棒するなよ………」

「オトコの悲しい『()()』ってやつでさー………」

 

カモの後悔に呆れる一同。セインや千雨は、「男ってバカなんだなー……」と思ったそうな。

 

「さて、ハラウオン執務官、今回のアルベール・カモミールの処遇、いかがいたしましょうか?私としては、このまま釜茹での後にアルフのおやつってのが妥当かと思いますが………」

「ちょ!?残酷すぎやしませんか姐さん!?」

「アタシも、ソイツ食べるのはちょっと………」

 

助けを乞うカモに対し、徐倫はこの中で責任者であるフェイトに聞く。苦笑しているフェイトもカモの所業は許せないものがあったが、流石にカワイソーだと思い、助け舟を出してあげることにした。

 

「えーと………カモ君は、『こっちの世界』の魔法について、詳しいんじゃかな……?それだったら、ネギ君の助けになるんだと思うけど………」

「!そ、………そうッス!兄貴、まだ従者(パートナー)決めてないんスよね!?なんだか『命』を狙われてるみたいだし、パートナーに関する魔法なら、おれっち専門でっせ!?」

 

フェイトの助け舟にこれ幸いと乗っかるカモ。徐倫とティアナはふむ、と考えた。

 

「どうなんだ、ネギ?」

「は、はい………確かに僕、『戦闘魔法』の類は一通り習っているんですけど………パートナーとかその辺は「まだ早いかなー」って後回しに………」

「だったら、おれっちに任せて下せー!オコジョ妖精のおれっちなら、仮契約を結ぶための儀式を執り行う魔法を扱えるッス!!」

 

成程、それは便利だと考える徐倫とティアナ。一同は顔を合わせると頷きあい、カモを下して糸を解いた。

 

「まあ、確かに知識は豊富みたいね………いいわ、今回だけは、許してあげる。」

「あ、姐さん方………!」

 

じーんと涙を流すカモ。ただし、と、徐倫は睨みつけた。

 

「次やったら、マジに許さねーからな!覚えとけよ!」

「い、イエッサー!」

 

徐倫とティアナの凄みのある目力に身を強張らせながら、カモはピシッ!と敬礼をした。

手が短いので、ちゃんとできてはいなかったが。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「そんじゃーまず、『魔法使いと従者の契約』について、僭越ながらワタクシ、アルベール・カモミールが説明させていただきやす。」

 

鍋とコンロを片付けられたテーブルの上で(せっかく沸かしたお湯を捨てるのはもったいなかったが、カモの毛が入っているといけないので排水溝に捨てて鍋は洗った)、カモが説明をし始めた。

 

「魔法使いと契約して『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』になった者は、魔法使いを守り助けることになるんスけど、代わりに魔法使いから『魔力』を貰って、肉体的にも精神的にも『パワーUP!』さらには、各パートナーごとに潜在能力をさらに引き出すことができる『マジックアイテム』も得られるんでさー。」

「ほほう?」

「けど兄貴みたいな子供だと本契約は出来ないし、『パートナー』を1人選ぶのはなかなか大変なので、『仮契約』を数人として、将来一人を選ぶ形になるッスね。」

「成程なー………」

 

明日菜や徐倫がカモの説明に頷くと、千雨があごに手を当てながら口を開いた。

 

「成程、身体能力向上にマジックアイテムか………となると、現時点で『戦闘力を持たないヤツ』が最適って事か………?」

「という事は………」

 

全員の目が、1点に集中する。明日菜とあやかだ。

 

「あやかは情報収集等がメインで、明日菜は完全に巻き込まれただけだが………」

「そ、そうだけど………」

 

明日菜が少しためらっていると、あやかはおもむろに立ち上がった。

 

「………それでしたら、是非ともこのわたくしをッ!」

「うお!?」

 

そして、いきなりカモに掴みかかると、ブンブンと揺さぶり始めた。

 

「さあッ!わたくしをネギ先生のパートナーにして下さい!さあッ!!」

「あばばばばばばばばばばばばばばば」

「ちょ……落ち着きなさいよ……!」

 

目を血走らせて鼻息を荒くするあやかをなだめる徐倫と明日菜。あやかから逃げ出したカモは、目を回したらしくふらふらとしていた。

 

「か、カモ君、大丈夫?」

「あ、あにき~……あの姐さん、ちょっと怖いっすよ~………」

「あ………」

 

ネギとカモの会話を聞いて、ようやく我に返ったあやかは、コホン、と咳ばらいをした。

 

「ご、ごめんなさい……わたくしったら………」

「まったく、いいんちょはネギの事になると………」

「まあ、乗り気なのはいい事なんで………じゃあ準備するんで、一発『ブチュー』っと仮契約しますか!」

「ええっ!是非ともブチューっと!……()()()()?」

 

全員、『ブチュー』の単語にフリーズする。そして、きっかり十秒後―――

 

 

 

 

 

「ってぇええッ!?ブチューって………き………」

『『キス』ゥゥウウウッ!!?』

「まあ、一番簡単な契約方法なんでさぁ。」

 

『仮契約には『キス』が必要』………それが、雪広 あやかの『恋』という炎に、油どころかガソリンを注いだ!

 

「な……………なぁぁぁんですってぇぇぇぇええええええッ!!!」

ブシュゥウウウ

「興奮のあまり鼻血が噴水のごとくッ!?」

 

後で輸血が必要になりそうなレベルで鼻血を吹き出すあやか。噴出が弱まったのを見計らって、ティッシュを両の鼻の穴に詰め込んだ。

 

「あああッ!ネギ先生とキスができるとはッ!!では――――」

 

そう言うと、手元のラップトップパソコンをチャカカカカッと操作し始めるあやか。そして、操作し終えたのか、モニターをネギの方へ向ける。

 

「では、先生はどれが好みなのか、番号キーを選んで押してください。なんでも、1500年前のインドの『カーマスートラ』という本には、48以上もの『仕方』が載っているそうですが……」

 

見ると、モニターには9種類の『キスの仕方』が表示されていた………

 

「「「って子供に何を聞いてるんだァァァァッ!!!」」」

ドグシャア

「ヒャブッ」

 

何やらアブナい雰囲気のあやかに、明日菜、徐倫、千雨の同時攻撃が決まった!

 

「全く………てか、何でキ……キスなのよ?」

「いや〜、他にもあるんスけど、色々と面倒なんで………」

「あいつ………一晩で手編みのセーター編み上げる勢いだったぞ…………」

「マジで危ないんじゃないッスか…………?」

 

笑顔で気絶するあやかを、とりあえず心配を(いろんな意味で)するノーヴェたちであった。

 

「あー………あやかはちょいと危険だな………」

「…となると、だ、やっぱり明日菜になるわけか?」

「だな。」

「やっぱり………まあ、寮が同じ部屋だから、守れるとしたら私なんだけどさぁー………」

 

不満そうな明日菜に、首を傾げる徐倫とスバル。明日菜は頬を赤く染めて、

 

「この()()()()()()()()、キスしろっていうの?」

『あ。』

 

よく考えたらそうだった。現在この部屋にはナンバーズ7人にスバルたち、徐倫たちと、10人以上がいる。その目の前でキスをするなど、羞恥もいいところだ。

 

「………ま、まあ、無理に今決める必要はねえだろ!」

「そうね!今日は寮に帰って、明日から考えましょう!」

「そうですね!じゃあ、解散!」

『おつかれさまでしたーーー!!』

 

全員が顔を真っ赤にして一目散に退散した。あやかは明日菜が担いでいった。

 

 

 

 

 

「………ネギ、カモ、後で話がある。」

「「え?」」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

翌日 女子寮 徐倫と千雨の部屋

千雨と明日菜が見届ける中、ネギと徐倫はカモの用意した魔法陣の上に立っていた。

 

「ほんじゃま!いっちょ行きますか!仮契約(パクティオー)!!」

ブワアアアアァァァァ

「「うわっ!?」」

 

カモが叫ぶと、『魔法陣』が光り輝く。魔法陣の中に立つネギと徐倫は魔法のエネルギーに驚くが、暖かい光は心地が良かった。

 

「さあさあさあ!一発ブチューっとやっちゃってくだせぇ、お二方!!」

「あうう〜〜〜」「そう急かすなって………」

 

鼻息の荒いカモにせかされ、覚悟を決める二人。

 

 

 

 

 

二人の顔が近づき――――

 

 

 

 

 

唇と唇が重なった―――

 

 

 

 

 

ズキュゥゥウウーーーン

 

 

 

 

 

「え、今のキスした音なの?」

「分からないっすけど………まあとにかく、仮契約成立ッ!!」

 

一層強い光があふれると、カモは魔法陣の範囲に「光」が集まるのをみた。光は薄い長方形の形になり、やがてカードになった。見ると、カードには指を指す徐倫と、背中合わせに立つ『ストーン・フリー』が描かれていた。

 

「ん?何だこれ?」

「あ、こりゃ『パクティオー・カード』ッスね。魔法使いとの仮契約の証ッス。」

「成程………」

 

こー言うのはちょっと良いかも、と思う千雨であった。キスは結構恥ずかしいケド………

 

「……つー訳で、これからよろしくな、ネギ。」

「は、はい!」

 

かくして、ネギ・スプリングフィールドは空条徐倫というパートナーを得たのであった。

 

←to be continued…




28話です。
・今回はネギの仮契約(パクティオー)編。カモは変態の鑑なので、女性陣には『敵』と認識されてもしょうがないです(笑)

・今作のいいんちょは既に魔法の事を知っているので、理性のブレーキが若干壊れ気味です。

・最後は、ネギと徐倫の仮契約。ジョジョでキスといえば、あの擬音は欠かせません(笑)カードの徐倫のポーズは、若干承太郎のジョジョ立ちっぽい感じですね。

では、次回をお楽しみに!


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#29/アルティメット・クライシス ①

茶道部部室前

 

 

「ネギ・スプリングフィールドに『助言者』がついたかも知れん。お前たちを襲ってくる可能性もある。しばらく一人で行動するなよ。」

「はい、マスター。」

「……………」

 

部活を終え、迎えに来たブチャラティと茶々丸に注意を呼びかけるエヴァンジェリン。その時、後ろから声をかけられた。

 

「おーい、エヴァー」

(うっ…………タカミチか……)

 

呼びかけてきたのはタカミチだ。エヴァはウンザリしながらも、振り返って応えた。

 

「…………何か用か?仕事はしてるぞ。」

「学園長がお呼びだ。『一人で来い』だってさ。」

「………………分かった。すぐ行くと伝えろ。茶々丸、すぐに戻る。ブチャラティ、茶々丸を頼んだぞ。後、必ず人目のある所を歩くんだぞ。」

「分かった。」

「お気をつけて、マスター。」

 

そう言うと、エヴァンジェリンはタカミチとともに歩いていった。

 

 

 

 

 

この様子を、一匹の『亀』が見ていたとも知らずに…………

 

 

 

 

 

#29/アルティメット・クライシス ①

 

 

 

 

 

「よし、兄貴、二人がエヴァンジェリンから離れた今がチャンスだ!一気にボコッちまおうッ!!」

「う〜〜〜………ダメだよ〜〜人目につくとマズいよ〜〜、もう少し待って〜〜〜〜」

 

カモに頼まれて、『イノセント・スターター』でエヴァンジェリン達を見張っていたのどかから連絡を受け、茶々丸たち二人に追いついたネギ達。二人の後方の草むらに隠れて、様子をうかがっていた。

なお、メンバーはネギ、明日菜、徐倫、千雨、スバル、仗助、カモに加え―――――

 

「―――で、何でおめーまで付いてきたんだ?『チンク』………」

 

仗助の目の先には、白いゴシックロリータ調のワンピース(ナカジマ姉妹+セインやウェンディがノリノリで選んだもの)を着たチンクがいた。何故か彼女は、仗助たちに同行を申し出たのだ。

 

 

なお、ナンバーズたちはアルフやギンガ、そして六課のメンバーと同行する事を条件に、買い物や見回り、『戦闘』が許可されている。

 

 

「……………少し、気になることがあってな………それに、スタンド使い同士の戦いも、見ておきたいからな………」

「……ふぅん。」

 

少し思いつめたような顔のチンクを見て、仗助はそれ以上追求しない事にした。

 

(話を聞いて『もしや』と思ったが……………やはり―――――――)

 

 

 

 

 

「………何か、『辻斬り』みたいでイヤね……………しかも片方は『クラスメート』だし……………」

「ま、ネギやまき絵の他にも、何人かを襲った奴らだし、どちらにしろ何とかしなくちゃだし…………ん?」

 

徐倫の目線の先では、ブチャラティたち二人の前で、木に風船を引っかけてしまったらしい小学校低学年くらいの女の子が、えんえんと泣いていた。

ブチャラティがしゃがみ込み、女の子に泣き止むよう慰め始めると、茶々丸は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

バクンッ

 

ボッ

 

ドドドオォッ

 

 

背中の『ハッチ』を開き、背中と足からの『ジェット噴射』で低空飛行し、風船をとってあげた。とる際に枝に頭を当ててしまうが、そんなに痛みはないようだ。

女の子は、茶々丸にお礼を言うと、何度も振り返り、何度も手を振りながら、帰っていった。

 

 

 

 

 

『…………………………』

 

一部始終を見ていたネギ達は、しばらく口をポカンと開けていた。

 

「そ……そういえば、茶々丸さんって、どんな人なんです…………?」

「えーと…………あれ?」

「あんまり気にしたことなかったな…………」

 

ネギの質問に、うまく答えられない明日菜と徐倫。答えたのは千雨たちだった。

 

「いや、ロボだろ。」

「さすが『日本』だよなーー、ロボが学校通ってるなんてよぅ。」

「まあ、ロボが学校通うのか?って疑問はあるけど…………」

「ええっ!?じゃあ茶々丸さん人間じゃないのッ!!?」

「か、変わった『耳飾り』だとは思ってたけど…………」

「『関節』とか変だなぁって思ったが…………」

「「「「いや、気付よォォォォッ!!?」」」」

「つーか徐倫!何でお前までッ!?」

 

ネギや明日菜ならともかく、徐倫まで気づかないのに納得のいかない千雨だった…………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

その後も二人を尾行する一行は、二人の『人間性』を目の当たりにする。

 

歩道橋を上るおばあさんを茶々丸が負ぶったり、

不良に絡まれる女子中学生をブチャラティが助けたり、

ドブ川に流される仔猫を茶々丸が助けたり、

気弱な大学生に絡む当たり屋を、ブチャラティが話しかけただけで退散させたりと、

そして、猫にエサをやっている所も見た。

 

結論

 

 

 

 

 

「「「「―――いい人たちだ………………」」」」

「「っておおおおいッ!?」」

「ネギ、この光景を目に焼き付けとけよォォォォ…………成績表書くときの参考になるから。」

「『教師目線』ッ!?」

 

涙を浮かべるネギ、明日菜、スバル、徐倫につっこむカモと千雨。仗助に関しては、茶々丸の成績表の『校外活動』の欄の参考にしようとしていた。

 

「と、とにかく!人目のない今がチャンスっすよ!心を鬼にして、一丁『ボカーッ』っとお願いしやす!」

「で、でもー………」

「…………やれやれだわ。」

 

かなりやり辛くなったが、二人は仕方なくやることにした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

茶々丸が猫のエサを片づけていると、ブチャラティがある方向を見つめているのに気づいた。

 

「………どうかしましたか、ブチャラティ?」

「誰かが付けてきているとは思っていたが、お前等だとはな…………」

 

見ると、杖を持ったネギと徐倫、そして、バリアジャケットに身を包んだスバルがいた。彼らの後ろでは、仗助たちが見守っていた。

 

「………油断しました。ですが、相手になります。」

「で、『後ろの連中』はかかってこないのか?」

「………後ろのみんなは『付き添い人』だ。私らの戦いを見届けるだけで、手出しはしない…………」

「そうか………(しかし、後ろのあいつ…………どこかで会ったか……………?)」

 

ブチャラティがそう考えていると、ネギの申し訳なさそうな声がした。

 

「あの、お二人とも…………僕を狙うのはやめていただけませんか………?」

「………申し訳ありません、ネギ先生。私にとって、マスターの命令は『絶対』ですので。」

「オレも、あいつには『恩』があるからな…………やりたくはないがな…………すまない。」

「うう…………仕方ないです………」

(く、空条さん、あのブチャラティって人、任せて大丈夫なんだよね?)

(ああ、ジッパーの『対策』は考えてある。私ならまず『負け』はない!)

 

不安ながらも、徐倫のセリフに安心するスバル。

カモが考えた『作戦』は、ブチャラティと茶々丸の二人を徐倫とスバルが攻撃している内に、ネギが魔法の射手を放つという、典型的な魔法使いとパートナーの戦い方だ。

 

「……では」

「はい。」

「………ごめんね。」

「……行きます!契約執行(シス・メア・パルス)10秒(ペル・デケム・セクンダス)!!ネギの従者(ミニストラ・ネギィ)空条 徐倫(クウジョウ・ジョリーン)』!!」

ファァアゴォオオッ

「んうっ………(擬音大げさじゃね?)」

 

何やら奇妙な心地よさを感じ、嬌声を上げてしまう徐倫だが、そのままブチャラティに向かって走り出す!途中でどうでもいいことが頭をよぎったが……

 

ドンッ

(……!何だこれ!?体がまるで『羽根』みたいに軽い………これが『仮契約(パクティオー)』の効果ってことか……!?)

「わっ、空条さん速っ!?」

 

パクティオーの効果―――魔法使いからの魔力供給による『身体能力の向上』により、普段よりもさらにスピードが上がった徐倫。そのままの勢いでブチャラティにオラオラを繰り出す!

 

「オラオラオラオラオラオラァ!!」

「魔法使いと契約をしたか………だが!」

 

だが、ブチャラティもスタンド―――『スティッキィ・フィンガーズ』を出し、『ストーン・フリー』の両腕を殴り、防御と同時にジッパーをひっつけ、腕を切り離す。

 

「動きが直線的すぎるな………馬鹿正直に突っ込んでくるだけじゃあ―――」

ズドオッ

「!?がッ………ぐうっ!?」

 

ブチャラティが言い終わる前に、ストーン・フリーの『手刀』が彼の首筋に叩き込まれ、ブチャラティは膝をつく!

 

「………お前は『バカな、切り離したはずなのに!』と言う。」

「バ、バカな、切り離したはずなのに!………はっ!?」

「お前の敗因は、『私のスタンドを知らなかった』ことだ。」

 

言われて徐倫の腕を見ると、ジッパーで切り離された腕が、糸で『縫い合わされて』いた!

 

「『ストーン・フリー』!糸で切り離された腕を『縫い合わせた』………油断したな………」

「コ、コイツ………(戦いなれてやがる………死と隣り合わせの戦いを、何度も切り抜けているな………!)」

 

「い…『糸』で切り離された腕を………!」

「あんな荒技で………はっ!?」

 

離れて交戦していたスバルと茶々丸も驚いていたが、茶々丸は回り込んでくるネギの存在に気づいた。

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)光の11矢(ルーキス)!」

ドババァッ

 

詠唱を終えて、『魔法の射手』を放つネギ!

 

「よしっ!あれで決まったな!」

「ああ、徐倫の姐さんの腕が切り離された時はヒヤヒヤしたが、これで!」

(……ブチャラティ、この程度なのか?)

「さて、あいつらの治療の準備を………ん?」

「あれ……?あのあたりの石畳………?」

 

仗助と明日菜は気づいた。ブチャラティの足元が、『膨らんでいる』?

 

「!!あれはッ!」

 

ネギもそれに気づいた時、膨らんだ部分から『腕』が伸び、ブチャラティをつかもうとしていた!

 

「危ないッ!ま、『曲がれェェエエ』!!」

ギャギャギャアッ

 

「!!」

ズドドドオッ

 

茶々丸たちに向かっていた『魔法の射手』を操作し、ブチャラティに迫っていた『腕』へ全弾当てる!

 

「ネ、ネギくんッ!」

「今の腕は………それにこの『石畳』ッ!」

「こ…………この『柔らかさ』…………この現象はッ!まさかッ!!」

 

『魔法の射手』が着弾して生じた爆発と衝撃に吹き飛んだブチャラティは、石畳の柔らかさに気づいた。こんな現象を起こせる者は、()()()()()()()!!

 

「あぐおああああ………な、………なんて事ヲォォォォ………しやがるんだ!!こ、この………ガキィィィィ!!」

 

ブチャラティたちから少し離れたあたりから、茶色い『ダイバースーツ』のようなものを見にまとった男がでてきた。

スバルと千雨は気づく。この男は―――

 

「あ、あいつは!」

「『アヌビス神』をつれて帰った!あの時の!!」

 

「貴様は…………『地面下を進む』スタンド―――『オアシス』のッ!!」

 

ブチャラティも知っていた。この男は、ローマで戦ったスタンド使い!

 

「うぐぐぅううっ!だが、ブチャラティィィィィーーーっテメェには会いたかったぜェエエエ!」

 

男はブチャラティに向け、恨みのこもった言葉を吐いた。

 

 

 

 

 

本体名――セッコ

スタンド名――オアシス

 

 

←to be continued...




29話です。
・徐倫VSブチャラティ。ストーン・フリーなら、ジッパー喰らっても縫いつけるから無問題だと考えてこうなりました。

・セッコ登場。実はセッコって、第五部ではっきりと死んだ描写がないので、生きていてもおかしくないという妄想から。

では、次回をお楽しみに!


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#30/アルティメット・クライシス ②

麻帆良学園 学園長室

 

 

「『密入国者』?」

「ああ、『オエコモバ』について調べたら、彼を麻帆良(こちら)へ手引きした者がいるようでね。」

 

新たに入った情報を、承太郎とフェイトに渡すタカミチとあやか。タカミチが得た魔法使いサイドからと、あやかが得たSPW財団サイドからの情報を照らし会わせた結果、その人物がオエコモバをスタンド使いにした可能性が高いらしい。

 

「それで、管理局の『密入国者リスト』を洗った結果、こやつが麻帆良にいる事がわかったのじゃ。」

 

学園長は言うと、モニターを呼び出す。承太郎はもはや見慣れた光景のため、いや、そうでなくても彼の場合はあまり驚かないが。

モニターには、色黒で紫のドレッドヘアの男が映っていた。男を見た途端、承太郎は目頭を押さえた。

 

「どうかしましたか承太郎さん?」

「…………いや、最近奇抜すぎる髪の色の奴を見すぎているせいか、目がチカチカしてな………………」

 

承太郎の一言に、四人は苦笑するしかなかった。タカミチは、説明を始めた。

 

「………彼は『ランボ・ルギニー』。職業は車の整備士だが、質量兵器―――ああ、この世界で言う拳銃とかのことだよ。そいつの大量所持や開発の罪がかけられている。」

「要するに、『大袈裟な銃刀法違反者』と解釈しても?」

「はい、構いません。」

「なるほど………で、『開発』ってのは?」

「それが―――」

 

「………………」

 

彼が開発しようとしたものを聞いて、承太郎はあきれるしかなかった。

 

 

 

「やれやれだぜ……………」

 

 

 

 

 

#30/アルティメット・クライシス ②

 

 

 

 

 

一方その頃、ネギたちは………

 

「………あの時、自分の能力を自分のノドに喰らって死んだもんだと思ったが………………」

「ああ!お………オレも死んだかと思ったがよぉぉぉ……………あ、ああ………『アイツ』が助けてくれてよぉぉぉ、んで、オメェーが生きてる事教えてくれてなァァァァーーー!」

 

出現したセッコと十分に距離を取ったブチャラティに向かい、独特の口調ではなすセッコ。これは戦っている場合ではなくなったと判断して、茶々丸はブチャラティに聞いた。

 

「ブチャラティ、知り合いですか?」

「……………昔戦った相手だ。コロッセオで倒したと思ったが、見ての通りピンピンしてやがる………」

「『アイツ』ってやつに助けられたらしいな。誰だそれは?」

 

徐倫がセッコに問う。セッコはそちらを向き話しだす。

 

「ん〜〜〜〜〜、アイツか?アイツはよぉぉぉ~~~~~」

「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイセッコさんよぉーーーーー」

 

セッコが言う前に、建物の影から男が出てきた。

 

身長は180cm半ばで、紫の髪のドレッドヘアをオールバックにして、後ろでチョンマゲのようにして止めている、色黒の男だ。薄茶色のツナギを着てその下は黒のタンクトップ、手には軍手をしていた。

 

「エラソーに先陣切った割に、その『ザマ』かよ。かかかッ!」

「んだとォォォォ『ランボ』!!オメェーの能力じゃあ、アイツらに、ダ、ダメージ与えられねぇから、オレが行ったんだろうがァァァァ!!」

 

『ランボ』というらしい男に向かって怒鳴るセッコ。どうやら、彼の仲間らしいが………

 

「あんた、何者だ………?」

「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ、ガキがおれ様に向かってエラソーに聞いてんじゃねぇーーーz「ああ、コイツは『ランボ・ルギニー』ってんだ。」ってセッコ!!何でオメェーがエラソーに答えてんだよッ!?」

(上手く噛み合ってないな。組んで間もないコンビか……………)

 

二人のやりとりを見て、二人のコンビ歴の浅さを感じ取るチンク。

 

「……………まあいい。おれ様はエラソーな管理局の奴をやる!おれ様の邪魔をした『報い』を、受けてもらわにゃぁなぁあああああああ!」

「お、おおおおお………おう!オレはブチャラティだ!あ、アイツにぃ………利便性………じゃなくて………リベット、は違う………」

 

セッコは何か言おうとするが、ど忘れなのか、言うことができない。ネギたちは、その様子をじっと見ていた。

 

「うぐぐ……………リビングデッドでもなくて………リバイバル………」

「あの、ひょっとして、リベンジですか?」

 

ネギが恐る恐る聞くと、セッコは信じられないという顔をした。

 

「知ってんだよオオォォッ!!国語の教師か、うう…うう…うおおおっおっオメーはよオオオオ」

「いえ、『英語』の教師です…」

「オレ『数学』ね。」

「仗助さん、今それはいいので…………」

 

二人に近づきつつ、どうでもいい事を答える仗助に、やんわりとつっこみをする千雨。すでにこちらも戦闘態勢だ。

 

「…………っと、思い出した………!!ブチャラティ以外に…………『殺る』やつがいたんだ………誰だったけな…………えーと……………」

 

セッコはポケットを探すが、仗助はそんなのを待つほどお人好しではない!クレイジー・ダイヤモンドの拳を叩き込む!

 

「『クレイジー・ダイヤモ…………』」

ボギャァアーーッ

「「「「「「「!!?」」」」」」」

「ぐっうおあっ」

 

だが、クレイジー・ダイヤモンドの拳がセッコに命中する前に、セッコの蹴りが仗助を襲う!

 

「仗助さんッ!」

「東方!」

「い………今のは!!このパワーとスピードは…………!」

「メンドクセーなァァァァ………仕方ねえ………全員殺せば同じだ……!」

 

言うと、セッコは再び仗助に殴りかかる!

そのとき、仗助は気づいた。セッコが『地面に肘を撃ちつけている』のを!

 

(こ……………こいつ!地面を『弾力のあるもの』に変えて…………それの反動でスピードとパワーをあげているのか!)

「『オォォォオオオオアシィィィイイイス』ッ!!!」

ズババババババ

 

セッコのラッシュをクレイジー・(ダイヤモンド)で何とか防ぐも、何発か喰らってしまう仗助!

 

「東方殿ッ!」

「仗助さんッ!!」

 

チンクは懐からナイフ―――『スティンガー』を取り出し、セッコに向けて投げつけ、ネギも『牙』の爪弾を放つ!

 

「!………ふんっ」

 

だが、セッコは余裕な様子で右腕を振るい、はじき返そうとする。チンクが、()()()()()()()()()()()()()()()()………

 

セッコの右腕がスティンガーに触れる瞬間、

 

パチィン!

 

チンクが指を弾く。その瞬間!

 

 

 

 

 

バッグオオオォォォン

「なっ!!?ぐアアッ」

 

スティンガーが『爆発した』!

爆発をモロに受けたセッコは、右腕を負傷し、さらに爪弾も何発か喰らう!

 

「私のインヒューレントスキル名は『ランブルデトネイター』………金属を『爆発』させる能力!石畳は溶かせても、『爆発』は()()()()()!!」

「な……なるほど……………」

「た、助かったぜ、チンク…………爆発で助かったってのが、個人的に複雑ではあるんだが………」

 

チンクの説明にネギは納得し、仗助は『ランブルデトネイター』を『金属に限定されたキラークイーン』と解釈した。

 

「うおおおあおああああ……………」

「今だッ『スティッキィ・フィンガーズ』!」

「ドラララァッ!!」

 

腕のダメージに苦しむセッコに、スティッキィ・フィンガーズとクレイジー・Dのラッシュが迫る!

 

 

 

ガキィンッ

「「!?」」

 

だが、二人の拳は、突如表れたガジェットⅠ型に阻まれてしまう!

 

「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ!コイツらツエーぜぇー、面倒くせぇが、加勢してやるぜッ!!」

 

ランボが言うと、そこら中からガジェットが表れた。その数、ざっと見ただけで50機!

中には機関銃やミサイルランチャー、ドリルを装備したものが数体いた。さらに、何故か『車』を抱えたⅢ型がいた。車の数は6台だ。

 

「が、ガジェットと………車?」

(あれ?あの車って………?)

「何をする気だッ!?」

 

スバルたちは、突然表れたガジェットに慌てた。明日菜は、ある車に目がいったが。

 

「こうするのさッ!」

 

言うや否や、ランボが一台のオープンカーに乗り込む

 

「『アルティメット・クライシス』ッ!!」

 

それを合図に、ガジェットたちが車に『集結』した。するとガジェットは、まるで『粘土に別の粘土をくっつけて、それを指でならす』ように、一つの固まりになっていく!

 

「ううっ………!?」

「こ、これは………!?」

 

それはある『形』になっていき、他の『部品』と合体する!最後にⅡ型が三機、中央の部品の上に合体すると、それは動き出した!

そう、これは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()ーーーーーーーッ!!?』

 

そう!『男の浪漫』の結晶!!『巨大ロボット』だ!!

 

全長約12mの青いボディ、両肩は丸く、腕は二の腕よりも太くたくましい。背中にはブースターが付き、小さいながら翼まである。頭部は円柱型の兜をモチーフとしており、両側の頬にはヒゲや角を思わせる大きなアンテナがついていた。

 

「くくくッ………これぞおれ様のスタンド……………名付けて!『アルティメット・クライシス』だぜ!!」

 

ロボット―――『アルティメット・クライシス』の中で、ランボは高らかに叫んだ。

 

「………ってありなの!?こんなのまでありなの、スタンドって!?」

「まき絵のG・キッドと同じ実体化したスタンドだなぁ。スケールは全然違うけど…………」

「車は多分『動力源』だな…………ガジェットだけじゃあ、あの巨体は動かせないんだろうよ。」

 

そびえ立つ巨大ロボットを指さして叫ぶ明日菜に対して、冷静に分析する徐倫と千雨。以前、承太郎から『貨物船』のスタンド『(ストレングス)』を操るオランウータンの話を聞いた事があったが、おそらくは同じほどのスケールだ。

 

「ふんっ!エラソーにおれ様の『アルティメット・クライシス』を語るな!おれ様は、昔からこういうロボットに乗りたかったんだ!記念すべき最初の獲物はてめーらだぜ!!」

 

言うと、『アルティメット・クライシス』の肩がバクンッと開き、ミサイルランチャーが顔を出す。スバルは慌てて広域型のシールドを展開するが……

 

シュウン

「え!?」

 

シールドは霧散してしまう!そして気づく。あのロボットは『何でできているか』に!

 

「!!そうかっガジェットを取り込んで合体してるから………」

「AMFも健在ってことかッ!!」

「気づいたか!だがオセエぜ!『アルティメット・クライシス』!!」

 

『アルティメット・クライシス』の肩から、ミサイルが火を吹いた!

 

「くっ!『アニバーサリー・オブ・エンゼル』ッ!!」

ビュオオッ

 

だが、間一髪でスバルたちを掴み、『アニバーサリー・オブ・エンゼル』で飛び去ることで回避する千雨。徐倫も茶々丸に掴まり、彼女のブースターで離脱した。

 

「は………長谷川さん!」

「それが千雨ちゃんのスタンド………!」

「ちっ………できればまだ見せたくなかったが………」

 

『アルティメット・クライシス』から離れた場所に着地した千雨は、アルティメット・クライシスを睨みながら舌打ちする。

 

「徐倫!」

 

アルティメット・クライシスを挟んで分断された徐倫に、仗助が叫ぶ。ブチャラティは、爆発のダメージから回復しつつあるセッコを見下ろして、ネギに聞いた。

 

「………なあ、今いる中に、さっきみたいな爆発なんかを使えるやつはいるか?」

「い、いえ………後は僕が『光』や『雷』の魔法が使える程度ですが………」

 

ネギが少し困惑しながら答えると、ブチャラティは周りにいる仗助とチンクを見て、巨大ロボの向こうにいる徐倫や茶々丸に大声で話しかけた。

 

「よく聞け!オレ達はこのまま、この泥化の男を相手にする!悪いが茶々丸!そのロボットは任せる!」

「ブチャラティ?」

「お前たちのスタンドは『接近戦向き』だ!こいつの「オアシス」には接近戦はやや不利だ………だが、さっきの『爆発』などは有効となる!」

 

ブチャラティはローマでセッコと戦った際に、車のタイヤのパンク音でセッコの聴覚を破壊している。セッコの格闘技術はかなり驚異的であるが、先ほどのチンクの『ランブルデトネイター』のような「エネルギー系」の攻撃であれば、確実にダメージを与えられる!

 

「ってちょっと待って!?確かにそうだけど………じゃあこのロボットは………」

「よ、よくもやったなぁあああ………チ、チビ、どもがぁああああああああああ!!」

 

明日菜が叫ぶよりも早く、セッコは泥化させた石畳を口に含み、

 

パパウ パウパウ

「何!?」

フヒィーーーン

 

歯と歯の間から高速射出すると、それは薄い円盤状の『カッター』となってチンクに襲いかかる!

 

「クレイジー・ダイヤモンドッ!」

「スティッキィ・フィンガーズ!!」

 

だが、『泥のカッター』はチンクに当たるより前に、仗助とブチャラティによってはじき返されて地面に落ちた。

 

「今の『カッター』の感触!ヤツに振れたら『泥化』するけれど、離れたら再び固くなるという事か!」

「ローマでオレに放った『石の槍』も、ああやっていたのか!」

 

仗助とブチャラティが驚くのもつかの間、セッコは一気に距離を詰めて接近戦を挑んできた!

 

「ネギ!」

「よそ見とはヨユーだな!エラソーに!!」

 

ネギに迫るセッコに明日菜が叫ぶが、ランボが再度『アルティメット・クライシス』のミサイルを放ってきたために近づくこともままならない。

 

「くっ………!」

ズドドドドドドォオッ

「きゃーーーー!?」

 

ミサイルから逃げ惑っている間に、ネギたちとの距離が更に開いてしまう。すでにミサイルは出し尽くしてしまったのか、『アルティメット・クライシス』の肩のカバーが閉じた。

 

「やれやれだわ………今までで一番の『大物』と戦わないといけないなんてね………」

 

ミサイルを回避した徐倫は、『アルティメット・クライシス』の青く光る巨大なボディを見上げてそう呟いた

 

 

 

 

 

←to be continued…




30話です。
・承太郎の目がチカチカするのは、仕方ないと思います(笑)奇抜すぎるもん、ミッドの方々(笑)

・ランボ登場。名前は自動車メーカーのランボルギーニのもじり。ミッド出身+某マフィアマンガで同名のキャラ繋がりって事で(笑)シャマルって最初聞いたとき、真っ先にこっち思い浮かべました(笑)

・巨大ロボットのスタンドは、一度やりたかったネタ。実体化したスタンドの中では、『力』に次いだスケールです。なお、以前とはスタンド名を変えています。

・波紋カッターならぬ泥のカッターを吐き出すセッコ。似たようなこと原作でもやっていたので、出来るだろうな、と思いまして。セッコって歯並び悪い気がしたけど、気にしない気にしない(汗)

では、次回をお楽しみに!


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#31/アルティメット・クライシス ③

麻帆良学園 駐車場

 

 

「―――あれ?私の車が……!」

「僕のもないぞ……!盗まれたか…………!?」

 

話を終え、帰ろうと駐車場に来た一同は、フェイトとタカミチの車がないのに気づく。

 

「…………『学校の駐車場』から車を盗むたぁ、ずいぶん大胆な奴がいたもんだな。」

「私の車は借り物なのに………アリサに何て言えば………」

「僕らのを含めて『6台』も盗んだようだから、まだ遠くまでは―――」

 

タカミチが推測をたてるが、それは珍入者の介入により妨げられた。

 

「た……大変でさぁ!」

「ん?」

「カモ君?」

「お。君はネギ君の言っていた………」

「あ、兄貴たちがスタンド使い二人組にッ………」

「「「!!」」」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「おい、見ろよアレ!ロボットだぜ!カッキェーーー!!」

 

同じころ、木々の向こうに見える全長12mのロボットを見つけた2人組の男の内の1人が、ビデオカメラ片手に興奮して声を上げる。

 

「さすが日本はクールだぜぇー!けどこれ、ボスに見せても、信じてくれないだろーなー!」

「おい、確かにロボットも気になるが、本来の任務を忘れてないだろうな?」

 

もう1人の男は驚きながらも、相方に注意を促す。『妙な事』が起こっているのは確かであるが、だからと言って『任務』を疎かには出来ない。

 

「分かってるがよー、取り合えず、近くに行ってみよーぜー?」

「……ったく、ガキじゃあるめーし………」

 

男は呆れながらも、ロボットのいる方へ歩き始めた。

 

 

 

 

 

#31/アルティメット・クライシス ③

 

 

 

 

 

「くそっ!近づけねぇ!」

 

徐倫は、『アルティメット・クライシス』の頭部から放たれる機関銃の雨を避けながら、悪態をつく。千雨やスバルも何とか避けてはいるが、同じように近づけそうにない。

 

「ううっ………思ったように動けない……………」

[あれには50機分のガジェットが合体しています。その分、AMFの『濃度』も濃いようです。]

「つまり、魔法使うナカジマにはキツい状況って訳か…………用意周到な奴だなおい。」

 

そう分析する千雨。こういうスタンドは、『本体』をたたくのが一番いいのだが、本体であるランボは、アルティメット・クライシス内のコックピットだ。

その時、アルティメット・クライシスの拳が徐倫に向かい振り下ろされる!

 

「徐倫ッ!!」

「くっ!『ストーン・フリー』!!」

 

徐倫はストーン・フリーの糸を近くの『街灯』に結びつけると、そのまま自分を街灯まで引き寄せることで、拳から回避する!

 

「空条さんッ!」

「千雨!今だッ!」

 

徐倫が言う前に、千雨は動いていた。

 

翼刀(よくとう)剣舞―――」

 

両手とも逆手にして「翼」に見立てた構えを取り、アルティメット・クライシスの腕に向かい、振り下ろす!

 

深鷸(ふかしぎ)ッ!!」

ガキンッ

 

横一閃!

 

武竜(ぶりゅう)!!」

ガギギンッ

 

縦一閃!

 

大吸(おおずい)ッ!!」

ガキギィィインッ

 

回転連撃!

 

「ン……こいつ、これだけ斬ったのに………けっこう堅いやつだな………」

 

逆手小太刀二刀流で連続斬り技を放ったのに、アルティメット・クライシスのボディには少し傷が付いた程度で全然ダメージがなかった。だが、『ちょっと傷ついた程度』が、ランボの怒りを買うには十分だった!

 

「こんのガキィッ!よくも傷つけてくれやがったなッ!!」

 

怒れるランボは、巨大ロボットの左腕で千雨を捕まえようとする!

 

「おっと。」

ひょいっ

「ちっ、ちょこまかと……!」

 

だが、アルティメット・クライシスの腕が千雨に迫る前に、千雨は『アニバーサリー・オブ・エンゼル』で飛翔して回避する。ランボはなおも千雨を捕まえようとするが、千雨はひらり、ひらりと避ける。

それを茶々丸に連れられて遠くから見ていた明日菜は気づいた。

 

「あいつ、そんなに素早くないみたい……!」

「あの巨体です。素早い動きや精密な動作には向いていないと思われます。」

 

そう、全長約12mの巨大なスタンド『アルティメット・クライシス』は、その巨体ゆえにどうしても細かい作業は苦手なのだ。

そしてそれには、徐倫たちも気づいた。

 

「―――つーことは、機関銃やミサイルは、それをカバーするための装備ってことか。」

「あれで誘き出して、そこにデカいのをぶち込むってわけだね……」

「気づいたか……………だが、それが分かったからって、エラソーな面すんじゃねえ!」

 

言うと、ランボはアルティメット・クライシスの右腕を徐倫たちに向ける。そして、

 

ドウッ

 

「「『ロケットパンチ』!!?」」

 

右手を『発射する』!ご存知、ロケットパンチだ!

 

「あんなもんまであるの!?」

「あいつの『趣味』が、まんまスタンドに反映されているのかッ!?」

 

アルティメット・クライシスの多機能ぶりにつっこみつつ回避する二人。だが、それがランボの狙いだった!

 

キュィィィィ……

「「!!」」

 

ロケットパンチを回避した徐倫たちが見たのは、胸部が開き、そこから顔を出した『ビームキャノン』がエネルギーをチャージしているアルティメット・クライシスであった!

 

「喰らいやがれッ!『ブレイクバスターキャノン』ッ!!」

「「技名付き!?」」

 

アルティメット・クライシスの武装の多さに驚くが、今はそんな場合ではない!逃げようにも、ビームキャノンは発射寸前で、間に合わない!徐倫があきらめかけたその時―――

 

 

 

 

 

「……やれやれ、いつになく諦めがハエーじゃねえか、徐倫。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドウッ

 

 

 

ビームキャノンが発射された……!

 

「じょ、徐倫ッ!スバルッ!!」

「へっ!エラソーにしてた割には、大したことなかったなぁ、おい!」

 

ビームは辺りの地面をえぐり、徐倫たちは跡形もなく消えていた……

 

もう、彼女たちには会えないのか……

 

呆気ない……

 

あまりにも呆気ない……

 

 

明日菜が絶望に涙したその時―――

 

 

 

 

 

「おいッ!勝手に人の娘を殺してんじゃねえぞ。」

『!?』

 

『アルティメット・クライシス』の『背後』から、声がした。振り向くと―――

 

 

 

「やれやれだぜ……まさか、『こっち』に戻る前に『シグナム』や『シャッハ』にさんざん付き合わされた『模擬戦』が、こんな形で役立つとはな………久々に5秒も『止められた』ぞ………」

 

右肩にスバル、左脇に徐倫をかかえた承太郎がいた。

 

「承太郎さんッ!」

(時を止めたのか………だが、何で承太郎さんが?)

 

「大丈夫かい、アスナ君?」

「茶々丸!」

「た、高畑先生に……エヴァちゃん!?」

「マスター!何故ここに?」

 

承太郎がスバルたちを下していると、そこへ、タカミチとフェイト、エヴァンジェリンが、明日菜達に駆け寄ってくる。

 

「スバルッ!」

「いや〜〜、ギリギリでしたね!」

「フェイトさん!と……カ、カモ君!?」

「お前………見かけないと思ったら、おやじ達を……!」

「ええ、でも………」

 

降りてきたフェイトの肩に乗るカモは、アルティメット・クライシスを見上げる。ただでさえデカいそれは、カモから見たら、さらに大きく見える。

 

「これは予想外ッスよ………」

「だろうな………」

「何だこのオモシロロボットは………?」

「ええいッ!エラソーに援軍かよ!『アルティメット・クライシス』ッ!!」

 

ランボはイライラした様子で叫ぶと、飛んで行ったロケットパンチが承太郎に落ちてくる!

 

「あぶなァーーーい!上から襲って来るッ!」

「スタープラチナッ!」

 

承太郎はスタープラチナを呼び出し、ロケットパンチへ向かわせる!

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」

ズガガガッ

「!堅いな………」

 

だが、スタープラチナのパワーでもロケットパンチは破壊出来ず、少しヘコんだ程度のダメージしか与えられない。それでも、ロケットパンチの軌道を変えるには十分だったが。

 

「隙アリ!『スパイラルフィスト』ォオッ!」

 

だが、ロケットパンチを攻撃して隙ができた承太郎に、腕のない右腕からドリルを出したアルティメット・クライシスが襲いかかる!

 

「ああ、確かに隙だらけだ……承太郎さんはな!」

「!」

 

だが、ドリルが承太郎に届く前に、千雨が前にでる!

 

「弧牙車ッ!」

ズガガガッ

「うわっ」「危なッ!?」

 

ドリルに攻撃し、軌道を変える千雨!その軌道上にいたスバルたちは、あわててよける。

 

「……ずいぶんガンジョーな『スタンド』だな………前に会った『シアーハートアタック』に匹敵する堅さだぞ………」

「おやじのスタープラチナでもダメだなんて…………」

「つーか、もう別の世界の存在だろ………もうお前スパ○ボシリーズに出ろ。そしてそのまま帰ってくるな!」

 

ロケットパンチを戻したアルティメット・クライシスに、悪態をつく千雨。

 

(…………!そうだ、『アレ』なら!)

 

そんな時、スバルにある『考え』が浮かんだ。それは―――

 

「おいッナカジマッ!!」

「隙だらけだぜガキィイイイッ!!」

 

だが、スバルが考えている間にも、アルティメット・クライシスのパンチが迫る!

 

だが、スバルは避けようとしない。それどころか、構えをとり、拳に向けてパンチを放とうとしている!

 

「はっ!パンチの『力比べ』か!エラソーに!!」

「スバルッ!!」

 

アルティメット・クライシスはパンチをやめようとせず、逆にさらに力を込める!そして、スバルもパンチを打つ!そして、それが交わった瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バグオォォォンッ

「「「「!?」」」」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()、『破壊』された!

 

「な…………てめぇ、何しやがったッ!!」

「あれは………」

「スバル……?」

 

その時、徐倫は気づいた。スバルの目の色が―――比喩ではなく、本当に―――『緑』から『金』に『変わっている』!

 

「IS、『振動破砕』………振動波を与え、破壊した!」

「『機人モード』…………確かにあれなら!」

 

スバルは、アルティメット・クライシスに向けて、ラッシュを放つ!

 

「ウリィィィィィィヤアァァァァァッ!!」

ズドドドドドド

「う………うおあああああっ」

 

攻撃を喰らった脚が、肩が、頭が、みるみるうちに破壊され、ランボは悲鳴を上げる。

そして、胸にまで破壊しつくされると、破壊による衝撃で爆発が起こり、ランボは放り出されてしまった!

 

ズシャア

「う………ッ…ぐぅう………はっ」

「ご対面!」

「ヒイッ」

 

投げ出されたランボは痛みに呻くが、徐倫とスバルの接近に気づいた。

 

「(さっきのが、スバルの『戦闘機人』としての力か………)さて、こっちは殺されかけたんだ。覚悟はいいか?」

「う……うわあああああ」

 

徐倫は『ストーン・フリー』でランボの襟を掴んでグイィッ、と立ち上がらせると、

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」

「ドベェーーーッ」

 

仮に漫画にしたとしたら1ページ半にも及ぶオラオラを、ランボに叩きつけた!

 

 

 

 

 

「倒したか………」

「………あれ?」

 

吹っ飛んで行ったランボを見届けてふう、と息を吐く承太郎。スタンドが解除されて、周囲に飛び散っていたロボットの破片がガジェットや車の成れの果てへと変わっていくと、フェイトとタカミチが声を上げた。

 

「わ、私の車………!?」

「ボクのも………まだ、ローンが………」

「え?」

「あ………どっかで見た車だと思ったら、高畑先生の………!?」

「………やれやれだぜ………」

 

愕然とする2人をしり目に、ランボに『窃盗』が加わるだろうと、承太郎は呆れるのであった………

 

 

 

 

 

←to be continued…




31話です。
・ロケットパンチにビームキャノン、そしてドリル!すみません、私の趣味全開です(笑)

・今回の千雨の技は、ヨクト(10の-24乗)、無料対数、不可思議から。

・スバルが『振動破砕』を使わなかったのは、ヴェルファイヤーのインパクトが強かったからです。冷静になったら、気づきました。

・オチは、車壊されて呆然とする2人。知らなかったとは言え、スバルも破損の罪があるわけなんですが、どうなんでしょうね、この場合(汗)

では、次回をお楽しみに!


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#32/アルティメット・クライシス ④

「―――向こうは終わったみてえだな………」

「そうですね……………後は」

「こいつだけか……………」

 

明日菜達がいた地点から、少し離れた場所で戦っていた仗助たちは、『アルティメット・クライシス』が見えなくなったのをみて、ランボが倒されたのを確認した。残るは、自分達が相手をしているセッコだけだ。

 

「!仗助さんッ!!」

ズボァア

「!」

 

ネギは、仗助の足元の石畳の異変に気付いて叫ぶが、仗助は泥化した地面に引き込まれてしまう!

 

(こいつ……動きは速い……しかも、奇妙な感覚だが、『クレイジー・D』で触れるこの地面は『硬い』……硬い石畳のままなのに………()()()()()()()()!)

 

 

 

 

 

#32/アルティメット・クライシス ④

 

 

 

 

 

「スティッキィ・フィンガーズッ!!」

 

ブチャラティは『(スティッキィ)・フィンガーズ』で地面にジッパーをひっつけると、まるでカーペットのように地面を『めくった』!

 

「………!」

「そこだ!『(タスク)』ッ!!」

「ランブルデトネイター!!」

ドババッ

 

仗助が素早く脱出をすると、めくった先にいたセッコに向かい、ネギとチンクが攻撃を放つ!

 

「………!」

プワアアアッ!

「「「!?」」」

ガガガッガァーン

 

だが、それをセッコは口にふくんだ『小石』を吐き出して、『はじきとばした』!スティンガーは少し離れた地点で爆発し、爪弾も爆発により破壊される。

 

闇夜切り裂く(ウヌース・フルゴル・)一条の光(コンキデンス・ノクテム)我が手に宿りて(イン・メア・マヌー・エンス・)敵を喰らえ(イニミークム・エダット)!」

「!?」

 

だが、爪弾を放った時から、すでにネギは『詠唱』していた!

 

「『白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)』ッ!!」

ズババァアアッ

「うばっあああああ!!」

 

ネギの放った『雷』がセッコを襲い、セッコはたまらず地上に上がる!

 

「グレート!お前ら、結構『連携』とれるじゃねーか!」

「とっさだったがな………」

「ぐうううおああああっ………………ま、またやりやがったなっガキィイイイッ!だが、接近戦なら、お、おおオレに分があるっ!喰らえ!『オアシス』ッ!!」

 

セッコの攻撃が、ネギに迫る!だが!

 

 

 

 

 

ズドドッ

「うげっ!」

「え?」

 

いきなりセッコの背後からスティンガーが刺さった!?セッコが振り向くとそこには―――

 

 

 

 

 

ピシッピシピシッ

「なっナイフがッ」

()()()()()ぅぅうう!?」

ギャーーン

「うおおッ」

 

爆発したはずのスティンガーが、空中で再生してセッコに迫った!セッコはたまらずのけ反りながらスティンガーを捌くが、

 

「ドララララララララァアーーーッ!!」

「ギャッ!?ボガガァーーー!? !?」

 

スティンガーに気を取られている間に、クレイジー・ダイヤモンドの拳を顔面に受けて吹き飛ぶ!

 

「すでに予想してたぜぇー、チンクのナイフに警戒して、てめぇが二人の攻撃を『()()()()()()』ことはよぉおーー………」

 

仗助が倒れるセッコに言い放つ。彼の右手には『爆発したスティンガーの破片』が乗っかっており、次第に他の破片が集まって元のスティンガーに直っていく。

 

「だからネギが詠唱しているうちに、爆発したチンクのナイフの『破片』をオメーに投げつけたんだよ!!」

「ば……爆発したスティンガーを『直した』のか………!」

(クレイジー・ダイヤモンド……………『破壊と再生』が共存しているスタンド………………マジで、何をするかわからないな………………)

 

クレイジー・D=仗助の予測不能な動きに舌を巻く一同。セッコは、仗助を恨めしそうににらむ。

 

「て……………てめぇぇええ!」

「文句ゆーなよ……………さっきの『蹴り』のお返しだ!」

「ちいいっ!仕方ねぇ………………………さっき思い出した……………あのめ、『眼鏡』のヤツッ!あいつを殺して、退くとするぜッ!!」

『!!?』

 

セッコの口から出た『眼鏡のヤツ』と聞いて、4人は目を見開く。

 

「眼鏡って…………『千雨』のことかッ?何で千雨を狙う!?」

「オ……オオ………オレが知るかよぉおーー。とにかくあいつを殺したら、またの機会にテメーら皆殺しだッ!!」

 

そう言うと、セッコは地面に潜ろうとするが、

 

「そうは行きませんよォッ!!」

「赴任して間もないが、千雨はオレたちの生徒だ!みすみす殺されるのは見逃せねーんだよォオッ!!」

「一応エヴァと茶々丸のクラスメートでもあるようだからな………たとえそうでなくても、見過ごすわけにはいかない!」

 

既にネギと仗助、ブチャラティが駆けだしていた!セッコは構わずに逃げようとしたが、仗助が叫んだ。

 

「言ったはずだぜぇ?オレのクレイジー・ダイヤモンドは、『直す』スタンドだってなぁー!!」

 

言うや否や、クレイジー・ダイヤモンドの拳がセッコの周囲の石畳を殴る。瞬間!

 

ボゴゴォッ

「!?」

 

泥化していた石畳が元に戻り、セッコは弾かれて宙に浮いた!

 

「い、石畳を直して………直すパワーがオアシスの泥化を上回るだとぉ!?」

「タスク!!」

スパァアアッ

「!?」

 

セッコが着地するよりも早く、ネギの『爪カッター』がセッコの左腕が『切断された!』

 

「う………………うおあああああっおおおおおおれェェェェェのォォォォォうでェェェェェがァァァァァーーーーーー!?」

「ドラララララララララララララララララァアーーーッ!!」

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリィッ!!」

ドガガガガガガガガガガッ

「グオオオオオッ!?」

 

セッコが痛む間もなく、仗助とブチャラティのラッシュをその身に受ける!

 

「アリーヴェデルチ!(さよならだ)」

ドグシャァアッ

「グッギャブ………!?」

 

ブチャラティの最後の言葉と共に吹っ飛び、土煙を上げるセッコ!しかし、土煙が晴れた先にはセッコの姿はなく、泥化して穴の開いた地面だけがあった。

 

「逃げたか………!」

「問題ありませんよ。仗助さん、『()()()()()()()』。」

 

ネギは冷静に言う。その視線の先には―――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

地中を潜行するセッコは、焦っていた。

『あの女』に頼まれた任務に失敗した上に、左腕を失ってしまった………あいつに何て言おう。

 

そう考えていたその時、

 

 

 

急に左腕が『引っ張られた』ッ!!

 

 

 

 

「なッうわあああっ!?」

ボゴオッ

 

左腕に引っ張られて、セッコは再び地上に出てくる。どうやら、石橋の上らしく、下には川の水がさらさらと流れている。

だが、セッコはそれ所ではなかった。目の前には仗助たちが迫っている上に、切断された『左腕がある』!?

 

「切断した左腕を『()()()』……………奴を『引き上げたのか』………………!」

「こ………こんな真似するなんて………に……逃げッ!……………あれ?」

 

セッコは目の前の仗助たちにビビり、逃げようとした。だが、何かおかしい。左腕が地面に『埋まって』、動けない?

 

「いや、違う!…………お、オオオ……オレの左腕が!『橋と一体化』しているぅぅうう!?」

「さて、うちの生徒を狙った罪は重いぜ…………覚悟しな!」

「仗助さん、後は頼みます。」

「い、いいいいいいったいテメーら……何をする気だぁあああーーーーーッ」

 

 

 

 

 

「ドラララララララララララララララララララララララララララララララァアーーーーーッ!!」

ドガガガガガガガガッ

「うぎゃあああーーッ」

 

クレイジー・ダイヤモンドのラッシュがセッコに、いや、『()()()()()()』に叩き込まれる!

セッコの全身の肉が裂け、骨が砕かれ、石橋も破壊される!そして―――

 

 

 

 

 

「そこで反省してろ…………永遠にな!」

ドリュッドリュッドリュリュゥウウッ

「う……………うがあああああっ」

 

 

 

 

 

セッコはクレイジー・ダイヤモンドの能力により、『石橋と一緒に』治されて、

 

 

 

 

 

完全に一体化してしまった………

 

 

 

 

 

麻帆良学園都市新名所:『うめき橋』

場所:麻帆良学園 聖ヘレンズ教会付近にある石橋

 

元々は、『梅木橋(うめのきばし)』という名前の石橋だが、『夜になると、橋から男のうめき声が聞こえる』という噂が流れたため、本来の名前とかけてこちらの名前が定着した。

怖い噂とは裏腹に、恋人や小学生たちの待ち合わせ場所として付近の住人に親しまれ、また、夏には肝試しのスポットにもなっている。

(麻帆良学園新聞部発行『まほら新聞』より抜粋)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「いや、これは明らかにやりすぎだろ……………」

 

石橋と一体化したセッコを見下ろしながら、ヴィータは呆れたように言う。

事後処理のために来た彼女は、セッコはどこにいるか聞いたら、この石橋まで連れてこられた。橋に男の顔があったためにビビったが、落ち着いて二人の話を聞いて出たセリフが、これだった……………

 

「い、いやーー、俺も頭に血が上ってたっつーか…なんか一時のテンションに身を任せちまったっつーか………」

「こんなことまでできるなんて………」

「『治す能力』だから便利だなぁって考えてたけど………」

「正に『クレイジー(狂った)』な能力だね……………」

「う……うぎぎ………」

 

仗助が必死にヴィータに言い訳している中、フェイト、明日菜、スバルは、セッコを見下ろし、クレイジー・ダイヤモンドの恐ろしさを知った。

 

「なるほど………つまり、こいつらは、千雨を狙っていたのね?」

「ああ………確かにこいつはそう言っていた。」

「何で私が……………?」

 

一方、徐倫、千雨、承太郎は、ネギとチンクから、セッコたちの狙いが千雨であったことを知らされる。

 

「それで気づいたんですけど、今までの敵たちって、最初から長谷川さんを狙っていたんじゃないでしょうか………?」

「「!?」」

「い………言われてみれば………オエコモバやラング・ラングラー、アヌビス神……全員、千雨がいる時に襲ってきていた!」

「単なる偶然とは思えないな………」

 

ネギの推測に、全員が息をのむ。

 

「……おいおいおいおい、じゃああれか?私は今まで巻き『込まれないよーに巻き込まれないよーに』暮らしてきたけど、実は『()()()()()()()()()()()()()()』ってことか!?」

「まあ、そうなるな………仮に今までのやつらがおまえを狙っていたならの話だが………」

「そんな…………」

 

推測とはいえ、狙われているのは自分という事実にショックを受ける千雨。すると、承太郎はこう切り出した。

 

「千雨が狙われているとはいえ、まだ奴らの『目的』はわからないままだ………千雨、お前が殺されるほど『ヤワな』やつじゃあないことは知っているが、今後は一人で行動するな。」

「………はい」

 

千雨は、彼女にしては珍しく、力なく答えた。

 

 

 

 

 

ランボ・ルギニー――再起可能

フェイトによると、管理局に協力することを条件に、罪は軽くなったらしい。

セッコ――再起不能(リタイア)

ブチャラティと茶々丸――エヴァンジェリンにより、勝負は次の満月までお預けにした。

フェイトとタカミチの車――ローンを残して再起不能。フェイトはこの後、友人のアリサ・バニングスに車を弁償することとなった。

 

 

 

 

 

←to be continued...

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………マンマミーヤ(なんてこった)!おい『ズッケエロ』、俺は夢でもみてるのかッ!」

「いや、『サーレー』………俺にも見えてるぜ…………ブチャラティだ……………」

 

陰からことの一部始終を見ていた、髪を左右でカニの足のようにセットした男―――サーレーは、隣にいた相棒のズッケエロに訪ねる。

 

『サルシッチャ』たちを探すためにここ『麻帆良』に来たら、いきなり遠くの方で『巨大ロボット』が現れたのを偶然見かけたため、気になってそのあたりまで来てみたら、意外な人物―――ブチャラティが、()()()()()()()()()()ブローノ・ブチャラティが、地中に潜る男と戦っている所だった。

 

「ど、どうするよサーレー!?」

「…………ビデオは撮ってあるな?とにかく、ボスに報告するぞ!」

 

サーレーはズッケエロにそういうと、その場を静かに立ち去った。

 

 

 

 

 

誰が言ったのか、

スタンド使いとスタンド使いは、

まるで、小指が赤い糸で結ばれた恋人同士のように『引かれ合う』―――

 

 

 

 

 

←to be continued...




32話です。
・ブチャラティ、チンク、ネギ、そして仗助の連携はお気に入り。
スティンガーを直すシーンは、形兆兄貴戦で『バッド・カンパニー』のミサイルを直して形兆兄貴にブチ当てたシーンが由来です。

・セッコ再起不能。セッコはこれから、『麻帆良版アンジェロ』として、近隣のみなさまに愛されるでしょう(笑)

・今までの敵は、実は千雨が狙いであったという事実。今後は、千雨を狙う者も現れてくるでしょう。

・サーレーとズッケエロにより、ブチャラティのことがジョルノ達に知らされました。
ラストの通り、スタンド使い同士は引かれ合う運命にあるので、それがさらに複雑に絡み合った一つの運命となります………

では、次回をお楽しみに!


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#33/ほんの少し昔の話

セッコたちの襲撃の翌日

 

グリーン・ドルフィン・ストリート麻帆良 309号室

 

 

六課が拠点として借りているマンションの三階のこの部屋は、偶然にも仗助の部屋だった。

今この部屋には仗助以外に、フェイトやスターズ陣にナンバーズ、そして、ネギや明日菜、徐倫、承太郎、千雨、あやかがいた。というのも―――

 

「ごめんね、今うちの部屋に掃除の会社の人が来ていて…………一応キレイにしてるから、早くには終わると思うから………」

「構わないッスよ。」

「へえ~、意外と片づけてんのねぇ~。」

「越してきたばっかだしな。」

「確かに、ダンボールが多いな………ところで、何で私はこんな『椅子』なんだ………?」

 

奇妙に歪み、椅子としての機能はほとんど失われ、どちらかといえば椅子よりも『オブジェ』に近い椅子に座りながら、チンクは文句を言う。

 

「いやぁ、前にムシャクシャした時に………」

「椅子にあたったのか………」

「まあ、おめーんちの家具だから、おめーが何に当たろうと構わないがな…………」

 

呆れる一同だった……

 

 

 

「……あの、先生…………」

「はい、何ですか長谷川さん?」

「長谷川さん、要件は手短にね。」

「千雨ちゃん、何か察知したの?」

「無駄に窮屈なんすけど…………みんな密着しすぎだから……………」

 

一方、千雨が座る席の左右と後ろには、SPよろしく黒いスーツにサングラスを着用したネギ、スバル、明日菜の三人が囲んでおり、前方ではリィンとカモ、そしてアギトが、同様の格好で仁王立ちしている。

なお、ルーテシアにも一式配られたが、サングラスをかけただけに止まっている。割と気に入ったらしい。

 

「ねえ、あれは何の遊び?」

「いや、スバルが千雨を護衛するって言い出して、それで『まずは形から』ってあの格好を…………」

「それにあいつらがノリノリで便乗した訳ね…………やれやれだわ。」

 

こちらも呆れるしかなかった。

 

 

 

 

 

#33/ほんの少し昔の話

 

 

 

 

 

「―――さて、皆さまに集まっていただいたのは、エヴァンジェリンさんたちに関することで、現時点でSPW財団が突き止めたことについて報告するためですわ。」

 

あやかが席から立ち、皆にいう。何人か、特にネギは真剣だが、他――ノーヴェとか――は、不真面目な態度だ。

 

「まず、エヴァンジェリンさんなのですが、カモさんに協力してもらって調べたのですが、20年前までは魔法界で600万ドルの『賞金首』だったそうです。その後にネギ先生のお父さまに『呪いをかけられた』ようですが……」

「ってなんでそんなのがうちのクラスにいんだよ!?」

「今はその『呪い』とやらで魔力は弱まっているからいいが、解かれたら厄介だな………実際、本人には解けねーようだがなぁー。」

 

あやかの報告に、千雨と仗助はそれぞれリアクションをとる。

 

「さらに調べたのですが、SPW財団の過去の資料の中に、彼女の名前がありましたわ。」

「財団の?」

「はい、それによれば、エヴァンジェリンさんは『柱の男』との戦いに参加していたとか………」

 

『柱の男』と聞いた途端、ジョースター家と千雨の目の色が変わった。

『柱の男』といえば、承太郎の祖父、ジョセフが倒した『究極生命体』だ。

それとの戦いに、エヴァンジェリンが参加していた…………?

 

「そういえば、『師匠』が言っていたな………柱の男との戦いで、魔法使いが協力してくれたって……………」

「それがエヴァンジェリンっていうのか…………?」

「まあ、その辺は本人を問いただしゃー良いだけの話だな。で、後の2人………茶々丸とブチャラティに関しては?」

 

仗助はあやかに聞く。あやかは手元の資料をめくり、話し始めた。

 

「茶々丸さんは、麻帆良大学工学部で開発された女性型アンドロイド(ガイノイド)だそうですわ。開発にはA組の超さんや葉加瀬(はかせ)さんが関わっているとか………」

「いや、マジでどうなってんのよ、あんたらのクラス…………?」

「まあ、あの2人なら何ら不思議はないけど……………」

 

ティアナのつっこみに答える明日菜。超とハカセこと、葉加瀬 聡美(さとみ)は、学園屈指の天才である。

 

「それと、ブチャラティさんなのですが……………」

「?どうしたの?」

 

ブチャラティについて、何故か口ごもるあやか。意を決したように、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死んでいるんです。六年も前に……………」

 

 

 

 

 

『!?』

 

あやかの言葉に、全員が息をのむ。いや、一人は冷静だった―――

 

「ちょ、死んでるって!?………でもあいつ、『幽霊』や『屍生人(ゾンビ)』なんかじゃあなくて、ちゃんとした人間だったぞッ」

「いえ………ですが、確かに六年前、イタリアの『コロッセオ』で死体が発見されたと―――」

「『コロッセオ』!?あいつは『()()()()()()()()()』で死んだのか!?」

 

徐倫に次いで、千雨も声を荒げる。

『六年前』の『コロッセオ』………千雨の父、ポルナレフが死んだのも、六年前のコロッセオだった。

あいつは…………ブチャラティは、自分の父となにか関連しているのか………?

 

「……………そろそろ話してくれてもいいんじゃないか、チンク?」

 

仗助の言葉に、全員の視線がチンクへと集まる。一斉に視線が集まったため、チンクは戸惑ったが、すぐに心を落ち着かせる。

 

「―――よく気づいたな……………」

「当たりめーだ。おめーのブチャラティを見たときの反応を見りゃーよぉーー、おめーとヤツが『顔見知り』だってこと位簡単に推測できるぜぇーーー。」

「ふっ、教師よりも、『探偵』とかになった方がよかったんじゃないか?お前は………」

「チンク姉………」

「わかった、話そう。私自身はあまり詳しくなかったが、ドクターやウーノたちの話も交えてだが………」

 

チンクは、静かに話しはじめた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

五年前―――

 

『ジェイル・スカリエッティ』のアジト内

 

実験用プラント

 

 

薄暗く、培養液に満たされたポッドの並ぶこの部屋を、2人の男女が歩いていた。

紫の髪を耳が隠れるくらいまで伸ばした、少し貧弱そうな痩せた科学者風の男、『犯罪者でなければ、歴史に名を残していた』とも言われるこの男こそ、ジェイル・スカリエッティその人である。

 

「例の『彼女』に頼まれた『人造魔導士』、『6体』全ての起動は順調です、ドクター。」

 

隣を歩く、スカリエッティ同様の紫の髪を腰まで伸ばし、どこかの制服のような服を着た女性―――ナンバーズNo.1『ウーノ』は、スカリエッティにそう報告する。

今このプラントには、ある『女性』から依頼された6人の『希少能力(レアスキル)持ち』の魔導士を、『人造魔導士』として蘇らせる実験が行われていた。

 

「ふむ、『以前』よりは内部機関に改良が加えられているし、早くにも実戦導入できるだろうな…………実験は成功だな。」

 

スカリエッティがそう口にした、その瞬間、

 

 

 

 

 

ドバシャァァアアア

「「!?」」

 

後ろから、まるで洪水のように勢いよく液体が流れる音がした。

2人が振り返ると、ポッドの一つに穴があき、そこから――ポッドに入っていたため――全裸の男が這い出てくる所だった。

 

「吐き気をもよおす『邪悪』とは……………なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ………!!自分の利益だけのために…………利用する事だ………なにも知らぬ『死人』を!!てめーだけの都合でッ!」

 

男は立ち上がりながら、怒りを露わにして叫ぶ。切りそろえた黒髪が顔に張り付くのも構わず、2人に向かってきていた。

 

「そんな………ポッドの強度は『管理局』のお墨付きで…………AAAクラスの魔法弾にも耐えられる構造なのに………!」

「まさかあれは………それじゃあ『レアスキル』って……………!」

「ゆるさねえッ!あんたらのやったことはッ!死者の魂の『冒涜』でしかないッ!」

 

男は背後に自分の『能力』を出し、2人に迫る!そして―――

 

「ドクター!お逃げになっ―――」

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ………」

 

スカリエッティをかばい前に出たウーノに、ラッシュが打ち込まれた!

 

「アリーヴェデルチ(さよならだ)!」

バカァァァ

「がっ………」

 

ウーノの体に『ジッパー』がひっつき、腕、二の腕、足、スネ、股、胴体と頭の九つの部位に『分解』されてしまう!

 

「や………やはりそうか!ISのもとになったという『才能』!『スタンド』!!この目で見る日が来るとは………!」

「こいつはまだ死んではいない………お前も同じ目に遭わせてもいいが、このままではマズいんでな…………まずは!」

シュババババッ

「!!」

「お前の『服』を頂こう。サイズは気にしないでおいてやる。」

 

いつの間にかスカリエッティは、男の能力により『全裸に白衣』の状態にされ、男は今までスカリエッティが白衣の下に着ていた服に袖を通している所だった。

それが男の能力であると気づき、興奮気味に男に近づこうとしたスカリエッティは、男の手刀を喰らい意識を手放した。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

緊急のアラートが鳴り響いた時、チンクは淹れていた紅茶をこぼしそうになった。何事かと飛び出してみれば、1つ上の『姉』の姿があった。

 

「クアットロ、何の騒ぎだ!?」

「あら、チンクちゃん。何でも、例のあの(ひと)、『ヴィオレッタ』に頼まれた『人造魔導士』が1体逃げ出したらしいわぁ。」

 

チンクは、ガジェットを数体引き連れて通りかかった短い三つ編みの茶髪にメガネをかけた『クアットロ』に聞く。

 

「『人造魔導士』が?」

「ええ、トーレ姉さまが実験プラントで、ジッパーで分解されたウーノ姉さまと、素っ裸で気絶したドクターを発見したらしくて………で、聞いたらその人造魔導士、『スタンド使い』だったらしいのよぉ。」

「スタンド?」

「ええ、ISのもとになったという、97管理外世界の才能よ。」

 

クアットロは『スタンド』について、ある程度なら知識があった。そのため、チンクに簡単に説明ができた。

 

「で、今そいつはどこに?」

「う〜〜ん、反応はこの当たりなんだけど…………」

 

クアットロが探知をかけている時―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズババッ

「………はえ?」

 

クアットロの近くにいたガジェットから『パンチ』が飛び出し、クアットロの首を『切り離した』!あまりにも突然の出来事に、クアットロは自分でもびっくりするくらいマヌケな声を上げた。

 

「クアットロ!?」

ドゴォッ

「ぐあっ」

 

チンクがクアットロに近づこうとするが、こんどはそのガジェットから男が出てきて、チンクを蹴り飛ばした。

 

「悪いが、ガキにかまっている暇はないんでな。さて、お前に2、3質問がある。ちゃんと『真実』のみを話せば、命は助けてやる。もしも『嘘』を話したら、その時は―――」

「は、話しますぅう〜〜〜!話しますから、どうか命だけは〜〜〜!」

 

髪を捕まれたクアットロ(頭部のみ)は涙と鼻水を流しながら、男に命乞いをした…………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「……ク!おい、チンク!目を覚ませ!何があった!?」

 

チンクが目を覚ますと、目の前に青い髪が見えた。そして、それが姉であるトーレであると気づくと同時に、完全に覚醒した。起き上がり周りを見ると、ガジェットの残骸と「首のない」クアットロがいた。

 

「トーレ!クアットロが!」

「ああ、クアットロは「頭が」見あたらないが、どういう訳か『脈』は正常だ………ウーノの時と同じ状態だ!」

「……あいつはクアットロにいくつか質問していた。『ここはどこだ?』『何故オレは生きている?』といった質問をして、私が気を失う前には、『転移ポート』まで案内しろと言っていた………」

 

チンクの言葉に、トーレは目を開く。『転移ポート』は、念のためにと設置してある施設だ。もしも『異次元世界』へ逃げられたりなんかしたら、相当厄介だ。

 

「わかった、私はそちらに向かう。お前は他のガジェットを指揮して、アジトの周りを見張るんだ!」

「わかった!」

 

チンクはそう答え、トーレと別れた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

アジト内

転移ポート

 

 

数体のガジェットを連れ転移ポートへ到着したトーレは、周りの機材を操作したが、使われた形跡は見あたらなかった。

 

「……………どうやらまだ到着していないようだな………お前ら、念のために入り口を見張れ!ヤツが来たら、攻撃しろ!」

 

そう命令されたガジェットが外に出ていくと、広い部屋にはトーレだけになった。

 

「さて、来るなら来い!返り討ちにしてくれる!!」

 

自分の固有武器「インパルスブレード」を展開し、強く意気込むトーレ。

彼女は自分のIS「ライドインパルス」に自信があった。相手は強者とはいえ、倒したのは戦闘向きではないウーノとクアットロだ。戦闘向きの自分ならば、勝てるという自信があった。

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、ならば遠慮なく行かせてもらおう。」

ズパアッ

「!」

 

いきなり声がしたと思ったら、自分の体が上下で『分裂』し、クアットロの頭を持った男が『自分の中から』出てきた!

 

「な……………なんだとぉおおおおお!?」

 

分解されたトーレは、逆さまになった視界から自分の下半身を見つめ、出てきた男を見上げた。

 

「バカな!()()()()()()()()()!!?」

「お前が『チンク』とかいうガキと話している時だ。実はあの時、オレはまだあそこにいたんだ。そして、お前が『転移ポート』に行くと言うから、『連れてきてもらった』んだ。連れてきてくれてありがとう(グラッツェ)……とだけ言っておこうか。さて、『97管理外世界』とやらの座標を教えてもらおうか。」

「は、はいぃ〜〜〜〜〜(トーレ姉さまを手玉に取るなんて……こんなやつ、勝てるわけがないぃぃ〜〜〜〜〜〜)」

 

男に一杯食わされて、トーレは戦慄し、機器の上に()()()()クアットロは戦意を失い、男に従った。

そして男は機材を操作し終えると、転移装置に立つ。

 

「あの変態博士に伝えてくれ…………『クソ食らえ』ってな!」

 

そう言うと、男は97世界へ転移していった…………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――私が知るのはここまでだ。」

「ってあいつ、めっちゃ外道じゃん!?」

「でも、『分解』しただけで殺してはいませんでしたよ?」

「私もブチャラティの立場だったら、同じことしたかも……………」

 

ウーノやトーレから聞いた話を踏まえたチンクの話が終えると、全員が感想を述べた。

 

「でも、そんな話ドクターやウーノ姉に聞いたことなかったよ?」

「お前等の中には機動していなかった者もいるし、ドクターは他の5体をその『彼女』に渡した後、その事件のことなどの資料を全て廃棄して、他言無用と言われたからな。」

「どおりで……『JS事件』の後にアジトを調べてもそんなことに関する資料が見あたらないはずだね………」

「そうだ。だが、私は97管理外世界へ転移した所までしか知らない。その吸血鬼の従者(パートナー)になった経緯は知らない………」

 

チンクはそう閉めた。すると、ネギはあることを思い出す。

 

「そういえば、ブチャラティさんはエヴァンジェリンさんに『恩がある』って言っていました。多分、その後に何かあったのかと………」

「なるほど………」

「多分、起動したばかりで『調整』も不十分だったんだね………それをあの吸血鬼に助けられた、と。」

 

ネギの推測にフェイトが補足して、一同は納得する。

 

今後、SPW財団がさらに調査するという事で、今回は解散となった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

翌日

麻帆良学園中央駅前通り

STARBOOKS COFFEE

 

 

「今日も収穫なしか………」

「オットー、そう気を落とすな。」

「そうだよ、向こうもそう簡単に尻尾を出さないよ。」

 

ディードの情報を求めて、麻帆良を回っていたチンク、オットー、スバルは、ネギや千雨、徐倫と合流して一休みしようとここに来ていた。ネギによると、明日菜も別行動のウェンディとティアナの2人と一緒に、後から来るらしい。

なお、千雨がいる理由は、オットーが

 

「ディードをさらった犯人がチサメを狙っているのと『同一犯』なら、千雨といた方がディードに近づける。」

 

と言ったからだ。

 

「おーい。」

「あ、ティア〜〜!」

「あれ?2人は?」

「あっちで席取ってるわ。ジャンケンで負けてね………」

「そう。」

 

ティアナと合流し、頼まれた飲み物を持ってその席へ向かう一同。だが、2人はテーブルに伏せている。

 

「って何短時間で寝てんだよ………」

「アスナさん、こんな所で寝たら風邪引きますよーー」

 

言いながら明日菜を揺するネギ。だが―――

 

 

 

 

 

 

ドサァッ

『!!?』

 

明日菜はウェンディ共々、そのまま地面へ倒れてしまう。

 

「アスナさん!?」

「アスナッ!ウェンディ!!」

 

ネギとチンクが2人の容体をみる。だが

 

「み………()()()()………!?」

「そんな……………!」

 

悲痛な通告が、2人から告げられた…………

 

ヒュオッ

「!!」

パシッ

 

背後から空気を切る音を聞き、振り向きざまに『それ』をつかむ千雨。それは―――

 

「………トランプ?」

 

スペードのAだった。飛んできた方を見ると、投げたと思わしき「女」が、遠くにいた。

その女は、右手で手招きしたあと、クルリと背を向けて歩き始めた。

 

「………誘ってんのか?」

「どうする?明らかに罠だよ?」

「………行きましょう!アスナさんとウェンディさんを助けられるかもしれません!」

 

ネギはそのまま、女を追いはじめ、スバルたちもアスナたちを背負い、同行することにした。

 

 

 

 

 

←to be continued...




33話です。
・サブタイトルは「ほんの少し昔の物語」から。

・冒頭のSPなネギたちはお気に入り。スバルのSP姿は結構様になってるかも(笑)

・ここのエヴァンジェリンは、カーズたちと戦っている設定です。仗助にジョセフの面影をみたのは、そのためです。

・中盤はブチャラティ無双。こういう『知恵比べ』みたいな戦いも、ジョジョの醍醐味のひとつです。

では、次回をお楽しみに!


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#34/ダービー・ザ・リベンジャー ①

麻帆良公園園内

 

 

「ええっと………はじめましてルーテシアちゃん。私…私のどかです。よろしくね?」

「うん、よろしく。」

「のどか、こんな小さい子にまで緊張してどうするですか………」

 

公園でルーテシアとアルフ(こいぬフォーム)偶然会ったのどかと夕映。ちなみにアギトは、ルーテシアの服のポケットに隠れている。

 

「ナカジマさんから、『家にお姉さんと親戚が泊まっている』とは聞いていましたが、あなたがそうでしたか。日本へは、どのような用事で?」

「…………」

【る、ルールー、話合わせて!】

 

元々口数が少ないためか、あるいは突然の質問で困ったのか、ルーテシアは黙ってしまう。

 

「あの……………?」

「お父さんを……」

「え?」

 

夕映とのどかが少し戸惑っていると、ルーテシアが不意に口を開いた。

 

「お父さんが、97管理外世界(こっち)にいるって聞いて。」

「それで、日本(こっち)に探しに来たですか…………」

 

ルーテシアの言ったことに頷く夕映。微妙にかみ合っていないような気もするが………

 

【で……出任せだよねえ?】

【さあ………?ルールーのお父さんなんて、聞いたことも…………】

 

突然のルーテシアの発言に、アルフとアギトは戸惑ってしまう。口から出任せにしては、ルーテシアの目はまっすぐだったからだ。

 

「あれ?」

 

ふと、のどかは公園の外の道を走る一団を見つけた。先頭を走るのはネギだ。その後ろを、千雨やスバルたちが走っている。中でも、スバルと徐倫は明日菜とウェンディをそれぞれ背負っているため、かなり目を引く。

 

「あれはネギ先生たち?何かあったのでしょうか…………?」

【スバル?なんかあったのかい?】

 

夕映たちも気づき、アルフはスバルに念話を飛ばす。

 

【あ、アルフさん?実は今スタンド使いを追っていて…………】

【何ぃッ!?】

 

帰ってきた答えに、アルフは肉声に出しかけるくらい驚く。すぐにフェイトへ連絡しようとしたが…………

 

「のどか、追うですよ!」

グイィッ

「え、ゆ、ゆえぇぇぇ〜〜〜!?」

 

のどかが夕映に引っ張られる形で、去っていった。

 

【ってヤバくないか!?あののどかって子、スタンド使いとはいえあの性格(キャラ)だし、ゆえって子に関しては………!】

「……私たちも行こう!」

 

言うと、ルーテシアとアルフも駆け出した。

 

 

 

 

 

#34/ダービー・ザ・リベンジャー①

 

 

 

 

 

女を追っていたネギたちがたどり着いたのは、とある『ビル』だった。

 

「このビルに入りましたね…………」

「このビル………確かどこにも買い取られないでそのままの『廃ビル』だぞ…………近々取り壊されるとか言ってたっけ………」

 

徐倫はビルを見ながら言う。ネギとティアナが入り口の左右に周り、中の様子をうかがう。

 

「罠の類はなさそうですね…………」

「ええ………行くわよ!」

 

ティアナが先陣を切り、全員がそれに続く。

 

一階は広いホールになっており、取り壊し用の機材などが置かれている。向かい側の壁を見ると、階段があった。その右の壁には―――

 

「…………分かりやすい罠だな…………」

「ここまで親切だと、逆に怪しいね…………」

 

ご丁寧に、赤いペンキで『矢印』と『5Fまで』と描かれていた。ネギたちはあえてそれに乗り、階段を駆け上がる。

 

「もうすぐ5階ですね。」

「このビルは『5階建て』だ。最上階まで呼んで一体―――」

 

徐倫が言い終わる前に、一同は5階へ到着した。

 

 

 

 

 

そこは他の階に比べて、非常に明るい階だった。

床は赤い絨毯が敷かれ、周りにはテーブルやスロットが所狭しと配置されている。テーブルにはルーレットやサイコロが置かれていた。ここはまるで―――

 

「…………『カジノ』?」

「いつの間にこんなものを…………はっ!」

 

千雨が見つけた先で、その女は座りながら、トランプをシャッフルしていた。

 

腰まで届く金髪を、後ろは先端で7カ所、前髪も左右で一カ所ずつ三つ編みにした独特の髪型。顔立ちは整っており、目は青く、その唇には赤と黒の縦縞になるように口紅を塗っている。服装は白いワイシャツに赤いベストを着用して袖にはスペードマークのカフスボタン、首には赤い蝶ネクタイと、まるでカジノのディーラーのようだ。

 

ネギたちは女の座るテーブルを包囲しつつ、女に詰め寄った。最初に口を開いたのはオットーだ。

 

「お前…………ディードをさらった一味か!」

「………私にそれをタダで教えろと?」

「とぼけるな!アスナやウェンディ姉様を襲っておいて!!」

「オットー、落ち着け!」

 

チンクがオットーをなだめる中、女はシャッフルしたトランプを整えた。

 

「あなた、トランプの『マーク』には位があるのをご存知?」

「………何?」

 

女が、トランプを扇状にテーブルへ配置する。

 

「一般的に上からスペード、ハート、クラブ、ダイヤ………ポーカーでも、クラブのフラッシュよりもスペードのフラッシュの方が強いわ。」

「何が言いたい?」

 

オットーがしびれを切らして、女に詰め寄る。すると女は、トランプの中から一枚選び、手元に寄せた。

 

「私の選んだこのカードよりも、あなたがその山から選んだカードの位が高ければ、その『ディード』って子のことを教えてあげるわ。ただし、あなたには『()()()()()()()()()。どう?」

「………わかった。選べばいいんだな」

「グッド!」

「オットー!」

 

チンクが止めるのも聞かず、オットーは女の持ちかけた『賭け』に乗ってしまう。一方、徐倫はあることを思い出しかけていた。

 

(『魂』を賭けるだと………確か前親父に聞いたような…………まさか!)

「オットー!今すぐ『賭け』を降りろ!!」

「空条?」

「もう遅い!すでに賭けは閉じられた!」

 

徐倫が叫ぶも、オットーはすでにカードを選び、開いていた。

選んだカードは『スペードのA』だ。

 

「…………ぼくの勝ちだ。これより『位の高いカード』はない。」

「そうね…………『普通は』。」

 

女もカードを開く。カードは―――

 

「なっ……………『()()()()()()()………!?」

「ふふっ、私の勝ちみたいね。ジョーカーはどこにも属さない『トリックスター』………故に、その強さは全カード中最強!!」

 

女の言葉に、オットーは絶句する。徐倫はすでに遅かったと、青ざめた。

 

「ふふっ『ジョーカーがあるからトランプは面白い』…………あなたもそう思わない?さて、では払ってもらいましょうか!」

「……えっ払う!?何を?」

「『魂』よ。あなたはさっき確かに賭けたわ。『魂』!我が『()()()()()』は代々、『魂を奪うスタンド使い』!賭けというのは、人間の魂を肉体から出やすくする!私のスタンド『ポーカー・フェイス』は、そこを奪い取る!」

『!!』

「ダービーだと……確かそいつは!?」

 

女―――『ダービー』が言うと同時に、オットーの背後にスタンドが現れた!

 

細身のロボットのような腕と下半身に女性的な胸部を持ち、顔には目元のみが開いた白い仮面を付け、両肩と胸、両腰にも同じ仮面がある。頭からはコードが髪のように伸び、それがオットーを捕まえていた!

 

「こ………これは!?う、うわああああああああああああああああ!!!」

「オットー!?」

 

スタンドが、掴んだオットーから『魂』を抜き取る!魂を抜かれたオットーの肉体が床に倒れると、女は不敵に笑った。

 

「私の名は『ルーニー・S・ダービー』。綴りは『L.U.N.Y.S.D’.A.R.B.Y.』。Dの上にダッシュがつく……オットーは賭けに敗北した…したがって、『魂』はいただく!」

 

ダービーはそう名乗ると、『ポーカー・フェイス』はオットーの魂をグニグニと形を変えていき、最後にバーーンと押しつぶす!そして―――

 

 

 

 

 

コローーーン

 

 

 

 

 

その手の中から、1枚の『チップ』がテーブルの上に落ちた。チップには、目を瞑ったオットーの顔がある………

 

「これがオットーの『魂』よ……さっき手に入れた『神楽坂明日菜』と『ウェンディ』を含めて、これで3人を再起不能にしたわ。ふふっ………」

 

ダービーはオットーのチップを拾い見せつけると、懐からチップを二枚出す。チップには、明日菜とウェンディの顔があった。

 

「!アスナさん!ウェンディさん!」

「やはり貴様、二人を………!」

「……………ダービーって聞いてようやく思い出したわ………………あんた、親父と戦った『博打打ち(ギャンブラー)』ダービーの………」

「ふふっ、やっぱり知っていたわね、空条徐倫。ええ、私はあなたの父、空条承太郎に敗れたダニエル・J・ダービーの娘よ!ここにいるのは依頼主と利害が一致したからでもあるし、父の無念を晴らすためでもあるわ!」

「貴様ッ!!」

 

チンクはスティンガーを取り出すが、ダービーは右手で征する。

 

「おっと、私を殺さない方がいいわ。私が死んだら、3人の魂は天へ行き、そのまま戻らない………つまり、『死』を意味する!『魂』を取り戻したければ、私と賭けをするしかないのよ………」

「ぐ……………」

 

ダービーの言葉に、チンクは押し黙る。すると、徐倫がダービーの向かいの席についた。

 

「空条?」

「あんたの狙いは私と千雨でしょう?だったら『ポーカー』で勝負しましょう………」

『!!』

 

徐倫の行動に、全員が驚く。普通は『勇気ある行動』と思われるだろうが、ネギたちは『無謀』と解釈した。

 

「く、空条さん!一体何を考えているんですか!?」

「そうだ!もし負けでもしたら……………」

「大丈夫だ。ポーカーなら私にも勝ち目はあるし、それに、あいつが「イカサマ」しても、私なら見破れる。」

「ふふっ、ずいぶん自信があるのね?面白いわ!」

 

ダービーは新しいトランプの箱を用意する。ふと、徐倫に聞いた。

 

「………そう言えば、例の言葉を聞いていなかったわね?」

 

ダービーに聞かれた徐倫は、やれやれ、と息を吐き、宣言をした。

 

「賭けるわ、私の『魂』を!!」

「グッド!!」

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

徐倫がダービーに勝負を挑んだ頃――

 

廃ビル1階

 

 

「ゆえ〜〜、あ、危ないよ〜〜〜帰ろうよ〜〜〜〜〜…………」

 

夕映に引っ張られる形でビルに入ったのどかは、夕映を必死に説得していた。怖いからというのもあるが、ネギたちが入ったという事は、このビルには『敵スタンド使い』の罠があるに違いない。そんな場所に、魔法もスタンドもない夕映を巻き込む訳にはいかないからだ。

 

「何を今更。最近、あの人たちはよく一緒に行動をしていますし、怪我をして登校するのもしょっちゅうです。おまけに理由を聞いても『階段で転んだ』とか『天井からタライが落ちてきた』とか『ドーナツ作りに失敗した』とかありえない返答が返ってくるですよ!?これは何かあるに違いないです!」

「何ハルナみたいなこと言ってるの〜〜〜〜〜〜〜!?」

 

だが、夕映も引き下がらない。気になってついてきたルーテシアたちも、後ろでため息をつく。

 

【どうするんだい?あの子、かなり強情だよ?】

【ルールー……】

【大丈夫…………いざとなったら『ガリュー』を呼ぶから。】

 

念話で打ち合わせる3人(2人と1匹?)。『召喚魔導士』であるルーテシアの召喚虫『ガリュー』なら、並のスタンド使いに遅れをとることはない。

そのときだった。

 

 

 

 

 

「ウウゥ〜〜〜〜〜」

「ガウゥ〜〜〜〜〜」

 

犬のうなり声がした。

 

「へ?これって…………」

「野良犬のたまり場にでもなっているのでしょうか…………?」

【アルフ…………】

【…………いや、「犬」の臭いはしない………!この『臭い』は―――】

 

ビルの中に放置された鉄骨や材木の影から、何かがいくつも飛び出した。だがそれは、『野良犬』などというかわいらしいものではなく―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウウゥ〜〜〜〜〜」

「ハフッハフッハフッ…………」

 

「ば…………バルーンアートの………」

「犬……………?」

 

もっとかわいらしいものだった。ピンクやオレンジのカラフルなバルーンアートの犬が、うなり声をあげながらフワフワとのどかたちに近づく。

だが、のどかは『かわいらしい』故に『恐怖』を感じ取った!

 

「ダービーに『援軍が来たら厄介だから見張っていてくれ』と頼まれた世界だが、どうやらそれは間違っていなかったようだな。」

 

不意に、階段の方から男の声がして、そちらを向く。

 

「一つ忠告をしておくと、君たちがそれ以上近寄らない世界なら、我がスタンド『チューブラー・ベルズ』のバブル犬は君たちを襲わない世界だ。だが、近づいた途端、バブル犬は君たちを食い殺す世界となるだろう…………私も、できれば子供は殺したくない世界なんだ…………今すぐ立ち去るがいい。」

 

出てきたのは、黒い肌の男だ。

縮れた髪を短く切り、目元には渦巻き模様の入れ墨が施されている。服は茶色いコートを着て、ジーンズにはトゲのようなものがついていた。

 

「な…………何ですかあなたは………………?」

「スタンド使い…………!」

 

のどかは、『イノセント・スターター』を出し、戦闘態勢をとる。ルーテシアも、ブーストデバイス『アスクレピオス』の準備をする。

 

「………なるほど、立ち向かう世界というわけだな……………宮崎のどか………()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、君がそいつを知っている世界なら、色々聞けたのだが………………」

「えっ………?(()()()()()…………?)」

「ゆけッ!!『チューブラー・ベルズ』!!」

 

のどかが迷う暇もなく、男のかけ声と共にバブル犬がのどかたちに向かって飛びかかる!

 

男の名は『マイク・(オー)

スタンド名は『チューブラー・ベルズ』

 

 

 

 

 

←tobecontinued...




33話です。
・サブタイトルは「ダービー・ザ・ギャンブラー」から。

・ルーテシアの父親の正体は、いずれという事で。よく考えたら、何気に桑谷さんキャラが3人っていうすごい状況だ………

・ダービー(娘)登場。前回も言いましたが、ジョジョはこういう頭脳戦も面白さの一つですので、代表格であるダービーを出しました。

・マイク・O登場。同じビル内で『頭脳』と『肉体』の闘いを繰り広げる、という展開にしてみました。

では、次回をお楽しみに!


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#35/ダービー・ザ・リベンジャー ②

ポーカーは、配られた5枚のカードを一度だけ交換して相手よりいい『役(ポーカー・ハンド)』をそろえる、ポピュラーなトランプゲームである。しかし、ゲームに『賭け』の魅力が加わると一変して複雑な心理戦が始まるゲームでもある。

表情が読みにくい『ポーカー・フェイス』とは、このゲームが語源とされている。

 

「……ジョーカーは一枚…カードに異常はない。ごく普通のカードだな。」

「ふふっ、私がカードに細工をすると思った?」

「………いや。ただ、お前のオヤジは『セカンド・ディール』を使うくらいの熟練者だったらしいからな…………やるんなら、お前は技術(わざ)で来るだろう………」

「どうかしらね……ふふっ」

 

徐倫はカードを調べ終えると、カードを集めて(デック)にする。2人の周りには、ダービー側からスバル、ネギとカモ、ティアナ、千雨が囲み、イカサマがないか見張る。チンクは明日菜、ウェンディ、オットーを側のテーブルで寝かせて、3人を介抱していた。

 

「………ナカジマ、先生、もしコイツがなんかやらかすのを見たら、容赦なくぶちのめしていいからな?」

「もちろん、そのつもりです!」

「この子、カワイイ顔してコワい事いうわね……お姉さん、困っちゃうわ~………」

 

千雨とネギのやり取りに、おどける様に笑うダービー。するとダービーは『ポーカー・フェイス』を出し、3人の(チップ)をそれぞれ六つに分けた。

 

「ポーカーには、チップ3枚じゃあ話にならないでしょ?それぞれ6つで一つの魂よ。そして、」

 

ダービーは、何も描かれていない真っ白なチップを六枚、徐倫に差し出す。

 

「その真っ白なチップが、あなたの『魂』よ。私が六枚すべて奪ったら、あなたの魂はなくなるわ。いいわね?」

「………ああ。」

 

徐倫が承諾をし、カードをシャッフルする。適当な位置で2人はカードをめくった。

徐倫はスペードのJ、ダービーはダイヤの5。

 

「ディーラーはあなたからのようね………ふふっ、では、始めましょうか!」

 

ダービーのかけ声で、『魂』を賭けたゲームが始まった!

 

 

 

 

 

#35/ダービー・ザ・リベンジャー ②

 

 

 

 

 

☆第1ゲーム★

徐倫:6―ダービー:18

ディーラー:徐倫

 

 

徐倫がカードを配り、参加料に明日菜を1枚払う。徐倫は手札をみる。カードはダイヤのA、スペードの3、8、J、ハートの6だ。

 

「二枚チェンジだ。」

 

スペードのフラッシュが狙えると思い、ダイヤのAとハートの6を捨て、チップを払う。引いたカードは―――

 

(ハートの3と………ダイヤの8か………)

 

2ペアだが、役はそろった。

ダービーも明日菜をもう1枚払い、三枚チェンジ。

 

「………その顔、いい役でもそろえたのかしらね?様子見で、神楽坂 明日菜をもう1枚賭けるわ。」

「………同じく(コール)。」

(降りなければ、1ゲーム最低3枚必要なのか………)

 

ネギとスバルは、今のゲームから必要なチップの数を再確認する。

いよいよ勝負(コール)

 

「2ペア。3と8。」

「2と6の2ペアよ……運がいいわね。でも、勝負はまだ始まったばかりよ………?」

 

6枚のチップを自陣に運ぶ徐倫に、ダービーは笑いかけた。

 

☆第2ゲーム★

徐倫:9―ダービー:15

ディーラー:ダービー

 

 

互いに明日菜を支払う。徐倫のカードは、ダイヤの4と8に、ハートの4とスペードのJと8。8と4の2ペアができていた。別にイカサマはしてない。

ダービーも二枚チェンジして、とりあえず徐倫は1枚だけをチェンジ。引いたのはダイヤのQだった。

 

「コール。8と4の2ペア。」

「悪いわね………Qの3カードよ!」

「………!」

 

賭けた3枚の明日菜が、ダービーの元に渡る。

 

「………(あーもー!何でトランプなんかで、こんなにハラハラしなきゃならないのー!?)」

 

冷や汗を流しながら、スバルは内心叫びたい気分であった。友達の魂のやり取りというだけでも気分が悪いというのに、それを決めるのがトランプという、文字通り『命を懸けたゲーム』に、気がどうにかなりそうであった。

スバル・ナカジマ。賭け事(ギャンブル)に向かない性格かもしれない。

 

☆第3ゲーム★

徐倫:6―ダービー:18

ディーラー:徐倫

 

カードはAがそろっただけのワンペアだったので、三枚チェンジする。が、思ったようにそろわなかった……

 

「Aのワンペアだ………」

「ふふっ、運がいいわね………Jのワンペア。」

「………ほっ………」

 

明日菜が3枚徐倫の元へと戻り、ほっ、と、安堵するスバルと千雨とネギ。

 

☆第4ゲーム★

徐倫:9―ダービー:15

ディーラー:ダービー

 

 

(今んとこいたちごっこな状態だな………ここいらで勝負に出るか!)

 

徐倫はそう思い、カードをめくる。カードはクラブの3、ダイヤの4と8、スペードの5と7と、ストレートが狙える。ダイヤの8をチェンジすると、上手い具合にダイヤの6が来た。

行ける!そう確信し、2枚を上乗せ(レイズ)した。

 

「コール。ストレートだ。」

「……Qの3カードよ……やるわね。」

 

一気に5枚、明日菜3枚とウェンディ2枚をGET!

 

☆第5ゲーム★

徐倫:14―ダービー:10

ディーラー:徐倫

 

 

(ブタか………)

 

今度はうまく札やそろわなかった。三枚チェンジしたら、Qの3カードになった。

 

「コールだ。」

「あら、その役で来ちゃうの?」

『!?』

 

不敵な笑みを浮かべ、ダービーが見透かしたように言う。一瞬居を突かれる一同であったが、徐倫は落ち着いたように言う。

 

「……………何のことだ?」

「ふふっ、とぼけなくていいのよ?私はフルハウスだから。」

「………!」

 

慌てて、ネギたちに目配りをする徐倫。

 

「いえ……今のところ、怪しい動きは………」

「私の方も………」

「手の動きにも注意していたけど、怪しい点はなかったわ。」

「視線や仕草に不審な点は……………」

 

4人は口々に言う。怪しい点はないようだった。

 

(だが、ただのハッタリ(ブラフ)かもしれない…………ここは、まだ様子をみよう………)

 

☆第6ゲーム★

徐倫:11―ダービー:13

ディーラー:ダービー

 

 

(ヤツがイカサマしている証拠はない………それに、ポーカーは相手の「役」が見えたとしても意味はない。自分の役は変えられないからな……………だが、何か引っかかるな……さっきの行動…………)

 

カードはQとAの2ペア、十分に勝てる役であった。

 

「コールだ。」

「ふふっ、『()()()()()()()』ね。」

「!?」

「こいつ…………」

「だが、今のに怪しい点は…………」

 

ダービーも手札を見せる。役はジョーカーを交えたストレート。3枚がダービーの元へ渡ってしまう。

 

(どうなっているんだ…………?ヤツは私の役が見えている上に、ヤツの方が役が上…………?やはり、ヤツはイカサマをしているのか!?だが、方法は?どうやって私の手札を見て、なおかつ自分の役を勝たせている?)

 

 

 

☆第7ゲーム★

徐倫:8―ダービー:16

ディーラー:徐倫

 

 

そう思って迎えた第7ゲーム。ふと、ダービーの手が山札へ延びたとき、徐倫の目に『あるもの』が見えた。

 

(そうか!あれなら、自分の手札を勝たせることができる!だが、どうやって私の手札を…………?それがきがかりだ。)

 

徐倫はダービーのイカサマの糸口を掴んだものの、ゲームに集中できず3枚取られてしまった。

 

「あらあら、手が疎かになっているわよ?ゲームを諦めてしまったのかしら?」

「徐倫………」

 

徐倫が考えていると、ダービーが挑発するように笑う。

ふと、徐倫はダービーの手元にある明日菜とウェンディの『(チップ)』を見た。そして、閃いた。これしか、考えられなかった。

 

 

 

現在7ゲーム終了

徐倫:5―ダービー:19

 

ダービーが優勢。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

廃ビル1階

 

のどか、夕映、ルーテシア、アルフ、アギト VS.マイク・O

 

 

「『イノセント・スターター』ッ!!」

 

のどかは自分たちに迫るバブル犬に向かい、近いほうには拳を、遠い方へは子亀を放つ!だが、バブル犬はふわりとそれを避けて、その内の一匹が夕映に迫り―――

 

ガブゥウッ

「なあっ!?」

「ゆえッ!!」

 

夕映の足に『噛みついた』!だが、噛みついただけには止まらず、噛みついた先から夕映の足から血管へと進入してきた!

 

「こ……これは!わ、私の体内に!?」

「ゆえッ!!」

 

のどかは夕映に近づこうとするも、バブル犬が容赦なくのどかに迫る!

その時!

 

 

 

ドガガガガッ

「え?」

 

黒い影がのどかの前に現れて、バブル犬を蹴散らした!

驚くのどかだが、その影をよく観察した。

 

2m近いカブトムシなどを思わせる体に四つの赤い目、首にはマフラーをつけていて、某特撮ヒーローを思わせる。

 

「えと………あ、ありがとうございます……………」

「…………」

 

それは言葉を発さず、ぺこりと会釈した。

 

「あ…………あれは………?」

 

夕映がいきなり現れた人(?)に驚いたその時―――

 

 

 

バァアンッ

 

 

 

「……………え?」

 

噛みついていたバブル犬が破裂して、夕映の足に太い『釘』が突き刺さっていた……………

 

「あ……あああああああああああああッ!!」

「ゆえーーーーーーー!!」

 

部屋中に夕映の叫び声が木霊する。

 

「我が能力『チューブラー・ベルズ』は、金属を膨らまして『動物』の形にし、相手を追跡する……………そして、体内へ進入して破裂する世界だ。」

 

マイク・Oは、静かに告げる。いつの間にか彼は、鉄骨の近くにまで来ていた。

 

「!ガリュー!アギト!行って!!」

「おう!」

「…………!」

 

ルーテシアは黒いそれ―――人型召喚獣『ガリュー』とアギトに指示する。

ルーテシアのポケットから飛び出たアギトは、火球を形成して鉄骨に投げつけ、ガリューはマイク・Oに迫る!

ガリューの攻撃はバブル犬により阻まれるも、火球は鉄骨を熱し、焼き切った。まだ熱いのか、鉄骨は赤く熱されていた。

 

「……考えたな。熱すれば私は膨らませない世界というわけか…………」

 

マイク・Oが静かに賞するも、今度はガリューの回し蹴りが迫る!

 

「!危ないッ!!」

「!!」

 

が、のどかの声に一歩引く。瞬間!

 

 

 

 

 

ズドォッ

「「「!!」」」

 

ガリューとマイク・Oの間に『鉄板』が降ってきた!!ガリューは足を少し切ってしまうが、後一歩前に出ていたら、片足は切断されていただろう………そう思ったルーテシアは、ぞっとした。

だが、恐怖は去った訳ではない。気がつくと頭上には、白鳥の形をした風船が数体いた。

 

「ふむ………すでに鉄板を『バブル鳥』に変えていた世界だが………気づかれたか……………なかなか勘のいい世界だな。だが、我が『チューブラー・ベルズ』は防御シールドにして、君たちへのギロチン処刑の世界を兼ねたッ!!もう後戻りはできないぞ…………すでに許される世界ではない………後悔する世界は与えないッ!!」

 

マイク・Oは、のどかたちに指を指しながら叫ぶ。

 

(な…………何ですかこれは………………さっきから一体何が起こっているですか…………………!?)

 

夕映は混乱していた。

ネギたちを追ってこの廃ビルに入ったら、変な黒人男性が現れて、風船の犬が自分たちに襲いかかり、虫みたいな生物や手のひらサイズの人が自分たちを助け、自分の足には太い釘が刺さっている…………

これが、混乱しないでいられるだろうか?いや、『できない』。少なくとも、今の夕映には無理だった。

 

「…………あきらめたらどうだ?我が『チューブラー・ベルズ』はすでに君たちを包囲している世界だ………………逃げ場はない!」

 

マイク・Oは、のどかたちに言う。すでに勝利を確信している様子だ。

ふと、夕映は入り口をみる。入り口には特に多くのバブル犬がおり、逃げ出せそうにない。だが、夕映は見た。入り口の影に『誰かいる』………!?

 

「あ…………あなたの他に………誰か『仲間がいる』ですか………?あなた以外に……ここに誰かいるですか!?」

「………?いや、このビルには私と上にいる『ダービー』だけの世界だが…………?」

 

『ダービー』が誰かは知らないが、このビルには彼と後一人が上の階にいるだけらしい。

では、入り口の『アイツ』は……?

 

 

 

 

 

『頭脳』と『体力』、二つの戦いは、決着へと向かっていく―――

 

 

 

 

 

←to be continued...




35話です。
・ひやひやしながらポーカーを見守る一同。スバルもそうだけど、ネギまサイドもリリなのサイドも、賭け事向きじゃない面々が多い気がする。

・VSマイク・O。マイク・Oは、キャラクター、能力ともに好きなキャラですし、のどかたちを足止めするには、彼の『チューブラー・ベルズ』は効果的だと考えました。

では、次回をお楽しみに!


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#36/ダービー・ザ・リベンジャー ③

「……?どうしたの?カードは配り終えたわよ………?」

 

配ったカードを見もしない徐倫に、ダービーは不思議に思う。

 

「まさかとは思うけど、私の父の時のように、ビビらせてゲームから降ろすなんて考えてるんじゃないでしょうね?」

「いや……………ところで、一つ聞きたい。」

「?何かしら…………?」

「もしお前がイカサマをしているとして、私がそれを見つけたら、お前は『負け』を認めるか?」

 

徐倫の質問に、ダービーだけではなく、ネギたちも不思議がる。なぜ徐倫は、このタイミングでそれを聞くのだろうか……?

 

「……ふふっ、何を言い出すかと思えば……………ええ、『認めるわ』。イカサマを見破られるのは、博打打ちにしてみれば恥ずべき事…………素直に負けを認めるわ。ただし、『()()()()()』の話だけど、ね。」

 

ダービーは、自信ありげに答える。徐倫は不敵な笑みを浮かべ、カードを手のひらで扇状に広げた。

 

「………ありがとう、それを聞いて安心したわ………」

 

 

 

 

 

#36/ダービー・ザ・リベンジャー ③

 

 

 

 

 

☆第8ゲーム★

徐倫:5―ダービー:19

ディーラー:ダービー

 

「思ったんだけどさぁー………」

「?」

 

互いにチップを払い、徐倫が2枚捨てながらダービーに話しかけた。

 

「アンタのおじさん………『テレンス』、だっけか?いるじゃん?」

「………ええ、空条承太郎に負けたのを機に引きこもって、今じゃあネトゲに()()()()滅多に外に出てないそうだけど………」

「ソイツも、賭けに負けたやつの魂奪う能力だけど、それ以外に『他人(ひと)の心を読む』能力持ってたそうじゃない?」

「え………?」

 

手札を捨てようとしていたダービーの手が止まる。

 

「もしかしてアンタもさぁ~~~………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()~~~………?」

「……………」

 

その場に緊張が走り、たらりと、ダービーの頬を一筋の汗がたれる。

 

(べ、別の能力…!?)

(スタンドは『1人一能力』………似通ったものはあるけれど、一人ひとりが違うスタンドを持っている………)

(だとしたら、この人も………)

 

一同が考えを巡らせていると、ふふっ、とダービーが嗤い、カードを2枚捨てた。

 

「何を言い出すかと思えば………『心理的揺さぶり』のつもりぃ~?だとしたら、とんでもなくお粗末さまねぇー………?」

 

そう言って、カードを引こうと(デック)に手を伸ばし―――

 

 

 

 

 

「そこォッ!!」

ガシィッ

「!?」

『!!』

 

しかし、伸ばした手をネギの肩から飛び出したカモに捕まれる!

 

「な……こ、このイタチは………!?」

「オコジョでぃ!姐さん、コイツ自分の引くカードすり替えていたっすよ!」

「喋った!?」

 

カモに驚くダービーであったが、カモはダービーの服の袖を噛み千切った。すると、バラバラとカードが何枚も零れ落ちた。

 

バララララ

「か!カードが『袖の中から』………!」

「『柄の同じカード』を袖の中から出して、自分が有利になれるカードを引いていたのか………」

「け、けど……どうやって徐倫のカードを言い当てて、尚且つ強い役にしていたんだ………!?」

 

千雨の言う通り、ただのすり替えだけならば、徐倫の役を言い当てたりできない。

すると、徐倫がおもむろに立ち上がった。

 

「1つ、分からないことがあってさぁー、ダービーさんよぉー………」

「む?」

「アンタ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ー?」

「うっ……?」

 

徐倫の質問に言葉が詰まるダービー。スバルが、首を傾げた。

 

「い、いつって………私たちがカフェで合流する前に………」

「そう、『合流する前』でしょうね。だけど、それだと『おかしいのよね』ぇー………」

「おかしい……?」

「だってそうでしょ?私達があの席に着くまで、1分もしなかったのよ?いくら明日菜たちでも、その短い時間の間に賭けに負けるなんて、考えられないし、そんなことをしたら、周りの客が騒ぐはずでしょ?」

「た、確かに………」

 

徐倫の説明に頷くネギ。徐倫は続けた。

 

「だったら『カフェに来る前』?でも、これだともう1つおかしい事になるわ……けれど、納得もできるのよねぇー………」

「え………?」

 

そう言うと、徐倫は自分の後ろに立つティアナに向き直り、

 

 

 

 

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

 

 

『あ!!』

「ッ………!!」

 

ティアナにビシッ!と指をさして言い放った!

 

「ま、まさか………!?」

「ティアナの位置なら私の手札も見えるわ………ティアナが後ろから見たその手札よりも強い役にしていた、ってのがイカサマの真相って事かしらねぇー………」

 

徐倫の説明に、スバルたちも頷く。すると、冷や汗でびっしょりになったティアナが口を開いた。

 

「な、何を言っているのよ!?何で私が………」

「ふ、ふふっ………勝てそうにないからって、仲間を疑うなんてねぇ………別に言い当てたりしたのは、ブラフかもしれないのに………」

「しらばっくれるんならよぉー………」

 

ティアナに次いでダービーも言う。しかし徐倫は『ストーン・フリー』を出して、

 

ドグシャァアッ

「ぐえっ!?」

『!?』

 

ティアナの顔面にストーン・フリーのパンチをお見舞いした!殴られたティアナは、離れた場所のテーブルに激突した!

 

「これではっきりするんじゃねーのぉー?」

「い、いや、むちゃくちゃすぎるんじゃぁ!?」

 

鼻血を出して倒れるティアナに徐倫が言い放つと、ネギが思わずツッコミを入れた。その時であった………

 

シュンッ

「………ん?あれは?」

 

千雨は、ティアナの体から『白い何か』が飛び出たのを見た。素早く『エンゼル』の篭手を装着すると、それを捕まえる。

 

「これは…………ヤツの『スタンド』についていた『仮面』か!」

 

そう、それはダービーの『ポーカー・フェイス』についていたものと同じ、『スタンドの仮面』だった。徐倫に殴られた影響か、表がひび割れたそれの裏を見ると丸いくぼみがあり、そこに『チップ』がはまっていた。

 

「『ランスターの魂のチップ』がはまっているな………成る程、『魂を奪った相手を操る能力』だったワケか………」

「これで言い逃れは出来ないようだなぁー!?」

「う……うぅっ……(まさか………私のイカサマが………)」

 

ダービーは徐倫の推理力に戦慄した。戦慄して、恐怖を覚えた。それはつまり……………

 

 

 

 

 

ボーーーン

「「!!」」「アアッ」

「ああッ!4人の魂が!」

「戻ってくるッ!」

「しまった!うっかり魂を……!」

「やれやれ……魂が解放されたってことは、あんたの「心」が負けを認めたということね…………」

 

チップが元の『魂』に戻り、それぞれの身体へ戻っていく!

 

「大丈夫か?お前ら!?」

「「「う〜〜〜ん………?」」」

「ジョースター家……………まさかこれほどとは………………!」

 

徐倫の洞察力に感服するダービー。父である『ダニエル』や叔父の『テレンス』が、徐倫の父承太郎に敗北した理由が分かった気がした。

 

「…………………『逃げる』ッ!!」

ガタッ

「あっこらッ!」

 

あまりの恐怖に逃げ出すダービー!徐倫たちは追おうとするが……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドグシャア

『!!』

「がっ…………???」

 

突然スタンドが現れ、ダービーを殴り倒した!

 

左半身は青、右半身は赤を基調としたボディに中央に左右を分けるように金のラインが入ったロボットのようなデザインで、目はゴーグルのようになっており、口はなくガスマスクのようだ。頭はまるで花魁の髪型のように大きく、後光が差すように角が生えている。また、頭部や手の甲、腰には大極図が描かれていた。

 

『残念だったねダービー。』

『空条 徐倫をなめてかかるからこうなるのさ。』

 

スタンドから『二つ』の声が発せられた。一つは声変わり前の少年、もうひとつは、少年と同世代くらいの少女のものだ。

 

「あ…………あなた『たち』は……………!」

『『悪いけど、連れて行かせてもらうよ!!色々聞きたいことがあるからね!!』』

 

二つの声が同時に発せられると、スタンドはダービーをつかむ。

 

「おいッお前は一体………」

「その人をどこへ連れていく気ですか!?」

『ああ、君たちにはいずれ、うちの『お嬢様』から直々に話されるよ。』

『今いえるのは、私たちは君たちの敵ではないことくらいだよ。』

『『それまで、気長に待っててね♪』』

 

スタンドはそう言うと、シュッとダービーごと消えてしまった。

 

「消えた!?」

「『オエコモバ』の時と同じだ!何の反応もなく『転移』したぞ!!」

 

ダービーは倒せたものの、新たな謎が生まれた……………

 

 

 

「……で、ブッ、何で私は……鼻を折るほどの怪我をしてるの………?」

「それについては後で説明するから…………」

(あ、操られてる間の記憶はないのね………)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

廃ビル1階

 

(…………彼女の見た者が何者かは知らない世界だが、敵である可能性が高い世界だな…………)

 

マイク・Oは夕映がみたという人物に警戒しながら、のどかたちを追い込む。

 

「……ガリュー、アギト、2人について!」

「…………」コクリ

「分かった!」

 

ルーテシアの指示で、アギトとガリューはのどかと夕映につく。

 

「お前、私から離れるなよ!」

「あ……あなたたちは一体………?」

「…………それは後で説明する!」

 

手のひらサイズの頼りないながらも、力強く夕映に叫ぶアギト。彼女もスタンド使いと戦うのは初めてだが、非戦闘員である夕映を守る思いがあった。

 

「………上っ!!」

ボウウッ

 

上から来るバブル鳥に火炎弾を放つアギト。バブル鳥は元の鉄板に戻り、半分に焼き切られて落下する。だが、すぐに別のバブル鳥が二人に迫る!

 

「ち………数が多すぎるっ」

「元々ここは改装に使う機材が多いです………それを使っているのでは…………」

 

すでに周りには二十を越えるバブル鳥やバブル犬がのどかたちを囲っていた。それらは今にも飛びかかってくる勢いだ。

 

「これで終わりだ。すでに我が『チューブラー・ベルズ』の処刑準備は完成した世界!一斉に飛びかかられては、ひとたまりもない世界だ!行け!!」

 

マイク・Oが叫ぶと同時に、バブル犬たちがのどかたちに襲いかかる!

もうダメかとのどかは諦め、強く目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………………?)

 

だが、痛みはやってこない。痛みを感じる間もなく死んだかと思い、のどかは目を開ける。

 

「!!えッ!?」

 

目を開けたのどかが見たのは、あれだけいたバブル犬たちが見当たらない、だだっ広いビルの内部だった!

 

「こ………これは!?どこだ!我がバブル犬たちはどこにいった!?!?!?」

 

どうやらマイク・Oにも事態が飲み込めないようだ。では、誰が……………?

 

 

 

 

 

「これを待っていたわ………マイク・O、あなたがこの部屋にある金属をすべて『チューブラー・ベルズ』の配下に置くこの時を!」

 

不意に入り口から声が、まだ幼さの残る少女の声が聞こえた。

そちらを見ると、のどかたちと同い年くらいの少女がいた。

身長は、靴の厚みを考慮しても夕映より少し高いくらいで、白髪に近い銀髪の髪を左右で縦ロールにしており、服装は黒を基調としたゴシックロリータ服で、左手を包み込むように布で隠している。

『お人形さんみたい』―――それが、この少女に対するのどかの第一印象だった。

 

「!ばっ、バカな!?あなたは………!」

「このビルは以前、私が使ったことがあるの。すでに『見取り図』は手に入れていたわ。サルシッチャの『アンダー・ザ・レーダー』は地図上にあるものを手元に寄せたり、逆に地図上に転移させる能力!すでにバブル犬たちは、ビルの4階に転移させてあるわ。」

 

見ると、少女の後ろには長い銀髪の男―――サルシッチャがいた。その手元には地図があり、それを覆うようにスタンドが存在していた。

 

「ル……『ルル・ベル様』!?なぜあなたがここにッ!?」

「マイク・O………彼女、『宮崎 のどか』は私にとって大切なスタンド使いなの………傷つけられては困るわ………」

「えッ?」

 

ルル・ベルと呼ばれた少女に『重要なスタンド使い』と言われて、戸惑う。

 

(わ………私が大切なスタンド使い………!?もしかしてこの人………!?)

「まさか………私たち以外でスタンド使いを生み出しているのは………!?」

「だから、あなたにはそれを命で償ってもらうわ!」

 

言うやいなや、いきなり猛スピードでマイク・Oに近づくルル・ベル!すでにスタンドの両腕が出ており、マイク・Oにラッシュを放った!

 

「オルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオル………」

ズドドドドドド

「ぐああっ!?(か……彼女の能力が私に!?)」

「………君たち、目を瞑っていろ!トラウマになりたくなければな……………」

 

サルシッチャに言われて、訳も分からないまま目を瞑るのどかたち。

唯一目を開けていたガリューは、これから起こることをルーテシアが見なくて良かったと、心から思った………

 

 

 

 

 

ルル・ベルのラッシュを喰らったマイク・Oは、徐々に「浮いていく」!それは『ラッシュの反動』ではなく、まるで『空中に吸い寄せられる』かのようだ!

 

「な………………なぜ…………あなたが……………!?」

「あなたは知らなくていいことよ…………永遠にね。」

「う…………ウゴァァァアアアアアア」

 

マイク・Oが断末魔の叫びを上げると―――

 

 

 

 

 

バンッ

 

 

 

 

 

まるで風船のように『破裂した』………………

 

 

 

 

 

「…………マイク・Oの処理は私が。」

「お願い。ああ、もう目を開けてもいいわよ?」

 

ルル・ベルが言うと、のどかたちは目を開ける。すでにマイク・Oの死体はなく、あるのは血の跡だけだった。

 

「な………何なのですか、あなたは……………!?」

「それはまたの機会に。今回は偶然通りかかっただけよ。隠れた場所にある金属をもあいつが配下におくのを待ったから時間がかかったけどね…………」

 

ルル・ベルは「一応」申し訳ないように言う。のどかは、彼女に聞きたいことがあった。

 

「………あなたが私の能力を?何のために?」

「………いずれ分かる事よ………」

 

ルル・ベルはそれだけ言うと踵を返し、音もなく転移していった。

 

 

 

 

 

ルーニー・S・ダービー――スタンド名:ポーカー・フェイス――行方不明 再起不能

マイク・O――スタンド名:チューブラー・ベルズ――死亡 再起不能

ティアナ・ランスター――この後、仗助に鼻を治療してもらう。

 

 

 

 

 

←to be continued...




36話です。
・『イカサマは心理的盲点をつくこと』、かつてダニエル・J・ダービーはそう言いました。今回の盲点は「仲間」です。よく見ると、1人だけセリフが冷静だったりします。

・ダービーをさらったスタンド使いはいずれ、という事で。

・ルル・ベルのスタンドがちらり。マイク・Oの死亡シーンは、原作での死に方とあまり変わりません………かなり残酷ですが………

では、次回をお楽しみに!


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#37/吸血鬼の家にお見舞いに行こう

女子寮

徐倫と千雨の部屋

 

 

「で、どういう訳か説明してもらえますかッ?」

 

テーブルにどっしりとかまえ、スバル達に問う夕映。ネギたちは完全に困っていた。

 

(ど……どーすんですか兄貴!こりゃー説明するまで帰ってくれやせんぜ!)

(で……でも、夕映さんまで巻き込むなんて……………)

(で…でもどうやって納得させるの?)

 

正直に答えれば夕映を戦いに巻き込んでしまうし、かといって、夕映を納得させるような嘘が見つからない……

 

(そこで問題だ!この面子(私、ネギ、徐倫、明日菜、スバル、ティアナ、のどか、カモ)でどうやってあの綾瀬を納得させるか?

3択―ひとつだけ選びなさい

答え①ぷりちーなちうたんは突如納得させるアイデアがひらめく

答え②仲間がきて助けてくれる

答え③この面子じゃ無理。巻き込んでしまう。)

(…………私が真っ先にマルをつけたいのは答え②だけど、期待はできないわね……ゆえちゃんを納得させることができそうな、例えば承太郎さんとかがあと数秒の間に都合良くあらわれて、アメリカンコミック・ヒーローのようにジャジャーンと登場して『まってました!』と間一髪助けてくれるってわけにはいかないわよ………)

(じゃあどうするのよ!?)

 

全員があたふたしている中、動いたのは徐倫だ。

 

「分かった夕映、話そう。」

「徐倫!?」

「悪い千雨、私にも無理だ…………こいつの頑固さは私もよく知ってるしな…………答えは③だ。」

 

徐倫でもダメだったのかと諦める一同。

だが、

 

 

 

 

 

「…………なるほど、つまりあれは、『麻帆良大学工科部』で実験中の警備システムだったのですね。」

「ああ、実験中に何体か持ち出した人がいて、それを回収に来たらしいんだよ。実験中の機体だったから、ケガはそんなに深くなかっただろ?」

「……ええ、傷跡も残っていませんしね。」

 

その考えは覆された。

某スケベ亀顔負けな徐倫の巧みな話術(曾祖父・ジョセフ直伝)で、夕映は徐倫のウソを信じ込み、納得してしまった。実際、麻帆良(ここ)の生徒ならそれくらい作れそうだからあながち間違いではない。

 

(す……すごいですね空条さん………)

(うん、すごいけど………)

(あいつ、私らまで欺くなんて………)

(詐欺師になれるんじゃない?)

 

助かったが、徐倫の手口に呆れる一同だった。

 

 

 

というわけで、答えは①でした。正解者に拍手♪

 

 

 

 

 

 

#37/吸血鬼の家にお見舞いに行こう

 

 

 

 

 

グリーンドルフィンストリート麻帆良

206号室

 

 

「―――で、お前を助けた奴………『ルル・ベル』って言ったか?そいつがお前やネギを矢で射抜いたっていうんだな?」

「は、はいー………本人は、そう言っていました………」

 

夕映と別れ、内緒で206(ここ)に集まった一同。

のどかを助けた『ルル・ベル』という少女………助かったが、謎だらけな少女だ。

 

「それに、おまえ等を襲った「マイク・O」の話と照らし合わせると、『矢』は盗まれた以外に『もう一本』あって、千雨を狙ってる連中とは別の勢力が持っているらしいな………」

「たしか『矢』は、破壊されたものを含めて『6本』あるんですよね?じゃあ、その一本は…………」

 

矢は1986年にエジプトの遺跡から発掘され、その内5本は『エンヤ』という老婆から散り散りに渡っていったという。1本はイタリアのギャングが所持していたが、既に破壊されているらしかった。

 

「……一本、心当たりがある。」

 

承太郎の言葉に、全員が承太郎の方を向く。

 

「『吉良 吉影』のオヤジが所持していた矢だ。」

「!き……『吉良』って確か、………!?」

「た……確かにあの矢は見つからないままッスけど………!」

 

吉良 吉影―――かつて仗助の故郷「杜王町」で15年に渡り48人の女性や、自分を邪魔する者を人知れず殺してきた殺人鬼。仗助たち杜王町の住人が倒した殺人鬼の父親が所持していた『矢』は、吉良を倒した後も見つからないままだった。

 

「ああ、それと一本だけ行方が知らないままの矢がある。それが一本ずつ、それぞれの勢力に渡っているのだろう。」

 

承太郎はそう言うと、適当な紙を持ってきてペンを走らせた。

 

「分かりやすくすると、こんな感じか?」

 

 

 

☆矢の行方★

 

・矢A――虹村 形兆が所持し、音石 明が奪ったもの。1999年に、SPW財団が回収・保管している。

 

・矢B――『吉良 吉廣(写真のオヤジ)』が所持していたもの。1999年から行方不明だが、承太郎は『聖王教会』に保管されていた『矢』はこれでは?と推測している。

 

・矢C――イタリアのギャング『ポルポ』が所持していたもの。2001年に破壊された。

 

・矢D――2001年までポルナレフが所持していたもの。イタリアのギャング『パッショーネ』により保管されている。

 

・矢E――2年前、空条 承太郎がアメリカで発見し、何者かに奪われた後に徐倫へ送られたもの。SPW財団が保管している。(徐倫やまき絵は、この矢でスタンドに目覚めた。)

 

・矢F――不明。『ルル・ベル』が所持している?

 

 

 

「―――確か、吉良のオヤジは『爆発』により天に召されたはずだ。それが原因で『矢』がミッドに転移した可能性がある。」

「なるほど…………管理外世界からミッドに転移するのに一番多いケースに、大規模な爆発に巻き込まれるというのがあります………有り得ないわげではありませんね………!」

 

承太郎の仮説にフェイトも賛同する。

 

「………とにかく、向こうが敵じゃないと言ってはいるけど、警戒した方がいいわね…………そいつらの目的も分からないし………」

 

徐倫がそうしめて、その場は解散となった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

翌朝 月曜日

麻帆良学園女子中等部廊下

 

 

(スタンド使いたちの襲撃も活発化してきている……………この間エヴァンジェリンさんは満月までって言っていたけど、それまでスタンド使いたちが待ってくれる保証はない!)

 

ネギは『果たし状』片手に廊下を歩いていた。これ以上スタンド使いとの戦いが激化する前に、エヴァンジェリンとは決着を付けたい。

 

(逃げずに立ち向かうんだ!そのための『立ち向かうもの(スタンド)』なんだから!)

 

そう意気込んで、ネギは教室のドアを開く。

 

「おはようございますッ!エヴァンジェリンさんいますかッ!?」

「あ、ネギ先生。エヴァンジェリンさんならまだ来てないですが。」

「……あ、そうですか…」

 

意気込んで入ったが、まだ来てなくて気を落とすネギ。そこへ、仗助が入ってくる。

 

「おーネギ、おはよーさん。エヴァンジェリンのやつ、風邪で休むって連絡きたぞ。」

「え?『風邪?』」

(…………魔法使いな上に吸血鬼のアイツが、風邪ひいて寝込む訳ねーよな?)

 

ネギに耳打ちする仗助。一般的に吸血鬼は『不老不死』だ。風邪ひいて寝込むなど、有り得ない。

 

「………仗助さん、HRお願いします!」ダッ

「っておい!ネギ!?」

 

クラスを仗助に頼み、ネギは駆け出した。

 

「ま………間に合っ……ってネギ!?」

「すみませんアスナさん!エヴァンジェリンのお見舞いに行ってきます!!」

「え?ちょ、ちょっとーー!?」

 

明日菜が止めるのも聞かず、ネギは走り去っていった。

 

「………しゃーねーなぁー、おーい席に着けー!HRはじめんぞー?」

『はーい!!』

 

仗助は教卓に立ち、出席簿を開いて出席を取り始めた。

 

「じゃあ、出席とるぞー……“相坂”ー?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

学園都市内

桜ヶ丘

 

 

麻帆良学園都市内でも特に自然が多い場所を、ネギは歩いていた。

 

「えーと…『クラス名簿』によると、エヴァンジェリンさんは『寮』とは別の所に住んでるのか……『桜ヶ丘4丁目29』…あ、ここかな?」

 

着いたのは、森の中に建つログハウスだった。吸血鬼らしく、墓場に建つ屋敷や古城を想像していたネギには意外だった。

 

「へぇ〜〜案外すてきな家だなぁ…………」

「少なくとも、吸血鬼が住んでる家のイメージじゃねーな………」

「そうですよね承太郎さん。…………承太郎さん!?」

 

いつの間にか、承太郎がネギの隣にいた。

 

「な………何で承太郎さんが!?」

「………あのブチャラティに聞きたいことがあってな。で、君は?」

「あ………実はエヴァンジェリンさんが風邪で休みだそうで………」

「………『吸血鬼』がか?」

 

承太郎は怪訝そうな顔をする。承太郎も吸血鬼である「DIO(ディオ)」と戦った戦士だ。故に、吸血鬼が風邪で休むとは思えなかった。

 

「………まあ、やつは『石仮面』で吸血鬼になったわけではないらしいからな………オレの知る吸血鬼とは勝手が違うやもしれん………」

「ごめんくださーーい、エヴァンジェリンさーーーん、ネギですーーー家庭訪問に来ましたーー」

 

ネギはドア横の呼び鈴を鳴らすが、誰も出てくる気配はない。

 

「は………入りますよーー?」

ガチャッ

「おい、勝手に入っていいのか…………?」

 

家に入るネギとともに承太郎も入る。………

 

「わわっ!?中は結構ファンシーだ!?」

「……こーいったトコはそこら辺のガキと大差ねーな………」

 

中はぬいぐるみや人形などが所狭しと置いてあった。血を1滴残らず吸い尽くされた死体の一つや二つ転がった室内を想像していたネギは、吸血鬼らしさがひとかけらもないこの部屋に驚き、承太郎はエヴァンジェリンが容姿相応の趣味を持っていることを知る。

そこへ―――

 

「どなたですか………?」

「ビクゥッ」

「………なんだ、あんたたちか。」

 

奥から茶々丸とブチャラティが出てきた。

 

「あ…ちゃ茶々丸さんにブチャラティさんですか。あ、えーと、この間はどうもすいませんでした。」ペコペコ

「いえ、こちらこそ。」ペコペコ

「………で、エヴァンジェリンは?」

「あいつなら、風邪こじらせて寝てるぞ。薄着で夜更かししていたせいだろう。」

 

ブチャラティの言葉に、ネギは本日三度目の驚きを見せる。

 

「え?でも不老にして不死である彼女が風邪なんかひくわけないでしょう?」

「―――その通りだ。私は元気だぞ。」

 

いつの間にか、パジャマ姿のエヴァンジェリンが二階から降りてきていた。強がっているようであったが、顔が赤く息も荒い。

 

「………ふっ、空条 承太郎も一緒か………だが、魔力が十分でなくとも、貴様ごときひよっこをくびり殺すことくらい、わけはないのだぞ?」

「マスター、ベッドを出ては………」

「エヴァンジェリンさん!!」

 

エヴァンジェリンを見つけて、ネギは果たし状をエヴァンジェリンに突きつける。

 

「………?何だそれは?」

「は、果たし状です!僕ともう一度勝負してくださいッ!」

「おい、『お見舞い』じゃなかったのか?」

「それに、そいつは次の満月までお預けだって………」

「そ、それにちゃんとサボらないで学校に来てください!このままだと卒業できませんよ!」

 

承太郎とブチャラティのつっこみをよそに、ネギはエヴァンジェリンに言う。

 

「いや、だからそれも『呪い』のせいで出席しても卒業できないんだって。まあいい。じゃあここで決着をつけるか?私はいっこうにかまわないが……」

「………いいですよ。その代わり、僕が勝ったらちゃんと授業に出てくださいね!!」

「おいエヴァ………」

「…………やれやれだぜ。」

 

両者は戦闘態勢をとり、辺りに緊張した空気が立ちこめる………

茶々丸はエヴァンジェリンを心配そうに見る………

 

そして……………

 

 

 

 

 

ぽてっ

「わーーーッ!?」

 

 

 

 

 

エヴァンジェリンがぶっ倒れた………

 

「む………すごい熱じゃないか………風邪って本当だったんだな………」

 

承太郎がエヴァンジェリンの容態をみる。茶々丸とブチャラティがエヴァンジェリンを運ぶ準備をする。

 

「すまない、二階のベッドに寝かせてくれ。」

「あ、はい!」

 

ブチャラティの指示で、ネギは彼とともにエヴァンジェリンを運び出した。

 

「ずいぶん無理をしたみてーだな………」

「マスターは風邪のほかに『花粉症』も患っていますので。」

「………本当に吸血鬼なのか、あいつは?」

 

承太郎はこの時、自分の中の吸血鬼のイメージ(主にDIO的な)が崩れたのであった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「で、オレに話ってのは?」

 

エヴァンジェリンをネギに任せ、ログハウスから出て、承太郎に問うブチャラティ。

承太郎はブチャラティを見据えたまま、コートの内ポケットに手をやる。

 

「………お前は、6年前コロッセオで『死んだ』らしいな。」

「!………エヴァから聞いてはいたが、もうそこまで調べたのか……SPW財団とやらは…………」

「そこで聞きたい。お前は―――」

 

承太郎は、内ポケットから手を出す。手には「写真」があった。

 

「6年前に、同じくコロッセオで死んだこいつを知っているか?名前は『J・P・ポルナレフ』………」

「!!」

 

「ポルナレフ」の名前と写真―――彫りの深い顔に、パンクロッカーのようにたてた銀髪の男―――ブチャラティは目を見開く。

その男のことは知っていた。

 

忘れるわけもない。

 

あの時の―――

 

「…………知っていたら、何だってんだ………………!?」

「やはりな…………やつの死には、不審な点が多い。同じ場所でお前が死んでたんなら、色々知ってそうだったんでな。」

「………………」

 

承太郎が説明するが、ブチャラティは黙ったままだ。

 

「わかった、話そう………」

 

しばらくして、ブチャラティは静かに話し始めた…………

 

 

話は、ブチャラティが所属していた組織の幹部になり、誰もその正体を知らないボスの娘―――トリッシュの護衛任務を彼のチームに与えられた所から始まった。

 

ボスに反感を持つ裏切り者の襲撃を乗り切り、ヴェネツィアにいるボスの元までトリッシュを連れてきたが、ボスは自分の手で、自分の足取りになるトリッシュを殺害するために護衛させたことを知り、トリッシュを守るためにボスに離反したブチャラティは、そこでボスの「時を消し飛ばす」スタンド『キング・クリムゾン』に敗れる。

 

だが、チームの『新入り』の力もあり何とかヴェネツィアを脱出し、トリッシュの記憶をたよりにボスの正体を探ろうとし、その時に、同じくボス―――ディアボロを倒そうと、ディアボロの正体を探す者を探していたポルナレフと知り合ったという。

 

「彼とコロッセオで落ち合う手はずだったんだが、同じくディアボロもポルナレフの存在に気づいていたんだ………それで、ディアボロと交戦になって…………」

「そいつに敗北した………というわけか…………」

「ああ………だが、彼は『希望』を残してくれた………彼が教えてくれた力『レクイエム』を、その新入りが―――」

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()が手に入れて、ディアボロを倒したんだ。」

「!!」

 

『ジョルノ・ジョバァーナ』の名前を聞いて、承太郎は目を見開く。

 

「『ジョルノ』だと…………!?その新入りは、「ジョルノ・ジョバァーナ」というのか………ッ!?」

「あ、ああ…………そうだが………?」

 

承太郎の豹変に、ブチャラティはたじろぐ。いきなり何だというのだろう?ブチャラティがそう思っていると、承太郎は額に汗をかきながら、大きなため息をつく。

 

(…………まさかこの男とジョルノ・ジョバァーナに接点があったとはな……………やれやれだぜ…………)

「おい、あんた、ジョルノのこと何か―――」

 

 

 

ガシャーーン

 

 

 

「何をみた!?どこまでみたんだ貴様ァァァーーーッ」

「べ………別に何も………」

「嘘をつけェエーーーッき、貴様等は親子揃ってぇぇええええええ!!」

 

ブチャラティが承太郎に聞く前に、二階から騒ぎ声が聞こえた。

 

「………エヴァが起きたようだな………」

「やれやれ………オレもこれでおいとましよう…………」

 

言うと、承太郎は立ち去って行った。ブチャラティは、彼の背中を見つめるしかなかった。

 

 

 

 

 

(スタンド使いとスタンド使いは引かれあう………どこでどんな風に引かれるのか、分からないものだな………)

 

 

 

 

 

←to be continued...




37話です。
・サブタイトルは「漫画家の家へ遊びに行こう」から。

・この小説内での『矢』の行方を簡単に表記。吉良の矢は未だ行方知らずなので、聖王教会にあったのはこの矢にしました。

・ネギとエヴァの夢のくだりは、原作通りです。

・ブチャラティとの会話で、承太郎はブチャラティとジョルノの繋がりを知りました………これが物語にどう影響を与えるかは、お楽しみということで。

・次回、エヴァとの決着の始まりです。

では、次回をお楽しみに!


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#38/真祖の吸血鬼(ハイデライト・ウォーカー)の襲撃

1888年

風の騎士たちの町(ウィンドナイツロット)

 

 

「ふん、あの若造―――『ツェペリ』が探していた「石仮面」の力を試してみたが………この程度か…………」

 

金髪の少女――エヴァンジェリンは、目の前で傷つき倒れる男に、がっかりだといわんばかりに言う。

 

「GUUUUU…………こ……このディオが………こんな小娘にィィィィ…………」

「世界の半分も知らぬ()()が、エラそうな口を叩くなよ………同じ『吸血鬼』でも、『年季』が違うのだよ。」

 

傷ついた男―――ディオにそう言うと、エヴァンジェリンは踵を返す。

 

「ン?オイ御主人、トドメササナクテイイノカ?」

「興ざめだ。帰って寝る。」

「!こ………このおれに情けをかけるというのか…………!!」

 

立ち去ろうとするエヴァンジェリンに、ディオは叫ぶ。エヴァンジェリンはディオをまるで養豚所の豚でも見るかのように冷ややかな目で見下ろす。

その冷ややかな目に、ディオは悟った。この小娘は、自分など眼中にないのだと。

 

 

 

 

エヴァンジェリンが立ち去った後も、ディオは悔しそうに地面を見つめるしかできなかった…………

 

 

 

 

 

#38/真祖の吸血鬼(ハイデライト・ウォーカー)の襲撃

 

 

 

 

 

現在

麻帆良学園女子中等部 コンピューター室

 

 

証明を落とした室内にはパソコンのモニターの明かりだけが光源だった。そこには、2人の人影があった。

 

「……どうだ?」

「予想通りです。やはり『サウザンドマスター』のかけた「登校地獄」の他にマスターの魔力を押さえ込んでいる『結界』があります。この結界は学園全体に張り巡らされていて、大量の『電力』を消費しています。」

 

パソコンを使い、学園のデータベースに侵入した茶々丸と、報告を聞くエヴァンジェリン。

 

「ふん、20年も気づけなかったとはな………しかし、『魔法使い』が電気に頼るとはなー………えーと……『ハイテク』ってやつか?」

「私も一応その『ハイテク』ですが…………」

 

長生きしているせいか分からないが、意外と機械が苦手らしいエヴァンジェリン。コンピューター室から出て屋上に来ると、口角を上げた。

 

「まあいい、おかげで今回の『最終作戦』が実行できる訳だ。……………そうだよな?」

「そうです。」

「よし。予定通り「今夜」決行するぞ!ブチャラティにもそう伝えろ。ふふふ………坊やの驚く顔が目に浮かぶわ…………クククク……………アーーッハッハッハッハーーー」

 

あーおかしいと、わざわざ高いところに登って笑うエヴァンジェリン。相当機嫌がいいようだ。だが、茶々丸は少し不安そうだ。

 

「―――ん?どうした茶々丸?何か気になることでもあるのか?」

「い、いえ……あの…その………」

「?」

 

エヴァンジェリンに問われて、くちごもる茶々丸。そして、少し黙った後、

 

「……申し訳ありませんマスター。ネギ先生はすでにパートナーと『仮契約』を結んでいます。」

「何!?それは聞いていないぞ!なぜ黙っていた!?相手はッ!?」

「…相手は『空条 徐倫』です。何故報告しなかったのかは………自分でもわかりません……申し訳ありません………」

「空条………()()()()のひ孫か………!」

 

茶々丸の報告に驚くエヴァンジェリンだが、すぐに冷静になる。

 

「―――ふん、まあいいさ。もはや奴に「パートナー」がいようが、関係ないからな…ぼーやの性格なら、あまり大人数で攻めてくる事もあるまい………作戦開始まで後『5時間』だ。行くぞ茶々丸。」

 

言うとエヴァンジェリンは飛び立とうとする。だが

 

ビッターーーーン

「へぶぅッ」

「マスターッ!?」

 

思いっきりつまずいて転んだ………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――まさか、セッコに続き『ダービー』と『マイク・O』がやられるなんてな………」

「おまけに、マイク・Oをやった奴は『正体不明』…………ダービーも行方不明ときた……スタンド使いは、ジョースターとやらの仲間だけではなかったのか………?」

 

暗い室内で、男たちが話す。すると、男の内のひとりが、奥に座る女性に話しかける。

 

「すいませェん奥様、よろしければ私が直々に出向かいますが……?」

「いいえブラックモア………すでに「彼」の部下が『やつ』を援護しに向かったわ…………『やつ』のスタンド―――『スペースマン』が、確実に息の根をとめることでしょう…………フフフ………」

「………信用できるんだろうな?その『スペースマン』ってスタンドは………」

 

女に向かい、ひとりの男が声をかける。

黒い帽子に黒いコートとズボンを着用した黒ずくめの男だ。だが、その目は真っ赤に充血をしており、それが男を印象付けていた。

 

「ええ、数日前に目覚めたとはいえ、強力なスタンド使いよ。安心していいわ、『リゾット』。」

「……………」

 

男―――『リゾット』に向かい、女は余裕の笑みを浮かべて言う………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

学園都市内

購買近く

 

 

「―――で、エヴァンジェリンさんはまた襲ってきそうなの?」

「今の所は何とも………でも、今日は教室に来てましたし、考え直してくれたんじゃないかなぁって思いますが………」

 

放課後、明日菜、徐倫、スバルと話しながら歩くネギ。

 

「あまり安易な考えをするなよ。吸血鬼ってのは、100年以上海の底待つくらい執念深いらしいからな……」

「ま…マジで?」

「それが本当なら、エヴァンジェリンもまだ諦めてないんじゃあ………」

「い、イヤだなぁ空条さん……クラスメートをそんな風に疑ったりしたら〜〜」

 

忠告する徐倫に対して、ネギはあくまで『先生』としてエヴァンジェリンを信じるようだ。

ふと、スバルは購買が賑やかなのに気づいた。見ると、なにやらセールをやっているようだ。スバルは、近くにいたのどかに声をかける。

 

「どーしたの?」

「あ……ナカジマさん………」

「知らないのスバル?今日の夜8時から一斉に『停電』だよー深夜12時まで。」

「学園都市全体の年2回のメンテです。」

「あ………そーいえば……………」

 

隣にいたハルナと夕映に説明されて、スバルは昨日フェイトが話していたのを思い出した。

 

(停電か………何か嫌な『胸騒ぎ』がするな…………)

「じゃあ、僕見回りに行ってきますのでーーー」

「はーい♪」

「がんばんなーー」

「スバル、私らも見回りしたほうがいいかもしれない………」ヒソ

「え?う、うん………?」

 

スバルは徐倫の言ったことが分からなかったが、とりあえず、今夜徐倫や千雨たちと共に見回りに行くことにした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

午後8時30分

女子寮

 

 

「う〜〜ん、真っ暗な寮ってなかなか怖いねぇーカモ君。」

 

停電で真っ暗になった寮を見回りしていたネギは、肩に乗るカモに話しかける。だが、当のカモは何やら「異様な気配」を察知していた。

 

「?どうしたのカモ君?」

「兄貴!!何か異様な『魔力』を感じねーか!?停電になった瞬間現れやがった!!」

「え?『魔物』でもいるっていうの?」

「分からねえがかなりの『大物』だ………まさか『エヴァンジェリン』の奴じゃ………」

 

カモの推測に、ネギはえっと声を上げる。ネギは、エヴァンジェリンは更正してもう襲ってこないと思っていたためだ。

 

「だから兄貴は甘いんだって!そんな簡単に奴が諦めるハズないだろッ!」

「で…でも…………」

『チュミミィ〜〜ン………』

 

ふと、『タスク』の鳴き声が聞こえた。見ると、どこかを指している様子だ。タスクが指した方を見てみると―――

 

 

 

ひた……ひた……

 

 

 

「ま……まき絵さん〜〜〜〜!?な……ななな………ダメですよ!『ハダカ』で外出しちゃぁあ…」

 

裸のまき絵がいた。それに対してネギは見当違いの注意をするが、そこに『異様性』を感じ取っていた。

 

「―――ネギ・スプリングフィールド………エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさまが、きさまにたたかいをもうしこむ………10ぷんご、だいよくじょうまでこい………」

「「!!?」」

 

普段とは明らかに雰囲気の違う、あえて言うなら『操られたように』話すまき絵。これは―――

 

「な………これって………」

「!分かったぜ兄貴!あいつエヴァンジェリンに『噛まれたこと』あるだろ!!真祖に噛まれたら「操り人形」だべ!」

「えっ………うそ!?」

 

ネギが驚いている間に、まき絵はリボンを駆使してまるで某蜘蛛超人よろしく建物から建物へ移動していった。

 

「な…す……スタンドが加わっているとはいえ…………」

「ありゃあ『半吸血鬼化』してるぜ……エヴァンジェリンのやつの魔力が封じられてるってのが仇になったんだ!」

 

自分の甘い判断が生徒を危険にあわせてしまった―――ネギの頭の中には、その考えから罪悪感が芽生えた………

 

「―――だから言ったろぉーネギ………」

 

ふいに、背後から声が聞こえた。振り向くと、陰から仗助と徐倫が出てきた。

 

「魔力が弱いからってよぉおおーー、油断したらケガするってなぁあーーー。」

「ふ、2人とも…………!」

「やれやれだわ………ネギ、『作戦』を決行するわ!カモは明日菜のトコに行け!こっからは私らのスタンドで立ち向かうッ!!」

 

徐倫の号令の元、エヴァンジェリン戦の作戦が始まった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

同時刻

桜通り

 

 

「なあ、私らは本当に行かなくていいのか?」

「エヴァンジェリンに『波紋』はあんま効果ないらしいし、私が行ってもあんま戦力にはなんないだろ。」

 

ベンチに腰掛けた千雨は、隣にふよふよ浮いたアギト話す。くじ引きでグループを決めた結果、千雨はルーテシアとアギトの二人と組むことになった。今は、トイレに行ったルーテシアを待っている所だった。

 

「しかし、きれーだなーーこの『花』。ええーと………『サクラ』…………っつったか?」

「ああ。ミッドには桜ないのか?」

「ああ。こんなきれーなの、始めてみたよ…………」

 

アギトが桜に見とれているその時だった。

 

「……!?(こ、これは………!?)」

 

千雨は、ある『異変』に気づいた。周囲が異様に『()()』、ベンチから「手が離れない」!?

 

 

 

 

 

日本(ジャポーネ)の、『花見』ってよォォォォーーー……」

 

ふいに声がして、二人はそちらを向く。そこには、一人の男がいた。

まるで山菜の一種『(ぜんまい)』のようにカールさせた金髪に、縁の厚いメガネをかけた男だ。服装は水色のジャケットに、縦のストライプが入った高そうなズボンをはいていた。

 

「『花』を『見』ながら料理とかを楽しむから『花見』っていうのはわかる。スゲーわかる………」

 

男は、静かに話す。千雨たちが聞いているかどうかはおかまいなしなようだ。

 

「けど、秋に『もみじを見に行く』のを『紅葉狩り』って言うのはどーいうことだァ〜〜〜〜?『見に行く』のに『狩り』って、おかしくねーかァ〜〜〜〜!」

 

いきなり、男が怒りに顔を歪ませた。

 

「キノコを取りに行くから『キノコ狩り』!ブドウを取りに行くから『ブドウ狩り』ッ!!なのに何で『紅葉狩り』は『見に行く』のに『狩り』って言うんだァーー?何で『紅葉見』って言わないんだよォォォォーーーッ……これって納得いくかァ〜〜〜おい?オレはぜーんぜん納得いかねえ………」

 

男は一通りしゃべると、いきなり桜の木を殴り始めた!

 

「くそがぁあーーッオレをナメてんのかァーーッ!!『紅葉見』でいいだろうがッ!!クソックソックソッ!!」

 

男がキレている様子を、二人は見ていることしかできなかった。呆れを通り越して『不気味』と思った。

 

「な………なんだアイツ………?」

「さあな……多分だが、やつは敵スタンド使いだ!さっきから手や尻がベンチから離れないと思ってよく見たら、『凍り付いて』いやがった………」

 

見ると、確かに千雨の周りには『霜』がおりている………!?

 

「アギト………おめー確か、炎扱えたよな…………悪いが、周り溶かしてくれないか?」

 

千雨はのんきそうに言ってはいるが、実際は心底、敵に対して『恐怖』していた………

 

 

 

超低温のスタンド『ホワイト・アルバム』

本体の名はギアッチョ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

公衆トイレ

ある個室

 

 

「………………」

 

ルーテシアは、すでに用はたしおえたのに便座から立ち上がらなかった。いや、()()()()()()()()()()()()()()。何故なら―――

 

「…………おしりが、離れない……」

 

便座と尻が『凍り付いて』、引きはがそうとするとびったりとくっついている為に痛みを伴うからであった………

 

 

 

 

 

←to be continued...




38話です。
・サブタイトルは「行ける死人(リビング・デッド)の襲撃」から。

・冒頭でディオを打ち負かしたエヴァ。世界なしで気化冷凍法のみじゃあ、エヴァには勝てないだろうと思って。でも、世界があったらディオに軍配があがるでしょう。

・両右手サイドから、ギアッチョの他の『スペースマン』は、次回登場です。ちなみに紅葉狩りは、平安時代あたりに実際に枝を折って『狩り』をしていた名残だそうです。

・千雨とアギト。なかなかない組み合わせですが、個人的にはこれから推していこうと思ってるコンビです。

・ルーテシアの災難再び(笑)用をたしおえたからよかったけど、「最中」だったらどうなっていたか………考えただけでふるえが止まりません………

では、次回をお楽しみに!


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#39/雷&氷(サンダ―・アンド・アイス)! ①

グリーンドルフィンストリート麻帆良

入り口前

 

 

「ノーヴェ!」

「の、ノーヴェさーん!」

「ホンヤ!ティアナ!」

 

マンションの前に集まっていたナンバーズと合流したのどかとティアナ。スバルたちは既に寮へと向かっているらしい。

 

「エヴァンジェリンさんが動いたって聞きましたが………」

「ああ、今ネギや徐倫、それに仗助さんが向かっているらしい。私らは念のために待機だ。」

「まあ、空条や東方みたいな実力者が一緒だし、心配は無用だとは思うが、念のためにな………」

 

チンクがのどかに諭す。先日の『セッコとランボ』との戦闘で、二人の実力―――スタンドという限られた力を上手く使う戦い方を見たチンクだからこそ、説得力があった。

 

「まあ、一応この辺りも見はった方がいいわね。のどか、あなたは『(イノセント)・スターター』の子亀で周りを見張って。ノーヴェやウェンディはいつでも出られるように―――」

 

 

 

 

 

ズンッ

 

 

 

 

 

『………!?』

 

突然、一同を『地響き』が襲った。

 

「い…………今のは…………?」

「!?!あ……………あああ……………………あれは………………!!?」

 

のどかがある一点―――『上の方向』を見つめて恐怖していた……

そちらをみた一同が見たのは―――――

 

 

 

「な………あれは!?!?」

 

 

 

 

 

#39/雷&氷(サンダ―・アンド・アイス)! ①

 

 

 

 

 

麻帆良学園都市内

商店街

 

 

「寮の方で、何かあったらしいな…………」

「そうだな………『スタンド使い』たちがいるとはいえ、心配だし戻るか?」

 

停電の闇に染まった商店街を歩く四つの人影があった。

一人は刹那、もう一人は、中学生には見えない位スタイルが良く、色黒で、修羅場をいくつも潜り抜けたような鋭い目を持った龍宮 真名(たつみや まな)、そして、承太郎とフェイトだ。

 

「………いや、スタンド使いがいるなら、私たちは不要だろう。」

「えらく冷静だな。そんなにやつらに信頼を置いてくれてんのか?」

 

冷静に答える刹那に対して、承太郎が言う。確かに今、麻帆良にいるスタンド使いたちは『杜王町』の面々と比べても実力者揃いだが、相手は『柱の男』ともやり合った吸血鬼だ。心配しない方がおかしい。

 

「いえ………ですが、ネギ先生やナカジマさんもいますし、そんなに心配は―――ん?」

 

ふと、刹那はこちらに誰か駆けてくるのが見えた。人数は多いが、その中に知った顔があった。

 

「宮崎さんに………ランスターさん?」

「あ……………承太郎さんに…桜咲さんたち………」

「どうしたの?そんなに慌てて?」

「!また『消えている』ッ!!」

「フェイトさんッスタンド使いです!周りに……特に『頭上』に気をつけてください!」

 

ティアナがフェイトたちに向かい叫ぶ。4人には何のことだか分からないが、とにかく「ヤバい」状況というのは分かった。その時だ―――

 

「!!」

 

刹那は背後に『殺気』を感じて振り向く。が、なにも見あたらなかった。

 

「………ふう、すいません、気のせいでした………少し神経質になっていました…………」

「…いや刹那………そんなことはないよ……………」

「………やれやれだぜ……………こんなに『近づかれる』まで気づかなかったなんて…………」

「…………?」

 

だが、承太郎やフェイトが『戦慄』の表情をしているのに気づくと、全員が「頭上を見ているのに」気づいた。自分も見上げてみると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!?」

 

頭上に『鎧武者』がいた!それも、身の丈『14m』ほどの!

 

鎧には所々に『SWORD』や『BLADE』と書かれており、兜には左右にバッファローを思わせる角があり、額にあたる部分には大小の『V』を繋げたような角もある。顔には『般若』と『骸骨』を組み合わせたような面をかぶっており、闇夜と相俟って、それの恐怖をかきたてた。

そんなものが、刹那たちを『跨いだ』形で、そこに立っていた。

 

「こ……………こんなのが何で……………私たちに気づかれずに……………!?」

「この間の『アルティメット・クライシス』といい、最近のスタンドはあんな『デカいの』が流行っているの?」

「あ、それは私も思った………」

 

フェイトとノーヴェがどうでもよさそうな会話をする中、鎧武者は拳を振りかざし、パンチを浴びせる。

一同はギリギリでかわし、承太郎とフェイトは攻撃に入る!

 

「プラズマランサー!」

「スタープラチナッ!!」

 

フェイトの『プラズマランサー』とスタープラチナのオラオラが鎧武者に迫る!だが―――

 

 

 

 

 

フッ

 

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

二人の攻撃が当たる瞬間、鎧武者は忽然と『消えた』!

 

「まただ!また『消えたぞ』!」

「まさか………あんな『巨体』が『消えた』だと!?」

 

全員が鎧武者を探すとき、承太郎はフェイトの後ろに陰が見えた!それはあの鎧武者だ!

 

「!フェイトッ!!」

「!!」

ドグシャアッ

 

承太郎に叫ばれて、フェイトはようやく背後の鎧武者に気づいたがすでに遅く、鎧武者により地面にたたきつけられてしまう!

 

「フェイトさんッ!!」

「一瞬で…………やはりやつは『瞬間移動』の能力…………ッ!!」

 

チンクは、鎧武者が『瞬間移動』のスタンド能力だと気づく。

あの巨体で『瞬間移動』の能力だと、かなり厄介だ。

ただでさえこの間の『アルティメット・クライシス』にてこずったのに、それに『瞬間移動』が加わったら、どこからあんな攻撃がくるか分からないからだ。

 

「全員一カ所に固まって!やつの攻撃を絞るのよッ!!」

 

ティアナが全員に指示を出すが、承太郎は冷静に鎧武者を見ていた。

 

「待てティアナ………まだ『瞬間移動』と決めつけるのは早いぜ………………」

「えっ!?」

 

承太郎の言うことが分からないティアナだったが、それ所ではなくなった。鎧武者が手を挙げたかと思うと、『太刀』がその手に収まっていた!

 

「!!ヤバいッ!!」

 

ドガァアッ

 

鎧武者が太刀を振り下ろす瞬間、ティアナたちはその場を去った。

 

「しゅッ………『瞬間移動』って決めつけるなって……………!?」

「やつの今の『瞬間移動』には、数秒『タイムロス』があった。瞬間移動なら、タイムロスは「()()」はずだぜ?」

「た…………確かに…………」

 

承太郎の説明に、ティアナとのどかは納得する。

瞬間移動、あるいはワープ等は、一般的に「タイムロスなく一瞬で移動する」ことを言う。だが、鎧武者の瞬間移動にはタイムロスが存在した。

 

「こいつは「瞬間移動」かもしれないが、別の何かという可能性もある。『注意深く観察して行動しろ』………だぜ。観察しろというのは……………見るんじゃあなく観ることだ………聞くんじゃあなく聴くことだ……………でないと…………これから死ぬことになるぜ……………!」

 

承太郎の言葉に、二人は気を引き締める。

 

 

 

スタンド名―スペースマン

本体名―夜叉丸

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

女子寮 大浴場

 

 

明かりがなく、暗闇の大浴場に、骨董魔法具(アンティーク)(スバルたち曰わく『原始的なアームドデバイス』)をフル装備したネギと、それに付き添うように来た徐倫とスバルがいた。

 

「きましたよエヴァンジェリンさんッ!!どこですか!?」

 

すると、大浴場の一角にある屋根のあるスペースに、明かりが灯った。

 

「「「!!」」」

「ここだよ坊や。まさか先日と同じ布陣でくるとはな………」

 

そこには、セクシーなボンデージに身を包んだ金髪の『美女』と、メイド服に身を包んだ茶々丸、まき絵、美砂、円、桜子、5人、そしてブチャラティがいた。

 

「!?あなたは…………」

「ふ……」

「「「……………………誰ッ!!?」」」

スッテーン

 

3人のボケに、金髪美女はすっころんだ。そして―――

 

ボンッ☆

「私だ私ィィイイイーーーッ」

「「「あーーー。」」」

 

『幻術』を解き、元の幼い容姿に戻ったエヴァンジェリンに、三人は納得する。ブチャラティは呆れてため息をついた。

 

「ったく、だから『幻術』なんて使わねーでそのままで行けって言ったのに…………」

「うるさいッ!!…………まあいい。『満月』の前で悪いが……今夜ここで決着をつけて、坊やの『血』を存分に吸わせてもらうよ。」

 

余裕の笑みを浮かべるエヴァンジェリン。だが、ネギも負けられなかった。

 

「そうはさせませんよ………僕が勝って、悪いコトするのはやめてもらいます!」

「ネギ、そこは『僕「たち」が』………だろ?」

「そうそう。」

 

2人の訂正に、ネギは苦笑する。2人は自分の生徒だが、2人には適わなかった。

 

「それはどうかな?………やれ。」

 

エヴァンジェリンがパチンッと指を鳴らすと、まき絵たちがネギたちの前に立ちはだかった。

 

「………やはりそう来ましたか…………」

「まき絵を使いに来させたから、茶々丸とブチャラティ以外にもいることは想定していた…………」

「だから、私たちは『作戦』を練ってきた!」

「……………何?」

 

3人の言葉に、エヴァンジェリンは眉をピクリとひそめる。

 

「「「それは――――――」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルッ

「「「『逃げる』!」」」

ダッターーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………え?」」

ズコーーーーッ

 

いきなり「逃げ出した」3人に、茶々丸とブチャラティは呆気にとられ、エヴァンジェリンは再びすっころんだ。

 

「………………ッてコラーーッ!!何思いっきり逃げてるんだ!お前らッ早く追えッ!!」

「「「「………あ、はい。」」」」

 

いち早く復活し、呆けていたまき絵たちに指示を飛ばすエヴァンジェリン。

 

「………ま、当然『追ってきますよね』。」

「こいつらは任せたぜ…………『楓』、『おじさん』!!」

 

 

 

 

 

ブワアッ

『………?』

 

徐倫がそう言うと、ローブを着たネギの懐から『布』が二枚、零れ落ちた。まき絵たちは何だろうと思うと―――

 

 

 

 

 

「ドララララララララララァアアアーーーーーーッ」

ズババババッ

 

布の中から、「クレイジー・ダイヤモンド」の拳の連打―――『ドラララ』が『飛び出した』!

まき絵と円は何とかかわすが、美砂と桜子はモロに食らってしまう!

 

「何ィイ!?(ぬ、布の中から……!?)」

「すぐに治したからよぉおー、ちょいと『気絶した』程度にすむぜぇえーーー。これで『2対2』だ!」

「うーむ、なかなか恐ろしい能力でござるなぁー………」

 

エヴァンジェリンたちが驚いているうちに、いつの間にか布のあった場所に仗助と楓がいた。楓は、まるでというか、そのまま『忍者』の格好だ。

 

「ネギ坊主、司令官(コマンダー)、それにナカジマ殿………2人は拙者たちに任せて、お主等は―――」

「ああ、行かせてもらうぜ!」

「エヴァンジェリンさんッ僕はこっちですよッ!!」

「…………そう言うことか。」

「大方、東方 仗助の入れ知恵だろう………だが、」

 

ネギたちの意図を察したエヴァンジェリンとブチャラティ。つまりは、『こちらの戦力を分散させる』のが目的だろう。それを考えて、エヴァンジェリンは『魔法の射手』の発射態勢に入る!

 

「逃がすと思うてかッ!!」

ドッバァアアーーーッ

「うおおッ来た来た来たぁーーーッ」

「『(タスク)ッ』!!」

ガシャアアーーン

 

エヴァンジェリンの『魔法の射手』が迫る中、ネギは大浴場の窓をぶち破り、そこから『逃走』する。徐倫も、スバルの『ウィングロード』の上を走り、そこから抜け出した。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄ァァアアアーーーッ逃がさんぞ若造どもがァアアーーーーッ!!」

「マスター、調子に乗りすぎです。」

 

ハイテンションに叫ぶエヴァンジェリンに茶々丸がツッコミを入れながら、3人もそこから外に出て行った。

 

 

 

 

 

「―――さて、やつらも出て行ったし、オレらもおっぱじめるか。」

 

ネギたちが出て行ったのを確認し、仗助がそう切り出した。すると、まき絵の側に『グロウン・キッド』が姿を表した。

 

『フム、スマナイ。まき絵ニハ何度も話しかけたガ、何ノ反応モナクテナ………』

「問題はござらんよ、グロウン・キッド。忘れたわけではあるまいな………」

 

楓はそばに落ちていた布を拾う。布のあった場所には―――

 

 

 

 

 

「我が『夢幻(ムゲン)』の能力を…………」

 

布のあった場所には、大量の刀が突き刺さっていた………

 

 

 

 

長瀬 楓(14)

スタンド名―夢幻

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

桜通り

 

千雨(スタンド名―アニバーサリー・オブ・エンゼル)+アギト(分類―融合機(ユニゾンデバイス)) VS.ギアッチョ(スタンド名―ホワイト・アルバム)

 

 

アギトに氷を溶かしてもらった千雨は、すぐにギアッチョと距離を置いた。ギアッチョのスタンド能力は詳しく分からないが、『氷結系』の能力には違いなかった。とにかく、ここは距離を置いてなるべく近づかないに限る。

 

「ほう………オレと距離を置くか………利口な奴だな。」

「ああ。お前の能力はヤバそうなんでな………」

「へ………分かってんじゃねーか………よッ!!」

 

言うと、ギアッチョが猛スピードで千雨に迫る!

 

ビュオッ

「くっ『武竜』ッ!!」

ガギィンッ

 

パンチを放つギアッチョに対して、千雨はカウンター気味に逆手の突きを放った。そして小太刀が拳と交わったときに気づいた。ギアッチョの体を『氷が覆っている』!?

 

「オレのスタンドは、超低温の世界を作り出す『ホワイト・アルバム』!すでに周りの水分を集めて凍らせた!後、一度だけ親切に教えてやるが、あまり長い時間ふれない方がいいぜぇー?」

ビキキキキ………

「!?ちぃッ」

 

ギアッチョの言うとおり、小太刀の先端が凍り始めていた。慌てて離脱しようとする千雨だが、凍る速度が早い!その結果―――

 

ブツン

「!あああああわ…私の拳がッ!」

 

凍らされて、千雨の右拳が切断され―――

 

 

 

 

 

ニュウー

ピンピンピピン

パッ

「あ……あ……()()ッ!」

ズコーーーーッ

 

―――てはいなかった。一瞬速く、手首を内側にまるめたので助かったようだ。

だが、切断されたと思ったアギトとギアッチョは、思いっきりずっこけた………

 

「ってオイッ!何こんな時に大ボケかましてんだよッ!!」

「いやぁー、ギリギリだったぜ………『春蚕(しゅんご)』を手放したのは痛かったがな…………」

「名前ついてたんだ、あの刀…………」

 

見ると、ギアッチョの手元に小太刀が一振りあった。ちなみに、もう一振りは『麤皮(あらかわ)』というらしい。

 

「まあ、おかげで対策は思いついた。要は『近づかなければいいだけ』だろ?」

「………何?」

 

言うと、千雨は『エンゼル』を身に纏い、素早く離脱する。そして、近くに落ちていた空き缶を拾い―――

 

「秘剣!『降彗宮(ふるすいぐう)』ッ!!」

ゴカァッ

 

まるで野球のノックのように打ち出した!打ち出された空き缶は、猛スピードでギアッチョに迫り、

 

ドグシャアッ

「げあッ!?」

 

氷を突き破り、ギアッチョの鳩尾に命中した!

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

降彗宮(ふるすいぐう)―――

 

戦国時代、鉄砲が伝わる以前には、飛び道具といえば弓矢が主流の時代、弓矢を持たない侍は、遠くから矢を射ってくる敵に対する攻撃手段がなかった。

そこで考案されたのが、刀や槍で落ちている兜や鎧を打ち出す攻撃手段である。

双燕天翔流でもこの攻撃手段が考えられ、唯一成功したのがこの『降彗宮』であり、開祖である長谷川 赤犬齋(はせがわ あかいぬさい)は、三里先(約12km)の敵大将を射抜いたと伝えられている。

ちなみに、野球やゴルフで使われる和製英語「フルスイング」は、この技の威力にあやかってつけられたと言われている。

 

民明書房刊『日本の飛び道具百選』

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「今なんかどーでもいい情報流れなかったか?」

「まあ、原作でも民明書房ネタはあったから気にすんな。」

 

メタ的な会話をする2人だが、油断はならない。ギアッチョは数メートル吹っ飛んだが、転がりながらも纏った水分を『スーツ』のような形にしていく!

それは『鎧』のような形で、ギアッチョの全身を包み込み、足には『刃』が―――スケート靴のような刃がついていた!

それを使い、氷上を『滑るように』千雨に迫ってくる!

 

「チェッ!!まさか俺と同じ『身に纏う』スタンドだとはな……しかし負けねえ……テメエはここで死んでもらうぜ………」

「!あいつ………チサメと同じ…………しかも速いぞ!!」

「ああ………だが!」

 

近づいてきたギアッチョが千雨にふれる前に、千雨はアギトをむんずと掴み、そのまま空へ上がる。

 

「あいにく、スピードなら私の『アニバーサリー・オブ・エンゼル』も自信があるんでな!」

「…………甘いぜ!」

 

千雨はギアッチョの余裕に疑問符を浮かべるが、ようやく気づいた。ギアッチョの近くには―――

 

「み…………『水飲み場』!」

「やっと気づいたか!『ホワイト・アルバム』ッ!!」

ドバシャァァアアア

 

ホワイト・アルバムの能力により、水飲み場の水道管が『破裂』した!

破裂した水飲み場から、水が『噴火』の如く吹き出し、それは上空の千雨までも『濡らす』!

 

「し…………しまっ!」

「チサメッ!!」

「『上空(そら)』なら安全とでも思ったのかぁあーー?そんなこと、オレが何の対策もなく襲うと思ったのかぁあーー?バカめがッ!!」

 

いいながら、ギアッチョは千雨から滴る水を凍らせて、ロープのように千雨の元まで「登ってくる」!

 

「ヤバい!チサメ、早く振り払え!」

「ダメだ!つ、翼が凍って………」

「遅いぜ!ホワイト・アルバムッ!!」

ドグシャァアア

 

ギアッチョの拳が、千雨にたたき込まれた………!

 

 

 

 

 

←to be continued...




39話です。
・サブタイトルは『炎&氷!』から。

・『アルティメット・クライシス』に続く巨大スタンド『スペースマン』。デザインの元ネタは『るろうに剣心』の不二です。能力は『謎』重視で考えています。どんな能力かはまだ秘密。

・承太郎の『観察』のくだりは、ティアナやのどかには必要な言葉と考えて入れました。特にティアナには、心に染みる言葉でしょう。

・VSエヴァンジェリン。戦力分散として楓を入れました。スタンド名は水樹 奈々さんの楽曲からですが、ギアッチョとかけたわけではありません(笑)

・降彗宮は、ぶっちゃけ男塾仕様な技(笑)フルスイングの当て字から思いつきました。

では、次回をお楽しみに!


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#40/雷&氷(サンダー・アンド・アイス)! ②

暗闇に包まれた麻帆良学園都市内を、蒼く光る『道』が張り巡らされ、そこを滑るように走る影―――スバルだ。側には、並行するように飛ぶネギと、杖の後ろに座る徐倫がいた。

 

「どうだスバル!エヴァンジェリンは追ってきているかッ!?」

「うんッ!少し高い高度で飛んできてる!!」

 

スバルは後ろを確認しながら叫ぶ。ブチャラティは見当たらないが、作戦通りエヴァンジェリンたちは追ってきている。

 

「後は『あの場所』に行けば………」

「ああ、だが、少しばかり『ダメージを』与えた方がいいかもな。ネギ!『タスク』で狙えるか!?」

「少し難しいですが、やってみます!!」

 

そう言ってネギは『タスク』を撃ち出そう振り向くが―――

 

 

 

 

 

「ぬぅう~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ」

「「「おあおおあお!」」」

 

そこには、巨大な「氷の塊」を投げようとするエヴァンジェリンの姿があった………

 

「は……………発想のスケールで…………………ま………………まけた……………」

 

 

 

徐倫が呟くのと、

 

 

 

「『氷神の戦槌(マレウス・アクィローニス)』ッ!!」

 

 

 

エヴァンジェリンが「氷の塊」を投げるのは、

 

 

 

ドグシャァアアアッ

 

 

 

ほぼ同時だった…………

 

 

 

 

 

#40/雷&氷(サンダー・アンド・アイス)! ②

 

 

 

 

 

(ぐっ……………ヤロォーー…………)

 

ギアッチョの拳を喰らった千雨は、内心毒づいていた。『アニバーサリー・オブ・エンゼル』のおかげで『打撃』自体は何ともないが、腹部がすでに『凍結』を始めていた。

このままでは、すぐに身体も凍ってしまう―――そう千雨が考えていると、ギアッチョは第二撃の体制に入った!

 

(仕方ねぇッ!こうなったら―――)

 

千雨は、ある「決断」をする。それは―――

 

 

 

 

 

「『ホワイト・アルバムッ』!!」

ドグシャアッ

 

ギアッチョの一撃が千雨を襲うと、千雨は地面に向かい落ちていく!そして―――

 

 

 

 

 

ボッショォーーー

 

「ち………チサメェェエエエッ!!」

 

地面に激突し、氷の煙と共に砕け散った………!

 

「ふんっ、砕け散ったか………低温世界で動ける物質はなにもなくなる……すべてを止められる!オレの『ホワイト・アルバム』が完璧なのはそこなのだ!」

 

水飲み場から伸びた氷の柱を、消防士が鉄棒に捕まって降りる様に滑って着地したギアッチョが、勝ち誇ったように言い放つ。だが、彼が千雨の落下地点を見たとき、その目は『疑問』を抱いた色となる。

落下して砕け散ったなら、『死体』があるはずだ。だが、死体(それ)がどこにもない!?

 

 

 

 

 

パチパチパチパチ

「「!?」」

 

ふと、拍手が聞こえる。『上空』からだ。見上げたアギトとギアッチョが見たのは―――

 

 

 

 

 

「ブラボー!おお……ブラボー!!」

 

『アニバーサリー・オブ・エンゼル』を脱ぎ、「寝たままの姿勢で宙に浮く」千雨だった!

 

「し……しんじられん!!何故オレのホワイト・アルバムを喰らったのに………怪我もよく見ると軽傷だッ!何でピンピンしてんだよこいつはッ!?それに………やつの体がなぜ『宙に浮くんだ』!?」

「ったく………お前には心底やられたって思うよ…………私の隠してた『能力』をここまで使わせたんだからな…………!」

 

言うと、千雨は宙で前転しながら着地する。その際に、再び『エンゼル』を装着するが、その姿は『変貌していた』!

 

「これだ!甲冑をはずした『アニバーサリー・オブ・エンゼル』!」

「「!!」」

 

千雨の『アニバーサリー・オブ・エンゼル』は、ほとんどの甲冑をはずしていた!

千雨の首から下を黒くぴっちりして肩から腕、腰から足、首から腰に掛けて白いラインの走るボディスーツが包み込み、その上を胸部と股間をまるでビキニのような銀色の防具を付け、背中の翼はパイプのような骨組みのみとなっている。残った甲冑といえば、籠手とブーツくらいだ。

 

「あっけにとられているようだな。まあ、種を明かすと、お前の能力で身体が凍る前に『防御甲冑』を脱ぎ去ったわけだ。砕け散ったように見えたのは、エンゼルの甲冑が『弾け飛んだ』だけ………だから私は軽傷ですんだんだ。」

「な………なるほど………」

「くっ……………だが、防御甲冑がない分、今度喰らったらオメーは死ぬってことだよなぁあー。」

 

ギアッチョは千雨が生きていたことに驚いたものの、小馬鹿にしたように言う。確かに防御甲冑のない今の『アニバーサリー・オブ・・エンゼル』は、明らかに防御力が低下している。次に『超低温』を喰らってしまったら、確実に千雨の命はないだろう………

 

だが、千雨はふふん、と笑い、

「ああ、だが無理だな。」

 

と余裕を浮かべながら言い放った。そして―――

 

 

 

「何故なら、お前はもう、私に『追いつけない』!」

 

一瞬でギアッチョの『後ろに』回り込んだ。

 

「!くっ……………!」

ブンッ

 

ギアッチョはすぐに腕を振るい、振り向きざまにラリアットを放つ!

が、すでに千雨はギアッチョから数メートル離れた位置にいた。

 

「こ………これは……………!?」

「確かに防御力は低下したが、甲冑を脱ぎ捨てた分身軽になった。見えたか?私の動きの『軌跡』が?それほどのスピードだ!その気になれば『スタープラチナ』よりも速く動く自信が、私にはあるッ(時止められたら終わりだけど………)」

 

ギアッチョを見据えて、自信たっぷりに言い放つ千雨。すぐに近くに落ちていた大きめの『石』を拾い、

 

「そして喰らえッ『降彗宮』!!」

ゴカァッ

 

再び『降彗宮』を放つ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バッギィィーーン

「!!」

「!?」

 

だが、放たれた石はギアッチョに当たる前に空中で『弾かれる』!?

 

「なるほど………確かにお前のスピードはヤバいな………だがすでに説明したはずだッ!『超低温は全てを止める』!となッ!それは攻撃を止めるという事ではない!超低温の世界では動く物質は何もなくなるという事だッ!動く「気体」は流れる『液体』となり、『液体』は全て止まって「固体」となるという事だッ!ちなみに『空気』はマイナス二一〇℃で『固体』となって凍り始めるッ!見えないか?『止まった空気』が見えないか?よく見ろよ!」

 

ギアッチョが言う間、弾かれた石は空中で何度も跳ね返り―――

 

「!チサメッ!!」

バグォオーーン

「ガフッ……なッなにィ!!」

 

千雨の右肩に食い込んだ!

 

「『ホワイト・アルバム・ジェントリー・ウィープス!(静かに泣く)!』すでに空気の凍った壁を作っていたぜ!!『スタンドのパワー』はかなり使うが、もう何者だろうとこのギアッチョに『空き缶や石』なんぞ打ち込めないようになッ!」

 

かつて『拳銃使い』と戦った際に学んだ教訓が、こんな所で役に立つとは思ってもいなかった。だが、相手が飛び道具を使うなら、この技―――『ジェントリー・ウィープス』は有効だ。これならば、『あの女』の元へ千雨の首を差し出せるだろう。

 

「そして喰らえッ!『ホワイト・アルバム』ッ!!」

 

そしてギアッチョは、千雨にトドメを刺すべく接近する!

 

「チサメェェエエエーーーーッ」

ボワァアアッ

「!?」

 

だが、それはアギトの放った『火球』により阻まれる!何とか踏みとどまる事で回避するギアッチョだが、火球は『フォークボール』のように変化し、地面へ衝突する。そしてその結果―――

 

ボボボォオオッンッ

「うおっ!?」

 

超低温まで『冷やされた』地面と『炎』により『水蒸気爆発』が発生!白い霧が、辺りを包み込んだ!

 

「や………ヤロー………これを狙って…………」

「チサメッ!今の内に!」

「ああ!サンキューな(メルスィ)、アギト!」

 

どこからか声が聞こえるが、キョロキョロと見回してもどこからかが分からない。ギアッチョは、千雨たちを見失っていた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「大丈夫かチサメ?」

「ああ、傷はそんなに深くねぇよ……咄嗟に身を引いて、ダメージを抑えた………しかし考えたな……『冷やされた地面』に『炎』を当てて『水蒸気爆発』を発生させるなんて………」

 

ギアッチョから数十メートル離れた草むらで、千雨とアギトは話していた。

千雨は先ほどのアギトの作戦に舌を巻いていたが―――

 

「い……いや………実は手元が狂っただけで…………」

「偶然かよ……………」

 

偶然と知り、あきれ顔となる。

 

「だが、思わぬ収穫だ。考えたら当然だよな、やつの『超低温』に『炎』は有効的だって事は………」

「ああ、私の炎なら、やつの氷を溶かせる!」

 

そう、アギトの炎ならば、ギアッチョの超低温に十分対抗できる。だが、千雨はまだ不安そうだ。

 

「けど、あいつはさっきの行動でアギト(おまえ)に警戒をしているだろうな………さっきは偶然とはいえうまくいったが、今度はそうは行かないだろう……何かいい手はないか………?」

 

千雨が顎に手を当てて考えていると、アギトは自慢げに言う。

 

「ふっふーーん♪チサメ、私にいい考えがあるぜ。」

「何?」

「ここはこの『烈火の剣精』アギトさまに任せな!」

「お前、何する気だよ………?」

 

千雨の質問に、アギトは自信たっぷりに言う。

 

「忘れたのかよ?私は融合機(ユニゾンデバイス)なんだぜ!!」

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いや、私『ユニゾンデバイス』が何か知らないし………」

「あ、うん、そうだよね………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ようやく水蒸気が晴れると、ギアッチョは千雨を探し始めた。

 

「チェッ!あいつのそばにいた『チビ』………炎が扱えたのか……………しかし、あいつ『スタンド』なのか?にしてはちょいと口が達者すぎるぜ……………『ミスタ』のスタンドよりも頭良さそうだったし………………」

 

ギアッチョが疑問に感じたことを口に出していると、突如、頭上から『火球』が降り注いだ!

 

「ッ!!」

 

一瞬早く気づいたギアッチョは、ギリギリでかわすと、すぐに飛んできた方向を見た。恐らくは、さっきの『チビ』だろう。千雨から離れて、火球を放った隙に千雨が攻撃する手筈だったのだろうが、そうはいかない!そう考えたのだ。

だが、見上げてもなにもいない。もう別の場所に移動したのかと思い、キョロキョロ見回していると―――

 

 

 

 

 

「どこ見てんだ?」

「!!?」

 

「双燕!」『天翔流!』

「『旋風刃(せんぷうじん)(ほむら)ッ!』」

シュバババァアアーーー

「ぐおおっ!?」

 

後ろを取られたと思ったら、千雨の回転を利用した斬撃が放たれていた!すかさず後ろへ飛んだために傷は浅いが、腕にダメージを負ったギアッチョは、ようやく千雨の姿を確認した。

 

「ちっ………浅かったか………」

『けど、思った通りだ。やつに『炎』は効果的だぜ!』

 

千雨は、再びその姿を『変えていた』!

ボディスーツは薄い紫色になり、籠手とブーツ、そして胸につけていた防具はメタリックレッドの鋭利的なデザインに変わり、背中の翼は骨組みもなくなり、代わりに赤い炎のような翼がついていた。

そして、千雨自身も変わっていた。その髪は赤みがかった銀髪となり、瞳はブルーだ。

だが、ギアッチョが驚愕したのは、その手に持った小太刀だった。両の手に収まった小太刀には、『炎が纏われていた』からだ!

 

「な………何だよそいつはッ!!?」

「ふ…………アギトと『合体(ユニゾン)』した姿…………さしずめ『SIMPLE PLUS(サンプル・プリュ)(単純強化)』とでも名付けようか………………!」

『まさにシンプルな名前だな…』

 

『SIMPLE PLUS』となった千雨は、ギアッチョを見据えて言い放った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

さて、なぜ千雨は再びその姿を変えたのかを説明させてもらおう。

 

 

 

アギトは、『融合機(ユニゾンデバイス)』と呼ばれるデバイスである。ユニゾンデバイスとは、所有者と融合を果たすことによって驚異的な能力向上を果たす機能を有するデバイスである。

そして、アギトには『炎熱変化』という、魔力を炎熱に変える特性がある。

つまり、アギトとユニゾンした今の千雨―――『SIMPLE PLUS』は、『超スピードと火炎攻撃』を兼ね備えた状態なのだ!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

『魔法とスタンドの相性が不安だったがよぉーーー、何とか成功してやれやれってとこだなぁあーーーー。』

「ああ、後は私の技とスピード、アギトの魔法と炎熱の『タッグ技』と行くぜッ!!」

 

言うと、千雨は石を拾う。そして―――

 

「秘剣!」『降彗宮!』

「『プロミネンス・シュートッ!!』」

ゴカァッ

 

降彗宮を放つ!しかも、今度の石は『燃えていた』!

 

「ちっ!『ジェントリー・ウィープスッ』!!」

 

ギアッチョもジェントリー・ウィープスを発動させるが―――

 

ジュゥウッ

「げっ!?」

ドグシャァアッ

「うがぁっ」

 

『凍らせた空気』が炎で溶かされて、ギアッチョはモロに食らう!

 

『よし!チサメ、トドメだ!』

「ああ!行くぜッ!!」

 

言うと、千雨は剣を構え、そのままギアッチョに向かい走り出す!

 

「『奥義!時雨月華・不知火(しらぬい)ッ!!』」

ズババババババババババッ

 

ギアッチョは為す術もなく、炎の力が加わった連続突きを喰らい吹き飛ぶ!

 

「かッ!!『火炎』と……『超スピード』ッ………ナルホド………いくら冷やして…止めようとしても………冷やすのが()()()()()()ってワケか………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ぐッ……………あが、ぐ……………」

「ん?まだ息があるぞこいつ?」

「手加減はした…………すぐには死なせない。お前には聞きたいことがあるからな。」

 

スタンドを解除して、倒れたギアッチョを見下ろしながら千雨は質問をする。

 

「なに、簡単な質問だ。『私の命を狙っているやつ』についてだ。」

「…………ちっ、仕方ねぇな…………元々あの『女』にはそんなに尽くす理由はないしな…………」

 

ギアッチョは、静かに話し始めた。

 

「あの女はよぉーーー…………お前のオヤジ…………『ポルナレフ』に恨みがあるのさ……………」

「!父さんに……………!?」

「そうさ……………やつの名前は知らねえ…………名前を聞いたが、多分『偽名』だ…………だが、やつを知る『目印』がある…………」

 

ギアッチョの話を静かに聴く千雨とアギト。だが、千雨は次に聞いた言葉に、耳を疑う。

 

「やつは…………『()()()………………()()』、なんだよ…………」

「左手が…………右手?」

 

千雨とアギトには意味が分からなかったが、ギアッチョはにやりと笑う。

 

「左手が右手…………聞いた事はあるが………」

「へっ……………まあ、オレみてえなスタンド使いたちは……………まだまだやつのもとにいる…………これから先は…………もっとしんどく……………なるだろう……………な……………」

 

最後の言葉を言い終えると、ギアッチョは息を引き取る。

アギトは黙ったままの千雨を見つめることしかできず、周りには静寂だけが残った…………

 

 

 

ギアッチョ―――スタンド名:ホワイト・アルバム―――再起不能

ルーテシア・アルピーノ―――再起可能だが、尻に凍傷を負った。

 

 

 

 

 

←to be continued...




40話です。
・冒頭の発想のスケールで負ける徐倫はワムウ戦から。意外と好きなシーンなので。

・千雨キャストオフ&クロックアップ!(笑)こう言うとカブトっぽいですが、実際はポルナレフのシルバー・チャリオッツの能力を受け継いだだけです。千雨は翼による飛行能力が附加されているから、チャリオッツより速いですが。
見た目は、ナンバーズの戦闘服に骨組みのみの翼とビキニアーマー、籠手とブーツを追加した感じ。

・千雨、アギトとハイパーキャストオフ…………もといユニゾンイン!マジでカブトっぽいな(笑)
見た目は少し鋭利的な鎧となりましたが、千雨自身はポルナレフをベースに赤っぽく変化しています。

・次回はエヴァ&スペースマンとの決着。いよいよエヴァ編もクライマックスです。

では、次回をお楽しみに!


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#41/雷&氷(サンダー・アンド・アイス)! ③

1986年

イギリス ロンドン

 

暗い真夜中のロンドンを歩く小さな陰がふたつあった。一人は10歳ほどの少女で、もう一人―――いや、『()()()()』は、彼女の腰位の大きさのある『人形』だった。

 

「………ふん、JOJOのやつめ………『仕事が忙しいからジョナサンの墓参りを代わりにしといてくれ』だと?ふざけおって!」

「ソーヤッテ『ブータレ』ナガラモ来テル御主人モ御主人ダガナ。」

「うるさいッ!!」

 

ケケケケと笑う人形―――チャチャゼロを怒鳴りつけるエヴァンジェリン。

 

あのヘラズ口をたたくトッポイ男に会ってからウチの御主人は変わったなと、チャチャゼロは思っていた。以前の御主人なら、こんな頼みごとなど受けなかっただろうに。

あんなノーテンキ男のどこが良いのだろう?チャチャゼロには、それが分からなかった。

 

 

 

 

 

「―――――フム、ロンドンか………懐かしいな……………」

「「!?」」

 

不意に、背後から声がした。男の声だ。

振り向いたエヴァンジェリンは、その男に、生涯で一番であろう『恐怖』を抱いた。

 

心の中心に忍び込んでくるような凍り付く眼差し、黄金色の頭髪、透き通るような白い肌、男とは思えないような怪しい色気―――

以前、100年ほど前に出会った『石仮面』の吸血鬼!JOJOから聞いた、大西洋から蘇った吸血鬼!JOJOの祖父、ジョナサン・ジョースターの肉体を乗っ取った吸血鬼!こいつは――――

 

「貴様……………『DIO』ッ!!」

「こんばんは、闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)………100年ぶりかな?」

 

男―――ディオ・ブランドーは、甲斐甲斐しく大げさに、お辞儀をした。

 

「………JOJOからお前が復活したことは聞いていたが、何だ?100年前のリベンジにでも来たか?」

「いや、ただ私が新たに手に入れた力―――『幽波紋(スタンド)』と名付けた力を試したくてな…………部下にやらせてもいいが、実戦で試したくてこの辺りを回っていたら、ちょうど良さそうな相手がいてね………」

 

DIOはどこか色っぽい、だが、それでいて冷たい声で言う。それがエヴァンジェリンには気にくわなかった。

 

「ふん、言うではないか………(幽波紋………確かJOJOが言ってたな…………)」

 

言うと、魔法の射手の発射態勢に入るエヴァンジェリン。そして、発射しようとして…………

 

ボゴォッ

「「!?」」

 

腹に『風穴』が空き、そのまま後方に吹っ飛ぶ!

 

ドゴシャァアッ

「御主人ッ!!?」

「がっ…………い………今のは………………?」

 

壁を突き破り、瓦礫を浴びたエヴァンジェリンは、何をされたのか分からない様子で起き上がろうとする。

 

「ふむ、いくら『吸血鬼の真祖(ハイデライト・ウォーカー)』といえど、我がスタンド………『世界(ザ・ワールド)』は見えないようだな………」

 

言いながら、壁に衝突したエヴァンジェリンに近づくDIO。

 

「どれ、『魔法』で変化した吸血鬼が、どれほど『不死身』なのか試してやろう………」

 

そう言うと、DIOは手を掲げる。

エヴァンジェリンには見えないが、彼のスタンド―――『ザ・ワールド』も、手を掲げており、手刀を喰らわせようとしていた。

そして、その手が振り下ろされた時――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドグシャアッ

「「!?」」

「ヌゥウ…………これは…………」

 

DIOが『打撃らしき攻撃』を喰らい、弾かれた!

 

「ったく、『吸血鬼退治』の依頼を受けてはるばるロンドンまで来たら…………」

 

不意に声がした。何となくDIOに似た声質な気がするが、勝ち気で若い声だ。

そちらを向くと、2人の男女がいた。

女の方はフードと、目元を覆う陶磁器のような仮面を着けていて、顔は確認できない。

男は赤い髪を短く切り、ローブの下は動きやすそうな服装で、その手には長い杖を持っていた。

 

「ロリコン趣味な吸血鬼が、幼女襲ってる場面に出くわすなんてなぁあーー!」

「いや、腹に空いた穴が治り始めておる………あやつも吸血鬼じゃろう………」

「…………貴様、何者だ?」

 

DIOの質問に、男はニヤリと笑い、答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ナギ・スプリングフィールド』……………人はオレを『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』と呼ぶ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)とサウザンド・マスターの出会いだった……………

 

 

 

 

 

#41/雷&氷(サンダー・アンド・アイス)! ③

 

 

 

 

 

「クッソー、エヴァのやつ、ド派手な技使いやがって…………」

 

『氷神の戦槌』をかわしたものの、ネギと離れてしまった徐倫は、毒つきながらもスバルたちを探すべく周りを見回していた。

 

「う〜〜ん…………あれ?」

 

ふと、背後の建物から声がした。スバルだ。振り向いた徐倫が見たのは……………

 

 

 

 

 

「わっ、わっ、何これェェェエエエッ!?」

「スバルゥゥゥウウウーーーーーッ!?」

 

建物の壁からスバルの下半身が『生えて』、足をジタバタ動かしている光景だった…………

 

「――――『スティッキィ・フィンガーズ』…………壁にジッパーをひっつけて、そこにその()を入れてジッパーを閉じた…………これで一対一だ。」

 

その時、スバルの下半身の近くから、ブチャラティが姿を表した。すぐ側でスバルが足をバタバタ動かしているため、当たらないよう気を付けながら徐倫に近づいてくる。

 

「ブチャラティ…………!」

「ちょうど良い…………この間は『セッコ』のやつに邪魔されたからな…………決着をつけよう!」

 

言いながら、ブチャラティは徐倫との間合いを詰める。

 

(――――こいつには、『スティッキィ・フィンガーズ』のジッパーは通用しない………)

 

間合いを詰めながら、ブチャラティは考える。

 

(それは、あいつも承知のハズ…………)

 

同じく、ブチャラティとの間合いをはかりながら、徐倫も考える。

 

(ならば!)

(雌雄を決するのは!)

 

次の瞬間、合図もなく、2人は同時に飛び出す!

 

((純粋な破壊力(パワー)!!))

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアーーーーーーーッ!!」

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリィイイーーーーーーーッ!!」

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ

「え!?な、何ッ!! ??」

 

両者のラッシュがぶつかり合い、周囲には拳を打ち合う音が響き渡った!

しかし、上半身が反対を向いたままのスバルには音と声だけが聞こえるのみで、何が起こっているのか分からず困惑するのであった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「イノセント・スターターッ!!」

「レイストーーーーーーームッ!!」

シュババババァアアーーーー

 

のどかとオットーの攻撃が夜叉丸に迫るが、夜叉丸は消える事で回避する。そして、探している内に、気づいたら背後にいるのだ!

 

「ぴゃーーー」

「回避ッ!!」

ドガァッ

 

ティアナの号令で、夜叉丸の太刀から回避する。

攻撃して、姿を消され、背後をとられて回避――――先ほどからこれの繰り返しだ。

 

そんな時、刹那が一気に夜叉丸との距離を縮め、野太刀―――夕凪を振るう!

 

「神鳴流、斬鉄せ―――」

ガシィッ

「刹那ッ!!」

だが、刹那が技を放つ前に、夜叉丸は刹那を捕まえた!真名がすかさず拳銃(本人曰わくモデルガン)を放つが、夜叉丸は『刹那を残して』再び消えた。

 

「「………!?」」

 

それを見て、のどかとティアナは疑問を抱く。

 

(あいつ……………何で刹那を『手放した』の………?)

(瞬間移動なら、手放す必要はないはずなのに…………)

 

「…………なあ、あいつ観察していて気づいたんだけどさ…………」

 

ふと、ノーヴェがのどかたちに話しかける。その顔は、焦ったような、不思議そうな表情だ。

 

 

「何で今まで気づかなかったんだっていうような素朴な疑問なんだけどさ…………今話すべきなのか分からないけど…………」

「………?何?何に気づいたの?」

 

ティアナの問いに、ノーヴェは答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ、何であんなにデカいんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノーヴェの疑問に、2人ははっとしたようになる。

 

「そうか……………それなら『タイムラグ』の説明もつく……………!」

「それに手放したのも……………分かった!能力の正体!」

「えっ、ほ、本当かッ!?」

「ええ、やつの能力は―――――」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

桜通り

 

 

「大丈夫かよ、チサメ………?」

「ああ、ちょっと疲れただけだ………」

 

アギトは、ギアッチョが倒れてから膝をついた千雨に声をかける。どっと汗をかき、息も荒くなってはいるが、アギトを心配させないように平気だと笑いかけた。

 

「やっぱりあの形態、『SIMPLE PLUS』の負担は大きいって事か……?」

「………ああ、けっこー疲れるな………あまり気軽にホイホイと使えるモンじゃあねーな、ありゃ………」

 

アギトにそう言う千雨であったが、アギトは自分の提案で千雨が疲労した事に、少し罪悪感があった。

 

(しかし、『左手が右手の女』………どっかで聞いた気がするな………)

「千雨ちゃん!」

「千雨さん!」

「お、アスナたちッ!!」

 

その時、寮の方からギンガのウィングロードに乗って走ってくる明日菜とウェザー、そしてギンガ。一方の千雨はうつむいていたが、平気なフリをして明日菜たちの方を向く。

 

「大丈夫!?ルーテシアから念話を受けて来たんだけど…………」

「ルーテシアちゃんの方には、アキラが行ったわ。」

「ああ、もう倒したよ……『ホワイト・アルバム』という『超低温』のスタンド使いだった……強敵だったぜ(当然私ほどじゃないがね、という確固たる自身の気持ちはあるがね)。」

「そう…………あの死体は、学園の人にお願いして、私たちはネギ君の方へ―――」

 

ギンガがそう言いかけたときだ………

 

 

 

「――――すまないが、ここから先は一人しか通れぬぞ。」

『ッ!?』

 

不意に声がした。振り向くと、ローブを着て、目元を陶磁器のような仮面で隠した女性がいた。その手には、黄金色に輝く剣が握られていた。

 

「あ…………『新手』ッ!?」

「こんな時にか…………!」

「だが、一人通った後、主等が私に手を出さなければ、私も手を出さないと約束しよう…………」

 

女の言葉に、千雨は眉をひそめる。手を出さなければ手を出さないなど、なぜ言うのだろうか…………?

 

「ずいぶん余裕じゃねーか、え?」

(どうします?このまま一斉に…………)

 

ギンガがそう進言するが、

 

ポンッ

「え?」

「ギンガさん、後は頼むわ。」

 

なぜかにこやかな千雨と明日菜にそう言われて、呆気にとられた。

 

「え?ち、チサメさんたちは…………」

「え?私たち?」

「それはもちろん……………」

 

すると、千雨は『エンゼル』を身に纏い、明日菜を掴む。ウェザーがまさかと思ったその時―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「逃げるんだよォォォーーーーーーーーーーーッ」」

シュバァアアーーーーーーーッ

「あ……………」

「えぇー………」

 

ドップラー効果を残しつつ、遙か空の彼方へと飛び去って行った…………

 

「…………一瞬で私のスタンドの射程距離外へ飛ぶとは…………なかなか素早いスタンドじゃな…………」

「…………それは『感心』しているんですか?それとも『呆れて』いるんですか?」

 

明日菜たちが飛んでいった方を見ながら言う女に、呆れ気味であったギンガが聞く。

 

「どちらかと言えば『呆れ』の方が強いかのう………しかし、興ざめじゃな…………しかたない。」

 

すると女は、剣を放り投げて、腕を組んだ。

 

「主等に『7秒』やろう…………それまで私は、主等の攻撃を避け続ける。主等の攻撃が当たったら、主等の勝ちじゃ。どうじゃ?」

 

女の申し出に2人は戸惑ったが、動いたのはギンガだった。

 

「………7秒でいいんですね?」

「うむ、来るのはお主か………?」

 

構えているギンガを見て女は聞くと、耳元に手をやり、着けていた滴型の大きなイヤリングを手に持った。

 

「『合図』じゃ…………落ちてから『7秒』以内に攻撃をしてみよ…………」

 

言うと、そのイヤリングを放り投げた。そして、

 

 

 

コツーーーーン…………

 

 

 

それが落ちたと同時に、ギンガは駆け出した!

 

「はああッ!!」

ブンッ

「………」

 

ギンガの左ストレートを女は軽く避ける。続けざまにギンガは攻撃するが、それを女はひらり、ひらりと、最小限の動きで避けていく。その動きを見て、ギンガは疑問を抱く。

 

(…………何?この人の動きは…………?まるで『攻撃が来るのを知っているかのような』動きよ…………?)

 

一瞬、ギンガは彼女のスタンドが『読心』の能力かと思ったが、承太郎がそのスタンド使い―――徐倫が倒した『ダービー』の叔父―――は倒したと言っていたので、違うと考えた。

ならば、この動きは…………?

 

「………3秒前。」

 

避けながら、女は静かに言う…………

 

「2…………1…………0。」

 

そして、0になったとき……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズガガガガガガガガガガガ

「!?」

「…………タイム・オーバー。」

 

ギンガに『連打によるダメージ』が打ち込まれた!女は何もしていないのに、だ!

 

「な!?何だ今のは!?俺は奴のスタンドを見ていないぞ……!?なのに、なぜギンガが吹っ飛ぶのだ!?」

 

ウェザーが思わず叫ぶと、女が口を開く。

 

「…………私のスタンドの名は、『ファントム・マインド』…………ほんの『7秒』、未来(さき)に存在するスタンド…………つまり、スタンドが7秒後で攻撃したら、きっかり7秒後にそやつはダメージを受ける…………」

「み…………『未来』に存在するスタンド…………だから私の攻撃を回避できたのかッ!?」

「そうじゃ。まあ、今回は片目で未来を見ていながら避けられたが、本来は未来を見ている間は行動出来ないからな…………7秒以内に私を倒すのが、攻撃回避する唯一の方法じゃ。おかげで避けるのがギリギリじゃったわ………」

 

言うと、女はギンガたちに背を向ける。そして、右手を挙げる動作をする。

 

「では、私はこれで。じゃが、これだけは言っておこう。やつらの裏には、さらにデカいやつがおる………気を付けろ………」

「えっ、ちょ、ちょっと!?」

 

ギンガは女を止めようとするが、女は音もなく消えていった………

 

 

 

 

女の正体―――謎

スタンド名――ファントム・マインド

7秒後の未来に存在するスタンド。ゆえに未来の予測可能。ただし、未来を見ている間は行動不能(片目で見れるが、行動は限られる)。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

麻帆良学園都市

湖 つり橋

 

 

こおる大地(クリュスタリザティオー・テルストリス)ッ!!」

ガキキィィイイン

「わーーーッ」

 

エヴァンジェリンの放った魔法にネギは吹き飛ばされ、橋の上に投げ出されてしまう。

 

「ふ…なるほどな。この橋は学園都市の『端』だ(ダジャレじゃないぞ?) 私は『呪い』によって学園の外にでられん。ピンチになれば学園外に逃げればいい、か………意外にセコい作戦じゃないか。え?先生………」

 

橋に降り立ち、ネギに近づくエヴァンジェリンと茶々丸。ネギは倒れ込んだままだ。

 

「………次のあなたのセリフは『これで決着(けり)だ!』という……………!」

「悪いが、これで決着(けり)だ!………はっ!」

 

ネギがエヴァンジェリンのセリフを言い当てたと同時に―――

 

 

 

 

 

パシィィィイイイン

「「ッ!!」」

 

エヴァンジェリンたちの足元に魔法陣が浮かび、そこから無数の『風の縄』が伸びてエヴァンジェリンたちを掴む!

 

「なっ…………!!こ………これは…………『捕縛結界』ッ!?」

「………や、やったーーーっやっチッたァァァァーーーーーーーッ!!引っかかりましたねエヴァンジェリンさん!もう動けませんよ!これで決着(けり)です!」

 

勝ち誇り、エヴァンジェリンに言うネギ。徐倫たちとの作戦通り、エヴァンジェリンをこの結界まで誘き出して捕まえた今、エヴァンジェリンには為す術はない――――

 

「………なかなかやるではないか坊や…………私を欺けたのはJOJO以来だぞ………ふふふ……アハハハハハハハハッ」

 

―――はずだった。

 

「茶々丸。」

「はい、マスター。結界解除プログラム始動。…すみません、ネギ先生………」

チュィィイイン………

「………え!?」

 

突如、茶々丸から鳴り出した音に、ネギは驚く。

 

「20年も苦汁を舐めさせられた私が、何の対策もないと思ったか?」

パキィィイイン

「この通り。私もよく分からんが、「科学の力」というやつだ。」

「………!」

 

ご自慢の『捕縛結界』を破ってやったぞとネギを見るエヴァンジェリンだが、ネギがそんなに驚いていないのを知り、疑問をもつ。

 

「………まあ、ここまでは予測してましたよ………」

「……………何?」

 

 

 

 

 

「よし神楽坂!行って来いッ!!」

「ってち、ちょっと千雨ちゃん!?」

波紋投擲疾走(キャノンボールオーバードライブ)ッ!!」

ブンッ

「キャァァァァァァーーーーッ!?」

 

不意に上から声がした。エヴァが見上げてみれば、明日菜が『()()()()()』所だった。

 

「(―――ここだ!)能力(エクセルケアース・)発動(ボテンティアム)神楽坂 明日菜(カグラザカアスナ)!」

「何ッ!?」

ギャァアーーーン

「せいやぁあっ!!」

スッパァアアーーーン

「ぺうっ」

 

突然ネギが唱えた呪文に驚いたスキに、明日菜の手に現れた『得物』がエヴァンジェリンの脳天に叩き込まれた!

 

「ぐ…………障壁を張るヒマがなかったとはいえ…………また私にダメージを……………ッ!!」

「し……………死ぬかと思った……………ちょっと千雨ちゃん!私を殺す気ッ!?」

「いや、だって『意表を突け』って言ったのはお前だろ?」

「だからってあんな突き方はないでしょッ!?ていうかこれ『ハリセン』じゃないッ『剣』じゃなかったの!?」

 

エヴァンジェリンは明日菜を睨むが、当の明日菜は得物(ハリセン)片手に千雨とネギに向かいギャーギャー喚いていた。

 

「って聞けよ話をッ!!………まさか、神楽坂 明日菜と『契約』していたとはな…………」

「ええ、実は空条さんと契約する前に、アスナさんとも契約していたんです。」

「茶々丸さんを襲った時は徐倫だけだったし、茶々丸さんも認識していなかったはずよ?」

 

明日菜の言葉に、茶々丸は迂闊でしたと舌を巻く。まさか、こんな切り札を持っていたとは…………

 

「我々に『従者(パートナー)は空条徐倫1人だけ』と()()()()()()ために、茶々丸とブチャラティを襲撃したのか………」

「…………さあ、今度こそ決着を着けましょうか?エヴァンジェリンさん。」

 

不敵な笑みを浮かべたネギの言葉に、エヴァンジェリンは面白いと、戦闘態勢に入る。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「やつの能力が分かったって!?」

 

ウェンディに肩を借りてやってきたフェイトは、チンクからの報告を聞いてオウム返しに言う。目の前のチンクや刹那たちでさえ、困惑した様子だったが。

 

「ああ……と言っても、見つけたのはティアナとノドカだが…………」

 

チンクが振り向いた先では、のどかが前髪に映し出したレーダーを睨みつけ、ティアナとノーヴェが夜叉丸に攻撃を仕掛けているが、すぐに姿を消されてしまっていた。

 

「―――やっぱり思った通り………あれは『瞬間移動』じゃあない…………」

「………?どういうことですか?」

 

刹那が不思議そうに聞く。だがのどかが伝えようと振り向いた時、夜叉丸の太刀が振り下ろされた!

 

「ホンヤッ!!」

ドガァッ

「ひゃわッ!?」

 

なんとかギリギリでノーヴェが助けたが、今度は拳が振り下ろされる。

 

「クロスファイヤー!シュゥウウーーートッ!!」

ゴパァアッ

 

そこへティアナのクロスファイヤーが放たれるも、夜叉丸は再び消える。

 

「…………さっき消える前に、こっそり『子亀』をひっつけておいた…………」

 

ノーヴェに抱えられながら、のどかは話す。

 

「『子亀』の位置は、私が全て把握できる………だけど、『瞬間移動』の能力ならば何故!『子亀』が()()()()()()()()!?」

「……………?」

 

それを聞いていた一同は、何となくだが、のどかの言いたいことが分かった。

 

「ランスターさん!五時の方向!約1.5メートルッ!!」

「了解!」

ゴパァアッ

 

のどかの指示通りに、ティアナは魔法弾を放つ!

向かった先は、1.5メートル先の「地面」!

そして、弾が着弾したとき――――

 

 

 

 

 

ドガァッ

「うわッ!?」

ドシィイン

『……………………………え!?』

 

尻餅をついた夜叉丸が現れた。だが、大きさがおかしい。明らかに『チンク位』の身長しかない………?

 

「あなたは、『瞬間移動』していたんじゃあない…………「大きくなった」状態から一瞬で「小さくなって」、私たちの足元を通っただけ…………」

「………!まさか、こいつの能力はッ!?」

 

ノーヴェに下ろされたのどかの説明に、刹那はようやく夜叉丸の能力を察した。つまり、夜叉丸の能力は、

 

「そう、あなたは『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』………!だから瞬間移動にタイムラグがあって、桜咲さんを手放した…………一緒に小さくなったら、桜咲さんに能力がバレてしまうために…………!」

「あ………………あああ……………………」

 

のどかに追いつめられた夜叉丸は、完全に怯えていた。

 

「なるほど…………あれだけデカいものが消えたら、当然『自分より()()()()()』を見渡す…………その隙に足元を移動したのか!そして太刀がいきなり現れたのは、『小さくした太刀』を大きくしたからか!」

「それで刹那を……………しかし、こんなくだらないことだったとはな…………」

 

チンクと真名が感心していると、承太郎が口を開いた。

 

「『くだる』『くだらねー』は、所詮の(ここ)の使い方次第………それがスタンド使いの『強さ』だ。実際、オレのジジイは髪の毛一本動かす力さえない最弱のスタンド『恋人(ラバーズ)』に殺されかけたしな………」

「マジッスか!?」

「マジだ。体内に進入されて、内側からジワジワとな…………さて、後はこいつをブチのめすだけだな!」

「ひいっ!」

 

承太郎はスタープラチナを出して、夜叉丸に迫る。

その時、紐が緩んでいたのか、夜叉丸の兜と面がガシャン、と音を立てて落ちて、夜叉丸の素顔が暴かれる。

面の下は―――

 

「ううう…………ご…………ごめんなさい………」

「な…………?」

「…………!」

 

まだ小さい、下手したらネギよりも年下の、「女の子」だった………

 

「い…………いきなり、『矢』に刺されて…………そ…………それで、襲うように脅されて…………」

「………殴るんスか?」

「………ちょいとムリだな………」

 

完全に怯えてポロポロと涙を流す女の子を前に、すっかり毒気を抜かれた承太郎。そこへ、ティアナが女の子に近づき、ひざをついて女の子の頭を撫でる。

 

「…………もう、悪さしちゃダメよ?」

「……………う………ウワーーーンッごめんなさーーーーーーーーーーいッ!!」

「ああっ!?」

「…………やれやれだぜ。」

 

ティアナに抱きついて泣き出した女の子を見て、承太郎は帽子を深く被りなおしてそう呟いた。

 

夜叉丸=本名:夜叉丸 雪子(麻帆良第7小学校4年生)――スタンド名:スペースマン

――悪さをしないことを条件に再起可能。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

つり橋

ネギ&明日菜VS.エヴァンジェリン&茶々丸(千雨とカモは傍観)

 

 

「行くぞ…………私が『生徒』だとうことは忘れ、本気で来るがいい、ネギ・スプリングフィールド!」

「…………はい!」

 

ティアナたちが夜叉丸を蹴散らした一方、こちらでも決着が着こうとしていた………

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

 

2人が呪文を詠唱しているなか、明日菜に茶々丸が接近戦を持ちかける。

 

「てええいッ!!」

ブンッ

「!!」

 

明日菜がハリセン―――『ハマノツルギ』を振るうが、茶々丸は難なくかわす。が、

 

「てやッ!!」

ゴシャアッ

「う……………」

 

すかさず回し蹴りを放つ明日菜!そして―――

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)氷の17矢(セリエス・グラキアーリス)!!」

ドッ

「ううっ…………魔法の射手(サギタ・マギカ)雷の17矢(セリエス・フルグラーリス)!!」

ドガァッ

 

2人の魔法の射手がぶつかり合う!だが、弾幕合戦は終わらない!

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック、闇の精霊(ウンデテリーギンタ・スピリトゥス)29柱(・オブスクーリー)!」

「(えっ、に……29人!?)ら、ラス・テル・マ・スキル・マギステル………」

 

いきなりの弾数に驚くも、ネギも詠唱をする!

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・闇の29矢(セリエス・オブスクーリー)!!」

魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・光の29矢(セリエス・ルーキス)!!」

 

ドドドパァアッ

「うくっ………」

「ネギッ!」

「マスター………」

 

お互いの魔法弾の打ち合いは、今のところ互角―――いや、ネギがぎりぎり追いついているといった所だ。

ラチが明かないと感じたネギは、一気に決めることにした!

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル、来れ雷精(ウェニアント・スピリトゥス・)風の精(アエリアーレス・フルグリエンテース)!!」

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック、来れ氷精(ウェニアント・スピリトゥス・)闇の精(グラキアーレス・オブスクーランテース)!!」

「えっ……!?」

「フフッ」

 

エヴァンジェリンも次に賭けたのか、呪文を、しかも、ネギと同種の魔法を打ち合う気だ!

 

雷を纏いて(クム・フルグラティオーニ・フレット・)吹けよ南洋の風(テンペスタース・アウストリーナ)!」

闇を従え(クム・オブスクラティオーニ・フレット・)吹けよ常夜の氷雪(テンペスタース・ニウァーリス)!来るがいい坊や!『闇の吹ぶ(ニウィス・テンペスタース・オブス)―――』」

 

 

 

 

 

ガンッ

「ッ………!!?」

 

エヴァンジェリンが呪文を詠唱し、魔法を発動しようとしたその時、右わき腹に『()()()()()()()()』が突き刺さる!これは―――

 

「ま………まさか―――――坊やの『爪弾』ッ!?いつの間に……………はっ!『魔法の射手』を撃ち合っている最中にかッ!!」

「へへへっ、またまたやらせていただきましたァん!」

 

そう、ネギはエヴァンジェリンと『魔法の射手』を撃ち合っている最中に、『タスク』の爪弾を撃ち出して、迂回させてエヴァンジェリンに当てたのだ!

大技を打ち合おうと持ちかけるように詠唱したのも、注意を自分に向けて爪弾が気づかれないようにするため!!

そして、当たったこの一瞬をネギは待っていた!

 

 

 

 

 

雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!!!」

ズバァァァアアアッ

「な…………ッ!?」

ドグォォオン

「マスター………ッ」

 

ネギの最大魔法『雷の暴風』が、爪弾を喰らい隙ができたエヴァンジェリンに炸裂した!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「や……………やるではないか小僧…………二度も私を欺くとはな…………」

 

『雷の暴風』を直に喰らいボロボロのエヴァンジェリンは、皮肉を込めてネギに賞賛の言葉を送る。すでに電力の回復で結界も復活したため、エヴァンジェリンは力を発揮できないでいた。

 

「少しズルかったけど、これで僕の勝ちですよ!もうこれで悪いコトもやめて、授業にもしっかり出てもらいますからね!」キュッキュッ

「………わかったよ………確かに今回は負けだな…………ちょっと待て、何だ今の擬音は?」

 

見ると、ネギが『クラス名簿』に何か書いているところだった。のぞいてみると、エヴァンジェリンのところに『僕が勝った』だの色々書かれていた。

 

「って何書いてるんだ!やめんか!」

「えー、だって……」

「大体何だあの戦法は!?まじめな坊やらしくないぞ!?」

「あ、それは空条さんの曾お祖父さん仕込みでして………」

「何ィッ!?JOJOのッ!?道理で汚い手だと思ったらッ!!」

「………なあ、エヴァンジェリンっていつもこうなのか?」

「いえ、こんなに楽しそうなマスターは、ネギ先生が来てからで………」

「そうなんだー」

 

先ほどまでのピリピリした空気はどこえやら、エヴァンジェリンがギャーギャー喚く声が、夜の湖に木霊した………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「…………ほう、あの『闇の福音』を打ち負かしたか………」

「来てよかったでしょう?」

 

橋の支柱から一部始終を見ていた仮面の女に、タカミチが話しかける。

 

「しかし、まさかあの『老いぼれ』の曾孫から戦法を学ぶとはな………まったく、あやつの戦い方は、あやつの一族のみに留めてほしいのう………」

「確かに、まじめな彼には不釣り合いかもしれませんね………」

「ふん……………大きくなったな、ネギ。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「く、空条さーーーーーん!何がどうしたのーーーーー!?返事してよーーーーーーッ!!」

 

壁に埋まったままのスバルは、徐倫とブチャラティの声が聞こえなくなったため、不安そうに徐倫を呼ぶ。だが、徐倫は答えない。

なぜなら…………

 

 

 

 

 

「…………………」

「…………………」

 

どれほど壮絶な戦いだったのか………?それは戦っていた本人たちにしか分からないことだが――――

 

徐倫とブチャラティは、見事なクロスカウンターが決まった状態で、『立ったまま』気絶していた……………

 

 

 

 

 

空条 徐倫およびブローノ・ブチャラティ―――数分後、ネギたちに発見されて無事に治療される。

スバル・ナカジマ―――同じく、無事に救助された。

 

 

 

 

 

←to be continued...




41話です。
・100年前にDIOを打ち負かしたことが、エヴァとナギの出会いに繋がる………この後は、ナギと仮面の女がDIOを退けて、その後、原作通りにエヴァの封印になります。さり気に中の人ネタ入ってます(笑)

・壁から生えるスバルの下半身はお気に入り(笑)ジタバタしてるあたりとか(笑)

・仮面の女の正体は………もちろんあの人です。なぜ出てきたかは、今後のお楽しみということでどうか。

・スペースマンは拡大縮小の能力。かつてホルマジオは、『くだる』『くだらねー』は頭の使いようと言いました。ちなみにスペースマンは『ラブ・デラックス』や『アクトン・ベイビー』のように本体と一体化したスタンドですので、スタンドの象はありません。

・エヴァ戦決着!意表を突いた勝ち方ですが、ジョセフを意識したら、こうなりました。

・クロスカウンターのまま気絶する2人……マジでどんな戦いだったんでしょうね(汗

では、次回をお楽しみに!


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STANDS ②

第2章に登場した、オリジナルスタンド紹介です。


スタンド名―(タスク)

本体―ネギ・スプリングフィールド

破壊力―E スピード―E 射程距離―E

持続力―B 精密動作性―E 成長性―A

 

能力―両手両足の爪を回転させて、物を切ったり、弾丸のように発射したりできる。発射した爪は再成して、いくらでも補充できるようだ。射程距離は10m程度。また、回転の摩擦により地面を削るように移動できたりもする。

 

・コメント

 ネギのスタンドが『牙』なのは、将来魔法拳士になった際に、牙の爪弾は役立つかなと思ったからです。「魔法の射手」との併用は気に入っています。スペックはジョジョベラーを元にしています。

 

 

 

スタンド名―アルティメット・クライシス

本体―ランボ・ルギニー

破壊力―A スピード―C 射程距離―B

持続力―A 精密動作性―E 成長性―C

 

能力―周囲の機械を取り込んで合体する、全長約12mの『巨大ロボット』のスタンド。ロボットのスペックや武装等は、取り込んだ機械によって変わる。

欠点として、巨体ゆえに素早い動作と精密な動きが苦手である。

 

・コメント

第3部に登場した「(ストレングス)」から思いついた「巨大ロボット」のスタンド。12mというガンダム級の大きさですが、局地戦では役立つと思っています。ロケットパンチにドリル等、本体であるランボの趣味とか夢が多く反映されています。

名前はfrip sideの楽曲『fortissimo -the ultimate crisis-』から。リブート前と、名前を変更しています。

 

 

 

スタンド名―ポーカー・フェイス

本体―ルーニー・S・ダービー

破壊力―E スピード―D 射程距離―D

持続力―A 精密動作性―B 成長性―E

 

能力―賭けで敗れた相手の『魂』を奪い、チップの形に変える。

また、敗れた相手の肉体に『仮面』を取り憑かせて、操ることができる。

 

・コメント

 第3部でダービー兄がやったような『仲間を使ってのイカサマ』という手段は、通常仲間を作る等の手間がかかります。それを解消するために敵を仲間に引き入れるというアイデアから考え付いたスタンドです。仮面が張り付いたようなデザインが伏線になっていました。

 スタンド名はレディ・ガガの楽曲から。

 

 

 

スタンド名―アニバーサリー・オブ・エンゼル SIMPLE PLUS(サンプル・プリュ)

本体―長谷川 千雨

破壊力―A スピード―A 射程距離―B

持続力―D 精密動作性―C 成長性―D

 

能力―長谷川 千雨のスタンド『アニバーサリー・オブ・エンゼル』が、融合機であるアギトと『ユニゾン』して強化した姿。炎による攻撃力強化に加え、刀の鋭さとスピードがUPしている。欠点として、あまり長時間のユニゾンは千雨に負担がかかってしまう。

 

・コメント

 スタンドとユニゾンデバイスの合体(ユニゾン)は当初から考えていました。火炎との合体による強化強化形態になっています。外見は鋭利で尖った感じにしてユニゾンしたシグナムを参考に配色、千雨の髪と瞳はポルナレフに近づける感じに。

 名前はALI PROJECTのアルバム『COLLECTION SIMPLE PLUS』から。ちなみに『Anniversary of Angel』も、これに収録されています。

 

 

 

スタンド名―スペースマン

本体―夜叉丸 雪子

破壊力―E スピード―B 射程距離―なし

持続力―A 精密動作性―B 成長性―C

 

能力―自分を含め、ものの大きさを自在に『拡大』、『縮小』できる。倍率は最大13倍、最小で35分の1。それより大きくも小さくもできない。

なお、武者鎧はスタンドではなく、ただのコスプレである(太刀はレプリカ)。

 

・コメント

 コンセプトは『謎重視』。能力はまんま某猫型ロボットのライトですが(笑)『アクトン・ベイビー』のように自他に影響のあるスタンドなので、割と汎用性は高いです。

 本体の夜叉丸 雪子ちゃんは、実は『ネギま!』10巻で告白していた小学生なのです(!) 名前が実は名字だけ、というオチでこのような意表を突いてみました。昔みたアニメでこんな感じで大きくなった小学生が町を歩く、というのがあった気がします。

 スタンド名はザ・キラーズの同名の楽曲から。某光の国の巨人とかかっています(笑)



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PRIVILEGE CARD ②

第2章に登場したオリジナルキャラ紹介+@です。


【徐倫のパクティオーカード】

名前―空条 徐倫

称号―誇り高き血統

数字―XI(11)

色調―白

徳性―勇気

方位―東

星辰性―流星

アーティファクト―『コウウントユウキノツルギ(フォルトゥーナ・エルエーレ)』(現時点では、名称以外は不明)

 

・コメント

称号は第2部の当初の副題から、アーティファクト「コウウントユウキノツルギ」は言わずもがな、ジョジョ第1部で黒騎士ブラフォードがジョナサンに託した「LUCK&PLUCK」と刻まれた剣から。読み仮名も、ラテン語で「Luck and Plack」を翻訳して調べたものになります。登場は第3章からになると思います。

 

 

 

名前―ランボ・ルギニー

 

年齢―29歳

 

好きなもの―フライドチキン、ロボットアニメ、機械いじり

嫌いなもの―ほうれん草、エラソーにしてる奴

 

職業―自動車整備士

 

出身―ミッドチルダ西部

前科―質量兵器大量所持、質量兵器開発

 

備考―彼は子供の頃から、『ロボットアニメ』に出てくる『巨大ロボット』に憧れており、自分もこれに乗りたいと思っていた。彼が質量兵器に手を出したのは、自分が乗る『巨大ロボット』制作のためである。

 

スタンド名―アルティメット・クライシス

 

・コメント

 「エラソーに」が口癖のランボ。何気に設定変更したオエコモバ以外で初のミッド出身のスタンド使いです。巨大ロボットに乗りたくて作ろうとするなど、夢を追いかける姿勢は割と尊敬できるかも(荒木先生曰く、「ジョジョの登場人物は基本的に前向き」)。制限はありますが、学園祭編でまた出したいと考えています。

 名前は自動車会社ランボルギーニから。

 

 

 

 

 

名前―ルーニー・S・ダービー

 

年齢―32歳

国籍―アメリカ

 

好きなもの―トランプゲーム(ポーカーも好きだが、ダウトやババ抜きなどのシンプルなものが特に好き)、イカサマ(する方)、サンドイッチ(ゲーム中も気軽に食べられるから)

嫌いなもの―イカサマ(される方)

 

備考―父親はかつて空条 承太郎に敗れたダニエル・J・ダービーで、彼と同様生粋のギャンブラー。

他人を小馬鹿にする態度をすぐにとるため、よく人を不快にする。だが彼女は、「相手を不快にして、そこを突く。これこそがギャンブル。」という考えを持っているため、これはわざとである。

 

スタンド名―ポーカー・フェイス

 

・コメント

 ご存じ、ダービー(兄)の娘であるルーニー。知能戦もジョジョの魅力の一つですので、その代表格とも言えるダービー兄弟の血族を出しました。名前には実は秘密があります。

 



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第3章 炎の京都
#42/学園長からの第二指令;「親書を届けろ!」


 

 

 

 

イタリアはネアポリスの街中を、高そうな黒い車が走っていた。車内には、三人の男女が乗っている。

 

運転をしているのは、穴だらけのスーツを着て、イチゴの柄のネクタイを着けた金髪の男。

一人は、肩出しのセクシーな服を着て、赤みがかった髪をアップにした女。

そしてもう一人は、黒いスーツのあちこちにテントウムシのアクセサリーを付けて、黄金色の髪を、前髪は三カ所でカールさせ、後ろは短い三つ編みにした男だ。

 

やがて車は、とあるマンションの前に止まると、車から三人が出てくる。

 

「『裏切り者』?」

「ええ、『麻薬密売チーム』の内、『粛清』を逃れた輸送グループが、4年ほど前に離反したんだ。そいつらは返り討ちにしたんだが、リーダーの『サルシッチャ』と、彼の腹心である双子の『ソル』と『ルナ』が正体をくらましていたんだが、つい最近、『日本』で目撃されてな…………」

 

穴だらけの服の男が、女に話す。

 

「でも『トリッシュ』、()()()の君が、僕ら『ギャング』の仕事に首をつっこむもんじゃないと思いますが?最近、ファッションデザイナーの勉強をしていると聞いていますが……」

「あのねえ『ジョルノ』、久しぶりに会ったのに、一分もしない内に別れようとしたから、無理矢理着いてきたのよ?しかも『ミスタ』もいるらしいじゃない?」

 

トリッシュ・ウナは、ジョルノ・ジョバァーナの言葉をつっぱねた。

 

トリッシュがジョルノと穴だらけの服の男―――パンナコッタ・フーゴと、これから会うグイード・ミスタが会うのは、かれこれ一年ぶり―――『彼ら』の墓参り以来だ。

そもそもこの三人が一緒なのも、数十分前ジョルノとトリッシュが街角のカフェで偶然出くわしたからである。そこですぐに別れようとしたジョルノの態度にトリッシュが腹を立て、無理矢理着いてきたわけだ。

 

三人はエレベーターで六階まで上がり、ミスタの部屋を目指す。今ごろミスタの所へ、偵察に向かったサーレーとズッケェロから定期連絡が入っているはずだ。

 

「それにしても皮肉なものね………」

 

ふと、トリッシュが口を開いた。

 

「かつて『裏切り者』として追われていたあなたたちが、今度は『裏切り者』を追う立場なんてね…………」

 

それを聞いた二人は苦笑した。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

部屋に着いた三人は、チャイムを鳴らした後、勝手にドアを開けて中に入る。すでにミスタには連絡しているため、何の問題もない。………らしい。

 

「ミスタ、失礼します…………」

 

ジョルノが部屋に入ると、矢印の付いたニット帽をかぶった男―――ミスタがどこかへ電話をしていた。

 

「―――おいッ何で出ないんだよ『サーレー』ッ!さっきから『3回』もかけてるのにッ!!次で『4回目』だぞッ!!早く出てくれ………オレに()をかけさせないでくれ………」

「……?どうしたミスタ?サーレーに何の用なんだ?」

 

電話に向かい怒鳴りつけるミスタを見て、フーゴが問いかける。すると、ようやくミスタはジョルノたちが来たことに気づいた。

 

「おうボス………ってトリッシュまで?」

「それは後で説明します。それで、何か問題でも?」

 

ジョルノに問われると、ミスタは顔を曇らせて、デスクの上に『亀』と一緒に置いてあったラップトップパソコンをいじると、画面をジョルノたちに向けた。

 

「………サーレーたちからの定期連絡で、やつらからこんなフザケた『動画』が送られてきたんだ…………」

 

その動画を見たジョルノたちは、最初は何の映像か分からなかったが、しばらく見て愕然とした。

 

 

「ミスタッこれは何の冗談だッ!!」

 

その映像には―――

 

「それはオレが聞きてぇよッ!!さっきからサーレーに連絡しても出ねえんだよッ!!」

 

かつての仲間―――

 

「そんな……………何で…………」

 

ブチャラティが映っていた…………

 

 

 

 

 

#42/学園長からの第二指令;「親書を届けろ!」

 

 

 

 

 

グリーンドルフィンストリート麻帆良

206号室

 

 

「『()()()()()()()』―――――確かに『ギアッチョ』はそう言ったんだな…………?」

「ああ、間違いないよ………」

 

承太郎の言葉に、アギトは頷いた。隣では、徐倫と千雨が神妙な面持ちで立っていた。

 

「…………?『左』手が『右』手?」

「左が…………右?」

「いったいどういうこと?? ??」

 

明日菜、ネギ、スバルが首を傾げる。他もそうだ。確かに気いたら混乱する言葉である。実際、話していたアギトも、訳が分からない様子だ。

 

「親父、私はスタンド使いになってから、『左手が右手』という言葉を何回か聞いている………敵や、スピードワゴン財団の人間からだ………一体何者なんだ?その『左手が右手の女』ってのは………?」

 

徐倫が、承太郎に問いただす。承太郎は少し考えてから、その口を開いた。

 

「………千雨の父、J・P・ポルナレフの妹―――つまり、千雨の叔母だな。そいつは、『()()()()()()()』に殺された。」

『!?』

 

全員が息をのむが、承太郎は構わず話し続ける。

 

「名前は(ジェイ)・ガイル………『吊られた男(ハングドマン)』の暗示を持つスタンド使いだった。そいつはポルナレフに妹の仇として殺された……そして、そいつの母親でDIOにスタンドを授けたという『エンヤ』という老婆も、左手が右手だった………多分その女も、その血縁者だろう…………だから千雨を狙っているんだろう………………」

「…………ッ!ちょ、ちょっと待てよ!」

 

全員が黙って聞いていた中、ヴィータが口を開いた。

 

「じゃああれか?今回の事件は、逆恨みの復讐だっていうのかよッ!?」

「………まあ、そういうことだろうな…………それも、異世界を巻き込んだ、はた迷惑極まりない……………な。」

 

「…………何で…………」

 

全員が暗い気持ちになっている中、今まで黙っていた千雨が口を開いた。

 

「何で…………何で今になって…………何で…………………ッ!?」

 

千雨の呟く声に、誰も答えることはできなかった……………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

翌日

STARBOOKS COFFEE

 

 

「長谷川さん…………大丈夫かな…………?」

「まあ、徐倫がいるから大丈夫だとは思うけど……………」

「『両右手』側のスタンド使いたちも、一夜で二人もやられたら慎重にしてくるとは思いますが…………」

 

STARBOOKS COFFEEで一休みしようと来たネギ、明日菜、スバルの三人。

あの後、千雨がすっかり気を落としてしまい、誰も口を開かなかったために、流れ解散となった。千雨は徐倫が介抱していったために大丈夫だとは思うが、あの千雨があそこまで落ち込んだため、ネギたちは心配だった。

 

(まあ、次に連中が攻めてきたら、ブチのめしゃあ、いいんスよ!)

「………カモ君、スタンド戦ってそんなに簡単じゃあ――――」

 

ネギがそう言おうとして席に着こうとしたとき――――

 

「ぬ……………」

「あ……………」

「ん……………」

 

エヴァと茶々丸、ブチャラティの三人に加え、徐倫と千雨の二人と鉢合わせした…………

 

「こ……こんにちはエヴァンジェリンさん。空条さんたちも………」

「おう。」

「フン!気安く挨拶を交わす仲になったつもりはないぞ!」

 

気さくに返事をする徐倫に対して、エヴァンジェリンは冷たく突き返した。

 

「そういえば長谷川 千雨、貴様大変らしいな?親父のせいで命を狙われているとかで。」

「…………はんッあんたに心配されるとはな。」

「強がっても無駄だぞ?貴様が怯えているのはバレバレだからな…………」

 

千雨に冷たく言うと、エヴァンジェリンは買ってきたコーヒーに口を付ける。

 

「どうだろうな………?あんたこそ、昔ジョースターさんの事好きだったらしいじゃないか?」

「で、フられてネギの親父に転向したんだってな。」

「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」

 

千雨と徐倫の言葉に、エヴァンジェリンは盛大に吹き出した。

 

「けほっけほっ…………だ!誰から聞いたッ!?JOJOのことは多分リサリサかスージーQ当たりから聞いただろうからいいとして、ナギのことは誰から聞いたッ!?」

「「「「ネギ(先生/くん)から。」」」」

「えっ、ちょ、ちょっと……………!?」

 

千雨と徐倫どころか、明日菜とスバルにまで言われて、ネギは慌てた。

次の瞬間、ネギはエヴァンジェリンに首を捕まれていた。

 

「貴様ァァアアーーーーーーやはり私の夢をォォォォォッ!?」

「い、いえ…………あの………………」

「でもフられてから『50年』近く時間が空いてたんだよな?」

「マジで?」

「その間に何人『新しい男』が出来たのやら…………」

「結構『引きずるタイプ』なのねエヴァちゃんって…………」

「ええい、うるさいうるさいうるさァァアアーーーーーーいッ!!」

 

後ろでひそひそ話す四人に、なのはの親友『A』が聞いたら著作権の侵害で訴えられそうな叫びを上げるエヴァンジェリン。

だが、すぐにそれは暗くなる。

 

「………だが奴は死んだ。10年前にな…………」

「え……?」

「私の『呪い』もいつか解いてくれるという『約束』だったのだが………まあ、くたばってしまったのなら仕方なかろう。おかげで、奴の『強大』な魔力によってなされた私の呪いを解ける者はいなくなり、20年の退屈な学園生活だ…………」

 

どこか遠い目をしながらはなすエヴァンジェリンに、全員静かに聞いていた。だが、明日菜とスバルは、あることに気づく。

 

「―――あれ?でもさぁ………ネギ君って………」

「そうよ。その何とかゆーお父さんを追ってるんじゃなかった?」

「は、はい。―――でもエヴァンジェリンさん僕、父さんと………『サウザンドマスター』と会ったことがあるんです!」

「…………何だと?何バカなことを言っている。『奴』は確かに『10年前』に死んだ!!お前は奴の()()()を知りたかったのではないのか?」

 

ネギの言葉に、エヴァンジェリンは疑問の声を上げる。ネギは、それに静かに答える。

 

「違うんです!大人はみんな僕が生まれる前に父さんは死んだって言うんですけど………6年前のあの雪の夜…………僕は確かに『あの人』に会ったんです…………その時に、『この杖』をもらったんです………だからきっと、父さんは生きてます。僕は父さんと同じ『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』になりたいんですよ。」

 

ネギは、杖を見つめながらはなす。それを黙って聞いていたエヴァンジェリンは、信じられないという顔をした。

 

「や…………奴が…………『サウザンドマスター』が生きているだと……………!?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――え?『京都』ですか?」

「そうだ。どこかに奴が一時的に住んでいた『家』があるはずだ。奴の死が嘘だというなら、そこに何か手がかりがあるかも知れん。」

 

サウザンドマスター―――ナギが生きていることを知り気分が良くなったのか、ナギについて語り出すエヴァンジェリン。

話によると、ナギが昔使っていた家が日本の古都『京都』にあるらしい。

 

「京都ですかッ!?ええーと、日本のどの辺でしたっけ………!?困ったな………休みも旅費もないし…………」

 

手がかりが見つかったが、そちらへ向かえそうにないネギ。だが―――

 

「へー、『京都』か………」

「ちょーどいーじゃんか?なあ?」

「そーだな、良かったじゃんネギ。」

「え?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

翌日夕方

グリーンドルフィンストリート麻帆良 206号室

 

 

「『修学旅行』?京都に?」

「そ。来週から四泊五日。」

 

帰宅したスバルは、しおりを見ながらティアナたちに話す。来週から3‐Aは、京都・奈良へ修学旅行だ。

 

「私も中学は京都だったけど、スゴく良いところだったよ。どこに行くか決まってるの?」

「ええーと、私はアスナや宮崎さんたちと一緒の班だから〜〜〜…」

「京都か…………」

 

スバルがフェイトたちと話していると、部屋に承太郎と仗助が入ってくる。手には、資料を数枚持っており、なにやら難しい顔で見つめていた。

 

「東方に、承太郎殿?」

「今、スピードワゴン財団から連絡があった。」

 

いうと、承太郎は資料を皆に見せる。そこには――――

 

 

 

「『京都』の嵐山付近で、『ディード』が見つかったらしい………」

 

 

 

ナンバーズが探していた末妹―――ナンバー12、ディードが写っていた………

 

「で、ディードが………京都で!?」

バキィッ

「は……………!」

 

何かが折れる音が部屋に響く。

そちらを向くと、オットーが『折れた観葉植物の枝』を見つめていた。

その顔は、普段見せない『憎しみ』の表情だ。

 

「………つまり、攫った奴らもそこに?」

「………確証は得られないが、多分な………」

「なら!今すぐ京都へッ!!」

「お…………落ち着けよオットー!」

 

興奮したように飛び出そうとするオットーを、ノーヴェが止める。それをティアナとチンクは、オットーを心配に見ていた。

 

(ディードのことになるとオットー、いつもと違う顔をのぞかせる…鬼気迫るからこの話題には触れにくいのよねえ~~~~~………)

(ああ、心配だな………憎しみでバカな行動をとらなきゃあいいのだが……………………)

 

「オットー、気持ちは分かるがよぉーーー…………向こうの戦力がわからない以上、こっちも準備をする必要があるぜぇーーー………出発はそれからだ!」

「………………………」

 

仗助の言葉にオットーは気を落ち着かせる。

 

(すまんな東方…………)

(なあに、良いってことよ。)

 

そんな仗助に、チンクはそっと感謝をした。ふと、ノーヴェはある事に気が付いた。

 

(………あれ、キョート?はて、最近どこかで聞いたような………?)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

同時刻

女子寮 徐倫と千雨の部屋

 

 

「………『かんさいじゅじゅつきょーかい』?何それ?」

「はい、元々、日本の「陰陽道」等の人たちの集まりで、西洋魔導士を嫌っている人たちらしくて…………」

「そいつらが、『3‐A』…………つーかネギの京都入りを拒否してんのか?」

 

大事な話(魔法関連)があると言うので、木乃香に聞かれたらマズいために徐倫たちの部屋で話すネギたち。

なんでも『関西呪術協会』なる組織の総本山が京都にあるらしく、学園長が理事を務める『関東魔法協会』とは昔から仲が悪いらしい。

そして、今年は魔法先生が修学旅行に同行することを知ると、それに難色を示してきたらしいのだ。

 

「しかし、今まで西洋魔法使い嫌ってた割に大人しかった連中が、先生のオヤジさんが魔法界の『英雄』だからって、今更難色示すなんてな………」

「何でも、学園長先生の娘さんと向こうの代表を『戦略結婚』させて、沈静化させていたんだとか………」

 

学園長の娘と聞いて、明日菜はある事を思い出した。

 

「え、じゃあ、その長さんって言うのは………」

「はい、このかさんのお父さんみたいでして………」

「そーいや、あいつ出身京都だったな……確か、桜咲もじゃなかったか?」

 

徐倫の言葉に、ネギは頷く。今回難色を示している理由は、元々西洋魔法使いに反感を持っている一派が、関西呪術協会の族長(オサ)………もとい長の管理を離れて、良くない事を企んでいるらしかった。

そこで、ネギが『関東魔法協会』の特使となって修学旅行中に学園長の親書を届けて協定を結ばせて、「反乱者」を洗い出そうという事らしい。

 

「はあ、面倒くさくなってんのな、また…………」

「あうぅ………ごめんなさい…………」

「こらこら、子供にあたらないのッ」

 

ネギに向けたわけではないが、まいったように呟く千雨。今回の事件で狙われている身としては、これ以上何かトラブルに巻き込まれることはごめん被りたかった。

 

「ネギ、おめーそれに加えて親父さんの手がかり見つけたいんだろ?」

「は、はい…それに、関西呪術協会(あちら)から『妨害』を受けるかもしれないし…………」

「兄貴、また忙しくなりそうなんでさぁ。徐倫の姐さん、手伝ってくれやせんかねぇーーー?」

「………ま、仕方ないわね………」

「大変なのは先生だけじゃねーけどな………」

「やれやれだわ。それ、頼む必要はないわよ?」

「あ………ありがとうございます!」

 

三者三様の答えを聞き、ネギは感謝をする。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

イタリア

ネアポリス

 

 

『―――これは………!?』

 

男は映像を見て、信じられないという声を出す。

6年前、『ディアボロ』との戦いで命を落としたブローノ・ブチャラティが生きていて、同じく生きていた『地中を潜行する男』と戦っている………

何故死んだはずの彼が生きているのか………?それがこの映像の謎だ。

 

「………映像は、トリックとか、CGとかじゃあないよな………?」

「ああ、そいつは確認した。日本製のビデオだから、すっげーきれいに映ってるぜ。」

 

パソコンに食いつきながら、フーゴとミスタが話す。確かにこの映像はきれいに映っている。流石は日本製。

男がそう思っていると、二人の懐かしい顔が映った。

 

一人は、背の高い帽子とコートの男だ。

歳はとっているが、あの男を見間違えるはずはない。空条 承太郎だ。

そして、もう一人は――――

 

『…………千雨!』

「え?」

 

男の呟きを、ジョルノが聞きとり振り向く。

そこには、全長30cmほどの『亀』がいた。だが、声を発したのは亀ではない。

亀の背中についた宝飾のついた(キー)、そこの宝石の部分から男が、頭をパンクロッカーのような髪型にした隻眼の男が、上半身を出していた。

 

J・P・ポルナレフ―――それがこの男の名前だ。

 

ジョルノは、ポルナレフに話しかけようとする。

 

 

 

ガチャリ

 

 

 

「………?」

 

ふいに、物音がした。何事かと思い見てみれば、部屋に備え付けられた小さめの冷蔵庫が開いた音であった。

 

「んーと………コーラに、ミネラルウォーターのガス入りガスなし………それにペコリーノチーズとサラミ………お、ワインめっけ!ホントはビールが良かったけど……ツマミは作るのメンドいから、サラミでいいか………」

 

いつの間に入ってきたのか、金色の長髪に褐色の肌の、おそらくは2mはあるマッチョな男が、冷蔵庫を勝手に物色して中のワインとサラミを出しているところであった。

 

『………………』

 

ジョルノはまず、『この大男は、どうやって部屋に入ったのだろう?』と思った。

次に、『何でこの男は、勝手に人ん家の冷蔵庫を漁っているのだろう?』と思った。

 

いち早くミスタが復活して、拳銃を引き抜いた。

 

「だッ!誰だテメーはァ!?いつの間に入ってきやがった!?」

「なあ、コルク抜きどこだ?」

「質問を質問で返すンじゃぁねー!後そのワインとサラミ、オレのだぞ!!」

「落ち着けミスタ!」

 

拳銃を向けられているにも関わらず、のん気にコルク抜きを探す男。相当肝が据わっている。

だがそこで、ポルナレフが口を開いた。

 

『お前……まさか()()()?『ジャック・ラカン』か!?』

「何?」

「よォーポルナレフ!元気だったか?まッ!『幽霊』に元気も()()()()()もないだろーけどよおー!!ガハハハ!!」

 

ラカンと呼ばれた男は豪快に笑うと、ソファーにどかっと座る。ジョルノは、ポルナレフに聞いた。

 

「知り合いですか、ポルナレフ?」

『ああ………『ディアボロ』にやられた際、助けてもらった先で知り合ったんだ………だが何故、お前がここに?』

 

聞かれたラカンは、ワインの瓶をひっくり返して底に指を()()()()()穴を開けると、空いた穴からガブガブとワインを飲み始めた。

 

「お、オレのワイン………」

「ゲェップッ……オレがここに来たのは、ジョルノ・ジョバァーナ、お前さんに『協力』を頼むためだ。」

「協力?」

 

下品にゲップをしたラカンは、ジョルノにそう切り出した。

 

「オレが知っている事は『3つ』。」

 

ラカンはサラミをナイフで薄くスライスしながら言った。

 

「①ブローノ・ブチャラティが生き返ったのは、『ミッドチルダ』の「魔法」が絡んでいる事。」

「魔法だと?」

 

「魔法」と聞いてフーゴは怪訝な顔になるが、ポルナレフはミッドチルダという単語に驚いていた。

 

「②ブチャラティを蘇らせた連中は、他にも数名、スタンド使いを生き返らせている事。」

 

ラカンはスライスしたサラミを食べると、再度ワインを飲んだ。

 

「そして、コイツがかなり重要なんだが……

③それを依頼した連中は、J・P・ポルナレフの娘、長谷川 千雨の命を狙っている。」

『!?』

 

ラカンの言葉に、4人に電撃が走った。

 

「ポルナレフさんの――――」

「娘…………」

「あの時の――――ポルナレフさんの『葬式』の時のあの子が…………!?」

『千雨が…………』

 

全員が、特にポルナレフがショックを受ける。

 

「分かっているのはソコまでだ。オレの知り合いが、そいつらへの『対抗手段』として、『サルシッチャ』や『キタッラ兄妹』をはじめとしたスタンド使いを集めている………そこで、お前さんらにも協力してもらいたく、こうしてはぜ参じた次第ってワケだ………どうだ?日本に来てはくれないか?」

 

ラカンがジョルノに聞いた。ジョルノは少し考えてから、口を開いた。

 

「――――行きましょう、日本へ。」

「ジョルノ?」

「確かにサルシッチャやあの双子は『裏切り者』ですが、ブチャラティの事を知っているなら聞き出す必要がある!それに、その事にポルナレフさんの娘が関係しているならば、彼に助けられた『恩』を返すのは今だッ!!」

 

ジョルノの言葉に、ミスタたちは強く頷いた。

 

「決まりだな。」

 

ラカンはそれを聞くと、懐から封筒を取り出して、ジョルノに向かい放る。

 

「そこに地図と、『紹介状』が入ってる。一週間後、京都の『霞のめ』という料亭でオレの協力者たちが待っている。」

 

では、一週間後に。そう言って、ラカンは部屋を後にした。

 

「おい、それよりワインとサラミ、弁償しろよ?」

「今度はビールも用意しといてくれ。」

「会話のキャッチボールって知ってるか?金返せよ。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

日本 とあるカラオケボックス

廊下

 

 

「―――そうか、ジョルノ・ジョバァーナは来てくれそうか………」

 

ラカンから電話を受けたウェカピポは、そう返した。

 

[来週を楽しみにしてると良いぜ。お宅んとこの『お嬢さま』にも、そう伝えてくれ。]

「分かった。」

プッ

 

電話を切った男は、ソルたちのいう『お嬢さま』の元へ戻った。そちらでは、お嬢さまことルル・ベルが『ELEMENTS』を熱唱していた。

 

「おう『ウェカピポ』。あのオッサン、何つっていた?」

 

席に座っていたホル・ホースがウェカピポに問う。隣にはサルシッチャもいた。

 

「………ジョルノ・ジョバァーナたちと接触できたという事だ。」

「それなら大丈夫だろう………多分他の面子、特にポルナレフも来るだろうな。」

「ああ、というか―――」

 

ウェカピポは、未だに熱唱しているルル・ベルを見る。

このカラオケボックスに来たのも、ルル・ベルが「平成ライダーの歌8作品全部歌うわよ!!」と言い出したからだ。

 

「―――まだかかるのか?」

「あの人は、マイクを握ったら離さないタイプだからなぁーー………」

「やっと『剣』だ。後3作品だから我慢しろ。」

 

ホル・ホースたち三人が呆れる中、ルル・ベルの歌声(しかもスゴく上手い)が響いた………

 

 

 

ルル・ベル(14歳)

趣味―歌うこと(アニソンから洋楽、演歌まで。)

ただしサルシッチャ曰く『マイクを握ったら離さないタイプ』………

 

 

 

 

 

←to be continued...




41話です。
・サブタイトルは『ボスからの第二指令;「鍵をゲットせよ!」』から。前回は第一指令だったので。

・動き出すパッショーネ。無理やり着いてきたトリッシュは、彼女らしいかなと思いまして。

・両右手の女の存在を知る六課&スタンド使いたち。千雨は立ち直ったかのように見えますが、まだ少し引きずってる感じです………

・ディードの情報が舞い込んできて、オットーのすぐに駆けつけたい気持ちは爆発寸前。この時のオットーは、チリ・ペッパー編の億泰を参考にしました。

・ラカン登場。いきなり出てきて冷蔵庫漁るのは、ラカンらしさとジョジョっぽさを意識しています。料亭の名前は『バオ―来訪者』の登場人物から。

・熱唱お嬢さま。この辺りから、ルル・ベルの本性を暴いていきます(笑)

では、次回をお楽しみに!


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#43/学校に住もう ①

ミッドチルダ

聖王医療院

 

 

「それでは、お大事に。」

「はい、お世話になりました。」

 

院の入り口から、一人の若い女性が出てくる。それに、金色の小さな影がかけだしてくる。

 

「ママッ!!」

「ヴィヴィオ!」

 

出てきた女性―――なのはは、自分に向かいかけてきた影を抱き留めるも、利き手である左手にギプスを着けているためよろけてしまう。

 

ガシィッ

「っと、大丈夫かい、なのは?」

「ゆ、ユーノ君…………」

 

それを、後ろから長い金髪とメガネをかけた男性―――ユーノ・スクライアが受け止める。

 

「ご…………ごめんなさい、ママ……………」

「あ、大丈夫だよ、ヴィヴィオ。」

 

抱き留めた少女―――ヴィヴィオが申しわけなさそうに下りると、なのはは笑ってヴィヴィオに話す。と、

 

「はーい、そこの子持ちの夫妻ーーー!周りから暖かい目で見られとるから、いつまでもイチャついとらんで、さっさとタクシーに乗らんかい!」

 

少し離れた所に停めてあるタクシーから、はやてが大声で呼んできた。周りを見ると、暖かい目で人々が見ていたのにようやく気づく。

二人は顔を赤くすると、ヴィヴィオの手を引いてタクシーまで早足で向かった………

 

 

 

 

 

#43/学校に住もう ①

 

 

 

 

 

修学旅行5日前

麻帆良学園女子中等部 昼休み

 

 

「そうか、なのはさん退院したのか。」

「うん。と言っても、『条件付き』でねぇ………」

「条件?」

 

教室の一角、いつの間にやらお馴染みとなった徐倫、千雨、スバル、明日菜、ネギのメンバーは、昼食を食べながら話していた。内容が内容だけに、なるべく聞かれないように注意はしていたが。

 

「うん………完治するまでレイジングハート―――なのはさんのデバイスなんだけど、それを没収よ。」

「そうか…………」

「なのはさん、ほっといたら無理してでも仕事しちゃうから…………しばらくお休みもらって、実家で滋養だってさ。」

「………あんま頑張りすぎないといいんだが…………あ。」

 

いい考えが浮かんだと、千雨が手をポンッと打つ。

 

「なあ徐倫、『トニオさん』とこにつれてくのはどうだ?」

「ああ、そりゃあ良いな!」

「「「トニオさん?」」」

 

聞きなれない名前を聞いて首を傾げる明日菜たち。

 

「なになにー?何の話―?」

「あ、パルたち……うん、ちょっと、スバルの知り合いの事でちょっとねー」

 

そこに、のどかと夕映、ハルナの図書館探検部3人組がやってくる。ハルナと夕映はスタンドも魔法も知らない一般人であるため、そこまで詳しくは話さないでおく。

 

「ふーん……あ、それはそうと、さっき東方先生から『妙なこと』聞かれたのよ……」

「『妙なことぉ~?』何よそれ?」

 

ハルナの話が少し気になるのか、適当に聞く明日菜。それに答えたのは、『アチャ紅茶』なるジュースを飲む夕映であった。

 

「実は、東方先生が各班のメンバーを確認していたところ、出席番号1番の『相坂 さよ』さんが、どこの班にも入っていないことに気が付いたそうで………どこかに入れてもらえないか聞いてくれと、頼まれたです………」

「相坂 さよさん………あれ?そんな子、いたっけ?」

 

聞き覚えのない名前に首を傾げるスバルとネギ。

 

「ああ、スバルが知らないのも………っていうか、私たちも会った事、ないんだけど………」

「「え?」」

 

ハルナの言葉に思わず聞き返す2人。明日菜たち3人もそういえば、とあごに指を置いて考えた。

 

「………そういえば、私も会った事ないわね………」

「え?」

「学校に来てる所、エヴァンジェリン以上に見ないな………」

「ええ?」

「ずっと不登校だとか、長期間入院してるって噂、聞いたことあるぞ……?」

「「えええ!?」」

 

3人の言葉に驚くネギとスバル。夕映は、更に続けた。

 

「しかし、東方先生が言うには、()()()()()()()()()()()()()()()そうでして………」

「ええ!?」

「あ、そういえば………」

 

ネギは何か思い出したのか、出席簿を取り出すと出欠席表を開いて『相坂 さよ』の欄と、『点呼者のサイン』を見た。

 

「やっぱり………相坂さん、4月に入ってから何日か『出席』しているけれど……これ全部、()()()()()()()()()()()()だ………」

「何だと?」

「おじさんが出席取る日だけ、出席しているってか?」

「まさか………あ、ひょっとして、」

 

ふと、何か思いついたらしいハルナ。

 

「仗助先生だけに見える生徒、だったりして!」

「ひぇっ……」

「何を言っているですか、パル………」

 

呆れる夕映と、ビクッと怯えるのどか。しかし、ハルナは続けた。

 

「けどさー、このクラスっていうかウチの学校、結構『そーいう噂』多いじゃない!図書館島の地下とか、この間の吸血鬼騒ぎとか、夜の教室で『人魂』見たとか、不気味な歌を聴いたって噂も、聞いたことあるし!」

「う、うーむ………」

 

興奮したように話すハルナに対し、『()()()()』のネギたちは微妙な表情になる。なまじ魔法やスタンド関連の事柄が多いため、真っ向から『否』と言い切れないからだ。

 

「……分かりました。相坂さんの事は、僕の方で調べてみますね。」

「うん、何か分かったら、教えてね!」

 

ハルナにそう言うと、ネギは苦笑しつつも、職員室に向かった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「何?相坂くん?」

 

職員室に来たネギは、仗助と一緒に新田先生に頼んで生徒の書類を見せてもらっていた。

 

「そうなんスよ、俺が気づいたからよかったんすけど、ちょっと調べてみようと思いまして……」

「うーむ……(あのクラス(A組)は結構問題のある生徒がいるから目をかけているが、そんな生徒いただろうか……?)」

 

新田先生も首をかしげる中、ネギは相坂 さよの書類を見つけた。が、

 

「あ、あれ…?さよさんの書類…名前以外が『空欄』だ………」

「何?」

「どういう事だ……?まさか、『存在しない生徒』だとでも言うのか……?」

 

ネギの言葉に、首を傾げる仗助と新田先生。連絡先どころか現状すら分からないと聞いて、ついには彼女の存在すらも疑う3人。

 

「けれど、俺は何回か相坂を見てますよ?写真の通り、『セーラー服』で『白い髪』で、ちょいと『影が薄くて』、『生気のない顔』の………?」

 

そこまで言いかけて、仗助は何か、以前『似たような雰囲気の女性』に出会ったような気がした。それが誰なのかを考えて、そして、それが誰かを思い出した。

 

「………新田先生、この辺で失礼します。ネギ、行くぞ。」

「え!?あ、はい!」

 

仗助はネギを呼ぶと、ネギは書類を手早く片付けて新田先生にお辞儀をし、仗助に着いていった。

 

「……うーむ、朋子君が「妙な事によく首を突っ込む」と言ってはいたが………あのクラスだと、仗助君も大変だろうなぁ………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その日の放課後

 

「『杉本 鈴美』さん?」

 

廊下を歩きながら、仗助はネギ、スバル、徐倫、明日菜に説明していた。

 

「ああ、俺の故郷の『杜王町』で、20年以上前に『殺人鬼』に殺された少女の『幽霊』だ………相坂の雰囲気が、その人に似ていたんだ………」

「似ていたって………あの、それって()()()()()()()()()()()の………?」

 

仗助の説明に、顔を引きつらせて聞くスバル。今まで色々なものに出会ってきたが、流石に幽霊は想定外すぎた。

 

「タカミチからもらった名簿には、「1940~」、「席動かさないこと」って書き込みがあったけど………もしかしたら、本当に『地縛霊』の類なのかも………」

「1940って……『年』って意味か?するとこいつは、60年以上も教室にいるっていうのか………?」

「ちょ、ちょっと、やめてよそう言うの………!」

 

ネギと徐倫の予測に、ちょっと引きながら明日菜が言う。ちょうどその時、A組の教室に着いたため、仗助は戸を開いた。放課後であるため、既に教室に人影はなかった。

 

そう、()()()()()()姿()()………

 

「どっちにしろよぉー、これではっきりするぜぇー………」

「どうするんですか?」

感覚(スタンド)の目で相坂の席を見ろ。人体の目で見えなくてもよォー、スタンドの目でならば見えるものもあるだろぉ?」

「あ、なるほど………」

 

千雨に言われて、徐倫たちスタンド使い一同は、こっそりスタンドを出して窓際最前列にある『相坂 さよの席』を見た。

しかし、最前列の席には、何もなかった………

 

「………だよなー………」

「仮に幽霊だとしても、名簿に名前が載っている訳ないし………」

 

肩の力を抜いたネギたちが、出口の方に向き直り―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『わー、この子、カワイイですね~♪』

『チュミィイ~~ン……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………………………………………………』

 

『タスク』を撫でる、セーラー服姿の女子の姿があった………

 

『い、………いたぁあああああああああああああああ!? !?』

『きゃぁ!?え?え?な、何ですかぁ~~~!?』

 

驚く一同に対し、同じく驚いてキョロキョロと周囲を見渡す幽霊こと、『相坂 さよ』。

名簿の写真のとおり長い白髪の少女で、半透明で足がなく少し浮いているが、写真のどこか儚げな雰囲気とは打って変わっておどおどと慌てる様は、ある意味「裏切られた」感があった。

 

「やべぇよ………本当にいたよ幽霊………」

『え!?幽霊!?ど、どこですかぁ~~!?』

「いや、お前だよ!」

『あ、私でしたか………』

「何か、幽霊的な怖さが微塵もないんだけど………」

 

素でボケるさよにツッコむ千雨。

 

「ええと、あ、相坂 さよさん、ですよね………?」

『はい…………私、60年近く教室で地縛霊やっているんですけれど………いまいち存在感がないというか、誰にも気づいてもらえなくて………』

「た、確かに、私らもおじさんに言われなかったら、気づかないままだった可能性が………」

『夜の校舎に一人でいるのって、お化けとか出そうで怖いんですよ~………』

「鏡見たら?お化けがいるから。」

『以前、『落ち武者』の幽霊さんに襲われかけた時は、怖すぎて心臓が止まりそうになりましたよぉ~………』

「いーや、お前はもう死んでいる。」

 

あべし、もといビシっ、とツッコミを入れる千雨。さよはどこか抜けている性格らしく、俗にいう『幽霊の怖さ』がないため、身構えていたのが馬鹿らしくなってきた。

 

「……あれ?」

 

ふと、スバルはある事に気が付いた。さよを見つけた際の、彼女の行動だ。

 

「相坂さん………さっき、ネギ君の『(タスク)』、()()()()()()()………?」

「え?」「あ………」

『あ、その子、『タスク』って言うんですかー?』

 

さよは何てことないように『タスク』を撫でながら言うが、それを聞いた徐倫たちははっとした。

 

「ねえ、幽霊になると、スタンドって見えるものなの……?」

「いや、同じ幽霊の『杉本 鈴美』は、スタンド使いではなかったために、スタンドが見えなかった……」

『スタ、ンド………ですか?』

 

首をかしげるさよ。

『スタンドは、スタンド使いにしか見えない』幽霊にもそのルールが適用されるのならば………

 

「こいつ………スタンド使いか………!」

『へ………?』

 

全員の視線が集まる中、キョトンとするさよ。その時、

 

「ねえ、徐倫や東方先生、こっち来たよね?」

「ええ………やはり、相坂さんの件でしょうか……?」

 

廊下から声が聞こえた。ハルナと夕映の声だった。

 

「ゲ、パル………!」

「………どーする?素直に『幽霊いましたー』って言うか?」

「いや、それはそれでメンドーな事になるな………」

 

ハルナの性格と、最近の夕映の疑り深さを考えると、ここで妙な事をすれば騒ぎに発展することは確実である。どうしようかと悩んでいると、さよが手を挙げて話しかけてきた。

 

『あの、お話するなら、いい場所がありますけれど………』

「え?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ハルナと夕映が教室に入ると、そこには誰もいなかった。

 

「あれー?確かにネギ君やスバルが、こっちに来たと思ったのに………?」

「おかしいですね………あの人数で、直ぐにどこかに行けるはずがないのですが………?」

 

2人は首を傾げながら、教室を見渡した。そして、やはり気のせいだったのだろうと思い、教室を後にしたのであった………

 

しかし、ネギたちはいったいどこへ行ってしまったのであろうか………?

 

 

 

 

 

←to be continued…




43話です。
・サブタイトルは『鉄塔に住もう』から。今気づいたけど、ゾンビは出ないので。念のため。

・なのはさん退院。でも、復帰はまだ後になるかも………名前出たし、『トラサルディー』での話を書こうと考え中。

・今回はさよちゃんのお話。修学旅行前に彼女を出したいと思いまして。

では、次回をお楽しみに!


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#44/学校に住もう ②

明日菜とスバルは目が点になっていた。教室にいたはずなのに、さよに連れられて窓際の席の前にある、黒板の下の『壁板のすき間』に引っ張られたかと思うと、そこに『吸い込まれて』この場所にいたのだ。

 

「………こりゃあ、一体………?」

 

さよに連れられたネギたちは、『図書室らしき部屋』の中にいた。

教室2つ分ほどの広さに本が詰められた本棚に椅子と長机が並び、壁にも本棚が設置されていた。受付のカウンターにはお茶の入った湯呑から湯気が立っており、おかきの乗った皿も添えられていた。

 

「ここは……図書室、か…?なんか、変な()()置いてあるけど………」

 

しかし、不可思議な点がいくつかある。

まず、テーブルの上のろうそくやマッチはともかく、図書室にあるはずのない『日本刀』や『古いライフル銃』、本棚の側面に立てかけられており、大きなラッパが光る『蓄音機(フォノグラフ)』がテーブルに置かれ、更には『自動販売機』まで何故か置いてあり、図書室とのミスマッチからシュールさを醸し出している。

次に、大きな窓があるものの、どういう訳か外は見えず真っ白な壁が見えるだけであった。

 

「この図書室を見つけてから、誰もいなくて怖いときとかに来ているんですよぉ~」

 

そしてさよは、先ほどまでの幽霊らしい透けて足のない姿ではなく、足があって床に立った状態で説明をしていた。その時、ネギは壁に掛けられていた着物を着た女性の絵に気づいた。

 

「おおっ!た、『竹久 夢二』ですか?これ!ほ、本物ですか!?」

「あ、はい。多分本物ですよー。ネギ先生、よく知っていましたねぇー」

 

興奮するネギに答えるさよ。一方の徐倫と千雨は、本棚の本を手に取っていた。

 

「『ダンテの神曲』、『ああ無常』、江戸川乱歩に宮沢賢治………古い作品ばかりだな………」

「けれど、本自体は新しいみたいだ………奥付には、『初版』とある………発行は昭和30年だ………」

 

徐倫たちが本を調べていると、仗助は蓄音機のそばに置かれたレコードを見た。

 

「レコードもあるな………シューベルトの『白鳥の歌』、モーツァルトのピアノ協奏曲27番……クラシックか?結構古いけど………」

 

明日菜とスバルは図書室を見渡した。

 

「何だか………『妙』よ、この図書室………!」

 

 

 

 

 

#44/学校に住もう ②

 

 

 

 

 

「私がいつ、どうやって『死んだ』のかは、覚えていません………気が付いたら、教室のあの席から動けない、『地縛霊』になっていたんです………ああ、地縛霊と言っても、学校近くのコンビニくらいまでなら、行くことが出来るんですけれど………」

 

さよは、カウンターのお茶とおかきを手にして話し始めた。

 

「ある日、『何かがある』ような気がして調べてみたら、この図書室を見つけたんです。日本刀とかは違うけれど、おかきとお茶は最初からありました………」

 

そう言うとおかきを食べて、お茶を飲むさよ。だが、それは顎の下を()()()()()、ビチャビチャと床に零れた。

 

「……!?」

「見ての通り、食べることは出来ませんけれど、味はします………幽霊になっても、『何か食べたい』と思う時があるのですが………そういう時に食べています………自販機の飲み物も飲みたいのですが、電気だけはなくて………」

「相坂さん………この図書室は一体………?」

 

さよにネギが聞いた。さよは小首をかしげた。

 

「分からないのですけれど、ただ、昔学校で大火事があって、その時に大改築されたことがあって………もしかしたら、その事と何か関係があるのでしょうか………?」

「大火事………?」

 

それを聞いたネギは、図書館を見回してある事を思い出した。

 

「もしかして………何となくだけど、わかりかけてきました………この図書室は『幽霊』なんだ………」

「ゆ、幽霊?図書室が幽霊って………?」

 

理解が出来ていないのか、スバルが聞き返した。ネギは説明を続けた。

 

「魔法関係の本で、前に読んだことがあります。『屋敷幽霊』と言って、火災等で焼けた家なんかが『霊魂』となって『()()()()()()()()()()』という事例です。ロンドンやパリには、100年以上昔の家やお城の屋敷幽霊が数件あると聞いています。」

「屋敷幽霊………じゃあ私たちは今、『火事で焼け落ちる前の図書室の幽霊』にいるってこと………?」

 

きょろきょろと、図書室内を見回す明日菜。

 

「図書室そのものもそうだが、本も、お茶とおかきも、夢二も幽霊って事か………「ものの幽霊」………それを感知して使う事が出来るのが、相坂のスタンドって事か………」

 

仗助は、鈴美のいた『あの世とこの世の境目』にある『振り向いてはいけない小道』を思い出していた。あの一帯は、鈴美が生きていた頃の家の周囲がそのままになっていた。おそらくあの一帯も、『住宅地そのものの幽霊』だったのだろう。

 

「ちょっと面白いわねー、秘密基地みたいで!」

「え………じゃあ、あの日本刀やライフル銃は………?」

「あ、その日本刀は、さっき話していた落ち武者さんが落としたものでして………ライフルと自動拳銃は、旧日本兵の人が落としたものです。」

「何でそんなもん落としたんだよ………?」

「それが………私を見て驚いてしまったらしくて………刀とか銃を置いて逃げてしまって……」

「幽霊にすら驚かれるって………スゴイのか地味すぎるのか………」

 

さよの地味さ(ステルス性)に、感心するべきか呆れるべきか分からない千雨であった。

 

「ところで、先ほどから話している『スタンド』っていうのは………?」

「ん、ああ、スタンドってのはな―――」

 

仗助と徐倫は、さよにスタンドについて説明をした。

 

「なるほど………じゃあ、私がこの図書室を見つけて使うことが出来るのは、私のスタンド能力によるものだったんですね………」

「多分な。お前が今、『実体化』しているように見えるのも、この図書室が幽霊だからってのが理由だろうな。」

「生前の事を思い出せない事を考えると、多分スタンド使いだと気づかないまま死んだってトコか………」

 

納得したように話すさよと仗助。さすがの『矢』も、幽霊を射抜く事はできない。すると、ネギがさよに話しかけてきた。

 

「ええと、相坂さん………今まで気づいてあげられなくて、ごめんなさい………」

「い、いえ……私も幽霊ですし………そもそも幽霊の私がクラスの名簿に載っている理由もわかりませんし………」

「あー……でも、この場合はお互いに『スタンド使い』だからよかったのかな?そのおかげで、相坂さんとこうやって『友達』になれたわけだし。」

 

スバルがそう言った瞬間、さよははっと弾かれたようにスバルの方を向いた。

 

「とも………だち………?」

 

すると、さよの目からつう、と一筋の涙がこぼれた。

 

「ええ!?」

「ど、どうしたの相坂さん!?」

 

慌ててさよに駆け寄る一同。するとさよは涙をぬぐって、

 

「ぐすっ、すみません………私、今まで誰にも気づいてもらえなくて………寂しくて………」

「………あー、確かに、60年以上も気づかれなかったらなー………」

 

涙を流すさよに同情してか、気を落とす一同。ネギたちは顔を見合わせた後、さよに笑顔で手を差し伸べた。

 

「ええと、僕たちでよければ………」

「私も………この中で一番『新参者』だけど………」

「………はい!」

 

かくして、クラス1地味な生徒に、友達ができたのであった。

 

 

 

 

 

麻帆良学園都市名所:『図書室の幽霊』

場所:麻帆良学園中等部のどこか

 

1970年代に麻帆良学園でおきた大火事以前の図書室が、今もどこかにあるらしい。

もしそこに入ることが出来たら、『女子生徒の幽霊と話をすることができる』という。

(麻帆良学園新聞部発行『まほら新聞』より抜粋)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――ということがあって………」

「そ、そうなんだ………」

「吸血鬼とロボの次は幽霊か………あのクラス、どーなってるんだよ………」

 

夕方、マンションに帰って来たスバルは、フェイトたちにさよの事を話していた。

変わった生徒の多いクラスであるとは思っていたが、まさか幽霊までいるとは思ってもみなかった。まあ、普通幽霊がクラスメートだなんて考えもしないだろうけれど。

 

「で、ハルナって子の言ってた噂は、何だったの?」

「うん、相坂さん、前に寂しさを紛らわそうとレコードかけたり、夜の教室で蝋燭に明かり灯したりしたことがあるらしくて………」

「それが人魂や、不気味な歌の正体って訳ね………」

 

ティアナが呆れたようにため息をつく。さよにその気はなかったのであろうが、怪談や七不思議にされては困りものであろう。

 

「………所で、さっきから気になっていたんだけど………」

「ん?」

 

ふと、スバルの話を聞いていたディエチが、引きつった表情で話しかけた。そうしたのだろうと思っていると、ディエチはスバルの背後を指さし、

 

「その幽霊って、『()()()()()?』」

『え?』

『あ、どうもー………』

 

振り返ってみれば、いつの間にかさよの姿があった………

 

「………って相坂さん!?な、何で………!?」

 

驚いてのけ反るスバルと、さよに気づいて若干距離を取るナンバーズ一同とティアナ。フェイトとアルフには見えていないのか、不気味がって辺りを見渡していた。

 

『はい……スバルさんが友達になってくれてうれしくて………それで、つい後を()()()しまって………』

「今、漢字変換おかしくなかった!?」

 

照れたように言うさよにツッコミを入れるティアナ。しかし、確か学校の近くのコンビニの付近までしか行けないはずであったが…?

 

『そうやら、誰かに憑いていれば、遠くまで行けるみたいなんですー♪』

「へ、へー、大発見じゃん………」

 

若干困惑したものの、さよの体質の発見を喜ぶスバル。

地縛霊のさよは流石に修学旅行には行けないだろうと思っていたが、これならば何とかなるだろう。

 

『というわけで、よろしくお願いしますね、スバルさん!』

「う、うん!」

 

 

 

「随分と()()()()みたいッスね。」

「あれは()()()()()()って言うんじゃねーか?」

 

 

 

 

 

相坂さよ(享年15歳) スタンド名―バーニング・ダウン・ザ・ハウス

スバルたちと同じ5班に入れてもらい、修学旅行を楽しみにする。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

京都

料亭「霞のめ」

 

 

「―――では、こちらへどうぞ。」

「ど、どうも。」

「………噂に聞いてはいたが、ずいぶん丁寧だな、『ニホンジン』ってのは。」

 

料亭に着いたジョルノとトリッシュ、そして亀を持ったミスタの三人(フーゴは、ジョルノがいない間の組織の切り盛りのため、イタリアに残っている)は、ある部屋へと案内される。

 

「この部屋です。」

「どうも。」

 

そして、部屋の襖が開くと、中には男が三人。

 

「お、来たか~~~、ポルポルく~~~ん。」

『!!ほ………ホル・ホースッ!?』

「来たね。」「来たね。」

「「やっぱり来たね、ボス!」」

「ソルとルナ…………それにサルシッチャッ!」

「…………」

 

ホル・ホース、ウェカピポ、そしてサルシッチャに、ソルとルナ、そしてゴシックロリータ服の少女―――

 

 

 

 

 

「初めましてジョルノ・ジョバァーナ。私は『ルル・ベル』………どうぞよろしく。」

 

ルル・ベルがいた。

 

 

 

 

 

←to be continued…




44話です。
・さよちゃんのスタンドは、幽霊繋がりで『バーニング・ダウン・ザ・ハウス』にしました。原作よりも部屋は広い上に、さよちゃんは落ちてる物も拾うので、若干物は多いです。

・本やレコードの中には、屋敷幽霊繋がりで『デッドマンズQ』関連のものもあります。懐かれたスバルはちょっと困惑してるけれど、さよも京都に行くことができます。

・ルル・ベルとパッショーネが接触しました。今後の展開をお楽しみに。

では、次回をお楽しみに!


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#45/家出少女がやってくる!

「―――という訳で、さよさんはアスナさん達と同じ5班に入る事になりました。」

「了解。とりあえず、来れるか分からないエヴァンジェリンを含めて、33人全員班分けができたな……」

 

さよを見つけた翌日、廊下でネギと仗助が話をしていた。幽霊であるさよは一見「欠席」扱いになってしまうだろうが、60年以上地縛霊であった彼女にとっては京都への修学旅行は楽しみであろう。

 

「一応、昨日の内にスタンド使いの生徒達には相坂の事を教えてあるし、何らかのフォローはできるだろ。」

「あ、ネギ先生に仗助さん。」

 

すると、後ろから徐倫と千雨、スバルがやってきた。

 

「昨日話したトニオさんの件、どうだった?」

「ん?ああ、詳しい日付とか決まったら、また電話するって言ってあるぜ。」

 

徐倫の質問に答える仗助。2人によれば、『食べ物を介して人を健康にする』スタンド使いの料理人のいるイタリアンレストランが仗助の故郷「杜王町」にいるらしく、なのはを連れて行ってはどうかという提案であった。

 

「ナカジマの話じゃあ、結構ムチャしてるらしいし、トニオさんも料理の()()()があるんじゃねーか?」

「なるほどなー………まあ、小さい子もいるみたいだし、『流血沙汰』にはならないようには言ってあるからな。」

「流血沙汰!?」

「なのはさん、何食べさせられるの!?」

 

なのはに元気になってほしいスバルであるが、到底料理関係で聞かれない単語に不安になるのであった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

同時刻 東京駅

 

 

「―――お兄ちゃん、今確か『マホラ』っていうところにいるのよね………」

 

1人の少女が、駅の表を見ながらつぶやいていた。

 

「とりあえず行ってみるか………」

 

 

 

 

 

#45/家出少女がやってくる!

 

 

 

 

 

修学旅行二日前

麻帆良学園都市 世界樹広場付近

 

 

麻帆良最大の名物ともいえる『世界樹』の側にある世界樹広場へ向かう、徐倫、千雨、スバル、ティアナの4人とディエチとノーヴェ、彼女らを先導する刹那。

6人は刹那から、着いてきてほしいと頼まれて、現在、世界樹広場へと向かっていた。

 

「すみません空条さん………お休みの日に………」

「いや、私もこのかにスタンドや見合い相手の件バレちゃったし………てか、何の用だ?」

「ちょっと、厄介な事になってまして―――着きましたよ。」

 

刹那が答えを言い切る前に、世界樹広場に着いた。ふと、徐倫は気づく。

 

「…………?『休日』なのに、人が誰もいない……………?」

「確かにいないな…………休みはウットーしいくらいにごった返してるのに………?」

 

徐倫と千雨が言うように、休日は生徒たちで賑わう筈の広場には人っ子一人、ネコ1匹いない。

 

「それは、わざわざ学園長の許可をいただいて、人払いの結界を張ったからです。」

『………?』

 

ふと、広場上部から、声がした。見ると、二人の女性がこちらに向かい下りてきていた。

 

ひとりは、長い金髪を腰まで伸ばし、左右をリボンで留めて赤十字の入ったベレー帽をかぶった少女で、徐倫たちとは違う、修道女を思わせる黒い制服を着ている。

もう一人は徐倫たちと同じ中等部の制服を着ており、左右を団子にして、何故か竹箒を持っている。

 

「連れてきましたよ『高音さん』。」

「………誰だ?」

「片方は『聖ウルスラ女子高』の制服だが…………?」

「ウルスラ?」

 

聞き慣れない学校名に、ティアナが聞く。

 

「ああ、ミッション系の女子高だよ。」

「『ミッション系』………と言うことは、隠密行動や銃器の使用法、ダンボールの隠れ方とかを学んで、将来的にはスネーク的な立派な特殊工作員に………!」

「いや、ミッションって任務(そっち)の意味じゃなくてな……………」

 

今まで主に戦闘訓練をする毎日を送ってきたせいか、『ミッション=任務』という考えを持つノーヴェのとんちんかんな考えに千雨がつっこもうとするが―――

 

「あら、我が校の校風をよくご存知で。」

『嘘ォッ!?』

 

ウルスラ高の少女の意外すぎる返答に、徐倫たちどころか隣にいた少女をも、驚きの声を上げる。

 

「『ダンボールの隠れ方にキレがある』と、スネーク先生にほめられました。」

「いや、何でその人が講師としているのよッ!?何?あんたメタルギア破壊しにいくのッ!?」

「私、ウルスラに進学考えてたけど、止めようかな…………」

「私も………」

「そうした方がいいよ…………」

 

ウルスラ高のイメージが崩れ、進学を止めようと思う二人だった………

 

「さて、自己紹介をさせてもらいます。私は『高音・D・グッドマン』……ウルスラ女子高の二年生です。こちらは私のパートナーの―――」

「さ、『佐倉 愛衣(さくら めい)』です。」

 

二人の少女―――高音と愛衣の自己紹介に、千雨はあることに気づく。

 

「今『パートナー』って言ったな?あんたら『魔法使い』なのか?」

「ええ、そうですわ『スタンド使い』さん。」

 

千雨の言葉に、高音が答える。

 

「…………で、その魔法使いさんらが、私らに何の用ッスか?」

「ふふふ………それは―――」

 

すると高音は、徐倫たちに向かい『ビシィッ』っと指を指す。

 

「あなた方スタンド使いに、『決闘』を申し込むためですッ!!」

「「はいィィっ?」」

 

高音の言うことが分からず、思わず相棒的にすっとんきょうな声を上げる二人。

 

「今、この麻帆良で起こっている事件…………全てはあなた方と同じスタンド使いによるものとお聞きしました。」

「もうそこまで広まってんのか………」

「あなた方は私たち麻帆良側と聞きましたが、正直、私はスタンド使いなんていう得体の知れない者たちと共同戦線を張るのはごめん被ります!」

「私らからすりゃあ、魔法使い(あんたら)も得体が知れないけどな…………」

「そこで!実際に戦ってスタンド使いがどれほどのものなのか確かめようという考えに行き着きまして、ここに決闘を申し込みますわッ!!」

 

一通り喋ると、再び徐倫たちに指を指す高音。そんな様子を見て、二人はため息をつく。

 

「―――やれやれだわ…………なんかメンドくさそうなのに目を付けられたわね…………」

「ブライド高そうだよあの人…………どうする?」

「決闘受けるまで帰してくれそうにないし、仕方ない………」

 

二人は『渋々』決闘を受けることにした………

 

「じゃあ、私たちは介添え人として、この決闘が公平なものであると見届けるわ。」

「ええ、お願いします。」

 

ティアナが高音に言うと、スバルたちも囲うように散らばる。

 

「………で徐倫、勝算はあんだろうな?」

「ああ、ちょうど『試したい奴』があるしな!」

 

千雨の質問に、徐倫は懐から『あるもの』を出す。それは―――

 

「!?ぱ、『パクティオー・カード』ッ!?」

「まさか…………既に仮契約をッ!?」

 

そう、ネギと徐倫が仮契約を交わした証、『仮契約カード』だ。ただしこれは、カモの力で作ったパートナー用の複製(コピー)であり、オリジナルはネギが所持している。

 

「おい徐倫!試したい奴ってまさか………」

「ああ、『アーティファクト』ってやつだ。明日菜にもあったし、私のも試したくてな。」

「おいおい、大丈夫かよ!?使ったら『俺、参上ッ!!』って言ってポーズとるだけとかかも知れないだろッ!?」

「さすがにそれはないから大丈夫だろ………」

「………フッ、仮契約を交わしていたのには驚きましたが、まだ使っていないとは………これでは、勝負は火を見るよりも明らかッ!!」

 

徐倫に指を指しながら、高音は高らかに叫ぶ。それを見た徐倫は、やれやれといったようにため息をつく。

 

「いちいち人に指を指さねーで下さいよ先輩……まあ、出たとこ勝負ってとこッスかねぇ〜〜〜。」

 

徐倫はカードを、高音は杖を構えながら、一定の距離をとりジリジリと、相手の出方を見る。

 

そして、お互いが駆けだそうとした。

 

その時だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!

「「?」」

「あ、ごめんなさーーい♪」

 

歳が二桁行くか行かないかの女の子が高音にぶつかり、そのまま進行方向にいたディエチにもぶつかったあと、走り去っていった。

 

「な……何あの子…………?人払いの結界をすり抜けてきた…………?」

 

愛衣が女の子にきょとんとしていると、徐倫は何故か気が動転したようにつぶやいた。

 

「あいつは………?い…いや!見間違いだ!きっとココナッツのスジかなにかだろ………」

「いや、どうやら見間違いじゃなさそうだぞ徐倫…………」

 

千雨に言われて、徐倫が高音とディエチの方を見ると――――

 

「ん?」

「え?」

 

生まれたままの姿の、すっぽんぽんな二人がいた…………

 

 

 

 

 

そしてきっかり13秒後………

 

 

 

 

 

「「キャアアアアァァーーーーーーーーーーーーッ!!!!」」

 

二人の悲鳴が、誰もいない世界樹広場に響き渡った………

 

「ディエチ…………お前…………意外と股の毛無いんだな。明日菜位しかないぞ………」

「ほっといてよ!どーでもいいでしょ今そんな事ッ!」

 

徐倫がうずくまって秘所を隠すディエチにどうでもよさそうな事を言っている間に、ティアナたちはさっきの女の子が走っていった方を見るが、女の子は既に見えなくなっていた。

 

「もういない……………逃げられたッ?」

「いや、多分もう―――」

 

千雨が推測を立てている中、同じくうずくまった高音を見ていた刹那が、驚いていた。

 

「こ………これは!服の『感触』はあるのに…………服が『見えない』…………服が『透明になっている』!!?」

「と…………『透明』ッ!?敵スタンド使いですかッ!?」

 

刹那の言葉に愛衣は敵スタンドかと驚くが、徐倫がそれを否定した。

 

「………いや、違うな。」

「?何でそう言えるんだよ?」

 

徐倫にノーヴェが聞くと、徐倫はやれやれと呟いた

 

「ありゃ私の親戚だ。何で麻帆良に来てるかは知らないがな………」

『…………へ?』

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

数十分後

女子寮ロビー

 

 

「はい、それじゃあ。」ピッ

(姐さん、東方のダンナ、何の用だったんスか?)

 

ロビーの一角で少し早めの昼食を取っていた明日菜は、突然仗助から電話がかかってきて、数分話して今終わった所だった。

 

「うん、何かネギとこのかどこか聞かれて………私は分からないけど、とりあえず『原宿』にいることは伝えたけど。」

(兄貴たちに?何の用だったんスかね?)

「さあ………?」

「あらアスナさん。どうかしましたの?」

 

と、そこへあやかが明日菜へ話しかけてくる。そこで、明日菜は思いついた。

 

「あ、いいんちょ。ねえ、東方先生の『妹さん』って知ってる?」

「妹………?ああ、『(しずか)ちゃん』のことですの?」

「うん、何か『家出』しちゃったらしいんだけど、おじいさんが調べたら何かネギとこのかが関係してるとか何とか………」

 

明日菜の話に、あやかは思い当たる節があった。

 

「恐らくはジョースターさんの「隠者の紫(ハーミット・パープル)」の『念写』ですわね。それで二人が写ったということは………」

(二人の近くに、その『妹さん』がいるって事ッスね?)

「なるほど………って妹さんアメリカにいるはずじゃあッ!?」

「あ!?それがネギ先生が写ったという事はッ!?」

 

ようやく事態を飲み込んだ二人と一匹。すぐさま明日菜は、木乃香に電話をかけた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

原宿

とある雑貨屋

 

 

―――チャッチャカスチャラカスッチャンチャン♪

「―――ん?あ、アスナからや。」

「着メロ、笑点なんですね………」

 

雑貨屋で何やら色々見ていた二人の元へ、明日菜から電話が来る。

 

ピッ

「はいな〜〜?」

[あ、このか?今どこ?]

「ん〜〜〜?今原宿の雑貨屋さんやけど、どしたん?」

[うん……えーと、あ、近くにちっちゃい女の子いない?ネギより年下くらいの!]

「え?えーと…………あ!」

 

明日菜に言われた木乃香が周りを見渡してみると、見つけた。

 

肩までかかる黒髪をツインテールにした頭にはサングラスを乗せ、服装はリボンが数個ついたピンクのワンピースを着て、肩には白と赤の水玉模様のポシェットを下げた八歳くらいの女の子で、何やらサングラスがかかったタワー状のディスプレイを見ている。

 

「おったけど………あの子がどうしたん?」

[あ、いたの?多分その子、東方先生の妹さんだから、目を離さないで!]

「え?『東方先生』の?」

「?東方先生がどうしたんです?」

「!?」

 

「東方」という言葉を聞いた女の子―――静・ジョースターは、木乃香の方を向くと、木乃香と目が合ってしまう。そして、数秒見つめ合った後………

 

「………」ダッ

「あっ逃げた!?」

[ええっ!?ネギッ早く捕まえてッ!!]

「えっ!は、はいッ!!」

 

明日菜の声が木乃香の携帯から聞こえ、静を追おうとするネギだが………

 

パッ

「「えっ!?!?」」

 

静はその場でパッと、姿()()()()()()()()()!!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

[な………なんやあれ!?手品みたいに消えてもーたでーー!不思議ーーー]

「ええッ!?」

(あの、いいんちょの姐さん、もしかして妹さんも………)

「あ!そうでしたわ………『透明になれる』スタンド―――『アクトン・ベイビー』の能力ッ!!透明になって逃げられたッ!?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

数分後

グリーン・ドルフィン・ストリート麻帆良 206号室

 

 

「分かった、原宿だな!」

 

明日菜から電話を受けた徐倫は、静の居場所を聞くと、千雨たちへ指示を飛ばす。

 

「静は原宿だ!スバルとティアは私らと現地へ向かうぞッ!」

「う、うんッ」

「はい、これはバカには見えない服ッスよ〜〜〜〜」

「って人の服で遊ばないでよッ!!」

「完全に他人事だなお前ら………」

 

ウェンディとセインが透明になったディエチの服で裸の王様ごっこをしているのをよそに、徐倫たちは駆け出した。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

二時間後

原宿

 

 

「はあっ…………はあっ…………ど、どこに行ったんでしょうか………?」

「あかん………また見失ってもうた~~~!」

 

あれから静を見つけては姿を消されるのを繰り返して、原宿中を走り回ったネギと木乃香、そして先に合流していた明日菜は、すっかりくたびれてしまった。

 

「……とにかく、固まってないで、手分けして探さへんー?」

「そうね、3人が3人、同じとこ探しても、しょうがないし………」

「じゃあ、うちはもう少しこの辺探してみるわー」

 

木乃香の提案に乗り、ネギと明日菜は分かれて捜索をすることにした。

 

「……………」

 

2人が遠ざかったのを確認した木乃香は、自分の背後を向いた。

 

「静ちゃーん?おるんやろー?怒らへんから、出ておいで―?」

「………!?」

 

木乃香がそう言うと、少し離れた場所にスーッと、静が姿を現した。

 

「スタンドの事知っとるけど、ほんまふしぎやなー………」

「………なんでわかったの?」

「うーん、なんとなくかなー?」

 

木乃香は笑いかけながら、静に手をさし伸ばす。

 

「ちょっとお話しようかー、何でこんなことしたんか………」

「………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………え、ごめん、もう一回言ってくれへん………?」

 

数分後、近くのベンチで静から家出の原因を聞いていた木乃香は、少し困ったように静かに聞き返した。静は口を尖らせた表情で、

 

「だから、リサリサおばあちゃんが、私のとっておいた『プリン』を食べちゃうから…………」

「プリン一個で不法入国!?」

 

思わず大声を出してしまう木乃香。木乃香の後ろに、ピンクのショートカットの少女の顔が見え隠れしたのは、多分気のせいだ。

 

「い、いや……本当は西海岸辺りに行こうと思ってさ………ラスベガスとか。私の『透明』の能力を駆使して空港まで行って飛行機に乗ったんだけど…………間違って『国際線』に乗っちゃって…………」

「意外と行動力あるなー、この子………」

「それで、ジョースケお兄ちゃんを頼って『マホラ』まで来たんだけど………ジョリーンお姉ちゃんが何かヒドいこと言われてたからさ。得体が知れないとか、胡散臭いとか………で、間違って他の人も攻撃しちゃったから、逃げるように原宿まで………」

「そして現在にいたる、と。」

 

静の話を聞いて、呆れていいのか感心していいのか分からない木乃香。親であるジョセフに似たのか、すごい行動力を持つが、所詮は子どもといった所だろうか………

すると、遠くの方から明日菜と徐倫たちが走ってくるのが見えた。

 

「おーいこのかー!」「このかさーん!」

「あ、アスナたちー♪」

「え!?なんで………」

「実は、静ちゃんの話聞いとる間に、みんなにメール送っといたんや♪」

「いつの間に!?」

 

木乃香の手際の良さに驚く静。すぐに逃げようとしたが、木乃香が手をがしっと掴んでいるので逃げられない。

 

「とにかく、いたずらしたのと、家出したの、謝らなあかんえー?」

「う、…………ううううううううううううううう……………」

 

静は木乃香を恨めしそうに睨み唸るが、木乃香はニッコリと笑うだけであった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

グリーンドルフィン・ストリート麻帆良 203号室

 

 

「こンのッバッカヤローがァァアアアーーッ!!」

ゴッチーーン☆

「いったーーいッ!何すんのよお兄ちゃんッ」

「何すんのじゃねーよこのバカッ!こんな大勢に迷惑かけやがって!!」

「ま……まあまあ、仗助さん…………」

 

明日菜やスバルたちが見ている中、仗助が静にげんこつを喰らわせてなおも怒鳴りつけるのをネギが静める。だが、仗助と、その隣で仁王立ちする徐倫の怒りはまだ収まりそうにない。

 

「―――とにかく、不法入国の件はSPW財団が何とかするから、おめーはアメリカに帰れっ!じじいも心配してんだろうよ。」

「………確かに、心配してるよね……………だが断る。」

『ハアッ!!?』

 

静が帰ることを跳ね返した事に、全員が声を上げる。

 

「リサリサおばあちゃんが謝るまで、私家には帰らないからッ!!」

「って何意地張ってんだお前はッ!!」

「というわけで、私お兄ちゃんのとこに泊まるから。」

「勝手に決めてんじゃねーよ!」

 

「うわー………意外と意地っ張りだよあの子…………」

「能力にはやられたけど、中身はまんま子どもねえ………」

「あれで先生とあんま歳変わんないんだがな………いや、先生が大人びすぎてるだけか…………」

「やれやれだわ…………」

 

静の様子を見ながら、明日菜たちは呟いた………

 

 

 

 

 

静・ジョースター(八歳)

スタンド名:アクトン・ベイビー―自分及び周囲の物を透明にする能力。

仕方なく、しばらくの間仗助の部屋に泊まることになった。

 

高音・D・グッドマン――今回はお流れとなったが、いつか必ず再戦すると(涙目で)約束させた。

 

ディエチ――静に謝られ、今回だけは許すことに。

 

 

 

 

 

←to be continued...




45話です。
・サブタイトルは『ジャンケン小僧がやってくる!』から。サブタイトルだけだと3部のあの子っぽいけど、静でした。

・なのはさんのトラサルディー行き計画が進行中。ヴィヴィオも行くと思うので、なるべくトニオさんには控えめでお願いされています。

・高音登場。ミッション系のくだりは、私がミッション系と最初聞いたときの想像から(笑)
そして高音は、ここでもこんな役割(脱げ担当)です(笑)

・静・ジョースター(透明の赤ちゃん)登場。実はアクトン・ベイビーってラブコメ向きのスタンドだと、最近気づきました。リメイク前と違い木乃香はスタンドの事を知っているので、木乃香に説得をさせてみました。

では、次回をお楽しみに!


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#46/新大阪行き超特急

〈修学旅行一日目〉

 

大宮駅

 

 

「おはよーございます東方先生、ウェザー先生ッ!!」

「おうネギ!」

「おはよう。ネギ君」

「おはようございますスバルさん!早いですね?」

 

修学旅行当日、早めに来た教員勢や待ちきれずに始発で来た生徒たち、そして少し眠そうなスバル(背中にはさよの姿もある)の元へ、生徒以上にウキウキしたネギが来る。

 

「スバルさんも待ちきれずに早めに来たんですか?」

「いや〜、実はオットーと相坂さんに付き合わされて………」

(あー、オットーの姐さん、違う意味で待ちきれそうになかったからなぁ〜……)

 

今回、ディードを探すため京都へ向かうことになったナンバーズ及び機動六課は、ネギたちの修学旅行に合わせて出発する手筈になっていた。

それを聞いてオットーは当日までそわそわしっぱなしであったため、チンクたちは宥めるのが大変だったという。

 

「……それで、オットーさんは?」

「あっちでティアたちと『テント』畳んでるよ………」

「テントって………()()()()ッ!?」

「いや、早く来すぎだろ!『ドラクエ』とか『iPhone』買うんじゃねーんだぞ!?」

 

まさかの『昨夜から野宿』に驚きを露わにするネギたち。

ある意味生徒以上に気合いの入ったオットーに、感心していいのか呆れていいのか分からなかった………

 

 

 

 

 

#46/新大阪行き超特急

 

 

 

 

 

「………まさか駅で『野宿』するハメになるとは思わなかったわ………」

「まったくだ………大学時代にバイト先で『新年』迎えた作者の気持ちがちょっと分かった気がするよ………(実話)」

 

テントを畳み、荷物をまとめながらティアナ(まだ眠い)とノーヴェ(寝不足でイライラ3割増)が話していた。

尚、野宿するハメになった原因であるオットーは―――

 

「離してくださいチンク姉様!!何故行かせてくれないんですッ!?」

「だから落ち着け!団体行動を乱すなんて、お前らしくないぞオットーッ!!」

 

チンク、ディエチ、ウェンディ、セインに取り押さえられていた………

 

「あんなに取り乱すなんて………よっぽどディードが心配なのね…………」

「ああ………あんなオットー、見たこと無いよ…………」

 

ディードが心配でいてもたってもいられない様子のオットーを見ながら、二人はそう呟く。

その時だ。

 

 

 

パシャッパシャッ

「「……?」」

 

不意にシャッター音がした。音の方を見ると、肩にスケッチブックをかけた男が一眼レフでオットーたちのやりとりを撮影していた。

それを見たティアナは、男の無神経さに怒りを覚えた。

 

「―――ちょっとあなた、何してるのよッ!?」

「ン…………すまないな。あんな風に取り乱す人間が大勢に押さえられている所を、初めて見たからな………」

 

男はカメラから目を離すと、ティアナに平謝りをする。

そして再び写真を撮ろうとしたため、ティアナはカメラのレンズに手をやり、カメラを下げさせた。

 

「だからって、勝手に撮影していい理由にならないでしょうがッ!!」

「…………チッ、分かったよ…………」

 

男は何かブツブツいいながら、その場を立ち去って行った。

 

「まったく!無神経な人もいたものね!」

「あいつ、スケッチブック持ってたけど、なにやってる奴なんだ………?」

「知らないわよ!ほらオットー!他の人に迷惑だから、ギンガさんたちが来るまで待ってなさいッ!!」

 

少しイライラしたように、ティアナはオットーに怒鳴りつけた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

9:45

 

 

「―――んーと、今のが5班だから………」

「後一班ですね」

 

東京駅まで向かう『あさま506号』に乗り込んだネギたち3‐Aは、各班の確認をしていた。

 

「あの、先生方……」

「あ、桜咲さん……と、ザジさん?」

「あれ?おめーら『6班』は………二人だけか?」

「はい……私が6班の『班長』だったのですが、エヴァンジェリンさん他『2名』が欠席したので、6班はザジさんと私の二人だけになりました………」

 

見ると、刹那の他に、黒い肌に銀髪、そして顔に施したピエロのようなメイクが特徴のザジ・レイニーデイが、少し困ったようにしていた。―――いや、ザジは無表情だ……いつも通り………

 

「えっ………そ、そうですか………困ったな…………」

「(やっぱエヴァは来れねーのか………相坂は来ているが………)分かった、他の班に入れてもらえ。」

「はい………」

「……………」コクリ

 

仗助の提案に、二人は返事をする。(ザジは頷いただけだが…)

そして他の班の班長に話したところ、3班と5班がそれぞれ二人を入れてくれることになった。

 

「それじゃあアスナさん、桜咲さんを、いいんちょさんはザジさんをお願いします。」

「はいはい。」

「分かりましたわネギ先生。」

「え…………」

 

ふと、木乃香が刹那と一緒という事に反応する。

 

「あ、『せっちゃん』………一緒の班やなあ………」

「あ…………」

 

刹那は木乃香に対して軽く会釈すると、すぐに席へと向かっていってしまった。

 

「あ………」

「………?(おい、あの二人何かあったのか?)」

(さ…………さあ?)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ふう…………今頃奴らは新幹線かぁ〜〜」

 

一方こちらは麻帆良学園。

『登校地獄』の呪いで学園からでられないエヴァンジェリンは、校舎の屋上で惚けていた。

 

「マスターは呪いのせいで修学旅行にいけず残念ですね。」

「………おい、何で残念なんだ?別に私は………」

「いえ、行きたそうな顔をしていましたので……」

 

少しズレた発言をする茶々丸に対して、エヴァンジェリンがつっこむ。

 

「ふん、まあナギが生きているなら、その『情報』が手に入るかもというのはあるがな………それも、手は打ってあるし。」

 

京都の方角を見ながら、エヴァンジェリンはそう呟いた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「わっわっ、ノーヴェノーヴェッ!動いたッスよほらッ!!」

「当たり前だろうが、うっせーな……」

 

一方、東京駅から『ひかり213号』に乗り換え、発車時刻となり動き出した新幹線に、何故か学生のようにハシャぐウェンディをうざったがるノーヴェ。

 

「今頃、A組もハシャいでんじゃないか?」

「徐倫は表立ってハシャがないだろうが、他はハシャギまくりだろうな〜。」

「えー?そうなの?」

「うん、修学旅行って結構テンション上がるから、きっとね。」

 

 

 

「…………ちょっと待って。この新幹線『変な奴』が乗ってるわ…………」

 

ティアナの言葉に、全員が振り返る。

 

「「………誰だ?それは………?」」

「お前らだよッ!!」

 

とぼけた回答をする静とブチャラティに対して、手を添えながらつっこみを入れるアナスイ。

 

 

 

 

 

……………アナスイ?

 

 

 

 

 

「ってあんたもでしょうがッ」

スパコーーーーン

 

何故かいるアナスイの頭に、『ツッコミ用』とかかれたスリッパでひっぱたくティアナ。#27以来、実に19話ぶりの登場でも、彼はこんな役目だった………

 

「………安心しろ、俺は学園長に頼まれたんだ。徐倫たちはともかく、『魔導師(おまえら)の中にはスタンド使いとの戦いになれてない奴もいるから』ってな。」

 

ティアナにひっぱたかれた場所をさすりながら、アナスイが説明する。

 

「ちなみに私は留守番がイヤで着いてきました♪透明になって。」

「よし、次の『名古屋』でおりなさい。ウェンディ、この子よろしく。」

「「え〜〜〜〜ッ!?」」

 

ティアナからの無情な通告に非難の声を上げる静とウェンディ。静は仕方がないが、ウェンディは完全に巻き添えだ。

 

「そ、それで、ブチャラティさんは……?」

「俺はエヴァに頼まれた。ネギに着いていって『サウザンド・マスター』の情報を手に入れろってな。」

「なるほど………」

「ついでに『生八つ橋』を買ってこいと頼まれた。」

「前者がなかったらただの『パシリ』だよねそれ………?」

 

ブチャラティが着いてきた理由を聞いて頷くディエチだが、後の方を聞いて苦笑した。

 

ヒュンッ

 

「ん?今何か通ったか?」

 

その時だ。何やら小さくて黒い何かが通り過ぎたのを見て、通路をのぞき込むチンク。だが、

 

「わーーッ!?退いてくださッ」

「え?」

ドガアッ

「「グエェッ」」

 

のぞき込んだとたん、ネギが走ってきて思いっきり衝突してしまう。

 

「チンク姉ッ!?」

「ネギくんッどうしたの?」

「痛たたたた………ああッ!!し、『親書』が………!?」

「『親書』………?」

 

小さくて黒い何かが飛んでいった方を見ながら、ネギが嘆く。

 

「や………ヤバい!あの『ツバメ』に、親書を奪われちまったんだッ!!」

「何ィッ!?」

 

カモの話に驚く一同だが、黒い何か―――ツバメは既に車両の端だ。

 

「ああっ!もうあんな所に………!」

「問題ないぜッ!!」

 

アナスイが叫んだときだ。

 

 

 

 

 

ガシィイッ

『ああッ!?』

 

床から『腕が生え』、ツバメを掴んだ!

 

「『ダイバー・ダウン』………新幹線に潜行させた!これで捕まえ―――何ィッ!?」

 

だが、よく見るとつかんだのはツバメではなく、甲冑の兜のようなマスクだった……

 

「か…………『変わり身の術』!?しかもこのマスクはッ!」

「●トランティス!?懐かしいよッ!?」

 

どうやったのかは不明だが、マスクのせいで、最近テムズ川で大活躍を見せた悪魔超人のような姿に見えてしまうダイバー・ダウンが、そこにいた……

 

「逃げられたか…………」

「そ、そんな……………」

 

全員が嘆く中、ティアナはあることに気づいた。

 

「……………あれ?『セイン』は?」

『え?』

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

のどが渇き、男は自販機で飲み物を買おうと外に出た。

『先生』に突然『京都に行こう』と無理矢理誘われたが、彼はあまり不満では無かった。まあ、『先生』は元からあの性格だし、京都へは行ったことがないので、少し楽しみかなぁとは思っている。

 

そして外に出たとき、彼は『小さくて黒い何か』が向かってくるのをみた。よく見ると『ツバメ』だ。

何故ツバメがこんな所にいるのか不審に思った彼は、自分の『能力』でツバメを捕まえようとした。

 

その時だ。

 

 

 

 

 

ガシィイッ

「!?」

「とったどォォオオオーーーーッ!!」

 

壁から女の子が『()()()()()』、ツバメを捕まえた!

だが、彼のスタンドは既にツバメに『攻撃している』。

 

つまり―――

 

 

 

 

 

 

 

ズドンッ

「うわっ!?」

 

ツバメは()()()()()()()のだ!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「な………何これ!?『重い』ッ!?」

 

いち早くツバメが逃げたのを確認したセインは、自分のIS―――『ディープ・ダイバー』でアナスイ同様新幹線に潜行してツバメを追跡したのだ。

そして、ツバメを捕まえたと思ったら、急にツバメが床にめり込むほど『重くなり』、セインはつかんだ右腕から床に倒れてしまったのだ。

それは端から見たら、イナバウアーのように背を反らしたポーズに見えなくもなかった。

 

「き………君は!?」

「えッ!?」

 

声がして振り返ると、自分より背が低い小柄な男がいた。ISを使っているのを見られたのにも焦ったが、問題は『他にあった』。男の『そばに立っているものだ』!

 

小柄な男よりも背が低く短い手足を持った機械的な印象の外見、頭部にいくつも付けられたハザードランプのようなもの、そして腰に付けられた『3』と描かれた腰布―――これは!

 

「ス…………スタンド―――」

 

 

 

 

 

だが、セインの意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………さん!セインさん!」

「…………あれ?私………」

「セイン!気がついたか!」

 

セインが意識を取り戻した事で、ネギたちは安堵の表情を浮かべる。

 

「私………どうしてたの?」

「親書握って気絶していたんですが………何があったんですか?」

 

ネギに言われて、セインは思い出した。

 

「そ………そうだ!ツバメ捕まえたと思ったら、急にツバメが『重くなって』、んで、近くにスタンド使いがいたんだけど………あれ?そっからさきが思い出せない……?」

(多分、そいつのスタンド攻撃を受けたんッスね………親書が無事だったから良かったが………)

「じゃあ、また魔法使いとスタンド使いが………!」

 

カモとネギの仮説に、全員が息をのんだ。

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ふふふっ………あんなもの、逃がすわけが無いだろう………!」

 

 

 

 

この時誰も気づいてなかった。

 

 

 

近くの扉から、ネギたちの様子を見ていた男の存在に…………

 

 

 

 

 

←to be continued...

 

 

 

 

 

[PRIVILAGE CADE]

 

☆3‐A修学旅行各班員★

 

※☆=班長

 

1班

柿崎 美沙☆

釘宮 円

椎名 桜子

鳴滝 風香

鳴滝 文伽

 

2班

古菲☆

春日 美空

超 鈴音

長瀬 楓

葉加瀬 聡美

四葉 五月

 

3班

雪広 あやか☆

朝倉 和美

空条 徐倫

那波 千鶴

長谷川 千雨

村上 夏美

Zazie Rainyday

 

4班

明石 裕奈☆

和泉 亜子

大河内 アキラ

佐々木 まき絵

龍宮 真名

 

5班

神楽坂 明日菜☆

綾瀬 夕映

近衛 木乃香

早乙女 ハルナ

桜咲 刹那

宮崎 のどか

スバル・ナカジマ

 

☆欠席者★

相坂 さよ(本当は来ている。)

絡繰 茶々丸

Evangeline.A.K.McDowell




46話です。
・サブタイトルは「フィレンツェ行き超特急」から。

・昨夜から野宿はお気に入り。オットーは我慢の限界らしかったですが、駅まででギリギリ止められました(笑)

・久々のアナスイ。ぶっちゃけ今まで忘れてました(笑)

・ダイバー・ダウンVS.ディープ・ダイバー。名前と能力が似てる二人の今回の対決は、変わり身をされたとはいえ、ディープ・ダイバーに軍配。実際は『痛み分け』に近いですが。

・二人の男の正体は分かる人には分かるでしょうが、詳しくは次回以降ということで。

では、次回をお楽しみに!


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#47/京都観光中異常発生中

麻帆良学園

学園長室

 

 

徐倫やスバルが京都に向かった頃、承太郎は学園長室で学園長と、金髪にめがねの女性―――葛葉 刀子(くずのは とうこ)からの報告を聞いていた。

 

「人造魔導師?」

「はい………長谷川 千雨さんとアギトさんを襲った『ギアッチョ』というスタンド使いを検死した結果、体内から人工魔導回路などが多数発見されました。恐らくは―――」

「チンクが言っていた、ブチャラティ以外の『5人』の内の一人か………ということは、スカリエッティは『両右手の女』と面識があった事になるな………」

 

刀子からの話から推測する承太郎。

チンクが言うには『人造魔導師』として蘇生したスタンド使いは、ブチャラティを含めて6人―――つまり、ギアッチョが倒された今、後『4人』のスタンド使いが『両右手の女』側についている事になる。

 

「………おい、『スカリエッティ』に会うことはできるか?」

「はい、交渉はしてみます………」

 

承太郎に言われ、刀子は部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

京都

清水寺付近

 

 

「ノーヴェノーヴェ〜〜〜、似合うッスか〜〜〜?」

「んー………似合うんじゃねーか?」

「ん〜〜〜?なーにィー、その反応は〜〜〜?」

 

府内にある貸衣装屋で『舞妓はん』の格好をして出てきたセインとウェンディが感想を求めるも、ノーヴェの反応は素っ気のないものだった。

 

「ほらオットー!早く出るッスよ!」

「わっ………ちょっとウェンディ姉様ッ!?」

 

ふと、オットーがウェンディに引っ張られる形で、同じく舞妓はんの格好をして出てくるが―――二人に比べて化粧は薄め―――相当困惑した様子だ。

 

「こ………こんなことしている場合じゃあ………」

「まあまあ、今は京都をエンジョイするッスよ〜〜〜!」

「そうそう、焦っても仕方ないよ〜〜〜!」

 

ディードが心配で仕方がないオットーだが、ウェンディとセインはまさにウキウキしながら話す。

 

「でぃ、ディエチ姉様!姉様からも二人に―――」

 

オットーは、近くにいたディエチとチンクに助けを求めるが………

 

「ねえ、オットーにはこっちの(かんざし)のほうが似合うんじゃないかな?」

「いやディエチ、こちらも捨てがたいぞ?」

「ちょっとォオオーーーッ!?」

 

こちらもエンジョイしていた。

オットーは涙目で「お前もかブルータス」と言いたげな顔で叫ぶが、叫びも虚しく姉たち(ノーヴェ除く)のおもちゃにされていた。

 

「―――ははっ、オットーも災難だねェーー。」

「そうね………てか何でいるのよ?名古屋で降ろしたはずよね?」

「セインに拾ってもらいました♪」

「セイン、後で裏来なさい。」

 

少し離れた場所でティアナと静がコントをしながらナンバーズのやりとりを見ている中、ブチャラティがノーヴェに話しかける。

 

「―――いい姉妹じゃないか、お前のとこは。」

「………まあな。」

 

ノーヴェは、照れたように言う。

ここのところ、オットーはディードの事で頭かいっぱいだった。それは、京都に着いても同じどころか、むしろ余計酷くなっていた。

そんなオットーを見てられなくなったのか、貸衣装屋を発見したウェンディが、セインと画策して貸衣装屋に引っ張り、今に至るわけだ。

結果、オットーはウェンディとセインどころか、ディエチとチンクにまでいじくられるハメになっていた。

 

「まあ、あれであいつがリラックスできたらできたで、それでいいんだが―――!?」

 

不意に、ノーヴェは『何か』を感じ取り、辺りを見渡す。

 

(……何だ『これ』は?………誰かいるのか?前にも感じた事があるような………?)

「ノーヴェ姉様ーーー!た、助けてェエエーーーーーッ!!」

「ほらノーヴェ、そろそろ助けてあげなさいよ。」

 

ティアナに言われ、ノーヴェはオットーを助けに行く事にした。

 

 

 

 

 

この時、ノーヴェは気づかなかった。

 

 

 

 

 

自分たちの後ろを『亀を持った』銀髪の男が、通り過ぎたことに………

 

 

 

 

 

#47/京都観光中異常発生中

 

 

 

 

 

清水寺 『音羽の滝』付近

 

 

「もぉー、しっかりせえよまき絵ー!」

「ふにゃぁ~………」

 

顔を赤くして目を回すまき絵に肩を貸して引率する亜子。彼女の他にも、何人かが生徒に肩を貸している。

 

誰のいたずらなのか、音羽の滝に『酒樽』で酒が混入されており、まき絵の他あやかやのどか、他数名が酔いつぶれてしまったのだ。

幸い亜子たちは異変に気付いた仗助に止められて難を逃れたが、彼の指示で一足先にホテルへと戻る事になってしまった。新田先生への言い訳も彼がしてくれるそうだ。

そういうわけで亜子はまき絵を担いでバスへ向かおうとしているのだが、酔っているせいか足取りのおぼつかないまき絵を運ぶのは一苦労であった。

 

「まったく……なんで滝にお酒なんか………わたた………」

 

ぼやく亜子であったが、まき絵がよろけたせいでバランスを崩し、転んでしまいそうになった。

 

「おっと。」

がしっ

「へ………?」

 

しかし、亜子が転ぶ前に腕を掴まれて、転ばずに済んだ。どうしたのだろうと思って亜子が振り返ると、そこには中性的な顔立ちの、茶色い短髪の少年がいた。

 

「大丈夫ですか?」

「え!?あ………はい………」

 

しばし、少年の顔に見とれていた亜子であったが、少年に聞かれて慌てて返事をした。

少年は白いシャツに黒いソフト帽をかぶり、縦ストライプの黒いベストとネクタイという服装で、日本人とは思えない中性的な顔立ちであった。

少年は亜子を立たせると、亜子が肩を貸していたまき絵を支え、近くの椅子まで運んだ。

 

「修学旅行の学生さんみたいですね。運ぶのが大変であれば、先生を呼んだ方がいいですよ?」

「あ………はい………」

 

少年がそう言うと、亜子は顔を赤くして答える。少年は笑いかけると、

 

「じゃあ、ボクはこれで。」

「あ、あの………ありがとうございました………」

「いえ。」

 

少年は帽子を脱いで挨拶をすると、足早に去っていった。亜子はしばらくの間、去っていく少年の背中を見つめていたのであった………

 

 

 

 

 

「………ふう、ウェンディ姉さま達から逃げてきたけど………なるべく『A組』の人と接触しないようにって言われてたのに………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

嵐山

ホテル嵐山

 

 

「やっぱりセインの姐さんを襲った奴の仕業に違いねえよ兄貴!!」

「うん………」

「やっぱり、スタンド使いと魔法使いが手を組んだのかな………?」

 

ロビーの一角でネギ、カモ、スバル、仗助が話し合う。地主神社では落とし穴を仕掛けられあやかとまき絵が巻き添えにあい、さらに音羽の滝には『酒』を仕込まれたために、あやかを含めた数名が酔いつぶれてしまった。

 

「ネギーーー!」

「あ、アスナさんたち。」

 

そこへ、明日菜、徐倫、千雨、刹那がやってくる。

 

「とりあえず、酔った人たちは部屋で休んでいると言ってごまかしましたが………」

「やっぱりスタンド使いたちか……?」

「多分………『両右手の女』の勢力が京都にいることを考えると、『関西呪術協会』の裏切り者と、手を組んでいるのかも………」

「セインさんが会ったっていうスタンド使いというのが気になりますね…………」

 

ネギがそう言うと、仗助は近くに置いてある小さめの冷蔵庫に近づく。…………冷蔵庫?

 

「―――だそうだセイン。どんなやつだった?」

 

仗助が言った後、冷蔵庫の扉がひとりでに開き、中からセインがズルーーーっと出てくると、ネギたちもズルーーーっとずっこけた。

 

「………なんで私が冷蔵庫の中にいることがわかったの?」

「お前、頭脳がまぬけか?冷蔵庫の中身を全部外に出して………」

「いや、それ以前にホテルのロビーに冷蔵庫があること自体おかしいだろッ!!どっから持ち出したんだこんなものッ!?」

 

いち早く復活した千雨が、セインと仗助のやりとりにツッコむ。だが、

 

「まったく、だからよそうって言ったんスよ。」

「おめーもノリノリだったじゃねーか!」

「まあ、不自然だとは感じてたけど………」

「大丈夫ですかお嬢様?」

「うん、平気。」

「ってお前らもいたのかよッ!?」

「どーやって入ってたのこんな人数!?」

「オレとセインの能力だ。」

 

ナンバーズやルーテシア、ブチャラティが冷蔵庫からぞろぞろと出てきたために、千雨と明日菜は声を荒げて叫んだ。

 

「あれ?オットーは?」

「部屋で休んでるよ。ティアやギンガが見てるから、大丈夫だと思うよ。」

 

スバルの質問に答えるディエチ。どうやら、昼間ウェンディたちにおもちゃにされて疲れたらしい………

 

「で、そのスタンド使いってのはどんな奴だった?」

「あ、うん。ええーと………背はチンク姉と頭一つ高いくらいの小柄な人で、天然っぽい金髪だけど、日本人だったよ。」

「随分小さい人なのね………」

「で、スタンドはチンク姉くらいの大きさで、むき卵みたいにつるんとした頭で………」

「………いちいち私で例えるな………ネギとかでもいいだろ。」

「あ、ゴメン…………」

 

『小さいもの』の例えに使われた事に頭がきたのか、セインに文句を言うチンク。

 

「で、頭に車のハザードランプみたいのがたくさん付いてて………」

「ん……?」

「あれ?」

 

ふと、スタンドの(ヴィジョン)の特徴に見覚えがあると感じた徐倫と千雨、そして仗助。そして―――

 

「あ、後腰の布に『3』って描いてあったよ!」

「「「『()()()()』ゥゥウウウッ!?」」」

 

―――それは、最後の特徴で確信へとなった。

突然3人が叫んだため、ネギたちは驚いた。

 

「せ…………『背が低くて』『重くするスタンド』で『3』って言ったら………」

「康一の『エコーズ』しかねーよ………」

「えっ?3人ともそのスタンド使い知ってるんですか?」

「ああ…………オレの親友の「広瀬 康一(ひろせ こういち)」ってやつだ。何で京都にいるかは知らないが、とにかく敵じゃあないぜ。」

「ええっ!?」

 

今まで敵だと思っていたスタンド使いが、実は仗助の親友だときいて、再び驚きの声を上げる一同。

 

「それじゃあ、攻撃してきた理由も分かるな。いきなり新幹線に『ツバメ』が、しかも『手紙をくわえて』いたら、不審に思うのは当たり前だ。」

「セインさんじゃなくて、式神を攻撃したのか………」

 

仗助の言葉から、ブチャラティと刹那が頷く。だが、セインはあることに気づく。

 

「…………あれ?じゃあ何で記憶がないんだ?」

「…………それにも心当たりがある………出来れば、()()()に魔法のことは知られたくなかったがな…………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「えーと、『ホテル嵐山』…………うん、ここだな。」

 

ぼく(広瀬 康一)は今、京都は嵐山にあるとあるホテルへ、同行した『彼』と来ている。

 

 

 

 

 

さて、何故ぼくらがこんな所に来ているのか、まずはその話をしよう。

 

事の発端は一週間前に遡る。

一週間前、今まで我が家に居候していた彼の収入がようやく安定したため、我が家から出てマンション暮らしになる事になったのだ。

そうしたら彼は、『今まで転がり込んでいたお詫び』と、ぼくを京都への取材に旅行として連れて行ってくれると言い出した。

そして今朝、出版社に寄っていた彼と『大宮駅』で合流して東京駅から新幹線に乗ったのは良かったが、飲み物を買いに通路へ出たぼくは、何故か新幹線内を飛ぶ『ツバメ』に遭遇したのだ。しかも、口には何やら大きい封筒のようなものをくわえているではないか。

ぼくはそれが『スタンド』によるものだと直感し、自分のスタンド―――『エコーズACT3(アクトスリー)』の技、その名も『エコーズ3FREEZE(スリーフリーズ)』でツバメを『重くした』のは良かったが、突然新幹線の壁から『女の子』が『生えてきた』のだ!しかも、たった今『3FREEZE』をかけたツバメを掴んだため、女の子の手は床にめり込んでしまった!

ぼくは女の子に話しかけようとしたが、突然、彼女の体が本のように『()()()()』しまった!振り返ると、いつのまにやら『彼』がいた。彼のスタンド『天国の扉(ヘブンズ・ドアー)』の仕業らしい。

彼は早速、『本』になった女の子に書かれた『情報』を読み始めた。

ぼくらは最初、彼女をぼくたちと同じスタンド使いだと思っていたが、実際はぼくらの予想の斜め上を行っていた。

何と彼女(読んで分かったが、名前は『セイン』というらしい)は『魔法』が存在する異世界『ミッドチルダ』で生まれた『戦闘機人』という生体兵器、いわゆるサイボーグだというではないか!しかも、ぼくらの乗ったこの新幹線に乗っている麻帆良学園の生徒の中にも、何人か『魔法使い』がいると聞いて、彼の目には希望とやる気がムンムンわいていた。こうなった彼は、もうどうにも止まらないことを、ぼくは知っている。漫画の『ネタ』にするために、彼女や、他の魔法使いたちを追い回すに違いない。

ふと、大勢の足音が聞こえた。誰か来たらしく、彼はセインに『今あった事は全て忘れる』と書くと、『ヘブンズ・ドアー』を解除してぼくと一緒にそそくさと退散していった。

そこからは、京都を観光しながら彼女たちの後をつけていき、清水寺から慌てるようにバスが出てしまったため、彼女たちが宿泊しているホテルを突き止め、現在に至るわけだ。

 

 

 

 

 

「―――はあ、何で私が………」

 

ふと、髪を鈴の付いたリボンでツインテールにした女の子が出てくる。すると彼は、彼女に話しかけた。

 

「やあ、君、麻帆良学園の生徒かい?」

「?何よあんた?」

「ああ、僕は漫画家の『岸辺 露伴(きしべ ろはん)』という者なんだが、君らの学校に『子ども先生』がいるときいてね。少し取材をしたいのだが………」

 

彼―――露伴先生が彼女に聞く内容には、何らおかしい点はない。むしろ自然なくらいだ。

 

「ふーん……?そういえば聞いた名前ね、岸辺 露伴って………確かにその子ども先生はウチの担任ですけど―――」

 

彼女がそう言いかけた途端、

 

 

 

ドギュゥウウーーーン

 

 

 

露伴先生のスタンド、ヘブンズ・ドアーが発現し、女の子は本になってしまう!

 

「―――って!いきなり何やってるんですか露伴先生ッ!?」

「いや何、彼を取材する前に、彼の印象を知りたくてね。もちろん、『魔法使い』としての、ね。」

 

そう言うと露伴先生は、本になった衝撃で気絶した女の子に近寄り、本のページをめくろうとして、その手が止まった。

 

「―――!ば………バカな…………な、何だ!?何なんだ、この子は………ッ!?」

「?どうしたんですか?」

「僕の『ヘブンズ・ドアー』には嘘は付けない…………だが!これは………この『神楽坂 明日菜』の記憶は……………」

 

 

 

 

 

「大半が『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!!」

 

 

 

 

 

ぼくは今になって思う。

 

 

 

それが世界の存亡を知る、

 

 

 

ほんのささいなきっかけだったと………

 

 

 

 

 

←to be continued...




47話です。
・サブタイトルは、荒木先生の短編『死刑執行中脱獄進行中』から。

・やっぱりウェンディたちなら、舞妓はんになってハシャぐはずだろうと思いました。そして、それに巻き込まれるオットーもお気に入りです。

・亜子とオットーにフラグが立ちました。ちなみにオットーの服装は左翔太郎風。

・康一&露伴登場、そして、終盤は康一目線です。康一は4部での狂言回しな役割でしたので、今回少しやらせてみました。

・「魔法等で記憶を封印された人がヘブンズ・ドアーで本にされたら、一体どんな風になるのだろう?」と、ある日考えた時がありました。そして行き着いた考えが、今回の『袋とじ』です。明日菜の記憶にどんな謎があるかは、今後の展開をお楽しみに。

では、次回をお楽しみに!


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#48/京都で生まれたならず者 ①

「ちょっとあんさん!聞いてませんえ!!何やあの人数はッ!?」

 

京都のどこかにある部屋、そこでメガネをかけた黒い長髪の女性が、目の前の女性につっかかる。

 

「おまけに『管理局』までおるやないか!ほんまに大丈夫なんでっしゃろなッ!?」

「大丈夫よ。やつらの主力スタンド使いのうち、数名は酔いつぶれてぐっすりだし、一番厄介な空条 承太郎も、今は関東……そして、我がスタンド使いたちとあなた方呪符使いや神鳴流剣士が手を組めば、最早敵なし!」

「………その言葉、信じてええんですな?」

 

メガネの女は、疑いの眼差しを女に向けながら問う。

 

「ええ。最も、私の目的は果たせてもらうわ。あの二人は別行動になるけど、ウエストウッドを着かせるわ。」

 

女が『左側の右手』をやった先には、角刈りにした髪と鍛え抜かれた体をした男と鷲鼻で長髪の男、そして奇妙な仮面を付けた二人の男女がいた。

そのうちの一人、仮面の女の手には、一振りの刀が握られている。

 

 

 

 

 

「頼んだわよ、『アヌビス神』!」

 

 

 

 

 

#48/京都で生まれたならず者 ①

 

 

 

 

 

「うーむ、分からん。だが、だからこそ、僕の『好奇心』をくすぐるんだよなぁーーー!それが人の『(さが)』というべきものだ。僕はそう思う!」

 

先ほどから露伴は、『本』にした明日菜のページをめくりながら、そう呟いていた。

 

「あの、露伴先生………そろそろこの子戻した方がいいんじゃあ………?」

「何を言うんだ康一くん!こんな事、今までなかったんだぞ!僕の『ヘブンズ・ドアー』で開いた記憶が袋とじなんて!」

 

露伴はそう言うと、袋とじになった明日菜のページに手をかけた。

 

「どれ、この袋とじを開いたら、何が書いてあるのか見てみようじゃないか……雑誌の袋とじなんて、中身はショボいだろうから普段は見ないのだが………ん?」

 

そう言って露伴は明日菜の記憶のページを開こうと、下の方からペリペリと破き始めたが、数センチ破いた所で手にかけたページの表にに目が止まる。そこには、こう書かれていた。

 

 

 

『あー、ジョリーンに頼まれて外歩いてたら、変なのにからまれたなぁーー。でも、岸辺 露伴って、どこかで聞いたと思ったらパルが話してたかも………』

 

 

 

「…………『ジョリーン』?」

「へ?徐倫ちゃんがどうかしたんですか?」

 

康一が露伴に聞いたその時―――

 

 

 

 

 

「「やっぱりお前か岸辺 露伴ァァァァーーーんッ!!」」

スッパーーンッ

「うおッ!?」

 

突然上から千雨と徐倫が『なにわ美人』、『なんでやねん』とそれぞれ書かれたスリッパで露伴を叩きつつ降ってきた!

 

「じょ、徐倫ちゃんに………千雨ちゃんッ!?」

「あ、どーも康一さん。久しぶり。」

「で、何であんたらがいるんスか?後露伴先生、神楽坂戻せや!」

 

康一に簡単に挨拶した徐倫に対し、千雨は露伴に、今度はスリッパではなく『エンゼル』の小太刀を突きつけて脅す。

 

「わ………分かったよ。分かったから、それは下げてくれ……………ちぇっ。」

「ちぇって言った?今ちぇって言ったかコラ!?」

 

露伴は千雨のスゴみに気圧され、残念そうに明日菜を戻すのだった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル嵐山

ロビー

 

 

「『岸辺 露伴』?」

「ああ、97管理外世界(こっち)じゃあ結構有名な漫画家で、俺の実家のある『杜王町』に住んでんだが、8年前にスタンド使いになってな。その関係で知り会ったんだ。」

「へえ~、東方先生って、漫画家さんと知り合いなんですかぁ~~。」

 

仗助がミッド組と魔法使い組に露伴について話す中、ネギは尊敬の眼差しを仗助に向ける。しかし、仗助はウンザリした顔で答えた。

 

「そんな良いもんじゃねーよ………アイツわがままで強引な奴でよぉーー、漫画を面白くするための『リアリティ』を追求するために『奇行』に走るときまであるし………」

「ふんっ、ぼくの漫画の良さが分からない君に言われたくないね!」

 

不意に、入り口の方から声がした。振り返ると、小柄な男と、二十代後半の男を連れる徐倫と千雨がいた。

男は筆のような黒髪に、ギザギザの緑色のヘアバンドを付け、イヤリングやジャケットのボタン、さらにはベルトのバックルには『ペン先』を模したアクセサリーを付け、肩にはスケッチブック、首には一眼レフカメラを下げている。

 

「じょ、仗助くん!!」

「やっぱりお前か、露伴………康一も久しぶりだな。」

「って、あぁーーーーーー!!お前は『大宮駅』の!?」

「ん?君はあのときの………」

 

ノーヴェに叫ばれて、露伴も気づいた。この少女(ノーヴェ)は、大宮駅でティアナと一緒に露伴に詰め寄ってきた少女だと。

 

「あ……あんたが『岸辺 露伴』なのか………?」

「いかにも。ぼくは岸辺 露伴、漫画家だ。」

「大体の話は康一さんと露伴先生に聞いた。『取材』で京都に来る途中、あのツバメを見かけたそうだ。後はチンクや桜咲の推測通り、セインじゃなくツバメを攻撃して、セインを『本』にしたそうだ。」

「『本』?」

 

『本』という単語に首を傾げる一同。すると―――

 

 

 

「ふむ………口で説明するよりは、見た方が早いだろう。『ヘブンズ・ドアー』ッ!!」

ズギャァアアーーーン

「「「「「「「!!?」」」」」」」」

 

言うや否や、露伴は千雨に向かいスタンド―――「天国の扉(ヘブンズ・ドアー)」を放つ!すると千雨は、後ろに倒れながらまるで『本のページ』のように体がめくれる!よく見ると、めくれた部分には『文字』が書かれている。

 

「は、長谷川さんッ!?」

「これがぼくのスタンド『ヘブンズ・ドアー』だ。人を、その人物の「人生の体験」が書かれた『本』にする能力!」

「ってそれを説明すんのに何で千雨なんだよッ!!?」

「うるさいなぁぁあ~~~、ちょっと読んだら戻すって。えぇーとなになに………」

 

千雨を『本』にしたことをツッコむ徐倫。だが、露伴はそんなことお構い無しに千雨の記憶を読み始める。

 

「ん?『ネットアイドル「ちう」』?こいつ、そんなことやってんのか?」

「え?何ですかそれ?」

「ネットアイドルって?」

「おめーらも興味示してんじゃねーよッ!!」

スパパパコーーン

 

露伴の読み上げる千雨の情報に興味を持ち、のぞき込もうとする明日菜とネギに、『しんどいわ!』と書かれたスリッパによる連続ツッコミを放つ徐倫。

 

「………それ、何種類持ってるの?」

「全部で8種類だ。」

「結構あるんだね………」

 

「さて、結構面白い情報が得られたなぁ〜〜〜サイトの『URL』メモったし、後でじっくり観覧してあげるよ、『ちうたん』♪」

 

露伴はそういうと、ページの端に『今起きた事はすべて忘れる』と書くと、『ヘブンズ・ドアー』を解除する。

解除すると同時に千雨は目を覚ます。

 

「―――ああーーーー、こいつの『ヘブンズ・ドアー』か?それはだなぁー…………」

「いや、もういいです………」

「………?」

 

だが、本当に『何も覚えていない』らしく、『ヘブンズ・ドアー』の説明をしようとするが、ネギにもういいと言われてしまい、不思議に思う千雨だった。

 

後になって、千雨は『ヘブンズ・ドアー』に自分がかけられた事に気づいた上、露伴やネギたちに『ちう』の事がバレた事を知り、必死で口止めをするハメになった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル嵐山

露天風呂

 

 

「「―――ふいぃぃーーーー………」」

「ちょっと2人ともー、何かおやじ臭いよ?」

「そうだぜ?東方のダンナはともかく、兄貴まで………」

「………何が言いてェんだ、カモ?」

 

おやじ臭く息を吐くネギと仗助に苦笑する康一とカモ。

現在は麻帆良学園の教師たちの入浴時間だが、康一、露伴、ブチャラティの3人は、こっそり湯に浸かっていた。

 

「しかし、疑っちまってすまなかったな康一に露伴のダンナァ。」

「いや、いいよ。スタンド使いたちとの連戦で、疑心暗鬼になってたんだよね。(スタンドに長く関わってきたとはいえ、オコジョと普通に話してるぼくって………)」

「まあ、オレも昔『トニオ』の奴を疑った事あるしな…………」

 

かつて、スタンド使いとの連戦でスタンド使いの料理人『トニオ・トラサルディー』を疑った事を思い出す仗助。

料理に混ざり、料理に含まれる成分で人の体を健康にするスタンド『パール・ジャム』の使い手である彼は、「うまい料理を食べさせたい」という思いでスタンドを使っていた。仗助と康一の友人の億泰(おくやす)曰く、『天使のような料理人』だ。

 

「―――所で、さっき『神楽坂 明日菜』の記憶を読んだんだが…………ん?」

 

仗助たちに話しかけた露伴だが、彼の元に、湯船に浮かんだ『桶』が流れてくる。桶にはお湯が張られており、中には―――

 

「―――あれ?ネギたち?」

「みんなも入ってたですか?」

 

中にはリインとアギトが浸かっていた。

 

「り、リイン曹長!?」

「何で2人が………はっ!?」

 

いきなりの闖入者に驚くネギだが、露伴と康一が2人を凝視しているのに気づく。

 

「………しゃ………………喋るオコジョの次は……………よ、『妖精』!?」

「………へぇえ〜〜〜〜〜〜〜」

 

驚いて口をパクパクさせる康一。対して露伴はと言うと―――

 

 

 

ガシィッ

「へうッ!?」

「ずいぶん小さいなぁーーーー………一体どういう構造なんだ…………?」

「へ?あ、あの…………ひぁうっ!?」

 

リインを掴んで、あちこち触り始めた。端から見たら、アブナい光景だ。

 

「て、てンめェェ〜〜〜〜…………この―――」

 

それを見ていたアギトは、両手に火球を出して露伴に投げつけようとするが―――

 

 

 

 

 

「「こンの変態がァァアアアーーーーーーーーーーー!!」」

ドグシャア

「へぶッ!?」

 

それよりも早く、徐倫とスバルの跳び蹴りが飛んできた。

すると、少し困惑した様子の刹那も入ってくる。

 

「ナ、ナカジマさんに空条さん…………ってネギ先生!?」

「え?何でネギくんや東方先生が!?」

「今は教師の入浴時間だよ………聞いてなかったのか?」

 

あきれ顔で、鼻血を出す露伴を『治し』ながら三人に聞く仗助。ちなみにネギと康一は、三人を見ないように背を向けていた。

 

「…………というか、ここは男湯じゃあなかったか?」

「多分、脱衣場だけ男女別になった『混浴』だな。」

 

ブチャラティの疑問に、スバルと徐倫の裸体を見て鼻息を荒げながら答えるカモだが………

 

「……………」

ドガァッ

「ぐおあっ!?」

 

徐倫に無言で踏みつぶされた…………

 

「ったく、このエロオコジョは!」

「すみませんでした先生方。すぐに出ますので―――」

 

刹那がネギたちに言い掛けたその時。

 

「ひゃあああ〜〜〜〜〜〜〜ッ」

「!?」

「い……今のは『このかさんの』!?」

「『このかお嬢様』ッ!?まさか奴ら、このかお嬢様に手を出す気か………ッ!?」

「え?『お嬢様』…………?」

 

刹那の木乃香の呼び方に違和感を覚えるが、今はそれどころではない!

 

「お嬢様ッ!!」

「桜咲!!」

「兄貴!きっとまた『関西呪術協会』の嫌がらせだぜッ」

「う、うん!脱衣所の方から聞こえたよ!!」

 

駆け出した刹那に続き、ネギや徐倫、スバルも駆け出す。

 

「お嬢様ッ!!」

「大丈夫ですかこのかさん!?」

 

そして、脱衣所で四人が見たのは―――

 

 

 

 

 

「「「「「ウキッキーーーーーー♪」」」」」

「いやぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

「ちょっ……ネギ!?何かおサルが下着を………ッ!?」

「おい神楽坂!こいつらお前の『親戚』だろ!?何とかしろッ!!」

「ちょっと千雨ちゃん!それどういう意味ッ!?」

ズルッ

 

こザルに下着を奪われそうになる明日菜、木乃香、千雨の三人がいた………

 

「ええっ!?一体コレは………!?」

「こ……………このこザルども………!!このかお嬢様に何をするかぁぁぁあああああッ!?………斬るッ!!」

 

こザルが木乃香を辱める様(ように刹那には見えたが、実際は下着を取っただけ)を見て、いつの間にか抜刀した野太刀『夕凪』を構える刹那。

 

「きゃっ!桜咲さん何やってんの!?それホンモノッ!?」

「ちょ、ちょっとダメですよ桜咲さん!」

「そうだよ!!おサルを斬ったらカワイそうだよッ!!」

「な、何するんですか2人とも!?こいつらは低級な『式神』です!斬っても紙に戻るだけで………」

 

こザルを斬ろうとする刹那を止めるネギとスバル。刹那は困惑しながらも説明するが………

 

「オラァッ!!」

ドグシャアッ

「ムギャアッ」

「「空条さんッ!?」」

 

隣で徐倫の『ストーン・フリー』が、容赦なくこザルをブチのめしていた。

 

「………確かに、紙に戻るだけだな……スタンドを殴ったような感触に似てるが………」

「!おい、お前らがバカやってる間に近衛が………」

「ひゃあ〜〜〜〜〜〜〜!?」

「「「「「ウキッキーーーーーー♪」」」」」

「お嬢様ッ!!」

 

こザルに連れていかれる木乃香に向かい、刹那は夕凪を構えながら駆け出す!そして―――

 

「まことに勝手ながら、助太刀いたすぜッ!!」

「……!感謝します!神鳴流奥義ッ!!」

「双燕天翔流奥義ッ!!」

ズザザザザザザザンッ

「百烈桜華斬ッ!!」

「雷鳴月華ッ!!」

「「「「「ムギャアアアァァァァッ!!」」」」」

 

刹那と千雨の広範囲攻撃により、こザルたちはただの紙に戻る!

 

「桜咲さんッ」

「木乃香は無事か………!」

 

不意に、徐倫は近くの木に気配を感じる。すかさず近くにあった風呂桶を持ち、投げるフォームに入る!

 

「オラァッ!!」

ギャァアンッ

「………フン。」

ガサッ

「えっ?」

「…………チッ、逃がしたか………」

 

だが、投げられた風呂桶よりも早く、その気配は逃げていったようだ。

 

「すみません長谷川さん。しかし、今のが………」

「せ、せっちゃん………なんかよー分からんけど、助けてくれたん?あ、ありがとう。」

「!あっ………いや…………」

 

千雨に礼を述べる刹那だが、木乃香に礼を言われて、顔を赤くする。そして、

 

バシャアッ

「ひゃっ!?せ、せっちゃん!?」

 

抱いていた木乃香を離してしまい、そのまま走り去ってしまった………

 

「??何だ今のは………?」

「さあ………?(曹長、今のウチに。)」

(はいです。お願いします、ブチャラティさん。)

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………このか………やっぱり桜咲さんとは何かあったの………?」

「…………うん、アスナや徐倫にも、ちゃんと話してへんかったよね…………」

 

風呂から上がったネギたちは、木乃香から話を聞いていた。

 

木乃香は、麻帆良に来るまでは京都にある広くて静かな屋敷で育ったのだが、山奥にあったため友達が一人もいなかったらしい。

 

 

そんなある日、屋敷に客人(後で刹那に聞いたら、『神鳴流』の師範だったらしい)と共に、刹那が付いてきたのだという。

 

 

刹那と木乃香は仲良くなり、当時から剣道(神鳴流)をならっており、怖い犬を追い払うなど、危ないときは守ってくれたりもしたらしい(ネギたちは、今も守っているように思えたが………)。

 

 

だがその後、刹那は剣の稽古で忙しくなり、あまり会わないようになったまま木乃香が麻帆良に引っ越し、中1の時刹那も麻帆良(こちら)に来て再会出来たのだが―――

 

 

 

「………何かウチ、悪いことしたんかなあ………せっちゃん、昔みたく話してくれへんよーになってて………」

「このか………」

「「「「「………………」」」」」

 

淋しそうに話す木乃香に、ネギたちは何とも言えない表情になる…………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

木乃香が部屋に戻り、ネギ、明日菜、スバル、徐倫は、部屋にいなかった刹那を探すことにした。

 

「………このかさん、淋しそうでしたね………」

「うん、普段のこのかなら、あんな顔絶対にしないもんね………」

「あ………そういやあ、中1ん時、ちょっと落ち込んでた事あったかな………?」

「そういえば、『奏汰』の時も、桜咲は「依頼」をしただけで、自分から動こうとしていなかったな………水くさいなぁ、何にも話してくれなかったなんて…………」

 

四人が話していると、前からウェザーが歩いてくる。

 

「………ネギくんか。A組の奴ら、修学旅行初日の夜にしては静かだな………まあ、他の客に迷惑にならないからいいがな。」

「そ、そうですね~~~。騒がせどころか、みんな寝ちゃいましたからね~~~(お酒で……)」

「………今回、また何やら大変らしいな………俺や長瀬たちでよければ、いつでも呼んでくれ。」

「あ、はい!ありがとうございます、ウェザー先生!」

 

ウェザーはそう言うと、また見回りに歩いていった。明日菜が、徐倫に聞いた。

 

「………ウェザー先生のスタンドって、「天候を操る」んだっけ?」

「ああ。結構強いぜ。でも、先生には悪いが、出る間もなく終わっちまうかもなぁ~」

 

徐倫がそう言うと、スバルやネギは苦笑する。

 

この後日、実際にウェザーの能力に助けられるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル

入り口

 

 

「―――あー、好奇心で聞くんだが桜咲くん…それは、何をしているんだい?」

 

脚立に乗り、入り口の上部に『呪符』を貼っていた刹那は、不意に後ろから話しかけられて振り返る。そこには、浴衣に着替えた露伴がいた。

 

「………露伴先生ですか。これは「式神返し」の結界です。」

「ふう~~~ん………」

(………漫画家というのは、みんなこんななのか…………?東方先生は、このまま私たちに『取材』と称して着いてくる気だと言っていたが………大丈夫なのか?この人を巻き込んで……………)

 

興味深そうに呪符を見つめる露伴に、刹那は不審な顔になる。

仗助や徐倫には聞いていたが、『漫画のネタ』になりそうなものを見つけたら、自分が大けがしようが、ヒドイ目にあおうが、死なない限りあらゆる体験を「作品に生かそう」とするらしい。

『芸術家気質』とでも言うのだろうか?刹那には露伴の漫画に対する情熱が、少し分からなかった。

 

「あ、いたいた、桜咲さん!」

「あ、露伴先生もいましたか………」

 

そこへ、ネギたちがやってくる。それに続くように、チンクや仗助たちもロビーに集まってきた

 

「それ、『呪符』だよね?桜咲さんも『日本の魔法』を使えるの?」

「ええ、剣術の補助程度にですが………」

 

刹那の説明を聞き、スバルは『ベルカ式』に近いものだと、自己解釈した。

 

「―――関西呪術協会の嫌がらせがかなりエスカレートしてきました………このままでは、このかお嬢様にも被害が及びかねません………」

「そうだな………「ディード」の事を含めると、『左手が右手の女』の勢力が絡んでいる可能性もある。」

 

刹那の話に、チンクが付け足す。

 

「桜咲、オメーも京都出身と聞いた。襲ってくる敵について、知っていることを教えてくれ。」

「―――敵は恐らく、「関西呪術協会」の一部勢力で、『陰陽道』の『呪符使い』、そして、それが使う『式神』です。」

 

仗助に言われ、刹那は話し始めた。

 

呪符使いは古くから京都に伝わる日本独自の魔法『陰陽道』を基本としているが、『呪文』を唱える間無防備になる弱点はネギたち『西洋魔術師』と同じらしい。

 

故に、西洋魔術師が『従者(パートナー)』を従えているように、上級の術者は『善鬼(ぜんき)(前鬼)』や『護鬼(ごき)(後鬼)』という、強力な式神をガードにつけているのが普通だという。

 

さらに、関西呪術協会は、刹那の『京都神鳴流』と深い関係にあるらしく、呪符使いの護衛に神鳴流剣士が付くこともあるらしく、そうなったら非常に手強いという………

 

「………それに、先ほどチンクさんも言っていましたが、今回は『スタンド使い』も関わっている可能性もあります。そうなったらもう…………」

「な………なんかヤバそうだね…………」

「………今の話からすると、神鳴流は『敵』と考えていいのか?」

 

徐倫が問いかけると、刹那はうつむく。

 

「はい………彼らにとってみれば、西を抜けて東に付いた私は言わば『裏切り者』………でも、私の望みは『このかお嬢様をお守りする』ことです。仕方ありません………私は………お嬢様を守れれば満足なんです。」

 

それを聞いて、先に口を開いたのは今までメモを取っていた露伴だった。

 

「ん〜〜〜〜〜〜〜、漫画のキャラクターにしたら好かれるタイプだよ、君はッ!!」

「露伴先生………」

「よーし、分かったよ桜咲さんッ!!」

「桜咲さんがこのかの事嫌ってなくてよかった!それが分かれば十分!!私たちも協力するよッ!!」

「か……神楽坂さんたちまで………」

 

露伴に続き、明日菜とスバルが刹那の背中をバンバンたたきながら言う。

 

「やれやれだわ………決まりね!」

「はい!関西呪術協会から、クラスのみんなを守りましょうッ!!」

「「おォーーーーーーッ!!」」

 

ネギがそう言うと、それに賛同するように、スバルたちが叫んだ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ロビーのネギたちの様子を、離れた場所から見ていた陰が二つあった。

 

「―――さて、こちらも動きましょうか………サルシッチャ、ホル・ホースたちに連絡を。」

「はい、お嬢様。」

 

彼女―――ルル・ベルも、動き出す準備が整っていた………

 

 

 

 

 

←to be continued...




48話です。
・サブタイトルは「砂漠で生まれたならず者」から。ちなみに『太臓もて王サーガ』の帯にも、同じタイトルがありました(笑)

・アヌビス神再び。誰に憑いたかはお楽しみに。

・ツッコミ用スリッパの元ネタは言わずもがな(笑)

・露伴にとって『魔法』は宝の山ですから、色々やります(笑)あの後、S・フィンガーズでこっそり脱出しました。

・この小説では千草の一派と『両右手の女』勢は組んでいるため、スタンド使いが何人もいます。スバルやネギたちには、いくつもの激戦が待っています。

・動き出すお嬢様たち。彼女たちの目的も、次回から徐々に明らかになります。お楽しみに。

では、次回をお楽しみに!


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#49/京都で生まれたならず者 ②

「―――さてと、話がまとまった所で、ネギ、オレとお前で外の『見回り』だ。」

「あ、そうですね!」

 

仗助に言われてついて行くネギ。

本当はまき絵の『グロウン・キッド』とのどかの『イノセント・スターター』に外を見てもらおうと考えていたのだが、2人は音羽の滝で酔いつぶれてしまったため、今はぐっすりだ。

 

「じゃあ桜咲やスバルなんかは各班室を見回ってくれ。後露伴、お前は不審な動きをするヤツを見かけたら―――」

「大丈夫だ。問答無用で『本にする』よ。」

(((ていうか、この人の方が不審者なんじゃあ………?)))

 

声には出さないが、明日菜たちはさり気なく失礼な事を考えていた……

 

「東方、私もついて行こう。」

「チンクさん。」

「そうか、別にいいぞ。」

(やっぱり眼帯の姐さん………)

 

チンクを加えた3人は、入り口に向かう。カモは何やら勘違いしたようだが………

 

「………ところで東方、以前から気になっていたのだが……」

「ん?なんだ?」

 

チンクに話しかけられ、仗助が振り返った矢先―――

 

ドシィン

「きゃあッ!?」

「うおッ!?」

 

タオルの入っているワゴンを運んでいた女性と衝突してしまった……

 

「ご、ごめんよ………」

「いえ、こちらこそ申し訳ありませんお客様!」

 

幸い、中のタオルは無事だったため、女性はそのままホテル内に入っていった。

 

「大丈夫ですか東方先生?」

「何をしているんだお前は………」

「いや、お前が話しかけるから………」

 

3人が話すのを、女性はメガネを直しながら見ていた。

 

「ふふ………入れてくれておーきに。」

 

 

 

 

 

「ウキッ」

「ウキキッ」

「ムキャキャキャッ♪」

 

彼女が怪しく笑う中、『こザル』が何匹かワゴンから顔を出していた………

 

 

 

 

 

#49/京都で生まれたならず者 ②

 

 

 

 

 

現在、『ホテル嵐山』には麻帆良学園の生徒以外にも、一般の客が泊まっている。その中には、六課やナンバーズたちも含まれており、明日菜たちとは別の階に5部屋取っていた。

 

「―――じゃあ、その『岸辺 露伴』って人は『味方』なのね?」

「ん〜〜〜〜〜………まあ、味方っちゃあ味方だな……信用していいかどうか『灰色』の人だけど…………あ、康一さんは信用していいから。」

 

偶然部屋から出てきたティアナたちに、徐倫とスバル、刹那の3人は、歩きながら露伴たちのことを話していた。

 

「………でも、大丈夫なんですか?その人を巻き込んで?」

「あ〜〜〜、平気平気。止めでも絶対着いて来るし………それにあいつ、下手したら親父より強いし。」

『……え゛!?』

 

徐倫の話に、5人は思わず声を上げる。

千雨に以前聞いた話では、承太郎は『史上最強のスタンド使い』と謳われるほどの実力者らしい。

それよりも強い露伴とは一体…………?

 

「あれ?」

 

ふと、トイレの前に明日菜、夕映、千雨、そしてアキラがいることに気づく。

 

「アスナ、どうかしたの?」

 

「あ、徐倫。」

「こ…………このかさんがなかなかおトイレから出てこなくて…………ううう」

 

かなり我慢している様子の夕映が話す。

どうやら千雨たちは、ふたりの様子が気になったらしい。

 

コンコンッ

「―――お嬢さま、大丈夫ですか!?」

「こ………こここのかさん!私もう〜〜〜〜〜〜〜……………ッ」

『入っとりますえ〜〜』

「「……?」」

 

ノックしたことで木乃香がいることは確認出来たが、千雨と徐倫は違和感を覚える。

そして、

 

「こ…………このかさん〜〜〜〜〜〜…………ッ」

ドンドンドンッ

『入っとりますえ〜〜』

「「「「「!!!」」」」」

 

それは、夕映の激しいノックにより、『確信』へと変わった。

 

「………神楽坂さん、空条さん!」

「うん。」

 

三人は確認すると―――

 

「オラァッ!!」

「お嬢様、失礼をッ」

バキィッ

 

トイレのドアを蹴り開ける!

 

『入っとりますえ〜〜』

「!これは…………!」

「お……『お札』が『喋ってる』ゥウウウウ!?」

 

そこには木乃香の姿はなく、代わりに『呪符』が便器に張り付いており、そこから声が発せられていた。

 

「し…………しまった!」

「『騙された』ァァァァ!!」

「な………何でもいいから、このかさんいないなら私におしっこさせてください〜〜〜〜!」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル嵐山の側にある渡月橋のたもとには、仗助、ネギ、チンクの3人がいた。

 

「で、話ってのは何だ?」

「ちょいとちょいと姐さん〜〜〜〜、アニキの前でたぁ、見かけによらず大胆なんすねェエ〜〜〜〜〜〜〜♪」

 

カモが何やら勘違いしてムッホムッホと嫌らしい笑みをする。

 

「?何の話か分からないが、東方、お前のその『首のキズ』なんだが。」

「えっ?」

 

チンクに言われて、ネギとカモは、仗助の首に比較的新しいキズがあることに気づいた。

 

「以前『セッコ』の奴に蹴られた時のキズだな…………お前の『クレイジー・ダイヤモンド』は、『自分のケガ』は治せないのか?」

「な………ッ!?」

 

チンクの推測に、ネギとカモは驚愕する。仗助は黙っていたが、口を開いた。

 

「…………お察しの通り、『自分のスタンド』で『自分のキズは治せない。』」

「そ、それじゃあ、東方の旦那がやられたら、一体どーするンスか!?」

「………誰かが治すか、死ぬかだな……」

「そんな………」

「…………誰か『治癒魔法』が使えればいいんだが………『シャマル殿』がいれば話は早いが………」

 

チンクが呟いた時、ネギのケータイが鳴った。

 

「………アレ?アスナさんからだ。」

ピッ

[―――ネギごめん!!このかがゆーかいされちゃった!!]

「えェ〜〜〜〜〜〜!?」

「?どうした――――ッ!?」

 

ネギに話しかけようとしたチンクだが、不意に気配を感じる。頭上(うえ)からだ。そちらを見上げると―――

 

「―――!あれはッ!?」

「「え?」」

ズシィンッ

「うおっ!?」

「………お、おサルッ!?」

 

デカいサルが降ってきた。だが、よく見ると何か『人』らしきものを抱えている。

それは―――

 

「あら、さっきはおーきに。カワイい魔法使いさん♪」

「!!このかさんッ!?」

「何ィ!?」

「ほなさいなら。」

「ま、待て!!」

 

木乃香だった。ネギたちは立ち去ろうとするサルを止めようとするが、

 

「もがッ!?」

「こ、コイツら………!!?」

 

こザルにじゃまされてしまい、逃亡を許してしまう。

 

「ドララララララララァァァァ!!」

「『タスク』!!」

「スティンガーッ!!」

ドガガガガァッ

 

何とかこザルたちを撃破した三人だが、木乃香を抱えたサルは、すでに橋の真ん中辺りだ。

 

「ネギ!」

「ネギ先生!!」

「チンク姉!」

 

そこへ、明日菜や徐倫、刹那、千雨、アキラやスバル、更にノーヴェやアナスイが来た。

 

「アスナさん!」

「すまない、姉がいながら、逃がしてしまった。」

「追うわよッ!!」

「ああッ!!」

 

すぐに追おうとする一同だったが、ノーヴェが何かに気づく。

 

「…………?ちょっと待て、何か聞こえるぞ………?」

「え?」

 

言われて一同は耳をすますと、何やらバイクのエンジン音が聞こえた。それも、一つや二つではない。

 

「スゴい沢山のバイクのエンジン音だな…………暴走族か?」

「京都にもいるの?こんな時に、関わりたくないわね…………」

 

ティアナがそう呟いた時、スバルは橋の方を見て、目を見開く。

 

「な………何アレッ!?」

 

先ほどまでサルがいたその場所に、無数のヘッドライトの明かりがあったからだ。いや、それだけならば、暴走族だと思うだろう。

問題は、そのバイクの『乗り手』だ。

その乗り手は、『人ではなかったのだ』。

 

後頭部が長く伸びたエイリアンのような姿で、左目には何やらスカウターらしき機械がついている。そして各々、その片手には鉄パイプや木刀などの武器を握っていた。

 

『GRUUUUUUUUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAA』

『GEHYAHYAHYAHYAHYAHYAHYAHYAHYAHYAAAAAAAAAAA』

 

明日菜たちもそれに気づいて驚くが、エイリアンたちは止まらず、明日菜たちに迫ってくる。

 

『GRUAAAA!』

「うわッ!?」

「散開ッ!!」

 

一団は止まらず、衝突する寸前で明日菜たちは避ける。

 

「ウィングロードッ」

「エアライナーッ」

バシュゥゥウ

「はっ!」

 

スバルとノーヴェは、空中に足場―――蒼い『ウィングロード』と、黄色い『エアライナー』を出すと、数名がそこに飛び乗った。

 

「クソッ!今コイツらから『スタンドエネルギー』を感じたぞ!」

「群生型で実体化したスタンドって珍しいな………目的は私たちの足止めか………」

 

足元を走り抜ける一団を見下ろす千雨と徐倫がそれに気づいたとき、ふと、一団の走る先を見た。そこには………

 

 

 

 

 

「ちょっとォォオオオ!?オレたちそこにいませんよオオオーーーーーー!?」

「何で私までーーーーーーー!?」

『『『『『GEHYAHYAHYAHYAHYAHYAーーーーー』』』』』

「アキラさーーーん!?」

 

エイリアンたちに追い回されるアナスイとアキラがいた………

 

「………運悪く乗り損ねたみたいね…………」

「アナスイはどうでもいいが、アキラは助けないとな………」

「どうでもいいのッ!?」

「どうします?二手に別れるなら…………?」

 

ネギがそう言い掛けたとき、千雨がどこかを見つめているのに気づいた。

 

「………長谷川さん?」

「悪い先生、私は行けない。」

「「えッ!?」」

「何せ、『お客さん』の相手をしなきゃなんないからなぁぁぁぁーーーーーーー…………」

 

千雨が見つめる先には、いつウィングロードに乗ったのか、フェンシングの防具のようなデザインの、のっぺりとした仮面を付け、陣羽織に胴当てを身に纏った女がいた。そしてその手には――――

 

 

 

 

 

「なあ、『アヌビス神』?」

「「「「「!!?」」」」」

 

妖刀と化したスタンド『アヌビス神』が握られていた………

 

「………一目で私と気づくとはな。約束通り、貴様に果たし合いを申す!」

「約束した覚えはないが、受けて立つぜェ………『アニバーサリー・オブ・エンゼル』ッ!!」

ドンッ

 

言うと、千雨は『アニバーサリー・オブ・エンゼル』を身に纏い、アヌビス神目がけて突っ込んだ!

 

「長谷川さん!」

「…アヌビス神は千雨に任せよう。チンク、念のために千雨のとこに行ってくれ。」

「……分かった。」

 

アヌビス神と激しく交戦をする千雨を見ながら、徐倫はチンクに言う。

 

その後、簡単ながらも話し合った結果、ネギ、仗助、明日菜、徐倫、スバル、刹那で木乃香をさらったサルを追い、残りでアキラとアナスイを助けることとなった。

 

 

 

スタンド名―バイシクル・レース

本体―不明

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

桂川 川岸

 

アナスイ(スタンド名:ダイバー・ダウン)、アキラ(能力名:鉄球No.1、鉄球No.2)、ティアナ(デバイス名:クロスミラージュ)、ノーヴェ(武装:ジェットエッジ)

VS.

バイシクル・レース(本体:不明)

 

 

『『GRUUUUUUUUAAAAAAAAAA』』

「クソ!コイツラは世紀末からでも来たのか!?愛で『いまにも落ちてきそうな空の下で』バイク乗り回しやがってッ!!」

「分かりにくいネタ盛り込まないでッ!」

 

アナスイにツッコミながら、アキラは鉄球を投擲する。狙いは『腕』だ。

 

ドグシャアッ

『ギ……!?』

 

アキラの狙い通り、鉄球はバイシクル・レースの内の一体の腕に当たり、そのままシルシルと回転する。そして―――

 

グンッ

『!!?ギ!?ギ!?』

『ギギィ!?』

 

その一体の腕が独りでに『曲がり』、カーブをしてしまう!そして、それに気づいたもう一体のバイクに真っ直ぐに向かい………

 

ドグオオオン

『『グギャアアアアア』』

 

衝突し、そのままお互いに大破した!

 

パシィッ

「良しッ!!」

「やるな!だが………」

 

アナスイは周りを見渡す。

周りには、まだまだ『バイシクル・レース』が走り回り、二人を囲んでいた。

 

「………数が多すぎる………群生型で実体化している分、かなり厄介だ…………」

 

アキラが毒突いた時、一団からバイクが数台突っ込んできた!バイクはウィリーしながら、しかもいつの間にか鋭いスパイクが着いた前輪を掲げながら、アキラたちに迫る!

 

「!ダイバー・ダウ…………」

 

ダイバー・ダウンの拳がバイシクル・レースに向けられたその時、黄色い「エアライナー」が出現してバイクのタイヤが乗り込み、そのままエアライナー上を走ってしまう!

 

「!?」

「ウリイィィャァアアアアアアッ!!」

ゴシャァ

 

そのまま、正面から突っ込んできたノーヴェが飛びまわし蹴りをその顔面に食らわせる!

バイシクル・レースは頭を粉砕されて後方に倒れ、着地したノーヴェの後ろの方で爆発した!

 

「ノーヴェ!」

「おいおい、俺の出番取るなよな………!」

「助かったんだし、モンク言うなよ!」

 

ノーヴェにアナスイが文句を言っている間に、周囲にティアナも降り立ち、『バレットシュート』で2体のバイシクル・レースを撃破する。

 

「く……2、3体ブッ飛ばしても、大したダメージにはなりそうにないわね………!」

「こーいったのは、本体を叩ければいいんだが………!?」

 

そう言いかけて、アナスイは気づいた。周囲を囲んでいる物とは別に、『()()()()()()()()()()()()』30名ほどいることに!

 

「しまった!ホテルの方に……!」

 

アナスイは駆け出そうとしたが、周囲をバイシクル・レースに囲まれて抜け出すことが出来ない。

 

「くそッ!最初から私たちをホテルから引き離す為に………!」

「今からじゃあエアライナーでも間に合わない………!」

 

ティアナとノーヴェが毒づいた。ホテルには楓やウェンディたちがいるものの、大騒ぎになる事はたしかな上に、あの人数は流石に厳しい。

ティアナたちが焦っていたその時―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォオオッン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

ホテルに向かっていた一団の先頭が『爆ぜ』、吹き飛んでしまった!

ティアナが、何が起こったのかを考えるよりも前に、先頭集団の辺りがいた土煙の中から『何か』が飛び出し、残りの『バイシクル・レース』を次々に吹き飛ばしていく!

 

「な、何が………!?」

「ヒュー♪あのお坊ちゃん、なかなか派手にやってくれるねぇー♪」

「「「「!!?」」」」

 

不意に声がした。背後からだ。

振り向いた先にいたのは、茶色いシャツにテンガロンハット、滑車の付いたブーツを履き、禁煙パイプをくわえた男―――

 

 

 

 

 

「お、お前は………」

「ホ……『ホル・ホース』ッ!?」

 

アナスイとティアナが、驚愕の声を上げる。

 

そこに立っていたのは、「支配」と「権力」を暗示する『皇帝(エンペラー)』のカードのスタンド使い、

 

「よぉ~~~~~~~、足の怪我は大丈夫かい?お嬢ちゃぁぁああ~~~~~~ん!」

 

ホル・ホースだった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

京都駅

 

ネギ(スタンド名:牙(タスク))、徐倫(スタンド名:ストーン・フリー)、スバル(デバイス名:マッハキャリバー)、仗助(スタンド名:クレイジー・ダイヤモンド)、明日菜(アーティファクト名:ハマノツルギ)、刹那(武装:夕凪)

VS.

サル女(仮)

 

 

「待てッ!!」

 

木乃香を連れ去ったサルを追い、サルの乗り込んだ電車に乗り京都駅まで来たネギたちはサルを追いつめたが……

 

「……フフ、よーここまで追ってこれましたな。」

「あっ!さっきの……!?」

「おサルが脱げたッ!?」

 

サル(着ぐるみ)を脱いだ女は、余裕の笑みを浮かべる。

 

「―――逃がすわけねーだろーがッ!!行くぞ、お前ら!」

「「「はいッ!!」」」

 

仗助の号令の元、ネギたちは駆け出す!明日菜と徐倫は懐から『仮契約カード』を取り出し、カモに教えられた呪文を唱える!

 

「「来たれ(アデアット)ッ!!」」

ギャアアーーンッ

 

二人が唱えると、武器(アーティファクト)が現れる。

 

明日菜には、鋼鉄製らしきハリセン―――『ハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)』が、

 

徐倫には、鍔や柄に星の装飾が施されたロングソード―――『コウウントユウキノツルギ(フォルトゥーナ・エルエーレ)』がそれぞれその手に握られた!

 

「お、これが私のアーティファクトか。」

「ちょっと、何で徐倫は普通に剣で、私はハリセンなのよッ!?」

「えッ!?そ、そう言われても…………」

 

明日菜がネギに文句を垂れるが、今はそれどころではない。二人は刹那とスバルと共に、サル女(仮)に己の得物を振り下ろす!

 

だが!

 

ガキィインッ

「「「!!?」」」

 

三人の得物はサル女(仮)に当たる前に、脱ぎ捨てられたサルのほか、熊のぬいぐるみのようなものと、スマートなゴリラのようなものに阻まれた!

そしてスバルは―――

 

「よお姉ちゃん、ちょいとオレの相手をしてもらうぜ。」

「な………あなたは!?」

 

角刈りに鍛えられた体の男に阻まれていた!

 

「な………何よこいつら!?増えてるし!」

「さっき言った呪符使いの『式神』です!」

「ホホホ、ウチの『猿鬼(エンキ)』に『熊鬼(ユウキ)』、それに、とっときの『猿鬼導(エンキドウ)』は、なかなか強力ですえ!さらに、『あの女』に借りたその男、『ウエストウッド』は、強力なスタンド使いと聞いとる!もはや敵なしや!!」

 

サル女(仮)は、木乃香を連れて立ち去ろうとする。だが、それを黙って見過ごすような明日菜たちではない!

 

「このか!このォォオオオ!!」

「オラオラオラオラオラァァァァッ!!」

 

明日菜は着ぐるみのサルのような『猿鬼』、徐倫は熊のような『熊鬼』にそれぞれ得物を振り下ろす!

 

ズッバアアアアアン

「「ムギョッ!!?」」

「なッ………!!?」

 

二人の攻撃が通り、猿鬼と熊鬼は一刀両断されて、元の紙に戻ってしまう!

 

「あ…あれー?倒しちゃった?」

「……?(今のは?)」

 

明日菜は不思議そうに首を傾げ、徐倫は今の剣の感触に違和感を覚える。

まるで、バターか何かを切ったような、今の感触を………

 

「な…………何か分からないけど、行けそーよ!そのゴリラは私たちに任せてこのかを!!」

「す、すみません、お願いします!」

 

猿鬼導を相手していた刹那は、木乃香を連れ去ろうとするサル女(仮)に向かい、飛び出す!

 

「このかお嬢様を返せェーーーーーーッ!!」

「えェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜い。」

「なッ!?」

ガキィンッ

「くっ……」

「きゃああああ〜〜〜」

 

だが、サル女(仮)に刃が届く前に、突如現れた陰に、刹那の太刀が阻まれてしまう!陰は着地に失敗してスッ転んだが………

 

(こ………この『剣筋』…………まさか神鳴流剣士が護衛についていたのか!?)

「あいたたーー……すみません、遅刻してしもて………どうも〜〜〜〜〜〜『月詠(つくよみ)』いいます〜〜〜〜。おはつに〜〜〜〜〜。」

 

神鳴流剣士に驚いた刹那だが、その姿―――のんびりしたメガネの少女に、一瞬呆気にとられた。

 

「え………お…………お前が神鳴流剣士……?」

「はい〜〜〜〜♪見たとこ神鳴流の先輩さんみたいですけど、護衛に雇われたからには本気でいかせてもらいわすわーーーーーー。ではいきます〜〜〜………」

 

月詠が言った瞬間―――

 

 

 

ダッ

「むっ!」

ガギギギギギギギギギ

「ぐ………!?(意外にできる!?マズい!!)」

 

月詠の二刀流に押されてしまう!

 

刹那は『対化け物』用の三尺(約90センチ)の野太刀(斬馬刀ともいう)に対して、月詠は打ち刀と脇差の二刀流だ。

本来野太刀は、『斬馬刀』の異名の通り敵将を馬ごと斬り倒すことを目的に製造された刀剣で、その大きさと重量ゆえに小回りが利かないのが難点だ。

それに対して月詠は二刀流。

小回りの良さで、刹那が不利だった。

 

「桜咲さん!?ぐうッ…………!?」

 

刹那の元に向かいたい明日菜だが、猿鬼導の猛攻撃によりその場から離れられない!

 

「こいつ………強い!」

「さすがは『とっておき』って訳だな…………!!」

 

悪態をつく二人。そしてスバルは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウリィィヤアッ!!」

ボゴォオッ

「グェプッ」

 

スバルが放った回し蹴りが、ウエストウッドのわき腹に突き刺さり、ウエストウッドの体が吹き飛ぶ!

 

「………(この人のスタンド………『接近戦』には向かない能力みたいだ………さっきからみて直感した。戦いは主に本体であるあの人自身が『肉弾戦』によるものだし。一瞬スタンドの(ヴィジョン)が見えたが、それでは攻撃してこなかった………ならば!) スタンド能力を出す前に!再起不能にするッ!!」

 

壁にもたれかかるウエストウッドを見てスバルがそう決定し、右拳の一撃を放とうと腕を上げた時だ。それは、突如やってきた!

 

 

 

 

 

相棒(バディ)ッ!!]

「!?」

ゴカァッ

 

マッハキャリバーの警告に、スバルは障壁を張ると、障壁の後方に何かが勢いよく激突する!

 

「い………今のは!?はッ」

 

スバルは気づいた。後方から再び何かが迫るのを!

 

それは――――

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオ

 

 

 

 

 

「い……………「隕石」ッ!!」

 

2つの『隕石』だ!

驚くスバルだが、すかさず障壁を張る。だが、一発間に合わず、右腕を深く傷つけられてしまう!

 

「うあああああッ」

 

ダメージに声を上げるスバル。そんな中、隕石はウエストウッドにも迫る!だが!

 

 

シュゴオオオオオ

「!」

 

隕石は、ウエストウッドに当たる前に『燃え尽きた』!

 

(い…『隕石』を自分に向けてひきつけるッ!ただしこいつ自身には絶対に命中せず、皮膚一枚の所で岩石は燃え尽きてカスになる!)

 

ウエストウッドのスタンドを理解したが、かなりヤバい事に変わりない。

隕石を落としてくるタイミングは相手次第。それを読みとることは難しかった。

 

(右腕のキズは深い………一か八か、あれをやるしか―――)

 

 

 

 

 

「ム゛ギョアアアアアア」

「来るッ!!」

 

猿鬼導が、明日菜たちに迫る!

 

 

 

 

「無駄だ!防御は出来ねえッ!!」

ドゴオオオ

「!また………」

 

隕石がスバルに向かい落下してくる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドグシャアッ

「ム゛ギャッ!?」

「「…………………………は?」」

 

 

 

シュゴオオオオオ

「え?」

「……………何?」

 

隕石が当たる直前になって、ウエストウッドと向き合っていたはずのスバルはいつの間にか()()()()()()()()()()()()()()()()()、猿鬼導は、突如降ってきた『モノ』に押しつぶされた。

それは――――

 

 

 

「ろ……………ロードローラーだ…………」

「…………だな。」

 

そう、『ロードローラー』だ。道路工事なんかに使われる、あの『ロードローラー』だ。

 

「なッ…………何でロードローラーが?」

「さ…………さあ?……………」

 

スバルたちだけではなく、刹那や月詠、ネギたちも、突如降ってきたロードローラーに、ポカンと呆気にとられていた。

 

 

 

 

 

「――――少し派手すぎたかしら?」

「まあ、ロードローラーなんてチョイスした結果ですしね。」

 

ふいに、ロードローラーから声がした。

見ると、いつの間にか、ロードローラーの上に二人の男女がいた。

 

一人は、腰まで伸ばした銀髪に鋭い青い瞳、藍色のスーツに黒いコートを着込んだ男。

もう一人は、白髪に近い銀髪を縦ロールにした、ゴシックロリータ服を着て、左手を隠した翠色の目をした少女だ。

そして、男の手元には『地図』らしきものがあり、それを覆うようにスタンドが発現していた。

 

「『アンダー・ザ・レーダー』………スバル・ナカジマを地図上から移動し、ロードローラーを突き落とした!―――驚かしてすまなかったな。」

 

言うと男―――サルシッチャは、明日菜たちに会釈する。

 

「なッ!……………何なんやあんたらはッ!?」

 

サル女(仮)が声を荒げると、少女はサル女(仮)に向き直り、静かに名乗った。

 

「私?私は――――」

 

 

 

 

 

 

「ルル・ベル。」

 

 

 

 

 

←to be continued...




49話です。
・仗助のクレイジー・ダイヤモンドの解説。今まで入れてなかったので、ここで説明しました。

・バイシクル・レース登場。いわゆる『戦闘員』のような役割として考え出したスタンドです。タイヤからスパイクが出てくるのは『運命の車輪(ホウィール・オブ・フォーチュン)』が少し入ってますね。

・オリジナル式神『猿鬼導(エンキドウ)』。頭数合わせに必要だったのでだしました。名前は『エンキ』繋がりでグレンラガンの『エンキドゥ』から。

・ロードローラーネタ発動(笑)今までずっと温存してました(笑)

・ルル・ベル一味本格参戦。次回、ルル・ベルのスタンドと、その目的が明らかになります。

では、次回をお楽しみに!


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#50/そいつの名はルル・ベル ①

桂川 川岸

 

 

「…………よくもまあ、顔が出せたわね………ホル・ホース!!」

 

睨みつけながら、ティアナは怒気を孕んだ台詞をホル・ホースに放つ。

スタンドの存在を知ったあの日、ホル・ホースと遭遇したティアナは、ホル・ホースのスタンド『エンペラー』の弾丸に、右足を射抜かれていた。

 

「おいおい、女の子がそんな顔するもんじゃないぜェーー?かわいい顔が台無しじゃねーか。」

「ふざけるなッ!!お前のやったことを忘れた訳じゃないわよッ!!」

 

軽口を叩くホル・ホースに対して、ティアナが怒鳴る。アキラたちも既に戦闘態勢だ。

 

「おっと、危ない!」

 

言うやいなや、『皇帝』を引き抜き、弾丸を放つホル・ホース。弾丸の行く先は―――

 

ドンッ

『グギャァアッ!!』

『!?』

 

背後から迫っていた『バイシクル・レース』に命中する!

 

「い、一台迫っていたのか…………き……気づかなかった………………」

「………あんた、何のつもりよ………?」

「見ての通り、助けたのさ…………!」

 

『皇帝』をクルリと回して構えると、キザに答えるホル・ホース。

 

「―――ホル・ホース、無駄口を叩いてないで、さっさと行くぞ。」

 

不意に、再び声がした。振り向くと、短く切りそろえた髪に碁盤の目を思わせる剃り込みを入れた髪型とアゴヒゲをして、白い丸に黒い丸を組み合わせた上着を着た男がいた。

その男を見て、アキラとアナスイは驚愕の表情をする。

 

「お………お前は………………『ウェカピポ』!?」

「生きていたのか……………ッ!?」

 

男―――ウェカピポは答えず、周りのバイシクル・レースを見回していた。

 

「つもる話もあるだろうが………そいつは後回しだ。今は―――――――」

 

ウェカピポはそう言いながら、腰のホルスターの留め金を外す。中には―――――

 

「!!て……………『鉄球』!?」

 

アキラの持つものとは違う、14のパチンコ玉ほどの小さい鉄球が付いた『鉄球』が出てきた。それは、手のひらでシルシルと音を立てて回転している。

 

「―――こいつらを倒すぞ。情報では『バイシクル・レース』というスタンドで、精密な動きは苦手な、『質より量』の典型的な群生型スタンドだ。」

 

ウェカピポがそう言うと、ホル・ホースはニヤリと笑う。

 

「それじゃあ行こうか!華麗に……………激しくッ!!」

 

 

 

 

 

#50/そいつの名はルル・ベル ①

 

 

 

 

 

京都駅

 

 

「何ィィ!?」

「ルル・ベル!!?」

「それって……………!?」

 

『ルル・ベル』と名乗った少女に、ネギたちは声を上げる。ルル・ベルは疲れたと言い、ロードローラーに腰掛けた。明日菜は、ルル・ベルについて憶えている事を思い出す。

 

「ルル・ベル………!(本屋ちゃんやネギのスタンド能力を目覚めさせたスタンド使い!能力はわからないけど、強力なスタンド使い!もう一つの矢を持った()!コソコソして、何だかムカつくコ!)」

「お前がルル・ベルだと………?何故今になって出てきたんだ…………?」

 

仗助の質問に、ルル・ベルは仗助を見ずに答える。

 

「―――宣戦布告のためよ……………あなたたちにね!!」

 

ルル・ベルは、サル女(仮)を右手で指さして言い放つ。サル女(仮)は指さされて驚くが、疑問に思う。

 

「う…………ウチらに宣戦布告って……………?あんさんらに恨み買う覚えは……………!?」

「ああ、正確には、あなたたちと手を組んだ女―――『聖王教会』から矢を奪って、『長谷川 千雨』の命を狙う女、『()()()()()()』に対してよ。」

「えッ…………!?」

 

ルル・ベルの言葉に、ネギたちは再び声を上げる。千雨を狙う女の名前を知ったことにも驚いたが、ルル・ベルの目的にも驚いた。

 

「は…長谷川さんの命を狙う連中に宣戦布告って…………!?」

「そいつらに敵対しているってことは、お前を『味方』と考えていいのか……………?」

 

徐倫の質問に、ルル・ベルはコクリと頷く。だが、何かを察したのか、上空を見る。

そこには、

 

「俺たちに宣戦布告だとォォーーーーー?ふざけんじゃねぇぞ小娘がッ!!」

 

ウエストウッドが引き寄せた3発の隕石が、ルル・ベルに迫っていた!

 

「あ、危な――――」

 

スバルが声を上げる前に、サルシッチャはロードローラーから飛び退き、ルル・ベルは――――

 

ドーーーン

「ううッ、座ったままの姿勢でジャンプを!?」

 

ロードローラーに腰掛けた姿勢のまま跳び隕石を回避すると、そのままウエストウッドに迫った!

 

「悪いけど、あなたみたいな『下っ端』に用はないの―――――『サイケデリック・インサニティ』!!」

 

ルル・ベルが叫ぶと、彼女のスタンドが発現する。

 

左半身は『サイケデリック』という名を冠しているだけあり、緑をベースに赤や黄色、ピンクの極彩色(サイケデリック)なまだら模様の、筋肉質な亜人の姿で、レンズのような青い目と歯がむき出しになった顔、そして黒い革のようなベルトを巻き付けて、ボクシングのグローブのようになった左手が特徴だ。

一方、右半身は銅色で丸みを帯びたロボットのようなデザインで、あちこちに赤い矢印や危険を示す三角と『!』のマークが描かれ、肩や腰からは歯車が覗いており、横に細長い長方形のランプのような黄色い目と、口にあたる部分のスリット、そして額から背中にかけて伸びた太いパイプを持った頭部を持っている。

以上のように、左右がまるで異なる二つのスタンドをむりやり繋ぎ合わせたようなデザインのスタンドだ。

 

「あれが、ルル・ベルの能力(スタンド)か!」

 

ルル・ベルはウエストウッドの元まで猛スピードで近づくと――――

 

ドグシャアッ

「ぐおッ!?」

 

『サイケデリック・インサニティ』の右アッパーをお見舞いした!殴られたウエストウッドは派手に吹き飛ぶが……………

 

「うぎゃああーーー………………ってあれ?何だ〜〜〜〜〜?スタンドのパワーはあんまないのかよォ!?人並み位だぜェーーーーーー?ビックリさせやがって!」

 

そんなにダメージはないようだ。

殴ったルル・ベルはというと、スバルの側にシュタッと着地し、ウエストウッドにくるり、と背を向けて歩き出した。

 

「……………え?あれ?あいつ倒さなくていいの…………?」

「ええ。()()()()()()()()()。『()()()()()。」

「は…………?」

 

スバルはルル・ベルの言うことが分からなかった。ルル・ベルはウエストウッドに一発アッパーを喰らわせただけだ。それなのに、もう『再起不能』とは――――?

 

「ヘイ!オレはまだピンピンしてるぜェーーーーーー?それなのに、もう『再起不能』にしたなん…………………て………………………?」

 

余裕の笑みを浮かべ挑発をしていたウエストウッドは、そしてスバルや明日菜、徐倫たちは、ようやく異変に気づいた。

 

 

 

「…………ねえ、あいつ『滞空時間』長すぎないか?」

「あ、徐倫も気づいた?」

 

そう、アッパーを喰らって吹っ飛んだウエストウッドは、『未だに滞空していた』。

いや、それどころか――――――

 

 

 

「…………あのお兄さん……………どんどん『上昇』してるよーな気ぃするんは、ウチだけやろか………?」

「…………いや、私にもそう見える……………」

 

ウエストウッドは、明らかに『上昇』していた!

 

「こ……これは!オレの身体が!『空の方に引っ張られている』ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?!?!?」

「ようやく気づいたようね?これが私の『サイケデリック・インサニティ』の能力!『サイケデリック・インサニティ』に「殴られたもの」は、「()()()()()()」に『()()()()()()()()()()()』!!」

 

皆さんもご存じの通り、地球上の万物には「重力」が働いている。その方向は常に『地球の中心』に向かい引っ張られている。

だが!ルル・ベルの『サイケデリック・インサニティ』はその『法則』を幻覚的(サイケデリック)にねじ曲げるのだ!!

 

「安心なさい。大体30m位上昇したら、能力が解けて元の方向に戻るわ。」

「じゅ…「重力」の能力……………!」

 

『サイケデリック・インサニティ』の能力に、サル女(仮)は戦慄する。『自分の方に隕石を引き寄せる』能力のウエストウッドであるが、自分が相手に()()()()()のであれば意味がない。

もはや彼女に余裕はなく、冷や汗をダラダラ垂らしていた。

 

(や………ヤバい!まさかウエストウッドが敗北するなんて…………流石にスタンド使い相手に式神と月読はんだけじゃあ………こうなったら、このかお嬢様を連れてさっさと―――)

「――――風の精霊17人(セプテンデキム・スピリトゥス・)集い来たりて敵を射て(アエリアーレス・コエウンテース)!」

「―――!しまったッ!?」

 

逃げようとするサル女(仮)だが、ルル・ベルに気を取られている内に詠唱をしていたネギに、ようやく気づいた!

 

「もう遅いです!魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・雷の17矢(セリエス・フルグラーリス)ッ!!」

ドバババババババッ

「あひいっお助け―――あら……?」

 

だが、サル女(仮)を目指していたと思われていた魔法の射手は、サル女(仮)の横を素通りし、はるか後方に行ってしまう………

 

「ホ……ホーホホホホホ!何やねん!この程度かいな!この―――」

「あなたは次に『ノーコン西洋魔導師がッ!!』と言う。」

「このノーコン西洋魔導師がッ!!―――はっ!?」

 

ネギが言い当てたのにサル女(仮)が驚愕したその時!

 

 

 

 

 

ゴッ

「あ゜ぺッ!?」

 

サル女(仮)の後方にあった『街灯』が、サル女(仮)の頭に降ってきた!当たった衝撃で、女は抱えていた木乃香を手放してしまい、木乃香はそのまま階段下まで落ちていくが、

 

ガシィッ

「―――ふうッ、ネギよォォォ………やるんならやるって言ってくれよなァァァァ〜〜〜〜〜〜〜!!」

「あ、すみません東方先生。」

 

駆けつけた仗助がナイスキャッチする。

 

「―――「魔法の射手」を外したと見せかけて、後方にある街灯を撃ち落としたのね…………」

「顔に似合わず、なかなか『キレ』るな………」

 

ネギの頭脳プレイに舌を巻くルル・ベルとサルシッチャ。

刹那の方も、月詠をねじ伏せたようだ。

 

「…………くっ、まさかここまでやるとは………猿鬼導ッ!!」

ドゴォッ

「ム゛ギャアアアアア!!」

「!こいつまだ……………!?」

 

だが、サル女が頭にできたタンコブを押さえながら叫ぶと、今までロードローラーの下敷きになっていた猿鬼導がロードローラーを吹き飛ばし、雄叫びを上げ復活する!

 

「…………往生際が悪いわね、『天ヶ崎 千草(あまがさき ちぐさ)』………」

 

サル女―――否、天ヶ崎 千草に溜め息混じりにあきれるルル・ベル。すぐさま『サイケデリック・インサニティ』を出すと………

 

「オルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオル……………」

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

「ム゛…ム゛ギャアアアアアアアアアア………」

 

猿鬼導にラッシュを放つ!そしてラッシュを撃ち終えて振り返る。

 

「――――そうそう、ちなみに『サイケデリック・インサニティ』に「連続で殴られる」と、「殴った方向に重力の方向を変える」能力で『メチャクチャな方向』に引っ張られるの。そして、最終的に『破裂』するわ。」

『え?』

 

ルル・ベルが説明する中、猿鬼導は空中に浮き上がり、

 

 

 

 

 

「ム゛ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」

パァアンッ

 

断末魔の叫びと共に破裂した……………

 

「オ・ルヴォワール(さよならよ!)」

「そんな…………猿鬼導まで…………!?くっ」

 

千草は舌打ちをすると、額に『弐』と書かれた猿鬼弐式を呼び出す。そして――――

 

 

 

 

 

 

「おぼえてなはれェエーーーーー!!」

「あっ!逃げた!」

 

猿鬼弐式に抱えられる形で、月詠共々逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

―――近衛 木乃香、奪還成功!

 

天ヶ崎 千草、月詠―――逃亡、再起可能。

ヴィヴァーノ・ウエストウッド―――スタンド名:プラネット・ウェイブス―――数分後、重力が元に戻り落下。一命は取り留めたが、全身複雑骨折により再起不能。

ルル・ベル及びサルシッチャ―――ネギたちに連れられ、ホテル嵐山で話を聞くことに。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

桂川 川岸

 

 

「―――だいぶ片づいたな。」

 

ホル・ホースとウェカピポの協力もあり、もう殆どが敗走する『バイシクル・レース』を見ながらつぶやくアナスイ。

ホル・ホースは『皇帝』を体内に納め、ウェカピポも鉄球をホルスターにしまっていた。

 

「…………まさか、あんたたちに助けられるなんてね。」

「でも、何で助けてくれたんです?」

 

当然とも言える質問をホル・ホースに投げかけるティアナとアキラ。

ホル・ホースはキザっぽく笑い、禁煙パイプを上下させる。

 

「いや〜〜〜〜、あん時は悪かったなァ〜〜〜〜〜〜〜。実はあの時、オレは『ある女性』に頼まれて『両右手の女』の組織に「密偵」として潜入してたんだよォ。」

「密偵………スパイって事か?」

 

ノーヴェが言うと、ホル・ホースは「そういう事だ。」と答える。

次に口を開いたのはアナスイだった。

 

「で、お前が何で生きてるんだウェカピポ?二年前、「プッチ」の野郎にやられたとばかり思っていたんだが………?」

 

アナスイの言葉に、ティアナたちはハッと息をのむ。

 

徐倫たちの話では、徐倫やまき絵、千雨たちは二年前、『プッチ』と言う男によりスタンドが目覚め、彼の計画に利用されそうになったらしい。

幸いその計画は徐倫たちにより阻止され、プッチも再起不能にされたという。

 

「………オレは二年前、プッチに利用されて、お前たちと戦った。だが、最終的にプッチに裏切られ殺されかけた。ここまでは、お前たちも知っての通りだ。」

 

ウェカピポがそう区切ると、アキラとアナスイはうん、と頷く。

 

「だが、ホル・ホースを密偵として雇った「あの女性」にオレも助けられてな………今は、ホル・ホースと共にそいつに付いているわけだ。」

「なるほど…………」

「で、あんたらのボスであるその『女性』ってのは、何者なの?」

 

ウェカピポの話にアキラが頷くと、ティアナが再び質問をする。

ホル・ホースがそれは………と言い掛けたその時――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、私たちも気になるな。」

『!!?』

 

不意に背後から声をかけられる。振り返ると、二人の男がいた。

 

一人は腰まである赤髪で右目を隠し、鷲鼻と隈が出来た灰色のタレ目にやせた頬の男で、革製と思われる黒いコートの下は、ダブルボタンの黒い上着を着ている。

もう一人は、V字の目とへの字の口が描かれた青白い仮面と、肩を隠す黒い頭巾を被っている。

 

「………よォ、『ガディ・Ru(ルー)』のダンナに、『ミスターHG』さんじゃあねーか。」

「フン、ホル・ホース……『オエコモバ』と共に勝手な行動をした後姿をくらましたと思ったら、まさか貴様が密偵だったとはな………おまけに私の『バイシクル・レース』をここまで破壊するとは………」

 

長髪で鷲鼻の男、ガディ・Ruは、怒気の混じった声で話す。

 

「ここでお前を始末してもいいが、こちらもお前の雇い主を知りたいのでな………」

 

仮面の男、ミスターHGも話す。こちらはまだ冷静な声だった。

 

「悪いが、連れて行かせてもらうぞッ!!」

 

ガディ・Ruがそう叫び、HGと共に飛び出した!

 

 

 

 

 

ドガァアッ

「「!?」」

 

だがそれは、突如彼らの前に降ってきたものにより阻まれる。

 

それは………

 

「ア…………アヌビス神!?」

 

アヌビス神を握った、仮面の女だった。

 

シュタッ

「いやぁーーー、派手に飛ばしすぎたかァ?………ってホル・ホース!?それにウェカピポまでッ!!?」

「チサメッ!?」

 

ふと、『アニバーサリー・オブ・エンゼル』の防御甲冑を外して、所々にキズを負った千雨が降りてくる。チンクも一緒だ。

 

「グッ…………まさか、『スタープラチナ』のスピードを上回る速度で突撃しつつ『弧牙車』を放つとは……………!!」

「………まあ、おまえにはそん位しないと勝てないしな……」

「アヌビス神が苦戦するとは…………なるほど、今までの刺客たちがことごとく敗北する訳だ……………」

 

千雨の予想外の攻撃に舌を打つアヌビス神を見て、ミスターHGは、今までの刺客たちを倒してきた千雨や徐倫たちに納得していた。

 

「…………だが、今のはもう『憶えたぞ』!次には、貴様のスピードは、私には通じんッ!!」

 

剣の切っ先を千雨に向けて言い放つアヌビス神。だが、千雨にはまだ『余裕の笑み』があった。

 

「………ごもっとも。だが無理だな。」

「無理?私はお前だけではなく、スタープラチナのスピードすら憶えているのだぞ?」

「なぜなら、お前にとても『ゾッ』とする「とっておき」をおみせするからだ。」

「ほう………どうぞ。」

 

未だに余裕を崩さない千雨に、アヌビス神は苛立ちにも似た感情を抱きつつ、千雨を睨む。

 

瞬間―――――

 

 

 

 

 

ズウラララァ

「「「「「「!? !?」」」」」」

「な!?なんだ…!?千雨が6…………いや…7人にもふえたぞッーっ」

 

一瞬にして、千雨の姿が『()()()()()()』!

 

「これは―――――幻影………いや、残像かッ!!」

 

自身が『フェイク・シルエット』という「幻影魔法」を使うティアナは、千雨が増えたのは幻影ではなく残像だと理解した。

幻影にしては、皆同じ動きをするが、個々に時間差があるし、透けているため余りにお粗末だ。

 

「「「「「「「双燕天翔流奥義『霧幻月華』…………『ゾッ』としたようだな。これは『スタンド』による残像だ。視覚ではなく感覚へうったえる、スタンドの残像群だ。」」」」」」」

 

7人の千雨が同時に喋る。アヌビス神は、仮面により表情は分からないが、驚愕しているのは確かだ。

 

「「「「「「「今度の剣さばきは!どうだァアアアアアーーーーーッ!?」」」」」」」

ドバババババババッ

「うおおおおーーーーーーッ!!」

 

瞬間、7人の千雨が一斉に、しかもそれぞれが違う太刀筋で襲いかかってきた!アヌビス神は何とか全ての剣を受け止めようとするが………

 

 

 

 

 

ガキィンッ

「ぐわッ」

 

仮面に一発入ってしまう!

喰らった瞬間、バックステップで後退するアヌビス神。仮面はピシピシと音を立てながら、亀裂を走らせていく。

 

「ま…………まさか、そんな手があったとは……………」

 

攻撃を喰らわせて1人に戻った千雨が見ている中、アヌビス神は亀裂が走る仮面に気を止めず話し続ける。その時、仮面がパキンッ、と音を立てて割れると、アヌビス神が取り憑いていた少女の正体が明らかになる…………

 

 

 

 

 

「えッ!?」

「その顔は……………まさか!?まさかそんな…………………ッ!?」

 

 

 

 

 

チンクとノーヴェの顔が、青ざめる。

 

 

 

 

 

その少女は、腰まで伸ばした茶髪にカチューシャをして、赤みがかった瞳をしている。だが、その顔は―――

 

 

 

 

 

()()()()?…………………いや、まさか………………『()()()()』かッ!!!?」

「千雨、確かに今のも『憶えたぞ!』」

 

全員が驚愕する中、ナンバーズが末妹『ディード』に憑依したアヌビス神は、静かに言い放つ………

 

 

 

 

 

←to be continued...




50話です。
・サブタイトルは「そいつの名はディアボロ」から。

・ホル・ホースとウェカピポのコンビ。実はこの二人、『誰かとコンビを組んでこそ実力を発揮する』という共通点があります。そこから生まれました。

・ルル・ベルのスタンド『サイケデリック・インサニティ』は、重力の能力。少し『C‐MOON』と被りますが、応用がきくため、注意してます。ラッシュはブチャラティのフランス語ver.

・ガディ・Ruと、ミスターHG。ガディは『ポニョ』のフジモトなイメージ。HGの仮面は『目つきの悪い青ピクミン』をイメージ
してください。
名前は、ガンダムSEED DESTINYに出てきた戦艦から拝借。HGはまだ秘密。

・アヌビス神が憑依したのはディードでした。人質兼戦力にするのに、乗っ取り系の能力はかなり適しています。

では、次回をお楽しみに!


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#51/そいつの名はルル・ベル ②

さかのぼる事2ヶ月ほど前―――

 

ミッドチルダ

 

海上保護施設から数十km離れた海域

 

 

ザッバァァアアッ

 

海面に巨大な影が浮上してきた。『鮫』だ。しかもよく見ると、何やら人らしきものが背鰭にしがみついている。

ふと、鮫に近づく一隻のボートがあった。乗っているのは「釣り人」らしき人物だ。

 

「お、来たか………」

「どうだった『ホルマジオ』?『戦闘機人』は入手できたか………?」

 

釣り人は、鮫の背鰭にしがみついていた剃りの入った赤い坊主頭に猿顔の男―――ホルマジオに問う。

 

「ああ、問題ねぇぜ。だが『スクアーロ』、本当に『一人』で良かったのか?」

 

ホルマジオは、手にした『酒瓶』を釣り人―――スクアーロに見せながら言う。中には―――

 

「ああ、あの女の『実験』には、一人で十分だ。すぐに戻るぞ。」

 

言うとスクアーロは、ボートを発進させた。

 

 

 

 

 

酒瓶の中には、まるでボトルシップのようにすっぽりと入った『ディード』が、瓶を中からガンガンと叩いていた…………

 

 

 

 

 

#51/そいつの名はルル・ベル ②

 

 

 

 

 

現在―――

 

桂川 川岸

 

長谷川 千雨―スタンド:アニバーサリー・オブ・エンゼルVS.アヌビス神―本体:ナンバーズ No.12 ディード

 

 

「ディード………ッ!?」

 

アヌビス神が本体として操っている人物―――ディードに、ノーヴェが悲痛な叫びを上げる。

 

「アヌビス神………!(抜いた者を操り『本体』にするスタンドの妖刀…………まさかディードを操るとは…………ッ!)」

 

チンクはアヌビス神に、いや、アヌビス神を抜かせたであろう『左手が右手の女』に怒りを覚え、唇を噛む。

 

「どうした千雨?………かかってこないのか………?」

(いや、かかってくるはずがない………まさか探していたディードが敵として立ちはだかるとは、思いも寄らなかっただろうからな……………!)

 

傍観していたガディ・Ruはほくそ笑む。

彼女(ディード)は『ヴィオレッタ』の実験のためにさらってきたが、ガディの発案でアヌビス神を無理やり抜かせたのだ。

ディードが逆らっても、『手駒』として使えるように……………

 

(退き時だな…今の内に私は「アレ」を用意して、撤退の準備を―――)

 

「………ったく、なかなか良い趣味してんな、お前らの親玉(ボス)はよォ。」

「………ほめ言葉として受け止めておこう………とにかく千雨、貴様の『スピード』も『技』も、すでに『憶えた』。このアヌビス神、一度闘った相手には、たとえ持ち主が変わったとしても、絶対に…絶対に絶対に絶っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

千雨の皮肉を軽く流し、いつものように『絶対に』を長くのばすアヌビス神。そして………

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜対に負けんのだァアアアアアーーーーーッ!!」

ドピュウッ

「もう聞き飽きたんだよ!その台詞はよォォォ!!」

ガキィンッ

 

千雨に斬りかかるが、千雨はそれを受け止める!

 

「ううッ………うおおおおッ」

ググググググ…………

「言ったはずだ。貴様の剣はすでに『憶えた』となッ!速度だけではなく、力も!」

 

だが、千雨の小太刀はアヌビス神の剣に押されていた!

 

「ぐうううッ………(分かってはいたが強い!闘えば闘うほど、攻撃が加速されてやがる…………!…こうなりゃ――――)」

コオオオオオオオオ

「………?(何だ?この『音』は………………?)」

 

突如として聞こえてきた『音』に、アヌビス神は疑問を持つ。

瞬間―――――

 

 

 

 

 

波紋疾走(オーバードライブ)ッ!!!!」

バリバリバリバリバリバリ

「なッ!?」

ドッギャァアアアーーーーーン

「ウギャゥウッ!?」

 

千雨の小太刀から『火花』が散ったかと思うと、アヌビス神が弾かれたように『飛び退いた』!

 

「ふう、危なかったぜ…………(『波紋』は『スタンドに近づくため』の技術と聞く………スタンドの『波紋伝導率』は、サボテンなんかより断然高いぜ………!)」

 

 

 

千雨の使う『双燕天翔流仙道剣術』は、『波紋』と『剣術』を組み合わせた流派!

故に、この流派の継承者は、自ずと『波紋の呼吸』の使い手でもあるのだ!

ちなみに千雨の波紋の強さは、『呼吸』の師匠であるリサリサ曰く『屍生人(ゾンビ)程度なら難なく倒せる』位らしい………

 

 

 

波紋の影響を受け、アヌビス神は麻痺した体を立て直そうとするが、うまく動けないでいた。

 

「よし、後は………ウェカピポッ動きを止めてくれッ!!」

「……了解した。」

 

千雨に言われ、ウェカピポは『鉄球』を投げる体制に入る。

 

(―――ウェカピポの『壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)』で動きを封じ、やつの刀を完全に破壊する!これでようやくアヌビス神との因縁が終わるッ!!)

 

ウェカピポが鉄球を投げた時、千雨の頭の中では、すでにアヌビス神の再起不能(リタイア)が浮かんでいた。

だが――――

 

「アヌビス神ィィィィィィィィィィィィィンッ!!!」

ゴウッ

「何ィッ!!!?」

「チンク姉ッ!?」

 

突然、鉄球の進行方向にチンクが現れる!

 

(アヌビス神!貴様が『刀剣』ならば!私の『ランブル・デトネイター』で『爆破』できる!二度と貴様が!誰かに憑けないようになァアアアアアーーーーーッ!!)

 

チンクは声に出さず、頭で怒りをぶちまけていた。普段の彼女からは考えられないが、(ディード)を利用された怒りからか、完全に頭に血が上っていた。

 

「あのバカ………ッ!(あいつがレッキング・ボールの『影響』を受けたら…………)よせッチンクッ!!」

 

千雨が止めようとするが、すでにウェカピポが放った鉄球はチンクに迫り―――

 

 

 

ブワアアアッ

 

 

 

鉄球に付いていた14の『衛星』が発射された!

頭に血が上っているとはいえ、チンクは後方から迫る衛星の気配を察知し、難なくかわす。

 

「終わりだッ!!アヌビス神――――!?」

 

そして、アヌビス神に触れようとするチンクだが、急に停止する。

 

「?………どうしたんだ?チンク姉??」

「あ〜〜、言わんこっちゃない………『左半身失調』だ。」

「………?何それ?」

 

アナスイの口から出た単語『左半身失調』に、ティアナは首を傾げる。答えたのはアキラだ。

 

「………ウェカピポの鉄球は、私の一族とは違う、『壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)』と呼ばれる、王族護衛の戦闘のための鉄球の能力なんだ。衛星をまともに喰らっても死ぬけど、顔をかすったら、その衝撃波で十数秒、脳は『()()()()()()()()()()』感覚に襲われて、戦闘不能になるんだ………」

「「「……………え゛?」」」

 

アキラの説明に、ティアナたちは絶句した。

チンクは『右目を失明している』。つまり、元々右側が見えない。(プラス)左半身失調。

つまり…………………

 

 

 

 

 

(ま……………全く見えないィィィィィィッ)

 

完全に戦闘不能だった……………

 

 

 

 

 

「な…………何だか分からんが、助かったのか?身体のシビレも取れたぜ…………」

 

チンクがレッキング・ボールの能力を喰らった中、波紋の力から復活したアヌビス神が呆気にとられたように呟く。

 

「………アヌビス神、ここは退くぞ。」

「ガディ・Ru!?」

 

いつの間にか、ガディ・RuとHGがアヌビス神の側にいた。

 

「既に『準備は整ったからな』!!」

 

 

 

ブオンッ

 

ブオンブオンッ

 

ブオンブオンブオンブオンブオンブオンブオンブオンッ

 

 

 

「!バイクのエンジン音…………!?」

「また『バイシクル・レース』かッ!!」

 

だが、そのエンジン音はもはや『爆音』に近いレベルだ。

それは、段々と千雨たちに近づいてくる!

 

そして、それは現れた!

 

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ

「なっ!?あれは……………ッ!?」

 

来たのは、全高2mにも及ぶ三輪バイクだ!

タイヤには鋭いスパイクがあり、前輪の泥除けには龍の頭、後輪のサイドにはミサイルが付いた翼、さらにヘッドライトには宝玉を持つ龍の手が付いた翼龍を模したバイク、運転席には、ガトリング砲がまるでリーゼントのように頭部に鎮座して、特効服を着込んだエイリアンが、巨大な斧を肩に担いでこちらを睨んでいる。

 

「『バイシクル・レース“総長(フルアーマー)”』ッ!!群生型ゆえに、今まで分散していたスタンドエネルギーを一台に集中することで誕生する、バイシクル・レース最強の姿だッ!!」

「お前………こんな隠し玉を…………!」

 

バイシクル・レースの最強形態『総長』に驚愕する一同。

もはや総長どころの問題じゃない姿だが、とにかくヤバい事は確かだ。

 

「こいつの馬力は相当な物だ。もったいないが、今回はこれで『逃げ切れさせて』もらうッ!!」

「ふん!…………千雨、再び勝負はお預けだ。だが、次こそは絶っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜対に負けんッ!!」

「ま、待てッ!!」

 

ノーヴェが止めようと駆け出すが、HGの身体から『緑色の両腕』が出てくる。そして、手の平を向かい合わせるような構えを取ると――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()ッ!!」

ドッバァァアーーーーッ

「ッ!?」

ドッガァアッ

「うおッ!?」

 

「緑色のエネルギー波」を地面に放ち、目くらましにする!

一瞬、足を止めるノーヴェだが、その一瞬の内にガディたちははるか遠くまで走り去っていた………

 

「くそッ!!」

「………すまん、姉としたことが、頭に血が上って……………」

「チンク………」

 

左半身失調から回復したのか、チンクは自らの失敗に恥ずかしげに謝る。

 

「気持ちは分かるが、そういう時こそ冷静になることが大切だ。奴は再び現れるだろう………その時こそ、彼女を助けよう。」

「………ああ。」

 

ウェカピポにたしなめられ、チンクは落ち込んだように返答した。

 

 

 

(…………奴の今の技は…………まさか、HGッ!ヤツの正体は………!?)

 

一方、ホル・ホースはHGが出した技に、HGの正体を察知していた。

 

その正体は、かつて空条 承太郎たちとともにDIOを倒すためエジプトへ向かった、『あの男』だった……………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――どうやら、向こうも終わったようだね………」

「そのようでござるな………」

 

川岸での戦いをホテルの屋上から見ていた楓は、川岸にいた敵が去っていくのを見てそうつぶやいた。彼女の隣には、アッシュグレーの髪の少年とメイドが立っていた。

 

「いやはや、助かったでござる。拙者の『夢幻』では、流石にあの数を相手にするにはキツイでござるからなぁ~♪」

「いえ、ようやくスタンドの扱いにも慣れてきたので、上手くいって良かったですよ。」

 

少年がそう言うと、メイドが声をかけた。

 

「けれどぉ、能力だから仕方ないとはいえ~、ただ『突っ込む』だけではいけませんねぇ~………」

「そ、それはそうだけど………」

 

少年は苦笑すると、楓に背を向けて歩き始めた。

 

「じゃあ、ボクたちはこれで………」

「おや、ネギ坊主たちと会わなくてよいのか?」

「ええ……まだその機会じゃないだろうし………それに、ノーヴェさんには、少し会いづらいし………」

 

少年は苦笑交じりに答える。

右側の短い三つ編みが3本、風に揺れていた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル嵐山

 

とある一室

 

 

「――――で、これはどういう状況なの?」

 

ホテルに戻り、本部として機能している部屋にホル・ホースとウェカピポを連れたティアナたちは、目の前の光景に呆れ半分の表情になる。

中では…………

 

「あ、ティアお帰り。」

「ってホル・ホースッ!?何であんたがいるのよッ!?」

「お前………ウェカピポかッ!?生きてたのかよッ!!」

「ああ、二人ともお疲れ様。悪いんだけど、この状況何とかしてくれないかしら………?」

 

SPよろしく、黒いスーツにサングラスのネギ、明日菜、スバル、徐倫に囲まれたルル・ベルが、困ったように風にホル・ホースたちに訴えかけていた………

それを見た千雨とノーヴェは、呆れたようにこう思った。

 

((てか、何で修学旅行にSP服なんて持って来てんのよ/だよ…………?))

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

麻帆良学園

 

グリーンドルフィンストリート麻帆良

 

 

学園長たちとの話し合いの関係で、ティアナたちには明日合流する予定だったフェイトとヴィータは、通信回線を開いてルル・ベルの事情聴取に立ち会っていた。

 

[―――名前は『ルル・ベル』、1993年12月5日生まれ………スタンド名は「サイケデリック・インサニティ」で、重力を操る能力…………ここまでで、間違った点はないわね?]

[ええ、問題はないわ。]

 

ティアナの質問に、ルル・ベルは気にしないように答える。その様は、どこか優雅にさえ見えた。

 

[それじゃあ、本題よ。あなたの目的。スバルたちの話じゃあ、千雨の命を狙う『ヴィオレッタ』と言ったかしら?彼女の一味と対立しているらしいけど、理由は?]

 

ティアナは、早速核心を突いてきた。

 

ルル・ベルが『ヴィオレッタ』と対立する理由―――ルル・ベルと彼女の関連も知りたかったし、そのためにスタンド使いを生み出していた事も、未だに謎だった。

 

[――――それは…………]

 

ルル・ベルはしばしティアナを見つめたまま黙った後、布で隠していた左手に手をかける。

ルル・ベルが隠していた左手の布を取ると、そこには―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[それは、()()()()()()()()()()()()()()………]

[『ッ!?』]

 

 

 

 

 

ルル・ベルの『左手』は、

 

 

 

 

 

()()』だった………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル嵐山

 

 

「ひ………左手が右手…………!?」

「娘だと………………ッ!?」

 

ルル・ベルの告白に、ティアナたちは息をのんだ。

ルル・ベルは両手の平をティアナたちに見せているが、何度みても、彼女の左手は右手だ。

 

「………見せといて言うのも何だけど………あまりみないでくれる?結構気にしているのよ………」

「あ………ご………ごめん………………」

 

と、ルル・ベルは不機嫌そうに左手を引っ込める。普段隠している位だ。恐らく、左手がコンプレックスなのだろう。

 

「じゃ、じゃあ何?あんた、お母さんを止めるために、スタンド使いを生み出して、対立してるわけ!?」

「………ええ、そうよ。ネギ君やのどか、他にも何人かいるけど、麻帆良のスタンド使いの大半は、私やお母さまが生み出した者よ。」

「………親娘でスタンド使いの生み出し合いって…………」

「壮絶な親娘喧嘩だな…………管理局を巻き込むレベルなんて……………」

 

明日菜の質問に対するルル・ベルの返答に、皆は、感心していいのか呆れていいのか、分からない表情をしていた…………

そこへ、再びルル・ベルが口を開く。

 

「………お母さまは、ポルナレフの妹を殺した『J・ガイル』の妹よ。逆恨みでポルナレフを殺すつもりでいたけれど、6年前、コロッセオで何者かにより殺されたため、その『罪』を娘である千雨に着せるつもりよ。………まあ、そのあたりは、あなたたちも察してるいでしょうけどね。」

 

ルル・ベルの言葉に、ティアナたちは頷く。

 

「でも、お母さまのスタンドは戦闘向きではなかったの。『左手で触れたものの能力を打ち消す』能力…………故に、お母さまは他のスタンド使いを集めて、復讐の為の軍団を作り上げたのよ。」

 

ルル・ベルが側にいたサルシッチャに目をやると、サルシッチャはコートの内ポケットに手をやる。そこからは―――

 

「!それは…………!」

「お婆さまの残した、この『矢』を使ってね。」

 

承太郎たちの推測どおり、最後の「矢」が出てきた………

 

「………この矢は、一体どうしたの?」

「お母さまが持っていた物を持ち出したのよ。結果として、『聖王教会』にあった『矢』が盗まれてしまったけれどね……………」

 

サルシッチャから受け取った矢をテーブルに置いて、ルル・ベルは少し申し訳なさそうに言う。

 

「………復讐に駆られるお母さまは、正直見ていられなかったわ………復讐以外に何も考えないようになってしまったんですもの………」

「だから、止めさせるために矢を…………?」

 

ネギが聞くと、ルル・ベルはええ、と頷いた。

 

「でも、お母さまを止めるには、お母さまの集めた軍団は大きくなりすぎていた………強力なスタンド使いに加え、どこで情報を入手したのか、ミッドのスカリエッティとも繋がりがあった………そして、『彼』が表れたわ………」

「彼………?」

「彼について詳しいことは、私にも分からないわ…………でも、一目見ただけで、ヤバいと感じたわ…………」

 

『彼』を思い出したのか、ルル・ベルは身震いをした。

 

「彼は、お母さまにある情報を与えたわ。『矢』の更に先にある『レクイエム』に匹敵する『力』の存在を………ただ、それについても今調査中よ。」

「オレが潜入したのはいいが、いい情報は得られなかった………何か知ってると思って」

 

ルル・ベルに代わり、ホル・ホースが口を開く。

ふと彼は、近くにあったスーツケースを開ける。中からは―――

 

ドサッ

「うわぁあッ!?」

「えッ!?この人って……………?」

「ダ……『ダービー』ッ!?」

 

かつて、徐倫とのポーカー対決に敗れたスタンド使い―――ルーニー・S・ダービーが、縛られた状態で出てきた

気絶しており、とりあえず生きているようだ。

 

「こいつを問いただしてみたんだが、な~んにも知らなかったわけよォ。」

「じゃあ、あの時の『半分こスタンド』は…………」

「ええ、私たちの仲間よ。今は別行動だけど。」

 

ルル・ベルは、スバルが『半分こスタンド』と呼んだ事に苦笑いしつつ、そのスタンドの本体であり、現在はあの3人と行動している『双子』を思い浮かべていた。

 

「まあ、そのあたりは調査を続行するわ。まだ手はあるし。」

 

再びティアナを見据えると、ルル・ベルは右手を差し出した。

 

「………正直、私たちだけではお母さまの軍団は倒せないわ。今までの行為については謝るわ。だから………」

「手を組みたい…………ってことかしら?」

 

ティアナに言われ、「そうよ。」とルル・ベルは答えた。

 

「………ホントにそう思ってるの?」

「ええ。」

 

明日菜にも聞かれ、ルル・ベルは答える。

 

そして―――

 

 

 

 

 

『オラァッ!!』

バギィッ

「プギャウッ!?」

 

ネギ、徐倫、明日菜、スバルに殴られた。今までのルル・ベルのしてきた行為は、正直許せないものがあったからだ。ネギやのどかが矢に射抜かれた事が、特にだ。

 

「Oh………」

「それは仲なおりの『握手』のかわりよ、ルル・ベル。」

「ええ………あ、ありがとう…………ブ………協力感謝するわ……………」

 

鼻血を吹き出しながら、ルル・ベルは徐倫たちに感謝するルル・ベル。口調は普段と変わりないが、鼻血まみれで痛々しかった…………

 

「今度やつらが襲ってきたら、私たちで倒すわよッ!!」

「…………ええッ!!」

 

機動六課&麻帆良学園&ルル・ベル一味――――同盟結成!!

 

 

 

 

 

※なお、ルル・ベルの鼻は、この後仗助に治してもらった。

 

 

 

 

 

←to be continued...




51話です。
・千雨は『波紋使い』でもあるので、波紋による一時的な痺れをやってみました。波紋がスタンドに近づくための技術というのは、SBRの10巻から。

・チンクにレッキング・ボールは、かなりキツいです(笑)左右が全く見えないもん(笑)

・『バイシクル・レース“総長”』&HGの正体。技からして『彼』ですが、まだ秘密にしときます。

・楓と話していた2人は、もちろん彼らです。

・ルル・ベルの正体は、『左手が右手の女―――ヴィオレッタ』の娘でした。「母親のために頑張る娘」という点ではフェイトに似ていますが、「母親のために従った」フェイトに対してルル・ベルは「母親のために反発する」等、若干違いがあります。

・少し重くなった今回ですが、次回は一休みで奈良で我らが本屋ちゃんの出番です。

では、次回をお楽しみに!


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#52/宮崎 のどかは恋をする

「ルル・ベルが……………ッ!?」

 

帰還した千草から報告を聞いた女と、隣に付き添っていたブラックモアと、同じく帰還したガディ・Ruは驚愕の表情を露わにする。

 

「まさか………行方不明になっていたルル・ベル様が……………」

「すいませェん奥様………2年前、わたくしが目を離さなければ…………」

 

ブラックモアは、申し訳なさそうに女に謝罪する。

白髪に近い銀髪をシニヨンにして、浅黒い肌につり上がった銀の瞳、そして動物の牙を模したイヤリングを付け、ショールとドレスを身に纏った女性―――ヴィオレッタは、『左の右手』の親指の爪を噛みながら、イライラしたように呟く。

 

「あの子ったら………いなくなったと思ったら、一体何を考えてるの…………?」

「どうする?場合によっては、お前の娘を『殺す』ことになるが………?」

 

冷酷なまでにヴィオレッタに問うリゾット。

ヴィオレッタは、しばらく考えた後、リゾットに告げた。

 

「……………構わないわ。」

 

 

 

 

 

#52/宮崎 のどかは恋をする

 

 

 

 

 

翌朝

 

〈修学旅行2日目〉

 

ホテル嵐山

 

 

「まあ、昨夜そんな事が……………」

「うん……もう大変で大変で……………」

「正直まだ疲れてるし………」

 

まだ眠いのか、目を擦りながらあやかやまき絵たちに説明する明日菜たち3人。

無理もない。昨日は色々な事が起こりすぎた。サルだの、暴走族(ゾク)だの、ロードローラーだの………

 

「とりあえず、ルル・ベルについては『味方』と言っているが、まだ警戒しておくぞ。一応、ブチャラティが見張っているから―――」

「あらあら、ずいぶん信用されてないのね、私たち………」

 

徐倫が話そうとしたとき、ルル・ベルが歩いてきた。後ろにはブチャラティもいる。

 

「ルル・ベル………」

「あなたが『ルル・ベル』さん………ですの………?」

「ええ、はじめまして。」

 

あやかとまき絵が驚く中、ルル・ベルは挨拶をする。ふと、まき絵が思い出したように口を開いた。

 

「あ、そーいえば、なんか徐倫がポーカーした時、のどかと夕映を助けてくれたらしいね?ありがとー!」

「………ええ、あの時はたまたま通りかかっただけだけどね。」

 

思い出したようにルル・ベルはいうと、踵を返すルル・ベル。ふと、彼女は去り際に呟いた。

 

「宮崎 のどか…………あの()とは、一度ゆっくりと話をしたいわね………ふふ……」

『え?』

 

ルル・ベルの呟きに5人は反応するが、ルル・ベルは何事もなかったかのように、すたすたと立ち去ってしまった。

 

「ほ、『本屋ちゃん』とゆっくりと話をしたいって……………?」

「そういえば、あいつが宮崎のことを『重要なスタンド使い』って言ってたって、ルーテシアたちが言ってたな………」

「『イノセント・スターター』が?一体、何を……………?」

 

ルル・ベルが立ち去った後も、徐倫たちはうんうんと首を傾げていた…………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

3年A組 出席番号28番 宮崎 のどか

彼女は、ある決心をしていた。

 

『彼』と出会ったのは、今から2ヶ月程前だ。

出会ったその日に、階段から落ちた自分を助けてくれた。

 

その日からだ。彼に対して、『特別な思い』が芽生えたのは………

 

彼は、自分のクラスの『担任』で、『魔法使い』で、自分と同じく「矢」に射抜かれた『スタンド使い』………

 

そう、彼女は彼に――――――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル嵐山

 

ロビー

 

 

「2日目は『奈良』か…………うーん……『担任』の僕はどうしたらいいんだろう……?」

 

朝食を食べ終えたネギは、考え事をしていた。

ルル・ベルの問題は一応解決したが、自分には『親書』を届けるという『任務』があった。

 

(昨日の騒ぎで親書を届けられなかったけど……今日も奈良だし………あのおサルのお姉さん(『チグサさん』だっけ?) の事も気になるし…………)

「あのー…ね、ネギせんせー……………」

「あ…宮崎さん?」

 

ネギが考えていると、のどかが話しかけてきた。普段から内気な彼女だが、今日は特にもじもじとしている。

ネギが何だろう?と思っていると、のどかは意を決したように、口を開いた。

 

「よッ……………よろしければ今日の『自由行動』………私たちと一緒に回りませんか………ッ!?」

「え……?えーと……あの………」

 

突然のどかに言われキョトンとするネギだが、少し考える。

5班には、「天ヶ崎 千草」らが狙う木乃香がいるし、明日菜や刹那、スバルもいる。他の班は『六課』の他に、ルル・ベルがホル・ホースたちを向かわせると言っていたため、被害はあまり及ばないだろう。ならば―――

 

「わかりました宮崎さん!今日は僕、宮崎さんの5班と回ることにします!」

「えッ………あ、ありがとうございますッ!お、お忙しいのに………」

 

事情を知っているためかしこまるのどかに対し、ネギは「大丈夫ですよ。」と言うのだった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

奈良公園

 

 

「わーーッホントに鹿が道にいる〜〜〜〜ッ」

「結構デカいんだな〜〜〜。」

 

のどかと約束したネギは、5班と3班と行動していた。

3班も共にいる理由は、ルル・ベルが『のどかが重要なスタンド使い』と言った事が気になった徐倫たちが、のどかを見張りたいと考えたからだ。

幸い、3班の那波 千鶴(なば ちづる)村上 夏美(むらかみ なつみ)、それにザジたちはそんなに深く散策するような性格ではないため、3班は5班との行動を共にできた。

ちなみに陰では―――

 

 

 

「鹿煎餅買ってきましたよ〜〜〜…………ってうわッ!?めっちゃ寄ってきたッ!?」

「アハハハハッオットー人気者ッスね~~~~♪」

「餌くれるって分かるのね~~~。」

「………あれ?引っ張られる?」

「ってディエチッ!髪カジられてるよッ!?」

「ええッ!?ちょ、ちょっと、これ食べ物じゃないよ~~~~~~ッ!!」

 

ナンバーズとギンガが、鹿と戯れていた。

 

(………ノーヴェ、分かっていると思うが、今はまだディードの事は皆には―――)

(………うん、分かってる………………)

 

ウェンディたちから少し離れた場所で、ノーヴェに念話を飛ばすチンク。

実はノーヴェたちは、まだディードの事を話していなかった。ティアナたちにも口止めしているため、他の姉妹たちは、ディードの事を知らないでいた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

一方、ネギを誘ったのどかは―――

 

 

「スゴイスゴイ!見てくださいアスナさん……わあーッ」

「ハイハイ…ガキねェーー……」

「………えへへー………ネギ先生……………」

 

鹿に煎餅をあげてハシャぐネギを見て、うっとりしていた。が、

 

「よくやったーーーーーッのどかーーーーーーー!」

ドガァアーーッ

「キャーーー!?」

 

いきなりハルナと、「暴走族推奨・芋長の芋羊羹サイダー」なる謎の飲み物を飲む夕映に蹴飛ばされた………

 

「見直したよ!あんたにあんな勇気があったなんて!!」

「感動したです。」

「えへへ……うん、ありがとーーー…ネギ先生と奈良を回れるなんて幸せー……もう今年は思い残すことないかも…………」

 

どうやら、『引っ込み思案』なのどかがネギを誘った事をほめているらしい。

そんな2人に礼を言うのどか。だが………

 

「バカァッ」

ぺちーん

「はふぁッ!?」

 

大きく振りかぶった右手で思いっきりひっぱたく―――と見せかけて、左手でチョイとひっぱたくという『なんちゃってビンタ』を、ハルナにお見舞いされた。

 

「この程度で満足してどーすんのよッ!?ココから先が『押し所』でしょッ!

―――『告白(コク)る』のよのどか!今日、ここでネギ先生に想いを『告白』するのよッ!!」

「………えっ、えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?そ………そんなの無理だよぅーーーーーーッ」

 

突然のハルナの提案に、『無理だ』と否定するのどかだが、ハルナは更に押してくる。

 

「無理じゃないわよッいい!?修学旅行は『男子』も『女子』も浮き立つもの!「麻帆良学園恋愛研究会」の調査では、『修学旅行期間中』の『告白成功率』は『87%』を越えるのよッ!!」

「ははは………はちじゅうなな?」

「しかもッ!ここで恋人になれば、明日の『班別完全自由行動日』では!二人っきりの「私服ラブラブデート」も……!!」

 

ハルナの強引な説得に圧倒されるのどか。夕映はハルナの強引さに(またテキトーな…)と呆れていたが、

 

(ラ、ラブラブデート………ネギ先生と――――…………87%で……………)

 

のどかは顔を赤くして、すっかりその気だった……

 

「大丈夫!今のあんたならいけるって!!よし、まずはネギ君と『二人っきり』にならなきゃね!行くよ夕映ッ!」

「ラジャです!」

ダッター

「あッ、ちょ………まだ心の準備がーーー………」

 

作戦開始とばかりに駆け出すハルナと夕映に、のどかは後ろから声をかけるしかできなかった…………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

一方、こちらはネギ、明日菜、刹那、徐倫、千雨、スバルたち。

 

「―――今んとこ、サル女もルル・ベルも、動きはねーな………」

「うーん……」

「昨晩、スタンド使い一人に式神数体がやられたし、恐らく今日は大丈夫だと思うが……」

「念のために、スタンド使いのいる班を含め、各班に『式神』を放っておきました。何かあれば分かります。このかお嬢様も、私が『陰から』しっかりお守りしますので、皆さんは、修学旅行を楽しんでください……」

 

刹那はそう言うが、スバルは『陰から』の部分が気になった。

 

「何で「()()()」なの?」

「そうよ、隣にいておしゃべりでもしながら守ればい〜のに〜。」

「ッ!いっ、いえ…私などがお嬢様と気易くおしゃべりなどする訳には……」

「……なーーに照れてんだよ。」

「な゛っ……別に私は照れてなどッ!!」

 

何故か顔を赤くする刹那。どうやら何かあるらしいが、徐倫や明日菜は面白そうにからかいだした。

 

と………

 

 

 

「アスナにスバルゥウウーーッ!一緒に大仏見よーーよーーーッ!」

「良ければ、空条さんや長谷川さんもーーーッ」

ドギャァアアーーーッ

「「「「へぶッ!?」」」」

 

明日菜たちが夕映とハルナに突き飛ばされ、さらに、

 

「せっちゃん、お団子かってきたえ。一緒に食べへん〜〜〜〜?」

「えっ……」

 

お団子を持ち、木乃香が刹那に詰め寄ってきた。木乃香のいきなりの誘いに、刹那は後ずさった。

 

「ちょッ……お前ら!何だよッ!?」

「いーからいーから♪」

「え?ちょ、ま、えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」

 

「す、すいませんお嬢様!私、急用が……ッ」

ダッター

「あん、何でお嬢様って呼ぶんーーー」

 

そのまま明日菜たちは連れ去られ、刹那は木乃香から逃げるように走り出してしまった……

 

 

 

「あ…あれー?」

 

ネギを一人残して………

 

一人取り残されたネギは、しばらく呆然としていたが、ふと、後方から声をかけられた。

 

「あ…ああああのー……ネギ先生………」

「あ、宮崎さん……な…なんか、みんな行っちゃいましたね……二人で回りましょうか。」

「えッ…あ、はい!喜んでーー……(……よーしッ……うん、私がんばるーー……)」

 

ネギと一緒に回ることになったのどかは、告白する決心をした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

数十分後

 

大仏殿

 

 

「―――全く……何やってんのよ、あの子は…………」

 

明日菜たちをネギから遠ざけ、あやかを千鶴たちに頼み足止めさせた後、のどかたちを陰から見ていた夕映とハルナは、呆れていた。

あれから見ていたが、のどかはネギに告白しようとはするのだが、うまく言えないというか、とんちんかんな事を言っていた。大仏が大好きだの、大吉だの……

そして、今は―――

 

 

 

「お……お尻がハマっちゃいましたァアッ」

「えーーーーーーッ!!」

 

大仏の鼻と同じ穴をくぐり抜けようとして、お尻がハマっていた………

 

「だ…大丈夫ですか?引っ張りますから!」

グィィイイ

「へぅう〜〜…すいません先生ー!」

 

のどかの手を引き、のどかを引き抜こうとするネギ。だが…

 

スッポーーーン

「キャーーーッ」

「うわッ!?」

ドシーーンッ

 

勢い余って、のどかは穴から飛び出してしまう。その結果―――

 

 

 

 

 

「あたた……ひゃあッ!?」

「うひゃやああッ!?」

 

のどかがネギに『馬乗り』してしまい、ネギはのどかの「スカートの中」を見てしまう!

 

「す…すいませんーーーッ」

ババッ

「い…いえ、こちらこそ…ッ」

 

顔を真っ赤にし、慌てて飛び退くのどか。もはや、恥ずかしくて仕方なかった。

 

「(ああああああ…全然「告白」できない上に……こんなはしたない姿を見せてしまって……やっぱり私―――)ごめんなさいーーーーーーーッ」

ダッターーーー

「ああッ宮崎さんッ!!?」

 

恥ずかしさが限界に来たのか、のどかはその場を走り去ってしまった………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――やれやれだわ。何だったんだあいつら?」

「ったく、『大仏見よー』って誘っといて、とっととどっか行っちまうし………」

 

一方、こちらはハルナたちにネギから遠ざけられた徐倫たち。ネギたちとはぐれてしまった(というか、はぐれさせられた)ため、仕方なく奈良公園内をぶらぶらと歩いていた。

 

「もーー、何でこのかから逃げるのよ〜〜?」

「し、…「式神」に任せてあるので、お嬢様の『安全』は大丈夫です…」

「そーじゃなくてさァ、何でしゃべってあげないのーーー?」

 

徐倫と千雨の少し前を歩く明日菜とスバルは、刹那に問う。

昨日から気づいてはいたが、刹那は木乃香を避けているようだ。それを、木乃香は寂しそうにしていたため、二人は聞いていたのだ………

 

「それは……その…………私が親しくして、「魔法」のことをバラしてしまう訳にはいかないし………やはり『身分』が………」ぶつぶつ

「何ぶつくさ言ってんスか……?」

 

「………徐倫、ありゃ何かあるな………」

「ああ………まあ、それは『このかと刹那の』問題だ。私らがむやみに口出しする必要はねェよ。」

「………だな。」

 

ぶつくさ言って言葉を濁す刹那を見て、二人はそう考えた。

 

と、その時だ。

 

ガサッ

 

「ん?」

『?』

 

物音を聞き、そちらを振り向く一同。そこには―――

 

「ハァハァ………あ…明日菜さん…たち………?」

「………君は…『宮崎さん』?」

「ど、どうしたの「本屋ちゃん」?何かあったのッ!?」

 

涙を浮かべ、息を切らしたのどかがいた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――マジでッ!?」

「えェーーーーーーッ!?ネッ、ネギくんに『告った』のーーーーーーーッ!?」

 

近くの茶店に場所を移し、のどかの話を聞いた一同は、明日菜やスバルのように大声を出すわけではないが、全員が驚いていた。

 

「は、はいーーーー…………いえ、『しようとした』んですけど……私、スットロいので、失敗してしまって………」

「マジかよ……」

「ほ…本気だったんだーー………」

 

のどかがネギに告白しようとしていたのには驚いたが、それが本気と知り、逆に感心しだす一同。

そこで、刹那が口を開く。

 

「でも、ネギ先生はどう見ても『子供』では………どうして…………?」

「そ…それはーーー…ネ、ネギ先生はーーー……」

 

刹那に問われ、のどかは話し出した。自分がネギを思う理由を………

 

「普段はみんなが言うように「子供っぽく」て『カワイイ』んですけど…時々『私たちより『年上』なんじゃないかなーー』って思うくらい頼りがいのある「大人びた」顔をするんですーーー」

「……えーと……」

「そうか?」

「…………確かにまあ、最初は『足手まとい』かと思ったけど…………」

 

のどかが真面目に話すために、聞いている明日菜たちの方が逆に恥ずかしくなってきた……

 

「―――それは多分、ネギ先生が私たちにはない『目標』を持ってて……それを目指していつも「前」を見ているからだと思います………本当は、遠くから眺めてるだけで満足なんです。それだけで私、勇気をもらえるから…………」

 

のどかは、遠くの空を見ながら、明日菜たちに打ち明ける。

 

「でも、今日は自分の気持ちを伝えてみようって思って…………」

 

そこまで言うと、のどかはふと、刹那や千雨の方を見た。

 

「ん………?どうかしたか?」

「えへへーーー……明日菜さん、ありがとうございます。スバルさんも………桜咲さんや空条さんたちも、怖い人だと思ってましたけど、……そんなことないんですねーーーー♪」

「「「え………」」」

 

のどかに言われ、刹那、千雨、徐倫は一瞬呆気にとられた。

のどかはスッキリしたのか、すくっと立つと、

 

「―――何だかスッキリしました。私、『行ってきます』ーーーー。」

タッターー

「あ、本屋ちゃん!?」

 

明日菜たちに礼を言い、駆け出した。

 

「ちょ、ちょっと…『行く』って………?」

「いやぁ姐さん、俺っちは感動したぜ!」

「宮崎さん………もしかして………!?」

 

明日菜は訳が分からない様子だが、スバルはもしやと思った。

のどかは―――

 

 

 

「…………なあスバル、私ってそんなに怖いかな…………?」

「えッ!?えぇーーと…………」

 

ちなみに、徐倫は軽く傷ついていた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その頃、ナンバーズとギンガたちはというと―――

 

 

「大丈夫ですか、ディエチ姉様?」

「うぅぅ………2cmくらい食べられた…………」

「腹壊さなきゃいいけどな、鹿。」

「………ノーヴェ、それどういう意味?」

 

涙目で鹿にカジられた髪をさわっていたディエチだが、ノーヴェの一言に怒ったように振り返る。

実際、奈良公園の鹿には鹿煎餅以外あげてはいけない決まりになっているのに、鹿に菓子やら果物やらをあげる人がいると問題になっているが、ノーヴェのそれはディエチに対して失礼だ。

 

「―――あれれ~~~?あれってネギくんにホンヤじゃないっスか~~~~?」

「あれ、本当だ。」

 

ふと、ウェンディは150m程先にネギとのどかがいることに気づく。

 

 

 

なお、ウェンディやノーヴェ、他にはディエチやセインたちは、何故かのどかの事を『ホンヤ』と呼んでいる。

恐らくだが、明日菜他数名がのどかを『本屋ちゃん』と呼んでいるのが原因と、徐倫は考えていた。

だが、ノーヴェにこの事について徐倫が聞いた所―――

 

「―――えっ、『ホンヤ』っていう名前じゃないのッ!?」

 

という答えが返ってきたという………

 

 

この後数日間、ノーヴェはこの事をネタにセインやウェンディにいじくられていたという。

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

見ると、のどかがネギに対してなにやらあわあわとテンパっているようだが、何か話そうとしているようだ。

 

「………?何だろ?」

「何か話しているようだが………」

 

気になったのか、ノーヴェたちは少し近づいてみた。そして―――

 

 

 

 

「あ…あの、………先生………私…………」

 

 

 

「何だ?」

「―――まさかッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、ネギ先生のこと、出会った日からずっと好きでしたッ!!私………私、ネギ先生のこと、大好きですッ!!!」

 

 

 

 

「……………………え?」

「なんだってェーーーーーーーーーッ!!ムグッ」

 

ウェンディが大声をあげるが、セインが口をふさぐ。ネギは、突然の事に顔を赤くして固まってしまった。

 

「……………え………………あ…………………………」

「………あ、いえーーーー、わ、分かってます………突然こんなこと言っても迷惑なのは…………せ、『先生と』「生徒」ですし………ごめんなさい………でも、私の気持ちを知ってもらいたかったので…………」

 

「おいおい!確かに聞いた今の言葉は〜〜〜〜〜〜マジかよ〜〜〜〜〜たまげたぜ………ホンヤのやつ………」

 

ノーヴェが思わず呟く中、のどかは固まったままのネギに話していた。そして、

 

「失礼します、ネギ先生ーーッ」

「ぁ………」

 

のどかは走り去ってしまった。

残されたネギは、今起こった出来事に混乱しているのか、その場に立ち止まったままだ。

 

 

「えと………あう………ぁぁ………ぁぁぁぁ…………」

 

この修学旅行、初日から色々なことが起こりすぎた。そのためかネギの頭の中は……

 

 

―――告白された?―――このかさんとはせがわさん守らないと―――大好きですーー―――おサルが敵…ルル・ベルさんは―――刹那さんちょっとコワいーーー空条さんオラオラオラオラオラオラアスナさんしんしょわたすースバルさん『スタンド』

 

 

 

パンク寸前だった。その結果、

 

 

 

 

ドテーーン

「キャーーーッ!?」

「ネギィィィィッ!?」

 

ブッ倒れた。

倒れた瞬間、ノーヴェたちと同じように隠れて見ていたらしい明日菜やスバルたちが飛び出してきた。

 

「ネギッちょっとしっかりーーーッ」

「兄貴ィーーッ」

「って、お前らもいたのかよ………」

「いやぁ、偶然なんだぞ?」

 

気絶したネギを抱えながら、明日菜はネギに呼びかける。徐倫はノーヴェたちがいたのに呆れながらつっこんでいた。

 

「……………(宮崎さん…あんなおとなしそうな子なのに…勇気……あるんだな……)

 

刹那はのどかが走り去った方を、少しうらやましそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「宮崎 のどか………まさか、ここまで『大胆な』コだったとは………ッ」

 

同じく、のどかの告白の様子を見ていたルル・ベルは、焦ったように呟いた。

 

「………どうやら、早めに手を打った方が良さそうね…………」

 

そう言うと、ルル・ベルはその場を静かに立ち去った。

 

 

 

 

 

ネギ・スプリングフィールド―――知恵熱でブッ倒れるも、数十分後に起きた。

 

 

 

 

 

←to be continued...




52話です。
・サブタイトルは『山岸由花子は恋をする』から。千雨の時の話同様、のどかの告白の話にはこれしかないと、初期のころから考えていました。
最初にこの話をにじファンに投稿したのは何年も前なんですが、4部のアニメで由花子さんを能登さんが声を当てることになるなんて思いもしませんでした………

・ヴィオレッタの容姿は、まんまOVAのエンヤ婆です。あれって、周りの街みたいに『正義』の幻影だったのかな?

・前回少し重くなってしまったので、ナンバーズは基本ほのぼのです(笑)鹿に後ろ髪カジられてるディエチがお気に入り。

・ルル・ベルの目的は、2、3話したら判明するかも?

では、次回をお楽しみに!


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#53/朝倉 和美の収穫

夕方

 

ホテル嵐山

 

 

「………………」

 

ロビーの椅子に腰かけて、ネギは呆けていた。

というのも、

 

―――私、ネギ先生のこと、出会った日からずっと好きでしたッ!!私………私、ネギ先生のこと、大好きですッ!!!

 

(み………宮崎さんに…………『告白』されちゃった…………)

 

昼間にあった出来事―――のどかに告白された事が、頭から離れなかったからだ。

 

(お………『奥ゆかしい』と言われる「日本の女性」に「こ、こ…告白」までされた以上、『英国紳士』としてそれなりの『責任』を取らないと―――でも、僕10歳………あーーダメだァーーーッ僕、先生失格だァァァァァァーーッ)

 

色々と勘違いしているのか、「告白」という相当ショックな出来事で混乱しているのか、頭を抱えてぶんぶんと降り出し、しまいにはヘッドスピンまでし出すネギ。端から見たら「面白い光景」だが、本人は真剣に考えていた。

 

「ネギ先生、どうされたんですの?」

「昼の『奈良公園』で、何かあったの?」

「うひゃァッ!?」

 

そこへ、ネギの様子が気になったのか、あやかとまき絵が話しかけてきた。後ろには、裕奈や双子の鳴滝姉妹―――ツリ目でツインテールの姉風香(ふうか)と、シニヨンでタレ目の妹史伽(ふみか)もいた。

 

「い………いやあの、誰も僕に『告った』りなんか………」

「えッ!?こ、『告ったァァァッ!?』」

「えーーーッそれホントネギ君ッ!?」

「誰からされたのッ!?」

(し…しまったァァァァァァ~~~~~~ッ)

 

うっかり口を滑らせ、『告られた』事を言ってしまうネギ。

 

「え………あ、いや、こ…こっ!ぼ…僕、ウェザー先生たちと打合せがあるのでこれでーーーーーッ」

ドッヒューーーーーーン

「あ、ちょっと待ってよネギくゥゥゥゥん!?」

「「誰が」『誰に』告ったんですの~~~~~~ッ!?」

ダッターーー

 

何とか誤魔化そうとするも誤魔化しきれず、ネギはその場を逃げ出し、あやかたちはそれを追う。

 

「う〜〜〜〜ん………大丈夫かしらねぇ、あのガキんちょは…………」

「もう、なにもかも『一杯一杯』って感じだね、ネギ君………」

「10歳なのに、色々と背中にのし掛かりすぎなんだよなァ、ネギは…………」

 

陰から見ていた明日菜、スバル、徐倫は、苦笑しながらネギを心配していた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「逃げ足早いなぁッ見失っちゃったよ!」

「どーすんの、いいんちょッ!?」

 

ネギを追っていたあやかたちは、ネギの逃げ足(魔法による身体強化付き)により、見失っていた。

 

「うーん……『A組のうちの誰か』が「何かをした」のは確かなようですわ………このまま「謎」にしておくわけにはいきませんわね…………」

 

とにかく気になって仕方がないあやかたち。どうにかして『真相』を解明したかった。

 

「―――ここは………『()()』の出番ですわッ!!」

 

 

 

 

 

#53/朝倉 和美の収穫

 

 

 

 

 

3‐A・3班 班部屋

 

 

「なぬ!?『教師と生徒』が『淫行疑惑』ゥゥーーーーーッ!?」

 

班部屋で、デジカメに今日撮影した写真のチェックをしていたツリ目に赤毛を後ろで束ねた髪型の少女(余談だが、若干ウェンディと髪型がかぶる……)朝倉 和美(あさくら かずみ)は、あやかたちからの情報に声を上げた。

 

「そーなんだよ朝倉!大変なんだよッ」

「ンン〜〜〜〜〜〜〜そりゃァ大スクープだねェ〜〜〜〜〜〜………ま、「事実」ならだけど………それならばッ!!」

 

そう言うと、朝倉はカメラを構えて、スクッと立ち上がった。

 

「『スクープあらば、即参上ッ!!』『麻帆良学園報道部突撃班』にして『3‐A公式カメラマン』!この朝倉 和美にお任せあれッ!!」

「ええ、そのあなたを見込んで、「調査」をお願いしたいのですわ。」

「OKOK!で、『ホシ』は誰よ?『新田』?瀬流彦?」

「それが、かくかくしかじか………」

 

朝倉に説明するあやかたち。(かくかくしかじかで説明が済む小説って便利♪)

 

「えーと、つまり『ネギ先生が誰かに告白された』………と………っつかそれ全然『淫行』じゃないっつのッ!!」

「なッ…何をおっしゃいますか!充分「許されざる行為」ですわッ!!」

 

あやかたちやや拡張された表現につっこむ朝倉。だが、あやかたちは朝倉に調査を強要する。

 

「とにかくッ!ネギ先生に『誰』が『何』をしたのか調査してほしいのですわッ!!」

「頼んだよ朝倉ーーッ」

「スクープじゃないもんには興味ないんだけどなぁ〜〜〜〜〜〜………しかしまあ、ひょんなことが「大事件」につながる事もあるし………一般市民の期待に応えるのも、『報道記者』の仕事かもねぇ。」

 

まあ、とりあえず調査してみようと、朝倉は班部屋を出る。彼女の背中に向かい「頼んだよー」と、あやかやまき絵の期待の言葉が投げかけられた。

 

(って言うか、『告白』なんつったら「()()()」位しかいないじゃん…………)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

3‐A・5班 班部屋

 

 

班部屋でのどかは一人、ネギに告白した事についてジュースを飲みながら考えていると、突如、ノックが聞こえた。

 

コンコンッ

「おーい入るよーー。本屋いるーー?……お、ちょうど『一人』か♪」

「はい、何ですか朝倉さん?」

 

入ってきたのは朝倉だ。その手には、何故か「ボイスレコーダー」が握られていた。

 

「うん、聞きたいことがあってさぁーー………あんた、ネギ先生と『寝た』って本当?」

「ブゥゥゥゥーーーーーーーッ!?」

 

いきなり変な質問をされて、のどかは飲んでいたジュース(ラベルには『メルテッディン・パルム・フェノメノン』と書かれている)を吹き出した。

 

「なッ………ななななななななななななななな………そんなこっしてないですぅぅぅううーーーーーーッ!!」

「ナハハハ、冗談冗談。今日ネギ先生に『告った』んだってなぁ〜〜………―――で、どうだったん?」

 

のどかに吹きかけられたジュースを拭きながら朝倉はのどかに聞くと、のどかは顔を赤くしてもじもじし始めた。

 

「え………ど、どどどどどどどーと言われましても………私は『自分の気持ち』を伝えたかっただけですので………だから―――お返事は最初からいらないとゆーかー………」

「へぇーー………で、ネギ先生の気持ちは気にならないの?」

「―――いえ…もう満足………とゆーか…………あの………聞くの…………こわいのでー……………」

 

急に声が小さくなるのどか。それを見た朝倉は……

 

「アッハッハッハッ!かわいーなー宮崎はーーーーー♪だめだよーーー『小学生』じゃないんだし、そんなんじゃぁーーーーーいや、まあいいかァーーーー」

ぐりぐり

「あーーーうーーー?」

 

恋に弱気なのどかがかわいかったのか、頭をぐりぐりとなで始めた。

のどかは訳が分からないようだったが、朝倉に内緒にするように言い、朝倉は部屋から立ち去った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

カチッ

「………ほいっ、『取材終了』と。………はぁーーーぁ、やれやれ………こんなんじゃあ、『記事』にもなんないよ………」

 

部屋から出た朝倉は、ボイスレコーダーのスイッチを切る。

 

「ま、みんなが知ったら騒ぐだろうし、この件は『秘密』にしといてやるか♪『ゆっくり進む恋』もあるさね………」

「―――ほう、それは『どんな恋』なんだい?」

「うん?そりゃあ、ネギ先生と宮崎が………って誰ッ!!?」

 

うっかり誰かにしゃべってしまいそうになる朝倉だが、寸前で踏みとどまった。

振り返った先にいたのは、ギザギザのヘアバンドにペン先のアクセサリーの男―――岸辺 露伴だ。

 

「ああすまん、僕は漫画家の岸辺 露伴だ。」

「えっ!岸辺 露伴ッ!?あの有名な!?」

「ああ。『京都』に取材に来たんだが…………全く、京都は観光客だらけで窮屈だよ………今日は『金閣寺』と『銀閣寺』を見てきたんだが………金閣寺のあれは何なんだよ?ただ『金ピカ』で『派手』なだけじゃないか!あんなののどこがいいんだ〜〜〜〜〜?―――それに比べて、『銀閣寺』の「落ち着いた雰囲気」はいいねぇ〜〜〜〜〜!僕は「グッ」ときたよ!」

「は……はあ………(この人、『銀閣寺派』かぁ…………)」

 

一方的に話した後、手にしたパンフレットの「銀閣寺」を見ながら、露伴はうっとりしたように語るのを見て、朝倉はどうでも良さそうな事を知った。

 

「それに、色々分かったこともあるぞ。たとえば、「〜どす」なんて、『舞妓さん』位しか使わないとかね。」

「あー、そうですよね〜。私のクラスメートにも『京都出身の子(木乃香)』がいますけど、全く使いませんよ〜。」

「あ、やっぱりそうなのかい?いやぁ、軽く『偏見』持ってたなぁ〜〜〜〜〜てっきり「方言」と思っていたよーーー。」

 

何故か共感する二人だった。

 

「それで、『ゆっくり進む恋』ってのは―――」

「えっ!?あ、いや……その………」

 

露伴がいきなり話を戻したため、朝倉は焦った。

正直、のどかとネギの恋は、しばらく様子を見てあげた方がいいと思い、朝倉は『黙っている』ことにしていた。

故に、いくらクラスに関係ないとは言え、今ここで露伴に話すのは正直マズい。

朝倉が露伴にどう言い訳しようか考えていると、意外な言葉が露伴の口から出た。

 

「―――まあ、話したくないなら、黙っていればいいよ。僕も無理に聞かないしね。」

「えっ?あ、そ……そうですか………アハハ。」

 

露伴にそう言われ、朝倉は安心して頭を掻き、笑いながらその場を去った。

 

 

 

だが、朝倉は知らなかった。露伴が内心―――

 

(まあ、後で『ヘブンズ・ドアー』で「読めば」いいし♪)

 

と思っていたのを………………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「はぁーーー、まさかあの「岸辺 露伴」が、このホテルにいるとはねぇーーー……後で『取材』してみようかな?―――しっかし、ウチのクラスは平和だねぇ〜〜〜。何か、こう『血沸き』『肉躍る』ような「大スクープ」でも、どっかに転がってないもんかねぇぇ〜〜〜〜〜………お?」

 

そんな事をぼやきながらホテル内をぶらついていた朝倉は、ふと、目の前をフラフラと歩くネギを見つけた。

 

(あらーーーー、何か『悩ん』じゃってるなーーー……10歳の少年には、『告白』はちょっと「ショッキング」だったかな………)

 

何やら落ち込んでいるというか、悩んだ様子のネギを見て、朝倉は心配になってきた。ネギは朝倉に気づかないまま、とぼとぼとホテルの外へ出て行く。

 

「―――ん?」

 

ふと、朝倉はネギの足下を子猫が通るのを見た。

そして、子猫はネギの先を行き、道路に座り込むと、顔を洗い出す。

 

そこへ―――

 

ブロロロロロ………

 

「ん………!ああッ、ネ、ネコがッ!?」

 

ようやくネギが子猫に気づいたときには、子猫にワゴン車が迫っていた!

 

ダッ

「あッ………!?」

 

朝倉が声を出す前に、ネギは子猫に向かい駆け出した!

 

(し…死んだァァァーーーーーッ!?ネギ先生ぃぃぃーーーッ)

 

朝倉が止めようと走ったその時―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……風花(フランス・)風障壁(バリエース・アエリアーリス)ッ!!」

バンッ

「なッ…………!?!?」

 

子猫を抱えたネギが呪文を唱えると、ワゴン車は激突する前に『宙を舞った』!

 

ズズゥゥゥン

「よかった、無事だ………」

(え…………なッ…………何今のッ!?合気道!?)

 

混乱する朝倉だが、ネギは全く気づかぬまま、ワゴン車の運転手にも安全を確認した。

 

「ふふん、さすがは兄貴!『ぼーっ』としてても、やるときゃぁやるなーーー!でもダメだぜ?あんまり『派手な魔法』つかっちゃぁーーー。」

「うん………ゴメンゴメン。」

(オコジョ「しゃべった」ァァァァァァーーーーーー!?)

 

おまけに、カモがしゃべっている場面まで目の当たりにしてしまい、さらには………

 

 

「とりあえず、ネコを安全な場所まで―――」

スィィイーーー……

(飛んだァァァァァァアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーッ!?)

 

杖で飛ぶ場面までも目撃されてしまった………

 

「……………………………」

 

しばし、ネギが飛び去った方を呆然と見ていた朝倉だが、次の瞬間、『嬉し涙』を流しながら叫んだ。

 

 

 

 

 

「き………キタァァァーーーーーーーッ!!『超特大スクープ』がッ!!!!」

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル嵐山内

 

 

(………アレが何かはわからないけど!あのオコジョが言っていた「魔法」という単語が本当なら!ネギ先生は『魔法使い』ということになる!!)

 

ホテルの一角を、朝倉はぶつぶつ呟きながら歩いていた。

 

「(―――考え直してみたら、私が撮った写真の中にも、いくつか『おかしいの』がちらほらあったような…………私とした事が、こんな特大スクープを見逃していたとは…………)だがッ!私は諦めないわよッ!!こうなったら――――!」

「うわッ!?」

 

いきなり叫んだため、偶然曲がり角から現れた村上 夏美が驚いたのもお構いなしに、朝倉は実行に移った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

数十分後

 

大浴場

 

 

「はぁ〜〜〜〜〜ーーーーーーーぁ………」

「……今日は別行動だったんだが、そんな事があったのか………」

「へい、そうなんでさぁ。―――オラオラ兄貴ィ、情けねえ声出してんじゃねーよ………」

 

湯に浸かりながら、仗助はカモから事情を聞いていた。

 

「大体、こんなゆっくりしてると、また女生徒が入ってくるぜぃ?」

「大丈夫〜〜〜〜〜〜。今は『先生タイム』だから〜〜〜〜。生徒は入れないよ………はぁ〜〜〜〜〜…でも僕、色々ありすぎて…………」

「―――確かに、10歳にしては、色々抱え過ぎよね……」

「おう、おまえもそう思うだろ?ルル・ベル。…………ルル・ベルッ!?」

「「えぇッ!?」」

 

仗助に言われ、ようやくネギとカモも、いつの間にかルル・ベルが入浴しているのに気が付いた。ちなみに今のルル・ベルは髪を下ろしているため、髪はストレートだ。

 

「って!なんでお前がいるんだよッ!!」

 

しばし、ルル・ベルの雪のように白い肌に見とれていたネギだが、仗助に言われ、慌てて目を手で覆った。

 

「そっ、そうですよッ!今は先生しか入れないはずですよ!?」

「見とれてたクセに、何言ってるのよ………まあ、誰も見てなかったから、こっそりとね。」

 

頭に乗せたタオルをとり、顔を拭きながら、ルル・ベルは何ともないというように言う。

 

「―――ところで、あなた宮崎 のどかに『告白されていた』みたいだけど……」

「ぶぅッ!!な!何で知ってるんですかッ!!?」

「まあ、色々とね。まあ、とにかくその告白――――ん?」

 

ルル・ベルが何か言おうとするが、ふいに、何かに気づいた。そちらを見ると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直径が30㎝位はある『腕の生えたハロウィンのカボチャ(ジャックオーランタン)』が、『リカちゃん人形』をグイグイ動かしている場面だった………

 

「「「…………?」」」

「り……リカちゃん人形が動いてるッ!!!?」

 

尚、カモにはスタンドが見えないため、リカちゃん人形が「ひとりでに」グイグイ動いているように見えている。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル内

 

とあるトイレ

 

 

(『ひとりでに動くリカちゃん人形』なんて見たら、ネギ先生は怪しんで『魔法』を使う!これで、『魔法(スクープ)』を引き出す!)

 

朝倉の手元にはデジカメがあり、画面にはキョトンとした形相のネギたちが写っている。

朝倉は自身の能力―――名付けて『ハロウィン』を操り、ネギの魔法を引き出そうと考えたのだ!

 

(二年前、偶然落ちていた『矢』を拾った時に『鏃』で手を怪我してから、見えるようになったこの力………矢はその後捨てたけど…………カメラから出てきて、『遠くの景色を撮影できる』この能力!今まで私の周りに『見える人』がいなくて、誰も知らないこの『ハロウィン』ならッ!!)

 

朝倉はスクープゲットを確信していた。

 

だが、朝倉はある『重大なミス』をしていた。

 

朝倉のミス。それは――――

 

「ん?ネギ先生、手をこっちに向けたぞ?ついに『魔法』を出すかッ!?」

 

朝倉が興奮気味に叫んだ瞬間、

 

 

 

 

 

ズババッ

「うわッ!?か、カメラがッ!?!?!?」

 

ネギのタスクがハロウィンを切断したと同時に、カメラが切断された!

 

朝倉のミスは、『()()()()()()()()()()()の存在を知らなかった』事であった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「先手必勝………!タスクであの『カボチャ』を切り裂きました!」

「グレート!でかしたぞネギ。」

 

場所は戻って大浴場。

タスクでカボチャ(ハロウィン)を切り裂いたネギは、カボチャのいたあたりを探り、湯船に沈んだリカちゃん人形を拾い上げた。

 

「あのリカちゃん人形……スタンドが動かしてたんスか?」

「ええ。スタンドが世間一般で言う『超能力』と呼ばれるのは、こんな事よ………スプーン曲げのトリックが「力任せ」なのと同じでね。」

 

不思議そうに呟くカモに、ルル・ベルが解説する。

つまりは、スプーンを持った一人の後ろから、もう一人がスプーンを『力任せ』に曲げている訳だ。

 

「あの『カボチャ』……何だったんでしょうね?」

「さあな…………何か攻撃してくる訳でもなく、リカちゃん人形動かしてただけだもんな………」

「あの動き―――多分だけど、スタンド使いになりたてで、スタンドが私たちに見えないと思ったやつじゃないかしら?」

 

ルル・ベルの推測に、2人はなるほどなと頷いた。

 

「なるほど……だからリカちゃん人形を…………」

「すると犯人は「愉快犯」な訳か?ただ脅かしたかっただけの?」

「さあ……?ただ、私には『様子を探っている』ようにも見えたわ………遠隔操作のカボチャ型スタンド…………私も知らないスタンドだわ………………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

(くっ、不覚ッ!まさか「ハロウィン」が見えるなんて!…………これって、『魔法』なのかな?)

 

一方、朝倉は大浴場の脱衣場まで来ていた。自身の『ハロウィン』がどのような能力なのか今まで知りようのなかった彼女は不思議に思ったが、今は『スクープ』が優先だ。

 

「それは後で聞くとして―――『ハロウィン』は近距離の方が『精密な動き』が出来る!魔法なんて『超特大スクープ』!そう簡単に諦めるもんかッ!!」

 

そう言うと、朝倉は懐からデジカメを三台取り出した。

 

「『ハロウィン』ッ!!」

ニュゥウ~~~~~

 

朝倉が叫ぶと、カメラのレンズ部分から風船を膨らますかのように、『ハロウィン』がそれぞれ飛び出した!

 

「いくのよ、ハロウィンッ!『スクープ』を『撮ってらっしゃい』ッ!!」

 

ハロウィンの口からは、一眼レフのカメラのレンズらしきものが覗いていた………

 

朝倉 和美―――スタンド名:ハロウィン

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「「「っ!?」」」

 

ネギたち3人が振り向くと、3体のハロウィンが迫っていた!

 

「タスクッ!!」

「クレイジー・(ダイヤモンド)ッ!!」

「サイケデリック・インサニティッ!!」

ズガガガガガガガガガッ

 

3人が各々のスタンドを発現させ、ハロウィンに攻撃する!ネギの『タスク』が切り裂き、クレイジー・Dが殴り、サイケデリック・(インサニティ)が破裂させる!

 

 

 

 

 

ピロリ〜〜ン

「「「「…………?」」」」

 

そんな時、なんとも間の抜けた電子音が鳴り響いた。

 

「―――ぃよおっしッ!!『写真』ゲットォおッ!!」

「あ…朝倉さんッ!?」

 

そこにいたのは、ケータイを持った朝倉だ。足元にはカメラの残骸が散らばり、肩には、『ハロウィン』が一匹しがみついている。

 

「テメェがカボチャどもの『本体』かッ」

「いや〜〜〜〜〜、『ハロウィン』が見えるって知った時はヤバいと思ったけど、なんとかこうして撮れ―――ありゃ?「湯煙」でぼやけてる………」

「………とりあえず、戦う気はないみたいね………なるほど、『カメラのスタンド』とは………」

ガシイィッ

「へッ!?」

 

せっかく撮った『証拠写真』が台無しなのに気づいた朝倉だが、いつの間にかルル・ベルに近づかれ、サイケデリック・Iに頭を捕まれていた。

 

「くっ…『ハロウィン』ッ!!」

ボカボカボカボカボカボカボカボカボカボカ………

「………あり?」

 

慌ててハロウィンで攻撃する朝倉だが、ハロウィンはサイケデリック・Iをボカボカ叩くだけで、全くダメージはない。本体のルル・ベルがくすぐったい程度だ。

 

「………『遠隔操作型』故に、戦闘力は低いみたいね。さて、話を聞かせてもらいましょうか?でないと―――」

「わ、………わかった、話すから!」

 

サイケデリック・Iの威圧に「勝ち目はない」と察したのか、朝倉は潔く降参するのであった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル嵐山

 

六課の部屋

 

 

「なるほど………つまり、今麻帆良で『魔法使いと超能力者の壮絶な戦い』が繰り広げられてるわけね………」

「大げさに言えば、そうなるわね………」

 

朝倉の返答に、ティアナが答える。

 

あの後、朝倉から事情を聞いたネギたちは、『口外しない』ことを条件に朝倉のインタビューに答えていた。

本人が自覚していなかったとはいえ、スタンド使いの増員は正直ありがたかった。

 

「―――しかし、カメラを介して発現する、カメラのスタンドか………」

「うん…何故か『カボチャの型』だったから、単純に「ハロウィン」って名付けたんだ〜〜。」

 

明日菜や徐倫らと共に朝倉が撮った写真を見ながら呟くチンクに、朝倉が説明する。

その写真には―――

 

「あっ、これ『タスク』じゃない?」

「こっちには『スタープラチナ』が写ってるよ………」

「『クレイジー・ダイヤモンド』や、『ストーン・フリー』が写ったのもある………スタンドって、映像や画像に写らないんじゃなかったか?」

 

本来『写真に残らない』はずの、『スタンドの(ヴィジョン)』が写っていた。

 

「なるほど、『スタンドが取り憑いた』カメラで撮ったから、『スタンドが写る』訳ッスね。」

「スゴいですよ朝倉さん!これ、スタンドが見えない人には、重宝しますよ!」

「え?そ、そうかなぁあ〜〜〜〜〜?」

 

ネギにほめられ、朝倉は照れたように頭を掻いた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ふう、………これで問題が一つ減ったぞーー!」

「よしよし、良かったわね、ネギ。」

 

徐倫らと一緒に部屋を出たネギは、問題が一つ減った安心感から、大きく伸びをした。

 

「まあ、朝倉が二年間も『無自覚』だったのには驚いたけどね〜〜」

「周りに見える奴がいないと思い込んでいたらしいぞ?」

「そうなんだ………あれ?朝倉さんは?」

「あっちでカモさんと話していましたが。」

 

スバルが疑問に持つが、刹那が説明した。

すると、6人の元へルル・ベルがやってきた。

 

「しかし、私の知らないスタンド使いがいたなんてね………そうそう、ネギ君、さっきの話なんだけど。」

「えっ、あ、はい…………?」

 

いきなり話をふられ、ネギはキョトンとする。

 

「宮崎 のどかの『告白』、すぐに『()()()()()』………」

『ッ!?』

 

ルル・ベルが言ったことに、6人は目を見開く。

 

「な………何よ!?何でネギが断らなきゃいけないのッ!?たしかに、『教師と生徒』の間柄だけど…………だからって、何であんたがそんなこと言うのよッ!?」

 

訳が分からないという表情の明日菜が、ルル・ベルにつっかかる。そんな明日菜に対して、ルル・ベルはすましたように言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………………………………………………………え?』

 

突然の告白に、ネギどころか、明日菜たちも呆気にとられて、固まった………

 

「それじゃあ、私はこれで。」

 

核弾頭並みにとんでもない爆弾を投下した張本人は、それだけ言うとさっさと立ち去ってしまった。

 

残されたネギたちはと言うと…………

 

『………………………えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?!?』

 

しばらくしてから、6人の叫び声がホテル内に響いた。

 

 

 

 

 

←to be continued...




53話です。
・サブタイトルは『重ちーの収穫(ハーヴェスト)』から。

・朝倉と露伴。この出会いが何をもたらすのか、それはお楽しみに。

・この作品にはしずな先生がいないため、違う形で朝倉が探りに出てます。サブタイトルの通り、朝倉は重ちーのように『スタンド使いだと自覚していないスタンド使い』にしてみました。『ハロウィン』の能力も、ハーヴェストを多少意識しています。

・ルル・ベルの告白には、実は訳があります。それは、後2〜3話したら判明する予定。

では、次回をお楽しみに!


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#54/愛と欲望のキッス ①

ホテル嵐山

 

ネギと仗助の部屋

 

 

「あああああ……僕は………僕はどうしたらーーーー…………」

「―――で、ネギはあんな状態になった、と………」

 

明日菜たちに事情を聞き、頭を抱えて悩むネギを見ながら仗助は呟いた。

 

昼はのどかに、そしてつい先程ルル・ベルにと、一日に2人の女子に告白されたネギは、先程よりも更に激しく悩んでいた。

 

「しかし、宮崎はともかく、ルル・ベルのやつは昨日今日会ったんだぜ?それなのに、何でネギは『アニメ一話見逃したらメインヒロインが死んでいた』みたいにショック受けてんだ?」

「(あれ、何故か自分の事言われているような?)………あれよ、ネギは『どっちの気持ちも無駄にできない』性格なのよ………」

 

仗助の例え話が何故か他人事のように思えない明日菜であったが、とりあえず分かりやすく説明をした。

確かにあれの前話を見逃したら、かなりのショックを受けるが。

 

「つーか、ルル・ベルはいつネギに惚れたんだ?」

「うーん……ルルちゃん(※ルルちゃん=ルル・ベルのこと)、スタンド使いを生み出してたから、その時にネギ君見かけて一目惚れとか?」

「なるほど、それならあり得るな。」

 

スバルの推測に徐倫が賛同する。

しかし『ルルちゃん』とは……いつの間に呼び名を付けたのやら………

 

「ううう……会ったのは昨日だけども………でも、その「気持ち」を無駄には………でも宮崎さんの告白も…………でも…………あああああーーーー………」

「あー、こりゃあ重症だな……」

 

頭を抱え悩むネギを見ながら、仗助は呟くしかなかった………

 

 

 

 

 

#54/愛と欲望のキッス ①

 

 

 

 

 

「―――んじゃ東方先生、ネギをお願いね。」

「おう。おめーらも、新田先生に見つかんねーように気をつけろよ。見つかったら、厄介だしな。」

 

見回りのために部屋を出る明日菜たちに、仗助が言う。ネギはだいぶ落ち着いたのか、眠り始めていた。

 

(ルル・ベルのやつが『あやか』並にベタ惚れなら『寝込み』を襲いかねないが、念のためにな。)

(今のいいんちょには「リミッター」がかかっているから心配はないけど、ルル・ベルにそれがあるとは限らないしね………)

 

堅物で融通の効かない新田先生に聞かれたら色々と面倒なので、小声で話す一同。

上の階からは、A組の皆がやかましい声が聞こえていた。

 

(あいつら………)

(昨日お酒のせいで寝ちゃったから、その分ハシャぐ気満々だね………)

 

徐倫たちが呆れていた、そんな時だ―――

 

 

 

 

「コラァアッA組ッ!!いい加減にせんかァーーーーッ!!!」

 

(………ほーら、あーなった………)

 

新田先生の怒鳴り声が、上階から聞こえてきた。

 

「昨日は珍しく静かだと思えば…いくら担任のネギ先生が優しいからと言って、「学園広域生活指導員」のワシがいる限り、好き勝手はさせんぞッ!!」

 

数名の生徒が正座する前で、新田先生が説教を始めていた。

 

「これより!朝まで自分の班部屋からの『退出禁止』ッ!!見つけたら『ロビーで正座』だッ!!わかったな!!?」

『え………えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?』

(あーあ、やっぱり面倒なことになってる…………)

 

「退出禁止令」に、全員が抗議の声を上げるが、新田先生は「言い訳無用!」と突っぱねてしまう。

 

「あの〜〜、すんません、質問いいッスか?」

(徐倫!?)

(いつの間に!?)

 

だが、そこに勇者が一人。いつの間にか一団に加わっていた徐倫だ。

 

「トイレが『班部屋の外』にあるんすけど、これから行きたくなったら、どーすんスか?」

「え………そ、それ位なら、退出『可』だ。安心しなさい。」

 

揚げ足をとられる形とはいえ、今までプリプリと怒っていた新田先生は、徐倫に言われたためにすっかり怒りが冷め、そのままその場を立ち去った。

 

「さ………さすがジョジョ!私たちにできない事を平然とやつてのけるッ」

「あの場であんな事言えるのは徐倫くらいだよッ!そこにシビれる!」

「あこがれるゥ!」

 

新田先生が立ち去った途端、A組一同が徐倫を称えだした。

 

(な………何かスゴいポジションにいるんだね、空条さんって…………)

(まあ………徐倫って、結構勇気あるからね〜、良くも悪くも…………)

 

「―――でも、退出できないのは、変わりないよね〜〜〜〜?」

「!あ……朝倉さん〜〜〜!?」

 

と、いつの間にか壁に寄りかかり腕を組んだ朝倉が、嘲笑してあやかたちに話しかけてきた。

 

「ねえ、このまま夜が終わるのはもったいないでしょ?私から、『ゲーム』の提案があるんだけど、A組で派手にやってみない………?」

「ゲームーーー?」「何それ〜〜?」

「賛成〜〜〜〜!」「反対ーーーー!」「正座ヤダーーーー」

「な、何を言っているんですのッ!?そんなの、委員長として―――」

 

朝倉の突然の提案に、A組一同は賛否両論、あやかも反対していた。

 

「その名も!『ネギ先生の唇を奪え!ラブラブキッス大作戦!!』」

「――――許可します!委員長としてッ!!」

「「「切り替え早ッ!!?」」」

 

ゲームの内容を聞くまでは………

 

「………徐倫、いいんちょの「リミッター」が外れたわよ?」

「ヤバいなこれ………あやかもう止まんないぞ………修学旅行のテンションに任せて暴走(スタンピード)する………」

 

暴走を始めるあやかに、徐倫たちは呆れていた………

 

「ルールは簡単ッ!!

 

1.各班代表二人で参加

2.武器は『枕』のみ。それ以外は認めません。

3.ゴールは、ネギ先生の『唇』!奪い取った者の班が優勝。

4.ただし、新田先生に見つかったら、文句言わずに正座!死して屍拾うものなし!

 

優勝者には、豪華景品がもらえるよーー♪」

『おーーーー!』

 

(みんなテンション高いねぇ〜〜〜………)

(ゴールが『ネギの唇』ってのが気になるな………朝倉のやつ、何考えてるんだ……………?)

 

朝倉の行動が気になる徐倫だが、今はあまり派手に動けない状況だ。すぐに朝倉に聞き出そうとしたが、それは叶わなかった。

 

 

 

 

 

「――――ふふっ、面白そうね……………」

 

「「「!!?」」」

 

 

 

 

 

背後から、こんな声が聞こえてしまったのだから…………

三人は振り返るが、そこには誰もいなかった。

 

「い…今の声は…………」

「ルル・ベルッ………!」

「まさか…………ゲームに乗じて、ネギを『(性的な意味で)襲う』気かッ!!」

 

どうやらこのゲーム、かなり厄介なことになりそうだ…………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

『ラブラブキッス大作戦』開始数分前

 

六課の部屋

 

 

「―――という訳で、ネギ君の『貞操』がかなりヤバいらしいから、私たちの部屋でネギ君を預かる事になったよ。」

「…姉たちが見回りに行っている間に、そんな事が…………」

「ったく、ガキの唇奪って、何が楽しいんだよ…………?」

 

見回りから帰ってきたチンクとノーヴェに、経緯を話すディエチ。

当のネギはというと、まだ寝ている。寝ているままセインが、起こさないよう注意しつつ『ディープ・ダイバー』で連れてきたためだ。

 

「―――まあ、ホンヤの事もあるし、邪魔されたら可哀想だし………」

「まあね~~……あ、さっきアスナに聞いたンスけど、何かそのゲームの様子を『生中継』するらしいッスよ?」

「ホテルのテレビをジャックするって、やりすぎだろ………」

 

ノーヴェが呆れていると、オットーがテレビに手を伸ばすのを見た。

 

「ってオットー!?何でテレビ点けようとしてんだよッ!?」

「………いや、面白そうだし。」

 

ノーヴェは「不謹慎だろッ!!」とつっこみながらも、ディードの事で頭がいっぱいだったオットーが、少し立ち直ったようなので、ほっとしていた。

 

(とはいえ………今はまだ、「アヌビス神」の事は言えないよなぁ~~~…………)

「お、始まったみたいッスよ!」

 

[修学旅行特別企画ッ!!『ネギ先生の唇を奪え!ラブラブキッス大作戦!!』んんんん〜〜〜〜〜ッ!!さあ、教員部屋にいるネギ先生に、最初にアタックできるのは誰か!?実況は私、報道部朝倉がお送りします!]

「おお、けっこー本格的ッスね〜〜〜」

「ったく、何やってんだよ、朝倉(アイツ)は…………」

 

無駄に本格的な生中継をする朝倉に突っ込みを入れるノーヴェ。だが、

 

 

 

 

 

[なお、解説は取材のために偶然このホテルに泊まっていた、漫画家の『岸辺 露伴』先生にお願いします!]

[どうも、岸辺 露伴です。]

『本当に何をやってんだぁぁぁぁぁああああああ!!?』

 

意外な人物の登場に、ナンバーズ全員が叫んだ。

 

「何あの人解説なんか引き受けちゃってんだよ!?」

[面白そうなので、解説引き受けました。]

「届いたァァ!?ノーヴェの心からの叫び、露伴先生に届いたッスよッ!?この部屋盗聴されてんじゃないッスか!?」

「いや、偶然でしょ。」

 

ノーヴェとウェンディがつっこむ中、ディエチだけは冷静だった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル嵐山

 

露伴と康一の部屋

 

 

この部屋で、朝倉と露伴は実況をしていた。ちなみに、康一はカモと一緒に機器の操作をしている。「何で僕が……」と文句を言いつつもそつなくこなすあたり、彼の人の良さが伺えるだろう。

 

「では、ここで選手の紹介ですッ!!」

 

☆『ラブラブキッス大作戦』選手紹介★

 

1班――鳴滝 史伽&風香姉妹

2班――長瀬 楓&古菲

3班――雪広 あやか&長谷川 千雨

4班――明石 裕奈&佐々木 まき絵

5班――綾瀬 夕映&宮崎 のどか

 

 

「本命はいいんちょのいる3班!だが、バカレンジャーの『武闘派』!長瀬とくーふぇの2班も強敵だぁ!」

「僕としては、一見おとなしそうな二人のいる5班に注目したいですね。」

(何気にちゃんと解説してるし………)

「問題児双子コンビの1班や、運動部コンビの4班など、どこも強者ぞろいッ!さあ、果たしてネギ先生の唇を奪い取るのは誰なのかッ!!」

 

朝倉が実況する中、カモはほくそ笑んでいた。

 

(ムフフフ………この『ラブラブキッス大作戦!!』を利用して、兄貴との『仮契約』を乱発!そうすりゃ、「仲介料」でうっはうはだぜェ〜〜〜〜〜♪)

 

そう、今回の黒幕はカモだったのだ!すでにこのホテルの周囲には、仮契約の『魔法陣』が張り巡らされている。ネギとキスをすれば、速攻で仮契約が『成立』する仕組みである。

なお、カモや朝倉はあの場にいなかったため、ルル・ベルの告白を知らない事を、ここに明記しておく。そうじゃなかったら、こんな事しないし。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

1階廊下

 

 

(―――なあいいんちょ………私、一応『命狙われてる』身なんだが………)

 

千鶴、夏美、ザジ、徐倫たちに逃げられ、仕方なくあやかと組まされた千雨は、あやかに文句を(小声で)言うが………

 

(フフフ…………ネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生とキスネギ先生と…………)

(あ、ダメだコレ……完全に暴走してやがる………)

 

瞳孔がハートマークになり、鼻息の荒いあやかを見て、千雨は説得を諦めた……

すると――――

 

「ん…?」

「へ?」

「あら?」

 

曲がり角で、裕奈たち4班と鉢合わせしてしまった。

 

「―――いいんちょ!」

「まき絵さん!?くっ………!」

モフンッ

「「ぺうッ!」」

 

 

両者が見合ったかと思うと、二人同時に枕で攻撃した!

だが、

 

「な゛………何で…………私が………?」

 

まき絵の振るった枕は、どういう訳か千雨を直撃した………

そのままよろけながら後ずさる千雨だが………

 

(お、エモノがいっぱいネ♪)

タタタタタ………

「へ?」

(チャイナクロススプリットアタ〜〜〜〜〜ック!)

モギャアッ

「オグォアアッ!?」

 

乱入してきた古菲の一撃(枕越し)を喰らい、派手に吹っ飛んでしまった!

 

 

 

 

 

吹っ飛びながら、千雨は思った…

 

―――てか、別に交叉(クロス)してないじゃん!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ドグシャァァアッ

「うおっ!?なっ、何だァ!?」

 

突然、目の前を横切った物体に、新田先生は慌てて後ろに引いた。

物体は、新田先生の右手にあった扉に派手に突っ込み、破壊音を響かせた。

 

「な、何だ?何が起きたんだ……!?」

「…………あ、その声、新田先生ッスか?」

「!?は、『長谷川』か!?一体何……………が………………?」

 

謎の物体X――――否、千雨の声を聞き、問いただすために扉の中を見た新田先生だが、次の瞬間、口が塞がった。

なぜなら、千雨は―――――

 

 

 

 

 

「………あー、やっぱ『東大寺』でおみくじ引くんじゃなかったなァーーーー………私って、何故か毎回『()()()()』が出るんだもん…………」

 

 

 

 

 

ブリッジをするような形で、便器に頭をつっこんでいたのだから…………

そう、千雨が突っ込んだ扉は、『御手洗い』だったのだ………

 

 

 

 

「………何があったか、話してくれるか?」

 

あまりにもありえない光景に目が点になっていた新田先生だが、とりあえず聞いてみることにした。

 

「いやね、班部屋近くのトイレに空条が入っていたから、どっか空いてるトイレないかなぁ〜〜って探していたら、突然、飛んできた枕越しにドロップキック喰らいまして…………いや、()()()()()()()見つかったから、いいんですけどね………」

「そうか………まあ、トイレなら退出許可したのは私だが…………」

 

とりあえず、それらしい言い訳をする千雨。色々とありえないが、筋は通っていた。

 

「あ、私は自力で出るんで、新田先生はソイツらを。」

「わ、分かった。無理そうだったら、言ってくれたまえ。」

 

意外と余裕そうだったので、新田先生は千雨が飛んできた方向へ、吹っ飛ばした犯人を探しに行った。

 

―――スポッン

「………ふう、何とか誤魔化せたな…………さて、部屋帰るか………(―――出る前に『明石』の悲鳴が聞こえたが………ま、私にゃあ関係ないがな。)」

 

数分後、自力で脱出した千雨は、班部屋へと歩いていった。

 

 

 

 

 

長谷川 千雨―――撤退

明石 裕奈――――脱落

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル嵐山 外

 

 

ホテルの外壁、屋根のすぐしたにある出っ張りを、コソコソと這う形で進む二つの影があった。

 

「ゆ、ゆえ〜〜〜……何でこんな『部活』みたいなことしてるの〜〜〜?」

 

影―――のどかは、先行する夕映に向かい聞いていた。

 

「私の見立てでは、このルートが最も『安全』かつ『速い』のです。ネギ先生のいる『教員部屋』は端っこですので、どうやっても敵や新田先生と当たってしまいます……」

「そっか……だから裏手の『非常階段』からすぐに中に入れば……でも、『非常口』には「鍵」がかかってるかもーー………」

 

地図を見せながら説明する夕映に、のどかは不安を漏らす。

 

「こんなこともあろうかと、あらかじめ鍵を開けておいたです。」

「ゆ…ゆえすごいーーーー…さすが……」

「コラのどか!お礼は目的を―――――」

「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」

「「ッ!!?」」

 

二人の会話は、突如響いた悲鳴により中断された。

 

「い…今のは………」

「鳴滝さんたち!?」

 

「キャアアアアアアアな、何これ!?オクラが……オクラがァァァァーーーー!」

「回って……跳ねて………サ、サ………」

「「サタデーナイトフィーバ〜〜〜〜〜……………」」

「「……………」」

 

悲鳴に次いで叫びが聞こえた後、急に静かになると、二人は訳が分からず固まった。

 

(ゆ…………ゆゆゆゆゆゆゆゆゆえ〜〜〜〜〜!何が起こってるの!?向こうで一体何が起こってるのォォォォォーーーー!!?)

(わ………分かりません!分かりませんが………鳴滝さんたちに何かあったのは確かです………!)

 

混乱してはいるが、とりあえず「鳴滝姉妹がピンチ」という事は理解した二人。

恐る恐る非常口の扉を開いた二人が目にしたのは―――

 

 

 

 

 

「………!そ………そんな………」

 

 

 

 

 

非情にも―――

 

 

 

 

 

「な………ふーちゃん………ふみちゃん………!」

 

 

 

 

 

原型がわからないまでに――――

 

 

 

 

 

「な…鳴滝さァァァァァァァァんッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生八つ橋まみれになり気絶した鳴滝姉妹だった………

 

 

 

 

「スッゴく『ニッキ(シナモンの和名)』臭いッ!!?オクラは?」

「鳴滝さんたちッ!!」

 

木乃香に声の似た某鼻毛漫画の少女みたいなツッコミを放つのどかに対し、夕映は鳴滝姉妹に近寄るが……

 

「ダメでしょ、食べ物を粗末にしたらッ!!」

「ゆえ、正しいけど間違ってるよ!?」

 

微妙にズレた声のかけ方をする夕映。どうやら、まだ混乱しているらしい。

 

「命に別状はなさそうですね……誰がこんな事を………?」

「まあ、八つ橋で死ぬなんてことありえないし………!?」

 

夕映に対してつっこみを入れるのどかだが、不意に、夕映頭上に気配を感じる!

 

「ゆえッ」

グイィッ

「!?」

 

のどかはすかさず『イノセント・スターター』で夕映を引きつけると、夕映のいた場所に、銀髪のゴスロリがペナントを振り下ろしながら「降ってきた」!

 

「―――あら、勘がいいのね…」

「!………あなたはいつぞやの………!」

「ルル・ベルさん!?」

 

何故か右手に『京都』と書かれたペナントを持ったルル・ベルは、怪しげな笑みを浮かべつつ、のどかたちに振り向いた。

 

「まさか………鳴滝さんたちはあなたが………?」

「ええ、「邪魔者」は早めにつぶした方が良いしね……」

 

小馬鹿にしたように言うルル・ベル。夕映はむっとした表情をして、ルル・ベルにつかつかと近寄ると……

 

ゴッ

「あたッ!?」

「夕映!?」

 

どこから取り出したのか、ハードカバーの哲学の本でルル・ベルを殴った!

 

「ダメでしょ、食べ物を粗末にしたらッ!!」

「「えっ、そっち!?」」

「おじい様が言っていました………食べ物を粗末にする女性は、粗末にした()()()()()を受ける、と。」

「「えっ、そうじ!?」」

 

だが、殴った理由が『天の道を往く』ような事だったため、のどかとルル・ベルは呆気にとられた………

 

「しかし……鳴滝さんたちを『邪魔者』と呼ぶとは……もしやあなた…………」

「いきなり話戻したわね………ええそうよ………宮崎 のどか、あなたにネギ君とキスされたらこまるのよ………まあ、双子は私の障害になりそうだったからね………」

「えっ………!?」

 

夕映に殴られた所をさすりながら、ルル・ベルは説明した。

 

「………のどかを名指しとは…………のどかッ!この人は私が食い止めます!早くネギ先生の所に!!」

「えっ、う、うんッ!!」

 

哲学の本を二冊装備した夕映に後押しされ、のどかはネギの部屋に向かい駆け出す。だが!

 

「させないわ!」

シュババババッ

「ぺ、ペナントが!?」

「のどかッ!!」

 

無数のペナントが、まるで捕らえるかの如くのどかに襲いかかる!

 

「てやーーーーッ!!」

パシパシパシパシパシッ

「「「!?」」」

 

だが、突如伸びてきた『鞭のようなもの』に、ペナントが全て撃ち落とされた!

 

「い…今のは……!」

「………あら、もう来たのね……………」

 

「全く……何か企んでいるとは感づいていましたが………こんな事だったとは思いませんでしたわよ!ルル・ベルさんッ!!」

 

いつの間にチームを組んだのか、あやかとまき絵が、威風堂々と構えていた。

 

 

 

鳴滝姉妹―――脱落

 

 

 

 

 

←to be continued...




54話です。
・サブタイトルは『愛と復讐のキッス』から。

・アニメのくだりは、私の実体験です(笑)あれにはマジでビビりました(笑)

・原作でも修学旅行2日目は楽しい雰囲気だったので、今回はギャグを全面に押し出してみました。参考資料はボーボボと銀魂です。

・ルル・ベル乱入。若干キャラが崩壊してます(笑)ルル・ベルの告白の真相は次回明らかに……?

では、次回をお楽しみに!


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#55/愛と欲望のキッス ②

[さあッ、大変な事になってまいりましたァッ!!]

 

実況する朝倉は、興奮したようにマイクに叫んでいた。

 

[突如現れ、鳴滝姉妹を何故か『生八つ橋まみれ』にして脱落させた乱入者と遭遇してしまった5班の図書館探検部コンビッ!助太刀するかの如く参上した3班と4班の合併チームも加わり、乱入者の撃退に挑みますッ!!]

[というか、誰なんでしょうねあの子?(本当は知っているけど。)]

 

「…………な、何か大変な事になってきたよ…………?」

 

横で機器を操作していた康一は、隣にいたカモに話しかけた。だが、当のカモは……

 

「―――いや、ルル・ベルの嬢ちゃんと仮契約すりゃあかなりの戦力になるッ!こりゃあ使えるぜぇーーッ!!いやー、しかし嬢ちゃん、いつの間に兄貴にホレたんだぁ~~~?」

「……………」

 

全く問題視していなかった。

少しイラついた康一は、

 

ピシィッ

「ピャウッ!?」

 

『ピシィッ』の文字を、カモに食らわせた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル嵐山

 

とある部屋

 

 

「―――なあ、本当に何もしなくていいのか?」

「良いんだ。本人が自分一人でやると言っていたんだからな。」

「そうか………あ、それポン。」

「ん、そうか………」

「しっかし、お嬢が『あんな趣味』だとは知らなかったねェ………」ヒョイ

「………本人もこの数か月間、自身の『恋心』に悩んで決断したのだ………あまり詮索するなよ?」

「そうかィ………ま、女ってのは、恋している時が一番輝いてるからなァ~」パチッ

「ロンだ。」バンッ

「うおっ!?」

 

ブチャラティを加えたルル・ベル一味の男性陣は、雀卓を囲いながらそんな話をしていた………

 

 

 

 

 

#55/愛と欲望のキッス ②

 

 

 

 

 

六課の部屋

 

 

「ルル・ベルッ!!」

「やっぱり動いたか………」

 

テレビで様子をみていたノーヴェ達は、ルル・ベルの登場に歯をかみしめた。

だが、ディエチやセインは―――

 

「サ………『サタデーナイトフィーバー』…………!」

「な……………何であんな恐ろしいことを、平然とできるんだ………!」

 

ルル・ベルが鳴滝姉妹にした行為(サタデーナイトフィーバー)に震えていた…………

 

「確かに恐ろしいが………今はそんな話してる場合じゃないから………」

「どうするチンク姉?出るか?」

 

チンクに進言するノーヴェ。だが、チンクが口を開く前に、

 

「いえ、ノーヴェさん。」

『!?』

 

ネギがそれを止めた。いつの間にか起きたらしい。

 

「ネギっ!?」

「お、起きてたのか………!?」

「ええ。みなさんが叫んでいたので………」

『あ、すみません。』

 

自分たちのせいでネギを起こしてしまったと知り、謝るナンバーズたちだった。

 

「あ、いいですから………それはともかく、ルル・ベルさんと宮崎さんの問題は、僕が解決しないといけないので。」

「で、でもネギくん………」

「大丈夫です。少し寝たら気持ちもちょっと落ち着きましたし、それに、いつまでも先延ばしにはおけないし…………」

「ネギ…………」

 

何やら決心をしたのか、その目には『迷い』はなかった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――何か騒がしくなってきたね………」

「ルル・ベルめ………ついに動いたか…………」

 

新田先生に見つからないようにホテル内を見回りしていたスバル、ティアナ、明日菜の3人は、ホテルの騒がしさが増してきたのに気づき、ルル・ベルの仕業と感づいた。

 

「ネギ君が心配ね………一旦向かいましょう。」

「ええ。」

 

ネギが心配になり、一旦ネギのいる六課の部屋へ向かう事にしたスバルたち。

だが、ある通路に出ると、そこにいたのは、

 

ドシィインッ

「「あイタッ!?」」

「「「「………?」」」」

 

楓と古菲が、正面から衝突していた。

 

「……何してるのよ、あんたたち…………?」

「あ、アスナにスバルたち。」

「うむ……実は『スタンド能力に』囲まれてしまってな……」

「えっ!?」

 

困ったような顔の楓に囲まれたと聞き、周りを見渡す一同。だが、いたのは………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニャ〜〜〜♪」

「「「……………『ネコ』?」」」

 

そう、ネコだ。ロシアンブルー種の『子ネコ』だ。

だが、楓と古菲は、その子ネコに警戒していた………

 

「気を付けよアスナたち……そのネコ、スタンド使いだ!」

「えッ?こんなちっちゃな子ネコが………?」

 

楓の警告に、明日菜は信じられないというような声を上げた。

そんな中、ティアナはハッとした。

 

「そういえば、承太郎さんが『才能があれば、犬やドブネズミですらスタンド使いになれる』って言っていたような………」

 

ティアナが呟いた時、子ネコの体表に『矢印』を組み合わせて描かれた「緑青と茜色の眼の模様」がいくつも現れた!

それらは子ネコの体表からまるで温泉の源泉のように次々と現れると体表伝い床に流れ、船虫の如く壁や天井に滑るように移動して壁や床、天井に展開し、最後に現れた大きめの「金色の眼」が、猛スピードで明日菜らに迫る!

 

「!あの『眼の模様』みたいのがスタンド………!?」

「固まったらマズいわ!散開ッ!」

 

ティアナの号令の下、3人は散らばるように跳んだ!

 

「待てッ!!今動いたら…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドシィインッ

「「「あイタッ!?」」」

 

はずだった……

バラバラに跳んだはずの3人は、何故か自分が跳んだ方向にいた他の皆と『衝突していた』!?

 

「あッ………あれ!?おかしいな?みんなとは別の方に跳んだはずなのに………!?」

「!?あれ?」

 

明日菜は気付いた。いつの間にか、『金色の眼』が自分らの「足元にある」ことに!

 

「これがヤツの能力でござる………この『無数の眼』で囲まれた範囲内で『動くもの』全ての「方向感覚」を狂わせ………『金色の眼』に向かわせる!!」

「――――つまり、他とは『別の方向』に動いているつもりでも、結局は『同じ方向』に向かっている訳ね…………」

 

ティアナが解説して、ようやく明日菜たちは納得した。先ほどの楓と古菲も同じ状況だったのだろう。

このようなタイプは本体を叩くのが一番だが、方向感覚を狂わされたらそれも叶わない。かなり厄介なタイプだ…………

 

「(だからと言って「狙撃」しようにも、それも『狙いの方向』を狂わされる………『眼のエリア外』に出ようとしても、それも『方向を狂わされて』終わり………)こーいったタイプのスタンドって、よく考えたら………何気にかなり『無敵な』能力なんじゃあないの………?」

「ねーねーアスナーーー、さっきから何の話してるアルか~~~?」

「ニャ~~~?」

 

ちなみに、古菲はスタンドが見えない。

 

 

 

本体名――――初音(ハツネ)(ネコ♀)

スタンド名――ワイルド・アイズ

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

教員部屋付近

 

ルル・ベルVS.のどか、夕映、あやか、まき絵

 

 

「あなたの目的は、ここまで来れば言わずとも一目瞭然!悪いですが、そんなことさせませんわッ!!まき絵さん、鳴滝さんたちを!」

「りょーかい♪」

シュルルンッ

 

あやかに言われ、離れた場所にいた鳴滝姉妹をリボンで引き寄せるまき絵。

2人が無事なのを確認したあやかは、のどかに向き直り、『ビシィッ』と優雅に構えた。

 

「『宮崎 のどか』さんッ!察するに、今日先生に「告白」したのはあなたのようですね…………あなたのその『勇気』に敬意を表し、あなたをわたくしの『正式な好敵手(ライバル)』と認定しますわッ!!」

「えッ!?い、いえー…そんな…………」

「いいんちょ………何をこんな時に…………」

 

いきなり何を言い出すかと、夕映は呆れ顔であやかをみる。だが、あやかはそれに構わずに話し続けた。

 

「よって、今回は『塩』を送らせてもらいますわ!宮崎さん!早く『ネギ先生のもとへッ』!!」

「「えっ!?」」

 

あやかの言葉に、二人は先程とは違う意味で驚いた。

普段から『ネギ先生LOVE』を掲げているあやかがネギとの「キス」を諦めるなんて、思いもしなかったからだ。

 

「さあ、早く―――」

 

だが、2人の返事など聞く気がないのか、あやかはのどかに早く行くよう背中を押すが…………

 

ガラッ

「あーーーーーー、すっげー言いづらいんだがよォーーーーー……………ネギ、今部屋にいねぇぞ?」

『………………………』

 

突然仗助が部屋から顔を出し、ある意味空気を読めていないセリフを放ったため、5人はフリーズした……………

 

そして数秒後―――

 

 

 

 

 

グイィッ

「行くですよのどかッ!!」

ダッターーーーー

「あ、ゆ、ゆえ~~~~~?」

 

動いたのは夕映だ。夕映はのどかの腕を引き、戦線から離脱した!

 

「しまったッ!?くっ……………」

 

一瞬、虚を突かれたルル・ベルは、すぐに2人を追おうと駆け出そうとするが、

 

「おっと、させませんわよ!」

「へっへ〜〜〜〜〜ん、通せんぼ♪」

「!…………あくまで、私の邪魔をするつもりね?」

 

ルル・ベルの前に、あやかとまき絵が立ちはだかった。

 

「当たり前ですわ!宮崎さんの『勇気』を踏みにじるような真似など、ライバルであるわたくしが許しませんわよッ!!」

「何かカッコよく聞こえるわね…………まあいいわ。あなた達2人には………………」

 

言うと、ルル・ベルは背中に手をやり、何かを掴んだ。それは―――

 

「あなた達2人には、『京都三大土産』最後の一つ―――『木刀』で相手してあげるわ!」

「…………………それ、観光地ならどこでも売っていますわよ?」

「洞爺湖とかね。」

「………つーかお前ら、あんま騒ぐんじゃねーぞーー?」

 

臨戦態勢の3人に、仗助の言葉は聞こえていなかった………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ロビー

 

 

「えぇーと………宮崎さんは…………」

 

のどかたちとルル・ベルが離れたのを確認して部屋を出たネギは、とりあえずロビーから探すことにした。

 

「あっ……ネギ先生………?」

「あ……宮崎さん……………」

 

そんなとき、のどかが後ろにいることに気付いた。どうやら、今ロビーに来たらしい。

 

「あ…あの、お昼の事なんですけど………」

「えっ……い…いえーーーあのことはいいんです………聞いてもらえただけで――――」

 

突然、昼間の『告白』について振られたため、のどかはあわあわとテンパり始めた。

ネギの方も、顔を真っ赤にしていた。

 

「やはり、今夜は襲ってこないのでしょうか……?」

「みたいね。襲ってくるなら明日の………―――ん?あれは………?」

 

外を見回りから戻った徐倫と刹那は、2人の様子に気づいて陰に隠れた。

 

「…………すいません宮崎さん………ぼ、僕、まだ『誰かを好きになる』とか…………よくわからなくて………いえ……もちろん、宮崎さんの事は『好き』です…で、でも僕………クラスのみんなの事が好きだし……あ…それにあの………やっぱし『先生』と『生徒』だし…………」

「い、いえ…あの……そんな………」

 

ネギの返事に、のどかは申し訳なさそうになるが、ネギは話し続ける。

 

「だ…だから僕、宮崎さんにちゃんとしたお返事はできないんですけど……その………

――――あの、と、『お友達』から始めませんか?」

「………はいッ。」

 

ネギの提案に、のどかは快く答えた。

『友達から』――――それがネギの出した答えだった。

 

「――――『友達から』…………ねえ…………まあ、良いとしましょう………」

『!?』

 

のどからが安堵の息を漏らした時、通路の方からルル・ベルが来ていた。その体には、千切れたリボンが巻き付いている……

 

「ルル・ベルさんッ!?」

「まさか……いいんちょ達が…………?」

「ああ、あの2人は無事よ……でも、もう少ししたら、追いついてくるかもね…………」

 

普段と同じように、余裕の笑みを浮かべるルル・ベル。だが、すぐにそれは、獲物を狩らんとする猛禽類の瞳――――否、『ハート型の瞳孔』に変わった!

 

「悪いけど、私はせっかちなの………行くわよォォォッ!!」

 

言うやいなや、ルル・ベルは駆け出した!

 

「させませんよッ!!のどか!早くネギ先生とッ!!」

「えっ!?えっ!?」

 

何がなんだか分からないネギをよそに、ルル・ベルから庇うように同じく駆け出した夕映!さらに………

 

「させませんわよッ!!」

「ごめんゆえッ逃がしちゃったッ!!」

 

同じように、後ろからあやかとまき絵が駆けてきた!

3人は挟み込むようにルル・ベルに迫り、ついに、その服の裾を掴んだ!

 

ダンッ

「「「!?」」」

 

だが、そこにあったのは『服だけ』で、ルル・ベルがいない!?

 

「こ………これは『空蝉の術』――――!?」

「!いや、これは………………………」

 

まき絵は気付いた。『下着姿』で不気味な笑みを浮かべたルル・ベルが、まるでプールに飛び込むかのように、ネギとのどかに迫るのを!

 

そう、これは―――――――

 

 

 

 

 

『ル………………『()()()()()()だァァァァァァ』ッ!?』

 

そう、伝説の飛び込み―――『ルパンダイブ』だッ!!

 

(あ………あそこまで完璧なルパンダイブは始めてみたぞ………ルル・ベルめ………どこであんな技を………!?いや、それよりも………)

「ネギッ逃げろォォォォォォ!!」

「いや、もう手遅れですわ………!!」

「のどかァッ!!」

 

徐倫たちの悲痛な叫びもむなしく、ルル・ベルはついに、ネギの肩に手を置いた。

 

 

 

そして、そのまま―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔よ。」

ドンッ

「………え?」「へっ?」「あれ?」

「あァ〜〜れェ〜〜?」

 

 

 

ネギを突き飛ばした。

 

 

 

もう一度言う。

 

 

 

()()()()()()()()、『()()()()()()()()

 

そして、突き飛ばした先には、振り返った夕映がいた。

そして………

 

むちゅっ

『あッ!?』

 

ネギと夕映の唇が合わさった。

 

((なッ…なななななななななななななななななななななななななななななななななななな!?!?!?))

 

すぐに離れたが、あり得なさすぎる展開に混乱する2人。しばし、沈黙があたりを包むが、ふと、ネギは気付いた。

 

「…………………あれ?じゃあ、ルル・ベルさんは………………?」

「え?………」

 

ネギに言われ、夕映も気付いた。

恐る恐る、ルル・ベルの方を向くと―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズッキュゥゥウウーーーーーン

 

 

 

 

 

「…………………っ?!」

 

ルル・ベルが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()最中だった………

 

「な、何だとォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

「ね、ネギ先生()()()()()………!?」

「………え?おんなの………?おんなのひとどおしで?え?…………え?」

「ネギ君ーーー!?早すぎた、いや、知らないで欲しかった!?」

 

その行為に徐倫は思わず叫び、あやかは混乱し、ネギは目の前の光景にショックを受けたのか固まってしまい、朝倉や露伴、テレビにかじり付いていた者たち全員がフリーズした………

 

「………む、むぐっ!?むぐぐ………ッ!!」

 

しばらく唇を押しつけていたルル・ベルだが、のどかが勢いよく、ルル・ベルから無理やり離れた。

 

「!?なッ!?何を…………!? !?」

「好きですッ!!付き合って!!」

「…………………………………はい?」

 

突然のキスに混乱するのどかであったが、更に告白され、目が点になった。

 

「あなたが好きなのよォッ!!一目見たその時から!!ずっと、ずっとよぉッ!!かわいらしい瞳に、大人しい仕草………もう、私のハートを掴んで離さないのよ!」

 

そんなのどかに構わず、ルル・ベルは続けた。意外にも、惚れた理由はスバルの推測通りだったりする。

 

「そしてあの時、そう、『夜叉丸』との戦いの時!勇気を振り絞り、「スペースマン」の謎を解いたあなたを見て!『恋の炎』はさらに燃えたわ!!『気弱なのに、勇気があるなんて』ってね……もう、あなたのことしか考えられないのよォォォ!!」

「あ………あの………………?」

 

妙なハイテンションで愛を叫ぶルル・ベルに対し、のどかは完全に引いていた。

 

「お願いッ!私だけのものになって!!あんな男に汚される位なら、私が汚してあげるわッ!!」

「え………えええぇーーーーー?」

 

終いには、この小説の存亡が危うくなりかねない事まで言い出すルル・ベル。

お願い、それ以上はやめて……やっと50話突破したんだから………

 

「大丈夫よ……ハァハァ………最初は『圧迫祭り』から始めて……その先は――――」

「当て身。」

トンッ

「うっ!?」

ドサッ

 

と、何か完全に目が『イッちゃってる』ルル・ベルが、いきなり気絶した………

 

「全く……ようやくネコから解放されて来てみれば………」

「ラ………ランスターさん!?」

 

気絶したルル・ベルの背後には、いつの間にやらティアナたち3人がいた。

 

「………悪い、私としたことが、フリーズしてたわ…………」

「あー、大丈夫大丈夫………しかし……今のはどういう状況だったの………?」

 

どうやら最初から見ていなかったスバルたちに、ようやく復活したあやかたちを交え徐倫が語った。

 

「………私らは、ルル・ベルの告白を『自分も()()()好きだから、私だけのものになれ』って受け止めていた………」

「あの人、そんな事言ったんですか………でも、実際は…………」

「『自分も()()()()()好きだから、手を引け』って意味だったんですね………」

 

夕映とあやかが徐倫に続いた時、ネギたちは気絶するルル・ベルを見ながら呆れていた……………

 

「―――!おい、新田来たぞッ!!」

「ヤバッ!?」

 

徐倫の一言で、ネギたちは気絶したルル・ベルを連れ、撤退していった。

 

 

 

 

 

「………あれ?結局私一人!?」

 

一人、ロビーで正座する裕奈を残して………

 

 

 

綾瀬 夕映―――『ネギ先生の唇を奪え!ラブラブキッス大作戦!!』優勝。

        だが、のどかを差し置いて自分がネギとキスしてしまった嫌悪感で、その夜眠れなかった……

宮崎 のどか――どうやらルル・ベルに魔法的才能があったらしく、『ルル・ベルとの仮契約』が成立した。

明石 裕奈―――一人寂しく朝まで正座していた。

 

 

 

 

 

←to be continued..




55話です。とりあえず一言………

こんなオチでごめんなさいm(_ _)m

・冒頭の麻雀のシーン、あまり詳しく書かれていないのは、私が麻雀詳しくないからです。

・初音登場。実は初期でルル・ベルに撫でられていたネコです。
能力『ワイルド・アイズ』。こういう能力って、意外と強いですよね。ハーヴェストとか、アトム・ハート・ファーザーとか。

・ルル・ベルは『百合(レズ)』でした、というオチ(笑)ルル・ベルのキャラ考えてる時にふと閃きまして。昔興味本位で読んだ少女漫画に、こんな感じのオチがあったと思います。

では、次回をお楽しみに!


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#56/本山上陸作戦

―――宮崎 のどかが『奈良公園でネギに告白』をしたころ………

 

ミッドチルダ 軌道拘置所

 

 

「なんだと…………!??」

 

軌道拘置所でスカリエッティと面会し、「人造魔導師」として蘇生したスタンド使いたちについて話を聞いていた承太郎は、蘇らせた6人のスタンド使い―――ブチャラティとギアッチョ以外の4人について聞いていたが、スカリエッティの覚えている限りの名前を聞いて信じられない顔をした。

その名前はリゾット、ホルマジオ、スクアーロ、そして――――――――

 

 

 

 

 

「そいつに、間違いはないんだな…………!?」

「あ………ああ、間違いはないよ………今言った『4人』を、人造魔導師として蘇らせたのは私だ(このプレッシャー………これが空条 承太郎か…………!)」

 

ガラス越しとはいえ、承太郎の圧倒的なプレッシャーに若干圧倒されながらも、スカリエッティは普段通りの余裕な素振りで答えた。

 

[―――彼女の注文で、彼には脳に特殊な措置を施してあります。]

[それを使えば、何の問題もないわけか…………]

「やれやれ、随分楽しめるオモチャだったろうな………」

 

モニターに映るウーノとトーレの話を聞いた承太郎は、怒りとあきれの混ざった呟きを漏らした。

 

 

なお、クアットロの分のモニターもあるが、彼女は映っていない。と言うのも………

 

 

 

 

 

[お願いです殺さないでお願いです殺さないでお願いです殺さないでお願いです殺さないでお願いです殺さないでお願いです殺さないで……]

「……相当トラウマらしいな…………」

「まあ、『首チョン』になった訳だしね………私も全裸にされたし。」

 

ブチャラティの名前を聞いた途端、独房の片隅で膝を抱えてガクガクと震えていたからだ…………

 

 

 

 

 

#56/本山上陸作戦

 

 

 

 

 

翌朝

 

〈修学旅行3日目〉

 

 

「―――うう………まだニッキ臭い〜〜〜〜」

「全く……何だったんだ、アイツはァ〜〜〜?」

「あら、鳴滝さんたち。おはようございます。」

 

体の臭いを嗅ぎながら大広間に入ってきた鳴滝姉妹に、あやかが挨拶をした。

 

「あ、いいんちょ、おはよー。」

「あ、そうだ。ねえ、ボクたち結局あれから気絶しちゃったから分からないんだけど、昨夜は誰が勝ったの〜〜?」

「え………?」

『ギクゥウッ』

 

突如、風香から発せられた疑問に、あやかだけではなく他の生徒、特に5班の面々が肩を震わせた。

 

「な…………鳴滝さん………?できれば今その話は…………」

「えーーーー?何でーーーー?」

「そうですよーーーー、教えて下さいよ〜〜〜〜〜?」

「え、いや、ですから………………」

 

あやかが何とか話をそらそうとするが、2人は食い下がらない。普段ならそれをネタに茶化す他のクラスメートたちだが、昨日の結果を知っているためその話題にはふれないようにしていたため、かなりの冷や汗ものだ。

一方、当の優勝した夕映は―――

 

「ぶつぶつ………私は……ぶつぶつ……なんと愚かしい事を……親友を差し置いて……ぶつぶつ……その『想い人』と口付けなど…………いえ、あれは事故のようなものです……ぶつぶつ……ですが…………だからといって、『キスをした』という事実は変わらない…………私は………私はなんという………ぶつぶつ……」

「ゆ…ゆえ〜〜〜?」

 

鳴滝姉妹の一言が引き金になり、何やらヤバいスパイラルにはまっていた…………

ハルナは心配そうに声をかけたが、夕映はぶつぶつといつまでも呟いていた。

 

(うーん………綾瀬に景品(カード)渡すべきなんだろうけど…………渡せないよなぁぁ〜〜〜〜〜…………)

 

ちなみに、カモから貰った景品の『パクティオー・カード』のコピーを手にした朝倉も、困り果てていたりする。

 

この後、釘宮たちから結果を聞いた鳴滝姉妹は、「聞かなければ良かった…………」と、微妙な表情となったそうな…………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「全くもー……あのお嬢様はッ」

「まあまあアスナー……」

 

一方、明日菜は昨夜のルル・ベルの行動にご立腹だった。それをなだめるスバルたちだが、明日菜の苛立ちは収まらない様子だ。

 

「だって、昨夜あんな騒ぎ起こした上に本屋ちゃんに無理やりキスしてッ!あ………」

「いえ…………もう良いですよ………アスナさん…………私は気にしていませんから…………ふふ……………」どよーーん

「み…宮崎さんーー……………?」

 

うっかり口を滑らせたと口を押さえる明日菜だが、すでに遅かったらしく、のどかは暗ーい笑いを浮かべていた………

 

「ま……まあ、あの嬢ちゃんとの仮契約は成立して、この通りカードもあるわけなんスけど………試しに『アーティファクト』でも呼び出してみますか?」

「え?あ、アーティファクト……ですか〜〜?」

 

暗くなった空気を破ろうと、カモはのどかが数冊の本を周りに浮かべ、そのうちの3冊を手元で開いているデザインの絵が描かれたカード(原作とは微妙にのどかのポーズが違う)を手渡した。

 

「おうよ!ルル・ベルの嬢ちゃんは兄貴程の魔力はないから『身体能力強化』はできねぇが、道具(アーティファクト)くれぇなら出せるはずだぜ。」

「は………はあ。じゃ、じゃあ試しにーーーー…………」

 

カモに進められるがままに、のどかは「ア……来たれ(アデアット)」と呪文を呟いた。すると………

 

ドォオーーーーーン

「ふあッ………」

「………本?」

「だね…………」

 

現れたのは、【DIARIUM EJUS】と表紙に書かれた『本』だ。呼び出した際の強い発光に、のどかは驚いたが、本を落とすことなくキャッチした。

 

「ま…前にアスナさんたちがするのを見たけど、やっぱり不思議ーーーー………」

「まあ、私は慣れてるけどね…………」

「………中は真っ白ですーー………あれ?」

 

パラパラと本をめくっていたのどかは、一ページ目に、文字と絵が浮かび上がるのを見つけた。

 

「えぇーと………4月※日木曜日………昨日ですね………」

「何だ?絵日記か?」

 

徐倫たちも気になって本を覗くと………

 

4月※日 木曜日

昨日は、ルル・ベルさんに唇をうばわれちゃいました。まさか、あんな趣味だとは思いもしなかったので、ものすごい驚きですーー。

いつかは、わたしもロマンチックなキスをネギ先生と―――――

 

「!?!?!?」

パタンッ

 

あまりの内容に本を閉じるのどか。

 

「………今のは、おめーの『心境』か、宮崎?」

「へゃあッ!?!?あ…………その………………はぃ………」

 

少し聞きづらそうに問う徐倫に、のどかは蚊の羽音のような声で答える。

恐らく、この本(アーティファクト)の能力は――――

 

「『人の思考を読む本』――――みたいね………」

「ですね…………」

「おお!こいつぁあ使い方によっちゃ異常に強力なアイテムだぜ!」

「え………あの…………?」

「あんたはしばらく黙ってなさいッ!!」モギャアッ

「バウッ!?」

 

何やら嫌らしい笑みを浮かべるカモを明日菜が踏み潰す。

そんな時、

 

「―――こっちの世界の魔法って、強力すぎやしないか…?」

「あ、アギト。」

 

いつの間にか、徐倫の肩に乗ってのぞき込んでいたアギトがそう述べた。見てみれば、自分たちの後ろにルーテシアとノーヴェ、オットーが来ていた。

 

「今日、『本山』とかいうのに行くんだろ?アタシらはそっちの『増援』に回ることになったから。」

「そうか。」

 

ノーヴェに説明されて返事をする千雨。すると、思い出したようにアギトが口を開いた。

 

「あ、そーいやーさっき、あのルル・ベルってヤツんとこ、覗いたんだけどさ………」

「えっ」

「ビクゥウッ」

 

ルル・ベルと聞いて、身体を震わせるのどか。しかし、アギトは何とも言えない顔で、

 

「何か、スッゲー落ち込んでたぞ?」

『え?』

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

数分前

 

「やらかした………………」

 

昨夜の事を思い出したルル・ベルは、頭を抱えていた。そばにいるサルシッチャも、少し心配そうであった。

 

「昨日、のどかがネギ君に告白して、おまけに朝倉 和美があんな企画(ゲーム)をしたせいで、焦ってしまったわ………あんな強引で軽率な行動………おまけに、何か変な事まで口走っていた気もするし………嫌われた………絶対私、のどかに嫌われたわーーー!!」

「お気持ちは察します………」

 

サルシッチャが慰めるも、ルル・ベルは浮かない顔だ。

 

「………ネギ君達は今日、『本山』に行くのよね?のどかもそちらに行くでしょうね………のどかに会わせる顔がないし、私は、他の班の護衛組に着くことにするわ………」

「御意。」

 

サルシッチャにそう告げると、ルル・ベルはフラフラと部屋を出て行った………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………とりあえず、アイツも反省してるみたいだな………」

「………みたいね。本屋ちゃんが好きって言うのも、本気みたいだし………」

 

アギトの話を聞いて、やれやれとため息を付く一同。

 

「宮崎よぉー、後でアイツと落ち着いて話した方が、イイと思うわよ?」

「………そう、ですね………はい、そうします………」

「何かあったら言ってね?」

 

徐倫と明日菜に言われて、のどかははいー、と短く答えた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

数十分後

 

渡月橋の袂

 

 

「――――さて、みんなも自由行動だし、今日こそ「親書」を渡しにいけるぞーー!」

「よーやくってカンジだなぁーー………」

 

今まで、ルル・ベルやら、のどかの告白やらで、親書を届けられなかったネギ。今日こそは『関西呪術協会』の本山へと向かえそうだ。

 

「このかさんは刹那さんやティアさんがいるし、長谷川さんも、護衛をかねての同行だから、何かあってもスグに動ける。ルル・ベルさんも空条さんが何とかしてくれるみたいだし。」

「まあ、ちうっち(=千雨)は護衛が必要なほど『ヤワ』じゃねーだろうがな。」

「全くだ。………ってちうっち言うなオコジョッ!!」

 

いつの間にか、ネギの近くに明日菜、千雨、スバル、そして、ノーヴェとオットー、ブチャラティが来ていた。

 

「あ、皆さんおそろいで。」

「ああ、徐倫は後から追いつく手筈だ。すぐにでも出れるぞ。」

「よーし、じゃあその親書を届けて、厄介事を片付けちゃいましょう!」

『おー!』

 

明日菜の号令の元、一同は本山を目指し歩き出した。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――そうか、彼奴(きゃつ)がこちらに向かったか………」

「ああ、多分夕方には着くよ。」

「ねえ、そろそろ教えてくれない?」

「「彼らの『目的』はいったい何だい?」」

「………言ったはずじゃ。時が来れば、いずれ教えるとな…………」

 

とある和室、ソルとルナと会話する仮面の女性は、まだ時ではないと2人を納得させる。

 

「………ま、そう言うなら仕方ないさ。」

「お嬢様にも、あまり深く聞くなって言われてるしね。」

「「それじゃあ、僕/私達は戻るよ。」」

 

相変わらず息のあった同時会話を残し、2人は部屋を後にした。

 

スッ…

「良いのですか?あの子がこちらに来れば、『彼ら』も…………」

 

2人と入れ替わるように部屋に来た細身でメガネの男は、心配そうに女性に話しかける。

 

「………わらわとしては、そちらの方が好都合じゃがのう……………上手く行けば、事がスグに終わらせられる…………!」

「しかし、それでは―――」

「……………分かっておる……………あの子には、総てを話す日が来たやもしれんな………………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――ここが関西呪術協会の本山………?」

「何か…………出そうな雰囲気だな………」

 

電車に揺られ、さらに数十分歩いた一同は、ついに関西呪術協会の本山の麓、巨大な鳥居の前までたどり着いた。

 

「よし!こっから先は敵の本拠地だ!!気を引き締めて行くぞッ!!」

「あいよッ!」

(何か、この人がリーダーやってると、しっくりくるなぁ………)

 

明日菜がそんな感想を抱きながら、一同は山に入り始る。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――ふふふふふふ…………来おったわ。」

 

本山入り口にある竹林から女――――天ヶ崎 千草は、ネギ達が来たのをみて、笑みを浮かべた。背後には4つの陰がある。

 

「千雨も一緒のようだな………今まで着かなかった『決着』、今ここで着けさせてもらうぞ……………ッ!!」

 

ナンバーズ末妹、ディードに取り憑いた『アヌビス神』は、千雨を確認すると、闘志で目をたぎらせた。

 

「へっ、端から見たら、アヤシい趣味に見えるぜェ。アヌビス神さんよォ!」

 

もう一人は、短い金髪をツンツンに逆立て、青いジャケットはボタンをせず、下のワイシャツも裾がはみ出ている、明らかに「チンピラ」にしか見えない男だ。

 

「お二方………あまり油断せぬように。」

 

一人は、こめかみのあたりに後方に延びる『角』を持ち、緑色の長髪で細目の少女で、薄茶色のマントを着込んでいる。

 

「ハン!スタンド使いだか知らんが、西洋魔術師のガキと一緒に()()たるわ!」

 

最後の1人は、腰まである黒い髪を後ろでまとめ、生意気そうなツリ目に不適な笑みを浮かべた口、服装は学ランをはだけさせた少年だ。

 

「ふんっ………それで『鏡史郎(きょうしろう)はん』、あんさんのスタンドは――――」

「ああ、『仕掛けてあるぜ』ェ〜〜〜……すでに「発動」してる!」

 

鏡史郎と呼ばれたチンピラ風の男は、馬鹿にしたような、それでいて自信にあふれたように笑う。

 

「さいですか………ほな、後は頼みますえ…………」

 

そう言うと千草は、その場を後にした。

 

「千雨………お前はこの『アヌビス神』が絶ッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜対に倒すッ!!!」

 

千草が去った時、アヌビス新が闘志を燃やす。

 

「………()()()()()()()()、『この能力』でなッ!!」

 

ディードの体から、不気味なオーラがあふれ出ていた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

同じ頃―――

 

 

ここは、関西呪術協会本山からしばらく歩いた所にある茶店。

 

「………そうですか、ブチャラティが来ましたか。」

「うん、来るよ。」

「でも、敵が何か『罠』を仕掛けたみたい。」

「「ブチャラティは大丈夫だろうけど、スタンド使いが何人かいるからヤバいかもね!」」

 

茶店で抹茶をすすっていたジョルノ・ジョバァーナは、ソルとルナの話を聞くと、茶碗と代金を置くと、立ち上がった。

 

「ごちそうさまでしたー。行きますよ、ミスタ、トリッシュ!」

「はいよ、ボス。」

「いよいよ再会ね…………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ネギ達が本山に入ってから、さらに数十分後

 

 

「………やっぱりついて来るんですね………………」

「まあ、予感はしていたがな……………」

「大丈夫かな?」

 

のどかとルーテシアと合流し、関西呪術協会本山へ向かう徐倫。だが、彼女らは気づいていた。

自分たちの後ろに、

 

「ほら康一君!後もう少しだから、頑張れよ!!」

「………それ、もう何度目ですか〜〜〜〜?」

 

露伴と康一が着いて来ているのを……………

どうやら場所はネギを『読んで』調べたらしく、撒こうとしても、すぐに追いついてきている。

 

「………まあ、危険はねーだろ。2人とも強いし」

「はあ…………?」

 

徐倫の話を、のどかは首を傾げながら、とりあえず相槌を打っていた。

 

 

 

 

 

本山まで、5人はまだ歩く。

 

 

 

その先にある「出会い」も知らずに…………

 

 

 

 

 

←to be continued...




56話です。

・サブタイトルは『ヴェネツィア上陸作戦』から。

・冒頭の承太郎とスカリエッティ。承太郎が聞いた名前はもちろんHGの本名です。正体はまだ秘密。ちなみに怯えるクアットロはお気に入り(笑)

・リブート前のルル・ベルはちょっと変態にしすぎたので、今回は変態度を低めにして若干のフォローを入れてあります。けど、いつテンパって変態化するか分からない………

・アヌビス神と小太郎と新キャラ2人。内一人はネギま!原作キャラです。彼女を今出した理由は、後ほどに。

・動き出すパッショーネ組、そして露伴たちも。再会は近いです…………

では、次回をお楽しみに!


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#57/リード・マイ・マインド ①

―――空条 徐倫がスタンド『ストーン・フリー』に目覚め、スタンドの事件に関わるようになったのは二年前、母に進められ麻帆良学園女子中等部に入学するため、アメリカから日本へ来たばかりの頃だ。

 

寮に入り、荷物の整理と入学式の準備も済み、後は明日の入学式を待つだけとなったある日、『匿名』で小包が届いた。

 

 

 

中には、石で出来た『(やじり)』が入っていた。

 

 

 

「趣味の悪りぃインテリアだなぁーー……いや、こないだ挨拶した『サクラザキ』の部屋には「鎧甲」があったな………『火』って兜に付いた…………」

 

あれよりかはマシかな?と思った徐倫は、小包から鏃を取りだそうとして、

 

ザクッ

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ったぁーーーーーーッ!?指切ったぁーーーッ!!」

ドガシャーーーーン

 

鏃の先で人差し指を怪我してしまった。

怪我は大したことないかすり傷だが、怪我したことに慌てた徐倫は小包から勢いよく手を引き、ちゃぶ台をひっくり返した。鏃はその反動で玄関のあたりまでスッ飛んで行った。

 

「………何騒いでんだよ徐倫?何、この矢?」

「………なんでもないよ…………その辺に飾っといて、それ。」

 

紙袋を手に提げながら、鏃を拾った千雨に、徐倫は少し恥ずかしそうに、ひっくり返したちゃぶ台を直しながら言った……

 

「所で、その紙袋は?」

「なッ!?……………何でもいいだろッ!!」

 

ちなみに、徐倫が千雨の趣味を知るのは、これから更に一週間後だったりする。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

事件が起きたのは、入学から数日後だ。

 

 

 

寮に帰る途中、徐倫は『ウルスラ高』の生徒が数人、麻帆良中の生徒をイジメているのを見かけた。

それがクラスメートの『イズミ』だと徐倫は気づいた。入学からまだ数日しかたってないとはいえ、クラスメートがイジメられているのを放っておくほど、徐倫は非情ではなかった。

 

その中に割って入った徐倫により、その場は何とか切り抜けた。

 

だが、今度は徐倫が標的にされたらしく、その中でリーダー格らしい『グェス』という女子生徒が、後日、徐倫に突っかかってきた。

 

適当に誤魔化してやり過ごそうとした徐倫だが、突如、身長が「10cm」にまで縮んでしまった!?

 

そのまま、寮のグェスの部屋まで連れて行かれた徐倫は、グェスが突然この力、「グーグー・ドールズ」に目覚めた事を聞かされた。

 

徐倫を『ペット化』しようと目論んだグェス。

だが、心から強く願った徐倫に応えるかのように発現した『糸』に気づく。徐倫はそれを駆使して脱出を試みるが、グーグー・ドールズに襲われる!

 

だが、徐倫はさらに気づいた。

 

「糸が集まれば『立体』になる…………この「概念」!」

 

人型になった『糸』で、グーグー・ドールズを撃破し、グェスに二度と悪さをするなと脅した徐倫。

 

徐倫は名付けた。

 

 

この力は―――『ストーン・フリー』!

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

それから、徐倫の学生生活は変わったと言えよう。

 

 

 

『サンダー・マックイィーン』というストーカーが千雨に襲いかかった事を期に、千雨が同じ力を持つ事を知り、この力が『スタンド』という事も知った(ちなみに、千雨の趣味を知ったのも、この時だ。)。

 

 

 

父 承太郎が『矢』を追って麻帆良に来たが、「ホワイト・スネイク」という謎のスタンドに承太郎の『記憶』と『スタンド』を奪われ、取り戻す決意を固めた。

 

 

 

バカレンジャーに勉強を教えている内にいつの間にか司令官(コマンダー)にされた上、部屋に押し入られた時、まき絵と楓が矢で怪我をし、スタンドに目覚めた。

 

 

 

「取り立て人――マリリン・マンソン」を操るミラションに襲われたのを切り抜けた時、それを見ていたらしいアナスイに勝手に惚れられ、以来しつこく付きまとわれたが、『ポーク・パイ・ハット』小僧に襲われた時、アナスイもスタンド使いだと知った。

 

 

 

当時担任だったウェザーにスタンド『ウェザー・リポート』により助けられた事もあった。

 

 

 

そして夏、黒幕である「エンリコ・プッチ」神父が承太郎の記憶から『天国』に行く方法を知ったために、それを阻止しようとアメリカに渡り、DIOという男の息子たち―――ウンガロ、リキエル、ヴェルサスの3人を倒し、ヴェルサスにより記憶を取り戻したウェザーの最凶の能力『ヘビー・ウェザー』も、偶然アメリカに取材に来ていた露伴により再封印後、プッチの野望をギリギリで阻止し、承太郎の記憶とスタンドも取り戻した。

 

 

 

 

 

濃厚すぎる数ヶ月が過ぎ去った後、徐倫たちは比較的平和な日常を過ごしていた。

 

 

 

スバル・ナカジマが、潜入捜査のために転入してくるまでは…………

 

 

 

 

 

#57/リード・マイ・マインド ①

 

 

 

 

 

歩けども歩けども、延々と続く千本鳥居をひたすらに歩くネギ達。

すでに30分近く歩いているが、未だにこの千本鳥居を抜け出せずにいた………

 

「―――なあ、いくら何でも、長すぎないか……?」

「確かに……山の『面積』も考えて、もう「出口」が見えても良いはずなのに…………?ん?どうしたチサメ?」

 

千雨の疑問にノーヴェが返事すると、千雨は何故か意外そうな顔をする。

 

「いや、お前から『山の面積』なんて「知的なセリフ」が出るなんて思っていなかったから…………」

「確かに。」

「失敬なッ!?」

 

何故かオットーにまで賛同され、怒ったように怒鳴りつけるノーヴェ。千雨はともかく、オットーに、それも普段と変わらない口調で言われたのはショックだった………

 

「ハァ……ハァ………もう……京都一周分くらいは……ハァ……走ったわよ…………?」

「やっぱり、何かおかしいですね…………?」

「ああ…………アスナ、お前はここで休んでろ。オレたち2人は、先に行って、様子を見てみる。」

 

明日菜をスバルたちに任せ、ネギと共に様子を見に行くブチャラティ。

 

「………ノーヴェさんの言うとおり、全然出口が見えませんね。」

「確かに…………むっ、誰かい――――ッ!!?」

 

前方に誰かいるのを確認した2人は、走るスピードを緩めるが、それが誰か気付いて、目を見開く。

それは……

 

 

 

 

 

「―――――えっ?何で2人が()()()()来るの!?」

 

後方にいるはずの、明日菜たちだった!

 

「こっ………これは…………!?」

「もしや………」

ダッ

「あッ、ブチャラティさん!?」

 

ブチャラティは何かに気づいたのか、再び後方に向かい走り出した。そして、数秒後。

 

「ッ!」

「えっ!?」

 

ブチャラティは、道の前方から走って来た!

 

「やはりだ………また皆の所に着く……………オレの『歩幅』から計算して、半径500m!その端から先に行くと、反対側に堂々巡り(ループ)する!どうやら閉じ込められたらしいな………この『千本鳥居』の中に…………!」

「ええーーーッ!?」

「何で先生とナカジマがいながら気づかなかったんだよッ!?」

 

青ざめたブチャラティの言葉に叫ぶ明日菜たちだが、千雨の言葉も正しかった。ネギとスバルは「勝手の違う魔法だし………」と申しわけなさそうに指を合わせる。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………あっさりかかりましたね…………「罠」に………」

「うーむ…………千雨なら案外見破れるやもと思ったが…………」

「妙に執着するなァー、あのチサメってガキに。」

「ふふふ………あの歳であの強さ………承太郎やポルナレフに匹敵する強さだ………血がたぎるのだよ…………我が「剣の達人」としての血がなァッ!!」

「………血、流れてませんよね?」

「刀だけに。」

「………まあね。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――ここが『関西呪術協会』とかいう組織の『本山』…………?」

「うん、間違いない。ネギくんの『記憶』を読んだから確かだ。」

 

ネギたちが千本鳥居に閉じ込められたと気づいた頃、入り口には徐倫たちが到着していた。

 

「何か、『伏見神社』ってのに似てるね。」

ひょこっ

「あー、ホントだ。ガイドブックのそれと似てるや。」

「アギトちゃん………で、出てきて大丈夫?」

 

ガイドブック片手(?) にルーテシアのポケットから出てきたアギトに、のどかがおどおどした様子で話しかける。

 

「ん?大丈夫だろ、誰も近くにいないし。」

 

つーか、ちゃんは止めろ!とアギトが付け加えると、徐倫はルーテシアとのどかに向き直った。

 

「よし、一応ココは『敵地』だ。簡単に指示を飛ばせるように、ハンドシグナル―――要は『サイン』だ。そいつを2つ教えとくぞ。」

 

言うと、徐倫は右手の親指と人差し指で『(マル)』を作った。

 

「これがOKで、」

 

次に、人差し指で前の方を指すサインを作った。

 

「これがGOだ。そんで………」

「あの……私たちならスタンドを使えば…………」

「私らは念話で。」

 

次のサインを作ろうとした徐倫に、のどかが控えめに進言する。

確かにスタンドや念話を使えば、水中でも会話が可能だ。

 

「………それもそうだな。」

「なぁ〜〜んだぁ〜〜〜、ハンドシグナルなら私も知ってたのに。」

 

言うと、アギトは手をパンッと叩き、次にピースサインをする。そして、OKをした後に、手を目の上に当てた。

 

「………パンツーマル見え。」

「YEAAAAHッ!!」パンッ

 

訪ねるようにアギトにルーテシアが聞くと、アギトはルーテシアの手を叩いた。そして2人はピシガシグッグッ、と手を組んだ。

 

「敵地に乗り込むって時に、くだらねぇ事やってねぇでとっとと――――――――――ッ!」

 

徐倫はつっこみを入れようとしたが、不意に『何か』を感じ取った。

 

「こ………この『感じ』は――――(あの時と…………「リキエル」や「ヴェルサス」の時と同じ………!)」

「く、………空条さん……………?」

 

徐倫の様子がおかしい事に気づいたのどかが、心配そうに話しかけたその時だ。

 

 

 

 

 

「ヘイ、てめぇら!なぁあ〜〜〜〜にコソコソしてんだァ〜〜〜〜〜〜?」

『!?』

 

背後から、亀を持ったニット帽の男に、拳銃を突きつけられた。とっさにアギトはルーテシアの後ろに隠れ、徐倫はゆっくり振り向くと、男に話しかけた。

 

「その訛り方と顔立ち……………アンタ、イタリア人か?ここ、アンタん家?」

「おっと、会話が成り立たないアホがひとり登場〜〜〜〜〜〜〜質問文に対し質問文で答えると、テスト0点なの知ってたか?マヌケ。」

「ヒドい言われようだな…………とにかく、『イタリア人のアンタ』に、私らが「日本の神社」の前で何をしよーが、関係ないでしょー!『銃刀法違反』で警察(サツ)を呼ばれたくなかったら、とっとと失せやがれッ!!」

「ジョ、徐倫ちゃん………!」

徐倫が喧嘩腰で男に怒鳴るのを見て、康一はあわててなだめようとした。

 

(あんな風にいって……もしヤツが発砲したらどうするつもりだよッ!!)

(まさか………『ストーン・フリー』で止める気か……………?)

 

 

露伴までも、珍しく動揺する。確かにストーン・フリーの精密さがあれば、弾丸を止めることは容易いが、相手がヴィオレッタの配下という可能性もある。拳銃が能力のスタンド使いとも考えられる。

危機を感じた康一がエコーズを発現させようとしたが、それはいらぬ心配となった。

 

『……………「コーイチ」?コーイチなのか!?』

「えっ……!?」

 

どこからともなく、声が聞こえたからだ。

声の主を捜そうと、徐倫たちはキョロキョロと周りを見るが、それらしき影は見当たらない。

 

「……………知り合いか?「ジョルノ」?」

「じょるの?」

「ジョルノだってッ!!!?」

 

男が、何故か手に抱えた亀に呼びかけた名前に康一は驚いた。なぜならその名前は……

 

(ま、まさか………ディ………『DIO』の息子にして、イタリアでギャングをしている彼の事か!?だとしたら何でこいつはその名前を…………!?)

 

康一は男をみると、男は何故か、亀を地面に置いていた。

すると………………

 

 

 

 

 

ズルゥゥゥゥウウウウ

「「!!?」」

「かっ!?亀からッ!?」

「えッ!?えぇぇええーーーーーッ!?!?!?」

 

「亀」から『人が出てくる』という、衝撃的な光景が、徐倫たちの目の前に広がった…………

 

「ジョ……………ジョルノ・ジョバァーナッ!」

「久しぶりだな、コーイチくん。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「さて、困ったぞ………」

 

一方、こちらは閉じ込められたネギたち。

ちょうど良い所に休憩所があったため、トイレ休憩の為に足を休めた一同は、話し合いをしていた。ちなみに、千雨は現在トイレ中だ。

 

「コイツが『呪術協会』の仕業なら多少厄介だな。スタンドなら本体をブチのめしゃあ解除されるんだが、魔法、それもこーいった『結界』みたいなのは、結界の「要」になるモノを探さなきゃならねぇ…………」

「ブチャラティさんには、ソレが何か分からないんですか?」

「………すまない、エヴァのおかげで西洋魔術の『知識』はあるんだが、さすがにそこまでは…………」

 

ネギの質問に、ブチャラティは申しわけなさそうに答える。一応ノーヴェの方にも目をやるが、こちらもダメそうだ。

 

「つまり、この術をかけたヤツを探して出る方法を聞き出さないと、かなりヤバいってコトね?」

「ああ。まあ、向こうから攻めてこないと、話にならないがな……………!?」

 

ブチャラティが言った、その時だ。

 

「伏せろッ!!」

「えっ!?」

ズドドドドォォオオオン

『ッ!?!?』

 

ブチャラティが叫んだ瞬間、休憩所のトイレの壁と傘が『爆発』した!

 

「てッ、敵襲ッ!?」

「千雨ちゃんッ!!!」

 

スバルが周囲に目を張り、明日菜がトイレの千雨の無事を心配して叫ぶ。しばらくして煙が晴れると………

 

「………い、一応無事だ。無事なんだが………」

 

煙の中から千雨の声が聞こえ、ホッとするネギたち。だが、煙が晴れると………

 

 

 

 

 

「無事なんだが………ギリギリ『無事じゃあなくなりそう』だ…………ッ」

『!!?』

 

ディードに取り憑いた「アヌビス神」の刀を、『エンゼル』の小太刀で鍔迫り合いしている千雨がいた!

 

「ディ……………ディード…………………!?」

「アヌビス神ッ!!」

「野郎…………『爆発』と同時に切りかかってきやがったッ………」

「千雨よ……今度こそは絶~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ対に負けんッ!!」

「……………それはいいんだけどよぉーーー…………せめてパンツ履かせてくれない?」

 

アヌビス神に、恥ずかしげに告げる千雨(現在ノーパン)だった…………

 

「ディード……………何で…………何で……………!??」

「オットー!しっかりしろッ!!」

 

パンツを履く千雨を急かすディードを虚ろな目で見つめながらぶつぶつ呟くオットーに、ノーヴェは叱咤する。

 

(最悪だ…………このタイミングでアヌビス神(アイツ)が攻めてくるなんて……………)

「ディードッ!!」

「――――ってオイ、オットー!?」

 

オットーがディードに駆け寄ろうとするが、ディードは横目でオットーを見て、興味なさそうに答えた。

 

「ん?…………ああ、貴様が『オットー』か。この「ディードの記憶」から読み取ったから、知っているぞ………」

「何……………!?」

「………ディードさんはあの刀―――『アヌビス神』に操られているんです…………本体がすでに死んでいて、本体がいないスタンド……………ディードさんを解放するには、まず―――」

 

「アヌビス神を手放させるか、あるいは破壊するしかない………」

『!?』

 

不意に、声がした。アヌビス神・ディードのものではない、少女の声だ。

 

「けどなぁーーー、アヌビス神の相手はあの姉ちゃんや。」

「あなた方は、私たちがお相手いたします。」

 

振り返ると、緑の長髪に後方へ伸びた角を持った少女と、学生服の少年がいた。そして、少女の周りを、「小型のプロペラ機」が飛行している。

 

「仲間かっ!」

「………調(シラベ)と申します。」

「(周りを飛んでいるプロペラ機があの人のスタンド………さっきの爆発はあれがやったのかッ)ブチャラティさん、ここは―――」

 

ブチャラティに話しかけるネギだが、当のブチャラティは、『驚愕』の表情で『プロペラ機型のスタンド』を見つめていた。何故なら、そのスタンドは―――――

 

「ば……………バカなッ!?アレは『ナランチャの』……………()()()()()()()()()()()()()…………………『()()()()()()』ッ!!」

『えっ!?』

 

ブチャラティが叫んだ瞬間、かつての彼の仲間『ナランチャ・ギルガ』の能力であった『エアロスミス』が、両翼の機関銃を撃ちまくりながら、ブチャラティたちに向かい突っ込んできた!

 

「うおっ!?」

「ブチャラティッ!」

 

『エアロスミス』の機関銃を避け、散り散りになる一同。『エアロスミス』は何故かブチャラティを執拗に追っていき、近くにいたノーヴェも共に襲われていた。とにかく、2人は他の面子に被害が及ばぬよう、皆から離れていった。

 

「全く、鏡史郎さんもハデなことを…………」

「キョウシロウ………?」

「アンタの他にも、仲間がいるの……………?」

 

残ったネギ、明日菜、スバルは、調と名乗った少女と対峙する。

 

「今はどこかに隠れているようやけどなぁー。ま、オレはスタンド見えんから、どーなっとるんかは知らんけどな………」

 

少年がそう言うと、調はマントで隠れた手を出した。手には、

 

「ッ!『仮契約カード』!?」

「まさか……従者(ミニステル・マギ)かッ!?」

「あなた方の相手は、私です。来たれ(アデアット)。」

ギャァァアーーーーン

 

調が静かに告げると、手元にバイオリンが一つ、握られていた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ククク………ようやく貴様との決着を着けるときが来たようだな。千雨よ…………!」

「……ああ。私も出来たら、お前とはもう縁切りたいしな。」

 

すでに『アニバーサリー・オブ・エンゼル』の鎧を脱ぎ捨てた高速移動形態となった千雨は、アヌビス神と対峙していた。

 

「ディード…………」

 

遠くから見守るオットーは、心配そうに見つめる。

オットーとしては、すぐにでもディードを助けるためにアヌビス神を破壊したかったが、2人の間にはなにやら圧倒的な空気が流れているため、割って入れなかった。

 

「千雨よ…………貴様の能力は理解した。故に、私も策を講じる事にした。これにはッ!」

バッ

「「!?」」

 

いきなり、アヌビス神は己の本体である刀を宙に投げた!刀はクルクルと回転しながら落ちてくると、アヌビス神はそれを右手でキャッチ!だが、左手には――――

 

「勝てるかなッ!!千雨ッ!!」

 

左手には、『バトン』のようなものが握られており、先端からヴゥンと音を立てて『魔法刃』が現れる!

 

「『ツインブレイズ』プラス『アヌビス神』…………二刀流ッ!」

 

瞳を邪悪に輝かせ、アヌビス神はまるで死刑申告を告げるように、言い放った。

 

 

 

 

本山 千本鳥居

 

長谷川 千雨VS.アヌビス神

 

ネギ・スプリングフィールド+神楽坂 明日菜+スバル・ナカジマVS.調+犬上 小太郎

 

ブローノ・ブチャラティ+ノーヴェVS.エアロスミス(?)

 

三つの戦いの火蓋は、同時に切って落とされた!

 

 

 

 

 

←to be continued...




57話です。

・二年前の事に関して、簡単にですが書いてみました。内容は6部とさほど変わりませんが、まき絵たちの参戦で色々と変わっていると思って下さい。

・一番最初の再会はジョルノと康一から。かなり一触即発でしたが、康一とジョルノのおかげで大事にはいたりませんでした。

・次いで、オットーとディード、最悪の再会。そして調&小太郎登場。小太郎は個人的に扱いが難しかったけれど、やはり最初は敵サイドにしました。
エアロスミスが調のスタンドっぽく出てましたが、実際は鏡史郎でした。能力は後ほど。

・『アヌビス神』プラス『ツインブレイズ』がようやく出せました。ですが、アヌビス神はまだ何かを隠しています………

では、次回をお楽しみに!


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#58/リード・マイ・マインド ②

ネギ・スプリングフィールド+神楽坂 明日菜+スバル・ナカジマ VS.調+犬上 小太郎

 

 

「ほな、手筈通り頼むで。」

「はい。あなたは、あの少年をお願いします。」

(なんか、あの子の声どっかで聞いたような………?)

 

スバルが首をかしげていると、調と名乗った少女が前に出た。

 

「…………では、『演奏』を一つ……………」

 

「何が演奏よっ!てか、アンタ声ちっちゃいのよッ!!」

(あのバイオリンの能力…………音による『催眠』?あるいは「幻覚作用」?)

 

バイオリンを構えた調と対峙するネギたち。あのバイオリンは『アーティファクト』だ。ただの楽器な訳がない。スバルたちが調のアーティファクトについて考えを巡らせる中、調は弓を弦にかけ、引いた。

 

ギギィイーーーー♪

「「「「………って下手なんかい!?」」」」

 

あまりの下手さにズッコケる3人と小太郎。

その時だ!

 

ゴカァッ

「「「ッ………!?」」」

 

近くにあった石の手すりが、粉々に『破壊』された!

 

「い………今のは…………?」

[特殊音波による、純粋な『物理攻撃』です!]

 

スバルの呟きに、マッハキャリバーが応える。

 

「よく分からないけど……要するに、ただの下ッ手くそな演奏じゃないってわけね…………?」

「まあ、そういうワケです。では、もう一曲……………」

「「ヤバっ!?」」

 

明日菜とスバルが声を上げるのに構わず、調はバイオリンの弓を走らせると、周囲の石畳が砕け周囲を土埃が舞う!

 

「ぅオラァッ!!」

「うわッ!?」

 

土埃に一瞬隙ができると、それに紛れて少年がネギに殴りかかってきて、そのまま押し通す!

 

「ネギくん!!」

「あなた方の相手は私です!」

ギャギギギィーーー♪

 

駆け寄ろうとした明日菜とスバルであったが、調の攻撃で動くことができない!

 

「し、しまった!」

「分断された………!」

 

ネギが遠ざかっていくのを見て、2人に焦りの色が見えた………

 

調(本名不明)

アーティファクト:狂気の提琴(フィディクラ・ルナーティカ)

 

 

 

 

 

#58/リード・マイ・マインド ②

 

 

 

 

 

ブチャラティ+ノーヴェVS.『エアロスミス(?)』

 

 

ネギたちが調と対峙している一方、ブチャラティとノーヴェは『エアロスミス』の砲撃から逃げていた。

ノーヴェのシールドで何とか防いではいるが、『エアロスミス』は尚も追尾してくる。

それを見て、ブチャラティは疑問を浮かべた。

 

 

「………妙だな…………攻撃が『正確すぎる』……………?」

「ん?それがどうしたんだ?」

 

ブチャラティの呟きに、ノーヴェが聞き返す。

 

「いや、『エアロスミス』は『CO2(二酸化炭素)』を探知して「遠隔操作」できる分、攻撃は大雑把になってしまうんだ。それがこんなに『正確に攻撃してくる』という事は……………」

 

エアロスミスの砲撃をかわしつつ説明するブチャラティ。そこまで聞いて、ノーヴェは気づいた。

 

「!そうか、敵は『近くにいる』ってワケか!」

「ああ……………む!そこかッ!」

 

人影に気づいたブチャラティは、先端が尖るよう竹にジッパーをひっつけると、それを開いて『竹やり』にした。そしてそれを握りしめ、

 

「『スティッキィ・フィンガーズッ』!!」

ドシュゥウ

 

やり投げのように投擲!エアロスミスが慌てたように竹に集中放火するが、竹の勢いは止まらず、

 

ドスゥッ

「うおっ!?」

 

地面に突き刺さると、その近くからチンピラ風の男が出てきた。ブチャラティたちとの距離は、大体15mほどだ。

 

「お前が本体か!」

「……………ちっ、バレちゃぁしかたねェ。おうよ、オレが本体だ。名前は、富良野 鏡史郎(ふらの きょうしろう)。」

 

鏡史郎が名乗ると、ブチャラティは鏡史郎を睨みつけた。

 

「何故、お前が『エアロスミス』を扱える?それは、死んだ俺の仲間のスタンドだぞ…………?」

「へぇ、そうなんかぃ。知らなかったねェ~~~~~。」

 

鏡史郎のふざけた態度に、ブチャラティとノーヴェはイラッとする。だが鏡史郎はそれにも構わず、エアロスミスを突っ込ませた。

 

「喰らえッ『エアロスミス』ッ!!」

 

鏡史郎が叫ぶと同時に、エアロスミスは砲撃を放つ!だが、

 

ドロロォォオオ………

「「!?」」

 

エアロスミスの弾が当たる前に、エアロスミスと、放った弾丸がドロドロに『溶けた』!?

 

「ちィッ、()()()()か!ツいてねェなァ!!」

「時間切れ………?」

 

鏡史郎が悪態をつくのを見て、ノーヴェは聞き返した。すると、エアロスミス「だった」銀色の液体が、ノーヴェに付着してきた!

 

「うわッ!な、何だぁぁーーーー!?」

 

驚くノーヴェだが、液体はみるみる内に形を変え、やがて、人型となった。それは力強い印象を持つ筋肉質な身体にメタリックブルーのプロテクターを身につけたようなデザインで、兜の頭頂部や肩などのいたるところにハートマークがデザインされ、首から肩にかけて『動力パイプ』らしきものが六本つながっているスタンド………

 

「クッ……………『()()()()()()()()()()()()』ッ!?」

 

仗助のスタンド、『クレイジー・ダイヤモンド』だった!?

 

「ほゥ………こりゃ()()()引いたかなァ♪」

 

鏡史郎が言うと同時に、クレイジー・ダイヤモンドが拳を振るった。とっさに2人は避けるが、ブチャラティの服の袖がパックリと切られた。

 

「……………なるほど、さっきは『オレに触れた』訳か………」

「何……………?」

 

切れた袖を見た後にブチャラティが呟くのを聞いて、ノーヴェは先ほどの状況を思い出す。

 

「(確か、さっきの『エアロスミス』は、ブチャラティの仲間のスタンド……………という事は――――)ふ……………『触れた人間が過去に出会ったスタンドに化ける』能力…………!」

 

ブチャラティの言葉から、鏡史郎のスタンド能力を推測したノーヴェ。確かにそれならば、先ほどの「時間切れ」という言葉にも納得がいくし、死んだ人間のスタンドに化けたのも説明がつく。鏡史郎はヒュウ、と口笛を吹いた。

 

「へェ、オレの能力に気づいたかァ……………そうだ。オレの『リード・マイ・マインド』は、さっきの「銀色の液体金属」みたいな姿が本当の(ヴィジョン)だ。誰かに触れないと、その姿を作ることができねェ訳よォ。後なァ……『姿形を変える』だけじゃあねェぜ〜〜〜〜……」

 

2人は最初、なんの事か分からなかったが、気づいた事があった。

 

「『能力』も、再現出来るんだぜェーーー?」

 

パックリ切れていたはずのブチャラティの袖が、『直っていた』………

 

 

 

 

 

  本体名:富良野 鏡史郎

スタンド名:リード・マイ・マインド

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

長谷川 千雨VS.アヌビス神憑依ディード

 

 

「ウッシャァァアアアアッ!」

「ぐっ、…………ウォォォオオオオアアアア!」

ガギギギギギギギギィィイイ………ン

 

アヌビス神の刀とツイン・ブレイズで連続に切りつけてくるアヌビス神に、千雨も負けじと小太刀を振るう。だが、攻めるアヌビス神に対し千雨は防戦一方といった感じだ。

 

「ちぃっ……(こいつ………今までで一番の太刀筋だ…………これまで私とやりあって、その中で着実に進化していったのか…………けど!) だからってェ!!」

シュピィィイイン

「!?」

「消え……………?」

 

瞬間、アヌビス神とオットーは、千雨を『見失った』!?

 

「―――――どこ見てんだ?」

「ッ!!??」

「くっ………!」

ガギィイイイーーーン

 

突然、アヌビス神の背後をとり、切りかかる千雨!だが、アヌビス神はとっさに背後に双剣を背後に回して防御する。

 

「危ない危ない………お前は『残像』を残すほどの速さを持っているんだったな………お前のスピードを『憶えて』いなければ、防げなかった…………だが、今のは憶えていたスピードよりも、少し速かったか?」

「へっ、そうかよ………(やっぱこの状態バレてるのはまずかったなぁ………)」

(だが今の攻撃……………)

 

離れて見ていたオットーは、ディードの髪が数本、はらりと宙に舞うのを見た。

 

(アヌビス神は一瞬、反応が遅かった…………)

(つまり、アヌビス神は私のスピードを憶えているが、完全に追いついてる訳じゃあないんだ…………)

 

千雨も、オットーと同じ事を考えていた。

アヌビス神は千雨のスピードに加え、承太郎のスタープラチナや千雨の父ポルナレフのシルバー・チャリオッツのスピードも憶えている。だが、千雨の本来のスピード―――エンゼルの甲冑を脱いだスピードを、完全に憶えたわけではないのだ。

というのも、千雨はまだ『本気のスピード』を出していない…………いや、『出せない』からだ。何故なら――――

 

(さっきのが、今の私が出せるギリギリのスピード………それ以上出したら『リキエル』の時みたく…………)

 

実は、千雨が『アニバーサリー・オブ・エンゼル』の甲冑を脱いだ状態で出せるスピードに限界があった。ある一定の速度以上を出すと、千雨の体が持たないのだ。

実際、二年前にリキエルのスタンド『スカイ・ハイ』と戦った際、ロッズに追いつかれないスピードを出し、内臓の一部が潰れた事があった。

 

「(とにかく、今はこのスピードと技量(ワザ)で―――――)振り切るッ!!」

シュババババババババババ

「なッ!?これは―――――」

 

瞬間、アヌビス神の上空を、無数の千雨が取り囲んだ!

 

「「「「「「「霧幻月華・陣!!」」」」」」」

「『霧幻月華』の強化版かッ!だがッ!!」

 

無数の千雨が一斉に飛びかかってくる中、アヌビス神は双剣を上に構える。そして――――

 

「あまいあまいあまいあまいあまいあまいあまァァアアアいッ!!」

ズババババババババァァァアアア

 

真上から襲いかかってくる千雨たちに対して、フェンシングの用量で連続突きを放った!

 

「そこだッ!!」

「!?」

 

それが、()()()()()()()()()()()

 

(上に集中させて…………下からの攻撃を………!)

(アヌビス神!お前との因縁も、これまでだッ!!)

 

千雨が小太刀を切り上げる中、オットーは舌を巻き、千雨は勝利を確信した――――――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――なるほど…………なかなか『()な』防ぎ方をしますね…………」

 

感心したように、調は呟いた。彼女の目の前では、スバルがその瞳を「金色」に光らせた『機人モード』になり、明日菜の盾になるように立っていた。

 

「『音波』と『振動波』という違いがあるが、お前のアーティファクトと私の「振動破砕」の原理は同じだ………だから『相殺』できる………!」

「で…………でも、その防ぎ方だと、スバルが…………」

 

明日菜が心配する通り、スバルの右手からは血が流れていた。相殺できるとは言え、直接触れる『振動破砕』に対し、音波を『遠距離』に放つ『狂気の提琴』とでは、スバルが不利だった。

 

「(タイミングが一瞬ズレて傷ついた………もしも、完全にズレたらスバルは…………)スバル!一気に決めるわよ!」

「えっ?あ、アスナ?」

 

スバルの実を案じ、『ハマノツルギ』を手にした明日菜が前に出た。

 

「『アレ』は私が防ぐから、一気に近づいて、一決めるわよッ!!」

「え………あ、うんッ!」

 

いきなり明日菜が仕切りだしたのに一瞬戸惑うスバルだが、すぐに目を調に戻した。

 

「行くわよ!」

 

明日菜が叫ぶと、2人は駆け出した!

 

「………無駄なことを……………」

 

呟くと、調は弓を走らせる!

 

放たれた音波はスバルたちを襲うが、明日菜のハマノツルギで防ぐ。そして、その距離が縮まった時――――

 

「ウリィイイヤァアアアッ!!」

「きましたか…………だがッ!」

ギィィイイン

「防いだ!?」

 

スバルが拳を繰り出すが、音の障壁で防御される。

 

「だがァッ!!」

 

スバルは、更に攻撃を繰り出そうとするが、その時―――

 

 

 

 

 

ガシィイイ

「「!!?」」

 

突然、地面から生えた『木の根』に縛られてしまう!?

 

「こ、これは………!?」

「私の種族特有の『能力』です。私の攻撃が『音』だけだと思って油断しましたね…………」

「ちょっと!私聞いてないわよッ!?」

「言ったら意味がないでしょう?」

 

明日菜の叫びに対しご丁寧にツッコむ調。そうしている間にも、木の根の締め付けは強くなっていく。

 

「ぐうッし………締め付けてくる……………」

「くっ………(し………振動破砕―――――)」

 

締め付ける根に対し、スバルが振動破砕を使おうとしたが、

 

ギシィィイ

「あぅうッ………」

「させませんよ、そんなこと………」

 

さらに強く締め付けられ、封じられてしまう。

2人を封じた調は勝利を確信し、背を向けて歩き出した。

 

「さて………アヌビス神は大丈夫でしょうから、鏡史郎さんの方に行きますか………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「!?アスナさん!スバルさん!!」

 

一方、犬耳の少年と対峙していたネギは、明日菜たちの危機を知って声を上げる。しかし、少年は攻撃を止めない。

 

「ヨソ見すんなぁッ!!」ドウッ

「うわ!?」

 

少年はネギに殴りかかり、ネギはそれを杖で防御、至近距離から『魔法の射手』を3発発射する。

 

「チィッ!」

 

少年はそれを難なくかわすとネギの足を払い、追撃で拳を振り下ろす!

しかし、ネギは地面に倒れる寸前で後方に「滑って」回避、拳は地面に当たって小さく陥没を作った。

 

「何!?」

 

少年が驚く間もなく、ネギは既に次の行動に移っていた。左手の指を少年に向けると、『タスク』を5発発射!少年は最低限の動きで避けるが、背後の鳥居の柱が両断されたのを見て、次いで左頬の痛みでぞっとした。

 

(コイツ、こんな攻撃を………そして!さっき滑ったように移動したんは、爪のカッターを回転させて地面を走ったっちゅう事か………!)

 

少年は、地面に5本の『切れ込み』を見た。それは、ネギが回転の摩擦で移動した事を意味している。

 

(ぬるま湯に浸かっているような西洋魔術師ブッ飛ばしたろー、って思って来たけど………コイツ、結構な『修羅場』潜っとるやんか………!)

 

少年は、ネギを『温室育ちで女に囲まれている情けないガキ』と思い込んでいたが、今の攻撃で認識を改めた。

 

(……どうしよう、アスナさんたちの方に近づけない………)

 

一方のネギは、木の根に縛られる明日菜たちを心配していた。少年には未だ隙がなく、抜け出して2人を助けに行けそうにはない。

 

ドガァッ

「ぐぁっ……!」

「え!?」「何や!?」

 

その時、2人のすぐ側に赤い影―――ノーヴェが倒れこんできた!

 

「オラオラァ!どーしたよォ!?」

ドバババババババババ

 

すぐに、ブチャラティもバックステップで飛んでくると、2人と戦っていたらしい青年・鏡史郎が、『クレイジー・ダイヤモンド』による攻撃を行っていた!

 

「ブチャラティさん!な、何でクレイジー・ダイヤモンドが………!?」

 

ノーヴェに手を貸すと、鏡史郎と離れたブチャラティにネギが聞く。答えたのはノーヴェだった。

 

「や、奴は『別のスタンドに化けるスタンド』だったんだ!ブチャラティの仲間のスタンドに化けて、その後、アタシに触れてあの姿に………!」

「ええ!?」

 

ノーヴェの説明に驚くネギ。鏡史郎は少年の隣に立つと、少年は鏡史郎をにらんだ。

 

「何やニーチャン、女殴るなんてカッコワリーで?」

「あン?気にすんなよォ!スタンド使いに男も女もカンケーねェだろ?」

 

鏡史郎の態度にカチンと来たのか、ネギが反論した。

 

「聞き捨てなりませんね……今は『敵』だけど、僕もその子に同意見ですよ……女性を殴るのは、男として最低の行為ですよ!」

「何だと?」

「おうお前、気が合うな。ブッ飛ばす前に、名前聞いたろ。」

 

少年はそう笑うと、ネギはキッとにらむ。

 

「僕は『ネギ・スプリングフィールド』………けど、1つ訂正させてもらうと、ブッ飛ばされるつもりはないよ!」

「はん!言うやないかネギ!オレは『犬上 小太郎(いぬがみ こたろう)』や!覚えときぃ!」

 

ネギと小太郎は互いに名乗ると、再度構えを取った。

 

「おいおい、ガキだけで何盛り上がって―――!?」

 

鏡史郎が言おうとしたその時、ネギたちの後方から黒い影が飛んできて、鏡史郎たちに突っ込んでくる!

 

「うぉおッ!?」

「何!?」

 

黒い影―――ルーテシアの召喚獣ガリューは小太郎を蹴り飛ばすと、その場から引き離した!

 

「ガリュー!」

「ルーお嬢が間に合ったか!」

 

ガリューの介入に声を弾ませるネギとノーヴェ。ネギは再び、小太郎の方へと駆けだした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「!?新手………!」

 

一方、鏡史郎の元に向かおうとしていた調は、ガリューの乱入に驚いた。想定よりも援軍の到着が早かったが、慌てる事無く『狂気の提琴』を構える。

 

 

 

「ガリッ」

「ガリガリッ」

 

「ガリッガリッガリッバキッガリッ」「ガリガリ」「ガリ」

 

 

 

「…………?」

 

ふと、何か奇妙な音が、そう、何か()()()()()()()()()()()()音がした………

調が音の方――――自らの後方を振り向くと、そこでは………

 

「バリバリッバキッ」「ガリガリガリガリッ」「バキバキッ」

「なっ……………!?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ガッキィィィィイイイイイーーーン

「なっ……………何ィいッ!?」

 

アヌビス神に向かい小太刀を切り上げた千雨は、信じられないという表情で声を上げた。

上に向かい双刀を突いていたはずのアヌビス神だが、千雨の刀は『交差する二本の刀』に阻まれた!?

 

「ふう、危ない危ない………まさか、何の対策もないと思ったか………?」

「な………何だよてめえ、そりゃあッ?」

「これこそ、お前に勝つため身につけた新たな力………その名もッ」

ドシュゥゥウウーーーーーー

「「!?」」

 

瞬間、千雨の両側から刀が袈裟懸け、逆袈裟に襲いかかってきた!

慌てて飛び退いたために、千雨は胸にかすり傷を作った程度ですんだが、アヌビス神の、いや、アヌビス神に憑依されたディードの姿を見て絶句した。

 

ディードの両肩には、先端がとがり、横から見たら異形の顔に見える肩鎧を身にまとっていた!その両目に当たる部位にある球体からは、それぞれ機械の腕が生えており、それらには『ツイン・ブレイズ』に似た刀が握られていた!

 

「『エターナル・ブレイズ(無限刀剣)』だッ!!」

「ばかなッ…………『スタンドの鎧だとッ』!?」

 

オットーは(オットーにしては珍しく)声を上げて驚いた。

確かに、ゲンヤと承太郎から『ISはスタンドに近づくための技術(ちから)』だとは聞いていた。だが、それが何故ディードにスタンドが発現しているのか………?

そんな風にオットーが考えを巡らせていると、千雨がはっとしたように声を発した。

 

「てめぇ………まさか『矢』で…!」

「えッ!?」

「―――その通りだ!このスタンド『エターナル・ブレイズ』は、矢の力でディードのIS『ツイン・ブレイズ』が昇華した能力(ちから)だぁッ!」

 

アヌビス神の話を聞いた2人は、再び絶句してしまった。

 

あの女(ヴィオレッタ)は、『コイツ』を試すために戦闘機人が欲しかったらしい…………ISをスタンドに昇華させる実験のためになぁ……………」

「何ィ………!?」

「まさか………その為にディードを………ッ!?」

「やったのは私じゃあないがな…………ウッシャァァァアアアアアアーーーーーーッ!!」

ゴオッ

「くっ………誰でもよかったのかよォオ!!」

ズガガガガガガガッ

 

叫びながら、千雨はアヌビス神に連続で切りかかった!だが、実に千雨の二刀流に対し、スタンドの刀が加わったアヌビス神は、言うならば三倍の六刀流!対応が遅れたら、それだけで死に直結する。

 

「(ひ……………一太刀一太刀が今までで一番の技とスピードで……………それが六刀全部がそうだなんて……………!)ちくしょおがアァァッ!!」

ギィィイインッ

 

たまらず、千雨はその場から飛び退いた。だが…………

 

「甘いわァア!!」

ドッバァァアアア

「ぐっ……………!」

 

アヌビス神はそれを逃がさず、千雨に六刀全てで切りかかる!

 

 

 

 

 

ズガガガッ

「!?」

「にゃにィイーーーッ?」

 

だが、その斬撃は突如現れた『光弾』により阻まれた!

 

「………ヴィオレッタ、アヌビス神…………お前達は許さない…………ッ!」

「オ………オットー!?」

「ちいっ(アイツはディードには手を出さないとふんでいたのだが………)」

 

光弾を放った張本人―――オットーは、その目を怒りで染めながら呟く。予想外の出来事に、千雨とアヌビス神は驚愕する。

 

「手を貸すよチサメ!これ以上、ディードの体を好き勝手させないッ!!」

「あ、…………ああ。」

 

正直、千雨もオットーが加勢してくれるとは思っていなかったため、申し出された事に戸惑った。

 

(スタンドの刀は僕が『抑える』。君はその内にアヌビス神をディードから――――)

(分かった。)

 

戸惑いながらも、千雨たちは小声で話し合い、アヌビス神に飛びかかった。

 

「捕らえろ!『レイストォォォオオオム』ッ!!」

シュババババババァァァ

「ウッシャァァァアアアアアア!!」

 

アヌビス神は『エターナル・ブレイズ』の刀でレイストームの弾を弾いたが、

 

バキィイッ

「ぐうっ………!?」

 

その衝撃で、刀身が破壊された!

 

「ここだぁあッ!!」

 

その隙を千雨は見逃さず、一気に小太刀を突き出す!

 

「ぅ甘いわァアッ」

シャキィィイイイン

「何ッ!?」

「ウッシャォアアアアアッ」

 

だが、千雨の小太刀がアヌビス神に届く前に、『エターナル・ブレイズ』の刀身が『直った』!?

直った途端に、アヌビス神はその4刀と双剣の六刀を千雨に振るう!

 

 

 

 

 

ガッシィイイイ

 

 

 

 

 

「!?」

「なッ!ニヤニィーーーッ!!?」

 

だが、それは『光る輪』に腕を縛られたために止められた!

 

「『レイストーム』………砲撃弾にバインドを混ぜて放った…………」

「オットー…………」

 

オットーの機転に、アヌビス神は歯を噛み締める。そして、千雨は一瞬戸惑うも、トドメに入る!

 

 

 

「おおおおおッ奥義!!」

 

千雨は高く飛び上がると、コマのように回転しつつアヌビス神に向かい逆手二刀を突きつける!

 

「雷鳴月華・(あまつ)ッ!!!」

ズババッバァアア

「グオアアッ!?」

 

千雨の放った二連撃は、アヌビス神―――ディードの胸を切り裂いた!

 

 

 

 

 

←to be continued...




58話です。

・鏡史郎の能力は『記憶』のスタンド『リード・マイ・マインド』。分類で言えば、SBRの「シビル・ウォー」に近いかも。

・調の能力防御は途中で思いついたもの。遠距離型と接近型等の違いはあれど、2人の能力は似通っている事に気づきまして。

・ネギVS小太郎。タスクの摩擦による移動ってやってなかったので、ちょっと入れてみました。

・ディード、スタンド使い化。「ISがスタンドに近づくための技術」という事で、ジャイロの『スキャン』みたいな感じでしょうかね。

では、次回をお楽しみに!


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#59/リード・マイ・マインド ③

バッキィイッ

「うおっとッ」

「た………助かったの?でも、一体何が………?」

 

突然、自分たちを締め付けていた木の根が折れて解放された明日菜とスバル。

締められていた場所をさすりながら、訳が分からないという顔で呟いたスバルは、ふと、木の根の根元に、何かいるのに気づいた。

 

それは………

 

「キキッ」

「キキキッ」

「……………び………」

「ビーバー………?」

 

そう、「ゲッ歯目ビーバー科」に属する動物『ビーバー』が、3匹ほどいたのだ。どうやら、このビーバー達が木の根をかじって折ったようだ。

何でビーバーがこんな所にいるのだろうと思った瞬間、ビーバー達は体を丸めたかと思うと、その体表を()()()()()()に変えていき、1秒もしない内にゴトリ、と音を立てて『石のブロック』になった。

 

「ビーバーが石に!?まさか、スタンド!?」

「えっ?(何………?この感じ?前にも感じたような………)」

 

明日菜がビーバーに驚愕する中、スバルは『ある感覚』に捕らわれていた。そう、『そこに誰かいる』ような………そんな感覚に………

 

「『ゴールド・エクスペリエンス』…………石の柱に生命を与え、ビーバーにした………」

 

不意に、調の背後から声がした。

ふと見ると、いつの間にか康一と、金髪の前髪を三つのカールにした男がいた。

その背後には、まるで競輪のヘルメットを被ったような頭に肩には翼の飾り、そして腰や手の甲に施されたテントウムシの装飾が特徴的な金色のスタンドが立っていた。

 

「こ、康一さんと………?」

「えと………隣のあなたは………?」

 

 

 

「………ジョルノ…………ジョルノ・ジョバァーナだ。」

 

 

 

 

 

#59/リード・マイ・マインド ③

 

 

 

 

 

「ちぃ!このデカブツ………!」

 

ガリューと合流し、小太郎と対峙するネギ。ガリューは格闘で小太郎の動きを制し、その隙にネギが『魔法の射手』で攻撃するという前衛と後衛の戦法で徐々に追い詰められていた。

 

(攻撃しようにも、コイツ結構できるし………出し惜しみしとる場合やないな!)

 

小太郎はガリューから距離を取った。すると、小太郎の足元の影から爆ぜるようにして黒い狗が何匹も出現した!

 

「え!?」

「…!?」

 

突然出現した黒い狗に驚くネギとガリュー。しかし、狗たちは構わずに迫ってくる!

 

「うおらァアッ!!」

ドガッ

「「!?」」

 

ネギたちが狗に対処している隙をついて、小太郎はその拳をネギに叩き込み、ガリューの首筋に蹴りを突き刺した!

 

「はっはー!どうや!『狗神(いぬがみ)使い』のおれの戦法や!」

 

小太郎が勝ち誇ったように言う。倒れていた2人が起き上がるのを見ると、狗神たちに追撃させる!

 

「ガリュー!」

「え!?」

 

その時、ガリューに追いついたルーテシアが走って来た。ルーテシアに気づいたらしい狗神の数体がそちらに迫った!

 

「あ!?」

「お、オイコラお前ら!?(アカン!急に出てきたからアイツらの制御が効かん!!)」

「あ、ル、ルーテシアさん!」

 

狗神の制御が出来ないことに焦る小太郎であったが、狗神たちは驚くルーテシアに容赦なく向かってくる!

 

 

 

バキンッ

 

 

 

「「「キャイーン!!」」」

「!?」「え!?」

 

だが、狗神たちが噛みついたその時、()()()()()()()がしたかと思うと、狗神たちは悲鳴を上げて消滅した!?

小太郎とガリューが呆気に取られているが、ルーテシア自身も何が起きたのか分からない様子であった。

 

「い、今のは………」

「……?…!?」

 

しかし、ネギは見ていた。狗神たちがルーテシアに襲いかかった時、ルーテシアの身体を()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(今のは、間違いなく()()()()!ルーテシアさんが『スタンドを見る事が出来る』のは知っていたけれど、まさか彼女自身がスタンド使いだったのか………!)

「な、何や?今何が起こったんや………!?」

 

ネギが考えていると、隣の小太郎が混乱した声を出した。それを聞いてはっとしたネギは、直ぐに行動に出た。

 

「今だ!魔法の射手(サギタ・マギカ)雷の11矢(セリエス・フルグラーリス)!!」

「あ!?」

 

小太郎が気づいた時には、ネギの放った魔法の射手が目の前に広がっており、「あ、これ避けるのも防ぐのも間に合わないな……」と思った………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

一方、ノーヴェとブチャラティは鏡史郎の『リード・マイ・マインド』が化けた『クレイジー・ダイヤモンド』のラッシュから逃れていた。

 

(やつの言う『制限時間』がどれくらいなのかは分からない………だが、制限時間が来たとしても、また他の記憶を読み取られてスタンドに化けられる…………意外と厄介だな……………)

 

ブチャラティがそう分析するが、手はない訳ではない。

 

(こーいったスタンドは、本体を叩けばいいんだが………今のヤツのスタンドは『近接パワー型』………迂闊には近づけない…………)

「やっぱ………一筋縄じゃいかないな…………」

「へッ!さっきまでの威勢はどーしたよォ!?」

 

ノーヴェの呟きを聞き取ったのか、鏡史郎が挑発するように言うが、内心ではホッとしていた。

というのも―――――

 

 

 

「くらいやがれェッ!!」

グォオオッ

「来たッ!?」

(は………速い………?右か!?)

 

ノーヴェがそう考えた瞬間―――――

 

「左です!ノーヴェさんーーーッ!!」

「「!?」」

ドガァッ

「な……………何ィッ!?」

 

突如響いた声に、2人は素早く飛び退いた!

 

「い………今のは……………?」

「行け!『セックス・ピストルズ』ッ!!」

ガンッガンッガァアーーーッン

「銃声ッ!?」

『『『イイイーーーーーーッハァァァーーーーーーーッ!!』』』

「!?ピ……………ピストルズッ!?」

 

次に聞こえたのは銃声だ。後、何やら甲高い声が3つ聞こえ、そのまま弾丸が通り過ぎるのが目視できた。

 

「――――ちッ」

ガキンッガキンッガキンッ

 

だが鏡史郎はそれに臆することなく、弾丸を弾いて防御した。

 

「………ちっ、弾いたか…………」

「あれは…………クレイジー・ダイヤモンド!?」

「うわっとォ!?」

 

ふと、自分たちの背後から声がしたかと思うと、鏡史郎の頭上から火球が迫るが、鏡史郎はとっさに避ける。

 

「ホンヤとアギトか!」

「ノドカ……………そ………それにお前は……………ッ!?」

 

2人が、声がした方を見ると、そこには『(アーティファクト)』を開いたのどかとアギト、それに――――――

 

 

 

 

 

「よお、久しぶりだな、ブチャラティ。」

「何かコイツ等、お前の知り合いなんだって?」

 

徐倫と、拳銃を構えたニット帽の男―――グイード・ミスタがいた。

 

「ミスタ…………何故お前が…………!?」

「ブチャラティ、再会を喜ぶのは後だ。今はコイツをブチのめすんだろ?」

「ちィッ、援軍かよォ!」

ゴオッ

「あッ!右ですノーヴェさん!」

ブオンッ

「何ッ!?」

「上ッ!!」

ドガァッ

「うりゃッ」

ゴスゥッ

「ぐあッ!?クソォォォッ!!」

「み………右うしろ回し蹴りだそうですーーーッ」

ゴオッ

「なッ………!?何でェ……………!?」

「アリィイッ!!」

「ウリィィャアッ」

ドグシャアッ

「ぐえぷゥッ!?」

 

鏡史郎は次々にクレイジー・ダイヤモンドの攻撃を繰り出すが、のどかのサポートを得たノーヴェとブチャラティにことごとくかわされ、あまつさえ反撃を喰らってしまった。

 

ドロロロォォ

「!腕が………」

「ちィッ………もうそんなにたったのかァッ!!」

 

と、突然『クレイジー・ダイヤモンド(リード・マイ・マインド)』が溶け始めた。時間切れが近いらしい。

 

「クソゥ………(あのガキ………オレの攻撃が全部読まれた………そんなヤツがいるなんて、あの女から聞いてねェーぞ…………いや、今はそれよりも、新しいスタンドを仕入れにゃァな………ん?)」

 

ふと、鏡史郎は徐倫を見た。

 

「(そういやァ確か、あのガキの親父『時を止められる』んだったなァ………こうなりゃ、一か八か――――)『リード・マイ・マインドッ!!』そのガキの記憶を読みとれェッ!!」

ドロロロォォ

「何ィッ!?」

「何だこいつはーーー?」

 

鏡史郎が叫ぶと、『クレイジー・ダイヤモンド』だった『リード・マイ・マインド』は再び銀色の液体金属のような姿になり、徐倫に迫り、徐倫の足に引っ付いた!

 

「ジョリーン!そいつはふれたヤツの記憶を読み取って、そいつが過去に出会ったスタンドに化けるぞッ!それに、姿だけじゃあなく、能力まで再現しちまうッ!!」

「何ッ!?」

「そんな………まさか『スタープラチナ』を!?―――――あれ?」

 

『リード・マイ・マインド』の能力に戦慄する徐倫たちだが、ふと、のどかは手元にある鏡史郎の心を読んでいた「いどのえにっき」を見た。そこには――――――

 

 

 

「さあッその姿を見せろッ!!『リード・マイ・マインド』ォォォーーーッ!!」

 

そして、『リード・マイ・マインド』はその姿を再び変え始めた。その姿は―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トマトに顔と腕が付いたような、ちいさな群生型スタンドだった。

 

「「「「…………は?」」」」

「…………………」

「パ………………『()()()()()()()』……………?」

 

そのスタンド―――「パール・ジャム」を見た一同は、あっけに取られた顔をし、鏡史郎も、叫んだ顔とポーズのまま固まっていた………

 

「あのー…………」

 

そんな入り辛そうな場に、のどかが手を挙げて声を出した。

 

「な、何かその人、どのスタンドになるかは自分で決められないそうですーーー……………」

「………つまり、どんなスタンドになるかは、ランダムで決まるって事か……………?」

 

ミスタの問いに、のどかは小さく頷いた。そんな中、鏡史郎は汗をダラダラ流して、「は………ハハハー……………」

と、力なく笑い、

 

「……………んじゃァ、オレはこれで失礼をば―――――」

「「「待てや。」」」

ガシィッ

 

背を向けて逃げようとしたが、ミスタ、ノーヴェ、徐倫に止められた。

 

 

 

☆数分後★

 

 

 

ズッタンズッズッタン!ズッタンズッズッタン!

 

「ンゴォおおおォォォォーーーッ」

「――――どッ、どどどどうやらこの人、ヴィオレッタさんに雇われたスタンド使いさんらしいですーーー………スタンドは、数日前発現したそうですーーー……」

「ヴィオレッタに関する情報は?」

 

ズッタンズッズッタン!ズッタンズッズッタン!

 

「ゥんがァアアアーーーーーーアァッ!」

「ややややや雇われただけだから、何を計画してるとかは、全くらしいですーーー……………」

「そうか………」

 

ズッタンズッズッタン!グイン!グイン!バッ!バッ!バッ!バッ!

ズッタンッズッズッタン!

 

「ンんガァァァァァァーーーーーーッ」

「あ、ででででもー、ここからの脱出方法は分かりましたーーー。ネ、ネギ先生たちと合流しましょうーーー………」

「分かった。おーいお前らー、もういいぞーーー?」

「え?もういいの?」

 

鏡史郎を「拷問」していたノーヴェが、徐倫に聞いた。

その顔は、どこかやりきった感にあふれていた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ジョルノ・ジョバァーナ?(そのような方の情報はなかった…………後の一人は、確か『重くするスタンド』使い………)」

 

突然表れたジョルノ・ジョバァーナと名乗った青年は、康一と共に調と一定の距離を置いていた。

 

「大丈夫、スバルちゃんたち?」

「えっ、うん、平気。ちょっとアザになっただけ…………」

 

心配そうに声をかける康一に、明日菜は大丈夫と答えると、スバルは康一に話しかけた。

 

「康一さん、あの人は特殊な「音波」で、物質を破壊します。それに、さっきの木の根も要注意です!」

「『音波』………?」

 

康一はスバルのアドバイスをオウム返しすると、しばし考える仕草を見せ、不意にニヤリと笑った。

 

「なるほど………ありがとう、スバルちゃんのお陰で、何とか勝てそうだよ!」

「えっ……………?」

「………ほう、私に勝つおつもりで?」

 

不敵な笑みを浮かべる康一に対し、調は小馬鹿にしたように聞き返す。

康一はジョルノに目をやると、ジョルノは『ゴールド・エクスペリエンス』で殴りかかった!

 

「ゴールド・エクスペリエンスッ!!」

ゴォッ

「………甘い!」

 

だが、ゴールド・Eの拳に臆せず、調は弓を走らせて『音波の壁』を作り防御する。

 

「音!これがあの少年の言っていた彼女の能力かッ!」

「分かってくれて光栄です!」

 

言うや、調は再び弓を走らせ、ジョルノの足元の石畳を破壊する!

 

「くうっ!」「ああッ………」

 

たまらず飛び退くジョルノ。次いで調は、康一に向かい音波を放つ!

 

ゴガァッ

「うわっと!」

「康一さん!えっと、ジョルノさんッ!!」

 

スバルが悲痛な叫びをあげる中、康一は『エコーズ』を出した。だが、2人は疑問を持った。

康一の身体から出たエコーズは長い尻尾を持った幼虫のような姿をしており、一昨日見たものとデザインが違うのだ。

 

「行けッ『エコーズACT1』ッ!!」

 

康一が叫ぶと、エコーズはなにやら『文字』のようなモノを、調に向かい投げつけた。不意を突かれたのか、調は防御が間に合わず、それを喰らってしまった。

 

「くうっ………?」

 

だが、特に傷ついた様子はなく、ダメージはないようだ…………

 

「…………ふう、なにかと思えば……………何もおこらないじゃないですか……………悪あがきはお終いです!」

 

言うと、調はバイオリンの弓を走らせる―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「…………………………………?」」」

 

だが、いつまでたっても何も起こらない。不思議に思ったネギたちはあたりを見渡し、ジョルノは感心したような顔をし、康一は不敵にニヤリと笑っていた。

 

「な!?どうなっている!?何故何も起こらないッ?わ………私の狂気の提琴が……………!?!?!?」

ギーコギーコギーコギーコ

 

一番訳が分からないようなのは調だ。自らが自信を持つ音波攻撃が、急に発動しなくなったからだ。調はパニックになったのかひたすらに弓を走らせるが、下手くそなバイオリンの音が鳴るだけだ。

康一は「してやったり!」と言うような笑みを浮かべる。

 

「甘くみたね。僕の『エコーズ』は、重くする以外にも能力があるのさ!」

「なッ!?バカなっ!スタンドは『一人一能力』のはずッ!?」

「ああ。だが、僕の『エコーズ』は、「成長」するスタンドなんだ。成長する度に、能力も『変化するッ』!!今の『エコーズACT1』の能力は、「音を染み込ませる能力」でね。さっきの一撃から、『君の音波の波長』を調べて、その音を『バイオリンに染み込ませて』もらったよ!!」

 

「音波の波長」と聞いて、調ははっとした。

 

「ま……………まさか……………お、………同じ『音波を当てて、打ち消した』と言うのッ!?」

 

騒音公害の対処法のひとつに、『消音スピーカー』というものがある。

騒音源の音を拾い、それと逆相になるような音を作りスピーカーから出力し、結果的に打ち消しあって「騒音レベルを下げる」ことを目的としたものであり、「ノイズ・キャンセラー」ともいう。

先ほどのスバルもこれと同じ原理で、似たような音や振動波を当てれば打ち消される訳だ。

 

「でも、スバルが『発動後に打ち消した』のに対して、康一さんは『発動前に打ち消した』!つまり!!」

「あの子の音波を………完全に封じた………………!」

 

明日菜たちが感心する中、調は青ざめていた。だが、不意にふっ、と笑うと…………

 

「だがッ、私にはまだこれがッ!!」

 

調がそう叫ぶと、周囲から無数の木の根が表れた!そして、それらは一斉にからみつき、調を縛り上げた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、調()()()()()()()()()

 

「!?!?がっ!?こ……………これはッ!?!?!?」

「ものに『生命』を与え、新しい命を生み出す……………それが『ゴールド・エクスペリエンス』!石畳に『生命』を与え、木の根にした……………」

「わッ……………私よりも先に木の根を……………!?」

 

締め付けられ苦しみながらも、調は声を絞り出した。その声は、絶望に染まっていた………

 

「さ………最悪の相性ね……………」

「『音』も『植物』も……………完全に封じるとは……………」

「さて、もはやキミの再起不能は確実だが………一応『ダメ押し』をしておこう……………まあ、それ位の「覚悟」を持ってかかってきているんだろうしな。」

「あ………あああああ……………」

 

ジョルノはそう言うと、ゴールド・エクスペリエンスの拳を振り上げ――――――

 

 

 

 

 

「いやあああああァァァァーーーッた、助けてルミ――――」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァアアーーーーーーーーーッ!!」

 

せめてもの情けなのか、調の顔を一切狙わないジョルノのラッシュが、調にたたき込まれた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ズシャァアアアッ…………

 

オットーのバインドが外され、千雨から受けた傷でディードが倒れ込んだ。

 

「…………い、一応手加減はしたが……………」

 

少し焦った様子で呟く千雨だが、ディードの手には未だアヌビス神の妖刀が握られていた。

 

「だめだ………まだ握っている……………」

「さっさと刀を破壊しなきゃ、また来るな………………」

 

千雨がそう呟いた時……………

 

「―――なるほど、オットーが攻めてくるのを想定していなかった……………だが、もう『憶えた』!」

「「!!」」

 

アヌビス神が、ムクリと起き上がった。

 

「だが、オットーの戦闘は、すでにディードの体が憶えている!もうその手段()は絶対に、絶対に絶対に絶っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜対に喰らわんッ!!」

 

言うと、アヌビス神は再び『エターナル・ブレイズ』を発現し、構えた。

 

「ちっ、(出来ればやりたくなかったが、こうなりゃ仕方ねぇ………)オットー、今からちょっと『ショッキング』な事するから、目を塞いどけ。」

「………悪いけど、それは出来ないよ。何としてもディードを救うと決めたんだ。」

 

オットーのその言葉を聞き、千雨はやれやれとため息をついた。そして、右手で『突き』の構えを取った。

 

「―――行くぞッ!」

「応ッ!!」

 

言うや、2人は同時に地面を蹴った!

千雨は右手で突きを放つ。

狙いは――――アヌビス神の妖刀が握られている、ディードの『左手』!!

 

(腕にダメージを与えて………アヌビス神を手放させる気か!)

(甘いわ千雨ッすでに貴様の間合いは『憶えている』!その距離からでは!私の左手には届かんッ!!)

 

千雨の小太刀の長さは約60センチ。

それに千雨の腕の長さを含めても、今の位置からディードの腕を突くのは不可能だと、アヌビス神は考えた。

 

だが、

 

 

 

 

 

ググーーーーーン

「なッ……!?」

「ニャニィッ!?」

 

千雨の腕が急に手元でグーンと()()()!?

 

ドスゥウッ

「ゲッ!」

 

間合いがのびた為に、アヌビス神は腕にダメージを受ける!

 

「な…………何だ?……………今のワザは……………?」

「……………誰が教えるかよ。」

 

腕の長さが戻った千雨は、『エターナル・ブレイズ』を解除して崩れゆくアヌビス神に向かい呟いた。

再びディードは倒れ、アヌビス神の妖刀は地面に突き刺さった

 

「こ……今度こそ終わったのか………?」

「ああ。だが、アヌビス神はまだ生きている。どーにかしないと、また襲ってくるな…………」

 

「エンゼル」を解除した千雨とディードに駆け寄るオットーは、さてどうしたものかと考える。

地面に突き刺さったアヌビス神を抜けば、操られるのがオチだ。

オットーの『レイストーム』なら破壊出来るだろうが、「折れた刀身」でも行動できるやもしれない。

 

2人が悩んでいると、不意に声をかけられた。

 

「いやぁ〜〜〜〜〜〜〜、影から見ていたが、なかなかいい勝負だったねぇ〜〜〜」

 

出てきたのは露伴と、亀を持った女性だ。

 

「!ろ、露伴先生……………」

「こんな所まで着いてきたのかよ……………ホント、漫画の事になると――――!」

 

と言いかけて、千雨はあることを思いついた。

 

「露伴先生、ちょっとお願いがあるんスけど――――」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

地面に突き刺さったアヌビス神は、誰かが自分を引き抜いたのに気がつき、早速操った。

 

「――――む?この体は………オットーか!?意外にも間抜けなヤツだなぁーーーッ妹と同じ目に遭うとはッ!!」

 

オットーの間抜けぶりにあきれながらも、アヌビス神は早速千雨を発見した。他に2人いるようだが、関係ない。

 

「千雨、貴様のあの技の原理は知らんが、確かに憶えたぞッ!!次こそは――――」

アヌビス神が言い終える前に、千雨の隣にいた男が手を上げた。そして―――

 

 

 

 

 

「ヘブンズ・ドアーッ!!」

バァアーーーーンッ

 

瞬間、オットーの体が本のように『めくれた』!

そしてそれは、アヌビス神の妖刀にも進行していき、そのままアヌビス神もろとも吹っ飛んだ!

 

(なッ!!何だ今のはッ!?あいつのスタンド能力かッ!!)

「いくら『スタンドが取り憑いている』とはいえ、無機物に僕の『ヘブンズ・ドアー』は通用しない………だが、肉体を乗っ取って、意識が人間側に表面化している状態であるならば、アヌビス神!お前に通用するというわけだ………」

 

アヌビス神が驚く中、男―――岸辺 露伴はアヌビス神に近づき、アヌビス神のめくれたページに、こう記した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()。』

 

 

 

 

 

アヌビス神――――再起不能。

この後スバルが柄に「京都」と書いて、シグナムへの土産にした。

はやてによると、たまにレヴァンティンやザフィーラと『会話』しているらしい。

 

ディード―――救出成功。

千雨が手加減したお陰か、命に別状はなかった。

 

宮崎 のどか―――ノーヴェたちが行った『拷問』がトラウマになった。

 

富良野 鏡史郎・犬上 小太郎―――徐倫の提案で連行される。

再起可能

 

 

 

←to be continued...

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

気がつくと、調はベッドに横たわっており、側には『あのお方』がいた。

 

「ル………ルミリオ………様……………」

「気がついたかい、調?まさか、キミが敗北するなんてね………」

 

ルミリオと呼ばれた少年が調の頭を撫でながら言うと、調は恥ずかしそうに眉を下げた。

 

「申し訳ございません………油断しました……………」

「仕方ないさ……………まさか()()が出てくるなんて、ボクにも予想できなかった……………彼女(ヴィオレッタ)には、ボクから伝えておこう。キミは、ゆっくり休むと良い。」

「………はい。」

 

調が頷くと、ルミリオは部屋を後にした。

 

 

 

調―――再起可能

 

 

 

 

 

←to be continued...




59話です。

・小太郎戦は少しアッサリ気味……ルーテシアのスタンドの鱗片を見せるためとはいえちょっとカワイソーだったかも……

・鏡史郎の『リード・マイ・マインド』の弱点は、「運任せ」という事。能力は恐ろしいですが、微妙に使い勝手悪いです………
拷問のアレは言わずもがな(笑)

・調(音波+植物)VS康一(音)+ジョルノ(生命)は、相性最悪な戦いに………『ノイズキャンセル』を知ったときに、康一VS調をやりたいなぁと考えて実現した戦いです。

・アヌビス神戦決着。千雨の最後のアレは『波紋』の代名詞である『ズームパンチ』の応用です。アヌビス神の末路は、最初から考えてました(笑)

・最後に出てきた『ルミリオ』は、『ネギま』のフェイト・アーウェルンクスです。『なのは』の方のフェイトと被らないために改名しました。どことなく漂う格好良さが彼らしいでしょ?(笑)
名前はトヨタのカローラルミオンから着想しました。

では、次回をお楽しみに!


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#60/キタッラ兄妹 ①

「―――本当に、お久しぶりです……………ブチャラティ……………」

「ジョルノに……………トリッシュまで……………何でまた京都に……………!?」

 

千本鳥居から脱出したネギたちは、傷を負った者たちの治療を兼ねて、近くにあった河原で休憩をしていた。

オットーとルーテシアはディードを介抱し、スバルは徐倫たちとで集まり、露伴は「今まで操ってきた人間の記録が書いてある」と、興奮気味でアヌビス神を読んでいた。ちなみに、アヌビス神は本にされた際、柄が巻物のような状態になっている。

 

「………あの、空条さん……あの人たちってもしかして…………」

「ああ………ブチャラティのかつての仲間たちだ……………」

「やっぱり………」

 

徐倫の説明に、スバルらは納得したように頷いた。彼らの話す様子を見れば、どのような仲かは、簡単に想像がついた。

 

「いえ、実は『組織(パッショーネ)』の裏切り者が日本にいると聞いて、部下に探させに行かせた所、あなたを見つけたという知らせを聞きましてね………その情報を知ったらしい『ルル・ベル』が、僕たちに接触してきたんですよ。」

「ルル・ベルがッ!?」

「あの娘、そんなトコにまで()()張っていたなんてね………」

 

ジョルノの話に、皆はルル・ベルの情報網と行動力に感心と呆れの混じったような顔をした。まさか、イタリアのギャングの情報まで掴んでいるとは…………

 

「まあ、その裏切り者―――『サルシッチャ』もルル・ベルの側にいたからな。」

「何!?あいつ、パッショーネの構成員だったのかッ!?」

 

ミスタの付け足した言葉に、ブチャラティが声を上げた。

 

話によれば、サルシッチャはかつて組織(パッショーネ)の負の遺産『麻薬密売チーム』の輸送班リーダーだったらしく、ジョルノの方針でチームが解散、その後の保証はすると言ったのだが、それに反発するチームのメンバーが、ジョルノを暗殺未遂したらしい。

それにサルシッチャは、責任は自分にあると申し出て、『裏切り者』とされて組織から追われる身となったのだという。

だが、実際サルシッチャは暗殺に関与していない事が後に判明した。

主犯と名乗り出た『ラザニエ』によれば、リーダーである自分が責任という事にしろと言ってきたらしい(ちなみにその後、ラザニエはジョルノの監視下で監禁されているらしい)。

だが、それを知った時には、サルシッチャは自分の右手と左手であるソルとルナを連れて、行方知らずとなっていたという。

 

「表向きには、『裏切り者の粛清』という名目で探していました。探し出したら、コッソリヨーロッパの片田舎にでも隠すつもりでしたが………」

「その心配はなかったという訳か…………」

「………随分、部下思いな方なんですね………」

 

サルシッチャの意外な過去に、皆が息を飲む。

 

「………『スタンド使いとスタンド使いには「引力」があり、無意識のうちに引かれ合う』………一つのことで、ここまで引き合わせられるなんて…………」

「ある意味、そのヴィオレッタって女に感謝しねーとな………こうしてまた、ブチャラティと話が出来たわけだしな。」

 

ミスタが笑いながら、皮肉ったように言うと、違いないとスバルたちは苦笑いする。

 

「………『こっち』は問題なく再会できたな…………」

「問題は―――」

 

徐倫と明日菜が心配そうに見つめる先には、ジョルノの持ち込んだ『亀』が、ノンキそうに甲羅干しをしていた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

千雨は最初、最近似たようなことがあったなあ、と思った。

 

気づいた時、千雨は八畳位の部屋の中にいた。

 

部屋には、ソファーとテレビ、冷蔵庫といった家具と、車椅子に腰掛けた男性がいた。

 

その男は、千雨にとって身近すぎ、だが、遠い人物だった………

 

 

 

 

 

「………………その、なんだ……………久しぶりだな………千雨……………」

「と……………父………さん………………!?」

 

 

 

 

 

#60/キタッラ兄妹 ①

 

 

 

 

 

ネギたちが千本鳥居を脱出したころ―――

 

京都シネマ村

 

 

「―――で、ハァ………いきなり刺客にハァ、狙われて、ココにゼェ…、逃げ込んだワケね…………ハァ」

「はい………すいません、『念話』苦手なもので…………」

 

肩で息をしながら話すティアナに、刹那が謝る。近くにいるチンクやギンガ、アナスイも息を切らしている。

 

「………まあ、これだけ人がいれば、あちらさんも下手に手を出してこないだろうな。」

「だろうな……」

 

息が整ったのか、アナスイが周りを見ながら言う。

周りには刹那の言うとおり、修学旅行生をはじめとした観光客が大勢いる。こんな中なら、さすがに連中も派手に手出しをできないだろう。

 

「だが、スタンド使いの中にはそんなのお構いなしって輩もいるからなぁ………まあ、ヤツらにそんな外道野郎はいないだろうがな。」

「はあ………」

 

こいつはえらく楽観的だなぁと思いながら相槌を打つチンク。

 

「せっちゃ〜〜〜〜〜ん♪」

 

ふと、刹那を呼ぶ声がした。振り向くと、そこにはいつの間にやら着物に着替えた木乃香がいた。

 

「お、お嬢様、その格好は!?」

「知らんの?あっちの更衣所で着物貸してくれるんえ。」

 

ふと見ると、確かに更衣所と書かれた看板の建物から、着物に着替えた観光客が何人か出てくるのが確認できた。

 

「………ん?」

 

木乃香と刹那が話す中、ティアナはふと、更衣所から誰か出てくるのを見た。

一人は黒い着流し姿の少年、もう一人は白い着物の少女で、どちらも同じ顔、同じ髪型だが、少年は黒、少女は白い色をしている。

 

「似合ってるよ、ルナ。」

「ありがとう、ソルも似合ってるよ。」

「「フフフフ………ウフフフフ……………」」

 

2人は手を繋ぐと、まるで小さな子供のようにスキップしながら去っていった。

 

(随分仲がいい2人ねえ………カップルかしら?)

(…………あの2人、顔が同じに見えたのだが…………?)

 

ティアナとチンクは、スキップで立ち去る2人を見ながらそう思った。

 

「ホレホレ、せっちゃんも着替えよ♪ウチが選んだげるーー」

「えっ、いえお嬢様ッ!私、こういうのはあまり………」

「ええやんかーー、ほれ、アナスイさんらも♪」

「「「「えっッ!?」」」」

 

いきなり木乃香に進められたティアナらは戸惑った。まさか、話しかけられるとは………

 

「どーせアナスイさんはジョリーンにシカトされたんやろ?それにスバルちゃんの親戚(木乃香には、ティアナやチンク達の事はこう説明してある)ゆーその子も、『伊達正宗』やる気満々みたいやし。」

「いや、決めつけるなよッ!?」

「それに、これは正宗やる気で着けてきたワケじゃ………」

「ほな行こか〜〜〜♪」

 

戸惑う5人を、木乃香は無理やり更衣所まで引っ張って行った。

 

 

 

 

 

そして数十分後、新撰組の格好をした刹那とアナスイとギンガ、伊達政宗の格好をしたチンク、そして、坂本竜馬の格好をしたティアナが更衣所から出てきた。

 

「―――何で、私たちは男物の扮装なの?」

「夕凪が死ぬほどそぐわない………」

「というか、詳しい事はしらないけど、新撰組と竜馬が一緒にいるのはおかしいんじゃあ………?」

「まあ、細かいことは気にせんと、似合っとるえ。こっちこっち。」

 

そう言うと、木乃香は刹那を連れて土産物屋に行った。

アナスイらは、遠くから見ている事にした。

 

「これ、意外と重いな………」

「動きづらそうね………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

一方、アナスイたちから離れた場所では―――

 

「―――ただの『仲の良い2人』にしか見えませんが……」

「いやー、これは間違いないよ!」

 

刹那が巻き込まないように突き放したはずの夕映とハルナが、こっそりと見ていた。

ハルナは、何やら勘違いしている様子だが……

 

「―――確かに、あの二人はアヤシいわね。」

「うわッ!?あ………あんたは昨夜の!?」

「たしか……ルル・ベルさん!?」

 

いつの間にか、2人の背後にルル・ベルがいた。何故か頭にタコとコンブをひっつけ、ピチピチと活きのいいカツオを脇に抱え、磯の香りを振りまいているが……

 

「………昨日の事で頭冷やそうとしたら、『神戸湾』にまで飛んで行ってしまったわ………」

(神戸湾にカツオなんていたっけ………?)

「あ、これあげるわ。それにしても―――」

「いや、渡されても困りますが………」

 

ハルナにタコを、夕映にカツオを渡し、木乃香と刹那の様子を見るルル・ベル。

 

「桜咲刹那………彼女は、『私と同じ匂い』がするわ…………」

「『磯の香り』ですか?」

「いや、そうじゃなくて。」

「やっぱり!?いやぁーーそうじゃないかと思ったよ!」

 

「同属」のアンタが言うなら間違いない!と言うハルナを呆れ顔で夕映がみた、その時だった。

 

「ホーッホッホッホーーーーー♪」

ガラガラガラガラガラガラ

「「ッ!?」」

 

突如、黒子の運転する馬車が、木乃香らの近くに急停止した。

 

「お……お前はッ」

 

刹那が驚く中、馬車から人が降りてきた。

 

「どうもーーーー、神めい、じゃなかった………そこの東の洋館の『お金持ちの貴婦人』にございます〜〜〜〜〜。そこの剣士はん、今日こそ借金の「()()」に、お姫様をもらい受けに来ましたえ〜〜〜♪」

 

現れたのは、刹那ら同様、明治時代辺りのドレスに身を包んだ月詠だった。

 

「貴様ッ、何のつもりだ!?」

「せっちゃん、これお芝居や。」

(そういえば、シネマ村では客を巻き込んで、いきなり『劇』や「芝居」が始まるって、スバルが言っていたわね………)

 

ノーヴェと一緒に行こうとスバルにせがまれたのを思い出しながら、ティアナは考えた。

どうやら月詠の狙いは、劇に見せかけて木乃香を連れ去るつもりらしい。

 

(考えたわね………それにしても、誰の入れ知恵かしら?)

「そうはさせんぞッ!このかお嬢様は私が守るッ!!」

「キャーーッ!せっちゃん格好えーー♪」

ギュッ

「わッ!?い、いけませんお嬢様…………」

 

刹那が月詠の芝居に乗ったのかと勘違いしたのか、刹那に抱きつく木乃香に、刹那は焦る。

 

「やっぱり………あの二人、『()()()()関係』みたいね。」

「やっぱりッ!?」

「またバカなコトを………」

 

夕映は呆れるが、2人は完全にそうだと決めつけていた。

 

「ふふ……そーおすかー…ほな、仕方ありまへんなー…」

 

なぜか嬉しそうにいいながら、月詠は右手の手袋を取ると、刹那にバシッと投げつけた。

 

「む……」

「このか様をかけて『決闘』を申し込ませてもらいますーー…30分後、場所はシネマ村正門横「日本橋」にてーーー。ご迷惑かと思いますけど、ウチ………「手合わせ」させて頂きたいんですーーー…逃げたらあきまへんえー、刹那センパイ♪」

「「ゾクゥッ…」」

「ほななーーー。助けを呼んでもかまいまへんでーーーーーー。」

 

最後に怪しい笑みを浮かべると、月詠は再び馬車に乗って去ってった。

 

「せっちゃん……」

「…行くの?」

「(仕方が無い……やるしかないか…)ええ……」

 

月詠の視線におびえた木乃香を背に、刹那はそう答えた。と、

 

「――――なんだか、大変そうね。」

「「「キャァァアッ!!?」」」

「ル………ルル・ベルさん!?」

 

いつの間にか、背後にルル・ベルがいた。後ろからは、ウキウキしたハルナと、呆れ顔の夕映が、こちらに近づいてきた。

 

「気付かれずに背後に回るのがすきなんですか?あなたは………」

「結構ね。それより、話は聞いたわ。」

「任せて!ここは、私たちが手助けするわ!」

「えっ、いや、その……」

 

ハルナらのいきなりの申し出に、刹那は困惑する。

 

(ちょっと!どういうつもりよ!?てか、そのコンブどうしたの?)

 

ルル・ベルの腕を引っ張り、小声で咎めるティアナ。

 

(いや、なんかあの「ハルナ」って娘、止めても着いてきそうなんですもの。それより―――)

 

頭についたコンブを取ると、ルル・ベルは『サイケデリック・インサニティ』を発現させ、その手をティアナに置いた。

 

(―――こうすれば、念話に近い形で話せるわ。)

(わ、ホント。)

(それより、あの子らに関しては安心して。今シネマ村には、私の配下のスタンド使いが3人いるわ。彼女らに危害が及ばないよう、影から守らせるわ。)

(!あなたの他に、3人!?)

 

ルル・ベルの申し出に、ティアナは念話で声をあげる。

 

(ええ。まあ、実質は『2人』だけれどね。まあ、任せておきなさい。)

 

言うと、ルル・ベルはサイケデリック・インサニティをしまう。ふと、木乃香の方を見ると、木乃香は足元に何かいるのを見つけた。

 

「ニャ〜〜〜〜〜。」

「ん?何や、この猫ちゃん?」

 

それは、ロシアンブルーの子猫だった。

甘えているのか、木乃香に頭をスリスリとこすりつけている。

 

「あら、珍しいわね、『初音』が初対面の人にこんなに懐くなんて。」

「この子、初音ちゃんいうん?かわえーー♪」

「ニャ〜〜〜〜〜♪」

 

幾分か落ち着いたのか、木乃香はしゃがむと、初音の頭を撫でる。ふと、刹那とティアナは気づいた。

 

(あの子猫って、昨夜の…………)

(ルル・ベルさんの飼い猫だったのか………)

 

「あ、良かったら抱いていていいわよ。初音は『幸運を呼ぶ星ネコ』って、近所では有名なの。」

「そーなん?初音ちゃん、よしよーし♪」

「ミャ~~~~~~♪ゴロゴロ……」

 

木乃香に抱かれ、のどを鳴らす初音。ティアナたちが見ると、昨日は気づかなかったが、額に逆さの星のような模様があるのを見た。

 

「さて、(これで近衛木乃香の護衛は大丈夫よ。初音は懐いた人物の危機には敏感ですもの。)」

「えっ。(ど…どうも……)」

 

ルル・ベルに小声で言われ、刹那は礼を言う。

 

「さてと………2人とも、私たちは「勝負服」に着替えましょうか。」

「お、いいねぇ♪」

 

ルル・ベルの提案に、ハルナは夕映を連れてノリノリで更衣所に向かった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

更衣所内

 

 

「―――話は聞いたわね?」

 

和服に着替えながら、ルル・ベルは背後にいるであろう『2人』に話しかける。

 

「もちろんだよ。」

「あのお嬢様を守るんでしょ?」

「そちらは初音に任せたわ。あなたたちは、敵の迎撃よ。手厚く迎えてあげなさい。」

「「了解だよ、お嬢様♪」」

 

2人は言うと、直ぐに気配が無くなった。

 

「これで準備はいいわね………頼んだわよ、「キタッラ兄妹」。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「月詠とやらめ………面白そうな事を………」

「アタイらは、空条の小娘に2年前の復讐が出来ればいいんだが…………」

「遊ぶ?準備運動にはなるよ。」

 

シネマ村の一角、何やら3人の女性が話していた。

 

「ま、そりゃいいわな♪だれが行くよ?」

「―――我にやらせろ。体が鈍ったとは言わぬが、肩慣らしにはちょうどよい。」

「別にいいよ。私は最後でも。」

 

古風な話し方の大柄な女性は、ほかの2人に許可されて、前に出た。

 

 

 

 

 

「では、『伊賀の三羽鴉』が一翼、『綺初(きうい)』、参らせてもらう!」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

シネマ村

 

日本橋前

 

 

30分後、それぞれが思い思いの格好をして、刹那たちは「日本橋」前まで来ていた。

ちなみに、初音は木乃香に抱かれて心地よさそうにしている。

 

「ゴロゴロ……♪」

「すっかり懐いてもーた……」

「人見知りしやすい初音が、ここまで懐くなんて………」

 

花魁の格好をしたルル・ベルが少し羨ましそうにする中、初音は木乃香にすっかり懐いていた。

 

「ふふふ………ぎょーさん連れてきてくれておーきにーー。楽しくなりそうですなーー♪」

「「!?」」

 

不意に、橋から声がした。見ると、ウキウキしたように刀を構えた月詠がいた。

 

「ほな始めましょうかーーセンパイ♪」

 

月詠は、怪しく笑いながら、そう言った。それを見た木乃香は、おびえたように刹那の後ろに隠れた。

 

「……せっちゃん………あの人……なんか怖い…………気をつけて…………」

「……安心して下さい、このかお嬢様、何があっても、お嬢様をお守りします。」

 

木乃香を安心させようと、笑顔で木乃香に語りかける刹那。と、

 

「ヒューヒュー♪お熱いねぇ〜〜♪」

「そのまま押し倒しちゃいなさいッ!」

「なッ!?何を!?」

「「??」」

 

何故か、ハルナとルル・ベルがはやし立て始めた。特にルル・ベルなんかは、鼻息が荒くなっている。

 

「何やってんのよ、あの子達は……………」

「確実にルル・ベルは『仲間』増えたって思ってんな…………」

「まあ、彼女の力借りられるのは助かるけど……あの2人に危害が及ばないように―――」

 

ギンガが苦笑しながら言った、その時―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グオオオオオオ

「ッ!危ねえッ!!」

ドグシャアッ

「「「!?」」」

 

ギンガに向かい、何かが飛んできた!

いち早く気づいたアナスイは、ギンガに『ダイバー・ダウン』を潜行させ、素早く砕いた!

 

「あ……………アナスイさん……………」

「今のは!?」

 

顔を赤らめるギンガに対して、ティアナは飛来物を見た。

それは、薄い茶色の『レンガ』だった。

 

「レンガ?誰がこんな物を………?」

「あらら〜〜〜、『あの人ら』ったら、余計な手出しはいらんのに〜〜〜〜」

「レンガだと……………?」

 

レンガと聞いたアナスイは、ある予感がした。

 

「ちょっと、大丈夫だった!?なんか飛んできたみたいだけど………?」

「早乙女ッ!?近づくんじゃあ……………」

 

心配そうに駆けてくるハルナに対してアナスイが怒鳴りつけた、その時!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バクゥンッ

「「「「!!?」」」」

 

地面からレンガの壁が現れ、アナスイ、ギンガ、チンク、ハルナを包み込んだ!

 

「ハルナッ!?」

「まずい!このレンガは――――」

「ギンガさんッ!」

「くっ………『インサニティッ』!!」

 

包み込んだレンガの箱に向かい、ルル・ベルはサイケデリック・インサニティの拳を喰らわせるが…………

 

バガァアッ

「!?いない……………!?!」

「そんな………!?」

 

そこには4人はおらず、空洞になっているだけだった。

 

「余計な手出しがありましたが、これで心置きなく死合えますなぁ、センパイ♪」

「月詠………!」

 

心配そうに箱を見る刹那に向かい、月詠は嬉しそうに告げた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

レンガの壁が開くと、アナスイたち4人は、広い倉庫のような場所にいた。

 

「ここは………?」

「やはり、これは「あいつの能力」か………!」

「あ、あれぇーーーー?」

 

不思議そうに辺りを見渡す3人に対して、アナスイはこの能力に心当たりがあった。

そう、これは『2年前』のあいつのスタンド――――

 

「ふむ、何やら懐かしい顔がいるな。」

 

不意に声がしたかと思うと、アナスイたちの周りにあったレンガの壁が、バラバラになって一カ所に『飛んでいった』!

それらは再び組み合わさり、ある形になった。

 

人が一人入れそうなサイズのかまくら状の胴体に、それよりは小さいかまくら型の頭を持ち、横長に数個抜けた穴からはぼんやりと光が2つ、目のように灯っている。

腕は大きく力強い印象を与えるが、脚はレンガを縦に積んで細いため、アンバランスな体型のゴーレムのような姿だ。

 

その影から、大柄な女が出てきた。多分、アナスイ位はあるのではないだろうか。

 

ウェーブのかかった黒髪は重力に逆らったように逆立ち、鋭い眼光を放つ切れ目を持っていて、左目には翼のマークがついた眼帯をしている。

へそを出したタンクトップの下には鎖帷子(くさりかたびら)を着込み、下はとび職のような薄茶色のニッカポッカをはいている。

 

「やはり…………『アンチェイン・ワールド』……………『山陸の綺初』ッ!!」

「久しいなあ、ナルシソ・アナスイ。我を覚えているとは、光栄だぞ。」

 

古風なしゃべり方で女―――綺初は、アナスイに静かに言い放った。

 

 

 

山陸の綺初

スタンド名―――アンチェイン・ワールド

 

 

 

 

 

←tobecontinued...




60話です。

・サルシッチャの過去をちらり。サルシッチャは、クールに見えて実は熱い性格、というイメージです。

・千雨とポルナレフの再会。今回は詳しく書きませんでしたが、詳しい話は次回以降……

・シネマ村でのコスプレは、各キャラを考えてやってます。最初はチンク姉の正宗しか決まってませんでしたが、ティアナが銃使うから竜馬、後は新撰組が複数いたほうが見栄えいいかと思って。

・ソルとルナの名字はキタッラ。由来はパスタの名前からです。

・伊賀の三羽鴉登場。楓が甲賀なので、対になるように伊賀の忍にしました。

では、次回をお楽しみに!


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#61/キタッラ兄妹 ②

シネマ村

 

日本橋

 

 

「ほな、始めましょかーーーー。」チャキ

「待て月詠ッ!こちらには非戦闘員が…………」

「あ~~、そーいえばその人がおりましたな~~~~、そんじゃ~~~……」

 

刀を構える月詠に対して刹那がそう言うと、月詠は懐から札を数枚出した。そして。

 

「おいで~~~、『(はく)ちゃん』たちぃ~~~~♪」

ボボボボボンッ

「「「「「!!?」」」」」

 

全長50センチほどの白いつきたての餅のようなでろんとした体に、短くて太い四本指の腕、ニタリと笑ったような真っ黒な唇の口だけがついた、なんだか気持ち悪いものが数体出てきた。

 

「「き、キモッ!?」」

「なっ!?何だその気持ち悪いのはッ!?」

「やーーん、センパイまでひどおすな~~~、白ちゃんたちを気持ち悪いなんて~~~。」

「これを気持ち悪いって言わないで何が気持ち悪いのよッ!?今晩夢に出てきそうじゃないのッ!!」

 

月詠が「白ちゃん」と呼ぶそれを見て、刹那たちは気持ち悪がって非難の声を上げ、木乃香と夕映は完全に引いていた。

ちなみに、この白いものは『モチテグチ』という妖怪の一種であり、スタンドや式神ではない事を、ここに明記しておこう。

 

「いってらっしゃぁぁ~~~~い♪」

「「「「「デュフフフ~~~~ン♪」」」」」

ボヨヨ~~~ンッ

「ギャーーーッ一斉に来たァァァーーーーッ!?」

「ティアさんッ!お嬢様をッ!!」

「ええ!!こっちよッ」

「ああ、せっちゃん………!」

 

モチテグチが一斉に飛び出したのを見て、ティアナは木乃香の手を引いてその場を離脱し、刹那は何体かを切り捨て、月詠に向かっていく。

 

ガキィィイイイーーーンッ

「最近の神鳴流は妖怪を飼っているのか?」

「あの子達は『カワイい』だけで無害ですぅ、御安心をーーーー」

「いや、カワイくもないから………」

「それに、ウチは刹那センパイと剣を交えたいだけ♪」

ガギィンッ

 

鍔迫り合いをしながら月詠がそう言った瞬間、刹那は直ぐに飛び退いた。

 

戦闘狂(バトルマニア)か、付き合わんぞッ」

「まあまあ、そう言わんと~~~♪」

「それに、早乙女さんたちは………?」

「ああ、何や『ヴィオレッタ』はんの雇った「忍者」さんの仕業でしてーー。」

「!?(お母様が忍を?)」

 

モチテグチをあしらいながら月詠と刹那の会話を聞いたルル・ベルは、アナスイらを連れ去った人物の正体を聞いて疑問を抱いた。

 

(スタンド使いの忍…………まさか『伊賀の三羽鴉』?あの面子で大丈夫かしら………?)

 

心配しながらも、モチテグチが襲いかかってくるために、ルル・ベルはそれらをいなしていく。

 

 

 

 

 

#61/キタッラ兄妹 ②

 

 

 

 

 

「…………ナニコレ?どゆコト?」

 

ハルナは、目の前にそびえ立つゴーレム―――『アンチェイン・ワールド』に混乱していた。

漫画的には面白い展開だが、自分は二次元ではなく、リアルに生きる人間だ。こんな展開など、有り得ない。

 

「チンク、その娘を……アナスイさん、あの人、あなたに「久しぶり」って言いましたよね?知り合いですか?」

 

今にも「私、聞いてない!」と叫びそうなハルナをチンクに任せ、ギンガはアナスイに問う。

 

「………アイツは『山陸の綺初』。見ての通りスタンド使いで、『伊賀の三羽鴉』という、伊賀流に属する女忍者(くノ一)だ。

2年前、『プッチ』に雇われてアメリカで俺たちと戦い、三人とも徐倫や千雨の機転で敗走したんだが………」

「そうだ。あの女子中学生2人に負け、我ら3人のプライドは踏みにじられ、今まで築き上げた我らの信用もがた落ちだ!それだけではないッ!!」

 

そう言うと、綺初はどこから出したのか、一枚のフリップを取り出した。そこには、縦に伸びた二本の棒グラフが、3年前からの数値で表されていた。

 

「見ろ!ただでさえ甲賀に裏の仕事を取られているというのに、貴様らに負けたという情報が広まったために伊賀への仕事が減り、更に下回ったんだぞッ!!」

「あのフリップ、わざわざ作ったのかな……………?」

「お陰で『最強』のチームだった我らは『最弱』の汚名を着せられ、上忍から中忍に降格され、来る仕事も地味で微妙なモノばかり!最近になって、ようやく「反省十分」とされて上忍に戻り、そして今回の任務!!貴様らに復讐して、『汚名挽回』させてもらうッ!!」

 

完全に言い切ったという顔の綺初。だが、

 

「あのー、汚名は『()()』じゃなくて『()()』するものだとおもいますが………」

「……………ッ」

 

ギンガに間違いを指摘され、顔を真っ赤にして黙ってしまった。

 

「ええいッ!黙れ黙れェッ!!」

(何か、カワイイぬいぐるみ集める趣味バレた時の『トーレ』みたいだな………)

 

綺初の行動が姉に似ていたためか、何か親近感を覚えるチンクだった。

 

「今の内に………」

「あ、う、うん………」

 

少し戸惑いながらも、チンクに従い逃げよようとするハルナ。だが、

 

「逃がすかッ!『アンチェイン・ワールド』!!」

ゴゴォオッ

「なっ、もう一体ッ!」

 

何と、もう一体の『アンチェイン・ワールド』(こちらは、目らしい光が一つのみ)が現れ、ハルナ達の行く手を阻んだ!

 

「くっ………スティンガーッ!」

 

チンクはすかさずスティンガーを数本、単眼のアンチェイン・ワールドに投げつける!だが!

 

バクゥウンッ

「「ッ!?」」

 

単眼の体が開き、スティンガーが全て飲み込まれた!

そして、再び体を閉じると………

 

バガァァアッ

「えっ!?」

「チィッ」

 

何と、双眼のアンチェイン・ワールドの体が開き、単眼の中にあるはずのスティンガーが『飛び出した』!

 

スカカカァッ

「今のは…………ッ!?まさか、私たちも()()()()()()()()()()()()()()………レンガで包まれると、他のレンガに『転移』される能力………ッ!!」

「………そうだ。ヤツの『アンチェイン・ワールド』のレンガが密閉した容器で物を包むと、もう一つの密閉した容器に転移される…………それこそ、射程内なら境界なく転移させる………」

「……さっきみたいにレンガでの直接的な物理攻撃だけじゃあないわけね……………」

 

アナスイから能力を聞いたギンガだが、次の瞬間、単眼と双眼が再びレンガにばらけ、4人を取り囲むように別の形に組み合わさった!

 

「ううっ、これは……………」

 

アナスイたちの周りには、レンガの柱が縦横無尽に建ち並び、それらは、まるで神殿の柱や縁に見える………

 

「我流伊賀忍法『石管柱結界(せきかんちゅうけっかい)』!かつて貴様らを苦しめた、我の必殺布陣だ!」

「これは…………ヤツのスタンドの『必殺の形』じゃねーか…………やろ〜…本気だ…………」

 

アナスイがそう呟いたのと同時に、綺初はレンガの柱の中に消えた。

どうやら、中は『空洞』になっているらしい。

 

「『空洞』?…………まさかッ!?」

 

ギンガが気づいた瞬間、綺初が入ったとは別の箇所の柱から、クナイと手裏剣が数発飛んできた!

 

「くっ………」

スカカカァッ

「………ああやって自らのスタンドに姿を眩まし、その中から攻撃を仕掛けてくる………これが『アンチェイン・ワールド』の戦術!!」

 

クナイと手裏剣を避けながら説明するアナスイ。

 

「―――だったらッ!!」

 

それを聞いたギンガは素早く『ブリッツ・キャリバー』を装着し、『アンチェイン・ワールド』に接近する!

 

(このレンガを破壊すれば!あの人は転移する場所が限られる!!)

 

そう考え、柱に回し蹴りを放つ!

 

「待て!迂闊に攻撃したら―――」

 

 

 

 

 

バガァアッ

「なっ!!?」

ガッシィィイ

 

アナスイが叫んだのもむなしく、ギンガの蹴りが当たる前に柱は再びレンガにばらけ、ギンガの脚を拘束してしまった!

 

(しまった!アンチェイン・ワールドの能力で………ッ!!)

『阿呆がッ!我のスタンド能力を忘れたかッ!!』

 

どこからか綺初の声が聞こえると、ギンガの近くの柱からクナイが飛んできた!

 

「ギンガッ!!」

「しまっ…………」

 

 

 

 

 

「全く、意外とせっかちなんだね。」

「こういうスタンドは、冷静に対処した方が正解だよ。」

 

 

 

 

 

ズババババァアッ

「「「「ッ!!?」」」」

 

ギンガにクナイが当たろうかという瞬間、左右が赤と青のスタンドが、クナイを跳ね返した!

 

「あ………あのスタンドはッ!?」

 

チンクは、そのスタンドに見覚えがあった。

 

左半身は青、右半身は赤を基調としたボディに中央に左右を分けるように金のラインが入ったロボットのようなデザインで、目はゴーグルのようになっており、口はなくガスマスクのようだ。頭はまるで花魁の髪型のように大きく、後光が差すように角が生えている。また、頭部や手の甲、腰には大極図が描かれているスタンド。

そう、このスタンドは―――――

 

(あの時………『ダービー』を連れ去ったスタンド………確か、ルル・ベルの仲間という…………)

「「ごめん、探してたら遅くなっちゃった♪」」

 

不意に、チンクとハルナの背後から声がした。

振り返ると、先ほど『更衣所』でチンク達より先に着替えていた2人がいた。

 

「え………だ…………誰?」

「お前たちが、あのスタンドの………?」

「僕は、『ソル・キタッラ』。」

 

2人の内、黒髪の少年が名乗った。

 

「私は、『ルナ・キタッラ』。」

 

2人の内、白髪の少女が名乗った。

 

「「初めまして、よろしくね♪」」

「あ、ああ………………」

 

2人が同時に挨拶をすると、チンクは戸惑いながらも返した。

 

『………?何だ貴様等は?どうやらスタンド使いのようだが………』

「君が、『山陸の綺初』だね?」

「噂は、かねて聞いているよ。」

「「でも、僕/私達2人の敵じゃあないね。」」

『………』

 

キタッラ兄妹がそう言った瞬間、姿を隠してはいるが、アナスイたちは綺初の表情がひきつったのが分かった。

 

『成る程…………では、一言だけ言っておこう…………二年前、私が学んだコトだ…………』

 

少し苛ついたような、綺初の声がした。

 

「………!?」

 

その時、ギンガは自らの足を拘束するレンガが動いたのに気づいた。そして………

 

『慢心は、自らの身を滅ぼすぞ!』

「避けてッ!」

グオオォォォォ

 

ギンガが、拘束しているレンガごとスタンドに『蹴りかかかった』!?

 

バガァア

「なっ!!?」

 

だが、スタンドは『半分に分かれて』、それを回避した!

 

「ああ、それは分かってるよ♪」

「でも、私達のスタンドは、あなたみたいな相手が得意なの♪」

「「だから、何の問題もない!」」

 

スタンドはキタッラ兄妹の元に戻ると、右半身はソルに、左半身はルナに着いた。

 

「これは………!?まさか、あのスタンドはッ!!」

「そう、これが僕のスタンド、『ラッシュ』!」

 

ソルは、自らのスタンドの名を呼ぶ。

 

「そして、私のスタンドの『ダッシュ』!」

 

ルナも、自らのスタンドの名を呼ぶ。

 

「「僕/私達のスタンドは、『二人で一能力』なのさ♪」」

 

二人が言った瞬間、『ラッシュ』と『ダッシュ』は再び『合体』した。

 

 

 

ソル・キタッラ―――スタンド:ラッシュ

ルナ・キタッラ―――スタンド:ダッシュ

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

シネマ村

 

日本橋

 

 

一方、こちらは月詠と斬り合う刹那。

 

ガギギギギギギィィン

(く………キリがないな………)

 

月詠の反撃を与えない猛攻に、刹那は苦戦していた。ルル・ベルと夕映も、モチテグチに苦戦しているようだった。

 

バチコーンッ

「デュフンッ」

「ふう……流石は『堅い魚』と書いて『鰹』………結構役立ちますね…………」

「ね?役に立ったでしょ?てやっ!!」

ペチーン

 

………訂正、結構善戦していた。カツオとコンブで。

 

「………何気に戦闘力高いな、綾瀬さん………(ルル・ベルさんは、コンブに見せかけて『スタンド』使っているみたいだが………)」

 

刹那がそう思った時、周りにいた観光客がざわついているのに気づいた。

そちらの方を見ると―――――

 

 

 

「ッ!お嬢さまッ!?」

 

何と、城の天守閣の屋根で、木乃香とティアナが千草と、その背後にいる鬼が持つ「弩砲」ほどある大矢で狙われていた!

 

「しまった!誘導されたのッ!?」

「「「デュフフ〜〜〜ン♪」」」

ぼよ〜〜ん

「くっ………行かせない気ね…………(でも、あちらには………)」

 

ルル・ベルは木乃香達の元に行こうとするが、モチテグチに行く手を阻まれてしまう。刹那も、月詠に阻まれている様子だった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ふふふ………聞こえとるか、お嬢さまの護衛桜咲 刹那ッ!!」

 

天守閣の屋根から、千草は刹那に向かい叫んだ。

 

「見ての通り、この鬼が『矢』でピッタリとお嬢さまを狙っとる!お嬢さまが大切なら、手ぇ出さんときぃッ!!

あんたもやで、管理局の魔導師………ちょいとでも動いたら射たせてもらいます………」

 

千草は勝利を確信していた。

今、鬼が構えている『矢』には、ルミリオに渡された『特殊な仕掛け』が施されており、「AMF」に似た「エネルギーの膜」で包まれているのだ。

もちろん木乃香を狙うワケではないが、上手く行けば邪魔な管理局員を一人消せる!そういう寸法だった。

「「………………」」

「って聞いとるんかコラッ!?お嬢さままで!」

 

だが、ティアナと木乃香は屋根の一点を見つめていて、千草の話を聞いているのか分からなかった。

 

「………あなたに『コレが見える』のは意外だったけど……………しばらくじっとしてて。」

「あ、はい………」

 

そう木乃香に言うと、ティアナはクロス・ミラージュを千草に向けた。

 

「確実に聞いてなかったァァアアーーーーッもうええわッ!射てまえェッ!!」

「も゛ほ。」

ビシュゥウッ

 

千草が叫ぶと、鬼は矢をティアナに向けて矢を放った!!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「お嬢さまッ!?」

 

日本橋からその様子を見ていた刹那は、ティアナの行動が分からなかった。

 

「センパ〜〜〜〜イ♪よそ見したら………」

「『サイケデリック・インサニティッ』!!」

ガシィイッ

「あや?」

 

すかさず月詠が刀を振りかざすが、ルル・ベルが前に阻む。

 

「しっかりしなさい!あっちには『初音がいるのよ』ッ!!」

「!?………あっ!!」

 

ルル・ベルに言われて、刹那は思い出した。

初音のスタンド………『ワイルド・アイズ』の能力を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガァアッ

 

「!?ッな、何………!??」

 

鬼が放った矢は、まっすぐに『天守閣の屋根』に突き刺さった!

 

 

 

 

「さすがね………「鬼の矢の狙い」を、『私たちから逸らした』!」

「初音ちゃん、えらいえ〜〜〜」

「ミャ〜〜〜♪」

 

そう、初音は屋根に『ワイルド・アイズ』を展開し、鬼の矢を『金色の眼』に向かわせたのだ!

 

「!ま……まさかその子猫………スタンド使い!?」

「ようやく気づいたようね………さあ、大人しくしてもらいましょうか?」

 

そう千草に警告すると、ティアナは初音が『ワイルド・アイズ』をしまうのを確認してから、青ざめる千草に詰め寄った。

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォオオオオ……

「「「ん?」」」

 

ふと、何かが飛んでくる音が、上空からした。

3人がそちらを見ると………

 

 

 

 

グオオォォォォ…

「「「なァァアアーーーーッ!!?」」」

 

『白いワゴン車』が、ティアナたち目掛けて飛んできた!?

 

ドグッシャァアアッ

「「わああッ!?」」

「あーーーーーれーーーーーー………」

 

そのままワゴン車は天守閣に衝突し、千草は衝撃で飛んでいってしまった………

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

(―――な………なんだ………?なんだ、奴らのあのスタンドは………!?)

 

綺初は、『アンチェイン・ワールド』の中で焦っていた。

なぜなら、今自分が身を潜めている以外の柱は…………

 

 

 

 

「どうしたんだい?来ないのかい?」

 

『ラッシュ』を背に立たせたソルが、挑発するように聞く。

 

「さっきまでの威勢は、どうしたの?」

 

『ダッシュ』を背に立たせたルナも、挑発するように聞く。

 

「「だったら、いぶり出させてもらうよ♪」」

 

スタンドを構え、二人は『同時に柱に攻撃した』!!

 

ドグシャァアアッ

 

そして、それが同時に当たった瞬間――――

 

 

 

 

 

ギュオオオオォォォォ……

「!またか……………ッ!」

 

柱が殴られた部位を中心に、勢いよく『吸い込まれた』!

 

 

 

コローーーーーーン………

 

 

 

部位が完全に吸い込まれると、そこには直径3cmほどの『球体』があった。

よく見ると、周りには同じような球体が転がり、レンガの柱はそこいらにコルクのように丸く切り取られたように途切れていた。

 

「二人が『同時に攻撃したもの』を………『圧縮』する能力……………ッ!!」

「だから………『二人で一能力』………!」

 

アナスイと、未だ拘束されたギンガが感心したように呟く。

 

(くっ………なれば奥の手ッ!)

グンッ

「!ま………またッ!?」

 

再び自分を拘束するレンガが動くのを感じるギンガ。だが、今度は――――

 

 

 

 

 

ガシィイッ

「えっ!?」

ガシガシィイッ

「ま………まさかッ!?」

 

 

 

脚だけを拘束していたレンガ以外にも、両腕と胸、もう一方の脚にもレンガの拘束が施された!

 

『我流伊賀忍法『傀儡石枷(かいらいせきか)』!ゆけッ!!』

グオオッ

「みんな避けてーーーーッ!?」

 

そのままギンガは、先ほど同様に『アンチェイン・ワールド』に引っ張られる形で、キタッラ兄妹に殴りかかった!

 

ドグシャアッ

「うーん、厄介だねこれは……」

「圧縮したら、彼女ごとやっちゃうしね………」

「「さて、どうしようか………?」」

 

素早くそれを避けた二人は、いつもと同様に話す。口振りは普段どおりノンキそうだが、その表情は困った様子だった。

攻撃しようにも、ギンガを傷つけずに攻撃するのは難しい。今、ハルナの側にいるチンクも、それは同様だろう。

 

「オメーらはそーいう風にしか話せねーのか………?まあいい。ここはオレに任せろ。」

「え?」

「あなたが?」

 

そう言うと、二人の前に立つアナスイ。

 

「アナスイさん!避けてェエッ!!」

グオォォォォ

 

それでもギンガが迫ってくる!

だが、アナスイは冷静に『ダイバー・ダウン』を出し…………

 

 

 

 

 

 

 

ズボォォオ

「「「「「『ッ!!!?』」」」」」

 

ギンガに拳を食らわせた!

 

 

だが、様子がおかしい。

 

 

拳どころか、右半身が『ない』!?

 

 

皆がそう思った瞬間――――

 

 

 

 

 

バッコォォオオーーン

 

ギンガを拘束していたレンガが、全て砕かれた!

 

 

 

『まさか………ダイバー・ダウン!くそ………まさかヤツが………潜行させて………』

「私の体内に『潜行』して………『内側から』砕いた………」

「確かに………外側からじゃあ『アンチェイン・ワールド』が避けたり攻撃してくるけど………」

「内側からだったら………近づいてきた時に一撃喰らわせれば良い!」

「「ま、彼にしかできない芸当だけどね♪」」

 

 

 

「大丈夫か、ギンガ?」

「えッ!?あ………ひゃい…………」

 

アナスイに尋ねられ、顔を真っ赤にして答えるギンガ。

アナスイはそんな事は気にせず、柱の一本―――まだキタッラ兄妹の攻撃を受けていない柱を見た。

 

「さて、綺初は………あそこだな………」

「あ、それは僕らに任せてよ。」

「あんなの見せられたワケだし、私たちも良いとこ見せないとね。」

 

言うと、二人は転がっていた球を拾い………

 

 

 

「「『ラッシュ/ダッシュ』ッ!!」」

ゴッ

 

スタンド―――『ラッシュ』と『ダッシュ』で同時に「殴りつけた」!すると………

 

 

ゴッパァアッ

「「「「なッ!?」」」」

 

圧縮されていたレンガが、まるで押さえていたものをなくしたバネのように、飛び出したッ!!

 

『ッ!?く………』

ドグシァアャアッ

 

そのままレンガが、柱に着弾したッ!!

 

「!いない………!?」

 

だが、そこには綺初の姿はなく、空洞になったレンガの柱しかなかった。

 

「くそ!別の場所に『レンガの容器』を用意しといて………」

「ま、深追いする必要はねえだろ。(ヤツのスタンド………かなり成長してる………それに、応用もきかせてやがるな………となると、他の二人、『(みかど)』と『すずめ』も………)」

 

さらなる危機を感じ取るアナスイ。

そんな時、今まで黙っていたハルナが口を開いた。

 

「ちょ………ちょっと!何だったの一体ッ!?」

「早乙女………」

「さっきから、レンガが襲ってきたり!ギンガさんはいきなり変身するし!それに―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

ハルナの一言に、一同は目を見開く。

 

今、ハルナは何と言った?

 

アナスイや、キタッラ兄妹の『()()()()()()()()』―――――?

 

まさか―――――――!

 

 

 

 

「早乙女……………お前……………まさか――――――!?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

「………で、何があったんですか?フェイトさん………」

 

一方、シネマ村の駐車場に移動したティアナ達。彼女らの前には、先ほどのワゴン車と、それに乗っていた承太郎、フェイト、アルフ、ヴィータがいた。

ちなみに疲れたのか、木乃香と夕映はワゴン車内で眠っている。

 

「い、いやー………実は、承太郎さんが知り合いからこの車を借りたんだけど……………」

「ヴィータがダッシュボードにあったスイッチ押したら、なんか知らないけどいきなり『()()()()()()()()』に点火して………」

「ジェットエンジンッ!?」

「何でワゴン車にそんな物がッ!?」

「ちなみにさっき他のスイッチ押してみたんだが、『光学迷彩』や『潜水機能』、『無人運転』まで出来たぞ。」

「ボンドカーですかそれーーーーッ!?」

 

思わず叫ぶティアナと刹那。フェイトやヴィータも、呆れている様子であった。

 

「で、麻帆良からホンの『10分』たらずで京都まで『飛んできた』訳だ。やれやれ…()()に『スピードワゴン財団』の技術者を紹介したのは失敗だったかな………」

 

『多摩41すR2‐D2』という、現実ではありえないナンバーのワゴン車を見ながら、エンジンの調子が悪いからと財団の技術者を紹介したのを後悔する承太郎だった。

だが、改造をお願いした『彼』もそうだが、それを実行した技術者も技術者だと思うティアナだった。

 

(ていうかコレ、かなりの高さから衝突したのに、キズ一つないなんて…………)

「あれ?承太郎さんにフェイトさん!?」

 

と、そこにアナスイたちがやって来た。

その内アナスイとギンガは、何やら深刻な顔をしている。

 

「あら、あなたたち………」

 

と、ルル・ベルが話しかけた時……

 

ガシィッ

「!?」

「ルル・ベル!お前に聞きたいことがある……!」

「な………何かしら………?」

 

アナスイに捕まれて、ルル・ベルは困惑したように尋ねた。

 

「お前………『早乙女を射抜いた』のか…………!?」

『!?』

 

アナスイの質問に、全員が目を見開いた。

 

「………いいえ、そんなはずは………!そういえばその子、のどかを射抜いた時に………」

「…………アナスイ、ルル・ベル、詳しい話は車内で聞こう。刹那、道案内を。」

「は、はい…………」

 

承太郎に言われ、全員車に乗り込むと、本山へ向けて発射した。

 

「そういえば承太郎さん、天守閣思いっきりぶっ壊しちゃいましたけど………」

「………天ヶ崎 千草っつったか?そいつのせいにしといた。」

「ヒドッ!?」

 

 

 

 

 

山陸の綺初―――再起可能

天ヶ崎 千草―――後日、シネマ村から高額の請求書が届き、愕然とする。

 

 

 

 

 

←to be continued...




61話です。

・モチテグチ登場。月詠はバトルマニア且つゲテモノ好きという設定にしました。

・綺初は『ギャップ』を意識したキャラ。後、トーレも乙女です(笑)アンチェイン・ワールドは、『閉じ込めたら瞬間移動』という、「転送装置」をモチーフにしたスタンド。ただ、『密閉しなければ
ならない』という制限がありますが。

・ソルとルナのスタンド『ラッシュ』と『ダッシュ』。『二人で一能力』というのは、見た目も含めてまんまダブルですね………反省。

・ハルナスタンド使い疑惑浮上。目覚めた経緯や能力は次回以降になります。

・承太郎さんがワゴン車を借りたのは、『ラブひな』のあの人です(笑)でも、財団の技術者による改造で、当時よりパワーアップしてます(笑)

では、次回をお楽しみに!


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#62/京都嵐警報! ①

「…………すまなかったな………私の過去の『復讐』のせいで……………」

 

『亀のスタンド』の中で、千雨とポルナレフは話していた。

ポルナレフは、自らの復讐が原因で千雨の命が危険に曝される事になったのを、気にしていた。

 

「い…………いや、父さんが気にする事じゃあねえよッ!要は、アイツらの『逆恨み』だろ?」

「千雨………」

「私はホラ、母さんやリサリサ師匠に死ぬほどシゴかれて十分強いからさ………それに、徐倫やネギ先生とかもいるし………だからさ、安心して大丈夫だから………」

 

正直、千雨ははたから見ても無理をしているように見えた。だが、千雨が必死に父、ポルナレフに自分のせいだと思ってほしくないのが、ポルナレフには分かった。

 

「………ありがとうな、千雨………」

「……ま、まあ………どういたしまして。」

 

こうして、事件の渦中にいる親子は、およそ十年ぶりの再会を果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「所で、あの『ルーテシア』という娘…………名字は、『アルピーノ』と言ったか?」

「ん?ああ、確かそうだったぞ。」

「そうか………(似ていると思ったが、やっぱり……………)」

「?」

 

 

 

 

 

#62/京都嵐警報! ①

 

 

 

 

 

関西呪術協会本山

 

中腹部

 

 

「―――じゃあ、近衛たちを連れて、承太郎さんたちもこっちに来るんだな?」

 

亀から出た千雨は、刹那から電話があり、承太郎が借りたワゴン車に乗った木乃香たちがこちらに向かっているという事を、ネギ達から聞いた。

 

「うん。……………ただ、少し厄介な事になっているらしくて…………」

「『厄介な事』?」

「早乙女が………スタンド使いらしい…………」

「ハァッ!?」

 

徐倫のセリフに、千雨は驚愕の声を上げる。

 

「まあ、私らも聞いたときは驚いたよ………だが、アナスイの『ダイバー・ダウン』が見えたらしい…………それに、綺初たち『三羽鴉』も『ヴィオレッタ』側についたらしい…………」

「やつらまでッ!?…………何か、今まで以上にメンドくさくなってねーか……?一人を除いて。」

「確かに奴らは厄介だな…………一人を除いて。」

「その一人が誰かは知りませんが……………」

「とにかく、『強い人たち』なんですね。」

 

何やら厄介そうなスタンド使いの参戦に、そのうちの一人を除いて警戒する徐倫たち。

尚、その『一人』がはるか遠くでクシャミをしたが、それを徐倫たちが知る由もなかった。

 

「まあ、何とかなるでしょ。このかたち、後どんくらいで着くのかな?」

「親父が車借りたのが『あの人』だからなぁ………すぐに到着すんじゃ――――」

 

 

 

ズガシャァァアンッ

 

 

 

「?何かスゴい音しなかった?」

「…………どうやら着いたらしいな…………」

「「「早っ!?」」」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「だぁーーかぁーーらぁーーッ!あの『仮面のダイバー』や『半分こ仮面』は何なのかって聞いてるのッ!!」

「ハルナ、さっきから何を訳の分からない事を言っているですか……………?」

 

どうにか無事に承太郎たちと合流し、本山の山頂を目指す徐倫たち。先ほどからハルナはアナスイやギンガに質問攻めをしているが、アナスイらは相手にしないようにしていた。

ちなみにキタッラ兄妹の姿はないが、手薄になったホテル嵐山の警備に向かっているので、何ら問題はない。

ルル・ベルはのどかから離れてはいるが、どう話しかけようか迷っているらしく、チラチラと見るだけであった。

 

「すいません………成り行きとは言え、綾瀬さんたちまで………」

「また、巻き込んじゃったね……………」

「あー、大丈夫だろ。いざとなったら露伴先生いるし。」

「…………私、一昨日の晩にジョリーンが言っていた意味が分かったわ…………」

「私も………」

 

先ほどの戦いで、露伴の『ヘブンズ・ドアー』の力の真髄を見た明日菜とスバル。

本人は無意識とは言え、『書かれたらその通りに行動してしまう』能力は、確かにある意味スタープラチナよりも強いかもしれない…………

 

「お、あれが入り口じゃないか?」

 

久しぶりに再会した康一と話をしながら歩いていた承太郎は、目の前に入り口らしき門があるのを見た。

それを見たネギ達は、山の入り口以上に気を引き締めた。

 

(着いたか………)

(一応、敵ではないとはいえ、こちらは関東魔術師協会の代表………ちゃんとしていかないと……)

 

徐倫やネギ達がそう考えている中、承太郎やアナスイ、ギンガたちは――――

 

 

 

「「「「「お邪魔しまーーーーす。」」」」」

「「「「「ってちょっとーーーーッ!?」」」」」

 

普通に入っていった。

 

「ちょ!いくらなんでも緊張感なさすぎでしょーーー!?」

「ギン姉まで!?」

「え?ああ、大丈夫よ。さっき刹那から聞いたのだけどココ―――」

 

 

 

 

 

「「「「「「「お帰りなさいませ、このかお嬢様ーーーーッ」」」」」」」

「「「「「………へ?」」」」」

 

一同が門をくぐった瞬間、大勢の巫女さんが出迎えてきた。

呆気に取られるネギ達に、ティアナが説明を続ける。

 

「………ココ、『関西呪術協会』の『総本山』で、このかの『実家』なんですって。」

「「「「「えぇぇぇーーーーーーッ!!?」」」」」

 

「ちょッ!?何それ!初耳だよ!!何で桜咲さん先に言ってくれなかったのーーッ!?」

 

驚いたまま刹那に問いただすスバル。徐倫らも、事情を聞きたそうだ。

 

「す、すみません……今御実家に近づくとお嬢様が『危険』だと思っていたのですが……「シネマ村」では、それが裏目に出てしまったようですね………」

「ナルホド………逆に『総本山』に入っちまえば『安全』って訳だな。」

 

徐倫の言葉に、刹那は小さく頷いた。その時だ。

 

「あ、ジョルノ様たちも、お帰りなさいませ。」

「ルル・ベルさんも。」

「ええ。ありがとう。」

「あの人は?」

「すんません、今出ております。」

「「「「「あれ?」」」」」

 

何か、ジョルノたちとルル・ベルが、巫女さんたちとフレンドリーに話していた。

 

「あれ?何でジョルノさん達、そんなフレンドリーなん?」

「え?ああ、その事ですか………」

 

ジョルノが説明をしようとしたその時、本殿に続く道に、2人の人影があった。

 

「ジョルノさんたちは、長の知り合いである女性の案内で、この総本山に泊まっているんですよ。」

「ん?………!?ああっ!!」

 

その影を見たノーヴェは、思わず叫び、そして思い出した。

 

(そ、そーだよ、キョートってどっかで聞いたと思ったら………()()()の実家、キョートって言ってたじゃねーか!)

「あ、あなたは………!!」

 

そこに立っていたのは、後ろに撫でつけたアッシュグレーのくせっ毛の右側3か所を短い三つ編みを垂らした、中肉中背の抽象的な顔立ちの少年と、黒いショートボブに丸眼鏡をかけたメイドであった。

 

『篤緒 奏汰!!』

「お久しぶりです、ネギ先生。」

 

驚くネギたちに対し少年とメイド・篤緒 奏汰とレプラ・ハーパーは、挨拶をした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

本山に入っていったネギ達を、じっと見ている陰があった。

 

「ちぃッ、コラヴィオレッタはんッ!!あんたが『追わんでえー』ゆーから放っといたら、「本山」に入れて手出しできんやんかッ!!ディードも向こうの手中やしーーーーッ」

 

陰、千草は通信を開いてヴィオレッタに怒鳴りつけていた。そんな千草に、ヴィオレッタは涼しい顔で告げる。

 

[ご安心を千草。すでに手は打ってあるわ。]

「無理やろ!既に『アヌビス神』は再起不能(リタイア)しとるで!仲間やったから『エターナル・ブレイズ』は心強かったが、敵になったら―――」

[私がディードに与えたのは、『アヌビス神』と『エターナル・ブレイズ』だけではないわ。]

「――――何?」

 

ヴィオレッタの打ち明けた事に、千草は顔をしかめる。

 

[そろそろ、『ガディ・Ru』と共にそちらに着くはずよ。こういった『状況』において、最適な能力者がね。]

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――つまり、アナタの『協力者』が関西呪術協会の長と知り合いなのね。」

「ええ。お母様に近づいた『あの男』の事を調べていたら、あちらから接触してきたの。ただ、彼女の素性は私にも分からないわ…………」

「ふ〜ん………」

 

総本山の屋敷内にある大広間に案内された明日菜らは、呪術協会の長を待つ間にルル・ベルの話を聞いていた。

なお、ここまで同行していた鏡史郎と小太郎は、巫女さんによってどこか別の部屋に連れて行かれていた。

 

「ボクたちは、京都の実家に帰った後にルル・ベルさんに話を聞いてね。それで総本山の方に来ていたんだ。」

「そうか、お前のスタンドを呼び覚ましたのは、ルル・ベルだったわけか………」

「いやぁ、お待たせしました。」

 

全員が座った時、大広間の奥にある階段から、中年くらいのやせた男性が現れた。

 

「ようこそ、明日菜くん、木乃香のクラスメートさんたち、それに担任のネギくんと承太郎さんたちも。木乃香の父の『近衛 詠春(えいしゅん)』です。」

 

男性・詠春が名乗ると、木乃香が彼に抱きついた。

 

「『お父様』、久しぶりやーーーー♪」

だきっ

「こら木乃香、皆さんの前だろう。」

 

抱きつかれた詠春は、照れたように、だが嬉しそうに木乃香に注意する。

 

「このかの親父さんが、『西』の長だったのか………」

「これは、予想できなかったな………そういやあ、京都(こっち)出身だったね………」

「し……渋くてカッコイいかも………」

「ア、………アスナって、そういう趣味なんだ……」

 

詠春と木乃香のやり取りを見て、徐倫らは感想を漏らす。

 

「あ、あの、長さん、これを……『東の長』、麻帆良学園学園長・近衛 近右衛門から、西の長への『親書』です。お受け取りください。」

 

そこへ、本来の目的である『西の長への親書』を渡すネギ。

 

「ええ、確かに承りましたよ、ネギくん。大変だったようですね。」

「い、いえ………」

 

言うと詠春は、ネギから渡された親書を開けると、一番初めの紙には、

 

下もおさえれんとは何事じゃ!

しっかりせい婿殿!!

 

というメッセージが、学園長のイラスト付きで書かれていた。

 

「(はは……相変わらずお義父さんは手厳しい……)………いいでしょう、「東の長の意を汲み、私たちも東西の仲違いの解消に尽力する。」とお伝えください。任務御苦労!ネギ・スプリングフィールド君!」

「は、はい!」

 

こうして、学園長から託された『親書を渡す』という任務は完了した。

詠春は『今から山を下りたら日が暮れる』と、今日は屋敷に泊まるよう勧められ、ネギたちはお言葉に甘えることにした。(旅館の方には身代わりを放ってくれるらしい。)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「いやぁ、いいお湯だったねぇーー♪」

「意外といいわね、ニホンのお風呂って♪」

「え、あ……うん………」

「………あー、ハルナの事がまだ残っていたわね…………アナスイの『ダイバー・ダウン』が見えたらしいケド………」

 

夕食を振る舞われ、さらに風呂にも入らせてもらった明日菜、スバル、トリッシュは、廊下を歩いていた。

 

「まあ、その辺は承太郎さんやブチャラティに任しとこ。敵も屋敷に迂闊に攻め入らないでしょ。」

「だと良いんだけど……………(何だろう………この『胸騒ぎ』………?)」

 

スバルが、どことなく不安そうに呟いた時だ。

前方の曲がり角で、ズシャアッ、という倒れ込むような音がした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

一方、屋敷内のトイレでは…………

 

「あ、千雨にオットー。」

「ランスター。」

 

ティアナとルーテシアがトイレに入ると、千雨とオットーが手を洗っている最中だった。

 

「何でルーテシアお嬢様と一緒に?」

「………トイレが怖くて…………」

「え?その年齢(とし)で?」

「いや、ほら、ルーテシア二回もトイレで『災難』にあったらしいから…………」

 

ティアナが説明すると、思い出してしまったのか、ルーテシアは小刻みにふるえてしまった。軽くトラウマになっているらしい………

 

「あー、分かるぞ。私も6年くらい前から、時々トイレで災難に合うから…………」

「そういえば、今日もあっていましたね…………」

「………そう。」

 

千雨の話を聞いて同族がいることを知ったためか、少し希望が持ったような眼差しを千雨に向けると、開いている個室に入るルーテシアだった。

 

「で、あんたたちの方は?」

「私は普通に用を足しに。オットーは、ディードを連れてな。」

「さっきようやく目を覚まして………それでトイレに行くって言うから。」

 

安心した表情で話すオットーを見て、ティアナはそう、とだけ言った。

麻帆良に来た当初からディードの事で余裕のない様子だったオットーだが、ようやく落ち着いたようだ。

 

ドッジャァァアア……

「………とりあえず、何ともなかった…………」

「………良かったな。」

「ディード、長いなぁ…………」

「確かに………まあ、その辺は気にしないでやれよ。個人の自由だ。」

 

ルーテシアが個室から出てきて、そう千雨が入った時だ。

ディードの入っていた個室が、ギギギィと音を立てながら、ゆっくりと開いた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

少し時間は遡り…………

 

屋敷内、徐倫たちにあてがわれた部屋

 

 

現在、ここには徐倫、アナスイ、ギンガ、夕映、のどか、ルル・ベル、フェイト、アルフが、ハルナを囲うようにして座っていた。(ルル・ベルは、相変わらずのどかから少し離れている。)

 

「あの、のどか………これは一体…………?」

「あ、………だ、だだ大丈夫だよーー?」

「さてハルナ、質問だ。お前、『コイツ』が「見えるか?」」

 

困惑する夕映をのどかが大丈夫だと言う中、徐倫は『ストーン・フリー』を出した。

 

「うおっっ!?徐倫!あんたまでッ!?」

「?ハルナ、何の話です?空条さんも………?」

(ゆえは見えてないんだー………)

 

ハルナは『ストーン・フリー』に驚いているが、夕映には見えていないのか、何のことか分からない様子だ。

 

「え?何言ってんの夕映?徐倫の後ろに…………」

 

するとハルナは、側においてある自分のカバンからスケッチブックを出すと、手にしたペンで徐倫の後ろから出るストーン・フリーを描いた。

 

「こんな風に、何て言うか、『守護霊』?みたいのが出てるじゃん!?」

「………?いえ、私には…………!」

 

目を凝らして徐倫の背後をみる夕映だったが、ふと気づいた。

 

「空条さん、先ほど『見えるか?』と聞きましたね?ということは、『()()()()』と『()()()()()』がいて、ハルナは『見える人』だと言うことですか?」

「………さすが夕映、話が早いなぁぁーーーー」

(く、空条さん!お、おお教えちゃっていいんですかーーッ!?)

(ま、ここまで巻き込んじゃあ、仕方ねーだろ………コイツ、やけに『勘』がさえてるし………)

 

のどかと徐倫がひそひそと話すのを見ていたハルナと夕映だったが、ふと、夕映は気づいた。

 

「………?ハルナ、いつの間に()()()()()()()()()()()()()()?」

「え?あ、あれ?」

 

ハルナが見てみると、徐倫とストーン・フリーが描かれているはずのスケッチブックのページは『白紙』になっていた。

 

「おかしいなあーー?1ページも『めくっていない』のに………描いた絵が見当たらないなんて………?」

「!?ハ、ハルナーー、そ、その『ペン』は………!?」

「へ?」

 

不思議そうにスケッチブックを見ていたハルナだが、のどかに言われて自分が握っているペンが『変質している』事に気づいた!

 

ペン先は銀色でカラスの頭を模しており、頭には『G』と書かれているのでGペンがモチーフだと思われる。

薄い緑色の軸には三日月のような模様がペン先の元から後部にかけて施されており、後部には鳥とジェット機の翼を組み合わせたような翼が付いており、全体的に見るとジェット機のコンコルドに見えるフォルムだ。

 

「あ、あれ〜?何コレ?こんな『ペン』じゃなかったのに…………?」

「まさか………そいつがハルナの…………だが、何故絵が消えたんだ………?」

 

そう不思議に思って徐倫がスケッチブックに手をやった時だ――――

 

 

 

 

 

ズポァァァアアッ

「「「「ッ!?」」」」

 

徐倫の手は、スケッチブックに『沈み込んだ』!

 

「な!こッ、これは…………ッ!?」

「まさか……これがハルナの………!」

 

徐倫がハルナの『能力(スタンド)』に気づいたその時――――

 

バァアンッ

「!!?」

「チ………チンクさん?」

「みんな………今すぐ逃げろォッ!!」

 

いきなりふすまが開くと、必死の形相でチンクが叫んだ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ドサァアッ

「グゥゥッ………」

「!ノ、……ノーヴェ!?」

 

スバルは、倒れ込む音の先にいた少女―――ノーヴェを見て心配そうな声を出した。見ると、ノーヴェは肩から血を流していた。

 

「大丈夫!?怪我しているけど―――」

「近づくなッ!!」

 

明日菜が心配そうに駆け寄ろうとするが、ノーヴェはそれを突っぱねるように叫んだ。

 

「やられた………アイツら、『ディード』に罠を張っていたんだ………すれ違った時に………肩ヲやられた………」

「えっ……ッ!?」

 

ノーヴェが苦しそうに告げた言葉に、3人は息を飲む。だが、明日菜は気づいていた。

 

(ノ………ノーヴェの『口』………いつの間にか「耳」まで裂けて…………キバまで見える………まるで!あの口はッ!!)

 

だが、ノーヴェの変化はそこで終わらない!皮膚はウロコが覆い初め、手の爪は鋭く伸び、首も伸び出した!

 

「ア………アイツハ!ソウして『姿』ヲ変えるンダ!……『爪』デ攻撃して……支配下にオク『能力』なんだ!『カスリ傷』でも感染スル!そうやって『内側』カラ………総本山(こコ)ヲ攻め落とす作戦だったんだ!!」

 

ノーヴェの苦しさを増す声と比例して、さらに変化は進んでいく!

口は前に伸び、足の骨格も変わりだしていた!さらに、その変化の『極めつけ』は!

 

「し…()()()ォー!!?」

「逃げロッ!!コノ敵ハ………ヤバ………ス…………ギルッ………!」

 

トカゲを思わせるしっぽが生え、その『変化』は終わりを告げた。

 

鳥を思わせる顔つきだが、その全身にはウロコが覆い、鋭い牙と爪を持ち、長いしっぽの『爬虫類』だ。

薄い赤の体表を持ち、黒い背面には『I』と『X』に見える赤い模様が交互に並んでいた。

 

そう、この生物は―――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ディードの入っていた個室の扉が開いたので、千雨たちはそちらを見た。

見て、ひきつった笑みを浮かべた。

 

「「「「……………は?」」」」

 

そこにいたのはディードではなく、巨大なトカゲを思わせる生物―――――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「チンク?何を言って…………」

 

チンクに聞くギンガだが、チンクの後ろから迫る3匹の生物を見て、自分たちにかかってくる『危機』に気づいた。

 

そう、この『生物』は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「きょッ!!………『恐竜』ーーーーーーーーーーッ!!??」」」」」」」

 

屋敷中のあちこちから、そんな叫び声が木霊した。

 

今現在、関西呪術協会総本山は、恐竜で最も頭が良かったとされる肉食恐竜『ラプトル』に占拠されていた…………

 

『恐竜化の能力』

能力名、本体、共に不明。

 

 

 

 

 

←to be continued...




62話です。

・サブタイトルは『サルディニア島嵐警報!』から。

・ポルナレフと千雨の会話。ポルナレフがルーテシアについて何か知っているようですが、詳細は後になります。

・ルル・ベルの『協力者』は、あの『仮面の女』です。
彼女の正体はある意外な人物で、この物語の鍵を握っています。

・ハルナのスタンド。今はヴィジョンと能力の鱗片だけですが判明させました。詳しくは次回。

・ラストで『恐竜化』。『ネギま!』を読み返して、この場面ではこれしかないと考えていました。

では、次回をお楽しみに!


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#63/京都嵐警報! ②

GIORNO(ジョルノ)

【伊】日、明けた白日という意。

 

BUON GIORNO

ブォン ジョルノで「おはよう」。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――随分久しぶりじゃねーか、ポルナレフ……………」

『承太郎……………』

 

徐倫がハルナの尋問(?) をしているのと同じ頃、承太郎はとある一室でジョルノたちが所持していたスタンド使いの亀『ココ・シャンボ』の内部で、ポルナレフと対話していた。

 

(彼がポルナレフのかつての仲間か…………さっき会った時もそうだったが、なんつー圧力(プレッシャー)だよ…………)

(彼のプレッシャー………何だこれは?何か…………『別の力』が働いているような………?)

 

「ココ・シャンボの所持者だから」と、近くで見ていたジョルノ、ミスタ、そしてブチャラティの3人。承太郎は時折チラリとみる程度で気に留めていない様子だが、内心ジョルノがいる事に気まずい状況だった。

 

『その……何だ、色々とすまないな、千雨の事………』

「気にするな。元を質せば、J・ガイルのせいなんだからな。」

 

承太郎が気軽に言うと、ポルナレフはホッと肩をなで下ろした。

 

「………所で話は変わるが、お前、『ディアボロ』にやられた後、時空漂流したらしいな。」

「え、あ…ああ………」

 

承太郎が切り出した話に、ポルナレフは狼狽え、ジョルノたちは目を見開く。

 

「スバルのオヤジから聞いたんだが、お前、そん時「陸士108隊」に保護されて、『メガーヌ・アルピーノ』という女性陸士と仲良くなったらしいな………」

『……………まあな。』

 

なぜか気まずそうに承太郎から目を反らすポルナレフ。気のせいか、汗の量も多い。

 

「オヤジさんのヤツ、オメーの名前聞いてビックリしてたぜェ………まさかオレと知り合いだとは知らなかったらしくてなァ……………」

『ま………まあ、そうだろうな…………時空漂流者だし…………』

「………千雨にはまだ言ってねぇぜ。あの―――!」

 

承太郎は言い終えようとした時何かに気づいたのか上を、亀の外を見上げた。

 

「?どうかしましたか……?」

「………外が、妙に騒がしい………」

「………何?」

 

言うや否や、承太郎は外に飛び出した。出た先には――――

 

「………ニ゛ャ!?か………亀から!?」

「バレた…………」

 

黒いボブカットでネコ耳と尻尾を持つ少女と、左右に大きな角を持った褐色の少女が、部屋の畳と床板をはがし、その下から『細長い木箱』を取り出している最中だった。

 

「………やれやれ、見た所巫女さんじゃねぇな。ネギ君達が対峙したっつう「調」とかゆうヤツの仲間か…………」

 

二人が慌てる中、承太郎は臨戦態勢をとる。後ろでは、亀からジョルノ達が出てきていた。

 

 

「ど………どうしょう(タマキ)!!?」

「………落ち着いて(コヨミ)、勝てない相手ではない。」

 

暦と呼ばれたネコ耳の少女に対し、環と呼ばれた角の生えた少女は焦った様子ながらも冷静に話す。

 

「……ほう、随分と「ヨユー」ぶっこいてんじゃねーか。この状況で、テメーラに『勝ち目』があるとでも?」

 

環の態度に、『スタープラチナ』を出して臨戦態勢の承太郎が言う。背後のジョルノ達も、それぞれスタンドを発現させていた。

 

「いえ、ただ、あなたの方こそ状況をよく見ていただきたいなと思います。」

「………何?」

 

環の言葉に、承太郎は眉をひそめた。その時、部屋のふすまが慌ただしく開いた。

 

「じょ、承太郎さんたち!」

「早く逃げて………!」

 

入ってきたのは千雨、ティアナ、ルーテシアにオットー、そして―――――

 

 

 

 

 

「すでに本山(ココ)は、我々に『占拠』されていますから。」

 

 

 

 

 

数匹の『恐竜』だった…………

 

 

 

 

 

#63/京都嵐警報! ②

 

 

 

 

 

「ノ………ノー………ヴェ………?」

 

恐竜に変わり果てたノーヴェの姿を見て、スバルが恐る恐る話しかける。

 

「………ヴヴヴ〜〜〜」

 

だが、ノーヴェはそれに反応する事なく、唸り声を上げるのみだ。どうやら、既に精神も支配され、恐竜と化してしまったらしい……

 

「な………何かヤバそうよ………?」

「逃げた方がいいんしゃあ…?」

「で、でも、ノーヴェは………」

 

明日菜とトリッシュがスバルに提案するが、スバルは躊躇ったように呟く。その時―――

 

「ギャァァアアアアーーーーーーース」

ドンッ

「「「!!」」」

 

甲高い咆哮を上げて、ノーヴェが飛びかかってきた!

とっさに3人は庭に飛んで回避する。ノーヴェが意識を失う前に伝えてくれた情報が正しければ、恐竜化したノーヴェの爪で攻撃されるのはマズい事になる。

3人は庭に逃げると、できる限り距離を取ろうと後ずさりする。

 

【―――フェイトさん!ティア!みんな!敵襲!ノーヴェがやられた!】

 

後ずさりながらも、スバルはティアナたちに念話を飛ばす。総本山が攻撃されている事を、速く知らせなくてはと思っての事だ。

 

【………ごめんスバル、今その恐竜に襲われてる最中よ………!】

【私も…………】

【えぇッ!?】

 

だが、次いで聞こえてきた念話に唖然とする。

という事は、既にノーヴェ同様に恐竜化した者達により、総本山は占拠されてしまったのか……?スバルの頭に最悪のシチュエーションがよぎった時、ノーヴェが再び飛びかかってきた!

 

「ギャァァアアアアス!」

「ギャーー!?」

「くっ………!」

 

明日菜とスバルは直ぐに飛び退こうとしたが、不意にグィイッ、と背中を引っ張られる。

 

「こっちよ。」

「トリッシュさん!?」

「『スパイス・ガール』!」

 

トリッシュは、二人を近くにあった灯籠の後ろに引っ張ると、「+」や「−」、「×」、「÷」の数学記号が各所に施された女性型スタンド―――『スパイス・ガール』で、灯籠を攻撃した!

ノーヴェはそのまま、灯籠目掛けて突っ込んでくる!

 

 

 

 

 

グニャァア

「「え?」」

「………ギ?」

 

だが、ノーヴェが灯籠に激突した瞬間、灯籠の上部の穴に首と腕が『()()()()』!?

 

「私の『スパイス・ガール』が殴ったものは!『岩』だろうが『鉄』だろうが!ゴムのように『柔らかくなる』!!」

 

トリッシュが言い放つと同時に、灯籠の上部が本体から離れ、ズズゥウン、という重低音と共に落ちた。

 

「ギャース!ギャース!」ジタバタジタバタ

「や………柔らかくなっても、『重さは変わらない』のね…………」

「ちょうど良い『枷』になったわね。さあ、今の内にジョルノ達と合流しましょう。」

 

灯籠の重さで身動きがとれず、ジタバタと足掻くノーヴェを尻目に、トリッシュは二人を連れて立ち去ろうとする。

 

「………あの、トリッシュさん………一つ聞きたいことがあるんですが…………」

「「?」」

 

だが、スバルは冷や汗を垂らしながら、一方向を見ていた。二人もそちらを見ると――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グルルルルルルル……………」

「アウッアウッ」

「ギャァァアアアアス!」

 

十数匹の恐竜が、三人の行く手を阻むようにひしめいていた…………

 

「………()()()()()()()()()()()()()………?」

「………軽く10個くらいかしら?」

「………近くにあるのは、この灯籠1個だけみたいですけどね…………」

 

口調は軽いが、頬を引きつらせながら三人は立て続けに話す。恐竜達は、今にも三人に飛びかからんとする勢いだ。

 

瞬間。

 

ドシュッドシュッドシュッ

「「「!」」」

 

何かの発射音と共に、「光の矢」が恐竜達を襲う!

 

「「「「「………!」」」」」

シュンッシュンッ

「「「なッ………!?」」」

 

だが、恐竜たちはそれを『振り返らないまま』難なくかわしてしまった!

 

「な………なんてヤツラだ!フェイントも混ぜた不意打ちの『戒めの矢』を『振り返らねー』でかわすなんて………!」

「ネギ!」

 

声のした方を見ると、杖を構えたネギがおり、肩に乗ったカモが信じられないと声を上げていた。

 

「ギャース!」

ドンッ

「くっ……『風楯(デフレクシオー)』!」

ドガァアッ

 

と、恐竜が一匹ネギに襲いかかり、ネギはそれを、障壁を張って弾き飛ばす。

 

「ネギ君!」

「スバルさん!今の内に二人を連れて大浴場に!」

「なっ………アンタ、何言ってんのよ!?そんな事………」

「大浴場で、刹那さんとこのかさんが待っているんです!もしこのスタンドがこのかさんを狙う目的なら、このかさんが危険です!」

 

ネギの言うことに、はっとなる三人。だが、このままネギを置いていく訳にはいかない。

 

「〜〜〜〜〜あーーもうッ!」

 

急にスバルがじれったいという風に叫んだかと思うと、リボルバーナックルを装着、光弾を数発恐竜たちに向かい発射した!

だが、恐竜たちは先程同様にジャンプする事で難なくかわし、光弾は地面付近へ落下する。

 

ガシィイッ

「「「「「ギャース!?」」」」」

「「「なッ!?」」」

「バインド!?」

 

だが恐竜たちが着地した瞬間、蒼く光るバインドに拘束された!

 

「覚えたてでちょっとの間しか拘束できないから、今の内に早くッ!!」

「あ、………うん。」

「結構やるわね、あなた…………」

「ギャース!?」

「ギャース!」

 

バインドでもがく恐竜たちを尻目に、スバルたちは木乃香の元へ走った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………何とか撒いたみたいね…………」

 

一方、こちらは恐竜たちから逃げて、ある部屋に隠れた徐倫、夕映、ハルナ、のどか、チンク、アルフ、ルル・ベルたち。

アナスイたちとははぐれてしまったが、まああの面子なら大丈夫だろう、とは徐倫談である。露伴に限っては、恐竜の動きをじっくり観察する余裕があったし。

 

「チンク、ありゃあ一体………?」

「分からん…………巫女さんが数人うずくまって苦しんでいたから、心配して近づこうとしたら急にあのようになって………」

 

マジで、とアルフが思った(流石にまだ夕映たちの前で声を出せない。)一方、徐倫はこの状況がスタンド攻撃だと確信した。

 

「で………ではこの状況はその『スタンド』という超能力によるものだと………?」

「ええ。そうなるわ。」

「マジで!?私エスパーッ!?」

「そ………それとは違うかなーーー………?」

 

一方で、のどかとルル・ベルは夕映とハルナに『スタンド』や『魔法』について説明していた。いきなり非現実的(ファンタジー)現実(リアル)を聞かされただけに、二人のショックは大きいようだった。

 

「そ、それでなんだけどハルナー、いつ『矢』に射抜かれたか、覚えはないーー?」

「え?うーん……………?あ!あの時かも!!」

「いつかしら?正直、私にも覚えがないんだけど………」

「うん、ネギ君やスバルが麻帆良に来る、一週間位前だったかなーー。」

 

曰く、図書館島でのどかが倒れているのを発見し、抱きかかえた時に右手人差し指の根元を少し怪我したらしく、ほら、と見せられた右手には、確かに言われないと分からないほど小さな傷があった。

 

「なるほど、多分だけど、そんな小さな傷だったから、スタンドの覚醒に時間がかかったのね………」

 

ルル・ベルが自分の推論を呟くと、ふすま近くで外の様子を伺っていた徐倫が近づいてきた。

 

「そんじゃあハルナ、お前のスタンドを確認しておきたい。」

 

そう言って、徐倫はハルナにペンとスケッチブックを差し出した。

 

「え?く、くく空条さん、何でこんな時にーー?」

「私の推測が正しければ、ハルナの能力があればこの場を脱出できるかもしれない…………」

 

ハルナが困惑しながらペンとスケッチブックを受け取る中、徐倫の言葉に全員がハルナに注目する。

 

「スタンドは発現したな。そんじゃあハルナ、まずは夕映を描いてみてくれ。できれば全身像で。」

「お、OK………?」

 

未だに首を傾げたハルナだが、徐倫の言うとおり『スタンドの発現したペン』で、スケッチブックに夕映を描いた。

だが描き終えると、夕映の絵は徐々に消えていった。

 

「あ!?あれぇーー!?」

「消えた………ひょっとして、さっきの徐倫の絵も今みたいに……?」

「………夕映、その『ページ』に触れてみてくれ。」

「え………あ、………はい?」

 

夕映は分からない様子ながらも、徐倫に言われるままにページに触れると――――

 

 

 

 

 

ズボォオッ

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

先程同様、夕映の腕がスケッチブックに『めり込んだ!?』

 

「なッ!?こ………これって………!?」

「やはりな………夕映、もっと奥につっこめ。」

「なッ!?何を言ってるですか空条さん!?」

「いいからッ!」

グイイッ

「キャーーーッ!?」

「ゆえーーーッ!?」

 

いきなりの徐倫の指示に夕映は戸惑うが、徐倫はそれに構わず夕映を無理矢理つっこんだ。すると、夕映は全身がスケッチブックに沈み込んだ!

 

「ゆ、ゆえーーッ!?どこーーッ!?」

『のどかーー!私はここですよーー!』

 

夕映の声のする方を見ると、それはスケッチブックからだった。見ると、ページには『消えたはずの夕映の絵』が描かれており、絵の中から叫んでいた!

 

「やはりな………ハルナのスタンド能力は、『絵に模写(かい)たものを、絵の中に閉じこめる能力』!!」

「おおッ!ってか、何この凶悪っぽい能力!?」

『何でも良いですけど、それを確かめるのに私を使わないで下さいーーーーーッ!』

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その頃、木乃香と刹那は大浴場にいた。

偶然にも二人は恐竜と遭遇はしなかったが、屋敷中のピリピリと殺気だった雰囲気に、木乃香は不安そうに刹那の服をぎゅっ、と握っていた。

 

「せっちゃん…………」

「お嬢さま、私から離れないように。」

「うん…………」

 

既に『夕凪』を抜刀して構えている刹那は、背にいる木乃香にそう笑いかけた。

 

(先程のナカジマさんからの念話から察するに、敵はスタンド使い…………だとすると狙いは―――)

 

刹那がそう考えた時だ。

 

二人の背後にあった浴槽の湯船がゆらりと波打った!?

 

 

 

 

 

「―――――!」

ギュワンッ

「!?」

 

瞬間、刹那の『夕凪』の刃が煌めき、背後にいた人物をかすった!

その人物は湯船の湯を撒き散らしながらバック転をして、水面に『立った』。

 

「………やるね。まさか一瞬で感づかれるなんて。」

 

そこにいたのは、自分たちと同世代程の、白髪の学生服を着た少年だった。

 

「少しはできるようだね。でも――――油断しすぎかな。」

 

瞬間、飛び散った湯の水たまりから、木乃香に向かい何かが飛び出した!

 

「!?」

さっ

「『ッ!?』」

 

だが、木乃香はその『何か』をとっさに避けた。

 

(『クラッシュ』を避けた………?バカな!?近衛 木乃香がスタンド使いという情報は入ってない!?)

 

予想外の事態に、少年は目を白黒させる。だが、頭を掠ったらしい木乃香の右こめかみを見て、理由を察知した。何故ならそこには――――

 

「ハァァァアッ」

「!」

キィィンッ

 

少年が考えを巡らせる中、刹那の『夕凪』の一閃が迫り、少年はそれを障壁で防ぐ。少年は防ぐまま呪文を詠唱し、刹那に向けて『魔法の矢(サギタ・マギカ)』を放つも、刹那はギリギリで避けた!

 

「くっ…………」

「以外と粘るね。でも―――」

 

瞬間、木乃香の元へ再び何かが迫るも木乃香はすっと避ける。

 

だが、その先には………………

 

ガシィッ

「きゃぁあッ!」

「お嬢さまッ!?」

 

いつの間にか、そこには片方の角が折れた『鬼』が立っており、木乃香をガッシリと捕まえ、気絶させた!

 

「油断大敵だ――――よッ!」

バッシィィィイイイッ

「!しま……………ッ」

 

木乃香に気を取られていた刹那は、少年の放った『戒めの矢』に捕縛されてしまった!

少年はそのまま木乃香に近づくと、木乃香の頭から出ている『ソレ』を掴み、

 

ズルゥゥウウーーー

「!?」

 

一気に『引っこ抜い』た!

『ソレ』は、直径が約20cmの藍色のCDのようなDISC(ディスク)で、光に反射して表面に『独特な描写で描かれたマンガらしきもの』が見えた。

 

「『ホワイトスネイク』の『DISC』か。こんなものが彼女に「入れられていた」なんて………しかもこのスタンドは……」

 

少年はそのDISCを見ながら、仮にこのスタンドを近衛 木乃香が意識して使用したらと考えゾッとした。

 

「き、貴様ァッ!」

「悪いね。僕としては彼女に興味はないけど、千草さんがうるさいからね。」

 

少年はDISCをポイッと放ると、そのまま水たまりに近寄った。

刹那には見えていないが、その水たまりには『鮫』型のスタンド―――『クラッシュ』が待機しており、ヒレで少年を掴んでいた。

 

「まあ、目的のモノも手に入ったし、僕は退散させてもらうよ。それじゃあ。」

「なっ、待っ…………」

 

待てと言い切る前に、少年は何処へと転移してしまった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

千雨とティアナ、ルーテシアは、開いた口が塞がらなかった。

 

暦と環も、塞がらなかった。

 

何故なら―――――――

 

 

 

 

 

「―――やれやれだぜ。思ったより手こずったな。」

「ディード、大丈夫ッ!?」

 

彼女たちの目前では、承太郎が帽子の位置を直し、オットーが血を流すディードを抱き抱え、ジョルノが亀を抱え、ブチャラティがやれやれとため息をつき、ミスタが弾丸を込め直していた。

そして周りには、体のあちこちに青あざを作った巫女さんが、ある者は畳の上で、ある者は畳から『生えた』樹木の上で、またある者は畳に空いた穴でノビていた……………

 

 

 

このような状況になった経緯を説明すると、

ティアナたちと一緒に入ってきた恐竜たち数匹に対して、承太郎が『オラオラ』をブチかまし、恐竜の内2、3匹が巫女さんに戻るも、難を逃れた数匹(スタープラチナが見えるディード等)が尚も立ち向かってきたため、ミスタが『生命の与えられた』弾丸を畳に放ち、それから成長した樹木で恐竜の動きを封じ、ブチャラティが畳にジッパーを引っ付けて空いた穴に恐竜を落とし、そのまま承太郎とジョルノが再起不能にした訳だ。

 

 

 

「何というか……………容赦ないわね、あの人たち…………」

「だね……………」

「さすがは承太郎さん…………」

「あわわ………」

 

ティアナたちがそう呟いたその時、そばのふすまがバァンッ、と開き、刀を構え、肩で息をする詠春と、合流したらしい露伴と康一が現れた。

 

「長さん………」

「やはり、目的は『ソレ』でしたか………!」

 

詠春は暦が持った木箱を見て、潜入してきた者たちの目的を察する。

 

(長が自ら………それ程重要なモノなの……?)

 

皆が一瞬考えを巡らせていた瞬間、暦と環は懐からカードを取り出した。そして――――

 

「「来たれ(アデアット)。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ッ!?』

 

 

 

 

 

気が付くと、暦と環の姿が消え、承太郎たちは無数の立方体の浮かぶ、無限とも思える空間にいた―――!?

 

「これは………?」

「何だこりゃァッ!?『端』が全く見えねぇぞ!?四方八方が何十kmも先まで続いてるみてえだ………!?」

「やられた!!これは「結界空間」よ!!さすがに、こんな広大なものは初めて見たけど…………」

「まさか…………僕たちをこの空間に閉じこめて「出さない」気かッ!?」

「何ィッ!?」

 

ティアナとオットーの推測に、全員が息をのんだ。

 

「―――アーティファクト『無限抱擁(エンコンパンデンティア・インフィニータ)』。」

「!?」

 

気が付くと、承太郎たちのいる場所から数十m離れた立方体の上に消えたと思った暦と環がいた。

 

「この『無限の広がり』を持つ「閉鎖結界空間」に出口はありませんよ。理論的に、脱出は『不可能です』。」

「例えあの『DIO』を殺した『最強のスタンド使い』であるあなたでも、これにはお手上げでしょう。」

「!!」

 

環が言い放った言葉にジョルノが動揺したが、二人はかまわずに姿を消してしまった……………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

(くっそーー………)

 

一方、屋敷内の、大浴場に近い廊下の屋根裏。

 

(大浴場まで屋根裏は続いてないし…………でも廊下《した》には恐竜がうじゃうじゃ…………早くどっか行ってくんないかなぁ~~~~~…………)

(ア………アナスイさんと二人っきり…………あう~~~…………どーしよー、さっき助けられてから、ヘンに意識しちゃって………)

 

アナスイと二人っきりという状況に、ギンガは真っ赤になった顔を両手で覆った。

 

ペラッ

「ん………?」

 

ふと、『ダイバー・ダウン』で廊下の様子を見ていたアナスイは、廊下に一枚の『紙』が飛来してきたのを見た。気になるのは、その『紙』から『糸が伸びている』事だ。

アナスイがそれを見て不思議に思った時、紙から『もう一枚紙』が現れ、恐竜たちの足下に落ちた。そして、恐竜たちがそれに近づいた瞬間――――

 

 

 

 

 

ドッギャァァアアアーーーッン

「「「「「ギャーーースッ!?」」」」」

「なッ!?」

「?」

 

恐竜たちが、紙に『吸い込まれてしまった』!?

 

『ぃよっしッ!作戦成功!!』

ズルゥゥウウーーー

「徐倫!?」

 

恐竜たちが吸い込まれると、人差し指から『糸を出した』徐倫が紙から這い出てきた。それを見たアナスイとギンガは、屋根裏からひょいっと飛び降りてきた。

 

「おお、無事だったかギンガさん。」

「え、ええ…………」

「え?オレは?」

ズルゥウ

「いやァーー、考えたね徐倫!」

「まさか、ハルナの能力で恐竜たちを閉じこめるとは…………」

「あなたたち!?」

 

アナスイが相変わらずぞんざいに扱われる中、同じようにハルナやルル・ベルたちが、紙の中から出てくるのを見て、ギンガは驚いた。だが徐倫は恐竜たちを閉じこめた紙を拾うと半分に折り曲げ、ポケットからセロハンテープを取り出すとグルグルと紙に貼り付けた。

 

「あのーー、く、空条さん、何をーー?」

「いや、万が一『抜け出せないよーに』な。」

 

のどかの質問にそう答えると、同じようにポケットからホッチキスを取り出して、針で柱に紙を張り付けてしまった。

 

『ギャース!ギャース!』

「なるほど………これは抜け出せないですね………」

「ネギたちとは大浴場で落ち合う手筈だ。行くぞ。」

 

張り付いた紙を見て夕映が感心していると、徐倫が皆に言った。

 

その時だ。

 

ズシャアアアーーーッ

「きゃあっ」

「くっ………」

「うおっ!?」

「フェ………フェイトさんに、ヴィータ副隊長ッ!?」

 

突如、フェイトとヴィータが滑り込んできた。

 

「大丈夫ですか?まさか、また恐竜たちが………!?」

「い、いや………それとは『別の敵』だよ………不意打ちを喰らっちゃった…………」

「えッ!?」

 

フェイトの説明に驚いた直後、徐倫たちの耳に『ヘリコプターのローター音』が入ってきた。

 

「ヘ、ヘリ!?」

「………おい、まさか……………」

 

どうやらその音に心当たりがあるらしく、徐倫は頬を引きつらせた。恐る恐る、フェイトたちが来た方向を見ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人間位の大きさ』の戦闘ヘリがいた…………

 

 

 

 

 

「ちゅ………中途半端な大きさッ!?」

「徐倫、ありゃあ…………?」

「ああ………『エナジー・フロゥ』……………「乱気流のすずめ」だ…………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

空条 徐倫を発見した黒羽(くろう) すずめは、思わず右手の指を鳴らした。

 

亜麻色の、所々跳ねたボブカットの髪型に、まだあどけなさの残る顔の右目には、翼の装飾が施された銀色の片眼鏡(モノクル)をかけ、グレーと白のパイロットスーツを着た、徐倫たちと同い年位の少女だ。

 

「見つけたよ空条 徐倫。二年前の屈辱、ここで晴らすッ!」

 

すずめは指を二度鳴らすと、レバーを前に倒した。

 

 

 

『伊賀の三羽鴉』の一人、『乱気流のすずめ』

スタンド名は『エナジー・フロゥ』

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

グリーンドルフィンストリート麻帆良

 

206号室

 

 

現在、シャーリーが留守番をする六課の部屋には、6人の来訪者が来ていた。

その内の一人、黒いロングヘアーの三十代前半程の女性は、向かい合ったエヴァンジェリンと碁を打っていた。

 

パチッ

「む………」

 

エヴァの一手に、女性は眉を潜めた。すると、脇からにゅっと金髪の陰が現れた。

 

「ここがいいんじゃない?」

「あ、コラ!」

「あら、確かにそうね♪」

パチッ

「ぐっ………この(わっぱ)は………!」

「こら、ヴィヴィオ!!」

 

エヴァンジェリンがヴィヴィオを睨んだため、脇に立っていた女性は、慌ててヴィヴィオを抱き抱えた。

 

怪我も大分回復したため、ヴィヴィオと一緒にスバルたちに差し入れとして実家の喫茶店のケーキを持ってきたなのはだが、現在修学旅行に向かっていると聞いて肩透かしを食らっていた。どうやら、はやてやフェイトの連絡ミスらしい。

仕方なく今夜はヴィヴィオと、仗助を訪ねてきたこの女性と一緒に、六課の部屋に泊まることにしていた。

 

「ちょっとルールを教えただけなのに、なかなかいいセンスしておるのぉ〜〜。」

「あの一手は、『マスター』ですら見落としていたようです。」

 

なのはが来ていると聞いた学園長と、エヴァンジェリンと一緒に連れられて来て、今お茶を入れている茶々丸は、先ほどのヴィヴィオの一手に感心していた。

すると、学園長の携帯電話から『残酷な天使のテーゼ』の着メロが鳴り響いた。

 

「はいもしもし。おお、ウェザー君か!」

「………たまに思うんだが、その着メロやめた方がいいぞ?」

 

引き気味のエヴァンジェリンのつっこみに目もくれず、学園長はウェザーとの通話を続ける。

 

「何!総本山が!?うむ…………では長も…………!」

[おそらくは…………承太郎さんがいるからと油断していました…………ネギ君によれば、恐竜はオレが何とかできるらしいですので、今、ホル・ホースの呼んだ『運び屋』を待っているのですが………]

「うむ、助っ人か…………しかしタカミチは今海外じゃし……………ほ!」

 

どうしようかと学園長が悩んだが、彼は気づいた―――

 

 

 

 

 

「ん?何だジジィ、マヌケヅラして?」

「何かあったんですか?」

「?」

 

 

 

 

 

自分の手元には、ジョーカーが『3枚』あることに……………!

 

 

 

 

 

←to be continued…




63話です。

・ポルナレフとルーテシアの関係が薄々発覚。ディアボロにやられた後、どうやって生き延びていたかを妄想した結果生まれた設定です。

・暦と環登場。彼女たちが狙ったものと、承太郎たちがどう切り抜けるかは、次回をお楽しみに。

・トリッシュ本領発揮。スパイス・ガールって柔らかくするだけだから、『イタくはないけど重い』という枷を作ってみました。

・ハルナのスタンドは、原作のアーティファクトをスタンドっぽくした感じ。次回、詳しい能力が判明します。

・木乃香は、DISCでスタンド使いになっていました。果たして、ルミリオが恐怖する能力とは…………?

・すずめ登場。三羽鴉の服装には、必ず頭部に『翼』のアイテムが施されています。

・最後に登場した切り札(ジョーカー)3人。最後の一人は、あるジョジョキャラです(今まで名前だけは出ています)。

では、次回をお楽しみに!


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#64/京都嵐警報! ③

「学園長と連絡は取れた。援軍をこちらに手配してくれたらしい。」

「分かったッス!ホテルの方は俺たちに任せてください!」

 

ホテル嵐山で、ウェザーと仗助たちは総本山へ向かう手筈をしていた。

総本山へはウェザーとホル・ホース、ウェカピポの3名が向かい、仗助や瀬流彦先生たちはホテルの防衛に着く事となった。

 

「外で待ってようぜ。ヤツの『足』なら、後2分もしない内に来るだろうな………」

「ああ。ネギの話じゃあ、ウェザー先生が向かえば何の問題もない―――!!」

 

しかし、外に出た仗助たちは、驚愕した。なぜならば、

 

「…………てのは、あ……甘かった………」

 

ホテルの周囲にはエイリアンのような暴走族型スタンド―――『バイシクル・レース』に囲まれており、更に、その先頭には『総長(フルアーマー)』までが配備されていた!

 

「い、いつの間にこんなに………!?」

「相手はスタンドだ………昼間の内にスタンドの『()()』になるバイクなんかをコッソリ隠しておいて、足止めにするために発現させるってワケか………」

 

仗助がそう推測をする。後2分もしない内に『運び屋』が来ても、この数では近づくのも難しい。

 

『GRUUUUUUUUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAA』

 

その時、『バイシクル・レース』の1体がウィリーをしながら突っ込んでくる!

仗助が前に出て対処しようとしたその時―――

 

 

 

 

 

パァアンッ

『!?』

『GRUA………』

 

突如として『銃声』が鳴り響いたかと思うと、迫っていた『バイシクル・レース』の額のちょうど真ん中に風穴が開き、そのまま消滅してしまった………!?

 

「い、今のは………!?」

『―――アー、驚イテイル所スマナイッスケドネ。』

 

不意に、頭上からしゃがれ声がした。見上げてみれば、ホテルの2回ベランダに人影があった。暗くて顔も背格好も判別できないが、側にはスタンドが立っていた。

 

鍔の広い黒いテンガロンハットを被り、身体にはボロボロの迷彩柄のマントを着た外見で、顔は機械仕掛けのがいこつのようであり、顔の左側の目とあごには割れたヴェネツィアンマスクのような物を付けており、右腕はひじから先が黒光りする、大きなスコープの付いたライフルになっていた。

 

「ス、スタンド!」

「あいつは、ルル・ベルお嬢が目覚めさせた……!」

『アッシハ『スーパー・スナイプ』ッツー(モン)デス。アア、本体ノ方ハマダ秘密ッス。アッシガ援護シヤスンデ。』

 

『スーパー・スナイプ』と名乗ったスタンドはそう言うと、右腕のライフルに弾を装填、スコープを覗いて静かに3回、引き金を引く。数拍置いて、3体の『バイシクル・レース』が地面に伏して消滅した。

 

『安心シテ下サイ。アッシハ狙ッタ獲物ハ逃ガサナイ主義ッス。』

「ほう、そりゃー頼もしいわな。」

「あのー仗助くん?何が起きているか、僕に分かるように言ってくれないかな…?」

 

『スーパー・スナイプ』が説明するが、スタンド使いではない瀬流彦先生には、何が起こっているのかさっぱりであった。

その時、ひしめき合っていたバイシクル・レースの後方が、次々と吹き飛んでいるのが見えた。何事かと思って見ていた次の瞬間、『バイシクル・レース』数体を跳ね飛ばして、1台の古い外国車が仗助たちの目の前に停まった!

 

「うお!?こりゃぁ、確か『カウンタック』とかいう、昔の高級車じゃねーか!」

「おお、時間ピッタリだったな『ズィー・ズィー』!」

「へ、急いで来たんだが、アイツらが邪魔でよぉー!ま、オレの『運命の車輪(ホウィール・オブ・フォーチュン)』なら問題ないがな!」

 

ズィー・ズィーと呼ばれた『運び屋』は右のドアから腕だけを出して答えた。ホル・ホース達は直ぐに車に乗り込むと、ズィー・ズィーの駆るカウンタックは一気に加速し、走り去っていった。

 

「さぁーて、俺たちはこいつ等にお帰り願う訳っすねぇー!」

「ホテル周辺には結界を張ってある。生徒たちには気づかれないから、派手にやっても平気だよ。」

『ソレハ助カルッスネェー。』

 

仗助と瀬流彦先生はそう言うと、『バイシクル・レース』の大群に向かって駆け出した!

 

 

 

 

 

#64/京都嵐警報! ③

 

 

 

 

 

「厄介なヤツが来たなぁオイ………」

 

襲ってきたヘリコプター―――『エナジー・フロゥ』を見て、徐倫はげんなりしたように呟いた。だが、そんな事お構いなしに、『エナジー・フロゥ』は徐倫たちに向けて機関銃を放った!

 

「ギャーーーッ!?」

「くっ………」

カンッカンッカンッカンッ

 

ギリギリでフェイトがシールドで防ぐと、エナジー・フロゥはプロペラが垂直になるように変え、フェイトたちに向かって突っ込んできた!

 

「なっ………!?」

ギャリリリリリリ

 

シールドにプロペラが当たり、火花が飛び散る。その隙に、徐倫がエナジー・フロゥの底面に回り込む!

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァアーーーッ!!」

ドガガガガガァアッ

「!」

 

ストーン・フリーのオラオラが、エナジー・フロゥの土手っ腹に吸い込まれた!衝撃で吹き飛んだエナジー・フロゥは壁にぶつかると、派手に爆発する!

 

ドォオオンッ

「やった!」

「お………思ったよりもあっけないでしたね…………」

 

エナジー・フロゥが爆散したのをみてハルナは歓喜し、夕映は肩すかしを喰らったように呟いた。

だが、エナジー・フロゥを倒した徐倫は渋い顔をしていた。

 

「いや、…………来るぞ!」

 

徐倫が叫んだ瞬間、機関銃の弾丸が飛んできた!

 

「ウワァアッ!?」

「今のは…………!?」

 

砲撃された方を見ると、そこには――――――

 

バラバラバラバラバラバラバラバラ…………

 

「ウっソーン!?」

「団体さんのお出ましだぜ……………」

 

十数体のヘリコプターの編隊が迫っていた………

 

[―――今のは小手調べだよ。腕が鈍っていたら、アタシガッカリだしね。]

 

ふと、編隊の中の一機から声が、まだ幼さののこる、少女の声が聞こえた。すると、編隊から薄いピンクのカラーリングで、向かって右側に翼のマーキングが施されたヘリが前に出た。見たところ、隊長機なのだろう。そうフェイトが思った瞬間、信じられない事が起きた。

 

ヘリの尾翼に節が出来て伸びたかと思うと、180度回転。そのまま底面にスライドして先端が90度曲がってつま先になる。さらにコックピットとプロペラの部分が左右に別れ、右にはガトリング砲、左にはプロペラの装備された腕となる。最後に、別れた中から胴体が現れると、青いゴーグルの中央がY字にスリットが入ったヘルメットのような頭部が現れた。

そう、これは俗に言う『可変型ロボット』だ!

 

「変形したァアアーーッ!?」

「あれが、あのスタンドの能力!?」

「………あれ?前にもあんなスタンドあったような…………」

 

以前、似たようなスタンドがあったような気がしたが、まあ今は気にしないでおこう。

 

「来たかすずめ………」

「すずめ?さっき言っていた、伊賀の三羽鴉の一人!?」

[いかにも。アタシは伊賀の三羽鴉が一人、『乱気流のすずめ』!]

 

すると、ロボットの頭部のスリットに合わせて左右と上部にスライドして、すずめが顔を出した。だが、その姿は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭部にあるコックピットに、全身がすっぽり入るような小さな姿だった………

 

 

 

 

 

 

「本体ちっちゃッ!?」「どこの七本槍ッ!?」

「も………もしかして、あれがあの『エナジー・フロゥ』というスタンドの能力………?」

 

夕映が、頭部にいるすずめを見て呟くように推測する。

 

「………ああ。あんな風に、スタンドの取り憑いた模型に、同スケールに縮小して乗り込むんだ。しかも、あんな風に編隊を組んで襲ってくるんだよ………」

 

アレ模型なんだ。とヴィータが思った時、他の機体も変形した!機体は同型だが、色はダークグリーンで、ゴーグルが赤いのが違う点だろう。

 

「他のも変形した!?」

「やる気マンマンな訳か…………」

 

エナジー・フロゥの編隊を見て、徐倫はウンザリしたように呟くと、ストーン・フリーを出して臨戦態勢に入る。

だが、それをハルナが手で征した。

 

「徐倫、ここは任してくれない?」

「ハルナ………?」

 

ハルナの申し出に徐倫は首を傾げる。ハルナのスタンドは、お世辞にも戦闘向きではないからだ。ハルナはそれに気づいたのか、ニッと笑う。

 

「大丈夫。私の考えが正しければ、アイツに勝てるはずだよ!」

「………何をする気かは知らないが、任せていいんだな?」

「モチロン!」

 

自信満々にサムズアップするハルナを見て、徐倫は不安ながらも託してみる事にした。

 

[………そんな勝手、させないよッ!]

 

面白くないのは、徐倫との戦いを望んでいたすずめである。コックピットのハッチを閉じ、右腕のガトリング砲を構え、弾丸を発射する!

 

ガギギギギギギンッ

「!?」

「危なっかしいなオイ!目覚めたばっかなんだからよぉ〜〜〜、無茶すんじゃねーぜッ!」

 

だが、すかさずヴィータが前に出て、シールドを張る。

 

「ヴィータ!」

「コイツの『お守り』は私に任せな!お前らは、早くお姫さまの所にッ!」

「ちょっと!何で私がアンタの世話になんなきゃ………」

 

ハルナが文句を言うが、エナジー・フロゥの編隊が襲ってきた!

 

「早くッ!」

「………ッ済まない!」

 

ヴィータとハルナにエナジー・フロゥを任せ、徐倫たちは大浴場へと入っていった。

 

 

 

 

大浴場前廊下

 

ヴィータ+早乙女 ハルナVS.乱気流のすずめ

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ガラッ

「桜咲さんッ!」

「先生たちッ」

 

徐倫が大浴場に入る少し前、窓からネギたちが入ってきたのを見て、ようやく戒めの矢から解放された刹那が声を上げる。

 

「このかはッ……………!?」

「…………すみません、私が付いていながらッ!」

 

刹那が悔しそうにうなだれる。ふと、スバルは落ちているDISCに気づいた。

 

「ん?なにコレ………?」

ガラッ

「ネギたちッ!」

「空条さん!」

 

スバルが『それを』拾ったとき、徐倫たちが大浴場に入ってきた。

このかは?と聞こうとした徐倫だが、うなだれる刹那を見て察したのかぐっとこらえた。

 

「………刹那、今は後悔している場合じゃあねえ。さっさとこのかを助けに行くぞ!!」

「……………」こくっ

 

徐倫の激励に刹那は黙って頷く。

 

「ジョルノや承太郎さんたちの安否が不明なのが気がかりだけど、あの連中が何かをする前にコノカちゃんを救出するのが先ね。」

「そこで、私たちには取るべき行動が二つある。」

 

〈1〉恐竜たちとその能力者を倒し、屋敷を脱出する。

〈2〉天ヶ崎 千草らが行動を起こす前に倒し、木乃香を救出する。

 

「………一番の問題は〈1〉ね。あの恐竜たちから抜け出すのは、ハッキリ言って難しいわ。」

 

徐倫の提案にルル・ベルが珍しく不安そうに呟く。だが、それにネギと明日菜が答えた。

 

「あ、それはもう大丈夫よ?」

「すでに手は打ってあります。」

「「「「「え?」」」」」

 

全員が驚く中、ネギはかまわないように説明する。

 

「直に、恐竜たちは無力化します。そのうちに〈2〉を実行しましょう。」

「………ずいぶん手際がいいな〜ネギ。何をする気だ?」

 

徐倫の質問に、ネギはいたずらっぽくニッと笑い「それはお楽しみ♪」とサムズアップする。

 

「………何だかよく分からないけど、とにかく脱出の手はずはあるわけね。」

「うん。ただ、『ソレ』がくるまで身動きできないんだけど………」

「ご心配なく♪」

ズルゥゥウウ

「「「「「ゥオオッ!?」」」」」

 

と、いきなり床からセインがヌウっと出てきた。

 

「セインさん!」

「“先行隊”として来たよ!“()()”してね♪」

「………スバル、オメーこーゆーダジャレいうやつってよーっ、ムショーにハラが立ってこねーか!」

 

どや顔のセインに徐倫が眉を潜めるのを見て、スバルは苦笑するしかなかった。

 

「………よし、セインのISで脱出できる!」

「………非戦闘員もいる訳だし、二手に分かれよう。流石に綾瀬を置いていく訳にはいかねぇしな。」

 

話し合いの結果、ネギ、明日菜、刹那、スバル、徐倫、ルル・ベルが木乃香奪還に向かい、フェイト、アナスイ、ギンガ、チンク、のどか、夕映が残り、恐竜化のスタンド使いを撃退する事となった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

同時刻

 

アーティファクト『無限抱擁』内

 

 

「ディード、大丈夫!?」

 

未だに気絶するディードを揺するオットー。周りに立つティアナも、心配そうに見つめる。すると、ディードが「うーん………」とうなされる。

 

「ディード!」

「うーん………サイがぁ…………サイと、ゴリラと、チーターがぁぁぁあーー…………」

「………とりあえず大丈夫そうだ。寝言言ってるし。」

「………ていうか、何よ今の動物の羅列?ビーストウォーズ?」

 

ディードの寝言にティアナは眉をしかめた。

 

「どうだ、ルーテシア?」

「………ダメ。通信も出来ないし、ガリューも呼べない………………」

「そうか………完全に閉じこめられたな………」

 

一方、ルーテシアはアスクレピオスで通信を試みていたが、通じない上にガリューの召喚も無理だった。

 

「となると、やっぱりあの環とかいうやつを倒すしかねーな………」

 

千雨はそう言いながら、もう一つ気になる事があったため、そちらを見やる。そちらでは、承太郎とジョルノがにらみ合っており、ミスタとブチャラティは戸惑いを隠せないでいた。

 

(アイツ………DIOの名前が出た途端、顔を変えやがった………)

「………承太郎さん、聞きたいことがあります。」

 

緊迫した状況の中、口を開いたのはジョルノであった。承太郎は普段と変わらない様子であったが、内心では冷や汗ダラダラであった。

 

「あの子が言ったこと………あなたがディオを………『父』を殺したというのは本当ですか?」

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

ジョルノの一言に、ティアナたちは息を飲む。

 

「ディオが………父………!?」

「まさか………(『リキエル』や『ヴェルサス』と同じ………ッ!?)」

「………………」

 

承太郎は黙ったままジョルノを見据え、ジョルノは答えを待つように睨みつける。

しばらく時間がたって、承太郎がその重い口を開いた。

 

「………そうだ。確かにディオ・ブランドーを殺したのは俺だ。」

「「「「ッ………!?」」」」

 

承太郎の告白に、事情を知っている千雨と康一意外の者が息を飲む。

ジョルノは黙っていたが、しばらくして『ゴールド・E』を出しながら承太郎に近づき―――

 

ゴォオッ

「………」

「ッ!?承太郎さ―――」

 

その拳を承太郎に向け振るうッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピタッ

「「「「「………ッ!?」」」」」

 

だが、その拳が承太郎に当たることなく、すんでのところでピタッ、と止まり、放たれた際の衝撃波で承太郎の帽子が吹き飛んだ。

 

「………まあ、『一度も会ったことのない父親の仇が目の前にいる』なんて言われても、正直ピンとも来ませんしね。今はここから脱出する事を優先させましょう。ただし、後で話は聞かせてもらいますよ?」

「………」

 

ジョルノはゴールド・Eをしまい、承太郎に背を向けながら言った言葉に、息を飲んでいた皆はふぅ、と安堵する。

 

「ふぅ……こんな時にヒヤヒヤさせないでよ…………」

「………承太郎さんの帽子とったトコ、始めてみた………」

「確かに………ああなっているんだな、承太郎さんの頭………」

 

徐倫ですら見た覚えないのに、と千雨が思っている中、承太郎は帽子を拾うと、ホコリをはたいて再び深々とかぶりなおした。

 

「やれやれだぜ。とにかく、あの二人と外の連中を倒したら話してやる。スバルとギンガ、それにノーヴェを交えて、な。」

「えっ………?」

(おいおい、何でそこにナカジマやノーヴェが出てくるんだよ!?)

 

いきなり出てきた三人の名前に千雨たちは困惑するが、ジョルノは周りを見てある一点を見やる。

 

「………分かりました。まあ、あの二人の居場所は『分かります』。ここから西南西に3.35kmです。」

「へッ?」

「………何でそんな正確に?」

 

ジョルノが断言したことにティアナたちが目を点にしていると、ジョルノは自分の、『()()()()()()()()()()()()()()()()』を指す。

 

「さっき恐竜たちを攻撃した時、僕の『右胸のブローチ』に生命を与えてあのコヨミとかいう娘のマントにつけたんです。その生命エネルギーが、3.35km先にあるんです。」

「いつの間に………」

「3.35kmか……『エンゼル』の甲冑外したスピードで、10分ってトコだな。」

 

千雨はそう言いながら『エンゼル』を装着すると、素早く「防御甲冑」を外す。

 

「承太郎さんたちは亀の中に。私が奴らのトコまで運びます。」

「ああ。」

「頼むわ。」

 

承太郎たちが亀に入ると、千雨は『エンゼル』で飛び上がった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

本山付近にある河原

 

 

「おお!やるやないかアンタ!まさかヴィオレッタはん、あんなスタンド使いを送っといたとは………」

 

ルミリオが捕らえた木乃を見ながら、千草はうれしそうに言う。気絶している木乃香は今、猿鬼が抱き抱えていた。

 

「ふふ………こうなったら『あの場所』までお嬢様を連れて行けばウチらの勝ちやな。」

「侮らない方がいい。向こうには強力なスタンド使いや魔導師、何よりジョースター家がいる………」

「心配する必要はあらへん。『アレ』さえ手に入ればもはや敵はない………」

「……………」

 

ルミリオの忠告を気にせずに、千草はすでに勝利を確信したように笑みを浮かべていた。それをみたルミリオはやれやれ、とため息を付いた。

 

「待てッ!!」

「!?」

 

だが、千草たちが立ち去ろうとした時、背後から声をかけられた。振り返ると、そこには臨戦態勢のネギたちがいた。

 

「そこまでだ!お嬢様を返せッ!!」

「ふん、またあんたらか。よくもまあ、あの恐竜たちから抜け出せたなぁ………」

「おいアンタッ!明日の昼には『援軍』が来るらしいからよォ、諦めたらどうだッ!?」

 

徐倫たちは叫ぶが、千草はふふんと鼻で笑うだけだ。

 

「援軍ねぇ……確かに厄介やが………まあ、それはさておき、アンタらにこのかお嬢様の『力』の片鱗を見したるわ………」

 

言うやいなや、千草は水面に『立つと』奇っ怪な呪文を唱えた。すると………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズズズ………

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水面に魔法陣が浮かび上がったかと思えば、そこから2m大の鬼やカラス天狗のような鳥族(うぞく)、妖狐族、その他諸々の妖怪たちがうようよと現れた!

 

「アイツ………このか姉さんの魔力でありったけ召喚しやがった!!」

「な………何かやばい事に………」

 

大勢の妖怪たちに囲まれて、明日菜たちは顔を青ざめる。

 

「ほな、アンタらはそいつらの相手しときぃ!!」

「あっ………!?」

ズズゥンッ

「おおっと、とおせんぼやッ!」

「ッ………!」

 

飛び上がる千草たちを追おうとする明日菜だったが、鬼の一人が立ちふさがった。

 

「なんや、久々によばれた思うたら、相手は(おぼこ)い嬢ちゃん坊ちゃんかいな。」

「悪いな嬢ちゃんたち、呼ばれたからには手加減できんのや。恨まんといてな。」

 

「ちょ…こ、こんなの…さすがに私……」

「アスナ、落ち着いて………大丈夫だよ!」

 

さすがに妖怪の大軍に怖じ気づいたのか、ガタガタと震える明日菜をスバルは励ます。

 

(ネギ、時間がほしい。)

(はい……ラ・ステル・マ・スキル・マギステル……………)

 

徐倫が耳打ちをすると、ネギは呪文を詠唱する。そして―――

 

風花旋風(フランス・バリエース・)風障壁(ウェンティ・ウェルテンティス)ッ!!」

ゴァァアッ

「「「うおッ!?」」」

 

ネギたちの周りを竜巻が壁のように発生し、ネギたちを取り囲んだ!

 

「これは………」

「風の『障壁』です。ただ、2、3分しか持たないので、手身近に作戦を………」

 

凄まじい竜巻が吹きすさぶ中、竜巻の中央は台風の目のように静かであるために作戦会議をするネギたち。すると、徐倫が口を開いた。

 

「ルル・ベル、お前のあいつ等の相手できるか?」

「?まあ、出来ないことはないけど………?」

「空条さん、いったい何を………?」

 

刹那が不思議そうに聞くと、徐倫は両手の指先を合わせるような形をとる。

 

「『ネギと明日菜、それにスバルで木乃香を助けに行く』………『残ったメンツであいつ等の相手をしてから木乃香の元に行く』、つまり、ハサミ撃ちの形になるな…」

 

徐倫の言葉に、皆ははっとする。

 

「ネギと二人がいればよォー、あの連中に十分対抗できるはずだぜェ〜?それに、しばらくすりゃあウェザー先生ら援軍も来る!それまでは私らで時間を稼いで、木乃香の助け出す!ドゥーユーアンダースタン(理解したか)?」

「「「イ…イエス!」」」

 

明日菜、スバル、ルル・ベルは、右手親指を上げて応えた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「む、そろそろのようなのでした。」

「待たせよって………」

 

『旋風風障壁』が止みかけるのを見て、妖怪たちのリーダーらしい鬼が意気揚々と獲物を構える。そして、『旋風風障壁』がやんだ瞬間―――

 

 

 

 

 

「『雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)』ッ!!」

ドッパァアッ

「「「おおお………ッ!?」」」

「西洋魔術師かあッ!?」

 

ネギの『雷の暴風』が20体近くの妖怪を巻き込んで空に放たれた!

雷の奔流が消えたかと思えば、そこに走る影が。杖にまたがったネギと明日菜、それに追うように『ウイングロード』を駆けるスバルだ。

 

「アニさん!逃がしちまったぜ!?」

「20体は喰われた……」

 

過ぎ去ったネギたちを見つめながらリーダー鬼と妖怪たちはやれやれとため息をついた。

 

「………大丈夫です。落ち着けば敵ではありません。空条さんの言うとおり、ルル・ベルさんや空条さんのスタンドなら、あいつ等に十分対抗できます。」

「確かにな。ま、せいぜい『チンピラ100人に囲まれた』程度だと思えばいいな。」

「………それって安心して良いかどうか微妙ね……」

「?」

 

リーダー鬼が振り返ると、そこには『コウウントユウキノツルギ』を構えた徐倫と『夕凪』を抜いた刹那、そしてスタンド『サイケデリック・インサニティ』を構えたルル・ベルがいた。

 

「ほぅ、なかなか勇ましいお嬢さん方やな。」

「行くぞ!」

「はい!」

 

徐倫がかけ声をかけると、三人は駆け出した!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

一方、千草たちは山中にある小さな湖に来ていた。

湖の中湖畔から少し先には『祭壇』があり、さらに、湖の中ほどには『注連縄(しめなわ)』が巻かれた大きな岩があった。

 

「あっちに見える大岩にはなぁ、危なすぎて誰にも召喚できひんゆー『巨躯の大鬼』が眠っとる。18年だか前に一度暴れた時には今の長とサウザンドマスターが『封じた』らしいけどなぁ………でも、それでもお嬢様の『魔力(ちから)』があれば制御「可」能や。

………ご無礼をお許ししくださいお嬢様。でも、何も危険はないし、痛いこともありまへんから………」

 

木乃香にそう囁くと、千草は儀式を始めた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「!ネギくん、何か強力な魔力が―――!」

「はい!………あの人、何かやらかす気なんじゃあ………」

 

異様に強い魔力を感じ取り、スバルとネギの顔に焦りの色が浮かぶ。

 

「いそぐわよ!早くしないと―――ッ!?」

 

と、明日菜が叫ぼうとした時、三人の目前の木の『頂点』に、金髪のツインテールにキツいツリ目の少女が立っているのが目に入った!

少女の異様性に三人が戸惑った時、少女の左目がカッと見開かれた。

 

 

 

 

 

[相棒ッ!!]

ボウンッ

「「「ッ!?」」」

 

「マッハ・キャリバー」の警告した瞬間、三人の前方が『燃え上がった』!?

「マッハ・キャリバー」がギリギリで障壁を張ってくれたが、発火の衝撃で三人は地面に落下してしまう。

 

ドシャァアッ

「くっ………」

「新手………!?」

「―――ふむ、空条 徐倫がいないのは残念だが………まあ良い。」

「「「ッ!?」」」

「悪いがヌシら、ここから先は『通行止め』だぞ?」

「私たちが相手になる…!」

 

着地した先には、左目に眼帯をつけた女性―――『山陸の綺初』と、先ほどの少女がいた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ホテル嵐山

 

 

「東方先生!」

「む、瀬流彦先生ッスか。」

 

ホテル嵐山のロビーでそわそわと立っていた仗助に、瀬流彦先生が駆け寄ってくる。

「バイシクル・レース」はあの後、十数体ほど倒した所で退散していった。おそらくは、目的である足止めが失敗に終わったからだろう。

 

「3‐Aの生徒たちは『無理やり』寝かしつけました。新田先生には、適当に理由をつけて気にしないように言っておきましたので。」

「そーッスか。(無理やりって部分がちょい気になるが………)後はウェザー先生らに任せるとしますかねぇーーー……」

 

仗助がそう返して、ふぅ、とため息をついてソファーに腰掛けると、瀬流彦先生も隣に座る。

 

「大丈夫だと良いんですけれどねぇ………」

「まぁ…後は、承太郎さんに任せるしかねぇッスかねぇ〜〜……」

 

仗助がそう呟いた時だ。二人に近づく影が二つあった。

 

「じゃあ仗助、一つ頼みたいことがあるんですけど――――」

「「?」」

 

 

 

 

 

「私の『左手』、治してくれませんか?」

「!?」

「な………ッ、あんたはッ!?」

 

高町 なのはと、黒いロングヘアーの女性が立っていた。

 

 

 

 

 

←to be continued...




64話です。

・リブート前はあまり見せ場のなかった『バイシクル・レース』や仗助たちの見せ場をと思い、冒頭で入れてみました。まさかの『ズィー・ズィー』も登場です。
 謎のスタンド『スーパー・スナイプ』はいずれ本体が判明します。

・『エナジー・フロゥ』はトランスフォーマーと、劇中にあるように『忍風戦隊ハリケンジャー』のサーガインがモチーフです。ハルナの試したいことは次回。

・承太郎の告白。ヴェルザスたちはプッチにそそのかされたのかと思いまして。で、ジョルノの場合はこうなりました。

・焔&綺初参戦。次回はこの二人VSネギたちからになります。

・なのは、完全復活確実!一応、『アイツ』戦には間に合う予定です。

では、次回をお楽しみに!


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#65/京の鬼神蘇生実験 ①

「WAAAAAAANNABEEEEEEEEEEッ!!」

スドドドドドグォオッ

「「「ギャーースッ」」」

 

トリッシュの『スパイス・ガール』のラッシュが恐竜たちに吸い込まれ、恐竜たちが数匹吹き飛ぶ!

 

「良しッ!くそ野郎ッ!!」

「なるほど………一味………違うのね………けど………」

 

正直言って、アナスイたちの現状は『最悪』であった。

大浴場から出て縁側に回ったアナスイたちの周りには数十匹の恐竜たちがうごめき、アナスイたちを取り囲んでいる………

 

「………大浴場から出た途端にコレかよ…………今日は厄日かぁあーーー?」

「“今日()”の間違いでは?」

 

夕映が毒を吐くが、アナスイに気にしている暇はない。恐竜が何体かこちらに向かって飛び出してきたからだ。

 

ドガッ

「グェッ!?」

「『ダイバー・ダウン』………床に潜行して防御壁にした……………喰らえッ!!」

ゴシャアッ

「ギャーースッ」

 

だが、その恐竜はいきなり反り返った床板に激突し、アナスイはそれを潜行して恐竜に拳をお見舞いした!

 

「スゴい………」

「アナスイ!………改めて考えてみたらやつのスタンド…以外と出来るスタンドだな………」

 

今までバカにしててゴメンとチンクが心で謝罪していると、恐竜が一匹チンクに向かい走り出して来た!

 

「ッ!!」

 

気づいたチンクがすかさずスティンガーを投げるが………

 

シュンシュンッ

「なっ………?!」

ガシィイッ

「がぁっ………」

「チンクさん!」

 

恐竜は恐るべき動体視力でスティンガーを見切り、すべて避けられてしまい、チンクは恐竜の両足で組み伏せられてしまった!

 

「バカな………何だこの動体視力は……!?」

「おい…そこの君だ………君の事だ。君は今何をした?今捨てたよな?その『ナイフ』を捨てたよな?この大地に……」

 

不意に声がした。まだ若い男の声だ。見れば、庭にひしめく恐竜たちのうち一匹に男は乗っていた。

 

短い金髪の七三分けで神経質そうな顔の唇には口紅が塗られている。見たところ三十代前半だろうか。フードの付いたコートを着込み手には革製の手袋、胸にはバラの花が付いていた。

 

「今捨てたよな?その『ナイフ』の話だ。そういうものとかゴミとかを適当にポイ捨てするって行為はだな…この「大地」を敬っていないことの証明だ………そんなに君は偉いのか?君はこの恵みある『大地』よりも偉いっていうのか?」

「だ?誰だ?」

「まさか………!?」

「ふむ、大地を尊敬しないゲス者とはいえ、わたしの方から礼節を欠くのもなんだな…自己紹介をさせていただこう。わたしの名は『フェルディナンド』。地質学・古代生物学者だ。『フェルディナンド博士』と呼べ。二年ほど前、『ヴィオレッタ嬢』と出会い、この『能力』を身につけ、『スケアリー・モンスターズ』と名付けた。そして本山を落とすためまずディードを恐竜化させて潜入、そしてディードが屋敷の巫女全員を感染させたんだ。」

「何………ッ!?」

 

フェルディナンドと名乗った男の話にチンクが声を上げる。学者が何故ヴィオレッタに加担しているのか?という疑問が湧いたが、それどころではない。すでに傷ついた右手から恐竜化が進んでいた。

 

「ま………マズい!」

「後は天ヶ崎 千草が作戦を完遂させ、『例のモノ』を手に入れれば良いわけだ。邪魔立てはさせんぞ。」

 

フェルディナンドは言い終えると、恐竜たちに合図し襲いかからせた!

 

 

 

 

 

#65/京の鬼神蘇生実験 ①

 

 

 

 

 

「奥義、雷鳴剣ッ!!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァアアアーーーーーッ!!」

ズババババババババババッ

 

刹那が夕凪を振るい、徐倫が叫びながらコウウントユウキノツルギを振るい、妖怪を斬り裂いていく!

 

「あら、結構イケそうじゃない?」

ゴッ

「グェッ」

「って、お前もマジメに戦えよ!?」

 

と、何故かくつろいだ様子で妖怪に裏拳をかますルル・ベルに徐倫がつっこむ。

 

「そこまで言うなら、真面目にやるわよ?」

 

ルル・ベルがそう言うと、近くにあった大きい岩を『サイケデリック・インサニティ』で持ち上げ、空中に放った。そして、

 

「オルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオルオル………」

 

そのまま岩にラッシュを叩き込む。すると、岩は空中に少しずつ上がっていき……………

 

「………あの、確かルル・ベルさんのスタンドが連続で殴ったものって、様々な方向の重力に引っ張られて「()()()()」って言っていませんでしたっけ………?」

「…………………あ。」

 

刹那に言われて徐倫は気づいた。だが、既に遅く、岩には亀裂がいくつも入っていき………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バゴォオオッ

 

空中で破裂し、その破片が妖怪や徐倫たちを襲った!

 

ズダダダダダダダダダッ

「「「「「ギャーーーーーッ!?」」」」」

「ルル・ベルてめーーーーーッ」

「くっ………神鳴流対魔戦術絶対防御!『四天結界独鈷錬殻(どっこれんかく)ッ!!』」

ブォッ

 

岩の破片が弾雨の如く降り注ぐ中、刹那は懐から独鈷(密教で用いる法具)を四本取り出すと、札と印を組み正四面体の結界を展開させ徐倫と共に防御した。

 

「『重力炸裂弾(グラビティ・ボム)』、近接パワー型である『サイケデリック・インサニティ』の持つ唯一広範囲攻撃よ。」

「それは良いけど私らまで巻き込むなよッ!?」

(やることが結構大胆だなーこの人………)

 

当のルル・ベルは、近くにいた鬼二体を盾にして涼しい顔で解説していた………

 

「お、おれ達を、盾に………!?」

「近くにいたあなた達が悪いのよ。」

「今ので六割くれぇやられたな………やるねぇ、あの嬢ちゃん………」

 

岩の破片が降り止んだ中、リーダー鬼は冷や汗をダラダラかきながら呟いた。まさかあんな手段に出るなんて思ってもいなかった。

 

「………だいぶ減ったし、一気に決めましょうか。」

「………次アレやる時は前もって言ってくれ。」

 

徐倫がルル・ベルにつっこみつつも、残りの妖怪に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「『アンチェイン・ワールド』ッ!!」

ゴシャアッ

「わーーーッ!?」

 

一方、綺初と金髪の少女、(ホムラ)と戦うネギたち。

綺初が呼び出した『アンチェイン・ワールド』の巨体から放たれるパンチがネギと明日菜を襲い、二人は慌てて回避する。

 

「くっ………」

「んもーー!こんな事してる場合じゃないのにーーーーーッ」

「悪いがこっちも仕事なんでね………」

 

冷酷な表情で『アンチェイン・ワールド』の拳を振りかざす綺初。だが、すぐさまアンチェイン・ワールドは体を再びレンガ状に分解し、それを直列に繋ぎ何本も両腕の辺りにタコのように装着し、鞭のように振るった!

 

ズドドドドドッ

「「わーーーーーッ!?」」

 

二人は何とか避けるが、その猛攻は続くのだった。

 

 

 

 

 

「………」

カッ

「!また………」

 

一方、スバルは木々の生い茂る森で焔と対峙していた。

 

(睨んだだけで発火する………なんて厄介な………………ッ!?)

 

と、スバルは気づいた。森の木々の至る所に、小さな袋のようなものがぶら下がっていることに。

 

(あれは………?)

 

スバルが不思議に思ったその時、小さな『何か』が袋を斬り裂き、中の粉が少量こぼれ落ちた。

 

「?」

ボッ

「………ッ!?」

 

その粉がスバルの目の前まで舞った瞬間、粉が『燃え上がった』!?

 

「がっ………今のは………!?」

 

すんでのところでバックステップし回避したスバル。だが、目を凝らして気づいた。自分の目の前から『小さい黒い何か』が飛んでいき、焔の左目に入っていった!?

 

「まさか………今のがあなたの!?」

「………気づきましたか………そう、私のスタンド『バーニング・ハート』は、常に私の左目に潜んでいる。だが!」

 

焔は再び左目を見開いた。瞬間、スバルには見えていないが左目に潜む『バーニング・ハート』が超高速で飛び出し、近くの木に突っ込んだ。すると、その木は一瞬で中ほどから燃え上がった!

 

「それが分かったとしても、詳しい能力までは分かりますまい?」

「………」

 

バーニング・ハートが左目に戻りながら、焔は冷静に言った。

 

 

 

スタンド名―バーニング・ハート

本体―焔(本名不明)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

アーティファクト『無限抱擁』内

 

 

「ム!」

 

『アニバーサリー・オブ・エンジェル』で飛行していた千雨は、目の前の立方体に畳とちゃぶ台を設置してお茶を飲みくつろぐ暦と環を発見した。距離は約400メートル。

 

「あんにゃろ〜〜〜くつろいでやがる………!」

『少々ムカつくな………よし千雨、作戦は練られた。後は任せな。』

「承太郎さん?」

 

承太郎がいきなりココ・ジャンボから出てくると、『スタープラチナ』で亀を掴み―――

 

 

 

 

 

「オラアッ」

ドギャァアァン

「んなッ!?」

 

暦らに向かい『ブン投げた』!!

 

「!なっ、何!?こっちに向かって何かくる!?」

「こ………この風を切る音!」

 

(ココ・ジャンボ)だぜ。ほれほれ、ジョルノも敵も防御しないとぶつかるぜ?」

「アンタ鬼かよッ!?てか重ッ!ちょ、一回休まして。」

 

亀を投げてほくそ笑む承太郎に千雨は叫ぶが、いくら剣術を扱うとはいえ女子中学生に承太郎の体重を支えられるはずがなく、近くの立方体にふらふらと不時着するのだった。

 

「この圧倒的パワー、まずい!激突するッ!」

「くっ………」

 

大リーガーの豪速球めいてココ・ジャンボが迫る中、暦は素早く砂時計のような自らのアーティファクトを取り出した。そして―――

 

 

 

 

 

ガシィイッ

「………今のは!?」

 

暦らが『何かをした』らしいが、とにかく互いにダメージを受けないままジョルノのゴールド・エクスペリエンスで着地できた。

 

「……………なるほどな。」

「あれなら、いきなりこの空間にいた事も説明がつきますね………」

「なら、やるべき事は一つだな。」

 

 

 

「これだけの結界空間を展開しておいて『幻覚』じゃあなく『出口もない』となると、魔法理論から考えて

1.術者は展開中結界内に必ずいる

2.術者を倒せば脱出できる

の二点は予測可能。」

「にゃるほど♪分かりやすいなーーーーー、後はどこにいるかってワケね。」

「な………何故私たちの居場所が………?!はっ!?」

 

ティアナとジョルノ、ミスタの三人が歩み寄る中、暦はようやく自分のマントの内側に『テントウムシのブローチ』が付いているのに気づいた。

 

「まさか………発信機!?」

「ま、似たようなモノですよ。」

「不覚………」

「こ…このお!」

 

すかさず、暦は再びアーティファクトを取り出した!

 

「アーティファクト!『時の回ろ(ホーラリア・ボル)―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドグシャアッ

「―――――ッ!?」

 

だが、それが発動するより前に、暦は『()()()()()()()()()()()()()』!?

 

「『スタープラチナ』………時は動き出した。」

「承太郎さん!?」

 

いつの間にか暦の目の前にいた承太郎は、スタープラチナで暦を押さえつけながら言い放った。

 

「遠くから見て分かった。コイツのアーティファクトは『時間操作』の能力だ。つまり、指定した範囲の時を『遅くし』、移動や防御をしていたんだ。いつの間にかこの結界内にいたのも、それが理由だ。だが、私のスタープラチナなら攻撃可能だ。」

「くっ………」

「ひとまず数百キロ転移して………」

 

暦のアーティファクトが破られたために環たじろいだが、すかさず転移しようとする。が………

 

「『ゴールド・エクスペリエンス』ッ!!」

ドッ

「!?」

 

ジョルノが素早く近づき、ゴールド・Eの拳を叩き込んだ!

 

「環ッ!?」

 

環がゴールド・Eに殴られるのを見て暦が声を上げるが、環は衝撃が()()いるのか動きがない。

 

「……………(これは?)」

 

当の環は、自分に今起きている事で頭がいっぱいだった。

今の環は、自分を含めて全ての動きが『ゆっくりなのだ』!?

 

「な………何が………!?」

「『ゴールド・エクスペリエンス』が生きたものを殴ると、生命エネルギーが注がれて感覚が『暴走する』。今彼女には動きが全て遅く感じているはずだ。」

 

正直ジョルノに説明されてもよく分からない暦だが、今環がピンチなのは分かった。

そんな時、亀の中から露伴が出てきた。

 

「さて、正直何か便利すぎて「チート」な気がするが、コレが一番手っ取り早いんでね♪」

 

そのまま身動きの出来ない環に『ヘブンズ・ドアー』で『結界を解除する』と書くと、『無限抱擁』は解除され、元の和室に戻っていた。

 

「………ふう、脱出は成功したわね。承太郎さんが亀投げた時はマジでビビったけど………」

「さて、誰の差し金かは知りませんが、『それ』を返してもらいましょうか?」

 

詠春が暦と、ようやく復活した環に語りかける。既に二人のアーティファクトは封じられているため、もはや打つ手はなかった………すると、

 

バキッバキッ

「「「ギャーースッ」」」

「!」

 

突然、恐竜が数匹部屋に潜入してきた!

 

「オラオラオラァアーーーッ!」

ドガガガァアッ

「今のうちに………」

「う、うん!」

「あっ!?」

 

恐竜は承太郎がオラオラで撃退したが、その瞬間の隙を見て二人は逃げてしまった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「くっ………」

「ああ………」

 

承太郎たちが『無限抱擁』から脱出した頃、アナスイたちはフェルディナンド率いる恐竜たちに迫っていた。

 

「くそう………」

「手こずったが、もはやこれまでのようだな。」

 

フェルディナンドが勝ち誇ったように言うと、恐竜たちに襲いかかるよう命じた!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

大礫回天撃(おおつぶてかいてんげき)ッ!!」

ドガガガァアッ

「「わーーーーーッ!?」」

 

綺初がレンガを組み合わせて作った巨大なハンマーを振り回し、ネギと明日菜に攻撃し、二人は派手に吹き飛ばされた!

 

ドサァアッ

「ぐっ………」

「フム、あちらも大分進んでいるようだな。我は足止めが任務だが、まあ、こんなものだろうな。」

 

倒れて白い息を吐く二人に対して、綺初は顎に手をあてながら言った。

 

「………は、………ははは………」

「?童、何がおかし………?」

 

だが、突然笑い出したネギを不振に思った綺初だが、気づいた。

 

 

 

 

 

(()()…………()()ッ!?)

「ははは………いえ、間に合ったらしいので安心してしまって………体を思いっきり動かしていたから、すっかり暖まって気づきませんでしたよ………息が白いのは、気温が下がっているからですよ………」

「ま………間に合ったのね………」

「ッ!童!貴様何をしたッ!?」

 

安心したように笑うネギと明日菜に、綺初は叫んだ。

 

「いや、ネギは『電話』しただけよ。さっき屋敷から『コール』しただけ。『ウェザー先生』にね!」

「ウェザーだと!?………なるほど、あやつの『ウェザー・リポート』なら気温を下げるのも可能!だが、気温を下げて何が………」

「かつて、地球上に君臨した恐竜が『絶滅』した理由には、諸説あります。」

 

綺初が疑問を口にすると、ネギが話し始めた。

 

「隕石衝突説、ウイルス説、火山噴火説、それに―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()!」

「!?ま、()()()………!?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「な………何だと………ッ!?」

 

フェルディナンドは狼狽していた。

アナスイたちを襲わせようとした途端、恐竜たちがうずくまり、身を振るわせながら元の巫女さんに戻ってしまったのだ。

 

「これは………」

「『ウェザー・リポート』………本山一帯の気温を真冬並に下げた………」

「ウェザー先生!!」

 

のどかたちも驚いていると、ふいにウェザーが現れ、歩み寄ってきた。すると、アナスイが理解できたのか声を弾ませた。

 

「そうか!恐竜と言えど『は虫類』、つまりは『冷血動物』ッ!!寒さに弱いのは、当たり前だよなぁーーーーー!」

「ああ、最も発案はネギ君だがな。」

「あ………あああ…………」

 

解説しながらフェルディナンドに近づくウェザー。フェルディナンドは恐竜たちが無力化された為に青ざめて後ずさりするしかなかった。

 

「さて、こーいった能力ってのは、大抵本体は無力なんだよなぁー。」

「今までのお返ししないといけませんね、アナスイさん。」

 

コキコキと指を鳴らしながらフェルディナンドに近づくアナスイとギンガ。フェルディナンドはひぃっ、と短く悲鳴を上げると、身を怯ませる。そして、

 

「う、うわぁああーーーーーッ!」

ダッダーーーーーッ

「あ、逃げた!」

「しかも内股ですね。」

「逃がすかッ!」

 

逃げ出したフェルディナンドを追おうとするアナスイたち。だが、

 

 

 

 

 

ドッバァアッ

「がっ………ッ」

「何ッ!?」

 

突然、異形の腕がフェルディナンドの胸を貫き、フェルディナンドは血を吐いた!

 

「な………何だとォォオーーーーーッ」

『フェルディナンド、キサマハモウ『用済み』ダ。「アレ」ノ行方サエ分カレバ、モハヤ用はナイ。』

「がふっ!き、貴様は……………ッ!?」

『サッサト死ニヤガレッ!!』

ドッバァアッ

「ぐぇッ」

 

異形が腕を引き抜くと、フェルディナンドは血反吐を吐きながら倒れ込み、そのまま動かなくなってしまう。

 

「「キャァアッ」」

「ッ!?お、お前は………!?」

 

夕映とのどかが悲鳴を上げるが、アナスイとウェザーはそれどころではなかった。その異形、スタンドに見覚えがあったからだ。

 

目の部分から手すりのような部位が後ろに伸び、胸には渦巻きなどの模様、腰には羽のような腰みのが付いたスタンド………

 

「ばかな………『アンダー・ワールド』………だと………」

「ヴェ………『()()()()()』ッ!?」

『ソウダ。『レクイレム』ヤ『天国』ヨリモ『上』ノ力ガアルラシイカラナ。今日ハコレ位にシテオク。ダガ、次ハナイト思エッ!!』

 

スタンド―――『アンダー・ワールド』はそう言うと、煙のように消えてしまった………

 

 

 

フェルディナンド:スタンド名―スケアリー・モンスターズ―死亡、再起不能

 

本山の巫女さんたち

重軽傷者(主に原因は承太郎たちのオラオラ)―32名

行方不明者(後にハルナの能力で閉じこめていた所を発見)―15名

寒さで風邪を引いた者―23名

以上を含めて150名全員の無事を確認。

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「せいやァアアアーーーーーッ!!」

ドグシャアッ

 

ヴィータがラケーテン・フォルムでブン殴り、『エナジー・フロゥ』を一機破壊する。だが、それでもまだ『エナジー・フロゥ』はいくつもいた。

 

「オイッまだかよッ!?」

「ちょっと待ってて。肩の辺りの装飾が不満なの………」

「速くしろ!」

 

その後方では、ハルナはスケッチブックに『スタンドのペン』で何かを描いていた。

今現在、ヴィータはハルナに頼まれて時間を稼いでいた。

 

[………何をしたいのか分からないけど、アタシも気が長い方じゃないんだ。だからッ!]

 

すずめはそう言うと『エナジー・フロゥ』のガトリング砲を発射した!

 

[やらせてもらうよッ!!]

「くっ………」

 

『エナジー・フロゥ』のガトリング砲を避けながら、ヴィータは舌を打つ。その時だ。

 

「よしッできた!!」

バシュゥウッ

[何ッ!?]

 

ハルナが叫ぶと、スケッチブックから何かが飛び出し、『エナジー・フロゥ』を三機斬り裂いた!

 

「今のは………?」

「やっぱり予想通り………」

 

そこにいたのは、騎士の鎧をまとった女性のような姿をしているが足はなく、代わりに円錐状のものが伸び、右手が大きな両刃の刀と一体化している、白黒の存在だった。

 

「思った通りね。『実在するものを模写したら絵に閉じこめる』のなら、逆に『実在しないものを描いたら、絵から出てくる』わよねッ!!」

[何………ッ!?]

「なるほどな………」

 

と、すずめが驚愕しヴィータが感心していると、しばしヴィータが考えたように顎に手を当て、口を開いた。

 

「よし、決めた。」

「何を?」

「お前のスタンド、『ペンのスタンド』というよりは『絵画のスタンド』という方が正しいかもしれない。それ故に名付けよう。お前のスタンド、これからは『ドロウ・ザ・ライン』と呼ぶと良い!」

 

シンプルながら、その力強い名前をハルナは気に入ったように笑顔を見せた。

 

「よしッこのまま行くぞッ!!」

「おうよ!」

 

そのままヴィータはアイゼンを振りかざし、ハルナは描いたスタンド、名付けて『剣の女神』を向かわせた!

 

 

 

 

 

早乙女 ハルナ

スタンド名―ドロウ・ザ・ライン

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「なるほど、これで恐竜たちは無力化したわけですか………しかし、現状は変わらないですよ?」

「くっ………」

 

炎があちこちから上がる森の中、焔が冷静にスバルに言い放つ。

 

「悪いですが、あなたたちをココから先に行かせません!」

 

そして、そのまま左目をかっと見開いた!

 

その瞬間、焔の左目からまるで固まったマグマのような体表に、所々ひび割れて赤いマグマのように光り、目の辺りはつり上がった稲妻型のひび割れがあり、腰から下はなく紐のようなもので左目の瞳孔と繋がっているスタンド『バーニング・ハート』が飛び出した。

 

『バーニング・ハート』がスバルにその手を触れようとした、その瞬間―――

 

 

 

 

 

ドンッ

「「ッ!?」」

 

二人の目の前に巨大な『手裏剣』が現れ、『バーニング・ハート』はスバルに触れる前にその手裏剣に触れた。

 

ゴウッ

「!?」

ドロォオ………

「何!?」

 

その手が触れた瞬間、手裏剣の一部が真っ赤に燃えて溶けてしまった。

 

「何と………鉄製の手裏剣を溶かすとは………」

「長瀬さん!?」

 

すると、不意に近くの木陰から楓が現れ、『バーニング・ハート』の熱に感心しつつ、スバルの側に立った。

 

「い、いつの間に………」

「いやぁ、ウェザー先生たちが向かうのに、コッソリ付いて来たでござる。拙者の『夢幻』ならば、可能でござる♪しかし………」

 

楓は溶かされた巨大手裏剣を見て、あごに手をやって考えた。

 

「あの熱量………いや、もしやその能力、『自然発火』では?」

「え?」

「理科は割と得意な方なのだが、ものには『燃える温度』があると聞く。お主のスタンドは、一瞬でその温度にする能力と見た。」

 

一瞬で手裏剣を溶かした能力に、楓がその能力を分析した。すると、焔が感心したようにほう、と呟いた。

 

「………なるほど、中々の分析力ですね。その通りです、私の『バーニング・ハート』は、触れたものを一瞬で燃やす『自然発火』の能力です。そのスピードは、銃弾に匹敵します。」

 

焔が未だ余裕そうな風に言う。

 

「ナカジマ殿、ココは拙者にお任せを。」

「え?で、でも………」

「拙者の能力ならば、あやつに十分対抗できる。だから。」

「う、うん………気をつけてね………」

 

楓にそう言うと、スバルはその場を走り去った。

 

 

 

焔―スタンド名:バーニング・ハート

VS

長瀬 楓―スタンド名:夢幻

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「貴様ら、中々やるではないか!だがァア!」

 

綺初は叫ぶと、『アンチェイン・ワールド』で殴りかかる!だが………

 

 

 

 

 

「『ハイ・ステッパー』ッ!!」

ドグシャアッ

「何ッ!?」

 

突然、飛んできた『何か』によって、振るわれたアンチェイン・ワールドの拳を打ち砕いた!

 

「大丈夫ですか!?」

「そ、奏汰さん!」

 

跳んできたのは、『ハイ・ステッパー』を纏った篤緒 奏汰であった。

 

「すいません、総本山の騒ぎに乗じて鏡史郎さんが逃げようとしたので、それを追っていたら……今は、レプラさんが見張ってますので………」

「何だ()()?童どもの仲間か?」

 

奏汰は説明をしたが、綺初が『小娘』と言ってしまうと、顔に影が落ちる。2人は「あ……」と息を呑む。

当の奏汰は薄ら笑みを笑うと、

 

「………2人とも、ここはボクに任せてください。」

「え?で、でも………」

「時間がないので。」

「「アッハイ。」」

 

2人は短く返事をすると、その場から去った。

 

「待て!」

 

綺初は逃がすまいと『アンチェイン・ワールド』の拳を再構成して殴りにかかる。しかし、それよりも先に奏汰が飛び出し、その細い足を蹴りつけた!

 

「うおおッ!?」

 

バランスを崩した『アンチェイン・ワールド』から落ちてしまう綺初。アンチェイン・ワールドは綺初に倒れ掛かるが、すぐさま分解して難を逃れた。

 

「あなたの相手はボクだと言ったはずですよ?」

「コイツ……!」

「後、一つ言っておきます。」

 

奏汰はにたりと笑いながら、綺初に近づいて行った。

 

「ボクは男ですよ。」

「えっ!?」

 

 

 

 

 

『鬼神』復活まで、残り十数分………

 

 

 

 

 

←to be continued...




65話です。

・サブタイトルは『柱の男蘇生実験』から。

・『重力炸裂弾』はルル・ベルの能力から思いついた技。ただ、自分も防御しないと危ないです。

・焔はスタンド使いにしました。バーニング・ハートはシンプルに『自然発火』の能力。でなければ鉄を一瞬で燃やせません。

・承太郎たち脱出。正直露伴便利すぎ(汗)京都編のみの登場だから良かったけど………

・恐竜の無力化にウェザーを活用。今回は『相性』が戦いの鍵によくなるなぁ(笑)
そして『アンダー・ワールド』登場。ヴェルサスは最初から出す予定でしたが、今回は顔見せのみです。

・ハルナのスタンド『ドロウ・ザ・ライン』真の能力。元々『描いたら実体化』の逆を考えていて、それを組み合わせたのがこのスタンドです。

・楓VS焔。次回は楓の『夢幻』が本格的に登場予定です。

では、次回をお楽しみに!


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#66/京の鬼神蘇生実験 ②

「逃げられましたか………」

 

逃げた暦たちが出た方を見ながら、詠春は悔しそうにそう呟いた。そこへ、ティアナが詠春に話しかけた。

 

「長、あの箱は一体………?」

「………あの中には、ある人から預かった『ロストロギア』が封印されているんです。詳しくは私も知りませんが、少々やっかいな物らしくて………」

「ロストロギアが………?」

 

詠春の説明に、オットーが首を傾げる。

その中身が何かは分からないが、ヴィオレッタが欲しがるほどの強力なものと考えられた。

 

「………まあ、アレの中は3日前に『()()()』とすり替えてありますがね。」

「えッ!?」

「すり替えたって………偽物ってこと?」

「てか何で新巻鮭!?」

 

だが、奪われた『それ』が偽物と知って驚くティアナと、何故新巻鮭なのかつっこむ千雨。

 

なお、新巻鮭は先日詠春の知り合いの『バカ』から季節はずれで送られてきたらしい………

 

「ええ、本当の中身は、あそこの『()()』の下に埋めてあります。」

 

そう言って灯籠を指さす詠春だが、その先には―――

 

 

 

 

 

「ぅぅ………ぁぁぁ………」

「!?ノ、ノーヴェッ!?」

 

 

 

 

 

恐竜から人に戻りかけたノーヴェが、うずくまって唸っていた………

 

 

 

 

 

#66/京の鬼神蘇生実験 ②

 

 

 

 

 

「大分減ったな………」

 

妖怪たちとやりあっていた徐倫は、最初よりも減った妖怪たちを見渡しながら呟いた。

 

「今なら間に合います。速くネギ先生たちと………」

「きぇぇぇぁああああッ!」

「!?」

ガギィインッ

「なかなかやるな小娘!だが(それがし)を他の連中と一緒にしては困るでッ!!」

ズガガガガガガガッ

「ぐっ………こいつ別格か………ッ」

 

徐倫に向けて、鴉のような姿の烏族が猛攻を仕掛けてきた!

 

「徐倫!」

「烏族………!今行きま………」

ガギィインッ

「ッ!?」

「残念やったな、神鳴流のねーちゃん!」

「こいつらも動き出したか………」

 

徐倫の元へ向かおうとした刹那たちだが、その行く手をリーダー鬼が阻んだ。

 

「くっ………(やむを得ない…ッこうなったら“()()()”を―――――)」

 

 

 

ガァァアーーーーーンッ

「ぐぇッ!?」

「「「!?」」」

 

だがその時、烏族の額を弾丸が貫き、烏族は沈黙して消え失せてしまった!

 

「今のは………!?」

「おいおいお嬢に徐倫(ジョリ)〜〜〜ン、油断しすぎなんじゃないか〜〜〜い?」

「!ホル・ホースに、ウェカピポ!」

 

銃弾が発射されたと思われる方向を見ると、そこには『エンペラー』を構えたホル・ホースと、鉄球を手の中で回すウェカピポがいた。

 

「待たせたなぁーー、助っ人登場だぜ!!」

ガンッガンッガンッ

「ギャッ!?」

「ぐえッ!?」

 

無駄口を言いながらも、ホル・ホースは『皇帝』で妖怪たちを撃ち抜いていく。だが、そんなホル・ホースに烏族が四体接近してきた!

 

(わし)の名は鉄印(ていん)。」

 

角のような飾りを頭に付けた烏族が名乗る。

 

施琥(せく)。」

 

(くちばし)に牙のような飾りを付けた烏族が名乗り、背中の羽を一本手に取る。

 

邪枢斗(じゃすと)。」

 

頭の左側を亀の甲羅のような物で覆った烏族が名乗ると、背中の羽を二本取る。

 

渦暗(かあん)。」

 

頭と胸の右側を卵の殻のような物で覆った烏族が名乗ると、羽を三本取る。

そして―――

 

「「「「羽手裏剣攻撃!」」」」

バパァーーーーーーッ

 

一斉に羽を二人に目掛け投げつける!

 

「………ふっ。」

 

だが、ホル・ホースは余裕に笑うと、体制を低くした。

その肩にウェカピポが鉄球を着弾させると、ホル・ホースの肩で鉄球が回転し、『衛星』が羽手裏剣を撃ち落とす!

 

「あれッ!?」

 

四体の烏族が驚いたのもつかの間、衛星は四体の頭をかすり、『左半身失調』を起こした。

 

「そらよォッ!」

ガァァアーーーーーンッ

「「「「アギャアッ」」」」

 

その時をホル・ホースが見逃す訳もなく、すかさず『皇帝』で撃ち抜いた!

 

「すごい………」

「ここは俺たちに任せな!」

「この数なら、俺の『レッキング・ボール』とホル・ホースの『皇帝』で十分だ。行け!」

 

ウェカピポに言われ、刹那は(かたじけ)ないと言い三人は駆け出した。

 

「急ぐぞ!あいつらのやることが何かは分からないが、さすがにネギたちだけじゃあ不安だ………ッ!」

「はい………ッ」

 

走りながら話す徐倫と刹那。すると、ルル・ベルが徐倫に話しかけた。

 

「徐倫、すこし痛いかもしれないけど、我慢して?」

 

は?と徐倫が返答する前に、ルル・ベルは『サイケデリック・インサニティ』で徐倫を殴った!

 

「なッ………何を………」

「刹那、徐倫にしっかり捕まって。」

「え?」

 

よく分からないながらも、言われるがまま、徐倫に捕まる刹那。すると、『インサニティ』の能力で徐倫の体は殴られた方向―――つまり上空に引っ張られた!

 

「わああああああッ!?」

「と、飛んで……………い、いや、『サイケデリック・インサニティ』で殴られたから………『()()()()()()()………」

「あ、もう少し右ね。」チョンッ

「微調整も出来んのか………」

「た、確かにこうやって『落下して』移動するなら、速く着きそうですね………」

 

『落下』するスピードを実感しながら、刹那はそう呟いた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………」カッ

「む!」

ゴウッ

 

一方、焔と対峙する楓。

『バーニング・ハート』で次々に発火させていく焔だが、楓はそれを素早い動きで避けていき、一度掠った程度のダメージしか与えられなかった。

一方の楓も、『バーニング・ハート』を警戒してうかつに近づけない状況だった。

 

「うーむ………なかなかに厄介な能力でござるなぁ………」

「………それを一撃もまともに喰らわないで言われても、皮肉にしか聞こえませんがね………」

 

楓が呟いた事に焔は少しむくれながら言う。

 

「(だが、不審な点があるな………探ってみるか………)はっ!」

シュバババッ

「なッ!?」

 

楓は素早く巻いていたマフラーを振るうと、振るった先から手裏剣が十数枚焔に向かい飛来する!

焔は『バーニング・ハート』で焼き払うが、それでも何枚かは焔の脇の地面に突き刺さった。

 

「………やはりか、どうやらお主のスタンドは、一度に燃やせる数が限られているようでござるな。」

「!まさか、それを探るために………!?」

 

楓の洞察力に息をのむ焔。

 

『バーニング・ハート』は焔の左目と繋がっているという形状のため、発射したらヨーヨーのように一度左目に戻らなければならないという弱点があるのだ。それゆえに、一度に燃やせる数に限界があった。手裏剣を数枚燃やしそこねたのは、そのためだ。

 

「それならば、拙者にもお主を討てるチャンスがある………」

 

楓はそう言いながらマフラーに手を入れると、マフラーから巨大な両刃刀とクナイを数本とり出した。

 

「………(あのマフラー………さっきから色々出てきているが、まさかあれがスタンドか?猫型ロボット的な。)」

「参るッ!」

ドンッ

「!『バーニング・ハート』ッ!!」

 

楓がクナイを投げつけながら焔に向かい走り出したため、焔は『バーニング・ハート』でクナイを燃やし、刀を振りかざした楓に対してはバックステップで回避、バーニング・ハートが左目に戻るまでの間に、楓との距離を取った。

 

「く………なんという素早さ!魔法もスタンドも無しにこんな身体能力なんて………!」

「いやぁ〜〜〜、昔少し変わった老人に『不思議な力』を教わってなぁ♪ほっ!」

 

軽口を叩きながら、再度焔に手裏剣を放つ楓。焔はそれを燃やし、燃やしきれなかったものは横に飛んで避けた。だが、その瞬間楓は焔の左側に接近した!

 

「くっ………!?」

 

焔が接近した楓に気づいた時には、楓はすでにマフラーに手をやり、また武器を取り出そうとしていた。

 

「………なめるなッ!!」

ボボボッ

「むっ………!」

 

楓が手を抜き取る前に、焔は戻ってきたばかりのバーニング・ハートでマフラーに火をつけた!

 

「これであなたのスタンドは無力!勝った!」

 

マフラーを燃やした事に、勝利を確信する焔。だが、楓はニヤリと口元を上げた。その時―――

 

 

 

 

 

「惜しいなぁ………お主の着目点は良かったが、我が『夢幻』は、お主のスタンド同様にもっとシンプルな能力どござるよ♪」

「!?」

 

背後、つまり焔の右側から声がした!

振り返った先にいたのは、「()()()()()()()()()()()楓」と、背後にはスタンドが立っていた。

 

長い円錐型の頭部には手裏剣のような×字の中に金色の丸い一つ目がともり、そろばんの目のような円盤型の胸部を持ち、口らしき部位に付いた戦闘機のパイロットのようなマスクからチューブが左胸を繋ぐように伸びている。

同じく円錐形の肩からはパイプのような細い二の腕と球体間接、腕は二の腕の5倍は太く手袋のような大きい白い手をしている。胸から下はなく、先端にヒトデのようなアームの付いたコードが5本伸び、楓の体を掴んでいた。

 

「『夢幻』ッ!」

ガシィッ

「!?」

 

スタンド―――『夢幻』は焔の頭を掴み、そのまま近くの木に叩きつけた!

 

「がっ………ッ!?」

「いやぁ、惜しかったでござるなぁ♪」

「あいや、マフラーに着目したのはよかったでござるよ?」

 

叩きつけた手を放して、焔に向かい話す『二人の楓』。だが、その内の一人がまるで陽炎のようにゆらめくと、煙のように消えてしまった。

 

「ま!まさか、それが噂に聞く『分身の術』!?始めてみた!?………あれ?」

 

楓の分身の術に驚く焔だが、木に叩きつけられた自分の現状に疑問を持った。なぜか、木から離れず動けないのだ。

 

唯一動かせる右手で自らを触って、焔は気づいた。

 

 

 

 

 

「なッ!?は、貼りついて………!?」

 

 

 

 

 

焔は現在、右手と左右の足以外を、まるでエジプトの壁画のような状態で木に『()()()()()()()()()()』のだ!!

 

 

 

 

 

「『夢幻』は、今のお主のように、ものを『平たく貼り付ける』能力でござる。いやぁ、以外と仕事の時とか役に立つのでござるよ♪」

「は、貼り付ける………まさか、あらかじめ武器をマフラーに貼り付けて、使う時に立体に『戻していた』のか!!」

「いかにも♪」

 

焔の推測に、笑顔で答える楓。そのまま踵を返して歩き出すと、落ちていた手裏剣や両刃刀を拾い、『夢幻』を使い貼り付ける。

 

「あ、ちなみに以前興味本位で調べたのだが、ほっておいたら大体三カ月ほどで自然に戻ったでござる。それでは拙者はこれで♪」

シュバッ

「え、行っちゃうの!?私放置!?て言うか三カ月って言った!?三カ月もこのまま!?ちょッ………だ、誰かーーーーーッ!?」

 

一瞬で消え去った楓に戸惑う焔。

 

右側から攻撃を喰らったため左側はシールなどで言う粘着面のように反対側に張り付いている。それゆえに左目の『バーニング・ハート』は使えないため木を切り離す事も出来ず、森に焔の若干涙が混ざった声が響くだけであった………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ノーヴェ姉様………大丈夫ですか?」

「う………あ………オ………オットーに………チサメ?」

 

ノーヴェは人の姿に戻りながら俯いていたが、オットーと千雨の姿に気づきそちらに振り返る。

 

「大丈夫か?これ何本に見える?」

「あ………5本?」

「うん、大丈夫そうだな………」

 

右手を二本、左手を三本の指を立てて確認する千雨。

ノーヴェはふらつきながら立ち上がると、上部のない灯籠に手を置きながら二人と顔を向ける。

 

「えーと………スバルらに恐竜のことを警告して………だめだ、そっから先が思い出せねえ………」

「どうやら今まで恐竜化していたようだが………」(けど、長さんの話ではあのあたりにロストロギアが………?何ともないの?)

 

ティアナが疑問を抱くが、当のノーヴェは未だふらつきながらも身体に異常はなさそうだ。

そう思ってティアナがノーヴェに近づこうとした、その時だ。

 

ドガシャァアアンッ

「何ッ!?」

 

突然二つ隣の部屋の障子が爆発で吹き飛ばされたかと思えば、ヴィータとハルナが爆煙から飛び出し、後を追うようにヘリから変形した『エナジー・フロゥ』が数体飛び出してきた!

 

「ヴィータ副隊長!?」

「あれは『エナジー・フロゥ』!?すずめまで来ているのかよッ!?」

 

『エナジー・フロゥ』の姿を確認して千雨が声を上げた。すると、ピンク色の隊長機『エナジー・フロゥ』から指を鳴らす音が聞こえた。

 

[当然だよね。厄介な能力だけど、さすがに目覚めたてのスタンドじゃあ『エナジー・フロゥ』の包囲網からは逃れられないよねッ!]

「あっちゃ〜、さすがにあの数に剣じゃあ不利だったかぁ………」

「早乙女!………それがお前のスタンドか………」

 

ハルナに近づきながら、千雨はハルナが『ドロウ・ザ・ライン』で描いた戦乙女《ヴァルキリー》を見ながら呟く。

 

[長谷川 千雨か………君の抹殺もアタシたちの任務に入っているからね。2年前の恨みも含めて殺(や)らせてもらうよッ!!]

ドガガガガガガガッ

「うおわぁあッ!?」

 

すずめは指を二度鳴らすと、千雨とハルナに向かいガトリング砲で集中砲火を浴びせた!

 

「千雨ッ!!」

「『エコーズACT3』!隊長機を狙えッ!!」

『YES SER!3FREEZEッ!!』

ドゴシャァアッ

[!?]

 

康一が叫ぶと、『エコーズACT3』は『3FREEZE』を隊長機に喰らわせ、地面にめり込ませる!

 

「今だ!」

「了解ッ!!」

 

康一が叫ぶと、ティアナは隊長機に向けて魔法弾を放ち、その機体を破壊した!

 

「やった!」

「………いや、まだだ!!」

「え?」

 

隊長機が破壊された事に声を上げるハルナだが、千雨は警戒体勢を崩さず未だ残る『エナジー・フロゥ』を見渡していた。すると………

 

[………あー、さすがにびっくりしたなぁー………]

「「「ッ!?」」」

 

 

突然すずめの声がしたかと思えば、『エナジー・フロゥ』の内一体の色がダークグリーンからピンク色に変わり、頭部がスライドしてすずめが姿を現した!

 

「そんな………」

[残念だったね。隊長機を潰されても別の機体に転移して隊長機を引き継がせられる………それが『エナジー・フロゥ』の編隊だよ!]

 

すずめはそう言い放つと再びコックピットに戻り、そのままガトリング砲を放った!

 

「きゃーーーーーッ」

「くそうッ、隊長機以外は無人機なんじゃあ『ヘブンズ・ドアー』はきかないし………『ACT3』で重く出来るのは一度に一つだけ………正直かなりヤバいッ!」

 

ミスタが拳銃を撃ち、ブチャラティが『スティッキィ・フィンガーズ』で『エナジー・フロゥ』を分解し、ジョルノが『ゴールド・E』の拳を振るうも、『エナジー・フロゥ』の猛攻は止まらない。

 

「な………何が………?」

ゴウッ

「!?ノーヴェ姉様ッ!!」

 

未だ体調が優れないのか、頭を押さえながら周りをみるノーヴェ。だが、そんな彼女に向かい左腕のプロペラを回転させながら『エナジー・フロゥ』が一機迫ってくる!

 

「マズい………ノーヴェッ!」

「………ッ」

 

ティアナが叫ぶが、『エナジー・フロゥ』はすでにそのプロペラをノーヴェに振り下ろしていた!

 

「!!」

シュンッ

「「「「ッ!?」」」」

 

だが、ノーヴェにプロペラが接触するという瞬間、ノーヴェは驚異的なスピードでそれを『回避』した!

 

「何ッ………!?」

「い、………今の反応速度は、ノーヴェ姉様の基準速度を上回っている………!?」

 

オットーは今のノーヴェの反応速度に驚くが、『エナジー・フロゥ』は足の先に付いたテールローターを回転させながらノーヴェに蹴りを放つが、これもノーヴェは素早く避けた。

『エナジー・フロゥ』はそれでも連続で蹴りを繰り出すも、ノーヴェはそれを次々と避けていった。

 

「な………なんか普段より、相手の動きが良く見えるような………?」

[あいつ………M‐18!さっさと片付けろッ!!]

 

すずめはいらついたように指を七回鳴らすと、ノーヴェを襲っていた機体に命ずる。すると、『エナジー・フロゥ』の胸が観音開きに開きバズーカ大の銃口が顔を出し、ノーヴェに照準を合わせた!

 

「ッ!ノ―――」

 

ティアナが叫ぶが間に合わず、『エナジー・フロゥ』のエネルギー砲はノーヴェに向けて放たれてしまった!

 

 

 

 

 

ギュンッ

[ッ!?ま………また………!?]

「………!?」

 

だが、それをもノーヴェはかわす!

かわせた事にノーヴェ自身も驚いていたが、すかさず『エナジー・フロゥ』に回し蹴りを喰らわせた!

 

「ウリィィィィャァァァァァアアアアッ!!」

ドゴシャァアッ

「な………今のは………ッ!?」

「ッ!?ノーヴェ、その『脚』は………」

 

ノーヴェが自身の体の『違和感』に戸惑う中、ティアナは『は虫類のようなノーヴェの右脚』に驚く!

 

「バカな………『恐竜化のスタンド』が、まだ生きているなんて………ッ!?」

[よそ見は禁物だよ?]

 

ティアナが考えを巡らすが、すずめはそれでも攻撃の手を止める気はなかった。

すかさず残った機体を集め、ノーヴェや千雨たちを囲むような陣形をとると、徐々に追いつめようとする。

 

「撃ち抜けッ『レイストォォォオオオム』ッ!!」

ズドドドドドドドッ

[なッ!?]

 

だが、陣形をとった『エナジー・フロゥ』は、オットーの放った『レイストーム』に次々と破壊されてしまった!

 

「助かるよ………今までバラバラに『分散』していたから撃てなかったが、『陣形』をとってくれたお陰で撃ち抜けた。分散していたら、みんなに当たるかもしれないからね。」

[し………しまった!大局を見誤ったか………くっ!]

 

すずめは短く舌打ちすると、乗っている隊長機を空高く飛び上がらせた。

 

[仕方ないね。今日の所は見逃すよ。だが長谷川 千雨、そしてノーヴェと言ったね、次はないと思う事だねッ!!]

「あ、ちょっと!?」

 

すずめはそう叫ぶと、『エナジー・フロゥ』をヘリ形態へ変形させ、空のかなたへ飛び立ってしまった。

 

「行っちゃった………」

「ほっとけ。ヤツの事だ、どのみちまた来るだろうよ。」

 

ティアナがすずめの行った先を見つめながら呟いた事に、千雨が溜め息混じりに言う。ティアナはそう、とだけ言うと、自分の両手を見ながら狼狽えるノーヴェに近づいていった。

 

「大丈夫だった、ノーヴェ?」

「え?あ、ああ………」

 

未だ戸惑った様子ではあるが、ノーヴェはそう答えた。

 

「本当に大丈夫………?恐竜化がまだ残っているみたいだったけど………?」

「い、いや………本当に大丈夫だよ………」

 

大丈夫だと強がるノーヴェ。

 

「………!」

 

だが、遠くから見る詠春は気づいていた。ノーヴェの左腕から―――

 

(………『()()』は彼女に行きましたか………ならば、問題はないでしょう。)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――まだかかるのかい?」

「もう少しや!そう急かさんと待っときいッ!!」

 

『鬼神』復活の儀式をする千草と、付きそうルミリオ。退屈になってきたのか千草に訪ねるルミリオに対し、千草は少し焦るように叫んだ。

 

「そう………彼らが来るよ。」

「何ィッ!?」

 

そうルミリオがあくまで冷静に言って向いた先には、杖に乗ったネギと明日菜、そしてウィング・ロードを駆けるスバルが迫っていた!

 

 

 

 

 

←to be continued...




66話です。

・ホル・ホースを襲った烏族は言わずもがな(笑)ちなみに名前は『ドクター・フー』に登場したダーレク四人衆のメンバーから。

・『夢幻』の能力はど根性ガエルからヒントを得ました。焔の言うとおりマフラーに武器を貼り付ければ荷物かさばんなくて便利かな
あって思います。

・すずめ撤退。ノーヴェに何があったかは次回以降で。

では、次回をお楽しみに!


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#67/京の鬼神蘇生実験 ③

「………環、これを見てどう思う………?」

「どう見ても…………『シャケ』です………」

 

逃走の最中、火が残っているので恐らくは焔が戦っていたと思われる森の中で追っ手がいない事を確認した二人は、待ちきれずに奪った『モノ』の中身を確認していた暦と環は、その中身が新巻鮭だと知って呆然としていた………

 

「え………?何?私たち、ニセモノを掴まされたわけ………?」

「多分………相手の方が一枚上手だった………」

「そ、そんなぁ〜〜〜………ル、ルミリオ様が私たちに任せてくれたたのに………」

 

涙目で落胆する暦と、ショックで肩を振るわせる環。すると、そんな二人に話しかける声が。

 

「………大丈夫よ二人とも………少なくとも私よりはマシだから。」

「「………?」」

 

二人が声のした方を見ると、そこには木に貼り付いた焔の姿が………

 

「焔ァァアーーーーーッ!?」

「な………何があったのッ!?」

「………ゴメン、助けて………」

 

 

 

 

 

この後二人は、引っ張ってもとれない焔を一時間かけて木の一部ごと切り取って持ち帰ったのだった。

 

 

 

 

 

#67/京の鬼神蘇生実験 ③

 

 

 

 

 

「てやぁああッ!!」

バゴォッ

「くっ………!」

 

奏汰が『ハイ・ステッパー』を装着した右足で蹴りつけると、『アンチェイン・ワールド』の右腕が砕け散り後ずさる。「ハイ・ステッパー」の爆発力は巨大な『アンチェイン・ワールド』の身体すら吹き飛ばす程の威力であったのだ。

加えて、大柄な『アンチェイン・ワールド』では小柄な奏汰をとらえるのは難しかった。

 

「小僧め………!(だが、あのスタンドは脚のみ………そこを突ければ!)」

 

綺初は少し冷静になったのか、奏汰のスタンドの特性を分析して作戦を考える。

すぐさま破壊された右腕を再構成すると、再度奏汰に殴りかかった!

 

「同じこと!!」

 

奏汰は先ほどと同じように、『ハイ・ステッパー』の両脚で飛び蹴りを放ち破壊する。

 

「甘いわ小僧!!」

バゴォオッ

「!?」

 

しかしその時、奏汰の背後からもう一体の『アンチェイン・ワールド』が出現、飛び蹴りの後故に、空中で身動きの取れない奏汰に襲いかかる!

 

(奴のスタンドの性質上、攻撃の直後は無防備!加えて空中では身動きはとれまい!)

 

綺初はほくそ笑んで勝利を確信した。

しかし、奏汰は背後の『アンチェイン・ワールド』に振り返ると、右手を振りかざして思いっきり打ち込んで―――

 

 

 

 

 

ドォオオオンッ

 

 

 

 

 

「!?」

 

拳同士が激突すると、直撃したアンチェイン・ワールドの拳から肩にかけてが粉砕して吹き飛んだ!?

 

「な、何だと………!?」

「………油断しましたね?このひと月、レプラさんに鍛えられて、ボクの『ハイ・ステッパー』は成長したんですよ………」

 

着地した奏汰の両脚だけではなく両腕にもスタンドが纏われていた!

両脚と同様に赤い装甲のロンググローブのような形状で、ひじの辺りにはシリンダーとハンマーが装着されており、銀色の線が1本光っている。同じくブーツの方にも線が描かれており、膝当てには『Ⅱ』の数字が刻まれていた。

 

「『ハイ・ステッパーACT2!』新たなボクのスタンド……手加減は出来ませんよ!」

「お、オノレぇ!!」

 

綺初は叫ぶと、『アンチェイン・ワールド」を修復し、奏汰に襲いかかる!奏汰は怯まずに、2体の巨人に向けて駆け出した。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ええい!まさかあのアヤカシ共から抜け出すとは!!」

「あなたは儀式に集中して。」

 

湖で儀式をしていた千草は、こちらに向かい飛んでくるネギたち三人を見て舌を打った。そんな千草とは対照的にルミリオは冷静に札を取り出すと、先ほど木乃香を連れ去った悪魔を呼び出した。

 

「ルビカンテ、彼らを止めて。」

「………」コクリ

 

悪魔(ルビカンテ)は小さく頷くと、翼を羽ばたかせてネギ達に向かい飛び立った!

 

「あいつ、何か呼び出した!?」

「低級悪魔だ!」

「うん!」

 

ルミリオが呼び出し、こちらに向かってくるルビカンテを目視したネギ達。ルビカンテが迫る中、スバルはウィングロードを路線変更すると、リボルバーナックルを回転させ、パンチの構えを取った。

 

「ウリィィィィィィィィィャァァアアアアーーーーーッ!」

ドグシャアァッ

「「「ッ!?」」」

「………!?」

 

そのままスバルは加速しながらルビカンテにパンチを放つと、その拳はルビカンテを貫き、ルビカンテは消滅してしまう!

 

「あ、あの悪魔を一撃………!?」

「二人とも、このまま行くよ!」

「はい!」

 

「ルビカンテを………(なるほど、『()()()』の血を引いているだけの事はある………)」

 

ルミリオが呟く中、ネギの杖とスバルのマッハキャリバーはさらに加速し、ルミリオ達に向かい突っ込む!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュンッ

「「「!?」」」

ドガァッ

「「キャァアッ」」

 

だが、ルミリオまで後少しという時、ネギ達の前に『何か』が現れると、回し蹴りをスバルに喰らわせ、吹き飛んだスバルが衝突して明日菜と共に橋の上へ落ちてしまった!

 

「アスナさん!スバルさん!」

「よそ見している場合かい?」

「!?」

 

二人を心配するネギだが、一瞬でネギに近づいたルミリオに阻まれてしまう。ルミリオは、自分の後方に降り立った人物に目をやる。

 

「………意外だね、まさか『キミ』が来るなんて。」

「………」

 

明日菜とスバルは、自分たちを蹴り飛ばした相手を見た。

 

真っ黒な学ランの上に腰の下まで覆う同色のマントを着込み、腰まである長い三つ編みにした金髪の上に、ハートマークや『石の仮面』を模した金色のアクセサリーを付けた学生帽をかぶっている。

足には黒に金のラインが入った鉄製と思われるブーツを穿き、マントからちらりと見える腕にも、同じような篭手を装着していた。

だが、その顔は―――

 

(な………

(何で………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((何で唐草模様ーーーーーッ!?))

 

唐草模様の、目だけ合いた覆面だった………

ちなみに先述の三つ編みは、覆面の後ろにあるジッパーの穴から垂れている。

 

「(相変わらずスゴいセンスだなぁ………)まあいいか。キミならそんなに苦戦はしないだろうしね。」

「………」

 

覆面の人物は小さく頷くと、スバル達二人に向かい猛スピードで飛び出した!

 

「な!?」

「は、はや………」

ドゴァアッ

「「がぁッ!?」」

 

まるで飛ぶかの如き猛スピードに二人は目を見開くも、覆面は構わずに二人を殴り飛ばしてしまう!

 

 

「ふ、二人ともッ!?」

「どこを見ているんだい?」

「ッ!?」

ドガシャアッ

 

二人が覆面の人物に吹き飛ばされるのが気になるネギだが、迫り来るルミリオが跳び回し蹴りを放つ。ネギは腕でギリギリガードするが、数m後方へ飛ばされてしまう。

 

「くっ………何て重い………」

「もろいね………そんなことじゃあ、何も守れないよ?」

「………!」

 

ルミリオの言葉にカチンときたのか、ネギは右手の『(タスク)』の爪弾を回転させてそれを拳に装着すると、その拳をルミリオに向け振るう!

 

「………」

ドォンッ

「ッ!?」

ギャルギャルギャルギャルギャルッ

 

だがその拳は突如地面から現れた『石の壁』に阻まれて不発となってしまい、壁に切れ目は入ったが切り裂く事はできず、ネギは拳から血を流す。

 

「ほう、この一瞬で応用させて攻撃するなんて、この数ヶ月でスタンド能力をここまで使いこなすのか………やるね。」

「………君たちのおかげでね………ッ」

「………?」

 

皮肉を含めた笑みを浮かべるネギに、ルミリオは疑問に思った。

その時だ。

 

 

 

ドンッ

「!」

 

重く響く音が鳴ったかと思えば、ルミリオは自らが作り出した壁に縛り付けられてしまった!

 

ギュォォオオッ

「『戒めの矢』?………いつの間に………!?そうか、これは『遅延呪文(デイレイスペル)』………」

「君の戦闘力はかなりのものって聞いてるからね………先に詠唱させてもらったよ………この距離なら障壁も張れないだろッ!?」

「なるほどね………少し見くびっていたよ………」

 

口調は変わらないが、少し驚いた様子のルミリオをちらりと見たネギは、すぐさま木乃香の元へ向かう。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

一方、覆面の人物―――以下、この人物の事は『覆面』と表記する―――と戦う明日菜とスバル。

二人は何度も攻撃を仕掛けるが、覆面はそれを受け止めてカウンターにパンチを放つため、覆面には目立った外傷は見受けられなかった。

 

「あぅ……っ」

「大丈夫、アスナ…?」

「大丈夫よ。アイツの覆面があまりにも緊張感がないから、油断しただけよ……」

「た、確かに………」

 

覆面のかぶる唐草模様の覆面を見てスバルは苦笑する。覆面は小首を傾げるが、すぐに構えをとり二人と向き合う。

 

「構えた………!」

「今まで『受け身』だったのが、今度は攻めて来る気…?(でもアイツの攻撃、どこかで―――?)」

 

スバルが疑問に思うも、覆面が突っ込んできた為に考えを止める。

 

ドガガガガガガッ

「くっ………」

「は………、速くて重い……っ何てやつ!?」

覆面の攻撃に二人は苦言を漏らした。

 

 

 

その時だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴォォォア゛ァァァァアアア―――――

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

「………!」

 

突如として、湖の中央の岩から巨大な『鬼』の半身が現れた―――――!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「こ………これはッ………!?」

「ふふふ………一足遅かったようですなぁ………儀式はたった今終わりましたえ…!」

 

木乃香の元へ向かっていたネギは、突如現れた鬼を見上げて驚愕する。

 

その鬼は青白い光を全身から放つ白磁色の四つ手の身体に、二本の角を持つ顔の後頭部には一本角の鬼の顔がある異形の鬼だ。

見れば、その肩には木乃香を連れた千草の姿が見られた。

 

「二面四手の巨躯の大鬼、『リョウメンスクナノカミ』。千六百年前に討ち倒された飛騨(ひだ)の大鬼神や……ふふふ………喚び出しは成功やな…!」

 

鬼神―――『リョウメンスクナノカミ』の肩の上で勝利を確信した笑みを浮かべる千草。ネギは愕然とした表情でスクナを見上げる。こんな巨大な鬼神を、どうやって倒せるかなど検討も付かなかった。

 

「こ………こんな………(こんな巨体じゃあ、『雷の暴風』が効くか分からないし………せめて、スバルさんが動ければディバインバスターで………!)」

パキィインッ

「!」

「なかなかの善戦だったけど、残念だったね。」

 

ネギが考えを巡らせる中、『戒めの矢』からルミリオが脱出しネギに向かい歩を進める。

 

その時だ。

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオォォォォォォォッ」

「「ッ!?」」

「オラァァアアアアッ!!」

ドォンッ

 

いきなり、上空から『何か』の雄叫びが聞こえると、次いで“それ”はネギとルミリオの間に猛スピードで落下した!

 

 

「―――ふう、何とか間に合ったみてぇだなぁーーーーーッ!」

「少々ギリギリな感じはしますが………」

「く、空条さん!刹那さん!」

 

降ってきたそれ―――否、徐倫と刹那の姿を見て、驚きと喜びの混じった声を上げる。だがふと、二人を見て疑問がわいた。

 

「………あれ?ルル・ベルさんは………?」

 

そう、二人と共にいたはずのルル・ベルの姿がないのだ。ネギに問われ、徐倫は振り向きながら答える。

 

「アイツなら今頃、『お客さん』を丁重におもてなししているぜ?」

「?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ほんの数分前。

 

 

「おい、何かヤバい雰囲気じゃねぇかッ!?」

 

ネギ達の元へ向かう徐倫たち3人。空中から見える湖からは膨大なエネルギーの奔流が、魔法使いではない徐倫でも分かるほどあふれ出ていた。

 

「急がないと、お嬢さまとネギ先生が………」

「そんな心配、せんでも大丈夫ですえ?」

「「「ッ!?」」」

「たぁーーー!」

ドォンッ

 

突然声がしたかと思えば、突如二刀流による斬撃が3人を襲った!

 

ドシャァアッ

「ぐぁあッ!?」

「今のは……?思わず能力を解除しちゃったわ………」

 

どうにか着地した徐倫たち。その時―――

 

「なんや依頼主(クライアント)の千草さんがことを起こしとるみたいやけど………」

「ッ!」

「うちには関係のないことですけどね、センパイ♪」

「月詠………?!」

 

三人に斬りかかった人物…両刀を構えた月詠の姿を見て、刹那は背中を振るわせる。月詠は楽しそうでいながら、その目は『狂気』でらんらんと輝いていた。

 

「ほな、映画村では妙な横槍入れられましたが、今度は邪魔させまへんで〜〜〜!」

「くっ………こんな時に……!」

 

じりじりと詰め寄る月詠に、徐倫と刹那は舌を打つ。二人とも臨戦態勢だ。

 

「………」

スッ

「ルル・ベル?」

「あら〜、またアナタおすかぁ〜〜〜?」

 

だが、そんな三人の間にルル・ベルが割って入り、徐倫らに手で制した。

 

「ここは私に任せて貰うわ。あなたは近衛 木乃香の元へ。」

「何?」

「早くしなさい桜咲 刹那!早く彼女を助けて、お姫様だっこでキスの一つでもしてきなさい!」

「なッ!?何を言って!?」

「え?何?やっぱお前とこのかって『()()()()関係』なの?」

「い、いやッ!うちとこのちゃんはそういう関係やのーて………」

 

ルル・ベルの発言と徐倫の表情に刹那は耳まで顔を真っ赤にしてうろたえだし、元来の京都弁が出てしまう。緊迫した空気がかなり緩和していた………

 

「さあ早く!ここからならあの場所まで『サイケデリック・インサニティ』で一気に行けるわ!」

「………頼む!」

「行かせまへんえ〜〜〜♪」

 

ルル・ベルが『サイケデリック・インサニティ』で二人を湖の方へ殴ろうとする中、月詠が三人にせまる!ルル・ベルは素早く二人を殴ると月詠に向き直り、二刀を『インサニティ』の両拳を交差させて受け止める!

 

「またうちの邪魔をしてぇ〜……何なんですかアナタは?」

 

「頼んだぞー!」という徐倫の叫びをバックにつばぜり合いをしながら、月詠は訝しげにルル・ベルに問う。ルル・ベルはふふっ、とだけ笑うと、その問いに答える。

 

 

 

 

 

「私は恋する乙女の味方―――愛の掟で戦う戦士よッ!!」

「………何でメタルヒーローの歌詞から取ったんですー?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――ま、そーいうワケだ。今はこのかを助けてよぉーーーーー!あの『デカブツ』を止めることに集中するぞ!!」

「は、はいッ!」

 

徐倫から経緯を聞いたネギは少し頼りないように返事をする。いくら徐倫らがいるとはいえ、あの大鬼を倒せるとは思えなかった。

 

「………おしゃべりは済んだかい?」

 

三人の会話する様子を今まで聞いていたルミリオは呆れたように訪ねると、何やら奇妙な構えを取った。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト、小さき王(バーシリスケ・ガレオーテ・)八つ足の蜥蜴(メタ・コークトー・ポドーン・カイ・)邪眼の王よ(カコイン・オンマトイン)!」

「え、詠唱!?」

 

ルミリオが呪文を詠唱し始めたのを見て驚くネギ。すると、先ほど覆面の攻撃で湖に落下していたカモがようやく湖から出て、ルミリオの呪文に驚愕する。

 

「なッ!?あの呪文は………!?姐さん!奴の詠唱を止めるんだッ」

「え!?カモ君………!?」

「ダメです、間に合わないッ!」

時を奪う(ブノエーン・トゥ・イウー・)毒の吐息を(トン・クロノン・パライルーサン)―――」

 

カモがあわてて叫ぶが、既にルミリオは詠唱を終え、その光る指をネギ達に向ける!

 

「『石の息吹(プノエー・ペトラス)ッ』!!」

ボウムッ

「「「「ッ!?」」」」

 

詠唱した瞬間、周囲十数mに渡り灰色の霧が発生した!

 

「………しまった、大きすぎたな………」

 

後からルミリオがこんな呟いたが聞こえたが、気のせいと信じたい………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「な…何とか逃げられた………奴はまだこっちに気づいていませんね……」

 

祭壇につながる橋の上、何とか霧から逃げ切ったネギ達。

 

「無事か、ネギ?」

「はい。でも空条さん、さっきのは………?」

 

あの時―――霧から逃げ出す際に、徐倫が素早く『コウウントユウキノツルギ』を振るった瞬間、霧が一部、まるでトンネルのように晴れ、そこから三人は脱出したのだ。

 

「いや、まだ『確信』はないけど、このアーティファクトの能力が分かりかけてきた………」

「え?………」

「た、確かにその『コウウントユウキノツルギ』は作られてから数百年の間、一度も世に出たことがない故に能力に謎が多いものっすけど………」

 

そんなスゴいものだったのか、と今更ながら驚く徐倫とネギ。確かに仮契約してから修学旅行まで一度もアーティファクトを使っていないため、あまり理解をしていなかったが………

 

「………………」

 

そんな中、刹那はスクナの肩に乗る木乃香と千草を見て、決心を固めた目をする。

 

「………お二人は今すぐ逃げてください………お嬢さまは私が救い出します………!」

「えッ!?」

「お嬢さまは、千草と共にあの『鬼神』の肩にいます。私ならあそこまで行けます………」

「な………何を言って………第一!どうやってあんな高い場所までッ………!?」

 

刹那の進言に二人は狼狽える。いくら何でも、刹那があの大鬼の肩まで行けるとは考えがたかった。

 

「………ネギ先生、空条さん……私、二人にも……このかお嬢さまにも『秘密にしておいたコト』があります……この『姿』を見られたらもう……『お別れ』しなくてはなりません……」

「………何?」

「え?」

「な………何を言って………?」

「しかし、今なら………あなたたちなら………!!」

 

刹那はそう言うと、『封じていたその力を』解放する。すると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バサァアアッ………

 

 

 

 

 

「「「………ッ!」」」

 

 

 

 

 

刹那のその背に、巨大な『一対の翼』が現れる……………

 

 

 

 

 

「………これが私の正体………奴らと同じ………『化け物』です………」

 

後ろの二人を振り向きながら、刹那は恥ずかしげに言う。その目は、涙が浮かんでいた………

 

「でもっ、誤解しないでください………私の『お嬢さまを守りたいという気持ち』は本物です!………今まで秘密にしていたのは………この『醜い姿』をお嬢さまに知られて、嫌われるのが怖かっただけ………!私ッ………」

 

刹那がそう吐露するが、そんな刹那に徐倫は………

 

 

 

 

 

バッチィインッ

「きゃうッ!?」

 

背中をひっぱたいた………

 

「ったく、なーに言ってんだオメーはよォオーーーーー!」

「いてて………え?」

 

背中の痛みに悶えていた刹那だが、徐倫の一言に惚けた表情となる。

 

「オメーよォ、このかの幼なじみで、その後二年間も陰からずっと見守っていたんだろ?その間、アイツの『何』を見てたんだよ………?」

 

私はちょっとビビったけど………と続けた徐倫は、刹那の肩に手を置き、その両の目を見つめながら話す。

 

「このかが『()()()()()()()()()』、誰かを嫌いになると思うか?なんねぇよなぁーーーーー!ソンくらい、このかのことちょいと考えりゃぁわかんだろうがッ!」

「く………空条さん………!」

 

刹那を一喝した徐倫は後方で一部始終を惚けた表情で見ていたネギの方を見る。

 

「ネギ!私らで援護するぞ!」

「ハイッ!」

「空条さん………ネギ先生………」

「行ってください、刹那さん。」

「ルル・ベルじゃないけど、さっさとこのか助けてちゃんと話ししてきなッ!」

「は………ハイッ!」

 

刹那は二人にそう返事をすると、翼を広げて飛び立つ準備をする。その時、霧に包まれた祭壇の中からルミリオが現れた。

 

「………そこにいたか。(しかし、まさか無傷とはな………)」

「来たか………」

「ネギ先生………このちゃんの為に頑張ってくれて、ありがとうございます………!」

 

刹那はネギにそれだけ言うと、このかの元へ飛び立った!

 

「!あの翼………烏族のハーフ………!?」

「タスクッ!!」

ドバッドバッドバッ

「!?」

 

刹那を撃とうとするルミリオだが、それはネギの放った『爪弾』に阻まれてしまい、その隙に刹那はルミリオの射程距離外へ飛んでいった。

 

ドガァアッ

「わぁあッ!」

「キャァッ!」

ドッザァアッ

「わっ!?」

「あ………明日菜にスバル!?」

「く、空条さん………!」

 

その時、二人の反対側から覆面と戦っていた明日菜とスバルが飛び込んできた。後方を見れば、右腕をブンブンと回しながら覆面がこちらにゆっくりと歩いてきた。

 

「もう一人いたか………つーか何だよ、あの気の抜ける覆面………?」

「知らないわよ……で、どーするの?」

「正直、あの二人に勝つのは難しいよ………?」

 

四人は背中合わせになりながら打ち合わせをする。この二人と戦うのにこの面子ではキツいと感じた………

 

 

 

 

 

【………なかなか頑張ったね、みんな………】

【僅かだが、貴様等の戦い見せてもらったぞ………】

「「「「!?」」」」

「この声は………ッ!?」

 

そんな中、四人と一匹の頭に『二人の女性』念話が響きわたった。だがこの二人は―――!?

 

【まだ限界ではないはずだぞ?意地を見せて見ろ貴様等ッ!】

【後一分半待っていて………そうしたら―――】

【私らがすぐに終わらせてやる………!!】

 

 

 

 

 

←to be continued...




67話です。

・焔救出。まあ、どっちみちこの後3ヶ月はこのままですが………

・ハイ・ステッパーACT2。キックだけではなくパンチも打てるようになり、格闘向けになりました。

・覆面の人物登場。学ランにマントで格闘家という出で立ちですが、ルミリオの言うとおりセンスがぶっ飛んでます(笑)正体はいずれ。

・いよいよ京都編もクライマックス!なるべくペース上げて頑張ります。

では、次回をお楽しみに!


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#68/レイジングハート・エクセリオンの逆襲

「そらよォッ!!」

ガンッガンッガァアンッ

「「「ギャーーーッ!?」」」

 

ホル・ホースが『エンペラー』の引き金(トリガー)を引くと、妖怪たちの眉間にその弾丸が吸い込まれていった。

 

「オヤビン!またやられちゃいましたぜぇ!?」

「ええいくそ!あのスタンド使いとかいう連中、想像以上の実力や!」

 

ホル・ホースとウェカピポによってその数を四分の一以下にまで減らされ、リーダー鬼とその配下達は苦戦を強いられていた。

 

「よぉーしウェカピポ、このまま押し切るぜぇーーーーーッ!」

「ああ。」

 

二人はそう言うと、そのまま互いに弾丸と衛星を発射していった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――ノーヴェの方は大丈夫か?」

「はい。今はディードと一緒にオットーに看病してもらっています。」

 

一方、本山の屋敷にいる承太郎たち。

『亀』から出てきたフェイトは、出た先にいた承太郎と詠春にノーヴェの様態を話した。

 

「何か、『恐竜化』がまだ依存、という言い方でいいのか分かりませんが、しているせいか、そのショックによるのが大きいかと………後、恐竜化して寒さにやられたのか………」

「………そうですか。」

「………」

 

フェイトからの説明にそう返事する詠春。すると、ここで承太郎が口を開いた。

 

「………そろそろよぉ、話してくれてもいいんじゃあねえか?」

「えっ………?」

「………何のことでしょう?」

 

言われた詠春は一瞬戸惑いながらも知らないという風に言うが、承太郎は引き下がらなかった。

 

「トぼけてんじゃねえぜ?お前さん、あの灯籠の下にある『モノ』が何なのか、本当は知ってんだろ?」

「………!?」

 

承太郎の言った事に、フェイトは驚いた顔をし、詠春は承太郎の洞察力に冷や汗をかいた。

 

「………侮れませんね、承太郎さん………いいでしょう、お話いたします。」

 

そう言うと、詠春は静かに語り始めた。

 

 

 

 

 

#68/レイジングハート・エクセリオンの逆襲

 

 

 

 

 

【後一分半待っていて………そうしたら―――】

【私らがすぐに終わらせてやる………!!】

「こ…この声………まさか!?」

「ああ………『ヤツ』だな………それに、もう一つの方は………」

 

突如、脳内に響いた念話にネギたちは一瞬戸惑ったが、その語りかけてくる人物の『正体』に気づいた。

 

【ぼーや、さっきの戦い、作戦といい、見事だったぞ。だがな、貴様は少し小利口にまとまりすぎだ。】

【まあ、それが良い所と言えなくもないけどね。】

【だが、今からそんなことじゃあ、とても親父(あいつ)にはとても追いつけんぞ?たまには後先考えず突っ込んでみたらどうだ?ガキならガキらしく、後の事は大人に任せてな!】

 

二人の言葉にネギは一旦息を大きく吐いた後、立ち上がった。

 

「ネギ…!」

「ネギくん!」

 

ネギが立ち上がったのを見て、明日菜たちは声を上げた。

 

「みなさん………行きましょう!」

「「「おう!」」」

「来るのかい?………では、相手をしよう。」

「………」すっ

 

皆は叫ぶと、二人に向けて構え、ルミリオと覆面も構えなおした。

 

契約執行(シス・メア・パルス)ッ!」

ギャァアアンッ

「てやーーーーーッ!」

「ハァアッ!!」

 

まずは、ネギに魔力を供給された明日菜が覆面に、徐倫がルミリオに仕掛ける!

だが、二人はそれを簡単にいなすと、カウンター気味に攻撃を放ち、二人は桟橋にたたきつけられてしまう!

 

ドガァッ

「グッ………」

「キャアッ」

「二人とも!?」

 

二人がたたきつけられたことにネギとスバルは声を上げるが、気づいた時には二人の目の前にルミリオと覆面が現れ、二人に回し蹴りを仕掛けた!

 

「ぐっ………」

「ああっ…!」

「なっ…」

「ネギ………」

 

二人が声を上げるが、ネギ達は二人に激突してしまった。

ルミリオと覆面は攻撃の手を緩めず、覆面は両手を前に出す構えを取ると、手をかいてんさせてその間に『水色の魔力』を蓄積させ、ルミリオは宙に飛ぶと、呪文の詠唱を始めた。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト、小さき王(バーシリスケ・ガレオーテ・)八つ足の蜥蜴(メタ・コークトー・ポドーン・カイ・)邪眼の主よ(カコイン・オンマトイン・)その光(ト・フォース・)我が手に宿し(エメーイ・ケイリ・カティアース・)災いなる(トーイ・カコーイ・デルグマティ・)眼差しで射よ(トクセウサトー)!」

「………!」

 

ルミリオはネギ達にその指先を向け、覆面は蓄積された魔力に向けて拳をぶつけた!

 

龍牙一閃(りゅうがいっせん)………!!」

「「「「「しゃべった!?」」」」」

「技名は言うんだ………じゃなくて、『石化の邪眼(カコン・オンマ・ペトローセオース)』ッ!!」

ドッバァアッ

 

覆面がしゃべった事に驚くネギ達をよそに、ルミリオは一瞬驚きながらもその指先から石化の光線を放ち、覆面は魔力の奔流をネギ達に向け放った!

 

バヂンッ

「くっ………!」

「アスナさん!」

ゴッ

「おおおおお………」

「空条さん!?」

 

だが明日菜はネギをかばうようにルミリオの魔法をハリセンに受け、徐倫は覆面の放った魔砲弾を斬り裂く形で防御した。

 

瞬間―――

 

 

 

 

 

「「ゥ………オラァァアアーーーーーッ!!」」

バキィイインッ

「「「「「………ッ!?」」」」」

 

二つの魔力は、まるで霧の如く消え去ってしまった!

 

「大丈夫、ネギ?」

「アスナさん………」

「空条さん………今のは………」

「思った通りだ………こいつの能力は………」

「やはり、『魔力完全無効化能力(マジック・キャンセル)』か………だが空条 徐倫、君のそれは………!?」

 

一瞬で魔力を消し去った明日菜にルミリオはその「能力(ちから)」の正体を知るが、それを徐倫も持つとは考えられず疑問に思う。しかし、それに構わず覆面は徐倫に向けて駆けだす。

 

ギュン

龍爪貫手(りゅうそうかんしゅ)………!」

 

そして、右手に魔力の刃を発生させて徐倫に向けて突きを繰り出した!

 

 

 

 

 

ガッギィイインッ

「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

だが、徐倫がその魔力刃にコウウントユウキノツルギを当てた途端、魔力刃は『砕け散ってしまう』!

 

「アーティファクト………『コウウントユウキノツルギ』………こいつの能力は、言わば『共鳴』だ。」

「共鳴………?」

 

覆面の拳を刀身で受けながら、徐倫は推測していた能力を説明する。

 

(『コウウントユウキノツルギ』だと!?………まさかそんなものがジョースター家の手に………!)

「こいつは、『同時に発現している同じマスターのアーティファクトと同じ能力になる』っつう能力なんだよ。だから、今はアスナの『ハマノツルギ』と同じ『魔力完全無効化』の能力が得られている。」

「なッ………マジで?」

「マジだよ。よぉしッ!このまま一気に行くぜッ!!」

 

徐倫は叫ぶと、背後から『ストーン・フリー』を発現させた。だが、今のストーン・フリーは少し違った。

 

「ス、ストーン・フリーの………サングラスのデザインが変わってるッ!?」

「いや、それよりも腕の形状につっこもうよ!?」

 

ストーン・フリーの右腕は両刃の剣のような形になり、肩にはとがった三角形方の肩当てがつき、サングラスはXのような鋭利なデザインになっていた!

 

「『ストーン・フリー ソード・エディション』ッ!行くぜッ!!」

 

言うと、徐倫は『ストーン・フリーSE(ソード・エディション)』の右腕を覆面に向けて振りかざした!

 

「オラオラオラオラオラァアッ」

ズバァアッ

「………ッ」

 

振り下ろされた右手の剣は覆面の顔を掠めたが、学帽を吹き飛ばし、その唐草模様の覆面の右側に切れ込みを作っただけであったが、一瞬の隙が出来てしまった。

 

「ゥリィィイイイアアアアアーーーーーッ!!」

 

その隙をスバルは見逃さず、覆面の懐に入り込み、拳撃の姿勢に入った!

 

「!マズい………(今、『彼』がダメージを喰らうのは………)」

 

すかさずルミリオが猛スピードで覆面の元へ向かうが、その行く手を明日菜の『ハマノツルギ』が阻み、ネギの『(タスク)』が装着された拳が構えられた!

そして―――

 

「「オオオオオオオーーーーーッ」」

「「……………ッ!?」」

 

 

 

 

 

「「オラァァアアッ!!」」

ドグシャァアッ

「ガッ………」

「………ッ」

 

ネギとスバルの拳が、ルミリオと覆面にそれぞれ叩き込まれ、二人は派手に吹き飛んだ!!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ネギとスバルがルミリオと覆面に一撃を入れたのと同じ頃、刹那もまたスクナの肩にいる千草と木乃香の元にたどり着いていた。

 

「なっ………アンタは………いつの間に………ッ」

「天ヶ崎 千草!お嬢様を返してもらうぞッ!!」

 

刹那は叫ぶと、千草に向け飛び出した!

 

「くっ………近すぎる!スクナの力が使えん……猿鬼導!!猿鬼導々(えんきどうどう)!!」

 

千草は慌てて猿鬼導と、猿鬼導にもう一対腕が生えた猿鬼導々を呼び出した。

 

 

 

「ハァァアアアッ!!」

ドンッ

「きゃぁあッ!?」

 

 

 

だが、刹那は一瞬で近づくと、猿鬼導、猿鬼導々を斬り裂いて木乃香を救出し、そのまま離脱していった!

 

「お嬢様!お嬢様、ご無事ですか………?」

 

刹那は短く呪文を唱えると、木乃香の口に張り付けられた呪札を剥がした。その剥がれた反動からか、木乃香は目を醒ました。

 

「ん………」

「お嬢様!」

「う…ん?…あ、せっちゃん………へへ…やっぱりまた助けに来てくれたー。」

 

木乃香は寝ぼけたように刹那を見ると、ホッとしたように呟く。

 

「お嬢様、どこか痛い所は?」

「え?あ、ああー……なんや、あの人と言うとおり気持ちええだけやったわぁー…あちゃー、ウチはずかしぃーーー………」

 

見んといてー、と恥ずかしがる木乃香を見て、刹那はホッとした笑みを浮かべた。

ふと木乃香は、刹那の背中に生える純白の翼に気づいた。

 

「………せっちゃん、その背中のは…?」

「えっ…あ、こ、これは………」

 

木乃香に聞かれて慌てる刹那だが、木乃香はクス、と笑うと刹那はきょとんと戸惑う。

 

「キレーなハネ…なんや天使みたいやなー。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「や…やったか………!?」

 

一撃を喰らわせたルミリオと覆面がうずくまるのを見て、明日菜らは不安げに様子を探った。その時だ。

 

「………身体に直接拳を入れられたのは………初めてだよ。ネギ・スプリングフィールド………ッ!!」

「………ッ!!」キッ

ゴォッ

「ネギッ!!」

「スバルッ!」

 

二人はネギ達を睨みつけると、拳を引いて殴りかかった!

 

 

 

 

 

ガシィィイッ

 

 

 

 

 

「「……………ッ!?」」

 

 

 

 

 

だが、ルミリオの腕は『地面から生えた腕』に捕まれ、覆面は『桃色の輪』に捕らえられてしまった!

 

ズルゥゥウウウウ

「…!?(影を使った転移魔法ッ!?)」

「ウチの『ぼーや』が世話になったようだな、若造。」

 

「………(バインド!?)」

[アクセル・シューター!]

「!!?」

「シュートッ!!」

 

ドッガァアアアアアッ

 

声がしたかと思えば、ルミリオは「自分の影から現れた少女」に、覆面は飛来した数発の『桃色の魔法弾』に吹き飛ばされた!

 

「ああ!」

「な…」

「エ………」

「これで『借り』は無しだな、ぼーや。」

「みんな、良く頑張ったね!」

「エヴァンジェリンさん!!」

「なのはさん!!」

 

現れた二人―――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと高町 なのはに、ネギとスバルは歓喜の声を上げた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「くっ…おのれぇ、ヒヨっこの神鳴流剣士が…烏族のハーフやったとは…だが、スクナの力を使えばすぐに………」

 

一方、木乃香を奪還された千草であるが、スクナの力ですぐにでも取り戻そうと画策していた。

だが、刹那に気を彼女は自分の背後に迫る脅威に気づいていなかった………

 

 

 

 

 

ファサァア

「?マフラー………?」

ガシィィイッ

「な゛っ!?」

 

突然、千草の周囲にベージュのマフラーが舞ったかと思えば、それは千草の身体を固く『縛り上げてしまった』!

 

「な…なんやこのマフラーは!固い!?」

「無駄よ。あなたにこれは解けないわ。」

 

あきれたような声をかけられて、千草はようやく自分の後ろにいる人物に気が付いた。

千草の後ろでは、腰まで届くブラウンのストレートの髪に、睨むようなブルーの目をした、三十代前半程の女性が、たばこを吹かしながらマフラーの片端を掴んでいた。

 

「このマフラーは『サティポロジア・ビートル』という虫の波紋伝導率100%の糸で編んだもの。簡単には解けないわ。」

「な…なんやアンタはッ!?」

 

女性は千草の質問に答えずに、掴んだマフラーの片端を引っ張って桟橋の上にシュタ、と降り立った。

 

「エヴァ、言われた通り術者は確保したわよ。」

「すまんな『リサリサ』。こーいったのは、術者が行動不能だとまともに動けず暴れるだけだからな。先ほどよりはやりやすい。」

「リ、リサリサばぁちゃんまで!?」

 

『リサリサ』と呼ばれた女性の登場に徐倫が驚く中、エヴァンジェリンはネギの方へ向き直った。

 

「ぼーや、よくやったよ。だが、まだまだだな。いいか、このような『大規模な戦い』での魔法使いの役目とは、究極的にはただの『砲台』!つまりは“火力が全て”だ!!」

「は、はあ……」

「にゃはは、エヴァちゃんなかなかいい先生ぶりだね?」

「やかましい!とにかく、私たちが今から『最強の魔法使い』の「最高の力」を見せてやる!いいな!よぉぉぉぉぉく、見ておけよ!!」

「は、はい………」

「よし、いくよエヴァちゃん!」

 

スクナに向かいなのはと共に飛び立ちながら叫ぶエヴァ。

 

「こないだネギに負けたのがそんなに悔しかったのかなぁ……」

「なのはさんは、今まで放置されてた鬱憤だろーなー………」

「あ…あの小娘、一体何をする気や…?」

 

千草が疑問を漏らした時だ。ふと空を見上げれば、緑色の髪をしたメイド―――茶々丸が、その姿格好に似付かわしくない巨大なライフルを構えながら、ジェット噴射で宙に飛んでいた。

 

「マスター、『結界弾(バインド・ブリット)』セットアップ。」

【よし、やれ。】

「了解。」

 

茶々丸は機械的にそう答えると、ライフルのトリガーを引いた。

ライフルから大きな発射音が轟いたかと思えば、スクナの周囲を球状の結界が包み込み、暴れるスクナの動きを封じてしまった!

 

「マスター、なのはさん、この質量相手では『十秒』程度しか拘束できません。お急ぎを。」

「十秒か……」

「ふ…十分すぎる時間だな!!」

 

ふたりはそう答えると、エヴァンジェリンは呪文詠唱の準備を、なのははレイジングハートを構えた。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック、契約に従い(ト・シュンボライオン・)我に従い(ディアーコネートー・モイ・ヘー・)氷の女王(クリュスタリネー・バシレイア)!」

「レイジングハート!」

[了解!]

 

エヴァンジェリンは強力な魔法の詠唱を行い、なのははレイジングハートに魔力を収束させる命をする。

 

来れ(エビゲネーテートー・)とこしえのやみ(タイオーニオンエレボス・)えいえんのひょうが(ハイオーニエ・クリュスタレ)!!」

 

エヴァンジェリンが唱えると、スクナの周囲が一瞬にして『凍りついた!』

 

「エヴァちゃん、一気に決めるよ!」

「そのつもりだ!私に命令するな!!」

 

エヴァンジェリンはそう怒鳴り返す中、なのははレイジングハートの先端に集束された桃色の魔力を発射する姿勢に入った。

 

全てのものを(オムニア・イン・)妙なる氷牢に(マグニフィケ・カルケレ・)閉じよ(グラキエーイ・インクルーディテ)………」

「スターライトォォーーーーー」

 

 

 

 

 

「“こおるせかい(ムンドゥス・ゲラーンス)”………」

ピッキィィイイイ

「ブレイカァァァアアアアアアッ!!」

[スターライト・ブレイカー!]

ゴォォォオオオオオオオッ

「………ッ」

ドォォオオンッ

 

エヴァンジェリンの魔法で巨大な氷に封じられたスクナを、なのはの『スターライト・ブレイカー』が貫き、打ち砕いた………!!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「む………」

 

同じ頃、月詠と戦っていたルル・ベルは、遠くの方でスクナが倒されるのを見て攻撃の手を休めた。

 

「あらあら、天ヶ崎 千草は負けてしまったようね………」

「そうですねー、ウチももうお給料分は働きましたし………刹那センパイと戦えへんかったんは残念ですけど、もう帰りますぅ〜。センパイによろしくお伝え下さい〜〜〜」

 

月詠はそれだけ言うと、そのまま消えるように立ち去ってしまった。

 

「行ったわね…さて、のどかは無事かしら。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ふぅー、どーやら終わったみてぇだなぁ〜。」

 

同じ頃、ホル・ホースとウェカピポもスクナが倒されて消えたのを見ていた。すでに妖怪たちも2、3体にまで激減した。

 

「ま、勝負あったみたいやな。アンタらの勝ちや。」

「ほななー、(あん)ちゃんたち。」

「なかなか楽しめたぞ、西洋の異能者!さっきの坊ちゃん嬢ちゃん達にもよろしゅうなー♪」

 

鬼達はそう言いながら、煙のように消え去っていった。

それを見送ると、ホル・ホースは「皇帝」を身体にしまい、ウェカピポも鉄球をホルスターに収めた。

 

「ふ、結構いい奴らだったじゃねぇか。」

「さて、俺たちも屋敷に戻るか。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ふふふふふ………アーーーッハハハハハハハッハーーーーー!!バァアカめ!伝説の鬼神か知らぬが、私の敵ではないわァアッ!!」

 

高笑いするエヴァンジェリンに寄り添う無表情の茶々丸と、それを苦笑しながら降り立つなのは。

 

「ご満悦だなぁオイ………」

「やったー♪すごい二人とも!!」

「あははー…」

「どーだぼーや、私のこの圧倒的な力、しかと目に焼き付けたか?ん?」

「ス…スゴかったです、エヴァンジェリンさん。」

「そーかそーか♪」

 

すっかりゴキゲンなエヴァンジェリンと、対照的に恥ずかしげななのは。ふと、ネギは気づいた。

たしかエヴァンジェリンは20年前、自分の父ナギに『登校地獄』の呪いをかけられて、麻帆良学園から離れられないはずだが…?

 

「でもエヴァンジェリンさん、『登校地獄』の呪いは?」

「あ、そうよ!確か、学園の外に出られないんじゃなかった?」

 

ネギに続いて、徐倫も気づいたらしく疑問を投げかける。

 

「それに、なのはさんも!確か、腕はまだ完治してないはずじゃあ………?」

「あ、私のこれは、ここに来る前に仗助さんに『治して』もらったから。」

「マスターの方は、強力な『呪いの精霊』を騙し続けるため、今現在複雑高度な儀式魔法の上、学園長自らが()()()()()、『エヴァンジェリンの京都行きは学業の一環である。』という書類にハンコを絶えず押し続けています。」

「今回の報酬として、明日私が『京都観光』を終えるまで、じじいには『ハンコ地獄』を続けてもらうぞ♪」

 

「5秒に一回」

そのフレーズを聞いた途端、ネギたちは学園長の安否を気にしたという………

実際、今学園長は大丈夫ではない状況だったりする。

 

「儀式の準備に時間がかかった上に、なのはさんの『レイジングハート』をミッドから取り寄せるのに時間がかかってしまいまして、申し訳ございません。」

「そうなんだ、…まあ、助かったけど………」

「しかし、まさかリサリサばぁちゃんまで来てるとはなぁ…」

 

ふと徐倫は、後ろで千草を尻に敷いたリサリサの方を向いた。

 

「まあ、私は静を連れ戻しに麻帆良に来たら、静は京都だって聞いてね。麻帆良で待っていたら、今回の助っ人召集があったから、ついでに来たのよ。」

「ていうか徐倫、この人あんたの知り合いなの?」

 

二人が親しげに話すのを見て、明日菜が訪ねた。すると、エヴァンジェリンが徐倫に変わって答えた。

 

「こいつは『エリザベス・ジョースター』、通称『リサリサ』。」

「ジョースター………それって?」

「ああ。千雨の波紋の師匠で、徐倫の『()()()()』だ。」

「「「「……………はい?」」」」

 

エヴァンジェリンが告げた事に、明日菜たち(捕まった千草を含めて)は一瞬訳が分からないように声をあげて、リサリサの姿を上から下まで見た。どう見ても、三十代前半程にしか見えなかった。

 

「まあ、それは後でゆっくり話すよ。………それで、お前はどうするんだ?」

「「「「「………ッ!!?」」」」」

「………」

 

徐倫が振り返った先にいたのは、斬り裂かれた唐草模様の覆面の右側から真っ赤な目で睨みつける覆面がいた。

覆面はマントを外すと、黒い篭手を着けた右手を構えた。

 

すっ

「そこまでだよ。」

「………!」

「あ、あんた………!?」

 

だが、不意に背後からルミリオが現れると、先ほど吹き飛ばされた学簿をかぶせた。

 

「キミをココで傷つけられるのはマズいからね。ココは、退くのが得策だよ。」

「………」

 

覆面は納得していない様子ではあったが、渋々構えを解いた。

 

「まあ、そういう訳だ。今回は退くけれど、いずれはまた君たちの前に現れると思うよ。」

「あ、あんた一体………?」

「………いずれ分かるよ。それじゃあ。」

 

明日菜にそう答えると、ルミリオは覆面と共に転移魔法で立ち去ってしまった…

 

 

 

 

 

ルミリオ―再起可能

覆面の男の正体-不明-再起可能

月詠―再起可能

天ヶ崎 千草―捕縛

 

 

 

 

 

←to be continued...




68話です。

・サブタイトルは『ゴールド・エクスペリエンスの逆襲』から。

・『コウウントユウキノツルギ』の能力は、仲間の力を借りる『共鳴』。ちなみにネギの従者限定ですので、のどかの『いどのえにっき』は借りれません。
 そして、『コウウントユウキノツルギ』の能力が付加された『ストーン・フリーSE』。『コウウントユウキノツルギ』の能力以外は通常の『ストーン・フリー』と変わらないのであしからず。

・エヴァ、なのはさん、リサリサのコンボ登場。正直、リサリサの登場はどうするか悩みました………

・次回は京都編エピローグになります。

では、次回をお楽しみに!


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#69/亀のスタンドに潜む真実

翌日早朝

 

〈修学旅行4日目〉

 

 

(………)

 

スクナを倒した翌朝、刹那は荷物を肩に背負って屋敷の門の前に立っていた。

 

(『あの姿』を見られた以上、もうココにはいられない………お嬢さま………申し訳ございません………)

 

刹那は屋敷に一礼をすると、踵を返してそのまま立ち去ろうとする。その時だ。

 

「………行くのか?」

「!空条さん………ネギ先生まで………」

 

その門の前には徐倫とネギが立っていた。

 

「刹那さん………本当に行くんですか!?このかさんはどーするつもりですか!?」

「い…一応一族の『掟』ですから………お嬢さまを守るという『誓い』も果たし、神鳴流に拾われた私を育ててくれた近衛家へのご恩も返すことが―――」

「馬ー鹿。」

「は……?!」

 

突然徐倫に言われた言葉に、刹那は目を白黒させた。

 

「ったく、忘れたのかよ昨日言ったこと?どんな理由があろうと、お前がいきなり消えたらこのかが泣くぜ?」

「そ…それは………」

 

徐倫に問われて、刹那はごにょごにょと口を濁らせてしまう。

 

「そうですよ!それに、正体がバレて大変なのは僕も同じです!だから、刹那さんも自分でこのかさんを守って下さいよ!」

「それは何か違いませんか?しかしネギ先生………」

ネギがそう叫んだ時だ。ドコからか刹那を呼ぶ声がした。

 

「せっちゃんせっちゃん、大変やーーーーーッ」

「大変よ刹那さーーーーーん!」

「え!?な、何事ですか!?」

 

慌てたように駆け寄ってきたのは、明日菜と木乃香であった。後ろからは、スバルや千雨たちも慌てた様子で走って来ている。

 

「実は、ホテルに放った私たちの身代わりの式神たちが暴走してるらしいのよ!」

「「えぇッ!?」」

「桜咲!式神ならお前の専門だろ!」

「せっちゃん、早よー!」

 

明日菜たちに説明されて驚く声を上げるネギと刹那。千雨たちはこれ以上自分の身代わりに好き勝手されたらたまったものではないと、そのまま本山を駆け下りて行った。

 

「………ま、そーいう訳みたいだぜ?」

「………仕方ありませんね。」

 

刹那はそう苦笑すると、皆の後を追うように走っていった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「やれやれだぜ。騒がしい連中だな………」

「元気があっていいじゃないですか。」

 

今までの様子を見ていた詠春と承太郎、なのは達は、微笑みながらそう話していた。

 

「所で………」

 

ふと、なのはは屋敷の壁を見た。そこには―――

 

 

 

 

 

「あの()、置いてかれてますけど………?」

「俺もアイツに聞きたいことがあったし、ちょうど良かったがな。」

「いやそうじゃなくて、『壁にめり込んだまま』なんですけど………」

 

戻ってきて早々、無事な姿を見て思わずのどかに飛びかかったため、のどかが反射的に放った『イノセント・スターター』の一撃により壁にめり込んだルル・ベルがいた………

 

 

 

 

 

#69/亀のスタンドに潜む真実

 

 

 

 

 

数時間後、身代わりの式神の暴走を止めたネギたちは、詠春に呼ばれネギの父―――ナギ・スプリングフィールドがかつて京都にいた時に使っていた別荘に案内されていた。

幸いにも、修学旅行4日目は“完全自由行動日”であったため、行動することに制限はなかった。

 

「しっかし、結構な人数で来ちゃった………」

 

徐倫は、自分とネギの後ろを着いてくる面々を見ながら呟いた。

着いてきたメンバーは明日菜やスバル、ティアナとノーヴェをはじめ、刹那、木乃香、夕映、ハルナ、のどか、ギンガ、アナスイ、そして、いつの間にか復活して着いてきたルル・ベルである。

 

「…まあ、承太郎さんが何か話があるっつってたからな………何だろ?」

 

ノーヴェがそう呟きながら歩いていると、目の前に昨日までの神主のような格好ではなく、私服を着た詠春と、承太郎とジョルノの3人が立っていた。

 

「いやー皆様、ご足労を。」

「長さん。」

「私服もシブい!」「アスナ………」

 

皆は詠春の案内で、ナギの別荘への道を歩き始めた。

 

「そういえば、千雨さんの姿がありませんが………?」

「はい。実はさっきミスタさんを通じてポルナレフさんから連絡があって、話したい事があるからと言って、ホテルで話しをしています。」

「そうでしたか………」

(ポルナレフのヤツ、ついに話す気になったか……)

「あの、あの女の人…千草さんは……」

「そちらは高町さんたちに任せました………まあ、大丈夫でしょう。」

 

ネギと詠春が話していると、そこに徐倫が割って入ってきた。

 

「所で、あの白髪のヤツについては…?」

「現在調査中です。今の所、『ルミリオ・アーウェルンクス』と名乗っていたことと、一ヶ月前にイスタンブールの魔法協会から日本へ研修に来た事しか……」

 

おそらく偽装ですが、と付け加える詠春に、徐倫は頷いた。

しばらく歩くと、ネギたちの前に木に隠れるように三階建ての建物が見えてきた。ナギの別荘だ。

中に入ると、壁一枚がまるまる本棚になった内装が目に留まった。

 

「わー…」

「本がたくさんーーー♪」

「結構オシャレね………」

「ここに…昔父さんが………」

 

各々が室内の感想を呟いていると、早速室内の散策を始めた。

書籍や食器など様々なものを見てみたが、ものが多いためナギに繋がる手がかりらしきものは見あたらなかった。

 

「どうですか、ネギ君?」

「はい、見たいものや調べたいものがたくさんあって…もう少し詳しく調べたいのですが、今修学旅行中なので………」

 

数十分ほど散策していると、詠春がネギに話しかけてきた。ネギの手にはナギの残したものらしき資料が多数あった。

 

「ハハ、またいつでも来て良いですよ。」

「んーーー………長さん、ココのカギは長さんが管理してるんスか?」

 

ふと、ノーヴェが何かを見ながら聞くと、詠春が振り向いて答えた。

 

「ええ。そうですが…?」

「ふぅーん………」

 

ノーヴェがそう呟くと、こっそり“ソレ”を拾い上げた。

 

「ノーヴェ、承太郎さんが話があるって。」

「ん?ああ、分かった。」

 

と、スバルが話しかけてきたため、ソレを放ってそちらに歩んだ。

 

(しかし、何であんなのがあるんだ?何で………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(女性用の下着なんか………女装趣味でもあんのか?)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

一方、徐倫たちとは別にポルナレフに呼ばれた千雨は、ココ・ジャンボの中にいた。

 

「………えーと……話って、何?」

「ああ………」

 

千雨に問われたポルナレフは、多少ためらった後口を開いた。

 

「………実はな、千雨、十年ほど前私が行方不明になったのは…」

「『矢』を探して『ディアボロ』とかいう奴に返り討ちにあったんだろ?承太郎さんに聞いてるよ。」

「………まあな。」

 

千雨に言われてポルナレフは苦笑すると、話を続けた。

 

「そのときディアボロのスタンド『キング・クリムゾン』の持つ時を吹き飛ばす能力で時間を『吹き飛ばした』影響か、時空にゆがみが生じてしまったようでな。私はそのゆがみに飲み込まれたんだ。」

「それで4年間行方不明に………」

 

ポルナレフによると、その後何の縁か『ミッドチルダ』の陸士108部隊の『女子トイレ』の個室で気絶していたのを隊士である女性に発見された後、治療を受けてしばらく108部隊に保護されていたらしい。

 

「(まさか、私のトイレに運がないのは親譲りなのか………?じゃなくて…)ていうか、正直父さんが行方不明だった理由聞かされても、どう反応して良いのか………」

「…まあ、前置きはこれで良いとして、………実はその時発見してくれたメガーヌ・アルピーノに、治療中も世話になってな………」

「“アルピーノ?”もしかして、ルーテシアの?」

 

千雨が気づいたように問うと、ポルナレフはそうだと頷いた。メガーヌ・アルピーノとルーテシア・アルピーノ。名字(ファミリーネーム)が一緒だ。

 

「ああ、ルーテシアは彼女の娘だ。」

「やっぱり………」

「そして千雨………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()……『()()()()()………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………は?」

 

ポルナレフの告げた言葉の意味が分からず、千雨は思わず間抜けな声を上げてしまった。

 

「わ、私の………『妹』って………は?ちょッ………ちょっとまて!え!?まさかルーテシアの父親って?まさか?え!?!?まさか父さん………ッ!?」

「………うん、まあ、そういう事だ。」

 

混乱しているため矢継ぎ早に言葉を繰り出す千雨に問われ、ポルナレフは頬をかきながら申し訳ないように答えた。

 

 

 

まあ、つまりはルーテシアが言っていた『第97管理外世界(こっち)』にいるという父親というのは………

 

 

 

「フザケンナーーーーーッ!!」

ギャゴンッ

「ホゲッ!!」

 

瞬間、『エンゼル』の右籠手を着けた千雨がポルナレフを殴り、ポルナレフはぶっ倒れた。

 

「なに死にかけてまで異世界で不倫してんだよ!?明らかにそんな状況じゃないだろ!?」

「い…いや、違うんだ千雨!私は妻子持ちだと説明したんだが、何か話しているうちにいい感じになっちゃって向こうから………」

「言い訳になってないわァァアアアーーー!」

 

この後数十分間、千雨がポルナレフを責めるのが続いた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………」

「え、えーと………」

「ル、ルールー………」

 

そんなやりとりを千雨とポルナレフがする中、亀の外で見張りをしていたミスタの前には、偶然通りかかったルーテシアとアギトのふたりがいた………

 

「………そっか。もう、死んじゃってたんだ………」

「ルールー………」

 

ルーテシアはそう呟くと、立ちすくむ二人を置いてその場を立ち去ってしまった…

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――とまあ、そういう事だ。」

「「「「「……………」」」」」

 

承太郎は、スバルやジョルノ、徐倫たち五人に全てを話した。

ディオ・ブランドーとジョースター家の因縁を、

自分がDIOをエジプトで葬った事を、

そして、スバルやジョルノたちにジョナサン・ジョースターの肉体の影響を受けたDIOの血が流れている事を………

 

「そうだったんですか………」

「そっかー……じゃあ、空条さんと私たちって、親戚みたいなものなのかなぁ〜?」

「………まあ、遠すぎる気はあるがな………」

「………気には、ならないのかい………?」

 

スバルに対しジョルノが問うと、スバルは頬をかきながら答えた。

 

「うん、まあ、気にならないっていったら嘘になるけど………」

「まあ、私も親父に聞かされて戸惑ったけど、今までのスバルたちを見ているからな。今さらそんなこと分かっても、特にどうこうはないよ。」

「そう、か………」

 

スバルと徐倫の言い分を聞いて、承太郎は納得したように頷いた。ギンガやノーヴェも、考えは同じのようだ。

 

「………それより、問題はノーヴェの体にあの『恐竜のスタンド』が体に残っていることよね………」

 

話を聞き終えると、ギンガが不安げにうつむくノーヴェを見つめながら口を開いた。

 

「………そのことだが、長に話を聞いている。」

「長さんに?」

 

それに答えたのは、話し終えた承太郎であった。

詠春曰く、ノーヴェのちかくにあったあの灯籠の下にはある人物に預かったロストロギアが埋まっており、昨夜襲撃してきたフェルディナンドや暦たちはそれを狙ってきたと言う事だ。

 

「………そのロストロギアの正体は詳しくは知らないらしいが、そのロストロギアがノーヴェの『体内』に転移したのが原因だろう。」

「転移………って!そんなヤバそうなのが私ンなかに!?」

 

先ほどまでの不安そうな顔が吹き飛び、慌てて自分の体をあちこち触るノーヴェ。それに皆が苦笑する中、ギンガが話しかけた。

 

「ま、まあ、そういう事なら麻帆良で精密検査ができるから、今異常が見あたらないなら帰ってからでも大丈夫だから。」

「そ、…そうか………そうだよな………」

 

ギンガにそう諭されて、少し落ち着くノーヴェと、それを黙って見つめる承太郎。

 

「………」

 

実は昨夜、承太郎は詠春にノーヴェの体内のロストロギアの正体について説明は受けていた。だが、その正体が正体だけに、皆には打ち明けなかったのだ。

 

(いずれにしても、ヤツらがまた『アレ』を狙ってくる可能性はある………警戒するに越したことはないな………)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

数時間後、ホテル嵐山に帰ってきた徐倫たちに明日菜やまき絵に楓、刹那を加えたメンツに、アナスイとウェザーが話しかけてきた。

 

「ヴェルサスが………!?」

「生きてたんだ……あの人………」

 

アナスイたちの口から語られた事実に、徐倫や楓、まき絵は驚愕の顔をする。

 

「ヴェルサス、って確か………?」

「私やジョルノさんと同じ、DIOって人の………?」

「ああ…二年前にアメリカで『プッチ』に捨てゴマにされたと思ったんだがな………」

 

アナスイがあきれ気味に言う。

その時、スバルが思い出したように懐をまさぐった。

 

「あ、そうだ……」

「?」

「その、ヴェルサスさんと関係あるかは分からないけど、昨日話しそびれちゃったから忘れてたよ………コレ、大浴場で拾ってさ………」

 

と言ってスバルが取り出した『ソレ』を取り出した時、五人の表情が強ばった。

 

 

 

 

 

『ソレ』は、直径20cmほどの、藍色のDISCであった………

 

 

 

 

 

「あ、それは………」

「ディ………DISC!?何でDISCがッ!?」

「え?ええと………コレって、一体………?」

 

スバルが首を傾げていると、ウェザーがスバルからDISCを受け取った。

 

「このDISCは、『ホワイトスネイク』の能力によって抜き取られた物だ。これは『スタンドのDISC』だな………」

「ホワイトスネイク………ってたしか?」

 

ウェザーや徐倫に説明されて、スバルはその名前に聞き覚えがあったので驚いた。

 

ホワイトスネイクと言えば、二年前に徐倫たちがその野望ごと打ち砕いた『エンリコ・プッチ神父』のスタンドである。

その能力は、人の記憶とスタンド能力をDISC化させて奪い取ったり読んだりするものだ。

そのDISCの実物が、今自分の目の前にある物だというのか………?

 

「そ、そのDISCが、何で大浴場に…?」

「それなのですが………実はお嬢さまの頭から出てきまして………」

「何だとッ!?」

 

刹那に説明されて、更に徐倫たちを驚愕が襲う。

 

「こ…このかにDISCが入れられていた………!?」

「ね、ねえジョリーン、たしか残ったDISCって…」

『フム、『アノ者』ガ、何処カヘ隠したハズ………』

「ああ、そのはずだ…帰ったら「ヤツ」に確認だな………」

 

徐倫たちの言う人物が誰かは分からないが、とにかくDISCの所在は確認が可能らしい。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

[From:スーパー・スナイプ

TEXT:明日には麻帆良に帰るけど、私の正体、話さなくて本当にいいの?]

 

『スーパー・スナイプ』の本体から届いたメールを見たルル・ベルは、軽くため息をついてからメールを返した。

 

[From:ルル・ベル

 TEXT:ええ。あまり情報を開示しすぎては、あなたに危険が及ぶかもしれないでしょう。]

 

[From:スーパー・スナイプ

 TEXT:それもそうだね。所で、修学旅行が終わったら、お嬢はどうするの?]

 

[From:ルル・ベル

 TEXT:とりあえず、麻帆良で学園長と話し合うわ。あなたの他のスタンド使いも、スタンド能力を自覚しているころだろうし。]

 

[From:スーパー・スナイプ

 TEXT:なるほどねー。じゃあ、麻帆良で。]

 

スーパー・スナイプからのメールを読み終えたルル・ベルは、京都の夜空を見上げた。

 

「………のどかと、どうやって話しかけたらいいのかしら………?」

 

 

 

 

 

翌日、様々な謎を孕んだまま、麻帆良学園の三年生達は京都を後にした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「フェルディナンドが倒され、あなたが送り込んだ小娘たちは惨敗………例の『モノ』も手に入らず………無様ね。」

「………」

「ル、ルミリオ様………」

 

ヴィオレッタがルミリオをあざ笑うのに対して何も言えない暦と環。

 

「くっ…(悔しいが、何も言えないのも事実………!)」

 

丸太に張り付いたまま歯を食いしばる焔。そんな中、すり替えられた新巻鮭で調理したあら汁を食べ終えた学ランの人物が箸を置いた。陰で素顔は分からないが、腰まである金髪の髪が後ろで三つ編みにされており、立ち上がった際に波打つようにゆれた。

 

「大丈夫ですよ。『アレ』の在処は検討が出来ます。それに、」

 

言うと、その者の背後に黒地に金のラインが入った(ヴィジョン)が現れた。

 

「ボクも、この『ドラゴニア』に慣れたら出撃しますので。」

「………次こそは期待に応えなさいよ?協力してくれると言ったのはあなたの方なんだから………」

「大丈夫だ。」

 

ルミリオはそう答えると、『ドラゴニア』をしまった金髪の人物に歩み寄り耳打ちした。

 

「キミは大丈夫なのかい?彼女らとやり合うのは―――」

「大丈夫ですよ。上手く行けば引き込みますから。」

「そうかい………頼んだよ、『ホクト』。」

 

 

 

 

 

←to be continued...




69話です。

・サブタイトルは『真実の口にひそむ真実』から。

・何となく気づいていた方もいたようですが、ルーテシアはポルナレフの娘、つまりは千雨の異母妹です。
 実は伏線はありまして、ルーテシアが普通にスタンドが見えているような場面があったり、後トイレでの災難とか(笑)

・スバルたちのルーツとノーヴェの体内のロストロギアの話。
 ちなみに今さらですが、スバルたちのかけ声はDIOや吸血鬼たちの「WREYYYYYYY」から取っています。DISCの所在を知っている『ヤツ』に付いては次回以降に。

・最後に登場した『ホクト』。実は結構重要なキャラになるので、お楽しみに。

では、次回をお楽しみに!


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STANDS ③

第3章に登場したオリジナルスタンドの解説になります。


スタンド名―バーニング・ダウン・ザ・ハウス

本体―相坂 さよ

破壊力―なし スピード―なし 射程距離―なし

持続力―なし 精密動作性―なし 成長性―なし

 

能力―物体の幽霊を操ることができるスタンド。さよは幽霊の品物を感知できるらしく、過去に焼失した幽霊の図書室内に集めている。なお、さよは幽霊の図書室内では実体化できるらしい。

 

・コメント

 幽霊という事で、ネギのタスクに次ぐ『原作スタンドを使うネギまキャラ』となったさよちゃん。

 彼女の場合は拳銃や自販機等、色々と拾ってくるので、結構物が多いですが、原作の拳銃等を出せる理由付けでやっています。

 

 

 

スタンド名―サイケデリック・インサニティ

本体―ルル・ベル

破壊力―C スピード―A 射程距離―C(重力の範囲は約30m)

持続力―B 精密動作性―B 成長性―C

 

能力―サイケデリック・インサニティが殴ったものは、殴った方向へ『重力の方向』を変更される。

この能力に連続で殴られると、様々な方向への重力に引っ張られて、「破裂」する。

 

・コメント

 ルル・ベルお嬢のスタンド。能力の鱗片だけなら、マイク・Oの時に出てきていました。

 『重力』の能力という事で、プッチの『C-MOON』と被らないように注意しています。『落下して()()』という発想はお気に入り。左右でまったく違うデザインなのは、今までのスタンド象にないデザインを考えて「半身がサイボーグ」というキャラクターからイメージしたものです。

 スタンド名はALI PROJECTのアルバムから。

 

 

 

スタンド名―バイシクル・レース

本体―ガディ・Ru

〈下っ端〉

破壊力―C スピード―B 射程距離―A

持続力―A 精密動作性―D 成長性―D

〈総長〉

破壊力―A スピード―B 射程距離―A

持続力―B 精密動作性―C 成長性―D

 

能力―バイクやスクーターに取り憑き、実体化したスタンド。

バイクに乗ったエイリアンのような姿になり、複数体で暴走族のように行動する。

また、個体数が1体になれば、分散していたスタンドエネルギーを1体に集中させることでパワーが増した『総長(フルアーマー)フォーム』を発動できる。

 

・コメント

 コンセプトは『戦闘員』。群生型で実体化しているという珍しいタイプになりました。発想の原点は、『シンケンジャーVSゴーオンジャー』に登場したバイクナナシ連中。どことなく漂うカッコよさが素敵でした。

 総長フォームは今の所顔見せ程度ですが、実際に戦ったらかなり苦戦する敵です。

 名前はクイーンの楽曲から。

 

 

 

スタンド名―ハロウィン

本体―朝倉 和美

破壊力―E スピード―C 射程距離―A

持続力―A 精密動作性―C 成長性―C

 

能力―◎デジタルカメラやビデオカメラを介して発現する能力。

   ○射程距離を自由に撮影することができる、『歩く遠隔操作カメラ』のスタンド。

   ○スタンドの(ヴィジョン)を出さずに、カメラに取り憑かせてつかうことも可能。

   ○スタンドが取りついているため、普通は撮影できない『スタンドの(ヴィジョン)』も撮影することができる。

   ○複数体出せるらしく、現時点で最大6体操縦できるようだ。

   ○カメラを介して発現しているため、スタンドのダメージ=カメラへのダメージである。

 

・コメント

 存在だけなら最初の頃に登場していたハロウィン。カメラを介して発現するという、物質と融合したスタンドとは少し違う変わったタイプです。能力だけなら朝倉のアーティファクトに通じるものがありますね。

 外見はパール・ジャムのカボチャ版という感じ。見た目がジャックオーランタンなのは、ジャックオーランタンがひとりでに動くというホラーな感じから。

 スタンド名は、ドイツのロックバンド名より。

 

 

 

スタンド名―ワイルド・アイズ

本体―初音

破壊力―なし スピード―B 射程距離―最大約30m

持続力―A 精密動作性―D 成長性―なし

 

能力―周りを多数の『目』で包囲する。

その範囲内で動くものはすべて方向感覚を狂わされ、『金色の目』へと向かってしまう。

 

・コメント

 無意識の内に誘導される、という戦闘やそれ以外でもかなり『無敵』な能力に分類される初音のスタンド。動きのイメージは船虫という、気持ち悪いにも程があるかもしれませんね(汗)妖怪の『目目連』のイメージがあるのかもしれません。

 名前は水樹 奈々さんの楽曲から。

 

 

 

スタンド名―エターナル・ブレイズ(無限刀剣)

本体―No.12 ディード

破壊力―B スピード―A 射程距離―C

持続力―A 精密動作性―A 成長性―D

 

能力―ディードのインヒューレント・スキル『ツイン・ブレイズ』が、「矢」の力でスタンドに昇華した能力。

刀を持った4本の腕を持つ大きい肩当てのようなスタンドで、本体の意志で自在に動く。また、刀身は破壊されても瞬時に再生する。

 

・コメント

 発想の原点は、にじファン時代に挿絵やキャラクターデザインをしてくださっていたハニーさんから頂いた『スバルのスタンド』というイラストから。実は第1章ラストで出た「インヒューレント・スキルはスタンドに近づく為の技術」という伏線がありました。

 アヌビス神が憑依していた際はかなりの強敵となりましたが、「六刀流」というどこかの魚人みたいな戦闘スタイルは操作が難しそうな分強いと思います。

 名前はもちろん『ETERNAL BLAZE』から。BLAZEとBLEADSがかかっています(笑)

 

 

 

スタンド名―リード・マイ・マインド

本体―富良野 鏡史郎

破壊力―E スピード―B 射程距離―A

持続力―C 精密動作性―E 成長性―E

 

能力―ふれた人物の出会ったことのあるスタンドにランダムで変身する、液体金属のようなスタンド。

制限時間は、一体につき15分が限界で、15分たつと、元の液体金属のような姿にもどり、能力も解除される。

 

・コメント

 コンセプトは「劣化版シビル・ウォー」。今思うと、何が出るかはお楽しみという、マリオカートのアイテムみたいなスタンドですね。出たスタンドによっては最強の能力ですが、逆に今回みたいにハズレも出うるためギャンブル性が非常に高い、最強にも最弱にもなる、厄介ながらも珍しいタイプになりました。

 スタンド名はザ・キラーズの楽曲から。ガチャピンが登場するPVが印象的な曲です。

 

 

 

スタンド名―アンチェイン・ワールド

本体―山陸の綺初(本名:銅堂 綺初)

破壊力―B スピード―C 射程距離―A

持続力―A 精密動作性―B 成長性―C

 

能力―土に取り憑き、レンガの姿になったスタンド。このレンガを組み合わせて作った『密閉した容器』にものを入れると、別の『密閉した容器』に転送される。

 

・コメント

 忍者っぽく、パッと現れてパッと消える、そんな能力にしたくて生まれたスタンド。物理的ダメージを与える、取り憑いて操る事が出来る等、応用も出来てお気に入りです。

ゴーレム形態の姿は『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』のDr.エッグマン体形。

 名前は水樹 奈々さんの楽曲から。

 

 

 

スタンド名―ラッシュ(右半身)&ダッシュ(左半身)

本体―ソル(ラッシュ)とルナ(ダッシュ)

破壊力―B スピード―C 射程距離―B

持続力―B 精密動作性―B 成長性―C

 

能力―ソルとルナがそれぞれ半身ずつ持った、『2人で一能力』のスタンド。

このスタンドが『同時』に攻撃した地点を中心に、直径1メートルを『直径3センチの球体』に圧縮する。圧縮したものは、再度攻撃されると元に戻る。

 

・コメント

 コンセプトは『双子で1能力』。第4部の『ラット(ドブネズミのスタンド)』から発想した能力です。双子の息の合った攻撃という、まんまWな能力です。能力が強力すぎて、使いどころが難しいのが難点……今後の活躍に期待してください。

 名前は水樹 奈々さんの楽曲「RUSH & DASH!」から。このCD聴きながら『ストーンオーシャン』読んでいたせいか、これ聴くとジョジョが読みたくなります(笑)

 

 

 

スタンド名―エナジー・フロゥ

本体―乱気流のすずめ(本名:黒羽 すずめ)

破壊力―A スピード―B 射程距離―C

持続力―A 精密動作性―C 成長性―C

 

能力―戦闘ヘリやジェット機等、『空を飛ぶ乗り物』の模型に取り憑いて実体化するスタンド。

取り憑いた模型を人間大にして、本体を『搭乗』させる。この際、本体は実際の乗り物との比率で小さくなる。そして、本体の意志でロボットに「変形」させることができる。

また、複数体憑依させて本体をリーダー機とした編隊を組むこともできる。この際、仮にリーダー機が撃墜された場合、別の機体に本体を転移させ、リーダー機を引き継がせる。

 

・コメント

 モデルはトランスフォーマーと『ハリケンジャー』のサーガイン。武人のような顔から本体が出てきた時は本当にびっくりしました。『アルティメット・クライシス』と似たスタンドですが、こちらは編隊による人海戦が特色です。

 本体を別の機体に転送させるというのは、『ドクター・フー』というイギリスのドラマで『サイバーマン』のリーダーが死んだ際に別のサイバーマンがリーダーを引き継いだシーンから思いつきました。

 スタンド名は川田 まみさんのアルバム『SAVIA』に収録されている曲から。

 

 

 

スタンド名―バーニング・ハート

本体―焔(本名不明)

破壊力―E スピード―A 射程距離―B

持続力―C 精密動作性―B 成長性―E

 

能力―物質にはそれぞれ「燃える温度」が存在する。焔の左目に潜むスタンド『バーニング・ハート』は、触れたものの温度を一瞬でその温度に変える「自然発火」の能力である。時間差で燃やすことも可能なようだ。

焔は通常、髪の毛や小麦粉などの粉を使い、何もない所を燃やしているように見せかけているらしい。

 

・コメント

 焔の能力をスタンドっぽくした能力。左目から発射されるというのは、SBRの『ワイアード』が若干入っていますね。デザインは『マグマの魔人』がコンセプト。

 スタンド名はサバイバーの楽曲から。

 

 

 

スタンド名―夢幻(ムゲン)

本体―長瀬 楓

破壊力―C スピード―B 射程距離―C

持続力―A 精密動作性―A 成長性―B

 

能力―ものを平たくして、別のものに『貼り付ける』。貼り付けたものは、能力を解除すれば一瞬で元の立体に戻る。

ちなみに解除しない場合、大体三ヶ月位で自然に元に戻る。

 

・コメント

 元ネタは「ど根性ガエル」(笑)劇中にあるとおり、武器をマントなんかに貼りつけとけば、嵩張んなくていいかなと思っています。忍者らしい能力かな、とは思います。

 デザインは『貼り付ける』という能力から「足はいらないな」と思い、「死神13(デス・サーティーン)」や「ザ・グレイトフル・デッド」を参考に、円盤っぽい胴体と手品師のような大きな手を持たせました。

 スタンド名は水樹 奈々さんの楽曲より。

 

 

 

スタンド名―ハイ・ステッパーACT2

本体―篤緒 奏汰

破壊力―A スピード―A 射程距離―C

持続力―D 精密動作性―C 成長性―C

 

能力―ロングブーツ型だったハイ・ステッパーに、機械製の籠手が追加された形態。両脚と同じように腕からも『爆発的な瞬発力』を生み出せるようになった。

威力も上がっており、パンチ力は10トン、キック力20トン、ジャンプ力はひと跳び50mとなっている。

 

・コメント

 パワーアップして、パンチも出来るようになった『ハイ・ステッパー』。パンチが出来るようになったのは「逃げる」のではなく「打ち破る」という意思の変化と思われます。

 スペックはギルスを参考にしています。『奏汰ライダー化計画』進行中です(笑)

 

 

 

スタンド名―ストーン・フリー ソード・エディション

本体―空条 徐倫

破壊力―A スピード―B 射程距離―1〜5m

持続力―A 精密動作性―B 成長性―A

 

能力―空条 徐倫が、アーティファクト『コウウントユウキノツルギ』を装備した状態のみで発現できる、ストーン・フリーの特殊な姿。

右腕が両刃の剣のような形になっており、その分射程距離が伸びている他、『コウウントユウキノツルギ』の『共鳴』の能力が付加されている。

 

・コメント

 徐倫のアーティファクトの能力が付加されたS・フリーのパワーアップ形態。魔法によるスタンドの特殊形態というのは、千雨の『SIMPLE PLUS』とは少し違う感じにしてみました。



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PRIVILEGE CARD ③

第2章に登場したオリジナルキャラの解説になります。


名前―ルル・ベル

年齢―14歳

1993年12月5日生まれ

 

好きなもの―紅茶、お茶菓子、女の子、ゴスロリ、歌うこと(アニソンから洋楽、演歌まで。ただし、マイクを握ったら離さないタイプ)

嫌いなもの―男、キムチ

よく見るドラマ―「科捜研の女」シリーズ

 

備考―母親は『左手が右手の男』J・ガイルの妹『ヴィオレッタ・ガイル』で、彼女も『左手が右手』である。

J・ガイルの復讐に燃える母が見ていられなくなり、それを阻止しようとスタンド使いを各地で集めていた。

現在、宮崎 のどかに恋をしている。

 

スタンド名―『サイケデリック・インサニティ』

 

・コメント

 今作の最重要人物であるルル・ベルお嬢様………のはずが、どうしてこうなった……

 初期の頃は謎のお嬢様キャラということでクールかつキツイ性格で書いていますが、最近はクールな性格は相変わらず、のどかを落とす事を含めて少しずつ丸くなっています。

 名前はSOUL‘d OUTの同名の楽曲から。イメージモデルは沢城 みゆきさんの演じるお嬢さまキャラ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

名前―初音

性別―メス

年齢―推定1歳前後

種族―猫、品種はロシアンブルー

 

性格―のんびり、だが、自分や周りの危機には敏感。

好きなもの―かまぼこ、鮭の刺身、毛繕い、ルル・ベルの膝

嫌いなもの―焼き魚、わさび、雨

趣味―ルル・ベルの膝で昼寝

知能―子猫とは思えないくらい高い。

 

備考―日本のとある街でノラ猫になっていたのを、ルル・ベルが偶然見つけたスタンド使いの子猫。経緯は不明だがスタンドに目覚めていたため、捕まえるのに苦労したそうだ。

ノラ猫だった時期が長かったためか人見知りをしやすく、自分が認めた人物にしか懐かない。

 

スタンド名―ワイルド・アイズ

 

・コメント

 今作初の動物のスタンド使い。

 モデルは「仮面ライダーW」に登場するミック(品種違うけど…)。猫が敵幹部という驚きの設定が好きでした。

 初音本人(人?) は、ただ自分にかかる火の粉を払っているだけですが、ルル・ベルやこのかといった自分の好きな人物の危機には『ワイルド・アイズ』で守るいい子です。

 名前はモデルであるミックと合わせると……(笑)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

名前―銅堂(どうどう) 綺初(きうい)

異名―山陸の綺初

 

年齢―25歳

出身―伊賀

階級―上忍

 

身体的特徴―180近い身長、左目に眼帯

得意料理―魚貝類たっぷりのパエリア、ただし、何故か味噌味

 

備考―伊賀出身のくノ一で、『伊賀の三羽鴉』というチームのリーダー格。

古風な話し方でプライドが高いが、言葉を言い間違えたり、重要書類をうっかり置き忘れたりするなど、意外とおっちょこちょい。左目の眼帯は、昔任務中に失明したキズを隠すもの。

自分は『考えるよりも行動する方が向いている』と自負しており、計画をするのは仲間の一人に任せ、自分はもう一人と共に作戦を実行する担当に就いている。

 

スタンド名―アンチェイン・ワールド

 

・コメント

 伊賀の三羽鴉最初の一人、綺初。

コンセプトはギャップで、メンバー最年長ながらドジっ娘というお茶目さんです。スタンド使いで忍者というのは、楓に合わせた事もありますが、暗殺等を生業とするスタンド使いというホル・ホースみたいなキャラとして、忍者はぴったりと思ったからです。

名前は「陸の鳥」という事でキウイとドードー鳥。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

名前―黒羽(くろう) すずめ

異名―乱気流のすずめ

 

年齢―15歳

出身―伊賀

階級―上忍

 

身体的特徴―亜麻色の所々跳ねたボブカットの髪型、左目に着けた翼の装飾の施された銀色の片眼鏡(モノクル)

得意料理―オムライス(卵のフワフワ加減が絶妙。)

 

備考―伊賀出身のくノ一で、『伊賀の三羽鴉』の一員。

うっかり者の綺初、お気楽思考の帝に比べてしっかりしているためかチームの頭脳的存在であり、三羽鴉の作戦は彼女の発案である事が多い。

常に冷静であり、声だけでは感情を読み取り辛い。だが意外と負けず嫌いでムキになりやすく、その点は年相応といえる。

自分の作戦がうまく行った時や嬉しい時に、右手の指をならす癖がある。

利き目は左であり、左目の片眼鏡には拡大鏡の機能が備わっている。

 

スタンド名―『エナジー・フロゥ』

 

・コメント

 じつは徐倫たちと同い年であるすずめ。性格は真名+夕映かな?

 エナジー・フロゥは忍者っぽく偵察や奇襲向けなスタンドですので、すずめはもっと活躍させたいですね。ちなみに、『三羽鴉』の服装には「頭に翼モチーフのアクセサリー」という共通点があります。

 名前はカラス(=crow)とすずめから。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

名前―ソル・キタッラ&ルナ・キタッラ

 

1991年12月13日生まれ

年齢―16歳

好きなもの―ソル:ルナ、ジンジャー・エール、ちくわの磯部揚げ(日本に来てから気に入ったらしい)

      ルナ:ソル、ミルクティー、白身魚のフライ(ソースは気分による)

嫌いなもの―ソル:豆類、特にひよこ豆

      ルナ:アルコール

 

備考―サルシッチャにつき添う双子。ソルとルナが順番に言った後に二人同時に話すというしゃべり方が特徴。

両親をギャング(パッショーネとは敵対していた組織)の麻薬の密輸を目撃した為に殺された過去があり、復讐のためにサルシッチャに近づきパッショーネに入団、復讐を果たした後は、サルシッチャの側近として仕えているが、サルシッチャ本人としては『カタギ』に戻ってほしいというのが本音である。

両親が殺されて以来、2人は常に一緒である。それは「兄妹」というよりは、「恋人」にすら見えるほどの仲の良さである。

 

スタンド名―ラッシュ&ダッシュ

 

・コメント

サルシッチャに付き添う双子。二人でかけ合ってのしゃべり方はめんどくさいけど好き。

『双子二人で一能力』というダブルのようなスタンド能力から「仲のいい双子の兄妹」として誕生させました。顔が同じじゃなかったら、確実にバカップルと化します。

 名字のキタッラは、長方形の箱にギターの弦のように針金が張ってある道具で作るパスタの事、名前はイタリア語で太陽と月。服装、髪形等は陰陽図がモチーフ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

名前―富良野 鏡史郎

年齢―19歳

職業―フリーター

 

備考―数週間前にヴィオレッタによってスタンド能力に目覚めた。高校を卒業してから進学も就職もせずにフラフラしているらしく、たまに修学旅行生を脅してカツアゲしている。

短気だが腕っぷしはそれなりに強く、地域のチンピラの中では中の上くらい。

 

スタンド名―リード・マイ・マインド

 

・コメント

 ぶっちゃけ『チンピラ』としかキャラ付けしていなかったキャラ。定職に就かずフラフラしてる若者って感じ。

 スタンドは強力だけど本体が頭悪いという億奏タイプですね。

 名前は『プラモ狂四郎』のもじり。



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第4章 ルーテシア 浮上
#70/長谷川 千雨の新しい事情


―――あれ?ここ……どこ?

 

 

 

広大な砂漠の真ん中で、少女は目覚めた。近くにはたき火の番をする眼鏡をかけて髭を生やした男性がいた。

 

 

 

「ん?よお、起きたか、嬢ちゃん。」

―――げ、誰、このシブいオジサマは!?

「顔洗うなら、あっちだ。」

「うん。」

 

 

 

幼い声と共にフレームアウトする男性。

 

 

 

―――ん?これ…小さい頃の……私………?

 

 

 

ふと、顔を洗おうと見つめた水面に映る幼い少女の顔を見て、それが幼き日の自分であると気づいた。見上げればそこには満点の星空が広がって、東から光が昇ってきていた。

 

 

 

「帰ったぜー。」

「おっ、早かったな。」

「ネズミみたいのが3匹穫れたぜ♪」

「『みたいの』って………食うのかそれ…?」

 

 

 

ふと、夜明けの光をバックに、よく分からないネズミみたいな小動物を持った男が歩いてきた。

 

 

 

―――あれ………私、この人知ってる………

「お♪お早いお目覚めだな。」

―――でもちょっと待ってよ…何で私が知ってるのよ?だってこの人って―――

「オハヨー、“ナギ”………」

「向こうの空見てみなよ“アスナ”、夜明けがキレイだぜ♪」

 

 

 

 

 

#70/長谷川 千雨の新しい事情

 

 

 

 

 

「………変な夢………」

 

目覚めた明日菜の第一声は、今見た夢についてであった。

今日は修学旅行から帰ってきて翌日の日曜日。どうやら二度寝して、今は昼のようだ。

 

「ん?」

 

ふと、自分の寝る二段ベッドの向かいにあるロフト。いつの間にやらすっかりネギとカモのスペースとなったそこで、ネギがなにやらカリカリとペンを走らせていた。

 

「………帰ってきて早々に何カリカリやってんのよ、ネギ?」

「あ、アスナさんおはようございます。」

 

明日菜はネギに声をかけると、ひょい、とロフトに飛び乗った。

 

「よっと、いつの間にかこのロフト、あんたとカモの“家”になってるわねーーまあ、いーけど………ん?」

 

ふと明日菜は、ネギの机の上に器に盛られた一口サイズのチョコレートが目に入った。こっそり一つだけ摘むと、それを口に運んだ。

 

「実は、『長さん』からもらった手がかりを調べていたんです。」

「あ、そういえば何かもらってたわね。で、結局何だったの?」

「見てください。」

 

そう言ってネギが広げた紙には、上部に『MAHORA』と書かれた『地図』であった。

 

「実はこの『麻帆良学園』の地図の束だったんです。父さんが最後にあの部屋に来たとき、研究してたものだそうです!」

「えーーーっ!ま、麻帆良学園の地図!?な、何でよッ?」

「分かりません…暗号で書かれていて、今解読しようとしていたんですが………どうも……」

 

地図の一枚を見つめながら呟くネギを見て、明日菜は小首をかしげた。

 

「あんた、妙に嬉しそうじゃない………?」

「あ、エヘヘ………悪い人や強い敵とかもいて大変でしたけど、父さんの家もみれて手がかりも見つけられたし………なんか僕、すごくやる気が出てきちゃって。

今回の事で、スタンド使いの事とか、いろいろやらなきゃいけない事が出来ちゃったし、先生の仕事も大変ですけど………見てて下さいアスナさん、僕、がんばりましから!」

「………!?」

 

明日菜に笑いかけるネギのその顔を見て、ふと明日菜は夢に出てきた男性(ナギ)とダブって見えた。それに明日菜が戸惑っていると、ネギが不思議そうに見つめてきた。

 

「?どうかしたんですかアスナさん?」

「え゛ッ!?な、何でもないわよッ!」ペシッ

「あうう!?」

 

急に顔を近づけてきたネギに明日菜は何故かドキっとしてしまい、思わずチョップをかましてしまった。

そんなやりとりをしていると、玄関のチャイムが鳴り響いた。

 

ガチャッ

「お邪魔しますわネギ先生。」

「あ、いいんちょさんに、アキラさん?」

 

訪ねてきたのは、いいんちょこと雪広 あやかと大河内 アキラ。二人とも、なにやら真剣な顔であった。

 

「お迎えに参りました。学園長先生の元で、ルル・ベルさんが、話があると。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

数十分後

 

麻帆良学園 学園長室

 

 

ネギたちが学園長室に入ると、そこにはすでに承太郎と仗助、ウェザーたちスタンド使い、学園長やなのはやフェイト、スバルたち魔法使いたち、徐倫と楓、木乃香や刹那たち麻帆良の生徒、そして、ルル・ベルやサルシッチャ、ホル・ホースたちルル・ベルの一派が集まっていた。

 

「あら、ようやく来たわね?待ちくたびれたわよ。」

「何で学園長室にアフタヌーンティーセット一式持ち込んでるのよ………?」

 

どうやって持ち込んだのか―――いや、サルシッチャの『アンダー・ザ・レーダー』だろうが―――白い丸テーブルに乗せたスコーンやクッキーをお茶菓子にして優雅に紅茶を飲むルル・ベルに対し、明日菜が呆れながら言う。

 

「初音ちゃんよしよ〜し♪」

「ゴロゴロ………♪」

 

ちなみに木乃香は、ソファーで初音とジャレていた。

 

「あれ?空条さん、千雨さんは?」

「ああ、リサリサばぁちゃんが久々に稽古つけてくれるっつって、昼前に連れてかれたよ。」

 

「―――さて、ルル・ベルくん、君には聞きたいことがあるんじゃ。」

「私が麻帆良で生み出した『スタンド使いの数』、かしら?」

 

学園長に聞かれても、普段の態度を崩さないルル・ベル。学園長が頷くとカップをソーサーに置いて、学園長やネギたちに目を見つめた。

 

「私がお母さまから盗んだ『矢』で生み出したスタンド使いは、のどかやネギ君に篤緒 奏汰、それに偶然とはいえ目覚めたハルナを含めて―――」

 

 

 

 

 

「『6人』よ。」

「6人………!!」

 

ルル・ベルの告げた人数に、皆は息を飲む。

 

「じゃあ、修学旅行で助けてくれた『スーパー・スナイプ』を含めて、後『2人』のスタンド使いが、麻帆良学園に………」

「そうなるわね。いずれ私やあなたたちの前に表れるかもしれないわね。」

「教えてくれる訳ではないのね………」

 

再び紅茶を飲み始めたルル・ベルに呆れる一同。

すると、今まで黙っていた承太郎が口を開いた。

 

「それと、こちらの調べで分かった事がある。「富良野 鏡史郎」の話によると、ヤツを射抜いた時、射抜いた『ガディ・Ru』という男が、こう言っていたそうだ………」

 

 

 

 

 

『―――この男で『11人』目か………まあ、これだけいれば十分であろう………』

 

 

 

 

 

「11人いる!?」

 

ガディ・Ru。確かギンガやアナスイたちが戦ったというスタンド使いだ。

と言うことは、ヴィオレッタ側のスタンド使いは………

 

「いえ、鏡史郎の他に夜叉丸 雪子やランボ・ルギニーにオエコモバ、それに“私が”倒した『ウエストウッド』も同時期に射抜かれている事を考えると、少なくとも残りは後『6人』と考えられるわね。ブラックモアやダービー、マイク・O、それにラング・ラングラーなんかは、結構前からスタンドに目覚めていたし。」

「後、6人………」

 

残りの敵スタンド使いの数に息を飲むネギたち。それに加え、ヴィオレッタがスカリエッティによって蘇ったスタンド使いやあの白髪の少年―――ルミリオたちもいることから、この先の戦いはかなり厳しいものになるだろう………

 

「それだけじゃないぜ………」

 

徐倫はそう言うと、懐から藍色の『DISC』を取り出しテーブルに放り出した。

 

「『ホワイトスネイク』のDISCだ。このDISCは、『プッチ』の手元にある以外は私たちの仲間の一人がどこかに隠したはずだ。」

「それが、何故か木乃香の頭に………」

 

複雑な表情でDISCを見る一同。

このDISCを持ち出したのはヴィオレッタの一味なのか、はたまた別の勢力なのか………

 

「その仲間に、この後会いに行く。ネギ、着いて来るか?」

「あ、僕、これから図書室に用がありまして………」

「ふむ……ヴィオレッタたちスタンド使いや魔法使いに対しては、結界や警備を強化しよう。魔法使いに対しては我々に任せてくれ。」

 

学園長がそう告げると、紅茶を飲み干したルル・ベルが立ち上がった。

 

「私たちも、最後の一人を目下捜索中よ。見つかり次第、連絡をするわ。」

「え?()()()?全員の行方を把握してるんじゃないの?」

 

明日菜に問われると、ルル・ベルはバツが悪そうにする。

 

「仕方がないのよ………だって………」

 

 

 

 

 

「その辺を飛んでいた、()()()なんですもの………」

「「「カラスかよッ!?」」」

「………『麻帆良野鳥の会』の魔法使いに手伝わそうか?」

「ええ、助かるわ。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「やっほーネギ君♪」

「………見せたいものとは何ですか?」

 

数分後、図書室で夕映とハルナと合流したネギ、明日菜、木乃香、徐倫、スバル、ルル・ベルたち。よく見ると、夕映はなにやら眠そうだ。

 

「?どーした夕映?寝不足か?」

「はい…実は夕べ遅くまで、ハルナの『ドロウ・ザ・ライン』の能力研究に付き合わされまして………」

「い、いやー…でも、お陰で色々分かったよ♪」

 

近々成果を見せたるよー、と答えるハルナに苦笑するネギたち。

ネギは本題に入ろうと、机に地図を広げ始めた。

 

「これなんですが………」

「なるほど、これは興味深いですね………」

「ネギ君のお父さんが調べたんだって。」

「ええ、コレが事実なら、図書館島以上の秘密がこの学園にはあることになります…」

「スゴーイ!こんな地図、大学部の人たちも持ってないよ!!」

「分かりました。我々『図書館探検部』としても、協力は惜しみません。」

「ありがとうございます!」

 

地図を受け取った夕映とハルナが快く引き受けると、ネギは深々と礼をした。

すると、図書室の扉が開き、ある人物が入ってきた。

 

「ゆえゆえー、『バルバ汁ぶどう味』ってなかったよ………あ。」

「―――あ。」

 

入ってきたのどかがネギの姿を見て、二人は見つめ合って固まってしまった………

 

「ネ、ネギ先生……」

「の〜〜〜ど〜〜〜か〜〜〜〜〜!!」

「ひゃッ!?」

「「「「ルル・ベル飛んだーーーーーッ!?」」」」

 

が、突如ルル・ベルがのどかに向かい空中でジャイロ回転しながら飛び込んできた!

 

「ひゃァアアア〜!!」

ゴシャアッ

「へぶしッ」

「モロ鳩尾(みぞおち)ッ!?」

 

思わず『イノセント・スターター』でアッパーカットを放つと、ルル・ベルは体をくの字に折り曲げて吹き飛び、床に落ちてうずくまった………

 

「あぁッ!?だ、大丈夫ですか!?」

「し、心配してくれるのねのどか………そこが好き♡」

「好感度上げちゃってるじゃねーか………」

 

悶えながらものどかに熱い眼差しを送るルル・ベル。ある意味その『思い』は尊敬に値するやもしれないが、それは呆れと半々である。

 

「す、すごかったですね、今のパンチ………」

「えッ!?あ、い、いや、その………は、恥ずかしいですぅ〜〜〜……」

 

苦笑気味で話すネギと、それに照れるのどか。そんな姿を見て、明日菜は何故か胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

 

(う……?あの二人を見て胸が苦しく………?何で………これじゃあまるで………)

「むむっ!?」

 

突然のことで戸惑う明日菜。すると、それを察知した者が一人。

 

「ふふふふ。匂う…匂うわよ……そっちの方から淡く甘酸っぱい『()()()』が!!」

「『ラブ臭』!?」

「何そのイヤなネーミング!?」

「そんなもんしないわよーーーーーッ!?」

 

ハルナが言った謎の単語に、全員、特に明日菜は思い切りつっこんだ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

麻帆良学園から少し離れた場所にある山中に、小さいながらも滝がある。そこの滝壺から、『コォォォォオオオ………』というなにやら奇妙な音が聞こえてくる。

 

見れば、精神統一をするように目を瞑った千雨が、滝壺の水面に『立っており』、彼女の向かい側にはリサリサが千雨を見つめながら『立っていた』。

 

彼女たち立つ水面には『放射線状』に波紋が立っており、千雨のものが半径50cm位に対し、リサリサのものは約1.5mと非常に大きかった。

 

『波紋』の呼吸によって血液中に作ったエネルギーを足に流すことにより、あたかも磁石の同極同士が反発するがごとく水に沈まずに立っていられる。『波紋の呼吸法』の、ポピュラーな使い方の一つだ。

 

「………」

 

タバコをくゆらせながら千雨を見つめるリサリサ。先ほどから千雨の波紋が安定せず歪んだり直ったりを繰り返し、足首までが水に沈んでいた。

 

「………何か悩み事かしら、千雨?」

「―――え゛っ!?あ、いや、その………うわっ!?」ザッバーン

 

いきなりリサリサに話しかけられたせいか、千雨は呼吸を乱してしまい滝壺に沈んでしまった。

 

「ふぅうーー、そんなに取り乱すなんて………修学旅行中に何かあったの?」

「………はい、まあ、話せば長くなりますが……」

 

頭を水面から出す千雨は、煙を吐くリサリサにかなわないなぁと思いながら見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なるほど、あのルーテシアって()が、ねぇ………」

「はい………」

 

川辺に上がり千雨に話を聞いたリサリサは、千雨の少し複雑な悩みを聞いて煙を吐いた。

ルーテシアとはこれからも顔を合わせる事がある。そんな中、彼女と普通に接することができるか?そう聞かれたら、千雨は首を横に振るだろう。

 

「正直、いきなり妹だなんて言われても実感わかないし、だいたい、このこと話して向こうが受け入れてくれるか分からなくて………」

「何か共感するわね………私も昔、似たようなことあったから………」

 

かつて、柱の男たちを倒すために、母であることを明かさずジョセフに対して非情な態度で接した事を思い出しながら話すリサリサ。携帯灰皿に火を消したタバコを入れると、千雨に向き直った。

 

「とりあえず、いつまでも黙っていられる訳にはいかないわ。話す機会を作って、ちゃんと話すのよ。」

「はい………」

 

リサリサのアドバイスに、千雨は苦笑しながら答えた。

 

「所で、師匠の方は静ちゃんと仲直りできたんですか?」

「………まあ、こっちはこっちで上手くやるわ。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「もー!何で教えてくれないのよーケチー!」

 

ネギ、木乃香、徐倫、スバル、図書館探検部3人とSTARBOOKS COFFEEに来た明日菜は、前を歩くルル・ベルに聞いた。やはり、『スーパー・スナイプ』の正体が気になるようだ。しかし、ルル・ベルはやれやれとため息をつき、

 

「あのねえ?どこにお母さまの刺客が潜んでいるのか分からないのよ?あまり情報は気軽に明かせないわ………」

「……まあ、私もルル・ベルの意見には賛成だな。正体と能力は、なるべく秘密にしておいた方がいいな………」

「うーん………」

 

徐倫も賛同したため、明日菜は少し納得していない様子ながらも頷いた。すると、カウンターの方が騒がしい事に気が付いた。

 

「だからよォ!何で『桃のタルト』が()()しかないんだって聞いてんだよぉ!」

「で、ですから……今出ているのが全部でして………他のケーキでしたら………」

()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

カウンターで怒鳴っているのは、グイード・ミスタその人であった。店員に食って掛かるミスタに、一緒にいたブチャラティとエヴァは呆れ、ジョルノが止めに入った。

 

「いい加減にしてくださいミスタ。僕もそれ頼むので、それでいいでしょう?」

「ぐっ、だ、だが、ボスにそんな縁ギの悪りー数から選ばせるなんて………!」

「相変わらずだな、お前は………」

 

エヴァがやれやれと呟いていると、トリッシュは後ろの方にネギたちがいる事に気が付いた。

 

「あ。」「む?」

「あら、あなたたち。」

 

トリッシュが声をかけて気づいたのか、ジョルノは振り返り会釈をした。

 

 

 

 

 

「じゃあ、しばらくは麻帆良(こっち)にいるんですか?」

「ええ。ポルナレフには助けられましたからね。チサメを守るのを手伝わせてもらいます。まあ、君たちとは別行動になるでしょうが。」

 

席を見つけて座ったネギたちは、ジョルノと話していた。

なお、ミスタご所望の桃のタルトは、ルル・ベルが先に頼む事で事なきを得た。

 

「まあ、ヴィオレッタには、ブチャラティの魂を『侮辱』した報いを受けてもらおうと思っているけどなぁー………」

「ええ。『「侮辱」するという行為に対しては殺人も許される』、死んだ僕らの上司“ポルポ”の言葉です。」

「ジャポーネだと、小指詰めるんだっけか?」

「いや、怖いよ!?」

 

ニヤリと笑い恐ろしい事を言うミスタたちに若干怯えるネギたち。誘った張本人のルル・ベルも、(お母さま無事でいられるかしら?)と、少し心配するのであった。

 

「………」

 

一方のスバルは、ジョルノと対面をして黙っていた。

 

「………(よく考えたら、スバルのお母さんと僕は『姉弟』の関係になる………そして、スバルたちはその(クローン)らしいから、僕にとっては姪っ子という感じなのだろうか………)」

 

スバルの様子に気づいたジョルノはそう考えて、スバルに話しかけた。

 

「……スバル、あまりかしこまらなくていいよ。『赤の他人』という訳でもないのだし………」

「あ、そうですか…?」

 

考えていたスバルは顔を上げ、人懐っこい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、『()()()()』って呼んでもいいですか?」

 

 

 

 

 

「………え?」

「はい?」

 

スバルが笑みを浮かべながら言った言葉にきょとんとする一同。ジョルノが戸惑っていると、スバルは笑顔のまま続けた。

 

「いやぁ、いきなりジョル兄じゃあ馴れ馴れしすぎるかなぁって思ったけど、なんていうか、『お兄さん』っていうカンジかなーって思って。」

「お、お兄さん………?」

「いや、十分なれなれしいと思うけど!?」

 

照れるように言うスバルに突っ込む徐倫。

ジョルノは物腰が柔らかく()()味方であるとはいえ、裏社会に生きるギャングなのだ。下手に刺激しては何をされるか分からない。

 

「……おい、どうかしたかジョルノ?」

 

どうしようかと徐倫が心配をしていると、ミスタがジョルノに話しかけていた。ちらりとみてみれば、何やらジョルノが額に手を当てて俯いていた。

 

「お兄さん………お兄さん………」

「おーい、ジョルノ?大丈夫かー?」

「ねえ、コレ本気で悩み始めてない?」

 

今まで言われなれていなかったのか、スバルの『お兄さん』発言に衝撃を受けてしまったらしいジョルノ。そんな彼を見て、少し軽率だったかなぁと反省するスバルであった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

岸辺 露伴は、朝倉 和美の案内で麻帆良学園の湖の遊歩道を歩いていた。杜王区に帰る前に『魔法使いのいる街』である麻帆良学園を見ておきたいと思い立ち、京都で意気投合した朝倉に案内を頼んだのだ。

 

「『河童ァ』〜?」

「そうなんですよ!実はこの湖、三年前くらいから河童の目撃情報が多いんですよ!!」

 

デジカメ片手に熱く語る朝倉に、露伴は訝しげに声を上げた。

朝倉 和美が中学の『諜報部』に入部した数週間後、スタンド『ハロウィン』に目覚める前、湖で偶然撮影した写真に写っていた影の正体を探る内に、湖の河童の噂が流れ始め、以来朝倉は、各校のオカルト研究部や諜報部員とは別行動で調査をしているという。

ある時は自身が3日間張り込んだり、ある時は半月間『ハロウィン』を張り込ませたり、様々な手段で河童の正体を探ったが、収穫はなかった。

 

「ふゥ〜〜〜ん………まあ、魔法使いやしゃべるオコジョがいたわけだし、河童がいても何ら可笑しくはないかもなァ〜……」

「そうでしょうそうでしょ〜〜〜♪私も魔法知ってから希望を見いだしまして〜〜〜♪」

 

満面の笑みで答える朝倉を露伴は見つめると、おもむろにスケッチブックを取り出して朝倉をスケッチしはじめた。どうやら、『うれしさ』の表現の参考にするらしい。

と、視線の先には同じく遊歩道を歩くネギ達一行がいた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………」ジーーー

「何や初音ちゃん、ずっとカモ君のこと見とるなー?」

「友達になりたいんじゃないの、カモ君?」

「スバル姐さん、あれ明らかに『捕食者』の目なんスけど………」

 

未だにアルフにねらわれているというのに、これ以上捕食者が増えたらたまったものではないカモであった………

 

ジョルノやのどか達と別れたネギ達は(ジョルノはまだ悩んでいる様子であった)、『DISC』を隠しているという徐倫の仲間に会うべく、徐倫の案内で湖まで来ていた。

 

「それで徐倫、その仲間には、湖で待ち合わせてるの?」

「んーーー、まあ、待ち合わせはしてないけど、湖にいるのは間違いないからさぁ〜。」

「「?」」

 

ネギや木乃香が首を傾げる中、徐倫はおもむろに足下から手頃な小石を何個か拾うと、短音三回、長音一回という特定のリズムで何回かに分けて湖に投げた。

 

「あの、空条さん………?」

「お、来たか。」

「へ?」

 

徐倫が見た先では湖の水面が不自然に波打ち、そして、不意にザバーッ、と音を立てて、“ソレ”は現れた。

 

 

 

 

 

「徐倫、来てくれたんだ………」

「「「「へ………?」」」」

 

 

 

 

 

縦長の雫状の頭に長い手足の、黒いスマートな体格のソレは、徐倫に親しげに話しかけてきた。

 

「連絡しようとしたんだよぉーーー、湖に落ちてた『小銭』つかって。」

「ああー、この近く公衆電話ないからなぁー………ああ、みんなこいつは―――」

「「「「河童だァァァァーーーーーッ!?」」」」

「「………は?」」

 

ネギ達の叫びに、二人(?) は一瞬引いてしまった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホワイトスネイクの“DISC”で『能力』と『記憶』を与えられたプランクトンの集合体………?」

 

数分後、落ち着いたネギ達は徐倫に河童、否、プランクトンの集合体『フー・ファイターズ(通称『F・F(エフ・エフ)』)』の紹介をされていた。元々『プッチ神父』にスタンドのDISCを守護する使命を受けていたが、徐倫たちと出会った事で彼女を守ると思うようになり、プッチと戦って瀕死となったがギリギリで湖に逃れ、今はプッチの残したDISCを湖で監視しているとの事だ。

 

「よくオカ研や、何か「カボチャの形のスタンド」みたいなのが私を探しているみたいだけど、何とかばれないようにしてるよ。」

(((朝倉(さん)………)))

 

朝倉に呆れつつも、徐倫は本題に入った。

 

「実はさF・F、保管してあるDISCの事なんだけど………」

「ああッ!そうなんだよ徐倫!実は保管してあったDISCが5~6枚かなくなっていたんだよ!!」

「「えぇッ!?」」

 

F・Fの告げた事実に、明日菜とスバルは思わず声を上げてしまう。

 

「いつなくなったとか、分かるか?」

「分からない………ただ、一年半くらい前に、『ダイビング部』の練習があって保管場所から離れたんだけど………DISCを奪うなら『その時』しかないんじゃないかなぁ………」

「少なくとも、一年半前か………」

 

徐倫は顎に手をやり考える。だとすると、その間に盗まれたDISCの内一枚が木乃香に挿されたのだろう。果たして、誰の仕業なのだろうか………?

 

「少なくとも、『12人』程のスタンド使いが私たちに迫ってる訳ね………」

「後12人、ですか………」

「やれやれ、ちょっぴり疲れるという所かしらね………」

 

ネギと徐倫がそう締めた。

 

(あれ?………私…何で………?)

 

ふと明日菜は、自分がじっとネギの事を見つめている事に気づき、戸惑った。これではまるで―――――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………」

「………」

 

徐倫たちが話を終えた頃、朝倉はひざを突いて落ち込んでいた。その様子は、さながら『簡単に月面に来てしまったオカルト少女』のようであった。

 

「こんなあっさり………私の二年間は………」

「………まあ、落ち込むなよ。そのうち良いことあるよ………」

 

「あれ?あそこにいるの、朝倉さんに露伴先生じゃない?」

「ホントだ。」

「何で朝倉落ち込んでるの?」

 

 

 

 

 

麻帆良学園 名所その④

『湖の河童伝説』

 

場所―麻帆良湖全域。特に、西側の湖畔の目撃証言が多い。

 

二年前より、さんぽ部と諜報部を中心に目撃証言が多数あり、ぼやけてはいるが写真もいくつかある。それでも見られるのはマレであるため、時折オカルト研究部のメンバーが探しに麻帆良湖を訪れている。

麻帆良湖でお弁当を食べているときにいつの間にかおかずが減っている事例が多く、カッパの仕業の可能性が高い。(麻帆良学園新聞部発行『まほら新聞』より抜粋)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「アスナさーん、どうかしたんですかーーー?」

「ど、どうもしないわよ………!(ど、どうしよう…私……これじゃ本当にネギのこと………)」

 

スバルとルル・ベルの二人と別れ女子寮に戻ったネギ達だが、明日菜は未だに胸に宿った感情に対し、顔を赤くして戸惑っていた。

ふとネギはあることを思い出した。

 

「あ、そうだアスナさん、まさかとは思いますけど…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「え゛っ!?」

「お、そーだ、ソレ言うの忘れてたぜ。」

 

思い出したように告げるネギとカモ。

 

「実は、来たばかりの頃アスナさんに恥ずかしいことしちゃったから、そのお詫びにと思ってカモ君に通販で『()()()』買ってもらったんです。」

「…へ?」

「ホレ薬…何でもあるんだな、魔法界…」

「おうよ!あれを食べさせれば、『最初に見た奴』に一目惚れって寸法だぜ。ま、効果は半日程度だけどな。」

 

カモが説明する中、明日菜はわなわなと身を震わせる。と言うことは、この半日の自分のこの胸のモヤモヤは………

 

「な…なーんだー………それならそうと………」

「「「?」」」

「最初っから言いなさいよーーーーーッ!」

スッパーンッ☆

「わひゃああッ!?」

 

今日半日で溜まったモヤモヤをはらすが如く、明日菜は手にした『ハマノツルギ』でネギを思いっきりひっぱたいた。

 

(よ…よかったぁぁああああ〜〜〜、全部ホレ薬のせいだったんだ………)

「…まさかアスナ、チョコ食べたんか?」

「まっ!まっさかぁ〜、アハハハハ♪」

((食べたな………))

 

明日菜の反応に、カモと徐倫は食べたと確信した………

 

 

 

 

 

後日、話を聞きつけたルル・ベルがそのホレ薬を求めに来たが、明日菜に門前払いになった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

休み明けの月曜日、成田国際空港

 

「―――全く、アイツ何危ない事に巻き込まれてるのよ!」

 

 

 

 

 

←to be continued...




70話です。
・サブタイトルは『吉良 吉影の新しい事情』から。

・敵およびルル・ベルの生み出したスタンド使いの数の確認。残りの『スーパー・スナイプ』と『カラス』はいずれ。

・スバルの『ジョル兄』呼びは結構最初から考えていました。一応『腹違いの姉弟のクローン』なので、ある意味妹ではあるので。

・フー・ファイターズ登場は河童として湖で暮らしています。今後も登場するやもしれません。ちなみにネギ達は『実物はこんな感じなのかなー』って意味で驚いています(笑)

では、次回をお楽しみに!


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#71/麻帆良に来た3人の女

今回で、にじファンに投稿していた分が終了になります。


『―――ドウヤラ、我々ノ存在ガ感知サレタヨウダ。』

 

どこかのビルの内部。

集めた三人の男女の前に立つ謎のスタンドが腕を組み、壁にもたれながら語る。

 

胸と頭を宇宙服か潜水服を思わせる卵形の大きなカプセルで覆い、中は影になっていてよく見えないが頭部らしき部位があり、紅く鋭い右目が輝いている。紫と黒で彩られた体はスマートでメカニカルな四肢を持ち、左手はL字に曲がった銀色の四角いマジックハンドになっていて、時折カチ、カチと打ち合わせている。

 

「そうか………それで『プレシャス・プライド』、私たちはどうする?」

『ソウダナ………今ノ所ハ現状ドオリ、ダナ。君タチ三人ニ与エタ『マンハッタン・トランスファー』、『ティナー・サックス』、『ギミック・ゲーム』ヲ上手ク使イ、彼ラヲ『秘密裏』ニ手助ケシテクレ。』

 

スタンド―――『プレシャス・プライド』がそう言うと、三人は会釈して立ち去った。

 

三人が立ち去ったのを確認すると、『プレシャス・プライド』のもたれていた壁の影から一人の少女が表れ、窓の外を見る。

 

「―――ネギ君、それにアスナ………今君がやられる訳にはいかないんだよ………」

 

『プレシャス・プライド』を自らの身体に納めると、少女は懐から二枚の『DISC』を取り出した。

 

「残るDISCは二枚………はてさて、誰がふさわしいのやら………?」

 

 

 

 

 

#71/麻帆良に来た3人の女

 

 

 

 

 

修学旅行の振替休日が明け、3‐Aに再び騒がしい日々が戻ってきた。

 

「ねえ知ってる?今日転入生が来るんだって!」

「ええー、こんな中途半端な時期に?」

「だよねー、それに、二月にスバルちゃんが来たばっかなのにねーーー?」

 

桜子、円、美砂たちチアリーダー部三人組が円の席付近で話しているそれを耳にはさみながら、夏美が席に着いた。

 

「転入生かぁー………朝倉は何か聞いてる?」

 

夏美が朝倉に話しかけるが、朝倉は机に突っ伏していて「カッパめ………カッパめ………」と呟いていた。

夏美は首を傾げながら鞄を開き、中の教科書や筆箱を机にしまい始めた。

 

「ん………?」

 

ふと、夏美が机の下側を見ると、『緑色のボールのようなカエルらしきもの』が、夏美教卓の下から歩いてくるのが見えた。

 

「え?あれ?」

「………」

 

夏美がカエルらしきものと目が合うと、文字通り「蛇にでも睨まれた」ように固まり、目が泳ぎだした。

 

「………」バッ

「あっ!?」

 

カエルらしきものは素早く教卓に逃げ込み、夏美は思わず立ち上がり教卓に駆け寄った。

夏美は教卓の下をのぞき込むが、カエルらしきものはいなく、あったのはその()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「どうよ?」

「なるほど………」

 

徐倫と明日菜、スバルが、教卓付近で紙を片手に首を傾げている夏美を見ながら、『ドロウ・ザ・ライン』を持ったハルナの説明を受けていた。

 

「つまり、『ドロウ・ザ・ライン』で描いた絵に “着色”すると、非スタンド使いにもそのスタンドが『見える』訳、だね。しかも、それなりに射程距離もあるみたいだし。」

「そーいう事♪」

 

スバルに聞かれ、得意げに笑うハルナ。すると、4人の後ろから声をかけられた。

 

「………でも、何も知らない人間にイタズラをするのは感心できないわね。応用できれば役に立つだろうけど、気を付けた方が良いわ。」

「あ、うん。気を付けるわ。」

 

振り向かないままハルナが頷く。その直後、4人は気づいた。

 

「………あれ?」

「今のって………?」

 

4人は振り返ったがすでに誰もいない。向き直ると、いつの間にかネギが教卓に立っており、隣には見慣れた銀髪縦ロールに翠の眼の少女が、『自分たちと同じ制服』に身を包んでいた。

無論、左手は制服に合わせた布で隠しているが。

 

「おはようございます。えーと、急に決まったのですが、転入生を紹介しますね………」

 

ネギが苦笑気味に切り出すと、隣の少女が黒板に筆記体で『Luru Bell』と自分の名前を書いた。

 

「ニス・ポゥ・リポンド(はじめまして)………というのは、おかしいかしら?今日からこのクラスの生徒になる『ルル・ベル』よ。国籍はフランス。よろしく。」

『………………』

 

振り返ったルル・ベルがそう挨拶する。普段なら一気に騒ぎ立てるA組一同だが、今回は訳が違った。何せ、修学旅行のルル・ベルの行動を見ていたのだ。しばし沈黙が続いたが、皆同じ事を考えていた。即ち―――

 

 

 

 

 

(((((((転入してきたーーーッ!?本屋逃げて!超逃げて!?)))))))

 

である。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「どーいう事よネギ!何でルル・ベルがうちのクラスに来るのよッ!?」

 

ホームルーム明け、ネギの首根っこを掴んで踊り場まで連れ出した明日菜とそれに着いて来た徐倫、スバルは、早速ネギを問いただしていた。

 

「お、落ち着きなよアスナ………」

「じ、実は、僕も今朝急に知らされて………学園長先生と話し合った結果決まったそうです……「行動しやすいから」って事で。」

「それは『護衛』のか?それとも『ストーキング』のか?」

 

思わず、呆れ顔で聞き返す徐倫。

 

「あ、それとですね………ルル・ベルさんだけでは(色々な意味で)不安という事で、サルシッチャさんも学園に潜入することになりました。」

「サルシッチャも?」

 

ネギが思い出したように告げると、徐倫が聞く。すると、何故か明日菜とスバルが衝撃を受けたような顔になった。

 

「さ、サルシッチャさんも、って………」

「どーかしたか?」

 

何故かわなわなと振るえる二人。

 

「ま………まさかルルちゃん………」

「サルシッチャさんに………」

 

 

 

 

 

「「女子中学生として、女装させた訳なのッ!?」」

ズルリ……

 

二人の口から出たセリフに、ネギと徐倫は思いっきりずっこけた。

なお、二人の脳裏には三つ編みお下げで女装したサルシッチャの姿が浮かんでいた………

 

「………いえ、ちょうど『用務員さん』を募集していたそうなので………」

「「………あ、そっち?」」

「それ以外に何があるんだよ!?むしろ女子中学生として潜入させる方がおかしいわッ!」

 

二人の素のボケに対して、思い切りつっこみを入れる徐倫。

三人はもうすぐ授業が始まるからと、教室に戻っていった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――やっと着いたわね、麻帆良学園………」

 

その日の昼過ぎ、麻帆良学園駅に、一人の少女が到着していた。

 

「さてと、アイツの学校に行く前に、お昼にしましょうか。」

 

少女はそう呟くと、目に留まった喫茶店に向かっていった。

 

 

 

 

 

少女が喫茶店でナポリタンを注文した時、少女の座る席から少し離れた席で、カツサンドを頬張る女性がいた。

 

「………ふふん、微っ笑〜〜〜♪」

 

女性はバッグから一枚の写真を取り出すと、つまみ上げるように持ち、微笑みながら見つめた。

 

「コイツを()るだけで5,000万だなんて、楽すぎて爆笑な仕事よねぇ~~~♪」

 

女性はカフェオレを飲み干し、女性は写真を放り投げた。

 

 

 

 

 

その写真は、一瞬にして粉みじんに切り裂かれた―――

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「はぁ………」

 

昼休み、中庭で弁当を前にのどかは深くため息をついた。ルル・ベルのせいで、今朝から精神的に疲れてしまっていた。

 

「………のどか、大丈夫ですか?」

「うん…何か疲れちゃったけど………」

「ルルちゃん、何か体液出そうな勢いで宮崎さんに視線送ってたもんねー……」

「そこまで行ったら吸血鬼でしょ………」

 

一緒に弁当を食べる明日菜たちは、のどかを気遣いながら苦笑していた。

なお、当のルル・ベルは現在学園長に呼ばれており、現在この場にはいない。いたらいたで、非常に厄介な状況になるが………

 

「はぁあー……断ろうにも、ルル・ベルさんってちょっと近寄りがたいというか………」

「うーん…宮崎さん、押しが弱いからねぇ………」

 

苦笑しながらスバルが言うと、明日菜が思いついたように言った。

 

「だったらさあ、先輩にアドバイスでも聞いたら?」

「先輩?誰ですかそれは?」

 

夕映が明日菜に聞くと、売店にパンを買いに行っていた徐倫が戻ってきた。

 

「なあ徐倫、修学旅行の時のアレは、単なる偶然なんだよ!」

「はいはい、別に何とも思ってないよ、最初から。」

 

何故か、必死に言い訳をするアナスイを連れて聞き流す徐倫を見た明日菜は、ちょうどいいという風に親指で指した。

 

「『ストーカー被害』の先輩に。」

「「「あーーー………」」」

「ん?何?何の話?」

 

妙に納得する一同であった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

同じころ、麻帆良学園都市内にある麻帆良総合病院の特別病棟―――魔法(こちら)側の治療や診断を行うこの病棟では、フェイトと承太郎付き添いの元、ノーヴェとディードの精密検査が、ちょうど終わった所であった。

 

「ノーヴェ君に宿ったという『ロストロギア』ですが………各種センサーでの検知は出来ませんでした………」

「そうですか………」

 

医師からの診断結果を聞いて頷くフェイト。ノーヴェは少し不安そうにしていたが、今の所、身体に不調も異常もなかった。

 

「ディード、大丈夫?」

「ええ、チサメさん、だっけ?に付けられた傷も治ったし………」

 

心配そうに話しかけるオットーに返事をするディード。ディードの方も、アヌビス神に操られて戦わされた上に『スケアリー・モンスターズ』により恐竜化されていたが、身体に異常は見当たらず、スタンド『エターナル・ブレイズ』も自在に使えているようだった。

 

「でも、ビックリしたわ……気づいたら『97世界』で、私に『スタンド能力』が身についていたんだもの………」

「そうだよね……(操られていた時の記憶はないんだ………)」

 

ディードがオットーにそう話した時、承太郎が口を開いた。

 

「………その事で、少し気になっていた……何で連中は、()()()()()()()()()使()()()()()()()?」

「え?」

 

承太郎の言葉にきょとんとする一同。フェイトが、それに答えた。

 

「何でって………それは、インヒューレント・スキルをスタンドに昇華する実験のためって、アヌビス神が………」

「だから、何でその実験をしたんだ?単に『戦力強化』のためか?いや、だったら何故ディードを取り返しにこない?」

「あっ………」

 

承太郎に言われて気づいた。確かに『左手が右手の女(ヴィオレッタ)』たちは、奪還されたディードに接触する様子がない。

 

「しかも、連中は『スケアリー・モンスターズ』なんていう汚い爆弾(ダーティボム)まで仕掛けてやがったんだぜ?」

「た、確かに………まさか……!」

 

フェイトは承太郎の言いたいことを察した。ディードが『()()』だとしたら、『()()』があるのでは………?

 

「まさか、ヴィオレッタ側には………!?」

「そう考えるのが妥当だろうな………ヴィオレッタの手中には、ナンバーズやスバルたち以外にも、『戦闘機人がいる』と………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「あの、のどか………」

「へッ!あ、はい………」

 

時間は過ぎて放課後。ハルナは漫画研究会、夕映は哲学研究会のため、のどかは今日は図書館に寄ってから帰ろうと準備をしていると、ルル・ベルが気持ちもじもじしながら話しかけてきた。のどかが普段と違う雰囲気のルル・ベルに戸惑っていると、ルル・ベルは少し恥ずかしげに聞いてきた。

 

「よっ、良かったら、一緒に帰らないかしら?」

「え?あ、はいー、それ位ならーーー………」

 

少し悩んだ後、のどかは合意をし、二人はそのまま教室から出た。

 

(い、今までは()()()ガッツイてアプローチしすぎていたのよね。そう、こーやってふつーな感じで接すれば良いのよねッ!)

(な……何か普段と違くって、逆に怖いかもーーー………)

 

「………スバル、ネギ、ルル・ベルが本屋ちゃんに何かやらかさないようついて行くわよ!」

「合点承知ッ!」ズビシッ

「本屋ちゃーーーん!!一緒に帰らないーーー!?」

「す、少しは信じてあげましょうよーーー?」

 

結果、三人は二人について行く事にした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――ねえホル・ホース、これは何のマネかしら?」

 

同じ頃、ティアナはとある喫茶店のテーブルに腰掛けて、向かいに座るホル・ホースに向けて訝しい風に睨んだ。テーブルには、美味しそうなショートケーキが、紅茶とセットで置かれていた。

そんなティアナにホル・ホースは禁煙パイプをくわえながら、ティアナに笑いかけた。

 

「いやぁな、お前さんを『撃った』事のお詫びに、と思ってな。」

「………別に良いのに。全く、急に呼び出したから何かと思えば………」

 

ため息をつきながら紅茶に手を伸ばすティアナ。釣れないねぇ、と笑うと、ホル・ホースも紅茶を一口飲む。ホル・ホースはしばらくニヤニヤとティアナを見つめていたが、睨まれたため慌ててそっぽを向いた。

 

「………!?」

「?」

 

その時、そっぽを向いたホル・ホースは目を疑った。その方向にいた女性は、見覚えがあったからだ。

 

「マジかよ………よりにもよってアイツが………!?」

「え?何?どうかしたの?」

 

焦るホル・ホースに、ティアナが聞く。

 

「(あの女がこの麻帆良に………!?もしも標的が千雨なら、)かなりヤバいッ!!」

「え?な、何がッ!?」

 

いきなり叫んだホル・ホースに驚き、ティアナは思わず引いてしまった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………なーんであなた達まで着いて来ちゃってるのかしら?」

「アンタが本屋ちゃんに何かしないためよ!」

「随分と信用されてないわねぇ………」

 

自分とのどかの間に入った明日菜とスバルにルル・ベルが睨むと、明日菜がつっこむ。後ろを歩くネギは苦笑気味だ。

 

「い、一応、今日は特に何もされていないからーーー………」

「まあ、そうだろうけど………この後何されるか分かったもんじゃないからね。」

 

のどかの言葉に明日菜が返すと、スバルが頷いた。

 

 

 

その十数m後方―――

 

 

 

「あッ………!あの馬鹿はッ!」

 

その少年を見つけた少女は、ワナワナと震えていた。

 

「心配してはるばる日本にまで来たっていうのに………何アイツはイチャイチャイチャイチャしているなんてぇ………本っ当にボケボケなんだから!ネギはッ!!」

 

 

 

さらに別の方では………

 

 

 

「たっは!爆笑(ばっくしょ)〜!」

 

先ほど喫茶店でサンドイッチをかじっていた女性が、ルル・ベルたちを見つけて笑みを浮かべていた。

 

「こ〜〜〜んなあっさり見つかるなんてねぇ〜〜〜♪ほんじゃあ、ま、しばらくは様子を見ますかな♪」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――で、何か、あちらさんの情報は掴めたの?」

「………今の所はまだね。ホル・ホースが潜入していたアジトにSPW財団のエージェントが向かったらしいけど、既に(もぬけ)の空だったそうよ。」

「そうですか………」

 

場所は移り、比較的人通りの少ない公園に入った5人は、噴水の近くのベンチに座って話をしていた。

 

「向こうのスタンド使いの詳しい人数が分からないし、おまけに向こうにはまだ『矢』があるからねぇ〜〜〜………」

「………正直、お母様がまだスタンド使いを生み出すやも知れないし、私のようにスタンド使いを雇う可能性もあるわね………」

 

少しうつむきながら告げるルル・ベルに、皆が少し不安げな表情となる。

その時だ。

 

 

 

 

 

「ネェ…………ギィィィイイイイイッ!!」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

突然、叫び声が聞こえたかと思うと、頭上に強めの魔力を感じた。

 

「アーニャ・フレイム・バスター………」

「え?何なにッ!?」

「キィィィイイイイイック」

キュゴンッ

「「「「「わ゛ーーーッ!?」」」」」

 

その魔力が最大にまで高まると、5人の中央あたりに突っ込んできた!

 

「ちょっ!何!?何なのよ!」

「敵襲ッ!?」

 

突然の出来事に、臨戦態勢に入る4人。だが、ネギには今の攻撃に少し見覚えがあった。

 

「いえ、今のは………まさか………」

「フン、今のをよく避けたわね………」

「え?スバル………?」

「え!?私じゃないけど………?」

 

何故呼ばれたのか分からなく首を傾げるスバル。爆心地に人影が見えると、それは一歩一歩こちらに近づいてきていた。

 

「相変わらず魔法戦闘の修行だけはやってるみたいだけど………」

 

その影は、着ていたローブを脱ぎ去ると、更に歩み寄る。その姿は、ネギと同い年くらいの、赤く長い髪を左右で結わいた少女であった。

 

「チビでボケボケな所は相変わらずみたいね、ネギ!」

「『アーーーーニャ』ーーーーーッ!?」

「ええぇッ!?」

「アーニャって………?」

 

その少女―――アーニャの姿を見たネギが叫ぶ。四人は少女がネギの知り合いであることに驚いていた。

 

「ななな何でアーニャが日本に!?ロンドンで占い師しているハズじゃ…何でこんな所にッ!?」

「『何で』って、決まってるでしょ!アンタを連れ戻しに………」

 

ネギの質問に答えるアーニャだが、気づいた。気づいてしまった。自分が脱ぎ捨てたローブが、燃えていたことに………

 

「キャー!?わ、私のローブに火がーーーッ!?たたか高かったのよコレーーーーーッ」

 

慌てて燃え上がるローブの火を消そうと踏むアーニャ。だが、その火はアーニャの長い髪にも燃え移った。

 

「いやぁあああ!?あつッ熱あつーーー!消して消してッ!!誰かぁーーーーーッ!?」

「えーと………」

「騒がしい子ね………」

 

パニックになるアーニャに呆れる一同。とりあえず、のどかとルル・ベルがそれぞれスタンドでアーニャを噴水に放り込み、鎮火させることにした。

 

ザッパーン

「………ありがと。」

「………ホントに何しに来たのアーニャ………?」

「だっ、だからアンタを連れ戻しに来たのよーーーーーッ!」

「忙しい子だなーーー………」

(何かあの子、ナカジマさんに声にてるかもーーー………)

 

火が鎮火して落ち着いたアーニャだが、ネギを見て再び叫んだ。

 

「いいからもー、イギリスに帰るわよッ!」ガシッ

「ええっ、ちょ、帰るって何で………!?」

「何でって……アンタが日本に来て早々大変な事件に巻き込まれてるって聞いて、心配したネカネお姉ちゃんの代わりに連れ戻しに来たのよ。」

 

ネギの腕を掴むアーニャが告げた言葉に、五人はキョトンとする。

 

(いつの間にイギリスまで情報が?流したとしたらだれが………?)

「分かったら帰るわよ!ホ・ラ・来なさいよ〜〜〜ッ」

「わー待って待って!?」

「いいから来なさいーーー!」

 

嫌がるネギを引きずるアーニャ。それに、明日菜とルル・ベルが割って入った。

 

「ちょちょ、待ってアーニャちゃん!」

「そうよ。一旦冬のナマズみたいに大人しくしなさい。」

「む、誰よ、アナタ達?」

「わ、わ私たちはネギ先生の生徒ですよーーー。」

「フーン………?」

 

のどかの答えを聞き、アーニャは四人を上から下までジロジロと見る。

 

(なーんかなれなれしいのが三人に、後は何か控えめね………内二人が巨乳(=敵)で、後半分が貧乳(=味方)………今は下手に動かない方がいいわね………)

 

四人を見ながら思考を巡らせるアーニャ。

 

「(まさかとは思うけど、この二人に(たぶら)かされている訳…?『敵ね』ッ!!) はじめまして!アーニャです。ウチのネギが大変お世話になりまして………」

「あ、これはどうもご丁寧に………はじめましてアーニャちゃん。」

(魔力で強化されたキックぶっ放しといて、丁寧もなにもないけどね………)

 

明日菜とスバルの、曰く『ナイスバディコンビ』を敵とみなし、とりあえず挨拶をしておくアーニャ。

 

「でも安心を。ここからのネギの世話は私がするわ。では。」ダッダーーー

「ちょっとーーー!?」

「アーニャ待って待ってーーー!?」

 

そのままそそくさとネギを連れ去ろうとするアーニャだが、ルル・ベルとスバルに止められた。

 

「ちょっとあなた!冬のナマズみたいに大人しくしなさい!」

「し、心配しなくても、今回の事件は時空管理局の局員が来てるから大丈夫だよ。」

「少なくとも、私たち四人だけでも『鉄●兵団』終盤のし〇かちゃん位頼れるよ?」

「え?そこまで見えないんだけど………?ナマズ?」

 

さすがにそこまでは………

のどかたちは、スバルの過大評価に苦笑した。

一旦落ち着いたため、お互いに確認をする為にベンチに座る事にした。

 

「それじゃあ改めて、こちらは僕の幼なじみのアーニャです。アーニャ、この人たちは僕の教え子だよ。」

「神楽坂 明日菜よ。」

「ルル・ベルよ。」

「み、宮崎 のどかですー。」

「スバル・ナカジマです。」

「………アンナ・ココロウァです。アーニャは愛称ね。」

 

何故か少しむくれながら自己紹介するアーニャ。

ルル・ベルはそんなアーニャにため息をつくと、早速質問を始めた。

 

「所であなた、ネギ君が事件に巻き込まれてるって、誰から聞いたのかしら?」

「誰からって………知らないわよ。いつの間にかそういう噂が流れていて、それで不安になって来たって訳よ。………あ、いや、私じゃあなくて、ネカネお姉ちゃんがよ………?」

 

最後に何故か照れながら言うアーニャ。スバルはその仕草が何かかわいいと思ったが、黙っておいた。

 

(噂が流れたって………誰かが流したって事かな?)

(分かりません。けど、流したとしたら、何の目的が………?)

 

明日菜とネギが裏でコソコソと話すが、考えても分からなかった。

 

「………まあ良いわ。とにかく、ネギ君には先生の仕事があるから、直ぐには帰れないわ。帰えられたら、私も困るもの。」

「ちょっと、それどーいう意味よ!?」

「ルル・ベル………!?」

 

ルル・ベルの告げた言葉に、アーニャだけではなく明日菜やネギたちも驚く。まさか、アーニャに全てを話す気なのか………?

 

(まさかこのルル・ベルとかいうお姉さん、ネギの事………?イヤイヤイヤ!あり得ないわよねッだってネギってばボケでチビで頭んなかお父さんでいっぱいだし!!でも、世の中には『そーいう趣味』の人がいるって聞くし………いや、でもでもでもーーー!?)

 

一方のアーニャは、なにやら勘違いしてぐるぐると思考を巡らせていた。そんな様子を見たルル・ベルは、やれやれとため息をついた。

 

「………何を勘違いしているのか知らないけど、私にはのどかが―――!?」

「「「「!?」」」」

 

ルル・ベルが言い掛けたその時、こちらに一人の女性が歩いてくるのが見えた。

 

二十代半ばほどの見た目で、ボブカットにした金髪の、両方のこめかみあたりから右が青、左が赤のメッシュを胸のあたりまで垂らした髪型で、白い肌に青い眼、紫のリップの派手なメイクをしている。

肩が大きく開いて、右側に『禁煙』のマークが描かれた青紫色の長袖のTシャツを着て右腕に肘まである黒い手袋を着けており、ショートパンツの上から色とりどりの缶バッジをジャラジャラとたくさん着けた布をパレオのように腰に巻いて、ハイヒールを鳴らしながら歩いてくる。

 

ただ近づいてくるだけならば、ルル・ベルも気にならない。

気になる理由は、彼女の背後に立つ『(ヴィジョン)』だ。

 

ガスボンベを思わせる緑色をした縦長の頭部にはランダムに赤い七つの穴が開けられたゴーグルのような眼を持ち、ジグザグに空いた口を持っている。鏡餅のような胸と肩からはコードのような細長い腕が垂れ下がっていて、右腕にはスイッチの付いた箱のような籠手が着いており、アームのような両手の指をせわしなく動かしている。足は長く、つま先が四角い形になっていた。

 

「?あの人がどーかしたの?」

 

不思議そうに首を傾げるアーニャ。どうやら、アーニャにはあのスタンドが見えていないらしい。

 

「アーニャ下がって。」

「ネギ?」

「何か用かしら?昼間から『()()()()()』出して来るなんて………」

 

ルル・ベルが女性に問いかけると、女性はニヤリと笑う。だが、アーニャが前に出てきた。

 

「ちょっと、何なのよいきなり!あの女の人が何だっていうのよッ!?」

「ちょ、アーニャ………」

 

アーニャが前に出て女性に指をさして叫ぶ。ネギがアーニャを止めようとするが、

 

 

 

ドン

「「「「ッ!!」」」」

「(思っていたよりも射程距離が広い………)アーニャッ!!」グィイッ

「へ?」

 

スタンドがアーニャの背後まで一瞬で接近した!ネギは慌ててアーニャの手を引くが、スタンドは右手の籠手を操作して、右腕でアーニャに殴りかかった!

 

ピッ

「………失笑。射程距離ギリギリでかすっただけかぁーーー。」

 

スタンドを手元に戻した女性が、落胆の声を上げる。ネギとのどか、ルル・ベルはスタンドを発現させて戦闘態勢に入る。

 

「な……何なのよいきなり………?」

 

戸惑うアーニャだが、ふと気づいた。いつの間にか右手の甲に、『赤いペンキのようなもの』が付着している。

 

(何コレ………赤いペンキ………?いつの間に?)

 

アーニャは、いつの間にか付いていたペンキを不振に思った。

 

 

 

 

 

瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッジュゥゥウウウ

「ッ!?キャァアアアアアアアアッ」

「「「「!?」」」」

「アーニャッ!?」

 

突如、赤いペンキが『燃え上がり』、アーニャの右手の甲を焼いた!

 

「なッ!?何よコレッ!?熱ッ!?いきなり燃え初めて………ッ!?!?」

「私は『七色の(レインボー・)シャラン』。アンタ達の命、もらい受ける………ッ!」

 

シャランと名乗った女性は、頭の後ろで腕を組みながらそう告げた。

 

 

 

 

 

←to be continued...




71話です。
・サブタイトルは『病院に運ばれた3人の男』から。

・謎のスタンド『プレシャス・プライド』と配下の三人のスタンド使い登場。彼女らの目的はいずれ。

・ルル・ベル転入。ちなみに名前のつづりは適当です。

・承太郎から『ナンバーズ以外の戦闘機人』の可能性が………後の展開を考えて憶測させておこうと思いまして。

・アーニャ登場。前章の調たち同様、この辺で出しておきたいなと思いまして。

・三人目の女、シャラン登場。まるでゲームのような軽い気持ちで殺すイメージです。

では、次回をお楽しみに!


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#72/セブン・カラー ①

長らくお待たせして、すいませんでした。


「アーニャ!?(スタンドで攻撃された……今の一瞬………!!)」

「アスナ!早く火を!」

「う、うん!」

 

手が燃えるアーニャにネギが焦る。明日菜が直ぐに駆け寄り、火を消すべく噴水の方に連れて行く。

 

「命をもらい受けるって………誰のかは知らないけれど、雇われたスタンド使いかしら?」

 

ルル・ベルがシャランに問いかける。シャランは鼻で笑った。

 

「はっ、嘲笑~!依頼人の情報を簡単に漏らすとでも思ったぁ~?けどまあ、『抹殺対象(ターゲット)』は教えてあげるわ。」

 

シャランは馬鹿にしたように笑いながら、手の甲が下になるようにして、右手人差し指でルル・ベルを指さした。

 

「抹殺対象はあなたよ、()()()()!」

「な………!?」

「ルル・ベルさんを………!?」

 

シャランの告げた事に、ネギとのどかは息を呑んだ。ルル・ベルは、唇をかんだ。

 

(やはり、お母さまは私を………!)

 

覚悟はしていた。復讐に駆り立てられた母が自分を抹殺すべく刺客を送り込んでくる事は………

 

「………今は考えている場合じゃないわ………今は、この場を乗り越える時よ………!」「ルルちゃん………!」

 

気丈に叫ぶルル・ベルを、スバルが不安そうな目で見つめた………

 

 

 

 

 

#72/セブン・カラー ①

 

 

 

 

 

七色の(レインボー・)シャラン……以前、名前を聞いたことがあるわ……スタンド使いの『殺し屋』としてね………」

 

明日菜がアーニャの手の火を噴水で鎮火させると、気を取り直したらしいルル・ベルが、シャランについて憶えている事を口に出す。4人はシャランから一定の距離を取りつつ、様子を伺っていた。

 

「ある時は焼殺、ある時は刺殺、そしてまたある時は溺死に毒殺に凍死………統一性のない殺害方法故に能力がはっきりしとしない……ついた異名が『七色(レインボー)』………!」

「こ、殺し屋って………何でそんなのに狙われてるのよアイツ!?」

 

火は鎮火したものの、殺し屋という単語に混乱して声を荒げるアーニャ。ネギとルル・ベル、のどかはスタンドを出したまま、シャランと一定の距離を取る。

 

「………戯笑、アンタたち、こう考えてるでしょ?『コイツのスタンドは近接タイプだ』、『射程距離は広い方だが、近づかなければ問題ではない』って………」

「………」

 

シャランがそう言うが、ネギたちは黙ったままであった。シャランは懐に手をやると、馬鹿にしたように笑った。

 

「けど、甘い考えなのよねぇ~♪」

パンッ

「え………?」

 

気づいた時には、ルル・ベルの右足に『白いペンキ』がついていた。何だろうと、ルル・ベルが思った瞬間、

 

パッキィインッ

「!?」

「な………!?」

 

色の部分を中心に、ルル・ベルの足が『()()()()()()()()()』!?

 

「私は既に、『セブン・カラー』の弱点を熟知してんのよぉ!!」

 

シャランが手にしていたのは、消音使用のリボルバーだった。シャランはスタンド『セブン・カラー』に右手のボックスを操作させると、右手指先から青いペンキを垂らし、形状が弾丸の形に形成されて、シャランの手元の薬きょうに収まった。

 

「ペイント弾!?」

「嗤笑、気づいても遅いわよ!!」

 

瞬間、シャランは銃口をルル・ベルに向けた!

 

「(ペンキの色によって、攻撃が違う……あれが能力!)ルル・ベルさん!!」

 

ネギとスバルは咄嗟に『魔法の射手』でシャランの拳銃を狙うが、素早く『セブン・カラー』が前に出て拳で弾いてしまう!

その隙にシャランは引き金を引き、脚が凍り付いて動けないルル・ベルに弾丸が迫った!

 

「『サイケデリック・インサニティ』!!」

 

すかさず、ルル・ベルは『サイケデリック・インサニティ』で同様にペイント弾を弾くと、地面に衝突して地面に水色のペンキが飛び散り、その飛沫がルル・ベルにも迫る!

 

ピシャッビチャ

「!」

 

しかし、その間に『イノセント・スターター』の子亀が数匹割って入り、ペンキの飛沫を甲羅に受ける。す

 

「………?」「あれ?」

 

しかし、ペンキのついた子亀には何も起こらない。のどかとルル・ベルが疑問に思うが、既にシャランは駆け出していた。

シャランは走りながらリボルバーをルル・ベルに向けると、咄嗟にルル・ベルはペイント弾を警戒したが、しかし、()()()()()()()()()()()()()()

 

『シチャァアッ!!』

「!?しま………」

 

シャランの拳銃に集中している間に、『セブン・カラー』の拳が迫っていた!咄嗟に手を交差させて防御姿勢に入るが、『セブン・カラー』の右手が接触―――

 

「ウリィィャァァアアッ!」ゴウッ

「む!?」

 

――するよりも早く、左の方からスバルの鉄拳が飛んで来たため、シャランは慌てて後方に飛ぶ!次いで、ネギの『魔法の射手(サギタ・マギカ)』とのどかの『子亀』が飛んでくると、シャランはルル・ベルから距離を取った。

 

「ルル・ベルさん!」

「!た、助かったわ………」

 

その隙に、スバルを中心にルル・ベルの左右をネギとのどかが駆け付ける。

 

「ちっ、失笑………(あんま時間かけたくないけど………この状況じゃあ、仕方ないか………)」

 

「宮崎さん、ルル・ベルさんを!僕とスバルさんで、何とか引きはがします!」

「は、はい!」

 

ネギはそう言うと、スバルと共にシャランの方へ駆け出した!

 

「!『セブン・カラー』!!」

 

シャランは突撃してきたスバルの拳をスタンドでいなし、杖で接近してくるネギにはペイント弾でけん制する。ペイント弾はネギの張った障壁で防がれてしまうが、その隙に右手をスバルに伸ばす。

スバルは咄嗟に首を曲げて避けるが、右肩に緑色のペンキがかする。瞬間、スバルのバリアジャケットの肩を緑色のカビが覆い、腐り落ちてしまった!

 

「ッ………マッハキャリバー!?」

[機能に支障はありません。しかし、私本体に受けたら………]

「ッ!」

 

マッハキャリバーに破損状況を確認したスバルは、次にあれを喰らってはいけないと警戒する。しかしシャランの攻撃は止まず、ネギを蹴り飛ばすと『セブン・カラー』のラッシュをスバルに放つ!スバルは何とか避けるが、その隙にシャランがリボルバーの引き金を引く!

 

「!?」

 

ペイント弾が当たると左足が黒いペンキで塗りつぶされ、次の瞬間には物言わぬ石に変わってしまった!

 

「そんな!?」

「隙あり!」『シチャァアアア!!』

 

スバルの動きが封じられると、『セブン・カラー」は再度スバルに右拳を放つ!しかし、咄嗟にネギが間に入って『タスク』の爪弾を発射して地面に軌道をそらす。地面に黄色いペンキがまき散らされたのをネギはスバルを抱えるような姿勢で飛び回避、シャランと再度距離を取った。

 

「スバルさん、大丈夫ですか!?」

「うん、何とか………けど、これじゃあ戦えそうにないね………あの人倒せば、スタンド能力は解除されるだろうけど………」

「そうですか…(近接タイプのスタンドとペイント弾の併用による連携攻撃………あの人、本当に強い!)」

 

ネギは、シャランの戦闘能力の高さに戦慄する。戦いが長引けばこちらが不利になるとネギが考えたその時、一瞬の隙をついたシャランが、ルル・ベルとのどかに迫っていた!

 

「!?しまっ……」

 

ネギは駆け付けようとしたが、それよりも先に『セブン・カラー』の拳がのどかに迫る!

 

「ッ……『イノセント・スターター!!』」

ドギャァッ

 

のどかは『イノセント・スターター』で防御するが、交差した腕を『セブン・カラー』の拳が直撃して半mほど後退した!

 

「ああっ………!」

 

『赤いペンキ』がのどかの腕に付着したのを見たアーニャが、自分と同じようになると思った。のどかがその腕のペンキに気づいた、次の瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュゥーーーーーーッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

のどかの右腕から、()()()()()()()()()()()()()

 

「グゥッ………ゥ……!?」

「のどかッ!!」

 

噴出した血にのどかの顔がゆがむ。恐らく、腕に傷を負ったのだろう。近くにいたルル・ベルが声をあげ、『サイケデリック・インサニティ』の拳を叩き込むが、シャランは『セブン・カラー』を素早く引っ込めて回避した。互いのスタンドの射程距離の差が出てしまった。

 

「………?」

 

この様子を見ていたアーニャは、疑問を抱いた表情となっていた。そばにいた明日菜はのどかの負傷に目が行って気づいていなかったが、アーニャが呟いた。

 

「おかしいわ………」

「え?何が?」

「今、あのノドカが赤いペンキが付いたのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ………」

「え?」

 

明日菜がそれを聞いて、首を傾げた。のどかはポケットからハンカチを出すと、スタンドを使って腕に結び止血する。

 

(色………同じ色なのに、『火』と『血』………?)

 

明日菜は考えていた。ふと、そういえば先ほど、『イノセント・スターター』の「子亀」にペンキが付いたのに、ダメージがなかった事を思い出す。

何か関係があるのかと考えた時、ふと、先日部活の関係で読んだ本を思い出し、気づいた。

 

「もしかして………!」

 

気付いた明日菜はすぐさま、『パクティオーカード』を取り出すと、ネギに念話を送った。

 

【ネギ、アイツの足を止めて!】

【アスナさん…?】

【『タスク』でも魔法でもいいから!そうしたら、私に()()()()()()()()()()!】

【は、はい!】

 

ネギは訳が分からない様子であったが、すぐさま攻撃準備に入る。明日菜はアーニャに振り返った。

 

「ありがとうアーニャちゃん。おかげで、アイツの『弱点』に気づくことが出来たわ。」

「え?」

 

礼を言われたアーニャは訳が分からない様子であったが、明日菜は構わずにシャランに向き直ると、パクティオーカードを持って呪文を唱えた。

 

来たれ(アデアット)!」

 

 

 

 

 

←to be continued…




72話です。
・セブン・カラーは近接タイプだけど、能力の応用は効きますね。拳銃構えながら突進してくるのは、『変人偏屈列伝』のタイ・カッブを参考。
 どうでもいいけど、久しぶりにマッハキャリバーがちゃんと喋った気がする……

・シャランは口癖でどれだけキャラ付けできるかと考えての実験です。意外と「〇笑」とつく言葉を探すのが大変でした。

・『セブン・カラー』の能力の糸口を掴んだ明日菜。次回、反撃開始です。

では、次回をお楽しみに!


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#73/セブン・カラー ②

2年生の後輩の帰った文芸部の部室で、徐倫は千雨とライトノベルを読んでいた。

 

「………ねえ、千雨?」

「んー?」

 

ネットアイドル活動の参考にライトノベルをよく読みに来ている千雨は、『プリンセスに熱愛中(オーバーヒート)!!』の最新刊に目を向けたまま何気なく返事をした。

 

「リサリサばぁちゃんから、お前の相談のってやってくれって言われたんだけど、何かあったの?」

「………」

 

千雨は徐倫の質問を聞きながらも、ライトノベルから目を離さないでいた。徐倫はその様子を見て「やれやれ」とため息をついた。

 

「付き合い長いから、何かあったのかはなんとなく分かるけどさー………辛くなったら、話してくれていいのよ?」

「………うん、あんがと。」

 

徐倫に、少し照れくさそうに感謝する千雨。本から目を離して徐倫の方に向き直り、口を開こうとしたその時、部室のドアが勢いよく開いた。

 

「長谷川、いる!?」

「アキラ?」

 

入って来たのは、アキラとティアナだった。息の上がった2人は千雨の顔を見ると、安堵の表情となった。

 

「よ、良かった……無事みたいで………」

「な、なんだ?どうかしたのか?」

 

自分の顔を見て安心した様子の2人に戸惑う千雨。ティアナが説明をした。

 

「いや、ホル・ホースが、この街に『ヤバいスタンド使い』が来たって言って………あんたを狙ってるかもって………」

「何!?」

 

ティアナの説明を聞いて、弾かれたように立ち上がる2人。しかし、千雨の所にいないとなると………?

 

「他の奴が………特に、ルル・ベルが心配ね………探すわよ!」

「うん!」

 

4人は頷きあうと、部室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#73/セブン・カラー ②

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル………」

 

一方、シャランと戦うネギは、明日菜の念話で頼まれた通り、シャランの足止めを行おうとしていた。

 

「あらあら嘲笑~……まーだ抗おうっての~?譏笑って感じねぇ~!」

 

シャランは嘲笑いながら、ネギにリボルバーの銃口を向ける。しかし、ネギは構わずに詠唱を続け、叫んだ!

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)雷の17矢(セリエス・フルグラーリス)!!」

ドババァアッ

「おっと!」

 

シャランは、放たれた17発の魔法の矢を、『セブン・カラー』で弾いて、防御する。弾かれた魔法の射手は地面や街頭に当たってスパークを起こした。

 

「ハン、誹笑!この程度どうって事………!」

 

「どうという事ない」と言い切るよりも前に、シャランの右足に鋭い痛みが走った。見れば、右足がまるでナイフで切られたかのようにズタズタに切り裂かれていた!

 

「!?ッ………なん……!?」

「あなたが『銃とスタンド』の併用なら、僕は『魔法とスタンド』の併用ですよ!」

 

遅れて血が噴き出し、膝から崩れ落ちるシャランに、指先で爪を回転させたネギが言い放つ。

ネギは、シャランが『魔法の射手』に気を取られている間に『タスク』を発射して、シャランの足を切り裂いたのだ!

 

「サンキュー、ネギ!」

 

シャランが崩れ落ちた瞬間、明日菜は『ハマノツルギ』を振りかぶって駆け出す!

 

「アスナさん!そのまま真っ直ぐです!」

「OK!」

 

明日菜は返事をしつつ、シャランに真っ直ぐ向かって行く。

 

「ッ……ナメんじゃないわよ!!」

『シチャァアアアッ』

 

シャランが叫ぶと同時に、『セブン・カラー』が殴り掛かる!しかし、アスナは避けようとはせずに突っ切り、腕や足、わき腹に赤・青・黄色のペンキがついてしまう!

 

「ハンッ嘲笑!所詮はこの程度――――――!?」

 

明日菜に攻撃を当てたシャランはあざ笑うが、向ってくる明日菜の顔を見た瞬間、その顔は焦りに引きつった。

 

「な!?(ナニィイ~~~!?こ、コイツ………!?)」

「でやぁあああああッ!!」

ドギャァッ

「ベグッ!?」

「「「………!?」」」

 

明日菜の振るった『ハマノツルギ』が、シャランの左の頬に直撃し、シャランは回転しながら吹き飛んでうつ伏せにスライディングして倒れた!

 

「な………何が起きたの……!?何故、明日菜にペンキが付いたのに、何も起きないの……!?」

 

ルル・ベルが困惑して呟く。ふとネギは、振り切った状態から立ち上がった明日菜の様子を見て、ある事に気が付いた。

 

「!?あ、アスナさん………!」

 

 

 

 

 

明日菜は、()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「め、目をつぶっている……?」

「「「「え?」」」」

 

訳が分からず、キョトンとネギ。すると、シャランが起き上がって、明日菜に向けて叫んだ。

 

「!?な、何よアンタ……!?目を閉じる、なんて………!?」

「やっぱりそうだわ。あんたのそのスタンドの能力………その『正体』と「弱点」が、これでハッキリしたわ………」

「………なん、ですって………?」

 

困惑したシャランに、明日菜は目をつぶったまま得物の切っ先を向けた。

 

 

 

 

 

「アンタの能力は、「ペンキを塗って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」能力!!」

 

 

 

 

 

『!?』

 

明日菜の告げた事に息を呑む一同。しかし、ネギは少し困ったように伝える。

 

「………あの、アスナさん、シャランさん、もっと右の方です。」

「あ、こっち?」

「ちょっと行き過ぎです………」

 

切っ先が全然違う方を向いていたので、微妙に決まらなかった。少し混乱していたルル・ベルが、明日菜に聞いた。

 

「ぬ、塗られた色から、連想するダメージって………」

「人って、同じ『色』を見てもそれぞれで連想するものって違うでしょ?その連想から『思い込ませて』、ダメージに置き換える能力なのよ。」

 

その証拠に、と、明日菜は続けた。

 

「アーニャちゃんは赤い色から『炎』のダメージを受けたけど、本屋ちゃんは同じ赤色から『血』を連想して、血が噴き出した………」

「ああ!」

「そうか………さっき『子亀』にペンキが付いても何も起きなかったのは、『子亀』自体には『連想する脳』が無いから………!」

 

説明を聞いていたのどかが気づいたように言う。

シャランの殺しの方法に統一感がない理由も、これで分かった。色を見て感じるものが違うため、統一がされる訳がないのだ。

 

「だから、こうやって『見ないように』すれば、アンタの能力は無力化できるわけよ!」

「『目をつぶる!』単純だけど、結構効果的だ……!」

 

目をつぶったまま言い放つ明日菜。シャランは冷や汗をかきながら悔し気にしていたが、直ぐに冷静になって笑みを浮かべた。

 

「失笑………、やっぱ時間をかけた上に、同じ色使ったのはマズったなぁ………けど憫笑、目を閉じたままで、私を倒せるとでも?」

 

シャランは立ち上がろうとするが、直ぐに切り裂かれ出血する足の痛みに顔をゆがませた。

しかし、明日菜は直ぐに駆け出した!

 

「倒せるわよ!アンタの声とネギの指示で場所は分かるし、それにその『足』じゃあ、素早く動けないでしょう!!」

「!そのために足を!?」

 

明日菜の言う通り、シャランは足の傷でうまく動けないでいた!

 

「アスナさん!今です!振り下ろして!!」

「!?し、しまっ………」

「どりゃぁあああッ!!」

ゴシャァッ

「ッ!?わ、笑え……ない………」どさっ

 

明日菜はネギの指示で『ハマノツルギ』を振り下ろすと、逃げる間もなくシャランの脳天に直撃!シャランは白目を向いて気絶してしまった。

 

シュゥウン………

「あ………」

 

シャランが気絶して『セブン・カラー』が解除されたため、ルル・ベルの足の凍結とスバルの石化が解かれ、のどかの腕の出血も止まった。

 

「ありがとうアスナー、助かったよぉー………」

「けど、よく気づきましたねー?」

 

手足の感覚を確かめながら、スバルたちが集まる。のどかに聞かれた明日菜は目を開けると頬を指でかきながら答えた。

 

「いやぁー、最近美術の本で『暖色』と『寒色』の事読んだから、その事思い出して……」

「そういえば『美術部』でしたね、アスナさん。」

 

ネギが思い出したように言う。すると、未だ混乱した様子のアーニャが近づいて来た。

 

「な、何なのよネギ………さっきの爪も……あの女の人も………」

「あ、うん、アーニャ、説明はするけど………」

 

ネギは少し困ったように、気絶するシャランが「ううん…」と唸るのを見た。

 

「また、起きるといけませんね………」

「どうする?」

「………とりあえず、『敗北感』を刻むためにも、1人「1発ずつ」ぶん殴るって事でどう?」

「「異議なし。」」

「へ?」

 

 

 

 

 

バギッ!ボガッ!

ドグシャァッ

「ぎゃん!?」

 

 

 

 

 

七色の(レインボー・)シャラン―――再起不能(リタイア)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「……参ったぜ、まさかあのシャランをブチのめしちまうなんてよぉ………」

 

麻帆良総合病院の診断室前で、ホル・ホースが呆れたように言う。

 

シャランのヤバさを聞いていた彼が慌てて千雨やルル・ベルを探していたのだが、到着した頃には、既にシャランはリタイアしていた。その後、アーニャの火傷やルル・ベルの凍傷等の治療を行い、大量に出血したのどかも血の量に反してあまりダメージはなかったらしいので、その日のうちに寮に帰れるようだ。

 

「シャランは、SPW財団が連行したわ。案外ラクに倒せたみたいで、拍子抜けね……」

「ま、手品の()()なんざ、分かっちまえばどーってコトないモンだからなぁー……」

 

ティアナが肩を落として言うと、ホル・ホースはにやりと笑いながらそう言った。

 

「いいからー!さっさと帰るわよネギー!」

「お、落ち着いてよアーニャ………」

 

一方、火傷の治療を受けたアーニャは、ネギの手を引っ張り叫んでいた。

ネギたちからこれまでの経緯を聞いたアーニャは信じられないとばかりに騒ぎ、ネギを無理やりウェールズへと連れ帰ろうとしているのだ。

 

「こんな危険な場所にいたら、心配になるでしょう!いや、私じゃなくて、ネカネさんがだけど………とにかく!帰るわよ!!」

「いや、そういう訳にも………」

 

強情に連れ帰ろうとするアーニャに困るネギ。すると、アーニャの後ろから徐倫が現れてひょいと、ネコか何かをつまみ上げるかのようにアーニャを持ち上げてしまった。

 

「落ち着きなよー、他の患者さんにメーワクでしょ?」

「な、何よイキナリ!?」

 

いきなり持ち上げられて驚くアーニャ。すると、徐倫の後ろにいたルル・ベルがこう告げた。

 

「………シャランを差し向けてきたのは、私の『実母(はは)』よ。」

「え?」

「『()()()()()()()()()()()()()()()』………これが何を意味するか分かる?」

 

ルル・ベルが冷静に言うと、アーニャは押し黙った。

 

「……自分の娘の死も気にしない………『どこに逃げても、刺客を差し向けてくる』………!」

「そう。むしろ、麻帆良から出ない方が安全よ。」

 

ルル・ベルにそういわれ、アーニャはショックを受ける。落ち着いたらしい彼女を徐倫が下すと、ネギが話しかけてきた。

 

「アーニャ。確かに麻帆良(ここ)から逃げることは出来る………けど、ここで逃げ出してしまえば、僕は千雨さんや明日菜さん達を見捨てる事になってしまう………それは『教師の責任』から、『立派な魔法使い(マギステル・マギ)の道』から………『()()()()()』から逃げてしまう事になる………みんなの担任になった以上、僕はそうする訳にはいかないんだ………」

「ネギ………」

 

ネギの真剣なまなざしに、アーニャはつい見入ってしまった。すると、それを聞いていたホル・ホースとルル・ベルが口を開いた。

 

「おうおう、小僧(ガキ)がいっちょ前に肩に力入れてよく言うぜェー………オジサン、ホレちゃいそうになっちまったよ。」

「アーニャ、彼を巻き込んだのは私の責任でもあるわ………そんな私が言うのもなんだけど、彼の『覚悟』は相当固いものよ?」

「う、うううー………」

 

アーニャはそこまで言われて、しばし唸った。そして、観念したのか肩を落とした。

 

「分かったわよ………まったく、昔からガンコなんだから………」

 

アーニャが納得したのを見て、ほっと胸を撫でおろす一同。

 

「さてと、納得してもらった事だし………最後に『ひと仕事』しますか………」

「そうですねー………」

「え?」

「な、何かありましたっけ………?」

 

明日菜とのどかがそう切り出したので、ネギが少し困惑する。2人に加えて、ルル・ベルとスバルもそうね、と頷いた。

 

「………シャランから『クリーニング代』()()()()()()もらうよう、SPW財団に頼むのよ。」

「「「あー………」」」

 

4人の制服や顔には、ペンキがべったり付いたままであった………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「やあネギ君、大変だったみたいだね。」

「あ、タカミチ。」

 

ネギたちが病院から出ると、タカミチがタバコをふかしていた。明日菜はこんな格好で…と照れていると、タカミチは笑いかけながらネギとルル・ベルに話しかけた。

 

「さて、君たちに『いい知らせ』と『悪い知らせ』があるんだけど………」

「………何かしら?」

「まずは『いい知らせ』から………ルル・ベル君たちが『矢』で射抜いたという「スタンド使いのカラス」が見つかった。麻帆良学園南にある、雑木林だ。」

 

タカミチがそう伝えると、ネギたちはおお、と驚く。

 

「思ったよりも早かったわね……それで、悪い知らせと言うのは?」

 

ルル・ベルがそう聞くと、タカミチは真剣な顔になって、こう告げた。

 

「………そのカラスに、魔法先生3名が『倒された』………」

 

 

 

 

 

←to be continued…




73話です。
・千雨が読んでいたラノベは、カーレンジャーのサブタイトルが元ネタです。何となくラノベにありそうな感じだと自分では思ってますw

・シャランのスタンドは、色でダメージが決まっている訳じゃないちょっと変則的な能力。明日菜の美術部設定って、原作だと学園祭編でしか活かされていなかった気がしたので、今回、活路の為にちょっと出してみました。

・次回はカラス編になると思います。ある面々が再登場する予定なので、お楽しみに。

では、次回をお楽しみに!


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#74/怪鳥シルバークロス ①

シャラン襲撃の翌日、カラスと対峙した3人の魔法先生の中で比較的軽傷であった瀬流彦とガンドルフィーニの2人が、学園長室で学園長と承太郎、仗助、ネギ、フェイトたちに、今回の事を報告しに来ていた。

 

「いやー、お恥ずかしい限りです………」

「………今回ばかりは、自分の軽率さが原因です……」

 

頭や腕に包帯を巻き、頬などのガーゼが痛々しい2人が恥ずかし気に言う。なお、同行していた神多羅木先生は、足を骨折して全治1カ月の入院である。

 

学園長が、2人に聞いた。

 

「それで、何が起こったのかね?」

「はい………」

 

ガンドルフィーニは、事の次第を話し始めた。

 

 

 

 

 

#74/怪鳥シルバークロス ①

 

 

 

 

 

「調査の結果、件のカラスは南側にある雑木林周辺を縄張りにした、『シルバークロス』であるとわかりました。」

「シルバークロス?」

「ああ。左足に、どこかで拾って来たらしい十字架のシルバーアクセサリーを付けている事から、そう呼ばれているそうだ。」

 

仗助の疑問に答える瀬流彦先生。承太郎は「カラスにしちゃあゼータクな名前だな。」とつぶやくと、ガンドルフィーニが続けた。

 

「情報では、ここ数ヶ月の間に雑木林に巣を構えていたカラスの群れがシルバークロスを除いて一斉に他所へ引っ越してしまったそうで………恐らくは『スタンド』で追い払ってしまった可能性もあるかと………」

「なるほど………」

 

そこまで言うと、ガンドルフィーニはふうとため息をつき、眼鏡をかけなおした。

 

「私はそれを知ると、学園長の指示を待たずに雑木林に突入しました………『異能力(スタンド)が使えるとはいえ所詮はカラス』と、侮っていたからです………」

「……俺の経験上、むしろ『人間以外』のスタンド使いの方が厄介な印象だな。」

「きっと、動物の「本能」的な部分の差なんでしょうね………」

 

承太郎は、『(ストレングス)』のオランウータンや『イギー』、『虫食い』に『猫草(ストレイ・キャット)』の事を思い出しながら言うと、ネギが思ったことを口にした。スタンドは生命エネルギーから生み出されるものなので、むしろ動物の方が強いのかもしれない。

 

「瀬流彦先生と神多羅木先生の静止も聞かずに林に入ると……目の前にあのカラス……シルバークロスが、自分たちの行く手を阻むように、地面に立っていました………」

「カラスの姿に驚く間もなく………次の瞬間には………傍に立っていた木が大きく()()()………我々に襲い掛かってきたのです!」

 

瀬流彦の告げた状況にネギたちは驚くが、承太郎は冷静に「明らかにスタンド能力だ。」と呟いた。

 

「幸い、早くに気づいたので避けることはできたのですが、その隙にシルバークロスは飛んで行ってしまい、追いかけようとした瞬間………」

 

ガンドルフィーニがそこで言いよどむ。しばし沈黙した後に、瀬流彦が口を開いた。

 

「………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………!」

「な!?」「………」

 

瀬流彦の言葉に、息をのむ一同。

 

「僕は咄嗟に避けることができましたが、瀬流彦先生と神多羅木先生はそこで負傷して動けなくなってしまいました………戸惑っていたら、いつの間にか、僕の足元にシルバークロスが立っていて………攻撃しようと思ったら………何故か身体が『金縛り』にでもあったかのように動かなくなってしまい………勝手に、僕の腕が意思とは無関係に動いて………奇妙な事を言うかもしれませんが、気づいたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………!」

「何………?」

 

ガンドルフィーニは自分でも何をされたのか分からずに混乱している様子であった。何らかのスタンド能力を受けたのは確かであるが、スタンドを見る事の出来ない者からしたら恐怖であろう。ガンドルフィーニは顔を曇らせながら、ズボンのポケットを探り、携帯電話を取り出した。

 

「しばし倒れて、少しの時間気絶をしていたら、ヤツはいつの間にか僕の携帯電話を取り出していて………器用に足で操作をすると、画面をこちらに見せてきて………この文章を入力していたんです………」

 

そう言って見せた携帯電話の画面には、メール機能で文章が入力されていた。

 

[折れ煮地下ずくな。血数いたらコロス。]

 

「………俺に近づくな、か………」

「相当賢いようだな………それも、()()()()意味で………」

 

仗助がぞっとしたように言うと、承太郎がやれやれと呟いた。漢字変換を間違えてはいたものの、意味は十分に分かった。

 

「その後、応援で駆け付けた刀子先生らに救助してもらいました………後で、そのワゴン車は数日前に盗難されていた事が分かりましたが………車には、(キー)すらかかっていませんでした………」

「……とりあえず、ボコられただけでよかったぜ………前にオレが戦ったスタンドに目覚めたドブネズミは、他のネズミをドロドロに溶かして殺した上に、人間の家に乗り込んでスタンド攻撃で無力化した上、生きたまま冷蔵庫に監禁して保存食にしていたからよォー………」

「ひえっ………」

「よ、良かったぁー!この程度の傷で済んで、ホント良かったぁーーー!!」

 

仗助が過去に経験した事を聞いてぞっとするネギとフェイト、比較的軽傷で済んだことに心から喜ぶ瀬流彦とガンドルフィーニ。意外と良心的なカラスらしい。

 

「まあとにかく、今回の事を踏まえて、スタンド使いを中心とした『シルバークロス捕獲チーム』を編成しようと思っての。君たちに来てもらったんじゃが………」

 

学園長がそう言うと、ネギたちスタンド使い3名は頷いた。

 

「相手がカラスだと、ホル・ホースさんやミスタさんのような、飛び道具を使う人がいいですかね?」

「いや、今の話だと結構賢そうなカラスみたいだからな………警戒されんだろーなぁ~………」

「相手は鳥類屈指の「賢さ」を持つカラス、それもスタンド使いだ。ここは少数鋭でいくのがベストだろうな。スタンド使いの選出は、こちらに任せてくれ。」

 

承太郎達がそう話していると、学園長がふーむ、と困った感じで唸った。

 

「?どうかしたんですか?」

「いや……実は、今回の事件を聞いて、『カラス狩り』に躍起になっている生徒がいてのぉ………一応、指令を待つようには言ってあるが………」

 

学園長が言いよどんでいると、学園長室のドアが勢いよく開かれ、1人の女子生徒が入って来た。

 

「学園長!」

「あ、あなたは………」

 

入って来たのは、先日徐倫たちに決闘を申し込んできた、高音・D・グッドマンであった。

 

「カラス狩りのメンバーにスタンド使いを中心にすると聞きましたわよ!?」

「う、うむ……やはり、専門家に任せた方が………」

「納得がいきませんわ!カラス1羽に、魔法使いがやられるなんて!面目が立ちませんわ!!」

 

高音は学園長に向けて叫んでいると、後ろからそーっと愛衣が入ってきて、ネギに話しかけてきた。

 

「す、すいませんネギ先生………」

「あ、佐倉さん………」

「お姉さま、スタンド使いに関して懐疑的だったうえに、今回の事で魔法使いのプライドが傷ついたと言って、躍起になっているんです………」

 

愛衣に説明をされて、ネギは未だに学園長に食って掛かる高音を見た。魔法使いの使命に誇りを持っている彼女からすれば、『未知なる異能力』であるスタンドは『異物』以外の何物でもなく、それに魔法使いが、しかもカラスに負けたとなれば、『プライド』が傷ついたと感じるのも無理はないだろう。

 

「やーれやれだぜ………」

「………!?」

 

高音がいつまでも騒いでいると、今まで黙っていた承太郎が帽子をかぶりなおしてそう呟いた。しかしその声には怒気が籠っており、高音を含めた全員が静まった。

 

「お前のプライドが傷ついたんで立候補するんならいいんだが、スタンドはスタンド使い以外には『見えない・触れない・戦えない』の三重苦なんだぜ?そんなもん、『サハラ砂漠で目隠しをして、一粒の砂金を探す』ようなモンだ………それでも行くってのかい?」

「う………」

 

承太郎のプレッシャーの籠った説得に高音はぐ、と押し黙った。承太郎は高音が黙ったのを見ると、学園長に向き直った。

 

「今回の「カラス狩り」、魔法使いサイドはコイツら2人でいいか?」

「う、うむ………後は、スタンドの見えるティアナ君でもいれば、いいかのぉ………」

 

学園長はそう言うと、『シルバークロス』の捕獲を今週末の土曜日に設定、スタンド使いの選出を承太郎たちに任せ、この場は解散となった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

そして迎えた土曜日、グリーンドルフィンストリート麻帆良の前に、今回選出された捕獲チームが集合していた。

 

「………今回は、よろしくお願いします。」

「ええ、こちらこそ………」

 

ぶっきらぼうに挨拶をする高音に苦笑する愛衣とティアナ。その後ろで、仗助とチンクが呆れた表情でため息をつき、ネギが困ったような顔をしていた。

 

「だ、大丈夫かなぁー………?」

「あの姉さん、結構プライド高いタイプみたいだしなぁー………」

「今回行くのは、これで全員か?」

 

チンクが仗助に聞くと、ティアナが答えた。

 

「ううん、あと1人いるわ。私が推薦したいスタンド使いがいるって言ったら、了承してくれて………」

「あと1人?」

 

愛衣が首をかしげて聞いた。

 

「ええ。今回みたいな時に役立つであろう、スタンド使いよ。現地で落ち合う手筈になっているわ。」

 

ティアナがそう説明をするが、一同は首を傾げたままであった。

 

「けどよぉー、アニキやチンク姐さんはともかく、仗助のダンナの『クレイジー・ダイヤモンド』は射程距離あんまないんすよね?カラス相手に、どうするんスか?」

「そういえば、スタンドには『射程距離』があるんでしたね………」

 

雑木林に向かう中、カモが仗助に聞いた。

確かに、ネギの『タスク』の爪弾やチンクの『スティンガー』はともかく、仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』は射程距離が2mほどしかない。飛び回るカラス相手では不利であろう。

 

「安心しな。例え近接パワー型の『クレイジー・ダイヤモンド』でもよぉー、攻撃手段はいくらでもあるんだぜぇー」

 

そう言うと、仗助は背負ったバッグの中からケースを取り出した。中には金属製の、直径が1㎝にも満たない球がいくつも入っており、ヂャラ、と音を立てた。

 

「………それは?」

「『ベアリング(軸受け)』の球だ。まあ見てなって。」

 

仗助は近くの柵の柱に空き缶を2,3個置くと数m距離を取った。そしてベアリングの球を『クレイジー・ダイヤモンド』に持たせると、それを指で弾いて飛ばした!

 

ガンッガンッ

「おお!」

 

放たれた球は空き缶に見事命中して撃ち落された!

 

「成程、所謂『指弾(しだん)』ですわね………」

「おうよ。前にコイツで『ドブネズミ』を仕留めたんだ。それから何回か練習してよぉー、結構命中率は上がったぜぇー」

 

感心して思わずつぶやく高音に仗助が答えた。射程は20mほどだが、カラス相手には有効な方であろう。

 

「成程、ネギ先生の爪弾と仗助先生のベアリングなら、『不意打ち』には持ってこいって訳ですね!」

「そーいう事。『不意を突く!』!野生の動物相手にゃ、これが一番効果的ってワケよぉ!」

 

愛衣が声を弾ませた。高音は少し悔しい気もしたが、仗助の意見には賛同ができた。

 

「さて、例のカラスのスタンドなんだがよぉー、」

 

移動をしながら、仗助は話し始めた。

 

「ガンドルフィーニ先生の話からすると、『何らかの方法で操る』能力と考えられる。この手の能力には、操るための条件(スイッチ)があるはずだ。」

()()()()、ですか?」

 

ネギが聞き返した。

 

「ああ。オレの故郷の『杜王町』に、『サーフィス』っていう触った相手をコピーする人形のスタンドを使う間田っていう先輩がいるんだがよぉー、そのコピーした人形は、『コピー元の人間と向かい合うと、身体の自由を奪って操る』っていう能力を持っているんだ。つまり、この場合のスイッチは『向かい合う』ことだ。」

 

仗助の説明になるほど、と相槌を打つネギたち。仗助は続けた。

 

「とにかく、相手をよく『観察』するんだ。そうすれば能力の正体が、自ずと見えてくるからなぁ………「落ち着いて」行動をするのが先決だぜ………」

 

仗助は、4人にそう注意をした。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

20分くらいかけて雑木林に着いた一行は、入り口付近にあった()()を見て、動けないでいた。

 

「………コレは、『ワナ』、ですね………」

「ああ。」

 

それを見たネギが言うと、仗助が肯定した。

そこにあったのは、紛れもなく『罠』であった。ただし、ネギたち『人間』に向けた物ではなく、『カラス』に向けたワナであった。

 

高さが50~60㎝くらいはあるカゴが逆さまになって1本の棒で斜めにされ、その下にはエサが皿に乗っており、棒にはひもがくくられて、その先端は近くの茂みまで続いていた。

 

「………あの、確かランスターさんの推薦した方って、もうココに来ているんですよね?」

「うん………」

 

愛衣がティアナに聞くと、ティアナは苦笑して頬を掻いた。あまりにも『古典的』にも程がある罠に誰もが呆れていると、近くでバサバサッという鳥の羽ばたきが聞こえた。

 

「!?ヤツか……!?」

「全員、木の影とかに隠れろ!」

 

仗助が指示を出すと、皆は木の影に隠れた。

 

「カァーッカァーッ」

 

そのすぐ後、カゴの罠を背にして現れたのは、左足に十字架のアクセサリーを巻き付けた1羽のカラス・シルバークロスであった。地面に降り立ったシルバークロスは周囲をキョロキョロと見渡した後、直ぐに後ろの罠を見て、ヒモの行く先を目で追った後、まるでため息でもつくかのようにクチバシを開いた。

 

(やっぱ罠に気づきましたね……)

(アイツ結構賢いみたいだからねぇ………「バカにしてんのか!?」って顔してるわね………)

 

影から見たティアナが思った通りに、シルバークロス自身も呆れた様子であった。

その時、シルバークロスが振り返ったかと思うと、真っすぐにこちらの方を見ていた!

 

(!?ま、まさか………バレてる………!?)

(カラスだからってナメてかかるまいと思っていたが………野生の()()ってやつかぁ~!?)

 

仗助たちが内心焦っていると、シルバークロスはピョンピョンと跳ねてこちらに近づいて来る。そして、翼を広げようとしたその時―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後の罠のカゴが『()()()()()』、シルバークロスをすっぽりと覆うほどの大きさになった!?

 

「何!?」

 

思わず高音が声を出した時には、驚いて動作の遅れたシルバークロスに向けてカゴが閉じて、その下に囚われてしまった!

 

「か、カゴが大きくなった………!?」

 

愛衣が驚く中、カゴは中にシルバークロスを閉じ込めたまま元のサイズに戻った。その様はさながら、虫を捕らえたカエルの舌である。

 

「この現象は、まさか!ティアナが呼んだ『スタンド使い』とは!!」

 

木の影から出てきたチンクがスタンド使いに心当たりを思い出すと、ヒモの先端のあるであろう茂みの中から、小さな女の子が出てきた。

 

「ヤッタ!大成功!!」

「ああ!た、確かコイツは、『スペースマン』の!?」

「はい、『夜叉丸 雪子』です!」

 

雪子は満面の笑みで名乗った。ティアナは、彼女の隣に立った。

 

「雪子ちゃんの『スペースマン』は『奇襲向き』の能力だからね、カラス相手には結構有利だと思ったのよ。流石にあの罠には、驚いたけど………」

「えへへ………」

「た、確かに………古典的であるが故に、完全に油断していましたわね………カラスもわたくし達も………」

 

照れる雪子に対し、『一本取られた』高音は感心するしかなかった。大停電での『心理的盲点』を突いた戦法といい、意外と頭の回る少女である。

 

「さーてと………問題はこっからだな………」

「ええ、このままシルバークロスが大人しくしている訳がないですからね………」

 

仗助とネギが、シルバークロスの捕らえられたカゴに近づこうとしたその時、

 

 

 

 

 

スポーーーンッ

 

 

 

 

 

『!?』

 

カゴが勢いよく吹っ飛び、翼を広げたシルバークロスの姿が露わとなった!

 

「カァーッ!!」

 

シルバークロスはそのまま飛び上がると近くの木の枝に止まり、仗助たちを見下ろした。

 

「……グレート。ただじゃあ済まないとは思ってたが………」

「案外アッサリ出てきたわね………しかも、」

 

ティアナがカゴのあった位置を見ると、エサの入っていた皿が空になっていた。

 

「用意されていたエサを平らげるくらいの余裕もあるみたいだし………」

「ここからが本番ですね………まさか『正面対決』になろうとは、思っていませんでしたけど………」

 

臨戦態勢となったシルバークロスを見上げながら、ネギはそう呟いた………

 

 

 

 

 

←to be continued…




74話です。
・サブタイトルは『怪人ドゥービー」から。

・今回はカラス狩りの話なんですが、『魔法使いとスタンド使い』といった感じのテーマにもなっています。

・『シルバークロス』の不気味さを出すために割と手練れな筈の神多羅木先生らには一時退場してもらいました。「所詮はカラス」と侮ったのが原因ではありますが。

・高音&愛衣コンビ、そして『スペースマン』の夜叉丸 雪子がまさかの再登場。高音は今作ではプライドを高めに設定してありますね。

では、次回をお楽しみに!


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#75/怪鳥シルバークロス ②

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。

筆の遅い自分ですが、本年もどうぞよろしくお願いします。


和泉 亜子は、アキラやまき絵、裕奈と一緒に、ウィンドーショッピングを楽しんでいた。

 

「それにしても、アキラもまき絵も、何か最近付き合い悪かったなぁー………」

「そうだねー………なんか前にも似たようなことあった気がするけど………?」

「あ、あははー………ゴメンネー………」

 

まき絵が笑いながら謝り、アキラも申し訳ない顔になる。最近になってスタンド使い達の襲撃が激しくなってきている。無関係な2人を巻き込みたくないが為に最近避ける様になってきていたので、今日は2人に付き合おうと思って誘いに乗ったのだ。

ふと、裕奈が話をしてきた。

 

「ところでさー、ルル・ベルの事、どー思う?」

「え!?」

「うーん、のどかの事もあるけど………ちょっと近寄りがたい感じあるなー………転入初日も、あんましゃべらんかったし………」

 

まき絵とアキラは裕奈の振って来た話題に少し戸惑うが、亜子は少し考えてから答えた。

ルル・ベルは転入して以来、授業は割と真面目に聞いているようではあったが、他の生徒から距離を置いている様子であった。

 

「ちょっと心配かもなぁ……何考えとるかわからんとこあるけど、せっかく同じクラスになったわけやし、なかよーなりたいなぁ………」

「うん、そうだね………」

 

アキラがそう言うと、まき絵と裕奈も頷いた。ふと、亜子が振り返ると、同じ茶髪の双子が目に入った。

 

「おや、皆さん。」

 

その内の1人、茶色い短髪の少年が話しかけてきた。その少年の顔を見た亜子が気づいた。

 

「あ、あん時の………?」

「あ、オットーにディード。」

「ん?まき絵たち、知り合い?」

 

まき絵が2人と親し気に話すのを見て、裕奈が聞いた。まき絵はちょっと慌てたが、アキラが代わりに答えた。

 

「えーと、ス、スバルのお姉さんの知り合いで、今、スバルの家に泊まっているんだって………」

「そ、そうそう!」

「ふーん……」

 

裕奈は若干腑に落ちない風に言う。一方の亜子は、オットーから目が離せないでいた。

 

「あ、あの!きょ、京都では、どうも………」

「あ、いえ、それほどの事は………」

「あれ、亜子も知り合いなの………?」

 

首を傾げる裕奈であったが、亜子はオットーを見つめるばかりであった。それに気づいたらしいディードが、若干むっとしたようにオットーの腕を引いた。

 

「………オットー、行きましょう?」

「あ、うん………それでは、これで………」

「あ、はい………」

 

オットーが立ち去る中、頬を紅く染めた亜子は、その背中をずっと見ていた。

 

 

 

 

 

#75/怪鳥シルバークロス ②

 

 

 

 

 

雑木林の中、ネギたちはスタンド使いのカラス・シルバークロスとにらみ合っていた。

 

「とはいえ、だ……オレ達は互いに能力を理解していない………」

 

仗助は、シルバークロスを睨みつけて言った。

スタンド使いの戦いで、能力を知られる事はそのスタンドの弱点を突かれる事につながるため、能力の割れている場合などは苦戦を強いられる場合がある。故に今は、互いに腹の探り合いの状況だ。

 

「下手に動くのは危険だ………ここは慎重に………」

「いいえ、埒があきませんわ!」

 

高音が叫ぶと、足元の影が噴出して人型になり、それはヴェネツィアのカーニバル衣装を思わせる黒い装束の『使い魔』が5体出現した。高音は、『影』を操る魔法使いのようだ。

 

「まて!早まるんじゃあ………」

「いいえ!これ以上カラスに『嘗められ』るのは我慢なりませんわ!!

 

仗助の制止を振り切り、使い魔をシルバークロスに向かわせる。プライドが先行して、冷静な判断が出来ていないようだった。

影たちはシルバークロスに殴りかかるが、シルバークロスはヒラリと避けてしまう。着地した影たちは追撃をしようとするが、飛んで来たシルバークロスが、影の一体の頭にチョコンと乗っかった。

 

「!な、なんて無礼なぁ!!」

 

激昂した高音が叫ぶと、影たちがシルバークロスに迫る!

 

ドシュッ

 

「!?」

「何!?」

 

しかし、シルバークロスが乗っかった影が振り返ったかと思うと、何と、他の影を攻撃してきたではないか!

 

「な、何だ!?」

「まさか、あのカラスの支配下に置かれたのか!?」

 

仗助が驚いているのもつかの間、他の影を排除し終えると、シルバークロスの操る影がこちらに迫ってくる!

 

「お、お姉さま!影に攻撃を止めさせてください!」

「だ、ダメですわ……コントロールできない………!?」

「くっ……!」

 

焦った表情で高音が言う。迫ってくる影に対し、ティアナが前に出て『クロスミラージュ』を構えると、シルバークロスめがけて魔力弾を放つ。

 

「カァー!」

ゴパッ

 

シルバークロスは影に魔力弾を弾かせると、影を地面に着地させる。影は小刻みに左右にステップを踏むと、かかってこいと言わんばかりに手招きをした。

 

「何だぁ~?カンフー映画の主人公にでもなった気か?あんだけ動いてんのに乗っかってるお前が全然よろけもしねーのはすげーがよぉー………」

「カァーッ!!」

 

シルバークロスがひと鳴きすると、影が一気に飛んできて距離を詰め、ティアナに殴りかかって来た。

ティアナは咄嗟に避けると、既に『スティンガー』を構えていたチンクが投擲!影の眉間に突き刺さった!

 

「カァッ!?」

 

飛び退いたシルバークロスの目の前で影が消滅すると、愛衣とネギの放った『魔法の射手』をひらりとかわして地面に降りた。すると、周囲に散らばった木の枝が浮き上がってネギに迫った!

ネギは咄嗟に『(タスク)』で斬り裂いて回避するが、その隙に今度は近くの大木が大きく()()()、大量の木の葉や枝が散弾のごとく降り注ぐ!

ネギと愛衣は咄嗟に障壁を張って防御をすると、シルバークロスは低空飛行で接近する!

 

「なんの!」

 

しかし、仗助が懐から取り出したベアリング弾を取り出して発射する!シルバークロスは驚きこそしたがひらりとかわし、ティアナの足元に着地した!

 

「な………!」

 

驚いたティアナであったが、すぐに攻撃しようとした。しかし、どういう訳かシルバークロスに睨まれた瞬間、体が金縛りにでもあったかのように動かない!?

 

「テ、ティアナ!早くそいつから離れるんだ!」

「だ、だめ………う、動けないし、勝手に………!」

 

ティアナは困惑しながら言うが、その腕がゆっくりと上がり、クロスミラージュの銃口が仗助たちに向けられた!

 

「!?」

「に、逃げて!」

 

ティアナが叫ぶと同時に、銃口から魔力弾が放たれる。仗助たちは左右に飛び退き、チンクは『スティンガー』をシルバークロス目掛けて投擲!シルバークロスが刹那の差で飛び立つとスティンガーは地面に刺さり、ティアナは前のめりに()()()()()ように解放された。

 

「ティアナさん!」

「だ、大丈夫よ………それより、あいつの『操る』能力………結構厄介ね………」

 

上空で旋回しながら様子をうかがうシルバークロスを恨めし気に睨むティアナ。これまでの、ガンドルフィーニ先生の証言と合わせて『能力』の切っ掛けを考えるが、ガンドルフィーニ先生は足元に立たれ、使い魔の影は頭に乗られ、ティアナはにらまれると、3人とも状況がバラバラだ。

何か、探る手立てはないものかと考えていると、愛衣が意を決したように名乗り出た。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

上空から様子を伺っていたシルバークロスは、目下の雑木林の少し開けた場所で、先ほどのニンゲンのうちの1人が箒を構えてキョロキョロとあたりを見回していた。

恐らくは散開して自分を探しているのだろうかと考えたシルバークロスは、からかってやろうと思いつき、音もなく木の上に降りた。

ニンゲン―――愛衣が不安そうな面持ちであたりを見回していると、不意に、周囲を落ち葉が吹雪の如く襲い掛かった!

 

「え?きゃぁあああああああああああああ!?」

 

突然の木の葉に驚いて悲鳴を上げる愛衣。シルバークロスはそれを嘲笑うように低空飛行で接近、彼女の足元に着地した。

 

「っ………!」

 

愛衣はそれを見て息を呑んだ。ガンドルフィーニの報告を聞いていたために、自分も同じ目に合いかねないと思ったからだ。

愛衣が身体の自由が利かなくなり、シルバークロスはしたり顔で笑ったその時、

 

「い、今です!」

「!?」

「はぁあああーーーーーー!!」

 

愛衣が叫んだ瞬間、肩から『小さな影』が飛び出てきたかと思うと、それは一気に巨大化!ティアナが、『ダガーモード』となったクロスミラージュを構えて突っ込んできた!

 

「カァーッ!!」

 

シルバークロスはダカーの切っ先が翼に掠ったものの、その場から離脱してしまった。

 

「に、逃げられた………」

「ええ、けれど、おかげでヤツの能力がわかったわ………」

 

愛衣は、自らがおとりとなってシルバークロスに接近し、『スペースマン』の能力で小さくなったティアナがその能力を探ろうと考えたのだ。

結果として、ティアナはシルバークロスの能力の正体を掴むことに成功したのだ。早速、他の場所に身を隠した皆に連絡をした。

 

【皆、シルバークロスの能力の正体を見たわ。】

【ほ、本当ですか!?】

【ええ、あのカラスのスタンドの正体は―――】

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――『()?』」

 

ティアナからの念話を聞いたネギからスタンドの正体を聞いた仗助が、聞き返した。

 

「はい。ティアナさんが言うには、あのカラス、シルバークロスが佐倉さんの影を踏んだ一瞬、その足元から『黒い渦巻のような模様』が影に広がるのを見たそうです。」

「影を踏むのが、発動の『条件(スイッチ)』ということか……?」

 

チンクが聞き返した。そういえば、と仗助がつぶやいた。

 

「ガンドルフィーニ先生とティアナが操られていた時、奴は足元にいた…影を踏むためだろうな………」

「じゃ、じゃあ、わたくしの使い魔は………?」

 

高音が困惑したように聞く。確かに、高音の使い魔が操られた時、シルバークロスは使い魔の『頭の上』にいた。ティアナの言う条件には当てはまらないように思えるが………?

しかし、それに雪子が手を挙げて言った。

 

「あの、高音さんの使い魔は『()()()()()』だからなんじゃあ………?」

「あっ………」

「成程、では、高音殿にとって、シルバークロスは『天敵』になるな………」

 

言われて、ぐぬぬと悔しそうになる高音。影を操る高音にとっては、影を媒介にものを操るシルバークロスを相手にするには、かなり苦戦するだろう。

ネギは苦笑しつつも、何か作戦はないかと考えていると、不意に仗助が口を開いた。

 

「……チンクよぉー、ちょいと頼まれてはくれねーかぁ~?」

「何?」

 

仗助の提案に、チンクは小首をかしげた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

先ほどの奇襲を受けて、シルバークロスは警戒を怠らなかった。

木の上で休みながら周囲に気を配っていると、休んでいる木の周囲3方向から、人の来る気配がした。先ほどの連中だろうと思い見渡していると、不意にがくん、と『下に沈む』ような感覚を覚えた。

何事だろうと考えていたが、その時、自分の視線がぐんぐん下がっている事に気が付いた!

 

「『スペースマン』………木の大きさを『小さくした』………!」

「カァッ!?」

 

そこでようやく、彼は自分の止まっていた木の根元にいつの間にか小さなニンゲン(雪子)

がいる事に気がついた!おそらくは、小さくなる能力でここまで近づいてきたのだろうと理解をするよりも早く、周囲から他のニンゲンたちも飛びかかってきた!

 

(タスク)!!」

「スティンガー!!」

魔法の射手(サギタ・マギカ)火の三矢(セリエス・イグニス)!!」

 

ネギとチンク、愛衣が爪弾とスティンガー、魔法の射手を放ち先手を打つ。不意を突かれたシルバークロスであったが、直ぐに飛び上がって回避をする。

しかし、すでに接近していた仗助がクレイジー・ダイヤモンドでティアナを投げ飛ばすと、目の前でクロスミラージュを構えられた!

 

「!?」

「食らいなさい!」

 

そのまま至近距離で『バレットシュート』を放つ!シルバークロスは旋回してよけるが、翼に当たってしまい地面に不時着気味に落ちてしまった。

 

「良し、一気に決めっぞ!」

「はい!」

 

ティアナが着地したのを見た仗助が、ポケットに手を入れたまま高音と共にゆっくりとシルバークロスに近づく。

 

「カ………カァーッ!!」

『!?』

 

しかし、仗助たちが近づいてきた瞬間、シルバークロスは仗助の背後に回り込んで仗助の影を踏んだ!ポケットのベアリングを準備していた仗助は、とっさのことで対応が出来なかったのか直ぐに動けなくなってしまった!

 

「カァ~………」

 

シルバークロスはしたり顔で仗助の手をポケットから出すと、手にしていたベアリング弾を地面に落とした。これでもう攻撃できないぞと、見せつけるように。

仗助のガタイならば、このメンツでも問題ないだろうと踏んだシルバークロスであったが、ふいに、仗助が口を開いた。

 

「………これで勝ったつもりかぁ~?」

「………?」

「お前はよぉー、オレのベアリング弾を1回見てるし、この『策』ならイケるとオレも考えていたぜぇ~………夜叉丸の『スペースマン』で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()~~~………」

 

シルバークロスは仗助が何を言っているのか分からなかったが、しかし、何故か高音が()()()()()()()()()()事に気が付いた!

 

 

 

 

 

瞬間、

 

 

 

 

 

カッ

 

「!?カ、カァー!!??」

 

突然、地面に落ちたベアリング弾が、『激しい閃光を放った!!』

 

「うぉお!け、結構強烈………!!」

 

閃光で影が消され、おまけにシルバークロスは目を晦まされてしまった!視神経へのダメージで悶え打つシルバークロスであったが、すぐにガシッと『バインド』で拘束されてしまった。

 

「!?」

「ふう、拘束完了………」

 

閃光が収まった頃、拘束されたシルバークロスを捕まえたティアナがため息をついた。その後ろでは、閃光を諸に食らってしまった仗助が目頭を押さえていた。

 

「くぅ………お、思った以上にキクなこりゃぁ………」

「だ、大丈夫ですか?」

 

ネギと雪子が心配していると、やれやれ、とチンクがやってきた。

 

「まったく、「ランブル・デトネイターの威力を調整して閃光弾を作ってくれ」なんて無茶ぶりされたのは初めてだぞ………」

「い、いやぁ………けど、目晦ましと影を消すのには、ちょうどいいって考えてなぁ………」

 

それに、と、だいぶ回復してきたのか、涙目ながらもチンクの方を仗助が見た。

 

「オメーなら出来るって、信じていたしなぁ~………」

「………!」

 

仗助に言われたチンクは、何故か顔が熱くなってしまい仗助を直視できなくなってしまった。

 

「そ、そうか………それなら、良いのだが………(な、何だ、今のは………?)」

「さーて、あとはコイツを学園長のトコに連れてくだけねー」

 

チンクが今まで抱いたことのない感情に戸惑っていたが、任務完了を学園長に伝えるべくその場を立ち去るのであった。

 

 

 

 

 

←to be continued…




75話です。
・亜子、オットーと再会。京都でフラグ立ってましたが、この後ちょっとした騒動が起きる感じです。

・シルバークロスのスタンドは、『影を踏んだら操る』というもの。感想でバレそうになったので、若干よくわからない感じにしてからのネタバレにしました。

・仗助に対して不思議な感情の沸き上がったチンク。実は前からチンク姉と仗助はちょっとイイ感じにしたいなあって考えていました。


では、次回をお楽しみに!


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#76/オットーは謎だ! ①

「さてと、シルバークロス………あなたにとっては、『人間の勝手な都合』だと思うでしょうけれど………私たちへ協力してほしいのよ。」

 

鳥かごに入れられて不機嫌なシルバークロスに、紅茶を片手にルル・ベルがいつもの調子で話し始めた。

 

「そもそも、あなたのその『影踏み』のスタンドはそのために授けたものという事を忘れないでほしいわ………あなただって、『縄張り』のあるこの麻帆良を、「ヨソモノ」に荒らされるのは嫌でしょう?」

「………」

 

ルル・ベルはそう言うが、シルバークロスは黙ったままだ。しばらくして、シルバークロスは渡されていた携帯電話を起用にカチカチ操作すると、画面をルル・ベルの方に見せた。

 

[織れ野メリットは?]

「そうね……エサ場と住処の安全、だけじゃあダメかしら?あなたに匹敵するスタンド使いも多いしね。」

 

シルバークロスは少し考えた後、再度携帯電話を操作してルル・ベルに向けた。

 

[飯田ろう。強力してヤル。]

「感謝するわ。」

 

交渉成立すると、ルル・ベルはシルバークロスを鳥かごから出した。シルバークロスは2、3歩跳びながら出てくると、じっとルル・ベルの方を見た。

 

「あなたなら、呼んだら飛んできてくれればいいわ。後、なるべく人様に迷惑をかけないように。」

「カァーッ!!」

 

シルバークロスは返事をするように一鳴きすると、バサバサと羽ばたいて飛んで行った。一緒にいた明日菜と徐倫が、話しかけてきた。

 

「あいつ、放しちゃって大丈夫なの?」

「ええ。彼、結構賢いみたいだしね。」

「ふーん………」

 

明日菜がシルバークロスの飛んで行った方を見ながら頷いていたら、シルバークロスがUターンして戻ってきた。

 

「あら?」

「何?何か用でもあるの?」

 

シルバークロスは携帯電話を持ってくると、操作をしてこちらに向けた。

 

[総いえば、折れのスタンドの名前葉?]

「ああ、そういえばそうね………」

「結構名前気にするのね………」

 

わざわざそれを聞きに来たらしいカラスに呆れつつ、ルル・ベルはうーん、と考えた後、浮かんだ名前を口に出した。

 

「………『ラン・イントゥ・ザ・ライト』、なんてどうかしら?影のスタンドだし。」

「無駄にカッコいいわね!?カラスのスタンドよ?」

「………カァ♪」

 

ルル・ベルの考えた名前に思わずツッコむ徐倫。しかし、当のシルバークロスは気に入ったらしく、うれしそうな声で鳴いて、今度こそ帰っていった。

 

 

 

 

 

#76/オットーは謎だ! ①

 

 

 

 

 

シルバークロスの件が片付いて迎えた月曜日の昼休み。

 

「………ウェザー先生、折り入ってお願いがあります。」

 

若干やつれて目の下に隈のできた表情の朝倉が、ウェザーに話しかける。ウェザーは怪訝な顔で、聞き返した。

 

「………何だ?」

「先生は『天候を操る』能力だと聞いています。それを見込んで、『実証実験』に協力してほしいんです………」

「実証?」

 

ウェザーの疑問に、朝倉ははい、と返事した。

 

「なんでも、『時速60㎞』の風圧は、『おっぱいと同じ感触』なんだとか………」

「さて、昼食いに行くか。」

 

呆れて踵を返し歩き出すウェザー。しかし朝倉はしがみついた。

 

「お願いですよぉ~~~!河童のショックから立ち直りたいんですよぉ~~~!」

「知らん。てか、河童ってなんのことだ?」

 

ウェザーは朝倉を引きずりながら歩くが、朝倉は全く引き下がらない。そ

 

「まったく、何やってんのよ………」

 

そんな様子を遠くで見ながら、明日菜はため息をついた。彼女の座っている丸テーブルには明日菜とネギの他、スバルに徐倫、のどかに夕映と、学園長と話をしに来ていた承太郎までいた。

 

「一応お前たちにも話しておくが、『シャラン』のやつは情報を吐かなかった。まあやつもプロだ。そう簡単に口を割るとは、思ってなかったがな。」

「だろうな………」

 

承太郎の報告に頷く徐倫。結構な死線をくぐってきたであろうあの女が、簡単に口を割るとは思わなかった。

 

『あ、そう言えば………』

「うわ!?」

「い、いたの、相坂さん………」

『ええ、ずっと………♪』

 

ふと、スバルの背後にいたさよが思い出したように話しかけた。

 

『千雨さんのお父さんの事でずっと千雨さんを守っているようですけれど………千雨さんの『お母さん』は、大丈夫なんでしょうか?』

 

さよの疑問に一同があ、と気づいた。今までは(ヴィオレッタ)が千雨を狙っているために考えていなかったが千雨の母、つまりはJ・P・ポルナレフの妻の命も狙われている可能性があった。

 

「確かに、千雨ちゃんのお母さんの事、聞いたことないわね………」

「千雨のママか………葬式の時に泣き崩れてた印象しかないな………何しているのかわかんないけど、世界中回ってるらしいし………」

「どうなんですか、承太郎さん?」

 

徐倫が千雨の母について思い出していると、ネギが承太郎に聞いた。しかし、承太郎は微妙な表情になっていた。

 

「………千雨の母・百香(ももか)は、『SPW(スピードワゴン)財団』の調査チームに所属していてな………今は太平洋の『パララケルス島』にある『カメ文明遺跡』で石仮面が発見された為に調査に向かっているそうだ………」

 

承太郎は千雨の母、百香について話し始めた。

 

「百香は今となっては数少ない『波紋戦士』の1人だが、リサリサおばあちゃんが『現代最強』と太鼓判を押す程の実力者だ。あいつとは何度か会っているが………正直、俺も『スタープラチナ』で時を止められるとしても、正面から戦いたくはないな………」

「そ、そんなに強いんですか!?」

 

思わず聞き返すのどか。承太郎にそこまで言わしめる百香とは一体………?

 

千雨(こちら)の方にスタンド使いを投入しているところを見るに、ポルナレフの娘を優先させているか、あるいは百香が強すぎて諦めたかのどっちかだな………」

「何者なのよ、千雨ちゃんのお母さん………」

 

冷や汗をかきながら、明日菜は謎すぎる百香の存在に少し興味がわいた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その頃

 

「すいませェん奥様………パララケルス島にいる『長谷川 百香』に送り込んだ傭兵一個小隊が、壊滅したそうです………」

 

ブラックモアがヴィオレッタに報告すると、ヴィオレッタはティーカップを置いてため息をついた。

 

「………このひと月で彼女に倒された刺客は、これで何人かしら?」

「ええと、殺し屋15人、スナイパー8人、傭兵二個小隊32名、仕込み杖の居合名人2人、暗殺拳法家6人、殺人ジャグリングピエロ1人、毒吹き矢使い2人です………」

「途中からダッカーの一員みたいになってないか?」

 

一緒に聞いていたリゾットがツッコミを入れる。というか、最初の殺し屋に含めていい気がする。

 

「そう………けれど、あの女も流石に連戦で消耗しているはず。南のパララケルスに『足止め』する事には成功しているわね。」

 

しかし、ヴィオレッタはほくそ笑んでいた。

『現代最強の波紋使い』である百香は自分の最大の『障害』になるであろうと考え、刺客を送り込んで南のパララケル島に止めることにしたのだ。

スタンド使いではないといえかなりの実力者である百香との戦いで、貴重なスタンド使いを消耗したくはなかった。

 

「引き続き刺客を送り込みなさい。今度は鎖鎌使い集団よ。」

「はい。」

「だから、何でそんな連中送り込むんだよ。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

―――今回の事件の切っ掛けは、ほんの些細な疑問からであった。

 

 

 

 

 

放課後、のどかとハルナ、夕映の3人は、木乃香や刹那と共に下校中、偶然ティアナやチンク、ルーテシアと会った。

 

「あ、チンク。ティアナさんも。」

「こんにちはー」

「あら、今帰り?」

「ええ。ランスターさんたちは?」

 

夕映が聞くと、ティアナが答えた。

 

「うん、今ノーヴェ達の検査終わるから、どっか行こうと思って。」

「特にディードは、麻帆良に来たばかりだからねー。」

「なるほどねー………」

「あれ、そういえば、アギトちゃんは…?」

「うん、学校に用があるって言って………」

 

ふーん、と頷くハルナ。すると、夕映が思い出したかのように聞いた。

 

「そういえば、ノーヴェさんに憑依したという『ロストロギア』の詳細は、判明したのですか?」

「………ううん、左腕に何らかの力場があることは判明したんだけど、それ以上は………」

「ノーヴェも結構不安みたいだし………なるべく早く究明したいんだけどねー………ま、今日はその『気晴らし』もかねて、ね。」

「そうですか………」

 

歩きながら心配そうにする夕映とのどか。すると、向かい側から釘宮と亜子が話しかけてきた。

 

「おーい宮崎ー!」

「ちょうどよかったー!」

「あ、釘宮さんに、和泉さん?何か用ですかー?」

 

2人に話しかけられて首をかしげるスバル。

 

「あ、あんなー………聞きたいことあんねんけど………」

「スバルのトコに来てるっていう、『オットー』っていう人の事、聞きたいんだけどさー?」

「え、オットー?」

 

オットーの事を聞かれてきょとんとするのどかたち。魔法とスタンドに関わっていないA組とは接点のないナンバーズであるために理由が分からなかった。

 

「い、いやなー………京都でちょっとお世話になったというか………そんでこの間、麻帆良(こっち)に来とること聞いて………」

「あ、あー、そうなんだ………」

 

亜子から事情を聴いて納得するのどか。すると、向かいの道からギンガに連れられたノーヴェ、オットー、ディードが歩いてきた。

 

「あ、ティアー!」

「おや、この間の………?」

「あ………」

 

ギンガが手を振っていると、亜子に気づいたらしいオットーが声をかけた。

亜子はオットーを前にして顔を真っ赤になって固まってしまった。

 

「え、あ、あの………この間は、ほんまに………」

「いえ、ボクの方こそ、いきなり帰ってしまってすいませんでした………」

 

少しぎこちない感じの亜子の様子を見ていたハルナは、ほほう、と目を光らせた。

 

「なるほどねー………亜子ってば隅に置けない………」

 

そう言いかけたハルナは、すぐにオットーの後ろでディードが亜子をにらんでいるのに気が付いた。当の亜子は、オットーに夢中で気づいていないようだが。

 

「………なーんか、ディード(妹さん)がキッツく睨んでるわねー…?」

「よほどオットーさんの事が大事なのでしょうか……?」

 

ノーヴェ達を加え、後ろの方でこそこそと話すハルナたち。すると木乃香が頬に手を当てて笑った。

 

「まあディードちゃん攫われてめっちゃ心配しとったみたいやしなー………」

 

 

 

 

 

「知らん人が『()()()()』とお話しとったら、そら妬いてまうわなー♪」

 

 

 

 

 

「「「「え?」」」」

「「「「………え?」」」」

 

木乃香の発した『お兄さん』というフレーズに、思わず声を出してしまうのどかやナンバーズ一同。木乃香たちはその反応に首を傾げた。

 

「……え?あの………オットーさんって、『男性』なんじゃあ………?」

 

刹那がノーヴェ達に聞くが、一斉に目を反らしてしまう。

 

「え、ええ………?」

「あの、お2人とも『姉妹』のはずでは………?」

「だ、だって、アイツ絶対誰かと風呂入んないし………着替えも誰にも見せないし………」

 

申し訳ないように言うノーヴェ。チンクも困り顔だ。

 

「てか、のどかは私らより付き合い長いでしょ!?そういう話、しなかったの!?」

「い、いやー………オットーさんって最初来た時から、ディードさんの事でピリピリしてて話しかけ辛かったし………それに………エヴァンジェリンさんとかスタンド使いとか立て続けにあったしー………」

 

のどかから話を聞いて、夕映は若干呆れ顔になる。

 

「あ、あの!この間近くのボウリング場の割引券もらって………」

「ボウリングですか?ボクやったことないなぁ………」

「そ、そうなんですか!?よ、よかったら一緒にどうですか!?」

 

一方、オットーは亜子からボウリングの誘いを受けていた。少し困った様子であったが、ギンガの方を見ると「いいんじゃないか」といった風に頷いていた。

 

「………じゃ、じゃあ………お言葉に甘えて………」

「あ、ありがとうございます!」

 

亜子は深々と頭を下げる一方、オットーはこうやって誰かに誘われたことがなかったので若干不安そうではあったが、2人に着いて行こうとした。

 

ガシッ

「え?」

 

が、両脇をハルナとノーヴェに左右から掴まれて阻まれた。

 

「あれ、ハルナ?」

「ご、ごめーん!ちょっとこの人のお姉さんが話あるっていうからー!!」

「ほんの5分くらいで済むと思うんでーーー!」

バッヒューーーン!

「ちょ、ちょっとーーー!?」

 

釘宮が止めるもむなしく、2人はオットーを連れて走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「な、何ですか一体………!?」

 

2人に路地裏に連れてこられたオットーは、ハルナとノーヴェに詰め寄られていた。

 

「オットー!アンタ男なの?女なの?ハッキリ教えなさいよ!」

「え?な、何で………?」

「いいから教えろ!」

 

いきなり自分の性別を聞かれて戸惑うオットー。鬼気迫る表情であるためにかなり引いていた。

 

「え、あの………秘密です。」

「いや、何でよ!?」

「いえ、そうやって無理に聞かれると、教えたところで何されるかわからないし………」

「いい加減にしろよ!?今そんな場合じゃないんだよ!」

 

この期に及んで秘密にするオットーに怒鳴る2人。何が何でも聞き出そうとするが、

 

ジャキッ

「「ッ………!?」」

「そのくらいにして放してください………オットーが困っているじゃあないですか………」

「ディード………!」

 

いつの間にかディードが後ろに立っており、『エターナル・ブレイズ』の剣を2人の首元に突き付ける。仕方なくオットーを放すと、2人はそのまま亜子たちの元に向かっていった。

 

「あれ?ディードも来るの?」

「ええ。というか、ギンガさんたちも来るわ。」

 

「おのれ~………スタンド使いこなしてるし………」

「どうするチンク姉?性別ちゃんとハッキリさせないと『間違い』が起きかねないぞ………」

 

2人の背中を見ながら歯噛みするハルナ。ノーヴェはチンクに聞くが、チンクはうーむとうなってばかりだ。すると、

 

ガコンッ

「話は聞かせてもらったわ。」

「「「わぁああ!?」」」

 

足元のマンホールの蓋が開いたかと思うと、中からルル・ベルが出てきた。

 

「いや、どっから出てきてんだお前!?」

(神出鬼没だなーこの()………)

「私の事より、今はオットーの事よ。仮に女性だとしたら、和泉 亜子の心に傷を負わせる事になるわ。」

 

ルル・ベルはノーヴェのツッコミを受け流すとそう言った。しかし、のどかたちは意外そうな顔で「え?」と聞き返してしまった。

 

「?どうかしたの?」

「いや、あんたの事だし、「仲間が増えるー」とか喜びそうなモンだとばっかり………」

 

ノーヴェがそう言うと、ルル・ベルは心外だとばかりにため息をついた。

 

「………何を言っているのかしら?確かに私は、恋愛に『性別』は関係ないと思うし、同じ恋愛観を持った人がいたらうれしいわよ?でもねえ………」

 

ルル・ベルは髪をかき上げ、向き直った。

 

「『()()()()()()』なのと、『()()()()()()()()()()()()()』は、全くの別物でしょう!」

「「「………まあ、確かに………」」」

「その辺の線引きは、ちゃんとしているんですね………」

 

ルル・ベルなりの恋愛観に、思わず頷く一同であった………

 

「まあ、それでも好きだって気持ちが変わらないのであれば、歓迎するけど。」

「そうですか………」

「とにかく、急ぐわよ。オットーの『被害者』が出る前に!」

 

ルル・ベルにそう言われて、チンクはうん、と頷いた。

 

かくして、オットーの性別調査と亜子の告白阻止作戦が、並行して開始された。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

ボウリング場に来た亜子は、釘宮の計らいでオットーと隣同士になった。

 

「わ、やったっ、スペアだ!」

 

オットーとディードは戸惑いながらも初めてのボウリングを楽しんでいた。元々、戦闘のみを学んできたために、このような娯楽は新鮮であった。

 

「へぇー!ボウリング初めてだって言ってたのに、結構うまいじゃないですかー!」

「いえ、狙いを付けるのは得意なので。」

 

釘宮が褒めるのを照れるオットー。確かにオットーの能力(IS)なら得意そうだ。

 

「……で、来たのはいいんだけど………」

「どうやって調べるです?」

 

ルーテシアとチンクの2人がティアナと一緒にトイレに行っている頃、2つ隣のレーンでひそひそと話すハルナと夕映。するとルル・ベルは懐から透明な液体の入った小瓶を取り出した。

 

「そうねえ………手っ取り早く、『コレ』で済ませちゃいましょうか。」

「それは?」

「『無味』『無臭』『無色』の三拍子がそろった『下剤』よ。」

「げざっ!?なんでそんなもの持ち歩いてるのよ……!?」

 

ハルナが思わず聞くが、ルル・ベルはお構いなしに小瓶をハルナに手渡した。

 

「これの中身を、オットーの飲み物に混ぜてちょうだい。あなたが適任よ。あ、安心して。1回『出せ』ば、すっきりする程度の弱いタイプだから。」

「なるほど。トイレに行くところを確認するのね………」

 

微妙に安心できないような気がしなくもないが、受け取ったハルナは手早く『ドロウ・ザ・ライン』で腹が注射器のようになったミツバチのようなデザインのスタンドを描くと、紙から出てきたスタンドに下剤を吸い込ませた。

吸い込んだスタンドはこそこそと低空飛行でオットーたちのいるレーンまで行き、こっそりとテーブルに上がった。

 

「へぇー、じゃあ、お姉さんが多いんですねー………」

「ええ、皆やさしい人たちです。」

 

オットーが亜子たちと他愛のない話―――念のために、ギンガによる念話のサポート付き―――をしている間に、オットーの飲んでいた烏龍茶にこっそりと下剤を混入

 

ザシュッ

「な…!?」

 

 

しようとしたその時、ディードが『エターナル・ブレイズ』の刀身がスタンドを斬り裂いた!

 

「?どうかしたのディード?」

「ううん、なんでもないわ。」

 

「しまった、ディードに気づかれてたか………」

「達人級の剣技だったわね………」

「ていうか、のどかの(アーティファクト)使えば早いんやけどねー………」

「それはそれで、難しいからねぇ………」

 

アヌビス神の影響か、達人並みの剣技を取得していたディードに戦慄する一同。

ディードが一緒では、オットーに質問することも難しいだろうと考え、ルル・ベルはため息を1つ。

 

「仕方がないわね………この手段だけは使いたくなかったけれど………」

「え?な、何をする気なん………?」

 

戸惑う木乃香に対し、ルル・ベルは携帯電話を取り出しながら答える。

 

()()()()!」

『ひん!?』

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

用をたそうとトイレに向かったオットーとディード。すると、前の方から見知った顔が歩いてくるのが見えた。

 

「あ、オットーさんにディードさん。」

「おや、ネギ先生。」

「どうしてここに?」

 

ネギは2人に挨拶をすると、少し不思議そうな顔で首を傾げた。

 

「はい、僕ルル・ベルさんに呼ばれたんですけど………?」

「ルル・ベルさんに……?」

 

意外な人物の呼び出しに2人も不思議そうにしていたその時、

 

しゅたっ

「?」

「「!?」」

 

ネギの背後にルル・ベルが現れ、手から何やら白い粉をパッとネギの顔に向けて撒いた!

 

「ふぇ!?………ふぁ、ふぁッ………」

「!?」

「な…(何、この冗談のような魔力は………!?)」

 

粉が鼻に入ったのかクシャミが出そうなネギ。しかし、クシャミで魔力のコントロールが緩んだのか、ネギの周囲に膨大な魔力が渦巻いている事に気が付いた。そしてルル・ベルが退散した瞬間、

 

「ハックション!!」

ブワアァァァッ

「「!?」」

 

クシャミと同時に『風の魔法』が暴発し、周囲に突風が巻き起こる!

 

「ふふふ、ネギ君がクシャミで魔力を『暴発』させてしまうのは、既に調査済み!『武装解除魔法』でオットーをひん剥くのよ!」

「いや、やる事が大げさすぎだろこれ!?」「ネギ君なんも知らんし……」

 

離れた所でノーヴェと木乃香が隠れながら、ドヤ顔のルル・ベルに突っ込む。後ろで見ていた夕映たちも、ややあきれ顔だ。

 

一方、ネギのクシャミによる魔法の暴発がおきた地点では………

 

「………ふぅ、気を付けてくださいねネギ先生。咄嗟に『障壁』を張っちゃいましたよ………」

「あ、はい、すみません………」

 

そこには、障壁で防御したらしいオットーとディードに謝るネギの姿があった。

 

「失敗してんじゃん!?」

「そりゃそうだろ…あんだけ馬鹿でかい『魔力』渦巻いてたらいやでも気づくだろ………」

 

作戦の失敗に呆れる一同。すると、隠れていたルル・ベルたちの方に向いた。

 

「まったく、なんのつもりですか……ノーヴェ姉様まで…………」

「「「ああ!?」」」

「?」

 

しかし、のどかたちが驚いた声を出した。どうしたのだろうと考えていると、視線が自分の下半身に集中している事に気づいて見下ろしてみると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()、あまり毛の生えていない己の下半身が見えた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

「「ええーーーーー!?」」

 

あまりの状況にきょとんとするオットーと声を上げるネギとディード。驚く一同を余所に、ルル・ベルは「してやったり!」と笑う。

 

「ふふ、分かっていたわよ………オットーたちであれば、ネギ君の『魔力』を感知できることくらいはねぇー………」

 

すると、ルル・ベルのそばの床からセインと静が、すーっ、浮かんできた。

 

「あ、2人とも………」

「そうか、ネギ君の魔力に気を取られている隙に『アクトン・ベイビー』で………」

「「そーいう事♪」」

 

サムズアップで答えるセインと静。まさかの二段構えの作戦に舌を巻く一同。そしてルル・ベルは、オットーの下半身に『()()()()()()()()()()()』事を確認した。

 

「そしてオットー、あなた『()()()』だったのね。」

「え?ええ、まあ………」

「てか、ちったぁ恥ずかしがるなり隠すなりしろよ!?とにかく前を隠せ!」

 

隠すこともせず、下半身丸出しのオットーに逆に恥ずかしがるノーヴェがツッコむ。ディードはネギの目を塞いでいるが、感心と呆れの混じった顔になっていた。

 

「女ってわかったのはいいけど………」

「問題は、どうやって和泉さんにこの事を伝えるか、ですね………」

 

ハルナとのどかが話す。オットーに惚れているらしき亜子にこの事実を告げるには、少々気を遣う。どうしようかと考えていたその時、

 

「……………え……?」

「へ?………あっ!?」

「「「あ!?」」」

 

小さな声がしたかと思い振り向くと、そこには顔を真っ青にした亜子の姿があった。

 

「い、和泉さん!?な、なんで………!?」

「い、いや……急に強い風がふいて………何かなーって思ったら………」

 

のどかが思わず聞くと、亜子が困惑しながらも答える。どうやら、ネギの『武装解除』で発生した突風が気になって来たらしかった。

 

「あ、あの………」

「そ、そっかぁ~……女のひとやったんですねー………あはは………」

 

亜子は涙目になりながら乾いた笑いを浮かべる。オットーや木乃香が弁解しようとした瞬間、亜子は踵を返して走り出してしまった。

 

「あ!」

「ま、待って……!」

「あ、オットー!?」「静ちゃん、能力解除して………」

 

亜子を追うオットーを追いかけるノーヴェ。のどかは静に一言言ってから後を追った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ボウリング場の入り口付近まで走ってきた亜子は、急に後ろから腕をつかまれて立ち止まる。

 

「い、イズミさん………」

「あ、や………」

 

振り返れば、そこにはオットーがいた。亜子はオットーが女性であるという事実を突き付けられた直後で頭がこんがらがってしまっていた。

 

「こ、来ないでぇえッ!!」

「あ………」

 

そんな状況であったためか、亜子はオットーに向かって叫んでしまっていた。亜子に強く拒絶されたオットーは一瞬頭が真っ白になってしまい、2人の間に気まずい雰囲気が流れた。

 

「おいオットー!今お前が行っても逆効果だろ………」

 

その時、ノーヴェとのどか、ルル・ベルが追いついた。しかし、同時にルル・ベルは、『異変』に気付いていた。

 

「………?何…?」

 

周囲にいつの間にか、鈍色の『霧』のようなものが漂っているのだ。どこかで機械の故障でも起きたのかと思ったが、他の利用客が気づいていないのを見て、確信した。

 

「!?(他の客は気づいていない………まさかこの『霧は!?』)

「なんだ……?はッ!?」

 

ノーヴェやオットーも異変に気付いたその時、オットーのそばに大きな影がズンッ、と音を立てて現れた!

 

カーリングのストーンのような形状の、丸っこいボイラーを思わせるボディの四方から多関節のアームが伸び、先端は十字に伸びる先の尖った4本指となっている。ボディ上部の円筒型の頭部には望遠レンズが伸び、左右には裸電球がチカチカと光っていた。ボディのあちこちにはむき出しの歯車やシャフトがせわしなく動き、蒸気機関のパイプから蒸気が絶え間なく噴き出していた。

 

〈―――侵入者、確認。〉

「何!?」

「ひえっ!?あ………」

 

突然出現したスタンドに驚くオットーであったが、亜子がついに気絶をしてしまったために抱きかかえた。しかし、スタンドはアームの1本を上げると、オットーに向けて振り下ろした!

 

〈排除!〉

「!?くっ………」

 

オットーは咄嗟に飛びのく。スタンドのアームは床に当たると、床板を砕いて大きなクレーターを作った!

 

「な、なんだこいつ!?急に現れたぞ………!?」

「しかも、こんな他に人のいる時に………」

 

ルル・ベルと合流したオットーがスタンドを見ながら毒づく。スタンドは首をこちらに向けると、望遠レンズを伸び縮みさせた。

 

〈排除!排除!排除!〉

 

スタンドは連呼させながら多関節アームを動かしながら、オットーたちに迫った!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ティアナたちがなかなか戻ってこないのを心配したギンガは、トイレまで探しに来ていた。途中、地味目の眼鏡の女性とすれ違いながらトイレに入るが、どの個室も空いている状態であった。

 

「ティアたちったら、どうしたのかしら………?」

 

首を傾げていたギンガであったが、ふと、右足が何かを踏んだ感触がした。見下ろしてみれば、それは黒い『眼帯』であった。

 

「………!?チ、チンク………!?」

 

それがチンクのものであると確信したギンガはあわててそれを拾い、トイレから飛び出した。

 

 

 

 

 

←to be continued…




76話です。
・サブタイトルは『エニグマは謎だ!』から。

・シルバークロスの事後処理。スタンド名は名前と同様に無駄にカッコいい感じにしてみました。

・最初の方で話の出てた千雨の母・百香さんの話がチラリ。波紋の使い手は少なくなりましたが、それでも強い部類、という立ち位置になりました。
 パララケルス島は『ラブひな』から。

・今回はオットーと亜子のお話。実は今回の話の為に、初登場時から仕込んでいました。
 今作の2人は互いに大好きすぎるので、ディードも若干ヤンデレ気味ですね。

・ルル・ベルはなんか書いている内に面白い人と化していますが、彼女は彼女なりに真面目に恋愛をしています。

・オットーの性別確認作戦。ずっとバトルが続いたので、割とバカっぽい話をと思ってやってみました。

・最後の事件発生です。スタンドの能力などは次回以降で。

では、次回をお楽しみに!


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#77/オットーは謎だ! ②

「ええ!チンク姉やお嬢が…!?」

 

ギンガからの電話に出たノーヴェは、チンクたちが何者かに攫われた事を聞いて思わず聞き返した。

 

[恐らくはスタンド使いの仕業ね…念話にも出ないわ……今、スバルとも連絡して、木乃香ちゃんたちと探してもらっているけど………]

「そうか………私もそっちに行きたい所だが………」

 

ノーヴェは携帯電話片手に『エアライナー』の上を走りながら、後ろを振り返った。背中にはのどかを背負い、右には亜子を抱き抱えたオットー、左には『サイケデリック・インサニティ』で()()()()()ルル・ベルに捕まるディードがいた。

 

「生憎こっちも取り込み中だ!!」

 

〈排除!排除!排除!〉

 

そして後ろからは、蒸気を吹かしながらスタンドが追いかけて来ていた!

 

 

 

 

 

#77/オットーは謎だ! ②

 

 

 

 

ボウリング場からそう遠くない建物の屋上にノーヴェたちは下りると、5mほど先にまで来たスタンドとにらみ合う形になった。

 

「ま、周りに迷惑のかからないようにボウリング場から飛び出してきたのはいいけれど………」

「コイツ、何処まで追いかけて来るんだ!?」

 

スタンドの吐き出す蒸気が舞う中、ゆっくりとこちらに向かってくるスタンドに毒づくノーヴェ。

 

〈排除!排除!排除!〉

「何が『排除』だ!オウムみてーに何べんもヤカマしいぞ!!」

「のどか、本体らしき者は見つかった?」

 

ルル・ベルがのどかに聞く。のどかは先ほどから『イノセント・スターター』の子亀で周囲を探り、スタンドの本体を探していた。

 

「い、いえ………さっきから周囲を探っていますが、それらしき人は………」

「つーことは『遠隔操作』か?だが、」

〈排除!〉

 

ノーヴェは言いかけるが、スタンドの振り下ろしたアームが迫る!四方に散ることで回避するが、今まで自分たちのいた場所の破壊跡を見て、ゾッとした。

 

「この圧倒的『破壊力(パワー)!!』近接型としか考えられない!どっかに隠れているのでは!?」

「た、確かに………」

 

ディードがのどかに言うが、ルル・ベルはいまいち腑に落ちないでいた。たった今、自分たちは100m近い距離を走ってきたわけであるのだが、近接パワー型の本体がその速さに追いついたというのだろうか?

そう考えていると、スタンドは周囲をキョロキョロと見まわしていた。

 

〈侵入者散会、対象確認、攻撃開始。〉

 

そう言ったかと思うと、亜子を抱えたままのオットーに一気に接近した!

 

〈排除!〉

「!?」「オットー!!」

 

迫るスタンドとオットーの間にディードが割って入ると、『エターナル・ブレイズ』の4本の剣で斬りかかる!

 

ガギィンッ

「!?か、硬い………!」

 

しかしスタンドの装甲は非常に硬く、刃が1ミリも食い込んでいない。おまけに突進するパワーも強く、ディードは徐々に押されていく!

 

「な、何というパワー………!」

「ディードさん!!」

 

ディードが押される中のどかが横から接近、『イノセント・スターター』の左拳をスタンドに向けて振り下ろす。

 

ボンッ

「!?」

 

そしてその拳が激突した瞬間、拳の当たった個所が爆発した!爆発の衝撃でスタンドはボディの一部を破損し、数m吹き飛んで倒れた!

 

「ホンヤ!」

「いまのは………?」

 

ノーヴェとルル・ベルがのどかの元に駆け寄る。のどかは『イノセント・スターター』の左腕を見せた。

 

「ぱん、パンチが当たる瞬間に、『子亀』を発射したんです………『パンチの衝撃』と『子亀の爆発』の、二重ダメージを狙って………」

「そんな事、よく思いついたな………」

 

ノーヴェは感心しているが、ルル・ベルは内心(フ○エノ○ワミ………)と思っていた………

 

「しかし、結構なダメージを与えられましたね。」

「あれだけのダメージだ。本体も無事なわけないな。」

 

亜子を抱えたオットーが、ボディが破損し、アームが1本千切れかけたスタンドを見て述べた。あそこまで破損したら、本体にもダメージがフィードバックしていることだろう。近くにいきなり大ケガをした者がいないか探そうとしたその時、

 

ガシャンッ

「「!?」」

「何!?」

 

スタンドが勢いよく起き上がり、再びオットーに向けて突っ込んできた!

 

「こ、コイツ!また突っ込んできたぞ!しかも、あんだけダメージ受けても全然スピードが落ちてねえ!」

〈排除!排除!排除!〉

 

スタンドは突進してくると、千切れかかったアームを振り下ろす!ノーヴェたちは咄嗟によけるが、ディードは『エターナル・ブレイズ』の腕が掠ってしまったらしく、右腕の内1本が破損してしまった。

 

「ぐうッ………!」

「ディード!!」

 

腕のダメージで背中から出血するディードを見たノーヴェが叫ぶ。スタンドの方は、今の攻撃で完全にアームが壊れてしまい、それを確認していた。

 

〈―――第四腕破損。走行、可能。補助作業腕、展開。〉

 

スタンドは無機質にそう言うと、頭部の左右が細長くスライドし、中からペンチのような形状の武骨なマジックハンドが出現した!

 

〈展開完了。動作良好。攻撃開始!〉

 

アームを開閉させると再びオットーに向けて駆け出した!

 

〈排除!〉

「ッ!!」

 

そのセリフと共に展開したマジックハンドを振り下ろして攻撃してくる!オットーは咄嗟に避けるが、その一撃で床が陥没した!

 

「な、………何だコイツ!?異様にタフすぎるぞッ!!」

 

スタンドの追撃を躱しながら叫ぶオットー。あれだけのダメージを受け、しかも自身が壊れるのも厭わない攻撃を仕掛けてきた。そんな捨て身の戦法を行うなんて、本体は何を考えているのだろうか?

 

「あのタフさ………それに単調な動き………もしかして………」

 

スタンドの様子を観察していたルル・ベルは、ある可能性に気づいた。それを確認すべく、のどかに声をかけた。

 

「のどか、上空からこの『蒸気の中心』を探して!」

「蒸気の?」

「さっきから気になっていたのよ………この『蒸気』………スタンドの出現と前後して発生したわ………おそらく、この『蒸気』こそ、スタンドの正体を探るカギになるはずよ………!」

 

ルル・ベルにそう言われはっとなる一同。すぐに『子亀』を上空に放ち、蒸気の中心を探る。

上から見て分かったのだが、蒸気は10mほどの範囲に広がっており、微妙にではあるがまるで台風の進路を映した天気図のように動いていた。

 

「だとしたら中心は………え!?」

 

その蒸気の中心を探っていたのどかは、それがあのスタンドではない事に気づく。その中心は―――

 

「中心は………オ、()()()()()()!?」

「何!?」

「やっぱりか………」

 

のどかは驚いて言うとノーヴェが驚きの声を出すが、ルル・ベルは納得したように頷き、オットーに向けて叫んだ。

 

「オットー!和泉亜子を置いてこっちに来て!蒸気の中から出るわよ!」

「え!?」

「ルル・ベル!?お前何を言って………!」

 

ルル・ベルの指示にノーヴェが食って掛かるが、ルル・ベルは続けた。

 

「蒸気の中心はオットーだけれど、そこには彼女もいるわ。どちらが本当の中心か見極めれば、あのスタンドの目的もわかるはずよ!」

「だ、だけど………!」

 

オットーが抗議しようとしたが、その時、スタンドがアームを振り下ろしてきた!

 

〈排除!〉

ドガンッ

「うわッ!?」

 

直撃はしなかったものの衝撃でオットーは転倒してしまい、亜子を落としてしまった!

 

「し、しまった!?」

〈排除!〉

 

立ち上がって駆け寄る間もなく、スタンドの追撃が迫る!

 

「ボサっとすんなオットー!」

 

スタンドのアームが振り下ろされそうになったその時、『ジェットエッジ』を吹かしたノーヴェがオットーを抱えてその場を離脱した。

 

「ノーヴェ姉様!?」

〈目標逃亡、追跡!排除!〉

 

オットーは驚いたが、スタンドが亜子に目もくれずこちらに向かってきているのを見た。

 

「い、イズミさんは無視して!?」

「やっぱルル・ベルの言う通り、イズミが中心なのか………?」

 

スタンドに追われながらルル・ベルの推測どおりなのかと勘ぐる2人。再びスタンドのアームが迫るが、その瞬間、のどか達のいる『蒸気の外』にまで出た。

 

ぴたっ

「………!?」

 

しかし、スタンドは振り下ろしていたアームを寸前のところで停止させ、そのまま数歩下がった。

 

〈侵入者逃亡、喪失。警備、続行。〉

 

そう言うと踵を返して歩き回り始めた。何が起こったのか分からないノーヴェは、再び蒸気の中に入ろうとした。

 

〈侵入者発見!排除!排除!排除!〉

「!?」

 

瞬間、スタンドがけたたましく叫びながら、再びこちらに向けて駆け出してきた!咄嗟に手を引っ込めると、スタンドはまた何事もなかったかのように振り返って歩き始めた。

 

〈侵入者逃亡、喪失。警備、続行。〉

「こ、これは………!」

「あのスタンド、『蒸気の中にいる奴』にしか攻撃しないのか………?」

 

ノーヴェの言う通り、あのスタンドはこの『蒸気』の中にいる者にしか攻撃しないようであった。蒸気の範囲内を周回するように歩くその姿は、さながら『警備員』である。

 

「この『蒸気』は、あのスタンドの『射程距離』であり、『探査装置(センサー)』でもあるのね………」

「しかし、だとしたら何故和泉さんを中心に………?」

 

のどかが疑問を述べる。しかしその時、オットーは亜子の方を見てある事に気が付いた。亜子の頭から、落とした際の衝撃であろうか、何かが『はみ出ていた』!

 

「!?あッ、あれは………イズミさんの頭からはみ出ている()()は!」

 

 

 

 

 

亜子の頭からはみ出ていたものは、直径20cmほどの、藍色のDISCであった………

 

 

 

 

 

「ディ………D()I()S()C()!!」

「い、和泉さんからDISCが!?」

「まさか、イズミ・アコ!彼女はスタンド使いに()()()()()()()()!?」

 

驚きの声を上げるのどかたち。しかし、オットーには疑問があった。

 

「し、しかし!だとしてもおかしいぞ!彼女は今『気絶している』!そんな状態で、スタンドを『操作』できるのか!?」

「そ、そういえば………」

 

オットーの言う事もわかる。

確かに亜子が本体であればあの破壊力にも納得ができるが、気絶していたら操作ができないだろう。だとしたらやはり遠隔操作で他に本体がいるのか?そう考えていると、ルル・ベルが冷静に話し始めた。

 

「考えられるのはただ1つ。あのスタンドは、蒸気の中にいる者を、『()()()()()()()()』のよ………()()()()()()()()()()()()………」

「じ、自動的に!?」

 

ルル・ベルの告げた結論を聞いて、驚きの声を上げるオットー。だとしたらこのスタンドは『近接パワー型』でも『遠隔操作型』でもなく、

 

「あれは『自動操縦パワー型スタンド』よ!本体から離れてもパワーが強いけれど、その分ある条件、例えば『熱』や『早く動くもの』等を攻撃するといった一定の条件でしか動けず、攻撃も単調になるわ。」

「じ、自動操縦………そういえばあいつ、アタシらに攻撃する時は突進してアームで殴るしかしていなかったな………」

 

ルル・ベルの説明を受けて、ノーヴェは今までのスタンドの行動を思い出した。

 

「と言うことは、イズミは知らない内にスタンド使いにされていて、無自覚のままスタンドの『発動条件(スイッチ)』を入れてしまったのか………」

 

ノーヴェが現状を確認する。それを聞いたオットーは、ついさっき起きた事を思い出した。

 

「そう言えば………さっきボク、イズミさんに強く『拒絶』されてしまった………「来ないでくれ」と………」

「『強い拒絶の意思』………それがあのスタンドのスイッチか………」

 

スタンドの発動条件に気づいた一同。オットーは申し訳ない気持ちになるが、意を決した顔で立ち上がった。

 

「DISCでスタンド使いになっているなら、イズミさんからDISCを引き抜けばスタンドは解除されますよね?」

「………ええ、確証はないけれど………」

「だったら、それはボクがします………いや、ボクがしなきゃいけないんだ………!」

「オットー………」

 

オットーの決意に満ちた顔を見たディード達は、その隣に立った。

 

「それを言うなら、彼女に対して『意固地』になっていた私にも責任があるわ。」

「あのスタンドはアタシらに任せときな。」

「ディード………ノーヴェ姉様………」

 

オットーは2人に頷くと、ルル・ベルとのどかも頷き、スタンドの蒸気の領域へと踏み込んだ。

 

〈侵入者確認。排除!排除!排除!〉

 

侵入を感知したスタンドが近づいてくる。ルル・ベルとディードが前に出ると、『イノセント・スターター』と『エターナル・ブレイズ』で掴みかかって動きを止めるが、やはり突進のパワーが強い。

 

「『サイケデリック・インサニティッ!!』」

ドガガッ

 

そこにルル・ベルが『サイケデリック・インサニティ』で殴りかかる!

『サイケデリック・インサニティ』の重力操作で重力の方向を変更され、スタンドが姿勢を崩す!

 

〈!?重心変動!?姿勢不安定!?修正!至急修正!〉

「今よ!」

「おう!!」

 

ノーヴェは返事と共に駆け出し、渾身の一撃をそのどてっぱらに叩き込んだ!

 

「ウリイィィャァアアアアアアッ!!」

ドグシャァッ

〈!?!?!?〉

 

叩き込まれた拳にスタンドは完全にひっくり返り、立ち上がろうとじたばたする。その隙にオットーは亜子の元へと走り、額から出たDISCをつかみ、一気に引き抜いた!

 

「よし!」

「これでスタンドも解除される!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボロ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

しかし引き抜いた瞬間、全員の顔が青ざめる。

 

引き抜かれたDISCが、ボロボロと()()()()()()からだ………!

 

「な、何だこれは!?DISCが………ラ、ラーメンのスープに浸された海苔みたいに、ぼ………ボロボロに『()()()いく』ぞーーーッ!?」

「これは………!?」

 

ルル・ベルも困惑していた。徐倫からは、DISCを引き抜いてもこのような現象が起こる事は聞いていない。

しかも、DISCを引き抜いたにも関わらずスタンドは健在である。

 

「だとしたら………まさか………DISCを盗んだ者の仕業!?」

「い、和泉さんが、完全にスタンド使いになってしまった………!?」

 

ルル・ベルたちが息をのんでいたその時、倒れていたスタンドがけたたましく警告音を発し始めた。

 

〈緊急事態!緊急事態!壱號機行動不能!壱號機行動不能!〉

「なんだ!?」

「壱號機………?」

 

のどかはスタンドが発した言葉に引っかかっていると、スタンドは更に驚愕の言葉を叫んだ。

 

 

 

()()()()!!()()()()!!()()()()!!〉

 

 

 

「何!?」

()()だと………!?」

 

のどか達が耳を疑う中、亜子の周囲に同型のスタンドが3()()出現した!

 

〈弐號機、要請受領。出撃完了。〉

〈参號機、要請受領。出撃完了。〉

〈肆號機、要請受領。出撃完了。〉

「おいおいおいおい、冗談じゃぁねーぞ………!」

 

同型機3体の出現にノーヴェが毒づく。スタンドたちは一斉に動き出した!

 

〈〈〈排除!排除!排除!〉〉〉

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

『―――良シ。チャント『定着』出来たヨウダナ。』

 

のどかたちが戦っているビルからそう遠くない場所からスタンド・『プレシャス・プライド』は左手をカチ、カチ、と打ち鳴らしながらつぶやいた。

 

『我ガスタンド能力ハ『定着』サセル事!景色ヤ物ハ最初ノ内「違和感」ガアルガ、イズレハ慣レテ「定着」スル!『プレシャス・プライド』ハ『定着』スルマデノ時間ヲ『短縮』サセルスタンド!コレデ『メガロポリス・アリス』ハ和泉亜子に「定着」し、彼女ノモノとナッタ!』

 

『プレシャス・プライド』はそういうと姿を消し、本体もその場を後にした。

 

「………さて、後は彼女たちに任せよう。あの程度なら、乗り切れるだろうからな………」

 

 

 

 

 

スタンド名:メガロポリス・アリス

本体:和泉亜子

 

 

 

 

 

←to be continued…




77話です。
・今回のスタンド『メガロポリス・アリス』。「ターミネーター的に延々と追跡してくる」っていうのをやりたくて、こんな感じになりました。
 今回、『スチームパンクっぽいスタンドを出したい』と考え、「せっかくならスチームパンクな理由づけもしたいな」と思い、蒸気を能力の一部に取り入れてみました。

・『イノセント・スターター』の応用攻撃。子亀ミサイルは割と使い勝手がいいです。

・本体は亜子でした、というオチ。そして『プレシャス・プライド』の能力も判明。若干こじつけ臭い気がしなくもないけど………

では、次回をお楽しみに!


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#78/オットーは謎だ! ③

〈排除!排除!排除!〉

〈排除!排除!排除!〉

〈排除!排除!排除!〉

 

3体のスタンド『メガロポリス・アリス』が迫ってきた。

のどかやルル・ベルはスタンドの腕で応戦するも、その突進の力に押され弾かれてしまう。

 

「ホンヤ!ぐうっ……!」

〈排除!排除!排除!〉

〈排除!排除!排除!〉

 

ノーヴェとディードはのどかの事が心配になるが、自身に迫る2体のスタンドに手一杯で、向かえそうになかった。

 

〈排、除!排除………!排―――除!〉

「!?こ、コイツ!?」

 

さらに、亜子に一番近いオットーに向けて、半壊状態の壱號機がボロボロのアームをぎこちなく動かし、ずるずると這いずってまで接近してくる。危機感を覚え、オットーは自分の周囲に光弾を出現させた。

 

「待って!このスタンドを完全に破壊するのはマズいわ!」

「え!?」

 

しかし、『メガロポリス・アリス』の猛攻を凌ぐルル・ベルがオットーを止めた。

 

「自動操縦タイプとはいえ、全員倒したら和泉 亜子の身に何が起こるかわからないわ!」

「けど………じゃあ、どうしたら………ッ!?」

 

壱號機が迫る中、オットーはルル・ベルに聞く。

 

「………こうなったら、残る手段は2つ………」

 

ルル・ベルは少し考えた後、こう告げた。

 

 

 

 

 

「和泉 亜子を叩き起こして解除させるか………説得できなければ()()するしか………」

『!?』

 

 

 

 

 

#78/オットーは謎だ! ③

 

 

 

 

 

「………断っておくけれど、私も後者は出来るだけしたくはないわ………あくまで最終手段よ………」

「当然だろ………そうと決まりゃぁ!オットー!!」

 

ノーヴェはオットーに向けて叫ぶ。しかし、オットーは躊躇っている様子であった。

今回の件は自分に責任がある。故に亜子に拒絶されている自分に、彼女の説得などできるのであろうか?

 

「きゃぁッ!!」

「!?」

 

しかし、「メガロポリス・アリス」の振り下ろしたアームの一撃を受けたディードが悲鳴を上げた。厄介なスタンド3体の猛攻に、のどか達は長く持たない。

 

〈対……象、護衛………侵入…者、排………除………!〉

 

オットーは迷っている場合ではないと考え、亜子を起こすことにした。

 

「イ、イズミさん、イズミさん!」

「ぅう、ん………?」

 

オットーに揺すられた亜子は意識を戻し、まだぼんやりしながらも起き上がる。近くにオットーがいる事に気づくも、それ以上に周囲の『霧』が気になり、周りを見渡すと………

 

「はぁっ!!」

ドガッドガッ

〈排除!排除!排除!〉

 

「ウリィイイイイイイイイイャァアアアアアアアアアアアアアア!!」

〈排除!排除!排除!〉〈排除!排除!排除!〉

 

「ええッ!?どういう状況!?」

 

謎のロボットらしきものと戦うのどかたちという、とんでもない状況を見て一気に目が覚めた亜子。ロボットがやや透けているように見えるが、それ以上にのどかやルル・ベルの背後にいる幽霊みたいなの(スタンド)も気になるところだ。

 

「イ、イズミさん………」

 

混乱する亜子であったが、後ろにいるオットーに話しかけられて一瞬身を震わせた。

 

「あの、詳しい説明をしているヒマはないのですが………あのスタンド、ロボットのようなモノを止める事ができるのは、イズミさんだけなんです………」

「え………えッ!?」

「いきなりこんな事を言われて訳が分からないとは思いますが………あのスタンドを止めてほしいんです………」

「そ、そんなこと言われても………」

 

急に言われて混乱する亜子であったが、その時、半壊状態のスタンドがいつの間にか自分たちの目の前にまで迫ってきた!

 

〈排除!〉

「!?」

「ッ!だ、ダメッ!!」

 

壱號機がオットーに向けてアームを振り下ろそうとした瞬間、亜子は思わず叫ぶ。すると、壱號機のアームはオットーの目の前で止まり、ゆっくりと引き下げた。

 

〈対象、許可確認………入場許可………無礼謝罪。〉

「え………」

 

壱號機が頭を下げる動作をしてズルズルと這いながら離れる様子を見て、きょとんとするオットーと亜子。

 

「い、今のって………?」

「そうか、和泉さんの許可を得たら、攻撃されないんだ………」

 

壱號機の様子を見たディードとのどかはこのスタンド『メガロポリス・アリス』の特性に気づいた。

 

「………けど、根本的な解決にはなってないよなコレ!?」

〈〈〈排除!排除!排除!〉〉〉

「「確かに!!」」

 

しかし、『メガロポリス・アリス』はノーヴェたちへの攻撃を続行している。オットーのみが亜子に『許可』をされても意味がない。

 

「ほ、本当に何が起こって……?」

 

いまだ困惑する亜子。ルル・ベルはアームの攻撃を『サイケデリック・インサニティ』で捌きながら、亜子に向けて叫んだ。

 

「和泉 亜子!このスタンドは、あなたの『拒絶の意思』で動いているわ!」

「え!?」

「あなたが強く拒絶するような出来事を心の中でまだ『ゆるしていない』のが、このスタンドが消えない原因よ!それをゆるさない限り、スタンドは解除されないわ!ぐゥッ!!」

 

ルル・ベルがそこまで言った時、『メガロポリス・アリス』の一撃を受けて崩れ落ちた!

 

「ルル・ベルさん!」

「ゆ、ゆるすって………」

「………イズミさん………」

 

亜子は少し考えるが、自分が気絶する直前に何かあったと思い出した。すると、オットーが亜子に向けて、頭を下げた。

 

「その………ごめんなさい!!」

「へ!?」

 

いきなりオットーに謝罪をされて、驚く亜子。オットーは頭を下げたまま続けた。

 

「あの、ちゃんとボクが女性である事を話さなかったせいで、イズミさんを傷つけてしまって……謝ってゆるされるなんて思っていないけれど、でも、謝らせてください。ごめんなさい!」

「………あー………」

 

オットーの謝罪で、ようやく気を失う前に何があったのかを思い出した亜子。そうしたら混乱していた頭が急にすっきりして、ゆっくりと立ち上がった。

 

「………気にしないでくださいよ、ウチが勝手に勘違いして、勝手に惚れて、勝手に失恋しただけなんで………けどなー、女の人やったとはなぁー………残念やなぁー………」

「イズミさん………」

 

薄ら笑いを浮かべてオットーを見る亜子。頭を上げたオットーは亜子の様子に一種の『恐怖』を感じるが、亜子はそのまま話をつづけた。

 

「けど、これだけは………これだけは言わせてもらいますわ………」

 

そういうと亜子は目に涙を浮かべながら、右手を大きく振りかぶり………

 

 

 

 

 

「ウチの純情返せぇぇえええええええええええーーーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

バヂィーンッ

 

 

 

 

 

 

「ひぇゃブッ」

 

「「「「!?」」」」

 

オットーの左の頬に向けて、思いっきり平手(ビンタ)を喰らわせた!乾いた音に驚くのどかたちは一瞬動きが止まってしまう。

 

〈〈〈〈………〉〉〉〉

 

しかし、それと同時に4体の『メガロポリス・アリス』も動きを止め、ゆっくりと姿勢を戻した。

 

〈…断罪確認。怒気、供給停止。〉

〈活動理由、喪失。〉

〈任務終了指令、受領。〉

〈全機、撤退開始!〉

 

無機質に4体が立て続けに言うと、全てのスタンドが姿を消し、周囲を囲んでいた蒸気も霧散した。

 

「あ………」

「スタンドは解除されたようね………」

 

スタンドが解除されて、ホッと一安心するルル・ベル。一方の亜子は、オットーに強烈なビンタをかましてしまった事にハッとして、慌ててオットーを心配した。

 

「………ああ!?だ、大丈夫ですかオットーさん!?」

「………ええ、今まで受けたダメージよりはるかに痛いですが、それで皆が無事であれば………それに、悪いのはボクですし………」

 

左の頬に真っ赤な手形を付けたオットーはそう言うが、亜子は罪悪感であわあわするばかりである。

 

「ってそーだ!チンク姉たちがヤバいんだった!!」

 

しかしノーヴェだけは、思い出したかのように自身の携帯電話を取り出して何処かに電話をかけ始めた。

 

「もしもし、ギンガか!?チンク姉は!?………え………?」

「………とりあえず和泉 亜子、あなたには、色々と説明しないといけないわね………」

「あ、そーいえば………」

 

ノーヴェがギンガに電話をかける中、ルル・ベルが話しかけた。亜子は彼女たちが傷だらけである事に気づき、先ほどのオットーとルル・ベルの発言から、あのロボットらしきものが自分のせいで攻撃していたような気がした。

 

「……」

 

そこに、電話を切ったノーヴェが携帯電話を手に俯いていた。ディードはその様子を見て不思議に思い話しかけた。

 

「どうかしましたか、ノーヴェ姉さま?」

「ん?ああ、大丈夫だ………」

 

ノーヴェは怒気を孕んだ声で返すと、外したガンナックルを再度装着し、

 

「ちょっと、仗助さんブチのめさないといけなくなったんで………」

「え、何で?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――まさかおんなのこだったとは……っ」

「あー、うん……ゴメンなー釘宮、色々気を使ってもろて………」

 

十数分後の女子寮。亜子がいきなり飛び出していった上に突然の爆発騒ぎ(『メガロポリス・アリス』の仕業であるが)で心配になり亜子の携帯電話に何度もかけていた釘宮に謝る亜子。

一応、オットーの性別についての説明と顔に『()()』の付いたオットーの顔を見て、若干呆れ気味に納得してくれた。

 

「……まあ、オットーさんが亜子と仲良くしてくれるって言うなら、それでよかったんじゃない?」

「うん。ホンマごめんなー、この埋め合わせはどっかで………」

「うん、気にしないでいいからねー。じゃあ、これから桜子たちと課題やるから。」

 

そう言って、釘宮は手を振りながら去っていった。釘宮がいなくなったのを見計らい、陰から見ていたのどか達がやって来た。

 

「とりあえず、これで片付いたなー」

「ええ。彼女のスタンド―――『メガロポリス・アリス』といったかしら?それが残ってしまったのは、若干の不安があるけれど………」

 

木乃香とルル・ベルの言葉に、皆が頷く。

DISCによってスタンド使いにされてしまった亜子であったが、DISCが消滅してしまった上にスタンドを抜き出せる『ホワイト・スネイク』がこの世にいない以上、『メガロポリス・アリス』を抜き出す事は不可能だ。

 

「まあ、スタンドの特性上、頻繁に発動できないのが救いでしょうかー…」

「せやなー……」

「空条さんたちもスタンド使いを撃破したそうだし、しばらく敵は大人しくしているでしょうね………」

 

のどかと木乃香が話す。ふと、亜子は気になっていたことを口にした。

 

「………なー、ちょっと気になったんやけど………その『DISC』って、頭に直接差し込むんやろ?」

「……はいー、空条さんからはそう聞いていますがー………」

「そのDISCを盗んだ人が、差し込むのをウチらに気づかれずにやったって事は………」

「和泉 亜子。」

 

亜子の言わんとしている事を察したのか、ルル・ベルがそれを制した。

 

「あなたの言いたい事は分かるわ………私も、それには気づいていたわ………」

「え?」

「どういう事なん………?」

 

ルル・ベルの言葉に、木乃香が聞く。ルル・ベルは少し言いづらそうであったが、意を決したのか、木乃香を指さした。

 

「……近衛 木乃香、あなたは春休みに『エッジ・オブ・ジ・アンノウン』のレプラ・ハーパーに襲われた時には、『スタンド使い』じゃあ()()()()わよね?つまり、犯人は春休みから修学旅行の間の半月ほどの短い間に、あなたにDISCを、誰にも気づかれずに差し込んだ事になるわ………」

「あ!?」

「た、確かに………!?ちょ、ちょっと待ってください!?まさか………」

 

そこまで聞いて、のどかたちも気づいた。

誰にも気づかれないで、木乃香や亜子にDISCを差し込む。そんなことが出来るのは―――

 

「ええ、そんなタイミングに巡り会えるとしたら、可能性が高い候補は1つ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「DISCを盗んだ犯人は、3()()A()()()()()()()()()()()()………!」

 

 

 

 

 

←to be continued…




78話です。
・『メガロポリス・アリス』戦は、亜子の叫びとビンタで解決。亜子や釘宮のセリフとかは、似たような展開だった『なのはINNOSENTS』が元ネタだったりして。

・今後の展開として、『プレシャス・プライド』の正体の提示。序盤の展開なんて覚えていいないでしょうがw

・次回はティアナ達や徐倫の話になります。

では、次回をお楽しみに!


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#79/ルーテシア浮上

数日前---

 

「―――『運び屋?』」

「そうだ。先日の“シャラン”が学園に侵入した件で、ヤツの侵入ルートが分からない………麻帆良(ここ)の『転移ゲート』は見張られているし、車や鉄道等の正規ルートからの侵入も、確認できなかった………」

 

承太郎が宿泊している『麻帆良グランドホテル』の施設内にあるカフェテリアで、承太郎は対面したジョルノと話していた。

 

「シャランだけじゃあない………『オエコモバ』や『ギアッチョ』のような「不審者」がこの町に入った経路が不明だ………」

「………成程、『蛇の道は蛇』、でしたか?裏社会(ボクら)の情報ネットワークで、()()()の職業の人を探してほしいんですね。」

 

そうだと答える承太郎。ジョルノは一つ息を吐くと立ち上がった。

 

「分かりました。あなた方に協力すれば、SPW(スピードワゴン)財団の『後ろ盾』が得られるでしょうからね。」

 

そう言って踵を返して歩き出すジョルノ。しかしふと立ち止まり、

 

「所で承太郎さん?」

「?」

 

 

 

 

 

「腹違いの姉弟のクローンは、『妹』と呼んで良いのでしょうか?」

「………何の話だ?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

『メガロポリス・アリス』の騒動が起きた日の昼休み―――

 

「あ、ジョルノさん。」

「ん?」

 

先ほど入手した情報を手に、昼はどこで食べようか?と歩いていたジョルノは、ギンガにノーヴェ、フェイトにアーニャたちと偶然鉢合わせになった。

 

「これからお昼ですか?」

「ええ。」

 

ギンガにそう答えると、ふと、ジョルノはノーヴェとギンガを見て、先日スバルに言われた事を思い出した。

 

「………」

「?あの………」

 

ジョルノがじっとこちらを見つめるので恥ずかしくなったのか、ノーヴェが戸惑い気味に聞く。ジョルノは少し考えたかと思うと、ノーヴェの頭を撫で始めた………

 

「!?」

 

当然の事ながらいきなり頭を撫でられたノーヴェは驚いてジョルノから遠ざかる。突然の事にフェイトたちもキョトンとしていると、ようやくジョルノは、自分のしたことに気づいたのかはっとして、

 

「あ、ご、ごめんなさい………」

 

慌てて小さく謝るのであった………

 

 

 

 

 

#79/ルーテシア浮上

 

 

 

 

 

「ということがありまして………」

「えーと……うちのスバルがすいません………」

 

近くのレストランで一緒に昼食を取ることにして一緒の席に着いたジョルノは、料理を待つ間に先週スバルに言われた事をギンガに話した。

そしてギンガは申し訳なさそうに、上の謝罪をジョルノにしたのであった。

 

「なんつーか………スバルのあの人懐っこさだけはソンケーできるわ………」

「確かに………」

「そうか、その流れだとノーヴェもジョルノさんの妹になるんスね………」

 

呆れるノーヴェたちと、妙に納得するウェンディ。一応ギンガもその理論に当てはまる気もするが……

 

「すいません、今までそういう風に懐いてくる人がいなかったもので……」

「そ、そうでしたか………」

 

ジョルノが申し訳なさそうに言うと、興味を持ったのかディエチが聞いてみた。

 

「ジョルノさん、兄弟とかいないんですか?」

「ええ、徐倫や承太郎さんの話だと母親違いの兄弟がいたみたいですが、会ったことはないですね。それに、」

 

と、急にジョルノは影を落とし、

 

「実の母には育児放棄されて義父には虐待されてましたし………」

「あ、ゴメンナサイ………」

(その反動もあるのかな………?)

 

辛い幼少期の事を思い出してしまったらしいジョルノに謝るディエチ。微妙な空気になってしまった事に気づいたジョルノは、話を切り替えようと、アーニャに話しかけた。

 

「あー……そう言えばアーニャ、君はネギ君が危ない事件に巻き込まれていると聞いて、日本にまで来たそうだね?」

「え?ああ、そうだけど………」

 

急に話を振られたアーニャは一瞬何の事かと思ったが、直ぐに思い出した。

 

「私、修行でロンドンで『占い師』をしているのよ。始めて数か月だけど割と評判で。………それで、最近変な男の人が来て………」

「変な男………」

「うん、『喪服』みたいな真っ黒な服に黒いロン毛でサングラスかけて、ニヤケた口で鎖の巻いた『杖』みたいなものを持っていて………見るからに『アヤシイ』感じの人だったんだけど、『お客さん』として来たのを追い返すわけにもいかないと思って、ご要望通りに仕事運を占ったわ………」

 

アーニャはその男の怪しさを思い出したのか、身震いをした。

 

「それで占いが終わったから帰ろうとしたらその人の携帯が鳴って、そこで『ネギが大変』って話しているのが聞こえて………ネカネさんに話したら心配になってたから来たのよ………」

「そうなんだ………」

「その人、もしかして両右手の………?」

 

フェイトたちがその男の正体について考えていると、ジョルノはハッとした表情になっていた。

 

「あの、もしかしてその男ってコイツじゃあ……!?」

 

そう言ってジョルノは、先ほど受け取った資料の中から1枚の写真を取り出した。写真には、尖った印象の面長の顔に丸いサングラスをかけた黒い長髪の男が映っていた。

 

「ああ!そうよ!この人よ!!」

「なんか、マシンガン・ダンディ並に尖った顔っスね。」

「ジョルノさん、この人は………?」

「承太郎さんの依頼で調査をしていた『運び屋』です……名前は『ジェイド』。非合法の薬物や武器、人などの密輸を生業にした男だ。」

 

何でウェンディがそんな懐かしいキャラクターを知っているかは別として、ジョルノは男:ジェイドについて説明を始めた。

 

「ジェイドはこの数ヵ月、この麻帆良や関東近辺で目撃をされている。恐らくこの男はスタンド使いだ。サルシッチャと同様に、人知れず人を運ぶ能力を持っていると考えられる………」

「何と………」

 

ジョルノの話に息を呑む一同。という事は、この街の何処かにジェイドは潜んでいるのだろうか………?

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………さて、(帰りに洋裁店寄っていくかなぁ、久々に新しいコス作りたいし。)」

 

その日の放課後、千雨は下校すべく廊下を歩いていた。

 

(承太郎さんからはなるべく真っすぐ帰るよう言われてるけど、気分転換にネットアイドル活動せんと、やってらんねーからなー)

 

千雨にとって『スタンド使いの戦い』は不本意でしかなく、元々争いなく静かに暮らしたい願望があった。小学校高学年でパソコンに興味を持ってからはネットワークの世界にのめりこみ、ネットアイドルの存在を知って興味本位で投稿してみたら()()が良く一気に上位に入り、それが快感でやめられなくなっていた。以降、いやなことがあったりしたら『ちう』になってストレスを発散するようになっていた。

 

「………ん?」

 

ふと、目の前に中等部の生徒に混じって銀髪と赤髪の10歳くらいの少女が2人いる事に気づいた。

きょろきょろとまわりを見渡すその顔を見た千雨は、それが見知ったものであることに気づいた。

 

「………アギト?」

「あ、チサメ!」

 

2人の少女は千雨の顔を見ると駆け寄ってくる。近づいて再確認をしたが、2人はやはりリインフォースⅡとアギトの両名であった。しかし千雨の知っている2人は30㎝の手乗りサイズのはずなのだが、リインは可愛らしい白っぽいワンピース、アギトは黒いタンクトップという服装の、普通の10歳ほどのサイズであった。

 

「やっぱアギトにリインか………しばらく(2~3日くらいか?)見ない内に、大きくなってないか?」

 

2人に疑問を投げる千雨。すると2人は照れたように小声で答えた。

 

「フルサイズモードです。アギトがどうしても千雨さんとお話がしたいとの事だったのですが、あいにく手の空いている人がいなくて、私が付き添う事になったのです。」

「ああ、それでその大きさに………てか、普段からそのサイズの方が便利なんじゃないのか?」

「この格好『燃費』悪くて………」

「すぐに疲れちゃうんですよ………」

 

なるほど、と納得した千雨は、本題に入ることにした。

 

「………それで、私に何の用だ?(ルーテシアがいないのも気になるな………)」

「う、うん……チサメには言っておこうと思って………」

「………?」

 

アギトが神妙な顔つきになったのを見て、千雨は『ただ事ではない』と察した。アギトは千雨に耳を貸すように言うと千雨に耳打ちをした。

 

「………!?」

 

アギトに耳打ちされた千雨は顔を青くし、周囲を見渡した後こっそりと2人を連れてその場を立ち去った。

 

「あれ、長谷川さんに、リイン曹長?」

「え、リインってあんなに大きかったか?」

「どうかしたんですか、空条先輩?」

 

偶然それを見かけたスバルと徐倫、明日菜の3人。文芸部の後輩である羊の角か背を丸めたエビに似た形状のツインテールの少女は徐倫に話しかけるが、3人は千雨が気になっていて返事をしない。

 

「……悪ぃ、今日部活休むわ。」

「あ、先輩!?」

 

千雨を追うことにした徐倫たち3人に後輩は止めようとしたが、3人はあっという間に遠ざかってしまった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………つまり、ルーテシアは私との『関係』を知っているんだな?」

「ああ、ルールー、あれから落ち込んでて………どうにかしないとって思って………」

 

屋上まで移動した千雨は、アギトから話を聞いて額に手を当ててため息を吐いた。まさか、あの時自分と(ポルナレフ)の会話を聞かれていたとは………

 

「(あん時は頭に血が上って、父さんめった打ちにしてて気づかなかったなぁ………)で、他に知っているのは、『ミスタ』だけなんだな?」

「うん、ルールーの事を考えて、黙っていようって事になったから、他には言ってないよ………」

 

千雨もリサリサにだけは話したが、あとは承太郎が知っているのと、徐倫に感づかれているくらいだろう。

 

「あの、一体なんの話なんですか………?」

「………悪いが、リインにもまだ話せない………これは私と、ルーテシアの問題だからな………」

「それはないんじゃーないのぉ~~~?」

 

千雨がそう言った時、屋上のドアが開いて徐倫たち3人に加え、合流したらしい楓とまき絵が屋上に入って来た。

 

「じょ、徐倫…!?」

「様子がオカシイから来てみたけれど………最近何か思い詰めてるみたいだったしさぁー………」

「千雨ちゃん、何かあったの!?」

「あの、私たちじゃあ役にたつかどうか分からないけれど、悩みがあるなら相談にのるよ!」

 

突然現れた徐倫たちに驚くが、心配そうに話しかけてくる明日菜やスバルに圧倒され、ぐっと引く。厄介なのに気づかれたなぁ、と思い頭を掻いた。

 

「………わーったよ、話すけどその前に………」

 

チラリとドアを見た後、今いるメンバーを見た。

 

「………まず佐々木、『G・キッド』に入り口を見張らせて、リインの口を両手で塞げ。」

「?うん。」「もごっ?」

 

千雨に言われ、グロウン・キッドを入り口に向かわせた後、後ろからリインの口を塞いだ。

 

「ナカジマ、佐々木の口を塞げ。」

「うん。」「もごっ」

「神楽坂、ナカジマの口を塞げ。」

「え、うん。」「もごっ」

「徐倫、神楽坂の口を塞げ。」

「あいよ。」「もごっ」

 

千雨に言われるがままに一同は口を塞ぎあい、縦に整列した一団が口を塞ぎあった珍妙な光景となった。

 

「じゃあ、話すぞ。」

「成程、この面子が驚いて叫ぶような内容でござるか………」

 

明日菜たちの状態の理由を理解した楓が、顔を引きつらせながらつぶやいた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

同じころ、生徒に『不審者が女子中等部の校門付近にいる』と聞いたタカミチは、校門にまで来ていた。

 

「きゃあ!」

「ん~~~、コイツじゃぁねぇな~………次だ!」

「や、やめなさいよ!!」

 

校門の前では、スキンヘッドで眉毛がなく、千円札かと思うくらい角ばった顎の2mはあろう、筋肉ムキムキの大男がいた。迷彩柄のタンクトップに薄茶色のカーゴパンツと黒いブーツという服装で、写真片手に下校途中の生徒を捕まえては顔を確かめていた。

 

「………あーキミ?何やっているんだい?」

「高畑先生!」

「あん?なんだテメー?オレは人探してんだよ、ジャマすんな!」

 

スキンヘッドの男はタカミチを睨むが、タカミチは笑いかけながら近づく。

 

「キミが誰を探しているかは知らないけれど、それ以上生徒たちの迷惑になるようなら、ご退場願うよ?」

「おう、やる気かテメー!」

 

大男は指をポキポキ鳴らしながらタカミチと距離を詰める。そして腕を大きく振りかぶり―――

 

ボギャァ

「ぐえブ!?」

 

ポケットに手を入れたままのタカミチを前にして、そのまま横っ面に一撃を喰らって吹っ飛ばされた!

 

「やれやれ、これ以上痛い目を見る前に、帰った方がいいんじゃあないかな?」

「ぐっ………」

 

タカミチはタバコを燻らせながら、倒れる男に声をかける。男はゆっくりと起き上がると、黙ってタカミチを睨んだ。

 

「………」

「………」

「………い、」じわっ

「?」

 

 

 

「いっでぇええええええええええええええええッ!!痛ってぇえよぉおおおおおおおおおおおおッ!!」

「は?」

 

睨んでいた男は急に涙を流しながら、殴られた右頬を押さえ叫びだした。

 

「よっ!よくもやりやがったなテメー!「痛い目見る前に帰れ」だと?違うな!!」

「何………?」

 

男は右頬を押さえながら、涙目でタカミチを睨んで指さした。

 

()()()を見るのはお前だ!()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

「………マジでか………」

「なんと………!」

 

千雨から聞かされた事実―――ルーテシアの父親がポルナレフであり、千雨とは異母姉妹にあたるという事に、静かに驚く徐倫と楓。口を塞がれた明日菜達はもごもごとしているが、明日菜が徐倫の手を振りほどいた。

 

「ど!どー言う事よそれ!?そ、それってつまりは、その………!?」

「………今言った通りだ。今まで知らなったが、私に『妹』がいたんだ………」

 

千雨が気まずそうに言うのを見た徐倫が、それ程までに悩んでいた事に気づいた。

そこで、スバルがはっとある事に気づいた。

 

「は、という事は………いずれルーテシアも長谷川さん(ちう)みたくはっちゃけた性格に!?」

「いや、ねーよそれはッ!!」

 

目を吊り上げてスバルにツッコミを入れる千雨。確かにネットアイドルモード時は結構ハイテンションなのは自覚しているが。

しかし、徐倫もそれに乗っかる。

 

「いや、分かんないぞ?後3、4年もしたら、屋根の上に仁王立ちして高笑いするようなはっちゃけたキャラになるかもしれないじゃないか?」

「何だその割と具体的な未来予想図は!?ならねーだろ!てか、なってほしくない!」

 

今のルーテシアからあまり乖離してほしくないと思い、否定する千雨であった。

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

「我が家にどーーーんとおいでませーーー!!」

 

なお、残念な事にその予想は的中してしまう事になる。

閑話休題。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「けど、何で今まで言わなかったのよ?」

 

話を戻すべく、明日菜が聞く。千雨は言い辛そうな顔つきになり、話し始めた。

 

「………理由は3つある。1つは、私の気持ちの整理がついていなかったからだ。イキナリ『妹だ』なんて言われて、どうしたらいいか分からなかったんだ………」

 

千雨の告白に確かに、と頷く一同。

 

「2つ目に………父さんが浮気した上に子供まで出来たことなんて母さんに知れたら、怒って麻帆良学園を『半壊』させるほどに大暴れしかねないからだ………」

「半壊!?」

「いや、長谷川さんのお母さん何者なの!?」

「手加減と遠慮をしたくても出来ないような不器用かつ、口より先に手が出るタイプの人だ。」

「傍迷惑ね!?」

 

千雨の母―――百香の話は昼休みにもしたが、実の娘にここまで言われるとは一体……?

なお、失礼ながらスバルと明日菜の脳裏には、ゴ●ラめいて大暴れする巨大な女性の姿が思い浮かばれた。シャ○トならやりかねないが。

 

「そして3つ目に………これが一番の理由なのだが………」

『!?何者だッ!!』

『ッ!!?』

 

千雨が理由を言おうとしたその時、入り口にいたグロウン・キッドの怒号が聞こえた。

全員がそれに反応して入り口のドアを開くと、踊り場にまで下りた緑色の魔神に叫ぶ。

 

「どうした!?」

『フム、イツノ間ニカ入り口デ聞き耳ヲ立テテイル男ガイタノダ!私ガ気ヅイタ時ニハ既に入り口ニ立ってイタ!今の会話ヲ聞カレタゾ!』

「何だと!?」

 

千雨の顔が青ざめる。『グロウン・キッド』に感づかれる事なく接近していたという事は、そういう『能力』のスタンド使い!

 

「ま、マズいぞ………一番恐れていた事が………!」

「ど、どう言う事!?」

 

明日菜が千雨に聞くが、既に千雨は行動に出ていた。

 

「ナカジマ!ルーテシアの無事を確認しろ!」

「え、う、うん!」

「どういう事なのよ千雨ちゃん!?」

 

スバルに指示をした千雨に明日菜が聞く。千雨は焦った様子で説明する。

 

「これが三番目の理由だ………神楽坂、私の命が狙われている理由、覚えてるか?」

「え?それは、千雨ちゃんのお父さんが………あッ!?」

 

そこまで言って明日菜も気づいた。

 

千雨が両右手の女ことヴィオレッタに命を狙われているのは、千雨の父J・P・ポルナレフが彼女の兄J・ガイルを殺したからだ。しかしポルナレフは6年前に亡くなっているため、その娘である千雨に父の罪を償わせようとしている。

だとしたら、同じく娘であるルーテシアも………!?

 

両右手の女(ヴィオレッタ)にこの事実がバレたら私だけじゃあなくルーテシアの身も危ない!だから今まで黙っていたんだ!それが今バレた可能性が高い!!」

「そ、そんな……!」

「ティア!?ティア!?」

 

その時、ティアナに電話をしていたスバルが慌てた様子で呼びかけていた。

 

「スバル!?ま、まさか………!?」

「ル、ルーテシアと一緒のティアに連絡したんだけど………途中で悲鳴が聞こえて………返事をしなくなって………」

「くっ、遅かったか!」

「楓!お前は先に行け!」

「御意!」

 

困惑したスバルからルーテシアの危機を察した千雨は走り出す。徐倫も楓に指示を出し、楓は屋上から飛んで行った。

 

「近くのボーリング場だったな!?」

「うん!ギン姉たちと一緒にそこに行ってたって!」

「もしかして、ギンガさんたちを監視してたのか?だとしたら複数人、すでに麻帆良(ここ)に潜入していたことになる!」

 

走りながら話す一同。1階昇降口まで来たその時、校門付近が騒がしいことに気づいた。

 

「……?なんだ、こんな時に―――!?」

 

慌てつつも何事かと思い見てみると、そこには………

 

 

 

 

 

「ぐ………っ」

「な………!?」

「た、高畑先生!?」

 

ボロボロで片膝を着くタカミチと、それに立ちはだかるスキンヘッドの大男の姿であった………!

 

 

 

 

 

←to be continued…




79話です。
・サブタイトルは『ディアボロ浮上』から。

・結構本気で悩んでいたジョルノ。ジョルノって親の愛とか知らなそうだから、兄と慕ってくるスバルに戸惑うだろうなぁと思いました。

・千雨とルーテシアの関係の告白。口塞ぎあうのはジョジョっぽくもネギまっぽくもある感じがしてお気に入り。
 Vividのあれも、ポルナレフの血筋と考えれば納得?

・ティアとタカミチのピンチ!次回は敵の正体が発覚予定です。

では、次回をお楽しみに!


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#80/ディアボリック・シークエンスとパワー・ゲート ①

スバルが電話をかけた時、ティアナはチンクと一緒にトイレでルーテシアを待っているところであった。

 

「ん、スバル?」

 

携帯に表示された名前を見たティアナは、トイレに入って来た女性が通るので避けると、電話に出た。

 

「もしもし?」

[ティア!今どこ!?ルーテシアは!?]

「え?今、近くのボーリング場だけど………」

 

チラリと横目で見ると、トイレから出てきたルーテシアが、チンクと合流をしたところであった。

 

「ルーテシアなら、今トイレから出てきたけど………どうしたの?」

[よ、よかった………実は………]

 

スバルが説明をしようとしたその時、洗面台に立っていた女性がこちらに向き直ったかと思うと、

 

バシャッ

 

「ひゃっ!?」

「キャッ!?」

「なっ…!?」

 

ティアナたちに向けて、手にしたコップの水を浴びせてきた!

 

「ちょ、ちょっと!何するのよ………!?」

 

驚いて携帯を落としてしまったティアナが文句を言おうとしたが、不意に体の力が抜けて、3人とも床に倒れてしまった。

 

「………!?(な、なに………ち、力が………)」

「すみませんね~………最初は『監視』のみだったんですけれどぉ、その()を『()る』よう言われましたので………」

 

女性はか細い声で、しかし小馬鹿にしたように言う。ティアナは意識が朦朧とする中その顔を見上げるが、女性は三日月のような笑みを浮かべて、こちらを見下ろしていた。

 

「ああ、安心してください。私の『ピンク・アクアリウム』の水を受けて、『即死』するようなことはありませんので………」

[ティア!?ティア!?]

(何………もの―――?)

 

女性はティアナの携帯を拾うと電話を切る。ティアナは意識が遠のく中、女性の手にしたコップにしがみ付くように、脚の長い虫のようなスタンドが取り付いているのを見た………

 

 

 

 

 

#80/ディアボリック・シークエンスとパワー・ゲート ①

 

 

 

 

 

「高畑先生!!」

「あ、アスナ!」

 

明日菜がタカミチに駆け寄ると、それに徐倫たちも続く。すると、明日菜たちに気づいた大男が、先ほどの写真を出して、徐倫たちと見比べた。

 

「大丈夫ですか!?一体何が………!?」

「あ、アスナくん………いやね、彼が勝手に入って来たから帰ってもらおうと思ったんだけど………どうやらスタンド使いだったらしくてね………」

「何!?」

 

タカミチから状況を聞いた千雨が大男を睨む。時間的に見て、おそらくはルーテシアの事を知られる前に差し向けられた刺客であろう。何というタイミングであろうか。

 

「おお!間違いねえ、アイツが『長谷川 千雨』か!」

「ボクも何発か入れたんだけど、いつの間にか回復していて、情けないことに、ボクの方がボコボコにされてしまったよ………」

「マジか………」

(高畑先生は非スタンド使いとはいえ、かなりの実力者のはず………それを逆にボコボコって事は、能力が厄介なタイプか………?)

 

徐倫が大男に警戒をしていると、焦っているらしい千雨はイライラしたように「こんな時に………」とつぶやいていた。

 

「よーやく見つけたぜぇ~~~手間取らせんなよなぁ~~~!」

「やっぱ私狙いかよ!ぶっ飛ばしてやるから、名を名乗りな!!」

「千雨ちゃん!」

「高畑先生、人払いを………」

「わかった。」

 

千雨が男に啖呵を切ると、男は指をポキポキ鳴らしながらこちらに近づいてくる。

 

「オレはヴァナゴン、32歳、おうし座のB型。半年くれー前にスタンド使いになった。雇った『シャラン』ってのがアッサリやられちまったってんで、オレに()()が回って来た次第ってワケよぉ~~~」

「そーかい、それならもーちょいひっそりとやってほしいモンだがなぁーーー!」

 

焦って冷静な判断ができていないのか、ヴァナゴンに詰め寄ろうとする千雨。しかし、それを徐倫が制した。

 

「徐倫?」

「千雨、焦るのは分かるけどさぁ~、そんな状態じゃあ、勝てるモンも勝てないわよ………」

「ぐ………」

 

徐倫に諭されてぐっとこらえる千雨。一方のヴァナゴンは、間に入った徐倫を睨んだ。

 

「オイ、ぶっ飛ばされたくなけりゃあそこを退きな!」

「悪いけど、ぶっ飛ばされるのも退くのも拒否するわ。」

「あん?」

 

ヴァナゴンは徐倫の目の前まで来ると、見下ろすように睨んできた。

 

「悪いけどこっちもひまじゃないのよね~………とっとと退いてくんない?」

「退くわけねーだろ!オレだってそいつに用があんだよ!」

 

ヴァナゴンが徐倫の進言を突っぱねると、

 

「あ、そう。」

ボギャッ

「!?」

 

その瞬間、『ストーン・フリー』の拳がヴァナゴンの頬に叩き込まれた!

 

「ぎ、うぎ……?」

 

何が起こったのかヴァナゴンが理解をするよりも早く、徐倫は追撃の拳を放つ!

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアーーーッ!!」

「ぐべぼも゜ろぺェーーーー!?」

 

『ストーン・フリー』の突きの連打(オラオラ)を受けて、奇声を上げながら吹っ飛ぶヴァナゴン!地面に墜落したヴァナゴンを見て、スバルたちは呆れの混じった表情になった。

 

「あ、相変わらず容赦ないね………」

「基本、かったるいのは嫌いなたちなんでねぇー………」

 

殴り飛ばした徐倫はため息交じりに言いながら、一方で、ヴァナゴンの様子をうかがっていた。

 

(高畑先生の話じゃあ、『攻撃喰らったダメージが回復していた』そうだが………ヤツはスタンドで反撃―――私がとっとと攻撃したのもあるだろうが、してこなかった………てっきり高畑先生はスタンド使いじゃないから対応できなかったんだと思ったが、直接攻撃するタイプじゃあないの………?)

 

徐倫が今のヴァナゴンの様子から推察していると、倒れたヴァナゴンが起き上がった。顔は腫れあがり口や切ったらしい頬から血を流し、右腕も骨折しているのか変な方向に曲がって足元もおぼつかない。

 

「ぎぃ………で、でめぇ………!」

「!?徐倫、なんか来るぞ!!」

 

千雨がそう言った瞬間、ヴァナゴンの背後に異形の(ヴィジョン)が現れた!

 

毒々しい緑と紫の体色をしたワニガメを髣髴とさせる爬虫類のような三角形の頭と甲羅を持ち、地面に着くほど長い前足の先には大きな手と鋭く赤い爪、対照的に後ろ足は太い。

何をする気かと待ち構えているとスタンドの下あごが左右に開き、喉の奥に真珠のような光沢の『弾丸』らしきものが顔を出した!

 

「!?あ、あれは………?!」

「マズい!何か『飛ばす』スタンドだ!」

 

千雨が叫んだ瞬間、スタンドの口から球状のものが発射された!

 

「くッ……!(避けることもできるが、人払いは完全じゃぁない………)撃ち落とすしかない!!」

「オラオラオラオラーーー!!」

 

徐倫はこちらに向かってくる球に向けて『ストーン・フリー』の拳を繰り出す!

 

ズズウゥウーーー

「!?」

「何!?」

 

しかし、殴りつけた球はストーン・フリーの拳にまるで染み込むように()()()()()ていった!?

 

「何……!?(ストーン・フリーの中に入って―――!?)」

 

徐倫がそれを認識した瞬間―――

 

 

 

ドガガガガッ

「!?」

 

徐倫は後方に派手に吹き飛んで行った!

 

「ジョ、………」

「徐倫!!?」

 

吹き飛んで倒れた徐倫に駆け寄るスバルとまき絵。徐倫は顔がはれ血を流し、腕が変な方向に曲がっていた……

 

「ぐぅ………」

「これ………(砲撃のダメージじゃない………?)」

「ガーッハッハッハッハー!」

 

スバルは徐倫の傷を見て不思議に思うが、後方でヴァナゴンが勝ち誇ったように嗤った。

 

「残念だったなぁ!オレの『ディアボリック・シークエンス』の砲弾は、触れただけでアウトなんだよぉッ!!」

KRRRRRRRRRR(カロロロロロロロロロロ)………』

 

背後で『ディアボリック・シークエンス』が高い声で鳴かせながらヴァナゴンが言う。『ディアボリック・シークエンス』はヴァナゴンの身体に戻ったのを見たとき、スバルはヴァナゴンの傷が治っている事に気づいた。

 

「か、回復してる………?」

「あんな漫画みたいな笑い方する人、本当にいるんだ………」

「やろー、よくも徐倫を!!」

 

ヴァナゴンの回復にスバルたちが驚いていると、千雨が『アニバーサリー・オブ・エンゼル』を身にまとってヴァナゴンを睨んだ。

 

ドンッ

「え?」

「!?」

 

千雨が飛びかかろうとしたしたその時、ヴァナゴンの左太腿に穴が開き、血が噴き出した!

 

「ぎ、ぎいいいいやぁあああああああ!!??」

『『イィイヤァアアーーーッ!!』』

 

痛みでのたうち回るヴァナゴンの近辺で、滴型の頭をした銀色のスタンドが2匹(額には1と3と書かれている)が浮遊していた。さらに、その上空を大きなものが飛んだかと思うとそこから男、ミスタが飛び降りて銃口をヴァナゴンに突き付けた!そして飛んできたそれ―――ウェンディのライディングボードがスバルたちの元へ飛来した。

 

「おまたせッス!」

「ウェンディ!ジョル兄も………」

 

そこに乗っていたウェンディとジョルノを見て、スバルが声を弾ませる。一瞬ジョルノは顔をこわばらせるが、徐倫の傷を見て近寄った。

 

「大丈夫ですか。ちょっと見せてください。」

 

そう言うとジョルノは『ゴールド・エクスペリエンス』で徐倫に触れ、ズギュンッ、とエネルギーを流した。すると、みるみる内に傷が治り、多少跡が残ったが治癒された。

 

「えっ?」

「『ゴールド・エクスペリエンス』で生命エネルギーを与え、治癒力を向上させました。ジョースケと違って完全に治すわけじゃあないから多少痛みは残りますが、動く分には問題ありません。」

「助かったわ………腕はまだ痛いけど………」

「ぐ、うぎぎぎぎぎ………」

 

徐倫が礼を言うと、左太腿を押さえて唸るヴァナゴンを見ながら、ジョルノが説明を始めた。

 

「大体の事情はカエデとミスタから聞きました。今、他のメンバーがルーテシアたち3人を捜索中です。」

「ありがとう、ジョル兄!」

「………」

 

スバルの一言に一瞬詰まるジョルノ。その時、痛みを堪えながら立ちあがったヴァナゴンがこちらを睨むが、ミスタに牽制されてうごけない。

 

「おっと、ヘタに動くなよ?おめーの脳天に、風穴開けたくねーだろー?」

「っ!な、ナメンナぁアアアアアアアアア!!」

KRRRRRRRRRR(カロロロロロロロロロロ)………』

 

ヴァナゴンが叫ぶと、背後に『ディアボリック・シークエンス』が出現、その口を開き、砲弾を放った!

 

「うぉ?!」

 

ミスタは咄嗟によけると、砲弾は後方に飛んでいく。

 

「きゃああッ!!」

「!?」

 

その時、後方から悲鳴が上がる。見ると、砲弾が当たってしまったらしい女子生徒が、出血する左足を押さえて倒れていた。

 

「しまった………」

「避けんじゃねーよッ!!」

「!?」

 

ミスタが驚く暇もなく、スタンドをしまったヴァナゴンがタックルをかます。ミスタは吹っ飛ばされかけるが、すかさず銃を構えた。

 

「行けぇ!『セックス・ピストルズ』ッ!!」

ガンガンッガァーーーンッ

『『『イィィイイイーーーーッハァアーーーーッ!!!』』』

 

放たれた3発の弾丸に乗ったスタンド『セックス・ピストルズ』は叫びながら弾丸を乗りこなしてUターンをしてヴァナゴンに迫る!

 

「ひえっ……」

「何!?」

 

しかし、ヴァナゴンはミスタから飛びのいて弾丸から回避する。『ピストルズ』は本体(ミスタ)に当たらないよう地面に着弾させると、ミスタの元に戻った。

 

「あ、アブネーなおい!弾丸を操作するスタンドかよ………」

『コイツ、スタンドデ防御シナカッタゾ!』

『モシカシテ、アマリ攻撃向きジャネーノカ?』

 

ミスタの周囲で『ピストルズ』の№1と№3が、ヴァナゴンの様子を見て言った。

先ほどからヴァナゴンは、スタンドをしまったまま肉弾戦に持ち込んでいる。あのスタンド『ディアボリック・シークエンス』は、直接戦闘するのに向かないタイプのスタンドなのだろう。ミスタがそう考えた時、ヴァナゴンの背後に、小太刀を構えた千雨が迫っていた!

 

「翼刀剣舞―――」

「!?」「何!?」

 

両手の小太刀を逆手に構え、錐もみ回転しながらヴァナゴンに斬りかかった!

 

羽空(ばくう)!!」

斬ッ!!

「ぐぉッ………!!」

 

ヴァナゴンは腕に『×』字に刀傷を負い、後退った。千雨はその場に着地すると、徐倫が叫んだ。

 

「おい、千雨………」

「わーってるよ!けど、私の考えが正しければ………ッ!」

 

千雨が言いかけた瞬間、ヴァナゴンはディアボリック・シークエンスが千雨に狙いを定めて砲弾を放った!

 

「………ッ!!」

 

千雨は『アニバーサリー・オブ・エンゼル』の翼を前面で交差させるようにして防御。しかし、砲弾は翼に溶け込むように吸い込まれる。その瞬間、千雨は苦い顔をした。

 

「千雨ちゃん!?」

「ッ………自分の剣技を受けるのってのは、結構キツイな………」

「え?」

 

翼を広げた千雨は、徐倫たちの元まで下がる。見れば、千雨の腕には先ほどヴァナゴンに付けたのと同じ、『×』字の刀傷があった。

 

「これは………?」

「徐倫の傷が『砲撃』によるものじゃあなかったし、さっきのやつも、ヤツと同じ太腿に傷を負っていた……しかも、ヤツの傷は消えてたから、『もしや』と思ってワザと砲弾を受けて確信した………」

 

ジョルノに傷を診てもらいながら、千雨は説明をした。

 

「ヤツのスタンド能力は、『自分の受けたダメージを砲弾にして発射し、肩代わりさせる』能力!」

「ええ!?」

「なるほど……高畑先生があそこまでボコボコにされる程なんて、とは思ったが………」

 

『ディアボリック・シークエンス』の能力の正体を知った徐倫たちも、納得した。

サソリは自分の尻尾の毒で死ぬというが、いくら手練れの者でも、自分の攻撃をそのまま喰らうなんてことは滅多にないだろう。

 

「ていうコトは、アイツにいくら攻撃しても誰かに移されて、しかもアイツ自身は元気いっぱいって事!?」

「ああ……正直、『致命傷』追わせても死ぬ気がしないわ………だが、それ故に『対策』はある………」

 

徐倫はそう言うと、まき絵に指示を出した。

 

「まき絵!『グロウン・キッド』を!!」

「もうやってるよ!!」

ブワヮァアーーー

「何だ!?」

 

まき絵が返事をした瞬間、ヴァナゴンの背後から地面の色に擬態していた『グロウン・キッド』が出現し、ヴァナゴンの身体を包み込んでしまった!

そのまま布はガッシリとヴァナゴンを拘束してしまい、ヴァナゴンは身動きを取れなくなってしまった!

 

「な!?何だこりゃ!?動けねぇ……!」

『フム、コウ見えてパワーニハ自身ガアルノダよ。』

 

ヴァナゴンが脱出を試みるも、『グロウン・キッド』の拘束具はビクともしない。どうにかしようとしていると、徐倫たちがこちらに歩いてきた。

 

「ヴァナゴンさんよぉーーー、あんたのスタンド能力は、正直強力よ………私たちが今まで戦った中で、一番『相手にしたらヤバい』と思ったわ………」

 

徐倫は、倒れるヴァナゴンに向けて称賛の言葉を贈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、『()()()()()()()()()()()()………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 

 

 

 

「じゃあ佐々木、ミスタさん、後よろしく!」

「行くわよスバル、アスナ!!」

ダッダーーー

「「って、ええーーーーー!?」」

「え?お、おい!ちょっと!?」

 

言うや否や、徐倫と千雨は踵を返して、その場を走っていってしまう!慌てて明日菜とスバル、ジョルノは追いかけると、横に並んで問いただした。

 

「ってちょっと!!アイツほっといて良いの!?」

「ああ、アイツのスタンドは確かに強力だが、『ダメージ負わないと攻撃できない』みたいだからね。それってつまりさぁ~~~、『攻撃しないで捕まえとけばいい』って事じゃない?」

「成程、賢明な判断ではあるな………」

 

ジョルノは2人の作戦を聞いて、納得をしたが、明日菜は微妙に腑に落ちない様子であった。タカミチをボコボコにされた事が、少々頭にきているようだった。

 

「とにかく、今はルーテシアが優先だ!アイツは後回しで大丈夫だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!?」

 

しかし、走っていた千雨の目の前に、突然『刀の切っ先』が現れた!千雨は咄嗟にブリッジ回避をして、走った勢いのままスライディングした!

 

「!?」「え……!?」

「な、何だこれは………!?刀が空中に………!?」

 

徐倫たちも空中に現れた刀に驚いていると、空間がまるで『()()()()()()()』かのようにして『穴』が開き、ズルリと、細身の男が現れた。

 

「悪いが、オタクらをこの場から逃がさないよう依頼人(クライアント)に言われていてね………」

 

ねっとりと話すのは、尖った印象の面長の顔に丸いサングラスをかけた、黒い長髪で背の高い男だ。喪服のような真っ黒なスーツに深紫のシャツを着て、刀の柄尻から伸ばされた鎖をジャラジャラ鳴らしながら、こちらを見ていた。

 

そして男の足元には、スタンドが立っていた。

 

身長の高い男の膝ほどしかないのに、その身長の2倍はあるぶかぶかのねずみ色のローブを着た小柄な姿をしており、目元にはハチドリのクチバシのようなものが付いたマスクをかけたような見た目をしている。ローブの袖からは、これまた身長の倍はありそうな鉈のような形状のかぎ爪が3本ずつ生えており、時折地面を叩くかのように動かしていた。

 

「!?ジェ、ジェイド………!?」

「ほう、流石だなジョルノ・ジョバァーナ。俺の事を知っているとは………」

 

ジェイドはジョルノに笑いながら言うが、千雨はジェイドの持つ刀を見て驚いていた。

 

「あの刀………まさか………?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ティアナが目を覚ますと、何故か目の前には『鉄格子』があった。まだはっきりしない頭で周りを見渡すと見慣れない部屋で、あの女の姿はなかった。

とにかく、部屋の中を探ってルーテシアたちを見つけ、脱出せねばと思い立ちあがろうとした。

 

(………え?)

 

しかし、ティアナは急に身体のバランスを崩し、慌てて両手をつく。

何が起こったのだろうと思い、もう一度立とうとするが、それが出来ない。まるで、『立つことが最初からできない』かのようであった。

 

(な、何が………)

「あ、起きたんですねぇ………」

 

ティアナが混乱していると、あの女の声がした。

振り返ると、そこには緑色の四角い厚縁眼鏡をかけた茶色いロングヘアーの女性が入って来た。白いブラウスに細いリボンを巻き、チェックのスカートを履いている。

ここでティアナは、女性が見上げるほど大きくなっている事に気づいたが、それよりも女性の目的と正体を問いただそうと考えた。

 

「あ、あなた!一体何者なの!?私たちに何をしたのよ!!」

 

ティアナは女性にそう叫んだ。

 

()()()()()()()()

 

しかし、その口から出た言葉は、

 

「にゃあ!にゃあにゃあッ!!」

 

(………ええ!?)

 

それは言葉ですらなく、()()()()()()()()()()

 

「にゃ?にゃあああ!?」(な、何よこれ!?何でしゃべれないのよ!?)

「ピヨ………?」

「クゥ………?」

 

ティアナが混乱していると、背後から動物の鳴き声が聞こえた。振り返れば、そこには紫色のカラーひよこと、銀色のアンゴラウサギがいた。だが、その大きさはティアナの目線とほぼ同じであった。

 

「キュゥ……?(ティ、ティアナか……?)」

「にゃ、にゃぁ……?(チ、チンクと、……ルーテシア……?)」

「ピヨ……?(え、これって………?)」

「ああ、みなさん起きたんですね。じゃあ、まずはこれを見てください。」

 

女性はそう言うと、大きめの鏡をこちらに見せてきた。ティアナは少し怖かったが、その鏡を見て、そして固まった。

 

「にゃ………?(え………?)」

 

 

 

 

 

そこにはカラーひよことウサギの他に、オレンジ色の毛並みの子猫がいた。

ティアナが右手を上げると子猫も前足を上げ、ティアナが自分の手をここで初めて見ると、それはオレンジの毛むくじゃらの、子猫の手であった………

 

「にゃ、にゃぁああああああああああああああああああああああああああああ!!??」

 

猫になってしまったティアナは、悲鳴を上げた………

 

 

 

 

 

←to be continued…




80話です。
・『ピンク・アクアリウム』の本体は、ジョジョによくいる「モブキャラっぽく出てくる敵」を意識したキャラにしました。
 能力的にはセト神の系統なんだけど、フォローしてる別のジョジョ作品と被っちゃって若干凹み気味………

・『ディアボリック・シークエンス』は、億奏のように能力はヤバいけど本体がバカなタイプ。割と攻略法はあったりします。

・ジェイド参戦。空間移動系なんですが、詳しくは次回で。

・ちなみに、全体を読み返してみたらメカっぽいデザインのスタンドが多くなっていたので、今回は『脱メカニカル』をコンセプトにスタンドの見た目を考えています。

では、次回をお楽しみに!


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#81/ディアボリック・シークエンスとパワー・ゲート ②

仕事が忙しかったりグリッドマン観てたりしたら、年が明けていました……

今年もよろしくお願いします。


「にゃ……にゃっ!?(何よこれ………何で私、ネコになってんのよ……!?)」

「きゅ………(こ、これはいったい………!?)」

「ピヨ………(カラーひよこって………普通にひよこじゃダメだったの……?)」

 

自分が動物に変化してしまった事にショックを受けるティアナ、チンク、ルーテシア。女性はその様子を見て、ニタニタと嗤っていた。

 

「んぷヒヒヒヒ♪いい表情(カオ)しますねぇ~………どうですか?私の『ピンク・アクアリウム』の、『人間を別の生き物に変えてしまう』能力♪」

「にゃ、フシャー!!(あ、アンタ!本当に何なのよ!?)」

「……ああ、何を言っているかわからないので、勝手に自己紹介しますね。

名前は『波羅蜜 蓮華(はらみつ れんか)』、21歳の大学生です。入学前は「花のキャンパスライフだー」って浮かれまくってたんですが、いざ蓋を開けてみたら人の輪に入れず友達できなくて大学デビュー失敗………今では寂しく1人すみっこにいる生活です………ああ、単位とかは問題ないんですけどね………」

 

うすら笑いを浮かべる蓮華のぼっちエピソードに若干引く3人。

 

「どうしてもムカついた時とかは、小動物いじめたりして発散してます………誰にもばれないように、こっそりと………」

「シャー!(最低ね!?)」

 

おまけに陰湿な性格まで暴露されドン引く。蓮華は構わず3人、というか2羽と1匹に背を向けると、部屋の奥に向かっていった。

 

「正直、就活とか面倒だったんですけどぉ、私にスタンドをくれた人から結構なお金もらえるんですよ………」

 

ごそごそと、何かを用意する蓮華。ティアナたちの位置からでは何をしているのかは見えなかったが、顔をこちらに向けた蓮華の笑みを見て、背筋が凍るかのように震え上がった。

 

「ちょっと待ってて………小動物にしたとは言え、人間をいじめるのは初めてだし………」

 

蓮華は、手にした黒光りする()()を見せつけた。

 

「前金でもらった30万円………半分くらいつぎ込んだから………()()を使おうか、迷いますねぇ~~~………」

 

その手には、黒光りする『ボウガン』が握られていた。

 

 

 

 

 

#81/ディアボリック・シークエンスとパワー・ゲート ②

 

 

 

 

 

「ジェイド……やはりスタンド使いだったか………」

 

ジェイドと対峙したジョルノがつぶやく。ジェイドはフン、と鼻を鳴らすと、背後で拘束されたヴァナゴンを見た。

 

「……まったく、手間かけさせんなよ………」

「ジェ、ジェイドのダンナ………」

 

ジェイドは気怠そうに言うと刀を頭上に向けて放り投げ、鎖の先端を掴んだ。

 

蠍刀刃首(かっとばす)!!」

ビュン

「「!?」」

ズババッ

 

そのままヴァナゴンに向けて鎖を振るうと、『グロウン・キッド』ごとヴァナゴンを数回斬りつけた!ヴァナゴンは血を大量に吹き出すほどの重傷であったが、『グロウン・キッド』の拘束から解放された!

 

「ぎ、ぎゃぁああああッ!!」

「あいつ、ヴァナゴンごと………!?」

 

ジョルノはジェイドの行動に驚く。ヴァナゴンの能力があればダメージは回復できるであろうが、それにしても躊躇いなく切り裂くこの男は、間違いなく『裏の人間』であった。

 

「あの刀………それに今の技は………」

 

一方の千雨は、ジェイドの技に見覚えがあった。しかし、その技を使える流派であるという事は、ジェイドは………

 

『KRRRRRRRR………』

「あ!」

 

その時、ヴァナゴンの背後から『ディアボリック・シークエンス』が出現し、その大口を開いた。その間にヴァナゴンの刀傷はみるみるうちに治ってしまった。

 

「ま、まただ!また『砲弾』を撃つ気だぞーーー!!」

 

千雨が叫んだ瞬間、『ディアボリック・シークエンス』が狙いを定めて―――

 

ガンッ

 

「ぶぎっ」

「あ………」

 

砲弾を撃つ前に、ヴァナゴンのコメカミを『銃弾』が貫通し、頭から血を噴出させた。

 

「動くなっつったろーが、マヌケが。」

 

着弾したヴァナゴンがゆっくり倒れるのを見ながら、硝煙を燻らせる銃を構えるミスタが静かに告げた。

 

「オメーのスタンドよォー、砲弾撃つ瞬間に本体のオメーが『無防備』になるんだよなァー………そん時に攻撃すれば、スタンドが反応できずに倒せると踏んだが、その通りだったみてーだなぁー!」

 

ミスタが倒れたヴァナゴンに言う。もう聞こえていないだろうとミスタが判断していると、いきなり殺したミスタに明日菜やまき絵がドン引きしていた。

 

「あー……悪かったな、脅かしちまって………けど、コレが「ギャング」のやり方なモンでよー………」

「あ、うん、ダイジョウブ………『そーゆーやり方』の人って理解はあるから………」

 

まき絵はミスタにそう言うと、ジョルノと対峙するジェイドを見た。

 

「ミスタ………」

「ワリーなボス、勝手に殺しちまってよォー………」

「違う!後ろだ!!」

「「!?」」

 

ミスタが振り返ると、そこにはいまだに健在する『ディアボリック・シークエンス』が大口を開いてこちらを狙っていた!

 

「ス、スタンドが消えてねえ………という事は…!」

『KRRRRRRRR………』

 

『ディアボリック・シークエンス』が甲高い鳴き声を上げたその時、呆然とするミスタに向けて発射した!

 

「!?」

『マズい!!』

 

砲弾を避ける間もないと察したミスタとまき絵だが、その間に全身をそろえた『グロウン・キッド』が割って入り砲弾を受けた!

 

ズババババッ

『グゥウ………ッ!!』

「『グロウン・キッド』!!」

 

砲弾を受けて全身に刀傷とコメカミに弾痕を受ける『G・キッド』!まき絵は思わず叫ぶが、ボロボロの状態でも『グロウン・キッド』は健在であった。

 

『………フム、大丈夫ダ……喰ラッタノガ私デナケレバ、死ンデイタが………』

「お前もなかなか不死身なのな。」

「や、やってくれたなテメーらぁあっ!!」

 

回復したヴァナゴンが叫ぶと突っ込んできた。咄嗟に『G・キッド』が前に出て彼のタックルを受け止める。

 

『フ、フムッ………流石ニボロボロノ状態デハ、長クハ持タナイ………』

「クッ………!」

 

ミスタがヴァナゴンに銃口を向けるが、先ほどの事があって迂闊に攻撃をできない。

 

「さっきみてーに身動き封じられりゃいいんだが………」

 

そう言って、チラリとジェイドの方を見た。先ほどのようにジェイドがヴァナゴンを開放させてしまう可能性は大いにあった。おそらくは、いや、確実にジェイドは『()()()()』にここに来たのだろう。ミスタが考えていると、ジェイドに向けて徐倫が攻撃を仕掛けていた。

 

「ど、どーしよー………今日に限って予備の布持ってきてないし………傷つけずに攻撃するなんて………」

「えーと………縛り付けて閉じ込めて餓死させる、とか……?」

「何ヵ月かかるんだそれ?」

 

隣で慌てた様子で話すまき絵とウェンディに冷静にツッコむミスタ。すると、

 

『あのー………』

「うぉおおおッ!?」ビグゥッ

「いたの!?」

『ええ、ずっと………♪』

 

いつの間にかミスタの背後に来ていたさよに話しかけられ、驚いてビクつくミスタ。さよはそんなことよりも、と話をつづけた。

 

『あの人のスタンド、私なら対抗できると思うんです………』

「何?」

『準備があるので5分……いえ、3分待ってもらえますか?』

 

ミスタはさよの申し出に対して怪訝な顔になるが、さよの真剣な眼差しに『自信』を感じ取り、信じてみることにした。

 

「……分かった。オレもアイツ(グロウン・キッド)も長くは足止めできねーから、急げよ!」

『はい!』

 

さよは返事をすると、どこかへと飛んで行った。ミスタたちはそれを最後まで見送ることなく、ヴァナゴンの足止めを開始した。

 

 

 

 

 

一方、ジェイドと対峙する徐倫たち。

 

「オラオラオラオラオラァアッ!!」

「おっと。」

 

ジェイドは徐倫のラッシュを避けながらバックに進んでいく。次の瞬間、ジェイドは一瞬のスキを突いて袈裟懸けに斬りかかる!

 

「くっ……!」

 

徐倫は咄嗟にのけ反ってそれを避けるが、数本髪の毛がはらりと舞う。徐倫が小さく舌打ちをしたその時、明日菜とジョルノが左右から攻撃を仕掛けた!

 

「ふん!」

 

しかしジェイドは、明日菜の『ハマノツルギ』を刀で受け止め、ジョルノの腕に鎖を巻き付けて封じてしまった。ジョルノはそのまま鎖に引っ張られて地面に伏してしまった!

 

「ジョルノさん!」

「おいおい、何だお前さんはぁッ!」

ガキンッ

「きゃあッ!?」

 

明日菜はそのまま押し込まれて仰向けに倒れてしまう。その時、ジェイドの背後からスバルが拳を振りかぶって接近、刀を振り切ったジェイドに殴りかかった!

 

「ウリィイヤァアアアアア!!」

「しまった!!………なんてなァ!!」

グアパァッ

「え!?」

 

しかしジェイドはスタンドを出現させると、スタンドはカギ爪で空間を切り裂き、空間に『穴』をあけてしまった!スバルの繰り出した拳は、紺と紫のマーブル模様が広がる『穴』に入ってしまい、防がれてしまった!

 

「オレのスタンド『パワー・ゲート』は、空間を切り裂いて『亜空間』を作り出す能力………その中は言わばオレの『庭』よ………」

「やっかいな………え?」

 

亜空間の穴から腕を引き抜こうとしたスバルだが、何故か抜こうとする右腕が『重い』。さながら、泥沼に腕を入れたようだ。

 

「おっと、言い忘れていたが………というか言うヒマがなかったんだが………亜空間の中はオレと、オレの触れている物以外の時間の流れが通常の10分の一の速度になっちまうんだ………」

「ええ!?」

「くっ………!」

 

ジェイドの告げた能力に驚くスバル。腕が抜けず身動きが取れなくなっていると、ジョルノが『ゴールド・エクスペリエンス』で自分を縛る鎖を殴りつけた!

(『ゴールド・エクスペリエンス』で鎖に「生命」を与える!ヘビやアサガオなんかに変えて()()()()()、拘束を解く!)ジョルノはそう考えて、鎖に生命エネルギーを流した。

 

バギンッ

「!?」

 

しかし、ジョルノが生命エネルギーを流した瞬間、まるで電流のような衝撃が全身に走り、弾かれてしまった!

 

「グッ……今のは………!?」

「来ると思ったぜ………オタクさんの能力で、鎖に「生命エネルギー」流すってなぁ………」

 

ジェイドはジョルノをあざ笑うと、「コオオオオ………」という奇妙な呼吸をし始めた。

 

「え!?」

「この呼吸って………」

()()()!!??」

 

ジェイドの呼吸は、間違いなく『()()()()()』であった!ジョルノには波紋の知識はなかったが、ジェイドの呼吸方法で生まれたエネルギーが鎖に伝わり、それに生命エネルギーが弾かれてしまったことは理解が出来た。その瞬間、ジェイドはジョルノごと鎖を振り回し、地面にたたきつけてしまった!

 

「『縛蛇倒(ばぐだっど)』!!」

ドッ

「がッ………!!」

「ジョル兄!!」

 

口から血を吐いたジョルノを見たスバルが思わず叫ぶ。一方の千雨は、先ほどの波紋の呼吸でジェイドの繰り出す『技』の正体を確信した。

 

「まさかと思ったが………やはり、あれは『蛇蝎刀(だかつとう)』………」

「知っているの千雨ちゃん!?」

「私も実家の文献で見ただけだが、間違いない………やつの流派は『蛇蝎縛刀流(だかつばっとうりゅう)仙道剣術』………私と同じ『波紋使い』だ!」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

蛇蝎刀(だかつとう)―――

 

打刀と鎖分銅を組み合わせたこの武器は、近・中距離への攻撃に適している。

鎖鎌に比べると刀身が長い分使い手を選ぶ武器であるが、使いこなすことが出来れば鎖鎌以上の戦力となる。

この刀の開発者である『蛇蝎縛刀流仙道剣術』は刀身だけではなく鎖にも波紋を流すことで、束縛した敵にも波紋を流し、奇抜な技を繰り出す流派であるが、同時に非常に卑しい戦法を取る事が多いために文字通り『蛇蝎の如く』嫌われているらしい。

 

民明書房刊『鎖に縛られた人生』

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「は、波紋使いって………何で千雨ちゃんと同じ波紋使いが!?」

 

信じられない表情で叫ぶ明日菜。ジョルノに巻き付けていた鎖を振り解いたジェイドはフンと鼻を鳴らした。

 

「吸血鬼も屍生人(ゾンビ)もいなくなり、石仮面もSPW財団に管理されてちゃぁ、波紋使い(オレたち)もおまんまの食い上げでよぉ………『汚いシゴト』に手を染めないと生きていけないのよぉ………」

 

ジェイドがそう言った瞬間、左右から徐倫とジョルノが殴りにかかった!

 

「おっと。」

「「!?」」

 

しかしジェイドは一瞬で飛び上がり回避した。よく見ると鎖がまっすぐに直立しているではないか!

 

「く、鎖が鉄棒みたいに!?」

「鎖に波紋を流したか………リサリサばぁちゃんもマフラーで似たような事出来たな………」

 

よく見れば鎖には植物油が塗られているらしく、微妙にテカっていた。これで波紋が流れやすくなっているのだろう。その時、ようやく亜空間から腕が抜けたスバルが腕の感触を確認していた。そして意を決したように拳を握ると、瞳を金色に光らせて地面を殴りつけた!

 

「みんな避けて!」

「!?」

 

スバルが叫び、徐倫たちが飛び退いたその瞬間、ジェイドの鎖の先端に向けて崩壊の衝撃が『走る』!慌てたジェイドが鎖を回収し空中に逃げるが、先ほどまでいた場所は石畳が砕け散り陥没していた。冷や汗をかきながら着地したジェイドであったが、先ほどと同様の衝撃波が迫る!

 

「何!?」

「波紋も剣も使わせない気か!ならば!」

 

スバルの企みに気づいたジェイドは『パワー・ゲート』で空中に穴をあけると、亜空間の中へと入ってしまった。

 

「ああ!?」

「いったはずだ。亜空間(この中)はオレの庭だってな。」

「逃がさない!」

 

スバルはリボルバーシュートを放つが、ジェイドは穴を閉じて消えてしまい、放たれた魔法弾は空を切ってしまう。

 

「しまった!」

「全員一か所に固まれ!背中合わせになるんだ!」

 

ジョルノが咄嗟に指示を飛ばすと、徐倫たちは背中合わせに円陣を組んで亜空間からの攻撃にそなえた。十数秒、周囲に気配を配るが、ジェイドが出てくる気配がない。

 

(どこだ?どこから攻めてくる?前後か左右か、上か………?)

 

どこから来るかわからないジェイドに警戒をする一同。しかし、次の瞬間、

 

[相棒(バディ)!!]

「!?」

 

マッハ・キャリバーが警告を発した次の瞬間、ローラーの先端に()()()刀の切っ先が出現した!

 

「し、下から………!?」

亜空間(むこう)に制限はないのか!!」

 

下から出現したジェイドが不敵な笑みを浮かべるが、スバルはマッハ・キャリバーのローラーの破損で機動力が割かれてしまった。

 

「このぉおおッ!!」

 

それに激昂したのか、明日菜が『ハマノツルギ』でジェイドに斬りかかるも、ジェイドは難なく、パシン!と腕で払いのけてしまった。

 

「うえ!?」

「素人が…!きさまの腕前が一番…なまっちょろいぞッ!」

ドガッ

「きゃぁッ!?」

 

ジェイドは明日菜を蹴り飛ばすと、次の瞬間に彼の左右から千雨と徐倫が攻撃にかかる!しかし、ジェイドは千雨の刀を刀身で、徐倫の拳を波紋で鉄棒状にした鎖で受け止めてしまった!

 

「蛇蝎縛刀流『蠍双櫓(かつそうろ)』………所謂二刀流よぉ………」

 

言い終えると同時に刀と鎖を振るい、2人を弾き飛ばしてしまった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

この戦いの様子を、校舎から見ている者がいた。

 

「ありゃー、アスナたちピンチっぽいなぁ………」

『ドースルンスカ?今ナラアッシの能力デ助ケラレルッスケド?』

 

自分の『本体』に話しかける『スーパー・スナイプ』。

本体である少女は悩む。ルル・ベルには自分の正体はまだ秘密にしておくように言われているが、今、明日菜たちを助けるには『スーパー・スナイプ』の「()()()()」を使わざるを得ないだろう。しかしそれを使ってしまえば、確実に自分の正体が知られてしまうだろう。

うーん、としばらく考えている内に、徐倫たちも圧されている。悩んでいる暇はないと、少女は決心した。

 

「仕方ないね………お嬢には後でとやかく言われるだろうけど………私が行くしかないよね!」

 

少女は廊下を走り、明日菜たちの元へ急いだ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「やっぱりシンプルにムチかなぁ………いや、実銃と変わらない威力に改造したモデルガンも捨てがたいし………」

 

ガチャガチャと、武器の吟味をする蓮華。その後ろ姿に無力な動物の姿にされたティアナ達は震えていた。

 

「ミ~………(ど、どーすんのよこの状況………)」

 

デバイスも携帯電話もなく、念話も使えない。というか、念話が例え使えたとしても、ネコの鳴き声にしか聞こえない可能性が高い。ティアナがあれこれ考えていると、ケージを前足で触っていたチンクが、ティアナとルーテシアに話しかけてきた。

 

「……きゅう(……ティアナ、ルーテシアお嬢、檻から離れてくれ……)」

「にゃ?(え?)」

「ピヨ?(へ?)」

 

チンクに言われた事が一瞬分からなかったが、しかし、チンクの能力(IS)と檻の素材を思い出し、何をしようとしているのかを察した。

 

そして、2匹が檻から離れた数秒後―――

 

 

 

 

 

バッグオオオォォォン

 

 

 

 

 

「!?ぅえッ!?な、なになに?!!?」

 

突然爆発が起き、パニックになる蓮華。何事かと思って振り返れば、ティアナ達を閉じ込めていた檻から煙が出ており、大きな穴が開いていた!

 

「ま、まさか!?」

 

蓮華が何が起こったのか理解した瞬間、檻から2羽と1匹が飛び出した!

 

「あ!!」

「にゃー!(まさかその姿でもISが使えたなんてね!)」

「きゅ!(ダメもとだったが、成功してよかった!)」

「ピヨー!(さっさと外に出て、助けを!)」

「ちょ、ちょっと………逃げないで………!」

 

慌てて動物たちを追うも、焦っている上にすばしっこい動物たちに追いつけない。あわあわしている内に動物たちは器用に窓を開けて外に出て行ってしまった。

 

「ああ、ちょ、ちょっと………もう!」

 

蓮華はイラついたように地団太を踏む。大きく舌打ちをすると、得物を追うべく準備をし始めた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「波羅蜜さーん!大きな音がしましたが、大丈夫ですかー!?」

 

マンションの蓮華の部屋の前で、管理人の大柄で大仏のようなパーマをかけた中年女性(陰で「怪獣ババゴン」と呼ばれている事を彼女は知らない)が、ドアを激しく叩きながら中の蓮華に呼びかけた。しかし爆発音の直後から部屋の中から返事はなく、管理人も不安になって来た。

警察に連絡をしようと考えていたその時、ドアが開いた。

 

「ああ波羅蜜さん、何があったの………!?」

 

出てきた蓮華に声をかける管理人であったが、蓮華の姿にギョっとした。

蓮華は黒いライダースーツにブーツを履き、背中にライフル、右手にボウガン、腰にモデルガンを装備し、異様な雰囲気を放っていた。

管理人が恐れおののいて尻もちをつくのも気に留めず、蓮華はその場を去ってしまった。

 

「………あ、あんな子だったかしら、波羅蜜さんって………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

←to be continued…




81話です。
・波羅蜜 蓮華は根暗なサイコキャラっぽく。ジョジョだとこういうキャラよくいるなぁって。若干『SSSS.GRIDMAN』観てた影響が出てるかも(笑)

・ジェイドが波紋使いなのは、原作だと波紋使いが敵になったことってなかったよなぁと思ったからです。ダイアーさんは腕試しだし、スト様は吸血鬼だったし。
 蛇蝎縛刀流は、『蛇』と『蠍』という字を入れた駄洒落という命名規則で付けています。

・久しぶりにグロウン・キッドが全身出したり民明書房ネタ出てきたりと、今回はネタも多いかな?

・次回は色々と発覚すると思います。お楽しみに。

では、また次回!


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♯82/ディアボリック・シークエンスとパワー・ゲート ③

☆波羅蜜 蓮華のスタンド『ピンク・アクアリウム』について分かっていること★

 

・長い6本の脚でコップなどの容器に取り付いた、手のひら大の虫のような形状のスタンド。

 

・胴体の形状はタマムシに似ているが色は光沢のある青紫色に赤と緑の不気味な渦巻き模様が背中に描かれ、頭部はどこかトカゲのようにも見える。

 

・取り付いた容器内の液体をかけると、その対象を『人間以外の動物』に変えてしまう。どの動物になるかは、本体である蓮華にもわからない様子。

 

 

 

「―――きゅー(おそらくはあの女を再起不能にすれば能力が解除されるであろうが……)」

「にゃー………(今のままでは難しいでしょうね……)」

 

草むらに隠れながらチンクの予測にティアナが顔を曇らせる。今現在、こちらの攻撃手段はチンクの『ランブル・デトネイター』しかなく、しかも今の姿ではいつものようにナイフなどを投擲する事も出来るわけがなく、直接接近するしかない。

それに加え、蓮華がヴィオレッタの手下に違いないだろうが、千雨ではなく何故ティアナ達を襲ったのかもわからない。

 

「にゃー(とにかく今は助けを、言葉が通じそうなアルフかカモがいいかしらね…)」

 

ティアナが提案をしたその時、

 

「見ぃ~~~つけ~~~た~~~………」

「「「!?」」」

 

背後から声がした。振り返った先には、エアガンを持って不気味な笑みを浮かべた蓮華の姿があった………

 

「逃がしませんよぉ………今度は絶対にぃ………」

 

蓮華は静かにそう言うと、銃口をティアナ達に向けた。

 

「きゅっ!(くっ!)」

 

しかしその時、チンクが飛び出したかと思うと蓮華に体当たりをした!蓮花は「きゃっ」と悲鳴を上げて尻もちをついた。

 

「きゅう!(今のうちに行け!)」

「にゃ!?(チンク!?)」

「きゅッ(早く!!)」

「っ………にゃ!(ごめん………!)」

 

ティアナが短く謝ると、ルーテシアを連れてその場を去っていった。ティアナ達が去っていったその時、立ちあがった蓮華がチンクを睨みつけた。

 

「こ、このぉおッ!!」

パンッパンッ

「ッ?!」

 

蓮華がガムシャラにエアガンを撃つと、チンクは右わき腹に2発ほどBB弾を受けて血を流す。相当威力が強化されているらしくチンクが顔を歪めていると、今度は蓮華が左手に持ったボウガンを放ち、背中に矢が突き刺さった!

 

「きゅ………」

 

チンクがその場に倒れこむと、蓮華はテチンクに目もくれず、ティアナ達の逃げた先に走っていった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

帰宅途中、マンションの近くまで来た仗助は、職員室に携帯電話を忘れてきた事に気づいた。

 

「今から戻るのもメンドーだなぁ~………けど、承太郎さんとかから緊急の連絡とかあったら大変だし………」

 

どうしようかと思っていたその時、歩道脇の草むらから傷だらけで背中に矢が刺さったアンゴラウサギが1羽出てきたが、倒れてしまった。

 

「!」

 

仗助はそれを見ると駆け寄った。ウサギは白い毛並みから血を流しており、傷が深いことが伺えた。仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』でウサギを治療すると矢が抜けて血は止まったが、傷ついて消耗していたのかウサギは気を失っていた。

 

「血は止まったが………血や土で汚れちまってるな………」

 

仗助はウサギを抱きかかえると、自宅へ向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

♯82/ディアボリック・シークエンスとパワー・ゲート ③

 

 

 

 

 

「ええい!いい加減に退きやがれ!!」

 

ヴァナゴンが自身に掴みかかる『グロウン・キッド』を振り解こうとするが、『G・キッド』はボロボロになりながらも離さない。ミスタたちは2mほど離れて牽制しているが、ヴァナゴンの能力を警戒して攻撃ができない。

 

「スタンドで直接攻撃はしてこないのが救い………つーか()()()()んだな、アイツ………」

「自分が傷つかないとスタンドを出せないんスか………」

「ある意味『自動操縦タイプのスタンド』なんだね………」

 

『ディアボリック・シークエンス』の特性に気づいたミスタたち3人がつぶやく。強力なスタンド能力に制限があるのはよくある事だが、今はそれが有難かった。

その時、ヴァナゴンが力任せに腕を左右に開き、グロウン・キッドの両腕を引きちぎってしまった!

 

『フ………ムゥウ………!コレハ………!』

「どいてろッ!!」

 

ヴァナゴンは『G・キッド』を突き飛ばすと、千雨たちと戦うジェイドの元へ向かおうとする。

 

ドガッ

「ぐぉっ!?」

「傷つけることは出来なくても、『押しとどめる』ことくらいは出来るッスよ!!」

「コイツ………!!」

 

しかし、その行く手をウェンディが立ち塞がり、ライディングボードで押しとどめた!ヴァナゴンは苦虫を噛みつぶしたような顔でウェンディを睨んだ。

 

『みなさん!』

「あ、さよちゃん!」

 

ちょうどその時、『古いライフル銃』を抱えたさよが、ミスタたちの元にやってくる。ミスタがさよの抱えてきたものを見て驚きの表情となるが、さよはヴァナゴンに銃口を向けた。

 

『ミスタさん、わたし、銃撃つの初めてで………ピストルズちゃんたちで弾丸の操作をしてください!』

「ま、待て!奴に傷を付けたら………」

『大丈夫です!この『ライフルの()()』なら!』

「『ゆ、幽霊』ィ?」

 

ミスタもまき絵もさよの言うことに首を傾げるが、さよはミスタに「早く!」と急かし、ピストルズ№5,6,7がライフル弾にとりついた。

 

『すみません……行きますよ、ピストルズちゃん!』

『ツーカ、「ちゃん」ハヤメロヨナ!!』

ドンッ

 

さよが引き金を引くと『セックス・ピストルズ』を乗せたライフル弾がヴァナゴンに向かっていく!ピストルズが軌道を修正しながら飛んで行く弾丸は、ヴァナゴンの右肩に命中した!

 

「ぎッ!?うぎゃぁああああああああ!!」

「おお?!」

 

銃弾を受けたダメージでヴァナゴンは倒れ、ジタバタともがき始める。一通り暴れたヴァナゴンは起き上がると、自分を撃ってきたさよを睨みつけた。

 

「やっ………やってくれたなオメェーーー!この痛み、そのままオメーに返してやる………?」

 

言った後で、しかし、そこでヴァナゴンは気づいた。

いつもならばそろそろ『ディアボリック・シークエンス』が出現しても可笑しくない頃合いだ。しかし肩の痛みは消えず、スタンドが発動しない。

どういう事かと思い痛み続ける右肩を見ると、

 

「……!?な、なに………!?」

 

そこに「傷」はなかった。傷がないにも関わらず、『痛み』はずっと続いているのだ。

 

「き、傷がねぇ!傷がないのに、か、肩が痛てぇ!?」

『『幽霊の銃弾や剣』で、人体を傷つけることはできません………「おかき」や「お茶」を食べても食べられず、『味』だけはするように………『()()()()()()()()()()()()()()()んです………』

「い、痛み、だけだと………!?」

 

ヴァナゴンが痛みと焦りで汗だくになる。いくらダメージを受けても、『痛み』のみで『傷』がつかないのでは、『ディアボリック・シークエンス』の能力は発動しない!

恐れおののくヴァナゴンと感心するミスタたちに対し、さよはライフルを上に向け両足を広げ、宣言した。

 

『『痛み』です!あなたに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!!』

「ま、待って………!!」

 

ヴァナゴンの懇願むなしく、さよはヴァナゴンに向けて何発もライフルの弾を放った!

 

ガンッガンッガンガンッ

『おおおおおおおおおおあああああああああああああ!!』

「ぎぃいいいいいいいいやああああああああああああ!!」

 

身体中に「弾丸の幽霊」を喰らい、痛みに悲鳴を上げるヴァナゴン!涙と涎を垂れ流しながら撃たれるがままの状態で、避ける事もままならない!

 

「ちょ、さよちゃん………流石にそれくらいにした方が………」

 

まき絵は流石にやりすぎだと思い、(貴重な情報源を失うことも危惧してでもあるが)さよを止めようとするが、

 

『いいいいいいいいいいいいっやっほおおおおおおおッ!!』

「さよちゃーーーーーーーん!?」

「楽しんでる!なんか目覚めてはいけないものに目覚めてるッス!?」

 

当のさよは銃を撃つことが楽しくなってきたのか、それはそれはいい笑顔で引き金を引き続けた……

 

「がっ…………ごあッ―――」ドサッ

 

ヴァナゴンは銃弾の雨霰に耐え切れず、ついに白目を剥いて仰向けに倒れてしまった。泡を吐き、ビクビクと痙攣するヴァナゴンを余所に、さよは紫煙の燻る銃口を上に向け、恍惚とした表情で一言。

 

『………快っ………感………♡』

(作者より:可能な方は「セーラー服と機関銃」のサビ部分を再生してください。)

「おい、アイツにもう銃は持たせるな?いいな?」

「「イエッサー………」」

 

 

 

 

 

ヴァナゴン―――気絶、再起不能(リタイア)

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「!ヴァナゴン、やられたのか………!?」

 

ジョルノらと相手していたジェイドは、ヴァナゴンの敗北に驚いた。

アイツと出会ったのは数日前であったが、『ディアボリック・シークエンス』は「無敵」を誇ると言える能力であったため、その敗北は信じられないものであった。

ジェイドはヴァナゴンの敗北に驚いていると、背後から明日菜が『ハマノツルギ』を振り下ろした!

 

ガッ

「んなッ………」

「バレバレなんだよ、お嬢さんよォオッ!!」

 

しかし、ジェイドは振り返らないまま刀身で『ハマノツルギ』を防ぎ、鎖を振るって明日菜を弾いてしまった!明日菜は短く悲鳴を上げて後方に吹き飛ぶが、咄嗟にスバルが受け止めた。

 

「アスナ!」

「くっ………(やっぱ戦闘に関して『素人』のアスナじゃあ、あのジェイドに対抗はできないか………)」

 

悔しそうにする明日菜を横目に、徐倫は考える。『ハマノツルギ』は強力なアーティファクトであるが、使い手の明日菜自身は今まで剣を振るったこともない、『一般人』である。仙道剣術の使い手であるジェイドとでは、『素人と達人』の差がクッキリと現れてしまっていた。

 

「うおおおおおおおおおおお!戦嵐月華!!」

シュババババババババババババババ

「おっとっと!」

 

千雨もまた、焦っているのか技に『キレ』がない。本来であれば防戦一方の戦嵐月華だというのに、あっさりとジェイドに軌道を読まれて避けられてしまっている。

 

(アスナは技術(わざ)、千雨は精神(こころ)が万全じゃあない………スバルも機動力封じられてるし、結構キビシイな、こりゃ………)

 

現状でこちらが不利であると考える徐倫。徐倫とジョルノだけで、達人クラスのジェイドと対等に戦えるかと不安になっているその時、

 

「あれ?アスナー、何やってるのー?」

「え?!」

「んー?」

 

不意に声をかけられたかと思ってみてみれば、クラスメイトの明石 裕奈の姿があった。

千雨が、なぜそこにいるのかと思うと同時に、危ないから逃げるように言おうとしたその時、

 

「よそ見は禁物だぞ!!」

ドッ

「ッ!?がッ………」

「千雨!!」

 

ジェイドの振るった鎖分銅が千雨の脇腹に直撃し、派手に横に吹き飛ぶ千雨!徐倫が悲痛な叫びを上げるが、ジェイドは次に徐倫に狙いを定めたのか、鎖を波紋で垂直にする反動で飛びかかる!

 

「ジョリーン!!」

「くっ………」

 

ジョルノとスバルが駆け付けようとするが、ジェイドの方が圧倒的に早い!そして、ジェイドの兇刃が振り下ろされ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォンッ

「ん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………るよりも先に銃声が響く。ジェイドは自分に弾丸が迫ってきている事に気づき、刀で弾丸を防ぐと、徐倫を飛び越して着地をした。

 

「い、今のは………」

「『よそ見は禁物』………うん、それは私も同感だね。」

「え………?」

 

声のした方を見ると、そこには背後に『()()()()』を立たせた裕奈がいた。

 

『マア、ソレハ「オタクサン」ニモ言える事ナンスケドネェー………』

「あ、あれは………まさか………」

 

 

 

 

 

鍔の広い黒いテンガロンハット、

 

ボロボロの迷彩柄のマント、

 

機械仕掛けのがいこつのようで顔の左側の割れたヴェネツィアンマスク、

 

右腕の黒光りするライフル、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くよ、『()()()()()()()()()』!」

『ヘイ、了解ス。』

 

側にスタンドを立たせた裕奈が、ジェイドにビシッ!と指を指すと、『スーパー・スナイプ』はライフルを構えた。

 

 

 

 

 

「ゆ、ゆーなが………」

「『スーパー・スナイプ』の本体………?!」

 

明日菜たちが、ルル・ベルの生み出した最後のスタンド使いの正体に驚く中、ジェイドはほう、と感心した声を出した。

 

「『ガディ・Ru』から正体不明のスタンド使いの事は聞いていたが………おまえさんがそうだったとはな………だが、見たところ攻撃方法は銃撃のみ……接近戦には不向きと見える!!」

 

言うや否や、ジェイドは『パワー・ゲート』の亜空間に飛び込み、姿を消してしまう。徐倫たちは警戒をしていると、裕奈の頭上からジェイドの蛇蝎刀の切っ先が現れ、裕奈に斬りかかってくる!

 

『オット!!』

バンッ

「ちぃっ…!」

 

咄嗟に『スーパー・スナイプ』が弾丸を放つ。ジェイドは難なくそれを避けるが、『スーパー・スナイプ』はライフルに弾丸を込めた。

 

『モウ一丁!』

「甘い!!」

ガギンッ

 

しかし引き金を引くより先に『パワー・ゲート』のカギ爪で銃身を弾かれてしまう!

 

「(やはり、弾は実弾だが銃はスタンドか………)『銃を撃つスタンド』か……移動砲台かつ精密射撃にゃ持ってこいだが、正面切っての戦闘じゃあ実力を発揮できないだろッ!!」

「裕奈!!」

(てか滞空時間長!?この数行のやり取り何秒だよ!?)

 

徐倫が叫び千雨が余計(メタ)なことを考えるが、ジェイドは容赦なく刀を振り下ろす!

 

 

 

 

 

シャキィイィン

「!?」

ドバッ

 

しかし、振り下ろされた刀が迫ろうとしていた次の瞬間、『スーパー・スナイプ』の左手の甲が左右にスライドして、中から『銃口』が出現したかと思うと、ジェイドに向けて緑色の弾丸が発射された!

 

「しまっ………防巻蛇(ぼうかんじゃ)!!」

 

ジェイドは攻撃から防御に行動を変更し、鎖をヘビのとぐろのように巻いて『盾』にして弾丸を防御した。ジェイドは弾丸を防ぐと、バックステップで裕奈と距離を取った。

 

『コノ通リ、()()()()デ『()()()()』。ナンツッテ。』

「微妙に面白くないよ、それ……」

『ア、ヤッパシ?』

「くっ……俺としたことが………隠し武器とは恐れ入ったぜ………」

 

裕奈と『スーパー・スナイプ』が漫才めいたやり取りをする中、ジェイドは自分の油断を恥じた。

 

「さあて、こっからが『スーパー・スナイプ』の本領発揮だよ!」

『ホイッス。』

 

裕奈の指示が飛ぶと、『スーパー・スナイプ』は銃口をジェイドに向けた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

蓮華から逃げたティアナとルーテシアは、植木の陰に隠れていた。しかし、

 

「さ~て子猫ちゃんたちぃ~………ど~こかしら~?」

 

狂気の笑みを浮かべた蓮華はすぐそこにまで迫っていた。息を殺して耐える2人であったが、見つかるのも時間の問題であった。

しかしその時、ルーテシアの頭上に小さなクモが落ちてきて、ルーテシアは急だったために驚いて声を出してしまった。

 

「………!」

(しまっ………!)

 

その声に気づいてしまったのか、蓮華はにやけた顔を更にゆがめ、ティアナ達の元へ迫ってくる………!

 

(さ、流石にこれは………)

(ヤバいかも………)

 

2人はもうおしまいだと、絶望が頭をよぎった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――アー、助カリタケレバ、「息ヲ止メル」トイイ。』

『―――ウン、ソウスルトイイ。「助カリタイ」ノナラ。』

(え………?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声のした植木の根元を覗き込んだ蓮華であったが、そこには猫もひよこの姿かたちはない。それ以前に生き物の気配もなく、蓮花はにやけていた顔をきょとんとした表情に変え、首を傾げた。

 

「―――あれ?こっちから声がしたと思ったんだけど………?」

(えっ………?)

 

()()()()()()()()()()()ルーテシアは、目の前の蓮華の言葉に驚いた。しかしルーテシアたちに気づいていないのか、蓮華は首を傾げながらその場を立ち去っていった。

 

 

 

蓮華が立ち去って数秒後、ルーテシアは何が起こったのかティアナに聞こうとして振り向き、そして、()()()()()()()()()()に気が付いた。

 

「ピヨ……!?(ティアナさん、それって………!?)」

「……にゃー(我ながら、こんなタイミングで出せるとはね………)」

 

『アー、我々ハズット、近クニイタゾ?』

『ウン、キミガ気ヅイテイナカッタダケダ。』

 

ティアナの背後にいる、子猫(いま)のティアナと変わらない大きさの、『2匹のスタンド』が言った。

姿はカメレオンのようで口が長く先が反り返り、放射線状に溝の走った大きな黄色い目をキョロキョロと動かしている。額には短い角が片方は1本、もう片方は2本生やし、脚はジャッキや細いコードが付いたややメカニカルで先端がボール型になり、尻尾は筋の多いパイプ型になっていた。

 

「にゃあ?(とりあえず、あなた達は何て呼べばいいかしら?)」

『アー、『ミュステリオン』。』

『ウン、呼ブ時ハ、ソウ呼ンデクレ。』

 

2匹のカメレオンこと『ミュステリオン』は、そう名乗った。

 

 

 

 

 

←to be continued…




82話です。
・ヴァナゴン決着。さよちゃんは原作でもトリガーハッピーな一面を見せていたので、今回軽く暴走させてみましたw

・『スーパー・スナイプ』の本体は裕奈でした。ちなみに『スーパー・スナイプ』は『バオー来訪者』のドルド中佐がモデルなんですが、隠し武器のギミックは『SBR』のF・V・シュトロハイムが元ネタです。

・ティアナ覚醒。能力は次回判明します。

では、また次回!


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#83/ティアナのミュステリオン

背中に矢を受け気絶したチンクは、何となくあったかく柔らかい感触を感じて目を覚ました。

 

「…?(ここは?)」

 

白く柔らかいバスタオルの上で目を覚ましたチンクは、周囲を見渡して今いる場所を確認しようとした。見覚えのある屋内であったが、目線がいつもより低いせいか思い出せないでいた。

周囲を探索しようと思い立ちあがった時に、チンクは身体の痛みが一切ないことに気が付いた。何故だろうと不思議に思っていると、部屋のドアが開いて1人の大男が入って来た。

 

「お、気が付いたか!」

「!(ひ、東方………?!)」

 

入って来たのが東方 仗助である事を知ったチンクは、ようやくここが仗助のマンションの部屋である事に気づき、そして体の怪我がないのが、仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』の能力によるものであると理解した。

 

「いきなりオメーさんがよぉ、背中に矢を指して血まみれで道に出てきたときはビックリしたぜェ~~~………まあ、怪我は治したから、もう痛くはないだろ?」

 

仗助は、ウサギの正体がチンクであることに気づくよしもないままに話す。

 

「ひでーやつもいたもんだなぁー…よく見たらお前右目潰れてるし、虐待受けてたのか?」

 

チンクは助けてくれたのが仗助であったのが救いであったと思った。この部屋であれば下の階にいる他のナンバーズやアルフたちと連絡が取れるかもしれない。そう考えていると、急に仗助が自分を抱き上げて、目線を合わせてきた。

 

「きゅっ…?」

「さーて、血やら土やらで汚れちまっているし、キレーに洗ってやんねーとなぁー」

「!?」

 

洗うと聞いて、チンクは「まさか」と嫌な予感がした。そしてその予感のとおり、仗助はチンクを抱いたまま『風呂場』に向かって歩き始めていた。

 

「!?きゅー!きゅー!(や、やめろ!流石にそれだけは!!)」

「ん?なんだ?風呂キライなのか?けど汚れちまってるし、誰かのペットだったら、汚れたまま返すのは心苦しいぜ?」

 

仗助はチンクの気を知らないまま、風呂場に入ってドアを閉めてしまった………

 

 

 

 

 

#83/ティアナのミュステリオン

 

 

 

 

 

(あの『隠し武器』の弾丸………感触から言ってスタンドだろうが……今のところは何も起こらない………しかし、油断はできないな………)

 

ジェイドは裕奈と距離を取りつつ、『スーパー・スナイプ』の能力について思考した。そんな状況を知ってか知らずか、明日菜が疑問を口にした。

 

「って………さっきの弾丸(たま)、何も起こらないわよ………?」

「しかし、『何も起こらない』……それは()()()()()()()()()()………自覚のない内に進行する『病』やケガのように、自分の知らないところでチェスや将棋で言う『詰み』の状態になっている場合だってあるのだからな………!」

「た、確かに………」

 

ジョルノの言うことも分かると頷く明日菜。徐倫もジョルノと同じことを考えていた。

 

(『エンペラー』みたいな単純な殺傷能力はないみたいだし………けれど着弾しても何も起こらないとなると………『当たった後に何かする必要がある』ということかしら………?)

「さーて、じゃあとっとと決めちゃいますか!!」

『了解ッス。』

 

スーパー・スナイプは返答をするとライフルを構える。すると、ライフルのスコープが伸びて『スーパー・スナイプ」の右目に密着、ジェイドに狙いを定めた。

 

『スタンドの銃ハ、指ジャアナク心デ撃ツンス。』

「サイコガン?」

 

スーパー・スナイプのボケにツッコミを入れる裕奈だが、その間にスーパー・スナイプはジェイドに向けて弾丸を放った!しかしジェイドは冷静に『パワー・ゲート』で亜空間の入り口を作り弾丸をその中に通してしまった!

 

「ああ!」

「悪いな、弾いてもよかったんだが、今お前さんの弾丸に触れるのはマズそうなんでね………」

 

亜空間の入り口を閉じたジェイドが、ニヤリと笑いながら言う。先ほどの弾丸の効力は分からないものの、これ以上『スーパー・スナイプ』の銃弾に触れる事は危ないと判断した。

ジェイドは鎖分銅をブンブンと回して、裕奈と距離を詰め始めた。

 

「裕奈、ソイツと接近戦はマズいぞ!!」

 

徐倫が裕奈に警告するが、裕奈はニヤリと笑った。

 

「ピシ」「ピシッ」「ビキッ」

 

ジェイドは裕奈の態度を疑問に思ったその時、背後から奇妙な音が聞こえた。振り返ってみてみれば、

 

「ピキビキッ」「ピシッ」

「何ッ!?」

 

たった今閉じたはずの『亜空間への入り口』が音を立てながら広がり始めていた!ジェイドが驚いている間に入り口はガラスに石を当てたかのように()()()()()、先ほどの弾丸が飛び出してきた!

弾丸は振り回されている鎖に向かって真っすぐに向かう!咄嗟にジェイドは刀身で弾丸を叩き落とすと、弾丸は地面に突き刺さった。

 

「い、今のは!?」

『アー、前ニモ言ッタンスケド、アッシハ狙ッタ獲物ハ逃ガサナイ主義ナンスヨ。』

 

驚くジェイドに対して、『スーパー・スナイプ』が言い放つ。次いで、裕奈が続けた。

 

「正確に言えば、『()()()()()()()()()()』んだけどねー。」

「何………?」

()()()()()………?」

 

裕奈の言ったことにジョルノとジェイドが疑問を持った。どういう意味かと聞くよりも先に、先ほど弾丸が着弾した地面から数メートル先からボゴンッ!!と音を立てて弾丸が飛び出してきた!

 

「何だと!?」

 

ジェイドが驚きの声を上げるが、弾丸が空中でUターンをしてジェイドに迫る!

 

「あ、あの動きはスタンド!?しかし、スタンドはひとり一能力………いや、これが本当の能力か!!」

 

迫ってくる弾丸を回避するジェイドを見たジョルノが、『スーパー・スナイプ』の能力に気づいた。ジェイドは弾丸を回避しながら裕奈の方を見て、弾丸の特性を見極めようとした。

 

(あのお嬢さんが弾丸を操作しているようには見えない………だとすると弾丸(これ)は『自動追跡弾』か!?それなら何かを探知しているはずだが………?)

 

そこまで考えて、ジェイドはハッとした。

 

「まさかさっきの「隠し武器の弾丸」………あれを目印に追いかけて来ているのか!!」

「何!?」

「成程、自動追跡タイプのスタンドだったのか!」

 

ジェイドの叫びに『スーパー・スナイプ』の能力に気づいた一同。ジェイドは追尾してくる弾丸を回避しようとするが、その時、再び銃声が聞こえたかと思うと、弾丸がジェイドの左足に着弾していた!

 

「ぐうっ……!!」

「『スーパー・スナイプ』の追跡弾、『ブラックバレット(黒い弾丸)』は1発撃つと、「マーキング弾」の着弾地点に当たるまで次の追跡弾を撃てないけれど、その間に通常弾は撃てるんだよ!!」

「何だと!?」

ガンッ

 

ジェイドが痛みと裕奈の言ったことに驚いていると、追跡弾が蛇蝎刀の鎖に直撃!そのままガリガリと回転して鎖を削っていき、ついにはバギンッ!と音を立てて、4分の1ほどを残して千切れてしまった!

 

「し、………しまった………!」

 

ジェイドは自分の得物の『半身』が失われたことに焦った。

足の傷は波紋で治療できるが、千雨と違い、スタンドはあくまで『補助』の役割であるために直接の戦闘には向かず、刀のみでは自身の実力を発揮できない!

ジェイドが冷や汗を流している内に周囲を徐倫や千雨、さらにはヴァナゴンと戦っていたウェンディやミスタも集まり始めていた!

 

「っ………こりゃ、勝てそうにないなぁ………」

 

そう呟くと、ジェイドは『パワー・ゲート』で亜空間の入り口を作ると、そこに入り込んだ。

 

「悪いが、オレはここいらでお(いとま)させていただくわ!!」

「あ、逃げた!!」

 

ジェイドはそう言って亜空間の入り口を閉じてしまい、簡単に逃げおおせてしまった………

 

「逃げたか………」

「だが、意外にあっさりと引き下がったな………ホル・ホース並みに引き際をわきまえたヤツだな………」

 

千雨がジェイドが退いたのを見た感想を言うと、ふと、胸の内ポケットに違和感を覚えた………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「あの子たちったら…どこに逃げてしまったのかしら………?」

 

同じころ、ティアナを追って街道沿いの林の中を歩く蓮華は完全に2羽を見失っていた。せっかく重装備をしたというのに、肝心の獲物がいないともったいない。そう考えていると、街道の方に人影をみた。

 

「!(あれは確か、空条承太郎………他の2人は長瀬楓とフェイト・ハラオウン………あの3人を探しに来たのか………!!)」

 

木の陰に身を隠した蓮華は、話し合う3人を見てティアナたちを探しに来たであろうと推測した。実際そのとおりであり、蓮華はあまり時間をかけられないと判断をした。

早いところルーテシアを()らなければ。蓮華がそう判断をしたその瞬間、

 

 

 

バシンッ

 

 

 

「きゃぁっ!?」

 

どういうわけか、蓮華の手にしていたボウガンが宙を舞い、思わず声を上げてしまう!

 

「?」

「どうかしましたか承太郎さん?」

 

その声に承太郎が反応したらしく振り向いた。承太郎はしばらく、何か聞こえた方を見ていたが、すぐに向きなおった。

 

「……いや、何でもない。何か声が聞こえたような気がしたのだが………気のせいだったようだ………」

「急ぎましょう、ルーテシアになにかあってからじゃあ……」

 

フェイトに言われて、3人はその場を離れた。息を殺していた蓮華はやり過ごせたことにほっとすると、今起きたことを考えた。

 

「い、いきなりボウガンが弾かれるなんて………何が………?!」

 

蓮華が戸惑っていると、その時、今度は右足に『掴まれる』感覚がしたかと思うとグイィ!と引っ張られて転んでしまう!

 

「ぎゃふん!?」

 

尻もちをついて叫ぶ蓮華。痛みと恐怖心から涙目になるも、エアガンを引き抜いて警戒するが、周囲に人影も気配もない。困惑と恐怖に震え、歯がガチガチとかみ合わない蓮華。

普段から隠れて小動物をいじめる彼女の性格から分かる通り、蓮華はかなりの小心者である。先ほどまで弱いものを追い詰めて狩人(ハンター)気取りだったのに、怯える様は完全に『追われる側』になっていた。

 

ガサッ

「ひぃッ!!」パンパンッ

 

不意に、近くの草むらで物音がした。怯えた蓮華は数発、BB弾を何発も放つ。しかし手ごたえはなく、その場所には何もいなかった。

 

ガザッ

「ひゃぁあッ!!」パンッ

ガサッ

「うひゃぁあッ!?」

ガザザッ

「うああああッ!!??」パンパンッパンッ

 

更にあちこちで鳴る物音に過剰に反応し、我武者羅に撃ちまくる蓮華。そのうちにエアガンの弾が尽き、引き金を引いても何も出てこなくなり、蓮華はそれを投げ捨てて腰のサバイバルナイフを引き抜く。

 

「ハァーッ、ハァーッ………!」

 

荒く息を吐き、滝のような汗を流す蓮華。手もガタガタと震え、サバイバルナイフの刃がボディーブレードの如く揺れていた。

 

 

 

 

 

「―――………(ちょっと脅かしすぎたかしら………)」

「―――ピヨ………(本当に私たちに気づいていないんだ………)」

 

そんな蓮華の様子を、蓮華から1.5mほど離れた場所から見ていた子猫(ティアナ)ヒヨコ(ルーテシア)は、若干引き気味になっていた。これだけ近づいているというのに、蓮華はまったく気づいていなかった。

 

『アー、ヒトトイウノハ、『正体ノ分カラナイモノ』ニ恐怖スル。』

 

ティアナの右側に立つ、1本角で右肩に赤い○と×のマークが入った『ミュステリオン』が言う。

 

『ウン、『見エナイ我々』ニ恐レルノモ、無理ハナイ。』

 

ティアナの左側に立つ、2本角で左肩に赤い○と×のマークが入った『ミュステリオン』が言う。

 

(そろそろ限界だし、一旦隠れましょう。)

 

ティアナはルーテシアを連れて近くの茂みに隠れると、大きく息を吐いた。その時、何かの気配を感じたのか、蓮華が「ひぃいいいい!?」と悲鳴を上げる。直ぐにティアナは息を大きく吸って息を止めた。そして蓮華の()()()()()()()()すると、『ミュステリオン』が口を開くと、カメレオンらしく舌を伸ばして、蓮華の持つサバイバルナイフを弾き飛ばした!

 

「ぅひえあひゃばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!??」

(『息を止めている間、自分と触れた対象の「存在感」を限りなくゼロにする』、『ミュステリオン』のこの能力………一見『地味』だけど(ベロ)で攻撃できるし、案外便利ね………)

 

この数分で理解した自身の能力(スタンド)を使い、蓮華の装備と冷静を減らしていったティアナ。そろそろ頃合いだと判断し、パニックで悲鳴を上げる蓮華の背後に周ると『ミュステリオン』の舌を射出、蓮華の頭上2mにあった太い木の枝を跨ぐように垂れさがり、蓮華の両腕を掴んだ!

 

「ひゃぅえぁあ!?」

「ニャァアーー!!(どっこいせーー!!)」

 

そのまま掛け声と共に舌を()()()()引き上げると、蓮華は滑車の要領で投げ飛ばされた!!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「フェイトさん、こっちこっち!!」

 

その頃、ティアナ達から数m離れた場所にいたフェイトたちは、ディエチに呼ばれていた。

ディエチの目の前にはゴミの収集場所があり、そこにあったゴミ籠の中身がひっくり返され、その手には待機状態の『クロスミラージュ』と『アスクレピオス』が握られていた。

 

「ディエチ、それって……?」

「クロスミラージュの位置情報を辿って来たんだけど、ここに捨てられてて………デバイス以外にも服とかも………」

 

ディエチの言う通り、そのゴミ籠にはティアナやルーテシア、チンクのものと思われる衣類や下着まで捨てられていた。なるべく見ないようにと余所を向いていた承太郎が、帽子の鍔を下げながら話した。

 

「………服とか捨ててあるっつーことは、3人は今、身体を『変化』させられているのだろうな………かつて俺が戦った、相手を子どもにする『セト神』というスタンドも、服には能力が作用しなかったからな………」

「服がここにあるのであれば、見つけても直ぐに倒すべきではないでござるな………屋内とかに3人を隠してからでないと………」

 

さもなくば、と楓が言いかけたその時、一団の後方にあった草むらから『人』が飛び出して、「ぐえっ」という潰れたカエルのような声を上げて地面に倒れた。

 

「!?」

「いたたた………な、なんなのさっきから………」

 

飛んできた人物―――蓮華は後頭部を擦りながら、涙目で起き上がった。すると、草むらから1匹の子猫が現れた。

 

「にゃぁ………(今まで散々追い回されたりされたけど………)」

「な!?」

「何だ、あのネコ………?!」

 

承太郎たちが猫の出現に首を傾げているが、蓮華は猫に困惑していた。その時、楓は気づいた。猫の身体が、少しずつ大きくなってきているのだ。

 

「あれは………?」

「みゃあ………(けれど、ここからは)反撃に転じさせてもらうわよ………」

「何……?」

 

次第に子猫は『2本足』で立ち上がって『人語』を話しはじめ、みるみるうちに『人間の姿』に変わっていった………

 

「目覚めたばかりだけど、私の『スタンド』で今までの分、まとめて返させてもらうわよ!!」

「「「「!?」」」」

 

そして、子猫から元の姿に戻ったティアナが、蓮華に向けて言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全裸で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一度言うが、人間に戻ったティアナは『()()』の状態であった。

 

「「「「……………………………」」」」

「………い、」

 

周囲を数秒の沈黙が支配するが、いつの間にかスタンド能力が解除された事に気づいたティアナは状況を認識すると顔を真っ赤にして、両腕に『ミュステリオン」をしがみ付かせ、

 

 

 

 

 

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

バギッ

「まそっぷ!?」

 

伸ばした舌を、鞭のように蓮華にたたきつけた!

顔面に強い一撃を受けた蓮華は奇声を上げ、折れた鼻や口から血を吹きだしてあおむけに倒れた………

 

 

 

波羅蜜 蓮華―――再起不能(リタイア)

 

 

 

「何なのよ………何なのよもう………!」

「ティ、ティアナ!」

 

蓮華にトドメの一撃を与えたティアナはその場にしゃがみ込み、さめざめと泣き始めてしまう。突然の事態に呆然としていたフェイトたちは直ぐにはっとして楓がティアナに駆け寄り、懐からマントを取り出して彼女にかけた。

すると、茂みからルーテシアが顔を出した。おそらくは今のルーテシアもティアナと同じ状態なのだろう、顔が赤くなっていた。

 

「あの………私も………」

「あ、ルーテシアも………」

「………やれやれだぜ、状況を見るに、あの女がスタンド使いだった訳か………」

「と、とりあえず、2人が無事でよかったわ………ティアナにスタンドが発現していたのも驚いたけど………」

 

ディエチがルーテシアの元に向かうと、ピクピクと痙攣して倒れる蓮華を見ながら承太郎が今起きたことを整理する。すると、ティアナがはっとした。

 

「そうだ!チンクは………!」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「…………………」

 

風呂場でウサギの身体を洗っていた仗助は、目の前で起こった事態に思考がフリーズしていた。

 

ありのままに起こったことを話すと、『ウサギを洗っていたはずなのに、ウサギが消えて目の前に素っ裸のチンクがいた』のだ。

 

「………あ、あのー………?」

 

湯に濡れて泡だらけのチンクは、涙目で仗助の方を見て、

 

 

 

 

 

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

バチーッン

「うげッ!?」

 

 

 

 

 

思いっきりその頬をひっぱたいた………

 

 

 

 

 

「あの、チンクがここにいるって聞いたんですが………!」

 

数分後、慌てて駆けてきたらしいギンガが仗助の部屋までやって来た。しかし、入った先では、

 

「うう………ひっぐ………」

「あ、あのー………」

 

バスタオルで身体を覆い隠したチンクが体育座りで背を向ける前で、正座をした仗助が必死になだめている最中であった。ティアナとルーテシアの話を聞いていたために何があったのか大体気づいたギンガだが、どうしていいか若干困った。

 

「オ、オレも悪気はなかったんだしよぉー………機嫌直してくれよぉー………」

 

仗助がチンクに弁解をするが、チンクは涙目でしゃっくりを上げるだけだ。その時、ギンガの持っていた携帯電話が着信音を鳴らした。

 

「そ、それによぉー、オメーも汚れたカラダきれーになったんだし、怪我も治ってよかったじゃあねーか………」

 

仗助がそう言った瞬間、チンクが振り返ってキッと仗助を睨んだ。

 

「人の胸や尻をまさぐっといて何を言うんだああああああああああああああああああ!!」

「おおーい!?誤解を生む言い方するんじゃあねーよー!?」

「責任取れえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

涙目で叫ぶチンクに圧される仗助。ギンガはチンクが突然叫んだことにビックリするが、その時、電話の『通話ボタン』を押していたことに気づいた。

 

[………ギンガ、よくわかった………()()()()()()なんだな………仗助さんに、そこを動かないように言っといてくれ………]

「え?ちょ、ノーヴェ?!」

 

ギンガは慌てて話しかけるが、既に通話は切れていた。横では、チンクがぎゃあぎゃあと仗助に詰め寄っていた。

 

 

 

 

 

この後、ジェットエッジ全開で乗り込んできたノーヴェを止めるのに、更に労力を使うことになる仗助であった………

 

 

 

 

 

←to be continued…




83話です。
・サブタイトルは『ナランチャのエアロスミス』から。

・『スーパー・スナイプ』の真価は隠し武器を使った後。目に見えた大ケガよりも自覚なく進行するダメージの方が恐ろしいのは、ジョジョでは結構ありますよね。
 実は『スーパー・スナイプ』のセリフには極力「!」を使わないようにしているんですが、ちょっとのんびりしたようにも冷静にも見えるようにしています。

・『ミュステリオン』の開花。若干ホラーな描写を意識したんだけど、こういうのって本来は主人公側が受ける展開だよなぁと書いてる途中で気づきました。

・ラストは割とドタバタな感じwここから『メガロポリス・アリス』直後のノーヴェにつながる訳ですw

では、また次回!


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STANDS ④-1

第4章前半に登場したスタンドの紹介です。


スタンド名―ドロウ・ザ・ライン

本体―早乙女 ハルナ

破壊力―C スピード―C 射程距離―B

持続力―A 精密動作性―C 成長性―B

 

能力―〇ペンに取り憑いて発現するスタンド。

・本体である早乙女 ハルナのオリジナルの絵を描いたならば、そのまま実体化させてスタンドとして操れる。

・逆に、実在するものを描いた場合、描いたものは『絵の世界』に入れる。絵に描かれていないものは、『絵の世界』には入れない。

・絵のサイズにもよるが、複数体発現が可能。

・非スタンド使いの可視、不可視は、絵の着色、無着色で決まるらしい。

・絵へのダメージは本体には来ないが、スタンドの本体であるペンへのダメージは、本体へのダメージである。

 

・コメント

 発想の原点は、ハルナのアーティファクトのように「描いたものが実体化する」能力の『逆』というもの。つまり、最初の方で出た『描いたものを絵に閉じ込める』というものです。それを一体化した結果、こんなスタンドになりました。微妙に『エニグマ』っぽいかな?

 鳥のような、飛行機のようなデザインのペンが特徴です。

 スタンド名はエアロスミスの楽曲より。

 

 

 

スタンド名―セブン・カラー

本体―七色の(レインボー・)シャラン

破壊力―C スピード―B 射程距離―B

持続力―B 精密動作性―B 成長性―D

能力―腕からペンキを出して、色を塗る。色を着けられた相手は着けられた色、例えば赤ならば熱、白ならば氷など、その色からその者が『連想する』ダメージを着けられた部位に受ける。ペンキは、ある程度の形状で成形できる。

このスタンドは『視覚情報』からの思い込みにより発動するため、盲目の者や何も見えない暗闇の中、無機物には効果がない。

 

・コメント

 『色によって効果が違う』系の能力って色と効果が決まっているのがほとんどだと思うんですが、赤い色なんかを見て真っ先に連想するものって人それぞれだと思うんですよ。それを攻撃にできたら、と考えたスタンドです。要はエコーズの色版、という感じで。

 デザイン的には顔がポイントでして、『ゴセイジャー』に登場する『ブロッケン妖怪のセマッタ霊』が結構好みのデザインだったので、取り入れた感じですね。

 名前は水樹奈々さんの楽曲『7COLORS』から。

 

 

 

スタンド名―ラン・イントゥ・ザ・ライト

本体―シルバークロス(カラス)

破壊力―E スピード―C 射程距離―E

持続力―B 精密動作性―A 成長性―D

 

能力―本体が影踏みのように影を踏んだものを操る。車などの複雑な物でも操ることはできる。影から離れると、解除される。『影を踏む』という能力の都合上、操れるのは1度に1つずつである。

 

・コメント

 最初は上空から砲撃する、とかそういう路線だったんですけど、なんか違うと思って、カラスらしく『ずる賢い』感じにしたくて影踏みのスタンドにしてみました。『ハマるとヤバいタイプ』なので、『サーフェイス』に似た能力ですね。

 スタンド名は、flip sideの楽曲から。スタンドの能力とちょうど合致したのでチョイスしました。

 

 

 

スタンド名―メガロポリス・アリス

本体―和泉 亜子

破壊力―A スピード―B 射程距離―半径5m

持続力―A 精密動作性―D 成長性―D

 

能力―本体の『来てほしくない』、『触らないでほしい』といった『拒絶』の意思から発動する自動操縦パワー型スタンド。最大で4体おり、本体の指定した物(本体そのものでも可)から半径5mを蒸気で包み込み、侵入してきた者を攻撃する。噴出される蒸気は探査装置であると同時に、射程距離でもある。

何故か、漢字のみの言葉で意思疎通する。

 

・コメント

 本体の指定した場所を守る『警備員』のスタンドといった感じ。

 最初は細身の人型ロボットを考えていたのですが、最近『ゼルダの伝説』のガーディアンを見て「多関節アームカッケエ!」と思い、『多関節アームの多脚戦車』のイメージになりました。イメージとしてはスチームパンクな多脚戦車といった感じでしょうかね。頭部は『風のクロノア2』に出てきたビスカーシュっていうボスキャラのイメージ。

 スタンド名はALI PROJECTの楽曲から。

 

 

 

 

スタンド名―ピンク・アクアリウム

本体―波羅蜜 蓮華

破壊力―なし スピード―C 射程距離―C

持続力―A 精密動作性―E 成長性―E

 

能力―カップなどの容器にしがみ付いたスタンド。容器の中に入れた液体をかけられた相手を『人間以外の動物』に変えてしまう。

『弱い生き物をイジメたい』という、本体の願望の顕れであると思われる。

 

・コメント

 このスタンドは当初、『小アルカナカードの暗示のスタンド使いチーム』の一員として考えていたものでしたが、「キングやクイーンなどの絵札だけにしても多すぎる(汗)」と思い、単独のものにしました。コップにしがみ付くのも『杯』のスタンドの名残ですね。

 能力としてはセト神の系列ですね。『動物になっても奮闘する』という話をやりたかったので。外観は『スカイ・ハイ』を参考にしました。

 スタンド名は田村ゆかりさんの楽曲から。「色の名前にしたい」と思って、今までのスタンドになかった『ピンク』の付いたこの曲にしてみました。

 

 

 

スタンド名―ディアボリック・シークエンス

本体―ヴァナゴン

破壊力―なし スピード―C 射程距離―E

持続力―D 精密動作性―C 成長性―E

 

能力―本体のヴァナゴンが受けた傷を『砲弾』に変換して撃ち出し、着弾した相手に肩代わりさせる。たとえ即死するような傷でも回復して砲弾にしてしまう。

本体が傷を負わないと発動しない都合上、他の攻撃方法がない。

 

・コメント

 「痛いの痛いの飛んでいけー」って感じで、誰かに自分の傷を移す能力を、という感じで思いつきました。どーやったら倒せるんだこんなの!?という『脅威の敵』感が好きです。

 最初はガンキャノンよろしく肩にバズーカ背負った重戦士型を考えていたんですが、読み返してみたらメカっぽいデザインのスタンドが多くなっていたので、怪獣というかモンスター的なデザインにしました。頭はギャオス、左右に開く顎やボディはディノゾールのイメージですね。

 スタンド名はALI PROJECTの楽曲から。

 

 

 

スタンド名―パワー・ゲート

本体―ジェイド

破壊力―C スピード―C 射程距離―B

持続力―C 精密動作性―B 成長性―D

 

能力―空間を切り裂いて、そこから生成された『亜空間』の中に潜む事ができる。

亜空間内はジェイドの触れているもの以外は通常の10分の一の速度でしか動けなくなってしまう。

 

・コメント

 ジェイドが長身細身の暗殺キャラになったので、『マン・イン・ザ・ミラー』みたいに「別空間を作ってそこに潜む」能力にしてみました。

 外見的にはこれも『脱メカニカル』の一環で、小人ですね。ぶかぶかのローブがポイント。

 スタンド名は水樹奈々さんの楽曲から。

 

 

 

スタンド名―スーパー・スナイプ

本体―明石 祐奈

銃使い(ガンマン)

破壊力―C スピード―C 射程距離―C

持続力―A 精密動作性―A 成長性―C

〈ブラックバレット(黒い弾丸〉

破壊力―A スピード―B 射程距離―A

持続力―A 精密動作性―E 成長性―D

能力―銃弾をスタンドに装填後して発射する。

左手に隠された銃から発射された銃弾でマーキングすることにより、着弾した場所に命中するまで絶対に止まる事がなく、たとえ間に障害物があろうが弾き返されようが、破壊して突き進む自動追跡弾『ブラックバレット』となる。

 

・コメント

 修学旅行終盤で登場したスタンド。ガンマンと見せかけて、実は弾丸の方がスタンドの主力というちょっと引っ掛けにしてみました。本体が龍宮ではなく裕奈ですが、学園祭編でのガンマンっぷりからのチョイスです。

 デザインは『バオー来訪者』のドルド中佐が元ネタで、右腕のライフルのデザインやヴェネツィアンマスクを顔半分に顔に着けたような外見は、育郎を狙撃しようとした時の恰好から来ています。後、漫画の『デビルチルドレン』に出てきたスケルトンがすごく長い銃身のリボルバーを持ってたのがすごい印象に残っていて、それの影響もありますね。

 スタンド名はイギリスの車『ハンバー・スーパー・スナイプ』から。『ルパン三世カリオストロの城』の冒頭で、伯爵の部下がクラリス追うのに乗っていた車です。弾丸はfrip sideの楽曲から。

 

 

 

 

スタンド名―ミュステリオン

本体―ティアナ・ランスター

破壊力―E(掴まる力はA) スピード―C 射程距離―C(舌の長さは最大10m)

持続力―A 精密動作性―C 成長性―B

能力―2体いる、カメレオン型のスタンド。取り付いたものが息を止めている間、その『存在感』を限りなくゼロに近づけて気づかなくする。

舌の長さと掴まる力は強く、成人男性くらいなら簡単に放り投げられる。

 

・コメント

 発案はにじファン時代に八二一さんによるもので、能力からカメレオンが最初に思い浮かびました。最初は1匹の予定でしたが、ティアナの二丁拳銃スタイルに合わせて2匹にしました。カメレオンなら舌で攻撃したり、ジョセフがしたみたいなターザンも出来ると思いまして。

 頭部は『パクシ』というクレイアニメに出てきたバルタザールというワニのおじさんが元ネタで、腕や尻尾がメカニカルなのは、『機械なのか生物なのかわからない』スタンドデザインの特長を取り入れた感じです。

 スタンド名は水樹奈々さんの楽曲から。




第3章で結構多かったので、今回は前後編に分けました。


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PRIVILAGE CADE ④-1

第3章前半のオリジナルキャラ紹介です。


名前・通称―七色の(レインボー・)シャラン

年齢―26歳

星座―さそり座

出身―ドイツ

特技―ルービックキューブ

備考―スタンド使いの暗殺者。

   『セブン・カラー』のスタンド能力故に被害者の死因が様々であるため、『七色』の異名がついた。

   『〇笑』という口癖があり、その通り笑いながら人を殺す。

 

スタンド名―セブン・カラー

 

・コメント

 まず、ジョジョに出てきそうな「奇抜な恰好の女性」を考えて、そこからキャラを考えた感じですね。缶バッジいっぱい着いた布はお気に入り。

口癖からどれだけキャラを作れるか、という実験でもありました。

 名前は、フォルクスワーゲンの車から。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

名前―シルバークロス

種族―ハシブトガラス 性別は(オス)

特徴―左足に十字架のシルバーアクセサリーを付けている。

知能―ずる賢い。しかし、認めた者には忠実。

備考―ルル・ベルによってスタンド使いとなったカラス。スタンドに目覚めてからは周囲のカラスを追い出して住処の雑木林の一帯を独り占めしてしまった。

   元々頭が良かったのか、スタンド使いになってからは携帯電話を扱う等、知能が向上した様子。

 

スタンド名―ラン・イントゥ・ザ・ライト

 

・コメント

 動物のスタンド使いで、ネコ(初音)意外だと何がいいかなと考えて、賢そうなのをと思ってカラスにしました。

 最初は『ONE PIECE』のペルのように上空から銃撃をするようなのを考えていたのですが、『カラス狩り』をしたいと考えてちょっと不気味な感じにしてみました。

 名前に由来とかはなくて、『カラスのくせに何かカッコイイ』というイメージからつけました。

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

名前―波羅蜜 蓮花

年齢―21歳

星座―うお座

趣味―ボウリング

スタンド名―ピンク・アクアリウム

 

麻帆良大学社会部在籍。2年前、ヴィオレッタ一味によってスタンド使いになった。

一見すると地味目な女性に見えるが、裏では小動物を虐待したいという狂気を秘めている。

スタンド『ピンク・アクアリウム』は、そんな彼女の心の現れなのだろう。

 

・コメント

 「地味な奴ほど裏ではヤバい」という感じ。ジョジョによくいる「通りすがりのモブっぽく出てくる敵キャラ」をやりたくて、地味な感じになりました。性格もスタンドもアレッシーの系統ですね。

 名前はALI PROJECTの楽曲から。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

名前―ヴァナゴン

年齢―32歳

星座―おうし座

血液型―B型

本職―板前見習い

 

2m近い筋肉ムキムキの大男。半年ほど前にスタンド使いになった。

マッチョな分頭が悪いのか、考えなしの行動が多い。

不死身に近いスタンドを持っているが本人は「痛いのは嫌い」らしく、注射も怖いとのこと。

 

・コメント

 なんのひねりもなく、「筋肉バカ」なキャラ。スキンヘッド、角ばった顎、タンクトップにカーゴパンツと、自分の思いつく限りの「脳筋」要素を詰めたルックスです。るろ剣の尖角やクレしん映画のサタケとかのイメージですかね。

 名前はフォルクスワーゲンの車から。何か怪獣っぽい響きだったので、マッチョなキャラに合うと思ってチョイスしました。



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#84/学園に潜む魔

「………あーもー、サイアク………」

 

マンションに戻ったスバルたちの目の前では、机に肘をついて俯いていた。2時間ほど前に起きた事態は聞いてはいたし同情もできるため、スバルたちは同情的であった。

 

「だ、大丈夫だよティアナ、大事なところは『謎の光』が隠してたから………」

「それ、ソフト化したら消えるヤツじゃない!!」

 

ディエチがフォローのつもりで励ますも、ティアナは目を潤ませながらツッコむ。ティアナはゼイゼイと肩で息をするとふう、と息を吐いて落ち着かせた。

 

「いや、私としてはハダカ見られた以上に、あんなにカッコつけたのにカッコがつかなかった所見られたのが辛いのよ………」

「あ、うん………そっちね………」

 

スバルが顔を引きつらせていると、リビングにノーヴェとオットーが入って来た。

 

「あ、ノーヴェ、チンクとルーテシアは………?」

「2人とも寝てしまいました。今日は色々ありましたし、疲れてしまったのかと………」

「そっかー………」

 

オットーが答える横で、ノーヴェは何故か不機嫌そうな顔になっていた。

 

「あれ、どーかしたのノーヴェ?」

「ん?いや………さっき仗助さんに殴り込みかけたんだけど………後でティアナやルーお嬢の話聞いて、悪気はなかった上に助けてくれてたみたいで………なのに『アダ』で返しちゃったから、明日顔合わせるのが気まずい………」

「あー………」

 

バツが悪そうに言うノーヴェに苦笑する一同。すると、ティアナが疑問を口にした。

 

「っていうか、あの『蓮華』って、何で私たちに攻撃してきたの?ヴィオレッタ側のスタンド使いみたいだったし………」

「あ、うん………明日、承太郎さんたちからちゃんと話すと思うけど………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「え………えええええーーーー!?ルーテシアちゃんが千雨ちゃんの妹ーーーーー!?」

 

同じ頃、寮の徐倫たちの部屋に集まったネギやのどかやあやかたち(昼間に別行動を取っていた面子)は、徐倫たちから説明を受けて驚きの声を上げた。

 

「実際に、ヴィオレッタの差し向けたスタンド使いに命を狙われた………ルーテシアの周りには承太郎さんやフェイトさんがいるから、よほどのことがない限り命の危機にはならないだろうけど………」

「うーん……私たちがティアナさんたち探している間にそんな事が起こっていたとは………」

 

顔を引きつらせながらハルナが呟く。のどかがそういえば、と思い出した。

 

「前にルーテシアちゃん、「お父さんがこっちにいる」って言っていたけど………」

「それが千雨ちゃんのお父さん、ポルナレフさんやったんか………」

 

木乃香が納得したように頷くと、うーむ、と朝倉が呟く。

 

「これは……カッパにかまけてる場合じゃあなさそうね………」

 

カッパ?と徐倫が朝倉の発言に首を傾げていると、ネギがあ!と突然声を上げた。

 

「そういえば………あの時は立て続けに色々なことが起きて忘れていたけれど………京都で『千本鳥居』に閉じ込められた時、小太郎君の攻撃を受けたルーテシアさんが、『スタンド』を発現させていたんだった………!」

「なんだと!?」

 

ネギが思い出した事をきき返す千雨。ネギは小さく頷き、話を続けた

 

「あの時は一瞬だったし、ルーテシアさん自身も何が起こったのか分かっていなかったみたいでした………おそらくは、これまでの一連の事件で、スタンドが目覚めかけているんだと思います………」

「そういえば、ルーテシアもスタンドが見えていたな………ルーテシア自身も『スカリエッティ』とやらに何かされたらしいから、その影響と思っていたが………」

 

徐倫がそう言うと、一同はうーむ、と唸った。これからは千雨だけではなくルーテシアも護衛する必要があると結論がされ、今回は解散となった。

 

「うーん………(やはり、()()()()を実行すべきですわね………)」

 

自室に帰る道中、あやかはある事を考えていた………

 

 

 

 

 

#84/学園に潜む魔

 

 

 

 

 

翌朝

 

「―――じゃあ、私はこれで帰るけど………本当に危ない事はしないでよね?」

「うん、気を付けるよ………」

 

麻帆良駅前でロンドンに帰るアーニャを見送るネギと、明日菜や徐倫、千雨。

アーニャはいまいち信用していない様子であったが、ネギの周りを固めるスタンド使いや魔法使い、何よりネギの強い意志を知って、ここは麻帆良にいる者たちに任せた方がいいと判断し、自身はロンドンに帰る事にした。

念のためにSPW財団のエージェントがロンドンまで付き添い、しばらくの間は秘密裏に護衛される予定である。

 

「ま、無茶したり危ないことするよーなら、私らが殴ってでも止めるから、安心しなって。」

「ビミョーに安心できない気もするけど………まあ、頼んだわよ。」

 

アーニャは徐倫に微妙な顔で返すと、手を振りながら改札の向こうに去って行った。見送ったネギたちは学校へ向かうべく歩き出した。

 

「ところでさー千雨ちゃん?」

「んー?」

 

歩きながら、明日菜は千雨に話しかけた。

 

「昨日、あれからルーテシアちゃんと話したの?」

「ゔっ………いや、話せるわけないだろ………何て話せばいいんだよ………」

「いや、そーだけどさー………」

 

微妙な表情で答える千雨に明日菜は聞く。突然姉妹である事を告げられた2人はまだ戸惑っているのだろうが、いつまでもこのままでいいとは思えない。

何かきっかけはないだろうか、と徐倫が考えてふと、ある事に気が付いた。

 

(そー言えば明日菜も前からスタンドが『見えていた』な………けれど、ティアナやルーテシアと違って、今のところスタンドに目覚める様子はないわね………)

 

明日菜の横顔を見ながら考える徐倫。これまで明日菜もスタンド使い同士の戦いを間近で見て来てはいるが、2人のように目覚める様子は見られない。明日菜の精神的な成長が必要なのだろうかと、徐倫は考えた。

 

(だとしたら、何か『キッカケ』が必要なのかもな………まあ、それは個人差もあるか………)

 

徐倫は急ぐこともないだろうと思い、今回はこれ以上考えるのを終えた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その日の昼休み、A組では2日後から始まる『ゴールデンウィーク』でどこに行くかの話題で持ち切りであった。

 

そんな中、あやかに誘われたA組のスタンド使い&魔法使いメンバーは、屋上へ来ていた。

 

「………え、南の島?」

 

そこであやかから告げられたのは、ゴールデンウィークに雪広グループの所有する南国のリゾート(アイランド)へ、親睦会を兼ねた旅行へ行こうという事であった。

 

「ほら、ここの所戦い続きだったでしょう?ずっとピリピリしていては滅入ってしまいますし、連休を利用してリフレッシュをしようと思いまして。」

「わー!楽しそうですねー♪」

「いいじゃん!さんせー!」「私もー♪」

 

あやかの発案にネギやまき絵、スバル達は無邪気に賛同するが、徐倫や千雨は怪訝そうであった。

 

「けど、こんな時にノン気にバカンスなんて………」

「あら、たまには息抜きも必要ですわよ?それに、この計画には承太郎さんやフェイトさんも賛同してくださいましたし。」

「……やれやれだわ、既に根回し済みなのね………」

「そこまでされちゃあ、断りづらいなー………けど、多分『飛行機』で行くんだろーなー………」

 

あやかが準備万端であったために、諦め半分楽しさ半分でため息をつく徐倫。しかし、千雨はまだ何か不安そうであった。

 

「あれ、長谷川さんって飛行機怖いの?」

 

いつもあんなにびゅんびゅん飛んでるのに、と不思議そうに首を傾げるスバル。千雨はいや、と頬を掻きながら説明した。

 

「飛行機に乗る分はいいんだけど………「徐倫と一緒に飛行機に乗る」のがちょっと………」

「へ?」

「ちょっと千雨、まだあの事気にしてたの?」

 

徐倫は千雨に抗議すると、まき絵や楓が「あー…」と納得したようにつぶやいた。明日菜が何かあるのかと聞いた。

 

「いや、徐倫ってさ………『2回』くらい『()()()()()』経験してるんだよ………」

「「「「「え?」」」」」

「い、いや!けど、うち1回はジョセフじいちゃんも一緒だったし………後のはヘリだったじゃん!?」

「墜落は否定しないの!?」

「それに、ジョースター家って「飛行機墜落経験して一人前」みたいな所あるし………」

「嫌な一族ね!?」

 

徐倫の弁解になっているようでなっていない弁解にツッコむ明日菜。しかし、まき絵と楓がそれに続けた。

 

「いやー、徐倫っていうか、『ジョースター家』ってかなり『乗り物運』がないって聞いたよー?」

「飛行機どころか自動車に船……」

「ラクダや潜水艦もダメにしたと聞きましたわよ?」

「………徐倫さんのご先祖様、昔乗り物に恨まれるような事でもしたんですか?」

 

ネギが呆れて聞くと、徐倫は頬を掻きながら苦笑いをした。スバルは自身がそんな一族である事に、若干不安を感じた。

けど、と徐倫は続けた。

 

「ていうか、千雨が気にしてるのは6年前にインド洋に墜落して、インドのレストランに行った時ブタに―――」

「!?や、やめろッ!!インドの話はマジでやめろってーーーッ!?」

 

徐倫が話す前に大声で遮る涙目で真っ赤な顔の千雨。

明日菜やネギたちは(インドで何があったんだろう?)と思ったが、千雨の様子を見て聞かないでおく事にした………

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「けど、ええんかなー?うち昨日合流したばかりやのに………」

「まーいいんじゃあない?そのための『親睦会』なんだし♪」

 

教室に戻る途中、亜子は少し申し訳ないように言うが、裕奈が気にしないように言う。すると、明日菜が思い出したかのように聞いた。

 

「そー言えば、ゆーなも亜子ちゃんも、スタンド使いだったのね。」

「うん、いまさらだけどねー」「ウチは気づかないままやったし………」

 

裕奈と亜子が返答をすると、ルル・ベルがやれやれとため息をついた。

 

「まったく、………まだ正体を明かす時ではなかったのだけれど………今回は緊急事態だったし、大目に見ておくわね。」

「うん、ゴメンね、お嬢………」

 

ルル・ベルに謝る裕奈を見て、明日菜とネギは疑問に思った。

 

「あれ、ゆーなってそんなにルル・ベルと親しかったの?」

「うん、田中 かなた、てか、篤緒 奏汰の後、順番で言えば3番目(パルもいるから4番目?)に刺されてねー」

「この子には驚いたわ………『スーパー・スナイプ』が自我のあるスタンドだったとはいえ直ぐに使いこなして、私たちに直接接触してきたのよ………」

「それでそんなに………」

 

2人の関係に納得する一同。

 

「まあ、何はともあれ………これで『6人』(5人と1羽)全員の所在が分かったわね。」

 

☆ルル・ベルの生み出したスタンド使い達

・ネギ・スプリングフィールド

 スタンド名:(タスク)

・宮崎 のどか

 スタンド名:イノセント・スターター

・篤緒 奏汰

 スタンド名:ハイ・ステッパー

・早乙女 ハルナ

 スタンド名:ドロウ・ザ・ライン

・シルバークロス(カラス)

 スタンド名:ラン・イントゥ・ザ・ライト

・明石 祐奈

 スタンド名:スーパー・スナイプ

 

「裕奈さんの話だと、のどかさん、パルさん、奏汰さん、裕奈さん、シルバークロス、最後に僕っていう順番ですかね?」

「そうね。ハルナは完全に想定外だったけれど………」

 

ネギに次いでルル・ベルが肯定する。

 

「それに、お母様側は『ヴァナゴン』と『蓮華』の2人が再起不能になっているとはいえ、まだ4人以上もスタンド使いがいるわ………」

 

★ヴィオレッタの生み出した11人のスタンド使い

・オエコモバ(死亡・再起不能)

 スタンド名:ヘルズ・マリア

・ランボ・ルギニー(捕縛・再起可能)

 スタンド名:アルティメット・クライシス

・夜叉丸 雪子(離反)

 スタンド名:スペースマン

・ヴィヴァーノ・ウエストウッド(重症・再起不能)

スタンド名:プラネット・ウェイブス

・富良野 鏡史郎(捕縛・再起可能)

 スタンド名:リード・マイ・マインド

・ヴァナゴン(捕縛・再起不能)

 スタンド名:ディアボリック・シークエンス

・波羅蜜 蓮華(捕縛・再起不能)

 スタンド名:ピンク・アクアリウム

・???

・???

・???

・???

 

「あと4人………今はそれ以上増やされているかもしれないわね………」

「仮に増えていないとしたら………何か目的があるのか?」

 

ヴィオレッタ側の動きの読めなさを不振に思う一同。

 

「ねえねえ、帰りに水着見に行かない?」

「あ、そーだねー♪私持ってきてないし。」

 

そんな空気を察知してか、まき絵が明るく提案をするとスバルがそれに乗る。徐倫はやれやれと肩をすくめた。

 

「あ、そー言えばお嬢は水着どうするの?」

「ああ、ちゃんと用意するから心配ないわ。」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

放課後、近くで水着を売っている店に入ったスバルとまき絵、亜子たちは、既に店内にいたナンバーズの面々と鉢合せした。

 

「あ………」

「あ………」

 

そこで亜子とオットーの目が合ってしまう。互いにぎこちなくどうも、と頭を下げるが、2人の間に気まずい空気が流れた。

それに見かねたのか、セインとウェンディが目を合わせると、亜子に話しかけた。

 

「あー、イズミン!オットーの水着、選ぶの手伝って欲しいッス!」

「え?!」

「いやー、オットーてばこういうの選ぶの苦手みたいでさー!」

「え?あ、あの………!?」

 

困惑する亜子とオットーを余所にぐいぐいと押すセインとウェンディ。そこにディードも加わって来た。

 

「いえ姉さまがた、オットーの水着は私が選びますので。」

「ディード………」

 

何故か亜子に対抗意識を燃やしているのか、水着を片手にオットーの手を引くディード。そのまま試着室に連れていくと持ってきた水着を手渡して着替えさせた。

 

シャッ

「どうでしょうか?」

「おおー」

 

ディードが持ってきたのは紺色で上がタンクトップ風になったセパレートタイプで、下がホットパンツのような形状で、ボーイッシュなオットーには似合うタイプだった。

オットーは少し恥ずかし気であったが、しかし裕奈とまき絵がうーん、と唸った。

 

「うーん、確かに似合うけど………」

「なんつーか、『無難』、って感じが………」

「え……?」

 

ディードは『オットーに似合う』と思い選んだ水着があまり好評ではない事に軽くショックを受けた。すると亜子がそれならばと、水着を1着持ってきてオットーに手渡した。

 

「ほんなら、次はこれに。」

「え、イズミさん……」

 

オットーは亜子がノリノリで手渡してきた水着に戸惑いながらも、受け取ったそれを試着することにした。

 

シャッ

「!?」

「なっ………!?」

 

カーテンが開くと、その姿に衝撃を受けるナンバーズと裕奈たち!

 

「あ、あの……ボクにはこういう水着は……」

 

亜子の選んだ水着は、フリルが多めについた白いチューブトップのビキニであった。

ボーイッシュなオットーにはあまり似合わないと思われていたが、しかし、()()()()()()()()()

 

「ボ、ボーイッシュなオットーに、女の子らしいフリルのビキニ………!」

「真逆のチョイス……だが、それが『ギャップ』を生み、可愛らしさを演出している………!!」

 

あまりの衝撃に何故か解説者のような口調になるウェンディとセイン。あまり着慣れていない装いに恥ずかしがるオットーだが、一方のディードはオットーの『新境地』に衝撃を受けたが、冷や汗を手の甲で拭った。

 

「………ふ、やりますね、イズミさん………!」

「そちらこそ………!」

「あ、あの………?」

 

何故かバチバチと火花を散らす両者に戸惑うオットー。しかし2人は新しい水着を探し出し、オットーに押し付け始めた!

 

「さあオットーさん、次はこっちを!」

「オットー、次はこれを!」

「え!?ええ!?」

 

異様な熱気の2人に押され困惑するオットー。そのまま次々に水着を着せ替えられてしまう…

 

「あー、なんつーか………」

「ご愁傷さまッス………」

 

そんなオットーの様子を見て、ウェンディと裕奈は苦笑しながら合掌をするのであった。

 

 

 

 

 

10分後

 

 

 

 

 

「「……………」」

「ひーん………」

 

涙目で黒いマイクロビキニ姿でへたり込むオットーを目の前に、亜子とディードはしばし沈黙する。

 

「………ふっ」

「ふっ」

 

2人はやり切った顔で不敵に笑うと、腕を上げて肘でガシィッ、と組み、遠い目で一言。

 

 

 

 

 

「………やり過ぎましたかね?」

「せやね………」

「ちょっとーーーーッ!?」

 

 

 

 

 

この後、オットーは亜子が最初に選んだフリルの水着を購入することにした。

 

「……まあ、イズミンとディードが仲良くなったみたいでよかったッスね。」

「無理やりいい感じっぽく締めるなよ………」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「え?承太郎さん来れないの?」

「うん、東京にある実家に帰るんだと。」

 

同じ頃、女子寮に帰る徐倫と千雨に合流した明日菜と木乃香、刹那が話していた。

 

「『ホリィおばあちゃん』が、4月からずっとうるさかったらしいからねー………日本に帰って来てるのに会いに来ないって………」

「ホリィ……?」

「徐倫のおばあちゃんで、承太郎さんのお母さん。リサリサ先生ほどじゃあないけど、年齢感じさせないくらい若い人だよ………」

 

徐倫と千雨の説明になるほどと頷く明日菜。

 

「オヤジも、なんだかんだ言ってホリィおばあちゃんには弱いからな〜……」

「なるほどねー………」

 

あきれて笑う徐倫に明日菜も頷く。『無敵のスタープラチナ』を持つ承太郎をもってしても、実の母親にはかなわないとは、意外にも可愛らしい「弱点」だなと思った。

 

「うーん、お母さん、かぁ………」

「お嬢様?」

 

ふと、木乃香が呟いた。

 

「いやなー、ルル・ベルちゃん、(つら)ないかなー思うて………お母さんと戦うことになって………」

「あ………」

 

木乃香に言われて、明日菜たちは気づいた。普段ルル・ベルは気丈に振舞ってはいるが、自身の親と対立し、命のやり取りをすることを決断するとなれば、辛いわけがなかった。

 

「あいつ、何考えているかわからないけど………」

「案外、色々抱えこんじゃうタイプなのかもねー………」

 

よく考えてみれば、自分たちがルル・ベルについてほとんど知らないことばかりであることに今更ながら気づいた(最初のインパクトから若干距離を置いていたとはいえ)。

 

「こーいうのって、こっちから話題振ったりするの、ちょっと気が引けるわよね………」

「たしかに………」

 

はたして、ルル・ベルが心を開き、自分たちに打ち明けてくれる日は来るのであろうか?

ルル・ベルが少し心配になった明日菜達は、寮に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

「ふぅーん……南の島でバカンスねぇー………」

 

同じ頃、ヴィオレッタは千雨たちの動向を聞いていた。ソファーの背もたれに寄りかかっていたリゾットが、口を開いた。

 

「ずいぶんとノン気………というか、中学生じゃあずっと警戒するのは流石にキツイか………」

「お休み中に襲うのは少々気が引けるけれど、一番気が緩んでいる時だし、チャンスではあるわね。偶然にも、『ミスターX』のいる辺りに近いようだし………」

 

スタンド使い同士はひかれあうとはこのことね、とヴィオレッタ不敵に笑うと、部屋の隅から明るい声が響いた。

 

「はっはーッ!!それじゃあ、ようやくアタイの出番だね、ようやく!!」

「む?」

 

部屋の丁度影になった辺りには『伊賀の三羽鴉』の綺初とすずめ、そしてもう一人の19歳くらいの女性がいた。声を出したのは、そのもう一人であった。

 

「南の島か………我ら3人の本領を発揮するには、もってこいの場所だな………」

「地の利はあたしたちにある……今度は負けない……!」

 

綺初とすずめが自信満々に言うと、ヴィオレッタはへぇ、と感心したように告げた。

 

「そこまで言うのなら、ミスターXの方はホルマジオにでも任せて、長谷川千雨はあなたたちに任せるわ。」

「感謝するよ、感謝♪」

 

もう一人が感謝をすると部屋を後にし、綺初たちもそれに続いた。

廊下を歩きながら、女は少し残念そうな顔になった。

 

「まあ、空条承太郎がいないのは、ちょっと残念だけどねー、ちょっと………」

「いや、承太郎がいないのは好都合なんじゃあ…?」

 

すずめが女に言うが、綺初はその理由を察した。

 

「そういえば、空条承太郎はお前の父の………」

「うん、(かたき)だよ、敵………でも、いないなら仕方ないよ………」

「え………?」

 

驚いて息を呑むすずめに対して、女は苦笑しつつ「気にしないでくれ」と手を振った。

 

「………ま、あのおばさんじゃあないけれど、アタイも徐倫ブチのめすだけだよ、アタイも………」

 

『伊賀の三羽鴉』・(さざなみ)(みかど)こと岩飛(いわとび) (みかど)(19歳)

スタンドは『ディスタント・ムーン』

 

 

 

 

 

←to be continued…




84話です。
・サブタイトルは『機中にひそむ魔』から。
 今回は小休止&おさらい、所謂『総集編』的な話。

・アーニャ帰国。割と賑やかしや情報提供にはなったかと思います。

・ルル・ベルとヴィオレッタ親子の生み出したスタンド使いのおさらい。自分でも忘れてる所あったのでw

・実はルル・ベルと既に接触していた裕奈。読み返すと分かると思いますが、何気に#75でルル・ベルを気遣っている様子があります。

・オットーの着せ替え。ちなみに亜子とディードの腕の組み方はツェペリさんとダイアーさんが元ネタ。

・伊賀の三羽鴉最後の1人帝、いよいよ登場。にじファン時代は顔見せだけでしたが、ようやく出せます。

では、また次回!


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#85/ディスタント・ムーン ①

遅くなってしまい、本当に申し訳ございません。


GW(ゴールデンウイーク)初日の5月3日、徐倫やネギたちは、雪広家の私有空港にまで来ていた。

 

「さあ、こちらですわよ♪」

 

あやかに案内されてリゾート島まで向かうジェット機まで向かう一同。歩きながら、ノーヴェが呟いた。

 

「しっかし……自家用ジェット機や空港に島まで持ってるなんて……アイツって本当に「オジョーサマ」なんだな……」

「まあ、私は慣れてるけどねー」

 

明日菜がノーヴェに苦笑しつつ答えた。すると既に頭にサングラスを乗せてウキウキ気分のウェンディが話しに入って来た。

 

「スクルージおじさんがバックに着いてるみたいなモンっスねー♪」

「あの人、あんま出資してくれそうにないけどなー」

「なんでアンタたち、『わんぱくダック』知ってるのよ………?」

 

何故か懐かしいアニメを知っている2人に呆れる明日菜。

一方、亜子やまき絵たちもジェット機に向かっていた。

 

「それにしても………初めて会う人も多いなぁ………」

「そういえばそうだねー」

「私は顔だけは知ってたけどねー」

 

まき絵と裕奈が話していると、リインフォースⅡがおはようございまーすと挨拶をしてきた。

 

「リインちゃん、おはよー♪」

「あ、スバルちゃんのとこの………?」

 

亜子はまき絵たちから話を聞いていた六課のメンバーだと気づいたが………リインが異様に小さく見えたことに、疑問を持った。

 

「………あー、リインちゃん、やったっけ?もう少し近くに来ても大丈夫やでー?」

「?はーい。」

 

リインは亜子に呼ばれて彼女の目の前にまでふよふよと来るが、距離が50㎝くらいの所で止まったのを、亜子は目を点にさせて見下ろした。

 

「?」

「………ホ、ホンマに小さかった!?」

「遠近法で小さく見えてると思ったの………?」

「私たちも最初はビックリしたよねー」

 

リインの大きさに驚く亜子に、まき絵は初めてリインに会った時のことを思い出しながら笑うのであった。

 

「あっ………」

「………」

 

一方、千雨とルーテシアは目が合ってしまうも、気まずくなったのかすぐに視線を逸らした。そして千雨は徐倫、ルーテシアはティアナの元に行ってしまった。

 

「………うーん、やっぱり気まずそうですね………」

「そーね………」

 

その様子を見ていたネギと明日菜は、少し心配そうにするのであった。

 

 

 

 

 

#85/ディスタント・ムーン ①

 

 

 

 

 

青い空と海の広がる、南国のとある島。

雪広グループの所有するこの島には、水上コテージ等の宿泊施設をはじめ、海のアクティビティを楽しむことができる。

 

「ひゃっほーーーッス♪」

「「「海だーーーっッ!!」」」

 

そんな島で今、徐倫たちは大いに遊んでいた。

 

ビーチチェアに寝そべるジョルノやトリッシュが見守る中、各々が水着に着替え、早速ウェンディはサーフボードを借りてサーフィンを楽しみ、木乃香や刹那は楓やハルナとビーチボールを打ち合い、セインや裕奈、まき絵らは泳ぎを楽しんでいた。

 

「うーん………もう少し高く………」

 

砂浜では、オットーとディード、亜子の3人がスコップと竹串を手にしてサンドアートの名古屋城づくりに勤しんでいた。しかしオットーは意外にも凝り性なのか、細部にまでこだわって作業をしていた。

 

「てか、今更やけどなんで名古屋城……?」

「オットー的に、作り甲斐のあるものらしくて……」

 

「……あいつら、楽しいのか?あーやって浮かんでいるだけで?ま、楽しみ方はそれぞれだろーけどよぉー………」

 

一方、ディエチと夕映が浮き輪に腰かけてぷかぷか漂っている(夕映はそれに加えて読書もしている)様子を見ていた仗助のもとに、チンク(どこで用意をしたのか胸に「ちんく」と書かれたスクール水着)とノーヴェがおずおずと近づいてきた。

 

「………あの………じょ、仗助さん………」

「ん?おお、お前らか………」

 

仗助は2人に気づくと挨拶をするが、3人は先日の『ピンク・アクアリウム』の事件があったためか、多少気まずい空気になる。

すると、ノーヴェが口を開く。

 

「あの、……仗助さん………この間は、その、すいませんでした………」

「ん、………あー、そのことなら、もう気にしてねーぞ……オレにも非はあるしよぉー………」

 

3人は互いに頭を下げて、この件はこれにて一件落着となった。

 

「いやー、南国でバカンスなんて、いいんちょも太っ腹だねー♪」

「ホントですねー♪」

 

一方、ひと泳ぎ終えたネギと裕奈が徐倫や明日菜と共にビーチに上がりながら、あやかに話しかける。

 

「いえ、この島だってこの海域にいくつかある無人島の一つを買い取ったものですし、オープン前の施設も多いので、一般のお客様はまだ入っていませんのよ。」

「じゃあ、いわゆる「プレオープン」みたいなものか。」

 

あやかの説明に頷く裕奈。ふと、徐倫が思い出したようにそういえばと口を開いた。

 

「ルル・ベルもけっこーな『お嬢様』っぽいけど、どれほどのモンなんだろーな?」

「そーいえば……」

「確かに……」

 

徐倫の発言に頷く一同。すると、いつの間にかあやかの後ろにいたルル・ベル張本人が話に入って来た。

 

「そこまで「お金持ち」ってわけじゃあないわよ。」

「きゃッ!?」

「いつの間に………」

 

相変わらずの神出鬼没ぶりに呆れる徐倫たちだが、その身につけているのは黒い『ウエットスーツ』であり、左手をミトン型のグローブで隠していた。

 

(ウエットスーツ………)

(お嬢の手の事考えたら仕方ないけれど………)

(あれって、“水着”にカウントしていいのかなー?)

「お金があるって言っても、 お母様が()()()()()()()DIO(ディオ)の財産を元手に投資で儲けただけの「成金」よ。最も、稼いだお金の大半は「スタンド使い」の軍団を作る資金になったようだけどね。」

「そーか………」

 

ルル・ベルの明かしたヴィオレッタの資金繰り事情に苦笑する一同。泳ぎに行くのか、ルル・ベルはそのまま海に向かって行ってしまい、見送った徐倫がやれやれ、とため息をついた。

 

「アイツ……もしかしてあんまり人と話すの得意じゃあないのか………?」

「確かに………お嬢、いつも気丈に振舞ってるから気づきにくいよねー………」

 

明日菜と裕奈の言葉にうーん、と頷く。その一方で、徐倫はビーチパラソルの下、デッキチェアに寝そべる千雨を見た。千雨は寝そべりながらも、時折砂浜でアギトと遊ぶルーテシアの様子を見ているようだった。

 

「あっちもあっちで、話しづらそーにしてるし………」

「分かるんですか?」

「まーねー、千雨とは付き合い長いし。」

「せめて、今回のバカンスで距離が縮まるとよいのですが………」

 

質問するネギに徐倫が答えると、うーんとあやかが悩むように唸る。すると明日菜が話しかけた。

 

「ていうか、今回の旅行って()()が本当の目的なんでしょ?」

「え?!」

「あら、バレました?」

「当たり前でしょ……徐倫じゃあないけれど、付き合い長いんだから。」

 

明日菜が呆れた様子であやかに返す。ネギたちはあやかの気遣いに感心すると同時に、千雨とルーテシアの関係を心配した。

 

「ま、千雨のペースもあるし、無理やりにくっつける事せんでも―――」

「長谷川さーん、こっちで泳ごーよー!!」

「「「あ」」」

 

徐倫が話しているその時、満面の笑みを浮かべたスバルがまき絵やハルナと共に千雨を誘っていた。

千雨は「自分はいい」と拒否をするも、スバルに強引に引っ張られてそのまま海へ放り出さんばかりの勢いで連れ出されてしまった。

 

「………やれやれだわ。スバルには敵わないわねー………」

「スバルさんのあの強引さは、見習うべきなんですかね………?」

「荒療治もいいトコだけどねー………」

 

まき絵がルーテシアも放り投げるように海に連れ出すスバルを見ながら、徐倫たちは呆れるのであった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ったく、オメーは『遠慮』ってもんを知らねーのか……」

「いやー、ゴメンゴメン。」

 

一方、ギリギリ足が付く辺りまで連れ出された千雨はスバルとハルナに文句を言うが、当のスバルは笑って誤魔化すのみであった。自分から離れた位置でまき絵に海水をかけられて少し困惑しているルーテシアを見ながら、はぁ、とため息をついた。

 

「そんな無理やり連れ出されてもよー、気まずいだけだっつーの………」

「そーだけどさー………」

「つーか、お前こそジョルノさんとはどーなってるんだよ?」

 

千雨は逆に聞き返すと、スバルはへ?と首を傾げる。

 

「ノーヴェから聞いたけど、ジョルノさん、結構悩んでいたみたいだし、お前みたいにグイグイくるタイプ苦手みたいだし。」

「そ、そーかなー………?」

 

千雨の指摘に、スバルは苦笑しながら頬を掻く。あれ以降、スバルはジョルノに話しかけるようにしていたのだが、当のジョルノは何か思う所があるのか、浮かない顔をしていた。

 

「あー、分かるよそれ。アタイもよくグイグイ行っちゃうんだけどさー、最初は警戒されちゃうんだよねー、最初は。」

「うん、私もそれやっちゃう………」

 

だろうなあ、と千雨は思った。

 

「なんて言うかさー、人付き合いって距離感が大事だよねー、距離感が。つかず離れずっていうの?それ見極めないといけないよねー。」

「あー確かに。」

「スバルは近すぎだけど、千雨ちゃんは遠すぎるよねー」

「うっ、………まあ、否定はしないけど………ん?」

 

ハルナにも言われた千雨は言いよどむが、その時、自分たち3人の他に、いつの間にか「もう1人」いる事に気づいた。

 

「「あれ?」」

「チョリーッス♪」

 

スバル達もようやく気付いて振り向いてみれば、そこには一人の女性がいた。

薄いグレーに染めた髪は腰まで伸び先端がカールして、額には翼が描かれたゴーグル、金色の鋭い釣り目で迷彩柄のビキニを着た女性であった。

 

「………え、誰?」

「………はッ!?お、お前は………!!」

「やっほー、久しぶりだね長谷川千雨、久しぶり♪」

 

千雨がその女性の姿を確認した瞬間、臨戦態勢になり飛びあがると「波紋」で海面に()()()女性を睨みつけた。

 

「長谷川さん?」

「離れろお前ら!コイツは『伊賀の三羽鴉』のひとり、『漣の帝』だ!!」

「「ええ!?」」

 

女性・帝の素性を聞いた2人は、慌てて距離を取るが、海上なのでやや速度は遅かった。

 

「い、伊賀の三羽鴉って……京都で私たちを襲ってきたあの!?」

「あ、そっちのメガネの()はすずめたちと会ってるんだっけ?そーだよ、アタイが三羽鴉最後の一人だよ、アタイが。」

 

ハルナが思わず口にした言葉を、ケラケラと笑いながら肯定する帝。スバルは『ウィングロード』を展開してその上に上がると、ハルナを引き上げた。

 

「本当は空条承太郎と戦いたかったんだけどさー、いないんなら仕方ないね、いないんなら。依頼された任務(おしごと)を遂行するだけだよ。」

 

帝は笑ったまま割と物騒な事を言う。千雨は呆れた顔で悪態をついた。

 

「ったく、休暇(バカンス)中くらいゆっくりさせてくれよな………」

「千雨ちゃん、この人の能力ってどんなのよ!?」

 

ハルナは、2年前に交戦経験のある千雨に帝の情報を聞いた。

 

「ああ、アイツの能力(スタンド)は………ん………あれ?………?」

 

ハルナに聞かれて、目の前でニヤニヤと笑う帝のスタンドを思い出そうとした。しかし、冷静に考えてみたら、ある事に気が付いてあれ?と首を傾げた。

 

「………そういえばコイツのスタンド知らねーーーッ!!?」

「「ええーーーーー!?」」

 

よくよく思い出してみれば帝のスタンドを知らない事に気づいた千雨と、衝撃を受けるスバルたち2人。

 

「ちょ、長谷川さん、2年前に会ってるんじゃあなかったの!?」

「い、いや………よく思い出したら、コイツって徐倫や私らに敗けた綺初とすずめ回収して撤退したから、直接戦ってなかった………」

「あははー♪つまりアタイは「未知の敵」ってワケだねー、つまり。」

(てか私、ペンないからスタンド使えないじゃん!?ヤバッ………)

 

スバルにツッコまれる千雨を笑う帝。ハルナはハルナで紙とペンがないと『ドロウ・ザ・ライン』が使えないので焦っていた。

 

ドンッ

「きゃッ……」

「え?」

 

その時、千雨の足に何かが当たり、短い悲鳴を上げた。見下ろしてみれば、そこにいたのは自分たちとは離れた場所にいたはずのルーテシアであった。

 

「え!?な、なんで………」

「あぷっ………きゅ、急に波にさらわれて………ここまで流されちゃって………」

 

困惑する千雨に対して、状況を説明するルーテシア。千雨はスバルを呼んでルーテシアを避難させようとするが―――

 

 

 

ザバッ

「何!?」

 

 

 

突然、足元の海水がさながら「蛇」か、あるいは「蔦植物」のようになって千雨の足に絡みついてきた!

千雨が状況を把握するよりも早く、海水は足だけではなく胴体にも絡みつき、千雨の口を塞いでしまった!

 

「がぼッ………!!(し、しまったッ、こ…呼吸が………!!)」バッシャァアン

「千雨ちゃん!?」

 

『波紋』の呼吸を封じられて海に落ちる千雨!帝は不敵に笑っていた。

 

「悪いけど、アタイの狙いは長谷川千雨とルーテシア・アルピーノの2人なんだよね………邪魔されないように、アタイの土俵(フィールド)に連れていくよ、土俵(フィールド)に!!」

 

言うや否や、千雨とルーテシアは海に引きずり込まれ、帝も追うように潜っていった!!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「お、オイ!誰だあの女は!?」

 

その頃、徐倫たちも千雨たちが海上で臨戦態勢に入ったのを見て、異変に気づき騒ぎ始めていた。混乱する間もなく、千雨とルーテシアが海に沈んだのを見て、ネギが悲鳴に似た声で叫んだ。

 

「ああ!!ふ、2人が海に沈んだぁあーー!?」

「何、海に!?」

 

徐倫が聞き返すと、口に手を当てて青ざめた。

 

「ま、マズいわ!()()()()()()!!」

「どういうこと!?」

「千雨の『アニバーサリー・オブ・エンゼル』は、『ストーン・フリー』等と違って身にまとうタイプのスタンド………つまり、『スタンドのパワー』(イコール)『千雨自身のパワー』となる!そして千雨の身体能力(パワー)は、『()()()()()』によってもたらされている!!」

 

そこまで聞いて、明日菜も気づいた。海中で『呼吸』は出来ないため、波紋の呼吸による身体能力向上が出来ない以上、千雨は通常通りの戦いが出来ないことになる!

 

「た、大変!!早く助けないと………!!」

 

明日菜やティアナが慌てて向かおうとするが、その時、

 

ズドドドドドドドッ

「「「!?」」」

「ええッ!?」

 

その瞬間、一同の行く手を阻むように『レンガの壁』が地面から出現し、一同を囲い込んでしまった!

 

「こ、このレンガは!?」

「悪いが、帝の邪魔はさせん。」

 

声に気づいて見上げてみれば、そこには綺初と、いつの間にか周囲を戦闘ヘリやステルス戦闘機の模型が飛び交っていた!

 

「綺初とすずめ!!」

「『アンチェイン・ワールド』で転移させたのか………しかも、『帝』だと?まさか3人全員来ていたとは………!!」

 

綺初とすずめ、そして帝の襲撃に歯噛みする徐倫。

 

「すでにこの周囲は『エナジー・フロゥ』の編隊で包囲している。長谷川千雨の救助には向かえぬぞ。」

「用意周到ね………」

「今の話からすると、その『ミカド』って言う人は、『水』に関係した能力のようですね………」

「『地の利』は向こうにあるワケね………」

 

徐倫がため息をつくと、変形した『エナジー・フロゥ』の兵隊が迫ってくる!

 

バギンッ

「やれやれだわ………休暇中くらい休ませてよねッ!!」

 

迫って来た先頭の1体を『ストーン・フリー』で殴り飛ばしながら、徐倫は叫んだ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

海中に引きずり込まれた千雨は、呼吸ができないながらもルーテシアに怪我をさせまいと『アニバーサリー・オブ・エンゼル』をまとって抱きかかえて翼をたたみ、防御姿勢を取った。

 

(呼吸は出来ないが………『エンゼル』の防御甲冑なら攻撃には耐えられる筈………それにしてもアイツ、いつの間に私らに近づいたんだ………?)

 

手足が動くのを確認しながら、帝がどうやって接近したのかを考える千雨。先ほどの現象―――ルーテシアを連れ去った波と自分にまとわりついた海水から、帝のスタンドが『水』に関係していると思った。しかし、それでは気づかれずに接近された事と結びつかないと思っていると、

 

『よお~~こそ我がスタンドの独壇場―――海中へ、よお~~こそ♪』

「「!?」」

 

同じく潜って来た帝が、腕組みをして笑いながら話しかけてきた。千雨は警戒してキッ、と睨みつけるが、帝は余裕の表情を崩さない。

 

『おーこわ。いくら『身にまとう』タイプでもさー、海中でも「スタンド」同士の会話は可能だよ、可能。』

『………お前のスタンド、成程、この状況じゃあないと使えないのか。だから2年前は『撤退』に専念したわけなんだな………』

 

千雨の質問に帝は『まーねー』と軽く返答した。

 

『アタイの『ディスタント・ムーン』は専用の場所じゃないと戦えないからねー。おたくらにはここでお披露目だよ、ここで♪』

 

そう言いながら、帝は両手を広げるポーズを取ると、その身に『スタンド』をまとわせた。

 

首から下を青い鱗状のウエットスーツで包み、その上から銀色のプロテクターを装着した外見で、手足には水かき、背中には2枚の背びれを持っており、『半魚人』を思わせるダイバースーツのようなデザインだ。頭部には、頭頂に4つのライトらしきものがついた平たいヘルメットを付けていた。

 

『あれが(ヤツ)の………』

『海中じゃあ、ご自慢の『飛行殺法』も使えないでしょ?アタイの『ディスタント・ムーン』は、海中において『無敵』だよ、『無敵』!!』

 

そう宣言すると、帝の周囲が一瞬キラキラと光って………瞬間、帝はまるで煙のように姿を消してしまった………!?

 

『何!?』

 

千雨は驚くも、海中が帝のホームグラウンドならば、身体が動かせる今のうちに逃げるべきと判断し、翼を広げて海面に上がろうとする。

 

『おっと、ドコに行く気だい、ドコに!?』

ザシュッ

「がッ………!?」ガボッ

「!?」

 

しかしその瞬間、『アニバーサリー・オブ・エンゼル』の背中を刃物らしきもので切り裂かれ、千雨は思わず息を吐き出してしまう!

何事かと思い振り返れば、姿を消した帝がそこにおり、手の水かきに血が付いていた。相当シャープな刃物になっているようだ。

千雨が痛みに顔を歪める間も無く、帝が両腕を前に伸ばすと両手から「()()」が発生し、2人を呑み込んでしまった!!

 

「ぐぼっ…!!」

「が………ばッ……」

『アタイの『ディスタント・ムーン』は『海水を操る』!言ったでしょ?ここはアタイの独壇場だよ、独壇場!!』

 

海流に呑まれ吹き飛ばされながら、千雨は納得していた。

 

(海水を操る………さっき姿が消えたのは、周囲の海水を操って『光を屈折』させたからか………そうやって私らにも近づいた………!!)

 

千雨が帝のスタンドの謎に気づいたその時、『エンゼル』の装甲に何か小さいものが刺さった事に気づいた。見てみれば、それは青く光る「ウロコ」だった。

 

『!?アイツのスタンドに付いていたウロコ……!?』

『無駄だよ、無駄!海中に引きずり込まれた時点で、お前らに勝ち目はないんだよ!!』

 

勝ち誇る帝が鋭い目つきで言い放つ。見てみれば、腕から剥がれたらしいウロコが、再度生成されていた。

 

『本当はアタイのお父ちゃん………岩飛 皇十郎(こうじゅうろう)を殺した、承太郎と戦いたかったよ、承太郎と………けど、お仕事だからね、これも………』

『!?(承太郎さんに父親を………!?)』

『さっさと終わらせるよ、さっさと!!』

 

 

 

 

 

←to be continued…

 




85話です。
・それぞれの海の楽しみ方。仗助とノーヴェたちはあまり引っ張らない方がいいと思ってここで仲直りさせました。

・ルル・ベルの水着は、色々考えてウエットスーツにしました。袖鎧的な特注品も考えたけど、あまり奇抜じゃないほうがいいかな、と。

・帝登場。能力の関係上、実は徐倫たちと交戦していませんでした。2回繰り返す口癖はお気に入り。

・『アニバーサリー・オブ・エンゼル』の意外な、というかよく考えたら当たり前の弱点。

・帝の父親の正体は実は意外な人物だったりします。一応ヒントは出してますので。


では、また次回!


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#86/ディスタント・ムーン ②

仕事の多忙で、遅れに遅れてしまいました………


#86/ディスタント・ムーン ②

 

 

 

 

 

「はぁ!?親父が帝の父親の「カタキぃ」?」

 

浜辺で『エナジー・フロゥ』と『アンチェイン・ワールド』のレンガを迎撃していた徐倫は、綺初から聞かされた帝と父・承太郎の因縁を聞いて思わず聞き返した。

 

「そうだ。帝の父上である岩飛 皇十郎殿は18年前、空条承太郎に殺されたのだ。帝はそれ故に、空条承太郎と戦いたがっていた。」

「そうだったのか………」

 

それを聞いた徐倫は、納得していた。

2年前、神父に雇われたとはいえ伊賀の忍がわざわざアメリカまで自分たちを襲ってきた来たことに疑問に思っていたが、まさか承太郎への復讐が目的だったとは……

同じく話を聞いていたネギが、迫って来ていたレンガを『魔法の射手』で撃ち落としてから疑問を口にした。

 

「18年前………だとしたら、『DIO』に雇われたのでしょうか?」

「DIOに?だが、承太郎殿から忍者と戦った話など………?」

 

楓が2体の『エナジー・フロゥ』同士を()()()()ながら、同じく疑問を出す。同じく応戦していたミスタの抱える(ココ・ジャンボ)の中のポルナレフも、首を傾げていた。

 

『…いや、18年前にニンジャとなんて、戦っていないはずだが………』

「何?」

『けど、帝やお頭は「空条承太郎に殺された」って……』

 

ポルナレフの声を聞いたらしい綺初とすずめも困惑する。徐倫は、2人に聞いてみた。

 

「おい、その父親の名前の他に何か情報………例えばスタンド能力とか聞いてないのか?」

「能力までは聞いていないが………確か名前は聞いていたはずだ………」

 

攻撃の手を止めないまま、綺初は思い出そうとしていた。

 

 

 

 

 

「確か『暗青の月』………『()()()()()()()()()』だ。」

 

 

 

 

 

『………って、『()()()()』かよ!?』

 

綺初が告げた名前を聞いて、思わず叫ぶポルナレフ。

 

テニール船長―――厳密にいえばテニール船長に変装した岩飛 皇十郎だが―――本物のテニール船長を暗殺し、彼に成り代わって香港からエジプトに向かうチャーター船に潜入し、承太郎たちを暗殺しようとしたスタンド使いだ。

承太郎との戦いで得意の海中に引きずり込んで追い詰めるも返り討ちに遭い敗北したのだが、まさか娘がいて、しかも忍者だったとは………

 

『………いや、しかしよく考えてみれば、チャーター船の情報をキャッチして本物の船長を暗殺、誰にも気づかれないレベルで変装して成り代わるのを、“一晩”たらずでやってのけたんだよな、あいつ………』

「なるほど、ニンジャなら納得だな………」

 

すぐに冷静になって当時の事を分析したポルナレフの言葉に、納得して頷くミスタ。ニンジャってスゴい。

2人が納得をしていると、『エナジー・フロゥ』の1体を狙撃した裕奈が、ある事に気づいた。

 

「そー言えばお嬢、襲われる前に海に泳ぎに行っていたけど、大丈夫かなー………?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「どゎぁあああああーーーッ!!」

 

走るスバルに抱えられたハルナが悲鳴を上げる。2人は今、海上に走らされた『ウイングロード』の上を、『エナジー・フロゥ』の編隊の銃撃から逃げていた。

 

「さ、早乙女さん抱えながらじゃあ、思ったようには………」

「ごめーん!足手まといでごめーん!!」

「い、いや、文句言ったわけじゃあ………」

 

思わず謝るハルナに対して、逆に謝るスバル。その時、接近していた『エナジー・フロゥ』の背後から何かが近づき、しがみ付いて動きを止めようとしていた!

 

「!?あれって………」

「朝倉の『ハロウィン』!?」

 

飛びかかって来たのは、朝倉和美の『ハロウィン』であった。ハロウィンは戦闘力のないながらも複数体でしがみ付くことで動きを制限し、2人への追撃を妨害していた。

 

「今だッ!!」

 

スバルはその期を逃さず、振り返り様に「リボルバー・シュート」を放ち、『エナジー・フロゥ』の破壊に成功した!

 

「ナイスアシスト朝倉!」

 

ハルナが『ハロウィン』に称賛とサムズアップを送ると、ハロウィンもサムズアップを返す。すると、スバル達の元にティアナとノーヴェが駆け付けてきた。

 

「スバル!」

「ティア!」

「海上も上空も『エナジー・フロゥ』の編隊でいっぱいね………浜辺の方もレンガと合わさって脱出出来ないみたいだし……」

 

ティアナが周囲を見ながら状況を口にする。たった今破壊されたばかりで新たな『エナジー・フロゥ』はまだ来ていないが、時間の問題であろう。

 

「私たちの救援に「ハロウィン」が来たって事は、ネギ君や宮崎さんも動けない状況ってことだね……」

「それ以上に、海に引きずりこまれた千雨ちゃんも気になるし……」

 

ハルナはそう言うと、今までスバルに抱えられていたために見る暇のなかった千雨たちの引きずり込まれたあたりを見て、そこで驚愕した。

 

「!?なッ!何よあれ!?」

「「「!?」」」

 

ハルナの叫びにスバル達が振り向く。そこには、海面に巨大な渦潮が渦巻いていたのだ!

 

「う、渦潮だ!巨大な渦がいつの間にか!?」

「さっき言ってた『ミカド』ってヤツの仕業か!?」

「千雨ちゃんとルーテシアが危ない!!」

 

ハルナが叫んだ瞬間、ノーヴェとティアナが動き出す。しかしノーヴェが飛び込もうと腕を海水に突っ込んだ瞬間、

 

「うぐッ………!?」

「!?」

 

顔を歪めて腕を引っ込める。ティアナは異変を瞬時に察知して『ミュステリオン』の舌で引き揚げた。

引き上げられたノーヴェの両腕には、小さな(やいば)のようなものがいくつも突き刺さっていた!

 

「こ、コレは……?ウロコ?スタンドのウロコのようなものが……!?」

「じゃあ、あの帝って人の!?あの渦潮の中にこのウロコが舞っているって事!?」

「これじゃあ、千雨ちゃんを助けに行けない………」

「それ以上に、長谷川さんとルーテシアもこのウロコの餌食になっているんじゃあ………!」

 

スバルが言う通り、刃のように鋭いウロコが海中に舞っている渦潮の中に2人が囚われている以上、海中の千雨たちは危機的状況になっていることは間違いないだろう。

 

「助けに行こうにも、海中がこんな状況じゃあ………でも、早く助けないと2人の命が………!!」

「何を迷っているのかしら?」

「え!?」

 

スバルたちが手をこまねいていると、背後から声がした。振り返ってみてみれば、そこには海から上がってきたと思しきルル・ベルの姿があった。

 

「ルル・ベル!」

「そーいえば、さっき泳いてたわね………」

「2人は今、命の危機にあるのよ?こんな事している場合じゃあないでしょう?」

「そうは言うけれど………」

 

ルル・ベルの言うことはその通りなのだが、この現状では、と言いよどんでいると、ルル・ベルは渦潮の中心を睨んだ。

 

「帝がいるのは、おそらく渦潮の『中心』よ。「台風の目」のように、回転するものの中心は無防備なものよ。」

「!そ、そうか!!」

 

ルル・ベルの指摘に手をたたく一同。そのまま、作戦が伝えられた。

 

「作戦はこうよ。まず『ウイングロード』で渦の中心の真上まで行き、そのまま私が1人で頭上へダイブするわ。」

「ルル・ベルが?」

「あんた1人で体張ることはないんじゃあ………?」

 

ルル・ベルの立てた作戦に異議を言う一同。しかし、ルル・ベルは意を決した鋭い目を渦潮に向けていた。

 

「2人がこうなった原因は、私の「母」よ。母の()()()()()()()なんかのために、2人を死なせないわ………!」

「ルル・ベル………」

 

ルル・ベルの静かな覚悟に息を飲むハルナ。ティアナもそれにこたえるように頷いた。

 

「……わかったわ。でも、何かあった時のために、私たちが上で待機しているからね。」

「ええ、お願い。」

 

ルル・ベルは返事をすると、スバルはウイングロードを渦潮の真上まで伸ばすと、走り出した。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

一方海中では、帝による一方的な攻撃が今なお続いていた!

 

『はっはっはーッ!!この海流からは逃れられないだろうね!海流からは!!』

『ぐぅう………ッ』

 

嘲笑う帝に対して、苦しい表情の千雨。腕の中のルーテシアも、呼吸が出来ずに苦しそうであった。

 

(これ以上は、私以上にルーテシアが………!!)

『んー、こーいう『ワンサイドゲーム』はいっぽーてきで趣味じゃあないんだよねー、趣味じゃあ………けど、他に手もないからねー、他に。』

 

帝は少し悩んだが、右手の水かきをキラリと光らせた。

 

『そろそろ、ひと思いに殺してあげようかな、ひと思いに!!』

『ッ………!!』

 

そのまま2人に目掛けて海流に乗って迫ってくる!千雨は咄嗟に翼でガードをするも、その一撃でバランスを崩してしまう。

 

『もらったよッ!!』

ドガッ

『!?しまっ………!』

 

追撃で打ち込まれた回し蹴りで、千雨はルーテシアを手放してしまった。

 

『はっはー!まずは1人!』

 

勝ち誇ったように笑う帝。千雨も流されたルーテシアの方を見るが、そこには………

 

カシン!

 

『!?』

 

カシン!カシン!

 

『え?!』

 

 

 

カッシィーーーン!

 

 

 

腕を交差させてうずくまる姿勢のルーテシアの身体を『()()()()()()()()()()()()()()()()』が覆い、『ディスタント・ムーン』のウロコから身を守っていた!

 

 

 

 

 

『あれは………!?(ネギ先生の言ってた、『ルーテシアのスタンド』か……!?)』

『な、何だよあれ!?妹の方もスタンドが使えるなんて、聞いてない…!?』

 

ルーテシアの身体に纏われた甲冑(スタンド)に驚く2人。千雨はネギから聞いていたが、何も情報が入って来ていない帝からしたら晴天の霹靂であった。

 

ザバァッ

『む!?』

 

その時、頭上から何かが着水した音が聞こえる。水面の方を見上げると、そこには両腕で急所を防御したルル・ベルが、帝にむけて接近してきていた。

 

「!?(ルル・ベル………!)」

『ああ~~~も~~~!!何なのさ次から次に、何なのさ!!』

 

ルル・ベルの姿を見た帝が混乱したように頭を掻いた。そうしている間にルル・ベルが急接近してくると、『サイケデリック・インサニティ』の拳を振るう!

 

『!おっとっと……』

 

しかし、帝はひょいと避けてルル・ベルの背後に回り、回し蹴りをお見舞いした。

ルル・ベルは蹴りと激しい海流で飛ばされるも、『サイケデリック・インサニティ』の脚力で体勢を立て直すと、『P・インサニティ』の拳を連続で放った!

 

『オルオルオルオルオルオル!!』

『よっ、ほいっと♪』

 

しかし帝は、何てことないようにひょいひょいと避けてしまう。それでもルル・ベルの猛攻(ラッシュ)は止まらず、混乱していた帝は段々と冷静さを取り戻していく。

 

『……んー、イキナリ来てびっくりはしたけど、そんなガムシャラな攻撃じゃあ、アタイは倒せないよ、アタイは!』

『オルオルオルオルオルオル!!』

『………』

 

帝の嘲笑に耳を貸さず、ウロコで傷つくのも構わず攻撃を続けるルル・ベル。ルル・ベルの一見奇行にしか見えないその行動を見た千雨は考えた。

 

(ルル・ベルが無意味にあんな事するようなヤツじゃあない………何か企みでも………?)

 

千雨が考えを巡らせていると、ふと、潮の流れが緩やかになっている事に気が付いた。

 

『……?(海流が落ち着いた?帝がルル・ベルに構っているせいか?)』

 

少し疑問に思いながらも、今のうちにルーテシアを助けようと翼を展開させ、飛ぶようにルーテシアの元に向かい、ルーテシアをかかえた。

 

(このスタンド……結構な防御力のようだが、『マジェント』みたいに無敵ってワケじゃあないようだ……ウロコの傷はないが、それでも呼吸できねーからこのままじゃあ溺れちまう……早く海面に上がらないと………)

『ん?潮の流れが変わった………?』

 

千雨が海面に上がろうとした時、帝も海流の変化に気づいたらしかった。千雨は再び渦潮に囚われてはマズいと海面に向かおうとしたその時、海流がどっと、千雨を襲った。

 

『!?ま、またか!?』

『うぇえッ!?な、何これ……この潮の流れはアタイじゃあないぞ、アタイじゃあ!?』

『え!?』

 

帝が再び海流を操ったかと思った千雨であったが、当の本人が予想外の反応であった。では、これは一体…?

 

『オルオルオルオルオルオル!!』

『ん…?』

『オルオルオルオルオルオル!!』

 

と、今なおがむしゃらにシャドーボクシングのように『サイケデリック・インサニティ』の拳を何度も振るうルル・ベルを見た。

 

(ルル・ベル、いつまであんな事……?)

 

しかし千雨は、ここにきて『ある事に』気が付いた。

 

 

 

 

 

サイケデリック・インサニティ………

 

変わった海流………

 

重力………()()

 

 

 

 

 

『ッ!?ま、()()()!?

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ルル・ベル、大丈夫かなー?」

「いくらアイツでも、あのカッターみてーなウロコの舞ってる中に突っ込むのはムボーじゃねーか………?」

「ところで、そのキズ大丈夫?」

「んー?正直結構痛いけど、この程度じゃあへこたれねーよ。」

 

その少し前、怪我をしたノーヴェは『エナジー・フロゥ』の編隊をスバルとティアナに任せて、ハルナと共に渦潮の方を見下ろしながら、ルル・ベルを心配していた。

 

ゴォオオオ………

「ん?」

 

しかしその時、渦潮の勢いが収まったかと思うと、今度は海がまるで、台風の中継で見たような激しく荒れ始めたではないか!

 

「うおお!?」

「な、なんかスゴイ荒れてないこれ!?」

 

突然の海の変化に驚く2人。『エナジー・フロゥ』を粗方倒したスバル達も海の変化に気づいたのか、驚いた様子であった。

 

「これは………!?」

 

一同が驚いていたその時、

 

 

 

 

 

ザッバァーーーンッ

 

なんと、海が浜辺から見て左右に大きく()()()()()()()()!!

 

 

 

 

 

「う、海が割れたーーーーー!?!?!?」

「「「ええーーーーーーーーーー!?!?」」」

 

突然のとんでもない現象に叫ぶ4人!

 

「うえぇ!?あ、あわわわわ!?」

ズテーン!

 

その時、割れた海の間の空中に取り残されていたらしい帝が、海底に額から落ちていくのが見えた。何が起こったのか分からないスバルの隣に、ルーテシアをかかえた千雨が飛翔してきた。

 

「!?長谷川さん!」

「ッ………はあーーーっはあーーーっ………」

「ルーテシア!大丈夫か!?」

「う、うん………」

「そうか………」

 

いつの間にかスタンドが消えて、大きく呼吸をしたルーテシアを見てホッとする千雨。ノーヴェらと共に駆け付けたティアナは、千雨に問いかけた。

 

「な、何があったの……!?」

「…ったく、ルル・ベルのヤツ、トンでもねー事しやがった………」

「え?」

 

千雨は、海面に降り立ったルル・ベルを見て呆れた表情になった。

 

「私は、アイツが何度も帝を殴ろうとして空振りしているんだとばかり思っていた………だが、()()()()()………ルル・ベルは、()()()()()()()()()()()()()()()………」

 

千雨の言葉を聞いても理解の出来ない一同であったが、千雨は結論を言った。

 

「アイツは『サイケデリック・インサニティ』で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………!」

「「「「な……なんだってーーー!!」」」」

 

ルル・ベルのしでかした「とんでもないこと」を聞いた一同が叫ぶ。

 

「いや、何でアイツのやる事っていちいち規模がデカいんだよ!?」

「『モーゼの十戒』じゃあないんだから………」

「便利すぎでしょ、重力操作………」

「だがまー、おかげでこうして私たちは助かったんだから、文句言えねーんだよなー………」

 

千雨は一言ぼやくと、海底のルル・ベルと帝を見据えた。

 

「さーて、陸に上がった河童退治でも行きますか!」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「ぐぅ~………ま、まさか『重力操作』………ここまでとは思ってなかったよ、ここまでとは………うわ、血出てる………」

 

額を強く打った帝が、出血する額を押さえながら唸る。その背後に、ルル・ベルがゆっくり歩きながら接近してきた。

 

「自慢の『海水操作』も、これじゃあ使い物にならないわよね?」

「はッ!」

 

ルル・ベルの接近に気づいた帝だが、振り返った瞬間、『サイケデリック・インサニティ』の右拳が顔面に叩き込まれた!

 

「うッ!ブぇ………!」

 

その瞬間、重力操作によって帝は後方に『()()』していき、そのまま『アンチェイン・ワールド』のレンガの壁に叩きつけられた!

 

「ぐぅッ………」

 

何とか受け身を取ってダメージを抑えるも、自身の『独壇場』が破られたことが信じられないという気持ちでいっぱいだった。

 

「こ、こんなアホみたいなことをするヤツがいるなんて………!!」

 

愕然とする帝であったが、そこに追い打ちとばかりに、千雨が飛翔してくる!

帝が驚く間もなく、千雨はその場で独楽のように回転、その遠心力の加わった左逆手の「刺突」を放つ!

 

「!?」

 

帝は咄嗟に腕を交差させて防御する!その瞬間、腕に激しい痛みを感じ、腕に小太刀が突き刺さったと理解した。

 

「ぐぅッ!!いったぁ………」

 

帝は防御出来たことに一瞬ホッとしたが、その時、右手の小太刀が振るわれている事に気が付く!

 

「『双燕天翔流』八大奥義が一つ―――」

「な―――」

 

そして、突き刺さった小太刀の柄頭(※刀の柄の先端部分)に、もう一方の柄頭が叩き込まれた!!

 

ドゴッ

「『雹槌月華』………!!」

ドッギュゥウーーーン

「ごあッ………!!」

 

突き刺さった状態からの追撃(プラス)波紋!これには帝だけではなく、背後のレンガの壁も一たまりもなく砕け散った!!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ドッガァアン

「!?何!?」

 

浜辺で戦闘をしていたネギたちは、突然砕けたレンガの壁に驚く。すると、砕けた壁から飛び出してきた人影に気づいた。

 

「ぐぅう………」

「あれは……!」

『み、帝!?』

 

飛んできたのが帝だと気づいたすずめが思わず悲痛な叫びを上げた。帝は両腕と額、腹部から出血をしているものの致命傷にはなっていないようだが、動けないようだった。

 

「両腕で防御されていたから、身体(ボディ)へのダメージはないが、波紋の一撃を喰らっているから、しばらくは動けねーはずだぜ………」

「千雨ちゃん!」

「ま、まさか……海中で帝が敗北したというのか………!?」

 

千雨は砂浜に着地をすると、スバル達も追って集合する。綺初は帝が敗北した事に愕然として攻撃の手が止まるが、すずめは慌てながらも綺初に指示をする。

 

『綺初!ここは帝を連れて撤退を………!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、逃がさねーぜ、お嬢さん?」

 

ジャララララ

 

「!?」

 

しかし、すずめが撤退を進言したその瞬間、『空中に穴が開いて』、その中から鎖分銅が飛び出し、すずめの乗る『エナジー・フロゥ』の隊長機を拘束してしまった!

 

「!?」

「あ、あの鎖って………!?」

 

明日菜には、その鎖と空中の穴に、見覚えがあった。まさかと思ったその時、穴から右手が伸びて出てくると、その手のひらを『エナジー・フロゥ』の後頭部にとん、と押し当てた。

 

「脱法・『波布(はぶ)』!!」

バギャス

『ぐェッ!?」

 

その瞬間、手のひらから放たれた『波紋』が『エナジー・フロゥ』を流れ、頭部のハッチから搭乗していたすずめが放り出されてしまった!

 

「何だと!?」

 

砂浜に投げ出されたすずめは仰向けに倒れたままビクビクと痙攣をしている。本体であるすずめが気を失った事により、全ての『エナジー・フロゥ」が解除されて地面へと墜落していく。

 

「ま、まさか………どういうつもりだ!?」

 

残された綺初は、空中の穴から出てきたズルリと出てきた長い黒髪に真っ黒なスーツの男―――『()()()()』に向けて怒鳴りつけた。

 

「ジェイド!?」

「な、何でアイツが………!?」

 

明日菜たちも、予想外の助けに来たジェイドに驚きと戸惑いで動けなくなる。しかしジェイドは、ニタリと不気味に笑うだけであった。

 

「悪いが、説明は後だ。さて、後はお前さんだけだなぁ………」

「ぐっ………」

 

2人がやられたのを見た綺初は、形勢逆転されたことが信じられず困惑するばかりであった。

 

「こ、こんなことが………」

「今だ!『戒めの矢』!!」

「!?」

 

しかしその瞬間、ネギの放った『戒めの矢』で綺初は拘束されてしまう!綺初は脱出を試みるも拘束は強く、抜け出せそうにない。

 

「こ、コレでは『アンチェイン・ワールド』での転移もままならない………!」

「さーてと、お前ら3人は捕まえさせてもらうぞ?」

「ッ!!」

 

気が付くと、綺初の周囲には千雨やティアナ達が、得物の切っ先を向けていた。綺初は逃げ悔しさに顔を歪ませるも出せない事を悟り、がくりとうなだれた。

すると、周囲のレンガが砂に戻り、サラサラと崩れていく。綺初がスタンドを解除した、つまりは『敗北』を認めた証拠であった。

 

「……やれやれだわ、これでこいつらは『捕虜』って扱いになるワケね………」

「そーいうこったな。」

 

徐倫がため息をつくと、それを肯定するようにジェイドが呟いた。

 

「……で、アンタなんで私たちを助けたりしたのよ!?」

「あ、そうだったわ!何でお母さま側の貴方が……!?」

 

そこで、明日菜とルル・ベルがジェイドに詰め寄った。数日前にヴァナゴンと共に千雨たちを襲ったジェイドが一体なぜ助ける真似を…?一同が疑問に思っていると、千雨がため息交じりに話しかけてきた。

 

「もう話しても良いんじゃあないですか?蛇蝎縛刀流正統後継者、『伐田 萬蔵(ばった ばんぞう)』さんよぉー?」

「………へ、そうだなぁ。」

 

ジェイドこと『萬蔵』はサングラスを外し、鋭い眼差しの目で笑いかけた。

 

 

 

 

 

「……なんか、向こうはめっちゃ盛り上がってるッスねー……」

「確かに……」

「急展開すぎて、付いて行けねーよ………」

 

ノーヴェやウェンディたちは、萬蔵の登場に少し困惑していた。

 

ふとノーヴェは、先ほどウロコで切った左腕の傷が、少し広がっている事に気づいた。

 

「………あれ、さっきのウロコの傷、ちょっと大きくなっているか?けど、あんま痛みはない………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズルゥウ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!な!?」

 

その時、その傷口から『()()()()()()()()()()()』が飛び出てきた………!!?

 

「……!?なっ………なんだあああああ!!あ、アタシの左手がッ!?な、なんなんだこれは!?」

「!?ノーヴェ!?」

 

混乱したノーヴェは思わず叫び声を上げる。ノーヴェの異変に気づいたウェンディとティアナが駆け寄った。ノーヴェは左腕を見せるが、ウロコで傷ついている以外に異変のない状態であった。

 

「……はっ……!!え?」

「ど、どうしたの………?」

「い、今、左腕から………」

 

困惑したノーヴェが左腕を見る。今まで「ロストロギアが体内にある」と聞かされていたが、その実態を目の当たりにしてしまい、混乱している様子であった。

 

(あ、あの左腕………アタシの「左手」の中に…アタシの()()()()()()()()()()()!?)

「ノーヴェ………」

 

 

 

 

 

←to be continued…




86話です。今回、少しタイトルの挿入の仕方を変えました。
・帝はあのテニール船長の娘でした。ポルナレフの言う通り忍者ならあれだけのアサシンスキルと変装技術持っていてもおかしくないので。

・ルーテシアのスタンドの片鱗とルル・ベルの覚悟。『サイケデリック・インサニティ』は割と応用利くから、こんな大胆な活用も出来ます。空振りでも空間削れる『ザ・ハンド』と同じ理論ですね。

・まさかの助っ人ジェイド。そしてようやく『遺体』の登場と、今回は怒涛の展開すぎたかも………

では、また次回!


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#87/静寂の不気味

#87/静寂の不気味

 

 

 

 

 

伊賀の三羽鴉の3人を全員捕えてから数時間後。

 

美しい夕暮れの海を臨めるデッキで椅子に座りこんだネギが、大きくため息をついた。

 

「はぁーーー………なんだか、とんだバカンスになっちゃいましたねー………」

「せやなー………」

 

木乃香がネギに返事をすると、後ろの席に着いていた明日菜と徐倫、スバルたちが、千雨から萬蔵の事について聞いているところえあった。

 

「……つまりジェイド、いや、伐田 萬蔵さんは、千雨のママから手紙をもらってたのね?」

「ああ。この間の戦いの時、制服の内ポケットに母さんから萬蔵さん宛の手紙が入っていたんだ。一応、承太郎さんには伝えてあるよ。」

 

その手紙によれば、ここ数ヵ月の間に自分の命を狙う『刺客』が何人も現れており、いずれも返り討ちにしたらしい。

しかし、『現代最強の波紋使い』と呼ばれている自分に挑んでくる「武芸者」の類とは違う暗殺者が何人も襲ってくるのはおかしく、もしや娘に何かあったのではと考えたが、自分の仕事を放りだす訳にもいかなかったため、他流派とはいえ何度か交流のあった萬蔵に千雨の様子を見て来てほしいと頼むものであった。

 

「それで情報を集めていたら、千雨の命を狙ってる両右手の女(ヴィオレッタ)の情報を掴んでよぉ、俺の生業を活かして、あえて懐に潜り込んだわけよ。」

「そうだったのか………」

(承太郎さんの言う通り、百香さんには下手に手を出さずに動けないようにしていたのか………)

「けど、だからってこの間は手加減なさすぎじゃあなかった!?けっこー痛かったんだけど!」

 

説明する萬蔵に対して明日菜が文句を言う。しかし萬蔵は真面目な顔で明日菜に向きなおった。

 

「ま、怪しまれないためにも割と本気で襲い掛かったんでな。そいつについては悪かったぜ。」

「そういえば、ホル・ホースも同じことしてたな。」

「それに、お嬢さんの剣は『素人』丸出しだったしなぁ………話聞く限り巻き込まれただけにしても、剣の心得ある誰かに教えてもらった方がいいぜ?」

「そ、そうね………」

 

萬蔵のアドバイスを素直に聞き入れる明日菜。そこへ、仗助とジョルノ、トリッシュがため息をつきながらやって来た。

 

「あ、仗助さん。あの3人は?」

「縛り上げて、水上コテージの1室に押し込んである。ミスタが見張っているから、妙なことはしないと思うぜぇ。」

「三羽鴉と萬蔵さんの情報で、ヴィオレッタのことが分かればいいんだがな。」

 

徐倫がつぶやくと、萬蔵はふう、とため息をついた。

 

「………ショージキ言って、あのヴィオレッタって女は何を考えているか判らねえ………『ルミリオ』ってやつと何か企んでいるみてーだがな。」

 

萬蔵がそう言うと、スバルがそういえば、と口に出した。

 

「京都でヴィオレッタ側が『ロストロギア』を狙っていた………その情報を持ち込んだのがあのルミリオなら………」

「そのロストロギア………確かノーヴェに()()()()()()()んだったな?」

「さっき、何か『腕』のようなものが出てきたと言っていたが………見たのが本人だけだから確認のしようがないけど、かなり動揺しているようでしたね………」

 

仗助とネギが話すと、ディエチとチンクが話に入ってくる。

 

「ノーヴェ、今はウェンディたちが見ているけれど、結構ショックだったみたいだよ………」

「検査で見つからなかっただけに、余計に不安なようだ………」

「心配ね………」

 

ノーヴェを心配する徐倫たち。現状では対処法が分からないためネギたちに出来ることがないのが歯がゆかった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

それから数十分後、デッキの一角にあるベンチでスケッチブックを広げたハルナが周囲に『ハロウィン』を数体出している朝倉と話していると、のどかと夕映が歩いてきた。

 

「あ、ゆえー、ちょうどよかった。」

「パル。」

「どうかしたのー?」

 

ハルナに呼ばれた夕映が近寄ると、ハルナは夕映をこちらに招いた。夕映がハルナの元に行くと、ハルナは手にした青いレンズのゴーグルを差し出した。

 

「悪いんだけどさー、ちょっとこのゴーグル付けてくれない?」

「え?まあ、いいですけど………?」

 

夕映は少し怪訝な顔になるが、ハルナに手渡されたゴーグルを装着する。すると、夕映の目の前に今までいなかった直径が30㎝位はある『腕の生えたハロウィンのカボチャ(ジャックオーランタン)』が現れた。

 

「ッ!?え?な、なん………!?」

「どうしたの、ゆえー?」

「あ、のどかもちょっと『イノセント・スターター』出して?」

「?うんーーー」

 

言われるがままに『イノセント・スターター』を発現させるのどか。すると、夕映の視線の先にはのどかの後ろに『蒼いスタンド』が立っている事に気が付いた。

 

「!?な、………の、のどか………それは………!?」

「え?も、もしかしてゆえ………『イノセント・スターター』が………?」

 

夕映は困惑しながらも、ゴーグルを上げたり下げたりしてのどかの背後を見ていた。その様子を見て上手くいったと笑うハルナと朝倉を見たのどかがある事実に気づいた。

 

「こ、このゴーグルは………もしかして………」

「うん、『ドロウ・ザ・ライン』で描いたゴーグルだよ。デザインとカラーにちょっと悩んだ自信作だよ。」

 

のどかの質問に答えるハルナ。

 

「ほら、朝倉の『ハロウィン』って、スタンドを介しているから『スタンドを撮影できる』訳じゃない?それを聞いて、私のスタンドでも似たような事できるんじゃあないかなーって思ってさ。」

「そ、そういえば………」

「それで私と相談して、このゴーグルを描いたってワケ。私はカメラ壊されたらアウトだからねー。」

 

なるほど、とのどかと夕映が感心していると、ひと泳ぎしたらしいルル・ベルと裕奈が海からデッキに上がって来た。

 

「あら、スタンドのゴーグルね?ハルナが描いたのかしら?」

「え?」

「一目で見破るなんて………よくわかったわね………」

「ええ、自慢じゃあないけれど、スタンド使いとしては、誰よりも経歴が長いもの。」

 

なんてことないように答えるルル・ベル。夕映が外したゴーグルを手にしていると、朝倉がふと思ったらしい疑問を口にした。

 

「そういえばさー、ルル・ベルっていつごろ宮崎に惚れたのー?」

「え?」

「あ、それ私も気になってた。」

 

ハルナも賛同して聞くと、夕映とのどかも顔を赤くしながらも頷いた。ルル・ベルは少し困惑した様子になるが、裕奈がそれに乗っかった。

 

「あー、お嬢と私があったばかりの頃だねー」

「ちょ、ちょっと裕奈………!」

「「ほほう?」」

 

裕奈が話に加わると、ウワサ好き(パパラッチ)2人は目をきらーんと光らせた。

 

「それはそれは、とても気になりますなぁ~~~………」

「これは、徹底的に聞き出さねば~~~………」

「ちょ、ちょっと………!?」

「あー、諦めた方がいいですよルル・ベルさん。この2人に喰いつかれては………」

 

目を輝かせて手をわきわきと動かして迫る2人に怯えるルル・ベルに、夕映が呆れたように言う。すると、のどかもおずおずと手を上げた。

 

「あの………私も訳もわからず突然告白されたから、その辺気になっていて………」

「のどかも………はぁ、まあ、いいけれど………」

 

ルル・ベルは諦めたのか、ベンチに腰を掛けると話し始めた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ルル・ベルが初めて麻帆良学園都市へと来たのは、ネギやスバルたちの来るひと月ほど前、1月の半ばであった。

 

「ふー………湖の近くは、特に冷え込むわね………凍えてしまいそうだわ………」

 

ルル・ベルはその日、『図書館島』が見える湖畔のベンチに腰掛けていた。お気に入りの黒いケープコートだけでは少し寒いが、普段から包み込むように隠している「左手」が暖かいのが、幸いであった。

飲み物を買いに行ったサルシッチャはまだかと思いながら、右手で懐を探る。

 

(この街に、『ポルナレフの娘』がいることは確かなのよね………彼女の『護衛』と、お母様に対抗するための『戦力強化』のためにも、この街で『スタンド使い』を増やす必要がある………)

 

遂に動き出した『ヴィオレッタの軍勢』に対抗すべく、彼女から奪い去った『矢』を使う時が来た。最初は無関係の者を巻き込むことに躊躇いがあったが、そう言っていられる時ではなくなってしまった。

 

(幸いというか何というか、『ジョースター家』の人間もいるようだし………うまくいけば、この麻帆良に色々と()()()()()()()くるわ………あら?)

 

ふと、左袖の中に隠していた『矢』が、まるで、釣り針に魚が食いついた釣り糸のようにクン、クン、と動き出した。

 

「もう反応があったというの……!?い、いったい、誰が………!?」

 

ルル・ベルは一瞬慌てるも、不審に思われないように『矢』が求める者を探った。

 

「この『()()』の強さ……結構近いみたいね………どこかしら―――」

「ふぅー……体力ついてきたとはいえ、図書館島はやっぱり遠いなー………」

 

その時、前髪で目元が見えない少女が、本を多く抱えてルル・ベルの横を通りかかった。左手に隠してある矢は、真っすぐにその少女に反応を示していた。

 

どきん♡

 

「………ぇ?」

 

しかしルル・ベルは、その少女から目が離せなかった。心拍数が大きく早くなり、頬が赤くなった。

 

(な…何?彼女、あ…あたたかい輝きの中にいるようにみえる…あ…あれ?どうしたの私…急にドキドキしてきたわ…)

 

今まで抱いたことのない感情が、ルル・ベルの胸を埋め尽くしていた。

 

(な、何なのこの感情は!?よく見たらかわいい、じゃあなくって、矢はあの子を………あれ?顔が熱い?さっきまで寒かったのに………何なの!?)

「お待たせしました、お嬢さま。………お嬢さま?」

 

両手にホットココアの入った紙コップを手に戻って来たサルシッチャの呼びかけに気づかないほど、ルル・ベルは混乱していた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――とまあ、それが私とのどかのファーストコンタクトなのよ………」

「そ、そうなんだ………」

「本当に一目惚れだったとは……」

「気づかなかった………」

 

恥じらいながら語るルル・ベルの話を聞いて呟く、のどかたち。

 

「その時は、その「熱い胸の高鳴り」が何なのか理解をしていなかったの………それからはサルシッチャの能力で遠くから見守るだけだったわ………」

「普通にストーカー行為ね………」

「でもあの時、『マイク・O』から助けた時……直接あなたを見てから、どうしてもあなたの事が忘れられなくなって………その時に、その気持ちが『恋』だと気づいたの………」

 

冷静にツッコむ朝倉を気にせずに話すルル・ベル。それに、裕奈が補足する。

 

「恋って気づいてからも、お嬢大変だったもんねー」

「え?そうなの?」

「………ええ、自分が『同性愛者』であると気づいて、それを受け入れるまでに時間がかかったわ………それを打ち明けて、受け入れてくれるかって不安もあったし………」

「あー……今の話だと、完全に想定外の一目惚れみたいだしねー………」

 

ハルナが少し呆れたように言うと、話を聞いていたのどかがルル・ベルに近づいてきた。

 

「あ、あのー、ルル・ベルさんー………」

「のどか………」

「あの、あの時は突然キスされて告白されたから、ちゃんとしたお返事できなかったんですけれどー………」

「あぅ………」

 

のどかに言われて言いよどむルル・ベル。

 

「あ、あの時はその………自分でも軽率かつ失礼なことをしてしまって………あの、ご、ごめんなさい………」

「あ、いえ、それはもういいので………あの、正直まだルル・ベルさんのこと知らないことがあるしー……今はまだ、『友達』からということでー………」

「………そ、そうね、そうよね………」

 

のどかの返答を聞いて、少し俯き気味で答えるルル・ベル。最初から受け入れてくれるとは思ってはいなかったが、少々残念そうではあった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

その頃、コテージの一室でベッドから起きたノーヴェが、ディエチに付き添われながら出てくると、スバルと鉢合わせた。

 

「ノーヴェ、もう大丈夫なの?」

「あ、うん………まだちょっと整理はついてないけど………一回外の空気吸いたくて………」

 

まだ不安な様子ではあったが、スバルに返すノーヴェ。

 

「そっか……なんかあったら、言ってくれていいからね?」

「……うん、アンガト……」

 

ノーヴェは少し困惑しつつも返答をする。そうして立ち去ろうとすると、今度はジョルノが歩いて来た。

 

「あ、ジョル兄。」

「スバル、ノーヴェも、大丈夫ですか?」

「あ、うん………なんとか…」

 

ジョルノにも返事をすると、ノーヴェはその場から立ち去って行った。

 

「ノーヴェ、大丈夫かなぁ………」

「どうでしょうね…心配ではありますが、今は本人の気持ちの整理が付くのを待ちましょう………」

「………うん……」

「あの、スバル……」

「うん?」

 

ジョルノに小さく答えるスバル。2人はしばらくその様子を見ていたが、不意にジョルノが話しかけてきた。

 

「………君は、僕を「兄」と呼んでくれているけれど……知っての通り、僕は世間的には『あまり人に誇れる仕事』をしているワケじゃあないんだ………」

 

だから、とジョルノが続けようとすると、スバルはうーん、と首を傾げた。

 

「あのさー、私よくわからなくて……ギャングって『悪い人』ってイメージしか聞いてなくて………」

「え……?」

「ギャングっていうか、ジョル兄って「何」をしているの?」

 

スバルの素朴な疑問に呆気に取られるジョルノ。見た所、彼女は純粋に「疑問」に思ったから聞いたのだろう。ジョルノは戸惑いつつも、はあ、とため息をついた。

 

「……ええと、とりあえずは前ボスの残した『麻薬』の払拭ですね。自分の縄張りで勝手に『密売』をしている輩を発見次第、大元ごと壊滅させて『粛清』させていますね。麻薬以外にも、組織(パッショーネ)に許可なく密輸や賭博をする連中の取り締まりや、警察が聞いてくれないような小競合いの鎮静化もやっていますね………」

 

ジョルノの説明を聞いたスバルは「ふーん………」と頷いた。

 

「……じゃあ、言うほど『悪いこと』はしていないんだね。」

「え?」

「今の話だと、過程や方法はともかく、『困った人のため』にやっているんだよね?それなら、あまり気にするようなことじゃあないと思うけどなー」

「え、ええと………」

 

純粋な目で問いかけるスバルに戸惑うジョルノ。ジョルノとしては、表社会の時空管理局に勤めるスバルが、自分たち裏社会(ギャング)とあまり関わって欲しくないと思い遠ざけようと話しかけたのだが、スバルはさして気にしていない様子だった。

 

「あ、何か気を使ってくれてたみたいだけど、私は気にしてないから、普通に接してくれて大丈夫だよー?」

「そ、そうですか………(考えたら、ノーヴェたちも教育者のせいとは言え『テロリスト』だったそうだし………同じように考えているのだろうか………?)」

 

笑って話すスバルに呆気に取られるも、スバルと自分では考えが違うことをここで思い知た。その場を去っていくスバルの背中を見ながら肩を落としていると、ミスタがやって来た。

 

「ハハ、何つーか形無しだなぁ~ジョルノ。」

「ミスタ………」

「まあ、お前もあまり考えすぎねーで、あの娘のこと受け入れてやってもいいんじゃあないのか?」

「………まあ、そうなんですけどね………」

 

少し冗談交じりで話しかけてきたミスタに、ジョルノは苦笑を返した。

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「………」

 

同じ頃、ノーヴェはデッキの手すりに膝をつきながら、日が落ちて星の出始めた水平線をぼーっと眺めていた。ふと、ノーヴェは左手を―――先ほど、『ミイラの腕』のようなものが出てきた左手に目を落とした。

 

(さっきの腕………あの『ミイラの腕のようなもの』は一体………?)

「よォー、大丈夫かノーヴェ?」

 

ノーヴェが落ち込んでいると、そこに仗助が話しかけてきた。

 

「………ああ、仗助さんにチンク姉………って…!?」

「あ、どうもノーヴェさん………」

 

ノーヴェが振り返った先には仗助とチンク、そしてその隣には短パンにアロハ姿の篤尾 奏汰の姿があった。初対面があのようなあんまりな事もあり、京都では互いに距離を取っていたため、顔をちゃんと合わせていなかった。

 

「あ、えーと………何でココに?」

「実は、GW(ゴールデンウィーク)開けからまた麻帆良に通うことになりまして………ボクがスタンド使いになったって聞いて、母さんが学園長に『レアスキル持ち』って事で木乃香さんの婚約者候補として売り込む気らしくて………」

「懲りねーな、オメーのおふくろ………」

 

奏汰の説明を聞いて呆れる仗助。奏汰自身も大分まいっている様子だった。

 

「あの、ボク……色々あってノーヴェさんにちゃんと謝れていなくて………あの時は、ウチの()()()()」に巻き込んでしまって、すいませんでした!」

「あ、いや、………私の方こそ、あの時はゴメン………」

 

頭を下げる奏汰に対して、ノーヴェも後頭部を掻きながら謝罪を口にする。仗助とチンクは顔を合わせると、その様子を見てやれやれ、とため息をついた。

 

「ん?」

 

ふと、チンクは足元にあるデッキの下の海面から、何かが出てきた事に気づいた。仗助もそれに気づいて見てみれば、それはプカプカと浮かぶ魚の死骸であった。

 

「何だ、死んだ魚か………プレオープン中なのに、ちょっと汚いのはな………」

 

仗助が呟いていると、ノーヴェたちも魚の死骸に気づいた。すると、その死骸に続くようにもう1匹流れてきた。

 

「………」

 

更に1匹、また1匹と、大小の魚の死骸が流れてくる。

 

「………?」

 

流石に不振に思う4人。仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』を発現させるとデッキの下の海面を覗かせた。

その瞬間、仗助は顔を強張らせ、弾かれたように叫んだ!

 

「ジョルノたちを呼べぇえーーーッ!!周囲を警戒させるんだーーーッ!!」

「「「!?」」」

 

冷や汗をどっと流した仗助の叫びに驚く3人。

 

 

 

 

 

デッキの下には、『おびただしい量の魚の死骸』が浮かんでいた………!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「どうだアギト、ルーテシアの様子は?」

「あ、チサメ。ジョリーンも………」

 

同じ頃、ルーテシアの休んでいた部屋に千雨たちが入って来た。診ていたアギトは千雨たちの顔を見て安心したような笑みを浮かべた。

 

「今は寝てるよ………今日は色々あったからな………」

「そうか………」

 

千雨もホッと胸をなでおろす。徐倫はそんな千雨の様子を見てニヤリと笑った。

 

「何だよぉ、千雨もすっかり『お姉ちゃん』だなぁ~?」

「なッ!?あ、いや、ってか、チャカすなよ………!?」

 

徐倫に揶揄(からか)われて、焦って否定する千雨。思わず大きな声を出しそうになったが、小声で反論することができた。

 

「べ、別に…あんな目にあったから心配なだけで………」

 

と千雨はなんとか言い訳をしようとあれこれ考えを巡らせた。

 

『………』

 

そんな3人のやり取りをしている背後で、誰にも悟られずに現れたもの(スタンド)があった。

枯れ木を思わせるミイラのような身体に何本もの細い紫色のコードが腕や足、首に繋がっている。顔には血が付いた指で描いたような赤黒い一つ目模様が描かれたボロボロの薄汚れた布が垂れ下がっていた。

 

『………』

 

スタンドは爪が大きく変形した右手を掲げると、力強く振り下ろし―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やれやれだわ。」

『オラァアッ!!』

ドグシャアッ

『………!?』

 

しかし、振り下ろしきる前に『ストーン・フリー』の拳が顔面に叩きこまれて吹き飛ぶ!

 

「やろー………空気くらい読めよな………」

「このタイミングって事は………『三羽鴉』が失敗した時の保険か?」

「だろうな。とにかく、ここじゃあルーテシアに被害が行くかもしれねーからなぁー………」

 

吹き飛んで倒れたスタンドを見ながら口々に言う3人。スタンドはフラフラと立ち上がると、剥がれた顔の布の下からくぼんだ小さな目と歯並びの悪い歯を持った不気味な素顔を見せた。

 

Fuuuuuuuuuuu(フウウウウウウウウウウウ)………』

「うわ、キッショ………」

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)!!』

 

徐倫がその見た目に引いていると、スタンドは唸り声を上げて襲い掛かって来た!

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァアッ!!」

 

徐倫がそのボディーを殴りつけると、スタンドはドアの方に吹き飛ぶ!そのまま千雨が『アニバーサリー・オブ・エンゼル』を見に纏って飛び蹴りを叩き込み、ドアを突き破って外へ飛び出た!

 

ドガンッ

「うわ!?」

「ち、千雨ちゃん……!!」

 

飛び出した先にいたネギと明日菜が驚いて声を上げる。吹き飛ばされたスタンドは悲鳴と共に消滅すると、徐倫も突き破られたドアから顔を出した。

 

「おうネギ、スタンドが襲ってきたけど何とか―――!?」

 

ネギの方を見た徐倫は笑いかけるが、その顔は直ぐに強張った。

 

Fuuuuuuuuuuu(フウウウウウウウウウウウ)………』

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)!!』

 

何故ならば、ネギたちはたった今倒したばかりのスタンドと同型のスタンドと戦っていたのだからだ!

 

「ま、まさか………」

「このスタンドは………『群勢型』だと!?」

 

このスタンドが群勢型と知って驚きを隠せない徐倫と千雨。その時、唸り声を上げていたスタンドが、口を開いた。

 

『Fuoooo………『ミリオン………モンスターズ………アタック!』………』

「何?」

『『ミリオン・モンスターズ・アタック!』………』

『我らの、名………『百万の軍勢』………』

『『ミリオン・モンスターズ・アタック!』………』

「!?」

 

スタンド『ミリオン・モンスターズ・アタック!』が名乗った時、その背後からも声が聞こえた。振り返ってみれば、そこにも3体の『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の姿があった!

 

「『ミリオン・モンスターズ・アタック!』………!」

 

不気味にユラユラと迫る『ミリオン・モンスターズ・アタック!』たちに、徐倫は戦慄した。

 

 

 

 

 

←to be continued…




87話です。
・サブタイトルは『エシディシの不気味』から。

・萬蔵は百香と交流がありました。波紋使いも生き残りに必死なので、他流派とも以外に交流があるようです。

・ルル・ベルとのどか、スバルとジョルノは一応のひと段落。

・奏汰再登場、したと思ったら事件発生。魚のシーンはジョジョっぽい演出を目指して入れてみました。

・謎のスタンド『ミリオン・モンスターズ・アタック!』登場。ジョジョらしい不気味さとホラーっぽさを出そうと色々考えています。

では、また次回!


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#88/ミリオン・モンスターズ・アタック! ①

気付いたら2年も更新できなくてすみませんでしたが、何とか年内に更新できて良かったです。


#88/ミリオン・モンスターズ・アタック! ①

 

 

 

 

 

徐倫たちを『ミリオン・モンスターズ・アタック!』が襲う少し前、ルル・ベルは遠くに沈む夕日を見ながら黄昏れていた。先ほど、のどかに自分の『告白』の返答を受けて、彼女の気持ちは大分落ち込んでいた。

 

「………(フラれることは分かってはいたけれど、実際に言われるとやっぱりショックね………)」

 

そんな風に物思いにふけっていると、ルル・ベルの背中から声がかけられた。

 

「お嬢ー、あまり落ち込まないでー」

「裕奈………」

 

振り返った先にいた裕奈とハルナが、ルル・ベルを慰めるように言う。

 

「………心配は不要よ。別にこの程度のことで、落ち込んだりしないわ………」

 

ルル・ベルは気丈に振る舞い視線を水平線に戻すが、その顔にはどこか憂いの色が見え隠れしている。その様子に裕奈が呆れて苦笑をしていると、ハルナはうーむ、と腕組みをして何か考え込むような仕草を見せた後、ルル・ベルに近寄った。

 

「ルル・ベルさー、もしかして今まで、友達とかいなかった?」

「……っ!?」

 

唐突な質問に驚いたのか、ルル・ベルはビクッと肩を震わせ振り向く。そしてすぐに顔を背けた。どうやら図星だったようだ。

 

「今までのルル・ベルの様子見ていたけど、あんまり人と話すの慣れていないっぽかったし、多分、そういうことかなって思ったんだけど……」

「………意外に、洞察力はあるようね………昔からお母様にスタンドの訓練や暗殺(アサシン)(スキル)を叩き込まれていたせいか、同世代と話したりする機会が殆どなかっただけよ……」

「お嬢、そんな殺伐とした幼少期送ってたの………!?」

 

ルル・ベルの過去の一片を垣間見てしまった裕奈は思わず困惑する。一方のハルナは、(そーいや、千雨ちゃんも子供のころは似たような感じって聞いた気がする……)と思い出し、苦笑していた。

 

「まぁ、今までそれで困ったことはなかったし、特に気にしてはいないのだけれど……でも、そうね。確かに、私は友達と呼べる存在はいなかったかもしれないわね」

 

自嘲気味に呟きながら、ルル・ベルは再び視線を水平線に戻した。しかしルル・ベルは、少し寂しそうな顔をハルナたちに見せまいとしていたことを、ハルナは何となく察していた。

 

「ねぇ、ルル・ベル………」

 

ハルナがルル・ベルに話しかけようとしたその時、不意に気配を察したルル・ベルが顔を強張らせ素早く背後を振り向いた。

そこには、短く刈上げた髪の一部を剃った男性がフラフラと歩いてくる姿があった。全身ずぶ濡れで息も荒く、不気味な雰囲気をまとっている男性だ。

 

「な、何………!?」

「こいつ、いつの間に………!?」

 

ルル・ベルが警戒して身構えると、ハルナは驚いて目を見開く。すると男性は、虚ろな瞳のまま口を開いた。

 

「お、お前………ルル・ベルってんだろ………?」

「な、何………?」

 

男性のただならぬ様子に、ルル・ベルは戸惑いを見せる。ハルナと裕奈も緊張しながら男の動向に注意を払っていると、男は突然、口の端から赤い血を垂らして、その場に倒れた。

 

「えっ……? ちょ、ちょっと………!?」

「あ、あれはヤバイ………『()()()()X()』のヤロー………裏切りやがって………!」

「は?ミスターXって………?」

 

倒れた男に駆け寄ったルル・ベルとハルナが戸惑っていると、いつの間にか目の前に枯れ木を思わせるミイラのようなスタンドが、何体も現れた!

 

Fuuuuuuuuuuu(フウウウウウウウウウウウ)………』

「なにッ!「()()()()」!」

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)!!』

 

ルル・ベルが驚いている間にスタンド『ミリオン・モンスターズ・アタック!』は一斉に襲いかかる!

 

「くッ………!!」

 

ルル・ベルは思考を切り替えて戦闘態勢に入る。『サイケデリック・インサニティ』を出現させると両腕を交差させて『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の攻撃を防御、回し蹴りを叩き込んで弾き飛ばした。

 

「ハルナ、紙とペンは!?」

「ここにあるよ!」

「それなら、そこの彼をスケッチブックに()()()、この場から逃げて!こいつらは恐らく『群生型』!他のみんなの所にもスタンドが現れているはずよ!コイツらは私が引き受けるわ!!」

「う、うん………!!」

 

ハルナは困惑しつつもスケッチブックに倒れた男の絵を素早く描くと、男を絵の中に閉じ込めてその場から離脱した。一方、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』たちはすぐに体勢を整えて再びルル・ベルを睨みつけていた。

 

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)………』

「さて………」

「こいつら、さっきの感じだと結構破壊力(パワー)あるみたいだね?」

「……!」

 

ルル・ベルが『ミリオン・モンスターズ・アタック!』に向き直った時、裕奈が隣に立って話しかけてきた。裕奈の背後には『スーパー・スナイプ』が立っており、右腕のライフルを構えていた。

 

「……あなたも逃げてよかったのよ?」

「いやー、お嬢だけじゃあ流石にこの数はムズカシーかなって思ってさー♪」

『ソーソー。アッシラガ援護スルンデ、思イッキシ殴ッテキテイイッスヨ。』

「……はぁ、まったく、仕方のない子ね……」

 

呆れたようにため息をつくルル・ベルだが、その顔には僅かに笑みを浮かべていた。そして、裕奈とともにファイティングポーズを取る。

 

「狙撃は『スーパー・スナイプ』に任せて自分の身を守るようにしてちょうだい。()()()()()()()()()()()()()?」

「あー、うん!わかった!」

 

裕奈はルル・ベルの言葉から『不器用な気遣い』を感じ取り、嬉しそうに笑顔を見せた。

 

「……何ニヤついているのかしら?早く攻撃しなさい!」

「はいはいっと♪」

『ホイッス。』

 

裕奈が返事をすると、『スーパー・スナイプ』のライフルから放たれた弾丸が、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の1体の額を貫いた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

一方、ネギや明日菜と共に『ミリオン・モンスターズ・アタック!』と戦っていた徐倫と千雨たち。千雨は手にした小太刀で『ミリオン・モンスターズ・アタック!』を切り伏せ、ネギも『タスク』で2体ほどまとめて切り裂いていた。

 

「くそっ、キリがないわね……!!」

 

思わず徐倫が悪態をつく。すると、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の群れの後方から、何体もスタンドを蹴散らしてスバルとジョルノが駆けつけてきた。

 

「ネギ君、大丈夫!?」

「スバルさん!ジョルノさんも………」

「他のみんなの所にも、このスタンドの群れが出現したみたいなんだ………結構な数がいるようだ……ほかの場所ではジョースケたちが対処しているようだが、どれほど持ちこたえられるのか………」

 

スバルがスライド気味に急停止すると、ジョルノが呟いた。周囲の『ミリオン・モンスターズ・アタック!』は唸り声を上げてフラフラとゾンビのように近づいてくる。

一番近くにいた徐倫が避けると、振り下ろされた拳が壁に当たって小さな穴をあけた!

 

「群生型でこれだけのパワー………本体は近くにいるのか?」

「でも、このコテージの何処に……?」

 

徐倫とジョルノが考えを巡らせていると、明日菜がある事に気が付いた。

 

「あ!分かった!『橋の下』よ!海上コテージの下の海中に本体がいるんだわ!!」

「そうか!」

「いい読みね、明日菜!」

 

明日菜の言葉にスバルと徐倫が納得したようにうなずき合う。そうと決まれば、と徐倫とジョルノが『ストーン・フリー』と『ゴールド・エクスペリエンス』を発現させると足元の橋を睨みつけ、殴りつけた!

 

「オラオラオラオラオラァーーーッ!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーッ!!」

ズガガガガドガバギドガガガガガッ

 

2人はスタンドの拳の連打(ラッシュ)で橋を破壊すると、その下にいたスタンド使いの姿が露わになった!

 

「さーて、ごたいめ―――」

ザバァアンッ

「―――ん………?」

 

橋の下から現れたもの、それは全長2mもあろう『サメ』であった!!

 

「サササササメーーー!?」

 

まさかのサメに驚いていると、サメがネギの方に倒れ込んでくる!

 

「オラオラオラーッ」

バギィアーーッ

 

そこに、不敵な笑みを浮かべたストーン・フリーがサメに背を向けたままアッパーカットを喰らわせて、数m吹き飛ばした!

 

バギィッ

『Fuooo………』

「ん?」

「大丈夫かネギ?」

「あ、はい………」

 

徐倫がネギに尋ねると、ネギは目を点にして返事をした。その時、ジョルノは『ミリオン・モンスターズ・アタック!』のうち1体が吹き飛ばされて消失したのを確認した。

 

「今、スタンドのうちの1体だけが吹き飛んだ……?」

「何?」

「どういう事?」

 

ジョルノの疑問について考える間もなく、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の軍勢が攻撃を再開してきた!

 

「急に攻撃の手を強めてくるとは………」

「考える間を与えない気か……!!」

 

3人は迫って来たスタンドを殴り飛ばす。ちょうどその時、コテージから翼を持った少女が腕の中に少女を抱えたまま飛んで行くのを見た徐倫がネギに向けて叫んだ。

 

「ネギに明日菜、悪いけど千雨の方に行ってくれない?流石に空までは連中も来れないだろうけど、援護を頼む!」

「は、はい!」「わかった!」

 

ネギと明日菜は返事をすると、杖に乗って千雨とルーテシアの元に飛んで行った。

 

「さーて、今は目の前のこいつらをブチのめすか!」

「ええ!!」

 

3人は頷き合うと、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』に向き直ってつっこんで行った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ルーテシアを抱えた千雨は、『アニバーサリー・オブ・エンゼル』を纏って上空に飛び上がっていた。目下では『ミリオン・モンスターズ・アタック!』と戦う徐倫たちの姿がある。それを見て、千雨は少し悔しそうに唇をかんだ。

 

「くそ、ルーテシアのためとは言え、すまない………!」

「千雨ちゃーん!」

 

千雨が小さく呟くと、後ろからネギが明日菜と一緒に杖で飛んできた。

 

「2人とも……」

「一応援護で来たんだけど、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。」

 

千雨は下にいる『ミリオン・モンスターズ・アタック!』を見ながら答えた。

 

「あのスタンド、結構なパワーがあるから本体が近くにいるんだと思っていたんだけど………」

「それでさっき、橋の下の海中にいるんじゃあないかと思ったんですけど、サメが1匹いただけで………」

「ああ、あそこで()()てるやつか………でも未だに他のスタンドがいるのを見るに、本体は別にいるって事なのか………?」

 

千雨は下にいるスタンドの群れを睨みつける。本体らしきサメが倒されても健在なところを見ると、別にいるのではないかと考えていると、腕の中のルーテシアが目を覚ましたのか、小さくうめき声を上げた。

 

「う……ん……」

「あ、ルーテシア………大丈夫か?」

「う……うん……ここは……?」

「今は空を飛んでる。スタンドの群れに襲われたんでな……ネギ先生たちも来てくれたんだ。」

「そ、そう……」

 

ルーテシアは少し困惑しながらも、千雨の腕の中で周りを見渡した。

 

「アイツらは空までは追ってこれないみたいだし、今のうちに対策を………?」

「クォー、クォー」

 

千雨がそう言いかけた時、こちらに向けてカモメが2、3羽、こちらに向かって飛んでくるのが見えた。

 

「………?」

 

カモメがこんな風に人に向かってくるなんて珍しいな、と思った千雨はカモメを見ていると、カモメの背後から『ミリオン・モンスターズ・アタック!』が出現した!

 

Fuuuuuuuuuuuu(フウウウウウウウウウウウ)!!』

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)!!』

「「「!?」」」

「何だと!?」

 

千雨たちが驚く間も無く、カモメから現れた『ミリオン・モンスターズ・アタック!』は歪んだ爪で斬りかかってきた!

 

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)!!』

「ちぃいッ!!」

 

千雨は咄嗟に翼で防御をするが、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の猛攻は止まらない。3羽のカモメは羽ばたいてその場に留まって、3体同時に『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の腕で何度も斬りかかってくる。

 

「こ、コイツ………!!」

「カモメからスタンドが出てきた?じゃあ、下にいるヤツらは………!?」

 

ネギが猛攻を続ける『ミリオン・モンスターズ・アタック!』を見ながら疑問を浮かべる。明日菜と千雨も同じ事を考えていたが、その時、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の攻撃で翼の防御が弾かれてしまい、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の爪が千雨に襲い掛かった!

 

「しまった!!」

Fuuuuuuuuuuuu(フウウウウウウウウウウウ)!!』

バギッ

「うおおッ!?」

「キャア!!」

 

爪の攻撃は防御甲冑で防がれたものの、勢いで千雨は後方に押し出されてしまい後方のネギたち諸とも眼下のコテージに落下してしまった!

 

ゴシャァッ

「うぐぉッ………!!」

「ぐぅう……」

 

ネギたちはコテージの屋根を突き破って、中に落ちてしまった。咄嗟にネギと千雨が明日菜とルーテシアを庇ったために幸いにも大きなケガは負わなかったが、ネギと千雨は苦痛の声をもらした。

 

「く……ッ、大丈夫ネギ!?」

「な、何とか……」

 

明日菜がネギに尋ねると、ネギは苦しそうに返事をした。千雨も頭を振りながら起き上がると、自分たちがブチ破った穴から『ミリオン・モンスターズ・アタック!』がこちらに向かって飛び込んでくるのが見えた。

 

「ま、マズい!コテージの中じゃあ、逃げ場が……!」

『『『Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)!!』』』

 

千雨が焦ったような声を上げる。それと同時に、3体のスタンドがコテージの中に飛び込んで来た!ネギがすかさず『(タスク)』の爪弾を数発放つと『ミリオン・モンスターズ・アタック!』2体の額に命中して消滅するが、残った1体は千雨にむかって爪を振り下ろした!

 

「千雨ちゃん!!」

 

明日菜の悲痛な叫びがコテージに響く。千雨は『ミリオン・モンスターズ・アタック!』からルーテシアを庇うように抱きかかえると背を向けて、その背中に『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の爪が振り下ろされた!

 

ドバッドバドバッ

Fuooa(フオア)………』

「!?」

 

しかし、千雨にスタンドの爪が振り下ろされる事は無かった。なぜなら、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の腕とこめかみに3発の弾丸が着弾して、弾かれるように横に飛んでいったからだ。

 

「何だ!?」

Fuuuuuuuuuuuu(フウウウウウウウウウウウ)………』

 

突然の事で千雨が混乱してしまう。ミリオン・モンスターズ・アタック!はふらつきながらも体制を立て直し、なおも襲って来ようとしていた。

 

「ドラララララララララララララララララァアーーーッ!!」

ドガドバゴバゴバドガドバゴォッ

Fuuuuuuu(フウウウウ)ッ………』

 

………が、それも横から来た何者かの拳によって殴り飛ばされて阻止され、完全に消滅した!

 

「な……!?」

「大丈夫か?」

 

千雨が驚いて振り返ると、そこには背後からクレイジーダイヤモンドを出したまま笑みを浮かべる仗助と硝煙が上る拳銃を構えたミスタの姿があった。2人の後ろには隠れるように立つノーヴェ、のどか、ハルナ、夕映、あやか、それに縛られた綺初、すずめ、帝の姿があった。

 

「仗助さん!」

「少し妙な事に気付いてみんなに伝えようとしたら、あのゾンビみたいなスタンドまみれになっていてな………外でハルナたちと会って、このコテージに避難したんだ……」

「そこに、私たちが落ちちゃったのね………」

 

ノーヴェの説明を聞いて現状を理解した明日菜が、あきれ顔で言った。仗助はミリオン・モンスターズ・アタック!が消滅したのを確認すると、屋根に開いた穴を直してネギたちに向き直る。

 

「みんな、ケガは大丈夫か?治すぜ。」

「あ、ありがとうございます。」

 

クレイジーダイヤモンドでネギの傷を治し、千雨は波紋の呼吸で自身の傷を癒し手から離れたルーテシアの容態を確認した。ふと、明日菜はあやかと夕映の表情がすぐれないことに気が付いた。

 

「ん?どうしたの2人とも?」

「い、いえ………実はさっき、ハルナからスタンドのゴーグルをもらいまして………それを使えばスタンドを『視認』できるのですが………」

「今、この辺りに犇めいているスタンドを見てしまって………みなさん、今まであんな恐ろしいものと戦っていましたの………?」

「あ、うーん、まあ………」

 

青ざめた表情のあやかの問いに、なんて答えていいか分からず苦笑するネギ。実際、今まで見えていなかったものが見えるようになり、それも最初に見たのがゾンビめいた見た目のあのスタンドであれば、恐怖を感じるのも仕方ないだろう。

 

「なんか、昔にそんな映画あった気がするなー、昔に。ゼイリブだっけ?」

「さて、今のうちにあのスタンドの対策を考えるぞ。徐倫たちが戦ってはいるが、いつまで持つか分からないしな………」

 

ノン気に話す帝を放っておいて、千雨が話を切り出した。

 

「この()のスタンドは本体を叩くのがベストなんだが、この状況じゃあ本体を探すのも難しいだろうなぁ………」

「さっき、そう思って本体がいそうな橋の下を探したんだけど、出てきたのはサメだったし………それに、その後はカモメからもスタンドが出てきたわ……」

「サメに、カモメだと………?」

 

明日菜の発言を聞いたチンクと仗助が、怪訝な顔になる。チンクは顎に手を当てながら、口を開いた。

 

「さっき、とんでもない量の「魚の死骸」を桟橋の下に見つけたんだ………おぞましい光景ってヤツだ。一目で『ヤバい事が起きてる』ってわかった……」

「魚の死がい………?」

「魚………サメ………カモメ………違う生き物なのに、同じスタンド………」

 

今ある情報を整理しているのか、ネギがブツブツと呟き始めた。そして、ある事に気が付いたのか、顔を上げた。

 

「もしかして………あのスタンドの能力が、分かったかもしれません。」

「本当か?」

 

千雨が反応をすると、ネギは頷いた。

 

「はい。恐らくですが、あのスタンドは『本体と別の生物に取りついて行動するスタンド』なんです。他の生物の生命エネルギーを使っているから、遠隔操作でもあれだけのパワーを引き出していたんです!」

「別の生物に取りつくだと!?」

 

ネギの仮説にミスタは信じられないという声を上げた。明日菜や千雨も息を飲みノーヴェたちも驚いた顔になっていた。

 

「あり得るのか、そんな事………?」

「………いや、以前露伴が相手をしたという『チープ・トリック』というスタンドは、本体から別人に憑依して、新しい本体にするスタンドと聞いた。群生タイプと近接タイプでは違いがあるだろうが、似たような能力って可能性はあるな………」

 

ノーヴェが思わず口に出すが、仗助は冷静に分析する。

 

「あの魚の死骸は、ここまで来るのに生命エネルギーを使い果たして使い捨てられたのか……」

「じゃあ、あのスタンドの本体はこの近くにいない可能性が高いってこと!?」

「そうだな……今コテージ周辺の海にいる魚は、全部あのスタンドの本体ってことになるな………」

 

明日菜とノーヴェ、チンクが口々に言う。だが、その方法も分からずに頭を抱えていると、ハルナが何かを思い出したのか、懐から紙を取り出すと中から傷ついた男性が出てきた。

 

「ぅう………」

「そいつは……?」

「さっき、傷ついた状態でコテージに現れてさ……もしかしたら、あのスタンドの本体の事知ってるかも……」

 

ハルナが取り出した男は傷ついて倒れていたものの、意識はある様子だった。仗助が直ぐにクレイジーダイヤモンドで傷を治すと、男は静かに驚いた表情になり、ゆっくりと立ち上がった。

 

「………傷を治してもらった事は感謝するぜ。一応、俺はヴィオレッタ側の人間なんだがなぁ~………」

「何となく察しはついてたけど……」

 

男が後頭部を掻きながら言うと、千雨がため息交じりに答えた。男はコホン、と咳払いをすると話し始めた。

 

「俺は『ホルマジオ』だ。お前、ブチャラティの所のミスタだよな?ナランチャのヤツに殺されたが、ヴィオレッタの手引きで生き返っちまった。」

「ブチャラティと同じ、人造魔導師か………」

 

ホルマジオの自己紹介を聞いたミスタが呟く。仗助がホルマジオに聞いた。

 

「それで、何でお前まであのスタンドに襲われたんだ?」

「そー言えばさっき、「ミスターX」がどうとか言っていたけど………」

「ミスターX………いかにもって名前ね………」

 

ハルナがホルマジオに聞くと、ホルマジオは少し考えた後「しょうがねぇなぁ~」と頭を掻きながら話し始めた。

 

「……あのスタンドは、ヴィオレッタが目覚めさせたものだ。本体のミスターXってのは通称で、本名は『X(エックス)・ジオ』と言う男だ。」

「あ、ミスターXってコードネームとかじゃあないんだ………」

 

ホルマジオの説明を聞いたネギが、思わず呟く。ホルマジオは頷くと、話を続けた。

 

「ヤツはこの近くの無人島で、スタンド能力を使いこなせるように訓練していたらしい。俺は訓練の様子を見に行っていたんだが、ヤツは気でも狂ったのか、スタンドを使って襲い掛かってきやがってな…………何とか逃げて来たんだよ………」

「返り討ちにあったって、裏切られたのか?」

「多分な。ま、ヤツはヴィオレッタがスタンドを目覚めさせたとはいえ、手を貸す義理まではないって考えなんだろうかもな………」

 

ホルマジオが肩をすくめて言うと、ミスタが質問をしてきた。

 

「それで、X・ジオは今どこにいる?」

「さあな。根城にしていた無人島に引きこもっているのか、スタンドの成果を見るためにこの島にまで来ているのか……」

 

ホルマジオは質問に答える事ができなかった。

 

「どっちにしろ、この状況を打破するには、先に外の連中を何とかしないとダメか……」

「だが、あの数をどうやって倒す?」

 

仗助とミスタが現状の打開策に頭を捻っていた。徐倫たちが襲われている以上、時間がない。何か案は無いかと考えていると、帝が口を開いた。

 

「あー、とりあえずアタイ達の口封じに来た訳じゃあないのは安心かな、とりあえず。」

「呑気だなお前は………」

「あたし達が危ないのは違いないでしょ………」

 

帝の発言に呆れる綺初とすずめ。千雨もジト目で帝を見ていたが、ネギだけは帝を見て何か思いついたのか、帝に話しかけた。

 

「あの、帝さん!」

「んにゃ?」

「帝さんの、『ディスタント・ムーン』の「()()()()()能力」!その力を貸してくれませんか!?」

 

ネギの発言を聞いて、明日菜たちはハッとした。海水を操る能力を使えば、海水中の魚たちを一ヶ所に集める事も可能だろう。後は魚を一網打尽にすれば、生命エネルギーを絶たれた『ミリオン・モンスターズ・アタック!』は消滅するだろう。

 

「あー………確かにそれは可能かもねー、確かに………でも、断る。」

「ええ!?」

「坊やは知ってるかもしれないかもさー、アタイはジョースター家と結構な因縁があるわけなんだよ、アタイは。」

「帝の言う通りだな。過去の因縁もある以上、我らがお前たちに力を貸すのは無理だ。」

「あたしも同じ意見だね。因縁もあるし、あの人にはお金ももらっているからね。」

「そ、そんな………」

 

流石にこの状況では断られる事はないと踏んでいたネギは、絶句した。千雨や仗助はやれやれ、と首を横に振る。ネギはどうするべきか考えていたが、何か決心をしたのか、みかどに再度話しかけた。

 

「……分かりました。それなら『お願い』ではなく、『ビジネス』の話をしましょう。」

「ビジネス?」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

Fuuuuuuuuuuu(フウウウウウウウウウウウ)………』

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)!!』

「くそ!キリがないなッ!!」

 

徐倫とスバル、ジョルノの3人は、迫ってくる『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の絶えない軍勢と戦いを続けていた。先ほど、念話でこのスタンドの能力がネギから伝えられたのはいいのだが、本体のX・ジオの居場所が分からない以上、迫ってくる『脅威』たるミリオン・モンスターズ・アタック!を退け続けるしかない。

 

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)!!』

「オラァアッ!!」

 

ミリオン・モンスターズ・アタック!の攻撃をストーン・フリーが拳で弾き返し、ガードが開いた腹にラッシュを叩き込んで吹き飛ばす。先ほどからこれの繰り返しであるが、一向にスタンドの数が減る気配がない。

 

「こ、これは………ちょっとキツイ、かも………」

 

段々と数が増えてきているような気がするスタンドに、疲弊したようすのスバルが苦笑混じりに呟く。ジョルノも少し息が上がり始めてはいたが、戦いながらミリオン・モンスターズ・アタック!の様子を見て、ある事に気付いた。

 

(倒した傍から補充がされている………本体のX・ジオという男は、こちらの様子を伺える場所にいる可能性が高い……)

 

ジョルノはそう推測して周囲を見渡すが、それらしき人影は見当たらない。どこかにいるのだろうか、とジョルノが考えていると、ミリオン・モンスターズ・アタック!3体が迫って来た!

 

「ジョル兄!!」

「!?」

 

スバルが叫ぶが、ジョルノは反応が遅れてしまい間に合わない!先頭のミリオン・モンスターズ・アタック!の爪がジョルノに迫ってくる!

 

ブンッ

『『『Fuoo(フオオオ)………?』』』

「………?」

 

しかし、スタンドの爪はジョルノの1m手前で空を切る。ジョルノとスバルは何が起こったのか分からず、ポカンとした表情になっていた。

 

「こ、これは……」

Fuoo(フオオオ)……!!』

 

スバルが驚いた表情で呟くと、ジョルノの目の前のミリオン・モンスターズ・アタック!は後ろに引っ張られるように後退していた。周りを見れば、他のスタンドも同様に引っ張られており、1ヶ所に集められているようであった。

 

「な、何だ?何が起きている………?」

 

徐倫が思わず呟き、ふと下を見れば、足元の海流が不自然に速くなっている事に気付いた。スタンドの本体にされていた魚やサメが、スタンド諸とも速い海流に流されて、一ヶ所に集められているのだ。

 

「こ、これは……!?」

 

スタンドが流されて行った先を見れば、ミリオン・モンスターズ・アタック!が1ヶ所に集められて犇めきあっている状態であった。身動きが一切出来ずにいるスタンドに困惑していると、海の中から人影が現れた。

 

「はっはーッ!!」

「なっ!?帝ォ!?」

 

飛び出してきた『ディスタント・ムーン』を纏った帝に徐倫が驚いて声を上げた。目の前に帝が着地をすると、上空を見上げて叫んだ。

 

「今だよ坊や、今!!」

「はい!!ラス・テル・マ・スキル・マギステル!闇を切り裂く(ウヌース・フルゴル・)一条の光(コンキデンス・ノクテム・)我が手に宿りて、(イン・メア・マヌー・エンス)敵を喰らえ(イニミークム・エダット)!」

 

上空で杖に乗り待ち構えていたネギが呪文を詠唱する。ネギの右手に電撃が宿り、バリバリと音を立て始める。そして、ネギはミリオン・モンスターズ・アタック!の足元の海中にいる魚たちに狙いを定めて、右手を振り下ろす!

 

白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!!」

ガカァンッ

 

ネギの手から放たれた電撃は海面に直撃し、海中の魚たちに直撃した!電撃を喰らった魚たちは感電して痺れたかと思うとそのまま動かなくなり、電撃が止むと同時に一斉に浮かんできた。

 

『『『Fuoooooooooooo(フオオオオオオオオオオ)…………ッ!!』』』

 

取りついていた魚たちからの生命エネルギーが絶たれたためにミリオン・モンスターズ・アタック!は悲鳴のような唸り声を上げながら全て消滅していった!

 

「た、倒したのか………?」

「本体は無事だろうが、スタンドは消滅したようだな。」

 

徐倫とジョルノが呟くと、ネギが近くに降りて来た。

 

「みなさん、大丈夫ですか?」

「あ、うん、なんとか………」

「考えたな。彼女の能力で魚を集めて一網打尽にするとは。あの魚がスタンドの本体にされている以上、そこから生命エネルギーを得られなければ消滅するからな。」

「昔テレビで、ダイナマイトや電流使って魚気絶させる漁って見た事あるなー……」

「あ、それ私も見た事ある。」

 

スバルがネギに答えていると、ジョルノはネギの行動を評価した。明日菜や千雨たちも集まってくると、徐倫は帝の姿を見て呆れたように話しかけた。

 

「てか、帝はよく手を貸してくれたな………自分で言うのもなんだが、因縁もあったし………」

「あ、はい。最初は断られたんですけどね………」

 

ネギは少し恥ずかしそうに後頭部を掻きながら答える。徐倫が不思議そうにしていると、あやかが続けて答えた。

 

「ネギ先生とわたくしの交渉の末、1人120万円で三羽鴉さんの腕を買いましたの♪」

「ええ!?」

「いやー、確かに徐倫たちに恨みはあるにはあるけど、所詮ヴィオレッタさんとはカネで繋がった関係だしさー、所詮。」

「恨みによる『私怨』ならともかく、金による『仕事(ビジネス)』ならば話は別だよ。そこの坊やには恨みはないし。」

「ヴィオレッタからは1人100万だったからな。臨時ボーナスとでも思えば良い。」

「と、いうわけでして……いいんちょさんにはお金を借りることになりましたが………」

 

ネギは苦笑いしながらそう言った。徐倫はそんなネギを見て、やれやれと言った感じで溜め息を吐いた。

 

「やれやれだわ。意外と機転が利くわよね、ネギ………」

「よければ、半分僕の方で持つよ?」

「ありがとうございます。」

 

ジョルノがあやかにそう言うと、千雨が口を開いた。

 

「これで海中にいたヤツは倒したな。後は本体を探し出してブチのめすだけか………」

「恐らく、ヤツはこの島のどこかにいる。操作は本体であるミスターXが直接確認するあろうからな。」

 

ジョルノが自身の推理を話すと、全員が納得したように頷く。仗助が全員を見渡して指示を飛ばした。

 

「よし、宮崎と朝倉、早乙女は周囲を探ってくれ。残った奴はケガ人の治療と体力の回復をしてくれ。」

「あ、はい!」

 

仗助の指示で一同は動き始めた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「―――フン。我が軍の第1陣を全滅させるとは………中々やるではないか。」

 

隠れて様子を伺っていた男は鼻を鳴らした。

大戦時のドイツ軍を彷彿とさせる黒い軍服と軍帽を被り、小さな四角い口髭を生やした険しい男は、右手にした乗馬用鞭を左手に当てて鳴らした。

 

「まあ良い。我が軍はあれだけではない。すぐにでも第2陣を出撃させる事としよう………」

Fuuuuuuuuuuu(フウウウウウウウウウウウ)………』

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)………』

 

男の後ろでは『ミリオン・モンスターズ・アタック!』が犇めくように並び、更に、男の足元には何かが動いていた………

 

 

 

 

 

←to be continued…




88話です。
・ルル・ベルの過去がちらり。ヴィオレッタは完全に復讐鬼となっていて、娘の事も道具程度にしか見てない感じです。パルってこういう時意外と察しがいいですよね。

・『ミリオン・モンスターズ・アタック!』は、攻撃出来て増殖もするチープ・トリックみたいな感じ。若干「チリ・ペッパー」や「ブルー・ハワイ」も入ってるかも。

・三羽鴉を金で雇うという、TATOO YOU!戦のジャイロみたいな事をやるネギ。3人とも意外とビジネスライクなところあるのは、裏のスタンド使いらしいかなーって思います。

・X・ジオ登場。劇中にある通り、「ミスターX」って書くといかにもって名前になるので命名しましたw 元ネタはトヨタのマークXジオ。

では、来年もよろしくお願いいたします。


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#89 ミリオン・モンスターズ・アタック! ②

#89 ミリオン・モンスターズ・アタック! ②

 

 

 

 

 

ミリオン・モンスターズ・アタック!の軍勢を一時的に退けた頃、ルル・ベルと裕奈は徐倫たちと合流すべく動いていた。

 

「まさか、あの忍者さん達を味方にするなんてね。」

「信用はしない方がいいわ。所詮金で繋がっただけの関係よ。いつ裏切られるか分からないわ………」

「あー、うん。それは肝に銘じとく。」

 

ルル・ベルが裕奈に注意をしながら走っていると、目の前にまき絵と楓がいる事に気付いた。

 

「あ、ゆーなにルル・ベル!」

「まき絵ー!」

「2人とも、無事でござったか………」

 

まき絵と楓と無事を喜び合っていた。ルル・ベルも安心した様子を見せていると、裕奈は周りを見てまき絵に聞いた。

 

「ところで、亜子とアキラは?一緒じゃなかったの?」

「あー………」

「2人なら………」

 

まき絵と楓は引きつった笑みを浮かべながら右の方を指さした。不思議そうにしながら指された方をみると、そこには『鈍色の蒸気』で包まれた場所があった。

 

「あの中でござる………」

「メ、『メガロポリス・アリス』………」

「拒絶しちゃったのね………」

 

何が起こったのか大体察した2人は、苦笑を浮かべ呆れていた。すると、蒸気の中から声が聞こえて来た。

 

「あ、ゆーなー!」

「亜子ーー!大丈夫ーーー!?」

「私たちは大丈夫だよ!スタンドが近づいてくる傍から、倒されていったし………ただ、ちょっと別の問題が発生してて………」

「問題………?」

 

メガロポリス・アリスが警備のために歩き回る中心にいる亜子とアキラ、オットーの無事を確認できたのはいいが、2人は少し困った様子であった。

 

「こ、これ………どうやって解除すればええのー!?」

「あー………」

「どうやってって………」

 

自身で目覚めた訳ではないせいか、『メガロポリス・アリス』の解除方法が分からない亜子が困った様子で聞いてきた。正直、そのスタンドはスタンド使い本人にしか分からないため、ルル・ベルも裕奈も答える事は出来なかった。

 

「とりあえず、その蒸気の中ならまたあの『ミリオン・モンスターズ・アタック』が攻めて来ても安心でしょうね。『拒絶の意思』を無くせば解除されると思うけれど、しばらくその中で動かないでちょうだいね?」

「あ、うん………」

「アキラ、オットーさん、亜子の事お願いねー」

 

まき絵がそう言うと、ルル・ベルたちはその場から立ち去った。

 

「改めて、亜子のスタンドって割と厄介ねー………」

「戻ったら制御する特訓をした方がいいわね。あの調子じゃあ、満員電車で痴漢に会おうものなら、大惨事になりかねないわ………」

「「怖っ!?」」

 

ルル・ベルの『最悪な予測』を聞いたまき絵と裕奈は戦慄し、楓も顔を引きつらせていた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

ミリオン・モンスターズ・アタック!の第1陣を退けて数十分後、一同は安全のためにコテージの一室に集まって休息と治療を行っていた。

 

「どうだ?」

「うーん、隠れられそうな場所を探してはいますけど………」

「今のところ、それらしき人物は見つかりませんね………」

「こっちも収穫なしねー……」

 

のどかと朝倉は「イノセント・スターター」と「ハロウィン」でそれぞれコテージ周辺を捜索していたが、収穫はなさそうだ。同じく「ドロウ・ザ・ライン」で捜索用のスタンドを描いて探っていたハルナも、申し訳なさそうに首を横に振った。

 

「ホルマジオ、X・ジオの顔は見ていないのか?」

「すまねえ、ヤツに会うために島に上陸した途端、あのスタンドに襲われてな………声は聴いたが、顔を拝む前に逃げる羽目になってよぉ………」

「そうか………」

 

ホルマジオの返答を聞いたミスタがため息を付くと、コテージのドアが開いてジョルノが入って来た。

 

「リゾート(アイランド)のスタッフの無事を確認しました。今回の事情を知っているスタッフ数名が色々用意してくれるそうです。」

「分かった。」

「一旦休憩するか……前にいいんちょに貰った、リラックスできる香りのアロマを持ってきてるから、それ焚いてもいいか?」

「別にいいぞー」

 

一同は一旦休息を取る事にした。千雨はさっそく、荷物の中から取り出したアロマを焚き始めた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「今んとこ、連中の残党はいないみたいだな………」

「そうねー」

 

コテージ周囲の見回りをしていた徐倫、明日菜、スバル、ティアナが話していた。

 

「隠れられそうな場所にいないってなると………もしかして、スタッフの誰かに変装してるとか?」

「その可能性もありえるわね。」

 

明日菜とティアナがそう話していると、徐倫は振り返って話しかけた。

 

「ま、スタッフの中にいるんなら、炙り出す策はある。千雨も()()を知ってるし、問題ねえだろう。」

「そうなの?」

「まあな。前に親父に聞いた手段()を使う時が来たみたいね。」

「ふーん……」

 

徐倫の言葉に、明日菜とスバルは納得した様子で頷いた。

 

「まあ、そこは()()()()()にお願いすることにするよ~」

「………?」

 

スバルが呑気にそう言うと、徐倫は少し驚いた様子で振り返った。

 

「?あれ、どうしたの?」

「い、いや………スバルに名前で呼ばれたの、初めてだったから………」

「あ、そーいえば………」

「今まで苗字呼びだったな………」

 

徐倫の言葉に、明日菜とティアナも思い出したかのように言った。スバルは後頭部を掻きながら、笑って答えた。

 

「あー、うん………いつまでも苗字で呼ぶのもなんだったし……それに、他人とも言えない『関係』なわけだしさー……ダメだった?」

「いや、ダメって訳じゃあないけど………ちょっと驚いただけよ。」

「そっか……」

 

徐倫はスバルの言葉に、少し照れ臭そうにしながら答えた。

 

「さて、とりあえず、見回りを続けましょう?」

「そうね。」

 

明日菜がそう言うと、ティアナは返事をする。徐倫とスバルもそれに続いた。

 

「うわあああああああっ!?」

「「「「!?」」」」

 

しかしその直後、コテージの陰から悲鳴が聞こえた。

 

「今の声って………」

「ネギ!!」

 

声の主がネギであるとすぐに気づいた明日菜が走り出した。遅れて徐倫たちも駆け出すと、コテージの陰に尻餅をついたネギの姿があった。

 

「ネギ!!」

「大丈夫か!?」

 

明日菜と徐倫がネギに駆け寄ると、ネギは尻餅をついたまま少し怯えた様子で答えた。

 

「あ、アスナさん……徐倫さん……」

「どうしたのよ?」

「何かいたのか!?」

 

徐倫たちが駆けつけて尋ねると、ネギはゆっくりとコテージの方を指さした。するとそこには、

 

「グルル………」

「………うぉおッ!?」

 

全長2mほどもあるワニが、コテージの陰からゆっくりと這い出して来た。ワニの姿を見た徐倫は身体をビクッとさせて、明日菜たちもギョッと驚いていた。

 

「ビ、ビックリしたぁ………何でワニがこんな所に……」

「な、何か動いたと思ってのぞいたら、このワニがいて………」

「そりゃ驚くわね………どっから入って来たのよコイツ………」

 

いきなりワニが出てきたことに驚いてはいたものの、冷静になってワニを観察した。

 

「意外とおとなしいワニねー」

「海上コテージに現れるって………ワニって、海水大丈夫なモンなの?」

「さあ?種類によっては海でも生きられるって聞いたことはあるけど……」

「見たところ、『ミシシッピーワニ』って種類みたいだな。おとなしい品種って、前に図鑑で見た記憶があるわ。」

 

徐倫たちがワニについて話し合っていると、おもむろにワニが大きく口を開けた。

 

「わ、口でっか………?」

 

口を開いたワニに思わず見入ってしまっていたが、その時、ネギは気が付いた。ワニの口の中に、『無数の小さな黒い球体』がびっしりと敷き詰められていたのだ。

 

「何、あれ……?」

 

徐倫や明日菜もそれに気づいた瞬間、ワニの口の中から球体が1つ、「ピョンッ」と飛び出してきた!

 

『ァアアッ、クァアアアアアアッ!!』

 

飛び出したことで、球体だと思っていた()()の全体が明らかとなった。それは黒い爆弾のような形をしており、虫の(のみ)を思わせる長い後ろ脚と短い針のような爪の生えた前脚、前面には時計のような丸い計器がついていた。

 

「『スタンド!!』しまった!このワニは『スタンド使い』だッ!!」

『『『クァアアアアアアッ!!』』』

 

徐倫が叫んだ瞬間、ワニの口から小さなスタンドが次々にピョンピョンと飛び出してきた!

 

「うわわ!?」

「ヤツに近づかれたらマズそうね………!!」

 

スバルが飛んできたスタンドに慌てるが、徐倫は直ぐに判断をしてネギたちに指示を出そうとするが、すばしっこくジャンプする無数のスタンドたちの動きは捉えることができず、あっという間に包囲されてしまった!

 

「囲まれた!?」

「すばしっこいわねコイツら………!!」

 

ティアナがスタンドの動きに毒づいたその時、スタンドの内1匹が明日菜の右足にしがみついてきた!

 

「あ!ちょっと、ドコ触ってるのよ!!」

「アスナ!!」

 

明日菜が振りほどこうと足を振るが、スタンドは離れない。ネギとスバルが助けに入ろうとした時、スタンドの計器が赤く点滅をしたかと思うと、

 

プチッ

「へ………?」

 

スタンドは、まるで緩衝材のエアクッションを潰したかのような小さな音を立てて破裂した。明日菜はスタンドが自爆した事よりも、爆発の規模があまりにも小さい事に呆気に取られていたが、直ぐにその顔が強張った。

 

「!?あ、足が……動かない………!?」

「え!?」

 

明日菜の右足は金縛りにあったように動かせなくなってしまった!明日菜の状況を聞いたスバルが慌てて駆け寄ろうとしたが、スタンドたちはスバルの両足と左手に1匹ずつ飛びついてきて、同じように自爆!その瞬間、スバルの手足が動かなくなってしまい、その場に倒れてしまった!

 

「ぐぅッ!?こ、これって………!?」

「飛びついて自爆したら、その場所を金縛りにするスタンド!?……あ、もう足動く………」

「金縛りは『数秒のみ』みたいね………は!?」

 

徐倫はスタンドの特性に気づいて、本体であるワニの方を見た。その時、ワニの背後にミリオン・モンスターズ・アタック!の姿がある事に気が付いた!

 

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)………』

「アイツ、あのスタンドに取りつかれて………!」

「そうか!あのワニ、ティアナと同じで『ミリオン・モンスターズ・アタック!』に取りつかれて、自分のスタンドに目覚めたのか!!」

 

ワニがスタンドに目覚めた経緯を察することはできた。だとすれば、あのワニはミリオン・モンスターズ・アタック!に操られ、無理やりスタンドで攻撃をさせられていることになる。

 

「X・ジオの奴は、自分が良ければそれで良いってタイプみたいね………!」

「ワニのスタンドはしばらく待てば動けるようになるけど、その隙にヤツに攻撃されたらたまったモンじゃあない………!!」

 

明日菜がそう言っている間に、ワニのスタンドは徐倫たちに迫ってくる!

 

「『ストーン・フリー!』!!」

 

徐倫はすかさずストーン・フリーが体の一部を解くと、それを編み込んでネットを作る。飛んできたスタンドはネットに阻まれて弾かれてしまった。

 

「ナイスよ徐倫!」

「いや、流石に長くは持たないわ……ティア!」

「ええ!」

 

徐倫が合図を送ると、ティアナは『ミュステリオン』を出して舌を伸ばすと円を描くように一同を囲う。次の瞬間、徐倫たちはワニの目の前から消え失せてしまった!

 

「!?」

Fuoooo(フオオオオ)………!?』

 

目の前から消えた一同にワニも『ミリオン・モンスターズ・アタック!』も戸惑って周囲を見渡すが、その姿を見つけることは出来なかった。

 

「―――ぷはっ」

「よし、今の内にみんなと合流するぞ!」

「はいっ!」

 

ティアナが息継ぎをした瞬間、ミュステリオンの能力でワニたちに気付かれないまま十数m離れた位置に出現した徐倫たちは、走り出した。ふと、ネギが口を開いた。

 

「X・ジオに操られたスタンド使いの動物が、あのワニだけとは考えられませんね……」

「確かに………早くみんなに伝えて警戒しないと………!!」

 

徐倫はそう言って走る速度を速めた。

 

 

 

 

 

スタンド使いのワニ(名前は『ハンター』)

スタンド名は『ガソリン』

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「は!?ワニが!?」

 

念話で状況を聞いたノーヴェが声を上げる。傍にいたディエチとチンク、ディードたちも驚いているが、仗助やジョルノ、千雨たちは念話の内容が分からないためか少し困惑をしている様子であった。

 

「スタンド使いの動物………しかも、あのゾンビスタンドに取りつかれ操られているだなんて………!」

「ここまでの事をするなんて………X・ジオ……何を企んでるんだ……?」

 

スタンド使いのワニの出現を聞いて驚くノーヴェとチンクたち。ノーヴェたちから大体の事情を聴いた千雨はX・ジオの狙いがいまいち分からず首を傾げていると、コテージのドアが開いてスタッフの1人が入ってきた。

 

「みなさん、妙な連中がここに向かって来ているようです!直ぐにここは危険になります!」

「やっぱ、ワニの他にもスタンド使いがいたのか……?」

 

仗助がそう呟くと、一同は立ち上がって移動をしようとした。しかし、それを千雨が呼び止めた。

 

「待ちな!アンタ、スタッフじゃあないだろ?」

「!?」

 

千雨の指摘に仗助たちが驚いていると、スタッフはキョトンとした様子で徐倫に聞いた。

 

「な、何の事ですか?」

「とぼけてんじゃあないよ。あんた、X・ジオとやらだろ?変装するなら、もっと上手くやりな。」

「はあ……?」

「千雨、それはさすがにありえないんじゃあないですか?」

「そうですわ。ここのスタッフの身元はしっかりと調査をした結果、安全だと分かったはずですわ。」

 

千雨の発言にジョルノとあやかが反論するが、千雨は確信をしたようにスタッフを睨みながら、さっき焚いたアロマを右手で指さした。

 

「あのアロマ、実は特別性でね。スタンド使いを炙り出すための特殊な成分が混ぜられているんだよ。」

「えっ!?」

 

千雨の発言に一同は声を上げる。千雨は続けた。

 

「スタンド使いがあのアロマの香りを少しでも吸うとだな…鼻の頭に、血管が浮き出る。」

「えっ!」

 

それを聞いたのどかやミスタたちスタンド使いたちは自分の鼻を指で触り確認をする。夕映たちがそれを見ていると、スタッフも鼻を触って、というよりは隠すように手で覆っていた。

 

「うそだろ千雨!」

 

ノーヴェが千雨にそう聞くと、千雨はスタッフに鋭い眼光を向けた。

 

「ああ、うそだぜ!()()………()()()()()()()()()ようだな!!」

「アッ!」

『あっ!!』

 

千雨が明かした瞬間、スタッフに視線が集中する。

スタッフは冷や汗を浮かべていたが、バレては仕方がないとばかりに服を翻すように変装を解き、大戦時のドイツ軍を彷彿とさせる黒い軍服と軍帽を被り、小さな四角い口髭を生やした険しい男、X・ジオの姿を現した!

 

「千雨、なぜこの人があやしいとわかった?」

「いや、ぜんぜん思わなかった。だが………スタッフ全員にこの手をためすつもりでいただけのことだ。」

 

千雨は仗助に答えると、ノーヴェたちは呆気に捕らわれながらもその手段に納得していた。X・ジオはフン、と鼻を鳴らして乗馬用の鞭を左手に当てた。

 

「やってくれるではないか………貴様があの女が躍起になっている『長谷川 千雨』だな?貴様の命などどうでも良いのだが、私の軍勢の障害となるならば、ここで排除させてもらうぞ………!!」

「軍勢だと?他の生き物を利用してるやつが、何言ってるんだか………」

 

仗助が小馬鹿にするように鼻で笑うと、X・ジオはギロッと睨んできた。しかし、彼の周囲では臨戦態勢になったミスタたちが睨みを利かせており、下手に動けばタダでは済まないだろうことは一目瞭然であった。

 

(とはいえ、だ。『ミリオン・モンスターズ・アタック!』が遠隔操作型スタンドであるにも関わらず、本体であるコイツが自ら姿を現したって事は、何の考えもないなんて事はないはずだ………何を企んでやがる………?)

「どうしたおっさん?いい歳してコスプレなんかしてさー………それもしかして、()()()()か!?」

「………」

 

ミスタが拳銃を構えながら考えていると、千雨が挑発するかのように言う。X・ジオは無言で睨みを効かせてきた。

 

「……口の減らんガキだな。よかろう!『痛めつけられる』のが好みであれば、望み通りにしてやる!!」

 

X・ジオは鼻を鳴らしてそう言うと、鞭を振るった。その時、X・ジオが脱ぎ捨てた制服がもぞもぞと動き出した。

 

「な、なに………?」

 

のどかがそれに気づいて小さく呟いた瞬間、制服の下から何かが勢いよく飛び出してきた!

 

「きゃあ!?」

「何だ!?」

 

飛んできたものは真っ直ぐにのどかに向かってくる!それが金属の光沢を持った球体であるとノーヴェが認識した一瞬後には、のどかは「イノセント・スターター」の両手でそれを弾き、球体は放物線を描いてディードの方に飛んで行くと、それをディードは「エターナル・ブレイズ」の腕で捕らえた。

 

「これは……?」

 

ディードが掴んだ球体を見て首を傾げると、球体は金属のような銀色から段々と薄茶色に変わると、開くように形を変えた。

 

「クー………」

「へっ!?」

 

それは、少し尖った顔と丸い甲羅のような丸い胴体と爪を持った、体長約30㎝の動物、アルマジロだった。

 

「ア、アルマジロ……?」

「これは、南米に生息する「ミツオビアルマジロ」ですね。昆虫類や果実等を食べる雑食性です。」

「よく知ってますね、ディードさん………」

「ちなみに、丸くなる事で有名なアルマジロですが、実際に丸くなる種類はこのミツオビアルマジロだけです。」

「へー、そうなんだ………」

 

何故か得意げにアルマジロの知識を語るディードに呆れる一同。アルマジロは「エターナル・ブレイズ」の腕の中でもぞもぞと動いて再び体を丸めたかと思うと再び銀色の金属のような姿になった。それと同時に体重も数倍になったのか、ディードはスタンドの腕でずっしりとした重さを感じ取った。

 

「!?この子、スタンド使い!!」

「体を金属に変える能力か!!」

 

ノーヴェがアルマジロの能力を理解したが、アルマジロの甲羅の一部が『バネ』のように飛び出すと、バネの反動でディードの手を離れた。

 

「あっ!?」

「体の変化もできるのか!!」

 

アルマジロが体の一部を変化させた事に驚く一同。アルマジロは飛んで行った先の壁にバネで跳ね返ると、千雨に向かって飛んでくる!

 

「千雨さん!!」

「チィッ!!」

 

千雨は瞬時に『アニバーサリー・オブ・エンゼル』を装着すると、背中の翼で飛んできたアルマジロの軌道を逸らし回避した。アルマジロは床を破壊して『着弾』して停止すると、身体を元に戻して千雨たちの足元を素早く走って抜けて行った。

 

「あっ、結構速い!」

「クー………」

「………?」

 

千雨はアルマジロの意外な素早さに驚くが、通り抜ける瞬間にアルマジロが苦しそうな声を出したことに気付く。アルマジロはX・ジオの足元まで行くと、その背中から『ミリオン・モンスターズ・アタック!』を浮かび上がらせた。

 

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)………』

「アイツ、やっぱネギたちを襲ったワニと同じように!」

「そのワニには『ハンター』、スタンドには『ガソリン』と名付けた。このアルマジロの名前はまだだが、彼らは我が軍勢の中でも選りすぐった「親衛隊」の一員だ。我が『ミリオン・モンスターズ・アタック!』に取りつかれたのがきっかけでスタンドに目覚めた動物故に、ここに連れ込めた。」

「無理やり操っといて親衛隊って………」

「どこまでも身勝手なヤローだな………!?」

 

X・ジオの行動に心底軽蔑した顔になるノーヴェとチンク。仗助は今にも殴りかかろうと拳を鳴らすが、その時、背後に気配を感じて振り返ってみれば、苦しそうな顔で冷や汗を垂らすホルマジオの姿がいた。

 

「ホルマジオ……!?」

「お、お前ら………に、逃げ………!!」

 

苦し気な声でホルマジオがそう言った時、彼の背後から歯を食いしばったロボットのような外見で人差し指が長いナイフのようになったスタンドが現れた。瞬間、スタンドは振り上げた腕を下ろして、人差し指のナイフで仗助に切りかかってきた!

 

ズァアッ

「何ぃ!?」

「!?」

 

仗助は右手で防御すると、右腕にナイフの切り傷がついて、血が噴き出した!

 

「ホルマジオ!お前………!?」

「や、やられた……今の今まで気付かなかった………あの野郎、()()()()()………!!」

「はっ!!」

 

苦しそうなホルマジオの顔を見た仗助は、その時、ホルマジオのスタンドの背後に『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の姿を見た!

 

「ま、まさかコイツ!?」

「ああ、そうそう。そこの彼、えーと……ホルマジオ、と言ったな。彼も我が軍勢の一員だ。親衛隊の特殊工作員として、この島に先行してもらっていたのだ。」

「何だと!?」

 

X・ジオがなんてこと無いように言った言葉を聞いて、一同は気付いた。ホルマジオは『命からがらに逃げおおせた』のではなく、『()()()()()()()()』のだと!

 

「クソッ……!!」

「!?仗助さん……!!」

「ン?……!?」

 

ホルマジオに睨みを利かせる仗助であったが、千雨が慌てたように声をかけてきた。仗助が千雨の方に振り向くと、身長190㎝近いのはずの仗助の目線が、162㎝の千雨と目線が同じほどにまでなっている事に気付いた!

 

「まさか………」

「ち、『()()()()』………!?」

「オ、オレの『リトル・フィート』は、人差し指の刃で傷つけたものを、小さくする能力………!お、お前は、これから無限に小さくなっていくぞ……!!」

「マジかよ………!?」

 

ホルマジオから告げられた『リトル・フィート』の能力に、仗助は冷や汗を垂らす。そうこうしている内に仗助の身長は更に小さくなり、千雨よりも小さくなってしまった!

 

「や、ヤバくねーか!?」

「ぐぅッ、うぉおおおおおおおおッ!!てめーらオレから離れろおおおおッ!!」

シュババババババババ

「うわああああ!?」

 

ホルマジオが苦しそうに叫ぶと『リトル・フィート』が切りつけようと刃を我武者羅に振り回す!仗助たちは慌ててホルマジオから離れるが、その時、アルマジロがスタンドで鋼鉄化して飛びかかってきた!

 

「ひええっ!?」

「人間にも取りつく事が出来たとは!!」

 

飛びまわるアルマジロと『リトル・フィート』の刃を避けながら、チンクが困惑と驚愕が入り混じった声を上げる。飛んできたアルマジロをジョルノが『ゴールド・エクスペリエンス』で受け止めて床に放り投げると、そこにミスタが銃弾を撃ち込んだ!

 

ガキンッ

「何!?」

 

しかし、銃弾はアルマジロの体表で弾かれて床に着弾し、床に穴を開けた。

 

「銃弾が通じない!やっぱり堅いな!!」

「堅さもそうだが、アルマジロ特有のあの丸い体表では銃弾が滑って受け流されてしまう………自然界の英知とスタンド能力によって、最強の『盾』と『矛』を得たのか!!」

 

ジョルノがアルマジロのスタンドに戦慄していると、『リトル・フィート』が刃を振るってきたので、飛び退いて回避をした。

 

「ホルマジオ!スタンドの解除は!?」

「それができないから、こうしてかきたくもない『冷や汗』をかいてんだよ!!」

「ダメか………!!」

 

ならば、とミスタは銃口をX・ジオに向ける。『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の本体であるX・ジオを再起不能にすれば、ホルマジオたちは解放されると判断したからだ。

ミスタの思惑を察したのか、X・ジオは不敵な笑みを浮かべると背後に『ミリオン・モンスターズ・アタック!』が現れた。しかし、その姿は他の者とは異なり、長く鋭い牙を持った口とアンバランスな程太い手に幾重にも絡んだコードを持ち、腕には太く鋭い爪が生えていた。

 

「そのスタンドは!?」

「これぞ、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の将軍!我が右腕である!」

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)!!』

「あれは……オ、オレがあの島で出会った………?」

「チッ!!」

 

将軍と呼ばれたスタンドが咆哮を上げた瞬間、ミスタがX・ジオに向けて引き金を引き、銃声と共に弾丸が放たれた。

 

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)!!』

 

しかし、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』は両拳で弾丸をあっさり弾き飛ばすと、ミスタに向かって突進してきた。ミスタは再度狙うが、X・ジオは余裕の表情で言った。

 

「無駄な事だ。将軍は他の兵隊と違い近接型に近いパワーと精密な動きができる。たとえ()()4()()とも同時に発射されたとしても、容易く弾き返してくれようぞ!」

「ッ!!」

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)!!』

ドギャッ

「ぐあッ!!」

 

X・ジオに「残り4発」と指摘された瞬間、ミスタは顔を強張らせて一瞬動きを鈍らせた。その一瞬を見逃さず、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』がミスタの横っ面を引っ叩くように殴りかかった!殴られたミスタが吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 

「ミスタ!!」

「ぐぅ………ッ!」

「……?なんだ?てっきり撃ってくると思ったが………?まあ良い。我が『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の本領は、()()()()()。」

「何!?」

 

X・ジオの言葉を千雨が聞き返したその時、ミスタがふらふらと立ち上がった。ジョルノがその様子を見て訝しむが、次の瞬間、ミスタは手にした拳銃をジョルノに向けた。

 

「ミスタ?まさか!?」

「ジョ、ジョルノ………避けろぉッ!!」

ガァーンッ

 

ミスタが叫んだ瞬間、引き金が引かれてジョルノに向けて銃弾が発射された!ジョルノは咄嗟に『ゴールド・エクスペリエンス」の拳で天井に向けて弾くが、ミスタは拳銃を連射してジョルノに銃弾を浴びせ続ける!

 

「ミスタさん!?」

「マズいぞ、ミスタはあのスタンドに取りつかれた!」

「何だと!?」

Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)………』

 

ジョルノが言った瞬間、ミスタの背後に『ミリオン・モンスターズ・アタック!』が現れて唸り声を上げた。ミスタがぎこちない様子でリボルバーから薬きょうを捨てて弾丸を再装填させていると、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の将軍をのどかが見た。

 

「まさか、あのスタンドに触れられると取りつかれるってこと………!?」

「あれだけの数に取りつくって考えたら、妥当な『制約』ではあるが………」

 

ノーヴェや千雨も『ミリオン・モンスターズ・アタック』の能力を察していたが、その時、すでにチンクと頭1つしか変わらないまでに小さくなっていた仗助が、ある事に気が付いた。

 

「………まてよ?(さっきまでアイツは、スタッフの格好になっていた。それは、潜入するため()()か?いや、ヤツの能力を考えたら、潜んでいた無人島にずっと隠れていた方が『安全』のはずだ。それなのにこの島にまで来た理由は………?)!!ま、()()()ッ!!」

「東方?」

 

仗助が『ある事』に気がついて声をあげたその時、部屋のドアが吹き飛ぶかのように勢いよく開くと、あやかを筆頭にスタッフたちがなだれ込んできた!

 

「ひぃいいいッ!か、身体が勝手にぃ!?」

「助けてくれぇえええ!!」

「いいんちょさん!?」

『『『Fuoooooaaaaaaaa(フオアアアアアアアアアア)………』』』

 

恐怖の表情でこちらに迫ってくるあやかたちにのどかが驚くが、その背後の『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の姿を見て、現状が直ぐに分かった。

 

「なッ!?そんな………!!」

「やっぱりか!てめえ、他のスタッフにもさっきみたいにスタンドで操るために!!」

「何!?」

「そうだ。野生の動物だけでは私の軍勢にも『限界』を感じてな。兵士を調達するために、この島に潜入したのだ。」

「なんて事を……!!」

 

X・ジオの所業を聞いたのどかが困惑と恐怖に顔を歪める。現状を打開するためには、一度この場から離れるべきではあるのだが目の前の出入り口のドアは操られたスタッフたちで塞がれており、後ろの窓からでは、先ほどと同様に取りつかれた魚や鳥がいないとも限らない。どうするべきか千雨が考えていると、スタッフたちの後ろに隠れたX・ジオが勝ち誇ったように笑みを浮かべて言った。

 

「さあ、貴様らも我が軍勢の一員となるがいい!!」

 

その宣言の瞬間、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』の軍勢が一気に迫って来た!千雨やのどかが焦る中、ジョルノが腰に手を当てて言った。

 

「みんな、この場から一度離脱しましょう。」

「え?」

 

ズドドメギメギッ

「「「!?」」」

「何!?」

 

ジョルノがそう言ったその時、目の前に木の根が伸びて行く手を阻んだ!スタッフたちが動きを止めると、ミスタが察したように口を開いた。

 

「ゴ、『ゴールド・エクスペリエンス』………弾丸に生命を与えて木に変えたのか………!!」

「さっき弾丸を弾いた時に………!!」

「ええい!は、早くその木を……」

 

X・ジオが命令を下そうとするが、木は『樹木』となりまるで『壁』のようになってジョルノたちとX・ジオを隔て、天井を突き破った!

 

良し(ベネ)!ちょうどいい逃走経路が出来上がったな。」

 

ジョルノは天井に開いた穴を見てそう言うと、千雨は木の根の向こうにいるであろうミスタとあやかたちの方を見た。

 

「………すまない、必ず助けるから………!」

 

それだけ小さく呟くと、ジョルノたちと共に天井の穴から飛び出して行った。

 

「くっ、逃げたか………だが、この島からは出られないだろう………」

 

X・ジオはそう言うと、『ミリオン・モンスターズ・アタック!』を引きつれて部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

←to be continued…




89話です。
・亜子の『メガロポリス・アリス』の厄介さを再確認。原作でもそうだったけど、自動操縦タイプってスタンドの中でも制御が難しいタイプだと思います。

・スバルの徐倫呼び。今までずっと空条さん呼びだったので、今回から名前で呼ぶようにしようと思います。

・ワニとアルマジロのスタンド使い登場。動物の中でもスタンド使いにするならこの2匹かなって。アルマジロ解説するディードは『Vivid』で動物好きと判明したので。

・X・ジオの炙り出しはおなじみのあれ。そして、実はホルマジオも『ミリオン・モンスターズ・アタック!』に取りつかれていたっていうオチ。ゾンビものでは割とお約束ですよね。

では、また次回。


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